ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~ (誤字脱字)
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補足情報
すてーたすでありんす


本編は『〈ススキノ〉:狐がいる町』から始まります



※好感度消しました


実名:くー  旧名:くずのは

 

メイン職業〈妖術師〉《ソーサラー》サブ職業《デザイナー》

 

戦場での役割:前方攻撃・後方攻撃

HP:5998

MP:16890

装備可能な鎧:布鎧

装備可能な白兵武器:特殊武器・槍

 

《放蕩者の茶会》の出身。茶会時代では「パンツ神(一部)」「扇狐」「駄狐」など色々な二つ名で呼ばれ自由気ままに茶会メンバーをおちょくる狐尾族。ソロプレイ時は〈九尾のくずのは〉

 

160cm。B86/W57/H84(fateのキャス狐参照)

金髪ロングヘアーの金毛。露出の多い和服を着こなし九本の尻尾があるのが特徴な女性キャラ。

性格は自由気まま天真爛漫、茶会メンバーでも彼女の行動を予測出来るモノは一人しかいなかった

「わっち」「くりゃれ」「ぬし」「~ありんす」などの廓詞(くるわことば)や花魁言葉で喋るのが特徴。

 

種族デメリットで習得出来た魔法が限られており、使える魔法は白兵攻撃技と3つの遠距離魔法のみ。その為、回避能力を上げた結果、ビルドはコンバットメイジに位置している。〈エルダー・テイル〉初期時代、妖術師は後方支援のイメージが強く彼女のスタイルは嫌われていた

 

白兵武器は50CM程の白い扇子。ランクは秘法級アイテム、名は「玉藻前」

 

更に金色に輝く扇型の特殊武器も所持しており、名は「金毛九尾」。二つ名は入手した際に付けられた

 

サブ職業〈デザイナー〉。彼女の場合、木工・宝石・金属・服・魔法具の設計図を書くことが出来る

書く事だけなので自分では作れないがNPCまたはプレイヤーに依頼する事により通常より安く価格、品質が1ランク上の物ができる

 

CV:小清水亜美

 

 

 

使用アイテム

 

特殊武器:玉藻前(たまものまえ)

5年前に行われた大規模クエスト〈妖怪達の宴〉の〈秘法級〉ドロップアイテム。

当時、人気のあった職業の武器・鎧が入手出来るとの事で参加者は大勢いたが、攻略難度・アイテムドロップ率の低さが過去最高レベルな為、市場では〈妖怪達の宴〉の〈魔法級〉アイテムでさえ高額で取引されている

 その中で藻女(みずくめ)のレアドロップとして入手できるのが〈玉藻前〉である

入手出来た〈冒険者〉からはユニーク武器と言われる付属能力を持つ

 

1、使用MPを1.5倍使用し、攻撃を迷彩化する事ができる。しかし敵にダメージ判定は付かない

2、使用MPを2倍使用し、攻撃範囲を2倍にする。しかし敵にダメージ判定は付かない

3、使用MPを3倍使用し、敵に回復呪文を職業関係無しに使用できる

 

武器性能は高いがピーキーな能力な為、使用者は少ない

 

 

布鎧:天邪留袖(あまのとめそで)

 

天邪鬼を模して作られた〈幻想級〉着物型布鎧。

サーバーに300個、配布されており入手している〈冒険者〉は多くいるがピーキーな付属能力な為、使用する〈冒険者〉は極一部である

 

1、HPを3000下げMPを2000上げる

2、防御能力を1/3下げ回避能力を1/2上げる

3、再使用可能時間を1.5倍に上げ詠唱時間を0.5倍にする

4、自身のHPが1/3になった場合、上昇能力は無効化される(※低下能力は継続)

 

鎧自体の防御能力も付属能力で相殺されており、〈幻想級〉でも防御性能の低さは下から数えた方が速い

 

 

備品:呼出水晶

 

〈ちんどん屋〉との共同開発した〈製作級〉アイテム。

特定の〈大地人〉に渡す事で通信・召喚をする事ができる

〈大災害〉前は通信する能力しか持ってはいなかった

 

 

備品:真っ赤な林檎

 

心の友・人生の恋人・生涯の伴侶

 

 

 

備品:帰蝶の髪留め

 

イベント〈幸せを喰らう鬼〉の報酬である魔法級アイテム。

装備者の運を少しだけ上昇させる効果がある。また、特定条件を満たす事で性能が上昇し〈濃姫の簪〉へと変化する

レアイベント報酬の割には性能が低い為、参加者が少なく打ち切りになった迷作イベント

数が少なく、そこそこ.な値段で売られているが性能が低い為買い手はいない

クーはトウヤとミノリに受け取り、宝物として大切に装備している

 

 

 

 

特殊武器:金毛九尾

 

5年前に行われた大規模クエスト〈妖怪達の宴〉のクリア報酬。以前説明した通り〈妖怪達の宴〉の難易度は高く、数は5個も満たないほどのレアアイテムである

扇面が金色に輝き、9本の骨は銀色に輝いている〈幻想級〉アイテムであり、その能力も破格である

 

1、 詠唱時間1/3短縮

2、 消費MP1/2

3、 付属効果付魔法の強化

4、 使用魔法の固定遅延

5、 一種の魔法を連続使用すると威力増大し再使用可能時間を使用MPを1.5倍にして再利用可能にする

 

高性能を越してもはやチート武器とまで言われているがデメリットも多く存在し

 

1 狐尾族女性冒険者限定装備品

2 途中で使用魔法を変更すると威力減少

3 HP1/2減少

4 味方の敵視化

 

以上の9つの能力を持っている色々と破格な武器である

 

気づいた方もいるとは思うが〈天邪留袖〉の効果も反映されており、〈金毛九尾〉を装備した彼女のステータスはこの様に変化する

 

HP:2999

MP:16890

防御能力を1/3ダウン、回避能力を1/2アップ

詠唱時間を0.1倍にする

自身のHPが1/3になった場合、上昇能力は無効化される(1000以下)

消費MP1/2

付属効果付魔法の強化

使用魔法の固定遅延

一種の魔法を連続使用すると威力増大し再使用可能時間を使用MPを1.5倍にして再利用可能にする

途中で使用魔法を変更すると威力減少

味方の敵視化

 

防御力も低下している為、一撃もらえば1000など直ぐに下回るベリーハードな構成になっている

なお、16話で使用したライトニングネビュラもこの能力が可能にしたものであり口伝ではない

単純に1500/2=750.一回目750二回目750×1.5=1125三回目1125×1.5=1687・・・との様になり連続では6回の使用が出来る

 

 

 

 

 

 

妖術師の特技

 

〈狐火〉

攻撃魔法_尻尾から青みを帯びた炎を作り出し、敵集団に撃ち込む広範囲攻撃魔法。

対象に命中すると85%の確立でランダムにバットステータスを付属させる事が出来る

火力は使用者のステータスに依存するが良くて中ダメージ程である。

〈狐尾族〉の魔法攻撃系職業、回復系職業のLV85に達すると習得する

 

〈弧月斬〉

白兵攻撃技_自分の武器にバットステータスを付属させる蒼炎をまとわせて武器で直接攻撃する攻撃技。火力はそこそこ止まりだが、ヒットさせた敵に85%の確立でランダムにバットステータスを付属させる

〈狐尾族〉の戦士系職業、武器攻撃系職業のLV85に達すると取得する。

 

〈黄泉送り〉

バットステータスが付随されている相手に対し、特大ダメージを与える。しかしバットステータスが付属されていない場合はダメージ判定はない

付随されたバットステータスが多い程、攻撃力は上昇。3つ以上バットステータスが付属されている相手に対し即死効果がある。

これはエリアBOSSにも適応され、BOSSの大きさにより付属させるバットステータスの数を増やさなければならない

 

 

・・・・〈くずのは〉はイレギュラーで〈狐火〉〈弧月斬〉の2つとも習得した

 

その他に

インフェルノストライク・・・炎を纏った武器での攻撃。中爆発付加

アイシクルインペール・・・・冷気を纏った武器での攻撃。回避能力増大

サンダーボルトクラッシュ・・電撃を纏った武器で攻撃。クリティカル率2/3付属

フレアアロー・・・・・・・・炎の矢。追加ダメージ判定あり

ライトニングネビュラ・・・・電撃属性の広範囲魔法

 

を取得している

むしろ、遠距離魔法が3つしかない妖術師は珍しい部類に入る

 

 

 



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EX : 出会い

見切り発車です
作者は原作を読みながら執筆しているので過去の事とかは無知です

もし彼女がいたのならこうして〈茶会〉はスタートしたのかな?って思って書きました
原作を読んで行くうちに、本当かどうか判明したらそれはそれで新しく書きたいと思います

なので時と場合によっては削除も考えてします


正直、どうでもよかった・・・

もとから気休め程度で始めたゲームだもの・・・

廻りがどう騒ごうが私には関係ないわ・・・・・

他者とは違う、奇行に走っている、本来の役目を全うしていない・・・

 

・・・他人と同じで何が楽しいのかしら?

・・・・人は他者と違うだけで差別の対象になる

・・・・・それだけではない

・・・・・・・もとより他者と違った【個】はさらなる孤立を作り上げる

 

 

・・・・・【妖怪達の宴】

・・・・・まさに私を道化にするモノであったわ

・・・・・チートやルール破り、違反

・ ・・・・批評が批評を呼び私を落としていく

・・・・気休めにもならなくなった

・・・・楽しめなくもなった

・・・もうどうでもよくなった

 

 

 

 

そんな時かしら?彼女とであったのは・・・・・

 

 

 

 

 

ログホライズン~わっちがお狐様でありんす~

 

番外   出会いそして始まり

 

 

 

 

「ねぇ!貴女が『九尾のくずのは』?」

「・・・礼儀がなっていないわね、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るものよ?」

 

私が拠点として活動する〈アキバ〉の町―――その東端の一角あるNPCが経営するカフェ・・・

私はやる事もやる気も起きないまま、ただ〈飲酒〉と言うアクションを使い暇潰していたのだが・・・・この礼儀のなってない〈冒険者〉が、私の暇潰しを潰してしまったわ・・・

 

「そうだったね!私はカナミ!よろしくね!」

「そう、カナミね・・・もういいわ、消えてちょうだい。」

「〈妖怪達の宴〉を制覇したんだよね!難しかったよね!」

「・・・貴女、人の話を訊いていたかしら?」

 

カンフーっぽい上着、太腿部分が太いズボン、ゲートル、長槍、三度笠、チャイナ三つ編みというチャイニーズ系を思わせる童顔のカナミと言う女は髪を左右に揺らしながら質問を繰り出してきたのだ

どうせ、この女も私に媚を売って〈妖怪達の宴〉でのお零れを貰おうと言う魂胆だと思い、跳ね返そうとしても返ってくる言葉はなく、ただ永遠に質問を繰り出すだけ・・・いい加減にしてほしいわ

 

 

「でもアレって運営のミスだよね!ソロだと対策無しで行くと直ぐ死んじゃうようになっているんだもん♪」

「・・・じゃぁ、貴女はどんな対策をしたのかしら?ご教授してほしいわ」

 

彼女の質問から彼女も〈妖怪達の宴〉に参加していた事がわかった・・・いい加減、質問ばかりされてウンザリしていた所だし今度は此方から質問をしてみる事にしたのだ

 

「正面突破!全てを蹴散らしていったよ!」

「・・・仲間は?」

「え?一人だよ」

 

言葉が出なかった

正面突破?・・・出来ない事はないけど、大規模戦闘において数とは大きな戦力であり、個人の力など微々たるものでしかない。

しかし彼女は、あの餌に群がるアリの様な妖怪達の中を一騎駆けしたというのだ

 

この時、始めて彼女に興味が向いた

 

 

カナミ LV80 メイン職業は〈盗剣士〉 所属ギルドは無し、か・・・

装備している武器は・・・槍

 

高速度戦闘での一騎駆けでそのままゴールって言うパターンかしら?

 

「・・・避ける戦闘は避ける。貴女が言う正面突破ではないわ」

「私に向かって来た敵は全て倒したよ?」

「・・・本当?」

「うん!敵を倒しながら進んでいたらクリアしてた♪」

 

屈託の無い笑顔・・・どうやら本当らしいわね

あの〈妖怪達の宴〉は運営のミスのバグクエストと呼ばれているけど攻略できない事はない・・・

ただ、ハズレと言われる強敵モンスターとの戦闘を避けて倒せる敵だけ倒せばいい、それだけ・・・

 

・・・まぁ、ハズレモンスターが9割9分を占めていたから運営のミスと言えばミスなのだけど・・・

その中をクジに関係なく倒していった彼女は・・・・廃人プレイヤーなのでしょうね

 

――――ピン♪

 

彼女に対する評価を纏めていたら軽い音と共に〈カナミ〉の文字がウィンドとして開かれた

 

「フレンド申請したから♪」

「・・・・勝手なのね」

「そうだ!これから旅にいかない?友好を深めようじゃないか♪」

「・・・人の都合を考えないのかしら?」

「華厳の滝を見に行こう♪」

「〈アキバ〉から華厳の滝まで150キロ近くはあるのよ?いくら〈ハーフガイア・プロジェクト〉で、距離が半分だとしても今から行く距離ではないわ」

「さぁーて!行こうか、クーちゃん!」

「話を聞きなさい、バカナミ!」

 

 

これが私と〈放蕩者の茶会〉リーダー・カナミとの出会い出会った・・・

 

 

 

「クーちゃん、今度のイベント聞いた?〈守護者の矛盾〉!おもしろそうだよね!」

「・・・参加する気、カナミ?」

「今からワクワクだよ」

「・・・相変わらずね、話を聞かないのね、放蕩者」

 

時は早い物で、あの放蕩者のカナミとの出会いから半年が立った・・・この半年、本当に彼女には振り回された

 

出会った時でさえ、夜中の2時だと言うのにアキバから75キロも離れた華厳の滝まで歩いていくわ、鳴門海峡の渦潮が見たいやら京都で紅葉狩りをしたい等と我が儘を言って連れ回れたわ

 

この世界で唯一の安らぎの場であったこのカフェも今ではカナミとの話し合いをする場になってしまった・・・本当にカナミとつるむ様になってから退屈、はしない

 

「・・・まぁいいわ、〈守護者の矛盾〉だったかしら?・・・今回はやめておきなさい」

「え~!なんで?あの時みたいに私たちなら余裕だよ!」

「・・・〈妖怪達の宴〉戦闘回避は出来たけど、今回の〈守護者の矛盾〉は絶対戦闘が条件なの。〈盗剣士〉と〈妖術師〉だけでは手に余るクエストなのよ」

「私とクーちゃんが友情パワーで「そんなモノ有ったかしら?」 ・・・」

 

あっさりと言い返され、口を尖らせていじけるカナミを放置して林檎酒に口をつけた・・・

 

〈守護者の矛盾〉

聖域の守護者と言われるガーティアンは自身が聖域に悪影響を与えている事に気づかず、百年の時を守り続けた。百年の時が聖域を変化させモンスターが増殖、聖域を住処に悪事を働きだし回りの町が被害にあっている。〈冒険者〉は町を救い、原因たるガーディアンを撃破するべし!・・・・だったかしら

 

・・・予想される敵は、ガーディアンの亜種、そしてアンデットと魔獣ぐらい。後者二つなら私と彼女で十分だけど、ガーディアンが問題ね。

 

聖域と言われる場所が百年で変化するとは難しい、なら考えられるのはガーディアンが複数いること

回復をアイテムに頼った私とカナミの戦闘では耐久性の高いガーディアンとの戦闘は困難、ね

 

ふっと目線をカナミに向けるとニヤニヤとしながらこちらを眺めている彼女がいる

 

・・・・どうやら私はこの半年間で随分と甘くなったようだ

 

 

「・・・〈守護者の矛盾〉、ランクは〈レイド〉。最低でも回復系職業を2人は必要だわ」

「O~K~♪流石くーちゃん、愛してる~!」

「・・・いいから行きなさい、私は此処で待っているから」

 

シッシっと手で払いながらカナミを追っ払ったが、カナミは彼女の仕草を不快には思わずに笑顔でパーティーを組んでくれるであろう〈冒険者〉を探しに駆けていったのであった

 

 

「・・・まったく、世話がかかるわね」

 

 

 

 

 

「あ、エアーズロックを見に行こうよ!」

「また唐突だな、しかしオセアニアサーバーまでの遠征か・・・」

「不服か、KR?なら付いて来なくてもいいでしょう。どうです、お嬢様?」

「だめッしょ?みんなで行った方が楽しいよ!」

「カナミ嬢の言う通りですにゃ、旅は道連れ世は情けですにゃ」

「さすがご隠居!いい事言うね~」

「・・・・その段取りは誰が組むのかしら?」

「クーちゃん、任せた!」

 

いつものカフェの4人掛けの席において私とカナミはもちろん、上から裾がぼろぼろになった豪華なローブを纏うKR、カナミのメイドらしく後で控える秧鶏、猫人族のにゃん太、同じ狐尾族のナズナ・・・・

 

いつだろうか?

カナミと行動を共にするに連れて、こんな無茶振りをされるようになったのは・・・

しかも人数が増えてるし・・・

 

この4人は半年前にカナミが連れてきたメンバーなのだが・・・一人たりとも回復系職業ではない

私は回復系職業をつれて来いっと言った筈なのに、このありさま

ナズナは回復系職業だって?運に任せたヒーラーなどヒーラーとは言わないわ

・・・カナミ曰く「攻撃は最大の防御なり」だそうだ・・・作戦を考えるこちらの身にもなってほしい

しかも〈守護者の矛盾〉を最速タイムでクリアしたのが、なおさら悪い・・・調子に乗ったカナミは〈守護者の矛盾〉をループし始めたのだ

 

普通なら1回クリアすれば満足するのだが・・・このバカナミは、この4人との友好を深めたいと暴言を吐き3回も周ることになった

 

放蕩者・・・自分の思うままに振る舞うことであり、やるべきことをやらず自分のやりたい放題。まさにカナミの為にあるような言葉だと思っていたが、私の認識は甘かった

類は共を呼ぶ・・・カナミを筆頭に、この4人も放蕩者であった

 

「でも、このメンバーで行動する事おおいね~、いっその事、このメンツでギルド組む?」

 

ナズナがほざく・・・勘弁してほしいわ

ただえさえ、手の負えないメンバーのまとめ役になっている私よ?これ以上、負担を増やさないでほしいわ

 

「にゃにゃにゃ、吾が輩は既に所属ギルドがありますから遠慮させてもらいますにゃ」

 

にゃん太が言う・・・勘弁してほしいわ

だだえさえ、手の負えないメンバーの常識人であるにゃん太が入らないとなると私は過労死するわよ?

 

にゃん太の言葉にナズナは笑いながら「こっちにくれば?」などとほざいている

ギルドねぇ・・・私も御免したいわ

一つの枠組みに縛られるのは好きじゃないわ

 

しかし、私の考えとは裏腹にカナミが珍しく面白く・・・そして愉快な言葉を口にした

 

「え?別にギルドなんか作らなくても良いでしょ?集まりたい人だけあつまれば?」

「・・・え?」

 

誰が漏らした驚きの言葉かは忘れたが、私と猫は笑っていたのはたしかだ

 

「他のギルドの人と冒険しちゃいけない訳でもないし、そんな堅苦しいことしなくてもいいでしょ」

「ふふふ・・・」

 

思わず笑いが口から出てしまった

 

「放蕩者・・・まさにカナミを表す言葉、ね」

「一つに留まらず、ただ冒険を楽しむ集団。実にカナミ嬢らしい言葉ですにゃ」

「そうかな?でもいいでしょ!」

 

にゃん太が笑い、ナズナが苦笑いしながら「カナミにはかなわないぇ」と頬をかく・・・

確かにこの環境はギルドでは出せない居心地の良さだ・・・

 

「ならこの集団に名前を付けたらどうだ?」

「名前?」

「ギルドに囚われない自由な集団、〈エルダー・テイル〉において始めての試みだ」

 

KRが言うように今まで〈エルダーテイル〉において、こんな枠外れな集団はいないだろう

だからこそ・・・おもしろいわ

 

「へぇ・・・面白いね!ならクーちゃんがいつも私に言う・・・ほんとうもの?」

「放蕩者ね・・・自己中心的な我が儘な人。まさにカナミね」

「私、そこまで酷くないよ。じゃぁそれで!」

「なにが「じゃぁ」なのよ?しかも捻りがないわ。没」

「・・・英語にしてみればよろしいのでは、お嬢様?」

「放蕩者?・・・えっと、debaucheeだっけ?」

「あら?カナミにしては上出来ね」

「デボーチェリ、かぁ~。いいねぇ!これでまた、くずのはと〈茶会〉ができるわ」

「〈茶会〉?・・・貴女、寝落ちするじゃない。一人〈茶会〉の席に残される私の身にもなってほしいものだわ」

 

ナズナは私とよく〈茶会〉と言う名の愚痴の言い合いをするけど、リアルで飲酒して寝落ちするのが困りものよね

 

「〈茶会〉・・・ティーパーティー。うん!名前は〈放蕩者の茶会〉で決定!」

「・・・私とナズナの〈茶会〉は愚痴を言っているだけよ?」

「しかし我々は今、こうして〈茶会〉を共にしていますにゃ、これはこれで運命を感じますにゃ」

 

手で顎を擦りながら物言うにゃん太・・・似合いすぎて余計にイラつくわね

 

「と言う訳で〈放蕩者の茶会〉の第一歩として富士山に登ります!クーちゃん後はよろしく!」

「エアーズ・ロックはどうした?」

「富士山の頂上で日の出を拝みたいじゃない?あと面白そうな人も何人か連れて行くからよろしくね!」

「いつのまに増やしたのよ・・・で人数は?」

「シロエって子と直継、あとは月音とタイガー丸。それに「もういいわ、適当に考えとくわ」流石だね!クーちゃん」

 

・・・せめて、さっきあげた人の中に私の変わりになってくれるがいる事を願うわ

 

 

こうして私たち〈放蕩者の茶会〉と言う集団はスタートを切ったのであった

 

 

「第1回!始まりはいつも突然に~私と放蕩者~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

 

 

 

「うにゃ~バックナンバーは黒歴史でありんすな~」

 

〈ログ・ホライズン〉本拠地3階にある木陰が日差しを遮り、心地よい風が吹きぬけるテラスにて林檎酒を片手に、彼女は悶えていた

 

「しっかし~カナミンの紹介でありんすからまともな人はきんしないと思いんしたが、シロエェがきんしてまことよかったでありんすね~」

 

しみじみと呟く彼女の独り言はザワザワと揺れる木々だけが答えてくれた・・・

 

「たまには過去を振り返ってみるもんでなんし、また気が向いたら呼んでみんすか~」

 

心地よい日差しが彼女に睡魔として呼び声を掛けていく・・・

 

「わっちはもうダメでありんすな~・・・また、あいんしょう、くずのは?・・・zzz」

 

 

彼女が過去を振り返るのは、また今度になるのであろう・・・それまでおやすみなさい

 




どうでしょう?

〈茶会〉初期メンバーを勝手に決めると言う暴虐。。。

みなさんの反応しだいで、また彼女がバックナンバーを開くかもしれません


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EX :シロエ

すみません、こりもせずに独自に過去話を書いてしまいました

グリフォンの召喚笛の入手とき、〈茶会〉メンバーの人数を疑問に思う方はいらっしゃると思いますが暖かい目で見守って下さい

あと前からちょくちょくありましたが、ランキングに入る事が出来ました

正直驚きです
これも読んでくださる皆様のおかげです
ありがとうございます
これから頑張ります


※ 死霊ヶ原をリンドレッド大神殿に変更
  時間軸にあっていなかったので


・・・いつも運命は突然とやって来る

 

・・・・誰が決めた事でもない、人為的な者を感じさせない

 

・・・・・ましてやロマンの神様がいるとでも言うならその鼻をへし折ってやる

 

・・・・・・だが、運命は訪れた

 

そう、この〈放蕩者の茶会〉を設立した〈冒険者カナ「くーちゃん!聞いてる!?」・・・そう、バカナミの手にとって・・・

 

 

 

 

 

ログホライズン~わっちがお狐様でありんす~

 

番外   運命そして始まり

 

 

 

 

 

早いもので、自由気まま自己中心的天真爛漫傍若無人な集まり〈放蕩者の茶会〉を結成してから半年……リーダーとも言える〈冒険者〉カナミの暴走は止まる所を知らない。いくらカナミの考えに賛同する物好きが増えようとも先週行なわれた『死霊が原(ハデスズブレス)』たる大規模戦闘を僅か28人で参加したいと言い出した時には軽く……いや、大いに頭を悩ませた

 

初期メンバーと言う事もあり、止むを得ず作戦・戦略を担当する〈参謀〉的なポジションに就いてしまったのが後の祭り……類は友を呼ぶ。私はすっかり失念していた7

 

あのカナミが誘った総勢28人のメンバーなのだ………まともな奴がいない………いや一人いたわね

でも彼はまだココに慣れていない、だが……それだけじゃない。仲間と言うモノに困惑しどのように接したら良いのか深く考え込んでいる……

彼は〈エルダー・テイル〉において〈知識〉と言う〈力〉に振り回されコミュニティーを築くことに抵抗を持ってしまっている

 

(ちしき)〉を持ち多大なる経験を積んだ冒険者…不器用で仲間との絆に戸惑う愚かな冒険者……その名は―――

 

「―――〈付与術師〉シロエ」

「やっと話してくれた!寝落ちしちゃったのかと思ったよ!」

「貴女はもう少し空気を読む事を学びなさい?私が思考していると言うのに貴方は……」

「いいじゃん!一人で待たされる身にもなって欲しいよ!」

「……はぁ~」

 

場所は、私の癒しの場所であったアキバの町の東端の一角あるNPCが経営するカフェ……カナミ達と絡むようになってからは〈茶会〉メンバーも訪れる様になってしまい『癒し』の『い』の字も無くなってしまった哀れな我が安息の地…

カナミが相談があると謹厳に連絡を送るものだから、元〈安息の地〉に訪れたのはいいが……相談事とは、さきに私が考えた人物〈付与術師〉シロエの事であった

 

普段のカナミからは想像できない程の深刻な声色だったからリアルで不祥事が起きたのかと思ったのに、貴女は……

カナミの相談事それは「シロエと一緒に楽しみたいから協力して!」……だ

色々と言いたい事はあるけど……時間の無駄ね……

 

「シロエ、ね……貴女はシロエの評価って知っているかしら?」

「評価?……あっ!凄かったよね!〈リンドレッド大神殿〉での指示!なんか~先が見えている?私がやろうかな?って思ったタイミングで的確に 「違うわ、人からの評価よ」 …人?」

「えぇ……〈付与術師〉シロエ、小難しい職業を極め膨大な経験と知識で戦うベテランプレイヤー」

「.へぇ~凄いんだ!シロ 「彼と組めば彼に聞けば」 …え?」

「彼と組めば簡単に.攻略出来る、彼に聞けば分からない事はない、彼に頼れば……〈エルダー・テイル〉において自分は確かな地位に立つ事が出来る」

「………」

「愚弄共は何の見返りも無しに彼に集る……愚弄にとって彼は使い勝手がいい攻略本、戦闘もこなすから本より上ね」

「……」

「彼が交友…コミュニティーを築く事を拒む訳ね。ゲームの中でさえ気が休めないのだもの」

 

……彼の気持ちよく分かるわ。過度の期待、無情な信頼、魑魅魍魎に集られ身を磨り減らす。外界から身を断ち個を築く事が彼にとって一番の安らぎになっている。彼が〈仲間〉と言える〈冒険者〉はどのくらいいるのかしら?

でも、愚弄共が貪るココ(エルダー・テイル)にまだ彼がにいる訳、本当の望み……単純にして明解、でも誰も気づいてはくれない

 

プライバシーもあるわ……なら解決方法はただ一つ―――

 

「―――気づいてあげること」

「え?」

 

彼が求める答えを出してあげることね

 

「……カナミ、どうしても彼を助けたい?」

「助けるって大げさな」

「いえ、大げさではないわ。ココ(エルダー・テイル)は一つの世界、彼に手を伸ばす救済と言う名の行為……でも同時に彼の覚悟を貴女も背負う事になる。……聞くわ、本当に助けたいの?」

 

世界とは上手く言ったけど…所詮は赤の他人。

昨日知り合った人を助けるなんて安いボランティア精神なら関らない方が身の為、殆どの人は関りを持たない……

だけど、カナミなら……放蕩者であるカナミなら……

 

「覚悟って話難しくなっていない?いーじゃん!シロエが楽しめるなら手を伸ばしたって!後の難しい事はくーちゃんが何とかしてくれるでしょ!」

 

私は期待通りの答えに画面越しで笑みが零れた

 

「そうね、頭の回転の弱いカナミには荷が重いから私が手を差し伸べてあげましょう……これも救済かしら?」

「……くーちゃんのいじわる」

 

口を尖らせていじけるカナミを放置して林檎酒に口をつけた

本当にカナミと一緒にいるようになってからは……退屈はしないわ

 

「カナミ、シロエと一緒にクエストに行きなさい。メンバーは……シロエの『仲間』と私達〈茶会〉初期メンバー……いいわね?」

 

確認の意味を込めてカナミに視線を向けるが、返ってきた言葉.は微妙なもの

 

「くーちゃんが言うなら間違いは無いと思うけど……救済という割には普通だね?」

「バカナミ……本人呼んで人生論を語る訳ではないのよ?……シロエにとって一番の救済の手は……貴女なのだから」

 

まだ納得の言っていないカナミを横目に私は数少ないフレンドリストから〈茶会〉初期メンバーに連絡を着けるのであった

 

 

 

 

「いきなりですねカナミさん……お久しぶりです、みなさん」

「ハロー!シロエ♪元気してた?」

「はい、先週はありがとうございました」

「うん!楽しかったね~」

 

3時間後……カフェにはシロエが『仲間』として誘った〈守護戦士〉直継と〈武士〉ソウジロウ、〈茶会〉初期メンバーの猫、KR、ナズナ、カナミそして私の8人が集まった

直継はカナミがシロエを誘った時に、ソウジロウは最近〈茶会〉に参加し始めたので顔は知っていたが……シロエの『仲間』は本当に少ないのね?シロエの方で後3人連れてくると読んでいたのに……しかも全員が〈茶会〉メンバー、重症ね

後、初期メンバーのカナミのメイドはINしていなかったので無視したわ……あの子が来ると色々と面倒、というかカナミ様カナミ様ってうるさいのよ!

 

「……シロエ?私を『みなさん』扱いなのはどういうことかしら?」

「あっ……すみません!くずのはさんもお久しぶりです」

「ふん……まぁいいわ。今回は知っての通り、またカナミが馬鹿を言い始めたわ」

 

今回シロエをクエストに誘い出す為に準備をしたのはいいが、丁度いいクエストが無かった為、カナミの我が儘と言うことでシロエを呼び出した

シロエもなんだかんだでカナミの放蕩っぷりを感じたのか指定の時間に来てくれた

交友に慣れていないシロエでもカナミの勢いに飲まれてしまえば来るしか選択肢はなくなる。……カナミの放蕩っぷりも上手い使いようね

 

実感、カナミからの視線が強くなった気がしたが気にする必要はないわね?

『なった気がした』ですもの……画面越しではわからないわ

 

「さて、今回は『富士山で日の出を見る』よ」

「富士山……〈霊峰フジ〉、か。距離は凡そ120キロ、ハーフガイアプロジェクトで60キロ」

「そうねKR。そして日の出までの時間は凡そ3時間……カナミが馬鹿を言わなければ実行してはいないわね」

「………話を合わせろって言ったのはくーちゃんなのに、酷いあつ「何かしら、バカナミ?」何でもないです!」

 

普段は細かい事なんて気にしない割りにウダウダと……やっぱり子供なのね

 

「でもどうしますかにゃぁ?霊峰フジ自体は『通る』だけは簡単、しかし、フジ樹海を通り霊峰フジの頂上に行くには些か時間が足りないにゃ?」

「そうね、でも可能にする事ができる物を私達は持っているわ。……丁度〈茶会〉メンバーしか居ない事が幸いね」

 

私の言葉にシロエだけが顔を上げて反応した。ふふふ、やはり貴方は見ている所が違うわ

 

「モノ?……あぁ!グリフォンの召喚笛ね!いやぁ~遠出とかしないから忘れてたよ」

「でもあれって制限距離あったよな?……使ってもフジ樹海で着陸、遭難祭りだぜ?」

 

『死霊が原』で入手したグリフォンの召喚笛は確かに移動をスムーズに出来るが、その反面、制限時間に規制が掛かっているのだ

皆が私の答えを待っている中、私だけは期待を7込めてシロエと身体を向けていた

 

「やっぱり明日にしませんか?今日無理を 「いや、出来る」 ……シロ先輩?」

 

シロエが発した言葉により皆の視線がシロエに注がれる。

 

「イズを中継するんだ、まだグリフォン自体が珍しいから情報は少ないけどグリフォンの再使用時間を短くするアイテムが存在すると聞いた事がある。再使用までは3時間だけどそれを無効に出来たなら……」

 

私の頬が釣りあがった。やはり彼だけは気づいたようね

 

「正解よ、シロエ。……でも点数を付けるなら0点、情報が穴抜け過ぎて信用性が掛けているわ」

「くーちゃん、正解なのに0点なんて可笑しいよ?」

「カナミは黙っていなさい、私が出した問なのよ?私が点数をつける権利があるの……文句ある?」

 

私とシロエを除く全員が絶句していた……失礼ね、マイナスではないのだからマシなのよ?

 

「答えあわせね、シロエ?……貴方の言う通りグリフォンの再使用時間を失くすアイテムがイズにあるわ。『ユーララの清水』……騎乗動物のリテール時間を無効に出来る、本来なら馬等に使用されるけどグリフォンにも摘要される事がわかったわ」

「おぃおぃくずのは? いくらなんでも情報速過ぎじゃねぇか?グリフォンの召喚笛は最近パッチされたんだろ?数だって少ないって言うのにどうやって知ったんだ?」

「私自身で確かめた……少しは自分で考えなさい?…………屑が」

「ひどっ!?」

 

私が説明している時に割り込んでくる貴方が悪いのよ、身の程を知りなさい

 

「話が逸れたわね……一回目の飛行で中継イズまで行く、その後『ユーララの清水』を使用し霊峰フジに到着、登山、参拝。そしてグリフォンでイズを中継し帰る」

「グリフォン、4回使ってない?」

「…グリフォンは2人まで騎乗出来ます」

「そのぐらいは知っていると思った私が愚かだったわ」

 

グリフォンの騎乗情報はステータスで確認出来るものだから知っていると思っていたのに・・・頭が痛いわ

 

「シロ先輩!一緒に行きませんか?」

 

頭を抑える仕草をする私を他所に早くも2人組になる為に動き出すソウジロウ……

純粋無垢で可愛げのある後輩だとは思うけど、今回も目的であるシロエを取られては不味いわね……

 

「ナズナ」

「?……あぁ、りょ~か~い♪ソウジ~?オネェーサンと一緒に行こうか~!」

「うわぁ!?」

 

名を呼んだだけで何を望んでいるのか、わかってくれる……流石は私の茶飲み相手ね

ナズナが抱き付き過剰にソウジロウを確保してくれたおかげで周りの時が止まる、そのうちに私は猫の洋服の袖を掴むと―――

 

「私と猫、ナズナとソウジロウ、KRと直継、カナミとシロエで組なさい!」

「俺達だけ男ペアじゃねぇか!組み換えを希望する!」

「黙れ屑!」

「ひどっ!?」

 

打ち爛れる直継の手をKRは優しく引いているが、KR自身も不満があるのか先から無言のままだ

私は軽く舌打ちをした後、KRに個人通話をかけた

 

『……なんだ』

『今回の目的はシロエよ』

『……あぁ、わかった』

 

たった一文だが、すぐに事を理解してくれるKR……根暗が直れば今の私の地位を彼に渡したと言うのに

KRとの通信を切って直ぐにカナミへと通信を掛けた

 

『くーちゃん?』

『貴女はシロエと話なさい、それがシロエの救済よ』

『……え?』

 

一方的に伝えた後、何か聞きたそうに私に近づいてくるカナミを無視しつつ何時の間に呼んだのかグリフォンを横に待機させているにゃん太の下へと足を進める

 

「……仕込みは上手く行きましたかにゃ?」

「……あとはカナミが上手くやってくれるわ」

「そうですかにゃ……いやはや、吾が輩も若者の為なら力を貸しますにゃ?」

「『も』?……はっ!侮るな猫よ、私はまだ若い」

「……自分で若いと言う人ほど年を取っ「黙れ!」…にゃ~」

 

日の出までは三時間……私達は初のグリフォンによる遠征、そして霊峰フジへの挑戦が始まったのであった……

 

 

 

「第2回!少年よ!大志を抱け!~根暗眼鏡編~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

 

 

 

「うにゃ~バックナンバーは黒歴史!でもそれもおつでありんすな~」

 

彼女は本を傍らに置き、グラスに入った果実酒を揺らす……

 

「まっくろクロエ……まだ白いでありんすな~?しかし……」

 

彼女はグラスに入っている果実酒をいっきに飲み込んだ

 

「運命とはどこで絡むかわかりせん、だからこそ出会った運命を大切にしなんし」

 

彼女空のグラスに果実酒を注ぎ入れ、真丸と光る月へと掲げた

 

「わっち達の運命にかんぱ~い!」

 

 

 

彼女が続きを読み始めるかどうかは…月だけが知っているのであった……

 




だぶん前半後半になると思います
次数5000字超えたので投稿

誤字脱字が酷いかも・・・


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EX : 転機

リハビリです

4500は書きましたが・・・懲りずに過去編!

・・・暖かい目で読んでください


・・・転機とは他の状態に転じる切欠

 

・・・訪れた者は善悪関係無しに今の自分を壊す事が出来よう

 

・・・まさにその転じっぷりは神の采配が如く

 

・・・だが、忘れないでほしい

 

・・・妄信の神などに縋る事は意味が無い事を

 

そして信じて欲しい。人間の可能性を・・・・

 

 

 

ログホライズン~わっちがお狐様でありんす~

 

番外  自由そして始まり

 

 

霊峰フジ

現実世界の富士山を元に創られたこの山は山頂までの道のりは高所程難易度が増えていくわかり易い設計をしており、山頂にある祠やパワースポットなどからレベルアップに合わせたステータスへのボーナスが少しだけ受けられると言う登り損なフィールドである

だが山下に広がるフジ樹海も含めフジ一帯は絶好の高LV狩場な為、人気が有り攻略・解析が進んで現在では「通り抜けるは容易」と言われる次第

そんな残念な場所に真夜中、それも限界LVに達した8人のプレイヤーが集まるのは些か……いえ、大いに不思議なことである

 

私もカナミに今回の件を相談されなかったら決して立ち寄らなかったわ

今回の件……シロエの調教もとい救済。シロエと言う本がカナミの手によって本から人へと成り代わる。本来ならカナミ一人で物足りる事だけど……妙に大人ぶったシロエには自分と同LVもしくは近い力を持つものがいなくては転機とはならない

 

……まったくもって面倒くさい相手だわ

人知れずため息を溢す私の目の前では当事者や救い手が暢気にやれ「寝落ちしそうだった」やら「尻が爆発祭り」とほざいているのを見ると自然と二度目のため息が出てしまう

長距離移動も画面越しだと単純作業の繰返し、誰が始めた訳でもないけど挙って欠伸や背伸びをしていた

 

……どうも〈エルダー・テイル〉には無駄なモーションアクションが有り過ぎると思うのは私だけかしら?

背伸びしかり欠伸しかり、アクションボタン一つで陽気に動き回るアバターを見ると自分だけが今こんなに考えて動いているのかと思い現実でも頭が痛くなっってくる

先程まで否定的な考えをしていたモーションアクションから「頭を抱える2」を選択し、動きに合わせて三度目のため息をつくのであった

 

「……〈くずのは〉、プランはどうなっている」

「吾が輩も聞かせてほしいですにゃ~?」

「………KR、猫」

 

タイミングを見計らった様に唯一の〈放蕩者の茶会〉メンバーの常識人である二人に話しかけられ眉間によった皺と頭痛が和らいだ気がした

 

「ご存知の通りカナミの要請でシロエの救済よ。愚図共に痛め虐げられた心を救う為に今回はシロエと同じ力を持つ者を近くで感じて貰って井の中の蛙だったことを知って貰うわ」

「自分と同等の力を持つ〈放蕩者の茶会〉では気を張るなっと言った所か?……自分が一番と思い込んでいる小僧にはちょうど良いな」

「二人とも些か言葉が悪いですが若者の更生とは腕がなりますにゃ~?ですが……」

 

にゃん太は私達を軽く注意した後カナミとシロエに視線を送り――

 

「力うんぬんと言うよりカナミ嬢と冒険を楽しめば自然と肩の荷が降りてここ(・・・・・)を楽しめるようになると思いますにゃ~?」

 

全てを理解したかのように顎を擦りながら私にウィンクを飛ばしてきたのであった

 

「……無駄に似合い過ぎだな」

「……えぇ、むかつくほどにね」

 

画面の向こう側でもキャラクターと同じ事をしているであろう猫に苛立ちを覚えるのであった

〈エルダー・テイル〉のモーションアクション……力を入れ過ぎよ

 

 

 

 

 

 

………面倒くさかった

 

誰もが皆、僕を頼り必要としてくれていた、最初は嬉しかった。僕を必要と仰ぎ共に冒険し目的を達成すれば感謝の言葉を言われ、また違う人に誘われる

皆が僕の存在を認め僕の居場所が出来上がっていくのを感じていた

 

だけど

 

何時からだろうか……去っていくプレイヤーの背中を見ていると自分が良いように使われていると感じるようになったのは……

それからだ、僕に近づいてくるプレイヤーが僕に利害しか求めていないと思う様になったのは……

一度は姿、性別を変えて〈エルダー・テイル〉を心から楽しもうと努力した

でも長くは続かなかった

もう一人の自分が強くなっていくにつれてこのキャラクターでも僕の性格のせいもあるのか利用されているだけと感じてしまうのだ

 

だから……面倒くさくなった

 

人とコミュニケーションをとる(しがらみ)が……

 

辞めようかとも思ったけど、全ての人があの人達みたいに利害を求めている人だけではないと信じ引き続きプレーした

おかげで直継や純粋に好意を向けてくれるソウジロウとも出会えた

 

数少ない友と呼べる人と冒険をするだけでもいいんじゃないか?と思い始めた矢先、彼女からのチャットが届いた

 

『シロエ~!今からフジに行こ~!アキバの町にあるカフェに集合!待ってるからね~!あっ!友達も連れてきて良いよ!』

 

……こちらの都合など関係無しに一方的にチャット切られたけど

 

 

彼女の名前はカナミ

あるダンジョンでいきなりパーティーに誘われたのが始まりだ

こちらも直継とソウジロウの三人組、あっちはカナミと狐尾族の女性の二人組。なんでも仲間と一緒に攻略しようとしたらリアルの都合が合わなかったらしい

 

最初は街の人と同じで利害を求めている人だと思った……でも違った

彼女達は純粋に〈エルダー・テイル〉を楽しんでいた

効率の攻略法は?レアドロップの法則は?…僕に言い寄ってくる人達が第一声に発していた言葉だけど彼女達は―――

 

『シロエ、早く行こう♪この先に虹の橋があるみたいだよ!』

『早くしなさい愚図、そっちは正規のルートだわ。虹の橋に近いのはこっちよ』

 

攻略もレアアイテムも関係無しに只の背景エフェクトを見る為だけに楽しんで攻略していたのだ……罵倒されたけど

 

一緒にいた直継やソウジロウも驚いていたがダンジョンを進んでいくに連れて顔に笑みが零れていった……僕の顔にも笑みが零れていたであろう

 

ダンジョンを攻略し街に戻ってきてからは質問とフレンド申請の嵐であった

一回だけ一緒に冒険しただけの仲なのにフレンド申請はどうなのか?と思ったけど勢いに負けて了承してしまった。直継達は直ぐに登録していたけど

きっとその時、心の奥では彼女に何かを求めていたのかもしれない

 

 

そして僕がカナミを他の人と違うと感じたのは『死霊が原』の時だった

なんでも指揮官が足りないという事で誘われた。他のパーティーは彼女の仲間である〈放蕩者の茶会〉と言うメンバーらしい

……正直、ギルドの関るのは気が進まなかったけど彼女と一緒なら大丈夫かと思い参戦した。あとに〈放蕩者の茶会〉はギルドでなく集団と言われて驚いたけど、いつの間にか直継やソウジロウを含め僕まで〈茶会〉メンバーとして数えられていたのは更に驚いた

 

カナミ……傍若無人大雑把で大胆、自由な人だと思った

 

だけど僕の考えは間違いだった

 

「ギャシャァァァァァオン!」

「遅いですにゃ~?行きましたにゃ、くずのはっち!」

「……今度『っち』付けしたら殺るわよ!〈ライトニングネビュラ〉!」

「ッ!ォォォン……」

「いいわ!もっといい声で歌いなさい!〈ライトニングネビュラ〉!」

「あは♪くーちゃん絶好調だね?」

「……純粋に眠くてハイなだけだと思うぞ」

 

急に誘われたフジ登山、カナミといれば悩みなんてふっ飛ばしてくれると思い先のチャットの答えを了承したけど……カナミだけではなかった

 

前の時には分からなかったけど〈茶会〉全員が自由な人だった

 

フジのレイドボスを赤子の様に攻め立てる〈茶会〉メンバーはみんな自由な人で、登山の最中にゃん太さんやナズナさんに攻略とかルートではなくゲームとはこと離れた話が出来、楽しんで昇れた。戦闘でもKRやくずのは(さん付けすると怒られた)の知識の量や采配に純粋に驚いた

 

僕は要らないのでは?と思ったけどそれは違った

役割通りみんなが動いているのだとわかったんだ。街の人とは違い利害の為、僕一人に頼っているのではなく楽しんで攻略する為に全員がみんなを信頼し頼って動いている事に……

 

なんだかそれは……

 

「シロエ!補助よろしく~♪」

「ッ!インフィニティフォースッ!」

「OK~!ありがとうシロエ♪」

 

とても居心地がよかった

 

 

 

「いや~綺麗な朝日だね~!」

「そうだね~♪これは一杯やりたくなるねぇ?」

「おう!俺は未成年だけど、これはおパンツなみに美しいぜ!」

「フジノタツカミを10分撃破……ありえんな」

「にゃ~このメンバーだと不思議に思わないのが恐いですにゃ」

「ははは、僕もこんな短時間で倒したのは初めてですよ」

カナミとナズナ、直継は純粋に日の出を誉め、KRとにゃん太、ソウジロウは自分たちが成した成果に驚きながらも日の出を眺めていた

 

そんな中、みんなとは少し離れた所で岩に腰を預けらがらシロエは手で朝日を遮って目を細めた

 

「眩しいのは朝日だけかしら?」

「……くずのは」

 

シロエの後に立ち鋭い視線を向けながら〈くずのは〉はシロエに語り始めた

 

「貴方が眩しいと思うのはカナミ達よね?自由でやりたい事を自由に行っている〈放蕩者の茶会〉。……違うかしら?」

 

有無を言わせないとばかりに睨み付ながら問う〈くずのは〉。傍から見たら尋問をしているかのように感じ、シロエも若干冷や汗を掻きながらも〈くずのは〉に答えた

 

「そう、だと思います。彼女ら〈放蕩者の茶会〉は自由でなんにも縛られてなくいて正直……羨ましいです」

 

ポツリポツリと言葉を紡いでいくシロエに〈くずのは〉は目を閉じ素直にシロエの言葉を聞き入れた。そしてシロエの言葉が終わるとゆっくりと目を開け静かにシロエに問いたのであった

 

「シロエ?貴方は〈放蕩者〉って意味を知っているかしら?」

「え?……自分の思うままに振る舞ったり、やるべきことをやらず自分のやりたい放題にする人、ですよね?」

「えぇ、そうよ。……そして貴方はカナミに誘われてその一員になっているわ」

 

シロエは呆気に取られて口をポカーンと開けたが、すぐに〈くずのは〉の言った言葉の意味を理解し驚き目を見開く

 

「でも!僕は「囀るな小僧!」ッ!」

 

先程とは打って変って激情とも言える罵声がシロエの反論を塞ぎ説いたのだ

 

「貴方が愚図に縛られて生きるのも良し!でも私達の様になりたいのならなればいいわ!……そうでしょ、カナミ?」

「え?」

 

〈くずのは〉が振り返った先には先程まで朝日を堪能していたみんなが此方を向きシロエに笑みを送っていた

 

「うん!クーちゃんの言うとおり!シロエは…シロ君は難しく考え過ぎ!シロ君のやりたいようにやればいいと思うよ!」

 

後先も考えない大雑把で大胆な言葉。

だけどシロエは恥ずかしそうに頬を掻きながら笑みを溢すのであった

 

 

 

 

「第2回!少年よ!大志を抱け!~根暗眼鏡編~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

 

「こなしてシロエは綺麗になって腹黒眼鏡の第一歩を踏み出したのでありんした。ちゃんちゃん♪」

 

彼女は本を傍らに置き、グラスに僅かに残った果実酒を一気に呷った

 

「いま思うとわっちがカーミンと会いんしたのも〈エルダー・テイル〉の転機でありんしたね~?しかし……」

 

彼女は新しい果実酒の栓を明けらがら、ふっと月を見上げた

 

「……わっち、あの時えらい眠くて何を言ったか覚えていないのよぇ」

 

月を見上げること数秒……

 

「わっちは過去を振り返らん狐でありんすゆえ~♪」

 

何事も無かったように飲み直すのであった

 




本編も徐々に文字数を増やしていきます


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いーえっくす: 2月14日!そう今日は!『グォレンダァァァ!!!』前篇

お久しぶりです、祈願です

現在、他のSSも書いている為、更新していませんでしたが、原作の方が進みだしたのでリハビリも兼ねて書いて行きます

他のssが主にシリアス面が多いので、このSSを書くのに辺りリハビリです

内容はヴァレンタイン。
アニメで放送されたオリジナルの話を元にしています

長くなったので二つに分けました


〈ココニアの実〉

お菓子や料理の原料となる食料アイテム

ハート型の形をしており、味は香り豊かでフルーティ、火を通せばほっくり甘みを持たせた味をしている

しかし注意点もある。まだ熟していない内に使用すると口の中に苦味が広がってしまう

そして、この食材アイテムの真骨頂は2月14日に使用すると料理スキルがない冒険者でも高確率でレベルの高い料理ができることだ。料理によるステータス上昇、回復効果は馬鹿に出来ないモノであり、2月14日にはココニアの実の値段は上昇するので早めに購入しておいた方がいいだろう

 

 

なぜこうなった!狐の錬金術師:上級編 より抜粋…

 

 

「今回の見出しはコレで決まりでありんすな~?しかし……」

 

彼女は書き綴っていたペンを止めると林檎に良く似た木の実…ココニアの実を手に取った

 

「ツッキーの時も思いんしたが、テキストフレーバーが意味を成す様になったいまぁ~、これは面白い事になりそうでありんすね~」

 

手に持ったココニアの実のテキストフレーバーに書かれた一文『特定の日に好きな人に食べさせると願いが叶う』と言う部分をなぞりながら、彼女は笑みを深めココニアの実に齧りついた

 

「ッ!?………苦くてホロ甘い……恋愛の味でありんすな」

 

彼女は歯型のついたココニアの実を親の仇と思う程睨み付け、窓の外に投げ捨てた

外から「イタッ!?」やら「ポイ捨て禁止祭り」など聞こえてくるが、彼女は知ったこっちゃないと懐から出した林檎で口直しをするのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

Valentine dayとは本当は処刑遺功日で……狐は猫によって捕獲されました

 

 

 

 

水楓の乙女の初陣や遠征軍の帰還、裏ではシロエが資金集めを終えに北から帰還した事がまだ記憶に真新しい季節である2月……アキバの町は桃色の雰囲気に包まれていた

右を見てもハート、左を見てもハート……至る所に今日が特別な日である事を知らしめていた

 

そんなアキバの町を一組の男女…と言うか一組の雄雌が手に荷物を抱え剽軽に歩いてく

雄の方は両手に今夜の夕飯のオカズを持ち、雌の方は見せつけるかの様に大金を両腕に抱えていた

……だが、雌の方は雄に比べ不機嫌そうに顔を歪めてはいた

そんな雌を見かねた雄は気分を変える為にも話しかける事にしたのであった

 

「…くーち、そんな顔を歪めては幸せが逃げてしまいますにゃ?人間何事も笑顔が一番だにゃ~」

 

常に笑顔を浮かべている雄は、雌に言い掛けるが返答は鋭い視線と無言のプレッシャーのみ

足が止まり、下から横からと色々な角度から睨まれるにゃん太であったが、彼女のタメ息によって場の雰囲気が変わった

 

「……ご隠居は鬱陶しくありんせんか?」

「鬱陶しいとは……周りの雰囲気ですかにゃ?」

「うにゃ」

 

一つ頷いた後、彼女は歩みを進め続くようににゃん太も歩きだした

 

「何処も彼処もバレンタインで浮かれてありんす。おにゃごは、色気づいたタメ息をこぼし、殿方は期待が篭った視線をばら撒いてありんす」

「それほど今日と言う日は、男女の仲を進めるには特別な日ですにゃ。……普段、行動や言葉で伝える事の出来ない子に勇気が宿るにゃんだふるな日ですにゃ」

「そんなのは屁理屈でありんしょう?…なんともくだらん日でありんしょうか」

「くーちにとってはくだらなくとも他のみんなは違いますにゃ……それにバレンタインのおかげで一儲け出来たのではなかったのですかにゃ?」

 

そう言って、彼女の後ろを歩いていたにゃん太は彼女の横に並び、手に抱える大金に眼を移した

 

「うにゃ!これでシロエェェに林檎代を請求されても大丈夫でありんす!まったくチョロイ商売でありんした!」

「〈デザイナー〉ならではの特権ですかにゃ?…本来クエスト報酬でしか手に入らない〈新妻のエプロンドレス〉を量産するとは…」

 

彼女のやった事は至って簡単であり難しい事であった。……需要の波を読んだ商売

エルダーテイルにおいて料理を行うには〈料理スキル〉は必須条件であり、スキルを持っていない冒険者が料理を行っても謎のスライムが出来上がるのみ

料理イベントが発生してもスキルを所持していない冒険者にとっては興味があっても手が出せないモノへと変化してしまった……だがしかし、女性冒険者は今日この日、バレンタインだけは見逃せなかった

 

乙女が恋する男性に思いを告げる……その事が彼女達を燃え上がらせたのだ

くまのこになって料理スキルが所持できるアイテムを探し!探し!探した!

 

そして見つけたのだ!夢を現実にするアイテムを!

 

新妻のエプロンドレス(にいづまのエプロンドレス)

一時的なレベル低下と引き換えに、中級レベルの料理人スキルを得られる4年前にあった期間限定クエスト「キャリィの花嫁修業」のクリア報酬

全女性冒険者の夢を叶えたアイテムであったが、このアイテム自体が結構レアなアイテムだった為に値段は高額。なにより料理人系のサブ職を取らなくても調理が可能となる希少アイテムとして需要が高まっていたので市場に出回る絶対量が少なかったのだ。

 

その需要を上手く読んだのが、彼女であった

既に入手していたエプロンを解析・分解し、本物と変わりないエプロンの作成に成功したのだ

 

その名も……狐印のエプロンドレスッ!!

本来のエプロンドレスに狐のアップリケが付けられた本来のエプロンより可愛さが増したエプロンドレスなのだ!

 

後は簡単。書き上げた設計図をカラシンに売りつける、それだけ……

カラシンを選んだ理由はただ単に〈記憶の地平線〉本拠地から一番近い場所に本拠地を構えているから……

 

珍しい人物の来客に最初はカラシンも驚き警戒したが、彼女の差し出した設計図を見た瞬間に掌を変え、どこの商業ギルドにも渡してはならないと大金を積んでくれたのであった

 

「普段から今回の様に働いてくれていればウチのギルドも金銭的に余裕がでるというのににゃ~?」

「いやでありんす!働きとうないでありんす!」

「にゃにゃにゃ、お狐様の気まぐれだったと言う事ですかにゃ?……っと、あれはセララさんですかにゃ?」

「うにゃ~?」

 

ニャーニャーと二匹で鳴いていると見知った後姿が目に入った

二匹と一緒に〈ススキノ〉で共に生活した仲であり、大切な友人である小豆色をした髪の小柄な少女・セララは何やら露店の前で頭を傾げながら呻っていたのだ

 

露店の前で何を悩んでいるのかと気になったにゃん太はセララに話かけようとするが……駄狐の行動の方が早かった

 

「セラララララララララァ~!」

「きゃぁ!?」

 

手に持っていた大金をアッと言う間にストレージに仕舞うと、着物をバタつかせながら全力でセララに突っ込んだのであった

案の上、小柄な彼女では駄狐を支えきる事が出来ずに押し倒されてしまったが、駄狐はそんな事お構いなしと全力で頬ずりし始めたのであった

 

一方、セララはいきなりの事態に目を丸くさせたが駄狐の影から見えるにゃん太の姿にマズイ場面で出会ってしまったと顔を赤く染め上げた……決して駄狐の頬ずりのせいではない

 

「これこれ、セララさんの名前をミュージカルみたいに歌い上げてはいけないですにゃ」

「……うにゃ~」

 

いまだに暴走する駄狐の襟を掴み猫の様に持ち上げ、もう片方の手をセララに差し出すにゃん太は紳士の鏡と言って過言ではないだろう

 

「ありがとうございます!にゃん太さん!」

 

差し出された手を取り、お礼を述べるセララ。顔の赤みはさらに染め上っていた

 

「お二人は…買い物ですか?」

 

この二人が男女の仲を深めるデートをしているとは最初から思ってもいないセララは、当たり前の様に買い物をしていると思い、むしろにゃん太は兎も角、クーの方は恋愛と言う文字が全く浮かび上がらなく同時に仕事帰りとも考えられなかった為、選択肢が買い物しか浮かばなかったのだ

 

「そうですにゃ。吾輩は夕飯の買い出し、くーちはお仕事帰りですにゃ」

「くーさんがお仕事!?…明日は雪が降りますね!」

「そうですにゃ~」

「セラララは、買い物でありんすか~?」

 

雪が降ると言う件を否定しないまま、むしろ猫持ちのまま呑気に会話に交ざってくる辺り彼女の図太さを感じさせられるが、この二人にとって、もはや見慣れた光景とばかりに会話を続けた

 

「はい!私は、その~えーと……」

 

セララの声は次第に小さくなっていき、しまいには全く聞こえなくなってしまったが、目の前のココニアの実を見る限り彼女の目的を察する事が出来たと二匹は笑みを浮かべた

 

「ココニアの実ですかにゃ?ちょうどくーちとも話していた所ですにゃ」

「そうざんす。今日、ココニアの実をつこうた菓子を食わせんと殿方の暴露話が聞けると言うマジ!?ック!相手が夢でありんすね!」

「何か発音がおかしいですけど…そうですね!私も気になって見にきたんですけど……」

 

セララの視線の先には通常の3倍ほどに値上がったココニアの実が鎮座されていた

 

「今日は特に売れてますからにゃ~、在庫を全て売りつくすつもりにゃんでしょうね」

「明日には元の値段にもどりしょう」

「そ、そうですけど…今日中ににゃん太さんとクーさんに渡さないと…」

 

手をモジモジさせながら自身の手と自分達を交互に見ていくセララに二匹の笑みは更に深まった

 

「吾輩が…にゃんですかにゃ?」「わっちがなんでありんしょう?」

「ッ!?な、なんでもありませ~ん!」

 

二匹に詰め寄られた事によってセララの羞恥心は爆発し声を上げて走り去ってしまった

 

「…少しからかいすぎんしたか?」

「そうですにゃ~……セララさんから何が頂けるのか楽しみですにゃ~」

「そうでありんすな…あっ!こけんした」

 

二匹してセララの後姿を優しい目で見つめるのであった……

 

 

 

 

「そういうくーちは、作らにゃいのですかにゃ?」

「わっちのバレンタインは死んだでありんす」

 

……のであった

 

 

 

 

ホームに帰宅するやいなや、にゃん太は料理の指南をしてほしいと五十鈴に捕まり、キッチンへ籠ってしまった為、暇を持て余してしまった彼女は外で日向ごっこを決行していた

慌しく外出していくアカツキとミノリを見送りながらも春の訪れをあと少しと感じさせる陽気にウトウトとしかけた頃合い、一つの影が彼女を覗き込んだ

 

「ねぇねぇ!くーちゃん!」

「ん~?なんでありんしょうか~?てっちゃん」

 

シロエ達の帰還と共にアキバの町へやってきた〈レリック〉の男、てとら

なんでもカズ彦と思われる友人の推薦を受け、シロエや直継の人柄に共感し〈記録の地平線〉に加入する事を決めたと言う

 

「んもぉう~!てっちゃんは辞めてよね!僕みたいな正統派美少女アイドルが『てっちゃん』とか親父臭い呼び名だとイメージ崩れちゃうよ!て☆と☆ら☆ちゃん!て呼んでよね!」

 

その性格は、自称アイドルと言うだけあって愛嬌があり表情豊か且つ陽気な性格で、〈放蕩者の茶会〉を思い出させる。しかし、同じ陽気でもカナミとは違い裏がありそうな……どっちかと言うと腹黒い雰囲気を醸し出している

 

「うにゃ~…んで、何様でありんすか?てとっちゃん」

「ん~…惜しい!こんどぉは、てとらちゃんって言ってよね!ほぉら~ワンモアプ「黙れ糞虫が」……わぁお!好感度急降下!?」

 

自意識過剰且つあざとい言動が目立つ為………悪く言えばうっとうしがられる事も多い

そして、彼女の沸点は低い為、てとらは速い段階で彼女の逆鱗に触れる事になる

 

「偽りの形でしか己を出せぬ者に興味など湧かないわ……目障りよ、消えなさい」

「んもう!そんな事ばかり言うと眉間に皺がよっておばさ「情報書換・対象てと」ちょちょよっと!怖いよ!?恐ろしいよ!?なになに、情報書換とか!?危険な臭いがプンプンするよ!?」

「ッチ!」

 

いつの間にか、自身を囲む様に魔方陣が展開されている事に気づいたてとらは、魔方陣からピョンっと抜け出し、冷や汗を掻いたとばかりに袖で額を拭った

 

「こっわいな~……本当にカズ彦さんが言ってた通りだよ」

「……カズ彦が何を伝えたか事が知れるわ。……それで要件はなにかしら?三秒で言いなさい」

「えぇ~!三秒とか「3…2…」はい!カナミさんはシロエさんの彼女なのですか!」

 

〈くずのは〉に急かされるまま、訪れた目的を口にするてとらであったが、逆に〈くずのは〉の警戒心を刺激するだけであった

 

「……なぜ私に聞くのかしら?」

「いっや~?実際に二人に一番近い所にいたクーちゃ「誰が名前を呼ぶ事を許したのかしら?」……貴女の意見が聞きたかったんです。……しゅん」

 

12月のアキバ討伐レイドで仲間を信じお互いに信じあえる絆の大切さを知った〈くずのは〉であったが、自分のお眼鏡にかかっていないモノに対しては、心底警戒し微塵の隙もださい

 

……まだ加入して間もないてとらは、〈くずのは〉のお眼鏡どころではなくブラックリストに載っている為、人一倍、てとらを鬱陶しく思っているのだ

だがしかし、このまま帰ってもアカツキやミノリ達に質問されるのは目に見えていたので、ココでコイツに話し広めてもらった方がいいと判断した

 

「……周りがどう言おうと私は…〈放蕩者の茶会〉メンバーは全員、カナミを愛していたわと思うわ」

「わぁお!カナミさんってやり「黙って聞くか、死ぬかどちらがいいかしら?」はい!てとらちゃん黙ります!」

 

話の間にちゃちゃを入れるテトラを睨み付け、口を封じると〈くずのは〉は語り出す

 

「愛といっても幾千の愛があるわ。敬愛・信愛・友愛そして…憎愛。例えマイナス感情から生まれるモノであっても私達はカナミを愛していたわ」

「愛、ですか……まるで僕みたいな「………」はい!てとらちゃんお口チャックします!」

 

尚もちゃちゃを入れようとするテトラに今度は無言のプレッシャーを叩きつけ、テトラの口を封じこめる

 

そして睨んだ視線はそのまま、〈くずのは〉はテトラに質問を問いかげた

 

蝸牛(カタツムリ)

「…え?蝸牛(カタツムリ)って僕の事?」

「私と貴女しかいないのに他に誰がいるの?とうとう頭まで腐ったかしら?」

「……てとらちゃん泣いちゃいますよ?」

「『愛』と『恋』の違いは分かるかしら?」

「あれ?スルーですか?……う~ん、『愛』は、ためらわないこと!『恋』は……欲情すること?きゃぁ!」

「そうね」

「まさかの正解!?てとらちゃん大成「頭まで腐っている事はわかったわ」……くすん」

 

まるでテトラの答えなど最初から期待していないとばかりにバッサリと切り捨てる

 

「『恋』とは相手に下心があり、生まれるモノ。蝸牛が言った様に欲情や金銭目当てでも『恋』はするわ。でも…『愛』には真心がある。偽りや飾りのない綺麗な心。ありとあらゆる事を曝け出しても相手を思う事が出来る気持ち……これが『愛』よ」

「でもでも~、『愛』していても欲情はしますよ?」

「愛し合った仲であれば欲情と言う一方通行な気持ちは出てこないわ」

「そういうモノですか~」

 

〈くずのは〉の言い分に納得いかないと首をかしげる

 

「シロエがどう思うが、第三者から見ればシロエはカナミに愛していた『敬愛』と言う名の愛を……それが自分の気持ちだとわかっていないから他人に無い事をいわれてしまうのよ」

 

ふぅっと息をこぼし〈くずのは〉は立ち上がった

 

「…これで答えは出たかしら?」

「ん~…なんか話をズラされちゃった気がしますけどぅ、シロエさんはカナミさんと付き合っていないと言う事はわかりました」

「えぇ、貴方の頭でそれだけ理解出来れば十分よ」

 

柄を返し、ホームに戻ろうとする〈くずのは〉の後ろ姿を見ながらテトラは呟く

 

「…でも『恋愛』って下心も真心をありますよね?この場合どっちに付くんですかね?」

 

テトラの疑問は〈くずのは〉の耳に届いたようで、振り返る事もせずに答える

 

「『恋愛』は互いに抱いた下心を損得なしに受け止める事が出来る感情よ」

 

 

 

 

アカツキとミノリに挟まれギルド結成以来初となる三角関係に巻き込まれたにゃん太を二階から眺める二つの影があった

 

「……修羅場でありんすな、テトー」

「うん、修羅場ですね!ドキドキです!」

「ご隠居…気まずそうでありんすな」

「はい!ここはギャラクシ―ファックスズの出番ですよ!」

「なら…いくんすか?」

「えぇ、いきましょう!」

 

そして場をかき回す為、二つの影は修羅場に飛び込んだ……そして着地!

 

「この世に生まれた悩み・僻み・嫉みをリンゴ一つでビビッと解決!」

「例え白い車の友達に追われようと僕達はみんなの味方だよ!」

「リンゴ大好き!林檎大好き!I Love apple!アップルマスター!クー!」

「みんなの声援が僕の力になる!ギャラクシーアイドルてとら!キラ=☆」

「「ふたりはギャラクシーフォックスs!!!」」

「「「・・・・・・・・・・・」」」

 

某変身ヒーローの二人の如く、キメボーズを決めて降り立つ二人に三人は無言と言う冷徹な対応を見せるが、今この時、二人には恋する乙女達(アカツキとミノリ)が『面倒な二人が来た、邪魔するなよ』と訴えて来ている事が手に取るようにわかった

 

しかし、駄狐は止まらない!

 

「共同で作ればよいざんす~」

「え!?いまの流れでそれですか!?」

 

空気をガチで読まない狐に思わずミノリはツッコミを入れるが、当の本人は着物の袖をパタパタと振って名案だ!とばかりに小躍りをしている

 

このまま放置していてもいいが、二人の間に挟まれたにゃん太はただえさえ気まずい雰囲気を更に悪化させる二人を止める為にも現状を説明し退出してもらおうと考えた

 

「しかし、〈新妻のエプロンドレス〉は一着しかないですにゃ」

「ご隠居、ボケたでありんすか?わっち持っているでありんすよ?」

「でもくーっちの〈新妻のエプロンドレス〉は、分解して……あぁ、そうでしたにゃ」

 

思い返したとばかりに手を打つにゃん太を不思議そうにアカツキとミノリは見つめるのであったが、彼女が取り出したモノに対する対処は尋常ではなく速かった

 

「とぅるるんるぅ~ん、きつねじるしのえぷ~「老師!ご教授のほどよろしくお願いします!」ないでありんす!な、な、な、ないでありんす!」

「落ち着いて!アップルマスター!犯人は………この中にいるん!あは」

 

手に持っていたエプロンが突然と消え、慌てる彼女にテトラは、体は子供、頭脳は大人を自分なりにアレンジして悪乗りするが、三人は一向に構ってはくれない

 

 

そう、彼女達は遊んでいる暇はないのだ。既に彼女達の戦いは始まっているのだから……

 

 

 

 

 

NEXT テメェの本音を曝け出せ!でありんす

 




いまさらですが……

EX → くずのはの過去
いーえっくす → クーのお話しとなっています

本当はバレンタインデーに間に合わせたかった…


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いーえっくす: 2月14日!そう今日は!『グォレンダァァァ!!!』後篇

2013年から執筆を開始して1年4か月…等々50話に突入

これも読者の皆様のおかげです

しかし、記念すべき50話目がこんな話でいいのか……

まぁいいか、クーだしw












6.89(6,58)43 942 1023


〈ウァレンティヌス〉

 

3世紀頃のキリスト教の聖職者。正教会・カトリック教会・聖公会・一部ルーテル教会で聖人とされている。5世紀から15世紀までの千年間ウァレンティヌスは恋人達とは無関係の聖人であったが、15世紀、イングランドの詩人であるジェフリー・チョーサーが恋人とバレンタインデーを結びつけて以降恋人達の守護聖人のように語られる。

 

彼の逸話は、主にローマ皇帝クラウディウス2世が兵士の結婚を禁止し、ウァレンティヌスはこの禁令に背いて恋人たちの結婚式を執り行った。また彼は、結婚したばかりのカップルに自分の庭から摘んできたばかりの花を贈って二人を祝福した

だが彼の行為は皇帝を怒りを買い捕らえられ処刑されたのである

また監獄に居たとき、盲目の少女の眼を直したとも言われている

 

彼がなぜ、愛しい人にチョコを贈る日の起源になったのかは、ジェフリーの考えによるものだが、確かに彼は二人の仲を繋ぐ事の出来る聖人なのではないかと私は思う

 

なぜこうなった!狐の錬金術師:番外編 より抜粋…

 

 

「豆知識ででありんすな~?しかし……」

 

書き綴っていたペンを止め、にゃん太の指導の下、キッチンで奮闘する二人に視線を送る

苦戦しながらも〈ココニアの実〉をチョコにしていく二人の顔は真剣そのものであった

 

「恋の聖戦、勝者は一人だけ……どちらが選ばれようと悔いが残りんせんようにしてほしいでありんすね?」

 

彼女は本を懐にしまい込み、徐に立ち上がるとふらふらっと揺れながら玄関へと続く階段へと歩み始めた

 

「あれぇ~?どこに行くの、アップルマスター?」

「こなたの 部屋は甘ったるいでありんすぇ。 外の空気を吸ってきんす」

「了解!彼女達の恋の聖戦は僕が見ているよ!」

 

あ~い!と気が抜けた返事をして片手を挙げながら階段を降りる靴根は、バレンタインで浮かれるアキバの町へと解き放たれるのであった

 

「あれ?」

「どうしたのだ、ミノリ?」

「い、いえ。〈ココニアの実〉が減っています」

「……数え間違えではないのか?」

「くく、バレンタインは死んでいませんにゃ」

 

9本の尻尾に4の果実を隠しながら………

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

出来たでありんす!チョコレート風呂ッ!……狐は猫によって捕獲されました

 

 

 

〈大災害〉によって〈エルダーテイル〉に取り残された〈冒険者〉の男女の割合は男性が七割、女性が三割とも言われており、圧倒的に女性が少なく、男子に贈り物をすると言う羞恥心などが比較的に少ないゲームの中であってもチョコを貰えない男性は多く存在する

 

そんな中、2月14日の町の警備を任されたギルドの前には夥しい量のチョコの山とチョコを持ち、手渡す順番待ちをしている行列が出来上がっていた

聖戦に敗れた者達はその光景に血涙を流し歯を食いしばりながら眺め、行列に並ぶ者達は頬を染めながら自分の番を今か今かと待ち望んでいた

 

「ありがとうございます。大切に食べるよ」

「はい!ソウ様!」

「わぁ~!美味しそうなチョコですね!ありがとうございます!」

「きゃぁぁ!ソウ様!」

 

行列の先にいる人物は、〈円卓会議〉に席を置くギルドの長にして少年の顔立ちを残したイケメン武士・ソウジロウ=セタ……彼を『放蕩者の茶会』ではハーレム製造機と言う

 

「はい、時間が押しているから次の人~」

「えぇ!?もうですか!」

「ごめんね~………毎回の事だけど相変わらず凄いモテようだねぇ~、ソウジ?」

 

彼のサポートとして某握手会の剥し人の如くソウジロウから女性を剥すナズナはため息交じりに後ろに積もれた山を見上げた

 

「みなさんのお気持ちがこもっていますからね?大切に食べさせて貰います」

「これ全部か……アンタ大丈夫なのかい?」

「甘いモノは好きですから」

 

とてもではないが、甘いモノが好きで済むような量ではないのだが、目の前の少年は毎年、この量のチョコを食べきっているのだから凄い。

 

「…あたしゃ~、こんな量のチョコは、見ただけで胸焼けするよ」

「そうですか?でも、チョコだけではないですから……ほら、クッキー」

 

徐に山の中から一つの箱を取り出し開けてみると、綺麗に焼かれたクッキーが納められていた

ソウジロウに言われ山の一部を覗いて見ると確かにチョコだけではなく、焼き菓子やキャンディー、果物や鮭など色々なモノが包装されているようであった

 

「だとしても全部甘いモンだろ?私は体重を気にしちまうよ」

「え?ナズナはスタイル良いですよ?むしろ少し太った方がいいんじゃ……」

「ソウジ~?……それ以上言ったらお姉さん、怒るよ」

 

ソウジロウに笑顔と青筋を浮べながら頬を引っ張るナズナは投げやりに「次の人」と声をあげたが、いつに経っても人の列が動く事はなかった

 

「ん~?次の人~、時間が押してますからどうぞ~?」

 

まさか今年はコレでお終いなのかと思ったが、そんな事はない

ギルド仲間の話では、行列は町まで続いており後2時間は続くと連絡があったのだ

不思議に感じ、列の先頭で待つ女性に直接話を聞こうとしたのだが……まるでこちらが見えていないのか隣の女性と談話を続けていたのだ

 

流石に、二人は異常な事態が起きていると察し身構えた

衛兵システムの停止により、戦闘行為を行っても衛兵が召喚される事はないが、戦闘に移行してほしくはないのが本音。なるべく穏便に対処したいものだが、ここは大勢の人々が集まった〈西風の旅団〉のホーム前。……犠牲者がでるのであれば容赦しないと互いに武器に手をかけた

そして……自分達の後ろ、お菓子の山へと二人は同じタイミングで獲物を振り向いた!

 

……が、視線の先にはアップルパイを貪る一匹の狐

 

「「………はぁ~」」

 

2人は、それぞれ安堵の息をこぼした。この異常な出来事を起したのが目の前でアップルキャンディーを貪り砕く狐が起こした事態だと思うと妙に納得してしまうのだ

 

武器をしまい、いまだに林檎の蜂蜜漬けを舐め啜る狐に声をかけた

 

「クーさん、こんにちは」

「むしゃむしゃ…ぺろぺろ…」

「何時からいらっしゃったんですか?……たぶん、先程だと思いますけど」

「もきゅもきゅ……ズズズ……」

「流石ですね?これ…周囲の視野や気配をズラしていますよね?これがクーさんの口伝なんですか?」

「バリバリ…も「いい加減にしな!」ッ!尻尾は反則でありんしょう!」

 

いくらソウジロウが話しかけても返事を返さないで林檎系のお菓子を食べ続ける彼女に腹を立てたナズナは、彼女の尻尾を引っ張り無理やり菓子の山から引きづり降ろすのであった

だかしかし!手に持った林檎を放さないのは彼女クオリティー!

 

「こんな大規模な口伝は流石は〈くずのは〉!……って言いたい所だけど、アンタの事だ。順番待ちの列を見て嫌気がさしたんだろ?くだらない事に口伝を使ってんじゃないよ」

「どう使おうとわっちの勝手でありんす?もきゅもきゅ……」

「はぁぁ……手に持った林檎をまず放そうか?……それでアンタもソウジにバレンタインチョコをあげにきたのかい?」

「え!?クーさんから貰えるんですか!嬉しいなぁ~」

 

大方、昔馴染みの『放蕩者の茶会』メンバーであるソウジロウに届けに来たのだろうとナズナは訪ね、ソウジロウも意外な人物からチョコが貰えると思い素直に喜んだのだが、彼女から帰ってきた言葉は二人の期待するモノとまったく異なっていた

 

「わっちが?ハーレム小僧に?ハッ!尻尾でお湯を沸かしんす!」

 

――――まるで加工場に送られる豚を見る目であった

可哀そうな、それでいて醜いモノを見る様な視線、本当に対象の人物が嫌いじゃないと向ける事がない視線である

 

では何をしに?と首を傾げる二人であったが、彼女がナズナに向って投げ渡された物体によって彼女が何をしにココまで来たのかわかる事になる

 

「っと!これは……〈ココニアの実〉?加工も何もしていないじゃない!」

「ってクーさんがいない!?」

「あの~…まだですか?」

「口伝も解けてる!?」

 

投げられた〈ココニアの実〉に意識が向いた一瞬で、彼女は消えて無くなり、周囲も先程のやり取りなど知らないとばかりに動き出したのであった

 

いきなり動き出した行列に戸惑いながらも今度、飲みに誘おうと思うナズナであった

 

 

いきなり消える!これこそ狐クオリティー!!!

 

 

 

 

「きょうはな~?バレンタインなん。それで……ジャジャーン!私から直継やんにあげる」

「おぉ!マジか!マリエさん、ありがとう!」

 

場所は変わり、アキバでも有名な世界樹の元に二人の男女が向かい合い、女性が男性にチョコを渡していた

 

アキバのヒマワリこと〈三日月同盟〉ギルドマスター・マリエールと〈記憶の地平線〉所属の守護戦士・直継だ。二人の関係は秋の運動会の時から噂が流れており、彼女の所属するギルドでは付き合うまで秒読み?まさか既に!?と囁かれる程に有名なのだ。……交際している可能性は高いが、二人を物陰から見守る青年の為にも只の友達という可能性を残しておいてあげたい

 

 

そんなことより、マリエールからお菓子を貰った直継は、すぐにその場で中身をあけ食べ始めた

男性には貰って直ぐに食べるのは恥ずかしいと後で食べる意見が多数を締めていると言うのに、なんの抵抗も無しに本人の目の前で食べ始める直継は普段の様子では想像できないが、モテ男としての条件をクリアしているのではないだろうか?

 

マリエもまさか、その場で食べてくれるとは思っていなかった。いや、願っていたのだが、いざ目の前で食べてくれると嬉しさと恥ずかしさから照れを隠す為に背を向けてしまう

 

「それでな?私、思ったんよ…直継やんは、私の事どう思っているのかなって?」

 

恥じらう乙女と化したマリエールは、モジモジと手をくねらせながら頬を赤く染めて気になる相手の返事を聞こう言葉を口にしたが、直継はそれどころではない

テキストフレーバーに力が宿った現代、〈ココニアの実〉は、期間限定だが強力な自白剤へと変貌を遂げて直継は操られるがままに、「お、お、お、」と連呼している

 

ここで「おパンツが好き」とでも言った日には二度とマリエールに顔を見せる事は出来ない、二人の関係も影が差してしまう。そんな危険な状況の中―――――

 

「お、お、おぱ、おぱん「言わせねぇ祭り!でありんす!」グハッ!?」

「くーちゃん!?」

「何時ぞやの借りは返しんした!そいで!」

 

――――1匹の狐が、直継の頭を蹴り飛ばしインターセプターを果したのだ

いきなりの狐の登場に驚くマリエールの心境など関係ないとばかりに彼女は、マリエールに体を向けると眼を光らせながら彼女の胸に顔を埋めるべくマリエールに向かって走り出した――――

 

「行かせねぇ祭りだ!」

「ひでぶ!?」

 

――――が、幾千の頭部襲撃(ツッコミ)のおかげでリカバリーの速くなった直継の手によって逆襲のインターセプターが果されてしまった

慣性の法則よろしく、いきなり首襟を掴まれた彼女は、勢いをつけたまま首を引っ張られ直継の手に捕まれた猫の様にグッタリとうな垂れた

 

「油断も隙もあったもんじゃねぇな!なにするつもりだよ、パンツ神?」

「ま、まりーに……贈り物で…ありんす…」

「ん~?うちに?直継やん、放してあげてぇ」

 

直継の手から逃れた彼女は、尻尾の中から〈ココニアの実〉を取り出すとマリエールに手渡し、凄まじいダッシュで走って、そのまま世界樹でクイックカーブ、その後、ひょっこりと木から顔を出してこちらを盗み見る行動にでた

 

「友チョコでありんす~」

「……え?友チョコ!?くーちゃん、おおきにな~」

 

彼女の奇行に最初は戸惑っていたマリエールも友チョコと言われれば彼女の行動は理解もできるし、女子高出身だった事もあって女子同士のチョコのやり取りに何の抵抗もなかった……チョコではなくチョコの原料である事は謎であったが

 

「そうや!くーちゃん、アメちゃんいるかぁ~?美味しいで」

「後で取りに行きんす」

「ありゃ?」

 

いつもの彼女であれば甘いモノと林檎があれば直ぐに寄ってくるのだが、今日に限り一向に木の影から出てこようとはしなく、此方の様子を窺うのみであった

 

「どうしたん、くーちゃん?」

「らしくないぜ、パンツ神?」

 

2人もいつもと違った行動をとる彼女を不思議がり声をかけるが、狐が口にした言葉によって羞恥心が爆発する事になった

 

「……わっちの事は気にせずに続きをしてくんなまし?わっちは影ながら見守りんすによりて!そ~れ!キース!キース!キース!」

「くーちゃん!」

「小学生かテメェは!」

 

マリエールはその場で顔を真っ赤に染め、直継も顔を赤く染めているが、彼女を取っちめる為に世界樹へ近づいていったが、既に狐の姿はどこにもなかった………

 

 

いきなり消える!これこそ狐クオリティー!!!

 

 

 

 

アキバから遠く離れた西の地に、この世界には不自然な装甲車をビルの上から眺める二人組がいた

 

一人は、浪士風のボサボサした総髪の男・カズ彦、もう一人は緑色の髪に『蛙』と書かれたTシャツを着た男・KR

この二人は元『放蕩者の茶会』であり現在は『Plant hwyaden』に所属し『十席会議』においては、第七席と第九席に席を置く権力者であった

 

「まだ見ているのかい?……いくら信用出来ないからって用心し過ぎだよ?」

「………」

「納得出来ないのは、わかるけど今の俺達は『放蕩者の茶会』ではなく『Plant hwyaden』だ。割り切ろうぜ?」

「………」

「はぁ~」

 

いくら話しかけてもカズ彦から返事は返ってこない、ただ一心に装甲列車を見つめるのみで、流石のKRもこの状況にはタメ息しか出て来なかった

どうしたモノかと頭を抱え彼の興味を引く事の出来る話を探して……ある人物が思い浮かんだ

 

「そう言えば、前にカナミがヤマトに向っているって話をしたのって覚えてる?」

「あぁ…………ッ!まさか!?」

「いや、カナミから連絡は来ていない。あの時は言ってなかったが……俺達の旅には一人、同行者がいたんだ」

「……同行者?」

 

以前の話では、カナミが〈エルダーテイル〉に復帰をしており各地で出会った仲間とヤマトに向って旅をしていると言うモノであった

〈大地人〉のエリアス、NPCのコッペリア、中国サーバーで出会ったレオナルド。

その他にもKRが意図的に隠した、伝えなかった人物がいると言う事は、今後カナミと合流する際に力になってくれて尚且つインデックスに存在を知られてはいけない人物。そして……俺達が知っている人物と言う事だ

 

盗聴されていないか辺りを警戒し、KRに続きを促した

 

「……誰なんだ?」

「本人には言うなって口止めされていたんだけどね?……仕方ない、特別だ。神出鬼没・天真爛漫・天上天下唯我独尊!カナミの右腕と言っても過言ではない人物!その名は「わっちでありんす!」ツぁぁぁぁぁ……」

 

人は目の前で予想もしない出来事が起きると思考が停止すると言われている。それは脳が事前に予想していた出来事以外の結果が起った際に混乱しない為の処置だと言われている

カズ彦も例に漏れず、いきなりビルの上から紐無しバンジージャンプを決めたKRと彼を突き落す形で現れた旧友に完全に思考を停止させたのだ

 

「口の軽いヌシには、お仕置きでありんすぇ……んにゃ?kingカズじゃありんせんでありんすか!!元気にしていんしたかぇ?お~い、king~?」

 

自分の目の前で手を振る狐にもビルの下から「飛び降り自殺だ」や「駄狐!テメェ!」など色々と聞こえてくるが、彼の耳には届く事はなかった

彼の頭の中には、旧友であり恩師でもある彼女がなぜいきなりこの場にいるのか不思議でならなかったのだ

 

そんな中、一向に動く気配を見せないカズ彦に飽きたのか、彼女は彼の手に〈ココニアの実〉を握らせると段ボールを被りながらその場を後にしたのであった

 

 

これが狐クオリティーの真実!!!

 

 

 

 

暗く―――冷たく――――1寸先も見えぬ暗闇に一匹の狐は毛布に包まりながら寝息を立てていた

 

朝起きた時には、町が色めいており〈冒険者〉や〈大地人〉と身分も関係なしにみんな笑顔を浮かべていた

朝食をとり、今日がバレンタインデーだと気付いたのは再び毛布に包まり惰眠を取っている頃である

 

みんなが楽しそうに、幸せそうに今日と言う日を楽しんでいるが、自分にはチョコをあげる人はいない―――いや、今は傍にいない

 

彼にチョコを渡したい、なんなら私を捧げたい!

 

思う気持ちが先行し町へ出ようとしたが………インティクスに捕まった

貴女には関係の無い事、貴女の気持ちは届かない―――そんな事は自分が良く知っている事だが他人に言われれば自然と涙が出て来た

 

せめて夢の中だけでも貴方にこの思いを伝えたい!

覚めてしまった眼を再び閉じれば町もいつも通りの色に戻っているだろうと思い眼を閉じかけたが――――

 

目の前に置かれた〈ココニアの実〉と手紙に体が飛び上がった

 

いつのまに?だれが?まさかインティクスが?

不安と期待で振るえる手を必死に動かし手紙を開く。そこには―――

 

 

『 愛しの濡羽へ私の気持ちを込めて…… byくずのは 』

 

―――――と一文だけ書かれていた

 

濡羽は、舞い上がりそうになる気持ちを押え込みながら〈ココニアの実〉を胸に抱いて毛布に包まった

 

あぁ、私を思うって頂ける貴女にも夢で良いから会いたいと思いながら―――――

 

 

 

 

「ただいま~もど~「僕はカレーが大好きだ―――!!!」わっちは林檎が大好きでありんす――――!!!」

「対抗してんじゃねぇよ!駄狐!」

「ふでぶ!?」

 

帰ってきて早々に奇声をあげるシロエに感化され連れられて彼女も声を上げたが、直継に頭を叩かれた

目尻に涙を浮かべ頭を摩る彼女は、自身を叩いたのが直継であった事に驚きを露わにした

 

「んにゃ!なぜになしてパンツ君はココにいるでありんしょうかぇ!?」

「あん?そりゃ~、ココが俺の帰る家だからだよ」

「違いんす。今日はマリーとにゃんにゃ「言わせねぇ祭りだ!」ひでぶ!」

 

先程とは比べものにならない強さの拳骨を落とされ彼女は地に伏せるが、彼女はへこたれない!なぜなら彼女は狐であるから!

芋虫と同じ方法でニョキニョキと床を這いずりテトラの方へと近づいていったのだ

 

「テトー…どうでありんしたかぇ?」

「ん~……失敗?結局、にゃん太さんに美味しい所を持って行かれたって感じ?」

「そうでありんすか~」

「それより今のあっぷるんの方が蝸牛みたいだよ?」

「わっちは狐でありんす~」

 

9本の尻尾を振りながら狐だとアピールする彼女ではあるが、いまだに地べたにΛの字で動き回る彼女は9本の尻尾が甲羅の様に見えて蝸牛と言われても仕方がない……むしろ尻尾が9本もある狐は狐とは言わない

 

「くーち、くーち」

「なんしょうご隠居?」

「汚いから起き上がるにゃ。お客さんですにゃ」

 

ウダウダと部屋中をΛ_Λ_と動き回る彼女であったが、流石に階段を芋虫走行で降る事は出来なかった様で手摺に跨り、スリ落ちて一階へと降りて行った

下でにゃん太に着物の裾が捲れると小言を言われるが、聞き耳を持たないとばかりに玄関へと向かった

 

玄関の先には、見知った顔の今朝〈ココニアの実〉の店で見かけた少女が両手一杯に花束を持って彼女が出てくるのを待っていた

 

「こんばんは!……え、ええっと今日はバレンタインでお二人にもチョコをあげようとしたんですけど、もう〈新妻のエプロンドレス〉は売ってなくて…それで……これを!」

 

徐にセララは、にゃん太に鮮やかな紫色の花束を、彼女には林檎の様に真っ赤な花束を手渡してきたのだ

予想していたとは言え実際に色鮮やかな花束を受け取った2匹は満面の笑みを浮かべながら愛おしく花束を抱きかかえた

 

「ありがとうございますにゃ、セララさん。大事にしますにゃ」

「甘いモノに飽きていた所でありんした。ありがとう、セララララララ」

「にゃん太さん、くーさん……『ラ』が多いです」

 

何気ないやり取りだが、この関係は〈ススキノ〉に囚われていた頃から続く彼女達だけのやり取り、変わらず変わる事のない関係を表しているようでセララも2匹に連れられるように笑みを浮かべた

 

すると花香を嗅いでいた狐はピクピクと鼻を動かし二階を見上げた後、にゃん太に視線を移し、八重歯を見せながらにゃん太に話しかけた

 

「ご隠居、今日はカレーでありんすね?セララララも誘うよろし!」

「それは名案ですにゃ!…セララさん、どうですかご一緒に?」

「はい!」

 

にゃん太に手を引かれセララは、終始笑顔を浮かべながら階段を昇って行くのであった

 

 

 

 

 

NEXT 模様替え?……っは!わっちの毛皮を剥ぐつもりでありんしょう!

 




おまけ

鉢植えの前に3人の影……『記録の地平線』では狐組と呼ばれる駄狐に師事を受けてしまったモノ達だ

「ルンパッパ!リンリン!師匠命令でありんす!」
「なんだい、ミストレアス?」
「この花の世話をするがよろし!」
「わぁ!綺麗な花ですね!」
「わっちの大切なモノでありんす!頼みんしたよ?」

上機嫌で二人の間を通り過ぎる師匠に笑みで答える弟子達であったが……

「枯らしたら……わかっているでしょうね?」

すれ違いざまに呟かれた言葉に背筋を凍らせるのであった


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EX :男女

ココに来て番外……気軽に書こうと思ったら思ったより難しく投稿が遅れるという愚かさ……プロットはしっかり立ててから書こうと思いました


 

この世には大きく別けて二種の性別が存在する

 

XY体とXX体……男と女……

 

生れいずる時は、例外はあるモノの……必ず二種に分類される…

 

生命の情報遺伝子(データ)の塊………人間の可能性を司る男……

 

生命のゆりかご……生命の神秘を司る女……

 

異なる二つの性が交わり合う事で新たな生命が誕生する……

 

しかし、自身の性別を偽り非生産的な好意をする異端者が居るのも事実……

 

気持ちは判らずもないが……もし……XY体の男が求めて来たら……

 

私は受け入れるのであろうか……?

 

 

 

 

 

 

ログホライズン~わっちがお狐様でありんす~

 

番外  気になるあの子は腹黒眼鏡

 

 

 

 

アキバの町、東端の一角にある冒険者が交流の場として存在するカフェに置いて特に予定も無く、いつも通り、やる事もやる気も起きないまま、ただ〈飲酒〉と言うアクションを使い続け暇潰していたのだが………今日に限って騒がしいバカナミではなく、珍しい人物が私と相席をしていた

 

「賑やかですにゃ~」

「先週『ヘイロースの九大監獄』が実装されたからね……日曜の朝ぐらいは静かにして欲しいわ」

「日曜の過ごし方も人其々ですにゃ」

 

いつもの私であるのであれば、相席は絶対に許さない

此方の話を聞かずに勝手に相席するバカナミは、既に諦めた、インデックスの様に事前にアポイントを取って相席するのも十歩譲って譲歩する、飲み仲間であるナズナは酒の席と言う事で相席を許している

 

それ以外は、例え〈茶会〉のメンバーであっても相席を許すつもりはないと言うのに、私を見かけるや否や相席してきた猫は……相席を許した三人とはまた違った時間を私に与えてくれた

 

ただゆったりと時の流れに乗って互いに一言二言、言葉にし実装されたばかりのクエストへ向かう若き冒険者を眺めるだけ……

知り合った頃から他の〈茶会〉メンバーとは違い気配りが出来、落ち着きのある男性だとは感じていたが、この私に対しても気を配る様子を見る限り………本当に紳士なのだろう

 

活気あふれる町中を互いに眺めるだけなのだが……騒がしくも苛立如くも愉快でもない。

でも、自然と心が落ち着く空間が出来上がっていた……

 

「くずのはっちは、今日の予定はありますかにゃ?」

「あったとしてもここでやる事ではないわ」

「そうですかにゃ」

 

決して深くは、踏み込んでは来ない、私の領域に入らず傍らに立ち穏やかな気分にさせてくれるにゃん太の雰囲気は……嫌いではなかった

もし、にゃん太が再び相席を希望して来たのなら許可するのも一興。

新たな楽しみを与えてくれた隣人に感謝しながらも〈飲酒〉のアクションを起こそうとし――――

 

「クーちゃん!いますっごい人いたんだよーーー!!!!」

 

周りの視線を集める程、大きな声を上げながら此方にやって来る馬鹿を見て〈飲酒〉ボタンの下にあった〈頭を抱える:二日酔い〉を押してしまった

私の心境とマッチしていたので、特に訂正はしなかったが、私としては〈頭を抱える:二日酔い〉ではなく〈頭を抱える:困難〉を押したかった

 

 

「……」

「予定が出来ましたね、くずのはっち?」

「……言わないで。それと『っち』付けは辞めなさい」

 

おおよそ、バカナミが私の隣に腰を下ろす読んだにゃん太は席を立ち、私の後ろに控える形でバカナミを迎える様だ。……構わないから私の隣に居なさい、バカナミに気を使う必要はないわ

 

此方の気も知ったこっちゃないとばかりに、許可も無く私の隣に腰を下ろしたバカナミは眼を輝かせながら、ぐいぐいと私に近づいて来る

 

「でねでね!その子っと!班長、おはよー!」

「おはようございますにゃ、カナミ譲。それで、何が凄かったのですかにゃ?」

「おっぱい」

「「……」」

 

『コイツは日曜の朝っぱらから何を口にしているんだ』

2人の心境は偶然にも同じ言葉が過った筈。しかし、2人とも声に出さずに〈くずのは〉は、ため息をこぼしながら〈飲酒〉アクションを起こし、にゃん太は苦笑いのまま〈くずのは〉と同じく〈顎を摩る〉アクションを起こしていた

 

「おっぱいが凄「黙りなさい」っかたんだよ!」

 

2人は呆れて行動アクションを起こしていると言うのにカナミは、2人が聞き逃したと勘違いしたのか、もう一度、口にするが〈くずのは〉がカナミの言葉を遮っても彼女の発言を止める事が出来なかった

 

「にゃぁ、胸が大きい人は沢山いますにゃ。カナミ譲は、他にも気にゃる事があったのですかにゃ?」

「うん!よく分かったね、班長!なんとその娘ってシロくんにすっごい似てたんだ~」

「「…………」」

 

カナミが異常に興奮している原因は、胸が大きかった女性が〈放蕩者の茶会〉のメンバーである青年に似ていたと云うだけであった

 

「くだらない」

 

〈くずのは〉はカナミの言葉に一瞬、言葉を失ったが直ぐに吐き捨て大きくタメ息をこぼし、そして、これから自分に降りかかってくる不運に頭を抱えた

 

「もしかしたらシロエの妹かも!これはみんなに知らせなくちゃ!」

「……貴女の事だからもう連絡済みなのね」

「うん!と言う事でシロくんの妹探しへGO!」

「待ちなさい」

 

既に自身が捜索に巻き込まれている事を悟った〈くずのは〉は暴走するカナミを引き止めた

 

「闇雲に探すのは愚策だわ……その娘の情報は他にあるかしら?」

「え?おっぱいが大きかったよ!」

「このッ!」

 

いい加減胸から離れろ!と爆発寸前の〈くずのは〉を抑え込んだのは後ろに控えていた紳士猫

〈くずのは〉の気がカナミから逸れる様に大袈裟に一歩踏み出した

 

「カナミ譲、その女性の装備は覚えてますかにゃ?」

「え?シロエと同じだよ」

 

増えた情報は曖昧なモノであったが、にゃん太のおかげで冷静さを持ち直した〈くずのは〉は、シロエの装備を思い出しシロエ似の娘が行きそうな場所を推測していった

 

「シロエと同じと云う事は魔法職ね……そう言えば『ヘイロースの九大監獄』に合わせて期間限定の召喚獣が配信されていたわね?」

「にゃるほど……召喚獣は勿論ですが、〈召喚術士〉の装備は〈魔術使い〉や〈法師〉も装備出来ますから確率は高そうですにゃ」

 

メインは召喚獣だとしてもドロップアイテムは、魔法職関係のアイテムが出る筈とふんだ二人はストレージを確認しながら、フィールドへ出向く為にカフェから退出する

2人の後をついて行くカナミは、そんなクエストやっていたんだと思いながも〈くずのは〉に声をかけた

 

「そのイベントってどこでやってんの?」

「〈英雄陵〉……グリフォンを使うわよ」

 

ハーフプロジェクトで1/2となったとしてもアキバの町から〈英雄陵〉まで、約1.5km。決してグリフォンを使用してまでも出向く距離ではないのだが、朝から頭を抱える事が多かった〈くずのは〉に徒歩での移動は頭の中から無くなっていた

 

太陽が顔を出したばかりの時刻、朝日には三匹のグリフォンの影が照らされるのであった

 

 

 

日曜の朝と言う事もあり、〈英雄陵〉には多くの〈冒険者〉が集まっていた

そう多くの〈冒険者〉が集まっていたのだ

 

「……」

「にゃぁにゃぁ、そう不機嫌ににゃらなくても」

「貴方のその言葉使いも腹にくるけれど、自力だと達成できないからと声を掛けてくる輩ほど苛立つモノはないわ」

 

目的地に着いた三人を待ち構えていたのは、必要以上のパーティー勧誘であった

そもそも〈新皇の帰還祭〉の舞台ともなる〈英雄陵〉は、イースタル方面の守り神として篤く信仰される古の英雄が祀られた墓所と言う事もあり、ダンジョンボスはヤマト最強の怨霊の一角。それに合わせダンジョンの難易度は、高めでLVがカンストしたプレイヤーがパーティーを組まなければ攻略は難しく、ソロプレイヤーには鬼門とされるダンジョンであった

 

そして〈召喚術士〉は、冒険者の他に自身が使役する召喚獣が壁の役割をするので、その性質上ソロプレイヤーが多く孤高なる戦士には人気がある職業なのだが、今回は完全に裏目となる場所でのクエストとなってしまっていた

 

そんな所にLVカンストプレイヤーが3人も訪れば、これは好機とばかりに我先にとパーティーの申請をしてきたのだ

 

申請の返事は、にゃん太が行っていたとは言え、止まる事のないパーティー申請に彼女は、苛立ちを積もらせていたのであった

 

「あっ!ソウジロウと直継じゃん!おっはよー!」

 

そんな群がる虫を器用に避けながら目的の人物を探すカナミは、目的の人物ではないが同じ〈茶会〉メンバーを見つけ声を上げた

 

「おはようございます、カナミさん。お二人も」

「おはようございますにゃ、ソウジっち」

「………」

「……あれ?僕何かしましたっけ?」

 

カナミの後に続き二人も直ぐに合流するが、挨拶を返してくれないのは仕方がないとしても不機嫌そうに顔を歪めている〈くずのは〉にソウジロウは早々なにか彼女の癪に触れる事を仕出かしてしまったのかと頬を掻きながら過去のチャットログを遡ろうとするが、直継がすっと前に出てソウジロウに声を掛けた

 

「お前は何も悪くねぇよ。ただ、〈くずのは〉も女の子だってことさ」

「女の子、ですか?」

「おう!今日の〈くずのは〉は生「ふっ!」っぁ!?フレンドリーファイア禁止祭りだぜ!」

 

直継の言葉を遮る様に振り降ろされた扇子が風を切るエフェクトと共に直継の首元を通過していった

 

「1つ、敬意を払う相手には敬称をつけなさい。2つ、異性に対するマナーがなっていないわ。3つ、今すぐ死になさい」

「今すぐ死ねってひでぇ!そう思わないか、はん、ちょう?」

 

大きくリアクションを取りながら後退り、同性であるにゃん太に助けを求めるが、助けを求めた先の人物は『♯』マークを浮べながら両手でバッテンマークを作っていた

 

「今のは直継っちが悪いですにゃ。例えそうであったとしても口にはしてはいけにゃい。女性は、そういうデリケートな所でからかわれるのは快く思わないにゃ」

「うっ…」

「直継っちもまだ若いにゃ。失敗する事もあれば間違いも起こすにゃ。でも大切な事は同じ失敗はもうしないと学習する事だと吾輩は思いますにゃ」

「……すまん、〈くずのは〉!配慮が足りなかった俺が悪かった!許してくれ!」

 

直継として見れば軽い気持ちで云った事がココまで異性にとって嫌われる事だとは思っていなかった様で自身の失態に言葉を詰まらせ顔を歪めたが、直ぐに真剣な声色と共に〈くずのは〉に頭を下げた

にゃん太に諭されていたのを見ていた手前、〈くずのは〉も許す気があるようで――――

 

「許してくれ?『ください』でしょ?敬称も付けなければ、上からの云い様、終いには『悪かった』?…貴方の罪を私が許していないのに過去のモノへとしないでくださらない?鳥並しか無い脳味噌が熱で焼き上がるまで謝罪の言葉を考え私に伝えさない

あぁ、でも焼鳥って私……嫌いなのよ。良かったじゃない?焼鳥と同レベルで私の記憶に留まれるのよ?脳筋の貴方でもこれがどれだけ光栄な事なのか理解出来るわよね?出来ないのであれば貴方はゴミ虫以下ね。そもそも猫に逃げる時点で鬼畜以下、他人に気づかされなければ自身が悪いとも思わなかったでしょうね?まぁ、そこは猫の言葉を心に刻み精進すれば改善されるでしょう。猫の言葉を聞き心に刻む。脳筋な貴方でも出来る事よ?理解できるわよね?出来ないのであれば即刻消え去りなさい。それに――――」

「……」

 

―――――――――――全くと云って良い程、許す気がなかった

 

述べられていく〈くずのは〉の罵声にも感じる説教が、高速でログを掻き上げていき速読しなくては直ぐに前の文章が消えてしまう

直継も頭を下げた手前、彼女の言葉を無視する事は出来なく、律儀に〈くずのは〉の説教を音声チャットとチャットログの両方で聞き見ていた

 

そんな絶賛、説教中の直継を尻目にソウジロウは、にゃん太とカナミに声を掛ける

 

「それでお二人はどうしたんですか?ここはいま、〈召喚士〉がメインのイベントで……あぁ、〈くずのは〉さんの付き添いですか?」

 

ソウジロウもにゃん太達と同じ考えに至ったのか〈くずのは〉の方を見ながらカナミに云うが、カナミは首を振りながら『あれ?』っとクエッションマークを浮かべた

 

「もしかしてメールみてない?私達はシロエの妹くんを探してるんだよ」

「メールですか?ってシロ先輩って妹さんいたんですか!?」

「あぁん?シロには妹はいないぜ」

「そもそも、妹だと判明すらしていないわ」

 

〈くずのは〉の説教も終わった様で、重い足取りで此方に声を掛けてきた直継の声色はドンヨリと重苦しかった。それと対照的に〈くずのは〉の声色は今朝、にゃん太と話していた位までには明るくなっており、この場一番の機嫌の良さを感じ取れた

 

「にゃぁ、吾輩たちは、シロエっち似の女性を探しているんですにゃ。……そういうソウジっち達もイベントには関係ですがにゃ」

「僕達はシロエ先輩に手伝って欲しいって呼ばれたんですよ」

 

ソウジロウから口から出て来た第三者ににゃん太と〈くずのは〉は納得いったとばかりに頷く

確かにシロエなら有り得る話。魔法職であり、妙に収集癖があるシロエの事だからこのイベントの情報収集を含め、〈付与術士〉である彼は装備の性能がダイレクトに伝わる職業な為、現在装備しているモノより高性能な装備品を探しに来たと言われれば納得できた

 

「そうなんだ~!じゃぁ、今日は三人で回る予定なの?」

「おう!なんでも『あまり知られたくないから』ってシロエが云うからよ」

「……知られたくないって言われると知りたくなるよね?くーちゃん!」

「わかったわよ。……猫、貴方も来なさい。」

「わかりましたにゃ~」

 

むふふと笑いながらカナミは、〈くずのは〉に笑い掛け、笑い掛けられた〈くずのは〉は大きくタメ息を零しながら現状の装備を確認し、道連れとばかりににゃん太を誘った

 

「しかし秘密にする必要があるレイドですかにゃ?『ヘイロースの九大監獄』が実装されて影に隠れてますが、秘密にするようなクエストではないですにゃ」

「……淫猥な召喚獣」「手に入る訳でもな」「いわね」

 

ネットの情報でも漁っているのか〈くずのは〉の動きがぎこちなく、ログチャットも途切れ途切れになってしまっているが、口にする言葉はキレ切れだった

 

「シロに限って……いや、そこら辺はシロが来た時にでも聞こうっと!噂をすれば何とやら祭りだぜ。もうこっちに着くってよ」

 

〈くずのは〉の言い分に対し友達を不名誉な事から守る為にも口を開こうとして辞めた

ココで言い返せば先程の二の前になってしまう……ような気がした直継は特にシロエを庇おうともせずに苦笑するだけで終える事を選択したのだ

 

その選択は功を制し、〈くずのは〉の視線が自分から逸れたのを感じた直継は心の中で友達に謝罪しながらも届いたメールの内容をみんなに伝えた

 

シロエが『もうこっちに着く』と云うのであれば、既に〈英雄陵〉には付いていると言う事。シロエの目的も含めシロエ似の女性に付いてなにか知っているか問質そうとし―――

 

「お~い、直継~ソウジ~」

 

―――彼の声が聞こえた

 

「おう!こっちだ!実はさっきカナッ!!???」

 

声のする方に手を振りながらアピールする直継であったが、人混みから出て来たシロエの姿に驚愕し声を詰まらせた。同じくソウジロウも驚愕し、カナミとにゃん太は探し人を見つけ出した喜びと真実に大きく口を開け、〈くずのは〉は―――

 

「な、ななな、どうしたん「あはははははははははははははは!あーははははは!」爆笑祭り!?どうしたんだよ、〈くずのは〉」

 

インカムから聞こえる笑い声は、決して声を大にして笑う事のない人物の声であり、彼女の笑いと言えば微笑や苦笑と云った物静かで控えめな笑い声だが、インコムから聞こえる声は、その全てに当てはまらず、口を大きく開け、腹を抱えて笑っている事が想像したくはないが、……容易に想像できる光景であった

 

「くふ…ふふ…『さん』を付けなさい、脳き…ふふ…ふふふふふうふふ!」

「無理しない方がいいですにゃ?それで…そこのご婦人はシロエっちで良いですかにゃ?」

「あっ……うん、そうだよ、班長」

 

シロエではない姿だが、声はシロエ。

にゃん太は、確認の意味も込めて合流した女性に自分達の知る青年で合っているか窺うが気まずそうにシロエは肯定と答えた

 

「へぇ~!シロくん、ボインボインになっちゃって!わたしよりあるんじゃないの?」

「ちょっ!?カナミさん、女性キャラに対するセクハラは衛兵システムに引っ掛かりますよ!?」

「じょ、女性キャラって…く!ふ、ふふ、ふふふふふふ!」

「〈くずのは〉さんのツボに入っちゃったみたいですね」

 

笑いが収まらない〈くずのは〉を尻目にシロエは今尚衛兵上等!とばかりにセクハラ発言をしてくるカナミを押さえ、シロエらしい仕草をしながらタメ息を付くと開き直ってここに集まる〈茶会〉メンバーへと向き合った

 

「はぁ~…知られてしまったら仕方ありませんね。このキャラは僕のセカンドキャラです。レベルはカンストしていますが、このイベントで出現するレアエネミー、召喚獣『蒼褪めた馬(ペイルホース)』を手に入れたくて今は使用してます。名前はシロエの二番目、『ロエ2』です」

 

普通に『装備披露』のアクションを取ったつもりなのだろうが、使用した行動アクションは女性verのモノとなっており、、胸を張りながら自身のセカンドキャラを見せつけるその姿は装備や容姿ではなく一部の双子山へと視線を集めているようであった

 

「どうしたんだ、直継?」

「いや、たわわな胸に黒のストッキング。ボディラインがくっきりとわかるインナー……なんつーか、エロ祭りだな!」

「なっ!?」

 

先程の〈くずのは〉とのやり取りはなんだったのであろうか?

ロエ2を舐める様に見つめていた直継は、Goodと親指を立てながらロエ2のエロさを口にして笑った

 

本来ならば〈くずのは〉の雷が落ちると思われるが、当の本人は笑いが収まらず苦しそうにお腹を抱えそれ所ではない。年長者であるにゃん太も中身が男性な為、どのように対処してよいのか判らずひたすら顎を摩るアクションを繰り返していた

 

叱るモノはいない、咎めるモノもいない!

恐れる要因が無くなった無法地帯に置いて〈放蕩者の茶会〉リーダーが交ざらない訳がない!

衛兵システム上等!運営からの注告メールWelCame!……運営は少し困るがギリギリの線を攻めながらカナミもシロエ弄りに乗りかかった!

 

「もしかして……シロくん、巨乳好き~?あっ!今度、みんなに見せるからスクリーンショット取らせて!主に胸を!」

「なっ!やめてくださって!〈くずのは〉さん!なに撮っているんですか!」

「ふふふ、本当に有意義なオフになったわ。報酬に私もレイドを手伝ってあげる」

「くーちゃん今日オフなの?なら今日の夜、ご飯にいかない?」

「えぇ、いいわね?どうせならオフ会をしましょう。今日は気分がいいわ……御代は私とKRが持つわ」

「おっ?参加祭りだぜ!ソウジは~」

「僕は、不参加かな?未成年は居酒屋に入れませんし」

「そう、残念だわ。高級すき焼き店……予約したのに」

「「高級!?」」

「高級は心惹かれますけどやはり未成年が出歩いて良い時間ではないので今回は遠慮させて頂きます」

「……唐変朴が無ければ本当に青少年ね。まぁいいわ、あとは……シロエの為に色ボケ主婦でも誘おうかしら?確か…E「待ってください!というか勝手に話を進めないで!」

 

叱るモノが弄る側に付いた瞬間、〈茶会〉は暴走した

止まることなく話が進み、気付けばオフ会が行われる事が決定しており自分も参加する事になっているのだ

 

ゲームでもリアルでも発言力のあるカナミの提案!それを現実出来る〈くずのは〉の力!直継は既にノリ気だし、忍冬も旦那が出張中だと言っていたから必ず来るだろう

………知らぬ所で巻き込まれているKRに至っては『面白ければ大抵Ok』な人な為、〈くずのは〉に、この写真を送られては面白がって100%来るし弄りに来るだろう

 

今ここで参加を拒否する事は簡単だ……しかし『高級すき焼き』に心惹かれているのも事実だ!

 

不参加で通し弄られる事を回避するか、参加し弄られるが『高級すき焼き』を頂くか?心の中で一進一退の攻防を繰り広げるシロエはリアルで生唾を飲み込むが……

 

「まあまあ、落ちつくにゃ。」

「班長……」

 

シロエの心境を悟ったのかにゃん太はシロエに声を掛け、宣告した――――

 

「〈くずのは〉っちからは逃げられませんにゃ」

 

――――――――辿る道は同じだと。ならばとシロエは――――

 

「〈くずのは〉さん!場所は23区内ですか!?」

 

同じ道でもご褒美がある道を進む事を選択したのであった!

 

 

 

 

 

 

その後、何の問題も無く、いや妙にテンションが上がった〈くずのは〉のおかげもあって『蒼褪めた馬(ペイルホース)』の捕獲に成功した

 

そしてシロエの読み通り、急遽決行されたオフ会だというのに〈くずのは〉が声を掛けたKRと忍冬は参加し、なぜかKRの持ってきたタブレットからインデックスがネット参加して、〈くずのは〉が焼き廻してきた『ロエ2』の写真をKRが酒の摘みにしながら『えろ子』と言う名で各〈茶会〉へと配ったのであった

 



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いーえっくす: 異世界の果てまで行ってQ

注意事項

※一部、キャラ崩壊
※<狐と猫>まで読んでいた方が良いです
※原作と関係ありません
※作者の自己満足です

それでも良いなら……どうぞ



――――休載のお知らせ――――

 

現在、ネタが切れた為、執筆を停止しております

次回作の『青りんごは林檎ではない!』の更新をお待ちいただけるよう深くお詫び申し上げます

 

著作者:〈くずのは〉より・・・

 

 

 

「完璧にネタ切れでありんす」

 

室内だと言うのに緑あふれる一室において、駄狐は机へと伏せていた

理由は、簡単―――自身の書く本の話題が無くなった事に由来する

今までは、人物や地域、道具など書くモノは多く手が止まる事が無かったが、ここに来て完全に手が止まってしまった

 

「一年も書いていれば話題もなくなりんすね?……しかし、とて辞めるのも嫌でありんすなぁ?」

 

叩けば軽い音がしそうな頭を必死に動かし、打開策を考えるが、どうにもピンと来ない

あれでもないこれでもないと尻尾を揺らしている内に駄狐は禁忌の所業を思いついたのだ

 

 

曰く―――話題がある場所へ行けば良いのだと………

 

 

新しく作った武器(かがみ)と〈呼出水晶〉を取り出し、駄狐は禁忌の呪文を口にし、理を崩し始めた

 

「お出かけしたいと思いんす!わっちを甲子園へ連れてって?情報書換(オーバーリライト)!ゲート!」

 

激しい光が、室内を包み込み辺り一面を白へと染め上げる

ギルドタワーの異変に気づいたシロエが駆けつけてみれば、駄狐の姿はなく――

 

「取材してきんす!」と書かれた紙が机の上に置かれていたいたのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

IF伝・もしも~私に~翼があるのなら~

 

 

 

 

・林檎一つで即・参・上! 自由と怠惰を司るお狐様、降☆臨!で、す!

 

「先輩!光の環が三つ確認です!」

「うん、でも金色演出でないし…良くて4鯖かな?」

「4鯖?……でも、途轍もない魔力を感じます!」

 

ここは、人理継続保証機関・カルデア。

西暦2015年、人類の営みを永遠に存在させるために秘密裏に設立された秘密機関内において、彼らは、人類を守護するための戦い聖杯捜索(グランドオーダー)に身を投じていた

仲間は、数人。―――とある人物の破壊工作の被害を受け、生き残った数人で世界を救うと言う無謀とも云える戦いを強いられる事になったのだが、彼らには心強い仲間がいた―――

 

英雄

神話や伝説の中でなした功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者。そんな彼らを「英霊召喚システム・フェイト」の力を借りてサーヴァントとして召喚し、共に戦う仲間として力を借りる事に成功したのだ

 

そして、今もその儀式が行われていた………

魔方陣の周りを光の弾が回りだし、一つの輪となり、それが三つに別れた

今まで捜索し見つけ出した『聖杯』は、5つ―――多くの犠牲や新たな仲間を加え、英霊召喚にもとある法則が存在する事を見出した彼は、その法則的に今回呼ばれる英霊をある程度予想出来るまで至っていた。しかし、事は一変する―――

 

マ・ス・ター(旦・那・様)…?」

「ッ!?」

 

いきなり後ろから声を掛けられ、慄く彼は、思わず食していた林檎を魔方陣の中へと落してしまった―――

 

(ローマ)が、ロー「インターセプター!でありんす!」ッ!ローマは…永遠で、ある…」

 

消滅していくロムルスを尻目に、前回の『聖杯捜索(グランドオーダー)』に力を貸してくれたキャスター(玉藻の前)と似た様な面立ちをした狐の登場に場は一気に凍りついた

 

「ロムルスさんの消滅を確認……召喚の割り込み、なんてあるのでしょうか?」

『はっ!?ほ、本来なら一度、構成され召喚されたサーヴァントが再構成される事は無い筈なんだけど、彼はイレギュラーなマスターであるからね?……ありえるの、かもしれない』

「そう、ですか……」

 

逸早く正気に戻った彼女は、目の前で起きた有り得ない現象に対し助言を求めるが、帰ってきた答えは、曖昧なモノ。確か彼は、偶然居合わせたイレギュラーな形で契約を結ぶことになった人だがここまで、その異能ぷりを発揮するとは誰も想像は出来ないだろう

 

「……うにゃ?」

「えぇっと、貴女は、どちら様でしょうか?ッ!まさか……『タマモナイン』の一人?」

 

今も力を貸してくれており、カルデラの家事、料理、洗濯までも助けてくれているサーヴァントが、以前口にしていた『タマモナイン』と呼ばれる存在の一人では?と予想をつけた彼は、彼女のクラスを確認するが『キャスター』と表記されている事に首を傾げた

 

「『タマモナイン』は、9つのクラスで判れていると思ったけど、君はキャスター(玉藻の前)と同じでキャスターなんだね?」

「うにゃ?わっちは、『妖術師(キャスター)』でありんすかぇ……気にくわんでありんすか!」

「いや、そうではないけど……」

 

彼は言えなかった。

今、カルデアにいる英霊の半数がキャスターである事を………

ここは、セイバーやランサーのような火力のあるサーヴァントが欲しかったと………

 

彼女の見えぬ所で、肩を落とす彼だが、力を貸してくれる仲間が増えたと切り替えステータスを確認していく

 

「『道具設計』に『自由人』、それに『二重召喚』?」

 

気になるスキルがあるが、極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性『二重召喚』と云うスキルに彼の目が止まった

今も彼が、食べていた林檎を頬張る彼女は『キャスター』以外の三騎士を除いたクラスを持っている事に少なからず心が躍った

それは、マシュも同じで彼が口にしたスキルを聞くや否や彼女に詰め寄った

 

「凄いです!希少なスキルをお持ちなお方なんですね!さぞ、名のある英霊だと思います!」

「うにゃ?わっちは、英霊でありゃせんよ?」

 

しかし、彼女は彼らにとって爆弾発言とも呼べる言葉を口にした

英霊ではない?では、彼女は何者なのかと…………

 

そんな彼らを尻目に林檎を食べ終えた彼女は、指を舐めきるとスッと立上り―――

 

「野良狐のクーでありんす!クラスは『妖術師(キャスター)』。とて―――『アヴェンジャー』の〈くずのは〉よ。望まなくとも呼ばれた身……暇つぶしに付き合ってあげるわ」

 

妖艶に微笑むのであった………

彼女の介入が、聖杯捜索にどのように影響するのかは誰も予想出来ないのであった

 

 

 

FATE/GO ルート → 続かない

 

 

 

 

・First kissから始じまらない彼らの物語

 

「……あんた誰よ」

 

『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』と川端康成の『雪国』の一説にある

心の動くスピードと、文章のスピードが同調しなんだか自分がその場に居合わせたような気分になる素晴らしい一文だが、出会いがしら、それも初めて目にする場所で口にされた言葉がコレだった場合、事態はどのように変化するだろうか?

 

理不尽さに怒り出す、泣きわめく。不安さに挙動不審になったり、現実逃避する。

色々な対処がある中で、彼女が取った行動は・………

 

「チェンジで」

「なっ!?」

 

召喚された鏡に戻ると言う行動だった

彼女にして見れば珍しく、真顔で拒否を口にし尻尾を駄々垂れながら今にも消えそうな鏡を掴み居た場所へ戻ろうとしていた

周りからは『亜人』やら『流石ルイズだぜ!』と目の前にいた少女を馬鹿にする言葉や彼女に対する中傷が聞こえるが、彼女にとっては関係ない。また新たな取材を求めて足を鏡の中に入れようとしたが―――――――

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

「うにゃ!?」

 

そうは、問屋は降ろしてくれなかった

少女は、帰ろうとする彼女の尻尾を掴み引き止めたのだ

いきなり引っ張られた事で体制を崩した彼女は鏡の淵に頭を強打!

鏡は割れ消えて無くなり、彼女は痛みに悶え、地を転がり回ったのであった

 

「なにをするんでありんすか!」

「使い魔の分際でご主人様を選ぼうなんて生意気なのよ!」

 

痛みから回復した彼女は、尻尾を逆立てながら少女に抗議するが、相手の少女も負けずに彼女に反論してくる。

もはや二人とも周りの目など気にならないとばかりに罵声の飛ばし合いを始めた

やれ「貧乳」だとか「目が死んでる」とか、女同士の醜い罵り合いが続く中、彼女らの仲裁に入る為、一人の男性が動き出した

 

「ミス・ヴァリエール!そこまでにしなさい。後が詰まっていますよ?」

「ッ!でも、コイツが!」

「使い魔と交流を取るのは後でも出来ます。今は契約を」

「で、でも!コイツは亜人ですよ!?」

「召喚されただけマシだと「インターセプター!でありんす!」熱ッ!?」

 

仲裁に入ってきたと思われた人に対し彼女は、全力で彼の頭を磨いた

それは、摩擦により煙が出る程で払い除けた後も煙が立ち昇るほどであった

 

「勝手に話を進めんといでまし!わっちは、どういう状況か判らりんせん!」

「ッ!失礼しました・ミス……「くーでありんす!」ミス・くー。どうやら貴女に対する配慮が足りなかったようです」

 

些か自分の態度に非があったと、彼女の言葉から感じた彼は謝罪の後に、事の現状を話始めた

ここは、国にある魔法学校であり、今は進級する為の試験で使い魔の召喚をしていた事、そして使い魔と契約できなければ進級できない事を……

 

「使い魔、でありんすか……」

「えぇ、もし貴女がよろしければ彼女の使い魔になって頂きたいのですが……」

「ふ~ん」

 

なおも説明してくれた彼の頭を擦り上げていた彼女は、徐に少女へと視線を向ける

向けられた少女は、眼付きを尖らせながら「なによ!」と口にし、彼女を睨み返すのみ

頭から煙を上げる彼の説明では、使い魔の返還は出来ないようで、帰り道も無い

器のデカい人や腹を括った人なれば、少女の使い魔を引き受けるのであろうが……

 

「わっちやぃいや」

 

彼女は違った

何処からともなく鏡を呼び出し、帰ると口にしたのだ

 

「なっ!貴方、私が進級できなくて良いと思ってんの!」

「別にわっちには関係ありんせん~」

「な、な、なななな!なんで口答えするのよ!召喚されたなら大人しく使い魔になりなさいよね!」

「望んありゃぁせん」

 

少女は、なおも引き止めようと彼女の尻尾を掴みに掛るが、同じヘマは繰り返さないとばかりに巧みに左右に尻尾を振り、少女を嘲笑うと鏡に手を掛けた。が――――

 

「……なんか引っ掛かっていんすね、えい!」

「うわぁ!?」

 

鏡の中になにか引っ掛かっているモノがある事に気づいた彼女は徐に、その引っ掛かりを引き抜いた

現れたのは、現実社会のどこにでもいるような少年。

彼は、いきなり引き抜かれた事で地面に叩きつけられ頭を強打するが、次の瞬間には立ち直り辺りを見渡し困惑していた

 

「調度よか。ぬし、そこの子の使い魔になりんす」

「え……コスプレ?……というか使い魔?」

「さらばでありんす!」

 

唖然とする少年を尻目に、彼女は呑気に帰還を果たすのであった

彼と彼女の物語は、ワンクッション挟んで始まるのであった………

 

 

ゼロ使 ルート → 始まらない

 

 

 

 

・スターフォックスUC

 

日常の生活に対して「ずれたような感覚」を感じながらも学生として過ごしていたバナージ・リンクスであったが、コロニーのシャフトから落下するオードリー・バーンを助けた事で地球連邦軍と「袖付き」の「ラプラスの箱」に関わる戦乱に巻き込まれる事になる。

インダストリアル7でロンド・ベルとネオ・ジオン残党「袖付き」が戦闘を開始した際、コロニービルダー「メガラニカ」にて運命に導かれるかのように瀕死のカーディアス・ビストから「ラプラスの箱」へ繋がる鍵たるユニコーンガンダムを託され戦闘に参加するが、デブリ内でのシナンジュとの戦闘に乱入してきたクシャトリアによって、捕縛されてしまいネオ・ジオン残党軍『袖付き』の拠点、資源衛星“パラオ”に留め置かれてしまう

 

そこでバナージは、可能性の獣と出会う事になる………

 

拘束され、とある一室に連れて来られたバナージは、部屋に入るなり目を奪われる事になる

自分の目の前に、自身と戦闘を繰り広げたシャアの再来と呼ばれる謎の男が挙動不審に焦っている事に驚きを現したが、その男の先、高そうなツボを被り、ふらふらと歩いている場違いな人がいる事に更に驚きが加速した

 

本当に、この部屋で良いのかと確認を取ろうにも連れて来た男女は既に退出しており、訪ねる事が出来ない。どうすれば良いのか判らず呆然とするバナージであったが、こちらに気づいたのか壺を被った人の対処を部下に命じ此方へと声をかけて来た

 

「どうした?座りたまえ、具合はどうかな?あのガンダムから君を救出するのに随分苦労したと聞いている」

「あ、はい……」

 

あのやり取りは、なかった事にしたんだと場違いながらも思い、彼の言葉通り、ソファに腰を掛けようとしたが、ガチャンという音に再び視線を壺人間に向けてしまった

予想通りと云えばいいのだろうか?あの音が表す様に壺は割れており、部下の人が顔を青く染めていた。………若干、フル・フロンタルの目尻も引き攣っているかのように見えた

 

「彼女の事も壺の事も、気にする必要はない」

「え…でも…」

 

彼女の容姿は、気にするなと云うレベルを遥かに超えていた

最初は、コスプレだと思っていたけど自在に動く9本の尻尾がコスプレではなく、本物だと言う事を証明していた

フル・フロンタルもその事に気づいたのか言葉を詰まらせながら口を開いた

 

「彼女は、そうだな……人類が生み出した『可能性』の一旦だよ。……紅茶でいいかな?」

「わっちは!林檎酒を所望するでありんす!ハリーハリー!」

「……アンジェロ」

「はッ!」

 

洋服から女性だとは、わかっていたけど実際に声を聞いたらリンっと透き通った声をしている女性で心地よく耳に入っていった………言っている言葉は無礼極まりないけど

 

彼の命を受け部下が、棚から瓶を取り出すと彼女に放り投げた

硬い瓶を女性に向けて投げつけるのはどうかとは思うけど、彼女はそんな事、気にしないとばかりに瓶を受け取ると栓を開け直接口を付けて飲み始めた

 

「殺し合いをした相手と茶は飲めないか?バナージ・リンクス君」

 

彼女に見惚れていた為、彼が差し出してきたカップに気づかなかっただけとは言えず、俺は申し訳なさからカップを受け取り、直ぐに口に付けた

 

「いい反応だ。だが向こう見ずでもある。パイロット気質だな」

 

なんだが知らないけど、好印象に見られたようだ

御茶を出して貰ったのに気付かなかっただけだと言うのに……それと―――

 

「失礼ですが…その仮面は傷か何かをお隠しになっているものなのでしょうか?もしそうでないのなら顔を見せていただきたいのです」

 

さっきもそうだけど、相手の顔色が窺えなければ何を考えているのかも予想は付けない

フル・フロンタル ……連邦は油断ならない人物だと危険視する人物だ、俺程度でどこまで話せるかわからないけど、少しは情報が多い方に越した事は無い

 

「これは「すけすけ眼鏡でありんす!」……ファッションのようなものでな。プロパガンダといってもいい。君のように素直に言ってくれる人が「わっち、言ったぇ!趣味悪いって」……アンジェロ、彼女の相手を頼む」

「はっ!」

 

流石にこれ以上、話を折られたらたまったモノではないと部下に彼女の相手を押し付けるが、そう思うのなら最初から連れて来なければいいのに……

 

「……あれは本来我々が受け取ることになっていた機体だ。カーディアス・ビストはなぜ君を「ラプラスの箱」の担い手に選んだのか」

「ここへ運ばれてくる間に話した通りです。それ以上のことは自分も知りません」

「箱を隠し持つがゆえにビスト財団の栄華はあった。連邦政府との協定を破ってそれを差し出すからにはたやすく変更できない計画があったはずだ。当初の予定が狂ったからといって行きずりの相手に箱を託すとは信じがたい。例えば君もビスト一族の関係者だった…とか」

「答える義務あるんでしょうか?」

 

俺が、ユニコーンを託されたのは偶然だ

例え親子だったと言っても彼らは信じてくれないだろう、そう思い口にしたのだが、彼女の相手をしていたであろう部下が鬼の形相で俺の胸元を掴み上げた

 

彼の目からは、激しい『怒り』を感じる……

立場も弁えない俺に対する『怒り』が……

振るえる手が今にも俺の頬に叩きつけられそうになった瞬間、再びガチャンと云う陶器が割れる音が鳴り響いた

視線を向けてみればどこから持ってきたのか判らないほどのツボをトランプタワーのように積んでいる彼女がいた

 

「彼女の相手をしろと云った筈だ、アンジェロ。」

「ッ!なめるなよ、小僧!」

 

先程に比べ明らかに目元を引き攣らせたフル・フロンタルは、怒気が含んだ言葉と共に部下―――アンジェロと云う男を咎めた

放したついでに忠告されてしまうが、彼女の行動もあり怖くは感じなかった

 

「答える義務はない。だが我々は箱の情報を欲している。ミネバ様の事があるから穏便な聞き方をしているのだということは覚えておいた方がいい」

 

あぁ、話は続けるんだ……

 

「そのミネバ…オードリーが言っていたんです。今のネオ・ジオンに箱を渡してはいけない。また大きな戦争が起きてしまうって・・・俺達のコロニーで…インダストリアル7で起こったことを思えば誰だって同じ気持ちになります。彼女はジオンのお姫様なんでしょう?そのオードリーが反対しているのにどうしてあなた達は…」

「では君は信じているのか?ラプラスの箱の存在を。連邦政府を覆すほどの力が秘められていると?」

「それは…分かりません。でも一瞬で世界のバランスを変えてしまう知識や情報というものは確かにあるように思います」

「例えば?」

「ジオンが最初にやった「ジーク・あっぷる!ジーク・あっぷる!」……」

 

俺の言葉を遮った彼女は、執務室の机を勢いよく叩き『ジーク・ジオン』を捩った謎の掛け声をあげていた

 

「………アンジェロ」

「申し訳ありません、大佐!駄狐!こっちへ来い!」

「すまなかった。続けてくれ」

「……コロニー落としとか小惑星を落下させて地球を冷やすとか旧世紀の核爆弾も…ミノフスキー粒子やMSだってそうです世界は安定しているように見えても少しずつ変化しています。そういった力のある発明や実験ならタイミング次第で…」

「正しいな…歴史をそのように理解できる君なら宇宙移民が棄民政策であったことも分かっているな?」

「サイドごとの自治が認められてはいても首長の任命権限は中央政府に独占されている。その中央政府の選挙権も与えられないというのではスペースノイドは参政権を剥奪されたも同然だ。……ジオンは一枚岩ではない。だが共通しているのはこの歪んだ体制を変えたいという意志だ。連邦の鎖を断ち切りスペースノイドの自治独立を実現するために我々は…」

 

彼の云いたい事はわかる。それでも!

