佇む少女は機械仕掛け (ロボッピ)
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恋する乙女と友愛の少女

 少女は喧騒の教室の中、クラスの子達がはしゃぐ様子を気にすることもなく一人静かに本を読んでいた。

 

「……」

 

 本によほど夢中なのか、あるいは他の子達に興味がないのか。少女の目は本しか捉えておらず、耳に入ってくるのはページをめくる音だけだった。

 だが少なくとも他の子達はこの休み時間に誰と話すでもなく、窓際の席で本を読む少女のことは気にかかってはいた。なにせ彼らはまだ小学一年生、好奇心旺盛な年頃である。しかし誰も話しかけようとはしない。いや話しかけようとするものもいたが、あまりに表情に変化がない少女に異様な違和感を覚え、まるで少女に近づけない結界が張られているような感覚に陥ってしまったのだ。そしてこの状態は入学してから今に至るまで長らく続いている。

 

「……ねえ」

 

 だがその結界は——

 

「何の本読んでるの?」

 

 たまたま別のクラスから来ていた一人の少女によっていとも容易く崩されることになった。

 

「……あなたは?」

 

 話しかけられた少女は本から目を上げると、やっと誰かが至近距離まで近づいていたということに気が付いた。

 

「僕? 僕は早乙女レイ!」

 

 天真爛漫という言葉がふさわしいほど屈託のない笑みを浮かべるレイに、少女は心地よい安心感を覚えた。

 

「……レイちゃん。私は……ユキ」

 

「ユキちゃんって言うんだ!」

 

「うん。そしてこの本は……バイクの仕組みについて書いてある本だよ」

 

「バイクの仕組み? うひゃー、難しそう」

 

「そうでもない? 確かに本格的に勉強しようとすれば大変そうだけど、これは基本的な仕組みを図で分かりやすく教えてくれるから……」

 

 そう言いながらユキは本をレイに見えるように開いて意気揚々とバイクの仕組みについて話し出した。先ほどまでの少女とは打って変わり、表情に関してはそれでもほとんど変化はなかったものの様子を伺っていたクラスメイトからはまるで別人かと疑うほど楽しそうに見えていた。

 

「そんな風に動いてたんだ……ふふ、ユキちゃん楽しそうだね」

 

「うん……バイクとか機械を見たりするのが好きみたい。だからいつもこういう本を読んでるよ」

 

 この件がきっかけとなり、今まで話したくとも話しかけられず遠慮をしていたクラスメイトも次第にユキに話しかけてくるようになった。ユキは機械関連の話をする時以外は口数はあまり多くなかったものの、話しかけられれば聞かれたことにはしっかり答え、静かながらも確かに会話をしていた。

 

 そして活発的なレイと受動的なユキは互いに性格は大きく異なっていたが気が合うのかよく話すようになっていた。特にユキはレイとの会話の時は機械が関わる話ではなくても口数が他の子と話す時と比べて明らかに増えていた。小学二年生の頃、特に彼女らの間で話題になったのは……デュエルモンスターズのことだった。

 

「ねえ、ユキちゃん。デッキ見せ合いっこしようよ!」

 

「うん……いいよ」

 

 魔法使い族を主体にしたレイのデッキと機械族を主体にしたユキのデッキ。まだまだ幼い彼女らのデッキは完成度が高いとは言い難いものだったが、それでもお互い楽しそうにデッキを見せ合っていた。

 

 小学三年生の頃、レイにある変化が訪れた。デュエルアカデミアと呼ばれるデュエリスト養成学校、その高等部に所属する丸藤 亮と呼ばれるデュエリストが一年生ながら三年生をも圧倒する実力を見せ、既にプロのスカウトにも注目されていた。その特集記事を見ていたレイは一目惚れしてしまったのだ。

 

「レイちゃん……最近ぼーっとしてることが多い。何かあった?」

 

「……へっ、な、何!?」

 

「……最近ぼーっとしてるのはなんで?」

 

 レイは顔を赤らめながらも自分が一目惚れするきっかけとなった特集記事を取り出した。そこには丸藤 亮がデュエルアカデミアの皇帝、カイザー亮という異名がつくほど強さが際立っていることがキーカードであるサイバー・ドラゴンと勝利を収めている様子と共に書かれていた。機械族のモンスターを特に好むユキは機械族であるサイバー・ドラゴンを見てこう呟いた。

 

「おお……かっこいい」

 

「……!?」

 

 レイは大きく目を見開き驚愕の表情を見せると、やがて慌てたように手でユキを抑えるような動きを見せながら話した。

 

「だ、だめ! いくらユキでも取っちゃだめなんだから!」

 

「……? ユキ、人の物を()ったりしないよ」

 

「ひ、人のモノって……まだ僕と亮様はそういう関係じゃ……!」

 

「……?」

 

 さらに顔を赤くしてあたふたするレイを見てユキはただただ首を傾げるのであった。

 

 そして彼女らが小学四年生になった頃、ユキは決して積極的に勉強する性格ではなかったレイが図書室で必死に何かを勉強しているのを見かけた。

 

「……レイちゃん?」

 

 ユキは後ろからこっそり覗いてみた。すると内容はデュエルアカデミアの試験の傾向と対策に関してだった。

 

「ひゃっ……!? ユ、ユキ……!」

 

 ビックリして大声を出してしまったレイに周りの人から注目が集まった。ユキはレイの口元に指を持っていき、落ち着かせようとする。

 

「しーっ……図書室ではお静かに?」

 

「……う、うん。そうだね」

 

 二人は図書室から離れ、誰にも話を聞かれない場所に移った。

 

「ユキ。これから話そうとしていること秘密に出来る?」

 

 神妙な面持ちでレイは話を切り出す。

 

「うん。出来るよ」

 

 ユキが即答するとレイは軽く頷き、自らの計画を話し始めた。

 

「実はね。来年デュエルアカデミアの編入試験を受けようと思うの」

 

「来年……?」

 

 ユキはレイの言葉に疑問符を抱いた。何故ならデュエルアカデミアには小等部は無く、少なくとも中学一年生にならないと入学することは出来ないからである。

 

「うん。それもね……高等部の編入試験を受けようと思ってるんだ」

 

「え……」

 

 ユキは珍しく言葉に詰まる。無理もない。レイは中等部の入学すら難しい状況で、高等部の編入試験を受けると言ったのだ。しかも高等部の試験に求められる知識は当然中等部より高く、ましてや編入試験となればさらに難易度は跳ね上がる。

 

「それはまた……どうして?」

 

「来年しか……チャンスはないの。来年を逃したらもう亮様は卒業しちゃうから……!」

 

「あ……」

 

 レイが亮のことを好きになってから一年、ユキも打ち明けられた時にすぐには気付かなかったものの、さすがに今ではそのことに気が付いていた。

 

「だからそんな無茶を……」

 

「お願いユキ! このことは誰にも言わないで!」

 

 レイがユキにしがみつくようにしながら必死に訴えかける。

 

「大丈夫。最初に言った通り……他言無用?」

 

「ありがとう!」

 

「それと……」

 

「……?」

 

 今ユキの心の中心には二つの感情が渦巻いていた。一つは友がこの茨の道を進みきれるのかという心配。そしてもう一つは……親友が自分の元から離れてしまうかもしれないという不安だった。この話を聞いた時、最初はレイに無茶なことをやめさせることでこの二つの感情をクリアすることも頭によぎった。しかしレイの決意の固さは明白だった。だから彼女も……決意した。

 

「私も……一緒に勉強して試験を受ける」

 

「えっ……!?」

 

 今度はレイが言葉に詰まる番だった。何故、そう言おうとしたレイだったが言葉にする前に心当たりに突き当たることになった。

 

(そっか……ユキも亮様のことが好きなんだ)

 

「うん! 一緒に頑張ろう!」

 

 レイはユキのか細い色白の手をしっかり掴むと、顔をじっと見て互いの決意を確認し合った。ユキも手を握られると安心したのか表情を少し崩し笑みを見せた。

 

「うん……頑張ろう」

 

「あっ、でも負けないからね!」

 

「……うん?」

 

 ユキは頷きかけた首をちょこんと傾げる。成績のことかな、と自分の中で答えを出すと改めて頷いた。

 

 その日から猛勉強の日々は続いた。ユキはレイよりやや成績は良かったが、高校の試験レベルの勉強となるとさすがに頭を悩ませていた。しかし彼女は決意に動かされるかのようにそれでも必死に勉強していた。レイも一人で勉強していた時よりユキと一緒にいる時の方が長く集中して勉強出来ている実感があった。常に一緒という訳にはいかなかったが彼女も決意に支えられ必死に勉強していた。また二人で勉強していることで互いに知識を確認しあったり、分からないことを教えあったりと確かな効果もあった。

 勉強を始めてから日がそれなりに経った頃、決してまだ基礎知識も十分に得ていないことを分かっていながらもレイが過去の試験の問題を取り出して対策を取ろうとした。

 

(こうしてる間にも亮様と過ごせる時間は減っていく……。早く……早くしなきゃ……)

 

 しかしレイの行動に気が付いたユキがそれを止めようとした。

 

「ユキ!? な、なんで止めるの!」

 

 初めてだろうか。感情の昂りをそのままぶつけるかのようにレイはユキに怒鳴るような形になった。ユキは驚きから身体を震わせるが、自分の意思を曲げることは無かった。

 

「焦っちゃダメ……。ユキの好きなバイクの仕組みと同じ? どんなことにも(もと)になる考え方がある。それを理解すればたとえ難解なものでもある程度はできるかもしれない。でもそこを飛ばしていきなり難しいところに突っ込んでも……答えを示されても頭は理解してくれない?」

 

「う……。そう……だよね。ごめん……」

 

 レイもそのことは頭では分かっていた。過去問を閉じて今まで通り基礎から固めようとする。しかし今日に限ってはあまり集中が出来ないようだった。

 

「どう……したの?」

 

 ユキは先ほどの行動も合わせて今日のレイはどこかおかしいように感じていた。

 

「……気にさせちゃった? ごめんね……」

 

 いつもは太陽のように明るく喋るレイだったが、今日は声のトーンが明らかに落ちていた。ユキは勉強を中断してレイと向き合う。最初は二人の間に沈黙が走ったがユキは辛抱強く待った。その間に心の整理をしたレイは沈黙を破るように言葉を発した。

 

「亮様と過ごすためにこうして勉強しているけど……この間にも亮様と過ごせる時間は減っていく。せめて……せめて亮様と一回話したい。じゃないと切なすぎるよ……」

 

 慣れない勉強の疲れの影響もあるだろうか、彼女の中で焦りがピークに来たようで、瞳から涙がこぼれてしまう。ユキはレイが泣き止むまでそっと側で肩を支えた。

 

 やがてレイは泣き止むと赤く腫れた目をこすりながら、申し訳なさそうにユキに言った。

 

「ごめんね。僕が言い出したことなのに……」

 

「ううん、大丈夫」

 

 一回泣いてスッキリしたのかレイは先ほどよりも落ち着いていた。

 

「それでさっきの話だけど……お手紙を出すのはどう?」

 

「手紙……」

 

「デュエルアカデミアは海のど真ん中にあるから……そこにいる亮さんにお手紙が届くかの確証はないけれど、でも出してみる価値はある?」

 

「……うん! ありがとう、ユキ! 僕手紙出してみるよ!」

 

 レイは自分なりの精一杯の想いを書き連ね、手紙——というよりラブレターという方が相応しいものだったが——それをデュエルアカデミアに送った。手紙を入れた封筒に丸藤 亮へと書いて。

 

 その約1ヶ月後、ユキとレイは今日も一緒に勉強をするため合流したのだがレイはユキに会うやいなや喜びを爆発させるかのように報告した。

 

「ユキ! 届いた! しかも返ってきたよ!!」

 

「レイちゃん……少し落ち着いて?」

 

 あまりの勢いにユキはたじたじになりながらヒートアップしているレイを落ち着かせた。

 

「それで……何が届いて何が返ってきたの?」

 

「この前亮様に書いたお手紙。ちゃんと届いたの! しかもちゃんと読んでくれて、返事も書いて送ってくれたの……!」

 

「おお……それは良かった。お返事はどんな……?」

 

 レイは返事の手紙を取り出すとそれをユキにも見せた。返事の内容は、まず自分にわざわざ手紙を送ってくれたことの感謝から始まり、レイが送った内容に対して真摯に受け止め、それに対する返事が長文で書かれていた。少しだけ考えのズレがあったとすればレイの手紙に書いてあった好きという言葉が告白の意ではなくファンからの言葉として受け止められていたようだが……それでもレイはこれだけ真摯に応えてくれた亮にますます惚れていた。

 

「やっぱり亮様はデュエルが強いだけじゃない。素敵な方なんだ……!」

 

 レイは赤くなっていく顔に両手を添えて、一人で悶えた後、テンションそのままにユキの手をがっちり掴んだ。

 

「これもユキが手紙を送ろうって言ってくれたおかげだよ。ありがとう! 僕やる気が一層出てきたよ!」

 

「どう……いたしまして?」

 

 ユキは今までにないほどハイテンションなレイに若干びっくりしながらも、一ヶ月前の悲痛な顔を思い出すと心底良かったなと感じていた。

 

 そこから先は長いようであっという間だった。レイの勉強の効率が目に見えて上がっていくと、ユキもそれに連鎖するようにつられて勉強の効率が上がっていた。好循環の連鎖は断ち切れることなく、彼女らは小学五年生になり……そしてついに編入試験の日を迎えた。

 

「うー……ううー……どうしよう」

 

 編入試験はまず筆記試験を受けた後、実戦形式のデュエルを行い二つの成績を鑑みて編入を認めるか否かというのが決まる。今は筆記試験の前なのだが……緊張感からかレイは落ち着かずうろうろしている。

 

「レイちゃん……今更何をどうするもない?」

 

 対してユキはさほど緊張せず席に座っていた。正確にはやはり緊張はしていたので落ち着けるようにある物を読んでいた。

 

「でも今からでも何かやった方が……って、ユキ? もしかしてそれって……」

 

 ユキが手に持っていたのはレイが彼女と初めてあった時に読んでいたバイクの仕組みについて書かれた本だった。

 

「マイフェイバリット……ブック」

 

「こ、こんな時に……!?」

 

「今から勉強しても大したことは出来ないよ。それに今一番必要なのは……心の余裕?」

 

「そうかもしれないけどさ……」

 

 それでもレイは落ち着かない。無理もないかもしれない。今までの頑張りが報われるか無に帰すかというのはこの試験に全てかかっているのだから。

 

「……レイちゃん」

 

 ユキは席を立つとレイのところに行き、その手をそっと、しかし確かに力強く握った。

 

「大丈夫。私達はあの日から今日までずっとこの日のために頑張ってきた。その頑張りを……信じよう?」

 

「……!」

 

 レイは自分からユキの手を握ることはあったが、ユキの方から握られるということは今までなかった。親友に手を握られ、安心感が彼女を満たしていった。

 

「ユキ……ありがとう。そうだよね。ここまで頑張ってきたもん! 僕信じるよ!」

 

 レイは初めて会った時のような満面の笑顔を見せた。

 

「うん……!」

 

 二人は席に着き、筆記試験が始まるまでユキはお気に入りの本を、レイは亮からの手紙を見てリラックスしていた。そして試験官が到着すると、やがて試験が始まった。

 

(うーん……やっぱり難しいものばかり。でも、何とか……)

 

 レイもユキも難しい問題に苦戦しながらも全く分からないということはなく、今まで得た知識を総動員して試験に取り組んだ。そして……筆記試験が終わる。二人きりの試験ということもあるのか通常の試験と異なり休憩時間も短く、もう実戦形式の試験が始まろうとしていた。

 

「大丈夫……やれることはやった! 後はデュエルに集中……!」

 

「うん……その意気」

 

 実戦形式の試験官は一人ではなく二人いた。同じ試験官が対応するとトラブルが発生した時に試験官のデッキの内容が流出してしまう危険性があり、公平性を保つためのものであった。また二人が同時にデュエルをすると互いの様子が気になることを配慮し、タイミングをずらしてデュエルを行い、結果もデュエル終了後に発表するということになっていた。そして先に呼ばれたのは……レイだった。

 

「……! 行ってくるね、ユキ」

 

「ファイト、レイちゃん。幸運を……祈ってる」

 

 レイは緊張で体が硬くなることもなく自然体でデュエル場に入っていった。残念ながらこのデュエルをユキは見ることは出来ない。しばらく時が流れると……ついにユキが呼ばれた。デュエル場に足を踏み入れると、一人の試験官が待っていた。ユキは対面する前にお辞儀をして、それから向かい合った。

 

「シニョールユキ。あなたーに、先に言っておくことがあるノーネ」

 

「……?」

 

「実は先ほどの筆記試験。もう結果が出ているーノ」

 

「え……」

 

「二人だけだったカーラ、すぐに採点は終わったノーネ。筆記試験の結果は、二人とも合格ラインにはのっていたノーネ」

 

「……! 良かった」

 

 とりあえずユキはそれを聞いて安心した。しかし、彼が言いたかったのはこの先のことであった。

 

「しかーし! シニョールレイの方が点数が高かったノーネ。この時期に、二人も編入を受け入れるのはそう簡単なことじゃないノーネ。だから予め筆記試験の点数が低かった方にはこのわたくし、実技最高責任者、クロノス・デ・メディチが担当すると決まっていたノーネ!」

 

「……なるほど」

 

 編入は筆記と実技を合わせて判断される。クロノスは直接的には言わなかったが、筆記の得点が低いユキにさらに実技最高責任者を当てるということは実質合格はかなり難しくなったことを指していた。しかしユキはそれを理解しながらも少し安心しているところもあった。逆を言えばレイが合格しやすくなったとも捉えられたからである。

 

「この状況を理解した上で、デュエルに臨むことをお勧めするノーネ」

 

「……ご忠告、感謝?」

 

 鼻高々に自分を最高責任者と言うクロノスの言葉は捉えようによっては嫌味にも聞こえるが、少なくともユキにとっては状況を把握させてくれたことへの感謝の方が大きかった。

 

(……状況を考えると、多分デュエルに勝たないと……合格出来ない。そして相手は実技最高責任者だから勝つのも大変。でも、勝負はやってみないと分からない?)

 

 二人はそれぞれのディスクを展開していく。そして対峙する二人は一斉に開始の宣言を行った。

 

「 「 デュエル! 」 」



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既視感の正体

クロノス先生の語録は奥が深い。


「 「 デュエル! 」 」

 

 二人のデュエリストの掛け声がデュエル場に響いた。

 

「先攻は受験生からと決まっているノーネ」

 

「了解した? 私のターン、ドロー。……私はマシンナーズ・ピースキーパーを守備表示で召喚」

 

 ユキはドローしたカードを一瞥すると脳内で分岐していく戦略の中から一つの道を選択した。赤を基調とした三輪バイクのロボットがエンジンをかけ、フィールドに走ってくる。

 

マシンナーズ・ピースキーパー 守備力400

 

「さらに永続魔法、マシン・デベロッパーを発動。これによりフィールドの機械族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする」

 

 フィールド全体の風景が変わっていくとそこは機械を生産する工場となり、金属が擦れるような作業音が時々聞こえるようになった。

 

マシンナーズ・ピースキーパー 攻撃力500→700

 

(ほほーう。マシン・デベロッパー……機械族専用のサポートカードナノーネ)

 

 攻撃力の上昇値はわずかに200。しかしクロノスはそのカードを決して侮ることは無かった。

 

「場にカードを一枚伏せて……ターンエンド」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『マシンナーズ・ピースキーパー』(守備表示)

 

セット1 『マシン・デベロッパー』

 

手札3

 

「ではわたくしのターン! ドローニョ」

 

 妙な掛け声と共にクロノスがドローを行う。しかし自らの手で引き抜いたユキと異なり、クロノスがデッキの前に手を添えるとディスクの機能でデッキトップのカードが一枚自動的に差し出された。

 

「おお……いいな。最新的……」

 

「あなたももし編入することが出来れば、このディスクをゲットすることも可能ナノーネ。しかーし! それはこのデュエルの結果次第ナノーネ。私は永続魔法、古代の機械城(アンティーク・ギアキャッスル)を発動するノーネ!」

 

 クロノスの背後から中世に作られた古びた城が地面から出現していく。その城は侵入者を許さないように大砲などの兵器が歯車式の機械によって動かされていた。

 

「ん……先生、センスある」

 

 古代にあったとされるオーパーツとも言うべき機械が歯車によって稼働していく様は彼女にとっては好印象だったようだ。

 

「おだててーも、手加減はしないノーネ! さらにわたくしは古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)を召喚するノーネ!」

 

 城からガトリング砲が腕に取り付けられた歯車仕掛けの機械兵士が出陣した。

 

古代の機械兵士 攻撃力1300

 

「モンスターが通常召喚に成功したことーで、古代の機械城にカウンターが一つ乗るノーネ」

 

古代の機械城 カウンター0→1

 

「さらーに古代の機械城が場にある限り、フィールドの『アンティーク・ギア』モンスターの攻撃力は300ポイント上昇するノーネ! 加えて古代の機械兵士は当然機械族、マシン・デベロッパーの効果も適用されるノーネ!」

 

「う……」

 

古代の機械兵士 攻撃力1300→1800

 

「マシン・デベロッパーは何もあなたのフィールドの機械族モンスターを強化するだけじゃないことを覚えておくノーネ。バトル! 古代の機械兵士でマシンナーズ・ピースキーパーに攻撃するノーネ!」

 

「……!」

 

「おっと、伏せカードを使おうとしても無駄ナノーネ。古代の機械兵士が攻撃するトーキ、相手はダメージステップ終了時までマジック・トラップを発動出来ないノーネ!」

 

「……おお。それはかなり厄介……」

 

 歯車が鋭く回転すると兵士は轟音を立てながらガトリング砲を発射すると複数の弾が三輪全てを撃ち抜き、身動きが取れなくなったロボットを確実に仕留めた。

 

「でも……破壊されたマシンナーズ・ピースキーパーのモンスター効果発動? このカードがフィールドから破壊された時、デッキからユニオンモンスターを1体手札に加えることが出来る。……私はZ—メタル・キャタピラーを手札に」

 

「ふむ……中々悪くない戦術デスーノ」

 

「どう……いたしまして? ……さらに機械族モンスターが破壊され、墓地に送られたことでマシン・デベロッパーにジャンクカウンターが2つ置かれる」

 

 破壊されたマシンナーズ・ピースキーパーの部品はアームによってベルトコンベアに乗せられて運ばれていった。

 

マシン・デベロッパー ジャンクカウンター0→2

 

(わたくしも機械族デッキの使い手としてあのカードは知っているノーネ。確かあのカードはジャンクカウンターを使うことで墓地の機械族を復活させることが出来る……さすがにこの時期に編入試験を受けようというだけあって(したた)かな戦術を取ってくるノーネ)

 

「これでターンエンドナノーネ!」

 

クロノス LP4000

 

フィールド 『古代の機械兵士』(攻撃表示)

 

セット0 『古代の機械城』

 

手札4

 

「私のターン、ドロー。……よし。私はX—ヘッド・キャノンを召喚する」

 

 青と黄色をベースとした機体に二つの砲塔を取り付けた戦車が出動した。

 

X—ヘッド・キャノン 攻撃力1800→2000

 

「モンスターが通常召喚に成功したことーで、古代の機械城に二つ目のカウンターが乗せられるノーネ」

 

古代の機械城 カウンター1→2

 

(あのカウンター……どう使うんだろう。カウンターが増えると攻撃力がもっと上がるとかではないみたい?)

 

「さらに永続魔法、前線基地を発動。このカードの効果を行使することで1ターンに1度、手札のレベル4以下のユニオンモンスターを特殊召喚する事が出来る。来て……Z—メタル・キャタピラー」

 

 X—ヘッド・キャノンの登場に合わせ、出番を待っていたかのように前線に設けられた基地から黄色一色に染まった戦車が出動した。

 

Z—メタル・キャタピラー 攻撃力1500→1700

 

(あのモンスター達は確か……シニョール万丈目が使っていたモンスター群ナノーネ。ということは狙いも……おのずと絞れてくるノーネ)

 

「バトル。X—ヘッド・キャノンで古代の機械兵士に攻撃」

 

 攻撃の気配を感じた兵士が先手を打ってガトリング砲を放つ。しかし戦車の砲塔から放たれたのはレーザーだった。近未来の兵器の前にガトリング弾は消滅していき、兵士も撃ち抜かれてしまった。

 

「ぐぬぬ……」

 

クロノス LP4000→3800

 

「さらに機械族モンスターが破壊されたことでマシン・デベロッパーにカウンターが二つ乗る。……相手フィールドの機械族を破壊してもカウンターが乗ることを覚えておくのを推奨?」

 

 崩れ去った機械兵士の部品がベルトコンベアに乗せて運ばれていく。

 

マシン・デベロッパー ジャンクカウンター2→4

 

「ウルシャラシー! そんなことはあなたに言われなくても分かっているノーネ!」

 

「それは……失礼しました? さらにZ—メタル・キャタピラーでダイレクトアタック」

 

 戦車の側部にあるアームが開いていくと隠されていた砲台が姿を現わし、エネルギー弾を放った。

 

「うぐっ……少しはやるノーネ」

 

クロノス LP3800→2100

 

「メインフェイズ2に入り……お楽しみの時間? Z—メタル・キャタピラーの効果発動。X—ヘッド・キャノンに装備し、攻撃力を600ポイント上昇させる……!」

 

 2体の戦車が変形していくとZ—メタル・キャタピラーが土台となり、X—ヘッド・キャノンが上に乗る形で互いにプラグを結合させることで合体を完了した。

 

X—ヘッド・キャノン 攻撃力2000→2600

 

「合体は……何度見てもいい。私はこれでターンを終了」

 

「……まあ、言いたいことは分からなくはないノーネ」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『X—ヘッド・キャノン』(攻撃表示)

 

セット1 『マシン・デベロッパー』 『前線基地』 『Z—メタル・キャタピラー』

 

手札2

 

「わたくしのターン! ……そろそろ、わたくしの切り札をあなたに見せてあげるノーネ」

 

「……! フィールドにモンスターがいない状況から切り札を……?」

 

「『アンティーク・ギア』モンスターを生贄召喚するとーき、生贄に必要な数以上のカウンターが置かれた古代の機械城を代わりにリリースすることで召喚が可能になるノーネ!」

 

「え……!?」

 

 クロノスの背後に建っていた城が崩れ去っていくと同時に巨大な地響きが発生する。尋常じゃないほどの揺れは大型モンスターの登場をユキに予感させた。

 

「現れるノーネ! 古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)!」

 

 城に使われていた部品が一つに集まっていくとそれはやがて巨大な人型の頑丈なロボットになり、目に該当する部分からは赤いレーザーが見え隠れし、標的を定めていた。

 

古代の機械巨人 攻撃力3000→3200

 

「ううん……お見事?」

 

「さらに装備魔法、古代の機械戦車(アンティーク・ギアタンク)を古代の機械巨人に装備するノーネ! これにより攻撃力が600ポイント上昇するノーネ! このカードは破壊され、墓地に送られればあなたに600のダメージを与える効果もあるカーラ、精々注意しておくノーネ」

 

 巨人の右拳に戦車の部品が取り込まれていくとただでさえ巨大な拳がより強固になった。

 

古代の機械巨人 攻撃力3200→3800

 

「おお……!」

 

「目をキラキラさせてる場合じゃないノーネ! バトル! 古代の機械巨人でX—ヘッド・キャノンに攻撃するノーネ!」

 

「……!」

 

 ユキは巨大なロボットに一瞬夢中になりかけたが、攻撃宣言を聞いて現実に戻される。

 

「さては……このモンスターも攻撃した時にマジック・トラップの発動を封じる?」

 

「ご名答ナノーネ! アルティメット・パウンド!」

 

(なるほど……これは『アンティーク・ギア』モンスターの共通効果)

 

 巨人の身体にある歯車が一斉に高速回転し出すと巨人が信じられないほどの跳躍を見せ、降下の勢いそのままに戦車目掛けて拳を振り下ろした。

 

「装備されているZ—メタル・キャタピラーを代わりに破壊することでX—ヘッド・キャノンは破壊を免れる……!」

 

「ですーが! ダメージは受けてもらいますーノ!」

 

 土台となっていた戦車がとっさに盾のようになり主軸となっていた戦車を破壊から守ることに成功したが、その衝撃は抑えきれず、そのままユキを襲った。

 

「きゃ……!」

 

ユキ LP4000→2800

 

X—ヘッド・キャノン 攻撃力2600→2000

 

「場にカードを一枚伏せて、ターンエンドデスーノ」

 

(これで大分こちらが有利になったノーネ。ただ、場にX—ヘッド・キャノンとマシン・デベロッパー。墓地にZ—メタル・キャタピラー。もしここから逆転がありえるとしたーら、それは……)

 

(……あまり長期戦にはしたくない。ユキの手札にはY—ドラゴン・ヘッドがいる。そしてこの状況なら……)

 

(……XYZ—ドラゴン・キャノンを呼び出すことナノーネ!)

 

(XYZ—ドラゴン・キャノンで逆転出来る……!)

 

クロノス LP2100

 

フィールド 『古代の機械巨人』(攻撃表示)

 

セット1 『古代の機械戦車』

 

手札2

 

「……ダメ、焦っちゃダメだよユキ……!」

 

 付き合いの長いレイは遠く離れたところから見ていてもユキが焦っていることに勘づいていた。

 

「……ほほ、友達のことが心配かな?」

 

「は、はい……」

 

 ユキには知らされていなかったが、様子を見に来ていた鮫島校長により既に全試験を終えたレイはデュエルを見る分には構わないとされ、鮫島校長と共にユキには気付かれない場所からこのデュエルの様子を伺っていた。

 

「それにしてもこの状況は厳しいね。古代の機械巨人は守備モンスターに攻撃した時、攻撃力を守備力が超えていた分だけダメージを与える効果もある。このまま守勢に回ってしまうと逆転の目は小さくなるばかりだ」

 

「そんな……で、でもユキならきっと勝ちます!」

 

「うん……ただ今のクロノス君は中々隙がない。今伏せたカード、恐らくは……」

 

「え!? まさか伏せカードが何か分かるんですか?」

 

「いやいや……さすがに私はエスパーではないからね。ただ、彼の気持ちになって考えてみると、おのずとどんなカードを伏せているのか予測することが出来るんだ」

 

「そうなんですね。でも相手の気持ちになって考えて相手の戦術を読むなんてまるで亮様みたい……」

 

 レイは亮のデュエルへの考え方を特集記事や、手紙から分かる人となりから理解し始めていた。そして鮫島校長と亮の考え方は不思議と似ている気がしたのだ。

 

「ん? 亮様……?」

 

 鮫島校長はレイを訝しんだ。何を隠そう、レイとユキは男装してこの試験を受けていたため、この発言は不自然なものとなっていた。

 

「あ! いや、あはは……亮さんって言ったんです」

 

「そ、そうか……聞き間違いか」

 

「それよりユキのデュエルですよ! 頑張れ……ユキなら落ち着けばきっと勝てる……!」

 

 レイの場所からはユキに応援の声は届くことはないのは分かっていたが、それでもレイはユキの勝利を信じて声援を送り続けていた。

 

 クロノスのターンが終わり、ユキのターンになったので彼女はカードをドローしようとする。しかしその時、彼女は自身に起こっていた異変を感じ取った。

 

「え……」

 

 ドローしようと伸ばした手が小刻みに震えていたのである。その震えは彼女の中に渦巻いていた感情を気が付かせた。

 

(……今更不安になった? 何故……筆記試験の時もそこまで緊張しなかった。今と筆記試験、その違いは……まさか)

 

 とっさに彼女は左右に振り向いた。しかしデュエル場の上にはクロノスとユキ以外には誰もいない。誰も見つかるはずがなかった。

 

(レイちゃんがいないから? ……そうかもしれない。筆記試験の時、不安にならなかったのは勿論私達が今までしてきた頑張りを信じたのもあるけど、それ以上に同じ教室でレイちゃんが受けていたから……安心していた。けど今は一人……)

 

「ど、どうしたノーネ?」

 

「……! 私のターン……」

 

 ディスクの液晶が鏡のようにユキの姿を映すと、ユキはその姿に既視感を覚えた。そして……その既視感の正体に気が付くと、それはレイがたった一度だけ自分に悲痛な顔を見せた時の姿だった。

 

(そっか……ユキは一人じゃない。不安になって焦って……基になる考え方を失っていたんだ)

 

「ドロー!」

 

(引いたのはジェイドナイトさん……。そう、考えてみれば当然のこと。デュエルは一人では出来ない。ユキがいて、対戦相手がいて、そして……私達を支えてくれるカードがすぐそこにいる)

 

 彼女に纏わりついていた不安は溶けるように消えていった。

 

(今こそ基本に立ち返る時。デュエルが一人で出来ない以上、ユキが全力を出すにも相手の出方次第で求められる全力は変わる。相手を観察するんだ……)

 

 彼女は落ち着きを取り戻すと改めてフィールドを確認する。ユキのフィールドにはX—ヘッド・キャノンとマシン・デベロッパーと一枚の伏せカード、対峙するクロノスの場には古代の機械戦車を装備した古代の機械巨人とこちらもカードが一枚伏せられていた。

 

(古代の機械巨人は攻撃時にマジック・トラップを発動させない効果がある。でもこれは共通効果……きっとまだ効果が残されている。それに古代の機械戦車は破壊されると私は600のダメージを与える。つまりユキのライフが600以下になれば古代の機械巨人を倒せても勝てない……長期戦を避ける考えは間違っていない)

 

 クロノスはユキがドローした後、固まるように考え込んでいくのを見ていた。しかし彼はそれを咎めようとはしなかった。

 

(彼は今までの発言から察するにマシン・デベロッパーの効果を知っているように見える。つまりZ—メタル・キャタピラーを復活させることは想定できるはず……。そして実技最高責任者である彼ならXYZ—ドラゴン・キャノンの存在を知っていてもおかしくない? もしかしたらあの伏せカードはこちらの逆転の一手を予測した妨害カードの可能性がある……)

 

 ユキはこのターンドローしたカードに目をやった。

 

(ユキはドローする前に焦ってこのターン取る戦術を決めようとしてしまっていた。でもそれはドローカードを含めた戦術の可能性を知らずのうちに潰していた……)

 

 彼女の中で状況の整理が終わると、決心がついた。

 

「考えはまとまりましたーか?」

 

「……はい。待たせてごめんなさい」

 

「そこは謝らなくてもいいノーネ。これは実技試験。あなたの持つデュエルの可能性を示す場所ナノーネ。デュエルでならいざしらず、言葉であなたの考えを邪魔するのは教師失格デスーノ」

 

「……ありがとうございます。私はこのモンスターさんを召喚? 来て……ジェイドナイト」

 

 突然フィールドにワープホールが出現すると通り抜けて来た小型の戦闘機が参上した。

 

ジェイドナイト 攻撃力1000→1200

 

「そして再び前線基地の効果を発動。この効果で手札のY—ドラゴン・ヘッドを特殊召喚」

 

 赤いドラゴンをモチーフにしたロボットが格納庫から発進すると、鋭い爪で地面を掴むように着地した。

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500→1700

 

(……まだ待つノーネ)

 

「さらにマシン・デベロッパーを墓地に送り、効果発動。このカードに乗っていたジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ私の墓地の機械族モンスター1体を私の墓地から特殊召喚する。……戻ってきて、Z—メタル・キャタピラー」

 

 集まった部品が組み上げられていくと墓地に置かれた戦車を復元することに成功し、再び場に戻される。すると役目を果たしたのか機械工場が消滅していった。

 

Z—メタル・キャタピラー 攻撃力1500

X—ヘッド・キャノン 攻撃力2000→1800

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1700→1500

ジェイドナイト 攻撃力1200→1000

 

古代の機械巨人 攻撃力3800→3600

 

「ふっふっふ……この瞬間を待っていたノーネ!」

 

「……!?」

 

 満を持してと言わんばかりに自信に満ち溢れた表情でクロノスは伏せカードを開示した。

 

「トラップカード、無力の証明を発動するノーネ! このカードはわたくしの場にレベル7以上のモンスターが存在する時に発動可能なトラップカード。わたくしの場にはレベル8の古代の機械巨人がいるから発動条件は満たしているノーネ。そしてその効果によーり、あなたの場のレベル5以下のモンスターは全て破壊されるノーネ!」

 

「……! 私の場のモンスターは全員レベル4……!」

 

「そう! つまーり、あなたの場のモンスターは全て破壊されるということデスーノ!」

 

 古代の機械巨人が拳を振り上げると勢いよく地面を叩きつける。すると地面が割れガレキが大きく舞い上がると、まるで隕石のごとくユキのフィールドを襲い、やがてガレキはユキのフィールド全体を押しつぶすように衝突した。

 

(これで場のモンスターは全滅させたカーラ、次のターンの古代の機械巨人の攻撃で終わりナノーネ)

 

 やがてガレキが消えていくとフィールドの様子が分かるようになる。がら空きのフィールド、その光景に勝ちを確信したクロノスだったが、小型のワープホールが4つ発生するとそれぞれのワープホールから1体ずつ機体がフィールドに戻ってきた。

 

「なっ……なんですーと!?」

 

「……危機一髪……」

 

 ユキは表情こそ普段と同じようなものに見えるが、平常時とは異なる心臓の鼓動の速さが彼女に走った緊張感を物語っていた。

 

「ありえないーの! 4体とも無事なはずはないノーネ! 確かに無力の証明の発動は成功したはずナノーネ!」

 

「うん……確かに発動には成功した? だけど私も……このトラップカード、逆さ眼鏡を発動していた。このカードの効果でフィールドの表側表示モンスターの攻撃力は……全て半減する」

 

 そう言われるとクロノスは確かに古代の機械巨人を含めた全てのモンスターの大きさが今までより小さくなっていることに気が付いた。

 

X—ヘッド・キャノン 攻撃力1800→900

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500→750

Z—メタル・キャタピラー 攻撃力1500→750

ジェイドナイト 攻撃力1000→500

 

古代の機械巨人 攻撃力3600→1800

 

「……? それがどうしたノーネ! 無力の証明で破壊されるのはレベル5以下のモンスター。攻撃力は関係ないノーネ!」

 

「でもそれが……このモンスターさんの効果につながるコンボとなった? ジェイドナイトの効果。このカードが表側攻撃表示で存在する限り、私の場の攻撃力1200以下の機械族モンスターはトラップカードの効果では破壊されない……!」

 

「あ、ああっ……! 逆さ眼鏡の効果でシニョールユキのモンスターの攻撃力は……」

 

「全員攻撃力1200以下になって小さくなったから、ジェイドナイトが作った小型のワープホールに避難出来た。これで私が無力じゃない証明……終了?」

 

「そんな回避方法が……し、しかーし! あなたの場のモンスターの攻撃力では古代の機械巨人を倒せないノーネ!」

 

「焦って……大事なことを忘れてる? これで私の場にX、Y、Zが揃った……」

 

「……! し、しまったノーネ……!」

 

「私の場にいるこの3枚のカードを除外することで『融合』のカードを使わず、融合デッキにいるこのモンスターを特殊召喚することが出来る!」

 

 Z—メタル・キャタピラーはアームを伸ばしていくと幅がありしっかりと安定性のある土台へと変形し、Y—ドラゴン・ヘッドは翼を畳むとX—ヘッド・キャノンの球形の足を背中のくぼみと合体させ、Z—メタル・キャタピラーの中心部にプラグを接続することで3体の機体が繋がりながらも決して不安定になることなく合体に成功した。

 

「合体……完了! 頼んだ……XYZ—ドラゴン・キャノン」

 

XYZ—ドラゴン・キャノン 攻撃力2800

 

「そしてXYZ—ドラゴン・キャノンの効果発動……! 私の手札を1枚捨てるごとにあなたの場のカード1枚を破壊出来る。私は手札に残った最後のカードを墓地に捨て、古代の機械巨人を破壊する……ハイパー・デストラクション!」

 

「マンマミーヤ……!」

 

 手札がエネルギーに変換されXYZ—ドラゴン・キャノンに充填されていく。安定した機体は標準を的確に定めると中央にいるY—ドラゴン・ヘッドの口から目にも留まらぬ速さで電磁波が放たれ、巨人を撃ち抜いた。撃ち抜かれた古代の機械巨人は身体が支えきれなくなり、やがてフィールドに崩れ去った。

 

「くっ、共に破壊された古代の機械戦車の効果であなたに600のダメージを与えますーノ……」

 

ユキ LP2800→2200

 

「この状況なら……ノープロブレム? バトル。XYZ—ドラゴン・キャノンでクロノス先生にダイレクトアタック。X・Y・Z ハイパーキャノン……!」

 

 それぞれのパーツからレーザー、電磁波、エネルギー弾が同時に放たれるとレーザーを中心に電磁波とエネルギー弾が螺旋状に回転しながらクロノスへと向かっていった。

 

「ペペロンチーノォォ……!」

 

クロノス LP2100→0

 

 この一撃で……デュエルの幕は下ろされた。

 

「勝った……?」

 

 ユキはまだ勝利したことへの実感が湧かない様子だった。今までのプレッシャーが感覚を麻痺させていたのか、少し放心するように立ち尽くしている。するとそこに拍手をしながら鮫島校長がレイと共に現れた。

 

「ユキー!」

 

 レイはユキの元に駆けていくと喜びをぶつけるかのように思い切り飛びついた。すると放心気味だったユキは突然のことに受け止めきれず、そのまま二人とも倒れてしまう。

 

「うわっ!? ご、ごめんユキ!」

 

「ううん……大丈夫」

 

 どうやら二人とも怪我はない様子だった。

 

「筆記試験は二人とも合格ライン、そして実技試験では二人とも試験官に勝利。おめでとう! デュエルアカデミアは二人を生徒として迎え入れます。……いいですね、クロノス教諭?」

 

「は、はい。勿論デスーノ」

 

「……! レイちゃ……レイも勝った?」

 

「うん! 僕も勝ったよ! ユキも絶対に勝つって信じてた……。 僕たちは合格したんだよ……!」

 

「……嬉しい……」

 

「ユキ……」

 

 レイはユキの目から光るものがこぼれ落ちるのが見えた。それはレイが初めて見たユキの涙であった。

 

「これからも……よろしくお願いします?」

 

「こっちこそよろしくね……!」

 

 二人はこれからも一緒にいられる喜びを分かち合った。こうして彼女達は編入試験に合格し、デュエルアカデミアに通うこととなった。




生贄召喚や融合デッキなど今では使わない言葉も世界観に合わせて使っていこうと思います。


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船上のトラブル

 編入試験から数日後。ユキとレイはデュエルアカデミアに向かう定期船に揺られ、束の間の航海を楽しんでいた。

 

「風が気持ちいいね、ユキ」

 

「うん……!」

 

 二人は甲板の上に立ち、潮風を浴びていた。ユキの照りつける日差しを反射するように輝く白銀色の髪も、レイの晴れ渡った青空のような紺碧色の髪も潮風によって大きくなびいていた。

 

「入学とか大きな行事がある時以外は乗る人があまりいないとは聞いてたけど、本当に少ないんだね……。こんなに風が気持ちいいのに僕たちだけで独占しちゃってるよ」

 

「おかげで髪も解放出来て……すっきり?」

 

「髪をまとめて帽子の中に長い時間隠すのは思ったよりストレスになるもんね。うーん、風が気持ちいいー!」

 

 髪が波打つかのように潮風が吹くと、彼女達は正体を隠すための男装のストレスも一緒にどこかに吹き飛んでしまうような気がしていた。

 しかしそんな時間も長くは続かず、少ない客数とはいえやはり甲板に上がってくる者は少なからずいるのか、そこへ向かう階段からカンカンと小気味良い音が聞こえてきた。

 

「レイちゃん。アカデミアの関係者かは分からないけど念のため男装しておいた方が無難?」

 

「わ、分かった!」

 

 彼女達はゴムで髪をまとめると帽子の中に髪を隠そうとする。しかしレイは突然のことで慌てていたのか、風に帽子をさらわれてしまい、運の悪いことに帽子が階段の下まで飛ばされてしまった。

 

「あっ……!」

 

 急いでレイは帽子を拾いにいこうとしたがユキはそれを手で制した。

 

「待って。レイちゃんはあそこの死角に隠れてて……ユキが拾ってくる」

 

「ごめん……お願いするよ」

 

 レイは隠れるのを見届けるとユキは帽子を拾いに行こうとする。しかしそれより先に階段を上がってきた者が帽子を拾い持ち主を探していた。周りを見渡したが彼の視界にはユキ以外の人影は入らなかったようだ。

 

「やあ、そこの少年。この帽子は君のかい? 既に帽子を被ってるみたいだけど……」

 

 白いスーツに黒い蝶ネクタイをした茶髪の青年が眼鏡のブリッジを抑えながら、穏やかな声で聞いてきた。

 

「そう。その帽子は……えっと、スペア? ……拾ってくれてありがとう」

 

(どうやら……アカデミアの関係者ではなさそう?)

 

 ユキは一歩詰め寄って両手を差し出し、帽子を受け取ろうとする。しかし一向に返される気配はなかった。

 

「ねえ、君にとって帽子は大事なものなのかい?」

 

「……うん。だから出来れば早急に返して欲しい」

 

 ユキはさらに一歩詰め寄り、帽子に手を伸ばそうとした。しかし青年が腕を伸ばし帽子を彼女の身長では届かない高さまで上げてしまった。

 

「……何のつもり?」

 

「くく……いや、僕は他人の大事な物を自分の物にするのが趣味でね。ディスクを見るに君はアカデミアの学生か……ならこれを賭けて僕とデュエルをしてくれないかい?」

 

 先ほどまで穏やかだった声は何処(どこ)へやら。下卑た笑みを浮かべた青年は帽子をチラつかせながらユキに問うた。

 

「嫌。私がそれを受けなきゃいけない理由はない。……返して」

 

「……失礼。それもそうか。大事なのはスペアの方じゃなくこっちの方だ……!」

 

「あっ……!」

 

 帽子を取ろうと近づいていたユキは不意をつかれ、自身が被っていた帽子を勢いよく取られてしまう。すると簡易的に止めていたゴムもその勢いで外れ、白百合が花開くように彼女の髪が解放されてしまった。

 

「う……」

 

 慌ててユキは手で髪が広がるのを止めようとしたが、時既に遅し。先ほどまでいた少年は可憐な少女へと変身していた。

 

「な……!? お前、女だったのか……」

 

(いけない!)

 

「ちょっと! ユキに何するのよ!」

 

 堪らずレイは飛び出すと青年とユキの間に割り込むように入り、指一本触れさせまいと手を広げた。

 

「うわっ!? な、なんだ! どこから出てきたんだ!」

 

「レイちゃん……」

 

「……まあ、いい。それよりデュエルを受ける理由が出来たな?」

 

「……何故?」

 

「わざわざそんな長い髪を隠してまで男の格好をしてデュエルアカデミアに入ろうとしてるんだ。何かしら……知られてはまずい事情があるんだろう?」

 

「…………」

 

 ユキは返答の代わりにもの言いたげな目線を向けた。

 

「おいおい、そんな悪人を見るような目で見てくれるなよ。これでもフリーのギャンブラー。勝負に負けたら素直にこの帽子は両方返すし、その秘密も黙っててやるよ」

 

(……やるしかない?)

 

「分か——」

 

「——僕がやる! ユキは下がってて」

 

 先ほどとは対照的にレイがユキを手で制すとディスクを展開し、まるで青年を睨み潰そうとしているかのように忌ま忌ましげな表情を浮かべた。

 

「レイちゃん……?」

 

「大丈夫だよユキ。僕を信じて」

 

「……うん。任せた」

 

 ユキはレイの言葉を信じて、素直に下がった。

 

「君がやるのかい?」

 

「最初にあなたが拾った帽子……それ僕のなんだよね」

 

「ふうん……まあ、俺はどちらと戦ってもいいけどね。俺の名前はボーイ。お手柔らかに頼むよ」

 

 余裕綽々(しゃくしゃく)といった様子で青年もディスクを展開していった。

 

「あなたもよくデュエルディスクを持っていたわね……」

 

「俺はデュエルアカデミアが世界中から選んだ7人のデュエリストの代わりになるためにここに来たからね。……さあ、おしゃべりはここまでだ!」

 

「……!」

 

「 「 デュエル! 」 」

 

 津波が船体にぶつかり海水が大きく跳ね上がるとそれを合図にするかのようにデュエルが開始された。

 

「先攻は俺だ。ドロー! 俺は暴れ牛鬼(うしおに)を召喚する!」

 

 身体中に白い紋様が描かれた赤い牛が現れると落ち着かなさそうに走り出した。

 

暴れ牛鬼 攻撃力1200

 

「さらに永続魔法、セカンド・チャンスを発動する。こいつの効果は……すぐに分かるさ。暴れ牛鬼の効果を発動するぜ! 1ターンに1度、俺はコイントスをして裏表を当てる。当てた場合にはお前に、外れた場合は俺に1000のダメージが与えられる!」

 

「いきなりそんなギャンブルを……!?」

 

「俺のデュエルは伸るか反るかの勝負の連続さ……それっ、俺の宣言は表だ!」

 

 フィールドに現れたソリッドヴィジョンのコインが舞うのと同時に興奮しだした牛がフィールド中央で回転するように加速していった。そしてコインの結果が示される。

 

「残念……裏だね。あなたは1000ポイントのダメージを受ける!」

 

 牛が突進しだすとその方向にいたのはボーイ。このまま突き飛ばされるかと思いきや、ポケットに入っていた赤色のスカーフを取り出すと牛の進行方向を誘導して再びフィールド中央に戻した。

 

「どうして!?」

 

「それは俺がセカンド・チャンスの効果を発動していたからさ。こいつは1ターンに1度、コイントスをやり直すことが出来る!」

 

「それじゃあ……!」

 

「もう一度だ! 今度は裏を宣言する!」

 

 ボーイはスカーフに軽くキスをすると再びコインを宙に舞わせた。結果は……裏。

 

「当たりだ! よって君には1000ポイントのダメージを受けてもらう」

 

 興奮した牛が今度はレイの方に向かっていき、勢いを殺すことなくそのまま突き飛ばした。

 

「きゃあ!?」

 

レイ LP4000→3000

 

「これでレイちゃんはいきなり1000ポイントのビハインドを負った……」

 

「くうっ、まだまだぁ!」

 

「いつまで持つかな……? 俺は場に2枚のカードを伏せてターンエンドだ」

 

ボーイ LP4000

 

フィールド 『暴れ牛鬼』(攻撃表示)

 

セット2 『セカンド・チャンス』

 

手札2

 

「僕のターン、ドロー! 来て、恋する乙女!」

 

 黄色のドレスに身を包んだ華奢な女の子がフィールドに舞い降りた。

 

恋する乙女 攻撃力400

 

「そんなモンスターでどうするつもりだ?」

 

「乙女の力を甘く見ると痛い目見るよ! 僕は場に2枚のカードを伏せてターンエンドだ!」

 

(ちっ……攻撃はしてこないか。だが!)

 

「なら俺はこのエンドフェイズに永続トラップ、神の恵みを発動させてもらう。これにより俺はドローをする度にライフを500回復させることが出来る!」

 

「うっ、ギャンブルだけかと思ったら堅実にライフ差を広げる気……?」

 

レイ LP3000

 

フィールド 『恋する乙女』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「さあてね……俺のターン、ドロー。神の恵みによりライフを500回復させてもらう」

 

ボーイ LP4000→4500

 

「そして俺は手札からもう1体の暴れ牛鬼を召喚する!」

 

 2匹目の赤い牛が現れるとこちらも落ち着かなさそうに走り出した。

 

暴れ牛鬼 攻撃力1200

 

「ちょっとまずい? もし2体の暴れ牛鬼の効果が成功すればライフは一気に1000になっちゃう……」

 

「さあ……一か八かの勝負と行くかい?」

 

「お断り! 暴れ牛鬼が召喚に成功したこのタイミングでトラップカード、落とし穴発動! 攻撃力1000以上のモンスターが召喚された時、そのモンスター1体を破壊する!」

 

「何だと!?」

 

 牛は力強く駆けていたが突如地面に抵抗を感じなくなる。それは一直線に走る先に落とし穴が仕掛けられていたためだった。牛に逃れる術はなく落とし穴に飲み込まれてしまった。

 

「確かにデュエルには一か八かでも勝負しなきゃいけない瞬間はあるかもしれない。でもそれだけがデュエルじゃないでしょ?」

 

「ぐうっ……。まあいいさ、ギャンブルに落とし穴はつきものだ。 暴れ牛鬼の効果発動!」

 

「……! 永続トラップ、マジシャンズ・プロテクションを発動!」

 

「それがどうした! 俺が選ぶのは裏だ!」

 

 三度(みたび)フィールドにコインが舞う。結果は表だったが、すぐにコインは跳ねるように空中に放られた。

 

「セカンド・チャンスによりもう1度だ! 今度も裏を宣言する!」

 

 コインが落ちてくると残っていた力で地面で回転しだす。やがて回転が収まりカランカランと地面にコインが叩きつけられるような音が聞こえた。結果は……裏。

 

「ビンゴ! また1000のダメージを受けてもらう!」

 

「そう簡単に同じ手は食わないよ! マジシャンズ・プロテクションにより場に魔法使い族がいる限り、僕が受ける全てのダメージは半減される。恋する乙女は魔法使い族! よって僕が受けるダメージは500になる」

 

「何……!」

 

 突進してくる暴れ牛鬼の威力を抑えるようにレイの周りに不可視の障壁が貼られると衝撃を和らげた。

 

レイ LP3000→2500

 

「ならバトルだ! 暴れ牛鬼で恋する乙女に攻撃!」

 

 暴れ牛鬼は進行方向を恋する乙女に定めると一直線に突っ込んでいった。

 

「マジシャンズ・プロテクションの効果でダメージは半分になる!」

 

レイ LP2500→2100

 

「だがこれでお前の場の魔法使い族はいなくなった!」

 

「それはどうかな?」

 

「……!」

 

 突進をまともに受けたはずの恋する乙女だったが、涙目になりながらもフィールドに残っていた。

 

「恋する乙女は攻撃表示でいる限りバトルでは破壊されない! さらに攻撃したモンスターに乙女カウンターを1つ乗せるよ」

 

 暴れ牛鬼は最初は困惑したかのようにぐるぐると回っていたが涙目になった恋する乙女を見ると目にハートマークが浮かび、今までにないくらい興奮して走り出した。

 

暴れ牛鬼 乙女カウンター0→1

 

「ちっ、面倒なカードだ……。俺はこれでターンエンド!」

 

ボーイ LP4500

 

フィールド 『暴れ牛鬼』(攻撃表示)

 

セット1 『セカンド・チャンス』 『神の恵み』

 

手札2

 

「僕のターン! 魔導騎士 ディフェンダーを召喚するよ!」

 

 青色のローブに身を包んだ騎士が参上すると乙女を守るように右手で縦長の盾を構えた。

 

魔導騎士 ディフェンダー 攻撃力1600

 

「魔導騎士 ディフェンダーは召喚に成功した時、自身に魔力カウンターを一つ置く!」

 

 盾の中央についている三角形を象ったような模様の装飾に光が灯った。

 

「ふん。そいつで暴れ牛鬼に攻撃するつもりか……」

 

「不正解よ! 僕は装備魔法、キューピッド・キスを恋する乙女に装備する!」

 

 天から光が差すと幼い天使が降りてきて、乙女のほっぺにキスをしていった。

 

「バトル! 恋する乙女で暴れ牛鬼に攻撃!」

 

「何!? 攻撃力の劣るモンスターで攻撃だと……?」

 

 恋する乙女が腕を横に振りながら牛に向かって走っていく。

 

「狙いは分からんが……永続トラップ、モンスターBOXを発動だ! 相手モンスターの攻撃宣言時、俺はコイントスをして裏表を当てる。当たれば攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズが終わるまで0になる!」

 

「……!」

 

「俺が選ぶのは表だ!」

 

 空中に放られたコインが落ちてくる。示された結果は裏。

 

「ちっ、セカンド・チャンスは使わねえ……」

 

「ならこのまま恋する乙女の攻撃を受けなさい! 届け、一途な想い!」

 

 恋する乙女が腕を広げ抱きつこうとすると牛は困惑しながらも避ける。すると飛びつくように抱きつこうとした乙女はそのまま転んでしまい、涙目になりながら悲しそうな表情で見つめた。牛は申し訳なさそうな顔で乙女に近づいていく。

 

「恋する乙女は自身の効果で破壊されず、マジシャンズ・プロテクションの効果で僕が受けるダメージは半分になる!」

 

レイ LP2100→1700

 

「ふん、何をするかと思えば……ただ無意味に自分のライフを減らしただけじゃないか」

 

「本当にそう思う? あなたのモンスターの様子をよく見てみなよ!」

 

「……なっ!」

 

 ボーイが一瞬目を離した隙に乙女が牛の額にキスをしていた。するとあれだけ暴れていた牛が今ではすっかりと乙女になつき、懐柔されてしまっていた。

 

「キューピッド・キスを装備したモンスターが乙女カウンターが乗っているモンスターに攻撃し、装備モンスターのコントローラーが戦闘ダメージを負った時、ダメージステップ終了時に戦闘ダメージを与えたモンスターのコントロールを得ることが出来るのよ!」

 

「俺のモンスターのコントロールを奪うだと……!?」

 

「これであなたの場にモンスターはいなくなった! 暴れ牛鬼でダイレクトアタック!」

 

 乙女がボーイのいる方向を指差すと手懐けられた牛はその通りにボーイに向かって突進していった。

 

「くっ、モンスターBOX! 宣言は裏だ!」

 

 コインが空高く舞い地面に落ちてくる。2、3回跳ねると一つの面を上に向けた。

 

「残念。表だよ! さあ、どうする?」

 

(……レイちゃんの場には暴れ牛鬼より攻撃力の高い魔導騎士 ディフェンダーがいる。ユキならここはセカンド・チャンスは使わないで大きなダメージを防ぐ確率を高める……)

 

「セカンド・チャンスを使う! 今度は表だ!」

 

 胸元にあるスカーフを取り出しキスするとコインをもう一度宙に舞わせた。結果は……表。ボーイを隠すように複数の穴の空いた箱が降りてくると、その穴の一つに牛は突っ込んでいく。しかしそこはボーイがいた場所ではなかった。

 

暴れ牛鬼 攻撃力1200→0

 

「なら魔導騎士 ディフェンダーでダイレクトアタック!」

 

 魔導騎士は盾を構えるのを一旦やめると左手に持っていた短剣を肩の高さまで上げ、標準を定めた。

 

「モンスターBOX! ……表だ!」

 

 コインが地面から押し出されるように空中に投げ出されると、重力を受けて落ちてきた。

 

「裏だと!?」

 

「セカンド・チャンスが使えるのは1ターンに1度! もうやり直すことは出来ない!」

 

 短剣が鋭く投擲されるとボーイに向かって飛んでいく、反射的にボーイは短剣を避けようとするが肩を掠めるように切れ味を受けることとなった。

 

「ぐっ!」

 

ボーイ LP4500→2900

 

(ソリッドヴィジョンだと分かっているけど……痛そう?)

