跳ばされてArc-V~融合が悪の手先とか聞いてませんけど!?~ (アメリカシロヒトリ)
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リアル次元幽閉とか聞いてませんけど!?

 

 

 

 これはある少女の物語。

 

 

「貴様も融合か!」

 

「……だったら、なに?」

 

 

 たったひとつのデッキ片手に、何の運命の悪戯か数多の次元が交わる世界へ跳ばされてしまった彼女は戦慄した。

 

 

「僕は……僕は、デュエルアカデミアの戦士だぁ!!」

 

「クロノス先生ッ……!この生徒さん、光のデュエルとは真逆の行動に勤しんでる……!」

 

 

 この世界では、彼女が最も親しみ最も楽しんできた【遊城十代】の、【デュエルアカデミア】の世界は悪しき闇へと墜ちていた。

 

 

「デュエルアカデミアが、プロフェッサーこそが正義だ!」

 

「……エド、あなたの人生に、なにがあったの……?」

 

 

 故に彼女は決意した。どういうわけか歪んだデュエルアカデミア、その真の姿を取り戻す。あと融合に対する偏見も取り除く。

 

 

「悪の融合モンスターの力を喰らえ!」

 

「は?(全ギレ)」

 

 

 どう見たって融合次元の連中はワクワクできていない。だったら、私がワクワクさせるしかねぇ。

 

 

「いいよ……そんなに、融合と、フュージョンのカードを、見たくないんなら」

 

 

 これは、融合が悪となった世界で独り闘う――――――

 

 

「その……更に、『上』を行く地獄を、見せてあげる。変☆身☆召☆喚」

 

 

 ―――――――ちょっとズレた少女の物語である!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……凄い。エクストラデッキが、普及してないから……まさかと思ったけど、【トマトハンデス】が現役だなんて。ある意味、魔境」

 

 本屋で平積みされていた雑誌を適当にめくり、いちいちへーだのほーだの言いながら立ち読みを続ける迷惑な客が本作の主人公、その名を五条 冬華(ごじょう ふゆか)。たったひとつの愛用デッキ片手に単身この世界へ跳ばされてきた哀れな少女である。

 

 普通は慌てふためくか呆然とするかといったところだが、彼女は至って落ち着いていた。自分の知っている作品とは別物だが、これまで観てきた『遊戯王シリーズ』よろしくカードゲームが社会に根付いた世界だとすぐに理解できたからである。

 

 だとしてもこの図太いまでの立ち読みっぷりは少々心臓の毛並みが気になるところだが、考えても元の世界への帰り方や今ここにいる理由が分かりようもなさそうとなれば一旦気にしないでいられる強さが彼女の持ち味だった。反面あまりの立ち読みぶりに店員があからさまに周囲の本を整理する素振りを見せても一向に気にしないのは悪いところと言えた。

 

 ひとしきり情報収集と言う名の趣味の一環を終えたのち、次の行く当てを求めようとして冬華に電流奔る。

 

「お腹が空いた……!!」

 

 お腹が空いたというのは彼女にとって一大事である。誰だって空き腹を抱えたまま見知らぬ土地でうろうろしたくはないものだし、彼女に至ってはホームタウンだろうが1度空腹を覚えると梃子でも動かないのがこの我が儘娘だ。

 

 しかし困ったことに、彼女には金が無かった。何の準備も無くいきなり異世界へ跳ばされたわけで、残念ながら都合良く金銭までは持ってきていなかったためである。しかも手持ちのデッキはたったひとつ。これでは現状持て余すカードを売り払うこともできやしない。

 

 どうしたものかと頭を悩ませているところで、冬華は実に面白いショーに出くわした。

 

「ウオーーーー!俺を倒せる奴は居ないのかーーーー!!!」

 

 『誰でも歓迎!この男にデュエルで勝てれば、賞金十万円!!!』

 

 公園のど真ん中で、大声を上げての力自慢ならぬデュエル自慢。人通りの多い場所だけに多くの人々が注目するが、それなりのお金を賞金に用意しているからにはあの男もまたそれなりに腕は確かだと推測できる。人々もちらりとそちらへ注意は向けるが、大勢の前で恥をかくことを恐れてなかなか我こそはと踏み出す者はいない。

 

 じゅるり。

 

 そんな中、ありとあらゆる意味を込めて冬華は唇を舐めずり、懐からデッキを取り出した。

 

「おじさん。私と、やろう」

 

「おぉ?なぁんだ嬢ちゃん、その歳で野良デュエルに挑むたぁ随分威勢がいいじゃないかぁ?」

 

 カードゲームをするには一見不要と思えるマッスルを男は存分にいからせる。冬華はそれに怯むでも無く、むしろリアルデュエルマッスルを目の当たりにしたことでテンションが上がっていた。

 

「へへ、賞金が、賞金だから。お腹も空いてるし、頑張る……!」

 

 ほろり。何とも可愛らしい理由で挑み来るチャレンジャーに、おじさんは屈強なデュエリストを誘き寄せるための強面演技を忘れかけるがそこはそれ、勝っても負けても何か買ってあげなくちゃという使命感に囚われながらも勝負を受けることにした。

 

「っとぉ、その前にお嬢ちゃん、デュエルディスクはどうしたんだい」

 

「っ……………………!!!」

 

 またしても冬華に電流奔る。そうだ、ここは(多分)あの遊戯王シリーズの世界。それじゃあデュエルディスクのひとつもあるだろう。て言うか実際おじさんもなんか腕に四角い箱っぽいのを付けている。記憶にあるモノより随分小型だが、5D’sに出て来たシティ並みに綺麗な街を見るに技術レベルもそれに近いか、もしかしたらちょっと上くらいまであるかもしれない。小型化はいいぞ。

 

 ……尤も、どんな良い物だろうと、持っていなくては意味が無いのだが。

 

「…………………………」

 

「…………ほら、俺の予備のやつ、貸してあげるから」

 

「!!!!あ、り、がとっ!おじさん!優しいおじさん!!」

 

 おじさんは最早プロレスラー染みたパフォーマンスをかなぐり捨てて1人の少女に接していた。当人らだけでなくギャラリーまでほっこりとする優しい世界がそこにはあった。

 

「とは言え、勝負は勝負。手加減はしてやらねぇからな。俺のターン!俺は手札から《アームド・ドラゴン Lv.3》を召喚 。そして魔法発動、《レベルアップ!》。Lv.3を墓地へ送り、デッキから上級モンスターを特殊召喚だ。来い!《アームド・ドラゴン Lv.5》!!」

 

 んだよー、いきなり上級モンスターかよー。女の子かわいそー……等々。おじさんに向けて方々よりブーイングが飛び出した。

 

「うるせー!こちとら身銭切って賞金用意してるんだから本気でやるに決まってるだろ!カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 おじさんの言うことはいちいち尤もだが、ギャラリーの言うことも間違いじゃない。どこの世界に、デュエルディスクも持っていない素人丸出しの女の子に本気を出す男がいるだろうかという話である。

 

 ただし、それは。

 

「……私のターン、ドロー」

 

 本当にこの女の子がど素人だったなら、という前提に立って考えた場合のことだ。

 

「私は手札より《E・HERO エアーマン》を召喚して、効果発動。デッキからHERO1体を手札に加える」

 

「おっと、その前にトラップ発動、《奈落の落とし穴》!悪いがエアーマンは除外してもらうぜ」

 

 何も無い地面にがぱりと大穴が空き、伸びてきた腕に絡め取られてエアーマンは墜落していった。見慣れたイラストが目の前で動きだすとこうも気色悪いのかと冬華はちょっと引いたが、めげずにプレイを続行する。

 

「わ、私は手札から《融合》を発動!」

 

「ゆう、ごう?」

 

 優しいおじさん含め、周囲からざわめきが起きる。当然だ、トマハンが雑誌で紹介されるくらいだもの、きっと初めて見るカードに決まってる。もしかしたらこの世界で《融合》するのは自分が初めてかもしれない!

 

 そう思うと、冬華はとても得意な気持ちになった。と言うか端的に言って、調子に乗った。

 

「え、えっと……『攻撃力の低いノーマルモンスターというのは、仮の姿!その本当の姿を見て、驚かないで、ねっ』。私は、手札のフェザーマンとバーストレディを融合!!来て、《E・HERO フレイム・ウィングマン》!!」

 

 竜のアギトを携えた戦士がフィールドに降り立つ。全く目新しい召喚方法、見たことも無いモンスター、その登場にギャラリーが大いに沸いた!

 

 のも、束の間。

 

「おいおい……手札3枚使って攻撃力2100だとぉ?脅かしやがって」

 

 おじさんは呆気にとられたように息を吐いた。攻撃力至上主義、とまでは行かないとしても、やはり単純な攻撃力が重視されやすいのがこの世界なのだなと冬華は思う。まぁ、環境デッキへ大真面目にオベリスクが投入されたりもするしどれだけ攻撃力を信仰するかは程度問題でしかないよね、うんうんと思考を切り上げて冬華は次なるカードを手に取った。

 

「バトル!フレイム・ウィングマン、アームド・ドラゴンへ攻撃して!」

 

「なはは……嬢ちゃん、これは引き算だよ?アームド・ドラゴンの攻撃力は2400。対してフレイム・ウィングマンは2100だ。何とかして攻撃力を上げてやらなくっちゃ、攻撃なんかしちゃあ」

 

「速攻魔法発動!《決闘融合―バトルフュージョン―》!!」

 

 おじさんが喋り終えるのを待たずに冬華は切り札を切る。勿論演出とかそういうのを考えてるのではなく、単にテンパってるだけである。

 

「ッこ、このカードは、融合モンスターが攻撃するとき、攻撃対象のモンスターの攻撃力分を加算、します。よってフレイム・ウィングマンの攻撃力は4500!」

 

「どえぇ!?マジか!」

 

 フレイム・ウィングマンとアームド・ドラゴン。互いのアギトが食い合い、つぶし合った末、アームド・ドラゴンは喉笛を掻き切られて大地へ沈んだ。

 

「ま、参った。やるなぁお嬢ちゃん!でも俺の次のターンで一気に逆転しちゃうぞぉ」

 

 おじさんは至って平静である。勿論それはこの後の末路を知らないがためであり、逆にそれを知る冬華はあのシーンを頭に浮かべながら、喜色満面に効果を朗読し始めた。

 

「フ……フレイム・ウィングマンの、効果!戦闘で、破壊した相手モンスターの攻撃力ぶんのダメージを、与えるっ」

 

「えっ」

 

 おじさんの笑顔が凍りつく。計算をするまでもない、フレイム・ウィングマンの攻撃力からアームド・ドラゴンの攻撃力を引き算して、またアームド・ドラゴンの攻撃力を足し算する。つまりはフレイム・ウィングマンの攻撃力が受けるダメージの総量だ。

 

「えと……が、『ガッチャ!楽しいデュエル、でした!』」

 

「えっっっちょっちょちょっと待ったタンマ待った待ったタンマタンマタンママンマミーア!!」

 

 LPの消滅を告げる高音が鳴り響く。ここに勝敗は決した。

 

「やっっっっっ…………た!やった、やった、やったぁ……!」

 

 下馬評を大きく覆す大勝に、大会どころか公式戦ですらない野良デュエルにも関わらず惜しみない拍手が彼女へと送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……如何でしょうか」

 

「疑いようも無い。融合の使用、平凡なデュエリストが相手とは言えワンターンキルを見事に決める手練手管。彼女は間違いなく異次元より現れたデュエリストだ」

 

 ……あの屈託の無い笑顔を無視すれば、だが。あれは兵士として、戦う道具としての在り方を強要された人間のデュエルではない。むしろその逆、予想外の戦法、予想外の効果で観客すら巻き込むあのデュエルは、まるでエンタメデュエルそのものだ。

 

「では、対策は」

 

「……一旦は彼女の出方を見る。舞網全市の監視網で常に彼女の動向を見張れ。怪しい動きをするようならば最悪私が打って出る」

 

「はっ」

 

 さて、彼女も所詮はアカデミアの先兵か、それとも我等の鬼札に為りうるか。

 

 

 

 

 







 この話は続くのか?本当に融合へ誤解を抱くもの全てを敵に回したら4次元の全デュエリストを倒す羽目になるのでは?マスクHEROをライフ4000の世界で創作向けに描写することなど可能なのか?

 筆者はなにも考えていません。




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メタカードとか聞いてませんけど!?

 

 

 

「はぐ……むっ、むっ。はぁ、牛丼、うま……♥」

 

 冬華ちゃんは現在お食事中である。先日優しいおじさんとのデュエルに勝って賞金十万円を得て以来、冬華の生活指針は決まった。

 

 「これでデュエルディスクを返せなんてケチくさいことを言ったら俺は2度とお天道様の下でデュエルできない」というおじさんの有り難い申し出に従ってデュエルディスクを入手してより、あの公園で挑戦者を待ち、敗者から幾許かの小金と食糧を得るのが今の彼女の生活だ。こんな暮らしが成り立つことにさすがの冬華も驚愕を禁じ得なかったが、遊戯王ではよくあることのひとつと考えれば大したことではないのかもしれない。

 

 毎日そんなことをしていれば注目度も鰻登りに高まっていくわけで、ジュニア部門のデュエル大会への勧誘も何度か受けるようになってきた。尤もそれらの誘いは今の所全て断っている。理由としてはタダでさえ口下手な自分が表舞台で上手くやれる自信のないこと、出場規定にある公式戦での勝率確保が単に面倒だったことが挙げられる。自分で好き勝手にやる分には何戦でも苦にはならないが「どこそこで何回デュエルせよ」と強制されるのはごめんだった。

 

 ……ここで「1勝積む毎に回転寿司1回」とでも言えばこの食いしん坊は2つ返事でホイホイ着いていくところなのだが、如何せん多少野良デュエルが強い無名の女の子にそこまで言ってくる輩はいなかった。お互いにとって不幸な話である。

 

「はぁ……ごちそう、さま」

 

 米粒ひとつ残さずに食べ終え、代金を払って表へ出る。さて、今日は何をして過ごそうか。ちなみに残念ながらカードショップへ行く選択肢はない。分かっちゃあいたがこの世界、カード1枚当たりの価値が元の世界の比では無い。まぁデュエルディスクで認識できるんだ、多分ただの紙切れではないんだろう。そのくせ――だからこそ?――弱いカードは価値を一切認められずに打ち棄てられ、レアカードは法外な値段がついてしまうのがこの世界なのだ。悲しい哉。

 

 行く当てもないのでふらふらとぶらつき続ける。最近は「融合使いの野良猫」と周りが勝手に呼ぶようになったため、時たま道行く人に手を振られたり握手を求められたりとちょっとしたアイドル扱いだ。残念ながら冬華ちゃんにそれを捌く経験も度胸もないのでそういう時は顔を真っ赤にして冷や汗をかくだけの人形と化すのが彼女の限界だが。

 

 何はともあれ、彼女は自分が思っているよりちょっとだけ顔と名前が売れていた。そうなると、自然厄介事にも見舞われるのが世の中のきまりである。

 

「アニキーっ!こいつですぜぇ、噂の『野良猫』は!」

 

 お手本のようなチンピラムーヴの男に冬華は腕を掴まれた。荒っぽいことに爪先ほどの耐性も無い冬華は何事?と頭を真っ白にしてしまい、腕を引かれるままに裏路地へと連れ込まれた。

 

「おう……ご苦労。下がってろや」

 

「へい!」

 

 路地の奥で待ち構えていたのは同じ人間か?と思うくらい大柄で『むくつけき』という表現がこれ以上ないくらいによく似合う、端的に言ってオークみたいな男だった。

 

