原作曖昧者に転生は厳しい 兵藤一誠 (ジーザス)
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一巻
1
「眼福です!」
「いやぁ、これ以上無いほど絶景だなグヘヘヘヘ」
今の俺の前には部活動をする女子を見てだらしなく鼻の下を伸ばしている変態が2人いる。
こいつらのこの行動はここ駒王学園に入学する以前からのもので、思春期に到達する以前から至っていたというどうにも救い難い事情を抱えた馬鹿である。
「見て!松田と元浜が危険な視線でこっちを見ているわ!即時撤収よ!」
「「「「「「はい!」」」」」」」
という女子たちからは忌避される2人であるが、俺にとっては唯一無二の親友なので縁を切ろうと思ったことはない。
まあ、一緒にいることで巻き添えを喰らうことはあるがそれは別段気にするほどでもないからね。
「失敬な!これは男にとって何物にも代えがたい行動だぞ!男がこのような行動をしないことはないのだ!」
「くっそぉ!もう少しでスリーサイズがわかったのにぃ~!」
…何言ってんだかこいつらは。世の男性が全員お前たちみたいにそういうことを表に出す奴ばかりじゃないからね?
自分で言うのも何だが俺もそこに属する人間のはずだ。いや、確かにそういうことに興味が無いわけじゃないよ?むしろあるよ。
でもこいつらみたいに年がら年中四六時中、周囲に垂れ流しているような奴らとは比べものにならない。可愛いもんだよ本当に。
「畜生!おいイッセー、お前も加われよ!」
「そうだぞイッセー!お前がいれば百人力いや、千あるいは万人力だ!」
「…俺、お前らほどそういうことに興味ねえから加わる気ないんだけど…」
「「甘い!」」
全く同時に同じ言葉を発してきてさすがの俺も狼狽える。
「それでも貴様は男か!?『男たる者女の尻を追い続けるが吉』という格言あるだろうが!」
「どこの格言だ!?聞いたこともないわ!」
「やかましいイッセー!貴様には女体の素晴らしさがわからんのか!?そこまで言うなら興味が無くなるか新しい『扉』を開けてから言いやがれ!」
シュビ!っと音が聞こえるように鋭く俺を指さす元浜に俺は脱帽するしかない。
いや、本当にこいつら何言ってんの?
下手したら「少年院へGO!!無料片道切符」が無料配布されるような次元に至っている気がするんだよねこいつら。
通報されないのが疑問に思えてくるほどに。
俺の前では坊主頭の松田の上からピンクの光が降り注ぎ松田を包み込み、その松田に対して信仰者のように崇めている元浜という眼を逸らし現実逃避したくなる光景にため息をつく。
こんな奴らだが根はとても良い。優しいし困っていれば手を差し伸べ、哀しみや苦しみがあれば3人で共有して和らげてくれる。
こんな変態を外に出さなければ女子とも仲良くなれるというのにもったいないという言葉に全てを捧げたくなる。
そんな2人を俺は若干冷めた視線で見守り、草むらに寝転び眠気に全てを委ねた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あのぉ、駒王学園に通っている兵藤一誠さんですよね?」
それからどれぐらい経った頃だろうか。
五限目が終わりいつものように2人と一緒にいた後、夕焼けが夜空に変わり始めるぐらいに暗くなり始める季節のある日の帰り道。
俺はいつもの通学路を何も考えず帰っているとふいに後ろから声をかけられた。
後を付けてくる「人」がいるのには気付いていたけどさすがにここまで可愛いとは思ってなかったよ。
「第三者目線」だったら見てきたけど「本人目線」だったらそりゃ驚くわな。だって誰もが羨むような容姿とプロポーションだもん。
清楚な中にもどこか色気が僅かに漏れているが何故か幼く見えるという不思議な顔立ちに綺麗な金色(こんじき)の瞳をしている。
腰に届くとまでは言わないがそれでも長く漆黒ではなく夜空のように澄んだ色の黒髪。
大きいと小さいという言葉のちょうど中間地点にあると思われる胸の大きさ。女性らしいというより未だに変身段階と思われる腰のくびれ。
そして太くも細くもなく健康体と思われる足のふくよかさ。
全てが完璧な美少女が駒王市屈指のお嬢様学校の制服を着ながら、頬を染め瞳を麗せて名前を呼んでいる姿はあの変態2人組の言葉を借りるとしたら「眼福物」だ。
「そうだけど君は?」
「すみません!相手の名前を確認しておきながら自分の名前言わないの失礼ですよね。私は天野夕麻といいます。率直ですが兵藤一誠さん、私と付き合ってくれませんか?」
「え?何?めっちゃ可愛いじゃん。やば、もろタイプ」
「え?え?…////」
まさかの俺の大胆告白に予想外のことで頭がショートしたのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。
いや、それ俺も一緒だからね!?だってこんな可愛い子に告白されたら口から出ちゃうじゃん?本心だよ本心!口から流れるように出たのは本心だからだよ!
「…じゃあ、返事はO.K.ということですか?////」
「え、う、うん。よろしく」
「は、はい…////」
それっきり俺も夕麻も顔を真っ赤にして何も話せなくなった。仕方ないでしょそこまで褒められたら嬉しいだろうし俺も告白されて嬉しかったんだからさ。
「あの、よかったら明日デートしませんか?まったくそういう経験がないですけど頑張りますので」
「いや、俺もないからお互い楽しもうよ」
俺の言葉は半分嘘である。「この世界で」は初めてなのだ。さすがにそのことが注釈付きで発せられていることなどわかるはずもなく嬉しそうにでも微かに同情をはらんだ光が瞳の中にあった。
「でも明日っていってもそんなに見れないけどいいの?」
「はい、失礼ですけど最初は短いほうがお互いに気にせずデートできるかなって思って」
「ありがとうその気持ちだけで十分だよ。また明日」
「はい!」
とても素晴らしい笑顔で嬉しそうに駆けていく彼女を見送ってから俺は家の方角に歩を進めた。
『ドライグ、どう思う?』
【罠でしょうね。どうにも本心から付き合いたいと思っているようには見えなかったもん】
『あれ拗ねてる?』
【それは貴方次第。私は寝るお休み】
嫉妬した会話を強制終了させられた。
俺の腕に宿る「ドライグ」は相棒だ。「原作」の場合この時点では兵藤一誠はこのことを全く知らないが俺は知っている。何故かって?それは俺が「転生者」だからだよ。
小説とかでよくあるよね転生したら〇〇の世界だった~とかさ。それが自分の身に降りかかるなんて全く思わなかったよ。
二十歳で死んだ俺は神様に頼まれてここに兵藤一誠として生まれ変わらされた。
なんでも俺にはここで生きる才能があるとかで容赦なくされたんだよね~。
チート級というか「最上級悪魔と同等の魔力と身体能力」という特典と「ドライグを使いこなせている」という特典、「この世界の知識あり」という特典を強制的に渡されて兵藤一誠という人間に生まれ変わり今に至るというわけだ。
「ドライグ」が男性ではなく女性になっているのが唯一の疑問点だがそこはあまり追求しない方がいいだろう。だって聞いたとき眼を逸らしてすんごい形相で睨んできたんだもん。
今思い出しても寒気がするよ。伊達に神様やってる人じゃねえわ。
「ドライグ」との初対面は今から1年間という最近のことだ。最初に出会ったときは誘惑するようにタオルで隠しただけの様子で俺の前に現れたんだけど真顔で見つめ返したら怒られたのよね~。
今思うと謎だわあれ。後々わかったんだけど今までの奴らはその様子を見た瞬間襲ってきたらしい。勘違いしたんだろうね「その服装」に。
てか「あれ」って服装って言うの?まあいいや。それで何もしなかった俺に感動(感銘?)した「ドライグ」は俺に色々教えてくれたわけよこの世界のことを。
知らない部分は俺の記憶容量じゃ不可能だったから綺麗に削除しておいたよ。
ついでに言うと「ドライグ」には偽の記憶をいれこんである。俺が独学でここまでの境地に至ったという記憶をね。
本当はそんなことしたくなかったんだけど俺が「転生者」だってことやチート級のものを持っているって知ったら精神崩壊起こすかもしれないもん。
歴代の赤龍帝の宿主は一から鍛え上げた人だから受け入れられないからね。
まず独学で禁手を使わずとも「最上級悪魔」の実力に至るとか純血でも何百年とかかるかもしれないのになれているのは「才能」の一言で片付けることにしている。
どうせいつか全てを打ち明けなきゃならないときが来るだろうからね。
おっと、みんなに俺のことを説明してたら家に着いたようだ。明日は夕麻とデートだから早めに寝ることにするよおやすみ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして翌日、松田と元浜に断って夕麻の学校の校門前で待っていると嫌でも視線を向けられる。
そりゃ、お嬢様学校の前の校門に市内屈指の進学校である駒王学園の制服を着た生徒がいたら軽く騒ぎになるよ。
唯でさえ男子生徒と関わりが無い女子校よりさらに関わりが無い学校なんだからそうなるよ。
【大人気ねイッセーは】
不満爆発の「ドライグ」は俺に語りかけてくる。相棒は暇さえあれば俺を誘惑してくるので気が抜けないのが現状だ。
もとはドラゴンなんだぜ?そんな人が人間である俺を誘惑してどうすんのさって聞いたら具現化したドライグに「種族は関係ない」って真顔で言われたよ。
ぐうの音も出ないとはこのことだ。確かに人間と堕天使の間に生まれた先輩とかいるからね言葉は正しい。
でもね、「ドライグ」は伝説なんだぜ?そんなのとあんなことやこんなことがあったらヤバいっしょ。
少しばかり物思いにふけっていると待ち人来たり。夕麻が満面の笑みで駆け寄ってきて俺の左手に指を絡めて腕に抱きついてくる。
積極的な行動に少し驚くが嬉しいので引き剥がすようなことはしない。
「夕麻は人気者なんだな」
俺の言葉通りお嬢様学校の生徒たちがすごく噂しているのが聞こえるし、夕麻の名前がところ構わず飛び交っている。
「人気者になりたくてなってるわけじゃないですけどこればかりはどうしようもないです」
「まあ、いいじゃないか。可愛いんだから仕方ないさ」
「か、可愛い…///」
うん、敵だとしても素の反応は満点だ。
ショートしている夕麻の背中を軽く叩いて夕焼けに染まるショッピングモールに向かって歩き始めた。
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夕麻とのデートは至極満足のいくものだった。普通のカップルのようにプリクラを撮ったりお揃いの服やアクセサリーを買って楽しんだ。
歩いているといろんな視線をもらうがそれは夕麻に向けられているのがほとんどなのでさほど気にしなかった。
俺は前世でのカップルのような買い物をする夕麻に少々驚いていた。「人間」でない彼女が普通の女子高生のように振る舞い本心で喜び嬉しそうにしているのが嬉しかった。
でもそれは訪れるんだよな。俺がどれだけこの時間が続いてほしいとどれだけ願っても来ちゃうんだよね。
俺と夕麻は3時間ほどのデートを終えて誰もいない公園で一休みをしていた。公園のベンチに座った後から夕麻は黙り込んでしまった。
おそらく俺を殺すか殺さないかの狭間を彷徨っているのだろう。
彼女にとっての居場所を失うか俺を失うかのどちらかで葛藤しているのだ。俺には自分の居場所を選ぶのだと「原作」を読んでいるからわかる。
でもこの3時間での夕麻の表情は本当に満たされているような感じでありそれを失うのが辛いのだとわかっている。
繋いだ左手に伝わる熱と震えていることで板挟みで苦しんでいるのがわかる。
「イッセーくん、お願いがあるんだけどいい?」
ついにこのときが来た。
「何?夕麻」
「…私のために死んでくれる?」
「いいよ」
「え?」
まさかの二つ返事で許可されるとは思っていなかったらしく唖然としている。
「何か理由があって俺を殺すんだろ?いいよ夕麻のためなら『悪魔』にでも魂を売るさ」
敢えて「悪魔」という単語を使ったが俺が「悪魔」の存在を知っていることを知らない夕麻は頷いた。
背中から黒い羽が生え左手に持った光の矢が俺の腹部を貫いた。
「ごめんね、ごめんね…」
夕麻は本当に申し訳なさそうに涙を流しながら俺の腹部に光の矢を突き刺している。愛した女性の手で殺されるのなら文句はないよ。
どうせ「あの人」が助けてくれるんだからさ。
泣き顔を見られたくないのか両手で顔を覆って空を飛んで消えていく夕麻をベンチから崩れ落ち、仰向けに空を見上げていた俺の視界の端に映った気がした。