 

暴れ牛鬼 攻撃力0→1200

 

「さらに僕はメインフェイズ2に入り、暴れ牛鬼の効果を使わせてもらうよ!」

 

「……! そっちからギャンブルを仕掛けてきたか……!」

 

 モンスターBOXから抜け出し興奮状態にあった暴れ牛鬼が再びフィールド中央で回るように走り出すと同時にフィールドにコインが舞った。

 

「僕が宣言するのは……表!」

 

(レイちゃんの場にはマジシャンズ・プロテクションがあるから外れてもダメージは500で抑えられる。分は……悪くない?)

 

 コインが降下していき地面に跳ねると、やがて静止して裏の面が地面に触れ、表の面が大気に触れた。

 

「当たりよ!」

 

「馬鹿な……!?」

 

 牛が走り出した方向にはボーイがいた。避ける術はなくそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ、俺にギャンブルカードでダメージを負わせるとは……!」

 

ボーイ LP2900→1900

 

「よし……! 僕はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

レイ LP1700

 

フィールド 『恋する乙女』(攻撃表示) 『魔導騎士 ディフェンダー』(攻撃表示) 『暴れ牛鬼』(攻撃表示)

 

セット1 『キューピッド・キス』 『マジシャンズ・プロテクション』

 

手札1

 

「俺のターン! 神の恵みによりライフを500回復する! そしてスタンバイフェイズにモンスターBOXの維持コストとしてライフを500払う」

 

ボーイ LP1900→2400→1900

 

「なるほど……神の恵みはモンスターBOXを維持するためのカードってことね」

 

「そういうことさ。俺は場にこのモンスターを守備表示で召喚する。来い! 俺の切り札……サンド・ギャンブラー!」

 

 どこからともなく砂塵が舞い上がると中央の無風地帯にカジノにいるボーイのような格好をした男性が現れていた。

 

サンド・ギャンブラー 守備力1600

 

「サンド・ギャンブラーの効果発動! こいつは今までのとは一味違うぜ……! 1ターンに1度俺はコイントスを3回行い、3回とも表ならお前の、3回とも裏なら俺の場のモンスターを全て破壊する!」

 

「……! 僕はこのタイミングで永続トラップ、漆黒のパワーストーンを発動するよ! このカードは発動時、自身に魔力カウンターを3つ置く!」

 

 黒いパワーストーンが出現すると魔導騎士の盾に描かれた紋章と同じ模様が浮き上がるように出現した。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター0→3

 

「ふん、カウンターが好きなやつだ。行くぜ……コイントスだ!」

 

 サンド・ギャンブラーが懐から取り出した金色、水色、赤色の3枚のコインが同時に空中へ舞うとその結果を同時に示した。

 

「裏、表、裏……このままなら何も起きないけど」

 

「俺はセカンド・チャンスの効果を使い、もう一度やり直させてもらう!」

 

「……! 自分のモンスターを失うリスクもあるのに……!」

 

 今度は金色のコインから順番に1枚ずつコインが跳ねていく。金色の面は表を上にし、水色のコインも表を示した。そしてボーイがスカーフに軽くキスをすると赤色のコインも舞い、結果が示される。

 

「はっはっは! これだからギャンブルはやめられねーぜ!」

 

「全部表……!」

 

 3枚のコインの表面に描かれていた戦士が実体化していくと、レイの場にいる3体のモンスターにそれぞれが斬りかかっていった。

 

「これでお前の場は全滅だ!」

 

「いや……そうはさせない!」

 

「なっ……!?」

 

 暴れ牛鬼はコインナイトにあっさり討ち取られてしまったのに対して、魔導騎士は短剣を地面に突き刺すと魔力を用いてもう一つの盾を出現させていた。右手の盾で自身を守りながら、左手の盾で恋する乙女に降りかかる攻撃を全て防ぎきっていた。

 

「僕は魔導騎士 ディフェンダーのモンスター効果を適用していたのさ! このカードは 1ターンに1度魔法使い族モンスターが破壊される場合、破壊される魔法使い族と同じ数の魔力カウンターを自分フィールドから取り除くことで破壊を免れることが出来る!」

 

魔導騎士 ディフェンダー 魔力カウンター1→0

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター3→2

 

「漆黒のパワーストーンを発動したのはこのためだったのか……!」

 

「そうよ! 獣戦士族の暴れ牛鬼は破壊されちゃったけど僕のモンスターはこれで守られた!」

 

「くっ……俺はこれでターンエンドだ。だが、勝ったと思うな! 俺はお前の戦術の弱点に気付いているのさ……!」

 

 ボーイはサンド・ギャンブラーの効果が完全に決まらなかったことに焦りつつも、まだ確かな余裕を残している様子だった。

 

「僕の……弱点?」

 

「お前の場にある装備魔法、キューピッド・キスは俺の場のモンスターを奪ってしまう厄介なカードだ。だが乙女カウンターが乗ったモンスターにしか使えない! そして乙女カウンターは恋する乙女にさえ攻撃しなければ乗せられることはない……!」

 

「む……」

 

「そしてお前の場にはサンド・ギャンブラーの守備力を超えるモンスターはいない。一体呼び出せたとしてもモンスターBOXとセカンド・チャンスで無力化出来る。結局のところ相手モンスターを奪えなければお前のデッキは火力不足なのさ!」

 

 少し見下しているかのようにも聞こえる言い振る舞いだったが、この指摘に対してレイは怒りを感じることはなかった。

 

(……今の考察は(あなが)ち間違いではない? 何故ならそれはレイちゃん自身、恋する乙女をデッキに投入してからずっと向き合っている“課題”だから……)

 

ボーイ LP1900

 

フィールド 『サンド・ギャンブラー』(守備表示)

 

セット0 『セカンド・チャンス』 『神の恵み』 『モンスターBOX』

 

手札2

 

「……ご忠告どうも。確かに今の僕のデッキはまだまだ弱点があるのかもしれない」

 

 敗北を認めたとも捉えられる発言にボーイは思わずにやける。

 

「でもね。それでもこのデュエル、僕は負けないよ。だって……あなたのデュエルにはもっと大きな弱点があるんだもの」

 

「何!? それは何だ……!」

 

「それはね……デュエルで教えてあげる! 僕のターン、ドロー!」

 

 勢いよく潮風がレイに向かって吹いたが、それを切り裂くように鋭くカードが引き抜かれた。

 

「僕は魔導戦士 ブレイカーを召喚! このモンスターは召喚に成功した時、自身に魔力カウンターを一つ置く。そして魔導戦士 ブレイカーは自分に乗っている魔力カウンター一つにつき、攻撃力が300上がる!」

 

 魔導騎士とは対をなすような赤いローブに身を包んだ魔導戦士が見参する。守備に長けた魔導騎士とは違い、盾は最低限の大きさである代わりに手に持った魔法剣は扱いやすいながらも相手に斬りかかるには十分なリーチの長さを備えていた。すると魔法剣は一瞬輝き、魔力を取り込んでいく。

 

魔導戦士 ブレイカー 魔力カウンター0→1 攻撃力1600→1900

 

「ふん! 何とか攻撃力がサンド・ギャンブラーの守備力を超えているモンスターを呼び出したか。だが俺の場にモンスターBOXがある限り、攻撃は通さん! 今度こそコイントスを当てて防いでみせる!」

 

「……ねえ、あなた気付いてる? 今のあなたはまるでデュエルをギャンブルの延長のように考えていることを」

 

「それのどこが悪い! お前には分からないのか!? 一瞬一瞬の瀬戸際を切り抜ける俺のギャンブル魂が!」

 

「あなたがギャンブルに拘りたいと言うのならそれは別に否定しないよ。……でもね、デュエルはそのあなたからギャンブルを取り上げることも出来るの。魔導戦士 ブレイカーの効果発動! 自身に乗っている魔力カウンターを一つ取り除くことでフィールドに存在するマジック・トラップカードを1枚破壊出来る! 僕が狙うのは……モンスターBOXだ!」

 

「なっ……!」

 

「放て! マナ・ブレイク!」

 

 魔導戦士が天に捧げるように剣を掲げると、やがて剣の先から吸収した魔力が解き放たれ天に向かっていく。やがてそれは雷となってボーイの場にあったモンスターBOXを貫いた。

 

魔導戦士 ブレイカー 魔力カウンター1→0 攻撃力1900→1600

 

「ギャンブルが出来なくなった時……あなたのデュエルには何が残る?」

 

「う……」

 

 ボーイはとっさにセカンド・チャンスを見る。しかし今のボーイがそのカードを使うことは叶わなかった。

 

「さあ、決着をつけるよ!」

 

「決着だと……? 魔導戦士 ブレイカーの攻撃力も効果を使ったことで1600に戻った! お前の場にサンド・ギャンブラーの守備力を超えられるモンスターはいない!」

 

「それはどうかな! 漆黒のパワーストーンのもう一つの効果を発動! 自分のターンにつき1度、このカードに乗っている魔力カウンター1つを別のカードに置くことが出来る。この効果で魔導戦士 ブレイカーに魔力カウンターを移すよ!」

 

「魔力カウンターを……ああっ!」

 

 三角形の頂点のうち二つに点灯していた光が一つ消え去ると、魔導戦士の剣に宿り力を与えた。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター2→1

 

魔導戦士 ブレイカー 魔力カウンター0→1 攻撃力1600→1900

 

「バトル! 魔導戦士 ブレイカーでサンド・ギャンブラーに攻撃!」

 

 魔導戦士はサンド・ギャンブラーの懐に入り込むと剣に魔力を集中させ、一閃して紫電を走らせた。

 

「そして魔導騎士 ディフェンダーでダイレクトアタック!」

 

 地面に突き刺さっていた短剣を引き抜くと先ほどのように投擲するのではなく盾を構えながら近づき、隙を見つけると確実に斬りかかった。

 

「ぐっ!?」

 

ボーイ LP1900→300

 

「これでラストよ! 恋する乙女でダイレクトアタック!」

 

 華奢な乙女が腕を横に振りながら必死にボーイに向かって駆けていく。客観的に見れば可愛らしい様子だったが、ボーイにとっては目の前の女の子が放つ怒気も相まってまるで少女の格好をした鬼が近づいてくるような感覚に陥っていた。

 

「一途な想い!」

 

ボーイ LP300→0

 

「負け……た。また……」

 

 デュエルが終了してソリッドヴィジョンが消えていくと同時にボーイは膝をがっくりと落とした。

 

「また?」

 

 レイがディスクを収納して近づいていくと青年の言葉に疑問を持った。

 

「前の晩、ギャンブルで大負けしたんだ……。デュエルアカデミアの戦士に選ばれたくて来たのにこんなんじゃいけないとむしゃくしゃして……誰でもいいから賭けをして勝ちたかったんだ」

 

「だから……ユキにあんなに強引に当たったのね?」

 

「あ、ああ……」

 

「はあ……。イライラしたからって年下の女の子に当たるなんて、なんて情けない男なの……」

 

「うっ! い、いや……あの時は女の子だとは知らなくて……」

 

「言い訳しない!」

 

「はっ、はいぃぃ! すいませんでしたぁ!」

 

 詰め寄るレイのあまりの迫力にびびった青年はとっさにそのまま土下座してしまった。

 

「まあまあ……そこまでさせなくても」

 

「ユキ。……でも」

 

「ほら。帽子を返して?」

 

「ああ……悪かった」

 

 青年はユキに大人しく帽子を両方返した。容赦なく詰め寄るレイに対して手を差し伸べてくれたユキは青年にとっては天使といっても相違ないくらいの存在に感じられた。

 

「まったく……ユキは甘すぎるよ」

 

「でも……男の人が年下の女の子にプライドを捨てて土下座までしてるのを見るのはこっちまで惨めな気持ちになってくる?」

 

「うっ、うわあああん!」

 

 青年は天使だと思っていた娘が放った追撃の一言で耐えきれず、大粒の涙を流しながら走り去っていった。

 

「……容赦ないね、ユキ」

 

「……?」

 

 走り去っていった青年を見て、ユキはただ首を傾げるのであった。

 

 トラブルもあったが無事に定期船はデュエルアカデミアに到着した。ユキは船から伸ばされた階段を歩きそこに降り立つと、見渡す限り広がる大地に息を飲んだ。

 

「ここが……デュエルアカデミア」

 

 景色から一度目を離すとユキはレイがまだ降りていないことに気がつく。レイは船から降りる前にデュエルアカデミアを……特にカイザーがいるブルー寮を見つめていた。

 

「来たんだ……ついにここまで」

 

 レイは少し放心していると船員に降りるように促されて顔を少し赤くしながら降りてくる。その先では親友が手を差し出して待っていた。

 

「行こう?」

 

「うん!」

 

 レイは親友の手を掴むように最後の一段を飛び降りると勢いで少し寄りかかる。二人は照れるように笑うとデュエルアカデミアに向けて歩き出した——。




今回の話までを読んで本来の時系列と比べてどこか違和感を覚えた方もいるかもしれませんが、次話の後書きで時系列については補足を入れたいと考えています。


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決意の証明

 ユキ達がレッド寮についたのはもう日が暮れようかという時間で、ちょうど夕食を食べようと寮生が食堂に集まっていた。

 

「あれ? 寮長がいない……?」

 

「そんなことあるのかな……」

 

 寮長の部屋をノックしても返事はなく、食堂に集まっているのかと思い覗いてみたところ寮長の姿は見受けられなかった。

 

「ん? お前らが噂に聞いてた編入生か!」

 

 すると食堂を覗いた二人に十代が気が付いた。編入先が最下層であるオシリスレッドであるため落ち込んでいると思った十代が二人を励まそうと席を立つ。

 

「なーに。成績悪くたって気にすんな! 俺たちと一緒に楽しくやっていこうぜ」

 

 十代は近づくと二人の背中をバシバシと叩いた。彼なりの気遣いだったのだが彼女達にとっては叩く力が強く、二人とも逃れるように食堂の扉の後ろに隠れてしまった。

 

「違うんだなぁ、十代。確か編入生はまずオシリスレッドに入る決まりなんだな。二人とも成績が良いって聞いてるからきっとすぐにイエローに行けるんだなあ」

 

 十代が早とちりしたことに気がついた隼人はとっさにフォローを入れた。

 

「うっ、僕達のこと噂になってるのかな」

 

「この時期に二人の編入生は珍しい……仕方ない?」

 

 二人は気づかれないように小声で会話する。噂になると彼女達の正体もばれやすくなってしまうため、あまり芳しい状況ではなかった。

 

「えっ、そうなのか!? あはは……とにかくオシリスレッドの仲間が増えるのは大歓迎だぜ! なっ、翔! 隼人!」

 

「勿論っす!」

 

「歓迎するんだなー」

 

「あっ! でも確か部屋が余ってないんだよな……ちょうどいいや! 俺達の部屋に来いよ!」

 

 こうしてユキ達は十代達の部屋で寝泊まりすることになったのだが、三人ベッドの隣に新たにベッドが二つ置かれたため部屋が窮屈なものとなっていた。

 

「うう……これは狭いっすね」

 

「……ごめん」

 

「ごめんなさい」

 

「気にすんなって! 狭くたって飯と食える場所があればそれでいいのさ。それより風呂入りに行こうぜ! 男同士背中を流し合えばもう仲間だぜ!」

 

 そう言うと気の早い十代はもう制服を脱ぎ捨て、シャツもそのまま脱ごうとしていた。レッド寮の近くに露天風呂があるのだがブルー寮にしか女子生徒がいないため、横着して先に上を脱いでしまう生徒はそれなりにいたのだ。

 

「……ひゃ!?」

 

「わお……」

 

 十代が脱ぎかけなことに気付いたレイは慌てて自分とユキの目を塞いだ。

 

「えっと……ごめんなさい? 長時間船に乗って疲れたみたいで今日はもう休みたい……」

 

「……あっ、僕も!」

 

 このまま一緒に風呂に入るわけにはいかないのでとっさにユキが誤魔化すとレイも意図に気が付いたようだ。

 

「あー、分かるっす。船に乗った後って酔う感覚が残って妙に疲れるんすよね」

 

「そっか。じゃあゆっくり休めよ!」

 

 そう言うと十代達は部屋を出ていき、風呂に入りにいった。

 

「ふー、びっくりしたぁ。いきなり脱ぐなんて……。よくとっさに誤魔化せたね」

 

「うん。でも、疲れたのは本当。明日からのこととか色々話したいけど……限界」

 

 そう言い終わるや否やユキはベッドに倒れこむと、次の瞬間には静かに寝息を立て始めた。

 

「……もう寝ちゃった」

 

 船旅以外にも慣れない男装の疲れなどもあるだろうか。レイはユキに布団をかけてあげると自分も疲れが溜まっていたことに気がついた。

 

「変な男にも絡まれて大変だったしね。ふわぁ……」

 

 レイも布団に潜るとすぐに睡魔に負け、ベッドに沈むように寝てしまった。

 

 次の日、アカデミアの生徒全員が収まることが出来る講堂で簡単な朝礼を受けるとすぐに解散され、生徒が校舎の外に出て行く。授業が始まると思っていた二人はこの事態に困惑していた。

 

「ああ……そっか、お前らは知らないよな。実はそろそろ学園祭があってさ。今はその準備期間ってことで授業はないのさ」

 

「そうなんだ。じゃあ僕達も手伝うよ」

 

「私もレイ……と一緒に手伝う」

 

「おう。助かるぜ! 後でレッド寮で合流なー」

 

 そう言うと十代は人混みに溶けていく。ユキ達も混雑を掻き分けるように抜け出すと歩きながら今後のことを相談していた。

 

「うう……早く亮様に会いたいよ」

 

「とりあえずイエローに昇格してちゃんと部屋を貰うまでは我慢。まだ様子を見ないと……正体がバレてしまったら元も子もない?」

 

「そうだよね……」

 

 校舎を出ようと歩く中途中で購買部を通り過ぎようとした。その際、ユキはアカデミアに入った暁には果たしたかった一つの目的を思い出した。

 

「あっ……」

 

「ん? どうしたのユキ?」

 

「用事を思い出した。ここで少し待ってて?」

 

「……? うん、分かったよ」

 

 ユキが小走りで購買部に戻るとトメさんという女性の購買員に何かを注文していた。それを眺めるように見ていたレイは奥の方からこちらの方に向かってくるある人物に気が付いた。

 

「……! 亮様……!?」

 

 とっさにレイは物陰に隠れる。すると三人の取り巻きの男子生徒と亮の会話が聞こえてきた。

 

「え? 亮さん今日デッキは持って来てないんですか?」

 

「ああ。みんなも忙しい時期だから挑んでくるデュエリストもそういないだろうし、俺も準備を手伝いたいから寮に置いてきた。もし挑んでくる人がいれば時間がある夜に回してもらうつもりだ」

 

「なるほど……理にかなっていますね」

 

「カイザーと呼ばれながらも精力的に準備を手伝うなんて殊勝な心掛けですねえ。私達も見習わねば」

 

「……あまりカイザーと呼ぶのは勘弁して欲しい」

 

 物陰に隠れていたレイに気付くことはなく亮達はそのまま去っていった。

 

(亮様のデッキ今は寮にあるんだ。今なら亮様のデッキを一目見ることも……って、僕何考えてるの!?)

 

 自然に思いついた考えに理性が急ブレーキをかけた。しかし彼女自身、亮としばらく話せないならせめてデッキだけでも一目見たいという気持ちを抑えきれずにいた。そして……気がついたらブルー寮に向けてレイは走り出していた。

 その数分後、用事を終えたユキが戻ってきたがレイの姿が見当たらず困っていた。

 

「……? お手洗い……かな?」

 

 ユキはその階の案内図を見ると複数のトイレがあることが分かったため、その場で待つことに決めた。するとそこに翔と隼人がやってきた。

 

「今のうちにドローパンを確保……ってあれ、ユキ。こんなところで何してるっすか?」

 

「翔さん。今レイ……を待ってるところ」

 

「ん? さっきレイなら走って出ていくのを見かけたよ」

 

「え……!?」

 

「なんか急いでたんだなぁ。十代も気になったのか追っていっちゃったし……」

 

(……まさか、亮さんに会いにブルー寮に?)

 

「……失礼します」

 

「あっ、ユキも行っちゃったす……」

 

「二人の分のドローパンも買っといてあげるんだなあ」

 

 ユキは不安と嫌な予感を抱きながらブルー寮に向かって走り出す。ブルー寮の前まで来たユキはその嫌な予感が的中していたことを知ることになった。亮の部屋の窓からレイが長い青髪を揺らしながら木をつたって降りてくると、同じく部屋にいた十代が出る前に一度部屋に戻ってきた亮と取り巻きに捕まってしまった。

 

「ユ、ユキ……」

 

 息を切らすように出てきたレイはユキと鉢合わせすることになる。肩が上下するたびに揺れる髪はその姿を十代に見られたことを伺わせた。

 

「……とりあえず隠れよう」

 

 事情を聞く前にユキはレイと一緒に木陰に隠れて亮の部屋の様子を伺った。

 

(彼がレイちゃんの正体を他の人に話せば……全ては水の泡)

 

「お、お前ら少しは人のことを信頼しろよぉー!」

 

 取り巻きに捕まった十代はベランダの手すりから引っぺがされ、部屋の中に戻されていく。

 

「勝手に人の部屋に窓から入り」

 

 鍵がかかっていなかったとはいえ閉じられていた窓が今は開いていた。

 

「亮さんのデッキを勝手に見て」

 

 亮の部屋の棚の中にしまわれていたデッキは棚の前に散乱されていた。

 

「そんな奴を信頼する方が無理ってものだろう!」

 

「うっ……」

 

 実際にデッキを見たのはレイだったが状況を考えると明らかに十代は怪しかった。

 

「……ん?」

 

 そんな中、亮はデッキの近くに落ちていた女性物の髪留めに気がつくと、それを拾い上げた。

 

(……これは)

 

「俺はその……えっと、窓が開いてたから閉めてあげようかなーなんて……」

 

「じゃあこのデッキが散らばっている理由はなんだ!」

 

「えーと……風?」

 

「亮さんは棚の中にデッキをしまっていたんだぞ。そんな訳あるか!」

 

「放してやれ」

 

「えっ……亮さん?」

 

 取り巻き達は戸惑いつつも素直に十代を解放した。

 

「それと十代。出るときはドアから出て行け。出口はあっちだ」

 

「カイザー……サンキューな。お騒がせしましたー!」

 

 納得がいかなそうな顔をする取り巻き達を横目に十代は部屋から出ていくと、レッド寮に戻っていった。

 

「どうして僕のことを言わなかったんだろう……」

 

「……それは分からないけど」

 

 ブルー寮から出ていった十代を横目にユキはレイが背にしていた木に手をつき、顔をじっと見つめながら話した。

 

「なぜ……こんなことを?」

 

(う……ユキ、怒ってる? そりゃそうだよね……)

 

「ごめんね。亮様と話せないならせめてデッキだけは一目見たいと思って……」

 

 申し訳なさそうに目を伏せながら話すレイ。それを見てユキは木から手を離し、代わりにユキの手を握った。

 

「……こっちも気付かなくてごめんなさい。せっかくデュエルアカデミアに来たのにすぐ亮さんと話せないのはレイちゃんにとっては酷なことだった……」

 

「えっ! そ、そんな……ユキが謝ることなんて!悪いのは僕で……」

 

 怒られると思っていたレイは意表を突かれ、驚愕の表情を浮かべながらユキの言葉を否定した。しかしユキも首を横に振ってそれをさらに否定していた。

 

「ううん……レイちゃんが今まで切ない想いを抱いていたのはユキが一番よく知っていた。苦労してやっとアカデミアに来たんだから正体がバレるリスクがあっても話す機会を作るべきだったの……」

 

「ユキ……ごめんね。あと……ありがとう」

 

 レイは手を握り返すと木陰から抜け出した。手を繋いでいたユキも日の当たる場所に出ることになった。

 

「これからどうなるかあいつ次第だけど……戻ろうか」

 

「うん……」

 

 一抹の不安を抱きながらもユキ達はレッド寮に戻っていった。

 

 二人がブルー寮から離れたあたりの頃。散らばったデッキを集め終えた亮は取り巻きを先に学園祭の準備に向かわせると、棚から1枚の手紙と同封されていた写真を取り出した。

 

「この髪飾りと……この写真に写っている女の子がつけている髪飾り。やはり似ている……」

 

 その写真に写っていたのはレイ。取り出した手紙は1年前にレイが送ったものだった。確認を終えた亮は電話を取り出すとある人の所へ電話をかけた。

 

「もしもし。鮫島です。……ああ、亮ですか。電話をかけてくるなんて珍しいですね」

 

「突然すいません、師範」

 

「はは……師範はよしてください。ここでは校長ですから」

 

「……失礼しました。今日電話をかけたのは確認したいことがあったからです」

 

「ふむ。それで確認したいこととは?」

 

「つい先日編入してきたという生徒が二人いると聞きました。その二人の名前を教えて欲しいのです」

 

「おお……彼らですか。早乙女レイ君に神凪(かんなぎ)ユキ君ですね。いやはや、編入試験を見ていましたが二人ともいいデュエルをしていましたよ」

 

 鮫島校長はあの時のデュエルを思い出しながら楽しそうに亮に話し続ける。亮はその内容を頭に入れつつも手紙の送り主の名前を確認していた。

 

(送り主の名字は書かれていないが名前はレイと書かれている。そしてこの髪飾りと写真……)

 

 亮の中で憶測は確信に変わった。そして亮自身今までファンレターだと思っていた手紙は、もっと深い意味を持っていたことも同時に感じ取ることになった。

 

 舞台は変わり、レッド寮。ユキ達が戻ると学園祭に向けての作業が着々と進んでいた。

 

「あっ、おーい! レイ、ユキ!」

 

「……!」

 

 十代からかけられた声にレイの肩がビクッと震えた。しかし十代はレイの正体に触れるばかりか、先ほどの濡れ衣の文句の一つも言うことなく学園祭の準備でやるべきことを教えると作業に戻っていった。その後作業をする間も休憩でドローパンを食べる間も、十代は先ほどのことに触れてこない。そして学園祭の準備が終わり、ついには夜を迎えた。

 

 真偽を聞くためレイは十代をレッド寮の下あたりにある沿岸に誘うと、波の音をバックに十代を問いただした。

 

「なあ、どうして僕のことをバラさなかったんだ?」

 

「昼間のことか? 女の子がわざわざ男の格好をしてこんなところまで来たんだ。なんか訳ありそうだなって思ってさ」

 

「言うな! 昼間見たことは絶対人に言うんじゃない!」

 

「……人にモノを頼むときはまず事情を説明するもんだ」

 

「出来ない!」

 

 十代はその答えは予想していたというように苦笑いするとデュエルディスクを取り出した。

 

「じゃ、デュエルだ」

 

「……!? なんだ、それは。どういう理屈なんだ」

 

「デュエルじゃ誰も嘘はつけないってことさ」

 

 こうして二人のデュエルが開始される。崖の上からレイがデュエルを見ていると十代とレイを探しにきた翔と隼人が、そして二人がここでデュエルをすることを見越していたように亮が明日香と一緒に現れた。

 

(……! 亮さん……!?)

 

「あれ、お兄さん。どうしてここに?」

 

「翔か。レイと十代のデュエルは……もう始まってるみたいだな。……俺は彼女のデュエルを見る必要がある。デュエルは人となりやその人のあり方を示す。十代もそれが分かっているからデュエルを挑んだんだろう」

 

「えっ……」

 

 そう言いながら亮はレイの髪飾りを取り出した。

 

「か、彼女って……」

 

「レイは女の子なのよ」

 

 夜を迎える前に相談を受けていた明日香が亮の代わりに答えた。

 

「ええー!?」

 

「びっくりなんだな……」

 

「あれ……ということはもしかして」

 

 翔は目線をユキに向ける。レイが男装していたのなら、ユキもそうではないかと思ったのである。

 

(亮さんは完全に確信している……ここらが潮時? レイちゃんの正体がバレてしまった今、ユキの正体を隠す意味はない……)

 

「うん……ごめんなさい。ユキ達は二人とも女の子……」

 

「それだけじゃないな」

 

「う……やっぱり気付いていた?」

 

「この手紙によればレイは今年で小学5年生のはずだ。一緒に男装していたユキも恐らくそうだろう……」

 

「……はい」

 

 規則によりデュエルアカデミアは中学1年生にならないと入学は認められない。彼女達は入学の資格を持っていないことがついにバレてしまった。

 

(レイちゃんの言っていた通り、あの手紙にレイちゃんはこれからのことを考えず色々なことを書き連ねてしまった。でもそれは仕方ない。あの時のレイちゃんは思いの丈をぶつける必要があった……)

 

「えっ、二人共小学5年生なんすか!? ……で、でもその割にアニキすごい苦戦してるっすよ!」

 

「……!」

 

 ユキの得意とする恋する乙女によるコントロール戦術の術中にはまった十代はフェザーマンとスパークマンのコントロールを奪われ、ライフも1000を切ってしまい追い込まれていた。

 

「女の子は恋をすると強くなる。不可能なんてないんだから!」

 

 レイは帽子を脱ぎ去ると青い長髪を潮風になびかせ、高揚して赤く染まった頬が冷えた風に当たるのを感じていた。

 

「うっ……」

 

 一方十代は慣れない戦術やレイの気迫に押され、たじろいでいた。

 

「十代もたじたじね。でも確かに女の子は恋をすると強くなるわ。……初恋の相手に会うために難しい編入試験まで突破してきたんだものね」

 

「……」

 

 明日香の言葉に亮はゆっくりと頷くとほんの1秒の瞬間すら見逃さないように再びデュエルに集中していた。

 十代のターンになり発動されたマジックカード、バースト・リターンによりバーストレディの一喝を受けたHEROが十代の手札に戻っていく。

 

「悪いな。HEROの絆はそんな恋愛ごっこじゃ揺らがないのさ」

 

「むっ……!」

 

 融合により呼び出されたフレイム・ウイングマンの一撃で決着がつく。勝者は十代、レイは惜しくも負けてしまった。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ」

 

 十代は人差し指と中指を一度自分の方に向けたあと、相手に勢いよく向けた。十代がデュエルの後に欠かさず行う、味わったデュエルの楽しさを体現するような行為である。

 デュエルが終わるのを見届けた亮を筆頭にみんな崖下に降りていく。

 

「十代。僕……」

 

「ちょっと待った! そっから先はずっと見てた後ろのやつに言うんだな」

 

「え……!?」

 

 レイは目を見開いて振り向くと亮の姿がそこにあった。レイの中で色々な想いが錯綜したが、慌てたように口を開いた。

 

「あ、あのっ! ごめんなさい。昼間、寮に忍び込んだのは僕なんです。十代はそれを庇って……」

 

 亮はその言葉を聞くと微笑を見せ、軽く頷いた。

 

「ああ、分かっている」

 

 気にしていない素振りを見せた亮に安心しながら、レイは深呼吸すると思い切って切り出した。

 

「……亮様がデュエルアカデミアに進学なさってから会いたくて会いたくて。やっと……ここまで来たの。十代とのデュエルには負けちゃったけど、亮様への想いは誰にも負けない! ……乙女の一途な想い、受け止めて!」

 

 顔を赤らめながら告白を成し遂げたレイは両手を広げ、全身で自らの想いを表現した。周りが彼女の想いを込めた告白に圧倒される中、亮はその想いを真摯に受け止め自分が出した結論を伝えようとした。

 

「レイ。お前の想いは嬉しいが、今はデュエルのことしか考えられない。それにお前は小学5年生……デュエルアカデミアに入る資格は持っていない」

 

「亮様……」

 

「だから……」

 

「……待って」

 

 亮の言葉に待ったが入る。その言葉を発したのは……ユキ。

 

「ユキもレイちゃんも……ここで過ごすための覚悟はしてきたつもり。それをあなたにデュエルで見てもらいたい」

 

「……それは俺にデュエルを申し込むということだな?」

 

 亮が振り返ると鋭い視線がユキに注がれた。

 

「ユキ……!?」

 

「レイちゃん。私達はデュエルアカデミアを受けると決めたあの時から今日この日までその覚悟を貫いてきた。今こそそれを証明する時」

 

「……分かった! 僕の想いもユキに託すよ」

 

 レイはユキの手を両手で包み込むように握ると目をつぶる。しばらくの間祈りを込めるかのように強く握ると、やがて目を開けて亮と向かい合うようにユキの後ろに移動した。

 

「む、無謀なんだな……あのカイザーにデュエルを申し込むなんて」

 

「いや、レイも小学5年生とは思えないくらい強かった。ユキがカイザーに勝つ可能性、俺はあると思うぜ」

 

「……そうね。この勝負どうなるのか、全くわからないわ」

 

 一陣の風が対峙する二人の頬を打つように吹くとデュエルディスクが展開されていき、準備が整った。

 

「「デュエル!」」

 

「ユキのターン、ドロー!」

 

(相手はあのカイザー亮さん。隙は一瞬でも見せちゃダメ。レイちゃんほど亮さんの戦術は知らないけど1枚だけ……あのサイバー・ドラゴンの効果は知っている。上級モンスターながら自分フィールドにモンスターが存在せず相手フィールドにモンスターがいると特殊召喚が可能、攻撃力は2100。だから……)

 

「勇気機関車ブレイブポッポを召喚!」

 

 汽笛が鳴り響くと緑色に塗装された機関車が煙突から煙を出しながらユキのフィールドに走ってきた。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400

 

「下級モンスターで攻撃力2400っすか!?」

 

「……勇気機関車ブレイブポッポは自身の攻撃宣言時、攻撃力をダメージステップが終わるまで元々の攻撃力の半分にするデメリットがある」

 

「……だが相手ターンではその高いステータスに制限はないということか」

 

「その通り。さらにユキは永続魔法、補給部隊を発動」

 

 前線を維持する機関車の後方にエネルギーの補充を目的とした基地が設置された。

 

「このカードが場にある時、 1ターンに1度自分フィールドのモンスターが破壊されればカードを1枚ドローする。さらに場にカードを2枚伏せて……ターンエンド」

 

(とりあえずこれで亮さんの出方を伺う……)

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『勇気機関車ブレイブポッポ』(攻撃表示)

 

セット2 『補給部隊』

 

手札2

 

「俺のターン、ドロー」

 

(彼女はこう言った。ユキとレイ……二人の覚悟をこのデュエルで示すと。だからこそ俺は手加減などしない。ユキを一人のデュエリストとして認識し、余すことなく持てる力の全てをぶつける!)

 

「このモンスターは相手フィールドにのみモンスターが存在する時、特殊召喚出来る!」

 

「……!」

 

「出でよ、サイバー・ドラゴン!」

 

 光の粒子が集まりドラゴンの形となると一瞬の閃光ののちに鋭く金属光沢を放つ機械龍となった。

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

(やっぱりカッコいい。……じゃなかった。やっぱりあのモンスターを呼び出してきた。でもブレイブポッポより攻撃力は低い……)

 

「さらに俺はサイバー・ドラゴン・コアを通常召喚!」

 

 サイバー・ドラゴンの中核をなすパーツが現れると赤いプラグを周囲に展開していった。

 

サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力400

 

「サイバー・ドラゴン・コアが召喚に成功した時、デッキからサイバーまたはサイバネティックと名のついたマジックかトラップを1枚手札に加えることが出来る。サイバー・リペア・プラントを手札に!」

 

 亮のデッキにプラグが注入されると1枚のカードが亮に差し出された。

 

「そして俺はマジックカード、機械複製術をサイバー・ドラゴン・コアを対象に発動!」

 

「……! 場の攻撃力500以下の機械族モンスター1体と同名モンスターをデッキから2体まで特殊召喚するカード。これでデッキからさらに2体のサイバー・ドラゴン・コアを……」

 

「それはどうかな?」

 

「えっ……」

 

 サイバー・ドラゴンが放つ光がサイバー・ドラゴン・コアを照らすと影が生み出される。するとその影はサイバー・ドラゴンそのものだった。

 

「サイバー・ドラゴン・コアはフィールド及び墓地に存在する限りサイバー・ドラゴンとして扱われる!」

 

「……まさか」

 

「デッキに眠る2体のサイバー・ドラゴンよ。今こそ目覚めろ!」

 

 影を光の粒子が取り囲むと複製された2体の機械龍が亮のフィールドを狭いように見せるほど身体を螺旋状にひねりながら縦横無尽に飛び交った。

 

サイバー・ドラゴン×2 攻撃力2100

 

「う……」

 

 眠りから目を覚ましたドラゴンの咆哮が響くとそれに連鎖するように咆哮を上げるサイバー・ドラゴン達にユキは威圧感を覚えた。

 

「いきなり攻撃力2100のサイバー・ドラゴンを3体も……カイザーは本気だ。本気でユキに立ち塞がるつもりなんだ……」

 

「亮……そうね。手加減なんて失礼だもの」

 

「だ、大丈夫だよ。いくら数が多くてもユキの場には攻撃力2400のブレイブポッポがいる!」

 

「いや、お兄さんもそれは十分に分かっているっす。きっとブレイブポッポを超える手は……既に持っているはずっす」

 

「俺はさらに速攻魔法、フォトン・ジェネレーター・ユニットを発動! このカードを発動するには2体のサイバー・ドラゴンを生け贄とする必要がある。サイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴンを生け贄に、デッキよりサイバー・レーザー・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 サイバー・ドラゴン・コアがサイバー・ドラゴンに取り込まれていくとサイバー・ドラゴンの姿が変形していく。しっぽがまるで金属で出来た花のように開花すると、そこからレーザーの発射口が姿を見せた。

 

サイバー・レーザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

「相打ち……狙い?」

 

「悪いがその予定はない。サイバー・レーザー・ドラゴンの効果発動! 1ターンに1度、自身の攻撃力以上の攻撃力または守備力を持つモンスター1体を破壊出来る」

 

「……しまった」

 

「俺は攻撃力2400の勇気機関車ブレイブポッポを選択。放て破壊光線、フォトン・エクスターミネーション!」

 

 サイバー・レーザー・ドラゴンは身体をひねるとしっぽに設置された発射口の標準を定め終わる。エネルギーが充填されていくと目にも留まらぬ光線が機関車を撃ち抜いた。

 

「そんな……!」

 

(完全にユキの想定の上をいかれた……! フィールドがガラ空きになったから総攻撃が来る。伏せカードで何とかダメージを抑えることは出来るけど、大ダメージを避けることが出来ない……)

 

 圧倒的な威圧感を放つ機械龍から目を離せないでいたユキの耳に基地から一筋の光が発射される音が聞こえてきた。

 

(……! そうだ、補給部隊。……今、ユキは焦っていた。正確には……亮さんの気迫に押されて焦らされていたんだ。でも焦ったって……いいことなんて一つもない)

 

 ユキは息を大きく吸い込むとゆっくりと吐き出した。そして改めて目をフィールドに向けなおした。

 

(……先ほどまで一点に集中を持っていかれていたが、今はフィールド全体を見渡すようになったな)

 

 基地から放たれた光がユキのデッキに吸収されていくとデッキの1番上のカードが輝いた。

 

「補給部隊の効果でカードを1枚ドローする。ドロー! ……!」

 

「バトルだ! サイバー・レーザー・ドラゴンでユキにダイレクトアタック! エヴォリューション・レーザーショット!」

 

 サイバー・レーザー・ドラゴンが次なる標的に標準を定めると人間が目視することは不可能なほどの速さのレーザーを放った。

 

「……何!?」

 

 だがそのレーザーをユキの前に立ち塞がった何かが受け止めていた。

 

「……手札から速攻のかかしを墓地に捨ててモンスター効果を発動していた。相手モンスターが直接攻撃を宣言した時、その攻撃を無効にしてバトルフェイズを強制的に終了させる」

 

 その正体は金属片を組み合わせて作られたかかし。レーザーを防ぎきり役目を終えたのかバラバラに崩れてしまった。

 

「防いだか……場にカードを1枚伏せてターンを終了する」

 

(……助かった。今、速攻のかかしを引かなかったらほとんどのライフは持っていかれていた……)

 

亮 LP4000

 

フィールド 『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)×2 『サイバー・レーザー・ドラゴン』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札2

 

「すげえぜユキ! あの攻撃を凌ぎ切りやがった!」

 

「……でもまだピンチに変わりはないんだな」

 

「亮のサイバー・ドラゴンモンスター達の攻撃力は全員2000を超えている。高守備力を持つモンスターもサイバー・レーザー・ドラゴンにより破壊されてしまう……」

 

「……大丈夫だよ! ユキなら……!」

 

「ユキのターン、ドロー。……ここでトラップカードを発動させる」

 

「このタイミングでトラップだと……?」

 

「発動させるのは逆さ眼鏡。フィールドに存在する全ての表側表示モンスターの攻撃力はエンドフェイズまで……半減」

 

 空間が歪んでいくとやがて機械龍のパーツがあべこべになり、能力がうまく発揮できなくなってしまった。

 

サイバー・ドラゴン×2 攻撃力2100→1050

サイバー・レーザー・ドラゴン 攻撃力2400→1200

 

「でも……ここから新たに呼び出されるモンスターはその影響を受けることはない?」

 

「……そういうことか」

 

「ユキは神機王ウルを召喚する!」

 

 赤い装甲を纏った人型のロボットがフィールドで回転しだすとやがてその回転が弱まっていく。足に当たる部分が駒の底のように一点を指し、立っていた地面には摩擦により焦げ跡が残っていた。

 

神機王ウル 攻撃力1600

 

「バトル。神機王ウルでサイバー・レーザー・ドラゴンに攻撃……!」

 

 神機王ウルは再び回転を始めたが先ほどと違い腕に当たるパーツを真横に伸ばす。金属により作られた爪が高速回転により刃物のごとき切れ味を出すようになっていた。

 

「そう簡単にやらせはしない! カウンタートラップ、攻撃の無力化! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる」

 

 機械龍を守るように発生した渦が神機王ウルが通るルートに出現した。

 

「そんな! ユキが発動した逆さ眼鏡はこのターンが終われば効果が切れちゃうのに……!」

 

「……生憎(あいにく)とトラップの警戒は……怠っていなかった? カウンタートラップ、トラップ・ジャマーを発動。バトルフェイズ中に発動されたトラップの発動を無効にして破壊する」

 

「……!」

 

 渦にヒビが入ると砕け散るようになくなり、無事に神機王ウルはその地点を通過する。サイバー・レーザー・ドラゴンはレーザーの標準を合わせようとするがパーツが噛み合わず、レーザーを発射することは叶わなかった。高速の刃がパーツを分断すると次第に消滅していく。

 

亮 LP4000→4000

 

「あれ? モンスターが破壊されたのに戦闘ダメージが入ってないっすよ」

 

「神機王ウルが相手に与える戦闘ダメージは0になる。……だけどその代わりに」

 

 回転はおさまらず、そのまま2体の機械龍に向かっていった。

 

「相手モンスター全てに1回ずつ攻撃出来る。2体のサイバー・ドラゴンに連続攻撃……!」

 

「何だと……!?」

 

 機械龍は空中に飛び立つことで回避を試みるがあべこべになったパーツが邪魔をしてどちらも刃をまともに受けてしまった。

 

亮 LP4000→4000

 

「くっ……ダメージがないとはいえ全滅か」

 

「ユキ凄い! その調子で頑張って!」

 

 背後からの応援にユキは頷くと手札を改めて確認した。

 

(やった……亮さんの場のモンスターを全滅させることが出来た。このまま防御カードを伏せて一気に流れを持っていきたいところ……だけど。残念ながら防御カードは不在……でもやれることはやっておこう)

 

「カードを1枚伏せてターン終了」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『神機王ウル』(攻撃表示)

 

セット1 『補給部隊』

 

手札1

 

(……俺は最初ユキを一人のデュエリストとして認識した。だがそれはどこか彼女が女性であったり、小学5年生であることを意識しないようにしていたのかもしれない。そうじゃないんだ……このデュエルはユキとレイの覚悟を示すデュエル。無理のある年齢でのアカデミア高等部への編入、それは彼女達に苦難や逆境をもたらすだろう。だかこの3ターン、猛攻を凌いで防御策を超えて俺の場を全滅させてみせたのはその逆境にも立ち向ってみせるという意思表示なんだ)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

(それを踏まえて、意識しないようにするのではなく俺の脳にしっかりと刻み込んだ上で……その上で全力をぶつける! それが俺の……リスペクトデュエルだ!)

 

「マジックカード、サイバー・リペア・プラント! このカードには2つの効果があり、墓地にサイバー・ドラゴンが1体以上いればその内一つを選択する。だが3体以上ある場合には両方の効果を選択することが出来る!」

 

「亮さんの墓地には全部で4体……!」

 

「よって両方の効果を発動させる。まずは第1の効果! デッキから機械族・光属性のモンスター1体を手札に加える。俺はサイバー・ドラゴン・ドライを手札に!」

 

 亮の背後に修理工場が現れるとサイバー・ドラゴンの部品を集めて小型の機械龍が作られていった。

 

「そして第2の効果により墓地の機械族・光属性モンスター1体をデッキに戻す。この効果でサイバー・ドラゴンをデッキに戻す!」

 

 修理工場が残された部品を全て使い、サイバー・ドラゴンの修理を終えると工場は消滅していった。

 

「これでサイバー・ドラゴンがデッキに戻った。でも墓地に2体、デッキに1体。デュエルモンスターズにおけるデッキ内の最大投入枚数も3枚。このターン本体のサイバー・ドラゴンは呼び出せないはず……」

 

「残念だが……そうはいかない。墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外して効果を発動する!」

 

「……! 墓地のモンスター効果……!?」

 

 墓地から伸びたプラグが亮のデッキにある1枚のカードを選び取るとフィールドに引っ張り出されていく。

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、墓地に存在するこのカードを除外することによりデッキからサイバー・ドラゴンモンスターを特殊召喚する事が出来る。再び顕現せよ、サイバー・ドラゴン!」

 

 修理されパーツも正常に組み直された機械龍が再び姿を現した。

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

「なんという立て直しの早さ……」

 

(……だが、再び全滅するようなことがあればさすがに立て直しに時間がかかる。あの伏せカードがもしミラーフォースのようなカードだとすれば……迂闊に追撃のモンスターを呼び出すわけにはいかないか。ここは……)

 

「バトルだ! サイバー・ドラゴンで神機王ウルに攻撃! エヴォリューション・バースト!」

 

「……!」

 

 サイバー・ドラゴンの口の周りにエネルギーが集まっていくとエネルギーがブレスとして放たれ、高速回転しながら逃げる神機王ウルを包むように当たる。フィールドを爆風が包むと、止むころには神機王ウルの姿は完全に消えていた。

 

ユキ LP4000→3500

 

「うっ……補給部隊の効果でカードをドローする」

 

(伏せカードの発動はなしか……攻撃に反応するカードではないのか?)

 

「俺はメインフェイズ2に入り、サイバー・ドラゴン・ドライを通常召喚する!」

 

 パーツが縦に繋がっているサイバー・ドラゴンに対し横に繋がるような機械龍が現れると、パーツの接合部が黄色に淡く光った。

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800

 

「……」

 

(……召喚に反応するものでもないか)

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

亮 LP4000

 

フィールド 『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示) 『サイバー・ドラゴン・ドライ』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札1

 

 ユキはこのデュエルが始まってから妙な高揚感が自分を包んでいることを感じ取っていた。

 

(何だろう……心臓のドキドキが全身に伝わるくらい暴れてる。亮さんのデュエルを実際に目の当たりにして緊張してるのかな? そんな感じはしないけど……でもこのまま偽りの姿でいてはいけない気がする)

 

 ユキが帽子と髪留めを外すと雪のように白く長い髪が風でなびく。夜の暗い海を背景に揺れる髪はより一層際立っていた。

 

「うわあ……まだ幼いけど美人さんなんだな」

 

「この格好で……あなたに挑む。ユキのターン、ドロー……!」

 

「……俺はこのタイミングでトラップを発動させる! 永続トラップ、ディメンション・ゲート! サイバー・ドラゴン・ドライをゲームから除外する!」

 

「え……?」

 

 異次元に繋がる穴が開かれるとサイバー・ドラゴン・ドライは飛び立ち、そこを通り抜けていく。すると異次元に通じるゲートは閉じてしまった。

 

「そして除外されたサイバー・ドラゴン・ドライの効果を場のサイバー・ドラゴンを対象に発動する!」

 

「今度は除外ゾーンからモンスター効果……!?」

 

「この効果によりこのターン、俺の場のサイバー・ドラゴンは戦闘及び効果では破壊されない!」

 

「……! 破壊耐性の付与……」

 

 サイバー・ドラゴンがサイバー・ドラゴン・ドライが残した粒子によりプロテクトされ、破壊から守られるようになった。

 

(本当に……隙がない。ユキの手を予測して先手を打ってきた)

 

「800のライフを払いマジックカード、魔の試着部屋を発動。デッキの上から4枚めくり、その中にいるレベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する」

 

ユキ LP3500→2700

 

 ユキの部屋に赤いカーテンで仕切られた4つの試着部屋が現れると順番に開いていった。

 

「上から魔装機関車 デゴイチ、レアメタル・ソルジャー、マシン・デベロッパー、レアメタル・レディ。該当モンスターは2体!」

 

 条件に満たなかった魔装機関車デゴイチは試着部屋ごとロケットで飛ばされ、マシン・デベロッパーは試着部屋ごと落とし穴に落ちてしまった。残った二部屋から希少な金属であるレアメタルで作られた装備を全身に身につけた男女の機械戦士が参上した。

 

レアメタル・ソルジャー 攻撃力900

レアメタル・レディ 攻撃力450

 

「……よし。マジックカード、融合を発動……!」

 

「融合召喚か……!」

 

 赤い装備をつけたレアメタル・レディが渦によりレアメタル・ソルジャーに取り込まれるように融合されていく。

 

「レアメタル・ソルジャーとレアメタル・レディで融合。来て……レアメタル・ナイト!」

 

 レアメタル・ソルジャーの装備がより強化される。素手であった彼が握ったのは赤い中央にある持ち手と左右を剣身とする武器だった。

 

レアメタル・ナイト 攻撃力1200

 

「えっ、折角の融合なのに攻撃力1200っすか!?」

 

「このモンスターの力……侮るなかれ? 伏せていた装備魔法、フュージョン・ウェポンをレアメタル・ナイトに装備する!」

 

「……! ブラフだったか……」

 

 レアメタル・ナイトが持つ武器がさらに強化されると剣身が4つに増えていった。

 

「フュージョン・ウェポンはレベル6以下の融合モンスターに装備可能。その効果で攻守を1500上昇させる……!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力1200→2700 守備力500→2000

 

「バトル! レアメタル・ナイトでサイバー・ドラゴンに攻撃」

 

 サイバー・ドラゴンが放つエネルギーのブレスを剣を回転させ盾のようにして防ぎながら近づいていく。

 

「だがサイバー・ドラゴンはこのターン破壊されない!」

 

「でもダメージは受けてもらう……さらにレアメタル・ナイトの特殊効果発動。モンスターとバトルを行うダメージステップの間、攻撃力が1000上昇する!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力2700→3700

 

「攻撃力3700……!」

 

 エネルギーの発射口を塞がれブレスが途切れると、レアメタル・ナイトはその隙を見逃さず自身の身体を一回転させて勢いよく斬りかかった。プロテクトされたサイバー・ドラゴンが破壊されることは無かったがその衝撃が亮を襲った。

 

亮 LP4000→2400

 

「ぐっ、やるな……!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力3700→2700

 

「カードを1枚伏せて……ターンを終了する」

 

「この瞬間、サイバー・ドラゴン・ドライの効果は切れる」

 

(ダメージを与えたのはいいけど、先手を打たれてサイバー・ドラゴンを破壊することは出来なかった。恐らく次のターン……ユキの読みが正しければレアメタル・ナイトの攻撃力を超えて亮さんは攻撃を仕掛けてくるはず……!)

 

ユキ LP2700

 

フィールド 『レアメタル・ナイト』(攻撃表示)

 

セット1 『補給部隊』 『フュージョン・ウェポン』

 

手札0

 

「俺のターン! マジックカード、マジック・プランターを発動する。場の永続トラップ、ディメンション・ゲートを墓地に送ることでカードを2枚ドローする。ドロー。……!」

 

 ディメンション・ゲートが墓地へ送られると再び異次元から繋がるゲートが出現した。

 

「ディメンション・ゲートが墓地に送られた場合、このカードにより除外されたモンスターを帰還させることが出来る! 戻ってこい! サイバー・ドラゴン・ドライ!」

 

 異次元に避難していたサイバー・ドラゴン・ドライは螺旋状に身体を回転させながらゲートを潜り抜け、帰還を果たした。

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800

 

「そしてプロト・サイバー・ドラゴンを召喚!」

 

 試験段階の仮組みで作られた小型のサイバー・ドラゴンがフィールドに現れた。

 

プロト・サイバー・ドラゴン 攻撃力1100

 

「プロト・サイバー・ドラゴン及びサイバー・ドラゴン・ドライはフィールド場で表側表示で存在する限り、サイバー・ドラゴンとして扱われる!」

 

「……! 3体のサイバー・ドラゴン……」

 

 影が亮の背後にある崖に映し出されると影のサイバー・ドラゴンの目が光り、鋭い眼光がユキを見据えて離さなかった。

 亮は3体のサイバー・ドラゴンを呼び出すと目線を少しの間だけ対戦相手であるユキから弟の翔に移した。

 

(……お兄さん?)

 

(翔、お前は昔と違いこのカードを引いても(おご)ることはなくなった。ならば次はどれだけこのカードの真価を引き出せるかだ。俺のデュエルがお前にとって何かヒントになればいい……)

 

「ゆくぞ! 俺はマジックカード、パワー・ボンドを発動する!」

 

「……!」

 

「パワー・ボンド……! 機械族融合モンスター専用の融合魔法カード。カイザーの切り札だ!」

 

「お兄さん……!」

 

「俺はこのカードで場の3体のサイバー・ドラゴンを1つに束ねる!」

 

 3体の機械龍が1つに交わると火花を散らせ、結合された3つ首の機械龍が出現した。

 

「現れよ! サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000

 

「ついに来たわね。亮のエースモンスターが……」

 

「サイバー・エンド・ドラゴン……3体のサイバー・ドラゴンの力を合わせたモンスター。凄い力……」

 

「まだだ! パワー・ボンドにより呼び出された融合モンスターの攻撃力は元々の攻撃力分上昇する! ただし俺はエンドフェイズにその数値分のダメージを負うリスクを背負うがな」

 

「えっ……!? つまり……倍?」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの胴体が天にも届くかというほど伸びていき、遥か上からユキを見下ろした。

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000→8000

 

「こ、攻撃力8000……?」

 

 そのあまりの迫力にユキは一歩後ろに下がりそうになる。だが後ろにいたレイが背中を支えた。

 

「さすが亮様。攻撃力8000のモンスターなんて……でも、諦めちゃダメだよユキ。僕は今でもユキが勝つって信じてるから……!」

 

「……ありがとう。ユキは最後まで引かない……!」

 

 眼前にそびえ立つ巨大な機械龍を前にその足を一歩踏み出した。

 

「……いい覚悟だ。だがこのバトルで決着をつける。サイバー・エンド・ドラゴンでレアメタル・ナイトに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

 それぞれの機械龍の首からエネルギーの光線が放たれると3つの光線が1つに交わり、レアメタル・ナイトを襲った。

 

(正直攻撃力8000は予想外もいいところ……でも。ただ一つ、レアメタル・ナイトに攻撃してくるという読みだけは当たっていた……!)