 

「テロはいけませんよ!どんな理由があっても一方的に人の命を奪うのはよくない!そんな権利は誰にもないんだ!」

 

腹に強い衝撃が走った。俺はいつの間にかアンジェロと云う男に腹を蹴られ、そして再び胸元を掴まれていたのだ

 

「では貴様はどうなのだ!武力の全てが悪ならガンダムを使った貴様も同罪だ。貴様のせいで我々も貴重な兵を失ったたとえ流れ弾だろうが貴様が撃ったことに変わりはない」

 

ッ!?

俺が……人を殺した……?

 

「バナージ君にはまだそんな実感はない。無我夢中だったのだろうからな」

「セルジ少尉は「防やだから、さ」……アンジェロ!」

 

どこからか取り出したかわからないサングラスと金色の桂を付けながら彼女は、林檎酒を傾けていた。そのせいもあり、アンジェロと云う男に云われた言葉を重く考えなくてすんだのは、よか……いや、俺が人を殺した事に代わりは無い

人を殺した罪は、斬ってもきれない。それでも、俺は俺の考えを曲げたくはない

 

「ジンネマンとマリーダを呼べ。君にはまだ学ぶべきことがたくさんある。我々の事を知ってほしい。その上でよき協力者になってくれれば嬉しく思う」

「マリィでありんすか!」

 

立ち上がった俺に合わせてなのかフル・フロンタルは、外にいる部下に声をかけた

そして扉が開くやいなや、入室してくる男女…とくに女の――マリーダと云う女性が現れた瞬間、彼女は駆け寄り、その……胸を揉み始めた

豊満な胸がグニグニと形を変えていくあわれもない様子に思わず、見入ってしまうけど、一緒に入室してきた男――ジンネマンに手を引かれ視線が外れてしまうが、俺は再び彼女の方へと視線を向けた

 

ジンネマンさんが云いたい事もわかる。公共の場で、そんな視線を送るモノじゃないって云いたいんでしょ?……それでも!俺は諦めたくない!公共の場だとしても夢を見てもいいじゃないか!

 

俺の意が伝わったのか、俺を拘束する力が弱まったのを感じた

ジンネマンさんも男だ、俺の事を理解してくれる可能性を信じていた!

拘束していた腕は既になくなり、ジンネマンさんと一緒に女の子二人の戯れをガン見する

 

………………………………

 

 

ッ!豊満な胸を持つ二人の戯れに目が奪われ忘れていたけど、俺には、まだ確かめなくちゃいけない事があるんだった!フル・フロンタル 、彼がシャア・アズナブルなのかを!

 

名残惜しいが、2人から視線を外し俺は、フル・フロンタル へと声を上げた

 

「あなたは!あなたは「変態仮面!」なんですか!?」

 

色々と台無しだよ

いつの間にか戯れを終えた彼女は、俺の言葉に被せる様に声を上げた

しかも、声を真似て俺に似せながら……

あと、『言ってあげましたよ、旦那!』って言わんばかりにドヤ顔しながら親指を立てないでください

本当に俺が思っている様に感じるじゃないか!

 

「心外だ、バナージ君……私は、変態ではない、フェミニストだ。自分で云うのもなんだが、『紳士』と言っても過言ではない」

 

俺も心外です、その答えは変態と言って間違いないじゃないですか!

あからさまに肩を落としながら俺に声をかけて来るけど、もう貴方の事なんて信じられませんよ……

しかし、追撃するかのように後ろの彼女は声を上げた

 

「異議あり!横にホモーがいるのでありんす!お風呂んは、ゲイでありんす!」

「……マリーダ中尉」

「申し訳ありません、大佐」

 

彼女を止める様に言葉を掛けるフロフロンタルの目元は絶対に引き攣っていた

確かに同じ男として、そういう趣味がないのにゲイと呼ばれるのは流石にクるモノがある

 

いまだにゲイコールを辞めない彼女の口を手で塞ぐマリーダさんだけど、俺にはわかる――――彼女は笑いを押し堪えているんだ

 

「よしてくんなまし!現にホモーが頬を朱くしていんす!」

「ッ!」

 

二次災害発生、場が一気に凍りついた

そして、フル・フロンタルは、ギギギっとブリキの玩具が動くようにアンジェロに緯線を向けたが、彼の目に写ったのは―――顔を赤く染め満更でもなさそうにしている部下の顏だった

 

「……アンジェロ、君も出て行きたまえ」

「なッ!大佐!」

「二度は云わん。……出て行け!」

 

俺と同じように、どもからともなく現れた兵士に拘束され血涙を流しながら強制退出されていく彼は俺に暴力を振るった面影はどこにもなく、むしろ俺も距離を置きたいと思ったほどだ

 

「あ、お風呂ん!わっち、マリィのお家にいるでありんす!」

「………好きにしなさい」

「あい!」

 

だと言うのに事の原因となった彼女は、崩れた敬礼をしながらフロフロンタルに外出を申し立てていた

それを許可する彼の背中はなんだか……哀愁に満ちていた気がした

 

「マリィ!今宵は共に床にはいりんす!」

「構わないが、服は着ろよ?……お前の裸は、子供たちに毒だ」

「うにゃ?わっちは、見られとうても非の無い『ぱーふぇくとぼでぃ』でありんすぇ?」

「……ギルボアの方が毒なのだ」

 

扉がしまった瞬間、女子トークをし始める二人に俺は戦慄した

あの男が受けた傷は計り知れないと言うのに、まるでそんな事なかったかのように話し始める二人は……恐ろしかった

ジンネマンさんに視線を向けると、彼も首を横に振り「深くかかわるな」というだけ……

 

謎に包まれたフル・フロンタルを追い詰め、彼の一面を曝け出し、心に大きな傷を負わせる存在。まさに彼女は―――

 

可能性の、獣……(ユニコーン)

「いや、彼女はシナンジュ(可能性の破壊者)だ」

 

 

 

後々、俺は血を流す事になる……

彼女の裸を直視し、俺を泊めてくれたギルボア一家の男性陣と一緒に……

この時は、まだ知るよしもしなかった………

 

 

 

 

ガンダムUC ルート → シリアルブレイカ―なう

 




感想に他の作品とコラボとおいてあるのを拝見して筆が進み、一日で書き上げた拙いモノです

コラボ作品
・FATE
・ゼロの使い魔
・ガンダムUC

完璧に作者の趣味で選びました
ガンダムに至っては完全にシリアル抜きです(そもそもシリアルはあったのか?)

余談ですがFATEのステータスは以下の通りで考えました

真名:くー&くずのは 
性別:女性
身長:160
体重:48
3S:B86/W57/H84
属性:中立 悪
分類:地
出典:ログ・ホライズン
地域:ヤマトサーバー
イメージカラー:黄色・紫
特技:林檎を食べる事・人間遊び
好きなモノ:林檎・人間
嫌いなモノ:束縛・人間
天敵:猫・子供
CV:小清水亜美
レア度:★4

ステータス
筋力:E 耐久:D 敏提:B 魔力:A 宝具:C

保有スキル
道具作成(E) : 魔力を帯びた器具を設計できる。しかし、設計できるだけである
Fate/GO風 : NP20%チャージ
自由人(EX) : 詳細不詳。彼女の『根源』にあたるスキル
Fate/GO風  : 必中付属+NP率上昇
二重召喚(EX) : クラスをアベンジャーに変更する。
Fate/GO風  : デメリットNP80%減少

宝具(くずのは):口伝・情報書換
正式なサーヴァントではない彼女は宝具を持っておらず、代わりに所有する技術での連続攻撃を現したモノ
情報書換による〈フレアアロー〉による爆撃の後、〈ライトニングネビュラ〉による雷雨を降らせる連続使用の魔法攻撃
耐魔力を持つサーヴァントに対し、貫通効果を付属させているので軽減される事はない
〈Fate/GO風〉
敵全体に強力な攻撃&クリティカル率低下&無敵・回避効果無効 


宝具(くー):林檎の理想郷
正式なサーヴァントではない彼女は宝具を持っておらず、代わりに所有する技術を使用した偽固有結界
一定範囲を林檎農園に書き換える世界を変える魔法
〈Fate/GO風〉
敵全体に攻撃力ダウン&防御力ダウン&NP率ダウン&強化無効。デメリット→麻痺




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〈ススキノ〉:狐がいる町
『1』番大切な者はお家でありんすぇ。


こんにちわ祈願です

息抜きに書いています

暖かく見守って下さい




雪被る廃墟の屋根上で一人の女性がペンを走らせていた・・・

 

〈エルダー・テイル〉

米アタルヴァ社により運営されている本格派MMORPG。

「剣と魔法でモンスターと戦う」ことを前提とした典型的な中世ヨーロッパ風の世界観で、様々な種類のクエストを介して異世界セルデシアでの冒険や生活を楽しむことが目的のゲーム。

日本人だけで10万人、全世界で2000万人がプレイしている世界最大級のオンラインゲーム

 

今日はそんな〈エルダー・テイル〉に3年ぶりに12番目の追加パックが当てられるという記念すべき日だった。あらかじめダウンロードされたデータは今日を境に解禁となり、〈エルダー・テイル〉の世界には新しいアイテムや新しいゾーン、新しいモンスターや戦い、そして何よりもレベル上限が上昇すると云うことで、多くのプレイヤーが〈エルダー・テイル〉の世界に接続をした上で期待に震えていた

 

―――しかし数分後には別の意味で震える事になるとは誰も予想していなかったであろう

 

「お、おい!なんでススキノにいるんだよ!?」

「どういうことなんだよ!誰か教えろよ!」

「責任者!責任者はどこだ!」

 

―――たった一つの魔法が発動されたのだ・・・世界級魔法が・・・

 

プレイヤーがゲーム世界に閉じ込められ〈エルダー・テイル〉 を混沌が包み込んだ

プレイヤーは、この地で何を思いどのように行動するかは追加パックの名前通り『開墾』していかなければならないのであろう・・・

 

 

『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:くずのは

より抜粋・・・

 

 

「今回の見出しはこれで決まりざんすな、しかし・・・」

 

先程から騒がしくなり始めた場所に視線を向ける・・・

 

「NPC如きが俺から金を取ろうとはどういう事だ!?あぁ!?」

「す、すみません、許して下さい・・・」

「謝って許して貰おうなんて思ってんじゃねぇよ!おらぁ!」

 

目下では、理不尽な暴力と吐き様のない怒りをNPCにぶつけるプレイヤー達が群がっていた―――

 

「・・・荒れるでありんすな、ススキノは」

 

目を細めながら厚い雲に覆われた空に視線を移した・・・

 

「・・・今宵のススキノはさむうござんす」

 

震える彼女を暖めるかのように9本の尻尾が彼女を包んだのであった・・・

 

 

 

 

 

ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~

 

第1尾 お社をイマジンクリエイト

 

 

 

 

〈ススキノ〉

「エッゾ帝国」に存在するプレイヤー都市。現実世界の札幌をイメージしたマップとなっており北方の巨人族と絶え間ない戦いにさらされる、北の軍事帝国。レトロな機械帝国といったイメージ。しかし 世界崩壊によって旧時代の文明が失われ、その遺跡とも云える巨大建造物や廃墟があちこちに残るこの世界なり、ここを生活の場にする住民は厳しい生活をしている。

 

「だがしかし!わっちは貧相なんぞ望んでありんせん!」

 

〈エルダー・テイル〉歴6年、LV90を上限解放3日目で迎える程のベテラン廃人プレイヤーの彼女にとって町を徘徊するPK集団なんて道端に落ちている小石と変わらないが、極力争い事を避けたい彼女は隠れ潜む事を選択した・・・・だが現実は非道で、先に述べた通り〈ススキノ〉は現実の日本標準生活を送るには過酷過ぎる条件なのだ

〈ススキノ〉でも数は少ないが一等地と呼ばれる立地条件が良い場所はあるが、すでにギルドに所属しないプレイヤーのたまり場になっていた

PK集団ではないのであれば一緒に混ざればいいのだが、いかんせん彼女は集団を嫌い所属していたギルドは解散してしまった自分を含め28人の零細ギルドのみ。

そのギルドはギルマスが引っかき回しているだけで彼女が嫌う集団とはまた違う雰囲気を醸し出していたから所属していたが・・・彼女にとって10人以上の集団は鳥肌ものだ

 

争いを嫌い、集団を嫌う彼女のとった道は廃ビルに隠れ住む事だった-----

 

しかし豊な日本生活に慣れてしまった彼女にとって雪風が防げるだけで寒さを防げない、娯楽のない空間は牢屋と同じであった

 

「寝袋で寝る?論外でありんす・・・多少のリスクがあったとしても、わっちが取る道は決まっておりんす!」

 

巧みにメニューバーを開き自身のサブ職業〈デザイナー〉のスキルを発動させた

ボロ机の上にポンッ!とコミュカルな音と共に紙と羽ペンが現れ、そのまま保存済みの設計図を貼付けするが・・・・いつになっても白紙のままで何も変わることはなかった

 

悲しい現実を受け止められないのか、彼女は同じ場所を行ったり来たりしていたが・・・彼女なりの覚悟を決めたのか勢いよく羽ペンを抜き取った!

 

「小中高大と悪い意味で『あなたの絵はピカソ並ね?』と言われ続けてきた、わっちの実力!見せてありんしょう!」

 

―――開き直った彼女はペン圧強く線を引き始めた!そして彼女は自身の変化に気づいた!

 

「おぉ・・おおお!手が、手が勝手に!」

 

紙とペンが触れた瞬間、自分の意思に反して勝手に手が動き始め僅か数分足らずで一枚の設計図を書上げたのだ!

 

「ふふ・・・ふふふ!あはははは!わっちは!わっちは!第二のピカソになれる!」

 

もとより調子に乗りやすい彼女のテンションは鰻登りである。

それはまさに某ドリンクのCMのごとき、『翼』を貰い自由に飛び回る鳥のように!

自身の高笑いをBGMに次々と設計図を書上げていく彼女を止められる者はどこにもいないであろう・・・

 

BGMが止まったのは日が傾き始め、廃墟の床に設計図の絨毯が引き終わった頃であった・・・

彼女は引き詰められた設計図を一つに纏めてボロ机の上に置き・・・

 

「・・・おうふ」

 

・・・・崩れ落ちた

彼女は自身のサブ職業〈デザイナー〉の欠点を思い出したのだ

欠点、それは設計図を書くことが出来るがモノを造る事はできないというものであった

これだけを見れば役に立たないサブ職業であるが、〈デザイナー〉の真骨頂は〈デザイナー〉が書いた設計図を基に作成すると作成物のランクが1上り材料費も安く設定できてオリジナルの装備品を作成出来ると言う生産系ギルドからしてみれば喉から手が出るほど欲しい能力なのだ

 

しかし忘れていては困る。彼女は集団を嫌っている、すなわち友達も少ないのだ!

慌てて数少ないフレンドリストを確認するが・・・いるのは〈剣聖〉や〈賭博師〉、〈騎士〉など今この場において彼女の求める職業は誰一人もいなかった

彼女は崩れ落ちた。まさにOTL状態に・・・

 

「・・・そうざんす!何故気づかなかったのでありんしょう!」

 

何を思い立ったのか彼女は設計図を放置し外へ飛び出していったのだ

そして一時間後・・・

廃墟に戻ってきた彼女の両脇には体格のいい二人の男性型NPCが縄で縛られて抱えられていたのだ・・・誘拐である

 

「お、おい!なんのつもりだ!?俺をどうするつもりだ!」

「や、やめてぇ!どうせ広場の人達みたいに酷い事するんでしょ!」

 

彼女はNPC達を部屋に放り投げメニューアイコンから次々に素材アイテムを出していった

誘拐されたNPC達から見れば今、冒険者と言う存在は恐怖の対象でしかないが・・・彼女にはまったく関わりのない事だ。

今、彼女思いはただ一つ・・・快適な空間を作成する駒が手に入ったという事のみ

 

彼女の出した結論はこうだ。

生産系サブ職業持ちプレイヤー→人→人型→人型なら誰でもいい→でも友達少ない→なら?→NPC!!!

である・・・何度も言うようだがNPCでも誘拐に変わりない

 

しかし新たな問題が発生した。

それはどうやってNPC達に作成をお願いするか?である

先に述べた通り、今のNPC達にとって冒険者は恐怖の対象になってしまっている。正青年っぽいNPCを連れてきたつもりだが・・・いかんせん、連れ込んでくる方法がいけなかった

一人は恐怖に震え、一人は今をなお彼女に罵声を飛ばしている・・・最悪な状態だ

 

だがしかし!彼女は止まってはいられない!なぜならこれ以上長引けば寝袋で寝る事が決定してしまうからである!

このまま時間が無常に過ぎていくのを只待っていることの出来なかった彼女は強硬手段に出た!

 

「聞いているのか!?いい加減、縄を ――ガンッ!! ――痛ッ!」

 

喚くNPCの顔を思いっきり地面に叩き付けたのだ!そして更に畳み掛ける!

鼻から赤い液体を流すNPC(はなぢ)の胸元を掴み寄せ・・・

 

「バラされたくなきゃぁ、『コレ』を使い『アレ』通りのモノを作ってくんなましぃ?」

 

アゴで乱雑に置かれた素材アイテムとボロ机に置かれた設計図を示しながら脅迫し始めたのだ!

叩きつけられたNPC(はなぢ)は頷く事しか出来なかった。彼女に恐怖を抱いてしまったのだから・・・

 

「わっちが、おねんしていりゃまでにわっちの寝床を作ってくれりゃぁれ?」

 

標準語でOK?と聞きたくなるような言葉であったがNPC達は頷くしかなかった

しかし、ビクビクと鼻から赤い液体を流すNPC(はなぢ)が緊張した面立ちで質問を投げかけた・・・

 

「・・・もし間に合わなかったら?」と・・・

 

しかし彼女は質問には答えずに唯一この部屋にある出入口の扉に背を預けて目蓋を閉じたのだ

 

「ッ!!! おい!てめぇ!死ぬ気でやるぞ!」

「は、はいぃぃぃぃ!」

 

NPC(はなぢ)は悟ったのだ、自分達は失敗が出来ないと・・・彼女が起きた時、部屋が完成していなかったら?・・・・朝日を拝む前に自分の首が飛ぶ!そう悟ったのだ!

 

元からリーダー気質があったNPC(はなぢ)は怒涛の勢いで指示を飛ばし自身も死ぬ気で鋸を引いた

幸いもう一人のNPC(モブ)は細かい作業が得意らしくNPC(はなぢ)が苦手な装飾品や内装仕上げを次々に片付けていったのだ・・・自然と作業は役割分担され作業は順調に進んでいったのであった

 

 

・・・ここで確認して見よう

NPC達には自分達が逃げられない様に彼女が出口を塞ぎ、強制労働させているのだ!と思っているのであろうが、実際の所、両者には大きな誤想が生まれていた

彼女はNPC達に「寝床を作ってくれ」と言った。しかし彼女の示す寝床とは寝る所つまり「ベットや布団」を現していたのだ!しかしNPC達は「寝床=住居」と考えにいたったのだ!

そしてもう一つの誤想・・・逃げ場を無くしている

実際には窓から一番離れている場所で唯一その扉だけが『木』で出来ていたので『木』の温かみを感じたかったと言う理由からそこに居座ったのだ!

 

だが両者の誤想から〈ススキノ〉に一つの奇跡が作りあがったのであった!

 

「・・・・ん・・んん~ん」

 

鶏が鳴く訳でもないが、闇に包まれ静まり返っていた町が騒がしくなり始め、朝を迎えた事が確認できた

その雑音が目覚まし変わりになり、彼女は目を覚ました・・・

 

まだ覚醒していない頭で周りを見渡す、白く燃え尽きたジョーが二人(はなぢとモブ)、8畳ほどのデカイいソファーと机が置いてあるリビング、広々と二人でも料理が出来そうなキッチン・・・「あれ、寝床がない?」

彼女の覚醒した頭でまず思った事は、あの殺風景な部屋が綺麗に変化した事ではなくベットがないと言うことだった・・・

まだ部屋の大きさに余裕がある様なので不機嫌そうに身体を起こし一つ一つ部屋の中を確認していく・・・しかし部屋を周るにつれて彼女の表情は段々と喜びに変わっていったのだ!

 

「な、な、な、なんと!?」

 

リビングがあり、洋室が2つ、キッチンがあり、お風呂もある!つまり・・・

2LDK・・・一人で住むには十分すぎる程の大きさを誇る部屋へと変貌を遂げた

 

彼女は喜びのあまり燃え尽きたジョー(はなぢとモブ)の腹に拳を入れて叩き起こした!・・・徹夜で夜業していた人には決してやってはいけない行為だ

 

「まさか・・・金が貰えるなんて・・・」

「しかも、こんなに一杯!・・・ありがとうございます!」

 

叩き起こした二人に彼女は精一杯感謝の伝え、皮袋一杯に詰めた金貨を二人に渡したのだ

まさかここまで感謝して、報酬として多額な金貨を貰えるとは思ってもいなかった二人には彼女に対する恐怖心はまるっきり無くなっていた

 

むしろ、その喜びようから子供っぽいと思えるようになっていた・・・

彼女は二人にまた何かあればお願いしたいと伝え二人も快く了解して部屋を出て行ったのであった・・・

 

先程まで3人いた部屋は1人になった事でより一掃広く感じたが、彼女は気にすることなく・・・

 

「まずは湯浴みでありんす♪」

 

お風呂に入りにいったのであった・・・

 

 

NEXT 林檎と蜂蜜 

 



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林檎が大好きでありんすぇ。 『2』番目は蜂蜜?

〈冒険者〉

〈エルダー・テイル〉の世界におけるプレイヤーを指し示す。ゲーム時代それは、主にプレイヤーの自由奔放な生き方や立場を差す言葉として使用されている

 

〈大地人〉

〈冒険者〉がノープレイヤーいわいるNPCを示す時に使われる名称

彼らは、この世界の人口の大半を占めており、冒険者と違い戦闘能力は低い為〈ススキノ〉では奴隷や家畜の様な扱いを虐げられている

 

能力が低い、閉じ込められた原因の一端等と言う理由から〈冒険者〉は〈大地人〉を差別し隷属させる〈冒険者〉が増えて来ている

 

私は〈大地人〉も人としての意思がある事を知っている・・・だが彼ら〈冒険者〉は彼ら〈大地人〉の人権を尊重してはいない

PCでもNPCでも人としての意思が存在すれば同じように接しなければいけないと思うのだが・・・実際はリアルでもゲームでも上手くはいかないものであった

 

 

『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:くずのは

より抜粋・・・

 

 

「今回の見出しはこれで決まりざんすな、しかし・・・」

 

一人で住むには十分過ぎるほど大きい部屋で彼女はただ一人・・・

 

「・・・不毛な味と言うか何と言うか・・・味がないざんす」

 

料理の味に絶望していたのであった・・・

 

 

ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~

 

第2尾 油揚げ?NONONO!リンゴYES!

 

 

 

この世界に閉じ込められて3日目、相変わらず外では〈大地人〉に暴行を行ったりPKを形振り構わず行う輩が徘徊していた

しかし、彼女にとっては関係ないことであった。争いを嫌う彼女は、住処となった廃墟から一歩も外に出歩いていないのだから・・・一日の大半をリビングのソファーの上で過ごしソファーを立つのも最近ハマリ始めた入浴ぐらいであろう

だが日が真上まで昇った頃、突然と襲い掛かった違和感に彼女は混乱したが、すぐに自身のお腹から「くぎゅ~」と音が聞こえたので空腹と言う事がわかったのだ。幸い、素材アイテムを買出ししていた時に食料を〈大地人〉(はなぢとモブ)の夜食用に用意していた物があったので、それを頂いた後もう一眠りしようと考えていた

 

・・・実際には夜食を渡す前に寝てしまい渡していないのは彼女のミスだが彼女は気にしない

 

綺麗に作られた机の上にサンドイッチとオレンジジュース、デザートにとモンブランを並べ手軽に済ませようとしたのだが・・・・感想は冒頭に戻る

狐耳や9本の尻尾が垂れ下がり、あからさまに落ち込む彼女・・・実は彼女は食事に期待していたのだ

メニューから調理ボタンを押すだけで材料がそろっていれば何でも好きな物が直ぐに出来上がる!デリバリーと違い面倒な人付き合いもしなくて済む!むしろソファーから一歩も降りなくても食事がでてくるのだと!

 

 

・・・・しかし現実は甘くはなかった。元々小食の彼女にとって味のしない食事とは食欲を更に下げることであった

しかし、彼女も馬鹿ではない。ここ3日間で外の様子を観察するにわかったことがある

〈冒険者〉は死亡した場合、ゲームの時と同じく聖堂で復活を遂げると言う事だ。毎日の様にPKが行われているのに〈冒険者〉の人数が減っていない事から気づいたのだ

 

そしてリアルと同じく人間の第3欲求である『睡眠』『食欲』『性欲』がある事に!

『睡眠』は部屋を作る際に感じたし『食欲』は今『性欲』はPK集団が女性〈大地人〉を襲い奴隷にしている事から推測した・・・と言う事は『睡眠』『食欲』を満たさなければリアルと同じように何らかのペナルティを受けるのでは?と結論を出したのだ!

 

『食欲』に対するペナルティ・・・簡単に浮ぶのは『餓死』である。『餓死』=『死亡』=『聖堂』=『PKとご対面!?』=『厄介事になる』この方式を彼女は僅か0.5秒間で作った。・・・彼女にとって最悪の方程式である

 

食料の買出しはまだいい!この間、知り合った〈大地人〉が快く引き受けてくれるから外に出る必要はない!しかし『死亡』はダメだ!下手をしたら住処がバレてしまい襲ってくるだろう!

 

「・・・緊急会議でありんすな」

 

そう彼女は呟くとメニューアイコンから所持アイテム欄を開き『呼出水晶』と言うアイテムを取り出した。水晶は中は白い靄で満ちていて使用用途が全く判断出来ない物であったが・・・

 

「緊急・・・食材を持って社に集合」

 

と呟くと白い靄が黄色に変化し『FOOD』と言う字を形作った。

彼女は満足そうに頷き、空腹を誤魔化す為にソファーに寝っこりがり尻尾を枕にしてお昼寝を始めたのであった

 

 

 

そして一時間後・・・部屋の扉をノックする音が聞こえ彼女は目を覚ました・・・

 

彼女の住処を知っているのは二人だけ、なので彼女が呼び出したのはこの部屋を作成した〈大地人〉(はなぢとモブ)の二人である

 

先日彼らは彼女と別れる際に先程、彼女が使用した『呼出水晶』をそれぞれ貰っていた

詰まる所、この水晶は〈大地人〉でも使用出来るメールの様なモノである

 

 

「こんにちは~、言われた物持ってきましたよ?」

「・・・ここまで〈冒険者〉に見つからないようにするは大変だったんだぞ?感謝しろよ」

 

彼らはテーブルの上に両手に抱えた食材を置き、彼女に話しかけたが彼女はと言うと彼らが持ってきた食材を漁るだけで彼らを労おうとはしなかった・・・

 

彼らも既に彼女の対応には慣れた様で少しばかりの苦笑と共に椅子に座った

彼らの持ってきた袋には既存の調理されている料理の他に肉や魚の素材や調味料などが多種にわたり入れられていた

 

彼女は足軽に魚と塩を持ってキッチンに向かい火を入れた

勘違いされては困るが彼女はリアルでも料理をしない、俗に言う「コンビニ弁当ヤーハー!!!」と言う人種だ

そんな人間が簡単に出来るモノなど決まっている・・・・魚に塩を振りかけただけの焼き魚である

本来なら動きたくないでござる!を公表する彼女ではあるが空腹感に負け自ら料理をする冒瀆に出たのだ

 

・・・結果、黒く炭化した正体不明のアイテムが出来上がったのだ

 

「・・・・おうふ」

 

またしても彼女の狐耳と9本の尻尾は垂れ下がったのであった

だが彼女は諦めない!何故ならここには〈大地人〉(はなぢとモブ)がいるのだから!

彼らも私達の影響を受けたのかわからないが『睡眠』『食事』を取る様になっていたのだ!

 

彼らなら!そう現地に住む彼らなら!この不毛な味を変化されてくれるだろう!

彼女は彼らが拒否するのをスルーしキッチンに押し込んだ!そして彼女は律儀にナイフとフォークを持ち音を立てながら彼らの後で鼻歌を奏でて待っているのであった

 

・・・5分後、彼女の前にはこんがりと焼きあがったステーキが差し出された

 

「ん~♪いただきます!」

 

興奮納まらない様子でステーキにナイフを入れ肉を口に運ぶ!が・・・・口に入れた瞬間、今日三度目となる狐耳・尻尾が垂れ下がり現象が発動した

 

・・・塩の味しかしないのである。肉の脂とか何処に家出したのか?と聞きたくなるぐらいに・・・

 

当然、彼女は彼らを問い詰めたが、彼らいわく「味は調味料で変えるモノ」らしい

開いた口が塞がらなかったが、彼女は直ぐに理解した

元々はゲームの中の住人であり、ゲームで感じる事のできない『味』と言う概念は〈大地人〉にとって無縁のものだ!と言う事を・・・

 

まさにOTLポーズを作り落ち込む彼女を〈大地人〉(はなぢ)は指差し笑いながら林檎を食べていた

 

「そんなに笑わんといてまし・・・ぬし達にはわっちの気持ちわかりえんでありんす」

「クーさん、そんなに落ち込まないでください。ほら?甘味ですよ?」

 

差し出される林檎・・・彼女にとっての甘味とは餡子やクリームを多用した和菓子や洋菓子になるのだが、林檎は好物なので素直に受け取りシャクシャクっと食べ始めた

 

しかし、この林檎が彼女に変化を引き出した・・・・

 

一口齧ると狐耳が・・・二口齧ると1本の尻尾が・・・林檎を齧る度に尻尾がピンっと立ち上がっていくのだ!終いには〈大地人〉(はなぢ)が食べていた林檎を殴って強奪し物凄い勢いで食べ始めたのだ!

 

暫くの間、室内にはシャクシャクと言う彼女が林檎を齧る音だけが響いていた・・・

そして自分が食べていた林檎も含めて2つ、手に付いた果汁まで綺麗に舐めきった彼女は・・・

 

「・・・パンが無ければケーキを食べればいい!でありんすね!マリー先生!」

 

・・・ベクトルが180度違う結論に至ったのであった

 

余談だがマリー・アントワネットは「パンが無ければケーキを食べればいい」とは言ってはいない。実際は別の貴族婦人の行った発言が、いつのまにか民衆の反感の的だったマリー・アントワネットの発言という話にすり替わってしまった言葉だ

 

結論から言わせて貰うと「メシが不味いなら不味くなる前に食べろ」と言う事だ

 

更に彼女に電撃が走った。さながら某新しい人種のように・・・

 

「は、は、蜂蜜をどこざんすえ!?」

 

〈大地人〉(モブ)はわけもわからず言われたまま、彼女に蜂蜜を渡した

彼女は差し出された蜂蜜を袋から新しく取り出した林檎に掛けて食べ始めた・・・

ほのかに感じる林檎の酸味と柔らかい甘さを醸し出す蜂蜜・・・つまり・・・

 

「林檎と蜂蜜はバーモンドざんすね!ハウス先生!」

 

・・・結論としては美味しいと言う事である

 

 

彼女の行動は素早かった。先日〈大地人〉(はなぢとモブ)に渡した金貨と同等の量が入った袋を〈大地人〉(はなぢと7モブ)に持たせて現在市場に出回っている果実を買い占めて来い!蜂蜜もね?と言うものであった・・・・使いパシリである

 

〈大地人〉(はなぢとモブ)も美味しそう林檎を食べる彼女を見て予想していたらしく「俺が東のマーケットをお前が西のを」「了解、世話のかかる冒険者だね?」「あぁ」 と何処を回るか相談をしているのであった

 

 

そして夜には99個の林檎が彼女が使わないベッドの上に大切に寝かされているのであった

 

 

 

NEXT  狐と猫とロリ



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そこなたの 猫『3』。わっち は狐でありんすよ ?

この小説は色んな意味で色々と試している所があります

読みにくかったらごめんなさい

あとあとがきで台詞だけの話をUPします


・・・・・あれ?主人公の名前がまだ出ていない


〈8種族〉

〈エルダー・テイル〉の世界では多様な異種族が暮らしている

その中でも「善の8種族」がプレイヤーがキャラクター作成時に選択できる

『人間』『エルフ』『ハーフアルヴ』『ドワーフ』『猫人族』『狼牙族』『狐尾族』『法儀族』が選択できる。〈冒険者〉諸君には既に承知な所があるが復習も兼ねて・・・

 

そして・・・ここでは自分が作ったキャラクター設定がダイレクトに影響される事も承知であろう

 

種族は現在、『人間』を選択しプレイするプレイヤーが多い為、そこまでの混乱は起きていない。他の7種族も容姿が人型な為、コミュニティを壊す事無く人間社会を形作っている

 

だが・・・性別はどうだろうか?

男が女に、女が男に・・・ロールを続けられればいいのだが、この世界で生活していく上では必ずと言っていいほど支障が出てきるであろう

もし性別の壁にぶつかったのならチームメンバーやフレンドに相談し〈外観再決定ポーション〉の入手をお勧めしたい・・・

 

信頼するモノであれば貴方の悩みを解決する為に力を貸してくれるであろう・・・・

 

『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:くずのは

より抜粋・・・

 

「今回の見出しはこれで決まりざんすな、しかし・・・」

 

彼女は視線を山積みにされた林檎のカスに向けながら蜂蜜水で喉を潤し、射し込む夕日に目を細めた・・・

 

「・・・メイドが欲しいどすえぇ~」

 

僅か一日で綺麗だった部屋が汚部屋に変わっていたのであった。そう彼女は・・・・・片付けられない女である

 

 

ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~

第3尾 家政婦は見た!?縁側で捲き起こるキャァァァァァッツファァァァイィィィトォォォッ!!!

 

 

時刻は流れ夕方を迎えていた。間違いではない、日を跨いで夕方を迎えているのだ。彼女の『メイドが欲しい宣言』から一日、ソファーから一歩も動かずに林檎と蜂蜜水を喰らい続けていたのだ

メイド=掃除してくれる人、部屋を綺麗にしたいと思っていても動かないのが彼女クオリティ、まさに『働いたら負けでござる!』を地で行くその道のプロであった

 

しかし、転機が訪れた!手に付いた果汁を綺麗に舐め取り「よっこらしょ」と言う爺臭い掛け声と共に重い腰をあげたのだ!そして〈大地人〉に作らせた箪笥からタオルを持ち出し!そして!!!

 

「湯浴みの時間でありんす♪」

 

・・・ぶれない女、流石は彼女クオリティ

 

元々〈エルダー・テイル〉にとって風呂とは、キャラクラーの特殊行動を演出するモノでしかなかった。風呂であれば入浴シーンの演出、ダンベルなら筋トレの演出など〈遊び〉の一つとして存在していた

 

では、ゲームが現実になった今、この様な〈設備〉はどのように変化したのだろう?

結論は直ぐに出た。この世界はゲームとしての要素を色濃く残しており、「料理アイテムに味が無い」「一部の設備が観賞用のオブジェクトでしかなく、実際に利用できる機能を持たない」等と言った、ゲーム時代には考慮され得なかった事柄が発覚したのだ。しかし同時にゲーム時代は背景の一部となっていて移動・破壊できなかった瓦礫などの障害物が撤去可能になっていることも発覚した

 

それは例外なく彼女の〈設備〉にも適当し、お風呂は只のオブジェクトでしかなくなる筈であった・・・・が、この事柄にも例外はある。現在存在する〈風呂設備〉とは既にお湯が張ってあるタイプで給排水の出来ない言わば『池』であったが、彼女のお風呂は、そう言った機能が完備されている。でもそれだけでは、只の『田んぼ』と同じであるが・・・

 

後日、発見される『高LVの料理人が料理作成メニューを使わないで、普通の手順で料理をする。そうすれば素材の味を生かした料理になる』と言う方法を彼女は、〈設備〉で成功させたのだ!

要するに『高LVの生産系職業が作成メニューを使わず、普通の工作で設備を作る。そうすれば使用出来る設備が出来る』と言う事だ!

・・・・しかし、考えて欲しい。今存在する〈冒険者〉の中にお風呂と言った〈設備〉を一から作れる〈冒険者〉はいるであろうか?否!いないであろう・・・リアルでもお風呂を作るには風呂枠を作る人、配管する人、電気配線する人と言ったように作業分担が当たり前になっているのだ!・・・風呂を一から作るなど、一般人レベルだとドラム缶風呂が精一杯だ。

 

では何故彼女は成功したのか?それは彼女のサブ職業〈デザイナー〉と勘違いから生まれた恐怖心が噛み合い起きた奇跡!とでしか説明は出来ない・・・だが間違いなく、あの一件で〈大地人〉の職人としてのLVはカンストしたであろう

 

そんな事で、彼女は世界でまだ一つしか確認されてはいないお風呂を堪能する日々を送っているのであった

 

「りんご~林檎~apple~リンゴ~おっふろ~♪」

 

そして現在、彼女はお湯に林檎を浮かべ『林檎風呂』を堪能している

味がする料理方法が確立されていない今、味のある果実を只の娯楽に使い捨てる行為は正気の沙汰ではないが、彼女にとっては関係ないことだ

 

9本ある尻尾を櫛で一本ずつ鼻歌を奏でながら丁寧に洗っていく。最近出来た彼女の趣味だ。

本来・・・と言うか絶対、人間には尻尾が9本もある事はありえない、だがゲームが現実になった現在、9本の尻尾は存在してしまっている。自身の尻尾、しかも9本も洗うと言う行動に彼女は面白みを感じたようだ

 

「らすと~さいご~のこりの~いっぽ~ん♪お~わ~り~♪」

 

ゆっくり洗っていく事、90分・・・1本に付き10分で全ての尻尾が洗い終わった・・・長湯もいい加減にしやがれ

だが、彼女の入浴はまだ終わらない。浮かべた林檎をチャポンチャポンっと沈めたり浮かばせたりして遊んでいるのだ・・・本当に長湯もいい加減にしろ

 

尻尾も綺麗に洗い、林檎が醸し出す甘い臭いに包まれる!今まさに彼女は至福の時を迎えていた・・・・・が

 

「これはいい縁側を見つけたにゃ。応援が来るまで此処で隠れ住むにゃ?」

「はい・・・でもいいんですか?その・・・誰かが住んでるようですが?」

「構いません。こんなに多く林檎を食べる方に覚えがありますゃ、『彼女』の説得は任せてほしいにゃ」

「え?・・・お知り合いの家なんですか?」

「おそらく・・・いや~、『彼女』が〈ススキノ〉にいて助かったにゃ」

 

リビングから聞こえる、とってつけたような猫語尾と聞きなれぬ少女の声に絶望の淵に追いやられた

彼女は直ぐに風呂から上がり、リビングに続く扉をあけて・・・

 

「フシャァーーーーー!!!」

 

・・・威嚇した。そう両手を上げ耳と尻尾を逆立てて動物のように威嚇したのだ・・・わかっているとは思うが彼女はNPCでもなければ本物の動物でもない・・・・人間なのだ

 

「此処は、わっちの住処でありんす!速やかに出ていっておくんなんし!」

「おやおや、やはり貴女でしたかにゃ。お会い出来てよかったにゃ?くーち」

「わっち は会いたくありんせん でありんした !速く帰ってくんなまし!」

「にゃあにゃあ、実はお願いがありますにゃ?」

「いいなすんな!どうせ厄介事でありんしょう!」

 

拒む彼女を宥めながらも猫語尾の〈冒険者〉『にゃん太』は事情を話し始めた

にゃん太の隣にいる少女『セララ』を救援の方が来るまで匿ってほしいと言うモノであった・・・

救援が来るまでにゃん太自身が護衛するし、極力迷惑が掛かる事もしないとは言うが、彼女にとってそんな事は厄介事でしかない!

 

「いやでありんすぇ!」。

「困りましたにゃぁ~」

 

猫髭を弄りながら苦笑を漏らすにゃん太、しかし彼女には本当ににゃん太が困っている様には見えなかった

あの独自な雰囲気に飲まれた瞬間!・・・自身の望まない結果になると言う事は散々経験してきた事だからだ

いまだに両手を上げて威嚇する。・・・だが、その抵抗運動はもう時期終わりを告げてしまう・・・

 

「あ、あの!」

「・・・なんでありんしょう?」

 

にゃん太の後に隠れていた少女『セセララ』がオズオズと話しかけてきたのだ

 

「わ、私ここに置いてもらえるなら何でもします!アイテムもあげます!・・・私程度の持っているアイテムなんていらないとは思いますが、もうあんな恐い事あいたくないんです!お願いします!」

 

「ぬぐ・・・」

 

彼女は揺れた。彼女も人の子‘(威嚇は動物)だ。自分より幼く弱い人間に助けを求められNO!と言える程、非道な人間ではない。揺れたのだ・・・人助けor 平和。どちらをとるのかを・・・・そして彼女は選んだ!

 

「・・・おゆるしなんし、無理でありんすぇ」

「そ、そんな!?」

 

・・・苦渋の決断だ。彼女は人助けよりも平和を選んだのだ。

セララにはにゃん太が付いている、彼の実力を知っているからこそ選んだ選択であった

セララは顔を伏せて目には涙が浮かんでいた・・・そんな彼女の頭を軽く撫でてあげるにゃん太。まさに紳士の鏡である

 

「・・・・くーち」

「そんな 目で見ないでくんなまし 。わっち だって助けてあげたいでありんすが 、わっちもそんな 余裕がないんでありんすぇ」

 

にゃん太と目が合わないように視線を逸らす。彼女だって助けたいが自分の保守も大切なのだ。耳をペタンっと畳み気まずそうに顔を顰める彼女・・・・・・・しかし

 

「そうですかにゃ・・・残念にゃ~、吾が輩達と暮らせば毎日アップルパイが食べられると言うのににゃ~」

 

耳が!尻尾が!逆立った!それは威嚇の時とは比べ物にならないぐらいに!!!!

 

「残念にゃ~、我輩、アップルティーも淹れられるのににゃ~」

 

正直、彼女も林檎と蜂蜜水のご飯に飽きていたところであった。その時に聞こえた『アップルパイ』『アップルティー』と言う単語・・・・・・彼女の行動は速かった・・・・・・・・・

 

「よく来てくれんした 。寒かったでありんしょう ?お風呂もありんす ぇ」。

 

まるで高級旅館の女将がお得意様を迎えるかの様に招き入れたのだ!

彼女は結局、人助けも平和でもなくFOODを選んだのであった・・・

 

「……お風呂ですかにゃ?くーっちの自作ですかにゃ?

「そうでありんす!あなハリボテでは機能しないでありんすので」

「そうですかにゃ。……ありがとうにゃ。セララさん、お風呂に行ってきたらどうですかにゃ?」

「なら一緒にはいりんしょう?わっち湯冷めしてしまいんしたよ?」

「え?は、はい」

 

いきなりの態度の変化についていけなかったセララであったが彼女に誘導されるがままに風呂場へと向かっていったのであった。

そして、にゃん太は?と言うと・・・

 

「さて・・・試してみますかにゃ?」

 

早速、アップルパイを焼く為にキッチンへと向かったのであった・・・

 

 

 

 

NEXT 少女は家政婦。猫は紳士。狐はニート

 

 




~お風呂での話し~

「りんご~林檎~リンゴ~♪」
「あ、あの~?」
「なんでありんしょう?」
「置いていただきありがとうございます!」
「あぁ~、気にしなくていいよ?わっち こそ拒んだりしてごめんね?」
「い、いえ!大丈夫です!・・・あと」
「?」
「・・・なんで裸で出てきたんですか?」
「裸は開放的でいいでありんす ?試してみたらどうでありんしょう かぇ?」
「む、無理です!出来ません!」
「そうざんすか・・・残念ですぇ~」

「そろそろ、アップルパイがにゃきあがりますよ~?」
「「はーい」」


と言う一コマ


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わっちの『4』福を取りんせん でくんなまし!

ちょっとうちの狐を働かせた・・・




〈大災害〉

12番目の新拡張パッケージ〈ノウアスフィアの開墾〉適用当日に起きた、常識を越えた出来事に対するプレイヤー間での呼称。

ゲームをプレイしていたに過ぎないプレイヤーが、この異世界に引き込まれ脱出不可能になってしまった事件を差し〈大災害〉以降、あらゆる変化が〈エルダー・テイル〉の世界に巻き起こっているのであろう。

そして私が今までに感じた変化は以下の通りだ

 

「人格が肉体に影響を受けている」

「サブ職業のアイテム作成の縛りが緩んでいる」

 

と言う事だ。

まだ推測の範囲でしかない事柄だが私が考えるに〈エルダー・テイル〉に魔法等級最高ランクの世界級規模の魔法が発動した可能性がある・・・

 

世界級魔法・・・〈エルダー・テイル〉の世界では過去に2回発動しているが、たかがゲームの〉設定内の魔法がプレイヤーにまでも影響をあたえるとは思いたくはない・・・

 

真実はまだわからないが、言える事は一つある。・・・この魔法はまだ終わっていない

これから先、〈エルダー・テイル〉は私達に何を見せてくれるのか・・・誰も知らない・・・

 

『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:くずのは

より抜粋・・・

 

 

 

「今回の見出しは微妙ざんすな、しかし・・・」

 

彼女はソファーに横になったまま、尻尾の方を見つめ・・・

 

「もう僅か 優しくお願いしんす」

「はい!わかりました、くーさん!」

 

住処に新しく加わった少女に毛繕いをして貰っていたのであった・・・

 

 

 

ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~

 

第4尾 ニートの本気!・・・わっちの戦闘能力は・・・・にゃん♪

 

 

 

「わっ!?待ってください!まだそっちの尻尾が終わっていません!」

「ふふふ、コレはまだ違った至福でありんすね 。今度はコチラをお願いしんす」

「はい!わかりました!」

「セララさん、くーち。お茶が入りましたにゃ」

「「はーい」」

 

・・・・ホームドラマである

(セララ)に世話されて喜ぶ(彼女)を見て微笑むお爺ちゃん(にゃん太)・・・ホームドラマである

 

昨日、押し掛けてきた二人に世話をしてもらっている家主の彼女は、二人を受け入れた事を心底正解だったとしみじみに感じている。何故ならセララは希望するサブ職業が取得できるまでの隙間埋めとしてサブ職業〈家政婦〉を取得し、昔からの知人のにゃん太は〈料理人〉しかも彼の作る料理には味があるのだ

なにもしなくても家は綺麗になるし美味しいご飯まで出てくる!まさに至れり尽くせり!彼女の駄目人間成長速度を爆走させるには十分にな環境になってしまったのだ

・・・セララにいたっては彼女の世話もしているので〈メイド〉の職業も選択肢にはあったであろう

 

そんな訳で彼女は一人では得られなかった『至福』を堪能していたのである

・・・だが彼女の『至福』は長くはないであろう。聞いた所によるとセララとにゃん太はアキバの救援が迎えに来たら2人揃ってアキバに行ってしまうとの事だ

 

彼女にとっては宜しくない事態だ。折角手に入れた『至福』があと数日でなくなってしまうのだから・・・

彼女は考えた・・・救援がいらない位に〈ススキノ〉を彼女自身の武力を持って更生させるか?むしろ救援に来るお邪魔虫をPKしてアキバに送り返してやろうか?などなど・・・動きたくない彼女にとっては『苦痛』な事だが『至福』がなくなるよりは断然にマシだと考えたのだ!

 

しかし問題が生まれた・・・彼女は〈大災害〉後、一度もフィールドには出ていないのだ

戦い方も魔法の使い方もわからない。考えて行くうちにドンドンと問題点が浮かんで来てしまった・・・・

もとより考えるのが苦手な彼女の取った行動とは・・・

 

「セラララ~、一緒に湯浴みするでありんす♪」

「くーさん『ら』が多いですよ?いまタオルを持ってきますね?」

 

・・・・現実逃避。救援が来てから考えると言うモノであった

そして、セララと一緒に入浴している為いつもよりも30分遅くあがった2人は冒頭にある様に毛繕いと言う名のブラッシングを楽しんだ後、にゃん太の淹れた『アップルティー』に癒されるのであった。

 

 

そして夕食中の話題は救出しに来る人達の事になっていた。セララ曰く「セララの所属するギルドマスターの友人で人数は3人、LVは3人とも90で腕利きの〈冒険者〉」だそうだ。

 

それを聞いた彼女は顔を顰めた。救出者を倒しようにもLV90。ピン切りはあるが彼女一人では対応出来ない場合、『至福』が奪われてしまう可能性が出てきたのだ。自惚れてはいないが彼女もLV90、如何様にも対処は出来ると思うが人数で来られたら一環の終わりだ。ただでさえ少ないHPバーが一気に吹っ飛ばされるかもしれないのだ!

 

ゲートが使えないのは事前に確認済なので、〈アキバ〉から〈ススキノ〉までは陸路、彼女達の様に特殊な移動手段を持っていない限り3週間は遠征に時間を費やす・・・

彼女は決意した!三ヵ月間、腕を磨き救出部隊を叩く事を!

「よかったでありんすな~♪」とセララに笑いかける彼女の笑みの本当の意味を知る者は誰もいないであろう・・・

 

 

 

月が最も光り輝く頃・・・彼女の住処には3つの寝息と・・・カチャカチャっと鍵穴を弄る金音がきこえるのみ

一つは奥部屋にあるシンプルなベットから・・・一つはほのかに林檎の臭いが染み付いたベットから・・・一つは林檎を抱えながらソファーに横になっている彼女から・・・最後の一つは出入口の扉から・・・

 

〈エルダー・テイル〉が現実になった今、『睡眠』は重要要素に値していた・・・だが、〈冒険者〉が・・・〈大地人〉が寝静まった夜に良からぬ事を働く輩も存在する

月には人を惑わせる魔力があると昔から伝えられているように今宵は月に魅せられたモノ達が悪事を働く為に彼女の住処に集まってきたのだ・・・

 

「・・・おい、開くのか?」

「俺の7サブ職は〈鍵師〉だ。・・・家の鍵くらい俺のLVでも開けられるぜ」

「へへへ・・・俺達、〈ブリガンディア〉に逆らった事を後悔させてやるぜ!」

 

数は三人。彼は〈ブリガンディア〉〉に所属し、ギルドマスターの命を受けて少女〈セララ〉と彼女を奪った猫人族を捜索していたが、暇潰しにPKした集団から有力な情報「東の外れにある廃墟に出入る猫人族がいる」と言う情報を仕入れ、この廃墟にやって来たのであった

 

「へっ!空いたぜ?」

「おう!行くか!」

「ひゃははは!寝首を狩られるとは思っていなかっただろうよ!」

 

音をたてずに部屋に侵入した三人組が最初に目に付いたのは、大きなソファーと大きな毛皮のクッション(・・・・・・・・・)。辺りを見渡すと一人で使うには大き過ぎるテーブル、食器棚には数枚の食器とグラスが綺麗に並べられていた

 

「ビンゴだぜ!部屋を調べろ!あの猫と女は此処にいる筈だ!」

「おう!・・・しかし良い生活してやがるな、この野郎」

「へへへ、あいつ等をボスに差し出したら此処を俺達の拠点にするか!・・・居たぞ」

 

〈ブリガンディア〉〉の一人が開けた扉の先には幸せそうにな顔で少女〈セララ〉が眠っていた。

三人はニヤつく顔を隠そうともしないで静かにセララに近づいていった

 

「へへへ、静かに眠る事が出来るのは今日で最後だ」

 

一人は林檎を齧りながら静かに彼女に宣告した

 

「あっ!てめぇ!良いモン食ってんじゃン?俺にもくれよ!」

 

一人は既に、目標を達成したと思い、傍に置いてあった林檎を齧った

 

「おい!あまり食べるんじゃねぇ!・・・って言っても此処にある物は俺達のモノだったな」

 

一人は声を殺して笑った・・・

 

「ここにある林檎はわっちのモノでありんす!・・・食べ物の恨みは重いでありんすよ?」

 

彼女(大きな毛皮のクッション)は鳴らないのに指をポキポキと鳴らす仕草をしながら三人の後に立って微笑んでいた・・・

 

「「「え!?」」」

 

三人組は予想外の人物の登場に驚きはしたが、直ぐに状況を理解した。1対3、しかも相手は妖術師で女。いくら高LVの妖術師でも数の暴力には勝てない存在・・・さらに此処はフィールドではない為、魔法や特技の使用は出来ない。

三人が同じ考えに至ったのだ。・・・背後に立つ女は弱者であると言う事を!

 

「へへへ、大人しくしてろよ?―――っ!!テメェ・・・自分の立場ってモンをわかってねぇのか?あぁ!?」

 

〈ブリガンディア〉〉の一人が、彼女の肩に触れようとしたが、彼女は持っていた扇子で男の手を払いのけた

彼らは弱者が歯向かった事にイラつき、彼女を見る目が鋭くなっていく・・・が

 

「わっち に触りんせん でくんなまし 。折角、セララに毛繕いして貰ったわっち の毛並みが台無しになりんす」

 

彼女には関係ない。まるで子犬に睨まれているが如しに涼しい顔をしながら尻尾を撫で回していた

彼女の態度に更にイラつく彼らはジリジリと彼女に近づいていく・・・そして・・・

 

「あっ!猫でありんす!」

 

「「「なに!?」」」

 

彼らは彼女が指差した方向に一斉に向いてしまった・・・向いてしまったのだ

彼らの最大の障害になるであろう猫人族に背後を取られる。彼らにとって現状、最も避けたい状態であるが故に全員が示す方向へと視線を向けてしまったのだ。・・・もし、誰か一人でも彼女から視線を放さなかった者がいれば、二ヤリと怪しく笑う彼女を見る事が出来たであろう・・・

 

「一夫多妻去勢拳!!!一撃必殺破壊脚!!!」

 

チーンーーーチーンーーー

 

「「ぐふ!!!」」

 

彼女の対男性用究極技(アルティメットアーツ)が2人の男を捉えた!・・・2人は股間を押ええながら崩れ落ちた

・・・確認しておこう、確かにプレイヤータウンでは魔法や特技は発動出来ない。しかし、ゲームが現実になった〈エルダー・テイル〉において〈冒険者〉の行動表現力は格段に上がった。そして彼女が行った行動とはゲーム内では設定されてはいない行動、男性を恐怖のどん底に叩き落す究極にして最凶な行動・・・・・金的である

 

ダメージ判定はゼロ、ただ股間を蹴り上げただけなので当然ではある。しかし、2人はいまだ悶絶している

顔を蹴られ痛い!と感じる様に股間を蹴られれば痛いのだ、それはものすごく・・・ある意味で男性に対しては一撃で、しかもノーダメージで倒せる究極技であろう

 

男は焦った。数は1対1、だが相手は自分を一撃で仕留める事が出来る技を取得している、状況は一気に劣勢になったのだ。焦りながらも男は考えた・・・考えた末に取った行動は・・・

 

「覚えていやがれ!テメェ!次はこうはいかないからな!」

 

逃亡であった。いま危険な橋を渡る必要はないと判断したのだ。

本来の目的は〈セララ〉と〈猫人族〉を見つけ出す事、倒す必要はない・・・後日、仲間を引き連れて殺せばいいだけなのだから

男は一目散に扉へと向かって行ったが・・・敵を目の前にして背中を向けてよいのだろうか?

否、それは否!男が背を向けた瞬間、彼女は動いたのだ!

逃げる男より速く動き、手を組み、両方の人差し指だけを突き立てて・・・狙いを定め!そして!!!

 

「狐尾族究極奥義!『千年殺し』ぃぃぃぃぃぃ!」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

・・突き刺した。彼女はまたしても規格外な行動〈浣腸〉を最後の男に食らわしたのだ

床に崩れ落ちる3人・・・彼らはPKされずに只、悶絶するばかりである。そして3人を倒した彼女は・・・

 

「・・・・寝んすから後はお願いしんす ね?」

 

大きな欠伸をしながらソファーに戻っていったのだ。ただ一言、セララの部屋とは逆の位置にある扉に声を掛けてから・・・

 

 

そして夜が明けた時・・・彼女の住処はいつも通り平穏な空間にへと戻っていたのであった・・・

 

「くーさん、起きて下さい!ごはんですよ?」

「まだ眠いでありんすぅ~」

 

 

 

NEXT  セララは今!




彼女が眠り出して数秒後・・・
セララとは逆の位置にある扉が開いた・・・

「にゃったく・・・くーちは食べたら食べっぱなしにする方なのにゃ。」

文句を言いながら次へ次へと侵入者を縄に縛っていく・・・

「時間はありませんにゃ・・・救助隊が来るまで何処かに隠さなきゃいけにゃいですにゃ。」

懐から笛を取り出し、吹く・・・

「にゃあ、おひさしぶりですにゃ?重いと思いますがこの人達を『安全で遠い所』まで運んで下さいにゃ」

笛の音色に呼び出された・・・に侵入者を運んで貰う・・・・

「にゃて、これで暫くは大丈夫ですが・・・いざとなったら貴方も手をかしてくださいにゃ?」

眠っているであろう彼女に語りかける・・・
老人は彼女の耳が動いたのを確認してから自身の部屋に戻っていったのだ・・・




・・・・後始末は他人任せ。『部屋から出たくないでござる!』


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セララといいます!『5』迷惑をお掛けしてます!

〈4職業〉

〈エルダー・テイル〉において最も重要な初期設定の一つである事とは〈冒険者〉の方々は重々承知であろう

職業は大きく分けて戦士系職業、武器攻撃系職業、回復系職業、魔法攻撃系職業。がある

『系』とある様に各職業には3つのビルドが存在しており、例えば戦士系でも〈守護戦士〉〈武士〉〈武闘家〉がある

三つの職業の戦闘スタイルは大きく変わり、また、職業によっては武器の選択や、選択式特技の習得状況によりカスタマイズが可能であり、戦闘スタイルのバリエーションはかなりの幅がある

 

〈エルダー・テイル〉において、人気のある職業とそうでは無い職業はあるが、本当に〈エルダー・テイル〉を楽しみたいのであれば、人からどのように言われようが好きな職業を極める事を私はお勧めしたい・・・

 

『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:くずのは

より抜粋・・・

 

「今回の見出しはこれで決まりざんすな、しかし・・・」

 

ペンと本を横に置き、艶やかに光り輝く赤い果実を手に取った・・・

 

「わっちは~くーでありんす♪ぬしは~林檎でありんす♪わっちはぬしが大好きですぇ~♪」

「くーさん!寝ながら林檎を食べると床が汚れちゃいます!椅子に座ってください!」

 

彼女のニート化は進んでいた・・・

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

昔々、ある所に一匹の狐が――〈キングクリムゾン〉――でした。めでたしめでたし

 

 

 

 

 

 

(ううう~またLVがあがっちゃうよ~。このままだと引きこもり生活で技能カンストしちゃうよ~。それはいくら何でも切ないよぉ)

 

ため息をついてメニューを開く。本日になってから〈家政婦〉の経験値がまた入ってしまっていた。

〈家政婦〉レベルは昨日は42だったのに、今日はもう44である。最近では毎日のように3レベルずつ上がるペースであり、驚異的だ。このままではススキノに潜伏している間に〈家政婦〉をコンプリートしてしまいかねない

 

(でも、暇すぎてついついLVあげしちゃうのよねぇ・・・でも意識しなくてもLVがあがっちゃうんだよね・・・)

 

セララはテーブルを拭く手を止めてソファーの方に視線を向けた・・・

 

「わっちは~くーでありんす♪ぬしは~林檎でありんす♪わっちはぬしが大好きですぇ~♪」

 

セララが隠れ住む場所を提供してくれた家主が鼻歌交じりで、シャクシャクっと林檎を食べていたのであった

 

「くーさん!寝ながら林檎を食べると床が汚れちゃいます!椅子に座ってください!」

「なんと!?ぬしはわっちに林檎を食べるな!と、おっしゃる んでありんすか !?」

「違います!椅子で食べてください!床がーーー」

「しくしく、しくしく・・・愛らしいセラララがわっちをいじめんす。・・・・・・・わっち に死ねといいんす かぇ!?」

 

あから様に泣き真似をしていたであろう彼女は一転、耳と尻尾を逆立てて訴え始めた、が・・・

 

「え?ち、ち、違いますよ!・・・もう少し綺麗に食べてくださいね?あと、『ら』が一つ多いです」

「はーい♪」

 

直ぐにもとの幸せそうな顔に戻り、シャクシャクっと林檎を齧り始めた

 

(はぁ~、綺麗にしても直ぐにくーさんが汚すからドンドン経験値が溜まっていくんだよねぇ)

 

サブ職業の経験値はメイン職業とは完全に独立して存在しており経験値が10貯まるごとに1レベル上昇とシンプルな構成なっている。そしてセララが言う様にセララが掃除した所を彼女が汚くする為、経験値配分の変化が少ないのだ。要するに『スライムをずっと狩っていたら』LVが上がるに連れて経験値が10から5、5から1と変化していく。それと同じように『綺麗な机を掃除』しても経験値は少ない。しかし『汚くなった机』を掃除すれば経験値は多めに貰えるのだ

 

認めたくないが堕落した彼女の生活がセララのLV上げの助けになっているのだ!・・・・まさに負の連鎖である

 

「セララさん、くーち、かえりましたにゃ」

 

ドアを開けて一人の奇妙な男が帰ってくる

ここゾーンは独自に改良を加えてはいるが、フリーのゾーンな為に誰でも出入りが出来るが、家主の彼女曰く「ここを知っているものは作った人だけ」らしく、他の(冒険者には知らされては居ないとのこと・・・そうすると必然的に訪問者が誰かわかる

 

「おかえりなさい、にゃん太さん」

 

セララは、ぴょこんと頭を下げた

〈エルダー・テイル〉での種族の一つ〈猫人族〉、セララを助けてくれたもう一人の恩人にして同居人・・・にゃん太である

 

「町は、どうですか?」

「相変わらずですにゃ。良くもなく、悪くもなく」

 

・・・要するに特には変化はしていないと言う事だ。現在〈ススキノ〉は弱肉強食の国へとなってしまい、PK集団が徘徊するだけではなく〈大地人〉を商品として扱う〈奴隷商〉たるものまで始めてしまったのだ

治安は悪くなる一方で、セララもにゃん太に助けられていなければどうなっていたのか?っと思うと、はっきりと体温が下っていくのが感じられた

 

「まぁ、まぁ。セララさん。そう考え込まずに。そんにゃに思い詰めていたらあっという間に老け込んでしまいますにゃ」

 

 にゃん太はそういうと、セララの目の前で手のひらをひらひらと振る。

 

「そう言うときは深く考えずに、果物でも食べると良いのですにゃー。……はいどうぞ」

 

小さく頷いたセララに林檎を渡してくれる。 赤いその果実からは甘やかな香りが漂ってきて、セララはほっとする・・・が

 

「それはわっちの林檎でありんす!」

 

ソファーからの襲撃者!もといニートに林檎を掠め取られてしまった

 

「・・・くーち、一つぐらいあげてもかまわにゃいのでないですかにゃ?」

「なにを不安になる必要があるんでありんすか ?いざとなりんした らわっち がセラララをたすけんす よ?」

「おや!珍しいにゃ!くーちが人の為に動くとにゃ!あの頃を思い出すにゃ~・・・」

「・・・昔の話でありんす。・・・それにわっちもそこまで人でなしではありんせん」

「そうですね、貴方は『あの頃とは違い』お優しくなられたにゃ」

 

不機嫌そうに林檎を齧る彼女。・・・だが彼女も自分らしからぬ行動だとは感じているようであった

事実、彼女はセララを助ける為に先日、侵入者を撃退していた。昔の彼女なら相手が自分に気づいていないのであれば傍観していたであろうが、何故か行動を起こし自ら襲撃者の相手をしていたのだ

 

・・・『至福』とか『便利』『メイド』と言う前に彼女は〈セララ〉と言う少女を気に入っているのかもしれない

 

「・・・興醒めでありんす。湯浴みしてきんす」

 

食べかけの林檎をセララに渡し、タオルを片手に風呂場へと向かっていったのであった

 

「あ、あの~?いくらなんでも言い過ぎだと思いますよ?にゃん太さん」

「にゃ~・・・私もまだ彼女をわかっていないようですにゃ」

 

手をアゴに添えて反省するにゃん太・・・。セララも気まずそうにお風呂場を見ていたが、暫くして『ある言葉』が気になり、にゃん太に質問をしていた・・・

 

「にゃん太さんって、くーさんとは長い付き合いなんですか?くーさんが人の為に行動するのが珍しいと言ってましたけど・・・」

 

セララが思った疑問。『いま』の彼女からは想像できない事であった。だから知りたいと思ったのだ、昔の彼女を・・・

 

「くーさんは・・・最初は嫌がっていましたけど、私を匿ってくれるだけじゃなく助けてくれるとも言ってくれました!・・・そんなくーさんの事をもっと知りたいんです!お願いします!」

 

さっきとは違い、勢いよく頭を下げた・・・

 

「セララさん、頭を上げてください、私の知っている彼女でよければお伝えしますにゃ」

「っ!ありがとうございます」

 

髭を弄りながら微笑むにゃん太、まさに紳士の鏡である

 

「さて、セララさんは〈九尾のくずのは〉と言うプレイヤーを知っていますかにゃ?」

「・・・すみません、知らないです」

「いえいえ、謝る事ではありませんにゃ。・・・今から6年前にいたプレイヤーなんですが、彼女は優秀な妖術師として有名でしたにゃ」

「凄い方なんですか?」

「えぇ、大規模戦闘でも先陣をきるほどの凄腕ですにゃ」

「・・・先陣?・・・前衛だったんですか!?」

 

セララの疑問当然なモノであった。本来、妖術師はセララの職業と同じく後方支援、よくて中距離で活躍する職業なのににゃん太は先陣と言ったのだ。つまり・・・

 

「そうですにゃ、彼女の戦闘スタイルは至近距離での魔法がメインでしたにゃ。。・・・、今で言う〈コンバットメイジ〉の属していましたにゃ。・・・しかし、6年前の〈エルダー・テイル〉にその様なビルドは無く。周囲から浮いた存在になってしまいましたにゃ」

「・・・・」

「彼女は孤立していき、誰も信じなくなっていきましたにゃ」

 

当然の結果であった。自分の好きな様に〈エルダー・テイル〉をプレイしているのに、周囲から異色の目で見られ続けたのだから・・・・

 

「・・・その人がくーさん、ですか?」

「はいにゃ、名前は四年前に〈改名イベント〉で変更したので〈九尾のくずのは〉と言う〈冒険者〉はいませんにゃ・・・私が彼女と出会ったのはその時ですにゃ。」

「・・・くーさんは誰にも認められなかったんですか!?今は、前線にでる妖術師や施療神官は少なからずはいるってギルドのみんなが教えてくれました!」

「時代の流れですかにゃ・・・今思えば〈コンバットメイジ〉の第一人者は彼女だったのかもしれないにゃ。ですが、時代が悪かったにゃ」

「そ、そんな・・・」

 

セララの目には涙が浮かび、彼女の受けた悲しみに強く心を打たれていた・・・

 

「誰にも認めて貰えないなんて・・・悲しいです」

「そうですね・・・・でも、彼女を認めてくれた方がいましたにゃ」

「え!?」

「私もお世話になった『集団』ですが・・・そこのマスターは彼女のスタイルを面白いと言って友好を深めましたにゃ。今は解散してしまいましたが『あの集団』の活躍もあり、彼女のスタイルは認められる様になりましたにゃ」

「そうですか・・・よかったです!」

「はいにゃ、私も〈ススキノ〉で再会した時、〈くずのは〉に戻っているのではにゃいか?と思いましたが一緒に生活していく中で彼女は『あの集団』に居た事と変わっていない事を嬉しく思い、口が滑ってしまいましたにゃ」

「に、にゃん太さん!?そんなに思いつめないでください!・・・くーさんの事、ありがとうございます!教えて頂いて!」

「いえいえ、老いぼれの昔話ですにゃ。・・・彼女のご機嫌をなおす為に『アップルパイ』を焼きましょう。セララさん?手伝ってくれますかにゃ?」

「はい!」

 

部屋を漂っていた重い雰囲気は既に晴れ、暖かい雰囲気が醸し出されていた・・・

2人は、彼女の好物を作る為にキッチンに向かうのであった。

 

NEXT 脱出

 

 




「くーち、もうしわけありませんにゃ。老人、昔話が好きな物で御詫びにアップルパイを焼き「アップルパイ!?」えぇ、よろしかったら食べて下さいにゃ」
「アップルパーイ!アップルパーイ!」
「セララさんも一緒に作った「アップルパーイ!アップルパーイ!」そうですにゃ、上手くやけていますにゃ」
「アップルパーイ!アップルパーイ!」
「そうですにゃ、でわ私はお茶を淹れますにゃ。」
「アップルパーイ!」
「おや、紅茶ですかにゃ?わかりました。セララさんは何にします?」
「わ、私も紅茶でお願いします・・・・『アップルパイ』だけで会話できるのはどうして?


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吾が輩、にゃん太といいます。よ『6』しくお願いしますにゃ

あれ?まだ〈ススキノ〉にいる!?


〈放蕩者の茶会〉(デボーチェリ・ティーパーティ)

活動期間およそ2年。4年前に発足された伝説的な個人プレイヤー集団である

彼らはギルドと言う枠組みに縛られず『死霊が原(ハデスズブレス)』や『ラダマンテュスの王座』、『ヘイロースの九大監獄』等、サーバの歴史に残る大規模戦闘の先駆け争いを規模的には弱小に過ぎない団体で行なっていた28人の集団だ

 

私が思うに、当時の〈茶会〉メンバーはカオスである。

リーダーは自由奔放だし、リーダー大好きメイドは恐いし、ご隠居は猫紳士だし、〈パンツ〉とか〈祭り〉を連呼する守護戦士はいるし、眼鏡の付与術師の作戦は恐いし、ハーレム製造機は居るし、同族のハーレム製造機の姉は御節介だし、THE幕末浪人の暗殺者と言う武士だろ?お前!って奴はいるし、ちんどん屋がいるし・・・・カオスだ。

 

でも、カオスでも・・・・楽しかったのは言いようの無い事実である

また、あの時のように楽しい世界を見せてくれるのなら・・・私はまた参加したいと思う・・・

 

 

『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:放蕩者の茶会〈九尾のくずのは〉

より抜粋・・

 

 

「ご隠居が昔話をするモノでありんすから ・・・こな 見出しになってしまいんした な~。しかし・・・」

 

視線を緊張した面立ちのセララといつも通りなにゃん太に向ける・・・

 

「・・・PKの準備が出来てありんせん」

 

彼女の思惑を裏切り、救出隊はすぐそこまで来ていたのであった・・・

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

 

うなれーてっけーんロケットパンチー(某:魔人我Z)

 

 

 

 

「まことでありんすか!?」

 

彼女はガラでもなく大声を上げた!予想外な事が起きたのだ。

セララを迎えに来る救出隊が既に、〈ススキノ〉に到着していると言うモノであった。本来なら喜ばしい事なのだが彼女にとっては死刑勧告でしかない。彼女の〈至福〉が今日をもって終了するのだから・・・

 

ニコニコと嬉しそうに報告するセララ、それを自分の事のように喜ぶにゃん太、同じように喜ぶ狐・・・しかし、心の中では号泣 

それぞれ三者三様の表情を浮かべるが、彼女の心の中は救出者を一発殴らなければおさまらない怒りが渦巻いていた

 

 

 

閑話休題(荒ぶる怒りを拳に込めて!)

 

 

 

セララが言うには今いる廃墟の近くにある「――ラオケBOX」の看板があるビルの一室で合流する予定との事・・・

本当なら自分の住処で彼女達を見送る筈であった彼女は、にゃん太に連れられるがままに合流地点のビルに来てしまった。・・・・いつもなら連れられた事に対し文句を言う彼女だが今は一向に話さず只じっと扉の方を向いていた

 

不思議に思ったセララが彼女に話しかけようとした時、ピクっと彼女の耳が動いた・・・

 

「・・・ご隠居」

「なんですかにゃ?」

「男性型、数は1、こちらに接近中。・・・救出隊は3人の筈だが?」

 

セララは目を大きく開き、手を口に当てた。セララの驚きは『昔の彼女を知る』にゃん太も同じであった

 

「これはこれは・・・暗殺者でもないのに感知できるモノなのですかにゃ?」

「・・・スキルも使わないで無謀に歩く輩ぐらいわかる。どうする?」

「ふむ・・・こちらから出向いてみますかにゃ?」

「え、えぇぇ!?」

「・・・わっち は働きたくないでありんすぇ」

「最初にセララさんに話しかけて貰い、私が相手の出方をみますにゃ」

「・・・わかりんした」

「では、セララさん、いきますにゃ」

「は、はい」

 

流れるように行われた策にセララは本日3度目の驚きを味わった

1度目は、彼女がいきなり真面目に話しはじめた事に、2度目は彼女の言葉を聴きすぐさま対応策を考えたにゃん太に、3度目は言葉少なくして互いにする事を理解した2人に対して・・・

 

(知り合いって事もあるとは思うけど・・・高レベル者ってこんなに凄いのかな?)

 

セララの心のうちは、新しく生まれたこの疑問とお世話になった2人の事で一杯になっていった・・・

前者は期待と不安、この人達なら〈ススキノ〉から私を助け出してくれる!・・・でも追手のデミタスも高LV者なので失敗してしまうのではないか?というもの・・・

後者は純粋に、〈ススキノ〉から出た後、2人はどうするのか?である

にゃん太は笑っていなされてしまうし、彼女に至っては『住めば都!メイドがいれば天国!』と理解不能な言葉を言うばかりでまともにとりあってくれないのだ

 

「―――さん?―ララさん?セララさん?」

「え、は、はい!」

 

いつの間にか下を向いて考え込んでいたようでにゃん太に話しかけられてやっと現実へと戻ってこれたようだ

 

「例の方がいましたにゃ」

「は、はい!」

 

長身にローブ、杖を片手に持っている男性にセララはゆっくりと近づいて行った・・・

 

「あ、あっ。〈三日月同盟〉のセララですっ。今回はありがとうございます」

 

彼女は一陣の風になった。男性が振り返った瞬間、身を屈めて一気に間合いを詰めたのだ!

 

「はい、って班長じゃないです「魔人拳!!!」かぁぁぁぁ!?」

 

魔人拳・・・・と言う名の腹パンチを男性に叩き込んだのだ!

見た目通りのひ弱そうな面立ちの男性は膝から崩れ落ちた・・・

 

「これが!わっちの!全力全壊!WRYyyyyyyyyyyyy!」

 

まるで時を止められる吸血鬼のように.勝利の雄叫びをあげる彼女に、セララとにゃん太は苦笑いしかできないのであった・・・無念、シロエぇ・・・

 

「って、くーさんもいるんですか!?」

 

なんとか持ち直したシロエは2人の知人に驚きながらお腹を擦りながらも話しかけてきた

 

「あっ。えっと、すみません。セララさん。僕はシロエと云います。こっちのご隠居と駄狐とは知り合いです」

 

「そうそう、セララさん。この子はシロエちといって、とっても賢くて良い子だにゃぁ。見所のある若者なんだにゃぁ。彼が来てくれたならば今回の作戦は成功間違いなしなんだにゃー」

「根暗で眼鏡で腹黒で貧弱でありんすが、ぬし、頭の回転の速さはぴか一でありんすぇ」

「とってつけたような猫語尾と花魁風は健在ですね御二人とも」

 

 シロエは意地悪な笑みを浮かべる。

 にゃん太のこの語尾をからかうのは、〈茶会〉時代からの彼の楽しみなのだ。そして、その後、彼女から帰ってくる罵倒も今では懐かしく思い出す

 

「何を言ってるのかにゃ? シロエち。これは我々猫人間の公式語尾だにゃ。にゃんとわんだふるな言語なんだろうにゃぁ」

「いやでありんすね 、甲斐性のない殿方は・・・ご隠居みたいに器をおおきぃ持ったほうがええでありんす ぇ?」

 

 陽気に交わされる3人の応酬に、セララは目を白黒させている。それでもなんとか気を取り直したように「3人はお知り合いなんですか?」と尋ねることに成功した。

 

「わりと知り合いだにゃぁ。昔はシロエちに蚤取りをお願いしてたにゃ」

「そんな事をした覚えはありません」

「今をなお、わっちに酷い事をさせぇる殿方でありんす・・・しくしく」

「だから、そんな事をした覚えはありません」

 

どうしても救助隊に一泡吹かせたい彼女は、ある事無い事を語りシロエを陥れたいようだった

終いにはセララに抱きつきながらh泣き真似をするぐらいに・・・

 

「シロエちが来たということは……あとの二人は?」

「はい、直継とアカツキというーーー」

「シカトでありんすか!?」

 

彼女が居ては話が進まないと判断したのか、シロエとにゃン太は彼女に構うことなく脱出する手段を確認しながら部屋を後にするのであった。その間、セララはガチで落ち込む彼女の手を繋ぎながら慰めるのであった。。

 

自由気まま、やりたい事しかやらない彼女はガラスの心であった。

シロエとにゃん太が脱出に関する意見を求めても「およよ~」や「わっちは所詮、駄狐でありんす」などと言って取りあわなくなってしまった。折角、久しぶりに再開したのに係らず彼女は協力の姿勢をとるスタンスを放棄した

 

・・・・メンドクサイ狐である。それと同時にシロエは相変わらず変わっていない元〈茶会〉メンバーに口元を緩めるのであった

 

 

そして一行は、ゲートの目の前。すなわち町の出口まで歩みを進めていた

シロエ達の考えた作戦は至ってシンプル明解であった。

敵ボスであるリーダーを倒し怯んだ隙を見て此処からエスケープを図ると言うものであり、それを聞いたセララは青ざめた

 

 それでは作戦ですらなく、殆ど行き当たりばったりではないか。ある意味自殺行為のように思える。それを咎めようと声を出そうとするが、上手く言葉にもなってくれない。

 

それどころか、恩人であるにゃん太は、作戦の要となるリーダーの撃破を買って出たのだ

ベテランプレイヤーだとは聞いていたけれど、PKとの戦闘はモンスターの戦闘とは違う。〈エルダー・テイル〉がネットゲームであったときからそうだったのだ。

 

 数少ない攻撃技を繰り返す「本能」に支配されたモンスターと違い、プレイヤーは何をしてくるか判らない。戦いの緊張感は数倍どころではなく、どんな腕利きでもミスをする――少なくとも、セララはヘンリエッタなどからそう聞いている。・・・・PK戦にこんなにあっさり頷ける人物が此処にいる事に驚きを隠せなかった

 

「・・・そんな無謀ですよ」

「どうしたでありんすか?セラララ」

 

一人静かに呟いた言葉であったが、隣で手を握る彼女には聞こえてしまっていたようだった

 

「・・・うまくいくんでしょうか?相手は集団に対して私達は4人。シロエさんの援軍が来たとしても6人、成功する可能性が低いですよ」

 

セララの手は震えていた。もしうまくいかなかったら皆、聖堂に送られてしまう。・・・そして今度は隠れ住む事はできない。逃れようの無い恐怖に一生怯えながら、〈アキバ〉にも〈三日月同盟〉にも戻れないで〈ブリガンティア〉の元、奴隷のようにすごさなければいけない!と思うと自然と手が震えてくるのであった・・・

 

「・・・ダメですね、助けに来てくれた方を信じられないなんて。でも私、ふあっ!!??」

 

 

――――震えていた手が止まった。いや、彼女の両手が震えるセララの手を優しく包んだのだ・・・

 

「心配ないよ?悔しいけど、シロエの作戦は失敗した事はない。安心して事を終えるのを待っていてちょうだい。ね?」

 

ドキッと心臓が高鳴った。セララの正面に立ち、優しく手を包む込む彼女は、普段の花魁口調で自由奔放な女性ではなく、慈愛に満ちて頼りになる女性の雰囲気を醸し出していたのだから・・・・

不覚にも同姓ながらときめいてしまったセララ・・・自身の胸の高鳴りのせいで後に言った彼女の言葉が聞こえなかった・・・

 

「・・・失敗しても私が〈ススキノ〉を支配するから」

 

彼女はそう言い残すとにゃん太と肩を並べるように歩きはじめた・・・にゃん太も彼女が近づいて来たのに気づき歩幅を合わせシロエとセララから少し離れて歩き始め、隣の者しか聞こえない声量で言葉を紡ぐ

 

 

「流石ですにゃ♪やはり、同姓には同姓の方がお話した方が良いみたいですにゃ」

「戯け猫、本気で言っているのなら消し炭にする所だぞ?・・・まぁ、これで心置きなく屑共を潰せるだろう?」

「貴女も手伝ってくれるのならもっと安全にいきますにゃ?」

「ふん!御免だね。そう言う舐め合いは『くー』に言え」

「・・・『くーち』も貴女と同じにゃんですが?」

「・・・『くずのは』もわっちも基本的には傍観でありんすぇ?」

「残念ですにゃ、しかし久々に食い散らかしますから、よく見ているですにゃ~。・・・セララさんの事はお願いしますにゃ」

「・・・わかりんした」

 

 

彼女は深く頷いた後、自身の懐から50cm程の扇子を取り出し軽く振って見せたのであった・・・

 

 

NEXT  脱出2




「さっき、くーさんの雰囲気が違ったような?」
「どうしたでありんすか、セラララ?」
「『ら』が一個多いですよ?・・・くーさんも真面目に話す時があるんですね!」
「わっちはいつでも本気ですぇ?」
「・・・そう、ですか。いえ、ありがとうございます!」
「?・・・変なセララララでありんすな~」


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裏切ったな!セララ!図った『7』!シロエェェェ!

やっと脱出……

うちの狐が……


〈アイテム〉

〈冒険者〉の皆さんには聞きなれた言葉であろう。私もザックリと言ったものだ・・・

此処では〈アイテムのランクについて再度、確認してみたいと思う

大きく分けて〈アイテム〉には〈通常品〉〈魔法級〉〈製作級〉〈秘法級〉〈幻想級〉と言う5つのランクが存在している

 

〈通常品〉簡単に言うと店に売っているもの。魔法的な効果は無い物の安価な為、使用する〈冒険者〉は多い

 

〈魔法級〉簡単に言うと魔法的付随能力があるもの。レアと言う訳でもなく商品として取り扱っている〈大地人〉も存在しているので入手したら売却してお金にしても問題はないはずだ

 

〈製作級〉簡単に言うと〈冒険者〉が作ったもの。これはランクに幅があり、下は〈通常品〉から上は〈秘法級〉まで。・・・しかし、勘違いしてもらっては困る。〈秘法級〉まで製作可能なのはサブ職業に生産系職業の能力をブーストする者の協力があって可能なのだ!高LV生産系職業でも〈秘法級〉に近い物は出来るが、所詮〈魔法級〉く〈製作級〉く〈秘法級〉の法則は変えることは出来ない

 

〈秘法級〉簡単に言うとレアアイテムである。モンスター、クエスト、ダンジョン等で入手は可能であり、毎日のようにプレイしているハードなゲーマーならば、90レベルに達するまでに数個は触れる機会がある品物だ。・・・しかし、入手出来たとしても自分が装備出来ない物であった〈冒険者〉は少なくはない

自身にあった〈秘法級〉を入手出来たのなら、それは良き相棒になり〈二つ名持ち〉の第一歩になるであろう

 

〈幻想級〉簡単に言うと〈二つ名持ち〉確定アイテム。・・・少し言い過ぎたようだ。存在個数に制限があり、流通する事はない。〈大災害〉前は入手するとサーバ内にメッセージが流れた為、それを由来に〈二つ名〉が付けられる

 

入手するのは非常に困難ではあるが、〈エルダー・テイル〉をプレイする者としては一度は見てみたい品物である

 

 

 

『第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味』著作者:くずのは

より抜粋・・・

 

 

 

「今回の見出しはコレで決まりでありんすな。しかし・・・」

 

彼女は持っていたペンと本をストレージし扇子を取り出し・・・

 

「まさか『扇狐』がセララを匿っていたとはな!」

「・・・有名になりすぎるのも困り事でありんすな~」

 

〈ブリガンティア〉参謀から向けられる視線を扇子を広げて遮っているのであった

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

わっちを嵌めるなんて!?セララ、恐ろしい子!

 

 

〈ブリガンティア〉参謀ロンダーグの言い放った言葉により、この場にいる全ての〈冒険者〉の視線が彼女に向けられた。そもそも原因は、シロエ達の作戦である〈ブリガンティア〉リーダー・デミクァスとの一騎打ちの舞台を作る為に〈ブリガンティア〉参謀のロンダーグに話し掛けたのが切欠だ

 

シロエがロンダーグの装備するアイテムを言当てた事により、ロンダーグはシロエ達を注意深く警戒した

そして『あるアイテム』に片手に持つ〈狐尾族〉に目が止まったのだ

 

彼女の持つ魔法具、『玉藻前』と言う扇子に・・・・

ここ日本サーバー〈ヤマト〉には〈武士〉や〈神祇官〉と言った日本伝統の職業が存在しており、それに由来している武器や装備も数多く存在している。そして過去に日本伝統武器が入手できるクエストが発生した・・・『妖怪達の宴』

入手出来る武器は〈秘法級〉から、刀〈平清盛〉和弓〈源頼朝〉布鎧〈静御前〉など歴史に名を残す人物が武器の名前に付けられているのが有名だ。〈幻想級〉になると大妖怪の名前が付けられているが・・・

 

そして彼女が装備する魔法具『玉藻前』は、それに該当しているのだ

シロエも参加はしたが、もとより入手困難な〈秘法級〉に更にドロップ率低下と言うクエスト状況があった為、手に入れられなかったものであった・・・

 

「流石〈秘法級〉をお持ちになる人ですね。そうです、彼女は『玉藻前』を所持しています。「なんで言うのでありんすか !?」・・・いや~、あのデミクァスより軽薄だ。にゃん太班長、久しぶりの強敵ですよ?なんなら同じ妖術師の彼女と一対一をしますか?」

「嫌でありんす!動きたくないでありんす!」

「そうですにゃ~。吾が輩のレイピアが恐くて一斉攻撃しか脳にないデミクァスより楽しめそうですにゃ~。くーちもそれでいいですかにゃ?」

「わっち にきかな いでくんなまし!」

「ごちゃごちゃとうるせぇ!、俺がやろうじゃないか!お前みたいなふざけた野郎は、俺の拳で引導を渡してやっ――るっ!」

 

約一匹、断固として拒否の姿勢を示しているが事はシロエが想像していた通りに進んでいった

挑発に乗ったデミクァスはにゃん太の不意を付く形で戦闘が開始された

デミクァスの職業は〈武闘家〉。主な特技の再使用規制時間が長い〈武士〉と比べ、〈武闘家〉は使い勝手の良い主要な特技の再使用規制時間が短い為、手数を多く出し間断のない波状攻撃でにゃん太に仕掛け続けている

デミクァスの腕もあり、にゃん太に距離をとらせないまま、試合を運んでいった

 

 

自分達のリーダーの奮闘ぶりに〈ブリガンティア〉のメンバーにも安堵が広がる。このままリーダーが完全勝利を収めると予想したのだ。・・・・しかし、それは大きな間違いだと言う事に気づいていった

試合が進むに連れて、デミクァスの身体に傷が刻まれて戦闘開始時の速度も攻撃能力も無くなっているのだ

 

にゃん太の職業〈盗剣士〉。 近接攻撃系のひとつで、二刀流を用いる数少ない職。その本分は両手の武器を活かした目にも止まらぬ連撃と回転を生かした広範囲攻撃。だが〈盗剣士〉を特徴付けるのは、様々な付帯効果付きの剣戟だ。「攻撃速度低下」、「回避性能低下」、「防御性能低下」など、余りにも正確な〈盗剣士〉の攻撃は、対象の長所を奪い、短所をより致命的な弱点として暴き出していった

 

しかし・・・・

 

「くそっ! しゃらくさい。こんな決闘ごっこなんてやってられるかっ!! ヒーラーっ! 俺の手足を回復しやがれっ、〈暗殺者〉部隊っ! この猫野郎をぶち殺せッ!!」

 

 目前の剣士の技の冴えに耐えきれなくなったデミクァスが、〈ブリガンティア〉達に一斉攻撃の号令をかけたのだ

 

僅かな躊躇の後、ロンダーグの支持の元、デミクァスの回復が開始された。にゃん太が付けていった付帯効果が解除されHPの方も満タンまで回復し、残るメンバーはにゃん太に怒声と共に襲い掛かったのだ!

 

・・・・だが、その僅かな隙も見逃さずシロエ達は次の指示を出していた

 

 

「直継!」

「おう!〈アンカーハウル!!!〉」

 

一陣の疾風となって現われた直継が特技を発動し8人の〈ブリガンティア〉の脚を止めたのだ

追撃は阻止できたが、にゃん太の方は雲行きが怪しいままであった。にゃん太がいくら攻撃しようにも直ぐに〈ブリガンティア〉のヒーラーが回復させてしまう為、事実上サンドバックになっていたのだ

 

「セララさん、にゃん太班長に回復開始」

「え?あ、はい!」

「・・・アカツキ、準備の方は?・・・わかった。・・・くーさん!」

「嫌でありんす!」

 

即答!みんなが頑張っているのに我関せずの姿勢を続けるのが彼女クオリティ!

 

「他にも手はありますが、くーさんが手伝ってくれた方が早いです。お願いします」

「嫌でありんす!」

「そこをなんとか!」

 

シロエがお願いするが、一向に首を縦には振らない彼女。もとより、戦闘には参加しないと言っていたのが彼女の言い文であろう。シロエもダメ元で頼んでいたので仕方なく、次の指示をだそうと直継に声を掛けようとした時、少女の悲痛な声が彼女に届いた・・・

 

「くーさん、にゃん太さんを助けてください!私のレベルじゃ耐切れません・・・お願いします、お願いします!!!」

 

19レベルという限られた自分の実力の幅を限界まで使って「知っている限りの回復呪文」を、前線に送り続けるセララの額には汗が浮かび上がり必死に詠唱を続けている。

 

・・・・その表情を見た彼女は苦情の表情の後、動いた

 

「~~~!!!今回だけでありんすからね!シロエェェ、わっちは!?」

「ふっ・・・くーさんは、デミクァス以外の行動を止めてください。終わらせます」

「わかりんした」

「え!?」

 

漠然とした指示にセララは驚いた。シロエが出した指示は指示とは言えない程、雑なモノで了解を得られないと思っていたのにすぐさま、返事を返す彼女とのやり取りは、先程のシロエとにゃん太のやり取りを復興さるものであった

 

「パンツ君!いきんすよ!」

「パンツ神か!了解だ!〈キャッスル・オブ・ストーン〉っ!!」

「広範囲魔法とおりやすぇ?〈狐火〉っ!!!」

「〈狐火〉だと!?くっ!!回避しろ!」

 

 直継は叫ぶと共に、盾を引き寄せて不動の構えをとる。直継の盾も、鎧も、そして剣さえも悠久の歴史を感じさせるような大理石の光沢を帯びて魔力と気をまき散らす。そして、彼女の9本の尻尾から青みを帯びた炎が一斉に燃え上がった!

炎は直継を含む8人の〈ブリガンティア〉を飲み込むだけではなく、後方に控えるヒーラー達にも襲い掛かったが、ロンダーグだけは遅れながらも回避に成功したようであった

 

「シロエェェ・・・わっちは、もういいでありんすよね?」

「はい、ありがとうございます。にゃん太班長行きます!」

「はいですにゃ、シロエっち」

「まだ俺がいるぞ!・・・ッ!?なに!?」

 

シロエ達を行かせない為にも、自ら動こうとしたロンダークであったが、自身に起きている事態に驚愕した

・・・体が動かないのだ。それだけではなくHPとMPが凄い勢いでなくなっていっているのだ

 

「これは・・・〈麻痺〉?それに〈感染症〉に〈魔吸〉だと!?」

「おぉ!うまくいったでありんすな?」

「な!?」

 

ロンダーグの目の前には、いつの間にかバットステータスをつけたであろう彼女が笑いながら佇んでいた

 

「どういうことだ!〈狐火〉の効果は直撃して効力を発揮する!直撃していない俺には効果が無いはずだ!」

「ふふふん♪答えは『コレ』でありんす」

 

ロンダーグをおちょくりながら彼女が見せたのは『玉藻前』であった・・・

 

「わっちの舞は、無色無害でありんす」

「なにを言っている・・・まさか!?」

「ふふ~ん♪せいか~い」

「攻撃の迷彩化、か・・・・さすが〈秘法級〉だ」

 

彼女がやった事は簡単で9本の〈狐火〉中、2本を迷彩化し背景に同化させて見えなくし、解き放っただけであった

 

「わっちもぬしが一番あぶな~思んして、2本ともいかせてもらいんした」

「ふっ・・・あの〈九尾のくずのは〉に目を付けられるとはな、俺も運がないものだ」

「照れてしまいんす 、やめてくんなまし?それと、わっち は『くー』でありんす 」

「まぁいい、もうじき決着は付くだろう。俺に構わずヤレ」

「潔い事は美徳でありんす♪でわでわ・・・・〈黄泉送り〉」

 

ニコニコと笑いながら棒立ち状態のロンダーグに、己が手に持つ扇子を突き立てた

突き立てた先に淡い光が灯った瞬間・・・・ロンダーグのHPバーは一気に0へと変化し彼は絶命したのであった・・・

絶命し消えていった彼の後には少しばかりの金とアイテムが散らばり、彼が聖堂に送られた事が証明される

彼の周りにいた〈ブリガンティア〉も参謀である彼の敗北が信じられないのか只沈黙するのみであった・・・

 

「・・・まったく、やっとおわりんしたか」

 

 凍り付いた沈黙を切り裂いたのは、〈鷲獅子〉(グリフォン)の鋭い鳴き声だった。西の空から現われた三騎のグリフォンは矢じりのような編隊を持って些か乱暴にシロエ達に向かって舞い降りてくる

 

「お~い!パンツ神!行くぞ!」

「わかりんした、パンツ君」

 

こうして三頭の巨大な飛行生物は、呆然とした〈ブリガンティア〉が見守る中、雄大でどう猛な羽ばたきを残して、南西へと飛び立っていった

 

 

 

 

next 家に帰るまでが遠足です!




「……主」
「どうしたんだい、アカツキ?」
「私の出番が……」
「…………」
「なにか言ってくれ、主!?」
「ほ、ほら!他のモブ倒したし?」
「描写が……」


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肉?…わっちは『8』蜜と林檎を所望!

話が進まない!


〈にゃん太〉

 

〈放蕩者の茶会〉の一員として数々のクエストを攻略してきたベテランプレイヤー。

所属ギルドは〈ねこまんま〉と言う猫人族による猫人族の為のギルドに所属していた。〈大災害〉後、ギルドは解散してしまった

語尾に「にゃ」「にゃー」「にゃぁ」と付く緑のコーデュロイジャケットを着こなし、針金のように痩せた紳士の姿を持った身長の高い〈猫人族〉を見かけたら紳士的に対応しよう

相手も紳士的に対応してくれるはずだ

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~プライバシーなんてぶっ飛ばせ!~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

 

「新しい見出しはコレで決まりでありんすな~。しかし・・・」

 

飢えた獣の如きに肉を喰らい付く3人に目をむける・・・

 

「美味しい! これすっげぇよ。にゃん太班長すごいっ! おぱんつの次くらいに愛してる!!」

「大げさですにゃぁ」

「あっ!くーさん焼けましたよ?」

「・・・・わっちは何故ここにおるんでありんしょう?」

 

セララに鹿肉を貰いながらも夜空に光る星を眺めるのであった・・・・

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

先生!林檎はオヤツにはいりますか!?

 

 

 

 

時は流れ、ここは「ライポート海峡」を渡ったばかりの海沿いの丘陵地帯。

五人が適当な丘陵地帯を見つけてグリフォンを着地させたのは既に闇が迫ってきた時刻だった。もう少しで町に着く予定であったがグリフォンがもう飛べない程の闇が空を覆っていったので 仕方なく丘陵地帯で野営の準備を始めたのだ。

直継とセララは小さな天幕を張り始め、 アカツキとにゃん太は互いに声を掛け合うでもなく、無言のコミュニケーションで森へと向かった。おそらく枯れ枝を集めに行ったのだろう。

 

シロエはマリエールに念話による報告を行ない、マリエールを安心させていた。

シロエの後ろから声を上げるセララからの報告も聞いて喜んでいるのが手に取るように判った

 

本来ならこのような遅い時間から始める野営は効率が悪い。魔法の明かりがあるとは言え、闇の中では天幕の設置も、薪集めも時間が掛かってしまう。

この分では朝までに十分な休養も取れないかも知れないが、それでも5人の表情は明るかった。何と言っても救出作戦は山場を越えたのだから。

グリフォンでいくつものゾーンをまたいできた以上、追っ手が掛かる心配はまず無い。残る任務は安全にアキバに帰還することだが、セララとすでに合流した以上、迎えに来たときに比べて速度を要求される旅ではない為、体調によってはこの丘陵でもう一泊したって構わないのだ。 そんな余裕が、みんなの表情にも表れていた。

 

そう一人を除いて・・・・

言わなくても判るとは思うが勿論、彼女である。彼女は火が灯ってから一歩も動いてはいなかった。皆が野営の準備をしてるのにも関わらず、只ずっと揺ら揺らと揺れる炎を見つめながら「何故?」やら「わっちの住処が」とか「お風呂が・・・」等、光の灯っていない瞳でうわ言を呟いていた

 

最初はアカツキも先の戦闘での連携について話を聞きたく、一緒に枯れ枝を拾うのを誘おうとしたが彼女の醸し出す暗い雰囲気に後退りしてしまったのは仕方ないことだ

 

一人が働かなくても野営の準備が整い、夕食の時間になったのだが、〈アキバ〉から来た3人には嬉しい事件が起きたのである。

 

事の発端は、にゃん太が一頭の鹿を狩って来た事から始まる。〈ススキノ〉組はさも当然のように鹿を料理7するにゃん太7を見ていたが〈アキバ〉組は奇怪な目でにゃん太の行動を見ていたのだ。

どのように調理したってこの世界では『味』と言う物は欠落している事が重々に判っていたので、にゃん太がとっている行動が無駄だと目で語っているのだ・・・しかし、次第にその目が驚きに変わっていった

 

自分達が『調理』して起きた現象が何故か起こらず、しまいには串に刺さった肉から肉汁が垂れ『俺は旨いぞ!』と自己主張しているかのように旨そうに見えるのだ

 

にゃん太に焼きあがった肉串を貰い、じっと見つめる。

臭い、焼き具合ともに完璧!・・・だが『味』がしない。所詮、臭い付きの味無し煎餅だと思い口に入れた・・・が

 

「美味しい!……けど。――なんでっ?」

 

 シロエ達もこれには驚きの声を上げてしまった。

 直継もアカツキもあっけにとられている。ただセララとにゃん太だけがニコニコと自慢げな表情・・・彼女は肉が刺さっていた串に林檎を刺して焼き始めているが・・・

 

 

そして冒頭へと戻る・・・

 

 

 「班長っ。おい! にゃん太先生っ。何でこんな味なんだ? っていうか、何で煎餅味にならないんだよっ!? 被告の証言を求めます祭りだぜっ」

 

 直継は両手に串を一本ずつ握りながら尋ねる。「お代わりは沢山あるからそんなにがっつかないでも良いですにゃ」というにゃん太の言葉に納得しない直継はこうして食べる分をキープしなければ安心できないようだった。

 

「料理するときに、素材をそろえてメニューから作りたい料理を選ぶと、食料アイテムが完成するですにゃ?」

 

にゃん太は慎重な手つきで内臓を切り分けながら言葉を続ける。

 

「そうやって料理をすると、どうやってもあの味の食料アイテムになってしまうのですにゃ。素材を集めて、メニューを開かないで直接切ったり焼いたり煮たりして料理をすれば良いんですにゃ。現実世界とまったく同じですにゃ」

 

にゃん太はこともなげにそう説明する

 

「でもそれは――」

 

 肉を飲み込むアカツキに水筒をわたしながら、シロエが台詞の後半を引き取る。

 

「それはやってみましたけど、その方法でやっても結局は謎アイテムが出来るだけでは? 魚を焼こうとしたときも魚とは無関係な奇妙な消し炭か、スライムみたいなペーストが出来るだけで……ほら、くーさんが作っている焼き林檎の様にはなりませんでした・・・・・え!?」

 

三人は一斉に焼き林檎に嚙り付く彼女に視線を向けた

程好く焼けた林檎の表面は湯気と一緒に出た林檎の蜜でコーティングされて、まさに光る宝石のようであった

 

「どう言う事だよ!班長!〈ススキノ〉では調理スキルを習得できるのか!?説明を求める祭りだ!」

「にゃにゃにゃ、それは、〈料理人〉ではないか、〈料理人〉であっても調理スキルが低いために起きる現象ですにゃ。・・・くーちは例外にゃ。 ……つまり〈料理人〉が料理作成メニューを使わないで、普通の手順で料理をする。そうすれば素材の味を生かした料理になるのですにゃ」

 

 

シロエはにゃん太の言葉に呆然として、やがて納得する。

考えてみれば、食料アイテムに塩をかけて食べていた事がすでにおかしかった。もし仮に料理は料理メニューでしか作れないとするのならば、塩をかける事すらもメニューから選択しなければ出来なかったのではないだろうか?

〈料理人〉などの生産職は未習得の場合でも、経験値5程度の最小限の値は持っている。「塩をかける」という最小限の調理は、〈料理人〉ではないそのほかのサブ職業を持つ者でも出来る最高のレベルの「現実的な調理」だったのだ。

 

「んじゃ、もしかして班長達はさっ」

「そうですよ。直継っち。〈料理人〉ですにゃ。」「ん?わっちは違うでありんす」

「班長は兎も角、くー!お前は納得いかねぇよ!」

 

肉に飽きてしまった彼女は懐から林檎を取り出し今度は生で齧り始めた。その傍らには、にゃん太が、あのススキノの街で作っておいたというアップル・ブランデーが置かれ、食事を終えた〈アキバ〉組にも振る舞われて、賑やかな夜の宴は続く。

 

にゃん太がセララのことを3人に紹介する。

ギルド〈三日月同盟〉の〈森呪遣い〉(ドルイド)。現実の世界では女子高生。

 

「はじめましてっ。ご挨拶も遅れましてっ。今回は助けて頂いてありがとうございます、セララですっ。〈森呪遣い〉の19レベルで、サブは〈家政婦〉で、まだひよっこ娘ですっ」

 

セララはたき火の周りに車座になって座っている最中だったのに、丁寧に立ち上がってぴょこんと頭を下げた

 

「ほら、くーちも。」

「・・・わっちもでありんすか?ぬし達は知っておりんしょう?

「初めての方もいらっしゃいますにゃん」

「・・・わかりんした。くーでありんす。以上終わり」

 

(元気な女の子だなぁ・・・・くーさんは相変わらずか)

 

少女らしい穏やかな顔の少女にそんな感想と昔と変わらない自己紹介をする彼女にシロエは軽く笑みがこぼれる

 

「セララちゃんは・・・クラスの三大可愛い娘で云うと三番目なんだけどラブレターをもらう数は一番多いとかそんな感じだぜっ」

「は、はひぃっ!?」

 

初対面のはずの直継の、返答に困るような評価に言葉が詰まるセララ。アカツキはそんな直継の顔面に膝蹴りをたたき込もうとしたが・・・銀の閃光が直継の額に突き刺さった

 

「グァ!?―――って串!?あぶねぇじゃねぇか!ちびっこ!」

「いや、私はまだ何もしていない」

「あぁ?・・・じゃあ誰がーーー」

 

直継が振り返った先には両手に串を持ち威嚇する彼女が第二投の準備を始めていた

 

「ってパンツ神かよ!?なにすんだよ!」

「セラララは一番でありんす!そな微妙な評価・・・おこりんすよ!パンツ君!」

 

額を擦りながらも物申す直継と彼女のやり取りにセララは笑みを零す。

 

「ふふふ、そう言えば、にゃん太さんとくーさん、シロエさんは昔からのお知り合いなんですよね?」

「直継っちもそうですにゃん。・・・〈放蕩者の茶会〉。かつて吾が輩達が所属していた集団ですにゃ」

「なんと!主人はあの伝説的なギルドの出身だったのか!?」

「はは・・・そんなに驚く事でもないよ」

「だなー、それにギルドじゃねぇって・・・なんつーか、たまり場だよ、あそこは」

 

〈放蕩者の茶会〉。いまは解散してしまったが、少人数で幾たびの大規模クエストに先陣を切って攻略し行ったと言う伝説的なパーティー

それを聞いてアカツキの表情には納得と悔しさの色が浮かび上がった。前者は主人とにゃん太が見せた連携、直継とくーが見せた連携に合点がいったのだ。そして自身の未熟さをしってしまった

やるせない気持ちが渦巻く中、ふっと直継が彼女に対して言う〈パンツ神〉と言う言葉に疑問を感じた

 

「主人、バカ継が〈パンツ君〉なのは承知しているが・・・どうしてクーはパンツ神なのだ?」

「え!?・・・あぁ、何と言うか・・・その~」

 

いつもと違い歯切れの悪いシロエに疑問を感じ、視線をにゃん太にも向けるが「にゃ~」と無くばかりで、それと言った返事が返って来ない。・・・どうせくだらない事だと判っていたが、興味心の方が勝ってしまったので仕方なく直継達に聞いてみる事にした

 

「・・・で、どうなんだエロ継?」

「おまえ、人にモノを聞く態度じゃないよな、それ?」

「いいから教えろ、アホ継」

「たっく・・・・・たしか一日中語り続けたんだよな?」

「そうでありんすな~・・・わっちの知り得る全てのアングルをパンツ君に伝授したでおりんすぇ?」

「・・・・アングル?」

 

アカツキの脳内に警告が鳴った。これ以上は聞いてはいけない!また良からぬ事だ!と警告が鳴り響いていたが・・・止めるよりも速く直継の口が開いた!

 

「どのアングルにカメラを移動させれば画面の向こうのキャラのおパンツが見えーーーッ!!」

 

直継の言葉を遮るようにアカツキの怒りが篭った膝蹴りが顔面にたたき込まれた。

 

「膝はやめろっ! 膝はっ!」

「主人、変態に膝蹴りを入れておいた」

「そして、わっちは〈全てのパンツ信者〉にとっての生き神になったでありんす!」

「・・・主人、この駄狐に膝を入れてもいいだろうか?」

「なんで俺だけ事後報告なんだよっ!」

 

彼女達のやり取りは更に話を弾ませ ギルドのことや互いのこと、美味しい食事と、この世界の星空のこと。飽きもせずに話合い、夜は更けて行く。

久しぶりに食べた味わい深い食事と、オレンジ色の炎に6人の冒険者の笑い声が重なる。とうとうにゃん太が断固として就寝を宣言をしたのは、もはや東の空が白み始める頃で3人はそれぞれの寝袋にくるまって、たき火のぬくもりの中で眠りについたのであった。

 

・・・勿論、寝袋反対派の彼女は何故かストレージに入っていたベットを取り出しセララとアカツキを両脇に入れて休んだ事はご愛嬌

 

 

 

 

 

NEXT アキバ帰還

 




「おい!パンツ神!なんでベットがあんだよ!」
「持ってきたからに決まってありんしょう?」
「なら俺にも貸してくれ!」
「セラララ、ツッキー。一緒に寝んしょう?」
「シカトかよ!?」
「うるさいぞ!バカ継!・・・ところでツッキーとは私の事か?」
「そうでありんすよ?」
「そう、なのか。・・・でもいいのか?」
「可愛いは正義!・・・少しばかり御胸が欲しかったでありんすが」
「胸!?」


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いーえっくす: デッミデミにしてやんぜ!

お世話になっております、祈願です

番外な話ばかりで申し訳ありませんが、書いたら止まらなくなりました

三時間で書き上げた作品なので拙いです、それでもOKな方はどうぞ……

一部、キャラ崩壊です

時期的には『ススキノ』においてシロエ達が救出を失敗したらと言うIFです




雪化粧が映える大地エッゾ西部。その首都にあたる〈ススキノ〉において激しい攻防戦が繰り広げられていた―――

 

少女を救い出す為、〈自由都市同盟イースタル〉の〈アキバ〉から遙々やってきた一組のパーティが、彼女を救い出す為に奮闘しているのだ

 

付与術師は敵の動きを阻害し、暗殺者は素早い動きを生かし一人ずつ確実に仕留め、守護戦士は術師を守り時には暗殺者と共に敵を仕留めていった。さらには、現地で再会した旧友の盗剣士の獣人も戦いに参加し戦況を優位に進めた――――――と思われたが、相手は僅かな期間で〈ススキノ〉を総べた存在

 

圧倒的な数の暴力により四人を飲み込んだ

いくら凄腕の〈冒険者〉とは言え次々に湧き出てくる敵を相手に健闘は続かず、最初に守護戦士が無に帰され付与術師、暗殺者と続けて神殿へと送り帰されてしまった

 

そして残る一人も、今まさに命の尽きようとしていた

 

「〈ワイヴァーン・キック〉ッ!!!」

「グワァァッ!」

「にゃん太さん!!」

 

〈ススキノ〉を総べた男・デミクァスの鋭い蹴り技がにゃん太に突き刺さり、彼のライフポイントをゼロへと導いた。倒れ伏すにゃん太に駆け寄るセララは、彼の手を取りながら必死に回復呪文を唱えるが、一度ゼロを示したゲージは回復呪文ではプラスにはならなく、足元からゆっくりと神殿に送還されていった

 

「ごめんなさい、にゃ…セララ、さん……守れなくて……」

「にゃん太さん!そんな…にゃん太さん!」

 

セララの叫びは、虚しく響き渡り握っていた筈の手は空をきった

恩人の死に泣き崩れるセララに、デミクァスは高笑いしながら一歩また一歩と彼女へと近づいて行った

 

「ははははは!そんなに好きならテメェと一緒に俺が飼ってやるよぉ!勿論、10回ほど神殿送りにした後になぁ!はははははっ!」

「ひ、ひぃ!」

 

小さく悲鳴を上げるセララを見て更に口元を釣り上げるデミクァスは、彼女の首を締め上げる為に手を伸ばしたが――――

 

「やめなさい、ロリコン」

「…………あぁ!?」

 

セララに向って伸ばした手を扇子で叩き落とす女性がそこにはいた

 

「テメェ……『扇狐』だったか?お前もあいつ等の仲間みてぇだが、戦闘には参加しなかった癖に今更出て来て何のつもりだぁあ?」

「勘違いしないでほしいわね?『元』仲間よ……それで要件はて青少年保護条例違反犯の取り締まりかしら?」

「……青少年保護条例?」

 

聞き覚えのない言葉に首を傾げるデミクァスであったが、尽かさずブリガンティアの参謀でありナンバー2のロンダークから一歩前に踏み出し声をかけた

 

「大雑把に言えば18歳未満の青少年との淫行が禁じられている法律だ」

「なっ!?」「えぇぇ!?」

 

声を上げたのは二人

デミクァスは自身に有らぬ疑いがかけられていた事に対し、セララは、まさか自分が性の対象に選ばれていた事に対してだ

 

さらに言うとギルドメンバーからは「YESロリータNOタッチ」やら「ボス、子供好きだったんだ」と囁かれるしだい。

羞恥心と怒りで顔と耳を真っ赤に染め上げるデミクァスに追い打ちをかけるかの様に〈くずのは〉は、デミクァスの耳元で囁いた

 

「某国出身の殿方のアレはとても小さく、幼女や少女に手を出す犯罪者が多いと聞くわ………貴方もそうかしら?」

「ッ!!!て、テメェェェェェ!!!!」

 

もはや我慢の限界であった

デミクァスは怒声と共に〈くずのは〉を蹴りを放つが、耳元まで近づいていた彼女には当たらず、ニンマリと笑みを浮かべた彼女にデミクァスは残り少ない冷静さを全て失った

 

「ずぁぁぁぁぁ!!!〈ワイヴァーン・キック〉!!!〈ライトニング・ストレート〉!!!」

 

怒りに任せた放たれる技は、一向に〈くずのは〉に届かず、逆に大技の隙をついて扇子で叩き突かれライフポイントを削られていった

流石のデミクァスも自身の技が当たらない事実とレットポイントに近づいていくライフポイントに焦りを感じたのか一旦距離を取るとロンダーグに向かって声をあげた

 

「おい!テメェら!公開リンチの時間だ!全員であの糞狐をころせぇ!!!」

「やれやれ、結局はそうなるか……回復部隊はデミクァスの回復、暗殺部隊は『扇狐』を囲み波状攻撃をしかけろ!」

「へっ!テメェもここ「やらせると思っているのかしら?」ズェアアァァ!?」

 

ロンダーグの指示の下、動き出した〈冒険者〉達であったが、彼らよりも速く動く者がいた―――――――〈くずのは〉だ

 

彼女は、部隊が足並みを整える前に勝負を決めにきたのだ

魔法攻撃系職業では想像出来ない素早さでデミクァスの懐に入り込むと一突き、ライフポイントを一気に削り取り、彼を地面に叩き突けたのだ

そして、唖然とするデミクァスを踵で踏みにじる

 

「グッ!」

「隙ありね?……戦場において冷静さを失ったモノから死んでいくのは常識よ?」

「て、テメェ……おい!ロンダーグ!なにしてやがる!速く俺を助けろ!」

「無理だ。俺達が仕掛けるよりも先にオマエが送られる」

「くっそ!」

 

デミクァスは悪態をつくが、ロンダーグの言っている事は正論であり、自身のライフポイントは2桁。……相手が魔法職だとは言え一回の攻撃で削りきるには十分な数値だった

 

「面白い余興だったわよ?……後は安らかに眠りなさい」

「ッ!!糞が!おい、テメェ!俺が復活するまでコイツを捕えておけ!いや、殺せ!俺が復活したらずっとずっとずっと!テメェを殺してやるぅぅ!」

「遺言はお終いかしら?では………死ね」

 

デミクァスが最後に光景は……………〈くずのは〉の満面の笑みであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここは?」

「目が覚めたか、デミクァス」

 

見覚えのある光景であった。

質素でいて豪華さは欠けているが、神聖に思える場所、更には気候の性で冷たくなった寝台がここは、神殿であると伝えくる

 

あの時は月に気がする、そんなおぼろげな記憶を整理し、扉に寄り掛かるロンダーグを見た瞬間、デミクァスは激しい怒りが湧きあがってきた

 

「糞が!ロンダーグ!あの糞狐は何処にいやがる!」

 

怒りに飲まれたまま、寝台から飛び跳ねロンダーグに詰め寄るが、彼の反応は……予想外なモノであった

 

「扇狐様は社にいる。……お前に話があるそうだ、ついて来い」

「扇狐様…だと!?どういう事だ!なんでテメェが糞狐に様付けなんてしていやがる!」

 

自身の側近であるロンダーグから敵対していた存在を敬う言葉が出て来た事に対し驚きを露わにするが、ロンダーグの口から告げられた事実が更に彼を驚かせる

 

「デミクァス、言葉に選べ。…あの方は〈ススキノ〉を、いや〈エッゾ帝国〉を納める女帝だ。弱小のギルドマスターが気軽に話しかけて良い存在ではない」

「なん…だと!?」

 

いきなり女帝だと言われても理解は出来なかったが、ロンダーグが自身の所属するギルドを弱小と評価した事がデミクァスを更に混乱させた

困惑し足が止まるデミクァスにタメ息をこぼしたロンダーグは、デミクァスに追い打ちをかけた

 

「〈ブリガンディア〉の構成員は、お前を含めて5人だ。弱小だと言われても当然だ」

「5人だと!?」

「あぁ、そして俺は、既に〈ブリガンディア〉ではない。……俺は扇狐様が立ち上げた〈雪狐〉の一員であり、女帝直属の騎士『ナイト・オブ・スリー』のロンダークだ」

「………はぁ!?」

 

後に聞かされる事になる

デミクァスが復活するまでの数時間の内に〈ブリガンティア〉は〈くずのは〉によって懐柔され〈ススキノ〉を拠点に〈エッゾ帝国〉を支配しつつある事を……

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

ⅰf伝?……これはデミクァスの戦いの記憶だ!

 

 

 

〈大災害〉当初、首都ススキノは武装化した〈冒険者〉の集団に制圧され実質的には無法者〈冒険者〉の支配する帝国と成り果て、多くの〈大地人〉たちはその下で労働を余儀なくされていた………のは過去の話である

 

現在の〈ススキノ〉は、女帝〈くずのは〉が定めたルールに従い〈冒険者〉と〈大地人〉が互いに手を取り合って共に過ごしていた。だが、もとの土地柄か人相や気性の荒いモノが集まりやすく厄介事は常におきているが、その騒動も翌日には解決、早くて半日には解決してしまっている

 

対応が早い、行動が早い、対処が早い。

女帝の采配がいかに凄い事なのかは、問題を解決する度に成長を続ける〈ススキノ〉を見れば一目でわかる

そして女帝の采配を彼女の手足となって届け解決する集団がいた

 

その集団の名はナイト・オブ・ラウンズ

女帝〈くずのは〉によって選別された彼女の直属の騎士。〈エッゾ帝国〉に住む〈冒険者〉や〈大地人〉から選ばれ各自、専門知識を生かして問題の解決にあたる特殊集団だ

 

そして町の民からもっとも信頼と憧れの意を送られるラウンズは、今日も〈ススキノ〉で暴れるゴロツキをエリア外に連れ出し制裁を加えていた

 

「〈ライトニング・ストレート〉!!!」

「ぐぁぁぁぁ!!!」

 

青白く輝くいかずちを纏った拳がゴロツキを打ち抜き、ライフポイントを一桁まで削り取った。…あと一撃でゴロツキを神殿送りに出来る。しかし、彼は攻撃を仕掛ける事はせずにゴロツキの襟を掴み上げ怒声を上げるだけであった

 

「おい、テメェ!お前らが暴れる度に終始構わず召集される俺の気持ちがわかるかぁ!おい!」

「い、いえ!わかりません!」

「寝ているのも構わずに召集されてこっちは睡眠不足なんだよ!いいか!次に騒ぎを起こしてみろ!テメェを神殿送りにした後・・・・・・・グチャグチャのミンチにしてやるからな!」

「は、はいぃぃぃ!すみませんでした!」

 

彼の人相も相まって恐怖と言うトラウマを植え付けられたゴロツキは尻尾をまいてエリア内に戻っていった

そんな姿に舌打ちをし、自身もエリア内に戻って行く。彼が町に入ると「お疲れ様」や「流石は兄貴です!」などと言った労いや憧れの言葉をかけられるが、当の本人は不機嫌そうな顔を更に歪め〈ススキノ〉の中心に建てられた社へと足を進めていった

 

辺りは、コンクリートやレンガで作られた建物が多いと言うのに、〈ススキノ〉の中央に作られた建物だけが木造建築、帝国と掲げているのにココだけが、日本を表している様な建物がそこに存在していた

 

赤塗の立派な門を潜り、戸を開けて中に入る。ご丁寧に「土足厳禁」と書かれた玄関まで存在しており、一歩踏み入れば日本人に馴染が深い畳の臭いが鼻を刺激し、心を落ち着かせると言うモノだが……彼の表情は険しいままであった

 

ヅカヅカと中へ進んで行き一番奥の襖を開ける。

するとそこは、戦国ドラマなどで良く見る御上段の間と御下段の間が広がっていたが、誰もいない。

普通は留守だと思い、日を改めて尋ねるものだが何を思ったのか、彼は御上段の間に上がり屏風の後ろに隠された襖に手をかけ、力強く開けたのだ

 

開けた先には、女帝だと言うのに和風な恰好をした狐尾族の女性と赤い髪の人間の少女、和式の部屋と違和感を感じる灰色のローブを着た男と洒落た服装の猫人族の男がいた

 

「ご苦労……だが、襖はもっとゆっくりとあけろ」

「お疲れ様ですにゃ、いまお茶を入れてきますにゃ~」

「お、お疲れ様です!デミクァスさん!」

「…いつもより遅いな?報告を聞こう」

 

この部屋にいる全員が彼に労いの言葉をかけるが、彼の表情は良くなる所か更に悪化した

プルプルと震えながら、怒りを抑えこむが最早、我慢の限界であった

 

「て、テメェらは何をしていやがる!!!」

「見て判らないかしら?……炬燵で暖を取っているわ。そんな事も分からないとは……情けない」

「そんな事を聞いてんじゃぁねぇ!なんでテメェらだけ部屋で温まっていて俺だけ寒い中、仕事しなくちゃいけねぇんだよ!」

 

そう、謁見の間の奥には日本民家を思い浮かばせる風貌、中央には大きな掘り炬燵、そこに足を入れる四人がいたのだ

 

「それが、ナイト・オブ・セブンの仕事だからだ。扇狐様は勿論、ナイト・オブ・ワンもツ-もそれぞれ担当の役割がある。理解しろ」

 

ロンダーグがさも当然だとばかりにデミクァスに答えるが、火に油を注ぐだけであった

 

「出来るか!糞猫(ナイト・オブ・ニャー)は、茶を飲んでいるだけでセララ(ナイト・オブ・ワン)は何もしていねぇじゃねぇか!」

「デミクァス、デミクァス」

「なんだよ!糞猫!」

「セララさんは、そこにいる事が仕事ですにゃ」

「納得できるか!!!」

 

〈エッ帝国〉では誉高いナイト・オブ・ラウンズは以外にもアットホームな関係を築き上げていた

 

「それはそうと扇狐様、今朝〈シルバーソード〉のギルドマスターが謁見したいと申し立てて来ました」

「そう……明日会うわ。今日は寒いからパスで」

「御意」

「御意、じゃねぇだろ!!!」

 

元〈ブリガンティア〉ギルドマスター、現〈雪狐〉所属ナイト・オブ・セブンに任命されたデミクァスの苦悩は続くが、北の傾国は今日も平和な日々を保たれたのであった

 

 

 

 

 

「って言う夢を見たでありんすよ~?」

「デミクァスがクーさんの部下でこき使われている……なんだか有りそうで怖いですね?」

「いや、むしろ俺らが負けてたらそうなっていたんじゃねぇか?可能性ありあり祭りだぜ」

「くだらん、主君は負けたりはしない……直継は知らないがな」

「なんだとチビッ子!」

「チビッ子言うな!」

 

〈記憶の地平線〉メンバーは、可能性としてあったかもしれない彼女の話で盛り上がるのであった

 

 

NEXT 奇襲!気球!マイティーソー?……アメコミでありんすね

 




ネタのラウンズ

ナイト・オブ・ワン    →セララ
ナイト・オブ・にゃー    →にゃん太
ナイト・オブ・スリー   →ロンダーク
ナイト・オブ・フォー   →モブ
ナイト・オブ・ファイブ  →鼻血
ナイト・オブ・シックス  →欠番(6は彼女の嫌いな数字の為)
ナイト・オブ・セブン   →デミクァス
ナイト・オブ・エイト   →ウィリアム(予定)



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〈アキバ〉 :狐がいる家
苦渋も『9』労も!わっちは御免でありんす!


やっと〈アキバ〉帰還


〈マリエール〉

メイン職業は〈施療神官〉サブ職業は〈木工職人〉

ギルド〈三日月同盟〉の代表者として十数人の仲間の面倒を見る妙齢の女性。姉御的な性格でウェーブする緑の長い髪と、明るく人なつこい美貌の持ち主で、いつも向日葵の様な笑顔を浮かべている

シモネタ対応度も高く、本人は「色気がない何でも話せる性別を感じさせない人間」だと思っているが、抜群のスタイルと相まって、隠れて慕うファンは男女の別なく多い。実際に胸の揉み心地は最高に良かったと記載しておこう

 

そんな彼女を一目でも見てみたいのなら〈アキバ〉に行く事をオススメしよう

彼女の笑顔を見ていたら悩みなんて直ぐになくなるとここに約束しよう

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~プライバシーなんてぶっ飛ばせ!~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

「今回の見出しはコレで決まりでありんすな~。しかし・・・」

 

彼女は持っていたペンと本をしまい、開いた両手でーーーを揉んでいく・・・

 

「ほんとにやわらかいでありんすね~」

「ホンマやろか!?それならうちもクーちゃんの揉んであげるわ~」

「ん!?・・くすぐったいでありんすよ!も~倍返しだ♪」

 

「・・・マリ姐、クーさん。僕がいる事忘れていない?」

 

シロエが呆れている中、さっき知り合ったギルマスと乳繰り合っていたのであった

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

桃源郷。それは男の夢!どう思うパンツ君?――え?おパンツの国?なにそれマジ桃源郷!

 

 

数日の野営を挟み〈アキバ〉の町に到着した彼女達を待っていたのは〈三日月同盟〉のメンバーであった

〈三日月同盟〉のギルドマスターであるマリエールはセララの帰還に心から喜び、今回の立役者であるシロエを抱きしめお礼を述べていた。アカツキもヘンリエッタに揉みくちゃにはされてはいたが、君主が誉められる事をした充実感から口元が上がり笑みがこぼれている

 

・・・・だが忘れては困るのは彼女である。そう彼女は集団を嫌っている。

望まなくてもこんな大勢に迎えられる事なんて脱兎したい衝動に駆られるはずであったのだが・・・・

 

「おお・・・おおお!おおおおお~!」

 

周りの目など気にせず、只一点を歓喜の声を上げながら見つめているのだ!

シロエ達も普段とは違う彼女の反応に疑問を持ち、彼女に話しかけようとしたが・・・先に彼女に見つめられていた女性、マリエールが話しかけていた

 

「ん?この子もシロ坊に協力してくれた子なん?ありがと~な!うちはマリエール。よろしゅうな~」

「わっちは、野良狐のくーでありんす。〈ススキノ〉ではセラララに隠れ家を提供しておりんした!・・・・ときに」

 

シロエ達は驚愕した!彼女を知る人なら全員が驚くほど彼女らしからぬ自己紹介をしたなのだから・・・しかし彼女が次に言った言葉を聴いてその場にいた全員が驚いた

 

「その柔らかそうな乳を揉ませてくんなまし!」

「「「「「ブッ!!??」」」」」

 

驚いたのではなかった、吹出したのだ

マリエールも最初は困惑していたが次第に笑顔になっていき・・・

 

「驚いたわ~♪うちのおっぱいでよかったらいくらでも揉ましてあげるわ!」

「まこと でありんすか !?では遠慮なく!!!」

 

彼女は両手をワキワキと動かし、マリエールは彼女が揉みやすい様にエッヘン!と胸をはった

彼女の手がマリエールの胸に触れようとした瞬間!・・・後頭部に痛みが走った

 

「主、この駄狐に膝をいれておいた」

「なにするでありんすか!」

「・・・あぁ、よくやったアカツキ」

「シロエェェェェ.!?」

 

無所属とは言え元〈茶会〉メンバーだった彼女の暴走は目にあまる行為だったのでシロエもアカツキの行動を誉め、親指を立ててサムズアップした。それに答えるアカツキb

マリエールの方も行き過ぎた様でヘンリエッタに「昼間からなんて事を!」やら「女子高気分」等、小言を言われていた

 

ヘンリエッタの説教も数分で終わり、やや疲れた顔をしながらもマリエールは本題にシロエ達に話す

前置きが長かったが、セララとシロエ達の帰還祝いのパーティーをするから迎えに来たそうだ

パーティーと聞いて直継を初め、にゃん太やシロエも素直に喜んでいた・・・・ただ彼女はマリエールの胸を触れなかったのでブウ垂れていたがマリエールに耳元で「後で2人きりになった時に」と囁かれて機嫌は反転し9本の尻尾を嬉しそうに揺らしながらシロエ達の後に続いたのであった

 

 

シロエ達がメインゲストとして招かれたギルドホールはすっかりとお祭りの雰囲気だった。

シロエ達は会議室に作られた大テーブルに案内されて、「もう1時間もすれば料理もすっかり出来上がるから!」とまずは食前酒を出された。旅装をほどいたシロエと仲間達はそれぞれに歓待を受ける。

もてなされるシロエたちもだが、もてなす〈三日月同盟〉のメンバーにとっても、それは楽しい宴だった。こんなにも豪華で華やかで、しかも美味しい料理に満ちた大騒ぎは、あの〈大災害〉以降初めてだったのだ。

 

 しばらくは感謝の言葉で埋め尽くされていた会議室だが、にゃん太は「ちょっと見てきますにゃ」などと言い残すと立ち上がる。セララは慌ててそのにゃん太について行く。

 微笑ましい様子の二人は、後から聞いたところに寄れば、作業場全てを占領している臨時厨房に行って〈三日月同盟〉の〈料理人〉と一緒になって激戦区の古参兵のように料理にいそしんでいたらしい。

 

シロエ達の仲間も、あちこちで引っ張りだこだった。

直継は若手のプレイヤーに囲まれて、戦闘談義をし 一方、アカツキは一室に監禁されていた。半分涙ぐんだアカツキの悲鳴は幻聴ではない事は此処で記載しておこう

 

そして宴もたけなわとなり、楽しい時間は繰り返し述べられる感謝と祝いの言葉、乾杯とご馳走に対する賛辞の中に過ぎ去っていった。 呆れるほどに食べ、呆れるほどに飲み、そして騒いだ。

すっかり月も沈んだころだろう。宴の熱気がかすかに残る〈三日月同盟〉のギルドホールは、お祭りのあと特有の満足したような、どこか心残りのような、幸せで穏やかな雰囲気に包まれ、スヤスヤと眠るギルドメンバーでいっぱいであった

 

シロエは、まだ眠くないので辺りを軽く散策しから寝ようとしていたが、マリエールにお茶に誘われてギルドマスターの部屋へと案内されていた

 

「何がええ?」

「なんでも」

「んじゃ、なんかありもんでええな。・・・えーっと、あれ?林檎なんていつ持ってきたんやろ?・・・まぁええか」

 

マリエールは、厨房に残っていた飲料から、果実酒を持ってくる。暖めても冷ましても飲めて、香りが特に楽しめると言う理由から林檎の果実酒を選択した

二人は大きな毛皮のクッションが置かれたソファへと座って、やっと一息つく。

 

「今回は本当に世話になったん。ありがとな」

「もう良いですって。僕は何も大したことして「――ッ!きゃぁ!?」 っ!マリ姐!?」

 

いきなりの悲鳴にシロエは視線を上げた!そこには毛皮のクッションに襲われているマリエールが擽ったそうに身を屈めていた

 

「うにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅうにゅ♪」

「あはは!く、くすぐったい!そ、そんなに強くもまんといて!?」

「・・・ギルドホールにいないと思ったら此処にいたんですか、くーさん?」

 

シロエはもっと速い段階で気づくべきだったと後悔した。お狐様出現条件は揃いすぎていたことに・・・

宴会の席で一人になれる所、机に置かれた林檎、林檎の果実酒、人が寝れる程のソファ、そして・・・胸

クーは基本的には相性が良い人とでしかすごさないので他人が多くいる〈三日月同盟〉の面々と過ごす筈が無かった

 

シロエは呆れながらも、乳繰り合う2人を視線に入れないように只じっと手元を見るばかりであった・・・シロエの威厳の為に言わないでおくが・・・・耳は真っ赤に染まっていたのは・・・内緒です

 

「はぁはぁ・・くーちゃんっておもろいな~♪揉みごたえあるし♪」

「乳の人もオツ でありんすぇ。・・・フレンド申請してよいでありんすか?」

「あぁん♪マリエって言ってや?ええよ~、なんなら〈三日月同盟〉にくるん?」

「それは遠慮しておきんす。わっちは・・・狙っている『お社』がありんす。おゆるしなんし 。」

「そか~残念やな~。ん~悔しいからおっぱい揉んでやる♪」

「ん!?・・・そこはダメでありんす!」

「・・・・もういいかな?二人とも」

「「は~い」」

 

みんなシロエを誉めてやってほしい!およそ10分。部屋の中には淫らな声が飛び交う中、シロエは鋼の精神で耐え切ったのだ!目の前で行なわれていた乳繰り合いを耐え切ったのだ!