 ほんの先程まで頭の働いていなかった冬華も漸く事態を飲み込み、そして滝のように汗を流し始めた。ヤバい。これは、薄い本案件だ、と。

 

「さて、『野良猫』よ。まぁそう身構えるな、とりあえず危ないことなんてしねぇさ」

 

「(と、とりあえず!?)」

 

 それはつまり取るものを取ったら取りあえていたものも美味しく頂くということではなかろうか。ヤダこの人、蛮族。

 

「がはは……まぁ、先ずは勝負を始めようや。決闘」

 

「……決闘」

 

 良かった、よく分からないがデュエルを申し込まれたということは彼はデュエルの通じる人間だ。だったら何も問題はない、ここで完膚なきまでに叩きのめして泣いたり笑ったりできなくしてやる。スリーテンポくらい遅れて抱いた怒りのままに冬華はカードを5枚引いた。

 

「わ……たしの、ターン。私は手札から《E・HERO ブレイズマン》を召喚。その効果でデッキから《融合》を手札に、加えます。カードを伏せて、ターンエンド」

 

 冬華は盤面を確認し、そして手札を見遣って確信する。この戦い、我々の勝利だ、と。今冬華の手札には《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》《融合》《融合回収》《神縛りの塚》、そして伏せカードはデッキから融合素材モンスターをサーチできる《融合準備》。ライフ4000制においては圧倒的、まさに悪魔的配牌を見せていた。最早勝負は決まったも同然だと冬華はほくそ笑む。

 

「では俺のターン。俺は手札より《六武院》を発動。そして《六武衆―ザンジ―》を召喚。これによって六武院に武士道カウンターがひとつ乗り、お前の場のモンスターは攻撃力が100下がる。ザンジでブレイズマンを攻撃」

 

「ん…………」LP4000→3100

 

「更に俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

「……この瞬間、トラップ発動。融合準備。エクストラデッキの……《レインボー・ネオス》。っを、公開して、その素材に記載されている《E・HERO ネオス》を手札に加えます……私のターン!」

 

 勝った。計画通り。見たかオークみたいなおじさんめ、これが正義のHEROの力だ。そう胸一杯に叫び(実際に叫ぶ度胸はない)ながら融合を場に出……

 

『ブブーッ 不正なプレイングです』

 

 冬華は硬直した。不正?そんな筈は無い、融合素材モンスターはきっちり手札に揃っているのに。もう一度、デュエルディスクに融合をプレイする。

 

『ブブーッ 不正なプレイングです』

 

「………………!?」

 

「くはは。悪いなぁ」

 

 オークのおじさんが心底愉快そうに嗤う。どういうつもりだ、初対面の相手に口三味線とはシャカパチを遙かに超えた違反行為だぞ。さすがにちょっと言ってやりたくて顔を上げた、そこには。

 

「メインフェイズへ入る前に、俺は伏せカードの《魔封じの芳香》を発動していた」

 

「ひぇっ………………!!」

 

 闇より深い絶望が立ち塞がっていた。

 

 

 

 

 







テーテッテレレテーテテーテレッテー(アイキャッチ)




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ただの立体映像じゃないなんて聞いてませんけど!?



テレッテッテーレッテッテ(デンデケデンデケデンデケデンデケ)
デデン!(CM明け)





 

 

 

「あ……ど、どうし、よっ……えと、魔封じは、次のターンなら使えるから、とりあえずこれとこれをセットして……」

 

 冬華はしどろもどろになりながら、震える手でとにかくカードを伏せる。元々手札内容からしてこれがリーサルターンではなかったのだから次のターンまで待てば良いだけのこと、と考え方を変えるしか無い。

 

 ただし、それは次のターンまで融合が場に残っていればの話。六武衆は手札消費が激しいものの、盤面を押さえてさえしまえばあとはどうにでもなるテーマであり、それこそ伏せカードを除去する六武衆もいる。こんなことならば融合準備を温存しておけば、万一融合を墓地に送られても回収する目があったのにと思わずにはいられない。

 

「私は、これでターンエンド」

 

「この瞬間トラップ発動!《神速の具足》!俺のドローフェイズ時にドローしたカードが【六武衆】なら、それを相手に見せることで特殊召喚できる。ドロー!……引いたカードは《六武衆の侍従》。特殊召喚だ」

 

 二刀流の剣士が新たに戦場へ躍り出た。そして場に六武衆が2体揃ったことにより、六武衆の真価が発揮される。尤も侍従は元来通常モンスターで、ザンジは攻撃した相手を無差別に破壊するという、いずれも今の所無関係なのが唯一の救いだ。しかし六武衆は増えれば増えるほど厄介さを増すテーマであり、一切の油断は出来ない。華の頬を汗が伝う。

 

「これで終わりじゃあないんだぜ。俺の場に2体の六武衆が揃ったことにより、このカードの特殊召喚が可能になる。現れろ、《大将軍 紫炎》!」

 

 侍どもの頭領が姿を現し、盤面を尋常ではない重圧が襲う。紫炎自体の持つプレッシャーもさることながら、実際にデュエルディスクへ干渉する能力をかの猛将は持っていた。

 

「紫炎の効果により、お前は1ターンに1度までしか魔法罠を発動できない。わはは……八方塞がりってやつだな?」

 

「うぎゅうぅぅぅぅぅぅぅ……」

 

 喧嘩の弱い猫みたいな情けない呻り声を上げて目を擦る。心中では別に泣いてませんけど?ただちょっと目がかゆくてね?などと言い訳を並べているが少なくとも対戦相手のおじさんは口角を醜く歪めてますますオーク染みた表情になっていた。

 

「さぁバトルだ!モンスター全軍でダイレクト……!」

 

「……トラップ発動!《威嚇する咆哮》!……これで、あなたは、もう、攻撃できま、せん」

 

「……ちっ。ま、仕方ないねぇ。カードを伏せてターンエンドだ」

 

「ドロー……」

 

 冬華はドローカードを凝視する。盤面にいる紫炎、そして魔封じの芳香。アレらをどうにかしないことにはこの勝負先は見えている。ではこの手札からそれを実現する方法は?……否。レインボー・ネオスでは一手足りない。あの伏せカードが何か分からない以上、躱されたら負けのレインボー・ネオス一発勝負には出られない。例えばミラー・フォースならむしろ望むところだが、対象をとらず破壊でもない落とし穴系のカードだったら神縛りの塚でもフォローし得ない最悪の事態になる。幸い相手はハンドレス、次ターンの追撃を心配する必要は薄いが……魔法罠をすり抜けて、盤面を空けるためには。

 

「……私は、セットしていた融合を、発動。手札のネオスと《E・HERO バブルマン》を融合。来て、《E・HERO アブソルートZero》。そして、Zeroで紫炎を攻撃」

 

「っと、出たな融合モンスター。しかし早速だが、ご退場願おうか!トラップ発動、《強制脱出装置》!」

 

 Zeroが場に姿を現した瞬間、瞬く間にZeroの足元から射出装置が出現し拘束される。それを解く間もないままにZeroは虚空へ打ち出されていった。 

 

 強制脱出装置ならば神縛りの塚で防げる1枚だったが、過ぎたことを悔やむ暇はない。今は、これでいい。

 

「Zeroの効果。このモンスターは、場を離れる時に、全てのモンスターを道連れとする」

 

「なに!?」

 

 Zeroが消えていった空から猛吹雪が巻き起こり、侍は1人残らず凍り付いて砕け散った。これで盤面状況は互角。3枚の罠、魔法は健在だが、エクストラを使わずに1枚からライフ3000は削りきれまい。

 

「メイン2。リバースカードオープン、融合回収。墓地の融合と、バブルマンを回収。カードを…………」

 

 五条冬華は考える。今伏せるとしたら、それは当然融合一択である。相手にもバレバレなことこの上ないだろう。もし、そのたった1枚の融合を撃ち抜かれでもしたら?安全策をとってネオスではなくバブルマンを回収しておいたが、結局ただの壁モンスターにしかなるまい。次のターンで融合に類するカードを引けなければ。いや、そもそも次のターンでの相手の動きが予想外の展開を見せたら?

 

「くはは……どうする?その融合を伏せるのか、伏せないのか!?」

 

「……私は、カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 結局冬華は融合を伏せた。どうせ相手もサイクロンや羽箒は打てやしないのだから、伏せたところで大した問題はあるまい。それに、冬華の手札にはまだ神縛りの塚がある。万が一の為の備えはまだ残っている、ということだ。だったらまだ、焦る必要はない。

 

「ならば、俺のターン!引いたカードは残念ながら六武衆じゃねぇ。俺はカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

「ドロー…………っ!わ、私は融合を発動!レインボー・ダークとバブルマンを融合。来て!《E・HERO エスクリダオ》!エスクリダオの攻撃力は、墓地に眠る4体のE・HEROぶんアップする。エスクリダオでダイレクトアタック!」

 

「っちぃ!」LP4000→1300

 

 これでライフの状況は冬華が一歩リード。相手の伏せカードが防御札でなかったことには一安心するが、翻せば攻撃札である可能性もまた存在するということであり、依然として予断を許さない状況ではある。

 

「俺のターン!ん……よし、まずはリバースカードオープン、《諸刃の活人剣術》!これにより墓地のザンジと侍従を攻撃表示で復活させる!そして侍従をリリースして、手札より《六武衆の師範》を通常召喚!」

 

 六武衆、ふたたび。盤面に六武衆が増えたことで六武衆の効果が発動する。そしてこの場で厄介なのは、ザンジの効果だ。

 

「バトル!ザンジでエスクリダオを攻撃、ザンジの効果によってエスクリダオは破壊される!更に師範でダイレクトアタックだ!」LP1300→600

 

「ひいぃ…………!」LP3100→1000

 

 攻撃の宣言がかかるや否や、ザンジは長槍でエスクリダオをぶち抜いた。エスクリダオは膝を着きながらも、思い切り腕を振り切ってザンジの左肩から右の腰までぶっつりと撫で斬りにすることで2体ともが消滅する。しかしこう、なぜこの世界のソリッドビジョンはいちいち刺激的なのだろう。ここの技術者はスプラッタ趣味なのだろうか。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 片目が物理的に妖しく光るダンディなおじさまにぎらりと睨まれつつターンは終了と相成った。本来活人剣術のデメリットでザンジと侍従の攻撃力ぶんライフを失うところ、2体ともを盤面から消して巧いこと帳消しにした形である。場に21打点が残ったことでライフ状況はほぼイーブンだと言ってよい。次の冬華のドローで、全てが決まる盤面が出来上がっていた。

 

「う……わ、わっ、たしの、ターン!」

 

 冬華は恐る恐る引いたカードを見遣る。その1枚は。

 

「っ!私は、《召喚僧サモンプリースト》を召喚。手札の……神縛りの塚を捨てて、デッキから、《E・HERO アナザーネオス》を特殊召喚」

 

 日陰で怪しいクスリを打ってそうな謎の僧侶が描いた魔方陣から、小さき光の戦士が意気揚々と飛び出した。準備はオーケー、いつでもイケるぜ?などと言いたげな、大きい方の彼は決してしないだろう若々しいジェスチャーにソリッドビジョンと分かっていても冬華は微笑を禁じ得なかった。

 

「うん……行こう。えと、確か、こう……『レベル4の、サモンプリーストと、アナザーネオスで、オーバーレイっ。2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを、構築。エクシーズ召喚!』来て、《No.39 希望皇ホープ》」

 

「な、なんだ、エクシーズ……?」

 

「まだ終わりじゃ、無い。すー、ふーっ。『シャイニング・エクシーズ・チェンジ!一粒の希望よ、今、電光石火の雷となって闇から飛び立って!』来て、《SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング》」

 

 視界の全てを純白の輝きが覆い、眩き希望皇が降臨する。ここに勝敗は決定した。

 

「行って、ホープ。六武衆の師範を、攻撃」

 

「くうっ……だが、六武院の効果でお前のホープは攻撃力が2100まで下がっている!所詮は相撃ち、次のターンが来れば俺が!」

 

「……次なんて、ない」

 

 ホープのオーバーレイ・ユニットが瞬き、その光を吸収して『ライトニング』の名に相応しき閃光が希望皇の全身から放出される。気付けば薄暗い路地裏には昼日中の日差しの様な輝きがもたらされていた。

 

「は?攻撃力、5000……!?ま、待て、なんだその効果!?なんなんだそのモンスターはぁ!?」

 

「……『かっとビングだ、私!』行ってホープ!ホープ剣ライトニング・スラッシュ!!」

 

 元々の倍以上に大きさを増した巨剣が六武衆の師範を打ち据え、その余波を受けて手下のチンピラごと周囲の人間は吹き飛ばされる。最後に残ったのは、気高き皇者と勝者たる冬華だけであった。

 

「(え……こ、これ、ソリッドビジョンだよね……!?)」

 

 ……勝者の内心に、幾何かの混乱も残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ何だ、アレは!?」

 

 黒服の男は目の前の映像に動揺を隠せない。魔法封じの罠を仕掛けられた際にはすわ敗北かとも考えたが、結果は圧勝。いや、勝ったこと自体もさることながら、まさかあの少女がエクシーズまでも所持しているとは。

 

「驚くほどのことではない。元より我らの与り知らぬところで融合を所持していたのだ、それ以外の戦術を心得ていることも想定の範囲内」

 

「は、しかし」

 

「分かっている」

 

 そう、その程度ならばまだ想定内。しかしながら。

 

「召喚反応はどうなっている?」

 

「はっ、そ、それは、計測値によるもので、実際の強さを反映するものでは」

 

「私に配慮する必要はない。事実を伝えてくれ」

 

 黒服は手元の資料に視線を落とし、青年の問いには即答しない。しかし、ここに記録された数字が全て。過去に幾度となくテストを重ねた機械だ、測り違いなどあり得ない。

 

「…………正直に申し上げます。融合、エクシーズ、いずれの反応値も凄まじく。社長の数字よりも上の数値を記録しています」

 

「そうか」

 

 ……当然だ。彼女が行ったのはアクションデュエルではない。つまりリアルソリッドビジョン技術によるデュエルではないというのに、あれほどの物理的エネルギーを発生させたのだから、生半可なデュエルエナジーの持ち主な筈が無い。それは、分かる。

 

 だがしかし。

 

「フフ……フハハハハハハハハ!」

 

 赤馬零児は場違いにも哄笑する。榊遊矢のペンデュラム召喚を見たときとも、実の父親に融合次元で対峙したときとも、勿論会社をやりくりするために必要な下らない腹の探り合いとも違う感覚が零児の胸を突き抜ける。

 

「急がせろ!……開発を。我がLDSの優秀なる人材、他流決闘塾にバラまくエクストラカード。そして、この私自身の新たなるプランの完成をな」

 

「はッ!!」

 

 言うや否や、システムルームから黒服は弾かれたように飛び出した。その足で開発チームの下へと向かい、映像をチラつかせてカードの試作を煽るのだろう。

 

 だから、今だけは。あらゆる全てを脳内から取り払い、誰に取り繕うこともなく、零児はビデオモニターのリモコンを手に取る。

 

「…………………………五条、冬華」

 

 零児はイチから監視映像を再生し、うっそりとした表情で冬華の名を呟いた。

 

 

 

 

 






GXの『エンタメデュエル』回が結構面白くて、あれに絡めた話をやりたいんですが3話目にしてまだ原作主人公にも会えない冬華ちゃん。果たしてこれで大丈夫なのか、筆者は何も考えていません。

そろそろ分類を短編じゃなくて連載にしようかな……?