腹の痛みは不思議にもそれほど感じなかった。刺してもらうために人間程度まで体の機能を下げた俺の体は今にも消えそうな灯火だ。
「本当に面白そうな子。どうせ死ぬなら私が拾ってあげる貴方の命。私のために生きなさい」
どこからか声が聞こえ鮮やかな紅の髪が視界に映りこんだが「悪魔」に転生するために一度死ぬことにした。
うん、レイナーレ可愛いよね現実にいたら速効告るわ作者は。
ということでハイスクールD×Dを書き始めた作者です。これだけの作品を書いていると更新どうなるんだろうとか内容霞んでいくんじゃないかと焦っています。
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2
オッス、みんな元気か?俺は元気だぜ無事に転生悪魔になれたからな。だが困ったことに夕麻とは会えていないのが現状だ。
3日間至る所を探し回ったけど無駄骨だったよ。もう一回会いたいよねあれだけ美少女と3時間デートしたらそこらの女性とは不可能だよね。
というわけで転生悪魔になった俺は朝が極端に苦手になった。日光は肌に刺さるみたいだし体が幾分か重い。でも逆に夜はフィーバーだよ。
だって体の内側から沸き上がってハイテンションになるんだもん。
とまあ、このことは置いておいて今は登校中だ。いつもの3人で歩いていると元浜がメモ帳に何かを書き込んでいる。
覗き込み少しばかり興味を持った俺は見なければ良かったと後悔した。
何故なら元浜が書き込んでいたのはカレンダーの欄に朝、昼、夜に三分割してパンチラ数を記入していたのだ。
それは今に始まったことではないらしく、目覚めたその日から付けていると下品に顔を崩しながら松田がいらない情報を与えてきた。
取り敢えず人間程度の力で松田の顎をアッパーで狙い打ち元浜の顔を眼鏡と共に殴っておいた。
元浜の場合、1日に眼鏡が何個か割れるのは日常茶飯事なので常に複数持ち歩いている。そのため気兼ねなく壊すことが可能だ。
そして教室。
いつも俺の席に集まって会話をするのだが今日は幾分か気合いの入った顔で立つ松田に嫌な予感がした。
そしてそれは現実のものとなる。
「いいもん手に入ったぜ」
松田が鞄を開けて中身を惜しげも無くさらし鞄の中身を置いていく。ドカドカと机に積み上げられていくのは見るからに卑猥な本やDVDだ。
「「ひっ!」」
遠くにいる女子生徒と俺の声が重なり俺は後ろ向きに椅子から崩れ落ちた。ギギギギギと油を塗らなければならないような動きで首を回し遠くの女子に懇願する。
「俺は何もしてないよな?」
「…うん、兵藤君は何も。悪いのはあの2人っ…///」
顔を真っ赤にして俯いてしまった。そりゃその反応するよね朝からこれだもん。
こんな刺激が強すぎるもの俺だって逃げ出したいぜでも逃げ出したらこいつらと絶交する可能性があるわけだ。
そこまでとは言わなくてもそれだけは避けたい。
だって昔からの友人だったんだぜ?転生者とはいえ友達減るのは嫌だもん。
ここ駒王学園は元々女子校だったわけで今も全生徒の七割が女子生徒である。クラスに男子は10人いるかいないかという状態だから2人に絶交されてもすぐ仲良くなれるはずだ。
でもそれは嫌だよね長年の友達失うのはさ。
「わかったから寝かせてくれ。俺は寝不足なんだ」
机に積み上げられていた卑猥な本やDVDを男子生徒に向かって放り投げると、松田と元浜以外の生徒が我先にと獲物へと群がっていく。
「あ、くそ!俺の秘宝がぁ~!」
「イッセー許すまじ!」
秘宝かよあれが…。じゃあ、公共の場に持ってくんなよな~。獲物を取り合っている俺以外の男子生徒に向かって女子生徒はとてつもなく冷え切った視線を向けている。
もはや人間と認識されることはないだろう。またこの様子は同級生だけでなく上級生にも下級生にも流され俺のクラスの男子が迫害されている図が脳裏に浮かぶ。
「南無三、松田と元浜よ。俺は『これまでのお前たち』を忘れないさ」
「非売品だぁぁぁ!」「プレミアものだぁぁぁ!」「触るな触れるな近付くな!この外道共がぁぁぁ!俺の宝持って行くんじゃねえぇぇぇ!」
血気盛んな男子生徒と松田の心からの叫びをBGMに俺は眠りについた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その日の夜、俺は家の近くの公園で缶ジュースを片手にベンチでぼけーっとしていた。ここは夕麻に否、「堕天使 レイナーレ」に「二度目」の死を与えられた場所だ。
今思うとあの悲しげな表情が浮かび胸が締め付けられそうになる。それだけ俺が彼女を好きだったということだ。
ふっ。
背中に何者かの気配を感じ振り向くと黒い翼を生やした男が立っていた。
「コスプレ?変質者?」
「なわけあるか!本物だこれは!」
「おお…」
本物と認識して貰えず怒り狂っている男の威圧に称賛したくなる。
「お前の主は誰だ?まさか『はぐれ』ではないだろうな?」
「俺は『誰』のかは知らないけど『悪魔』なのは事実だ」
「ほう、ならば消してやる『はぐれ』であると認識して貴様を処分してくれよう。それならば『勘違い』で殺したと言い訳が立つものだ」
両手に光の槍を出現させた男は連続で投げつけてくる。弾切れはないらしくいくら避けても途絶えることなく飛んでくる。
この程度の敵ならば素手で殴れば消滅可能だが、ここは敢えて「原作通り」の流れにもっていくためにわざと左足に光の槍が刺さるのを演じる。
「ぐあ!」
「痛かろう?光は貴様らにとって猛毒だからな。弱体化させて潰すのもいいが何しろここは『あの方』の縄張りでゆっくりするわけにもいかんからな」
男が特大の光の槍を投げつけようとした瞬間、鮮やかな紅の髪が宙に舞った。
「その子に触れないでくれないかしら。私の『眷属』だもの墜ちた天使さんには触れさせたくないの」
「紅い髪…グレモリー家の者。ここは撤退するべきであるな私では貴女に勝てる見込みがない」
「潔くて結構です。この町は私の管轄なの次ここに無断で侵入すれば容赦しないわ」
「我が名はドーナシーク。『眷属』の放し飼いは気をつけることだな」
ドーナシークは黒い翼を羽ばたかせて漆黒の夜空に溶けるように消えていった。すると紅い髪の女性と黒髪の大和撫子のようにお淑やかな雰囲気を醸し出している2人が俺に近付いてきた。
「怪我は左足だけ、よくこの程度で済んだものね」
「あらあら、逃げるのが上手いのか身体能力が高いのかわかりませんね」
紅い髪の女性は陥没した公園の地面と俺の怪我した左足を交互に見ながら安堵した表情を浮かべ、もう1人は楽しそうに笑みを浮かべながら俺の左足を治療して包帯を巻いてくれた。
この程度の傷であればすぐ治せるけど疑われては困るから今は使わないでおこう。
「助けて頂いてありがとうございます」
「どういたしまして。でも私の『眷属』なのだから助けるのは当たり前よ。それから初めまして私は駒王学園3年リアス・グレモリー。貴方の先輩であり主よ」
「同じく3年の姫島朱乃よ」
「初めまして1年の兵藤一誠です。リアス先輩、俺は貴女の下僕ということになるのでしょうか?」
何も知らない風を装って聞いてみる。
「そうだけど私からしたら『眷属』は家族よ」
さすがは「情に厚いグレモリー家」である。「原作」と何も変化なしというわけだ。
「詳しい話は明日するからオカルト研究部の部室まで来てくれるかしら?」
「構いませんが部屋が何処にあるかわからないんです」
「原作」読んでても詳しい場所知らないんだよね。だって「にわか」だったし「知識曖昧転生者」だもん仕方ないよね?
「そこは大丈夫よ連れを送るからその子に付いてきて」
「わかりました」
「さてとこれで用事は終わったようだから帰りましょうか。でも面倒だし貴方の家に行かせてもらうわ」
ということで俺の家に来ることになった主のリアス先輩。1人で勝てた相手とはいえ助けてもらったお礼もあるので断ることなく家に来てもらうことにした。
姫島先輩はにっこりと笑顔で俺を送り出した。後ろに般若は、っといないな。うん、いたら嫉妬か怒っているかのどっちかだしね。
けどいいのかな男子高校生の家に美人な先輩を連れて行っても。
もちろん手を出すつもりはないけど念のために思っただけだからな!先に言っておくぞ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日の朝、珍しく1人で起きることができたのでなんでだろうと左を見て眼を見開いた。そこには一糸まとわぬリアス先輩が気持ちよさそうに寝ているではないか。
昨日の夜、家に帰ると母さんが珍しくおらずどうやら友人と食事に行くらしく、帰ってくるのが遅いことをラッキーと思い自室に入った。
その後、順にシャワーを浴びて俺が床で寝ていたはずなのにいつの間にかベッドに上げられていた。
もしかして俺が寝ている間に移動させられた?そんな感じ全くしなかったんだけどな。まあいいや、どうせこれからこうなるかもしれないんだしさ。
「ん…」
どうやらリアス先輩が起きたようだ。この姿は俺からすれば刺激が強すぎるがなんかねすぐ慣れたよ。たぶん松田と元浜に影響されてるんだろうけど今思うとありがたく感じるね。
「おはよう、よく眠れた?」
「先輩のおかげでぐっすりと。それから俺の足治してくれたんですね助かりました」
「貴方の体は丈夫ね。魔力使ってたらあっという間に治ちゃったから驚いたわ。貴方、何者なの?」
「転生悪魔ですよ。もしかしたら転生したときにイレギュラーで『超速再生』とでもいう能力が発現したのかもしれませんね」
それとなく答えると納得したのか頷いて話は終わった。
「じゃあ、下に行って朝食を食べましょう」
「両親に知られても大丈夫ですか?」
「もう記憶操作してあるわ。貴方と私は友人で家に泊まれるほど仲が良いとね」
さすがは純血悪魔の家系の力だ。人間の記憶を簡単に操作できるだけの魔力って一体どれくらいなんだろう。俺も使えるけど可能な限り親族には使いたくないよね。
だって偽りの記憶とかで納得されても後味悪いじゃん。
ということでリアス先輩の着替えを見ないようにして着替えて母さんと父さんといつも通りに会話をして学校に向かった。
リアス先輩と一緒に歩いていると好奇の視線をもらうが気にしない。噂されても無視し続ければいつかは儚く薄れていくものだ。
リアス先輩と別れて教室に向かっていると後頭部をなかなかの力で殴られた。振り返るとそこには涙ではなく今にも血涙を流しそうな表情をした松田と元浜がいた。
「朝っぱらから最低な挨拶だなこの野郎」
「どういうことだよ!お前とリアス先輩が一緒に登校していたという情報があったぞ本当か!?」
「事実だよ」
本当のことを伝えると2人の目がキランと光った。比喩ではなく本当に光ったのだ…。
「裏切り者め!」
「酷くね!?」
「俺たちはモテない同盟を結んでいたのによぉ!」
「…すまん、初めて聞いたぞそれ」
俺が知らなくても当然らしくクラスメイトの桐生によると2人は俺がいない間に勝手に結成していたらしく気にするなと言われた。頼りになるよ桐生は。
「原作」と一緒で変態だけど松田と元浜とはまた違った意味でね。面倒見が良くてコミュニケーション能力が高いから男女問わず人気だけど松田と元浜とは犬猿の仲とでも言えるほど互いを毛嫌いしている。
でも本当に人間自体を嫌っているんじゃなくて「学校で卑猥なものを持ってきたり姦視するな」と主張する桐生と「男の楽しみを奪うな」という主張の松田と元浜が張り合っているだけだ。
互いに人間の良さを知っているからこそ譲れない何かがあるからぶつかるんだろうね。
放課後。
「やあ、お待たせ来たよ兵藤君」
女子生徒が黄色い歓声を上げているかと思えば「学校一のイケメン」という二つ名を頂いている同級生 木場祐斗が声をかけてきた。
昨日の夜に使いを出すって言ってたから彼がそうなのだろうもちろん知ってたけどね。
「ありがとう木場君」
「じゃあ、行こうか」
何故か木場が俺の左手を自信の右手で引っ張ってイケメンな笑みを浮かべているのを見て何故か俺の背筋に冷や汗が伝った。
こいつなんだか危ない気がするってね。
「「「「「「「「「「キャアァァァァァァァァァァ!」」」」」」」」」」
背後から大音量の歓声が上がり俺に頭痛を煩わせた。
「どうしたの?兵藤君」
「…いや、何でも無い。やけに女子生徒が嬉しそうに叫んでるからさ」
「はははははは、楽しいじゃないかその方が」
お前のせいだよ!って面と向かって言えない自分が悔しい。いや、言おうと思ったら言えるけどさ落ち込ませたり関係悪化したらどうしようもないじゃん?