さぁ!みんなで称えよう!よくがんばった!シロエ!!!

 

「あのさ、マリ姐……いない間、こっちは、どうでした?」

「こっちかぁ・・・ってクーちゃん何処行くん?」

「わっちは月見酒でありんす。・・・なんだかシロエェェからメンドーな臭いがしたでありんすから」

「え!?臭い?」

 

厨房に残っている果実酒を2本持ち出し部屋を出て行ってしまった彼女。

付き合いが浅いながらもマリエールは彼女が気を利かせて出て行った事がわかり軽く笑みがこぼれた

 

「・・・やっぱり、うちに来てほしかったな~。」

「どうしたの、マリ姐?」

「なんでもあらへん、それより〈アキバ〉は―――」

 

部屋を出て行く彼女.を優しく見守りながらマリエールは現在の〈アキバ〉の状況をシロエに話し始めたのであった

 

 

 

 

 

「るーるーるーるるるー」

 

部屋を後にした彼女はギルド会館を出て酒瓶片手に〈アキバ〉の町をフラフラと散策していた

傍から見たら酔っ払った姉ちゃんが千鳥足で家に帰っているようにしか見えないが・・・

行く当てもなく歩いていたせいか、知らぬ間に石造りで苔むした、古びた西洋橋にたどり着いていた

 

「るーるーるー・・・河に写る月もオツでありんすな~」

 

空に浮かぶ月、河に写る月。

まだ初夏の風が吹いていない季節だと言うのに彼女は彼女なりの四季の味わいをこの〈エルダー・テイル〉で感じていた。

河原に座り込み果実酒の栓を開け、どこからか取り出した杯に注いでゆく・・・

杯に写る月に彼女はニンマリと笑みを作りながら一気に飲みほしたのであった

 

時は流れ、持ってきた果実酒1本、時間をかけながらゆっくりと飲み干した時、ふっと頭上の橋上にさっきまで共にいた丸眼鏡が特徴的な青年がため息をこぼしながら俯いて河を眺めていた・・・

 

「ん~・・・わっちにも気づかないとは重症でありんすね?多分、ご隠居が行くと思いんすか・・・わっちもソロソロ新しい『お社』がほしいでありんすぇ・・・・・・『行くか』」

 

先の酔いなど微塵にも感じさせない程、しっかりとした足取りで歩み始めたのであった・・・

 

 

 

シロエは悩んでいた

今の〈アキバ〉は荒む一方で、〈法〉もないもない。このまま何もせずに只第三者として過ごすだけでいいのだろうか?

助けてやりたいと思う。どうにかしてやりたいと思う双子の姉弟がいる。・・・だがそれ以上に「全て」をどうにかしたいと思っていると云うことだ。それはススキノ脱出の時も感じた。あの時ススキノにはセララと同じような境遇のプレイヤーも多くはないにせよ何人か居たはずだ。そう言ったプレイヤーを見捨ててセララだけを救出してきたことに、シロエはどこか居心地が悪いものを感じていた。

 

でも、自分の好みや都合を押しつけて……それはなんて傲慢な考え方なのだろう。

悩み苦しみ考え抜いて・・・でも僕には・・・

ふっと思い出したのは〈彼女〉。〈彼女〉なら何と言ったかな。シロエは川面に向けていた視線を月にあげる。真っ白い月は、洗いざらしの絹のような光沢で夜明け前のアキバの街を照らしている。

 

(あの人は豪快な人だったから……。それに僕みたいに卑怯でも未練でもなかったし。でもあの人なら・・・)

 

「やめておきなさい、シロエ?カナミの様な振舞いは貴方にはできないわよ」

「!?」

 

リンっとした声がビルの影から聞こえ、声の持ち主が月夜に照らされて現れた・・・・

 

「くーさん?・・・いえ、いまは〈くずのは〉ですか?」

「私の事はどうでもいいの、貴方は自分の考えを纏めなさい・・・今、貴方がしたい事を」

「僕のしたい事・・・〈くずのは〉、僕はどうすればいいのかな……」

「その答えは私達は持っていないわ。でも、、助言なら出来る・・・そうでしょ、猫さん?」

「そうですにゃん、シロエちが答えだと思うものが答えなのですにゃ」

「・・・班長、もですか?」

 

〈くずのは〉とは反対のビルの影から穏やかそうな目を細めてにゃん太が近づいてくる

 

「にゃにゃ、悩める若者を導くのは大人の役目ですにゃ」

「猫・・・それだと私も年寄りと思われるわよ?」

 

にゃん太と〈くずのは〉は2人並びあって僕の所までやってきた

〈茶会〉の7時から2人には独特な雰囲気があったけど、今なら少しわかる気がする・・・これが大人って言うものなのかと

 

「お互いいい年ですにゃん。・・・そしてシロエち、もう答えは見つかりましたかにゃ?」

「コレは一時保留ね。・・・頭の良い貴方なら出ているわよね?ならその考えの中でも」

 

「一番すごいことをしなさい」「一番すごいことをするといいにゃ」

「すごいこと・・・」

 

2人の言葉は僕の中にすっと入っていった

そして脳裏に浮かんだのは一緒に旅をし、共にすごした2人の仲間の顔・・・

 

「僕、待たせてたのか」

「そうにゃ」

「2人とも、待ってくれてたのか」

「そうね」

「他のところにも行かないで。僕のそばにいてくれたんだ」

「そうにゃ」

 

(――僕がギルドに誘うのを、待っていてくれたのか)

 

 シロエはうつむく。胸の中の黒い海のような固まりが轟々と音を立ててうねる。どこにも行き場のない感情が、押し殺した蓋の下で暴れて、あふれ出そうになる。

夏の虫の音と、静かな水の音。後は白々とした月明かりの中で、シロエは棒のように立ち尽くしたまま、拳をぎゅっと握りしめて、必死に押さえつける。

 

 ――期待してくれていた。

 ――買ってくれていた。

 ――待っていてくれた。

 

色んな事を考えて分析して悩んできたつもりの自分が、何でそんな事も判らなかったのかと。あるいはそれほどまでに血の巡りが悪いのかと。自分に対する不信感と劣等感は堤防のように高いにもかかわらず、嬉しさが親しさが信頼が冷たく凍えたくびきを洗い流して行く。

 

「間に合うかな」

「もちろんにゃ」

「にゃん太班長。にゃん太班長も、僕のトコに来て。……班長が一緒に来てくれると、嬉しい。班長が居ないと、困る」

 

シロエはにゃん太を見つめて誘った。にゃん太は照れたように笑うと「良い縁側が欲しいにゃ」と云う

 

「第三者視線から言わせて貰えば貴方達・・・危ないわよ?それに・・・私達はいらないのかしら、シロエ?」

「え!?でも〈くずのは〉達には行きたい所があるって・・・」

 

目を丸くさせながらも驚くシロエ。そんな彼を見て〈くずのは〉は大きくため息をついた

 

「貴方はもう少し女心を勉強しなさい・・・〈クー〉は口には出さないけど、貴方の事を気にいっているのよ?」

 

〈ススキノ〉から無理やり連れ出した感じがして罪悪感はあったけど、なんだかんだで此処まで文句を言わずについて来てくれた彼女達の気持ちにやっと気づいた・・・

 

「・・・そっか、僕には、まだ待たせていた人がいたんだ。」

「そうね、少しは猫を見習いなさい。・・・〈クー〉が待たせた罰として林檎の木をくれ!と言ってるわ」

「うん。僕と僕たちが作るから。良い縁側も林檎の木も、用意するよ」

 

シロエは頷いた。

もし「一番すごいこと」を望むのならば。それを望むのが許されるのならば。シロエには支えきれないような大きな責任と共にではあるが、考えつく策がある。

 

もし、共に背負ってくれる仲間がいるのならば。

 

 

 

NEXT お狐!いっきま~す!




〈記録の地平線〉《ログ・ホライズン》

・シロエ  LV90 〈付与術師〉《エンチャンター》  サブ職業〈筆写師〉
・直継   LV90 〈守護戦士〉《ガーディアン》   サブ職業〈辺境巡視〉 
・アカツキ LV90 〈暗殺者〉《アサシン》      サブ職業〈追跡者〉 
・にゃん太 LV90 〈盗剣士〉《スワッシュバックラー》サブ職業〈料理人〉
・クー   LV90 〈妖術師〉《ソーサラー》     サブ職業〈デザイナー〉

補助・壁・遊撃・物理攻撃・魔法攻撃・・・・意外にバランスいいな~。後はヒーラーですか・・・


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ハーレム=お『10』この夢? NO断じてNO!

次回は話が難しくなるので投稿日が遅くなります


〈シロエ〉

 

かつて伝説的なパーティー〈放蕩者の茶会〉において参謀役を務めていた〈エルダー・テイル〉ベテランプレイヤー

この世界では不人気な職業〈付与術師〉を極め彼の指示の下、クエストを挑むものならば大いなる報酬が期待でき言おう

しかし、彼自身はセンチメンタルの塊かつガラスのハートなので付き合い方は考えたほうがよい

彼を町で探すには・・・・

「まっくろクロエでておいで~で~ないと目玉をほじくるぞ~?」

と歌えば壁と壁の隙間から出てくるかもしれない

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~プライバシーなんてぶっ飛ばせ!~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

「わっちを待たせた罰でありんすな~。しかし・・・」

 

彼女は険しい顔で彼女が書いた設計図を吟味するヘンリエッタに視線を向ける・・・

 

「・・・くー様、店舗の方はもう少しコストを抑えたモノを、制服の方は・・・このリボンをもっと大きく!そしてエプロンはフリルをつけてください!」

「・・・うにゅ~、働きたくないでありんす~!動きたくないでありんす~!」

「いえ、くー様もシロエ様のギルドの一員なら最低限は働いてもらいます!・・・〈デザイナー〉のスキルは経済的にも魅力的ですしね」

「・・・セラララ~助けて~ヘンリーがいじめる~・・・シロエェェのばか~」

 

助けを求める彼女の心の叫びは虚しく〈三日月同盟〉の執務室に響くのであった・・・

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

林檎金貨10万!林檎酒金貨15万!アップルパイ金貨20万!スマイル・・・当店では扱っていません

 

 

 

シロエのギルド〈記録の地平線〉に参加しシロエの考える作戦を実行すると決まった日から彼女の生活は一変した

〈ススキノ〉では執事とメイド付きのニート生活を送っていたのだが、ここ〈アキバ〉に来てからは〈三日月同盟〉の執務室に監禁されているのだ。・・・しかもヘンリエッタと言う監視付きで

事の発端は彼女のサブ職業〈デザイナー〉にヘンリエッタが目をつけたのが原因である

彼女みたいな高LVの〈デザイナー〉は珍しく〈デザイナー〉の特徴である『制作費削減』『品質上昇』を100%引き出せる〈冒険者〉は数少ない

シロエの作戦の下、現在資金集めに取り掛かっている〈記録の地平線〉と〈三日月同盟〉にとって経費削減は必須、即ち彼女はシロエの作戦に賛同した時、ニート生活は終わりを告げてしまったのだ

 

「・・・わっちは燃え尽きたでありんす」

「おおきにな~、大手はんに依頼したらえらいお金が掛かってしまうからな~?ほんまに助かるんよ」

「まだ書いてほしいものはありますが・・・まぁいいでしょう」

 

そして現在、気分転換として休憩を許された彼女はマリエールにお茶を入れて貰い手を休めていた

 

「マリ~、わっち〈三日月同盟〉に入りんせん でよかったと思いんす。・・・ヘンリーが苛めてぇなんし」

「そか~、ヘンリエッタ?あんましクーちゃん苛めたらあかんよ?」

「苛めていません。・・・ですが、面倒臭がり屋のクー様が〈デザイナー〉を習得しているとは意外でした」

 

眼鏡の位置を直しながら彼女に視線を向けた

〈デザイナー〉は特定の生産系職業を5つ以上コンプリート尚且つ自身が製作した〈製作級〉アイテムの売り上げ金額が一定以上超えなくては習得できない取得条件がある為、時間と手間が掛かる職業として存在が確認されており、〈デザイナー〉が一人いるだけでギルドの経営は安定するとまで言われているのだが・・・問題点としてLVの上げが非常に難しいのが有名な話だ。

設計図を書き依頼し作る、そして売って利益を得る。この工程がワンセットでやっと経験値が得られるのだ

こんな時間と手間が掛かる職業を彼女が選択するとはヘンリエッタは思ってもいなかったのだ

 

「ん~?ん~・・・マリーとヘンリーはわっちが〈茶会〉に居たのは知っていんす かぇ?」

 

彼女の問いかけに同時に頷いた

彼女は机に置かれた林檎を弄びながら言葉を紡いだ

 

「あんな~メイドとな~ちんどん屋はな~わっち.を苛めてきてなん?カーミンも悪乗りしてわっち をこき使いんしたよ?わっちたちのおいえぇは色んな人がいてぇな?色んなモンつくりやしたけどな~ぜんいんがぜんいんひどーてな~しなぬあいだ、あがっていたんどすえぇ?」

 

「・・・すみません、クー様。標準語でおねが 「せや!お店の名前考えたんよ!」話題を逸らしましたね?」

 

・・・・・・・彼女の話を理解するのにはにゃん太並みの理解力が必要である

 

「・・・それで名前は何に決まったんですか?」

「うちは〈三日月同盟〉やろ?せやから・・・」

 

マリエールは満面の笑みを作りながら・・・

 

「〈軽食販売クレセントムーン〉や!」

 

 その次の朝。

 

徐々に日の出は早くなり気温は増して行く夏の始まりのアキバの街の三か所に、鮮やかな色をした店舗が出現した。

竹を主に主軸とした支柱。日よけの帆布でつくられた大規模な天幕は、質素だが品のあり、鮮やかな飾り布が揺れている。どうやら二頭立ての馬車を改造した中央の台と、立派な木製のカウンター。

立地によって多少は違うが、それぞれ風にたなびくのぼりには〈軽食販売クレセントムーン〉と鮮やかに記してあるのであった

 

「なんだこりゃ!うめぇ!」

「おいしい・・・おいしい!本当に美味しいよ!」

「これだよ!食事ってコレのことだよ!」

 

歓喜に沸きあがる〈アキバ〉の町に〈クレセントムーン〉の名は爆発的に広がって行った

〈大災害〉後、〈冒険者〉にとって食事とは只の栄養補給と言う行動になってしまい、娯楽としての楽しみがなくなってしまったが、味がある食感がある〈クレセントムーン〉の食事は〈冒険者〉に忘れられていた〈食〉への楽しみを復活させたのだ!

食したものは皆、笑顔になり時には涙を流す者さえもが現れるほどに・・・・・

 

〈軽食販売クレセントムーン〉・・・大盛況の後、一日目閉店

 

 

閑話休題

 

 

 

「シロエェェ、ご隠居。わっちになんのようでありんすか?寒いんで速く用件を言ってくんなまし」

 

月の輝く夜だった。

昼間の熱気を残した熱く乾いた風が、夜光虫の飛び交う朽ちたホームを渡って行く。そこはアキバの街の中央広場を見下ろす、高架の上に乗った長さ200mほどのコンクリートの台地。旧時代は秋葉原の駅のプラットフォームだった場所・・・・そんな場所に彼女は呼び出されていた

 

「そうですね、少し風がでてきましたにゃ」

「ごめんクーさん、今からソウジロウに会うんだ。・・・ナズナが来た時、彼女の説得を頼みたいんだ」

「・・・ナズナんはハーレムが〈YES〉と言えば付いてきんすよ?わっちはいらん弧でありんす」

 

そう言い残し、来た道を戻ろうとしたが、シロエに呼び止められてしまった・・・

 

「・・・アップルパイ、でどう?」

「・・・・三枚、それと林檎酒」

「わかった、用意するよ。だからナズナはお願いね?」

「わかりんした♪」

 

・・・・自分の欲望に忠実な彼女は睡眠より好物を選択し、近くにあった瓦礫に腰を下ろしストレージから林檎を取り出して齧り始めたのであった

 

「さて、予備戦力は確保。・・・ソウジロウが来るまでにはもうちょいありそうだ。にゃん太班長、どこかに座る?」

「いえいえ、お気遣いは有り難いですが、我が輩そこまでのポンコツ老人ではないのですにゃぁ」

「別に年寄り扱いって訳じゃぁないけど」

「にゃにゃにゃ、それに・・・こんばんはにゃー、ソウジっち」

 

肩をすくめるシロエを横目に見ながら、段々と近づいてくる人影に声をかけた

 

「こんばんは。お久しぶりです、シロ先輩。にゃん太老師・・・良く気づきましたね?」

 

近づいてきたのは和服に袴、その腰には二本差しという幕末の維新志士のような格好をしていた、まだ顔には幼さが残る少年であった

 

「ご無沙汰、ソウジロウ・・・僕は気づかなかったかな?」

 

苦笑いをしているが久しぶりに会う仲間に軽く口があがる・・・

 

「吾が輩も最近わかるようになりましたにゃ。・・・彼女からコツを聞いたおかげですにゃ」

「彼女?」

 

含みがある言い方が気になりにゃん太の視線の先を追いかけようとしたが・・・赤い球体がソウジロウに向かって飛んできたので慌てて球体を掴み取ったが・・・

 

「・・・林檎?」

「狐尾族究極奥義!一夫多妻除去脚!!!」

「っ!?」

 

・・・・襲い掛って来た彼女の攻撃に対しすぐさま、緊急回避をとったのであった

 

「避けるな!女の敵メ!」

「無茶言わないでください!ってクーさん!?いつ〈アキバ〉に!?」

「黙れ!万年欲情生物!呻れ!わっちの拳!ゴールデンボールクラッシャー!!」

「っちょ!?シロ先輩!にゃん太老師!助けてください!」

 

敵の言葉なんて訊かん!とばかりに攻撃の手を休めない彼女に2人は苦笑いをするしかなかった・・・

結局、このままでは話が進まないと言う事になりにゃん太が彼女を羽交い絞めにして事なきをえるのであった

 

「・・・ご隠居、もういいでありんす。放してくりゃれ?」

「ダメですにゃ。今の貴女は信用できませんにゃ」

「うぅ~・・・ハーレム製造機を壊せんとわっちの気が収まらんでありんすぅ」

「青春ですにゃ、貴女も入れて貰えばいいですにゃ?」

「・・・ソージは、わっちの好みではありんせん。ご隠居なら言いでありんすよ?だから放してくりゃれ?」

「老い耄れにはありがたい言葉ですにゃ。でも駄目ですにゃ」

「フシャァァァ!」

 

彼女が羽交い絞めされている中、話は淡々と進み2人は笑みを溢しながら彼女達に近づいてくる

 

「話は纏まりましたかにゃ?」

「はい、ソウジロウは了承してくれました。後は僕がソウジロウの信頼に答えるだけです」

「信頼なんて大げさな」

 

ソウジはそう微笑むと、表情を引き締めて、3人をまっすぐに見る。

 

「それとは全くの別件ですが、シロ先輩。にゃん太老師……それからクーさん。良かったら〈西風の旅団〉に入りませんか? ナズナも喜ぶと思いま「わっちには『お社』がありんす!」――クーさんギルドに入ったんですか!?」

 

〈茶会〉時代から群れる事が嫌いだった彼女がギルドに所属している事に驚き、シロエとにゃん太に視線を向けた

2人は軽く笑いながらもソウジロウに伝えた

 

「本当だよ。ソウジロウ。

 ……あのね、僕は。

 自分の居場所をそろそろ自分でちゃんと作るべきだって判ったんだ。昔あった面倒くさいことから逃げているうちにこんなところまで来ちゃったけれど、僕もちゃんと守る側にならなくちゃいけないって、やっと判った。

・・・自分のギルドを作ったんだ。クーさんもにゃん太班長も今は僕に協力してくれている」

 

「シロ先輩の・・・ギルド・・・」

 

「そう、僕の、僕達のギルド〈記録の地平線〉にーーーー」

 

 

 

 

NEXT 狐働く




「上手くいってよかったですにゃ」
「そうですね、でもナズナは来なかったしクーさんは場を荒らすだけでしたね?」
「にゃにゃ、彼女は彼女なりに話し易い環境を整えてくれたにゃ」
「そう、ですね。・・・て班長?クーさんはどこに?」
「先に帰りましたにゃ」
「・・・本当に?」
「「・・・・」」

「狐尾族究極奥義!金剛石破壊脚!」
「亜ァァァァァァ・・・・・」

「ごめん、ソウジロウ」「ごめんにゃ、ソウジっち」


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『1』『1』駄々捏ねないで働けよニート!

タイトルが悩む・・・


〈直継〉

 

パンツ信者   以上

 

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~プライバシーなんてぶっ飛ばせ!~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

「これしか言葉に出来んでありんす。しかし・・・」

 

静まり返った闇の中、念話システムで誰だかわからない人物と話すシロエに視線を向ける・・・

 

「軽くて変な冗談ばっかり云っているけれど頼りになる直継っていう|守護騎士《ガーディアン。辛辣で小さなアカツキという暗殺者(アサシン)盗剣士(スワッシュバックラー)〈盗剣士〉の猫人族のにゃん太班長。それに何時も何処かで何を仕出かすかわからない狐尾族のクーって言う妖術師(ソーサラー)が今、僕のギルドにいるよ」

『・・・・・コホン』

「・・・・わっちの説明は兎も角、保険は必要でありんすな」

 

彼女は懐から出した水晶を弄りながらもシロエに聞こえないように呟くのであった・・・

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

貴様は今まで食べた林檎の数を覚えているのか?―――なに!?3759個だと!?

 

 

 

 

「散歩?」

「そうでありんす、お散歩でありんす~」

 

ソウジロウとの協力を取り付け運命が決まる日まで残り数日となった今日この頃、皆が忙しなく働くさなか、自由を愛する彼女はポカポカの太陽に誘われて散歩に行きたいと言い放った

シロエは何を考え、ヘンリエッタは呆れ返り、マリエールは空笑いを溢していた

 

「・・・今は問題を起こしたく無い時なんですが?」

「なんと!シロェェは、わっちが外に出ると問題を起こすとおっしゃりますかぇ?」

「・・・先日、〈クレセントムーン〉の倉庫の林檎が無くなりました。」

「♪~♪~♪~」

「・・・くーさんですね?」

 

吹けない口笛で誤魔化そうと努力しているが、相手が悪かった。真っクロエには全てお見通しと言わんばかりに彼女を睨みつけていた・・・

結局、シロエからの視線に耐え切れなくなり彼女はマリエールに泣きつくのであった

 

「マリ~、シロエエが~ジロエが~」

「お~、よしよし。そやな~シロ坊がいかんのやな~」

「・・・マリエ、甘やかすのはよくないわよ?」

「ええやん!林檎くらい!」

「クーさんが食べた林檎は200個です」

「・・・あ~、それはあかんな~」

「おうふ」

 

林檎200個、お金に換算すると高額になる金額であった為、流石のマリエールも今回は彼女を援護できなくなってしまった

ペタンっと爛れる9本の尻尾が今の彼女の気持ちを表し今にも抜け落ちそうな勢いであったが、ピクンっと耳が逆立った瞬間、彼女は立ち上がり敬礼したのだ!

 

「林檎調達を踏まえ!散歩にいってきんす!」

 

目には涙を浮かべてはいるが、3人が見とれる程にさまになっている敬礼であった・・・

彼女はそう言い残し颯爽と部屋を後にしたのであった・・・

 

「シロエ様、よろしいのですか?今は大事な時ですよ」

「確かにな~、今は目立ったことはできへんで?」

 

彼女を今からでも止めに行った方がいいのではないか?と心配そうに伺うマリエールとヘンリエッタであったが、シロエはと言うと2人の心配事とは反対に何故か安心したような顔つきをしていた

 

「林檎の盗み食いは駄目ですが、散歩自体は大丈夫でしょう」

「それはなして?」

「彼女が自ら行動する時は何か『目的』がある時だけです」

 

シロエの言葉に2人はシロエの彼女に対する信頼を感じたのであった・・・

 

 

 

そして話の話題になっている彼女は、〈アキバ〉の町から少し出た所のダンジョンにいた

装備はいつもの扇子ではなく、自身が製作した〈製作級〉ダガーを一本だけ。鎧も初心者が一度は着るであろう安い革のローブであった

 

「ふむ、こなもんでありんすか。・・・あとはわっちの演技力でありんすね」

 

彼女は装備を確認すると適当な大木に登り辺りを見渡しはじめた

 

「え~と、わっちの情報が正しければ~・・・おっと!いたでありんす」

 

彼女の視線の先には五人の集団が此方に向かって歩いて来ていた

先頭を歩くのはLV46の〈妖術師〉、後に続くのはどの子もLV30以下の新人と言える〈冒険者〉であった

 

「目標はっけ~ん!お狐いきますぇ?」

 

彼女は笑みを溢しながら大木から飛び降りたのであった

 

 

 

 

 

 

 

〈ハーメルン〉

〈アキバ〉に拠点を置く中小ギルドの一つ。彼らは〈大災害〉後、初心者救済を唱え多くの新人プレイヤーを介入していった。・・・だが、その実態は運営が初心者も早く〈エルダー・テイル〉を楽しんで欲しいと言う事から配布されるEXPポットが目当てで傘下に入れているだけの子悪党な集団であった

彼ら幼き〈冒険者〉は日々、ハーメルンの幹部に過酷に使われ精神を摺り切っていった

 

そして今日も過酷な狩りに参加させられボロボロになりながらもハーメルンから言い渡されたノルマをこなしていったのだ

 

「トウヤ・・・助けって本当に?」

「ああ!だから後少しの辛抱だ、だから頑張れ・・」

「・・・うん」

 

吟遊詩人(バード)の少女に話しかけられ励ますように武士(サムライ)の少年は言葉をかけた

彼はシロエの助けたい人の一人、短いながらもシロエに師範された少年であった。

 

仲間を励ましてはいるが、どうも顔色は良くはなかった

彼の姉からシロエが助けに来てくれるとは聞いてはいるが、彼自身は直接その言葉を聞いたわけではなく姉が自分に噓をついているのではないか?と半信半疑な所があったのだ。特に接触もなくただ待っているだけ、彼の性格からして自身も協力したいと言う気持ちが大半を占めていたのだ

 

(シロエ兄ちゃん・・・俺はどうすればいいんだよ!ただ待っている事しかできないのかよ!)

 

思考の海に溺れかけていたトウヤであったが、彼を一気に海から引きあげる出来事が起きた!

 

「助けて下さい~!だれか~!」

 

悲鳴が聞こえたのだ。・・・若干、棒読みぽいが悲鳴が聞こえたのだ

悲鳴が聞こえた場所に視線を向けると一人の女性を3体のモンスターが囲い込んでいたのだ

リーダー各の〈妖術師〉も気づいた様で悲鳴の先を見ていた

 

「LV20、か・・・あぁん、記録の地平線(ログ・ホライズン)?くそっ・・タグ付くか。おい!行くってトウヤァ!何処行く!」

 

トウヤは走り出していた。襲われている女性を助ける為に・・・

 

「はぁぁぁ!」

 

気合と共にモンスター目掛けて刀を一閃!

倒すことは出来なくとも注意を引くことは出来ると思い攻撃したのだが・・・・モンスターは呆気なく金とアイテムに変化したのだ。残りの二体も同じように一撃与える度に金とアイテムに変化していったのだ

モンスターとのLVの開きは差ほど無いのに関わらず、一撃で倒せた不思議な現象に自身の刀をマジマジと見つめるが特に変わったところは見当たらなかった・・・

 

「た、たすけて頂いてありがとうございます」

「えっ!?あ、はい!」

 

助けた相手に話しかけられてやっと彼女に意識が向いた

見た目、20代前半ぐらい、金髪で上品そうな女性がそこにはいた

 

(綺麗な人だな・・・それに尻尾と耳・・・狐尾族だっけ?)

「トウヤ!テメェ!何、勝手に動いてんだ!」

 

彼女の容姿に見とれていたが、野太い男の声で現実に引き戻される

 

「・・・すみません、つい」

「つい、じゃぁねぇよ!おら!行く 「あの・・すみません?」 あぁん?」

 

男の声を遮り、女性の声が話しに割り込んできたのだ

 

「・・・私、仲間と逸れてしまって・・・先輩達が迎えに来るまで一緒にいてくれませんか?・・・わっち、いえ、私一人では心細くて・・・」

 

頭を深く下げてお願いする彼女。確かにLVの差は大きくはないが、先程みたいに多数に囲まれたら初心者には厳しい戦いになるのだろう・・・

トウヤも思う所があり、声を上げたのだが・・・

 

「あの!俺が 「タダ・・・て訳にはいかねぇな~?」なぁ!?」

 

リーダー格の〈妖術師〉に言葉を重なられてしまった。しかも、まだLV20の初心者から報酬を強請ると言う行為を口にしたのだ・・・トウヤは悔しかった。知識がなかった自分が悪かったとは言え、こんなギルドに入ってしまった事が悔しかった・・・

 

「せ、先輩から貰ったダガーが!これでよろしいであり、よろしいですか?」

「・・・『フェザーダガー』?上物じゃねぇか・・・おい!トウヤ!お守りしていろ!」

「・・・はい」

 

〈妖術師〉はトウヤをその場に残し、他の3人を引き連れt森の中へと入っていったのだ

暫くし、先程の仲間が完全に見えなくなってから、トウヤは重い口を開いた

 

「・・・ごめん、大切な武器。取っちゃって・・・」

 

別にトウヤが謝る事ではなかったのだが、どうしても伝えておきたかった・・・

認めたくは無いが、自分も〈ハーメルン〉の一員なのだから・・・

しかし、返ってきた言葉はトウヤが想像するモノとは180度、反対の言葉であった・・・

 

「あの程度の武器を上物って・・・わっちは我慢できなくて笑いそうになりんしたよ?」

「・・・え?」

 

振り返った先には先程の女性は存在していなかった。いや、存在はしている。面立ちや雰囲気が全く変わっていたのだ

革のローブではなく上品な着物、右手には扇子、左手には林檎を持ち胡坐をかきながら林檎を齧っていたのだ

トウヤも流石に困惑した。あの上品な女性がどう変化したらこの様になるのかと・・・

 

「ふぁ~・・・ん?どうしたんでありんすか?」

「え!?い、いや。本当にさっきの人ですよね?」

 

思わず聞いてしまったトウヤは悪くないはずだ・・・

 

「狐は騙す存在でありんす!あと、わっちはクーといいんす。 今はシロエェのペットでありゃれ」

「あ、はい。トウヤです・・・・ってシロエ兄ちゃんのペット!!??」

 

困惑するトウヤを更に窓わす彼女クオリティ!・・・18歳未満は近づかない方がいいのかもしれない

 

「わっちはもう疲れんした・・・・用件だけ言うでありんす~」

 

持っていた林檎を食べ終わると同時に立ち上がり、懐から紫色をした水晶を取り出しトウヤに投げ渡した

 

「危なくなりんした ら使いなんし。以上!終わり!わっちはお社に帰り「ま、待ってください!」なに用でありゃしょう?」

 

もう話す事はないとばかりに〈アキバ〉の町へと足を向けた彼女をトウヤは呼び止めた

しかし、何を伝えたいのか言葉に出来てなく、少しうろたえた後、ゆっくりと口を開いた・・・

 

「・・くーさんは、シロエ兄ちゃんの仲間なんですよね?お、俺!ミノリからシロエ兄ちゃんが助けに来てくれるって聞いているんです!・・・だから、俺もシロエ兄ちゃんの役に立ちたいんです!何か手伝わせて下さい!」

 

勢いよく頭を下げお願いするが、彼女からの返事は一向に返っては来なかった・・・

一端の不安感がトウヤを襲う。自分では何の役にも立たないのか?自分は必要とはされていないのか?渦巻く思考の中、やっと彼女の口が開いたが・・・トウヤの望む答えではなかった・・・

 

「・・・今まで通りでよいざんす。後はシロエェが上手くやってくりゃしょう?」

「っ!?」

 

唇を噛んでしまった・・・トウヤは悔しかった。自分が役に立てないことを・・・

 

「・・・LVが低いからですか?・・・俺が頼りないから!指を銜えて待っている事しか出来ないんですか!!!」

 

彼女に当たっても意味はない事は承知なのだが、どうしても伝えたかった・・・自身の苛立ちを、何も出来ずにいる自分の無力さを口に出して言いたかったのだ

 

いきなり大声で叫ばれた彼女は耳をピン!っと逆立てたが、直ぐに何時のも〈くずのは〉に変わり、優しく微笑みながらトウヤに語りかけたのだ

 

「トウヤ、と言ったかしら?貴方は大きな勘違いをしているわよ?」

「・・・・え?」

 

彼女の話し方の変化にも驚いたが、自分が間違っていると言われて更に驚く・・・

 

「貴方の考え方は『こっち』(救う側)でしょ?・・・貴方は『そっち』(救われる側)では大いにシロエに貢献しているわ」

「・・・どういう意味ですか?」

「貴方は囚われしモノの光になっているわ・・・それは大いなる希望。内側を知り、共感し強き心を持つモノだから出来る事。・・・光に濁り輝く事を失ったら、囚われしモノはどうなるのでしょうね?」

「?」

「貴方には比喩表現は無駄ね・・・いいわ、最近の〈ハーメルン〉、シロエが連絡が来るようになってからどのように変化したかしら?」

 

最近の〈ハーメルン〉・・・以前と同じで奴隷の様な扱いを受けているが、今は違う。シロエ兄ちゃんから教えて貰った抜け道みたいなもので多少は生活面で変化が起こり、仲間も助けがくると信じ弱音を吐く者が少なくなった。・・・そして苦境の中、少しづつ〈ハーメルン〉から隠れながらも笑顔を溢すモノまで現れるようになっていた・・・

 

「・・・・あ」

「ふふふ、気づいたようね?貴方はその変化を見ている。その者達の中心にいるのよ・・・・だから『こっち』(救う側)はシロエに任せて貴方は『そっち』(救われる側)で光続けなさい」

 

難しい事は判らなかったけど・・・みんなが笑ったり希望を持っていけるのは俺達の連絡があるこそなんだ!

そんな俺達が不安がっていたらみんなも不安がる!だからオレは前を向いてみんなの先導にたっていなきゃいけないんだ!

両手で頬を叩き気合を入れる。もう胸の中で渦巻いていたモノが無くなった!

 

「わかったよ!俺はシロエ兄ちゃんを信じて前だけを見てみんなを連れていけばいいんだ」

「理解ある子は好きよ?・・・もう行きなさい、怪しまれるから」

「うん!ありがとうな!クーさん!」

 

足取り軽く、トウヤは〈ハーメルン〉パーティーを追いかける為に森の中に消えていくのであった・・・

 

 

 

 

トウヤを見送った後、彼女は近くにあった木から林檎を毟り取り、林檎片手に語りかけた・・・

 

「ふぅ・・・ここに来てから〈私〉が表に出る事が多くなってきていないかしら?・・・・そう、でも私は今回の戦闘はコレでお終いよ?・・・ええ、わかっているわ。だから貴女はいつも通りでお願いね?・・・今更だわ、『私』(くずのは)『貴女』(クー)でありは『私』(くずのは)であるのだから」

 

軽く笑みを溢しながらも林檎を一口かじる・・・

 

「シロエエも人心を考えられるようになりんしたら、わっちも楽が出来るのにまだまだでありんすな~」

 

手に持った林檎を齧りながら、彼女は赤の実が実る森へと歩み始めたのであった・・・

 

 

 

 

 

NEXT  狐、舞う

 




「今日、シロエ兄ちゃんの仲間のクーさんに会ったぜ!」
「・・・・え?」
「どうしたんだよ、ミノリ?」
「・・・トウヤ、林檎持っていたの?」
「はぁ!?持っている訳ないじゃん」
「クーさんは林檎がある所に出現するモンスターみたいな人だってシロエさんが言ってたから・・・」
「〈冒険者〉だろ?そんなモンスターだなんて大げさな・・・」
(あれ?クーさんと会った場所って林檎の木があったような・・・)

・・・その頃、彼女は
「林檎~りんご~リンゴ~!WRYyyyyyyy!」

テンションMAXであった


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嬉し『1』時は笑い、悲しい時『2』は笑い飛ばせ!

思いっきり書きました

彼女の常識外れな行動が目立ちます
わかる方にはどうしてなのか・・・・わかるとおもいます


〈アカツキ〉

身長150cmほどの女性型暗殺者。ギルド〈記録の地平線〉に所属しギルドマスターである〈付与術師〉シロエに忠誠を誓っている〈冒険者。〉

〈窯変天目刀〉と言う黒の釉が光の反射を防ぎ、隠匿性を高めている武器を使いこなす

数多くいる暗殺者の中で彼女は、私が知っている中では5本の指に入る程の実力者であると断言しよう!

 

彼女に会いたいのならば、〈アキバ〉の町に向かい町の中心で『シロエの好きな人はアカツキ!』と叫んでみよう

顔を真っ赤にして斬殺しにくるであろう・・・

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~プライバシーなんてぶっ飛ばせ!~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

「わっちの知っている暗殺者は、幕末浪人、パイナップル、ショタっ子、ツッキー・・・1本指があまりんしたね?しかし・・・」

 

ゾーン購入画面を操作するシロエに視線を向けた・・・

 

「・・・500万もあったら何個林檎が買えるのでありんしょうな~?」

 

彼女がうわ言をぼやく中、シロエの策は今まさに実行されていくのであった・・・

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

『覚悟とは・・・犠牲の心じゃありんせんッ!覚悟とは!!暗闇の荒野に!!進むべき道を切り開くことでありんすッ!』

by ギャングスター(クー風)

 

 

『アキバのひまわり』マリエール『アキバのスズラン』ヘンリエッタ、〈三日月同盟〉の協力の下、シロエの作戦は最終段階に移行した。〈アキバ〉を拠点に置く戦闘系大手ギルド、生産系大手ギルド、そして中小ギルドの代表がギルド会館最上階にある巨大会議室に集結し今まさに決戦の時を迎えようとしているのだ!

 

シロエは勿論、今回の議長として会議に参加しにゃん太もシロエの補佐として会議に参加していた。他のメンバーもそれぞれ動きまわり、直継は神殿にて陣を陣取っており、アカツキもイレギュラーが起きた場合の対処をする為、影ながら遊撃にあたっていた。そして過去〈放蕩者の茶会〉現在〈記録の地平線〉の一人である彼女はと言うと・・・

 

「りんご~真っ赤な林檎~♪」

 

・・・〈三日月同盟〉の執務室で暢気に林檎と戯れていた。

説明しておくが、〈三日月同盟〉も〈記録の地平線〉も総動員で取り掛かっている作戦であり、暇な人などは存在しない筈なのだ。・・・だがしかし彼女は今!林檎と戯れている!何と言うミステリー!?

 

今回の作戦に対して彼女の役割はシロエから伝えられている

『会議にてにゃん太と共にシロエの補佐』であるが・・・・彼女は「嫌!」の一言で拒否

仕方ないので『直継と共に初心者の保護』をする様にと伝えたが・・・「働きたくない!」の一言で拒否

ならば『アカツキと遊撃に!』と伝えたが・・・「わっちみたいな派手モノ遊撃に向きわせん!」と正論で拒否られてしまった

・・・結局、働きたくないオーラを全開に醸し出している彼女の役割は100%侵入者が来ない事が容易にわかるが、重要な書類が置いてある〈三日月同盟〉執務室の防衛と言う名のお留守番であったのだ

 

手元にある林檎を撫でながら、まだ書類が散らばっている机の上に置き彼女は懐から、三つの水晶を取り出し林檎の隣に並べて置いていった。

三つの水晶はそれぞれ紫・緑・紺の色をしていたが、彼女が優しく触れるとそれぞれ違う模様に変化していく・・・

紫色の水晶は、ほの暗い倉庫のような風景と〈武士〉の少年を・・・

緑色の水晶は、大きな机を囲む様に座る12人の〈冒険者〉を・・・

紺色の水晶は、神殿で何か指示を出している大柄の男性を写しだしていったのだ

彼女は軽く微笑むと、また懐から真っ赤な球体を取り出し齧り始めた・・・

 

「さてはて、久しぶりにシロエエエの『全力管制戦闘』みせてもらいんしょうかぇ?」

 

彼女が呟くと同時に水晶に写る映像は音声と共に動き始めたのであった・・・

 

『プレイヤーには現在、法なんて存在しません。存在していないーーー』

「シロエエの方は順調・・・これもシロエエの思惑通りなんでありんしょうねぇ?」

 

緑色の水晶に写る彼女の『:家』を作った青年は恐れを抱く事無く発言し、顔にはどこか余裕そうな雰囲気を感じる

 

『大丈夫だミノリ!っこっちは準備が出来たぞ!』

「トーヤンは・・・若干緊張しておりんすな?・・・まぁ、当たり前でありんすか」

 

紫色の水晶に写る囚われた者の光は、傍から見ればいつも通りに見えるが、感の良い者なら直ぐに判るほど緊張した面立ちをしていた

 

『おい、おまえ等!ここは俺達に任せてギルドホールの方にまわれ』

「パンツ君はやる時にはやるパンツでありんすな~」

 

林檎酒を片手に同志である直継の活躍っぷりを肴に飲酒を始める彼女・・・

三つの水晶から聞こえるそれぞれの『歌』は彼女の中で一つになり、彼女が思うままに『演奏』されていく・・・

 

『本日――いまから4時間ほど前ですが。僕はこのギルド会館というゾーンを購入しました』

「・・・終演の時でありんす。〈ハーメルン〉・・・ぬしの笛では誰も着いて来ない事を教えてあげんしょう」

 

彼女はゆっくりと立ち上がり、罵声と共にヒビ割れていく水晶が放つ光に呑まれていったのであった・・・

 

 

 

 

「なっ!? お前達、何を企んでっ!?」

「待避させてっ!」

 

トウヤは声を上げてミノリに声をかけた。

シロエから作戦開始の合図を貰い、いざ実行したのはよかったのだが、姉であるミノリ達がいる部屋では作戦がばれてしまい、ギルドの中堅メンバーが彼女達を押さえ込もうともみ合っていたのだ!

トウヤは堪らずミノリにのし掛り押さえつけようとしている短髪の盗賊に体当たりを喰らわせ、自身が思うがままにスキルを発動させて鞘から発射されるかのようにほとばしる太刀。きらめく銀の光は一線となって目標の咽喉部に叩きつけたのだ

 

トウヤの呼び声により、弾かれたように立ち上がると、仲間の少女達をギルドホールの玄関の方に押し出す。事がこうなってはぐずぐずしている暇はないのだ。怯える仲間を鼓舞して、誘導するしかない。

 

一方、トウヤの方は眼前に中堅盗賊と向き合っていた。

厳つい顔をしたその男の瞳の中には憎悪が燃えている。自分たちが雑魚と侮ってきた新人プレイヤーに喉を潰されたのが信じられないほどの怒りをかき立てているのだ

 

(俺が逃げる訳にはいかねぇよな、せめて皆が脱出できるまでの時間を稼ぐんだ!)

 

しかしトウヤとその盗賊の間には20レベルの差が存在する、実力の差は目に見えており時間を稼ぐにも彼が放ったスキル〈はやにえ〉の効果が切れるまでしかもたないだろう

焦りと盗賊から発するプレッシャーに飲まれそうになったが、ふっと彼女が言っていた言葉が頭をよぎった・・・

 

(危なくなりんした ら使いなんし、か・・・今がその時だよな?でも、使い方がわかんねぇよ!)

 

彼が持つ数少ない持ち物、シロエの仲間である彼女から貰った『呼出水晶』は只、紫色に光るだけで何も変化は起きていなかった

しかし時は待ってはくれない。盗賊は腰から刃渡り50センチはあろうかという曲刀を抜き放つと、トウヤに斬りかかってきたのだ。

手元の水晶に気をとらわれ防御の姿勢が取れなく、ただ立っているだけの状態にLV差20もある〈冒険者〉からの攻撃は彼にとっては即死LVの攻撃だ!

 

(俺は皆の希望の光なんだ!こんな所で死んでたまるか!だから・・・)

「だから!最後まで足掻くんだぁぁ!!!!!!」

 

彼は咄嗟に手に持っていた水晶を盗賊に向かい投げつけたのであった

・・・・しかし、向かって飛んでくる水晶を盗賊は曲刀で切り払った

 

盗賊の一撃により無情にも水晶はあっけなく砕け散り水晶は欠片となって眩しく光輝いた・・・

 

そして目が眩むほどの発光がやんだ時、トウヤの目の前には優雅に扇子を仰ぐ一匹の狐が現れたのであった・・・

 

 

 

 

思いもよらない第三者の登場に場は沈黙した

トウヤは先日、出会った女性の登場に驚いた・・・しかし驚きの大きさでは盗賊の方が大きいであろう

『トウヤの仲間!?』『LV90!?』『〈記録の地平線〉!?』等、多くの驚愕がある中で一番大きな事は『何故、ギルドメンバー以外の奴がここにいるのか?』、である

ギルドホールは基本、ギルドメンバー以外はギルドマスターが許可した者しか入れないのに関わらず、現に彼女は〈ハーメルン〉のギルドホールに存在しているのだ!

驚愕が生んだ沈黙であったが・・・

 

「トウヤっ!」

 

・・・彼女の登場になって沈黙は破られた

盗賊は駆け出し未知の侵入者を排除すべく切りかかったが、ひらりと斬撃を避わされ逆に腹に拳を入れられ崩れ落ちた

そして追い討ちとばかりに盗賊の後頭部を踏み躙ったのであった

 

「おぉ!ぬしがトーヤンの姉でありんすね?まことにかわいぃかぁ~」

 

先の攻防など無かったように話しかけてくる彼女に姉弟は共に驚愕した・・・弟は盗賊の頭を踏み躙る彼女にも驚いたが・・・

 

「かわいぃは正義でありんすなぁ~。・・・時間がありんせん、はよ、逃げんしゃい」

「え!?でも、クーさんが!」

「わっちの事は心配しなくてよろしんす、ほら、皆ぬし達を待っておりんすよ?みなの光が濁ると悲しんす」

「っ!?・・・行こうミノリ!」

「で、でも!あの人が!」

「いいから!速く!」

 

トウヤはミノリの手を引き出口へ続く扉へと走っていったのであった・・・

 

「げふっ。がっ!」

 

それと同じタイミングで盗賊に仕掛けられた〈はやにえ〉の効果が切れ、彼はひび割れた咳を漏らしながら、彼女に向かい叫ぶ。

 

「お前ぇ!なにもんーーぐふっ!?」

「わっちは発言を許した覚えはありんせんよ?」

 

男の口を足に力を込め踏み躙る事によって塞ぐ・・・

そして彼女は男を踏み躙りながら言葉を紡ぐ・・・

 

「わっちも流石に頭に来ておりんすぇ?・・・ミノリンの手を見んしたか?・・・針仕事でボロボロでありんした。・・・まだ幼き子を虐めイタブリ苦しめる。・・・まことに大人がする事でありんしょうか?・・・人の心踏み躙る、その行為!断じて許しがたい!『恥を知れ!愚か者!!!』」

 

彼女は叫声と共に男を蹴り飛ばす!

男はなす術も無く吹き飛び、壁に詰まれた木箱に叩きつけられ意識を飛ばし崩れ落ちたのであった

だが、その破壊音はギルドホールに響き渡り、廊下に面したいくつものドアが開き、顔を覗かせたのは慌てて武器を掴んだ〈ハーメルン〉の主力達

暗い目つきをしたギルドマスターが苛立ちを隠そうともしないで彼女を睨みつける

 

「お前、何者だ!よくもこんなまねしてくれたな!」

 

先程の彼女と変わらない声力で怒鳴るが、彼女の耳には届いてはいなかった

ずらりと並ぶ〈ハーメルン〉主力を目に置きながらゆっくりと扇子を広げる・・・

 

「〈ハーメルン〉・・・ぬし達は三つの過ちを犯しんした。一つ、弱き者を虐げた。二つ、此処を戦闘領域に指定した。そして三つ・・・わっちを怒らせた!!!    ・・・一度言ってみたかった言葉でありんすな~♪」

「ッ!!!殺せぇぇぇ!!!」

 

ギルドマスターの掛け声と同じタイミングで弾ける様に彼女に襲い始めた!向かってくる数の暴力に対し彼女は・・・

 

「格の違いを教えてあげんしょう・・・〈狐月斬〉」

 

蒼炎を扇子で扇ぎながら笑い、立ち向かうのであった・・・

 

 

 

 

「もう二人来たぞっ!」

 

ギルドホールとは違いギルド会館の通路は何人ものプレイヤーが待機していた。階段の方では、皮鎧を着けた少年や刀を装備した女性が、〈ハーメルン〉の新人メンバーをどんどん後方へと案内しているようだ。

 

何度も咳をするミノリ。

いくら助けが来たからと言って追われている事にはわかりなかったので〈ギルド会館〉に繋がる扉まで全速力で走ってきたのだ

「大丈夫か? ミノリ」

 

トウヤが心配そうに背中を撫でてくれる。床に跪いたミノリには、トウヤの身体全ては見えないが、目の前の床に広がる染みにトウヤも余裕がなかった事を知る

「トウヤこそ……。汗、止まってないよ?」

「ミノリだって。……だけど」

 

トウヤが視線をあげる気配に釣られてそちらを見る。そこにいるのは中国風の直刀を二本装備した青い皮鎧の少年剣士と、黒づくめの少女だった。

 

「キミ達名前は? 他に逃げてくる人はいる?」

 

 少年剣士、とはいってもミノリ達よりは上だろう。高校生くらいに見える黒髪の剣士はミノリに話しかける。

 

(助かった……の……?)

 

シロエさんの仲間の助力も助かる希望であったが、彼にかけられた言葉で助かった事が確実にわかった。ミノリは安心感で膝の力がへなへなと抜けていくのを感じる。彼の貸してくれた手を握ってミノリは立ち上がる。トウヤも5分程時間をかけて息を整え体勢を立て直し、その問いに答えた

 

「はい、新人メンバーは俺達で最後です。でもクーさんが中に!」

「なに?中に『クー』がいるのか!?」

 

黒づくめの少女に問い詰められトウヤは慌てて「はい」と答えた。

しかし、トウヤが答えると同じくして扉が光り、話に上がっていた女性が現れたのであった

 

「つかれたでありんす~!雑魚の相手はもう嫌でありんす~」

「きゃっ!?」

 

そしてすぐさま、ミノリに抱き付き頬を擦り付けはじめる彼女。・・・先程のシリアスを返せ

 

「・・・クー、どうやって中に?」

「林檎の力でありんす~」

「・・・駄狐、〈ハーメルン〉をPKしたのか?主の計画に支障がでるぞ?」

「みんな、麻痺ってありんす~。それ以外は治しんした」

「状態異常〈麻痺〉・・・そのままだと10分間の拘束か」

 

ミノリは驚きながらも頬擦りしてくる女性を見つめた

HPは1/3減っており、MPにいたってはほぼ0に等しかった事から戦闘が行われたのは容易に想像できたが、まさかこんなに短時間で決着がつくとは思いもしなかった

 

「なにせよ、やっとおわりんしたな~」

「あぁ、主の勝利だ」

 

こうしてシロエの作戦である〈円卓会議〉の裏で行われていた救出劇も幕を閉じたのであった・・・

 

 

 

 

 

 

NEXT  わっちはお風呂がほしいでありんす!

 

 




「くーさん、くすぐったいです」
「うにゅうにゅうにゅうにゅ~♪」
「はは!ミノリはクーさんに好かれているんだな!」
「それは嬉しいんだけど・・・くすぐったいよ」
「クーさんって動物みたいだからマーキングだったりしてな!」
「え?さすがにそんなことないよ?」
「・・・・バレんしたか」
「「!!??」」



戦後のクーのステータス

HP:4175/5998
MP:125/16890
状態異常:無し
やる気:無



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『1』まやるべき事!それは!ひ『3』つ基地を作ろう!

すみませんでした

仕事が忙しくてPCに触れませんでした

しかも双子ちゃんでてこないとか・・・

頑張って1週間更新を心掛けます

※地下を一階に訂正


〈記録の地平線 〉(ログ・ホライズン)

 

かつてエルダー・テイルに知らぬ者はいない!とまで有名になった伝説の集団〈放蕩者の茶会〉の参謀゛腹ぐろ眼鏡゛シロエがギルドマスターを務める零細ギルド。

創立からまだ日がたっていないと言うのに〈アキバ〉に存在する大手ギルドから一目置かれているギルドだ

構成すメンバーは現在5人。全員がLV90の腕利きの〈冒険者〉であり、更にはあの〈放蕩者の茶会〉出身が4人も在籍しているのだ。・・・しかし、〈記録の地平線〉の評価は構成メンバーではなく〈円卓会議〉に開催者兼発案者として参加したのが大きな理由であろう・・・

 

ギルドマスターのシロエに会いたいのであれば〈アキバ〉の街の外れ、もっとも北側の境界に近い場所に位置する6階建ての雑居ビルを訪れてみるといい

 

巨大な古代樹が君を迎えてくれるであろう・・・・

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

 

 

「新しい見出しはコレで決まりでありんすな。しかし・・・」

 

彼女は、古びた廃墟をせっせとデッキブラシで掃除するシロエ達4人に視線を向けた・・・

 

「・・・わっちのお社は汚いでありんすね?」

「おい!パンツ神!おまえも手伝えよ!」

「働きたくないでありんす!それにわっちにはやる事がありんしょう!」

「ならやれよ!」

「バカ継!お前もサボるな!」

 

直継がアカツキに飛び膝を入れられているのを横目に彼女は一階へと足を向けるのであった・・・

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

ハロー♪第一村人!カモーン♪O☆H☆U☆R☆O☆!

 

 

 

 

アキバの街の外れも外れ。もっとも北側の境界に近い雑居ビルのひとつにシロエ達〈記録の地平線〉は本拠地を構える事になった・・・

本来なら〈記録の地平線〉の様な零細ギルドは本拠地など持たず、宿の一室を借りて運営するのが一般的であるが〈記録の地平線〉もといシロエには当てはまらなかったのだ

 

〈円卓会議〉の参加ギルドともなると、何かと来客が多く、シロエのフレンドリストは、ここ数日でまた人数が増えている。親しく遊ぶ、と云う意味でのフレンドではないかもしれないが、連絡を取る機会が増えているので登録しておかないと「念話」が使えないのだ。

 

今後も来客はあるだろうし、場合によっては長時間かかる相談事もあるだろう。〈円卓会議〉設立のような大騒動が今後起きるかどうかは判らないが、もしそう言うことがあるのならば、厨房にせよ作業場にせよ倉庫にせよ、必要になることがあるかも知れない。

そう考えて、街外れだが広さだけはたっぷりあるこのビルを選んで購入したのだ

 

「お財布のほうは大丈夫なのか? 主君」

 

ただただに広く何もないと形容するしかない天井の高いフロアで、アカツキは掃除をしながら尋ねる。

アカツキの心配はもっともだ。いくら辺鄙な場所にあるギルドタワーだと言っても其れなりの値段はする

しかし今回の購入金に関してシロエは他のギルドメンバーに協力を求めなかった・・・即ち、シロエだけの資金でこのギルドタワーを購入したことになるのだ

 

いくら腕の立つ〈冒険者〉であっても〈購入金〉と言うモンスターを倒すには、相当な犠牲が必要なのだ!

しかしアカツキの心配をとはうらはらにシロエの顔は明るかった・・・

 

「そのへんは、まぁ平気かな?実際、僕は1/10位しか払っていないよ」

「・・・どういうことッ!まさか!? 違法に手を染めたのか!主!!!」

 

お金を出したのはシロエだけと聞いていたアカツキの脳裏に浮かぶのは、悪役の様な表情で〈大地人〉を脅し金を強奪するシロエであった

まさか主がそんな事を・・・軽蔑と悲観が渦巻き、手に持ったデッキブラシを落として顔を青くさせたアカツキにシロエは微笑みながら落ちたデッキブラシを拾いアカツキに手は渡した

 

「違うよ、残りは売上金から払ったんだ」

「売上金?シロ、何か売ったのか?」

 

直継は最初からシロエがその様な行いをする訳が無いと判っていたので話しに加わらなかったが、『売上金』と言う言葉が気になり手を止めて話しに加わってきた

 

「売ったと言っても、設計図だけどね?・・・珍しく彼女、クーさんが協力してくれたんだ」

「パンツ神が働いた!?驚愕祭りだぜ!?」

「・・・なるほど、そういう事か」

 

直継は純粋に彼女動いた事に驚き、アカツキは事柄を理解したのか安堵の表情を浮かべる

 

「駄狐が家具や器材を設計して主が模写、その設計図を生産系ギルドに販売した」

「うん、正解。特に〈海洋機構〉や〈第8商店街〉がよく買ってくれたよ」

「そういや~、コレのアイデアを出したのもパンツ神だったな?」

 

そう言って指差す先には1階へと続く階段と床のフローリング。

階段の設置と、当面の寝床になる2階フロアの床の張り直し――フローリングだけは生産者ギルド〈海洋機構〉に依頼をして工事をして貰った。ギルドマスターのミチタカは、「確かにそうやって工夫をすれば今までは住居に向かなかった廃墟でも新しい用途が開けそうだな。階段を作るとは面白いアイデアだ」と快く引き受けてくれたのだ。

 

「・・・〈エルダー・テイル〉において〈デザイナー〉がいるギルドは資金に困らない。本当の様だな」

「・・・その分、林檎を収めなきゃ暴れるけど・・・今の僕達のとっては福の神だよ」

「んで、その神様は今何処にいるだ?なんか『やる事』があると言ってたけどよ?」

「クーさんなら、班長と買い物に行った後、一階に・・・・・え?」

 

シロエは固まった。動くことなくただ一点を凝視し固まったのだ

アカツキと直継は急に固まったシロエを疑問に思いながら視線を一階へと続く階段に向けた・・・

 

「・・・煙なのか?」

「・・・煙だな」

「「・・・・・」」

 

一階に続くであろう階段口からモクモクと上がって来る白い煙に三

人は固まった・・・が直ぐに再起動し慌ただしく動き始めたのだ!

 

「あ、アカツキ!バケツに水を持ってきて!」

「承知した!」

「直継は班長に避難する様に伝えて!」

「あの駄狐!そうそうボヤ起こしてんじゃねぇよ!!!」

 

冷静さを失っていても的確な指示を飛ばすシロエは流石であるが、誰一人一階に取り残されている彼女の心配をする者はいなかった・・・むしろ、ボヤの犯人とまで決めつけて批判した・・・・実に哀れである

 

三者三様に動きだそうとした瞬間、階段口から見覚えのある金色の尻尾と共に何故か『安全第一』と書かれたヘルメットを被った彼女と同じく『安全第一』と書かれたヘルメットを被った見知らぬ〈大地人〉(鼻血とモブ)が2人這い上がってきたのだ

 

「けほっけほっ・・・やっぱり煙突は必要でありんすな~。ここに穴を開けくんなまし」

「だから言ったんだ!煙突は必須だって!」

「部屋の中を通すのは良くないから外に逃がす感じで作りますね?」

 

棒立ちする3人を他所に2人は作業を開始していく・・・流れる様に行なわれる工事作業は先日〈海洋機構〉から来た職人と同じ、いや、それ以上に堪能されていた

 

「これはこれは何事と思えば・・・くーち、お風呂は出来ましたかにゃ?」

「「「お風呂!?」」」

 

何か騒がしかったのが気になったので様子を見にきましたにゃ。と言うにゃん太の言葉は三人には届いてはいなかった。

お風呂は〈大災害〉前にも存在はしていたが、〈大災害〉後はただのオブジェクトに変わってしまった

しかし最近〈西風の旅団〉が〈機工師〉、〈鍛冶屋〉、〈大工〉の職人の協力を得て、ギルドキャッスルに大浴場を建築し始めたと情報が入ったのだ

シロエも後々は大きなお風呂をギルドタワーに作りたいと思っていた矢先に・・・・

 

先程まで彼女の行動を批判していた三人は打って変ったように何かを期待する目で彼女を見つめた・・・若干ではあるがアカツキの視線は他の2人よりも強かったのは女性として仕方ない事だ

 

「おぉ、ご隠居!良い所に来んしたね!今回は〈ススキノ〉よりも豪華でありんすよ?」

「そうですかにゃ!では、見ますかにゃ?」

 

ニタリと笑いながらにゃん太に話しかける彼女。それに微笑み返しながら階段を下りていく2人

三人は我先にと2人の後に続く・・・そして降りた先にあったモノは・・・

 

「こ、これは!」

「すげー・・・マジ驚愕祭り再びだぜ」

「いつの間にこんな施設が・・・」

 

まだ湯気が薄く立ち込めていたが、近づくにつれて全貌が目視できる様になり、完全に目視した時三人は驚きの声を上げた・・・

まだ手付かずで汚かった一階は綺麗に掃除されており、床は石畳が引き詰められ部屋の一角には木材で間仕切された入浴施設が存在感をこれでもか!と言うほど醸し出している

 

「外観は〈ススキノ〉で取れた木材を使用しクーさんのリクエストに近い感じで仕上ました。そのほかにもーーー」

 

にゃん太に施設の説明をしている〈大地人〉(モブ)の横をすり抜け、入浴施設の扉を開ける。そして・・・

 

「お、大きい!」

「マジかよ!本当かよ!やベーって!おパンツの次位にやべー!!!」

「この匂い・・・檜?」

 

今日三度目の驚愕が目に映った・・・・

浴場とはガラス壁一枚で仕切られた脱衣所、シャワーは付いてないが蛇口が2つ付いている洗い場、そしてメインの浴槽と言うと・・・広々とし大人が3人入っても余裕が出来る程の大きさであった

 

「わっちの湯浴みに対する本気・・・見んしたか!浴槽は確かぁ~え~と・・・」

「出来ない説明はすんなよ。浴槽は〈ススキノ〉で取れた檜を使用。壁は熱が外に出ない様に〈ススキノ〉に生息するワーウルフの皮を壁と壁の間に挟んである。・・・クーが言う湯沸かし器だっけか?まぁ、原理は判らないがあそこにあるタンクに火石って言う熱を帯びた石を入れてお湯になる。その時に出る煙は尋常ではないんだが煙突つけたから解決した・・・ここまではいいか、ギルマスさん?」

「あ、う、うん・・・」

 

ようは暖めた水を浴槽と蛇口に送り出している事は判ったのだが、シロエは歓喜の声をあげる2人とは違い声が震えていた

・・・現実に戻ったのだ。風呂が出来たのは純粋に嬉しいが、これ程の入浴施設を作るのに一体いくら掛かるのか?その事ばかりがシロエの頭中を掻き回っているのだ

いや、既に完成してしまっている。支払わなくてはいけないのだ!・・・風呂場にいるので汗が出てきて当たり前なのだが『汗』の前に『冷』がつく汗が滝の様に出てくる・・・・

 

ゆっくりと目蓋を閉じ、そしてまたゆっくりと開ける・・・

シロエは覚悟を決め、まだ説明する〈大地人〉(鼻血)に話しかけた・・・

 

「んでよー排水口は循環機能が 「ご、ごめん。少しいいかな?」 なんだ、ギルマスさん。質問か?」

「いや、大体は判ったよ。・・・支払いなんだけど・・・代金はいくらなのかな?」

 

シロエの問い掛けにキョトンとした顔をする〈大地人〉(鼻血)。しかし、直ぐに顔に笑みが零れ始めシロエの背中を叩きながらシロエが驚く答えを伝えてきた

 

「大丈夫だって!俺らはもうクーから代金受け取ってる。安全な居場所って言う代金をな!」

「・・・・え?」

「ギルマスさんは直ぐに気づくと思ったんだけどな!俺らは〈ススキノ〉にいたんだぜ?」

「!?」

 

何故今まで気づかなかったのかとシロエは頭を抱えた。彼らが使用した材料は全て〈ススキノ〉製であった事に。

材料の出荷など〈ススキノ〉では行なわれている筈が無いので必然的に現地人が〈直接〉持って来るしかないのだ

そして彼らは彼女とは友人関係を結んでいる、すなわち・・・

 

「クーさんの持つ〈呼出水晶〉で〈アキバ〉の町に転移して来たんですね?」

「そうだ。前から相棒(モブ)と〈ススキノ〉から出ようと話していたらな、クーが『風呂を作ってくれるなら

安全な場所に呼ぶ!』って言うもんだから材料と一緒に飛んできたのさ。・・・理由はどうであれ、安全な場所に行けるんだ、風呂を作るくらいどって事ないさ。」

 

それに安全は金では買えないしな!と笑いながら話す彼にシロエの硬くなっていた表情が柔らかくなっていくのを感じた

 

「でも、本当によろしかったのですか?事実上、貴方達は一文無しですよ?」

「だよな~、最初は持ってきた材料を売って路銀にする予定だったんだが・・・止まらなくなっちまってよ?」

 

頬を掻きながら苦笑いする彼にシロエはある事を思い出し、勧めてみる事にした

 

「〈第8商店街〉と言うギルドが〈大地人〉を雇用を視野しています。よろしければ、この入浴施設の代金として招待状を書きたいのですが?」

「本当か!?頼むわ!なんだかんだで職がないことには始まらねぇからな!」

「ふふ、そうですね。では、この入浴施設の代金は職とーー」

「―――安全な場所って事で確かに受け取ったぜ?」

 

ニヒルに笑いながら二人は握手を交わすのであった・・・・

 

 

 

 

NEXT  ニューフェイス来ちゃる

 




シーン1

「・・・・」
「どうかしましたかにゃ、くーち?」
「わっちの出番が少ないでありんす」
「・・・・」
「・・・・」

シーン2

「しっかし、いい奴らだったな、シロ?」
「そうだね・・・・おかげで〈第8商店街〉にカリを作れたよ」二ヤリ
「クロッ!?」

シーン3

「ねぇ、トウヤ?」
「ん?どうしたミノリ?」
「私達の出番は?会話的には今日が合流でしょ?」
「・・・・」
「ねぇ、答えてよトウヤ」
「・・・・」
「ねぇ!トウヤってばぁぁぁぁ!!!!」
「・・・・ヤンデレ乙」


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思『1』は届くと『4』んじてありんす!

一週間更新間に合わなかった・・・OTL


ステータス更新
好感度更新


〈三日月同盟〉

 

『円卓会議』参加ギルド、〈アキバのひまわり〉マリエールが率いる中小ギルドである

・・・訂正しよう、彼女のギルドほど『率いる』と言う言葉が似合わないギルドを私は知らない

彼女らを言葉で表すのならば『家族』と言う言葉が一番しっくりくるであろう

暖かみ溢れるギルドマスター、会計を預かりしっかり者の幹部、兄貴肌とまではいかないが頼りになる戦闘班長etc・・・

 

〈大災害〉後、荒れに荒れたこの世界に彼女らの様な人の暖かみを忘れていないギルドは珍しい

・・・道に迷い、目的を失い、自棄になった者が居るのであれば〈三日月同盟〉に行く事を私はオススメしよう

彼女らは貴方を暖かく迎えてくれるであろう・・・

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

「今回の見出しはコレで決まりでありんすな。しかし・・・」

 

彼女は〈記録の地平線〉の本拠地前を何回も何回もぐるぐるぐるぐる回っていて双子ちゃんに視線を向けた・・・

 

「ミノリ!早く行こうぜ!」

「う、うん、わかっているわ。でも・・・心の準備が」

「昨日あんなに考えただろ!?今更、なに悩んでるんだよ!」

「私だってシロエさんに師事してほしいけど・・・私、足手まといだし」

「・・・一歩踏み出す勇気が足りないでありんすか。しかし・・・うろたえる2人は、まことに可愛ぃでありんすね~」

 

彼女は、かれこれ1時間以上も双子を愛でているのであった・・・

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

狐流・・・お☆も☆て☆な☆し☆

 

 

 

彼女達は自分達の恩師であるシロエのギルド〈記録の地平線〉に加入する為に北側の境界まで足を運んでいた

しかし、彼女達の一方的な思いだけでシロエと共に歩んでイイモノなのか?その思いが巡りに巡り今一歩踏み出せずに、ただ足を止めていたのだ。・・・トウヤも口では気丈に振舞っているが、心の奥では高LV尚且つ凄腕プレイヤーが集まるギルドに参加していいのか?心の奥で引っかかっていた・・・

 

彼女らはLV30もいかない初心者。しかも、この世界で一度酷い目にあっている。シロエに限って〈ハーメルン〉の様な扱いは受けないと断言できるが・・・・このままシロエにおんぶに抱っこでいいのか?

2人の思考は時間と共により深く沈んでいったのだ・・・しかし・・・

 

「ト~ヤン♪ミ~ノリン♪」

「「うわぁ!?/きゃ!?」」

 

いきなりのシリアスブレイカーの登場に2人は一斉に声と思考を上げた

声を上げてもなお、2人に抱き付き頬摺りを止めない彼女をどうにかしてくれ・・・

 

「クーさん!?くすぐったいです!」

「クーさん!?そうだよ!クーさん!実は俺達―――」

 

驚きはしたが、トウヤにとって彼女の登場は渡り舟であった

彼女はシロエ達とは、また違う独自の考えを持っている。そんな彼女なら今自分らが抱えている悩みを解決し導いてくれるのではないか?と思ったのだ

 

トウヤは拳を握り締めながら、ミノリは下を向き洋服の裾を握りながら胸の内を語り始める・・・

 

「―――LVも低いし足手まといかもしれないけど、兄ちゃんが色々教えてくれたから、俺達がんばれたんだ!・・・だから、俺達、兄ちゃんのギルドに入れて貰いたいと思ってるんだ。でも・・・」

「私達・・・このまま、シロエさんに頼りっきりでいいのかと思うんです。私達にシロエさん達は多くの事をしてくださいました。でも、私達には返せるモノがありません、どうすればいいんでしょう?」

 

2人は胸の内を全て語り、思いを告げた女性に一斉に視線を向けたのだが・・・・

 

「あ~!蝶でありんす~♪待ちなんし~」

 

2人の言葉などまったく耳に届いていないとばかりに蝶を追いかけていた

 

「・・・私、クーさんが何を考えているのか、判らないわ」

「・・・俺も。」

 

その光景を目の辺りにして二人は揃ってため息をついたのであった・・・

 

日差しが真上から差しあたる時間になっても3人は、その場にずっと留まっていた。ただ時間ばかりが過ぎていく中、蝶を追いかけ回す彼女を茫然と眺めているとーーーふっとある事にトウヤは気づいた

 

「お、おい!ミノリ!あの蝶ってシロエ兄ちゃんが言っていた・・・『アレ』に似てないか?」

「『アレ』?・・・ハピネスバタフライの事?でもアレは〈ナインテイル自治領〉にしか出現しないって言っていたわよ?」

「で、でも!体は淡いピンク色だし!鱗粉は金色だぜ!?まるっきり同じだろ!?」

「・・・確かにそうだけど」

 

ハピネスバタフライ・・・・〈エルダー・テイル〉中期に名作拡張パック〈炎の贈り物〉の副産物として出現した捕獲するとギルド全体に幸福が訪れると伝えられている出現率が極稀な高難度なイベントだ

実際にどのような効果があるのかは不明な点が多いが、遭遇率の低さからギルド資金が増大、ギルドルーム無料配布など噂を囁かれている・・・

 

「そうだよ、ミノリ!あの蝶を捕まえようぜ!そしたらシロエ兄ちゃんも認めてくれるさ!」

「で、でもトウヤ!このイベントは難易度が高いから危ないってシロエさんが!」

「ただ蝶を捕まえるだけだろ!?早くしないとクーさんに先を越されちまうよ!」

「ちょっと待ってよ、トウヤ!」

 

ミノリはトウヤにせかされ、〈アキバの町〉の外―――ダンジョンへと踏み出したのであった・・・・

 

 

 

 

2人は蝶を追いかけ、森の中を進んでいた。

ヒラヒラと舞う蝶は〈冒険者〉が走れば簡単に捕まえられそうな速度で、時には急上昇し〈冒険者〉の手に届かない場所まで高度を上げたりしているが・・・・決して見失う事のない距離で〈冒険者〉を誘っていた(いざな)

 

その蝶の有り方を不自然に思ったのはミノリであった・・・

 

「ねぇ、トウヤ。可笑しくない?シロエさんが難しいって言っていたわりには簡単すぎる様な気がするし、一緒に追っ駆けていたクーさんもいつの間にか居ないし・・・」

「好都合だろ?それよりあそこを見てみろよ!」

 

トウヤの指差す先には彼女らを誘っていた蝶が一輪の花で羽を休めていたのだ・・・

トウヤは声を上げようとしたミノリの口を人差し指で押さえ後、ゆっくりと蝶に近づき・・・両手で囲み・・・

 

「よっしゃ!捕ま、えッ!?」

「トウヤッ!!!」

 

捕まえた事に歓喜の声を上げようとしたトウヤを大きな影が迫ってきたのだ

ミノリは、いち早くトウヤに迫る危機に気づき押し倒す様にトウヤと一緒に倒れこんだ

そして、タイミングよくして2人の頭上でブォンっと荒々しく空を切る音が鳴り響いたのであった・・・

 

2人は一斉に音の発生源を見上げた・・・長い腕には巨大な棍棒、湾曲した黒い脚、そしてこの四肢を持つ者の顔は・・・凶悪にして鬼の様な顔をしていたのだ

 

「・・・オーク」

 

ミノリなのかトウヤなのか、はたまた2人一緒にだったのか判らないが・・・発した言葉からトウヤを襲った正体が判明したのだ

 

「っ!ミノリ!!!」

「え!?きゃ!!!」

 

トウヤはミノリの手を引いて立ち上がった。―――巨大な棍棒はミノリのいた場所に叩きつけられ砂煙が舞う・・・

 

「くそッ!なんで忘れてたんだよ!あの蝶は罠って言う事を!」

「罠?・・・ッ!H・E(ハピネス・イーター)オーク。モンスターLVは50!?」

 

 

 

イベント名:「幸せを喰らう鬼」

拡張パック〈炎の贈り物〉では各種ダンジョンを巡り、オーク族との激しい攻防戦が繰り広げられた

〈冒険者〉の活躍に苛立ちを感じたオーク族の一派は〈冒険者〉を餌で誘いだし奇襲を仕掛ける事にした

〈冒険者〉は見事、奇襲を打ち倒し報酬を手に入れる事が出来るのであろうか・・・・

 

[討伐対象]    : H・E(ハピネス・イーター)オーク  

[イベント条件]  : H・E(ハピネス・イーター)オークの強さは発見した〈冒険者〉達の合計数に変化する

         : 遭遇から10分後、敵側に増援

         : 逃走不能

         : ファーストアタック不能

[報酬]      : ???

 

 

トウヤは自身の犯した失敗に唇を噛んだ

シロエ兄ちゃんに教わった事を忘れ、それどころかミノリまで危険な目に会わせてしまった事を悔しく思った・・・

自身の震えた手で持つ刀が、あの巨大なモンスターの前では小枝の様に感じてしまう・・・

ツーっと頬を垂れる汗が不快に感じるが、ジリジリと距離を詰めて来るオークでそれどころではなかった

 

「どうするのトウヤ!?私達じゃ・・・」

「諦めるな!諦めたらそこで終わりだ!」

「そうざんす!そうでありんしょう!安西先生!!!」

 

目に涙を浮かべるミノリを奮い立たせようと声を掛けるトウヤ・・・一匹増えている事に気づかない二人

 

「ミノリ、援護してくれ。俺が仕掛ける!」

「で、でもトウヤ!」

「・・・ダメージが与えられるんだ。倒せないことはない」

「見せてもらいんしょう!オーク族の性能の高さを!」

 

刀を構えオークと対峙するトウヤと林檎を齧り扇子を構える狐・・・・シャクシャク・・・・シャクシャク・・・ミノリは気づき目を丸くさせた

 

「クーさん!?」

「え!?クーさん!?ぐはっ!」

「余所見は危ないでありんすよ、トーヤン?」

 

振るわれた棍棒をトウヤに蹴りを入れることで回避させた彼女は悪くはない・・・決して林檎で手が塞がっていたと言う理由からではない・・・・と思う

 

いつの間にか現れた頼もしい援軍にミノリの顔には笑みが戻ったが・・・直ぐに驚きの顔へと変化したのであった

 

「LV20!?どうして!?」

「え!?」

 

ミノリの言葉に驚き、トウヤ自身も彼女のステータスを確認してみる・・・LVが20になっており、ステータスの下にはある言葉、シロエが自分達に指示する時に使っていたシステム名が表示されていたのだ

 

「・・・師範システム」

「そうざんす~♪みんなでフルボッコにしんしょう?」

 

明るく2人に話しかける彼女とは対照的に2人の表情は暗くなっており、心なしか発する声も生気を感じることが出来なかった・・・

 

「・・・クーさんは、LVが低くなってもシロエ兄ちゃんみたいに上手く戦えるよ。でも・・・」

「私達だとクーさんの足手になってしまいます。だがら 『いい加減になさい!』 っ!?」

 

何時のもダラケタ特長的な話し方ではなく、リンッとし透き通った声が2人の顔を上げさせる

 

「・・・貴方達はもう少し自信を持ちなさい。LVが低いから、足手まといになるから、そんな自身が付けた評価なんて全く意味のなさない事を感じなさい?」

 

顔を上げた先には、オークに背を向けているのにも拘らず、優雅に、そして気品に満ちた彼女が自分達を真っ直ぐに見つめていたのだ

 

「あ、あの時の姉ちゃんなのか?でもクーさんは?」

「私の事はどうでもいいの・・・私はあまりにも愚図で聞き分けの出来ない子供にいてもいられなくなっただけよ?」

「・・・愚図、ですか」

「あら、お気に召さなかったかしら?でもね・・・貴方達の評価は、シロエの評価でもあると私は捉えているのよ?」

「「・・・え?」」

 

『くずのは』の言葉に2人は目を開いて驚き、『くずのは』を見つめ返した・・・

 

「貴方達はシロエを『LVが低い』『実力がない』と言う理由でギルドの加入を拒否する程の器の小さな男だと思っているのよね?」

「「ッ!!!」」

 

2人は息を飲んだ

言われなければ気づかなかったとは言え、知らぬ間に自分達は、尊敬する人を勝手に不評していたのだ。シロエはそんな人ではないとは分かっているが・・・シロエにそんな評価をつけていた自分が悔しくなり、トウヤは刀を握る手に力が篭った・・・そしてミノリはあまりにも衝撃的な告白に涙を零しながら『くずのは』に更に胸の内を問うように伝えたのであった・・・

 

「・・・確かに私達はシロエさんに否定されるのを恐れて不評していました。でも・・・でも!自分の力!思いを!・・・信じられない私は何を信じて進めばいいんでしょうか!」

 

悲痛であった。トウヤ(身内)にも相談出来ない、彼女だけの思い・・・トウヤは〈ハーメルン救出作戦〉の時、他の新人を励まし奮い立たせ、導きシロエに尽力した!でも彼女は・・・

ミノリにとってシロエは恩師であり尊敬する人である。共に歩みたい、共に進みたい・・・そう思っている。でも、そんな自分がシロエの元にいていいのか、シロエの役にたっていけるのか?

自分の力を信じられずにずっと・・・この思いが心に引っかかっているのだ

 

『くずのは』は、ミノリの悲痛を聞いている間、ずっと目を閉じていたが聞き終えた後、クスっと笑い優しく語り始めた・・・

 

「シロエは損得で人を選ばないわよ?でもそうね・・・なら」

 

『くずのは』はミノリに近づき、そっと指で涙を拭きトウヤには聞こえないように耳元で囁いた・・・

 

「シロエを信じる貴女を信じなさい」

「・・・え?」

ミノリ(じぶん)ではなくシロエを思うミノリ(気持ち)を信じて進みなさい。男を信じ進む事が出来る女はどんな女よりも美しく、そして・・・強い。ミノリ・・・『思い』は『力』を凌駕するものよ?シロエを信じ歩む事『思い(気持ち)』が貴女を強くさせるわ・・・・・思い(気持ち)も色々あるけど・・・『愛』でもいいのよ?」

「クーさん///」

「どうしたんだ、ミノリ?」

「なんでもないわ!」

 

ミノリは恥ずかしくなって『くずのは』から勢いよく離れた、姉の奇行を不思議がったトウヤに言葉を掛けられるが触れられたくない話題なので素っ気なく返してしまったのだが、その行動が余計に羞恥心を生んでしまい、顔に熱が篭ってしまった。心を落ち着けながら手で顔を仰いでいく。・・・・そんな彼女を眺めて『くずのは』は笑みを深めた

 

「ふふふ、2人とも悩みは解決されたかしら?」

「はい!・・・俺が今までがんばれたのはシロエ兄ちゃんのおかげだ、今はまだ弱くて頼りないかもしれないけど強くなってシロエ兄ちゃんを助けていくんだ!」

「excellent ・・・強くなりなさい、トウヤ」

「はい!」

「・・・ミノリはどうかしら?」

「私はシロエさんについて行きます。・・・足手まといかも知れませんが、私はシロエさんを信じていますから」

「brilliant・・・いい女ね、ミノリ?」

「・・・はい」

 

トウヤは胸を張って、ミノリは少し恥ずかしそうにしながらもハッキリと『くずのは』に言葉として伝えたのだ

 

「成長、素晴らしい事だわ。・・・さて、大人しく待っていた、いえ、仲間をまっていたのかしら?・・・まぁいいわ、今日は機嫌も良いから私自ら遊んであげるわ(・・・・・・・・・・)、行くわよトウヤ、ミノリ?」

「「はい!」」

 

 幼い2つの声が狐に答えるーーー

 

 その声は、〈アキバの町〉に戻った時も加わり、異世界になってしまったかつての〈エルダー・テイル〉に、新しいギルドが誕生した。

 

 ――その名は〈記録の地平線〉。

 アキバの街の外れの、古木に貫かれた廃ビルが、この小さな仲間達の産声を上げる住処だった。

 

 

 

トウヤにミノリ。新しくメンバーを2人加わった〈記録の地平線〉-----

 

この夜は彼らにとって忘れられない『思い出』になるであろうーーー

そして、今回の黒幕である彼女は・・・・

 

「湯浴みでありんす~♪・・・ってなんでいるんでありんすか?」

 

メンバーが寝静まった頃合いを見計らい彼女自慢の檜風呂で入浴を楽しもうとしていた・・・・が、先客がいたのだ

 

「いやはや、今の時間帯は男性の入浴時間ですにゃ?くーち」

「そんな事、関係ありんせん!わっちはわっちが入りたい時にはいりんす!」

 

先客・・・にゃん太が居るのにも拘らず湯に果実酒と二つのグラスを乗せたお盆を浮かべ入浴しようとする彼女

流石のにゃん太も彼女の行動は予想外であった・・・

 

「・・・くーち、恥じらいと言うものは知っていますかにゃ?」

「当たり前でありんすぇ。でもわっちには見られて恥ずかしい場所なんてありんせん!」

 

にゃん太.にドヤっと顔と身体を見せ付ける彼女に、にゃん太は苦笑いを零すしかなかっった・・・

2人並んで黙って湯に湯に浸かるのも可笑しいと彼女は自前した果実酒をにゃん太に注ぐ・・・

にゃん太も黙って受け取り、一口、口に含んだ後、彼女の髪留めに目が止まった

 

 

「おやおや、『帰蝶の髪留め』ですかにゃ?」

「今日、双子ちゃんとクエストに行った時に『お礼』でもらいんした。・・・わっちの宝でありんす♪」

 

大事そうに撫でながら笑みを浮かべる彼女の顔はとても優しく・・・そして、楽しそうであった

 

「にゃにゃにゃ、良かったですにゃ・・・しかし、くーち。今回の件の発案は『くずのは』ですかにゃ?」

「・・・それが聞きたかったから残っていたんでありすね?・・・発案はわっちで説得とかメンドクサイ事は『くずのは』でありんす」

「そうですかにゃ・・・些か強引だった気がしますにゃ」

 

苦笑いを零しながらも彼女は空になったグラスに果実酒を注ぎ直し言葉を紡ぐ・・・

 

「あの2人は見ていて楽しぃでありんすぇ。 あの2人だけじゃない・・・セラララもマリーも見ていて一緒に居て楽しぃと思いんす 。・・・こなたの世界でしか生きらりんせん わっちにとって(・・・・・・・・)『愉快』は何よりの糧になりんす。・・・だから、はよ解決したくなりんした」

「生きられないとは物騒ですにゃ~・・・しかし、今は楽しい筈ですにゃ?」

「・・・わっち は今も昔も楽しんでいんすよ?でもまぁ~不謹慎だとは思いんすが・・・」

 

伸ばしていた足を組み、優雅にグラスを持ち上げる彼女・・・

 

「〈大災害〉後、私の方でも(・・・・・・)面白いと思うことは多くなったわね?」

「にゃにゃにゃ、それはそうですかにゃ」

 

にゃん太と軽くグラスを当て2人揃って軽く笑みを零した・・・

 

「猫の言葉を借りるなら私達は老い耄れ・・・シロエもそうだけど若者の成長は私にとって(・・・・・・)なによりの『快楽』ね」

「おや?お認めになりましたかにゃ?」

「借りるって言ったわよ?・・・私はまだ老い耄れていないわ」

 

先程まで笑みを浮かべていた顔は反転し不機嫌そうな顔へと変化した

その後、『くずのは』を宥めながらも3人で果実酒一本分、ゆっくりと入浴を楽しんだのであった・・・

 

 

 

 

NEXT  海?NO!会議?NO!留守番?YES!!!  →  だが断る!




~風呂場で~

「それはそうと、猫?」
「はいですにゃ」
「クーは混浴を許したけど、私は許した覚えはないわよ?」
「・・・なにがお望みですかにゃ」
「そうね・・・林檎パイを一週間ね」
「・・・・・はいにゃ」


~風呂場でパート2~NG

「・・・うちの風呂は何時から混浴になったんだ?」

何も知らずに用を足しにきたギルドマスターに目撃される











ミノリとの入浴だと思った方は感想に『げせぬ!』とw


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〈夏季合宿〉:狐が休む場所
暑『1』のは『5』めんでありんす


なかなか話が進まないし、オリジナルティが・・・・

もうちょっと頑張ろう・・・

もっと構成ねってから書こう・・・


〈西風の旅団〉

 

円卓会議参加ギルドの一つ。大規模戦闘攻略を目標に掲げるギルドは数多いが、先行者利益が大きなこの分野において、新興団体にしては珍しく戦果を挙げて勢力を伸ばしている

ギルドマスターは〈放蕩者の茶会〉出身のハーレム製造機もといソウジロウ=セタ。天然気味な心優しい童顔から発生するスマイルで女性〈冒険者〉の心を落としまくっている・・・・ッチ!

悔しい事に戦闘に関しても一流であり、彼の戦闘スタイルに攻撃を「受け止める」と言う言葉はあまり聞かない

攻撃を「流す」事に特化しているのだ。・・・私の予想が正しければ彼は〈エルダー・テイル〉において未知の領域にたどりつくであろう・・・・

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

 

「ん~人物紹介になってしまいんしたか。しかし・・・」

 

彼女はクルリと後を振り返った。・・・後には凡そ60人の〈冒険者〉が二列になって坂を下りていた

 

「大所帯でありんすな~。でももう歩けんす!」

「黙って歩けパンツ神!列が乱れるだろ!」

「・・・くすん」

 

 

 

 

青空の下、彼女の駄々は直継の一言により一掃されるのであった・・・

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

白い砂浜!青い海!輝く太陽!・・・身体に沁みるでありんす

 

 

 

 

時は戻り5日前・・・

マリエールが自分の立場も考えないでバカンスに行きたいと駄々をこね、〈夏季合宿〉と言う名のバカンスと「エターナルアイスの古宮廷」において開かれる会議と舞踏会への招待状が同時期に決行される決定され〈記録の地平線〉は各自、どちらに参加するか話し合いをしていた・・・

 

「―――と言う訳で直継と班長は〈夏季合宿〉に。アカツキは 「主君の身の安全はわたしが守る」・・・僕と一緒に来て貰う訳だけど・・・いいかな?」

「おう!うちでもトウヤとミノリが参加するしな!引率は任せろ」

「ふむぅ・・・合宿と言えばバーベキューですかにゃ?腕がなりますにゃ」

 

直継は胸に拳を当て、にゃん太は手を口に添えて合宿での献立を思い浮かべにこやかに笑った。アカツキも「承知」と短く返していたが不満な事はないようだ

各自が自分の成す事を確認し、にゃん太が淹れたお茶を啜っていたのだが・・・・目の前のニートに視線が向き、にゃん太を除く3人がため息をついた

 

「・・・主君、あの駄狐はどうするのだ?」

「・・・俺、この一週間でアイツが此処から出て行く所見た事ねぇぞ?」

「〈自由都市同盟イースタル〉は貴族文化が支流・・・疎そうな真似は出来ないにゃ。かと言って〈夏季合宿〉は食料の調達や新人の引率、一歩間違えれば大惨事になりかえにゃいにゃ」

「・・・・此処で留守番。っていうのは駄目だよね?」

「うにゃ?わっちは別にかまわんでなんし?」

 

ソファで林檎と戯れながら答えるニートを見て、また3人。ため息をつくのであった・・・

しかし忘れては困る!現在〈記録の地平線〉には彼女をどうにか出来る存在が2人もいるのだ!

 

「なぁ~クー姉?一緒に合宿行こうぜ?」

「くーさん、一緒に行きませんか?」

「うにゅ~合宿?・・・わっちは動きたくないでありんす~」

 

彼女を制御(?)出来る存在、トウヤとミノリに言い寄られ一瞬は考えはしたがNOと答える彼女はもはやニートの化身である。

だが、2人は止まらない。むしろ先程の答えは予想通り言う感じに更に言葉を続けた・・・

 

「マリ姐から聞いたけど、バカンスなんだって!美味いモンいっぱいあるってよ!」

「・・・美味しい食べ物?」

 

彼女の垂れ下がっていた耳がピンっと上がった・・・

 

「バカンスですよ?引率・・・ずっとひなたごっこができますよ!・・・たぶん」

「・・・・太陽ポカポカ」

 

彼女の垂れ下がっていた尻尾がピンッと上がった・・・

彼女の嫌いな物を上手く暈しながら好きな物だけを上げて彼女をその気にさせていく・・・

そしてそれは9本の尻尾が全て上がるまで続けられてついに・・・

 

「シロエェェ!わっち!バカンスに行くでありんしょう!」

 

バカンスと言う名の〈夏季合宿〉に参加する事を決めたのであった・・・

 

 

 

 

「・・・あの時程『双子ちゃん恐ろしい子!』って思ったことはないでありんす」

「なら〈イースタル〉に行くか?お前は無理でも『くずのは』ならシロも歓迎するって言ってたぜ?」

「・・・『くずのは』もわっちと同じで腹の探りあいは御免でありんす。あと、『くずのは』の存在は〈茶会〉メンバーしか知りんせん。そな大きい所で変わったら大変でありんす」

「あ~・・・そうだっけ?お前もなんだかんだで考えてんだな?」

「・・・誰しも〈茶会〉みたいにわっちを受け止めてくれるとは限りせんでありんしょう?」

「そうか?少なくとも双子や〈三日月同盟〉は大丈夫だとは思うぜ?・・・ってついたか」

 

直継と話しながらも進んでいくうちに、さしわたし500mはあるかのような貯水池があり、池のそばにはこの辺りでは珍しい、鉄筋コンクリートの廃墟が余り古びれもせず立っている場所へとたどり着いたのであった

 

「学校でありんすか?何年ぶりでありんすかね?」

「俺はまだ、さほど懐かしくはないけどパンツ神は懐かしいのか?」

「さぁ~?わっちの年齢がばれんす。でも、懐かしかぁ~」

 

その後、事前に決めていた校舎の掃除班と食材調達班に分かれ各自、合宿の準備を始めるのであった・・・もちろん、掃除と言う名の肉体労働が嫌な彼女が食材調達と言う名目のつまみ食いについて行ったのはご愛嬌・・・

 

 

 

 

 セミの音がうるさいほどにふってくる田舎道を、マリエール達、食料調達部隊は歩いていた。

 

「んぅーっぅ。良い匂いやんね!」

 

 辺りには、ほのかに梨の香りが漂っている。

 

「そうだにゃぁ。梨の良いところがあったらわけて貰いたいにゃ」

「そうですね、梨食べたいです!」

「梨もよいざんすね~」

「・・・くーさん、そろそろ放してください。人目が・・・」

 

 同じく食料調達斑の引率でついてきたにゃん太と、その隣に控えるセララ。さらにミノリに抱きつく駄狐。また〈料理人〉を選んだ新人プレイヤー数名も、畑を見やっては夏野菜のあれこれを口々に品定めしているようだ。

 

「こりゃ良いバカンスになりそうやね♪」

 

各自、それぞれ周りの風景、〈大地人〉の人々に興味深そうに眺めているのを見て、マリエールがうきうきした口調で告げるが、にゃん太に「夏季合宿ですにゃ」と一応訂正されてしまう。マリエールの後で「合宿は嫌でありんす~」と場違いな発言が聞こえたが、マリエールのこの旅行に掛ける思惑は、メンバーに広がってしまった噂でしっかりバレバレなのだが、年長者としては一応たしなめる義務のようなものがあるのだろう、しかしその注意も殆ど本気と云うことはなく、つっこみというレベルのものだった。

 

 町はザントリーフ大河の河口付近にあった。

 水害を警戒したのか、川の畔からは少し離れて立ててある。

 この辺りの土地は平坦で、穏やかにうねる大地のあちこちがタイルのように四角く区切られ、あちらは畑、こちらは田んぼ、そちらは果樹園と利用されている。だんだんとそのモザイクが細かくなってきたと思ったら、農具をしまう小屋や倉庫などが現われ、いつの間にか町の内部に入っていたという印象だった。

 

この「チョウシの町」は、村落と云うよりも小さな町と云って良いほどの規模がある。このクラスになると、商店などが存在する意味も出てくるのかも知れない。

 

太い通りの中央で足を止めると、ついてきたメンバーがマリエールを取り囲む。面倒見がよいと云われてきたマリエールだ。少しだけ姉御気分で、気持ちが良くないこともない。

 

「えっとな。うーん。どないしよかな。買い出しは……にゃん太班長に任せるか。あとは、ルキセアだっけ? キミにもお金渡しておくから、二手に分かれて。内容は相談して決めてな。メモ、持ってきてあるよね?」

「もちろんですにゃ」と請け合うにゃん太。

 

 それに頷いたマリエールは一回だけ自分のマジックバックを確かめてみる。用意されたお土産を確認すると、メンバーをきょろきょろと見回した。形式の問題として、この町の町長格に挨拶に行くつもりだ。

 挨拶だけだから人数は要らないが、見栄えとしてはもう一人くらいお供を連れて行くのがよいだろう。

 誰を連れて行くべきなのか、と考えると、ミノリと視線があった。

 

(ええやん。しっかり者そうな娘やし)

 

 そう思って口を開き掛けると、ミノリはそれに先駆けて「お供します」と云った。

 

(勘もええ娘やね)

 

「じゃ、うちらはヒィヒャ!?」

「わっちもいくでありんす~」

 

ミノリに話しかけようと振り返った瞬間、弾力のある胸をわし掴みする影が現れた・・・もちろん、彼女である

マリエールも最初は驚きはしたが、背後から揉まれること一ヶ月、彼女の対応にも慣れたようで気にせずに話を進めた

 

「くーちゃん、いまからな~?村長さンッ!・・とこ行くんやけどおとなしゅうできる?」

「できるどすぇ~」

「なんで舞妓言葉?まぁええ、ほな行こか?」

「え!?あ、はい!お供しますっ」

 

目の前で行われている淫行に顔を赤くしていたミノリだが、マリエールに話しかけられて慌て返事をした

しっかり者の娘だろうが、そこはやはり話に聞いていた通り中学生なのだろう。そういう事の免疫がないようで、まだ揉みくだしている彼女を視線に入れまいとするミノリが愛おしくなり、マリエールはくしゃくしゃと頭をなで回す。

 

(シロ坊のトコにとられちゃったンッ!けど、この娘可愛いなぁ。……うーん、これはお買い得を逃したかも知れへん)

「あ、あのっ」

「なん? ミノリ」

「なんで平気なんですか?」

「そやな~慣れにきまっているやんっ♪」

 

頬を赤く染めるミノリを笑いで諭し、二人は年の離れた姉妹のよう(一匹いるが)に町の大通りを歩いてゆく。

 

途中で荷物を運んでいる主婦らしき〈大地人〉に尋ねると、町長はすぐ先の十字路にある大きな二階建ての屋敷に住んでいるということだった。その際に日と目に付くと言った理由から彼女の淫行は終了し今度はミノリに頬刷りをし始めたのであった

 

「ご、ご挨拶すれば良いんですよね?」

「そやな、挨拶して、お土産渡して……あつうない、ミノリ?」

「くーさんには悪いですが・・・暑いです」

「うにゅうにゅうにゅ~♪」

 

季節は真夏、夏の暑さが肌を焦がす季節に毛皮を羽織るミノリは、さぞ体力を消耗しているのであろう・・・そんな事を考えながらもマリエールは話す内容を頭の中で箇条書きにしていった・・・

荷物には、アキバの街から持ってきたサクランボ酒が樽で入っている。それを村長さんに渡して・・・林檎酒なら今この場に存在はしていない、サクランボを選択した私を誉めて欲しい!と思ったのは余談・・・

 

そのほかには――おおよそ二週間の間、廃墟を使わせて貰うこと。町からは5キロほど離れて居るので余り迷惑は掛けないと思うこと。ただ、数日に一回は食料買い出しにやってきたいと云うこと。そんなもんかねぇ?。

 

「そやな、挨拶して、一応義理を通して。食料仕入れの打診もせなあかんな。あんまりひとつの農家から買いあげてばっかり居ると、こっちの町で喧嘩になるかも知れへんし……」

「あ、そうですね」

「わっちは〈ススキノ〉にいたころ、林檎を買い占めたでありんすよ?」

「「・・・・・」」

「ま、まぁ、町長さんの言うこと聞いておけば良いんとちゃうかなぁ。後は、世間話をして……ここいらの情報があるなら掴んでおきたいところやね」

「情報、ですか……?」

「せや」

 

マリエールは頷く。

この世界は〈大災害〉以降変わってしまった。ノンプレイヤーキャラクターはもはや〈大地人〉になってしまったわけで、〈エルダー・テイル〉時代に持っていた機能を保持しているかどうかは、厳密に言えば判らないのだ。

 

「シロ坊は色々気の回る子やから、出来るだけ情報収集を頼まれとるん。このチョウシの町も、〈大地人〉のことも。うちら、知っとるようで、あんまり判ってへんから」

 

「そうですか……。そう、ですよね」

 

ミノリも何か得心したのか、素直に頷いた。

〈ハーメルン〉から解放されてか二ヶ月・・・シロエさんの下、色々な事を学んだけどシロエさんは特に〈大地人〉の事を考えているように思っていたのだ

ふっと空を眺めらがらもミノリはポツリと・・・

 

「シロエさん、今頃何してるでしょう」

 

恩人でもあり、思い人でもある彼を思い一言つぶやくのであった・・・・

 

 

 

 

ザントリーフの夜の校舎でのバーベキューを終えて翌日、彼女を含めマリエールと新人〈冒険者〉ここで言う20未満のプレイヤーは、メイニオン海岸に足を運んでいた

ここは有数の美しい白砂の海岸線があり、彼女達が寝泊まりしている校舎からは、馬で30分ほどで往復にも至極便利な位置にある為、とても居心地が良いのだ!・・・ようするに

 

「天国やわ~、青い海!白い砂浜!輝く太陽!すてきやとおもわへん、くーちゃん?」

「・・・コーホーコーホー(わっちには身に沁みるでありんす)

 

マリエールはとろけるばかりのエンジェルスマイルを浮かべ、かたや彼女はビーチパラソルの下で全ての尻尾をダダ下げて夏の暑さに呻っていたのであった・・・・

 

マリエールの水着は、『旧世界』の浜辺にいたらちょっと感嘆してしまいそうなほどの、攻撃的なビキニだった。ことさらに布の面積が少ない訳でもないのだが、マリエールの反則級ボディラインと、鋭角なカットラインのせいで、扇情的に見えてしまう。 マリエールもそれには自覚があるのか、綿のショートケープをパーカー代わりに肩から掛けていた

 

一方彼女の水着は『旧世界』の砂浜にいたらちょっと通報されてしまいそうなほどの、変質的な水着だった。黒と白のラインが入った全身タイプの水着すなわち囚人水着を着込み、頭にはシュノーケル。腰には浮き輪、足にはフィン。一歩間違えなくても危ない人だ。ことさら囚人水着のサイズはピッチピチで彼女のボディラインをこれでもか!とアピールしているようであった

彼女も自覚があるのか、話す時以外はシュノーケルの口に加えてマスクも被っていた・・・なんの意味があるのであろうか?

 

「・・・そない暑いのダメなん?うちが新人達を見てるさかい海にでも入ってきたら?」

コーホーコーホー!コーホー?(泳ぐのは疲れるでありんす!マリーは?)

「・・・あかん、なに言ってるかわからへん」

コーホー?(そうでありんすか?)・・・海水は毛並みに悪いでありんす、わっちに構わずマリーが入って来たらどうでありんす?」

「ん~・・・そうしたいのは山々なんやけど一応、監督役やしこの場から離れることできんのよ」

「・・・そうでありんすか」

 

2人は血気盛んにカニに挑む新人を見ながら夏のバカンスを堪能するのであった・・・

 

 

 

 

NEXT お前はわっちを怒らせた




夏のバカンス!ヒィーハー!!!

一日目

二日目
水着を着用し、ソーダ片手にバカンスを堪能し始める
その隣で彼女は砂でミノリとトウヤとにゃん太を作っていた。暑いので彼女も水着着用

三日目
心地良い夏の日差しに昼寝を5度実施、新人達も慣れてきたようで安心
その隣で彼女は砂でシロエと直継とアカツキを作っていた

四日目
雨の為、ションボリ。仕方ないので真面目に合宿の監督をした
彼女は浜に赴き雨から仲間を守った

五日目
道連れに彼女を海に連行、海で遊ぶ・・・新人の視線が痛かった
仲間を壊すと言われ渋々承諾。・・・夜のテントで毛繕いをする

六日目
今日も彼女と一緒に海で遊んだ・・・新人の目線にはなれた
やけになって泳ぎ出す。もちろん犬掻きで

7日目
飽きることなく海で遊ぶ
飽きたので防空棒と言う名の日陰をつくる


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『1』って置くがマリエー『6』はわっちの嫁!

頑張って書いた
なんかサブタイトルに絡んだ一作になったと思う


〈D.D.D〉

アキバの街の五大戦闘ギルドにして円卓会議参加ギルドの一つ。ギルドマスターは〈狂戦士”クラスティ〉。 大災害直後の混乱時に多くの中小ギルドを吸収したとされ、所属メンバー1500名と最大級の規模を誇る。

ゲーム時代から大規模戦闘でのコミュニティマッチングを基盤に成立した経緯から、所属人員の多さもさることながら、大規模戦闘初心者に対する教導が充実しているのが特徴。

ギルド名の由来は「クラスティが名前決定時に適当にキーボードを押して入力されたのが『D』で、1文字では決定できなかったので『D.D.D』にした」らしい。

私はてっきり、D=ぐうたらD=堕落してD=どうでもいい・・・の略だと思っていた

実際、ギルマスのクラスティは暇で退屈な日々を送っているのだから・・・

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

「ん~真面目に書いてしまいんした。しかし・・・」

 

彼女は砂浜に並ぶ砂で出来た仲間達を見つめた・・・

 

「ツッキーとミノリンの胸はもっと盛ったほうが良いでありんすかね?」

「くーちゃん!一緒に泳がへん?」

「あ~い!今行くでありんすぅ!」

 

絶賛、彼女達はバカンスの真っ最中であった・・・

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

最高に『ハイ!』ってやつだアアアアア!アハハハハハハハハハーッ!!(某吸血鬼)

 

 

 

速いもので夏季合宿は8日目を迎えていた

さすが初心者と言うべきなのか、飲み込みが早く慣れてきたようで順調にカニを撃破しLVを上げていっていた

こうなると監督で引率していたプレイヤーは暇になってしまう、現にこの一週間一緒に海岸に同行していた〈キール〉や〈西風の旅団〉から派遣された中堅レベルプレイヤーは交代制でバカンスを楽しんでいるようであった・・・初日から全力でバカンスを楽しんでいた者は二人いたが・・・

 

そしてその2人は現在・・・

 

「・・・あかん、うちずっとここにいたい。天国やわ~」

「・・・わっちはあきんした。真っ赤な林檎が恋しいでありんす」

 

ソーダ片手に、もう一人は林檎酒を片手にデッキチェアーに優雅に寛いでいたのであった・・・仕事しろよ、2人共

 

「林檎?なんなら小竜に取りに行かせよか?」

「うにゅ~・・・冷たい林檎が食べんしたい」

「そら難しいな~」

 

いいから働けよ!頭がひまわりと駄狐!

・・・のんびりと時間が過ぎていく中、空になったグラスに林檎酒を注ごうと起き上がった瞬間、彼女の耳と尻尾がピンッと逆立って海岸を強く睨みつけた

 

「ん?どないしたん、くーちゃん?」

「・・・きなくさいでありんす」

「臭い?体なら毎日、海に浸かって・・・何かあるん?」

 

いつもと違う彼女の雰囲気にマリエールも何かを感じたのか、彼女が睨みつける先―――海岸へと視線を向ける

 

「・・・いつもより、波の音が粗いざんす。」

「波?いつもと変わらん感じやけど 「キャァァァァ!?」 っ!?」

 

マリエールの言葉を遮るように海岸から悲鳴が響いた

そこには本来なら雑魚モンスターである〈アスコットクラブ〉が居るはずなのに全身は淡い水色で、腹部のみが生白いモンスターが新人プレイヤーを襲っていたのだ

 

「〈水棲緑鬼〉っ!?なんでいるん!?」

「マリー!一匹じゃないざんす!」

「えぇ!?」

 

青く光る海に黒い影が次々に浮かび上がり・・・そして数十匹の〈水棲緑鬼〉が一斉に岸に上がり出たのだ

 

「こんなに仰山ッ!あかん!みんなー!キャンプに避難し!引率の 「あぁぁぁ!!!」 ッ!?どないしたん、くーちゃん!?」

「わっちの、わっちの力作が・・・・」

 

彼女が嘆く視線の先には、色々と美化されたシロエと直継、にゃん太にトウヤ。一部、本物よりも盛ってあるアカツキとミノリが今まさに〈水棲緑鬼〉によって蹂躙され破壊されていたのだ

 

「砂なんてどうでもいいやろ!『小竜か!? 早く浜辺にきてやっ』

「わっちの仲間が~ナイスボディのツッキーとミノリンが~」

 

彼女が打ちひれているのをスルーし、援軍を得る為にマリエールは小竜に念話を繋いだ

 

「『海から〈水棲緑鬼〉が上がって来とる。新人達がっ――っく。……急いでっ!!』」

「わっちの三頭身ご隠居が~10年後のトーヤンが~・・・・ゆ・・さ・い」

 

完全に彼女を視線から外した先には逃げ遅れた新人が〈水棲緑鬼〉に襲われているのだ

マリエールも殿に加わり、新人達を助ける為に自身の武器を取り出す。〈水棲緑鬼〉は高くてLV30程度のモンスター、自分達にとっては恐れるに足りない相手ではあるが、いかんせん、数が馬鹿げている。

いくらレベルが低くても数の暴力には関係ないのだ

 

いざ、戦闘に加わろうと足を進めたが・・・・後から聞こえてくる呪怨に背筋を凍らせた

 

「・・さない、ゆるさない、ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない」

 

明らかにいつもの彼女ではなかった

エメラルドの様に緑色に輝く瞳には光が失われ、幽鬼を思わせる程の気迫が彼女に漂っていた・・・

そして、ゆらりっと立ち上がるといつもの着物に一瞬で着替え、いつもの白い扇子ではなく金色に輝く扇子を〈水棲緑鬼〉に構え、広げた。

マリエールは彼女が何をしているのか判らなかった・・・でも彼女の口から発する言葉が「ゆるさない」から「ライトニングネビュラ」に変わったのは気づいた。そして顔を青くさせた

 

 

ライトニングネビュラ

詠唱時間30秒 再使用可能時間3時間 使用MP1500

攻撃魔法_電撃属性の広範囲攻撃魔法。青紫色の輝きを放つまばゆい電光が、目標を中心とした広い範囲にのたうち、星雲を思わせる輝きで範囲内の敵を撃つ。広い範囲と高めの威力、敵を短時間麻痺させる追加効果と、面での制圧を得意とする〈妖術師〉の戦闘を体現するかのような特技で、見た目の派手さもあって人気があるが、〈妖術師〉最大の欠点であるMP消費の激しさも体現しており、連発できるような呪文ではない

・・・そしてこの魔法は広範囲ゆえに味方判別がし辛いと言う欠点も持ち備えている

 

今まさに彼女は、ここでその魔法を解き放とうとしているのだ!

避難も順調、残っているのは中堅プレイヤーに極少数の新人。多数いる敵に対しては有効な手ではあるが、マリエールが顔を青くさせる理由は他にあった・・・

 

「我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理の雷ッ!〈ライトニングネビュラ〉!固定。我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理―――」

 

・・・通常と違うのだ。

本来なら詠唱→発動→結果のように進んでいく工程が詠唱→固定と変化しているのだ!

さらに詠唱は続いていく・・・

 

「の雷ッ!〈ライトニングネビュラ〉!固定。我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理の雷ッ!〈ライトニングネビュラ〉!固定。我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理の雷ッ!〈ライトニングネビュラ〉!固定。我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理の雷ッ!〈ライトニングネビュラ〉!固定・・・・」

 

今までの詠唱回数は5回。驚くことに5回の詠唱を終えるのに10秒しかかかっていない事だ。

そしてマリエールは悟った・・・『来る』と・・・

 

「みんなー!逃げてー!早く逃げてー!『小竜!?小竜っ!はよー来て!くーちゃんがキレたー!!!』」

「わっちを怒らせた事を後悔させてあげんしょう!我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理の雷ッ!」

 

手に持つ金色の扇子〈金毛九尾〉を空へと掲げ・・・

 

「受けなんし!ラ○ュタの雷をッ!解き放てっ!〈ライトニングネビュラ〉×6!解放ッ!!!」

 

・・・・〈水棲緑鬼〉に向かって振り下げた

 

 

 

 

ピンポンパンポーン♪

 

今日のヤマトの国の天気予報をお伝えします

現在、メイニオン海岸においてゲリラ豪雨ならぬゲリラ雷雨が降り注いでいるでしょう

LVの低い方は勿論、近くにいる〈冒険者〉の方は直ぐに避難しましょう

なお、この雷雨は狐の高笑いが終わるまで続くとされています。十分に注意しましょう

以上、ヤマトの国の天気予報でした

 

ピンポンパンポーン♪

 

 

後に援軍に来た小竜は語る・・・

 

あれはまさに雷の雨、雷雨であったと・・・

そして彼は、こうも語っていた・・・・

高笑いする狐の隣で腰を抜かすマリエさんは可愛かったと・・・・

 

 

撃破数:〈水棲緑鬼〉157体

死亡者:0名

負傷者:7名(そのうち落雷者4名)

彼女の消費MP:15583

 

 

 

 

 

駄狐の暴走で無事に避難を成功させ新人プレイヤー達はキャンプ地である廃校舎。その校庭に集まっていた

ざわざわと私語を交わしているが、その表情は誰もかれもが緊張をしている。統制された軍隊ではないので、隊列や規律について口うるさく云うような上官はいなかったが、全員が非常事態である自覚を持っていた。

 

西の空には、昼間よりも大きく見える太陽が紅に染まり、沈み行こうとしている。もう夕暮れだ。

中央にたった一つ残された大きな天幕には、先ほどからひっきりなしに何人かの〈冒険者〉が出入りしていた。

 

その大天幕の中では、にゃん太や直継、マリエール、レザリック。そして彼女を含む90レベルの引率プレイヤーによる会議が行なわれている。

 先ほどまで、マリエールは念話による間接出席ではあるが〈円卓会議〉に参加していた。〈円卓会議〉の結果は出なかったが、それについては仕方がない。軽々に判断できる事態ではないことも、判る・・・判るのだが・・・

 

「うにゃ~・・・わっちは疲れんした。もう働きたくないでありんす~」

 

自分の直ぐ傍でだれている彼女を見ていると肩の荷が下りる感じがしてならない

一緒に彼女を見ていた直継にも・・・

 

「ああ、なんだ。マリエさん? クーほどじゃないけど、あんまし考えすぎない方が良いぜ。あっちの方はシロに任せときゃどーにかすんだろ。ヘンリエッタさんもいんだろ? 心配すっこたねぇって。インチキでも何でもやって良い方策考えついてくれるさ」

 

・・・と声を掛けて貰い自然と笑みが零れた

 

「おおきにな。直継やん」

 

こんな時に笑うなんて、とは自分でも思うのだが、やはり人の真心にふれるのは嬉しい。この直継という少年は――というのも変な話で、自分よりも二つやそこら若いだけなので青年と云うべきなのだろうが――普段のおおざっぱな言動からは想像も出来ないほど、細やかな気配りが出来るという云うことに気が付いて以来、その心遣いが嬉しくて仕方ない。

 

「うし! むぎゅーしてやるぞ! むぎゅーやっ!」

 

慌てる直継を照れ隠し混じりに、思いっきり抱きしめる。赤面して取り乱す直継が可愛くて面白いが・・・

 

「うにゅあ!!!」

「「うお!?/くーちゃん?」」

 

自分と直継を引き離すように彼女が間に入ったのだ

 

「・・・マリー、ラブ臭がするでありんしょう。甘いのは林檎だけにして欲しいでありんす」

「「ラブ臭!?」」

 

慌てて二人はそっほを向いた。マリエールは顔を真っ赤にし、直継も若干だが顔を赤くさせ・・・

照れる2人に今後はにゃん太が追い討ちをかけた・・・

 

「若い者同士の逢引を邪魔して悪いですが、状況が状況だにゃ。・・・・マリエールっち? ほら。着替えをした方が良いのですにゃ。もう夕暮れです。……こほん。そのー、ビキニの上にパーカー1枚では、直継っちも、いささか刺激が強いのですにゃ」

 

その指摘に気がついて、更にマリエールは顔を赤くさせた

全くだ。今まで緊張のあまり気がついてもいなかった。半裸のような有様ではないか。

直継に押し当てていた胸が火照り、その熱はどうやら羞恥らしいと、頬にも同じ熱さを感じてしまう。マリエールは天幕の奥へと駆け込むのであった・・・

 

 

マリエールが着替えを終えて、髪に軽くブラシを当てた時点で、天幕の外からざわめきが聞こえてくる。「マリエさんっ」という直継の言葉に誘われて、紫色になりかけた戸外へと出たマリエールが見たのは、遠く丘陵山脈の森の中に揺れる、米粒よりも小さな無数の炎の明かりだった。

 

「……たいまつ、ですにゃ」

 

にゃん太がぽつりと呟く。

 

「ざっと見た所、100か150ってところか?」

 

直継が呟く。

 

もちろん、たいまつ一本につきゴブリンが1体とは限らないが、少なくともそれだけの数のゴブリンが山中を移動しているのだ。もはや彼らは、姿を隠し、こっそりと移動をすることさえ捨て去ったのだと、マリエールは理解する。

その揺れる無数の炎は、「これからお前達を襲うぞ」というゴブリン達の無言の脅迫・・・流石に驚きはしたが、偵察に行っていたにゃん太と何に気づいたであろうミノリから言い渡された言葉はマリエールをさらに驚かせるものであった

 

 

チョウジの町が襲われ、そして・・・・朝までに崩壊する・・・・

 

 

滅びの足跡は着実に近づいてくるのであった・・・・

 

 

NEXT  もういいよね・・・パトラッシュ・・・

 




彼女が作った砂人形

・黒くないシロエ(18禁バージョン)
・パンツを頭に被りパンツだけでポーズを決める変態直継
・胸がEカップのアカツキ(水着装着)
・三頭身のにゃん太(手にはフライパンとおたま)
・10年後のトウヤ(アメコメ風)
・10年後のミノリ(ナース服装着)


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しんぱ『1』ない!『7』ぜなら!わっちは孔明!

おまけと一緒に投稿

何故かISのssより評価を受けているこのss・・・

アニメの影響かな?


〈黒剣騎士団〉

 

アキバの街の五大戦闘ギルドにして円卓会議参加ギルドの一つ。所属メンバーは180名と中規模ながら、全ての人員をレベル85以上で構成するエリート集団として知られる。“黒剣”のアイザックがギルドマスターを務めている。組織も組織図も一応あるが、だいたい団員たちのノリと気分で動いているためほとんど意味をなしていない。団が掲げるスローガンは「ガンガンいこうぜ」・・・要するに脳筋の集まりである

 

しかし、脳筋の集まりゆえに気前の良い廃人プレイヤーは多く、彼らは純粋に〈エルダー・テイル〉と言うゲームを楽しんでいる事が分かる良きギルドだ

 

・・・私も一度は勧誘を受けたが三下の下っ端が来たので追い返してしまった経験がある

・・・要するに私も脳筋だと思われたのであろうか?私は自分に素直なだけなのに・・・

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋・・・・

 

 

「ん~あの時、アイちゃんが来んしてたらコロリしてたかもしれんでありんすな。しかし・・・」

 

彼女は、コソコソと何やら話し合っている集団に目を向けた・・・

 

「・・・子供は考える事が純粋でありんすな~」

「パンツ神、馬に乗ってると危ないぞ?」

「わっちは歩きたくありんせん!」

「足元見えねぇだろ?・・・たっく、落ちてもしらねぇからな」

 

月が夜を照らす中、彼女は若き冒険者を見つめ微笑むのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

やめて!キツネのやる気はもうzeroよッ!――HATARAKE☆(某決闘王

 

 

 

 

〈三日月同盟〉ギルドマスター〈マリエール〉主催であるバカンスもとい夏季合宿を行っていた新人プレイヤーに衝撃的な出来事が舞い込んできた

 

・・・幾千ものゴブリン達の進軍。

 

それは新人プレイヤーだけではなくベテランプレイヤーにとっても衝撃的な事であった

ゲームが現実になった今、山腹に無数のたいまつの灯を見た〈冒険者〉達は戦闘に巻き込まれる可能性がある事を悟り、強い緊張感と緊迫感を含みながらも〈円卓会議〉に席を置くマリエールの判断を待ったのであった

 

・・・そして通知されたのは、チョウシの街への移動

 

この通知はチョウシの町を救うという判断を下すのならば、仮にその判断を下したとしてもぐずぐずしていたら手遅れになる可能性はある為、ぎりぎりまで判断を保留するための移動だった

 

今回の作戦は〈アキバ〉の町での事柄とは規模も内容も全く違う・・・大規模戦闘なのだ

いくら〈円卓会議〉に席を置くマリエールとは言え、一存では解決出来ぬ事柄ゆえに慎重に作戦を練り行動する必要があるのだ。もともと作戦を練る頭もないのだが・・・

 

しかし、マリエールの心の中では既にチョウシの.町の防衛は決まっていた事なのかもしれない

チョウシの街を見捨てるという判断を下すならば、〈帰還呪文〉を用いてアキバの街へと戻れば事が済み、ゴブリンの進軍に対する作戦も他の〈円卓会議〉に席を置くものと練ることが出来き十分に対応できる・・・だが、マリエールはチョウシの町に足を向けることにしたのだ

 

言葉では「ぎりぎりまで判断を保留」とは言ってはいるが、チョウシの街の住人とふれあい、言葉を交わした彼女には彼らを見捨てることはできない、彼女はそういう人だから・・・

 

しかし彼女の思いは彼女のモノだけではなかった・・・

トウヤ、ミノリ、セララ、五十鈴、ルンデルハウス。この若き冒険者も同じ思いを抱き、チョウシの街の防衛を考えていた。そして考え付いたミノリの作戦・・・

 

・・・―――チョウシの街を守らない

 

ミノリの言葉は決然としていて、弟のトウヤでさえもその強さに言葉を失った

仲間達の誰しもが、ミノリの非情な言葉に、声を失っている。

ミノリはそんなみんなの表情を確かめるように見回したが、弾かれたように振りかえる。

 

「あ……」

「ん。ミノリっちも、勘が良くなったにゃぁ」

「勝手に悪巧みを始める若い衆はいないかどうか、おにーさん達が見回りにきたぜべいべっ!」

「我が輩達は年寄りなのにゃ」

「わっちは永遠の18歳でありんす!」

 

そこにいたのはにゃん太と直継そして狐。その後ろには距離を置いて、小竜とレザリックの姿も見えた

 

「直継師匠っ」

 

トウヤも反射的に背筋が伸びる。直継が礼儀作法について厳しい師匠だという訳ではないが、トウヤの側の意識の問題なのだろう。この歴戦の〈守護戦士〉(ガーディアン)の前に出ると、自然と背筋が伸びてしまうのだ。

 

「にゃん太さん……」

 

ちょっと困ったような表情のミノリだが、引き下がるつもりはないようだ。にらみつけるほどの視線の強さでにゃん太を見上げると「許可をして下さい」と頭を下げる。

 

「おう。にゃん太班長もパンツ神も、直継師匠も、ここは黙って行かせてくれるのが男だぜ」

「わっちは女でありんす!・・・ありゃ?神様には性別ってありんしたか?」

 

トウヤはミノリに並ぶ。

ミノリが何であんなに冷たいことを云ったのかは判らないが、きっと何か思いついたことがあるのだろう。シロエに憧れていたミノリだから、その後を追うために全てを学び取ろうとしていたミノリだから、必ずや打開の策を胸に秘めているに違いない。

そうであれば、トウヤはミノリを一人で矢面に立たせる訳にはいかない。

 

「許可も何も。〈冒険者〉は自由なのだにゃ。「わっちも自由でありんす~」・・・もし、本当に決めたのならば、例え相手のレベルが上だろうと、ギルドで世話になっていようと、貫く自由が〈冒険者〉にはあるのだにゃ。――だけどミノリっち。それはそれで、なかなか大変なのだにゃ」

 

 何もかも心得たかのようなにゃん太の言葉にミノリは頷いている。

 

「わかりましたにゃ。夜は短い。――夏はさらに。パックも云ってることですから、急ぐとするにゃ。ね? ミノリっち」

 

にゃん太のそれを聞いたトウヤとミノリは視線を交わして、お互い拳を打ち合わせるのだった

 

 

 

「さて、作戦を詰めていくか!」

 

直継の言葉にミノリを除く新人パーティーは首を傾げ、堪らずトウヤは疑問の声をあげた

 

「直継師匠、ミノリの作戦じゃダメなのか?」

「ダメじゃない、でもな、俺から言わせれば穴だらけ祭りだぜ?」

「ミノリっちもイイ線いっていますが・・・中身がまだ薄いですにゃ」

「トウヤ、私が考えたのは先に仕掛けて状況を同じにする漠然とした概要だけ・・・後方支援とか攻め方とかは状況判断に任せてしまうところが多いの」

「攻め方?状況判断?」

 

ミノリの考えた作戦は都市を守りきるのが不可能であるのならば、先行して叩きゴブリン達が身を隠す森林を逆に利用した夜間戦闘と言うなの先行奇襲なのだ

 

だが、策なしにゴブリン達に奇襲を仕掛けても数が多いゴブリン達には微々たるもの、むしろ返り討ちに会ってしまう可能性もあるのだ

 

「と言う訳で細かいところを修正していく訳だが・・・パンツ神達、任せた!」

「わっちでありんすか!?」

 

蚊帳の外と言わんばかりに林檎と戯れていた彼女は、いきなりの指名に耳と尻尾をピンっと立たせたのだ

そして直継の指名した人物を聞いてトウヤとミノリは驚きをあらわにした

 

「いやでありんす~、わっちじゃなくでもパンツ君とご隠居で決められんしょう?」

「俺らは奇襲組だからな、街の事も配慮するならお前に決めて貰ったほうが安全だろ?」

「嫌、メンドイ、しんどすぎ~。それにわっちは無理でありんす~」

「いや、だから『達』って言っただろ?パンツ神だけじゃ場を荒らして終わりだろ?」

「くーちに『くずのは』が加われば、鬼に金棒ですにゃ」

「でも嫌でありん 「林檎パイ10枚ですにゃ」もう一声ッ!「林檎酒3樽ですにゃ」・・・猫、地図とミノリの策を教えなさい」

「わかりましたにゃ、地図はシロエっちが――」

 

にゃん太はシロエの書いた地図を『くずのは』に渡し概要を話し始めた

そしてタイミングを見計らったかのようにトウヤとミノリは直継に詰め寄ってくる

 

「シッショォォウッ!なんでクー姉!?あり得ないだろ!?」

「クーさんが立てた作戦で大丈夫なんですか!?」

 

普段のダラケきった彼女を知る二人は烈火のごとく直継を問い詰めた

しかし、直継もトウヤ達が問い詰めに来る事は承知だったらしく苦笑いを零しながら答え始めた・・・

 

「信頼していいぞ?なんたってパンツ神達は〈放蕩者の茶会〉で、って〈放蕩者の茶会〉って知ってるか?」

「知ってるって!師匠やシロエ兄ちゃんが前にいたギルドだろ!?」

「ギルドじゃねぇんだけど・・・まぁいい、あいつ等はシロや俺が入る前に〈茶会〉にいた最古メンバーの一人でシロの前任者だ」

「えっ?シロエさんの前任!?」

 

ミノリは更に驚き、目を大きくした。シロエが〈茶会〉で参謀と言う役目をしていたのは、そこで話す直継やにゃん太に教えて貰っていた・・・と言う事は・・・

トウヤも気づいたようで驚き、彼女を驚愕な目で見てしまった・・・

 

「そんなに驚く事ねぇだろ?トウヤやミノリだって一度は『くずのは』に会ってるはずだぜ?」

「「!?」」

 

聞き覚えのない名前なのに会っているとは可笑しな話だが、彼らは思い当たる節があり、今度は2人揃って彼女を見つめしまった・・・

 

「え!?クー姉が『くずのは』?ッ!じゃあ!俺達の加入を後押ししてくれたのって!」

「ん、たぶん、『くずのは』だ。・・・言葉遣いが違っただろ?」

 

トウヤは二度、『くずのは』に会っていたので合点がいったと頷いているが、ミノリだけは「ロール?でも『達』って・・・まさかッ!?」と呟き、自分の中で結論を出し直継にさらに問いかけた

 

「クーさんって・・・二重人格なんですか?」

 

ミノリの出した答えにトウヤは今日で4度目の驚愕を味わい、直継は苦虫を噛んだような顔をしながらミノリの問いに答えた

 

「あ~・・・似たようなもんだけど、ちょっと違うのか?・・・まぁどっちにしろ、アイツから自分で言うだろ。だからそん時はちゃんと聞いてくれよ」

 

YESともNOとも言えない直継の答えに2人は困惑するが、自分達を救ってくれた事実は嘘でもない。

自分達を思ってくれる人を、大切な人を蔑ろにする筈のない二人は力強く頷くのであった

 

「っと長話が過ぎたみたいだな。じゃぁ、お狐参謀の作戦でも聞きにいくか!」

「「はい!」」

 

 

 

 

時刻は、まだ真夜中前であろう――-

ミノリが発案し、彼女が肉付けした作戦が現在進行していた

ミノリ達発案パーティーと引率]役LV90パーティーによるゴブリンへの奇襲をかけ、着実にゴブリン達の連携を崩していたのだ

 

そして街で待機する〈冒険者〉も何時来るかわからないゴブリン小隊を抑える為に陣形を組んで今、その時を待っていたのだ

 

「あぁ~ん!みんな無事やろか?」

 

街の外の一角を数十の焚き火が照らす場所から少し離れた場所に本陣として組んだ簡易的なテント。その中でマリエールは今日で何度目かの心配の言葉をもらした

 

「大丈夫でありんす~、一応マリーは大将でありんすからドンと構えてればいいなし。・・・いざとなったらわっちが考え動きんし」

 

マリエールの隣では海岸で使っていたであろうデッキチェアに腰を下ろした彼女が林檎と戯れていた

 

「そうは言うけど・・・なんなん、この配置?」

 

今回の作戦において明確な詳細を聞いていないマリエールは首を傾げた。直継に訊こうにも「お前の頭じゃ理解できねぇよ」と呆れながらも言われ、只街に来たゴブリンを撃退すればいいとしか言われていないのだ

・ ・・その事で少しカチンと来たが状況が状況なので飲み込み、奇襲組を見送ったのだが・・・やはり、作戦内容が気になるようで、今回の作戦に携わった彼女に直接聞いてみる事にしたのだ

 

「ん~?二重雁行の陣でありんす」

「・・・えっと・・・がんこう?」

 

彼女の口から到底似合わない言葉が出てきたので思わず聞き返してしまった

 

「雁行の陣・・・本来なら長期戦には向かない陣形でありんすが、こちには火と奇襲がありんすからね~♪」

 

彼女にとっては十分に説明したつもりであったが、肝心のマリエールは申し訳なさそうに手を上げ「もちっとわかりやすく」と彼女に説明を促した

彼女は林檎と戯れるのを止め、そこ等に落ちている石を並べながらも説明し始めた

 

「ふぅ、いま私達はココ、焚き火の隣に居るわ。ここを本陣として一定間隔を空けて隊を斜めに配置して各部隊での戦闘領域を確保。さっきも言ったけど基本この陣形は長期戦に向かないわ、でも交代制で休息が取れるように雁行を二重にし前衛3後衛3のローテを組んだわ。そして「あぁぁぁぁ!あかん!」・・・なにかしら、マリエール?」

 

『くずのは』の言葉を遮り、マリエールは奇声をあげた。・・・なにやら頭から煙が出ているようにも思えたのはご愛嬌・・・

 

「うちがわるかったわ!くーちゃんが何言ってるのかかわらへん・・・いま、うちが聞きたい事整理するからちょっちまっててやぁ?」

 

手で顔を仰ぎながら目を閉じブツブツと呟いた後、マリエールは3本指を立てて『くずのは』に問いかけた

 

「陣形って言うんのはわからへんけど、みんなが安全に戦える環境を作ったって事で間違えあらへん?」

「戦場に安全はないと思うわ。でも、比較的に消耗は少なくなったわね」

 

彼女の答えに安心したと胸を撫で下ろし、指が3つ上がった手を見せて彼女に問い掛け始めた

 

「1つ、何でうちらだけ2人だけなん?2つ、あの仰山ある焚き火は?3つ・・・・なんであの子達を選んだの?」

 

指を全て下ろした彼女の顔は先月行われた、〈円卓会議〉に参加した時程の真剣みを帯びている

そんなマリエールに彼女は微笑みながら答えるのであった・・・

 

「マリエール、貴女は本当に素敵な女性だわ。傍にいる者を優しく包み込み奮い立たせてくれる『魅力』を持っている。そんな貴女だから私は貴女を好いているのね」

 

飾りも戸惑いも無いストレートな誉め言葉にマリエールは頬を赤めた

 

「いいわ、教えてあげる。1つ目、ココは陣形の要だからよ。」

「・・・要?」

「そう、ここを通るのは魔物を従えた欲が強い〈鉄躯緑鬼〉みたいな他種とは違う、新人達には荷が重い敵だわ」

 

新人達『には』と言う事は自分らで相手するには2人で十分な敵が来るということであった

 

「それやから2人だけやったのね。納得やわ」

「勘違いしているようね?ここは私一人よ・・・此方へ来る可能性は限りなく0に近いのだから」

「え!?」

 

マリエールは彼女の答えに驚き声を上げたが、彼女はと言うと、どこからかテーブルとグラスを取り出し、子樽に入った林檎酒を注ぎながら微笑んでいた

 

「・・・どういうこと?」

「2つ目、相手が先にやった事を真似たからよ」

 

ほのかに香る林檎の香りが自分の好みにあっていたようでウットリとした顔で続きを話す・・・

 

「ゴブリンは『火』を山腹で松明を灯し、こちらへの牽制に使った。なら私達も『火』を使い、この場所には大勢の冒険者がいると相手に虚像として示した。奇行な敵が居ない限り大きく戦力を減らす集団戦闘は避けたいと思うわ」

 

要するに、相手に此方の動きを明かし、戦闘領域を絞らす役目があると言うことであった

しかし、マリエールはある事に気づく・・・

 

「そしたら一方に仰山きて押さえきれないじゃないの?」

 

絞られた道になだれ込むように敵が集まり、敵の密集率が上がってしまうのではないと考えたのだ

彼女は林檎酒の入ったグラスを傾け一口、味わうとスッと山の方を指差したのだ

 

「ふぅ・・・だから、奇襲なのよ。本来なら二組ではなく三組にしたかったけど仕方ないわ。今回の奇襲は二つの意味を持っているの。1つ、先制攻撃による街の被害削減・・・そこは貴女でもわかるでしょ?」

「うん」

 

街の付近での戦闘ではなく、敵の懐での戦闘を行い街の被害を抑える・・・最初にミノリが言っていた作戦だ

 

「2つ目、敵の飽和作戦崩壊による戦力の分散化よ」

 

マリエールが頷くのを確認すると彼女は指を2つ立てて言葉を紡ぐ

 

「ゴブリン達は数で攻めようとする。そこを主たる直継達高LVパーティーが正面から叩き、戦力を二分化する」

「・・・・分かれた先には大勢の冒険者」

 

ここで焚き火の意味がまた活躍することになるとか思っていなかったマリエールは驚きの目を彼女に向けた

 

「しかし、焚き火は虚像でしかない。現状況からゴブリン達の考えは最低でも3つに絞られる。「正面突破」「大規模集団栓」「空いた片方からの進軍」よ」

 

事実上、選択肢は一つ、多数で攻めたいと思うゴブリン達は3番目の選択をすると彼女は確信しているのだ・・・持っていたグラスを更に傾け、林檎酒で喉を潤す

 

 

「・・・でもそうしたらセララや五十鈴、ミノリやトウヤは危なくらなへん?」

「・・・3つ目。あの子達を選んだ理由は『心』が強いからよ」

「・・・こころ?」

「そう、心は『思い』・・・『思い』は想像以上の力を与えるわ。私はあの子達の『思い』を買って選抜したの」

 

マリエールもあの子達が強い意思の元に行動しているのは分かっていた。けど・・・前の二つのように明確な理由がない為、どうも不安に思ってしまうところがあった・・・

 

「大丈夫よ、いざとなったら私がいくわ。」

 

マリエールの心を読んだと言わんばかりに彼女は、たった一言でマリエールの不安をふき取ったのだ

彼女が動く・・・一人動いたところでどうにかなるとは思えなかったけど、彼女の言葉は何故か心にスッと入り安心させてくれる。

 

「長話が過ぎたわね、そろそろ討ち零しが来るはずだわ。・・・他に聞きたい事はあるかしら?