【追記】
ミスのご指摘を度重ねて頂いてまして、皆さま本当にありがとうございます。
筆者はアホなのでこれからもミスるかもしれませんが暖かく見守って頂けますと幸いです。


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入塾させられるとか聞いてませんけど!?

 

 

 

「ふんふんふ~ん、とぅるとぅるとぅるとぅる。あっすっへっのっちーずをーひーろげって~♪」

 

 本日、冬華ちゃんはとてもゴキゲンだった。いつも通り公園で挑戦者を待っていたところ、何やらマフラーをパタつかせたメガネのお兄さんにジュニア部門の大会へ出場しないかと勧誘を受けたためである。

 

 そこまでならば以前だと丁重にお断り(と本人は思っているが、必死な顔で『ごめんなさい』と繰り返すので相手が居たたまれなくなって引き下がるだけ)するところだが、冬華が1番面倒に思っていた公式戦での実績積みを免除してくれるのだと言うから驚いた。

 

 先日危なっかしい目に遭ったばかりなのでさすがに些か訝しんだが、『挨拶代わりに』とピエロで有名な某ハンバーガーショップのタダ券をどっさり渡されては一も二も無いのが冬華という少女だった。知らないピエロが側溝から話し掛けてきても怪しむどころか喜んで引きずり込まれそうである。なお、メガネのお兄さんは一応名刺を渡して大会主催者側の人間であることも主張していたがその辺りでは完全に思考がハンバーガーに寄っていたため冬華の脳内にはミリほどの情報も残っていない。

 

 そして思わぬ収入に冬華は心躍らせながら店を探している最中なのである。何てったってこれからは残金を気にせずに食事が出来る。ハンバーガーだけというのはいずれ飽きも来るだろうが、別にその他の収入が無いではなし、普通にお金を払って別のものを食べればいいだけである。4枚ドローする代わりにエンドフェイズ時に全ての手札を失うデメリットをライフ回復しながら回避するような爆アド状態に今の冬華はあった。

 

「「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が……」」

 

「ん……?」

 

 散歩がてらにハンバーガーショップを求めてふらついていると、聞き覚えのある単語が耳に挟まってきた。

 

「「アクショ~ン!デュエルッ!!」」

 

 どうやら今からデュエルが行われるらしいが、それにしては声が遠い。周囲を見渡してもそれらしい人影は無し。ならばモニター中継か?と思い顔を上げると、そこには。

 

「……ゆう、しょう、じゅく?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔、しま、す」

 

 ゆっくりと戸を押し、中に入る。鍵は開いていた。灯りも点いてる。が、誰も見当たらないのはさてはてどうしたものか。

 

 冬華もこの世界に『決闘塾』という概念があるのは知っている。街中を歩いていれば嫌でも広告が目に入るし、挑戦者たちを負かした時にもどこそこ塾に是非来てくれ、というようなお誘いを受けることはあったからだ。残念なことにデュエルを介さない対人コミュニケーションが絶望的な冬華がそれに色好い返事をすることはなかったのだが。

 

 実態は全く把握していないものの、要はデュエルのやり方を教えてくれるカードショップのことだと冬華は理解していた。確かにKONMAI語とかは少々アレとしてもそんなに毎日毎日勉強するネタがあるのか?と懐疑的にならずにはいられないがデュエルアカデミアなんていう施設の存在が許されるのが遊戯王世界だよねと妙に納得したものであった。

 

 さて、では冬華が遊勝塾へ入塾する気になったのかと問われれば勿論違う。あくまで気まぐれにやりたいことを求めるのが彼女のスタンスで、且つデュエルは常にやりたいことの比較的上位に入り続ける彼女としては濃厚なデュエルの匂いにふらふらと呼び寄せられただけのことだった。

 

「俺は!スケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「…………下?」

 

 一見するともぬけの殻だったが、きちんと人の気配が伝わってきた。見ればこの部屋は室内に向けて窓があるという不思議な内装になっている。なるほど、来訪者はここからデュエルを観戦できる造りだったようだ。

 

「ペンデュラム召喚!現れろ、俺のモンスター達!」

 

 赤と緑の野菜的配色をした頭の少年の頭上に大穴が空き、そこから赤色のやけにトゲトゲした竜が登場する。それだけでない、他のモンスターも次々に出て来るが、どれも見たことの無いカードばかりだ。

 

「エンタ、メイト……ペンデュラム?」

 

 ぐいと身を乗り出し、鼻と額をガラスにくっつけんばかりにかぶりつきになる。なにせ人付き合いは凡そ無理でもカードゲームだけは続けてきた彼女である。未知のカードに対する興味は何物にも勝る。

 

「いいぞぉ遊矢!絶好調ではないか!」

 

「まだだ!まだこんなもんじゃ、赤馬零児には!来い権現坂!」

 

 どうやらトマト頭の少年は遊矢、対する下駄履きの男は権現坂と言うらしい。赤馬零児もあの時にちゃんと話を聞いていればすぐ思い出せたことだろうが、残念ながら今の冬華はピンと来ていなかった。

 

「行くぞ遊矢!俺は《超重武者ビッグベン―K》で攻撃!」

 

 あちらのカードも興味深い。所謂ランパートガンナー効果のモンスターらしいが、特別デメリットも見受けられないし、何よりその数値が高い。守備力3500のモンスター1体で勝負がつくことはないにしても中々骨が折れるものだ。素の攻撃力が低いからスカイスクレイパー等の有効範囲からも外れるし、HEROだと面倒かもしれない。

 

「よっと!アクション魔法、《回避》!」

 

「…………!?」

 

 冬華は目を剥いた。フィールドからカードを拾って発動とか大胆なバンデット・キースかこいつ。……いや、よく見るとフィールド中に『A』と書かれたカードが散りばめられている。察するに、そういうルールの特殊デュエルなのだろう。その割に権現坂と呼ばれた男が仁王立ちで動かないのが気になるが、ターンプレイヤーは取っちゃいけないルールでもあるのか。

 

「いいぞー遊矢-!権現坂君-!!熱血、だぁ!?」

 

 びくん。洗練されたぼっちのセンサーが人の視線をキャッチする。ヤバい、何もなかったかのように帰りたいが、ヘビに睨まれたカエルの如く両足が動いてくれない。

 

「にゅっ……入塾者発見!!確保ォー!!!」

 

 全体的に暖色めいたおじさんが大声を張り上げた瞬間デュエルが中断される。権現坂を除いた全員の首が油をさしてない人形のような鈍い動きで回り、こちらをロックオンした。目はぎらりと光り、口は限界まで吊り上げられたその面貌は亡霊か妖怪の類のそれである。

 

「ひえっ!」

 

 事ここに至って漸く反射的に体が動き、後退るも。

 

「確保!」

 

 遊矢が早くも背後でスタンバイしていた。

 

「確保よ!」

 

 遅れて腕輪をした少女が正面から現れ進退もままならなくなる。

 

「「「確保ぉー」」」

 

 最後にちびっ子たちが脇を固めることで一歩も動けなくなった。こちらの手札はゼロで相手の場にはインフィニティ3枚と生け贄封じと言ったところか。

 

「さぁお嬢さん!ここにお名前を!さぁ!さぁ!さぁ!」

 

 鼻息も荒く暖色おじさんに詰め寄られて殆ど冬華は涙目となる。名前を書けば解放して頂けるのだろうか?促されるままにペンをとり名前を書こうとした、そのとき。

 

「……あっ」

 

 タマネギめいた髪型の少年が声を上げた。キャンディーを舐めしゃぶりながら、いま思い出しましたとばかりにひと声をかける。

 

「君さ、『融合使いの野良猫』だ。そうでしょ?」

 

「ひょ?え、あぁ……そう、呼ばれて、る、みたいです」

 

 野良猫。そう聞いた瞬間幾人かが反応を示す。融合使いの野良猫と言えば突如彗星の様に現れたルーキー、五条冬華に相違ない。野良デュエルしかやらない彼女を公式戦の世界に引き込もうと各決闘塾から熱烈なラブコールを受けている彼女が何故ここにいるのか。とにかく零細決闘塾としてはこれを逃す手段はない。

 

「ふっ、冬華ちゃん!キミみたいな大物がウチに入ってくれれば大助かりだ!是非ともウチで、野良戦では味わえないアクションデュエルの世界に飛び込んでみないか!!!???」

 

「デュエル!……っあでも、塾、私、あのぅ」

 

 冬華は俯いて一言も発さなくなってしまう。さてはてどうにも名前ばかりが先行して冬華という少女の人となりまではさして伝わっては居ないらしい。そう判断したタマネギ頭の少年が助け船を出した。

 

「ねーししょー。野良猫ちゃんとデュエルしてあげてよ」

 

「え?そりゃ俺からお願いしたいくらいだけど、塾に入るか決めてからでもいいんじゃないのか?」

 

「いや、話によると、この子口下手らしくってさぁ。デュエル中は少し喋れるらしいから、多分デュエルしながらの方が話しやすいと思うんだよね」

 

「なるほど……」

 

 そういうことなら、デュエルを先にやった方がいいかもしれない。リアルソリッドビジョンが備えられていない屋外でばかりデュエルしていたということなら、アクションデュエルのやり方も分からないだろうし、まずはどんなデュエルが出来るのかを知って貰うのが先決だ。

 

「分かった!それじゃあキミ、俺に着いてきて!」

 

「ひえっ……ま、待ってぇ」

 

 階段を転がり落ちるように下っていき、喧騒と共にデュエルフィールドへ雪崩れ込んでいく。静かになった応接室で、タマネギ頭の少年――素良はひそかに顔を喜色で歪めた。

 

 

 






キリが良かったのでデュエルなし。このまま入塾するか、LDS行きかは勿論筆者も考えていません。



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実体化するとか聞いてませんけど!?

 

 

 

「わ……ひ、ひろ、い、ね」

 

 プレイルームに降りた冬華は、遊矢と向き合う位置に立ってぐるぐると部屋を見渡した。一見簡素でだだっ広い倉庫の様な部屋だが、中央に配置されたミラーボールかプリネタリウムらしき装置が如何にも場違いで妙な感覚を覚える。

 

「遊矢-!準備はオッケーだ、いつでもいいぞ!」

 

「うん!分かった-!それじゃあまずは自己紹介からだ。俺は榊遊矢!榊でも遊矢でも好きに呼んでくれ」

 

「ひゃっ!?あ、あぁの、わたっし、五条、冬華です。の、のらねこより、も、名前のがいい!です。名前。っよろし、く。ゆーや」

 

 互いの紹介を終えると遊矢はニカッと笑い、卓越した身のこなしで素早くコンテナの上に駆け上った。

 

「それじゃあ冬華!アクションデュエルを始めよう!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が、モンスターと共に地を蹴り宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!」

 

 大袈裟な身振り手振りを交えながら遊矢がアクションデュエルの口上を諳んじる。まるでサーカスの前口上みたいだなとぼんやり思う一方で、これを自分も言わなくちゃいけないのかと考えると冬華はちょっとだけ気が重くなった。

 

「見よ!これぞデュエルの最強進化形!アクショォ~~~~ン!」

 

『デュエルッ!!』

 

「へ?あ、はぁ、デュエルっ」

 

 言うや否や、頭上から数多のカードがフィールド内にバラまかれた。先程までは無かった色鮮やかなブロックや輪くぐりのフープまで現れて、いよいよこの場はアスレチックサーカスといった装いである。これの1枚1枚が特殊な効果を持ったアクションカードで、跳んだり跳ねたりしながらカードを集めるからアクションデュエルというわけだ。

 

「レディ~~スエーンジェントルメ~~~~ン!!」

 

「!?」

 

 ぼさっとフィールドを眺めていると、両手を大きく広げた遊矢が何やら前説じみた口上を挙げ始めた。この人はずいぶんとキメ台詞が好きだなぁ、と遊戯王世界らしさに何となく心強さを覚える。

 

「本日はエキシビションマッチ!新たにアクションデュエルの世界へ足を踏み入れた友人・五条冬華氏に、今までとは全く違うデュエルを体験して頂くためのデュエルで御座います!」

 

 5枚のドローカードを弄びながら遊矢がそう言うと、照明全てが冬華へ集中して一瞬にしてライトアップされる。突然注目を浴びるわさらりと『友人』と呼ばれて嬉しいわで感情が高まってうっかり涙が出そうになったのはここだけの話。

 

「さてお立ち会い!まずは我々の新しい友人に、ワタクシの頼もしき友人をご紹介致しましょう!《EMディスカバー・ヒッポ》よ、お出でなさ~い!」

 

 シルクハットを被ったおしゃれカバが登場。楽しそうに2度3度と飛び跳ねたヒッポの背中へ、まさかの遊矢がゲットライドした。

 

「さぁご覧下さい!ディスカバー・ヒッポの美しき火の輪くぐりショー!」

 

 宙に浮かんでいたフープに火が灯り、その中を優雅な動きでヒッポと遊矢は通り抜けた。なかなかサマになってはいるが、なぜにカバ。そこで冬華は気付く。遊矢は最初に飛び乗ったコンテナから飛び出したが、着地しようとしているあのブロックはソリッドビジョンで投影された足場である。もしあそこへ着地しようとすればそのまま通り抜けて真っ逆さまだ。

 

「ゆーや!危ない、それ、ブロック、ソリッドビジョン!」

 

「えっ?……わぁ~あわぁわぁ!大変だぁ~~っ!!」

 

 見ちゃ居られない。冬華は数秒後に響くだろう落下音を想像して顔を青ざめ、目を覆うが……何も起こらない。不思議に思い目を開けるとしてそこにはニセモノの筈の足場へ悠々と着地する遊矢の姿があった。

 

「これがリアルソリッドビジョンシステム!このアクションデュエルで使われているソリッドビジョンはただの映像じゃない、なんと質量と実体があるんだ!ビックリしたかな?これで俺はターンエンドだ!」

 

 イタズラっぽい笑顔でウィンクされた冬華は青くなっていた顔を真っ赤にして抗議を試みる。がしかし、怒りすぎて言葉に出来ず両手をぶんぶんと上下して感情の昂ぶりをアピールすることしか出来なかった。

 

「可愛い……」

 

「柚子ぅ、そういう趣味なの?」

 

「え!?バカ、違うわよッ!!」

 

「むむ~~~~っ……ドロー!私は《E・HERO フェザーマン》を召喚!お願い、フェザーマン」

 

 負けじと冬華もフェザーマンにしがみついて宙へ飛び立つ。どうだゆーやと、私なんかこんな高いところにいるぞと、そう誇らしい気持ちでフェザーマンの羽根を撫でた。

 

「すごい……すご、っい!フェザーマン凄い!飛んでるね、飛んでるねぇフェザーマン!」

 

「ぬっ……か、可憐だ……」

 

「へー、ゴンちゃんも野良猫ちゃん系が好きなんだ。確かにデュエリストには珍しいタイプだよね~」

 

「い、いや、ちがっ違うわァ!」

 

 調子に乗ってもっともっととせがみ、遊勝塾にほのぼのとした空気が流れた辺りで冬華は再び涙目になった。

 

「ふぎゅう、高ひ……フェザーマン、お、降ろひて……」

 

 ソリッドビジョンに感情があるはずは無いのだが、どことなくやるせない顔つきでゆっくりとフェザーマンは着地した。冬華はほぼほぼへっぴり腰になってフェザーマンに肩を支えられながら立ち上がると、対戦相手の遊矢から何だか物凄く生暖かい視線を浴びていることに気が付きとても居たたまれない気持ちを抱いた。

 

「…………こほんっ。え、えぇっと、わたしは、手札からフィールド魔法、《摩天楼-スカイスクレイパー-》を発動!」

 