 

「この瞬間速攻魔法発動! 決闘融合—バトル・フュージョン! 自分の融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動可能。その効果でダメージステップ終了時まで戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を自分のモンスターの攻撃力に加える!」

 

「……!」

 

 レアメタル・ナイトの持つ剣に光線が直撃するとそのエネルギーを吸収するかのように巨大化していく。続けて放たれる光線にレアメタル・ナイトは勢いよく飛び立つと光線を中央で分断するように切り裂き、サイバー・エンド・ドラゴンに向かっていった。

 

レアメタル・ナイト 攻撃力2700→10700

 

「ここでカウンターを仕掛けるカードですって……!?」

 

「凄いんだな……」

 

「これは……!」

 

「お兄さん!?」

 

 天高くから放たれる光線を切り裂きながら近づいていくレアメタル・ナイトの剣に更なる変化が訪れた。

 

「ダメージステップに入ったことでレアメタル・ナイトの効果が発動。さらに攻撃力は1000上がる……!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力10700→11700

 

 さらに巨大化し切れ味を増した剣が光線を切り開きついにサイバー・エンド・ドラゴンのすぐ近くまで来る。——本当にあと少しというところまで。

 

「……! レアメタル・ナイトの勢いが……」

 

 光線の中を勢いよく突き進んでいたレアメタル・ナイトだったがその勢いが徐々に弱まっていた。

 

「ユキ。お前のデュエルは見事だった。だが……速攻魔法、リミッター解除。自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力をさらに倍にする……!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力8000→16000

 

「……そんな」

 

 今までとは比べ物にならないほど光線の威力が増していくと至近距離まで近づいたレアメタル・ナイトを剣ごと無情にも跳ね返し、その身体を光線で包み込む。レアメタルの装備もこれほどの威力の光線の前には無力だった。

 

ユキ LP2700→0

 

 こうして……デュエルは決着を迎えた。ソリッドヴィジョンが消えていくと、夜も更けてさらに暗くなった沿岸の風景が戻ってくる。

 

「…………」

 

 ユキはディスクを閉じることも出来ず力が抜けたようにへたり込む。その目には決意を証明出来なかったという悔しさの表れか、涙が浮かんでいた。

 

「ユキ、そしてレイ。俺の話を聞いてくれ」

 

「亮様……うん」

 

「……はい」

 

 レイがユキを支えるように優しく持ち上げると、ユキは服の袖で涙を拭ってディスクをしまいレイと共に亮の目を見た。

 

「このデュエルはユキとレイ、二人の覚悟を示すものだった。しかしデュエルにユキは負けた」

 

「カイザー……」

 

 十代がカイザーの言葉を止めるように手を伸ばすと、十代の肩に明日香の手が置かれた。

 

「これは亮と二人の問題。私達が口出しは出来ないわ……」

 

 十代は参ったように頭をかくと忠告通り3人の間に入ろうとするのをやめた。

 

「互いに全力を出し尽くし決着がつけば、そこには必ず勝者と敗者が生まれる。だがそれは……敗者が抱いていた決意が否定されたということではない」

 

「え……」

 

 亮は二人の元に歩み寄ると手を差し出した。

 

「戦ったからこそ俺には伝わった。お前達がどれだけの苦難を乗り越えてきたか、そしてこれから苦境に立たされても諦めず立ち向かう覚悟だと」

 

 亮はレイと、そしてユキと握手すると表情を和らげて優しげな声色で言った。

 

「それだけの覚悟を持っているならば俺は止めることはしない。——ようこそ、デュエルアカデミアへ」

 

「亮様……ほ、本当にいいの!?」

 

 ユキは驚きでこれ以上ないほど目を見開き、レイは困惑しながらも感極まるように感情を抑えきれずにいた。

 

「ちょ、ちょっといいかしら? いくら亮でもさすがに入学を認めさせる権限は……」

 

「ああ、分かっている。だからこのデュエル……あの人にも見てもらっていた」

 

 亮が見上げると崖の上に鮫島校長の姿があった。

 

「こ、校長先生!?」

 

「いつの間にいたんだな……?」

 

「ほほ、実はずっといたんですよ。昼間に亮から相談を受けましてね」

 

 翔と隼人の疑問に答えながら鮫島校長も崖下に降りてきた。

 

「十代君と早乙女君、そして亮と神凪君。それぞれのデュエルを見せてもらいました」

 

「それならみんなと一緒に見れば良かったのに」

 

「皆さんの自然体のデュエルが見たかったんですよ。私がいると変に緊張してしまうかもしれませんからね。それに若い人達のあれこれに私が割って入るというのも無粋なものでしょう」

 

 十代の疑問に答えながら亮とユキ達の元に校長が辿り着く。

 

「亮、一段といいデュエルをするようになりましたね。そして二人もいいデュエルでした」

 

「校長。それでは……」

 

「はい。彼女達の入学を認めます」

 

「……やったよ、ユキ!」

 

「嬉しい……」

 

 ユキとレイは軽く抱き合い、ついに正式に入学を認められたことを心より喜んだ。

 

「さすがカイザー! そうこなくっちゃな! 二人ともこれからよろしくな!」

 

「よろしくなんだなあ」

 

「なんだか妹が出来たみたいっすね。何はともあれよろしくっす」

 

「二人ともこれからよろしくね」

 

 二人を祝うようにみんなが駆けつけると入学を歓迎した。

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくね!」

 

 夜も更けてきていたがしばらくはみんなの興奮も冷めやらず、校長もにこやかにその様子を眺めていた。だが隣に亮が来ると小声で相談を始めた。

 

「……いいんですか、彼女達にセブンスターズのことを伝えなくても」

 

「はい。彼女達は入学出来て、心にあった重荷をやっと下ろせたと思うんです。そんな彼女達に余計な負担をかけたくはない」

 

「……ですがあなたが電話で心配していたようにセブンスターズの脅威があるいは幼いあの子達に襲いかかる。そういう危険性は否めません」

 

「もし鍵を持っていない彼女達に危害を及ぼそうというのならば。……俺が全力で彼女達を守ります」

 

 セブンスターズ。三幻魔復活に必要な7つの鍵を集めんとする集団。その危険があったからこそ、ユキ達が入学することに亮は不安があった。だが全力で守るとはっきり言い切った頼もしい教え子の姿を見て鮫島校長は嬉しく思っていた。

 やがて興奮は冷めていき、皆も落ち着いてくる。夜も遅いためそろそろ解散しようという時、ユキの心臓はまだ体中に響くように動いていた。

 

(なんでまだこんなにドキドキするんだろう)

 

 ユキは目を閉じて冷静に今まであったことを思い返した。そして……その理由に思い立った。

 

(……ああ。なんで今まで気づかなかったんだろう。答えはすぐ目の前にあった……)

 

 校長が帰り、壁際で一人佇んで様子を見守っていた亮の元にユキは駆けていった。

 

「どうした?」

 

 急に走り出したユキに亮を含め周りのみんなが驚いていた。

 

「……あなたはこう言った。デュエルは人となりやその人のあり方を示す、と」

 

「ああ」

 

「私はあなたとデュエルして……その人となりを知ることになった。あなたはこの場にいる誰よりもユキ達の事情を知りながら、その上で全力で向かってきてくれた」

 

 ユキの透き通った肌は暗い夜でもはっきりと分かるほど赤くなっていた。

 

「そんなあなたのデュエルに触れて……あなたのことが好きになりました」

 

「……えっ」

 

 亮の右手をユキの小さな二つの手が包み込む。そして亮を見上げると幸せそうな笑顔がこぼれた。

 

「ま、待って! 亮様への想いは誰にも負けないんだから!」

 

 レイは慌てて駆け寄ると左手を包み込むように握った。

 

「あら……亮、両手に花ね」

 

「よっ! 色男!」

 

「むぅ……」

 

 亮は先ほどまでの毅然とした態度から一変して、年相応にどうすべきか頭を悩ませていた。

 

「でも二人ともちょっと気が早いんじゃないかしら。まだ亮はあなた達のことをまだ詳しくは知らないんだから」

 

 助け舟を出した明日香、しかしそれは恋する乙女達の導火線に火をつける結果となった。

 

「むっ、もしかしてあなた亮様の彼女!?」

 

「えっ!? ち、違うわよ……」

 

「怪しい……ユキ達の正体も早い段階で知っていた。きっと亮さんから相談を受けていた……」

 

「確かに相談は受けたけど、それとこれとは……」

 

 飛び火を食らった明日香は困ったように亮に目線を送り、逆に助けを求めた。

 

「落ち着いてくれ二人とも。明日香が言った通り俺はまだお前達のことを詳しくは知らない。どんな答えを出すにしてもまずお前達のことをよく知ってから……ということじゃダメだろうか」

 

「つまり……まずはお友達から?」

 

「……確かに、ちょっと焦りすぎだったかな。僕達の学園生活は始まったばかり。すぐに答えを出してっていうのは亮様の気持ちを考えてなかったかも……」

 

(あいつが言った通り押し付けるだけじゃ恋愛ごっこなのかもしれない……)

 

 レイの脳裏に十代とのデュエルがよぎる。実際の恋愛は恋する乙女が効果でモンスターを虜にするようにはいかないのだと教えられたような気がしていた。

 

「そうだね……ごめんなさい。亮さんはユキ達の気持ちをデュエルで汲み取ってくれたのに……」

 

「いや、二人が納得してくれるのならばそれでいいさ」

 

 反省して落ち込むユキ達に亮は苦笑いを浮かべると自分の腰あたりまでの身長しかない二人の頭に手を置き、励ました。

 

「ここには色んなデュエリストがいる。これから皆と切磋琢磨し腕を磨いて、俺にまたお前達の進化したデュエルを見せてくれ」

 

「はい!」

 

「うん……!」

 

 俯いていた顔を上げると亮の期待に応えるように二人は元気よく返事をした。

 

 夜もかなり更けてきたため今日は解散することになったが、そのままレッド寮に戻ろうとする二人を明日香が慌てて呼び止める。

 

「ちょ、ちょっとあなた達どこに行くつもり?」

 

「……? 昨日みたいにレッド寮の十代さん達の部屋で寝泊まり?」

 

「だ、ダメに決まってるでしょ!? あなた達は女の子なんだから……」

 

「……確かに昨日は危うく着替えのシーンを目撃するところだった」

 

「あはは……あれはびっくりしたね」

 

(もっと大きな問題があるんだけどね……。この辺はまだまだ小学生か)

 

 明日香は少し呆れたように笑うと十代達と別れ、二人をオベリスクブルーの女子寮に連れてきた。

 

「アカデミアに入る女の子はみんなブルーの女子寮に泊まることになっているのよ」

 

「ん……いいところ」

 

 女子寮の近くには湖もあり、周辺に植えられた木々も相まって空気も澄んでいた。

 寮に入ると皆が寝静まり足音だけが響く廊下を歩きながら、明日香は記憶をたどって空き部屋に二人を連れて来た。

 

「ここが空いてるわね。編入生が二人も来るのは珍しいから一部屋しか空いてないけど、十分に広いから明日もう一つベッドを持ってくれば二人で問題なく過ごせるはずよ。ただ今日はもう遅いから勘弁してね?」

 

「それは……大丈夫。ありがとうございます」

 

「ありがとうございます。僕達のために色々と……」

 

「いいのよ。同級生ってことになるけど、私にとっては可愛い後輩だもの。じゃあ、また明日ね」

 

 そう言うと明日香は自分の部屋に戻っていく。それを見届けた二人は部屋の中に入った。

 

「……本当だ。レッド寮に比べて部屋が広いね」

 

「施設も……整っているみたい? こっちにはシャワールームもあるし……」

 

「この部屋に来る時にちらっと見かけたんだけど銭湯みたいなのもあったし、ブルー寮って凄いんだね」

 

 疲れや男装からの解放感からか二人とも急に眠気が押し寄せてくる。シャワーを浴び、寝支度をすませると同じベッドに潜った。

 

「広いベッド……二人で寝てもスペースが余ってるよ」

 

「凄い豪華でホテルに泊まってるみたい。……でもレッド寮と違いすぎて罪悪感がある」

 

「うん……あっちも露天風呂とかはあるみたいだけど。ここと同じくらい部屋を広くすればいいのにね」

 

 次第に眠気が深まりうつらうつらとしてくる二人。そんな中、レイは今日あったことを思い出していた。

 

(今日は色んなことがあったなあ。あいつに男の子のフリしてるのバレた時はどうなることかと思ったよ)

 

 帽子掛けに掛けられた帽子を見ながら亮の部屋に入った自分を止めにきた十代のことを思い返していた。

 

(でもあいつ誰にも正体言わなかったな。それに今よく考えてみたらレッド寮で作業してる時、何も言わなかっただけじゃなく力仕事をさせないように動いてた気がするな。そして……)

 

 机の上に置かれたデュエルディスクに目を向けると十代とのデュエルが鮮明に浮かび上がった。

 

(あいつとのデュエル楽しかったな。……えっ!)

 

 自身が思い返していた内容に気がつくと、一気に眠気が吹き飛んでいった。

 

(な、なんで僕あいつのことばっかり!? 僕が好きなのは亮様で……)

 

 レイは赤くなっていく頰を抑えるようにしながら、思い出した内容を消すように顔を必死に横に振っていた。

 

「レイちゃん?」

 

 一緒にベッドに入っていたユキはレイの妙な行動に当然気が付いた。

 

「……あっ、ごめんねユキ。起こしちゃった?」

 

「大丈夫。まだ寝てない。そろそろ限界だけど……」

 

 レイはユキの方に振り返り、眠るのを邪魔してしまったことに申し訳なさそうな顔をする。するとレイはユキも亮のことが好きだということを思い出し、ある一つの案が頭をよぎった。

 

「……ねえ、ユキ。ユキも亮様のことが好きなんだよね」

 

「……うん」

 

「そう……だよね。あのね、僕さ……十代のことが気になってきちゃったみたいなんだ」

 

「…………うん」

 

「だから……さ。もし僕が亮様のこと諦めたらユキと取り合いしなくて済むのかな……なんて」

 

 声を無理やり押し出すようにレイは告白する。ユキは眠気を抑えながらその意味をしっかりと考えると……レイを優しく包み込むように抱きしめた。

 

「……ダメだよ」

 

「えっ」

 

「ユキは確かに亮さんのことが好き……でもね。レイちゃんのことも好きなの。だからレイちゃんにユキのせいで自分に嘘をついてほしくない……」

 

「……!」

 

 ユキの抱きしめる手から震えが伝わってくる。それは色々なことがあって疲れ、混乱していたレイの頭を落ち着かせるには十分だった。

 

「……ごめん、ごめんね。もう僕考えなしにこんなことは言わないから……! ちゃんと自分に向き合って偽りのない気持ちを探してみるよ」

 

「……うん」

 

 その言葉を聞くとユキの震えが収まる。限界が来たのか、あるいは安心したのか。そのまま静かな寝息を立てて寝てしまった。

 

「……ありがとう。ユキ」

 

 胸のつかえが取れたように安心するとレイにも吹き飛んだ眠気が戻って来たのでそのまま寝ようとした。したのだが……

 

(……あれ?)

 

 ユキを起こさないように離れようとしたレイだったが抱きしめられた腕が緩んでないことに気がついた。ユキは華奢な腕をしていたがデュエリストとして最低限の筋力はつけていた。起こさないように力を入れる程度では離れられなかったのである。

 

「……ユ、ユキー?」

 

「すー……すー……」

 

「…………」

 

(……ね、寝れない……!)

 

 ユキの腕による拘束が緩み、レイが寝れるようになるまでもう少し時間がかかるのだった。




前回の後書きで言った時系列の補足ですが、本来レイがデュエルアカデミアに来るのは20話でありノース校から万丈目サンダーも戻ってきておらず、セブンスターズとの戦いも始まっていません。
今回ユキ達が来たのはストーリーでいうと学園祭(42話)の前あたりで、セブンスターズ戦も佳境に入ろうかというところです。なのでクロノス先生はイヤミな部分が抜けており、またボーイ(本来登場するのは43話、今回のストーリーではギャンブルに負けていたのでアカデミアにいく経緯が少し変わった)と船でばったり会うなどが起きました。
理由としては本ストーリーの1話でユキがレイと比べて勉強を始めるのが遅れたことや、一人より二人の方が試験を受ける決断をするタイミングは遅れるだろうなということが挙げられます。


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結界を解除せよ

 ——朝を迎えたレイはピンチに追い込まれていた。

 

(し、知らなかった。ユキがこんなに……)

 

 レイはユキの身体を激しく揺さぶる。しかし大した反応が返ってこない。

 

(寝起きが悪かったなんて!)

 

「ちょっとユキー! 朝礼に遅刻しちゃうよ!?」

 

「あと……5分……」

 

「もう10回目だよ!? ほら、起きて!」

 

 仕方なく布団をひっぺがそうとしたが半分寝ている身体にどこにそんな力があるのか、ユキは意地でも布団を離そうとしない。

 

「もう! 昨日は普通に起きてたじゃない?」

 

「昨日は……船の疲れ……早めの睡眠。おかげで……三度寝……すっきり? 今日は……ダメ……」

 

 うつらうつらしながら話し終えたユキが再び夢の世界にダイブしようとする。すると彼女達の部屋のドアがノックされた。

 

「レイ、ユキ。入っていいかしら?」

 

「明日香さん? 大丈夫ですよ」

 

 明日香がドアを開き入って来ると、その手に二着の青い制服を持っていた。

 

「あなた達レッドの制服しか持ってなかったでしょ? 調達してきたから今日からはこれに着替えてね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「……あら。ユキはまだ寝ているのかしら? そろそろ起きないと遅刻するわよ」

 

「んー……無理。布団がユキを離さない」

 

「ふふ、昨日は遅かったものね。でもそろそろ起きないとダメよ」

 

「あっ……!」

 

 レイがあれだけ苦闘していた布団を明日香があっさりと引き離し、ユキは切なそうな声をもらした。

 

「女の子は朝の手入れが肝心なんだから。ほら、支度するわよ」

 

「はい……」

 

 布団を失ったユキが渋々起き上がると、頭がまだ目覚めないながらも体がするべきことを覚えているように動き、身支度を終える。

 明日香のおかげでユキ達は何とか朝礼に間に合った。今日も学園祭の準備期間ということで簡単な挨拶が終わると、各々の寮に生徒が散っていった。明日香達は購買部に寄ったユキと合流すると集合場所に歩を進めていく。

 

「明日香様ー! ……あら、その子達は誰ですの?」

 

「見たことない顔ね……」

 

 その道すがら、二人のブルー女子の生徒が明日香に駆け寄ってきた。

 

「ももえ、それにジュンコ。この子達は編入生よ」

 

「えっ、編入生って女の子だったんですか!?」

 

「あら? 確か噂によると二人とも背の小さい男子生徒と聞いていましたが……」

 

「ええと、それはね……」

 

 昨晩あった出来事を明日香が説明し終えるとジュンコがそういうこともあるかというような淡白な反応だったのに対し、ももえは目を輝かせながら二人の手を握った。

 

「一目惚れした殿方のために遠く離れた孤島に乗り込む二人の少女……心打たれましたわ!」

 

「わっ……」

 

「びっくりしたぁ……」

 

「ももえ!? もう……落ち着いて」

 

「あはは……完全にスイッチ入ってるわね」

 

 明日香がジュンコと二人がかりでももえを落ち着かせると改めて明日香が二人の紹介を済ませた。

 

「ということで……これからよろしくお願いします?」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「よろしくお願い致します。わたくしのことはももえで良いですわ」

 

「よろしくー。アタシもジュンコでいいわ」

 

 互いに自己紹介を終えるとほぼ同時にブルー生徒の作業場所にたどり着いた。ブルー寮は男子と女子が力を合わせて出し物をするため他の寮と比べて作業人数も多く、その進みも一番早かった。それ故に大まかな作業は昨日のカイザーの効率的な指揮の効果もあり、ほとんど終わっていた。

 

「明日香」

 

「亮。どうしたの?」

 

 男子生徒の指揮は亮が女子生徒の指揮は明日香が取っていたため、男子生徒の総意、あるいは女子生徒の総意は二人を通じて伝えられていた。今回もその件で用があると察した明日香だったが下の方から物言いたげな目線が飛んできていることに気がついた。

 

「ユキにレイ……もう、違うのよ? これは学園祭の準備の相談で……」

 

「でも明日香様、プライベートでも亮さんとよくお話になられていてとても仲がいいですわよね」

 

「ももえ!?」

 

 ユキ達の誤解を解くべく弁解しようとした明日香だったが思わぬ追撃が入る。

 

「もしかして二人って……実はつ、付き合ってたり!?」

 

「ジュンコ!? ……二人ともちょっとこっちへ来て」

 

 これ以上誤解を広げさせてはいけないと思い明日香は二人を少し離れたところに呼び、小声で話し始めた。

 

「……さっきの話でユキ達が一目惚れしたっていうのは亮のことなのよ」

 

 ユキとレイが好きになった男性の名前は下手に言わない方がいいと伏せていた明日香だったがやむを得ず、と言った感じでももえ達に伝えた。

 

「えっ……!? そ、そうでしたの?」

 

「あちゃー。そうだったんだ」

 

「だから二人ともユキ達に変な誤解を与えないでね?」

 

「……はい、分かりました。でもわたくし達は本気で明日香様は亮さんと付き合っていると思っていましたが……」

 

「そ、そんなことないから! いいからお願いね!? ……亮。待たせてごめんなさい」

 

「いや……別に構わない」

 

 明日香はももえ達に念押しすると亮達の元に戻っていく。するとユキ達の目線に合わせて話していた亮が体勢を立て直していた。

 

「なんだ。本当に学園祭の準備の話だったんだね」

 

「ユキ達の……早とちり」

 

(亮……誤解を解いといてくれたのね)

 

「それならユキ達は今は離れておく? 色々込み入った話もあるだろうし……」

 

「そうだね。亮様、今度お時間がある時はもっと話しましょうね!」

 

「ああ。二人ともまた今度な」

 

 ユキとレイ、それにももえとジュンコは話の邪魔にならないよう離れていく。まだブルー寮に戻って来ていない生徒もいたため準備は始まっておらず、先に戻っていたみんなは和気あいあいと話していた。

 

「それで用なんだが……見ての通り昨日みんなが頑張ってくれたおかげで作業がほとんど終わっている。男子側の提案なんだが、後は俺達に任せてくれとのことだ」

 

「えっ……? でもみんなでやった方がもっと早く終わるわよ?」

 

「俺もそう思うが……男の意地というやつだろう」

 

「……そういうもの?」

 

「まあ……そういうものだ。あとこれは個人的になんだがお前に頼みがあるんだ」

 

「あら、何かしら」

 

「ユキとレイのことなんだが……俺は男子だから生活面で彼女達のフォローが出来ないこともある。だからそういう時はお前に彼女達の助けになってもらいたいんだ」

 

 ユキ達の年齢を考えると慣れない生活で苦労するのは目に見えていた。そんな彼女達に出来るだけ助けになってやりたいと思う亮だったが、男子である亮には限界もある。自分の手が届かないところは信頼できる明日香に頼みたかったのだ。

 

「何かと思えば……もちろんよ。二人とも私の可愛い後輩だもの。言われなくても助けられることなら助けるわ」

 

「ああ……ありがとう。だが本当に頼みたいことはここからなんだ。……どうやら良くない予想が当たってしまったようだからな」

 

「えっ?」

 

 明日香と話している間も亮はユキとレイの動向を窺っていた。この時期にしては珍しい編入生、その存在に気付いたブルー生徒が何人か二人に話しかけていく。……しかし、正確に言うのならば話しかけられたのはレイだけだった。

 

「昨日デュエル後にお前達の様子を見ていて気がついたんだが彼女はあまり自分から話そうとしない。そして今の様子を見るにレイが話しやすそうというのもあるのだろうが、恐らくユキがあまり表情に変化がないせいだろう……ユキに話しかける生徒がいないんだ」

 

「あっ……確かに」

 

 そんな会話をしている間にレイ達の存在に気がついた一人のブルー生徒が話しかける。しかしやはりというべきか、話しかけられたのはレイだった。

 

「レイも気を使おうとしているようだが……話しかけてくる人間は5歳以上は上の相手。しかも初対面の相手にそこまで手が回らないようだ」

 

 結局ユキが話す機会は一切無くその生徒も去っていってしまった。

 

「本当ね……」

 

「そこで……だ。この空き時間を使ってお前にユキとデュエルをしてもらいたい」

 

「デュエルを?」

 

「ああ。昨日デュエルが終わった後、興味を持ったお前達がレイにもユキにも話しかけたように、ユキのデュエルを見ればみんなも話しかけてくるはずだ。それにユキは自分から話そうとしないだけで、話しかけられたことには答えられる。きっかけさえ作れれば何とかなるはずだ」

 

「……なるほど」

 

 明日香はようやく亮が言ったことに納得がいく。それと共に亮の観察力に感心していた。

 

「……ふふっ。あの子達のことよく見ているのね」

 

「それは……」

 

 明日香の言葉に亮は少し照れくさそうに言葉を濁した。

 

「照れなくてもいいんじゃないかしら? それがあなたのいいところだもの。……じゃあ、学園祭の準備頑張ってね」

 

「ああ。……頼んだぞ」

 

「任せて!」

 

 二人が話し終えた頃にはブルー生徒も全員戻ってきた。亮は男子生徒を、明日香は女子生徒を全員集め終えると事情を説明していた。

 

「……ってことは、後の作業は全部男子がやってくれるんですか?」

 

「ええ。だからこの空き時間を使って編入生の歓迎デュエルをしたいの。みんないいかしら?」

 

「勿論! 誰が相手するんですか?」

 

「私がやるわ」

 

 明日香はデュエル中にのみつける青いグローブをはめると、ディスクを展開していった。

 

「ええっ! あの『オベリスク・ブルーの女王』天上院明日香自らが編入生の相手をするんですか!?」

 

「……ええ、そうよ」

 

(いつの間にそんな異名がついていたのかしら。恥ずかしいのだけれど……)

 

「相手はユキ! あなたよ!」

 

 明日香が人差し指を勢いよくユキに向かって指すと人混みが割れていき、後ろ側に待機していたユキが明日香の視界にはっきりと入るようになった。

 

「……承知した?」

 

 デュエルを挑まれたら受けるのがデュエリストの礼儀。応えるようにユキもディスクを展開していった。

 

「ユキ! 頑張れー!」

 

 デュエルの邪魔にならないようレイは少し離れると声を張ってユキを応援した。

 

「明日香様頑張って!」

 

「ユキちゃんも明日香様も頑張って下さいー」

 

 人混みを掻き分けジュンコとももえが最前列まで応援に駆けつけた。

 

「行くわよ……デュエル!」

 

「……デュエル!」

 

 二人の宣言が響くとざわついていた声も収まり、明日香の先攻で戦いの火蓋が切られた。

 

「私のターン、ドロー。マジックカード、融合を発動!」

 

「……! いきなり融合……」

 

「手札のエトワール・サイバーとブレード・スケーターを融合! その優雅な滑りで全てを魅了せよ! サイバー・ブレイダー!」

 

 二人の戦士が融合の渦になり一つとなると長い青髪の女性が現れる。フィールドに着地したかと思うとスケートリンクを滑るように自由にフィールドを滑りだした。

 

サイバー・ブレイダー 攻撃力2100

 

「まずはこのモンスターが相手をするわ。ターンエンド!」

 

明日香 LP4000

 

フィールド 『サイバー・ブレイダー』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札3

 

「ユキのターン……」

 

 ユキはデッキの前に手を差し出す。するとディスクからデッキの一番上のカードが自動的に差し出された。

 

「ドロー」

 

(うん。いい……!)

 

 ユキは差し出されたカードを流れるように引き抜く。購買部から購入した新たなディスクの機能に満足している様子だった。

 

(あのディスク手に入れたんだ……結局自分で引くからあんまり変わらない気がするけど。ユキはオートマチックなの好きだからなあ。この前もいつか自動で走るバイクに乗ってみたいって言ってたし)

 

 ユキの気持ちを察したレイが何とも言えない表情を浮かべた。

 

「あの小さな女の子、どんな戦術を使うのかしらね」

 

「聞いた話によると小学5年生だけど特別に編入が認められたらしいわよ」

 

「そうなの!? それはますます気になるわね……」

 

 ブルーでも屈指の実力を持つ明日香のデュエルは注目度が高く、自然に対戦相手であるユキにも周りのみんなが興味を示していた。

 

(……よし、みんなユキに興味を持ち始めたみたいね)

 

「勇気機関車ブレイブポッポを召喚」

 

 レールが引かれていくとその上を緑色の機関車が煙突から煙を出しながら走っていった。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400

 

「そして手札から永続魔法を2枚発動する」

 

「……!」

 

「補給部隊、機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)!」

 

 前線にエネルギーを補充する基地とパーツを組み立てる簡易的な工場が建設された。

 

(……来た! ユキの十八番(おはこ)戦術だ!)

 

「バトル。勇気機関車ブレイブポッポでサイバー・ブレイダーに攻撃」

 

「えっ!? 確かブレイブポッポは攻撃宣言時、攻撃力を元々の攻撃力の半分にしてしまうデメリットがあったはず……」

 

「……その通り?」

 

 レールがサイバー・ブレイダーまで伸び、力強く発進したブレイブポッポだったが、燃料不足か途中から勢いが半減してしまった。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400→1200

 

 その勢いのままブレイブポッポはサイバー・ブレイダーに突っ込んでしまう。それに気づいたサイバー・ブレイダーは華麗な舞で突撃を避けると、レールが途切れて止まってしまったところに身体を回転させながら蹴りによる一撃を叩き込んで破壊した。

 

ユキ LP4000→3100

 

「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」

 

「まさかユキちゃん緊張しているのかしら……?」

 

(昨日のデュエルを見た限りそんなミスをするとは思えない。何か狙いがあるはず……)

 

「補給部隊、さらに機甲部隊の最前線の効果発動」

 

「……!」

 

「まず機甲部隊の最前線の効果により1ターンに1度ユキの機械族モンスターが戦闘で破壊され墓地に送られた時、そのモンスターより攻撃力が低い同じ属性の機械族モンスターをデッキから特殊召喚することが出来る」

 

「ブレイブポッポの攻撃力は2400……!」

 

「よってデッキから攻撃力2400を下回る地属性・機械族モンスターをデッキより1体呼び出すことが可能……!」

 

(いつもなら攻撃力2200の機械王さんを呼び出すけど……ここは)

 

「来て……サイファー・スカウター」

 

 顔に金属製のマスクを取り付けた機械兵士が降り立つ。マスクの目に当たる部分に赤外線センサーがついており、左肩に置かれた二つのランプを点灯することが可能な機械と接続されていた。

 

サイファー・スカウター 攻撃力1350

 

(攻撃力1350? もう少し攻撃力の高いモンスターを呼び出すと思っていたのだけれど……)

 

「さらに補給部隊により1ターンに1度、自分の場のモンスターが破壊された場合にユキはカードを1枚ドローする。ドロー!」

 

(……なるほど。ダメージを負う代わりに1枚分のカード・アドバンテージを得たのね)

 

「……サイファー・スカウターでサイバー・ブレイダーに攻撃」

 

「……!」

 

 懐にしまってあった鋼鉄製の弾が装填された銃を取り出すと、赤外線センサーにより敵の位置を捉えながら一歩前に踏み出し銃を構えた。

 

「補給部隊も機甲部隊の最前線も発動出来るのは 1ターンに1度よ!?」

 

「こ、今度は何を狙っているのでしょう……?」

 

「この瞬間サイファー・スカウターの効果が適用される? その効果により戦士族とバトルを行うダメージ計算時のみ、攻撃力と守備力がそれぞれ2000上昇する……!」

 

「サイバー・ブレイダーは戦士族。これが狙いだったのね……!」

 

 赤外線により感知した敵の正体が分かると二つのランプのうち上のものが赤色に光る。するとその急所を的確に把握したサイファー・スカウターはそこを目がけて弾丸を放った。

 

サイファー・スカウター 攻撃力1350→3350 守備力1850→3850

 

「くっ……!」

 

明日香 LP4000→2750

 

「明日香様!」

 

「いきなり明日香様がダメージを……」

 

「やるわねユキ。でも私はサイバー・ブレイダーの第一の効果を適用していたわ」

 

「え……?」

 

 放たれた弾丸に神がかり的な反応で回避を試みたサイバー・ブレイダーは避けることこそ叶わなかったものの直撃は免れていた。

 

「パ・ド・ドゥ。相手フィールドのモンスターが1体のみの場合、サイバー・ブレイダーは戦闘では破壊されないわ」

 

「……むぅ」

 

 急所を狙った狙撃をかわされたサイファー・スカウターはとっさに後ろに大きく跳躍して体勢を立て直した。

 

サイファー・スカウター 攻撃力3350→1350 守備力3850→1850

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

ユキ LP3100

 

フィールド 『サイファー・スカウター』(攻撃表示)

 

セット1 『補給部隊』 『機甲部隊の最前線』

 

手札3

 

「私のターン! ……一気に行かせてもらうわよ!」

 

「……!」

 

「マジックカード、浅すぎた墓穴を発動。互いに自分の墓地からモンスターを選び、自分フィールドに裏側守備表示で特殊召喚する! 私が選択するのはエトワール・サイバー!」

 

「ユキは勇気機関車ブレイブポッポを選択する」

 

 墓地に繋がる穴がそれぞれのフィールドに空くと上昇気流に乗ってモンスターが1体ずつ帰還した。

 

エトワール・サイバー(裏側守備表示) 守備力1600

 

勇気機関車ブレイブポッポ(裏側守備表示) 守備力2100

 

「残念ながら……ブレイブポッポは守備力も高い? サイバー・ブレイダーで倒すことは出来ない」

 

「それはどうかしらね? この瞬間、サイバー・ブレイダーの第二の効果が適用されるわ!」

 

「二つ目の効果……?」

 

「パ・ド・トロワ。相手フィールドのモンスターが2体のみ存在する場合、サイバー・ブレイダーの攻撃力は倍になるわ!」

 

「なっ……」

 

 ただでさえ速いスピードで滑っていたサイバー・ブレイダーが倍近くの速さで滑り出し、肉眼で捉えられるのは残像だけとなった。

 

サイバー・ブレイダー 攻撃力2100→4200

 

「攻撃力4200。効果を発動したサイファー・スカウターの攻撃力をさらに上回る数値……!」

 

「まだよ! さらにエトワール・サイバーを生贄に捧げ、サイバー・プリマを召喚する!」

 

 セット状態のモンスターが消えるとバレエの衣装を身に纏ったレディが現れる。右手をお腹のあたりに持っていくと深々とお辞儀をした。

 

サイバー・プリマ 攻撃力2300

 

「ユキ、あなたの狙いは分かっているわ。このまま私が攻撃しても補給部隊と機甲部隊の最前線がある限り、そこまで大きな痛手は負わない……そうでしょう?」

 

「……!」

 

「サイバー・プリマの効果発動! このモンスターが生贄召喚に成功した場合、フィールドにある表側表示の魔法カードを全て破壊する!」

 

「……しまった」

 

 サイバー・プリマが前線に設置された基地に乗り込むと蝶のように舞い蜂のように刺す動きを見せ、基地は壊滅してしまった。

 

「亮とのデュエルを見ていたからね。あなたが永続魔法によって戦力を維持する戦術を得意とすることは薄々感じていたし、さっきのターンでそれは確信に変わったわ」

 

「うっ、たった2回のデュエルで……?」

 

「凄い……それだけでユキの戦術を見抜くなんて」

 

「ふふ……大人気ないなんて言わないわよね?」

 

「……勿論」

 

「その言葉を聞いて安心したわ。続けて行くわよ!」

 

 微笑を浮かべていた明日香の顔が引き締まるとその目は鋭くユキを射抜いた。

 

「……!」

 

「装備魔法、竜魂の力(ドラゴニック・フォース)をサイバー・ブレイダーに装備! このカードは戦士族にのみ装備可能よ。装備されたモンスターの種族をドラゴン族へと変更し、攻撃力及び守備力を500上昇させる!」

 

「あっ……! 戦士族じゃなくなることでサイファー・スカウターの効果が発動出来なくなる……」

 

「それだけじゃないわ! 忘れたかしら? 相手モンスターが2体の時、サイバー・ブレイダーの攻撃力は倍になるのよ!」

 

「攻撃力上昇値も500じゃない……!」

 

 サイバー・ブレイダーの足に竜の鱗が生えてくるとスピードがさらに増していき、もはや残像を肉眼で捉えることも出来なくなった。

 

サイバー・ブレイダー 攻撃力4200→5200 守備力800→1300

 

(今まで明日香さんが使ったモンスターは全員戦士族だった。サイファー・スカウターを超えるのは難しいと思ってたのに……でも)

 

 昨日の亮とのデュエルのように予測を上回られてしまうユキ。しかしそんなデュエリストと対峙できる事をどこか嬉しく感じていた。

 

(ユキ……なんだか楽しそう)

 

 あまり表情に変化は見受けられないユキだったが、レイだけはユキの心情を感じ取っていた。

 

(ここに来て……良かった。そう思えることがまた一つ増えた)

 

「バトルよ! サイバー・ブレイダーでサイファー・スカウターに攻撃。グリッサード・スラッシュ!」

 

 明日香のフィールドで佇んでいたサイバー・ブレイダーが目にも留まらぬスピードでフィールドを滑りサイファー・スカウターに向かっていく。

 

「今のサイバー・ブレイダーの攻撃力は5200。サイファー・スカウターの攻撃力は1350で効果も発動出来ない……」

 

「ユキちゃんのライフは3100……ということは」

 

 サイファー・スカウターは赤外線センサーで敵の位置を探ろうとする。しかしあまりにも素早い動きで視界に入れることも難しく、背後を取られてしまった。

 

「……そう簡単にやられるわけにはいかない? トラップ発動、逆さ眼鏡。このターン限り、フィールドの全ての表側表示モンスターの攻撃力は半分になる」

 

「……!」

 

 空間が歪むとフィールドに出ていたモンスターの力が半減していく。するとスピードが遅くなったサイバー・ブレイダーの動きをサイファー・スカウターが感知し、奇襲を免れた。

 

サイファー・スカウター 攻撃力1350→675

 

サイバー・ブレイダー 攻撃力5200→2600

サイバー・プリマ 攻撃力2300→1150

 

「それでもサイファー・スカウターは倒させてもらうわ!」

 

 サイファー・スカウターの方にある二つのランプのうち下にあるものが緑色に点灯すると、反撃するべく弾丸が放たれる。それに気がついたサイバー・ブレイダーは足を回転させて鋭く突き出し、かまいたちを発生させて弾丸ごとサイファー・スカウターを真っ二つにした。

 

ユキ LP3100→1175

 

「くっ……でもサイバー・プリマは追撃出来ない」

 

「そうね……セット状態のブレイブポッポに逆さ眼鏡の効果はないもの。バトルを終了するわ。でもあなたの目論見通りとはいかなかったようね」

 

「む……」

 

「このターン私がサイファー・スカウターを倒せるモンスター呼んだとしても逆さ眼鏡でダメージを抑えながら2枚の永続魔法で次のターンに備えつつ、機甲部隊の最前線で呼び出したモンスターで逆さ眼鏡の効果を受けた私のモンスターの追撃を避ける。それがあなたの狙いだったのでしょう?」

 

「ううん……その通り」

 

 明日香の的を射た考察に思わず唸ったユキだったが、焦らないようゆっくりと息を吐き出し落ち着こうとしていた。

 

「明日香様珍しいわね。いつもは頭の中で相手の戦術をまとめるのに今日は話しかけるようにするなんて」

 

「そうですわね……」

 

(なんでしょう。まるで見ている人たちにユキちゃんのことを伝えているような……)

 

「これでターン終了よ。この瞬間、逆さ眼鏡の効果は終了するわ。それとユキの場のモンスターが1体になったことでサイバー・ブレイダーのパ・ド・トロワによる倍化効果も失われているわ」

 

 空間の歪みが消えていくと失われた力も元に戻された。

 

サイバー・ブレイダー 攻撃力2600→1300→2600

サイバー・プリマ 攻撃力1150→2300

 

明日香 LP2750

 

フィールド 『サイバー・ブレイダー』(攻撃表示) 『サイバー・プリマ』(攻撃表示)

 

セット0 『竜魂の力』

 

手札1

 

「ユキのターン、ドロー。……ブレイブポッポを反転召喚」

 

 緑色の機関車に燃料が投入されると汽笛を鳴らし、煙を高く吹き上げた。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400

 

「さらにオイルメンを召喚する」

 

 燃料用の油が入った缶が置かれると機械的な両手と両足が生えていき腕を高く上げるようなポーズを決め、最後に空から舞い降りて来たマントを振り向かずに羽織った。

 

オイルメン 攻撃力400

 

「ユキの場のモンスターが2体になったことでサイバー・ブレイダーの攻撃力が倍になるわ」

 

サイバー・ブレイダー 攻撃力2600→5200

 

「マジックカード、アイアンドローを発動! ユキの場にいるモンスターが機械族の効果モンスター2体のみの場合に発動でき、その効果でカードを2枚ドロー出来る。ただしこのカードを使った後はターンが終わるまでユキに許される特殊召喚は1回のみとなる」

 

 金属製のグローブが現れるとユキの右手に装着され、ディスクから差し出された2枚のカードがその手で引き抜かれた。

 

「ドロー!」

 

(……来た!)

 

 消えていく金属製のグローブを名残惜しそうにしながらユキはもたらされたカードを確認し、次なる行動に出た。

 

「オイルメンの効果発動。このカードは装備カード扱いとして自分フィールドの機械族モンスターに装備することが可能なユニオンモンスター。ブレイブポッポに装備する……!」

 

「ユニオンモンスター……!」

 

 オイルメンが停車した機関車に乗り込むと、先ほどよりも勢いよく機関車が走り出した。

 

「装備モンスターが破壊される時、代わりに装備されたオイルメンを破壊することが出来る」

 

「……相手モンスターが1体になったことでサイバー・ブレイダーの攻撃力は2600に戻るわ」

 

サイバー・ブレイダー 攻撃力5200→2600

 

(ブレイブポッポの攻撃力は2400。1度だけとはいえ破壊耐性を与えることで次の私のターンを凌ごうということかしら?)

 

「装備魔法、重力砲(グラヴィティ・ブラスター)をブレイブポッポに装備。このカードも機械族にのみ装備出来る」

 

「……!」

 

 機関車の上に設置するように砲台の積荷が乗せられると縄で固定された。

 

「……バトル。ブレイブポッポでサイバー・ブレイダーに攻撃」

 

「なんですって! ブレイブポッポの効果が発動して攻撃力が元々の攻撃力の半分になるのに……!?」

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400→1200

 

「この瞬間、重力砲の効果により装備モンスターとバトルを行う相手モンスターの効果はバトルフェイズが終わるまで無効となる」

 

 固定された砲台から赤いビームが放たれると重力を失ったサイバー・ブレイダーが浮き上がり、自由を失ってしまう。

 

「サイバー・ブレイダーの戦闘破壊耐性が無効に……! でもその攻撃力では倒せないわ!」

 

「勿論……手はある? 速攻魔法、コンセントレイトをブレイブポッポを対象に発動! このターン選択したモンスター以外の自分のモンスターの攻撃を封じる代わりに、ターンが終わるまで対象としたモンスターの攻撃力をその守備力分アップさせる」

 

「なっ……! ブレイブポッポの守備力は2100……!」

 

「よって攻撃力は2100上昇する!」

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力1200→3300

 

 宙に浮いたサイバー・ブレイダーに向けてレールが敷かれる。加速する機関車の前方にエネルギーが集中し、空気との摩擦によって火を纏う形となる。身動きが取れないサイバー・ブレイダーに避ける術はなく燃え盛る一撃をまともに受けてしまった。

 

「ぐっ……やってくれたわね」

 

明日香 LP2750→2050

 

「サイバー・ブレイダー……撃破。オイルメンの効果発動。装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、カードを1枚ドローする。……ドロー!」

 

 オイルメンから放たれた光がデッキの一番上のカードを輝かせるとユキの新たな力となって手札に加えられた。

 

「ブレイブポッポの半減していた攻撃力は元に戻る。さらにメインフェイズ2に入り重力砲のもう一つの効果を発動。 1ターンに1度、装備モンスターの攻撃力を400上昇させることが出来る」

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力3300→4500→4900

 

「……あれ。その効果を攻撃する前に使えばもう少しダメージが与えられたんじゃ……」

 

「そうはいかないわジュンコ。ブレイブポッポの攻撃力は攻撃宣言時に元々の攻撃力の半分、つまり1200となってしまうもの。先に使ってもダメージは増えないのよ」

 

「あっ……なるほど」

 

「その通り……カードを2枚伏せてターンエンド。この瞬間コンセントレイトの効果は終了する」

 

 ブレイブポッポが纏っていた炎が鎮火されるとスピードを落として徐行運転に入った。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力4900→2800

 

ユキ LP1175

 

フィールド 『勇気機関車ブレイブポッポ』(攻撃表示)

 

セット2 『オイルメン』 『重力砲』

 

手札1

 

(強いわね……。これが覚悟を決めた乙女の強さ。でも私だってデュエルに賭ける気持ちは誰にも負けるつもりはない!)

 

「私のターン! ……行くわよ、ユキ!」

 

「……! 受けて立つ……」

 

「サイバー・プチ・エンジェルを召喚!」

 

 背中に羽を生やし、頭に光の輪をつけた小さな天使が舞い降りると、その身体が機械化していった。

 

サイバー・プチ・エンジェル 攻撃力300

 

「き、機械族……!」

 

 アカデミアのデュエリストとのデュエルではクロノス、亮と機械族の使い手に続けて当たっていたため、明日香も機械族を使うのではないかと密かに思っていたユキはその様子に機械族センサーが反応し、期待に満ちた目で明日香を見つめた。

 

「……期待に添えなくてごめんなさい。天使族よ」

 

「…………そう」

 

 返事を聞いたユキがあからさまに落ち込む。表情に大した変化がなくてもこればかりは明日香に伝わった。

 

「さ、サイバー・プチ・エンジェルが召喚に成功したことでデッキから機械天使の儀式を手札に加えるわ」

 

「……ん。儀式……?」

 

 少しの間茫然自失としていたユキだったが、儀式という言葉が耳に入り現実に戻ってきた。

 

「見せてあげるわ。私の持つサイバー・ガール、そのフィナーレを飾るモンスターを! 儀式魔法、機械天使の儀式を発動!」

 

「儀式魔法……!?」

 

 明日香のフィールドが暗くなると青白い炎で囲まれていく。

 

「そうよ。このカードによって儀式召喚が可能となる! フィールドにいるレベル2のサイバー・プチ・エンジェルとレベル6のサイバー・プリマを生贄に捧げることで手札に眠るこの儀式モンスターを呼び出すわ!」

 

 2体のモンスターが供物として捧げられるとその魂が天へと昇る。すると炎が消え、天から閃光が明日香のフィールドに突き刺さった。

 

「目もくらむほどの速さを持ちし光の天使よ。光速の刃で敵を切り裂け! 降臨せよ! レベル8、サイバー・エンジェル—荼吉尼(ダキニ)—!」

 

 閃光の正体は光を纏った天使。両手には切れ味のいい鎌が、背中から生えた2本の手にはそれぞれ短剣が握られていた。

 

サイバー・エンジェル—荼吉尼— 攻撃力2700

 

「融合召喚だけじゃなく、儀式召喚まで……! でもブレイブポッポの攻撃力は重力砲で強化されて2800。そのモンスターでは倒すことは出来ない」

 

「そうはいかないわ! ダキニの儀式召喚に成功したことで効果を発動よ! その効果でユキ……あなたは自身のフィールドのモンスターを1体墓地へ送らなくてはならないわ!」

 

「えっ……!? ユキの場には……ブレイブポッポしかいない。……ブレイブポッポを選択。でもブレイブポッポにはオイルメンが装備されて……はっ!」

 

「気づいたようね。オイルメンは装備したモンスターを戦闘及び効果による破壊から守ることができる。けどダキニの効果によりブレイブポッポは破壊されないまま墓地へ送られるのよ!」

 

「……やられた」

 

 先手を打つべくブレイブポッポから重力砲が放たれたがその瞬間にはダキニの姿は消え、次の瞬間にはブレイブポッポの各車両の連結は全て切断されていた。

 

「さあ、フィナーレよ! バトル! ダキニでユキにダイレクトアタック!」

 

 ダキニはブレイブポッポが停止したことを確認すると次なる標的をユキに定め、大きく跳躍して鎌を振り下ろした。

 

「これで……!」

 

「ユキ……!」

 

「……させない。トラップ発動、ピンポイント・ガード! 相手モンスターが攻撃してきた時、自分の墓地に眠るレベル4以下のモンスターを守備表示で呼び戻す。もう一度お願い……ブレイブポッポ!」

 

「……!」

 

 ブレイブポッポが光の穴に飲み込まれていくと、ユキの目の前へと転送される。分断された連結も直されておりさらにメッキが塗られていた。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 守備力2100

 

「この効果で呼び出されたモンスターはこのターン破壊されない。これでダキニの攻撃は……」

 

「攻撃続行よ! ダキニでブレイブポッポに攻撃!」

 

「え……?」

 

 ユキを狙った一撃だったが突然現れたブレイブポッポが盾となり、メッキを施された機体が鎌を弾き返した。

 

「ブレイブポッポはピンポイント・ガードの効果により破壊されない……!」

 

「でも切れ味は受けてもらうわ! ダキニが存在する限り自分の儀式モンスターが守備モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与えるのよ!」

 

「貫通効果……!?」

 

 鎌を弾き返したブレイブポッポだったがその一撃は鋭く、ブレイブポッポの方も飛ばされてしまいユキに体当たりする形となってしまった。

 

「きゃ……!」

 

ユキ LP1175→575

 

「なんとか防いだわね。でもダキニ相手に守備固めは通用しないわ……次のターンで勝負よ! 私はこれでターンエンド!」

 

 フィールドにダキニが戻ってくると明日香にそっと目配せをする。それに気付いた明日香は首を横に振った。

 

(このエンドフェイズ、ダキニの第三の効果で墓地の機械天使の儀式を手札に戻すことが出来る。でも勝負は次のターン……だからこの効果は使わないわ)

 

明日香 LP2050

 

フィールド 『サイバー・エンジェル—荼吉尼—』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札0

 

「ユキのターン……ドロー」

 

(……このターンで勝負にいく!)

 

「ブレイブポッポを攻撃表示に変更。そして装備魔法、愚鈍の斧をブレイブポッポに装備! 装備モンスターの攻撃力を1000上昇させる」

 

 メッキが剥がれ落ちたブレイブポッポの先頭車両にある積荷を持ち上げるためのアームに斧が握られると、ぎこちなくはあったが力強い振りで風を切った。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400→3400

 

「さらにY—ドラゴン・ヘッドを攻撃表示で召喚」

 

 赤い機械竜が翼を羽ばたかせて降下のスピードを調整し、ゆっくりと地面に着地した。

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500

 

(あのモンスター……確か万丈目君が使っていたわね。でもXやZのカードが無ければ能力を発揮できないはず。それよりも今注意するべきなのは……)

 

「……バトル。ブレイブポッポでダキニに攻撃!」

 

「……!」

 

(仕掛けてきたわね……!)

 

「あ、あの子またブレイブポッポで攻撃を……!?」

 

「愚鈍の斧で攻撃力を上げてもまた攻撃力が1200になってしまいますわ!」

 

 燃料の供給がおいつかなくなりブレイブポッポが減速していく。しかしアームごと敵に向かっていくかのように斧が減速していく機関車を引っ張っていた。

 

「愚鈍の斧を装備したモンスターの効果は……無効になる?」

 

「……! それを利用してブレイブポッポのデメリットを打ち消したのね……!」

 

 ダキニは回避のためにその場を離れたが斧が呼応するように力を発揮して加速するとついにはブレイブポッポがダキニに追いつき、一振りを浴びせた。

 

「くっ……!」

 

明日香 LP2050→1350

 

「やった……ダキニを倒した! Y—ドラゴン・ヘッドのダイレクトアタックでユキの勝ちだ!」

 

「そ、そんな……まさか」

 

「明日香様が負ける……!?」

 

 背中に渾身の一撃を受けたダキニは地面に叩きつけられ、砂塵が舞った。

 

「……まだよ!」

 

「……!」

 

 砂塵を打ち消すように中から光が放たれると癒しの光によって背中の傷は治されており、ダキニは立ち上がった。

 

「私は墓地の機械天使の儀式の効果を使っていたのよ。自分フィールドの光属性モンスターが破壊される場合、墓地にあるこのカードを除外することで身代わりとすることが出来る!」

 

「さすが明日香様!」

 

「これで次のターン、Y—ドラゴン・ヘッドを攻撃すれば明日香様の勝ちですわ!」

 

「……でも、まだ次のターンにはなっていない?」

 

「……! まだ……策があるというの?」

 

 攻撃を凌ぎきったと思った明日香はユキの目がまだ勝利に向いていることに気づくと、さらに警戒を強めた。

 

「機械族・レベル4モンスターのブレイブポッポとY—ドラゴン・ヘッドを対象として永続トラップ、機動要塞 メタル・ホールドを発動……!」

 

 地面の中から突き抜けるように出現したのは人型の機動要塞。重厚感のある身体が着地すると砂塵が舞い上がった。

 

「このカードは発動後、モンスターとして特殊召喚される」

 

機動要塞 メタル・ホールド 攻撃力0

 

「ここでトラップモンスターを……!」

 

「さらに対象としたモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。そしてメタル・ホールドの攻撃力は装備したモンスターの攻撃力の合計分アップする……!」

 

「ブレイブポッポの攻撃力は2400。Y—ドラゴン・ヘッドの攻撃力は1500。ということは……」

 

 足部にあるパーツが機関車となり、背中に機械の翼が取り付けられ進行方向と逆に羽ばたくと、さらに要塞の機動力が増していった。

 

機動要塞 メタル・ホールド 攻撃力0→3900

 

「……やるわね、ユキ。ここでモンスターの力を一つに集めるトラップモンスターを呼び出すなんて。でも私はライフが尽きるまで諦めない! ダキニがやられても次のターン、逆転のカードを引き当ててみせる!」

 

 逆境に立たされた明日香だったがその目はまだ勝利を諦めてはいなかった。

 

(この状況でも諦めないどころか、次のターンを回したらやられてしまうと思わせるほどの気迫……それが向き合っているユキには伝わってくる。だからこそ……勝負をかけ命運を託したこのターンでユキは決着をつける!)

 

「これが最後の一手……! Y—ドラゴン・ヘッドの効果を適用する!」

 

「なっ……Y—ドラゴン・ヘッドの効果ですって!?」

 

 能力の発揮は難しいと考えていたY—ドラゴン・ヘッドに明日香は意表を突かれる形となった。

 

「Y—ドラゴン・ヘッドは自身の効果ではX—ヘッド・キャノンにしか装備することは出来ない。でもメタル・ホールドの効果で装備カード扱いとされたことで……ユニオンモンスターの真価を発揮できる!」

 

「あ……。オイルメンのように装備時に使うことの出来る効果……!」

 

「Y—ドラゴン・ヘッドの装備時効果。装備モンスターの攻撃力及び守備力を400ずつ上昇させる」

 

機動要塞 メタル・ホールド 攻撃力3900→4300 守備力0→400

 

「……そんな手があったなんてね」

 

「メタル・ホールドでダキニに攻撃!」

 

 スピードで逃げ切ろうとするダキニだったが機動力を増した要塞にそれは叶わないことを察すると意を決して要塞に向かって加速していく。振り下ろした剣と突き出した拳がぶつかり合うと、競り合いの末に力で(まさ)ったのはメタル・ホールドだった。ダキニは大きく飛ばされると受け身も取れないまま地面に叩きつけられ、光となって消えていった。

 

明日香 LP1350→0

 

「……まさか、負けるなんてね。私もまだまだね……もっと精進しないと」

 

 デュエルが終わり、消えていくソリッドヴィジョンを横目に明日香はグローブを外しながらユキに近づいていく。それに気づいたユキも歩み寄った。

 

「強いわねユキ。またやりましょう……リベンジもしたいからね」

 

「……喜んで。今のデュエルも本当に紙一重のところ……いいデュエルだった」

 

 二人が握手を交わすとギャラリーからは自然と拍手が送られた。

 

(負けるつもりはなかったけれど……これで亮に頼まれたことは完遂できたみたいね)

 

「ユキ、少し忙しくなるわよ」

 

「……? 何故?」

 

「気づかない? 今のデュエルでみんなあなたに興味が湧いてきたみたいなのよ」

 

 明日香がユキから離れるとギャラリーがユキに押し寄せてきた。

 

「質問攻めにあうと思うけど……頑張ってね?」

 

「えっ……」

 

 その言葉を最後に明日香の姿が見えなくなり、代わりに大勢のブルー女子達がユキを取り囲んだ。明日香が予想した通りに質問攻めにあったユキは大勢に囲まれ緊張していたが、聞かれたことには答えられていた。

 

「……大丈夫そうね」

 

「明日香さん」

 

「レイ?」

 

「あの、ありがとうございました。ユキのために……」

 

 明日香がユキにデュエルを挑んだ意図に気がついたレイはまだユキの元には向かわず、お礼を言うために残っていた。

 

「……お礼なら亮に言ってあげて。デュエルを提案したのは亮だから」

 

「えっ」

 

(そうなんだ。さすが亮様、優しい。でも……)

 

「でも……明日香さんもありがとうございます」

 

 明日香は少し意外そうに驚くと、柔和な笑みを見せた。

 

「どういたしまして。……さあ、ユキのところに行ってあげて」

 

「はい!」

 

 レイも人混みの中に入っていくのを見届けると明日香はその場を離れようとする。すると作業中に様子を伺っていた亮と目が合い、口元に手を当てて笑うと目で大丈夫だと伝えた。

 

 こうしてユキとレイは新たなオベリスク・ブルーの一員として馴染み、学園祭を迎えたのだった。




勇気機関車ブレイブポッポ、過労死枠説浮上。


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恋のおまじない

「ふっふっふ……ついにこの時が来た」

 

 黒い制服を纏った生徒、万丈目準は上機嫌に鼻歌を歌いながら学園祭用に設置されたモンスターのコスプレ衣装が揃っている着替え部屋にたどり着いた。

 

「万丈目のアニキー。もしかしてオイラのコスプレを——」

 

「するかっ!」

 

 万丈目は精霊であるおジャマ・イエローの言葉を遮った上に一蹴するとドアを勢いよく開き、目的のモンスターの衣装がある場所へと向かっていった。そのモンスターの名は……XYZ—ドラゴン・キャノン。彼の持つ切り札の1枚だった。

 

「このダイナミックなコスプレ……きっと天上院君も褒めてくれるに違いない」

 

 万丈目の顔がこれ以上なくにやけた瞬間、突然前触れもなくXYZ—ドラゴン・キャノンが揺れた。

 

「うわっ……な、なんだ!?」

 

 部屋に入った時に誰の姿も見えないことを確認していた万丈目は不可解な現象に驚いた。

 

「あ、アニキ。もしかして幽霊ってやつなんじゃ……」

 

「馬鹿を言え! こんな日が昇ってる時間から出る幽霊がどこにいる! きっと地震か何か……」

 

「……タス……ケテ……」

 

「うわあああ!? なんだこの声は!」

 

 万丈目は慌てて辺りを見回す。しかし目に入るのはコスプレの道具ばかりで人の姿はやはり見当たらなかった。

 

「助けてー……」

 

「……ん? もしかしてこの声、こいつの中から……」

 

 声の主の所在に気がついた万丈目はXYZ—ドラゴン・キャノンをゆっくりと真上に持ち上げた。するとそこから姿を現したのは汗だくになったユキだった。

 

「助かった……ありがとうございます」

 

 万丈目が呆気にとられる中、ユキは肌にくっつくように汗でびしょ濡れになった髪をゴムで後ろにまとめていた。

 

「だ、誰だ貴様! こんなところで何をしていた!?」

 

「この前編入してきたユキ……。XYZ—ドラゴン・キャノンのコスプレをしようとしていた?」

 

「ああ……そういえば十代達がそんな奴が編入してきたと言っていたな。だがこれは被り物だぞ!? いくらXYZが大型とはいえ身体ごとすっぽりハマってたら移動もままならないだろうが!」

 

 XYZ—ドラゴン・キャノンの被り物は高校生に合わせたサイズとなっており、ユキにはとても着用できるものではなかった。

 

「まさかこのタイヤ電動式で動かないとは……なんという罠」

 

「学園祭のコスプレで電動式を期待するな!」

 

 ユキの息が整ってきたのに対して、何故か万丈目の息の方が切れてきていた。

 

「はあ……とにかくその身体じゃこれは被れん。諦めろ」

 

「うん……」

 

 ユキは残念そうにしながら別のものを探し始める。しかし彼女の求める機械族のコスプレは被り物がほとんどでサイズは合いそうになかった。

 

「なんだ貴様。まだ探していたのか」

 

 XYZ—ドラゴン・キャノンを被り終えた万丈目はまだコスプレを探しているユキのもとに近づいていった。

 

「貴様じゃなくてユキ……」

 

「どっちでもいい。それよりこれなら着られるだろう」

 

「それは……VW—タイガー・カタパルト?」

 

 前方に顔をのぞかせるように取り付けられたメカメカしい虎に合わせて胴体も黄色く、左右の翼は緑色に染められたV—タイガー・ジェット。左右に一つ、上部に二つ翼が取り付けられ機動力のある青色の機体、W—ウイング・カタパルト。万丈目が手にしていたのはその二機が合体した姿だった。

 

「ここにあるのはほとんど頭に被るやつだが、これは胴にゴム製の輪で調整してつけるタイプだ。これなら身長に関係なくつけられるだろう」

 

「もしかして……ユキのために探していてくれた?」

 

「ば、馬鹿を言え! たまたま見かけたから持ってきてやっただけだ! これでいいならさっさと着ろ!」

 

 ユキはVW—タイガー・カタパルトのコスプレを身につけると緑と青の翼の間に腕を目一杯伸ばして、小走りで感触を確かめた。

 

「いい感じ。えっと……お名前は?」

 

「俺の名は万丈目だ」

 

「ありがとう……万丈目さん?」

 

「ほう、礼儀がなってるな。ユキだったか……コスプレをしているということはレッドの奴らが出しているコスプレデュエルに向かうところなんだろう?」

 

「うん。でも閉じ込められて思ったより時間がかかった……急がないと」

 

 ドアを開いて急いで会場に向かうユキに万丈目は歩幅を合わせながら共に向かった。

 

「あら、ユキ。遅かったわね」

 

「明日香さん」

 

「天上院君!」

 

 二人がレッド寮近くに設置されたデュエルスペースにたどり着くと、そこにはサイバー・バンテージを身につけハーピィ・レディのコスプレをした明日香がいた。

 

「二人とも大胆なコスプレね。……でも結構似合ってるかも」

 

「ほ、本当か!」

 

「ユキも……気に入った」

 

 明日香の賛辞に万丈目が喜んでいるとデュエルスペースから歓声が湧いた。

 

「そうそう、ちょうど今からレイがデュエルするのよ。多分今の歓声は対戦相手が決まったのね」

 

「ん……そうなんだ」

 

「レイ? ……ああ。そういえば編入生は二人だったな」

 

 黄色いドレスに身を包み恋する乙女のコスプレをして出番を待っていたレイ。彼女の対戦相手として名乗りを上げた人物には特に男性陣の歓声が浴びせられていた。

 

「あれは……ブラック・マジシャン・ガール? 凄い……本物みたい」

 

「と、トメさんのコスプレじゃないブラック・マジシャン・ガール……! 感激っすー!」

 

「うわっ!? 翔、貴様いつの間に!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの大ファンである翔は完成度の高いコスプレを生で見ることが出来て感動のあまり涙すら浮かんでいた。

 

「こうしちゃいられないっす! 実況席に早く戻らないと! 万丈目君、ユキ! 二人には解説を頼むっす!」

 

「お、おい。ちょっと待て——」

 

「ブラック・マジシャン・ガールが僕を呼んでるっすー!」

 

 万丈目の制止も耳に入らなかったようで翔は全速力で実況席に戻ってしまった。

 

「はあ……全く。話を聞かん奴だ」

 

「あはは……。でもみんな待ってるみたいだし、行ってあげたら?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの登場にギャラリーは最高潮の盛り上がりを見せ、デュエルの開始を今か今かと待ち望んでいた。

 

「……そうだな。行くぞユキ」

 

「うん」

 

 二人が解説席につくとレイ達の準備も整った。開始の宣言がかけられる前にブラック・マジシャン・ガールは観客席に向かって手を振りながら声をかけた。

 

「みんなー! 応援よろしくねー! 一緒に盛り上がっていこう!」

 

「おおー!」

 

「うう……凄いプレッシャー」

 

 歓声の多くはブラック・マジシャン・ガールに向けられており、レイはこの異様な熱気に圧されていた。

 

「頑張れ……レイちゃん」

 

「ユキ……うん!」

 

 レイがユキからのエールを受け取った時、観客席からもレイにエールを送った者がいた。

 

「おおーい! レイ! 応援に来たぞー!」

 

「……! 十代。それに亮様!」

 

 十代と亮がレイの応援に駆けつけ、明日香と合流しようとしていた。レイは亮達の方を見ると十代は拳を握って親指を上に向けて立て、亮は静かに頷いた。

 

「よーし! やってやるんだから!」

 

「「デュエル!」」

 

 レイのやる気に満ちた声とブラック・マジシャン・ガールの元気な声が響くと先ほどまで歓声をあげていたギャラリーも一旦静まり、デュエルを見守る態勢に入った。

 

「いきまーす! 私のターン、ドロー! 私はチョコ・マジシャン・ガールを召喚しまーす!」

 

 若い女性の魔術師が現れると、風でなびく水色の髪を魔法で出した青色のとんがり帽子で抑えた。

 

チョコ・マジシャン・ガール 攻撃力1600

 

「チョコ・マジシャン・ガールの効果を発動! 1ターンに1度、手札の魔法使い族モンスターを1体墓地に捨てることでデッキから1枚ドロー出来まーす! 私はアップル・マジシャン・ガールを墓地に捨てて1枚ドロー! ……これでターンエンド! さあ、あなたのターンだよ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4000

 

フィールド 『チョコ・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札5

 

「僕のターン、ドロー! いくよ!」

 

 レイはディスクを掲げるとディスクの右側に収納されていたゾーンを展開し、1枚のカードを勢いよく置いた。

 

「フィールド魔法、サベージ・コロシアムを発動!」

 

「きゃっ……!?」

 

 地響きが発生するとレイとブラック・マジシャン・ガールを囲むように円形の闘技場が地面を突き抜けて出現した。

 

「このフィールド魔法がある限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなきゃいけなくなるよ。さらに僕はモンスターをセット!」

 

(セット……守備力の高いモンスターに攻撃させて反射ダメージを与えるのが狙いなのかな?)