 

空になったグラスに新しく林檎酒を注ぎながらマリエールに問う彼女・・・・

マリエールは気になっていた事はあった・・・作戦の事でも昼に使用した魔法の事でもない。でも・・・マリエールは聞かなかった。目の前で美味しそうにお酒を飲んでいる彼女は自分の友人である彼女(クー)であり、自分を好いている彼女(くずのは)でもあると感じたのだ

 

「なんもあらへん!うちらもがんばらないとあかんね!あと作戦中の飲酒はあかんよ!」

「・・・前払いの味見よ。マリエール、貴女は他の隊を周りHPの回復に努めなさい」

「うん!」

 

力強く頷くマリエール・・・・その顔には戦場では見る事が出来ないはずの満面の笑みが浮かんでいた

 

―――〈アキバのひまわり〉は月夜でも光輝くのであった・・・

 

 

 

 

NEXT  FATE/FOX 「君は本当の狐を知っているか!?」

     20xx年x月上旬公開

 

 

・・・・・・・・・・・・・しないでありんす♪

 




FATE/FOX 「君は本当の狐を知っているか!?」


「・・・おまえは?」

月夜が蔵を照らす中、現れたのは一匹の狐・・・

「問うざんす!ぬしがわっちのご主人様でありんすか?」

そうマスター同士が殺し会う聖杯戦争がはじまったのであった・・・

「クラス〈キャスター〉・・・魔術師なのか?」
「NO!妖術師でありんす!」

ささいな誤解が大きな誤解を生み・・・

「キャスター!林檎ばかり食べるな!」
「ご主人は鬼でありんすか!」

敵対する事になっても・・・

「どうやら蜜柑派のご主人とは会い反れないでありんす」
「・・・俺も、お前が正しい食生活をしているとは思えない!」

願いは一緒であった・・・

「俺は・・・聖杯を破壊する!」
「わっちは・・・聖杯を破壊しんす!」

 20xx年x月上旬公開予定!君は狐の目的を知っているか!

「・・・キャスター?なにをしているのだ?」
「幼女とprprしてありんす♪」
「シロウーー!助けてーーー!」
「イリヤぁぁぁぁぁ!」

TO BE CAME  



・・・・しないでありんす♪


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『1』っぱい『8』っちゃけんした!

狐がマジになります

たまには働く狐をどうぞ・・・


〈ホネスティ〉

 

〈アキバ〉の町に拠点を置く五大戦闘系ギルド、円卓会議11席の一席。ゲーム時代から、大規模戦闘における情報蓄積と情報公開を積極的に推し進めている。戦闘系ギルドでは人数750を誇るアキバの町で二位に付くほどデカイギルドだ・・・その割には影が薄い

ギルドマスターは〈先生〉と異名を持つ〈アインス〉。サブ職業が〈学者〉だかなんだか知らないけど、何処に〈先生〉の要素があるのか小一時間問い詰めたいほど謎な人物である

私の解釈ではあるが、〈ホネスティ〉といい〈アインス〉といい……影が薄い集団である

 

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

 

「ん~、影の薄さはアキバで1番でありんすな。おおっと!?」

 

彼女は、明るい日差しに照らされて、白く飛んだような色合いを見せる景色や畑に視線を向けた

 

「おかえりなさーい!」

「おお、おっかえりー!」

「今回の作戦の功労者のご帰還でありんすな♪」

 

光り輝く畑に挟まれた農道を8人の〈冒険者〉が悠然と歩いてくるのであった・・・

 

 

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

え……誰?いや、テンションがハイッ!な賢狐だけど……

 

 

 

 

 

ザントリーフ大河にほど近い、漁具倉庫を一時的な本陣として借り受けていたマリエール達は、街の周囲に出していたパトロール部隊からの念話を中継し、防御計画を練っていた。

 

もうすでに半日以上、ゴブリン達の目撃情報はない。昨晩の奇襲作戦が功を成したのかゴブリン達は少なくとも山中の森の中へ完全に撤退したらしかったが……まだ油断はできない

 

誰もが緊張した面持ちで辺りを警戒しているが……駄狐は違かった

 

「りんご~りんご~……林檎が恋しいでありんす~………」

 

日に照らされて暖かくなった藁の山の天辺に陣取り、余計な日差しが当たらないようにマリエールが持ってきたビーチパラソルを横に差しながら、今は手に入らない林檎の事を思い焦がれていた……

 

本来なら臨時とは言え、この集団の参謀役についている彼女はマリエール達と共に防御計画を練らなくてはいけないのだが、昨日の作戦で役目は終わったとばかりに寛ぎはじめたのだ

 

夏季合宿に参加した新人は勿論、引率の中堅プレイヤーは「コイツ状況判っているのか?」「大丈夫か!アイツ!」と言った非常識な人を見る目を向けて、あまつさえ彼女の事を良く知る人は「あかん、ここまでニートが進行した」「駄目だアイツ……どうにもできねぇ」と哀んだ目を向ける始末

今、この場にいる〈冒険者〉は共通して「空気嫁駄狐」と考えただろう……

 

せめて夢の中で林檎とランデブーしようと、ホカホカと暖かくなった尻尾を枕に昼寝に入ろうとした彼女であったが……下から見上げてくる視線に気づき顔をあげた

 

「……なにをしていんすんでありんすか ?住人は避難するように伝えたはずでありんすぇ」

「お姉ちゃんは魔……〈冒険者〉?」

「今魔物って言おうとしたな!尻尾かッ!尻尾がいけありんせんのか!」

 

目線を下げた先には人形を腕に抱いた少女がオズオズと彼女を見上げ、話しかけてきたのだ

しかし、彼女の剣幕に押され一歩後ずさってしまった……子供に本気で怒るなよ、駄狐

だが、少女は口に溜まった唾を飲み込むとまた彼女を見上げて話しかけてきたのだ

 

「お母さんから聞いたの!街を守ってくれてるって!だからお礼がしたくて!」

「お礼?まだ早くありせんしか?」

「コレ!うちで取れたの!食べて!」

 

少女は下げていた鞄から瑞々しい球体の果実を取り出した

「林檎っ!」と声をあげ、藁の山を降りる彼女。しかし、少女の持つ果実がなんなのかわかると尻尾をクタンっと垂れ下げたのであった……

 

「梨、でありんすか……」

「うん!今年の出来は良いってお父さんが言ってたの!」

 

確かに日に照らされて艶々に光る緑の果実は食す前から「私甘いよ!」と訴えかけているように思えた、それも手渡す人が満面の笑みを浮かべた少女と来たものだ!……一部の人にはご褒美に違いない!

 

……そして、この〈ご褒美〉は彼女にも適応された

顔の頬はしだいに上がっていき、垂れ下がっていた尻尾も徐々に上がっていった、しまいには左右に揺れ出すほどに魅力的な笑顔であったのだ

 

「ありがとうございんす♪……ここはまだ危険でありんすぇ。 早くおっ母とおっ父の所にもどりなんし?」

「うん!頑張ってね!お姉ちゃん!」

 

彼女に手を振りながら走って去っていく少女の後姿を見つめながら、彼女は梨に齧りついた

 

「……たまには梨もおつでありんすね~、しかし、こな報酬もらいんしたら、わっち達も頑張りんせん といけなわぇ」

 

彼女は手に持ち梨を器用に弄びながら、町の外れへと動き出したのであった……

 

 

 

 

……街中の警備に出掛けた三人組の新人達から海岸線方向の白い波が立っているとマリエールに報告が上がって来た

 

駆けつけ、白い波を確認するだけで数は200を越していた

防衛は困難を極める……そう思うマリエールとはうらはらに、直継や新人達は各自、弓やナイフをもちいて先制攻撃の準備を整えていた……みなが一団となって町を防衛しようと考え動き出しているのだ

 

「マリエさん、いっちょ景気づけに号令頼むわ」

 

 直継は、大きく笑って云った。

 マリエールの気持ちは、その笑顔だけで青空に羽ばたくように軽くなる  

 

「わかったで。えっと。……あ、あんな、みんなな!今まで力を貸してくれておおきに。みんなの力で、チョウシの町は1人の犠牲者も出さず、多くの田畑を荒らされもせずに、ゴブリンからの攻撃はしのいだ。これは本当に嬉しいことや。でも、もうちょい。こっちの敵も倒さんと終わらん……。この町を守りきる事にならん。もう一戦、力を貸してや……。うち、みんななら出来るって信じとる。――ん、いこうっ!! 出陣やっ!!」

 

そうして、マリエールの号令をさかいに激戦を強いられるであろう海岸線での防衛線が幕をあげたのであった

 

そして、防衛線はなにも海岸線だけで行われている訳ではなかった……

 

海岸とは反対側、ザントリーフ大河から離れた農産地帯でも戦闘が行われそうになっていたのだ

 

数十を超すゴブリン、数十を超す魔狂狼(ダイアウルフ)が小隊を組み進軍中、それはまさに陸路を進む黒い波となってチョウシの街に襲いかかろうとしていたのだ……しかし、黒い波は一つの防波堤によって止められてしまう

 

金色に光る尻尾が九本、やけに露出度が高い着物、手には金と銀で構成された扇子……彼女が敵前を目の前にして只一人、優雅に歩きながら現れたのだか……

 

ゴブリン達は合計で100を超える。しかし、只一人に足並みを止めてしまったのは、彼女が醸し出す雰囲気がそうしなければならないとゴブリン達の本能に語りかけているからであった

 

「……まこと大勢いんすね、わっちは逃げたくなりんした よ?」

(海と山とで同時進行……〈冒険者〉は無能なゴブリンが思い付くとは思えない。だから、その裏をかく……いえ、ゴブリンは騒がしくなったから進軍してきたのかしら?)

 

彼女は彼女との会話を心から楽しむ様に尻尾を左右に揺らしらがら更に言葉を交わす……

 

「おひさに私と言葉を交わすのに……時間も余裕もないでありんすからね~」

(私は疲れたの……だから貴女がいる。でも時間も余裕も無いのは同意ね?)

 

彼女は手に持つ扇子を開き、敵前へと向けた

 

(大災害後、人々はこの世界に閉じ込められ絶望した……)

「しかし絶望から希望が生まれる……人の強い意思によって……」

(意思とは可能性の道標……可能性は大いなる力!)

 

息を大きく吸い、そして敵に向かい叫んだ

 

『刮目せよッ!可能性の力をッ!』

「「「「GGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」」」」」

 

彼女達の叫びをさかいに黒い波は彼女を蹂躙すべく一斉に襲い掛かってきた

鳴り響く大地とモンスターの雄叫びに彼女の姿は一瞬で掻き消された……が

 

情報書換(オーバーリライト)・〈フレアアロー〉ッ!』

 

凛とした言葉が呟かれた瞬間、黒い波は紅に飲まれ……爆ぜた

突然起きた紅の爆発にゴブリン達は足を止めてしまった……戸惑うゴブリン達に更なる死へと誘う言葉が響き通る

 

情報書換(オーバーリライト)・〈サンダーボルトクラッシュ〉ッ!』

 

紫の閃光がゴブリン達を瞬時に通り過ぎ・・・ゴブリン達を無へと帰した

発動した技は妖術師にとっては馴染み深い二つ・・・しかし、特性が全く異なったモノに変化し半数以上の敵を喰らい消し去ったのだ

敵戦力は半減、足取りも止まり絶好の追撃のチャンスになったが、無数に散らばる金とアイテムを背に彼女は苦渋と困惑の表情で頭を片手で押さえ込み・・・膝から崩れ落ちた

 

『予想外ね……たった2回使ってこのざま……世界に手を加える事の代償、か』

 

HPは削られてはいない、MPの減りも戦闘には影響はない。だが、表情は必死に何かに耐えているようであった……この場において悪はゴブリン、正義は彼女にあるが現実は残酷であり、彼女が倒れたのは敵にとっても好機、ゴブリン達は彼女を避けるように進軍を開始した

 

『ッ!……後2回、使用したら落ちるわね?敵も私も……でも……』

 

彼女は苦痛の表情のまま考えた

海岸線での防衛班の消耗具合、援軍到達時間のロス、敵残勢力、敵増援の可能性……10秒で消耗1%、時間ロス5%、敵勢力36%オーバー、増援確率防衛状況にて変化、現在46%……

 

脳内で描く計算式が埋まっていくにつれて彼女の表情は厳しくなっていく……

 

『余力はなさそうね……あの子からの報酬もあるし、この二ヶ月間楽しかったからいいわね?』

 

彼女は覚悟を決め二つに割れる黒い波に狙いを定めた

 

『死、……この世界において〈冒険者〉には無縁の産物だと思われているけど、シロエは気づくかしらね?リアルでは起きえない死が……この世界での死と言うモノが……まぁ、私が第一人者になるのですもの、少なかれシロエの知識としてやくだてるでしょうね?』

 

クスリと笑い、彼女は詠唱を開始し始めた

 

「我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理の雷ッ!・〈ライト ――パアァァァン! ッ!」

 

彼女の詠唱が終わる瞬間、先行していた黒い波が鋭い破裂音と共に吹き飛ばされていたのだ

後からの破裂音に驚き、詠唱を中止して後を振り返ると吹き飛ばされた黒い波と多数のキノコがそこには存在していた

 

思考が止ったのは一瞬、彼女は直ぐに状況を把握すると、先程とは違う笑みを浮かべた

 

『やってくれるじゃない……これが合宿で得た力なのね、ミノリ?そうと決まれば・・・我れ雷を呼ぶ天より来たり雷は審理の雷ッ!〈ライトニングネビュラ〉ッ!』

 

彼女は先程の破裂音〈泣きキノコの絶叫〉の被害を受けていないゴブリン達に狙いをさだめて広範囲攻撃魔法を打ち放った

 

『成長……素晴らしい事だわ!……影にシロエが見えるのが気に食わないけど、ミノリの思いが確かに伝わったわ!だから!』

 

彼女が撃ち放った青紫色の輝きが収まった先には、瀕死状態のゴブリンや麻痺状態のがまだ戦意が衰えないまま彼女を睨みつけている

 

『私達は貴方達を通さない。少しでもあの子達の負担が減るように導いてあげないといけないわね!』

 

抑えようの無い激痛はいつのまにか消えていた……いや、消えてはいない

彼女の頬から流れ落ちる汗がやせ我慢をしていることを語っているのだが、若者の成長を垣間見た喜びからアドレナリンが分泌されているのだろう

 

彼女は足取り確かに目前の敵に扇子を構えた

 

『ここは私の舞台!さぁ!一緒に踊ってあげましょう!』

 

黒い波に一匹の狐が逆らったのであった………

 

 

NEXT ザオリク!ザオラル!ええっと……メガンテ?

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口伝  情報書換 〈オーバーリライト〉

 

実は一話において、設計図を書き荒らしていた時に習得

実用は林檎の丸焼きから……

自分の名前、所属ギルド、種族、メイン職業、サブ職業、敵情報、アイテムなどのデータエリアを存在自体から書き換えることが出来る

レベルに関わらず使用できる特技・魔法を変化させる事が出来るが、リアルタイムで動く情報を書き換えるには脳のキャパティシティを越えてしまうので多様はできない

彼女の場合、『クー』と『くずのは』が2人で処理を行う事でリアルタイムの書換に成功している

西の狐は情報を偽装し書き換えているが、東の狐は存在自体から自身の精神力とキャパで書き換えている

 

 

 

情報書換・フレアアロー

特性である『矢』と『炎』を『円』と『爆発』に書き換えた結果、従来の炎の矢を撃ち込む単体攻撃魔法が広域に紅のドーム・球体を作成、ドーム内とドームに触れる対象に対して大威力の爆発が発生する

対象がバッドステータスを受けていると、塵粉となり1分後に中威力爆発が発生し追加ダメージを与えるようになる。

 

情報書換・サンダーボルトクラッシュ

武器で直接攻撃する魔法と武器の合わせ技ではあるが、『雷』を『雷光』レンジを『S』から『L』に書き換えた結果、武器を振るった範囲内の対象に雷光のエフェクトが走り、ダメージを与える事ができる。

威力はそこそこ止りだが、LV差によって即死効果が付属される

 

 

おまけ

林檎の丸焼き

〈デザイナー〉を〈料理人〉に書き換えた

 

 

 

 




「わりぃ、ミノリ。飲み物あるか?」
「はい、トウヤ」
「サンキュな」
「・・・・うん」
 
トウヤに今日、3本目になる水筒を渡すミノリの顔はなにか負に落ちないと言う感じであった

「ん?どうしたんだよそんな顔して?」
「・・・おかしくない?今まで戦った敵がみんな、なんていうか」
「どこか……弱っていますね?」
「うん」
「へぇ?弱ってるならいいじゃん!」
「ミス・五十鈴の言う通りだ!気にする事ではないよ」
「そうだな!ルティ兄」

頭より体が先に動く彼らは特に気にした様子をなく軽く流してしまったが、ミノリとセララは違った

「……ここに来る前に戦闘をしているって事ですね?」
「はい……でも、広場を防衛している私達の前っていう事は街の外で戦っているんです」
「……一体誰なんでしょう?」

正体が知れない援軍に頭を傾げる2人にトウヤの声が響いた

「おい!あれなんだ!」

トウヤが指差す先には青紫色の輝きを放つまばゆい電光が巻き起こっていた

「あれは妖術師の特技〈ライトニングネビュラ〉ではないかな?」
「へぇ~ルティも撃てるの?」
「……機会があればお見せしよう」
「なんだよルティ兄、覚えてないのかよ」
「あれは高LV技なんだよ」
「うわぁ~!また見えた!すごいね~!」

そんな3人とは裏腹にミノリとセララは思案な顔つきで話し合っていた

「今回の合宿で引率した〈冒険者〉の中に〈ライトニングネビュラ〉を連続で発動できる人って知ってますか?」
「……私、小竜さんから聞きました。『クー』さんが恐ろしい速度で連射してたって」
「……確かにクーさんなら、出来そうな気がしますね」
「合流しますか?」

セララの問に少し考えた後、ミノリは否っと答えた

「私達が行っても足手まといになるだけです、私達は変わらずこの周辺の防衛をしましょう」
「・・・クーさん大丈夫ですかね?」

セララの心配はミノリも抱いていたが・・・

(頑張ってください!クーさん!)

仲間を信頼する事にし、心の中でエールを送ったのであった





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『19』でありんす!わっち流奥義!

あけましておめでとうございます

今年も文章力がほしいです。あとオリジナルティ・・・
後半、原作どうりだし・・・


初めての試みとして三点リーダーを多様しています
※好感度更新


休刊のお知らせ

現在、〈くずのは〉の気力がzeroな為「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!」を休ませて頂いております

〈くずのは〉の気力が回復次第、執筆してゆきますので今後ともよろしくお願いします

 

by くずのは

 

「さすがに今回は頭が回らないわね。でも…………」

 

〈くずのは〉は辺りを見渡した。そこには〈くずのは〉が倒した敵がドロップしたであろう多くのお金やアイテムが無造作に散らばっている。しかし、街の中央広場からは、破壊音や獣の遠吠えが聞こえまだ戦闘が行われている事が容易に想像できた……

 

「……ふぅ、まだ弱音を言っている場合じゃないわね?」

 

一息ついた後、〈くずのは〉は目の前に広がるアイテムの山を見る気もせずに街へと歩き出した……

足取りは重く、〈くずのは〉のコンディションが最悪な事が目に見てわかったが〈くずのは〉は歩みを止めない!まだ敵と戦っている仲間を助ける為に〈くずのは〉は歩き続けたのであった…………

 

「…………少しぐらい拾っておけばよかった」

 

……〈くずのは〉の足取りが重かった理由がアイテムに足を引かれていた訳ではないと信じたい

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

未知への一歩・・・・リンディ茶でありんすな!

 

 

 

〈くずのは〉が街に辿り着いたのは、紫色に近づきつつある夕暮れ時であった……

広場に沿うように並び立つ建物は所々、崩れ落ち戦闘の激しさを物語っていた。そして焼け焦げた臭いが広場を満たしている

 

脳裏によぎる嫌なイメージを払拭させる為にも〈くずのは〉は、広場の防衛をしている新人パーティー……ミノリとトウヤ、セララを探し回った。しかし、〈くずのは〉の思いは杞憂で終わった。

中央広場から少し外れた大十字路に見覚えのある姿の3人が忙しなく動き声を上げていたのだから……安堵の息を付き彼女たちを称える為に微笑みながら近づくが、その笑顔は段々と氷の様に固まっていった

 

………泣いているのだ

セララが…トウヤが…見知らぬ少女が…そしてミノリが泣き悲しんでいた

 

 

間に合わなかった、と思うと同時に〈くずのは〉に恐怖と言う感情が襲い掛かった……あの子達がもう笑わなくなってしまうのか?……不安と焦りが入り混じり恐怖と言う名の感情を形作っていってしまう

 

あの子達に近づき声を掛けてあげたい!……でも思いとは裏腹に足は棒の様に動かず、喉からは擦れた声しか出なかった。このまま途方に暮れるしかないのか、と思い浮かべた瞬間―――

 

「まだです……助けて下さい。シロエさんの力が必要ですっ」

 

―――ミノリの思いを乗せた声が聞こえた

胸の中にしっかりと閉じ込めた喪失感を押し殺し僅かな希望に縋る声

表情は先と変わらず凍ったままであるが、体は劇鉄を起こした様に動き出した

 

〈くずのは〉達の思いは一つ……あの目を失わせる訳にはいかない!

 

「………情報書換(オーバーリライト)・対象〈念話〉。開放」

 

襲い掛かる恐怖を跳ね除け、ミノリとシロエの会話に割り込みを掛けた

 

『場所とそこにいるメンバーを列挙』

「わたし、トウヤ。五十鈴さん。セララさん。そして蘇生しないルン『私もいるわ』 ッ!?……そ、蘇生しないルンデルハウスさん。場所はチョウシの町の中央付近、大十字路」

 

〈くずのは〉の割り込みにシロエとミノリは声には出さないが驚き驚愕した。個人同士の念話に第三者が入り込んだのだから………しかし、今この場において彼女の登場はマイナスではなくプラスになる。そう判断しミノリは驚愕を隠しながらもシロエに報告を続けた

 

『……安全確保は』

 

ミノリの意を読み取りシロエも問い詰める事無く周囲の状況を把握すべく質問を続けた

 

「海岸線の防衛網に穴は無いわ、陸の敵も私が全て滅したから心配はない。奇襲の可能性はあるけど私がいる限り、この子達には指一本も触れさせないわ!」

 

〈くずのは〉の目はミノリと同じく使命感、彼女達を絶対に悲しませはしないと言う使命感を秘めていた

 

「シロエ兄ぃ、ルディのやつを助けてくれよっ」

 

いきなり〈大地人〉(ルティ)を囲む周りから強い声が聞こえた。

 

「ルディ兄はねっ。バカだけど、間抜けだけど、強くて格好良いんだよ。ルディ兄は俺達を助けようとしたんだよっ」

「ルディを連れてきたのはわたしなの。ううん、わたしじゃないんだけど、ルディが来たがったのを止めなかったのっ。シロ……エさんっ。何か出来るならっ」

「……シロエ、指示を」

 

混乱したような声は先ほどの少女とトウヤだった

一週間と言う短い期間にこれほどまで思ってくれる仲間を得る事ができた〈大地人〉(ルティ)に少し嫉妬してしまうが、今は一刻も争う事態なのだ、〈くずのは〉はシロエに指示を煽った

 

『セララに指示。蘇生呪文を詠唱』

「はいっ」

 

間髪いれずにミノリは返答した。

なぜ、とも、それは効果がなかった、とも反駁はしない。ミノリは完全にシロエを信頼している。“シロエさんならば何とかしてくれる”と信じて念話通信をしたのだ

 

それはもちろん都合の良い思い込みだろう。

シロエさんにだって出来ないことはある。でもそれは些細なこと。出来ないことは、出来ない

不安や喪失感は今も湧いてくる。でもシロエさんが私達の為に動いてくれている、だから私は……

 

シロエさんを信じる私を信じますっ!

 

始めて〈くずのは〉さんと出会った時の事を思い出し、クスリと小さく笑みが零れた

 

『脈拍が強くなった気がします……。けど、意識は戻りません』

「150秒待機。トウヤは周辺警戒。五十鈴さんはMP回復歌を。150秒後に今度はミノリが蘇生呪文」

『はいっ』

 

ミノリの返答に阿吽の呼吸でシロエの新しい指示が飛ぶ……皆が疑う事無くシロエに従っている中〈くずのは〉だけはシロエの指示に疑問を持ったのは経験の差であろう

 

「……シロエ、貴方は何をしようとしているの?」

『…………』

 

返答はなかった。しかし、痺れを切らした〈くずのは〉の舌打ちによって沈黙は破られた

 

『………僕はある人から〈魂魄理論〉と言うモノを聞きました』

「…………」

『その人曰く人は魄と言われる肉体の根源的なエネルギー「気」、と魂と呼ばれる「精神エネルギー」から成り立っていると推測しています』

「面白い理論ね?でも今は時間が 『HPとMPと関りがありますっ!』……ッ!そう言う事ね.」

 

シロエの狙いがわかってからは〈くずのは〉の行動は速かった………

 

「150秒経過。蘇生呪文を投射します」

「150秒後にもう一度セララの蘇生呪文。そのまま交互に詠唱!シロエ、貴方は5分以内にコッチに来なさい!」

『わかりましたっ。……くずのは「アレ」は持っていますか?』

「愚問ね……でも「アレ」だけでは決定力に欠けるわ……何か策はあるのかしら?」

『……あります』

「そう、なら早く来なさい」

 

念話通信を一方的に切り横たわる〈大地人〉に目を向ける。セララの蘇生呪文により一時的に脈拍が強くなったが、依然として顔に生気は無いままで今にも命の灯火が消えてしまいそうであった

 

「……もし死んであの子達から笑顔を奪っていくのなら、私が〈大地人〉を皆殺しにしてあげるわ」

 

〈くずのは〉にとって〈大地人〉は、自身の身内に入らず取るに足りない存在ではあるが身内が絡むなら手を差し伸べる。だが、身内が悲しみ結果となった場合は、覚悟はいいな?と考えているが為に出た言葉であったが―――

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

―――彼女の身内はドン引きであった

セララは特に同じ様な台詞を〈ススキノ〉で聞いていた為、ドン引きする3人よりも顔を青くさせたのであった

 

〈くずのは〉の暴言のせいで只淡々と作業が続けられる。彼女達はルティを助けたいと心から思っている!しかし、それと同じくらいに〈大地人絶滅〉の危機を強く、魂で感じて作業を行うのであった

 

二回目の蘇生呪文をかけ終えた時と同じタイミングで空からグリフォンが飛んでくる

チョウシの町の長い中央通りはグリフォンのとって絶好の滑走路だったようで、翼を微動だにさせず揚力を利用して滑り込むグリフォンの背でシロエとアカツキは、疾走する馬よりもなお速い対地速度を気にも掛けずにグリフォンから飛び降りた

同じように地面に着地したが、膝を折ってショックを軽減したシロエに比べて、やはり前衛職のアカツキは、ほとんど重力を感じさせないような動きで前方に疾走、燕のような動きで石造りの建物の屋根にまで飛び上がって消えた

 

そして手をふるトウヤに向かって駆け寄るシロエを確認した〈くずのは〉はミノリに指示を飛ばす

 

「ミノリ、トウヤをパーティーから外し私とシロエをパーティーに誘いなさい」

「はい」

 

ミノリは無駄な事を尋ねずに頷く。〈くずのは〉は兎も角、シロエを信頼しているが為に行動は速かった。逆にパーティーから外されたトウヤは苦渋の色を浮かべる

トウヤが浮かべる表情の理由が手に取るようにわかった〈くずのは〉は〈大地人〉に言った言葉と正反対な優しい声でトウヤに語りかけた

 

「シロエがやろうとしている事は現状のステータスが高いほうがいいの……トウヤ、貴方は無力ではないわ。貴方の思いは必ず〈大地人〉(ルティ)に届いているわよ。」

「……だけど、俺も」

「貴方は今、貴方に出来ることをしなさい?ヒーラー2人補助が1人。シロエは勿論、私もシロエの補助をするわ。……今、奇襲にあったら誰が私達を守ってくれるのかしら?」

 

ハッと顔をあげ「任せてくれ!」と明るい表情でトウヤは返し辺りを警戒し始め、シロエは〈大地人〉の状態を確認し終えた

 

「五十鈴さんだっけ? そのまま〈瞑想のノクターン〉を詠唱続行。いまから新しい魔法を使う。結果の責任は僕が持つけれど、このことは他言無用だ」

 

シロエはあえてきつい口調で新人プレイヤーに話しかけた。

 

「納得できないなら諦めるか、ここから去って」

 

シロエの言葉に、そこに集まった面々は誰一人ひるむことなく首を振る。〈くずのは〉だけは『新しい魔法』と言う所に反応はしたが、今問い質す事ではないと傍観を貫いたが……

 

「じゃぁ、始めるよ」

 

シロエはアイコンから魔術特技を選択する。使用するのは〈マナ・チャネリング〉は〈付与術師〉特有の、いわゆる「何に使うのかよく判らない」呪文である。

その効果は「パーティー全員のMPを全て合計し、平均する」というもの。

詠唱が響くに従って、パーティ全員からMPが吸収されて、シロエに集ってくる。シロエはこの中では飛び抜けて高レベルだ。

そのシロエが詠唱した〈マナ・チャネリング〉は、30レベルにも達していない〈冒険者〉にとってはとてつもない重圧だろう。

ミノリもセララも、顔色がどんどん青ざめてゆく。MPがどんどんと吸収されていく、立ちくらみにも似た喪失感に耐えているのだ。五十鈴だけが唯一、蒼白な顔をしながらも、ルンデルハウスの手をしっかり握ったまま、哀切な古謡を口ずさみ続ける。

 

シロエは半眼に付せたまま魔術の効果を体感する。「パーティーの仲間」から回収したMPのほとんど全てが、シロエに現在握られている。幽かな気配でしかないが、シロエはシロエの中に他人の精神の残り香を感じているのだ。ミノリの生真面目な魔力の気配、セララの優しい魔力の気配。それらが、いまやシロエの管理する魔術野に展開されている。

その中にはセララのもの、五十鈴のもの、そして他ならぬルンデルハウス自身のMPも含まれているはずだ。

微妙に味わいの違うMPは、根源的な「精神のエネルギー」として混交され、シロエの導きに従って、魔術的回路を形成し、「仲間」へと接続される。

 

シロエはそれらのMPを等分して「再配布」する。

シロエは急激な流出により貧血のような感覚に満たされる。

「ミノリは蘇生、セララは連続ヒールっ。くずのは「アレ」をっ」

 ここまでは前座だと思わせるかの様にシロエは指示を続ける。時間は短い。おそらくチャンスはただの一度、ただの一言だろう。

 

〈くずのは〉は懐から「アレ」を取り出しシロエに投げ渡した

 

「ここから先は時間との勝負だ。質問や時間を浪費させるのは厳禁だよ」

 

シロエは自分の言葉の響きがまだ空中にある内に〈くずのは〉から渡された〈黄泉返りの冥香〉を使用する。死んだ仲間を、一時的にゾンビにして蘇らせるマイナーなアイテムだ。

 

「〈黄泉返りの冥香〉は、活性した〈大地人〉の魂を、肉体に強引に接続する策。3分後の確実な死亡と引き替えに、3分間だけ……〈大地人〉(ルティ)をこの世界に引き戻すわ」

 

困惑の視線をシロエに送る五十鈴に対し〈くずのは〉が代わりに説明する

それで判ったのだろう。大粒の涙をこぼす五十鈴の手が、ルンデルハウスの手をぎゅっと握りしめる。

 

「あ……」

 

うっすらと。まるで夢を見るように瞳を開くルンデルハウス。

五十鈴はその手を握ると、涙をぽろぽろとこぼす。ルンデルハウスに意識があるのかどうなのかは、判らない。目を開けたのも、ただの肉体的な条件反射であるかもしれないのだ。

 

「ルディ……?」

「ミス・五十鈴……。ああ、みんな。そうか……。僕は、どうやら……死んじゃったらしいね」

 

ルンデルハウスは僅かな時間の中で、いままでの事情を把握していたのだろう。小さく笑うと、まだ力の戻っていない声で、周囲に言葉をかける。

 

「みんな、いやだなぁ。……そんな顔をするなよ。戦いの結果、命を落とすなんて当然だろう?」

「――とう、ぜん」

 

トウヤの言葉に、クーの耳がピクリと動いた

 

「それでも僕は冒険者になりたかったんだ。ミス・五十鈴を責めるのはやめておくれよ? 頼み込んだのは僕なんだからさ」

「いえ、わたしだって気が付いていましたっ。気が付いていて、放置していたんですっ」

 

ミノリが叫ぶように声を漏らす。その言葉で、一人を除く全員が悟った。いままで冷静に行動してきたミノリも、内面では随分と動揺していた事に、だ。

 

「はははっ。うん、ミス・ミノリ。ありがとう。……気にする事はない」

「いいや、気にす「うにゃぁぁぁぁぁぁぁ!」……」

 

シロエは言葉を遮り、一匹の狐が吼えた

 

「わっちは遺言を聞きたいわけではありんせん!ルンパッパ。この程度おねんするやつが冒険者を名乗って貰っては困りんす。それでは さらさら 足りない 。……こな 場末の路地裏で果てるために何を学んだんでありんすぇ。〈冒険者〉とは自由な反面、生き抜く覚悟と、そのためにはどんな 事でも工夫するといわす黄金の精神が必要でありんす!つまりJo☆Jo☆!」

「クー姉!?」

「さらさらまったく覚悟が足りないでありんす!ルンパッパっ」

「どうすればいいって云うんだっ! 貴女はっ!!」

 

 ルンデルハウスの瞳の中には悔しさとやりきれなさが一杯に給っていて、潤み、流れ始める。

 

「と言う訳で後は任せんした、シロエェェ?」

「キラーパス!?」

 

いきなり〈くずのは〉から〈クー〉に変わったのも驚いたが、まさかの問題の丸投げに更に驚いてしまった

 

「えぇっと、時間もないし聞いてほしい」

 

 グリフォンの背で書き上げた、字の乱れる書類をとりだして、シロエはルンデルハウスに差し出した。

 

「それは……」

「契約書、ですか?」

 

シロエがバックから取り出したのは確かに契約書だった。シロエが用いる最高の素材から作り出した「妖精王の紙」に「刻竜瞳のインク」で書いた、この世界にたったひとつしかない手製のアイテムだ。

 

「契約書。

 〈記録の地平線〉代表シロエは、ルンデルハウス=コードと以下の契約を締結する。

 ひとつ。シロエはルンデルハウス=コードを、この書面にサインが行なわれた日付時刻を以て、ギルド〈記録の地平線〉へと迎え入れる。

 ひとつ。ルンデルハウス=コードはギルド〈記録の地平線〉のメンバーとして、その地位と任務に相応しい態度を以て務める。

 ひとつ、〈記録の地平線〉はルンデルハウスの任務遂行に必要なバックアップを、両者協議のもとできうる限り与える。これには〈冒険者〉の身分が含まれる。

 ひとつ、この契約は両者の合意と互いの尊敬によって結ばれるものであり、契約中、互いが得た物は、契約が例え失効したとしても保持される。

 以上、本契約成立の証として、本書を二通作成し、両者は記名のうえ、それぞれ一通を保管する」

 

 息をのむ音が聞こえる。

 

「〈冒険者〉――?」

「それは、シロエさん。それはっ」

 

――答えは簡単であった

 

 ルンデルハウスは〈大地人〉だ。

 そして3分後には確実に、死ぬ。

 〈大地人〉は復活できない。

 ゆえにルンデルハウスは消滅する。

 

――ならば。

 そう、答えは明白。「3分間の間に、ルンデルハウスを〈冒険者〉にする」。

シロエが考え付いた最大の救済方法であり、〈エルダー・テイル〉において規格外の……新しい魔法の使用であった

 

シロエはルンデルハウスの鼻先に、契約書を差し出す。

 

「僕のサインは入れてある。後はキミだけだ」

「――け……ん……しゃ」

「君が望むなら」

 掠れたような呟きを漏らす、泥にまみれた〈妖術師〉の青年にシロエは声を掛ける。

 

「これはリスクのある契約だ。キミはこの契約によって何らかの変質を受け、いままでとはまったく違った存在になってしまうかも知れない、。〈冒険者〉はこの世界ではまだ新顔で、今後どのような騒動に巻き込まれるかも判らない。おそらく君が思っているほどの栄誉は、〈冒険者〉にはない」

「僕がなりたいのは……冒険者で、〈冒険者〉じゃない。困ってる人を助けられれば、細かい事は気にしないんだ。……僕は、冒険者だっ」

「では」

 

指しだしたペンを震える手で掴んだルンデルハウスは、そのペンを取り落としてしまう。〈黄泉返りの冥香〉の効力は切れかけている。おそらくいまのルンデルハウスは、魂と魄の間の情報疎通がいまだに不確かなのだ。

 

「ルディ……。大丈夫」

 その手を五十鈴が支える。

 

「ルディと一緒に、わたしも書くから」

 

後ろから抱きかかえるようにルンデルハウスを支えた五十鈴が、それを手伝うトウヤが。回復呪文を詠唱し続けるミノリとセララが、ルンデルハウスの署名を見守る。

震える指先は仲間の励ましで温められ、魔法のインクはルンデルハウスの署名となった。燃え上がった署名の輝きは黄金色の燐光となり空に舞った

 

「一度死ぬんだ。ルンデルハウス。……君は大神殿で復活する」

どこかで何か大きなルールが動いた手応えを感じながら、シロエは語りかける。拡散する魄(はく)が粒子状に舞い上がり、アキバの街へと転送されるのを見送るのであった

 

 

 

「シロエ兄ちゃん!俺達、神殿に行ってくるよ!」

「わかった。マリ姐には僕から言っておくから行っておいで」

「サンキューな!兄ちゃんっ」

 

アキバに向かう4人を見送りながらシロエは藁の山の天辺に陣取り、あくびをかいている狐へと林檎を投げ渡した

 

「おおっと……コレは口止め料でありんすか?」

「そんな事無いよ……たんなるお礼」

「そうでありんすか、ならありがたくちょうだいしんす♪」

 

久しぶりに嗅ぐ林檎の香り我慢出来ずにその場で齧りつき始めた狐を横目に収めながら、シロエは静かに語り始めた

 

「……ミノリ達の為だとは言え随分と大きな事をしてしまった感じがします」

「シャクシャク」

「この世界のルールに干渉する魔法。エターナルアイスの古宮廷で出会ったリ=ガンの言う通りなら世界級規模の魔法になりますね」

「……シャクシャク」

「世界を変える程の魔法。……〈冒険者〉が持つには大き過ぎる力だとは思いませんか?」

「シャクシャク…ゴックン!……そうでありんすね~、わっちから言えるのは只一つ」

 

シロエから渡された林檎を綺麗に食べ終えると、シロエの問い掛けに答えるように身体を向けた

 

「大いなる力には大いなる責任が伴う。……シロエェェも使い過ぎには気をつけた方がよいでありんすよ?」

「はは、ありがとうクーさん。……でも確信が持てたよ」

「うにゅ?」

 

先程までの爽やかなイメージが払拭され、シロエの背後には禍々しい黒々としたオーラが醸し出されていく

 

「ずっと謎だったんだ、〈ススキノ遠征〉での林檎の丸焼き。それだけじゃない、本来〈呼出水晶〉には召喚機能はない事も」

「?」

「僕はにゃん太班長の発見から「アレ」に気づいた。そしてにゃん太班長の発見はクーさんのお風呂から導きだしたって言っていました」

「っ!?……ほ、ほらシロエェェ?マリーが待っていんすよ?」

「もし『不可能を可能にする魔法』が開発されていたのなら……そして決定的なのは―――」

「黒い!?シロエなのに黒い!助けてー!マリー!」

「さっき、シロエ『も』使い過ぎには気をつけて……言いましたよね?」

「うわ~ん!シロエェェがいじめる~!」

 

彼女はシロエから逃げ出したのであった・・・・・

 

逃げた後に救いはあるのか!?…決してないであろう

 

 

 

 

NEXT 類は友を呼び寄せる

 




NG クーの魔力

シロエは半眼に付せたまま魔術の効果を体感する。「パーティーの仲間」から回収したMPのほとんど全てが、シロエに現在握られている。幽かな気配でしかないが、シロエはシロエの中に他人の精神の残り香を感じているのだ。ミノリの生真面目な魔力の気配、セララの優しい魔力の気配。それからクーの「りんご~林檎~リンゴ~」……クーさんの「アップルティー~アップルパイ~」黙れッ!駄狐!

後日、クーの魔力を受け取った5人は語る「体臭がリンゴ臭になった気がすると・・・」


NG ジーク・ジオン!

「あちきら は今一人の馬鹿を失ったぇ。 これはあちきら の敗北を意味するのかぇ? 否!これは始まりなの だ! ウェストランデに比べ我がイースタルの国力は30分の1以下である。にも関わらず今日まで戦い抜 いてこられたのは何故か! それはあちきら の戦いに林檎があるからである。わっち の敵、そいで 諸君らが痛い目で見ていたルンデルハウス=コードは死んでありんすぇ。 何故だ!……まぁ、どうでもいい事なんで 置いておこう。我がイースタル国民よ!今こそ収穫の時!そいで 笑いの種を胸にこめて立ち あがるのだ! 食の優良種たる我らこそが人類の正しき未来を救う事が出来るのである。そーれ・アップル !!!」

「………何してるのかな?」
「なんでも夢で見たんだと


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〈危惧〉 :狐が考える
『2』くくて『0』そろしい


100%オリジナルです

最初に言っておきます
作者はルティは嫌いではありません


〈海洋機構〉

アキバ三大生産系ギルドの一つにしてアキバ最大を誇る生産系ギルド。ギルドマスターはミチタカと言う豪放磊落を絵に描いたような筋肉質の巨漢。〈円卓会議〉には生産系ギルドの代表として参加した。

アキバ最大と言う名の通り、その規模はメーカー企業と大差無い規模に達している。要するに〈エルダー・テイル〉でのミ0ノである

.現在では単なるアイテム生産にとどまらず、土木工事や建設に関わる技術の開発なども手掛けており、その活動領域はどんどん広がりを見せており、所属するメンバーも職人が多く、今は設計図が書ける職人を探しているとの事だ

 

現に私は〈大災害〉前後合計で10回以上もの勧誘を受けている。……いい加減諦めて欲しいのもだ

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

「無所属なら兎も角、所属後は止めて欲しいでありんすねぇ~?しかし……」

 

部屋の中央に置かれた大きなソファ、木製の小さなサイドテーブル、壁際を沿う様に置かれた林檎の木、室内だと言うのに爽やかな木々の香りが漂う彼女の部屋で、金色に輝く髪の少年と明るいブラウンの髪を三つ編みにしている少女が並んで頭を下げていた……

 

「僕がこんなにもお願いしているんだ。いい加減『YES』と言ってくれないか、ミス・クー?」

「そんな頼み方ないよ、ルティ?……私からもお願いします!」

 

少女は一度は上げた少年の頭を掴み再び強引に頭を下げさせていた

 

「……一難去ってまた一難、でありんすね~?」

「「おねがいします!」」

 

季節は、夏の日差しが名残惜しい8月下旬、少年少女は駄狐に師事を貰おうとしていたのであった……

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

教えて♪お狐先生!・・・正気か!?byパンツ君

 

 

 

 

シロエにとって新たな発見が出来た〈ゴブリン王の帰還〉から早い事で一ヶ月が経とうとしていた

 

ことの始まりは、新しく〈記憶の地平線〉に加わった〈大地人〉ルティと〈三日月同盟〉からルディを追いかけて移籍してきた〈吟遊詩人〉五十鈴の歓迎パーティーまで遡る……

 

シロエ達は、リアルでも料理人ではないのか?と噂されているにゃん太の料理に舌鼓しつつ、新しく加入した2人を暖かく歓迎した。これから始まる〈冒険者〉と言う人生に胸を躍らせるルディ、自分を救ってくれた〈三日月同盟〉には申し訳ないが自分の決めた道を歩き始めた五十鈴、騒ぎ話し語り合った……その勢いは留まる事をしらず、クーが何処からが盛ってきた果実酒が皆に振舞われてからは尚更、みんなの口は回った……そんな時であった

 

※ 日本では二十歳未満の飲酒は認められていません。二十歳になってから飲みましょう

 

 

「なにいぃぃっ!?トウヤもミス・ミノリも師匠がいるというのかッ!?」

「おうっ!直継師匠はすげー強いんだぜ!」

「私も、その…シロエさんには色々と教えてもらっています」

 

なにが気に触ったのかナワナワと震えだすルディ、そして勢いよく隣に座る五十鈴へと振り返った

 

「ミス・五十鈴!君も師匠と呼び人がいるのか!」

「えっ!?私?……〈三日月同盟〉にいた頃は、同じ〈吟遊詩人〉のヘンリエッタさんに教えて貰っていたけど……今はいないかな~」

 

行き成り話を振られて少し戸惑ったが、犬がじゃれてきた程度にしか思えず軽く返すと目の前に置かれたローストビーフを口に入れた

そんな五十鈴の反応も慣れた様でルティは更に言葉を続ける……

 

「なら僕達も師事を仰ごうではないか!師匠と共に戦場を華麗に舞う!……燃える展開じゃないか!」

「……鍛えてくれるのは嬉しいんだけど、誰にお願いするの?」

「……あ」

 

五十鈴の言葉はまさに正論であった

現在〈記憶の地平線〉には4人の一流プレイヤーとニートがいる……しかし、職業が被っている者は一人もいないのだ

シロエなら職業が違くても師事して貰えるとは思うが……あまりにも接点が無さ過ぎて頼みづらいと言う心境があった

現に今も、歓迎会を行ってはいるが、一時間もしない内に私室に戻ってしまったのだから

 

「アカツキさんに頼む?」

「……いや、只の戦闘なら僕も賛成なのだが」

「ルディ兄は勿論、五十鈴もどっちかと言うと後衛だからな~?難しいと思う」

「うん…私もそう思うわ。そしたらクーさんの方が適任だと思うんだけど……」

 

ミノリは、そっと視線をキッチンに向けた……

 

「ごいんきょ~…わっち、冷たい林檎がたべんしたい~」

「わかりましたにゃ。……残暑とはいえ夜は冷えますにゃ、部屋に着替えに行くといいですにゃ?」

 

風呂上りなのであろうか…ほかほかっと湯気をたてる身体にはバスタオルだけが巻かれており尻尾を一本一本、丁寧に毛繕っているルティと同じ〈妖術師〉のニートがにゃん太に催促をしている

 

ミノリの視線に吊られて3人も彼女に視線を向けたが……

 

「「「はぁ~……」」」

 

……ため息しかでなかった

 

「……ミス・ミノリには申し訳ないが、僕は彼女が物を教えられる人には見えない」

「ルディに同しく……私が移籍してから1週間、あの人が外に出ている所見たときないよ」

「え、ええっと、あの…「よせ、ミノリ。無理すんなって」…とうやぁ」

 

ルディは「駄目な大人の代表だな」と目を伏せ、五十鈴も笑いを零しながら頷く。さすがに言い過ぎだとミノリは思い、必死にフォローの言葉を探すがトウヤに優しく諭されてしまった

 

流石ニート、イースタル代表。早くも新人2人に駄狐と認識されたようだ。……しっかりしろよ

 

にゃん太に背中を押され3階に続く階段へ昇っていく彼女をみると、またため息が零れるのであった……しかし、救世主は現れる

 

「いんや、俺はちみっこよりパンツ神の方が適任だと思うぜ?」

「「直継さん!/師匠!」」

 

新人パーティーを聞いていたのか直継はアカツキを引き連れシロエの部屋から出てきたのだ

アカツキの手には空になった食器があることからシロエの食器を片付けてきたのであろう

 

「アイツがニートなのは否定しない!だけどな?パンツ神はシロ並み知識があるんだぜ?なぁ、ちみっこ?」

「ちみっこ言うな!……確かに駄狐が軽薄なのは認める。やつの戦闘スタイルは相手にバットステータスを付加し、弱体した所を叩く……敵の情報を完璧に理解していなければ出来ないことだ。……まぁ、宝の待ち腐れだが」

 

思わぬ彼女に対する評価に、新人達は驚き目を丸くさせた

あの「忘年会では飲み足らず一人、公園で缶ビール片手に遊具に話しかけながら年を越している」感じの彼女をシロエ並みに賢いと評価したのだから

 

「ルンデルハウスは魔法の制御・発動タイミング、五十鈴は状況判断と近接戦闘を教えてもらえ」

「近接、戦闘ですか?……それならアカツ「いや」 え?」

 

アカツキは五十鈴の言葉を遮り、否定した

 

「私はヒット&ウェイ、もしくは奇襲がメインになる。〈吟遊詩人〉のように周りを確認しながら戦うのは苦手だ。……それに、私もまだ未熟者。人に教授できるほどではない」

 

色々と思う事はあるけど、確かに〈夏合宿〉で陸にから進行するゴブリンの大半を倒したのは彼女である

いまの姿は偽り……本当はすごい人

 

「大丈夫だ!安心して俺を信じな!おぱんつに誓って―ぐはぁ!!!」

 

アカツキは食器を落とす事無く直継の顔面に膝蹴りをたたき込んだ

 

「あるじ~、失礼な人に膝蹴りを入れておいたぞ~」

「ここにいねぇのに報告するのかよ!?」

 

先輩達のやり取りを華麗にスルーしつつ、ルティは五十鈴へと視線をむけた。ちょうど五十鈴も同じ考えに至ったらしくお互いに頷きあい、席を立って彼女の部屋がある4階へと足を進めたのであった……

 

 

そして冒頭にもどる……

 

「嫌でありんす~!」

 

意気込んで来たのはいいが、かれこれ8回目。同じ言葉で断られてしまった……彼らは失念していた

目の前にいる駄狐はニート、イースタル代表。よほどの事がない限り「YES」とは言わない怠け者であることを……

 

「何故だと言うんだい!こうして頭を下げてお願いしているじゃないか!」

「頭を下げてどうにかなるような問題じゃないでありんす~」

「どうしても駄目なんですか?」

「やる気が感じられないでありんす~」

 

彼女は取り付く術も無いとばかりに近くにある林檎の木から果実を捥ぎ取り、食し始めた

ルディも諦めず何回もお願いをしているが、返ってくる返事は「NO」ばかり、これにルティは痺れを切らしてしまった

 

「やる気がないのは君ではないかっ!どうして同じギルドの仲間を助けようとしないんだ!この駄狐!働け!」

「駄狐って……さすがに言い過ぎだよ、ルディ!謝りなさい」

 

思わず飛び出す暴言、アカツキや直継はよく言っているが〈記憶の地平線〉に来て日の浅い五十鈴は〈駄狐〉と言うワードを暴言だと思いルディに注意をする。さながら悪戯した犬を叱るように……

しかし、いつになっても謝罪の言葉が聞こえなかった。疑問に思う。いつもなら直ぐに五十鈴の指示に従うのに今回のルディは一向に謝る気配が無かったのだ

 

不思議に思い、五十鈴はルディの顔を覗き込んだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………青白かった

 

何故?

 

答えは目の前の狐であった

 

先程までの死んだ魚のようなやる気の無い目ではなく、存在する者全てを否定する冷たく…そして鋭い視線が彼を射抜いていたのだ

 

「あ、…え……あ……」

 

思うように言葉がでない……それだけではない、まだ蒸し暑さが残っている〈アキバの町〉だと言うのに、この部屋だけは真冬の〈ススキノ〉みたいに冷えて冷たい空気が流れていた

得体の知れない恐怖に思わず腰を抜かしてしまった

 

「………仲間、ね」

 

一言、だった一言の言葉が死刑勧告のように背筋に突き刺さった……

 

「仲間と共に困難に立ち向かう〈友情〉、仲間や他人を助ける〈慈愛〉……とても素晴らしい。でも……」

 

食していた林檎をサイドテーブルに置き、ルティに向かって歩き出す……

 

「やはり貴方には〈覚悟〉が足りないわ。」

 

手を伸ばせばルディまで届く所まで〈くずのは〉は近づいた……

 

「貴方の存在は仲間に、〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)に過大な重りとなる」

 

そっとルディの頬をなでる…………

 

「理解しているのかしら?……いえ、していないわね。貴方は只、〈冒険者〉として〈力〉を振り回していただけ。……〈周囲〉を気にする事はなかった」

 

一通り撫で終わると、〈くずのは〉はそっとルディの額に指を指した……

 

「私は、ね。ここ〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)が好きなの……でも貴方は私の好きな物を壊している。なら簡単だわ……私は貴方が嫌い、師事つもりも関わるつもりもないわ」

 

〈くずのは〉は、トーンと指先でルディのおでこを押す。決して強い力ではないのだが数歩、歩いたのちに尻から倒れこんだ。

倒れた事によって、五十鈴はルディの顔を見る事ができたが、彼の目は虚ろになり、焦点も定まっていなかった。

………彼女は咄嗟に彼の前に出て声を上げた

 

「ならなんでルディを助けてくれたの!嫌いなら助けも、仲間にもしないよっ!」

 

彼をまた失いたくない!今度こそは守ってみせる!五十鈴の強い〈意志〉が〈くずのは〉から送られるプレッシャーに打ち勝ったのだ!しかし……

 

「思い上がるのも大概にしなさいっ!……クーが目に留めている者が悲しみから手を貸したまで。私は、そこの〈大地人〉がどうなろうと関係ないわ」

 

〈くずのは〉の言い放った言葉と心臓を突き刺すようなプレッシャーが五十鈴を襲った……もはや彼女に抵抗する術はなかった。〈吟遊詩人〉だからわかってしまったのだ……彼女の言い放った言葉に籠められた〈怒り〉と〈覚悟〉が……

五十鈴は崩れ落ちた……この人の前には立ってはいけなかったのだと悟ってしまったのだ

 

〈くずのは〉は五十鈴を流し見てからルディに仁王立った

 

「本来なら貴方はもっと気をつけなくてはいけない存在なの……〈大地人〉が〈冒険者〉になった。それだけでシロエの立場を、〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)を危うくさせる事だと言うのに、なんて無自覚、無責任、無警戒。 ……〈覚悟〉なき人は、〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)にはいらないの」

 

そっと右手を彼に向ける……

 

「〈覚悟〉無きものには罰を!……大丈夫、死にはしないわ……前の生活に戻るだけ、」

 

ルディに向けられた右手が〈くずのは〉の言葉と連動し淡い色から段々と神々しく光輝いていく……

五十鈴には、その光はルディが〈冒険者〉になった時と同じような光だと思った……そして、その思いと同じく『アレ』を受けたらルディがルディで無くなってしまう錯覚も襲い掛かってきたのだ

 

「貴方、〈冒険者〉なら『細かい事は気にしない』……とも言っていたわね?なら―――その契約を破棄し新たな契約をしましょう。ルンデルハウス=コード!」

 

やめて!叫び、止めに入りたいが擦れた声しか発せられず、何時の間にかルディを中心とした足元には見たことの無い数字や英単語が並ぶデータが浮かび上がっていた

 

「今ここに、新たな理を書き換すっ!情報書換・対象〈冒険者〉ルンデルハウス=コード!消「トントン、ですにゃ~」……なんのつもりかしら、猫?」

 

冷え切った部屋に春の風が舞い込んだ

暖かく、そして優しい風……春は果実酒と林檎の乗ったトレーを片手に彼女の部屋に入り込んできたのだ

 

「『なんのつもり』、ですかにゃ?くーっちが冷えた林檎を食べたいと仰っていたので届けに来たのにゃ~」

 

淡々と語りながら部屋の中を突き進み、手馴れた様子で小さなテーブルの上に2つのグラスを並べ注ぎ始めた…

そして、にゃん太には珍しく悲しそうな顔を五十鈴とルディに向けらがら語りかけた

 

「申し訳にゃいですにゃ~、ここからは大人の時間。折角の歓迎会ですが、そろそろ寝るといいですにゃあ?」

「ッ!は、はい!おやすみなさい!」

 

地獄で仏に会った、まさに言葉の通りであった

にゃん太の言葉の意味に気づいた五十鈴は、まだ震えている足に奮い立たせてルディを連れて彼女の部屋を出て行ったのであった

 

「はい、おやすみにゃ~………」

 

部屋を出て行く2人に手を振りながら見送った後、赤い液体の入ったグラスを2つ持ち上げ、1つを〈くずのは〉に手渡す。〈くずのは〉も拒否する事無く受け取り、グラスの中身を一気に飲み干しにゃん太に空になったグラスを突き出した

 

「にゃぁ~……随分と貴女らしく、いえ〈くずのは〉らしいと言えばいいですかにゃ?」

 

手に持ったグラスをテーブルに置き、酒瓶を両手で持ち上げ空になった彼女のグラスを赤い液体で満たしていった

 

「貴女が、ココを大切に思っているからこその行動だとわかっていますにゃ。でも……今回は「黙りなさい」にゃ~」、

 

〈くずのは〉は、にゃん太を睨みつけながら言葉を遮った

 

「あの子には、自覚が足りないのよ。いくら〈大地人〉が〈冒険者〉のステータスを確認できないからと言って安心して良い事ではないわ。……〈大地人〉の上限を超え、〈冒険者〉になる事が出来る。この情報は〈大地人〉との戦争に繋がる可能性が大いにあると言うのにあの子は……」

 

苦虫を潰したかのように顔を渋めながら、グラスの中身を一気に煽って、にゃん太に突き出した

 

「彼の事を思ってこその行動、と言う訳ですかにゃ?……若者を正しい道に導く為には時にも鬼とならん……はやり〈くずのは〉らしいですにゃ~」

「それは誉めているのかしら?」

「にゃぁ~」

「誤魔化すな」

 

空になったグラスに注ぎ直し、にゃん太は〈くずのは〉と軽くグラスをぶつけた

 

「……それでどうするおつもりですかにゃ?」

「……どうとは?」

「師事、ですにゃ」

「…………」

 

グラスを揺らしながら、〈くずのは〉はゆっくりと考えを言葉にしていった

 

「……力とは大いなる戦火の元、しかしその戦火から身を守るのも力なり。……本来ならシロエの役目だけど手が離せない状況ですしね。……いいわ、今回は私が教えてあげるわ」

「お手柔らかにおねがいしますにゃ」

「あら、人事ではないわよ?……3日後にあの子達と一緒にクエストに行くから着いて来なさい。それとあの子達がちゃんと来るように言いつけていなさい。……今の私だと100%来ないから」

「わかりましたにゃ。吾が輩も若者の為に一肌脱ぎますにゃ」

「……その言い方だと私も老人に感じるから辞めなさい」

「にゃ~」

「誤魔化すな猫!」

 

 

月夜が照らす中、波乱と激情が渦巻く夜は静かに去っていった

彼女が伝えたい事、〈大地人〉の思い……

この二つが交差する時、何が起こるか……

 

知る者はまだいないであろう・・・・…

 

 

NEXT 狐の試練

 

 




教えてお狐先生!正気か!?編
Q=質問 A=答え C=クー

Q 林檎は一日何個食べているの?
A〈記憶の地平線〉に来てから一日5個までと制限が出来ました
Cルールとは破る為にありんす!
 
Q普段なにしている?
A寝てます
C林檎ちゃんと愛し合っておりんす

Q仕事はしていないの?
A一応しています。〈デザイナー〉で書いた設計図を売っています
Cヘンリーがお家に来て苛めんす

Q本当にニート?
A家から一歩も出ていません。設計図の販売はモブと鼻血に任せています
C働きたくないでありんす!

Q……リアルは何している人?
Aネタバレですね、はい
Cぺ、ぺるそなー!




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『2』い出てしまうタメ『1』きが・・・

お気に入り400突破
・・・驚きです

これからも頑張りますのでよろしくお願いします

オリジナルは難しい!


〈第8商店街〉

生産系ギルドの一つにして〈円卓会議〉にも席を置く生産系ギルドとしてはアキバの街三位の構成人数700名を誇るギルド。ギルドマスターはカラシン。

元々おしゃべり好き(チャッター)の集まりで、厳密に言えば生産ギルドではなくチャットギルド。ギルド名の由来は「〈エルダー・テイル〉のもっとも騒がしい時間は、夕食を終えた午後8時から真夜中あたりまで。」からきていると考えられる。そのため、生産ギルドの中では販売にもっとも力を入れており、実際に自分ではアイテムを作り出さずに販売を受け持つギルドメンバーも多く抱えている。

 

その為、アイテムを作り出す事の出来るサブ職を持っている人を募集しており、同じ〈円卓会議〉に席を置く〈記録の地平線〉は〈第8商店街〉に〈大地人〉の職人を2人紹介したと噂できいた

・・・・・・個人的には好きなギルドではあるが、〈海洋機構〉と同じく私を引き抜こうとするのは辞めてほしいものだ

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

「香辛料の条件が林檎1年分。・・・・・・・・・わっちも軽く見られたもんでありんすな~。しかし……」

 

長かった酷暑もようやく一段落してきた9月・・・・・・秋の青空とはうらはらにパーティーの雰囲気は重苦しかった

 

「さて、はりきっていくにゃん♪」

「「・・・・・はい」」

「・・・にゃぁ~」

 

どこか緊張した目線を彼女に向けながら気の入らない返事をする彼らににゃん太は軽くため息をついた

 

「わっちも嫌われたもんでありんすな~」

 

3人とは違い、彼女だけが秋空の到来を喜んでいるかのようにカラカラと笑いを零すのであった

 

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

教えて♪お狐先生!愛と勇気だけが友達編 ・・・・・・・・・事実上ボッチかよ!? byパンツ君

 

 

 

 

 

事の発端は、ある一言から始まった

 

「クエストですか、にゃん太さん?」

「はいですにゃ~」

 

衝撃的な出来事から3日後、五十鈴は〈記録の地平線〉の料理番にゃん太から冒険・・・クエストのお誘いを受けたのだ

この3日間、どうもギルドホールと言うか彼女がいる場所が居づらく、ルディの気分転換を兼ねて2人で散歩をしていた2人にとって同じギルドの仲間、しかも料理番にして相談役、事実上サブマスターのにゃん太からのお誘いは正直嬉しく思った。特に五十鈴は何とか今の状況を打破したいと考えていたので尚更である

 

彼女と自分達の間には溝があり、にゃん太なら緩和剤の役割をしてくれると思ったのだ

思ったら直ぐに行動、五十鈴は気分が乗らないと断りを入れるルディを宥め、二つ返事でにゃん太のお誘いを了承したのであった

 

そう、残りのメンバーが彼女だとは知らずに・・・・・・・・・

 

 

「はぁ~・・・・・・・・・それでにゃん太さん、クエストって何を受けるんですか?」

 

つい30分前のやり取りを思い出し、ついタメ息が出てしまったが、もう仕方ない。むしろ彼女と一緒にクエストをクリアする事で溝が埋まる、そして仲間だと認められると気持ちを切り替えた五十鈴はクエストの詳細を尋ねる事にしたのだ

 

「クエスト名〈稲荷の問(いなりのとい)〉・・・・・・・・・クリア目安はLV30ですにゃ。今のお2人に吾が輩達のパーティーでは些か簡単だと思いになるとは思いますが・・・・・・このクエストにはある特徴があるですにゃ」

「特徴ですか?」

「にゃん♪ クエスト開始から時間が経つにつれ問題が出題されるにゃ。正解すると次の質問へ、間違えるとモンスターが襲い掛かる・・・・・・〈エルダー・テイル〉のクエストの中でも名作中の迷作だと言われていますにゃ」

 

問題と聞き、五十鈴は顔を引きつらせた。リアルでは現役の高校生であるとはいえ、〈大災害〉後、碌に勉強と言う名の勉強をしてこなかった自分に解ける問題なのかと不安になったのだ。それとは正反対にルディは目が燦々と光り輝いていた

 

「文武両道!力と知識が両方鍛えられるとは、修行の中の僕にはうってつけのクエストじゃないか!」

 

大げさに身体で喜びを表すルディに五十鈴は、尻尾を全力で振る犬みたいだな~と思いつつも久しぶりに見たルディの明るい表情に自然と頬が上がっていった

 

「・・・・・・・・だが、腑に落ちない事がある。その、なぜ彼女を誘ったと言うんだい、ミスタ?」

 

しかし、一転。

先程とは全くイメージ・・・・・そう、飼い主に怒られて落ち込む犬の様に哀愁を漂わせながら思っていた質問をにゃん太に尋ねたのだ。この疑問は五十鈴も思っていたらしくルティの質問に合わせて頷いて見せた

 

「くーち、ですかにゃ?ふむ・・・・・・お2人はクーちの好きな物はわかりますかにゃ?」

 

質問を質問で返すとはにゃん太らしくないと感じながらも2人は、彼女の好物だと思われるモノを上げた

 

「林檎だ」

「えっと・・・・・・林檎ですよね」

「はい、正解にゃ」

 

流石に簡単すぎる問い掛けであった。彼女の好物は林檎、むしろ林檎っと言ったら彼女、と言うまで彼女の林檎好きは〈記録の地平線〉の中では広まっているのだ

にゃん太は笑みを崩さずに答えの続きを話し始めた

 

「〈稲荷の問(いなりのとい)〉・・・・・なんとクリア報酬は黄金の林檎と言われていますにゃ!」

「「あぁ・・・・・・なるほど」」

 

2人は同時に頷いた

黄金の林檎・・・・・・・・数多くの神話や伝承に登場する神秘な果実、金色に輝く林檎。

無類の林檎好きな彼女が参加するには十分過ぎるほどの理由であった

 

「そしたら私達より先にシロエさん達を誘った方がいいじゃないですか?・・・・・・その、クーさんもその方が成功するって思うと思んだけどな~?なんて」

 

五十鈴の質問に今後はルディが頷いた

確かに物知りなシロエや直継、アカツキと行った方が成功率は格段とあがる。しかし、それをしなかった・・・・・・何故?

答えは簡単であった

 

「シロエっちは先の大規模クエストの後処理、女の子組はシロエっちのお手伝い、男の子組は〈三日月同盟〉と一緒にクエストに行っているにゃ」

 

暇な人が自分達しかいなかったのだ

3日前の事もあり、〈三日月同盟〉との共同クエストには参加せず、シロエの手伝いなど自分達に出来ることはお茶酌みぐらい・・・・・・だから誘ったと言う事であった

 

別の意味でタメ息が出てしまうが、にゃん太は更に言葉を続けた

 

「それに、ですにゃぁ・・・・・・吾が輩、お2人はクーちと喧嘩中だとお見受けしますにゃ。これを気に仲直りしてみては?と思いましたにゃ」

「あっ」

 

この人にはなんでもお見通しなんだなっと思った。それと同じくらいに〈大災害〉後、感じる事が無くなってしまった『子を心配する親』の暖かさを感じた

少しムズ痒かったけど悪い気はせず、むしろ頼りらしさを感じた

 

「・・・・・・そうだね、その通りだ。僕は黄金の林檎を手にして彼女と仲を修復しようじゃないか!あはははは!」

 

ルディも同じことを思っていた様で、笑って誤魔化してはいるが頬は照れて赤くなっていた

 

「では、行きましょうかにゃ?・・・・・・お~い、くーち~、行きますにゃ~?」

「あ~い」

 

2人の雰囲気は最初の頃が嘘の様に気合とやる気が満ちていたのであった

 

 

 

 

クエストはアキバの町近辺で行われると、にゃん太が言っていた通り町から出て数分もしないクエストが開始された

いきなり目の前の景色が歪んだと思ったらレンガで身体を構成されている狼、ガーゴイルが現れたのだ

 

ルディと五十鈴は臨戦態勢をとるが、にゃん太と彼女は自然体なまま・・・・・・

狼が動き、いざ戦闘が開始されると思いきや狼はうなり声ではなく―――

 

「だぁぁいいちぃぃぃぃもぉぉぉぉん!」

 

―――耳に響く高い声で問い掛けてきたのであった

 

「にゃにゃにゃ、このクエストは答えが間違わない限りモンスターとの戦闘はにゃいにゃぁ」

「・・ご隠居の言葉を忘れんしたか?」

「「はははは・・・」

 

乾いた笑いが零れた

突如現れた、いかにも強敵といった風貌をした狼がいきなり、荒地の魔女の如く高い声で質題してきたのだから・・・・・・

ベテランの2人は兎も角、新人プレイヤーな五十鈴や元〈大地人〉のルティにはインパクトが大きかった

そんな2人を置いておきぼりにして狼は更に問い掛け始めた

 

「虎裏猿表馬表=「豚」、猫表鼠表鼠裏=「男」の時、蛇裏犬表猪裏は何がくる」

「「……え」」

 

空気が凍った・・・・・・狼が口で問題を出すと思ったらクリップボードで出したのも驚いたが、問題の難しさにも驚いてしまった

2人は固まり、冷や汗を書いている中―――

 

「お空でありんす~」

「正解」

「「えぇぇぇぇぇ!」」

 

―――意外すぎる人物から答えが聞こえ、正解したのであった

驚き後を振り返るが、答えた張本人は手に持った扇子を扇ぎながら林檎を愛でながらにゃん太と話し込んでいる

目は半分閉じてやる気のない、俗に言う[死んだ魚の目]だと言うのに……ルティと五十鈴は何故か理不尽な気持ちに襲われながらも二人の会話を盗み聞く

 

「速かったですにゃ~、くーち?」

「英語と干支が分かればわかりんす」

「……なるほど、『sky』ですにゃ」

「そうなりんす」

 

2人は答えが分かった様で笑いながら雑談を交わしているが、蚊帳の外……ルディと五十鈴は冷や汗が止まらなかった

 

「……ヒントみたいだけど、ルディわかった?」

「……干支すら何なのかわからないさ」

「え」

 

五十鈴は目を大きく開き驚いた

自分と変わらない年の青年が、『干支』がわからない。無知と言うレベルを通り越していると思ったが、直ぐに納得が言った様に頷いったのだ

 

「そっか、ルディはコッチ(エルダー・テイル)の人だもんね。私達のアッチ(現実世界)の事はわからないよ……でも大丈夫?」

「ノープログレムさ、ミス・五十鈴。コッチ(エルダー・テイル)の事なら全て僕に任せれもらおう!」

「うん、お願いね!」

 

ルティと五十鈴が何気なく交わした会話……これが後々、大きく彼らの心に響いていくと、まだ2人は知らない……

 

 

 

一問目で彼女が正解した事により、ガーゴイルは音もなく砂へと還っていった。先に進め!と解釈し4人は歩きだしたが彼らの空気は重い……原因は明白である

クエストは着実に進んでいき『第2問』『第3問』と彼らは正解し先に進んでいったのだが、問題を正解して行くにつれてルディの顔色が悪くなっていったのだ

 

「えっと…第一問が暗号、第2問が政治、第3問は文化……なんの関わりがあると思いますか、にゃん太さん、クーさん?」

「……吾が輩にはリアルと〈エルダー・テイル〉の違いを指摘している様に思えますにゃ」

「そうでありんすな~、わっちには〈大地人〉に自分の立場を理解させる問題だと思いんす」

 

3人の会話の通り、出題される問題は全てルディには答えることが出来ない現実世界の問題なのだ

流石のルディも皆と同じ考えに行き付き、力になれない事から重く責任を感じているのであった

 

「ははは……申し訳ない」

「仕方ない仕方ない。クエストを作った人も、まさか〈大地人〉が参加するって思ってもいないよ!」

「そうですにゃ~、シロエっちも言っていましたがイレギュラーな存在〈冒険者〉ににゃったルディっちもイレギュラー……いきなり立場が変わったにゃ」

「ッ!」

 

にゃん太の何気ない言葉がルディには重く感じ、そして以前彼女が言っていた言葉を思い出させた

言い方も雰囲気も全然違うのに『貴方の存在は仲間にに過大な重りとなる』……彼女の言葉と重なってしまった。思わずルディは顔を伏せ足を止めてしまう

いきなり立ち止まったルディに対し五十鈴は声をかける

 

「ルディ?」

「はは……今の僕がまさに重りではないか」

「ねぇ!ルディ!どうしたの!?」

「ミス・五十鈴……僕は〈冒険者〉にはなれないらしい」

「……え」

 

ルディの言葉は弱弱しく、そして今にも泣きそうなほど擦れていた

 

「〈冒険者〉を特別なステータスだと勘違いしていたようだ僕は……〈冒険者〉は弱き者を助ける存在、でも生まれ持って弱き者である僕は本当の〈冒険者〉に劣る。だから皆を守れるような〈力〉を得る為に日々修行を重ねてきた……だけど!」

 

勢いよく上げた顔には悲しみと悲壮感が読み取れた

 

「イレギュラーな僕の存在は仲間に悪影響を与えてしまう!……今回のクエストで痛感したよ。〈冒険者〉と言うタグを付けていても僕は〈冒険者〉ではなく〈大地人〉だと言う事を……」

「ルディ……」

 

言い掛ける言葉が五十鈴には見つからなかった、いくら〈冒険者〉になったとしても所詮ルティがこの地に住む〈大地人〉、自分達とは住む場所が違ったのだ……

2人の間に悲しみの渦が渦巻く中、シリアスブレイカーは発動する!

 

「お芝居は終わりんしたか?なら早~問題答えんし!」

「「……え」」

 

ルディの悲痛な思いを「お芝居」で片付け何時の間にか出現したガーゴイルを指差す彼女は鬼であろう……いや、駄狐だ

そんなシリアスブレイカーに流石にルディは怒りをあらわにする

 

「君が言ったんではないか!僕の存在は仲間の重りになると!だから僕「だからどうするでありんすか?」…え?」

 

ルディの言葉を遮って発した言葉にルティは驚き、言葉を詰まらせてしまった

 

「だ~か~ら~どうするでありんすか?重りになる、だからなに?ギルドを辞める?死ぬ?人知れぬ場所で仙人になるでありんすか?……馬鹿馬鹿しいでありんす。ぬしはもう〈冒険者〉でありんす。そして、それを成した事はぬしが消えようともシロエの実績として残りんす。……だからぬしには〈覚悟〉が足りんせん と言いんした 。」

「……どういうことだい、ミス・クー?」

「うにゃぁ~……」

 

落胆する彼女の変わりに傍観に徹していたにゃん太がルティに説明し始めた

 

「シロエっちが公言しなくとも、ルディっちの〈大地人〉のコミュニティーからシロエっちの力が分かりますにゃ」

「そっか!ルディにも〈大地人〉の友達いるもんね!友達がいきなり〈冒険者〉になったらみんな驚くよ!」

「でもみんな気づか「死なない、LV上限を超える、サブ職業。どうやって隠すんでありんすか?」 グッ!」

 

またもやルディの言葉を遮って発した彼女の言葉にルティは言葉を詰まらせてしまった

確かに〈大地人〉では得られない事を隠し通すには限界があるのだ、もし友達がいないとしてもルディはアキバの町に〈大地人〉として長く滞在していた事もあり自然と目に付いていた筈、更には、ステータスを見られる〈冒険者〉からはサブ職業〈冒険者〉など丸分かりの事であった

 

「シロエェェにも言んしたが、大いなる力には大いなる責任が伴う……ぬしは責任を伴う〈覚悟〉を本当には理解しておりんせん」

「ルディ……」

 

彼女に言い負かされたルディは返す言葉が無くなっていた。いや、違う。

言い返すということは……都合の良い事を見つめて責任から逃げる口実を探しているっと言う事なのだ

ルディは唇を強く噛みこんだ、自分がずっと見ていなかった事、背を負うべき責任から逃げていた事に気づいたのだ

 

「なら……僕はどうすればいいんだ!」

 

口から垂れる血など気にもせずに声を上げた。自分が、ルンデルハウス=コードが成すべき事を彼は求めたのだ

……その答えは直ぐに返ってきた

 

「負うのにゃ」

「……」

「今まで見てこなかった〈責任〉を負うにゃ……彼女の言葉を借りるのなら『己が責任を負う事により自身の持つ〈思い〉が形となって表れる』と言うと思いますにゃ?」

 

責任を負う……言葉で言うのであれば簡単だが、ルンデルハウス=コードが〈冒険者〉となった事で生まれ出る全ての問題に関わる覚悟が求められる事なのだ

今の彼なら判る、その事がどんなに重く、そして危険な事なのかを……だが!

 

「……背負う、今度は逃げはしない!僕が!このルンデルハウス=コードが〈大地人〉であり〈冒険者〉である事実を!」

 

両手を広げ大きく!そして高らかに彼は宣言したのだ!

芝居臭い仕草だが、彼らしいと言えば彼らしい、そんな彼に五十鈴は声をかけた

 

「うん、私も一緒に背負ってあげる!ルディじゃぁ……まだ頼りないもんね?」

「そんな!レディにこの責任を負わせる訳には! 「こらッ!」 っ!?」

 

ルディの言葉を遮って五十鈴は彼を叱りつけた…だが、本当に怒っている訳ではない、何故なら彼女の顔は満面の笑みが咲き誇っているのだから

 

「レディ扱いも嬉しいけど……仲間でしょ?全部とは言わないけど少しは背負うよ」

「ミス・五十鈴……」

 

見詰め合う2人、片方は自分を思ってくれる女性に感動し片方は頼りない番犬を思う様に……

2人の思う気持ちは違うが傍から見れば甘い…恋人達の様な雰囲気を醸し出していた

 

そして蚊帳の外に追いやられたにゃん太は、この雰囲気を前者と感じながらも笑みを零していた

 

「思いが交わった時、本当の恋が始まる……そうは思いませんかにゃ、くーち?」

 

同じく蚊帳の外に追いやられた同志に話を振ってみたが、彼女はその場に居なくガーゴイルと2人、負の感情を纏いながら「の」の字を地面に書いていたのだ

 

にゃん太は近づき二人の会話を聞こうとしたが―――

 

「わっち はラブコメ等期待していんせん!何だぇ あれ?説教とおっしゃるかぬしの立場を判られてあげたとおっしゃるのにラブラブして、これはわっちに対する嫌味でありんすか ?そうに決まっていんす!若いからヤリたいと思うのは自然の摂理だと思いんすが、場の空気を呼んで欲しいでありんすぇ~?最近は、シロエェェとツッキー、ミノリンがラブって、マリーとパンツ君もラブって―――」

 

直ぐに引き返した、人生経験が豊富だから出来る技!

いや、ヒステリックな女性に近づいてはいけないと本能で感じたのであろう……

 

右を見ればラブ臭漂う2人組、左を見れば負の漂う狐(若干、ガーゴイルが涙目)……

にゃん太はとこ知れずにため息をつくのであった

 

 

 

 

NEXT  狐の思い、ルディの思い……




彼女が負の感情を纏っていた頃 パート1

「シロエさん!次の書類をお持ちしました」
「君主!お茶が入ったぞ、一息つけよう」
「ありがとう、アカツキ、ミノリ」

ラブってた・・・・



彼女が負の感情を纏っていた頃 パート2

「お~し!休憩だ!休むのも戦い祭りだぜ?」
「はい!」
「ありがとうなぁ~?直継やん、これタオル」
「サンキュー、マリエさん。ってコレは俺のタオルじゃないぞ?」
「ん?それはうちのやで?」
「………」

ラブってた……


彼女が負の感情を纏っていた頃 パート3

「よ~し!ラスト10本!気合入れて行くそ!」
「はい!小竜さん!」

バトっていた……



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『2』こ『2』こ動画は潤いであえいんす

これでルディ編は終了
オリジナルは疲れます

あと1,2話書いて原作に戻ります


〈くずのは〉

メイン職業は〈妖術師〉サブ職業は〈デザイナー〉ですにゃ

狐尾族の女性型、金色の耳と9本の尻尾が特徴的な大人の女性ですにゃ~

数年前から姿を現さにゃくにゃりましたが、彼女も〈大災害〉の影響で〈エルダー・テイル〉にいると聞きましたにゃぁ

にゃんと言っても彼女は〈放蕩者の茶会〉で参謀をしていましたにゃ!しかし残念な事に1年ぐらいで辞めてしまいましたにゃ

シロエっちの『全力管制戦闘』も見事なモノですが、くずのはの指示も中々スリリングで楽しかったにゃぁん

機会があれば、また共に冒険してみたいですにゃ~

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~番外編~」代筆:にゃん太

より抜粋・・・・

 

 

 

「ふむ、にゃっぱり慣れませんにゃ~?しかし………」

 

にゃん太は彼女に無言で渡された本から視線を上げた。そこには―――

 

「ミス・五十鈴……」

ルディ………(あぁ、本当に犬みたい…尻尾ふってるよw)

 

意思の疎通が取れているか判らないが、見詰め合う2人―――

 

「わっちは所詮、駄目な野良な尾っぽが9本の狐でありんすよ!でありんすから と言って何が悪いでありんすか!?聞いていんすかぇ?」

…………(絡むの止めて!そして問題答えてよ!)

 

意思の疎通を一方的に押し付ける駄狐―――

 

「……にゃぁ~」

 

―――まだ日差しが暖かい9月上旬、混沌が形成されているのであった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

教えて♪お狐先生!動詞だけだとわかんせん!   急に真面目だな!おい!byパンツ君

 

 

 

光差す世界に、汝ら暗黒、住まう場所無し!渇かず!飢えず!無に帰れェェェッ!レムリア・インパクトォォォォッ!

 

右手から無限熱量を発生させ、それを目標に押し付け絶対昇華させる某無垢なる刃の必殺技!

今まさに、暗黒が住まう彼女にはうってつけの技であるが、そんなサブカルチャーを知らないにゃん太は至って普通に彼女の首根っこを持ち上げる事で正気に戻した

 

「昇華!?」

「にゃにを言っていますかにゃ?……早くしないと日も暮れますにゃ?」

「あ~い……ルンパッパにリンリン!帰るでありんすよ~?」

「ちょっと待つにゃ」

 

涙目のガーゴイルを暗黒から解放し新人二人に呼びかける彼女……完全に当初の目的を忘れていたようで帰宅の準備を始めようとしていた。さすがのにゃん太もこれには驚き待ったを掛けた

彼女からしてみれば本来の目的はクエストではなく、ルディに自身の立場そして皆に掛かる責任、自身が背負うべき覚悟を自覚させると言う事であり既に目的は達成されたので……正直もう働きたくなかったのだ

テンションダダ下り、尻尾もダダ下りの彼女をやる気にさせる為ににゃん太はガソリンとなるネタを投入する

 

「にゃんと!くーちはクリア報酬である『黄金の林檎』を目の前にして諦めるとにゃ?……黄金の林檎とはどんな味がするか気になりますにゃ~?」

「ッ!……忘れておりんした、でもご隠居達が持ってきてくれればよいでありんす。……わっちは帰って寝りんす」

「そうしたいのは山々にゃんですが……一人でも途中リタイヤしたらクエスト失敗ですにゃ」

「うにゃ!?」

「それに……このクエストは季節限定今日限りのクエスト、今日を逃したら終わってしまうかもしれないにゃ?」

「うにゅぅぅぅぅぅ!」

 

頭を抱え込み身体を振り子のように揺らしながら熟慮する彼女を横手に五十鈴とルディはにゃん太の下へと近づいてくる

 

「にゃん太さん質問っ!」

「はいにゃ」

「『季節限定今日限り』のクエストって何ですか?……私が知らないだけかもしんないけど私はそんなクエスト聞いたことなくて……」

「僕もだ。この地に産まれた僕ですら聞いた事がない」

 

二人の質問に対しにゃん太は手でアゴを擦り、悪戯が成功した子供のような笑みを零した

 

「『季節限定今日限り』……そんなクエストはありませんにゃ」

「「えっ」」

「なりはどうであれ、くーちも女性ですにゃ。……『限定』や『今日限り』と言う言葉に弱いと思いましてカマをかけましたにゃ」

「あぁ、わかるわ~」

「……そういうものなのか?」

「ルディっちもそのうち分かるようになりますにゃ~」

 

ネタをばらせば至って簡単、女性が惹かれる言葉を並べただけ。相手がこのクエストの詳細を理解しているのなら効果は無いだろうが、元から人気がなく出題される問題もランダム、クリア報酬は『黄金の林檎』と言う陳腐な物

秘法級や幻想級ならいざ知れず、ただの消費アイテムに本気になる物は……〈料理人〉であるにゃん太ぐらいしかいなかったのであろう

 

そんな3人を尻目に彼女はやっと決断し尻尾と耳を逆立てた!

 

「なら!はやく!わっちに!くわせろ!で!ありんす!」

 

……意味不明である

にゃん太もこれ以上の言い文句はないと感じたのか、そっとルディの背中押し出した

 

「ミスタ?」

「このクエストの回答権は一人一つ。吾が輩たちはもう答えられないにゃ」

「なっ!?……僕しか答えられないのか!?」

「ヒントは……大丈夫だと思いますが、直接的なモノはアウトですにゃ~」

 

この時、ルディは激しく後悔した。最後のトリは……まぁいい。しかし、これまでの3問とは違い後から感じるプレッシャーが半端なく強いのだ。言わずとも彼女のプレッシャーだ

何故この様な事になってしまったのだ!原因は明白である。だがこれまでの問題で自分が答えられる物が出なかったのも事実。謎の暗号、お茶のゴールデンルール、曲『魔王』の由来……みながみな得意分野の問題だったので答えられたのに対し〈大地人〉である自分に得意分野など存在しない

 

背中を汗がジトリっと濡らす、目の前のガーゴイルはライオンに似ており、その大きな鋭い牙はいとも簡単に自分の首を食いちぎれるだろう……

 

ライオンと視線が合う、ゴクリっと唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。そして―――

 

「ラスト問題ぴょ~ん♪」

 

―――その威厳さからは想像が出来ないほど可愛らしい声で出題が開始された

 

「日本でいっちば~ん高い山はど~こだ?」

 

時が止まった……現実世界の問題である。しかし勝機はきた!

〈エルダー・テイル〉の世界は現実世界を元に創られている。そして、その中には地名や場所の名前をそのままに近い形で表している場所が多く存在している。

そして問題である『日本で一番高い山』は日本人なら誰もが知っている『富士山』だ。そして、ヤマトにおける『富士山』の名前は『霊峰フジ』!古来から富士山は『霊峰富士山』とも呼ばれているので例え『霊峰』が付いても正解とカウントされるだろう!

 

「ルディっ!」

 

五十鈴は声をあげ、薄らと浮かび上がっている『霊峰フジ』を指差した。ルディは五十鈴が指差す先を見て驚く……

 

「なんと!?……同じと言う意味なのか?」

「そう!あとはそれに敬意や親しみを表わす呼び方をつけて!」

 

最大のヒント、本当は『やま』と言いたったけど流石にそれは不味い

五十鈴は自分が出来いる最大のヒントをルディに渡したのだ

ルディは少し考えた後、答えを見つける事が出来たのか五十鈴に大きく頷いた

 

「ナイスヒントだ、ミス・五十鈴!まさかアレを女性に例えるとはセンスを感じられるよ。ハハハッ!」

 

前髪を手で払い高笑いし始めるルディ、それに対し五十鈴は冷や汗を滝の様に流しながら固まった

 

―――こいつ、いま、なんて、いった?

 

止めるべきなのだろう、いや、止めるべきだ!彼が行きついた答えは自分達が望むモノではない!

なにより、止めなくては隣で鬼の形相よろしく『怒』が天元突破しているお狐様が暴れ出す!

五十鈴は身の安全の為、そしてルディの為にも声を上げた!しかし―――

 

「る、ルディまっ 「アンサーは『ミス・霊峰フジさ!』」 あっ、あああぁ・・・」

 

―――間に合わなかった

富士山を女性の美しさに重ねるなんて素敵だ!とか言っているルディを横目に五十鈴は隣をうかがった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・鬼がいた

 

彼女の尻尾は逆立ち、耳はまるで角の様に立ち上がっていたのだ

やばい、なんとかしなくては!……救いを求めにゃん太に視線を送るが、返ってくるのは「にゃぁん」だけ

この時だけは、五十鈴も「ネコ語うざっ!」と思ったであろう……

 

そんな五十鈴の気持ちも考えていないのか、ルディは高らかに『正解』と宣言される今を待った。しかし返された返事は案の定―――

 

「不正解!……罰ゲーム☆」

「……え」

「ルディッ!?」

 

望まない返事と共に丸太のように太い足がルディに下ろされた。

巻き上がる砂埃は、振り下ろされた足の威力の高さをものたがっていた……砂埃が晴れ、現れるのは無残にも押し潰されている私の愛犬……そう思うと自然に涙が零れてくる

 

しかし、そんな思いとは裏腹に聞き覚えのある声が響いた―――

 

「馬鹿にも程があるわね?いえ、本当の馬鹿に失礼ね?」

「いえいえ、馬鹿と天才は紙一重といいますにゃ?開花すると天才になるかもしれないにゃ?」

「開花しなきゃ馬鹿のままよ?……ほら、早く逃げなさい」

「え、え、え?」

 

砂埃が晴れた先には押し潰れた愛犬ではなく、愛犬を守る様にライオンの足を武器で防ぐ猫と狐がそこに存在し、二人は目で合図を送らせ、一斉にライオンの足を押し返し私の所まで後退したのだ

 

「ふぅ、戦闘になってしまったわね」

「そうですにゃ~、しかし〈くずのは〉が戦闘ですかにゃ?」

「頭に血が昇った(クー)には任せられないわ」

 

〈くずのは〉は服に付いた埃を払いながら皆の状態を確認していく

 

「今まで戦闘なし、HP・MPは万全。〈盗剣士〉1〈吟遊詩人〉1〈妖術師〉2。しかし、〈盗剣士〉と〈妖術師〉は『師範システム』使用中……ふん」

「さて、どうしますかにゃ?」

「知れたことを………私が指示するわ。 敵はガーゴイル〈獅子型〉、猫がブロック、私と犬がアタック、五十鈴は犬と猫のサポート。…………いいわね?」

「え……」「……」

「返事!」

「「は、はい!」」

 

〈くずのは〉の声に驚きながらも二人は武器を構えた。目の前にはガーゴイル〈獅子型〉LV50、今この場にいる4人よりもLVが高い相手ではあるが何故か二人には恐怖や緊張は感じられなかった

 

ルディは自分の隣に立つ〈くずのは〉を横目で伺う、先まで一緒にいた彼女ではあるが、どこか違う……姿勢、態度、纏う雰囲気、全てが変化しているように感じたのだ

〈くずのは〉は、そん.なルディの視線に気づいていたが敢て無視し、手に持つ『玉藻前』をガーゴイルへと向け、そして吼える

 

「魔術戦を見せて上げましょう!臆せずついてきなさい! 〈狐火〉っ!」

 

〈くずのは〉の咆哮が響いた瞬間、ガーゴイルは突然、吹き飛びステータスには〈やけど〉と言う文字が浮かび上がった

しかし、ダメージは無く体勢を整えようと起き上がるが―――

 

「吾が輩を忘れていては困るにゃ」

 

―――ガーゴイルの足を左右のレイピアで切りつけ、それを阻止した

流れるように行われた連携にルディと五十鈴は目を見開き驚くが、〈くずのは〉の声によって現実へと戻される

 

「五十鈴!猫に〈虹のアラベスク〉と〈ウォーコンダクター〉っ!30秒後、ルンデルハウスに〈臆病者のフーガ〉っ!猫の状態を見つつ〈毒抜きのタランテラ〉。ルンデルハウスは〈フレイム・アロー〉を連射、30秒後〈臆病者のフーガ〉効果発動後〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉を打ちなさい」

「「・・・え」」

 

まだ戦闘が始まって間もないと言うのに一気に指示を出した〈くずのは〉に再度驚く事になったが、〈くずのは〉の罵声が飛ぶ

 

「質問は後にしなさい!雑魚に遅れを取ったら殺すわよっ!」

「ッ!にゃん太さん〈虹のアラベスク〉行きますッ!あと〈ウォーコンダクター〉ッ!」

「ッ.!ゆけ!〈フレイム・アロー〉ッ!」

 

本当の敵は味方にあり……脅されるがままに五十鈴はにゃん太に〈虹のアラベスク〉と〈ウォーコンダクター〉を付与させる、にゃん太の体は最初、虹色に輝いていたが直ぐに赤に変わり、武器のレイピアにも赤い光が宿い始めた。……それと同じくして〈ウォーコンダクター〉の効果でにゃん太の行動速度が上昇するかわりに、自己の体が重くなったのを感じた。しかし休んではいられない、幸い重いといっても苦痛を伴うほど大きなモノでなく大事はない。五十鈴は〈くずのは〉の指示通り〈臆病者のフーガ〉をルディに付与させる為に詠唱し始めたのであった

 

一方ルディの方は三度目の驚きを味わう事となった

〈フレイム・アロー〉……火炎呪文の基本で攻撃力も便利性も自身が多用する〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉よりも劣ると思っていた魔法がガーゴイルに対し炎の矢から小さな矢が生まれ、たくさんの炎の矢が降り注ぐぎガーゴイルのHPを凄いスピードで削り取っているのだ

さらに〈くずのは〉が蒼炎をまとわせた扇子を、にゃん太が赤い光を纏ったレイピアを薙ぎ払った後には炎の威力も矢の数も増えて衰えることが無かった

 

ガーゴイルのHPもレッドゲージに突入し残り僅かになった時、五十鈴の〈臆病者のフーガ〉が発動した

敵のヘイトを下げる働きがある呪文は攻撃対象をルディに指定させない、ガーゴイルは今までの戦闘において一番ダメージを与えていたルディに攻撃を仕掛けようとするがにゃん太と〈くずのは〉の双璧に思うように進軍できないでいた

 

その時に発動した〈臆病者のフーガ〉、攻撃対象がルディから前衛の二人に向く……すなわち、ルディがトドメを刺す呪文を唱える時間を与える事になったのだ

 

「〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉っ!」

 

発動する必殺の魔法、高温の溶岩の塊がガーゴイルの身体を貫き、ガーゴイルを消滅させたのであった

 

「戦闘時間57秒、ガーゴイル〈獅子型〉相手にこれ程出来れば上出来ね」

 

全ては〈くずのは〉の手の内にあるかのように進められた戦闘だった

しかし、ありえるだろうか?〈くずのは〉の言葉を借りるならば戦闘が開始され僅か5秒の間に戦闘終了までのイメージを作り上げた事になる

……あの時、ミノリが見せた指示とも違う、全くもって異質、敵の動きを読んだ戦略にルディと五十鈴は茫然とするしかなかった

 

「いや~、スリリングな戦いでしたにゃ」

「たまには刺激も必要でしょ?……ボケるわよ?」

 

ほのぼのと話す二人に堪らず声をかける

 

「い、今のは!?」

「そ、そうです!何で敵の動きが判ったんですか!?」

 

駆け寄る二人ににゃん太は言葉を返す

 

「判っていません、予測している、と言えばいいですかにゃ?……敵の行動を予測し最善の手を討つ、〈冒険者〉がモンスターと戦う上でごく当たり前の事をしているいまでにゃ……まぁ、〈くずのは〉の読みは先の先さらにその先、こと終わりまで読んでの指示ですが…にゃ」

「次に相手がする事がわかれば後は弱点をつく、戦闘の基本だわ……ガーゴイル〈獅子型〉は火属性、状態異常に耐性がない。〈虹のアラベスカ〉の効果で火属性の攻撃を行い〈やけど〉を継続させ、私が多種の状態異常を付与させる。……〈フレイム・アロー〉は相手が状態異常を付与されている時、追加ダメージを与えられ、更に攻撃回数、エフェクトの多さから攻撃対象を犬にすると予測。熟練の〈冒険者〉ならいいわ、けど……ド新人では荷が重いから猫に壁になって貰ったわ……〈ウォーコンダクター〉と〈毒抜きのタランテア〉は、猫なら心配ないと思うけど一応保険。最後に高威力の魔法を討つ為の詠唱時間を〈臆病者のフーガ〉で確保。〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉の詠唱時間は10秒、LV40に近い〈妖術師〉の魔力ならレッドゲージに入った〈獅子型〉を殺せるわ……おわかり?」

 

にゃん太の説明を引き継ぎ、自身が出した指示の詳細を二人に話す〈くずのは〉

二人が同時に思った事……それは無知、である。自分達はガーゴイルの行動パターンも弱点さえ知らなかったのだ

 

新人だから……と言えば終わってしまうが、そんな言い訳を称えるつもりも起きなかった。特にルディは自身の立場を再確認したばかりであったので顔をうつ伏せてしまった……しかし、それは一瞬であり直ぐに顔を上げ―――

 

「クリア報酬は……『幻のタネ』?」

「全問正解ではないですからにゃ」

「これだと(クー)がおこ 「ミス・クー!」 ……何かしら、ルンデルハウス?」

 

両膝を地につけ〈くずのは〉に頭を下げたのであった

 

「お願いがあります!……僕に、僕に師事してください!貴女の様に戦いたいんだ!」

「私の様に……予測の事かしら?……辞めておきなさい、アレは所詮『予測』であり、『予知』ではないわ。膨大な経験と知識から予測するの……予測が外れた時の機転を貴方は産み出せないわ」

「〈大災害〉後、只のプログラムであったモンスターは『生』を得たにゃ……戦闘は変動する、何が起こるか予測出来なくなっているにゃ……まぁ、それはそれでスリリングでおつですにゃ~」

「物好きね、猫?……ボケ予防かしら?」

「それでもっ!」

 

下げていた頭を上げ、〈くずのは〉に更に言葉を重ねた

 

「僕は余りにも無知だ……『覚悟』を背負うと言いながら何もしていない!これではダメなんだ!僕は…僕は!『力』が欲しいッ!」

「ルディ……わ、私からもお願いしますッ!」

 

再度、今度は五十鈴も共に頭を下げた

ルディに至っては頭が地に着くほど、必死に頭を下げたのだ。そんなルディに〈くずのは〉は―――

 

「力、ね……問おう」

 

―――最後の『稲荷の問』を投げかけた

 

「ルンデルハウス=コード、貴方は『力』を何故欲する?」

 

力……僕が欲しい力、〈くずのは〉の問にまず浮んだのは自分と同じ〈大地人〉であった。シロエと契約を交わした時に言った「困っている人を助ける」こと、僕が〈冒険者〉と言う〈力〉を欲した理由。この〈力〉はシロエから貰った大事な〈力〉……なら僕が今欲しい力は……次に思い浮んだのは共に戦場をかけた仲間であった……

 

「僕は…仲間と共にいる為、僕の存在が仲間に迷惑をかけると言う事は承知だ。でも!僕は仲間と共にいたい!その為に自分自身と向き合い『覚悟』を背負った!ならその『覚悟』が壊れない為にも〈力〉が欲しい!」

 

真っ直ぐと自分を見詰める〈くずのは〉にルディは揺ぎ無く真っ直ぐ〈くずのは〉に答えた

そして〈くずのは〉は少しの思考のうち、答えをルディに言い伝えた

 

「次第点ね ……既に持っている〈力〉の使い方を言わないだけマシ程度に」

「そ、それじゃ 「条件があるわ」 ……条件?」

 

ルディの顔には笑顔が戻ってそれはもう、尻尾があるなら全力で振り回しているだろう。しかし、〈くずのは〉の言った条件と言う言葉に尻尾が止まる

 

「1つ、何があっても前に進みなさい、例え泥まみれになろうとも2つ、私達は気分屋だから気分が良い時に教えるわ」

「わたし…たち?」

「私の事はどうでもいいの……最後に」

 

〈くずのは〉は、にゃん太から何かを引っ手繰ると、それをルディの目の前に差し出した

 

「この『タネ』を育てなさい、そうね……花と一緒だと尚更良いわ」

「は、はい!」

 

ルディは〈くずのは〉から『タネ』を受け取ると満面の笑みで頷く

 

こうして、〈記録の地平線〉で起きたギルドマスターの知らないお家騒動は夏の終わりと一緒に過ぎて言ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

NEXT  にゃん太(セララ×実り)÷シロエ=綺麗なシロエ

 

 




おまけ

「そうね……五十鈴も犬と一緒に花を育てなさい」
「え!?私もですか?」
「当たり前じゃない……貴女も私に頭を下げた……鍛えてあげましょう」
「そ、そんな!悪いですよ!私は『覚悟』とか無いのに!」
「一人も二人も一緒だわ、それに……貴女の『思い』は感じたからいいわ」
「ミス・五十鈴!一緒に強くなろうではないか!」
「ルディ……うん!お願いします!」

狐の弟子に犬の飼い主が追加されました


おまけ 2

 〈記録の地平線〉本拠地の屋上、そこには数個のプランターが置かれ日当たりが一番良い所には大きな鉢植えが置かれていた

「へぇ~…いきなり花なんて育てるからどうしたのかと思ったけどクー姉の条件なんだ」
「あぁ、そうだとも!ミストレス・クーも分かっている!花を育てる心!すなわち自身の心を育てるという事さ!」
「・・・ミストレスってなんだ?」
「『女主人』『女性支配者』『愛人』って複数意味はあるけど、ルディ的には『女師匠』って感じかな?……私的には師匠の話し方が変わると『女王様』なイメージなんだけどね~」
「あ、それは分かります。私も『女王様』って気がしますね」
「あ~…上手くわかんねぇけど、クー姉はどんなイメージなんだ?」

トウヤの問にミノリと五十鈴は顔を見合わせた後、口を揃えて同じ答えを言ったのであった

「「手のかかるお姉さんかな?」」



補足 彼女の呼名 〈記録の地平線〉編
対象人物 = クー =くずのは

シロエ  = シロエェ  =シロエ
アカツキ = ツッキー  =アカツキ
直継   = パンツ君  =直継
にゃん太 = ご隠居   =猫
ミノリ  = ミノリン  =ミノリ
トウヤ  = トーヤン  =トウヤ、光の子
ルディ  = ルンパッパ =犬
五十鈴  = リンリン  =五十鈴


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『2』んげん、『3』度はモテる!…はず

すみません、遅れました
仕事が忙しくて執筆の時間が取れません
4月まで忙しいかも……


〈ロデリック商会〉

 

〈円卓〉に席を置くアキバ三大生産系ギルドの一つ。アキバの街二位の規模を誇り、構成人員1900名。ギルドマスターは、おっさんなのに〈妖精〉と言われる〈妖精薬師〉ロデリック

〈海洋機構〉に比べて密なギルド構成を目指しており、そのシステムの中心は徒弟制。中世のギルドに近い形態を運営しているわね。

ゲーム時代に「レシピの図書館」を目指して作られたギルドで、〈大災害〉後は研究や開発に重心を置き、研究開発が好きな〈冒険者〉が元から集まっていた集団が更なるマッドへと変貌したギルド

もはや、〈商会〉と言う名を返上して〈研究所〉と呼んだ方がいいだろう

 

……どうやらアキバ三大生産系ギルドは、私に喧嘩を売っているようだ

………私は、ここに『アキバ三大生産系ギルド』にデザインを書く事はしないと宣言しよう

 

 

 

 

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~突撃!隣人のお宅~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

 

 

 

「香辛料、筋肉、妖精(笑)はデスノート!……しかし~」

 

賑う人々の間をすり抜けながらも、彼女は町の中央に聳える白亜の宮殿を見つめた……

 

「…臭うでありんす……聞こえるでありんす!同族が助けを求める心の声がッ!」

 

大通りのど真ん中で奇声をあげた彼女に集まる視線、しかし特に気にした様子もなく人々は通り過ぎていった……

ザントリーフでの包囲戦から一ヶ月。いま、マイハマでは条約締結を祝う祭典が開かれていたのだ

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

類は共を呼ぶッ!つまりカ0リーメッ!?……ソウルメイトッ!

 

 

 

 

マイハマの都、その煌びやかで美しい街並みは、通商条約が締結されたいま、優先的な契約を結ぶ為に奮闘する領主達、新しい工夫を行なう事で大きな利益を得られる可能性が転がっている商業系のギルド、双方のモチベーションが、お祭りの熱気と相まって熾烈な交渉合戦を巻き起こしていた

 

この交渉合戦に参戦する為に各地に存在する領主、ギルドがここぞとばかりにマイハマ.の都へと押し寄せている為、王宮では貴賓室や客室だけではなく、騎士宮までも解放して来賓を迎え入れている有様、そちらでは領主達が大手ギルドとなんとか専属的な契約を締結しようと交渉に四苦八苦していたのだ

ふくれあがった人口を相手にするあらゆる食堂や物売り、飲食店の〈大地人〉達は顔を真っ赤にして働き、冒険者達も寝る間を惜しんでアイテムを作成し、あるいは販売をして回った。誰も彼もがこのお祝いで多少の儲けを得る事が出来、今日の儲けに乾杯をしようとちょっとしたご馳走やら、いつもより良い服やらを求めるために、需要はうなぎ登りであった。

 

宮廷の方では臨時雇いも含めた使用人が忙しく飛び回り、あらゆる準備を完璧に遂行しようとする家令の指示に従っていたが、このような騒ぎの中では当然のことながら、完璧な接待などと云うものはあり得ぬもので、生真面目な担当者は卒倒しそうになっていたが、贅沢好きで我が儘な貴族達も、いまこの祭りの間だけは比較的聞き分けが良くなり、その結果マイハマの宮殿の環境は何とか維持されている

 

そしていままさに、王族から街の人々、出稼ぎや職人、農民に至るまでを巻き込んだ条約締結の祭典、は最高潮を迎えようとしている

マイハマの中心、〈灰姫城〉(キャッスルシンデレラ)の大広間で楽団の奏でる厳かな調べに乗って大舞踏会が開かれようとしているのだ

 

 

「主君は行かないのか?」

 

その広間を見下ろす暗い2階席で一人、黒薔薇茶で喉を湿らせていたシロエは隣に視線をやった。

そこには、ヘンリエッタに装飾されたのだろう、「エターナルアイスの古宮廷」で見た、あの可憐な衣装に身を包んだアカツキが居る

真珠色のドレスは前回と同じものだったが、今日はその上に青紫色のショールを合わせていた。淡い色合いの重なり合うドレスに、アカツキの絹糸のような黒髪はこの上なく映えている

 

「僕は今回はパス。今日の主役はクラスティさんだよ。僕が行っても、なかなか場が持たないし……。疲れるしね」

 

シロエがそう云うと、アカツキは無言で近づいてきて、シロエの隣に座る。

 

この露台には、小さなテーブルと幾つかの椅子があり、人の気配は薄い。本来は、高位の貴族が休憩などに使うものであろうが、今日は冒険者も参加する祭りのような舞踏会であるから、宮廷の使用人もこちらにまで回す手がないのだろう。

 

……そう、人の気配は薄いのだ。そして祭りという事もあり、賑やかで外の音も聞こえづらい

 

「……あ」

「君主?」

 

熱心に見つめているアカツキがシロエを振り返って、二人の視線が絡む……がアカツキの後、ちょうど反対側の露台に二つの物陰が動き騒いでいる事に気づいたのだ

アカツキも目が点になったシロエを不思議がり後を振り返った……

 

「ピィィィィ!」

「静かにしなんし !グリ丸!気づかれんす !」

「ピィピィ!」

「なぜいつなるときも 言う事を聞かな い!あっ!噛むな!ッ!もう帰れなんし!」

「ピィッ!?ピィ~……」

 

高難度クエストをクリアした証であるグリフォンを蹴飛ばし、追い返す……そんな行動をとる者など、口調からも一人しか居ないと判断しシロエは頭を抱えた

 

「……なんでクーさんがいるの?」

「クーは確か……ミノリ達と露店を周っている筈だが……迷子?」

「いや違うでしょ?グリフォンで裏から入ってきたし、何か理由が……」

 

そこまで言ってシロエは言葉を止めた

ふっと彼女を見て思ったのだ。先までは薄暗く分かりづらかったが彼女は普段とは逆の和服、清楚で絵羽模様が入った礼儀に則った服装を着込み、いつもは適当に刺していた〈帰蝶の髪留め〉を上手く使い上品に髪を纏めていたのだ

 

「……理由がどうであれ、彼女も騒ぎを起こす気はない、か」

「……では、何故表から来ないのだ?」

「たぶん……立場かな?僕は〈円卓会議〉を形作るギルドの長、アカツキは護衛。……何かしらの立場がないと門前払いを受けると思ったんじゃないかな?」

 

シロエは知っていた

いつも部屋でグータラして働かずニートな彼女は演技であると……本当は仲間を思いやり裏で自分達が動きやすい様に働いてくれている頼りになる存在だと言う事を……

 

そう、あの時も―「いざ行かん!貴族の林檎を食べに!」―――……

 

彼女の発した言葉によりシロエは名前の通り白くなった

9本の尻尾を陽気に動かしながら大広場へ踊り出る彼女は一体何を考えて此処に来たのか理解してしまったのだ

 

「……君主、言い辛いのだがクーは 「言わないでくれ」……君主」

 

アカツキが可哀想な人を見る目で見てくるが理解してしまったからには仕方ない

……彼女の不法侵入の理由、それは………林檎を食べたいから

イーストンに名立たる貴族が集まる場所で出される料理はどれも一級品、なら林檎も一級品だと考えたのだろう

 

林檎が絡むと彼女は絶対に騒ぎを起こす、

今後共〈大地人〉と友好に付き合っていく為には此処で騒ぎを犯す事はあってはならない、だけど今の自分には止める術がない!

ほとんど考えも無しに腰を浮かせたが……大広場にいるクラリスを見るや否や身体を180度変え―――

 

「踊ろうか?」

「え?」

 

シロエは立ち上がり、びっくりした表情で椅子から見上げてくる小柄な少女に片手を差し出す。折しも、階下の大広間からは盛大な拍手と2曲目の前奏が聞こえ始めた。

 

「……現実放棄か、君主?」

「……此処での対応はクラスティさんの方が上だよ?さぁ踊ろう」

 

薄暗く狭い2階席のバルコニーで、〈記録の地平線〉の二人は、流れてきた円舞曲に合わせてたどたどしいステップを踏み始めたのであった

 

「こちらフォックス!侵入成功♪これより武力介入を開始するッ!……でありんす♪」

 

……シロエに言っておこう

『まいた種 善悪問わず 我が身にかえる 』と……

 

 ◆

 

 

 

その同じ円舞曲を、おびただしい輝きに包まれて漂っているのはレイネシアとクラスティである。

よどみない流れのようなフルート。甘く切ないヴァイオリンにとろけたような陶酔を乗せ、クラスティとレイネシアは舞う。

フロアの中央に踊る二人に、周囲からはため息とも賞賛ともとれる呟きが漏れる。それは確かに非常に見栄えのする、絵画のような光景だった……が、レイネシアの心境は暗いままであった

 

今回のゴブリン襲撃に伴う〈冒険者〉への援助はレイネシアの独断であり個人の判断として片付けられ責任としてアキバの町の大使となり、他の貴族が言う『借り』と言うモノを返していく立場へとなってしまったのだ

 

本来領主達の貴族文化において、淑女というのは象徴的存在であるが、その容貌が政治利用される事はあれど、本人に政治的な才能や実務能力が期待される事はあり得ない事なのだが、今回はそうは言っていられない

レイネシアは将来を考えて嘆息する

 

「そんなにいやですか?」

「そうではありませんが……」

 

嫌ではない、納得も出来る。しかし、些か以上にへこんだ気持ちになってしまう

 

「三食ひる 「お邪魔しんす~!」…… 」

「へ?狐?って、わぁっ!」

 

そんなレイネシアにクラスティが彼女にとって魅力的な言葉を伝えようとしたが―――第三者の手によって遮られてしまった

 

そう、彼女である

 

にゅるりと二人の間に割り込み、引き離すと二人の手を持って外のテラスへと引き連れていったのだ

当然の乱入者に当事者の二人は勿論、二人を眺めていた周囲の貴族達は驚きをあらわにするが、乱入者と目があった瞬間、何事も無かった様に会話やダンスを開始しはじめたのだ

 

主役である二人が大広場から消えたと言うのに最初から存在してはいなかったとばかりに動き出す周囲にレイネシアは別の意味でも驚きを隠せなかった

 

つれらるがままにテラスに到着し、自分達の手を放す乱入者―――

レイネシアはここでやっと、乱入者の姿をマジマジと見る事が出来た

 

狐の耳と尻尾、ウェストランデの貴族が着ている服装に似ているがどこか違う服を身に纏った彼女にレイネシアは最初、ウェストランデの貴族が来たのか?と思ったがクラスティの言葉によって、その疑問は解決される事になる

 

「レイネシア様、かの者は私達が戦場に着くまで現場の指揮をしていた〈冒険者〉です」

「へっ?あ、はい。そうですか……コーウェン公爵家皇女レイネシアと申します、この度はなんとお礼を言っていいことやら…」

 

形式に則り頭を下げるが、いつになっても返って来ない応答の言葉、代わりとはなんだが隣にいるクラスティの押し殺したような笑い声しか聞こえない……

不思議に思い、軽く頭をあげて彼女を薄目に見て見たが……

 

「ん~…ご隠居のアップルパイの方が美味しいでありんすね~」

「へ?」

 

当の彼女はレイネシアなど気にした様子も無く、いつ持ってきたのかわからないアップルパイに嚙り付いていたのだ

思わず奇声を上げてしまったのは仕方が無い事であると言い訳をしてもいいだろう

 

「……クラスティ様、この方は?」

 

完全に頭を上げて、未だ嗤っているクラスティを睨みらがら尋ねた

 

「これは失礼……〈九尾のくずのは〉……いや、今は〈クー〉でしたね?シロエ君のギルド〈記録の地平線〉のメンバーです」

「……〈くー〉様、ですか」

「彼女は〈冒険者〉の間では有名な〈放蕩者の茶会〉で参謀をしていた方です」

「参謀……作戦を考えつくような方には見えないのですが?」

「事実です、なにより町をゴブリンから守った実績があります。ほかにも……なんです?」

 

アップルパイと戯れていた筈の彼女が、いつの間にかクラスティの目の前に移動しており、じっと彼を見つめていたのだ

距離は1m程、仲間なら遠い距離、他人なら近い距離。その絶妙な距離で彼女は何かを訴えかける様にじっとクラスティを見つめているのだ。――――そして次の瞬間……

 

「呻れ眼鏡割りぱーんち」

「ッ!……なんのつもりですか?」

 

棒読な台詞と共にクラスティの顔面を目掛けて放たれた幻の左は、惜しくも顔の横を通り過ぎる結果に終わってしまった

まさか、あの場面で攻撃されるとは思ってもいなかったらしく、クラスティも最初は驚いていたが流石戦闘系ギルドの長、落ち着いて避け物言いたてた。その態度が気に食わなかった様子で先の棒読の台詞とは反対の火をつけた台詞をクラスティに言いかけた

 

「さっきからぬしは、わっちの個人情報をばらすのはよしんさい!罰として飲み物を取ってくるなんし!」

「なぜ私が?」

 

攻撃を仕掛けておきながら傲慢な態度をとる彼女……人としてどうなのかと思う

クラスティも反論するが彼女から送られる眼圧に耐え切れず「わかりました」と言い残し大広場へと歩いていったのだ

 

その光景を目の当たりにしレイネシアは目を見開いた

戦場では雄雄しく振る舞っていた彼が目の前の女性に何も言い返せないで追い遣られてしまっているのだから……

驚き彼女を凝視していたが当然、彼女は振り返り私を見て微笑み―――

 

「どうですか?気が少しは軽くなりましたか?」

「あ……」

 

優しく声を掛けてくれた

それが自分に対する気遣いであるとわかるとスッと肩の荷が下りた様な気がした

 

「はい、おかげさまで」

「そう」

 

今の私は先程までの不機嫌な表情ではなく、彼女みたいに優しく微笑んでいるであろう

この方は自由な〈冒険者〉の中でも特に自由な方だとわかってしまう……なにせ私をあの場から連れ去ってしまうのだから

気を使う必要も堅苦しい言葉を並べる必要も無い、ましてや同姓という事もあり、クラスティと一緒にいるよりも安らげると思った

 

「パーティーに主役がいないのは戴けないわね?本題に入りましょう」

 

微笑んでいた表情が一転、目を細め私を見つめてきた

……この目は知っている、私を見定めているんだ

貴族の中に身を置く者として当たり前の様に送られてきた視線ではあるけど、彼女には、それ以外の事も見られている気がして自然と手に汗が出てきた

 

「今回の援助は貴女が発案らしいわね?……何故、貴女が動いたのかしら?」

「………」

「いくら大貴族コーウェン公爵家のご令嬢とは言え、自身の立場を危なくなる事は考えなかったのかしら?」

「………」

「現に貴女の好きな堕落したニート生活が遠のいてしまっている事態」

「うっ!……クリスティ様から聞かれたのですか?」

「さね、一つ言える事は知り合いに貴女と似ている人を知っているだけ……話がずれたわね……答えなさい、何故貴女が奮起したのか?」

 

私が〈冒険者〉に援助を求めて義勇軍嘆願演説を行った訳……わたしは……

 

「わたしは、愚かな女に過ぎません。あの時はただ『出来心』で動いていたと思われてもしかたりません……ですが、わたしは人として貴族としてコチラ側がお願いする立場なので礼を尽くす事を忘れたくなかったのです」

「礼節、ね……」

「はい……なにより、私はここ、マイハマを守りたかった」

 

城下に広がるは、意気揚々と沸きあう民と冒険者。みなが先の侵略防衛を喜び湧き上がっている

彼女が求めていた答えなのか判らない、けどあの時自分が思っていた事を隠さずに伝えたつもりだ

この答えによって彼女から嫌われても私は後悔しない、そう言いきれる程に……

暫くの沈黙の後、目の前にいる彼女は何処からか扇子を取り出し扇ぎ、そして笑った……

 

「私も聞きたかったわ、貴女の演説」

「……そんな立派なものではありませんよ。……終始、足が震えていましたし」

「いえ、誇りなさい。貴女は私が見てきた貴族で一番美しいわ」

 

〈くずのは〉は扇子を閉じ、レイネシアに近づくと優しく頬をなでた

 

「気にいったわ……その『思い』が折れない限り、私は貴女の傍にいましょう」

「え?」

「永久永遠など言わないわ……でも私が見ている、その限り……」

 

一通り撫でて満足したのか、〈くずのは〉は懐から見慣れぬ笛を取り出し奏でた

すると直ぐにクラスティにも乗せて貰った事があるグリフォンが掛けるけ、彼女の前に降り立つ

いきなりの事態の変化に戸惑うレイネシアを尻目に〈くずのは〉はグリフォンに跨った

 

「え、7え!?どういう意味ですか?」

「鈍いわね……後はそこのクラスティに聞きなさい」

「え?うわぁ!?」

 

レイネシアが振り返った先には両手にグラスを持ったクラスティが佇んでいた

 

「丸投げですか?……私は貴女と言う人がまるで読めません」

「ふん、未熟者ね?……まぁ、私を『読もう』なんて馬鹿らしい事は考えない事ね?」

 

手綱を引きグリフォンに命令を伝え空を翔る

 

「『イースタルの冬バラ』レイネシア=エルアルテ=コーウェン……今宵は貴女の『心』。確かに魅せて貰いました………また会いましょう、レイネシア?」

 

星が輝く空に、彼女は一陣の風となって〈灰姫城〉(キャッスルシンデレラ)を後にしたのであった……

 

「……クラスティ様、あの方は何を?」

「貴女の味方になってくれたようですよ、姫?」

「私の……味方……?」

「自信を持っていいと思いますよ?彼女は誰にでも膝を折る様な方ではありません」

「…………」

 

姫は神秘的に光る月と一緒に狐の姿が見えなくなるまで見つめ……

 

「……ことによっては冒険者に強敵を生んでしまったかもしれもせんがね」

 

狂騎士は姫に聞こえないように、冒険者の危惧を呟くのであった……

 

 

 

 

 

Next お祭りになるとなんだかテンションの上がる奴

 

 




その後~腹黒眼鏡×2

「やぁ、シロエ君」
「クラスティさん、ダンスの方良かったですよ?お疲れ様です」
「お疲れ様、ね……率直に言おう。……彼女の事、丸投げしたね?」
「………なんのことですか?」
「彼女の侵入経路は西口のバルコニー、おしくもシロエ君が出てきた所と同じだ」
「……」
「彼女は招待されてはいない筈……不法侵入かな?」
「…」
「これはギルドだけの問題だけではない。貴族の社交界に侵入したんだ」
[…わ、我々には貴族の称号はないです。先の功労者の彼女がいても対した問題にはならない]
「そうともとれる、しかし……彼女が私たちを広場から連れ去る時に使った技はなんだろうね、シロエ君?」
「ッ!……気軽に使うなって自分から言っていたのに……」
「〈暗殺者〉の技であるかもしれないが……彼女は〈妖術師〉だ。……どういうことなんだろうね?」
「……この事は内密にお願いします」
「貸し…という事でいいかな?」
「……はい」

シロエ……
『まいた種 善悪問わず 我が身にかえる 』


その後~新人パーティー

「.そう言えばクー姉はどこいったんだ?」
「へぇ?師匠なら『あっちから林檎の匂いが~』とか言ってどっか行っちゃったけど?」
「……大丈夫なのかよ、それ」
「く、くーさんも大人の女性ですから大丈夫だと思います……たぶん」
「心配ないさミス・ミノリ。ミストレスは直ぐに現れるさ」
「随分、強気だけど……どうしてなんだルディ兄?」
「ふ……見たまえ!」
「……え」
「……それって」
「……りんご、飴?」
「そうさ!飴細工によって光沢されたこの輝く林檎ッ!このルンデルハウスのミストレスならば匂いで此処がわかるはずさ!」
「……いや、ルディ。無理あるよ」
「そうですね…いくらクーさんでもりんご飴じゃぁ 「うにゃ~!」 きゃッ!」
「おぉ!ミストレス!流石です!このルンデルハウス=コードッ!貴女の為にこの輝く林檎を用意しました!」
「ッ!なんとっ!よくやったでありんす!我が弟子!」
「感謝の極み」
「……あれが私の師匠と同門、か」
「「…五十鈴姉/五十鈴さん」」

五十鈴は後に語る……
星が綺麗であった、と……


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〈海外〉 :海を渡る狐
『2』げろ!悪が忍び『4』ってきた!


一応、時間軸的には

5月ススキノ
6月ハーメルン
7月バカンス
8月下旬弟子関係
9月上旬、レイネシア
9月中下、番外
10月東の狐と西の狐

え~と、KRの口調がwebと本編と違いますね?
この『海を渡る狐』は本編投稿前のwebに上がっていた海外編を元にしている為、KRの口調に誤差があります

全貌が見え次第、口調の修正をしていくのでよろしくお願いします

KRWeb海外版→堅苦しい
KR本編→少し軽い


〈海外サーバー〉

 

〈エルダー・テイル〉は米アタルヴァ社によって提供されているオンラインゲームだが、そのゲーム世界は13の管区によって分割されゲーム世界内のハーフガイア・プロジェクト対応地域にある国のオンラインゲーム会社が「運営」という形で参加している為、世界各国で〈エルダー・テイル〉が愛されているのだ

 

経営方針等、色々とサーバー事に異なるが、基本的に日本にいても海外サーバーに行く事が可能となり〈エルダー・テイル〉が愛される要素の一つになっているのであろう……

 

 

「第12回!ドキ☆エルダー・テイル追加パック!~隣の家の芝は青く見える~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「ネタが…ネタが尽きてきんした……ん?念話でありんすか?おやぁ~?珍しい方からでありんすね~?」

 

リリリリンっと鳴り響く通信回線に眉を顰めながらも通信相手を見て彼女は尻尾を揺らした

 

「あいあい、クーでありんす♪現在、林檎を所望しておりんす!――え?ふざけるな?……わっちはいつも本気で林檎を愛しておりんす!―――ん、全部で2個でありんす―――あい、了解でありんす!書いたどすえ?……ん?まさか…待つでありんす!わっちは行きようありんせん!―――ッ!シロエェェ!助けてー!ちんど――……」

 

 

彼女の助けを呼ぶ叫びは虚しく〈記録の地平線〉に響き渡り、異常を察したシロエが来た時には置手紙と呼出水晶を残し、彼女の存在は〈ヤマト〉から消えていたのであった……

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

拉致監禁は犯罪でありんす!え?わっちが言うな?