 恥ずかし紛れに殆ど叩き付ける様にして冬華はフィールド魔法をプレイする。ヒッポよりフェザーマンの方が攻撃力は上なので意味は無いがもう知ったことでは無い、とにかくこの空気から脱したい。そんな思いと共にディスクから映像が吐き出される。

 

「おぉっと、これは!?」

 

「えと……『HEROにはHEROに相応しい、戦う舞台っていう物が、あるんだよ、ゆーや』」

 

 特殊ルールなのだから何かしらの不便なことがあるのではないかと考えていたが、摩天楼が置けたことに冬華はひとまず安堵した。なにせ。

 

「(『摩天楼の頂上に立つフレイム・ウィングマンとわたし』ごっこが出来る~~~~~っ……)」

 

 これで原作のシチュエーションに沿ったプレイングをする、所謂『ごっこ遊び』ができるどころか、ソリッドビジョンが実体を持つということはフレイム・ウィングマンと共にあの頂きへ立つことができる。1つ上の遊びである『聖地巡礼』まで叶えることが可能となったのだ。カードゲームアニメに聖地も何もあった物ではないので決闘者的パワースポットなど望むべくもないところだが、遊戯王世界に来たことでこんな贅沢が出来るとは思わなんだ。リアルソリッドビジョン開発者にもしも会えたらちゅーしてあげようと冬華は思った。

 

「へへ……わたしは、魔法カード《融合》を発動!手札の《E・HERO スパークマン》と《E・HERO シャドー・ミスト》を融合。カモン、《V・HERO アドレイション》」

 

 融合!その2文字が響いた瞬間、室内に緊張が走る。既にエクストラデッキという概念が広まって久しいが、冬華はLDSがエクストラカードを頒布し始める前から融合を使っていたとも噂される少女である。その彼女が使う融合モンスターが如何なるものか、遊勝塾全ての面々がこれに注目する。

 

「墓地へ送られた、シャドー・ミストの効果。デッキから《E・HERO エアーマン》を、手札に。そしてアドレイションの効果。フェザーマンの攻撃力ぶん、ヒッポの攻撃力をダウンする」

 

「い!?」

 

 フェザーマンがヒッポへ羽根を射出する。突き刺さった位置からキラキラとした光が溢れだして、ヒッポの攻撃力は0になってしまった。

 

「バトル。フェザーマン、アドレイション、戦って」

 

「う、うわぁ~~~や、ら、れ…………なぁーい!私は、アクション魔法《回避》を発動します!これによりアドレイションの攻撃は無効!ローリングヒッポ!!」

 

「い、いつの間に?……!!」

 

 あの時、火の輪くぐりをしてからブロックへ着地するあの瞬間。冬華が目をつぶったほんの僅かな隙にヒッポの嗅覚はアクションカードの匂いを嗅ぎ付けていたのだ。普通のデュエルでも相手から視線を外すのは得策ではないが、アクションデュエルではまさに生死を分けうる可能性があるということだ。一方で相手の動きばかりに気を取られていては自分がカードを拾えないときた。成る程確かに奥深い。

 

 アドレイションの突きを残像が見えるほどの速さで且つ無駄なく華麗に回避し、ヒッポは見事なドヤ顔を決めた。何とはなしに苛立ちを覚えるも、同時に可愛さも感じて冬華は複雑な気分だった。

 

「アクションカードは1枚しか持てないから、フェザーマンの攻撃は受けざるを得ない。しかし!私の観察眼は既に新たなアクションカードを見付けています!」

 

「ひぽっ!?」

 

 遊矢がヒッポから飛び降りた先には、もう1枚のアクションカード。またも攻撃を躱されてしまうのかと冬華は歯痒さを滲ませるが、ヒッポが慌てた様子を見せているのはどうしたことか。

 

「よしっ!アクション……とらっぷ?《天よりの罰則》!?自分は1000ライフ失うって、ちょっとちょっと待った待ってよ待ってってばぁっはぁ!?」

 

 遊矢の頭上に雷雲が急に現れ、一閃。ヒッポは戦闘破壊され、且つ余計なライフまで遊矢は失ってしまった。

 

「ゲホッ……考えナシにアクションカードを拾うと、こういうことにもなるから気を付けてね……」LP4000→2000

 

「あはは!馬鹿だなー遊矢兄ちゃん、あんな近くのアクションカードをヒッポが拾わないってことは、そういうことじゃん!」

 

「何だよフトシ!笑うな……いや笑ってもいいけど、笑うなー!!」

 

 めちゃくちゃなやり取りに冬華まで思わずクスリとさせられる。アクションカード、どうやら取れば取るだけ有利になるという話でもないようだ。自分の運に自信が無ければ無理に拾うことはないのかもしれない。或いは有利なカードを見付ける何らかの方法でもあれば話は別だが。

 

「ゲフン!さぁさぁ全く酷い目に遭ってしまいましたがステージはまだまだ始まったばかり!これからもアッと驚く榊遊矢のワンマンステージは続きます!参りますよ、ドローッ!!」

 

 何にしても、このアクションデュエル。中々に楽しませてくれそうだ。何故か妙に悪ぶった口調で冬華は独り言ちた。

 

 

 







CM入ります。後半戦はまた次回。
言うまでもなくアクショントラップはオリカです。
アクションマジックだけだとご都合的過ぎるのとヒッポちゃんは「匂いでアクションカードを見付ける名人」
との設定なのでマジックトラップの嗅ぎ分けとか出来たら設定を活かしながら今後も使い続ける理由付けになるかなと。

一応公式としてはヒッポちゃんは「マスコットキャラクター」らしいのでこんな感じにしてみましたが実際シンクロエクシーズ融合次元で出番があるかは筆者は何も考えていません。




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「ペンデュラム」とか聞いてませんけど!?

 

 

 

「参りますよ、私のターン!」

 

 さながら舞台上のエンターテイナーの如く、芝居がかった仕草と口調で榊遊矢はカードを引いた。お目当ての札が引けた瞬間のイタズラっぽい笑い方が、演技を忘れた素の彼を教えてくれる表情である。

 

「レディースエ~ンド、ジェ~ントルメェン!これよりお見せ致しますのは、エンタメデュエリストの開祖!榊遊勝直伝のエンタメデュエルの大本幕でございます!さ、ショーに必要なのは何と言っても舞台づくりから。本日の舞台の伴奏指揮者、そして総監督をご紹介しましょう!私はスケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 デュエルディスクの両端にセッティングされた星と時の魔術師の間に『PENDULUM』の架け橋がかかり、遊矢の頭上へ魔術師達が浮かび上がる。

 

「これでレベル2~7のモンスターが同時に召喚可能!揺れろ……魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!現れろ、俺のモンスター達!ペンデュラム召喚!!《EM ソード・フィッシュ》《EM ウィップ・バイパー》そして、さぁ拍手でお迎え下さい、本日の主役!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

「これが、ペンデュラム……!」

 

 遊矢の頭上へ展開された魔術師の前に記された数字、『2』と『7』。これが召喚可能なモンスターのレベルを指しているとみて相違ないだろう。スケールさえ整えればレベルも攻撃力も、今は手札を使い切ってしまったのであれっきりだが、恐らく手札と場の続く限りは数の制限すらもなく無差別にモンスターを特殊召喚するとは確かに恐ろしい召喚方法だ。しかし継戦能力には難アリと言わざるを得ないように見えるが、ワンショットキル特化のスタイルなのだろうか?……そう冬華は推測する。

 

「この瞬間ソード・フィッシュの効果発動!冬華の場のモンスター全ての攻守が600ポイントダウン!更にウィップ・バイパーの効果でアドレイションの攻守を反転させます!」

 

「うぅっ……!」

 

 攻撃宣言の前に、フェザーマンに掴まってアクションカードの確保に向かう。相手の盤面は総攻撃力4800。対して冬華の盤面には1900ポイント、何かの間違いで遊矢のモンスターに『ダメ押しのもう一発』を許す効果があれば即死である。折角宙を自在に飛べるモンスターを盤面に用意してターンを渡したのだから、トラップを引くリスクを背負ってでもアクションカードを取りに行かなければ意味が無い。

 

「バトル!オッドアイズの攻撃、螺旋のストライクバースト!オッドアイズがモンスターを破壊することで相手に与える戦闘ダメージは、倍になります!」

 

「もう、すこ、しっ……!届いた!これは……アクション魔法《奇跡》!このターンアドレイションは破壊されず……あ、あれっ?」

 

「これぞ星読みの魔術師の効果!私のペンデュラムモンスターが攻撃を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法の発動はできません!ホロスコープディビネイション!」

 

 星読みが振りかざした魔杖から星が降り注ぎ、冬華の手が物理的に弾かれる。ならばと効果対象をフェザーマンに変更してカードをプレイし直した。

 

「続けてウィップ・バイパーとソード・フィッシュでフェザーマンを攻撃!」

 

「くっ……!」LP4000→1150

 

 アドレイションは閃光を受けてチリになり、フェザーマンも2度の攻撃を受けて満身創痍となりながら何とか盤面にモンスターを残すことが出来た。しかし、ライフ状況がギリギリ4桁程度ではどこからリーサルが飛んでくるか分かった物ではない。

 

「これにて榊遊矢のエンタメデュエル、第1幕は終了でございます。第2幕の開催を是非とも、お楽しみに!」

 

 そう言って遊矢は意地悪くニヤリとした視線をぶつけてくる。恐らくはそういうことだろう、ぼやぼやしてると次のターンもこちらの良い様に展開して独壇場のまま終わらせてしまうぞと、本日のメインエンターティナーはそう言っている。

 

「そうは、させない……ドロー!……これ、は」

 

 手札に現れた1枚のカード。これをこうして、あぁして、アクションカードさえ無ければどうか?いや、合ったとしてもどうにかなるのでは。脳内をぐるぐると回転させ、遊矢に膝を付けさせるための方策を整える。

 

「わたし、は、《E・HERO エアーマン》を召喚。その効果により、ゆーやの、星読みの魔術師を破壊、する。更に手札の《沼地の魔神王》を捨てて、効果発動。デッキから、融合を加える。」

 

 まずは厄介なペンデュラムカードを破壊して次なるペンデュラム召喚の妨害に走る。これでこのターン中に勝負が付けられなくても、遊矢が逆転の一手を打つのは難しくなるはずだ。

 

「行くよ、ゆーや。わたしは、手札から《ミラクル・フュージョン》を発動」

 

 冬華の起動した魔法に反応し、スパークマン、そしてフレイム・ウィングマンへ姿を変えた沼地の魔神王が共に飛び立っていく。

 

「ミラクル、フュージョン……?」

 

「……『ミラクル・フュージョン。それは、墓地に眠るE・HEROを、融合させるカード』」

 

「なんだって!」

 

「墓地から融合……あの子も!?」

 

「ふぅん、それなりに珍しい効果の筈なんだけどねぇ……野良猫ちゃん、何だか興味が湧いてきたなぁ……」

 

 素良は顎に手をやって思考する。その柔らかな表情に反して眼には険吞な雰囲気が漂っていることに、気付く者は居ない。

 

「『そして、喚び出すモンスターは……究極の輝きを放つHERO。来て、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》!』更に墓地のE・HEROぶん、攻撃力はアップする!」ATK2500→3100

 

 全身を輝かしい装甲で覆った白銀の戦士が舞い降りる。眩くも優しい光は、その者が正義の使徒であることをまざまざと感じさせる光だ。

 

「けど、ウィップ・バイパーの効果がある!シャイニング・フレア・ウィングマンの攻守は反転!」ATK3100→2100

 

「それで十分。更に私は、融合を発動。フェザーマンとエアーマンを融合、来て、《E・HERO Great TORNADO》。その効果により、ゆーやのモンスター全ての攻守は半分になる」

 

「なんだって!?」ATK600→300 1700→850 2500→1250

 

「これで、決めるっ。わたしは、TORNADOでバイパーを、シャイニング・フレア・ウィングマンでオッドアイズを攻撃!シャイニング・シュート!!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンが摩天楼の頂点に立ち、腕を組んで仁王立ちに構える。勿論冬華も同伴である。思いの外高くてやや涙目気味だが、おぶさった状態になっているお陰で安定感があるからかギリギリドヤ顔を保っていた。

 

「クッ……アクションカード、これだ!アクション魔法《ハイダイブ》!!このターン、オッドアイズの攻撃力は1000ポイントアップする!どうだ、これで返り討ちだ!」ATK1250→2250

 

「……『それは、どうかな?』言ったでしょゆーや、ここは摩天楼。全てのHEROが、本領を発揮する場所。摩天楼-スカイスクレイパー-の効果。HEROより、相手モンスターの攻撃力が上回る場合、攻撃力を1000ポイントアップする!」ATK2100→3100

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンの翼甲が大きく展開し、集まったエネルギーが腕部に光と炎として顕れる。最先端の技術で生み出された三つ首の機械龍すら溶断し得る熱量を抑えもせずにオッドアイズの顔面を鷲掴みとし、抵抗する隙も与えられぬままに頭部へエネルギーを解放されてオッドアイズは爆散した。

 

「ガッチャ。楽しいデュエルだったよ、ゆーや」

 

「う……うわぁーーーーっ!!」LP0

 

 攻撃の余波で弾き飛ばされ、頭からワンバウンドして遊矢は着地した。すわ重体かと冬華はびくびくしたが何事もなく起き上がってきたのを見て、デュエリストは人間じゃ無いなと他人事の様に思ったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、参ったなぁ……こんなに強い女の子がいるなんてビックリしたよ」

 

 後ろ手で頭を掻きながら遊矢は恥ずかしそうな顔を見せた。デュエル中は事ある毎に芝居がかった様子を見せた彼だが、地金はこっちの控えめな態度の様である。

 

「しかし2人とも1歩も譲らない良い勝負だった!遊矢も、零児君と再戦する前のいい特訓になったんじゃないか!?」

 

「あぁ!世の中には強いデュエリストがまだまだいるんだって分かったよ。ありがとうな、冬華!」

 

「あぁ、あんの、いや、そんな、わ、わたしは……そんな……あの、わたし、わた、し、は……」

 

 ぐうぅ。

 

「…………お、おなかがしゅきまひ、た……///」

 

「ぷっ……あっはははははは!!」

 

「こらこら素良くん、笑っちゃ悪いだろう。どうだい冬華ちゃん、ウチで何か食べていか「いいの!!」なっはァ!?あ、あぁ、勿論だとも!」

 

 デュエルのテンションすら上回るかもしれない鬼気迫る表情で迫られて修造は1歩退きかけるがそこは熱血を信条とする彼のこと、むしろ1歩踏み出して冬華の手を取り応接室へと戻っていく。

 

「良い勝負を見せて貰った礼だ!この漢権現坂も食事の支度を手伝おうではないか!行くぞ、素良」

 

「えぇ?僕は手伝うなんて言ってないんだけど~?」

 

「私達も行きましょう遊矢!ゆう、や?」

 

 遊矢は一人虚空を見つめていた。ゴーグルをかけ、一同からも背を向けて、両手を強く握りしめて。

 

「……ったくもう。仕方ないなぁ」

 

 遊矢が落ち着くまでのほんの僅かな間、2人はその場から動くことは無かったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだユート、赤馬零王の手掛かりは?」

 

「一応、あのLDSの頭目とさえコンタクトがとれれば、親子と言うからには何かしらの情報が掴めるとは思うが……」

 

 街の中心から外れた裏路地でコートを着た黒ずくめの男達が協議を重ねる。故郷を滅ぼされた復讐のため、大事な人を救い出すため、男達はこの次元へ渡ってきていた。

 

「やはりたかだか2人の潜入ではこれが限界だろう。俺はもう待てん!LDSの人間を悉くカード化すれば、嫌でも最後には赤馬零児に辿り着くはずだ!」

 

「しかし、やはり無差別というのは」

 

「言ったぞユート!俺はこれ以上待てんッ!!」

 

「おい、君たち……」

 

 コートを着た2人組の下へ1人の男が声をかける。紫の生地にで赤い袖口の服を着た男。僅かばかりの内偵調査で明らかになったLDSの実戦指導教員、ティア。

 

「君たち、この辺りは治安が悪いんだ、表通りに出た方がいい」

 

「……飛んで火に入る夏の虫、か」

 

「L、D、S……」

 

 その姿を認めた片方の男が笑みを濃くする。尋常ではない様子にティアもデュエルディスクを構えるが、それは斃れるのが早いか遅いかの違いしか生まないことだろう。

 

「行くぞLDS。今日の俺は……機嫌が悪い!!」

 

 お前の機嫌が良い日などもういつから見てないか分からんよ、そうごちりながらユートはティアの悲鳴を見送った。

 

 

 







冬華ちゃんに負けて貰おうかなとも思ったんですが鉛筆を転がしたら冬華ちゃんの目が出たので冬華ちゃんに勝って貰いました。

・ティアについて
LDSの教員が不審者にやられてんだよね~って件の時にマルコ先生のカードと一緒に見せられた2人目の先生。男。
人となりや使用デッキなどは一切不明なのでDIEジェストとなりました。カクノガメンドウダカラジャナイヨーホントダヨー


※投稿後に手札を数え直したら遊矢の手札が1枚増えてたので前話を修正して対応しました。相変わらず筆者はアホです。
※廃石融合のこと忘れてまるで墓地融合が初見であるかのような物言いをしてたのを修正しました。ご指摘ありがとうございます。



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心安まる日常会?それは大助かり……ってこんな展開とか聞いてませんけど!?

