地に落ちた英雄は諦めない (風見 桃李)
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地に落ちた英雄編
No.1 空から落ちた英雄はこれから何を視る


ヒロアカ初めてです、よろしくお願いします。
ちなみに前設定としては彼女は神野区でAFOとの戦いに勝利、輸送を見届け、救急車に自ら乗った後、車内で倒れそのまま死んでます。
死因 身体の限界。
決定打 神野区戦でのワン・フォー・オール使用限界。


空が近い、微かに開いた瞳から澄んだ青空が見える。

は、ハハ、HAHAHA、可笑しいな?

私はオール・フォー・ワンを倒して、もう体はボロボロ、精神的にもボロボロで、救急車で倒れるように眠って。それで?私は?

あ、そうだ、最後、ピーって聞こえて。

 

「私死んだんじゃないか」

 

そのまま私の意識はブラックアウト。青が黒に埋め尽くされていくのが嫌で私は空に手を伸ばした。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

時期は雄英高校受験前の時期、漫画だと一巻辺りだろうか。地獄の10ヶ月、そう言われた期間。

ヒーロー イレイザーヘッド、名前 相澤消太。

彼は滅多にないHN(ヒーローネットワーク)からの要請を受け、まだ終わってない書類のため雄英に帰ろうとしていた。

「長引くと思ったが、終わったのが昼間で良かった。今戻ればまだ書類が作れるな、終わったら明日は寝れる」

 

ふと空を見た、これがこの世界の分岐点だったのかもしれない。

空にはキラリと光る物体が彼からは見えた。

「海の方に向かって、かなり上空から何か落ちてくる?チッ、仕方ねぇ」

 

イレイザーヘッドはゴーグルを着け、急いで海に向かった。

時同じくして海ではヒーロー オールマイトと受験生 緑谷出久が特訓をしていた。

「緑谷少年!腰!腰!腰に力が入ってない!」

「ふぎぎぎぎ!」

「タイヤを押すには足腰に力が?」

「オールマイト?」

 

オールマイトは辺りをキョロキョロし始めるとマッスルフォームになり身を屈め緑谷に小声で話しかける。

「なんだか胸騒ぎがするぞ。緑谷少年、君は引き続き特訓をしていてくれ、少し辺りを見てくる」

 

その時!近くの木を蹴って黒ずくめの男が現れた!

その男は切羽詰まって空に向かって指を指した!

「だれっ?!」

「オールマイト!空から何か落ちてくる!」

「イレイザーヘッド!空…見えたっ!フンッ!」

 

オールマイトは足に力を入れて飛び、上空から落ちてくるものを受け止める。だが落下してきた勢いは止められずにそのまま共に海に落ちた。

衝撃は凄まじく、巨大な水飛沫、突風に砂煙、全てが混ざり緑谷出久とイレイザーヘッドは目を開けられなかった。空に上がった海水は最後、雨のようになり彼等の周りを濡らした。

「お、おおお、オールマイトォ!大丈夫ですか!?」

「ゲホッ、ゲホッ!鼻と口に海水が入った!しょっぱ!私と‘彼女’は大丈夫だ!海水に当たる時そこそこ痛かったけどね!」

 

‘彼女’とオールマイトが言ったのをイレイザーヘッドは気付きオールマイトの方へ向かった。

それに少し遅れて緑谷も向かう。

「彼女?そいつ、ヴィランですか?」

「いや、恐らくヒーローだよ。ヒーローっぽいコスチュームだ、なんだかぶかぶかだけどね」

「あ、あのオールマイト」

「なんだい緑谷少年?」

「ぼ、僕の見違えでなければそのコスチューム、オールマイトとサイズは違いますけど形は同じです!」

「そういや誰だアンタ?」

 

イレイザーヘッドはギロリとドライアイの目で見ると緑谷の肩は上がった。

「ひっ!ぼ、僕は緑谷出久、です。え、えっと」

「私のファンだよ、今はちょっと詳しくは言えないけど。それよりも本当かい?いや、緑谷少年を疑う訳じゃないけど(彼、行動派オタクだし、多分私よりヒーロー活動の私を知ってるかもしれない。流石に私も全部は覚えてられないからなぁ)」

「オールマイトが運んでる女の人、オールマイトのコスチュームにカラーリングやデザイン、そして…失礼します、やっぱりコスチューム少し広げましたけど形は少し女性の形してますけどほぼ同じです、ブツブツブツブツブツブツブツブツ…」

 

緑谷出久のブツブツ言う考察が始まるとイレイザーヘッドはめんどくさそうに緑谷に指を向けるとオールマイトに言った。

 

「オールマイト、何ですかコイツ」

 

「だから私のファンだよ…行動派オタクのね」

「それにしても、オールマイトと同じようなコスチュームですか」

 

イレイザーヘッドはオールマイトの抱き抱えている女性の目を開き、脈などを計り始めた。

「髪は金髪、瞳は青で瞳孔は開いてない、脈は…あるし生きてんな。怪我はわからないがここで脱がす訳にもいかない。オールマイト、とりあえず保護しましょう。どんな個性持ちかわからないが、俺が居れば抑えられる」

「となると、行く場所は‘あそこ’かい?」

「そうですね。危険性がないなら今だと生徒は多くいませんし、プロヒーローも集まってます。警察はその後でしょう」

「むむ、そうか…わかったよ。すまないが緑谷少年、私はこの落ちてきた女性を運ばなくてはならない、また連絡を入れるよ」

「そんな!仕方ないですよ!謝らないでください!オールマイト!」

「緑谷、だったか?この事は他言無用だ、わかったな?」

「は、はい!」

「そうなると、よいしょ」

 

オールマイトは女性を持ち直しイレイザーヘッドも持ち上げると飛ぶ準備をし始めた。

「え、ま、待ってください、オールマイト。俺は後で」

「私が彼女と君を運んで向かった方が合理的、だろ?それに道中起きた時君なら個性を抹消できる!」

「ぐぅっ!…わかりました」

「では緑谷少年!また、今度ねー!」

「はい!オールマイト!」

 

オールマイトは空高く、町の方に飛んで行った。

緑谷出久はタイヤをまた押し始めた。

その数分後、雄英高校の保健室。

「ゲホッ、ゲホッ!ゴハッ!」

「無茶するからだよ、全く」

「す、すみませんリカバリーガール。ゲホッ、ゲホッ!」

 

無事雄英には着いたものもオールマイトは活動時間ギリギリで急いだ為かいつもより咳が長引いていた、吐血も時折している。

保健室のベッドには空から降ってきた女性が寝て、近くの椅子にはオールマイトが座っていた。

「す、すみません、リカバリーガール。私少しトイレに…」

「早く行ってきな」

「では少しお暇させてもらいます、相澤くん来たらトイレにと言っておいてください」

「まったく、落ち着きのない男だね。さて、怪我は…おや?」

 

リカバリーガールは治療のため、服を脱がそうと上半身から脱がす。すると腹部には見覚えのある、だが少し違う怪我の痕があった。

オールマイトと同じようなコスチューム、髪と瞳が同じ色、同じような傷痕。

リカバリーガールは一つの憶測が頭を過った。

「オールマイトと同じ傷痕、しかしこの子のは貫通してるね」

「り、カバリー、がーる?」

「(もしかしてこの子、まさかねぇ)起きたかい?痛むところはあるかい?」

「なぜか、痛くないです。疲労が凄まじく気怠いし、眠いですが。それよりもオール・フォー・ワンは?救急車で気を失って、気を、失って、から、その、わ、私は…」

 

落ちてきた女性は喋りながらどんどん意気消沈し、焦るのを見てリカバリーガールは落ち着いて喋りかける。

「落ち着いてお聞き、‘オールマイト’。ここはね」

 

だが時間は止まってはくれない。

保健室のドアを開けたのは相澤消太、イレイザーヘッドだった。

その近くには根津がいる。

「ネズミなのか犬なのか熊なのか、はたしてその正体は雄英の校長なのさ!起きたかい?」

「根津、校長…」

「単刀直入にいうよ!君、オールマイトかい?」

「根津校長?お、仰る意味がわかりかねます。なんの冗談ですか」

「君は今、疑われているのさ!オールマイトとは‘男’であって‘女’ではなく、‘二人’もいないからさ!」

「性別は今までマッスルフォームで隠してきたじゃありませんか!それは根津校長、あなたも知っている筈です!それに私が、二人?それならどんなに世の中が平和なことか!困ってる人が、助けを呼ぶ声が聞こえたらすぐに駆けつけられる!一人でも多く!!日々暮らす方々を!理不尽に悲しませることもなく!」

 

普段叫ぶことはないのか、言った後肩から息を吸い落ちてきた女性をリカバリーガールは宥める。

その鬼気迫る近似感は相澤の後ろの人がよくわかっていた。

「君は、私なんだね」

 

落ちてきた女性は声の出ない驚きを、根津校長とリカバリーガールは納得を、相澤は未だに混乱をしていた。

「わかるんだ、全てではないけれど。君も、してきたんだね。皆が笑って暮らせる世の中に」

「して、来たさ。誰かが柱にならなければならない、平和の象徴が必要だった。そう思った、狂った奴だと言われても私は止めなかったし、止まる気は、なかった。あとは死ぬだけの人生だったとしても。だがまだ希望があった!私は、彼に師匠らしいことも出来ずに、死んで、しまった…!彼を叱ってやらなければならないというのに…!!!」

 

慟哭だった、涙が出ない、悲痛な叫び。

痛いほどにわかる‘オールマイト’にあるかも知れない未来だった。

八木俊典は彼女に目線を合わせる。

「ここでは、生きている。君は今生きている!どうか死んでしまったと言う事実から立ち直ってほしい!私らだって人間だ、泣いて良いんだ。今泣いても、誰も責めないよ。…頑張ったじゃないか、守ったんじゃないか」

 

語りかける、優しく、強く。彼にはわかるから。

「それにここでのオールマイトは私だ。それでも君は人を助けたくなるだろう。だから今は泣いて、泣いて、たくさん休んで、そして笑おう!お師匠も言っていただろう?」

 

彼は笑った、彼女の口に手を伸ばし、ぐいっと伸ばし笑顔のようにした。

片方はすぐにも泣きそうに、片方は悲しく泣きそうに言った。

 

「「どんだけ怖くても自分は大丈夫って笑うんだ、世の中笑ってる奴が一番強い!」」

 

二人は静かに泣き、抱き締めあった。

優しく、壊れないように。

 




今の所出来てる設定

平行世界のオールマイト
ヒーロー名 オールマイト 名前 八木典花(ヤギノリカ)

原作オールマイトとの違う所
性別、体型(トゥルーは細身でやはりガイコツみたい、マッスルはヤングエイジより少し太い感じ)、身長(原作マイトは220cmなのに対し平行マイト180cm)
女性で体が原作マイトに比べ薄いので五年前の傷は貫通している。
グラントリノはボコボコにしたくなかったという過去の話。(ボコボコにしたけど)
サー・ナイトアイはファンであり元サイドキック、彼は片想い、なのだが故にボロボロで平和の象徴をする彼女の事を見ることができずサイドキックを辞めた。(動画やグッズを見ると今でも泣きそう)
緑谷出久は赤面することが多くなった、世話焼きになった。(間近で見ると綺麗、あまりにもトゥルーが弱々しかった)

あと原作オールマイトに比べると平行オールマイトは女子力がない、もう一度言う女子力がない!


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No.2 オールマイトの長い夜

沢山お話しさせたいと思った回です、とりあえず早くから保健室から出たかったのに病院って。
結果シリアスっぽく…なんでだろう。


 

泣いて疲れてしまったのは八木俊典だったようだ。

 

すやすやと眠る八木俊典を膝に寝かせ、頭を優しく撫でる彼女は改めて彼等に顔を向けた。

「このような体勢と服装で申し訳ありません。改めて、そして…はじめましてと言うのでしょうね。私の名前は八木典花、ヒーロー名オールマイトです。ここが時系列的に過去なのか未来なのか、はたまたそれから関係ない所なのかは今の私にはわからないですが、ただ言えるのは二度、オール・フォー・ワンと対峙し勝利した所から来たと申し上げます」

 

「二度戦い、勝利した?」

 

「彼は痩せ細っている、恐らく一度戦った後でしょう。その後もう一度、神奈川の神野区で戦うこととなります。根津校長、その時、無謀にも仲間を救おうと五人のヒーローの卵がいました。その五人のお陰で私は存分に戦えた。その五人とは雄英の生徒です」

「雄英の生徒だと?」

「えぇ、だから心から聞いて欲しい、根津校長、それに相澤くん。来年度の雄英は、来年から日本は荒れ始めます。それに伴いヒーローもヴィランも、どちらも卵として成長してくる」

「新時代、ということかい?」

「実質そうです。私が腑甲斐無いばかりに…」

 

八木典花は俯き、撫でてない方で拳を握る。

疑いはまだ晴れてない、だが彼女がオールマイトだと言うのなら、きっと一人で戦ってきた、腑甲斐無いなんてことはない、この人は悪くないだろう。そう思いながら相澤は握る拳を眺めた。

それを知ってか知らずか根津は明るく話す。

「一つの時代が終われば新たな時代が来るのは必然なことさ!それは八木典花くん、君が腑甲斐無いからではない、当たり前のことなのさ!そしてここもいずれそうなる、次のニュージェネレーションヒーローズにニュージェネレーションヴィランズを任せられるようビシバシ!卵達を鍛えようじゃないか!」

「な、なんというポジティブ!そう、ですね。うん、そうですよね」

「近い未来のお話はここまでさ。君の戸籍は明日作って、そのまま君は一度入院してもらうけど。君どこに住む?服は相澤くん、貸してあげて」

「え?俺のですか?」

「八木典花くんの身長は見た感じ君とあまり変わらないからね、君の服が丁度良いのさ!」

 

相澤は頭を掻くとなら今日は俺の所に泊まれば服も貸せて宿泊もできる合理的だと言った。

彼は続けて喋り続ける。

「それと、同一人物のオールマイトと話し合いとかもした方がいい。退院後はそっちに泊まってくれ」

「その通りだね!さてオールマイト!起きてくれ!」

 

そう言うと根津はオールマイトの頭をバシバシと叩き始めた、しかし眠りが深いのか起きない。

見かねた相澤はオールマイトの前髪の二本を力強く引っ張った。

「痛いっ!あれ?頭皮と頭、痛いな」

「疲れてるんじゃないんですか?」

「なんて白々しいんだ…(あんなに彼の髪を勢いよく引っ張っておいて)」

「寝てる間に話は終わったよ!オールマイト!解散!」

 

そう言うと根津はすぐに保健室を出ていった。

相澤は少しここで待っていてくれと典花に言うと相澤も出ていった。

結局保健室に残ったのは八木俊典と八木典花、そしてリカバリーガールだ。

「戸籍は明日、そして入院か」

「入院するのかい!?」

「身体検査や怪我の具合を見るんじゃないかな。私はオール・フォー・ワンと戦った後死んだ筈なのに生きているからね。生きてるのが不思議だよ」

「そっか、ん?そういえばどうやってここに来たんだい?空から降ってきたけど」

「空!?あ、だからあんなに空が青かったのか、しかし私は救急車で死んだ筈だ。空間移動や転移なら未だしも時空間移動の個性なんて聞いたことが…」

 

ブツブツと言っている典花を見た俊典は緑谷少年が頭に過った。

「もしかして、一緒にいると私もそうなるの?」

「そもそも何故こんなに疲れている、のは戦ったからか」

「…あ、ヘイヘイ!そういえば自己紹介してないぜ?レディ」

「傷は…え?あ、君寝てたよね、自己紹介はしたんだよ」

 

そう言われ瞬時に頭を下げた。どうやら爆睡してまで寝るつもりはなかったらしい。

「それは申し訳無い!…んん゛っ、さて、私は八木俊典だ、ヒーロー名はオールマイト。君は?」

「私は八木典花、ヒーロー名はオールマイトだ。HAHAHA!不思議な気分だよ」

「HAHAHA!私もだよ!それにしてもオールマイトが二人かぁ」

「何ができるかなぁ?」

「全盛期だったら二千人以上は救えるよね」

「救えるねぇ、今だと使用制限あるからなぁ」

「二人で半分かな?」

「それ、悲しいね」

 

二人はスッと傷のあるところを撫でる。

そこは同一人物、思うところは同じようだ。

「「あぁ、内臓があればなぁ」」

 

「無い物ねだりは止めな、オールマイト」

「すみません、リカバリーガール」

「無いものねだり、か(今の私には、何があるんだろうか)」

 

典花は着崩してるコスチューム内に手を入れごそごそし始めると相澤が戻ってきた。

相澤はヒーローコスチュームのままだったが手には袋を持っている。

「相澤くん、コスチュームのままだけど」

「オールマイト、あぁ両方オールマイトか。八木さん、も二人共八木か…」

「典花でいいよ?」

「あ、なら私も俊典で、名字だとどっちかわからないでしょ?」

「あんたはオールマイトだよ。じゃあ典花さんで、あんたのコスチュームでの移動は不味いんですよ。悪いけど俺の着てきた服とマイクから上着パクっ、借りてきた」

 

そう言うと袋を突きだしてきた。典花からみると機嫌の悪い子供に見えたようで生暖かい目で相澤を見た。

相澤は凄く心地よくなかったようだ。

「服は有りがたいけどパクって来たんだ。後でプレゼント・マイクに謝ろうね、私も謝るから」

「アイツなら大丈夫です。それよりも何コスチューム内漁ってるんですか?」

「あぁ、私のコスチュームの胸元にビミョーにスペースがあるから写真持ち歩いているんだよ。写真と言っても、ヒーロー活動時に二枚撮っちゃったので一枚どうぞーって渡されたやつだけどね。サイドキックが居る時の写真なんだ」

 

それを聞いた俊典は慌て始めた。

挙動不審なオールマイトを見た相澤はよくわかっていなかった。

「典花くん、それって、もしかして、まさか!」

「俊典にはサイドキックいた?」

「…いたさ、サー・ナイトアイだろ?」

「Yes!サーとのツーショットさ!お、あった」

 

折り畳んでいた写真を広げるとそこには気持ち若いオールマイトの八木典花とサー・ナイトアイが並んで写っていた。

「…なんで、持ち歩いているの?その、サーとの写真」

「ふふ、なんでだろうね。…私ね、恋でもない、特別な感情でもないんだけど、彼の事が好きなんだ。弟子を除けば最高のファンで、最初で最後の最高のサイドキックだったよ」

 

そう言うと相澤から渡された袋を漁りながら典花は喋る。

彼等と目を合わせないように。

「見ていたいんだ、彼を。どうしようか、あぁ心が挫けそうって、そう思ったときに彼を見ていたいんだ。私は最高のサイドキックに最低な切り方をしたからね。彼のプライドも傷付けた」

「君は、本当に…」

「オールマイトの一つの未来だよ、その具現化が私だ。俊典、仲直りするなら早めにした方がいいぞ?アイツのことだ、どんなに酷くしたってオールマイトの動画は見るし、金はオールマイトグッズに貢ぐ男だぞ。なんとかなる、ぶつかってこいよ」

「…考えておくよ」

「前向きによろしくな。さて、着替えるから少し保健室から出てくれ」

 

典花がそう言うと二人は保健室から出た。

我ながらおせっかいだったかなと典花は思いつつコスチュームを脱ぐ。

一通り脱ぎ終わって相澤のズボンを履き、服を着ようとするとリカバリーガールから待ったが入る。

「服を着るのはちょっと待ちな。その古傷、少し見せてくれないかね」

「いいですよ、やはり気になりますか?」

「当たり前さ、寝てる間に見ようと思ったらあんた起きちまうし、起きて見ようと思ったらあれだろう?一応聞くけど何の臓器が無くなってるんだい?」

「奇跡と言われました。胴体貫通しておきながら神経損傷なし、呼吸器官半壊、胃袋全摘、子宮全摘出、他もちらほら縫われてます。医者が言ってました、生きてるのが、不思議と」

「みんな、止めたんじゃないかい。特に写真を持ち歩くほどのやつなんだろう?サー・ナイトアイは」

「…泣かせてしまいました。グラントリノは、あり得ないと言う目で見られました。根津校長は止まらないんだねと。貴女には、止めても止まらないんだからせめて死ぬなと。たくさん迷惑をかけてしまいました。周りにも、守るべき市民達にも」

 

「信用がないのかい?あんた以外のヒーローは」

 

「そんなことは!」

「だったら迷惑をかけてもいいんだよ、オールマイト。一人で守れないなら二人、三人とたくさん迷惑をかけてもいいんだよ。オールマイトとあんたらは名乗ってるけどね、ヒーローだって人間だよ、全能ではないんだから。あっちのオールマイトに重ねるようで悪いけど、アイツにも気付かせてやんな。一度死んで気付けたことがあるだろう?典花」

 

リカバリーガールが傷痕を触るのをやめると典花は服を着た。

八木典花は死んだが生きている、確かに気づけたことはあった。

「生きているからこそできることが、やれることがあります。彼は死なせません、この体で運命を曲げてやります」

「今度こそ、あんたも生きな」

「え、生きてもいいんですか」

「あんた馬鹿かい、良いに決まってるだろう。なんのために明日戸籍作るんだい。一人が寂しいなら友達作ったり恋をしな、結婚だってしたっていいんだよ。親が恋しいならあたしのところでもグラントリノのところでも来な。世界が変わって身寄りがなくなっただろうけど、心配する奴はいるんだよ」

 

八木典花はその日新たに決意をした。

「私も、八木典花も八木俊典も、生きていける未来を、この体で、開きます。怪我はするだろうけど、必ず」

 

二人が生きる世界を作るため。

「…気を付けなよ」

「はい、では」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

保健室を出ると俊典はいなく、相澤だけだった。

相澤は壁に寄りかかり腕を組んでいた。

「あれ、俊典は?」

「車。オールマイト、今日は車出来たらしいからな。服はそのままでいいから今日はそのままオールマイトの自宅でいいですよね」

「お世話になる身だ、君がそういうなら俊典の家に行くよ」

「…じゃあ、オールマイトの自宅で」

「OK!」

「典花さん」

「ん?なんだい?」

「俺の中で疑いはまだ晴れてないけど。俺にも迷惑、かけていいんで」

 

「相澤くん!君、話を聞いてたね!?」

 

典花は顔を赤くするも相澤は無視して歩き始める。

実は保健室のドア、微かに開いていたのだ。

「当たり前じゃないですか、ずっと保健室の前に居たんですよ?」

「あ、それはごめんね?」

「別にいいですけど。死んだら怒りますよ」

「あ、それ私の所に居た相澤くんに少し似てる、遅刻したらだったけど」

「話反らさないでください、怒りますよ」

「ごめんね?」

 

その後二人は雑談をしつつ駐車場に向かった。

オールマイトの運転はペーパードライバーっぽく二人はハラハラしたが無事相澤を家に届け、彼らも無事帰宅した。

「いやぁ、久しぶりに人を乗せたよ。緊張しちゃって」

「車はしばらく乗りたくないかな」

「ごめんね?」

「ここでは免許ないから私はなんとも…そうだ!戸籍作るし、入院して体に異常がなかったら私、免許と資格取るよ!」

「おぉ!いいじゃないの!」

「運転免許ととりあえず仮免だ、今の状態で人を救うのにも限界があるからね」

「それはそうだけど、君は今休むべきだよ。しっかり休んで、休んでから資格を取ろうね。ヒーロー業は休業、君の仕事は体を休ませること。いいね?」

 

俊典はそう言うと椅子に座っててねと言ってキッチンに向かった。

典花は椅子に座り部屋を見る。一人で暮らすには、広すぎる。なんだか物も少ない気がする。

「…なんか、寂しいな」

「何が寂しいんだい?」

 

振り替えると鍋敷を持った俊典が居た。

次に鍋を持ってくる、夕食を温めていたらしい。

「お待たせ、夕食はおじや予定だったんだ。それで何が寂しいんだい?」

「部屋がね。一人で暮らすには広いって思って」

「あぁ、そうだね、言われると寂しい部屋かも」

 

リビングには必要最低限の家具、家電、そこに少し本があるぐらい。

自室がどうかは知らないが恐らくご飯を食べて、風呂に入り、寝る。

必要最低限の程度にしか帰ってきていないんだろう。

その後二人は会話をせずおじや食べて、風呂も終えた。

問題は就寝時だった。

「そのソファで寝るから俊典は部屋に戻っていいって」

「いやいや女性をそこで寝かせるわけないでしょう!典花、君ならわかるよね?」

 

わかる、凄くわかる。なんせ自らもナンバーワンヒーローをしてきた、性別を偽って、対応だって紳士にしてきた。

ぶっちゃけ老若男女共に人気だった。(サー・ナイトアイ談)

「…わかるよ、ならこうしよう!」

 

典花は俊典を引っ張り俊典の部屋は向かった。

そして俊典をベッドに入れそのまま「待って!それは流石に駄目だよ!いくら君が私でもダメダメ!」

「私は折れないぞ、君もオールマイトなら察してくれないかな」

「んんん!君は私と違って少し男前だね!」

「HAHAHA!そりゃ性別偽ってきたからね、誰よりも男前じゃないと」

 

絵面的には俊典は今押し倒されている、正直自分が女性ならときめくかもしれない。危ない所だった。

よっぽど彼女は、誰よりも男らしく、紳士に、どんなこともその拳で切り開いてきたんだろうと思った。

サー・ナイトアイとのヒーロー活動時のツーショット写真、カメラを向けられた際にナイトアイと肩を組んでいた。

オールマイトの八木俊典より細いがあのマッスルフォームは、いい筋肉、いや、しっかり体が鍛えられていた。

女性は筋肉が付きにくいという、それでいてマッスルフォームといえあの筋肉、あの凸凹がある腕、ホントにいい筋肉!

「なに考えてるか知らないが寝よう、俊典」

「くっ、やっぱり同じベッドなんだね!」

「広いからいいじゃないの。おやすみ俊典、平行世界の私」

「あ、うん、おやすみ典花、平行世界のオールマイト」

 

二人は眠っ、れなかった。既に典花は夢の世界だが俊典はずっと脳内で呟いていた。

「(そういえば今私の服で寝てるってこと頭から飛んでるなぁ。それでいて男前!うん鈍感だろうねぇ、なんで誰も教えてあげなかったのかなー!サーとか!ナイトアイとか!グラントリノとか!!おじさんこれでも男だからね、やっぱり綺麗な人見るとそれなりにそれなりの)」

「ぐぅ、ぅぅ…」

「いびき?違う、汗がスゴいじゃないか…!唸ってる?典花?典花!起きて典花くん!?」

 

俊典は典花をよく見ると丸まって寝ているのではなく唸りながら丸まって痛みに耐えていた。

彼女は腹部を押さえながら玉のような汗を流していた。

俊典は急いで救急車を、そしてすぐに根津に連絡をした。

病院につくと内蔵目視する個性の医者が俊典に話しかけた。

「親族の方ですか?」

「彼女は!彼女は大丈夫なんですか!」

「落ち着いて聞いてください。八木典花さんの内蔵は今あり得ないこととなっています。説明をするので個室にどうぞ」

 

個室に促されると根津とリカバリーガール、そして何故か疲れきってるイレイザーヘッドとプレゼント・マイクがいた。肩から息をして汗を流しているので恐らく足として使われた。

「こんばんは根津校長、そしてリカバリーガール。現在の彼女の容態について説明します。リカバリーガールから先程彼女は内蔵を摘出してる箇所があると聞きました。聞いたところによると過去に人体貫通するほどの傷を負い、そして呼吸器官半壊、胃袋全摘、子宮も無いと。そう言われました。私はリアルタイムで内蔵を見ることができます、先程八木典花さんを見たところ内蔵が戻ってきてます。無い臓器が戻ってきてます」

「それはどういう!?」

「無い臓器が戻ってきてますので再生能力とは違います、説明がしがたいですが誰かの個性に寄るものでしょう」

 

リカバリーガールと根津は顔を合わせ、俊典は考え始めた。イレイザーヘッドもプレゼント・マイクもよくわかってないがあり得ない事態になってることはわかった。

医者が今の状態を確認するために個室を出ると根津は話始めた。

「恐らくここに来たことが関係あるかもしれないね。誰かはわからないけど彼女を死なせたくなかった個性の持ち主はここの時空に飛ばし、彼女の臓器を再生または体内状態を巻き戻してるかもしれないのさ」

「複数個性持ちとしてもそれはあまりにも噛み合わないけどね、それにそんな個性持ちなら届けもある筈」

「よくわかんねぇけど、まさか、ヴィランか?その人助けてぇ奴はよ」

 

「「それだ!プレゼント・マイク!」」

 

「ヴィランなら個性隠すし謎、届けなんてもっての他かもね」

「だったらそのヴィランって誰なんだ?」

 

その時ぼそり、根津は呟いた。オール・フォー・ワンと。

その声は確かに八木俊典の耳に入った。

「オールマイト、君は寝てたから知らないかもしれないね。彼女はオール・フォー・ワンと二度対峙してるのさ。恐らくその場に居たヴィランはオール・フォー・ワンただ一人しかいない、ということなのさ」

 

根津はオールマイトに彼女から聞いた話を話した。対峙したこと、死んだこと、雄英のこと。

リカバリーガールも臓器について説明した。

それを知ってオールマイト、八木俊典は口に手をし絶句をした。

八木典花は、八木俊典のより大きいハンデを背負い戦っていたことを知った。

「個人的推測ですが、恐らく私より体力を使い、かなり酷い状態で個性の使用をしている。彼女が死んだ理由は、アイツとの戦闘の末による、身体的限界。…ヒーローは人を殺さない。私のこの状態ですら血を吐き、常に限界の瀬戸際で活動をしている。それに加え、アイツとの戦闘は、恐らく私でも危ないでしょう。倒されておきながら何故彼女をこの期に及んで救おうなど思ったかは考え付きません。ただ、私が言えるのは、彼女は生きなければならない、二度も死なせるわけにはいかない、逝かせてはならない。待つことしかできないことが私が非常に恨めしいっ!」

 

八木俊典はそう言いながら拳を握り、マッスルフォームへと変身した。医師ではないヒーローの彼らは今、助けることはできないから。

 

数時間が経った。個室に医師は戻ってこない。

プレゼント・マイクはラジオのゲスト出演の仕事為帰り、リカバリーガールと根津も出勤しなければならないので少し早くに個室を出た。イレイザーヘッドも一旦帰ると言うことで個室を出た。

朝になってしまった、個室で寝てしまいすっかりトゥルーフォームに戻っている俊典のもとに医師は戻ってきた。

「起きてください」

「うん?あなたは!」

「おはようございます、八木典花さんは無事です。臓器が勝手に戻っている以上、手の施しようがありませんでしたが先程臓器出現の状態が終わりました。既存の臓器との異常等はありませんでした、出来る検査も全てしました。恐らく全臓器は新しく一新されていて最高の状態です、起き次第退院も可能ですので雄英の根津校長とリカバリーガールにも連絡をよろしくお願い致します」

 

そう言いお辞儀をすると医師は出ていった。

オールマイトの長い夜が終わった。

 




ヒーローの舞台は人を救うこと、医師の舞台は人を救うこと。
同じ舞台だけど違う舞台。
書いていてオールマイトにも手を出せない舞台ってのに気付いた。
あの人は気を付けないとエミヤ家みたいになってしまう…うっ、抑止力、世界の修正力、分霊化…


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No.3 八木典花 邂逅

章を作るとなると恐らく次回か次回の次回で一つの章になります。
何にしよう?


八木俊典は医者からの話を思い出していた。

 

『内蔵を一新なんて普通ではあり得ませんからね。だからと言って異常はありませんので退院も可能です、ですが後遺症というには改善されているので後遺症と言うべきか悩みますが…急に胃袋が戻ったことによる違和感、呼吸器官の違和感、他にも体全体に違和感が意識がある時、これから出てくるでしょう。特に子宮が戻ったことによるホルモンバランスの弊害、女性なので急に月経が来たりPMSなど起こしたりするでしょう』

『ぴーえむえす、ですか?』

『PMSです、月経前症候群と言って男性にはあまり聞かない話でしょう。精神面だと憂鬱になったりイライラしたり、身体面だと吐き気や頭痛、ほかにも色々症状がありますね。女性の約9割以上が月経前に症状を訴えますね。他にも色々あると思いますがまずは療養、少しずつ歩いて体力作りと今の体に慣れてください。とりあえず月に一回の通院を。間にも病院は来て良いので体調が悪かったら来てくださいね』

 

「…女性は大変なんだなぁ、内蔵があればなんてあの時言ったけど。あったらあったでまた大変なんだ」

 

そう呟きながら彼は典花と共に今近くのドラッグストアに居た。

いつ来るかわからない月経に向けてだ。

男性には縁が無いものだが揃えるべき物が色々ある。

「とりあえず二袋と入れ物とかで良いか、痛みは無かった筈だから薬はいらないとして。俊典!せっかくドラッグストアに来たんだ、他に必要なものあるか?」

 

すっかり(見た目は)元気な典花を見てこのまま何も起きなければ良いんだけど、と思うが治ったのは内蔵だけ。

体の手術痕や過去の傷痕は消えてない。

「どうせなら治してくれれば良かったのに」

「HEY HEY!話聞いてる?何をなおしてくれればって?」

「君の傷だよ。私が言うことじゃないけど、やっぱり君は綺麗なんだぜ?活動時の傷やその、手術の傷も消えてくれたらって思って」

「おいおいそれは贅沢すぎるぞ。内蔵を一新してくれただけで儲けもんだろ?後さ、私は君なんだ、つまり俊典も綺麗ってことだろ?」

「んんん!ここでは止めて!」

 

そう言う俊典の顔は耳まで赤かった。彼の心は今ぐらぐらしている。

少し落ち着いて彼女は私と脳内で繰り返した。

壁ドンされてたら危なかった。

「いやぁ、私が言うことじゃないけど俊典はよく照れるね。少し可愛いよ」

「おじさんに可愛いっておかしい!あ、それこそ君も可愛いでしょ!」

「おばさんだから可愛くはないよ、てかさっき綺麗って言ってなかった?」

「典花はおばさんって感じ、しないよ。綺麗系可愛いとかじゃないかな?」

 

ドラッグストアではそんな不毛な争いが続いた、しかしそんな不毛な争いは日常と化す。

(彼女の心的に)平和なのは物を整える最初ぐらいでその後典花は約10ヶ月、そう、地獄の10ヶ月と言われる期間、八木宅で(強制的)療養を(八木俊典監修で)させられた。

走り込みなし、筋トレなし、散歩はあり。

三食少しずつ食事量を増やされ、食べるものも固形物となり、寝る時間も規則正しく、俊典は緑谷出久のことで日中はいない。

彼女は完全に鈍りきってしまいそうだったし、ストレスが生まれ始めた。

 

だがそれをさせないのが根津であった。

療養期間中に彼女はしっかり運転免許も取ったし、短期間で教師になるために必要な免許も取らされた。なんだかいらない資格まで取らされた。

そして一番欲しいのだが身体の都合上、まだ今の世界のヒーロー免許の仮も取れない典花、だが根津は前の世界のヒーロー免許を貸してくれと言って貸して数ヶ月、そこに関しては謎のままだった。

ちなみに八木宅に住んでいるので八木俊典に料理など、少しずつ毎日教えて持っている。

お礼として目指せ合格アメリカンドリームプランを過去のことを思い出しながら少しだが口を出した。

 

そして残りの一カ月のとある二日間から話は始まる。

 

病院から帰ってきた典花に気付いた俊典はおかえりと言った。家にすっかり馴染んでいる。

そんな彼女の手には一枚の紙。

「見てくれよ俊典!私、来月から病院行かなくて良いんだぜ!生理不順はなくOK!俊典のご飯も美味しい!内蔵不安なし!」

「お、つまり」

「Yes!筋トレだ!まずは走り込みっ!少し鍛えておかないとワン・フォー・オール使用時に爆散なんて笑えないからね」

「えぇ、確かに笑えないけど無理しないでね?」

「それはお互い様だぜ?俊典」

 

そう喋る彼女は明らかに見違えた。

肉付きは良くなった、ガリガリながらも筋肉のある体は一般女性のように膨らんでいた。

顔も肩も少し丸み帯びた。髪の毛は伸びたし艶が戻って金色の髪はキラキラしていた。

空から落ちてきた時は体の細さも髪型も、パッと見は俊典とそっくりだった。

そんな二人が並ぶと長身で、ガリガリで目立ったがもうそんなことはないだろう。

そう、目立つとしたら。

「(私だけ。本当、自分のように嬉しいや)HAHAHA!やっぱり典花、君、綺麗だぜ?」

「なら俊典、君は格好いいぜ」

「んんん!心境の変化!?」

「何だかんだ9ヶ月、10ヶ月過ごしてるからね。病院以降は根津校長以外は会ってないし。それに近くでヒーローをしてる俊典を見ている、最高に格好いいよ。まぁ血反吐吐きすぎだし無茶しすぎだけどな!ってと、俊典?どこか痛いのか?」

「え?なんで?」

「なんでって、君泣いてるぜ?」

「嘘!?え、涙が、んんん?なんで止まらないかな」

 

どうやら知らず知らず彼女は八木俊典の心の隙間に入り込んでいたようだ。

お互いに一人、世界でたった一人のヒーロー オールマイトをしてきた。

ファンのように見てくれる人がいてもかけられるそれは憧れ、尊敬、畏怖、敵意。様々な感情のあれやそれ。

本当にオールマイトと対等だった人はいなかった。だからこそ彼女の真っ直ぐな自分と同じ色の瞳で、声は違うけど言われた言葉【格好いい】は彼に響いた。

 

誉めてほしくてヒーローをしてたわけじゃない。

見てほしくてヒーローをしてきたわけでもない。

名声も富も必要はなかった、平和の象徴として、柱になるためなら全てを捧げてきた。

「ごめんね、典花。情けない話なんだけど、今だけでいいから、私を抱き締めてくれないかい?涙が止まらないんだ」

 

俊典がそう言うと彼女は微笑み、言った。

「俊典、大丈夫だ。私がいる」

 

それは普段、彼が言っている言葉だった。

その声に、言葉に、存在感に、酷く安心してしまう。

彼はずっと守る側、守られる側の気持ちが今は少し、わかった気がした。

俊典は止まらないその涙は、大きくなった。

そんな彼を典花は優しく抱き締める。

細い彼を、壊れないように。

傷だらけの彼を、守るように。

一人だった彼を、暖めるように。

 

オールマイトは、もう一人ではないとわかるように。

「俊典、君が言ったんだ。私達も人間だ、泣いて良いんだって。誰も責めないよ。だから泣いて、休んで、笑おうぜ?」

「だけど、私は…!私はオールマイトだっ!」

「俊典、もうオールマイトは二人いるんだ。泣いていいんだよ。これからは、私も側にいる。君が弱くなった分、私が強くなる」

 

せめて声は出ないよう、彼は泣き続けた。

現役としての威厳、男としての威厳、他にもあるが何よりまだ死んだことのないからこその生者としての威厳。

 

オールマイト。

 

それは彼の威厳。

「(情けない、本当に情けない。私はまだ生きているのに、現役だというのに、彼女の方が不安だろうに。私は嬉しくなって、胸が締め付けられるほど苦しくなるほど格好いいって言葉が嬉しかった!!涙も出るほどに!!!泣き止めよ、私!男だろう!)」

「大丈夫だぞ、俊典。声を我慢するな、私だって泣いただろ?」

「ふぅっ、君は、ぐずっ、声を出してなかったぜ?」

「あー、そうだったかい?」

「そうだったよ!」

 

典花は困った顔をすると話を変えようとした。確かに思い出すと声は出してなかった、気がする。

良い話題は何か無いか、ふと思い出したことがあった。

「あー、そうだ。俊典、私達どこまで同じなのか話し合わないか?もしかしたら、良い未来への糸口があるかもしれないぜ?」

 

 

そう言うとポツリ彼女は言った、それに答えるように彼も言う。

個性。同じだね、ワン・フォー・オールだ。

先代。志村奈菜、同じお師匠だね。

扱いた人。グラントリノ!

アメリカでお世話になった人。デイブ!デイヴィット・シールドだ、元気かな?

サイドキック。サーだね、サー・ナイトアイ。

弟子。緑谷出久、泣き虫なんだ。

宿敵。オール・フォー・ワン、もう一度戦う相手だ。

 

傷痕。ここは少し違うね、場所は同じだけど貫通している。

性別。これは仕方無いね。

 

そうだ、ヒーロー名。

「「オールマイト!」」

 

「流石にそこは同じだね」

「そうだね。…そうだ、俊典。一つ提案があるんだけど、いいかな?」

 

何か思い付いたのか、急に真顔になった典花に俊典は座り直して典花の方を向いた。

彼女の提案は現状どちらも未知数の中の提案だった。

「緑谷少年と個性無しの手合わせをしたい」

「手合わせを?まだ個性の譲渡はしてないよ?体だってまだだ」

「知っている、だからこその手合わせだよ。それに一日潰す訳じゃない、半日だ。午前から昼の鐘がなるまで、それなら海岸の清掃も間に合うんじゃないか?」

「うぅむ、まぁ彼ならギリギリ間に合うだろうけど…なんで?」

「譲渡した後を知っているからだよ。力の加減は元よりギリギリの器だ。彼は怪我を…する。けど一度、手合わせをしてみれば少しは良くなるんじゃないかと思って。それに前もって心構えも必要じゃないか?そこについては教えてないだろう。戦闘経験無しは少しキツいと思ってさ」

 

典花の提案は悩ましいものだった。

確かにギリギリの器、急造の器となるだろう。使えばどうなるかは、想像出来る。

だが俊典は体験したことはない、見たことはない。

彼の体は個性の譲渡前から鍛えていた、それに八木俊典はまだその未来を見ていない。怪我をすると彼女は言った。

彼は、緑谷少年は、いったいどんな怪我をするのだろうか?

「…わかったよ。実は明日見に行く予定だったんだ、緑谷少年に連絡するね」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

次の日の朝、海岸には八木典花が座っていた。

緑谷にはこう伝えた。

 

【わーたーしーがー!メールを送った!こんばんは!緑谷少年!突然なんだが明日は私以外に人が来るから楽しみにしてね!見た目は私と同じ色だからわかるはずだよ!】

 

朝焼けの海を見ながら黄昏ていた。

辺りはまだまだ寒い、寒さの震えか緊張の震えか、わからなくて良い具合だった。

それほどまでに典花は複雑な心境でいた。

「…少年に会うのは約10ヶ月振りか。正式には世界違うから、初めて…か。改めて思うと複雑だな、緑谷出久も相澤消太も、サー・ナイトアイもグラントリノも、面識のない初対面。…落ち着け、少しずつで良い、焦るなよオールマイト。こちらのオールマイトの予知を反らすんだ。ナイトアイの、予知を、そのために弟子を育てなければ…」

「あっ、あの!」

 

聞いたことのある声だった、懐かしくもあった、そして懐かしくなっていたのが酷く悲しくなった。

声のした方を見る、朝日に光り揺れるのはたんぽぽの綿毛のような緑の髪。

まだ未熟、まだ弱い、まだ傷のない体。まだ中学生で、彼女がよく知る前の体の、緑谷出久だ。

「オー、じゃなかった、えっと…」

「…初めてだね、緑谷少年。私は八木典花、オールマイトだ」

 

その日、彼女は自ら、世界は違えぞ再び後継者に会うことを選んだ。

遅くなったがこれは、あり得たかもしれないオールマイトの話。

その人は一度死んでも尚、世界を越えても尚、人を救う。

 

 




彼女は会わなくてヒーローをする、という脳内分岐もありました。
けど会ったのでこれから根津校長が裏でアップをし始めました。
そして根津関連でサー・ナイトアイもアップせざる終えない状況になりました。


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No.4 八木典花と緑谷出久、後から八木俊典

ヒロアカのアニメ三期が終わると知って急いで書きました。予約設定で投稿してるのですが今朝4時50分です、番外編も大詰めなので投稿できたら良いな。
そしてサー・ナイトアイがいないのは残念です。
動く彼を見たい。声優は誰でしょうね、四期楽しみです。

サー・ナイトアイは二度死ぬ。
(アニメ本編と予告、またはアニメと漫画)


side 緑谷出久

 

僕はその日、近似感を覚えた。

その日は朝が早くとにかく寒い日だった、受験まで残り約1ヶ月を切ったある日、オールマイトから一通のメールが来た。

 

―――――――――――――――――

Sob no title

From 八木俊典

 

わーたーしーがー!メールを送った!

こんばんは!緑谷少年!

突然なんだが明日は私以外に人が来るから楽しみにしてね!

見た目は私と同じ色だからわかるはずだよ!

 

――――――――――――――――――

 

To 八木俊典

Sob こんばんは!オールマイト!

 

はい!わかりました!

オールマイトと同じ色ですね!

どんな人が来るのかとても楽しみです!

 

――――――――――――――――――

 

オールマイトのメールが嬉しくてワクワクしながらメールを打った、打ち終わり送信した直後、僕は忘れていた。

「あっ、何時に来るんだろう?あ、あれ?よくよく考えたら性別もわからない…オールマイトと同じ色ってどういうことだろう!?あー!や、やっちゃったぁぁぁ!」

 

僕が辛うじてわかるのは明日、海岸の清掃の時に人が来ること、オールマイトと同じ色ということだった。

僕はその後、早く寝て早く起きた。何時に来るかわからない以上は、いつもより気持ち早めに出たかったからだ。

その日は寒かった、震えるほどに。けど海岸についてからそれは寒さの震えから武者震いへと変わったのがわかった。

その人はそのくらいの人だったんだ。

「ひー、寒い!寒いけど頑張らなくちゃ!人はいない?あっ、居た、あれ?あの人」

 

その人は座って、朝焼けの輝く海を見ながら黄昏ていた。

金髪の、女性。澄んだ青と青と間にその人は居た。何故か知らないけど、声をかけないと消えてしまいそうだった。

「あ、あの!」

 

咄嗟に声をかけてしまった。

振り向いた人の目は青く、オールマイトと同じ色の人だった。

その人は立って、僕のことを見た。

「オー、じゃなかった、えっと…」

「…初めてだね、緑谷少年。私は八木典花、オールマイトだ」

 

「へ?お、オールマっ!」

 

僕が声を大きく叫ぶところを彼女は咄嗟に口を手で塞いだ。

この人、手が大きい!身長も高くて手も大きくて金髪碧眼って、まんまオールマイトだ!