 

 

 

荒野を渡る風は、もはや冬のそれを思わせるほどに冷たかった。

四囲の静寂は、光の欠如した闇ではなく、より神秘的で透明な気配に満ちた、夜という色彩を持って宇宙の青がそのままに、色を深く深く落としたような、その広がりは、視線を上にやれば億千の星空へと繋がっている。

高原アオルソイの夜だ。遠くの山々は、星空の欠如と言う形で、その暗い影をわずかに教えている

……そんな闇の中、4人と1匹の影が焚き火の明かりによって揺らいでいた

 

「しかしLV91、か……」

「ん?気になるのかな?けろナルド」

「レオナルド、だ……失礼な奴だ」

「諦めろ。……カナミに説いても時間の無駄だ」

「その様だな」

「あ、ひど~い!」

 

頬を膨らませながら怒っていますよ!っとアピールするカナミを尻目にKRとレオナルド、二人は話を進めていく……

 

「エリアスは古代種だし〈大地人〉だ……理解は出来ないが納得はできる。でも、僕は自分の目で確かめてから判断したいんだ」

「確かに……正確な情報は自分で確かめた方が理解出来るだろう」

「コッペリア達の中で誰かがLV91に至ればわかりマス」

「そうだけど…経験値テーブルも分からない今、暢気にLVが上がるのを待つのは……なんだかな」

「ふむ……」

 

苦虫を潰した様な表情で俯くレオナルドを尻目にKRは馬となった自分の首を振りながら考えた後、長い首を下げカナミに小突き始めた

 

「ちょッ!?KR、セクハラー」

「カナミにやるか。……〈呼出水晶〉は持っているか?」

「へぇ?KR持ってないの?」

「今の俺は〈白澤〉だ。持っている筈ないだろう……俺の前に置け」

「もう~!態度がデカイお馬さんだな!」

 

ぶーたれながらもストレージから赤色の水晶を取り出しKRの前に転がした

 

「念話対象・〈くずのは〉。赤から青へ…念話と接続」

「……な、なにをしているんだ?」

 

転がってきた水晶を器用に足で受け止め、ぶつぶつっと呟いている馬を見れば誰だって何をしようとしているのか常識的に気になる

しかしこのパーティーに常識は通用しないようで、誰も尋ねる様子が伺えなかったのでレオナルドが尋ねるかたちになってしまった

 

「日本にいる知己に連絡を取っている。彼女ならLV91に至っているだろう……ついでだ、エリアスが魔法を使えるが本職がいた方がいいだろう……呼ぶぞ」

「なっ―――」

 

言葉が続かなかった……色々と疑問に思う所はある

なぜ外国サーバーとの連絡がとれるのか?始めて見るあの水晶はなんなのか?どうやって呼ぶのか?・・・…多様な疑問が浮かんでくるのだがレオナルドには「あ~その手があったか~」と感心してKRが行っている行動に疑問を抱かない彼女が不思議でならなかったのだ……

 

レトロな呼び出し音が数秒鳴ったうち、KRの知己と言う相手から応答が返ってきた……

 

『あいあい、クーでありんす♪現在、林檎を所望しておりんす!』

 

レオナルドは頭を抱えた……声からして女性らしいが返事の内容があまりにもアレだ

忘れていたがKRの知己と言う事は、カナミの知己である可能性もあったのだ

カナミの友は不思議な奴………日本で言う『類は友を呼ぶ』

 

「久しいな……だが、ふざけるのも大概にしろ」

『え?ふざけるな?……わっちはいつも本気で林檎を愛しておりんす!』

 

隣で爆笑しているカナミを見て更に頭が痛くなってきた

 

「……まぁいい、ペアの〈呼出水晶〉は手元に何個ある」

『ん、全部で2個でありんす』

「2個、か……どういう風の吹き回しか知らんが、ギルドに所属しているな?……俺はカナミと違って優しい「え~!KRが優しい!?」……用事がある時は〈水晶〉を割れと書いて手紙と一緒に部屋に置いておけ」

『あい、了解でありんす!書いたどすえ?・・・…ん?まさか…待つでありん―――』

「よし、呼ぶぞ。」

 

何か騒いでいる相手の了解を聞く前にKRは馬となった自身の足で〈呼出水晶〉を砕いたッ!パリンッと言う破壊音と共に激しい閃光が高原アオルソイを照らした

 

突然発生した閃光に目が眩む。だが直ぐに目を閉じたのが幸いし徐々に視力が戻っていく……チカチカとまだ星が飛んでいる中、レオナルドは最初に聞いた言葉は―――

 

「―――ん屋に犯されるぅぅぅぅぅぅっぅぅう!!!」

 

気品の欠片もない悲しい叫び声であった……

カナミの笑い声をBGMにレオナルドは深く頭を抱えるのであった……

 

 

 

 

 

 

「わっち……汚されんした……双子ちゃんとマリー、弟子に合わせる顔がありんせん」

「っと言うわけで一緒に行く事になったクーちゃんです!よろしくね~!」

「まて、どういう事だ!」

 

いきなり現れた狐尾族の女性は地面に「の」の字を書き、カナミは満面の笑みを浮かべながら彼女を紹介し、亀が突っ込みをいれる……まさにカオスだ

レオナルドは思う。傍観を貫くエリアスとコッペリアの仲間になりたい……と、しかし彼の常識を覆す事態に傍観など貫けなかったのだ

 

「あの〈呼出水晶〉はトランスポート・ゲートと同じ役割ができるのか!?だとしたらそれで日本に行けば良いだろう!」

 

トランスポート・ゲート、都市と都市を繋ぐ簡単に言えばワープの様な物だが〈大災害〉後、これらは機能を停止させた。現状では再起動の見込みがなくただのオブジュクトに変わってしまったものだが〈呼出水晶〉が携帯式のトランスポート・ゲートなら!と期待を込めてKR.に言葉をぶつけたが……帰ってきた言葉はレオナルド望むモノではなかった……

 

「〈呼出水晶〉は本来通信器具であり、一部を例外を除いて転送は出来ない」

「なっ!?な、ならなんで彼女は!?」

「例外だ。〈くずのは〉単体なら〈呼出水晶〉の組み合わせが合えば〈呼出水晶〉から転送できる」

「なん……だと!?」

「……裏技を使えばいけると思うがな」

 

レオナルドが驚愕する中、最後は皆には聞こえない様に呟いた……KRにも思う事があっての言動だと思われるが……深くは説明する気は無い様で未だに「の」の字を書く駄狐に声を掛ける

 

「二度目だが、久しいな〈くずのは〉。……お前にしたら些かレベルが低いようだが」

 

彼女のステータスを確認し、少し含みを持った言い方で久しぶりにあった知己に話しかける

彼女のステータス画面にはLV90の数字、決して低い訳ではないのだが彼からしてみれば意外だったのであろう

 

 

「……わっちも色々と忙しかったでありんすよ!あと、わっちはクーでありんす!いい加減覚えやがれ!ちんどん屋!」

「……俺はKRだ。貴様こそ覚えろ駄狐」

「ま~ま~、喧嘩はよくないよ?二人とも」

 

フシャー!と尻尾を逆立てて馬に喧嘩を売る狐を諌めるカナミ……はやくも挫けそうになるレオナルドであった、が……一人の少女が前に出る

 

「コッペリアはコッペリアと言いマス。初めまして。よろしくお願いしマス。……心拍数に異常が見られます。治癒をご所望デスか?」

 

スカートをつまみ上げる優雅な礼をとった……空気が読めないとはこの子の事を言うのか?と疑う程、タイミングが可笑しい。しかし、可笑しいのは一人ではなかった

 

「エリアス=ハックブレードだ、よろしく頼む〈冒険者〉殿」

 

次は自分の番とばかりに前に出て礼をとるエリアス。

レオナルドは今日何度目になるかわからない頭痛を感じ頭を抱えた

そんな彼とは反対に毒気が抜かれたのか彼女はKRとの口喧嘩をやめ二人を見定めた後、満面の笑みを零しらがら口を開いた

 

「わっちは、〈冒険者〉のクーでありんす♪……まことカーミンの仲間は個性的な物ばかりでありんすな♪」

 

『物』と言う場所だけ妙に強調しながら話す彼女は、二人と握手を交わした後、未だに頭を抱えるレオナルドにも手を差し伸べ……ないで何処から取り出したのか分からないが赤い果実を食べ始めたのであった

 

「っておい!僕には握手を求めないのか!?」

「♪~♪~♪~」

 

流れ的に自分にも手を伸ばすと思っていたのに、その場にいないかのように振舞う彼女に更なる頭痛がレオナルドを襲った

 

「あはは~、クーちゃんは人見知りって言うか、人間嫌いだからね~♪ドンマイ、けろナルド!」

「人間嫌いって……エリアスとコッペリアはどう説明するんだよ!」

「気にするな……付き合いが長い俺でもアイツと言う人間がわかならい」

「……大丈夫なのか、人として」

 

HPは満タン、MPも満タン。しかしレオナルドのライフゲージはレッドゾーンに突入し、いまだに減り続けている

 

「人としては駄目だが、能力は保証しよう」

 

KRがフォローのつもりで言い放った言葉はかえってレオナルドのライフゲージを削りきったのであった

 

 

 

 

「………KR」

「……なんだ〈くずのは〉」

 

高原アオルソイの夜が更に深まった頃、4つの寝息と共に高原の闇へと静かに消えていった……

フィールドでの野宿。〈大災害〉が起きた事により別段珍しい光景ではなくなったモノだが、いかんせんそこはフィールド、いついかなる時にモンスターとエンカウントするかわからない状態な為、交代制で火の番と見張りを行うことになったのだ

 

最初はいきなり連れ出したのは此方の非だからと言って彼女はシフトには入っていなかったのだが……意外にも彼女が進んで番を付くと名乗り出て、レオナルドの評価を上げる事になったのだが、彼女にとってはKRと二人で話すタイミングが欲しかっただけ……レオナルドの事なんてこれっぽっちも考えてはいない

『知らぬが仏』……いまのレオナルドにはドンピシャな言葉である

 

「私を呼んだ理由は何故かしら?……カナミがいれば万事解決のはずよ?」

 

話したい事は至って簡単……自分を呼んだ訳

召喚時、あえて聞かなかったのは、何かKRに考えがあると読んでのことであった

kRも〈くずのは〉に呼び出される、または話し掛けられるとわかっていた様で〈くずのは〉の質問にすぐ答えた

 

「二つある。一つはパーティーの強化……いくらカナミが馬鹿げていても限界はある。一対一しか脳のない〈武道家〉、HPを削るしか出来ない〈古来種〉、違和感を覚える〈施療神官〉、そして仲間になってから日が短い〈暗殺者〉」

「なるほどね、貴方が私に求めているのは広域性と指揮、ね」

「あぁ……」

 

KRが全てを語る前に何を求めているのか察する事ができるのは……付き合いが長いと言う理由だけでは片付けられないだろう

KRと〈くずのは〉……二人は近くて遠い存在なのかもしれない……

 

「で、二つ目は?」

「……お前の口伝はなんだ」

 

高原アオルソイに一陣の風が吹き荒れた。風は一瞬焚き火の炎を揺らした後、更に激しく炎を燃え上げた

 

「……〈情報書換〉(オーバーリライト)よ……貴方は?」

「……〈真紅の契約〉だ」

「そう……」

 

交わす言葉は少ない、だがお互いが何を伝えたいのか容易に想像出来てしまう……

しかし、決して口には出さない、いや、出してはいけないのだ……

 

ユーレッド大陸アオルソイ

広大な荒れ地と沙漠、視界の果てまで駆け抜けて行く乾いた風が吹く大陸……

 

今この瞬間、世界最大の大陸を横断する旅にイレギュラーが入り込んだ

 

 

 

NEXT 狐と放蕩者と亀と勇者と人形と…

 

 




その頃〈記録の地平線〉では……

「『用事がある時は〈水晶〉を割れ』、ね……家出?」

ギルドマスターに家出と解釈されていたのであった・・・



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『2』くたいは?『5』めん!無理!

投稿時間指定していましたが、リアルの関係上、出来たら投稿します


〈カナミ〉

伝説の集団『放蕩者の茶会』のリーダーだった〈冒険者〉

『放蕩者の茶会』の戦果だけ見れば優れたリーダー、トップだと思われるだろう、しかし実態は180度違い、放蕩者と呼ばれる集団の中で一番、自由奔放に振舞って『茶会』をかき回していただけなのだ

はた迷惑な存在ではあったが、実力は折り紙つき、全世界〈エルダー・テイル〉でも5本の指に入るほどの実力を持った〈盗剣士〉であった

リアルの関係上、一時期〈エルダー・テイル〉を離れていたが、新しくアカウントを作り直して〈武道家〉として再出発を果たした

 

……放蕩者の復活だ。ことはどうであれ、彼女の存在は〈ヤマト〉の国に多大なる影響を与えるだろう

 

 

 

 

 

「番外!Who? So you are name?~出会いは突然襲ってくる!~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

 

 

 

「……こりゃ~、〈茶会〉で『カーミン復活際』でもやるべきでありんすかね~?しかし」

 

彼女は馬に乗って自分の前を走る3人に視線を向けた

 

「亀、厨二、人形……また個性的なメンバーでありんすね~」

「んっ!?…で、でしょ~!面白いよね?だからーあんッ!…声掛けたんだ~」

 

一緒に〈白澤〉に跨ったカナミと優雅に会話を交わすが……どうやら様子が可笑しい

現に彼女から『亀』や『けろナルド』と呼ばれる青年の顔が赤い事が証拠だ……決して気候の性ではない

 

「でもまぁ~…暫く会わない間に随分と感度がよくなりんしたね?」

「いや~、久しぶりだからかな?あはははは」

「……俺の上で乳繰り合うのはやめろ」

 

空は快晴、地は荒野、馬上は絶賛乳繰り合い中、彼らの旅は順調に進んでいたのであった

 

「………」

「レオナルド、慣れろ。俺は慣れた」

「………僕には無理だ」

 

………彼らの旅は順調?に進んでいたのであった

 

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

第一村人発見!!ってなに!?残像だと!?

 

 

 

 

日本サーバー〈ヤマト〉へ行く長い旅路に同行するようになった青年レオナルド

彼はここ数日でパーティーの面々とそれなりの友好関係を築いていたと考えていた

 

自分の横を走るメイド服を着た少女。名前はコッペリア。

最初は何処かずれた人だと思っていたが万事控えめで、好感の持てる少女だと認識を改め交友を深めた

そんな彼女と並走するのはエリアスさん。

その設定が、妖精族と人間の間に生まれた英雄という、何というか非常にコメントしづらいものではあるが、性格自体はさっぱりした、付き合いやすいもので時たま混じる誇大妄想じみた発言に注意さえすれば、旅の道連れとしては、悪くない相手なのだった

 

そしてカナミ

我が儘ではあるが、それを無理強いしようとする陰湿さや、その我が儘で私欲を満たそうという強欲さは欠片も見て取れない。万人向きはいえないが、憎めなく気を使わない性格なので此方としてもありがたい

そのカナミが跨る〈白澤〉……正確には〈幻獣憑依〉を使用したカナミの知己〈召喚術師〉KR

彼は何を考えているか全くわからない人だが、その軽薄ぶりにはいつも助けられている……仲良くなりたいと思う人だ

 

この4人は好感を持て友好を気づけたと思う、しかし……しかし駄狐、貴様は駄目だ

この数日で起こった戦闘は勿論不参加、夜の見張りも初日だけ、こちらが話し掛けても無反応は当たり前、最近やっと話しかけられる様になったと思えば『亀』や『けろナルド』等、失礼なあだ名をからかう為だけに呼ぶ始末……絶対友達いないぞ、彼女

 

しかし、こういう…自分で言うのはなんだが『空気』を相手にしている様な態度をとるのは僕だけ

コッペリアやエリアスさんには少し違和感を覚えるが普通に対応している。以前カナミが「彼女は人間嫌い」と言っていたが、なぜ彼女達だけは受け入れられているのだろうか?

 

今更疑問に思う事ではないが、なにか理由があるのだろうか?単純に僕が嫌いなら解決するのだが、どうも胸の突っ掛りがとれない

 

考えが纏まらず、頭の中がぐにゃりと混ざりそうになった時、隣で走る少女から確認に意味を含めながらも声があがった

 

「前方に、村落とおぼしき影を感知しました」

 

コッペリアが指し示した先には、透き通った玻璃のような青空に、まるで白い糸のような煮炊きの煙が幾筋か上がっているのが見える

 

「そう、あれだ。あれが探していた村、セケックのはずだ」

 

KRの声が周囲の仲間たちにも同時に伝えられ、目的に付いたことを知らせるのであった

 

 

 

 

「随分とまぁ~、埃っぽいお家でありんすな~」

「雑に扱って壊すなよ……警戒されているのだからな」

 

日干し煉瓦や、節くれ立った木材で作られた家々を見て彼女は感想を漏らす。口には出さないが皆、同じことを思っている事であろう

カナミ達一行が訪れたのはセケックの村。何の変哲もない、〈大地人〉の手によって作られた如何にも荒野に立てられた、遊牧の民らしい村である

 

「警戒、か……〈冒険者〉は噂では聞いているって所か?」

「そうだ。余計な争いは起こしたくない、軽率な行動はとる「ねー! ご飯売ってるところある?」…」

 

レオナルドの前方を進んでいたカナミは、明るい声で〈大地人〉の男性に尋ねていた……KRの忠告を受け取る前に……

後を振り返ったレオナルドには長い首を垂れる〈白澤〉が、どうも本体を見た事はないが頭を抱えるKRに見えて仕方がなかった

しかし、垂れていたのは一瞬、次の瞬間には一気に首を上げ辺りを見渡し始めたのだ

 

「どうしたんだKR?」

「……〈くずのは〉は何処に行った」

「〈くずのは〉?……あぁ、クーの事か。彼女ならあそこに…ってあれ?」

 

レオナルドが指差した先には彼女はいなく、あるのは埃っぽい家のみ。暫くの間、頭の中に「迷子」と言う言葉が浮かび顔を青くされていたが、この数日での彼女の行動、更にはコッペリアの言葉を聞き顔を赤くさせた

 

「クーから伝言がありマス。「ちょっと世界の果てを見に行って来んす!」っだソウデス」

「な!?……か、彼女は団体行動って言うモノはできないのか!」

 

青のうち赤、レオナルドは青くさせていた顔を赤く染め上げ怒りをあらわにした

 

「カナミの知己と言うモノだからそれなりに年配の方だとは思っていたが、まさか彼女は子供なのか!?いや、あの傍若無人が子供な筈がない!妙に難しい言葉を並べて逃げていく狐だ!」

「世界の果て……そうか、〈くずのは〉はそのうち戻ってくるだろう。いくぞ」

 

彼女が言っていた言葉を呟くと何かを確信したかのように頷きKRはカナミの後を追う為に足を進めようとして……立ち止まった

 

「っち、馬鹿が。カナミがいないぞ」

「な!?」

 

レオナルドは驚き声を上げようとしたが前方方向、紹介された村長の家よりはるか先で、大きな破壊音と共に土煙が上がった。騒ぎには悲鳴も含まれている。

 

「エリアス」

「ああ、KR殿……カナミめ!また突っ込んで行ったな!?」

 

 KRとエリアスは、騒ぎへ向かって一直線へ駆け込んで行き……。

 

「~~~!あの駄狐共がぁぁぁ!」

 

レオナルドの怒りの叫びは虚しくアオルソイの荒野に響いて消えたのであった

 

 

 

「ん~、けろナルドの声が聞こえんすね~?お!カーミンも来んしたか」

 

彼女は目の前で起こっている怪奇現象を眺めらがら誰にも聴こえることなく呟いた

当然の様に、村から聞こえる悲鳴は彼女の元にも届いており、皆と違う行動をとっていた彼女は逸早く駆けつけ民家の屋根に陣取り林檎を齧りながら傍観に徹していた………助けろよ、駄狐

 

怪奇現象

現代科学では解明できないとされる、奇妙な現象を意味する。元がプログラムの塊である〈エルダー・テイル〉においてプロフラム構成上起きえるバグは「構成ミス」と判断され修正されるモノだが、ゲームが現実になった今、中から修正できない事を考えれば〈大地人〉や〈冒険者〉にとってバグは怪奇現象にあたるであろう

そして現在、そのバグが表立って現れた

 

元は〈大地人〉、職業が〈開拓民〉の少年が職業〈灰斑犬鬼〉という職業は明滅を繰り返しながら狂気な表情を浮かべ暴れまわっているのだ

 

「モンスター構成における対象の誤り、かしら?」

 

〈くずのは〉が考えたのはモンスターの復活に対するバグ

ある特定のプレイヤーが、あるゾーンの獲物を根こそぎ狩りまくってしまい、他のプレイヤーがまったく手出しできないとすれば、これはフラストレーションがたまる事になる。だからゲームの仕様上、モンスターを倒しても、そのモンスターは一定時間後に復活しプレイヤーに新しい獲物を提供する

このシステムを以前シロエが言っていたミラルレイクの賢者の話と照らし合わせ魂素材が亜人間発生の材料と考えれば、あの少年の魂を糧にモンスター〈灰斑犬鬼〉が復活されると考察したのだ

 

しかし、腑に落ちない点があるのか〈くずのは〉の表情は険しいままであった

 

「生魂を糧にする?いえ、違うわね。糧にされているのかしら?」

 

本来、亜人間の材料とされる魂は死魂。死んだ者の魂が使われるが生きた魂が使われている、そして未だに点滅を繰り返すステータスを見て彼がモンスターになる事を抗っている事が見て取れたのだ

 

「……どちらにせよ、たかが〈大地人〉。私が関与する事ではないわね」

 

もう興味は失せたとばかりに再び林檎を齧り始める〈くずのは〉を尻目に現場は次なる展開を迎える

騒ぎを聞きつけた一行が、カナミに助けに入り狂気に歪む少年と戦闘を開始し始めたのだ

 

LVは34、LV90ましてや90以上がいるこのパーティーならば楽に勝てる相手なのだが相手の姿が手を止める理由となり苦戦を虐げられる事になった

何度かの攻防ののち、レオナルドの大仰なかけ声も必殺技の名乗りあげもない言葉と共に剣が振るわれ、少年を地上に貼り付け戦闘の余波からか動けない少年を拘束する事に成功した

 

「コッペリア……」

「大丈夫です。コッペリアは、事態を認識しています」

 

少年の傍らに跪いたコッペリアは、回復呪文を詠唱する。

コッペリアが何を考えて回復しようとしているのかは判らなかったが、彼女が近づいた途端に、少年の様子が変わる。怯えたような、興奮したような痙攣は一層強くなり、声も出せないその喉からはひぅるひぅると絶息にも似た呼吸が漏れ出した。

 

「……七つある鐘、鳴らして褒むべきかな白き翼、打ち鳴らしたる幸い用いて御心に叶え――〈セイクリッド・キュア〉」

「ッ!?……へぇ」

 

屋根の上で横リなり、事を傍観していた〈くずのは〉は驚いたのちに、感心したように言葉を漏らす

 

「魂からの侵食、ね」

 

手に付いた果汁を綺麗に舐めとりながらも〈くずのは〉は怪しげに笑うのであった

 

 

 

 

事は泣きを得た一行は情報収集と先の騒動の原因を訊ねるためにセケック村の村長であるヤグドの家に訪れていた

……一行といってもKRや〈くずのは〉は其処にはいなく、KRに至っては見た目が馬な為、隣接した馬小屋に繋げられてるしだい、しかしそこは割り切って隣から聴こえる声を聞き取り情報収集に励むのであったが……

 

「疫鬼、か……しかし、っち!」

 

激しくKRは苛立っていた

理由は極簡単、馬小屋の中が騒がしいのだ。それはまるで転校生がイケメンで色気立つ女子生徒の雰囲気と酷似しているのだ

 

KRも男、モテることに対して嫌気がある訳ではないが……相手は馬である、嬉しくもなんともない

そんな雰囲気にKRの機嫌は底辺に達していたが、ある者の登場で底辺を貫き通した

 

「モテモテね、KR?子作りでもしたらどうかしら?」

「黙れ女狐。犯すぞ」

「あら、見た目も獣だけど本心も獣ね?」

 

口元を扇子で隠しながらKRに近づき頭を撫でようとするが、寸前の所で〈白澤〉の歯が手に喰らい付こうとしたので大人しく手を引いた

 

「ふふふ、冗談の通じないのは昔からね」

「貴様の冗談は裏がありそうで危険だ」

「それは、どうかしらね?」

 

ブルルっと息を立て上げ威嚇するが如く、睨みつけるKRに又もや口元を歪めながら笑う〈くずのは〉

KRは兎も角、〈くずのは〉に至っては先の少年の様に狂気に染まっていた

 

「付き合いきれん。……どうだった、世界の果ては」

 

〈くずのは〉は用いた隠語『世界の果て』についてKRは訊ねた

 

「収穫無し、カナミ達が今〈大地人〉に聞いている内容と遜色ないわ」

「随分と小さい世界だったな」

「時間が少な過ぎるわ……あの騒動もあったしね」

 

皮肉染みたKRの言葉に特に気にする事無く答える〈くずのは〉

二人にとってこの程度の皮肉は所要範囲なのであろう

 

「疫鬼、か……どう考える」

「バグね、一般的に考えたら」

「……おまえはどう考える」

「魔術の実験」

「……話せ」

 

有無も言わせないKRの言い様に答えるべく〈くずのは〉は〈白澤〉の背を一撫でした後、背に腰を乗せた

 

「あくまで推測……私が思うにアレは魔法の一種、その実験ね」

「魔法……口伝か?」

「さぁ?でも規格外であるわ。他人をモンスターに変える、もしくはモンスターの力を取り入れる魔法の類だと思うわ」

「あの小僧の呪文解除はどう説明する」

「あるソースから魂魄理論と言われるモノを聞いたわ。HPは体、MPは魂もしくは精神とも言うわ……これに基くと説明がいくわ」

「・・・」

「〈大地人〉は魂に己が情報を刻む。魂に刻まれた情報は〈職業〉、ステータスの点滅、姿の変化は無し、この二つから魂に影響を与える魔法だと想像できるわ」

 

〈くずのは〉は〈白澤〉の頭を撫でたが、続きを早く話せと言わんばかりに頭を振った

 

「もう、せっかちね?……あの〈大地人〉は戦闘前、HPMP共に消費は無かったわ、均等が取れた状態ね。でも亀の攻撃により均衡は崩された、肉体が強化された精神に着いていけなくなり自己防衛が働きシャットダウン、気絶する事を肉体は選択したわ」

 

ふぅっと息を吐き、そちらを羨ましそうに見つめている他の馬を嘲笑い、更に言葉を紡ぐ

 

「人間が自分の精神を守る為に働く自己防衛本能が掛けられた魔法に打ち勝った、人間に適用する事が〈大地人〉にも適用されるなんて驚きだわ。でも……」

 

〈白澤〉から飛び下り、〈白澤〉の…KRの目を見て―――

 

「相手も三流ね?未完成の魔法を使い情報を漏らすなんて」

 

―――狂気で歪んだ笑顔を向けた

 

「最後はお前が好きな精神論になっていたが、やけに具体的だな」

「そうかしら?シロエあたりなら思いつく推測よ」

「あいつは甘い所がある。お前みたいに冷酷には考えられないだろう」

「誉めているのかしら?誉めるなら周りのお馬さんにしなさい……今晩は寝れなくなるわよ」

「アレが誉め言葉に聴こえるのなら精神科に行く事をオススメする」

 

因美な笑みを浮かべながらそっと〈白澤〉から離れると扇子を開き、KRに向ける

 

「貴方なら言わなくてもわかると思うけど、他言厳禁よ」

「あぁ、あいつ等には狐の推測など聞かせるつもりはない」

「そう、所詮は狐の推測。……本当は呪い、疫病もしくは新パックの新しいクエストなのかもしれない」

「真相は誰にもわからない、か」

 

小さな馬小屋の中で狐と馬は静かに笑うのであった……

 

 

NEXT  亀?――-ふ、犬以下でありんすね

 




朝の出来事

  
「う~ん!気持ちいい朝だね!」
「……そうか、俺は余り寝れなかったがな」
「ッ!全世界の狐がわっちに今、言えとお告げを伝えておりんす!」
「……想像できるが言ってみろ」
「昨日は、お・た・の・し・――ガッ!~~ッ!痛いでありんす!ちんどん屋がけった~!」
「カナミ、その駄狐を黙らせろ」


狐は星にならなかった


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『2』ご山は『6』ねを意味しんす

ご無沙汰しています。祈願です

仕事が忙しく執筆する時間が取れないです
読者のみなさまには大変申し訳なく思っています

そして内容の少なさに二重の意味で謝罪します
きりが悪いという理由からここで切らせてもらいました


〈レオナルド〉

 

赤いアイマスク、マフラーを靡かせて愛刀で世に住まう悪を討つ!

皆に変人と馬鹿にされようと!その熱い思いは曲げないぜ!

その名も!

ミュータント・ニンジャー・パープル!レオナルド!!!

 

次回!亀を車で引くと爆発する!!!レオナルドは生き残れるか!?

   

 

「番外!Who? So you are name?~出会いは突然襲ってくる!~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

 

「ぬしが好きな特撮アニメみとうに紹介しんしたよ?まぁ~コレを見せるつもりはありんせんが……しかし」

 

アオルソイの高原の夜、どこからか銀鈴を振るような虫の音が聞こえる中、彼女は手鏡を覗き込んだ。そこに写るのは、大きな岩へと腰を掛けける二人組み

 

「哀れな壊れた人形は青年を通しなにを感じるか……答えは亀次第」

 

壊れた人形が見守る中、青年は可能性の力を得る為に何度か繰り返して〈デッドリー・ダンス〉の動きをなぞり始め自分の身体の動きを確認するのであった

 

「努力する男を見守る女……どこのラブコメでありんすか!」

「うるさい黙れ駄狐、寝れん」

「うぅぅ……ちんどん屋なんか馬に食べられちゃえ」

 

鏡を懐にしまうと無駄な繁殖を防ぐ為に雄雌で仕切られていた棒を外してから彼女は馬小屋を去っていったのであった

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

人・エルフ・人形・亀・馬・狐――今のわっち達、マジでハーメルン!?

 

 

 

カナミ達がこの村に滞在して二日が経過した。初日はKRが彼女を蹴り飛ばしたりKRがレオナルドに〈大地人〉と〈ヤマト〉について講義したぐらいで特に変化もなくその二日間の間、カナミ達一行はおおむね村人の歓迎されて過ごしたと言えるだろう

エリアスは村人の要望を聞き、幾つかの茂みを切り払い開墾を助けた。コッペリアは請われるままに怪我人の手当や祝福を行ない、カナミは、持ち前の愛嬌で村の人々から大きな人気を集めた。KRは雌馬の半数から熱い眼差しを注がれ、そのことを彼女にからかわれる

しかし、意外なことに、最も子供に懐かれたのはレオナルド

彼の性格や容姿も相まってキャラバンを待つ日中の間、その時間を子供達から隠れて過ごさなければならなかったのだ

 

そして村に滞在を初めて四日目の朝、待ちに待った(特にレオナルド)旅商人はやってきた

旅商人は、世話役ヤグドから訊いていたよりはるかに小さな所帯であり、荷を乗せた馬を引く中年の〈大地人〉と、傷だらけの皮鎧を着けた女性。毛皮のついたマントをまとったその女性は、徒歩にもかかわらず、馬より多くの荷を背負って長い旅をくぐり抜けてきた為か、その表情は疲労の色が濃く出ていたがその容姿から彼女が〈冒険者〉であることを確認することができた

 

「あなたは、〈冒険者〉ですか」

「そうだ。レオナルドという」

 

女性は、当初は明らかに警戒していたが村に到着し初めに接触したレオナルドに村長ヤグドへの取り次ぎを依頼するが、レオナルドは、街の護衛として雇われた〈冒険者〉でもないのですんなりと二人をヤグドの家へと案内しヤグドはそんな二人の旅人を温かく迎え入れ、ヤグドの家の広間にてレオナルドに話しかけた〈冒険者〉春翠は今までの経緯を説明することとなり、案内を請け負ったレオナルド含めカナミ達も話しに加わるのであった

 

 

 

 

 

「突如現れた灰斑犬鬼の大群、か」

「なにか裏があるとおもうのかしらKR?」

「あぁ…おまえも感づいているんだろ?」

 

初日に宛がわれた村長の馬小屋でKRと〈くずのは〉は二人で今回の騒動について考えを纏めていた

以前のようにカナミ達には知られて欲しくない内容な為、〈くずのは〉の口伝を用いるほど徹底していた

 

「えぇ、今回の件と四日前に起きた騒動は繋がっているわ」

「あぁ、やり方が酷似している。周りの被害を考えず自身の利だけ考えた馬鹿げた行いだ。……しかし解せないことがある」

「……どこから材料を入手してきた、よね?」

 

〈くずのは〉の答えにKRは長い首を縦に振り肯定を示した

 

「憶測でしかないけど、入手したのは私がここに来た時。もしくは以前から溜め込んでいたものを動かしたのかしら?」

「後者であろう……俺はカナミ達と合流する前からアオルソイを回っていたが八十、村の半数が消失する件など見られなかった」

「そう……なら余計にカナミには教えられないわね」

 

一般的に〈大地人〉が〈灰斑犬鬼〉になる現象を〈疫鬼〉と呼び〈大地人〉は疫病やウィルス、酷く言えば呪。〈冒険者〉から見たらバグや故障と思うのが当たり前となった〈疫鬼〉だがKRと〈くずのは〉は違った―――〈疫鬼を〉を人災、しかも本来の意味である人の不注意から生まれる災害ではなく人によって生み出された災と考えているのだ

 

「カナミは勿論、レオナルドにも伝えない方がいい」

「あら?随分とあの亀を買っているのね。数日前貴方自ら諭したと言うのに…今も〈大地人〉を理解しようとしない愚亀だと言うのに」

「カナミが仲間に入れた奴だ。遅かれ速かれ面白くなるだろう。……俺から言わせればオマエの方が〈大地人〉を理解していないと思うが?」

「私は理解しているからこそ〈大地人〉を貶し目が止まる価値などない愚民として扱うわ。……成長もしないただ世界の歯車の一部でしかない物などに興味なんて無いわ」

 

唾を返し汚物を見るような目で畑を耕す村人を眺めてから、再びKRと向き合った

 

「でも私は知っているわ。〈大地人〉でも成長できる事を―――世界と言う殻を破り運命に逆らう哀れな歯車を」

 

慈愛にも哀情とも取れる表情をKRに向けながらも〈くずのは〉は軽く微笑んだ。脳裏に浮かぶのは突然消失した私に文句を言いながらも置き土産として残してきた課題を〈吟遊詩人〉の少女とこなしているであろう哀れな愚弟子を―――

 

「それに人の成長には他人は必須。それが例え殻から出ない愚民であったとてしても」

 

ゆっくりとKRの横を通り過ぎて広間へと続く壁を優しく撫でた。壁の向こうでは死んでいった〈大地人〉を思い悲しむ女性の声が微かに聞こえる

 

「そういった意味では理解しているわよ?」

 

再度KRに振り返った〈くずのは〉の顔は慈愛でも哀情でもない、歪んだ笑みが貼り付き声を殺して笑う

 

「……本当に恐ろしいのはお前のほうかも知れないな」

 

KRの零した言葉は更に〈くずのは〉の歪んだ笑みを吊り上げるのであった

 

 

NEXT  砂漠は昼は暑く夜は寒い!解せぬ!

 





「と言う訳で旅に加わった春翠さんとジュウハさんです!よろしくね~」
「色々と端折り過ぎだカナミ……聞いているとは思うがKRだ。今はこんなナリだが〈冒険者〉だ」
「はい、よろしクッ!…お願いします。それでんッ!…先程から私の胸を揉んでいる彼女は?」
「クーちゃんだよ?よかったね!クーちゃんは気に入った人の胸を揉むんだよ」
「クーでありんす、よろしくお願いしんす♪」
「……出来ればもう少し優しくお願いします」
「♪~♪~」

彼女が春翠を堪能している間、レオナルドとジュウハは鼻を押さえてチラチラと二人の行動を盗み見ているのであった



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『2』ざけ過ぎ?い『7』!本能でありんす!

R-15?

反省はしていますが後悔はしない!

とりあえず4000字以上いきましたので投稿
番外は後、1~2話で終わる予定です
なので長くなります、話も投稿時間も・・・・

あと春翠はチュンルゥと読むそうです
読み難かったらルビを振る予定です


〈エリアス=ハックブレード〉

 

栗色の髪と栗色の瞳を持ち、藍色のアクセントラインが入った、純白の装甲コートを纏う。武器は巨大な両手剣クリスタルストリーム。

ヒーロー然として登場し惨めにも〈冒険者〉に助けられるシーンを〈エルダー・テイル〉の公式デモ動画として流されている〈赤枝の騎士〉に所属する〈古来種〉

 

ここまでは、〈大災害〉前の彼の情報だが異変後、彼の立ち位置は一変した

13ある騎士団の一つ〈イズモ騎士団〉が消滅し、他の騎士団も消滅したと言う説が〈大地人〉に広がる中、〈赤枝の騎士団〉の一人であるエリアスは何故か消滅せずに存在している

……私の考察ではイレギュラーな存在となったエリアスは〈エルダー・テイル〉における審理に触れたのではないか?と考えた

 

それは形は違うが〈大地人〉から別の〈なにか〉に進化・変貌したのであろう

今後、彼はこの〈エルダー・テイル〉において何を感じ思うのか……私は期待している

 

 

 

「番外!Who? So you are name?~出会いは突然襲ってくる!~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

「〈大地人〉とは違う存在……〈古来種〉と言う事もありんしょうがエリエリもルンパッパと同じく一歩踏み出した存在でありんすか~。しかし……」

 

ポン!っと持っていた本をしまった彼女は先行し馬を走らせる春翠の身体に視線を送った

足並みを揃えながら進む馬の上で彼女の体が上下にリズム良く揺れていた

 

「―――と言う事だが頼めるか?〈くずのは〉」

「うにゃ?そうでありんすな!タップン♪タップン♪まことに見事な双子山でありんす!」

「……貴様は本当に女か?オヤジ臭い」

「今宵は御体を頂きんす(キラ」

「………黙れ百合狐、落とす」

「っ!?うやぁぁあぁ!」

「……あの二人はいつもああなのですか?」

「え?うん!仲良いよね!」

 

カナミと春翠が見守る中、彼女は望まないロデオマシーンを体験をするのであった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

花の名前は隠語によく使われんす!

 

 

当初、〈大地人〉であるジュウハとの遠征は遅れが生ずると思われていたが思いの外、順調であった。もとより〈冒険者〉より体力が劣る〈大地人〉ジュウハであったが、風貌が物語る通り、がっちりした体格の彼は、〈大地人〉の中でも比較的タフだと言え、事によったらそこらの兵士並みの体力はあるかもしれない。何よりも彼は、この地方に明るかった事がデメリットを補う程のメリットを生み出していた

 

当然のようにこの荒野は未探索の地域が広がっている。いくら〈ハーフガイア・プロジェクト〉で半分のサイズになったとはいえ、天山山脈、タクラマカン砂漠、パミール高原など、中国サーバーは現実世界でも開発が終わったとはとても言えない広大な地域を抱えており、その管理区域は、巨大国家、中国に加えて、ウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国をも含んでいるのだ

 その全体図に対して、一つ一つのゾーンを事細かな知識として持っているような人間は、〈冒険者〉であろうが〈大地人〉であろうが存在しない、だが通商路や村々とオアシスをつなぐ細い経路を知悉している人間は存在し、その少数の一人が、この地方出身の春翠であり、〈大地人〉商人のジュウハであった。

 

「一緒に来て良かったね!」

 

村から旅立った夜、カナミが新しい仲間に宣言した言葉であるがこの一言に全てが込められていた。口には言わないがレオナルドやエリアス、そして彼女までもがそう思っていたのだ

 

 

 

 たき火の炎はパチパチと音を立てた。

 家畜の糞を乾かした固形燃料と、少量の焚き付けで起こした炎

 ゆらゆらと揺れるオレンジの明かりが、岩陰に身を寄せ合った一行を照らしている。

 

「ふひゃーい! 今日、あたしが一番奥っ!」

「ずるいでありんす!わっちが奥でありんしょう!」

 

カナミと彼女は早々にレオナルドが設営した天幕の一番奥に潜り込んだ。この天幕はジュウハが持っていたもので、旅の必須品らしい。

 

……彼女は勿論だが、カナミも設営したレオナルドに労う言葉を普通、掛けるべきだろう

 

「KRはまたいいの?」

「構わない。自分は諸君らよりも防寒性能が良いのだろう。この形態は、特にそうであるらしい」

 

KRはその馬に似た姿を、早くも天幕の入り口に移動させている。

高性能のフェルト天幕だとは言え、夜になると高原の風が忍び込むことはある。入り口付近は寒く、それを嫌ったカナミ達は特等席へと逃げ込んだわけだ。KRはそれを察して、入り口部分を引き受けてくれるらしい。

 

「ぱふぱふさせるでありんす~!」

「クーの要望は受諾できまセン」

 

だが、KRの気遣いなど最初から考えていない彼女はKRを踏みつけながらコッペリアの腕を取り天幕の中へと誘い込んだ。そしてコッペリアが拒否したのにかかわらず、徐にその双子山を後から抱き付く様にして蹂躙し始めたのであった

 

「……クー、コッペリアにはクーの行動が理解できまセン。なんの意味があるのでしょウカ?」

「意味などありんせん!そこに乳があるから揉むんでありんす!」

 

顔色声色を変えずに淡々と質問するコッペリアに対し彼女は声を弾ませながら蹂躙し続けた。

 

「あ!楽しそうな事してる~!私もまぜて!」

 

そしてKRとの会話も終わったのかカナミも参戦しクーの双子山を後から蹂躙し始めたのであった

 

天幕内はまさにカオス!いくら女子同士の触れ合いだったとしても天幕内は百合の花が咲き誇っていた。揉まれる相手がいないのでここぞとばかりに彼女の山を蹂躙する放蕩者、揉むのも揉まれるのも楽しんで笑い声をあげる彼女、時折「ん」とか「あ」と声をこぼす人形、我関せずと耳を塞ぎ目を瞑る白馬。

声は外にも漏れている筈なのに誰一人として天幕の中へ注意しに来る者はいなかった。いやいけないのだ!健全な青年であるレオナルドには今行われている触れ合いは刺激が強く、ジュウハも見に行きたいが後が恐ろしいので行けに行けず、エリアスに関しては仲が良い事は素晴らしいとでも考えているのか女性陣の声をBGMにお茶を啜っているのだ

 

このままでは男性陣は休む事が出来ない!そう思われたと時、天幕の入口から冷たい風が差し込んでした

 

「……仲が良い事はいいですが、そろそろ休みませんか?それに大声はモンスターを呼び寄せてしまいますよ?」

 

風と一緒に入ってきたのは春翠であった。多分、外の男性陣に止めて来る様に言われたのか若干、ため息を付ながらの入場である

 

「ごめんね~春翠!ちょっと悪ふざけも過ぎたかな?」

「うにゃにゃにゃにゃぁ~」

「ン……クー、揉むのを中止してくだサイ」

カナミも流石にやり過ぎたと思い揉む手を止めて(一匹止めていないが)春翠に謝りながらも、春翠が手に抱えた毛布に視線が移った

 

「春翠も休むの?」

「はい、休めるうちに休みたいので」

「けろナルド達は?」

「少し外で休むと言っていました」

「え?休むのなら中で休めばいいのに」

 

自分の分と彼女達の分の毛布を取り出しながらも可笑しいね!っと笑うカナミに対し春翠は―――

 

「………原因はあなた達なのですけどね」

 

とこぼすのであった。

結局、触れ合いはそこまでとなり、男性陣は休憩も兼ねて先に見張り番をする事になり、女性陣は先に中で休む事になったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、触れ合いが終わったのはカナミだけであり、一匹の狐は息を潜め触れ合う機会を窺っているに過ぎなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

夜も深まり、先程とはうって変わって天幕は寝息しか聴こえないほどの静寂に包まれ敵の心配もなく穏やかであったが、春翠は妙な寝暑さから目が覚めてしまった。いくら中国大陸だとは言え夜は冷えると言うのに寝暑さから、だ

 

天幕内は薄暗く目が慣れるのに時間が掛かったが、暫くすると慣れてゆき周囲を確認できる様になった。……そして目の前に飛び込んできたの自分に覆い被さりながら目を閉じ寝息をかく仲間の狐

 

「くーさん、起きてくッ!」

 

寝惚けているのかと思い、声を掛けようとしたが首筋をぺロリと舐められ声が引っ込んでしまった

ぴちゃぴちゃと首を舐められる音だけが聞こえ、舐められてゆく度に手に妙な汗が出てくるがわかるが一分もしない内に首元から出でる音は止まった

 

流石にこのままでは重くて休めないので、横に寝かし直す為に自分の首に顔を埋めている彼女の頭を手で優しく退けようとして……手が止まった

 

目があったのだ

 

寝ていると思っていた彼女と目があったのだ

言葉を失うとはこういう事なのかと実感出来たが、彼女がニンマリと笑ったのを見て失った言葉を取り戻す事が出来たが―――

 

「クーさん!なにッ!?」

 

再び首を舐められ言葉が引っ込んでしまった。しかも今度は先程とは違いだんだんと耳元に近づいていく様に丁寧に舐めてきたのだ。ザラついた舌の性でゾクゾクと湧き上がる『何か』を我慢して声を殺す、同じ天幕で休む彼女達もそうだが外で見張りをしている男性陣にも気付かれまいと……そして耳まで後少しと言うところで舌が離れーー

 

「……食べちゃっていいかしら?」

 

耳元で呟かれた言葉が春翠を酔わせた

 

 

 

 

 

 

 

「……あれがお前の口伝か?」

 

ぼんやりと光輝く月夜は天幕から離れた一角の岩を照らした

月夜を浴びるのは岩の上を陣取る〈くずのは〉と一匹の白馬

〈くずのは〉は白馬の問に懐から取り出した果実酒の栓を空けながら答える

 

「半分正解ね。直接触れなくても情報を確認する事は出来るわ」

「遠隔操作も出来るのか……それで結果はどうだ?」

 

白馬の前に置かれた底が深い皿に酒を注ぎ、自身のグラスにも酒を注ぐと一気に中身を煽った

 

「ふぅ……問題ないわ、ステータスにも魂の方にも黒い物はなかったわ……強いてあげるのならあのチャイニーズと〈大地人〉に長旅の疲れが精神的にきてた位ね」

「そうか……ならばこのPTに感染しているものはいないな」

「ええ、そうね。…でも気に食わないわ、私『疫鬼』は魔法実験による副産物だと言った筈よね?」

 

足を組み返し睨みつけながら空になったグラスをKRに向けた

 

「オマエの事は信頼している。だが、可能性が一つでもある限り確認を取りたくなるのは人の禎だ」

「ふん…まぁいいでしょう。それより一人月見酒なんて面白くないわ、付き合いなさいKR」

「俺はナズナ程強くはない、程ほどに頼む」

「嫌よ、私の言葉を信じないお馬さんには少々キツイお酒を飲んでもらうわ」

「………」

 

長い首を落とすKRを横目に〈くずのは〉は懐から果実酒ではない小麦色のしたアルコールを取り出しKRの飲み皿にたっぷりと捧ぐのであった

 

 

 

NEXT お馬さんハーレム!





◆ 飲み会での話し

「しかし、〈くずのは〉。アレはどういう意味だ?」
「…アレ?」
「ステータスの確認とは言え、直接人体に触れる、舐めると言う行動は必要なのか?現に春翠は思考がついて行けずに気絶したぞ」
「必要性はないわね、男共は目視だけで確認し」
「ならば何故した」
「趣味よ」
「………」


◆ 次の日の朝

「…………」
「ど~したの、KR?眉間に皺なんて寄せて」
「……昨夜、〈くずのは〉と呑んだ。」
「くーちゃん、飲兵衛だからね~!でもくーちゃん――「くーさん昨日の夜、私を襲いませんでしたか?」「うにゃ?わっちが襲うのは林檎様だけでありんすよ?はっ!?まさか!わっち食われる~!助けて~!」「え!?そ、そ、そんな事しませんよ!って!ジュウハさんなんですか!その目は!」……二日酔いしないよね~、なんでだろ?」
「知らん……ッ!頭に響く、カナミあの駄狐を黙らしてこい」


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『2』ふふ…『8』切れんばかりのprpr

連続投稿です。案の定、差ほど進んでいません
内容もたいして変化なし。ある画像を見て思いついた話です

原作まんまのところが多いので原作を知っている方は飛ばしてくれても大丈夫だと思います
どうにか原作部分を自分らしくかえたいものですね

なので次回は大きくくずのはをかからせます

ついでにその画像は『ログホライズン』『コッペリア』で検索すれば出てくると思います


〈コッペリア〉

 

コッペリア、あぁ、コッペリア・・・

哀れな翁に作られし人形コッペリア・・・

 

貴女は何故コッペリア?翁に作られし彷徨うばかりのコッペリア

光を見つけてもコッペリア、仲間が出来てもコッペリア・・・

 

されどもコッペリア?

コッペリアがコッペリアを否定したらコッペリアではないもの変われるわ

 

あぁ、哀れなコッペリア・・・

貴女の未来に祝福を・・・

 

 

「番外!Who? So you are name?~出会いは突然襲ってくる!~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「……ぬしは半端もんでありんす、染まり掛けているのに気付かない半端もん。変わる事を恐れないで欲しいでありんすな~?しかし…」

 

朧けにコッペリアに向けていた視線を春翠に向けた。彼女は目を大きく見開きながら「ぜん・・めつ?」と呟き、仲間からの念話に頷いている

 

「……どうもキナ臭くなってきんしたねぇ~」

 

日が沈み辺りがオレンジ色に染まる中、彼女は不敵に笑いをこぼすのであった

 

 

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

落ち着け?…あぁ、餅つけでありんすな!

 

 

 

 

「全滅ッ!?」

 

村を出てから二日後の夕暮れ、春翠が所属する〈楽浪狼騎兵〉の仲間から念話が届き〈列柱遺跡トーンズグレイブ〉での〈灰斑犬鬼〉討伐レイドの結果が春翠の口から伝えられた

 

結果は、レオナルドが口に出した意味通り、後方支援要員として残していた予備兵力を除き前線部隊は全滅、事実上の敗戦を意味していた。だが、カナミ達に事の詳細を伝える春翠の声は暗かったが、絶望的ではなかった。

 

もとより〈冒険者〉に死がないことは確認されている。 春翠の話によれば、〈楽浪狼騎兵〉も、神殿が存在する所を根拠に現在の本拠地を定めたほどだ。全滅はしたものの、倒れて現地での蘇生が出来なかったメンバーは神殿に戻り蘇生していたとのこと。事が生死に関わる様な戦闘なら危機感を覚えるが、不死の〈冒険者〉にとって全滅とは言え、致命的な事態とは云えない。

 

それに、もともとゲームである〈エルダー・テイル〉では戦闘行為にも様々な規模があり今回の〈灰斑犬鬼〉討伐レイドは十分にやり遂げたプレイヤーがPTを組み挑む大規模戦闘。すなわち二十四人のメンバーを集めて遊ぶフルレイド用コンテンツや、九十六人のメンバーを集めて遊ぶレギオンレイド用のコンテンツに入る

こういった大人数用のコンテンツは、〈エルダー・テイル〉においてはハイエンドな遊び方だと認識され当然のように難易度は高く、たった一つのダンジョンを攻略するだけで、半年近く時間が掛かる場合も珍しくはない。

 

今回は、相手が〈灰斑犬鬼〉だったので、彼我のレベル差から、誰しもが早期の攻略を予想していた。しかし、大規模戦闘であると言うことを考えれば、全滅というのは消して珍しいことではない。精鋭で構成された一流ギルドでも、高難易度の大規模戦闘を初見で突破することは難しいのだ。

春翠の表情に、驚きや落胆があっても絶望している気配はないのは、そのせいだろう。

 

カナミ達もそれを十分に理解しているが為、深くは考えず冷静に春翠の話を聞く事ができた

しかし、気になるのは――。

 

「やはり、ステータスの二重表記現象が確認されたそうです」

「そうか」

 

誰が答えた訳ではないが、春翠の一言が重くパーティーに圧し掛かった

 

「やっぱりねぇ……」

「あの現象は、広がっているんだな」

 

肩をすくめるカナミや表情を変えないコッペリア、林檎と戯れる彼女、難しい顔のエリアスも含めて、レオナルド達一行は、〈楽浪狼騎兵〉本部に知り合いは居ない。

そう言ったでは現地の戦闘光景は春翠からの報告から想像するしかなかった

 

そんな中、まだ顔を伏せ落胆していた春翠の目の前に赤い球体が差し出された

驚き、差し出された先を見てみると、この二日間では見たことのない真剣な面持ちをした狐が目の前にいた

 

「……二重表示はどのくらいの規模でいんしたか?」

「え、えっと…数も多くて、後半戦ではほとんど全ての敵に確認されたそうです」

 

昨晩の事もあり、彼女に苦手意識が生まれつつある春翠は彼女の質問に淀みながら答えつつ伏せていた顔を上げジリジリと後ろへと下っていった。そんな春翠の行動など気にも止めず彼女は手を顎に当て、少し考える仕草をした後ニンマリと春翠に笑みを浮かべた

 

彼女の笑みに対し「ひぃ!?」と声を上げた春翠は昨晩の事を考えると悪くないと思う

 

「感謝しんす!これはお礼、これ食べて元気になりんしゃい?」

 

すっと差し出された手の上にあるのは先程、視線を埋めた赤い球体『林檎』

春翠は訳も分からないが、とりあえず林檎を受け取った。 

この地域では珍しい果物であり、荒野が広がるアオルソイにおいて瑞々しくテカリ、光を反射する林檎は一種の宝の様に見えた

 

林檎から視線を外し宝をくれた彼女にお礼を言おうとしたが、彼女の姿は既になく驚きのあまり大きく口を開けるレオナルドとニコニコと笑みを浮かべるカナミが視線に入った

 

「ふふふ、それはね?くーちゃんなりの心遣りだよ?」

「……え?」

「大規模レイドでは全滅ってよくあるけど、やっぱショックだもんね!」

「っ……」

 

春翠も気持ちの整理は出来ていたつもりであったが、心のどこかでは自分の所属するギルドが全滅したと言う結果に動揺していたのであろう

手に持った林檎から微かに香る甘い臭いが春翠の胸に広がりーーー

 

「ふふ、甘いですね?」

 

不器用な彼女なりの心遣りも胸いっぱいに広がったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女が報告の場からいなくなった後、春翠の話を聞く限りレオナルド達に出来ることは、何もなく、ここはひとまず東を目指して、可能であるならば〈楽浪狼騎兵〉の本拠地で更なる情報収集をするのが無難と言う結論に至った

 

 

そんなカナミやエリアスにとって釈然としない結論に至った夜―――レオナルドは時間となったので目を覚まし寝袋を抜け出した。

レオナルド達は、この旅の間、不寝番、見張り番を立てている。〈冒険者〉だけの一行ではない。〈大地人〉商人ジュウハも同行する旅だ。それなりの警戒はしながら進むべきだという判断があったからだ。

 

不寝番は交代制なのだが、その交代制にひそかなサボタージュを続ける仲間と顕なサボタージュをする仲間がいた。それはコッペリアと駄狐だ

 

レオナルドはあくびをしながら、その隣に座る。

乾ききって脆くなった砂岩質の岩の上に、コッペリアは、あの村で買ったクッションをおいて座っている。紺色のメイド服の裾下から、きらびやかな刺繍をした刺し子が覗いているのだ。

 

「おはようございまス。治癒をご所望ですか?」

「まだ夜中だけどな。……くーはどうした?」

「クーはコッペリアとの不寝番が始まる2時間45分前からいません。クーはこの後、1時間15分、不寝番の予定ですがコッペリアがこのまま警戒続行の予定です」

「ほぼ最初からじゃないか」

 

旅の初めに決めた不寝番をサボタージュする彼女に仲間同士の公平と言う問題が最初あがっていたが、毎度の様に逃げ続ける彼女に仲間達は諦めの心持に至っていた

 

………働けよ駄狐

 

とはいえ、本来2人で不寝番をする予定なのだがクーが来るだろうと儚い希望を持って一人待っているのはなんだか悲しくなり、レオナルドはむっつりと押し黙ったまま、「すまないが一緒に頼む」とだけ呟いた。

 

 

 

周囲は闇に沈んでいる。今夜はたき火もしていないためだ。

たき火は動物を避けるのには役立つが、知性のあるモンスターを引き寄せてしまう可能性も低くはない。また、明かりが突然消えた場合の視力低下などを考えると、メリットばかりとも云えないのだ。

 

しかし、明かりがない訳ではない。澄み切ったアオルソイの空に浮かぶ月は、そのほの白い輝きを大地に投げかけていた。隣に座るコッペリアの横顔を窺うのには、十分すぎるほどの。そんなコッペリアの横顔はとても―――

 

「きれ「レオにゃるどは、ペロペロを所望しんす!」 黙れ!駄狐!」

 

みんなが寝ているとかモンスターが寄って来るとか関係無しにレオナルドは声が聞こえた背後に向かって叫んだ

案の定、レオナルドの台詞に被せてきた相手は腹が立つほど優雅に9本の尻尾を揺らしながらピンクのパジャマに林檎のクッションを抱いてニヤニヤと笑っていた

 

「恐いでありんすね~?折角わっちが来んしたと言うのに」

「来るのが遅い!あと何時そんな服用意した!そのクッションもだ!それと僕はそんな事思っていない!」

 

怒涛の勢いで彼女を罵声し続けたせいで、息は荒くなり肩で呼吸するほどレオナルドは言い聞かせた。だが、悲しい事に彼女はレオナルドの事など最初からいなかったかの様に岩の上に腰を起こしたのであった

 

崩れ落ちそうになる精神を気合で奮い立たせて更に罵声を浴びせようとしたが、優しく肩を叩かれた事に気付き、肩を叩いた相手・・・コッペリアに振り返った

 

いつのも表情と変わりないが、彼女の雰囲気がレオナルドに何故?と語り掛けているように感じた。そして普段と変わりない口調で舌を出しながら―――

 

「ペロペロをご所望デスか?」

 

レオナルドは膝から崩れ落ちたのであった……

 

 

 

 

 

彼女達(一人は悪意一人は純粋)に質問されてから短くはない時間が過ぎた。

 

レオナルドの視線の先で、月影が、黒々と、地を這うようにわずかに動いてゆく。

それは不思議な気分だった。影が動く。それだけのことに、不思議な感動を覚えている自分にレオナルドは気が付いた。

 

現実世界風に考えれば、それは月が動く――つまりは地球の自転のせいである。ゲーム世界的に考えれば、天空のテクスチャにおかれた光源が移動している、と言うことになるだろうか。

 

いずれにせよ、荒れた大地に落ちる月影が移動する現象は、可視化された『時の流れ』だ。

 

レオナルドは時間が経つという当たり前に不思議さを感じた。

時間の流れの中で、自分という個人が存在する事への、言葉にはならない静かな好奇心。 すぐにそれは、傍らのコッペリアへとうつり、このアオルソイの夜空の下で、自分がその少女と一緒に居ることの不思議を思った。

〈大災害〉がなければ、可愛らしい少女と月の光を浴びるなんてことは起こらなかっただろう。だがしかし、大災害が起こったからだとしても、影が移ろうのを見つめるような、穏やかな時間を、なんの会話もなく過ごせる自分を、レオナルドはやはり不思議に思うのだった。

 

「クー、このケープを貸与します」

 

気が付くと、コッペリアが、キルトのような布地を僕に渡し、もう一つのケープを隣で不寝番なのに寝ている駄狐に掛けてあげていた。林檎と朝顔、名も知らぬ花の刺繍で埋められたマントのような布地は、温かそうだった。

 

「そいつも動物型だろ?KRみたいに必要はないと思うけど……これはセケックの村で?」

「はい。頂きました」

 

コッペリアも似たような布を〈マジック・バッグ〉からとりだして、自分の小さい肩に巻き付ける。

 

「あの人たち、こんなのくれたんだ」

 

レオナルドは座ったままで、手近な小石を掴んで、投げ飛ばした。まぁ、コッペリアは村で病人やけが人の治癒もしていたし、感謝されるのは当たり前だろう。それは問題無い。問題はないが、ちょっと腹立たしくもある。

 

(僕はあのうざったらしい子供達の相手をしていたというのに……、まぁ、何ももらえなかった訳でもないけどなぁ)

 

レオナルドは抱えた膝にがっくりと額を落とす。

丸くて綺麗な石、変な布の切れっ端、木刀風に削った木の枝、食べかけのパン。ひからびた虫の死骸。馬の尻尾の毛で作ったおまじない。レオナルドがもらったものは、どれもろくでもないものばかりだ。

 

「コッペリアは良いよな」

「?」

「いや、このケープ、温かいなという話だよ」

「はい。保温性能に優れた民芸品でス」

 

調子の外れた返答を聞き流しながら、レオナルドはため息をつく。

しかし、それは、実際、悪い気分ではなかった。

 

「あの村で……」

「ん?」

 

 

 珍しく自分から話し始めたコッペリアを、だからこそ、レオナルドは急かさずに待つことが出来た。

 

コッペリアの口から出てきた言葉はレオナルドにとって衝撃を受けるものだった

コッペリアには目が見えないと言う事、そしてコッペリアは〈エルダー・テイル〉に存在する人・物をタグとデータストリームそして魂の色合いで、周囲を認識しているという事、

その認識から〈冒険者〉を青、〈大地人〉をオレンジ、〈モンスター〉を緑と見分ける事が出来ると……

 

そしてコッペリアが言うにはセケックの村の少年はコッペリアが近づいた事により『疫鬼』を抑える事が出来、治療する事が出来たと言うモノであった

 

コッペリアが唱える説明を理解する暇もなく通説は進んでいき―――

 

「コッペリアには色がありません。それはコッペリアが透明であるという意味ではなく『色』を発する振動体、すなわち魂が欠如していることを示します。――二重なる者《パラレル・ワン》があの時消えたのは、おそらく不安定な構造、もしくは状態に、構造的に虚であるわたし……もしくはクーが接近したことにより、より不安定な魂の片方が誘引されて―「デートしているところに無粋で済まないがね」

「KRッ!?」

 

 

二人の間に鼻面を突き出した白馬。幻獣〈白澤〉《はくたく》に憑依した召喚術師の声で、レオナルドとコッペリアの会話は打ち切られ自体も加速するのであった

 

 

 

 

NEXT 少年よ!りんごを抱け!

 




小話
狐物語(Ver:クー) 

「…なぁ駄狐?」
「何でありんすか、れおにゃるど?」
「ちょっとまて訂正しろ、レオナルド、だ」
「失礼、噛みんした」
「違う、わざとだ……」
「噛みましねッ!」
「やっぱわざとだ!?」
「勘違いしなさんな!わっちはまことケロニャル子みと~なカエルのことは爆竹詰めてポイでありんす!」
「レオナルドだッ!原型すら留めていないじゃないか!」



狐物語(Ver:くずのは)

「まて!駄狐!」
「…………」
「おい!聞いているのか、駄狐!」
「…………」
「…なんで黙っているんだ、クー?」
「…………」
「なにか悪い物でも食ったの「話すな蛙、臭くて鼻が取れそうだ」……え、だれ?」

以後Verクーにループ




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厨『2』病?ッ!『9』ッ!静まれ!わっちの右腕

連続投稿・・・疲れた

とりあえず次で海外は終了です


〈KR〉

 

元〈放蕩者の茶会〉メンバーであり、道楽者

彼は色々と特殊な人物だ、まず初めに彼の装備は両手に1本ずつ杖を持つ二刀流。次に基本的な戦闘スタイルは〈召喚術師〉のくせに近接が主体。最後に〈ちんどん屋〉

 

ネタの宝庫と言っても過言ではない!

 

その特殊な戦闘方法ゆえにソロプレイが多く、〈茶会〉所属後のPT戦闘では隊列の中間から全体のサポートをするのがメインであった。

 

噂では〈茶会〉に加入する切欠は当時リーダーであった女性の有り方に興味を持ち近くでその女性を見ていたいと言うストーカー染みた理由だと囁かれた

また、同じ異質な戦闘スタイルでありソロプレイヤーであった〈九尾〉とは親交が深く、あの二人が話している時は近くによるな!と言われ、そこに〈腹ぐろ〉が加わった時はエリア移動しろ!と言われ恐れられていた

 

最後にネタなのか分からないが、ソロプレイ推進の為に作ったであろうギルド〈KRひとり団〉のネーミングセンスはどうなのかと彼を疑ってしまう……

 

 

 

 

「番外!Who? So you are name?~出会いは突然襲ってくる!~」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

「ちんどん屋、危なかったでありんす。一歩間違えていたらわっちがちんどん屋でありんした。しかし……」

 

苦笑いと共に持っていた本を閉じ、視線をレオナルド達に向けた

 

「連中は、切り立った崖下の河床を進んでいる。数は判らない。――済まないな、月明かりだけで確認は不可能だ。だが、十やそこらの数じゃない。最低でも、五百は居るだろう」

「500っ!?」

 

KRが直接肉眼で偵察してきた結果を聞き入れレオナルドは驚愕の声を上げていた

 

「500……正攻法では少々キツイ相手ではありんすが、カーミンは行くでありんしょうね?」

 

もぞもぞっと天幕で動く人影を彼女は懐かしく、そして歓喜に満ちた思いで見つめるのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

テレってー!レベルアーップ!……はっ!林檎がいんす!

 

 

 

 

 

 

「あほかっ! 相手の数は一万以上だぞっ!!」

 

アオルソイの荒野にレオナルドの悲鳴が響き渡った。

無理もないであろう……レオナルドが声を上げた原因であるカナミはこともあろう事か、現在進行中の〈灰斑犬鬼〉500体じゃ物足りない!敵の本隊が陣を置く〈列柱遺跡トーンズグレイブ〉に突入!敵の首級を上げる!と拳を天に突き上げたのだから

 

まさにクレイジー、前から何を考えているか分からない女であったが、ここまでおかしいとは思ってもいなかったのであろう

 

大体、進行中の〈灰斑犬鬼〉500体だってKRの話ではステータスのダブりが出ているモノが大半を占めており、イレギュラーな事態となっている。本来の、そう只の〈灰斑犬鬼〉なら〈武闘家〉の圧倒的な回避能力と、カナミの馬鹿げた攻撃能力で、500の〈灰斑犬鬼〉さえも退けられるのかも知れないと希望が持てたであろう。かりにもカナミ以外にもLV90以上の凄腕プレイヤーが、このパーティーに多く存在していおるのだから!

 

だがしかし!本隊に乗り込む!此方の戦力は6人!イレギュラーな事態が起こっている!

 

………どのように考えてもカナミの様な結論に至るのはおかしい

 

「話を聞いてなかったのか。〈楽浪狼騎兵〉の百人部隊《レギオンレイド》は全滅したんだぞっ。いいか、90

レベルの冒険者百名が、全・滅・したんだぞっ!?」

「それは正面から喧嘩したからだって。情報も無しでさっ」

「な……」

「だから喧嘩はしない。攻めていって、首級をあげる。それで、逃げるっ。パーフェクトゲーム! うぃあーちゃんぴよん!」

「ばっ」

 

 

馬鹿じゃないのか、この女。

なにが『ちゃんぴよん』だ。お前の脳みそはバカの世界王者だ。

――それをさせないために一万の〈灰斑犬鬼〉が遺跡を守っているのだろうに。それが出来ないからこその大規模戦闘による攻略だったろうが。レオナルドはそう考えるが、余りにもあっけらかんとしたカナミの態度に、口をぱくぱくさせることしかできなかった。

 

「で、カナミ」

「ん? なに? KR」

「情報と言っていましたけれど」

「春翠からいろいろ聞いたでしょ」

「ふむ。で、それをどう生かして、〈灰斑犬鬼〉のボス――居るとすればですが、そのボスと対峙するのですか?」

「それはクーちゃんが考えるよ!」

 

アオルソイの夜に、まるで夜明けが訪れたかと思うほどの、輝かしい笑みを浮かべて、カナミは言い切った。

 

「――やはりか」

「やはりじゃない!出来る訳無いだろっ! アホっ」

 

どこか納得が言ったとばかりに頷くKRとは反対に、レオナルドは強い言葉を叩きつける。そこには現在の状況や、よりにもよって怠けているばかりの駄狐に頼るという事も計算に入れていたであろう

 

そんなレオナルドの思いとは裏腹に話題に上がった彼女はレオナルドが上げた声に驚き、戯れていた林檎を地面に落としていた

 

「クーちゃんはやれば出来る女だよ?それに、ね?出来るか出来ないかじゃ、無いんだけどなぁ」

「じゃ、なんだって――」

「行く必要があるんだよ」

「だから、その必要ってなんなんだよっ」

 

レオナルドの追求に、カナミはつま先立ちで軽くステップすると、小さく微笑んだ。それは、レオナルドをからかうようなものではなくて、柔らかい笑みだった。

 

「口で言っちゃ、ダメな理由だよ……さぁ、くーちゃんお願い」

 

だから、レオナルドはその言葉の先を、続けることが出来なかった。これはこちらのパーティーの問題だと考えているのだろう。春翠もジュウハも、見守ってはいるが、口出ししては来ない。このままでは埒があかない。エリアスやコッペリアにも、カナミをいさめてもらおうと思ったレオナルドだが、その思惑は裏切られることとなる。

 

「いいわ。と言っても今回は策と言う策はないわ……所詮愚図の集団、人形による弱体化で〈古来種〉の魔法でもレッドゲージまで削れるでしょう……トドメはカナミ。それが基本的な動きかしら?」

「さっすが~、くーちゃん!」

「心得ている」

「了解でありマス」

「なっ!?」

 

レオナルドは目を大きく広げ驚愕した。いきなり駄狐の雰囲気が変化したのも驚いだが、こんなクレイジーな行動に二人が賛成の意思を示している事に驚きを隠せなかった

 

レオナルドの表情にどこか嬉しそうに微笑みながらも真剣にエリアスは声をかける

 

「なにも、カナミに恩義があるから死地へ旅立とうという話ではない。忘れているかも知れないが、私は〈古来種〉なのだ。私には〈大地人〉を守るという義務がある。それは我ら全界十三騎士団が設立されたときから与えられた使命なのだ。――例えそれが陳腐なものであろうと、私はそれに真実の意義を感じる。滅びし妖精族の誇りに懸けて、私は〈大地人〉を見捨てはしない」

 

そういえば、そうだった、とレオナルドは思い出す。

最近の旅で仲間として過ごしてきたからすっかり忘れていたが、エリアスは〈古来種〉《NPC》なのだ。〈冒険者〉《プレイヤー》ではない。感情豊かに見えるが、高性能のロボットと同様なのだ。それは、〈大地人〉も一緒だ。彼らは〈大地人〉《NPC》でしかない。だからこんなにも愚かな行動しかしないのだ。

 

「コッペリアも行きます」

「ッ!」

 

細い腕を動かし荷物を重量軽減バッグに詰め込むコッペリア

その仕草が納得しがたくて、レオナルドはコッペリアの手首を掴もうとして―――〈くずのは〉が持つ扇子によって叩き落された

 

「何をしているのかしら道化よ、人形が自分の意思で決めた事、止める権利なんて最初からありはしないわ、控えなさい!」

 

正論で言い返せなかった。いまの彼女はカナミのメイドではなく一個人として戦いに望もうとしていることが嫌でも分かったのだ。此方を見ないで淡々と荷物を重量軽減バッグに詰め込むコッペリア。それはひどく不快で痛々しい気持ちをレオナルドに与え、弱弱しくコッペリアに声を掛ける事しかできなかった

 

「……何でだ。勝てる訳が無いじゃないか」

「いえ、コッペリアは勝算があると考えます」

 

荷物を詰める手を止めて、互いの目が合うようにコッペリアはレオナルドを見つめた

 

「あの現象を、コッペリアは二重なる者《パラレル・ワン》と名付けました。あの状態は、おそらく極度に不安定でス。『魂の欠けた者』が近づけば、自壊して重複したそれは、コッペリアに殺到します。コッペリアの防具には対霊防御性能がありますから、『二重なる者』に対する有効な対策になるとクーも考えたのでショウ」

「その理屈が正しいからって、相手の数が減る訳じゃない! コッペリアが犠牲になる必要なんて無いだろうっ」

 

レオナルドの否定に、コッペリアは深い藍色の髪を揺らした。

磨かれた鏡のような大きな瞳に、レオナルドが映っている。

その無垢な視線をレオナルドに注いだまま、コッペリアは告げた。

 

「コッペリアもまた、プレイヤーではありません。中国に本拠地を置く資金洗浄グループが設置した、MMO内資金回収botのうちひとつが、コッペリアです」

 

 

 

 

 

 

夜明けの光が、レオナルドを照らしていた。

平板な光の中で、荒野はやけに色彩無く、白けて見えた。

 

カナミ達三人は峡谷へと向かった。春翠とジュウハは、セケックの村へ急を知らせると言い、やはりこれもまたやけを待たずに旅立った。

 

そんな中、レオナルドは石を飲んだような思いを抱えて、アオルソイの荒野に、独り座っていた。やがて藍色の暁は過ぎて、地平線から太陽が顔を出したが、今日に限ってそれは、さほど輝かしくも温かくも感じられなかった。

 

「相当ショックだったらしいな?」

「さぁ?道化の考える事なんて私には理解出来ないわ」

 

同じように太陽の日を浴び遠目からレオナルドを見つめる二匹の獣

一匹は日差しが眩しいのか扇子を広げ日光を遮り、もう一匹はたそがれるレオナルドを見て鼻を鳴らしていた

 

「貴様は行かなくていいのか?久しいくとないカナミとの戦闘だぞ」

「無粋ねKR、目の前に愉快な道化がいるのに独り占めなんて?……モテないわよ」

「貴様に惚れられたら体が持たん。」

 

互いに笑みをこぼし、ただ茫然と座り込むレオナルドを見続ける

数分の時が流れた。傍観していた一匹が徐に足を動かしたのだ

 

「どれ悩む青年に声を掛けに行くかな?」

 

KRの表情は今、白馬な為、付き合いが長い〈くずのは〉でも分かり辛かったが、期待と歓喜に満ちた顔をしていると容易に想像が出来た。それが〈くずのは〉には不思議でならなかった

 

「……貴方と旅をして感じたけど、あの道化をそこまで気に掛けるのは何故?」

 

二日前に世界の情勢をレクチャーしていた時もそう思った。彼は道化を何かと気に掛けて何かを期待するような目を常に送っていたのだ

〈くずのは〉の問に対しKRは後を振り返らずに淡々と答えた

 

「言っただろう、カナミが目に付けた奴だ。それに…」

 

何か言いよどむと照れくさそうな声色でーーー

 

「奴の言う赤いアイマスクのヒーロー、俺も好きだったよ」

 

そう言い残しレオナルドへと向かうKRの後ろをーー

 

「……男って分からないわ」

 

ため息交じりで〈くずのは〉は付いて行くのであった

 

 

 

 

「どれ」

「え?」

 

振りかえると、白馬であるKRとこの旅の最中つねに猫背だった背がしゃんと伸びた駄狐がいた。そんな彼女は美しい白馬に似た優美な姿の四肢を折り、大地に腹ばいになったKRの背に腰を降ろした

 

「KR、それにクー……。行ったんじゃないのか?」

「なぜ?」

「……」

「だって、君達は……カナミの昔からの仲間なんだろう?」

「それはそうだが。……気になることがあってね」

 

KRが目を細めたまま、開けたばかりの太陽の熱を味わうかのようにのんびりと告げた。

 

カナミ達に同意することは出来ない。

無為に命を捨てる愚行なんて付き合うことは出来ない、しかし、では独りで東への旅を続けられるかと言えば、そこまで割り切れもしないレオナルドの、その迷いを見透かすように、KRはその聡明な瞳をちらりとレオナルドに向けた。

 

「これからどうするつもりなのだ」

「どうって……」

 

案の定投げられた質問に、レオナルドは答えることが出来ない。

それが出来ていたら、コッペリアにもう少し、何か声を掛けてあげる事が出来ただろうと思う。

 

 

 

 ――資金回収bot。

 コッペリアはそう言った。

 

 

 

Botとは、時代背景の中で考案されたプログラムの一種であり、MMOのキャラクターをプレイヤー無しでも動かすための、一種の自動化された、人工知能的なプログラム。

 

もちろん、プレイヤーが行なうような複雑な行動は行えないが、プログラミングされた単純な行動を長時間続けることが出来る。例えば、人間には体力的にも精神力的にも不可能な、二十四時間、同じ狩り場で金銭とアイテムを集め続けると行ったプレイが可能なのが、Botの特徴

 

その事を踏まえるとコッペリアのどこか機械的な対応も、盲目的なまでに繰り返してきた狩りも、おそらくはカナミに対する無条件の服従も、彼女がBotだったとすれば説明が付く。

 

なんてことはない。

彼女も〈大地人〉と同じ、機械人形だったのだ。

 

「二人こそ、行かないで良いのかよ?……クーは作戦まで提供しただろ」

「構わない。〈くずのは〉に関しては行く気もないようだ」

「……」

「そう、なのか」

「カナミは自分が行くと云っても行かないと行っても、自らの判断を変えるようなことはない。例え、それで彼女が死ぬにしたところで、公開するにしたところで、それは彼女自身の責任において行なわれる」

「なんであんなに無謀なんだ、あの馬鹿」

「黙りなさい道化?」

「――ッ!?」

 

今まで口を開かなかった狐が旅の最中では見たことのない鋭い眼差しでコチラを睨んでいた

 

「カナミは全力なの。全てを全力で受け止めているだけ。そうすることが、カナミにとってはいつでも一番大切なの。彼女にはギアやブレーキという概念がない。そう言う人間よ」

「……つまり、バカじゃないか」

「そうね馬鹿よ?……でも私達はそんな彼女が好きなの」

 

鋭い視線がレオナルドから外れ遠く彼方、カナミ達がいるであろう方角に先程とは正反対の優しい目を向けていた。彼女の言葉に鼻を鳴らしたKRも満足そうだった。

 

「勝てる、のかな」

「悪くない線まで行くだろうな。カナミよりも、あの娘の方が、戦力的には不安がある」

「……」

 

言葉が出ずに言い淀むレオナルドに、〈くずのは〉はさもツマラなそうに言葉を掛ける

 

「何を悩む必要があるのかしら?貴方は行かない、その結果あの人形が死のうと貴方には関係ないわ」

 

ズキッと胸が痛んだ

コッペリアが死ぬ?

 

「知っているでしょ?AIである人形は〈大地人〉と同じ、HPが切れれば死亡する」

 

ズキリっと今度は心が痛んだ

棘だらけの塊がレオナルドの胸の中にあった。ちくちくと鬱陶しいこの感覚。イライラさせて、胸を重くして、責め立てられるような、急かされるようなこの感覚

 

「KRが貴方の事を好意的に見ているから私も少しは答えを出す手助けをしてあげるわ……こんな時、貴方の好きなヒーローはどうするでしょうね?」

 

 

言われなくとも判っている!

本当はずっと判っていた。

 

レオナルドが誰よりも愛した、パートワーカーのギーグではない。不屈のニンジャ・ヒーローは、こんな時にどうするか? そんな事は最初から判っていたのだった。なぜなら彼は誰よりもヒーローに憧れていたからだ。考えるまでもなく自明のことだった。

 

「行く」

「なぜ」

 

立ち上がったレオナルドに、間入れずに〈くずのは〉は問いた

 

「ただのAIの為に危険な橋を渡る必要はあるのかしら?」

 

確かに危険な橋を渡るなんて馬鹿げている。クレイジーだ。だけどーーー

 

 

世界でもっともクールな『彼』ならばどうするか?

 

こんな事態でただ指をくわえては居ないだろう。

 

相手が機械だろうがbotだろうが躊躇いはしないだろう。

 

自分の臆病を、相手の価値のせいなんかにはしないだろう。

 

自分が助けたいと思ったのならば、それは助ける価値があるものなのだ。人間だろうが犬猫だろうがBotだろうが関係ない! 

 

「それがなんだというのだ!AIのために命を掛ける馬鹿が一人くらい増えたって良いではないか!」

 

レオナルドは〈くずのは〉をただ真っ直ぐに見つめ問いに迷うことなく答えたのであった

 

 

 

 

 

 

……返答はKRの笑い声であった。

 

 

「なんだよ。文句があるのか。ふんっ。笑いたければ笑うがいいさ。僕が行ったって何も変わらないかも知れないけれど、黙って殴られるつもりはないぜ。――僕にだって新しい力がある」

「笑いはしないさ」

 

KRは白馬の身体で立ち上がると、首を長々と伸ばして一声いなないた。その声は長々と響き、いななきは鳥の囀りのような音声へ、やがて高密度の詠唱へと代わり――辺りを白光が満たした。

 

「面白いな。――実に。実に」

 

レオナルドがその輝きの中で薄目を再び開けると、そこには見知らぬ男が立っていた。

総髪を後ろで束ねたやせぎすの青年は、エルフのようだった。病人のように白い顔に、面白がるような笑みをはりつけている。特徴的なのはその装備で、裾がぼろぼろになった、それでも豪華なローブをまとい、両手に一本ずつの杖を持っている。魔法使いの装備として杖は珍しいものではないが、その二刀流は珍しかった。

 

「もしかして……KRなのか?」

「そうだが?」

「――本当に人間だったのか」

「失敬だな、君は」

 

ふんと鼻を鳴らした青年は、杖を器用に地面に突き立てると、自由になった腕を回し、大きく背伸びをした。小気味よいほどの音が洩れるところをみると、どうやら長い間、身体を小さく屈めていたらしい。

 

「どうやって、なにをしたん「そんな些細な事はどうでもいいわ、行くわよ」…え?」

 

レオナルドの言葉を遮った言葉に驚きをあらわにする

 

「決心したのでしょう? ――私も付き合うわ」

「なんでっ」

「ふ、目の前に面白そうな道化がいるのよ?なら、近くで見たいと思うのは当たり前の事だわ」

「……道化って僕の事か?」

「どうやらそうみたいだな、だが誇って良いぞ?あの〈九尾のくずのは〉を口説き落としたのだからな?」

「……KR、死にたいようね」

「おおう、恐い怖い」

 

〈くずのは〉を尻目にKRは杖を突き立てた

突き立てた杖を中心に、巨大な光の魔法陣が広がり、立体的に回転を始める

 

「レオナルド」

「…なんだ」

「さっきの言葉なんだが……良かったよ、まさに俺達が好きなヒーローだった」

 

照れくさそうな笑みを漏らす間も、風を切るような音と、魔法陣の共鳴は続く。

 

「そのヒーローが『新しい力』をみせるなら、こっちだってお披露目をしない訳にはいかないだろう?」

 

空中に描かれる輝く線は複雑に絡み合い、輪郭線は見る間に複雑に編まれた針金細工を経て、生き生きとした姿を描き出す。

 

「召喚……っ」

「目覚めよ我が友、紅き竜よ。ガーネットの眠りから覚めて、空を舞えっ!」

 

呼び出された真紅の竜は、慌てるレオナルドを咥えあげると、その優美な首筋にのせた。いつの間にかその後ろに収まっている彼女とKR。KRが鋭く指笛を鳴らすと、一瞬後にはその姿ごと、上空へと駆け上る。

 

「さぁ、道化よ。面白可笑しく踊ってちょうだい」

「ッ!上等!」

 

まるでアオルソイの大気に溶け込むように、二人を乗せたドラゴンは高く高く羽ばたくのだった。

 

 

 

 

 

NEXT  コマンド → ガンガン行こうぜ! →だが断る!

      




小話

「ところでKR?」
「なんだ」
「彼女は本当にあのクーなのか?」
「然り、だ。」
「雰囲気といい態度といい別人みたいだな?」
「ふっ、〈くずのは〉の言葉を借りるなら『狐は化かす』ものだ」
「……」



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お狐『3』、『O』UT-!ででーん♪

パワーバランスが崩壊すると言う理由からOUTーW

……はぁ、なんか纏まらない


休刊のお知らせ

現在、〈くずのは〉は高速移動中な為「番外!Who? So you are name?~出会いは突然襲ってくる!~」を休ませて頂いております

〈くずのは〉の用事が済み次第、執筆してゆきますので今後ともよろしくお願いします

 

by くずのは

 

「さすがに今は書いている余裕はないわね。しかし……」

 

耳をちぎりそうな風の中で一人の亀が叫び声を上げていた

 

「おい!どこへ向かってるんだよっ。峡谷はすぐそこだろっ」

「どうせだから、その遺跡とやらを偵察しておこうじゃないか」

 

彼女の視線の先には、さほど広くない紅竜の背中の定位置らしい場所にきちんとまたがったKRと〈くずのは〉とは対照的に、振り落とされまいと必死に紅竜の首にしがみつく一匹の亀

 

「無様と言うか滑稽と言うか……まさに道化ね」

「う、うるさい!」

 

眼科を高速で過ぎていく大地、暴力的な圧力となった空気という膜の中を突破してゆく中、三人は戦いの舞台へと突き進むのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

叫びで始まり、叫びで終わる

 

 

 

「ちょっと待てよっ!! おいっ!」

「おお、すごいな、あれは――ふむ、察するに二十四人規模(フルレイド)四十八人規模(ダブルレイド)ランクじゃないか?」

「えぇ、そうね。でも品がないわね……なら私はこの子の方が好みよ」

 

跨る紅竜の背中をポンっと優しく撫で、視線を再びへし折られた尖塔に向けた

周囲に何もないような荒れ地に突如として突き立った奇怪な建造物、元は黒々とした尖塔

が突き立って出来上がったであろう遺跡〈列柱遺跡トーンズグレイブ〉

 

……だが今はその面影しかなく遺跡をボロ地へと変貌させたモノは今をなお、その強力な尾のひと薙ぎで残りの尖塔をへし折っていた

 

「どうするんだ、あんなのっ!?」

「君の新しい力とやらで――」

「バカ言うなっ! 大規模戦闘ランクモンスターなんだぞっ!? どうやって三人で倒せるんだよ。それともこのドラゴンが、なにか? 超戦闘能力で――」

「それはない。こう見えたって従者《ミニオン》ランクだ」

「あら、嘘は良くないわよ?私の見立てでは少なくとも〈レイド〉級の筈よ?」

「はぁ?召喚生物は全て〈ミニオン〉ランクだろ。確かに見立てが良いからそう思うのも頷けるが現実をみろよ」

「………」

 

〈くずのは〉の言葉に、さも常識だと言わんばかりに言い返すレオナルドを尻目に当の召喚術士KRが目を見開いて〈くずのは〉をただジッと見詰めた

 

「……そんなに見詰めないでくださる?正直、気持ち悪いわ」

「……なぜ気づいた」

 

〈くずのは〉の棘のある言葉など最初から耳にしていないとばかりに、目の前で騒いでるレオナルドには聞こえない声量で〈くずのは〉に問いただした

問いただされた彼女は「つまらないわね」と一度ため息をついた後、暴風で乱れる髪を整え直しながらゆっくりと口を開く

 

「〈大災害〉後、〈レイド〉級など高LVのモンスターは〈大地人〉同様高い知能を持っていると〈ススキノ〉で耳にした事があるわ。ならば召喚術士とモンスター両者の合意の下、新たな契約を結ぶ事も可能だと私は考えているわ。まぁ、今なおゲーム時代の感覚が抜けていない愚弄には想像出来ない事でしょうがね」

 

クスッと人を見下した目をしながら〈くずのは〉は、そうでしょ?と言わんばかりにKRに微笑んだ

 

「……こうも簡単に俺の技を言い当てられると釈然としないな。今度は貴様の技を拝ませて貰いたいものだな」

「えぇ、そのう「ッ!気付かれたぞ!」ッ!KR!」

「あぁ、舌を噛むぞっ」

 

二人が言葉を交わしている間も、彼らの騎竜はアオルソイの大空に弧を描いて飛び、どんどんと〈列柱遺跡トーンズグレイブ〉に近づいていたのだ。

そして、当然というか、運悪くというか、黒竜と、その背に乗るふたつの影に発見されることとなり、漆黒の竜はその翼で大きく羽ばたくと、口にくわえた数匹の〈灰斑犬鬼〉を大地に吐き捨て、その羽ばたきの風圧に逃げ惑う地上の犬鬼達には目もくれず、たった一呼吸のうちに、レオナルド達に肉薄してきたのだ

 

 

KRが支持を出すと即座に彼らを乗せた騎竜は、ガーネット色に輝く翼をひとつの短剣のようにぴったり畳んで、回転しながらも大地に向かって急降下する。そして次の瞬間―――

 

雷鳴。

 

先ほどまでレオナルド達が占めていた空間を吹きすぎていったのは、稲妻で帯電した漆黒の煙だったのだ。ドラゴンに分類される強大な力を持つモンスター。その伝説の攻撃といわれる〈竜の吐息〉

レオナルドも熟練プレイヤーとして、その攻撃は何度も見たことがあったが、それは所詮、ワイド液晶モニタの良くできたCGとして見ただけだった。三メートルも離れていない空間を雷光と黒煙が駆け抜け、空気が引きつるようなわななきと、焦げ臭いイオン臭を感じると、レオナルドの脳は、過去のゲーム経験をすっかり記憶の奥底に沈めてしまった

 

「見た目と違って吐息の方は綺麗ね」

「そうだな、このイオン臭がなければなおさら良い」

「落ち着いている場合か!なんだよ、あいつら!」

 

レオナルドの目には凶暴な吐息を繰り出す黒竜ではなく、その背中に乗る二組、フードをかぶった魔道士のような痩身の影と、ビスクドールのように華奢な金髪の少女を捕らえていた

 

「あんな所に居るのを見ると、正義の味方じゃなさそうだ」

「むしろ悪役ね?……お人形役はお人形(コッペリア)で間に合っているわ。気に食わない」

「コッペリアとアイツを一緒にするな!」

 

レオナルドだけが怒鳴り声で会話をする間にも、何条もの電光が三人をかすめ飛ぶ。電光の軌道は直線的だが遠距離まで届き、まとわりつく黒煙のガスは、中距離までしか届かないが、広がりがあって回避しづらいという特性があるようだった。

 

紅竜は黒竜に比べて小さいが小回りが利き、今のところ乗り手のことなど最初から考えてないアクロバティックな軌道で回避に成功している。しかし、何時もでもそのような軌道が取れる訳ではなかった

 

回避するにつれて黒竜の息吹は激しさを増す、当然の様に紅竜も小柄な体格を生かしアクロバティックに回避する、そしてその軌道は乗り手にストレスを与える

 

………三人の中で特に我慢する事が嫌いな彼女は限界を迎えた

 

「……トカゲ如きが私に喧嘩を売っているようね」

 

暴風による圧力などつゆ知らず、〈くずのは〉がスッと立ち上がると黒竜に目掛けて魔法具〈金毛九尾〉を構えたのだ

 

「KR!弾幕を張るわ!いい加減、あのトカゲを殺すわよ!」

「ッ!な、なにをっ」「了解した」

 

いきなり立ち上がった〈くずのは〉にもそうだが、レオナルドは彼女の言った言葉に驚きを隠せなかった。八十五レベルで格下とは言え、〈レイド〉ランクの黒竜を倒すと彼女は言ったのだ。到底三人、いや一人では倒せも足止めも出来ない相手に……

 

そんなレオナルドの意を呼んだのかkRは口を開く

 

「大丈夫だ、彼女がやると言うのだ。其れなりの結果を出すだろう」

「なっ!?いくら元は仲間だった者であったとしても過剰評価し過ぎだ!相手は〈レイド〉クラスだぞ!」

 

レオナルドはKRの事は信頼しているが、どうして彼女を高評価するのか分からなかった。

旅の最中であっても禄に仕事はせずに、ただ欠伸をしながら戦闘を終わるのを待っているだけの駄目狐だと言うのに

 

「お前が見て来た〈くずのは〉は偽りだ。コッペリアに近いと言っても過言ではない。……だが、本性を表した〈くずのは〉の実力は常識を遥かに超える」

「な、なにを――ズガァァァッッン――ッ!?」

 

言葉が出て来なかった

後から聞こえる、まるで10tトラックが激突したような轟音、振り返れば顔が焼き爛れた黒竜が左右上下、変則な動きを伴って彼女が作り出したであろう紅の球体を回避する光景だった。そして―――

 

『あははははっ!最強種が聞いて呆れるわ!惨めに足掻きなさいっ!情報書換(オーバーリライト)・〈フレアアロー〉ッ!』

 

最強種を狂喜に満ちた笑い声を上げながらいたぶる彼女の後姿が目に飛び込んで来たのだ

 

彼女が発動させる魔法は全て、その巨大な体格では回避が難しいと思われる場所ばかりに設置され、黒竜側の乗り手を誉めるべきなのか紙一重の回避行動を続けていた

 

しかし、そう上手く回避できる訳でもなく一つの球体が黒竜の前足を掠った

 

 

轟音

 

 

最初に聞いた轟音と変わりない音が響き渡り、紅の爆発が黒竜の前足を焼き落とした

 

「……アレが〈くずのは〉の口伝・情報書換(オーバーリライト)、か」

「……―――ッ!なんだ、アレは」

 

KRが呟いたおかげで、何とか言葉を取り戻す事が出来たがレオナルドの頭の中は混乱に満ちていた

 

見たこともない魔法、〈レイド〉モンスターに決定打を与える行為、今までの彼女とのギャップ―――全ての常識が覆された

 

そして紅竜も判っていたのだろう。いまが絶好の好機だと、レオナルドには判らない方法でKRが指示を与えたのかも知れないが、紅竜は蜻蛉返りの要用で黒竜の上空背後を取ったのだ。

 

その姿はまさに某国民的映画!赤い飛行機を取りこなす豚のように!しかしそれは―――

 

「よっしゃ、良い位『きゃあぁぁぁぁ……』…え?」

 

―――悪手であった

 

 

紅竜にしがみつくレオナルドやKRならいざ知れず、紅竜に支え無しで立っているだけの〈くずのは〉は自然の原理に則って紅竜から振り落とされたのであった

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁ……はっ!なぜわっち!?」

 

事故としか言い様のない出来事、紅竜から落とされた〈くずのは〉は、危険を察したのかもう一人の自分であり、自分自身でもある彼女に成り変わっていた

 

………変わられた方はたまったものではない

 

 

「〈くずのは〉!?のう〈くずのは〉っ!なぜわっち!?なぜでありんしょう!へ?ギャグ補正?知らんでありんす!痛い物は痛いでありんしょう!ちょ!〈くずのは〉!寝んねは勘弁しんす!う、うにゃぁぁぁぁぁ!」

 

彼女の抗議は虚しく〈くずのは〉に見捨てられ、早くも彼女の目の前にはゴツゴツとしたあちらこちらと尖った岩群が目の前に目の前に迫ってきていた

 

「助けて!カーミン!セラララ!トーヤン!ミノリン!う、うにゃぁぁぁぁ!わっち

死ぬ!これは死ぬ!!重要書類果汁でベトつかせないから助けてシロエェ!ツッキーの羊羹も今度から摘み食いしないからだすけてぇ!パンツ君の部屋の中に林檎の食べカス捨てないから助けてぇぇぇぇぇ」

 

………因果応報、いまにきたる。

彼女の思いとは裏腹に迫り来る地面、うにゃぁぁと気品のない叫び声をあげつつ彼女は地面と熱い抱擁を交わす―――

 

 

―――事無く、光に包まれるのであった

 

 

 

 

 

「ぇぇぇ、ふにゃ!?」

 

予想していた痛みとは全く違う柔らかな感触が彼女を抱擁した。

 

彼女は驚き急いで立上って辺りを見渡す

目の前には林檎の木、最近弟子が持ってきた籠、自分と抱擁したのは愛用のソファー、そして割れた『呼出水晶』を円をかく様に囲む新人メンバー

 

「なっ!出て来ただろ?俺は一回使った事があるからわかったんだ!」

「本当だ~、も~う!ししょう!何処行っていたんですか?修行つけてくれるっていって行き成り家出はこまりますよ~!」

「五十鈴さん、そんなに責めなくても…くーさんも何か考えがあって出てたのでないでしょうか?」

「ミス・ミノリの言うとおりさ。きっと僕達の修行を後押しするワンダフォーなアイテムを入手して来たに違いないさ!」

「そ、そうですね。……くーさん、すみません。シロエさんからはそっとしとおいてと言われたんですが、気になって……え、なんです?…恐かった?もう寝る?みんな一緒に?……え?」

「俺もか!?」「わ、わたしも!?」「ぼくもか!?」

 

彼女は両手一杯に彼らを抱きしめながら大きなソファーではなく、何処から出したかわからないキングサイズのベットに入り込むのであった

 

 

 

「うにゅうううぅぅ!覚えてろ!kR!……ぐすん」

 

 

NEXT   雨雨降れ振れ、くーさんが~、林檎を一杯かかえてた~

 






その頃カナミ達は~

「えぇ~!くーちゃん、落ちちゃったの?」
「大声出すなよ!頭に響くだろ!」
「でも~……これは重大な事件だよ、けろソン君」
「レオナルド、だ。探偵の助手みたいに言わないでくれ」
「あはは、でもけろナルド?今度くーちゃんに会ったらちゃんと謝りなよ?」
「なんで僕がッ!落としたのはK「じゃないとソレ切られちゃうよ?」…まて切られるって何ガだ!
「ええ~?私の口から言わせるつもり~?けろこちゃんのセクハラ」
「~~~!わかったさ!謝るさ!」


ヤマトに行くのが少し恐くなったレオナルドであった






その頃KRは~

「KR」
「なんだ秧鶏」
「……彼女とは一緒ではなかったのですか?貴方と同じくあの女にべったりだった狐と」
「……勧誘するのか?無駄だ、知っているだろう?彼女は気分屋だと」
「ええ、存じています。ですが彼女が敵になると対抗する手段が限りなくゼロに等しい、少なくとも中立でいて貰うように釘を刺しておきたいのです」
「ご苦労なこった」
「……時にKR?彼女の恨みを買う様な事はしていませんよね?」
「……あぁ」
「そうですか、良かったです。もし買っている様なら加入を考える必要がありましたからね」
「……」

KRは言えなかった。恨みを買う事をしていた事を……彼は主賓を迎える為に、上空から落とした事を自身の胸の中にしまったのであった




ちょっとしたネタばれ


「私の魂は桃色デスか…」
「どうしたんだ、コッペリア?」
「その結論から答えを出しマスとクーの魂も桃色になりマス」
「え?」
「クーの魂も色がなかったデス」
「………」


クーと再開したら聞く事がふえると思うレオナルドであった




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〈裏表〉 :東の狐と西の狐
いーえっくす: 秋の運動会


シリアスばかりで疲れたので息抜き
二期のオープニング、秋の運動会を題材にしています
息抜きで速攻書いたから脱字が多いかも…
ものもらいで片目塞がっているし…



時期的には35~36話の間です

あと今日でログホラのSSが一年経ちました
これも皆様のおかげです、ありがとうございます


〈かぼちゃ〉

ウリ科カボチャ属(学名 Cucurbita)の総称である。特にその果実をいう。原産は南北アメリカ大陸。主要生産地は中国、インド、ウクライナ、アフリカ。果実を食用とし、カロテン、ビタミン類を多く含む緑黄色野菜。

硬い皮を抜き露わになる黄色い宝石は見ていて飽きない。

個人的なオススメはかぼちゃのプリンである

 

 

なぜこうなった!狐の錬金術師:上巻 より抜粋…

 

「かばちゃ…かばちゃ…かばちゃ…」

「くーっち?本を書くのもいいですが手を動かしてほしいですにゃ?」

「それに『かばちゃ』じゃなくて『かぼちゃ』だよ」

 

にゃん太とマリエールに呼び止められ執筆していた手がとまる。彼らの手にはかぼちゃを繰り抜いて出来たであろうジャックランタン…

目のハイライトが失せた瞳に映るのはギルドホールを埋め尽くすほどの大量のかぼちゃの山

筆から包丁に持ち替えた彼女は苛立つ感情を爆発させ、目の前のかぼちゃに包丁を突き立てたのであった

 

「とりっく・おわ・とりーと!!!ひゃっはっぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

うんどーかい?わっちはえんりょ……狐は猫によって捕獲されました

 

 

 

 

 

事の発端はマリエールの一言であった

〈大災害〉から半年、円卓の結成や〈ゴブリン王の進軍〉〈南からの攻撃〉など色々と大変な日々を過ごしていたが概ねアキバの町は平和になっていた

 

そんな日々の中で起きたハロウィンイベント

ゲーム時代の頃からある季節限定イベントはアキバの町にも大量のかぼちゃを齎し、大いに……むしろ余る程に収穫されたのであった

 

余るかぼちゃ…関西人であるマリエールはそれを良しとは思わず、どうにか出来るだろうかと日々、考え……そして閃いた

 

秋と言えば運動会!ならアウターハロウィンも兼ねて景品にしてみんなで食べればいいのだと!

もとより、お祭り好きもあってかマリエールが実行委委員となり指示を出し、着々と運動会の準備が進められていった

 

……本人は実行委員など望んではいなかったようではあったが、言いだしっぺなので仕方がないであろう

 

そして現在、同じく実行委員になったにゃん太等と共に運動会の景品兼植栽兼アフターハロウィンの料理材料として大量のジャックランタンを作成していたのだ

 

……彼女?あぁ、クーね。昼寝をしている所を猫に捕まりました

 

そんなこったで大量のかばちゃに囲まれた彼女はヒステリックも真っ青にするほど発狂していた

皮は固いし、手は痛くなるし、やった傍から追加で運ばれるかばちゃ、更に言うのであれば市場にかぼちゃばかり並ぶものだから彼女の好物である林檎が手に入りずらくなっている事も発狂の一因であろう

 

「くーちゃん、落ち着いてな?な?」

「そうですにゃ、見た所あとは食材で使いますから…50個ほどでおわりですにゃ」

「トリック・オワ・トリートメント!」

「悪戯かヘアーケアーか?……うちはヘアーケアーの方がええな~」

 

50個……いま作業をしているのは彼女を含めて10人。最低でもあと5個は作らなくてはいけないと考え、彼女は再び発狂した

 

「くーっち、落ち着くにゃ?あとでパンプキンパイを作ってあげますにゃ」

「ご隠居はわっちに死ねと!毎日毎日かぼちゃかぼちゃかぼちゃでありんす!デザートはアップルパイ一択でありんしょう!」

「う~ん、かばちゃは栄養たっぷりで不規則な生活をするくーっちにはもって来いですにゃ!」

「持ってくんなまし!」

 

かぼちゃを彼女に渡そうと近づけば9本の尻尾を巧みに逆立て威嚇して絶対にやりたくはないと全力でアピールする始末まで彼女は追い詰められていた

 

「う~ん、少し物足りないけどええかな?」

「いえ、くーっちはノルマの一人10個を終わっていませんにゃ。最後までやらせるにゃん」

「…なんやかお父さんみたいやな?」

 

なにがなんでもやらせようとするにゃん太に彼女は涙目になりながら壁際まで追い詰められていく……

 

「ご隠居!わっちになんの恨みが!?わっちなにかしんしたか!?」

「いえいえ、決して恨みなど……吾輩の尻尾の事なんて気にしていませんにゃ?」

「ッ!」

 

笑っているはずなのに笑っていないにゃん太に彼女は気が付いた

先日、にゃん太の尻尾でリンゴを磨いた事を…

 

「…リンゴの匂いがしてよいではないでしょう?」

「確かにリンゴの匂いがして心地よかったですにゃ?…でも吾輩の尻尾はズタズタになりましたにゃ?」

「~~~ッ!」

 

一歩一歩と追い詰められていく彼女……冷や汗が止まらない、怒った猫はこんなにも恐ろしいモノだったのかと実感し、ついに壁と背中がこんにちは!をしてしまった瞬間!

 

「鍋!鍋をもってくるなんし!」

 

彼女は最後の秘策に打って出る事のしたのだ!

 

「鍋?普通の鍋でいいん?」

「おっきな鍋がいいなんし!かばちゃがいっぱい入るぐらい」

「おっきな鍋か~…うちにあったけな?」

「マリエさん!」

 

頭を捻らすマリエールにここぞとばかりに小竜は人が煮れそうな程大きな鍋を引きずりながら持ってきたのだ

 

「天秤際で捨てる予定だった大鍋です!いつかギルドメンバーが増えると思って俺…取っておいたんです!」

「本当なん!?ありがとうな~小竜!」

「い、いえ!俺はマリエさんの為なら「くーちゃん!用意出来たで~!」……マリエさん」

 

お礼を言われて照れる小竜など気にも止めていないとばかりに彼女に話しかけるマリエール。マイペースもここまでくれば好意を寄せる小竜が可哀そうで仕方がない…

 

そんな小竜の虚しい犠牲を元に手に入れた大鍋に彼女は大量のかぼちゃと水を入れ温める為に〈記憶の地平線〉でも使用している熱を持つ鉱石〈火石〉を鍋に入れ掻き混ぜ始めたのであった

 

「……くーちゃん、なにしてるん?お料理なん?」

 

大きな鍋を長い棒でゆっくりと掻き混ぜる彼女はとてもではないが料理をしている様には見えなかったが、彼女の気を悪くさせない為にも言葉を選びながら話しかける

 

「うにゃ?れんきんじゅつでありんす」

「……錬金術?」

「あい!この前な~お城の中をな~散歩しててな~骸骨に会いんして本を貰ったんでありんす」

「本?」

「うぃ、これでありんす」

 

かき回す手を止めずに尻尾の中にしまってあった本を取り出すとマリエールに投げ渡した

A4サイズの本がマリエールの元に渡され、タイトルを見て軽く眩暈がおきた

 

「猿でも出来る錬金術!~初級編~作者:リ=ガン、ですかにゃ?」

「…なんや中も小学生の教科書みたいやけど本当に大丈夫なんやろうか?」

 

文字は全ては平仮名で文字より絵の多い錬金術の本はどちらかと言えば絵本に近い出来ではあったが、にゃん太だけは興味深そうに彼女を見つめた

 

「…案外、成功するかもしれないにゃ」

「ほんまに?」

「えぇ、くーっちはサブ職業が〈デザイナー〉にも関わらず料理ができますにゃ。…普段からしようとしないのは勿体ないですがにゃ。」

 

「錬金術とは元は台所で出来た調合法ときいますにゃ。料理と錬金術は表裏一体、サブ職業が〈錬金術師〉でないくーっちでももしかしたら「タカの目、カニの目、タラの芽、風龍の目……おおと!ゴブリンの爪垢を忘れんした!」……」

「あかん…奇妙なモノになっとるで、あれ」

 

マリエールが指さした先では、謎の化合物が入れられた事により不気味な色へと変色した液体が紫色の発光をしながら彼女を照らしていた

 

「いいかんじでありんすな~?あとは片栗粉を入れて固めるだけでありんす!」

「ッ!くーっち!片栗粉は火を止めてから入れなくてはダマになりますにゃ!」

「いや、違くない!?注意する所はそこじゃあらへんよ!」

 

彼女の料理を冒瀆させる行為に一周、感情のメーターが振り切って可笑しくなるにゃん太が傍で見守る中、等々彼女の錬金術は完成を迎えてしまった!

 

淡く不気味な発行が部屋を包み込み、ボフっとコミカルな爆発音がBGMとなった瞬間――――――彼女の禁忌を犯した錬金術はココに形をなす!

 

 

「……」

「……」

「……」

「できた~」

 

彼女が持ち上げる物体、青い毛に黄色い二つの角、やる気のない目が後引くなんと言ったらいいのか判らない物体xが出来あがったのだ!

 

「じゃっくらんたんでありんす~!」

「ジャック!?それジャックなん!?」

 

……どうやら彼女はジャックランタンを作成しようとしていたらしいが、見た目も雰囲気もまったく違うものが出来あがってしまっていた

 

「……山羊スライムの縫ぐるみですかにゃ。なぜ食材からダミーアイテムが出来るのか吾輩には理解できませんにゃ」

「うにゃ?ジャックも元は食材でありんしょう?同じ原理でありんす」

「同じなん?絶対違う「メェ~~」っひ!?鳴いた!?」

 

彼女の腕の中に存在する山羊スライムは作成者の本質を理解いているとばかりにやる気がない鳴き声を上げてマリエールを驚かす

 

「あかん!可愛ええけど気持ち悪!?絶対あかんってそれ!捨ててきてぇな!」

「え~!一等賞の景品にするでありんす~!」

「嫌や!誰もそんなのもろうても嬉しくない!」

 

感性は人それぞれ、マリエールの感性にそぐわなかった山羊スライムは後日、駄狐の手によってある人物に譲り渡されたのであった

 

 

 

 

晴天の秋空、今日の運動会を祝うかのように打ち上げられる魔法による祝砲

アキバを拠点として置くギルドの面々は広場に集まり開催の時を今かと待ち続けていた

 

――――そして

 

「そんじゃ!秋のギルド対抗運動会開催や!」

 

実行委員マリエールの宣言によりアキバの町初となる〈冒険者〉の運動会が開催されたのであった

 

 

各項目の点数はギルド対抗と言う名の通り、ギルド事に点数が加算され多く点数を取ったギルドが王冠に輝くと言うシンプル明解なルールとなっており、ギルドの所属数が多い程一位になりやすいと思われたが、所属数の少ない〈記録の地平線〉のような弱小ギルドには特別ルールが設けられ大手ギルドと対向して戦えるようになっていた

 

「まぁ、戦えると言っても人には向き不向きがありますにゃ。人を選抜できる大手ギルドと違い全部の項目に参加しなくていけないぶん苦戦すると思いますにゃ」

「ええやん!楽しければ順位なんて関係あらへん!…それよりうちも参加してきてええやろうか?」

「吾輩たちは実行委員ですにゃ」

「ぶ~!いけず~!…でもあれはえええんやろうか?」

 

我慢できないとばかりにマリエールは、いま行われている綱引きに飛び入り参加しようとしてにゃん太に止められてしまったが……〈記録の地平線〉の問題児は止まらなかったようだった

 

「赤勝て白勝てどっちも負けろ!負けたギルドはぶっ殺せ!勝ったギルドは林檎を寄越せ!」

 

紅白の旗を持ち綱の真ん中に陣取り、どっちも負けるように声援(?)を送る駄狐……綱引きでどっちも負けるなどどうやったら良いのかわからないが…

 

「……彼女は彼女なりにお祭りを盛り上げていますにゃ。言っている事は物騒ですがにゃ今回は大目に見ますにゃ」

「ん~…くーちゃんが運動会に参加するなんて珍しいもんね」

「そうですにゃ~。彼女も何か考えがあるんでしょうにゃ」

 

二人が疑問に思うのは仕方がない事であり、普段から人が集まる場所に寄り付かない彼女が運動会と言うギルドの大半が参加するイベントに顔を出す事が不思議でならなかった

 

そんな事を思いながら狐が声援(?)を送る不思議な綱引きも終え、次の項目に移ろうとしていた

 

「綱引きの後は…借り物競争、玉入れ、障害物競争やね」

「借り物競争はうちのメンバーはシロエっち以外はみんな参加し「ただいまでありんす~!」おかえりなさいですにゃ」

「くーちゃん、えらい頑張ってたんな?どなんしたん?」

「山羊スライムをあげた老人から林檎を貰いんした。老人曰く運動会のMVPには林檎一年分が贈呈されると言っておりんした!わっち負けないでありんす!」

 

拳を握りしめ決意を語る狐とは対照的に実行委員の二人は苦笑いしかでなかった

 

「MVP…あったっけ?」

「ないですにゃ」

「なんやくーちゃん騙されてんけど…」

「本人がやる気なら黙っていた方がよさそうですにゃ」

 

運動会を盛り上げる為に彼女の尊い犠牲は必要だろうと、二人は優しい目で彼女を見守るのであった

 

二人が狐を見守る中、実行委員のテントに二人の来客が訪れる

 

「にゃん太さん!」

「ミストレアス!」

 

息を上げながらセララとルディが実行委員テントに飛び込んできた

 

「おやおや、どうしましたかにゃ?今は借り物競争で…あぁ、なるほどにゃ。吾輩を借りたいのですかにゃ?」

「はい!お題が『男性で尊敬できる人』なんで!」

「これはこれは光栄ですにゃ。選んでくれたセララさんの為にも吾輩も頑張りますにゃ」

「はい!」

 

セララに手を差し伸べ手を繋いでゴールを目指す二人を見送りながらもマリエールはもう一人の来客に視線を移した

 

「ミストレアス!お題が『女性で尊敬できる人』なんだ!一緒に来てくれ!」

「嫌でありんす!わっちは走りとうございせん!」

「師匠として弟子を助けてくれてもいいじゃないか!」

「弟子ならわっちの屍を乗り越えていくでありんす~」

「意味がわからないぞ!?」

 

ルディには申し訳ないがお題の人物に彼女を選んだのが失敗であろう

ゴロゴロとニートモードに突入した彼女は林檎があったとしても動かす事は容易ではない

ルディが彼女を説得し終える頃には運動会自体が終わってしまうだろう…まぁ、当たり前だが運動会のプログラム上そんなに時間もかけられないのでルディはお題を用意出来なかったとして失格になったのであった

 

「ただいま戻りましたにゃ」

「お疲れ様~…ええな~セララに選んでもらうて」

「にゃにゃにゃ、お題が『女性で尊敬できる人』ならマリエっちを選んだと思いますにゃ」

「そうやろうか?…そやったら嬉しいな~」

「ルディっちもお題が『男性で尊敬できる人』ならシロエっちを選んだと思いますにゃ」

「そう、やろうね。…シロ坊も参加出来たらよかったのにな~?」

 

運悪く運動会と円卓会議が重なってしまった為に円卓に席を置き参謀の位置にいるシロエをほか円卓会議代表クラスティ、戦闘系ギルド筆頭アイザック、商業ギルドからカラシンなどが運動会に参加出来ないでいた

 

「アキバを盛り上げる為に運動会の中止は出来んからうちはコッチに回して貰ったけど大丈夫やろか?」

「大丈夫でありんしょう?わっちには興味ありんせんが…『南』と対向しんすにはアキバの結束が大切だからとシロエェェも運動会を実行したんしコレも大切な策でありんす」

 

彼女の真面目な意見にマリエールは目を見開いて驚いた

時たまシリアスモードになる彼女は心臓に悪いとばかりに胸に手を当てた

そんな二人を眺めるにゃん太は、彼女の心境の変化に気づき笑みを深めるのであった

 

「そうですにゃ。シロエっちの為にも運動会を楽しみましょうにゃ?…さて、お客さんですにゃ」

「クーさん!」「マリエ姉ぇ!」

 

お題の紙を握りながら訪れたのは〈記録の地平線〉の双子ちゃん

二人はそれぞれ目的の人物の前に立った

 

「うち?お題はなんなん?」

「俺も上手くわからないけど…ヘンリ姉がマリエ姉を連れて行けだって」

「梅子が?…わかったわ、一位目指そうなぁ!」

「おう!」

 

〈記録の地平線〉と〈三日月同盟〉は合同して新人達の訓練をしていたのでトウヤの事も勿論知っていたマリエールはトウヤと一緒にゴールラインを目指しゴールを果たした

 

お題のモノが合っているか確認しにくるヘンリエッタのニヤ付いた笑みが気になるが、まぁいつもの事だろうとタカを括りトウヤが自分を何というお題で借りてきたのかワクワクしながらまっていたが……

 

「ふふふ、トウヤ君のお題は『賞味期限の近いモノ』…問題なくクリアですわね!おほほほほほ!」

「なッ!」

 

お題の内容を聞いて表情が固まる。『賞味期限が近いモノ』つもり人間で言いかえると婚期が―――

 

「梅子!うちは「異議あり!でありんす!」くーちゃん?」

 

マリエールが異議を唱えようとしたが某逆転な裁判如くインターセプターを入れたミノリ・駄狐ペアによって遮られてしまう

マリエールは自分の事を思ってくれている彼女に感動し異議の内容に期待したが、彼女が言う言葉すべてが爆弾発言だと言う事をこの時は知らなかった

 

「異議を聞き入れます。…クー様、異議とは?」

「マリーはパンツ君とにゃんにゃんして「言わせねぇ祭り!」ひでぶ!?」

 

シロエの護衛として円卓会議に参加していた筈の直継の拳によるインターセプターによって遮られてしまうが、時は既に遅し。

 

「おやおや、私とした事が…ごめんなさいトウヤ君。」

「いやいいけどよ。……にゃんにゃんってなんだミノリ?」

「さ、さぁ?にゃ、にゃん太班長の事じゃないかな?」

「ちょっ!梅子!うち達はまだそんな関係じゃあらへんよ!」

「そうだぜ!誤解祭りだぜ!?」

「まだ、なのですね?…どうりで今日は暑いと思いましたわ」

「「~~~ッ!!」」

「あれ?わっち、いきなりぼっちでありんすか?」

 

噂の二人をからかうお題者、誤解だと弁解する噂の二人、駄狐の言葉の意味を尋ねる青少年、言葉の意味を知りながらも誤魔化す少女、火付け人なのに蚊帳の外の駄狐

 

借り物競争はカオスに包まれ、いや春の訪れを知らせるモノになったのであった

 

 

その後、運動会は無事に終わり〈記録の地平線〉は10位、〈三日月同盟〉は5位に入賞しアフターハロウィンでにゃん太特製のかぼちゃ料理フルコースを味わい、ミノリが知らない老人から貰ったと言う山羊スライムver2を見てマリエールは驚きをあらわにしたが………マリエールの驚く事はまだ終わっていなかったのはまた別の話・・・・・・・

 




・ミノリのお題

「そう言えばミノリのお題って何だったんだ?クー姉を連れて来たけど?」
「私?私はね…『賞味期限が切れているモノ』。クーさん持っていそうだし」
「確かに持っていそうだな!」
「…それはパンツ神には言ったか?」
「いいえ、言っていませんよ?」
「絶対言うんじゃねぇぞ?アキバの町に雷雨が落ちるからな?お兄さんと約束祭りだ」
「よくわかりませんが……わかりました」

無垢で純粋と言う事は時に残酷であった……


・マリエールと直継

「もぉ~!梅子ったら!あのお題だったら梅子かて当て嵌まるやんけ!」
「ヘンリエッタさんは仕事が彼氏とか言いそうだけどな」
「なんやねんみんなしてうちの事を賞味期限切れって言いよって!」
「あ~…そのことなんだけどよ、マリエさん」
「ん?なに?直継やん」
「この後…いいか?話があるんだけどよ」
「え!?……うん、ええよ…」
「………」
「………」


後日、二人の関係が一歩進んだ事は極一部の人間しか知らない


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『3』くさく、『1』じりたおす!

疲れた、そしてネタ切れてきた

この回は難産になりそうだ

※ストック切れ・ネタきれの為、執筆落ちます


〈口伝〉

ゲームの仕様にはなかった全くもって新しい技・魔法の事を言う

取得方法は不明、しかし一つ言える事は、従来の取得方法とは異なり自身で何かに気付き、明確な形にする事によって口伝の道が開かれると言う事だけだ

……私が確認しているだけでも3人いや、4人は至っているであろう

 

だが、忘れないでほしい……『力』は『守る』事に使えるが同時に『壊す』事にも使える事を……

 

 

 

「秘密事項項目:世界級魔法と冒険者」著作者:くずのは

より抜粋……

 

「……くでん、ね……ソースはわかりんせんが、噂立ってきんしたぇ。しかし……」

 

手に持っていた本を傍らに置き、モンスターと戦っている二人組みに視線を向けた

 

「オーブ・オブ・ラーヴァッ!」

「マエストロエコーッ!」

 

握りこぶし大の溶岩の塊がモンスターを貫き、赤色をした音符がワンテンポ遅れていくつも湧き出てモンスターにぶち当たりモンスターを光にかえた

 

「まこと に暇でありんすぇ~」

「暇ならもう少し一緒に周りましょうよ!」

「そうさっ!トウヤも確実に実力を挙げてきている!負けてはいられないさっ!」

「………帰りんしょう~」

 

弟子二人のため息をBGMに、駄狐は〈アキバ〉に秋と水の訪れを感じていたのであった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

もうゴールしていいよね、シロエ?→いえ、働いてください→解せぬ!

 

 

 

「いや~降られたね~?いきなり降って来るんだもん」

「仕方ないさ。むしろこの程度で済んだことを喜んだ方がいい」

「だよね~。あっ!師匠、タオルです」

 

部屋の中央に置かれた大きなソファ、木製の小さなサイドテーブル、壁際を沿う様に置かれた林檎の木、室内だと言うのに爽やかな木々の香りが漂うこの部屋は、彼等にとってはもう来慣れた場所になっていた

案の定、彼女の部屋だが数日前に比べ花や小物等、彼女が置かない様な物まで置かれているのは弟子二人の影響だろう……ちゃっかり、自分用のクッションまで持ち込んでいるぐらいに……

 

そうして、当の家主はと言うと……

 

「だから言ったではないでありんすか !帰りんしょう って!……うぅ、尻尾に湿気が…」

 

二人を涙目で睨みながら丁寧に尻尾を乾かしブラッシングするのであった

 

「まぁまぁ、私も手伝いますよ!……って言うかやらせて下さい!前から興味があったんです!」

「……いいざんすよ、でも~…やさしゅうおねがいしんす」

「はいっ!」

「ならぼく 「NO!お茶をもっくるなんし!」 ……了解だ、ミストレス」

 

言葉を遮り否定と要求をルディに叩きつける彼女、ルディの方も師匠うんぬんの前に本能的に逆らえなく素直に人数分の飲み物を取りに行ったのであった……

 

「………そういえばなんでわかったんですか?」

「うにゅ?」

 

ルディが来るまでの暇潰しとばかりに五十鈴は先の事を質問してみた。最初は彼女もクエスションマークを頭に浮かべていたが五十鈴に「雨ですよ、雨」と補足され理解したとばかりに頷く

 

「あれは~匂いでありんす」

「匂いですか?……あ、お婆ちゃんも似たような事いっ「……五十鈴、次『お婆ちゃん』と『似た』と言ってみなさい?……首掻っ切るわよ」……スミマセンデシタ、シショウ」

 

ふん、と鼻を鳴らし不機嫌そうにしながらも彼女は説明を再開し始めた

 

「………雨の匂いが風に乗ってきただけ……確証を得たのは川に落ちる雨音を聞いたときね」

「『匂い』はわかりましたけど……『音』も、ですか?…そんな、本物の狐になった訳でもないんですしっ!?」

 

五十鈴は言葉が続けられなかった、彼女の目が嘘や冗談を言っている様には見えなく真実を告げたとばかりに冷めた目で五十鈴を見据えているのだから……

 

「本物、ね……五十鈴は『外見に中身が引き寄せられる』って聞いた事ない?」

 

妙に口の中が乾いていく…

 

「音や気配に敏感な獣は勿論……そうね、確かヘンリエッタが『吟遊詩人は音に敏感』と言っていたわ」

 

ヘンリエッタさんがそんな事を……

 

「貴女も『吟遊詩人』なら聞こえる筈よ?……犬が柑橘系の飲み物を持って階段を上がって来るわ……」

 

え、えぇ!?き、聞こえるの!?……でもなんだがそんな気がしてきて……

 

「ほら……3…2…1…」

 

自然と扉に視線が移ってしまう、そしてタイミングを見計らったかのように扉が……

 

「へぇ!?」

「ふふふ、冗談よ」

 

……開かなかった

呆ける私を横目に〈くずのは〉は笑うだけ……直ぐに合点がいった、騙されたと言う事に

 

「し、師匠!騙したんですか!?」

「ふふふ、素直な事は美徳であるけど素直すぎるのも考え物ね?貴女には、『交渉力』や『会話力』なんかも教えたいわ……シロエが言うには『腹の探りあい』?」

「けっこうです!」

「なにやら楽しそうだね?なんの話をしているんだい?」

 

緊張の糸が切れていた為、ルディが部屋に入って来た事を気付けなかった

相変わらずゴールデンレトリバーみたいに「僕、お使いしたんだよ!ほめて!」と言わんばかりに尻尾を振っている姿が想像できた

 

「ルディぃ~?ガールズトークの内容を聞くなんて紳士な対応じゃないよ?」

 

騙されて少しムカついたけど、ルディを見ていたらなんだかどうでも良くなってきた自分がいて、少し笑みが零れた

 

「む……それはすまない事をした。お詫びとはなんだが、この季節には手入りづらい物を用意した!味わって飲んでくれ!」

「へぇ~?何を用意したの?」

「夏蜜柑のジュース 「え!?」……ミス・五十鈴は柑橘系が苦手だったのか? 」

「いや、違うの!ミカンは大好きだよ!でもね……」

 

しゅん、と肩を落とすルディは、怒られて落ち込む犬みたいでとても可愛いんだけど……どうしても師匠の方へ視線が行ってしまう……たしか師匠は―――

 

―――『犬が柑橘系の飲み物を持って階段を上がって来るわ』

 

ッ!?

ここは4階で飲み物が置いてある所は2階っ!

階段を上がるのは、この部屋に戻ってくるのだから当たり前の事だ!

……注目するのが入室のタイミングじゃなくて何を持ってくるのか?だとしたら……

 

〈くずのは〉も五十鈴の視線に気付いたのか、ルディから渡された飲み物とは別の果実酒の封を開けながらクスリっと笑い……

 

「言ったでしょ?素直すぎるって……」

 

と口だけを動かし私に伝えてきたのであった……

 

 

 

 

 

「質問していいかい、ミストレス?」

「……構わないわ」

 

ルディの質問に対し苦虫を潰した楊に顔を顰めながら〈くずのは〉は答えた

どうやら好みの酒ではなかったようだ

 

「何故、ミス・五十鈴は放心しているんだい?」

「……未熟って気付いただけよ」

「なるほど、傲慢していたという事か……ハハハッ!その気持ちはよく分かるぞっ!ミス・五十鈴!このルンデルハウス=コードも自身の成長に天狗になる事はある!だがっ!だからと言って傲慢するようでは更なる成長へとは繋がらないっ!今のうちに気付いてよかったじゃないかっ!ハハハハハハハハハッ!」

「……もういいかしら?……五十鈴、貴女も戻ってきなさい」

「ハッ!……すみません!師匠」

 

五十鈴の意識をこちらに戻し、再度向き合う位置で腰を下ろした

 

「では反省会を始めるわ」

 

……色々と横道に逸れてしまったが本来の目的は〈くずのは〉が言う様に反省会

先の戦闘での評価、反省点を師匠である〈くずのは〉に付けて貰う為に彼女の部屋に集まったのだ

 

「そうね……今回は二人の連携、敵の弱点への攻撃。共に上手くいっていたと思うわ」

「おぉ~!ありがとうございます!」

「ふっ……僕は自分の成長が恐いさ」

 

何か期待するかの様に熱い視線を〈くずのは〉に向ける二人。その視線に対し〈くずのは〉はクスリっと笑いながら言葉を繋ぐ……

 

「以前指摘したコンボのタイミングも良し……今回の点数は―――」

 

二人の視線が更に強まった……

 

「―――0点」

「……ですよね~」

「またかっ!!」

 

五十鈴は想像通りとばかりに息を吐き、ルディは声を上げながら頭を抱え込んだ

 

「何故だか分かるかしら、五十鈴?」

「……『ウッドマン』の弱点は火属性。…他にも斬撃が有効だから…ですか?」

「ふふふ、半正解。……パーティー戦闘において敵のバックアタックは戦況に多大なる影響を及ぼすわ。……森林地帯で火属性なる強い『光』を発する攻撃を行えば周囲に敵がいた場合、自分達の居場所を知らせているのと同然……バックアタックを受けるリスクが出来る……完璧な行動を取れない限り点数なんてあげられないわ」

「……だが、僕の様な妖術師は斬撃など行えないが?」

 

頭を抱えながら片手を上げ、〈くずのは〉に質問するルディ……そんな彼を〈くずのは〉はきつく睨んだ

 

「少しは自分で考えなさい駄犬ッ!」

「だ、だけん……」

「ははは、ルディは〈エナジーウェポン〉とか〈フォースシールド〉で援護するが正解、かな?」

「そう言う選択もあるわね?……さぁ、後は自分達で考えなさい?……私は少し身体が冷えたわ」

 

そう言い残すと先程まで飲んでいた果実酒をルディに押し付け、五十鈴が持ってきたのであろう籠からタオルを取り出し肩に掛けた

 

「期限は……明日まで、ね?」

「え?明日は秋祭りですよ?」

「私は興味ないわ……フンッ!好き好んでヒトゴミの中に行く貴方達の気が知れないわ」

 

苦笑する二人を尻目に〈くずのは〉は部屋を出て湯浴みに向かったのであった……

 

「師匠、人込み嫌いだもんね~?……あ~あ、お祭りは無しか……」

「僕はそれでも構わないが……その心配はないだろう」

「へぇ?」

「ミストレスは『私は興味ない』と言ってはいたが、『人込みの中に行く』…僕達が祭りに行く事を前提に言っていた……多分、正午には切り上げるんじゃないかな?」

 

五十鈴は目を見開いた

自由気ままで掴み様のない彼女の考えをルディが理解していた事が驚いたのだ

 

―――『ふふふ、素直な事は美徳であるけど素直すぎるのも考え物ね?』

 

頭に浮かぶのは師匠が言っていた言葉……思わず大きくタメ息をついてしまった……

 

「ししょ~、少しは分かりやすく言ってくださいよ~」

 

彼女から指示を受ける様になってから一週間、五十鈴の頭を悩ます事は始まったばかりなのであった……

 

 

NEXT  れっつぱぁりぃぃx

 




「うにゅ~!流石におちゃけだけでは身体があたたまらないでありんすね~?早々に湯浴みするでありんすか!」
「あっ!クーさん!」
「んにゃ?ミノリン、今日の服はとても可愛いですね」
「あ、ありがとうございます……じゃなくてっ!シロエさんがクーさんを見かけたら部屋に来て欲しいと.伝言を預かっています」
「ん~……わかりんした」
「はい、おねがいし……クーさん、何故階段を降りているんですか?シロエさんの部屋はこの階ですよ?」
「確かにミノリンはわっち宛ての伝言を預かっておりんすが、わっちは受け取りを拒否しんした」
「え」
「と言う訳でわっちにシロエェェの伝言はとどきんす。……わっちは湯飲みにいくでありんすから~!」
「え、え、え~!?」

言葉を巧みに操る彼女達に勝てる者はいるのであろうか………今後に期待!

その後、彼女はシロエに捕まり一緒に事務処理をするのであった……


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『3』ぁ、始まるざますよ!いくでガンス!『2』ンガー!

過去最高に長い、切り目がわからず書いてしまった

ちょっち過激な表現あり
でも彼女ならやりそう……

声優設定してみました
浮かぶのが小清水さんか齋藤さんにかいないw
そのうち、声優ネタを書くかも


六傾姫(ルークィンジェ)

 

世界級魔法を語る上で知っておかなければならない350年前の動乱期に滅びたアルヴ系王国の姫君達である。

彼女らは世界に戦争を仕掛け、事をあろう事か世界級魔法を発動し、亜人間と呼ばれるゴブリンやオークと言ったモンスターを生む出した世界的に見れば悪名高い姫君である

 

しかし、その実態は優れた魔法技術を生み出すアルヴ種族に危機感を感じた他種族によって滅ぼされた罪も無き悲劇の姫君達である

 

種の『業』は他種族より上へ!他種より優越に!と繰り返されていく。そしてその手段として滅ぼされたアルヴ族は魔術の知識、続いて高性能な魔法の道具を押収され、更にはその容姿から世界の奴隷にされて、犯され、血を薄められた 

 

その様な屈辱が、彼女達には許せず『復讐』を胸に刻み、人間やドワーフ、エルフなどに滅ぼされたアルヴ系の指導者となり、復讐戦争を企てたのであった

 

結果的には六人の姫君達は倒されたが、もし最初の段階で種族共々が和解と言う争いのない解決をしていたのならば悲劇の姫君達は産まれずに違った歴史を歩めたのかもしれないだろう

 

 

「秘密事項項目:世界級魔法と冒険者」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「……世界を憎む六人の姫、わっちは好きでありんすぇ。しかし~」

『……以上がミナミを支配する〈Plant hwyaden〉の実態と構成だ』

 

彼女が見据える先にはアキバの町、〈大災害〉後初めての試みとなる天秤祭り、通称秋祭りがいままさに開催されようとしていた

 

「〈アキバ〉の中心たるギルド会館・円卓会議の間に姫君の像があるのは皮肉なもんでありんすな~?」

『……聞いているのか〈くずのは〉?』

 

賑わった町とは裏腹に今日のアキバの天気は崩れ模様、昨日と同じように静かな雨がギルド会館を濡らしていた。それはまさに―――

 

「大地の繁栄を恨む六傾姫の悔し涙、でありんしょうねぇ」

『俺はお前のオツムが悲しくて涙がでるぞ』

「うるさいでありんすよ?ちんどん屋」

 

人を呪わば穴二つ、皮肉な事に滅ばそうとしていた大地は今年一番の賑いを奏でていたのであった

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

はっ!?林檎飴がわっちを呼んでいる!