 

「さらにカードを2枚伏せて……永続魔法、魔法族の結界を発動! これで僕はターンを終了する!」

 

 左手にロッドを持った老魔術師の石像がレイの背後に現れると、石像の周囲に4つの光のリングが浮かんだ。

 

レイ LP4000

 

フィールド 裏側守備表示1

 

セット2 『サベージ・コロシアム』 『魔法族の結界』

 

手札1

 

「私のターン、ドロー! うーん……チョコ・マジシャン・ガールの効果を発動します。手札のマジシャン・オブ・ブラックカオスを墓地に捨ててカードを1枚ドロー! ……行くよ!」

 

「……!」

 

「チョコ・マジシャン・ガールを生贄に……私は私自身、ブラック・マジシャン・ガールを召喚しまーす!」

 

 水色のローブに身を包んだ女性の魔術師が空飛ぶステッキに跨りながら現れる。その姿とブラック・マジシャン・ガールを操る彼女は瓜二つだった。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

 

「こ、これは本物のブラック・マジシャン・ガールのカード!? 生で見ることが出来るなんて……感激っすー!」

 

 観客席の男性陣の多くも翔と同じような反応を示し、女性陣も希少性の高いブラック・マジシャン・ガールを実際に見てどよめいていた。

 

「ブラック・マジシャン・ガールだと?」

 

(あれは世界でただ1枚、武藤遊戯のデッキにのみ入っているカードのはずだが……あの女、何者だ?)

 

「ブラック・マジシャン・ガールの効果により、攻撃力は墓地に眠るマジシャン・ブラック・カオスの数×300分攻撃力が上昇します!」

 

ブラック・マジシャン・ガール

攻撃力2000→2300

 

「さあ、バトルに——」

 

「ちょーっと待ったあ! トラップカード、不運なリポートを発動!」

 

「えっ、ここでトラップカード!?」

 

 フィールド中央に古ぼけた机が置かれるとその上にぼろぼろになったレポートが積まれていた。ブラック・マジシャン・ガールはステッキから降りて恐る恐る近づくと、その内容を目にした。

 

「このカードによってあなたは次のバトルフェイズを2回行う!」

 

「ええっ!? ……い、いいの?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールがレポートを読み終えると途端に力が湧き出した。

 

「あの編入生、何のつもりだ?」

 

「サベージ・コロシアムによってバトルフェイズは避けられない。これは……」

 

「ううーん……考えていてもしょうがない! 今度こそバトル! ブラック・マジシャン・ガールで伏せモンスターに攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!」

 

 ステッキを両手で持ち天に掲げて魔力を集中させると、ステッキの先に紫色の魔導弾が生成されて放たれた。

 

「僕が伏せていたのは……見習い魔術師!」

 

見習い魔術師 守備力800

 

 赤いハチマキを頭に結んだ少年が姿を見せるとロッドに力を込めて紅色の魔導弾を放ち、迎撃を試みた。しかし魔導弾の大きさはブラック・マジシャン・ガールのものより遥かに小さく、衝突してもほとんど勢いが衰えないままその身で受けることとなった。

 

(守備力800……反射ダメージ狙いじゃない!?)

 

「場の魔法使い族が破壊されたことで魔法族の結界に1つ魔力カウンターが置かれるよ。このカードには最大で4つの魔力カウンターを置くことが出来る!」

 

 石像の周囲にある光のリングの1つに球体状の魔力が乗るとそのリングが動き出し、球体が石像の周りを公転するように回り出した。

 

魔法族の結界 魔力カウンター0→1

 

「ここでサベージ・コロシアムの更なる効果。モンスターが攻撃したダメージステップ終了時にそのモンスターをコントロールするプレイヤーはライフを300回復する。そして見習い魔術師の効果も発動しているよ! このカードが戦闘で破壊された場合、デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスターを1体選択してセットすることが出来る。僕がセットするのは……恋する乙女!」

 

 裏側の模様を上にしてカードが1枚場に現れると黄色いドレスに身を包んだ華奢な少女がカードの下から顔を出して様子を伺った。すぐ近くにブラック・マジシャン・ガールがいることに気がつくと慌てて引っ込んでしまう。

 

恋する乙女(裏側守備表示) 守備力300

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4000→4300

 

「あっ、確かあのモンスターはアニキとのデュエルでも使っていた……」

 

「むむ……狙いが分からないな。不運なリポートによって2回目のバトルフェイズ! ブラック・マジシャン・ガールで伏せられた恋する乙女に攻撃!」

 

 隠れ蓑にしていたカードが表になり恋する乙女の姿が露わになる。ブラック・マジシャン・ガールは遠慮がちに近づくとそっとステッキで叩いた。それでも痛かったのか乙女は倒れこみ、その目には涙を浮かべてしまう。

 

「この瞬間、恋する乙女の効果が発動されるよ!」

 

「……!」

 

 涙ぐむ乙女の姿を見てフィールドに立つブラック・マジシャン・ガールは罪悪感を覚えていた。

 

「ああ……私はなんでこんな女の子に攻撃なんて!」

 

「自分を責めないで……」

 

「えっ……?」

 

「悪いのはあなたじゃないから……自分を責めないで、ね?」

 

 風に流されるように光になって消えていく乙女に自然とブラック・マジシャン・ガールは手を伸ばしていた。

 

「……」

 

「どうした十代?」

 

「い、いや……何でもないぜ」

 

「む……」

 

「どうしたの万丈目さん?」

 

「……何でもない」

 

 十代、そして万丈目などカードの精霊が見える者にのみこの会話は聞こえていた。

 

「効果で恋する乙女に攻撃をしたブラック・マジシャン・ガールには乙女カウンターが一つ乗る!」

 

ブラック・マジシャン・ガール 乙女カウンター0→1

 

(乙女カウンター……?)

 

「さらに魔法使い族が破壊されたことで魔法族の結界に魔力カウンターが追加される!」

 

 球体状の魔力がまだ何も乗っていないリングに加わるとそのリングも一つ目のリングと同じように回り出した。

 

魔法族の結界 魔力カウンター1→2

 

「なら私はサベージ・コロシアムの効果でライフを300回復しまーす!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4300→4600

 

「あれっ、恋する乙女って戦闘で破壊されない効果がなかったすか?」

 

「恋する乙女が戦闘で破壊されないのは攻撃表示の時だけ……」

 

「あっ、そうだったすね! ……ん? でもそれじゃあアニキの時のコンボが使えないような……」

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド! さあ、あなたのターンだよ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4600

 

フィールド 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札4

 

「いっくよー! 僕のターン! ……永続魔法、魔術師の再演を発動! このカードがフィールドに表側表示である限り1度だけ僕の墓地からレベル3以下の魔法使い族モンスターを呼び戻すことが出来る!」

 

 舞台が出現し一点にスポットライトが当てられるとその床が仕掛けで開いていき、奈落から煙と共にステージに一人舞い戻る者がいた。

 

「今レイちゃんの墓地にいるのはどちらもレベル2の魔法使い族モンスター……」

 

「そっか! これで恋する乙女を復活させるつもりっすね!」

 

(翔さんの言う通り恋する乙女を復活させたいところなんだけど……コンボを完成させるのに必要なキューピッド・キスがまだ手札にない! ここは……)

 

「戻ってきて……見習い魔術師!」

 

 煙がステージから無くなるとその舞台に立っていたのは新米の魔術師だった。

 

見習い魔術師 守備力800

 

「見習い魔術師が特殊召喚に成功したことで魔力カウンターを置くことが出来るカードに魔力カウンターを1つ置く! 僕は魔法族の結界を選択!」

 

魔法族の結界 魔力カウンター2→3

 

「永続トラップ、漆黒のパワーストーンを発動! 発動時、このカードには魔力カウンターが3つ置かれる!」

 

 黒いパワーストーンが石像の隣に置かれると3つの球体状の魔力が取り込まれていき、表面に三角形のような模様が3つ浮かび上がった。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター0→3

 

「さらに漆黒のパワーストーンの効果により自分のターンに1度、魔力カウンターを1つ他のカードに移すことが出来る! この効果を使って魔法族の結界に4つ目の魔力カウンターを点灯させる!」

 

 模様が1つ消えるとパワーストーンから放たれた魔力が最後の静止しているリングに乗せられるとそのリングも回転を始める。すると突然石像に後光が差した。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター3→2

魔法族の結界 魔力カウンター3→4

 

「魔法族の結界の効果を発動! このカードと自分フィールドの魔法使い族を1体墓地に送ることでこのカードに乗っている魔力カウンター1つにつき1枚ドロー出来る!」

 

「魔法族の結界に乗っている魔力カウンターは4つ……!」

 

「よって見習い魔術師と共に墓地に送り……カードを4枚ドロー!」

 

 後光が強くなると一瞬の閃光ののちに魔術師と石像が消え去り、代わりに4枚のカードが天からレイに授けられた。

 

(よし……これなら!)

 

「僕は魔導騎士 ディフェンダーを召喚! このカードには召喚時、魔力カウンターが1つ置かれる!」

 

 重厚感のある盾を構えた騎士が飛び降りるようにフィールドに降り立つと、盾に刻まれた模様が輝き出した。

 

魔導騎士 ディフェンダー 攻撃力1600 魔力カウンター0→1

 

「装備魔法、キューピッド・キスを魔導騎士 ディフェンダーに装備!」

 

 天から舞い降りた子供の天使が魔導騎士の上を小さな羽を羽ばたかせて飛ぶと、光の粉が降り注がれた。

 

「バトルだ! 魔導騎士 ディフェンダーでブラック・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

「えっ……!?」

 

 短剣を手にブラック・マジシャン・ガールに斬りかかった魔導騎士だったが、リーチの短さが仇となり跳躍で躱された挙句後ろに回り込まれてしまう。反撃の魔導弾が無防備な背中に襲いかかった。

 

「魔導騎士 ディフェンダーの効果発動! 1ターンに1度、魔法使い族モンスターが破壊される時、その数分の魔力カウンターを自分フィールドから取り除くことで身代わりに出来る。僕は魔導騎士ディフェンダーの魔力カウンターを取り除く!」

 

 前に構えられていた盾の模様から光が消えると魔力として解放され、魔導騎士が魔法により新たな盾を背後に出現させると魔導弾を防ぎきった。

 

レイ LP4000→3300

魔導騎士 ディフェンダー 魔力カウンター1→0

 

 魔導弾を浴びせたことで光の粉が舞うと、光になって消えた乙女を思い出したブラック・マジシャン・ガールは罪の意識に苛まれた。

 

「あの子を傷つけたみたいにまた私は誰かを傷つけるの? ……ダメだ。こんな戦いはもう……終わらせないと!」

 

「ちょ、ちょっと……どうしちゃったの!?」

 

 十代や万丈目だけではなくブラック・マジシャン・ガールの格好をした少女も精霊が見えなければ聞こえないこの声が聞こえていた。

 

「この瞬間、キューピッド・キスの効果発動! 装備モンスターが乙女カウンターが乗ったモンスターに攻撃して、装備モンスターのコントローラーが戦闘ダメージを負った時に発動出来る! その効果で戦闘ダメージを与えたモンスターのコントロールを得るよ!」

 

「あちゃ……そう来ますか!」

 

 光の粉が身体を包み込むと同時にフィールドに佇むブラック・マジシャン・ガールは決断した。

 

「この戦いを終わらせるために……私は戦う!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールはジャンプしてレイの場に降り立つと元々の主人に向かってステッキを構えた。

 

(あらら。まさか自分自身と向かい合うことになるなんて思わなかったなあ……)

 

「そしてサベージ・コロシアムの効果でライフを300回復!」

 

レイ LP3300→3600

 

「キューピッド・キスって恋する乙女専用の装備魔法じゃなかったんすね」

 

「そう。他のモンスターでも……構わない」

 

「なるほどな。恋する乙女の攻撃力は400、キューピッド・キスの効果を使うためには戦闘ダメージを負う必要がある。他のモンスターで軽減するのも手というわけか」

 

「まだ今はバトルフェイズ! ブラック・マジシャン・ガールであなたにダイレクトアタックだ!」

 

 ステッキに力を込めると紫色の魔導弾が生成されていき標的を元々の主人に定めようとした瞬間、その視界を遮るように魔法陣が出現した。

 

「させないよ! トラップカード、マジシャンズ・サークル! 魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動出来る! その効果でお互いにデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを1体攻撃表示で特殊召喚するよ!」

 

「……! 僕のデッキにも勿論魔法使い族モンスターがいる! その効果利用させてもらうよ!」

 

 レイの場にも魔法陣が出現し、互いに召喚の準備が整った。

 

(この効果で呼び出せるモンスターの最大攻撃力は2000。攻撃力2300のブラック・マジシャン・ガールなら倒せる。ここは攻撃力の高いモンスターを選んで一気に追撃だ!)

 

「僕が選ぶのは聖なる解呪師(セイント・ディスエンチャンター)!」

 

「私はレモン・マジシャン・ガールを選択しまーす!」

 

 魔法陣が怪しく光りだすと召喚魔法によってそれぞれの場に同時に魔術師が降り立つ。レイの場に現れたのは淡い紫色の装束に身を包んだ熟練の魔術師、向かい合うように現れたのは黄色い衣装を纏った幼い魔術師だった。

 

聖なる解呪師 攻撃力2000

 

レモン・マジシャン・ガール 攻撃力800

 

「えっ、攻撃力800!?」

 

「サベージ・コロシアムによってブラック・マジシャン・ガールの攻撃は続行されまーす! なのでレモン・マジシャン・ガールの効果発動! 1ターンに1度このカードが攻撃対象になった場合、手札の魔法使い族モンスターを1体効果を無効にして特殊召喚出来ます! 来て……コスモクイーン!」

 

 レイの場の魔法陣がレモン・マジシャン・ガールの魔法によって自身を呼び出した魔法陣に取り込まれていき、巨大になった魔法陣から宇宙に存在する全ての星を統べていると言われている女王が降臨した。

 

コスモクイーン 攻撃力2900

 

「うそ……僕のターンに最上級モンスターを呼び出すなんて!?」

 

「まだレモン・マジシャン・ガールの効果は終わってないよ! モンスターを特殊召喚した後そのモンスターに攻撃対象を移し替えて、さらに攻撃モンスターの攻撃力を半分にします!」

 

「し、しまった……!」

 

 女王に威圧されたブラック・マジシャン・ガールの力が弱まっていく。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2300→1150

 

「目を覚まして、私! コスモクイーンの反撃!」

 

 コスモクイーンが手を軽く振るうと波状の魔力が襲いかかり、弱々しい勢いで放たれた魔導弾ごとブラック・マジシャン・ガールを飲み込んだ。

 

「うう……あれ? 私は一体何を……」

 

「今は墓地で休んでてね、私」

 

 光の粉が波によって流されると正気を失っていたブラック・マジシャン・ガールの目が覚め、混乱状態にある彼女を女王が闇で包み込むようにして眠らせた。

 

レイ LP3600→1850→2150

 

「やられた……! 折角コントロールを得たブラック・マジシャン・ガールがやられちゃうなんて……でも、まだ攻撃は残ってる! 聖なる解呪師でレモン・マジシャン・ガールに攻撃! そのモンスターの効果は1ターン1度、これは防げない!」

 

 熟練の魔術師が持つロッドが輝くと閃光が放たれ、一瞬でレモン・マジシャン・ガールを貫いた。

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4600→3400

 

レイ LP2150→2450

 

「ありゃりゃ……でもコスモクイーンは倒せない!」

 

「ううっ……ならバトルを終了して聖なる解呪師の効果を発動! 1ターンに1度、フィールド上にある魔力カウンターを1つ取り除くことで表側表示の魔法カード1枚を手札に戻すことが出来る。僕は漆黒のパワーストーンから魔力カウンターを取り除き、魔術師の再演を手札に!」

 

 パワーストーンの模様の一つから光が消え、球状の魔力を手で受け取った魔術師は握りつぶすようにして魔力を解放し上級魔法を唱えて舞台をレイの手札に戻した。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター2→1

 

「場にカードを……3枚伏せる! これでターンエンドだ!」

 

レイ LP2450

 

フィールド 『魔導騎士 ディフェンダー』(攻撃表示)『聖なる解呪師』(攻撃表示)

 

セット3 『サベージ・コロシアム』 『キューピッド・キス』 『漆黒のパワーストーン』(魔力カウンター1)

 

手札1

 

「ああ……まずいっすよ! レイの場にいるモンスターはどっちもコスモクイーンの攻撃力を下回っているっす!」

 

「いや、優勢とは言い難いが魔導騎士 ディフェンダーの効果で戦闘破壊を1度免れることも出来る。まだどっちに転ぶかは分からんぞ」

 

「私のターン、ドロー! 行くよ! 1000のライフを払ってマジックカード、黒魔術のヴェールを発動! 私の墓地から魔法使い族・闇属性のモンスターを1体蘇らせる!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP3400→2400

 

「まさか……!」

 

「私はもう一度私自身、ブラック・マジシャン・ガールを復活させまーす!」

 

 コスモクイーンが闇を振り払うとそこにはすっかり落ち着いたブラック・マジシャン・ガールがステッキを構えていた。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2300

 

(ここは一気に行くとしますか!)

 

「マジックカード、黒・魔・導・爆・裂・破を発動!」

 

「ブラック・マジシャン・ガールの攻撃技と同じ名前のカード!?」

 

「そう! このカードはブラック・マジシャン・ガールモンスターが場にいるときのみ発動が出来る。その効果で相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊しまーす!」

 

「僕の場のモンスターを全て……!?」

 

 薙ぎ払うようにステッキが振られると魔力が拡散していき、魔術師と魔導騎士に直撃した。

 

「魔力カウンターが2つあれば魔導騎士 ディフェンダーの効果で防ぐことも出来たが、聖なる解呪師の効果を使ったのが仇となったな」

 

「くうっ……まさか一気に破壊しにくるなんて!」

 

「さらに私はビックバンガールを守備表示で召喚!」

 

 燃えるように赤いローブを着た女性が現れると周りが炎によって囲われる。両手で握っている木の杖に火の粉が散るが、彼女の触れているものは不思議な力で守られ、燃えることは無かった。

 

ビッグバンガール 守備力1500

 

「攻撃のチャンスなのに守備表示っすか?」

 

「レイちゃんの場には伏せカードが3枚もある。サベージ・コロシアムで攻撃表示のモンスターさんは攻撃が強制されるし、迂闊に攻撃表示にするのを避けた?」

 

「いっくよー! バトル! コスモクイーンであなたにダイレクトアタック! コズミック・ノヴァ!」

 

「この攻撃が通ればあいつのライフは0だ……!」

 

(防がないと……! この攻撃だけはこの伏せカードで……ん? もしかしてあのカードと僕の伏せカードを組み合わせれば…………いける!)

 

「トラップカード、光の召集を発動! このカードは手札を全て墓地に捨てることでその枚数分だけ僕の墓地にある光属性モンスターを手札に加えることが出来る!」

 

「……? 手札を入れ替えてもコスモクイーンの攻撃は防げないよ!」

 

「確かにね。でも僕はもう1枚のトラップも発動させる! 永続トラップ、横取りボーン!」

 

「ダブルリバース……!?」

 

 レイの発動したトラップから巨大なアームが出現するとブラック・マジシャン・ガールの墓地に繋がる穴へと伸びていった。

 

「横取りボーンは相手がモンスターの特殊召喚に成功したターンに発動出来る。その効果で相手の墓地のモンスター1体を守備表示で僕のフィールドに呼び出せるよ! 僕が選ぶのは……アップル・マジシャン・ガール!」

 

「……あっ、まさか……!?」

 

 アームがフィールドに戻ってくると開いた手のひらに乗っていたのは華麗な朱色の衣装を着こなした若い女性の魔術師だった。

 

アップル・マジシャン・ガール 守備力800

 

「光の召集により手札のミスティック・パイパーを墓地に捨てて、墓地に眠る光属性モンスター、聖なる解呪師を手札に戻す! さあ、サベージ・コロシアムによって攻撃を続行してもらうよ!」

 

 コスモクイーンがアップル・マジシャン・ガールに闇色に染まった魔導弾を次々と放った。

 

「アップル・マジシャン・ガールが攻撃対象になったことで効果発動! 手札のレベル5以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚して、そのモンスターに攻撃対象を移し、攻撃モンスターの攻撃力を半減させる! 僕はこの効果でレベル5の聖なる解呪師を特殊召喚だ!」

 

「私のモンスターの効果をとっさに使いこなした……!?」

 

(聖なる解呪師の攻撃力は2000。攻撃表示ならコスモクイーンを倒せるけど、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃でやられちゃう。ここは……)

 

聖なる解呪師 守備力2300

 

コスモクイーン 攻撃力2900→1450

 

 アップル・マジシャン・ガールを守るように熟練の魔術師が現れるとロッドから放たれた閃光が魔導弾を打ち消していき、そのままコスモクイーンを掠めて過ぎ去った。

 

ブラック・マジシャン・ガール LP2400→1550

 

「きゃっ!」

 

「デュエルってやってみないと何が起こるか分からないものだね。光の召集は光属性の恋する乙女を手札に戻すために入れていたのに、相手のカードとコンボすることになるなんて思わなかったよ」

 

「……そうだね。でもそれは私にも言えることかな?」

 

「えっ……?」

 

「あなたのフィールド魔法、サベージ・コロシアムの効果でライフを300回復する! そしてビッグバンガールの効果を発動! 私がライフを回復する度に、あなたに500のダメージを与えるよ!」

 

「僕のフィールド魔法の効果を利用して……!」

 

 ビッグバンガールが杖に力を込めると風が勢い良く放たれ燃え盛る炎を通過すると、炎を纏ったかまいたちとなってレイを襲った。

 

「ううっ……!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP1550→1850

 

レイ LP2450→1950

 

「続けてブラック・マジシャン・ガールでアップル・マジシャン・ガールに攻撃!」

 

 二人のマジシャン・ガールが魔導弾を放つとブラック・マジシャン・ガールの方が魔導弾のスピードが速く、アップル・マジシャン・ガールの近くでぶつかり合い爆風を巻き起こした。爆風が晴れるのを待っていたアップル・マジシャン・ガールだったが、ステッキに乗って爆風の上を飛んだブラック・マジシャン・ガールに気づくことが出来ず、死角から放たれた魔導弾をまともに食らってしまった。

 

「アップル・マジシャン・ガールが破壊されたことで横取りボーンも破壊されるよ」

 

「アップル・マジシャン・ガールが破壊された場合、このカード以外の墓地のマジシャン・ガールモンスターを3体まで手札に戻せる! この効果でレモン・マジシャン・ガールを手札に戻して……サベージ・コロシアムとビッグバンガールのコンボを受けてもらうよ!」

 

 ビッグバンガールが放ったかまいたちが爆風を切り裂くようにしながらレイに向かい、直撃した。

 

「ひゃっ! まさか戦闘ダメージを受けないままライフを逆転されちゃうなんて……」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP1850→2150

 

レイ LP1950→1450

 

「あの女、見ない顔だが中々のデュエリストだぞ……」

 

「サベージ・コロシアムとビッグバンガールのコンボが成立する度に二人のライフ差は800ずつ開いてしまう……長期戦は不利。次のターンが……勝負?」

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドだよ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP2150

 

フィールド 『コスモクイーン』(攻撃表示) 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示) 『ビッグバンガール』(守備表示)

 

セット1

 

手札1(レモン・マジシャン・ガール)

 

「僕のターン……ドロー!」

 

「レイの手札はあの1枚だけっす。ここは聖なる解呪師を守備にしたまま次のターンを防ぐしか……」

 

「あの編入生のライフは1450。ビッグバンガールの効果で与えられる効果ダメージは500だ。つまり守備にして凌ごうにも次のターン3体で攻撃すればサベージ・コロシアムとのコンボでライフは尽きる」

 

「あっ! 確かにそうっすね……」

 

「それに手札は1枚だけど、使えるカードが1枚だけとは限らない? レイちゃんの場にはさっきのターン回収され、伏せられているあのカードがあるはず……」

 

「僕は場に伏せていた永続魔法、魔術師の再演を発動するよ! このカードが表側表示である限り1度だけ、墓地のレベル3以下の魔法使い族モンスターを呼び戻せる! もう1度戻ってきて……見習い魔術師!」

 

 再びせり上がってきた舞台から青年が姿を見せた。

 

見習い魔術師 守備力800

 

「見習い魔術師の特殊召喚に成功したことで漆黒のパワーストーンに魔力カウンターを1つ置く!」

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター1→2

 

「聖なる解呪師の効果だ! 1ターンに1度、魔力カウンターを1つ使って表側表示の魔法カードを手札に戻せる……漆黒のパワーストーンから魔力カウンターを取り除いて魔術師の再演を手札に! そしてもう1度発動させる!」

 

 聖なる解呪師の魔法で1度舞台が光に包まれると、別の場所に光の柱が突き刺さり、光が収まると舞台が移動して現れた。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター2→1

 

「魔術師の再演の効果発動!」

 

「え!? さっき効果を使ったはずっすよね……?」

 

「魔術師の再演は表側表示である限り一度しか効果を使えない。だけど今手札に戻してから発動し直したから……発動可能」

 

「僕はレベル1の魔法使い族モンスター、ミスティック・パイパーを特殊召喚!」

 

 紅色のマントを羽織った青年が参上すると、空中から落ちてくる笛を受け止めた。

 

ミスティック・パイパー 守備力0

 

(場に3体の守備モンスター……。あくまで守りにいくのかな?)

 

「行くよ……僕はこのカードにかける! ミスティック・パイパーの効果を発動! 自身を生贄することで僕はカードを1枚ドローする! このカードでドローしたモンスターがレベル1のモンスターならさらにもう1枚ドロー出来るよ!」

 

「……!」

 

(いや、逆だ……あくまであの子はこのターンで逆転しにくるつもりなんだ!)

 

 ミスティック・パイパーが笛を鳴らすと光の粒子となって消えていき、レイのデッキに降り注がれると一番上のカードが輝き出した。

 

(レイちゃんのデッキを考えると最右翼は相手モンスターの元々のステータスをコピー出来るレベル1モンスター、ものマネ幻想師。でもこの場面で本当に必要なこと、きっとレイちゃんなら分かっているはず)

 

 レイは深呼吸して胸の高鳴りを抑えると、デッキトップのカードを勢い良く引き抜いた。

 

(信じてるよ……僕のデッキ!)

 

 レイは引き抜いたカードを確認する。そのカードを彩っていたのは緑、すなわちマジックカードだった。

 

「……僕が引いたのはマジックカード、儀式の下準備。レベル1のモンスターじゃないから追加のドローはないよ」

 

「あちゃー。レベル1のモンスターは引けなかったか」

 

「いや、待って……儀式の下準備ですって! あの子まさか……」

 

 レイの引いたカードがレベル1のモンスターではなかった事を残念そうにする十代とは裏腹に、明日香はそのカードを知っているようで動揺していた。

 

「マジックカード、儀式の下準備を発動! デッキから儀式魔法とその儀式魔法にカード名が記された儀式モンスターを1枚ずつ手札に加えることが出来る!」

 

「儀式魔法と儀式モンスターが手札に……!?」

 

「僕は今加えた儀式魔法、灼熱の試練を発動! このカードにより儀式召喚が可能となる!」

 

「レイも儀式使いだったのね……!」

 

「俺とデュエルした時には使わなかった戦術だ! どんなモンスターを呼び出すのかワクワクするぜ……!」

 

「フィールドからレベル2の見習い魔術師とレベル5の聖なる解呪師を生贄に捧げるよ!」

 

 魔術師達の魂が捧げられると魂は真っ赤な鬼火となって一点に集まっていき、やがてマグマとなった。

 

「……」

 

 レイは亮達がいる方をちらりと見てから手札の儀式モンスターを取り出す。

 

「乙女の熱き想い、真紅の炎に乗せて相手に届けて! 儀式召喚! 現出せよ! レベル7、伝説の爆炎使い(フレイム・ロード)!」

 

 マグマから炎の塊が飛び出すと、その正体は灼熱の試練を乗り越え炎の鎧を纏った屈強な魔法使いだった。

 

伝説の爆炎使い 攻撃力2400

 

「ほう……ここで儀式召喚か。あの編入生も中々やるじゃないか」

 

「レイちゃんは相手のモンスターのコントロールを奪うことが多い。だから儀式召喚に必要な生贄を揃えやすい……」

 

(そして船の上であの変な人に指摘されたこと……。モンスターを奪えなければ戦力不足になりやすいという課題。あのモンスターはその課題に対するレイちゃんの一つの答え……)

 

「手札から速攻魔法、ダブル・サイクロンを発動! お互いのフィールドにある魔法・罠カードを1枚ずつ破壊するよ! 僕は魔術師の再演とあなたの伏せカードを選択!」

 

「……!」

 

 フィールド中央に二つの竜巻が発生するとぶつかり合い、弾かれるようにしてそれぞれの場に向かっていく。

 

「させないよ! 選択されたトラップを発動しまーす!」

 

 竜巻がレイの場にある舞台を吹き飛ばすと同時にブラック・マジシャン・ガールの場にある伏せカードを吹き飛ばそうとする。しかし竜巻が触れた瞬間、伏せカードは無数の白いハトに変身するとどこかへ消えてしまう。

 

「躱された!?」

 

「トラップトリックはデッキからトラップトリック以外の通常トラップを除外することで、除外したカードと同名のカードを場に伏せられるんだ。私は魔法の筒(マジック・シリンダー)を除外して同じく魔法の筒を伏せていました! しかもこの効果で伏せたカードはこのターン発動出来る! これが手品のタネだよ!」

 

 竜巻が過ぎ去るとハト達が戻ってきて新たなカードへと生まれ変わって伏せられた。

 

(魔法の筒……)

 

「ここで伝説の爆炎使いの効果! 魔法カードが発動される度に魔力カウンターを自身に1つ乗せる!」

 

 魔力を受け取ると火種となり、鎧となっている炎がさらに激しく燃え上がっていく。

 

伝説の爆炎使い 魔力カウンター0→1

 

「さらに魔術師の再演の効果を発動するよ! このカードが墓地へ送られた場合、デッキから魔術師の再演以外の魔術師永続魔法カード1枚を手札に加えられる! 僕は魔術師の左手を加えて……発動! 魔法カードの発動に成功したことで伝説の爆炎使いに2つ目の魔力カウンターが乗る!」

 

 炎が猛るように燃え盛っていくがその鎧を纏う爆炎使いはなおも平静を保っていた。

 

伝説の爆炎使い 魔力カウンター1→2

 

「そして漆黒のパワーストーンの効果で最後の魔力カウンターを伝説の爆炎使いに移す! 乗っている魔力カウンターが全てなくなったことで漆黒のパワーストーンは破壊されちゃうけどね……」

 

 魔力が爆炎使いに受け渡されると輝きを失ったパワーストーンにヒビが入り、やがて消滅してしまった。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター1→0

伝説の爆炎使い 魔力カウンター2→3

 

(魔力カウンターを一気に乗せてきた。何を仕掛けてくるのかな……?)

 

「行くよ! 伝説の爆炎使いの効果を発動! このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除くことで、このモンスター以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「ええっ!? ……ということは」

 

 炎が生きているかのように唸りを上げて襲いかかるとそれぞれ身を守るべく反撃を試みる。しかし反撃を物ともせずに、三人の魔術師は灼熱の炎に飲み込まれてしまった。

 

「ありゃりゃ。さっきのターンのお返しをされちゃったね」

 

「これであなたの場はガラ空き! バトルだ! 伝説の爆炎使いでダイレクトアタック!」

 

 爆炎使いが右手を振り下ろすと炎が龍の化身となって身体を螺旋状に捻らせながらブラック・マジシャン・ガールへと放たれた。

 

「これでレイの勝ちっす! ……ああっ、でもブラマジガールが負けちゃうっすー!」

 

「いや……」

 

「最後の最後まで勝負は分からないよ! トラップ発動、魔法の筒! 相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「……!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの場に現れた二つの筒の一つに炎が吸い込まれていく。

 

「トラップトリックによって魔法の筒が伏せられた時、既にレイの場には攻撃表示の伝説の爆炎使いがいてサベージ・コロシアムによって攻撃しなくてはならない状況だった」

 

「ということは……あの時からこの展開が読めていたってことっすか!?」

 

「あなたのライフは1450。これでフィニッシュだ!」

 

 彼女が合図を送るともう一つの筒から跳ね返すように龍の化身がレイに向かって放たれた。

 

「……そうだね。最後の最後まで勝負は分からない!」

 

「えっ!」

 

 龍の化身が再び放たれた瞬間、爆炎使いが左手を振り下ろすと炎が虎の化身となって唸りを上げながら迎え撃った。

 

「魔術師の左手の効果だよ! 自分フィールドに魔法使い族がいる場合、 1ターンに1度だけ相手が発動したトラップの効果を無効にして破壊する!」

 

 龍虎相摶(りゅうこあいう)つ激突を制したのは虎の化身。勢いを衰えさせることなくそのままブラック・マジシャン・ガールに襲いかかった。

 

「あちゃあ……どうやらあなたの方が一手先を読んでたみたいだね」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP2150→0

 

 決着がつき、ソリッドヴィジョンも消えていく。負けたことを残念そうにしていたブラック・マジシャン・ガールだったが、すぐに切り替えてギャラリーに声をかけた。

 

「ごめんみんな! 応援してくれたのに負けちゃった。でもすっごく楽しいデュエルだったよー! 応援ありがとうね!」

 

「こちらこそありがとう! いいデュエルだったっすー!」

 

「うわっ! あいついつの間に応援席の方に……」

 

 各々違った反応を見せるギャラリーの声にブラック・マジシャン・ガールは笑みを見せると、レイの方に向き直る。

 

「あなたもありがとう! 楽しかったよー!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールに声をかけられたレイは人差し指と中指を一度自分の方に向けると、勢いよく相手に向けた。

 

「ガッチャ! 僕も楽しかったよ!」

 

 こうしてコスプレデュエルは大盛況の末に終わりを告げた。

 

 夕日が差し、そろそろ学園祭も終わりかという頃。ギャラリーが大勢いる慣れないデュエルをして少し疲れたレイは木陰で休んでいた。すると彼女に声をかける者がいた。

 

「ブラック・マジシャン・ガール……」

 

「さっきはありがとうね。……ねえ、もしかしてあなたって」

 

 周りに誰もいないことを確認してブラック・マジシャン・ガールはレイに近づくと小声で聞いた。

 

「好きな人がいるのかな?」

 

「なっ……なんでそれを!?」

 

 レイはブラック・マジシャン・ガールからとっさに離れると、恥ずかしさからか耳のあたりが真っ赤になっていた。

 

「デュエルをしていたら何となく……ね?」

 

「うう……そ、そうだけど」

 

「やっぱり! いいなあ……恋って素敵だよね。張り切るあなたを見て私も元気を貰った気がするよ」

 

(……よし、決めた!)

 

「ねえ。その恋、叶えたい?」

 

「それは……もちろん」

 

「じゃあおまじないをしてあげる! 目をつぶって?」

 

「えっ? う、うん……」

 

 戸惑うレイだったが恐る恐る目を閉じると、額に何かが触れる。すると声が直接体に伝わるように響いた。

 

「これからよろしくね」

 

「えっ?」

 

 レイは驚きのあまり目を開けるとすぐ側にいたはずのブラック・マジシャン・ガールは忽然と姿を消していた。慌てて周りを見渡すが彼女の姿はどこにも見当たらない。

 

「どこに行っちゃったんだろ。……えっ、これは?」

 

 レイの頭上から何枚かのカードが舞うように落ちてくる。とっさに手を出すと自然に吸い込まれるように手のひらに全てのカードが収まった。その中の1枚を確認すると、それはブラック・マジシャン・ガールのカードだった。

 

「まさかカードに……そんなわけないか。急用が出来ちゃったのかな。このカードどうしよう……」

 

 突然の事態に困惑するレイ。そこに亮と十代がやってきた。

 

「レイ。相手のことをよく観察したいいデュエルだったな」

 

「おっ、レイ! それにブラック・マジシャン・ガール! こんなところにいたのか」

 

「えっ! ブラック・マジシャン・ガール……?」

 

「……十代、何を言っている?」

 

「あれっ!? ……あー、いや何でもない。それよりそのカードは?」

 

 十代にはレイの後ろで少し慌てた様子のブラック・マジシャン・ガールが見えていたが、彼女の正体はデュエルモンスターズの精霊だった故に二人には見えていなかった。

 

「えっとね。ブラック・マジシャン・ガールがその……おまじないをかけてくれたんだけど、気づいたらカードを残してどこかに行っちゃったんだ」

 

「なるほどな」

 

「……?」

 

 精霊であるブラック・マジシャン・ガールがレイにカードを託した。その意味を十代は十分に理解していた。

 

「それは——」

 

「それはレイ。お前にそのカードを使って欲しいということだろう」

 

「そう……なのかな」

 

「恐らくな。デュエリストにとってカードは魂にも等しいものだ。それを人に託した……渡した相手の助けになりたいと思ったということだ」

 

「……俺もそう思うぜ」

 

「そっか。ありがとう……ブラック・マジシャン・ガール。このカード達、大切に使わせてもらうよ」

 

 レイは木を見上げるようにしながらレイを言うとたまたまブラック・マジシャン・ガールと目が合っていた。驚きながらもブラック・マジシャン・ガールは嬉しそうな笑みを見せた。

 

「教えてくれてありがとう、亮様。それに十代様も!」

 

「えっ!?」

 

 初めて様をつけて呼ばれたことで空いた口が塞がらない様子の十代と相変わらず敬称で呼ばれていることに慣れていない様子の亮。ブラック・マジシャン・ガールは夕日のせいか横顔がほんのり赤く染まっているレイを見ながら複雑な乙女心を察した。

 

(……恋は前途多難、だね)

 

 そこにユキや翔、明日香や万丈目が合流する。賑やかになっていく彼らを夕日を浴びながら見つめるブラック・マジシャン・ガールはこの先、もっと楽しいことが待っている予感がしていた。

 




名称ターン1制限は大事。


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遠い背中

 盛り上がった学園祭も終わり、ユキとレイにとっては初めてとなるアカデミアの授業が通常通り行われていた。長らく休講の扱いとなっていた錬金術の授業もクロノス教授が代理として不慣れながら講義を行うことで再開されていた。

 

(さすがに小学校の授業とはレベルが違う……。でもどちらかと言えばデュエル関連に重点を置いてるから、その分普通の授業はレベルが抑えめになっている? これなら真面目に受けていれば……何とかなりそう)

 

 授業が終わり放課後。蜂の巣をつついたような生徒達の騒がしい声が教室を満たす。明日香が二人に話しかけようと近づいていくと先にラーイエローの制服を着た生徒が話しかけていた。

 

「やあ。授業にはついていけそうかな?」

 

「あ、はい……。えっと、あなたは?」

 

「おっと失礼、自己紹介が遅れたね。俺はラーイエロー所属の三沢大地。よろしくな。授業で分からないことがあったら何でも聞いてくれ」

 

 そう言って爽やかな笑顔を見せた青年はアカデミアでも優秀な成績を収めている生徒、三沢大地。二人は彼がまだ幼いユキ達が授業についていけないことを心配して話しかけてくれたことに気がつくと、お礼と共に挨拶を済ませた。

 

「難しい編入試験を突破してきた君達にはいらぬ心配だったかな?」

 

「えと……授業は何とかついていけそうです。でも月一である試験が少し不安?」

 

「ああ……それなら試験前に筆記試験の傾向と対策くらいなら教えてあげよう」

 

「本当ですか!?」

 

「それくらいお安い御用さ。でも実技試験の方で当たったら手加減は出来ないからそのつもりで頼むよ」

 

 三沢は二人を激励するとその場を後にした。するとちょうど入れ替わりで明日香が二人に話しかける。

 

「あら? もう話は終わったのね」

 

「うん……でも最後に不思議なことを言っていた?」

 

「えっ、そうだった?」

 

「実技試験は確か同じ色の制服の人同士でやるって言ってた。だからイエローの三沢さんとユキ達が戦うことはないはず?」

 

「言われてみればそうだね……」

 

「そのことね。実はもう三沢君は実力的にはオベリスクブルーにいてもおかしくないのよ。本人の希望でイエローに留まっているけどここ最近の試験ではブルーの生徒と実技試験を行なって順調に勝ち星を重ねてるから、もしかしたらあなた達と戦うこともあるかもね」

 

「そうだったんだ」

 

「じゃああの人、結構強いんだ。あれ? 明日香さん一緒に帰らないんですか?」

 

「ええ……ちょっと校長室に呼ばれてるの。だから今日は先に帰っててね」

 

(三沢君や亮……彼らも校長室に呼ばれている。このメンバーとなるとやはりセブンスターズの件と見て間違いなさそうね。となれば……大徳寺先生の消息が掴めたのかしら?)

 

 三沢に続くようにして明日香も校長室に向かっていくのを見届けるとユキ達は校舎を後にして帰路についた。

 

「……そういえばレイちゃん。ブラック・マジシャン・ガールから貰ったカードはもうデッキに組み込んだの?」

 

「うん! ね、ユキ。デッキ調整にちょっと付き合って! 色々試してみたいんだ!」

 

「いいよ」

 

 ユキは慣れた様子でレイのデッキ調整に付き合う。長い付き合いの二人はよくデッキの調整に付き合っており、それ故にお互いのデッキのことを熟知していた。

 

「あそこにいるのは……ユキ達か」

 

 鮫島校長の話を聞き終え、屋上で周りを見渡していた亮は二人がデュエルしていることに気が付いた。

 

(大徳寺先生の分の七星門の鍵はまだ差し込まれていない。ならばまだ無事ではあるはず。だがここしばらく消息を絶っている以上、7人目のセブンスターズに捉えられている可能性が高い)

 

 二人から目を離すとブルーの寮に明日香が、レッド寮に万丈目や十代、翔に隼人が入っていくのを確認した。

 

(明日香は一旦吹雪の様子を見に戻ったな。十代達はレッド寮の大徳寺先生の部屋を捜索して手がかりを探すと言っていた。俺は異変にすぐ気づけるよう見晴らしの良いここから様子を伺うとしよう。……ん?)

 

 先程ブルー寮に入ったばかりの明日香が血相を変えて、時々立ち止まりながら何かに導かれるように森の中へと向かっていった。

 

(まさか吹雪の身に何かあったのか!?)

 

 親友とその妹に迫る危険を感じ取った亮は校舎を後にすると全速力で明日香が向かった森の入り口まで駆けつけた。すぐにでも森の中へ飛び込もうとする亮だったが、先程屋上から見た光景との違和感に気がついた。

 

(……ユキ達がいない? デュエルが終わってブルー寮に帰ったか。……いや、まさか!?)

 

 脳裏によぎった嫌な予感を振り切るように森の中へ走り出そうとした亮だったが……

 

「うわあああっ!?」

 

「万丈目……!?」

 

 耳を貫くような叫び声が森に響くと、亮の中で渦巻く予感がさらに膨れ上がっていく。その予感を証明するかのように万丈目の叫び声はユキ達の耳にも届いていた。

 

「万丈目さん……!?」

 

「明日香さんの叫び声が聞こえて森に入ったけど明日香さんは見当たらないし、万丈目さんの叫び声まで聞こえるなんて……一体何が起こっているの」

 

 万丈目の叫び声が聞こえた方に向かった二人は遠くに十代、翔、隼人の後ろ姿を見つける。何かを目印にするように森の奥深くへと入っていく三人を追おうとした二人だったが足の速さはあちらの方が格段に上で追いつくことは叶わず、すぐに草木に視界が遮られ声をかけても届くことはなかった。

 

「どうしようユキ。これで十代様達に何かあったら僕……」

 

「レイちゃん……。……ん、これなんだろう。模様? 空中に浮いてる……なんで?」

 

「あれっ。これって確か授業でやった錬金術のマークじゃない?」

 

「本当だ……なんでこんなところに」

 

 空中に浮かび黄緑色の光を放つ円形の模様が消えたかと思えばすぐ近くに同じ模様が点灯する。思わず目を合わせた二人だったが、その模様は十代達が向かっていった方向に断続的に浮かび上がった。

 

「きっと十代様はこれを目印に向かっていったんだ! これを追っていけば追いつけるはず!」

 

「で、でも怪しいよ……? まるで誰かを誘い出すためのものみたい」

 

「……! これは十代様をおびき出すためのもの? ……なら、なおさら心配だよ!」

 

「あ……! 待って、レイちゃん……」

 

 ユキが手を伸ばして止めるより先にレイは遠目まで離れた模様を追うように駆けていき、少し遅れてユキも走り出す。その模様が導いた目的地は古ぼけた廃校舎だった。

 

「不気味な場所……」

 

「そうだね……。暗くてよく見えないし……十代様はどこにいるのかな」

 

 森に囲まれて陽の光もほとんど入らない廊下を二人が歩くたびにギシギシと木がきしむ音が響く。校舎自体は大した大きさではなく全体を探し終えた二人だったが彼女達以外の人影を見つけることは出来なかった。

 

「……! まさか十代様達も誰かに……」

 

「いや、そうだとしたらその誰かも見つからないのはおかしい……もし十代さん達もここに来たのなら何か見落としがあるのかも」

 

 もう一度隈なく校舎を調べる二人。すると天候が悪くなり雲により空は覆われ、僅かばかり入っていた光も消え去ってしまった。幸い隣り合って歩いていた二人が離れ離れになることは無かったが、懐中電灯の類も持っていない二人はそこで立ち往生する形となってしまった。

 

「……! ユキ、あそこから光が……」

 

「え……本当だ」

 

 廊下の一部に空いた穴から道が続いており、そこからうっすらと光が漏れていた。ユキは光を頼りに近づき恐る恐るその穴をのぞいてみた。

 

「道が……それに奥には階段まで。しかもこの光、自然の光じゃない。人工的なもの……」

 

「え……! この廃校舎にもう電気なんて通ってるはずが……」

 

「どうする……?」

 

「きっと十代様達はこの先にいるんだ! 行くよユキ!」

 

「う、うん……」

 

 二人が階段を降りるとそこは地下トンネルに続いていた。おぼろげな光が不安定な二人の影をトンネルの壁に映し出しながら、乾いた二人の足音をトンネル中に交差するように響かせつつ奥へと進んでいく。

 

「……!」

 

「え……」

 

 だがどうやら彼女達は……招かざる客だったようだ。壁に寄りかかるように置かれていた三つの棺から、それぞれ一人。いや一体と呼ぶ方が相応しいだろうか。棺の蓋が急に横にずれるように開くと包帯を全身に巻いた三体のミイラが二人の前に立ちふさがった。

 

「きゃっ……!」

 

「ひゃああああ!?」

 

 行く手を阻まれてしまった二人は叫び声を上げながら慌てて後退した。

 

「一体何が起こっているの!?」

 

「分からない……! けどここは引いた方が……」

 

「でもこんなことが起こってるなら十代様達を置いてはいけないよ……!」

 

 非日常的な現状に混乱し、判断が下さず結論を出せないうちにもミイラ達はじりじりと詰め寄ってくる。レイはユキをかばうように手を伸ばし、ミイラの方を向きながら追いつかれないよう後ろに下がっていく。しかし船の上でボーイからユキをかばった時とは訳が違った。レイの腕は小刻みに震え、口も恐怖を抑えるようにぎゅっと噛み締められていた。

 

(……怖い。誰か……)

 

 レイと同じくユキも恐怖で頭が回らず、足が震えてしまい慣れない後ろ向きで歩いていた影響もあってついには転んでしまった。

 

「ユキ!?」

 

「た、助けて……」

 

 その間にも近づいてくるミイラ達にこれ以上ない恐怖を覚えたユキは思わずある人の名前を叫んでいた。

 

「助けて——亮さんっ!」

 

「…………! ユキ、レイ! しゃがむんだ!」

 

「……!」

 

「えっ……!」

 

 レイがしゃがむと低い体勢になった二人を飛び越えて、ミイラとの間に割り込んだ者がいた。

 

(ふぅ。二人の叫び声が聞こえた時は心臓が止まるかと思ったが……どうやら間に合ったようだな)

 

「無事だったか。二人とも……」

 

「りょ、亮様!?」

 

「亮さん……!」

 

 模様の後を追い、完全に光を失った校舎で苦労していた亮だったが、二人がミイラに驚いた時の叫び声で地下の存在に気がつき間一髪のところで割り込むことに成功したのだった。

 

(叫び声がした後に姿を忽然と消した明日香に万丈目。そして動くミイラ……間違いない。これは七人目のセブンスターズの仕業だろう。俺はもう七星門の鍵を所持していない。だが関係のない二人に手を出そうというのならば……話は別だ!)

 

「二人に手出しはさせない! もしここを通りたければ……俺とデュエルしろ!」

 

「…………」

 

 亮がディスクを構えると三体のミイラの額に錬金術の模様が浮かび上がる。すると腕に動物の骨らしきものによって作られたデュエルディスクがどこからともなく出現し、取り付けられた。

 

「……いいだろう。私たちとデュエルだ」

 

「……!」

 

 今まで話す様子も無かったミイラが途端に話し出し、三体ともディスクを構えた。

 

(セブンスターズからの使者というわけか。となればカミューラのデュエルの時のように魂をかけた闇のデュエルの可能性も十分に考えられる……)

 

「亮さん……これは一体」

 

「説明は後だ。このデュエルは危険なものになる。お前達はそのまま下がっているんだ」

 

「え……そんな、3対1のデュエルなんて無茶だよ! 僕も……!?」

 

「ゆ、ユキも……!?」

 

 状況を把握しきれていない二人だったが危険を察知し、何とか加勢しようとする。しかし彼女達は……立ち上がれなかった。

 

(……無理もない。何も知らなかった彼女達が受けた恐怖の大きさは計り知れないものだろう。そんな状態で危険なデュエルをしようとしても本能的に体がそれを拒否しているんだ……)

 

「大丈夫だ。二人とも……俺は負けない!」

 

(セブンスターズとの戦いに彼女達を巻き込むわけにはいかない。俺が彼女達を……守る!)

 

「デュエルだ!」

 

「「「……デュエル」」」

 

 バトルロイヤルルールでの3対1の変則デュエルが今、幕を開けた。

 

「先攻は俺だ! 俺のターン、ドロー。サイバー・ドラゴン・ドライを召喚する!」

 

 光の粒子が横に繋がるように集まると光のヴェールが溶けるように外れ、中にいた機械竜の姿があらわになった。

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800

 

「サイバー・ドラゴン・ドライが召喚に成功した時、自分フィールドのサイバー・ドラゴンのレベルを5とすることが出来る」

 

「だがお前のフィールドにはサイバー・ドラゴンは……」

 

「サイバー・ドラゴン・ドライにはフィールド及び墓地で存在する限り、サイバー・ドラゴンとして扱われる特殊能力がある。よってレベルを4から5へと変更する!」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ ☆4→5

 

「……」

 

(レベルを……? レベルを上げてもステータスに影響はない。一体どんな狙いが?)

 

(きっと亮様のことだから何か狙いがあるはず……)

 

「バトルロイヤルルールでは互いに1ターン目で攻撃することは出来ない。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

亮 LP4000

 

フィールド 『サイバー・ドラゴン・ドライ』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「私のターン。フィールド魔法、アンデットワールドを発動する」

 

 闇色に染まった霧がフィールドを包み込んでいく。

 

「このフィールド魔法が場にある限りフィールドの表側表示モンスター及び墓地に存在するモンスターは全てアンデット族となり、また互いにアンデット族モンスター以外の生贄召喚は出来なくなる」

 

 霧が機械龍を包むと身体から鋭く放たれる金属光沢が失われてしまった。

 

「何……!」

 

「そんな! 亮様のデッキは機械族デッキなのに……」

 

「さらにマジックカード、おろかな埋葬を発動。効果によりデッキから死霊王 ドーハスーラを墓地へ送り、永続魔法、不死式冥界砲を発動してターンを終了させる」

 

「え……? モンスターを場に出さない。あるいは出せなかった……?」

 

「……いや、アンデット族のテーマは『不死』だ。わざわざデッキから墓地に送ったあのモンスター……何かあるかもしれない」

 

ミイラ(右) LP4000

 

フィールド 無し

 

セット0 『アンデットワールド』 『不死式冥界砲』

 

手札3

 

「私のターン、ドロー」

 

「このスタンバイフェイズに墓地のドーハスーラの効果を発動する」

 

「……!」

 

「フィールド魔法が表側表示である場合、スタンバイフェイズに墓地に眠るこのカードを守備表示で復活させることが出来る」

 

「自己再生能力を持っているのか……!」

 

 地面に空いた穴から霊気を帯びた二つの骸骨が浮かび上がり空中で合体すると、途端に霊気が大蛇の身体となって骸骨に取り憑いた。

 

死霊王 ドーハスーラ 守備力2000

 

「ドーハスーラが場にいる限りドーハスーラ以外のアンデット族モンスターの効果が発動した時、その効果を無効にする効果、フィールド・墓地のモンスターを1体除外する効果を1ターンに1度ずつ適用することが出来る」

 

「アンデットワールドで亮様のモンスターはアンデット化しちゃう。これじゃあ亮様はモンスター効果を迂闊に使えない……」

 

「ドーハスーラが特殊召喚されたことで不死式冥界砲の効果を発動。自分フィールドにアンデット族モンスターが特殊召喚された時、1ターンに1度相手に800のダメージを与える」

 

「……!」

 

「バトルロイヤルルールでは相手プレイヤーを選択する必要がある。当然、私が選択するのはお前だ」

 

 骸骨の口から魂が解放されるとエクトプラズムとして亮に放たれて、心臓を貫くように通過していった。

 

「ぐっ!?」

 

亮 LP4000→3200

 

 ダメージを受けた亮は思わず胸を手で押さえ、片膝をついてうずくまった。

 

「りょ、亮さん……?」

 

「……大丈夫だ。心配するな」

 

 亮は胸に走った痛みをこらえながら立ち上がった。

 

(まさか。本当にダメージが……?)