「声が大きいよ、緑谷少年。とりあえずおはよう」

「お、おはよう、ございます…あの、あなたがオールマイトってどういうことですか?」

「説明はするけど他言無用だよ?」

「はい!」

「HAHAHA!声が大きいぞ。まず空から降ってきた人、覚えてる?」

 

空から降ってきた人。それはオールマイトと特訓をし始めた最所の頃の話。

あの時はびっくりした、初めて空から人が降ってくるのを見た。後で降ってきた人の安否とかについて聞いたけど、その時はあまり詳しくは教えてもらえなかった。

最近になって言っていたのと言えば『HAHAHA!彼女なら大丈夫だ。彼女は私みたいに強いんだよ!』と言っていた。

「は、はい、覚えてます」

「あれ私ね」

「えぇぇぇ!!もがっ!」

「声が大きい!まぁ平たく言えば、私は平行世界のオールマイト」

「平行世界のオールマイト…す、すごい!アメコミのようにアースがあるんですね!」

「あー、詳しくはわからないけどたぶんそう」

「平行世界のオールマイト、女性化のアースかな?他に誰が女性化しているんだろう、みんな性別反転の世界かな、僕も女の子なのかなぶつぶつぶつぶつ」

「stop!stop!緑谷少年!そこについては色々あって把握してなくて、てかそこまで考えてなかったからまだわからないし何よりそれはこれから、わかったかい?」

「す、すみません!」

「それじゃ、本題に入るよ、緑谷少年!私と昼の鐘がなるまで手合わせだ!」

 

僕は驚いた、さらに平行世界で女性とはいえあのオールマイトだ!手合わせなんて一生に一度出来るか出来ないかというやつだ。

しかしなぜ、今の段階で手合わせなんだろうかと思った。

「て、手合わせ!?僕がオールマイトと!?」

「色々あって私は個性を使わないし、何より一度、戦って感覚を少しでも覚えたいだろ?君に足りない所だぜ?つまり昼の鐘が鳴るまでの実技だ!」

「た、確かに僕は戦闘経験は…(かっちゃんのは戦闘に入らないだろうし…)ないです。わかりました!オールマイト!」

「よし!君の勝利条件はー、これだ!」

 

そういうと女性のオールマイトはやけに長いハチマチを取り出した、そしてそれを頭につけた。ハチマチは風になびきフワフワヒラヒラ動き回る。

「よし、位置的にも長いから届くね、これを取るか触れて欲しい!それが緑谷少年の勝利条件だ!一方私には勝利条件という条件はないに等しい、強いて言うなら制限時間かな?」

「それって凄いハンデじゃ?」

「HAHAHA!そう思うならそう思いなさい。…ではいつでも来なさい、緑谷少年。個性不可以外は他の攻撃手は何でも有りの手合わせ、始めッ!」

 

そう言うと一歩、女性のオールマイトは離れた。

手合わせと言っても普通の手合わせをしても僕には勝ち目はないのはわかる、ならばと出たのがハチマチに触れるか取るか、だったのかな。

ハチマチは緩く結んでいるようで少し引っ張れば取れそうな感じだ。

僕はまず、真っ直ぐ突進をし、パンチをするようにハチマチに手を伸ばす。だけどその手を受けながされて僕は倒れた。

いくら特訓と言っても体力のみで僕は戦ったことがないから動きが遅い、こうなるとヒーローのデータを元に戦うしかない!

「手の軌道が丸わかりだ!ハチマチを取るだけではなく攻撃をしてこいよ!有精卵!」

「くっ!ならこれはどうだ!」

 

「(焦るなよ、焦るな!オールマイト!僅かな時間で良い、将来怪我だらけになる彼の可能性を少しでも、僅かでも減らし、その道を、きっかけを作ることが出来れば良い!!)」

 

 

side 緑谷出久 〆

 

 

同時刻、いつもより早く事務所に出勤した彼の携帯に一通の電話がかかってきた。相手は雄英 根津と書いてあった。

「もしもし、おはようございます」

「やぁ、朝早くに掛けてすまないね!今平気かい?」

「大丈夫です、まだ業務は始まっていませんので」

「君に会わせたい人が居るんだって前に言ったの覚えてるかい?そろそろ来年度の雄英が始まってしまうからね、返事が欲しいんだ。どうする?会うかい?会わないかい?」

「…その人は、性別は違うとしても、オールマイト…でしたね」

「そうだよ、名前は八木典花でヒーロー名はオールマイト。こちらのオールマイトと把握してるだけでも同一な箇所は個性、立ち位置、サイドキック有無と名前、傷の位置など様々あるよ。健康状態も良くなってきたからね、彼女にはそろそろ新しい段階にも入って欲しいんだ。そしてそれはきっと、君のためにもなるよ」

 

根津の声を聞いて、思案する彼は椅子に座り悩んでいた。

彼はオールマイトが好きだ、どうしようもなく好きだ。だからこそその道を違えてしまった。

どうせだ、思いきってしまおう、そう彼は考えた。

「その話、お受けします」

「良かった!じゃあ出来れば雄英受験日までにはお願いするよ、詳細はメールで送るけど、会うだけに収まらないかもしれないからよろしくね」

「は?それはどういう」

「戦いじゃないことは確かさ!それではまたね!サー・ナイトアイ!」

 

そう言うと根津は早々と電話を切った。すでに電話は通じない、ツーツーとなった電話を見ながらサー・ナイトアイは判断を間違えたかと思った。

そして場所は戻り、昼の時刻が近くなってきた海岸。

そこにはぼろぼろの緑谷出久と汗をびっしょりかいた八木典花が居た。そして木陰からちょこんと実は二時間も前から覗いていた八木俊典もそこに居た。

「彼女、確かにパワータイプなんだろうけど、あの身のこなし、私には無いものだな。私より力が劣る分を技のテクニックとスピードで補っているのか?くぅー!私がこの怪我と制限時間さえなかったら、全力で手合わせを申し出した!」

 

緑谷が攻撃をすればそれを流し、躱し、跳ね返し、時には跳躍をして緑谷の頭上を飛び越え着地をする。

約10ヶ月の療養に費やしても尚、彼女の基礎の力は健在だった。

「ヘイヘイ!緑谷少年!もう少し足掻いてくれよ!ずっと直線的な攻撃で私は残念だよ?後三分未満で昼の鐘は鳴る、どうするんだい?」

「ま、まだします!(後三分、ここまで僕はずっと彼女の前後左右真っ直ぐに攻撃も手も伸ばした。つまり今がラストチャンス!)」

 

緑谷は典花の正面から手を伸ばした。

代り映えがない残念だ、そう思い受け流し後ろに倒して終わらせようとした。

それは緑谷出久の待ち望んでた隙とシチュエーションだった。

「うわっ!(後ろに流した!つまりこのままたおれずに体を捻らして、ハチマチに手を伸ばせば!)」

「何!?」

 

キーンコーンカーンコーン。

午前を終わらし午後を告げ、昼と知らせる鐘がなった。緑谷は、ハチマチに手を触れることは叶わなかった。

「そ、そんな…」

「お疲れ様、緑谷少年。この隙を作る為だけにずっと直線的な攻撃で仕掛けてきたの?」

「賭け、でした…僕にはそんなに早く攻撃も動きも出来ないので」

「賭け、ね。(可能性を見させた私もだけど最後のは後数秒あれば触れていた。うん、やっぱり長年のヒーローのデータ収集が役に立っていたりするのかな?)」

「す、すみません!僕やっぱりダメなんですかね」

「「そんなことないさ!」」

 

そう言って声をハモらしてきたのは俊典だった。

緑谷は大きな声を出しそうになるのを堪え、典花はいつから居たんだろうとクエスチョンマークを頭に並べていた。

俊典は前に出てくると二人の肩を叩いた。

「とにかく二人ともお疲れ様!緑谷少年、この調子で行けば良いよ!午後も頑張っていこうぜ!」

「はい!」

「典花は良い動きだったぜ!うん、正直君のヒーロー活動を生で見たかったよ。私にはない動きだ、あの、私はその、力ばかりでね。そこまで細かな動きは出来ない」

「…違うところ、出ちゃったな」

「けど君も私もオールマイトだ、そうだろ?」

 

同じ、そこに安心していた典花は少し不安を覚え俯いた。すかさず俊典はフォローをする。

きっとこれから、少しずつ違う所が出てくるだろう。

俊典は戦い方を見て思った。それでも二人はオールマイト、それは揺るがない事実でもある。

この先の未来、どうなろうと二人は、オールマイトなのだと。

「…そうだな、オールマイトだ」

「元気出たかい?」

「出た、ありがとう」

「よし!じゃあお昼だ!緑谷少年はどうする?食べていく?」

 

そういう彼の手には大きめの袋を持っていた、だが緑谷は前もって家で食べる予定だったらしく家に帰った。

「まあ、そうだよね…ちゃんと日陰の場所も取っておいたんだけど、おじさんの手料理に誰が喜ぶんだって話だよね」

「やめろ俊典、私も傷付く」

「君の外見若いからおばさんじゃないよ…」

「んっ、俊典!この肉じゃが旨いな!」

「そう?」

「旨い!俊典が女だったら嫁に貰ってたよ」

 

このオールマイト二人、そういう所が違うらしい。

俊典は女子力が高く、典花は男らしい。座り方からもわかるのだ、俊典は正座をしているが典花は胡座をかいている、いったい何故こうなってしまったのか。

「嫁ってね…むしろ君が貰われる側でしょ!」

「HAHAHA!私は俊典みたくこんなに美味しく料理とか出来ないよ。辛うじて掃除洗濯と力仕事かな?」

「まぁ、教えてたけどぎこちなかったよね。卵割るし、味は濃いし、指切るわ焼けば焦がすわ…どうやって生活してたの?」

「あー、それを食べてた。それにサイドキック、ナイトアイ居た時はナイトアイが作ってくれてたし、んんー!おにぎり美味しっ!」

「ナイトアイが!?」

「ナイトアイがね。私が生活能力ゼロと気づくや否や『オールマイト、あなたの家に人が一人住めるところありますか?』って言ってきてさ。あるよって言ったら後日荷物まとめて来たよ」

「あ、もしかしてサイドキックとして別れるまで」

「住んでたよ」

 

俊典は今、頭に過った事があった。

共に住んでるから言えることである。

「…一つ気になるんだけど、それ、その、寝る所は?」

「一緒」

「洗濯は?」

「一緒」

「んん!じゃあお風呂!」

「最初はナイトアイ居ても入ってたけど怒られたよね」

「そりゃそうだよ!どんな考えしてるの!?」

「え、えぇ?ね、寝るのはナイトアイ寒そうだったし、安眠できたって言ったのと掃除洗濯はナイトアイが率先してやるし、風呂は帰ってきて入ると居たりその逆もあったり?」

「典花、君さ、その分だと滅多に無いオフもナイトアイと一緒だね?」

「そりゃそうでしょ、苦労かけてるからオフはナイトアイに誘われてオールマイトグッズ買ったり、映画観たり、ランチに、買い物かな?」

 

 

「(デートじゃん…!)」

 

 

八木俊典はもう付き合えば良いじゃんと思ったのは無理はない。しかし平行のサー・ナイトアイは更なる爆弾を持っていた。

「サイドキック辞めても時折来てたみたいだけど」

「ん?なんで?」

「合鍵持ってたから?」

「違うよ!なんで来てたの!?」

「部屋見る限り掃除と洗濯とたまにご飯作りに?あとナイトアイにメールとかよく送ってたんだがメールの返信の代わりの手紙が置いてあったかな。最後の電話は取って貰えなかったけど」

「んんー!バトラーかな!?ここまで行くと筋金入りか何かで怖いよ!!私の所に比べ変な所複雑過ぎ!私はきまずくてね、あまり連絡してないから。住所は教えてても入れた事は無いし。それどころか人を入れるのなんて典花が初めてだよ!」

「そりゃ嬉しいぜ!ま、ここ二、三年はナイトアイ、家にあまり来てなかったみたいだし、何より去年ポストに合鍵返されたし」

「あ、彼返したんだ」

「うん、返された。ナイトアイには色々話してたんだよね、だから来てくれてたんだと思う。…やっぱり美味しいご飯食べたいとか、ヒーロー活動のこととか、あと一人は寂しいなぁとか。…一度死んでしまったけど、今は楽しくして貰ってるし、一人じゃない。俊典たちに恩を返さないとな」

「じゃあ私も典花に返さないとな」

 

典花はなんで?と首をかしげると大分空になった弁当を片付けながら俊典は言った。

「私も一人じゃないからさ」

「私がいる!ってね」

「私もいる!」

「それならあれ、二人で私達が来た!ってやつ?」

 

「「私達が来た!」」

 

「いいね!いつか典花とヒーローするときはそれ言いたい!」

「まぁ活動しない方が平和で良いんだけどね!」

「うーん!正論!」

「「HAHAHA!」」

 

それを5分前くらいから見てたオールマイトオタクの緑谷出久は二人のオールマイト(トゥルーフォーム)が笑ってるのを見てなんて幸せな空間っ!と思いながら将来のためのヒーロー分析ノートNo.13に新しいページに書き始めていた。

 

オールマイト(平行)

身のこなし鮮やか!流石オールマイト。筋肉はない?オールマイトみたいに姿が変わる?まだこれからたくさん考察すべき!

 

「さて、午後も頑張らなくちゃ!」

 

受験まで残り一ヶ月!その日から彼はさらにやる気を出した!海岸清掃以外にも身のこなし方を考えるようにもなった。

月日はあっという間に流れ入試当日の朝六時、緑谷出久は叫んでいた。

「わあああああああああ!!」

 

彼は全てを終わらした。指定された区画以外にも塵を残さずに。

さらにここで僅かながら、本当に小さいが変わったことがあった。

積んだゴミの数が少し減っている。つまりトラックに乗せたゴミの量が増えたということ、彼は本来なるであろう緑谷出久より微弱ながら力と体力が付いた。

 

 

「わあああああああああ!!」

 

 

だが緑谷出久の戦いは、まだ始まってすらない。




ようやく次は受験、つまり一巻のNo.3。
しかし受かってもその間の話で一話埋もれる、雄英生活までは道のり長いですね。シヴィィィ!

ちなみになんとなくイメージ的に原作マイトはナイトアイにご飯を食べさせる(エプロン)、平行マイトはナイトアイにご飯を食べさせて貰ってる(ギャルソンorエプロン)感じです。
まぁ、鈍感なところはマイト達鈍感だろうけど。じゃないと原作はお弁当のフラグ立たないよね…メールあるのに。
そういうところも書けたら良いな。


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No.5 光の始まり

題名候補としては『死んだ後に背負うモノの重さを知る』や『君の背負うモノの重さを知る』がありました。
明るくしたかった結果。


 

雄英入試当日の朝六時、俊典は一人寒そうに、そしてあくびをしながら海岸に向かっていた。

しかしそれは一瞬にして眼が覚める。

「あああああああああ」

 

輝く朝日に照らされて、ゴミの上で叫ぶ緑谷出久。彼は海岸清掃もとい目指せ合格ドリームアメリカンプランを完遂したのだ。

「わあああああああああ!!」

「おいおいおい!指定した区画以外まで!?マジかよ、チリ一つなくなってやがる!!マジかよ!ギリッギリで仕上げやがった!完成以上に!オーマイ、オーマイ…グッネス!!(やっぱり典花を起こして連れてくればよかった!この光景を彼女にも見してあげたかった!)おつかれ!」

 

そして数分後、個性譲渡の儀式という名のオールマイトの髪の毛を食うという緑谷出久的に(そしてオールマイトオタクの意味的に)嬉しいんだか何なんだか複雑な時間が過ぎた。

そんな緑谷出久が急いで受験会場の雄英高等学校に向かってる中、八木典花は起床してリビングで手紙とスマホを見ていた。

「…根津校長からのプレゼントが最新スマホ、そしてそれよりも今日は雄英入試!何故起こしてくれなかった!俊典!少し文句は言っちゃうぞ!」

 

手紙にはこう書いてあった。

 

───────────────

 

八木典花様へ

 

おはよう、これを見てる頃にはきっと、君は一人寂しく朝御飯だろう!

彼には起こさないよう言ったから攻めないでほしい。

隣にあるスマートフォンは君にプレゼントするよ!

まだあげてなかったからね、忘れててごめんね!

それは通院終了祝いとして受け取ってほしい、アドレス帳には私根津、八木俊典、他にも雄英教員の一部が入っている。

 

そして本題だ、君は通院が終了し中身は恐らく万全になった。

そこで君には新たな段階に進んでほしい。

個性のコントロールだ、休養により衰えた体を鍛え直すのと現在の個性の力の把握をしてもらいたい。

そしてそれが途中で、完璧にできなくとも君は人を助けるだろう、だから現在特別なヒーロー免許を作成している。

 

その名は平行線ヒーロー証明免許、と仮にしてある。

平行線ヒーロー証明免許は別世界に置いての正式な免許の提出、個性把握の為の書類、身体検査の書類等を必要として貰っているよ。

君には前もって免許の提出、身体検査も終わってるからあとは我々が個性の把握をすればいい。

 

そういうことだから本日、雄英入試終了後の時間帯、雄英においで!

君には一度入試と同じことをする!

ここからこの世界で、君のヒーロー活動は始まるよ!

 

PS.君に会わせたい人がいる、連絡先も教えてあるからメールか電話が来たら出るようにね。

 

─────────────

朝食を取り、着替え、外に出た典花は緑谷出久も八木俊典も既にいない海岸に向かっていた。

やはり自らの目で一目は見ておきたかった、彼の最初の功績を。目指せ合格アメリカンドリームプランと名は付いているが海岸清掃は海岸清掃だ、ヒーローへの一歩の事を彼はした。

既に輝く朝日に照らされてはゴミの上で叫ぶ緑谷出久も、それを見るオールマイトの八木俊典もいない。

冬の寒い風のみが、彼女の周りを吹き抜ける。

「ゴミが少ないな。ギリッギリで私が知る以上に仕上げやがったのか!HAHAHA!すごいぞ少年!あぁ、ホントに、すごいぞ…!!」

 

典花は緩やかに座り込み、俯きながら今更なことを考える。

皆を救えば良いのか、彼らを伸ばせば良いのか、はたまた何もせずただ口を噛み締めて私は本来いない者だと思い傍観すればいいのか。

前者二つはやるなら一人でやればいいのか、皆と共にやればいいのか。多いような、少ないような、そんな選択肢を選んでいけばならない。

 

この光景を見るまでは、本当に何も考えてなかった。

 

典花にとっての過去が変わった、微弱ながらゴミが減った。恐らくあの時の緑谷出久より少しは力が付いた筈だ。

つまりだ、この先も変わる可能性がある。気付いたのでもなく、彼女はその可能性から目を背いていた。だが確信した、未来は変われると。

「私は行く末を知っている。個性じゃないとはいえ、これも一つの予知になるんじゃないか?…予知、ね。予知か…。ナイトアイ、君は、君はこんなに重いものを背負っていたのか。(あぁ、こんな時に君を思い出すなんてっ!何て最低なヒーローだ!!私は。)」

 

その歩みを一度止めても、残酷なまでに時は過ぎる。

無機質な音の電話が鳴り始めた。登録されてない電話番号だった、恐らく根津の言った会わせたい人が会いたいからかけてきたのだろう。

「…空気を読んで欲しかったな。はい、もしもし、八木です」

「…っ」

「もしもし?」

「…サー・ナイトアイです、八木典花さんの番号で合っていますか?」

「サッ!?は、はい、八木典花、です」

 

どちらも震えた声だった。彼は尊敬した人と同じだから、彼女は相棒と同じ人だったから。

互いに見えない表情であっても緊張は確かにしていた。

最初に話始めたのはサー・ナイトアイだった。

「突然お掛けしてすみません、…会いたいのですがお時間はありますか?」

「あ、あります」

「今どこにいますか」

「今、ですか?…海岸にいます」

 

典花はそういうとサー・ナイトアイはそちらに向かいますと言った、細かな場所を伝えると電話は一呼吸置いて切れた。

俯きながら座り込んでいた典花は頭も抱え始めた。器用なことに足も震えていた、まさにバイブレーションオールマイト。

「ああああああああっ!ど、どうしよう!ふ、震えるな!この足めっ!体全体に見えるだろ!!さ、さっ、サー・ナイトアイがここに来る!車か?バイクか?徒歩?タクシー?バス?待ってくれ、性別が違うかもしれ…いや、声は男だった。大丈夫じゃない、あああああああ…」

 

数分後、サー・ナイトアイの見た光景は悩んだ末に足が痺れ、そのまま海岸に倒れ混む八木典花であった。

その場を見たサー・ナイトアイは流石に驚いた、ついて早々に人が、何より探してる人が待ち合わせ場所に倒れてるのは心臓に悪い。だが話を聞くと少しくだらなかったのか呆れた。

「!?だ、大丈夫か!」

「…放っておいてくれ、足が痺れて動けないんだ。情けない…」

「寒空の中、さらに人気の無い海岸であなたは何をしてるんだ…。それはユーモアとは違うのはわかっているのか?」

「わかっているよ、けど緊張感は有り難いのか消えたな」

「有り難くない解け方だ。…ハァ、場所を移動する、すまないが抱き上げる。痺れても我慢してくれ」

「抱き上げっ!?まだ足が痺れてるんだ!うわっ!」

 

サー・ナイトアイは抱き上げたが反応からして何となくわかった、彼女の足は痺れてないと。だが抱き上げた彼女は布越しでも冷たかった、何時間ここに居たのだろうかと思った。

「足、本当は痺れてはないな?まぁ、どちらにしてもこの冬の海岸で一人、何をしてるんだ」

「何をって…海岸を見に来たんだ、この海岸を」

 

サー・ナイトアイの記憶ではこの海岸は海からの漂流物やそれに混ぜては不法投棄、ゴミだらけで新聞の記事になっていた。今はその面影はなく塵一つなかった、倒れていた彼女にも付いているのは砂だけ。

彼女は多くを語らなかったが本当にこの海岸を見に来ただけなんだろう。

「そうか、なら目的は達しただろう?」

「それは君もだろう?私に会えたんだ、降ろしてくれ」

「あなたと話をしたい」

 

サー・ナイトアイは彼女の方を見ないで、空と海の間を見て言った。彼は彼女に触れている。

次に目が合えば個性が発動するからだ。

予知、それは彼の個性。素敵にも思われるが彼にとっては良くも悪くも条件が合えば強制的に未来を見せる。

「あなたの世界の話をしたい、オールマイトとしてのあなたも、普段のあなたも、その、死に際も。私は、居なかったんだろうが」

「誰もいなかった」

「なに?」

「私が死んだのは恐らく救急車の中だ。記憶もそこで終わって、知ってる人は誰もいなかった。グラントリノが近くにいたが死んだときはその場にいなかった筈だよ」

「怖くは、なかったのか」

「気付いたら死んでいた。今考えてもわからない、怖くはないかもしれないけどただ悔しいと後から思ったよ。弟子を叱れず、グラントリノが居たのに看取られもせず、ナイトアイにも会えず、ただ一人静かに死んでいったのを。あ、私ね、心電図の音を聞いて死ん」

 

サー・ナイトアイは最後まで話を聞かずに歩き始めた。彼女はこのような経験が無い、暴れようかと思ったがサー・ナイトアイより彼女は強い。

怪我はさせたくはない為、暴れず固まった。

「ど、どこに行くんだ?」

「今日は車で来た、車だ。それよりもだ、悔しいとはなんだ」

「今言ったじゃないか。弟子を叱れず、グラントリノに看取られもせず」

「そうじゃないだろう!」

 

サー・ナイトアイは車の前まで来て、八木典花を降ろすと車のドアを開け、無理矢理助手席に座らせた。

そして助手席に彼女の肩を強く押し付けると目を合わせた。

「いっ!痛いだろっ!」

「あなたが、オールマイトがこうならどこのオールマイトもこうなんだろうな。まるで死に急ぐような生き方だな、ヒーロー」

「ナイトアイ…」

「周りの事を考えたことがあるのか?ただの一般人ならオールマイトが怪我をしてもオールマイトだから大丈夫だ、オールマイト頑張れと思うだろう。だがあなたの近くの人は違う!もう止めてくれと、もう止めてくれと!怪我をしてでも救わないでくれと!そう思うのを知らないのか!!!キミは!オールマイトはっ!いや、あなたという存在は一人しかいないんだ!!替えはないんだぞ!?」

 

彼女は目を見開きながら、場違いなことを思った。

「(君は、そうやって泣くのか、ナイトアイ)」

 

顔にポタリ、ポタリと落ちる涙を見ながら彼女は彼の顔に手を伸ばす、決して目を反らさずに、その瞳と瞳が合わさるように。

海岸に来て、過去が変わった。緑谷出久が成長したということ。

サー・ナイトアイの事を少し、わかった気がした。予知ではないが未来を知っているからこそ避けたいこと、したいこと。

そして彼を目の前にしていい加減決めないといけないこと。

「悔しいと思ったじゃすまないんだ!死とは恐ろしい事を知ってくれ!私は!あなたのファンであるからこそ!言い表せない程の凄惨な死を回避したいんだ!」

 

「それは俊典に言ってくれよ、ナイトアイ」

 

「何を言っている!オールマイト!」

「頼む、落ち着いてくれよ」

「落ち着いている!重ねてるから言ってるんじゃない!八木典花だから言っているんだ!」

「重ねてなかったのか?」

「重ねてなんて言うものか!私はオールマイトを敬服している、それは性別が違えてもだ!存在が同じだからと言ってただ重ねてるなんて、それは侮辱だ!だからと言って同じだとは私は思ってなかった。だがあなたの目は同じだ!死んでも何一つ変わっちゃいない!」

 

そういうとゆるりとサー・ナイトアイの手は肩から顔に向かう、彼の手は目の方に向かい、まぶたを下ろさせないようにした。

その顔は怒りに満ち、いや、完全にキレていた。

「い、いやまて、まてまて!見る気か!?いやいや流石に一度死んだんだ!少しは私だって変わったぞ!?」

「それは上っ面だろう?私は腹を括ることにした。根本的に変えてやる、まずは貴女からだ。その前になんとしてもあなたの次なる死も防いでやる、こうなったらやけだ!したくはなかったが見るしかない!」

 

彼の目が文字通り変わった。個性を使うと彼の目の色彩は反転し、白は黒に、そして模様が浮かび、彼の頭に軽い負荷がかかる。

だが彼の脳内には何も未来のビジョンは浮かばなかった。

見えたのは壊れたフィルムのように、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒。

ずっと真っ黒で、ずっと真っ暗だった。澄み渡る墨のよう。

もう一度見ようと再度意識を向ける、次に見えたのはやはり黒、漆黒だった。

「何故…」

「もしかして見えなかった?」

「…見えなかった。一度死んだ人間を見るのは初めてだった。だが、これはあまりにも黒い」

 

そういうとだらりとサー・ナイトアイは腕を下げ、顔を俯いた。彼の瞳はまだ、涙が流れている。

ただの黒いフィルムを見た彼は、その先にまるで希望がないようだと思った。生きる道もなく、いつ死んでも可笑しくはないようだと。

「…大丈夫!これから見えるようになる!」

「何故そう言える」

「私も腹を括ったんだ。君達を元の世界の人達と重ねないし、未来を変えたい、作りたい。リカバリーガールとも約束したからね、それに見てみたいんだ!八木俊典も八木典花も生きていける未来を!そしてサー・ナイトアイ、どうか私と未来を変える手伝いをしてほしい」

 

手を伸ばし、彼に言う。一人より二人だろ?と。

変わったことの無い未来だった。

過程が変わろうとも結果が変わらないことを強く教えてくる個性、それに未来。そこに、強い意思が加わったらどうなるんだろうか?

自分一人より二人、そこに未来を変えたい意思が集ったら。

彼は根津の言葉を思い出す。

『きっと君のためになる』

『会うだけじゃ収まらないかもしれない』

 

確かに、会うだけじゃ収まらないかったし、彼のためになった。

そんな彼は昔、オールマイトに言ったことがある。

『前例が今までなかっただけだ!!未来など私が変えてやる。このままじゃ“予知通り”になるんだよ!!それは駄目なんだ!!!』

 

オールマイトという存在に、サー・ナイトアイの声は届いたかは今でもわからない。

『私はあなたの為になりたくてここにいるんだオールマイト!!』

 

サー・ナイトアイはまだ、彼から離れても足掻こうとしていた。

今なら、前例が作れるかもしれない。あのオールマイトと同じ立ち位置の八木典花と共に!

サー・ナイトアイは手を握り、深呼吸をした。

「よろしく、頼む」

「っ!あぁ、よろしく!改めて私は八木典花!ヒーロー名はオールマイト!君は?」

 

始まりの日のような感覚を覚えた。

彼は泣いたり、怒ったり、笑ったりと忙しい午前だと思った。

ふわりと、笑いながら彼は名乗る。

「ナイトアイ、サー・ナイトアイだ。初めまして、オールマイト」

 

 

 

────────────────

 

 

小休止のお話。

 

ところで時間はかなり経ち昼時となっていた。典花はここでお昼を食べなければ、腹を空かしそのまま雄英に向かうこととなる。

サー・ナイトアイは自らも車に乗り込む時、午後の話を聞き、雄英に行くというのを聞いて昼飯に悩んでいた。

出来れば暖かいものがいい、彼女の体は冷えきっている。

「八木さん、麺類でいいか?」

「な、なんだよ八木さんって、随分他人行儀だね」

「オールマイトは彼の名だろう?そうおいそれと呼べはしない。それにあなたはヒーロー活動時に名前が被るから改名する必要がある、今から考えておくといい」

「考えてなかった…」

「何を今さら。この先も不確定だ、私たちの関係ややるべきこと、それはもちろんお昼やお互いの呼び名もだ」

「典花でいいよ、ナイトアイ。八木は被るしオールマイトは彼のなんだろう?まさかヒーロー名をこの歳からまた考えるなんて思いもしなかった」

「(呼び方が意外と普通だ)とりあえず蕎麦屋に行こう、それを食べたら雄英だ。雄英の件が終わったら今後についてゆっくり話そう、典花さん」

「うんうん!距離が近い!物理的に!主に車体感覚が!」

 

実は彼、 規定速度なのに飛ばしてるような感覚を覚えさせる運転をする。これは後に改善するのだがその理由は運転慣れしてないからだった。

「あぁ、すまない。慣れてないんだ、免許はあっても運転することは少なくて。この車もこの前買ったばかりで」

「新車で事故る気か!?」

「今度はバイクで来よう、事務所に置いてあるんだ」

「意外とお金使うね!?」

 

さらにニコニコとしながら最近引っ越したという、その理由は雄英での試験後わかるのだがそれは後での話。

そしてナイトアイは天ぷら蕎麦、典花はネギと天かすのぶっかけうどんを食べて午後に望む。

果たしてそれで足りるのかと思うのはナイトアイだけではない。

 




雄英に辿り着かないなと書いて思いましたがやっと雄英行けそうですよ!

それと個人的なイメージと欲ですけどナイトアイにはバイクはNinjaに、車は(今調べながら)カマロssとかGT-R、シビックタイプRとかの4人乗りスポーツカーに乗って欲しいです。
まぁ、運転描写などなんて今後原作に出ないから…、彼のイメージや趣味に合うような車やバイクを考えるしかないんですけどね。
食事や感情もなんですけどね!
そんななのに彼が感情的になる描写は少ないし、緑谷出久の前だと顔隠してたりとかなり隠してるからあまり見れないので…

表現力的に恐らくここからが私的に本番ですね、USJが迫ってるので!


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No.6 雄英受験エクストラ ~私の拳よ、吹き飛ばせ!~


次は雄英から出れません。



 

雄英受験日の午後、試験は終わった頃の時間帯。

雄英高校前には二人の人間が立っていた。片方は金髪で青い瞳の女性、もう片方は緑髪で金メッシュ三本の金の瞳で金縁の眼鏡の男性。

二人とも身長が高く、容姿も良いので変に目立っていた。受験を終えた受験生達は彼女等を見ていた。

「ここがこの世界の雄英か」

「違うのか?」

「いや、作りは同じようだ。それに此処の世界に来た時、一度オールマイトにここまで運ばれてる。ゆっくり見る時間はなくて!改めて見たかったんだ。それにしても一度家に戻っちゃってごめんね、返すものあってさ」

「いや、大丈夫だ。時間には間に合ったのだから」

「HAHAHA!そうだね!よーし、それじゃあ雄英に入ろうか!」

 

一方雄英高校内、校長室。

そこには相澤、オールマイト、根津がこれからの事について話していた。オールマイトは珍しく笑ってはいなかった。

「一先ずは受験のことはお疲れ様なのさ!このあと八木典花が雄英に来次第に個性測定、そして八木典花の今現在のヒーローとしての適合の有無を確認するのさ」

「ヒーローとしての適合の有無とは?彼女が嘘をついていると?疑っているのですか?」

「落ち着いてくれ、オールマイト。そういうことじゃないんだ。彼女はそろそろ現実を見据え始めただろう、と思ってね!これからどうしたいか、まだ腹の中では決まってない筈なんだ。ヒーローなるか一般人に戻るか。彼女からしたらここは少し前の過去。彼女は君がこれからすることを、になるが、やることをなぞるべきか否かを、他にも考え始めなくてはならない。つまり、未来を変えるか変えないか」

 

オールマイトと相澤はごくりと喉を鳴らす。根津は簡単に言うが未来を変えるか変えないかとはとても大きい所業、しかし八木典花に言われなければ我々は何も知らず道なき道を行くようなもの。

根津は何をしようと言うのか。

「生徒を守るためだ。彼女には変える、変えない関係なくこれからの起こる事を教えてもらおうと思ってる。それと相澤くん」

「はい」

「オールマイトの事に関して微妙に知ってしまっただろうけど、その事に関しては近い未来、伝えられる範囲で教えるから今は我慢してほしい。それは八木典花についても。彼女の事の方が早くに教えられるかもしれないけどね!」

「気になりますがオールマイトさんはNo.1ヒーローです。当然守秘義務は多かれ少なかれあると思いますので大丈夫です。八木典花さんについても同様です、空からの来訪者ですので」

「この事はプレゼント・マイクにもお願いするよ!病院の時、彼もいたからね!相澤くんについては以上だ、すまないが退出をお願いするよ!」

「わかりました、失礼します」

 

相澤が退出をすると空気は一気に変わった。ピリッとした空気にオールマイトは一瞬何事かと身構えた。

それほどに彼は、根津は本気だ。

「君について本題だ。彼女を雄英教師及びヒーローとして正式採用をする」

「なんですって!?彼女は病み上がりだ!」

「オールマイト、君が言うのかい?その体の君が」

「そ、それは!」

「雄英教師は確定だよ、ヒーローとしては今日次第だけどね。生活も君と違う場所でしてもらう予定だ、許可は取れている」

「許可って、いったい誰のなんですか!彼女の意思は無視なのですか!?校長っ!教師としても!ヒーローとしても!人としても!!」

「君ならどうするんだい?望むんじゃないのか?それはほぼ同等の存在の君がよくわかる筈だ、八木俊典。僕らのオールマイト」

 

オールマイトは、八木俊典は歯を食い縛り、拳を握った。何も、言えなかった。

教師としても、ヒーローとしても、オールマイトそして八木俊典というヒトとしても恐らく望んでしまうその道を。

根津はわかっていた、彼女のような人なら受け入れるだろうということを。そして今の彼には聞こえてなかった、根津のほぼ同等の存在というよりはワードが。

「それと八木典花をヒーローにするに辺り、彼女にはヒーロー名を改名してもらう。オールマイトは二人もいちゃいけないんだ。わかるね?」

「平和の象徴は一人でなければいけない、ということですか?」

「いや、違うよ?」

「えっ、違うっ!?」

「普通にナンバーワンが二人居たら混乱するだろう?名前も同じで個性も同じ、さらにぽっと出なのだから」

 

かなり至極当然な事だったのでオールマイトは逆にショックを受けた。

確かに同じヒーロー名で、それがナンバーワンのヒーロー名、さらに人物はぽっと出、日本のみならず世界が混乱する案件だ。

オールマイトとはそれほどの人物なのだ。

「君はオールマイト、全能の名を持つヒーローだ。決め台詞は私が来た!だよね。彼女のヒーロー名の候補としてはいくつかあるんだ!一つはオールライト、大丈夫だと言わせる為のヒーロー名。二つ目はヴィクトリーで古きアメコミのようなヒーロー、あと三つ目がね」

 

ウキウキと根津は紙を取り出し、ヒーローネームとヒーロースーツの書いてある紙を取り出す、それは三枚どころではなかったのでオールマイトは目を少し、いやほんのり目を反らす。

シリアスな中に根津は楽しみを見つけていた。人のヒーロー名を考えるというのは、とても楽しかったようだ。

ちなみにヒーロー名などはどうやら根津とリカバリーガール考案なのか、名前がしっかり紙に入っていた。

「(あれ、もしかして長話の路線に行ってしまわれた?)ね、根津校長、それこそ彼女の意見を入れてあげてください。特に近接で戦う私たちにとってスーツは重要ですので…」

「うん、言われるとそうだね。動きに支障があっても困るし、怪我を和らげたり、人によってはサポートアイテムともなる重要なことだ。これは保留にしておこう!じゃあ、もう一つ本題だ」

「まだおありで!?」

 

オールマイトは驚くしかなかった。

未来の話、八木典花の教師及びヒーロー活動の話、住む所も別でさらにこれから個性測定が待ち受けている。根津はまだ何を言う気なのか。

「あるのさ!その名もプロジェクト神野、オールマイトを、君を生かす為のプロジェクトさ。今日からメンバー集めだから頑張って行こう!一応電話はしてあるんだけどね」

「プロジェクト神野?!電話!?」

 

──────────────

 

雄英の更衣室にヒーロースーツとインターカムを持って入る女性がいた、八木典花だ。それは空から落ちてきた時と同じスーツ、と同じように作られている新品のスーツ。

何か違うのか眉間にシワを寄せながら着替えていた。

「うーん、何だか違和感、何が違うんだ?ほぼ同じなのに。流石雄英だ!って思うんだけど…マッスルフォームになればわかるかな?」

『八木典花、準備はできたか?早く来い』

 

付けたばかりのインターカムから声がし、相澤が急かしてきた。

急いで準備をし、本日の雄英受験と同じ会場に向かう。

人は待避しロボットのヴィランが彷徨いている偽の町、巨大なロボットもいるので気を付けよ、という本日の設定を来た時、相澤から言われスーツも渡された。大事なものはナイトアイに渡してある。

「グラウンドβだっけな!」

 

その会場をカメラを通して画面からモニタールームで見ているのは校長の根津、オールマイト、イレイザーヘッド、プレゼント・マイク、リカバリーガール。

外部からはサー・ナイトアイ、根津に呼ばれたホークス、ベストジーニスト、ファットガム、グラントリノがいた。互いに初対面、八木典花が現れるまでの間のわずかな時間で自己紹介が行われる。

「初めまして、先輩方、俺はホークスです」

「沈ませ屋さんのファットさんや!ちゅーわけでファットガムですよろしくね!」

「私はベストジーニスト、ホークスにファットガム、よろしく。それでその、あなたは?」

 

「誰だ君は!?」

 

「ぐ、グラントリノ!HA…HAHAHA!彼はグ「俊」HAHAHA!!」

 

明らかに笑い声で誤魔化すオールマイト。

あのオールマイトが振り回されているのを見てホークスとファットガムはあの人は何者だろうかと思った。ベストジーニストはどうしたらと考え込み、イレイザーヘッドは合理的じゃないと思った。

先に動いたのはホークスだった、グラントリノに近づき身長差のため少ししゃがみこむ。

「俺はホークスです、おじいさんは何て言うんですか?」

「グラントリノだ。小僧、もう少し鍛えた方がいいぞ」

「あはは、鍛えすぎると重くて、飛ぶのにバランス悪くなるんですよ」

「おじいさん!俺はファットガムです!」

「よろしく、ベストジーニスト」

「え?あ、あぁ、よろしくお願いします、グラントリノ」

 

「無視せんといてーな!」

 

「合理的じゃないね?」

「お、落ち着けって!イレイザー!」

 

下手すると生徒より煩いファットガムに自由なホークスとグラントリノ、そして八木典花は来ないので進まない現状。

プレゼント・マイクはなんとかイレイザーヘッドを宥め、八木典花に連絡を入れることを促す。それがさっきのインターカムのやつだった。

「さて、改めて私は根津、雄英高校の校長をしているのさ。本日は来てくれて感謝をするよ、グラントリノ、ベストジーニスト、ファットガム、ホークス。君たちを呼んだのは他でもない、実力と人柄、そしてこれからに必要からと思ったからだ。画面を見てくれ」

 

グラウンドβの入り口は一人の人が見えた、画面を拡大するとそこには八木典花、いやこの世界では未知のヒーローとして立っていた。

ヒーロースーツに出で立ち、姿は違えぞまるでオールマイトだとベストジーニストは思った。

「彼女はこの世界のヒーローじゃない」

 

グラントリノを除く三人は目を見開く、雄英教師ではプレゼント・マイクが驚く、そして根津は言う。

「ここからは君たちを信用して言うことだ、機密処でないモノになるかもしれない。それでもし、それに応えることが出来なそうだったら帰っても大丈夫だ。今なら引き返せるよ」

 

一旦目を瞑り、ワンテンポ遅れてホークスは喋りだす。その開けた瞳は若くもプロヒーローの瞳であった。

「いや、帰りませんけど」

「おや、何故だい?」

「この世界のヒーローじゃないってことは戸籍も何もかも無いってことですよね。それに、あのカラーリングにスーツは…今は詳しくは聞きませんよ。まぁ言えることは一つ、彼女困ってるってこと、そうですよね?先輩方」

「確かに、この世界のヒーロー、人間じゃないと言うとこはホークスの言う通り彼女は困ってるっていうことです。それに画面越しからでもわかるあの目、意思が強そうな目だ。彼女がパンドラの箱であろうとヒーローであるならば、一人で解決しようとするような人柄かもしれない」

「どういう経緯で来たかわからんけど世界が違うんなら一人は寂しいやろうなぁ、あとで飴ちゃんあげたろな!それと無理せんように見てあげな!」

 

イレイザーヘッドが動き、根津の隣に立つ。ちらりと根津を見たあとヒーローの四人に向かって問いを投げる。

自らだってプロのヒーロー、なら聞くべきは一つしかない。

「校長、言い方が合理的じゃないんですよ」

「相澤くん」

「空から落ちてきた彼女は多かれ少なかれ困ることはある、そして世界が違うんなら助けるでしょう。ホークス、ファットガム、ベストジーニスト、そしてグラントリノ。率直に聞く、関わる気があるか?あの画面の向こうの、空から落ちてきた来訪者に。地に落ちた英雄に」

 

根津はどうやら測り間違えていたようだ、現在の現役ヒーローと言うものを。

言い方は色々あれど、彼等は受け止める気があるようだ。そしてそのハイスペックでヒーローの卵達のことも八木典花についても考える。

「ありますね」

「恐らくそのために私達は集められた、信用足るヒーローとして」

「そして困ってたら助けるんがヒーローや!」

「まぁなんだ、ひとりは大変だろうからな。見てやらんでもない」

「(どうやら心配はなかったようだ、これなら卵たちも、もしかしたら受け入れるかもしれない。そして彼女も進めるかもしれない)」

「校長、そういうことらしいですよ」

「ありがとう相澤くん!よし、では二人とも配置についてくれ!」

 

プレゼント・マイクとイレイザーヘッドは外に出た、そして数分後個性ヴォイスの大きな声が室内にも聞こえた。イレイザーヘッドは耳栓してサラに手で耳を塞いでるのでギリギリ平気だ。

「≪YEAHHH!!初めましてリスナー!俺はプレゼント・マイク!準備OK?Yes or No!?≫」

「HAHAHA!懐かしくなる騒がしさ、相変わらずだなぁ。初めましてだー!そしてイエース!!」

 

「≪OK!では確認だ!人は待避しロボットのヴィランが彷徨いている町カミーノ!巨大なロボットもいるので気を付けろよ!?あんたの勝利条件はただひとつ!全てのロボットの制圧だ!簡単過ぎたら条件は追加!さて、最後にリスナーへ我が校の“校訓”をプレゼント!かの英雄ナポレオン=ボナパルドは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!!“更に向こうへ!Plus Ultra!!”それでは八木典花!良い受難を!Staaaaaart!≫」

 

テンション爆上げ右肩上がり元気モリモリのプレゼント・マイクの長い話が終わり、八木典花は体から煙を上げ、そして走り出した。

筋肉は膨張をし、垂れていた二本の前髪はピンと立ち、少しブカブカのヒーロースーツはその姿に合うような物となった。その姿、纏うものは先程とは違う。

金色に光り伸びた髪にはスーツが更に似合った、強く光る青の瞳は向かってきたロボットを拳と共に貫く。

「さて、何からしようかな!っと!考えてる場合じゃないね!TEXAS SMASH!!」

 

技、そして姿、そことなくわかっていてもその動揺は外の彼等も中の彼等も同じだった。確信してた者さえ動揺はしてしまう。

一語らなくとも零でわかるそのパワーに、その戦い方に、その正体に。

「おいおいイレイザーヘッド、ありゃ…」

「…他言無用だ、そして詳しくは俺も知らない。言ったろ、マイク(しかし、マジでありゃオールマイトだな。来年度は荒れるな)」

 

「テキサススマッシュ、か。(疑ってたわけでは無いんだけどね、彼女は本当にヒーローオールマイトなようだ。ヴィランのオールマイトじゃなくて良かったのさ。町もビルなどは損傷が低い、個性測定も恐らくあれだと完全に同じ個性だ)」

「あれが彼女の、マッスルフォームか…」

 

グラントリノはオールマイトの所まで行くとオールマイトは気付いたらしくしゃがみこんだ、よく見るとオールマイトの足が震えている。

そしてグラントリノは指摘をする。

「俊典、アイツの戦い方お前そっくりだな」

「ちょ、グラントリノ、オールマイトですっ…!」

「今更なんだ、それに聞いとらんぞアイツら」

「そうですけど…!それに彼女、あのオールマイトは恐らくロボットだからあのような戦い方なのかもしれません」

「まぁ加減せんでいいからな。それにあの姿、まるでヤングエイジと呼ばれる姿ソックリだな!おーおー、次はミズリー、カロライナ、ニューハンプシャー、オクラホマ。何処行ってもお前は力ゴリ押しなんだな」

「うっ、なんかすみません」

「ふむ、言うまでもなかったのさ。やはり簡単すぎたみたいだね?」

「そうみたいですね。あの人が誰と言わなくても、別世界の誰とまでわかりそうですよ」

「何処行ってもナンバーワンは強いんやなぁ」

「根津校長、プレゼント・マイクが言っていた条件の追加は確定のようですね。ロボットの制圧は彼女には簡単過ぎるようだ」

 

ベストジーニストが根津にそう言うとそのようだねと言い、今まで喋らなかったサー・ナイトアイに話しかける。

条件は最初っから根津の中で決まっていたらしい。

「サー・ナイトアイを要救助者としてグラウンドβに派遣させるのさ!相手はロボ、彼はロボの前では無個性さ!しかしプロヒーローで怪我もしにくいから」

「故に要救助者としては適正、ですか。わかりました。…すまないが、オールマイト」

「な、なんだい!」

「彼女からの預かり者なんだ、私の代わりに預かってほしい」

 

オールマイトの近くに行きオールマイトの手に渡したのは一つの写真、オールマイトの彼女と平行世界のサー・ナイトアイが写っている。

それは唯一無二の彼女の持ち物。オールマイトもこの写真の大切さを知っている。

写真を優しく持ち、頷き返事をするとサー・ナイトアイは外に出た。そしてβに送るのはホークスとなり彼も外に出る。

サー・ナイトアイは上からホークスに両手を捕まれる状態で浮いている。

「このように空を飛ぶのは初めてだな」

「眼鏡、気を付けてくださいよ。では手を離すんで気をつけてくださいね!」

 

サー・ナイトアイは耳を塞ぎながら落下する、このあと何があるかなんて分かりきっている。ホークスも耳を塞ぎながら戻るがその前に発せられる。だがそれでも声がでかいと二人は思った、流石個性ヴォイス。

「≪YEAHHH!!条件PLUSだ!要救助者を空から追加!そしてそろそろ来るぞ!≫」

 

落下しながらナイトアイの目に写ったのはビル並みのロボットだった。そして耳を塞ぎ、空から落ちてるナイトアイを目を見開きながら思う。

「(今攻撃されたら流石に不味い!私は前衛向きではないからダメージがもろに来る!そもそもだ!落下でダメージが高いだろう!)」

 

「≪キタキター!YEAHHH!!巨大ギミック!≫」

 

「ナイトアァァァイ!」

 

ナイトアイの下から飛んでくるのは彼の好きなオールマイトではなく、平行世界のナンバーワンヒーロー オールマイトだ。

彼を抱き抱え、道路に着地すると彼の瞳を見て言う、あの台詞を。

「大丈夫だ、サー・ナイトアイ。私が来た!」

 

平行世界といえ、性別は違えぞオールマイト。思わず嬉しくなり、口を塞ぎながらありがとうと言う。

出来ればボイスレコーダーを録りたかったと思うのは重度のオールマイトファンの為仕方ない。「ナイトアイはここに居なさい、私はあの巨大ロボットを倒してくる」

「ま、待ってくれ!体は平気なのか!」

「HAHAHA!私はオールマイトだ!ロボットぐらいにやられたりはしないさ!」

「違っ、そうでは!」

「おっと!まだ小さなロボットが来るか!」

 

少し話している内に路地からロボットたちが現れ、あっという間に囲まれた。だが沢山のロボットを倒してから時間は過ぎている。

だから巨大ロボットも現れた、なら終盤になり集まった最後のロボット達だ。

「これは多すぎるな…すまないがナイトアイ、少し力を貸してくれるか?」

「…えぇ、オールマイトの為なら」

「オールマイト、ね。全く彼が羨ましい!おばさん妬けちゃうな!すまないが直線上に蹴散らしてくれ!」

「あなたはおばさんではないだろう!了解!オールマイト!」

 

ナイトアイはポケットから超質押印を出し、ロボットを蹴りながら、直線上に集めては投げていく。

オールマイトも同じようにロボットを蹴り、殴り、投げては同じように集めた。

「ナイトアイ!下がってくれ!」

「了解!」

 

ナイトアイは少しばかり、いやかなり嬉しかった。

ヤングエイジのような姿をした、平行世界のオールマイトと、その隣に立ち、背を任せられ、例え受験のような舞台だとしても共に戦えてることに。だから油断をしていた、すぐ後ろの影もビルだと思っていた。

「TEXAS SMASH!!」

 

直線上になったロボットを一気に飛ばした平行世界のオールマイト、ナイトアイはそちらに向かおうとする、だが目の前に瓦礫が降ってきた。

あと少し、ずれていたら直撃だった。そう思うとナイトアイは冷や汗を流した。

「(しまった、浮かれすぎていた!だが何処から…)」

「≪HEY!サー・ナイトアァァイ?!後ろと上をよく見ろよ!≫」

「後ろと上?」

 

振り替えればギミック、巨大ギミックは二体居た。

目の前に巨大ロボット、後ろには瓦礫、さらに後ろにも巨大ロボット。サー・ナイトアイはもう逃げれない。

目の前の巨大ロボットは足を上げ、ナイトアイは踏まれそうになる。だがその場に居るヒーローは誰だ?