 

 

 

 朝日がカーテンの隙間から差し込み、本日も快晴であることを伝えてくれている。気温も20と少しと過ごしやすく表へ出るのには最高の日和だ。これにはさすがの野良猫ももぞりと起き上がり。

 

 じゃっ

 

 カーテンをきつく閉ざした。

 

「何でよ!!」

 

「いたい……!」

 

 柚子が当然のようにハリセンを取り出し(一体何処に仕舞い込んで携帯しているのか)一閃、冬華の脳天へ一撃を叩き込んだ。

 

「んぐぁー……い~や~…………」

 

「『い~や~』じゃないの!アンタ放っておいたらいつまでも寝てるじゃないこのドラネコ!」

 

 布団を引っ剥がしカーテンを威勢良く開けられて尚、肩を地べたに付けて尻だけを上げた情けない姿勢で惰眠を貪ろうとする冬華へ2度目のハリセンが飛んだ。

 

「いった……!?なん、で、こんな目、に」

 

 まるで薄幸の少女みたいな物言いで涙ぐむが、基本的に現在の境遇は彼女の自業自得だった。

 

 

 

 遊矢との初戦後、ご相伴に与って親交を深めた冬華へそれまでヴェールに包まれていた野良猫の正体を暴かんと質問が飛び交うのは必然と言えた。

 

「野良猫ちゃんはさ、出身はどこなの?どこか遠いところ?」

 

「はぇ……遠い、と、いえば、遠い……?」

 

「融合カードはどこで手に入れたんだ?LDSが研究を始める前から持ってたって言うのは本当?」

 

「あ……元から、持ってて、でも、どっちが、早い、とか、無いか、もっ」

 

 とりあえず答えているような、核心を避けているような微妙な返答をしながらギリギリ『アニメ』だの『OCG』だのの発言をしないことにしか集中していなかった冬華は、ここで大ポカをやらかしたのだ。

 

「ね、どこに住んでるの?この辺りなのかしら」

 

「中央、公園」

 

「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」

 

「あっ、ん、んぅ~う、なんでも、なっい!うそ!」

 

 焦って否定の言葉を口にしたがもう遅い。同じ年頃の女の子で、オカン気質まである柚子にがっちりと肩を掴まれて既に誤魔化しなど通じる筈の無い雰囲気の中に取り込まれる。

 

「あなた、食事はどうしてたの?」

 

「の、野良デュエルの、賞金、で」

 

「な、なるほど……それで『野良猫』というわけか」

 

「しかし君みたいな子どもが賞金稼ぎの真似事とは感心しないなぁ。トラブルに巻き込まれるかもしれないんだぞ」

 

「お風呂は!?寝るところはどうしてたの!」

 

「お風呂は、お風呂屋さん、行って、寝るときは、あの、公園、広いから、まぁいっかって、野宿、して……」

 

「どこに『まぁいっか』で公園に泊まる女の子がいるのよ!!!」

 

 全ての行動に共感出来ない柚子と、一人娘を持つ親としてあまりの恐ろしさを覚えた修造の顔から血の気が引く。危機管理があるとか無いとかの次元ではない、この少女、黙っていたら本当に野良猫の様な生活しかしないだろう。

 

「あなた、今日からウチの子になりなさい」

 

「そうしよう。どうせ部屋は余ってるんだから」

 

「え″っ」

 

 頼りない父と手の早い娘、いつもは凸凹気味な2人が完璧に同一の意見を抱いた数少ない瞬間であった。

 

 

 

 

 

 斯様な経緯を経て冬華は柊家の飼い猫となった。年齢については『この人がもし年上だったらと思うと頭が痛い』という理由で尋ねられていないし、むしろ内緒にしていてくれと頼まれているのでそれに従っている。

 

「ほらほらもう朝ごはん出来てるんだから起きた起きた!片付かないんだから早く食べちゃってよね!」

 

「ごはん!」

 

 彼女にとってほぼ最高に優先される事項を聞き付けて急速に覚醒し、運動不足のぼっちにしては良い動きで部屋を飛び出した。

 

「はぁ……全く無茶苦茶なんだから……ん?」

 

 枕元にデッキカバーを見付け、何とはなしにその中身を拝見する。盗み見る様な感じになるとは思ったが、デュエリストの端くれである柚子としては未だ未知の部分が多い彼女のデッキに対する好奇心を抑えきれるものではなかった。

 

 カバーを開けて1番に姿を現したのは《E・HERO フレイム・ウィングマン》のカード。特別に強力な効果でもなく、融合素材も貧弱で扱いの難しいこのカードを冬華は重用していると聞く。強いとか弱いとかの問題ではなく、純粋にこのカードが好きなのだろう。フェイバリットカードという奴だなと柚子は解釈した。

 

「融合、かぁ」

 

 カードをデッキカバーへ丁寧に戻しながら独り言ちる。融合を使えば強くなれる、なんて単純な話でもないだろうが、自身が強くなるヒントはそこに隠されている様な気がしてならない。

 

「……よぉし!」

 

 密かな決意を胸に、やることがないと食事の時しか起きてこないお猫サマを家から叩き出すべくリビングルームへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 頭に計3つのたんこぶを拵えた冬華は特に当て所なく街を彷徨っていた。何だかんだ言ってただ寝ているだけというのが退屈なのはその通りなので何かの理由があれば表へ出るのも吝かではないのだが、別段何がしたいでもお腹を満たしたいでもなくうろつくというのは冬華の価値観においてちょっとした拷問だった。ここで「散歩がてらに」と思えるような前向きさがあればここまで重度のコミュ障にはならないのである。

 

「あれ、野良猫ちゃんじゃん。おはよ~」

 

「んっあ……お、おはよ、う。素良、くんっ」

 

 さて、ここでひとつ重大なことをお知らせするとしたら、冬華は素良がほんのちょっぴりだけ苦手だった。対人応答が破滅してるだけで人間嫌いではない彼女がなぜ大した交流もない素良に苦手意識を持つに至ったのか?それはーーーー

 

 ーーーーめちゃんこ怪しかったからである。バクラ、藤原、ディヴァイン、ベクター等々。単純に人懐っこそうで、いかにも毒気のなさそうな奴は大体イカれていくのが遊戯王だ。聞けばこの少年元々舞網市の住人だったかも判然とせず、特に理由もなくししょーししょーと遊矢を慕う謎の人物なのだという。

 

 遊戯王界でそんなんはもうクロなのでは?とアニメに毒された思考回路の冬華は密かに思っていたのだが流石にそんな思い込みで他者を糾弾するわけにはいかず、そもそもデュエル以外の方法で他人に激しくぶつかることが不可能なのが彼女なので流れに身を任せているのが現状なのである。

 

「どしたの野良猫ちゃん、考え事?」

 

「ん、な、なんでも……あな、たは、どして、ここ、に?」  

 

「あぁほら、例の大会に向けての下準備ってやつ。簡単に勝てちゃうから規定公式戦勝利数にはもうすぐ届くんだけどさ-、あんまり歯応えがなくて困っちゃうよねぇ」

 

 純朴そうなニコニコ顔でキャンディを噛み砕き、対戦相手への不平不満を漏らす有様はもうそのスタンスだけで言えばほぼ敵キャラだよねと冬華は思った。もうヤだこのショタ。

 

「……あっそうだぁ!ねぇどうせ暇でしょ?これから2人でデュエルしようよぉ、ねぇいいでしょ!」

 

 新しいキャンディの袋を取り出しながら、さも妙案を思い付きましたよと言わんばかりに素良は冬華の手を取った。可愛い年下に手を取られるなんて初めてのことなので一瞬懐柔されかけるが、でもこの子ベクター枠だしなぁ……という思いが決断へと踏み切らせない。

 

「強情だなぁ野良猫ちゃんは。んー、じゃあさ、こうしようよ。もしも野良猫ちゃんが僕に勝てたら……」

 

 

 

 

 

「アカデミアについて教えてあげる、ってのはどう?」

 

 

 







次回魔玩具デュエル。デストーイは知人が使っているのを見たことがある程度で全然使い方が分からないのじゃ。めっちゃミスる予感がする。




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こんなのって、聞いてませんけど



今回ちょっぴりだけ長いかも。
デュエル自体はいつもと分量変わりません。





 

 

 

「っ…………!!ある、の?この世界にも?デュエルアカデミア!」

 

 この聞きとり易い声質、そしてこの至近距離で聞き間違ったなど有り得ない。素良は確かに『アカデミア』と口にした。舞網市内では広告のひとつも見当たらなかったデュエルアカデミアについてこの少年は言及したのだ。エクストラデッキが無いわペンデュラムなんて召喚法があるわ愈々自分の知る遊戯王世界ではないと思っていたのによもやよもやのGXを彷彿とさせるキーワードに出遭えるだなんて。興奮し鼻息も荒く詰め寄った冬華は。

 

「へぇ~…ぇ。やっぱり野良猫ちゃん、知ってるんだァ。アカデミア!!」

 

「―――――――――――――っ」

 

 その選択を後悔した。

 

「ふふふ。この次元にあんな早くから融合カードが出回ってる筈が無いのにさ、何遍データ照合してもアカデミアのアの字も出て来ないんだから参ったよねぇ、野良猫ちゃんには」

 

 素良は笑っている。笑っているが、その笑顔は善性とほ真反対のものに見えて仕方が無い。と言うか実際碌でもない企みがあるのだろう、その笑い方は楽しげと言うよりこちらを試すような陥れるようなそんな態度だ。

 

「あの時は誤魔化されちゃったけど、結局野良猫ちゃんはアカデミア出身じゃないとしたらどこから来たのかなぁ?スタンダードなわけはないけど、シンクロやエクシーズからってのも不自然だよねぇ」

 

「え……しゅっ、しん?素良、くん、それ、どう、いう」

 

「いいよいいよ!多分答える気はないんだろうから。とにかくデュエルして、僕が負けたらアカデミアのことを教えてあげるってだけ。ね~?」

 

 ぞわり、ぞわりと冬華の背筋を怖気が襲う。

 

 あまりの怪しさに『じゃあお願いします』とも言いづらいものの、ここまで来てデュエルアカデミアのことを聞かずじまいというのもいまいち座りが悪く思った。相手が相手なので罠っぽさをひしひしと感じたり感じなかったりしているが、まぁどうにかなるだろう。冬華ちゃんはデュエルに関して無意味に自信過剰だった。

 

「…………わか、った。やろう」

 

「そうこなくっちゃ!この辺ならギャラリーも大して集まらないだろうし、早速始めよっか~」

 

 更に飴の袋を取り出しながらデュエルディスクを構える素良。血糖値を素直に心配する冬華をヨソに事も無さそうに素良は宣言した。

 

「あ、そうそう野良猫ちゃんは融合するカード使っちゃダメね。その時は賭けもなかったことにするから。僕のターン!」

 

「えっえっえっ?」

 

 ――――やばいどうにかならないかもしれない。

 

 冬華の頭は真っ白になった。HEROビートから融合をとるとか何を考えてるんだこの子?勝てるわけ無いじゃんそんなん、教える気がないということだろうか?――様々な思考がぐるぐると廻るがデュエルは始まってしまっている。こうなったら、なるべく融合しないで戦ってみることにした。一応融合を使わないプランも無いわけではないのだし。

 

「行くよー。僕は《ファーニマル・ドッグ》を召喚、その効果で《エッジインプ・シザー》を手札に加えて、更にカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 可愛らしいわんこの人形が登場し、デッキからカードを引っこ抜く。裏切る・豹変する勢のカードはなにかしら不気味だったりおかしい形をしている場合がみられるので、この時点での素良に対する嫌疑が2割ほど引き下げられた。

 

「……わたしの、ターン。私は《ブリキンギョ》を召喚し、その効果により《E・HERO エアーマン》を特殊召喚。その効果により、デッキから《E・HERO ネオス》を加えて、さらにネオスを捨てて《ドラゴン・目覚めの旋律》を発動。2体の《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》を手札に。そして、《O―オーバーソウル》、発動。墓地から、ネオスを特殊召喚。ブリキンギョと、エアーマンで、オーバーレイネットワークを構築。《希望皇ホープ》をエクシーズ召喚。ホープをエクシーズ・チェンジ。来て、《希望皇ホープ・ザ・ライトニング》」

 

 冬華は至って冷静に手札をぐるぐるした。本来だったらレインボー・ネオスまで出ているところだが今回は融合を使えないということなので致し方ない。それに、この盤面でも十分にリーサルが見えている。

 

「バトル!ライトニングでドッグを攻撃。この時ライトニングの効果を発動。オーバーレイユニットを2つ使い、攻撃力を、5000に!」

 

「おっとと、リバースカード、オープン!……あれっ」

 

 素良のデュエルディスクがエラーを吐く。飄々とした態度が一抹の焦りで陰り、冬華は内心でドヤ顔を曝す。特殊召喚ギミックさえあればどこからでも飛んできて問答無用に5000点でモンスター殴るマンは伊達では無いのだ。

 

「ライトニングは絶対の皇者、効果の発動なんて、許さない。そしてネオスで攻撃。ラス・オブ・ネオス!」

 

「なら今度こそ!トラップ発動、《びっくり箱》!ネオスの攻撃を無効にして、更にライトニングを墓地に送り、その攻撃力ぶんネオスの攻撃力もダウンする!どう?これならライトニングの効果も適用されないでしょ?」LP4000→700

 

「……カードを2枚伏せてターンエンド」ATK2500→0

 

 一転、冬華の表情が不安を映す。0打点のモンスターを棒立ちなど事と次第によってはガラ空きよりもタチが悪い。ある種のコンバットトリックとして確かに相当びっくりさせられる一手である。出せるモンスター全部にライトニング効果が付いていればいいのに、と益体も無いことを冬華は思った。