この後落ち込んだ木場を見たら女子生徒が俺のせいだと言うだろうし人間以外の何かにされそうだし。
もう人間じゃなくて転生悪魔なんだけどね。アハハハハハハハ、はあ…。
現実逃避気味な俺の思考を露知らず木場は謎の嬉しそうな笑みを浮かべたまま俺の左手を引っ張っていく。
この時イッセーは知らなかった。この様子が木場ファンの間で尾ひれが付きまくり「イッセー×木場」「イッセーと木場きゅんの熱い抱擁」という題名のBL本で駒王学園に知れ渡ることになるとは。
何故かこれが駒王学園に限ってだが馬鹿売れとなり漫画部と小説部の活動費が前年の10倍になったとか漫画版のメイン執筆者と小説版の挿絵担当が桐生だとかじゃないとか。
女性教師が生徒たちより必死に買おうとしていたとかいなかったとか。
その後の新入生たちに脈々と受け継がれていったとかいないとか。
こっそりとリアスや朱乃がプレミア版2人の生写真付き(一糸まとわぬ合成写真)を自宅の自室に隠しているとかいないとか…。
木場君は少しBLっぽくしました。なんかそうしたほうが楽しくなりそうだしギャグ突っ込めそうなので。
木場君ファンの皆さんすいません!
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3
俺が連れてこられたのは旧校舎だ。うん、いいねまさにオカルト研究部という名にふさわしい雰囲気じゃないか。木々に囲まれた薄暗くもどこか優雅さと華やかさの合体技すんばらしい!
おっと、いかんいかん。つい来れたことによる嬉しさでテンションが上がってしまったようだ。外観が木造だけど中は最新式な感じだし趣深いものがあるね。
これもグレモリー家の家風とかなのかな?「原作」流し読みであんまり知らないからこれでいいいよね!
「部長連れてきました」
木場きゅん、おっと女子生徒の呼び方をついしてしまったな。それにしても木場っちが握る手の強さがなんか怖いんだけどなんで?
まあいいや、俺は室内を見て少々驚く。至る所に不思議な文字が刻んであるんだもん。床、壁、天井という必要ないと思われるところにまで刻み込まれている。
だがもっとも眼を惹いたのが中央の魔方陣だ。教室の大半を占める大きさはかなり大きい部類に入ると思われる。
さらに視線を移動させるとソファーやデスクがいくつか並んでおりそこには羊羹を爪楊枝で器用に食べている女子生徒が1人いる。
1年生の塔城小猫ちゃんだ。一部の男子から熱狂的に支持され、女子生徒からも「可愛い、マスコットにしたい」と言われるほど大人気な子だ。
「こちら兵藤一誠くんだよ」
「よろしくね」
「…羊羹好きですか?」
あれ?「原作」だったらぺこりと頭を下げるだけじゃなかったっけ?まあ、いいや。仲良く出来ることに越したことはないからね。
「いいの?じゃあ一切れもらおうかな」
小猫ちゃんがもう一本の爪楊枝を出して何故かあ~んをしてくれる。大人気女子生徒にあ~んしてもらえるとはなんと光栄なことか!
咀嚼していると木場っちが何故か若干嫉妬している視線を向けてきた。
「何かな木場っち?」
「僕もあ~んしていいかな?」
「させるかんなもん!」
今ので確信した!こいつ「原作」と違ってBLッチクになってやがる!俺の貞操は守らなければ死守せねばこいつに奪われてたまるか!
すると奥から聞こえていたシャワー音が消えてバスローブを巻いたリアス先輩が出てきた。
「あら、この姿を見てもなんとも思わないのね」
「朝のあれがありますから」
「それもそうね」
朝の一件を知らない2人は首をかしげているが話す必要は無いだろう。もしかしたら木場っちが紛れ込んでくるかもしれないかね!
「粗茶です」
「ありがとうございます」
ソファーに座った俺に姫島先輩がお茶を出してくれたのでありがたく頂くことにした。一口すするとほのかな甘みと苦みが口内に広がり心が安らぐ。
「美味しいですね、これはリアス先輩のお好みですか?」
「あらあら。そうですよ、日替わりではありますけどね」
「ここに来てもらった理由を話すから朱乃も座って頂戴」
制服に着替えたリアス先輩がそう言いテーブルを囲んで全員がソファーに座る。
「単刀直入に言うわ。私達は悪魔なの」
「…でしょうね。昨日のあの男を見たんですから言われたら信用せざる終えません」
「理解が早くて助かるわ。あの男は堕天使、邪な感情を抱いて堕落した天使の成れの果てというところね。悪魔と堕天使は地獄の覇権を太古から争っているわ。天使はどちらも見境無く始末するつもりだからゲームで例えればバトルロイヤル、三すくみ。いつまで続くのかそれは誰にもわからないわ」
「悪魔が負けるか堕天使が負けるかはたまた天使が負けるか。さもなくばどの勢力も衰退するというところでしょうか?」
それだけの話でここに辿り着いた俺の思考に全員が驚いている。仕方ないよね「原作知識」あるんだもん記憶違いあるかもだけど仕方なし、うん。
「…すごいわねこれだけでここまで考えがわかるなんて」
「太古から争いが続けばいつかはそうなると思いますよ。それから天野夕麻も堕天使ですよね?羽が似てましたから」
「その通り。貴方に宿る力が危険だと認識したんでしょうね」
「これですよね?」
左腕に魔力を溜めると輝きが放たれ収まった頃には赤色の籠手が現れた。
「…すでに知っていたというの?」
「いつからか自分に普通の人とは違う何かがあることに気付いていました。それに今では使いこなせてますよ」
右手に意識を送ると手の甲の宝石から何かが飛び出し人の形を作っていく。光が消えるとナイスバディの美人お姉さんが現れた。
『あれ?イッセーなんで具現化させたの?』
「自己紹介してほしいから」
『【旦那様】がそう言うなら仕方ないわね。初めまして悪魔と人間、堕天使のハーフさん。私は【二天龍】の1人赤い龍ドライグよ~ん』
「誰が旦那様だこら」
「「「「…ええええええええええ!!!」」」」
そりゃ驚くわな。あの「二天龍」がこんな変人だったら誰でもその反応するよ。「原作」知ってる俺でもこうなんだからね。性別逆転したから俺もびびったよ。
自己紹介して気が済んだのか「ドライグ」は元の場所に戻っていった。
「と、ということで理解できたわ。これから貴方には悪魔家業を行ってもらうわ。といってもここまで実力あればする必要もない気がしてきたのだけどどうしたらいい?」
「悪魔家業をして好感度を上げるんですか?」
「その通り。人間と契約して評価をもらえれば下級悪魔から中級悪魔に昇進可能よ。そしてさらに頑張れば上級あるいは最上級悪魔になれるのだけれどこれは純血悪魔でも一苦労なのが現実。貴方がどうしたいかはわからないから目標を教えてくれないかしら?」
もともと「最上級悪魔」と同程度の実力もらってるからそれほど望んでいないんだけどね。でも悪魔に転生したからには寿命が計り知れないぐらいになってるから目標は必要だ。
「リアス先輩への感謝と自分の『眷属』を持ち誰にも負けないチームを作ることです」
「結構、私のことはこれから部長でもいいわ。これからよろしくね私の眷属兼家族のイッセー」
「はい、よろしくお願いします!」
素晴らしい笑顔で俺を迎え入れてくれたリアス先輩改め部長に尽くすことを決めた瞬間だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それからの数日間、俺は下級悪魔としての生業である悪魔家業を開始した。本当はこんなことしなくても良いんだけどみんなの苦労を知れるし「原作知識曖昧転生者」の俺にはちょうどいいのだから休むわけにもいかない。
悪魔と取引するには命が代償だなんて前世で思っていたんだけど、この世界ではそれ相応の対価で済むらしい。
時には命を対価になることがあるらしいけどそういうことはここ最近ではないらしい。
理由としてはそういう危険な思想や願いを持つ人間に対しては事前に、こういう仕事を統括する仲介役の悪魔たちが代わりに行ってくれているらしい。
若い悪魔にはさばきにくい仕事は大人が代わりを担うらしい。
だから必然的にそれほど困らない仕事が俺たちには与えられる。
なんだかんだで俺は手際が良いらしく契約も順調に増えていき部長も至極満足していたから満足である。まあ、約一名のご指名は精神的にやられたね。
あのミルたんの野郎ぶっ殺したくなったよ。契約破談するって言ったらとんでもない腕力で俺を締め付けてきやがったんだよぉぉぉぉ!
転生した際に強靱な肉体を与えられていたからなんともなかったからいいもののなかったら完全にお陀仏だったねあの漢。
仕方なく契約破談を取り消すとご機嫌良くなって朝まで魔法少女の話させられたわ。
いや、「原作」のイッセーくん、君に同情するよ本当。これからできるだけ関わらないようにするよあれは数日分の体力もってかれるからね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日はオカルト研究部がオフなため学校が終わり、帰宅しているところであの美少女に出会う。
「はわう!」
顔から地面に突っ込み両手を広げている転び方は間抜けだ。でももともと、こういう子だから気にする必要はないのだ。
「大丈夫?立てる?」
「転んでしまったみたいですお声をかけて頂きありがとうございます」
うん、可愛いね金髪にグリーン色の瞳の癒やし系という言葉がぴったしな容姿と声音だ。
「えっと、旅行か何かでここに?」
「違いますよ?私今日ここの教会に赴任してきた者です。実はまったく言葉が通じなくて困ってたんです日本語ってかなり難しいですし」
そうだね。前世でも日本語は難しいって言われてたし、日本人も知らない日本語とかイントネーションで言葉の意味変わるから本当に厄介な言語だよ。
悪魔の力の一つに「言語」がある。その人の一番耳慣れた言語として聞き入れるので普通に話しても会話が成立する。
といっても話したり聞いたり出来るだけであるので読み書きは不可能なところが欠点である。というわけで俺は無条件でインターナショナルな高校生である。
「教会なら知ってるよ」
「ありがとうございます!」
近くにさびれた教会があったからそこだろうと思い連れて行ってあげることにした。数日後にアーシアはレイナーレにさらわれるけどそれは「原作通り」のほうがいいだろうと思い、何もせず会話をしながら教会へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その日の夜、部長に結構マジで怒られたけど祈られたり十字架見せられても聖水かけられても問題ないから口と表情だけ申し訳なさそうにしておいた。
だっていざとなれば俺は部長なんて瞬殺できるからね。もちろんしないよだっていなくなったら俺なんもできないもん!