「踏ませるかァァァ!」

 

オールマイトは直ぐ様、ナイトアイの後ろの瓦礫を持ち上げ、後ろのロボットに投げた。

巨大ロボットの足元にはSMASHをし、道を塞ぐロボットの残骸、そして胴体に瓦礫が当たり時間稼ぎをする。そして彼の腕を掴み、彼を見ずにロボットを真っ直ぐ見ながら言う。

「しっかり捕まってなさい」

「は、はい!」

 

ナイトアイは直ぐ様捕まれてる腕はそのまま掴み、空いてる方は体にしがみついた。

オールマイトは一瞬で空に跳躍し、手を振り上げ、大きく叫ぶ。それと同時に軽く竜巻が起こる。

「DETROIT SMASH!!」

 

巨大ロボットは一瞬でスクラップと化した。

彼女はいったい何処まで元に戻っているのかと、画面から見ていた根津はそう思った。

しかし、近くで見ていたナイトアイは知っている。

「オールマ、いや典花!やはりあなたは!」

「すまないがビルに降ろす。もう片方の腕を使いたい」

 

「体が、腕が持たない!」

 

力は戻っているように見えた、だがまだ体は、力に耐えるほど戻ってはいなかった。

当たり前だ、リハビリしかしていない、鍛えてはいない。衰えて尚、常人よりは鍛えられている体、だがその彼女の腕からは血が流れ、色は変色していた。

「試しに100%以上で打ったからだ。どこまで思い切れるわからなかったからな。次は100%にしてみる」

 

ナイトアイをビルに降ろすと彼女はすぐに、巨大なロボットに向かおうとする。

それをナイトアイは再びしがみつき止めようとする。そうでもしないとナイトアイより小さいと言っても(ただし個性使用時に筋肉が膨れ上がり通常より大きく見え、それに加え)力があり引き摺られてしまう。

「待て待て!待つんだ!オールマイト!仮想ヴィラン相手に、それもギミック相手に何故そこまで本気を出す!?」

「私の力、知っているだろう?」

「ワン・フォー・オールのことか?」

「そうだよ。私はね、私の代で力を蓄えすぎた気がしてね。どの代よりも、それこそ…お師匠よりも。そして私は中々その力を試す場がないんだ、ナチュラルボーンヒーローさ。私の力は物理的、試すなら今しかないんだよ。味方を怪我させるよりは、中途半端な体であろうとも、自らを怪我してでも試す方が、良い!」

 

そう言うとビルから跳躍で去った。大きな背は、すぐに小さくなった。彼女は普通に跳躍したのだろうが足元は少し、ヒビが入っておりもしかしたら本人自身、調節が出来てないのかもしれない。

「だから、それが駄目だと…全く、やはりすぐには変わらないか」

 

サー・ナイトアイの目の前で、巨大ロボットはひしゃげ、風は渦を巻き、遅れて聞こえる平行世界のオールマイトの声。

 

「DETROIT SMASH!!」

 

画面からではなく、モニタールームに戻らずその目で見ていたホークスは思う。

ヒーローのみならず、我々はナンバーワンに頼りすぎていたのかもしれないと。空で浮きながら彼は独り言ちる。

「無茶苦茶じゃないですか、あの力。…いつになったらヒーローが、暇を持て余す世の中になるんでしょうか?ねぇ、空から溢れ堕ちた地に落ちた英雄さん」

 

息をついてから彼は、二人を回収するために地に向かう。

 





次回、八木典花は叱られるのが目に見えてきた。
実はエンデヴァー出そうとしたんですけどエンデヴァーは不味いかなと思い結果、ベストジーニストになりました。
人選としてホークスは若手のホープで慧眼ありそう、そしてホークスだけに炯眼。
ファットガムは人柄と実績で、悪い噂はないだろうと。
ベストジーニストはほら、かっちゃんのやつ。
グラントリノはオールマイト関連。
そして巻き込まれていくプレゼント・マイク。

エンデヴァー起用予定の理由は平行世界のオールマイトだったら事情もバレてそうでその上で少し仲良いかなぁ?と思ったけど原作は歩み寄るまでに時間がかかったからまたの機会にしました。
ちなみに事情は恐らくバレてない。


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No.7 彼女はヒーロー、オールマイト。

原作ヒーロー達との邂逅、プロジェクト神野始動、そしてサー・ナイトアイとオールマイト。
題名候補として『夜には千の瞳、昼には一つ』と考えてましたけど書いてて違う気がしたので除外に。
いつかその題名を使って書いてみたいですね。



場所はモニタールーム、一人を除いて元気に明るく挨拶をしていた。皆はその人の怪我故に、様々な目でその人を見ていた。

特にベストジーニストは、とても強烈な印象を覚えた。

オールマイトが冬の真っ直ぐとした太陽なら、目の前のオールマイトはギラギラとした夏の太陽のような笑顔だと思った。あと画風的なことも関係があるのか?とベストジーニストはその人を目の前にして思う。

「HAHAHA!初めてだな、私はオールマイト!こことは少し違う世界、そしてその少し先の未来から来たヒーローだ!」

「リカバリーガール!早く彼女の怪我を治してくれ!」

「挨拶なんて後でですよ、オールマイト…さん?治して貰ってください」

「おいおい!二人して背中を押さないでくれ!転んでしまうだろう?」

 

個性使用時に耐えきれなかったヒーロースーツと体はボロボロ、片腕は変色し血を滴らせ、もう片方の腕は変色はしてないものの何故か切り傷があり、少し血を流していた。

動かせないのか挨拶はしているものの腕は動かしていない、背をされてる時も腕はぶらぶらとしていた。足からも攻撃などをしていたのか、足の方もヒーロースーツなどはボロボロであった。

 

そのような状態で、彼女は平然と笑っていた。

 

オールマイト、その世界のオールマイトはもしかしたら自分もそうなのか?、と思うと自分のあり方を少し考えていかないと、そう思った。

リカバリーガールは平行世界のオールマイトに近付くと、やれやれとした面持ちで怪我の具合を見ながら個性を使い傷を治していく。

「典花、随分と無茶をしたね」

「としっ、オールマイト!だがお陰様で、今の私が何処まで力を使えるかわかったよ!およそ半分以下かな。出力で言うと50%まで、100%を越えたり、使うと見ての通りボロボロさ」

「まさか今回のギミックを実験台にしたのかい?」

 

根津が聞くと八木典花は頷いた、力が戻っていた訳では無かった。そしてその怪我の仕方、根津は心当たりがあったが今言うと混乱が生じる可能性があると思い、それは心に秘め、言うべきことを優先し、皆に言う。

「そうか、実験台にね。うん、まずはお疲れ様、君の力、個性はオールマイトと同じだと証明された。個性届けとヒーロー免許のはこちらから出しておくよ、ヒーロー免許が届けば君は無事、ここでもヒーローなのさ。君達、この世界のヒーローにとっては特殊な立ち位置のヒーローとなるだろう、そして平行世界より出現せし君にとっては零からのスタートさ。相澤君の言葉を借りれば正に地に落ちた英雄、物理的にも地位も何もかも、零からの始まり、どうか諦めないで欲しいのさ」

「えぇ、諦めませんとも。私はやるべきことがあります」

「やるべきこととは?」

 

ベストジーニストが聞くと彼女は胸を張って言う。根津の存在は杞憂に済んだのだ。

だが途中で自信がなくなったのか、声は少しずつ小さくなる。

「未来を最善の道に変え、オールマイトを、彼を生かし、私も生きる、かな!!まっ、今の所はね。だけど、私一人では限界がある、一度死、いや限界を知るとその先に行くのは難しくてね。“初対面”の、その、何も知らない君達にいきなり言うことではないんだが…」

 

音もなくスッと、突然手を上げるホークス。

言うことは一つしかない。

「オールマイトさん、手伝いますよ。初対面だからなんですか、大事なことなんですからグイグイ来てくださいよ。それと自己紹介も、俺はホークスです、これで気兼ねなく言えますよね?」

「俺は沈ませ屋のファットガムや、これで俺も手伝えるやろ?それにあっちのオールマイトが来る程なんや、かなりヤバイやろ。あとほら、飴ちゃんや。無茶しすぎやで」

「あ、飴…はは、難しく考えていた私が馬鹿みたいだ。ありがとう、ホークスにファットガム」

「世界は違えぞ、私はヒーローをしていたと信じる。こちらで初対面だろうと遠慮なく言って欲しい。依然変わりなく、私はベストジーニストだ、どうか頼って欲しい」

 

「君は誰だ!」

 

「「え?」」

「おじいさん、またですか?」

 

ファットガムとベストジーニストが目が点になる中、ホークスはしゃがみこみ話しかける。何故突然とオールマイトの八木俊典も思う、むしろオールマイトの八木典花以外は思っている。

彼女はグラントリノの前まで行きしゃがみこむ、大きくも小さくもない声で真っ直ぐグラントリノを見ながら名乗る。

「私はオールマイトと言います。グラントリノ、どうか力を貸して欲しい」

 

「嫌だ」

 

「えぇぇぇええ!?な、何故ですか!?グラントリノ!」

「煩いぞ俊典!典花って言ったか?怪我治して、体鍛えて、万全になってからそんなことは言え!いきなりバカスカと力を使う奴があるか!」

「あー、確かにそれは正論やな(オールマイトの名前ふっつー!)」

「出来れば服も万全にしたいところですね(オールマイトさんは、まさかの日本人だったのか)」

「治療の続きしてくださいよ、オールマイトさん(二人とも日本人なんすか、ん?典花?)」

 

今回は名前をしっかり聞かれたがホークスは疑問をもった。俊典に典花、つまりそういうことである。

「典花?えっ、あの力で女性!?」

「良い所だから説明に入ろうか!典花くん、マッスルフォームを解いて欲しいのさ」

「根津校長、それはよろしいのですか?それは、つまり…」

 

チラッと俊典の方を見る典花、どちらもオールマイト、つまりはこの仕組みがバレてしまう。

この世界でのオールマイトは現役だ、バラすのは早すぎるのではなかろうか。小声で根津は典花に向けて話す。

「大丈夫なのさ、仕組みがバレたとしても正体を隠せば良いのさ。それに、彼等はむやみやたらと言わない筈なのさ」

「うぅむ、そういうことなら…あ、その前にリカバリーガール!私の怪我はどのくらい治せましたか?」

「複雑骨折、骨にヒビ、至る所切り傷さね。そんなこんな怪我は一日じゃ治らないよ!明日また来るんだね」

「わ、わかりました。お手数掛けます」

「もう良いかい?八木典花くん」

 

根津校長がそう言うと彼女の体からは煙が出た。膨れ上がった筋肉は細くなり、高くピンと立っていた前髪もしなりと垂れ下がる。

見た目の効果はスゴいもので、身長も小さく見える。

ホークスは案外身長が近いことに驚き、グラントリノは本当に女性だったことに悲しみを覚え、ベストジーニストは少し綺麗目の普通の女性じゃないかと思った。だがマッスルフォームを解いても一般女性に比べたら肉付きはよく、何よりあのような怪我を負ってでも笑う、見れば見るほど二面性があるように思える。

「改めて、ヒーロー名オールマイト、名前は八木典花です」

「彼女にはまず、未来のことを教えてもらうのさ。良いかな?」

 

それを皮切りに、長い話は始まった。彼女は雄英を中心に話始める。物事は雄英高校を中心に起きていたからだ。

最初はUSJ、嘘の災害や事故ルームから。ヴィラン連合という組織があり、その時初めて遭遇し、襲撃され、教師二名が怪我を負ったこと。

次に林間学校、また襲撃されたこと、とある少年が拐われたこと、プロヒーローが怪我を負い、拐われたこと。

そしてその流れで決戦になったこと、神奈川の神野区で都市伝説になっている者と戦ったこと、そこにヒーローの卵たちがとある少年を救いに来たこと、ヒーロー達が怪我負ったこと、市民に死傷者などを恐らく出したこと。

最後に、オールマイトは死んだこと。

 

「すまなかった、私の力が衰えてなければ、君も怪我はしなかった…ベストジーニスト」

「あなたが謝るべきことではない。私は脳無というモノの抑えを任されていたのだろう?そこに大元がいて、私が対処出来なかったという話だ。それに、まだ私は怪我をしていない。悔やまないでくれ」

「にしても神奈川か、俺は関西、ホークスくんも九州や。近場はベストジーニストとグラントリノさん、緊急に手を打つべきは二人やな。怪我をするとわかっとるんやからな」

「今は事前に、そのようなことが起こる可能性があるとわかったから良いですけど、林間学校からその間の神野区までのスパンが短ければ俺は助けに行けませんね。何よりこれを知ったこと、八木典花さんがいると言うことでの未来への誤差が気になります」

「バタフライ効果、か。合理的じゃない、考えた所で終着点の見つからないやつだろ?」

「カオス理論のことだね、それは仕方無いと思うのさ。それに、賽はもう投げられた、考えた所で彼女の知る未来は既にズレ始めているよ。本来ならば君達はここに呼ばれていない筈、それは八木典花の件がなければ私は君達を呼んでいない。呼ぶ理由がないからね」

 

ブラジルでの蝶のはばたきは、テキサスでトルネードを引き起こすか。

それがバタフライ効果の考えの始まりだ。

ここでの蝶は平行世界のオールマイトの八木典花。根津の言う通り、賽は投げられている。

彼もまた、賽を投げた一人。

「まずは雄英だ、警備を今上げた所で無意味だ。ここではまだ接触をしていなく、情報が皆無だ。生徒を守りつつ、ヴィラン連合の接触をした方がいい。私の怪我は…この際、未来に委ねてくれ」

「おいおいベストジーニスト!本気かいな!」

「どうなろうと私は必ず、復帰をし、ベストジーニストとして活動をする。私を必要としてくれる、声があれば」

「ベストジーニスト、私は君も守るよ」

「あなたはあなたのすべきことをしてほしい、八木典花さん。それに君は、本来ならば守られる側だ。来てどのくらい経っているかは知らないが、背負いすぎている。私のことは、私に守らしてほしい」

 

そう言うとベストジーニストは八木典花の手を優しく取り、目を見て言う。

一度死ぬと、(人によるが)他の死に敏感になる、自分の死には疎かになる。それが未来を知っていれば、尚更だ。

「大丈夫だ、私は死なない。安心してあなたの成すべきことをしてほしい」

 

典花は眉間にシワを寄せる、その触り方や言い方に彼女は心当たりがあった、そこに少し不快感を覚えた。

オールマイトを独りでし、性別を偽り、長年してきたからこそ不快感を覚えたのだ。

「私はヒーローだ、守るべきものは多い。それでいて、やるべきことはやるさ。それにベストジーニスト、私を女性扱いしないでくれ、すまないが…不快だ」

「なら自覚してほしいのさ!」

「根津校長?何をですか?」

「君が女性ということをさ。うん、やっぱりヒーロー名オールマイトは一人が良い、君はオールマイトだけど、もうオールマイトじゃないのさ。だから、もし良かったらこの紙の中からヒーロー名を決めてほしい。それとベストジーニスト、君はもっと技や体を鍛えた方が良いのかもしれないのさ。怪我の原因が庇うことだったら、それはどうしようも無いのかもしれないけどね」

「わかってます、しかしそれよりもサポートアイテムも気になりますね。恐らく私は万全でいても殺られている、だからサポートアイテムが気になる、と言っても私の場合布か糸になりそうですが…」

「そうだ、みんな聞いてほしいのさ!この集まり、活動名はプロジェクト神野と言うことにする。それとこれは皆が今後のやることなのさ」

 

根津は紙に書きながら喋り出す、その個性ハイスペックで簡潔に今後必要なことを書き出しているのだ。紙にはこう書いてある。

プロジェクト神野、指針 生存、命を大事に。

一つ、神野区選抜メンバー底上げ。

一つ、雄英生徒保護、ただし生徒の傾向確認してから。

一つ、オールマイトの意識改革。

 

根津は思う、難易度順は明らかに逆から難しいと。二人のオールマイトが難関だと思っている。

だから些細なことから始めなければいけない。

「オールマイトの典花くん、君は女性だからこれからそういう服装を周一からでも良いからしてほしいのさ。あ、性別はホントに女性でいいんだよね?」

「いや女性ですよ!?合ってます!偽っていただけですからね!」

「じゃあ、サー・ナイトアイ、これから彼女をよろしくなのさ。あとオールマイトの君は命を大事になのさ」

「わかってます!根津校長、彼女がこれから住む場所は彼の家だったのですか!?」

「適任なのさ。君にも、彼女にも、彼にも」

「…あー、すんません、とりあえず手掛かりなどが無い中、今やるべきこと、未来でやるべきことは決まったんやな?」

 

ファットガムが手を上げ、そういうと根津は大雑把なことはねと言う。ホントに大雑把なのだ、仕方無い、今日が雄英受験日、合格不合格、そしてクラス決めなどはこれから。

雄英教師でこの集まりを知っているのは根津に相澤、そして山田と修善寺の四人。恐らく変に意識をしてクラス決めにはならないだろうと思う。

プロジェクトの一つ、雄英生徒保護はそれが決まってからでないと何も出来ない。それは神野区当日までに響くことだが仕方無い。

選抜メンバー底上げは各自やるとなる可能性が高い、そしてオールマイト意識改革はこれからなのだ。

そうなると、もうやるべきことは今はない。

「とりあえず連絡先を全員交換しといた方がええと思うんですよ、根津さん」

「そうだね!じゃあ、今回は交換次第、各自解散なのさ!」

 

そういうと皆は動き始め、名刺や連絡先の交換をし始めた。俊典はナイトアイに近寄り、何か渡したのを典花は見た、その典花は相澤の方に行くと後で渡すものがあると言ってすぐに俊典のもとに向かう。向かう時にはナイトアイは別の所に居た。

「オールマイト、急になんか、よくわからないが私は彼のもとで暮らすのか?」

「そうだね、うん、そうだよ」

「随分急だな…俊典、大丈夫か?一人になってしまうが」

「HAHAHA!私は子供じゃないんだぞ?」

「そうだけど、一人になる寂しさはわかるから。私は君とほぼ同じ体験をしている、気持ちはわかるからな」

「参ったな。…そう言われると寂しいよ、二人で過ごすのは楽しかったし、姉がいるような、妹がいるような感じでね、暖かかった」

「あとで強く抱き締めてあげるよ」

「君はホント格好いいね、けど、これからは私が君を抱き締めてあげるよ。そして君は可愛くなるべきだ!」

「HAHAHA!オールマイトの君には負けるさ!」

 

「「HAHAHA!」」

 

遠目から見てた彼らは少し心がほっこりしていた。オールマイトが一番好き、と言うわけでもない彼等だが(一部除く)、ちらりと聞こえた会話や雰囲気で離ればなれになるのが寂しいと言うのが伝わった。

そして最後の笑い声、丸く収まったのがわかる。

「オールマイトの世界や」

「笑う時の印象は違うような気が、なんというか姉弟みたいだ」

「別にオールマイトが好きって訳じゃないですけど、ああいう笑える時間、良いですよね」

「ヒーローが笑いあう時間、まさに平和な時間だなぁ」

「お前にしては良いこと言うな、マイク」

 

斯くして各ヒーローは解散し、雄英教師のヒーローとサー・ナイトアイ、二人のオールマイトは雄英高校に残った。

八木典花がナイトアイの車に物を取り入っている間、ナイトアイは仮眠室で八木俊典と二人っきりで部屋に居た。

恐らく明日からは忙しくなる、ゆっくり話せるのは今ぐらいだろう。だと言うのに二人は俯いている、正面にいて顔は合わせてない。

ちなみにこれは根津校長の配慮で二人っきりである。

「(まさかこんなところで彼と二人っきりとは、気不味いな。私から喋るわけにはいかないし、喋るとしても何を喋れば良いか…)」

「オールマイト」

「っ!な、なんだい?」

「彼女の、八木典花の死際は話に聞きましたか?」

「え、あ、あぁ、根津校長からは聞いたよ」

「本人からは?彼女から聞いてないのですか?」

「タイミングを逃してね、私は聞いてないんだ(恐らく自己紹介の時に言ったんだろうけど、私は寝てたなんて…言えないよね!それにあんなに笑って生活してたんだ、聞けもしないよね…)」

 

ナイトアイは少し顔上げた、ホントはしっかり顔を上げたい。だがオールマイトが上げるまでは見てはいけない、ナイトアイはそんな気がした。

「あなたは一度聞くべきだ、オールマイト。その死の原因が重要というよりも、彼女の為に」

「何度も死ぬ時の話を言わせる方が不味いんじゃないのかい?トラウマモノだろう?取り乱したりしてはないが根深い物の筈だよ、ナイトアイ」

「だからこそです、本当の意味で彼女を救うことができるのはこの世界で貴方にしかできない。同じ立ち位置で、近い経験をしている、オールマイトの貴方にしか!」

「いや、多分だけど、君にも救うことはできるよ。写真、知ってるよね?」

「あれは私ではない、あれはサー・ナイトアイであっても私、サー・ナイトアイではない。まさか同一視しているのですか?」

「してないさ。彼女は私にない強さがある、私がしたこと無い体験もしている。それはサー・ナイトアイ、平行世界の彼が関わっている、だから同じ立ち位置の君にも救うことができると、私はそう思ったんだ」

「平行世界のサー・ナイトアイが?」

「例えば、私は君をサイドキックをしていたけれど、肩を組む事はなかったし、その写真は無い。

けど彼女は肩を組んだし、その写真をずっと持ち歩いていた。それに典花は言ってたんだ、“最高のファンで、最初で最後の最高のサイドキックだったよ”って。彼女の中ではもう、死の予知と君のことが消化出来ている。それは死ぬ前からだったのか、死んでからなのかはわからないけどね」

 

ナイトアイはそう聞くと少し、平行世界の彼が羨ましくなった。

彼はオールマイトとの距離が自分より近いと、確実にわかるからだ。そして今、こちらのナイトアイとオールマイトの距離は物理的には近いのに、精神的には遠い。手を伸ばしても届かない。

ちらりとオールマイトを見て、息をしっかり吸ったナイトアイはハッキリとした声で喋る。

「きっとあなたのことです、気まずくて私に会えないんでしょう」

「え、あの、それは…」

「機会が出来たんです、恐らく本来無かった機会が。未来は変われる」

 

確信を告げるようなしっかりとした声にオールマイトは顔を上げる。少し上げた顔からオールマイトが顔を上げたのがわかった、ナイトアイは顔を上げて、彼の目を見る。しっかりと、今度こそ、この声が届くように。

「ナイトアイ…」

「私は、諦めません。あなたの死も、彼女の死も」

「…うん」

「今度こそ、着いていきます。手を振り払われても、置いていかれても、走っていきます」

「うん」

「絶対、絶対に二人とも死なせません」

「君も、ナイトアイも死なないでね」

「っ!…えぇ、何がなんでも生きます」

「うん」

「諦めません」

「わかったよ」

「諦めませんから」

 

このやり取りは八木典花が来るまで行われた。

場所は変わり職員室、そこには荷物を手に持つ八木典花と椅子に座るプレゼント・マイク、イレイザーヘッドがいた。

「相澤くん、服ありがとう!マイクくんも借りっぱなしでごめんね!ほらほら、服パクったんだから謝って」

「NO!謝らなくて良いぜ!なんならあげちゃうぜ?その上着、俺にしちゃ落ち着いてるし、まだ三回しか着てないから、ほら羽織ってみ?」

 

マイクは上着を典花にかけるとニカリと笑う。

マイクの思った通りだったようだ。

「可愛いぜ」

「え?あー、ありがとう?」

「あぁ、けど綺麗系かも!」

「はぁ…返す物返したんですから仮眠室に向かったらどうです?」

「お前どんだけ帰したいんだよ!」

「マイク、これからクラス分けのために合格者の紙全員分見るんだぞ?」

「あ、居た居た!八木典花くん見付けたのさ!」

 

職員室のドアには根津校長が立っていた。

根津は紙を持って、手を振る。

「戸籍の話さ、君、先週からオールマイトの血縁者なのさ」

「先週から!?」

「いとこだったかな、姉だったかなんだったかあまり気にしてないから覚えてないのさ」

「校長、その紙は?」

「プロジェクト神野の紙さ」

「校長扱いざっつー!」

「戸籍関連の紙じゃないのかっ!」

「それだけだよ、また何かあったらメールを送るのさ」

 

そう言うと根津は職員室を離れていった。

典花は結局マイクから上着を貰うこととなり、仮眠室に向かうと何だか疲れた顔の八木俊典と真剣な顔をしたサー・ナイトアイがいた。

「二人ともなにしてるんだい?」

「典花さん、渡すもの渡せましたか?」

「渡せたけど、君ら何してたんだい?」

「ナイトアイに絶対死なせませんを連呼されてたんだよ…」

「違います、諦めませんと言ったんですよ」

「同じじゃないか…!」

 

気付いているのか、気付いてないのか。

二人の距離は確実に近付いていた、(どのような経緯でそうなったかは彼女はよくわかってないけど)くだらない言い争いをしている程に。(ナイトアイがぐいぐい行っていて少し一方的だけど)

「仲睦まじいこと、美しき関係かな。ほらほら、二人とも帰るよ。俊典は明日も仕事だろう?この時期だと雄英の仕事も増えてきてた筈だから早く帰らないとな」

「うっ、雄英のは明後日ぐらいからだよ。合否通知の撮影が基本だし、明日は塚内くんの所」

「ならコンディションばっちりにしなきゃな、へまは出来ないぞ」

「そうだね、あっ!典花、来てきて!」

「なんだ?」

 

典花は俊典の方に行くと俊典は典花をぎゅっと抱き締めた。

少し前に言っていたことをしただけ。

「これからは私が君を抱きしめてあげるよ、言ったよね?」

「…HAHAHA!!あぁ、確かにな!あ、そうだ、ナイトアイ、君もおいで」

「無理です、そんな尊い空間に私は入れない」

「今しかないぞ?この空間」

「そ、それは」

 

ナイトアイが少し躊躇った瞬間、典花は俊典の方を見て笑う、俊典は苦笑いしながら頷く。

二人はナイトアイの方に手を伸ばして抱き締めた。ナイトアイは手で顔を隠し、その手で隠した顔は真っ赤で重度のオールマイトオタクを拗らせていた。

「ナイトアイの好きなオールマイトだ!」

「うっ、尊い…」

「な、ナイトアイ!?」

「言ったろ俊典、どんなに酷くしたってオールマイトの動画は見るし、金はオールマイトグッズに貢ぐ男って」

「トゥルー、トゥルーフォームは文字通り幸せだった。我が人生一片の悔いもなし。流石です、オールマイト。オールマイト流石です、流石ですオールマイト」

「何で同じようなこと三回も言ったの!?」

「そう言うものだって前に誰か言ってたなぁ、確か大切なことなので三回言いましたって」

「えぇ、大切かなぁ」

「HAHAHA!きっと大切なんだから三回言うんだよ!」

 

この時が少しでも続けば良いのにと、ナイトアイは思った。

典花は笑い、俊典は首を傾げ、ナイトアイは耳まで赤くしてその日は解散となった。

「(そういえば二人とも良いにおいだった、あとでシャンプーとか聞いてみよう)」

 

その夜、一悶着がやはり(彼の中で)起きた、が潔くナイトアイは折れた。しかし折れたが為に彼は眠れない夜を過ごす。

「わ、私と同じベッド?」

「今日だけだから、ね?」

「…今日だけなら」

 

「(明日はオールマイトに電話かメールで聞くべき事が沢山あるな、そして服などは車で来ていたのだから持ってくるべきだった。別れ際に宅配便にして送るよと、オールマイト!あの人知っていたな!?あぁ、寝言にヒーロー名を言わないでくれ!それに私の服で寝ているのをわかってくれ!)」

 

サー・ナイトアイが無事に寝れたかは別の話。

「(平行世界の私は何をしていた…!)」




誤字脱字がありましたらお知らせください。
更新などは活動報告にそこそこ書いてます。


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No.8 ようこそ、ナイトアイ事務所へ!

書き終えたと喜んだのに字数が少なくてすみません。
今回はナイトアイ事務所でわちゃわちゃしてます。


雄英受験の次の日、ナイトアイ宅は朝を迎えた。

もちろん、そこに住んでいるナイトアイと八木典花も朝を迎えた。

チリリリ、チリリリと寝室にアラームが鳴る、朝の6時ジャスト。ナイトアイはよく寝れたのだろうか、未だにまぶたが重く開かずに、意識だけ浮上する。

「うぅん…(あったかい、それになんのにおいだろう。このましく、何だか柔らか、久しぶりによく寝れた気がする)」

 

意識だけではなく、ようやく瞳を開けるとナイトアイは昨夜を思い出した。八木典花と同じベットで寝ていたということを。

八木典花は腕を伸ばし、ナイトアイの頭を乗せ、空いた腕はナイトアイを抱き締めていた。その彼は彼女を背にして寝ていた。

「…何だか寝慣れている、誰と寝ていたんだ」

 

やんわりと腕を退かし、ベットの端に座るとギシリとベットが悲鳴をあげる。

寝ていれば普通の女性だ。金糸のようにキラキラ輝く髪、今は閉じているがキラキラと輝く碧眼。

そう、キラキラと輝く、オールマイトのように。

輝きで見えない、影、弱い部分、傷。

「私も、弱味だったのだろうか?」

 

そう言いながら典花の髪をさらりと撫で、顔を壊れ物かのように撫でる。ナイトアイは寝る前に準備をしていた着替えを取り、部屋を出た。

時間はさっと過ぎ、6時半になる。朝食の準備をし終えたナイトアイは寝室に戻る。

「そろそろ起きても可笑しくないんだが、疲れているのか?典花さん、入りますよ」

 

ノックをしても返事はない、寝室に入るとまだ彼女はベッドで寝ていた。顔を覗くとどうやらぐっすりと寝ているようだ。

どうやって起こそうか?と考えつつ、平行世界のサー・ナイトアイならどう起こすかと思う。だが“サー・ナイトアイ”とサー・ナイトアイは似て非なる人。

少し間を置き、オールマイトを起こすならこれが一番だろうか、ナイトアイは思った。ただし早朝なので声のボリュームは低めで。

「オールマイトっ!ヴィランだ!」

「どこ!?」

「おはようございます、今度起きなかったらグラントリノにしておきますね」

「嘘かよ、心臓に悪いぞ!ナイトアイ!」

「今度からユーモアある起こし方を考えておきます。それより朝だ、朝食は出来てあるから冷める前に早めに食べてほしい。今日の予定は午前中は私のナイトアイ事務所に君にも来てもらう、今している仕事の進展などが気になる。午後は雄英でリカバリーガールに残りの治療を受けてもらう。時間があったらオールマイトに連絡をして、あなたの荷物を受け取ろう」

「なんか、ハードなスケジュールだな」

「だから朝食を早めに食べてほしいと言っているんだ、支度が済んだら言ってほしい。遅くても8時には家を出る」

 

そこからはドタバタと不馴れで忙しかった。服は昨日のを着て、髪を手櫛で解かし、朝食を取る。

本日の朝食はこんがり焼けた食パン二枚(マーガリン、ジャムはお好みで)、ほうれん草とベーコンのソテー、目玉焼き(かける物はお好みで)、飲み物について聞くと好きにしてくれ、と言われたので牛乳を。

美味しかったので2杯目の牛乳を飲みながら、テレビを付け、ニュースを見ると、チャンネルを沢山変えた、彼女の知らないニュースばかりだった。

「そういえば、俊典の家では本ばかり読んでたな。…改めて世界が違うな、ニュースキャスターも違う」

「オールマイトの家にテレビはないのか?」

「あるけど見ないね、暇な日は本を読んで日がな一日を過ごしていたよ。見る時は映画鑑賞ぐらいかな」

「そんな生活をしているとは、それが知られざるオールマイトの生活か。もっと、いや、詳しく聞くのは後でだ。早く飲んで、顔を洗ってほしい」

「あぁ、了解、ナイトアイ」

 

バタバタしてると時間はどんどん過ぎていく、ナイトアイが靴を履き終わる頃に八時前になっていた。

少し玄関前の鏡でネクタイの擦れを直していると典花がやって来た、元より荷物は少ないので手ぶらだ。

ナイトアイはじっと典花を見て思う、着ているものが男っぽい、ボーイッシュではなく男っぽい。

「髪型と服の一部からか、それとも周りの態度からか、または本人が鈍いか」

「ナイトアイ、準備出来たぜ」

「(いや、全部が原因か、少しずつ改善していこう)あぁ、行こうか」

 

前回八木俊典の車に乗った典花は気を張っていた、彼の運転はなんだか怖かった。ナイトアイの運転は運転し慣れていた。

運転は滑らか、落ち着いていて車内は良いにおい、そして車内の小物はオールマイトだった。

人を乗せ慣れているのか、運転しながら今度服を買いに行こうといい始めたり、あちらのナイトアイの職場には行ったことあるのかと言ったりよく喋る。

そして数十分後、事務所の近くに車を止め、歩いて数分しない内に彼のナイトアイ事務所に到着をした。

事務所に入ると出勤した人達が挨拶をする、挨拶の声は大きくはっきりしていた。二人はナイトアイの執務室に入った、そこに一人、大きく元気にハッキリとした声で挨拶をしてきた女性のヒーローがいる、彼のサイドキックだろう。

「おはようございます!サー!今日もまた地味っじゃないっ!今日は珍しく地味じゃない!!!オシャレスーツじゃないですか!?イタリア系のスーツ!コスチュームじゃなくて、まさかの普通にマジ私服!!?」

「おはよう、バブルガール。ノックを忘れているな、気を付けてくれ。それより例の件、進展は?」

「駄目でした!ここ最近で一番の進展無し!」

「そうか、進展無しか。センチピーダーは?」

「そろそろ出勤の筈です!サー、そこの綺麗な人は?(もしかしてデート!デートですか!)」

「後で話す、先にバブルガール、昨日の書類を。午前中しか私はいないからな」

「また秘密の仕事ですか!」

「極秘だ、そこは声が大きくなくていい」

「じゃあデートってことにしときますね!もう水臭いですね!ご結婚はいつですか?サー、ちゃんと呼んでくださいね!」

「は?」

 

バブルガールは勘違いを超加速させ、ナイトアイはどう言うことなんだと考え始めた。何故そこなのかと、何故デートから突然の結婚なんだろうかと。話が飛びすぎてよくわからない。

 

21歳の女の思考は38歳の男には予測出来ない。

上司と言う立場と個性があると言えど限界がある。

 

確かに今日のサー・ナイトアイはいつもよりオシャレだ、色も派手だ。

バブルガールの言う通り本日はイタリア系のスーツだ、スーツの作りの都合上、胸元がよく見えるのでいつもの水玉のネクタイがかなりアクセントになっている。

濃い赤紫の、ワインレッドのスーツ、何故持っていたのだろう。

昔は黒、今はベージュかグレーのブリティッシュスーツだと言うのに。若い時にでも色が安定しなくて買ったのかもしれない。

そんな風に思考を飛ばしているとセンチピーダーが出社してきた。

「おはようございます!サー・ナイトアイ!うん?ナイトアイ?朝からどうしました?少し疲れた顔をしておられますが」

「おはよう、センチピーダー。何、若い子の話についていけないと思ったんだ。特にバブルガールのはそういう思考はまだ予測が立てられない」

「おはようございます!センチピーダー!サーはこのあとデートですよ!」

「は?」

「そうなるだろう?センチピーダー」

 

センチピーダーは部屋を少し見渡し、ナイトアイの肩を少し叩くと指を指す、その指の先にいるのは金髪の女性、そう、八木典花だ。

普段連れていない上にまだ紹介もしてない、そしてバブルガールから見て金髪の年上の女性。

「彼女はそういう関係じゃない、出会って一週間も経ってない。それに、私はまだ彼女の事を詳しく知らない」

「ですがナイトアイ、あなたがここに連れてくるということはきっと、それほどの女性なんですね」

「サー!早く紹介してくださいよ!」

「(それほどと言うよりそれ以上の素晴らしい女性だが、彼女もオールマイトをしてきたのだから。しかし参ったな、思ったよりバブルガールのお陰で拗れたか)」

 

意外とグイグイ迫って聞いてくるバブルガール、それを然り気無く押してくるセンチピーダー、サイドキックはいるし元よりサイドキックに紹介しようと今日は連れてきた。

二人のサイドキックは彼女の紹介を所望している、目を瞑り少し肩の力を落とすとナイトアイは典花を呼ぶ。

「典花さん、少しこちらへ」

「名前呼び!」

「なんだ?ナイトアイ」

「そこはまだヒーロー名ですか!」

「バブルガール、少し黙ってくれ。彼女は八木典花さんだ」

「HAHAHA!ナイトアイのサイドキックだね?実はさっきから気になってたんだ!初めまして!私は八木典花!あーっと、ナイトアイ」

「なんですか?」

 

典花はナイトアイを呼ぶと近くにより小さな声で話始めた、それはヒーローと名乗って良いのかと言うこと。

まだヒーロー免許がない、手元にない、何と名乗ろうかと二人は悩んだが二人が待っている。アッと思った典花はバブルガールたちの方を見て名乗る。

「詳しくは言えないけど訳有りのヒーローだ、ヒーロー名はいつか名乗るから、どうか待っていてくれ」

「まあ、確かに典花さん訳は有りだが、実力は確かだ。バブルガール、センチピーダー、君達には絶対に負けないだろう」

「そんなヒーローが何故ここ?」

「だから訳有りのヒーロー、なのだろう?バブルガール」

「あ、そっか…八木さん!何かあったらこのナイトアイ事務所のサイドキック、バブルガールに相談してくださいね!」

「私に今さっきのは相談する必要はありましたか?」

「あったさ!それとバブルガール、女性としての悩みは君に相談するよ、それにさんはいらない、気軽に呼んでくれ。それと君もよろしくね!」

「…えぇ、よろしく。改めてセンチピーダーです」

「さて、紹介は終わった。典花さんはそこの椅子に座って待っててください、必要な仕事とミーティングを先にしてしまいます」

「あ、外は…」

「土地勘もないのに迷う気ですか?それにあなた、ヴィラン出たら突っ走るでしょう?戦い方からして彼もそうだが服が…あ゛」

 

ナイトアイは今ピンと来た。バブルガールは言った、『何かあったらナイトアイ事務所のサイドキック バブルガール相談してくださいね!』と、そして自分はナイトアイ事務所のヒーロー サー・ナイトアイ。

本日のバブルガールの業務は確か、そう、午前中は見回り、午後はセンチピーダーと書類を捌いて貰う予定だ。

「バブルガール、午前中の見回りに業務を追加だ。典花さんと一緒に服を、そうだな、上下で2セット買ってきて欲しい。女性物で」

「マジですか!実質午前休!」

「見回りをサボろうとするんじゃない」

「女性物でって、女性物?スカートは嫌なんだが」

「妥協点としてスカート1、ズボン1、上はバブルガールセレクトでどうでしょう?」

「半々か、まぁ服ないのは確かに困る。それにバブルガールセレクトは割りと気になるよ。よろしく頼むよ、バブルガール」

「はい!」

「挨拶も済んだ、本日のミーティングを始める」

 

八木典花は思う。前の世界では、死ぬ前にいた世界ではナイトアイの事務所には行かなかった、行こうと考えたこともなかった。それよりも行く権利なんて無いと思った。

 

彼の意思を、全能は未来を跳ね除けた。

 

束の間の平和を捨てながら後継者を先に探すよりも、束の間の平和を作ってでも後継者を探すことにした。療養をしっかりせずに、寿命を削り、個性を削り、周りの関係を削り、個を削り、ナンバーワンのヒーローをしてきた。

 

その時には既にサー・ナイトアイの存在はオールマイトの周りからは薄れていた、だからこそ感慨深かった。

今ここに、世界は違えぞこのナイトアイ事務所に居ることに、彼の一人立ちを見ていることに。

「行けば良かったな」

 

その呟きは、誰の耳にも届かなかった。だがただ一つの存在はその声を間近で聞いていた。

 

ミーティングが終わり、ナイトアイは書類を捌き、センチピーダーは事務所で仕事をしている中、バブルガールは町の見回り、八木典花はそれに付いて行っていた。

「この付近にはコンビニが二件あるんですよ!さらに同じコンビニ!」

「キャンペーンで欲しいものがある時は良いね」

「目ぼしいキャンペーンはあまり無いですけどねぇ。あっ!典花さん、典花さん!あの道行くと格好いい服を売ってるお店がありますよ!」

「お、早速か」

「ナイトアイに言われているので行きましょー!いや実は私がちょっと行ってみたかったんですよね。けどサイズがでかくて…典花さん、身長高いですし、がたいも良くて似合いそう!」

 

バブルガールの言う通り向かい、店内に入る。確かにいいと思った。シックな店内に黒と白のシンプルな服が多い、サイズは平気のようなのでここで服を買うことにした。

典花が買ったのは黒の長袖のTシャツ、白い長袖Yシャツ、黒っぽいジーパン、そしてバブルガールが選んだ後ろは長いが前は短い、そんなデザインの白のスカート。

今の姿でさえ青のストレートのジーパンに白いYシャツ、そしてマイクから貰った上着だ、あまり変わらない。

そしてバブルガールがこれも!と言って入れた上下セットの服。

「そういえばお金…」

「大丈夫です!これでも稼いでますから!」

「いや、すまんな。私がヒーロー活動し始めたらご飯でもなんでも食べに行こう、バブルガール」

「大丈夫なのに、あっ!でも戻ったらナイトアイが払いそうですよね!」

「は、ハハー…、そ、そうだな(無くはない)」

 

そして場所はバブルガール達が出て数時間後のサー・ナイトアイ事務所、時間は既にお昼の時間を迎えていた。

「帰ってきませんね」

「あぁ、帰ってこないな。午後は予定があると言ったのだが…」

「サー、お昼はどうしますか?食事はまだでしょう」

「出先で食べる予定だったのだが…仕方ない、帰ってきたら食べてから行くことしよう。さて、書類は見終わったな。急ぎの作るべき書類も作り終えたが、本当に彼女たちは何処まで買い物と見回りしてをきてるんだ?センチピーダー、あとでこれに判子を、それにはバブルガールのこの前の依頼のやつのことを、その紙はまとめ次第封筒に入れて投函してきてくれ」

「メールはしました?あと判子は私のですか?」

「いや、電話をしようかと。判子は君のだ」

「了解です、もう半になりますから掛けてしまいましょうか」

 

センチピーダーがそういうとサー・ナイトアイは携帯を取り出すとタイミングよく、扉は開いた。

そこには袋を二袋を持ったバブルガールとスカートを履いた典花だった。

「サー、遅れてすみません!見回りの問題なし!ヴィラン無し!例の情報もなし!典花さんの買い物はしました!」

「すまない、私があまり走れずに遅れてしまったんだ」

「怪我してたなら言ってくださいよ!少し遠くまで歩いてしまったんですから!傷に響いてないと良いのですが。それとサー、どうですか!このスカート!」

 

ナイトアイは目を少し開きながら見ていたが突然立ちあがり、バブルガールの目の前に行くと小声で幾らだと言った。

「いや、先に典花さんを」「幾らだ…!あんなに似合っているんだ、高いだろう!?」

「いやいや、そんなに高くは…え?」

「あぁ怪我さえ治っていれば、彼女はスカートもだが何でも似合う。写真を、いや、記憶に焼き付けよう」

「えっと、ナイトアイ?スカートはやっぱり私には似合わないよな?」

 

典花は頬を掻きながら、小っ恥ずかしそうにスカートを少し握る。それ見てなかったナイトアイは振り向き、大きな声で言い切った。

「お似合いです!」

 

「に、似合ってるんだ。そっか、HAHAHA!そっか、良かった!」

 

笑ってる典花とそれを見て誉めているナイトアイを見ているセンチピーダーとバブルガールは微笑ましそうに見る。

「なんか、サーが褒めまくるのって初めて見ました」

「オールマイトを語るのと同じぐらい、饒舌だからだろう」

 

センチピーダーは自分でそう言い、改めて一人納得する。彼が突如連れてきた女性 八木典花、その意思の強い目は彼の敬愛するヒーロー、オールマイトと同じ。何なら瞳の色や髪の色も同じ。

何処で出会い、何処で交遊をしていたのかは知らないが彼のサイドキックとしてセンチピーダーは少し安心をした。

「これでようやく、我らがサー・ナイトアイ事務所にも春が来ましたか」

「私も逃さないようにしなくちゃ…!センチピーダーも春を逃さないようにね!」

「それはお互いさまです、バブルガール」

 

その後ナイトアイと典花はお昼を食べた後、雄英に向かった。

リカバリーガールの個性により、残っていた怪我もその日に全て治り、典花は体の具合を確かめる。

ストレッチをしてみたり、個性を使わずに軽く拳を突き上げたり、回してみたり、それは足も同様。

「うーん、やっぱりこんなものか。鍛え直さないとな、体も固いし解さないと」

「焦るんじゃないよ」

「そ、それはもちろんですよ!リカバリーガールのお手を何度も煩わせる訳にはいけませんからね!特に、そう、特にこれからは」

「それでもするんだろう?怪我を」

「そ、れは」

「なら当たってきな。私がいる間はその怪我、大怪我じゃない限りは治す手伝いをしてあげるさね」

「リカバリーガール…。HAHAHA!そうですよね、怪我を治すのには体力がいる。たくさん食べて、飲んで、鍛えて、寝て。体力を作り、体も作っていきます!そうと決まれば、私は帰ります!リカバリーガール、ありがとうございます!」

 

治ったばかりの身体で走り去る典花を見てリカバリーガールは思う。

「全く、騒がしい女だよ」




次回、ようやく緑谷出久入学。
脱字修整2019/10/17 似合いよな?→似合わないよな?