 

「さて、それじゃあ行くよ。僕のターン!!僕は、魔法カード《融合》を発動!手札のシザーと《ファーニマル・キャット》を融合!融合召喚!!現れ出ちゃえ!《デストーイ・シザー・ベアー》!!」

 

 フィールドに猫型のキュートな縫いぐるみが登場し、冬華がそれに目を奪われた次の瞬間芝刈り機みたいに大仰なハサミがキャットを内側から食い破って劇的ビフォーアフターを遂げた。……見ると、素良は散らかった猫ぐるみの布きれや綿(勿論ソリッドビジョンだが)を弄びながらニヤニヤとした表情を浮かべている。わざわざ融合素材に『猫』を選んだ意図が察せられて冬華は気分が悪くなった。やっぱ絶対悪役だろコイツ、冬華は内心の評価を悪側へ7割傾け直した。

 

 なので、こちらも気持ちの悪い方法でさっさとご退場願うことにする。

 

「トラップ発動、《奈落の落とし穴》。……消えて」

 

「ヒューッ!ま、やっぱり何かしらあるよねぇ。でも残念、本命はこっちだよ!融合素材になったキャットの効果で融合を回収して、っと。魔法発動、《魔玩具融合》!!野良猫ちゃんも使ってたよねぇ、墓地融合のカードだよ!」

 

 素良が手に取ったカードを高く掲げ、発動を宣言。そして強烈に盤面へプレイした。

 

「僕は墓地のドッグ、キャット、シザーで融合!融合召喚ッ!!現れ出ちゃえぇ、《デストーイ・シザー・ウルフ》!!」

 

 再び現れたドッグとキャット。……を、胴体から寸断して前後で無理やりくっつけたバケモノが冬華の前に立ち塞がる。この猫派も犬派も両方死ねと言わんばかりの強烈なやり口に冬華は閉口するしかない。何が悲しくて自分の異名に使われている動物が切り裂かれる映像を――人形とは言え――2回も見せられなくてはいけないのだろう。件のクソガキは実によい笑顔をしている。完全に故意だった。

 

「デストーイ・シザー・ウルフは融合素材にしたモンスターの数だけ攻撃できる!ま、そんなに殴る必要はもう全然ないんだけどね。行っちゃえウルフ、ネオスへ3連続攻撃!!」

 

「……速攻魔法発動、《収縮》」

 

 勿論冬華もみすみすワンショットされるつもりはない。シザー・ウルフが魔法を受けてちんまりとした姿になり、そのままネオスへぶつかって揉み合いになりながら冬華のみぞおちにヒットすることで突進を停止した。とんだ玉突き事故である。

 

「ふっう″……!!」LP4000→1000

 

「っちぇ、削りきれなかったか。まぁいいや。どうせもう手札に大したカードは残ってないだろうし。サレンダーしたっていいんだからね~?」

 

 ぶちっ。

 

 冬華の中で何かがきれた。冬華は友達がいな……少ない。人付き合いの経験に欠けたこの少女は煽り耐性がゼロに等しかった。根が温厚なのとアホ過ぎて煽りに気付かないことが殆どなのだが、このド直球の煽り文句にはさすがの冬華もなにか決定的なものがきれたのだ。

 

「ドローッ!!」

 

 いつになく激おこでカードをドローした冬華に今引いたカードなど見えていない。とにかく手札内で盤面はこっちのもんなんやからええやろ早よやっちまおうや……というアホほど短絡的で何故か猛虎弁な思考回路しか働いていない。トランプやUNOで勝てそうな手札になった瞬間他の人がカードを出すか確認しないで興奮冷めやらぬうちにばかばかカードを切った結果自分の手札を公開するだけに終わる人がいるだろう。今の冬華は完全にそれだった。その怒りのままに冬華はカードを切る。

 

「わたしはサレンダーなんてしない。何故なら、ヒーローは生きている!わたしは《ヒーローアライブ》を発動、ライフを半分払って、デッキからHERO1体を特殊召喚する!力を貸して、《E・HERO シャドー・ミスト》!ミストの効果により、デッキから《マスク・チェンジ》を手札に加える!」LP1000→500

 

「マスク、チェンジ?」

 

「わたしは《E・HERO バブルマン》を召喚。見せてあげる、融合モンスターを出すのに、融合なんて必要ないってことを!私は《マスク・チェンジ》を発動!」

 

 冬華がカードを発動した瞬間バブルマンの眼前に畳状の光壁が出現し、バブルマンは迷い無くそれに飛び込んだ。バブルマンの顔面に仮面がはまり、新たなHEROの誕生を告げる。

 

「これがHEROの極地。変身召喚!来て、《M・HERO アシッド》!」

 

「なにそれ……マスク?融合モンスターなのに、モンスターを墓地へ送るだけで召喚できるだって?」

 

「そう。M・HEROは、融合素材を持たない、融合モンスター。そして、その効果!アシッドの効果により、相手の場の魔法罠をすべて破壊して、さらに相手の全モンスターの攻撃力を300下げる!」

 

 アシッドの撃ちだす弾丸が酸の雨へと変わって素良のフィールドへ降り注ぐ。勝てる!冬華の顔に笑みが浮かんだその瞬間。

 

「リバースカードオープン。《融合死円舞曲》」

 

 ……アシッドの隣にいた、シャドー・ミストが弾け飛んだ。

 

「…………っえ」

 

「凄いよ野良猫ちゃん、まさかそんな奥の手があるなんて思ってもみなかった。でも、僕の前に融合モンスターを出した挙げ句、隣にモンスターを並べてしまったのがいけなかったよね。《融合死円舞曲》……僕の場のデストーイ融合モンスターと相手の場の融合モンスターを1体ずつ選択し、それら以外の特殊召喚されたモンスターを全て破壊する。そして自分のモンスターが破壊されてしまったプレイヤー、つまり野良猫ちゃんは、選択したモンスターの攻撃力の合計値ぶんダメージを受ける。僕の、勝ちだね」

 

「……う、そ」LP1000→0

 

「まぁ運が無かったよね、この世界じゃまだ使い所の少ない罠だし、僕も『キミ相手なら』と思って伏せておいたからさぁ。メタ張りが上手くいっただけ、とも言えるよね」

 

 言いながら、素良は逡巡する。この右腕をデュエルディスクへ持って行き、そして然るべき機能を機動すれば。

 

 …………………………………

 

「……じゃあね野良猫ちゃん!また今度、遊勝塾で会おうね~」

 

「…………………………」

 

 冬華は呆然と手札を……最後にドローし、目もくれなかった1枚。《サイクロン》を眺めて、お腹が空くのも忘れ暫しの間立ちすくんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあぁぁぁぁ……ばか、だ、わたし、は、ばか、ばか、ばか!」

 

「なぁおい、冬華ちゃん、どうしちゃったんだ……?」

 

「知らないわよ、帰ってきてからずっとこの調子なんだもん」

 

 冬華は夕方に帰宅し、柚子を見付けるや否や抱き着いて以降ずっとこの有様だった。事情を聞きたいのは山々だが目元にうっすらと涙が浮かんでいるのを見ると詰問するような真似も出来やしない。しかも何故かテーブルに置かれたアメ玉に異様な敵愾心を燃やしていて挙動不審が極まっておりロクに手も出せず、結局柚子に出来たのは頭を撫でてやることだけだった。

 

「ふぐぐぐ……なぁんで、わたっ、し、あそこで、あんなぁ」

 

 後悔は尽きるものではない。興奮してドローカードを見落とすなんて小学生でもやらないようなミスで負けたこともそうだし、抑もこの勝負あと一歩冬華が大胆に出ていれば勝っていた。最初の手札で《ヒーローアライブ》はあったのだから、それを駆使すれば更なる打点が望めたのだが、『次のターンでアシッドの動きを残す』という安全策をとった結果がこの敗北である。悔やんでも悔やみきれるものではなかった。

 

 鼻っ柱を叩き折られた冬華は、この日、晩ごはんを食べて落ち着いた後本格的にこの世界でもHEROカードが流通していないか調べ始めたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「社長、これを」

 

 黒服の男が見せたのは冬華と素良の戦闘データ。勿論召喚反応も合わせて計測済みである。

 

「これは……」

 

「お分かりになりますか?件の少女が召喚した『M・HERO』のカード、確かに反応は出ているのですが、融合召喚反応とは微妙に異なった反応を出しています」

 

 M・HERO アシッドの登場時、そして場に出ていたほんの僅かの瞬間の反応は確かに既知の融合召喚反応系列とは確かにズレた特徴を示していた。素良の態度から察するにアカデミアでも相当に珍しい融合召喚方法であることには間違いない。

 

「融合召喚でありながら融合を必要としない。いえ、抑も融合を使うかどうかという判断以前の問題として融合素材を求めないこのカードは、社長の仰る『ペンデュラムの先』の可能性の1つとなりうるのではないでしょうか?」

 

「……筋は、通るな。やってみろ。開発を許可する」

 

「はっ!」

 

 そして零児は爪を研ぐ。来るべき邂逅、その為に必要な戦士の育成のために。

 

 

 







Q.なんで柊親子は冬華をまず警察に届けなかったの?
A.あっ、そうかぁ……(素忘れ)

Q.なんでアークファイブ放送前の時間から飛んできてる筈なのに9期始まって暫く経ってOCG化したカード(ライトニング)持ってるの?
A.あっ、そうかぁ……(見切り発車の弊害)


アホですみません。これからもアホなりに頑張って書いていきます。


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融合使いってだけで睨まれるとか聞いてませんけど!?

 

 

 

「だ~~~~~~~~~っ!?」

 

「ひぇっ」

 

「うるさっ!もー、どうしたのお父さん!」

 

 朝食の最中、郵便物をチェックしていた修造が悲鳴じみた声を上げた。差出人と宛名を何度もチェックしては目を見開く様子からただ事で無いのだけは分かるが、朝から驚かされた冬華と柚子はたまったものではなく、それぞれに不平不満を訴える。

 

「いやだって、見てみろ柚子!これ、LDS代表の赤馬零児君から直筆の手紙だぞ!?しかも宛先はお父さんじゃなくて冬華ちゃんに!!」

 

「うそ!?」

 

 突然槍玉に挙げられて冬華がむせる。LDSと言うと決闘塾の中でも1番大きく1番優れた塾だと遊勝塾の面々が(渋い顔で)言っているのを聞いたことがあり、そんな凄いところの偉い人がわたしに何の用なのだ?と当惑を隠せなかった。

 

 実の所冬華は差出人本人ときっちり面識があるのだが、公園で出会ったパタパタマフラーのメガネお兄さんの名前を聞いていなかったので全く身に覚えが無いのだった。

 

「ちょっと貸して!……うわ、本当に冬華宛じゃない。冬華、ちょっとこれ、読んでみてよ」

 

「ん……」

 

 手紙を受け取って開封……しようとして、開け方が分からない。面倒になったので付録カードを取り出す要領で中の手紙を片方に寄せてからもう片側を破くと、何故か更にまた包み紙が顔を出した。お金持ちって手紙の宛先に余計な手間をかけさせるのがマナーなんだろうか?と冬華は思いながらまたその紙を破ると、漸く文章が現れた。

 

「え、と……はい、けい。春陽の、みぎり。桜、舞い」

 

「あぁはいはい、そういうのはいいから。本題のところを読みなさいよ本題を」

 

 柚子に促されて、挨拶はすっ飛ばし要件の書かれた部分を読み進める。事ある毎に長ったらしいご挨拶が書き込まれており読了には時間を要したが、要約するところに曰く、

 

『我がLDSから五条冬華氏へ贈呈したい品物がある』

『引き合わせたい人物もおり、会談内容は伏せておきたいので1人で来られたし』

 

 ……ということだった。

 

「あやしい……」

 

 柚子はその書状に対して猜疑心丸出しであった。タダでさえLDSとは黒尽くめのエクシーズ使いに関する件で一悶着あり塾同士の決闘まで行ったというのに、それが無かったかのようなウェルカム感丸出しの内容を鵜呑みに出来るほど能天気ではないのだ。

 

「……行ってもいいかもしれないな」

 

「お父さん!?」

 

 それだけに、父のこの申し出には全く賛同出来なかった。どういうつもりなのかとハリセンをスタンバイする娘に若干距離を取りながら、修造は続ける。

 

「ウチとLDSは確かに色々あったが、塾同士としてはとっくに和解が済んでいるし俺個人も零児君へ思うところはない。あちらさんの話を聞くぐらい、別にいいんじゃないか」

 

「ん……」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!それって何、冬華をLDSに差し出すってこと!?」

 

「はっはっはっ!差し出すとか差し出さないとか、そんな物騒なことにはならないって。今回はこうやって書面で冬華ちゃんの自由意志を尊重しているようだし、別にLDSへ引き抜こうとかって話だったとしても嫌なら行かなければいいだけだ」

 

 話としては筋が通っているのかもしれない。しかしやはり相手は嫌味な北斗や酷い目に遭わされた沢渡がいるLDSだ、そう考えると柚子はどうしても感情的に素直にはなれない。

 

「それに、これ、手紙の端っこの方に書いてあるが……どうやら豪華な昼食をご馳走してくれるみたいだぞ」

 

「いってきます」

 

「ちょっとー!!」

 

 こういう時だけ発揮される無駄な俊敏さに追い付けず、ハリセンは冬華に当たらず空を切った。体勢を立て直す間もなく冬華は出て行ってしまい、食卓には父娘だけが残る。

 

「も~~~~っ……お父さん!どういうつもりなのよ、冬華を敵地へ放り出すようなマネして!」

 

「敵って、そんな大袈裟だなぁ柚子は」

 

 修造はいつも通りに大口を開けて笑う。これっぽっちも心配してなさそうな様子に、柚子はさすがに違和感を覚えて詰め寄った。

 

「どうしてなの?何でそんなに赤馬零児を信頼できるのよ」

 

「ん……そうだなぁ。信頼してるっていうのとは、また違うかもしれないけど。確かに手紙を見たときは吃驚したが、何となく、この間直接話してみて、目の奥がいなくなってしまう前の遊勝先輩とそっくりな感じがしたのを思い出してなぁ」

 

 だから大丈夫だと、いつになく真剣な様子の修造に遊矢の父親のことまで持ち出して話されては柚子にこれ以上追求することはできなかった。

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

「……来てくれたか」

 

 LDS最上階、舞網全市を監視するネットワークの中枢部で零児は待ち受けていた。黒服に連れられてここまで来た冬華はまずたかが決闘塾がこれほどの規模のビルを所有していることに驚愕し、更にどう見ても真っ当な目的で使用されていなさそうな各種モニターと高そうなコンピュータ類に引くのを通り越して圧倒されていた。ハンバーガーのタダ券をあんなにくれたメガネのお兄さんは常人では無いと思ってはいたが、ここまで上流階級の人とは思ってなかったために軽くパニックを起こしていた。

 

「ほっ!ほん、じつ、は、おまね、き、いた、だっ!き!まし、て、ありがと、ござい、ます!メガネの、お兄さん!」

 

「……赤馬零児だ。よろしく、五条冬華」

 

「ひゃい!」

 

 この若さにして一大企業を纏め上げる零児の優秀な頭脳はこの時点で『こいつ私との出会いを微妙に覚えてないな』と察するが、大した問題ではないのでとりあえずスルーした。零児は空気の読める男だった。

 

「さて、今日君を呼んだ用件は先に伝えておいた通り2つある。まずはこれを君に渡しておこう」

 

「っ!!これ、って」

 

 冬華はそれを--カードを手に取って硬直した。

 