 

 

 

「「休み!?」」

「そうでありんす~、たまには尻尾を伸ばす事も大切でありんしょう」

 

ヤマトのハメハメハ大王こと彼女は昨日の様に雨に降られたくないと言う理由からルティ達の修行は中止になった。時間に遅れる、やる気によって修行内容が左右されるなど好き勝手やっていた彼女だが、以外にも面倒見がよく彼女の家出から今日まで休まずに修行を行っており、ルティ達にとっては久しぶりの一日休みとなったのだ

 

……決してその考えに裏はないと思いたい

 

当初、ルティ達も昨日の言葉から午後から町を周る予定をしていたが、午前中の予定が無くなった為、じっくりと町を眺めるのも一興と早々に支度をはじめ本拠地である古びたビルを足軽に出かけていったのであった

 

意気揚々に出かけていった二人を見送りながら彼女は果実酒を傾ける

ほんのりと頬を染めながらもボトルに入った残りの果実酒を呷った

 

「弟子達には悪いでありんすが……ちょっち調べてあげんしょうかね?わっち達の姫君の為に……」

 

飲み終わったボトルとグラスをその場に放置し彼女は足早に本拠地〈ログ・ホライズン〉を後にしたのであった

 

 

 

 

この度の秋祭りは、生産者ギルド連絡会からスピンアウトしてきた企画であった。

生産者ギルド連絡会とは〈円卓会議〉の一部であり、下部組織であると云っても良い。

組織と言ってもフランクなもので、連絡会の本部はいつでも誰でもが出入りできる会議室兼、工房のような雰囲気になっている

 

こと〈円卓会議〉成立後、冒険者は生産系サブ職業にて、この異世界に新しいアイテムをもたらすことが出来るようになった事も今回の祭りを行う由来の一つになっているだろう

もともと〈エルダー・テイル〉には実装されていなかった様々なアイテムを、相応しい生産スキルと、手作りによって生み出せる事が判明し、そこには大きな創意工夫の余地があり、生産系ギルドのモチベーションは一気に加熱した結果、毎日のように何十というアイテムが「発明」されて、それらは街中で販売されるようにもなった。

その様な異世界にはない画期的な「発明」は各所々に生まれていき、その商品を求め他所から挙って訪れていた

 

 

そしてそのようなモノの一人者に拘るこのギルドも秋祭りに向けて着々と準備を進めていた

 

「こちらをカラシン様に届けてください、あぁ、それとクラスティ様には警備に人をもっと回してほしいとお伝え下さい」

 

〈アキバのスズラン〉ヘンリエッタ、彼女も来る秋祭りの為、工房にて木箱につめられたアイテムの積み卸しや、相談などを受けていた。自身の所属する〈三日月同盟〉での出し物があるに拘らず生産者ギルド連絡会の手伝いに借り出されるのは彼女の能力の高さを物語っていた

 

しかし、彼女だけで事を捌くのは難しく彼女と同じように数人の〈冒険者〉が工房の中を忙しなく動き回っていた

 

……多忙な工房の中、場違いな狐は突然と現れるのであった

 

「ヘンリ~♪」

「きゃぁ!?く、クー様!いきなり揉むのはやめてください!」

 

いきなり鷲掴みにされ声をあげてしまったが、こんな行為をする知人は一人しかいないと振り返る事もせずに淫行を働く狐に声をかけた

 

「うにゃ?どーしてわっちだとおわかりに?」

「……私はマリエと貴女の被害者です。いつもついでとばかりに揉まれていては流石にわかります。しかし、どうされたんですか? クー様が人が多くいる場所にでるなんて珍しいですわね」

 

 そう言うヘンリエッタは、未だに揉み続けられているのに拘らず両腕に書類を一枚一枚確認しいく

 

「む~、反応無しはつまらないでありんす。慣れんしたか?」

「慣れません!それともう放してください」

 

ぷくっと頬を膨らませながら揉む手を止め、するりとヘンリエッタの顔が見えるようにと屈みながら彼女の目の前にいすわった。ヘンリエッタもいつもなら駄々を捏ねて中々、揉むのを止めない彼女が素直に止めたので少し驚きながらも彼女を見て気づいた。彼女の頬がほんのり赤みを帯びている事を……

 

「……酔っていらっしゃいますね?本当に珍しい、お飲みの際は決して外には出ないというのに」

「わっちかて出とうありんせん!でも林檎飴がわっちに助けを求めてありんしょう!」

 

何故か拳を握り締め涙からがら力説する彼女を見て察しがついたとばかりに手に持った資料から会場パンフレットを抜き取り、彼女に手渡した

 

「流石同じギルドに所属していますね、シロエ様もこれを貰いにきてましたよ?」

 

差し出された会場パンフレット目を通していた彼女は「シロエ」と言う名に反応し、ピクリと耳を動かした

 

「シロエェェ、もでありんすか?」

「えぇ、ギルドの仲間と出かけると言ってましたわ。そうそう!五十鈴ちゃんはどうしてますか?なんでもクー様が指示を―――」

 

先月〈ログ・ホライズン〉に移籍した五十鈴の事を聞きたいのか、あれよこれよと質問をするヘンリエッタの事など眼中にないとばかりに彼女はパンフレットを見つめ、そして指でパンフレットをなぞった

 

「……けーきばいきんぐはここでありんすか?」

「え?えぇ、クー様も参加されるのですか?」

「ふ~ん……」

 

ヘンリエッタの返事を聞くがいなか、彼女は出口へと足を向ける

 

「あら?もうお帰りに?」

「んにゃ~、わっちもウロウロ暴れるでありんす」

「暴れる?……ほどほどにしてくださいな」

「あ~い」

 

なんとも言い様のない不安感に煽られながらもヘンリエッタは彼女を見送ったのであった

 

 

 

「なんてこった、全部持っていれた」

「今日はもうお終いだ……ありがたい!」

「ねぇ……私もあんな元気な子供がほしいわ」

「そうだね…でももう少し大人しい方がいいな」

 

突然と起きたアクシデント、初めての祭りという事で賑わっていたアキバ.の町に罵声が飛び交った

町の一角では馬車が脱輪し、ある店では食品全てが買い占められ、とある店では胸を揉まれたと苦情、しまいには祭りを楽しんでいたカップルの中に入り搔き回すだけ搔き回し逃げていった

 

犯人が一人であり、その人物も判明しているが彼女の突発的な行動の対処に町の警備を担当しているアイザックは頭を抱えていた

 

「あのアマァ……どこに行きやがった!」

「アイザックさん!町の北側、大通りで痴漢です!犯人は「言わなくていい!あの狐だろ!」…はい」

 

もう我慢が出来ないとばかりに愛用の武器苦鳴を紡ぐもの(ソード・オブ・ペインブラック)を肩に担ぐと本部である天幕の外に出た。町は賑わい〈大地人〉も〈冒険者〉も皆が楽しみ笑顔を零している。そんな町の様子を見ているといつも『へ』の字な口も自然とつり上がってくるものだが、突然響く悲鳴に口がまた『へ』の字に戻ってしまった

 

「……痴漢ですね。林檎関係の店の買占め4件、カップルのいちゃ…コホンッ!盛り上げ役12件、いまので痴漢が27件目ですか」

「言うんじゃねぇ!……頭が痛くなってくるぜ。ったく、クラスティと”腹ぐろ“には連絡はとれねぇのか!」

 

自身の副官である女性に声を張り上げて問い質すが、帰ってくる言葉は淀むばかり

 

「クラスティさんは宮殿の護衛で手が回せないと、シロエさんに関しては『任せた』と一言いって後は連絡が取れません」

「ヤロォ!丸投げかよ!自分の所のメンバーくらいしっかりと管理しとけよ!」

「……シロエさんから念話です。『彼女の手綱を握るのは不可能、頭が固い貴族達を相手にするより難しい』だ、そうです」

「”腹ぐろ“ぉぉぉ!」

 

アイザックが醸し出す雰囲気はまさに殺人鬼、フィールドで会ったのならば迷わず愛用の武器苦鳴を紡ぐもの(ソード・オブ・ペインブラック)で苛立ちの原因である“腹ぐろ”をPKする事を考えるだろう……もしこの時、シロエが両手に花を持って出かけていると知ったら確実にPKしていたであろう

 

 

「うにゃにゃにゃにゃ!」

「誰かあのクソ狐を捕まえろぉぉぉおぉぉお!」

 

アイザック達〈黒剣騎士団〉と〈ログ・ホライズン〉の問題児クーの壮絶な鬼ごっこは〈黒剣騎士団〉のメンバーを8割近くを導入しても収まらず、彼女が所々で問題を起こす為、警備が厳重になり彼女が起こした以外の問題にも早急に対処できたのは怪我の功名、悲しくも彼女の暴走が町の警備体制の強化を引き上げたのは皮肉なものであった

 

後日、その話を聞いたシロエは同じく朝食をアキバの町で古参にあたる和食定食屋〈一膳屋〉でとった際に、一品アイザックにおごってあげたとか……

 

 

 

 

アキバの町の警備員VS問題児クーの鬼ごっこは日が暮れると共に終了した

結果は警備員の惨敗、いくら追い詰め様が突然と姿を眩ましたり、人混みの中に入ると見失う、被害は店の買占め・カップルの盛り立て役・痴漢を合わせて100件を超えた

 

しかし、町に被害と言う物は出ておらず店の買占めと言っても林檎関係だけで明日の祭りにか影響が出ない程度で売り上げに貢献し、カップルに関しては更に仲が良くなったとお礼を言いにくる者達まで現れたのだ。……実質、被害と言う被害は痴漢だけであるが被害者全員が口を揃えて頬を染めながら「良かった」、笑いながら「あのお狐様だからねぇ」と言って彼女の事を許していたので彼女の暴走は満足な結果に終わり、警備員達はぶつけ様のない苛立ちを夜祭にて発散させるのであった

 

そして、苛立ちを発散させるにはお酒は必須となり遠まわしに居酒屋の売り上げにも貢献していたのであった

 

 

――ここもそんな酒場のひとつ「リングイネ」。

天秤祭り初日の夜はこんな玄人好みの居酒屋兼食堂もかき入れ時にしていた

 

「うにゃ~…ご隠居、セラララこっちでありんす!」

「おやおや、待たせてしまいましたかにゃ?」

「『ら』が一つ多いですよ?……クーさんもう出来上がっていますね」

「そうですにゃ~」

 

がやがやと騒がしい店の奥まったあたり、テーブルを挟んで向かい合っているのは〈記録の地平線〉のご意見番、というか引率班長にゃん太と、〈三日月同盟〉の新人世話係兼、自分も新人のセララ、そして二人掛けの椅子を一人で座り込み昼の騒動の犯人であった

 

大して広くもない店は、溢れかえる程の客を詰め込んでごった返していた。もう10月になり、夜風が肌寒いほどだったが、暖房を入れていないはずの店の中は暑いほどだ。

飲食店はお祭りで各地の〈冒険者〉〈大地人〉が集まり、どこも盛況。味が自慢のこんな裏通りの店にも、多くの客で賑わっていた

味が自慢だけあり、酒が出される時間とも相まって、店内は品のない喧噪に満ちている。少女には些か刺激の強い店だったが、セララとしては大好きなにゃん太達と遅めのディナーが一緒に出来て満足だった。狭い店内だというのもあり、、隣同士で座るにゃん太とお互いの肩がぶつかる距離だと思えば、嬉しくてくすぐったい。そんなセララの様子を見て満足そうに彼女は果実酒を呷っていた。

 

「にゃ、にゃん太さんは、お疲れですか?」

「そんな事はないですにゃん」

 

彼女に悟られた事に気づいたのか些か無理がある振りになってしまったが、実際にゃん太は、今日は八面六臂の大活躍だった。〈三日月同盟〉は秋祭りにおいて幾つかの店舗を出すことになった。復活する〈軽食販売クレセントムーン〉もそうだし、そのほかに裁縫部門が実演販売を、鍛冶師達はネーム入りの武器販売を行なう。

〈三日月同盟〉は少人数ギルドで、それぞれの部門は多くても5人ほどでしかない。にゃん太は、その中でも調理部門の助っ人兼講師として協力してくれていたのだった。

 

「ご隠居も動かなくては廃れるだけでありんしょう、ビシビシと働かせた方がよいざんすぇ」

「ビシビシなんて!そ、そんな!」

「いえいえ、セララっち。吾が輩もビシビシと働いた方が楽しいですにゃ」

「そうですか……なら明日も頑張りましょうっ」

「そうですにゃー」

 

そうしてにゃん太と忙しい一日を過ごし、夜が明ければ明日は丸一日売り子をすると思えば、わくわくと気持ちが嬉しくなってしまうセララだった。

 

五十鈴が〈三日月同盟〉を辞めて〈記録の地平線〉に移籍を決めたとき、正直に云えば心が揺れなかったわけではない。ススキノで助けてもらったあの日から、セララはにゃん太のことが大好きだったのだ。それだけではない、掴みようのない世話の掛かる姉の様な存在である彼女にも救われた。この二人の存在がセララにとってともて大切で移籍を考える程であった

しかしセララは低中レベルのメンバーの中心的な世話役として、新人達の面倒を見る役目を〈三日月同盟〉の中で担っている。〈ハーメルン〉から引き上げてきたばかりの五十鈴とは違い、セララには、セララを頼りにしている仲間達がいるのだ。

 

そのことを申し訳なく思い、二人に謝ったことがある。

にゃん太は微笑んで「セララっちはとても偉い子ですにゃ」と云ってくれ、彼女は「わっちにはギルドなんてだだの家でありんす。不法侵入は任せんし」と八重歯を見せながら微笑んでくれた。大人で紳士のにゃん太はいつでも優しかった、最初はトゲトゲしかった彼女も段々と丸くなり優しく接してくれた。それ以降、もっと優しくなったような……真剣に向き合って声を掛けてくれるようになった気がする。だからセララとしては、今はこの位置で十分満足だ。

 

トマトで煮た魚介のスープはあっさりとしているのにコクがあり美味しかった。付け合わせの茹で野菜やオムレツも美味しい。二人と他愛もないことを話すのが楽しく、セララは幸せな気持ちで食事を進めることが出来たのだった。

 

そんな時、鋭い破砕音が響いて、店内のざわめきが一瞬で停止する。どうやら店員が食器を落としてしまったらしい。この店の名物であるトマトソースが飛び散って、石床の上に真っ赤な花のような幾何学模様を描いている。白磁の皿は砕けて床に散らばっているが、飲食店である以上、あり得ることだ。そんなどうと云うことのないトラブルに、ざわめきが戻りかけたとき、殴打音が再びそれを断ち切った。

 

テーブルの上に視線を戻しかけたセララがそちらを振り返ったとき見えたのは、倒れてゆく女性店員と、仁王立ちの男性だった。

 

「ふざけるなっ。このような染みをつけ、どうしてくれるっ」

 

男は居丈高に怒鳴り散らす。

セララはが素早くステータスを確認する。おそらくどちらも〈大地人〉だろう。メイン職業が〈冒険者〉のそれではない。まだ若い男の方は金のかかった衣服を身につけている。貴族らしいその男はいらついた口調で給仕の娘の不手際を責め立てると、給仕娘風情に弁償しきれる金額ではないのだと云い放った。

 

息をのまれたように静まりかえった店内の雰囲気に、男は気を良くしたらしい。さらに高圧的になって店を貶め始めた。いわく、狭い。汚い。騒がしく、品位の欠片もない。名店だと聞いてきてみれば期待はずれだ。やっと騒がしさだけはなくなったようだな、と。

セララはいやな気分になる。自分は楽しく食事をしていたのだ。料理だって美味しいし、確かにちょっと騒がしいけれど、そう云う雰囲気は嫌いな訳じゃない。そう云う店が好きな人が来ればいいのだ。他人の食事を邪魔するなんて、格好悪い。素直にそう思った。そして思うだけでは留まらない者もいる

 

「一夫多妻除去脚ッ!」

「~~~ッ!」

 

店内にぐにゃと何かが潰れる音だけが聞こえた

崩れ落ちる男、茫然とするセララを含めた女性店員、唾を飲み込みながら股間を押さえる男性〈冒険者〉と〈大地人〉、そして犯人である崩れ倒れた男を踏みつける彼女

――カオスだった

 

「だ、だ、誰だっ!? わたしを踏みつけるのはっ!!」

 

男のなんとか言葉にした激高により、時は動き始めた。それを合図に男とは別のテーブルで食事を取っていた護衛風の〈大地人〉戦士も腰を上げた。一触即発の空気に、店内にはぴりぴりした雰囲気が立ちこめ始めたが、彼女にとっては関係なかった

 

「わっちでありんす!」

 

さも当然とばかりに親指を自分に向ける彼女……いまだなお、男を踏み続けたままである

彼女は横目にで客に「ヒーラーはいんすか?」と尋ね、他の〈冒険者〉に女性店員を任せると踏み付ける足に更に力を込めた

 

「わっちの奥義を受けてまだ話せるぬしは立派でありんしょうな?でもぬしはわっちを怒らせた!」

「な、なにをグフッ!」

 

何かを話そうとした男に一蹴り、口を塞ぐと徐に胸ぐらを掴み持ち上げた。ピンと伸びた腕は男との身長差を失くし、足が宙に浮く。見守る人々はその光景に唖然とした。

華奢な身体をした女性が大の男を片手で持ち上げたのだから……〈冒険者〉と言う理由で片付けられないほどに……そして原因である彼女は更に男を追い詰める

 

「本来ならわっちも〈大地人〉同士の揉め事でありんすからお留守にしんす。」

「き、貴様〈冒険者〉か!?な、ならばなおさら関係ないではないか!」

 

彼女の言葉から〈冒険者〉とわかり、男は一瞬返答に詰まり、その表情に狼狽が走る。そう、ここはアキバの街なのだ。いくら〈大地人〉が増えてきたとは云え、街を行き交う人間の半数以上が、未だに〈冒険者〉である。

その事実を失念していたのか、男は恥ずかしさに表情を歪める。

 

「これは我ら〈大地人〉の身内のことだ。〈大地人〉は〈大地人〉同士の身分の差というものがある。口出ししないでもらおうっ。我らは〈冒険者〉と事を構え「だまりんしゃい!」ッ!」

 

男の言葉を遮り、さらに胸ぐらを掴む手に力を込めた

 

「どこぞのお人好しなら〈大地人〉の秩序、アキバの街の守るべき秩序といいんすが、そな事わっちには関係ありゃせん!今この場はわっちがルール!秩序でありんす!」

 

男を持ち上げながら、戸口の方へと歩き出す。大声を出して暴れようとした貴族風の男は、細身のしかも女性である彼女に、片腕一本で自分を悠々と引きずり回しているのを見ると酸素が無くなったかのように口をぱくぱくさせた。かかとを引きずられてゆく青年は、戸口まで来ると、何をされるのかわからないとばかりにうろたえ始めた

 

「だ、代金は払う!いや、倍払おう!あの平民にも謝る!だからここは穏便に収めようじゃないか!」

 

男の謝罪とも言えない言い訳に彼女は一瞬笑みを浮かべた。男も許して貰えたのかと引きつった笑みを浮かべたが、反転―――

 

「わっちとセラララの楽しい一時を壊したぬしは許さまじ!星になりんしゃい!」

 

槍投げの要用で加速をつけ、一気にフィールドに向かい男を投げ飛ばしたのであった

 

最初は茫然としていた男の護衛達も遠のいていく主の声が聞こえなくなると我に返り急ぎ足で消えていった方へ駆けていくのであった

 

「くーち」

「なんでありんすか、ご隠居?」

 

穏やかに云うにゃん太の言葉に、不機嫌そうに返す彼女

「にゃぁ」と指差す先には彼女の奇行に驚き飲む手が止まった客達、流石の彼女もこのまま食事に戻る事ができないと気づいたのか、気まずそうに尻尾が垂れた

そんな中、治療が終わったのか女性店員が此方に向かってきたのだ。咄嗟ににゃん太の後に隠れる彼女、怒られると思っているのだろう。しかし、店員から出た言葉は罵声ではなく感謝の言葉であった

 

顔を真っ赤にして感謝の言葉を言う店員に下っていた尻尾が徐々に逆立っていく

そして9本の尻尾が全て逆立った時―――

 

「うにゃにゃにゃ!今日はわっちの奢りでありんす!みな、飲んで騒ぐよろし!」

「「「う、うおぉぉぉぉぉお!!!」」」

 

彼女のテンションはMAXになった。

人見知りや人嫌いなど関係無しに。彼女も純粋な好意には弱いのであった

 

彼女の一言で居酒屋の中は、再び喧噪に満ちた温かい雰囲気が戻ってきていた。先ほどのちょっとしたトラブルは、みんなの心の中にも、疑念や不安感を残したかもしれないが、そんな事でへこたれる〈冒険者〉は居ない!

あの程度の騒ぎで不安がっていたら、異世界で暮らしていくことなど出来やしない。

 アキバの〈冒険者〉はこの5ヶ月でずっと鍛えられているのだった。

 

 

 

 

NEXT きゅぴ~ん!見える!わっちにもみえるでありんすよ!

 




酒場にて1

「くーさん」
「うにゃ?なんでありんしょうか、セラララ」
「『ら』が一つ多いですよ?……ありがとうございます、私との時間を大切にしてくれて」
「……なんのことでありんしょうか?」
「くーさん、あの時『わっちとセラララの楽しい一時』と言っていましたよね?私嬉しかったです!」
「………」
「私、改めて思いました!くーさんもにゃん太さんも私にとって大切な人だって!だからありがとうございます!」
「~~~!!!林檎酒を持ってくるなんし!」
「おやおや、くーち照れてますにゃ?」
「うるさい!酌するなんし!」

酒場「リングイネ」売り上げ急上昇中


酒場にて2

「セラララ?セラララ!」
「……どうやら寝てしまったようですにゃ」
「うにゅ~、お久さの食事の席だと言んすのに」
「折角ですにゃ、大人の話でもしますかにゃ?」
「……」
「今日のくーちの行動、吾が輩には裏があるように思えましたにゃ」
「……」
「まるで何かの予行練習のような」
「……」
「くーちの事ですからセララっちを裏切らないとは思いますが、貴女の事を心配する人がいる事を忘れないでほしいですにゃ」
「……わかりんした」

静かに彼女は頷くのであった




彼女の成果

林檎専門店買い占める……12件
カップル盛り立て役  ……32組
痴漢行為       …74件
合計         …118件
アイザック      …頭痛と胃痛がパネェ

彼女の財布
林檎の買占め   …金貨6万(クレセントバーガーは革命前は金貨15枚)
酒場の支払い   …金貨320枚(平均一人辺りの一食代は5枚)
酒場「リングイネ」…うはうは


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真面目に始めな『3』いよ! byかが『3』ん

お待たせしました
そしてすみません
あまり進んでいません

予定では後、1.2話で西の狐とご対面です
時間が中々とれないので更新遅れます


〈全界十三騎士団〉

 

〈古来種〉のみによって構成される英雄の組織集団

人類の守護者故に領主間や〈大地人〉同士の抗争には関与しないが、かの騎士団達は人類の守護者と言う割には亜人間が集落を襲った程度の問題では現れないと言うニートの鏡

出動するのは大規模災害や亜人間の集団的な侵略の際だけであり、必ずと至って良いほど人間界を守ってきてくれた勇者達と設定では説明されているが、私はどうも腑に落ちない

そもそも、大規模災害や亜人間の集団侵略の際、戦場には必ず〈冒険者〉はいた

約240年前、いや20年前なら分かり得る設定だが、現在もその威光が残っているのは現地の〈大地人〉は〈冒険者〉を同じ人間とは考えておらず異質な者と考え、理解出来ない〈冒険者〉より自分達がまだ理解ができる〈古来種〉に縋りたいからではないかと感じてならない

 

……〈大地人〉と〈冒険者〉の溝がまだ深い事が分かる事柄だと私は思った

しかし〈大災害〉後、騎士団の半数の消息が途絶えた。日本の〈イズモ騎士団〉はほぼ全滅、北欧の〈赤枝の騎士団〉も一部を残し消滅したと確認が取れ〈大地人〉は頼る存在が消えた事に多大なショックを受けたそうだ

 

彼らが何故消えたのか定かではないが、私は追加パックである〈ノウアスフィアの開墾〉の新たなイベントもしくは設定変更が原因で騎士団達は機能停止し休眠状態に陥ったと考察する

 

 

 

「秘密事項項目:世界級魔法と冒険者」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

 

「ん~でも、エリエリは、カーミンによって起こされたと言っていんした」

「し~しょう~?聞いてます?」

 

滑らかに走らしていた筆を止めて、短い期間であったが共に旅をした仲間を思い彼女は手を顎に寄せた

 

「寝んねした理由が~…知りとうない事を知って不貞寝した、と」

「うわぁ!?ミストレイアス!墨が飛んだぞ!?」

 

うんうんと身体を揺らしながらも思考に溺れる彼女、被害として手に持った筆も大きく揺れて墨が辺りに飛び散っている

 

「〈冒険者〉は知っていて〈古来種〉が知らない事……出生?」

「「師匠!/ミストレイアス!」」

「ええぃ~い!黙るなんし!わっち!いま!考え中!」

 

うがー!と威嚇しながら立ち上がった事により墨壺が空を舞い地面と人を真っ黒に染めたが……天秤際二日目の空は昨日の空とは打って変って真っ白な雲が浮かぶ晴れ模様であった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

ペコポン人を侵略せよ! ……え、違うの?

 

 

 

 

ガランコロンと心地よい車輪の音が鳴り聞こえる中、彼女達師弟はもはや恒例となった早朝訓練を終え『八の運河のハイコースト』、地球においては京浜港と呼ばれる多摩川の河口部にあたる場所を通りアキバへと帰る最中であった

 

惰眠を愛し自由気ままに生きる彼女の訓練は以外にも早朝に行う事が多かった

初めは二人して予想外と驚いていたが、彼女と一緒に居る時間が増えるに連れて納得していった……彼女は常に自由であり、そして人嫌いでもある、と

 

ギルドの仲間、マリエールなどと言った極一部の人間とでしか関わりを持とうとしない彼女は何かと話題に上がり易く、そして〈記録の地平線〉と言うタグは良くも悪くも有名な為に人の目を集め安い……ごく稀だが、自由気ままな彼女は本当に〈冒険者〉なのかと一時期、アキバの町で噂されてたので余計に人目を集めている

 

そんな好奇心に満ちた目を嫌う彼女達は、人目を憚る為に早朝に師事する事にしたのだ。まぁ、他にも飲酒した後は爽やかな空気で体を満たすのが健康に良いとある猫人に言われたのもあるが・・・

 

 

……だと言うのに、彼女の機嫌は最悪だった

 

「なぜわっちがこなことを……」

「すまないねぇ、冒険者さん達」

「気にしないで下さい、師匠も口ではああやって言ってますが、根はいい人ですから」

 

謝罪してきたのは、キャラバンを率いる1人の〈大地人〉

彼らキャラバンはイズを出てアキバの街に向かっており、、秋祭りの噂を聞きつけて、特産品を売りに、また何かめぼしい商品があれば購入しに行くのだという。

 

早朝の戦闘訓練に出てきていた五十鈴とルンデルハウスは、このキャラバンを発見して、嫌がる彼女を宥めてアキバの街まで護衛をすることにしたのだ

 

『八の運河のハイコースト』

アキバの街から〈冒険者〉の駆る馬に乗って2時間半といったこの近辺は、師匠である彼女が弟子のレベリング、技術、経験を含めて今現在で一番適し、戦闘能力を磨くのにうってつけの場所

しかし、それは弟子である五十鈴やルディにとってはと頭に付き、一商人でしかない〈大地人〉には、フィールドゾーンはいつでも危難の連続

 

朝ごはんであろう林檎と戯れる師を横目に五十鈴はルンデルハウスと相談の結果、キャラバンをアキバの街まで護衛することに決定したのだ。初めは遠慮していた〈大地人〉達だったが、報酬は食事1回分で結構という話で頷いてくれはしたが、まだ〈大地人〉によって〈冒険者〉は異質な者と見られているようと感じ五十鈴は少し悲しかった

 

 

 

 

ガランコロンと音を立てる車輪は兎も角、案外大きな音を立てるクッションやアブソーバーのろくにない木造の車体は、地面の凹凸を拾い上げて、ぎしぎしとうなりを上げる

耳を傾けているだけでは今にもバラバラになりそうな音だが、よほど作りが頑丈なのだろう。要所を鉄の帯具で補強された馬車は、荷物を満載してゆっくりと進んでいった

 

「なぁ、商人殿。これは何を積んでいるんだ?」

 

 そんなゆっくりとした進行に、ルンデルハウスが穏やかに訊ねる。キャラバンのリーダーは馬車の御者台で、荷台の上の若い商人と話していたが、そのルンデルハウスの声に顔を上げた。

 

「そうでございますね、〈冒険者〉さん。私どもの商いは果実が多うございまして、橙、金柑、オリーブなどでございますね。それに調味料や、酒などもつんで「酒がありんすと?」

えぇ、今年の夏に取れた果実を使った酒です」

 

荷台から足を放り出しながら垂れていた彼女は『酒』と言うキーワードに反応し、すぐさまリーダーに詰め寄った

 

「師匠、お酒好きだもんね?私は~…まだ美味しいとは思えないや」

「飲酒は二十歳からでありんす!ときにヌシ!酒の種類は!?」

 

ビシッと五十鈴を指差した後、リーダーの胸倉を掴む勢いで更に詰め寄る彼女

人にモノを尋ねるのではなく、尋問に近い行動であった

 

「み、蜜柑の酒とオリーブの香酒です」

「林檎は!?林檎はありんせんか!?」

「う、うちの村は林檎の酒は作っていないんだ」

「な、なんと!?まことでありんしょうね!?」

「あ、あぁ、作ってねぇ…」

 

リーダーの言葉を聞き、一気に尻尾が垂れ下がった。落胆する彼女……

しかし、商人の言葉には続きがあった

 

「酒はないが、林檎の砂糖(シロップ)漬けならありますよ?ほら」

 

徐に後に積まれた樽の蓋を開けると爽やかで甘い香りが馬車に漂い始めた。季節柄、もちろん、生の新鮮な果実は少ないだろうが、樽に詰められた砂糖漬けは華やかな香りを放ちあの夏を思い出させてくれる

 

 

……商人の横を金色の閃光が走った。彼女が動いたのである。いや、突入したのである。

 

何を?頭を……何処に?樽の中に……

 

唖然とする弟子や〈大地人〉の目線など気にも止めずに、ただ夢中に喰らい付いたのだ

傍から伺うと樽に頭から入ってしまって出れなくなった獣が暴れているようにしか見えないが、そこの獣は自分達の師匠だと思い出されて堪らずリーダーに頭を下げた

 

「す、すまない!ミストレアスは林檎に目がないんだ」

「べ、弁償します!うちの師匠はこう見えてお金持ちなんです!だから樽の一つぐらい買えます!……たぶん」 

 

成人女性の頭、いや、体まで入る樽に入った林檎の砂糖漬けは総額いくらするのかと冷汗が湧き出る二人に対し、唖然としていた〈冒険者〉も二人の謝罪を受けて我に返り勝手に食べ始めた事に対する罵声ではなく歓喜を帯びた笑い声を上げた

 

「ははは!こんなに気に入ってもらえるとは思ってもいませんでしたよ。これならアキバの町でも他の商人に遅れを取らないでしょうな!」

 

 商人の如才ない笑みにルンデルハウスは安堵しながらも頷く。

 

「あぁ、ミストレアスがあんなに夢中になる物だ、売れるに違いない。……それにしても、ここ数日、商人さんを沢山見かけるね」

「それはそうだよ。秋のお祭りだもの」 

 

ルンデルハウスにツッコミを入れた五十鈴は少し考える。ルンデルハウスは、ことのほか上昇志向の強い青年だ。特に魔法戦闘にかけては、よほどの覚悟があるのか義務を遂行するかのように修練に励む。

 

だからこそ、祭日ではあっても嫌な顔をせずに師匠の修行に応じているのだが、いつもそれではルンデルハウスが壊れてしまう。……それは五十鈴としても問題を感じる。このとぼけた、自分勝手で、一本気な青年の保護者として、その暴走にストップをかけるのは五十鈴の役目なのだ。

 

(ルディはもう少し遊んだ方が良いと思うけど……師匠はそこの所はどう思っているんだろう?)

 

期間で言えば、まだ短い時しか師事されていないが、時には子供みたいな師匠であり、時には威厳ある大人な師匠は信頼に値する人物だと感じ取れるが為に、横から樽を伺ったけど、聞こえるのは「美味」と言う言葉だけ、実は密かに行きたい場所の候補がある五十鈴は、もし良かったら吟遊詩人の飛び入りも歓迎されると小耳に挟んでいる今晩のかがり火公演に二人を連れだし彼女の考えを聞いてみるのもいいだろうな?と思うのであった

 

「それだけじゃありません。〈冒険者〉様のおかげでモンスターの被害はすくなくなり、旅がし易くなった事も大きいでしょう」

「じゃぁ、海路もあるんですね」

「ええ、そうですよ。最近では、ほら。ナインテイルの」

「……ああ」

「そちらの方も一段落して、船の旅も安定したとか。今回も西からの商人さん達は、船旅だ「西からも来てありんすか?」え、えぇ、精霊船とかいうのが登場して、随分速いんだとか聞いてますけれどね」

「精霊船……それは貴族並の金持ちが使うでありんすか?」

「はい、あたしら、一般の、しがない交易商には縁がない話でございますよ」

「そうでありんすか……」

 

今まで砂糖(シロップ)漬けに夢中であった彼女は樽の中から顔を出し、鋭い視線で商人に説いてきたが………砂糖(シロップ)漬けまみれの口のせいで色々と台無しである

 

見るに堪えないと五十鈴はハンカチを取り出し、彼女の口元を拭いてあげようと近づいたが、彼女がうわ言の様に呟いているのが聞こえ、手が止まってしまった

 

「西の貴族?違う、今の西は南の勢力化にある。〈Plant hwyaden〉からの間者?でも、回りくどいし、KRからは臭わなかった。……下の暴走?西と東の違いは……貴族との交流関係。その先にあるのは嫉み嫉妬。ではいま〈アキバの町〉と〈イースタル〉を結んでいるのは………ッ!?」

「し、ししょう!?」

 

先の暴食を働いていた者とは思えないほどの変わり様に驚き、声を上げた五十鈴であったが、〈くずのは〉は勢いよく顔を上げ、樽から飛び出したと思うと何時の間にか木彫りの笛を取り出し吹き鳴らした

 

「な、どうしたんですかミストレアス!?ってうわ!」

 

ルディも〈くずのは〉の奇行に気づき声を上げるが、空の彼方から飛んできたグリフォン

によって遮られてしまう

 

「ルディ、五十鈴。私は先に戻るわ」

「えっ?なにかあったんですか!?」

 

急ぎグリフォンに飛び乗る彼女の緊迫さから徒事ではないと感じ取られた

 

「……私のモノに手を出す不届き者がいるから殺しにいくわ」

「こ、殺し!?」

 

彼女は言った事は絶対実行する、特に〈くずのは〉なら尚更、手加減することなく『殺す』

それが例え、同じギルドの仲間であろうとも……

そんな〈くずのは〉が明確に殺意を持って『殺す』など言うものだから弟子達は冷汗が止まらなかった

 

「そうね……本当なら社会見学として連れて行こうかしら?」

 

何を思ったのか、弟子である二人を見たあと『殺す』現場に連れて行くと言ったのだ

人は心臓が高鳴った……決して高揚している訳ではない、むしろ拒否権のない拉致宣言を聞いて激しく動揺しているのだ

 

五十鈴は言いたい、そんな社会見学あるか!と……

しかし、自分たちに向けられていた視線が商人に向けられると苦虫を潰した顔をして否の言葉を紡いだ

 

「でも今回は無しにしましょう……そこの〈大地人〉との契約を優先しないさい。彼らは私の糧となる存在だから」

「「は、はい!」」

 

ビシッと敬礼する二人に〈くすのは〉を布袋を投げ渡した

綺麗な曲線を描きながら五十鈴の手元に飛んできたこれを、危なげなく掴むと袋の重さに眉を顰めた

 

「お、重!?……って、お金?」

 

袋に詰められていたのは大量な金貨、軽く数えるだけでも5万は入っている

いきなり大金を投げ渡された事を疑問に思う前にすぐさま〈くずのは.〉から指示が飛んでくる

 

「そこな〈大地人〉から林檎の砂糖(シロップ)漬けを買占めなさい。買った物は私の部屋に運ばせるように!運賃も含めて多目に渡しときなさい!」

 

糧になるってそういう事ね……と思いながらも本質は変わらない二人の師匠に笑みが零れるが、アキバの町に飛んでいく〈くすのは〉の後姿を見送った後、思い出した様にハンカチを握り締め―――

 

「……師匠、くち」

 

 

と呟くのであった

 

 

 

NEXT 詐欺?はっ!証拠を持ってこいやぁぁぁ!




声優ネタ(※クーの声優を小清水亜美さんだと考えた場合)

シロエver

「くーさん、いい加減に働いて下さい」
「嫌でありんす~、そなしつこいと「マグダラの聖骸布」で縛りんすよ?」
「タオルじゃないですか……いい加減、働かないと此方にも考えがあります」
「考え?はっ!?合体でありんすね!?止めるなんし!翅犬!わっちは合体しとうありんせん!」
「……はぁ~、もういいです。あとで覚えててくださいよ?」
「うにゃぁぁ!復讐される~!」
「はぁ……」



アカツキVer

「ツッキー、ツッキー、ツッキー」
「……なんだ、クーうるさいぞ」
「わっち、考えたでありんす!」
「嫌な予感しかしないのだが…なんだ?」
「ツッキーの二つ名でありんす!わっちは「秩序を護る盾」ツッキーが「混沌の子」でありんす!」
「クーはもう〈九尾〉と〈扇狐〉があるではないか!それに何だ、その禍々しい二つ名は!」
「まーね、そーね」
「イラ……都合のいい時だけ友達、いや友達として縁を切らせてもらう」
「そんな事いわんといて~?一緒にパン工場した仲でありんすか!」
「はぁ……」


直継Ver

「パンツ君は変態でありんすね~?」
「なんだやぶからぼうに?」
「うにゃぁ、パンツだけでよかったでありんすが、おへそ舐めたり膝裏舐めたりするのはよくありんせんよ?」
「……なんか、知らないところで変態になってんな、俺?」
「なんでこんなに歪んだのか…学生時代は超次元的なサッカーとかやりんせんでしたか?」
「……意味不明祭りだぜ」



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『3』ぁ、フライングだ『4』!色々と…

昨日に引き続き投稿です
次で狐が揃います!絶対出します!文字数が増えてもだします!
……すみません、今回出せませんでした


余談ですがネットだと貴族の名前がルンドスタード、アニメだとマルヴィス卿だと知ってましたか?


もっと余談、声優ネタの答え ※ 一部のみ

シロエ → 寺島拓篤 
合体 → アクエリオン → アポロ
復讐 → FATE → アヴェンジャー

アカツキ → 加藤英美里
混沌の子 → のーふぇいと! → 高山メイベル
パン工場 → らきすた → かがみ(アニメとドラマCDで)

直継 → 前野智昭
変態行為 → アマガミSS → 橘純一(アニメ)
超時空サッカー → イナズマイレブンGO → 剣城優一、逆崎無限、龍崎皇児


〈林檎の砂糖漬け〉

 

りんごは八つ切りにして芯を取り、更に5mmほどの厚さに切る

熱湯消毒した瓶に砂糖と交互に詰め、常温で3日ほど置いておく。

水分が上がってきたら冷蔵庫で3ヶ月ほど保存できます。

食べ方の例:そのまま食べる、アップルパイの具にする、紅茶に入れる、トーストに乗せてシロップをかけて焼く・・・etc.

 

 

「v密※項来g法目:世#※魔!とp険者」著作者:cznh

よりf粋……

 

あは~♪

これはこれは~クーさんはびびっと電光石火中ですね?!Bダッシュ過ぎて思考停止中してます!

書き直しもしない程、忙しかったんですね~

ちょっろっと盗み見てるのもココロ苦しいのでフォロー入れるです!

 

林檎の砂糖漬けは、甘く甘いボクみたいな食べ物ですね!

あ、でも…林檎と違ってボクは甘くないぞ?もし手を出して来るようなら白い車に乗ったお兄さんに連行してもらうです☆

ボクはみんなモノ!それが銀河系アイドルですね!

 

by Galaxy idol  tetora

 

 

この一文は後日、12月に書かれたものである

のちにこれが原因で第一次銀狐戦争が始まったのであった……

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

腹黒眼鏡と狂騎士!並べるとこちが敵役でありんすね?

 

 

 

〈くずのは〉が翔るグリフォンは瞬く内にルディ達やキャラバンを米粒になるまで上昇した。もとよりアキバから然程、離れていない『八の運河のハイコースト』では少し高度を上げるだけでアキバの町を象徴する古代樹の緑を拝む事ができる

 

〈くずのは〉はそのままの高度を保ちながら一気に加速しアキバの町へと向かい始めた

途中で街へと向かうキャラバンやポニーに荷物を背負わせた個人の交易商などがポツポツと伺えたが、今の高度では気づく事はない、気づかれて騒ぎになってしまうと時間を捕られてしまうので人目に隠れ高度を保っているのだ

 

……空の王者とも呼ばれるグリフォンが超高速で移動してるのを見たら〈大地人〉だけではなく〈冒険者〉もビビるよ

 

風圧に目を細目ながらも、まるで巨大な爆発でなぎ倒されたような、瓦礫の堆積でしかない、アキバ南方特有の景色を抜け〈くずのは〉はアキバの町へ突入した

 

―――湧き上がる歓声、行き交う人々、そして港に見える大きな船

町は賑わい誰もが出店や露店、出し物に夢中になってグリフォンが町に侵入した事も上空に停滞している事も気づかない、町の防衛は大丈夫なのか?と疑問を抱く事態だが、これは好機とばかりに、懐から細く小さい望遠鏡を取り出し辺りを観察し始めた

 

「町の妨害は……概ね大丈夫そうね。事前に予行練習を行い連携や体制を強化してあるし……シロエの策かしら?人的被害は色香と人を使い対処している。……それとあの船は噂の精霊船ね。西の貴族が来ているのだから来船しても可笑しくはないけれど、貴族を運ぶだけで出航するには損失が大き過ぎる。裏があるとしたら貨物、かしら?……被害内容がもう少しわかれば目的も明確にわか……いるじゃない情報」

 

一通り、考えられる事柄から予測を立てた〈くずのは〉の視線の先には、柔らかそうな布地で作られたシャツの上に、丈の長いフード付きチョッキをまとった姿の青年、シロエが行く方向から考察するにレイネシアの居住する『水楓の館』へ足を進めていたのだ

 

〈くずのは〉はシロエの方にグリフォンの手綱を向けて、そのまま通り過ぎるかと思いきや何の躊躇もなく飛び降りた。いきなり乗り手がいなくなった事に驚くグリフォンが声を上げるが、当の本人は何事もないようにシロエの前方にストンと重力を無視したように降り立ったのだ

 

「ッ!?〈くずのは〉!?」

「ごきげんいかがかしら、シロエ?随分やり込められたようだけど」

 

いきなり現れた事に驚き、声を上げるが〈くずのは〉の言葉に納得したと眼鏡をかけ直した

 

「気づいていましたか……えぇ、相手が子供だったので対応に困りましたよ」

「子供?…――ッ!?まさか、無計画犯行なんてね。叱る大人が大勢いれば子供も大人しくなるでしょう」

「流石ですね、僕は答えに行き着くまで頭を抱えっぱなしでしたよ」

 

肩をすかし、おどけるとシロエは危ない笑みを浮かべながら笑った

 

「なので僕は主犯に仕返しと天秤祭りを盛り上げて参加者を満足させる為にレイネシア姫へのもとへ行きます」

「あら?レイネシアに泥を塗るようなら……殺すわよ、シロエ?」

「いえいえ、〈くずのは〉……どちらかと言うとクーの方がお気にめすと思いますよ?」

「ふん、いいでしょう、今回は貴方の策に乗りましょう。でも……」

 

何時のもにか出した扇子で口元を隠すと、横目にシロエを睨んだ

 

「主犯は私が貰うわ。優しいシロエは相手を奈落の底に落とす事をしないでしょうからね?」

 

低く嗤う〈くずのは〉の口元は扇子で隠されていて、見えなかったがシロエには狂喜で歪めている事が容易に想像できた

 

「そうね……貴方も手伝いなさい、立場とか黒い所とか色々使えるわ。断ってもいいけど……わかっているでしょうね?」

「ハイ、手伝ワセテイタダキマス」

 

もはやシロエの返事はYESしかなかった

 

 

 

 

 

 

「ふんっ。どうしたのですかね? よもや準備が出来てないなどとは云いますまい? あれだけ事前に申し込みを行なったわけですし」

「その……」

 

レイネシアは窮地に立たされていた

ことは、ルンドスタード卿が輸送船でアキバに向かうに当たり、事前に倉庫を借りられるよう、レイネシアの方に打診してレイネシア自身が倉庫の準備を確約していたのだが、それを祭りの準備の中で失念してしまったのだ

 

もちろん、実際には何が起きたかは判らない。伝達の事故で連絡そのものが届いていなかったのか、それとも事務メイドが失念したのか、それともレイネシアがあまりの忙しさに書類をどこかに紛れ込ませてしまったのか……。

 

しかし、今更それを問い直している暇はない。

ルンドスタード卿は、レイネシア側からの返事も所持しているのだ。事ここにいたってはレイネシアの落ち度という他はないのだが……

 

「いい加減、返答を返して貰いたいものですな!こちらは貴女みたいに暇なのではないのですよ?さぁ!」

「その……」

 

謝ることは、容易い。

しかしこういった交渉に不慣れなレイネシアは、頭を下げて良い場面なのかどうなのか判断がつかないのだ。

 

「それがコーウェンの作法ですかな? それとも〈冒険者〉――アキバの街との協力関係を作ったというのが眉唾であったのかな?」

 

せせら笑うような声に俯いたレイネシア。

云い返したい言葉はあふれているのだが、そのどれが正しく、あるいは危険なのかが判らないのだ。

とにかく謝罪し、船荷の保証を含め、事を穏便に処理しなければ。細かい手順については追々考えるとして、今はこの問題を、せめて宴の後に繰り延べられないか? レイネシアは痺れきった頭でそう考える。

 

「こんばんわ!」

 

豪華な絨毯に視線を落とし、凍り付くように固まっていたレイネシアは、その色がふと陰ったことにより、自分の前に誰かが立ったことを知る。弾かれたように上げた瞳に映った背中は、ザントリーフへと向かった運命の演説の日、レイネシアを引き返せない崖から突き落とした犯人である、シロエと……

 

「ごきげんよう、レイネシア」

 

マイハマで条約が結ばれた際に行われた祭典で突然と現れ、自分の味方になってくれると言ってくれた狐の女性であった

 

「……シロエさま、クーさま?」

「これはどちらかな」

「失礼いたしました。僕は〈円卓会議〉11ギルドのひとつ〈記録の地平線〉を率いるシロエと云います」

「同じく〈記録の地平線〉にてシロエを補佐する〈くずのは〉と云います」

「お二人は……。家名は無いのですな? ほうぅ」

「ええ。私達は〈冒険者〉ですからね」

 

レイネシアの目の前で、街着を身につけた青年は、西の大貴族を前にしても、飄々とした態度を崩さなかった。言葉につまったレイネシアはそれでも半歩踏み出す。〈大地人〉の礼節や風習を知らない〈冒険者〉では、どのようなトラブルを呼び込むか計り知れない。彼女はそれを防ぐためにアキバの盾となる決意を固めたのだ。

 

しかしそのレイネシアの肩をそっと、だが有無を云わせぬ力強さで制止する手があった。絹のように滑らかで白く美しい手は、〈くずのは〉のそれである。レイネシアを横から制止した〈くずのは〉はそっとレイネシアの耳に優しく囁いた

 

「言ったでしょ?傍にいると」

 

ルンドスタード卿が目の前にいると言うのに優しく微笑んでくれる彼女にどこか安心と安らぎを感じてしまう

 

シロエ達の登場により事態は急展開した

レイネシア側の不手際で、マルヴェス卿の積荷受け入れ不可能というトラブルを積載量500トンの商船の積荷全てを〈海洋機構〉の倉庫が受け入れることでトラブル解決に導いたのだ

 

一方、険しい表情になったルンドスタードはいらだたしげに舌打ちを行ない激しい怒気をみせ叩きつけるように辞去の言葉を残し、大広間から去って行こうとしたのだが……

 

「少しお待ちを…ルンドスタード卿」

 

今まで沈黙を保っていた女性が上げた停止の声に足を止めたのだ

 

「……なんだ、まだ私に用があるというのか?私は忙しいのだ」

「いえ、直ぐに済むことですわ。こちらに署名を……」

 

〈くずのは〉から差し出された書状を乱暴に受け取ると内容を確認し始めた

ルンドスタードも最初は倉庫に用いる許可書類だと思い読み進めていたのだが、突如、怒声を上げて〈くずのは〉に攻め寄り胸倉を掴み上げたのだ

 

ホール内は騒然となった〈大地人〉が〈冒険者〉を、しかも女性に手を出したのだから…

 

「ふざけるなっ!なんだこの書状は!我々を陥れようとしているのか!?」

 

ルンドスタードの罵声にレイネシアの顔に緊張が走った

折角、無事に解体できた爆弾がまた作り直され爆発しそうになっているのだから……

 

「陥れる?…ご冗談を、この書状の通り、レイネシアが倉庫を用意するにあたり、保管費・管理費・運搬費含め金貨200万枚をお納めになると事前に約定が成って御出でではないですか、こちらには何も非はございません」

 

金貨200万枚と言う言葉に辺りはざわめきはじめた

その多額な金貨、なによりレイネシアはそんな約定など知らないと目を見開き驚いた

傍に立つクラスティに視線を送ると此方も初めて知ったのか口を開けて驚いている

 

「……レイネシア姫、クラスティさん」

 

二人にしか聞こえない程度の声をかけて来たのは先のトラブルを見事解決に導いたシロエであった

 

「……シロエくん、これは」

「すみません、うちの駄狐が……今回の件、相当頭に来ていまして…『只では帰さん、絞り殺す』だそうです」

 

シロエの言葉にクラスティは大きくため息をついた

 

「……やり方はアチラと同じだね?ここで文句を云い様なら自分が不正した事を明かす事になる。貴族とは云え〈大地人〉、護衛の〈冒険者〉も含め対した障害にはならないだろう」

「えぇ、彼女に言われてありもしない書状を書かされましたよ。……本当にレイネシア姫も大変な人に目をつけられましたね?」

「へぇ!?私ですか?」

「貴方は彼女のお気に入りだそうですよ?」

「ははは、は……」

 

もはや乾いた笑いしかでなかった

傍にいる、力にもなると言ってくれた人は同じ〈冒険者〉に変人のレッテルを貼られている事に気づいてしまったのだから

 

「積載量500トン、しかも神聖皇国の斎宮家へも降ろされる最高級があるとか…警備費も含めれば当たり前の金額ですが……こちらにはレイネシアの件もありますので、ミチタカさん、金貨100万枚でお借りできますか?」

「ん?あぁ、構わない。もしろ貰い過ぎな―――ッ!?き、厳しいがなんとかして見せよう!」

「そうですか、よかったですね。ルンドスタード卿、半額になりましたよ?」

「だまれ魔女め!こんな約定など私は知らない!」

「あら、それは其方の落ち度では?書状には確かにルンドスタード家と、かの〈十席会議〉第三席の返事も確かに受け取っておりますわ?それでも知らないとは……先程のレイネシアみたいですね?」

「き、きさま!私を小娘と同じだと言いたいのか!」

「同じではないですか……それでどうします?……倉庫、使いますよね?なにせ神聖皇国の斎宮家への品もありますから」

「ぐっ!つ、使わ「あぁ、使わなくてもいいですよ?“約定”では『用意する』とあり、使用する有無は関係ありませんから」き、きさま!?」

 

 

 

「……どちらが悪者なのかわからなくなって来ましたわ」

 

レイネシアは、両脚からへなへなと力が抜けていくのを感じた。あんなに恐れを抱いていたルンドスタードが彼女によってプライドをズタズタに傷つけられ、更には思いがけない副収入まで得られそうなのだから……

 

「良し、こっちは処理終わった。後はよろしく」

「判りましたわ、シロエ様」

「了解だ。主君」

 

その精神的な隙を突くように、レイネシアはずるずると引きずられてゆく。契約延長をしたはずの自分の騎士が小さく手を振って見送った事に、レイネシアが気づいたのは下着だけに剥かれた後のことだった。

 

 

 

NEXT 黒い狐と黒い狐




第二回声優ネタ(※小清水亜美さんと考えて)(なんだか楽しくなったからまた書いてしまった)



にゃん太 Ver

「くーち、ご飯が出来ましたにゃ」
「あ~い……マーボー豆腐でありんすか?」
「はいにゃ、いい唐辛子が手に入りましたにゃ」
「エト…真っ赤でありんすよ?真っ赤なのは蛙だけにして欲しいでありんすよ?」
「にゃにゃにゃ、くーちは吾が輩の娘みたいな子ですからにゃ、しっかり食べるにゃ?」
「Oh……」



Ver ルンデルハウス

「ルンパッパは何か得意なことはありんせんか?」
「そうだな……子供の頃はよく穴を掘っていたさ」
「穴掘りでありんすか?」
「そうさ!村の大人たちをよく落としたものさ」
「怒られんしたか?」
「あぁ、火竜のように怒ってきたよ、でも……ナイスな展開じゃないか!大人達が僕に注目する格好のチャンスさ!」
「……もういいでありんす、ルンパッパは頭に障害!がありんす」


レイネシア Ver

「シァ、これ呼んで欲しいでありんす」
「シァ?……ッ!これはかなり恥ずかしいのですが?」
「よんでよんで~!」
「い、一回だけですよ?……コホン」



「はじけるレモンの香り!キュアレイネシア!」
「爪弾くは荒ぶる調べ!キュアフォックス!」
「「ふたりはキュアキュア!」」

「……は、恥かしかったです」
「悪い子はとっととお家にかえりなさい!」
「まだつづくんですか!?」





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二匹のきつね『3』、『5』対面!

ちょっとやばいかも……タグ増やさなきゃ!

とりあえず7800字と言う多さに驚愕
前半→やっちまったぜ
中盤→少し休もうぜ?
後盤→やっちまったぜ
の構成になっています

区切りがついたのでIS書くか……


ネタ 答え合わせ?

ルディ

穴掘り → グレンラガン → シモン
火竜  → フェアリーテール→ ナツ
ナイスな展開 → ラインバレル → 早瀬
障害  → ブレイブルー → ジン

にゃんた

マーボー → FATE → 言峰
エト   → 月姫 → 666の因子の鹿の名前
赤い蛙  → ケロロ →ギロロ

レイネシア

プリキュアシリーズ


〈Plant Hwyaden〉

 

ミナミを治める実体不明の巨大ギルド。大災害後の混乱期に、〈大地人〉勢力を利用することで治安の改善を果たし、立ち上げられたギルド。西の誇る強者や古参が多数所属しており、かの〈放蕩者の茶会〉のメンバーも数名、所属している

ミナミにはアキバの〈円卓会議〉と同じような施政を預かる十人の席将達による〈十席会議〉が存在する

ギルドの本拠地は、ミナミの街から東方8キロメートルほど離れたイコマにある斎宮家の元別邸。

自治方針は『単一ギルドによるギルド間差別のない街』、『現実世界帰還のための勢力集結』など。完全平等を謳った組織ではあるが、その内情は派閥の乱立。

つづりはウェールズ語で「醜いアヒルの子」を意味すると思われる。

 

ここまでが現在までに私が調べた内容だが、どうも情報が隠蔽されている可能性がある

第一に単一ギルドによる差別をなくすなど、ほざいているがリアルでも解決できない差別問題がそう簡単に実現できるのか?私が思うに暴力もしくは脅迫で縛り上げているとしか思えない

第二に西の貴族達の動きがキナ臭い、反吐が出るほど臭くてたまらない。それだけで私は信用に足りないと感じている

第3に……ギルドマスターである西の納言『濡羽』

彼女の目的が不明過ぎる、協力者の情報にも彼女の目的が読めなかった

ただ、唯一わかっている事は彼女も『至っている』と言う事だけ……

 

 

 

「秘密事項項目:世界級魔法と冒険者」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

 

「西の納言『濡羽』……彼女はいったい……」

「あっ!くーちゃん、こんな所にいたんや!探したんやでぇ~」

 

舞台の軒裏、誰も通らなそうな通路に彼女は淡い光を灯しながら執筆していたのだが、聞いた者をみんな元気にさせる声によって手が止まる

 

「……ん、マリーでありんすか!どうしたなんし?」

「うちのギルドで舞台ショーやるっていったやんけ!くーちゃんも協力してなぁ~?」

「おおっ!そうでありんすか!ならわっち、『あの黄色い』のがよいざんす!」

 

舞台の片隅にひっそりと置かれた黄色い服を指差し、目を輝かせながらマリエールに訴えかけた

 

「ん~、くーちゃんの衣装もあるんやけど……アレ着たらうちの用意したの着てくれはる?」

「着るなんし~」

「わっかった!うちからヘンリエッタには言っといてあげる!」

 

マリエールは彼女と腕を組み、彼女は『アレ』と腕を組みながら衣装室へと向かっていくのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

東の狐と西の狐そして百合……Why?

 

 

 

レイネシアの夕餐会は崩壊していた。崩壊しつつも、盛況だった。

大使館に用いられているマイハマ公邸の正面ドアは大きく開かれて、全ての招待客は、アキバの中央広場にあふれ出し、同時に、中央広場で夕暮れの祭りを楽しんでいた人々と入り交じった。用意されていたご馳走は、次々に広場へと運び出され、シロエが密かに発布した、今晩の売り上げはその全てを〈円卓会議〉が持つという契約のおかげで、在庫も切れよとばかりにありとあらゆる食べ物や飲み物が、人々には提供されているのだった。

 

そのせいで、レイネシアが意図したよりも、平均した料理や種類のレベルは下がってしまって、殆どお祭りというか、花見などに近い状況になっていた

 

そんな中、クラスティに広場に導かれてきたレイネシアを見ると、〈冒険者〉の間にはどよめきが走る。あの決起演説以来、〈円卓会議〉やあちこちの集まりには顔を出していたレイネシア姫だが、こうして広場に直接顔を出すのは、初めてと云って良かった

 

クラスティにエスコートされた姫は少し視線を俯かせた、貞淑そうで、それでも恥じらいに頬を染めた完璧な笑みをみせる。その様子は初々しくて、まさに夢のような美しさを見せる美少女ぶりだった。

 

びっくりさせられたのは、その装いだった。

レイネシアは、デニムのマーメイドラインスカートをはいている。秋物らしい若草色のシャツの上には、丈の短いボレロ風のジーンズジャケット。長いスカートがお淑やかだが、カジュアルなファッションだった。黒いリボンが編み込まれた長い銀の髪が背中で揺れている。貴族達が着る服ではなく、自分達に近い服装だったのだ

憮然としたクラスティに導かれて広場の南側に進んだレイネシアは、そこに急遽作られた大きなソファベンチに腰を下ろす。

 

“黒剣”アイザックがトレードマークの剣を鞘走らせ、警備上の理由から姫はこちらの長椅子から動けないということ、しかしこの広場にて祭りの夜を分かち合いたいこと、そして望むものであれば、何処の誰でも、この四阿にて挨拶をすることが出来る旨を伝えると、〈冒険者〉のざわめきは一層大きくなった。

 

そんなシロエの眼下で、広間の動きは続いている。

飲食とレイネシア姫の周りの人だかりはそのままだが、新しい音楽と人だかりが発生しているのだ。ギルドホールから続く石畳の道の両脇には、ずらりとソウジロウ親衛隊が並び、その中央は広く空いている。

 

その空間の先頭を歩いてくるのはマリエールだった。

ウェーブする緑の髪に、光が差し込んでくるような無邪気な笑顔。魅力的に揺れる大きな胸を、すっきりしたデザインのジャケットに押し包んで弾むように歩いてくる。

ファッションモデルとしては失格なのかもしれないが、ステージ代わりの通路の先端までやってきて四方に手を振っているのが、らしかった。

 

続いて現われたのはヘンリエッタ、そしてアカツキだった。

いつもは少女趣味な服を着ているヘンリエッタ、黒づくめの忍び装束のアカツキ。だがしかし、今日ばかりはそれでは目的が果たせない。ふたりは〈三日月同盟〉お勧めの、少しだけエスニック風味の入ったカジュアルなチュニックに巻スカートをはいている。アレンジ違いの衣装をまとった2人は、年の離れた姉妹のようだ。

 

殆ど観客の視線を意識せずじゃれ合う二人を横目にマリエールは、すっとステージカーテンの方を指差した

観客の視線はマリエール達に集められていたので気付かなかったが、どうやらもう一人登場しているようであった

気がついた〈召喚術士〉が呼び出したのだろう、〈光の精霊〉はマリエールの指差す先を照らす、そこには―――

 

「へ?」

 

―――黄色い着ぐるみが佇んでいた

 

「ひ、ヒャッッハァァァァァァァア!」

 

呆気にとられる周囲を物ともせず、黄色い着ぐるみは奇声を上げて変てこな上下運動を行いながら、ステージの外、レイネシアが腰を下ろすベンチまで全力で走り始めたのだ

 

「ひっ!」

「ヒャッッハァァァァァァァア!」

 

奇声をあげながら此方に向かってくる黄色い化物に恐怖し、声を漏らすが化物は止まらない、あわやレイネシアまで後数メートルと言う距離で黒い影(アイザック)が二人の間に入り込み―――

 

「梨汁ぶっし「なにやってんだ、このアマッ!」ぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

黄色い着ぐるみの力を利用し、一回転するやいなやステージへと投げ返したのであった

 

「シロエ、さん」

「あ、お疲れ、ミノリ」

 

遠慮がちに掛けられた声は、ミノリのモノだって理解してはいるが、同じギルドの仲間の奇行に頭を悩ませ広場から視線を上げることが出来なかった。

 

「いまの声ってクー「言わないで、ミノリ」……お疲れ様です、シロエさん」

 

現実を受け入れたくない、しかし受け止めなくてはいけない。

あの駄狐の起こす厄介事は毎回、限度を知らないが今回の奇行は大勢の住人に目撃されている。〈冒険者〉同士の集まりだけなら笑い話ですむが今回はレイネシアがいる。貴族への対応もあるっているのにあの駄狐めぇぇ……

 

「いや、待て。駄狐は着ぐるみを着ていたし花魁口調で話していない。気付いたのもアイザックさんやクラスティさん、僕達ギルドの面々だけのはず。……一般の〈冒険者〉の奇行で片付けられるのでは?うん、そうに違いない!」

 

いつものシロエなら行わない、客観的で歓楽的な考え方にミノリは驚き、声をかけようとするが―――

 

「座りなよ」

「え、でも……」

 

クロエと言う渾名からは想像できないような綺麗で爽やかな笑顔を向けられてしまったら何も言い出せないで素直に応じる事しか出来ないのであった

 

 

 

 

「はぁ……」

「お疲れですか、姫?」

 

夕餐会はなし崩し的に、広場における宴へと変わり、〈円卓会議〉の許可もあることから皆が挙ってレイネシアに挨拶に来た。

大勢の住民の対応に体力を使い果たしたレイネシアは、流石にぐったりとして、長椅子に姿勢を崩して小さく手を振るぐらいしか出来ないでいた

 

「人気者ですね、姫は?……好意に迎え入れられていると思いますよ」

「私もそう思います。だからこそ、一人一人を大切に思い対応しなくてはいけない!…と思ったのですけど、流石に……」

 

クラスティは「お疲れ」とまた声をかけ、グラスをレイネシアに渡す

レイネシアも受け取り、口に付けた。ほんのり甘く、冷たい果実酒は疲れた体を癒すように染み渡っていった

 

「ふぅ、礼をいいます、クラスティ様」

「いえ、大切な姫に倒られでもしたらいけませんし……まだ大物が来ていませんからね」

「大物…ですか?〈円卓会議〉の皆さんは〈記録の地平線〉以外は来ましたし……すると、シロエ様でしょうか?」

 

大物と言うモノは大きな権力を持った人、または団体だと思っていたレイネシアはアキバの町において最高の権力を持つ〈円卓会議〉に席を置く〈記録の地平線〉マスター・シロエが来るものだと身構えたが、クラスティからの返事は違った

 

「シロエ君は、今警戒体制の指揮を取っていますよ、よかったですね?嫌いなシロエ君が来なくて」

「なっ!?……嫌いとかではなくて少し苦手なだけです!……シロエ様が来るのでないとするといったい誰が?」

「立場や法の権力もあれば『力』の権力もあるのですよ?……っと来ましたね」

 

眼鏡を開け直し、体を向けた先にはステージとは反対側のレイネシア側。長椅子の後であった

 

レイネシアもクラスティに続く形で後を振り返ろうとしたが、頭の両脇から伸びてきた手によって頭を拘束されてしまった。その手は冷たく思わず「ひっ」と声を零すが、耳元で囁かれた言葉によって緊張の糸は解れていった

 

「二回目かしら?ごきげんよう、レイネシア」

「く、クー様ですか?」

 

拘束が解かれ、振り返った先にはいつもの西の貴族が着そうな着物ではなく、青い長袖に黒いベスト、同じ色だが足元の方がフワフワなレースがついたスカートを穿いた〈くずのは〉が笑みを浮かべていた

 

「……最初からその格好で来れば良いものを……なんです、あの着ぐるみは?」

「着ぐるみシリーズの新作よ。知り合いに亀の着ぐるみを常時装備している〈冒険者〉がいるのだからマネしたくなってみただけよ」

 

黒いオーラを醸し出しながら嫌味の言い合いをする二人を尻目にレイネシアは〈くずのは〉が『力』の権力者だと言うことが腑に落ちなかった

確かに彼女も〈冒険者〉であるから不死と言う恩恵と絶対的な戦闘能力を持ってはいる。しかし、それはこの地に住まう〈冒険者〉全員に言える事であり、クラスティが大物と云うほどの『力』は持っていない様に感じたのだ

 

「姫、私達の間では「ペンは剣より強し」と言う言葉があります。彼女は『剣』ではなく『ペン』なのですよ」

「へぇ?」

 

いきなり目前の女性をモノに例えた事に唖然とするが、言葉が足りなかったか、と呟くとさらに言葉を重ねた

 

「言論の力は武力よりも大きな力をもつと言う意味を持ちます。……姫もご覧になったでしょう、ルンドスタード卿から大金を騙し取るあの手口を」

「あ…」

 

思い出すのは、夕餐会の光景……

一時は終息し解決したと思われたトラブルを掘り返し、反撃とばかりにある筈のない約定を矛にルンドスタード卿に脅迫を仕掛ける〈くずのは〉は確かに言論の力、むしろ相手を貶める力を大いに持っていると納得した

 

「ふ……私のレイネシアに手を出してただで済むとは片腹痛いわ」

 

やっている事は犯罪なのだが、それを正当化する〈くずのは〉

確かに大物かもしれない……

失笑しかできないレイネシアに〈くずのは〉は思い出したとばかりに一枚の紙を渡した

 

「……小切手?ってこの金額は!?」

 

手にした小切手には7桁の数字が書かれていた

 

「巻き上げた金よ、穢らわしい貴族の金でも金は金。好きに使いなさい」

 

大金を手にし固まるレイネシアを一目見て微笑み、優しく頬を撫でた後、〈くずのは〉はつかを返した

 

「驚きましたね、全額渡してしまっていいので?」

「レイネシアも子供ではない。汚い金だとわかっていても自分の利、いえ違うわね。……アキバの住人の利の為に使うでしょう。それに私には不要なモノだわ」

「なるほど……っと、どちらに?」

 

納得するクラスティを尻目に〈くずのは〉は森の方へと足を向けていた

 

「貴方に言う理由はないわ、でもそう、ね……黒幕に会いに行くと言っておきましょうか?」

 

口元を狂しく歪めながら彼女は笑う

森の中へ消えていく彼女の後姿を見て、クラスティはルンドスタード卿が言った『魔女』と言う言葉があながち、嘘ではないと感じるのであった

 

 

 

 

アキバの街の外れも外れ。もっとも北側の境界に近い雑居ビルのひとつ

そこから眺められる風景からは〈ログ・ホライズン〉と書かれた看板が掲げられているビルを貫く樹齢何百年だか判らない巨大な古木が伺う事ができ、ビルの中は辺りの暗闇を照らすように光が灯っていた

 

「……何か面白いモノでも見えたかしら?」

「えぇ、それはそれは、愛おしき、そして羨ましい光景が見えますわ」

 

古木からの光はビルまで届かず、照らすのは淡い月明かりだけだというのに二人は古木を眺めながら言葉を交わした

 

「それは良かったわね?っと言えば満足かしら……いい加減、化けの皮を脱いだらどうかしら……濡羽?」

「何をおっしゃいますか、わたしはダリエ「私を騙すのは万死に値する、剥ぐわ」――ッ!?」

 

ダリエラと名乗る美女の言葉は〈くずのは〉の言葉と展開された方陣によって遮られた

方陣から湧き上がる黒い魔力の奔流は一瞬でダリエラを飲み込み、瞬く間にダリエラと言う皮を剥いでいった。奔流が終わる頃には藍色と赤で編まれた幾何学模様のローブを纏った〈大地人〉ダリエラは消滅し、彼女がいた場所には漆黒のゴシックドレスを身に纏い、先端を雪の白で染めた耳と尻尾を持つ〈冒険者〉濡羽が佇むだけ

 

皮を剥がされた濡羽はと言うと、ヒラヒラと白い手を泳がせた後、〈くずのは〉に笑いかけたのあった

 

「素晴らしい概念魔術ですね?―――私の〈情報偽装(オーバーレイ)〉など一瞬にして剥がされ晒されてしまいましたわ」

「私がわざわざ足を運んでいると言うのに偽りの姿で迎えた貴女が悪いわ」

「それは…そうですね。貴女様をお迎えするには些か配慮が足りなかったようですわ」

「その通りよ、気をつけなさい」

 

いつも通りな傲慢な態度で、言葉を言い放ち懐から出した金色の扇子で風を扇ぐ

月夜に照らされている事も相まって、その姿は一種の芸術にも思えたが、濡羽が薄ら笑いを浮かべた瞬間に、芸術は崩壊した

 

扇いでいた扇子を閉じ、舞うように濡羽の目の前まで飛ぶとその扇子で彼女の顎を持ち上げたのだ

 

「………なに」

 

不機嫌に呟かれた二文字、持ち上げているのは扇子だと言うのに真剣を喉元に突き刺されている様な剣幕感を醸し出していた

 

―――しかし、彼女の笑みは崩れなかった

 

「ふふふ、皆さんから聞いていた通りの方、いえ、聞いていた以上の方だと思いまして」

「……人から聞いた人物像などゴミ屑と一緒よ、吐き気がする」

 

苛立ちながら言い返す〈くずのは〉に、笑みを保ったまま濡羽は否と答えた

 

「……実は私、一度、貴女様に会った事も話した事もあるんですよ?」

 

扇子を突き刺されたままだと言うのに濡羽は一つの石に腰を下ろした

 

「覚えてはいないでしょうが、あの時、私は守ってもらえて、求めてもらえて、与えてもらえる……そんな小さな幸福が欲しくて仕方ありませんでした。でも貴女様は―――」

 

濡羽の漆黒の瞳が真っ直ぐに〈くずのは〉に向けられた

 

「私の欲している幸福を全て持って、そして与える事もできる。……憧れました、貴女様に。そして……持っている幸福を自ら捨てる貴女様に憎しみを覚えました」

 

向けられた瞳は閉じられ、脳裏に何かを思い出しているのかそっと口が開く

 

「こう見えて私、努力家ですの。……貴女様に近づければあの方にも振り向いて貰えると思い頑張ったんです。――でもね、ダメでした。」

「当たり前だわ、私は私であり貴女は貴女でしかない。虚像を纏っても所詮は偽りでしかないのよ」

 

今まで口を閉ざしていた〈くずのは〉は、先より鋭い視線を濡羽に送りながら言葉を言い放つが、濡羽は頬を染め更には瞳を潤ませながら〈くずのは〉を見つめ返した

 

「えぇ、えぇ、判っています。でも私は今、貴女様に近づけた事に心躍っていますわ。……見向きも言葉も貰えなかった私が―――貴女様の御眼に入れて貰えるのですから」

 

一粒の雫が濡羽の頬を伝った。そして膝元に置かれた両手を大きく広げ〈くずのは〉に向けたのだ

 

「あの方にもですが私は……貴女様にもわたしの隣へ。わたしと共に歩き、わたしに与えてほしいと思っていますわ。どうか私と共に。〈Plant hwyaden〉へ」

 

いまだ瞳を潤ませて、〈くずのは〉の返事を待つ濡羽に対して〈くずのは〉は―――

 

「………」

「――ッ!?」

 

ニコリと笑みを浮かべ、濡羽を迎え入れるように両手を広げた

感極まり、濡羽は涙を流しながら〈くずのは〉の胸に飛び込んでいった

 

 

 

 

 

 

――――が、反転

 

ふわっと浮き立つ足、回る視界、何が起きたのか判らず困惑する中、濡羽が投げ飛ばされたと理解できた時には、また違った状況、地面から感じる冷たさと口元と口内に感じる暖かさに違和感を覚えるのであった

 

目を大きく開き、驚く。目に映るのは先程、両手を広げ私を受け入れてくれた筈の彼女。そんな彼女が私を押し倒し口を口で塞ぎ、更には舌を絡ませているのだから

 

途中で息苦しくなり、舌から逃げようとするが、舐め回され甘い息が零れるだけで新しい酸素を取り入れることを阻害されてしまう

 

意識が朦朧とし始めた頃、口元や口内を侵食していた熱さはなくなり、逆に体の中に冷たい空気を取り入れる事が出来た

 

息も絶え絶えにする濡羽を尻目にスッと唾液で濡れた濡羽の唇を指でなぞり、自身の唇を持っていく〈くずのは〉。そして微笑んだ

 

「確かに貴女は私が目をかけるまで成長したわ。……私好みの真っ直ぐで純粋で、そして歪んでいる」

 

息を整える濡羽の頬を撫でながら、でもね、と言葉を続ける

 

「私もここでお気に入りを見つけたの。……彼女の『思い』がある限り傍にいるって言う約束もある。……決して貴女の『思い』が彼女に劣っていると言う訳ではないの。もっと単純な話し、……どっちが早かったか、よ」

「……で、でわ、私の元には」

 

体を起しながら、悲しみに顔を染める濡羽に対し〈くずのは〉は軽く頬に口付けした

 

「そうね、いかないわ。でも……私にはアキバの街に肩入れをする理由も、〈大地人〉に肩入れをする理由もない。だから、そうね…」

 

〈くずのは〉は立上り、濡羽に手を伸ばした

 

「貴女の言う『あの人』を落とす事が出来たなら私も貴女の元へ行きましょう。だから―――成長し続けない、愛しい濡羽?」

 

 

月明かりに照らされる中、濡羽は笑みを浮かべながら〈くずのは〉の手を取るのであった……

 

 

 

 

NEXT  おうふ、ネタ切れた

 




余談
「貴女様の口付け……情熱的でしたわ。でもどうして?」
「近くにいれない貴女に対してのご褒美よ」
「ご褒美ですか?」
「えぇ、本当ならお気に入りにもしたいけど、3人は子供達だし、一人は眼鏡がガードしてるのよ。……貴女なら、ね?」
「私だけ……」

百合乙ッ!


余談
「しかしよく、衛兵が来ませんでしたよね?」
「ん?えぇ、衛兵は来ないわ。データを偽装したから」
「偽装…それが貴女様の〈口伝〉ですの?」
「ふふふ、私を口説けたら全てを語るわよ、だから……」
「わかっていますわ。私も『あの方』を口説きますわ」
「えぇ、上出来よ」


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〈乙女〉 : 狐が斬る!
『3』ざん、かき回して『6』かつく奴


お待たせしました

本当にすみません!忙しくてなかなか執筆する時間が取れませんでした

そして今回の話は『つなぎ』なのでたいして話も進みません!
そしてリハビリも兼ねてます!すみません!

なるたけ早く投稿できるように頑張ります


〈濡羽〉

 

ホームタウンの1つミナミを統一した巨大ギルド「Plant hwyaden」のギルドマスターで幹部会「十席会議」の第一席を務める愛おしき同族。「西の総領」「西の納言」とも呼ばれ、〈凝魔鍛術〉と言う口伝を用いてミナミの衛士機構掌握、さらに貴族との交渉で得た巨額の富で大神殿を抑えることにより、ミナミ統一を果した

我ら〈記録の地平線〉ギルドマスターのシロエとは違った手段でミナミの状況を改変していった手腕の持ち主だ

 

だがしかし、その反面、とても寂しん坊であり、優しく構ってあげると、先端部分が雪のように白い尻尾を振り回し、顔を赤く染めて喜び、逆に冷たく突き放すと捨てられた子犬の様な顔をするとても可愛い同族である

 

最近、味わう事のなかった〈華〉の味を私は大切にしたいと思っている

 

……追伸しておくと彼女の唇は、とても甘いリンゴの味がした

 

「秘密事項項目:世界級魔法と冒険者」著作者:くずのは

より抜粋……

 

「ん~…りんごの味とはわっちもシァで試してみんすかな?しかし…」

 

彼女は腰掛けていた木の枝から部屋の内側を覗き込む、そこには中へ入って来いと手招きする腹黒がいた

 

「子狐ちゃんはシロエェェを口説けなかったようでありんすな?……残念でありんす~」

 

月夜が照らす中、言葉では残念と言っているが、彼女の浮かべる表情は満面の笑みであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

ニートはおらんか!?ここにいるぞ―――!

 

 

 

 

「―――と言う訳で〈七つ滝城塞〉の侵攻は総司令官クラスティさんを筆頭としてアイザックさんを含め450名の精鋭、そして茜屋やカラシンが後続部隊として遠征する事に決定したよ」

「これはまた……豪華な部隊ですにゃ」

 

巨大な古木がビルの中を貫く〈記録の地平線〉のホームにて、先日行われた会議の結果をギルドマスターであるシロエの口からメンバー全員に告げられていた

 

〈七つ滝城塞〉……そこは夏に発生した「ゴブリン王の帰還」クエストにおいてゴブリン王が居住とするエリアである

〈冒険者〉の活躍度によってその強さが変更されるこのクエストだが、どんなに難易度が上がったところで相手は所詮中レベルの亜人種ゴブリン、〈冒険者〉にとってはさほど脅威な敵ではないのだが、〈大災害〉後の世界においてはゲーム時代の常識が通用しない可能性もけっして無視できない為、アキバ〈円卓会議〉は、精鋭による討伐軍を派遣したのだ

 

「うん、〈円卓会議〉に席を置く4つのギルドマスターが行くからね?……僕としては仕事量が増える事が予想できるよ」

 

乾いた笑いをこぼしながら、ほかに質問は?と投げかけるシロエにアカツキは手を上げた

 

「私たちは遠征に参加しないのか?……先程の話だと主はアキバに残るようだが?」

 

ザントリーフ半島の戦闘において、作戦参謀として指示を出していたシロエにも声が掛かるはずだとアカツキは言うが、シロエは頬を掻きながら否定の言葉を口にした

 

「……その事なんだけど、僕と直継はアキバから離れようと思って断ったんだ」

 

シロエの言った言葉がメンバーの耳に入った瞬間、古木に二つの声が響き渡った

 

「そ、そんなシロエさん!ま、まさか、私たちを置いて!?」

「なぜ、直継なのだ!主の忍として私が同行する!」

 

アカツキとミノリだ、二人ともシロエを慕う者としてシロエが言った言葉に不安と不服の声をあげたのだ

しかし、音量は同じなのだが二人の想いは180度違うものであり、一方は悲しみの、もう一方は怒りの表情を浮かべながら彼に詰め寄った

 

「……修羅場でありんすな?」

「前に言っていた昼ドラって奴なのか、クー姉?」

「そうざんす、一人の男を巡りドロドロとした女の執念がレボリューションしてプッシャー!な殺人現場にスライドするでありんすな、ルンパッパ!『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープを作るなんし!」

 

事件現場でお目にかかる事ができるキープアウトテープの存在など〈エルダー・テイル〉の住人であるルディには馴染みのない物だが、振られた弟子は師匠の期待に応える為に動き出す

 

「任せたまえミストレアス!このルンデルハウス=コードの手に掛かればそのきー、きー……」

「『キープアウトテープ』だよ、ルディ」

「そう!その『キープアウトテープ』を直ぐに用意しようではないか!」

 

どこから取り出したのかわからないが、黄色いテープにマジックで『KEEP OUT』と言う文字を五十鈴に教えて貰いながら書いていく姿は愛犬に芸を教えているブリダーの様に見える

 

直継を巻き込み男2女2の修羅場を作り出すギルマス、ほのぼのと愛犬と戯れる吟遊詩人、まだ少年の域を出ない子にドロドロした女の執念を教える駄狐

 

混沌と化したギルドタワーは、更にカオスに堕ちていくと思われたが、暴走する駄狐の頭に肉球が落とされる事によって場は落ち着きを取り戻すのであった

 

「ひでぶ!?」

「くーっち?若者に何を教えているですにゃ?……ルディっちも本気にしなくていいですにゃ」

 

パンパンと手を叩き、暴走するみんなに着席するように促すにゃん太は大人の対応であった

 

「みんなさん、落ち着くにゃ。…シロエっちはなにもギルドを辞めるとはいっていませんし、直継っちを連れて行くにも訳があるはずですにゃ」

「そう、ですか・・・」

「む…老師が言うのであれば…」

 

ミノリは安堵の息をこぼしながら着席し、アカツキは渋々と言った感じではあったが、にゃん太に即されるがままに着席した

シロエはにゃん太に軽く礼を言うと改めて事の詳細を話し始めるのであった

 

「言葉が足りなかったみたいだね、ごめん。……僕は少し気にやる事があってティアストーン山地に行くだけだよ……ミノリ、僕はギルドを辞める訳ではないから安心して…直継を連れて行くのは……長年の付き合いで戦闘での役割を互いに理解しているしグリフォンを持っているからだよ」

「俺は別に構わないけどよ、それは今しなくちゃいけない事なのか?いっちゃなんだが、円卓主要メンバーの大半がアキバから離れる事になるぞ?」

「うん、リスクがあるのは承知だけど気になってね…」

 

苦笑いを浮かべながら、シロエはまだふてぐさっているアカツキに声をかけた

 

「その事でアカツキには…レイネシア姫の護衛を頼みたい。クラスティさんは遠征組に参加しているし、南の事もある。何かあった時、腕が立って信頼できる人が近くにいればクラスティさんも僕も安心して行けるしね?」

「……主がそこまで言うのなら」

 

言葉では承諾してはいるが、態度では認めていないとばかりにツン気に返事を返すアカツキにシロエの気は重くなるが、まだ最終関門が残っていると気合を入れ直し今度は彼女に言葉をかけた

 

「話は戻るけど実は遠征には僕にも声がかかっていたんだ……それでクーさん」

「うにゃ?」

「クラスティさんからの要求で僕の代わりに遠征参謀を「嫌でありんす!」…ですよね~」

 

シロエも彼女の答えを予想出来ていたので、特に言葉を返すことなくタメ息だけをこぼした

 

「にゃにゃにゃ、それを見通して彼が加わったのですかにゃ?」

「そうだね、大規模戦闘では戦力は勿論だけど戦略も必要だからね?…参謀が不在になるなら大規模戦闘を良く知る〈冒険者〉であり自身もかなりの戦力を持っているアイザックさんに白羽の矢がたったよ。…まぁ、アキバを守るギルドが〈西風の旅団〉だけになるけどソウジロウならやってくれそうだし」

「むしろ、アイツが遠征に行くならギルメン全員がついて来そうだな?まさにハーレム祭りだぜ!」

 

直継の言う通り、ソウジロウが遠征に出かけるようなら、ギルドの女性はみんな〈遠征〉を〈ソウジロウと旅行〉と脳内変換し同行するに決まっているのが目に見えていた。クリスティさえギルドの運営や町の警備の関係上、自身の右腕である副官をアキバに残していると言うのに円卓に席を置くギルドが丸々1つ町から離れるのはギルドの運営的にも円卓のメンツにも宜しくない為、その事も考慮してアイザックが選ばれたのかもしれない

 

「ははは…とりあえず僕と直継はティアストーン山地へ、アカツキとクーさんはレイネシア姫の護衛、にゃん太班長はギルドの事をお願いします。ミノリ達はにゃん太班長の補佐をお願いね?」

 

シロエの言葉を終いにギルド〈記録の地平線〉の今後の方針が告げられたのであった

 

 

 

 

 

月日が経つのは速いものでアキバの街は12月を迎えすっかり冬景色だった

12月に入って数度の除雪があった物のアキバには災害がでる程の大雪には見られなかった

今も庭の隅にひっそりと積もれた雪山を暖房の聞いた部屋から眺めながらレイネシアは机に頬を突き、そっと果実を口にした

 

思い出すのは『天秤際』から数週間経ったある日、クラスティから〈七つ滝城塞〉の侵攻の話を聞いた時には彼らの身の安否を心配する気持ちとは同じくらい姑からの解放を心から喜んだものだ

 

しかし、事はそう簡単には進まず遠征組が出発してからと言うものの毎日の様にレイネシアが苦手とするシロエがギルドマスターを務める〈記録の地平線〉から護衛にアカツキと言う〈冒険者〉が訪れるようになったのだ

 

彼女はもとより口数の少ない女性で最初の一週間は気まずい沈黙と奇怪な行動をする狐に戸惑い、上手く話す事ができなかったが1ヶ月近くも顔を合わせ続けたかいあって世間話をするまでは発展しているとレイネシアは確実に思っていた

 

仕事の為とわかっていても少しぐらいは会話をする事ができる相手は喜ばしい!少なくとも口を開けば小言ばかり言う彼よりは断然にマシだと思えるほどに……しかし―――

 

「……アカツキさん」

「……なんでしょうか」

「あの方は何をしているのでしょうか?」

「すみません、うちの駄狐が……」

 

アカツキと一緒に訪れる自分の味方と言ってくれた方、クラスティ曰く『アキバの街の権力者』そう呼ばれている〈冒険者〉が毎度の様に不可解な行動をしているのだ

 

現に今も9本ある尻尾をゆさゆさと揺らしながら屋敷中のクッションとシーツを集めだし大きな布の山を作りあげていたのだ

 

「え、ええっと…クー様なにをなさっているのでしょう?」

「うにゃ?見てわらりんすか?」

「わからないから聞いているのだ、駄狐」

「かまくらを作りんす」

「「……はぁ」」

 

『かまくら』とは雪で出来た家の事を言い、元は『かまくら』の中に祭壇を設け、水神を祀る目的があったとされる日本の降雪地域に伝わる小正月の伝統行事である

 

……決して暖房の効いた室内で布類を積み上げたモノを『かまくら』とは言わない

 

 

「……この前はシーツを丸めてスノーマンと言うモンスターを作っていましたが、モンスターを身近なモノで模す事は〈冒険者〉の皆様にとっては常識的なことなのでしょうか?」

「ちがう。……クーがやる事は全てにおいてずれている。……似ている事は認めるが…」

 

確かにヤマトでも〈ススキノ〉と言った雪の降る地域ではスノーマンと言うモンスターとエンチャントする事は多いが〈アキバ〉の様に雪が滅多に降らない地域ではお目に掛らないモンスター、だと言うのに彼女の作ったスノーマンは完成度が高く本当にシーツで作ったのか疑いたくなる程であった

 

最初は馬鹿げた事をしていると傍観していたアカツキであったが、あまりにも似ている為に僅かだか彼女の作る作品を楽しみにするようになっていた

 

彼女と出会ったのは〈ススキノ〉であり、最初にログインした町も〈ススキノ〉と言っていた事から彼女は東北ないし北海道の出身のモノなのかと感じレイネシアとの話のネタになると思い声を掛けようとしたが、彼女は布類の静電気でハチャメチャになった髪などお構いなしに『かまくら(偽)』の中から飛び出すと奇声を発しながら扉を大げさに開け開き玄関の方へと走り出していったのだ

 

いきなりな彼女の奇行にアカツキ、レイネシアは口を開け驚きを表したのは仕方がないこと、むしろ彼女の奇行を了承できる人物は、かの茶会のリーダーか彼女と同じように可笑しな人物だけだろう

 

「姫様?……先ほど、クー様が何かを叫びながら玄関へ向かっていましたが……いかかなさいましたか?」

「「……は!?」」

 

開きっぱなしとなった扉からレイネシア付きの侍女であるエルフ、エリッサが入室し彼女らは何とか正気を取り戻す事ができたが、アカツキは直ぐに頭を下げてレイネシアに謝罪を言い渡した

 

「すまない、うちの駄狐がまた壊れた」

「……一か月たった今でもクー様が何を考えているのかわかりませんね?」

「主君は駄狐の事を『頭のネジが一本外れている』と言っていたが、一本どころで片付けられる問題ではない気がする」

「はは、は……はぁ~…」

「なんだか知れませんが、お茶をお持ちしましたわ。どうぞ」

「……すまない」

 

そっと湯気の上がる紅茶をエリッサから受け取り、口に含む

紅茶の香りとほのかな甘みが口の中で広がり、自然と頬が緩んでいった

レイネシアも同じ様で先ほどまで浮かべていた苦笑いが嘘のように取れてとてもリラックスしているように見えた

 

レイネシアの飲み方は流石はお姫様と言った華麗な作法で、紅茶の飲み方などしらないアカツキはただ感心してレイネシアを眺めた

綺麗で優雅だと思う。アカツキも一人の女性、優雅に紅茶を嗜む彼女はとても絵になっており憧れはある、自然とアカツキもレイネシアを意識しながら紅茶を口に含んだ

 

 

「「悪い子はいねぇーーか!!!」」

「「ぶふっ!!!ゴホッゴホッ…」」

「ッ!!」

 

優雅なお茶会どこへ行った

エリッサの手によって閉められた扉が、再び勢いよく開けられた事に驚き視線をそちらへ向けたが、現れたのは二人組のゴブリン

 

いきなりのモンスターの襲撃にレイネシアとエリッサは紅茶を吹き出し、むせこむがアカツキの行動は早かった

 

君主であるシロエとの約束果たす為にゴブリン達へと武器に手をかけらがら疾走した

もとよりフィールドと比べれば狭い室内、瞬くうちにゴブリン達を自分の間合いに入れると敵に向かい足払い、ゴブリン達は「ふにゃ」や「あいた」と悲鳴をこぼし床とこんにちわ!するが関係ないとばかりにアカツキは一匹のゴブリンへ刃を振り下ろした

 

 

 

 

……カスンっと言ういつもの手応えとは違った感覚がアカツキに伝わる

 

仲間のゴブリンは顔を青く染めらながら呆然とその光景をただジッと眺めるだけ……

 

いつもとは違った行動をするゴブリンに対しアカツキはだんだんと疑問が浮かんできた

そもそもゴブリン達はアキバの町へどのように侵入したのか?それ以前にゴブリンは人語を話す事が出来たであろうか?

 

否、いくら〈大災害〉が起こり仕様が所々変化しようがモンスターが話す事は発見されていない

 

だとすると……

 

「マリエにクー様!そんな服装ではいらぬ誤解が生まれますわ!早くきがえ、て……え?」

 

ヘンリエッタの登場で更に、場に冷たい空気が漂った

ヘンリエッタの視線の先には怯えるゴブリン(マリエール)とアカツキの手によって頭に刃を振り落とされたゴブリン(クー)……

 

震える手を何とか両手で包み、やっとの思いで言葉を口にする

 

「あ、アカツキちゃん?その、ゴブリンなのですが…」

「い、いや待て!これには訳が!」

 

ゴブリンの中身を知っている人物から見れば100%殺人現場である

皮肉にもゴブリンの正体を伝えようとするヘンリエッタ、事の真相に辿りついたアカツキ、何が起きたのかいまだに理解できないレイネシア。

 

三者三様、気まずい空気が流れ始めた時……

 

「う、うにゃ~!掠ったでありんす!掠ったでありんす!」

「う、うちも生きとる!生きとるよ~!」

 

駄狐は動き出す(シリアスブレイカ―発動)

ゴブリンの被り物を頭から取りのけると同じく被り物を取りのけたマリエールと共に抱き合いお互いの生を喜び合った

 

「……詳細は必要ですか、アカツキちゃん」

「いや、必要ない。大方、駄狐の仕業だろう」

「それにうちのマリエが悪乗りしましたわ」

 

抱き合う二人を他所にヘンリエッタとアカツキはため息をこぼし、いまだ抱き合う二人になんと説教すべきか考えるのであった

 

 

 

 

 

……今日この日のみ、マリエールとクーは大人しくレイネシアの隣で彼女に慰めてもらうのであった

 

 

 

NEXT 最近わっちの扱い酷くない!?




九死に一生

「ぐすん、ツッキーもあそこまでしなくてもいいではないでありんすか」
「でも、今回は本当にビックリしましたし、護衛としてアカツキさんの対応は間違っていなかったとおもいますよ?…些かやり過ぎだと思いましたが」
「そもそも、モンスターは町に入ることが出来ないって忘れる方が悪いでありんす!」
「そう、ですね。……ってあれ?クー様は防衛用魔方陣の事をご存じで?」
「うにゃ~!わっちにはギャグ修正はありんせん!」
「いや、そうじゃなくてですね…」


きぐるみシリーズ次回作

「マリー」
「ん?どないしたんクーちゃん?」
「きぐるみな~?ツッキーに没収されんした」
「そか~、まぁ騒ぎの後やし当然か」
「それで~な~?次はコレにしんす」
「ん、どれどれ……緑の帽子をかぶった…猫?」
「これをきんしたら『ふも』しか話してはいけんせん。」
「ふも?」


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『3』い近コミュ障『7』人多いよね

なるたけ早めの投稿

読み返してアカツキはまだ〈くずのは〉と対面していなかったので…
後、このssのアカツキはクーのおかげでコミュ障レベルは低いです

※ この話はコミュ障と言う言葉を多用しております、不快に思われた方はご感想ください

直ぐに書き直します


 

〈思慮する木菟の杖〉

知恵の神の使いミミズクの加護を宿す杖。闇を照らすその叡智で所持者の思考を助けると云う。魔法威力、詠唱速度上昇効果有り。従来の杖とは異なり大きさの伸縮が自在な幻想級アイテム

 

〈星辰の霊衣〉

流星の軌跡を織り上げた布で作られた魔術師専用マント服。幻想級の素材を要求する、極めてレアな作成アイテムの一つ。星辰の位置から力を受け取りアストラル属性の攻撃威力を増加する。デフォルトでは白いマントではあるが作図を〈デザイナー〉が行うとカラーの変更が可能になる

 

〈千年鳥のカー〉

神木「ヴェンデリア」から霊鳥が生まれた時に飛び散った木片を加工した伝説の護符。不滅の生命を司り、移動阻害バッドステータスの効果を低減する。

同類の効果を持つアイテムは他にもあるが、あどけない鳥の形をした外見が冒険者の中で人気になっている

 

「初心者冒険者必見狐印の武器図鑑」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「新しい見出しはこれで良いのでしょうか?……悩むでありんす。しかし……」

 

彼女は高く積もれたシーツの上からぎごちなく会話を交わす二人へと視線を移した

 

「き、今日も寒い日ですね、アカツキさん?」

「そうだな」

「あ、明日も寒いと嫌ですね?」

「私は寒いのは…平気だ」

「そう、ですか…ははは、はぁ~」

 

かみ合わない会話にレイネシアはため息をこぼし、話し相手であるアカツキはどうも最近、上の空な日が続いていた

 

「うにゅ~、最初の頃に比べればいくらかマシになりんしたが、まだかたいでありんすね~?ここはわっちの出番でありんすか!」

 

彼女はシーツの山に潜ると9本の尻尾を巧みに使い布山を爆発させ、部屋中にバラ散らかしたのであった

 

後にレイネシアの苦笑いとアカツキからの説教がマリエールやリーゼ達の訪問まで続いたのはご愛嬌……

 

 

 

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

デジタルな狼の必殺技!フォックスファイアー!……なぜに狐火でありんすか?

 

 

 

 

 

 

アキバの町の朝

町人達が起床し今日一日を謳歌する為に仕事を始める時間帯に背筋をピンと正した小柄な女性と目を擦りながら猫背で歩く狐の女性が並んで歩んでいた

 

「うにゃ~…わっちまだ眠いでありんす」

「いい加減慣れたらどうなのだ、一か月も通っているのだから流石に慣れるだろう」

「……遅寝遅起のわっちにはきついゆえに」

「駄目人間直行だな?…わかっているとは思うが昨日みたいな無礼な行為はするなよ」

 

彼女とアカツキ

同じギルドに所属する二人は同じ事をシロエから同じ依頼をされた事もあって二人一緒にレイネシアの元、「水楓の館」に向うのは珍しい事ではなかった

むしろ、毎回の様に惰眠を貪ろうとする彼女をたたき起こしてアカツキが連行していると言った方が正しいだろう

 

彼女からしてみれば「めんどい・しんどい・ねむい」の三重苦だろうが、アカツキにとっては彼女がいないとシロエからの依頼を完遂する事は難しいと思っている

 

自身が他人と打ち解ける、嬉々揚揚と話す事も愉快な話題を提供する事も苦手だと言う事は重々承知していた。シロエからの依頼を完遂する為には護衛対象とのコミュニケーションは必須、しかし、自身にはそれをとる能力が些か不足しているのは認めをいなかった

だが、彼女の存在はアカツキとレイネシアの仲を取り持つ架け橋となっている為、いなくてはならないのだ

 

二人だとまだ何をはなしていいのか困惑する、二人だとまだ上手く返事を返す事が出来ない。…でも彼女がいれば―――日々毎日の様に馬鹿な事をしている駄狐に助けられているのは癪にくるが、彼女の存在はとてもありがたい。…たぶん、これを見通してシロエは彼女にもレイネシアの護衛を頼んだのであろう

 

……それに別の要件も二人なら聞きやすい

 

「……クーは、あれか――」

「うにゃ?なんでありんすか?」

「いや、なんでもない」

 

―――と思っていたが、自分のコミュニケーション能力の低さを恨んだ

一か月の間、彼女に聞こうと思っていた事が聞けないでいたのだ

 

レイネシアの護衛は彼女のおかげである程度は苦にならずにいる。ギルド「記録の地平線」の役に立っているといってもいいだろう。しかし、「私個人」はシロエの役にたてているのだろうか?

 

アカツキは無意識の内に自分の腰に手を伸ばし、鞘を指でたどった。

そこにある小太刀は〈窯変天目刀〉。アカツキが〈大災害〉前に手に入れた製作級の上位武器である。けっして弱い小太刀ではない。同レベル帯の武器のなかでは中の上といった品質だ。パーティーでの冒険で得られるなかでは、最高級といってもよい。

 

アカツキは、自分はこの武器とそっくりだ、と思う。

六人組での腕は上位。与えられた役割はそつなくしっかりとこなせる。しかし、〈エルダー・テイル〉ではその上にも階層がある。大規模戦闘だ。アカツキは大規模戦闘に参加した経験がない。大規模戦闘につきものの長い待機時間や複雑な人間関係などを敬遠したせいだ。もっといってしまえば「シロエに呼ばれなかったから」ともいえる。

 

だが、いずれにしろ大規模戦闘参加経験がないアカツキである。それは大規模戦闘で入手できる上位秘宝級や幻想級の装備を手に入れていないことも意味し た。このアキバには〈黒剣騎士団〉や〈D.D.D〉のような大手戦闘系ギルドが存在する。そこにはアカツキ以上に腕が立ち、アカツキが望んでも手に入らな いような装備をもった超一流の〈暗殺者〉が所属しているだろう。

 

シロエや直継、にゃん太もそうだ。

アカツキは詳しく知らないが、かつて一世を風靡し、伝説とまでされた〈放蕩者の茶会〉において、大手戦闘系ギルドと覇を競っていたという超一流の〈冒険者〉たちである。

 

そんな仲間たちに比べてれば、自分の実力はあまりにも心もとなく思える。 腕のたつ〈暗殺者〉ではある。腕もそこそこ一流、少なくとも二流の最上位。だが、超一流の〈暗殺者〉ではない……それがアカツキの現実だった

 

そんな時であった、アカツキが『口伝』と言う言葉を耳にしたのは……

 

“口伝”とは、噂によれば“秘伝”のさらにその先のモノ、〈エルダー・テイル〉がゲームであった時代、少なくとも〈大災害〉以前にはなかった特技の階級だ。

 

階級上昇による特技の威力増加はさまざまな面にあらわれ、〈暗殺者〉の必殺技である〈アサシネイト〉ですら、〈アサシネイト〉の階級を“会得”から“秘伝”に上げることで22%の威力上昇もするのだ。 “口伝”ともなれば いったいどれほどの威力上昇が見込めるかわからない。

 

このように素晴らしいことばかりの“口伝”だが、その存在が噂レベルでしかないのは、確認した、と断言する〈冒険者〉が非常に少ないのだ。アキバの街のうわさ話では“口伝”の存在を信じない人が半分。信じる人が半分――信じるひとにせよ、そこまで強力なものだとは思っていない〈冒険 者〉がほとんどというありさまだった。アカツキが“口伝”の存在を信じているのは、ひとえにシロエが“ある”と断言したせいだ。

 

(“口伝”を習得すれば私も…)

 

アカツキはキリッと彼女に視線を送った

シロエが存在すると言ったのは彼女の存在が大きいのはなんとなくだが、アカツキにもわかっていた

 

まだ眠気が覚めないのか、人目など気にせず大きな欠伸をする彼女もシロエ達と同じ〈放蕩者の茶会〉のメンバーであり、彼女の装備は上位秘法級や幻想級で纏められ大規模戦闘の最前線で戦ってきたのは容易に想像できた。しかし、いつも怠けて遊んでいる彼女がまだ噂の域を出ない『口伝』をシロエに自分よりも把握していると言わしめたのだ

普段の行いから容易に想像が出来ない事実であった

 

だがシロエは言った、『口伝』に関しては彼女の方が把握していると、その事がアカツキに大きなシコリを生み出し聞くに聞けず一か月の時間が過ぎてしまっていたのだ

 

 

「開けて~開けて~!わっちを入れてくんなまし~…」

 

なんとも情けない彼女の声にアカツキの意識は浮上した

いつの間にか考え込んでいたようで、既に歩みは目的地である「水楓の館」に到着していたのだ

また聞けなかった…と思いながらもアカツキは鼻声で扉にへばり付く彼女へと声をかけた

 

「……うっとおしい、いいから離れろ駄狐」

「うにゃ~…シァがわっちを拒みんした」

「……扉は外開きだ。お前が押さえつけていては開けようにも開かない」

「うにゃ!?そうでありんしたね~」

 

先の鼻声はなんだったのであろうか、180度声色を変えた彼女は扉から離れると直ぐに扉は開き、息を絶え絶えにしたエリッサが二人を迎え入れた

 

「ハァハァ…やっと開いた」

「すまない、うちの駄狐が……」

「い、いえ!気になさらずに……ですが、折角お越しになって頂いたのに申し訳ありませんが今、姫様にお客様が来ておりまして…別室でお待ちして頂いてよろしいでしょうか?」

「お客?……わかった」

 

シロエから貴族社会において「訪問」とは数日から数ヶ月前に予告して行うものと聞いてはいたが、良くも悪くもここはアキバの街。「突然の来客」は日常賛辞だったなと思い出し『肯』と答えるアカツキ。そんなアカツキは―――

 

「なんと!やはりシァはわっちを拒みんすね!応接室へ突撃ラブハー「いくぞ、駄目」 うにゃ~!尻尾は駄目でありんす~!」

 

暴走する彼女の尻尾を掴み控え室に向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

控え室に通されたアカツキは、神妙な顔で手の中のカップを温めていた。

どこまでが事故なのか、それともメイドのエリッサの陰謀なのかわからないが、隣でリンゴと戯れる駄狐は知らないが〈追跡者〉の鋭い知覚能力には、隣室での会話がほとんどもれなく聞こえてきてしまっていた

 

 

古代アルヴの遺産のひとつ〈動力甲冑〉の盗難、盗んだのは供贄一族と呼ばれる〈大地人〉、そして世間で噂になっている殺人鬼は盗んだ〈大地人〉、凶悪な性能を誇る甲冑を無効化するには防衛用魔方陣を停止させなくてはならない…そしてそれが意味するのはアキバの町の防衛機能の停止

 

…どう考えてもアカツキの手には余る話だった。〈西風の旅団〉や〈D.D.D〉のような大手ギルドでないと対処できないような、あるいは〈円卓会議〉が動かなければならないような――アキバの危機を感じるモノ

 

聞かなかったふりをして帰るべきではないかもとアカツキは考えた。

あの月の光にもにた美しい姫も、〈冒険者〉に告げるかどうか悩んでいた。その決意をつける前に自分が殺人鬼事件の謎の一端を聞いてしまうのは、あまりにも影響が大きい気がする。

 

しかし、と歩みが止まってしまう。理由は、主君の言葉、と言う事もあるが、ここ一か月レイネシアと顔を合わせ友達……じみた付き合いをするようになった彼女を朴っておけるものなのかと心に引っ掛かりを作る

 

だが、今のアカツキには、他人を気にする余裕なんてないのは事実、『強さ』に伸び悩みを感じ焦り足を石へと変えてしまっているのだ。でも……

 

「貴女が自分の進む道を閉ざして何になるのかしら?」

「ッ!?」

 

決して大きな声ではないが、リンとした声が耳に響いた

その声は足の変化を解かし、はっと振り返った先には優雅に紅茶を啜る駄狐がソファーに横になっていた

 

ソファーで横になり、惰眠を貪る駄狐はいままで何度も見てきたが今日の、いや今の駄狐からはそのような雰囲気は一切感じられなかった

 

「…クー、なのか?」

「私の事はどうでもいいの、それより貴女の望むモノはこの部屋には無いわ。…行きなさい」

 

棘のある言葉で命令口調、反論の一つでも言ってやりたいものだが……言葉が出てこない、なぜか彼女の言葉に従わなくてはいけない気がするのだ

 

「……行ってくる」

「いってらっしゃい。…貴女に足りないモノを確かめてくるといいわ」

 

アカツキは〈くずのは〉の方を振り返らずにベランダへと抜け出し隣の部屋へと侵入していったのであった

 

そして部屋にただ一人残された〈くずのは〉はティーカップをテーブルに置くと同じく置いてあったポットからティーカップにおかわりを注ぎ始めた

 

「……行き方は優雅じゃないわね。でも今回の事でわかるでしょう」

 

ティーソーサラ―を片手に赤く染まった紅茶の匂いを楽しみ

 

「貴女達に必要なモノ……心を通わせる『絆』。私が教えていたモノ。他者を知り交わる事で貴女達に必要なモノがおのずと見えてくる」

 

一口、紅茶に口を付けた〈くずのは〉は、眉間に皺をよせソーサラ―を机に置いた

それと同じタイミングで隣の部屋で物音が聞こえ、扉を開く音。そして直ぐに〈くずのは〉の部屋も勢いよく開かれた

 

「クー様!アカツキさんが殺人鬼を捕まえにッ!」

 

血相を変えて入室してきたのは〈くずのは〉が『絆』を影ながら教えていたもう一人、レイネシア。

彼女は〈くずのは〉に詰め寄りアカツキを援助するように申し上げてきた

 

その緊迫した表情を見るだけでも〈くずのは〉の教えが彼女に伝わっていた事がわかり自然と笑みがこぼれた

 

「ふふふ…『成長』。特に心の成長は見ていて微笑ましいことだわ」

「な、なにを悠長にングッ!?」

 

笑みを浮かべる〈くずのは〉を非難するように言いたてるレイネシア

普段の猫を被った姿とは正反対で地の彼女が表に出ていた

そんなレイネシアに対し〈くずのは〉は大きく開いた彼女の口にジャムが沢山乗った一本のスプーンを滑り入れた

 

「心配なのはわかるわ。でもね?人が壁にぶつかった時、その壁を超える為には一度、痛い目をあった方がより高く飛べるのよ」

「ん!んん!ぷはっ……痛い目って仲間が大切ではないのですか!」

 

レイネシアの口から引き抜いた多少のジャムが付いたスプーンで紅茶をかき回しながら、〈くずのは〉は心外とばかりに軽く笑いながら紅茶を口にする

 

「大切よ?…そう、大切な私の玩具(なかま)。私のモノがそこら辺の愚図と一緒だと困るから私は彼女に試練として一度落とす。そして彼女に足りないモノ……貴女にも言えることだけど、それに気づいて手に入れようとした時……貴女達は真の『力』に手に入れるでしょう」

「私達に足りないモノ……それはなんなのですか!?」

 

さらに詰め寄るレイネシアの頭を撫でると空になったティーカップを置き、ソファーから立ち上がった

 

「それは、ね。…『(ひと)』の『言』う事を『信』じ、『束』ね『(ひとつ)』にする事、ようは『頼』る事を覚えなさい」

 

〈くずのは〉はレイネシアに振り返ることもせずに「風水の館」を後にしたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………翌朝、アカツキと〈西風の旅団〉ソウジロウが殺人鬼の手によって〈大神殿〉に送られたと知らせが届いた

 

即ちアカツキは『死』を経験した

 

 

 

 

next お前の居場所はそこじゃねぇ!

 




小話は休憩、本編の補足


アカツキの悩みは超一流〈冒険者〉の集まりである〈記録の地平線〉において自分の居場所はあるのかと自信を無くしているのだと解釈し、その気持ちがマイナスパワーを与えコミュ障を促進しているのかな?と思いました

なのでこのSSではコミュ障を緩和させ強さを得る為には何が必要なのか?を書いていけたらいいな~?と思っています

※補足2
〈くずのは〉の言い回しについて…

〈くずのは〉の言い回しはキャラ設定上のブレイブルーの吸血姫、FATEのキャスター、そしてP4のマーガレットをモデルにしている為、自分でも書いていてわからなくなってくる時があります

今回の言い回しは…
・獅子は子を谷に落とす
・壁を飛び越えるには一度、屈み力を蓄える
のニュアンスから来ています


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PK?『3』つけ次第、PKでありんすね!『8』セヲさん!

最近、ルビが乗らなくて困っています。どうしたものか……

ログホラ2期開始を作者は嬉しく思うのと同時に「やべ~、アニメと原作のズレが怖い」とドキドキしている所です

シロエの遠征はいいんだ!書かないから!でもカナミとアカツキルートが怖いです
一応、原作を元に構成していますが、ズレが激しい場合は修正するかもしれません

そしてナズナの話し方も不安です……


※新しくSSを書き始めました。ネギまです。ログホラ休載を目安に本格的に書くと思いますので亀更新になりますが、よろしければ読んで頂けると幸いです



〈魔剣ケイオス・シュリーカー〉

高位マジックアイテムの1つ。「タウンティング・シャウト」と呼ばれる敵1体を挑発し、自分へのヘイトを急上昇させる挑発技の射程を10mから15mに延長する効果を持つ剣

戦士3職の中でもっとも仲間の安全を確保する〈守護戦士〉にはうってつけの幻想級な武器である

見た目で判断したら痛い目に合う……しかし見た目が残念

 

〈メテオロス・シールド〉

ラディ二ウム鉱石を隕石の落下で鍛えた強力な盾。生産品だが、作り上げるためには隕石召喚が可能な術者の協力が必要。〈デザイナー〉が書いた作図を元に生産するとデフォルトカラー以外に黒と赤の2種類が選択できる

余談だがパンツ君のモノは、裏にパンツのシール(狐印)が貼ってある。

 

〈騎士城の甲冑〉

10番目の拡張パック〈夢幻の心臓〉で実装されたレイドコンテンツ〈ヘイロースの九大監獄〉のレイドエネミー「七なる監獄のルセアート」からドロップする高性能な全身鎧。拡張パックの増加により、今では最新鋭防具ではなくなったが、その能力はいまだに現役である

 

〈ぱんつ手帳〉

モンスターを倒した「あかし」が記録される手帳。本来は「あかし手帳」だったが、アイテムのリネームが可能なことに気付いたパンツ信者が名前変更し、現在の名前となった。ゲーム上の効果はない……まさに下衆の極みである

 

 

「初心者冒険者必見狐印の武器図鑑」著作者:くずのは

より抜粋……

 

「……ぱんつ手帳、本当にくだらない事だわ」

 

〈くずのは〉は手に持った本をストレージに仕舞うと、半透明なメニュー画面を立ち上げた

 

「……でも人の事は言えないわね。ッチ!ご丁寧な事にロックまで掛けたわね」

 

人目など気にせずに舌打ちした〈くずのは〉のメニュー画面には本来あるべき場所に『りんごてちょう』と記された項目が浮かび上がっていた

 

「〈りんご〉〈ひるね〉〈ニート〉……ッチ!時間切れね」

 

ロック画面と格闘していた〈くずのは〉が顔を上げた先で一筋の光が立ち上がった

〈くずのは〉は、ため息を一つこぼし、メニュー画面を閉じると腰かけていた橋の欄干から立ち上がり発光先……〈大神殿〉に足を進めたのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

右の頬を殴られたら……慰謝料を請求しやんす!

 

 

 

意識が浮上して初めに目に見えたのは白大理石で出来た天井、ゲームではカメラ視点を変えてみる事が出来た天井だが、こうしてリアルな感覚で天井を眺める事を何故か新鮮な気持ちで捉えてしまった

 

壁面も白大理石で囲まれた〈大神殿〉にステンドグラスから漏れる光が反射して〈大神殿〉が〈冒険者〉の復活を祝福しているように感じたのも一つの要因だろう……

 

「おや?随分と遅いお目覚めだねぇ~、ソウジ?」

「ナズナ…」

 

聞きなれた声に力なく体を起こした。冷え切った寝台に長時間寝かされた事もあって体が硬くなっているのだろう

 

「僕は……死んだんですね」

「そうだね、死んだ。ついでに言うと一緒に戦っていたシロエの後輩も死んだよ」

「そう、ですか」

 

覚醒したばかりでぼんやりとしていた頭がスッと透き通っていった

仲間を討たれた事が許せなく、先陣を立って戦ったが結果は敗北、傲慢していた訳でもない、準備を怠っていた訳でもない、口伝も使ったと言うのに敗北した

 

殺人鬼の戦闘能力が異常だったのだ。……リベンジ?

 

頭に浮かんだ言葉を振り払うように首を振った

たとえ再戦したとしても勝てる望みは低い、あの時に僕は全てをぶつけたのだから…それに一緒に戦ったシロ先輩の後輩の顔が浮かび上がった事で更に戦う気が無くなっていった

 

殺人鬼の存在を認めた訳ではない、彼女にかけてみようと思ったのだ

装備は自分より劣る、腕だって劣っているかもしれない……でも彼女がシロ先輩の後輩と考えると妙に納得してしまう自分がいてクスリっと笑みがこぼれてしまう

 

沈んでいた気持ちが上がっていき、暗かった表情は一切消えていつも通りの笑みでナズナに話しかける事が出来た

 

「ギルドホールで待っているんじゃなかったんですか?それにみんなは?」

「ん?あぁ、待っていたさ。でも念話で呼び出しをもらってね?呼び出した相手が相手だから私だけ来たのさ」

「…相手?」

 

疑問に思うソウジロウの答えを伝える為にナズナは首だけでソウジロウの後ろ……大きなステンドガラスが嵌められた場所を示した

 

つられるように後ろを振り返った先には、色鮮やかなステンドグラスの光に照らされた一匹の狐がグラスに入った液体を揺らしながら微笑んでいた

 

「good morning、セタ……記憶の方はいかがかしら?」

「クーさん、いえ〈くずのは〉さんですね。記憶は……まだ何とも言えないです」

 

苦笑をこぼしながら答えるソウジロウに〈くずのは〉は上機嫌でグラスを口につけた

 

「あはは、確かに〈くずのは〉さんならみんなを連れてこなくて正解でしたね」

「だろぉ?〈くずのは〉に口出しされたらうちの子達はみんなトラウマをかかえちまうよ」

「あら?私を危険物扱いとは……あなた達も偉くなったものね?もういっぺん死んでみる?」

 

〈大神殿〉に破壊音が響いた……

空になったグラスをたたき割り、鋭利な刃物になったモノを二人に向ける〈くずのは〉。しかし、向けられた二人は笑みを浮かべ全くと言って危険が迫っているとは思っていないようであった

 

次第に目じりを上げていた〈くずのは〉にも笑みが浮かび上がっていき、三人は同じタイミングで声を出して笑った

3人とも所属していた集団〈放蕩者の茶会〉……彼ら達だけで通じ合えるモノがあると感じられる光景であった

 

 

〈大神殿〉の室内に光が集まりだす。笑っていた3人もその光景を眺めた

光はソウジロウの隣の寝台に集まると小柄な女性を形作り上げていった

 

「さて、僕は行きますね!ギルドのみんなも心配していると思いますし」

「そうね、今回の件から手を引くのであれば早く家に帰って愛人でも愛でていなさい」

「愛人って…あれ?今回の件、彼女に任せるって言いましたっけ?」

 

不思議そうにソウジロウは首を傾げたが、〈くずのは〉は「私を誰だと思っているの?」と笑みを浮かべた

 

「ははは、それで納得しちゃうのは僕達だけ(放蕩者の茶会)ですよ?では、ナズナ行こ「ナズナは置いていきなさい、まだ使うわ」 わかりました。じゃあ先に帰ってますから」

「あいよ、ちゃんとみんなの相手してあげるんだよ」

「勿論ですよ?仲間外れは可哀そうじゃないですか」

「はいはい、わかったよ。早く行っておいで」

 

シッシッっと手で追い払うようにし、ソウジロウを見送るとナズナは〈くずのは〉の肩に寄り掛かるようにしてため息を吐いた

 

「はぁ~…無自覚と言うか天然と言うか、お姉さんはソウジの将来が不安だよ」

「今に始まったことじゃないわ。それと重いわ、退きなさい」

「たまにはいいだろ?私でも誰かに頼りたい時だってあるさ」

「嫌よ、退きなさい」

 

いまだなお寄り掛かってくるナズナを押し返し、向かいのベンチに腰を下ろした〈くずのは〉は新しくブラスを二つ、封の開けていない果実酒を取り出し隣に座るように即した

 

「まぁ、私と貴女の仲でもあるわ。……私の酒の相手ならやらせてあげる」

「朝から随分と景気がいいねぇ?…久しぶりに二人の〈茶会〉と行きますか!」

 

アカツキが寝台に横たわる中、二人はグラスを合わせるのであった

 

 

 

 

 

「ありえませんわ!アカツキちゃんが大神殿に送られたと言うのに二人して酒盛りなど開いて!」

「うにゃ~、わっちかて心配でありんしたよ?でもおちゃけも飲みとうなりんして」

「だからと言って空き瓶をアカツキちゃんの周りに並べるのもどうかと思いますわ!……一瞬、怪しげな儀式の生贄にしているのではないかと思いましたわ」

 

二人で開いた宴会は、アカツキの事を心配し〈大神殿〉に訪れたヘンリエッタ達が訪れるまで続けられていた

 

飲んだ量、空き瓶にして28本。

その全てを二人で飲みほした事実に驚くだけではなく、その全ての空き瓶を眠りが深いアカツキの周りに置いていた事にヘンリエッタの雷が落ちたのだ

 

そして現在、二人では持ちきれないと言った理由から一緒に〈大神殿〉を訪れていたレイネシアとリーゼの手も借りて空き瓶をアキバの町郊外にあるリサイクルショップに換金しにいった帰りだった

 

「ごめんねぇ手伝わせちゃって?」

「い、いえ、アカツキさんもまだ起きなそうでしたし…」

「……でも、そろそろ目を覚ますと思います」

 

頬を引き攣りながら答えるレイネシアとリーゼは大凡同じことを思っているであろう…

750mlを28本、いくら果実酒だとしても21ℓを二人で飲んでいたというのに当事者の二人は足取り正しく酔った様子を見せていなかったのだ

 

「……クー様はいつも屋敷で飲んでいらっしゃいますからお強いとは思っていましたがナズナ様もお強いのですね?」

 

別に批難する事でもないので(いや、護衛の身で飲酒はいいのか?)話の話題になると思いレイネシアは隣に歩くナズナに尋ねた

 

「いやぁ~、私もあまり強い方ではなかったけど〈くずのは〉に付き合っていたら自然と強くなったよ」

「よくぞわっちの試練を耐えたでありんすな!ナズナん!」

「はい師匠!ってね?あははは!」

「……あまり飲まれますと体を壊しますよ?ってアレはッ!」

 

ナズナに抱き付きながら奇妙な師弟関係を結んでいる二人をしり目にヘンリエッタは一目散に走りだした

レイネシアとリーゼもヘンリエッタのとった行動を不思議に思い、彼女の目指した場所へと視線を移すと〈大神殿〉の広い階段からアカツキが今まさに降りて来る所であった

……降りれなかった理由はご存じの通り、ヘンリエッタに確保されたからである

 

「だいじょうぶですか? 怪我なんて残ってありませんか?」

 

蘇生して間もなかった性もあるのか、普段のアカツキに珍しく油断していた所を抱きつかれていた

目を白黒させるアカツキを他所に当のヘンリエッタは彼女が見せた珍しい表情に「かわいいぃ~」ととろけながら頬ずり振り回した。いくら小柄とは言え、女子ひとりをあっさり抱き上げるのは〈冒険者〉の腕力だからなのだが、ヘンリエッタはまったくそのことには気がついて いないようだった

 

「そろそろ起きるのじゃないかと思っていました」

 

石造りのスロープの手すりに寄りかかりながらリーゼが声をかけ、その後ろに、もこもこと着ぶくれたレイネシアが申し訳なさそうに頭を下げていた。遠回しではあるがアカツキが死亡した原因に一枚自分も噛んでいる事が後ろめたいのであろう

 

 そんな彼女達の他所をにアカツキの口は引き結んでいた。どんどん顔が暗く、険しくなっていくのがわかる

 

・・・その後ろで腕を組んで不敵に微笑んでいるナズナは兎も角、彼女に抱き付きながらヘンリエッタと同じ様に頬ずりをする駄狐、空気よめ

 

「……」

 

しばらくの沈黙の後、ヘンリエッタはそっとアカツキを開放し地面に降ろしていた

彼女はびっくりしたように口を閉じており、アカツキの顔とアカツキに握られた手を交互に見て驚きを露わにしていた

他の面々もジッとアカツキに視線を移され困惑しながら彼女を見つめる、そしてただ単純にアカツキは頭を下げtのだ

 

「ぶしつけなお願いだとは思うが、皆様にすがりたい。〈口伝〉を教えてくれないだろうか。あの殺人鬼を、取り押さえたい」

 

アカツキの口にした言葉にナズナとヘンリエッタは驚き、レイネシアはまたあの殺人鬼に挑もうとするアカツキに心を痛めた

そんな中、リーゼだけが険しい表情のままナズナに言葉をかける

 

「〈口伝〉ならばソウジロウ様も使えたでしょう? ナズナさん」

「ああ。そうだ」

「でも、それでも及ばなかった」

「そうなる」

 

リーゼの問に、ナズナは淡々と答えていく……そして駄狐、いい加減離れろ、空気嫁

 

「それでも〈口伝〉を求めるのは、なぜです?」

「………ッ!」

 

リーゼはそのまま話をアカツキへと向けた。

アカツキは唇を噛んだ。

 

「アカツキさん」

 

更に答えを催促するリーゼにアカツキの表情はさらに険しくなった

そんな中、ナズナは4人には聞こえないように小声でいまだ頬ずりを続ける彼女に話しかけた

 

「……ただ〈口伝〉が欲しいって言う訳ではないだろ?」

「うにゃにゃにゃにゃにゃ」

「私も色んな子を見てきたけど、アカツキだっけ?あの子、口は上手くなさそうだ」

「うにゃにゃにゃにゃにゃ」

「でも、何かを必死に伝えようとしてる。後は一歩踏み出すだけなんだね?」

「うにゃにゃにゃにゃにゃ」

「……聞いているかい?」

 

ナズナの問に答えず、頬ずりを続ける彼女に苦笑いがこぼれるが、彼女が何もいわないのであればそれが答えなのであろうと長年の付き合いから把握しアカツキの答えを待った

 

「あの殺人鬼を終わらせたい。〈口伝〉だけではない。あいつを止める方法があれば、なんでも教えて欲しい。すがらせていただけないだろうか」

 

必死に何かを伝えたいのは伝わった。しかし、アカツキが口にしている事はココにいるみんなが思っている事なのだ。……まだ足りない、あと一歩たりないのだ

 

「勝てると思ってるのかい?」

 

ぶっきらぼうな問いかけをしてしまった。問いかけて直ぐに表情が険しくなってしまう。

決してアカツキの事を苛めようとしている訳ではない。先程まで頬ずりをしていた彼女がいきなりナズナの腹を甘噛みし始めたのだ

 

「わからない。でも、勝っても、討っても終わらない。終わらせるなにかをしなければ終わらない……のだと、思う。終わらせようとしなければダメだ」

「……で?(痛いのとくすぐったいの中間はやめてくれ)」 

 

アカツキは伝わらないもどかしさを振り切るように必死に言葉を続けた。

 

「それにたぶん、主君なら、できる。……から、しなきゃならない」

 

疑問を抱いた視線がアカツキに刺さる。シロエなら出来るという言葉にだ……だが、思わぬ所から横やりを入れられてしまう

 

「シロエェェェはパンツ君とランデブーでありんす~、男色の道を進みだしたでありんす~………マリーーー!まだ戻れんすよ!!!」

 

……意味不明である

しかしながら、ニュアンス的にはシロエがアキバの町にいないことは伝わった

コホンっと咳を払うとリーゼは先程の駄狐の発言が無かったかのようにキリっとした視線をアカツキに向けた

 

「ナズナさんは出来るのか? とご質問ですよ」

 

リーゼの言葉にアカツキはびくんと怯えてしまう。

しかし、アカツキは何か痛みを耐えるようにしながらゆっくりと、しかしみんなに聞こえるようにしっかりと―――

 

「……ひとりじゃ出来ないんだ。だから助けて欲しい。助けて、ください」

 

助けを求めたのであった

 

いてもたってもいられずヘンリエッタは、ぎゅっと後ろからアカツキを抱きしめ、ナズナは毒気と駄狐から抜けたと言わんばかりのだらけた笑みを浮かべた。

 

「だいたいそんな話になりそうだって思っていたのさ。ソウジが手を引くっていったときからね。シロエのところは、意地っ張りばっかりだ。類は友を呼ぶのかねえ」

「半分だけ、合格というところでしょうね。教導部隊基準でいえば、重ねて演習の必要有り、です。現在、我が〈D.D.D〉において確認されている検証過程にある“口伝”は八つ――ミロードの許可はすでに得ています。アカツキさんに伝承するように、と」

 

金色の髪の少女は穏やかに告げる。

 

「わたしにも、やらなければならないことがあります」

 

 押し黙ったままのレイネシアが青ざめた顔で頷く

 

「……本当に、こんなところ《セルデシア》まできて、中学生をやり直すなんて」

 

リーゼの小さなため息を合図に、小さでささやかな討伐隊は組織されたのであった

 

 

 

……………このやり取りの間、駄狐がナズナから解放される(・・・・・・)事はなかった

 

 

 

NEXT コミュ障、心に触れる




裏話


一旦、ギルドに報告も兼ねて解散した討伐対であったが、狐尾族二人だけはギルドに戻らず大通りから少し外れた喫茶店でお茶を注文し口に付けていた

片方は無言で不機嫌を体で表し、もう片方は苦笑いを含めながらお茶を啜っていた

「……であれはどういう意味かしら?両手を拘束するなんて貴女はそういう趣味でも持っていたかしら?」

目を閉じながら物静かに尋ねる〈くずのは〉。側から見ればクールビューティーな女性がお茶を楽しんでいるように伺えたが……彼女を知る人間が見れば彼女が怒り心頭である事に気づくだろう

問を投げられたナズナは、苦笑を交えながら答えを口にする

「どういう意味もなにも、あそこで嗚呼やって抑えとかなきゃあの子殺していただろ?」
「殺さないわよ。……でも殺してくれた方がマシと言う程の拷問はするわ」
「勘弁してよ、あの子が成長するには必要な事だった事だろ?」
「だからと言ってやり過ぎよ、精神的に追い詰めても人は成長するけどやり方が下手過ぎる。……思わず舌を抜きたくなったわ」

〈くずのは〉の言葉にナズナは大きくため息を吐いた

「ゲームがリアルになって行動の自由は増えたけど、それを人をイタぶる為に使うのは〈くずのは〉だけだよ」
「褒めても何もでないわよ?」
「………」

ナズナはこれ以上なにも言えなかった………




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人の暖か『3』は逆に『9』るしい…

原作〈ログ・ホライズン〉が更新されましたね!
内容は「カナミ・ゴー・イースト」でしたね!

・・・・・・・・原作とのズレが怖いです



さて、今回の話は120%シリアス…本当にシリアスは苦手です

あと三話でアカツキルートは終了しますが、次の更新もシリアスになると思います

個人的にログホラと言う作品は人がどのように感じ成長していくのかが書かれた作品だと思っています
なので今回は〈くずのは〉の成長…彼女が成長していく上で通らなくてはいけない場所を書こうと思います

もっとも苦戦した一話になりました
ご理解していただければ幸いです


窯変天目刀(チェンジインキルン)

黒地の刀身に美しい模様の走るセラミックブレード。黒の釉が光の反射を防ぎ、隠匿性を高めている。「数寄者」が作る製作級アイテムである

また『数寄者』とは芸道に執心な人物の俗称であり、専門業とはせずに何らかの芸事に打ち込む人たちの事を言う

 

〈常闇の黒装束〉

闇に溶け込むような色合いの忍衣。周囲が暗いほど装備した者の能力を上昇する特異な魔力を持ち、闇の魔法および暗視装備との併用が定石である。ようは真っ黒クロ助でありんすな!