次の日に「はぐれ悪魔」の討伐依頼が届いた。部長の活動領域に逃げ込んだから要請が来たわけなのだが木場っちや小猫ちゃんでも簡単に倒せるのに全員で行くのはどうなのかな。
「はぐれ悪魔」は人間にも害を及ぼすこともあるのだから放って置くわけにもいかない。
目的地に到着すると血の匂いが漂ってきた。悪魔になったから五感は鋭敏になっているからよくいろいろなところに眼がいくことがある。
おそらく住民は手遅れだろうそれだけの濃密な血臭が漂っている。
「イッセー、貴方の実力を見たいからやってみなさい」
「わかりました」
家の中から出てきた「はぐれ悪魔バイザー」と対峙する。女性の上半身と化け物の下半身が混ざった異形の存在。
「醜いな」
それだけを呟いた瞬間、イッセーは既にその場から姿を消してバイザーの目の前に来ていた。
「なっ!」
ポケットに両手を突っ込んだまま右足で蹴り上げる。同じように自分も飛び上がり両足を眼に見えない速度で繰り出しボコボコにしていく。
「てめえなんざ足だけで十分だおらおら!」
言葉通り足で蹴られただけでバイザーは戦意を喪失していた。大きく振りかぶった右足から繰り出された踵落としによってバイザーは地面に叩き付けられた。
「イッセー十分よ。あとは私に任せなさい」
「了解です部長」
大人しく引き下がったイッセーは木場の横に降り立った。それを見たリアスは瓦礫に埋もれているバイザーに近付き手をかざす。
「何か最後に言いたいことは?」
「殺せ」
「じゃあ消えなさい」
部長の低い声音が発せられた後に手の平からどす黒い魔力が放たれた。バイザーを優に超える大きさの魔力がバイザーを包み込み魔力が消えた後には何も残っていなかった。
格好良いよね部長は。俺より力は弱いけど人を引きつけるカリスマ性があるから自ずと集まってくるんだよな~。「原作」のイッセーよ、お前が惚れた理由今ならわかるぜ。
「来るときに話したように『悪魔の駒(イーヴイル・ピース)』はゲーム自体があってそれぞれ『眷属』に駒が与えられるようになっているの。祐斗は『騎士(ナイト)』小猫は『戦車(ルーク)』朱乃は『女王(クイーン)』よ。イッセーは『兵士(ポーン)』下っ端だけど使い方によっては戦況を左右する最強の駒でもあるわ」
部長の言葉に俺は内心やはりと思っていた。じゃないと支障がでるからね。まあ「プロモーション」できるから問題ないしそもそも俺の立ち位置が「兵士」だろうとやること変わらないからいいんだ。
部長は素晴らしい笑顔を俺に向けた後、俺たちを連れて帰っていった。
もうお気づきだろうと思いますが今作はイッセー視点で進んでいきます。違和感あるかも知れませんがよろしくお願いします。
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4
あ、SAOアリシぜーション始まりましたね!一番楽しみにしていたアニメなのでヤバいです!整合騎士との戦いも見たいけどロニエとのからみも楽しみ!一年間頑張れますよ本当に。
俺の家には猫が1匹いる。黒い雌猫で非常に人懐っこい猫だから父さんも母さんも溺愛してる。
まるで本当の娘のように。人の言葉を理解しているのか名前呼んだらこっちくるし、俺が寝ていたらどうやってかはわからないけどケースから出て俺の布団に潜り込むんだ。
懐かれてるってことだからいいんだけどね。
その時に偶然通りかかった俺が救ったんだけどひどく衰弱してた。温めて食事あげたら次の日には元気もりもりだったね。
俺が寝る準備を始めているとクロが布団の上に上ってきた。
「相変わらず布団が好きだなクロは」
「それは間違いだにゃ。ご主人様と一緒に寝るのが好きなだけなんだにゃ」
突然、人の言葉を話し始めた猫が光に包まれ、同時にナイスバディの和服を着たお姉さんが現れた。
クロは猫又の中のでも強力な「猫魈」である。主人殺しの罪でSSランクの「はぐれ悪魔」と危険視されていたが本当は違うのだ。危険な仙術の修行を実妹の小猫にさせようとした主から守るために主を殺した。
決して他意があったのではなくただ純粋に小猫を守りたかっただけなのだ。それなのに周囲からは勘違いされ小猫にまでも誤解されている。
会わせてやりたいがどちらもまだ戸惑いがあるだろうから対面するのはもう少し先になりそうだ。
「うにゃ〜、そろそろご主人様の子供が欲しいにゃ〜」
「まだ、言っているのか?頼むから俺が自分の眷属作るまで待ってくれよ。さすがに今できたら父さんも母さんもびっくり仰天して昇天しそうだ」
「それはそれで面白そうだにゃ」
「おい」
「にゃははははは、冗談にゃ。感謝してるからそんな心配はさせたくないにゃ〜。あと3年ぐらいの辛抱かにゃ?」
そうだな、それぐらい経ったら独り立ちしてそうだし何人かは来てくれてると思うよ。いいや、作るんだ俺の眷属をね!
「『はぐれ悪魔』がいたのになんで教えてくれなかったのかな?」
「…ご主人様の戦いを見たかったからかにゃ?」
「何故に疑問形?」
ツン。
「うにゃあぁぁぁ!いきなり何するにゃ!?」
「お仕置き」
「ひどいご主人様にゃ///」
だらしなく着崩した和服から溢れ出る豊満な胸を右の人差し指で軽くつつくと怒られてしまった。誘惑してくるくせにこれをされると何故か怒るのだ。
自分からするのと相手にされるのとは何かが違うらしい。
「もう一度言う。『はぐれ悪魔』に会ったんだが聞いていないぞ」
「サプライズだにゃ」
「…これは俺の考えていたものより上のお仕置きが必要だな」
俺はおもむろに机の上に置いてあったスマホを手に取り知り合いにLI〇Eを送る。すると…。
「オッス、イッセー。オラになんかようか?」
特徴的な髪型をして山吹色の道着に群青色のインナーを着た男が、額に右の人差し指と中指を当てた謎のポージングで現れた。
「こいつに修行つけてやってくれ」
「黒歌にか?十分強えんだけどそんなことする必要あるんか?」
「お仕置きだ。
「任せとけ!オラがまた強くしてやっからよ」
「ご主人様これはあんまりにゃ!こいつは殺す気で攻撃してくるんだにゃ!」
黒歌の文句を無視して、悟空は来たときと同じようなポージングをしながら黒歌の腕を掴んで消えていった。
「せいぜい頑張りたまえ黒歌よ」
俺は黒歌が悟空に気弾を大量に打ち込まれて逃げ回っている戦闘図を脳裏に浮かべて笑った。そしてそのまま眠りに身を委ねていった。
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翌日、いつも通りの悪魔家業を行うために夜の町をチャリで移動していた。今日の予定はまず一軒家に住む三十代の働き盛りの男性である。
仕事によるストレスだろうか、それとも三十代という「魔法使い」と呼ばれる年齢になってしまったことに対する慰めを求めているのだろうか。
いやいや、俺にそんな質問されても無理だからね?え?何?もしかして今から行く家の人ってそっち系?まさかね…。俺の貞操は死守せねば。
なんだか木場きゅんにも狙われている気がするから一層気をつけねば。いつ何をされるかわかったもんじゃないからな!
そうこうしているうちに目的の家に着き、インターホンを押そうとしたがその必要は無かった。何故なら玄関が空いていたからだ。
「なんで開いているんだろう?俺が来ること知ってたからwelcomeってこと?」
いやいや待て待て。こんな風に開けてたら近所の人が不思議になって言い寄ってくるよね?ということはつい最近に開けたということだろう。
玄関から中を覗き込み様子をうかがう。二階へと続く階段もあるが電気がついておらず人の気配はしない。
感じるのは一階からだが血臭が濃密に感じられるのが不安要素だ。物騒とかいうレベルではないほど濃い臭いが奥から漂ってきている。
「こんにちわ、グレモリー眷属の者です。依頼者の方おられますか?」
一応声を出すが返事がないので、玄関で靴を脱いで手に持ちながらリビングへと向かう。
テレビや机など一見すればどこにでもあるありふれた風景だが…。
「…なかなかの趣味をしていることで」
壁には体を切り刻まれた男性が上下逆の状態で貼り付けられている。傷口からは内臓が見えるし、時折動いて見えるのは死後間もなくということだろう。
手足に極太の釘が打ち込まれているし、被害者の顔は恐怖に歪んでいる。
「なんでこんなことするのやら…」
「『悪いことする奴にはお仕置きー』という聖なるお言葉を体現したものだよ」
背後から男の声が聞こえたので振り向くと十代の外国人が立っている。白髪で美少年と言ってもいいが纏う空気が気持ち悪いから言いたくなくなってしまう。
それから服装は神父みたいだがどこか胡散臭い。
「んーんーこれはこれは悪魔くんじゃないですかー。ラッキー、なんて幸運なんだろうね」
しゃべりが軽い。
『
という部長からの言葉が脳裏をよぎる。見た目からして協会関係者だってのは予測してたけど言動が軽いし簡単に人を殺せるのが気にくわない。
それに殺すことを楽しんでいるような感じがする。
「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している末端だよー。別に名乗らなくて良いよー悪魔の名前なんて覚えたくないしー。自分が汚れるからねー」
ふざけた男だ。神聖なものであるはずの服は返り血で汚れているというのに悪魔の方が汚らわしいとは。
そういえば思い出した。このうざくて軽い男は「原作」でも初期に登場して取り敢えずうざかった奴だ。俺も嫌いだし正直関わりたくなかったんだけどこうなったらどうしようもない。
今の今まで忘れてたけどの家見たときに気付いておくべきだった。今からすれば後の祭りだが。
「何故殺した?」
「だって悪魔呼ぶ常習犯っしょ?悪魔と取引するなんて人間としてクズっすよ。あれクズ以下?クズ以下の言葉見つからないわーアハハハハハハ」
くっそうぜぇ。やっぱこいつ殺した方が良くね?あまり人殺したくないけどこいつが存在し続けてたらあっという間に悪魔契約者が一掃されちゃうからね。
そうこう考えているうちに攻撃してきやがった。それも光で。
まあこの程度なら刺さったり貫通もしないんだけどね。ついでに言うと効果はゼロだよ~。
「…へぇ、今のが攻撃?」
「…効かないのはちょっと腹立つわ。死ねよクソ悪魔」
「やめてください!」
俺とクソ悪魔祓いの間に声を上げて割り込んできたのは金髪少女。
「アーシア危険だ今すぐ離れるんだ」
「嫌です!そんなことしたらイッセーさんが消されちゃいます」
「そんなこと言ってるアーシアが殺されるから逃げないとダメだ。それに見てほしくないものがある」
元からグロい系が苦手なアーシアがこの家の主の死体を見れば悲鳴を上げて、トラウマになる可能性がある。そんなことはさせたくないし、見せてはダメだ。
「悪魔とシスターの禁断の愛か。気持ち悪。そんなの許されるわけ無いじゃないですかぁー。堕天使のお姉さんには殺すなって言われてるから殺せないんだけど
殺す気満々だよこいつ。
「…イッセーさんが悪魔?」
「え、なになに?君ら友達?わーお、吐き気満載ー。てか、さっさと死ねよクソ悪魔」
まったく好き勝手言ってくれるクソ野郎だぜ。声を聞くまでもなく視界に入れるだけで吐き気がするし、腐食されるみたいで嫌だ。
「五月蠅いからその汚い口閉じてくんないかな?臭くて鼻もげそうだし、声汚くて耳腐りそうだからさ」
「…O.K.O.K.。処刑決定ねぇー。そこまでこけにされたら黙ってらんねぇし。てか悪魔って全員悪者だから殺すの確定なんだけどー…ぶべら!」
長ったらしい言葉がうざかったので軽くビンタしておいた。だって五月蠅いし、待ってたらいつまでたっても悪魔のこと侮辱しそうだから黙らせたかったんだよね~。
まあビンタしたおかげで壁に顔面から突っ込んで白目むいてるけど。
「禁手使わずに最上級悪魔と同等」っていうチート特典あるからただビンタしただけでこうなるんだけどね。てか、そのビンタ食らって伸びてるだけってほうが凄いかも。やっぱうざくても腕は確かみたいだ。
顔面から壁に突っ込んで伸びてる神父は、せっかくの整った容姿が残念なものに成り下がっている。
顔面崩壊した程度で落ち込むようなガラスのハートはしてないだろうし、「悪魔祓い」を辞めるとは思えない。
むしろ復讐心に駆られて厄介になりそうだけどここで殺すのも、どこかに連行して消してもダメだ。
アーシアが嫌がるだろうし何より俺があまり殺したくはない。痛めつけるのが楽しいことあるけど殺すまでは行かないし、精神的に病む程まで追い詰めるようなことはしない。
でもそうするべきときは殺すよ?母さんや父さん、友人や先輩、後輩にまで被害が出るなら心を殺して殺すさ。
「ごめんな?今まで黙ってて。知られたら嫌われると思ったから言えなかった」
「いえ、フリード神父が悪いんです。すべての悪魔が悪いだなんて有り得ません。だって実際にイッセーさんがそうではないですもん」
本当に清流のように清らかな心の持ち主だだから味方にも疎まれてしまうのかもしれない。
でもそれって普通真似できないからね?誰にも、敵にも命を狙ってきた輩にも分け隔て無く接するなんて俺にはできないよ。
「ありがとう。教会まで送るよ」
「だ、大丈夫ですよ!?それにイッセーさんが教会に近付いたらお体に触りますから」
「それぐらい大丈夫だよ。そんな程度で頭痛引き起こしたりはしないから」
アーシアの肩を軽く叩く。先に出ていってもらっといて何の罪もなく殺された家主の冥福を祈る。
俺がもう少し早く来ていればこんなことにはならなかった。「ここ」で生活している間に「知識」が抜け始めてる気がする。それでも俺はみんなを傷つけないように護らないとダメだ。
部長にこのことを報告したらきっとこの人の存在はなかったことになるのだろう。
この家には誰も住んでなくて、会社にもいなくて、何よりその人自体が
例え、俺が人間のままで悪魔とかに殺されて存在自体が無かったことにされたら、意識が無くてもそれを知ることが出来なくても絶対に嫌だ。
フリードの野郎は殺さないと後々面倒だけど今は見逃しておく。木場の成長には不可欠の存在になるからね。
ここで俺が殺して木場の成長を俺が助けるのもありだけど、なんかそれは違う気がする。フリードと戦って俺と修行して強くなるのがベストだと思うんだ。
「アーシア待たせてごめんね、行こうか」
故依頼者の家を後にして教会へとアーシアと楽しい会話をしながら向かった。
案の定、翌日の部室で部長にこっぴどく叱られましたよ。隣には鞭を持って満面の笑みを浮かべている朱乃さんがいたけども…。
小猫ちゃんは黙々とヨウカン食べてたし、木場きゅんは楽しそうに見てたし。
止めてくれよな!