 

(セブンスターズの全員が闇のデュエルを仕掛けて来たわけではない。だが姿の見えない万丈目と明日香のことを考えるとやはりと言うべきか、7人目のセブンスターズは少なくとも穏便に済ませてはくれないようだな)

 

「まだこちらのターンだ。永続魔法、不死式冥界砲を発動する」

 

「……!」

 

「さらに永続魔法、ミイラの呼び声を発動しその効果を使用する。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札のアンデット族モンスターを特殊召喚することが出来る。死霊王 ドーハスーラを特殊召喚!」

 

 怨念が込められた骸骨がその恨みを大蛇の身体へと変えて現世に現れた。

 

死霊王 ドーハスーラ 攻撃力2800

 

「不死式冥界砲の効果を食らえ」

 

「くうっ……!」

 

亮 LP3200→2400

 

 亮の胸に再び激痛が走り地面に膝をつきそうになるが、すんでのところで踏ん張り、しっかりと相手を見据えて立ち上がった。

 

「さらにマジックカード、無情の抹殺。私の場のドースハーラを墓地に送り、お前の手札をランダムに1枚墓地に送る」

 

 骸骨が墓地に沈んでいくと大蛇の身体が霊魂となって亮の手札を1枚喰らった。

 

「サイバー・ドラゴンが墓地に送られたか……」

 

「亮様のキーカードが!」

 

「ターンエンドだ」

 

ミイラ(中央) LP4000

 

フィールド 無し

 

セット0 『不死式冥界砲』 『ミイラの呼び声』

 

手札2

 

「ならば私のターン、ドロー」

 

「この瞬間、墓地に眠るドーハスーラは復活し不死式冥界砲によりさらに800のダメージをお前に与える」

 

「ぐうっ……!?」

 

死霊王 ドーハスーラ 守備力2000

 

亮 LP2400→1600

 

 気丈に振る舞っていた亮だったが胸に走った三度(みたび)の衝撃により苦悶の表情を浮かべた。

 

「やっぱりおかしい……。普通のデュエルじゃこんなのあり得ない」

 

「亮様、大丈夫!?」

 

「ああ……」

 

 そう答える亮だったが既に二人の方に振り返る余裕も無かった。

 

「マジックカード、トレードイン。手札のレベル8モンスター、ドーハスーラを墓地に捨て2枚のカードをドロー。……不死式冥界砲を発動する」

 

「そんな……3対1でただでさえ不利なのに、3人ともあのカードを引き当てるなんて」

 

「……」

 

「続けていくぞ。マジックカード、生者の書—禁断の呪術—。墓地に眠るアンデット族モンスター、ドーハスーラを復活させ、お前の墓地に眠るサイバー・ドラゴンを除外する」

 

 分厚い書が開かれると緑色の怪しい光によって照らされた地面を貫くようにしてドーハスーラが蘇った。

 

死霊王 ドーハスーラ 攻撃力2800

 

「そして不死式冥界砲が放たれる」

 

「がっ……」

 

亮 LP1600→800

 

 亮は身体のバランスを崩すと左手で胸を押さえながら、地面に右手をついた。

 

「マジックカード、アドバンスドロー。自分フィールドにいるレベル8以上のモンスター……ドーハスーラをリリースし、2枚のカードをドローする」

 

「……ドーハスーラが墓地に」

 

「あ……また次のスタンバイフェイズにドーハスーラが復活したら亮様のライフは!」

 

「せめてあのフィールド魔法さえ破壊出来れば……」

 

「そうはさせない。永続魔法、フィールドバリアを発動。このカードがある限り互いにフィールド魔法を破壊出来ず、またフィールド魔法を発動することも出来ない」

 

「これでアンデットワールドは破壊出来ない。フィールド魔法が表側表示である限り復活するドーハスーラはまさに『不死』の能力を得たというわけか……」

 

「そういうことだ。私はカードを1枚場に伏せターンを終える」

 

ミイラ(左) LP4000

 

フィールド 無し

 

セット1 『不死式冥界砲』 『フィールドバリア』

 

手札3

 

「俺の……ターンッ!」

 

「だがお前に出番を渡すわけではない。このスタンバイフェイズにドーハスーラは蘇り……不死式冥界砲により800のダメージを与える」

 

「……!」

 

死霊王 ドーハスーラ 守備力2000

 

 ドーハスーラが蘇ると周りに浮かぶ怨霊が亮に向かっていき、その胸を貫いた。

 

「亮様!?」

 

「亮さん……!?」

 

 胸を貫いた衝撃で亮はその身を地面に預けてしまう。……しかし彼は痛みを堪え、身体を引きずるようにして立ち上がった。

 

亮 LP1000

 

「なんだと……」

 

「俺は不死式冥界砲に対して2枚の伏せカードを発動させていた。帝王の轟毅(ごうき)、そして非常食。非常食によりこのカード以外の自分フィールドの魔法・罠カード……帝王の轟毅を墓地に送りダメージを受ける前にライフを1000回復させていた」

 

「あ、危ない……」

 

「良かった……」

 

「……だが不死のコンボが成立した以上、ライフが尽きるのが少し伸びただけだ。それにお前はモンスター効果も封じられている」

 

「果たしてそうかな? フィールドをよく見てみるんだな」

 

 サイバー・ドラゴン・ドライが粒子となって分散されていくと立ち込めていた霧を打ち消していった。

 

「なに……」

 

「帝王の轟毅の効果は自分フィールドのレベル5以上の通常召喚されたモンスターをリリースし、フィールドの表側表示のカードを1枚ターン終了時まで無効にした後、俺はカードを1枚ドローするというものだ。俺はこのカードによりアンデットワールドを無効にし、カードをドローしていた」

 

「レベル5以上の通常召喚されたモンスター……だと?」

 

「あっ! サイバー・ドラゴン・ドライ……!」

 

「サイバー・ドラゴン・ドライは自身の効果でレベルを4から5へと変更していた。それはこのカードの発動条件を満たすためだったんだ……」

 

「なん……だと……」

 

「俺はこのデュエルが始まってからお前達のことを観察していたが、誰一人としてサイバー・ドラゴン・ドライに対して警戒をしていなかった。自分のコンボを成立させることには長けているようだが、相手の手を読むのは苦手なようだな。アンデッドワールドの効果が消えたことで俺のモンスターはアンデッド化を回避し、モンスター効果の使用に問題はなくなった!」

 

「くっ……だがモンスター効果が使えたところでフィールドバリアによりアンデットワールドは破壊出来ない。不死のコンボが消えたわけではない……」

 

「その通りだ。確かにそのモンスターを墓地に送っても次のターンが来れば復活させられてしまうだろう」

 

「ふ……負けを認めたか」

 

「俺がお前達の戦術にどういう判断を下したかは……その目で観察するといい。サイバー・ドラゴン・コアを召喚する!」

 

 機械竜の中核となるパーツが出現すると亮のデッキに赤いプラグが伸びていく。

 

「サイバー・ドラゴン・コアの効果でデッキよりサイバー魔法カード、エマージェンシー・サイバーを手札に加える。ドーハスーラは当然その効果を適用することは出来ない」

 

「くっ……」

 

「そしてエマージェンシー・サイバーを発動。デッキよりサイバー・ドラゴンモンスターであるサイバー・ドラゴンを手札に加える。さらにマジックカード、サイバー・リペア・プラントを発動。墓地にサイバー・ドラゴンとして扱われるサイバー・ドラゴン・ドライが存在することでデッキから機械族・光属性のモンスター……サイバー・ドラゴンを手札に!」

 

 サイバー・ドラゴン・コアのプラグがデッキに接続されると眠っていた2体の機械竜が取り出され、亮の手中に収まった。

 

「やった! サイバー・ドラゴンが手札に戻ったよ!」

 

「相手の手をかわした上で、モンスターとマジックの連携でキーカードを手札に……」

 

(あんなにダメージを負った状態で尚も隙のないタクティクス……。ユキとデュエルした時もそうだった。あの人はどんな時でも冷静、それでいて全力をぶつけてくる……)

 

「ゆくぞ! マジックカード、パワー・バンドを発動! 機械族融合モンスターに必要な素材を自分の手札・フィールドから墓地に送り融合召喚を行う! サイバー・ドラゴン・コアはフィールド及び墓地でサイバー・ドラゴンとして扱う。よってこのモンスターと手札のサイバー・ドラゴン2体を融合!」

 

 2体のサイバー・ドラゴンが現れると既に場に出ていたサイバー・ドラゴン・コアが模倣するかのように変形して姿をサイバー・ドラゴンへと変える。3体の機械竜が火花を散らしながら結合し、より強力な3つ首の機械竜となってその姿を見せた。

 

「融合召喚! 現れよ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000

 

「攻撃力4000だと……」

 

「まだだ! パワー・ボンドにより呼び出されたモンスターの攻撃力は元々の攻撃力分上昇する!」

 

 ただでさえ十分な大きさのある機械竜の胴体がトンネルの中で所狭しと伸びていった。

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000→8000

 

「な……」

 

「ただし俺はエンドフェイズに上昇した数値分のダメージを受ける」

 

「……仕掛けどころを誤ったか。私達の場のモンスターは守備表示故にダメージはない。このターンで終わりだな」

 

「……ああ、そうだな。このターンで終わりだ。機械族融合モンスター専用装備魔法、エターナル・エヴォリューション・バーストをサイバー・エンド・ドラゴンに装備し……バトル! お前の場のドーハスーラへと攻撃!」

 

 亮は場を一瞥すると左側にいるミイラの方に向き直り、攻撃を仕掛けた。

 

「そうはさせない。カウンタートラップ、攻撃の無力化。相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了……」

 

「無駄だ。エターナル・エヴォリューション・バーストがある限り、俺のバトルフェイズ中に相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動出来ない」

 

「何だと……!」

 

 縦横無尽に伸びるそれぞれの首から光線が放たれると、ドーハスーラを三つの異なる角度から貫いた。

 

「さらにサイバー・エンド・ドラゴンは守備モンスターを攻撃した場合、守備力を攻撃力が超えていればその超過分の戦闘ダメージを相手に与える」

 

「超過ダメージは……6000、だと……」

 

ミイラ(左) LP4000→0

 

「不死のコンボ、確かに恐ろしいコンボだ。だがそれを操るプレイヤーにはライフという限界がある」

 

「……そんな手があったとは。だが私達のライフは残っている。攻撃を終えたお前にはパワー・ボンドのデメリットが待っている……」

 

「それはどうかな? エターナル・エヴォリューション・バーストのさらなる効果! 装備モンスターが相手モンスターに攻撃したダメージステップ終了時に俺の墓地に眠るサイバー・ドラゴンモンスターを除外することで続けて相手モンスターに攻撃出来る。この効果を使用しサイバー・ドラゴンを除外することでドーハスーラに連続攻撃!」

 

「何だと……」

 

「まさか……」

 

 トンネルの暗闇に潜むようにしていたドーハスーラがサイバー・エンド・ドラゴンが放つ光に照らされると、強力な光線によって撃ち抜かれ怨念と共に地に沈んだ。

 

ミイラ(右) LP4000→0

 

「再び装備魔法の効果を使用し、サイバー・ドラゴンを除外することでドーハスーラに攻撃する! エターナル・エヴォリューション・バースト……サンレンダァ!」

 

 ドーハスーラが光線の光に包まれると怨念が浄化されていき、骸骨に宿っていた魂が成仏していった。

 

ミイラ(中央) LP4000→0

 

「わ、ワンターンスリーキル……!?」

 

「……凄い」

 

 こうしてデュエルの幕は閉じ、サイバー・ドラゴン・ドライの粒子が消え去ってもトンネルを覆うようにして出ていたアンデッドワールドによる闇の霧も出現しなくなった。

 

「アムナエル……様。あなたの見込んだ通り、彼も遊城十代に勝るとも劣らない錬金術の使い手でした……」

 

「アムナエル……それが7人目のセブンスターズか。……!」

 

 ミイラの額から錬金術の模様が消えると、ディスクと共に三体のミイラの身体が煙となって消滅してしまった。

 

(消えた……か。とりあえずの危機は去ったようだな)

 

 亮が少し気を緩めると先ほどのデュエルで蓄積されたダメージが重くのしかかった。

 

「亮様! 大丈夫!?」

 

「ああ。なんとか……な」

 

 体勢を崩しかけた亮だったが致命的なダメージまでは負わなかったようで、レイの支えがなくても立つことは出来るようだった。

 

「亮さん、ユキ達のためにそこまで……。………!?」

 

「ユキ? どうかしたのか」

 

「……う、ううん。ユキは大丈夫。……でも守ってくれてありがとうございました」

 

「亮様、ありがとう!」

 

「お前達が無事ならそれでいいさ。ところで二人はどうしてここに?」

 

「十代様達があの錬金術の模様でここに誘い込まれたみたいなんだ! だからこの奥で何かされてるんじゃないかって心配で……」

 

(万丈目と明日香が敗れたなら残りの七星門の鍵を持っているのは行方不明の大徳寺先生と十代だけ。7人目のセブンスターズに呼び出される理由は十分にあるな。十代を放っておくわけにもいかないが、二人だけでこの道を帰らせるのも危険か。……仕方ない、このまま連れて行くしかないか)

 

「行くぞ、二人とも。それにこうなってしまった以上、今起きていることも説明しておこう……」

 

「はい! ユキ、行こう?」

 

「うん……」

 

 奥へと歩を進め出した亮の後ろを少し遅れて二人がついていく。

 

(こんなにも大きく見える背中が)

 

 道すがらに先ほどのデュエルやセブンスターズについて亮から説明を受けながら、ユキはどこか心にモヤがかかっているような感覚に陥っていた。

 

(どうしてさっき……あんなに遠くにあるように感じたんだろう)

 

 そのトンネルはやがて突き当たりにある場所へと繋がっているのだが、今のユキはそのトンネルがどこまでも果てしなく続いているような気がしていた。




今回出てきたミイラはイメージ的には『さまようミイラ』を想像して頂けるとピンと来やすいかも。

追記:12月30日時点でデュエル構成のミスに気付きました。後日デュエルの内容を差し替えさせていただきます。申し訳ございません……。

追記:12月31日時点で修正完了しました。前述のミスはアンデットワールド下で機械族融合モンスターにしか装備できないエターナル・エヴォリューション・バーストを発動していたことです。そのため1ターン目に伏せられていた手のひら返しが帝王の轟毅に変更され、攻略法がドーハスーラをセット状態にすることからアンデットワールドの無効化に変わっています。


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踏み出す一歩

 亮達がトンネルの奥へとたどり着くと十代と最後のセブンスターズらしき人物とのデュエルが決着を迎えていた。三人の中で亮だけはアムナエルと呼ばれた人物に見覚えがあった。

 

(……あれは、大徳寺先生!?)

 

 アムナエルの正体はレッド寮の寮長であり、アカデミアでは錬金術の講義を行っていた大徳寺先生だった。ミラクル・フュージョンにより呼び出されたエリクシーラーの一撃を見届けた彼は捉えていた吹雪、万丈目、明日香の魂を解放し十代にエメラルド・タブレットを手渡すと、魂を宿していたホムンクルスの肉体が崩れ去った。

 

「十代……今のは。大徳寺先生は俺達の敵だったのか?」

 

 今までアムナエルとのデュエルに全身全霊を注いでいた十代はようやく亮達が来ていたことに気がついた。

 

「カイザー!? ……それは違うぜ。アムナエル……いや、大徳寺先生はいずれこの島に降りかかる災いに対抗する力を育てるために俺と戦い、錬金術の真実へと導いてくれたんだ」

 

「……そうだったのか。セブンスターズとの戦いが終わっても、まだやらねばならぬことが残っているんだな」

 

 十代と亮はアムナエルが残したエメラルド・タブレットに目を向けると、この先に待っている戦いに思いを馳せる。その二人を遠くから眺めるようにユキとレイはこの部屋の入り口近くで佇んでいた。

 

「ねえユキ。……僕は悔しいよ。亮様や十代様が島を守るために戦っていたのに、僕は何の力にもなれなかったんだ」

 

「……ユキも悔しい。さっきのデュエルも亮さんに全てを背負わせてしまった。力だけじゃない、戦うための……勇気も持つことが出来なかった」

 

「ユキ。僕達もっと……強くなろう」

 

(僕は強くなって好きな人を……ずっと支えられるようになりたい)

 

「……うん」

 

 二人の少女が静かに、されど力強く決意した。

 

 時は流れ、数日後。アムナエルが言い残した災いという言葉に不安を残しながらも、セブンスターズとの七星門の鍵を巡る戦いに勝利したことでアカデミアに平和がもたらされていた。

 

「このカードはどうかな?」

 

「なるほど……入れてみる」

 

 ユキはブラック・マジシャン・ガールに貰ったカードを投入したレイのデッキ調整に付き合いながら、レイのアドバイスを受けて新しい戦術を模索していた。

 

「ありがとう、ユキ。おかげで僕のデッキもいい感じになってきたよ」

 

「良かった」

 

(レイちゃんのデッキさらにパワーアップしてる。迷いが全然感じられない。ユキは……)

 

「でも、ごめんね。僕あんまりユキのデッキにアドバイスしてあげられなかった……」

 

「ううん……それは仕方ない? だってユキ達は長い間一緒にデッキを調整してるから、もう出来るアドバイスはお互いにほとんどしてる」

 

「確かにそうかも……」

 

「強くなるためには……これからは二人でデュエルしているだけじゃダメかもしれない」

 

「……そうだね。亮様も入学を認めてくれた時に言ってたもの。ここにいる色んなデュエリストと切磋琢磨して進化した僕達のデュエルを見せてくれって」

 

 二人は亮の言葉を噛みしめるように思い出すと、対戦相手を探しに歩き出した。

 

「あれ? あそこにいるのは……」

 

 開けた場所に出ると崖の上から、浜辺に二人の男性が座り込み真剣に話をする様子が伺えた。

 

「万丈目さん。それにあの人は確か……学園祭の時、明日香さんのコスプレを撮っているのを見かけたような」

 

「そうだったんだ。デュエルに夢中で気づかなかったよ」

 

 ユキ達も浜辺に降りるとちょうどウエットスーツを纏った男性が万丈目のデッキを見ていた。

 

「いいデッキだ。だが押してばかりじゃ上手くいかない。恋は押し引きが大事だからね」

 

「は、はい……」

 

「えっ、恋!?」

 

「……! 誰だ!? ……ってなんだお前らか」

 

 万丈目は焦った様子で立ち上がり後ろを振り返ったが、話を聞いていたのがユキ達であることが分かると肩の力を抜いた。

 

「お前らみたいなガキに恋など100年早い。さっさと寮にでも帰るんだな」

 

「むっ……! なによ偉そうに!」

 

「まあまあ。そう女の子を邪険に扱うものじゃないよ」

 

 ウェットスーツ姿の男性が二人に近づくと人差し指をゆっくりと上に向けた。それにつられて二人も指の先を見上げる形となる。

 

「君たちの瞳に何が見える?」

 

「空?」

 

「……雲?」

 

「……」

 

「「天?」」

 

「ん〜〜〜JOIN(ジョイン)!」

 

 天の言葉を合図に身体をくねらせると勢いよく二人に向けてサムズアップをした。

 

「……えっ」

 

「……えっと」

 

「やっぱりね」

 

「何か分かったんですか、師匠!?」

 

 万丈目が師匠と呼んだ男性は戸惑う二人の様子を見て確信したような表情を見せていた。

 

「ズバリ! 君たちは誰かに恋をしている!」

 

「「……!」」

 

 図星を突かれた二人は驚きのあまり言葉が出てこなかった。

 

(そうか! 昼間ジュンコとももえが同じことをされて、感激のあまり気を失ってしまった。俺があの人を師匠と慕うことになったきっかけだが……あれは恋をする女性には通用しないということなのか!?)

 

「万丈目君。恋に年齢は関係ないのさ。デュエルに年齢が関係ないようにね」

 

「なるほど……悪かったなお前ら」

 

「……そんなに気にしてないからいいよ。それより——」

 

 どうして恋をしていることが分かったのか、理由を聞こうとしたレイだったが先にユキが話しかけた。

 

「あのっ……師匠!」

 

「ユキ!?」

 

「恋のために……強くなりたいんです。ご指導をお願い出来ませんか?」

 

「……へえ。強く、ね。なら一つ聞かせて貰おうかな。君はなんで強くなりたいんだい?」

 

「えっ。それは……恋している人のために」

 

「質問が悪かったね。君は強くなることでどうなりたいか……その目的は君の中で明確になっているかな?」

 

「えっと……」

 

(この前の騒動で力になれなかったから力になりたいと思った……いや、それはきっかけ。その時心が確かに強くなりたいと感じた。でも……ユキはどうなりたいんだろう)

 

「迷いがあるね。目的に迷いがあると前に進めないものさ。……だから」

 

 彼はバッグからディスクを取り出すとユキと向かい合うように構えた。

 

「ここはデュエルで君の悩みを解決するしかないね」

 

「デュエルで……?」

 

「ああ。デュエルは人となりやその人のあり方を示してくれる。それは相手だけじゃなくて自分自身のことも。迷いがあるならデュエルの中で答えを見つけるのが一番さ」

 

「……!」

 

(この人……性格は全然違うけど、なんだか亮さんと似ている……)

 

「……お願いします」

 

 ユキもディスクを展開していくとデュエルの準備が整った。

 

(確かにちょっと元気無かったけど……悩んでたなんて。気づいてあげたかったな)

 

「ユキー! 頑張れ!」

 

 レイが精一杯の声援を送るとユキは静かに頷いた。

 

「そういえばあいつのデュエル見たことがないな……」

 

 デュエルの邪魔にならないよう離れたレイの側に万丈目も呟きながら移動してきた。

 

「なあ、ユキは少しは戦えるんだろうな」

 

 万丈目はユキの第一印象から抜けた性格というイメージを持っており、不安が拭えなかった。

 

「どういう意味? 勿論戦えるに決まってるよ」

 

「いや……あいつ自身戦えるのかというのもあるが、師匠はデュエルアカデミアでも有数のデュエリストだ。下手したら速攻で決着がついてもおかしくない」

 

「えっ……あの人そんなに凄い人だったんだ。そうは見えないけど……」

 

 レイが再び前方に視線を戻すとちょうどデュエルが開始された。

 

「「デュエル!」」

 

(レアメタル・レディと融合が手札に。もしレアメタル・ソルジャーが引ければ、融合召喚が可能になる)

 

「ユキの先攻、ドロー。……!」

 

(このマジックはレイちゃんのアドバイスで新しく入れたカード……)

 

 ユキは一瞬視線をレイに移しながらそのカードを手札に収めると、別のカードを取り出した。

 

無頼(ぶらい)特急バトレインを召喚」

 

 レールが敷かれると赤色の特急列車が猛スピードで駆けつけた。

 

無頼特急バトレイン 攻撃力1800

 

「バトレインの効果発動。トレイン・レイン!」

 

 レールが虹を描くように変形すると特急列車に燃料が投下され、走り出した。

 

「バトルフェイズを放棄することで相手に500のダメージを与える」

 

「おっと……!」

 

 下りに入りさらに加速していく特急列車が青年のいる場所を通過していった。

 

謎の青年 LP4000→3500

 

「ターンエンド」

 

「元々バトルが出来ない先攻、それを逆手に取ってダメージを与えたか。少しはやるじゃないか」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『無頼特急バトレイン』(攻撃表示)

 

セット 無し

 

手札5

 

「僕のターン、ドロー! ……一気に行かせてもらうよ!」

 

「……!」

 

「マジックカード、竜の霊廟(れいびょう)を発動! デッキからドラゴン族のモンスター1体を墓地に送る」

 

(ドラゴン族専用のサポートカード……)

 

「僕は真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を墓地に送る。竜の霊廟のさらなる効果! このカードで墓地に送ったのが通常モンスターなら、さらにもう1体ドラゴン族をデッキから墓地に送ることが出来る」

 

「真紅眼の黒竜は通常モンスターだ……」

 

「よって僕はアークブレイブドラゴンも墓地に送らせてもらうよ。そして思い出のブランコを発動! このマジックカードにより墓地の通常モンスターを蘇らせることが出来る! ただしこのターンが終わると破壊されちゃうけどね。現れろ、レッドアイズ!」

 

 地面を突き破るようにして宙を舞ったのは胴体だけではなく翼までも黒く染まったドラゴン。黒い身体の中、鋭い(まなこ)は紅く煌々と輝いていた。

 

真紅眼の黒竜 攻撃力2400

 

「マジックカード、黒炎弾をレッドアイズを対象に発動するよ! このターン、真紅眼の黒竜の攻撃が出来なくなる代わりに対象とした真紅眼の黒竜の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「真紅眼の黒竜の元々の攻撃力は2400……!?」

 

 真紅眼の黒竜の口の付近にエネルギーが集約されていくと黒い炎となって放たれ、ユキの足元に着弾するとそこを覆うようにエネルギーが広がっていった。

 

「きゃ……!」

 

ユキ LP4000→1600

 

「いきなりライフを半分以上持っていくなんて……」

 

「……でも先攻と違って、後攻は攻撃が可能。それを放棄するのは軽いデメリットではないはず」

 

「それはどうかな? 確かに僕は真紅眼の黒竜の攻撃は放棄したけど、バトルフェイズを放棄したわけじゃないよ。融合呪印生物—闇を通常召喚!」

 

 闇の空間に繋がるワームホールのようなものが生まれると大量の小石が吸収されていく。ワームホールが一度閉じられると、すぐに開かれ禍々しい闇を帯びた紫色の岩となってフィールドに現れた。

 

融合呪印生物—闇 攻撃力1000

 

「岩石族のモンスター。ドラゴン族のデッキに……?」

 

「君の言う通り僕のデッキはレッドアイズを中心にしたドラゴン族のデッキ。でもそのドラゴンの力を進化させるためにこのカードは必要だと思ったのさ」

 

「別の種族のカードかあ……。確かに僕もユキも昔から魔法使い、機械族オンリーのデッキを使ってるからあまり入れようとしたことがなかったかも」

 

「ふん。種族を素直に統一することだけがデッキ構築ではないということだ。別の種族同士でも思わぬ連携が取れることもある」

 

「そういう万丈目さんはどんなデッキなの?」

 

「気になるか? なら特別に見せてやろう」

 

 レイは万丈目にデッキを手渡されると興味津々といった様子でその内容を確認した。

 

(何これ!? 種族がバラバラどころか、色んなカテゴリーのカードが入ってる……)

 

「俺も昔は地獄(ヘル)モンスターで統一したデッキを作ったことがあったがな。型にはまってばかりでは強くはなれん……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 レイが万丈目のデッキ内容に戦慄を覚えている間にもデュエルは進んでいく。

 

「僕は融合呪印生物—闇の効果を自身とレッドアイズをリリースすることで発動!」

 

「レッドアイズをリリースした?」

 

「融合呪印生物—闇はこのカードを含めた融合素材一組を自分フィールドからリリースすることで『融合』を使わずにその融合先となる闇属性融合モンスターを融合デッキから特殊召喚することが出来るのさ!」

 

「モンスターのリリースで融合……!?」

 

「さらに融合呪印生物—闇は融合素材モンスター一体の代わりとすることが出来る。僕はこのカードをデーモンの召喚として扱う!」

 

 岩が変形していくと色彩こそ変わらないがその姿形はデーモンとなり、闇によってレッドアイズと共に包み込まれていく。

 

生贄融合(リリースフュージョン)! 飛翔せよ、ブラック・デーモンズ・ドラゴン!」

 

 竜の咆哮が響くと闇を鋭くなったかぎ爪で切り裂くようにし、翼が鎌のようになった黒竜が一回り大きくなって出現する。その翼が一度羽ばたくたびに風が地面に叩きつけられるように吹き荒れた。

 

ブラック・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3200

 

「凄い……」

 

「バトルだ! ブラック・デーモンズ・ドラゴンで無頼特急バトレインを攻撃! メテオ・フレア!」

 

 黒炎が連続して天に放たれると隕石となって特急列車に降り注いだ。

 

「うっ……」

 

ユキ LP1600→200

 

「カードを2枚伏せてターンを終了するよ」

 

「ユキのライフがもう残り200に!?」

 

「やはり厳しかったか……」

 

「まだ勝負はついてない? バトレインの効果を発動。このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズにデッキから機械族・地属性・レベル10のモンスターを1体手札に加えることが出来る。弾丸特急バレット・ライナーを手札に」

 

謎の青年 LP3500

 

フィールド 『ブラック・デーモンズ・ドラゴン」(攻撃表示)

 

セット2

 

手札0

 

「ユキのターン……ドロー!」

 

「ここで墓地のアークブレイブドラゴンの効果を発動させてもらうよ!」

 

「え……!?」

 

「このカードが墓地に送られた次のターンのスタンバイフェイズにアークブレイブドラゴン以外の墓地に眠るレベル7または8のドラゴン族モンスターを1体特殊召喚することが出来る。僕はレベル7のレッドアイズを復活させる!」

 

 光の粒子を纏った竜が白銀の翼を羽ばたかせると上昇気流が発生する。その流れに乗って紅き眼の竜がフィールドに舞い戻った。

 

真紅眼の黒竜 攻撃力2400

 

(……まさか2ターン目をライフもフィールドもこれだけ差がある状況で迎えるなんて。さすがに予想外だけど……)

 

「勇気機関車ブレイブポッポを召喚。さらに弾丸特急バレット・ライナーは自分フィールドのモンスターが機械族・地属性モンスターのみの場合、手札から特殊召喚することが出来る!」

 

 緑色の機関車が煙突から煙を出しながらレールを渡り終えると、レールが切り替わり逆側の路線から弾丸列車が目にも留まらぬ速さで駆け抜けてきた。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400

弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000

 

「おおっと! 随分と攻撃力の高いモンスターが並んだね」

 

「その代わりブレイブポッポには攻撃時に攻撃力が元々の半分に、バレット・ライナーには攻撃時にこのカード以外の自分フィールドのカードを2枚墓地に送らなくてはいけないデメリットがある……」

 

「バレット・ライナーの攻撃で何とかレッドアイズは倒せるか。だがレッドアイズを倒してもブラック・デーモンズ・ドラゴンに対して手を打てなければ次のターンの攻撃でライフは尽きるぞ……」

 

 ユキは手札を一瞥するとその中にある一枚の魔法カードを取り出した。

 

(まだユキはレイちゃんみたいに完全に相手モンスターさんのコントロールを得る戦術を使うことは出来ない。……でも)

 

「マジックカード、精神操作をブラック・デーモンズ・ドラゴンを対象に発動する……!」

 

 ユキが発動した魔法カードからマジックアームが伸びていくとそれぞれの指から糸がブラック・デーモンズ・ドラゴンに垂れていく。

 

「よし! 精神操作は対象としたモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得ることが出来るんだ! 奪ったモンスターは攻撃宣言もリリースすることも出来ないけどね」

 

「モンスターのコントロールを奪うカードか……!」

 

 マジックアームが戻ってくると操り人形のようにブラック・デーモンズ・ドラゴンがユキのフィールドへと移った。

 

(しかし精神操作によってコントロールを得たモンスターは攻撃力の高いモンスターに攻撃してあえて破壊したり、生贄召喚などのリリースにも使えない。このターン僕のフィールドを手薄にするのが狙い……いや、待てよ……!?)

 

「カードを1枚伏せて……バトル。……!?」

 

 ユキがバトルフェイズに入りバレット・ライナーに攻撃を命じようとした瞬間、先にレッドアイズがユキのフィールドを包み込むようなブレスを放っていた。

 

「これは……!?」

 

「トラップカード、バーストブレスを発動させてもらったよ。自分フィールドのドラゴン族モンスターを1体……レッドアイズをリリースすることで、その攻撃力以下の守備力を持つフィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「えっ……! レッドアイズの攻撃力2400に対してブレイブポッポの守備力は2100、バレット・ライナーは0……!」

 

「だけどブラック・デーモンズ・ドラゴンの守備力は2500! よって破壊されるモンスターは……」

 

 ブレスが止みレッドアイズが地に沈んでいくと、場に残っていたのはその巨大な翼でブレスを弾いていたブラック・デーモンズ・ドラゴンのみだった。

 

「弾丸特急バレット・ライナー……その高い攻撃力と引き換えに攻撃宣言時に2枚のカードをフィールドから墓地に送る必要がある。確かに大きなデメリットだが、君の狙いはそのデメリットを利用して精神操作で奪ったモンスターを攻撃のコストにすることだった」

 

「う……その通りです」

 

 レイのアドバイスを受けて完成した新しい戦術。それを見抜かれ、すぐさま対応されてしまったことにユキは動揺を隠せなかった。

 

「そんな!? ユキの新戦術だったのに……」

 

「相手モンスターを手駒としコストとして墓地に送るか……。恐ろしい戦術だが、その手が封じられた以上ブラック・デーモンズ・ドラゴンを処理する(すべ)はないだろう。そして精神操作の効果が切れてコントロールが戻ればこの状況では負けに等しい」

 

(まさかこの戦術も通用しないなんて。攻撃を防ぐようなトラップカードもない。もう……)

 

「ユキ。君が迷いながらも強くなろうと努力してきたのはデュエルを通して僕にも伝わってるよ。君が今まで強くなるために学んできたこと、その積み上げは君の進むべき目的を指し示す道しるべになってくれるはずだ」

 

「……! ユキが積み上げてきたことが道しるべに……?」

 

 彼の言葉を耳にした瞬間、彼女がここに至るまでの経験のピースが脳裏にフラッシュバックされていった。

 

「装備魔法、竜魂の力をサイバー・ブレイダーに装備! このカードは戦士族にのみ装備可能よ。装備されたモンスターの種族をドラゴン族へと変更し、攻撃力及び守備力を500上昇させる!」

 

「あっ……! 戦士族じゃなくなることでサイファー・スカウターの効果が発動出来なくなる……」

 

(今まで明日香さんが使ったモンスターは全員戦士族だった。サイファー・スカウターを超えるのは難しいと思ってたのに……でも)

 

「デュエルってやってみないと何が起こるか分からないものだね。光の召集は光属性の恋する乙女を手札に戻すために入れていたのに、相手のカードとコンボすることになるなんて思わなかったよ」

 

「……そうだね。でもそれは私にも言えることかな?」

 

「君の言う通り僕のデッキはレッドアイズを中心にしたドラゴン族のデッキ。でもそのドラゴンの力を進化させるためにこのカードは必要だと思ったのさ」

 

「ふん。種族を素直に統一することだけがデッキ構築ではないということだ。別の種族同士でも思わぬ連携が取れることもある」

 

 彼女の中で全てのピースがはまると、今までバラバラに見えていた3枚のカードが1枚のカードへと繋がっていくのを確信した。

 

(そうだ……まだ道は途切れていない。ユキのデッキにはまだユキ自身も気づいてない可能性が眠っている……!)

 

「手札からマジックカード、融合を発動する!」

 

「……! ここで融合? 一体何を……」

 

「このカードにより条件を満たす融合素材モンスターを墓地に送ることで融合召喚を行う。ユキは手札にある機械族モンスターのレアメタル・レディと……ドラゴン族のブラック・デーモンズ・ドラゴンを融合させる!」

 

「なんだって!?」

 

 赤いレアメタルの装甲を纏った女性が渦により猛々しく吠える竜と一つになっていく。

 

「堅牢の鎧に覆われし機械戦士よ、雄々しくも禍々しき竜よ。今ひとつとなりて我が身を守る鉄壁の守護竜となれ!」

 

 渦から光が放たれると現れたのは土台となる戦車から首を伸ばす厚い装甲を身につけた機械竜。その口からは砲塔をのぞかせている。

 

吸収融合(アブソーブフュージョン)! 顕現せよ、重装機甲 パンツァードラゴン!」

 

重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600

 

「……参ったね。まさか僕のモンスターを取り込んで融合召喚されるとは思ってもみなかったよ」

 

 今まで先手を打ち相手の戦術に対応していた青年だったが、予想外の戦術に驚嘆の表情を浮かべていた。

 

「やった! ブラック・デーモンズ・ドラゴンを墓地に送ってなおかつ守備力2600のモンスターを呼び出した!」

 

「……そんな手があったとはな。やるじゃないか。この勝負、まだまだ分からんぞ」

 

「これで……ターンエンド。そしてバレット・ライナーの効果を発動。このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズにバレット・ライナー以外の墓地の機械族モンスター1体を手札に戻すことが出来る……バトレインを手札に」

 

 手札行きの弾丸列車が墓地から現れるとレールが手札に向かって伸びていき、ユキの元へとバトレインを届けた。

 

ユキ LP200

 

フィールド 『重装機甲 パンツァードラゴン』(守備表示)

 

セット1

 

手札2

 

「僕のターン! トラップカード、レッドアイズ・スピリッツを発動! その効果で墓地に眠るレッドアイズを復活させてもらうよ!」

 

 地に沈んだレッドアイズだったが再び地面を貫いてその漆黒の身体が姿を現した。

 

真紅眼の黒竜 攻撃力2400

 

(またレッドアイズが蘇った……。あのドラゴンが師匠にとってのエースモンスターなんだ)

 

「ここで素早く立て直してくるあたりはさすがだ……。だがいくら師匠でもこの状況をそう簡単には覆せないはずだ」

 

「……そうだね。ちょっとこのターンでは厳しそうだ。カードを1枚伏せてターンを終了するよ!」

 

「レッドアイズではパンツァードラゴンの守備力を超えられない。これなら何ターンか凌げるかも……」

 

「だがパンツァードラゴンの攻撃力は1000。ユキの方からも仕掛けられない……こう着状態というやつだな」

 

(ユキのライフは200、火の粉ですら吹き飛ぶまさに風前の灯火。こう着状態が続いて不利になるのはこっち……ここは先に手を打つ!)

 

「トラップカード、ディーラーズ・チョイスを発動。互いのプレイヤーはデッキをシャッフルしてカードを1枚ドローし、その後互いに手札からカードを1枚選んで墓地に捨てる」

 

「今僕の手札は0、残念だけどドローしたカードをそのまま墓地に捨てなきゃいけないね」

 

 青年は手動で、ユキは新しいディスクのオートシャッフル機能でシャッフルを済ませると同時にカードを引き抜くが、青年は手札がその1枚しかないため惜しそうにディスクの墓地に繋がるゾーンへと置いた。

 

「ユキはバトレインを墓地に送る。だけどエンドフェイズはまだ終わらない? バトレインが墓地に送られたことで機械族・地属性・レベル10のモンスター……深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトを手札に加える」

 

「手札を入れ替えながら新しいモンスターを加えたか……やるね。じゃあ今度こそターンエンドだ」

 

謎の青年 LP3500

 

フィールド 『真紅眼の黒竜』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札0

 

(確かにユキは目的に迷いがあって、どこか思いきれないところはあったかもしれない。だけどこのデッキはユキが今まで積み上げてきた全て。そこは迷わないでいられる……まだ目的への道は掴めないけど、デッキを信じて戦う……!)

 

「ユキのターン……ドロー! ……!」

 

(このカードなら……!)

 

「深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトを攻撃表示で召喚」

 

 急行列車がレールを走り抜けてユキのフィールドにたどり着くと開くようにして変形し、白い甲冑を身につけ剣や盾を直接身体に接続させた機械騎士となって現れた。

 

「レベル10のモンスターをリリースなしで召喚だと!?」

 

「ナイト・エクスプレス・ナイトは元々の攻撃力を0にすることでリリースなしで召喚することが出来る」

 

「妥協召喚モンスターか……!」

 

 列車から変形したことでその機体は並外れた大きさだったが、腕に取り付けられた剣が見る見るうちに小さくなってしまった。

 

深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト 攻撃力3000→0

 

「だけど攻撃力0のままじゃレッドアイズを倒すことは出来ない。どうするつもりだい?」

 

「このカードで全てを逆転させる? パンツァードラゴンを攻撃表示に変更し……マジックカード発動。右手に盾を左手に剣を!」

 

 空間が歪んでいくとそれぞれのモンスターに影響を及ぼしていく。

 

「このカードによりエンドフェイズまでフィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの元々の攻撃力と元々の守備力は入れ替わる」

 

「攻守逆転だって……!?」

 

 レッドアイズはその力を僅かに失い、ナイト・エクスプレス・ナイトは盾と剣が入れ替わることで盾が小さくなる代わりに剣が元の大きさを取り戻し、パンツァードラゴンは纏っていた装甲が砲塔に吸収されてその威力を増していき、装甲が外れたことで機動力を増し機械竜の首が伸びてレッドアイズを見下ろすような形となった。

 

重装機甲 パンツァードラゴン

攻撃力1000→2600 守備力2600→1000

 

深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト

攻撃力0→3000 守備力3000→0

 

真紅眼の黒竜 攻撃力2400→2000 守備力2000→2400

 

「そうか……妥協召喚によって攻撃力が0となったとしても、守備力に変化はない。そこを上手く利用したってわけだね……!」

 

「やるな……師匠のレッドアイズは弱体化し、パンツァードラゴンはその高い守備力を攻撃力として使用することが出来る。……それにしても」

 

「……?」

 

「パンツァー・ドラゴン……どこかで似たモンスターを見たことがあると思ったが、こうして見るとカイザーのサイバー・ドラゴンに似ているな」

 

「……あっ」

 

(ユキがあの機械竜を融合デッキに入れてた理由……何となく分かった気がする)

 

「バトル! ナイト・エクスプレス・ナイトで真紅眼の黒竜に攻撃……!」

 

 ナイト・エクスプレス・ナイトの足から車輪が降りてくるとスピードに乗って近づいていく。レッドアイズは飛ぶことで攻撃を逃れようとしたが、ナイト・エクスプレス・ナイトが斬りかかるスピードの方が速く、紅き眼の竜は討伐されてしまった。

 

「くっ……」

 

謎の青年 LP3500→2500

 

「レッドアイズを倒した……! パンツァードラゴンのダイレクトアタックでユキの勝ちだ!」

 

「……!」

 

 討伐されたレッドアイズが消滅しようとしていたが、身体の内部から無差別に赤い光線が放たれていた。

 

「荒削りだけど、いいデュエルだ。自分のデッキを信じて向かってくる君の闘志もデュエルを通してひしひしと伝わってくるよ。その気持ちを忘れなければ前に進めるさ。……トラップカード、レッドアイズ・バーン! このカードはレッドアイズが破壊された場合に発動出来る。互いのプレイヤーは破壊されたレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを受ける!」

 

「……! レッドアイズの攻撃力は2400……!」

 

 四方八方に放たれた光線が地面にあたり爆発による砂煙が舞う中、ついに光線が二人を貫いた。

 

「うっ……」

 

謎の青年 LP2500→100

 

「ううっ……!」

 

ユキ LP200→0

 

 砂煙が消えた時、その場に立っていたのは青年のみ。決着がつき、攻撃態勢をとっていたパンツァードラゴンを含めて全てのソリッドヴィジョンは消えていた。

 

「ああっ……あとちょっとだったのに」

 

「……師匠はあのカイザーのただ一人のライバルと呼ばれている。そんな人をあそこまで追い詰めたんだ……健闘したと言っていいだろう」

 

「えっ!?」

 

「はは……よしてくれよ万丈目君。そう言われていたのはもう大分前の話さ」

 

(……この一歩届かない感じ。そう、この感覚は……前に亮さんに負けた時にも味わった。全力を出し切ったけど……それでも届かない。……あ)

 

 ユキは万丈目のいる方を振りむいた青年に目を向けるとその背中が遠く離れているような感覚を覚えた。

 

(ああ……分かった。ユキはまだ弱い。ここから一歩踏み出してもあの人たちが一歩踏み出すたびにその距離は遠く、離れていってしまう。だってあの人たちとユキでは今まで積み上げてきたものが違う……だけど)

 

 ユキは砂利を払って立ち上がるとその口から自然に——言葉がこぼれた。

 

「ここで沢山のものを積み上げて、いつか……亮さんの背中に追いついて、胸を張ってその隣を歩けるようになりたい……」

 

 こぼれた言葉にその場にいた全員が驚いたが、一番驚いていたのはユキ自身だった。その言葉と共に胸につかえていたものがこぼれ落ちていき、自分自身でも驚くほどその言葉にスッキリしていた。

 

(なるほど……恋の相手は亮か。それは悩むわけだ)

 

「うん。いいじゃないか。僕も応援するよ」

 

 青年は何度かうなずくと爽やかに笑い、レイもユキの悩みが解決したことを心から喜んでいた。

 

(凄い……本当にデュエルでユキの悩みを解決しちゃった。これが……師匠のデュエル)

 

「そうだ! 亮に……」

 

 青年が何かを思いつくとちょうどブルー寮に帰ろうとした明日香が崖の上を通る。すると浜辺にいる四人に気がついた。

 

「あら? レイにユキ、万丈目君と……兄さん!?」

 

「えっ……?」

 

「兄さん……!?」

 

「おや。明日香じゃないか。今帰りかい?」

 

 兄がユキ達と話しているのを見て何となく嫌な予感がした明日香は慌てて浜辺に降りてくる。

 

「師匠って明日香さんのお兄さんだったんだ……」

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。ブリザードプリンスこと天上院吹雪。妹ともどもよろしく頼むよ」

 

 吹雪が優雅にお辞儀している間に明日香が浜辺に到着するとものすごい勢いで兄に詰め寄った。

 

「兄さん! まさかレイやユキに変なことを吹き込んでないわよね!?」

 

 亮から二人のことを頼まれている明日香はトラブルメーカーである兄が余計なことを言っていないかこれ以上ない不安に襲われていた。

 

「明日香さん……師匠は変なことなんて吹き込んでないよ」

 

「そうそう! 師匠のデュエル凄かったんだよ!」

 

「……師匠……?」

 

 初対面であるはずの吹雪を呼ぶのにはとてつもない違和感のある呼び方に明日香はさらに不安を抱いた。

 

「ちょ、ちょっと待った! 兄を信用するんだ明日香! まだ僕は疑われるようなことはしてないよ!」

 

「……まだ……?」

 

「あっ」

 

 自らの失言に気がついた吹雪はいち早く逃げ出した。

 

「万丈目君! さっきの話はまた後にしよう。二人もまた今度!」

 

「兄さん!? 待ちなさい!」

 

 吹雪と明日香は嵐のようにその場から走り去ってしまった。

 

「さっきの話って?」

 

「ん? ああ……ちょうどいい。明日お前らもここに来て見るがいい。俺の天上院君への……ラブデュエルをな!」

 

「ラブ……!?」

 

「デュエル……!?」

 

 あの騒動から強くなる決意を固めたユキ達。それぞれの目的を見つけた彼女達を待っていたのは騒がしい日常だった。

 




吹雪の使った思い出のブランコは幼少期の明日香が一度も攻略できなかったという設定があるんですが、思い出のブランコ自身は通常モンスターの蘇生とエンドフェイズの自壊とその性質上そのまま攻略と言葉通りに受け取ると意味が通じづらいところはあると思われます。その意味を掘り下げてみると自壊するモンスターを強制転移などで押しつけるか、または今回のデュエルのように自壊を回避しながらの運用がスムーズに出来ることで死者蘇生が複数枚投入されているのとほぼ変わらないようになり、倒しても何度もエースモンスターを復活させられてしまう戦術が攻略出来なかったのではと考察してみました。


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戦いを経て

 時は少し遡り、吹雪とユキのデュエルが始まった頃。灯台では亮と明日香が話をしていた。

 

「兄さんが戻ってきて本当に良かった。あなたには随分助けられたわ……亮。兄さんがいない間、私にとってあなたは兄のような存在だった」

 

「ふっ、今度からは本当の兄さんに助けてもらえ」

 

「……」

 

 セブンスターズとの戦いが終わり、行方不明だった吹雪も戻ってきたのにも関わらず、明日香の表情はどこか暗かった。

 

「……あ、ああ。むしろトラブルを起こす吹雪のことを助けなくてはならなくなるかもしれないな……」

 

「……ええ、そうね」

 

(それも……あるけれど。……でもこれ以上、亮に迷惑はかけられないわ)

 

 灯台からの帰り道、ブルー寮に戻る道すがらに浜辺にいる吹雪を見かけた明日香はトラブルの種が蒔かれようとするのを察知して兄を追いかけ、今に至る。

 

「……本当にレイやユキに何も変なことを吹き込んでないのね? あと万丈目君に話があるとか言っていた気がするけど……」

 

「やだなあ、明日香。僕がどうして変なことを吹き込むと思うんだい?」

 

「……過去に色々やってきたじゃない」

 

 吹雪が起こしたトラブルの数々とその度に頭を悩ませたことを思い出すと、ため息がこぼれた。

 

「何度もため息をすると幸運がどんどん逃げていくよ」

 

「え、何度も……?」

 

「……さっき崖の下から見た時も暗い表情でため息をついたように見えたよ。何かあったのかい?」

 

「……! 気づいていたのね……」

 

 明日香が吹雪に勢いよく詰め寄ったのは確かに兄がトラブルを起こそうとしている気がしたというのもあったが、落ち込んでいる所を誰にも見せたくないという感情の裏返しでもあった。

 

「長い間、僕は明日香を心配させてばかりだった。戻ってきた今だからこそ明日香の役に立ちたい。……話してくれないか?」

 

「……敵わないわね」

 

 明日香は隠し通すことを諦め、包み隠さず悩みを打ち明けた。

 

「……なるほど」

 

(万丈目君、それにユキ。そして……明日香か。どうやらセブンスターズとの戦いを通してみんなの中に芽生えてきたものがあるようだ。しかし同じ日に同じような相談を三回も受けることになるとはね)

 

「セブンスターズとの戦いは私と万丈目君が一勝ずつ、残りの五人は全て彼……遊城十代が倒した。あるいは七星門の鍵を最後まで守れたならこんな気持ちは抱かなかったかもしれない。でも……人質を取られた亮とは違って私は実力で負けて鍵を奪われてしまった。だから私は強くなりたいのよ」

 

「そっか。悔しさをバネにして強くなろうというのはいいことさ。……だけど戦術面で僕がアドバイス出来ることはほとんどないかもしれないね」

 

 明日香からデッキを預かって内容を確認してみた吹雪だったが、特別にアイディアが出るでもなく、そのままデッキを返した。

 

「それはそうよ。だって私のデュエルの基盤になってるのは幼い頃の兄さんとのデュエルだもの。だから相談するつもりはなかったのよ……」

 

「待った! 戦術面でのアドバイスは出来ないけど、兄としてアドバイス出来ることはあるよ」

 

「えっ……な、何?」

 

「明日香……君はオベリスクブルーであることに誇りを持っている。しかしそのプライドが少しばかり高すぎるのさ。高すぎるプライドは時に成長の邪魔にもなる」

 

「そんなこと言われても……どうすれば」

 

「……僕がアドバイス出来るのはここまでかな。そこから先は自分で考えないと意味がない。……大丈夫。明日香なら焦らず一歩ずつ進んでいけば自ずとどうすべきか分かるさ」

 

「兄さん……」

 

 吹雪はそろそろ沈もうかという日の方に歩みを進めていき、再び万丈目の待つ浜辺の方に降りていった。

 

「……ありがとう」

 

(戻ってきてから兄さんも少し変わったのかしら。今の兄さんがトラブルを起こすなんて……心配した自分がバカらしくなってきたわ)

 

 明日香も日で伸びている影を横目にブルー寮へと帰っていった。

 

 その翌日。明日香は浜辺へ呼び出され、全ての七星門の鍵とデートを賭けたデュエルを万丈目に挑まれていた。

 

(一度でも兄さんがトラブルを起こさないなんて思ってしまった自分を恨めしく思うわ……)

 

 その元凶ともいえる吹雪は小型のボートに乗り、アロハシャツを着て応援するようにウクレレを弾いている。その傍らではユキとレイがボートに腰掛けながらオカリナを吹いていた。

 

「……また、吹雪の仕業か……」

 

 七星門の鍵が盗まれたという騒ぎから十代達と共に駆けつけた亮だったが、今まで十代達が聞いたこともないような何とも言えない声を漏らしながら頭を押さえていた。

 

 二人のデュエルはおジャマトリオによる三体のトークンとおジャマ・キングによるロックコンボが成立し、万丈目のペースでデュエルが進む。しかしトークンは生贄召喚のリリースには使用できないが、儀式召喚のリリースには使用できるというロックの穴をついた明日香が一歩上回りサイバー・エンジェル—弁天—の一撃で決着がついた。

 

「デュエルに敗れ、恋にも敗れた……うっ。だが俺は、一……十……百……千……万丈目サンダー!」

 

 恋に敗れた男の叫びが浜辺に響き渡ると波が呼応するようにうねりを打った。

 

「明日香! こんなカッコいいサンダーに何故惚れない……!?」

 

 ボートから浜辺に戻ってきた吹雪が駆け寄り、万丈目に共感するようにもらい泣きをしていた。

 

「万丈目君……」

 

 今はデュエルに恋をしている、と万丈目の誘いを断った明日香だったが、友達としては彼のことを嫌いなわけではなく、少し困るように顔を綻ばせた。

 

「ユキ、レイ。何故吹雪と共に……?」

 

「亮さん。昨日師匠に相談に乗ってもらって、悩みを解決してもらったんです」

 

「そのお礼にってことで応援のお手伝いを!」

 

(確かに吹雪は昔から人の相談に乗るのが上手かったからな。……相談されてもないのに首を突っ込んでしまうこともあったが)

 

「そうか。それならいいんだ」

 

 場合によっては釘を刺しておこうと考えていた亮だったがトラブルに繋がるような類のことはされていないと判断し、安心してしまった。

 

「そうだ! 折角いい天気なんだし、良ければ一緒に海で……。……ひゃ!?」

 

「……! 地震……?」

 

「いや、これは……!?」

 

 揺れは地震によるものではなくデュエルアカデミアの地下に封印されていた三幻魔の眠りが目覚めようとしていた証だった。万丈目の持っていた七星門の鍵が不可視の力により引っ張られていき、ついに三幻魔が解放されてしまう。三幻魔の封印を解く条件はデュエリストの闘志がこの島に満ちることであり、セブンスターズはその為の駒であった。

 十代達が封印された場所に辿り着くとセブンスターズを率いた事件の黒幕であり、またデュエルアカデミアの理事長でもある影丸が三幻魔を手にしていた。すると生命維持装置を必要とするほど老いていた身体が若返っていく。彼は三幻魔の力を完全にコントロールするため十代の精霊を操る力を手に入れようと、十代は再び三幻魔を封印するためにデュエルが開始された。

 

「……! おジャマどもが力を奪われている。奴は三幻魔の能力でデュエルモンスターズの精霊の力を取り込んでいる。もし十代が負ければ多くの精霊が取り込まれることになるぞ……」

 

「デュエルモンスターズの……」

 

「精霊……」

 

 目の前で影丸が若返っていく様子を見たユキとレイは精霊の存在、そしてその力を初めて知ることになった。するとレイはデッキに違和感を覚え、1枚のカードを確認する。

 

「……! ブラック・マジシャン・ガールが苦しんでる……!?」

 

 おジャマ達を含め、精霊のカードのイラストは力を奪われ、苦しんでいる姿となっていた。

 

(もしかして……あなたの正体って)

 

「……十代様、頑張って!」

 

 精霊が見えない二人にもこの戦いの勝敗がもたらす影響の大きさは十分に感じ取れた。だが戦況は芳しくなく三幻魔を呼び出した影丸に追い詰められ、十代は窮地に立たされていた。そんな中、大徳寺から渡されたエメラルド・タブレットに挟まっていた1枚のカード、『賢者の石—サバティエル』が奇跡を起こす。十代の願いを3つ叶えるとその本当の力が解放された。

 

「サバティエルの対象となったエリクシーラーは相手フィールドのモンスターの数だけ、攻撃力を倍加させる!」

 

「何だと……!? 俺の場には5体のモンスター……!」

 

 エメラルドに輝く賢者の石が究極の剣となってエリクシーラーに装備されると、その力が飛躍的に上昇していった。

 

E・HERO エリクシーラー 攻撃力2900→14500

 

「バトルだ! エリクシーラーで幻魔王ラビエルに攻撃! 究極剣サバティエル!」

 

 究極の錬金術師にしか使えないとされるサバティエルを使いこなした十代がエリクシーラーの一撃を叩き込み、終止符を打った。

 三幻魔は再び封印され、デュエルモンスターズの精霊にも力が戻ってくると、サバティエルも役割を終えて消滅してしまう。影丸は十代から長生きしても孤独になってしまってはつまらないこと、他人の力を奪う形ではなく自分の力で歩くことの大切さを教えられ、事件は本当の意味で終結を迎えた。

 

 二人のデュエルを見届けた者、特にセブンスターズとの戦いで少なからず後悔を残した者はこのデュエルを見てより一層強くなりたいという思いがこみ上げていった。それは吹雪に相談した3人やレイだけではなくラーイエローの制服を纏ったこの少年もだった。

 

「アン・ドゥ・ドロー! アン・ドゥ・ドロー!」

 

 三幻魔の事件から半月後、三沢大地は早朝にも関わらず崖上でドロー特訓を行なっていた。

 

(俺は一勝した万丈目や天上院君とは違い、勝ち星を挙げることなく鍵を奪われてしまった。セブンスターズの刺客、タニヤっちの知恵のデッキに敗れたことで弱点も浮き彫りになった。それは情報のある相手にはデュエル前に対処法を見つけることで優位に運ぶことが出来るが、情報がない相手や戦術には修正が間に合わずに敗北してしまうこと。デュエル内での対応力不足……これを補わなければ。月末の実技試験では己の弱点を意識して、デッキ構築もタクティクスも模索していこう)

 

 三沢はその明晰な頭脳を駆使して自らの弱点とこれからするべきことを割り出していた。

 

「……む」

 

 デッキの中に無意識のうちに入れていた白魔道士ピケルのカードに気づくとすっと胸元のポケットに隠した。

 

「あれっ、デッキから抜いちゃうんですか?」

 

「うわっ! ……あ、ああ。別のデッキのカードが紛れ込んでいてね」

 