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雄英&USJ 第一次到達点編
No.9 Re:はりさけろ入学


約6ヶ月ぶりの再開です、おまたせしました。
毎日少しずつ進捗状況をよくしたいです、なるべく毎週ね…
それとヒロアカ4期と共に帰ってきたかった…(私の地域では台風により延期)

前書きとして追記するならば、今回は最後に書いたのが最終投稿辺りの3月25日、間にちょこちょこ増やし、次に8月25日、それから12〜13日まで書いた文があり、書いた日がごっちゃになってます。約四段階変身。
途中文体が変わってるかもしれません。
尚2019/10/12に書き始めた文は【緑谷の“個性”を抹消しながら相澤〜】となっています、恐らく以降はこのような文体となる可能性があります。
改めてよろしくお願いします。


季節は春、暦は四月に入った。

一人の少年は今、急いで自宅を出ようとしている。

「出久!ティッシュ持った?」

「うん」

「ハンカチも!?ハンカチは!?ケチーフ!」

「うん!!持ったよ!時間がないんだ、急がないと…」

 

そう言い、出久は慌てながらくつ紐を結ぼうとするがこういう的に限って中々結べない。それがまた焦りを増やす。

それでも母、緑谷引子は声をかける。

「出久!」

「なァにィ!!」

 

少し下を向き、ほんの前までの息子を思い出す。

オールマイトの人形を持ち無邪気に笑う出久。

『はーやーくー、はーやーくー!』

 

無個性と知って、ヒーローの動画を開いて、涙を浮かべる小さな出久。

『…お母さん、どんなに困ってる人でも笑顔で助けちゃうんだ…。超カッコイイヒーローさ、僕も、なれるかなあ』

 

ヒーローのことをノートに書き込む中学生の出久。

『今日見たヒーローの個性はあれをこうすれば、応用して…ブツブツブツブツ』

 

そして今日から雄英の制服を見にまとい、いつの間にか、自分より大きくなった出久。

涙を耐えながら、小さいヒーローがかつて言った言葉を言う。

「超カッコイイよ」

「…!行ってきます!」

 

緑谷出久が家を出た時間帯、八木典花は少し前の電話を思い出していた。

それは緑谷出久が雄英の合格通知を開封した翌日夜の10時。

「もしもしノリカァ!あ、ごめん起こしちゃった?!」

「随分テンション高いな。俊典、君は酒でも飲んだのか?」

「飲んでない飲んでない、それより飲めないよね」

「HAHAHA!そのくらい君のテンションが高いからさ!まぁ、理由はわかるよ」

「合格、しましたっ!」

 

「「イエエエエエイ!」」

 

そう電話越しで叫ぶと典花はナイトアイに静かにしてくれと言われ、それが聴こえた俊典は声が大き過ぎたと思い我に帰る。

「典花、私はホントに嬉しい反面ね、不安なんだ。聖火の如く譲渡した火はまだ火種で、これから多くの雨風に晒され大きくなる。そしてこっちはゆっくりと衰えて、消えて役目を終える。けど衰えた頃に現れる、オールフォーワン。私は、彼を倒し、刑務所にぶちこめなければいけない」

「…あぁ、そうだな」

「だから、典花。今からでも遅くない、かな?」

 

恐らく電話越しの彼はもじもじしてるだろうと目に浮かぶ、典花は何がだ?と聞くと俊典はもう一度同じことを言いながら答える。

「今からでも遅くないかな?その、鍛え直すの」

「やっぱり衰えと後遺症が心配か」

「そりゃそうさ!彼の合格は決まったんだぜ?」

「そうだな、そろそろ始まるだろうぜ。あいつらも」

「うかうかしてられるのは今日ぐらいだよ、だからその、君と一緒に鍛え直せないかなと思ってさ。それに入学式が、始まったらもう…」

 

 

スーツを来た典花は雄英の職員室で名簿を持つと呟く。

「入学式が、始まったらもう、止まらない」

 

 

だが典花は知っている、あの相澤のクラス 1-Aには入学式なんてないと。

そもそもあのクラスは入学式なんて始まらない、相澤が来たら事は始まるだろう。だから職員室で名簿を持ち、職員室を出る前に名簿等を確認をしている。

 

朝は大変だった、入学式なんてボイコットと言う名の個性把握テストをしちゃう相澤のクラスを今更ながら今朝思い出した。なので飛び起きた。

その上、早朝から根津から連絡があり急いで雄英と向かうこととなる。

それは普通のスーツセット一着とそれに合わせられた靴と走りやすい靴、ヒーロースーツのツーパターンで合計三着分、そしてこちらでのヒーロー免許。それを渡すためである。

根津曰く色々渡すの忘れてたらしい、この時期は忙しいので仕方ないと典花は思った。

ヒーロー名は決めてある、言う機会がないと良いのだがと思う。

 

「グラウンドに、着いた。HAHAHA…HAHAHA!イヤだな、変に緊張しちゃうよ!」

 

オールマイトの時とは違い、黄色のスーツではない。

根津に貰った(全て働きながら引かれる、つまり天引き)オールマイトのヒーロースーツの青色と同じ青いスーツ。グラウンドに、そのスーツが青く光るのを、先にクラスに行っていた相澤は見た。

グラウンドに先に居た典花の方に近付くと挨拶をした、彼女は今日から同僚だ。

「今日から1-Aの副担、お願いしますね、八木典花先生」

「ああ相澤くん!いや、相澤く、先生!よろ、よろしく頼むにょ!」

「噛む上にド緊張かよ。…これ、お願いします。これからテストするのでその時の計測器、仕方ないからあなただけでも自己紹介しましょう」

「申し訳ないね!わぁ、色々機能があるなぁ!」

「(少し不安だな)それと、今度から、あー…なんでもないです」

「何かな?」

 

相澤はダルそうに下を向くと聞こえるか聞こえないか程度で喋る。気を使ったらしいが言おうとした時点でダメだと気づいた。

「調子が良かったら、今度からヒーロースーツでお願いしますよって言おうとしたんです。別にスーツでも良いです」

「あっ、いやその、体調悪くてスーツ着てる訳じゃないんだ…」

「え?」

 

典花が喋ろうとするが、どうやら1-Aの皆が着替え終えたようでぞろぞろとグラウンドにやってき

た。既に仲が良くなった集まりもあるようで少し話し声が聞こえる。

「相澤先生、始めようか」

 

声をかける隣の先生は先程の緊張感は消えてきた。

実践タイプかと相澤は思い、これからやることを喋る。

「これより個性把握テストを行う」

 

「「個性把握…テストォ!?」」

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

驚いて相澤に言うのは麗日お茶子、そんなことに興味はなく淡々と相澤は返事をする。

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事、出る時間無いよ。雄英は“自由”な校風が売り文句、そしてそれは“先生側”もまた然り。中学の頃からやってるだろ?“個性”禁止の体力テスト、それの個性使用版だ、八木先生お願いします」

「八木先生?あっ!」

 

緑谷出久は八木先生を見た、知っている人だった。受験前にあったことがある、一度手合わせと言って言いのか、そういうことをこの人とはした。

典花は少し、口元だけ笑うと説明をし始めた。

「初めまして、私も1-Aの担当だ、八木典花と言う。改めて説明をしよう。今回やるのソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横飛び、上体起こし、長座体前屈の8つだ」

「国は未だ、画一般的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ。爆豪、中学の時、ソフトボール投げ何mだった」

「67m」

「じゃあ“個性”を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい、早よ。思いっきりな」

 

「んじゃまぁ、死ねえ!!!」

 

爆豪の記録は705.2m。個性を使い、自分の最大限を知るための個性把握テスト。それはヒーローの素地を形成する合理的手段であり、相澤も1-A生徒も皆が皆個性を把握するための有効なテスト。

だが生徒は知らずに面白そうと言い出し、楽しそうと思い始める。

相澤はそれを良しとしなかったし、典花もこれはなぁと少し思った。

「面白そう、か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?よし、トータル成績最下位の者を見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

「「はあああ!?」」

 

緑谷出久の受難は始まったばかりである。それは別室に居たオールマイトにもわかっていた。

彼の読んでいる教員名簿には彼の名前とヒーロー名、そして通算除籍指導数の回数が書いてあったからだ。

その回数は驚愕の三桁、154回!

「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそ、これが、雄英高校ヒーロー科だ」

「最下位除籍って…!入学初日ですよ!?いや指導じゃなくても、理不尽過ぎる!!」

「だそうですよ、相澤先生」

「フ…自然災害、大事故、身勝手な敵たち、いつどこから来るかわからない厄災、そしていつか現れるかもしれない巨悪。日本は、この世は理不尽まみれだ。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。放課後にファストフードを食べながら、談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英と現実は全力で、君たちに苦難を与え続ける。“Plus Ultra”さ、全力で乗り越えて、来い。デモンストレーションは終わりだ、こっから本番を、始める」

 

そうして、個性把握テストは始まった。

第一種50m走、個性“エンジン”を持つ飯田天哉は水を得た魚であった。足にあるエンジンを使い、3速使った記録は3秒04、彼を抜かすものはいない。強いて言うなら個性を生かし、創意工夫をし、記録を取るものと言えば爆豪勝己、個性“爆破”を使う少年である。

「爆速!!」

「へ?どあ!!」

「ターボ!!」

「4秒13!!」

 

第二種目、第三種目とテストは続いていく、典花は記録を読み上げながら緑谷出久を見る。

彼の記録はずっと低いまま、もしかしてと思った。

「まだ、扱えていない…?(あの時、最小限の負傷で最大限の力を扱えていたじゃないか!)」

「次、ボール投げ。八木先生、予備のボール少し多めに」

「あぁ、了解」

 

第五種目 ボール投げ、麗日お茶子は個性“無重力”により触れたボールの引力を無効化、恐らく今後はでないであろう記録 ∞を叩き出した。そんな中、緑谷が歩き始めると飯田と爆豪は緑谷の話をした。

それは“緑谷出久は無個性”ということ。

「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

「は?」

 

記録を出せず、だからといって出そうとすれば大怪我するのは目に見えている、それでも記録を出さなければ最下位除籍と焦る緑谷出久。それを横目に相澤はそろそろかと目を見張る。それを少し離れて典花は不安気に見る。

「(おいおい少年、記録はヤバいが無茶はするなよ!)」

 

緑谷がボールを持つ右腕に個性を使おうとした、その瞬間、その瞳は緑谷出久を見ていた。それを知らず彼は、ボールを思いっきり投げた!

「…46m」

 

緑谷出久にはわからなかった、彼は確かに個性を使おうとした。力も込めた。目を見開き何故と絶望する緑谷の横で、彼は喋る。

「“個性”を消した。つくづく、あの入試は…合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」

 

“個性”を消すことにより緑谷出久は気付いた、1-A担任の相澤のヒーロー名に。

 

彼の名は抹消ヒーロー イレイザー・ヘッド!!!

視ただけで人の“個性”を抹消する“個性”!!!

 

一部にはアングラ系ヒーローと呼ばれているようだ、何故なら仕事に差し支えるというのでメディアへの露出は嫌っているからだ。

1-Aには知らなかったり、名前しか見たことないという人の方が多いようだ。

相澤は緑谷出久の“個性”を消しながら彼に近付く。

「見たとこ…“個性”を制御できないんだろ?また行動不能になって、誰かに助けてもらうつもりだったか?」

 

緑谷の“個性”を抹消しながら相澤は緑谷に近付き、首の捕縛武器で緑谷を少し近づけた。相澤は言う、その昔()()()()()()()()が大災害から一人で千人以上を救う伝説を作ったと。

緑谷は知っている、その伝説を。緑谷は覚えている、その伝説の映像を幼い頃から何度も、何度も見てきた。

「同じ蛮勇でも…おまえのは一人を助けて、木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の“力”じゃヒーローにはなれないよ。…ふー。“個性”は戻した、ボール投げは2回。とっとと済ませな」

 

ただならぬ二人の間の緊張感、それを予期していなかった新人の先生と化してる八木典花は少し焦っていた。

それを知らずに相澤は目薬、緑谷はボール投げの円へと戻っていった。

「(おいおい、そんなのあったの!?私見てない、見てないぜ!つまりこの後!私はいいとこ取りして見ていた訳だ!)」

 

「見込み、ゼロ…」

 

「まだ、まだ、まだまだまだまだまだまだ…」

「!?(なに?)」

「まだだ!まだだ!!まだだ!!!まだ!!!まだ!!!!」

 

緑谷出久は天才ではない。

だがそれをカバーする努力をする力がある。

その力をカバーするやる気がある。

そのやる気をカバーする心の強さが、いや、それを包む勢いの夢がそこにある。

彼はやれた、最大限に最小限に全力を、そこに乗せることが。

「いま…SMASH」

 

計測機器の音のみが、雄英高校のグラウンドを支配する。計測された記録は705.3m、個性無しの時は46m!

骨折の痛みに耐え、目を濡らし、歯を食いしばり相澤を見る緑谷の顔は、折れてない。

「相澤先生…!まだ…動けます!」

「こいつ…!」

 

「(これだ、コレだよ!カッコいいぞ!あぁ何処かで俊典も見てるんだろうなあ!この後はたしか…)あっ」

 

この功績を、信じられない者がいた。

彼は幼い頃から知っている、無個性のデク、後ろをついてくるデク、ずっとずっとデク。

爆豪勝己は信じれなかった。

「どーいうわけだ、こら、ワケを言え。デク、てめぇ!!」

「うわああ!!!」

 

相澤が捕縛武器で爆豪を縛ろうとする前に、典花は動いた。

緑谷に正面から向かってくる爆豪の力を受け流し、横に2回転して抱きかかえた。

「…!?てめえ何しやがる!はなしやがれ!」

「やめなさい、爆豪少年。今は彼に向かう時間ではない筈だ。降ろすから深呼吸して、落ち着いたら持ち場に戻りなさい。いいね?」

 

典花はそう言うと爆豪を降ろし、肩に手を置く。それが嫌なのか何も言わない。相澤は済んだ事のように言葉を発した。

「…っ!」

「時間がもったいない、次、準備しろ」

 

そして時は進み、全種目は終了した。皆緊張する中、何事も無いように相澤が言った言葉はドッキリ企画では済まされない言葉だった。それをカバーしたいのか典花はカタコトに、その上目が泳ぎながら喋る。

「除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「お、驚かして、ごめんネ!HAHAHA!HAHAHA…(ウソで良かった!!)」

 

「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ」

 

カバーはしっかり出来ていた、八百万達にはバレていない。

相澤は順位の発表をし、本日の終了の有無と緑谷に保健室利用書を渡すと帰って行った、それに続き八木典花も彼のあとを続く。

この後の展開をなんとなく知っている典花は、そろそろかなと思っていた。そしてやっぱり過去の自分と同じ行動、発言をする八木俊典がそこにはいた。もはや何も言うまい。

「相澤くんのウソつき!」

「(合理的虚偽だからホントにウソつきなんだよね!)」

「オールマイトさん、見てたんですね。暇なんですか?」

「『合理的虚偽』て!エイプリルフールは一週間前に終わってるぜ?君は去年の一年生、()()()()()()()()()()にしている。『見込みゼロ』と判断すれば迷わす切り捨てるそんな男が、前言撤回っ!それってさ、君もあの子に可能性を感じたからだろう!?」

「…君も?君()ね、随分肩入れしてますね、先生としてどうなんですか、それは」

 

「「うっ…」」

 

「…貴女もか。まあ“ゼロ”では無かった、それだけです。見込みがない者はいつでも切り捨てます。半端に夢を追わせるほど、残酷なものはない。これから先は、特に。それではオールマイト、また。行きますよ、八木先生」

「あ、あぁ。またな、オールマイト先生」

「…うん、またね、典花先生」

 

二人が去った後、ボソッと、オールマイトらしくないテンションの低さで独り言ちた。

「やっぱ…合わないんだよな。典花、平気かな」

 

 

恐らく今頃入学式は終わり、初めてのホームルームであろう雄英。

廊下は静かで、二人の歩く音がよく聞こえる。

「…あ、相澤先生、このあとは?」

「後は俺ひとりでやれますよ」

「いや、しかし…」

「入学式の件、言ってなくすみませんでした。仕事内容の把握をしていない新人の手間を増やすのは、合理的じゃない。恐らく前の所の記憶と照らし合わせた結果、今日の動きなんでしょう」

「ま、まあね。けど似たような事して来たから実質二回目だよ?」

「明日、ちゃんと仕事内容を改めて教えます。初日で疲れてるのでは?今日は定時退勤で良いです」

「…相澤先生?どうしたんだ?詳しく言わない方が合理的じゃないんじゃないか?」

 

明らか様子が可笑しい相澤を見て、典花は問い詰める。

死ぬ前はここまで彼とは話をしていない、雄英高校の教師と互いにヒーローという接点しかなかった。

今や同学年の、同じクラスの担任と副担任、意思の疎通は前より大事だ。

「いえ、あなたもあの人も肩入れしていると思うと、ここのオールマイトには、なるべくしっかり公平に教師をしてもらおうかと考えていて。もちろんあなたにも…いや、あなたは出来ないかもしれない」

「公平に?」

「緑谷出久とあなたの“個性”使用時の怪我の仕方が似ている。前のことがあるから余計に出来ないかもしれない、あなたならなるべく怪我はさせたくないだろうと思いまして」

「…まあね、怪我はしないほうが良いだろう?」

「当たり前です、怪我をすればする程何事もスムーズに動かなくなり合理的に動けない」

 

次の瞬間、ここに相澤消太らしからぬ一つの閃きが脳内に浮かんだ。

「(もしかして、緑谷出久と八木さんを公平にさせなければ相互しあって、特に八木さんの負傷率が減る?あやそれだと最終的に教師としての動きが合理的じゃなくなる。だが教師が生徒みたくいちいち怪我してたらそれこそ合理的じゃないね?)」

 

既に歩みは職員室前で止まっていた。職員室のドアを開け、既に中に入っていた典花は未だ入ってこない相澤に声を掛ける。

この閃き、思考の回転はものの数秒の出来事である。

「相澤先生、入らないのか?」

「八木先生、頑張ってください」

 

相澤消太は合理的な将来を行く事願い、結果は現状見守る事にした。

それを知らず、応援された八木典花は頭にインテロゲーションマークが浮かぶ。

 

「え、あぁ、頑張るよ!ありがとう、相澤先生!」

 




次回、ようやく原作沿い小説としてヒロアカ1巻終了。
おまたせ致しました。自分も改めてこの小説読んで続き読みたくなったので前書きと同じですか進捗状況良くしたいです。
誤字、脱字等報告よろしくお願いします。


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No.10 ヒーロー基礎学

Re:も無ければ名前に変わりがないのは内容も結果も変わらないぐらいの原作沿い。
話の前後ぐらいしか目立った変化はないです。
難産だった…


午後から始まる科目 ヒーロー基礎学、その授業が始まる二日前の話。

根津に呼ばれた八木典花は緊張故に少し、汗をかいていた。

「八木典花くん、そろそろ決めてほしいのさ」

「わ、わかっております。ですがその、思い浮かばず…」

「大丈夫、それに忘れたのかい?こちらでも考えていたのをさ。ちゃんと候補の紙は残してあるのさ!えっと、オールライト、ヴィクトリー、ホープ、ブルーライト、フォーサイト、ファインセーフ、他にも候補はあるのさ」

「…候補、増えていませんか?」

「楽しくなっちゃったのでみんなで書きあったのさ!」

「(企画化されているー!!)」

 

“オールマイト”と言う名は名乗れない、彼女には新たな名前が必要であった。

その名前はここでは彼 八木俊典のモノあり、ここでは彼女 八木典花のモノではない。数枚の紙にヒーローの名前候補、八木典花はヒーロー基礎学の授業でヒーロー姿を一度でもいいから見せてくれと根津校長に言われている。

姿を見せるなら、彼と共にと彼女は思っている。

 

「さあ、どれか一枚選んで欲しいのさ。君ならどれも似合うと思う、選んで欲しい。君の新たなヒーロー名さ!」

 

オールライトと書かれた名刺、ヴィクトリーと書いてあるコピー用紙、ホープと書かれた達筆の半紙、ブルーライトと刺繍された和紙、フォーサイトと書いたしこくてんれい、ファインセーフと書かれたチラシ、他は裏返っている様々な種類の紙、紙、紙、恐らく白紙も有るだろう。そこには高そうな紙からチラシの裏とわかる紙まで様々な種類が広がっていた、まさしく何にでもなれると、何にでも名乗れると言うように。

改めて広がる紙を見渡し、一枚を手に取った。

「この名前を、名乗らせてもらいます」

 

彼女の手に取った、ヒーロー名は。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

1-Aのドアの前から渋く大きな声が響く、めちゃくちゃ元気あるよ!と思う程の声。

教室内がざわつく前にドアは開かれる。

「わーたーしーがー!普通にドアから来た!!」

 

ドアを開けてさらに響く声、オールマイトがやる一回目のヒーロー基礎学の授業がこれから始まるのだ。1-A全体がざわついている、有名どころが世界的ヒーローだ。誰もが彼を知っている。

鼻歌交じりに入ってきたオールマイトの後ろからヒーローオタクの緑谷出久も知らないようなヒーローも続いてやってきた。

教室はより一層ざわつきを見せたが、そのヒーローは一言も発しなかった。

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ!単位数がもっとも多いぞ!それでは、早速だが今日はコレ!!戦闘訓練だ!」

 

BATTLEとか書かれた紙をオールマイトは見せると教室の壁も待ってましたというかの様に動き始める。

それは生徒達が入学前に送った個性届と要望に沿って学校専属のサポート会社がつくりあげた戦闘服(コスチューム)である!

尚時折だがサポート会社の作り手の趣味が入ることもある、要望を出す時はしっかり書こう。

「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!格好から入るってのも大切な事だぜ!少年少女!!自覚するんだ!!!今日から自分は、ヒーローなんだと!」

 

グラウンド・βに行く前の少し前の話である。

お昼を取り終わり、八木俊典と八木典花は仕切り一枚隔てて互いにヒーローコスチュームに着替えていた。

「俊典、緑谷少年以外にも、クラスもしっかり、あー爆豪少年も見てくれないか?」

「爆豪少年?」

「緑谷少年の因縁の幼馴染さ、彼は、意外と溜め込む」

「そうは見えないが…」

「どんなに振る舞っていても、高校生さ。まあ!オールマイトがいっぱいいっぱいなら私が見よう!爆豪少年しかり、緑谷少年も、1-Aも1-Bも!むしろ雄英高校全体を!」

「オイオイ!そりゃ無理があるぜ!せめて1-Aだ!私達ヒーローは違うとしても教師としては新人だぜ!?まだひよこ、ピヨピヨだ!それに、1-Aがヤバいんだろ?典花」

「…そうだな、すまない。焦ってるのかもしれない、まずは目先、手に届く1-Aだな。まずは1-Aを守って、育ててあげなくては」

「焦るなよ、キミは一人じゃない、だろ?」

「それはお互い様だ、オールマイト」

 

グラウンド・βに入る門から遅れてやって来た緑谷出久を見て、彼女の思考は浮上した。恐らく最初の山か、それとも谷だったのか。

「オールマイト、全員来たぞ」

「よし、始めようか、有精卵共!戦闘訓練のお時間だ!!」

 

生徒達が互いのコスチュームを見たり、オールマイトが緑谷のコスチュームを見て、自らの特徴との一致点に気付き笑いを堪える中、飯田天哉が手をビシッと上げ、 質問をする。

「先生!ここは入試演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

オールマイトの答えはこうだ。

飯田の問いの二歩先、屋内での対人戦闘訓練。

ヴィラン退治は主に屋外で見られることもある(故にニュースなどに取り上げられる事も多々あり、騒ぎを聞きつけ野次馬と化した一般市民も寄ってくるぞ!)、だが統計で言えば屋内の方が凶悪ヴィラン出現率が高いのだ。

 

真に賢しいヴィランは人目に付かない闇に潜む!

 

今回はそれを想定しての戦闘訓練である。

今回の戦闘訓練は1-A内でヴィランとヒーローに分かれ、2対2の屋内戦。

ただ闇雲に提案した授業では無いのだが設定としては『ヴィランがアジトに核兵器を隠し、ヒーローはそれを処理しようと考えている』というものだ。

勝敗の決め方は制限時間内にヒーローサイドはヴィランを捕まえるか核兵器の回収、ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえること。

「ペアの決め方はくじだ」

「適当なのですか!?」

「えっと、それはね…」

「くじならランダムになる筈だ。それに飯田天哉くん、プロになり、その場で何かあったら急遽チームアップすることもある。現場では臨機応変に活動出来なくてどうするんだ?」

「なるほど、先を見据えた計らいだったのですね!確かに臨機応変に対応出来なければ、自身の怪我のもとや救護者への対応などに手間を取り、ヴィランへの対応もとい救護者や自身の命に直結します!」

 

飯田がそう言って納得してるのを見た名乗らないヒーローはオールマイトにボソボソと小声で叱咤する。

「しっかりしろ!オールマイト!ある意味敵は外だけではない!授業にするんだからしっかり答えられるようにしとくんだ!」

「ご、ごめん!そこまで突っ込まれないと思って!」

「それはわかる!」

 

「くじを引く前に、一ついいかしら?」

 

そう言って喋り出したのは蛙吹梅雨だった、その質問はみんなが気になる質問。

「オールマイトの隣にいる先生はなんて名前かしら?」

「確かに、何かあったら先生の名前を呼べないと大変ですものね」

「みんな先生だよね!先生被りして誰が誰だかわからなくなりそう」

 

八百万や芦戸も同じことを思っていたらしい、他の生徒もざわついている。皆同じ事を思っていたようだ。

声に出してはいないが爆豪はもう一人のヒーローをじっと見ていた。

「(なんでアイツ、こんなにオールマイトと似てるんだ?つかなんで前髪同じように立ってんだ!本人を目の前にだなんてクソデクだけで十分なんだよ!!!)」

 

「わ、私は…」

「(典花…)」

「私は、オールライト。オールマイトと名前が似てるから良かったらライトと呼んでくれ!実はオールマイトと同じ新人教師なんだ!緊張してしまってすまないね!よろしく!1-Aのみんな!」

 

彼女は名乗るだけで緊張をしていた。生徒の前だと言うのに。

名前とは一度名乗れば、変わることは無い。

特に影響が大きくなっていけば、変わることは難しい。

 

自分で名前を決める事を出来なかったを悔やんでいた。

 

“オールマイト”から彼女は離れることが出来ず、似た発音、似た字面の“オールライト”と彼女は名乗る事となった。

オールマイトは知ってか知らずか、笑って応援をしてきた。

「HAHAHA!そう言うわけだ!オールライト先生と私はある意味、そう、有精卵だ!君達はヒーローの!私達は教師の!新人教師として頑張るから何かわからないことがあったら質問をしてくれ!HAHAHA!」

「…よし!ではくじ引きを始める!」

 

くじはAからJの10組となった、最初の試合はヒーローサイド Aチーム麗日&緑谷 VS ヴィランサイド Dチーム 飯田&爆豪。

オールマイトが試合の説明をしてる間、オールライトは残りの生徒を地下のモニタールームへと誘導をした。誘導し終わった頃にオールマイトはやって来た。

「来たなオールマイト。さて、君達、よく見てるんだぞ!自ら動き、学ぶこともあるが、見て学べることも沢山ある!四人の動きを見て、考えて、この後の戦闘訓練をどう動くか、次に生かしてくれ!」

 

モニターを見れば既に戦闘訓練は始まっていた。

ヒーローサイドのコンビは既に侵入は成功、かと思いきや画面内の突然の爆発。爆豪勝己の奇襲だ、彼の先手の攻撃。

「…始まったな」

 

「爆豪ズッケぇ!奇襲なんて男らしくねぇ!!」

「緑谷くん、よく避けられたな!」

「奇襲も戦略!彼らは今、実践の最中なんだぜ!」

「しっかり画面を見るんだ!少年の反撃だぜ!」

 

次の瞬間、画面の中の緑谷は爆豪の攻撃を受け止め、その腕を掴んだ。麗日がすごい!と達人の動きのような緑谷に歓喜する。一方爆豪は緑谷に動きを読まれた事に驚いていた。

緑谷出久は日々、成長している。

 

その下地は、昔からあった。

 

()()()()()()()()()()()()()()全部手書きでノートにまとめてあるのだ。爆豪勝己が爆破し、窓に軽く捨てたノートも、その数あるノートの内の一つ。

個性の譲渡、オールマイトの応援、自らの努力により前途ある少年は遅れながらも開花し始めているのだ。

彼はもう、雑魚で出来損ないのデクではない!

「かっちゃん、僕は…“頑張れ!!って感じのデク”だ!」

「ビビリながらよぉ…そういうとこが」

 

爆豪勝己の導火線は。

 

「ムカつくなぁあ!!!」

 

全てを巻き込み爆発をし始めた。

 

 


 

 

「アイツ、何話してんだ?定点カメラで音声ないとわかんねえな」

「小型無線でコンビと話してるのさ!」

 

各チーム互いに渡されたのはコンビと話せる小型無線、建物の見取り図、捉えた証明とする為の確保テープだ。尚制限時間は15分、3分のカップラーメン5個分の待ち時間に対しヒーローにはそれプラス、核の場所は知らされていない。ちなみに先生のオールマイトとオールライトには先程から爆豪たちの声は聞こえている。

芦戸はヒーロー側が不利だとオールマイトに言う。

「(そりゃ不利になるさ、実践ならもっと不利!場所がわからない、人がいない可能性だって大いにある!この戦闘訓練は相手がクラスメイトとなってるだけ、捉えようによればほぼ実践!ただこれは)…相手同士がな」

「せーの!」

 

 

「Plus Ultra「あ、ムッシュ爆豪が」

 

 

爆豪勝己は冷静に怒っていた。

蹴っても、殴っても、当たらず、避けられ、その上デクは“個性”を使わない。さらに確保証明のテープで確保してこようとする。

 

そしてまたも読まれる右の大振り。

 

燃しても燃しても現れる導火線は火が付き、緑谷出久を見る度に、無個性のデクを思い出す度に、爆発する。

無個性の、デク。無個性と嘘を付き、実は派手な“個性”持ちだったくせに“個性”を使わない、デク。

「使ってこいや!俺の方が上だからよお(石っコロが…!!俺の方が、俺の方が上だ!!!)」

 

爆豪勝己が緑谷出久を探している時、麗日お茶子はハリボテの核と飯田天哉を発見していた。

真面目な飯田天哉はヒーローになる為に悪に染まろうとしていた!

「俺はぁ…至極悪いぞぉおお」

 

案の定麗日の笑いのツボをぶち抜いていった為、麗日は笑ってしまい、自ら飯田に見つかりに行ってしまった。

麗日に気付いた飯田はただ一人、核のある部屋にいた訳ではない。爆豪が飛び出した時点で麗日が一人この部屋に来るのはわかっていた。そして彼女の個性は触れた対象を浮かす、つまり飯田天哉は一人核のある部屋で片付けをしていた!

「君対策で、このフロアの物は全て片付けておいたぞ!これで君は小細工出来ない!ぬかったヒーロー!フハハハハ、フハハハハ!!」

「様に…なっている!」

 


 

「オールマイト、そろそろ気をつけてくれ」

 

オールライトとなっている八木典花は、オールマイトに忠告をした。根本的にはまだ変わっていない、前の世界と同じだ。

変わったのは、海岸のゴミが多く拾えた事だけだと典花は認識している。

「気をつける?」

「爆豪少年と緑谷少年が絡む戦いはとてもデンジャラスなんだって、あぁ!ほら!」

 

二人が画面を見る時には爆豪の手は、小手のピンを取ろうとする所だった。オールマイトは急いで話し掛けるマイクをオンにする。

「爆豪少年ストップだ、殺す気か!?」

 

生徒達には声は聞こえなくとも、その凄まじい音と振動は地下まで聞こえてきた。焦る1-A生徒、いつ助けに行けるようにと身構える典花、そして緑谷出久の心配をするオールマイト。

そんな地下の事はつゆ知らず、貯れば貯まるほど強くなるニトロのような汗は一つではない、それは彼の心も同じなのだ。

爆豪勝己の溜まりに溜まって肥大化した自尊心と。

 

「“個性”を使えよ、デク。全力のてめェをねじふせる」

 

緑谷出久への価値観。

「オールマイト先生、止めた方がいいって!爆豪あいつ、相当クレイジーだぜ、殺しちまうぜ!?」

「いや…(妙な部分が冷静なのか、みみっちいのか、なんというかな。とにかく)爆豪少年、次に()()撃ったら、強制終了で君らの負けとする。屋内戦においての大規模攻撃は、守るべき牙城の損壊や仲間の負傷を招く!ヒーローとしてはもちろんだがヴィランとしても愚策だ、それは!大幅減点だからな!」

 

そう注意すれば次に先生の二人の耳に入ってきたのは爆豪勝己の殴り合いの宣言、しかし殴り合いと言う割りには前から来たと思えば後ろに飛び、緑谷の背に攻撃をしてきた。

そして得意の右の大振りをし、緑谷の腕を掴み、そのまま個性を使い素早く回転をし、コンクリートの床に緑谷出久を叩き付けた。

「リンチだよコレ!テープを巻き付ければ捕らえたことになるのに!」

「ヒーローの所業に非ず…」

「テープを巻きつけることを覚えてないとか?」

「緑谷もすげえって思ってたけどよ、戦闘能力に於いて爆豪は間違いなく、センスの塊だぜ」

 

爆豪が足音を出し一歩進む、それに気付いた緑谷は急いで立ち上がり逃げ出す、がすぐに壁へと辿り着き、向かってくる爆豪の方を向く。音声が無くとも生徒達も気付いていた、戦闘能力についてはセンスの塊で、現在圧倒的有利な筈の爆豪勝己の方が余裕が無いことを。

一方オールマイトは音声を聞きながら迷っていた。

「(止めるべき…!!だが、止めて()()()()()()…!!()()()()()()()以外で初めて見せる激情!!きっと君の見据える未来に、これは必須なんだろう!?きっと君の成長に必須なんだろう!?)」

 

止めるか悩んでいたオールマイトにやっと切島の声が聞こえた。一瞬の筈なのに、物事は物凄く進んでいるように彼は見えた。

「先生!ヤバそうだってコレ!オールマイト先生!!」

「…ッ!双方、ちゅう…ッ!!」

 

皆が息を呑んだ、爆豪勝己も緑谷出久も引く気はない目線の混じりと攻撃の動作に、だが緑谷の意志は違った、その拳は天井へと向かっていた。

天井は吹き飛び、その衝撃で窓も割れ、その威力は核のあるへと向かっていた。

 

一方麗日お茶子と飯田天哉のいる部屋はその衝撃で床吹き飛んでいた。二人は距離を取っていたため離れていたが、そんなことは関係ないと言うような攻撃を麗日はしてきた。

柱を個性で重さを無くし、衝撃で吹き飛んだ床の瓦礫たちを大きく振りかぶってスイングした!

「飯田くん!ごめんね即興必殺!彗星ホームラン!」

 

「ホームランでは、なくないかー!?」

 

少しずつ、確実に、絡まった糸が解ける速度で戦況は変わって行った。

爆豪は上を向き、連なり穴が開く天井を見た、その思考は案外冷静で彼は戦況を即座理解した。

飯田は攻撃に怯み、核の側にいながら麗日と核を一瞬忘れていた。

ヒーローサイドは核に触れ、戦闘で満身創痍。ヴィランサイドは核を触れられ、戦闘ではそれ程ダメージを受けてはいなかった。

勝負に負け、試合で負けたのだ。

「ヒーロー…ヒーローチーム、WIIIIIN(ウィーン)!!」

 

佇む爆豪勝己のもとにオールマイトが肩に手を乗せ、講評の時間だと言い渡す。

講評も終わり、次のチーム、講評と授業は繰り返すも、爆豪はそれを見てまた焦っていた。

 

授業内の戦闘も時間も終わり、俊典は緑谷を見に行くといいコスチュームのまますぐに彼は保険室へと向かった。

そして時間は既に放課後、スーツ姿で爆豪勝己が出てくるのを待っていた八木典花、ここで一つ思い出す。

「…そういえば私、あの時爆豪少年に喋りかけたよね?つまり、あれだね…HAHAHA!私別に今日、俊典に合わせて出なくても良かったんじゃないか!そして俊典が爆豪少年に喋りかけるから…スタンバイしなくても、良かったわけだね!」

 

「かっちゃん!」

「ああ?」

 

「あれは緑谷少年と爆豪少年!やっぱり彼に任そうかな、私よりかは彼、教師初心者なんだし…」

 

しかし彼女はここは聞いていなかった。

何故なら、あの時は涙を拭いている爆豪勝己しか見ていなかったから。ここから先は彼女も知らない話であった。

話からは聞いていたが、どんな風に言ったかまでは聞いてはいなかった。

「人から授かった“個性”なんだ」

 

「…ッ!?」

「…!?」

 

八木典花と爆豪勝己は時間差でリアクションが被ってそこで典花は我に返った。知っていてもどこまで、どんな感じで喋るのかと慌てていた為に小声で実況する不審なスーツを着た女性と化していた。

「少年、オイオイオイ、少年?そうだね、誰からかは言えない、コミックみたいだね、ろくに扱えないのは仕方ないだろう…!僕の力、か。そうか、この時点で覚悟を決めていたのか、緑谷少年。それが神野に続くのか…」

 

 

「こっからだ!!俺は…!こっから…!!いいか!?俺はここで一番に()()()()()!!!!!」

 

 

「…やはり、爆豪少年も見るべきだな」

 

その後は典花もしたテンポで事は進み“オールマイト”はその日の教師業を終えたのを見届けた。

 

その日の夜、ヒーロー及び教師 オールライト初日を終えた八木典花は電車を使い、帰宅した。

既にサー・ナイトアイは帰っていたらしく、リビングには夕飯が置いてあった。

「HAHAHA!わーたーしーが!サーの家に帰ってきた!ただいま!」

「おかえりなさい、本日はどうでした?」

「いやあ、あまり前の時と変わらなかったかな」

「そうではなく、ここでは初めてのヒーロー活動だろう?」

「…ひ、久しぶりに凄い緊張したよ、名乗るだけだというのにまだ少し震えが…。ごはんだ、ご飯にしよう!ナイトアイ!夕飯なにかなー!」

「あからさまに話を反らしましたね。ちなみに夕飯はほうれん草と小松菜と油揚げの味噌汁わかめ入り、紅鮭、ひじきの煮物、沢庵、豆腐、ほうれん草のおひたし、それと切り干し大根です」

「すごい和食!いただきます!!んー!味噌汁美味しい!!」

 

夕飯のラインナップ紹介が終われば早くも食べ始める典花、それを見ながらサー・ナイトアイは今日のことを話し始めた。

「今日は仕事が早くに終わって、書類も全て書き終えて、サイドキック達に早めの帰宅を促されたんだ。家に帰っても暇なので、この通りだ。時間の掛かる料理ばかりしてみたんだが…その、美味しいですか?」

「お惣菜じゃなかった!ああ、凄く美味しいよ!毎日和食でも良い!」

「当たり前だ、別の世界といえぞオールマイト、そしてこれから花咲くことが確定の新人ヒーローであり未だ輝きを失わないヒーロー。それがあなただ。それに…この前根津校長からひと通りあなたについてのことが書かれたレジュメが改めて来たが、やはり胃が心配で…」

 

内容について典花はわからないが、胃となるとやはり八木俊典との一致、そして不一致、そしてここに来てからの事が書かれているのだろうと手に取るようにわかった。

だが胃はもう典花は平気なのだ、病院でも大丈夫だと言われた。今の所通院はしていない。

それでも心配をするのは腹の傷を見たことがあるからだ。

「大丈夫だ、ほら!こんなに食べれる!それに私は俊典とは違う、何故か臓器は戻って…戻って…あぁ!」

 

八木典花は“戻って”の単語でまた一つ思い出した事がある。どうやらすっかり忘れていたいたようだ、とてつもなく大切なことを。

「(なんで私、ワンフォーオールを使えているんだ?あ、あんなに覚悟を持ってワンフォーオールとオールフォーワンに別れを心の中でしたというのに…!!)…ッ!!」

「典花さん?」

 

すっかり、と言うか例えるなら『半年後の真実』だったり、『去年単行本や本誌で死んだ推しが、4期アニメ化で出てくるという事実に喜ぶも束の間、4期で来年か今年確実にまた死ぬという事実にふとした瞬間気付いたような感じ』の絶望と衝撃とうっかりが混ざりあった感情はとてつもなく大きく、典花は箸を落としてしまった。

ここで一つの憶測が典花には過ぎる、まだ何か忘れてないかと。

「どうしました、典花さん」

「ナイトアイ、明日か明後日、夜時間ある?」

「夜?急用がなければ今の所はありますが…」

 

「恥ずかしい事に私ね、死んだ後からここで生きるのに必死だったみたいで、色々忘れていた事がある。思い出すのとメモ取るの、手伝ってくれないかな?」

 

「…何かと思えば、手伝うのは当たり前でしょう」

「ごめんね、迷惑を掛ける、サー・ナイトアイ」

「掛けてください、あなたはもう一人ではない」

「…ありがとう、ナイトアイ」

 

こうして後日、サー・ナイトアイと八木典花の長い夜が始まる。

そこで八木典花は気付く事となる、“サー・ナイトアイ”とサー・ナイトアイは違う事に。

 




次回、オリジナル路線、私の性癖を詰め込む話。
八木典花の世界の“サー・ナイトアイ”と八木俊典のサー・ナイトアイについてのお話。
サー・ナイトアイは性癖。ちなみにサー・ナイトアイの原作の本名も書きます。
次回は乞うご期待を自分がしたい!