 

〈ヘリオトロープの髪留〉

幸運値と魔法防御が上昇する装飾品。破壊を代償に周辺のモンスターの敵愾心を煽る任意起動効果を持つ。ヘリオトロープの花言葉は「忠誠心、献身的な愛」。

今のツッキーを表しておりんしてあまりわっちは好きではありんせん

 

 

「初心者冒険者必見狐印の武器図鑑」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「〈ヘリオトローブの髪留〉…ぬしが身に着けるものは今のツッキーを表しておりんしたね…、しかし」

「ん?書き終わったのかい〈くずのは〉?」

 

同族と一緒にソファーに寝転がる彼女は、慌しく動き回る乙女達を尻目にお茶請けとして出された苺大福を口にした

 

「一歩踏み出したぬしには些か身に余る髪留でありんすなぁ~?」

「無視ですか、そうですか。…もう膝枕してあげないぞ?」

「うにゃにゃ~!」

「うぉっ!?くずぐったいって!」

 

大福の粉で口元が白くなっている事など気にせずに同じく白い肌をしたナズナの膝に全力で擦り付く

 

「狐が二匹……と言うより猫が二匹、ですね」

「…と言うよりお二人にも働いて欲しいのですが」

 

二人がじゃれている様子にヘンリエッタとリーゼはため息をこぼすのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

狐、心の向こうに……

 

 

 

 

「うにゃ~…寒いでありんすな」

「そう、だな」

 

アキバの夜空は一面の星空に包まれていた

大神殿から直接連行されてきたアカツキはとりあえずという言葉と共に朝食兼昼食を食べさせられたあと、詳しい事情を聞くという流れになり、『水楓の館』の執務室に通されたのだが、蓋を開けてば己が羞恥心を思い知らされ更には自分を気にかけてくれる人や心配してくれる人が沢山いる事を再確認したのであった

 

自身がどれだけ無謀で自分勝手な事をしていたのか思い知り、後悔に見舞われると思っていたがホームに赴く足取りは重くはなかった…むしろ、新たな決意を胸に秘め決して今度は間違えない為にもしっかりとした足取りで帰り道を歩んでいた

 

「ツッキーは明日から〈口伝〉と連携の練習でありんすか?」

「あぁ…でもクーは本当に参加しないのか?」

「めんどうでありんす~!興味ありんせんからね~」

「………」

 

だからだろうか…

愚かな自分を諭してくれたリーゼやヘンリエッタ、自分の事を『友達』と言って背中を押してくれたレイネシア……正面から向き合う事で周りがあたえてくれる『暖かさ』を感じる事が出来たアカツキだからこそ彼女の本心がわからないでいた

 

昔の自分なら「あぁ、いつも通りのニート駄狐」と割り切るのだが、どうしても心に引っ掛かりが残った

 

「ヘンリーとりぃぜの二人がいれば安心して〈大地人〉なんてイチコロでありんしょう!」

「……そうだな」

 

先の言葉もそうだが、彼女の言葉には皆を心配し、影ながら応援する良き友人の

言葉の様に聞こえるが何故か重みが無いように感じられた

 

「ぬしは人の心に触れて一歩進みんした!やったね!」

 

彼女が陽気に話しかけるが、偽りの言葉を聞いているようでむず痒くなり言ってしまった――

 

「クーは……進もうとしないのか?」

「うにゃ?」

 

振り返る彼女に気づき慌てて手で口を隠すが、近づき顔を覗き込みながらニヤニヤする彼女に耐えられなくなり、アカツキは思った事を口にすることに決めた

 

「私は…おまえのおかげで前に進めた…だからわかる。いまのお前は昔の私と同じだって…」

「なんと!陽気で楽しく!そして怠ける事が生きがいのわっちが、コミュ障じみたぬしと同じともうしんすか!?」

 

コミュ障と言う言葉に眉を上げるが、周りから見たら口下手な私はコミュ障と思われても可笑しくはないのか?と嫌な事で納得が言ってしまい更に眉を上げた

 

「確かに!…オマエはみんなに好かれている…と思う。けど……なにか一線引いているようにも感じる」

「……根拠は?」

「ない。でも上端だけ…みんなに好かれる仮面を被り、その…人の心…本心に触れる事も正面から向き合う事も避けているみたいに感じる。そんなオマエが…さっきまでの自分の様でツライ…」

 

根拠はないし、明確な確証もないのに自分と同じと言う暴言(コミュ障)を吐くアカツキに対し、彼女は懐から質素な扇子を取り出し口元を隠すと―――

 

「……随分と勝手な事を言ってくれるじゃない?誰のおかげで人と向き合える事が出来たと思うのかしら?」

 

―――雰囲気を180度、変化させ耳を透き通るような声で返事を返してきたのだ

 

「クー?いや、違う……今のオマエが本当のクーなのか?」

「私の事はどうでも…よくはないわね。そこまで言うのであれば答えましょう、私は〈くずのは〉。……苦にもシロエと同じく〈放蕩者の茶会〉に所属していたモノよ」

 

名前を名乗っただけだと言うのにアカツキは3つの意味で驚く事になった

一つは単純に突然変化した声質や態度に対して、二つ目はステータス画面に表記されていたキャラクターネームが〈クー〉から〈くずのは〉に変化した事

 

そしてなにより、主から聞いていた『情報を操作する』彼女の〈口伝〉が本当に実在する事を目の辺りにしたのだ

 

「…主から聞いてはいたが本当だったのか」

「人の言う事を素直に信じるのは宜しくはないけれど…それが貴女の美徳だから許しましょう…さて、貴女の質問に答える事にしようかしら。今の私が本当の私なのか?よね」

 

手頃なモノに腰を下ろし、足を組む。もとより露出が多くスリットも鋭い和服は足を組み替えるだけで仲が見えそうになり淫猥だが、当の本人は気にした様子もなく言葉を口にする

 

「答えはNO。今の私もクーであり、クーである私も私である。私と私は表裏でわかれているように思えるが、根本的な所は同じよ」

 

意味が分からなかったけど、要するに二人とも同じ人だと自己完結したアカツキ。

決して哲学的な事に思考が停止したのではなく、息を飲むまに告げられたもっとも気になる話題に意識を集中したかった為だと思いたい…

 

「二つ目、私が皆と一線引いている…YESよ」

「なぜ?」

 

やはり、と思いつつも自分の言葉の少なさに焦りを感じてしまった

 

「『心』と向き合う事は私には苦痛なのよ」

「……はなしがうまくみえない」

 

含蓄がある言葉にアカツキは先程の様に思考を捨てて逃げたくなったが、逃げる訳にはいかなかった

 

「ふふ、本心とは『ありのままの心』。なにも『心』は、暖かさだけではなく、時には残酷な冷たさを与えるもの」

「つめたさ…」

「嫉妬、独占、優越感…他にも多々あるわね?まぁ、総じて言える事は他者を陥れても先に、優位に、自分の力を示したいと思う『不の感情』。…人の『心』と向き合うという行為は、そういう事も含めて向き合うと言うの」

 

冷たい心、不の感情……彼女に言われてアカツキも覚えがあるものだと感じた

祭りの際に、シロエと共に寄り添うミノリを見て感じた言いようのない感情……確かにあれは不の感情ともいえるのではないか?と…でも―――

 

「…私は皆の『暖かさ』に触れたから一歩進めたと思っている」

 

だからと言ってミノリを蔑ろにするつもりないし、関係を断ち切ろうとも思えなかった

アカツキの問に一瞬だけ顔色を変えた〈くずのは〉であったが、何事も無かったかのように問に対する答えを口にした

 

「……もちろん『心』と向き合う事を危惧している訳ではないわ?『成長』するには『心』はとても大切なファクターですもの。でも…」

 

玩んでいた扇子を閉じるや否や木が折れた破壊音と共に―――

 

「私は……冷たい心(マイナス)でしか捉える事ができない。どうしても人が陥れようとする気持ちや感情、黒く醜い『不の感情』だけに目が言ってしまうのよ」

 

鋭い視線と言葉がアカツキに向けられた

まるで自分の心の中まで見抜いているような鋭い視線にアカツキは感情が赴くままに反論する

 

「そんな、そんな事はない筈だ!ミノリやトウヤ、ルディ!オマエを慕っている仲間さえオマエはそんな感情で見ているのか!?」

「言葉だけ並べても貴女は納得できないでしょう。……ルンデルハウス=コード、確かに彼は私の好むモノになったわ」

 

感情を爆発させたアカツキを哀れそうに見つめながら〈くずのは〉は言葉を続けた

 

「進歩しない、進もうともしない醜く愚かな『大地人』から可能性の塊『冒険者』になったわ。素晴らしい『成長』だわ…世界の法則を壊し再構築した存在だと言える。…でも、それを私はシロエの身の安全を捧げて成し遂げたモノ、他人を贄にして得たモノだと考えてしまう」

「なっ!?」

「貴女は知らないでしょうが、シロエはあの一件で『西』に狙われるようになったわ。……身の安全だけじゃない、立場ももう後戻り、振り返る事が出来ない場所まで進んでしまった」

「『西』……ッ!まさか今回の遠征も『西』絡みなのか!?」

「答えは…可でもなり非でもある。今回の件はコレの問題よ」

「…お金?」

 

最近よく耳にする『西』と言う言葉に過剰に反応し、シロエの身を案じたが、親指と突き指で丸を作りながら苦笑する〈くずのは〉によってアカツキが抱いていた危惧は払拭された

 

「そうよ?今回の遠征でシロエはとても大きな買い物がしたいのよ、それは『西』の支配に抵抗する一手でもあるし、下手したらシロエを『絶対の王』として君臨させる程の大きな買い物よ」

 

(シロエ)は何を購入するつもりなのかと疑問に思うアカツキであったが、今考える事はシロエの事ではない、気持ちを切り替え〈くずのは〉を見つめた

 

「……話が逸れたわね。ルディの例もそうだけど、ミノリ達もそう。ミノリやトウヤ、五十鈴は虐げられていたとしても〈ハーメルン〉の贄がなくして今の地位を築けていたかしら?……彼らの救済の為に贄になった〈ハーメルン〉はそのあと、どうなったでしょうね?」

「それは…」

 

答えなれなかった。あの時はアキバに潜む悪を倒し、悪に苦しむ〈冒険者〉を救い出す事しか考えていなかった。……あの事件の後の〈ハーメルン〉は…いったい…

 

「どうしても全て冷たい心(マイナス)で見てしまう。…そんな私の『心』を受け入れてくれる人なんているのかしら?」

「・・・」

「・・・そうでしょうね」

 

無言になってしまったアカツキを当然だと言わんばかりに微笑んで見つめる〈くずのは〉

全ての事に対し裏があると思い、世界そのものが斜めに見えてしまう〈くずのは〉

人とは違う考えを持ち、素直に受け入れる事を禁じられた哀れな一匹の狐…

そんな〈くずのは〉に対しアカツキは―――

 

「・・・・いる」

「………なんて?」

「ッ!ここにいる!私が私を受け止めて見せる!」

 

再び感情を爆発させた。

普段の彼女を知る者が見たら声を上げて驚く光景であるが、残念な事に今この場にはアカツキと〈くずのは〉しかいない

そんなアカツキに答えるかのように〈くずのは〉も声を上げた

 

「なにを馬鹿な!つい先ほどまで『心』を閉ざしていた者が私を受け入れると!?愚かにもほどがあるわ!」

「愚かではない!私は必ずオマエを受け止めて見せる!」

「その口を閉じなさい!根拠もなしに同情で『心』と向き合う事は『心』を傷つけ更に冷たく(マイナス)させる事を知りなさい!」

「根拠ならある!」

「ッ!」

 

アカツキの言い放った言葉に〈くずのは〉は初めて息を飲み、大きく目を見開いた

 

「……〈放蕩者の茶会〉。これが根拠だ」

「な、なにを…」

「主が言っていた。〈放蕩者の茶会〉創立メンバーにオマエがいて主の前任者だったと。初めて会った時『愚図』って言われたと語っていた」

「………」

「直継もだ!『屑』と言われたと聞いた!…そこは…私も同意する」

「……」

「老師は『歳考えて話せ愚老』。…〈放蕩者の茶会〉のマスターとの会話は罵倒と皮肉しかなかったと聞いた」

「……なにが言いたいのかしら」

 

もとより我慢強くない〈くずのは〉は、遠回しな言い方をするアカツキにイラつきつつも続きを即した。そして―――

 

「だけど…その…主達はオマエの『心』に触れても仲間でいたのだ!だから私も「勝手な事をいうのではありません」ッツ!」

 

―――初めて、初めて〈くずのは〉として感情を爆発させたのだ

大きな声を上げる事は多々あったとしても感情が赴くままに声を上げる事は決してなかった〈くずのは〉が等々、『心』を表に出したのだ

 

「あの者たちは特別なの…〈茶会〉は誰もが他人を考え上手くいくように行動していたから私も受け入れてくれた。そんな大切な仲間と貴女が同じと「私達は仲間ではないか!」ッ!」

「なぜ昔の仲間でなくてはいけないのだ!確かに私では主みたいに受け入れる事が出来ないかもしれん!だけど、私は!今の仲間として〈くずのは〉と向き合いたいッ!」

 

だが、アカツキは止まらない。ここで止まってしまったら二度と〈くずのは〉と向き合える事ができないと悟ったのだ。最初に感じた焦りがこの事だと悟ったのだ

 

〈くずのは〉を見つめるアカツキの目には強い意志が宿っており、〈くずのは〉の反論をさせまいと思いもままに不器用ながら言葉をぶつけていった。そしてアカツキの説得は―――

 

「だから!「話は終わりかしら?邪魔したわね」ッ!くずのはッ!」

 

 

 

〈くずのは〉の逃亡と言う形で幕を終わりを告げるのであった…

 

 

 

NEXT 彼女が動かされる

 




彼女が人を嫌う理由、人の汚い所しか目に入らないようになってしまったから

決してきれいな所に目がいかなくなってしまったから


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『4』ろしく『0』ねがいします

シリアス200%……

アカツキルートも残り僅か!頑張っていきます!


うわぁ……難産だった
というか8000文字オーバー……長!


o750h813m33


今回の「初心者冒険者必見狐印の武器図鑑」は作者である〈くずのは〉の体調不良な為、休載させて頂いております、皆様にはたい―――

 

「ふぅ…筆が進まないわね」

 

執筆していた手を止め、ふっと目の前に広がる森へと視線を送った

森の中では戦闘が行われていると思われる光が頻繁に立ち上がっていた

 

「〈口伝〉の習得……そもそも〈口伝〉とは」

 

言い掛けた所で口が止まってしまった

脳裏に浮かんだのは、今も尚〈口伝〉を会得する為に教えを受けている一人の少女…

 

〈くずのは〉は顔を顰め、空を仰ぐのであった………

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

雪解け……春眠アカツキをprpr!

 

 

 

 

アカツキと言葉を交わしてから早二日、〈くずのは〉は宛てもなく歩き続けた

特に目的もなく、ただ足が赴くままに歩き続ける。片手には度数の高いアルコールを手に持ち、フラフラと足取りが主ならないまま歩き続ける…

 

側から見れば飲み過ぎた女性が千鳥足で帰宅していると思われても可笑しくはない。現に目は虚ろに、行く宛てもなく進む足取りは覚束ない

 

だからと言って彼女の声を掛けるモノはいなかった

『殺人鬼』のせいで円卓会議により夜間の外出が禁じられている為、クリスマス前だと言うのに町は静寂に包まれている

 

誰にも止められずフラフラと行く宛ても無しに歩いていると路地裏から何かを蹴る音と罵声が聞こえてきた

 

何気なく、音がする方へ赴いて見ると地に伏せ頭を隠す〈大地人〉に囲みながら暴行し罵声を上げる〈冒険者〉(生ゴミ)達…

殺人鬼であったのならストレスの発散も兼ねてPKしている所であったが、宛ても外れてしまったので柄を返そうとしたが、〈冒険者〉達が〈くずのは〉の存在に気づく方が早かった

 

「よぅ、姉ちゃん?今は円卓の勅令で夜遊びは禁止になっているんだぜ?」

「円卓様の命令を守らない君も僕達と同じで悪い子ちゃんなんでちゅね~?」

「それとも姉ちゃんも交ざるか?オラッ!」

 

下衆な笑みを浮かべながら話しかける三人に眉間が寄る

本来なら「死ね、下衆」と言い放ち立ち去るのだが、〈冒険者〉(生ゴミ)に虐げられている〈大地人〉に見覚えがあり、気分は良くないが〈冒険者〉(生ゴミ)と言葉を交わす事にした

 

「……そこな〈大地人〉は円卓の伝令役ね?」

「そうだよ?俺らはさ~、最近〈アキバの町〉に来たんだけど、円卓っていう組織がデカい顔してんじゃん?あれ…ムカつかね?所詮ゲームだって言うのに警察みたいな事しやがってよ?」

「円卓より勅令です!殺人鬼が出没するので夜間の外出を控えてください!だって!はは!ちょ~ウケる!粋がってんじゃねぇよ!」

「死ぬのは〈大地人〉であって俺らじゃないって言うのにな~に本気になってんだか!オラッ!」

 

言葉尻を上げ、さらに追い詰めていく〈冒険者〉(生ゴミ)を横目に〈くずのは〉はちょうどよい高さのタルに腰を掛けると暴行を働く三人を肴にお酒を傾けながら観戦し始めることにした

 

最初に不快に思ったのは暴行を働く〈冒険者〉(生ゴミ)……〈ススキノ〉で腐るほど見てきた行為だが、〈アキバの町〉に来てからお目に掛れなかった暴力により自己優越感を高める行動

次に不快に思ったのは虐げられる〈大地人〉……相手が〈冒険者〉(生ゴミ)だからと言う事だけで抵抗する事を放棄していたと言うのに〈くずのは〉が円卓と言った瞬間、何かを期待するかのように視線を送ってきた他人任せの気持ち

 

「自己優越感と他力本願…ほら、無理じゃない。どうしても『不の感情』しか見る事しかできないわ」

 

吐きようのない感情に〈くずのは〉は直接、瓶からアルコールを口にした

飲み慣れた果実酒ではなく、数倍も度数の高いアルコールが〈くずのは〉の喉を焦す…

火照った頬を冷たくなった手で冷やそうと手を顔に持っていくが―――

 

ここ(アキバ)のお偉いさんって〈大地人〉なんだよな?」

 

―――手がとまった

コイツ等はいまなんと言ったのか?

 

「あぁ~?どうだったかな?誰なんだよオラッ!」

「ひぃ!れ、レイネシア姫です!」

「…だとよ。ほれ、教えてくれたお礼に蹴りをやるよ!オラッ!」

 

―――こいつ等はレイネシアに何かするつもりなのか?

あんな純粋な気持ちを持った、〈大地人〉と〈冒険者〉の事を誰より思っている姫に…

 

「なんか円卓の武道派ギルドの大半がいねぇみたいだからよ……姫さま攫って俺達の玩具にしようぜ?」

 

手に持った酒瓶を〈冒険者〉(生ゴミ)の頭に叩きつけようとしたが、隣でせせ笑う男の言葉によって〈くずのは〉は動きを止めてしまった

 

「姫ちゃんも俺達を利用してるしな!少しはご奉仕してもらわなくちゃな~?」

 

利用している……たったそれだけの言葉だけで心が揺れ動いてしまった

レイネシアの味方でいると言った筈なのに、利用されていると思うだけで彼女が憎悪の対象となってしまったのだ

 

ゴブリン進行の際の救援要請も〈冒険者〉の好みに合わせたやり方で使命感を煽り利用した?お祭りの際の不祥事もレイネシアのバックには円卓と言う強力な力を持った組織がある事を示したかったのだからではないか?

 

すると好意は180度変わり、レイネシアの『心』が冷たく思えた

混濁する思考に自由を捉われ動きを止まってしまった〈くずのは〉を尻目に〈冒険者〉(生ゴミ)達は計画を練っていく

 

「なんか護衛に腕が立つ〈冒険者〉がついているみたいだけど流石に夜中まではいないよな?」

「いたとしても俺らはLV90。然したる問題じゃねぇよ」

「へへへ、姫様をペットにするとかゲームじゃなきゃ出来ねぇことだよな」

 

……レイネシアには悪いが人が『成長』する為には一度痛い目にあった方が良い

彼女の成長の為ならここは素直に見逃すべきなのではないか?

アカツキにも痛みを持って一歩進む事を促した事柄、レイネシアも今回の件で一歩進むことが出来るのではないか?

 

ならば自分のする事は決まっている。ここは彼らを見逃しレイネシアの『成長』の糧になってもらうべきだと……しかし―――

 

何も言わず立ち去ろうとしても、足が動かなかった。それだけではない。『心』が痛むのだ

アカツキの時にもルンデルハウスの時も感じる事がなかった痛みが〈くずのは〉の顔を顰めさせた

 

なぜ?これはレイネシアの為に必要な事だとわかっているのに体が思い通りに動いてくれなかった

 

困惑する〈くずのは〉を尻目に〈冒険者〉(生ゴミ)達は話が纏め終ったようで地に横たわる〈大地人〉に唾を吐きかけ〈くずのは〉に話しかけてくる

 

「君も話を聞いてただろ?俺達は、今夜レイネシアを攫いに行くんだがオマエも来いよ」

「円卓のルールが守れない悪い子同士、仲良くしようぜ~?」

「まぁ、ここでNOと言えばそこの〈大地人〉の二の前にッ!てめぇ…」

 

〈くずのは〉の肩に手をかけようとした〈冒険者〉(生ゴミ)は苛立ちながらも彼の足に縋り付き、歩みを止める〈大地人〉を睨み付けた。仲間の〈冒険者〉もそれに気づき腹を思いっきり蹴り上げ放すように暴力で伝えたが幾ら蹴り上げても一向に〈大地人〉は足から手を放す事はなかった

 

「うぜーんだよ!とっとと放しやがれ!」

「ぐふっ…は、放すもんか…れ、レイネシア姫に手を出させるもんか!」

「ッ!」

 

目を見開いて驚いた

なにもかも諦め他人に助けを求めるしかなかった〈大地人〉が、強き意思のもと必死に〈冒険者〉に食らいついたのだから

 

「レイネシアぁ?テメェは利用されてるって実感あんのか!あぁ!」

「利用されてもいい!ッグ!れ、レイネシア姫が俺達と〈冒険者〉を繋いでくれるなら…俺は利用されてもいい!」

「……」

 

〈くずのは〉はただジッと虐げられている〈大地人〉の言葉に耳を傾け続けた

この先に…この話の先に……己が見つけられなかった答えがあると感じて…

 

「俺らとテメェらが繋がるぅ?はっ!夢話も大概にしやがれ!現にテメェは俺らと繋がっていんのか?あぁん!」

「ィッ!…たとえ今が無理でもいつかきっと繋げてくれる!お、俺はレイネシア姫を信じているから!」

 

信じている……〈くずのは〉が忘れてしまったピース。言葉では幾らでも使った事があるフレーズだが、アカツキに諭され、新しい仲間と出会い、見守っていたいと思う人が出来て思い出した『心』……

 

茶会の時は当たり前過ぎて、気付けなかった『心』。

確かに茶会の時はみんながみんな『信頼』し『放蕩者の茶会』と言うグループを良くさせようとしていて……自分もその一員になってみんなを『信頼』していた

 

茶会解散時に失くしてしまったモノをやっと〈くずのは〉は見つけられたのだ………

 

「仲間を信じ、信じてくれる仲間に答える………不の感情(マイナス)があったとしても」

「あぁん?気でも狂ったッ!」

 

クスリっと笑みを浮かべた〈くずのは〉は、一陣の風となり振り返った〈冒険者〉(生ゴミ)の顔に全力で掌底を叩き込んだ

 

本当に女性魔術師の筋力かと疑問に思う程の威力を持った掌底は〈冒険者〉(生ゴミ)を壁に叩きつけるだけで終わらなく完全に意識を叩き落としたのであった

 

「デクッ!?テメェ!何して「黙りなさい生ゴミ」 ご、ゴミだぁ~?」

 

懐から魔法具〈金毛九尾〉を取り出し、勢いよく開くと笑みを浮かべながら口元を隠した

 

「息が臭い」

 

……守護戦士の〈アンカー・ハウル〉よろしく一言口にしただけで完全に二人の〈冒険者〉は標的を〈くずのは〉に移した

 

「ど、どうやら〈大地人〉の二の前になりてぇらしいな?えぇ?」

「話し方が下品、三流チンピラ、口が臭い」

「――――ッ!」

 

最早、言葉はいらなかった言葉にならない怒声を上げながら〈くずのは〉に襲いかかってきた

対する〈くずのは〉は笑みを絶やさないまま、突撃してきた一人目を脇を抜けて避けると二人目の顔目掛けて酒瓶を叩きつけた

 

パリンっと心地よい音が響く反面、中に入っていたアルコールで「目が~っ!目が~っ!」と苦しもがく男の悲鳴も路地裏に響き渡った

 

いくら気に食わない相手だとしても全力で酒瓶を顔に叩きつける〈くずのは〉

現場を知らない人が見たら犯人は間違いなく彼女であろう・・・・・

 

「お、おい!大丈夫かノーオ?て、テメェ!」

「なにかしら?私のレイネシアに手を出そうとしたのよ……当然の酬いだわ。あと口が臭い」

「レイネシアだとぉ?はっ!テメェも利用されているだけじゃねぇのか?えぇ?〈大地人〉と〈冒険者〉が友達になれると本気で思っているのかよ!相手はデータの塊だっていうのによ!」

 

データ……確かにそうだ

レイネシアもだが〈大地人〉は数式が組まれたプログラムでしかない

決められた動作、決められた発想、決められた力……全てが決められた中でしか動けなく前に進もうとしない〈大地人〉は私の嫌う人種だが……〈くずのは〉には些細な事でしかなかった

 

「…テメェ、何笑っていやがる!」

 

〈冒険者〉の怒声の返事が微笑だった事が更に男の怒りのボルテージを上げていく

 

「ふふふ、ごめんさない。…そうね、貴方、友達いないでしょ?」

「……は?」

 

思いもしない返答に男は呆然するが、そんなこと知ったこっちゃないとばかりに〈くずのは〉は男の周りを舞う

 

「データだからなんだと言うのかしら?たとえデータの塊だとしてもお互いに信頼し合えば既に友達でしょう?」

「し、信頼だぁ?テメェは信頼されているなら利用されてもいいって言うのか!?データの塊なんかにぃぃッ!?」

 

言葉が続かなかった……〈くずのは〉が男の周りを一周周るや否や男を中心とした足元には見たことの無い数字や英単語が並ぶデータが浮かび上がってきたのだ

驚き言葉を詰まらせるが、振り返った先では他の二人にも同じ現象が沸き起こっていた

 

「――――口伝」

「ッ!」

 

路地裏に響くリンっとした声が死刑判決のように響き、視線を〈くずのは〉に戻そうとするが思うように体を動かす事が出来なかった

 

――――ただ見えるのは淡く光る彼女の手だけ

 

「そもそも利用されているとは思っていないわ。……レイネシアは純粋な子よ?真剣に悩み、親身になって考え、真っ直ぐに決断する。……そんな彼女がこの私を利用できると思うかしら?」

「な、なに「答えは聴いていないわ」ッ!」

「他も同じ、例え利用されようが『心』に『不の感情』を抱いていようが、『信頼』と言う『感情』があれば『不の感情』は些細な事でしかないわ。…確かに嫉み・嫉妬・優越感を相手に抱き『不の感情』しか見えない時もある。だけどそれを含めて全てが人だから、『不の感情』を知って尚、丸ごと信じれば『利用』と言う言葉は『信頼』にかわる」

 

上手く動かない体を必死に動かし、データの奔流を堰き止めようとするが、全く変化する見込みはない。そして―――〈くずのは〉の魔法は完成した

 

「残念、時間切れよ?」

「な、な、な、なにしやがるテメェ!」

「…生ゴミに話しかける趣味はないわ。」

「ッ!て、テメェ!…ッ!衛兵はどうした!衛兵は!町は戦闘可能領域じゃねぇだろ!」

「……」

「聞いてんのかデメェ!」

「……うるさいわね、それはゲームでの設定でしょう?ここはリアルなの、穴なんて幾らでもあるわ」

「な、な、な、なっ!」

「ゴミはゴミ箱へ…社会人のルールね?……我!真理築き理を崩すっ!情報書換(オーバーリライト)・『(ゲート)』ッ!行先は…取りあえず南米サーバーでいいかしら?」

「はぁ!?なにを言って「転送」――――」

 

一瞬の発光、路地裏に光が立ち上り辺りを照らし、光が収まった事には暴虐を行っていた〈冒険者〉は跡形も無く消えていなくなっていた

〈大地人〉は今し方起きた〈冒険者〉の奇跡に呆然と〈くずのは〉を見つめるだけであったが、彼女が溜息をこぼし、パチンっと心地よい音を立てて扇子を閉じたのを気に頭を地面に擦り付けながら〈くずのは〉に感謝の意を唱えたが―――

 

「あ、ありがとうござ「言わなかったかしら?私は生ゴミと話す趣味はないと」…え?」

 

―――思わぬ罵倒による返答に体を硬直させたのであった

 

「ただ虐げられるだけで『成長』しない〈大地人〉など生ゴミと同じだわ。いえ、貴方達はデータの塊だったわね?……ゴミが私に話しかけていいと思っているのかしら?」

 

まるで先程まで暴力を振るってきた〈冒険者〉が子悪党に思える程の威圧感が〈大地人〉に襲いかかる。……冷や汗が止まらず足が震えて立ち会がる事も出来ない。

彼の本能がこの場を全力で逃げろと訴えかけているが、蛇に睨まれた蛙の様に動く事も話す事も出来ないでいた………しかし、彼女が視線を外し背を向けた瞬間、あの重圧な威圧感は消えて無くなっていった

 

「…でもまぁ、貴方の言葉は心に響いたわ。…一度だけは許してあげましょう、早く消えなさい」

「ッ!あ、ありがとうございました!」

 

蛇に解放された蛙は一目散にその場を後にするのであった

 

 

遠ざかっていく足音に耳を傾けていた〈くずのは〉は、完全に足音が聞こえなくなった頃合いで振り向き、空を見上げた

 

「今の仲間…昔の仲間…」

 

四方を建物に囲まれて狭く目に映る星空…

 

「昔の仲間に縛られて前に進むことの出来ない私…」

 

四方の隅を侵食する色に気づいた〈くずのは〉は目尻をあげた、そして―――

 

「だからなのね?自分が進めないから進める、『成長』出来る人を好むのはッ!」

 

言葉尻を僅かにあげ、足元にデータの奔流を浮かべると〈くずのは〉は屋上に飛躍した

 

「受け入れる……無責任な言葉ね?貴女もそうだとは思わない?私…」

 

重力に喧嘩を売るように飛躍し着地した〈くずのは〉は背に暖かな光を感じ、目を細めながら振り返る……

 

「自らの道を塞いでいたのは……私も同じだったのね」

 

立ち昇る太陽は〈くずのは〉の『心』の中を写したように綺羅びらかに光り輝くのであった

 

「……取りあえず休みましょう、朝日がきついわ」

 

 

……最後まで締まらない彼女は徹夜明けであった

 

 

 

 

〈くずのは〉が殺人鬼討伐の予定日が今日だった事に気づいたのは貴重な睡眠を終えて直ぐのことであった

本来、〈くずのは〉は討伐に参加する予定ではなかった為、誰も連絡をしてこなかった。それ以前にフレンドリストがいまだ茶会メンバーと〈記録の地平線〉メンバー、マリエールしかいないのも原因ではあるたが…

 

そんな事で〈くずのは〉は苛立ちながらも集合場所となっている『水楓の館』へと歩みを進め、小隊ごとで作戦会議をしている集団の、よく知る人物に話しかけたのであった

 

「ナズナ」

「……〈くずのは〉?どうしたんだい?」

 

予想もしない人物に話しかけられた事でナズナは驚き、何か伝えにきたのかと目を細めた

 

「私も今回は参加してあげるわ、パーティーに入れなさい……あと人払いを」

 

声は上げないが、本当に驚いたとばかりに両手をあげ驚きを現した

なによりも〈くずのは〉の纏う雰囲気が自分達を相手にしている感じに近い事に口元を緩めた

 

「へぇ~、どういう心境の変化かな?」

「そのにやけ顔を斬られたくなければ言うとおりにしろ」

「おぉ、怖い怖い」

 

恍けながらも〈くずのは〉の目的の人物以外に声をかけ先に行っている様に即し、自身も後に続こうと〈くずのは〉の隣を横切ろうとしたが、足が止まり口が開いてしまった

 

「……なんだか、昔みたいだよ〈くずのは〉」

「いけない事かしら?」

「いいや!惚れちまいそうだよ」

「残念、貴女では役者不足だわ」

 

友人の変化に、いや友人が自分の良く知る友人に戻っている感じがして嬉しくなりナズナは笑みを隠そうともしないで大きく笑いながらその場を後にした

 

「…まったく、あの馬鹿は人目を気にしなさいよ」

「〈くずのは〉…」

 

ナズナの計らいにより、二人っきり……アカツキと対面する形になった〈くずのは〉は表情の硬いアカツキに物語を読み上げる様に言葉を口にし始めた

 

「相手はレイド級の力を持つ〈大地人〉。…間違った『成長』をした愚かな凡愚」

「……」

「だとしても力は強大。言わば殺人鬼は〈アキバの町〉そのモノ…それは一度、敗れた貴女の方がよく知っているわね?」

「あぁ」

 

アカツキと視線を合わせようとしなかった〈くずのは〉が、初めて己が意思でアカツキを視界に入れ、彼女の状態を確かめるように眺め呟いた

 

「…貴女の求めた〈口伝〉は未収得、装備は皆の好意で新調した辛うじて一級品……それでも挑むのね?」

「…主と約束した。それに私を思ってくれる仲間の為にも私は行く」

 

アカツキの言葉は真っ直ぐに〈くずのは〉の目を見ながら告げられ、明確な意思が宿っていた

 

「本当に愚かね……後ろを向きなさい」

 

そんな目で見つめてくるアカツキを見つめ返し、〈くずのは〉は理解した。彼女が言った『仲間』の中には自分も入っていると言う事に……

 

何故か〈くずのは〉の事を警戒しながら後ろを向くアカツキに笑みがこぼれてしまうが、普段の自分の行いを振り返ってみれば当たり前だったなと笑みが苦笑に変わった

そして、口伝を発動させながらアカツキの髪を纏めていた〈ヘリオトロープの髪留〉を素早く抜き取り代わりの髪留で髪を纏め上げた

 

「・・・・・・これは?」

 

新しく髪を纏めてあげている髪留を髪型が崩れない程度に触りながらも〈くずのは〉のした行動に不審がり説明を求めるアカツキ

 

「〈メラストマの髪留〉……上手く使いなさい」

「なっ!」

 

思わず声を上げて驚いてしまったが、〈くずのは〉に人目を気にしなさいと嗜まれ慌てて口を閉じた

〈メラストマの髪留〉と言う装備品をアカツキは知っていた

昔行われた大規模レイドのレアドロップとして手に入れる事が出来る〈秘法級〉アイテムであり、数多くある〈秘法級〉の中でも上位に入る程人気が高い装備品

理由の原因は見た目もさることながら性能が〈幻想級〉と損色ない、そして暗殺者のステータスを大幅上昇させる効果があり、アカツキも再導入時にはお目に掛りたい一品の一つであった

 

「そんな貴重なモノを…それに〈秘法級〉だとアンロックが「細かい事は投げ捨てなさい」……そうだったな、〈くずのは〉だからな」

「良くおわかりで……仮にも私を受け止めると言ったのだからそれなりの身嗜みをしなさいな」

「〈くずのは〉……」

 

言葉の節々に棘があるのは相変わらずだが、彼女が自分の事を思い用意したモノだと思うと自然と心が暖かくなっていった

 

「………長年、拒み続けていたモノを表に出す事は出来ないわ。でも……少なくとも今日よりは進んで…『成長』するつもりよ」

 

そしてなりより、人を近づけさせなかった〈くずのは〉の変化に一番歓喜が湧き、普段の自分らしからぬほどの大声で答えてしまった

 

「あぁ!私は…待っている!仲間だからな!」

「だから人目を………アカツキ、貴女はシロエの忍として生きるのならそれでも構わないわ。でもね……この私を受け止めると言った責任は取ってもらうわよ?」

「うむ!……だが〈くずのは〉が責任と言うと何だか怖いな」

「失礼ね……私の隣に立つのであれば少しは光り輝きなさい?」

「あぁ」

 

 

ようやく〈くずのは〉は本当の意味で〈記録の地平線〉の一員になったのであった

だが、彼女たちの行く手を遮る障害はまだ多く残っているだろう…だからと言って〈くずのは〉が〈くずのは〉であり続ける限り――――

 

 

 

 

 

――――――この関係は崩れないと思いたい

 

 

 

NEXT 裏工作はお手の物




〈メラストマの髪留〉
5年前に行われた大規模クエスト〈妖怪達の宴〉の木魅からレアドロップとして入手できる〈秘法級〉アイテム。
暗殺者専用装備品さらには女性限定と言う縛りがありながら今尚、高額で取引され、市場に出回る〈妖怪達の宴〉のドロップアイテムの中でも上から数えた方が早い位に高額なアイテムとして知られている
暗殺者人口が多い事もあるが〈妖怪達の宴〉のドロップアイテムの特徴であるデメリット効果がメリットとして使える事が高額の一因になっている
メラストマとはノボタンの別名であり花言葉は「謙虚な輝き・ひたむきな愛情」


◆装備条件
女性暗殺者専用装備品
◆メリット能力
物理防御上昇
魔法防御上昇
特技の再使用規制時間を短縮
◆デメリット能力
火炎属性攻撃被ダメージ4倍
氷結属性攻撃被ダメージ3倍
付属効果の継続時間上昇


裏話
当初『付属効果の継続時間上昇』がステータス上昇、付属回復の継続時間まで伸ばしてしまう。
デメリットである被ダメージの増加が『魔法防御上昇』の矛盾し、デメリット弱くさせている為、修正が入る予定であったが、ドロップ数を確信した所、100もドロップしていなかった為、修正させずに性能は〈幻想級〉なのに〈秘法級〉と言うバグアイテムとなってしまった


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『4』と言う意味、いま『1』度考えてください

長くなったので後日談を分けます

今回、自己解釈が多々出てきます
申し訳ありませんが、ご了承ください

それとなぜかランキングに入っていました(最高で9位)
これも皆様のおかげですありがとうございます


沖891
総971


〈明星掴み〉

桃色賽子(ラッキーシスターズ)〉の姉妹が作成した製作級の腕装備の籠手。つや消しのブレイサーは力場を発生させ、見た目よりも大きな防御力を誇っている

重量・見栄え・性能性を製作級と言う枠組みの中で上手く調整されており、私の見立てでは〈秘法級〉に近い性能を誇っていると言っても過言ではないだろう

 

〈墨羽の装束〉

艶のある黒羽根みたいに美しい色合いをした〈明星掴み〉と同じく〈桃色賽子(ラッキーシスターズ)〉が作成した製作級の服型装備の装束。装備者の行動力を削がない様に製作されているが、重量・防御力は〈製作級〉の中でも上位に入る程、高性能であり職人の腕の良さを感じさせる。魔法攻撃・付属攻撃によるダメージを軽減・レジストする能力を持っているが、効果は『中の下』程度、しかしスピードに特化した〈冒険者〉ならば多大なるチャンスを生み出してくれるだろう

 

〈メラストマの髪留〉

『妖怪達の宴』の〈秘法級〉レアドロップ

耐物理・耐魔法を上昇させ特技の再使用規制時間を短縮させる

『妖怪達の宴』のドロップアイテムの例にこぼれず装備者シバリ・デメリット効果が存在するがデメリット効果がメリットになってしまっている迷装備品

来歴(フレーバーテキスト)に記載された花言葉「謙虚な輝き」の言葉通り、敵の注意を引付ける効果を多少だが持っている

 

「初心者冒険者必見狐印の武器図鑑」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「身を守るのは信頼の証達…壁を越え一歩成長した貴女には相応しいモノだと言えるでしょう…そこに『情』が込められた刃が揃えば―――」

「随分余裕だね〈くずのは〉?…殺人鬼はいつどこで現れるかわからないんだ、油断せずに行こう」

 

隣を歩く狐に声を掛けられ、諭すように注意されたが当の本人は気にも止めていないとばかりに林檎を齧り始めた

 

「私の前に立ち塞がるなら僥倖。あの子の代わりに滅するのみ、よ」

「大した自信だね~?……それはあの子を守るためかい?アツアツだね~〈く・ず・の・は〉?」

 

普段から顔色を変えない〈くずのは〉ではあるが、付き合いが長いナズナには看破されているようでニヤニヤと口元を緩めながら冷かしてくる

 

「……喧嘩売っているのね?ええ、その喧嘩買いましょう。貴女の後に殺人鬼を相手にしてもお釣りがくるわ」

「またまた~、昔から照れ隠しが苦手だね?だからカナミにツンデレって言われる訳だ」

「ッ!上等だわッ!来なさいアル中狐ッ!」

「アル中違うから!糖分の取り過ぎで口内死ねッ!糖尿病予備軍!」

 

殺人鬼が徘徊するアキバの町に殺人鬼討伐とは別の……己が誇りを掛けた狐達の戦いが幕を上げたのであった……………続かない   

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

1対多数!!…特撮ヒーローも真っ青でありんすな?

 

 

 

 

「…それでどうなのさ?」

「どう、とは?」

 

息と着衣の乱れを整えながらナズナは〈くずのは〉に問いかける

問いかけられた〈くずのは〉もナズナと同じく身嗜みを整えながらもナズナに返事を返した。……数分前まで醜い取っ組み合いをしていたと言うのに二人は別段、喧嘩をしていたのかと不思議に思うぐらい普通に会話して――

 

「主語がないわ、アルコールで脳内細胞が死滅したのね?…、可哀そう」

 

―――いなかった。

最後の言葉は哀れに思っていない、口元を扇で隠しているのでわからないが、絶対に口元が上がっているとわかっていながらもナズナは口を引き上げながら続きを口にした

 

「……作戦の成功率よ、あんたの事だからもう台本は出来あがっているんでしょ?」

 

作戦……そう言われて思うのは今行われている『殺人鬼討伐戦』。DDDのリーゼがリーダー兼参謀を務め、ヘンリエッタが参謀補佐と言う立場となって組まれた作戦。

ナズナは、元とは言え〈放蕩者の茶会〉で同じく作戦参謀をしていた〈くずのは〉の考えを聞いておきたかったのだ

 

「そうね……0%かしら?」

「いや、あんたの0%は0%じゃないから。こう、何と言うか具体的に…ね?」

 

両手を上げ、頭を横に振りながらそういう事ではないとポーズで示すナズナに対し〈くずのは〉はタメ息をこぼすと路地裏へと歩みを進めた

 

「…変則編成によるアキバの全域を哨戒は合格点。編成も『勝つ事』よりも『凌ぐ事』を優先に組まれている。問題があるとすれば……敵戦力」

「敵戦力?」

 

〈くずのは〉の置いて行かれまいと駆け足気味に歩みを早め、肩を並べて歩きだした

 

「えぇっと、敵…エンバート=ネルレス、〈大地人〉レベルは94。職業は武士で装備品は動力甲冑(ムーバブル・アーマー)と霰刀・白魔丸…でしょ?」

「そうね…そしてエンバートは供贄一族である」

「供贄一族って……衛兵システムを管理している一族だっけ?」

「他にも銀行業務、宅配サービス、公開市場サービス…あげればキリがないけど〈エルダー・テイル〉において重要なスポットに存在する一族だわ」

 

〈くずのは〉は補足を入れながらも顔を顰めた

 

「彼らは古代アルヴ文明からの技術を伝えているとされ、勢力範囲はヤマトのみならず大陸にも及ぶという。しかし閉鎖的な一族で、研究を行ったり知識を普及したりしない等広い接触を厭う引き籠りの…私の嫌う〈大地人〉の一族よ」

 

人との関わりを第一に考え、成長するモノを好む〈くずのは〉にとっては、関わる事自体を拒否している供贄一族は憎悪の対象でしかなかった

 

「アンタの好みはどうでもいいよ。その殺人鬼が供贄一族だと何が問題になるんだ?」

 

伊達に〈くずのは〉と飲み友達をしていないナズナは敵意を剥き出しにする彼女を無視し話の続きを即した。…とてもではないが、ナズナのような行為が出来る人物はヤマト内を探しても5人もいないであろう

 

「…供贄一族は動力甲冑にも手を入れていた一族。事によってはレベル以上の力を出してくるわ」

動力甲冑(ムーバブル・アーマー)に適合性なんてあったっけ?」

 

ナズナの言葉を聞いて〈くずのは〉は残念な子を見る目で見つめた

 

「…ナズナ、貴女は新人PKとベテランPKを相手にするならどっちが殺りやすいかしら?」

「PKって…そりゃ~新人の方が対処しやすいでしょ?」

「どうして?」

「対人戦の経験が少ないから体の動かし方が…ッ!なるほどね~」

 

〈くずのは〉の問の意味を理解し、腕を組んで頷くナズナ

〈くずのは〉も覚えの悪い子が理解したと感じ話を先に進めた

 

「そう、エンバートが動力甲冑(ムーバブル・アーマー)の力を100%引き出せる環境にいた。…動力甲冑(ムーバブル・アーマー)は運動能力を飛躍的に向上させるわ。莫大なHP、鉄壁の防御力、それだけでもレイドレベルは110位。…そこに供贄一族の技術と経験が組み合わさったらレベル150はいくわね」

「ただえさえ厄介な品物なのに経験豊富。…こっちの裏を書いてくる程の力を持っていたら」

「いまの作戦では100%成功はしないわ」

 

まいったね~っと苦笑いをこぼしながら頭をかくナズナであったが、頭の中では既に最悪のケースの対処法を構成し始めていた。……伊達に〈西風の旅団〉の副リーダーを任せられている訳ではない

 

そんなナズナを尻目に〈くずのは〉は言葉を続ける

 

「でも、その可能性は低いわ」

「…へ?」

 

ナズナに色々と考えさせておきながら、その思考を無駄な労力へと変える〈くずのは〉はツンデレなのだろうか?とてもではないが、デレがない

 

「エンバートは殺戮しか答えを出せない愚図だわ。本当に〈冒険者〉を殺したいのであれば復活するシステムを先に殺す必要があるのにどうしてそこまで考えられないのかしら?」

「復活するシステムって……」

「簡単よ、アレね…」

 

疑問に思うナズナを導くために〈くずのは〉が扇で示した方角には……殿内を大理石とスタンドガラスで飾らりたて最近、二人でお茶会をした場所がある方位であった

 

「……大神殿」

「〈冒険者〉が復活する施設。…〈冒険者〉は最後に登録した町の大神殿で復活をするわ。でも…復活する場所がなかったらどこで復活するのかしら?」

「……レイドみたいゾーンの入り口、とか?」

 

いきなり質問を投げかけられ、唖然といていたナズナは碌に考えもせずに思った事を口にしてしまうが、〈くずのは〉の返答は冷たいモノであった

 

「NO。ゾーンの入り口には敵との遭遇率や経験値配分の為に一時的に参加者のステータスを保存する為、レイド中の死亡は大神殿で復活せずに常にデータが更新出来るゾーンの入り口が保存先になり大神殿の代わりになっているわ……でもゲームが現実となった今、データを保存する先は限られている。ふぅ……」

 

口休めとばかりに懐に仕舞ってあった果実酒を一気に煽った

淡い色をした液体は見る見る内に彼女の口の中を通っていき、モノの数秒で空にしてしまう

 

「ふぅ……私の仮説になるわ」

 

ナズナは知っていた

彼女が小難しい事を口にしながらアルコールを一気に摂取する時に限って爆弾発言をしてくると……

 

「私達、〈冒険者〉は死亡したら大神殿にて『(記憶)』と『記録(データ)』を元に再構成され復活するわ。それは私達の『記録(データ)』を最後に…最新の『記録(データ)』を保存している場所だから。なら『記録(データ)』の保存先がない状態だと…どこで再構築するのかしら?」

 

これは魂魄理論の応用よ、と補足を入れられても正直そっち方面には疎いナズナは、理論じみた事を返す事は出来ない

思った事を素直に口にしようとしたが―――

 

「前の保存先で復活と言いたいのかしら?…残念だけどそれはNoよ」

 

―――先手を打たれてしまう。

ならなぜ、自分に聞くのだ!と視線で訴えかけるが彼女は気にも止めずに話を進める

 

「ゲームならいざ知れず現実である今は、どう足掻いたって過去へ戻る事が出来ない。…ならば『(記憶)』は『記録(データ)』を待ち続けるでしょう。保存先が復活するその時まで……それは『(記憶)』だけであり肉体を持たない幽体……『死』と繋がる」

 

〈くずのは〉の伝えたい事はわかる。

ようするに肉体がないままの〈冒険者〉は魂だけの存在であり、俗に言う『幽霊』。

話す口も、食事をする為の手もない、人の目にも映らない存在なのだから……でも―――

 

「…あくまで大神殿がない期間の話でしょ?そんなに重要な施設なら〈大地人〉も〈冒険者〉も必死に再建築する。一時的な幽体離脱だと思えばッ!」

 

言葉が続かなかった

光が入りづらい路地裏と言う事もあり、不気味さを醸し出すには満点を上げられる場所で『恐怖』を味わせてくる…しかし、ナズナの言葉を止めたのは路地裏の不気味さではなく、野生の獣の様に光る〈くずのは〉の双眼であった…

 

「長い間放置された『(記憶)』が正常でいられるとも?…ただえさえ、再構築の際に『(記憶)』の欠如が発生すると言うのに…その事は医療に携わる貴女の方がよく知っているはずよ?」

 

ただ鋭い訳ではない、現実を叩きつけられた様な、諦める事を諭しているような……望みを捨てて全てを受け入れる様に伝えてくる瞳…

 

ドックンっドックンっと心臓の動く音だけが聞こえ、ナズナの思考を纏めていく…

無いものだと思われていた〈冒険者〉の『死』、それは肉体的な『死』ではなく、人と言う『人格』が無くなる『精神的な死』。詰まる所、〈くずのは〉が言う死とは……

 

――――ドォォォォンッ!!!

 

「ッ!?」

 

町全体に響き渡る破壊音にナズナは思考の底から浮上した

音の発生源に視線を向けると、戦闘が行われているであろう発光と武器と武器がぶつかり合う金属音まで聞こえてきた

 

「無駄な話をしたわね。……目先の事に集中しましょう」

「ッ!…よし、行こうかねぇ!」

 

柄を返した〈くずのは〉はナズナの肩に軽く手を置くと音の発生源に向って走り出す

ナズナも気持ちの切り替えとばかりに両手で頬を叩いた後、〈くずのは〉を追いかけるのであった

 

 

 

 

 

 

打ち合わせた手応えにアカツキは気を引き締めた。微塵の油断も出来ない。いや油断もなにも、自分が敗北する可能性の方が高いことをアカツキは深く理解していた。 

歓喜に耐えかねた表情で無防備にも脇腹を貫かせHPを失ってまでも強引に間合いをつめ悪鬼の如く地獄のような冷気をしみ出させながら、アカツキの愛刀ごと殺人鬼は己の傷口を凍てせ、アカツキの唯一の武器を破壊した殺人鬼はいまだなお、殺戮を続けている

 

「アカツキちゃんっ!」

「大丈夫だ」

 

アカツキは立ち上がった。

一瞬の油断でHPは瀕死状態。もう残り五%もない。でも、まだ生きている。

駆け寄ってくるマリエールの回復魔法も今ひとつ効果が薄い。もうMPが苦しいのだ

 

「ごめんしてな。ほんと……ごめんして」

 

苦しそうなマリエールの声に胸が痛む。マリエールが悪いことなんてなにひとつない。初めての大規模戦闘なのに、アカツキと組んだばかりに第一ヒーラーの 役割を押しつけられてしまっただけではないか。アカツキはマリエールを慰めたかったが、上手い言葉が見つからなかった。だからありったけの気持ちを込めて 繰り返した。

 

「大丈夫」

 

それは強がりの言葉ではあったけれど、それだけではなかった。好きな人を安心させたいというまごころから出た言葉だった。虚勢ではなく、アカツキはマリ エールに感謝を伝えたかったのだ。伝わったかどうかさえ確認のしようもない短いやりとりを振り切って駆け出そうとするアカツキに、短い棒状のものが回転し ながら投げつけられた。

 

「ちょうどいいから、もってけ」

 

工房から顔を出した二十五人目の少女は、ゴーグルをずりあげながらアカツキに言った。

受け取った鞘が、まだ温かい。ともすれば吹雪の中でかじかみそうになるアカツキの両手のなかで、まるで生まれたばかりのように熱気をほとばしらせている。

 

「――〈鳴刀・喰鉄虫(めいとう・はがねむし)〉」

「じゃない……。〈喰鉄虫・多々良〉。打ち直し」

 

よく見れば長さが違う。握りが違う。アカツキに、合わせてある。なによりも、アイテム鑑定で表示される、来歴(フレーバーテキスト)が違う。

 

「こんなの、払えないっ「受け取っておきなさい」くずのは!?」

 

泣きそうになるアカツキの言葉を遮ったのは受け止めると約束した同じギルドの仲間であった

 

「この子が貴女の為に打ち直した『情』の刃、これを持って貴女はこの子の気持ちに答えなさい。…そうでしょ?」

 

〈くずのは〉に即され〈アメノマ〉の刀匠・多々良はかぶせるように言った。いつものぼんやりした眠いような声ではなく、強い響きだった。

 

「わたしの刀で、あれを倒して」

 

彼女の指さすその先では、遊撃を勤めていた〈西風の旅団〉のカワラが戦っている。

氷雪の乱舞を受けて切り刻まれ、鮮血にまみれながらもその咆哮は雄々しく、勇戦している。しかし殺人鬼の第一ターゲットはアカツキだ。いまでもその視線はアカツキへと向かっている。アカツキが知らぬ間に自身が身に着ける〈メラストマの髪留〉の来歴(フレーバーテキスト)の効果が発動していたのだ

 

「アカツキやん。準備、できた」

 

アカツキに回復呪文をかけ続けていたマリエールは頷いた。時間が来たのだ。もはや、言葉はいらない。

 

アカツキは弓から弾かれた矢のように一直線に地をかけた。〈影遁〉の分身を飛ばして一撃。持ち替えた新しい小太刀をふるって〈アクセルファング〉。殺人 鬼が受け太刀に使った〈霰刀・白魔丸〉と〈喰鉄虫・多々良〉が噛み合う。まるで噛みちぎるような音を立てて削りあう鋼の嵐の下でアカツキは、ぶれて、消え る。

 

その光景を〈くずのは〉は震える体を両腕で抱きしめながら見つめていた

 

「あれは!……貴方も到達したのねッ!完成された世界に背き、反旗を訴えながらも世界の一人となる禁忌の術を!」

 

目の前ではアカツキが口伝〈影遁〉を用意て殺人鬼を翻弄しながらもギリギリの戦闘を行っている。しかし、〈くずのは〉は戦闘に加わろうとはしなかった。

まるで我が子の成長を見守る母親の様にアカツキの一挙一動を見守り続けた

そして一言――――

 

「ナズナ」

「あいよ!」

 

致命傷にしかなり得ないその攻撃を、アカツキは突然現れた障壁を足場に難なく回避する。もう一匹の狐が救援に来たのだ

 

「やっと追いついた!詰めが甘いのはシロエそっくりだよっ」

「あら?それは貴女もでしょ?」

「違いなッ!?」「これはッ!?」

 

合流した二人の会話を遮ったのは巨人が漏らしたささやかなため息のようなさざ波であった

 

「……私は行くよ……〈くずのは〉は?」

「私はお腹一杯……手薄となったアキバの町を散歩するわ」

「オーケー!任せた~!」

 

ナズナは高下駄をはいたままとは思えないような華麗な動きで半身を回転させると、そのまま宙に舞い上がった。柔らかい身体を丸めると、殺人鬼の刀を蹴り上げて距離を取りアカツキと併走し目的の場所へと移動していく……

 

危機が迫っているのにどこか嬉しそうな顔をするアカツキを見送った〈くずのは〉は一人、近場のビルへと飛びあがった

 

ビルの屋上から眺めるアキバの町は普段見る事の出来ない銀化粧で色取られており、所々にイルミネーションの光が添えられて一種の絵画

 

美しい絵画に見惚れつつもアキバ全体を囲むように―――機能を停止した都市防御用魔法陣をなぞるように―――〈くずのは〉は口伝を使用し魔力を流していく…

 

「誰かがやらなければならないのなら私が……それが二人の、いえ、〈冒険者〉の明日に繋がるのであれば喜んでその罪を背負いましょう……―――口伝・情報書換(オーバーリライト)

 

〈くずのは〉の口伝が発動され魔方陣に別の色が侵入する。だが、魔方陣が復活するわけではない。既に出来た水路に違う水が流れるだけ―――その水は無色透明、誰にも気付かれる事無くアキバ全体へと行き渡っていった…… 

 

「くッ!ァァガ!グゥゥゥ……――ハッ!はぁはぁ……」

 

一度に全ての魔力を使い切る程の大規模な魔法の使用に〈くずのは〉は胸元を押さえ痛みに耐えながら息を整えていく

 

「慣れてきたとは言え、連続での使用はキツイわぁ。でも……」

 

震える足に喝を入れ、アキバの街の心臓部であるアキバの中央広場に視線を送った

まだ太陽の見えない黎明だと言うのに小規模な集団が集まっており、巨大な氷を囲っていたが、次第に一カ所に集まりどこかへと移動していく数人は氷の場所で何か作業をしている様であったが…

 

そして直ぐに〈くずのは〉へと念話が届いたが彼女は念話の内容を理解していた。なぜならば、それは――――

 

『おっ!くずのは?水楓の館で一杯やろう』

「…酒代は貴女持ち、ね」

 

勝利の知らせであるのだから―――――

 

 

 

next  ???

 




カナミの日本文化教室~ツンデレ編~


「…ツンデレ?」
「そう!日本に行くにあたって知っとた方がいいジャパニーズカルチャーだよ!」
「むふ、日本は島国だからか?珍しい文化があるものだな」
「実際にはどういう意味の人なんだ?」
「ええっとね~敵対的な態度(ツンツン)と過度に好意的な態度(デレデレ)の両面を持つ人の事、かな?」
「…そんな人間のどこがいいんだ?」
「甘いよ!ケロナルド!ツンデレはねぇ~ロマン、かな?」
「僕に聞かれても困る。それに僕はレオナルド、だ」
「実際に当てはまる人物に該当はアリマスカ?」
「ん?ん~…あっ!くーちゃんだよ!あれはツンデレのカリスマだね!」
「クーですカ…」
「いや待て!くーの何処にデレがあると言うんだ!彼女には『ダラダラ』か『ツンドラ』しかないぞ!」
「…合わせれ『ダラツン』。新しいジャンルだね!」
「『デレ』はどこに行った!『デレ』は!」


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『4』ロエとの再会!1万年と『2』千年ぶりでありんす!

自己解釈があります

作者が思う口伝の在り方と言うものを書きました
原作でも不明な部分が多いので仮説として流してくれれば幸いです







O893 S973
12326236、15


〈口伝:その2〉

 

ゲームの仕様には無かった新しい技・魔法の事を言う。取得方法は判りつつある

一説に「自身の技の昇格」「枠組みを取り払う」「常識を否定する」「口伝の否定」が口伝に至る術だとされているが……どれも未確認なモノが多く、他者のマネをしたから習得できると言う訳ではない

同じ思考を持ち、同じ感情で、同じ着目でいれば習得は出来るであろうが、世界に同じ人間は一人としていない為、同じ力が得られるとは限らないだろう…

 

だが、忘れないでほしい……『力』は『守る』事に使えるが同時に『壊す』事にも使える事を

 

「秘密事項項目:世界級魔法と冒険者」著作者:くずのは

より抜粋…

 

 

「口伝の習得……アカツキやナズナが使用する口伝は『技』の見方を変える事によって習得できるモノ、セタは自身の力を現実で強化したモノ、私やシロエ…濡羽の口伝は世界を現実とし手を加えるモノ……口伝と言っても3つの種類がある」

 

あの討伐戦が嘘だったかの様に静寂に包まれたテラスで一人、月明かりを頼りにしながら彼女は本を書き進める…

 

「後者は兎も角、前者はこれから増えていくでしょうね…それで―――」

 

筆を止め、自身に近づいてくる影に視線は上げぬまま語りかけた……

 

「主役が抜けて来ていいのかしら?」

「主役はココにいるみんなだと…私は思う」

「ふふ、そうだったわね…」

 

視線を移した先にはアカツキが寝巻姿のまま、顔を伏せながら彼女の横に腰を下ろしたのであった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

パジャマ?…わっちのパジャマは林檎柄でありんす

 

 

 

アカツキが〈くずのは〉の隣の席に腰を下ろしてから早10分、一言も会話がなく時は過ぎていた……

アカツキは書き物に集中している〈くずのは〉の邪魔をしてはいけないと感じながらも話をしたいと思いこの場に留まり続けているのだが、当の〈くずのは〉はそんなアカツキの事など気にも止めていないとばかりに筆を進めていた

 

アカツキが話しかければ、この悪循環は終わるのだが元よりコミュ障に近い彼女にとって作業に集中している人物に手を止めさせてまで話しかけるコミュニケーション能力は無い

 

どうするものかとチラチラと〈くずのは〉の横顔を見ながら、話しかけるチャンスを窺っているが……12月の夜のアキバ、パジャマと言う薄手の洋服だけを着た状態は流石に堪える。案の定――――

 

「くしゅん!」

 

―――寒さに体を冷やしクシャミがでるのは当たり前

身を震えさせ、手を擦り合わせて暖を取ろうとしていたアカツキの肩に淡い色をした毛布が掛けられるのは時間の問題であった

 

「いくら〈冒険者〉でも薄着では風邪を引くわ。使いなさい」

「す、すまない」

 

何処から取り出したのか判らない毛布はアカツキの体をすっぽりと覆い隠すほどの大きさで暖を取るにはちょうど良かった。暖かさに包まれ頬が緩んでいくと同時に緊張していた心も緩んでいった

 

「〈くずのは〉はココで何をしているのだ?」

「見てわからないかしら?本を書いているのよ」

 

あぁ、体は暖かくなってきたのに〈くずのは〉の態度は冷たい

だが、言葉足らずだったのは自分の方だったと開き直り、更に〈くずのは〉に話しかける

 

「どうしてココで?…寒いだ、ろ?」

 

最後の言葉が疑問形になってしまうのは仕方がない事であった。〈くずのは〉は、自身の尻尾を巧みに体に巻き付け暖を取っていたのだ……自給自足、その場合『自給自温』だ

 

「そうね…人には見せられないモノを書いているから、と言う事にしておくわ」

「そう、か……なら仕方がないな」

「ええ、仕方がないわ」

 

特別、追求するつもりはなかった。内容が気にならないと言えば嘘になるが、アカツキの目的は違うところにあり、先の内容は話かけるキッカケになればよいとしか考えていないからだ

 

「主君は…いまどうしているのだろうな?」

「さぁね、連携を取らない屑やステータスが前回と変化したレイドボス、更には小難しい交渉相手に苦戦しているんじゃないかしら?」

「…直継はどうしているかな?」

「さぁね、無意識的に現地に女でも作って迷惑をかけられているんじゃないかしら?」

「………なにか知っているのか?」

「さぁね、何も知らないわ」

 

適当に返答されているのはわかっているが、やけに具体的な返答内容にアカツキは頬を引き攣らせてしまう。が―――

 

「…シロエの元に行きたいかしら?」

 

〈くずのは〉が初めて本から視線を外しアカツキの目を見て話しかけてきた事によって疑心な思いと思考が吹っ飛んでしまった

 

「私なら時をかけずに転送する事が出来るわ。貴女の主の元へと…」

 

彼女の言う事は理解できる、今を尚強大な敵と戦っている主君の元へと送ってくれると言っているのだ。主君達が大規模戦闘で得た〈グリフォンの笛〉で、いや、彼女なら本当に時をかけずに主君の元へと送ってくれるだろう。……あの時は力も覚悟も足りなく主君に連れて行って貰えなかったが、今なら私にもやれる事があるはずだッ!………即答でYESと答えた

 

 

 

 

 

 

 

んだろうな、昔の私なら……

 

「お前は意地悪だな。…私はココでやる事がある」

「ふふふ、ごめんなさいね?性分なの」

 

〈くずのは〉は口を手で隠しながら笑っている、たぶん私も笑っていたと思う

私は主君にレイネシアの助けになってほしいと言われた。…最初は、不満はあったが今は違う

主君との約束だけではなく、レイネシアの友として助けたいと思っている。私だけじゃない…ここにいる全ての人達と一緒にレイネシアを助けていきたいと思っているんだ

……だから主君の所にはいかない。主君を信じココでレイネシアを守る事が私の今やるべき事なのだから…

 

その事を気付かせてくれたみんなには感謝している。もちろん、私とみんなを結ぶ架け橋になってくれた〈くずのは〉には同じギルドに所属する仲間として仲良くしていきたいと思っている

 

……だからこそ、あの頃きく事の出来なかった事を聞こう

 

「……口伝は実在したな」

「そうね、貴女の成長は素晴らしいモノだったわ」

「主君の言う事は正しかった」

「…素直すぎる事は良くない事よ、たまには疑いさない」

「でも、実在した。だから今から言う事も正しいのだろうな」

「……」

 

〈くずのは〉は茶々を入れない。いまから私が言う言葉を察しているのであろう

 

「『口伝を誰よりも把握しているのは〈くずのは〉だ』…主君はそう言っていた」

「……」

「ぶしつけの質問で申し訳なく思う。だが聞きたい……口伝とはなんなのだ?」

 

視線が重なり合う。私もだが、〈くずのは〉も決して逸らす事無くただジッと見つめ合った

そして、〈くずのは〉の方から視線を逸らすとタメ息を一つこぼし「シロエにはお仕置きね」とぼやくと、再び私の目を見て口を開いた

 

「昔の貴女ならば教えなかった事だけどいいでしょう……私の持論で構わないかしら?」

「あぁ」

 

手に持っていた書物を懐にしまい、何故入っているのかわからないが、今度は卵を取り出して私に手渡してきた

 

「貴女…コロンブスの卵は知っているかしら?」

「?」

 

最初、〈くずのは〉が何を言っているのか判らなかったが、彼女に問いだされたモノは有名な話であり、私も知っていたので、卵の尻を潰してテラスの手すりに立たせた

 

「コロンブスが卵の尻を潰して立ててみせたという逸話だったな」

「そうよ…私はね、口伝はそういうモノだと思っているわ」

 

〈くずのは〉は、手すりに立たされた卵を手に取り、月に照らし始めた

 

「一見簡単そうなことでも,初めて行うのは難しい。ナズナの口伝も貴女の口伝も蓋を開けたら簡単なモノが証拠よ」

 

簡単と言われ眉間に皺が寄ってしまったが、〈くずのは〉の訂正は早かった

 

「言葉が足りなかったわね、ごめんなさい。そこに行き付く為にはそれ相応の努力が必要だったでしょう。でも…セタやナズナが言っていた言葉が口伝の全てを語るわ」

 

〈くずのは〉の口から出てきた人物は、私に口伝習得のヒントをくれた人達…

 

「『口伝をくだらないと言えることが本当に口伝』…口伝が自然発症なモノではなく使い方を変えて使った技が口伝になっていた。『強く望み、そのために考え続けること。諦めずに、鍛錬を続けること』…自分の力を信じ現実に適応させたら口伝となって表れた」

 

二人の言葉は私の心に深く刻まれている。『口伝』へと導かせてくれた言葉だ

 

口伝とは〈エルダー・テイル〉におけるシステムを理解し、〈大災害〉の変化を越えたその先で、個人が努力によっていたるひとつの境地。それは些細な工夫 でもあるし、修練の結果でもある。たとえばにゃん太老師の料理が、老師のサブ職〈料理人〉と老師本人の実際の技量の結合であるように、あらゆる口伝は気づきと本人の研鑽で完成する。

 

誰かから口先で解説を受けたから使えるようなモノではない、ゲームシステムから許可されれば、レベルアップのように一瞬で身につくものではない。

口伝は口伝を得ようとは思わず、ただひたすらに悩み、己を鍛えたその先にある。

それはこれで上級の〈冒険者〉だなどといたずらに誇るための力ではなく、もっと大事な、あの日に触れたなにかの欠片なのだ

 

だからこそ…私は…〈くずのは〉の口から〈くずのは〉の思う口伝を聞きたい…

 

「私が思う口伝とは…現実(ゲーム)の常識を壊し、ゲーム(現実)にする事よ」

 

現実(ゲーム)を壊し、ゲーム(現実)にする……常識を取り払い、新たに作り直す…

それが〈くずのは〉の『口伝』に対する答え……

 

「…〈くずのは〉も使え、いや使えるのだろうな」

「ふふ、どうかしら?とりあえず〈記録の地平線〉ではシロエと貴女…そして猫老人が使えるわ」

「料理、のことだな」

「あら、気づいていたのね?」

「……少し前の私だったらわからない事だ」

 

誰が思うであろうか……

口伝が強力な攻撃技や魔法だと噂だっていると言うのに普段おいしく口にしている料理が口伝の恩恵であると言う事に…

 

「話過ぎたわね。…私は休むわ」

 

貴女も早く戻りなさいと肩に優しく手を置き〈くずのは〉は立上ると、レイネシアの執務室へと足を進めていった

 

…欲を言えばもっと話したい事はある。もっと聞きたい事はる。だけど…今日は―――

 

「きょ、今日は〈くずのは〉の事を知れて良かった!また…また話そう!」

 

今日はこれで十分であった。別に二度と話せない訳ではない!私達は同じギルドの仲間であり―――友達なのだから

 

私の言葉を聞いて立ち止まった〈くずのは〉は、猫背になりながら振り返り、手に持った卵を片手で器用に割ると大きく開いた口の中に落とし、私に笑いかけた

 

「うにゃ~♪今度はわっちの事も知ってほしいでありんすよ?」

「ッ!?あぁ!もちろんだ!」

 

そうだとも!私はまだ〈くずのは〉の事も〈くー〉の事も何も知らない

だからこそ…私達は歩み寄る事が出来るのだ

 

アカツキは大きな毛布を引き摺りながら、彼女の後に続く・・・

 

途中退場した小さな忍と途中参加した9本の尻尾を振る狐の加え、共に戦った少女達は、レイネシアの客間と執務室を占拠して、昼過ぎまでパジャマで騒いだのであった

 

後に、ささやかで小さな討伐隊に参加した少女達は、水楓の乙女と呼ばれる様になったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は数日たち・・・・・

 

 

「もうそろそろですね、マリエ?」

「そうやね。…グリフォンちゃんも後もう少し飛べたら良かったのにぃ」

「まぁ、野営をする距離でもありませんですし、シロエ様達も早く帰りたいでしょう」

 

日が暮れるまであと一時間二時間ほどであろうけれど、様々な色合いのコートを来た一団…〈記録の地平線〉と〈三日月同盟〉の面々がアキバの町の外に集まり、長きに渡る戦いを終えて帰還してくる人達を待ち望んでいた

 

「シロエさんと会うの久しぶりです!」

「あぁ!俺も直継師匠に修行の成果を見て貰わないとな!」

「そうさ!ギルマスも僕達の成長に驚く事だろう!」

「もう!ルディ~、修行の成果もいいけど、今日はご飯が先でしょ!」

「今日は〈三日月同盟〉との合同でお帰りなさいパーティーですもんね!にゃん太さん!」

「そうですにゃ~、吾輩もシロエっち達の為に腕を振るいましたにゃ」

 

待ち望んだ人の帰還に少年少女達は笑みを浮かべる。いな、浮かべるのはここに集まった全員であった……二人を除いて

 

「……顔の表情かたいわよ」

「そ、そんな事はない!き、今日が一段と寒いだけだ!」

「はぁ~…私を引っ張り出したと思ったら、こんなくだらない事で読んで……殺すわよ?」

「そ、そんな事を言ったって…クーのアドバイスなど期待できないであろう!」

 

一人は、寒空に呼ばれ不機嫌になり、もう一人は久しぶりに会う思い人への緊張から忙しなく表情を変えていた

 

「…あながち(クー)のアドバイスも捨てたモノではないわよ?」

「普段通りって…本当に普段通りでいいのか?」

「シロエ達は、アキバに居たら味わう事の出来ない『非日常』を経験してきた。ならばアキバに帰ってきたと言う『日常』は何よりの安心へと繋がる。…普段通り接してあげればシロエ達は自分達の家に帰ってきたと言う『日常』を味わえ、安心するでしょう」

「そう、なのか…」

 

 

〈くずのは〉のアドバイスに小さく頷くが、聞き覚えのある奇声に体を硬直させた

崩れかけた瓦礫の山の横から奇声を発しながら飛び出てきた人物にマリエールは声を上げる

 

「直継やん!」

「ぇぇぇってえぇ!?マリエさん!?」

 

待機組が出迎えに来ているとは思わなかったのか、飛び出したマリエールに腕を抱きかかえられ驚く直継

……その後ろでは、唖然と立ち尽くす小竜が仲間に慰められていた

 

「屑が来たと言う事は、シロエはもうす……」

 

自分の隣にいる少女に言葉をかけようとしたが、少女の姿はなく〈くずのは〉の言葉は途切れてしまった……彼女の顔に皺が寄った。彼女にとって誰もいない場所へ話しかける行為はなにより屈辱なのであろう

 

「はぁ~…口伝を習得してから気配を断つのが上手くなったわね……シロエも含めてあの子もお仕置きよ」

 

最初に再開を果した直継は、後からやってきた見知らぬ男に抱き付かれマリエールと揉めているので完全に無視し瓦礫の山へと向かっていく

 

瓦礫のせいで判りずらかったが、知った匂いと動いた気配でそこに誰がいるのか見当がついたのだ

 

〈くずのは〉はそのまま、歩み続け瓦礫の山に隠れていた人物へと声を掛ける

 

「おかえり、シロエ。……随分と大人になったわね」

「ッ!…ただいま、〈くずのは〉。大人かはわからないけど成長はしたよ」

 

見つめ合っていた二人に帰還の挨拶をかわすのであった……

 

「シロエは鞭打ち。アカツキは水責め、ね」

「「なんで!?」」

 

・・・・・・・のであった

 

 

NEXT 未定でありんす!

 

 




はい!アカツキルート終了!

……活動報告にも書きましたが、これからの展開が予測不能です
思いっきり原作乖離で書き進める事も考えましたが、彼女が物語に加わり行った乖離がほぼ0に等しい為、原作を離れる事ができません

少年組の話も大きな出来事が無い、少年組の話(…)と言う事もあり先がわからない今、執筆が出来ないので原作待ちになります

なのでこれからはISやネギまの執筆をしながら番外を書いていき原作を待つスタイルになります

これまでよんで頂いた方に最大の感謝を送ります。
ありがとうございました

…完結ではないですからね?


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〈悪雲〉: 狐と猫
レイネ『4』ア人形!『3』万円でありんす!


サブタイトル通り四か月ぶりの更新です

もはや頭を地面に擦り付けて謝る事しか私にはできません

物語もあまり進んでいないので、二度に渡り謝る事しか出来ません

待っていてくれた方、新規で読んで頂けている方の為にも頑張ります


最後に…久しぶりに彼女を書けて楽しかったです
※ ネタバレになる恐れがあるので予告を消去します、


〈アキバの町〉

 

ヤマト地域における最大のプレイヤー都市。現実世界の東京・秋葉原をイメージしたマップとなっており、閉じ込められた日本人プレイヤーの約半数にあたる1万5000人以上のプレイヤーが滞在している。〈大災害〉直後は統治機構の存在しない無法状態であったが、現在はギルドの代表者から結成された自治組織「円卓会議」による管理下に置かれ治安も良くなってきている

 

多くの〈冒険者〉が集まる都市として飛躍的に技術面や生活面で成長を遂げており、関東地域で一番の成長都市として認知されている

名物は、アキバの町の親善大使であるレイネシア姫の「1/6フィギュア・レイネシア姫」

現在、お出かけバージョンと冬薔薇バージョンの二種類を販売しているが、匿名〈冒険者〉達の要望により「1/6フィギュア・レイネシア姫(花魁バージョン)」の制作が狐印の下、取り関われていると噂が立っている

 

アキバの町へ訪れた際は、目新しい物や食べ物ではなく、フィギュアのモデルとなったレイネシアにご挨拶するのもいいかもしれない

 

 

 

「カマンベールチーズ・ゴーダチーズ・セカイチーズ」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「いやはや人智は、まことに逞しいでありんすね?一年も掛けずにここまでの成長を遂げるとは……そうは思いんせんか、ご隠居?」

 

彼女は書き留めていた本をストレージ……着物の裏地に縫い付けられた〈魔法の鞄(マジックバック)〉に仕舞うと紅茶と一緒に差し出されたアップルパイを口一杯に頬張った

 

「そうですにゃ~、食事に始まり動力、光力、移動手段。全てにおいて吾輩たちの世界に近づいてきていますにゃ」

 

彼女の正面に座る猫人族の〈冒険者〉は、彼女とは違い優雅に紅茶を口にする。

季節は冬が終わり、春の訪れを感じる頃合いになってきた時期に、時たま狐と猫は、狐の弟子が育てている花々が咲き誇る屋上でこうしてお茶をしているのだ

 

「わっち達の世界に近づく……わっち達は此方側に近くぅなってありんすと、おっしゃるのに皮肉なモノでありんすね ?」

「しかし我々が馴染む事で〈大地人〉の生活基準が向上するのであればいいじゃにゃいですかにゃ?……まるで神様が〈エルダー・テイル〉発展させる為に吾輩たちを呼んだみたいですにゃ」

「……随分と身勝手な神様もいたもんでありんすな~?」

 

リスの様に膨らんだ頬袋を上下に動かしながら彼女は空を仰ぐ……雲一つない空は晴れ晴れとしており――――

 

「あっ!ししょーってばやっぱりココにいた!ちゃんと見送りしてくださいよ!」

「ミストレアス・クー!トウヤやミス・ミノリには師匠の見送りがあると言うのに僕達だけないのは寂しいじゃないか!」

 

――――絶好の旅出日和であった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

リンゴを探して三千厘!……スーパーに売っておりんした

 

 

 

古の魔法で幻想的に建造されたお城を背景に5人の若者と二匹の獣が西へと向かう街道前で旅立つ者へと言葉を送っていた

アキバの町の情勢上、町から離れる事が出来なかったシロエ達に代わりに〈エターナルアイスの古宮廷〉まで見送りをする事になったにゃん太とクー

にゃん太自身は、持ち前の世話好きとシロエと話し合った案件の下、彼女はただ単に暇そうにしていたと言う理由で見送りに強制連行されてきたのだ

 

「目的地は、レッドストーン山地、ですにゃ?」

「はい!シロエさんが言うには地球においての長野県、山梨県、静岡県に跨って連なる山脈がモデルになっているそうです!」

「それで自然が一杯あふれているんだよな!」

「そうですにゃ。南アルプス巨摩県立自然公園に指定されている所もありましたし〈エルダー・テイル〉でも美しい自然は健在ですにゃ」

「にゃん太さん詳しいですね」

「にゃに、長生きしていると雑学も覚えますにゃ」

 

ミノリやトウヤ、セララは、地球での知識を元に目的地であるレッドストーン山地がどういった場所なのかにゃん太に質問し訪ね、思いを馳せていた

そして狐組であるルディと五十鈴は―――――師匠であるクーのご機嫌取りをしていた

 

「……たかが20日位の旅でわっちを見送りに出すシロエェェ許すまじ!」

「そ、そんなこと言わないでくださいよ~。私達にとっては初めての遠征なんですから?ほら、マリエさんから飴を預かってますよ?」

「こちらには林檎もある。どうかこれで機嫌を直してくれないか?」

「……仕方がないでありんすね」

 

ルディから林檎を、五十鈴から飴ちゃんを素早く受け取り、林檎を懐にしまい飴を口一杯に放り込みバリバリと砕きながら粗食する彼女はこれを狙っていたのかもしれない………年下に食べ物を集るなよ、駄狐ぇ

 

「挨拶は済みましたかにゃ?」

 

なんとか師匠の機嫌を戻す事の出来た二人ににゃん太は笑みを浮かべながら話しかけ、手を大きく広げるとトウヤ達、少年組が最初に進む「八の運河のハイコースト」を指差しながら一人一人の顔を見て声を掛けていった

 

「みなさんにとって保護者の付かない初めての遠征、五十鈴っち曰くツアーですにゃ。失敗する事も後悔する事もあるかもしれないにゃ………ですか、失敗する事を恐れずに思う存分、〈冒険者〉として旅を楽しんできてくださいにゃ」

「「「「「はい!」」」」」

「吾輩は物陰から(・・・・・・)旅の安全を祈っておりますにゃ……クーちも何か伝える事はありますかにゃ?」

「うにゃ~?」

 

口の中に残る飴の残り風味を楽しんでいた彼女は、にゃん太に余韻を楽しむ時間を邪魔されたので、機嫌悪くにゃん太を睨んだ後、少年達に顔を向け、にゃん太と同じく一人一人の顔を確認していってから口を開いた

 

「お土産はリンゴでよいざんす」

「あ、はは…やっぱりそこなんだ」

 

師匠なら絶対にお土産を要求してくるだろうとわかっていた狐組は、苦笑いと共に彼女らしい見送りの言葉に笑みを浮かべた

 

しかし、予想外な事に彼女の言葉は続けられていた

 

「……フジ樹木に行く訳ではありんせんし、レッドストーン山地までの道筋は陽気な旅が続けられるでありんしょう」

 

彼女の言葉は少年たちの顔を綻ぶには十分な説得力があり、彼女がそう言うのであればそうなのだろうと感じてしまう。しかし、彼女が口調強く「だけど」と言い切り直したので、顔を引き締め直した

 

「目的地のレッドストーン山地のレベル分布はかなり広範で、最低レベル四十から九十レベルに近い個体まで存在しんす 。かなんせん 敵との戦闘は逃げてくんなまし 」

 

彼女らしからぬ助言に少年達は、みな同じく口を開けて驚きを露わにした

普段から怠けており、年末に加入してきた『てとら』と呼ばれる〈施療神官〉《クレリック》と悪ふざけしては、シロエに怒られ、口にする言葉は『林檎』……そんな彼女が実に身のある事を口にしたのだから当然であろう

 

「……師匠が師匠らしい事をいった」

「なんと言う事だ!これから雨が降るというのか!いや、林檎が振るに違いない!」

「なんと!林檎雨が降りんすか!わっちがんばりんす!踊りんす!」

 

師事を受ける二人が、そのような事を口にしたのは仕方がない事であった。なにしろ、〈クー〉である時の師匠が、自分達に真面目に師事をしてきたのだから

 

かしくも狙ったかどうかは知れないが、彼女の雨乞いと言う名の奇妙な林檎ダンスのおかげで少年達の心に燻っていた旅への不安は無くなり、今は純粋に旅先の出会いに心を躍らせて二匹に手を振りながらレッドストーン山地…西へと旅を始めるのであった

 

遠ざかっていく馬車ににゃん太は小さく手を振り、彼女は尻尾を左右に振りながら見えなくなるので見送った

 

「行きましたにゃ」

「行ったでありんすね」

「では、我々も行きますかにゃ?」

「……まことに行くのでありんすか?」

「えぇ、もちろんですにゃ」

「………過保護」

 

もはや某猫型ロボットよろしく四次元に干渉しているのではないかと疑問に思う程に謎を含んだ9本の尻尾から彼女は2人分の旅行鞄を取り出した

 

事の発端はシロエの危惧から始まった

現在、西の…ミナミの情勢が不安定にある中、年少組を〈神聖皇国ウェストランド〉領にあるレッドストーン山地に送り出す事に一種の不安を感じたのだ

噂立っている〈大地人〉同士の戦争にまだ幼い彼らが関わってしまうのではないかと思う反面、〈冒険者〉として自由に行動してほしいと言う願いが混列し、どうしたものかとにゃん太に相談したところ、自身が影から見守ると申し上げてきたのだ

 

ギルド創立からお世話になっている、にゃん太にまた頼る事になってしまったと後ろめたく思うが、にゃん太曰く「若者の手助けするのは年長者の喜びだ」と申し出てくれたのでシロエは、にゃん太に少年達の影ながらの擁護を依頼したのであった

 

一方、彼女は――――

 

「ありがとう。班長にはお世話には頭があがらないよ……ミノリ達の事をよろしくお願いします」

「にゃにゃにゃ、旅は道づれ世は情け……彼女も連れて行きますにゃ」

「なんと!?」

 

……強制連行であった

 

「シロエェェの考えもわかりんすが、些か過剰な気がしんす」

「警戒に越した事はありませんにゃ。それに……若者の未来を汚すような出来事を警戒して損はありませんにゃ」

「………」

 

口では不満をぶちまける彼女であるが、何かとお気に入りでもある少年達に危機が迫る、真っ白で綺麗な心を汚されるかもしれないと言われれば、動かさずにはいられないと渋々とにゃん太と同じく『グリフォンの笛』を取り出した

 

「さて行きますにゃ」

「……あい」

 

上級クエスト攻略者の証でもある『グリフォンの笛』。笛から奏でられる独特な音色は、瞬く間に空を響き渡り一頭のグリフォンを呼び出す。馬とは違い空を飛ぶ為、移動距離も速度も一般的な馬とは比較にならない性能を誇っていた騎乗動物だ

そのグリフォンが一頭だけ姿を現し二人に近づいて来たのだ

 

「くーち?」

 

本来なら彼女も『グリフォンの笛』を所持しているのでグリフォンは、二頭現れると思っていたにゃん太は、笛を吹かなかった彼女を不思議そうに思い声をかけた

 

声をかけられた彼女はと言うと、取り出した笛を着物の帯に巻き付けいつでも使用できるようにしているだけ。代わりに大きな鞍馬の様なモノを両手に抱えていた

 

「これは?」

「〈グリフォンの二連鞍(タンデムシート)〉でありんすぇ。 グリフォンは専用アイテムが無くても二人乗りは出来んすが 、二人乗りすると使用時間を短縮してしまう事がわかりんした 。これを使えば使用時間の短縮を制限されんせん ……万が一に備え緊急時の移動手段方法は残しておいた方がええと判断しんした」

「にゃにゃにゃ、そうですにゃ」

「……笑ってないで早く掛けるがよろし!」

 

にゃん太は、彼女から鞍を受け取りグリフォンに掛ける。心なしかグリフォンも嬉しそうにしており時折、甘えた声を上げていた。グリフォンを一撫でし彼女に準備が出来た事を伝えようとしたが、彼女が新たに取り出したアイテムを見てにゃん太は動きを止めてしまった

 

「……それは?」

「ふふふ、尾行と、おっしゃる 事は隠密行動でありんす 。なんで 隠密性が上昇するアイテムを用意しんした」

 

そう言って彼女が掲げたのは二つのダンボール……ご丁寧に『ススキノ林檎』と『青森リンゴ』と書かれていた

 

「これは、伝説の傭兵が使用したステレス迷彩のレプリカでありんす!被るだけで敵とのヘイト数を50%もカットする優れものでありんすぇ」

 

もはや掛ける言葉がなかった。

『ススキノ林檎』と書かれた段ボールを被り、グリフォンと喧嘩しながら騎乗する彼女をにゃん太は頬を掻きながら見守り、手渡された『青森リンゴ』と書かれた段ボールを綺麗に畳み懐にしまった

 

「さぁ!いくざんす!」

 

彼女に即されグリフォンに騎乗したにゃん太は大空に飛び上がった………なぜか懐と後から林檎の匂いがしたのであった

 

 

 

NEXT ふぁ?…ふぁ…ふぁぁぁぁぁ!

 



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『4』く『4』く…わっちの出番が…

お久しぶりです、初めまして、祈願です
書かせて貰っている小説が一つ完結したので改めて執筆を始めました

長い間お待たせの方、はじめましての方……楽しんで頂ければ幸いです

しかし、この章は基本的に少年組達がメインなので駄狐がでしゃばるのは後半からになります

これからもよろしくお願いします


〈サザンの町〉

現実世界の神奈川県茅ヶ崎市にあたり、ご存知かもしれないが〈エルダー・テイル〉の作者の一人に熱狂的なサザンのファンがいた為、この町がサザンと名付けられたのは有名な話である

 

港のシンドバットと異名を持つほど陸海の交易と漁業により成長した、付近では比較的大きな〈大地人〉拠点となっており、夜には何処からか音楽が聞こえてくるほど音楽が根付いた街だと言えよう

 

私個人では、港のシンドバットよりもサウスポーの方が好きである

わーたし、ピンクのサウスポー♪……

 

 

「カマンベールチーズ・ゴーダチーズ・セカイチーズ」著作者:くずのは

より抜粋……

 

「些か紐しい中身になりんしたが、これっと言って書く事などありんせんから仕方ありんすね?しかし……」

 

持っていた筆を口に咥えながらも彼女は本を閉じ、視線をこの世界では初めて行く音楽が奏でられている舞台へと視線を向けた

そこには陽気に歌う弟子と愛でるべき存在が酒場の脚光を浴びながら、とても楽しそうに音楽を奏でていたのだ

 

「まことに楽しそうに歌いんすぇ。リンリン♪」

「そうですにゃ~…ちなみにシンドバットもサウスポーもサザンとは関係ありませんにゃ」

「ご隠居ッ!シ~!でありんす!これ以上わっちには書けんせん!」

 

猫と狐の言い争いは舞台に上がった彼女らへの喝采で掻き消されるのであった……

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

問おう!そなたがわっちの林檎でありんすか? →YES →NO →あっぷる~ん

 

 

 

 

 

彼女らの演奏に〈大地人〉は皆、興奮した面持ちで聴き入り、自然と喉を潤わせる為の酒類の注文は増えウェイトレスだと思われる娘が顔を真っ赤にして狂ったように酒を運び回っていた

そんな様子を彼女とにゃん太は、少年組に気づかれない為にも二階のテーブルで窺っていた

 

「にゃにゃにゃ…みなさん楽しそうですにゃ~?」

「娯楽と云う文化がありんせんからね?声を震わせ、楽器を奏でる……その行為みなが〈大地人〉にとっての娯楽と云う事になるんでありんしょうぇ。 ねぇちゃ~ん、アップルパイ追加でありんす!」

「はぁ~い!」

 

テーブル上のアップルパイを全て食べ終えた彼女は追加のアップルパイが届くまでの口休みとばかりに、にゃん太が食べていた魚のソテーを摘みながら林檎酒を煽った

 

「アキバを出てから3日……順調に旅は進んでおりますにゃ」

「でありんすからいったではありんせんか、過保護だと。」

 

トウヤたちが辿ってきた道は付近の住民から〈西への街道〉と呼ばれ、付近の住民にとって街道と言えば他にはないほどの交通量を誇るヤマトの大動脈である。そんな大勢の人が行きかう街道を通って来た為、戦闘と言う戦闘は起こらず合ったとしても低レベルのゴブリンと遭遇する程度であった

 

「ですにゃ、旅はまだ始まったばかり何が起こるか判りませんにゃ?」

「初日みたいにリキャスト時間を間違えなければ問題ないで「お待たせしました~!アップルパイ3人前で~す♪」むしゃむしゃむしゃ…」

 

追加で届けられたアップルパイとウェイトレスのトレーから奪うと彼女は言葉の続きを言わないんまま食事を再開し、一枚目をきっちり完食してから言葉を続けた

 

「大丈夫でありんしょう。しかし、こなたの盛り上がりはトーヤン達には毒でありんすぇ。 いかほど〈冒険者〉だとは言えこなになごー、少年少女にうたわせるのは些かマナーがなっていないでありんすぇ。」

「まぁまぁ、大丈夫ですにゃ」

 

立ち上がろうとした彼女をにゃん太は手で制し、視線をカウンターの内側で険しく顔を歪めた老人へと向けた

 

「そう思っているのは吾輩たちだけではありませんにゃ。いくら陽気になろうとも子供の事を考えている大人はいますにゃ。ほら」

 

にゃん太の言葉と被るように顰め面だった老人が立ち上がり「今日はここまでだ、みんな疲れているし、明日も仕事がある! 帰れ、帰れ!」と少年組を解放するように声を掛けていたのだ

 

「我々とは違う人々と関わるとこでセララさん達は大いに成長しますにゃ。それに……吾輩たちは陰ながら見守るのが目的ですにゃ」

「そうだとはおもいんすが~……」

 

酒場の客に惜しまれながらも二階の宿屋へと上って行くいく彼女らに見つからないように、アップルパイで顔を隠し、横目で追いかけ彼女らが部屋に入ると机に顎を乗せ、手も使わずにアップルパイを端から齧っていく

にゃん太に行儀が悪いと嗜まれるが、知った事ではないとばかりに食べ続け、今度は空いた手で尻尾を弄り、中から紫色の水晶を二つ取り出した

 

片方の水晶には先程の興奮が収まらないのか三人の少女が、笑い声を含みながらガールズトークを行っており、もう片方は武器の点検なのか小手を磨いたり太刀を手入れしていた

 

「こそこそいでいんすのは性に合んせん」

「にゃにゃ、ここは彼らの成長の為だと思い眼を瞑って欲しいにゃ……ですが、その水晶はしまってくださいにゃ?」

「あい」

 

折角、取り出したのにと力なくにゃん太を睨み付けながら彼女は二つの水晶を尻尾の中へと戻したのであった

 

 

 

 ◆

 

 

 

翌朝ミノリ達はサカワ地方へと向かっており、地球世界で言うと小田原を含む平地、この辺りは水が豊かな農業を中心とした地帯である為、〈大地人〉の小さな集落が点在して主に米や麦を作っている

エネミーの種別は自然系中心で、野犬や猪、植物モンスターが多い。しかしそれらも森や山間部に生息している。平野部や農村が絶対的に安全というわけではないが、相対的に遭遇モンスターのレベルは低いし、頻度も少ない比較的に安全な地域とも言えるだろう

しかし、サカワ地方にはいると彼女は9本の尻尾を逆立て仕切りに辺りを警戒し始めたのだ

 

「くーち、どうかしましたかにゃ?」

「……風の匂いがぶっそうでありんすぇ」

「警戒しておいた方がよさそうですにゃ」

 

こういう時の彼女の行動は無視する事は出来ない、長年の経験からにゃん太はグリフォンの手綱を握り直し、ミノリ達の馬車を追い越して辺りを見渡すと木々の隙間から黒い影が移動しているのを見つけ、高度を落して影の正体を確認してみると―――

 

〈魔狂鼠〉(ダイアラット)ですかにゃ?」

「そうでありんすね」

 

本来ならこの場には生息していない筈の魔物の群れに二人は顔を顰めた

何かよからぬ事でも起きるのではないかと、二匹の緊張が高まる中、彼女は声を上げた!

 

「ご隠居!」

「なんですかにゃ!?」

「梅!梅でありんす!」

 

にゃん太の背から身を乗り出して目下に広がる白い梅を指出したのであった

 

「香りは弱く、花は白色……白加賀ですかにゃ?白加賀は、甘く果肉がシッカリとした実をつけますからジャムや梅酒には調度いい梅ですにゃ~」

「良さ香でありんしょう」

 

梅の香りは弱いが、野原のなかでは確かな存在感があった。

丘の下り斜面は、石垣で段が作られ人手が入っていることをうかがわせた。その段畠のあちこちに、梅が植えられている。日当たりの加減を考えられたのか、丘の方から見れば梅の林になるように考えて植えられているようであった

 

2人は、そのまま丘をめぐる道に従って西へと飛んだ。些か遠回りになってしまうが、馬車の進行方向を考えるに、この先にある大きな河を越える為、河を渡る事の出来る浅瀬を探しているのだと二匹は読み取ったのだ

 

まだ風は冷たいが、うららかな日差しのせいで馬車はぽかぽかとした陽だまりの中を順調に進んで行く。大きな河に近づくにつれ風は水けを含みその温度を下げたし、森の陰に入っても穏やかな雰囲気は続いた。

 

しかし、気配が変わったのは、渡河できる場所を探して、河沿いの森を迂回している時だった。うっそうとして光を遮るその中から鋭い悲鳴と激しい物音が聞こえたのだ。

 

「ご隠居!トーヤンが森に入りんした!」

「わかっていますにゃ」

 

トウヤを追いかけ手綱を引くにゃん太

双眼鏡を要して森中を窺うが、どうしても空上から様子を窺う形になってしまい、生い茂る木々の性でうまく状況を把握できないでいたが、彼女が尻尾から取り出した紫色の水晶には、この異変の原因であるモノが映し出されていた

 

「…〈人食い鬼〉(オーガ)でありんすかぇ」

 

〈人食い鬼〉(オーガ)は悪の亜人に属するモンスターの一種族

 チョウシの町でミノリたちが戦った〈緑小鬼〉(ゴブリン)族と似たような位置づけのモンスターであるが、〈人食い鬼〉(オーガ)〈緑小鬼〉(ゴブリン)と比べて身長は高く、比較的がっしりしている。猫背ではあるが背筋を伸ばせばトウヤと同じ程度はあるし、力も〈緑小鬼〉(ゴブリン)と比べて強い。その代り、連携や集団行動は苦手だし、武器の扱いもそこまで得意ではない。

〈緑小鬼〉(ゴブリン)は高レベルの個体になると武具を揃え、〈魔狂狼〉(ダイアウルフ)などを手懐けたり、ごくまれに魔術を用いる個体もでるが、〈人食い鬼〉(オーガ)は高レベルになっても鎧はほとんどつけない。

 

どんどんと大柄になり腕力や耐久力が上昇してゆく。そして妖術という変わった種類の魔法を使う。クエストでは〈オオエ〉などという名前付きの〈人食い鬼〉(オーガ)もいるために、有名な種族だといえるだろう。

〈人食い鬼〉(オーガ)〈緑小鬼〉(ゴブリン)はどちらも低レベルから中レベルに至るまでの長いレベル帯で見かけるモンスターであり、〈エルダー・テイル〉がゲームだったころ、地域ごとの特色を出すために配置されていたのだという。

そして、街道沿いのモンスター分布はかなりレベルが抑えられており、もちろん異世界化の影響もあるから用心にこした事はないのだが強敵と言う訳ではなかった

 

しかし、にゃん太は不安を払いきれないでいた。〈人食い鬼〉(オーガ)は、本来街道から外れた森林や山地で出会うモンスターではない、そして何かから逃げる様に行動していた〈魔狂鼠〉(ダイアラット)……

 

「より強いモノから逃げている……ですかにゃ?」

 

自然界に置いては良く聞く話であり、現代社会では人間が動物の住処を破壊してしまった為に野生動物が住宅地まで降りてきてしまった

それと同じ様な事がいま起きているのではないかと推測でき、その推測が正しければ〈人食い鬼〉(オーガ)の他にまだやって来ると言う事になる

 

「くーち!まだ来ますにゃ!」

「急旋回!?うにゃ~!」

 

双眼鏡を後ろに乗る彼女に預けグリフォンの手綱を片手で引いた

基本的には少年組に全て任せるスタンスであるが、後からやって来るモノ次第では吾輩も、と空いた片手を腰に携えたレイピアに手を当てながら……

 

少しの変化でも良いと、グリフォンに指示を出し全体が見渡せるように高度を取った

後で何から狐が吼えているが、気にしないとばかりに辺りを飛び回り、そして木々の隙間から黒い霧のようなモノを見つけ出した

 

「あれは…〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)でしたかにゃ?」

「こなたの辺りですと大体レベルは38~45、と云ったところでありんしょうかぇ?」

「ふむ…」

 

トウヤ達に気配を消して近づいてくる〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)は精霊系のモンスターであり、精霊系は系統により属性ダメージに対する高い耐性を備えている。更に闇の精霊には邪毒か精神への抵抗能力、即死耐性も備わっている。「従僕」というのは同種のモンスターの中での役割や位階を表し、このモンスターは〈闇精霊〉の中では比較的下位の戦闘力だという符丁である……俗に言うめんどくさい雑魚だ

しかし、だとしてもLV40はミノリたちよりも十下回る程度、〈大災害〉後のこの世界において油断できる相手ではない。

おそらく勝利は可能。しかし、被害発生もありうる。そんな相手―――だけど…

 

〈人食い鬼〉(オーガ)からの連戦ですが…くーち、吾輩たちは傍観し「いま行きんす!アイ!キャン!フラ~イ!」…すみませんが、頼みましたにゃ」

 

少年組と〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)とのレベル差は凡そ10程度……この程度なら大事にはならないと判断したにゃん太は同じ引率役の彼女に傍観するように伝えようとしたが、既に遅し……彼女は、にゃん太の言葉を待たずしてグリフォンの背から飛び降りたのだ

 

口では嫌だと言っておきながらも心の中では彼らの安全を一番心配している、言葉ではなく行動で形にした彼女の想いに、にゃん太は口元を緩める結果となったが、それでは意味がないとグリフォンの首を一撫ですると落下中の狐をグリフォンにお願いし捕獲した

 

「ふぎゃ!ご隠居!放しなんし!真っ黒クロ助の目眼を繰り抜きんす!」

「心配なのはわかりますが、これは彼らの旅ですにゃ。困難を仲間と共に乗り越える喜び……吾輩達が〈放蕩者の茶会〉(デボーチェリー・ティーパーティ)で得た喜びを吾輩は彼らにも感じて欲しいと思っていますにゃ」

「ぶ~……ご隠居は卑怯でありんすぇ。 わっち が〈茶会〉の話を振られたら如何せんのご存じでありんしょう に。」

 

グリフォンの爪に襟元を掴まれ、まるで猫の様に垂れた狐は、遠くから見るとタカに捕まった兎の絵図らに酷似していたが、それを酷使するのが猫だと言う食物連鎖もビックリな

絵図になったおかげで違和感はバリバリに溢れていた

 

ただ、上空で奇怪な食物連鎖が起っているのを気付かないのは地上では今まさに戦闘の佳境に入っているからと言って過言ではないだろう

 

現に〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)は気配を消しながらもミノリ達に近づいて行っている

この状況を目の前にどのように対処するか?どのように行動するか?年長者組の二匹は笑みを浮かべながら少年達の成長を見守り、見逃すまいと戦闘を食い入るように見つめていたが、思いもよらない形で二匹の期待を裏切った

 

「まだだ、aad(アド)六!」

「ふぉ!?」「これはこれは…」

 

聞き覚えがない、しかしよく通る声が森の中から響いた

声の方向に視線を送ればシロエと見間違えても可笑しくない背格好をした女性がミノリに〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)の出現を知らせていたのだ

 

案の上、シロエと直継の厳しい訓練によって反応したミノリは片足を引いて警戒態勢をとり、〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)と対面した

新たな敵影にミノリは、〈人食い鬼〉(オーガ)との戦闘で伸びすぎていた戦列を縮め後退し、臨機対応に事にあたろうとするが、最前列トウヤとミノリの背後には、いまだ〈大地人〉の一団がいる。……セララと五十鈴が直衛している以上、めったなことは起きないと思うが、無制限に下がるわけにはいかない

 

そうこうしているうちにも〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)は靄に包まれた身体を操り、トウヤに攻撃を加えている。トウヤの剣技は洗練を加えていた。もちろん剣道のよう な動きではないが、直継に加え、アカツキやソウジロウの教えを受けることにより、相手の攻撃をそらす勘所を身に着けつつある。

 

そのトウヤに真紅の光線が放たれた。

反応しようもないほどの五条の光。それでもトウヤは視線だけはそらさなかった。ミノリのかけた障壁の呪文が光線を食い止める。〈鈴音の障壁〉で強化され たバリアが輝きを強め、ダメージを遮断する。無効化できないエネルギーが周囲に火花となって散り、その一条がそれて後方へ抜ける。その時―――――悲鳴を掻き消すような勢いで森から援護がとどいた

 

「〈従者召喚:プリンセスレイス〉!」

 

真っ白いコートを翻したメガネの女性は風をまいてあらわれると、杖の先から無音のエネルギーをほとばしらせる。魔力を一身にうけた召喚術があたりに青いきらめきで満たすと、圧縮された本流を解き放つように攻撃が行われ、LV40の〈闇精霊の従僕〉(ナイトシャエイド・サーバンド)を打ち砕いたのであった

 

「プリンアラモード、とおっしゃりんしたか?」

「プリンセス・レイスですにゃ。レベル90の召喚生物……少し残念ですが、この出会いも旅って感じがしますにゃ」

 

当初の期待と変わってしまったが、新たに現れた増援に狐は眼を細め、猫は更に笑みを深めた

 

プリンセス・レイス―――

魔法攻撃系職業〈召喚術師〉(サモナー)が〈従者召喚〉によって呼び出す幻想系統の召喚生物

倒されるか主人が送還するまで戦場に留まり、自律行動によって戦ってくれる為、〈召喚術師〉(サモナー)の戦力とは、本人と従者を合わせて、同レベルのほかの十一クラスに相当するとされ〈従者召喚〉と言う攻撃魔法単体は、そこまで強力な魔法ではない

しかし、それが同レベルであれば話が変わってくる

プリンセス・レイスはLV90の召喚生物。即ち――――

 

 

―――彼女はLV90の〈召喚術師〉(サモナー)

 

異世界化した世界に置いて初めての少年達だけの旅、その最初の試練を打ち砕いたのはLV90の冒険者、くしもシロエと同じローブを纏った女性なのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?ピンチに颯爽と現れる年上のお姉さんキャラ!?わっちのお株が取られんした!?」

「年上のお姉さんは兎も角、いったい彼女は…?……くーちは何をしていますかにゃ?」

「梅の実を探しています!梅酒を作るなんし!」

「残念ながら梅の実は六月が収穫時期ですにゃ」

「なんと!?」

 

 

 

 

 

NEXT 温泉やっぽーぃ!




※ おまけ

→YES
「なんと!では齧るなんし!」

………腕を噛まれて全治2週間。戦線復帰するも林檎の在庫切れと共に離反する可能性アリ

→NO
「なんと!では寄越すなんし!」

………説得し戦いに挑む事が出来るが、林檎の在庫切れと共に離反する可能性アリ

→あっぷる~ん
「なんと!ソウルメイトでありんしたか!」

………周りからイタイ目で見られるが、駄狐の協力を勝ち取る。だが、林檎の在庫切れと共に離反する可能性アリ


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『45』と?わっちは自宅警備員でありんす!

長いです。
そして話が進まない……


 

〈エターナルアイスの古宮廷〉

 

古アルヴ族が造った宮廷で、主人の存在しない巨大な建築物と言う名の城

現実世界の浜離宮周辺にあたり、〈自由都市同盟イースタル〉の領主達が年に1~2度、様々な政治上の会議等を行うために集まる。貴族として息子や娘のお披露目をしたり、馬上試合を行なったりしている

 

外壁の所々に古の魔法で造形された氷が見え、夜には淡く光り輝き神秘性を露わし、地下には夥しい量の魔導書で囲まれた書斎が存在している

アルヴ族の作った宮廷である為、謎に包まれている所が多くあり、現実世界のネズミ―ランドと違い、一般的な〈冒険者〉や〈大地人〉 はは入れなくなっている

 

滅ぼされた古アルヴ族は、自身の宮廷を裏切り者の種族に無断で使われて如何様に思うのであろうか?

そもそも、なぜアルヴ族は、この宮廷を永久に続く魔法を持って形と残し、後世に残したのか?

 

儚く途切れたアルヴ族の繁栄の為?自身の存在を残す為?………もしくは途轍もない災害を引き起こすトリガーとして残したのか?

 

……………その意思は解明されていない

 

「カマンベールチーズ・ゴーダチーズ・セカイチーズ」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「もっちとはよぉ、書きんしたらよいざんすに……わっちとした事がシァの家を忘れていんした。しかし………」

 

彼女は、執筆していた手を休め上空から〈大地人〉の馬車を押している〈冒険者〉の一味に視線を落した。いや、視線を向けたのは、一味ではなく馬車の中にいるであろう人物ただ一人……

 

「ぬしは、いったい何者なんでしょうかね?」

「………」

 

彼女の呟きは、風と共に流されていったが、同行者だけの耳には届いた。しかし、彼女の問に答える事は出来ずに同じ様に馬車へと視線を落すのであった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

ブラリ!途中下車の旅。inえるだ~・ている

 

 

コユルギの町は、ボクスルトの東側に位置し、二股になった河が形作る広い三角州に存在する町で、水に運ばれた肥沃な土と河の守りが形作るその洲には、パッチワークのように美しい畑に囲まれていた

現実世界では神奈川県鎌倉市にある小動岬周辺と言った所だろうか?

この辺りは現実世界と同じく観光地として有名なせいか、宿屋はサザンの町の様な酒場を兼任した宿屋などではなくコテージのように独立した宿が大半を締めていた

 

サザンの町では同じ宿に泊まった為、迂闊に騒ぐ事も出来なかった彼女は、これ幸いとばかりにコテージ内で旅に出て何回目になるか謎だが林檎を円状に置き、自身は円の中心で踊り騒ぐと言った奇妙な儀式をやり始めたのだ

 

初めの頃は、にゃん太も彼女の奇妙な儀式に新鮮味を感じ眺めて楽しんでいたが、これが宿泊する場所々で毎回行われては、見飽きてしまい、これ以上行われては彼女の女の威厳に関わると察し、荷物を置き無理やり手を引いてトウヤ達の後をつけていった

 

その際に「いやいやあっぷるん!いやいやあっぷるん!」とトウヤ達に気づかれぬ様に、しかし大声で発する彼女に頭を抱える事になったのは別の話だ

 

そんなこんなで、気付かれぬように後を付けた二匹は、助けた〈大地人〉の事も考慮し早めの夕食を取る一行に合わせ、夕食を取る為に椅子に腰を下ろした

テーブルの場所で言うと調度、彼らから死角になる場所で此方に気づかれぬ場所を選択し、彼らの様子を窺った

 

ソファに座り、新たな旅仲間と言葉を交わし交流を深めているトウヤ達を眺めるだけでも旅立つ若者の姿が見て取れて親心が刺激されるにゃん太であったが、店員が彼らに料理を運んで来たのを境に、もう一人の同行人が騒ぎ始めたのだ

 

「ご隠居!トーヤン達のまんまがうま~でありんす!」

 

若者の成長を喜んでいたのも束の間、このまま若者達を愛でても良いが、この同行人を無視すると後々、面倒になる事は目に見えているので、彼女の疑問に答えるべくトウヤ達に給仕している男性のトレーを盗み見た

メニューは豪華な目玉焼き丼で、どんぶりからソーセージやトマトがはみ出している。最下部はおそらく白米で、一番上には二連の目玉焼きが乗っているという塩梅のモノ

 

「この宿の名物なのですかにゃ?…見た目的には『モコモコ』に似ていますにゃ~」

「すみんせん!あの丼をくりゃさんせ!」

 

辺りを見渡せば、どこのテーブルにも提供され、この店の定番メニューなのだろうと思考したと同時に料理が頼んだ運ばれてきた。定番メニューで作り置きされているのか、はたまた料理人の腕が良いのかは謎な程の提供スピードであるが、立ち上がる湯気が後者だと感じ、微笑みながらにゃん太は、腰のポーチからいくつかの調味料を取り出した

 

「吾輩は、おろしポン酢ですにゃ」

「猫がポン酢とは可笑しいでありんすね?」

「味覚は人ですにゃ~。くーちはどれにしますかにゃ?」

 

ポーチからポン酢を始め、醤油やケチャップ、マヨネーズなどの定番からマイナーな調味料まで取り出すにゃん太は料理人の鏡とも言えるだろう

 

しかし彼女は、にゃん太が出した調味料などには目もくれずに尻尾の中から一つの調味料を取り出し、 丼の上にこれほどまでもか!と乗せた後、丼全体が白くなる程までマヨネーズをかけ、その後にマヨネーズで白くなった丼が赤く染まるまでケチャップをかけまくったのだ

 

「……くーち、最初に乗せた調味料はなんですかにゃ?」

 

マヨネーズとケチャップは些か掛け過ぎだと思うが、人の好みがあるので、黙認しても料理人として彼女が最初に乗せた調味料が気になったのだが―――

 

「りんごの擦り潰しでありんす」

 

まったく予想を裏切らない答えであった

逆にマヨネーズとケチャップの味が強すぎて林檎の風味が消えてしまうのではないかと思う

しかし、彼女は赤く染まった丼の上に更に林檎を磨り潰したモノを乗せたのだ

 

「……くーち、何をしていますにゃ?」

「こりゃ~、マヨとケチャップをリンゴで挟みんした。最初はケチャップだけでありんしたが、セラララがマヨもイケると言っていんしたので挟んでみとおしたが、、とて美味でざんす……あげんせんよ?」

「……吾輩には少し重いですにゃ」

 

見た目通り、磨り潰した林檎にケチャップとマヨネーズが絡み付き何とも言えない、色とボリュームが出来上がってしまっているが、オーロラソースの改良版だと無理やり自身を納得させにゃん太は、丼に手を付け始めた

 

食材と職人に感謝しながらも、自身が同じモノを作る際にはどのように手を加えるかを吟味しながらゆっくりと箸を進めていく

肉物が多く乗っていたので、さっぱりと頂けるおろしポン酢を選択したが、下地自体に下味が付いていたので、何もかけずに食べるのも一興、また半熟の目玉焼きから垂れる黄身が白米と絡みまろやかな味となって口に残った油っ気を取り除いてくれる

シンプルそうに見えて考えられた味付けににゃん太は、自然と笑みを浮かべた

 

にゃん太が、このB級グルメとも言える丼を堪能している前で彼女も異妙な盛り付けとなった丼を堪能していた

マヨネーズのコクとケチャップの酸味、そして林檎の甘みが口いっぱいに広がり、舌から離れないヌチョヌチョとした舌触り、時たま林檎の果実が舌を刺激してくるが、それがまた口に違和感を与えてくる。

 

某スーパーの御曹司であり、『自来也』をもう一人の自分とする彼が食べたのなら取りあえず、『所々、ジャリジャリしてブヨブヨしている今までの食べ物にない、まったくの新食感』と言うだろう

 

四層になっている調味料を断層ごとに楽しむのも良し、グチャグチャに混ぜて一緒に楽しむのも良し!……結果は同じなのでどうするかは彼女の気まぐれなのだが、折角のB級グルメが舌を刺激するB級(バカな程ビッリクなぶっかけ)グルメとなっているのは間違い

………しかし、彼女は満足そうに異妙なソースを頬張り笑みを浮かべたのであった

 

彼女らの周辺に座る客をドン引きさせた彼女の食事は、にゃん太より速く終わった

もとより食の細い彼女は、完食することなく丼そのものを(・・・・・・・・・)残して店員に追加で林檎酒を注文した

 

テーブルに運ばれるなり、グラスいっぱいに林檎酒を注ぎズズズと音をたてながら啜る彼女の姿を見て、食事の件も含め女の威厳は既にゲシュタルト崩壊した

 

「くーち、お行儀が悪いですにゃ」

「知りんせんもん、どう飲もうがわっちの勝手でありんす」

 

そんな彼女と行動を共にするにゃん太に送られる同情に似た視線などお構い無しに、なおも辞めずに啜っていく彼女であったが、周辺で情報交換をしているであろう職人や商人達の声に動きが止まり、ピクピクと耳を盛んに動かし始めた

 

「どうかしましたかにゃ?」

 

耳を忙しなく動かす彼女の行動が気になり声をかけると彼女はゆっくりとした口調で話し始めた

 

「ここより西へ進むとボクスルトと呼ばれる山地に入りんす。綺麗な湖があるし、関税で栄えた貴族が治めてありんすんでありんしょうが 、そのボクスルト山地でモンスターの活動が活発になってありんすといわす話らしいでありんすぇ」

「そうですかにゃ」

 

自身も食事を終え、ナプキンで口を拭きながらも彼女の言葉に考えを巡らせた

 

「おおむね、山中で勢力争いが起き活動範囲がずれている、と言った所でしょうかにゃ?」

 

思い出すのは、先程見たトウヤ達の戦闘、本来なら生息していない筈のモンスターが、街道に降りて来ている現象、職人や商人達の話を考慮すれば、自身の推測が正しかった事が証明された事になった

 

〈魔狂鼠〉(ダイアラット)〈人食い鬼〉(オーク)程度でしたら、ミノリっち達だけでも十分に対処できますし、あの〈冒険者〉もいますにゃ。……余程の事は起こらにゃいと思いますが、商人の皆さんは大変でしょうにゃ~……少し数を減らし、どうかしましたかにゃ?」

 

先の件の原因がわかった今、トウヤ達の障害には成り得ないが、ここに住まう〈大地人〉には死活問題。少年組を助けるのではなく、この町の人々の手助けをしようと提案しようとした矢先………彼女の雰囲気が変わった

 

周囲を見渡せば先程まで送られていた『あぁ、残念な女だ』と言う視線は消え、『視線を送ってはいけないが、気になる女性』と言った雰囲気が辺りから溢れ出して来ていたのだ

 

周囲からして見れば彼女の急変に戸惑いを隠せない状況だそうが、付き合いの長いにゃん太は、彼女が出て来たのだと瞬時に察し、手を顎に寄せた

 

「常識的に考えれば妥協点ね。でも『外来種』(西)の動向も考えるとそうとは、言い切れないわ」

『外来種』(西)ですかにゃ」

 

周りからの視線が途切れない今、直接的な名称を避ける〈くずのは〉の意図を読んだにゃん太も〈くずのは〉に合わせ『外来種』(西)と口にした

 

「生物の生態系が崩れる要因は、外来種による生態系の破壊が多いわ。その他にも人間が地域開発を進め、彼らの住処を奪ってしまったなど、自然界において自然的に勢力争いが起きる事はほぼ無い」

「今回の件に『外来種』(西)が絡んでいると?……些か話が飛び過ぎている気がしますにゃ」

「そうね。でも『外来種』(西)の活動が活発になって来ているとシロエは掴んでいた。その事を視野に入れれば考えられる事象だわ」

 

得体の知れない丼をテーブルの片隅に移し、自前の筆を取り出した彼女はテーブルに書き込んでいく。……間違っても食堂の備品にして良い行動ではないが、誰も咎める事が出来なかった

筆を進めるに日本地図しいてはヤマトサーバーの地図を書き現すと『外来種』(西)の本拠地であるイコマ、そして〈神聖皇国ウェストランデ〉を書き落とし、真っ直ぐとボクスルト山地に向うように線を引いた

 

『外来種』(西)の侵攻……山中のモンスターを狩る行為が『外来種』(西)に何のメリットあるにゃ?」

 

ボルスルト山地に新たな街を作る訳でもなく、貴重な鉱石が発掘される訳でも無い。

開拓以外に理由があるとすれば何であろうか?

西の行動が判らず、首を傾げるにゃん太を尻目に〈くずのは〉は、ボクスルト山地全体に丸く円を書き現した

 

『外来種』(西)の目的が住処ではなく………原産生物(モンスター)だとしたら、どうかしら?」

「……まさかと思いますがにゃ」

「私もそうでなくて欲しいモノだわ。まぁ、そこら辺はシロエが考えているでしょう。私達はシロエの負担を減らす為にも子守りに専念しましょう」

 

彼女は、テーブルに掛れた落書きに軽く手を振り、元のテーブルに戻すとタメ息をつき林檎酒を煽った

その様子をにゃん太は、先程までのしかめっ面とはうって変わって満面の笑みを浮かべて見つめていた

去年の冬を境に〈くずのは〉は変わった。いや、戻ったと言った方が正しいだろう

以前と変わらず毒を吐き、他人に厳しく自身の安泰を第一に考えているのは変わっていないが、その思いの中に『他人に手を貸す』事を多少なりとも考慮するようになったのだ。

 

それはまるで……〈茶会〉にいた時、いやカナミと行動を共にしていた時の様な温かみを感じたのだ

 

にゃん太が彼女に変化に嬉しく笑みを浮かべていたのも束の間、〈くずのは〉が店員を呼び止め、新たにフルーツの盛り合わせを注文した事に表情を変えた

 

「まだ食べますかにゃ?」

「……口の中が気持ち悪いのよ。良くもあんなゲテモノを食べてくれたわね」

「ごもっともですにゃ~」

 

自業自得、とは違うが〈くずのは〉(クー)が仕出かした事を、〈くー〉(くずのは)が後始末する形で二匹の食事は終わったのであった

 

 

 

「ふぅ……やはり風呂は良いモノだ」

 

〈魔法の灯り〉が照らす岩風呂に黒髪の女性が手足をゆったりと伸ばしながら温泉を堪能していた

5人は、余裕で浸かれるほど大きな浴槽一杯に足を伸ばす彼女の行為は温泉のマナーとしてはあまり宜しくはない行動だが、今現在の状況……『貸切』の状態ならば話は変わってくる

 

数分前までは、妹諸君と恋の話や地球話、住んでいた街の話など彼女にとって興味深い話をしていたのだが、長時間の入浴に3人はのぼせてしまい、彼女より先に上がっていったのだ

とくべつ風呂好きと言う訳でも無かった彼女も妹諸君と一緒にあがる事を考えていたのだが、夜空に浮かぶ月があまりにも綺麗でもう少し入っていると妹諸君に伝え入浴を続ける事のしたのだ

 

夜の闇の中に濛々たる湯気と闇を祓うかのように光り輝く月を眺めながら、事なし気に妹弟を作った彼女は、頼られる事も案外悪くはないと今まで感じる事の無かった感情に満足していた

 

ふと、ガラガラと戸を開ける音と共に〈魔法の灯り〉が『貸切』状態の岩風呂に差し込んできたので『貸切』は終わりだと伸ばしていた足を適度に戻し、新たな来客者を待ち構えた

 

新しく入ってきた入浴者は、綺麗な九本の尻尾を揺らす一人の女性

可憐と言うより綺麗と言う言葉が当て嵌まる顔立ちに『巨』が付く程大きな乳、適度に肉が付いているが決して必要以上必要以下に留めた肉体美。

〈魔法の灯り〉から推測しても外見から見ても彼女が〈冒険者〉である事は直ぐに判断できた

彼女は、此方を一目見た後、身体を軽く洗い流し、まだスペースがあると言うのにロエ2の隣へと入浴してきたのだ

 

「失礼するわ」

「構わないよ」

 

声色からするに彼女は話し相手が欲しいようだ

此方としても、ただ湯船に浸かっているよりも話しながら浸かっていた方が、温泉と言うモノを十分に楽しめると思ったので拒む必要はないだろう

 

案の上、手や腕にお湯を掛けていた彼女は、此方を横目に見ながら話しかけてきた

 

「貴女は、目的があって町へ?」

「目的、か……『どこへ居ずれてココにいずる』と言った所かな?君は?」

「私は子守りよ」

 

隣に腰を下ろしたご婦人に気軽に声を掛けながらも旅の中の出会いも中々に乙なモノだと更に言葉を重ねる

 

「驚いた。子供がいる様に見えないね」

「なにも血の繋がりだけを言っている訳ではないわ。『情』を置くモノを家族として考える。『情在りは心の家と化す』と言った所かしら?」

「それは常識に囚われない、素晴らしい考えだ。君は、その子供たちを大切にしているのだね」

 

自分の答えに似せて答えを返すご婦人に更に好感度が上昇している気がするが、彼女が再び口を開いた瞬間、それが錯覚だった事をする事を知る羽目となった

 

「そうよ、大切なの……だから、あの子達に害がある存在は排除する。そうでしょ、エロ子?(ロエ2)

 

先程までの雰囲気は何処へ行ったのか、ロエ2は表情に出さないが内心、得体の知れない寒気を生み出す彼女に恐怖の念を抱いた

 

「……何の事かな?」

「ロエ2はシロエのセカンドキャラ。シロエはセカンドキャラをテストサーバーに置いたと言っていた。テストサーバーは月にあるとされている。そして貴女はオオウいえ、もっと遠くへ居たと言っていたわね?」

「……」

「そこがテストサーバー……月だとしたら貴女は何者なのかしら?」

 

鋭く自分を睨み付ける彼女はいつでも動き出せるように、拳に異常な程の力を込め溜めている

込められた力は異常な程濃く、一撃で私の命を狩り取る事が出来る程の力が感じられた

しかし、彼女の話は過程であり、事実と言う訳ではない

 

………まだシラを切れるか?

 

「いや~、推測だけでここまで言われるとは思いもしなかったよ」

「リ=ガンが提唱していた〈魂魄理論〉、中国サーバーで現れた謎の新種、そして現象。それらが全てテストサーバーにあった実働前の〈ノウアスフィアの開墾〉の追加パッケージ……決定的なのはシロエのセカンドキャラである貴女がここにいる。それだけで仮説はいくらでも建てられるわ」

「でもそれは仮説の域を出ない、としたら私は在らぬ疑いを掛けられている事になる」

「それがどうしたというの?私は私の考えが正しいと思うのであればそれが仮説だろうが偽りだろうか関係ない。全ては私が思う通り……だからここで貴女の命を絶っても何も思わないわ」

 

彼女の拳が私の腹部に添えられた………もう無理

 

「いやはや、やはり(シロエ)では君には勝てないようだ。うん、私は月にいたよ」

「肉体に記録されているシロエの記憶も読み取れるのね?」

「あー…うん、君には迂闊に話す事も出来ないな。私達は〈航界種〉(トラベラー)と名乗っているよ。……それとそろそろ拳を放してくれないかな?お風呂に入っているのに寒気しかしない」

 

一応、いやある程度までは信用してもらったのか拳は放されたが込められた力は未だに溜まり続けたままだ

 

「達、ね。貴女の様な月からの訪問者が他にもいる。でも貴方の様にテストサーバーに置かれたセカンドキャラを媒介に此方に進出してくるには数に限りがある……中国サーバーでNPCのデータを上書する現象があったわ。……貴女は、あの犯人の一員なのかしら?」

「ふふふ!それはどう、はい!すみません調子乗りました。中国サーバーの事はわからないが、多分同じく月にいた〈航界種〉(トラベラー)……〈採集者〉(ジーニアス)の行動だろう。彼らは〈共感子〉(エンパシオム)を集めるのが任務だからね」

「ジーニアス……随分と大層な名前なのね?」

「あぁ、君たちの言葉だと〈天才〉とか〈守護者〉だっけ?…生憎と彼らは採取する者だよ」

〈採集者〉(ジーニアス)……その口調だと貴女は〈採集者〉(ジーニアス)ではないのね」

「うん、私は〈共感子〉(エンパシオム)の探索を任務とする〈監察者〉(フール)だ」

〈監察者〉(フール)……まぁいいわ、私の前に立ち塞がるのであれば殺すまで」

「恐いな?でも私は、彼らや勿論、君の邪魔はしないよ」

「……………その言葉を胸に刻みなさい」

 

今度こそ、拳から力が消えていった

此方からとして見れば少ない情報で真実に近い所まで推測できる彼女を恐ろしく思うけど、まだ確信には至っていないようだ

別に隠すつもりはないけど、彼女との会話には言葉を選ばなくてはいけないな

 

「やっと一息つけるよ。それで、君の名前を聞いてもいいかな?」

「……〈冒険者〉の身体を媒介にしても〈冒険者〉としての力を十全には使用できないのね?」

 

うわぁ、藪蛇!?

 

「ははは……うん、出来れば名前を教えて欲しい」

「……〈クー〉よ」

 

偽名、と言う訳ではないようだけど本名としては何か軽い感じがする

そもそも未だに警戒が解けない彼女が素直に自分の名前を伝えるだろうか?

……もう少し情報が欲しいところだな

 

「〈クー〉さん、か……それで私に接触してきたのはなぜかな?」

「言ったじゃない。子守りだと……トリ頭ね」

 

トリ頭?

あぁ…鶏は三歩、歩いたら話の内容を忘れるってやつだね!

 

「子守り…妹弟諸君の引率?それの割には距離を取っていたかに見えるけど?」

「気づいていたのね……猫が影ながらと口うるさく言うからよ」

「あぁ、あの猫人族か」

 

妹弟諸君は気付いていないようだったけど、私が合流してからずっと妹弟諸君には気づかれないように後をつけていたから気にはとめていたけど、保護者だったとは思わなかったよ

 

私としては、聞きたい事も聴けたし、妹弟諸君から離れろとも言われていないからある程度は、任せて貰えたと思って良いだろう

 

妹弟諸君の事も含め、もう少し彼女の質問に答えるのもいいだろうな

 

「それで他に聞きたい事はないかな?」

「ないわ」

「ッ!……へ~ほ~なるほど」

「気に喰わないわね……殺すわよ」

 

情報の塊と言ってもいい私を前に何も聞く事は無いと言い切る彼女は凄いけど、ちょっとした失言で殺気立つ彼女はもっと凄いな!

 

現に異常な力を込めた拳を、また腹部に当てられてしまっているよ!

 

「いやいやいや、月から来た私に色々と聞くのかと思っていたからね?〈共感子〉(エンパシオム)とか今の状況とか?……だから決しては馬鹿にしたつもりはない!理解してくれ!」

「………次はないわよ」

 

うん、言葉の通りだ。拳は離れたけど、魔力が散っていない

次に失言したら確実に腹パァン!されるね?

 

「うん、気を付けるよ。……でも君は〈冒険者〉だよね?なら〈冒険者〉全体に関わる大切な「だから私に関係ある事かしら?」……記録では知っていたけど、会って見るとそれ以上におもしろいな、君は……」

「周りの評価なんて糞くらいだわ。……私は私の周りが平和ならそれでいいの」

 

(シロエ)の記録では、彼女の事は色鮮やかに記録されていると言うのに名前や能力と言った情報が欠落している。……だと言うのに彼女がどういう人物なのかどういう行動を取る人物なのか人間味の方が強く印象に残っている

すなわち……(シロエ)にとって彼女は一プレイヤーではなく、一人の人間として(シロエ)の中に強く残っていると言う事

実際に対面し話して見れば何故、(シロエ)が彼女を能力ではなく人柄で記憶しているのか、想像以上に理解したよ

 

自分の利に合う事にしか興味がなく、でも根源には他人を思いやる心が根付いている。とても優しい心の持ち主だと………まぁ、根源に辿り着くまでは難関なラビリンスを潜り抜けて更には強靭な怪物を倒さなければ辿り着けないけどね

 

妹弟諸君とは違う、彼女の人間味は実に面白く、私の好奇心や知識欲を刺激して止まないけど……もう限界―――――

 

「そろそろ上がらないか?流石に逆上せてきた」

 

妹諸君との入浴時間に一人での入浴時間、更には彼女との入浴時間。特に彼女との時間は頭をフルに回転させながらの入浴だったから流石に頭に熱が籠ってしまうよ

 

温泉と思考の熱にやられて、この身体は限界に近づいている為、彼女との会話を打ち切り上がる事を提案した

 

「あら?お風呂は心の洗濯だと言うのに……まぁいいわ、一旦休みましょう」

 

提案を飲んでくれた彼女と伴って脱衣所へ向かい、身体に付いた水気をタオルで引き取る

春先、それも日も落ちていると言う事もあって涼しげな風が体温を下げてくれて実に気持ち良い

 

彼女も涼しげな風に身をゆだね、脱衣所に備えられているベンチに腰を下ろし何処から取り出したのかグラスに赤い液体を注ぎ口にしていた

 

……女性同士であるから特に問題はないけど、身に何も着けずに、いや隠そうともせずに堂々と見せ付けるかのようにしている彼女の生き方には私をしても是非真似てみたいものだ

 

彼女の口元から一筋の赤い雫が垂れ流れていき、大きな胸の谷間をスッと流れ落ちていく………実に良い!

 

「……何かしら?」

 

些か彼女の事を観察し過ぎた様で、怪しむような視線と共に声を掛けて来た

素直に『君の淫猥な雰囲気を堪能していた!』と口にしても良いのだが、グラスを持った手の反対の手には、紫色の炎が揺らいでいる事を考察するに事実を答えると私の命が消える

だからと言って下手な嘘をついても彼女には直ぐにばれてしまうだろう

……ここは、真実を交えた嘘が一番効果的だと私は判断する!

 

「私もある方だけど君もけっこうあるね?」

「……雄は、雌を作る時、自分の理想を形にすると聞いたわ。シロエは……巨乳が好きなのかしらね?」

 

自分の胸を持ち上げながら自然に女子特有の会話に口にした私は、正解を選択したようだ!

「巨乳好き?でもミノリやアカツキは……」と口にしている彼女に見えないようにガッツポーズをしながら籠に入れた衣類に手を伸ばそうとして……手を引いた

 

空をきる手でストレージから私には必要なく出宝の持ち腐れとなったモノを取り出し、彼女の元へと差し出す

 

「………何のつもりかしら?」

 

まだ短時間だが、彼女と接してみてわかった事だが、彼女は『施し』や『情け』を嫌う傾向がある

案の上、鋭い視線と共に手に宿った紫炎が私へと向けられた

……でも『施し』や『情け』ではなく、純粋な好意としてだと彼女は受け取るだろう……たぶん

 

「君にコレを譲ろうと思ってね?友好の意を込めて!」

「友好、ね…貰えるモノは貰っておくわ。ッ!これは……」

 

私の気持ちが伝わったのか定かではないが、差し出された衣服を紫炎を消した手で受け取った彼女は、驚きの言葉と共に眼を細め私を睨み付けて来た

 

「月にあったモノさ。」

「新たな力は、新たな争いの火種になるわ」

「でも事を成すには力は必要だ。それに……君なら上手く使える。そうだろ?」

 

私の云い様にタメ息を付きながら受け取った衣服をストレージに仕舞い、空いた手で尻尾を弄り紫色の水晶を取り出して私に投げ渡してきた

 

「これは?」

「私と連絡を取りたいのであれば使いなさい。貴女の対価と私と友好を結ぼうとする対価……調度折り合いがつくわ」

「はは、ありがたく貰っておくよ」

 

未導入の装備と彼女との友好……自意識過剰とも云えるレートだと笑うモノはいるだろうが、私として見れば今後何を仕出かすか理解が及ばない彼女と友好を結べるのであれば安い対価だと思うね

 

さも当然とばかりにグラスに残った液体を煽った彼女は、背負丸めながら再び岩風呂へと足を向けて歩きはじ……あれ?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれないかな?尻尾が私の腕を掴んでいるんだが?」

 

ふさふさとして肌触りが良いのは、重々わかったが彼女らしからぬ行動に驚きを露わにし――――

 

「湯冷めしんした……ぬしも付き合ってぇなぁ?」

「ッ!はは…お手柔らかに」

「わっち、林檎風呂を作りんす!わっちの理想郷(アヴァロン)は目の前にありんすねぇ!」

 

雰囲気だけでなく存在そのものが入れ替わった彼女に、好奇心を刺激されるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロエ2さん、随分長湯でしたね?」

「あぁ、弟妹諸君の後に入ってきた御仁と意気投合してついつい話し込んでしまったよ!時に妹諸君!」

「はい」

「君のパンツをくれないか?」

「ふぁ!?」

「御仁曰く『真の姉とは妹のパンツを被るモノだ!』らしい。私も妹たちの真の姉となるべくパンツを被りたいのだ」

「流石にパンツはねぇぜ、ロエ2姉ちゃん…」

 

ロエ2から3歩ほど身を引いた女性陣を彼女達の間で見ていたトウヤであったが、ぐるりっとズレた眼鏡を治しながら此方に顔を向けたロエ2の顔を見てトウヤに戦慄が走った

 

「ふっ、御仁曰く『姉妹萌えだけだと思ったか?残念!弟萌えもここにはいる!』と言っていた!……とういう事だ、弟諸君!パンツを姉である私に渡すのだ!」

「ふぁ!?」

 

 

この後、めっちゃ妹弟諸君に怒られた

 

 

 

 

 

「ご機嫌ですにゃ、くーち?」

「あい、パンツ信者を増やしてきんした。」

 

 

この後、にゃん太にめっちゃ怒られた

 

「理不尽でありんす!」

 

 

 

 

NEXT 狐を使う猫

 




キリが悪くて10000文字オーバー

最後はいらなかったかなぁ?