あの二方の説教は精神的にヤバいトラウマ残すんだからさ!
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5
免許とレポートで書く暇がないんです
メインで書いている小説ぼかり投稿でしていました。できるだけ平等に投稿できるようがんばります
部長にこっぴどく叱られた日の次の日は、なんと部活がオフであった。
暇だったこともあったので、久しぶりに遠回りをして帰ることにした。別にこれといった目的があって歩いたわけじゃなくて、本当に歩いて帰るだけのつもりだった。
公園で遊ぶ小学生ぐらいの男の子たちが視界の端に映る。「はぐれ悪魔」と交戦したのかと思えるほど平和な時間が、穏やかに流れていく。
これが当たり前のことなのに何故かすごく尊いことに感じるのは何故だろうか。悪魔と天使、そして堕天使の三竦みによる小競り合いが続いているなかで、人間だけはそれを知らずに日常を過ごしている。
人間界で有名な企業が、実は悪魔の掌の上にあることなど大勢の人が知らないだろう。俺だって転生悪魔になってから知ったのだし、よほどのことが無い限り知る機会は訪れない。
それが良いことなのか悪いことなのかは今の俺では判断がつかない。悪魔になったから寿命は飛躍的に長くなった。もしかしたら死ぬまでにそのことを知る日が来るかもしれない。
たとえそのことを知る日が来なくても別に俺は構わない。知ろうと知らずとも、俺がやることは変わらない。
友人や家族を狙う輩を排除して明るく楽しい、誰もが笑顔でいられるような日常を作りたい。悪を恐れず正義に頼りきらないバランスがとれた世の中を作るのが今の俺の夢だ。
争いを生き抜いてきた存在からすれば、俺の夢は「幼い」、「温室育ち」と思うだろうが俺はそれで構わない。
自分が侮蔑、虐げられてもみんなの笑顔が見れるならそれでいい。
ただそれだけが俺の願い。転生したことで得た想いだ。
そんなことを考えながら夕暮れの空を見上げていた俺は、気恥ずかしくなって公園を左にして帰ろうとすると、取り零したのだろうか公園の出入口からボールが転がり出した。
それを追いかけて子供が飛び出す。
「危ねぇ!」
思いっきりダッシュして少年を衝撃から守るように抱き締める。勢い余って地面に肩が擦れて痛みが走るが堪える。
「大丈夫ですか!?」
車から降りてきた男性が俺に声をかけてくれる。このまま走り去られればこの人の罪になっただろうが、そんなことはないようだ。
もともと逃げられても被害届を出すつもりなんかなかったし。だって手続き面倒くさいじゃん?その時間を使って学校の勉強や悪魔家業をする方が効率いいもん。
「はい、大丈夫ですありがとうございます。君は大丈夫かい?」
「ひぐっ!うん、ひっく!」
「男の子が泣いたら女の子に笑われるぞ。怪我していないなら友達に無事を伝えてこい」
「うん!ありがとう優しいお兄ちゃん!」
笑顔でボールを持って走っていく少年に手を振って立ち上がる。自分の右半身を見てみると、まあまあひどい怪我だった。2、3m滑ったせいか擦り傷どころではなく、肉が少しばかり抉れている。
運転手に見えないようカバンで隠して立ち上がる。
「運転手さんにも怪我がなくてよかったです。この地域は子供が多いので速度には注意した方がいいですよ。それでは」
「あ、君ちょっと!」
声をかけられるが無視して歩き去る。どこか人目の無いところでさっさと傷を治したかったから足早にその場を去った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そのあと、どこを歩いても何かしらしている人や車などが通るので治す暇がなかった。そうこうしているうちに最寄りの公園まで歩いてきていた。
家も近かったが万が一母さんがいたら問いただされるからここで治すことにした。
「いてててて。やっぱ強制的に治すのは体に負担がかかるな」
細胞を活性化させることで傷を治していたが、相変わらずこの痛みには慣れない。無理矢理動かしているのもあるんだろうけどそれでも不快なのには変わりない。
顔を上げると見たことのある金色の髪をした少女が周囲に世話しなく向けている。どうやら道に迷ったらしいので手助けをすることにした。
「アーシア、どうした?」
「あ、イッセーさん!実は道に迷ってしまって…」
嬉しそうに笑みを浮かべたあと、萎んだ花のように俯く様子がかわいかった。
「協会とは真反対だよ?まあ、ここら一帯は迷路みたいになってるから仕方ないけど。協会までの簡単な道教えてあげるよ」
「ありがとうございます!イッセーさんもしかして怪我してます?」
「…わかるの?」
事故を目撃していないはずなのに何故気付けるのだろうか。
「少しだけですけどイッセーさんから血の臭いが。それとこの前会ったときの姿勢とは違うんです右肩が下がっているようなので。もしかしたらと思って聞いたんですけど当たりでしたね」
「驚いたな。でも気にしないでよすぐ治るから」
「ダメです!」
うおい!至近距離まで顔近づけたらダメだよ勘違いされるって!ほら、向こうに立つお母様方がひそひそしてるじゃないか!
俺は構わないけどさ。背中側だからアーシアには見えてないのが救いなのかな?
「見せてください!」
「…はーい」
何とも言えない圧力にしぶしぶ俺はブレザーを脱いで、怪我した部分をアーシアに見せた。それに息を飲んだ音がしたので本人が思っていた以上の怪我だったようだ。
人目につくわけにもいかないので、先程まで俺が座っていた公園のベンチに座って手当てをしてもらうことになった。
シャツまで脱がされた俺は驚いて振り返ると、アーシアも顔を真っ赤にして俯いていた。ほぼほぼ初対面の男の上半身を見るなんて、普通だったら恥ずかしいよね。
特にアーシアは「原作」でもちょっとしたことで顔を紅くしてたからピュアなんだよ。
だから俺は何も言わずに顔の位置を戻した。するとアーシアが両手を傷口にかざしすと、暖かい光が降り注ぐ感覚が俺の右肩を襲った。
安心できる、体が軽くなるような不思議な光だ。
「どうですか?」
「ありがとう。すごい力だね」
「ありがとうございます!」
人の好意を素直に受け入れて、嬉しそうにしてくれたらこっちも嬉しくなるね。だからみんなアーシアに癒されるんだと思うんだ。
「イッセーさんは悪魔なのにこれほどまで怪我をするんですね」
「今は人間ぐらいの身体能力に落としてるからその副作用だよ。体育とか悪魔の身体能力で動いたらパニックになっちゃう」
冗談を交えながら話すとアーシアも楽しそうに笑ってくれた。本当にアーシアの笑顔は見る者すべてを癒す力があるよ。
ほれてまうやろぉ!はないけどね。俺には一番大切な人がいるからさ。
「アーシアの能力は本当に便利だね。悪魔とかにも効果があるってすごいよ本当に」
「…はい」
あの太陽のように眩しい笑顔が突如曇った。
「…そうですね。でもそれが私がここにいる原因なんです」
「どういうこと?」
アーシアは涙を流しながらポツリポツリと話してくれた。
それは「聖女」として敬われた1人の少女の末路だった。
欧州のある地方で生まれてすぐに両親に捨てられた。捨てられた先の協会兼孤児院でシスターと同じように孤児になってしまった子供たちと暮らし始めた。
信仰深い協会で育てられ、アーシアの人間性も相まってその力に目覚めたのは八歳の頃。何気なく怪我した子供の傷を治療していると不思議な光が現れ、一瞬にして治ってしまった。
その不思議な場面を目撃した協会関係者によってアーシアは、カトリック協会の本部に連れていかれ、「聖女」として担ぎ出されることになった。
何故そんな力が自分に宿ったのかはわからない。ただ、怪我をしている人を救いたい一心でいただけなのに。それのせいで自分は今ここにいる。
力がほしくて人を救っていたわけじゃない。見逃せなかった。怪我している人が痛みを堪えている姿を見るのが耐えられなかった。
癒したい、治して元の生活を取り戻してほしい。その気持ちがアーシアに眠っていた力を目覚めさせたのかもしれない。
カトリック協会でその力を使い傷を治している間にも不安は高まっていった。それには自分に向けられる親しい感情ではないものが原因でもあった。
傷を治している自分に向けられる視線には、異質さが含まれていた。人間ではなく「人を治療できる生物」として見られていると。
それでもアーシアは懸命に治療を続けた。治すことは嫌ではなくむしろ嬉しかったし、世話をしてくれる関係者に恩返ししたい気持ちがあったからだ。
だがその後に起こった悲劇がアーシアの「聖女」としての人生を終わらせることになってしまった。
偶然通りかかった悪魔の傷を癒してしまったのだ。本来ならあり得るはずのない治療を目撃した協会関係者は上へと報告した。
それによってアーシアは迫害され、「聖女」ではなく「魔女」という烙印を押されることになった。そしてあっという間に見放され、捨てられた。
あれほど協会に貢献したのに庇う人間は誰1人いなかった。治療した怪我人でさえも突き放すような態度だった。
行き場を失い途方に暮れていたアーシアを拾ったのは「はぐれ悪魔払い」の組織であった。
堕天使の加護を受けざる負えなくなったアーシアの立場は一体どんなのだろう。
俺には想像もできないほどに苦しんでいるのかもしれない。
「私の祈りが足りなかったんですよ。神様は本当に祈りを捧げてくれる人にしか加護を施さないって。きっとこういうことですよね」
儚げに涙を流しながら微笑むアーシアに俺はなんと声をかければいいのかわからなかった。
だがそれをアーシアが信じてくれる保証はどこにもない。悪者の言葉をも信用してしまうアーシアだが、自分の信じてきたことを否定されれば、アーシアでも受け入れきれないだろう。
どこでその情報を知ったのかと聞かれれば俺のことを話さなくてはならないし、そうすれば三大勢力から危険視されるのは容易に予測できる。
そんなことになれば俺の立場だけでなく、松本や元浜、父さんや母さんにまで危険が及んでしまう。それだけは避けなくてはならない。