『M・HERO 光牙』

『M・HERO カミカゼ』

『M・HERO ダークロウ』

 

 新しいマスクHERO、それも3枚の大盤振る舞い。ついぞこの世界で流通するHEROを見付けられなかった(大体融合がつい最近まで無かった次元なので当たり前だ)矢先のカード提供とは有り難い限りだが。

 

「どうし、て」

 

「どうして、と言うのは二通りの意味があるだろう。よってその両方に答えておくならば、まず我々LDSは舞網市内で行われる全てのデュエルを監視する体制が出来ている。よって、先日紫雲院素良と君が行ったデュエルから【M・HERO】の存在は確認している」

 

 素良の名を聞いて冬華の表情が露骨に曇った。が、零児にとってはどうでもよいことなので話を続行する。

 

「そして、これらのカードはプロトタイプだ。厳密に言うならば、私のデッキにそれらのカードを投入できるか否かの実戦データを採るために先んじて君へ渡している。質問はあるか?」

 

 質問と言うか何気に1個の都市を完全監視下に置いている旨の発言について冬華は驚愕を隠せなかったのだが、特にその態度を追求はされず冬華としても藪を突いて蛇を出すのは御免被るのでノータッチとした。このメガネお兄さん見かけによらずやばい人だなと冬華は評価を改めた。

 

「では次に、私の同志を紹介しておく。ちょうど彼も到着したようだ」

 

 ……彼とは?冬華が逡巡するその間に自動ドアが開き、前髪の特徴的な長身の男が入室した。

 

「なんだ赤馬零児。わざわざ俺を呼ぶような用事が……その女は?」

 

「よく来た黒咲。紹介しよう、彼は黒咲隼。エクシーズを得意とする決闘者だ。黒咲、彼女は五条冬華。得意な召喚方法は――」

 

「……『融合使いの野良猫』ォ!!」

 

「ひぇっ……」

 

 零児が冬華のフルネームを述べた瞬間、黒咲が冬華へ一直線に足を進めた。一体何がどうしたのだとコミュ障の脳内がパンクし、そして黒咲が腕を振り上げ――

 

「やめるんだ黒咲」

 

 零児にその腕を制された。目の前の光景へ理解が追い付かず、冬華は右往左往しながら零児の後ろに隠れるしか出来ない。

 

「どけェ!コイツは間違いなくアカデミアだ!なぜこんな奴がここにいる!!」

 

「彼女はアカデミアではない。エクシーズ召喚を使うという報告もある」

 

「黙れ!融合全てを叩き潰すのが俺の革命だ、俺の反逆だ!!どかないというのなら貴様から消す!」

 

 黒咲はデュエルディスクを構えながら喚き散らす。零児はそれに眉1つ動かすことはなく、冬華は当事者なのに蚊帳の外だった。

 

 この男も『アカデミア』と言った。この世界にデュエルアカデミアがあるのは確実なのに、その先の情報を聞こうにも自分などが割り込んでいける雰囲気には到底思えない。

 

「彼女は貴重な戦力だ。黒咲、私は目的のために必要ならば融合使いであるからと言って差別するつもりはない。君にとっても敵をよく知る為には味方にこそ融合の心得のある者が必要なのではないか?」

 

 黒咲の額には深い皺が刻まれたままだ。しかし、デュエルディスクを収めたところを見るに一応納得はしたらしい。顔合わせは済んだだろう、そう言って退室していった。

 

 強烈な敵意から解放され、冬華はその場にへたり込む。

 

「……な、に、いまの?」

 

「驚かせて済まない。彼は少々融合を毛嫌いしていたので、先んじて君を紹介しておくのが得策だと考えた」

 

「い、いや……あれ、毛嫌い、なんてレベル、じゃな、っい」

 

 赤馬零児は答えない。普段の物言いからしてクールな人だと思っていたが、冷たいときはいっそ冷淡なくらい取り付く島もない人だ。口下手な自分が何を聞いても無駄なんだろうと思い、冬華はそれ以上聞くのをやめた。

 

「……その様子では食事も喉を通るまい。会食の予定はとりや」

 

「いきます」

 

「……そう、か」

 

 この日最も零児を驚かせたのは自身であることに冬華は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零児にちょっと引かれながら食事を終え、LDSを後にして時刻は15時。今帰っても夕食には早過ぎて退屈するだろうと考えて公園をふらついていた。何とはなしにベンチへ座ろうとしたところで、冬華は先客を発見する。

 

「とな、り、いい、ですか?」

 

「あ……あぁ、いいともっ……!?キミ、貴様は『融合使いの野良猫』!」

 

「ひぇっ!?」

 

 今日はよくよく黒尽くめの人に睨まれる日だなぁ。この通り名無くならないかなぁ。頭だけでも現実逃避をしながら冬華は思った。

 

 

 





 

次回、野良猫vs反逆の牙




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融合が『敵』だとか聞いてませんけど!?



今回ちと長いです。
ご容赦のほどを……





 

 

 

「どういうつもりか知らないが堂々と声をかけるとは俺もなめられたものだな、アカデミア!」

 

 ――またアカデミアか!黒尽くめの男の剣幕に驚くよりも呆れが勝る。素良からアカデミアの話を聞かされてからこっちこんなことばっかりだ、詮ないとは分かりつつもあのタマネギみたいな髪型を毟りたい衝動に囚われる。

 

「わた、し、デュエルアカデミアには、入学、して、な、いっ!」

 

「問答無用!デュエルだ!俺はカードを5枚伏せてターンエンド!」

 

 一応訂正を求めてみたが聞いちゃいない。どうも黒い服を着てる奴等は人の話を聞くと言うことが出来ないらしい。まぁ、デュエル自体は吝かでは無い(のとこの人はあんまり怖くなさそう)なので、冬華は対戦を受けることとした。

 

「わたしのターン。わたしは《E・HERO バブルマン》を召喚して、バブルマンを対象に《マスク・チェンジ》を発動。変身召喚!来て、《M・HERO アシッド》」

 

 バブルマンが腰のベルト(いつの間に付けたんだ)の両端を叩くと、時計みたいにぐるぐる回って彼は光に包まれた。……この変身シーン、まさか毎回違うんだろうか。

 

「融合モンスター……融合も使わずにか……」

 

 ユートの視線が鋭くなる。恐らく融合を見るのが余程嫌なのだろう。だからと言って自分を睨むのは筋違いだという気持ちはあるが、あの表情を見て冬華もそんなことは言えない。

 

「アシッドの効果。あなたの場の魔法罠全てを破壊する」

 

「そんなものは通らない!リバースカードオープン、《幻影霧剣》。このカードの対象となったカードは攻撃対象とならなくなる代わりに、効果が無効となり攻撃宣言もできなくなる!」

 

 こちらも簡単に通して貰えるとは思っていない。ガン伏せテーマとはまた珍しいが、HEROはガン伏せには強い部類なのであれがブラフでないかの方がむしろ心配だ。

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「この瞬間、《幻影騎士団 トゥーム・シールド》を2枚発動!俺の場にレベル3の通常モンスター扱いとしてトゥーム・シールドを特殊召喚する」

 

 フィールドに盾のシルエットが2体現れる。攻撃力0のノーマルモンスターを2体、わざわざ攻撃表示での特殊召喚。つまり。

 

「……エクシーズ」

 

「そうだ!俺は《幻影騎士団 ダスティローブ》を召喚し、2体のトゥーム・シールドでオーバーレイ!戦場に倒れし騎士たちの魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク3、《幻影騎士団 ブレイクソード》!」

 

 首無しの騎士が現れ、担いだ大剣を振り回す。見ると、まるで怨霊を吸い取っているかのように周囲からコバルトブルーの光がブレイクソードへ集まっている。

 

「ダスティローブの効果!自身を守備表示とする代わりに、場の幻影騎士団1体の攻撃力を800ポイントアップする!」ATK2000→2800

 

「更にブレイクソードのオーバーレイ・ユニットを1つ使い効果発動!俺の場の霧剣と貴様の伏せカードを破壊する!」

 

「……選択されたのは、《リビングデッドの呼び声》。そのまま、破壊する」

 

「バトル、ブレイクソードでアシッドを攻撃!ターンエンドだ」

 

 ブレイクソードが巨躯に見合わぬ繊細な剣裁きでアシッドの首を刈り取ると、誇らしげに自分のフィールドへ爆走していく。割とお腹一杯食べた直後だった冬華は喉の奥に苦酸っぱいものを感じた。

 

「うぇっ……ドロー」LP4000→3800

 

 冬華はドローカードと盤面を見遣る。未だ2枚の伏せカードが不気味に立ち塞がるが、ここを突破しないという選択肢は有り得ない。しかしそれに見合った集合体は出せないから、エクシーズから選択するとなると。

 

 カステル、ヴェルズ系、アークナイト等除去エクシーズ。……駄目。またぞろ霧剣の様なフリーチェーンを使われたら終わり。

 

 ライトニング。または、その他の効果を無視できるエクシーズ。……28打点を潰しつつ伏せカードを無視し続けるのは現実的ではない。ライトニングも戦闘前に除去される危険性はある。

 

 ならば出せるのは、あのカードか。冬華は思考を終了し、そのモンスターに向けて展開を始めた。

 

「わたしは《E・HERO ソリッドマン》を召喚。その効果により、手札から《E・HERO エアーマン》を特殊召喚。更にエアーマンの効果、発動。デッキから《E・HERO バブルマン》を手札に加える。カードを2枚、セットする。手札が、このカードのみの時、バブルマンは特殊召喚できる!」

 

「レベル4のモンスターが3体……まさか!?」

 

「わたしは、ソリッドマン、エアーマン、バブルマンでオーバーレイ。3体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚。来て、《No. 86 H-C ロンゴミアント》!」

 

 アーサー王伝説に『ロンの槍』と謳われる至高の1槍が天より降り立ち、闘技の達成者の姿を借りて顕現した。槍そのもの、そして担い手の威圧感が盤面へ重く圧し掛かる。

 

 黒尽くめの男も暫しデュエルを忘れて棒立ちになるが、意識を持ち直すや苦々しげに冬華を見つめた。

 

「なぜだ……それほどのエクシーズの使い手が、なぜ融合を使う?」

 

「な、ぜ……?」

 

「そうだ!融合はアカデミアの象徴!俺達の憎むべき敵だ!貴様が……キミが、アカデミアでないと言うならば、そんなカードを使うべきではない!」

 

「ッ、違う!!」

 

 冬華は思考よりも早く反射で答えた。なぜなら目の前の男と同様、冬華の融合に対する想いもまた揺るがない真っ直ぐな思い出に寄って成っているからであり、見知らぬ男に詰め寄られようともデュエルをふっかけられようともそれが変わらないからだ。

 

「違う、の……わた、し、は……融合が、すき。うぅん、融合使い、の、とても、かっこいい人を、知ってる。その人が、いたから、わたし、デュエルが、すきに、なった。だから、融合も、デュエルアカデミアも、わたしはだいすき」

 

「馬鹿な、有り得ない。融合は、アカデミアはそんな殊勝なものじゃない」

 

 男は首を大きく左右に振って否定を口にする。そこに滲むのは苛立ちと言うよりはむしろ別の、もっと利己的では無い感情だ。第三者である冬華にはそれが何なのか分かりようもない。

 

「……この世界にきて、ここには、デュエルアカデミアがないと、思った。でも、デュエルアカデミアを知ってる人と、あなたの他に、3人会って。1人は教えてくれなくて、2人はデュエルアカデミアを、良い風には言わない」

 

「それは、っ………………」

 

 だから冬華も余計なことは言わない。下らない前置きも事実確認も放り投げて自分の感情だけを伝える。

 

 男も今度は口を挿まない。彼女が聞き捨てならないことを言うからこそ、糾弾するとしてもまずは彼女の考えを全て聞きたいと感じた。

 

 そんな彼の思考に気付くはずもなく、冬華の口は僅かずつ早回りを続ける。

 

「わたしは、デュエルアカデミアも、そこにいる生徒や先生も大好きだった。だからこそあの人達が、こんなにも嫌われるなんて理解出来ない。さっき、あなたはわたしの顔を見て怒って、いま『なぜ融合を使うのか』と聞いた。それはあなたも融合を、たぶんデュエルアカデミアのことも嫌っているということ。お願い、わたしはこの世界のデュエルアカデミアについて知りたい。あなたが知ってることだけでいい、それをわたしに教えて欲しい!」

 

 最後には激しく息を切らしながら冬華は言い切った。普段喋り慣れていないせいで血の気が回っていないが、青ざめた表情はきっと酸欠だけによるものではない。レジスタンスとして活動を続けた彼がよく知る表情だ。必死な人間が、どうしようもなくて、それでも何かを訴えようとする表情だ。彼女の発言を世迷い言と切り捨てることは到底できないが、それを鵜呑みにするほど純真無垢でもない。

 

「俺は……俺にとっては、アカデミアは倒すべき敵だ。それは変わらん。お喋りは終わりだ!さぁかかってこい!」

 

「……分か、ら、ず屋!わたしはセットした《ミラクル・フュージョン》を発動、墓地のアシッドとバブルマンを融合。来て!《E・HERO アブソルートZero》!バトル、ロンゴミアントでブレイクソード、攻撃!」

 

「やらせん!トラップ発動、《幻影騎士団 ロスト・ヴァンブレイズ》!Zeroの攻撃力を600下げてレベルを2とし、このターン幻影騎士団は戦闘で破壊されなくなる。さらにヴァンブレイズをレベル2の通常モンスターとして守備表示で特殊召喚!」

 

 Zeroの頭上から瘴気を纏った鎧が効果して体をすっぽりと覆い込み、元からそうであったかのように密着して剥がれなくなった。呪い装備というやつだろうか。

 

「……でも、ダメージは受ける」

 

「ぐっ!……だが幻影騎士団は斃れない!俺はもう1枚ヴァンブレイズを、先の1枚と合わせて発動!対象はアブソルートZeroとする。レベル2のモンスターとして守備表示で特殊召喚だ!」LP4000→3800

 

 結局、男は防御札を使い切ってここを凌いで見せた。しかも盤面にはレベル2のモンスターが2体、これでエクシーズ召喚すら可能であり、油断のならない状況には変わりが無い。一粒の汗を垂らしながら、冬華はターンエンドを宣言する。

 

「俺のターン!俺は《幻影騎士団 サイレントブーツ 》を通常召喚!」

 

 人魂が革のローブとブーツを纏い、足運びも軽やかに盤面へ躍り出る。これでまたレベル3のモンスターが2体並んでしまった。

 

「…………レベル3のモンスターと、レベル2のモンスターが、2体」

 

「そうだ!2体のヴァンブレイズでオーバーレイ!幾万の戦士を貫き、闇に葬る呪われし反逆の槍!降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク2!《幻影騎士団カースド・ジャベリン》!俺はダスティローブを攻撃表示に変更し、効果発動。カースドジャベリンの攻撃力を800上げる。そして、ダスティローブとサイレントブーツでオーバーレイ!現れろ、2体目のブレイクソード!」ATK1500→2300

 

 全身に骨の意匠を施した骸骨闘士と大剣を持つ亡霊騎士が揃い踏みを果たす。斃れないとは彼の言だが、そう称するに恥じない墓地利用と防御札の充実ぶりだ。

 

「ブレイクソードの効果発動!このカード自身と、キミの場の伏せカードを破壊する!」

 

「……リバースカード、オープン。《皆既日食の書》。この場の全てのモンスターを、裏側守備表示にする」

 