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No.11 The Night Has a Thousand Eyes

タイトルのThe Night Has a Thousand Eyesは曲名のではなく英詩の方です。どうしてもサー・ナイトアイ関連のはこれにしたくて内容も無理矢理当てはめた今回はオリジナル回です。性癖もいれた。
人生は瞳から見てる分には長いけど、実際の体感は短い。
生きてる間にやりたいタイトルは今の内にと思って。


雄英高校マスコミパニックが起こった日の夜である。

八木典花も対応に追われ、帰宅時間が一時間遅れるとメールを送り、実際は一時間以上過ぎて帰宅をしてきた。

「わ、私が帰宅をー、した…!」

 

久しぶりにちゃんとしたマスコミ対応によりヘロヘロで帰ってきたようだ、何より“オールマイト”をしていた時よりマスコミの対応時間が長かった。

“オールマイト”をしていた時ならば制限時間があり、毎回空きを見て抜け出したり、対応を長くはしていなかったからだ。その上今回は、不審なことがあったのだ。

正門の雄英バリアーが破れたのだ、崩壊という形で4枚目の頑丈の壁が同時に。

そして今回はマスコミのパニックなども重なり警察が来た、不審者やマスコミが残されてないか、不審なものはないかと確認する為に校内巡回をしてから帰ってきたというわけだ。

リビングに行くとサー・ナイトアイは椅子に座り本を読んでいたが帰宅に気付き、本を閉じ、声をかける。

「随分遅かったですね、お疲れさまです」

「ただいま、ナイトアイ。いやぁ参った!雄英高校の正門が崩れるというのを忘れていたし、何より久しぶりにマスコミの対応、警察への説明をしたよ」

「正門が崩れる?」

「あ、やっべ(これまだナイショだった!!)」

「…深く聞きません、兎にも角にも由々しき事態があった、とだけは認識しときましょう」

「あ、ありがとう、サー」

「気を緩め過ぎですよ」

 

サーは机に手を当て、トンットンッとリズミカルに叩きながら典花に雄英高校について説き始めた。雄英高校とは、全国の中でもNo.1ヒーロー オールマイトがいる事により稀な高校となっているが、今年はさらに稀である。

八木典花より言い渡されし少し先の未来での問題、これから先の雄英高校のセキュリティ、何より平行世界から来たヒーローのもうひとりのオールマイト。

 

「いくら私の家とはいえ、そう言う事はなるべく口に出さないでください。セキュリティは良くともいつ漏れるかはわからないんですよ」

「そ、それはわかって…」

「それを今、うっかり口を滑らしたのはあなただ」

「気をつけるよ、ごめん」

「…まあ、あなたと住んでほしいと言われた時点でセキュリティはかなり良くしましたが」

「え、そうなの!?」

 

サー・ナイトアイは根津に八木典花について色々言われ、情報をメールで貰っていた、そして八木典花と同居してほしいと言われた時、この先何があるかわからないので彼はセキュリティの良いところに引っ越し、車を買い、バイクを買いと準備をしていたのだ。

「オイオイ、マジで?ナイトアイ、君は正気か?いくら、別の世界の、オールマイトとはいえ、私は君の初対面だったんだぜ?さらに見知らぬ人だ」

「今はもう覚悟は決めていますが、根津校長から何度かメールなどのやり取りをして、話を聞けば聞くほどあなたを見知らぬ人とは思えなかった。…そしてあなたと会い、あなたの未来を見て、自身の確固たる意志で、決めた。なんとしても二人を生かすと、死なせないと」

「…君は、すごいな」

「そもそもアナタ自身が機密情報みたいなものだからな、それに金はある。幾らオールマイトグッズに注ぎ込もうとしても注ぎ込むにも限度がある、オールマイトグッズ専用の部屋をこれを気に作る良い機会にもなった、あなたが気を病む必要はないですよ」

「オールマイトグッズ、専用の部屋(そういえば一回も開かない開かずの間があったな)」

 

オールマイトグッズ専用部屋には保存用、使用用、致し方無い用と買っていると知るのは別の話である。ちなみにオールマイト仲間がいないので布教用は彼は買っていない、オールマイトファンソロプレイヤーである。

彼は今、オールマイトファン募集中だ。

「さて、夕飯を食べて、さっさと風呂に行ってください。今日は話すことがあるんだろう?疲れてもいるんだ、早めにしよう」

「…そうだな、話すことがある」

 

全てを終わらせ、ソファに座る二人、ナイトアイは手帳とボールペンの準備は出来ている。

出来てないと言えば、典花の心の準備が出来ていなかった。

前の世界の事をしっかりと話すのは二度目となる。

「それで、何を話すんだ?肩の力を抜いてほしい」

 

ナイトアイに見抜かれていた、いや、かなり肩に力が入っていたらしい。肩が思いっきり上がっていて、拳もかなり握っていた。

格好は互いにラフだ、既に風呂上がりな為、ナイトアイは部屋着、典花はパジャマである。ラフじゃないのは心である。

「…私が、一度死んだのは言ったね?」

「ええ、根津校長からもあなたからも聞きました」

「…私の、“個性”ワンフォーオールについては」

「いえ、何も」

 

典花はやはりと思った、完全に忘れていたのだ。

ここで典花は記憶を巡らす、オールフォーワンを倒した後、なけなしの“個性”で勝ったとマッスルフォームで立っていたのは覚えている。そしてその時、もうヒーロー活動は出来ないと悟った、あの体型を維持し活動するにはもう力はなかった。

肩から息をするように、フラフラになりながらオールフォーワンがタルタロス行きの移動牢 メイデンに入ったのを見届けた後、八木典花は次は君だと言い、その後救急車内で、息を引き取った。

「やはり、あの時“個性”と共に私も死んだ筈…死んだ、死んだんだ」

「典花さん、落ち着いて、“個性”と共にとは?」

「私は、本来ならばもうワンフォーオールが使えない」

「使えない?しかしマッスルフォームになっていたじゃないか、何人もが目にしている」

 

雄英試験日、彼女もまた試験のようなものを受け、確かにマッスルフォームとなっていた。彼女に直接守られていたサー・ナイトアイはあのパワー、その姿は八木俊典のものと同じだと認識している。

それはもちろん、八木典花もそう認識していた。

「それはわかっているんだ!だが、私は死ぬ前、もうワンフォーオールは残り火となっていた!本当ならマッスルフォームでのヒーロー活動はできない!!オールフォーワンを倒すので使い切ったも同然なんだ!」

「…だが、ここでは何故かマッスルフォームになれるし“個性”は使える…ここではいつからマッスルフォームになれましたか?」

「え、いつから?」

「ええ、それにあなたが言ったんでしょう?メモを取るの手伝ってほしいと。それに考察もしなくては、あなたはただでさえ謎が多い、臓器が戻る、忘れてはないか?」

 

典花はハッとした、もしかした臓器が戻る際に個性も戻ったのかもしれないと、しかし淡い期待のそれはサー・ナイトアイに打ち砕かれる。

「残り火が元に戻るのは無いかと、あなたのその傷跡を見れば戻ったのは本当に体の臓器だけのようだ。それはあなたもわかる筈」

「そ、そうだよね!HAHAHA…ハァ…」

「オールマイトとの不一致は性別、傷跡、臓器の損傷具合、一致は立場、考え、サイドキック、友人関係等。ここに来てからの不一致は立場の変更、臓器の有無、もしかしたら“個性”も不一致なる可能性が…そうか、似た“個性”の可能性もある、あなたは2つ個性を持っていた」

「ワンフォーオールのような、スーパーナチュラルパワーを?それなら早い段階で私ならわかっていた筈だぜ、昔から体は鍛えていたしな…それに私、無個性だったんだぜ?」

「む、無個性!?あ、それは後でにして…」

 

サー・ナイトアイはメモを取り、考え込んでしまった。

その“個性”が何なのかわからない。

何が由来で、何が発動条件なのか、突然使えなくなるのか。

それとも実はホントにワンフォーオールなのか?

もし、突然使えなくなったらどうすればと考えれば考えるほどサー・ナイトアイはわからなくなっていた。

「…別に気味が悪い訳じゃない、元は無個性だ。それにこの謎の“個性”のお陰で、ワンフォーオールのような力を使えてる事でまた希望が持てている。今止まるわけにはいけないからね」

 

突然使えなくなったらなんて彼女は考えていなかった、そこには再び希望が灯っているヒーローしかいなかった。

その“個性”がワンフォーオールにしろ、何にしろ、新たな名前が必要だと、サー・ナイトアイは思った。

二人の同じ名前のヒーローはここに居てはいけない、それが世間を揺るがすものなら。ならばその個性も、2つあれば世間を揺るがす。

「…名前、決めませんか?」

「名前?」

「あなたはもう、オールマイトじゃない。そしてその個性は、ワンフォーオールじゃないかもしれない」

「…HAHAHA!ここに来てから名前を考えてばかりだな!」

「笑い事ではなんだぞ!」

「あぁ、わかってる、わかってるよ。…不思議なことに、やっと少し落ち着いたよ。今なら、自分で決められなかったヒーロー名の代わりにこの個性の名前が決められそうだ」

「真面目に考えてくれ、ヒーローならまだしも個性の名前なんて…」

「マジで一生物、だろ?」

 

八木典花は手を開いたり、握ったりした。サー・ナイトアイにはもう“個性”の名前は決めているようにみえた。

「…意味は希望をあなたに、あなたを願っています。Hope youから。一人は皆のために、皆は一人のために、だなんて個性の名前があるんだ。私の個性の名は、ホープ・ユー。この拳で希望の力を振るう、私の願いの力。ヒーロー オールライトには似合いだろ?ナイトアイ!」

「ヒーロー オールライトに個性ホープ・ユー、か。(日本語に直せば、【大丈夫、希望をあなたに】【大丈夫、あなたを願っています】か。率直過ぎる、それだけに)あなたらしいな」

 

 


 

 

事は別に一件落着した訳ではない、むしろ山積みだ。

サー・ナイトアイのメモにはヒーロー名オールライト、個性名ホープ・ユーと書いてあり、不明の欄には本当に個性は同じか?要個性使用時の細心の注意等と色々書いてある。

「細心の注意、ね。そんな突然の電池切れ!みたいにならないと思うぜ?」

「世の中何が起こるかなんてわからないのによく言えるな、オールライト」

 

眼鏡を上げながら鋭い目でサー・ナイトアイに突っ込まれた八木典花は何も言えなかった。むしろ平行世界代表と言っても過言ではない。

物凄くどもり、目を泳がせながらも話を逸らそうとした。

「さ、サーの話、サーもき、共通点があるかもしれないなぁ?!」

「…話の逸し方ド下手か」

 

オールマイトと同じように、そう、同じように上げていくもなんと二つ目で躓くことになるとは二人共思ってはいなかった。

「よし!俊典と同じようにしていくぞ!ヒーロー名!」

「サー・ナイトアイです」

 

「名前!」

「佐々木です」

「ササキィ!?」

「…待ってください、違うんですか?」

「…キシミヒトミくん、じゃないの?」

「…私はササキミライです」

「…解散!おやすみ!」

 

そう言ってすぐにベットルームへ戻るもこの二人、まだ同じベッドで寝ていた。なんせお互いに安眠出来てWin-Winだったのだ。

だが今はそれどころではない、八木典花は混乱中だ。

「集合、起きてください」

「べ、別人なのかぁ?!」

「顔は?」

「同じだよ!」

「性別」

「同じだって!声も体つきも同じだと思うよ!個性予知もそうだ!!」

「…本名の名前だけ、か」

 

そう言うと携帯を取り出し、文字を打ち始めた、そこには漢字で佐々木未来としっかり書いてあった。

「どうやら、しっかり挨拶をしなければならないようです。改めて私は佐々木未来、ヒーロー名はサー・ナイトアイです、と言っても、同じ寝具の上で寝てるのに、本当に今更というかのか…」

「…本当に、ヒトミくんじゃないのか?」

「違います、そんなに信じられないのか?」

「いや、その、体を見て薄々その…」

「体?なにか違うのか?」

 

佐々木未来の携帯を手に取り、キシミヒトミの漢字を打つと、典花はそちらの“サー・ナイトアイ”について話し始めた。

そして佐々木未来は根本的に存在の在り方が違うのに気付く。

「彼いわく、軋んだ未来を視た瞳と書いて軋視瞳、ヒーロー名はサー・ナイトアイだ。彼は私が助けた子だった。ここには、ジカンと書いてトキマ、トキマ個性研究所は此処には無いみたいだね」

 

時間(トキマ)個性研究所、八木俊典の世界では端から一欠片も存在はしていなく、八木典花の世界では彼女がまだ若い時に潰した違法に個性の研究をする組織であった。

当時はまだ、個性は異能と呼ばれる時代で、都市伝説と化しているオールフォーワンも活動していたその大きな時代のうねりの中、孤児院、捨て子、人身売買などから個性未発現の子達を集めては使い、様々な実験をしていた。

 

個性の発現は誘導出来るのか?

遺伝子操作は可能なのか?

 

それが研究所の研究内容だったそうだ。

そのうちデザインベイビーも作るようになり、デザインベイビーでも個性の誘導、操作は可能なのかと実験、研究をするようになっていた。

「その中のデザインベイビーの研究体の一つが瞳くんだった、だから体を見れば違うなあと思って、けどここの瞳くんの傷とかは治ったのかと思って…」

「…少なくとも、私は、その個性研究所には行ったこともなければ、聞いたこともない。予知と言う個性だ、少し色々あったが、そこまでじゃない」

「そうだろう、それに、いい名前じゃないか。未来くん」

「…そちらの私は、名前がなかったんだな。わざわざ実験に使う個体に、名前を付ける筈がない。あっても個体名かナンバーだ」

「感がいいな、彼の名前は私が付けた」

 

そもそも実験や研究には種類があった、既存の従来の産み方の研究体、デザインベイビーの研究体。生きたまま解剖などをする使い捨ての実験体。

個性誘導体は全員失敗に終わっている、生き残ったのは遺伝子操作をされたデザインベイビー達のみである。

つまり寿命や失敗で死んだデザインベイビーを除いては、失敗成功有無関わらず外部から来た子達は死んでいた。

研究所のデザインベイビーには未来予知予測研究体 咲(サキ)と付けられた軋視瞳、他には死の未来予測予知研究体 篠(シノ)、現在遠隔操作予測研究体 枢(スウ)、過去修整研究体 淒(スサ)などが居たと報告されている。

 

報告されていると言うものの、あまりにも多くの子供の死体により生存者は彼女の見つけた子、報告と一致しない生存者の一部を除き、情報が無いのに等しいのである。

何故なら死体より出た腐敗臭によりバレ、逃亡を謀ろうとした研究員達が研究所を爆破、故に紙媒体でしか情報を残していなかった為情報は燃えて皆無。

そこにいた生きた研究体であり実験体を助けた子、その子こそが、軋視瞳、後の彼女の世界のサー・ナイトアイであった。

 

オールマイトとして彼女が手を伸ばし、助けられたのは恐らく生命体として稼働したての彼だけであった。

『君、名前は?』

『…ありません、研究個体名はサキです』

『そ、そうか、研究個体名はなあ…うぅむ、なんて呼べば…あ、瞳』

『ひとみ?』

『あぁ、君のその瞳はキレイだ、よぉうし!瞳くんと呼ばさせてもらおう!私はオールマイト!もう大丈夫だ瞳くん!私が来た!』

 

「そうして彼に瞳と名付けたのは良いが、感情は希薄で話しかけても反応は固定されてるかのように同じ言葉を言うだけ。体には2箇所、個体番号と名が彫られてたし、デザインベイビーとして成功例だった彼を守るのも含め、私が育てた…というか、勝手に育ったというのか。幸い知的好奇心はあったようで、スポンジのように知識を吸い取っていったからね!身体年齢的に高校に入る事もできた。高校までは一緒に住んでいたし、ヒーローになって数年後、また一緒に住んでたよ」

 

サー・ナイトアイは、佐々木未来は気付いた。

佐々木未来のオールマイト愛は根本的にはファンである、そこには敬愛などがあるだろう。だが話を聞くに軋視瞳のオールマイト愛は恐らくひな鳥が親鳥に付いていくものに近いのでは無いかと考察をしていた。

要するに佐々木は反論したかった。

自分は息子ではないと、無意識に重ねないでほしいと。

「…八木典花さん、一つ自覚してほしい」

「自覚?(いやまて、フルネーム?怒ってる?!どのタイミングで!)」

「私は佐々木未来です、あなたの息子ではない。いいですか?あなたは今、男と同じ屋根の下で暮らしている」

「え?ああ、そうだな。いや、瞳くんは息子では」

「軋視瞳ではない、別人だ。よく見てくれ、私を、佐々木未来と言う男を」

 

八木典花と八木俊典は性別が違う、重ねないようにするのは容易な方だと佐々木未来は思った。だが“サー・ナイトアイ”の軋視瞳とサー・ナイトアイの佐々木未来では容易くはない、体が同じ、声が、面影が、個性が、立ち位置が。ふとした瞬間に佐々木未来の奥に軋視瞳を見てしまうだろう。

 

違うものは人生である、だがそれは彼女に証明のしようがない。

彼は思う、このままでは信頼関係も何もかも“軋視瞳”と混ざるのでは無いかと。

「きっと、あなたは重ねているつもりはないだろう。だが違和感がやっとわかったんだ、あなたが変に私に優しいのを。無意識だとしても、私は…」

 

ゆっくりと近付く佐々木に対し、流石の典花も空気が可笑しいことに気付いた。そしてギシリと音を立て、ベッドに押し倒された典花は焦り始める。

「ま、待て待て待て!な、な、何をする気だ!?」

「息子とは、こんなことをしないだろう?」

 

佐々木の顔がゆっくり典花の顔に近付く、危うくもう少しで二人の唇が触れる所で、佐々木はそのまま顔を耳元に寄せた。

彼はキスをしなかった。

「…ッ!?み、みらいくん」

「私は私、彼は彼だ。それに、あなたは魅力的な女性だという事を自覚して欲しい」

「え、あ、み、みらいくん?」

 

「今日は一人で寝てください、私はソファで寝る」

 

気早に彼は寝室を出るとソファに座り、項垂れた。

よく見れば顔から耳まで赤く染まっていた。

「…私の理性、勝ったんだな?(そもそも私はあちらの私に嫉妬していたのか?それとも同一視で嫌悪をしていたのか?)」

 

佐々木は落ち着かせる為、先程聞いた話の事を手帳にメモをして落ち着こうとした、だが落ち着けず、さらに気付いていなかったことにも気付いてしまった。

「…もしかして、私は彼女のことが好き、なのか?」

 

こうして彼はその日の夜を終えた。

 

 


 

 

率直に言えば終えたかったとなってしまった、ソファに寝っ転がるまでは良かった。

だが彼もまた男、佐々木未来38歳なのだ。

 

自覚してしまえばこちらのモノ、だが抜いてしまえば戻れぬモノ。男のプライドじゃない、純粋なファンとしての気持ちを優先したい。

やましい気持ち?男なら当然?裸だって見てるからとても抜きたくなる?

あるに決まっている!!だが!それよりも!純粋に!憧れているヒーローで抜くなんて!本能が許しても、この理性と憧れが許さない!!

 

そう頭の中で繰り返す事約20回辺り過ぎた頃、萎えることなく立ってきてしまった。そうなると心の声は外にも漏れ始める。

「絶対しないぞ。寝るんだ、寝ろ私。…まずヒーローとしてどうなんだ、ヒーローとして。理性よ、もう一度勝て。そもそもここで抜いてしまえばオールマイトで抜いたことにもなる、元サイドキックてしてありえない、ありえない、だから、治まれ…(情けなくて涙が…)」

 

もう完全に寝れなくなってきた佐々木はついに起き上がりペンを取った、別にペンであれをどうこうしようとするわけではない。

改めて少ない情報の中、“彼と彼女”の在り方がどうだったのか考えようとしたのだ。

「そもそもここまで違うというのに、在り方が同じ、と言うのが…基準はなんだ?それに考えてみれば、彼女のいた世界は昼の太陽、彼女はずっとオールマイトとしてあろうとしている、さらに典花さんなら、典花さんのオールマイトなら後継の心が折れることはないかもしれない。対してこちらは夜、オールマイトを太陽としてたくさんの卵の星が輝いているが…彼のオールマイトではまだ後継の心はすぐ折れる、何より、もしかしたら二人揃って彼女のように強くないかも知れない」

 

八木典花は純粋に接する面が多かったのだと佐々木は考えている。

軋視瞳との生活、写真、ならば後継とも親密に、そして八木俊典よりも接し、育てた筈だと。

対して八木俊典は細かな面では彼女よりも良いだろう(八木典花はなんだかんだ彼と比べると大雑把である)、だが自らとの、佐々木未来との関係を考えるに人との付き合いは苦手なのかもしれない。そうなると後継を育てる際にもこれから色々変わってくるだろう。

そう、彼は一歩引いてしまうから。

 

太陽の度合い(オールマイトのチカラ)星の度合い(ヒーロー/ヴィランのチカラ)、折れぬ心の硬度、燃える愛の熱量。

 

この世界の夜の星は、千を超えるかもしれない。

昼はただ一人により照らされる、けれど、その光はいずれ日暮れ(おとろえ)と共に絶える。

理性は千の星を持つが、心はただ一人の存在にすぎない。

けれども、全生涯の光は、愛の終わりとともに絶えてしまう。

 

「彼女はまだ、終わっていなかった。まだ足掻いている、ここで、生きるのに必死で。だから個性のことを忘れていた。…オールマイト、どうか今からでもいい、足掻いてくれ…!彼女のように死なない為に、私の予知通りにならない為に」

 

佐々木は改めて手帳の書き途中のページから新たなページに文字を書き始める。書いていたページには薄っすらと線を引き、読み難くした。

 

八木俊典と八木典花の違い、在り方、心の強さ、足掻く強さ。

私と軋視瞳の違い、在り方、サイドキックの距離、オールマイトへの厳しさ。

このページは、これから二歩も三歩も抗おうと、足掻こうとするのが遅かった些末な私のメモとする。

願わくば、二人が生きる世界に私もいることを。

佐々木未来




フォント機能、めちゃくちゃありがたいですし、私も長く生きたいね。

次回、USJ!
佐々木と典花はどうなるの!?オールマイトは!?
邂逅、死柄木弔!
更に向こうへ!Plus Ultra!!


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No.12 第一次到達点 USJ

No.12で単行本2巻終わりです、次回からは3巻。
ここから本格的にバタフライエフェクトが始まる。
この波紋は何を変えるのか?


熟睡の出来なかった佐々木未来は、いつもより早くに目を覚ました。昨日のことを思い出しハッとして急いで寝室を見ると、そこには手紙だけ。

普段なら寝ている筈の彼女は、もう居なかった。

「隠し事か、オールライトッ…!」

 

手紙を見ると内容は今日の雄英高校の午後の話だった、話には聞いていたUSJの事である。心配はある、だが不本意ながら完全に異分子の彼女がいる。事の顛末を良い方にしてくれる筈だ、いや、そう願うしかない。

手紙は八木典花ではなく、ヒーローのオールライトとして書いたものだ、ならば佐々木未来としてではなく自分もヒーローのサー・ナイトアイとして動かなくてはならない。佐々木は手紙の追記を見て喉から音が出る。

「頼むから、寿命を減らすような事をしないでくれ、典花さん…!」

 

場所は変わり雄英高校の施設内、嘘の災害や事故ルーム、とすると長いので略してUSJ内部に八木典花は既にいた。

彼女は朝食を取らず急いで家を出た、真っ先に雄英高校向かい、ヒーロースーツに身を包み、マッスルフォームで世話しなく施設内を走り回った。

バスが来る前に道中も含めて不審な点はないか、不備はないかと確認をしていたが不備も不審な点も無い、流石雄英高校と言うところだろうか。

 

確認をしているものの、予想以上にその施設は広い、到底一人で見るものではないその施設に彼女は焦るばかり、確実にタイムリミットは迫っている。昼食も食いっぱぐれたが、今は、今日はそれどころでは無い。

ここは通過点ではない、第一次目標到達点だ。

「…13号が、イレイザーヘッドが、オールマイトが!…怪我をする。くそ、くそったれだな、私よ!ここまで何も変えてないじゃないか!何をすればよかった!頼ればよかったのか!?言えばよかったのか!?いや、私が来た。私が、やる!」

 

不審な点は、不思議なぐらいに見つからなかった。

寧ろこの場の不審な点は自分なんじゃないかと、錯覚するぐらいに。

 

時は残酷に進む、止まることはない。

生きるのに必死で、焦るばかりで、後悔ばかりで、周りが見えていなかったようだ。

切島鋭児郎の声が聞こえた事により、八木典花からオールライトになった彼女は生徒のいる所までゆっくりと、踏み締めるように階段を登り始めた。それは背後を警戒するように、いつ来ても応戦できるように、それは元ナンバーワンヒーローの臨戦態勢だ。

その間、生徒たちの視線は演説のような説明をしているスペースヒーロー13号へ、13号の視線は生徒達へと、目線は互いにそちらに行っていた。

唯一相澤消太だけは、少し離れていた為に八木典花のその登り方と表情に違和感を覚え警戒をし始めた。そして少し前の話を思い出した。

「(あの人、笑顔が抜け落ちていて…背後を警戒している?そういや、USJで教師二人が怪我をする…まさか、今日の授業か!つまり俺と13号が!)」

 

13号の話が終わる、拍手が終わる。

全てが、終わり静寂を迎える。それは開始の合図だ。

「…!オールライトさん!」

「相澤先生?」

 

相澤が見たのはセントラル広場の何もない空間から現れた黒い渦、そこから見えたのは手、手、手。その隙間から見えたのはギョロリとした目、それが合図かのように一斉に人が飛び出してきた。あれが恐らくヴィランである。

命を救う訓練は奇しくも、命を救う実践となる瞬間であった。

「ひとかたまりになって動くな!13号!生徒たちを守れ!」

「イレイザーヘッドはそこから私の援護を!」

「この階段から援護を!?(取り残しか、個性を消せば良いのか?!)ああ了解!」

「何だありゃ!?また入試ん時みたいな始まってんぞパターン?」

「いや、それにしてはオールライト先生、凄く怖いよ…!(この前はオールマイトみたいな笑い方してる先生だったのに…笑ってない!)」

 

緑谷と切島が相澤の背から覗き込むも予想は外れる。

それはそうだ、1-Aは初めて本物のヴィランに襲われるのだから!

「動くな、あれはヴィランだ!」

 

「13号にイレイザーヘッド、そして見知らぬヒーローですか。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずですが…その贋作はオールマイトの代わりでしょうか?」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

「どこだよ…せっかくこんなに、大衆引き連れてきたのにさあ。オールマイト…平和の象徴がいないなんて。子供を殺せば来るのかな?」

 

平和の、象徴を、殺せ。

 

プロがなにと戦っているか、なにと向き合っているか、なにを見て戦うのか。この時1-Aは、初めて途方も無い悪意を見て、聞いた。

相澤は13号と上鳴に指示を出している間、オールライトは既にヴィランに向かって戦闘をしていた。

「射撃隊、いくぞお!撃て撃てえ!」

「情報じゃ13号とオールマイトだけじゃなかったのか!?誰だよあの二人!」

「知らねぇ!!が、一人で正面突っ込んでくるとは大間抜けだ!!」

「遅い!Carolina Smash!」

 

「う」「きゃ」

 

ヴィラン達の悲鳴が出ぬスピードで、的確に意識を奪っていく手刀。パワーだけじゃないとわかる動きにイレイザーヘッドは援護は必要なのかと思った。

「すごい、多対一であのスピードとパワー、たくさんのヴィランが次々と倒れていく…!」

「馬鹿言うな、パワーだけじゃヴィランとて人間だ、死んじまう。一芸だけじゃヒーローは務まらん、あの人は加減と的確に一箇所狙って意識を奪ってるんだ。それより早く避難を…」

 

させませんよ

 

音もなくゆらりと現れたその得体もしれない黒い靄は、突如として眼の前に現れた。

黒い靄は言う、我々はヴィラン連合だと!!

「僭越ながら、この度ヒーローの巣窟の雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたい、と思っての事でして。本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズですが…何が変更でもあったのでしょうか?まあ、それとは関係なく、私の役目はこれでして」

 

先手必勝、爆豪と切島が攻めに入るが攻撃はどうやら効いて無いようだ。相手は生徒といえどヒーローの金の卵

、そこはしっかりと警戒していた、つまり攻撃してくるのは予想の範囲か。

更にそこにはプロヒーローの13号、少し離れた所にイレイザーヘッドもいる。だがイレイザーヘッドは階段下のヴィランとこちらを交互に警戒している、集中力が今が一番散っている、そして個性の矛先はたった今雑魚へ向かった、やるのならば今だ。散らすならこのタイミングだ。

「みんな!」

「…!お前たち!」

 

1-Aは散り散りとなった、その場に残ったのは生徒は六人と二人のプロヒーローだ。

状況今、絶望的となった。だが焦りながらも皆の安否を確認する生徒がいた。

「皆は!?いるか!?確認出来るか!?」

「散り散りになっているがこの施設内にいる」

「物理攻撃無効で、ワープって!最悪の“個性”だぜおい!」

 

イレイザーヘッドと13号はこの状況では、同じ結論にしか辿り着かなかった。押すことも出来ず、引くことも出来ずの均衡状態化を崩す一線の掛け。

この状況を正確に説明出来る程の頭脳と冷静さを持ち、“個性”エンジン持ちにして、1-Aの委員長をする男!

「飯田!走れ!」

「相澤先生!?」

「委員長、君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください。警報鳴らす、電話は圏外、警報器は赤外線式です。オールライトがヴィラン達の気を失わせ、イレイザーヘッドが遠くからですが“個性”を消しているにも拘わらず無作動、恐らくそれらを妨害可能な“個性”がいて、即座に隠したのでしょう、とするとそれらを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」

「しかし13号先生、クラスを置いていくなど委員長の風上にも…!」

 

砂糖が背中を押し行けという、瀬路がその脚でモヤを振り切れと、芦戸が目で行けと、麗日がサポートをすると、そして13号が言う。飯田天哉は、覚悟を決めた。

「救う為に、“個性”を使ってください!!」

「お願いね、委員長!!」

「…!!」

 

 

 

一方少し時間は遡り午前のナイトアイ事務所。

そこにはインターン生の通形ミリオが来ていた、どうやら来る予定の時間から遅れてきたらしい。困った様に笑うミリオはナイトアイに謝っていた。

「タハハ!連絡ミスがあった上にボタンのミスをしたんだよね!すみませんね、サー!」

「掛け違いか、良いだろう。とりあえずそのシャツのボタンの掛け違いを直したらどうだ?」

「よく気付きましたね!って今日も地味ですねえ」

「挨拶はどうした、バブルガール」

「はい!おはようございます!」

「バブルガール、挨拶にユーモアが足りないな。まあ今は見逃そう、それで?連絡ミスとは?」

「雄英高校から本日のインターンは中止と、だけど俺には何故か連絡が来てなかったんですよね!それを幼馴染から聞いて真偽の程がわからないので二人で一度急いで朝一に高校に向かったんです!幼馴染の方は中止でしたが、校長にナイトアイ事務所なら平気かなと言われて急いで向かったということです!お昼前には辿り着けてセーフですよね!」

 

それを聞いたナイトアイは考えた、ナイトアイ事務所なら平気と言う言葉の意味を。バブルガールは今日なにかあるんですかね?と言うだけで見当がつかないようだ。

ただでさえ出社から落ち着きのないナイトアイ、考えが纏まった所で思わず立ち上がってしまう。

「…ッ!」

「わあ!んもう!今日どうしたんですか!?ユーモアどころか余裕も無いじゃないですか!」

「ユーモアはある」

「サー?何かあったんですか?」

「…雄英が、気になるだけだ。ミリオはまだ見てないかも知れないが、知り合いがそこで勤務し始めた。その事で少し気になる事がある」

「外回りのセンチピーダーが今朝言ってましたよ、午後まで落ち浮きが戻らないなら原因のもとへ向かってみてはって。流石ですねえ、私も気になったら見に行きたくなりますし、食べにいきたくなります」

「原因のもとか…」

「今まで見てきた中で明らかにサー、挙動不審ですよ。これはもう行ってみては?大丈夫です!センチピーダーと私とミリオくんで回してみせます!」

「…だがこれは、予知…に関わることだ」

 

バブルガールもミリオも驚きを隠せなかった、まさかここでナイトアイの“個性”の話になるとは思ってもいなかった。だが厳密には違う、確かに予知に似ているが予知ではない。

実際は彼女が見た、聞いた、体験したことである。

彼は元より予知を見る事ができる、自信がないのだ、恐れを知ってしまったのだ。あの時からずっと、引きずっている。

 

過程は変われど結果は変わらず。

そのことを、ずっと引きずっている。

 

だが今回は彼女が、八木典花がいる。

過程がどうなるか不明でも、結果が変わるかもしれない希望がある。あらましも

「未来が、…結果が変わるかもしれない。私は…」

「それは、良い方にですか?もしかして悪い方に!?」

「いや、わからない。それに私がその原因のもとに間に合うかも…」

「サー!俺と一緒に行ってみよう!」

「ミリオ?」

「な、何言ってるの、ミリオくん!危なかったらどうするの!?」

「サー、さっき言ってたよね、雄英高校が気になるって。なら雄英高校に関連する事なら、俺を雄英高校に送ると思って行ってミリオ!なんて、タハハ!…あ、あれ!?スベったんだよね!!!」

「それいい!サーがいるし雄英高校ならヒーローも居ますし安全!サー立って!はい、バイクの鍵です!この前買ってから此処に置きっぱなしでしたよね!あ、ヘルメットも今持ってきます!」

「…良いのか、私が行っても」

 

「「行きましょう!」」

 

ユーモアは少し惜しいがバブルガールの素早い対応、そしてミリオのユーモアに助けられたサー・ナイトアイはバイクのある一階に向かう。既にバブルガールがミリオとナイトアイのヘルメットを準備していた為、あとはエンジンをかけるだけ。一階に降りればセンチピーダーが帰ってきた所だった。

「センチピーダー、すまないが原因のもとへ行ってくる。バブルガールと共に後は任せた」

「そうですか、サー、行ってらっしゃいませ」

「サー!ヘルメット被りました!」

「未来、変えてくださいよ!良い方に!」

「…言われなくても」

 

ヘルメットを被り、二度エンジン音がナイトアイ事務所一階に響き渡る。この時のために一階はバイクがすぐ発進出来る様、扉が開くよう工事はしておいた。車とて事務所に地下を作り置いてる。

何故地下をわざわざ作ったのか?それはバブルガールとミリオの発案なのでよくわかってないが作って入れてしまった。

それはともかく、プロヒーロー サー・ナイトアイ専用にタンデムや他にもいろいろと出来るようにカスタムされたスーパースポーツバイクK.N.H2に乗りナイトアイとミリオは事務所を飛び出した。

 

尚ヘルメット内には会話が出来るようになっている!

壊れなければヘルメット外が工事していようとどんなに煩かろうと意思疎通ができるぞ!

「すまないがミリオ、法定速度ギリギリに飛ばすぞ。間違えて透過するなよ!!」

「え?うわァァァ!」

 

 

 

時間と場所は戻りUSJ、未だにヴィランとの戦闘は続いているがオールライトは気付いた。イレイザーヘッドの個性が届いていないと言う事に。ミズーリースマッシュをした後、オールライトは思わず13号達がいる方を見る。

「Missouri Smash!(ヴィランが中々減らないな!ここに集中してきているのか!?それにイレイザーヘッドの抹消がない!まさか、生徒の方に!)」

「何処向いてるんだ?」

「本命か!(か、彼は!)」

 

「スマッシュか、オールマイトのフォロワーか?」

 

動揺により、近付いてくるヴィランに拳を向けるも、それは止まってしまった。彼を彼女は知っている。

「…ッ!(死柄木、弔!)」

 

死柄木に腕を掴まれ、彼女の腕はボロリ、ボロリと崩壊が始まる。それにハッとしたオールライトは、急いで死柄木を少し遠くへ振り払った。

それと同時に、複数のヴィランが纏まって飛び掛かって来るが、直ぐ様腕を掴み纏めて遠くへふっ飛ばした。

「なんで俺を殴らなかったかはわからないけど、その“個性”にその風貌、戦い方までオールマイトそっくりだよなあ。だけどそこまで力が強いなら仲間と共に戦えないよな、だからイレイザーヘッドを呼ばなかった。あんたが得意なのは、あくまで力によるゴリ押しの奇襲、初見殺しというところかな?大きな声でイレイザーヘッドを階段に居させ、真正面から飛び出してきたのは生徒の安心のためか?」

「…そう思うならそう思えばいい、Oklahoma Smash!(今のでだいぶ減ったぞ!このままやれば…)」

「かっこいいなあ、かっこいいなあ…ところでヒーロー、本命は俺じゃない」

 

オクラホマスマッシュの回転が終わった所を、背後から脳が出ているヴィランが現れ、オールライトは頭と怪我をした腕を捕まれ勢いそれは強く、それはそれは子供がオモチャをフローリングに叩き付ける遊びかのように強く。

「んぐぁ!!」

 

コンクリートの地面に、捩じ込まれた。

対平和の象徴 改人“脳無”

 

捩じ込まれた上にまた捩じ込みながら押さえつけられ、腕は綿の入った人形のようにひしゃげる、顔をコンクリートに捩じ込まれていて悲鳴はあげられない。

リミッターのない改人の奇襲により、オールライトは動けなくなっていた。

「圧倒的力の前では平和の象徴のフォロワーもただの人形か」

 

脳無は彼女の掴んでいた腕を持ち上げた、力の調節が出来ないのか更に力が入り、腕からは血がボタリ、ぼたりと滴り落ちる。そしてまた、コンクリートに叩きつけた。

「ッハ!」

 

近くでは息を潜め生徒が見ていた、緑谷と蛙吹、峰田だ。三人は何も出来ず、息を潜め見守るしかなかった。

一方死柄木弔の名を呼ぶ霧が彼の背後から現れた、そして死柄木言うにはどうやら霧の名は黒霧と言うらしい。黒霧は13号を戦闘不能にし、生徒を1名逃し、イレイザーヘッドがこちらに向かってしまったところで此処に来たようだ。

「は?はー…はあ、黒霧おまえ…おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ」

 

そう言いながら顔を何度も掻く死柄木、だが彼はそこまで馬鹿ではない。何十人ものプロヒーロー相手に敵わないのはわかっている、()()のゲームはゲームオーバーだ。

「帰ろっか」

 

近くで息を潜めていた緑谷たちは安堵した、だがそれはたったの一瞬だ。

気味が悪いと蛙吹は言うが、それは緑谷も同じな様だ。

「(オールマイトを殺したいんじゃないのか!?これで帰ったら雄英高校の危機意識が上がるだけだぞ!それに、ゲームオーバー?何だ…何考えているんだ、こいつら!)」

「けども、その前に平和の象徴としての矜持を少しでも…へし折って帰ろう!」

 

離れていた筈だ、気付かれても居なかった筈だ。

それが慢心のもとであった。死柄木は一瞬にして、3人の目の前に現れ、蛙吹梅雨に手を伸ばす。

緑谷出久はまるでスローモーションのように、それに気付いた。頭に過るのは、オールライトの腕の一部の崩壊。

だが死柄木弔が触れても崩壊はせず、一人、ヒーローが辿り着いたのだ。

「…かっこいいぜ、イレイザーヘッド」

「生徒から離れろ、ヴィラン」

「雑魚は全滅かあ」

 

死柄木とイレイザーヘッドの目は交差してた、それでも彼に気付かない筈は無いのだが緑谷はただただ焦っていた。

いつまでイレイザーヘッドの個性が続くかわからない、未だに蛙吹の顔にくっつく手、脳無の下で動かず今またさらに顔を捩じ込まれたオールライト。

何よりこのヴィランは、飛ばされた先で彼らが戦った敵とは明らかに違う。

個性はもちろん、ここに一瞬で来る動き、オールライトに投げられてもやられない受け身、何より統率が取れる。

よい選択が見つからぬまま、緑谷は咄嗟に殴り掛かった。

「手っ…離せえ!!」

「脳無」

「スマッシュ!」

 

その一言が、脳無と言う一言が緑谷には聞こえなかった。

スマッシュをしたのにも関わらず折れてないという事実に、一瞬思考が向かったからだ。意識を目の前に向ければ、そこには改人 脳無だ。

「いい動きするなあ…それにスマッシュって、またオールマイトのフォロワーか?まあいいや君」

 

脳無が緑谷の手を掴む、死柄木が蛙吹を崩壊させようとする、蛙吹が舌で緑谷を押す、イレイザーヘッドが脳無の方に回り込んで死柄木を見ようとする、いつの間にか気を失っていたオールライトは脳無にボロボロにされた体で立とうとする。

その濃い情報量の全ては一瞬の出来事だ。

だがそれを打破する男がいる、知っているか?

ヒーローは遅れてやってくる、という事を。

 

「もう大丈夫」

 

USJに入るための頑丈なドアが二枚同時に吹っ飛んだ。

砂煙と共に、その異様な存在感は誰もがそちらに意識を向けた。攻撃の手も、それから逃げる為の思考も、全てが止まる。

皆が皆、階段の上に視線が向いた。

私が、来た

 

あー、コンテニューだ




今回誤字脱字変換ミス多かったので可笑しかったらすみません、5回は見ましたし完成してからもこの話を一度見直したのでないと思いたい…!
色々おまちしております。

ちなみにサー・ナイトアイ専用カスタムのバイクK.N.H2は実在するバイクの頭文字を取りました。


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No.13 オールマイト、到達

オールライトと言う名のバタフライ・エフェクト。
遂に波を起こし始める。


それはヴィランへの怒りか、自分自身へ腹が立つせいか。

話には聞いていた、それがいつか、どのタイミングかは知らなくとも聞いていた筈なのにと、目の前のことばかりだったと言われても仕方ない。彼の顔は緩やかに険しくなる。

マッスルフォームの残り時間は、もう少ない。

「…校長の話を振り切ってやってきたよ。飯田少年とすれ違い。あらましも聞いた」

 

そう言いつつ 、少しでも時間を無駄にしない為に()()()()冷静になって辺りを見る。

13号はコスチュームの背中が破けている、つまり背に怪我を負った。生徒は見るからにバラけている、そしてヴィランもいる。

 

ああ、やはりUSJの件は避けれなかったかとオールマイトは内心思う。では怪我を負うと言われた教師二人、その二人の内もう一人は誰だ?と思った。

イレイザーヘッドは怪我をしていない、緑谷少年とその周りの子も無傷だ。

もう一人は見当たらない、何か変わったのかと彼は思った。だがそれでも、どれだけ子供らが怖かったか、後輩らがどれだけ頑張ったか。

それでも彼は胸を張って言わなければならない、それがNo.1としての、平和の象徴たる務めであるのだから。

それは仲間に向けて、ヴィランに向けて、生徒達に向けて、その場にいる者達に向けての牽制であり精神の平穏である。

「もう大丈夫、私が来た!