たとえ最上級悪魔レベルの身体能力や魔力を与えられていたとしても、勝つ見込みは万にひとつもない。禁手を使っても数分持ち堪えるのが関の山だ。
微かにさきほどの女性たちが向けていた視線とは違う何かを感じたが、金髪の美少女がいることに驚いた男だろうと予測して気にしないことにした。
なら、どんな手段を使ってでもアーシアを堕天使から救い出さなければならない。部長に小言ではなく雷を落とされても構わない。
救わなければならない状況にいる人を無視するのは、俺の生き方に反する。アーシアは絶対に裏切ったり憎んだりしない子だ。攻撃した相手をも許してしまう寛大さ、もしくは甘さ。
でもそれが人を救う糧になるのは事実。
「なら、俺のところにおいでよ」
「イッセーさんのところにですか?それは悪魔につけということになりますよね」
「そうなるけど俺たちの悪魔は人間界で言う『天使と悪魔』という意味ではないよ。悪魔って言われるけど俺の王は偉大で優しいんだ。きっとアーシアのことを知ったら受け入れてくれるよ」
そうさ。部長は真面目だけどアーシアがどのような被害に遭ったのかを知れば受け入れてくれるはずだ。困っている人を放っておかない部長の性格に漬け込んだ姑息なやり方だけど、このまま放っておいて散々な目に合わせるよりはマシだ。
「ということで、善は急げなので俺の家にカモン!」
「ふえぇぇぇぇ!?」
顔を真っ赤にして俯くアーシアの手を取って俺は、家に向かって歩き出した。
良いことなのか悪いことなのかはわからないが俺はその時大事なことを見落としていた。
「原作」であったあの悲劇を、蘇らせ自分の眼で見ることになるなんて思ってもいなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ダメよ」
家に帰って母さんがいないことをいいことに、アーシアを自室に入れた。
慣れない場所に戸惑っているのか、アーシアは挙動不審になっていたけど、ココアを飲ましてあげると幾分か落ち着いたようだ。
そのタイミングを見計らって部長を呼んで、事情を説明したけど呆気なく断られた。それがさきほどのセリフだ。
「何故ダメなんですか?」
「元は神を信仰していたカトリック協会の者でしょう?それだけの理由では私でも受け入れられないわ。貴方以外の眷属を危険に晒すことになるとわかって言っているのかしら?」
「もちろんですよ。ですが俺はアーシアを放っておくことはできません。過去にあれだけの事があったというのに受け入れられないという部長には失望しました」
「主に逆らうつもり?」
部長が魔力を放出して俺を脅し始めた。その圧倒的な存在感にアーシアは、壁際まで退避して縮こまってしまっている。
「誰も逆らうとは言っていません。部長の眷属にしてもらえないのであれば俺のものにします」
「貴方は上級悪魔になっていないから不可能よ」
「ええ、その通りです。ですから今は使い魔という立場で側に置きます。そしていつか上級悪魔になった時に俺の僧侶として眷属にする予定です」
「その子が叛旗を翻すとしても?」
「ありえない仮定ですね。アーシアにそんなことができるとは思えませんし、アーシアは世話になった人を恨むことができない人間性ですので」
アーシアが裏切らない可能性は100%ないと言い切れないが、裏切られてもまた救えばいい。
何度でも自分の手で目を覚まさせる。
「…いいわ保護はしましょう。だけど眷属にするかどうかは、彼女が本当に危険ではないかを私が判断してからよ」
「それで十分です。身分をわきまえない発言の数々お許しください」
正座して頭を深々と下げると部長が苦笑して、俺の頭を撫でてくれた。不思議に思って顔を上げると穏やかに微笑む部長がいた。
「部長?」
「貴方がそこまで必死になる理由が何かあるのでしょう?口にできない何かが。恋心ではないと予想しているけどそれが正しいのか間違っているのを聞いても仕方ないわ。アーシアとか言ったかしら?」
「は、はい!」
部長がアーシアを呼んで俺の隣に座らせる。緊張しているようでアーシアは全身震わせているから家まで揺れそうでなんか不安だよ。
「貴方のことを疑ってるわけじゃないのよ。ただ信用できる根拠がないからああやって強く当たってしまったわ。ごめんなさいね。私たち悪魔からすれば神を信仰する者は恐ろしい存在だからどうしても信用しにくい部分があるの」
「いえ、部長さんがの言う通りだと思います。私だって悪魔は怖い存在だと思ってましたから。でもイッセーさんと出会ってから印象が変わりました。悪魔でも被害を加えずに守るものがある人もいるんだと」
なんだか気恥ずかしいなそこまで褒められるとさ。嬉しいけど褒められるとさ照れちゃうからあんまり本人の前で言わないでほしいかな、ははははははは。
「アーシアと会うのは認めます。でも気を付けなさいイッセー、下手をすれば貴方は彼女を誑かしたということで処分される可能性があるわ」
「肝に命じます」
「アーシア、貴方もくれぐれも気を付けなさい。イッセーと会うのであればここかどこか目の届かないところで会いなさい」
「はい!」
「いい返事ね。イッセー、明日は部活あるから来なさい」
「了解しました」
部長が家を出て行ったのを確認してから、アーシアは同じように家を出て行った。なんとか部長の許可を得られたけどあれが部長の本心だとは思えない。
本当は眷属である俺を一刻も早く引き離したいだろうけど、俺の我が儘を聞き入れてくれた。
だからその気持ちを無碍にしてはならない。守るんだ何があっても。
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6
短いですが宜しくお願いします
部長にアーシアと会う許可を貰ってから、俺は頻繁に会うようになっていた。
友人のいないアーシアからすれば、言葉の通じる人がいることの安心からだろうし、俺からすれば守らなければならない妹のような感覚だった。
教会側と悪魔側の存在である俺たちが関わることは、普通であれば許されないことだがアーシアの性格から危険はないと判断されたようだ。
まったくお兄ちゃんは嬉しいぞ!
…いかんいかん興奮してしまった。まだ妹ではないぞ妹ではない、まだ。
ということで俺は今アーシアと教会近くの公園で雑談している。今日は学校も終わり、部長の予定があるということで部活はなかった。
俺は暇をもて余していたから教会によったんだ。
そうしたらアーシアが嬉しそうに駆け寄ってきてくれたんだ。いやぁ嬉しいよね。女の子に笑顔で駆け寄ってもらえるとさ。
これが家でエプロンをつけていたら新婚…。えへへへへ。はっ!いかんいかん!何を考えているのだ俺は!?
心に決めた人がいるというのになんという下品なことを!落ち着け落ち着け。俺の相手はレイナーレ、レイナーレ。愛しのレイナーレ。
なでなでしてぇ~。手を繋ぎたい、抱き締めたい…。
のおおおおおおお!またしてもよからぬことをぉ!
「イッセーさん?」
「ごめんなさい!」
つい敬語で謝っちゃったよ!ごめんねアーシア。君のことで良からぬことは考えてないと思いたい。
「イッセーさんはこれからの目標あるんですか?」
「もちろん、世界を平和にするんだ。悪魔と堕天使、天使が憎しみ合わない争いのない世界を作る」
「すごいですね。私も似たようなことを考えています。人間だけでなくて悪魔や堕天使、天使の怪我人を分け隔てなく治療できる世界を作りたいです」
アーシアは誰にでも平等に接したいんだろうなぁ。〈原作〉のように早く手を取り合えるような世界にしたいぜ。
「無理よ」
「え!?」
「来たんだね夕麻」
背後から声をかけてきたのは俺の彼女であった、そして俺の人間としての人生を終わらせた堕天使レイナーレが立っていた。
相変わらず誰もが羨むプロポーションで眼のやり場に困るな。でも浮かんでいるのは俺が好きだったときの夕麻の表情ではない。
〈原作〉での妖艶という言葉に寄せている姿だった。だが俺には無理をしてそのようにしているように見えた。
「レイナーレ様…」
「無理とはどういうことかな?」
「悪魔が堕天使である私に気安く話しかけないで。耳が腐ってしまいそうだから」
「それは無理な相談という奴だな。俺が話しかけているのは夕麻であって堕天使のレイナーレじゃない」
「っ!それでも私という存在に話しかけていることに変わりはないわ。アーシア、戻ってきなさい何処に行こうと私たちは貴女を逃がさない」
無理して悪役を演じているように見えるな。だって自分の欲のために動いているなら力尽くでもアーシアを捕らえればいいんだからさ。
それをしないのは自分が望んでおらず、仕方なしに命令に従っているということ。命令しているのは堕天使の幹部のうちの1人だろう。
誰だったかは忘れたけど今は幹部のことよりアーシアを護ることが優先だ。
「イッセーさん?」
俺がアーシアを庇うように前に立つと声をかけられる。何故自分の前に立つのか疑問なのだろう。
生憎俺には大切だと思える人が傷ついて喜ぶような性格はしていない。
だからどれだけ罵られようと裏切られようと護り抜く。みんなを悲しませないために。
「アーシアが望むようにこの世界で生きられるそんな当たり前のことが必要なんだ。アーシアにはこの世界がどれだけ美しいのかを知ってほしい。子供たちが恐れずに友達と遊べる場所があることが当たり前じゃない。悪魔や堕天使、天使が争うことで一番被害を被るのは当事者じゃない未来を担う幼い子供たちだ。これから生まれてくる子供たちが涙を流さず笑顔でいられる世界を作ることがアーシアの願いだ。俺はそれを応援する。だからアーシアを傷つける君には渡せない。《ドライグ》」
相棒の名前を呼ぶと右手に籠手が現れる。神滅具の〈赤龍帝の籠手〉が俺の意思に合わせてオーラを放ち、夕麻を退かせる。
「それが上の方々に聞いた〈籠の手〉?ここまでの圧力だなんて…勝てないこんなの勝てっこないわ!」
「…勝たなくて良いんだよ俺は君を傷つけたくない。レイナーレいや、夕麻戻ってきてくれ。君はこんなことをしてはダメだ。君には他にもやるべきことがあるはずだそれを見つけるためにもう一度やり直そう」