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『4』し!わっちの出番は…『6』?次回でありんすか…

|∧∧
|・ω・`) そ~~・・・
|o◆o
|―u'
 
 
| ∧∧
|(´・ω・`)
|o   ヾ
|―u' ◆ <コトッ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



|
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| ミ  ピャッ! |    ◆


〈ススキノ〉

 

現実対応で云えば札幌の位置に存在するイスカル地方に築かれた〈エッゾ帝国〉の首都とされる第三のプレイヤー都市

エッゾにおける〈冒険者〉の拠点であり、同時に〈巨人族〉の侵攻を食い止める為の防衛基地としての性格も持つ城塞都市は、〈大地人〉統治の中心として周囲の開拓村を取りまとめる政治機能も有していたが、〈大災害〉の直後は無法者と化した〈冒険者〉集団によって一時的な制圧状態にあった。その後、アキバからススキノへと本拠を移した大型戦闘系ギルド〈シルバーソード〉による鎮圧、そして治安維持活動が行われ、現在は平穏を取り戻しつつある。

 

なお、上記にあるように〈シルバーソード〉の治安維持活動が行われるように成ってからは食文化・製鉄業が主に伸びをみせており、特にエッゾ芋を使った料理のレパートリーの多さは他の4大都市と比べ比較にならない程だ

その原因は、元より北地に所属している為、濃産業は遅れを取っており出回る食材に限りがある事があげられ、少ない食料を余す事無く使い切る精神から産まれたモノだ

製鉄業に関しては寒気が辛い地方と言う事もあり、少しでも暖かい暮らしを求めての結果である

 

一時期、〈ススキノ〉を拠点に置いていた私に言わせれば林檎が少ない、薄着の女性がいない、治安が良くないの三重苦であった……

 

しかし、極地に似合うレアアイテムやレアモンスターの出現率が一番多い為、『強くなる』の一点に視線を合わせれば〈ススキノ〉程、理に叶った所はないだろう

 

 

「カマンベールチーズ・ゴーダチーズ・セカイチーズ」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「まぁ、わっちは十分強いんしたから意味はありんせんでありんしたけどね?しかし…うわっちゃ!?」

 

本を懐にしまうと同時に彼女に向い、鋭い爪が振り下ろされた

慌てて振り降ろされた爪を回避した彼女は、にゃん太の背後に逃げ隠れると背中合わせになり、二匹を囲む魔物達と対峙する

 

「なんでわっちが、こな事をしなくてはいけんせんのでありんしょうかぇ!」

「くーち、そっちに行ったにゃ!」

「GAUUUU「黙りなんし!」ウガッ!がががあぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

飛びかかってくる魔物を彼女は、開いた扇子を大きく振りかぶりながら蹴りを入れ谷底に叩き落とす

落された魔物の叫び声が遠退いて行くのを尻目に二匹を囲む魔物の勢いは止まる事はなかった

 

「もういい加減にしてくんなましぃぃぃぃ!」

 

彼女の悲痛な叫びは山に……ボクスルト山脈に虚しく響き渡るのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

とんふぁーきっく?……ロマンがありんすね……

 

 

 

ボクスルト

その名前は弧状列島ヤマトにおいても現実世界でも知名度が高く、地球世界でその場所は箱根。駅伝でもよく耳にする地域だが〈エルダー・テイル〉に置いては、元は山地の名称であったが、地域の名称にもなり、峠の名前にもなり、砦の名にもなった名称だ

 

現実でも〈エルダー・テイル〉としても有名なボクスルトではあるが、現実と違う所は中世、いや日本の時代で合わせれば戦国時代を思い描ける山道だ

道の幅は三メートルほどしかなく、馬車が通るギリギリの幅、時に縁石や杭で補強されている部分はあるが、その多くは赤土で雨が降ったらいかにもぬかるみそうに見える。

そんな不安定な道が、斜面に張り付くようにうねうねと続いている。右手は山頂に続くのぼり斜面で、杉のような樹木がみっしりと生えているし、左手は谷へと続く下り斜面で、目がくらむような落差を見せる景色もあった。

風景だけならまだしも、街道は山肌に張り付いているために地形の気まぐれで、少し登ってはまた下り坂になり、左に右にと蛇行しては、時に引き返している としか思えない切り返しさえあった。三月の山はまだ冬枯れの様相を残していたが、自然の生命力は強く、濃い緑の匂いとざわめきに満ちている。

 

 

そんな山道でなぜ二匹が戦闘を行っているかと言うと目下で立往生している二台の馬車が事の原因だ

 

トウヤ達より先行し辺りを見渡していた二匹は、視界の悪いこの山道では、直線で見晴らしが利くような部分はほとんどない為、低空を飛んでいたのだが、トウヤ達の進行上に、二台の馬車が立往生をしているのを発見したのだ

 

問題の解決は簡単、立往生している原因が、ゆかるみに車輪が飲まれ動けない。ならば馬車の重量を軽くしぬかるみから脱出すれば良いだけ……試練にする必要もない案件だがトウヤ達にとっては真新しい試練と言う事もあり、彼らに対処してもらう予定であったが、馬車の乗員……商人達の反応を窺うに積荷である木箱にあきらめが付かないように伺えた

 

 

このままトウヤ達と接触させても良いのだが、おそらくトウヤ達は商人達に手を貸す

そうすると周囲の警戒が疎かになってしまう。最悪、商人達に警戒してもらえば危険は減るだろうが商人の顔色を見るに一昼夜を過ごしている様に感じ疲れきった彼らの警戒網などザルに等しいだろう

 

視界が悪く、足場も不安定なこの場において魔物に奇襲され商人を守りながら対処することは、経験の浅いトウヤ達には荷が重いと感じたにゃん太は、とあるアイテムを使用し魔物のヘイトを自身に集めたのだ

 

当然の如く、駄狐は反対したが事は既に遅し

アイテムの効果で集まって来た魔物と猫に文句を叩き突けるが暖簾に風、募る苛立ちを爆発させた駄狐は、次々と谷底に魔物を落とし、倒して行ったのだ

 

ボクスルトの魔物のLVは決して高くは無いのだが、武器による攻撃力の低い彼女ではにゃん太のように瞬殺する事ができなく、ひらすらけり落とした

 

―――――――――蹴って蹴って蹴り落した

 

戦闘を終えたのは、トウヤ達が広げた場所まで商人の荷物を運ぶのに用いた時間、2時間の間、彼女達は戦い続けたのだ

 

突き出た岩に腰を下ろし、少年組達と同じ様に昼食を取りながら自身のHPとMPを確認していく。〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)が出て来たのであれば話は変わっていただろうが、強敵と云う強敵は出現されなく2人のHP,MPは3割ほど無くなる程度に収まった

 

HP・MP回復を含め昼食を作り始めるにゃん太を尻目に二時間戦い続けた彼女はへばってグリフォンに寄り掛かっていた

 

「くーち、周囲の魔物は一掃しましたが、警戒はして欲しいですにゃ」

「うにゃ~……雑魚の相手ほど疲れるモノはありんせん。おかげでわっちの尻尾に輝きがましんした」

「LVでもあがりましたかにゃ?」

 

にゃん太の問に尻尾を振って応えた彼女は、懐から長細い単眼鏡を取り出しトウヤ達を盗み見た

 

「わっちをこなに働かして憎い人でありんすね!第一、素人衆装備の剣などこなにいりんせん でありんしょうに!」

「おや?荷物の中身を見ましたのかにゃ?」

「あい、木箱にぎょうさん、『鉄の剣』が入っていんした。方向的にはイコマが目的地でありんしょうが、しとつとてのこさず売る事は出来ないでありんしょうね?」

「ふむ……需要と供給の問題ですにゃ?」

「めんどう事は〈くずのは〉にパスでありんすが、イコマの〈冒険者〉が買うには些か弱すぎるでありんす」

「ふむ…」

 

確かにイコマは、現在〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)の本拠地と隣接した地帯と言う事もあり、今更手低レベルの武器を好き好んで買う〈冒険者〉はいないだろう……

首を傾げるにゃん太は、スープを掻き混ぜる手を止めずに一人呻ると、商人達を遠目で見て理解したとばかりにお玉をあげた

 

「買うのが〈冒険者〉でも使うのが〈大地人〉ですかにゃ?」

「だから~手数話はパスでありんす~」

 

折角出した答えだというのに出題者からの返答はない

しかし、逆に考え〈くずのは〉であれば間違いを指摘するのであれば兎も角、答え合わせはやり得ないと自己完結したにゃん太は、険しく顔を歪め掬い出したスープをお皿に盛りつけた

 

もしこの場に第三者が居ればトウヤ達の食事と比べ猫と狐の食事は貧富の差を感じてしまう所だが、実際には違う

にゃん太の腕前で作られたスープは三つ星シェフに並ぶほどの技量で作られており、駄狐が提供した林檎は現在、ヤマトで取られる林檎のなかでも一級品の品質を持った者であり、下手な食事よりもリッチな食事となっているのだ

 

 

閑話休題

 

 

食事を終え、手に付いた果汁を舐めていた彼女は、急に慌しくなってきた目下に耳を忙しなく動かしながら崖から身を乗り出して様子を窺った

 

「うみゃ?お祭りでありんしょうかぇ?」

「危ないですにゃ………あれは恐らく『北風の移動神殿』ですにゃ」

 

彼女の首元を掴み上げたにゃん太は、だれる猫の様に吊られた彼女を尻目ににゃん太は説明を続けた

 

「吾輩も直接目にした事は多くはありませんが、復活拠点として遠征に出る冒険者が所持していくアイテムだと聞いた事がありますにゃ」

「ふ~ん」

「それだけですと、別段なんの事もありませんにゃ。しかし……その復活拠点を〈望郷派〉(オデュッセイア)が所持していることが怪しいとは思いませんかにゃ?」

 

〈望郷派〉(オデュッセイア)……アキバでも耳にした事のあり、元の世界へ帰ることを至上目的として掲げた組織。それだけを聞けば無理もなく、ある意味すべての〈冒険者〉の気持ちを代弁するような集団であるはずだが、彼らの思想は過剰な程の陰鬱な色彩を放っており、シロエも警戒していた事を思い出したにゃん太は、なにか知っているだろうと彼女に話しかけるが無関心

 

もしかしたらトウヤ達に降りそそる火の粉に成り得るのではと感じたにゃん太は、影ながら動き出す事を決めたのであった

 

「……これは少し調べた方がよさそうですにゃ~」

「絶対!拒否しんす!」

 

 

 

 

 

尚も引き下がらず、にゃん太の腰にしがみ付く駄狐を引きづり回し、些か眼を離す事とになってしまうが、これもトウヤ達の為だと割り切り情報を集めた。

もとより、〈記録の地平線〉のサブリーダーの様な立場上から〈円卓会議〉に良く顔を出していたにゃん太の情報量は、彼らより多く〈望郷派〉(オデュッセイア)とされる集団<オデュッセイア騎士団>の根拠もない信念、彼らが所属する〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)の動向、なにより〈ヤマト〉における〈冒険者〉と〈大地人〉の親交状況………

 

これらを考慮し彼らの本来の目的と他に何か別の意図があると読んだにゃん太は霊峰フジを中心に周辺の変化に探りを入れた……そして―――

 

〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)の巣、ですにゃ」

 

もぬけの殻となった〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)の巣を発見したのだ

リアルになった〈エルダー・テイル〉において作られた存在である魔物は兎も角、自然と共に生きる〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)のような原生物が独自の生態系を作り生息している事は既に確認済み

現に〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)は霊峰フジを生息地にしており、多くの数が生息している事は周知の情報だったが、この状況を顧みて何者かによって生態系が崩された事を理解した

 

生態系が崩される原因は多くあるが一番の理由は……強者の介入

しかし、霊峰フジにおいての強者は〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)、リーダー核になれば同じ個体だとしてもLV80に届くモノまで存在しる。それが狩られる立場に追いやられるとしたら〈冒険者〉の介入があったと言う事になる

 

「しかし、〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)を狩り尽すまで何が彼らをそこまで追い立てますかにゃ?レベル上げだとしてもレベル格差の大きい〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)は割に会わないにゃ……くーっちは、どう思いますかにゃ?」

「わっちでありんすか~?……もしも~し、わっちわっち!」

 

にゃん太にリアルで引きづり回されていた彼女は服や尻尾に付いた泥や葉っぱを落しながら、にゃん太に顔を向けるが、答えるつもりがないのか懐から<呼出水晶>を取り出し誰かと通話をし始めたのだ

 

もとよりちゃんとした返答が帰って来ないと判っていたにゃん太は、更に考えを纏めていった

 

〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)を狩って利になるような事は、素材と経験値。ですが、〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)の素材程度ならそれほど苦労も無く手に入れる事も出来ますにゃ」

「わっちわっち!今、富士山にいるでありんす!それで事故っちゃって100万円よこすなんし!」

「なれば経験値、でしょうかにゃ?でもレベル格差が……」

「え?ふざけるな?わっちはいつなるときも真面目でありんすよ!……そんで100万~」

「レベル格差……ッ!低レベルの〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)で戦い方を学び高レベルの〈鋼尾翼竜〉で経験値を得る!……まるで初心者のレベル上げ、いや初心者のレベル上げなのでしょうにゃ」

「え?いいでありんすか!……引き渡し場所?どこでありんすか ?」

「〈大地人〉のレベル上げ……パワーリングが目的なら納得いきますし、ボクスルトの商人の積荷も納得がいきますにゃ」

「鋼鉄車両?それは、どこにいんすか!」

「ですが、〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)を狩り尽すまでの大所帯をどのように……鋼鉄車両?」

 

戦力にならないと思われた駄狐の口から思わぬワードが飛び出し、にゃん太は彼女の方を掴んだ

 

「くーっち!今だれと話しているにゃ!」

「ふぇ?ちんどんやに『わっちわっち詐欺』をしておりんす」

「ッ!」

 

ちんどんや……駄狐が云う〈ちんどん屋〉がにゃん太も知る彼ならば、その情報に間違いはない

むしろ、彼女の交流関係を吟味しても〈ちんどん屋〉など〈放蕩者の茶会〉に所属していた彼しか当て嵌まらなかった

 

「いまその車両はどこにいますにゃ!」

「ご隠居も興味がおありで?取引先は今、フェヴァーウェル川下流付近らしいでありんすよ 」

 

居場所を聞き出すやいなやにゃん太は〈グリフォンの笛〉を取り出し、吹き出した

空へと鳴り響く音色は、グリフォンを呼び出す為に、広く深く音を響かしていき、そしてその音色は二重になって響き渡った

当然の様にアイテムの効果で二頭のグリフォンが舞い降りてくる

しかし、〈グリフォンの笛〉で呼び出せるグリフォンは一頭のみ……ならば誰がもう一頭呼び出したのか?

 

 

 

―――――――答えは決まっていた。

 

 

 

「くずのはっち?」

 

後を振り向けば降りてきたグリフォンに絡まれる駄狐……もとい〈くずのは〉が手綱を引き寄せ頬を寄せてくるグリフォンを嗜めていた

 

「その呼び方は辞めなさい。私はあの子達の元へ行くわ」

 

彼女がトウヤ達を見に行くと言ってくれた事に対しにゃん太は、嬉しく思う反面、状況を考えるに〈くずのは〉には戦力としても知力としてもこちら……鋼鉄車両へ一緒に来てもらいたいと考えていた

 

トウヤ達の監修が出来ない事を心苦しく思うが、この件の対処に遅れたら生態系が壊れ行き場を失ったモンスターが周辺の市町村に被害を与えるかもしれない。彼女にも此方に来てもらう為にも声を掛けようとするが――――

 

「ですが、今優先すべき「統率の取れていない〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)はどこにいるかしら?」ッ!まさか……」

「えぇ、行き場所を失った〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)があの子達のいる町へ向かっているわ」

 

―――すでに時は遅し。核となる高レベルのリーダーを失った〈鋼尾翼竜〉(ワイバーン)は、周辺に散らばってしまっていた

ならばここで行動を共にするのは下策、一方はこれ以上被害が広がらないように元凶を討つ、もう一方は本来の目的である少年組の護衛に周った方が良いと結論を出したにゃん太はグリフォンに跨り空に上がった

 

「セララさん達を頼みましたにゃ!」

「えぇ任せなさい。それと……コレを持っていきなさい!」

「ッ!」

 

〈くずのは〉の手から宙に投げられたモノを掴み懐にしまったにゃん太は、鬼気迫るとばかりにグリフォンを翔けさせたのであった

遠退いて行くにゃん太を見送り、自身もグリフォンに跨った〈くずのは〉も宙へと浮かび上がる

 

「猫にはああは云ったけどあの子がいるから心配ないわね?ならば私は……甘えん坊に発破を掛けるのみ、ね」

 

そして狐を乗せた鷲獅子は、少年組が奮闘する町へと向かって飛んで行くのであった

 

 

 

NEXT 狐メタ装備を使う



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『4』クシク……わっちの出番『7』いの…?

更新がはやい?

繋ぎ回だからさ……

すみません、ほぼほぼ原作と同じでちょろっと手を加えただけの話しです

手抜きと云われても言いかえません!

作者が濡羽と絡ませたかっただけです!

次回で『〈悪雲〉:狐と猫』は終わりです


〈サフィールの街〉

 

襲撃なう

 

「かまんべーるちーず・ごーだちーず・せかいちーず」著作者:くー

より抜粋……

 

「……」

 

〈くずのは〉は、書かれた一文を筆で塗り潰しタメ息を付いた

 

「久方ぶりに自分で書きたいと云うから任せたというのに……小学生の作文以下じゃない。しかも……」

 

〈くずのは〉は、空に舞う〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)の群れの中を突き進みながらも本を仕舞い、同じ舞台にいるグリフォン目掛けて仕掛けてくる〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)に魔法を撃ち込んでいく

 

「現状を説明するにこれ以上の言葉は無いわ」

 

辺りを見渡せば数百を超えるワイバーンが、住処から追い出され〈サフィールの街〉へ向かい南下しており、視線の先では〈冒険者〉と戦闘を行っているのが確認取れた

そしてその中に黒い影がいる事にも〈くずのは〉は気付き眼を細めた

 

〈闇精霊の従僕〉(ナイトシェイド・サーバント)、ね……どうもキナ臭くなってきたわ」

 

グリフォンの手綱をいっそう強く握りしめた〈くずのは〉は、〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)の群れを抜き去り、サフィールの街〉へと向かったのであった

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

plus ultra!……え?作品が違う?わっちには関係ないし~

 

 

 

たおやかな姿を持つ白い女性が、まるで小春日和の残照の中を行くように、平然とサフィールの街並みをよぎっていった。

時節立ち止まってはなにかを考え、空を見上げて、また歩みを始める。

焦げたような匂いの黒煙が僅かに空気に混じり、周囲は喧噪に包まれている。魔法の炎は通常煙をたてないため、これはなにかに引火したということなのだろう。サフィールは戦闘状態にあるのだ。

 

白い美女を獲物と見定めたのだろうか、一体の〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)が旋回から急降下にうつった。うねるような尾の動きは〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)に獰猛な機動性を与え、その鋼の爪先は〈大地人〉の軟らかい肉を容易く刺し貫くだろう。

ダリエラはそちらを見上げようともせずに左手を挙げると、吐息のような声で呪文をつぶやいた。〈アストラル・ヒュプノ〉。それだけで不可視の網に絡め取られたように〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)はその精神と肉体を静止させる。

 

錐もみ状に落下して土煙と瓦礫に沈む翼竜を背景に、白い女性は漆黒の羽ばたきに包まれるようにその姿をブレさせる。膨大な魔力を秘めた幻尾がまるで大気を愛撫するように艶めかしく揺れて、狐の耳を持つ漆黒の美女が現れた。

 

対象を深い眠りに落としその精神を凍り付かせる〈付与術師〉の呪文〈アストラル・ヒュプノ〉。攻撃力のないこの呪文であるにもかかわらず、それが起こした被害は甚大だった。〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)はもとより、その落下に巻き込まれた〈オデッセイア騎士団〉の〈森呪使い〉(ドレイド)さえも大規模ダメージで絶命している。

 

濡羽は小さくため息をつくと、さきほどまでと同じように歩みはじめた。

ビルの間を抜け、茂った緑の木陰の下をとおり、夕焼けの戦場を歩く。

不思議なことに〈闇精霊の従者〉も〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)、それどころか〈大地人〉や〈オデッセイア騎士団〉も濡羽を認識することが出来ないようだった。

 

濡羽は戯れに、あるいは自分に突進してくる火の粉を払うように、小さな呪文で彼らを止めた。止めるというそれだけのことで、濡羽は戦場に破壊と絶命を巻き散らかした。

〈付与術士〉のなかでも行動阻害呪文に特化した構成(ビルド)〈凍てつかせるもの〉(フリーザー)と呼ばれる。極寒の雪荒らしを以て周囲の敵すべてを凍り付かせるようなその能力から名付けられた別称だ。

濡羽はその言葉を体現したかのような歩みを見せていた。時には足を止め、時には何かを呟き、町を抜けてゆく。

 

 濡羽は小さなため息をついた。

 〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)の窮屈な任務を抜け出して西ヤマトを少し歩くだけのつもりが、偶然の出会いをしてしまった。

悪意や害意があったわけではない。ただシロエのギルドのメンバーだと思ってちょっかいをかけてしまったのだ。そして傷を受けた。

 

上から目線で小馬鹿にしていたことを濡羽は認めざるを得ない。シロエは特別だが、その仲間まで特別なわけはあるまいと思っていたのだ。いつも通りに愛想笑いをして、相手を思いやるようなちょっとした態度と仕草を見せれば、容易く溶け込めると思っていた。

事実、ミノリやセララ、五十鈴と言った娘たちにはなにも気づかれなかった。おそらくルンデルハウスという元〈大地人〉にもだ。

油断していたとは思わない。

多少距離をつめようとしてしまったのは確かだが、それはシロエやと同じ景色を見てみたいという誘惑に負けたせいだ。

トウヤという少年が、〈大地人〉の伝記作家の中に何を見たのかはわからない。正体が露見したとはおもわないが、トウヤという少年が特別な能力でダリエラの何かを見抜いたのは確かだ。

濡羽は、あの年端もいかぬ少年に哀れまれたのだ。

優しくしなくても良いよ。

そう言われた。

 

そんなささいなくだらないとも言える一言が、トゲとなって濡羽に食い込んだ。小さな痛みは無視出来ないほどに大きなものではなかったが、忘れてしまうには鋭く新しかった。

トウヤという少年を、ミナミに勧誘してしまったらどうだろうと悪戯心が湧いたのは事実だ。シロエにかまってほしかっただけだった。しかしあの少年はシロエの〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)にいるだけのただの背景ではなかった。幼いとはいえ、濡羽に立てる爪を持っていたのだ。

 

戦場の空気を見てみてもそうだ。怪我を抑えて 逃げてゆく〈大地人〉の瞳は輝いていないか? 心なしか空気にリュートの音色が混じってはいないか?

 

シロエはやはり特別なのだ。シロエの瞳を借りてみれば、この薄汚れた掃き溜めのような世界も、別の色に見えるかもしれない。濡羽はそれを想像して、寂しく笑った。

 シロエの教えがあの少年の刃なのだ。小さな痛みもシロエへと繋がる絆なのだとおもえば、どこか甘美に感じられる。そして同時に羨望を感じた。シロエには何かを伝える相手がいるのだ。濡羽にはいない。

 

しかし憎しみはなかった。朝靄の中で見たあの素直な少年の清澄さが濡羽から濁った感情を取り除いてしまったのかもしれない。

 

どうせ、濡羽などはいないような存在である。

〈アストラル・ヒュプノ〉の魔力でもとの姿が現れてしまったが、再利用規制時間が満ちればまたダリエラの姿と名前を取り戻す。そのダリエラさえ偽りの姿だ。濡羽ですらそうなのだから。

 

本物の自分などどこにもいはしないのである。

幽霊のような自分の滑稽さに小さく微笑んだ。

人を求め、求められたくて選んだ姿をうっとうしく思い、その姿から逃げだし、美しくも妖しい姿を得つつもその姿から逃げ出し、話しかけられるのも鬱陶しくて鋼鉄車両から姿を消した濡羽は、いままたその姿を変えてしまっている。

 

我が事ながら支離滅裂で、その悲惨さと滑稽さは、目を覆わんばかりだ。

なにを手に入れても砂のようにこぼれ落ちる呪いが濡羽にはかかっているようだった。余りにもすべてをかなぐり捨ててしまった濡羽には、もう、何を手に入 れればいいのかもわからない。棄ててしまった何かが価値あるものだったとしても、もう濡羽は後悔さえも捨ててしまっている。

 

そんな無明を唯一照らすのがシロエだ。濡羽の中のシロエはいつも横顔で、どこか遠くを見ていた。初めて出会った大規模戦闘の時の印象が強いせいだろう。言葉を交わすことが出来たいまでさえ、思い起こすシロエは遠くを見ているような表情ばかりを浮かべる。

その思い出を抱きしめるように濡羽は胸の前で白く小さな手を握り合わせた。

 

「濡羽様っ」

 

 駆け付けて跪かんばかりに頭を垂れた騎士を濡羽は一瞥した。

 ロレイル=ドーン。普段は気障らしく切りそろえた金色の髪は乱れ、聖騎士の鎧すら薄汚れている。犬のように濡羽を求めて山野を駆け回っていたのだろう。浅ましいその姿に侮蔑を感じ、濡羽は黙った。

 

濡羽を閉じ込めようとする名ばかりの親衛騎士団などにかける言葉はない。

しかしロレイルは、その無言を別の意味で捉えたようだった。

 

「濡羽様、ここは多少危険です。濡羽様の静止魔法であれば大事ないかと思いますが、避難していただけませんでしょうか?」

「この町を取り巻く状況は? ミズファは何をしているの?」

 

濡羽は尋ねた。

この町の状況は異常だ。〈闇精霊の従僕〉(ナイトシェイド・サーバント)がこれだけ現れると言うことはミズファが〈赤き夜〉の兵力をこの町へ投下していると言うことだろう。〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)の出現も無関係とは思えない。

 

「この町はミズファ様の指示で戦場となっているようです」

「そう」

 

地面を見つめ、小さくシロエの名をつぶやいて濡羽は歩きだそうとして足を止めた

特に思う事はないので、またダリエラに戻るまでの戯れだと歩み進めた筈の足が止まったのだ

 

―――なぜ?

 

その答えは直ぐに舞い降りてきた。地面に写る〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)とは違う小柄で形も違う影から一つの影が切り離され、すとりと濡羽の前に降り立ったのだ

その影は人の姿をしており、突然現れた影に警戒し前に出るロレイル=ドーンと同じ形をしていた。……違うとすればその影からは9本の影が繋がっているところ……

 

もしや、と思い徐に顔を上げて見れば――――

 

「久しぶりね、愛しの濡羽。ご機嫌いかがかしら?」

「あぁ……あぁ!〈くずのは〉様!」

 

シロエと同じく私を魅了し、そしてシロエとは違い私だけを見てくれている愛しの存在の登場に濡羽は、顔を綻ばせたが、彼女が口にした『ご機嫌』という言葉に再び顔を伏せてしまった

愛しの君の顔をもっと眺めていたいのだが、こんな醜い顔では愛想を付かれてしまうかも知れない。そんな思いから濡羽は一歩後ろへと下がってしまった

 

それを境に、何を勘違いしたのかロレイル=ドーンは警戒心を最大に引き上げ、剣を抜き〈くずのは〉に向けたのだ

 

「貴様何者だ!突然と姿を現し、更には濡羽様に対してその云い様!失礼にも程がある!ッ!それ以上近づくと斬るぞ!」

「………」

「……警告はしたぞ?恨むなよ」

 

違うのだ、と声を出して云いたい。

あの方は、貴方程度で止まるようなお人でなければ敵でもない

そんな事も判らずに剣を向けるロレイドは、なおも近づいて来るおの方に痺れを切らし剣を突き立てた

 

―――――っ!

 

キンっと甲高い音と共に何かが倒れる音が聞こえる

どちらがやられたの?……でも私に近づいて来る足音だけでは誰が近づいて来ているのかまでは判らない。あの方が、ただの親衛騎士程度に遅れを取るような人ではない事は判り切っていることだけれど、魔法を唱えた声も魔法の音もしなければ……不安になってしまう

 

私の心情など知らないとばかりに、足跡は近づき……私の頬へと手が添えられた

細く暖かい、手……手が導くまま顔を上げた先には、愛しの君が微笑んでいた

 

「ふふ、顔を上げなさい。綺麗な顔が台無しよ?」

「くずのは、様……」

 

久方ぶりの再開に、自然と瞳に雫が溜まっていくが、あの方はその雫さえその指で掬い上げ、自身の舌で舐め取った

 

「貴女を泣かせていいのは私だけよ、覚えておきなさい」

「は、はい…あっ」

 

私が返事をするや否や、あの方はポンと頭を撫で彼女の周りを浮遊する二つの鏡を伴いながら地に這うロレイドに腰を起こした

 

「さて……話は聞いたわ。この襲撃は貴女の所が原因のようね?」

「ッ!はい…そう、です」

 

彼女の問に私は、先程まで至福から一転、一気に気分を下がってしまった

どうでもいいと思ったからミズファの計画を承認したのだ。

求められたから閲兵も行った。

ミズファの思い描く夢、望みを叶えた結果、戦火は広がり、あの不機嫌そうな表情の少年がいるこの町まで広がりを見せた

 

濡羽に『笑ってなくても変な顔じゃないよ』などと手ひどい侮辱をした少年だ。

その少年の滞在する街を、私にトゲを刺し爪を立てたあの少年がいる街を叩き潰してよいのか? 私はその事に引っ掛かりを覚え……あの方の問にも曖昧に答えてしまった

 

そんな私の様子にあの方は、笑みをいっそう深めた

 

「ふふ、その表情を見れば理解出来るわ。貴女はあの子に影響を与えられたのね、それも心に残るような深く、そして小さい傷を……」

「あの子……〈くずのは〉様は何を?」

「知りたい?」

「えぇ、私は、「濡羽様!惑わされてはいけません!」……」

 

水を差してくるロレイドをこれ程までにも殺したいと思った事はない

あの方との会話に割り込んでくると思いや惑わすなど、アリもしない事を口にするロレイドに……

 

「……うるさい、椅子ね。」

 

私の想いが通じたのか、〈くずのは様〉は椅子(ロレイド)から立ち上がり、綺麗な足を椅子(ロレイド)に叩き入れた。椅子(ロレイド)は、呻きながらも私の元へと転がってきた

余程、強く蹴られたのか椅子(ロレイド)は嘔吐しながらも剣を支えになんとか立ち上がった

 

「躾がなっていないわね、濡羽?」

「ッ!貴様!「椅子(ロレイド)」ッ!……申し訳、ありません」

 

これ以上の醜態は私の株を落しかねない、もし〈くずのは様〉に見捨てられたら私は、あの暗い部屋に閉じ込められてしまう

そんな事はされたくない、サレナクナイ……

 

「話が逸れたわね?……あの子は、『光』よ」

「『光』……」

 

私の意を読んだのか先程の遣り取りなど、無かったかのように話し始めた〈くずのは様〉は、あの子の事を『光』と云った

 

「そう、『光』……貴女が私やシロエに感じるモノをあの子は、みんなに与える事の出来る『太陽のような光』。私はそう思っているわ」

「たい、よう」

 

太陽……そのように例えられても私にとっての太陽はシロエ様であり、小さな痛みを与えた不機嫌そうな少年には温かみを……いや、感じた

あの子の刃でもあるシロエ様との絆は、甘美で温かく『太陽』のようであった

 

そうだ…あの子は、シロエに似た光を持っている。では、その光を濁していいモノなのか?

それはあってはならない。この光は私を照らすものだから……

自問をすれば答えはおのずと判り、今尚警戒心を解かないロレイル=ドーンに私は指示を出した。

 

「出来うるかぎり多くの〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァ-ン)〈闇精霊の従僕〉(ナイトシェイド・サーバント)を屠りなさい」

「っ!。……しかし、よろしいのですか?」

「〈西の納言〉の命令です」

「あら?本当にそうなのかしら?」

「ッ!貴様!まだ「控えなさいロレイド」ッ!しかし!」

「私は控えなさいと言ったのよ?」

「ッ!はっ!」

 

三度目はないとばかりに声を強めて嗜めればロレイドは、身を縮こませ私の後ろへと下がっていった

 

「私は自問自答しました。少年の滞在する街を、叩き潰してよいのか?と……でも答えが出ないのです。その代り、私の庭に光が届かないのは許させるか?と思えました」

「そう」

 

答えは、許せない

濡羽はヤマトの主であり、ここは濡羽の庭である。光がない庭など、そこは地獄でしかない。そんなこと許せるはずがないのだ

 

「私の答えは……間違っているのでしょうか?」

「私が言える事はただ一つよ。貴方が抱く感情もこの戦場も貴女が現実を直視して来なかった為に起きていると言っていいわ。……でも貴女は少し歩き始めた。そして貴女は命を椅子(ロレイド)に降した。貴女が考え貴女が見出した答え……私は嬉しく思うわ」

「なれば貴女様も―――」

 

一緒にきてくれるのですか?と口にする前に首を振られてしまう

 

「いいえ行かないわ。だって貴女がした命はギルドマスターとしての命。貴女のギルドにまだいない(・・・・・・)私に聞く理由もないし動く理由もないわ」

「……」

 

まだいない(・・・・・・)、そう貴女様は、まだ私の元(・・・・・・)にはいないのですね……

 

「なれば力を貸してください」

「私に命令する気?」

「いいえ……これは〈西の納言〉の濡羽ではなく、貴女様の濡羽からのお願いです。どうか御助力を……」

 

真っ直ぐに頭を下げれば後ろから驚愕と頭を上げる様にと説得をする声が聞こえるが、そんなモノどうでもいい

貴女様に願いを届けるには、地位も立場も捨てありのままの自分を曝け出さなければいけないのだから……頭を下げて駄目なら土下座して駄目なら私は、貴女様の靴さえ舐めて見せる

 

しかし、下げた頭にポンとつい先ほどまで感じていた温かさが宿った事に再び雫が溜まっていった

 

「最高ね、濡羽?……ならばその願い聞き入れましょう!貴女の悪を討ちに!」

 

顔を上げれば、貴女様は見慣れぬ衣装に身を包みながらも光の中へと消えて言ってしまった

それが何なのかは今の私には理解できない……それでも私には、貴女様が私の為に動いてくれている事実だけで胸が一杯になった

 

「あぁ……〈くずのは〉様…」

「濡羽様?」

「ッ!……命は下した筈です。早く行きなさい」

「ッ!はっ!」

 

その言葉は電流のようにロレイルの全身に痺れ渡り平伏したまま飛びずさるロレイルは二言目もなく、一気に町へと駆け出してゆく

ロレイルの甲冑をふりかえって、濡羽は時間が来たのを知った。自分の影がもやもやと姿を変えていき、九つの尾は空気を撫でるように姿を変えてゆく。効果が停止していた〈情報偽装〉が再起動し新たな姿を形作っていく。

濡羽の時間はおわり、ダリエラが帰ってくるのだ。

その曖昧な境界線で濡羽は微笑んだ。いつもの投げやりなそれではなく、自分がちゃんと微笑を浮かべていることに驚きをおぼえながら、濡羽は久しぶりにギルドマスターとしての命令権を行使する決意をする。

 

「シロ様。――わたしもあの子たちに少しだけ助力をしましょう。短い日々でしたが、旅の仲間として遇してくれましたからね。シロ様は気づくでしょうか。邪 魔だと思うでしょうか。あるいはよくやったと……? これはただの気まぐれ、贈り物ではありません。ですから、はやく……濡羽は、シロ様の声が、聞きたい です」

 

長く伸びた影から九つの尾が長く伸び、鴉と羽毛のエフェクトとして飛び去ったあと、そこにいるのは穏やかな風貌のひとりの〈大地人〉物書きだった。

 

彼女は戦場に降りしきる白い燐光の中で、小さなハミングを始めた。

それもまた〈大地人〉の知らない、地球の流行歌だった。

 

 

 

NEXT kingと猫と脳筋と狐



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この『4』の『8』るがキタ!わっち降臨!

更新シマシタワー……






打ち切りのお知らせ――――

 

現在、作者の近隣状況が慌しく変化した為、執筆する時間が無くなってしまったので連載を打ち切りにさせて頂きます

皆様にはご迷惑をおかけしますが、今後ともよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、新連載の『ヤマト不思議発見!』は随時、書き込んでいきますのでよろしくお願いします

 

著作者:〈くずのは〉より

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

えいぷりるふーる!でありんす!……え?遅い?

 

 

 

 

 

〈くずのは〉と二手に別れたにゃん太は、鋼鉄車両へと向かい、思いもよらない再会を果たしていた

 

ロンダーク

〈ススキノ〉のプレイヤータウンで何度か遠くから互いを見かけ、セララ救出の一件で対決しかけるほどになった男。ブリガンディアのサブリーダーを務めていた男が、何故か〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)の鉄甲車両の乗り、再び敵となって自分の前に現れたのだ

 

にゃん太の『ここでなにをしているのか?』と云う問いに対し、ロンダークは『仕事』だと答え、何も隠すつもりはないとばかりに、にゃん太の問に答えたが、その答えは、にゃん太の知りたいことをひとつも含んでいなかった。ロンダークの答えは、にゃん太の知っていること、つまり見て分かる通りのこと以上をなにひとつ示していなかった

 

さらに追及するが、ロンダークは嘲笑うかのように答えていき、そしてこの行為がの世界に戦乱をばら撒くことだと理解していると云うのに自身の行いを辞めようとはしなかった

 

その間違いを暴力によって排除する事は簡単だ。…しかし、にゃん太はそれが正しいとは思えなかった

なぜならば彼が抱える問題が、にゃん太も迷いを与えていたのだ

強制されてこの世界に根を降ろされ、この世界の住人であることをやめたロンダークは、世界がどうなっても構わない。だが、存在する肉体を生かすため、時間をつぶすため、ロンダークも何がしかの活動をしなければならない

世界を「そういうもの」だと決めてしまったロンダークに、にゃん太は説得を試みる

 

残された時間は少なく、かけられる言葉はわずか。そしてその少ない言葉がロンダークに届かないことを理解しながらも、その伝言が苦しみの中にある人に届くことは奇跡に属し、自身には起こす事の出来ない行為だとしても声を掛け続けた

 

若者たちは産まれなおすのだ。

理不尽な強制としてこの世に生を受けた幼子は、若者となり、己の意志でもう一度生誕を決意する。

自分が何者であるかを胸に刻み、望んでこの世界に生まれた二度目の赤子として自分自身の人生を歩み出すのだ。それは神聖なる契約であり、人はそうして連なってきた。それが人をいままで繋いできた。

にゃん太はそれを守るためならば、我が身を灰にしても構わないと思った。ロンダークがそれを知ってくれるのならば、どんなことでもしてやりたいと思った。

 

だと言うのに――――

 

「ぎゃあすかぎゃあすか、騒がしいねえ」

 

――――ロンダークの首を後ろから軍用サーベルが貫いた

 

血走った眼球をぐるりと回して、崩れゆくロンダークを足蹴にする赤毛の女性――〈東伐将軍〉ミズファ=トゥルーデの登場により事態は一転する

にゃん太は自分の身体が白い炎に覆われたかのような錯覚をおぼえた。………敵意を抑えることが出来ない。恐らく説得することができなかったロンダーク、それを殺した〈大地人〉の女に殺意を覚え、そしてシロエが危惧する事を体現したような考えを持つ女に怒りを覚えた

にゃん太のギルドマスターの迂遠すぎる善意は、おそらくこの戦いを予感していたのだ。シロエの洞察は正しかった。正しすぎたのだ。最善を尽くしてなお防げぬほどに。

 

戦いを、『生』と『死』のやり取りを楽しむ女ににゃん太は、剣を振るった

女の一撃は、〈大地人〉の剣は思えぬほどの威力だった。しかし、攻防はそれとは別だ。〈盗剣士〉(スワッシュバックラー)の剣技が獲物を狙う毒蛇のようにミズファの防御をかいくぐり、その肩口を切り裂いた。にゃん太は歴戦の剣士である。怒りに燃えてもいる。眼前の女軍人を許すつもりはなかった。跳ね上げる剣線を繰り返し、にゃん太は白い怒りに燃えて、ミズファののど元を狙った。すでにして追撃の〈アーリー・スラスト〉が女軍人の体勢を崩している。

決定的な一撃に世界がその身じろぎを止めたとき――――――事態は二転した

 

にゃん太とミズファの間に割ってはいった男が、総髪をなびかせ白鞘の柄が激突を食い止めると苦渋に満ちた表情で二人をはね飛ばしたのだ

 

「カズ彦っち」

「久しいな、班長」

 

 着込襦袢(きこみじゅばん)襠高袴(まちだかばかま)陣羽織(じんばおり)をまとった浪士風の青年、かつて〈茶会〉の攻撃指揮を務めていたカズ彦がにゃん太の前に立ち塞がったのだ

 

かつての仲間の登場に、喜びの再開を果たす―――とはいかず、2人の間には、氷の様に冷たく厚い壁が出来上がっていた

カズ彦の瞳は、暗く淀んだ色をしており、その背は、それは割り切れない思いのままに突き進み、幾つもの傷を抱えてしまった男の姿を現しているかのように感じられた

 

にゃん太はシロエからカズ彦の現状のおおよそは聞いていた。〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)において内側からの健全化を担っているのだと……しかし、カズ彦の瞳は、とてもではないが「健全化」などと呼べるような 色をしていなかった。強い憤りと悲しみを飲み込んで、泡一つ浮かばない底なし沼のような、それでいて鋼にもにた硬質な意思を放っていたる

 

彼が今、何を考え何を思って〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)にいるのか判らず、昔の仲間の傷ついた姿ににゃん太は、さらに声を掛けようとするが、ミズファに憚れ再び剣を構えてしまうが―――

 

「ミズファ。もう終わりだ」

 

なれなれしく前に出るミズファを、カズ彦は広げた左手で制した。

視線だけをにゃん太に向けたままクチを引き結んで、何かを訴え口を開いたが、事は三転した

 

「何をふざけたことをっ! カズ彦、あんたはただのお目付け役だ! 十席のおきてを忘れたの「ごきげんよう」ッ!誰だ!」

 

運命だろうか?『二度ある事は三度ある』有名な言葉であり、格言だが今度は、にゃん太に運命の神は微笑んだのだ

ミズファは、初めてにゃん太から視線を放し、鋼鉄車両の上から聞こえた声の主へと視線を向けた

白を基とし各所に金の装飾が散らばれた衣装に身を包んだ自分達の主である濡羽と同じ〈狐尾族〉の〈冒険者〉が鋼鉄車両に腰を下ろしてこちらを眺めていた

 

「やっぱり来てたのかよ………………姉御」

「久しいわね、カズ彦。……濡羽からの命は届いているかしら?」

 

ある人物(KR)からの注告で、カナミとは種類が違う核弾頭が発射された事を聞いていたカズ彦は、苦虫を潰したかの様に顔を歪め、顔を上げた

 

「……なんでもお見通しなんだな?あぁ、濡羽からの命令さ。たったいま〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)への最上級命令が下った。撤退だ。作戦は中断する」

「カズ彦っち!」

 

にゃん太のかつての仲間の声は冷たい泥のようだった。

その一事だけでも〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)という組織を、にゃん太は許したくない。

しかしその〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)を指導している一人がカズ彦でありインティクスであり、つまりはにゃん太の昔の仲間なのだ。

何があったのか。

にゃん太は、忸怩たる思いと苛立ちをかみしめる。

 

〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)は何を考えてるにゃ、カズ彦っちはなにを――」

「ご託はいいんだよッ」

 

一歩踏み出しかけたミズファ、そしてにゃん太に向かいカズ彦は抜き打ちざまに一刀を放った。白々と冴えるその刀の衝撃は大地を割るほどで、おそらく〈エクスターミネイション〉と呼ばれる暗殺者の一撃ではあるのだろうが、その威力はにゃん太から見ても逸脱していた。

 

―――――〈冒険者〉の域をはみ出ていたのだ。

 

「これがまだましなんだ」

「……」

 

声を出すことが出来ないにゃん太に、カズ彦は食いしばるような言葉を残すと、広い背中を向けた。それはかつて仲間だった〈放蕩者の茶会〉にも訪れた、この世界を覆う暗雲のようににゃん太には感じられた。

 

「班長や姉御が――〈大地人〉を殺さずに済む」

「………」

 

カズ彦の言葉はかつての友のものであり、だからこそ限りなく苦かった。しかし―――

 

「あら?私にとって〈大地人〉などどうでもいいモノよ?」

「「っ!?」」

 

彼女は止まらない、止まる筈がなかった

運命の神が微笑んだと、思っていたがそれは勘違い。彼女は、運命など嘲笑うかの様に地雷を踏み込んでいった

久しく出会ってなかった為、彼女の性格を忘れていたカズ彦は刀に手を掛け、舌打ちしながらも振り返った

 

「姉御…ッ!」

「そう怖い顔しては駄目よ?〈大地人〉は所詮、データの塊が意志を持つようになったAIに過ぎないわ。それが死のうがどうかなんて私には興味ない事よ」

「……くずのはっち」

「貴方達は、感情移入し過ぎね?勿論、するなと言わないわ。でも……貴方達、いえ全てが元通りになった時、彼らの心は死ぬのよ?……なればそれが早いか遅いかなだけじゃない」

「……くずのはっち、自分が何を言っているかわかっているのかにゃ?」

「えぇ、理解しているわ」

 

事もなし気に〈大地人〉が死んでも構わないと口にする彼女に、にゃん太は、同じギルドの仲間だというのに怒りの感情を抱いてしまった

 

「それは…それは!ルディっちやレイネシア姫も見殺すと言っている事と同じ事にゃ!」

「そうね、久しい者の死は悲しいわ。でも……私は割り切れる」

「くずの「いいねぇ!〈冒険者〉の中にも話が通じる奴がいるじゃないか!」ッ!」

 

先程まで沈黙を保っていたミズファは、呆然とするカズ彦を押しどけ愉快に口を歪めながら〈くずのは〉へと口を開いた

 

「いいよ、アンタの目!そうさ、この世に生を受けた生き物は皆、己の手札で殺し合うのさ。強き者はその強さを武器に。弱き者はその弱さを武器にっ!自分の生を勝ち取る為にね!!」 

 

もはやミズファの目には、〈くずのは〉しか入っていなかった

そこの猫もカズ彦も…いや、〈冒険者〉はみな『生』に関して過敏で慎重、生暖かく手緩い、生きている実感を、勝ち取る実感を与えてくれるこのではなかったが、〈くずのは〉の目には『生』も『死』も、そして『強者』としての賛辞も含まれており自分に似た同種の存在だと感じさせてくれる眼であった

 

「アンタはそこらの話が分かる奴だ。……初めて同意してくれる〈冒険者〉に会ったよ……どたい、私から濡羽様に口を聞いてやるからウチに来い――ッ!」

 

ご機嫌に〈くずのは〉に手を伸ばすミズファ、しかしその手は掴まれずに、腰に来る衝撃と激しい着弾音で遮られてしまった

 

なにが起きたのか判らないとばかりに腰の辺りを見れば、カズ彦が腕を回しており、着弾音がした場所を見れば先程まで自分が居た場所に、二つの鏡が突き刺さっていた

 

そして直ぐに理解した。自分は今まさに殺されかけていたと言う事に……

すぐさま、カズ彦を払い除けると〈くずのは〉へと向かいサーベルを抜いた

 

「テメェ…どういうつも「一緒にしないでくださらない?」……あぁ!?」

 

怒りが収まらないとばかりに怒声をあげるミズファに対し、〈くずのは〉は養豚所に送られる子豚を見つめるような目でミズファの事を見下ろした

 

「確かに〈大地人〉はデータの塊に過ぎないわ。私達が元に戻る、現実に返れば自然とココも以前の様なプログラミングで形成された無機質な世界へと戻るでしょう。でも……互いに生きれる道があるのなら、例えどんなに可能性が低くとも挑もうとする事は素敵だと思わない?」

「はぁ?なに言ってんだテメェ…」

「猫……確かに私は割り切れると云ったわ。でもね……今まで会った人々を犠牲にしなければいけないのであれば……今まで気づいて来た『絆』を壊す事無く共存できる道があるのならば、私は世界を敵に回すわ」

「「ッ!」」

 

世界を敵に回す……それも〈大地人〉との共存の為に……

にゃん太は、初めて〈くずのは〉の口から本心が飛びだた事に驚き、カズ彦は、この状況下でミズファに喧嘩を吹っかけるような態度をとった彼女に驚きを現した

 

そして喧嘩を売られたミズファは―――我慢の限界を迎えた

 

「……結局、テメェも甘ちゃんだったってことだよな…そんな甘い考え持ってんなら死にやがれ!」

「ッ!ミズファやめろ!」

「死ねェ――ッ!?」

 

カズ彦の停止の声も虚しく響き渡り、ミズファは〈くずのは〉に向い跳躍し、その首を跳ねる為にサーベルを振り向いたが―――彼女の首を跳ねる事は出来なかった

振り抜こうとしたサーベルが、突き刺さっていた筈の鏡によって弾き飛ばされ、自身の腹部には、同じく鏡が突き刺さっていたのだ

 

その衝撃は凄まじく、サーベルは半ばで折れ、ミズファの身体は地面へと叩きつけられた

にゃん太との戦闘ダメージもあり、立ち上がれないミズファを他所に〈くずのは〉は鋼鉄車両から飛び降り、ミズファの前に着地すると彼女に向い手を翳した

 

「…それともう一つ。私は貴女の事、好まないのよ。……だから一緒にしないでくれるかしら?今ここに、新たな理を書き換すっ!」

「ッ!?」

 

ミズファを中心に円陣が浮かび上がると文字数列が立ち上っていく

カズ彦は、ミズファに払い除けられた事でまだ動けず、にゃん太は、彼女の『口伝』の恐ろしさを理解している為、迂闊に近づけないでいた

 

そして原書は書き換えられた……

 

「〈情報書換〉・対象ミズファ!我、祖に楔を撃ち込も者なり!」

「っぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぅ!!!!」

 

彼女の翳していた手に集まっていた光が真っ直ぐにミズファに伸びていき、対象者に触れた瞬間、電流が走ったかの様にミズファは身体を震わせ声を上げた

電流は、〈くずのは〉の手から光が無くなるまで続き、光が消えるやいなやミズファは地に平伏せた

 

「……殺したのか、姉御?」

「いえ、中身を弄っただけだわ」

「中身 ?」

「えぇ、この蛆虫は何れ濡羽に牙を剥くわ。……その為の保険よ」

「……生きているのなら構わん」

 

ピクリとも動かなくなったミズファを目に入れたカズ彦は、〈くずのは〉に問いかけるが、答えは彼が望んでいた答えとは言え内容が危なげな言葉が含まれたモノであった

円陣も消失しており、もう害がないと判断したカズ彦は、ミズファを担ぐと鋼鉄車両へと足を進めるが――――

 

「カズ彦っち……」

「……班長」

 

まだ話はおわっていないと、暗雲を払い除ける為にもにゃん太は、踏み込んでくる

もう話せる事は話した、忠告もした――――だからこれ以上、此方に来ないでくれ

かつての仲間の想いにカズ彦は、手に持つ刀を強く握りしめるが――――

 

「行きなんし!king!………ご隠居は、わっち が止めんす!」

 

自分とにゃん太の間を遮るかのように、一匹の狐が林檎をものすごいスピードで積み上げていた

それは、容易に突破されるであろう防壁、何を馬鹿げた事をしているのだと苦笑される程のふざけた行為。だけれど、カズ彦には万里の長城に値するほど頼もしい防壁となっていた

 

「あね……すまない、化け狐!」

 

カズ彦の礼に尻尾を振って応える彼女は、ふっと思い出したかのように林檎を摘む手を止めた

 

「そうそう、伝言でありんすぇ。『貴方の危惧している事は私達が起こさせない』と〈くずのは〉が言っていんしたよ?」

「ッ!……達、か。随分と頼もしいな」

「うにゃ~…ッ!わっちのATF(Apple・tall・field)が突破されんし!はよ、行くざんす!king!」

「………恩に着る」

 

五段目から揺れが激しくなってきたATF(Apple・tower・field)を慌しく支える彼女を背にカズ彦は鋼鉄車両に乗り込んだのであった

 

遠ざかっていく鋼鉄車両を見送りながらも彼女は、なんとか9段積み上げた事に両手を上げて喜ぶが、ATF(りんご・たかい・りょういき)の横から顔を出す猫に尻尾をピン!と逆立てた

 

「わっちのATF(Apple・tower・fake)を突破するとは、ご隠居!ぬしは進撃する猫でありんすね!」

「くーっち、これでよかったのですかにゃ?」

「あれ?スルーでありんすか?わっち泣きんすよ?」

「吾輩は……まだ心の整理が出来ませんにゃ」

「またまたスルー!?わっち泣きんす!」

「カズ彦っちが、〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)で何をしようとしているのか、何を抱えているのか……心配ですにゃ」

「うにゃー!キシャ-!コーン!」

「……吾輩は、どうすればいいですかにゃ」

 

鳴き騒ぐ彼女を尻目に、にゃん太は積まれた林檎を一つ手に取ると軽く表面を拭き、口にした

彼女が厳選した林檎と言う事もあり、酸味も旨味も程良く調和した『美味しい』と思える林檎の筈が、今のにゃん太には美味しく感じられなかった

 

かつての仲間の……カズ彦が何をしているのか……何に苦しんでいるのか判らないにゃん太は途方に暮れ、また一齧りするが……美味しく感じなかった

 

「ご隠居は、知りたがり屋でありんすか?」

「?」

 

鳴いていた彼女は、にゃん太の手から林檎を奪い取ると、ものすごい勢いで齧り始め、芯まで食べきると再びATF(あっぷる・たわー・でっちあげる)から一つ、林檎を手に取り持て遊び始めた

 

「女々しいでありんすね~…何でもかんでも知っておかなくちゃ心配とは中三のパパさんでありんしょうか!」

「……」

「ご隠居は、過保護過ぎるでありんす!たまーには、中三も盗んだ三輪車でドライブスルーへ突撃したくなりんす!」

「……すみません、何をいっているのかわかりませんにゃ」

 

彼女が何かを伝えて来ている事は、理解できるのだが独特な彼女の言い回しに流石のにゃん太も理解できないでいた

いや、〈くずのは〉の時でさえ、話の根本を理解するには難しいと云うのに、頭の中が三回転し狂って回ってOB!ファー!している彼女の言い回しを理解しろと言う方が無理な話だ

 

もはや、ATF(あっぷる・あっぷる・あっぷる…あれ?)も残り3つまで崩され答えが出ないまま、時間だけが過ぎると思われたが、ため息を付くにゃん太に林檎が投げ渡された

 

「これは?」

「ご隠居、この林檎は美味だと思いんすかぇ?」

「……美味しい、と思いますにゃ」

 

嘘だ

先程食べた時には、なにも感じなく虚しさだけが口に広がっていった

でも、ここで正直に感想を口にするようなら彼女は暴れ面倒になると思ったにゃん太は、お世辞として彼女に合わせた彼女の機嫌を取る事にした

案の上、彼女もご機嫌で頷きにゃん太の手から林檎を掠め取り口にした

 

「わっちもそう思いんす。でも、ことわっちは、林檎の見極めはできんせん」

「それはそれは……これほどの林檎を引き続けるとは、運が良いですにゃ?」

 

これは、純粋な驚きが含まれていた

林檎が主食と云う事だけあり、彼女が買ってくる林檎は自分が見極めても同じ位……いや、それ以上の品質の林檎を購入してくるものだから、林檎に関してはそれ相応の知識を持っていると思っていたからだ

 

それを運で片付けるのは、些か強引すぎるが運命の女神と果物の神の二人を味方に付けているのではないかと思われる程の高品質な林檎達を見るにそうしか思えなかったが、彼女は尻尾を揺らし、にゃん太の意見を否定した

 

「違いんすぇ。わっちは、こなたの林檎たちを信じていんす。どこから来てどなたの手によって育てられたかも、なも知りんせん。……けど、こなたの林檎達は美味しいと信じて疑んせん です」

「林檎を信じる、ですかにゃ?」

「うにゃ!なも 林檎のみなを知らなくても、林檎は応えてくれる。わっちが林檎を信じなくてどなたが林檎を信じるのでありんすか?」

「ッ!」

 

彼女が何を言いたいのか理解した

三輪車の件も林檎の件も、全て同じ意味を持っていたのだ

 

「ありがとうございますにゃ………時には仲間を信じるのもまた仲間……カズ彦っちも自分のやれる事をしているだけにゃ。それが〈冒険者〉にとっても〈大地人〉にとっても良い行いだと、信じなくてはいけませんにゃ」

「御礼を言われる事はしてんせんよ?わっちは林檎の話しかしておりんせん。……して、ご隠居は林檎を信じんすかぇ?」

「今は、何をしているのか知らずとも吾輩は……仲間であるカズ彦っちを信じていますにゃ」

 

残り一個のATF(そうだ!俺達がアップルだ!)を手に取り、齧る

今度の林檎は、にゃん太の憂いも解けた事によって風味も甘美も共に最高な味わいを感じさせてくれる一品であったのであ―――

 

「あーーー!!!おしまいの一個!なんで食べておりんすか !!」

「色々と台無しですにゃ……」

 

のであった……

 

 

 

 

 

 

NEXT 俺達が!フォックスだ!

 




ATF

とある使徒が使用するバリアーではない
名称は色々、予想されるが、やっている事は全力で駄狐が林檎を積み上げているだけ

しかし、その気迫から展開された場所で、空気が凍りつき(白ける)敵の侵攻を食い止める馬鹿げた行為

なお、積み上げるのに対し串などで固定するのは邪道である
なお、真面目な方や魔物には効果は期待できない
なお、<放蕩者の茶会>メンバーには一人を除いて全員効果がある究極技(アルティメット・アーツ)


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〈善悪〉: 狐と採取者
いーえっくす: 一『フジ』・二『鷹』・三『なすび』


おひさしぶりです
新章の幕開けと言う事で書きました

本編は次からでお願いします


 

「「「「あけましておめでとうございます!!」」」」

 

日本サーバーにおいても1月1日……元旦は特別な意味合いを持っている

新年の始まりであり、新しい年を祝う祝日なのだ

それが、例えゲームが現実になった非常事態においても日本で暮らしていた冒険者達は、その習慣が抜けず、お祭り好きと言う事もあり日本サーバー全体が新年を祝っていた

 

そんなこんなで現在、〈アキバの町〉はお正月真最中なのである

昨夜は、年越しのカウントダウンを友人と共に行っていた少年組は夜遅くまで一緒にお祝いしていた為、起きたのは昼を前にした時刻であったが、それは年長者組も同じだったようでキッチンでお雑煮の準備をしているにゃん太以外は誰も起きてはいなかったのだ

 

「はい、おめでとうございますにゃ。今年もよろしくお願いしますにゃ」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

普段と変わらず笑みを浮かべながらも食卓にお雑煮と一緒にお節料理を並べていけば部屋に良い香りが漂う訳で―――

 

「はぁ~ぁ……にゃん太班長、おはよ」

「はい、あけましておめでとうございますにゃ」

「…あぁ、そうか。今年もよろしくね、班長」

「はいにゃ」

 

年長者組も香りに連れられて次々と起き始め、新年の挨拶を交わして行き一人を除いて全員が食卓に着いたのであった

色取り取りなお節料理は勿論、テーブルの中央に置かれた焼きたてのお餅は、自分で好きなだけ取って良いと云う集団生活に良くあるバイキング形式で振る舞われ、新年早々ギルドメンバーは、にゃん太の手料理を大いに楽しんだ

 

「お雑煮か……久しぶりに食べたよ」

「まぁ、一年に数日しか食わないしな?俺の実家だと作り過ぎて数日どころか二月まで餅祭り!なんて事があったぞ?」

「そうですね~。お餅はお腹に溜まりますしカロリーも高いのでアイドルである私は困っちゃいますね!でも止められない☆」

「私の実家では、余ったお餅は、オカキにしていたが…」

「勿論、用意してますにゃ」

「感謝する、老師」

 

案の上、正月あるあるを語りながら実家はどうだった、私の実家はどうだったと各家の正月事情を話す年長者組に対し少年組は、初めての行事で困惑気味のルティに五十鈴を筆頭に正月に関わる事を話していた

 

新年早々、賑やかに行われた今年初めての『記憶の地平線』の昼食だが、遂に駄狐も動き出す―――――――――

 

「Happy!new!ear!」

「アッツ!?…ってイヤーは耳じゃないですよ!」

 

――――――――シロエの耳に焼きたてのお餅を当てながら

 

新年早々、やらかす駄狐は、年を越しても勢いは止まる所を知らず、今度はその毒牙を少年組に向けようとしたが、食べ物で悪ふざけをする行為をにゃん太は黙っている筈がない

 

最年長であるにゃん太のやった事は簡単

少年組達に飛びかかった駄狐の襟元を掴み、軽く引っ張っただけ

言葉にすれば対した事は無いが、実際には息を止めるには十分な行為であり、慣性の法則に則り駄狐の首は自身の着物で絞められ、力なく項垂れた

 

にゃん太に首元を掴まれた駄狐は、席に降ろされてからもピクリとも動かず、眼は白目を剥いて口は半開きのまま、その口からは白い煙がいまにも飛び出そうであった

しかしながら、彼女の所属するギルドメンバーは『いつもの事』と気にも留めず食事を進めていった……もはや駄狐の口から白い煙が出るぐらいでは慌てる要因にはなり得ないようだ

 

そんな訳で駄狐を放置し、食後の一服を始めるメンバーの話題はこれからの行動であった

 

「お正月、か…実家に帰って寝てた思い出しかないや」

「俺もそうだな~」

「僕は~TV見てましてね☆」

「わっちも、寝正月でありんす!」

「…復活したか駄狐」

 

なんとも味気ない年長者組に対し、少年組は違った

 

「私達の家の近くには神社があって毎年、お廻りしていたんです」

「ちっちゃな神社だったけど、人も多く集まらないから雰囲気でてるんだ」

「へぇ~、私は友達と年越しして、そのまま初日の出を見に行ってたな~」

「初日の出とは何なのだ、ミス五十鈴?」

 

ルティは兎も角、三人は各々過ごし方を口にし、懐かしむように語った

ゲームの中に問わられて数か月、あと幾月もすれば一年になってしまう程の月日をエルダーテイルで過ごした彼らには、現実の世界が懐かしいのだろう

 

そんな少年組の会話を耳にしたシロエは、自身の正月と比べ活発に動いている彼らを眩しく感じながらも一刻も速く現実世界へと帰る切欠を探さなければと新年早々、只でさえ厚い顔の皮を更に厚くさせた

 

そんなシロエの心情を察したのかにゃん太は、シロエの前に食後の御茶を差し出した

 

「シロエっち…気持ちは判りますが、今日ぐらいは肩の荷を下ろしても良いと思いますにゃ?」

「班長……」

「みなさん、シロエっちが頑張っているのは十分知っていますにゃ。でも……空気の張ったままの風船は、長持ちは出来ませんにゃ。時折は、空気を抜かなければにゃ~」

「……うん、そうだね」

 

差し出された御茶を口にすれば程良い苦さと日本茶特有の香りが口に広がり、焦っていた心を落ち着かせてくれる

 

「そうですにゃ~、空気の入れ替え……気分転換に外に出かけてみては?」

「………え?」

「初日の出には、日が昇り過ぎていますが、神社へ行ったり、〈第8商店街〉で福袋をやっていると聞きましたにゃぁ」

「う、うん。ソウダネ……」

 

正月早々、働く事を止めたシロエは、日曜のお父さん如くダラダラと寝て過ごそうと決めていたのだが、にゃん太は口早に語っていく

次から次へと出てくる正月ならではのイベント事に、途中から話しに加わった少年組は眼を輝かせ、同じ心境な筈の直継やてとらまでもが、乗り気になってしまっている

アカツキは、既に外出を決めたようでミノリと共に何を着ていくのか話し始めた

 

頭の回転が速いシロエは、今の状況が自分の望む『寝正月』から掛け離れていき、段々と追い詰められている事を理解した

少年組は最初から出掛ける気でいるし、直継とアカツキ、てとらは、にゃん太に言い包められている。

段々と追い詰められていくシロエが、この状況を打破する為に考えた最終策は―――

 

「……くーさんは、どうするんですか?」

 

最終防壁!動かざること山の如し!我がギルドのリーサルウェポン!絶対に外出を拒否するであろう自由気ままで、堕落と怠惰を愛する駄狐の面倒を見ると言う策を思いついたのだが―――――

 

「着物用意したであるんす~」

「ちょっと待て駄狐!この着物、裾が短すぎるぞ!?」

「ヘンリーと共同開発のミニ着物でありんす!……ニーソもご所望でありんすか?」

「わぁ~!この着物、裾にひらひらが付いてて可愛い!」

「こなたは、着物ドレスでありんす。洋と和の合体と言っておりんした」

「可愛いんですけど……少し恥ずかしいですね?」

 

シロエは失念していた

お祭りや運動会、年越しですら寝ずに暴れ回っていたうちのリーサルウェポンは、『遊び』が関わるイベントには全力を出す狐であったことを……

 

そのやる気を少しは、仕事にも回して欲しいとは思うが、今は何も言うまい

退路を断たれたシロエは、重い腰を上げた

 

「みんなで行こうか」

 

円卓会議参謀役、根暗眼鏡ことシロエが率いる『記憶の地平線』は、活気あふれる〈アキバの町〉へと出かけるのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

 一『りんご』・二『アップル』・三『あっぷる~ん』

 

 

 

アキバの町は、年に一度のイベントを楽しむ為に賑やかに色を染めていた

もとより関東屈指のホームタウン、〈冒険者〉が多く集まるこの町は、円卓会議の結成で、治安も安定し物流や商売が盛んになった事は勿論、〈大地人〉との付き合い方を真意に考えているので、〈大地人〉の在住者も多い

そして、この町に滞在する〈冒険者〉は、日本人が多くお祭り好きな人種と言う事もあり、イベント事には常に全力であった

 

アキバの町のメインストリートは、出店で賑わい、すれ違う〈冒険者〉や〈大地人〉は普段の格好とは違うお正月特有の着物を身に纏い町を歩いていた…………時折、いや頻繁に月と狐のマークが付けられた裾の短い着物を来た女性を見かけるが、まぁいいだろう

 

そんな僕達も今は、月と狐のマークがついた着物を着ているのだから……

 

「しっかし、これは計画犯だな」

「……うん、ヘンリエッタさんも関わっているって言ってたし、財源確保?いや、うちに入って来ている財源はないから……趣味、なのかな?」

「趣味で町を染めるっつーのもスゲーな?」

「でも町は賑やかになりましたにゃ~。女性だけではなく、男性も着飾り、新年を新たな気持ちで迎える事が出来たと吾輩は思いますにゃ?」

「……うん、そうだね」

 

行きかう人々の顔は、全員活き活きとしており、長い月日をゲームに閉じ込められている事など忘れ……いや、今を楽しもうと云う気持ちが溢れ出ている様であった

 

………まぁ、仕掛け人達は、そこまで考えて行動したのかは定かではないけど、目の前で尻尾を逆立て騒ぎ経っている駄狐は。絶対にそこまで考えて行動してはいないだろう

 

「なぜに、着んしてくれんですか!折角作ったのに!」

「あ、あんなモノ恥ずかしいに決まっているだろうか!着たい奴だけ着ればいいだろう!」

「ツッキーが普通の着物を着んしたら七五三でありんす!」

「っ!人が気にしている事を云うな!」

「うにゃ!?暴力反対でありんす!」

 

いつもの暗殺者らしい恰好とは違い、鮮やかな色合いの着物を身に纏ったアカツキは、怒りながら駄狐に拳を振るっていた。普段と違う服装なため、持ち味である機敏性が失われおり、全て避けられる結果になってしまっていたが、僕は、七五三だろうとなんだろうと、着物姿のアカツキは、似合っていると思うけどな?

 

「七五三…、私も人の事云えないですね?」

「ならミノリも着ればよかったじゃん?普段着れないんだから冒険しなきゃ!」

「冒険…ですか」

 

五十鈴の言葉に考え込んでいるミノリは、アカツキと同じ普通の着物だが、年相応の可愛らしい柄の着物でミノリにとても似合っていた

一方、五十鈴は、本人の言う通り冒険したようで、着物ドレスって云うフリルの付いた着物を着ている

 

「……なぁ、ルティ兄」

「なんだね、トウヤ?」

「てとら…さんは、男だよな?」

「ん?男性も着物を着るのではないのか?」

「いや、そうだけど……」

 

うん、トウヤの気持ちはわかるよ

自称アイドルのてとらは、袖にフリルが付いたミニ丈着物を着ているのだから何とも言えない。似合っているけど………ねぇ?

 

あぁ、駄狐?

普段と変わらない格好だよ?……ただ、十二単を着ようとしていたけど、途中で面倒になったのか破り捨てていたけど

 

みんなの着物姿を眺めながら進む事、数分。アキバのメイン広場に建てられたアキバ三大生産系ギルド共同建設であるアキバ神社に辿り着いた

マイハマやイコマには立派な神社はあるけど、そこまで行くのには時間が掛るし、モンスターに遭遇する危険もある為、現地の〈大地人〉の事も考え参拝出来ないのであれば作ってしまおうと建設されたアキバ神社は、急突貫の割には、立派な仕上がりになっていた

 

昼過ぎと言う事もあり、来場者は落ち着いていたので直ぐに賽銭する事はできた

なお、賽銭は円卓会議の運営費用に回されるそうだ

 

己が賽銭を投げ、願いを込めてお祈りする

閉じていた眼を薄らと開いて見ればミノリ達は勿論、直継やアカツキ、班長も真剣にお祈りをしている。神頼みで解決うる事象なのかは分かり得ないのだが、何かに頼りたいという気持ちは少なからずみんなの心にあるのだろう

 

シロエも再び、祈り直そうと眼を閉じ掛けたが、やけに五月蠅い鈴の音に視線が向いてしまった

 

「Happy new ear!!!ひゃっはぁぁぁぁあ!!!」

 

閉じかけていた瞼が見開き口が開いてしまう

目の前には常識はずれな行動をするギルドメンバーが……鈴緒にぶら下がりながらターザン如く左右に揺れる駄狐の姿があったのだ

 

罰当たりとかいう前に何でそんな行動に出るのかシロエには理解できなかった

彼女は日本人だよね?いや、外国人だとしてもあんな行動をとる人なんていない!

むしろ、人としてどうかと思われる行動だ

 

神頼みとか嫌う彼女の事だから出店目当てで一緒に付いて来たんだと考えていたシロエは、己の考えの甘さを後悔し、罰当たりな行為を続ける彼女を止めようとしるが―――

 

「ぁぁぁ!…あ、取れたでありんす」

「取れたんじゃなくて取ったんだよ!」

 

事態は悪化する

カランっと乾いた音を鳴らしながら大鈴は、シロエの足元まで転がっていった

徐に拾い上げ、大鈴と鈴緒を接続部を確認してみるが……完全に壊れていた

ザワリっと冷や汗が背中からあふれ出した

 

「……お餅いる?」

「くーさん、お餅じゃ付かないですから」

 

どこから取り出したのかわからないが、手に持ったお餅を『うにょ~ん』と伸ばしながら見せ付けてくるが、そんなモノでどうにかなるようなモノではない

もはやシロエだけの手には負えない、助けを求めお祈りを続けているであろう仲間に声を掛けようとしたが――――――――

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

そ  こ  に  は  誰  も  い  な  か  っ  た

 

 

 

 

 

 

「シロエ殿、少しいいかな?」

 

困惑するシロエの肩に手が置かれ、振り返ると額に『♯』のマークを浮かべた〈第8商店街〉を始めとした三大生産系ギルドのメンバーたち

 

「っ!カラシンさん!これには訳がありまして!そ、そう!うちの駄狐が!……っえ?」

 

数十人の職人に囲まれたシロエは、焦りながらも全ての原因は駄狐にあると伝えようとするが―――――――

 

 

 

 

 

 

そ  こ  に  は  狐  は  い  な  か  っ  た

 

 

 

 

 

 

「はっ!?…………ゆ、夢?」

 

体を起こし、辺りを見渡して見れば普段と変わらない自分の部屋

急ぎカレンダーに眼を向ければ………元旦

 

「夢、か……はは……よかった」

「主、起きているか?」

「う、うん、起きてるよ」

「そうか……あけましておめでとう」

「あけましておめでとう、アカツキ」

 

机に置いた眼鏡をかけ、アカツキを迎えれば普段の格好と変わらないアカツキの姿

カレンダーを確認しても日付は元旦。あれが夢であった事が、わかり大いに安心できた

 

「老師が朝餉だと。それとお雑煮のお餅は何個が良いかと聞いていた」

「うん、わかった。お餅は……2個でお願い」

「承知した……時に、主よ。寝汗が凄いがどうかしたか?」

「はは……ちょっと夢見が悪くてね。アカツキは、初夢は見た?」

「うむ……自分自身が出て来てビックリした所で夢が覚めた。主は?」

「………クーさんが、暴れてた」

「駄狐は、夢の中でも迷惑をかけるのだな?」

 

苦笑いと共にベットから出て大きく背伸びをした

そう、あれは夢だったんだ。確かに神様とか嫌う彼女ではあるが、あんな常識はずれな行動を取る訳ないよな

 

「そうだ、主」

「ん?どうしたのアカツキ?」

「今日は、みんなでお廻りに行こう。クーが着物を用意してくれた」

「そうだね、たまには…………え?」

 

ま   さ   か

 

「なんでもヘンリエッタと共同開発した着物が多く売れたようで機嫌が良かった。たまには役に立つ事もあるんだなってどうかしたのか主!?」

「ハハ……ナンデモナイデスヨ?」

 

 

この後、めっちゃくちゃ駄狐を監視したのであった

 

 

 

 

 

 

 

NEXT ―――待て、しかして希望せよ



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――待て、『4』かし希望せよ by『9』―

なんだがオリジナルティが無い気がしてならない
原作もシリアスな話だから当然シリアスになるのだけれど、もっとはっちゃけたい


『迎えに来たよ』パート1

これは、私が友人から聞いた話だ

私の友人をイニシャルで『K・R』と呼ぼう。……イニシャルであってプレイヤー名では決してない

『K・R』の話では、午前2時に小児科の待合室で女性の人影が現れると言うモノだ

彼の働く病院では小児科の待合室を利用できるのは午後21時までと決まっており、それ以降の時間帯は誰も利用できなくなっている

病院によくある噂話だと一蹴するのが大人の対応だが、小児科を利用するのは皆子供

小児科医も噂の収拾を付けなければ入院する子供達を怖がらせストレスの原因に成りかねないと『K・R』に真夜中の見回りをお願いしたのだ

 

『K・R』も最初は乗り気ではなかったのだが、小児科医が必死に頼む込むので了承し、彼が夜勤の際には必ず小児科の待合室を通るようにしたのだ

 

1日経ち2日経ち……1週間がたった

毎日の様に病院に呼び出され『K・R』が「この病院ブラックだ」と思い始めた頃合い……待合室に女性の人影が現れたのであった

 

『迎えに来たよ』パート2へ続く……

 

「世にも奇妙なお話し」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「偶には気分天下も必要でありんすね?こん『ちんどん屋』……『K・R』がどんな痛とう目にあいんすか、結末を知るんは茶会のみでありんす――――して」

 

本をストレージの中に収め、窓からシロエの様子を窺う。

彼の手には一通の手紙が握られており、真剣な面持ちで読んでいるが、次第に表情が険しくなっていった

 

「世界に降りかかる脅威を示した手紙であり、現実へと戻る手掛り…こん、大きな一歩でありんしょう。しかして、新たな火種へとなりえる大きな案件」

 

手紙――ロエ2から齎された手紙が、今後シロエにどのような影響を与えるのかは誰も知らない。しかし―――

 

「ぬしがどんな結論をお見なんしとうくれるんか……どのような答えを出しんとしてもわっちと共になぐさみしてくれりゃ、わっちは嬉しく思いんす」

 

一匹の狐は、青年の行く先を想像し、珍しく静かに笑みを浮かべたが、、すぐさまいつも通りの猟奇的な笑みを浮かべ、シロエの居る『執務室』へと窓を突き破り飛び込んだ

 

窓ガラスの割れる音とシロエの驚く声が<記録の地平線>に木霊するのであった

 

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

町ではぬしが法律かもしれないが、ここではわっちが法律でありんしょう!

 

 

 

 

シロエは、天井を仰いで何度目になるのか、わからない溜息を吐き出した。

手の中には折り目の付いた数枚の便箋、床にはバラバラに割れたガラスの欠片

アキバ北部に立つ廃ビルをリフォームしたそこは、いまやシロエにとって「家」ともいえる場所であった。それはなにもこのレンガ風の外壁を持つ七階建てのビルをシロエと仲間の一人が知恵を巡らせて購入したからではなく、シロエを迎えてくれる仲間たちがいつでも一緒にいてくれるからだ。

 

シロエにとって<記録の地平線>のギルドホームは、何よりも大切な場所へとなっている

そんな場所を壊そうとする敵がいるのであれば、シロエは全力で贖い抵抗するだろう。そしてそんな大切な場所を壊した人物にはそれ相応の罰を受けて貰う事は、腹黒やら眼鏡が本体とか言われるシロエじゃなくとも当たり前に思う事だろう

 

シロエは、もう一度溜息を吐き出し、たった今ガラス窓を突き破り侵入してきた敵に視線を送った

 

「それで……なんで、窓から入って来たんですか?『窓』の意味を知っていますか?」

「むしゃくしゃしてやりんした。後悔はしていんせん!あと~、『窓』は~破る為にありんす!」

「はぁ~……もういいですよ」

 

某サル山の動物のごとく『反省』を姿で現すかのように正座はしているが、窓を突き破った事に関しては全くと言って良い程に反省の色が見えない、窓を突き破った行為もその場の『ノリ』だった事が嫌でも判ってしまう

現に今も正座をしてはいるが、机の上と言う非常識な場所(・・・・・・・・・)で、だ

 

『窓を破って入室してみたくなったからやりました』と言う狂言じみた理由など聞く経験なんて滅多にありえない事なのだが、その『ありえない』を常日頃に巻き起こす駄狐に耐性が付いてしまったシロエは溜息を出すだけで特に驚きはしない

最初は何事だとガラスを割られた事に対しては驚きはしたが、耳に入った「ダイナミックお邪魔しんす!」という言葉と満面の笑みが目に入ってしまえば「あぁ、またか…」という気持ちになってしまうのだ

 

シロエは執務用の椅子の背もたれで背中をぐっとそらせた。

そして机の上に置かれた手紙を折りたたんで封筒に戻し、いまだ机の上で正座を続ける彼女に見せ付けた

 

「クーさんは、この手紙の差出人について知っていますか?」

「エロ子でありんしょう?」

「え、あ、うん。……随分、素直に答えてくれますが、彼女の事はどの辺まで知っていますか?」

 

やけに正直に答えたので、少し警戒しながらも先を促すが帰ってきた言葉は手紙に書かれた内容とほぼ変わりなかった。彼女の事だから独自に調べているだろうと踏んでいたシロエは、正直拍子抜けしたところと手紙の無い様に間違いがない事を知り、三度目となる溜息をこぼした

 

「溜息ばかり吐くと幸せが逃げんすよ?」

「大半はクーさんが、原因ですからね?それに溜息を付きたくもなりますよ?……確かにこの手紙は大問題だけどさ。そんなこと言ったら、〈円卓会議〉のことだって、ミナミのことだって、〈神聖皇国ウェストランデ〉のことだって、クラスティさんのことだって、全部重大なんですよ?」

 

口に出して改めて気が付いたのだが、どれもこれも洒落にならない事態だ

クラスティ自身はともかく、彼のギルド〈D.D.D〉は運営上の問題が発生している。そもそもギルドリーダー不在でここまで問題が起きなかったほうが不思議なのだ。運営スタッフが優秀なおかげで今のところ周囲にまで問題は広がってないが、内部的には疲労がたまっているという報告も受けている。

 

「ミナミ……〈一人軍隊ジョン・ランボー〉のことでありんしょうか?」

「『神聖皇国ウェストランデ』です……調査によれば、大規模でこそないものの、徴兵や騎士団の再編などの活動が見られるとありました。あぁ、ミナミで思い出しましたが、クーさんは、にゃん太班長と一緒に〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)と接触しましたよね?その……どんな感じでした?」

 

シロエ自体は、ヤマトの西半分をまとめ上げた〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)自体を悪いことだとは思っていなかった。そういう風に分裂した状態でも〈冒険者〉は結局現代日本に根を持つ現代人である。そうである以上、戦争になるということはないと思っていた。いいや、今でも思っている。

 

しかし、その常識は〈大地人〉には通じないらしく、西を取りまとめる〈神聖皇国ウェストランデ〉は〈自由都市同盟イースタル〉と戦争をするつもりであるように見えた。

そしてひとたびそれが始まれば自分たち〈冒険者〉も決して無関係ではいられないとシロエは思っている

〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)がそのことに気が付いていないなんてありえない。元〈放蕩者の茶会〉のインティクス女史が上の地位にいる事は知っている。そういうところに対して、鋭敏という言葉では足らないくらいの洞察力のある人だとシロエは思っているのだ

 

それだけではない

情報に寄れば〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)には元〈放蕩者の茶会〉のメンバーが数人所属していると聞く

一緒に冒険し、絆を深めた仲間である彼らが、今ミナミで何が起きているのか、それがどのような事態なのか理解していない筈がないと今も彼らを信じているのだ

だからこそ、シロエは〈Plant hwyaden〉(プラント・フロウデン)に接触した彼女に、実際にミナミがどうなっているのか訪ねたかったのだが―――

 

「さぁ~?オパーイの付いたイケメーンの尻にkingが引かれていんしたけど、特に問題はないでありんすぇ。むしろ、kingにそんな趣味があったなんて知りとうもない事実を知りんした」

「……うん、真面目なクーさんは家出しましたね?」

「うにゃ!?」

 

案の上、真面目に答えてくれるはずがなく、何を言っているのか判らない言葉で返されてしまった

正直、先程までは比較的真面目に受け答えしてくれてはいたが、窓を突き破って入ってくる駄狐だ。最初から期待するんじゃなかったとシロエはバタンと机に突っ伏した。

 

次々に舞い込んでくる厄介事に『死んだふりをしてたら厄介ごとが去らないかな?』と甘いことを考えたが、ちっとも去らなかった。むしろ、伏せた頭の上に林檎を積み上げてくる駄狐が調子に乗るだけであった

 

「シロエち」

 

ノックに続いて扉を薄く開けて覗き込んできたのは、にゃん太だった。

シロエがどうぞ、と招くと、にゃん太はほっそりとした身体をすべり込ませてきた。

それを見たシロエは頭の上に置かれた林檎を4つ返し、1つを応接セットの上に置いてソファに腰を下ろした

 

「にゃん太班長も座ろうよ。……クーさんもどうぞ?」

「お仕事はいいのですかにゃ?」

「疲れちゃった」

「わっち寝る!夜なべは嫌で「この林檎がどうなっても?」は、は、腹黒!」

「にゃはは。それならご相伴するにゃ」

 

シロエの言葉に笑いながら答えたにゃん太は、手に持ったシルバートレイから3つのカップを置いてから腰を下ろした

カップの中身はホットチョコレートのような飲み物で、温かくて、とびきりに甘かった。

春先だとは言え、窓が割られてしまっているので、風が通り抜けるたびに肌寒く感じるのだが、ホットチョコレートが身体を温め直してくれているかのように感じ、にゃん太の隣に腰を下ろしていた駄狐は、その甘すぎる飲み物に舌を巻いていた

 

そういえば、彼女は猫舌だったなぁ?と、どうでもいいことを思い出すのは疲れている証拠だとシロエは自己診断した。

 

「シロエちは頑張りすぎですにゃ」

「班長もね」

 

シロエが小さく笑い、にゃん太はびっくりしたような表情をした。

ミノリたち年少組の護衛に向っていたにゃん太が、帰って来た時からすこし思いつめているのは、シロエだって気が付いていた。

にゃん太からは、起きた出来事の報告は受けているし、物静かなにゃん太は多くを語らなかったが、何を見たかシロエには想像できた。

だからこそ、にゃん太と行動を共にしていた彼女からもっと詳しく聞きたかったのだが、のらりくらりと逃げられてしまったのだが……

 

「〈大災害〉からもう少しで一年たつんだね」

「あとひと月もたてば、そうなりますにゃ……」

「うん」

 

〈大災害〉が短期間で解決する一過性の事件であればきっとそれは問題にならなかった。驚嘆すべき未曽有の事態にショックを受けるのは人間として当然だし、茫然とするのも、取り乱すのも無理はない。

 

「長いようにゃ、短いようにゃ時間がたちましたにゃ」

「うん。帰りたい人、いるんだろうね」

「そうですにゃ……。たぶん……全てを捨ててもと、そう願っている人はいるのでしょうにゃ」

「そうだよね」

 

シロエだって帰りたくないと言えば嘘になる。しかしそれは「帰れるならば」だ。〈大災害〉から〈円卓会議〉を経て、アキバの街の住民のほとんどがこの世界に馴染むことができた。「もちろん帰りたい。帰れるならば」といえる程度には。それは「帰りたい」と思う一方で「帰れないのならば、仕方ない」という覚悟をも内包する言葉だ。

全てを捨てて、というのは大きな言葉だ。

全てを想像できる人も、捨てられる人も、いやしないとシロエは思う。

それはむしろ、自分を消し去りたいという意味なのではないか? 何もかもをどうでもいいと無に帰すようなそんな思いなのではないかと想像する。

しかし誰もがこんな頭のおかしくなるような事件に対応できるわけではない。それは、仕方がないことだ。そして一年間という時間は、その人々が、馴染むことができなかったことを証明することになった。

彼らはこの世界にいたいとは思っていないのだ。それは比較をするのならば「帰りたい。帰れないとしても」という言葉になるだろう。

 

「その気持ちはわからないわけではないけど……」

「ええ、わかるのですにゃ。ですから責められないのですにゃ」

「切ないね」

「つらいですにゃ」

 

二人はチョコレートを覗き込むようにして、静寂を共有した。

人々の中に未来を見ることができないほどの絶望が存在する。それは、どんな強力なモンスターよりも鋭い痛みをシロエに与えた。

 

「シロエちは―「帰りたいのかしら?」…」

 

にゃん太が珍しく言いよどんでいる間を取ったかのように先程まで沈黙を保っていた人物から声が掛けられた

 

「……クーさんは?」

「寝たわ。子供が起きて良い時間じゃないわよ」

「そうですか…」

 

シロエは彼女の登場を心の底から安心した。先の言葉もそうだが、にゃん太には無理をさせている。この世界の事もそうだが、自分の不安そうな表情もにゃん太に無理をさせている要因だと感じているのだ

だからこそ、彼女が居れば答えが見つかってもいない返答でも聞いてくれると信頼しているのだ

 

小さな溜息の後、シロエは絞り出すように言った。

 

「帰るべき、なんだと思います。僕たちはやっぱりこの世界にとって異物です。この世界に生きて歪んでしまう人もいる。この世界を歪めてしまう人もいる。」

「ルンデルハウス=コードの事を言っているのかしら?」

 

彼女の返答に頷く事で答えたシロエは、更に語りを続ける

 

「ルディだけのことではありませんが、それはもしかしたら元の世界にいた時だってそういうことは起こるかもしれない。いや、起きてたんだと思う。でもやっぱり、避けられる悲劇なら避けるべきだし、僕らは――」

「薄っぺらな結論ね?」

「――ッ!」

 

まるで出来の悪い生徒に呆れるかのように言葉を遮った彼女は、机に置かれたりんごを手に取ると二つに割り、片方をシロエに差し出した

 

「シロエ……林檎でなにかしなさい」

「?」

 

差し出されたのは半分に割れた林檎。

食材である林檎で何かしろって言われても考えられる答えは一つしかない

戸惑いながらもシロエは、林檎に齧りついた

林檎の良し悪しなんてわからないけど彼女が持っていた林檎だけあって林檎特有の甘みと酸味が口一杯に広がり、とても美味しかった

 

「そう。じゃぁ、他にはあるかしら?」

「え?」

 

さっきは、普通に齧って食べたけど他の食べ方!?

にゃん太班長に助けを求めようとしても、彼女に急かされ助けを求める事が出来ない

半分に割られた林檎を今度は口一杯に頬張った

 

「ふふふ、下品な食べ方ね?」

 

扇子で隠しながら笑みを浮かべる彼女にどのように応えたら良いのか判らずにゃん太に助けを求めるが、彼も彼女の行動の真意が判らず首を傾げていた

 

「シロエ、食べた林檎は何処に行くのかしら?」

「………お腹の中ですが?」

「そう、どんな『食べ方』を試したって『結果』は同じ結末になる。今の貴方がそれよ」

 

彼女の言い回しは、理解する為には頭をフル回転させなければならないけど、今の彼女の言葉はすんなりと理解はできた

どんなに『考え方』を変えたとしても同じ『答え』に辿り着いてしまう。だから、『林檎』の可能性がまだある事を模索しろって言う意味だと思う

常に二つ以上の答えが導ける彼女達だからこそ僕とは違う可能性を導く事が出来る、彼女達なりの『答え』、が……

 

「視野を広く持ちなさい、と言っても今の貴方に先を見ろと語るのは酷ね?なら少し教えてあげるわ……渡来者からの手紙は信じるに値するわ。即ち―――」

「帰れるとは言わないまでも、出来る。……ですか?」

「Excellent……とりあえず今は目の前の事に専念しなさい」

 

ソファから立ち上がった彼女は、9本の尻尾を揺らした

彼女の立ち去る姿を見て思わず、手に持った林檎を握りしめ声をあげた

 

「〈くずのは〉!」

「……なにかしら?」

「〈くずのは〉達は、……林檎をどうするの?」

 

決して彼女達の出した答えが、自分の答えになるとは思わない。だけど、彼女達が導き出した『結果』が僕にも影響を与えてくれるかもしれないという根拠もない思考が僕を突き動かした

 

「ふふ、こうするわね」

 

いつの間にか先程まで手に持っていた林檎が、酒瓶とすり替えられており、その酒瓶の中に半分に割られた林檎が納められていた

 

「シロエ、概念だけで考えるのは辞めなさい。何も食べるだけが林檎ではないわ。……そうよね?」

「ッ!……そうですにゃ~」

 

にゃん太は、手渡された酒瓶を左右に振りながら笑みを浮かべ立ち上がると彼女に続くように部屋を後にしたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『長男病』は一人だけにして欲しいものだわ」

「にゃ~……申し訳ないですにゃ」

 

 

 

NEXT シリアスは牛乳に入れてボッシュート!え?それはシリアルだって?



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『5』d of a f『0』x is me

クーさんの年齢が判るかもよ!

話自体はさほど進んではいません
ただこの話は規定に引っ掛かる可能性がありますので書き直す確率は高いのでご了承ください

本当にすみません


『GO』d of a f『0』x is me

 

『痛かったら手を挙げて……あげさせねぇよ!』パート1

 

これは私が友人『酔い狐』から聞いた話だ

彼女の勤務先は某歯医者であり、美人が多く勤めているともっぱらの噂であり、私に話を語る『酔い狐』も……まぁ、美人に入る女性だ

 

そんな美人ばかりが働く歯医者ならば、美女目当てで訪れる男性利用客は多く、美人であるが為に問題も多く引き起こってしまっている

連絡先を聞いてくる、食事に誘われる、胸を見つめてくる等といった行為が少なからず発生しており、時には直接的なセクハラまで行う男性利用者も出て来たのだ

 

見るや誘われるぐらいなら彼女達も笑顔で流せたであろうが、接触してくるのは予想外だったらしく、運悪く被害に遭った新人の歯科助手は休憩室で涙を浮かべていたそうだ

 

彼女の涙を見て『酔い狐』は憤怒し、セクハラをした利用者に復讐する事に決めたのだ

この活動はセクハラ利用者に対する院長をも巻き込んだ歯科助手による復讐劇へとなったのであった

 

『痛かったら手を挙げて……あげさせねぇよ!』パート2へ続く

 

「世にも奇妙なお話し」著作者:くずのは

より抜粋……

 

「………わっちも歯医者だけは敵に回すのはよしんしょう」

 

歯医者に嫌な思い出もあるのか、頬に手を当てて顔を歪めた彼女は、懐から水晶を取り出し、鏡と同じ様に反射で自身の歯を確認し始めた

 

「永久歯は生え揃ったばかり、虫歯はないと思いんすが油断しんすよう心掛けんといけんすなぁ~?……おや?」

 

一通り虫歯のチャックを終えた彼女は、水晶から林檎へと持ち返るが、水晶から漏れる話の内容が彼女の視線を水晶に釘づけにし、瞬きも許さないとばかりに彼らの話を集中して聴き入ってしまう

 

「疫病、醜聞、度量、結婚、そして死霊占い。『昼に照らされた夜』に記されし84柱の厄災達の出現は『ノウアスフィアの開墾』が齎したモノなのか、それとも『大災害』が齎したモノなのか……知るのは神のみが知る、でありんすか?」

 

彼女の問に答えられるものはいない

なぜならば、彼女の問に答えられるのはここにはいない第三者であり、この災害を起こした張本人なのだから

 

「……もしかしたら『厄災』も『大災害』の被害者なのかも知れんせんな?」

 

被害者たちは事件の真相を追い求める事しか出来ない

だが、災害の存在は真実に近づくための道標になる事は変わることのない事実だと今の彼らは信じているのだ

 

「……信じれば報われるとは思いんせんが、一筋の希望に掛けたいと思うのは皆同じでありんすね」

 

真相へ辿り着こうと先頭でがむしゃらに走る青年に彼女は、『笑み』というエールを送ったのち、全力で芯だけになった林檎のゴミを彼らの部屋に投げ入れ、またもや全力で逃亡したのであった

 

すぐさま『西風の旅団』のホームから彼女に対する罵声が飛び交うのだが、逃亡を計った彼女は真相を知らない

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

わっちはやれば出来る子である。

    ∩∩

   (´・ω・)

   _| ⊃/(___

 / └-(____/

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 やる気はまだない

 

   ⊂⌒/ヽ-、__

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「シロエェェは山へ芝刈りにシロエェェは川で洗濯をしておりんす」

「いきなりなんですかにゃ?」

 

〈記録の地平線〉のギルドハウスの二階、キッチンには、色取り取りの野菜が並べられていた。その中でも今日のメインとも云える食材スナックエンドウはザルに山のように積まれている

そんなキッチンの中には、台所の主であるにゃん太とつまみ食い兼味見役の彼女が、待ち人が来るまでの時間つぶしにと言葉を交わしていた

 

「うにゃ~、シロエェェが尻尾を抱えもだえ苦しんでいる姿が浮かんだでありんす」

「頭、ですにゃ。……あぁ、シロエっちは今頃、円卓会議に出席している筈ですにゃ」

 

寝起きでだから、また身も内容もない言葉を発しているのであろうと思っていたにゃん太は『シロエ』と言う言葉から彼女が何を言いたいのかすぐさま理解した

ギルドを立ち上げた頃に比べ人数が増えた

 

「確かアインスっちの提案……情報公開と再分配についてでしたかにゃあ?確かにこの案件は冒険者の格差をなくしますにゃ、でも逆に冒険者のやる気を下げかねない案件だと思いますが、今はそれを決める時期ではにゃいとシロエっちが口にしていましたにゃ?」

「……先刻、わっちが忠告しとうのに忘れておりんすね」

 

不機嫌を顔を表しながらもスナックエンドウを手に持ち口にした彼女は、なんも加工も下処理もしていないスナックエンドウに更に顔を歪めながら口を開く

 

「にがぁ……ご隠居。西に合って東にないモノって判りんすか?」

「……円卓会議に無くて十席会議にあるものですかにゃ?………にゃるほど」

 

苦いと判っていながらもスナックエンドウを次々へと口の中に運ぶ彼女の手からスナックエンドウを取り上げたにゃん太は少しばかり考えたのち答えが見つかったと顎に手を当てながら頷いた

 

「彼が居なくなって尚更、明るみに出てしまったところですにゃ?ですが、彼不在の中それを決めるにゃは些かシロエっちには荷が重いですにゃ」

「でありんしょうとて、現状維持も出来んせん。そのうち爆発するでありんす……それを判っていながらシロエに進言しないご隠居も罪なお人でありんすね?」

「………」

 

彼女の言葉に今度はにゃん太が顔を歪めてしまった

確かにこのままでは何れ大きな問題として爆発するかもしれない事だが、にゃん太はシロエに告げるのを戸惑っていた

年長者として未来ある若者を手助けする事には何も抵抗はない、むしろ進んで彼らが躓かないように手を出したい。だけど、にゃん太は戸惑っているのだ

 

「…………吾輩の一言でシロエっちにまた負担が掛ってしまいますにゃ」

 

そう言うにゃん太の顏には悲観な思いが込められていた

思い出すのは3月にあったロンダークとの一件。それ以降、にゃん太は若者が前へ進む事の難しさ、理想を求める事の困難さを痛く痛感していたのだ

だからこそ、この事をシロエに伝えてしまえば、積もり積もった『責任』で押し潰され前へ進めなくなってしまうのではないかと恐れやりきれない痛みを覚えたのだ

 

一方、彼女はにゃん太の想いも聞いてもなお、態度を変える事無く、むしろ呆れるようににゃん太を見つめていた

 

「うにゃ~…理想を抱いて溺死しろ!と云えるのは中学まで、ご隠居は少しばかり視野がせまくなりんしたか?老眼?」

「それはどういう「こんにちは―!」……この話はまた今度ですにゃ」

 

彼女が何を伝えて来ているのか問い質す前に待ち人が〈記憶の地平線〉の門を叩いた

幼くもしっかりとした声の持ち主、ここのところ足しげくギルドハウスに通いつめている〈三日月同盟〉の少女、セララが到着したのであった

 

 

 

 

「できましたー!」

「これはきれいですにゃあ」

「まるで青りんごみたいでありんす!」

 

キッチンから聞こえる声は3つ

キッチンの主であるにゃん太はもちろん、誰に頼まれたでもないが、料理の勉強と称してにゃん太の手伝いを続けているセララ。そして、彼らの作る料理のおこぼれを狙う駄狐

 

この三人は、<ススキノ>の一件を得て一緒にいる事が多く、買い物かごを持ってにゃん太の後ろをとてとてとついてくるセララの姿は、にゃん太にとっても慣れ親しんだ日常となっており、セララの持つ買い物かごから食べ物を掠め取ろうとする駄狐の姿はセララにとって慣れ親しんだ日常となっていた

 

「確かこの時期スナップエンドウは甘くて青りんごのようにおいしいですにゃあ。冷水でしめてあるから尚更ですにゃ?」

「きらきらしてます!」

「ッ!アッチ!?」

「くーさん!つまみ食いは駄目です!それに茹でたてなので熱いですよ!」

「……早く言ってほしかったなんし」

 

〈大災害〉後の変化の影響で、簡単な下ごしらえくらいであれば、サブ職業が〈料理人〉でないセララにも問題なくこなせるようになっており、それは〈新妻のエプロン〉のスキル提供と累積するらしく、セララのレシピは日々増えつつある。セララはどうやらそれをとても喜んでいるようで、にゃん太はその様子に微笑んだ。

 

「おや? ずいぶん手際が良くなりましたにゃ」

「にゃん太さんに教えてもらいましたからっ」

「わっちもぎょうさん食べました!」

 

にゃん太の言葉に、セララは胸を張り、駄狐は耳を立てた

3人の目の前には下処理が終わった大量の野菜。今晩のメニューは大皿の中華で行く予定だ。中華料理に必要なのは手早い加熱であり、そのためには入念な下処理が必要である。

 

にゃん太の腕を持ってしれば健啖家が多い〈記録の地平線〉においても下処理と同時進行しながら調理する事は可能であろう。しかし、それは駄狐が居ない場合であり、彼女がいるだけでキッチンは荒れる

つまみ食いは序の口、勝手に料理の中に蜂蜜やら酒を投入する。気付けば一品丸々、先に間食されていたなど好き勝手にキッチンを駆けまわるのだ

ギルドの台所を預かる身のにゃん太も流石に彼女の蛮行は了承できる事案ではない為、最深の注意を持って彼女をキッチンに入れないように心がけているのだが、そうすれば自然と調理時間が伸びてしまう

 

直継やトウヤはもちろん、ルンデルハウスやミノリも決して食が細いほうではないし、興が乗ればほかのメンバーだってよい食べっぷりを見せる。みんながみんなお腹を空かせ食事の時間を心待ちにしている中、提供時間が遅くなるのは、たっぷり作りみんなの満足している顔を見る事を何よりも楽しみにしているにゃん太にとっては耐えられないものであった

 

なので、にゃん太は事前に下拵えをやっておき対駄狐対策を試みているのだ

もちろん、セララの勉強を夕飯の下拵えのついでとは考えてはいないが、互いに互いが求めている結果を出せているので一石二鳥な関係を気付いているのだ

 

もちろん、他のギルドメンバーも彼女の蛮行を容認した訳ではないのだが、彼女の行為は全てセララと二人っきりの時間を作る為だと判っているので本気では止めようとはしていないのだった

 

そんな経緯がある中、セララとの料理教室は今日まで長く続いており、自然とセララの腕も上がっていったのであった。

セララとじゃれる駄狐を横目に湯気を立てた野菜からあら熱が取れるには、少し時間がかかりそうだと考えて、にゃん太はエプロンを外すと、戸棚からポットを取り出した。

 

「二人ともお茶にしますかにゃあ?」

「はいっ」

「くーち、お茶請けを持ってきてほしいですにゃ」

「あーい」

 

わざわざ応接室までは戻る必要はない。

広いキッチンにある大きなテーブルは野菜の皮むきをしたりパスタをこねたりする作業のためのものだが、もちろんお茶を入れて休憩するためにも使うことができる。料理や家事の途中で一息入れることも多いし、もちろん、ここで試食と称したつまみ食いをすることもある。

にゃん太は〈ダンステリア〉で買ったオレンジのジャムをひとさじ加え、紅茶に溶かした。紅茶の香りと柑橘のさわやかな香りがキッチンに広がる。

 

「おいしいですかにゃ?」

「はい。あったかいです」

「ごいんきょ~、わっち専用ジャムはどこですか?」

「戸棚の上ですにゃ」

 

とろけてしまいそうな声をあげるセララが答えとお目当てのジャムが見つかりほっこりとしている彼女はまるで、縁側の猫を思わせる無防備な表情が微笑ましい。

 

「今日は、ゆっくりした一日ですにゃあ」

「ええ。下ごしらえも早く終わったし、夕飯まではまだ時間があるし」

「こういう日はお昼寝したくなりんす」

「ふふふふっ」

 

安心しきったセララの表情に、にゃん太の心の奥がざわめくような気持ちを味わった。この台所が暖かければ暖かいほどに、先程まで彼女と言葉を交わした際に起きた痛みがよみがえる。

取り乱すほどの激情はなかったが、それは打ち寄せる波のような寂寞であった。自分はこの世界に招かれていない、と叫んだ青年がいた。勝手に連れてこられ、だから、自分はこの世界で勝手をすると彼は宣言した。多くの〈大地人〉の命が奪われる作戦に「それがなんだ」と言い捨てた。

この世界には、確かにそんな叫びが存在する。

こうしてセララが微笑み、にゃん太がオレンジフレーバーの紅茶を入れるその湯気の向こうに、この世界を受け入れることができない若者たちが、確かに苦しんでいるのだ。

にゃん太は、そこでは何もできなかった。

料理も、剣の腕も、そして積み重ねた経験も、何もかもが彼らには届かなかった。様々な経験を経てきたにゃん太にはわかる。自分とロンダークの間にある差など些細なものだ。

ロンダークはにゃん太になりえたし、にゃん太はロンダークになりえた。

ふたりの間にある差はわずかだ。〈大災害〉のあの日、あの瞬間、どこにいたのか? だれといたのか? いままで誰と過ごしてきたのか? 胸に残る大事な言葉があったのか? その程度の差だろう。

それらの差異は努力や才能に由来するものではない。縁、出会い。いってしまえばただの偶然でしかないのだろう。それがにゃん太にははっきりとわかる。

人は、この異世界に落ちてしまったにゃん太たちは、だれもがロンダークになりえるのだ。そして救うことはできない。

 

「セララちは楽しそうですにゃあ」

「楽しいですもん」

 

 弾むような声。跳ね返るように帰ってきた返事に、だからにゃん太の方が一瞬遅れて言葉を返すことになった。

 

「そうですか」

「……にゃん太さんは、最近元気ですか?」

 

その間を敏感に察したのだろう。セララは両手でカップを包み込みながら、にゃん太を見上げてくる。わずかにひそめられた眉は心配の表情だ。にゃん太は自嘲めいた気持を味わった。セララのような少女に、理不尽な痛苦を伝えるべきではないのだ。

 

「元気ですにゃあ」

「嘘だ!」

 

今度の返事は、滑らかに口にできた。当然のことのように。普段と変わらないように。それなりの時間積み重ねてきた人生と、経験した多くの感情の揺らぎが、にゃん太の演技を支えていたのだが、そんなモノは関係なしとばかりに某鉈を持った少女の如く駄狐は叫んだ

 

「……」

「……」

 

いくら彼女の奇行に慣れた二人でさえ、いきなり目のハイライトを消し、手に持ったカップを机に叩き突け吼える狐は予想外だったらしく完全なる沈黙がこの場を支配した

 

「わっちがご隠居に変わって質問しんす!セラララはこの世界に来てよかったと思いんすか?」

「え? あ。はい。それと『ラ』が一つ多いですよ?」

 

この流れで、まさか自分に質問が投げかけられると思っていなかったセララであったが、そんな問いをセララは即答した。

 

「そうなのですか?」

 

それに驚きを現したのはにゃん太であった

彼女の質問は、にゃん太の悩みの種たる根源に深くかかわっているモノであり、まだ大人として未熟であるセララが即答できる、それも普段通りに答えられるものではないと思っていたので尚更だった

 

「ええ、そうです。そりゃ、お父さんやお母さんと会えないし、困ったことも、大変なことも、たくさん起きたけれど、いいこともたくさんあったし、その」

「?」

「なななな、なりたい夢とか、その将来とか」

「あるのですか?」

 

にゃん太の問いかけに、セララは震えるようにこくこくと小刻みに頷いた。

なりたい姿。将来の望み。生きる道標。それが、確かにあるのだと、セララはつぶやいた。

にゃん太は、紅茶で温まった呼気を、大きく吐き出す。

ロンダークを前にしたときとは別の、ほのかに暖かな熱が、己の内側に灯った。ススキノ。チョウシ。そして、サフィール。彼女とて、この世界で多くの残酷な面を目の当たりにしているはずだ。それでも、彼女は、かくありたいという姿があるのだと口にしてくれたのだ。

 

「セララちならどんな夢でもかなえられるはずですにゃあ」

 

かくあれかしと。願いをこめて、にゃん太は呟いた。

 

「は、はわわわわ……あ……」

 

と、見る間にセララの挙動が怪しくなる。手が意味もなく空中をさまよい、表情は笑ったような、泣いたような様子をいったりきたり、唇も言葉にならずにくるくると形を変えた。

そんなセララの様子を不思議に思い声を掛けようとしたが、彼女の手によって止められた

 

「どうしました?」

「ご隠居ぎるてぃ~。……セラララの言葉を待つなんし」

 

腐っても同性、女性同士で思う所があるのか彼女は優しくセララに続きを即した

 

「――わたしの夢は、遠くて。いえ、その、諦めるとか! そういうんじゃないんですよ? でも、五十鈴ちゃんとかミノリちゃんとか見てると、ちょっと足りてないっていうか、わたしがダメダメっていうか」

「……」

 

にゃん太は、彼女の言う通りにセララの言葉を待った。

口にすることで、相手に伝えることで、混乱した思考がまとまることもある。それは、他の人間が助言をしたのでは得られない、自分だけの答えだ。

深呼吸を一つ。紅茶を飲み干して、ひとさじオレンジジャムをなめて、もう一度深呼吸。

そして、セララは改めてにゃん太の目をおずおずと見あげる。

 

「――その、たぶん。わたし、ちゃんとしたセララにならなきゃ、いけないんだと思うんです。その、夢とかを、かなえる前に。ちゃんとした、一人前のセララにならなきゃ。それに、なりたいんです」

 

にゃん太は、セララが急かされたような表情で、年少組の仲間を見ていたことを知っている。ミノリ、トウヤ、五十鈴、ルンデルハウス。セララが行動を共にしている子供たちは皆、目覚しいほどの成長を遂げてきた。

シロエの背を追い、戦術や事務能力において、大人をも超える働きをみせるミノリ。

自分より力量、年齢、共に上回る〈オデュッセイア騎士団〉相手に、この世界で生きることを呼びかけ続けたトウヤ。

そして、戦場の中、自らの歌を見出し、声を嗄らして旋律を奏で続けた、五十鈴。

〈大地人〉でありながら人々を守る在り方に焦がれ、〈冒険者〉に至ったルンデルハウス。

階段を二段飛ばしで駆け上るように花開く仲間たちの姿に、彼女は、自分を半人前だと感じていたのかもしれない。そんな焦慮や胸の軋みをにゃん太はセララから感じていた。

 

大人であるにゃんたから見れば、それは幼い悩みだ。彼女の未来は無限に広がっている。気にするほどもないちょっとした足踏みにすぎない。

 

しかしそんなセララが掲げた目標は「ちゃんとした自分になること」だった。その言葉が、いま、にゃん太の魂に確かに触れたのだ。

若者たちは産まれなおす。

理不尽な強制としてこの世に生を受けた幼子は、若者となり、己の意志でもう一度生誕を決意する。それは、今生きる世界との契約であり、過去と未来を繋ぐ絆だ。

かつて、にゃん太はロンダークにそう言った。それは、願いであり祈りとしてだ。そうであればとは思っていたが、なかなか難しいとも思っていた生きるものの理想だ。

しかし、セララは誰に何も言われずとも、光に向かって歩き始めた。いいや、すでに歩いているのだ。この感受性豊かで優しい少女は、毎日少しずつ「本当の自分」に近づいていっている。

若者は自分自身に生まれ変わるのだ。

願えばその通りに。

今にゃん太が感じている感動と救済を、セララは到底わかるまい。それを彼女が理解するためにはまだ二十年以上の時間がかかるだろう。だがしかし、彼女は今にゃん太を救った。にゃん太は彼女に救われたのだ。

にゃん太は言葉にならない思いで、唇の端を釣り上げた。微笑みの形になっていれば幸いだと思う。にゃん太の感謝はきっとセララには伝わらないだろうが、だとしてもかまうまい。この小さな淑女は最大級の敬意に値する。

 

「セララさん」

「はひっ」

 

だからこそにゃん太は決意を込めて言葉を選んだ。

彼女の、そして彼女たちの、二度目の産声を祝福するために。

 

「吾輩は、セララさんを応援してますにゃ。みんなを、ずっと応援してますにゃ。ずっとずっと、応援していますにゃ」

「わ、わ、わ、私!外の空気を吸ってきますね!」

 

にゃん太のいつもと違った雰囲気、いつも以上の暖かさを持った言葉を貰いセララはは自身の頬に血が上って行くのがわかるとその場を逃げ出す様にキッチンから出て行くのであった

 

そんな彼女の後姿を見送りながらオレンジジャムを掬おうとスプーンを持とうとしたが、湯気が立つ入れたての紅茶が目の前に差し出された

 

「これは……アップルティー、ですかにゃ?」

「うにゃ……答えは出んしたか、ご隠居?」

 

悪戯が成功した笑みと似た此方を小馬鹿にするようにしたドヤ顔を浮かべた駄狐は、にゃん太の悩みをセララが解決してくれる事が判っていたようであった

 

「はいですにゃ、ありがとうございますにゃ」

 

もしかすると彼女は、コレを狙っていたのかもしれないとにゃん太は、思いながらも感謝の言葉を口にしてアップルティーを受け取り、口にしたのであった

 

 

 

NEXT 死神?アップル同盟の仲間でありんす



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え!?神様?『5』Dですか!貴女が!神ぃ『1』ぃいぃ!

おりじなるてぃーが欲しい作者です
更新します


『どこで寝ているのよ』パート1

これは友人『忘れ草』から聞いた惚気……怖い話だ

『忘れ草』は当時、付き合っている男性が居て、その日も彼氏の家に遊びに来ていたのだが、その日に限って彼氏が残業で遅くなると連絡が来たそうだ

『忘れ草』が訪れる際には必ず定時には上がる彼氏だが、ちょうど仕事が追い込みの時期だったようで抜けられなかったそうだ

『忘れ草』も珍しいと思いながらも手料理を作り彼の帰りを待つことにした

 

彼の好物を作り、今か今かと彼の帰りを待ち続けたが、時計の長針が1週しても2週しても彼は帰って来なかった

流石に遅すぎると思った『忘れ草』は、彼に電話をして見ることにしたのだが……彼の携帯の着信音が思わぬ所から聞こえて来たのであった

 

『どこで寝ているのよ』パート2へ続く…

「世にも奇妙なお話し」著作者:くずのは

より抜粋……

 

 

「……っち!何が彼の寝顔が可愛かった、よ!書いているこっちが苛立ってきたわ!」

 

あの何とも言えない惚気顔をリアルで拝見した彼女は、苛立ちを隠そうともせずに乱暴に本をストレージに仕舞うとテラスデッキからアキバの町の夕暮れを展望する一人の青年へと視線を向けた

 

「考え答えを導き決断する……それはリーダーとして大切な条件であり、『責任』を背負った者の定め。しかし、決断次第では破滅の道へと歩む事になるかもしれないモノ」

 

青年は腰の横にあるバックから折りたたんだ数枚の便箋を取り出し、眺めている様だが徐々に下がっていく頭に自然と青年の眉間には皺が寄っている事が容易に想像できる

 

「ミナミ、アキバ……そして渡来人。他方から迫ってくる脅威に視野が狭くなった今の貴方は『破滅』の道を選択してしまうでしょう。………そう、一人では」

 

テラスで思い悩む青年の頭を上げたのは彼が作り出したギルドの仲間だった

一人また一人と集まっていく。不器用だが自分の心に正直な主君思いの〈暗殺者〉、事の始まりから常に隣を一緒に歩んでくれた〈守護戦士〉、去冬から仲間に加わった空気の読める(・・・・・・・)〈治癒士〉、そして一歩下がった所から優しく諭してくれる〈盗賊士〉

 

「一人で『責任』を背負う事の出来る人間も居れば支え合いながら背負う人間もいる。……シロエ、貴方は後者。凡人でしかない貴方は、周りの人間と関わる事によって成長する者なのよ?」

 

青年の元に集結した仲間、一人一人違う『答え』を持つ者達が彼を導いてくれると思うと自然と頬が上がっていき、先程の苛立ちが無かったかのように上機嫌となった彼女もまた、その輪に向けて歩みを進めた

 

「ログホラ、年長会議だな」

「それなら私も参加させて貰うわ。説明役は一人でも多い方がいいでしょ?」

「ッ!……ありがとう、〈くずのは〉」

 

沈みゆく夕日を背にシロエは、テラスデッキに集まった大切な仲間達の顔を一人また一人と視界に収め、便箋と封筒を取り出した

 

「みんなに話さなきゃならないことがあるんだ」

 

薄暮のテラスに集まったシロエたちは、厳しく時には優しく諭してくれる〈魔術師〉を加え、はるか彼方からやってきた旅人の手紙を検討し始めるのだった。

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

ZZzz…………

 

   ⊂⌒/ヽ-、__

 /⊂_/____ /

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 

 

まだ起きる時ではない

 

   ⊂⌒/ヽ-、__

 /⊂_/____ /

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

「ロエ2?」

「誰ですそれ」

 

旅人から齎された手紙を読み終えたシロエに最初に投げられた言葉は旅人についてと少し的外れなモノであったが、ロエ2の存在を知る元茶会組、そしてその名を知らないアカツキとてとら。仲間たちの反応は二つに分かれた。

 

「シロエのサブキャラよ。〈大災害〉前、ゲームシステムの調査を建前にテストサーバーで作ったシロエのセカンドキャラ。」

「あぁ、通称えろ子。〈召喚術士〉で、胸はでかい」

「でかいのですか! むむ。アイドル的にはギルティですね」

「そうなのか、主君!」

 

話が脱線しないように最低限の情報だけを伝えた〈くずのは〉だったが、直継が余計なことを口にし、シロエに異様なくいつきを見せるてとらとアカツキ

そこはそんなに大事じゃないでしょう、と言い返そうとする間も二人はああでもない、こうでもないとつつきあっている。

 

えろ子というあだ名はKR命名なのだ。広めたのは横で果実酒を傾ける〈くずのは〉で、乗っかったのは直継である。まじめな話の冒頭から出端をくじく形になってしまったが、場の空気を読んだのか、にゃん太がとりなすようにつづけた。

 

「そのロエ2が手紙を書いたということですかにゃ? そもそもどうやってここに?」

「ミノリが届けてくれたんだ。旅の途中に出会ったらしい」

「そうですか。あのサフィールの町で……」

「そうだったのか」

 

サフィールの町。その言葉にアカツキも、直継も苦い表情で言葉を飲み込んだ。ここに集まったのは〈記録の地平線〉では年長に属するメンバーだ。てとらでさえ、ミノリたちが巡り合った〈オデュッセイア騎士団〉との顛末は聞いている。

暗くなってしまった雰囲気を切り替えてくれたのは、アカツキだった。

 

「結局、差出人は主君なのか? 主君のサブキャラクター。なんでそんな人が手紙を出せるんだ?」

「彼女は、月のテストサーバーに保管されていたロエ2の身体(キャラクターデータ)にやどった異世界の人工知性体、〈航海種〉(トラベラー)。彼女の目的は〈共感子〉(エンパシオム)という資源の探索及び採取を使命としているわ」

 

事も無しに旅人の正体を口にした〈くずのは〉にシロエを除く面々は驚きの表情を浮かべた

 

「やっべーぞ、おい。シロ。異世界人だぜ。もしかしてSFかよ」

「少なくとも彼女はそう云ってるね。この手紙によれば、〈航海種〉(トラベラー)のなかには彼女たち〈監察者〉のほかに〈採取者〉と呼ばれる種族がいるらしい。」

 

周囲はシロエと〈くずのは〉の言葉を咀嚼するように黙り込んだ。

あまりにも突飛な話だったということだろうか。シロエは心配になって仲間を見回し、アカツキと目があった。つぶらな瞳できょとんとシロエを見上げるアカツキからは、信頼の気配しか伝わってこない。これは何も考えてないな、とシロエはほんの少しホッとする。

 

「直継さん」

「なんだよ。さすがのお前も度肝抜かれたか?」

「やっぱり僕、銀河ツアーを企画しないといけませんよね。新たなファンのために」

「ブレないな!?」

 

いやんこまっちゃうなあ。フェロモン、フェロモン、と小躍りする自称アイドルを引きはがして、直継は情報をかみ砕くようにつづける。

 

〈航海種〉(トラベラー)かあ。ずいぶんぶっ飛んだ話だが、シロは実はそんなにびっくりしてないな? なんでだ?」

 

そんなことはない。シロエはそう答えた。

 

「ただ、うん。なんていうか、なんとなく考えてはいたんだ。なんで僕たちはこの世界に来ちゃったんだろうって。おかしいよね。ここが本当にファンタジーな異世界だとすれば、僕らの知ってる〈エルダー・テイル〉にこんなにそっくりのはずがない。偶然のレベルをはるかに超えている。でもここはゲームの世界で僕らがそこに飲み込まれたなんてナンセンスだ。ありえない。僕らの知っている限りテクノロジーはそこまで進歩していないし」

 

その言葉に、直継やにゃん太はしっかりとうなずいた。アカツキやてとらだって興味深そうに、シロエが次に話す言葉を待っている。

 

「大災害以降の変化だっておかしい。現実的な物理法則とゲーム時代の常識が、この世界ではいっしょくたになっている。まるでふたつのルールを混ぜたみたいに。僕たちは適当にこの異世界に飛ばされたわけじゃないってずっと思ってた。そしてこの世界には、それを説明できる三番目の誰かがいるんじゃないかって……。〈大地人〉でも、僕たちみたいな〈冒険者〉(プレイヤー)でもない、この状況を説明できる誰かが……。たぶん、それは、この手紙に差出人。ロエ2なんだ」

 

 ご都合主義でいえば、それは機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)とでもいうべき存在だ。すべての謎をつかさどる黒幕。事態を解決してくれる究極の責任者。しかし、期待したそんな存在はいないと、シロエは気がついてもいた。

 

「神様じゃないんだ。そんな都合のよい存在じゃないって、途中で気が付いていた。だってこの世界が世界だとすれば、〈大地人〉が本当に生きてて僕たちと同じだとすれば、その神様は彼らの生まれてきた理由も運命も知っていることになる。そんなことはない。彼らも人間で、この世界も世界だから、神様なんていないんだって思った。それでも『誰か』はいるし、探そうと思ってた。だから、びっくりしたけど、そこまでじゃない」

 

 直継は男らしく太い笑みを浮かべると、そうか、と答え今度は果実酒を傾ける彼女へと視線がいった

 

「………何かしら?」

「いや、シロが驚かない理由は判ったが、〈くずのは〉も驚いている様には見えねぇ。もしろ、シロが手紙を読む前からロエ2の事を知っていた様に感じたんたんだけど?」

 

確かにとアカツキやてとらは、〈くずのは〉に視線を向け、サフィールで事前に彼女の存在を目視していたにゃん太さえも〈航海種〉(トラベラー)〈共感子〉(エンパシオム)と所見の言葉を知り、剰え彼女の正体まで辿り着いている彼女に疑問の視線を送ったが、彼女は変わらず果実酒を傾けながら彼らの問に答えた

 

「シロエと同じで憶測は立っていたわ。なら後は直接、情報を収集した方が効率はいいにきまっているじゃない」

「いやいやいや!待てよ!なんで接触してんだよ!つーか、いつ接触したんだよ!と言う事は班長も知っていたのかよ!」

「にゃあ~、サフィールで見かけはしましたが、彼女の正体までは知らなかったですにゃ」

「つーことは何か!?〈くずのは〉はロエ2から有力な情報を「聞いていないわ」聞いてないのかよ!」

 

「私は、答えだけを聞いて満足できる安い女ではない。答えは自分で導き出してこそ意味がある。それに……答えだけ理解しても面白くないじゃない?」

「だけど、もしかしたら「その先は云っては駄目よ、過ぎた時間を悔いてもなにも始まらないわ」むぅ…」

 

アカツキの言葉を遮り、笑みを浮かべる〈くずのは〉であるが、遮られたアカツキは穏やかではなかった。もしかすると主君が求める情報しいては元の世界に帰還する重要な手掛りを入手するチャンスを個人的な好みの問題だけで棒に振ったのだから

 

「でもずいぶんわかりにくい手紙ですよね」

「ずいぶん、じゃないぞ。まったく、だ」

 

てとらが場の空気を換える為にも、それとなく話題をズラしたが、アカツキの機嫌は直らず手紙に指さして否定した

アカツキの態度に苦笑しながらもシロエは便箋を再び取り上げる。

 

「判りにくいのはこちらになじみのない事を説明しようとしているせいだと思う。〈摂理地平線の原則〉とか〈無矛盾の大原則〉なんてのは確かにわからないよね」 

「摂理地平線の原則とは、決して交わらない道筋、無矛盾の大原則は……綺麗な数式と云ったところね」

「おい、シロ。わかってるっぽい奴がいるぞ?」

「〈くずのは〉も大まかにわかっているだけで、全てはわかっていないと思うよ?……ですよね?」

「ふふふ」

 

ロエ2が何を伝えたいのかシロエと〈くずのは〉は、いや〈くずのは〉だけは理解出来た様だが、シロエにはぼんやりとわかる程度

わからないなりにわかるというか、言葉面からおおよその意味はつかめ、だがしかし、シロエが考える想像通りだとすれば、この異世界――ロエ2のいう亜世界セルデシアは「結果を出すためのテスト中」なのだ。特別なサンドボックスではないかとシロエは考えている。

〈くずのは〉に答えを聞けばもっと違う答えが出てくると思われるけど彼女は良とは云わないだろう

 

どちらにせよ、この場所では、決断ですら大きな意味を持つ。すでにシロエは決断によって〈円卓会議〉という組織の設立のきっかけを生み出してしまった。だから制限時間の存在に関する予測なんて、口に出すことはできなかった。

 

「要するに〈典災〉ってのは異世界怪獣だ。異世界怪獣は〈共感子〉(エンパシオム)っていう謎エネルギーを奪うために異世界からやってきた。このロエ2ってのは異世界人で、異世界怪獣と同じところからやってきたけど、人情味があるからこっちに気をつけろって警告してくれてるんだよ」

「おお、わかった! 賢いな直継のくせに」

「くせにってなんだよ!」

「直継さんあったまいーい!」

「登るなよ、おいっ!」

 

アカツキ、直継、てとらのの楽天的なやり取りに、シロエとにゃん太は笑ってしまった。確かに要約すれば、そんな事が書かれているように読める。

 

「とはいえ、それだけではないですにゃあ。あちらこちらに記述が欠けているような、理由や意味がつながりにくい箇所がありますにゃ」

「そうだね、班長」

 

シロエは何度も読み込んだ文面に視線を落とす。

 

「たぶん、だけど意図的なものなんだろうね。外部に情報が漏れるのを警戒したという感じではないけれど――この段階で明らかにすべきではないという意味なのか。それとも彼らにとって都合が悪いということなのか」

「んなことねーだろ」

 

直継がそうさえぎる。

 

「そういう感じの文章じゃないぞ、これ。どっちかっていうと、『誰でも知ってる常識だから説明すらしなかった』とか、そんな感じじゃねえかな」

「あら、脳筋の割にはよく気づいたわね?社会に揉まれて脳味噌が柔らかくなったかしら?」

 

心底感心したとばかりに新しい果実酒の栓を開けた〈くずのは〉は、開けた栓を直継に投げ与え彼の成長を褒めたが、とうの直継はゴミを渡されただけで恩賞を受け取ったとは思ってもいない

 

「脳筋の言う通りよ。そこの手紙に書かれた内容は彼女らにとっては何の事も無い共通の情報、私達で言うチュートリアルの内容よ」

「じゃぁ、くずのはさんは、この手紙、信じるんですか?」

 

ふと真面目になった声で尋ねたのは、てとらだった。

そのまなざしに、〈くずのは〉はグラスを傾けながら、「YES」と頷いた。

 

「信じるわ。むしろ、嘘だと云われた方が疑いたくなる内容よ」

「とんでもない内容だとは思いますが、ある日ゲームに似た異世界に突然迷い込んでしまいました、に比べてそこまで荒唐無稽な内容ではないと思いますしね?」

「そうね。それに鳥頭は、性格からして見ても私達を陥れようとは感じないわ」

「『追伸、ミノリへ。お姉ちゃんらしく真面目に書いてみたぞ。また会えるかどうかはわからないが、君の答えは忘れない。キミの暖かい〈共感子〉(エンパシオム)がわたしを照らしてくれたように、キミがキミの未来を照らしますように。――お姉ちゃんより』……ロエ2さんはなかなかお茶目なところがあるのですにゃ」

 

にゃん太の読み上げで、直継やアカツキは明らかに口を半開きに驚愕している。それはそうだろう。〈異世界人〉にしては砕けすぎだ。

 

「なんつーか、〈クー〉に似ているな?掴みどころがない癖にかき回すだけ掻き回す」

「彼女は愉快犯だからね?そういう意味ではロエ2も……って彼女の話は出さない方が良いですよね?」

 

元茶会組の三人は兎も角、この場にはアカツキとてとらがいる。

個人情報と云うより自分の事を他人に語られる事の嫌う彼女の前で身内の話は控えた方が良かったのではないか?と〈くずのは〉に謝罪しようとしたシロエであったが、〈くずのは〉は特に気にした様子も無くグラスに酒を注ぎ、むしろ問題ないとばかりに自分から話し始めたのだ

 

「別に構わないわ。どうせ〈クー〉は寝ているし、いずれは話さなければいけない事。それにココに居る者は〈クー〉と私が別人だと気付いているでしょうに」

「YES!ギャラクシーフォックスはMy Seoul brotherですね!あっ!なんなら〈くずのは〉さんも僕達と一緒に「黙りなさい」……くすん」

「別人とは棘がありますにゃぁ。」

「……人の関係は十色十色よ」

 

珍しいモノが見れたと驚く仲間達であったが、どうしても脱線してゆく会話に辟易とした直継は仕切りなおすように声を張って口を開いた

 

「どっちにしろ信じて失うものも、今のところなさそうだしな。要するに、月になんかある。連絡とれってだけだろ?」

 

そりゃそうですね、とてとらもあっさりと認めた。

 

「うん。この手紙を信じるならば、月にいる彼女の仲間と連絡を取れば、少なくとも情報面で今より進展するはずだ。元の世界に戻るためのヒントが得られると思う」

「そうなるな」

「月、ですか。なにがあるのですかにゃ」

「テストサーバーじゃないのかしら?」

 

それは、と口を開きかけて、シロエはアカツキを振り返った。

確かにロエ2からの手紙や〈くずのは〉の話では月にテストサーバーがある事が窺えたがシロエにはされだけではなく、何か大切なあった気がしてならなかった

アカツキも、夢から覚めるような表情でシロエを見上げた。

どこからか、懐かしい澄んだ鐘の音にも似た響きが、シロエの耳朶によみがえった。

 

「いや――。月には、確かに、何かがあったんだ。あの膨大な思いで、光の渚、捧げられた誓い――。〈奈落の参道〉(アビサルシャフト)で死んだとき、見たんだ」

 

遠浅の海だった。

地球から降り注ぐ透き通った玻璃の欠片は、些細な、だがかけがえのない思い出を宿らせていた。茶色の小犬が見えた。定期券と改札口が見えた。夜闇に浮かぶコンビニの頼りない明かりが見えた。鉄橋を渡る自転車の二人乗りが見えた。

 それらがしんしんと降り注ぐ冬の海岸を、シロエとアカツキは歩いた。

 あれは夢ではなかったのだ。残っていた記憶をなぞり甦らせるように、シロエはアカツキの瞳の中を探した。

 

「月の砂浜は、遠くまで澄んでいて、水晶の音がした」

 

つぶやいたアカツキは、びっくりしたように目を丸くした。

そしてとてもうれしそうに何度もうなずくと、シロエの服をぎゅっと握った。たぶん意識してのことでないそのしぐさは、彼女の不思議な感動を表しているようだった。

 

「うん。アカツキがくるくると回って、転びそうになった」

「主君がフードをかぶせてくれたのだ」

 

 秘密の自慢話を聞かせるような彼女の声がシロエの中に残るあの瞬間の記憶を、より鮮明に浮かび上がらせた。

 静かな浜辺の清澄さが二人を満たした。澄み切った青い入江の浜で、アカツキと並んで波打ち際に座った。つま先を濡らした光は、何か特別なもので、二人は畏敬の念を強くした。

 〈死〉を通り抜けた二人は、その浜辺で己を振り返り、弱さを目の当たりにした。押しつぶされそうなほど巨大な後悔のなかで、小さな希望を見た。

 あそこは特別な場所なのだ。

 シロエは言葉によらない直感でそれを理解した。あの浜辺にはまだシロエたちが知らない秘密がある。ロエ2が言う「月」とはあそこのことなのだ。きっとあの浜辺へ再び行くことができれば、地球へと帰還できる。すくなくとも、そのためのきっかけを得ることができる。

 

「私も……。私も見た! 主君と一緒に、あのキラキラを見た!」

 

シロエはアカツキに頷いた。

そして仲間たちを、直継を、にゃん太を、てとらを見回した。

シロエとアカツキは、確かに一度は月の地を踏んだのだ。

だからこそこの手紙を信じることができる。

 

「そこで僕たちは――たぶん〈共感子〉(誓い)を捧げた。あそこにもう一度いければ……」

「この世界の秘密の一端をつかめるって事?なら尚更、月との通信を考えなくてはいけないわね?」

「はい」

 

〈くずのは〉の答えにシロエは力強く答えた

月に自分が欲する者があると信じて…………

 

 

                  

NEXT え?わっちの出番少なくなるの?(´・ω・`)ショボーン

 




リアル仕事より出張から帰ってきました
なので更新します

オバロとログホラを書いております

相変わらずの亀更新で申し訳ありません


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