「待ってたよヒーロー、社会のごみめ」

 

「「「オールマイトォォォ!!!!!」」」

 

ただでさえボロボロのヴィランはさらに怯え、生徒たちは喜ぶ中、緑谷出久だけは別のことを思った。そう、あのオールマイトが笑っていないと言う事に気付いたからだ。

オールマイトは残りのボロボロのヴィランを瞬時に倒し、とても早いスピードで緑谷たち三人を確保し、死柄木にも軽く一発攻撃を仕掛けた。

「ああああ、だめだ…ごめんなさい…!お父さん…」

 

オールマイトの軽い攻撃で死柄木の顔を掴んでいた手が遠くへ飛んだ、その手のことを()()()()と言い、死柄木はふらつき取りに行きながら、その手に向け謝る。

一方そんな事どうでもいいのか、オールマイトは出方を見ながら、助けた生徒達に向けて入り口へと言葉で誘導する。

「皆入り口へ、早く!」

「え!?あれ?!速い…!!(オールマイト…!やっぱり笑っていな…あれ?オールライトは!?)」

 

視界がヴィランから外れた緑谷は焦りながらも少し冷静になった、脳無にやられていた筈のオールライトがその場に居ない。緑谷はハッとして、脳無のことについて教えようとした。

「助けるついでに殴られた。ははは、国家公認の暴力だ。さすがに早いや目で追えない、けれど思った程じゃない。やはり本当だったのかなあ?弱ってる話…」

「オールマイトだめです!あの脳ミソヴィラン!!ワンっ…、僕の腕が折れない位の力だけど、ビクともしなかった!それにあいつ…!」

「緑谷少年、大丈夫!…CAROLINA!」

「脳無」

 

「(違うんだオールマイト)」

 

緑谷の話を最後まで聞かずに、オールマイトはスマッシュを撃ちに飛び出た。緑谷出久の言いたかった事は自分の力の事だけではない、オールライトがやられたのだと言いたかった。

「マジで全ッ然…効いてないな!それに顔面も効かないか…!」

「効かないのは“ショック吸収”だからさ。脳無にダメージ与えたいなら、ゆうっくりと、肉を抉り取るとかが効果的だね…それをさせてくれるかは別として」

 

ならば君に加減をしなくていいな!

 

それは彼らの頭上から響いて、聞こえてきた。

その声のトーンに雰囲気は、まるでオールマイトのよう、死柄木は少し驚いたのか肩を上げる。そしてオールマイトは気付いたのである、もうひとりの傷付いた教師が誰であるかに。

「Alabama Smaaaaash!」

 

脳無はその声と存在感から反射的に腕を上げ、アッパーを繰り出す、そこに頭上から力を込め、飛び蹴りを繰り出し、続いてストンピング*1をその場で何度も繰り返す。

「おいおいマジかよ」

「うわあぁぁ!」

 

脳無とオールライト、この二人の攻撃はとても激しいものだった。

最初の頭上からの一撃でその場の近くにいた死柄木は風圧で飛び、黒霧も耐えきれず飛ばされてしまった。離れていた緑谷達も例外ではない、風圧に耐えきれずに転がり始めたり、飛ばされてしまう。イレイザーヘッドは辛うじて立ってはいるが、体が軽く風圧で後退をしてしまった。

その場にはただ一人、オールマイトが踏ん張り耐え、近くで戦闘を見ていた。

「足技とは言え…!どれだけのチカラを込めているんだ、ヴィランが沈んできてるぞ!?(それにその腕は!その顔は!何故怪我をしている…!それにアラバマ*2だと!?彼女はいったい、何百発蹴る気だ!)」

 

本来ならばオールマイトの連続殴打技を300発以上打ち込まれ、後にフィニッシュのアッパーで天井を突き破り、空まで吹っ飛ぶ脳無。

 

その後のオールマイトは、マッスルフォームの持続時間が減る。彼女はそれを経験している。

八木俊典が知らなくとも八木典花は少しでも持続時間を延ばす為に、減るのを防ぐ為、彼女は脳無が退き、皆がトビラが吹っ飛ぶ音と共に、オールマイトに意識が集中した瞬間、あの場からUSJの一番高い所まで飛んだのだ。

そして前回と同じ条件とわかり、そのタイミングを見計らい、脳無の上に狙いを定めて、勢い良く降ってきた。

「…何回踏んでんだよ、それに脳無の腕が短くなってくる。超再生とショック吸収だぞ?」

「死柄木弔、これはマズイのでは?」

「脳無を上回るチカラ?」

 

ズドンという音が耳に聞こえた、地面が振動で揺れ響いた。脳無は地面に沈み込み、姿が見えなくなる。それは誰もが疑う光景であった、特にオールマイトは内心動揺をした。

その場に立っているのは怪我だらけで、血だらけの左腕で、その腕がひしゃげながらも、笑ってるヒーローなのだから。その顔を見た死柄木は叫び始める。

「…ああ、ムカつくなあ!俺は怒ってるよ!同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ、良し悪しが決まる、この世の中に!何がヒーロー、何が平和の象徴!!所詮抑圧の為の暴力装置だおまえは!脳無を沈めたおまえも!暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺すことで世に知らしめてやる!」

「めちゃくちゃだな、そういう思想犯は眼に静かに燃えゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ嘘つきめ」

「バレるの早…」

 

オールマイトがそう言えば、死柄木がニタリと笑う、だがしかし、余裕そうに見えても死柄木たちの劣勢は続く。脳無の沈んだ音を聞き、したっぱのヴィランたちを倒した生徒や近くで様子見をしていた生徒が集まってきたのだ。

「攻略された上に全員ほぼ無傷、凄いなあ最近の子たちは。恥ずかしくなってくるぜ、ヴィラン連合!…黒霧、ありきたりの追加だ」

「なに!?」

「俺もあまり好きじゃない追加だけど、仕方ないよな?あの幽霊の言う通り、油断はしない方がいいって助言されてるんだから。来い、脳無」

 

驚くオールマイトを気にせずに黒霧は個性を使い、灰色の脳無を追加した。だがその脳無は先程の黒い脳無より一回り小さい、先程の脳無と違い筋肉もそんなになさそうだ。

「超再生とショック吸収の劣化版、言わばお試し用脳無か?」

「お試しは必要だったのでしょうか?」

「暇つぶしだろ。脳無、黒霧、やれ。俺は子供をあしらう。クリアして帰ろう!

 

会話を聞いていたオールライトは悔しく思う、左腕はひしゃげた、両足は正直立っているのが限界。体が軋み、悲鳴を上げている。

その場からもう一歩も動けず、何も変えられないのかと思う。

一方オールマイトは刻一刻と迫るタイムリミットの中、覚悟を決めていた。

「(確かに時間は一分もない。それに力の衰えが思ったより早い!しかし、やらねばなるまい。何故なら私は、この世界の!)」

 

「おい来てるやるっきゃねえって!」

「平和の象徴はてめェら如きに殺られねえよ」

「爆破してやらァ!」

 

「(平和の象徴なのだから!!)」

 

それは圧、殺気、プレッシャー、様々な名を持ち形容されるもの。

子供たちに向かった死柄木は思わず飛び引いてしまう。そして指示のままに向かった脳無は、オールマイトと真正面からの殴り合いを始めた、その殴り合いによる風は先程よりも凄い。殴っているオールマイトの頬の肉が風圧でベロリと少し削げる程だ。

一回り小さくとも加減を知らぬ脳無は出鱈目な力で殴り掛かる、そして一発一発の一撃全てが、100%以上の出力で撃ち込むオールマイトはその拳へと的確に拳を当てる。

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!ヴィランよ!こんな言葉を知っているか!!?Plus Ultra!!(更に 向こうへ)

 

天井を突き破る脳無、フィニッシュを決めたオールマイト。

ズキズキと腕の怪我の痛みを自覚し始めた彼女は、唇を噛み締めた。その手も伸ばせず、その場から足も動けず、その場で右手の拳を握りしめる事しかできないと思うオールライト。

「(…何も、変えれない…!)」

 

だが変わっている、変えれている。

イレイザーヘッドは怪我をしていない、オールマイトは脳無による腹への怪我もせず、今はまだ血も吐いてない。そしてまだ変わることを彼女は知らない。

「やはり衰えた、全盛期なら5発撃てば十分だったろうに、150発以上も撃ってしまった。(…そして時間切れだ)さてとヴィラン、お互いに決着をつけたいね」

「チートが…!それで衰えた?嘘だろ、完全に気圧されたよ。ああ全っ然弱ってないじゃないか!あいつ…俺に嘘教えたのか!?あの死にぞこないの幽霊も…!」

「どうした?来ないのかな!?クリアとかなんとか言っていたが…出来るものならしてみろよ!!」

「うぅうおぉぉぉぉ…!!」

 

タイムリミットは既にオーバーをしているオールマイトはその不敵な態度で虚勢を張り、死柄木はゲームクリアが出来ないことに焦り、それをアドバイスしながら落ち着かせる黒霧。

遠目からはそれを見見ながらその場から動けぬ生徒の四人とその側にいるイレイザーヘッド。その中間にはオールライトがいる。

先行き不透明な混沌としたこの場は、正に一触即発の状況である。死柄木が攻めに来るか、撤退するかでこの戦況は大きく変わりかねないのである。

 

そんな所に明らか場違いな、それもめちゃくちゃ五月蠅いバイクの音が聞こえてきた。USJの扉はすでにオールマイトがふっ飛ばしている、そのままバイクは突っ込んでここに来れる状態だ。

わざと吹かしてるのかと言うぐらいに、音は近付いて来た。

「まさか、もうヒーローですか。死柄木弔、撤退を」

 

あまりにも甲高く吹かしたバイクは着いてやいなや、階段を飛んだ。

階段にいた生徒達はバイクに引かれてはいないものも目を点にした、それは下にいた生徒達やイレイザーヘッド、ヴィランも同じである。

「と、飛んだァ!」

「死ぬんじゃねぇか?」

「(雄英にバイクに乗ったヒーローなんて居たか?)」

 

「こっち来るぞ、黒霧。ゲームオーバーだ」

「撤退ですね」

「帰って出直すか。…なんだ?!」

「逃がすと思うか!!」

 

二人のナチュラルボーンヒーローは目を大きく開いた、この雄英高校に居ない筈の声であったから。何より一度体験していた事によりオールライトは、本来ならば絶対に来ない筈の人物が来た事により心底驚いていた。

その人物はオールライトの方に落ちながら、武器と言えばいいのだろうか、それを投擲し、死柄木の方へ攻撃をした。

その武器は、通常ならば武器にはならない筈のモノである。避けた死柄木は足元の凹みを見て、ボソリとそれを見ながら目を疑う。

「ハンコ?どれだけ重たいんだぐっ!」

 

時間差で投擲されていた超質量印の攻撃に当たり、そのダメージで唸る死柄木、バイクに乗り攻撃をし、その場に降り立ったのはサー・ナイトアイであった。そしてすぐに死柄木にまたもや何か撃ち込まれる、先程よりも静かではあるが、それは存在感のあり、生徒達は安堵するものであった。

「ごめんよみんな、遅くなったね。すぐ動ける者たちをかき集めてきた」

「1-Aクラス委員長飯田天哉!!ただいま戻りました!」

根津たちが来たことにより、スナイプが銃弾で腕や足を、サー・ナイトアイは超質量印で足下を狙い逃すまいとするも死柄木はダメージのみ。辛うじて個性が使用できた13号はブラックホールで逃すまいと黒霧と死柄木を引き寄せるも抵抗されてしまう。

「今回は失敗だったけど…今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイト」

 

その場には最初っから死柄木と黒霧の二人は居なかったかのように、二人は逃げ去った。残ったのはヴィランに襲われたと言う事実と、怪我をした教師は二名いたという事だった。

変わった事は多数ある事を今の彼女は気付けはしない、緑谷出久は無傷だ、イレイザーヘッドもまた無傷。オールマイトは脳無による大怪我もしていない。

「なんてこった…」

「これだけ派手に侵入されて逃げられちゃうなんて…」

「…それよりも今は、生徒らの安否さ」

「それと…」

 

セメントスはそう言うとオールマイトの方を見る。オールマイトの体からは煙が出ていた、マッスルフォームからトゥルーフォームへと戻りかけている、いや、煙で隠れているがもう戻っている。

緑谷しかり、切島もそちらを見ていた為、セメントスは急いでオールマイトとオールライトの二人が隠れるように壁を作り、囲った。それでホッとしたのかオールマイトは崩れるように座り込み、オールライトは力の抜けたように倒れてしまった。

近くにいたサー・ナイトアイは思わず叫んでしまう。

「オールライト!」

 

その声を聞いて座り込んでいたオールマイトはそちらに向かいたい、向かいたいが今になって少し咳き込み、手に血を吐き始めていた。今や変わった関係の八木典花、心配で堪らないのだ。

血の付いてない手を使い、四つん這いになりながらオールマイトは向かった。

「典げほゲホッ、のりか、ゲホッゲホッ、典花!大丈ゲホッゲホッ、大丈夫!?」

「オールマイトさん、血を吐いてます。あなたが大丈夫じゃ無いので今は動かないでください」

 

セメントスがオールマイトに寄り添い落ち着かせる、その倒れたオールライトの方に根津が走って来た。

伝える事がある、彼女の意識が飛ぶ前に。それを伝えるのと伝えないのでは彼女の気の張りが起きた後、眠ってる間と違うはずだから。

「オールライト!気を失う前に聞いてほしいのさ!オールライト!オールライト!」

「こう、ちょう…」

「未来は変わったのさ」

「…そ、です、か」

 

それだけを言い、オールライトの瞳は閉じた。彼女の体からも煙が立ち、彼女もまたマッスルフォームからトゥルーフォームへと戻った。だが怪我はそのままで、事は急を要する、根津は急いで指示を出す。

「オールライトを病院へ!すまないがサー・ナイトアイ、彼女をよろしくなのさ!イレイザーヘッドは彼等と一緒に生徒を回収しながら外へ、プレゼント・マイクは生徒たちに聞こえるように個性で呼び掛けを」

 

次々と言い渡される根津の指示、集まる生徒とヒーローたちの雑踏、生徒たちのさざめき、数分もすればサイレンも聞こえ、USJの外には警察官。

八木典花を壊れ物のように抱きかかえ、刺激をなるべく与えないように出口に向かい、階段に登るサー・ナイトアイ。

その後ろを見ながらイレイザーヘッドは思い、考えた。

「(…俺は、鍛えなおさないといけないな。これが今後もあるのなら、毎度これじゃ、毎回これがあるなら…この人は潰れる)」

 

 


 

「今回は事情が事情なだけに小言も言えないね」

 

そうリカバリーガールが保健室にて、八木俊典に向けて言う。怪我は脳無との殴り合いで少し頬に怪我が、そして血を吐いていたので俊典は保健室へと運ばれていた。そして骨が本当に折れてないか不安だった俊典は、緑谷出久も連れて行った。

「…多分だが、私、また活動限界早まったかな。一時間くらいはほしいが」

「オールマイト…!」

「まー仕方ないさ!こういう事もある!」

 

よいしょっと言いながら、保健室のベッドで寝ていた俊典は起き上がった。そこに一人の男がやって来た、彼の名は塚内直正(つかうち なおまさ)、オールマイトと仲良しの警察だ!

「ハハッ、何だその紹介。さて、早速で悪いがオールマイト、ヴィランについて詳しく…」

「待った、待ってくれ、それより、生徒は皆無事か!?八木…オールライトと13号、イレイザーヘッドは!!」

「生徒はそこの彼以外で軽症数名、教師3人はとりあえず命の別状なしだ。四人のヒーローが身を挺していなければ、生徒らも無事じゃあいられなかったろうな」

「そうか…しかし、違うぜ塚内くん。生徒らもまた戦い、身を挺した!!こんなにも早く実践を経験し、生き残り、大人の世界を、恐怖を知った一年生など今まであっただろうか!?ヴィランもバカなことをした!!このクラスは、1-Aは強いヒーローになるぞ!!私は、そう確信しているよ」

 

そう八木俊典が言うと塚内の携帯が鳴る、メールの受信音だったらしい。それを確認した塚内は俊典に向ってそれを報告した。

「オールライト、八木…えっと、ノリカ?彼女の手術終わったみたいだよ」

 

それを聞いて緑谷出久はハッとして思い出した、腕はひしゃげていた、顔からも血を流していた。そしてサー・ナイトアイのあの声からして倒れたのだろうと推測が出来た。

「腕が酷く粉砕骨折で破片を少し取り除いてから、また少しずつ治すらしい。足はヒビ入ってるし、顔も骨折、まあ少しの間安静にしといてって感じみたいだ」

「なら破片除いたあとは私も治そうかね、あの子は無茶ばかりするねホント。オールマイト!」

「あ、ハイ!」

「お互いに気を付けなよ。それにあの子は特にアンタより危ういんだからね」

「私より危うい、とは?」

「ちょっと考えてわからないなら、サー・ナイトアイとあの子とあんたの3人で話したほうが良い。ここで詳しく話す事じゃないからね」

 

そう言われ俊典は少し考え俯き始める。

彼は塚内にはまだオールライト 八木典花のことはしっかり話してはいない。緑谷には詳しく話してはいないが、恐らくヒントを与えれば何者かわかるだろう。

そしてそこから流石のオールマイトもわかるだろう、オールライトの危うい所、似てる所を。

本来ならば、無茶をしたのは八木俊典だ。

 

八木俊典は考えた、彼女の危うい所を。

思い浮かべた、オールライトとして戦う彼女のことを。

浮かび上がる、アシンメトリーな自分と彼女、お互いオールマイトとしてきたそのヒーローの姿を。

 

俊典は顔を上げ、ゆっくりベッドを降り、緑谷に塚内と帰ってもらうことに同意を貰うと上半身包帯と裸のまま仮眠室へと向かった。

そこで予備の服を取り、パッと着替えて携帯を手に取り、不慣れな動作でメールを送る。

それはまるで業務連絡のようなメールだった。

 

 

 

――――――――――

Sob 必ず開く事

From 八木俊典

To サー・ナイトアイ

今度3人で話し合う時間が欲しい。

ナイトアイ、君の連絡待ってる。

――――――――――

 

 

 

「ってえ…両手両足撃たれた、完敗だ…脳無2体もやられた。手下共は瞬殺だ、子供も強かった。平和の象徴は健在だった…!話が違うぞ先生」

「違わないよ」

 

そう声を発したのはバーのTV画面から。

薄暗いバーの床に横たわる死柄木弔、彼はその声を怪我のこともあるのだろうが大人しく聞いていた。

「ただ見通しが甘かったね」

「うむ…なめすぎたな。ヴィラン連合なんちうチープな団体名で良かったわい。ところで、ワシと先生の共作の脳無とあの半透明が勝手に指示した脳無は?」

「回収してないのかい?」

 

それに答えるのは近くにいた共に帰ってきた黒霧だった。黒霧曰く幾らワープを使う自らと言えど、正確な座標を把握出来なければ探せないという発言であった。

「そのような時間は取れなかった」

「せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに…まァ、仕方ないか、残念」

「パワー…そうだ。一人、いい動きする子供。一人、オールマイト並みの動きをするヒーローがいたな…」

「…へえ」

「あのガキ、あのヒーロー、あの邪魔が無ければオールマイトを殺せたかもしれない…くそっ…くそ…!」

「悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ。先鋭を集めよう!じっくり時間をかけて!我々は自由に動けない。だから君のような“シンボル”が必要なんだ、死柄木弔!!次こそ、君という恐怖を世に知らしめろ!

 

*1
踏みつけ・踏み蹴りのこと

*2
2011年04月25日から28日にかけてアメリカのアラバマ州を中心に起きた425以上のトルネードが発生した。




今回でUSJ編としては終わりですが雄英&USJなので体育祭も同じ編でやると思います。
そして自分でも書いててここにサーが来るとは思わなかった、それに彼が間に合う予定で書いてなかったので…
それではNo.14に向かって!せーの!Plus Ultra!!!


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No.14 瞳を開けて未来を見て

今回は短いです、それとサー・ナイトアイ誕生日おめでとう!


 

ピッピッと機械的で高い音、一定のリズムでその鼓動を心電図は伝える。手術による麻酔の為、八木典花は病室で、魘されることもなく、人工呼吸器を付けて、彼女は静かに眠っている。

USJ翌日の雄英高校は臨時休校となっていた。飛んでいった脳無も、めり込み埋まりきった脳無も、既に逮捕されている。生徒たちは無事、心配事はとりあえず無いとわかっている。

しばらくは平気だと分かっているかのように、麻酔が切れている筈の時間になっても、彼女は目を覚まさなかった。

 

昼前になり彼女の病室に一人の人が男がやってきた、グラントリノだ。誰にも説明をしては居ないが、根津の要請により戸籍を作る際、グラントリノは彼女の身元保証人として名前が入っている。その為、彼女が入院する際にグラントリノに連絡が入って来た訳だ。

グラントリノは着くやいなや椅子を引き寄せ、彼女の側に座る。じっと見れば顔や腕、足、全体に包帯が巻いてあるのに気付いた。

「やれやれ、まだ寝取るのか。…まったく、ここまで人様の分の怪我を一人で負わんくても、俊典ならそう簡単に死なないぞ、典花」

 

辛うじて包帯から出てる髪の付近を、グラントリノはワシャワシャと撫でる。起きていたら良いリアクションをしてくれる筈だ、そう思うとグラントリノは気持ちの整理とお見舞いの品を買っていなかった為、病院内のコンビニへと向かった。

 

そこへタッチの差でまた一人病室へ人がやってくる。

ずっと動いていたのか、スーツが少し草臥れてしまったサー・ナイトアイだ。彼女の同居人の為、普通なら連絡が入っているがその場に彼はいた、向かった病院先を前もって聞いていた。

病室に入り、寝ている典花に近付き、彼はベッドに手を置いた。

「手術は成功と聞いていたが、麻酔が切れてないのか?まだ、まだこんなにもゆっくりと寝ているのか。…未来は変わった、か(…ふかふかのベッド、か。怪我をしないで寝てほしかった)」

「おぉ、ナイトアイか」

「グラントリノ?」

 

片手にどらやき、片手にコンビニの袋を携えグラントリノが帰ってきた。病室に入るな否や、グラントリノはどらやきを食べ始める。

「まだ目は覚めとらんぞ、麻酔はとっくに切れている筈だがな。あむっ」

「そうですか、まあ怪我が怪我なので…」

「腕は粉砕骨折、顔面は骨折、足はヒビ、他にも切り傷とか沢山ある」

「そ、そんなに…!?」

「元オールマイトとは言え負い過ぎだ、これから先について話し合った方がいいだろうな。どうせしっかりと話しとらんだろ」

 

二人がそう話していると鳥のさえずりのように小さい声が聞こえた。ここは…と言うか細い声と共に、グラントリノがベッドに近付く。ベッドに寄せていた椅子に座り、グラントリノは八木典花の顔を覗き込む。

まだ眠いのか、まだ意識がハッキリとしていないのか、しっかりと開けていない虚ろな目で、また眠りそうな典花に対し、グラントリノは大きな声で話しかけた。でなければ、そのままずっと、寝てしまいそうだとグラントリノは思ったからだ。

「起きたか!!」

「グラン、トリノ…ははは、お元気で、何より」

「笑ってる場合か!ワシの心配より自分の心配をしろ」

「申し訳、ありません」

「医者を呼ぼう、グラントリノ」

「サー、君も…居たのか」

 

ナースコールを持ち、ボタンを押さずに思わず固まったサー・ナイトアイ。なんて声を掛ければいいのか、彼は迷っていた。

「手紙、読みました。もしかしたら来るのが今日かもしれない、恐らく怪我をするだろう。…何が、恐らくなんだ…!」

「…ここまで、怪我するのは、…正直予想外だった」

「…私達が何を知って、何を知らなくて。あなたが何を覚えていて、体験していて、どこまで知り得るか。それを踏まえた上で、何処まで誰を巻き込めるか」

「話し合う、必要が、あるよな」

「…当たり前だ」

「だよ、な。(あぁまた、怒らせてしまったな)…すまない、サー」

「オールマイトは確定で巻き込みます。とりあえず一度話し合いをしないと…ん!?」

 

オールマイトに連絡を取る為、メールを送ろうとしたサー・ナイトアイは珍しいリアクションをした。何故なら普段は連絡をしてこない彼からのメールであったからだ。ちなみに現在は昼である。

「お、オールマイトからメールが来ていた。時刻は…昨日の夕方」

「アイツ、待ちぼうけか!」

「珍しいな、サーが、連絡を怠るなんて…」

「あなたを救急車に乗せた後、少し忙しかったんだ。根津校長と共にUSJの内の残党の確認の手伝い、ミリオ…私の所に来てるインターン生の確認、警察からの事情聴取など、携帯を見る暇がなくてな」

「ミリオ…通形ミリオくんか」

「知っとるのか?」

「あぁ、軋視…あちらのサー・ナイトアイに進められたことがある、個性の件でね」

「…そこは同じなのか。まあ、そういう事だ。」

 

呼吸の整ってきた八木典花を見て、携帯を手に彼は改めて思う。話し合い、オールマイトとサー・ナイトアイ、そしてオールライトでする気でいた。

 

だがそれで良いのだろうか?

 

先の“見えない未来”はどうなるかわからない。

二人は感情的で、一人は口が止まってしまうかもしれない。巻き込むと決めた、ならば三人ではなく、信頼出来る人または関わる人を話し合いに巻き込もう。

呼ぶとするならば、あの二人から。まずは近くにいる一人に声を掛けとくべきだ。携帯を握りしめ、意を決する。

「グラントリノ」

「…なんだ、サー・ナイトアイ」

「オールマイトと私と、オールライトの話し合いの場にあなたも居てくれませんか?」

「ワシも?」

「私だと、恐らく恐れから最後まで話せなく、なりそうで、オールマイトとオールライトは話が逸れるでしょう。それに、あなたにも聞いていて欲しい。この話し合いは、一筋縄ではいかないでしょう」

「…まあ、断る理由なんてないからな。いいぞ!(一筋縄な、寧ろ切れてる紐を繋いでいくようなモノだ。それが未来への縄になるとは限らん)」

 

返事とは裏腹に、グラントリノの考えは明るくはない。

未来への道筋の為のヒント、出来事等を繋げていった結果が、避けられぬ悲劇になる可能性を危惧している。

「(俊典と典花、オールマイトとしての攻撃の仕方は同じだった筈。見た感じの笑い方も、恐らく思想も、同じ筈。なんだ?この違和感は)…ナイトアイ、ナースコール押してやれ」

「そうでした、今押します。典花さん、動かないでくださいね」

「ああ、わかったよ」

「起き上がるのもだ、ああ寝ていてください!呼吸器を外さないでくれ!」

 

言葉では言い表せず、何か引っかかるグラントリノは二人のやり取りを見て、今はその違和感を胸にしまい込んだ。

その後、医者やナースが来て慌ただしくなる病室。

壁に寄りかかり、それを静かに見るサー・ナイトアイとどらやきを食べながら見守るグラントリノ。

 

意識レベルや呼吸には問題は無く、早くても明日には車椅子だが退院は出来ると医者は言うが、戦闘行為や激しい動きは控えて欲しいと言うことだった。

足のヒビはリカバリーガールになら、体力が戻り次第すぐに治ると言われたが、治しきれてはいない。特に腕は現状完治がしていなく、一回の手術では完治しきれず、完治しても腕の形が元通りではなく歪んだままの可能性があるということ、眼も何らかの障害が残る可能性があると言い残した。

「腕と、眼が…」

「眼か、相澤くんのを私が負ったと言う事か…」

「おい、典花。前に言ったこと覚えとるか?」

「前に言ったこと?」

「怪我治して、体鍛えて、体を万全にしろって言っただろ。今のままじゃ手は貸さんし、死に急ぎてぇのか」

「そ、そんな訳では…」

「焦るな、それと信用しろ、自信を持て」

「わ、私はただ皆を…!」

「ワシらがいる、お前も俊典も、もう一人じゃない。ちったァ頼れ!」

「…よろしいの、でしょうか。ずっと、迷っていて…、私は、私はこの現状でさえ頼り過ぎている。住む所も、居場所も、未来を変えるのも…!この命でさえ、誰かのお陰というのに…!」

「今までが頼らな過ぎなんだ、お釣りが返ってくる」

「…っ!」

 

歯を噛み締め、涙を堪える典花。

彼女はいつから迷い始め、いつから自信を無くし、いつから焦り恐れていたのだろうか。

きっかけはどれだったのだろうか。八木俊典との出会いか、少し未来の変わった受験日か、佐々木未来との出会いか、それとも、それとも。

考えた所で、積み重ねで全てかも知れない。

「グランッ、トリノ…!私がこの怪我を治し終わったら、頼っても、よろしいでしょうか!」

「及第点だが…ま、いいぞ!」

 

「(私は忘れられているのだろうか)」

 

未だ壁に寄りかかり、サイレンマナーモードの携帯を弄りながらその光景をサー・ナイトアイは見ていた。

正直話すタイミングも無く、彼はオールマイトとメールで日程を合わしていた。

「(典花さんが…立ち直れるのならばそれはそれで良いが、正直出るタイミングも逃した)」

 

そう彼が悩んでいたらコンコンと、控えめにノックが聞こえた。

入りますと若い男性の声、入ってきた人物に三人は驚いた。

「八木さん、へい…き?あれ、おじいさんと…」

「ホークス?何故ここに」

「あなたは確か、サー・ナイトアイでしたね。いや、そろそろ時期的に襲撃があるじゃないかと思って、今日コッチに飛んで来たんですよ。俺なら時間さえあれば身軽にコチラへ来れるから来たんですが、すみません遅かった」

「いや、本当なら私が連絡すべきことだった。手間を取らせてすまない、ホークス」

「きっと一人で解決しようとして言わなかったんでしょう、そういうのはダメですよ」

「…あぁ、誰かに相談をするように心掛けるよ」

「まあ生きててよかった。お見舞いになっちゃうなと思って、味気ないですが、はいこれ、ミネラルウォーターです。それじゃ俺、帰ります」

 

お大事にと言い残し、ものの数分でホークスは帰って行った。本当にお見舞いだったようで彼は飲みやすくしたのか温いミネラルウォーターだけ置いていった。そしてその近くにふわりと羽が落ちる。

「あれが早過ぎる男…帰るのも早い」

「いや、そう言う意味での早過ぎるではない」

「だが来てすぐ帰って行ったぞ」

「いや、グラントリノ、寧ろ私達が長居し過ぎなんだ、帰りましょう」

 

サー・ナイトアイはそう言うと明日また来ると言い残し、グラントリノを引き連れ帰って行った。

足は動くもズキズキとまだ痛く、使える腕は右腕のみ、左眼の方には包帯が巻かれている。キャップぐらい開けて置いてもらえば良かったかなと思いつつ、歯で噛んでミネラルウォーターを開ける。

「んぐっゲホッ…あー…駄目だなあ私は。私は、もうオールマイトじゃない…ただアドバンテージとして一つの未来を知っているだけの、オンナ。自覚を…自覚をしなければ…立場を、名を、力を、いつ消えるか、わからない…」

 

病室からの日に照らされ、未だ癒えぬ体と消えぬ疲労により、ウトウトと、微睡みに落ちていった。

 

 



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No.15 ボロボロでも歩みを止めないヒーローへ

土曜日のあの話に間に合わなかった、悲しい!
既に火曜の朝の四時ですよ!
それと爆豪少年の感じと雰囲気が掴めないぞ!



雄英高校授業再開の日、八木典花は朝早くから起きていた。朝から病室でガタガタと物音を出し、五月蝿く不審がったナースが病室へと入ってくる。

「八木さーん、入りますよー?って何しているんです?!車椅子なら出しますので動かないでください!」

 

朝の5時、前日の昼から寝ていた彼女は携帯の通知の確認をしていた。

電話は日にち的にUSJの日の見舞い前のホークス一件、昨日は夜掛かっていたらしく根津一件、それと八木俊典名義で登録されているオールマイト十件。

メールは多い順に八木俊典20通、サー・ナイトアイ5通、根津2通、ファットガム2通、ホークス1通であった。

真っ先に根津のメールを見た典花はハッとした。

「今日から再開!?あっいや、そういえば再開していた。あっ、足は…そうだ、動かない。車椅子、車椅子だ!!(なに!?折り畳んであるー!!)」

 

バッと横を見れば折り畳まれてある車椅子、横に広げるだけなのだが如何せん当たりが悪いのか錆びてて固くて広げにくい、何より片腕のみしか使えぬ身。

どうにかこうにかと悪戦苦闘の末路、ナースの入ってくるタイミングであった。

サー・ナイトアイに雄英高校に行くという内容のメールを送り、向かおうとしたが肝心の服が無いというのに気付いた。

「…病院から出れないか。服がないというのは盲点だった」

 

だがここは学校近くの病院、マッスルフォームになり飛べば5分以内には着くだろう。その前にヒビだった足は骨折し、体に負荷がかかり、恐らく授業どころでは無いだろうが。

彼女にとってはそれは、苦渋の決断だった。

携帯を手に取り、早朝からおはようコール同然の電話をする。

「あ、もしもし?おはよう」

『…早朝からなんだ、まだ寝ていたんだが』

「ご、ごめんネ?あのよかったらスーツ、持ってきてくれないかなあとおもって…学校のロッカーにあるよ」

『あの怪我で学校に来る気か?』

「車椅子だが片手は動くし、何より生徒達に動けることを教えてやらないとな」

『それなら、俺が言っときますよ』

「HAHAHA!それには及ばないさ!何より私の所の相澤消太も動いていた、私が居なければならない」

『…それは、未来が、変わらないようにする為か?』

「いや、未来は変わったよ、相澤くん。変わったから行くんだ、そして1-Aの心配を除く為に、私が行く」

『(私が行く、ね。)あー、わかりましたよ。ではそちらには7時には着くようにします』

「あぁ!ありがとう!」

 

そして、時は過ぎ、朝のホームルームの時間帯の1-A教室、皆座ってるが飯田天哉の大きな声が響き渡る。そこに間髪入れずに車椅子に乗り押してもらってる八木典花と車椅子を押す相澤消太が入ってきた。

「みんなー!朝のホームルームが始まる、席につけー!!」

「ついてるよ、ついてねーのおめーだけだ」

「お早う」

「やあ!おはよう!」

「や、八木先生!」

「「「八木先生怪我だらけ!!」」」

「まあ!もしかして八木先生はオールライト先生だったんですの?」

「怪我の位置も同じ!つまり八木先生はオールライト先生だったのですね!!」

「…ん?(おい、まさか)」

 

八百万と飯田の発言で、相澤消太は初めて気付いた。

オールライトとして活動していた際はオールライトと名乗っていた、副担任の八木先生として動いてる際は八木典花として名乗っていた。

オールライトは八木典花と名乗っていないし、八木典花はオールライトと名乗っていない。

つまり1-Aは(一部を除き)八木典花=オールライトと認識をしていなかった。

「(これは、考えもしなかった。俺も当たり前に認識してたな)」

「HAHAHA!あれ?気付かなかった?」

「気付くわけねェだろ!クソがァ!」

「いや、爆豪、先生だよ先生」

「まあ、私の安否がわかった所で、もうそれはどうでも良い!」

「(良いワケねェだろうがァ!!)」

「(ケロケロ、絶対良くないと思うわ)」

 

各々良くないよなあと思いながらも話は進む。

相澤はまだ戦いが終わってないと言う、その戦いとは!

「戦い?」

「まさか…」

「まだヴィランがー!!?」

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

安堵ともに教室に歓喜と楽しみの声が響き渡る。

それは実に学校らしい行事、高校一年生の彼等の最初のイベントがやって来る。

「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」

「(…クソ?)」

 

ヴィランに侵入されたばかりなのに大丈夫なのか?という生徒の声に対し、逆に開催する事により危機管理体制が盤石と示す考えのようだ。

尚警備は例年の五倍の強化、二倍ではない、五倍だ。

「何より雄英の体育祭は最大のチャンス、ヴィランごときで中止していい催しじゃねえ。ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!!かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。今は規模も人口も縮小し、形骸化した。そして日本に於いて今、かつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ!!」

「当然全国のトップヒーローも観ますのよ、スカウト目的でね!」

資格習得後(そつぎょうご)プロ事務所にサイドキック(相棒)入りが定石(セオリー)だもんな」

「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんた、そーなりそう、アホだし」

「くっ!!」

「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。だがそうでなくても活発的なヒーロー事務所も有る事を忘れるな。時間は有限、何であれプロに見込まれればその場で将来が拓かれる。年に一回、計三回のだけのチャンス!ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!!」

「そういう事だ、今からでも自分が何が出来て、何が伸ばせるか、何が苦手かとか考えておくといいぞ!」

「ホームルームは終わりだ。俺は八木先生を職員室に送り届ける。飯田後ヨロシク」

「さあ!一限の準備をしたまえ!!」

「いちいち立つな」

 

飯田に小さな間時間を任せて、相澤はそう言いながら車椅子を押して1-Aを出ていった。

体育祭の活気と八木先生への心配、そして八木先生がオールライトと知ってから1-Aは変なテンションでその日を過ごす羽目となった。

一方廊下の二人は言い合いをしそうな雰囲気である。

「このあとしっかり帰ってください」

「…え?!」

「え?じゃない。アンタに会う前に医者に会ったんだ、戦闘行為及び激しい動き禁止と聞いたが?それに片腕、両足、それと…片眼が使えないアンタが居ても何も出来ない。仕事が出来ないなら帰った方が合理的だ」

「デスクワークなら…!」

「オールマイト並みだろ」

「オールマイトよりは出来るよ」

 

そう言いながら頭を上に向け、相澤にぎこちなく笑いかける典花。笑えないのだろう、顔はまだ怪我だらけだ。

相澤は一度立ち止まり、彼女の頭を優しく掴む。ゆっくりと前を向かせると再び車椅子を押して進む。

「比較対象が悪い」

「(ん?今の動作はなんだ?)え、あ、じゃあせめて昼までは居させてくれないか?リカバリーガールに足を治してもらいたいんだ」

「…ハァ、仕方ない。足治してもらったら」

「帰るよ!帰るさ!」

「真っすぐ帰ってくれ」

 

そう言うとぎこちなく職員室のドアを開ける、普段やらない車椅子の補助と不慣れな介護により思わず、力の加減を間違えてしまい、ドアを開けた際に大きな音が鳴り響いた。

「うわ!」

「すみません、車椅子越しに開けるものじゃないな」

「うるっせいYO!何してんだYO!」

「黙れ山田」

キャァァァァ!本名やめてぇぇぇえ!!

「うっさいわよ!マイク!オールライトさんの傷に響くでしょ!!」

「(二人共うるせえ)」

「(元気だなあ)」

 

相澤は個性を使い本名 山田ひざしことプレゼント・マイクのヴォイスを抑える。それでも成人男性の大声の声量である、デカイ。そして声の仕事を生業とし、常に声を張っている、追加要素が多く更にデカイ。

案の定と言うべきか、退院したての典花の頭に響いていた。

「とりあえず居ても昼まで、ちゃんとリカバリーガールに治してもらってくださいよ」

「あぁ、わかってるよ。家にも真っすぐ帰る」

「「(オールライトさん、絶対真っすぐ帰らないな)」」

「車椅子は俺が返しとくから。治して貰ったら絶対帰れ、いいな?絶対、真っすぐ、帰れ」

「わかったって!」

 

プレゼント・マイクとミッドナイトはそのやり取りを見てそう思った、その目線は生暖かい。

無論相澤も真っすぐ帰らないなとは思ってる、だが真っすぐ帰る可能性が作れるなら合理的じゃないが何度も言う。

後ろ髪を引かれるが授業が待っている、相澤は授業の準備の為、早々と職員室を出る。ミッドナイトやプレゼント・マイクもと、次々と教師は職員室を出る。そこには一人ポツンと、車椅子の八木典花のみが残る。

「…はあ、そんなに寄り道するように見えるかなあ」

 

実際の理由は寄り道よりも困った人を助け、最終的に怪我の悪化をすると思われている。あり得なくはない上に助けの声が聞こえれば、真っすぐとそこへ向かうだろう。

そう思われているとは知らず、気を取り直して典花は片手を使い、書類の作成と誤字の訂正をしていく。

時は過ぎて四限は終わり昼休み、仮眠室にはオールマイトと緑谷出久が対面で座っていた。

「一時間前後!?」

「ああ、私の活動限界時間だ。ハイお茶。…無茶が続いてね、マッスルフォームはギリギリ…そうだな、少なく見積もって一時間半くらい維持出来る感じ」

「そんなことに…ご…」

「HAHAHAHA、謝らんで良いよ!全く、似たとこあるよな君と私。それより体育祭の話だ。君まだ、“ワン・フォー・オール”の調整出来ないだろ、どうしよっか」

 

そこで緑谷は少しだけハッとなる、それは脳無に一回撃った時は反動が無かったということ。オールマイトも何が違ったんだろと驚きを見せる。

緑谷は少し思考を巡らす、そして一つの結論に辿り着く。

「初めて…人に使おうとしました」

 

それは無意識のブレーキ、何にせよ一つの進展をした。だがそれだけではまだ足りない、まだまだ足りない。

「ぶっちゃけ、私が平和の象徴として立っていられる時間って、実はそんなに長くない」

「そんな…」

「悪意を蓄えている奴の中に、それに気付き始めている者がいる。君に力を授けたのは私を継いで欲しいからだ!体育祭…全国が注目しているビッグイベント!今こうして話しているのは他でもない!!次世代のオールマイト、象徴の卵…君が来た!ってことを、世の中に知らしめてほしい!!」

「僕が…来たって。でもどうやって…」

「雄英体育祭のシステムは知っているね?」

「っハイ!もちろん!?」

 

雄英高校の体育祭は四つの科、サポート科・経営科・普通科・ヒーロー科が混ざって一年・二年・三年と各学年ごとに各種競技の予選を行い、勝ち抜いた生徒で本戦を競う学年別の総当たり戦。

つまり、一年は一年生で見てもらえる為、一年の中で目立てば全力で自己アピールが出来るのだ!!