「…ダメ、よ私は人を殺しすぎた。もう戻れない、何をどうしようと償える以上の命を殺めたわ!そんな人殺しに戻ってこいと言えるの!?貴方と同じだった人間の、罪のない人間の血で汚れた手と取り合えると言うの!?」
涙を流しながら叫ぶ夕麻の想いは本物だ。彼女が苦しんでいたのは心が揺れているということからわかる。上の命令とはいえ罪のない人々の命を奪うのは心優しい夕麻からしたら地獄だっただろう。
今もその罪の重さに耐えかねて生命体としての生態活動を止めてしまうかもしれない。救うなら今しかないのだ。
「償えない罪なんてない!償おうとする気持ちや行動が大切なんだ!」
「それを理解してくれる人が現れるとでも!?笑わせないで!もう私に構わないで!」
「現れる!俺が夕麻を信じる!たとえ俺以外が君を批判し忌み嫌っても俺だけは君の味方だ!」
「…嘘よ。なんでそこまで私を助けようとするの!?」
「それは…「随分手駒にされているのだなレイナーレよ」てめえは誰だ?」
夕麻との会話に口を挟んできた男に眼を向ける。黒い羽を生やしているのは夕麻と同じだが羽の多さと濃さで、人を殺すことに対する忌避感の格の違いが見て取れる。
漆黒のように綺麗なものではなく闇と形容したくなる色合いだ。それに血を数多吸い取ったかのように濃い血臭が漂ってくる。
悪魔になったことで俺の感覚は鋭敏化している。その中でも嗅覚は悪魔にとって大事なものであるらしく、人間界でいう犬や猫よりも特定の臭いに敏感だ。
だから宙に浮いている男から、鼻を抑えたくなるような濃い血臭を感じ取ったのだ。
「我が名はドーナシーク。レイナ-レに神器の回収を命じさせた3人が1人。レイナ-レ、何を迷っている?貴様に許しを請う資格があると思うか?あるわけがなかろう。これまでに一体幾人の命を殺めた?」
「てめえが夕麻に命令した張本人か?」
無視されたので俺が空に飛び上がってドーナシークを殴ろうと思った瞬間、そいつが光の矢を2本作り出したかと思うとそれを互いにぶつけさせた。
視界が真っ白になるほどの光量に思わず両手で眼を庇う。
それがアーシアを護りきれなくなる隙になるとは思いもしなかった。
「きゃあ!」
「アーシア!?」
悲鳴が聞こえて振り返ると夕麻がアーシアを抱えて飛び去っていくところだった。右手を夕麻に向けて魔力を放とうとしたが放つ瞬間にやめた。
「あははははは!撃たないほどには冷静さが残っていたようだね。今撃てばレイナ-レどころかアーシアまで怪我をする。さあ、始めようか貴様と私の
俺が呆然として見送っている背中にむかって光の槍を突き刺してくるが、俺はそれを見ずに左手で掴む。
「なっ!私の槍を見ずに片手で掴んだ!?ありえない!ありえない!悪魔が光を無傷のまま触れるとは!」
「…本当は人を殴りたくないんだけどどうやら今回はそうも言ってられないらしい。ごめんな?」
俺は振り向いて右の掌に纏わせていた魔力をドーナシークに放った。
「ぐあああああああああ!…悪魔に…殺さ、れる、なん、て…本当に、胸くそ…悪いな。…アーシ、アを…助け、たい、なら…いつも…の教会、に行、け。多く、の…〈悪魔祓い〉と…もう2人…が待って、いる…。せいぜい、頑張る、こと…だ、な…」
捨て台詞を残し、ドーナシークは黒い羽を一枚残して消えていった。
「アーシア、必ず助けに行くから待っててくれ」
その羽を握りしめながら強く誓った。
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7
これを読むには前話から読んでいただいてからでお願いします。
アーシアが連れ去られたことに俺は自分の力不足を恥じた。
アーシアが連れ去られて追いかけようとしたけど、あの光量に危機感を抱いた住民たちが集まってきたから追いかけることができなかった。
何が〈最上級悪魔と同等の力〉だ。力をいくら持っていてもそれを使いこなせなければ意味がないではないか。
結局、この世界では力より知識なのだ。力に勝つにはそれ以上の力だと言われるが、本当は知識が強い。
力を持っていても、その力を使いこなせることができる頭がなければ豚に真珠だ。宝の持ち腐れだ。
笑えてくるよな。〈転生特典〉があるってことで自分も知らず知らずのうちに舞い上がって、力に溺れていたんだから。
俺は今自室で横になっている。思い返すのはアーシアを護れなかったあの光景。
何も知らされず何も知らずに死んでいった殺された人たちは、どのような想いだったのだろうか。
悩む暇もなく意識を途絶えさせられ、何が起こったのかも理解する間もなく世界から永久退場した気分はどのようなものだろうか。
俺も死ねばこのような疑問を抱いたことも、アーシアを護れなかった悔しさも忘れられるのだろうか。
そうすれば〈ドライグ〉はどうなるのだろう。また新しい誰とも知れない宿主のもとへと旅立つのだろうか。俺の次の主はまたレイナーレたちに狙われることになるのだろうか。
顔も名前も知らない誰かが死ぬなど許せない。だから俺がこの手で終わらせなければならない。
〈ドライグ〉は何かあったのか声にも反応することはなく向こうからも声をかけたりしてこない。でも今みたいなことは度々あったからそこまで心配していない。
「本当に俺は優柔不断だな」
自分の性格を口にして自虐的に微笑む。
「イッセーくんは意外と小心者なんだね」
「だらしないです」
「は?」
仰向けに寝転がっていたベッドから上半身だけ起こすと、ドアの前に友人と後輩がいつの間にか立っていた。
「いつの間に?」
「ついさっきだよ。イッセーくんのお母さんに上げてもらったんだ」
「他人が自室に入ってきているのに気付かないなんてイッセー先輩はバカですか?」
くう~。小猫ちゃんからの罵りを受けられるとは光栄であります!〈原作〉のイッセーよお前が味わってきた気分俺も味わえたぜ!
「変態です」
「ぐひぃ!」
容赦ないねぇ。俺が考えていることを理解しているみたいだ。さすがに俺が〈転生者〉であることはバレてないみたいだけど。
「それでどうしたんだ?わざわざ俺の家に来るなんて」
「部長に頼まれたんだ。イッセーが無茶をしないように見張ってなさいって」
「動けば力付くです」
小猫ちゃんが指の間接鳴らしてるよぉ!なに?動けばボコボコなんですか?動くってここをってこと?それともアーシアを助けること?
ボグ!
「ほわぁ!」
身震いしたら小猫ちゃんから拳が布団の上に降ってきた。魔法を使ってないとはいえ痛みは感じるぐらいの力があるじゃないか!
「動かないでください」
「理不尽!」
「世の中は理不尽で溢れてます」
「経験してきたみたいに言わないで!」
いや、まあ小猫ちゃんは辛い時期を過ごしてきたから言えるのだろうけど今は関係ないよ!木場だって過ごしてきたけど今は傍観決め込んでやがるし!
「動けばってことは俺がアーシアを助けに行くという意味でのことだろ?」
「そうだよ。〈はぐれ悪魔〉を倒した君でも、〈悪魔祓い〉が大量にいて尚且つ堕天使が2名いるところに行くのは無謀だ。だから僕たちは君にそんなことをさせないために派遣されたんだ」
「俺がそれでも行くって言ったら?」
「死ぬ気で止めます。あの人のためだけにイッセー先輩が怪我をしにいく理由にはなりません」
気持ちは嬉しいけど今の俺にとったらそれは嫌みでしかないんだ。助けたい人は助ける。救いたい人を救う。それが生前できなかった俺に今できる最大の恩返しなんだ。
「ごめん、それでも俺は行く。2人に嫌われてもいいから俺はアーシアを助けに行く」
「…そこまでしてその人を助けようとする理由はなんだい?」
「人の命を、悪魔だろうと天使だろうと堕天使だろうと、分け隔てなく大切にする人が死ぬ必要はない。人を救うことが自分の命より大切だと思える人が、危険な場所にいていいはずがない」
人の命が自分の命より大切だと思える人が一体何人いるだろうか。恋人や家族ならあっても疑問ではないけど、赤の他人の命まで思える人はアーシア以外考えられない。
そんな彼女を放っておけるわけがない。
「悪魔や堕天使まで癒せる神器〈
「ああ、だから人を簡単に殺せるような組織に渡せるわけがないだろう?だったら俺たちがアーシアを助けて、アーシアのやりたいようにさせられる世界を作るんだ」
「…木場先輩、私はイッセー先輩についていきます」
「小猫ちゃん?」
予想外の言葉に木場が訝しそうに眉を潜める。俺についてくるということは部長の命令に背くということだ。
何も小猫ちゃんが背く必要はない。俺だけでいいんだ傷ついて痛みを感じるのは俺だけで。
「イッセー先輩の人を助けたい気持ちが痛いほどわかるんです。私も護りたかった人がいました。自分より強かったけど護れなかったことが悔しかったんです。だからイッセー先輩がその人が好きなのかどうかを無視しても私は考えが正しいと思えます」
「…わかったよ僕も行こう。お仕置きがどうなるかわからないけど」
「お仕置き?」
まさか鞭はないよね?はははははは。〈原作〉の某先輩の父みたいに喜ぶ性癖はしてないぞ俺は!どちらかというと攻める側だ!ん?のわぁぁぁぁ!何を口走っているんだ俺はぁぁぁ!
「そういえばイッセーくんは眷属になってから日が浅いから知らなかったんだね。主は眷属にお仕置きを下せるんだ。肉体的お仕置きとか精神的お仕置きとかいろいろあるけど、リアス部長は独特なお仕置き方法なんだよ」
「…たとえばどんな?」
「〈女王〉である姫島先輩に命令して鞭を使用させるとかかな」
…予想通りだ。俺は何をされるのだろうか考えるだけで寒気が…。待てよ。何故木場はそのことを知っている?
「なあ木場、何故そのことを知ってるんだ?」
「僕が1年生の頃にちょっとしたことをやらかしたら姫島先輩に鞭で攻められた。なかなかよかったけど僕は女性にされる趣味はないんだ。どちらかというとイッセーくんみたいな男性にしてほしいな」
「ひっ!」
「…変態です」
清々しいという単語より清々しい笑みで言われたから余計嫌だわ!〈原作〉で小猫ちゃんがイッセーに使っていた言葉を、木場に向ける日が来るとは思わなかったよ!
俺の背中に隠れて木場を睨む小猫ちゃんの眼は本気だ。猫が威嚇しているときみたいに細くなってるよぉ!