 三沢は特訓に夢中になり後ろから近づいていたレイに気づいていなかったため、隠したカードの正体を察知されないか焦りを覚えた。

 

「ふーん、そうだったんですね」

 

(……ほっ)

 

「じゃあ試験前の勉強会といこう、と言いたいところだが……ユキは大丈夫なのか?」

 

「あはは……ごめんなさい。ユキちょっと寝起きが悪くて」

 

「おはよう……ございます」

 

 おぼつかない足取りでレイに追いつくようにして現れたユキ。朝に弱い彼女はまだ眠気が覚めていない様子だった。

 

「ちょうどいい。勉強会の前に一緒にドローの特訓をしよう! 朝の澄み切った空気の中で行うドローは思考をクリアにしてくれる。きっと眠気も吹き飛ぶさ」

 

「そう……なの?」

 

「ああ。朝はドロー特訓をしながら考え事をするのが俺の日課なんだ。これを始めてから考えがよくまとまるようになったよ」

 

 ユキは半信半疑ながらも勉強道具が入ったバックを置くと早速ドローの練習を始める。彼女の指がデッキの前に伸びていくと自動でデッキトップのカードが差し出され、引き抜かれた。

 

「脳を覚ましたいなら全身を使ってドローをするといい。アン・ドゥ・ドロー!」

 

 三沢は足を開いて腰を捻ると、腕をしならせるように勢いよくカードを引き抜いた。

 

「おお……凄い気迫」

 

 ユキはオートドローの機能を切ると、三沢に倣って今まであまりドローの際使っていなかった腰や足も使い出した。

 

「け、結構体力使いますね!」

 

「ははっ。朝の準備運動にはもってこいだろう?」

 

 ドローの特訓を始めてから10分経とうかという頃。変わらぬ勢いでドローを続ける三沢とは対照的にレイとユキは息が切れてきていた。

 

「朝にドローの練習をするのは初めてだろうし、このくらいかな。どうだった?」

 

「はぁ……はぁ……。そんなに長い時間身体を動かしたわけじゃないのに、こんなに息が切れるなんて」

 

「はぁ……ふぅ。でもさっきまでぼおっとしてた頭が確かにスッキリしてる」

 

「思い切りドローすると全身がバランスよく動くからね。脳も動くべき時間だと認識してくれるのさ。さあ、少し休憩したら勉強会といこう」

 

 3人はイエロー寮にある三沢の部屋に移動する。するとユキとレイは異様な光景に目を見開いた。

 

「部屋中に数式が……!?」

 

「天井にまで……」

 

「ははは……これでもこの前大掃除して消したばかりなんだけどね。部屋で考え事を続けてると、追求するためについ書いちゃうんだ」

 

 そんなこんなで勉強会が始まる。理解出来ている部分を把握しようと二人のために今月の予想問題を作成していた三沢は、そのプリントを二人に渡して解いてもらった。

 

「……驚いたな。二人とも俺の予想を上回る出来だ。この調子なら今のままでもテストの及第点には届くんじゃないか」

 

「えっ、本当!?」

 

「やった……」

 

 亮の計らいで認めてもらった入学、それを勉強についていけないという理由でふいにしてはならないと授業を真面目に受けていた二人。編入試験のために学んだ知識も役に立ち、試験を受ける分には十分な学力が身につけられていた。

 

「……だけどまだ理解が甘いところはあるかな。折角だ、不安要素を無くしておくに越したことはない」

 

「そうですね。三沢先生、よろしくお願いします!」

 

「先生、よろしくお願いします」

 

「ははっ、先生と来たか。よろしく頼まれたよ」

 

 それぞれの理解出来ていない部分をしっかりと把握した三沢の指導で彼女達の知識が補われていく。三沢は十代や翔、その他の生徒にも試験前によく勉強を教えており、指導するのには慣れていた。

 

(……しかし驚いたな。確かにデュエルアカデミアは学力においては決して高いレベルではない。だが高校生レベルの学力に一般的に小学生の年齢である彼女らがついていけるとは……普通に考えれば無理だとなりそうなところだ。子供であるが故に無理という発想自体がないのか、まるでスポンジが水を吸うように知識を吸収している。……いや、そもそも無理だと考えること自体が視野を狭めてしまうのかもしれないな)

 

「……あの、先生? ここってどうすれば……」

 

「ああ、すまない。ここは……」

 

 三沢の的確な教え方の効果もあって勉強会が終わる頃には筆記試験は問題なくクリア出来ると思えるほどの自信が二人には生まれていた。

 

「ありがとうございました!」

 

「ありがとうございました」

 

「こちらこそ中々興味深いものを見せてもらったよ。これで筆記試験は大丈夫だろう。実技試験の方も楽しみにさせてもらうよ」

 

 こうした経緯を経て迎えた試験当日。静まり返った教室に張り詰めた緊張感の中、鉛筆の音だけが響いていた。響く音の数が段々と少なくなり、代わりに響く音が慌ただしいようなものが増えてきた最中(さなか)、終わりを告げるチャイムが教室中に鳴り響いた。ある者には緊張からの解放感と達成感を与え、ある者には不安と後悔を与えていく。

 

「……ね、どうだったユキ?」

 

「……絶好調だった」

 

「……良かった! 勉強した甲斐があったね。僕も問題なさそうだよ」

 

 テストのプリントが前に送られていく中、二人は小声で話し合って安堵感を共有しあった。

 

 生徒達が教室からデュエル場に移動すると実施試験が開始されようとしていた。出番を待つ生徒はデュエル場の周りにある観客席で待機しており、ユキとレイも談笑して出番を待とうとしていた所、ある人物が話しかけてきた。

 

「ちょっといいデスーノ?」

 

「く、クロノス先生?」

 

「ようやく話しかけられたノーネ。あなた達が入学してから一ヶ月ほどたったのーに、話そうとしても逃げるように退散するのはなんでナノーネ?」

 

「その……ユキ達が試験を受けた時、男装して先生を騙していたから気まずくて話すことが出来なかった」

 

「……そんなことでしたーノ。別に気にしなくてもいいノーネ」

 

「えっ……?」

 

「確かにあなた達は性別を偽ったノーネ。しかーし、編入試験そのものに偽りは無かった。胸を張って学園生活を送るといいノーネ」

 

 それだけ言うと試験官として試験を進めるべくデュエル場に戻っていく。

 

「あ……ありがとうございます」

 

「あ、ありがとう!」

 

 かくして実技試験が始まり、沢山のデュエルコートでデュエルが行われる。するとしばらく経って十代、翔、隼人、万丈目、明日香、三沢と合流した。既にレッドとイエローの試験は終わっており、ブルーである明日香も既に勝利を収めて試験を終えていた。

 

「まだ三沢先生はデュエルしていない?」

 

「俺はブルーの生徒とのデュエルになるからな。デュエルはまだみたいだ」

 

「おっ、先生って何のことだ?」

 

「ああ……この前ちょっと勉強を教えてな。教師がいるところだとこの呼び方は紛らわしいかもしれないな」

 

「そうだね。普段は三沢さんって呼ぶことにします!」

 

 楽しく談笑しているとレイを呼ぶアナウンスが聞こえてきた。

 

「……ファイト」

 

「うん! 行ってくるよ!」

 

 筆記試験が問題なかった安心感からか、レイは緊張した様子もなくデュエル場に向かっていった。

 

「よろしくお願いします!」

 

「……ああ、よろしく」

 

 互いに準備が整い、レイのデュエルが始まろうとしていた。

 

「……間に合ったか」

 

「随分早かったね、亮」

 

 少し前までデュエルをしていた亮だったが、何とかレイのデュエルが始まる前に自身のデュエルが終わり、吹雪のいる観客席まで戻ってこられた。

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は僕だ! 僕のターン、ドロー。恋する乙女を召喚する!」

 

 黄色いドレスに身を包んだ華奢な少女がドレスの裾を持って一回転しながらフィールドに現れた。

 

恋する乙女 攻撃力400

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

レイ LP4000

 

フィールド 『恋する乙女』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「俺のターン、ドロー。……お前のデュエル、学園祭の時に見せてもらった」

 

「……!」

 

「恋する乙女によって乙女カウンターを乗せ、キューピッド・キスによってコントロールを奪う戦術。しかし、それさえ分かっていれば打つ手はいくらでもある。手札を1枚捨てマジックカード、コストダウンを発動。これにより俺の手札のモンスターはこのターンレベルが2つ下がる」

 

「手札のモンスターのレベルを……? まさか、いきなり上級モンスター!?」

 

「そうだ。レベル4となったヘルカイザー・ドラゴンは生贄を必要とせず召喚することが出来る! いでよ!」

 

 血の池地獄のように真っ赤に染まったマグマを突き抜けて、黒き翼が熱で赤くなった竜が姿を現した。

 

ヘルカイザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

「攻撃力2400……!」

 

「キューピッド・キスを使用するためには戦闘ダメージを受ける必要がある。この攻撃で2000のダメージを与えれば、少なくとも恋する乙女にキューピッド・キスを装備しても意味はない」

 

「くっ……確かにね」

 

「だが俺はさらなる一手を打つ! 装備魔法、スーペルヴィスをヘルカイザー・ドラゴンに装備。これによりヘルカイザー・ドラゴンはもう1度召喚した扱いとなる」

 

「えっ……フィールドにいるモンスターをもう1度召喚?」

 

 熱が冷えて赤みが引いた翼が装備魔法がつけられた瞬間、緑色の線によって模様が描かれていき、真の姿を見せた。

 

「ヘルカイザー・ドラゴンはフィールド及び墓地にある限り通常モンスターとして扱われ、再度召喚することで効果モンスターとなるデュアルモンスターだ。そしてヘルカイザー・ドラゴンが得た効果は……1度のバトルフェイズで2回の攻撃をすることが出来る効果だ!」

 

「なっ!」

 

「恋する乙女を攻撃表示で出したのが仇となったな。このターンで終わりだ! バトル! ヘルカイザー・ドラゴンで恋する乙女に攻撃!」

 

 ヘルカイザー・ドラゴンは翼を折りたたむようにすると弾丸のように回転しながら、恋する乙女に向かって突き進んでいった。

 

「……確かに僕のデッキはキューピッド・キスで相手モンスターのコントロールを奪うのが基本戦術。だけどそれだけだと思われてるなら、ちょっと……乙女のことを甘く見過ぎかな!」

 

「何だと!?」

 

「トラップ発動、聖なる鎧—ミラーメール—! 僕の場のモンスターが相手モンスターの攻撃対象になった時に発動出来る! その効果で攻撃対象になったモンスターの攻撃力は……攻撃モンスターの攻撃力と同じになる! 乙女は相手のことを想えば想うほど強くなるんだから!」

 

「な……乙女カウンターを乗せるのが狙いじゃなかったのか!?」

 

 乙女のドレスが白銀に輝くものへと変わっていくと鏡の装飾が施される。勢いよく向かってくるヘルカイザー・ドラゴンが鏡に映されると乙女にドレスを通して力が与えられた。

 

恋する乙女 攻撃力400→2400

 

「そして恋する乙女は攻撃表示の時、戦闘では破壊されない!」

 

「……! まさか……!?」

 

 乙女と竜が衝突すると竜の突撃は壁にでもぶつかったかのように自分へと跳ね返ってしまい、その衝撃で消滅してしまった。

 

「レイのデッキは相手の力をうまく利用し、自分の力として相手に向けることがコンセプト。だがコントロールを奪うばかりが相手の力を利用するというわけではないということか」

 

「攻撃力を奪っただけじゃなく、同時に相手のモンスターも迎撃とは……やるね、レイちゃん」

 

「くっ、墓地へ送られたスーペルヴィスにより墓地の通常モンスター……ヘルカイザー・ドラゴンを復活させる!」

 

 消滅したはずの竜が翼の緑の模様を失った状態でフィールドに帰還した。

 

ヘルカイザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

「でも恋する乙女の攻撃力はミラーメールの効果が続くから2400のままだよ!」

 

「……バトルを終了する」

 

(やられた……だが、今に見ていろ。そちらが聖なる鎧ならこちらは……)

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

ブルー生徒 LP4000

 

フィールド 『ヘルカイザー・ドラゴン』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札1

 

「僕のターン! ……行くよ! 僕はこのモンスターを召喚!」

 

 恋する乙女より幼いおしゃぶりをつけた赤ん坊の魔術師が羽を羽ばたかせて乙女の上を飛び出した。

 

「ベリー・マジシャン・ガール!」

 

ベリー・マジシャン・ガール 攻撃力400

 

「え……ええっ! なんでレイがマジシャン・ガールを持っているっすか!?」

 

「ああ……この前の学園祭の時にブラック・マジシャン・ガールがレイに託したんだよ」

 

「な……ということはブラック・マジシャン・ガールのカードも!?」

 

「勿論あるぜ」

 

「な、ななっ……なんすとー!?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの大ファンである翔にとってその事実は他の何よりも衝撃的だった。

 

「翔……今にも譲ってくれとか言い出しそうなんだな」

 

「なんで分かったすか!?」

 

「いやぁ、無理だと思うぜ。だってブラック・マジシャン・ガールから託されたものだからさ。むしろ何があっても手放さないんじゃないか?」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 そんな会話がされているうちにもデュエルは進んでいく。

 

「ベリー・マジシャン・ガールが召喚に成功したことでデッキからマジシャン・ガールモンスター……キウイ・マジシャン・ガールを手札に加えるよ! バトル、恋する乙女でヘルカイザー・ドラゴンに攻撃!」

 

 乙女が地に降り立ったヘルカイザー・ドラゴンに向かって走り出した。

 

「……そう。キューピッド・キスを使うにしろ、攻撃力を奪うにしろ、どちらにせよ攻撃は仕掛けられる。トラップ発動、聖なるバリア —ミラーフォース—! 相手が攻撃を宣言した時、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

 

「……!」

 

 ヘルカイザー・ドラゴンへの進路にバリアが貼られると歩みを進めた恋する乙女と後ろから追いかけていたベリー・マジシャン・ガールに襲いかかった。

 

「これでお前の場は全滅だ!」

 

「……させない! リバースカードオープン。速攻魔法、ディメンション・マジック! 自分フィールドに魔法使い族がいる場合、自分フィールドのモンスターを1体リリースすることで手札の魔法使い族モンスターを1体特殊召喚する!」

 

(……! 守備表示でモンスターを呼ぶことで被害を最小限に抑える気か)

 

「ベリー・マジシャン・ガールをリリースし……来て、キウイ・マジシャン・ガール!」

 

 赤ん坊の魔術師が消えていくと、代わりに頭にハートマークの装飾をつけた大人の女性の魔術師が姿を現した。

 

キウイ・マジシャン・ガール 攻撃力1800

 

「攻撃表示だと!?」

 

 バリアが乙女と魔術師を包み込んでいく。しかし魔術師が呪文を唱えるとハートマークの装飾から光線が放たれ、その光線に触れた乙女にもハートマークの装飾が施されていく。するとその装飾がバリアを弾いてしまった。

 

「なにぃ!?」

 

「キウイ・マジシャン・ガールのモンスター効果だ! このモンスターが表側表示でいる限り、僕のフィールドの魔法使い族モンスターは相手の効果の対象にはならず、また効果では破壊されない!」

 

「その効果で魔法使い族の恋する乙女とキウイ・マジシャン・ガールはミラーフォースの影響を受けなかったということか……。くっ、このターンのダメージは免れないか」

 

「ダメージだけで済むかな? あなたのフィールドをよく見てみなよ!」

 

「なっ……」

 

 バリアが晴れて視界が良くなるとヘルカイザー・ドラゴンの姿がどこにも見当たらず、消え去っていた。

 

「ディメンション・マジックには特殊召喚に成功した後、フィールドのモンスター1体を破壊出来る効果がある。その効果でヘルカイザー・ドラゴンは破壊されていたんだよ」

 

「なん……だと……」

 

「そしてまだ恋する乙女の攻撃は続いてる! 届け、一途な想い!」

 

 ヘルカイザー・ドラゴンを見失った乙女は今度は生徒の方に向けて駆けていった。

 

「うあっ……!」

 

ブルー生徒 LP4000→1600

 

「フィニッシュよ! キウイ・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!」

 

 両手で包むようにして円状の形を指で作り呪文を唱えると、その円から緑色の魔導弾が放たれた。

 

「……乙女のことを甘く見た時点で勝負は決まっていたということか」

 

ブルー生徒 LP1600→0

 

(やった……勝った!)

 

 デュエルが終わり、互いに礼をするとレイは意気揚々とユキ達の元に帰っていく。

 

(あのコンボは使わなかったけど、他のコンビネーションもいい感じ! えっと……ここら辺にいるのかな)

 

「ありがとう、ブラック・マジシャン・ガール。僕もっともっと強くなるよ」

 

「……! 頑張れ、レイちゃん」

 

 精霊が見えずその声も聞こえていないレイだったが、ブラック・マジシャン・ガールが応援してくれている気持ちだけはカードを通して伝わっていた。

 

「ただいま!」

 

「レイちゃん、おかえり」

 

「すっげえデュエルだったな! 俺と戦った時には無かったコンボもあったし、またデュエルしたくなってきたぜ!」

 

「そ、そうかな。へへ……またやろうね」

 

「おう!」

 

 レイが頬を少し赤らめる中、ユキを3番コートに呼ぶアナウンスが聞こえてきた。

 

「行ってきま——」

 

「続いて3番コートにシニョール三沢も来るノーネ!」

 

「え……」

 

「……まさか、いきなり当たることになるなんてな」

 

 ユキの初めての実技試験の相手は三沢大地に決まった。二人のデュエルはどうなるのだろうか——

 




出来れば次話は年内に投稿したいと考えてます。


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トライアンドエラー

良いお年を。


 幼い転入生を心配して親切心から勉強の面倒を見てくれた三沢にユキは感謝していた。しかしそんな相手とデュエルアカデミアに入ってから初の実技試験でいきなり当たることになり、やや緊張した面持ちでデュエルコートに立っていた。

 

「ユキ、遠慮なんてしないでくれよ」

 

「三沢さん」

 

「全力をかけて向かってくるんだ。それが君のためにもなるし、俺のためにもなる」

 

「……はい!」

 

 向かい合うユキの表情が程よく緩んだことを確認すると三沢は頷いてディスクを構えた。

 

(俺がユキの情報を持っていないのは幸運と言うべきか。課題であるデュエル内での対応力を鍛えるには理想的な相手だ)

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は俺だ。俺のターン、ドロー! ……ハイドロゲドンを召喚する!」

 

 水溜りが出現すると水面にいくつもの泡が浮かび上がり、やがて水溜りが地面から剥がれるように隆起すると、毛が逆立つように泡が盛り上がった両生類のような生物となって起き上がった。

 

ハイドロゲドン 攻撃力1600

 

「2枚のカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

三沢 LP4000

 

フィールド 『ハイドロゲドン』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「ユキのターン、ドロー。……2枚の永続魔法を場に出す」

 

「……!」

 

「補給部隊、マシン・デベロッパー!」

 

 前線にエネルギーを補給する基地が建設されると、その後方に機械を生産する工場が建てられ、金属音が混じった作業音が基地にまで響いた。

 

「永続魔法による戦線維持……。ユキの得意戦術ね」

 

「そしてUFOタートルを召喚」

 

 円盤が低空飛行で現れると徐々に減速していき、隠されていた亀の顔と四肢が伸びて着地した。

 

UFOタートル 攻撃力1400

 

「マシン・デベロッパーがある限り、フィールド上の機械族モンスターの攻撃力は200アップする。これにより機械族のUFOタートルの攻撃力は上昇する」

 

UFOタートル 攻撃力1400→1600

 

(マシン・デベロッパーは機械族専用のサポートカードか。ならばユキのデッキは機械族に重点を置いている可能性が高いな)

 

「……バトル。UFOタートルでハイドロゲドンに攻撃?」

 

「む……」

 

 亀がジャンプして手足と顔を引っ込めると、円盤が浮遊して回転しながらハイドロゲドンに向かっていった。

 

(いきなり相討ち……いや、UFOタートルは代表的なリクルーターと呼ばれるモンスター。戦闘で破壊されてもデッキより後続を呼び出すことが出来る。むしろ相討ちにより後続はダイレクトアタックを仕掛けることが出来る、か)

 

「悪くない戦術だが……そう簡単に狙い通りにはさせない! 速攻魔法、突進! これによりハイドロゲドンの攻撃力はターンが終わるまで700上昇する!」

 

「うっ……しまった」

 

ハイドロゲドン 攻撃力1600→2300

 

 ハイドロゲドンが空気中の水分を取り込んでいくと身体が一回り大きくなり、口に当たる部分から勢いよく水が放たれて円盤を撃ち落とした。

 

「きゃ……!」

 

ユキ LP4000→3300

 

「……機械族モンスターが破壊されたことでマシン・デベロッパーにジャンクカウンターが2つ置かれる」

 

 円盤の欠けた部品がベルトコンベアに乗せられて工場に回収されていく。

 

マシン・デベロッパー ジャンクカウンター0→2

 

「補給部隊、UFOタートルの効果を発動。UFOタートルが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを1体攻撃表示で特殊召喚出来る」

 

「ならばこちらもハイドロゲドンの効果を使わせてもらうよ。ハイドロゲドンがモンスターを戦闘で破壊して墓地へ送った時、デッキよりハイドロゲドンを1体特殊召喚出来る!」

 

「……!」

 

 ハイドロゲドンが水砲を横の地面に向けて発射すると、水溜りが変形して新たなハイドロゲドンが誕生した。

 

ハイドロゲドン 攻撃力1600

 

(さて……彼女はどう出るかな。マシン・デベロッパーにより攻撃力1400以上の機械族・炎属性のモンスターを呼び出せば新たに呼んだハイドロゲドンを破壊することが出来る。もし炎属性が中心のデッキなら2体目のUFOタートルという選択肢も十分に考えられる。逆に言えばこれらの選択を取らなかったら……)

 

「ユキは……ミスター・ボンバーを特殊召喚する」

 

 工場に回収されなかった円盤のパーツの下部分から不可思議な光線が降りてくると、やがてモンスターのシルエットが見えてくる。光線が途切れた時には、バネを足代わりにし、小型の爆弾を本体から伸びているアームで持つ赤い球体のロボットの姿がはっきりと見えるようになった。

 

ミスター・ボンバー 攻撃力800→1000

 

(……やはりな。ユキのデッキはそこまで炎属性が中心ではないようだ。【機械族】のデッキと見ていいだろう)

 

「……補給部隊は自分フィールドのモンスターが破壊された場合に発動し、その効果により1ターンに1度ユキはドローを行う」

 

 残された円盤が基地に回収されるとそれをエネルギーとして一筋の光が放たれ、ユキのデッキに吸収される。するとデッキの1番上のカードが輝きだした。

 

「……ドロー!」

 

(俺の妨害が無ければモンスターの破壊、デッキからの特殊召喚とドローにダイレクトアタックといい流れで繋がれていたな。だがその流れは断ち切った!)

 

「……カードを3枚伏せてターンエンド!」

 

「……! 魔法・罠ゾーンを全て埋めたか……。この瞬間、突進の効果は切れてハイドロゲドンの攻撃力は元に戻る」

 

ハイドロゲドン 攻撃力2300→1600

 

ユキ LP3300

 

フィールド 『ミスター・ボンバー』(攻撃表示)

 

セット3 『補給部隊』 『マシン・デベロッパー』

 

手札1

 

「俺のターン!」

 

 三沢はドローカードを手札に収めると最善手を探るべく思考を巡らせた。

 

(まだデュエルは序盤。ここで俺がすべきなのはリスクを負いすぎず、かつ出来るだけ相手にとって嫌な選択をすることだ。……よし、ここは追撃のモンスターは出さずに攻撃を仕掛ける!)

 

「バトルだ! ハイドロゲドンでミスター・ボンバーに攻撃!」

 

(さあ、どう来る!)

 

 ハイドロゲドンが地面にくっつくようにしゃがむと溶けるように地面に沈んでいく。ミスター・ボンバーが相手を見失っていると背後の地面からハイドロゲドンが現れ、押し潰した。

 

ユキ LP3300→2700

 

「くっ……マシン・デベロッパーにジャンクカウンターが2つ乗り、補給部隊の効果でカードを1枚ドローする」

 

マシン・デベロッパー ジャンクカウンター2→4

 

(……トラップの発動は無しか)

 

「ならばハイドロゲドンの効果によりデッキから3体目のハイドロゲドンを特殊召喚する!」

 

 2体のハイドロゲドンの呼び声に応えて仲間が駆けつけてきた。

 

ハイドロゲドン 攻撃力1600

 

「この2体の攻撃が通れば君のライフは尽きる。2体目のハイドロゲドンでユキにダイレクトアタック!」

 

 ハイドロゲドンが息を思い切り吸い込み、高水圧の水砲が放たれた。

 

「トラップ発動、ピンポイント・ガード! 相手が攻撃してきた時、墓地のレベル4以下のモンスターを1体守備表示で特殊召喚する。この効果でレベル3のミスター・ボンバーを呼び戻す!」

 

 ユキを水砲から守るように赤い球体のロボットが現れるとその身で攻撃を受ける。

 

ミスター・ボンバー 守備力900

 

「この効果で呼び出したモンスターはこのターン破壊されない」

 

 一定時間の効果がある耐水性の加工が施されており、水砲は弾かれていった。

 

「……なるほどね」

 

(だが確実に俺の場とユキの場の戦力差を広げられた。ここでさらに戦力差を広げ、(のち)のための一手も打っておこう)

 

「メインフェイズ2に入り、オキシゲドンを召喚する!」

 

 フィールドに小さな竜巻が発生するとその竜巻に風で出来た翼と尻尾が生えてワイバーンとなり、咆哮をあげた。

 

オキシゲドン 攻撃力1800

 

「さらにトラップガード、連鎖破壊(チェーン・デストラクション)。攻撃力2000以下のモンスターが呼び出された時に発動でき、その効果で召喚したプレイヤーのデッキにある同名カードを全て破壊する」

 

「え……? 自分のデッキを……破壊?」

 

 三沢のデッキを2本の鎖が貫くとそれぞれに突き刺さったオキシゲドンのカードが墓地へと埋葬された。

 

「これでターンを終了するよ」

 

三沢 LP4000

 

フィールド 『ハイドロゲドン』(攻撃表示)×3 『オキシゲドン』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札3

 

「ああ……三沢君のフィールドに4体のモンスターがいるのにユキの場には攻撃力が低いモンスターが1体いるだけ。圧倒的っす……」

 

「どうだろうな。何が起こるのか分からないのがデュエルの面白いところだぜ」

 

「ユキのターン……ドロー。このスタンバイフェイズで伏せカードを発動させる」

 

「何……?」

 

「トラップカード、逆さ眼鏡。このターンに限り、フィールドにいる全てのモンスターの攻撃力は半減する」

 

 時空が歪んでいくと全てのモンスターの身体が小さくなっていった。

 

ミスター・ボンバー 攻撃力1000→500

 

ハイドロゲドン×3 攻撃力1600→800

オキシゲドン 攻撃力1800→900

 

「なるほどね。逆さ眼鏡を発動した後に呼び出したモンスターはその効果を受けない。そこを利用してモンスターを減らそうということか」

 

「半分正解。だけど半分は……不正解? ミスター・ボンバーの効果を発動! このモンスターはスタンバイフェイズに生贄に捧げることで、攻撃力1000以下のモンスターを2体破壊出来る……!」

 

「なっ……」

 

「狙いはオキシゲドンとハイドロゲドンを1体ずつ。……起爆!」

 

 球体のロボットがオキシゲドンとハイドロゲドンの足元に小さな爆弾を投げ込むと、自身の頭に取り付けられたスイッチを起動する。するとロボット自身が起爆剤となって爆発し、投げ込まれた爆弾によって三沢のモンスターも消滅してしまった。

 

「逆さ眼鏡によって2体とも攻撃力が1000以下となってしまった。俺のバトルフェイズではなく、自分のスタンバイフェイズにこのコンボ攻撃を仕掛けるのが狙いだったのか……!」

 

「まだ終わりじゃない? 永続トラップ、リミット・リバース。攻撃力1000以下のモンスターを攻撃表示でユキの墓地から蘇らせる。戻ってきて、ミスター・ボンバー」

 

「……! ま、まさか……!?」

 

「そう、今はまだスタンバイフェイズ。2体のハイドロゲドンを対象に……起爆!」

 

 墓地からフィールドに繋がる小さな穴からロボットが復活すると爆弾を投擲し、自身を起爆剤として全てのモンスターを爆発させた。

 

「参ったな。まさかスタンバイフェイズで4体のモンスターが全滅させられるとは……!」

 

(これで三沢さんの場はがら空き。ここを攻めない手はない……! 見ていて亮さん、師匠)

 

 ユキは手札にある1枚のカードに目を向けた後、観客席にいる亮と吹雪の方に少しの間振り向き、意を決したように前を向いた。

 

「マシン・デベロッパーのさらなる効果を発動。このカードを墓地に送ることで、このカードに乗っていたジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ機械族モンスターを1体ユキの墓地から蘇らせる。あと1回だけ……お願い、ミスター・ボンバー」

 

 工場に送られた部品から赤い球体のロボットが復元されていく。部品の状態が悪く少しボロボロな状態ではあったがその機能は正常に稼働していた。役目を終えた工場は消滅していく。

 

ミスター・ボンバー 攻撃力800

 

(ユキのデッキにいたモンスターは全て機械族。だけど今までのデュエルでそれは更なる機械(マシーン)モンスターへの道を狭めていたことが分かった。このカードで今まで眠っていた機械(マシーン)モンスターの鼓動を呼び覚ます……!)

 

「融合呪印生物—地を召喚……!」

 

 地面が隆起していくと砕けた石が空中に集まっていき、脳のような形をした岩石のモンスターが宙に浮かんだ。

 

融合呪印生物—地 攻撃力1000

 

「なっ……岩石族のモンスターだと!」

 

(機械族以外のモンスターが入れられている可能性を想定していないわけではなかったが……少しでも読みとのズレがあると対応も遅れてしまう。対応力の向上のためにもこのデュエル、学ぶべきことは多そうだ)

 

 ユキが召喚したモンスター、そこから予想される戦術に心当たりがあった亮は吹雪に問いかけた。

 

「吹雪、もしかしてあの戦術をユキに教えたのか?」

 

「いや……僕はデュエル中に見せただけだよ。そこから学んだのは彼女自身さ。……とはいえあれからまだ2週間。慣れない戦術をこうもすぐに取り込めるとはね。まるでスポンジが水を吸収するようだ。……だけど僕と彼女では使うカードも戦術もまるで違う。ここからどういった展開に繋げるのか……楽しみだね」

 

「行きます。融合呪印生物—地の効果を自身とミスター・ボンバーをリリースすることで発動! このカードを含めた融合素材一組を自分フィールドからリリースすることで『融合』を使わずにその融合先となる地属性融合モンスターを融合デッキより特殊召喚することが出来る……!」

 

「『融合』を使わず、モンスターのリリースで融合モンスターを呼び出すだと……!?」

 

「さらに融合呪印生物は融合素材モンスターの代わりとすることが出来る。ユキはこのモンスターさんを二頭を持つキング・レックスとして扱う!」

 

 脳の形をした岩が頭の軸となり身体が岩石により作られていくと、もう一つの頭も岩石により形成され、二つの頭を持つ恐竜の姿となってミスター・ボンバーと渦により交わっていった。

 

生贄融合(リリースフュージョン)! ……噛み砕け、メカ・ザウルス!」

 

 威嚇が響き渡ると尻尾を大きく跳ねさせながら巨大な恐竜が姿を現す。右手には自身のものである鋭い爪が獲物を待つように鈍く光っていたが、左手には金属の固定具によってガトリング砲が取り付けられていた。

 

メカ・ザウルス 攻撃力1800

 

「くっ……だが融合前と総攻撃力に変化はない」

 

「それは……どうかな? 装備魔法、フュージョン・ウェポンをメカ・ザウルスに装備。このカードはレベル6以下の融合モンスターにのみ装備出来る。メカ・ザウルスのレベルは5……条件は満たしている。その効果で攻守を1500上昇させる……!」

 

「なっ……」

 

 ユキの発動した魔法カードから放たれた光がメカ・ザウルスを包むと、光が止む頃には右手にもガトリング砲が取り付けられていた。

 

メカ・ザウルス 攻撃力1800→3300 守備力1400→2900

 

「攻撃力3300……!?」

 

「バトル。メカ・ザウルスで三沢さんにダイレクトアタック……!」

 

 砲口が三沢に向けられるとけたたましい音を響かせながら無数の砲弾が放たれた。恐竜の手に取り付けられるほど大きなガトリング砲であったため反動も凄まじいものだったが、強靭な体躯によりその反動を苦にせず標準がぶれることもなかった。

 

「ぐうっ……!」

 

三沢 LP4000→700

 

(これだ……デュエルにはこれがある。ターン開始時に4体のモンスターを並べた状態で攻撃力3000を超えるモンスターの直接攻撃を受ける確率はそう高くはなかった。だが0でなければどんなことが起こってもおかしくない……それがデュエルの醍醐味であり、計算しきれないところでもある)

 

「ターンエンド」

 

(攻撃力3300のモンスターをそう簡単には倒せない。このまま押し切る……!)

 

ユキ LP2700

 

フィールド 『メカ・ザウルス』(攻撃表示)

 

セット0 『補給部隊』 『フュージョン・ウェポン』 『リミット・リバース』(使用済み)

 

手札1

 

(……状況は劣勢。だがここから修正する……!)

 

「俺のターン! ……マジックカード、化石調査! デッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える。俺はレベル5のデューテリオンを手札に加え、そのモンスター効果を手札から捨てることで発動する!」

 

 調査班によって発掘された恐竜の骨が空気に触れると、途端に骨が水を纏って荒々しい足取りで歩きだした。

 

「デューテリオンの効果により俺はボンディングトラップ、ボンディング—DHOを手札に加える!」

 

「トラップを手札に……」

 

 デューテリオンが立ち止まると尻尾を地面に叩きつける。すると地中から水が勢いよく噴き出し、押し出された1枚のカードが三沢の手に収まった。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「え……」

 

三沢 LP700

 

フィールド 無し

 

セット1

 

手札3

 

(どういうつもり? あれではトラップを伏せたと宣言しているようなもの……)

 

「ユキのターン、ドロー」

 

 ユキはドローしたカードを手札に加えると手札とフィールドを見比べるように見渡す。しかし次の行動を決めかねていた。

 

(ダイレクトアタックのチャンスとはいえ……トラップの可能性が高いのに攻撃を仕掛けていいのかな。でもこのチャンスを逃して時間を与える訳にも……)

 

(悩んでいるな。伏せカード1枚のみでも案外見た目ほどの攻めやすさはないかもしれない。ここから予測される選択はこのまま攻撃、追撃のモンスターを出して攻撃、伏せカードの除去や無力化、あるいはトラップを警戒して攻撃しないといったところか。だが選択次第で俺に有利になることはあっても、俺なりにどの選択でも対応出来る策を用意したつもりだ。……さあ、どう来る!)

 

 しばらく考え込んでいたユキだったが、状況を整理し終えると決心した。

 

「……バトル! メカ・ザウルスでダイレクトアタック!」

 

(俺に時間を与えないためにリスクを負って攻撃、ただし追撃のモンスターを呼ぶまでのリスクは負わなかったか……)

 

「墓地のデューテリオン、ハイドロゲドン、オキシゲドンを1体ずつデッキに戻すことでボンディング—DHOを発動する!」

 

「やはりトラップ……!」

 

「重水素と水素と酸素が結合することで重水が生成される。方程式は整った! 効果により手札のウォーター・ドラゴン—クラスターが特殊召喚される!」

 

 三沢のフィールドが水で満たされていく。水が激しくうねると波が二つの首となって生えていき、双龍となって顕現した。

 

ウォーター・ドラゴン—クラスター 攻撃力2800

 

「ユキのターンに最上級モンスターを特殊召喚……でもその攻撃力なら倒せる!」

 

「そう簡単にはやらせないよ。ウォーター・ドラゴン—クラスターには2つの効果がある。1つ目の効果は特殊召喚に成功した場合にこのターン相手フィールドの効果モンスターの攻撃力を0とし、その効果の発動を封じる効果だ」

 

「……!」

 

 双龍が口から水を放つと、水が通った場所が絶対零度に限りなく近い温度の氷となっていく。やがて放たれた先にいたメカ・ザウルスに直撃し、その身体を凍らせた。

 

「……そうはさせない」

 

「……!」

 

 身動きが取れなくなった恐竜だったが、絶滅を回避すべく本能的に内部に仕込まれていた機械を動かすと稼働により発生した熱が氷を溶かしていき、身体の自由を取り戻した。

 

「メカ・ザウルスは一切の効果を持たない……よってその効果を受け付けない」

 

(そう……多くのモンスターへの対応が可能なウォーター・ドラゴン—クラスターだが万能ではないんだよな。しかし結果的に影響が無かったとはいえ追撃のモンスターが出た際の対策として悪くは無かったはずだ)

 

「あれっ、効果を持たないモンスターってことはメカ・ザウルスは通常モンスターってことっすか?」

 

「いえ、違うわ。融合や儀式モンスターはたとえ効果を持たなくとも通常モンスターとしては扱われないのよ」

 

「ええっ!? じゃあどういう扱いなんすか?」

 

「通常モンスターでも効果モンスターでもないそれ以外のモンスター……としか言いようがないわね」

 

「な、なんかややこしいっすね……」

 

「へへっ……勉強が足りないな、翔」

 

「アニキだって分かってなかったじゃないっすかー!?」

 

(兄さんは私のプライドが高すぎるって言ったけど、さすがに感覚派のこの二人に相談する気にはなれないわね……)

 

 吹雪のアドバイスを受けてデュエルを見ながら相談の相手を探していた明日香。セブンスターズとの戦いで活躍した十代に相談することも考えていたが、彼が戦術面でのアドバイスをする姿は想像出来ず候補から外した。

 

「だがメカ・ザウルスのみで攻撃してきた時の対策も十分にしている。ウォーター・ドラゴン—クラスターの2つ目の効果を発動! 自身をリリースすることでデッキから2体のウォーター・ドラゴンを召喚条件を無視して守備表示で特殊召喚する!」

 

「……! ドラゴンが分離していく……!?」

 

 双龍を繋ぐ水が分裂していくと、それぞれが独立した水龍としてその胴体を激しく波打たせた。

 

ウォーター・ドラゴン×2 守備力2600

 

「なら攻撃対象をウォーター・ドラゴンへと変更……!」

 

 恐竜が大きく口を開くとのぞかせた砲塔から火炎放射を放ち、水龍を蒸発させてしまった。

 

「破壊されたウォーター・ドラゴンの効果を発動! このカードが破壊された時、墓地に眠るハイドロゲドン2体とオキシゲドン1体を復活させることが出来る!」

 

「うっ……」

 

 三沢のフィールドの半分から水が消え去ると水蒸気に紛れて3体の恐竜が墓地より帰還した。

 

ハイドロゲドン×2 守備力1000

オキシゲドン 守備力800

 

「モンスターがいない状態から4体のモンスターが……ターンエンド」

 

(ユキのターンなのにまるで三沢さんのターンのような錯覚に陥るほどの展開……。攻撃力を超えられてないとはいえ、このままだとまずいかもしれない)

 

ユキ LP2700

 

フィールド 『メカ・ザウルス』(攻撃表示)

 

セット0 『補給部隊』 『フュージョン・ウェポン』 『リミット・リバース』(使用済み)

 

手札2

 

「俺のターン! 墓地のボンディング—DHOを除外して効果を発動する。これにより墓地のウォーター・ドラゴンを手札に加え……マジックカード、トレード・イン。手札のレベル8モンスター……今加えたウォーター・ドラゴンを墓地に捨てることで2枚のカードをドローさせてもらうよ。……よし」

 

「ん……」

 

「このカードは通常召喚出来ない代わりに自分フィールドのレベル7以上のモンスターを1体リリースすることで手札から特殊召喚することが出来る。ウォーター・ドラゴンをリリース!」

 

 三沢のフィールドを覆っていた全ての水が流されていくと、黒のパーツを接合部として紫色の胴体や手足を繋いだマシーンが代わりに出現した。

 

「出でよ、プラズマ戦士エイトム!」

 

プラズマ戦士エイトム 攻撃力3000

 

「おお……!」

 

「……ユキ、すまないがプラズマ戦士エイトムは機械族じゃなく雷族だ」

 

 頭に取り付けられた4つのアンテナの間に電気が走った。

 

「え……そうなの?」

 

(いや……でも、電気と機械は切っても切れない関係。むしろアリなのかもしれない……)

 

「バトルだ! プラズマ戦士エイトムで攻撃を仕掛ける!」

 

「……えっ、攻撃力がメカ・ザウルスより低いモンスターで攻撃……!?」

 

 一瞬、思考が飛びかけたユキだったが現実に戻ってくると三沢の宣言に違和感を覚えた。

 

「プラズマ戦士エイトムは相手に与えるダメージが半分になる代わりに直接攻撃をすることが出来る。よって攻撃の対象は君自身だ!」

 

「モンスターを超えてダイレクトアタック……!」

 

 マシーンが電気を上空に放つと、ユキの頭上に暗雲が立ち込めて雷が落とされた。

 

「ううっ……」

 

ユキ LP2700→1200

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

(もう一度ダイレクトアタックを受けたら終わり。次のターンでメカ・ザウルスで攻撃してエイトムは倒さないと……ん?)

 

 ユキは3番コートの試験官を務めているクロノスに目を向けると彼とのデュエルを思い出し、自分が焦っていることに気がついた。

 

(……そうだった。まずはドローしてから考えよう)

 

三沢 LP700

 

フィールド 『プラズマ戦士エイトム』(攻撃表示) 『ハイドロゲドン』(守備表示)×2 『オキシゲドン』(守備表示)

 

セット1

 

手札2

 

「ユキのターン……ドロー!」

 

 ユキは新たなカードを手札に収めると改めて戦略を脳内で組み始めた。

 

(カードが色んな道を示してくれている……。その中で勝利に向かうルートを見つけることこそ、ユキの務め。……よし)

 

 しばしの間考え込んでやや目線が下がっていたユキの顔が意を決したように上げられた。

 

(来るか……)

 

「……神機王ウルを召喚!」

 

 足に当たる部分が地面の一点を指すように鋭く尖った人型のロボットが稼動音を立てながら出陣した。

 

神機王ウル 攻撃力1600

 

「新たにモンスターを出したか……」

 

(メカ・ザウルスでエイトムに攻撃し、神機王ウルでオキシゲドンを倒す算段か?)

 

「さらにマジックカード、渾身の一撃を神機王ウルを対象に発動する……!」

 

「……!」

 

「このカードの対象となったモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、このモンスターの攻撃で発生する戦闘ダメージは互いに0になる。またこのモンスターが相手モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算後に相手モンスターは破壊される……!」

 

(……そう来たか。ならばプランBに変更する!)

 

「やらせはしない! トラップカード、白の咆哮(ホワイト・ハウリング)を君の墓地にあるマシン・デベロッパーを対象に発動! このカードは水属性のモンスターが俺の場にいるとき発動が可能……俺の場には水属性のハイドロゲドンがいるため条件はクリアしている。対象とした相手の墓地の魔法カードを除外することでこのターン、相手のフィールドの魔法カードの効果は無効化される!」

 

「……! ユキの魔法カードが……!?」

 

 ユキが発動した渾身の一撃を覆うように津波が襲いかかり、カードを流していった。すると津波に巻き込まれた基地とメカ・ザウルスの左手に取り付けられたガトリング砲も被害を受けてしまった。

 

メカ・ザウルス 攻撃力3300→1800 守備力2900→1400

 

「う……渾身の一撃が無効化されただけじゃない。補給部隊とフュージョン・ウェポンまで無効に……あっ! このターン、メカ・ザウルスでエイトムに攻撃していたら、フュージョン・ウェポンが無効化されることで1200ダメージを受けてユキのライフは尽きていた……!?」

 

(気づいたか。そう……それが俺のプランA)

 

 攻撃を凌がれるどころか、三沢はこのターンでカウンターによる決着を狙っていたことに気がつくとユキの頬に冷や汗がつたった。

 

「だが白の咆哮が成立した以上、君はもうこのターンマジックカードの効果を使えない。そして場のモンスターではエイトムを倒せない。つまり次のターン、エイトムのダイレクトアタックが君を襲う」

 

(……ユキの手がここまで封じられるなんて。それにユキの使う永続魔法や装備魔法は場にずっと残るからそれだけで相手にとっては影響がある。だけど明日香さんといい、三沢さんといい、この戦術に頼ってばかりいたらすぐにやられてしまう……!)

 

(三沢君……彼はセブンスターズとの戦いこそタニヤに敗れたものの、戦術の広さには驚かされるばかりだわ。確かに私もユキとの戦いで永続魔法の戦術には対応したけど、あれは亮とユキが戦ったデュエルを見ていたからこそ。情報のない彼がここまでユキの手に対応出来るなんて……)

 

 ユキと三沢のデュエルにさまざまな思いが交錯する中、ユキは手札に残された最後のカードを取り出した。

 

「……確かにあなたの戦術にはほとんど隙がない。だけどまだ残されたか細い道にユキのモンスター達がレールを繋いでくれている……!」

 

「なに……!」

 

「メカ・ザウルス、神機王ウルは共に機械族・地属性モンスター。この条件を満たすモンスターのみが自分フィールドに存在する時、このカードは手札から特殊召喚することが出来る……!」

 

「……! 特殊召喚効果を内蔵するモンスターか……!」

 

 メカ・ザウルスが尻尾で地面を払い、耐久が落ちた地面を削るようにして神機王ウルが道を作るとレールが敷かれていき線路となった。

 

「悠久の彼方より轟音響かせ、誰よりも速く駆け抜けろ! 発進せよ、弾丸特急バレット・ライナー!」

 

 フィールドに強風が吹いたかと思えば、目にも留まらぬスピードで弾丸列車が敷かれた線路に到着していた。

 

弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000

 

「バトル。神機王ウルでオキシゲドンに攻撃……!」

 

 神機王ウルが身につけた赤い装甲で円を描くように回転を始めると、切れ味を増した金属の爪がオキシゲドンを切り裂いた。

 

「くっ……オキシゲドンは守備表示。ダメージはない」

 

「だけどここで神機王ウルの特殊能力が発揮される。このモンスターはフィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃が可能……2体のハイドロゲドンに連続攻撃……!」

 

「し、しまった……!」

 

 切り返すように逆回転へと切り替えるとハイドロゲドンに逃げる間も与えずに、刃のごとき切れ味で襲いかかった。

 

「弾丸特急バレット・ライナーは攻撃時に自分フィールドのカードを2枚墓地に送らなくてはならない。リミット・リバースと補給部隊を墓地に送ることでプラズマ戦士エイトムに攻撃……!」

 

(くっ……想定が足りなかったか)

 

 レールの行き先にいたロボットは目視こそ出来なかったがレールの方向に拳を力一杯突き出すと向かってきた弾丸列車に直撃させる。互角の力でぶつかり合った2つの機体は衝撃により木っ端微塵となってしまった。

 

「道は開けた……! メカ・ザウルスで三沢さんにダイレクトアタック!」

 

 津波の影響で脆くなったガトリング砲を振り払うと、恐竜は自身の持つ凶暴な爪を振りかざして、三沢に向けて振り下ろした。

 

(俺もまだまだだな。……だがそれはまだ強くなれる余地があるということでもある)

 

三沢 LP700→0

 

 メカ・ザウルスの一撃が決まり、デュエルの幕は閉じられた。二人は一礼すると、次の試験者の邪魔にならないようレイ達の待つ観客席へと戻った。

 

「ユキ、お疲れ様!」

 

「うん……ありがとう」

 

 観客席に戻ると三沢はバッグからノートを取り出し、一心不乱に何かを書き出した。

 

「み、三沢さん?」

 

「ん? ああ……ユキか」

 

 三沢は書き始めで既に集中力が高まっていたのか、一瞬話しかけてきたユキに戸惑いを示したが、ユキであることに気づくとノートを書く手は緩めずに話を始めた。

 

「えっと……何をしているの?」

 

「今はまずこのデュエルの情報をメモしているんだ。これが終わったら俺のタクティクスを客観的に評価し、またデッキに改善点がないかなど……色々やることはあるかな」

 

「そ、そんなに書くことが……? 確かに今の勝負はユキが勝ったけど、相手をしたユキからしても三沢さんのデッキには改善点があるとは思えないほど隙は無かった……」

 

「いや……そうでもないさ。例えば今回のデュエル、4ターン目と8ターン目の開始時に俺は4体のモンスターを並べているがどちらも直接攻撃を受けてしまっている。俺は今回のデッキ、展開力に比重を置くことで攻撃はもちろん防御面での効果が期待できると踏んでいた。しかしそれは安易な判断だった……展開力は必ずしも防御力に直結するとは限らないということが分かったよ。他にもあるかもしれないが、まずはこれが一番改善すべき点だ」

 

「な……なるほど」

 

「これもユキが全力で向かってきてくれたおかげさ。弱点を知らずに強くなることは出来ない。こうして自分の弱い所を知り、改善してまた試す。このトライアンドエラーこそ大事なんだ」

 

「……確かに。ユキも勝利に驕らずに、また色々試してみます」

 

「ああ。それがいい」

 

 三沢がユキに解説するように今回のデュエルのことを話していく。それはユキだけではなく近くに座っていたレイや明日香達にも聞こえていた。

 

 生徒達全員の試験が終了すると張り詰めていた緊張の糸が切れて、対照的な騒がしさが会場を包み込む。ユキとレイは不安視していた筆記試験、実技試験が良い出来であった確信があったため、上機嫌で共にブルー寮に帰っていった。

 

(……あとは寮に帰ってからにするかな)

 

 近くにいた十代達を含めて多くの生徒が会場から出ていた中、情報をまとめていた三沢は区切りのいいところまで書いたところで会場を出ようとした。

 

「待って」

 

「……!」

 

 そんな彼をある人物が呼び止めた。

 

「あなたに……相談したいことがあるのだけれど」

 

「……驚いたな。オベリスクブルーに誇りを持つ君がラーイエローの俺に相談するとは思わなかったよ」

 

 三沢は後ろから呼び止めた人物の方に振り返るとその名を口にした。

 

「天上院君」

 

 明日香もまた自分を変えようと一歩踏み出した——。

 




ミスター・ボンバーの効果説明が出る前に効果を思い出せたあなたはデュエリストレベルが1アップ!


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訪れる変化

明けましておめでとうございます!


 試験の翌日、ユキとレイはオベリスクブルーの男子寮を訪れていた。

 

「……来た」

 

「あっ、亮様!」

 

「ユキ、それにレイ。どうしてここに?」

 

 亮は彼女達がセブンスターズとの戦いに巻き込まれた時のように何かトラブルがあったのかと二人を心配したが……

 

「遊びに来ました!」

 

 元気に返事をするレイと同意するように頷くユキを見て心配は杞憂に終わったことを知り、胸をなでおろした。

 

「本当は入学してからすぐにでも遊びに来たかったんですけど……」

 

「入学していきなり学園祭。その後にセブンスターズの騒動。落ち着いたと思ったら試験が迫っていて、中々遊びに行くタイミングが無かった……」

 

「……なるほど。大変だったな、二人とも」

 

 なんでもない事のように努めて明るく振る舞う二人だったが、不慣れな環境、年齢差による逆境に加え、非日常的な騒動に巻き込まれた彼女達が背負った苦労や乗り越えるためにしてきた努力を察した亮は二人に近づくとそれぞれの頭にそっと手を乗せ、そのまま優しく頭を撫でた。

 

「あ……」

 

「亮様。へへへ……」

 

 ユキは目を丸くした後に赤くなっていく顔を俯かせ、レイは手を乗せられた時こそ驚いて身体を震わせたが、撫でられると安堵と照れが混じったような声が漏れた。だが三人がいた場所はブルー男子寮のエントランスホール。男子生徒達がいる中で起こす行動としては注目を集めることは避けられなかった。

 

「あれってカイザーと……あの二人は誰だ?」

 

「確かあの二人は最近転入してきた……」

 

「もしかしてカイザーの妹なのか?」

 

 亮が持つ硬派な印象か、あるいは亮と彼の腰あたりまでの身長しかない二人との目に見えて分かる年齢差の影響もあるだろうか。恋愛関係より兄妹のように見えたようで大きな騒ぎにこそ繋がらなかったが、興味を持った男子生徒達の注目は集まるばかりだった。

 

「……やけに人が集まってきたな。とりあえず俺の部屋にでも来るか? 大したもてなしは出来ないが……」

 

「亮さんの部屋行ったことない……行ってみたいです」

 

 亮の案内で階段を登った先にある亮の部屋に招待された二人はその部屋に足を一歩踏み入れた。

 

「お邪魔します。……おお……」

 

 同じブルー寮の部屋とはいえ、多少物が散らばってしまっている彼女達の部屋と比べて隅々まで整頓された内装に思わずユキは息を飲んだ。

 

「失礼しまーす! ……この部屋に入った日が懐かしく感じるなあ」

 

「ふ……そういえばレイは俺の部屋に忍び込んだことがあったな」

 

「あ、あはは……ごめんなさい」

 

「もう気にしてないさ。二人ともどこか適当な所に腰掛けてくれ」

 

 ユキとレイが興味津々といった様子で部屋を見渡していると、亮は何か出そうと棚と簡易的な冷蔵庫を覗き込む。しかし普段人があまり訪ねてこないことや食事は食堂で取ることから出せるものは限りなく少なかった。とりあえず飲み物を……と探してみると棚にはインスタントコーヒーの粉が入った瓶が、冷蔵庫には麦茶が入っていた。

 

「……二人ともコーヒーは飲めるか?」

 

「コーヒー……ごめんなさい。僕ちょっとコーヒーは飲めないです」

 

「ユキも……お砂糖沢山入れないと飲めない」

 

「そうか。なら麦茶を入れよう」

 

 そう言うと亮はコップを3個取り出し、麦茶を注いでいく。

 

「……ねえ、ユキ」

 

「どうしたの?」

 

 クッションなども見当たらなかったので適当な所に腰を下ろした二人は少し離れた位置にいる亮に聞こえないよう小声で話し始めた。

 

「僕達子供っぽく見られてるのかな……?」

 

「ううん……そうかもしれない? さっきエントランスホールで周りの人から妹に見えてたみたいだし……」

 

「そうだったよね! 亮様は気づいてなかったみたいだけど……」

 

「コーヒー……飲めるようになれば、ちょっとは大人っぽく見えるかな」

 

「それだ! コーヒー飲めるように特訓して、あと身長も伸ばすためにジュースは出来るだけ我慢して牛乳も飲むようにしようよ!」

 

「名案……!」

 

 大人のレディを目指すべく二人の少女が小さな決意を固めた瞬間、ドアからノック音が響いた。

 

「亮、いるかい?」

 

「吹雪? ……二人とも、ちょっと待っててくれ」

 

「了解です」

 

「はーい!」

 

 注ぎ終えた麦茶を運ぼうとした亮だったが、来訪者に気づくとドアを開いて一旦外に出ていった。

 

(おっと……ユキとレイが遊びに来ていたところだったか)

 

 ドアが開いてから閉じられるわずかな瞬間で吹雪は中にいた二人に気がついた。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや……せっかくの休みだし明日香と過ごそうと探していたんだが見当たらなくてね。女子寮にいなかったから君のところにいるかと思ったんだが……」

 

「いや、俺のところには来ていないな。悪いがどこにいるかも分からない。……同じ寮に住んでいるユキかレイなら知っているかもしれない。聞いてこよう」

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

「……?」

 

 ユキとレイに明日香の居場所を訪ねるべく部屋に入ろうとドアノブを掴んだ瞬間、慌てて吹雪はその動きを止めさせた。

 

「……万丈目君と明日香のラブデュエルの前にユキとレイから聞いたよ。どうやら僕が休んでいる間に告白されたようじゃないか」

 

「う……話したのか」

 

 吹雪に知られたら面倒なことになるというある種の確信を持っていた亮はあえてそのことを隠しており、バレてしまったことで頭を抱えたくなった。

 

「どうして僕に一言も言ってくれなかったんだ! ……といきたいところだけど、一旦置いておこう。そんな彼女達が遊びに来てくれたんだろう? それなのに他の女性の名前を出すのはあまりよろしくないんじゃないかな」

 

 吹雪は調子に乗ったように大仰な仕草で切り出したが、途端落ち着いた雰囲気に変わるとそのまま話を続けた。

 

「そうか? 彼女達と明日香は十分に親しいし、問題はないと思うが……」

 

「乙女心をわかってないね、亮。頭では彼女達もそう思ってくれるかもしれないが、心の奥底ではがっかりしちゃうものさ」

 

「そういう……ものか」

 

「だね。明日香は自分の力で探してみるよ。……そうだ。僕がいない間に彼女達とどんなことがあったのか、また今度詳しく聞かせてもらうよ」

 

「うっ……」

 

 吹雪が言い終わるか否か、話をする提案を断る間も無く、左手でドアを開けた吹雪は亮の背中を右手で押してドアを閉める。しばらくするとユキとレイの楽しそうな声が部屋の外にいる吹雪にも聞こえてきた。

 

「よし。さてと……明日香はどこにいるのかな? 万丈目君が十代君の所にはいなかったって言ってたし、亮のところじゃないとすると……うーん」

 

 明日香の行きそうなところはおおよそ把握していた吹雪だったが、それでも彼女の居場所を探し当てることが出来ないでいた。そんな中、明日香はというと……

 

「……凄いわね。部屋中が数式だらけじゃない」

 

「いやあ……昨日のユキとのデュエルの後さらに増えちゃってね」

 

 イエロー寮の三沢の部屋に招かれていた。天井まで埋め尽くすように書かれた数式に目を大きく見開き、不思議そうに見渡している。

 

「さて、昨日の相談のことだが……」

 

「ええ……あなたに戦術の指導をお願いしたいわ」

 

「構わないよ。だがその前に今の君のデュエルを見せてもらおう」

 

「分かったわ。でも指導を受ける立場とはいえ、負けるつもりはないわよ」

 

「勿論、そうこなくてはね」

 

 明日香はやる気十分といった様子で青いグローブをはめるとディスクを展開していった。

 

「さて……デュエルの前に聞いておこう。君はどんなデュエルを目指しているんだい?」

 

「えっ……」

 

「大きく分けるだけでもビートダウン、バーン、デッキ破壊、あるいは特殊勝利なんてものもあるのがデュエルモンスターズの特徴だ。俺の理想はどんなタイプの相手であろうと、対応しきるデュエル。……現実は中々厳しいけどね。こうやって戦術を練り続けて、いつかは対応力Sのデッキに辿り着くつもりさ」

 

「私は……私のデュエルはあくまで攻めのデュエル。肉を切らせて骨を断つ覚悟で相手のデュエルを断ち切るわ」

 

「なるほど……ならば昨日ユキとのデュエルで使った展開力に比重を置いたデッキではなく、防御力に重点を置いたこのデッキで挑ませてもらおう!」

 

(……! 攻めのデュエルを目指すなら守りのデュエルを突破してみろということね……!)