「ハア…」

「ハアて!!!」

 

芸人並みに体を張り椅子ごと引っくり返るトゥルーフォームのオールマイト、血を吐きながらその血は弧を描く。

尚漫画*1だと彼は靴下を履いていないのがよくわかるしよく見える。*2

しかしそこに居るのはナンセンス界の期待の新星、ブツブツと言いながら考え込んでしまった。

「ナンセンス界じゃ他の追随を許さないな君は!!!」

「ナンセンス界…!」

「常にトップを狙う者とそうでない者…その僅かな気持ちの差は社会に出てから大きく響くぞ。気持ちはわかるし、私の都合だ、強制はしない。ただ…海浜公園でのあの気持ちを忘れないでくれよな」

「…あ、そうだ、海浜公園で思い出したんですが、一つ質問が」

「ん?なにかな」

 

引っくり返ったままのオールマイト、どうやらそのまま話せという視線なので緑谷はそのまま話し出す。

別に起き上がるのが面倒な訳ではない。

「あの、オールライト先生ってオールマイトなんですよね?」

「ゴハァ!?何で知ってるの!?」

 

血だらけの顔でオールマイトは起きあがる、血を拭きながらだが、明らかに焦っていた。そうと気付かず緑谷は話を続ける。

「八木先生…もうひとりのオールマイトと特訓した日に言われてました。も、もちろん誰にも言ってません!他言無用と言われました!」

「うぅん、なんて言って君に言ったの?」

「えっと、『初めまして、緑谷少年。私の名前は八木典花、オールマイトだ』って、それと空から降ってきたのが八木先生で、平行世界のオールマイトって言うのも」

「(重要性の高い事ばかり言っているー!!)ま、まあ私からも一応言っておこうか、君はいずれ知るかも知れないしな。もちろんこれも他言無用だぜ?」

 

椅子を元に戻して座り直す、真剣な声と表情でオールマイトは話しだす。それに対し緑谷はしっかり話を聞こうと前のめりになり、手は拳を作り、強く握り締める。

「名前は聞いたね?彼女の名前は八木典花、彼女は…オールマイト、だった人」

「だった?」

「あ、いや!ほら、今はオールライトだからね!(あの時、あの時に彼女はオールマイトからオールライトになった。もう彼女は…)」

「あ、なるほど!」

「彼女は、ヒーローオールマイト。折れても立ち直れる心の持ち主だ。オールマイトとしての私と彼女の違う点は、ここのオールマイトは私で、あとは性別と性格とかかな!」

「オールマイト、なんでヒーローってわざわざ付けているんですか?」

「…ここだけの話、ヴィランの可能性をまだ捨ててない人がいてね。私は彼女の事をヒーローオールマイトだと思っているよ。ヴィジランテなら、まだ少しわかっちゃうけど、ヴィランなんてことは決してない!ってね」

「僕は、僕はヒーローだと思います!八木先生がヴィランなんて!」

 

そう言いながら思わず立ち上がる緑谷、思わず八木俊典は嬉しくなる。一人のただの八木俊典として彼女と接した時間が有る、一緒に生活した時間が有る、出会いと認識は驚きに満ちたものだったけれど、そこには共通したものがある。

そして近くで、オールマイトの八木典花からオールライトの八木典花へと変わった彼女の戦いを彼は、“オールマイト”は目撃した。

「…ありがとう、少年」

 

一人でも彼女をヒーローと認めてくれるなら、彼女は何度でも立ち上がれる。

八木俊典が表舞台から消えても、八木典花が居るなら。

「(…典花と会うのが、緑谷少年と会うよりも早かったなら。いや、それはナンセンスな考えだ。むしろ彼女が居るから彼を育てられるとも…どちらにせよ、希望はここにある。緑谷出久と八木典花、そしてヒーローの卵たち)」

 

フッと感極まり下を向くと時計に目が入る、昼休み終了のチャイムまで残り5分であった。緑谷同様思わず立ち上がり、指を指し確認をした。

「(お昼食べた!お茶飲み終わった!よし!)緑谷少年!すまないが私は保健室に行ってくる!典花がまだギリッギリ居る筈なんだ!」

「あ、僕も!」

「よし!ならおいで!」

 

廊下は走らず歩いてね!ということなので早歩きだったオールマイトとその後ろをついていく緑谷出久。

角を曲がろうとするとそこには保健室を出てくる八木典花だった。だがよく見ると彼女の方に誰かが向かってきていた。

オールマイトと緑谷出久は覗くように、それを見る事とした。

「リカバリーガール、ありがとうございます。はい、失礼しました」

「おい」

「ん?ばっ、爆豪少年!?」

「怪我は?」

「け、怪我?足なら治ったよ、腕と目の付近はまだだけどね」

「…あんたは、オールライトなんだよな?」

「あぁ、そうだよ」

 

しかめっ面にプラス、さらに眉間にシワをググッと寄せる爆豪勝己。何を言いたいのか、伝えたいのか察するの事の出来ない八木典花は首を傾げる。

わかりそうなことと言えば、爆豪の視線は腕の包帯と顔の包帯、もしかして心配をしているのでは!?と典花は思った。

「…もしかして(しん)ぱ」

「怪我治ったら俺と戦え!」

「へ?戦え?」

「俺は、まだ弱ぇ。アンタを見て思った」

「えっと、戦えって事は…爆豪少年の師かライバルになれって?」

「アンタがライバルな訳ねぇだろう、アンタは俺が超えるべき壁だ!」

「…壁、ね」

「だがアンタの怪我が治らなきゃ倒すにも倒せねえ、俺は完璧な状態のアンタを倒してえ」

「本当にそうかな?」

「ア?」

「正直言うとね、私は強いよ。怪我をしてても君を往なせるし、右手があるから攻撃もできる。今なら両足も使える、左腕や片眼が使えないからって君に対してのハンデにもならない。それに、ライバルじゃないなら師にしたいんだろ?」

「弟子にしくれや」

「(はっや!態度で示せ的な事言おうと思ったのに!)ま、まあ考えておくよ」

「今決めろや、オールライト!」

「とりあえずおばさんと連絡先を交換しようか」

「なら携帯出せや!」

「リネしてる?」

「しとるわ!とっとと携帯出せや!」

 

「…すごい」

「オールマイト、展開がよくわからないです」

 

隠れてみるんじゃなかったと二人の心の声は一致した。

もしかしたらとんでもない師弟コンビが出来てしまうのでは?とオールマイトは思っていて、緑谷に至ってはオールライトがあの勢いに呑み込まれてしまうのでは?と思っていた。

案の定その二人の考えは八木典花・爆豪勝己師弟コンビが本格的に出来てしまえば、その通りになってしまうのだが。

尚この間の時間は3分未満、オールマイトが平仮名ですごいとしか発言しない訳だ。

 

結局この後チャイムは鳴り、緑谷はオールライトには会えず爆豪より先に教室へ戻った。曲がり角に来た爆豪はオールマイトに気付き、聞いていたなと思っていたのか挨拶より先に別の言葉が出てきた。

「聞いてたんすか」

「…ちょ、ちょっと」

「そうっスか」

「(え、それだけ!?)」

 

爆豪もまた、教室のある方向へと帰っていった。改めて保健室の方向を見ると八木典花が立っていた。

眼と眼が合い、視線が繋がる。ゆっくりと八木典花は八木俊典のもとへ歩き始めた。

「オールマイト、どうかしたか?」

「…病室、行けなくてごめん」

「良いよ、長々と病室に居た訳じゃない。それよりも歩きながら話そう、校舎の外まで良いかい?」

 

そう言われ、オールマイトは頷き、二人は話し始める。

内容はUSJの時の謝り、お見舞い行けなくての謝りなどと謝ってばかりだった。

「謝るなって、もういいって、完全に過ぎた事だぜ?」

「だって君、私や相澤くんの怪我を一人で負ったろ?!きっと相澤くん気付いてるよ、特にその眼の怪我。見過ごす筈が無い」

「参ったなあ…見過ごして欲しい」

「私なら見過ごさないよ」

「ちなみにこれナイショなんだが…」

「ナイショ?」

 

校舎の外と中の境界近く、八木典花は一歩二歩と歩き外に出る、校舎の中でその後ろ姿を見ながら八木俊典は静かにその話を聞く。

それは特大級の“過去”の話し。

「本来あの場で脳無に立ち塞がったのは、立ち塞がれるのはイレイザーヘッドのみ、13号は生徒の近くに居た。腕の怪我と眼の怪我は相澤くんが負うはずだった怪我だ、特に眼は…後遺症が残ると思う。それとオールマイトが負うはずだった大怪我は私負ってないんだぜ?脳無にオールマイトは腹を捕まれ怪我する筈だったんだ、それを両方負ってないんだ」

「…っ?!」

「未来、少しだけど変わったよ…!!」

 

俊典は思わず後ろから抱き着いた。

震えた声で、振り返らずに、ただ真っ直ぐ真っ直ぐ前を向いて言う。彼女のその声が、あまりにも苦しそうで、八木俊典にはその後ろ姿があの日のあの人とダブって見えた。

「(女性は、なんと儚く、なんて強いんだ。だからこそ)次は私も、私もちゃんと一緒に変える。典花、君と同じ所に私も立たさせてくれ。この力、燃え尽きるまで」

「すぐ助けに行って、時間配分忘れるのに?」

「あ、それは…!」

「…私もそうだったよ、だから!」

 

俊典の顔の前に右手の拳をスッと向ける、典花はただ一言、彼に向けて発した。

「二人で一緒に立って進もう」

 

*1
3巻のNo.23を確認だ!

*2
裸足in革靴だ、ここはテストに出ます。




次はオリジナル話、私の中では通称オールマイト会議としてます。
その次に恐らく雄英高校体育祭が始まるぞ!



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No.16 オールマイト会議

体育祭前で既に本編16話(巨悪もいるよ!)
これは話が進んでるのか進んでないのか、作者もわかりません。が必要だから書いているに違いない。
一応お知らせしときますと現在この話は単行本3巻のど真ん中辺りです!
原作は2週間はあっという間に過ぎたと省略、こちらはあっという間には過ぎなかった。


二人で一緒に立って進もうと八木典花に言われて数日後、八木俊典はレンタルルームで一人で黙々と机と椅子などの配置を変えていた。

レンタルルームの収容人数は最大10人、そして本日はサー・ナイトアイと予定を合わした日、つまり話し合いの日。

直接彼と会う時間が取れず、日程調整は諸々電話かメールと味気無い。それでも今日は重要な日だ、彼は緊張をしている。

サー・ナイトアイはグラントリノを呼ぶと言い、もし人を呼びたいのなら今後“オールマイト”や1-Aに関わるのならばそれに関連した人物を呼んでいいとサー・ナイトアイは連絡をしている。

オールマイトが呼ぶのはただ一人。

「…彼と鉢合わせしないでくれよ、緑谷少年」

 

一方その頃、八木典花はレンタルルームに相澤消太と共に向かっていた。誰も同伴者を付けないつもりでいたが携帯を落とした先に彼が居た。

それもその内容が書いてある画面を開きっぱなしでだ、完全なる事故である。事故であるが内容が内容だった、話しの内容までは見てはいなかったが拾った彼が俺も行きますと言い、渋々日程を教え着いてきたのだ。

「ちなみに、何を詳しく話すんだ?」

「一番最初に言ってた時はオールマ…あー、俊典と未来くんと私の話し合いだったかな。ごめん、ここ普通に道端だから名前で話すね?」

「わかりました、それで3人の話し合いとは?」

「とりあえず話す事は平和の象徴と未来について、あと私」

 

平和の象徴と未来と八木典花、そこにオールマイトとサー・ナイトアイとオールライト、三人が揃う意味とは?

未来についてだ、話す内容はオールマイトの生死、恐らく三人で変えようとしているか誰が巻き込めるかについてだろうと相澤は考えた。三人で変えようするなら断固として、相澤を連れていこうとはしないだろうと思ったからだ。

無言になった相澤をよそに、携帯を見ながら八木典花は場所の確認をする、が思わず立ち止まる。

「どうした?」

「…グラントリノのメールでの説明だと、ここ突っ切れば近道で三分で着くんだって」

「行けばいい、行きましょう」

「待って!君とこの建物に入るのはあらぬ誤解を受ける!!私は遠回りを希望するよ!」

「大丈夫だ、寧ろ騒いでる時点でロスタイム。それにさっきから視線が向けられている。怪我にも響くだろ、サッと行ってサッと出れば良い」

「そこ、そこ如何わしいホテル!!裏口から表行くとか!ああ、ちょっ!」

 

そもそも二人の歩いてる所は繁華街の外れ、ヒーローの知り合いは出会さないだろう。捜査などをしていなければの話だが。

周りには露出度の高い服、丈の短いスカートなどを着た若い女性からスーツを着た男性、近くに飲み屋もあるのだろう、売り子なのかそう言って近付いたり声を掛けてくる女性が多い。酒の匂いも昼間から漂う。

 

そんな空間から相澤消太は早く出たかった。

遠回りしてここを歩き続ける位なら、如何わしいホテルだろうとなんだろうと、この地区から彼は出たかった。何故なら地区に着たら二人揃って視線がこちらを向いていた、後に相澤は捕食者の目が多かったと独りごちる。

「ほら、すぐだろ」

「…今、内装あんなふうになってるんだ。部屋に入った訳じゃないのにチカチカした」

「(目から活力が無くなってんな)ほら、次。次はどこ行けばいいんだ、八木先生」

「あ、あぁ…右に曲がればレンタルルームがあるビルがあるらしい」

「レンタルルーム?」

「俊典が場所を指定したから、恐らく警察関連で防犯のいい所か、守秘義務が強い所でも聞いたんじゃないかな」

「ほぉ…ん?あれは」

「緑谷少年とサーとグラントリノ?」

 

入口の前で佇む3人、近くにいけば何故佇んでいるのか理由がわかった。あのサー・ナイトアイが居てこの様だ。

何ともお間抜けな話だがこの建物に入るにはパスワードが必要らしい。要するにそのパスワード、3人もいるのに誰も聞いていなかった。

パスワードを入力する物は英数字の書いてあるキーボード、対応文字は平仮名、片仮名、英数字、オマケに変換からの漢字である。

「私とした事が想定をしてなかった。…意外とセキュリティが厳重な所を選んだじゃないか」

「言っとる場合か、サー」

「や、八木先生!どうしたら!」

「ん、典花、お前ならわかるんじゃないか?」

「わ、私!?」

「なんだかんだ、性別や世界は違えぞ好みや思考回路は近いだろ。お前ならなんて決める?」

 

私服のグラントリノがそう言い、八木典花をしっかりと彼を見つめる。たしかに世界と性別は違えぞ思考回路は近い、じゃなければオールマイトと言う平和の象徴の道は辿らない。好みも近くなければ緑谷出久を後継者としなかっただろう。

「…もしかして。サー、あー未来くん、私が打とう」

「…わかるのか?オールライト」

「今回は皆ヒーロー名伏せるらしいから外ではヒーロー名はやめてくれよ。それと、パスワードはユーモアあると思うよ。パスワードはヒーロー、けどただ片仮名でヒーローと打つわけじゃない」

 

ポチポチと彼女はパスワードを打っていく、読み方はヒーロー、文字はHERO。

「あんなピンクな繁華街の外れを歩かされた意味はそれかな!エイチとエロ!合わさればHERO!まったくおばさん困っちゃうな!」

 

ビー!とやけに大きな音が鳴る、不正解だ。

思わず崩れ落ちる八木典花、大恥をかいてしまったとボソリという。思わず背中を擦る緑谷出久、それを半目ながらも憐憫の眼差しで典花を見るグラントリノとイレイザーヘッド。サー・ナイトアイは頭を抱えそうだった。

 

じゃあパスワードはなんなんだ?と思っていた所に電話の鳴る音が聞こえてきた、携帯の持ち主はサー・ナイトアイこと佐々木未来の携帯だった。電話相手はオールマイトと表示されている、急いで電話に出た。

「はい、佐々木です」

『ささき…あぁ!サーか!久しぶりに聞いたよ!あ、そろそろビルに着くんじゃないかと思って!』

「着いてます、典花さんが大恥をかいてしまったと言って今崩れ落ちた所ですよ」

『えっ!?なんで!?ああそうだ、とりあえずその、パスワード教えるの忘れたから教えようかと…』

「皆!パスワードだ!」

 

思わずどよめく緑谷とグラントリノ、相澤ははよ教えてくれと言う。そのパスワードの答えとは!!

「八木先生、仕方ないです。僕もわかりませんでした」

「…その通りだ、ヒントもない中、あれはわからない。変化球な答えだ」

「俊典め…」

「けどよかったな典花!4文字という線は合ってて、な!!!」

「笑いながらよかったとか言わないでください!一欠片も思ってないでしょうに!」

 

上下に小刻みに揺れるグラントリノ、それはそれは大爆笑していた。パスワードの答えはシールド、片仮名だった。

そんな5人はエレベーターでとある階に着く、なんとその階全てが一室、そんなレンタルルームだった。

ベッド、キッチン、ガラス張りのジャグジー、場違いなホワイトボードとシンプルな長机とシンプル椅子。

これホテルじゃないの?と緑谷は目が点になった。

「あ、来た来た!遅かったね」

「と、俊典!パスワード教えてもらってないのに遅いもないだろ!」

「あ、そうだった!それはごめんね!」

「俊典、コイツパスワードの答えな」

「あー!!おやめください!」

「…とりあえず、座ろっか」

 

オールマイトこと八木俊典がそう言うと各自二組になり座る、右に八木俊典と緑谷出久、真ん中に八木典花と相澤消太、左にサー・ナイトアイこと佐々木未来とグラントリノこと酉野空彦のペアだ。

長机三つはホワイトボードを囲うように三日月型並べてある、ペンも一応三色以上用意してあるようだ。メモも取れるようにボールペンとルーズリーフが机に乗っており、準備担当なのかこの場所を指定した八木俊典の本気が伺える。

「…相澤くんが呼ばれるとは思わなかったよ」

「呼ばれてません、八木さんの携帯をたまたま見て、無理矢理連れてきてもらいました」

「無理矢理て…まあ、君も関わってくるかも知れないね。いいよ!さて、話し合いを始めようか!!」

「相澤くん、もしもの時はよろしくね」

「もしも…?」

 

八木典花がボソリと彼に向けて耳打ちするも話し合いは始まってしまった。だがその前にと八木俊典は言う、今回はヒーロー名をあえて伏せて言う話し合いだ、名前が出るとなるのは現時点ではオールマイトとサー・ナイトアイのみの予定だ。

「自己紹介をあえてもう一度しようか、私は八木俊典、今回の…今回の議題は私と典花だ」

「改めて私は八木典花です。私達はオールマイトであり、現行彼はオールマイト、私はオールマイトでした。私は一度死にました、死んでそれからここに来た。今回の話し合いは私が来たことによる今のズレの認識、これからの未来の対策、それと…」

「私の認識の違い、佐々木未来と軋視瞳ついてです」

 

目を瞑り、深呼吸をすると八木典花と佐々木未来はタイミングを合わしたかのように話し始める。

「オールマイトのための」

「オールマイトによる、未来のための会議を始めます」

「(略すとオールマイト会議だ…!!)」

 

八木典花が立ち上がるとホワイトボードの前に立つ、話すべきは私の事からと言うと黒いペンを取り、その一 八木典花の死んだ時の事と書き始める。

ホワイトボードを前にして、彼女は彼らの方に振り返らずに俯き始める。

サー・ナイトアイは見た事がある表情だった、時折彼女は一人になると見る顔。ヒーローではなく一人の人間の佐々木未来として何度か見たことか。生活を、寝食共にし、ふと現れる迷子のような顔、その背中。

 

ナイトアイは立ち上がり彼女近くに行き、肩を叩く、それにハッとして顔を上げた典花。ナイトアイは肩から手を降ろし、目を合わした。

「典花さん、目を合わしてくれ」

「未来、くん、す、すまない、今話すから」

「典花さん…大丈夫だ、ここに私がいる。だから少しずつでいい、少しずつで、いいんだ。すまない、貴女には三度死の話をさせてしまう。…準備が出来無ければ他の話からでも」

「いや、今話す、何度でも話すし、ここにも書く。心の準備ができたよ」

 

未だ治らぬ傷のある顔で、ナイトアイに笑い掛ける。

包帯と傷で口元しか上がらないその笑顔は、あまりにも痛々しい、だがそれでも彼は目をそらさなかった。

サー・ナイトアイは一人で決めたことがある、八木俊典を、八木典花のことを、オールマイトのことを、目を逸らさないと。

「私は死亡当時、神奈川の神野にいました。1-Aの生徒が攫われており、救出に向かうため、何人かのヒーローと共に動いていた」

「いっ、1-Aの生徒が!?」

「そうだよ、緑谷少年、そして君と他数名が助けに行ってる筈なんだ」

「大人しく出来ねぇのか…、除籍だぞ」

「皮肉にも彼らのお陰で私は戦いやすくなった、オール・フォー・ワン以外のヴィランは逃したがね…。そして私は、オール・フォー・ワンと一騎討ちをした。結果は私の勝利。オール・フォー・ワンが瓦礫に埋まる一般人に向けて攻撃をしたからあえてそれを受けたり、ダメージは確実に蓄積されていてね、とどめを刺す際もダメージを食らったよ、腕をその時駄目にした記憶がある」

「腕を駄目にって…私、緑谷少年と同じことするのかい?」

「まあそうなるな!だがそのお陰で勝利し、生き残った、筈だった…」

「死んでしまった、という訳か…」

「一騎討ちの時、個性の残り火も消えたぜ?」

「っ!の、典花!?」

「個性の残り火?」

 

唯一相澤消太だけがワン・フォー・オールについて知らない中、ストレートに八木典花は個性について言った。

攫われた爆豪勝己の事を言えば、大きく緑谷出久が未来を変えるかもしれない。

それに比べればワン・フォー・オールの残り火なら相対して変わらないだろうと思っていたからだ。

「相澤くん、オールマイトは近い内消えるんだ。あー、その、個性が力尽きて…」

「…良いですよ、今は詳しく言わなくて。わからない中話を聞くのは合理的じゃないが、今回の議題はあんたらだ。俺はただ、それを聞いて、変えてほしい所があるなら防ぐ手伝いをするだけ。それにだ、俺の組の生徒が攫われるんだろ?俺は神野に行けんだろ」

「…感がいいね、攫われた子に関してってのと作戦のために記者会見するんだ。相澤くんはそっちの方だったね」

「俺のやれることは限りがある、だがその眼の恩があるから返しておきたい。なら俺は出来る限りアンタの手伝いをする、それだけだ。そういうことだ、はよ話せ」

「…生き残ったと思ったら結局、個性を無くし、命を失くし、救急車で死んだ。恐らくここに来た、最初の記憶は空だ。とても綺麗だった、澄んでいて、青一色。その次の記憶は、雄英高校だ。…ココ、話す必要なかったかな!?対策関係ないね!?」

「いや、参考にさせてもらおう」

「なんの参考なんだ、未来くん…!」

 

慌てながら顔を隠し、そう言う八木典花に対してナイトアイは何に使うのか本当に参考にする気のようだ。どうやら彼は、話していた事全て書き込んでいるようだ、ルーズリーフはギッシリ書いてあった。尚緑谷出久もそれなりに書き込んでいた。キミら要点纏めずに何に使うんだ。

「今の会話から言えることは、二つです。一つはオール・フォー・ワンを確実に捕まえるのがそこしか無いと思えること、流れは変えない。もう一つはそれを踏まえて、オールマイトを死なせない事」

「流れ変えてんじゃねぇか」

「いや、変えるのは結果だ。神野区にオール・フォー・ワンを誘き寄せ、オールマイトを生還させる」

「…出来るのか、佐々木くん」

「私の予知を使えば、駄目押しにそれを確定出来る。だがそうなると、その未来はそういう結果で、確定してしまうだろう。アナタがそこで死んでしまう未来ならば、それも…」

「ねえ未来くん、一つ良いかい?未来を変えようとした時、どうやった?」

「未来を変えようとした時?」

 

内心首を傾げた、未来を変えようと奮闘をした事はある。奮闘をした事は確かにあるのだ、それでも変わらなかった未来、聞いてもらえなかった回避の話。

あのオールマイトですら聞き入れず、話を聞かず、彼を置き去りにして歩き始めた。

ずっと独りでに、個性 予知を使って、未来を視て、道を探っていた。なのにその道はベルトコンベアのようにまるで強制的で、辿り着くところは同じ。

「…独りで、予測と分析を」

 

足掻いても、抗おうとしても、恐れる結果(瞳の中の未来)に辿り着く。

予測も、分析も、予知も、知識も、体一つも、未来を変える決定打には成りはしなかった。だが自分が発した言葉で気付いた、独りで、そうだ、一人でやってきた。

「なら二人ならどうだ、三人は?四人は?」

「典花さん、あなたは…」

「私、約束してるんだ八木俊典も八木典花も、生きていける未来をって。言われたんだよ、今度こそあんたも生きなって。相澤くんにだって死んだら怒るって言われた。君も言ったじゃないか、佐々木未来」

 

名前を呼ばれ、彼の心は沸々と熱を持ち始めた。

視線は交わり線となる、そしてさらに熱を持ち、思わず拳を握った。

「あなたという存在は一人しかいない、替えは存在しないんだって!見てくれよ、予知でも予測でも分析でも、言ってくれよ未来くん。悪いミライなら私が断ち切る、私だけで出来ないなら、巻き込める人を巻き込んで捻じ曲げる。良いミライならさらに良くしていくから。今度は、今度はオールマイトも共に…!」

「違う…!違うっ!今度は私も共に歩むんだ!あなた達は立ち止まってない。オールマイトはずっと一人で歩んできた。次は私が追いつく番だ、私も共に歩くべきだったんだ。足でも体でも、掴んで引き摺られようと、振り払われようと、あなたたちが走ろうと、私もそこに向かって走る、追い付こう。それに今度は…オールマイト、いや八木さん。あなたも、諦めないんですよね」

「…あぁ、私は死なない。私は生きなければならない理由も出来た。師匠として緑谷少年を導き、育てなければならない。佐々木くんとの約束がある。そして私も決めてたんだ、私も典花も生きる未来で生きてみたいなあって」

 

緑谷出久、相澤消太、八木俊典、三人はいつの間にか立ち上がっていた。声を大きくして緑谷は言いたかった、生きてくださいと。

相澤消太はその空気に飲まれそうになっていた。未体験で今と先が混ざる途方も無い、それは大きな大きな話。

たった一人が死んでしまうだけで、世界が変わるとは思わないだろう。だが生きるか死ぬか、たったそれを先に伸ばすか伸ばさないかでほんとうに世界は変わる。

その一人が生きてみたいと言う、理由が何であれ、未来で生きたいと意思を持って。

「典花が、だってキミがあまりにも…」

欲 し く な る よ な あ

「な゛!?」

 

それは風が吹くように突然の事だった。

目だけは一番最初に反応した相澤、八木典花の体の周りに黒いモヤが見えた。まるで油のようにベットリとした、そんな黒いモヤ。

次に八木俊典が声を発し、皆が彼女を見る頃には人の形となっていた。背筋が寒くなる程、足元がわからなくなる程の畏怖。

『長かった、だがようやく君を拘束できる程に、実体化も出来る』

「んぐっ…!?ん゛ん゛!?」

 

彼女とそれはダブっていて相澤消太にはそれが何なのか視認出来なかった。頭に響くそれの声は低い、それは彼女より少し大きい、それは半透明、それはヒト…?

「…お、お前は!」

『男のオールマイトか、ははは!僕自身、間近で見るのは初めて見るなぁ!』

 

八木俊典はわからない筈が無い、どんなに顔が変わろうと、姿の在り方が変わろうと。

彼は平和の象徴が倒すべき巨悪、師匠の仇、そして彼の言い方が正しいのなら、それは八木典花の仇である。

そう理解した瞬間、八木俊典はオールマイトとなった。

「オール・フォー・ワン!」

『面白いなあ、面白いよ。ヤギトシノリ』

「彼女を離せ」

『花がない、だがすぐれている。すぐにそれがしっかりと使えた訳だ』

「もう一度言おう、オール・フォー・ワン。彼女を、離せ」

『…離そうか、代わりに僕とも話してくれよ』

 

さらに重なり合った黒い人型と八木典花、薄っすらと典花の体は黒いモヤ纏わりついているのが見える。相澤消太は個性を使うがそれは消えなかった。

「消えない!?」

「『不思議な感じだ、一時的とは言え僕の寵愛している物の中に入れるなんて』」

「貴、様ぁ!」

「『怒髪天を衝く、とはこの事かなぁ。君も髪が立っている。さて、話を聞いてくれるかな?男のオールマイト、それと…サー・ナイトアイ』」

「…私も?」

「『参ったよ、どうなるかわからないんだ。だから取り引きをしたくてね』」

「…オールマイト、今は攻撃はしてくれるなよ」

「わかっている、わかって、いるさ」

「『長居は出来ない、単刀直入に言おうか。まず僕は4分割されている、肉体の僕と3つの霊体の僕。肉体の僕は関係ないから実質3分割だ。このようになった僕は俗に言う幽霊でね』」

 

オール・フォー・ワンが言うには八木典花に取り憑いてる彼、彼女の世界にいるサー・ナイトアイに取り憑いてる彼、そして誰にも取り憑いてない彼が居るらしい。

問題はサー・ナイトアイに取り憑いてる彼だと言う。

「『タイミングはわからないが、サー・ナイトアイともう一つの僕は確実にここに来る。僕は僕を回収したい、その代わり僕は大人しくするか…君達のそれ、オールマイト生存を手伝おう。僕のメリットは僕の回収、君達のメリットは手元に僕がいる、オールマイトが生存する!』」

「お前をタルタロスに収容すれば良い」

「『無理だ、僕は物理的支配や抹消による抑制はされない。ここの僕に会いに行った際に物理的攻撃は効かなかった、確認済みだ』」

「あの幽霊とはお前か!」

「『あぁ、喋ったのか。全く悪い子だ…ん、もう駄目か』」

 

黒いモヤが八木典花の体から一気に放出され、モクモクとそれは沢山、部屋に充満した。

それは1分も経たずに部屋を埋め尽くしたが一瞬にしてそれは一箇所に集まり、半透明の人型となった。

気を失ったのか八木典花は呻きながら倒れていた。

「うぅ…」

『…ああ、慣れないな。それに霧状になると少し意識が散漫となるのか』

「典花!」

『彼女の生命力を貰っていたからね、疲れて寝てしまったのかもしれない。それにしてもこの個性、もどかしいな。物理的に触ることができない、全て通り抜けてしまう』

 

オール・フォー・ワンはそう言いながらしゃがむと典花

顔を触ろうとする、しかし空気を切るようにそれはすり抜ける。

そうして自らの手のひらを見て、少し動かすとその視線と手のひらは男のオールマイトへと向かう。

『さて、どうしようか?僕を君たちの手元に留めるか、僕を自由にさせるか』

「…っ」

『僕はすぐに自由になれる、オールマイト』

「(すぐにでも、タルタロスへぶち込んでやりたい。だがNOだ、NOしか答えがない。相澤くんの抹消は確かに効いてなかった、本当に幽霊なら…幽霊なら?)」

 

オールマイトの顔にたらりと汗が垂れる、判断を間違えてはいけない。敵意はないのは確かだ、攻撃的な雰囲気がないのも確かだ。奴はホントに戦闘をする気はない。

サー・ナイトアイは元サイドキックとして何かを察知した、彼はなにかしようとしている。目線だけ動かすと手で汗を拭いていた、そしてそのまま。

「SMASH!」

 

汗のついた手で届かぬ拳を振り切った。

つまりあれだ、幽霊なら塩で払おうということ。汗の塩で払おうとしてたのだ、無理がある閃きはそこで閃いて欲しくはなかった。

『…塩は、確かに効くけど。それはなあ』

「お、オールマイト…流石にそれは」

「なりふりかまわすぎだ」

「はあ」

「塩は効くんだろう!?幽霊には!」

『清くないからなあ。それで、抵抗しようとしても無駄だとわかったかい?』

「ぐっ…!」

 

すり足で一歩、サー・ナイトアイは前に出た。眼鏡を少し上げるとオール・フォー・ワンの方を見て言った、その案を受け入れると。

『良い選択だ、サー・ナイトアイ』

「彼女の世界のオール・フォー・ワンが自らの意志でコチラにいる、我々のオールマイトが生存をする。そしてオール・フォー・ワンはオール・フォー・ワンの片割れを回収する。Win-Winな関係じゃないか、それに話に出てないもうひとりの私、サー・ナイトアイの軋視瞳は私達が回収していいのだろう?」

『勿論だとも』

「…聞くべきことが、彼にはたくさんあるからな」

『では成立だ。ちなみに僕は常に八木典花と共にある』

 

なんとかオール・フォー・ワンと八木典花を離したいオールマイトは大きな一歩が出そうになる、だがナイトアイの手がそれを邪魔をした。そして冷静にナイトアイは言った。

「悪霊か?人に取り憑いて、彼女を呪っているのか?」

『…信用無いと思うけど、実はわからないんだ。記憶が欠けている』

 

あるのは自分がオール・フォー・ワンと言う事、名字、オールマイトの彼女と戦ったこと。

無いのは大なり小なり過去の記憶、つまり今のオール・フォー・ワンの記憶は穴あきと言う事だ。だからこそもうひとりの自分と統合して記憶を埋められるのでは?と彼は考えていた。

『少なくとも、僕は呪わない。現実的じゃないからね』

 

そう言ってニヤリと、オール・フォー・ワンは笑った。




典花さんは体育祭を見るの?その間になにかするの?
どうするの佐々木さん!?3人住まいだったんじゃ!?
次回!恐らく体育祭の時期、まだ3巻から抜け出せない?
実は投稿日と時間は全て0と2、文字数まではムリでした。
更に向こうへ!プルス・ウルトラ!


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番外編 これもまた一つの人生
No.-1 死体の残らない英雄に何を視る


これは恐らく番外編。
No.に-(マイナス)がついてたら平行世界の話です。
オールマイト八木典花の居なくなった世界の話。
そこそこ本編とリンクしてます。

とりあえずOFAのせいにしとけ。そうですよね!先生!


 

神奈川県神野区、オール・フォー・ワンとの死闘から数分後、緑髪に金メッシュ、金縁眼鏡、そしてスーツを着た長身の男は走っていた。

たった一人の憧れヒーロー、たった一人の女性を探すため。

「オールマイトの死体が見当たらない?」

「確かに救急車に乗ったのは我々は見てます、死んだのも確認しました。ですが心電図がゼロになり御臨終を確認した直後、突然消えまして」

 

「スタッフの何名かは車内で半透明な物を見たと」

 

「半透明な物はオールマイトを触って、確かね?」

「そうそう、突然消えたんですよ」

「個性かな」

 

「はぁ、はぁ、死んだ人間が、消える筈、無いんだ。何より私はここで彼女が死ぬのを“視ていない”。視ていないんだ、何故死んだ、それとも本当は、ここで早く死ぬのを私は、目を反らしていたのか?」

「ナイトアイ」

 

そう呼ばれた彼はサー・ナイトアイ、本名不詳38歳、オールマイトの元サイドキックだ。

ナイトアイを呼んだグラントリノは至る所傷だらけだった。ゆっくり歩きながらグラントリノはナイトアイの方に向かう。

「この辺りはもう見たぞ、死体はない」

「何故、オールマイトの死体を移動なんか…」

「黒霧とか言うヴィランの空間移動ではないことは確かだ。あとは他にもそういう個性の持ち主が居た、そうと思うしかない」

「彼女は、いや、彼女が守りたかった世界の最後がこれとは、なんという皮肉なんでしょうか。グラントリノ、彼女は死んでもヒーローを続けることを選んだ。選んだから、死して尚死体が消えることで不滅と?」

「いや、ある筈だ。典花の死体は。ナイトアイ、お前は死体よりも半透明なやつが怪しいと思ってる筈だ」

「半透明…霊体や気体になる個性、ですか。あったとしても聞いたことは」

 

ふと二人の目の前に旋風が起きた、そして半透明な物が現れそれは人の形帯びてきた。

その人物は輸送されている筈の者だった。

「やあ、君に話しかけるの初めてだね。サー・ナイトアイだったかい?」

「お、オール・フォー・ワン!?」

 

外見は傷を負う前のモノだろう、しかしその声を二人は忘れはしなかった。

「いやぁ、使うことはないと僕は思ったんだけど、捨てた筈なのに気付いたら発動しててね。安心してくれよ、この姿だと物理的攻撃は出来やしないから」

「ふざけてるのか、出来るわけ無いだろ」

「だから安心してくれよ、志村の旧友。君たちは知りたいだろう?八木典花の行方を」

 

オール・フォー・ワンの言い分はこうだ。

捨てた筈の個性 分離霊体にオール・フォー・ワン本人も名も忘れてる個性が発動して気を失ったあとすぐに分離していた。

分離した際に意識と目的は違え、オール・フォー・ワンと言えどもはや別の人物になったという。つまり体には戻れない。

 

そんな彼は個性を一つ代償にして生かすことの出来る個性を使い彼女生かし、体力を大量に消耗をする時空転移の個性を使い彼女を平行世界に移した。

霊体では物理的攻撃は出来ないが唯一発動し出来たのが個性 分離霊体、名もわからぬ個性の代償により生かす個性、時空転移の個性だった。

 

そして名も忘れた個性を彼はこう付けた。

 

「個性 願いの力 さ、洒落ているだろう?僕は願わない。現実的じゃないからね。だと言うのにこの個性の発動条件はひとつ、希望を持たないと発動ができない。発動条件はわかったけどそれが有限か無限かはわからなかった、だから彼女にそれをあげたよ。微かにあった彼女のワン・フォー・オールは生かすことによって消えてしまったけれど、この願いの力があれば彼女のイメージで同じ効果を出してくれる筈だろうからね。長年連れ添った仮の個性だ、彼女は言わなければその力をワン・フォー・オールだと思うだろう。それに彼女は一度死んだから激痛を伴うだろうね。一度死ねば臓器は腐る。ハハハ、生きるって痛いみたいだからね、痛みに歪む彼女を見たかったよ」

 

喋り終わるのを見たサー・ナイトアイは物理の効かぬオール・フォー・ワンに超質押印を投げた。

すり抜けた超質押印は後ろの瓦礫を壊し、砂煙を作り出した。

「お前は何度、何回オールマイトを苦しませれば気がすむ!何度!あの笑顔を消させる!?」

「止めろ!ナイトアイ!」

「僕の前に何度彼女は立ちはだかる。諦めない彼女が悪いんじゃないのか?ヒーローなんて愚かなことさえしてなければ僕は彼女を取り籠めて、寵愛したというのに」

「オールマイトを馬鹿にしているのか?」

「してないさ、だからまずは生かした、手の届かぬ彼方へと逝かせるわけにはいかないんだ。それからヒーローにならなくても良いように平行世界に移した。あとは彼方の僕が死ねば行けるんだけどね。この時空転移の個性は条件付きでね、近くに同一人物が居ては行けないんだが性別が違ければ同存在でも別個体認識されるみたいで消えないんだ。サー・ナイトアイ、君は幸薄そうだ、どうだい?その予知の個体を代償にして行ってみたくはないかい?彼女の行った世界に」

 

そう言ったオール・フォー・ワンは既に目の前にいた。

「!?(半透明なものは触ってと、つまり触れられたら最後!)」

 

サー・ナイトアイは避けようと後ろに二歩、その後左に跳躍をした。だが相手はオールマイトがボロボロになりながら戦う相手、ナイトアイは触れられてしまった。

「しまっ!」

「君の死後は安寧されたよ、サー・ナイトアイ。今の君は行けなくても死んだら君は絶対、彼女が行った世界に行けるんだ!僕はまだまだ行けないと言うのに!!先に言っておこう、君は其方の世界では無個性だ。個性が欲しいなら其方の君が死ぬタイミングで会いに行くと良い、其方の君と彼方の君が混ざりあい、新たな君が生まれる筈だ。一つの実験体になってもらうよ、サー・ナイトアイ」

 

声が止んだ後、ナイトアイの頭に耳鳴りのようにキィィンと音が聞こえ彼は頭を抱えた。

そして再び旋毛が起こりオール・フォー・ワンは消えた。

その後霊体のオール・フォー・ワンの消息は不明。

ニュースにはオールマイト死去、オールマイト行方不明、オールマイトヴィランに落ちる?など様々な憶測が行き交った。

 

 

 

時間は、もう止まらない。

 

 

 

雄英もまた再び動き出す。だがその前に。

「…連絡をしてみるか」




個性説明
個性 分離霊体 発動条件不明
現状幽霊になる個性、物理攻撃はできないが生命や転移など干渉はできても攻撃が通らないだけっぽい。害を与えることはできないということか?

個性 個性を代償にして生かす
個性とは身体の一部、強烈なパワーを持っている。
本人の個性を代償にして生かすという個性。もちろんその個性を代償にして生かす個性を代償にして生かしても良いが本来その個性の持ち主には効果がない。使うと消えるから。出来ても気持ち体が軽くなるだけ。
ちなみに生かすだけなので生かす際は激痛が伴う可能もある、激痛で死んでしまったら死んでしまったらなので耐えるしかない。
例え 血がなくて死にかけてるなら一気に血が増える。腕から血が出てるなら腕が生える。内臓が腐りかけてるなら内臓が入れ替り出現か急ピッチで作られる。どれも痛みが伴う。
典花のは臓器がない、腐りかけ、全体的にも怪我があったので空に居るときに全体に怪我、病院にて無い臓器と腐りかけをと二段階だった。本人の体力も使われた。疲労とはそういうこと。
ちなみに無個性は個性がないので生き返らせれないので便利ではない。

個性 条件付き時空間転移
本人の生命力により指定先に送るもの。一度に一人の生命半分ぐらい使うけどオール・フォー・ワンなら平気だよね!←
タイマーみたいにセットすることも可能。
そのタイマーとは送る先に同一人物がいた場合、まずはタイマーセットされた人物が死なないと行けないという死亡タイマー。
サー・ナイトアイの場合複合された、死ぬとそちらに向かい生きるために個性も消される。まぁこれもオール・フォー・ワンなら(ry
体が腐るになるだろうから全身激痛が入る。
ちなみに彼は霊体してるのでこれをスパンなしに最低でも三回すると消える、つまりもうしばらくは使えない。


個性 通称 願いの力 発動条件は希望を持つこと
なんだけども恐らくそれ以外にももうひとつ発動条件はある。
多分今後書く。

願いの力を翻訳するとPower of wishになるんですけど再翻訳すると希望の力になるんですよね。まんまだった。

ちなみにマイナスナンバーは平行世界のサー・ナイトアイが死ぬまでの話。


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No.-2 英雄を尊敬した緑色の二人

ヒロアカ最終回なので頑張って書き終えた…
何故本編と番外編の二本平行して書き進めてるのか。
きっとナイトアイを早く書きたいからなんだろうな。

※可笑しな所があったので18/10/1に修正というか文を変えました。
※※名字の変更をしました19/10/19


部屋に携帯のバイブレーション音が鳴り響く、少年は携帯を確認すると有り得ないという目をして、大きく見開いた。

母に名前を呼ばれたが生返事をして急いで外に出た、それぐらいありえないのだ。

彼女はもういないのに、彼女の名前が携帯に写ったんだ。

海岸に行くと座ってる人影が見えた。

「はぁはぁ、お、オールマイトォォ!」

 

しかしよく見ると違う、スーツは着ていたけど見たことないスーツ、細いけど似てない細身、髪の毛も髪型も違う。

諦めて立ち止まりそうになった時、向こうの人影が走って向かって殴ってきた。

人影の声は男だった。性別も違った、誰なんだろうか。

「スマッシュ!」

「ぅぇ!?」

 

知らない人に、少年はいきなり殴られた。

だが殴った方もあまり殴り慣れてないのかかなり痛そうに座りこんだ。

 

「「っ!」」

 

殴り慣れてはなかった。

だが痛みに耐え、その人は涼しい顔を作り、立って話を始める。

「だ、誰!?」

「オールマイトが話していました。ワン・フォー・オールは無個性の中学生にあげたと」

「なんでそれを、え、あ、あなたは!」

 

オールマイトオタクでヒーローオタクの少年は目の前の人を知っていたし、オールマイトオタクでサイドキックだった彼もまた少年を知っていた。

悲しくもなにくれの運命かな。お互いに出会わず、詳しく知らなくても浅く知っていて、二人はただ一人の共通の人を尊敬していた。

金髪で、碧眼、女性ながらにして性別を隠しナンバーワンヒーローなった人を。

二人の間に風が吹き、異なる二つの緑髪は風に揺れた。

「初めましてだな。雄英高校一年A組の緑谷出久。私はサー・ナイトアイ」

 

そう名乗った彼はオールマイトの携帯の画面を緑谷出久に向けた。

携帯のメモが開いてあり、そこには一つの文章が書いてあった。

 

【もし、私が死ぬようなことがあったらナイトアイ、グラントリノ、相澤くん。緑谷出久少年をよろしく頼む。死ぬつもりはないのだけれど何があるかわからない。どうか彼を見捨てないで、しっかり叱って、誉めて、慰めて。私の事なども全てを教えて欲しい。立派なヒーローにしてほしい。緑谷出久少年、君の周りの人達をいっぱい頼って、だから安心してヒーローに】

 

途切れたメモの月日の時期は体育祭後ぐらいだった。

終わった後考えたんだろう、緑谷出久は思い出した。

出会いを。始まりを。道筋を。

終わりを。最後を。知りうる彼女の全てを。

だけど巻き戻らないんだ、無くならないんだ。

オールマイトが消えたってことは。

「巻き戻らないんだ、無くならないんだ。今までとこれからの事実は。だから私は今、君に会いに来た。緑谷出久、君の意思は聞かないが」

「へ?」

 

「今日から私がオールマイトの代わりに君を鍛える」

 

「え、えぇぇぇ!?あ、あの自分にも他人にも厳しくストイックなヒーローのサー・ナイトアイが!?」

「事務所は重要な案件中の為畳まないが業務は少し縮小する。それと雄英に私はこれから非常勤講師として、オールマイトの穴を埋める」

「えぇぇぇ!?」

「五月蝿い、さっきから話を遮るな。それより緑谷出久、君はわかっているのか。オールマイトはこの世から消えた、引退とも死去共にその情報は世に回った。その力は、ワン・フォー・オールはもうお前しか持っていない。それに…、話を聞いた、毎度飛び出し、何度も体を壊す!」

「っ!」

「今回も再び飛び出した。だが緑谷、君は初めて怪我をせず、この窮地を脱した。彼女ならきっと、そう、喜ぶ筈だ」

 

ナイトアイは緑谷のもとへ行き、ぎこちなく抱き締めた。

ぎこちなくもその温かい腕に緑谷は涙を流した、今の少年には必要なものが、そこにはあった。

愚かと言えば良いのか、無謀と言えば良いのか、是非も置き、今の少年に必要なのは師なのだ。

ナイトアイは彼女ならこう言うだろうと想った。

「この、調子で頑張ろう、緑谷少年」

「うう、あぁ、わあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

今だけは、彼女の代わりにこの小さくて泣き虫な後継者を守ってあげよう。

あのオールマイトが一人で決めた、このボロボロの後継者を。

 

「(せめて、しっかりと理由を教えてほしかったよ。典花)」

 

その日、緑谷出久は頬に残るきっと、八木典花に殴られる筈だった痛みとオールマイトがもういない事実が“オールマイト”時代の終幕をじんじんと実感せざる終えなかった。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

数十分が経った今、彼はため息を吐いていた。

 

現在緑谷出久はサー・ナイトアイの背中にいる。

彼は泣き疲れて寝てしまった。

それもその筈、彼は爆豪勝己の救出に動き回っていた、それに元々林間学校での傷も響いて少し寝ていた。それを知らずにナイトアイが起こしたのだ。

ナイトアイは抱き締めて声が止んだのに気付き、腕の中を見ると緑谷は夢の中、怒るに怒れなかった。

ナイトアイは背負うことにして緑谷出久の自宅に向かった。

「小さい、あまりも小さい。やはりミリオに渡せば良かったんだ、ミリオの方が体が大きく筋肉もあり、周りは笑いが耐えない。後継者に良いだろう。だが…未練がましくとも私にはもう、言う権利はない。彼女の意思を尊重しなければ…腹を括らなければならない」

 

ふと思った、彼は今緑谷出久を背負っている。

片手でもこの小さい少年は背負えるが残念だが反対側の手には緑谷出久の携帯。

「インターホン、押せないじゃないか。それより階は何階なんだ?…仕方無い、悪く思うなよ、緑谷」

 

ナイトアイは確かに彼のことを聞いていた。

個性の譲渡の電話を最初として、名前、週に一回は必ず来るメールでの彼の成長、そして彼女が残した彼の今後の鍛える予定に必要な課題と雄英のデータ。

雄英のデータなどそれらは根津によって死んだ連絡と共に言われ渡された。

サー・ナイトアイの個性と仕事の都合上、口は固くなければいけない、そして彼はオールマイトのサイドキックだった。だから彼には真っ先に連絡が行った。

話は戻る、緑谷が来るまでの間に自宅の住所などは把握していたのだが肝心の階を見落としていた。

緑谷出久の自宅は集合住宅だ。

「ロック画面は…オールマイトか、良い趣味だ。だがこれはいつのだ?か、彼女がピースしてカメラ目線など!…ん、スライド式か、ロックの意味は?電話帳、み、みど、みど…これか」

 

緑谷の携帯で彼の母に電話を掛けようとすると寝ぼけてるのかまだ寝てるのか、彼の腕がナイトアイをぎゅっと抱き締めた。小さく寝言も彼には聞こえ、彼は未だに夢の中なのだと知る。

「…私は君の父ではないのだがな」

 

ナイトアイは電話をかけた、もちろん緑谷引子の電話にだ。

電話をかけると引子は急いで家から出てきた、だが小さくとも引子では出久は部屋まで運べない。

背負っていたナイトアイは彼の自宅まで行き、そのままベッドまで運んだ。

「彼はもうこのままで平気なのですか?」

「は、はい!大丈夫です!これ以上お手を煩わせるわけには…」

「いえ、怪我をしているのを知っていた上にオールマイト、…いえ、八木典花の携帯を使い呼び出したのは私です。そこに関しては私は謝らなくてはなりません」

「オールマイトの?」

「…オールマイトの、八木典花の遺言を見て、私は本日、腹を括りました」

「あの、何を言っているの?」

 

緑谷引子は話の流れが読めないが焦りを感じていた。

少し落ち着いてから、さっきから嫌な予感しかしないのだ。それはぞわり、ぞわり、這い寄る。

「緑谷引子さん、どうか彼を、緑谷出久を私に鍛えさせてもらえないでしょうか」

「出久を、あなたに?」

「彼の個性を、彼が使えこなせるように。…貴女がどこまで知ってるか、私には分かりかねます。ですが彼は…」

 

ナイトアイはここで言葉を止めた。引子は不思議そうにナイトアイを見上げる。

一朝一夕の出会い、データで知っているだけ、彼の何が語れよう。

何よりナイトアイ自体は彼を認めているわけではない、ただ彼女が認め残した後継者と言うだけで目を付けようとしている。

口を閉ざしたナイトアイは少しだけ振り返る、次に出す言葉を出す為に。

 

『人を助けられる人間になりたがってる』

電話ではそう言っていた。

 

『彼は成長をしている。いつも怪我だらけなんだけどね』

メールでそう送ってきた。

 

『緑谷出久、無個性ながらヘドロ事件にて友を救うために走る。海岸清掃諦めず予定の範囲外もして完遂。諦めない心、タフネス、泣き虫。これからの成長期待。…導いてあげないと』

渡されたオールマイトの書いた書類にはそう書いてあった。

 

『久しぶりナイトアイ、今大事な仕事に当たっているんだ。それが終わったら、話がしたい。譲渡した子についてだ。今更だけど詳しく話したい。これを聞いたらメールか折り返しをしてほしい』

最後の電話で、彼女は話そうとしてくれた。

後先を考えずに、人を救うため前しか見ないヒーローは、立ち止まって頑張って説明をしてくれようとした。

あぁ、そうか、私にはこれしか言うことが残されてないのか。

通形ミリオの師をしているからわかることだ。

 

 

彼もまた、ヒーローの卵。

「彼はきっと、良いヒーローになれます」

 

 

と言ってその言葉が緑谷引子に通じるかと言えばそれは未知数!