「ならば、カースドジャベリンのオーバーレイ・ユニットを1つ使って効果発動!ロンゴミアントの攻撃力を0とし、効果を無効にする!」

 

「……ロンゴミアントは、オーバーレイ・ユニットを3つ持つとき自身以外の効果を、受けない」

 

 カードの発動と同時、大きな影が周囲へ投影されてフィールドが一瞬暗闇に包まれる。次の瞬間、盤面は聖槍の担い手を残して全て裏面へ反された。

 

「何っ……だが、ブレイクソードの効果は通った。エクシーズ召喚したブレイクソードが破壊された場合、墓地から同レベルの幻影騎士団2体を特殊召喚できる!蘇れ、サイレントブーツ!そしてダスティローブ!この効果で蘇生したモンスターは、レベルが1つ上がる!」

 

「今度は、レベル、4……!」

 

「行くぞ融合使い!俺は2体のレベル4モンスターでオーバーレイ!!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙、いま降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろォ!ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」

 

 双牙の黒竜が盤面に降り立ち、激しく冬華を威嚇する。ここに来て初めて現れた【幻影】ではないモンスター。きっと、あれが彼のエースモンスターなのだろう。

 

「俺はダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動!オーバーレイ・ユニットを2つ使い、キミの場のモンスター1体の攻撃力を半分にしてこのモンスターの攻撃力に加える。トリーズン・ディスチャージ!!」

 

 黒竜の牙が光り、効果が発動する。しかし、ロンゴミアントが効果を受けないモンスターなことは説明済であり、その行為に意味は無い。期待するとすれば、カードを墓地へ送ること。

 

「俺は墓地のサイレントブーツを除外して効果発動!サデッキから【ファントム】と付く魔法罠カードを手札に加える!俺が手札に加えるのは『RUM―幻影騎士団ラウンチ』!!」

 

「えっ……」

 

 冬華は大きく動揺する。真っ当な対象のいない効果を起動したことが問題なのではない。問題は、その結果彼が手にしたカードだ。

 

「どう、し、てっ……!?ランクアップマジック!?どう、し、ん…………」

 

 ランクアップマジック。冬華の知る限りではより高次元に至った魂、或いはそこへ至ることを目的とした魂が駆使する高等戦術。『OCG的』には数ある強化カードのひとつに過ぎないが、より『アニメ的』な世界へ跳ばされたと承知している冬華としては未知のRUMと言われて無視をすることは出来ないが、追求する場面でも無い以上質問をぶつけることも出来なかった。

 

「RUMを知っているのか。……アカデミアの連中とは違う、というのは本当かもしれないな。だが今はデュエルの最中だ!俺はダーク・リベリオンを対象として《RUM―幻影騎士団ラウンチ》を発動!!煉獄の底より……未だ鎮まらぬ魂に捧げる反逆の歌!永久に響かせ現れよ!ランクアップ・エクシーズチェンジ!出でよ、ランク5!《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

 リベリオンの全身を覆う甲殻が砕け散り、その中から黒竜が真の姿を現した。骨格が露わになったかのような白色の装甲で新たにその身を包まれた、その強烈な威厳は聖槍ロンゴミアントに勝るとも劣らない。

 

「墓地のダスティローブを除外して効果を発動。デッキから『幻影騎士団 クラックヘルム』を手札に加え、更に墓地の幻影騎士団ラウンチを除外して効果発動!手札のクラックヘルムをレクイエムのオーバーレイ・ユニットとする!バトルだ!俺はダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンで裏側のアブソルートZeroを攻撃!鎮魂のディザスター・ディスオベイ!!」

 

 天空高く飛び上がったレクイエムの肩部装甲に玉虫色の紋様が広がって翼膜を形成する。飛行する翼を得たレクイエムは超音速でZeroを貫いた。ダメージはないものの、強烈な風圧が冬華を襲う。

 

「うぅっ……で、でも、これで!」

 

 しかしアブソルートZeroはタダでは転ばない。レクイエムの牙が突き立った箇所からブリザードが溢れ出し、ユートのモンスター達を一息に飲み込んでいく。風が止み、勝利を確信して冬華が顔を上げたそこには――

 

 ――健在のモンスター達、そして新たに増えたブレイクソードが立ち塞がっていた。

 

「なんっ…………」

 

「ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンの効果。相手が効果を発動したとき、リベリオンをオーバーレイ・ユニットとしていればオーバーレイ・ユニットを使って効果を無効にして破壊し、その後墓地のエクシーズモンスターを蘇生することができる。更に墓地の霧剣を除外して効果発動、墓地のクラックヘルムを特殊召喚する。さぁ、かかってこい!融合使いの野良猫!俺はこれでターンエンド!」

 

 男は高らかにターンを宣言した。盤面には彼の信頼するモンスターエクシーズが並び、全くの不利盤面を盤面強いたこの状況。更に皆既日食の書の効果が終了して手札の補充までされている。自信に満ちた態度になるのも当然だ。……だが。

 

 のらねこ。間違いようも無く五条冬華を指す異名だ。街を歩けば会ったことがあるような無いような人からもその名を呼ばれ、大体このデュエルもそんな名前が広まっているせいで行われたものだ。親しんで呼ばれる分には嬉しくもなるが、今この場で呼ばれるべきはこの名じゃない。

 

「…………ふゆ、か」

 

「…………何?」

 

 手は尽くした。手札はゼロ。ロンゴミアントもオーバーレイ・ユニットを失い、気付かれては居ないだろうが効果を受け付ける状態だ。3000幾らのライフなどいつ溶けてもおかしくない。

 

「わた、し、の、名前、は。五条、冬華。だよ」

 

 次のターンに有効なカードを引けなければ負け。本当にギリギリの状況だそんな状況で、お互いの名前を知らないなんて、勿体ない。気付けば冬華は、脈絡もなく自分の名を告げていた。

 

「……ユート。俺の名は、ユートだ。冬華」

 

「うん。よろしく、ゆーと。わたしの、ターン!」

 

 運命を決めるドローカード。その1枚は。

 

「……わたしは、《マスク・チャージ》を発動。墓地のエアーマンと、マスク・チェンジを手札に加える。そして、エアーマンを召喚。効果は使用しない」

 

 盤面を奪う手筈は整った。あとは、博打を打つだけだと冬華は微笑んだ。

 

「バトル。エアーマンで、カースドジャベリンを攻撃」

 

「くっ……俺は、カースドジャベリンの効果を――」

 

 エアーマンの攻撃が迫る一時、ユートは思考する。ロンゴミアントが効果を受けないモンスターであることは承知した。しかし、先のターンでロンゴミアントがオーバーレイ・ユニットを失ったことも確認している。オーバーレイ・ユニットの数で効果が決まるモンスターであればジャベリンの効果が通る可能性は高い。だが、単純に効果の維持コストとしてオーバーレイ・ユニットを使うタイプであったなら……

 

「……俺はカースドジャベリンの効果を発動、エアーマンの攻撃力を0に!」

 

 そして冬華は最初の賭けに勝った。

 

「……そう!それで、いい。わたしはエアーマンを対象としてマスク・チェンジを発動!変身召喚!来て、《M・HERO カミカゼ》!」

 

 宙へ飛び立ったエアーマンの前にドアが出現し、視界が遮られてドアを開け放つまでの僅かな間に変身が完了。マントをたなびかせてカミカゼは華麗に着地した。

 

「バトルを続行。ロンゴミアントで、レクイエムを攻撃。オーバーレイ・ユニットを2つ持つロンゴミアントは、戦闘破壊耐性を得ている!」

 

「くっ!まさかとは思ったが、そんな効果までも……!」

 

 ロンゴミアントの1槍により、終焉の黒竜は地に落ちた。これでユートの盤面はモンスターが4体。そして、これが2つ目の賭け。

 

「カミカゼで、ブレイクソードを攻撃!戦闘でモンスターを墓地に送ったことにより、1枚ドロー……!」

 

 ドローカードを見て冬華は目を見開く。このカードと、この盤面。そこから導かれる結末は。

 

「くっ……!だが、ブレイクソードかカースドジャベリン、そのどちらかでも残る限りはまだ勝機はッ」

 

「……いいえ。わたしの、勝ち。わたしは速攻魔法《フォーム・チェンジ》を発動!カミカゼを、エクストラデッキに戻して、同じレベルで違う名前のM・HEROを、特殊召喚する!変身召喚!来て、《M・HERO 光牙》!」

 

 カミカゼが腰元へ両手を添えた位置にベルトが出現する。瞬間、右手を左前方に、左手を脇腹へ添え、右手を大きく左前方から右前方へ動かし、左半身から右半身へスライドするかの様に装甲を展開して新たなHEROに変身した。

 

「光牙は、相手の場のモンスターの数だけ、攻撃力がアップする」ATK2500➡4000

 

「攻撃力、4000……!しかし、それでもまだ俺のライフには届かない!」

 

「……次のターンなんて、ない。これがあなたに見せるエンディング。わたしは、光牙の効果を、発動。墓地のZeroをゲームから除外して、その攻撃力ぶんブレイクソードの攻撃力をダウンする」

 

「何!?では、ブレイクソードの攻撃力は!!」ATK2000→0

 

「……ガッチャ!楽しいデュエル、だったよ。ゆーと!光牙でブレイクソードを攻撃。レイザー・ファング!!」

 

 光牙の両手に携えたダガーが亡霊騎士の両腕を拘束し、大剣が取り落とされる。ダガーの剣先から叩き込まれたエネルギーによって騎士が意識を刈り取られたその刹那、瞬く間のスピードで光牙は騎士へと迫り――欠片も残さず鎧を寸断された亡霊は、ついに斃れて天に還った。

 

「……フフッ。あぁ、楽しかったよ。久しぶりに」LP3800→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルが終わり、冬華はベンチへ座り直した。ユートにも座ってはどうかと進めたが、戦いの後は暫く立っている方が落ち着くらしい。そういうものだろうかと納得して、冬華はユートを見あげる。

 

「キミはかなり早い段階から融合を取り入れていたというから、てっきりアカデミアなのではと考えていたが……刃を交えてそれは全くの勘違いだと分かった。済まない、迷惑をかけた」

 

「ひぇっ!?あ、あ、あぁあの、あた、ま、上げて」

 

 実の所散々暴言を吐いた挙げ句勘違いでしたで何事もなかったかのように馴れ馴れしくもなれず、座るに座れないだけなのだがそんな人間関係の機微は冬華には分からない。

 

「俺の知るアカデミアと、キミの知るアカデミアはきっと別物だ。だから俺も戦うのを止めない。……けどいつか、アカデミアがキミの言うような組織になることを祈っている」

 

 言うや否やユートは駆け出した。残された冬華は一時呆然とするが、あれこれと言い逃げされていることに気が付き急いでユートを追い始める。

 

「えっ、なんで、逃げっ!わた、し、いろいろ、きいて、ない!!」

 

 冬華の制止も聞かず、ユートはデュエリスト特有の身体能力で走り出す。冬華も必死でユートを負うがただでさえ座った状態と立った状態のハンディがあり、そも猫とは持久走に弱い生き物。追い付くどころかみるみるうちに距離を離され、結局肩で息をしながらその背を見送ることなった。

 

「ひぃっ、ひぃっ、ひゅっ、グッ、ゲェッホ!うお、おぇっ!…………ひぃ、ひぃ、ひどいめ、に、あった!!」

 

 結局この日もまたぞろストレスを抱えて帰る羽目になった冬華は、やはり帰宅と同時に柚子へ抱き着いてブラッシングを堪能したという。

 

 

 

 







ファントムナイツ難しすぎワロタ。調整しないとすぐ猫が死んじゃうし猫が先攻とるとユートがぼろ雑巾になるしでえらい大変でした。産みの苦しみを知りました。
一日中wiki見ながらあーでも無いこーでも無いしてたのなんて産まれてこれが初めてだよ……
でもユートのエクシーズ全部出せたので満足。

追記(9/25 14時00分)
一日中ウィキ見たとか言いながら4~5回読者にミス指摘されるへっぽこ投稿者がいるらしいですね
もう大丈夫でしょ(慢心)

追記(9/25 23時59分)
あ り ま し た(闇より出でし絶望)




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幕間~本編見てから読んでネのコーナー~
1話のおまけ~最初の主人公はこんなやつでした~





最終的にボツになったものの、ちょっと惜しいのでこっそりと載せておきたいものがここに置かれていきます。





 

 

 

 

 これはある少年の物語。

 

 

「貴様も融合か!」

 

「だからなんだってぇんだよ!」

 

 

 たったひとつのデッキ片手に、何の運命の悪戯か数多の次元が交わる世界へ跳ばされてしまった彼は戦慄した。

 

 

「僕は……僕は、デュエルアカデミアの戦士だぁ!!」

 

「クロノス先生ぇーッ!お宅の生徒さん、光のデュエルとは真逆の行動に勤しんでるんですけどぉー!!」

 

 

 この世界では、彼が最も親しみ最も楽しんできた【遊城十代】の、【デュエルアカデミア】の世界は悪しき闇へと墜ちていた。

 

 

「デュエルアカデミアが、プロフェッサーこそが正義だ!」

 

「エドの人生に一体何があったんだよ」

 

 

 故に彼は決意した。どういうわけか歪んだデュエルアカデミア、その真の姿を取り戻す。あと融合に対する偏見も取り除く。

 

 

「悪の融合モンスターの力を喰らえ!」

 

「デニスちょっとお前なほんまな(全ギレ)」

 

 

 どう見たって融合次元の連中はワクワクできていない。だったら、俺がワクワクさせるしかねぇ。

 

 

「いいぜ……そんなに融合だフュージョンだののカードを見たくないんなら」

 

 

 これは、融合が悪となった世界で独り闘う――――――

 

 

「その更に『上』を行く地獄を見せてやる!変☆身☆召☆喚」

 

 

 ―――――――ちょっとズレた男の物語である!!

 

 

 

 

 

●ボツ理由

建前)主人公がオレ様万能系主人公になるのが目に見えてたため。

本音)女の子を主人公にしたかったため。

 

 

●文字数が余ったので冬華ちゃんのパーソナリティ紹介

 

・使用デッキ

 E・HERO。レインボー・ネオスを軸にM・HEROを加えてフレイム・ウィングマンを添えたファンデッキ。なのだが、ライフ4000制でレインボー・ネオスとかマトモに出したらワンキル要員にしかなり得ないので出しあぐねている。実質M・HEROに融合突っ込んだデッキみたいになる。

 エクストラは爆発しており、出て来るカードは多種多様だがエクストラが無限枠でもない限り入らないカードなどは除いている(ブリキの大公とか)。

 禁止・制限はアバウトに9期後半の時期をを想定。ただでさえライトニングとM解禁してるのにこの上プトレノヴァインフィニティまで使ったらえらいことになってしまう。エアーマンを無制限にしたい衝動と戦いながら執筆中。

 

・名前の由来

ふゅーじょん+ゆうごう

ごじょう ふゅーん+ゆう→さすがに言葉が綺麗に揃わなかったので女の子っぽく改造して ふゆか に

 

・年齢

 作中キャラがパシっと決まってないので厳密に決めてないが何となく中学~高校の狭間くらいを想定している。

 

・容姿

特に可愛くも綺麗でも童顔でも大人びてもいない顔立ちでスタイルも特筆する部分は無し。でもほんのちょっとだけむちっとしてると嬉しいかもしれない(何)。庶民代表。

 

 

 






GXをリスペクトした作品の筈が「今日の最強カード」のコーナーを忘れていたことに今さら気が付く大失態。
でも冬華ちゃんに「次回予告してね!」って台本渡してもたぶん放送事故になるだけだから却ってよかったと思う。




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