 

 三沢がディスクにセットされていたデッキを上着の内ポケットに収納していたデッキと入れ替えると、準備は整ったと言わんばかりにディスクを構えて向かい合った。

 

「「デュエル!」」

 

「こちらからいかせてもらうよ。俺のターン、ドロー! ……終末の騎士を召喚する!」

 

 年季の入った鎧を纏った歴戦の騎士が古びた赤いマントをはためかせながら見参した。

 

終末の騎士 攻撃力1400

 

「終末の騎士を召喚したことでデッキから闇属性モンスターを1体墓地に送ることが出来る。儀式魔人プレサイダーを墓地に送らせてもらう!」

 

 騎士の右手で鈍く輝く大剣が地面に突き立てられると三沢のデッキから闇を纏った魔人の魂が墓地へと埋葬された。

 

「儀式魔人……?」

 

「さすが儀式デッキの使い手……察しがいいね。俺は儀式魔法、リトマスの死儀式を発動! このカードによりレベルの合計が8以上になるようモンスターを生贄に捧げ、儀式召喚を行う。俺はフィールドのレベル4モンスター、終末の騎士と……墓地に眠るレベル4の儀式魔人プレサイダーを儀式召喚の素材とする!」

 

「なっ……墓地のモンスターを儀式召喚に使用するですって!?」

 

「儀式魔人は墓地から除外することで儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として扱えるのさ。よって手札のこのモンスターの儀式召喚が行われる!」

 

 騎士と魔人が供物として捧げられると8つの闇色に染まった炎が円を描くように並ぶ。

 

「出でよ、リトマスの死の剣士!」

 

 炎の円の中心から2本の刀の刀身を抜いた剣士が地面を切り裂くようにして現れた。

 

リトマスの死の剣士 攻撃力0

 

「くっ……やるわね。レベル8のその儀式モンスターを呼び出すには儀式魔法、儀式モンスター自身に加えて、レベルの合計が8以上になるように生贄に捧げる必要があった。とはいえレベル8以上のモンスターを大量にデッキに入れるのは難しい……だから普通なら消費も激しくなるところを儀式魔人によって補ったのね」

 

「その通り! 俺は2枚のカードを伏せてターンエンドだ」

 

三沢 LP4000

 

フィールド 『リトマスの死の剣士』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札1

 

(確かあのモンスター……十代とのデュエルで使っていたわ。トラップカードが表側表示である限り、攻守を3000上昇させる効果があったはず……)

 

「私のターン、ドロー!」

 

(……儀式モンスターには儀式モンスターで対抗してみせる!)

 

「サイバー・プチ・エンジェルを召喚!」

 

 頭に光の輪をつけ、背中からは羽を生やした機械の天使が地上に舞い降りた。

 

サイバー・プチ・エンジェル 守備力200

 

「サイバー・プチ・エンジェルが召喚に成功したことでデッキから機械天使の儀式を——」

 

「おっと、そうはさせない! ライフを1000払うことで永続トラップ、スキルドレインを発動させてもらうよ。このカードがある限り、フィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される!」

 

三沢 LP4000→3000

 

(……! 表側表示モンスターの効果を全て無効化するカード……!? それを通すわけにはいかない!)

 

「速攻魔法、サイクロンを発動! このカードはフィールドの魔法または罠カードを1枚破壊出来るわ。この効果でスキルドレインを狙う! あなたがそのモンスターと相性の良い永続トラップを伏せていたのは読めていたわ!」

 

「だが逆もまた然り。リトマスの死の剣士の効果を考えてもスキルドレインの制圧力を考えても、君が是が非でもこのカードの破壊を狙うのはこちらも読めていた。さらに永続トラップ、宮廷のしきたりを発動! このカードがある限り、宮廷のしきたり以外の永続トラップを破壊することは出来なくなる!」

 

「なっ……!?」

 

 明日香が発動したマジックカードから台風が吹き荒れ三沢の場に現れた装置を吹き飛ばそうとしたが、軌道がそれていってしまう。台風が落ち着くと今度は装置が稼働して天使の生気を吸い取っていった。

 

「サイバー・プチ・エンジェルの効果が……」

 

(まずい。儀式魔法が無ければ荼吉尼(ダキニ)の召喚に繋げられない……! 繋げられたとしてもスキルドレインの効果で呼び出した儀式モンスターは無力化されてしまう……)

 

「デッキには色々な種類があるがモンスター効果を封じられて影響がないデッキというのはほとんどない。このカードで君の動きは制限させてもらう。さらにリトマスの死の剣士の特殊能力により、このカードの攻撃力及び守備力は3000上昇する!」

 

「くっ、スキルドレインでフィールドの表側表示モンスターの効果は無効にされているけれど……」

 

 剣士の生気を吸い取ろうと動き出す装置だったが、空気を切り裂くように不可視の力を弾き飛ばすと、逆に装置が得た力を吸収していく。

 

「そう……リトマスの死の剣士はトラップカードの効果を受けず、戦闘では破壊されないという効果を持つ。よってスキルドレインの影響下でも効果は無効化されず、本来の効果で戦うことが出来る!」

 

 剣士が纏っていた白装束が赤く染められていくと、剣に込められる力も増していった。

 

リトマスの死の剣士 攻撃力0→3000 守備力0→3000

 

(モンスター効果を封じられた上に相手の場にはトラップが効かない攻撃力3000のモンスター……この状況、かなりまずいわ)

 

「相手を自分の土俵に上がらせて相手の動きを制限しながら、自分は普段と変わらぬ動きで戦う。これがあなたの言っていたどんなデュエルにも対応するための一手ということね……」

 

「そういうことさ。さあ……どう来る?」

 

(この布陣自体は俺が目指すデュエルの理想形に近い。だが終わるまでは何が起こるか分からないのがデュエル。この布陣に穴があるのならば、きっと彼女はそこを突いてくるはず。このデュエルはなにも彼女のためだけじゃない、俺も得られるものがあるはずだ……)

 

 三沢は有利な場を形成しながらも明日香の一挙手一投足を観察し、油断を見せることはなかった。

 

「私は……マジックカード、天空の宝札を発動。このターン私は特殊召喚とバトルが封じられる代わりに、手札の光属性・天使族のモンスター……ダキニを除外することで2枚のカードをドローするわ」

 

 明日香が機械天使を天に捧げると、その対価として2枚のカードが彼女にもたらされた。

 

「……カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

明日香 LP4000

 

フィールド 『サイバー・プチ・エンジェル』(守備表示)

 

セット1

 

手札3

 

「俺のターン! 君はさっきこの場で俺は普段と変わらぬ動きが出来ると言ったが、時にそれ以上の動きも出来る」

 

「そんな……スキルドレインの効果でモンスターの効果は無効化されるのよ?」

 

「ああ……だからこそさ。このモンスターはレベル8だが元々の攻撃力を1900とすることでリリースなしでの召喚を可能とする。来い、神獣王バルバロス!」

 

「妥協召喚モンスター……!?」

 

 身体の下半身が黒い獣、上半身が人間のものとなっている獣人が現れる。4本の足には鋭い爪が光り、右手には赤く長い槍が、左手には青く硬い盾が構えられていた。しかし場に現れた直後、召喚の代償として身体が小さくなっていく。

 

「だが場にはスキルドレインが存在するためバルバロスの効果は無効化される!」

 

「あっ! 攻撃力が1900となっているのは効果によるもの。効果が無効になることで攻撃力が元に戻る……!」

 

 装置が稼働すると小さくなっていた身体が元どおりの大きさとなっていった。

 

神獣王バルバロス 攻撃力1900→3000

 

「攻撃力3000ですって!?」

 

「このデッキ、展開力においては昨日のデッキほどではないからね。代わりに一気に高攻撃力に繋げられるギミックを入れさせてもらってるのさ」

 

(何が展開力不足よ。2ターン目の自分のターンで攻撃力3000が2体並べられるなら、十分な戦力じゃない……! それにあのモンスターのレベルは8、儀式召喚の素材としても悪くない。このデッキ相当練られているわね……!)

 

「バトル! リトマスの死の剣士でサイバー・プチ・エンジェルに攻撃!」

 

(……ここで伏せカードを使っても意味がないわ)

 

 迫る剣士から慌てて逃げる天使だったが、力が上手く入らず飛ぶことが叶わない。素早く動く剣士から逃れる術はなく、両手を使わずとも右手から振り下ろされた剣に軽く切り捨てられてしまった。

 

「くっ! 守備表示だからダメージは無いわ!」

 

「だがこの瞬間、リトマスの死の剣士の素材となった儀式魔人プレサイダーの効果を発動する! このモンスターを儀式召喚に使用したモンスターが戦闘によってモンスターを破壊したことで俺はカードを1枚ドローする! この効果は素材となったプレサイダーによるもの。よってスキルドレインの範囲外だ」

 

「……!」

 

(……そうよ! スキルドレインの効果はあくまでフィールド上のモンスターにしか適用されない。なら、私も完全にモンスター効果が使えないわけじゃない……!)

 

「ドロー! さらにバルバロスで天上院君にダイレクトアタック! トルネード・シェイパー!」

 

 4本の足をフルに使うことでバルバロスは神速を得て、フィールドを駆け出す。目にも留まらぬ速さで明日香に近づき、槍を螺旋状に回転させて突き出した。

 

明日香 LP4000→1000

 

「きゃあっ! ……やってくれたわね」

 

 バルバロスの攻撃を受けて大幅にライフを失った明日香だったが、その闘志はさらに燃え上がった様子だった。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

三沢 LP3000

 

フィールド 『リトマスの死の剣士』(攻撃表示) 『神獣王バルバロス』(攻撃表示)

 

セット1 『スキルドレイン』 『宮廷のしきたり』

 

手札1

 

「私のターン! 行くわよ! 儀式魔法、機械天使の儀式を発動!」

 

「……! スキルドレインが発動しているにも関わらずそれでも儀式召喚で向かってくるか……」

 

「このカードによりレベルの合計が呼び出すサイバー・エンジェル儀式モンスターのレベル以上になるようにモンスターを生贄に捧げることで儀式召喚を行うわ。私は手札のレベル6、サイバー・エンジェル—弁天—を生贄に捧げ、手札のレベル5のこのモンスターを呼び出す!」

 

 生贄に捧げられた機械天使の魂が天に届くと、天から一筋の光が差し、地面の一点が照らし出される。

 

「癒しの力を秘めし光の天使よ。麗しき姿で快癒をもたらせ。降臨せよ!レベル5、サイバー・エンジェル—那沙帝弥(ナーサテイヤ)—!」

 

 照らされた地面の上には馬の身体と4つの腕が生えた女性の人間の身体を持つケンタウロス型のモンスターが現れていた。

 

サイバー・エンジェル—那沙帝弥— 攻撃力1000

 

「だがスキルドレインによってナーサテイヤの効果は無効になる」

 

 装置が再び稼働していくとナーサテイヤの4つの腕に握られていた武器も脱力と共に地面に落とされてしまった。

 

「だけどリリースした弁天の効果を発動させてもらうわ! このカードがリリースされた場合、デッキから天使族・光属性のモンスター1体を手札に加えることができる!」

 

「……! 墓地のモンスター効果……スキルドレインの範囲外か!」

 

「そうよ! 私はこの効果で光神テテュスを手札に加える!」

 

 天に捧げられた弁天が祈りを込めると明日香のデッキに眠る天使が輝き出し、明日香の手に収められた。

 

「そしてナーサテイヤをリリースし……生贄召喚! 来なさい、光神テテュス!」

 

「なっ……折角呼び出した儀式モンスターをリリースだって?」

 

 ナーサテイヤが光となって消えると、その光が球形になっていく。やがて光が広がっていくと、その光の正体は中にいた女性の天使を覆うようにしていた2本の翼だった。輝かしい翼を広げて天使が宙を舞い、溢れるように光の粒子がフィールドに降り注がれる。

 

光神テテュス 攻撃力2400

 

「だが新たなモンスターを呼び出してもスキルドレインの効果からは逃れられない!」

 

 装置が動き出すと翼から光が失われていき、天使は弱々しく地上に降りた。

 

「手間をかけて呼んだ上級モンスターだがどうやら現状を突破する力はなさそうだな」

 

「ええ……その通りね。テテュス自体にこの状況を突破する力は無いわ。でもどうやら気づかなかったみたいね。私の狙いはこっちよ! 墓地のナーサテイヤの効果をリトマスの死の剣士を対象に発動するわ! この効果を発動するためには私の墓地にあるこのカード以外のサイバー・エンジェルモンスターを1体除外する必要がある……弁天を除外!」

 

「くっ……なるほどな。この布陣、墓地のモンスター効果に対応できないのは確かな弱点だ」

 

(そして穴があることに気づけばそこを的確に、かつ容赦なく突いてくる。……まさに攻めのデュエルといったところか)

 

「ナーサテイヤの効果! このカードを墓地から特殊召喚し、対象としたリトマスの死の剣士のコントロールを得るわ!」

 

「……!? コントロールを奪う効果だと……!」

 

「この布陣はあなたのモンスターが動きやすいように仕組まれたもの。ならあなたのモンスターを使って切り込ませてもらうわ!」

 

 ナーサテイヤが地面に空いた光の穴を通して4本の腕をゴムのように伸ばすと剣士を捕まえることに成功する。剣士を明日香の場に引っ張ると同時にナーサテイヤも穴を通って場に戻ってきた。

 

サイバー・エンジェル—那沙帝弥— 攻撃力1000

リトマスの死の剣士 攻撃力3000

 

「なるほど……俺がリトマスの死の剣士のためにフィールドを整えるなら、そのモンスターのコントロールを奪うことが最大の弱点と読んだわけか」

 

「そうよ! スキルドレインのコストによってあなたのライフは3000。このターンで終わらせる! バトル! リトマスの死の剣士でバルバロスに攻撃!」

 

 剣士が赤く染まった装束を風でなびかせながら、2つの剣を器用に扱いバルバロスに斬りかかった。

 

「いい判断だ。だが……俺も想定していなかったわけじゃない」

 

「……!? だけどリトマスの死の剣士はトラップの効果を受けないわ!」

 

「君は一点だけ俺のデッキを見誤った。俺のデッキは確かに最初は制限をかけて相手の手を絞り込む。だがこの制限を俺の任意のタイミングで外せたら、つまり俺に有利なタイミングで能動的に制限を解除できるように組まれていたとしたら……?」

 

「解除……。あっ!」

 

 何かに気がつきリトマスの死の剣士に手を伸ばす明日香だったが既に攻撃宣言を終えた今、止める術はなかった。

 

「少々狙いとは異なるがこういう手もある! 速攻魔法、非常食! このカード以外の俺の場のマジック・トラップカード……スキルドレインと宮廷のしきたりを墓地に送ることで、墓地に送った数×1000のライフを回復する!」

 

 装置を含む2枚のカードが光の粉へ変換されていくと、命の源となって三沢のライフを回復させていく。すると装置に取り込まれていた力も返されていき、ナーサテイヤやテテュスは封じられていた力を取り戻した。

 

三沢 LP3000→5000

 

「リトマスの死の剣士は場に表側表示のトラップカードがある限り、攻守を3000上昇させる。だがそれが無ければ本来のステータスである0に戻る!」

 

「くっ……しまった!」

 

 剣士の赤く染められた装束から色が抜けていき、トラップから吸収していた力も同時に失われてしまった。

 

リトマスの死の剣士 攻撃力3000→0 守備力3000→0

 

「リトマスの死の剣士はバトルでは破壊されないが、ダメージは受けてもらう。バルバロスの反撃!」

 

 急激に動きが鈍くなった剣士の隙を見逃さず、バルバロスは二刀流による斬撃を一撃目は盾で受け、二撃目をその類稀なるスピードで躱すと死角へと潜り込み、鋭い爪で装束ごと剣士を切り裂いた。

 

「くうっ……!」

 

明日香 LP1000→0

 

 決着がつき、それに伴ってソリッドヴィジョンも消えていく。明日香は今まで積み上げてきた自分の攻めが三沢の守りを突破出来ない結果になったことに(ほぞ)を噛んだ。

 

「そう落ち込むことはないんじゃないかな。このデッキにモンスター効果に重点を置いたデッキで挑んだ相手はほとんど何も出来ずに終えてしまうこともあった。デュエルは俺の勝ちだったが、儀式モンスター中心の君のデッキでここまで攻略したのはさすがだったよ」

 

「……慰めなんていらないわ」

 

「はは……勝つために戦ったんだ。少し無神経だったか。だがこのデュエルで君の課題は浮き彫りになったよ」

 

「……! それは一体……!?」

 

 明日香が落ち込んでいる間に三沢は机の上に置かれたノートにこのデュエルの経過を書き記し、そこから克服するべき点を割り出していた。

 

「細かいところを言えば色々あるだろうが……俺が気になったのは俺のターン、つまり君にとって相手のターンで受け身になっていたことだ。確かに俺の場にはトラップの効果を受けないリトマスの死の剣士がいたが、攻めのデュエルを目指すならば相手のターンでも受け身に回らず攻められるくらいの戦術を目指した方がいいんじゃないかと思ってね」

 

「あ、相手ターンでの攻めですって!? ……いえ、確かに……そうかもしれないわ。私のデッキに入っているトラップの多くは一度相手のターンをしのいで、自分のターンで攻めようというもの。でも攻めのデュエルを目指すなら、相手ターンでも自分のターンのように動けるのを目標にした方がいいのかもしれない。……その発想はなかったわ」

 

「いや、君は恐らく本能的にはそれを目指していたと思うよ。俺の読みが正しければその伏せカード……ドゥーブルパッセだ」

 

「読まれていたのね……」

 

 明日香が伏せていたカードを取り出して三沢に見せると、彼の読み通りドゥーブルパッセだった。

 

「モンスターへの攻撃を直接攻撃にする代わりに攻撃対象モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、さらに次の自分のターンに攻撃対象となった自分のモンスターにダイレクトアタックを可能にするトラップカード。まさに肉を切らせて骨を断つようなカードだ。相手ターンでも攻められるような君のデッキの新しい形……探してみる気はあるかい?」

 

「やるわ! ……とは言ってもどうしたらいいのかしら?」

 

「いきなり俺も正解をポンと教えられたりはしないさ。昨日も言ったが、トライアンドエラーの繰り返しで模索していくしかないのさ。大丈夫、試験後だからしばらくは試験休み……時間はあるさ。色々試していこう」

 

(こうやってデッキの形を模索していくのは俺の勉強にもなるし、素直に友人としても手伝ってあげたいからね)

 

 明日香がやる気になっているのを確認した三沢は先ほどのページに一戦目と記し、ページをめくって二戦目と題目をつけた。

 

(連戦で……意外と鬼ね。でも強くなるためにこれは必要……やってみせるわ!)

 

 明日香は自分の目指すデュエルにたどり着くために、試行錯誤を重ねるのだった。

 

 夕日が差し、もうしばらく経てば夜を迎えるであろう時間。ユキとレイはエントランスで亮と話していた。

 

「今日は楽しかったです。また……来てもいいですか?」

 

 普段あまり表情に変化がないユキだったが、楽しい時間を長く過ごせたことでその顔には誰が見ても分かるほど穏やかな微笑みが浮かべられていた。

 

「ああ、構わない。またいつでも来てくれ」

 

「本当!? 亮様、ありがとう!」

 

 レイも満面の笑顔を浮かべ、今日の時間が本当に楽しいものだったことを伺わせた。しかしここで話し込むと暗闇が帰路を照らしてしまうため二人は亮に見送られてブルー寮への帰り道を歩き出した。幸せを共有するように、亮のことや今日話したことなどを二人は話しながら歩みを進めていく。そんな彼女達の視界にある一人の男が森の奥に入っていくのが映った。

 

「……ん? あれって……万丈目さん?」

 

「あ、本当だ。こんな時間にどうしたんだろ? そろそろ暗くなるのに……」

 

 彼女達は顔を見合わせるとこの前の騒動で森から万丈目の叫び声を聞いたことを思い出し、不安になる。二人は相談して念のために追いかけてみることにした。小走りで万丈目が歩いていった方向に向かうと、案外すぐに追いつくことが出来た。

 

「万丈目さん。こんなところで何をしているの?」

 

「ユキ。それにレイか」

 

(こいつらも……いや、違うな……)

 

 追いついた場所は井戸があるところで、上り下りが出来るようにロープが垂らされていた。

 

「この井戸には使えないと思ったカードを捨てる不届き者がいてな。今こそ俺が拾った状態だが、ちょっと前までは酷かったもんだ」

 

「そんな……ひどい! 使えないと思ったから捨てるなんて自分勝手じゃないですか!」

 

「まぁ……そうだな。それでも確認すると捨てられていることがあるから、たまに見ているんだ」

 

「へぇー! 万丈目さんって思ったより優しいんですね!」

 

「思ったよりは余計だ!」

 

「ふふ……」

 

「ん? ユキ、やけに上機嫌じゃないか」

 

「……そう?」

 

 万丈目は今まで何回か彼女と会う機会があったが、ここまで柔らかく笑っているのを見たのは初めてといっていいくらいだった。そんな風に話しながら三人は井戸の中に入っていく。

 

(……あれは……)

 

(……あれ。どこかで見たことがあるような……)

 

 万丈目とレイが持つブラック・マジシャン・ガールの精霊がある一点を見つめる中、ユキは彼らが見ている方向とは別の場所にあった1枚のカードを拾い上げる。そのカードはモンスターカードで、決してステータスが高いモンスターではなかった。

 

「本当にカードが捨てられてる。最近、捨てた人がいるってことだよね……」

 

「……ちょっと悲しいな。確かにカードに強弱はあるのかもしれない。でもきっとどんなカードにも役割はある。ね……あなたもきっとデュエルで活躍出来る時を待ってるよね」

 

 海水が入り込んでいるようで少し水に触れていたそのカードを撫でるようにすると水が弾かれる。そしてユキはデッキの中にそのカードを入れた。

 

「もうこれで一人じゃないよ」

 

「ユキ……」

 

(……あのカード)

 

 万丈目がユキが拾ったカードに宿るものに気づいたと同時に、井戸の中にもう一人降りてきた。

 

「万丈目!」

 

「十代様!? なんでここに……」

 

(やはりお前も来たか……)

 

 十代は慌てたようにロープを勢いよく降りると、水を少し跳ねさせた。

 

「あれ、ユキにレイ? もしかしてお前らも……」

 

「違う、たまたまだ。……それよりお前らは早く帰った方がいい。そろそろ日が暮れるからな」

 

「あっ……本当だ!」

 

「……万丈目さんと十代さんは?」

 

「え? 万丈目、どういう……」

 

「まだ暗がりに落ちてるカードがあるかもしれないからな。俺と十代はそれを探してから帰る」

 

「……そう。分かった」

 

「十代様、また今度時間がある時に!」

 

「あ、ああ……」

 

(何がどうなって……ん?)

 

 万丈目の忠告を受けてユキとレイはロープを伝って上に戻っていく。すると十代は自身の持つ精霊のハネクリボーがユキの近くで別の精霊と話をしているのが見えていた。

 

(おっ! あれは……)

 

 ユキとレイは上がり終えると二人に挨拶した後、沈みかけた夕日に焦りながらブルー寮に帰っていった。

 

「さて……行ったか」

 

「万丈目! お前も予感がしてここに来たんだろ?」

 

「ああ、そうだ。だが二人にはあの渦は見えてなかったようだった。あれは精霊が見えない者の目には映らないらしい」

 

「そうなのか……。だから二人に帰るように言ったんだな」

 

「そういうことだ」

 

 万丈目と十代の目には宙に浮かぶ水色の渦が映っており、意を決して万丈目はその渦に手を近づけた。

 

「……? 触れん……」

 

「あっ、ハネクリボー!」

 

 ハネクリボーがゆっくり近づいていき、渦に触れる。するとハネクリボーが渦に飲み込まれていき、十代の身体にも変化が訪れた。

 

「……!」

 

「何!?」

 

 助けを求める声が十代に聞こえてくると、側にいた万丈目にも伝わった。すると十代もその渦の中へと飲み込まれてしまった。

 

「くっ……そういうことか。おい、起きろ!」

 

「んん……? どうしたのよ、万丈目のアニキー」

 

「いいから、こいつに触れろ!」

 

「もう。起きて早々精霊使いが荒いんだからー」

 

 眠っていたおジャマ・イエローが目を覚ますと渦に触れる。するとおジャマ・イエローが渦に飲み込まれ、万丈目も助けを求める声が届いた後、渦に飲み込まれていく。こうして井戸の中には静けさだけが留まった。

 




7話『遠い背中』のデュエル構成にミスがあったので12月31日に修正させて頂いたことを報告させていただきます。


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精霊の導き

カードは拾った。


「明日香様ー!」

 

「待ってくださいまし!」

 

「ジュンコ……それにももえ」

 

 三沢に相談して新たなデッキの形の模索を始めた翌日。今日もイエロー寮に出かけようとしていた明日香を呼び止めたのは彼女の友人であるジュンコとももえだった。

 

「やっと捕まえましたわ!」

 

「昨日はどこに行ってたんですか? 折角の試験休みなのに……」

 

「それはその……特訓よ」

 

「特訓……ですか?」

 

「ええ! 明日香様は特訓なんてしなくても強いじゃないですかー」

 

「……そんなことないわ。私はまだまだよ。この試験休みは特訓に当てるからあなた達に付き合うことは出来ないわ……ごめんなさいね」

 

「そ、そうなんですか……頑張ってくださいまし」

 

「ありがとう。行ってくるわ」

 

 そういうと明日香は新しいデッキの模索に気持ちがはやるのか、足早にブルー寮から去っていった。

 

「……最近の明日香様、構ってくれなくて寂しいですわ」

 

「そうねぇ。転入してきたユキとレイの世話を焼いてたみたいだし、自分の時間もあるからしょうがないとは思うけどさ」

 

 明日香は自身の性格と、亮に頼まれたということもあり年齢的に後輩である彼女達の世話に費やす時間が増えていた。そのため結果としてジュンコとももえに付き合う時間は確かに減ってきていた。

 

「ユキちゃんとレイちゃん……。そういえばあの二人も昨日今日と出かけてますわよね」

 

「そうね。案外あの子達と特訓してたりして」

 

「……!」

 

 ジュンコが思いつきで発した一言。しかしその一言はももえの中の嫉妬の炎に注がれる油となってしまった。

 

「ジュンコさん! 私達も特訓しますわよ!」

 

「ええ!? なんでよ……って引っ張らないで!? あんたこんなに力強かったっけ!?」

 

 その華奢な腕にどれほどの力を隠していたのか、やはり彼女もデュエリストとして最低限の筋力は備えていたようでジュンコの腕を掴んで引っ張っていく。

 

「明日香様を振り向かせるにはやはりデュエルしかありませんわ!」

 

「あー……明日香様、デュエルに一途だもんね?」

 

「そうですわ。ユキちゃんとレイちゃんにデュエルで挑んで勝てれば、きっと明日香様も振り向いてくれるはずですわ!」

 

「……分かったわよ。もう、あんたは一度言い出したら止まらないんだから」

 

 幼馴染であるももえの暴走に呆れながらもジュンコ自身どこか寂しい気持ちはあったようで、その提案に乗るように腕を振りほどきながらもユキとレイとのデュエルに向けての特訓のために自分の意思で一歩を踏み出した。

 

 そんなユキとレイはというと入学時にお世話になったお礼も兼ねてレッド寮を訪れていた。

 

「えっ、昨日十代さんと万丈目さんが帰ってこなかった……!?」

 

「そうなんすよ。アニキも万丈目君もどこ行っちゃったんだか……」

 

 翔と隼人が十代と共に住む部屋にも万丈目が住む部屋にも二人の姿は見当たらなかった。

 

「昨日の昼頃までは見かけたんだけど、そこから見てないんすよね……」

 

「十代様と万丈目さんなら昨日、暗くなるちょっと前に見かけたよ」

 

「えっ、そうなんすか? なんで帰ってこなかったんすかね……」

 

「暗くなる少し前……」

 

 レイの言葉を聞いて隼人が記憶を辿ると何か心当たりがある様子だった。

 

「そういえば、昨日そのくらいの時間におぼろげだったけど妙な予感がしたんだな。声が聞こえたわけじゃないし、よく分からなかったから気のせいだと思ったんだけど……何となくあっちの森の方から予感が伝わってきた気がするんだな」

 

 隼人も精霊を見ることが出来る人物であったため、昨日十代や万丈目が感じていた予感のようなものをはっきりではないが感じ取っていた。

 

「……! あそこの森は……」

 

「十代様達がいた井戸があるところ!? ……ユキ、行こう!」

 

「えっ、ちょっと待って……行っちゃった。……ユキも失礼します」

 

「う、うん。アニキたちを見かけたら帰ってくるように伝えといてくれっすー!」

 

 翔の言葉にユキは頷くと、慌てて森に走っていったレイの背中を追いかける。森へ向かう道の途中でレイに追いついたが走るスピードが緩められることはなかった。

 

(昨日、確かに別れる時万丈目さんの様子が不自然だった。ユキ達には分からない、何かが起きているのかも)

 

 そう考えると十代と万丈目のことがより心配になり足がせわしなく動く。井戸にたどり着くころには二人とも体力を激しく消耗していたが、呼吸を整える間も無く二人は井戸の中へと突入した。

 

「……誰もいない。ロープも昨日と同じように張られていたし、戻れなくなって井戸で夜を過ごしたわけではなさそう」

 

「そうだね……。隼人さんの予感っていうのは気のせいだったのかな?」

 

「一応、近づいて奥の方も確認する……ここからだと暗くて見えづらいし」

 

(……あの渦。あれって何かの術式だったと思うんだけど……うーん、もうちょっと頑張って修行しておくんだったな)

 

 精霊が見える者と精霊にのみ見える水色の渦。その正体を頑張って思い出そうとするブラック・マジシャン・ガールだったが、あと一歩というところで思い出せないでいた。そんな中ユキがその渦がある方に近づき、ブラック・マジシャン・ガールの目にはユキがその渦に触れたのが見えていた。しかし何も起こらない。だが彼女が昨日仲間にした精霊がその渦に触れると……その精霊とユキに変化が訪れた。

 

(……あっ! 思い出した……あれはパートナーとなる人間がいる精霊が触れることで、その精霊とパートナーを精霊界に誘う術式……!?)

 

  ブラック・マジシャンガールが慌てて近づく。すると彼女が思い出したことを裏付けるようにユキの精霊が渦に飲み込まれていくと渦から声が発せられる。彼女達には聞こえていないようだったがブラック・マジシャン・ガールには伝わっていた。

 

「人間界の者よ。ここ精霊界では三幻魔に奪われた力が精霊に戻りし時、三幻魔を操っていた人間の悪意や欲望をも受け取ってしまい正気を失った四人の精霊が暴走しておる。今は私ともう一人の精霊が動きを抑え込んでいるが、それも長くは持たん……。デュエルに勝つことで悪意を払って正気を取り戻すことが出来るはずじゃ。勇気を持ちし人間よ、私達と正気を失った精霊を助けてくれ……」

 

(精霊が人間界と精霊界の媒介になって声が……誰がこんな高等な術式を!? それに精霊界でそんなことが起こっていたなんて……あっ!)

 

「……!」

 

 声が途切れると同時にユキの身体も渦に飲み込まれていってしまう。

 

「ゆ、ユキっ!?」

 

 渦が見えないレイにとってはまるでユキが神隠しにでもあったかのようにその場から忽然と姿が消えていた。

 

「どこにいったの……!? だってここから消えることなんてあるはずが……」

 

(精霊界がそんなことになってるならもうレイちゃんに私の正体を隠している場合じゃない。……彼女も私が精霊であることに気づいてるみたいだしね)

 

 精霊界のために決断したブラック・マジシャン・ガールが呪文を唱える。すると井戸の中に閃光が走った。

 

「えっ! あなたは……」

 

「……久しぶりだね。レイちゃん」

 

 文化祭の時のようにブラック・マジシャン・ガールの姿はレイの目にも見えるようになり、声もしっかりと聞こえるようになっていた。

 

「やっぱりあなたは精霊……?」

 

「そうだよ。隠しててごめんね……精霊の姿は見えてないみたいだったから、伝えても寂しくなるかなと思って話さなかったんだ」

 

「そうだったんだね。……あっ、それよりユキはどこに!?」

 

「えーと……それを説明する前に私の手を握ってもらえるかな?」

 

「えっ? う、うん……」

 

 レイは戸惑いながらもブラック・マジシャン・ガールの手を握る。すると精霊の力が直接伝わり、その目には渦が映し出された。

 

「ひゃっ! なにこれ……」

 

「これは精霊界に続くゲート。精霊が触れることで精霊とその所持者を精霊界に移動させるの。今精霊界は三幻魔から力が戻った時に、操ってた人の悪意も一緒に受け取って正気を失った精霊の暴走で大変なことになっている……精霊界は助けを求めているのよ」

 

「ユキに精霊が!? ……いや、でも僕もあなたの力を借りないとこの渦は見えない。ユキも見えていないはず……そんなユキがどうして?」

 

「……多分想定外だったんじゃないかな。きっとこの渦が発現した時、精霊を感じれる者は予感を受けたはず。その予感は救援信号のようなもの。この場所に精霊に信じられたデュエリストを呼ぶためにね。こんな場所だし、仮に精霊のカードを持っていても精霊が知覚できない者は来ることはない……はずだった」

 

「あっ! そうか……万丈目さんは前に精霊の話をしていた。多分十代様も精霊が見えていたから昨日予感を受けてここに集まった。僕たちは偶然そこを見ていて、さらにたまたま精霊のカードを持っていた……」

 

「で、でも大丈夫だよ! いきなり暴走した精霊の所に呼び出したりなんかしないはず。普通なら術者の所に呼び出されるから、術者がちゃんと説明してくれるよ。無理強いしたりもしないはずだからきっと……」

 

(これほどの術式を使える人となると変わり者が多いからちょっと心配だけど……)

 

「……分かった。ブラック・マジシャン・ガール、僕も精霊界に連れて行って」

 

「えっ……?」

 

 きっと戦う意思がなければ帰してもらえる……そう言おうとしたブラック・マジシャン・ガールだったが、予想外のレイの発言に驚いた。

 

「ユキはその話を聞いたらきっと……ううん、絶対に放っておかない。三幻魔騒動のそもそもの原因は影丸理事長。責任は僕たち人間にあるし、それに精霊界が……あなたの世界が助けを求めているなら、僕もあなた達の力になりたいの」

 

「レイちゃん……でも、正気を失った精霊とのデュエルは危険を伴う。そんなところにあなたみたいな幼い子が行くことはないよ!」

 

「……あの時も、セブンスターズの騒動の時もそうだった。僕たちは子供で、守られる立場で……あの時は亮さんが、今は精霊達や万丈目さんや十代様達が……他の誰かがその分苦しんでしまう。あの騒動の後、僕たちは確認しあったの。強くなって……他の誰かを助けられるようになりたいと。お願い、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「……分かった。ありがとうレイちゃん。……行くよ!」

 

 手に込められる力からもレイの固い決意が十分に伝わったブラック・マジシャン・ガールはもう片方の手で渦に触れ、二人は精霊界へのゲートをくぐる。二つの世界を繋ぐゲートの中では二人は光となって移動していた。

 

(……! 道が二つに分岐している!?)

 

 先にゲートをくぐったブラック・マジシャン・ガールが先導していくと精霊界に続く道が途中で分かれていた。

 

(そうか。あの術式は二人の術者によって作られたんだ。だから道もそれぞれの術者に……。そして私もユキちゃんの精霊も先にゲートに入る仕組みになっていた。精霊が所持者を導けってことね……!)

 

 ブラック・マジシャン・ガールが一つの道を選んで移動するとレイもそれに連なるように連れていかれた。

 

 その頃、ユキは精霊界に辿り着いていた。移動の衝撃で少し目眩がしてふらふらとしていたが、特に異常はない様子だった。

 

「え……? さっきまで井戸の中にいたのになんでこんな鍾乳洞みたいなところに……」

 

 ユキはクリスタルで構成された柱が所々に出来た鍾乳洞の中にいた。不思議そうに周りを見渡すと、自分の真上あたりに浮いていた精霊の存在に気がついた。

 

「ひゃっ……あなたは昨日の。……えっ、なんでディスクを起動してないのに実体化しているの……!?」

 

「クリクリ〜」

 

 金属光沢が鈍く光る鉄で出来た球体状の身体をした小さなモンスターが赤い目をパチクリさせながらユキに向かって降りてくると細い腕で抱きかかえられる。彼女の胸元あたりに収まったその精霊はネジで出来た尻尾を嬉しそうに振っていた。

 

(かわいい……)

 

「……貴様が精霊に導かれしデュエリストか」

 

「……! あなたは誰? それにここはどこ……?」

 

 鍾乳洞の奥から白いマスクを被った人型の精霊が現れると、ユキの精霊は驚いてデッキの中に隠れてしまった。

 

「質問が多いぞ小娘。その答えは俺とデュエルしてからだ」

 

「デュエルを……?」

 

 あまりに非日常的な状況の連続からのデュエル。それは廃校舎の地下であった亮とミイラのダメージが現実のものとなるデュエルを連想させるには十分だった。

 

「……」

 

「どうした? 怖気ついたか……?」

 

(何が起こっているのかは分からない。でもあの時みたいな異常事態が起きているのなら、もう怖いからと逃げ出したくはない。誰かを守るために……強くなりたいと思ったのだから)

 

「……受けて立つ」

 

「ふっ、そう来なくてはな。今俺から一つ問おう。ただしその答えはデュエルで聞く。貴様はカードの強さと弱さを、その偽りなき姿を見ることが出来るデュエリストか?」

 

(……カードの偽りなき姿?)

 

「「デュエル!」」

 

 鍾乳洞に二人の宣言が響き渡るとデュエルが開始された。柱の陰からか弱い精霊達が二人のデュエルを見守る。

 

「先攻は俺だ。俺のターン、ドロー! 聖刻龍—アセトドラゴンはレベル5だが、その元々の攻撃力を1000とすることでリリースなしで召喚できる」

 

「妥協召喚……!」

 

 紫色の透き通るような身体をした龍が金色(こんじき)の尻尾を揺らしながら現れた。

 

聖刻龍—アセトドラゴン 攻撃力1900→1000

 

「さらに手札の聖刻龍—シユウドラゴンは自分フィールドに存在する聖刻モンスター1体をリリースすることで特殊召喚出来る。アセトドラゴンを生贄とし、現れよ!」

 

 紫色の龍と入れ替わるようにして金色の尻尾を揺らしながら、水色の龍が姿を現した。

 

聖刻龍—シユウドラゴン 攻撃力2200

 

「ここでリリースしたアセトドラゴンの効果を発動! このカードがリリースされたことでデッキに眠るドラゴン族通常モンスターを攻守を0にして呼び出すことが出来る。目覚めよ、エメラルドドラゴン!」

 

 アセトドラゴンの咆哮によって胴体や翼までもが緑色に染まった龍が眠りより呼び覚まされた。

 

エメラルドドラゴン 守備力0

 

「だけど攻守が0では……」

 

「慌てるな。これはまだ新たなドラゴンを呼び出すためのプレリュードに過ぎない。貴様に見せてやろう……伝説をな!」

 

「……伝説って?」

 

「ああ! 見たければその目にしかと刻むがいい。俺はマジックカード、ドラゴニック・タクティクスを発動する! 自分フィールドの2体のドラゴン族を生贄に捧げ、デッキからレベル8のドラゴン族モンスターを1体特殊召喚する。見るがいい。そして(おのの)くがいい!」

 

 二体の龍が粒子となって消え去ると粒子が光となって集まっていき、やがて龍の姿を形成する。光が晴れていくと青き瞳を持つ白く気高き龍の姿が露わになった。

 

「出でよ、我が忠実なる(しもべ)青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)!」

 

青眼の白龍 攻撃力3000

 

「こ、攻撃力3000!? それにこのモンスター……聞いたことがある。広いデュエルモンスターズの中でも海馬瀬人のみが所持していると言われている、まさに伝説のドラゴン……!」

 

(あの人が海馬瀬人には見えない。どうしてそんなドラゴンを彼が……)

 

「ドラゴニック・タクティクスによりリリースされたシユウドラゴンの効果でデッキからドラゴン族通常モンスターを攻守を0にして呼び出す。来い、ラビードラゴン!」

 

「なるほど……それが聖刻モンスターの共通効果」

 

 シユウドラゴンの咆哮が響き渡ると地面を突き破るようにして、青眼の白龍ほどではないが透き通った白い胴体を持つ龍が現れた。

 

ラビードラゴン 守備力0

 

「マジックカード、アドバンスドローにより場のレベル8以上のモンスター……ラビードラゴンを生贄とし2枚のカードをドローする」

 

 龍の魂が光となって彼のデッキに宿ると引き抜かれて彼の力となった。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。だが、ただのターンエンドではない!」

 

「え……?」

 

「速攻魔法、超再生能力を発動する。効果によりこのターンリリースしたドラゴンの数だけ俺はカードをドローする!」

 

「あなたがリリースしたドラゴンは4体……!」

 

「よって俺は4枚のカードをドローする! さあ、今度こそターンエンドだ」

 

「うっ……」

 

(攻撃力3000のモンスターと伏せカードを用意しながらも手札は6枚。なんて隙のないデュエル……)

 

カイバーマン LP4000

 

フィールド 『青眼の白龍』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札6

 

「ユキのターン、ドロー。……ジェイドナイトを召喚!」

 

 フィールドに出現したワープホールを通り、緑を基調とした小型の戦闘機が出陣した。

 

ジェイドナイト 攻撃力1000

 

「ほう……? ブルーアイズを前に攻撃表示で出したか」

 

「さらに手札の無頼特急バトレインをコストにワンフォーワンを発動! このマジックカードは手札のモンスターカードを墓地へ送ることで発動出来る。その効果でデッキからレベル1のモンスターを1体特殊召喚する……」

 

(……あなたの力、ユキに貸して)

 

 ユキはデッキを手に取り、呼び出すモンスターを決める。彼女が取り出したモンスターは昨日井戸で拾ったカードだった。

 

「お願い、ジャンクリボー!」

 

 驚いてデッキの中に隠れていた丸っこい鉄の身体をした精霊はマジックカードの導きでフィールドに現れると、ユキの方に向き直って不思議そうに赤い目を(しばたた)かせていた。

 

ジャンクリボー 守備力200

 

「ジャンクリボー。一緒に頑張ろう?」

 

「クリ? クリクリ〜!」

 

 ジャンクリボーはユキの言葉に目を大きく見開いたが、その意味を理解すると嬉しそうに小刻みにジャンプしながら相手フィールドに向き直った。しかし相手のフィールドで高くから見下ろしているブルーアイズに気づくとその身を震わせた。

 

「それが貴様の持つ精霊のカードか」

 

「……!」

 

(精霊? ……このモンスターさんが万丈目さんが言っていたデュエルモンスターズの精霊だったんだ。じゃあデュエルモンスターズのカードが実体化しているこの世界はもしかして……)

 

「どうした? 貴様のターンだぞ!」

 

「あっ……か、カードを2枚伏せてターンを終了します」

 

(……落ち着いて。取り敢えず今は目の前のデュエルに集中しよう……!)

 

「ここで墓地に送ったバトレインの効果を発動します。このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズにデッキから機械族・地属性・レベル10のモンスターを1体手札に加えることが出来る……弾丸特急バレット・ライナーを手札に!」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『ジェイドナイト』(攻撃表示) 『ジャンクリボー』(守備表示)

 

セット2

 

手札2

 

「俺のターン! 手札のスピリット・ドラゴンをコストとしてマジックカード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! このカードの効力でデッキより攻撃力3000以上で守備力が2500以下のドラゴン族モンスターを2体手札に加える!」

 

「その条件は……まさか、ブルーアイズ!」

 

「当然だ。俺が加えるのは青眼の白龍と……青眼の(ブルーアイズ・)亜白龍(オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)!」

 

 彼の手に二体の龍が収まると、力を誇示するように手札に加えた龍をユキに見せつけた。

 

「そして亜白龍は自身の効果により、手札の青眼の白龍を相手へと公開することで特殊召喚することが出来る!」

 

「なっ……」

 

 青眼の白龍とよく似ていながらも身体の節々に千草色のラインが刻まれたドラゴンが咆哮と共に出現した。

 

青眼の亜白龍 攻撃力3000

 

「亜白龍はこのターンの自身の攻撃を放棄することで相手モンスター1体を破壊することが出来る効果を持つ」

 

「……!」

 

(守備表示のジャンクリボーを攻撃してもダメージは与えられん。ここは攻撃を介さないこのモンスター効果で確実にあのモンスターを葬っておくか)

 

(……あの効果を使わせるわけにはいかない!)

 

「トラップ発動、はさみ撃ち! このカードはユキの場のモンスター2体と相手フィールドのモンスター1体を破壊する。ユキの場からはジェイドナイトとジャンクリボー、あなたの場からは青眼の亜白龍を選択!」

 

 フィールド上に飛翔する白き龍に戦闘機に乗ったジャンクリボーが向かっていく。

 

「馬鹿な! モンスター1体の破壊を防ぐために2体の犠牲を払おうというのか!?」

 

 白き龍に接近した瞬間、戦闘機と搭乗しているジャンクリボーの幻影が戦闘機の先端から射出されると本体はぶつかる寸前で逸れていった。

 

「この瞬間、ジェイドナイトの特殊効果を適用。このカードが攻撃表示で存在する限り、自分フィールドの攻撃力1200以下の機械族モンスターはトラップの効果では破壊されない。ジェイドナイトの攻撃力は1000、ジャンクリボーは300。よってはさみ撃ちの効果で破壊されるのは……」

 

 幻影がそのまま龍の翼の付け根の部分に突撃すると龍は墜落していき、その身体を地に伏すと粒子となって消え去った。

 

「くっ、やってくれたな。最初から狙いは俺のモンスターのみを破壊することだったというわけか。面白い……どうやら貴様は俺の全力をぶつけるに値するデュエリストのようだ」

 

「……! 今までは手を抜いていたということ?」

 

「勘違いするな。俺は相手が強ければ強いほど、呼応して力を引き出せるということだ。トラップカード、魂の綱! 自分フィールドのモンスターが効果で破壊され、墓地へ送られた時にライフを1000払うことで発動することが出来る! その効果でデッキからレベル4のモンスターを特殊召喚する!」

 

カイバーマン LP4000→3000

 

「効果破壊を読まれていた……!?」

 

「俺はこの効果でロード・オブ・ドラゴン—ドラゴンの支配者—を特殊召喚!」

 

 龍の魂が綱となってデッキに伸びていく。すると動物の骨により作られた鎧を身に纏った人型のモンスターが綱を掴み、綱がフィールドに引っ張られることでフィールドに出現した。

 

ロード・オブ・ドラゴン—ドラゴンの支配者— 守備力1100

 

「ロード・オブ・ドラゴンが表側表示である限り、互いにドラゴン族を効果の対象とすることは出来なくなる!」

 

「うっ、これで青眼の白龍を効果の対象に出来なくなった……!」

 

「だがこれで終わりではない! マジックカード、ドラゴンを呼ぶ笛! ロード・オブ・ドラゴンが場に存在することで、手札より2体のドラゴン族モンスターを呼び出す!」

 

「……!? 今あの人の手札には……!」

 

「出でよ、クリスタル・ドラゴン! そして顕現せよ、青眼の白龍!」

 

 ロード・オブ・ドラゴンが笛を吹き鳴らすと天より胴体だけでなく翼や尻尾までもがクリスタルの輝きを放つ龍と上空から全てを見渡すようにして青く澄んだ瞳を持つ龍が現れた。

 

クリスタル・ドラゴン 攻撃力2500

青眼の白龍 攻撃力3000

 

「そんな……。モンスターを破壊したのに、そこからこれほどのモンスターを呼び出すなんて……」

 

「バトルだ! ブルーアイズでジェイドナイトに攻撃する。滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)!」

 

「……!」

 

 ブルーアイズの口の周りに白いエネルギーが溜められていき、その青き目が一寸の狂いもなく戦闘機を捉える。それに気づいたユキがとっさに腕を前でクロスして衝撃に備えると、エネルギー弾が放たれ、戦闘機を粉砕した。

 

ユキ LP4000→2000

 

「くっ! ……ん? ダメージが実体化していない……?」

 

 亮とミイラのデュエルの時のようにダメージが現実のものとなることを想定していたユキだったが、痛みが発しなかったことに安堵を覚えた。

 

(でも実際のダメージが発生していないのにも関わらず、なんて圧力のある攻撃なの……)

 

「ジェイドナイトのさらなる効果を発動。このモンスターが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから機械族・光属性・レベル4のモンスター1体を手札に加えることが出来る。超電磁タートルを手札に!」

 

「だがこれで貴様のライフは2000。クリスタル・ドラゴンとブルーアイズの攻撃が決まれば貴様は終わりだ。クリスタル・ドラゴンでジャンクリボーに攻撃!」

 

 クリスタルの輝きが増していくと内に秘めていたエネルギーが解き放たれ、波のようにジャンクリボーに襲いかかった。

 

「クリッ!?」

 

 押し寄せてくるエネルギー波にジャンクリボーは驚いたが、反応が遅れて逃げ出すことが叶わなかった。

 

「大丈夫、安心して。速攻魔法、ドロー・マッスルをジャンクリボーを対象に発動。このカードは守備力1000以下の表側守備表示モンスターを対象に発動出来る。ユキはカードを1枚ドローし、また対象としたジャンクリボーはこのターン戦闘では破壊されない」

 

 ユキがカードを引くと同時にジャンクリボーの周りが小型の半球形の障壁で覆われるとエネルギー波が直撃する。やがてエネルギーの奔流が収まるがジャンクリボーには傷一つ付いていなかった。

 

「防いだか。だがクリスタル・ドラゴンはバトルを行った自分のターンのバトルステップに特殊能力を発動出来る。たとえ破壊出来ずとも攻撃した事実に変わりはない。よってこの特殊能力によりデッキからドラゴン族・レベル8のモンスターを1体手札に加える」

 

「まさか……」

 

「俺が加えるのは青眼の白龍だ……!」

 

 クリスタル・ドラゴンの透き通った声から為される咆哮により気高き龍が彼の手へと収まった。

 

「ついに3体目の青眼の白龍があの人の手に……」

 

(この状況でもしあのドラゴンを追撃で呼ばれたら勝ち目はかなり薄くなる。次のターンで勝負に出る……!)

 

(……次のターンで仕掛けるつもりか。いいだろう、迎え撃ってくれる)

 

「カードを1枚場に伏せ、ターンを終了する!」

 

カイバーマン LP3000

 

フィールド 『青眼の白龍』(攻撃表示)×2 『クリスタル・ドラゴン』(攻撃表示) 『ロード・オブ・ドラゴン—ドラゴンの支配者—』(守備表示)

 

セット1

 

手札3

 

「ユキのターン! ……神機王ウルを召喚する」

 

 赤を基調とした人型のロボットが空中に現れると、独楽(こま)の底のように一点を指した金属の足で突き刺さるように着地した。

 

神機王ウル 攻撃力1600

 

(狙いはロード・オブ・ドラゴンか?)

 

「さらに弾丸特急バレット・ライナーは自分フィールドのモンスターが機械族・地属性モンスターのみの場合手札から特殊召喚出来る。ジャンクリボー、神機王ウルは共に機械族・地属性……条件は満たしている。発進せよ、バレット・ライナー!」

 

 ジャンクリボーと神機王ウルの間にレールが敷かれていくと豪風と共に一瞬で弾丸列車が到着していた。

 

弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000

 

「ほう? 貴様も攻撃力3000のモンスターを呼び出したか」

 

「ただしバレット・ライナーが攻撃宣言する際、このカード以外の自分フィールドのカードを2枚墓地へ送らなくてはならない……。だけどこういう手もある。バレット・ライナーを墓地に送りマジックカード、受け継がれる力を神機王ウルを対象に発動。選択したモンスターの攻撃力はこのターン限り、墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップする」

 

「……!」

 

 弾丸列車が解体されると部品が強化パーツとなって神機王ウルに引き寄せられていく。

 

「やらせはせん! 俺はそれに対して破壊輪を貴様の神機王ウルを対象に発動する!」

 

「……!?」

 

 八つの手榴弾が取り付けられた鉄の輪が高速回転しながら神機王ウルに向かっていく。

 

「このトラップカードは相手フィールドに表側表示で存在する相手ライフ以下のモンスターを対象に発動出来る。そのモンスターを破壊し、俺はその元々の攻撃力分のダメージを受け、その後貴様に俺が受けたのと同じ数値分のダメージを与える! 神機王ウルの効果はまだ受け継がれる力の効力を得ていないため、攻撃力は1600だ……!」

 

 強化パーツが届けられるより早く、今にも爆発しそうな鉄の輪が神機王ウルの首に取り付けられようとしていた。

 

「ジャンクリボー! あなたの効果を!」

 

「クリクリ〜!」

 

 ジャンクリボーが神機王ウルの前に移動し、壁になるように増殖していくとその内の一体が鉄の輪に触れる。すると機雷化の能力が発動され、自身を爆発させると手榴弾を誘爆させた。鉄の輪が跡形もなく粉砕される中、神機王ウルへの衝撃は届く前に増殖したジャンクリボーが機雷化することで相殺していた。爆発が収まった頃、ようやく届いた強化パーツによって神機王ウルは装備をグレードアップさせた。

 

神機王ウル 攻撃力1600→4600

 

「何……!」

 

「相手がユキにダメージを与えるマジック・トラップ・モンスター効果を発動した時、手札またはフィールドにいるジャンクリボーを墓地に送ることでその発動を無効にし、破壊することが出来る。この効果によって破壊輪の発動は無効となった……!」

 

「……やってくれる」

 

「さらに機械族専用装備魔法、ブレイク・ドローを神機王ウルに装備し……バトル。ここで神機王ウルの特殊能力が発揮される。このモンスターさんは相手に与える戦闘ダメージが0になる代わりに相手フィールド全てのモンスターに攻撃が出来る!」

 

「攻撃力4600の全体攻撃だと……!」

 

「神機王ウルでロード・オブ・ドラゴン、クリスタル・ドラゴン、そして……2体の青眼の白龍に攻撃!」

 

 一本足を軸にして回転を始めると強化パーツによって増した機動力により普段よりも鋭く回っていく。ロード・オブ・ドラゴンを踏み台にするようにして空中へと飛び出すと弧を描くようにして三体の龍を切れ味が格段に鋭くなった金属の爪で切り裂いた。

 

「ダメージが無いとはいえ、俺のモンスターを全滅させるとは……。貴様といい、遊城十代といい……楽しませてくれる」

 

「……! 十代さんを知っているの?」

 

「ふっ、質問は後だと言ったはずだ」

 

「……ブレイク・ドローを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊して墓地に送った時カードを1枚ドローする。このターン、神機王ウルは4体のモンスターを破壊した。よって4枚のカードをドロー!」

 

 十代の名を出したことが気になるユキだったが、今はデュエルに集中するべきだと判断して新たに4枚のカードを手札に加えた。

 

「カードを2枚伏せてターンを終了。このタイミングで受け継がれる力によって上昇していた攻撃力は失われる」

 

 強化パーツの耐久が失われ、剥がれ落ちるように無くなってしまい神機王ウルの力が元通りとなった。

 

神機王ウル 攻撃力4600→1600

 

「またバレット・ライナーが墓地に送られたターンのエンドフェイズにバレット・ライナー以外の墓地の機械族を1体手札に加えることが出来る。戻ってきて、ジャンクリボー!」

 

 手札行きの弾丸列車が墓地から発進されるとジャンクリボーをユキの元に届け、行き先が墓地に変わり戻っていった。

 

(そういえばあの人はデュエルが始まる前にカードの強さと弱さを見ることが出来るかと聞いた。あれは一見弱いとされるカードの中に眠る強さを見つけられるかということ……?)