それよりもナイトアイは大きなミスを二度犯していた、普段なら絶対、必ずしないミスを彼はした。

彼も疲れていた。(体力的に、精神的に、全体的に)

「(掴みは、掴みは平気か?!資料を見る際彼女はこの流れだと断りそうだが…頼む、断らないでくれ!断られるとグラントリノになってしまう!)」

「…一つ、良いですか?」

「…はい」

「お名前は?」

「…え」

 

一つ目のミス、電話をしたときのことである。

『もしもし、緑谷出久のお母様ですか?』

『はい、そうですけどあなたは?も、もしかしてヴィラン!?』

『落ち着いてください。私はヴィランではありませんしヒーローです。息子さんが眠ってしまって、家の近くまで来たのですが残念ながら階数がわからなく、息子さんの携帯を使い連絡をいれました』

『い、今家出ます!』

 

ここで本日の名乗るタイミングを彼は失った。

二つ目のミス、緑谷出久の家についてからもずっとゴタゴタしていた。

『部屋は?』

『息子がすみません!こ、こちらです!』

 

そしてベッドに寝かし今に至る、盆ミスでは済まされない事態だった。

そんな彼の顔はかなりレアな表情をしていた。例えるなら、そう、チベットスナギツネだ。

「…名乗り遅れました、私はサー・ナイトアイです。電話でも申した通りヒーローをしています、こちら名刺です」

「いえ、こちらも名乗るタイミングがなくて…名刺まで。知っているかも知れませんが私は緑谷引子です。その、先程のお話は出久と話し合ってからでも良いですか?」

「それはもちろん」

「ありがとうございます。あとナイトアイさん、会ったばかりであれですけど泊まっていきますか?ここら辺はもうバスとかもありませんし」

「いえ、歩いて、っ!?」

 

もう一度言うが彼も疲れていた。

ナイトアイの体は実に正直だった、欠伸を我慢した次に腹の虫が鳴いた。

実は彼、神野区からあの後、根津から資料をもらって内容を一通り見て、そして直行で緑谷出久の方に来ていた。

瓦礫の町と化した神野区を走り回り、間髪いれずオール・フォー・ワン邂逅、その後一睡もせず食事も取らず資料を見ては緑谷出久に連絡し緑谷宅に至る徹夜のハードスケジュール。

一夜明け緊張も途切れ、疲れも出てきた。

38歳のその細身の体は空腹を訴えていた。

「ご飯も食べますか?」

「ご迷惑では、っ~!」

 

何度も腹の虫が鳴く、これは流石の彼も恥ずかしい。彼は口元を押さえ、手を出しながら断ろうとするが鳴り止まない。

これはもう腹を括ってお言葉に甘えるしかない。

「…頂いても、いいですか」

「どうぞ、それに隈も凄いですから泊まっていってください」

「ありがとうございます、っ!また鳴ったか…」

 

こうしてナイトアイはあれよあれよと言う間にご飯を、そしてお風呂までもいただいて泊まることとなり、ソファで本人の記憶内では座って寝た。

翌日の朝、ヒーローオタクの緑谷出久は叫びそうになった。

「な、なっ、ナイト、ナイトアイが、自分にも他人にも厳しい筈のサー・ナイトアイが我が家のソファーで横になって丸まって寝てるっ!さらに毛布にくるまって!れ、レアだ…寝癖もある、ナイトアイは童顔なんだ、38歳に見えないよ…!若く見える。凄い写真撮っても怒られないかな、こんな無防備なナイトアイなんて見れないぞ、そうだ一枚だけ角度はこれとあれとそれと、あぁ、これも良いなぁ何枚も撮れちゃうよ。フォルダはサー・ナイトアイぶつぶつぶつぶつ…」

「おはよう出久」

「おはようってお母さん!?なんでナイトアイが家で寝てるの?!」

「寝た出久をここまで背負ってくれたのよ?凄く疲れてたみたいだから起きたらお礼言いなさいね」

「僕寝ちゃったの!?(記憶は泣いた所で…うわああああ!つまりナイトアイのうっ、腕の中で寝てしまったぁ!?さらに背負われてる!?)」

「出久声が大きいわよ!それにしてもよく寝て…もうすぐ8時よ?あ、ご飯作るから起こしてあげてね」

「え、えぇぇええ!?」

 

そう言うと引子は朝食を作りに行ってしまった。

ソファーの上で寝てるナイトアイをどうしようかと思った。何が最適かなんてわからない、さらにプロヒーロー、寝起きに攻撃されないか心配だった。

そこで出久が行った起こし方は、軽く揺らしながら声を掛け起こすそこそこ一般的な方法だった。

「な、ナイトアイー、朝になりましたよー(起きてぇええ!)」

「んん~…」

「ホッ、手応えありだ。ナイトアイ、起きてください。ナイトアーイ?」

 

ナイトアイは重そうに瞼をあけるとぼやぁとした目で出久を見た。テレビで見たストイックな彼は居なかった。

今の彼は寝癖が所々あり呂律も頭も回ってなくふわふわしていた。まだ頭もぐらついていて船を漕いでいる。

つまり、そう、完全に彼は寝惚けていた。

「お、おはようございます!ナイトアイ!」

「…ぉは、よう?」

「た、立てます?あれ、ナイトアイの眼鏡はどこに?」

「んー…」

 

唸りながらその長身をソファーで器用に体育座りしながら彼はまた寝る体勢を取った。出久は慌ててもう一度起こす。

「眼鏡あったって寝ないで!?も、もしかして低血圧とかそういう!?ナイトアイ起きてくださいよー!」

「さ、むい…」

「寒い?あぁ、そうか、スーツに毛布だけじゃたしかにここは寒い!お母さん!コーヒーとかあったりする?」

 

出久はナイトアイに温かいコーヒーを渡したあと着替えに部屋に戻った。戻って来た頃にはちゃんと起きたナイトアイがそこにいた。

スーツで寝たためかスーツはよれていた。

「おはよう、緑谷」

「やっと起きてくれた!」

「っ、すまない。寝起きの悪さは自覚している、迷惑をかけた」

「そんな!僕の方こそその、すみません!スーツだって濡らしてしまって!」

「あの場ではあれが最適だと思ったからだ。それに服なら着替えれば良い。…それとこれから様々な困難があるだろう、少しずつ乗り越えていこう」

 

その言葉を聞いて出久は昨日のことを思い出した。

オールマイトはもういない。

 

これからヒーローとしても、人間としても、沢山の困難が出てくるだろう。オールマイトの後継者として、ワン・フォー・オールの受け継いだ者として乗り越えなくてはならない。

そう受け取った緑谷出久は大きく返事をした。

「はい!」

「目に見える一つ目の困難はこれだ、先に渡しておこう」

「へ?」

 

ナイトアイの出した紙には雄英高校寮制度化と書かれていた。

確かにこれは大きな困難になりそうだ。

「こ、これって」

「私も今週から非常勤ながら正式な教師になるので詳しくは言えないが、オールマイトが死に、ヴィランも活性化してきたからだろうと思う。それに生徒が誘拐された、接触された。この二つからして手の届く範囲に置き、生徒を守りたいのだろう」

「誘拐と接触…それって、僕とかっちゃんですよね?ナイトアイ」

「かっちゃん?まだ緑谷の資料しか渡されていないのでわからないが、緑谷がそういうならまぁそういうことだろう」

 

ナイトアイが言い終わると引子に朝ごはんが出来たと呼ばれ二人は食事を取った。

数十分後、玄関にナイトアイがいた。

「すみません、お世話になりました」

「いえ、出久もお世話になりましたし、…あの話も話し合わなきゃ、それに寮のことも」

「優先は寮の話し合いで、学業が優先ですので」

「それはもちろん!…あの、ナイトアイさん。出久にも言えることだけど、無理はしないでください」

「お母さん…?」

「無理、ですか?」

「出久もすぐ怪我してきちゃうけど、それは目には見えるわ。けどナイトアイさんは昨日は隈がスゴくて、お腹も減らして、お風呂上がったあとすぐにも寝そうだった。出久がずっと言ってたから、自分にも他人にも厳しいって。そのままだと倒れちゃいます。もし、本当に出久を鍛えさせたいならナイトアイさんも、出久も、二人とも体を大事にして!!」

 

引子の言葉に二人は反論など出来なかった。

日々学校で傷を作ってはリカバリーガールに叱られる出久。緑谷出久の言う通り自分にも他人にも厳しく、そしてストイックにしてしまうサー・ナイトアイ。

どちらもずっと同じことを続ければ体に限界が来て倒れるだろう、あの英雄のように。

だが、それでも彼は答えなければなかった。

「…私はヒーローです」

「ナイトアイ?」

「職業柄、いつ死ぬかはわかりません。そんな仕事ですがヒーローであることに、私は誇りを持っています。私が尊敬し死した英雄がヒーローであったから、憧れたその人が、救ってくれたその人がヒーローであったから。ですので一つだけ、言わせてください。私が、サー・ナイトアイと言うヒーローが活動している時だけは大事に扱うことができない、どうかそれはご理解していただきたい」

 

ヒーロー、それは重くも軽くもなる職業。

そして本質はお節介ということ、それは緑谷引子にも薄々わかってきていた。

息子の怪我はそこに向かうためのものだから。憧れのヒーロー オールマイトに向かう為の、自らがヒーローに向かう為の。

そして目の前の人はプロヒーロー、サー・ナイトアイ。名刺にはサー・ナイトアイ事務所と書いてあった、サイドキックではない、それでいてストイックな人。

「…きっと、出久もそうなっちゃうよね」

「お母さん…」

「ナイトアイさん、私、出久に幸せになってほしいだけなんです、だからどうか、出久を鍛えさせたいなら、死なないでください。それが約束できるなら、どうか出久を、お願いします」

「いつまでの命かわかりませんが、精一杯、務めさせもらいます」

 

 

そう言うとナイトアイは緑谷宅を出た、それを追って出久は外に出る。

二人は無言のまま、下の階まで降りた。

「…緑谷、良い親を持ったな」

「は、はい!」

「…緑谷、先に一つ謝る。私は恐らく、君が卒業するまでには死んでいるだろう」

「え?」

「オール・フォー・ワンに、何かしらの個性をかけられた。生死で発動する類いの物をな。…恐らく八木典花は生きている、どのような形でかはわからないが、あいつの言い方からすれば私は死んだ後そちらに行くのだろう。この事は緑谷、お前と後で根津校長などに話す。死体がなくなっても焦らないでくれ」

「サーも、死んじゃうんですか…」

「それはいつかは死ぬだろう、彼女も死んだのだから。…ヒトなんだ、死んでしまう。だが緑谷出久、私は君のお母さんと約束をした。少しでも足掻いてみるとしよう。それと最後に、君を弟子に取るのだから弟子としてこれは覚えておいてくれ。元気とユーモアのない社会に、明るい未来はやってこない」

 

そうして、ナイトアイは去った。出久は歩いていくナイトアイの後ろを見えなくなるまでその後ろ姿を見続けた。

 

後日、午前の昼前。スーツを着た男が二人、集合団地の前に居た。方やサラリーマン風、方や小綺麗にした男。サラリーマン風の男の方がベテランに見えるが本日がデビューだった。

「さて、一応本日より新人教師な訳だが、ここは根津校長の申し出で緑谷出久の家庭訪問は任せるぞ、軋視先生」

「…私一人か?」

「あぁ、一応俺は隣にいるがいるだけにしてくれと言われたが、喋らないのにいるのは合理的じゃないからな。全て任せる」

「もし何かあった時のためにいてくれということじゃないのか?何かあってからではそれの方が合理的じゃなくなるのでは?相澤先生。それに私は今日、教師になったんだぞ?正直家庭訪問の仕方がわからない」

 

相澤はそれを聞くと少しため息をついて諦めた。

「仕方ない、二人で行くか。ダメ出ししながら行くからな」

「よろしく、相澤先生」

「あぁ、よろしく、新人の軋視先生」

 

相澤先生と新人の軋視先生のドキドキ家庭訪問が始まった。

 




次回は単行本でいう11巻のNo.96家庭訪問の通り家庭訪問が始まります。
ちなみに爆豪の所では軋眼先生はいるだけみたいな感じでした。借りてきた猫。
本編で明かされたナイトアイとこちらのナイトアイ、合うようにしないと…
今更ながら【ナイトアイ】の設定を書き始めてます。


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No.-3 ドキドキ家庭訪問

「お湯!カステラ!」の前後が今回の和みポイントです。


ニュースはそう簡単に、その事を風化はさせてくれない。

『ヒーロービルチャートJPの時間だ!!不動のナンバーワンの生死!日本のみならず、ヒーローの本場アメリカ、そして世界でも騒然!オールマイト死去!?オールマイト本当の姿ァ!オールマイトの死体は確認されず、しかし救急隊員からは心拍停止を確認済み!事実上オールマイトは死去と警察は発表!』

 

オールマイトのことは世界が連日報道している、これから先まだまだ報道されるだろう。

オールマイトこと八木典花の死体は行方は知らず、救急車の中には心拍停止を知らせる音が響き、それを隊員は聞いている。

病院、警察、そして一部関係者はオールマイトの生死を事実上死去と認め、世間に発表をした。例えその身があろうとも、八木典花の心電モニタリングは止まった。

電気ショック、心臓マッサージ、他にも、他にも。

 

彼女の体は恐らく、耐えきれない。

どう足掻いても、あの場での死は覚悟せざる負えない。

彼女の死んだ穴を私は、頼りなくても埋めたかった。

悲しむ行為も、涙を流す行為も、立ち止まってる事も、する暇はない。

 

そして誰も彼もが気付いた、老若男女共に。

ヒーローも、ヴィランも、市民も、人種や立場関係なく世界もが。

この世界は、あまりにも“オールマイト”に頼っていたと。

 

時は一夜にして多くのヒーローが大打撃を受けた“神野の悪夢”の後日である。

雄英高校は今回の件とオールマイトの件で家庭訪問をする事となる。

世間では『元はと言えばオールマイトが雄英高校に赴任したのが問題』、『オールマイトが死んだ今こそ再び子どもたちが巻き込まれるのでは?』など少なからず批判意見が出ていた。

故に、雄英高校は新たな段階へと進まざるを得なかった。

それは【雄英高校 全寮制導入】である。

 

1-Aには相澤消太と軋視瞳が、1-Bには根津とブラドキングこと管赤慈郎(かんせきじろう)が各生徒の家へと向かう。

オールマイトが抜けた穴を新人教師 軋視瞳として入ってきたサー・ナイトアイは相澤と共に耳郎家、爆豪家へと次々と向かった。

そして間にある、緑谷宅の近くまで彼らはやってきた。

「さて、一応本日より新人教師な訳だが、ここは根津校長の申し出で緑谷出久の家庭訪問は任せるぞ、軋視先生」

 

「…私一人か?」

 

「あぁ、一応俺は隣にいるがいるだけにしてくれと言われたが、喋らないのにいるのは合理的じゃないからな。全て任せる」

「もし何かあった時のためにいてくれということじゃないのか?何かあってからではそれの方が合理的じゃなくなるのでは?相澤先生。それに私は、教師になったばかりなんだぞ?場数が少ない、正直家庭訪問の仕方がわからない」

 

相澤はそれを聞くと少しため息をついて諦めた。確かに場数が少ない、伝え忘れや聞き忘れがあれば合理的じゃない。

「仕方ない、二人で行くか。ダメ出ししながら行くからな」

「よろしく、相澤先生」

「あぁ、よろしく、新人の軋視先生」

 

歩き始める二人は階段をゆっくり上がり、相澤は改めて軋視に説明をする。場数は少なくとも手本のように見ている。

「とりあえず耳郎や爆豪宅と同じようにすればいい。寮制となること、それに伴う寮生活、それと言ってくる、聞いてくるであろうオールマイトのこと。緑谷は、傍から見てもオールマイトのことを好きだったからな」

「…オールマイトは、あの人は誰よりも自分の命より他人の命を守る人でしたから」

「あんたも確かオールマイトのファンだったか?メルアドにオールマイトって書いてあったし」

「彼女の元サイドキックでした、オールマイトとは喧嘩別れです」

「あのオールマイトと喧嘩別れ?」

「…私の個性は予知、彼女の死の未来を見てしまいました。私はそれを止めようとして、彼女は無断で未来を見た事に、それに伴い、まあ色々」

 

階段を上りきると相澤は止まった、彼は振り返り、じっと軋視を見た。彼にしては珍しく目を見開いていた。

先に結論が頭を過る、彼は死の未来を見たと言った、そして彼女は死んだ。

「つまり、あの人は、オールマイトは死の未来を…」

「受け入れた、抗おうともせず、真っ直ぐそこへ向かった。…認めたくありませんが」

「あんたそれ、緑谷に」

「質問されればですが、言いますよ。彼には質問する権利があり、私には答える権利がある。私はもう、八木典花から目を逸らしてはいけないんです」

 

元サイドキックで彼女のファン、彼女の事を止められず、手を離し、目を逸らした彼の決意は揺るがなかった。

深い後悔なのだろうか、拳を握る彼の手は震えていた。

「…難儀な事だな」

「それでも好きなんです、彼女ことが。…恐らく、だからこそ緑谷出久も彼女に惹かれた」

「似た者同士か」

「似ていませんよ」

 

震えていた手は開かれ、その声はとても穏やかだった。

済んだことだからか、それとももう本人がいないからなのか。

「私は彼女に手を惹かれ、彼は共に走り抜けた。在り方が違う」

「お節介をするのがヒーローですよ、軋視先生。確かにあなたも共に走っていた、そうだろ?」

「…私は、彼女がいたからヒーローになった。彼女あっての私だ、だが確かに、走っていた筈。…そうか、だから…」

 

なにかに気付いた軋視の表情は明るく、相澤に話しかける声は軽かった。

「行きましょう、緑谷出久の家庭訪問へ」

 

ピンポーンとインターホンが2回鳴る、ここは緑谷家のリビング。先生が来る前、異様な空気を出していた。

家庭訪問でヒーローが来るのだ、そして担任、変に緊張をしていた。

「き、キキキ、来た!」

「お湯!カステラ!」

「コーヒーは大丈夫だから、お母さん!げ、玄関!」

「わかったわ!」

 

ドアの外からもわかるドタバタ音が家庭訪問の開始を告げた。

「「あ、開いてます!」」

 

ガチャリ、相澤がもう一度ドアノブを回すもドアは開かず、更にもう一度やるが開かない。同じように中もガチャガチャと金具の音を鳴らし、数秒後にドアは開いた。

「す、すみません!相澤先生!開いてませんでした!」

「ささ、あっ!あっ!上がってください!」

「…緑谷、まずは落ち着け」

「「は、はい!」」

 

「…お二人共、深呼吸して(不安だ)」

 

ド緊張の緑谷親子と先に家に入った幸先不安しかない相澤消太、そして親子がリビングに向かうタイミングで家に入ってきた軋視瞳によるドキドキの家庭訪問が始まった。

「えっと、相澤先生そこに座って…えぇ!?」

「出久?どうしたの?あぁ!」

 

「「サー・ナイトアイ!」」

 

「初めまして、先日雄英高校の臨時の教師となった軋視瞳(キシミヒトミ)です。オールマイトの穴を埋める形で」「サー・ナイトアイが相澤先生と共に家庭訪問となるともしかして1-Aの副担任か、もしくは相澤先生がサー・ナイトアイの教育係?性格も考えも一致しそうだけど」

「話を遮るな、緑谷。はよ家庭訪問させろ」

 

軋視は雰囲気的にこれはよくある現象なのかと察し、これからも遮るのだろうと思い諦めた。

相澤の機嫌を察知した親子はスッと音もなく座り、改めて家庭訪問は始まった。

「事前に話は行ってると思いますが、雄英高校の全寮制について、緑谷さん」

「ハイ…えと、その件ですが…私、嫌です」

「お母さん!?昨日はうんって…」

「考えてたんだよ!?でもね!嫌なの。出久は“個性”が出なくて、それでもオールマイトに憧れてきました。でも、()()()に“個性”が発現してから、雄英に入ってから、出久がどんどんボロボロになっていくんです。出久の腕、知ってますか?これ以上怪我が増えると動かなくなるかもしれないって…!」

 

相澤消太はそれを聞いて確かに、どんどんボロボロになっていく緑谷出久を知っていた。入学試験から今の今まで怪我ばかりだ、だがこれ以上怪我が増えると動かなくなるかもしれないという話は知らなかった。

対して軋視瞳は無表情で冷静に、聞いていた。

「先日の戦い、テレビで拝見しました。一人の一般市民としてとても感謝しています、が親として怖かったです。出久はオールマイトに憧れてます。出久の行く末が、あんな血みどろの未来なら私は、私…“無個性”まま、ヒーローの活躍を嬉しそうに眺めてるだけの方が、この子の幸せだったんじゃないかって…思ってしまったんです」

 

お母さん!と言い椅子から立ち上がる緑谷出久、困惑しながらも母の言葉聞きながら、母や周りに言われた言葉を思い出す。

「出久、応援はするけど、それは心配しないってことじゃないって言ったよね。出久はこのまま雄英に通いたいよね、でも…ごめんね出久。ハッキリ申し上げます、出久の親として、今の雄英高校に息子を預けられる程、私の肝は座っておりません」

 

ポロポロと、涙を流しながら言う緑谷引子に、相澤消太は厳しい顔をし、軋視瞳は未だに無表情であった。

もとは外部の人間でインターン生を受け持っている軋視はわかっている。雄英高校は幾度の失態を受けている、だがそれに伴う生徒の成長も聞いている。

しかし親ならどうだ?

「お母さん…」

 

子はヒーローを、憧れを、夢を目指し傷付き、傷付き、尚進み。

親はそれを応援し、心配し、心配し、子の夢を閉ざしても安心な道を行かせるだろう。

恐らくこれもまた、一般的な親子像だ。

「オールマイトがどれだけ素晴らしいヒーローだったかなんて関係ありません。ヴィランに襲われてまともに授業を続けられない…生徒の大怪我も止められない、そんな学校に通わせたくない、私は」

「緑谷さ…」

「違うよお母さん!怪我は僕がダメなだけだよ!オールマイトは、先生方は何べんも言ってくれていて、それを僕が!」

「結果この現状なら、学校の責任なんじゃありませんか」

「…座れ、緑谷出久」

「モンスターペアレンツ、かもしれません、でもモンスターでいいです。私は出久の夢を奪いたくないんです。どうしてもヒーローになりたいなら別に、雄英でなくてもヒーロー科はたくさんからありますよね」

 

軋視瞳は思う、オールマイトと共に走ってきたこの少年は、出会う前からオールマイトを追っていた。そんな彼がオールマイトの母校雄英高校で学ぶことに意義があると。

「(そこを断たれると言う事は、彼女の軌跡をなぞれず痕跡を追えないと言う事。私ならば…)」

 

出久は歯を食いしばりながらリビングを飛び出し、扉を閉めた。引子が呼び戻そうと椅子を立つも、その扉はすぐ開かれた。

「いいよ、雄英でなくったって。見て、お母さん、サー・ナイトアイ、相澤先生。手紙貰ったんだ、合宿の時に救けた子から。ヒーローどころか“個性”すら嫌っていた子が、ありがとうって…くれたんだ。まだめちゃくちゃ心配されてて、それでも…一瞬でも…!この手紙が、この子が、僕をヒーローにしてくれた。嬉しかった…!!雄英でなくたってどこだって、いいよ!僕はヒーローになる…から!」

「(ああ、緑谷出久、君は既に…。彼女(オールマイト)の背を追う夢と憧れを見る少年では無く、隣を走り秘密と運命を共にする少年でもないのだな。ならば私は君に、新たに師と宣言し、彼女のサイドキックだった者として、支えなければならない。君の歩みを征く道を)」

 

軋視瞳は無言で席を立ち、眼鏡を外す。相澤は彼の顔を見た、それはヒーロー サー・ナイトアイの顔ではなく、まるでヴィランのような顔であった。

「順序が間違っていたようだ、誠に申し訳ない。オールマイトこと八木典花は緑谷出久が後継にふさわしいと、即ち平和の象徴になるべき人間と意思を示していた。そして!戸籍上の息子であり元サイドキックの私は、緑谷出久は第二の平和の象徴になれる可能性があると希望を抱いた」

 

ヴィランのような顔つきで、彼は頭を垂れた。緑谷親子と相澤は驚き、相澤は思わず椅子を立つも、何も発せなかった。

緑谷出久は驚きながらも静かにそれを聞いた。

「彼女の元サイドキックとして、曲がりなりにも彼女の息子として私の謝罪です。彼の憧れに甘えていたでしょう、教育を怠っていた事に謝罪致します。そして雄英教師としての懇願です。確かにオールマイトの道は血生臭いものでした。女性が歩むべきものではない上、一人の人間としての意思が、何もかも削げていた。だからこそ彼に同じ道を歩ませぬよう、横に立ち共に歩んで行きたいと考えています」

「ナイトアイさん…!」

「今の雄英に不安を抱かれるのは仕方のない事です。しかし雄英ヒーロー達も、このままではいけないと、変わろうとしています。どうか今のではなく、これからの雄英に目を向けて頂けないでしょうか!…緑谷出久くんに、オールマイトのしてあげたかった事の全てを、私の持ちうる全てを注がせてもらえないでしょうか!!このカラダ(この生命)に代えても守り育て知識を授けます」

 

彼が言いきると緑谷引子はゆるりと崩れ落ちた、出久はお母さんと言い心配をする。緑谷引子は数秒下を向くと、顔を上げて軋視瞳にしっかりした声で話しかける。

「…やっぱり、嫌です。だって、死んでしまってもオールマイトは出久の生きがいなんです。雄英が嫌いなワケじゃないんです、私。出久に、息子に幸せになって欲しいだけなんです…だから、あなたの生命に代えないで、ちゃんと生きて、守り育て、アナタの知識を教えてあげて下さい。…ほら、顔を上げて下さい」

 

ボソリと、緑谷さんと言う彼の眼は泣いてはいないのに充血をし、目を彷徨わせていた。それは泣き出す前の子供のようであった。

「この前も言いましたよ。ナイトアイさん、私は出久に幸せになってほしいだけ、出久を鍛えさせたいなら死なないで。それが約束できるならどうか出久をって。あなたも精一杯務めさせもらいますって。…もう一度、しっかり約束しましょう?軋視さん」

「お母さん…!!」

「…出来る限り、約束します」

「相澤先生」

「っ!はい」

「軋視先生」

「はい」

「無理は、しないでくださいね」

「「…はい」」

「出久も雄英で生活をしていくなら…わかってるね?」

「絶対、心配はさせない!」

 

思わず涙を流しながら、緑谷出久は涙を傷だらけの手で、零れ落ちないように拭き取り引子に言う。

何も言わず緑谷引子は思う、そんな顔で言わないでよと、本当は嫌なんだよと。だから息子の幸せを同時に考える。

「(出久は、私の知らない間に、憧れのヒーローの息子から、ここまで言ってもらえるようになったんだもんね。これが…あなたにとって、何よりも幸せなことなんだよね)」

 

流れ的には相澤消太はこのあと謝りなどを言って外に出ようと思っていた。なんだかんだ色々なことがある密な時間だった、後輩教師にも聞きたいことがある。

そんなことは知らない緑谷出久はハッと我に返り、思わず大きな声を出した。

「サー!息子ってどういうことですか!?確かにオールマイトのプロフィールにもサー・ナイトアイのプロフィールにもそんな記述も、ニュースやネット記事、まとめ掲示板にもそんな噂は何もありませんでしたけど!オールマイトからも聞いてません!そこを詳しく!!!」

「空気読めよ」

「そ、そうですよね、メモも持ってないのに…」

「…緑谷?」

「ノート持ってくるので一分待ってください!」

 

そう言うと(相澤消太の体感的に)約35秒で緑谷出久は戻ってきた、一分もいらなかった。

こうしてこのあとの家庭訪問もある最中、家庭訪問の第二ラウンドは始まった。

そして相澤消太は思った、今日中に家庭訪問は終わらないと。

「(どうすんだコレ)」




まさかまさかの家庭訪問の話二分割、次はほぼオリジナルになる筈…?
そして早ければ恐らく来週投稿できるからある意味タイムリーな話題にブチ当たる?
そこについにやってくるかな!?ハイツアライアンス!
オールマイトが死んだ世界線はいったいどうなるのか?
次回、恐らく軋視瞳のオリジン。


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No.-4 軋視瞳‐オリジン‐

文字数 2943字です、特に意味はない。(多分)


「言っとくが緑谷、家庭訪問と同時に軋視先生の顔を覚えてもらおうと言う事も含まれてる。…長くて20分だ、わかったな」

「は、はい!」

 

これは家庭訪問から地続きの話である。

前回緑谷出久の家庭訪問終盤で爆弾発言を聞いたイレイザーヘッドこと相澤消太と1-A生徒の緑谷出久、相澤は大人しく流して次に行きたかったがそれを緑谷出久は我に返ってしまった為に掘り返してその場で聞いてしまった。

それもしっかりとノートとペンを秒で持ってきてだ。

座り込んでしまった緑谷引子も引くに引けないと察し、立ち上がり新たにコーヒーとカステラを持ってきた。

「すみません、相澤先生…息子が…」

「いえ、どうせ聞けるなら二人同時に聞ける今が合理的です。それとコーヒーとカステラ、ありがとうございます」

「さて、何から言うべきか…」

「…言いづらいと思うが、時間が迫ってる。軋視さん、はよ」

「言いづらい訳じゃないんだが、そうだな、私の誕生から養子の経緯からだ」

 


 

極端に言えば、軋視瞳と言う人間は存在しない。

その存在は曖昧だ。

 

これは人間なのか、人造人間なのか、人型の肉塊なのか。

それは人間元来持つ薄れゆく第六感なのか、“個性”なのか、実験により拡張付属されたものなのか。

軋視瞳とはデザインベイビーである、ヴィランの手により生まれ落ちた、本来ヴィランとなる筈の生体兵器。

彼は未来予知予測実験体(サキ)、モチーフは先の未来。

 

時の狭間と書いてトキマ、時間個性研究所。

ヴィラン 時間 幻十牢(トキマ ゲンジュウロウ)、その男の実の娘で研究者 時間 祈華 (トキマ ノリカ)、そして名前も載らなかった研究者達により彼らは産み落とされた。

そしてそこにヒーロー達がやって来た、そう、そのメンバーの中に彼女は居た。

その時は彼と言うべきか、彼の名はオールマイト、彼が時間の楽園を壊した。

 

ここからは私の記憶だ。

 

私は何度も意識の浮き沈みを覚えている、頭に刺激を与えられて言語、知識と記録を登録した。

目は開けられないが意識はあった、時折私を培養していた入れ物から出された、一度目は焼印を、二度目は数値を測るため、三度目は硝子を割られての強制起動。

私はその時、初めてしっかりと瞳を開けた。

裸の私を冷やさぬようにマントで包み、抱き抱えた彼は、私の意識の確認のため声を掛けた。

「大丈夫か?喋れるかい?」

「…はい」

「君、名前は?」

「…ありません、研究個体名は(サキ)です」

「そ、そうか、うぅむ、なんて呼べば…あ、瞳」

「ひとみ?」

「君の瞳はキレイだ、よぉうし!瞳くんと呼ばさせてもらおう!」

 

それが私の、人としての生の始まりであった。

「もう大丈夫だ、瞳くん。私が来た!」

 

何度も稼働は停止した、その記憶と記録すらも頭からの刺激により継承されていた研究個体 咲はようやくその道を外れた。

初めて見た世界は数多の子供の腐乱、研究資料爆破の為に焼けて逃げ遅れ死体に溢れていた、だがそこにはまるで太陽のような人が私を掬った、救ったんだ。

 

その後私はオールマイトの養子となった、第一発見者であり、既にそのナンバーワンの地位にいた彼なら平気という点で私は戸籍に登録された。

 


 

「話が逸れるがデザインベイビーとして必要だったのは個性だ、人としての寿命はそう長く設定はされてない。そうわかってからオールマイトは薬の開発をしてくれる所を探し…、緑谷?何故泣いている」

 

そこには大粒の涙を流しながら鼻水も垂らしている緑谷出久、私が来た!の所からポロポロと涙を流していた。尚緑谷引子も泣いている。

彼は何故、緑谷親子が泣いているか理解が出来ていない。

「サー…サー…!」

「なんだ」

「うっ、うぐっ…僕、オールマイトの代わりにはなれません、だけど僕が来た!って、必ず、必ず言えるぐらいになります!必ず言えるぐらいになります!」

 

彼はじっと緑谷出久を見つめる、感情に疎くとも頭は悪くない。軋視瞳にもその想いは届いていた、その上で彼は愚行と共に発言をする。

「…元々寿命は短い、その上個性などを使えば使う程細胞の崩壊をする。それを少しでも防ぐ薬はこの前、彼女が死んだと聞いて無意識に流しに溶かして捨ててしまった」

「軋視、お前…!」

「だからこそ、私はこの限りある命で、この運命に少しでも抗いたい。確実にあった過去は消えないからこそ、緑谷出久を育て上げたい。理由は何であれだ…私達は同じヒーロー(ひかり)を見た。だから、除籍されるような事はしてくれるな」

「…はい!!」

 

それは確固たる意思、軋視瞳としての、一人の人間の自我。

願わずには要られない、だが願うだけでは変わらないと知っていても、願い想い声に出す。

緑谷出久は、「君は、ヒーローになれる」と。

 

 


 

 

20分は過ぎた、時はさらに過ぎ、日も過ぎた。

8月中旬、緑谷出久は家を出る、向かうはハイツ・アライアンス、雄英高校敷地内にある建物だ。

そこに皆がいる、彼のクラスメイトの1−Aも、担任のイレイザーヘッドや他の教師達もいる。

オールマイトを除いた皆がそこにいる。

 

そこで皆は集まりホッとするも爆豪救出の件で爆豪・耳郎・葉隠以外は全員除籍処分の予定だった、オールマイトの死さえなければ。

日本はこれからさらに混乱をする、雄英から人を追い出すわけにはいかないと言うことらしい。

相澤消太は皆に言う、俺達の信頼を裏切ったから正規の手続きを踏み、正規の活躍をして俺達の信頼を取り戻せと。簡単なようで難しい事を皆に伝えた。

そこにチラッとサー・ナイトアイの自己紹介が入り僕らはハイツ・アライアンスに入った。

 

次の日から僕らは忙しかった、仮免のために必殺技を生み出さなくてはならないと先生は言う。

そんな忙しくも必殺技考案を楽しみながら、皆が切磋琢磨し、仮免試験まで日にちがある今日、朝刊はある見出しを書いた。

『オールマイトの葬儀 本日』『亡骸無き平和の象徴』

『生死不明?性別不明?オールマイトとはなんだったのか!?』

『ホントに憎むべきはオールマイト!』

『平和の象徴よ、安らかに』

 

平和の象徴は死して本当の象徴となった‼

 

 

「…巫山戯るな、何が死してだ」

 

 

参加するのは喪主サー・ナイトアイ(息子である事は世間にはまだ知られていない)、参加者は友好のあった雄英高校より1-A、イレイザーヘッド、プレゼント・マイク。

外部からのヒーローからナイトアイ事務所、グラントリノ、エンデヴァー、ホークス、他ヒーロー。

他の外部からは警察からの代表で友好のあった塚内直正、何か友好があったのか轟家、軋視瞳の名で手紙で呼ばれた緑谷引子、彼女の親友の娘 メリッサ・シールド、他緑谷出久は知らない人達。

メディア向けと一般参列者向けのスペースには約5000人を超える人達、来れない人たちも色々なことをした。

 

ある者は個性で空に彼のイメージカラーを空へ。

ある者は灯籠を空へ飛ばし、川へ流し、海へ流し。

ある者はお経を、聖歌を、国家を、歌を、詩を、叫びを。

皆が皆、自分なりにあの人を思い出し、祈り、悲しんだ。

 

とある人は癒えぬ傷の中独りごちた。

「私より早くに、何故…!友を、息子を、置いて死ぬな。私が愚かな事をしなければ…!ノリカ…!」

 

葬式の日に限って、秋も間近だというのに夏の陽射しのように太陽はギラギラ、まるであの人みたいだった。

オールマイトの葬儀が、始まる。




次回 オールマイトの葬儀。(多分)
書き手の心が落ち着きません、仮免何処行ったの?!

悲しみの連鎖は断ち切りたい!
悲しみの先はもう無い事を願い!
ネク・プルス・ウルトラ!


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No.-5 空の棺と夏明け

難産でした。
弔辞があるので今回変わった構成となっています。
御葬式回です、彼闇落ちしそう。


 

軋視瞳の目の前には空の棺が置いてある。

No.1ヒーローの葬式だ、僧侶が入ってくれば忙しくなる。

参列者の受付は、バブルガールとセンチピーダーの二人に、朝のうちに指示をして任せてある。

メディア向けには少し早めに開放した。

オールマイトファンがもう来ているのか既に線香と花の混ざっている。

「…涙も出ない、か。全く、あぁ、せめて、人並みの感情さえあれば…!!」

 

空の棺に、消えた遺体。空の心に、消えた陽光(ひかり)

告別式は始まる。

 

 


 

 

この度は、ヒーロー オールマイトの葬儀に参列して頂き皆様、ありがとうございます。

喪主を務めますは、元サイドキックであり…ヒーローのサー・ナイトアイです。

そのような関係でありましたので本来なら、彼女の意向だと過去に聞いた話ですが葬式はしなくてもいいと、言われてましたが今回は僧侶による読経、焼香、私の弔辞の3つのみとなります。

それでは…。

 

 

 

貴方、いや貴女は素晴らしい人でした。

素晴らしい女性でした、素晴らしいヒーローでした。

ですが貴女は、料理は本当に下手でよく焦がし、切るものは全て繋がり、味は濃すぎるかうす過ぎたりしましたね。

ヒーローとしてのコミュニケーションは完璧なのに、一人の人として関わる時はとても口下手で、…笑顔が本当に眩しい人でした。

今日の陽射しのように、ヒーローとしての笑顔はギラギラとした人。

 

貴女はNo.1故に、頼れる人がいない。

人前では決して泣く事の無い、愛して欲しい筈なのに、ぬくもりを誰よりも知っているのに、知らない生き方をしてきた人。

オールマイトは、誰よりも孤独な人だったな…!!

 

私はオールマイトの元サイドキックだ、そして…八木典花の戸籍上の息子だ。

今だけは、少しの間は息子として、皆に言わせてくれ…!

平和の象徴は死して本当の象徴となった?巫山戯るな!

彼女の死を、ヒト一人の死を、誉にしないでくれ!!

 

 

 

血の繋がりの無い、戸籍上の母で戸籍上の息子でしたね。

接し方も関わり方も、育て方も恐らく一般的な親子ではなかった。

私はとあるヴィラン組織のデザインベイビーで、典花さんに救われなければ私は、今頃組織の兵器で、例えばそこのあなた、例えばそちらのヒーローを殺していたかも知れない。

 

私は欠落している、人の表現を、心を、倫理を。

私は生まれながらに歪んでいる。だが全て、八木典花を見て、あの人みたいなヒーローになりたいと思い、…ここまで来た。

彼女の真似をした、模してみたり、理解する為に何回もシミュレーションもした。

だが典花さんは、教えるが下手で、それでも教えようと、軋視瞳が軋視瞳らしく生きられるようにと言ってくれた言葉がある。

君と私では歩き方が違う、同じ人間だけど違うだろう?君は君らしく歩め、ゆっくりでも良いから歩いて学べば良いんだと。

そんな不器用ながらも素晴らしく、尊敬するヒーローの死を、私の、わたしの母の死をッ!

たたえないで…、ほしい。

 

 

 

 

 

…失礼、だいぶ取り乱しました。

生は有限、死は無限。

私はもうあなたに会えません、あなたの師も、あなたの弟子のような生徒達も同僚も、誰も彼もあなたに、永遠に会えない。

いくら体を取り繕い、記憶を継承し、何もかも同じあなたが出てきたとしても、それは八木典花を模したものであり、八木典花では無い。

 

ここにあるのは空の棺、実はあなたは生きてるかも知れないし、本当に死んだのかも知れない。

…何が言いたいかと言うと、典花さん、オールマイトは本当に死んだな。

遺体は無い、事実の確認も困難で、あるのは少数の目撃と心電図の音。

我々は良くも悪くも前を、一歩を歩み進まなければならない、いや、進んでくれ、進んでほしい。

八木典花なら、そう言うだろうから。

 

だからどうか、何処かに遺体があるなら見つけますから、生きているなら見つけますから、今はどうか、この想いだけは言わせてくれ。

典花、さん、…ぁ…ぉ…、かあさん今は、やすらかに。

…おやすみなさい、かあさん。

 

 


 

 

告別式の終わり、出棺となった。

メディア、ファン、ヒーロー、野次馬、参列者。

多くの者がここに集まった。泣き声が聞こえる、叫び声が聞こえる、笑い声が薄っすらと聞こえる。

それらを消すようにクラクションは大きく、何よりも大きく鳴り響いた。

「…ここから、車で30分ぐらい掛かる場所に火葬場があります」

「サー・ナイトアイ、貴様大丈夫か?」

 

そう言って一歩前に出てきたのはエンデヴァーであった、サー・ナイトアイは首を傾げるとエンデヴァーは彼の顔が真っ白だと静かに言う。

「サー、火葬場までは私とセンチピーダーで誘導と説明しますから休んでください」

「俺もやります、3人いれば平気だと思うんだよね。…

お願いですサー、少しでも休んでください」

「…すま、いや、ありがとう」

「…休め、ナイトアイ。例え30分でも、5分でも、何時間でも、一度立ち止まり、肩の力を抜け」

「あなたはオールマイトが嫌いだったのでは?」

「嫌いではない、超えたかったんだ。だがそのお…、その“女”はあまりにも強かった。俺は男だと思ったから超えたかった。…早くに知っていれば俺は認めただろう、俺は折れただろう」

「あなたが、折れる?」

 

虚ろな眼だ、未来を予知すると言うには、瞳に光は無かった。

轟炎司はその瞳を持つ人の背を、その手のひらでゆっくりと押し、車に誘導をする。

「ああ、越えられない壁だと折れただろう。そして、今以上に意地でも超えてやろうと思うだろうな」

「折れてないんじゃ…」

「一度は折れるだろう?少しでも諦めてしまったら」

 

蒼い焔のような瞳を見た、紅い炎を身に宿すにはあまりにも澄んだ焔だ。

軋視瞳はその瞳で未来を見なくてもわかった。

この人が次のナンバーワンとなり、平和の象徴亡き後の先の未来を、燃やし照らすと。

「お前も一度、今折れた。軋視瞳、ヒーロー サー・ナイトアイとして、また立てる時を待っている」

 

軋視を後部座席に座らせると、炎司は運転席へと座る。

どうやら彼が運転するようだ、火葬場への道は既にナビに入れてある。

 

「う、あ、あぁ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!

 

顔を隠しながら、声を上げる。

泣いたことが無いのか、下手くそに泣き叫ぶ。

その場には、寄り添う者は居ない。

その場には、それが何かを伝える人は居ない。

それでもこの涙の意味ぐらいはわかっていた。

人並みの感情が無くとも、それを上回る知識がある、教えてくれた人もいる。

 

空の棺は、夏の空へと煙となり、溶けていった。

 



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