「コホン、部長のお仕置きはわかった。本当にお前たちも来るんだな?」
「もちろんです」
「ここまできて引き返せるわけがないだろう?」
「じゃあ、行きまっか」
俺は立ち上がり2人を連れて自室を出た。そのとき小猫ちゃんが俺の制服の裾を少しだけ握っていることに気付かなかった。
「ここかい?」
「ああ、アーシアの存在を強く感じる」
外見はどこにでもある教会で内部もそっくりだが、根本的に違うものが一つある。それは地下にありえないほど広く、儀式のようなものが行われている場所だ。
「じゃあ、行こうか」
「ひゃっはぁ!」
「…」
入口に入ろうとすると、上からあのクソ野郎が光を射ってきやがった。小猫ちゃんの頭を貫く前に右手で弾く。
「うんうん、来ちゃったんだ~悪魔様とごたいめ~ん。アーシアたんを助けに来たの?あはは聞いてあきれるねぇ~。あんなやつのどこがいいわかんないよねぇ~?死刑っしょ死刑!悪魔に認められるやつなんて敵っしょ!」
「イッセーくんあれは誰だい?とても腹立たしいんだけど」
「うざいです」
「フリードっていうクソウザイ屑野郎だ。銃じゃなくて剣を使うから木場がメインで戦うべきだな。小猫ちゃんはそのサポート」
「イッセー先輩はどうするんですか?」
「目的地に行くさ」
そう言って俺は地面に穴を開けて地下へと降りていった。階段を使うよりこっちのほうがよっぽと早いからだ。
2人にフリードを任せて長い地下を走っていると、目の前に神父とおぼしき集団が背中を向けて立っている。
そのうちの1人が足音に気付いたのだろう。振り返って俺の存在を理解した。
「何故階段からではなくそこから来るのだ!?皆のもの悪魔を屠るのだ!」
うわぁ光の銃が何十発も向かってくるよ。まあ直接喰らってもダメージにはならないし怪我もしないんだけど。
すべてを体を捻ることで避けて全員を峰打ちで気絶させた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
突如、苦しみに満ちた悲鳴が廊下の先から聞こえた。
「アーシア!」
嫌な予感がして全速力で向かう。扉を蹴り破って中には入ると怒りが込み上げてきた。
光り輝く何かを2人の堕天使がアーシアから抜き出した瞬間を眼にした俺は身体中から魔力が溢れだすのを感じた。
ここに来るまでに木場に聞いていた。無理矢理神器を取り出された人間は、その苦痛に耐えかねて死ぬと。それは悪魔も堕天使も天使も例外ではないらしい。
その苦しみが先の悲鳴だったのだ。悲鳴をあげていたアーシアは力なく祭壇の床に倒れている。
「アーシアぁぁぁぁ!」
「あははははは!ついについに手に入れた!」
「これで私たちは最強になれる!」
狂喜に満ちた笑みを浮かべる2体の堕天使。その横には耳を抑えて涙を長し、首を振っている夕麻がいる。
自分がなんということに手を貸していたのかを理解したくないという拒絶反応だった。
「許さねぇ!アーシアを殺しやがって何がそんなにうれしいんだ!?」
「自分が強くなることに喜びを感じないの?」
「人の命を奪ってまでも得なければならないものとはなんだ!?」
「地位さ。上にいけばいくほど待遇はよくなり己の欲を発散する自由を得る。我々が目指すのはそれ意外にない!」
性根から腐ってやがる。これは恐怖を与えなければ人間性を変えることはできないだろう。ならば痛めつけるしかない。
俺は右手の人差し指を、アーシアの中から取り出した光を持っている堕天使に向けた。人差し指が紅く光ったと思うと、堕天使の羽が貫かれ焼け焦げていた。
「羽がぁ!私の羽がぁぁぁ!」
「貴様ぁ!堕天使の翼を汚すとは許せん!万死に値する己の命をもって償え!」
そう言うと2人は翼を羽ばたかせることで羽を飛ばしてきた。それをアクロバティックな動きですべてを避ける。
羽が着弾した床は抉れて羽が突き刺さっている。生半可な攻撃ではないことがよくわかるが俺にはなんら影響はない。
どのくらい経ったのか、長い間避け続けていると瓦礫に足をとられこけてしまう。その瞬間を狙って今まで以上の数の羽が飛んでくる。
魔力で吹き飛ばそうとした瞬間、俺とは違う紅い魔力が羽をすべて吹き飛ばした。
その魔力の発生源を見ると、部長が姫島先輩と一緒に立っている。
「私の眷属に怪我をさせようとはいい度胸ね堕天使さん。やられる覚悟はできているのかしら?」
「ちっ!グレモリー家の者か!」
「残念なこと。潔く謝っていれば許してあげたのに。朱乃やって」
「あらあら、さすがのリアスもお怒りのよう。わかりました、喰らいなさい」
姫島先輩が左手を天に掲げたと思えば室内にもかかわらず雷雲が発生している。ニコニコとしているから余計に恐ろしいわ…。
その間に部長が俺の傍に下りたって見上げてきた。その美しい眼と容姿にドギマギとする。
主に逆らったから殴られるかと思ったけど優しく抱き締められるとは思わなかった。
「部長?」
「バカね貴方は。自分の危険も顧みず敵陣に突っ込むなんて本当にバカ」
ごもっともです部長。俺は自分だけで成し遂げようとした。でも木場や小猫ちゃんまで巻き込んで苦戦させてしまっている。
怪我をさせてしまうことに申し訳ないと思ったが、2人は自分の意思で協力してくれた。感謝の言葉しかでてこない。
「躍りなさい!もっと私を楽しませて!」
「「…」」
感動的なところに楽しそうな姫島先輩のドS発言が聞こえてきたので、雰囲気が台無しになる。ハグを終えた俺たちは顔を見合わせて同時に苦笑した。
そして雷にやられて麻痺し動けない堕天使2人に視線を向ける。
楽しそうで嬉しそうな姫島先輩を部長に任せて右手に魔力を溜める。その圧力に2人が驚愕する。
「我々を殺せば堕天使が総力戦でお前たちを殺しに来るぞ!」
「脅しか?生憎その程度のことが起こるとは思っていない。今回の神器回収はお前たちの独断だろう?組織ぐるみならもっと手練れの堕天使がきているはずだ。組織が関係しているわりには堕天使があまりにも少ない。そして〈悪魔祓い〉の力を借りる時点で堕天使側の考えではない。違うか?」
2人が別の意味で驚愕する。自分たちの脅しがまったく意味をなさず、逆に自分たちの立場が危うくなったことに今さら気付いた。
ここまでくると哀れで笑いが込み上げてくるよ。情けなくて我が欲のためだけに命を奪ってきたはずなのに、今度は自分たちが殺される側になるなんてさ。
本当に世の中は理不尽だ。
「イッセー待ちなさい。最後は私がやるわ」
「部長…わかりましたお任せします」
一歩横に移動して部長に場所を譲る。
「さようなら哀れな堕天使さん」
部長が無表情に発した言葉とともに、2人の体を上回る〈破壊の魔法〉が掌から放たれた。跡形もなく消し飛んだ2人がいた場所には、羽が2人分落ちていた。
「残りは貴女だけ。私の統括地区で好き放題やってくれた礼は、責任者自らが処罰を下さないとね」
「…罰は受け入れます。私に生きる価値はありませんので」
涙を流し終えた夕麻の顔には感情と言えるものが何一つ残っていなかった。それほどまでに追い詰められていたのだろう。
罪のない命を奪うことに反対しながらも、上からの命令には逆らえなかった。反逆すれば自分の生きる場所はなくなり、常に殺される危機にさらされる。
それだけは嫌だった。だから心を鬼にして命令に従順になっていた。だがアーシアから神器が抜かれるときの苦痛による悲鳴を聞いて耐えられなかった。
何故自分は自らの意思で反逆しなかったのか。あのような声を聞くぐらいなら殺される方がマシだ。
「部長、その役目俺にさせてもらえませんか?」
「イッセー?」
「こうなってしまったのも俺の身に〈赤龍帝の籠手〉が宿っていたからです。俺が終わらせます」
俺がこの世界に〈転生〉しなければ夕麻が苦しむことも、アーシアが死ぬことも部長に不安を与えることはなかった。
だから俺の手で終わらせる。
「レイナーレありがとう。君のおかげで俺は少しの間だけ幸せだった。さよなら」
右手に魔力を溜めてレイナーレに向ける。最愛の女性に向かって魔力を放った。そのときのレイナーレの顔は安堵に似た安らかなものだった。
爆音が轟き、地下空間が激しく揺れる。
「…え?」
自身に何が起こったのかわからなかった。〈籠の手〉だと教えられたものが〈赤龍帝の籠手〉だと誰が気付いただろうか。
ありふれた〈籠の手〉ではなく、二天龍の傍である≪赤龍帝≫の魂が封じ込められた〈赤龍帝の籠手〉に勝てるはずもなかった。
だからあれほど簡単に上の攻撃を避けていたのだ。まったくこの人のことを知らなかった。知ろうと思えば知れたのに自分が出世するために殺した。
「これでレイナーレという堕天使は死んで天野夕麻だけが生き残った。夕麻、もう一度俺とやり直してくれないか?俺は君とじゃなきゃダメだ。君とこれからを一緒に歩みたい。俺じゃダメか?」
「人殺しの私と一緒がいいというの?」
「確かに君は人殺しでどうしようもない罪を背負っている人だ」
辛い言葉をぶつけると夕麻はさらに深く項垂れる。2人で話していると血を流しているが、それほど重症ではない木場と小猫ちゃんが駆けつけた。
「だけどそれ以上に君は心優しい人だ。アーシアが苦しんでいるときにそれを見て泣いていた。それだけで十分だ。君1人が償えない罪を背負っているなら俺も一緒に償おう」
「どうしてそこまで私に関わろうとするの!?貴方を殺した張本人なのに!」
「言っただろ?悪魔に魂売ってもいいって。だからこれからを一緒に歩もう夕麻」
もはやプロポーズにしか聞こえない言葉だが、俺は本気だ。本心で思っているから夕麻に諭し続ける。
「本当に本当に私でいいの?」
「君しか俺には考えられない。だから戻ってきてくれ夕麻」
「…ごめんなさい!あんなことして!貴方の人としての人生を終わらせてしまった!」
「いいんだ。確かに人としてはもう生きられない。でも悪魔になったから夕麻とこの先ずっと生きていられるんだ。もうそれでいいじゃないか」
優しく抱き締めると夕麻が俺の胸に顔を埋めて、嗚咽を漏らさないように泣き始めた。
苦しみ続けた夕麻の心が少しでも休まるのならいつまでもこうしていよう。
すると力なく倒れているアーシアとその付近を漂っている光を部長が手に取る。
「部長?」
「数日だけ待ってくれるかしら?悪いことはしないから。それと貴女も来なさい」
「イッセー…」
「ついていくんだ夕麻。それが君の罪を償う最初の一歩だ」
少し迷ったようだが夕麻は、部長と姫島先輩に連れられて教会をあとにした。3人になったところで木場と小猫ちゃんが駆け寄ってくる。
「大丈夫?2人とも」
「かすり傷だから大丈夫だよ」
「これくらい悪魔の力ですぐに治ります」
どうやら心配ご無用なようだ。しかしあのクソ神父と戦ってよく無事だな。倒したのかな?
「あの野郎はどうなった?」
「ごめんね。逃げられちゃって」
「ふざけていますが力量は予測不能です」
「やっぱりあいつそんなに強いんだ」
「小猫ちゃんと2人がかりでこれだからね。運良く引き分けに持ち込めたって感じかな」
「2人が大きな怪我をしなくてよかったよ」
本当によく戻ってきてくれたよ。俺だったら即終了なんだけど、2人には強くなってもらわないとこの先ついてこれなくなる。
だから今は少し危険をおかしてでも強くなるきっかけを与えないと。
「じゃあ、帰ろうか」
「いいんだけどここどうすんの?ここまで派手にやったら警察沙汰に…」
木場に聞こうとしたら予想通りのことになった。
「なんだこれは!」
「警察だ警察を呼べ!」
言ってる傍からこれだ!
「逃げよう!」
木場に声をかけて疲労で足を動かせない小猫ちゃんをお姫様抱っこして裏口から逃げ出した。
その時小猫ちゃんがショートしていたことに俺は気付かなかった。
教会の崩壊は警察の鑑定によってガス管による爆発事故として処理された。
その警察はグレモリー家の息がかかっていたようで問題なく事件は終息を迎えた。
事件から3日後、朝から校内が騒がしい。
「オーッス桐生、なんでこんなにざわついてるんだ?」
教室に入るなりクラスのいや、学年一もしくは校内随一の情報網を持つ友人にそれとなく聞いてみた。
「あ、兵藤おはよう。なんでも転校生が来るらしくてみんな浮わついてるんだって。それも2人」
「2人?1人じゃなくてか?」
「うん、あいつらの言葉が真実ならね」
あいつらとは誰やと思いながら桐生の視線を辿ると、いつものように変態2人組が朝っぱらから卑猥な雑誌を広げて討論している。
「…なるほどね。あいつらの言葉が信用できないのはあれのせいだが、そういうことは嘘つかないと思うぞ」
「転校生が女子だったら微妙だけど」
なるほど。確かにそうだったら2人は尾ひれをつけたがるから信用性は低いわな。
「で、特徴とかはあったの?」
「なんでも金髪の子と黒髪の長い子だったみたい」
「…まさかね」
思い浮かぶ人はいるのだが、片方はどうなったかわからないし。想い人もどこにいるかわからない。
部長のことだから何か考えがあるのだろう。一昨日や昨日は珍しく連続で部活休みだったから、それが要因なのかも。
「座れよ~。授業を始める前にお前らにニュースがある。じゃあ入ってくれ」
1時間目の教師が全員に席につくよう指示して、今度は何かを口にした。ドアを開けて入ってきた人物に教室中の空気が凍った。
比喩ではなく言葉通りに。みんなは容姿に驚いているのかもしれないが、俺はその人物がここにいることに驚いていた。それも2人いることに。
「アーシア・アンジェルトです。よろしくお願いします!」
「天野夕麻です。よろしくお願いします」
「「「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」」
…教室中が声で揺れた。主に男子による声で。叫びたくなる理由はわかるが、そこまで声に出す必要があるか?俺は疑問が溢れてきて2人の自己紹介を聞き逃した。
「席は兵藤の両隣が空いているな。そこに座ってくれ」
「「はい」」
はははははは。なんか驚きが強すぎて笑うしかないわ。まさか2人がこの先学校に来て同じクラスになって隣に座るなんて予想できるかいな。
「よろしくねイッセー」
「よろしくお願いしますイッセーさん」
「ああ、これからよろしくな2人とも」
どうやらいろんな意味で波乱な学校生活になりそうだ。だがこれからもっと危険な事件も起こる。それがやってきたときには2人を護れるようになる。
そう俺は自分の魂に誓った。
2話目が長すぎましたね。
文字数が足りねぇって悩んで書いていたらここまで増えてしまいました。
ドーナシークを含む堕天使3人はレイナ-レより上の地位ということにしています。レイナ-レが優しい存在なので部下であった3人を悪役にすることで少しは面白みが出たかなと思います。
この話で原作一巻は終了です長い間お待たせして申し訳ありませんでした。作者自身早く書かなければならないと思っていても如何せん、時間がなさ過ぎて書けないとです。作者です…。
コホン、次話からは二巻に入っていきますが更新スピードは亀ですので気長に待っていただけると嬉しいです。
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