 

ユキ LP2000

 

フィールド 『神機王ウル』(攻撃表示)

 

セット2 『ブレイク・ドロー』

 

手札4

 

「俺のターン、ドロー! ……!」

 

(ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンか。このモンスターはレベル10だがブルーアイズが破壊された時に手札から効果を発動でき、手札から自身を特殊召喚して俺の墓地のドラゴン族の種類×600のダメージを与える効果を持つ。この効果が決まれば俺の勝ちだが……)

 

 彼はユキの手札を貫くような目線で見るとその目論見は上手くいかないことを確信していた。

 

(ジャンクリボーは手札からもモンスター効果を発動出来る。ブルーアイズが戦闘で破壊された場合、ディープアイズの効果の発動タイミングはダメージステップ終了時となるが、奴のモンスター効果は効果を無効にする効果ではなく発動を無効にする効果であるためダメージステップでの発動も可能だ。ディープアイズの効果による勝利は難しいか……ならば)

 

 一瞬の間にそこまで考え終えたカイバーマンはドローカードを素早く手札に加えると、残りの三枚の手札を全て取り出して行動に移した。

 

「俺はマジックカード、闇の量産工場を発動し墓地に眠る通常モンスターを2体……つまり青眼の白龍2体を手札へと戻す!」

 

「でも青眼の白龍のレベルは8。そう簡単に召喚は……」

 

「ふっ、笑わせるな。俺はこのターンで青眼の白龍をさらなる高みへと昇らせてみせる! マジックカード、融合を発動!」

 

「今あなたの手札には3体のブルーアイズが……まさか!」

 

「そのまさかだ! 俺は3体の青眼の白龍を手札融合する!」

 

 カイバーマンのフィールドに特殊な渦が発生すると雪のように白い身体をした海のように青い眼を持つ三体のドラゴンが混じり合っていく。

 

「今こそ現れよ! 史上最強にして華麗なる究極のドラゴンよ!」

 

 渦から出現したのは青眼の白龍が結合した三つ首のドラゴン。それぞれの首が激しく猛り、戦いの予感を募らせていた。

 

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)!」

 

青眼の究極竜 攻撃力4500

 

「こ、攻撃力4500……!? 亮さんのサイバー・エンド・ドラゴンより攻撃力が高いなんて……」

 

 ユキはその迫力に思わず半歩下がったが、弱気になっている自分に気づくとそこから一歩踏み出した。

 

「ほう……アルティメットドラゴンを前にしても臆さないか。だがこれで終わりだ! アルティメットドラゴンで神機王ウルへと攻撃する! アルティメット・バースト!」

 

「……!」

 

 それぞれの龍の口元に白いエネルギーが集約されていき、それらのエネルギーが同時に放たれようとしていた。

 

「トラップカード、ディーラーズ・チョイス! 互いにデッキをシャッフルして1枚ドローし、その後手札から1枚選んで墓地に捨てる」

 

「このタイミングで手札交換だと……?」

 

 互いのデッキがシャッフルされると同時にカードが引き抜かれた。

 

「俺はディープアイズ・ホワイト・ドラゴンを墓地へ!」

 

「ユキは超電磁タートルを墓地へ……!」

 

「だがそんなことをしても攻撃は止まらん!」

 

 ついにエネルギーを貯め終えた青眼の究極竜がエネルギーを解き放つ。青眼の白龍のように球形のエネルギー弾ではなく、ビーム状にエネルギーが放たれていった。しかし確かに神機王ウルに向けて放たれたはずのエネルギーが意思を持っているかのように避けていく。

 

「何……!」

 

「ユキは墓地の超電磁タートルの効果を自身を除外して発動した。デュエル中に1度だけ相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外することで、バトルフェイズを強制的に終了させることが出来る……!」

 

 青眼の究極竜と神機王ウルには超電磁タートルによって同じ電極が与えられており、そこから発せられるあらゆるものが反発されるようになっていた。

 

「これも防ぐか……。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

カイバーマン LP3000

 

フィールド 『青眼の究極竜』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札0

 

「ユキのターン、ドロー!」

 

(カードの強さと弱さを、その偽りなき姿を……。まだ言葉に出来るほどはっきりとは分からないけれど、このデュエルで何となくその意味が伝わってきた気がする……)

 

「マジックカード、アイアンコール。自分の場に機械族がいる時、墓地のレベル4以下の機械族1体を効果を無効にした状態で特殊召喚する。ただしエンドフェイズには破壊される……。ユキが選ぶのは無頼特急バトレイン!」

 

 神機王ウルが円を描くように地面を削りながら移動を重ねると、やがて墓地へと繋がる穴が開いた。その穴を通り、赤色の特急列車が猛スピードで帰還した。

 

無頼特急バトレイン 攻撃力1800

 

「さらにデルタトライを通常召喚」

 

 赤で明るめの彩りが施された銀色を基調とした機体が出撃すると、コアを守るためのシールドが形成されていく。

 

デルタトライ 攻撃力1200

 

「言うまでもないがそのモンスターどもの攻撃力では俺のアルティメットドラゴンは倒せん……どうするつもりだ?」

 

「……あなたがドラゴンの力を束ねてアルティメットドラゴンを呼び出したように、ユキも機械(マシーン)モンスターの力を束ねてあなたに挑む」

 

「ほう?」

 

「永続トラップ、機動要塞 メタル・ホールド! このカードは自分フィールドの機械族・レベル4のモンスターを任意の数だけ対象として発動出来る。ユキの場のモンスターは全て機械族・レベル4。よってユキは場の3体のモンスターを対象とし、このカードをトラップモンスターとして呼び出す」

 

 ユキの背後からせり上がるように人型の機動要塞が出現した。

 

機動要塞 メタル・ホールド 攻撃力0

 

「さらに特殊召喚後、対象としたモンスターを装備カードとして装備し、このカードの攻撃力は装備モンスターの攻撃力の合計分上昇する!」

 

「……! まさか……」

 

 足部に特急列車が、身体の軸となる部分に安定感のある神機王ウルが、背中に要塞を空中に浮かせられるほどの馬力を持つ機体が取り付けられると、空陸両方に対応可能な要塞へと変形していった。

 

「それぞれの攻撃力は神機王ウルが1600、バトレインが1800、デルタトライが1200。よって……」

 

機動要塞 メタル・ホールド 攻撃力0→4600

 

「アルティメットドラゴンの攻撃力を正面から超えただと……!?」

 

「バトル。メタル・ホールドでアルティメットドラゴンに攻撃……!」

 

 フィールド上空を飛行するアルティメットドラゴンに地上からの攻撃は不利だと判断したメタル・ホールドは特急列車によって勢いをつけた状態から機体の力で飛び上がった。アルティメットドラゴンも迎撃すべく三つの首から軌道の異なるエネルギーを放つが、バランスに優れた神機王ウルが巧みに身体を動かして紙一重のところでかわしていき、ついに至近距離まで迫ったところで拳に機械(マシーン)モンスターの力を集め、重い一撃を食らわせることでアルティメットドラゴンを地に叩きつけた。深いダメージを負ったアルティメットドラゴンは姿を保ちきれず、粒子となって消え去った。

 

「ぐうっ……!? おのれ、俺のアルティメットドラゴンを……!」

 

カイバーマン LP3000→2900

 

「やっと……あなたにライフコスト以外でライフを減らさせることが出来た。これであなたの場にアルティメットドラゴンはいない。このままメタル・ホールドで押し切る」

 

「そう簡単にやらせはせん……! トラップカード、リグレット・リボーン! 俺のモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、そのモンスターを守備表示でフィールドに呼び戻す。ただしこの効果で呼び出したモンスターは俺のエンドフェイズ時に破壊されるがな……」

 

「……!」

 

 時間が逆再生していくように粒子が戻っていくと再びアルティメットドラゴンが姿を見せ、猛々しく咆哮を上げた。しかしダメージは完全に治ったわけではないようで、翼に傷を負っていたため地面に降り立った。

 

青眼の究極竜 守備力3800

 

(でも青眼の究極竜の攻撃力ではメタル・ホールドは倒せない。次のターンで自壊するなら問題はない……といいのだけれど)

 

 ユキは仮面越しでも相対するデュエリストの勝利への気迫が高まっていく気配を確かに感じ取っていた。

 

(もしユキが彼の立場だったら、正面から攻撃力を超えられて黙ってはいない。……さらにメタル・ホールドの攻撃力を超えてくる? いや、まさか……)

 

「……カードを1枚伏せてターンエンド。アイアンコールのデメリットはバトレインが装備化されているため発生しない。よってこのままターンを終了する」

 

ユキ LP2000

 

フィールド 『機動要塞 メタル・ホールド』(攻撃表示)

 

セット1 『機動要塞 メタル・ホールド』(罠カードとしても扱う) 『神機王ウル』 『無頼特急バトレイン』 『デルタトライ』

 

手札2

 

「俺のターン……」

 

 カイバーマンは目を閉じるとはやる気持ちを抑えながら心を静かにしていく。

 

「……ドロー!」

 

 集中力が最大限に高まった瞬間、カイバーマンは目を開けると鋭くカードを引き抜いた。ドローの風圧は凄まじく、距離を置いているユキにすら感じられた。

 

「貴様に見せてやろう。ブルーアイズのさらなる進化を……!」

 

「ま、まだ進化の余地が……!」

 

「我がブルーアイズに限界などない! ゆくぞ、俺は青眼の究極竜を生贄に捧げる!」

 

「なっ……」

 

「このモンスターは自分フィールドの青眼の究極竜を生贄にした場合にのみ手札より呼び出すことが可能だ。究極のモンスターから召喚できる、全てを消し去る光の龍! 現れるがいい!」

 

 青眼の究極竜の傷ついた身体を突き破るようにして中から閃光と共に白銀の翼を広げた神々しきドラゴンが降臨した。

 

青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニングドラゴン)!」

 

青眼の光龍 攻撃力3000

 

「綺麗……」

 

 白銀の翼が一度羽ばたくたびに粒子が鍾乳洞へと降り注がれる。その幻想的な光景に思わずユキは見とれてしまった。

 

「はっ……いけない。そのモンスターの攻撃力ではメタル・ホールドは倒せない……」

 

「ふん、貴様も薄々分かっているはずだ。究極という殻を破ったシャイニングドラゴンがこの程度で終わるはずなどないということが!」

 

「うっ……」

 

「シャイニングドラゴンの特殊効果! それは墓地に眠るドラゴンの闘志を引き継ぐ能力だ。このカードの攻撃力は俺の墓地のドラゴン族モンスターの数×300上昇する。貴様に分かるか? 墓地に眠りながらも気炎を上げるドラゴンがどれほどいるか……!」

 

 カイバーマンの問いかけにユキは墓地へ送られたドラゴンを思い出すと、頰に冷や汗がつたった。

 

「……12体」

 

「そうだ! よって攻撃力は3600上昇する……!」

 

 墓地に眠るドラゴンの闘志が光になって吸収されていくと、身体から発せられる光がより輝きを増していった。

 

青眼の光龍 攻撃力3000→6600

 

「嘘……攻撃力6600なんて。メタル・ホールドを倒すどころか、ユキのライフまで貫いてしまう……」

 

「そして青眼の光龍にはこのカードを対象とするマジック・トラップ・モンスター効果が発動した時、俺の任意によりその効果を無効にするシャイニング・フレアがある。貴様の伏せカードは恐らく俺のモンスターを対象に力を制限するトラップ……。つまり貴様に次のターンは無いということだ!」

 

「……!」

 

(……伏せカードも読まれていたなんて)

 

「バトルだ! 青眼の光龍でメタル・ホールドに攻撃! シャイニング……バーストッ!」

 

 青眼の光龍が翼を大きく広げると身体中に光のエネルギーが集まっていく。

 

「クリー……」

 

 手札に戻っていたジャンクリボーが精霊として出てくると圧倒的な力を前に呆然としていた。

 

「圧倒的な攻撃力に、対象を取る効果を任意で無効にする能力、これじゃあ打つ手が……。……!」

 

 光のエネルギーが溜まっていきクリスタルに反射した光がフィールドを満たす中、それを眺めるようにするジャンクリボーを見たユキは電撃が走ったような感覚を覚えた。

 

「あ……!」

 

 エネルギーが完全に溜められると一点に集約され、充填されたエネルギーが絶えることなく放たれていった。

 

「……トラップカード、共闘! このカードは手札からモンスターを1体捨て、フィールドの表側表示モンスターを対象に発動出来る。ジャンクリボー、力を貸して?」

 

「クリクリー!」

 

「共闘の効果で捨てるのはジャンクリボー。そして対象は……青眼の光龍!」

 

「…………」

 

 エネルギーがメタル・ホールドに衝突する寸前、増殖したジャンクリボーが壁となり、続けて機雷化していくことで何とか持ちこたえていた。

 

「共闘の対象となったモンスターの攻撃力及び守備力はエンドフェイズまでこのカードを発動するために墓地へ捨てたモンスターのそれぞれの数値と同じとなる。ジャンクリボーの攻撃力は300」

 

「……忘れたのか? 青眼の光龍には対象になった時、効果を無効に出来るシャイニング・フレアがある」

 

 変わらず勢いよく放たれるエネルギーがジャンクリボーを次々と爆発させていく。

 

「カードの強さと弱さ、その偽りなき姿を見ることが出来るか……」

 

「……!」

 

「ユキは途中までこれは一見弱いとされるカードにある強さを見れているかを問われていると思った。だけどそれだけではなかった。一見強いとされるカードにも弱い所がある。……つまりどんなカードにも強い所と弱い所がある。大事なのはその両方を偽りなく見れているかということ。……ユキは共闘をダメージ計算前のタイミングで発動した! 発動を無効にするジャンクリボーと違い、効果を無効にする青眼の光龍の効果はダメージステップでの発動は出来ない。たとえ効果を無効にする効果があってもあなたに発動の権利がなければ対象に取る効果は有効となる……!」

 

「……ふっ、見事だ」

 

 青眼の光龍のエネルギーが枯渇し、発射するエネルギーが無くなる。すると耐えきったジャンクリボーが光を吸収するそれぞれの穴に嵌まっていくと、光が吸収出来なくなり力が衰えていく。

 

青眼の光龍 攻撃力6600→300 守備力2500→200

 

 地面へとへたりこむように力を失った隙を見逃さず、無防備な体勢の青眼の光龍にメタル・ホールドの拳が容赦なく叩き込まれた。

 

カイバーマン LP2900→0

 

 ソリッドヴィジョンが粒子となってクリスタルに溶け込むように消えていく。するとジャンクリボーがふわふわと浮きながらユキの元へと戻ってきた。

 

「ありがとう、ジャンクリボー。あなたのお陰で勝てたよ」

 

「クリクリ? クリ〜!」

 

 ジャンクリボーの頭をユキが前かがみになって撫でると気持ちよさそうに喜んでいた。

 

「デュエルは終わったのだ。質問に答えてやろう。俺の名はカイバーマン。そしてここは精霊界だ」

 

「えっと、ユキの名前は神凪ユキ……です。やっぱり……ここは精霊さんが住む所なんだ。もしかしてあなたも精霊?」

 

「そうだ。そして今精霊界では四人の精霊が正気を失って暴走している。三幻魔を操っていた人間の悪意を取り込んでな……」

 

「そんな……じゃあ早く助けてあげないと」

 

「そのためにはデュエルで勝利し、悪意を払う他ない。今は悪意に意識を乗っ取られているような状態だからな……。俺がデュエルで戻してやりたい所だが、正気を失っているためデュエル外でも暴走してしまっている。俺ともう一人の精霊が二人ずつその暴走を特殊な術式で今も何とか抑えているが、デュエルでの衝撃はデュエルでしか防げない。しかし今のデュエルのような衝撃がないものではなく、暴走した精霊のデュエルの衝撃を受けながらではその術式は保てん……。俺も皆も奴らが正気に戻った時に、取り返しがつかない過ちを犯させたくはない。そのため特殊な術式を使える数少ない精霊である俺はデュエルするわけにはいかんのだ」

 

「……もしかして今のデュエルでユキを試すようなことをしたのは?」

 

「貴様がどれほどのデュエリストか見定めさせてもらった。精霊とのデュエルは危険を伴う上に、今回暴走している精霊は皆デュエルが強い……。凡骨デュエリストに挑ませるわけにはいかなかったのだ」

 

「……なるほど」

 

「だが先ほども言ったが、デュエルでの衝撃は抑えられん。危険なことを頼んでいるのは承知の上だ。断ろうと俺は貴様を恨みはせん」

 

「……断らないよ。ユキが勇気を出すことで守れるものがあるのなら、助けたい」

 

 セブンスターズの騒動の後、レイと確認しあったこと。その時抱いた決意は揺るがず、迷うことはなかった。

 

「……感謝する。今、遊城十代はエルフの里エリアにいる。俺がもう一人力を抑えている精霊は墓場エリアにいる……ユキにはそちらに向かってもらう」

 

「あ……十代さんもこっちに来ていたんだ。了解……墓場エリアにはどうやって行けばいい?」

 

「このカードを使い、直接そのエリアに移動してもらう」

 

 そう言ってカイバーマンはデッキから亜空間物質転送装置のカードを取り出した。

 

「じゃあすぐにでも……あっ。そういえば暴走している精霊は全部で四人。残りの二人は……?」

 

「もう一人の精霊の所にも人間界から二人助けに来たらしい」

 

(二人……一人は十代さんと一緒にいなくなった万丈目さんのはず。もう一人は……もしかしてレイちゃん、なのかな)

 

「はっきり言って俺たちが精霊の動きを制限出来る時間にあまり猶予はない……。お前たちの勝利を信じているぞ……!」

 

(……歯がゆいだろうな。あの人ほど強ければ本当は自分の力で助けに行きたいはず)

 

「……うん! 任された……!」

 

 ユキの言葉にカイバーマンは頷くと亜空間物質転送装置を発動させ、彼女の身体を墓場エリアへとワープさせた。

 




分割も考えましたが、このデュエルは分けずに見てもらいたかったのでいつもより長めとなりました。


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巡り巡って

 ユキとカイバーマンが出会って少し経った頃、レイもまた精霊界に辿り着いていた。

 

「ふぅ……ついた。レイちゃん大丈夫?」

 

「ととっ……! だ、大丈夫……ちょっとフラフラするけど」

 

 移動の反動でたたらを踏むレイだったが、身体に問題は起こっていない様子だった。

 

「来てくれたか。精霊に導かれしデュエリストよ」

 

「……! あなたが助けを求めていた精霊?」

 

 レイ達が辿り着いたのは反射する太陽の光すら眩しくなるほど白い柱によって建てられた神殿。入り口辺りにいる彼女達のもとに奥から三角形を重ね合わせたような紋様が刻まれたローブに身を包み、黒い仮面を被った人型の賢者の精霊が近づいてきた。

 

「その通りじゃ。まず助けに来てくれたことに心から礼を申し上げる。……じゃが、まだお主を向かわせるわけにはいかぬ」

 

「な、なんで!? 時間ないんでしょ?」

 

「ああ……じゃが、今暴走している精霊は並大抵の強さではない。お主の強さ、それを私に見せてくれ」

 

「……なるほどね。分かったよ!」

 

(カイバーマンのもとを訪れたデュエリストは力の試練を受けている。私が与えるのはそれと対をなす……心の試練!)

 

「一つ問おう。答はデュエルにより示すが良い。お主はカードのことを信じられるか、否か……?」

 

(信じられるかって……? 勿論信じてるよ! 恋する乙女もブラック・マジシャン・ガールも……みんなのことを!)

 

 レイにとっては当然のことのようにすら聞こえる問いに彼女は些か呆気に取られたが、すぐにデッキを見つめて力強く頷いた。

 

「「デュエル!」」

 

 神殿の柱の影から覗くようにしてか弱い精霊たちが見守る中、二人のデュエルが開始された。

 

「僕のターン、ドロー! 来て、チョコ・マジシャン・ガール!」

 

 なびく水色の髪を青色のとんがり帽子で抑えながら若い女性の魔術師がフィールドに降り立つと、懐からステッキを取り出した。

 

チョコ・マジシャン・ガール 攻撃力1600

 

「チョコ・マジシャン・ガールの効果発動! 手札の魔法使い族モンスターを墓地に送り、カードを1枚ドローする!」

 

 レイが墓地に送った魔法使いから魔力を受け取ったチョコ・マジシャン・ガールがステッキを振るうと1枚のカードがレイにもたらされた。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「……」

 

 ターンを終えたレイは並び立つブラック・マジシャン・ガールが対峙する精霊を怪訝な表情で見つめていることに気がついた。

 

「ん? どうしたの? ブラック・マジシャン・ガール」

 

「あ……ううん。なんでもないの」

 

(なんでだろう? 彼を見ているとなんだか懐かしい気持ちに……)

 

レイ LP4000

 

フィールド 『チョコ・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札4

 

「ならば私のターン、ドロー。私は熟練の黒魔術師を攻撃表示で呼び出す」

 

 紫色の光を放つ魔法陣がフィールドに描かれるとその中心から黒いローブに身を包んだ魔術師が現れた。

 

熟練の黒魔術師 攻撃力1900

 

「さらに手札のカードを1枚墓地へ捨てることで、幻想の見習い魔導師は手札から特殊召喚することが出来る!」

 

 さらに出現した紫色の魔法陣から杖先に月を模したオブジェクトが取り付けられたステッキを持った女性の魔術師が現れると、そのステッキを天に掲げた。

 

幻想の見習い魔導師 攻撃力2000

 

「幻想の見習い魔導師が特殊召喚に成功したことでデッキからこのカードを手札に加える」

 

「……! そのカードは……!?」

 

「えっ、そんな……!」

 

 ステッキから光が放たれデッキにある1枚のカードを輝かせると、そのカードが彼の手に加えられた。

 

「ブラック・マジシャン……!?」

 

(……! まさか、あなたは幼い頃私に一から修行をつけてくれた……)

 

「あ、あのっ! あなたは……」

 

「……ブラック・マジシャン・ガールよ。今は真剣勝負の最中。質問は後にしてもらう」

 

「えっ……」

 

 仮面から覗かせる目がブラック・マジシャン・ガールを鋭く射抜くと彼女は少しの間固まってしまう。懐かしさからあふれ出した感情が収まっていくと、冷静さも同時に取り戻されていった。

 

(……そっか。このデュエルに危険はなくても、暴走した精霊のデュエルじゃ油断は禁物。レイちゃんの力を見極めるこの試練、彼が私の知り合いだと分かってしまったら多少なりとも安心してしまう)

 

 ブラック・マジシャン・ガールは目を閉じて頷くと、次の瞬間には真剣な眼差しで相手を見つめていた。

 

「……バトルだ! 幻想の見習い魔導師でチョコ・マジシャン・ガールへと攻撃を行う!」

 

 再びステッキが掲げられると紫色の魔導弾が生成されていく。

 

(……かかった!)

 

「チョコ・マジシャン・ガールの効果発動! 1ターンに1度、このカードが攻撃対象に選択された場合、墓地の魔法使い族モンスターを特殊召喚する! さらに攻撃対象を呼び出したモンスターに誘導し、攻撃モンスターの攻撃力を半減させる!」

 

「……先ほどのターン、墓地に送ったモンスターを呼び出すつもりか」

 

「その通り。僕がこの効果で呼び出すのは……恋する乙女!」

 

 チョコ・マジシャン・ガールがステッキの杖先を地面に触れさせると墓地へと通じる穴が出現し、そこから黄色いドレスに身を包んだ華麗な少女が現れると彼女の目の前に半透明の障壁が貼られた。

 

恋する乙女 攻撃力400

 

 魔導弾が放たれると障壁にぶつかり、その威力を弱めてしまう。しかし勢いが半減しながらも恋する乙女に向かって突き進んでいった。

 

幻想の見習い魔導師 攻撃力2000→1000

 

「それでも幻想の見習い魔導師の攻撃力の方が上回っておるが……」

 

「恋する乙女は攻撃表示の時、戦闘では破壊されない!」

 

「……だが、ダメージは受けてもらう」

 

 威力が弱まっていても魔力が込められた魔導弾に少女は大きく弾き飛ばされてしまい、その目には涙が浮かんでいた。

 

レイ LP4000→3400

 

「恋する乙女のさらなる効果を発動! このカードを攻撃したモンスターに乙女カウンターを乗せる!」

 

「ほう……?」

 

 涙ぐむ乙女の姿を見て幻想の見習い魔導師はわずかに動揺していた。

 

幻想の見習い魔導師 乙女カウンター0→1

 

(よし、決まった! あなたのくれたマジシャン・ガールと僕の恋する乙女の攻撃誘導コンボ……。誘導だけじゃない、攻撃力半減で戦闘ダメージを受けないと効果を発揮できないキューピッド・キスで受けるダメージも減らせる……)

 

「さらに熟練の黒魔術師で……」

 

(でも相手がいきなり2体のモンスターで攻めてくるなんて。もうチョコ・マジシャン・ガールはこのターン攻撃誘導出来ない……)

 

「恋する乙女に攻撃を行う!」

 

「えっ!?」

 

 熟練の黒魔術師がロッドを乙女に向けると帯状の魔力が放たれた。既に障壁も消えており、寸分の狂いなく乙女に向かっていく。

 

(確かにダメージは恋する乙女の方が多く与えられるけど……)

 

「ここで幻想の見習い魔導師の効果を発動! このカード以外の自分の魔法使い族・闇属性が相手モンスターとバトルを行うダメージ計算時にこのカードを墓地に送ることでダメージ計算時のみ攻守を2000上昇させる!」

 

「……! まさか……!?」

 

 幻想の見習い魔導師が魔術師と並び立つとロッドに重なるようにステッキをかざし、膨大な魔力を与えると限界を迎えて消えてしまう。すると放たれている帯状の魔力がさらに太くなっていった。

 

熟練の黒魔術師 攻撃力1900→3900 守備力1700→3700

 

「レイちゃんのライフは3400。こ、これじゃあ……!?」

 

 魔力が衝突し、爆風が恋する乙女ごとレイとブラック・マジシャン・ガールを包み込む。

 

「……」

 

 爆風が収まりその姿が見えるようになるまで賢者はただ静かに待っていた。

 

「……!」

 

「あ、危なかった……。まさかこのターンでライフを一気に持っていこうとするなんて」

 

レイ LP3400→3400

 

 爆風が止むと焦りの表情を浮かべるレイの場には1枚のカードが発動されていた。

 

「トラップカード、ブービーゲーム……! この戦闘で発生した戦闘ダメージを0にしたよ!」

 

「……なるほど」

 

 包み込んだ不思議なヴェールでダメージが打ち消された乙女はホッと安堵の溜め息をついていた。

 

熟練の黒魔術師 攻撃力3900→1900 守備力3700→1700

 

「戦闘ダメージが0になったとはいえ、攻撃された事実に変わりはない! 熟練の黒魔術師に乙女カウンターが乗ったよ」

 

 溜め息をつく可憐な乙女に黒魔術師は思わずときめいてしまう。

 

熟練の黒魔術師 乙女カウンター0→1

 

「私はこれでターンを終了する」

 

賢者 LP4000

 

フィールド 『熟練の黒魔術師』

 

セット0

 

手札4

 

(危うくこのターンで負けるところだったけど、結果的に相手モンスターは1体減って逆に僕は1体増やせた。状況は悪くない!)

 

「僕のターン、ドロー。チョコ・マジシャン・ガールの効果を発動して手札の魔法使い族モンスターを墓地に送り、カードを1枚ドローする! ……魔導騎士 ディフェンダーを召喚! このカードには召喚した時に1つ魔力カウンターが置かれる」

 

 騎士が飛び降りるようにフィールドに降り立つと縦長の盾が叩きつけられるように構えられ、重厚感のある音が響いた。

 

魔導騎士 ディフェンダー 攻撃力1600 魔力カウンター0→1

 

「装備魔法、キューピット・キスとワンダー・ワンドを発動! 魔導騎士 ディフェンダーとチョコ・マジシャン・ガールにそれぞれ装備するよ! ワンダー・ワンドは魔法使い族にのみ装備でき、攻撃力を500アップする!」

 

 魔導騎士の上に現れた天使から光の粉が降り注がれると同時にチョコ・マジシャン・ガールの手に持っていたステッキが消えると代わりに長い杖が授けられる。

 

チョコ・マジシャン・ガール 攻撃力1600→2100

 

熟練の黒魔術師 魔力カウンター0→2

 

「……! あれは……魔力カウンター?」

 

 レイは黒魔術師に変化が起きていたことに気がつく。魔術師の左肩、右肩、首元に取り付けられた三角形を重ね合わせたような紋様が刻まれた半球体の物体の内、左肩と右肩にあるものに淡い緑色の光が点灯していた。

 

「熟練の黒魔術師は魔法カードが発動する度に1つ、最大3つまで魔力カウンターを自身に乗せる効果を持つのじゃ」

 

「なるほどね……」

 

「攻撃力を上げてきたが、チョコ・マジシャン・ガールの攻撃で熟練の黒魔術師を倒すつもりか……?」

 

「ふふっ……どうかな? バトル! 魔導騎士 ディフェンダーで熟練の黒魔術師に攻撃!」

 

「何……!」

 

 騎士が狙いをつけると黒魔術師に向かって短剣が投擲される。しかしそれに反応した黒魔術師が魔力を波状に広げて放つと短剣ごと騎士を覆い込んだ。

 

レイ LP2900→2600

 

「この瞬間、魔導騎士 ディフェンダーの効果を使わせてもらうよ! 1ターンに1度、魔法使い族モンスターが破壊される場合に破壊される魔法使い族1体につき1つ、自分の場から魔力カウンターを取り除くことで身代わりとすることができる。僕は魔導騎士 ディフェンダー自身から魔力カウンターを取り除く!」

 

 魔力の波が流れ去っていくと騎士は盾に刻まれた魔力を使用し自身を包み込むようにバリアを張ることで破壊を免れていた。

 

魔導騎士 ディフェンダー 魔力カウンター1→0

 

(一見無意味な行動だが……なにか狙いがあるに違いない)

 

「ここでキューピッド・キスの効果発動! 装備モンスターが乙女カウンターの乗ったモンスターに攻撃して戦闘ダメージを負った場合、そのモンスターのコントロールを得ることが出来る!」

 

「……! 私のモンスターを(しもべ)とするというのか……!」

 

 すぐ横を流れ去った魔力の波を見て乙女が怯えたような表情で黒魔術師を見つめる。すると罪悪感に苛まれた黒魔術師は主のもとを離れ、乙女の味方となった。

 

「あなたの場に伏せカードはない。この勝負、もらった! 熟練の黒魔術師でダイレクトアタック!」

 

 乙女にお願いされた黒魔術師は躊躇しながらも意を決して主に向かってロッドを掲げようとした。

 

「我がモンスターに主を攻撃させる役目を負わさせはせぬ!」

 

 仮面から覗かせる瞳が鋭くなると地面に空いた穴から伸びてきた光の剣を掴み取り、思い切り天に向かって投擲した。

 

「え……!?」

 

 ロッドが掲げられた瞬間、天から無数の光の剣がフィールドの中央に降り注ぎ視界を遮った。

 

「一体なにが……」

 

「私は幻想の見習い魔導師により墓地へと送られていたトラップカード、光の護封霊剣を除外することでその効果を発動していた」

 

「ぼ……墓地からトラップ!?」

 

「光の護封霊剣は相手ターンに墓地から除外することでそのターンに限り、相手モンスターの直接攻撃を封じることが出来るのじゃよ」

 

「そんなカードを墓地に送っていたなんて……このターンで勝てると思ったのに」

 

「勝負は決着の時まで分からない。その瞬間が訪れるまでは油断をしないことじゃ」

 

「ううっ……その通りだね。僕はワンダー・ワンドの効果を使うよ。装備していたチョコ・マジシャン・ガールとワンダー・ワンド自身を墓地に送ることで2枚のカードをドローする。……カードを2枚セット!」

 

(伏せカードの1枚はマジシャンズ・プロテクション。僕の場に魔法使い族がいる限り、僕が受けるダメージを半減させられる。だけどあの精霊の言う通り油断はできない……ここは慎重にいく!)

 

「恋する乙女を守備表示に変更してターンエンド!」

 

 乙女は地面に膝をつけると足を開いてその間にお尻を落として座り、前で腕をクロスして防御の体勢に入った。

 

恋する乙女 攻撃力400→守備力300

 

レイ LP3100

 

フィールド 『恋する乙女』(守備表示) 『魔導騎士 ディフェンダー』(攻撃表示) 『熟練の黒魔術師』(攻撃表示)

 

セット2『キューピッド・キス』

 

手札2

 

「私のターン、ドロー! 永続魔法、魂吸収を発動。このカードの効力によりゲームからカードが取り除かれる度、1枚につき500のライフを私は得る」

 

 彼の背後に巨大な門が出現するとその門の後ろで亜空間に繋がるゲートが開かれた。

 

熟練の黒魔術師 魔力カウンター2→3

 

「マジックカード、古のルールを発動! このカードにより手札からレベル5以上の通常モンスターを1体特殊召喚する!」

 

「レベル5以上の通常モンスター……」

 

「まさか……!」

 

「いでよ! 我が手に眠りし最上級魔術師……ブラック・マジシャン!」

 

 魔術の呪文書がフィールドに置かれるとひとりでにページがめくられていき、召喚の呪文が記されたページが開かれると文字が端から紫色の光を放ちながら浮かび上がっていく。やがて全ての文字が浮かび上がると一瞬の閃光の(のち)に紫色のローブに身を包んだ凛々しい顔つきの青年が現れていた。

 

ブラック・マジシャン 攻撃力2500

 

「ブラック・マジシャン……! キング・オブ・デュエリストと呼ばれている武藤遊戯さんのエースカード……」

 

(……お師匠様)

 

「さらに時の魔術師を召喚!」

 

 赤い(ふち)の時計が顔になっている小さなマジシャンがフィールドに降り立った。

 

時の魔術師 守備力400

 

「時の魔術師の効果発動! タイム・ルーレット!」

 

 賢者の宣言と共に回り出した時計の針が、青色に区切られた上の面と黄色に区切られた下の面を交互に指していく。

 

「一体何を……!?」

 

「私はこのルーレットがどちらで止まるか宣言する。当たった場合お主の、外れた場合私の場のモンスターが全て破壊される!」

 

「なっ……!?」

 

(どうしてブラック・マジシャンを呼ぶ前じゃなく、今……?)

 

「"下"を宣言する!」

 

 やがて針が減速していくと、ついに一つの面を指し示した。

 

「下……!」

 

「時の流れへと消えるが良い。タイム・マジック!」

 

 時の魔術師がステッキを振りかざすとフィールドの時間が急速に進んでいった。

 

「これでお主の場のモンスターは全滅じゃ」

 

「……それはどうかな?」

 

「なんじゃと?」

 

 時の流れに耐えられず消滅。そう確信した賢者に対し、レイはそうはさせまいと動いていた。

 

「忘れたわけじゃないよね。魔導騎士 ディフェンダーには魔力カウンターを盾にして魔法使い族を助けられる効果があることを」

 

「勿論。だが肝心の魔力カウンターが……。……!」

 

「気づいたみたいだね。そう! 僕は熟練の黒魔術師に乗っていた魔力カウンターを全て使って破壊を防いだんだ!」

 

 急激な時間加速により歪む空間。その中で騎士は魔術師の助力を得て自分達と乙女を包むように不可視の障壁を作り出し、影響を免れていたのだった。

 

熟練の黒魔術師 魔力カウンター3→0

 

「……私のモンスターとの連携で凌いだか……」

 

「そうだよ。……ブラック・マジシャン・ガールとのデュエルで気づいたんだ。デュエルは時に相手のカードが自分の力になってくれることがある。だから自分のカードだけじゃなく、相手のカードも信じる必要があるんだってね」

 

「……!」

 

 レイのその言葉に、賢者は目を大きく見開いた。

 

「レイちゃん……」

 

(嬉しいな。私とのデュエルでそう感じてくれたんだ。……私もそれを……お師匠様とのデュエルで感じたから)

 

(……そうか……。どうやら既に……我が弟子を通して伝わっていたようだな)

 

 そしてその目をブラック・マジシャン・ガールの方に向けると、それに気づいた彼女は照れるように微笑みを見せていた。

 

(彼女ならこの試練を乗り越えられるやもしれん。だからこそ……私は全力を尽くそうじゃないか)

 

 賢者は口角を上げると被っている仮面に手をかけた。

 

「タイム・マジックにより長き時を経て、ブラック・マジシャンは進化を遂げる……!」

 

「えっ!?」

 

 ブラック・マジシャンが纏っていた紫色のローブが年季の入ったものになり、彼自身も歳を重ねた大賢者として姿を現した瞬間、時を同じくして同じ姿の者が仮面を外した。

 

黒衣の大賢者 攻撃力2800

 

「時の魔術師の効果を成功させることで、ブラック・マジシャンを生贄にデッキより黒衣の大賢者を呼び出せるのじゃよ。驚いたかな?」

 

「……そ、そっちもビックリだけど、まさかあなたの正体が……歳を重ねたブラック・マジシャンだったなんて……」

 

「お師匠様……良いんですか?」

 

「ああ。良いじゃろう。ここまでのデュエルを見て……それは余計な心配じゃと判断した。じゃが……」

 

「……!」

 

 柔和な表情を見せる彼の鋭い眼光にレイは身体を強張らせた。

 

「まだ試練は終わっておらんぞ」

 

「……勿論! 決着の時まで油断はしないよ!」

 

「ふふ……良い心がけじゃ。……黒衣の大賢者の特殊効果を発動する! この方法によりこのカードが呼び出されたことで、ワシはデッキより任意のマジックカードを1枚手札へと加えられる!」

 

「えっ……!? 任意のって……好きなのを持ってこれるってこと……!?」

 

「その通り。私が選ぶのは……死者蘇生! そしてこのカードを発動させる!」

 

「死者蘇生……!? 墓地から好きなモンスターを1体復活させられる強力なカードじゃない……!」

 

(肌にビリビリ伝わってくる……! あの人が本気で僕に向かってきてることが……!)

 

 場に張り詰める緊張感が弛緩することはなく、むしろより強まったようにすらレイには感じられていた。

 

「再び現世へと姿を見せよ! ブラック・マジシャン!」

 

 黒衣の大賢者が呪文を唱えると空いた穴から青白い閃光が走り、次の瞬間には青年時代のブラック・マジシャンとの時を超えた邂逅を果たしていた。

 

ブラック・マジシャン 攻撃力2500

 

(凄い……。けど、このターンはマジシャンズ・プロテクションでなんとか凌げる!)

 

「……さらに速攻魔法、神々の黄昏(ラグナロク)! このカードは私の場に4体の黒魔導師の内2体が表側表示で存在する時……自らのデッキ・手札・墓地からモンスターカードを全てゲームから除外することで発動出来る!」

 

「……!?」

 

(……なんて覚悟で仕掛けてくるの……!)

 

 黒衣の大賢者とブラック・マジシャンがロッドを重ね合わせると、多くのモンスターの力が集約されていった。そんな光景を前にしたレイは背中に冷や汗が伝う感覚を覚えながら、彼らと向き合っていた。

 

「そしてその効果により、お主の場のモンスターを全てゲームより取り除く!」

 

「嘘でしょ……!? せっかく時の魔術師から守ったのに……!」

 

 そして全ての力が集まった瞬間、2人の黒魔導師が顔を見合わせて頷き、相手の場に異次元へ通じる穴を出現させた。レイの場のモンスターが抗いようのない絶対的な力で吸い込まれ、異次元へと飛ばされてしまう。

 

(さあ……乗り越えてみせよ)

 

「この瞬間、魂吸収の効果が発動される……! ゲームから取り除かれたのは全部で20枚。よって私は1万のライフを得る……!」

 

「レイちゃん……!」

 

 次々と魔法使いの魂が彼の背後にある門へと飛び込んでいき、魔力から命の源が生み出されていった。

 

「……させない! 速攻魔法、ダブル・サイクロン! 僕の場に伏せてあるカードと、あなたの魂吸収を破壊する!」

 

「ほう……!?」

 

 彼を癒す光が今にも放たれようとしていた。そこにやってきた嵐がレイの伏せているカードを巻き込んで巨大な門を崩壊させ、亜空間へと続く道は閉じてしまった。

 

「じゃが、伏せカードを失ってはダイレクトアタックは防げぬ」

 

「それはどうかな! 破壊されたマジシャンズ・プロテクションの効果を発動! このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、僕の墓地から魔法使い族モンスターを1体特殊召喚できる!」

 

「しかしお主のモンスターは神々の黄昏で除外されて……。……! そうか……」

 

「そう……僕の墓地には1体だけ、チョコ・マジシャン・ガールの効果で送られたモンスターが眠ってる! 戻ってきて、ミュータント・ハイブレイン!」

 

 がら空きになったレイの場に突如として、細身ながら3メートルを超える身長の突然変異体が現れた。場に降り立つことはなく、自身の超能力を駆使して浮遊している。

 

ミュータント・ハイブレイン 守備力2500

 

「……ならば、バトル! 黒衣の大賢者でミュータント・ハイブレインへと攻撃を行う!」

 

 黒衣の大賢者は紫色の魔力の弾を放った。テレキネシスにより軌道を変えようと試みたミュータント・ハイブレインだったが、その威力に力及ばず。魔導弾が的中し、倒れてしまった。

 

「さらにブラック・マジシャンでダイレクトアタック! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 

 続けて放たれた魔導弾は先に放たれたものより僅かに威力で劣るものの、それでも空気を切り裂いていき、的確にレイを捉えた。

 

「くうっ……!」

 

レイ LP3100→600

 

(僕なりに守備は固めていたのに、ここまで追い詰められるなんて……!)

 

(……このターン魂吸収による回復、または全滅からの連続攻撃。いずれかを防げなければ……そう思っていたのだが、凌いでみせたか。後は……)

 

「ターンエンドじゃ」

 

賢者 LP4000

 

フィールド 『黒衣の大賢者』(攻撃表示) 『ブラック・マジシャン』(攻撃表示) 『時の魔術師』(守備表示)

 

セット0

 

手札0

 

(追い詰められた! 不安が押し寄せてくるよ……それでも、僕は……)

 

 猛攻により場のカードを失い、ライフも大きく失ったレイ。焦りや緊張は確かにあった。

 

(信じてるよ)

 

「……ドロー! ……!」

 

 勢いよく引き抜いたカードを目にした彼女はその目を見張った。

 

(儀式の下準備。デッキから儀式魔法と対応する儀式モンスターを持ってこれる。僕の残りライフを考えれば……)

 

(……力になるよ、レイちゃん!)

 

 そしてブラック・マジシャン・ガールの方へと少しの間振り向くと、前へと向き直った。

 

(目の色が変わった……!)

 

 瞳に決意が宿ったことに賢者が気づく中、レイはドローしたカードをそのまま発動させた。

 

「儀式の下準備発動! デッキからカオス—黒魔術の儀式とマジシャン・オブ・ブラックカオスを手札に加えるよ。さらにミスティック・パイパーを召喚!」

 

 紅色のマントを羽織った青年が降り立つと、横笛を唇に当てて構えた。

 

ミスティック・パイパー 攻撃力0

 

「ミスティック・パイパーの効果発動! 自身を生贄にすることで、僕はカードを1枚ドローするよ。引いたカードがレベル1のモンスターならもう1枚ドロー出来る!」

 

(先に該当しない儀式魔法とレベル8のモンスターを加えたのはそのためか……)

 

 心地よい音の旋律につられ、レイのデッキトップのカードが光り出した。レイはそのカードを迷わず引き抜く。

 

「ドローしたのはマジシャンズ・ソウルズ! レベル1だよ。よってもう1枚……ドロー!」

 

 旋律がリズム良く重なるようにもう1枚のカードも引き抜かれた。

 

「よしっ! 儀式魔法、高等儀式術! 呼び出す儀式モンスターとレベルが同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地に送って儀式召喚するよ! デッキからレベル8のコスモクイーンを送って……いでよ、マジシャン・オブ・ブラックカオス!」

 

 青白い8つの炎が出現すると浮かび上がった光が複雑な術式を描き出した。そして完成した術式が輝きを増すと、紫を基調とした装束に身を包んだ魔術師が姿を現した。

 

マジシャン・オブ・ブラックカオス 攻撃力2800

 

「さらにデッキからレベル6以上の魔法使い族モンスターを墓地に送ることで手札のマジシャンズ・ソウルズの効果発動! このモンスターを特殊召喚するか、このモンスターを墓地に送ることで僕の墓地からブラック・マジシャンかブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚出来る! 2つ目の効果を選ぶよ! お願い、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「任せてっ!」

 

 効果発動に必要なコストとしてブラック・マジシャン・ガールを墓地に送ったレイは彼女に声をかけると、威勢の良い返事と共に彼女自身が場へと参上した。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

 

「……だが、それだけでは我が布陣は崩せぬ!」

 

「そうだね。だから僕は……あなたのカードを使わせてもらうよ」

 

「……なに?」

 

二重魔法(ダブルマジック)発動! このカードを使うためには手札のマジックカードを1枚捨てる必要があるよ。僕はカオス—黒魔術の儀式を墓地に! そして相手の墓地から1枚、マジックカードを僕のカードとして使う!」

 

「……!」

 

(死者蘇生でコスモクイーンを復活させ、ライフは削りきれないまでも全滅させる算段か。……!? そ、そのカードは……)

 

「僕はこのカードを発動させる! 神々の黄昏!」

 

 レイが選んだのは神々の黄昏。発動のコストとしてレイのデッキ・墓地から全てのモンスターの魂が取り除かれていく。それを見た賢者は、そのうち半分近くがブラック・マジシャン・ガールが所持していたカードであることに気がついた。

 

(神々の黄昏を発動可能な黒魔導師のうち2体は私が、残り2体は我が弟子が持っていた……。それにこれは……なるほどな。彼女は彼女自身のカードだけでなく、我が弟子のカードも同様に信じていた。さらに私のカードまで信じ、自らのデッキを最大限に活かした……)

 

 最上級魔法によりなす術なく賢者のフィールドの魔術師たちが異次元へと飛ばされていった。その光景に彼は思わず感嘆の吐息を漏らす。

 

「バトルだ! マジシャン・オブ・ブラックカオスとブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック! ダブル・ブラック・バーニング!」

 

 ステッキとロッドが重ね合わされるとその先に巨大な魔導弾が生成されていき、そして放たれた。

 

賢者 LP4000→0

 

 これにより、デュエルの幕が閉じられた。ブラック・マジシャン・ガールが信じられないような表情で立ち尽くしているとレイが隣にやってきた。そして満面の笑みを二人とも浮かべるとハイタッチを交わしたのだった。

 

「……見事じゃ。最後は思わず見惚れてしまったよ」

 

「お師匠様」

 

「えっと、二人はやっぱり……?」

 

「うん。昔、お師匠様に色々教えてもらっていたんだ」

 

「まさかまた会えるとは思わなかった。しかも今のデュエルから、お主は勿論……お前のデュエルも感じられて嬉しかったよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「……さて再会を懐かしみたいところだが」

 

「精霊の暴走をなんとかしなきゃ……だよね」

 

「ああ。デュエルでの衝撃も発生する上、相手も強い精霊じゃ。それでも……お願い出来るだろうか」

 

「勿論! 僕が勇気を出せば、助かるんだ! 引き受けるよ! それで、どうやったら助けられるの?」

 

「今は悪意に意識を乗っ取られている。デュエルに勝利することでそれを払えば問題ないのだが……」

 

「……? だが……?」

 

「……いや、先にも言った通り乗っ取られた精霊はデュエルがかなり強くてな。それも被害にあった4人ともなんじゃ。今回の事件、偶然にしては出来すぎているような……」

 

「……確かに。奪われた力と一緒に受け取ったのに、よりによって強い人ばかりになんて。か弱い精霊の方が乗っ取られやすいのに……」

 

(この世界のことを知ってる二人が言うなら……そうなのかな)

 

「……それでもデュエルに勝てば意識を取り戻せるのは間違いないんだよね?」

 

「ああ……纏ってる悪意が原因なのは確認してある。間違いない」

 

「なら、やることは変わらないよ。もし裏に何があったとしても、助けにいく!」

 

「……頼む」

 

 漂う不穏な気配を断ち切るような強い意思を見せたレイに彼は絞り出すように声を出し、彼女を拘束している精霊の場所へと移動させたのだった。

 

 そうしてレイが精霊の前にたどり着く、少し前。ユキは墓場エリアへと到着していた。

 

(暗い……。暴走している精霊はどこに?)

 

 その場には灯りが見当たらず、また墓場エリアには日が差さないため辺りは真っ暗だった。すると不意に一灯の火が彼女の前に出現した。

 

「ひっ……!?」

 

「……嬢ちゃんか。迷子……じゃねえよな」

 

 死者の魂を連想させるような火の玉にユキが怯えた声を出すと、火の主はその頼りなげな姿に不安そうな声色で話しかけてくる。

 

「う、うん。急だったからビックリしただけ。あなたは……?」

 

「オイラはここに住んでいる妖怪さ。カイバーマン様から現地での案内を頼まれてるんだけど……そんな調子で平気か?」

 

 正体は尻尾の先に火を灯せる狐の精霊だった。墓場エリアの長とも言える精霊を助けるためにも、ユキにその覚悟の程を問う。

 

「……大丈夫。あの人の分もユキが精霊さんを助ける……!」

 

「……!」

 

 しっかりと目を見据えて返事をしたユキにその見た目とは裏腹に強い意思があると感じた狐は彼女に託すことを決めると、奥で動きを拘束されている精霊の元へと案内した。そして近くに置かれていた蝋燭に狐が火を灯し、姿がはっきりと彼女の瞳に映った。

 

「……!? まさか、そんな……」

 

 彼女の身体が途端に震え出す。

 

「死霊王 ドーハスーラ……!?」

 

 かつて感じた恐怖が、再び彼女を襲ったのだった。




色々あって期間空いてしまいましたが、リアルの方が落ち着いてきたので、またゆるゆると書いていきます。


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希望の灯火

「……死霊王 ドーハスーラ……!?」

 

「知ってるのか。そうだぜ。ドーハスーラのアニキは墓場エリアの主……。いつもはオイラみたいな弱い精霊の面倒を見てくれてるんだ」

 

「……! そう、なんだ……。優しい精霊さんなんだね」

 

(ユキにとっては、強い衝撃を受けた……苦手なモンスター。正直、怖い……。でも向き合おう。このモンスターさんは前も、今も……巻き込まれているだけなんだ)

 

 蝋燭の炎が照らした先には大蛇の身体と骸骨の顔を持つ精霊の姿があった。黒く染まった霊魂のようなエネルギーが身体から溢れんばかりに出ていたが、彼の下に浮かび上がる術式が動きを抑え込んでいる。

 

「……ふふふ。誰かと思えば。遊城十代は来なかったか。しかも身体が震えておるではないか……」

 

「……!」

 

 どこからか聞こえた声にユキは左右を見渡したのちに、顔を上げた。彼女が顔と思っていた二つの大きな骸骨は首から生えており、さらにその上にある悪魔を彷彿とさせるような二本の角を生やした小さな骸骨こそが顔だった。

 

「貴様の精霊を我に献上せよ。そうすれば貴様は見逃してやろう」

 

「あ、アニキ……本当にどうしちまったんだよ」

 

「……嫌だと言ったら?」

 

「デュエルで貴様の全てを奪い去るまでよ。我はどちらでも構わんぞ」

 

(……おかしい……)

 

「……あなたは……誰?」

 

「どういう意味だ?」

 

「今回の件は正気を失った暴走だったはず。交渉をする余裕があるとはとても思えない」

 

「……! た、確かに。でも悪意を取り込んでおかしくなったのは確かだぜ……」

 

「……ほう。良いだろう。問いに答えてやろう。我は幻魔を総べる(みかど)

 

「……!? けれど、三幻魔は封印されたはず」

 

「忌々しいことにな。それもあの影丸とかいう男のせいよ……。あと一歩で我の計画に必要な精霊の生気が集まったというのに」

 

「……! 精霊の力は……影丸理事長が不老不死の肉体を得るために集められていたはず」

 

「それこそが我が手足、三幻魔の役割。果たされた暁には……巣食う悪意から我がそやつを支配する」

 

「なっ……!? 意識を乗っ取るということ?」

 

「貴様は知らないか? 三幻魔を手にする者には不老不死と、世界を支配する力が与えられる……。世界を支配する力こそが、我そのものなのだ」

 

「……つまり、影丸理事長のことは最初から利用するつもりだった……」

 

「ふふ……望み通りの身体は与えてやったのだ。意識など無くても構わんだろう」

 

「酷い……」

 

「……じゃ、じゃあ。もしかして! お前は今、アニキの身体を乗っ取ってやがるのか!」

 

「その通り。あの敗北で再び三幻魔が封印される直前。力を返すついでに、強力な精霊にあやつの悪意を埋め込んでやったのよ……」

 

「だから四人の強い精霊が暴走を……」

 

「その後三幻魔は封印されてしまったが、我は違う。他の三人の精霊と違って、こやつだけは我自身が入り込んだ!」

 

「てめえ……!」

 

「さて、わざわざ話してやったのは理由がある。再び問おう。貴様の精霊を我に寄越すのだ」

 

「……他の精霊と違って、ユキの前にいるのはあの三幻魔のさらに上の存在。敵う道理が無いと言いたいの?」

 

「その通りだ。貴様も三幻魔の力は見ただろう」

 

「うん。恐ろしい力だった。十代さんもあの奇跡のカードが無ければ……そう思ったくらい」

 

「ならば貴様の精霊と……ついでにそこの精霊も渡すが良い。この邪魔な術式を取り払わせてもらう」

 

「ひっ……!」

 

(……そっか。知らないんだ。動きを制御する時間に猶予がないことを。だから……デュエルが、成立する)

 

「……なんのつもりだ?」

 

 狐の精霊をかばうように立ったユキはデュエルディスクを構えた。

 

「勿論デュエルする」

 

「ふん……。正気とは思えぬ選択だな」

 

「むしろ今の話で落ち着いた? あなたは話しすぎた。今のあなたは、あの恐ろしい力は使えない」

 

「……何故そう思う?」

 

「あなたはわざわざ他の精霊は、ただ暴走しているだけだと話してしまった。一人しか乗っ取れないのに、何故そんなことをしたのか……。答えは意外に簡単。あなたは十代さんを恐れて、自分のところに来ないよう他の精霊をデコイとした。今の十代さんの手にあのカードは無い……三幻魔を超える力があれば、そんなことをする必要はない」

 

「……!? き、貴様……!」

 

「だから震えてたユキに交渉なんてことをする。不安要素が無いのなら、さっさとユキを倒してしまえばいいだけのこと。……違う?」

 

「……ふはは! どうやら、小童(こわっぱ)と思って油断しすぎたようだ。冥土の土産に教えてやろう。我自身のデッキは、三幻魔の力を束ねて初めて使えるようになる……。だからこそわざわざ強い力を持つ精霊を乗っ取ったのだ。貴様など、こやつの力で十分!」

 

 彼はユキの言葉に少しの間目を見開いていたが、高笑いののちに地面に突き刺していた杖を豪快に持ち上げると、首から伸びる二体の骸骨に食わせるように挟んだ。骸骨の霊気を取り込んだ杖はデュエルディスクとして展開されていく。

 

「……アニキは精霊界でもトップクラスのデュエリストだ。だからオイラたちみたいなか弱い精霊を守れるんだ。あればかりはハッタリじゃないぜ……」

 

「ドーハスーラさんは強いかもしれない。でも、あの人はドーハスーラさんじゃない」

 

「……! ……そうだな! なぁ、嬢ちゃん。オイラもアニキと……嬢ちゃんのために、戦わせてくれ!」

 

「うん。一緒に戦おう!」

 

 自分の目の前に伸ばされた手を見つめた狐の精霊は意を決し、手を伸ばした。そして互いの手が触れ合うと、狐はカードの姿となってユキの手に収まっていた。

 

(自分のことをか弱い精霊と言っていたのに、勇気を出してくれた。ならユキもその想いに応えてみせる。デュエリストとして!)

 

「「デュエル!」」

 

 デュエルディスクを構えた両者が対峙し、戦いの幕が開けられた。

 

「ユキのターン、ドロー! マシンナーズ・メタルクランチはレベル9だけど、自分フィールドに表側表示のカードがない時には、元々の攻撃力を1800として生贄無しで呼び出せる!」

 

「ふん……妥協召喚か」

 

 静かな墓場に駆動音が響き、オレンジ色のカラーリングで彩られた人型の機体が颯爽と参上を果たした。

 

マシンナーズ・メタルクランチ 

攻撃力2800→1800

 

「召喚に成功したことで効果発動。デッキに眠る機械族・地属性モンスター……ジャンクリボー、巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア、弾丸特急バレット・ライナーの中からあなたはランダムに1枚選ぶ」

 

「左のカードだ」

 

「そのカードを手札に加えて、残りのカードはデッキに戻す。さらに永続魔法、機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)を発動。このカードがある限り、1ターンに1度機械族モンスターが戦闘で破壊されてユキの墓地に送られたら、そのモンスターと同じ属性でかつ攻撃力が低い機械族モンスターをデッキから呼び出せる」

 

「…………」

 

 ユキの場の最前線に建てられた基地。機械のパーツを送り込む投入口を悪魔憑きは笑みを湛えて見つめていた。

 

(メタルクランチの本来の攻撃力は2800。一気に最上級モンスターも狙える……)

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『マシンナーズ・メタルクランチ』(攻撃表示)

 

セット1 『機甲部隊の最前線』

 

手札4

 

「ならば我のターン! 貴様は先ほど言ったな。我はこやつではないと」

 

「言った……。そのデッキはドーハスーラさんのもの。他の人が使いこなせる訳がない」

 

「果たしてそうかな……? 我はこのスタンバイフェイズで速攻魔法、手札断殺を使う! 互いに手札を2枚墓地へ送り、その後2枚ドローする」

 

(いきなり手札交換……?)

 

 ふてぶてしく言い放ちながら手札を入れ替える悪魔憑きをユキは怪訝な表情で見つめる。

 

「墓地へと送った屍界のバンシーの効果を自身を除外して発動! デッキから発動せよ! アンデットワールド!」

 

「そのカードは……!? フィールドと墓地のモンスターを全てアンデット化させてしまうフィールド魔法……!」

 

 フィールドに立ち込めた闇色の霧がロボットを包み込むと、輝かしいオレンジ色のボディがくすんでしまう。

 

「……! フィールド魔法、スタンバイフェイズ……ま、まさか。さっき墓地に送ったもう1枚のカードは……!」

 

 悪魔憑きを霊気が包み込んでいくと、彼を中心に渦巻いていく。やがて霊気が彼から離れると、取り憑いているドーハスーラを模した姿となって場に現れた。

 

「蘇れ! 死霊王 ドーハスーラ!」

 

死霊王 ドーハスーラ 守備力2000

 

「ドーハスーラはフィールド魔法が表で存在する場合、スタンバイフェイズに墓地から守備表示で特殊召喚できる……。それをまさか、最初の自分のターンでやってくるなんて……」

 

「我こそは世界を支配する力。故にデュエルも我に支配される! 永続魔法、フィールドバリア。互いにフィールド魔法を破壊できず、また発動も出来なくなる!」

 

「……! 不死のコンボを……!」

 

 かつて遠くから見ていた光景にユキは想像以上の絶望感を覚えながら、前を見据える。

 

「ゾンビ・マスターを召喚!」

 

 マントと形容するにはあまりにもボロボロな布切れを羽織ったゾンビが墓石の前に降り立った。

 

ゾンビ・マスター 攻撃力1800

 

「手札を1枚墓地に送り、効果を使う! 墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を我の場に呼び出す!」

 

「あなたの墓地にモンスターはいない。けれどアンデットワールドでユキの墓地のモンスターはアンデット化している……!」

 

「そう。よって貴様のモンスターを呼び出す……が、その前にこやつの能力を使わせてもらおうか」

 

「ドーハスーラは自身を除くアンデット族モンスターの効果が発動した時、効果を無効にする効果と、フィールド・墓地のモンスターを1体取り除く効果を1ターンに1度ずつ使える……」

 

「我は後者の効果を使い、メタルクランチをゲームより取り除く!」

 

「くっ……」

 

 亡者の怨念が杖より放たれ、身動きを封じられたロボットはまるで初めからそこにいなかったかのように消えてしまった。

 

「さらにゾンビ・マスターにより貴様のX—ヘッド・キャノンを我の場に!」

 

 ゾンビが墓石の前で両手を上げると土が盛り上がり、そこから朽ちてエンジンが止まった機体が飛び出すと、フィールドに浮遊し出した。

 

X—ヘッド・キャノン 攻撃力1800

 

「やれ! X—ヘッド・キャノンよ。主を撃ち抜け!」

 

 砲塔が不可思議な力でユキに向けられると、レーザーの代わりに霊魂が放たれた。

 

「やらせはしない? トラップカード、カウンター・ゲート! ダイレクトアタックを無効にする!」

 

「ちっ……」

 

 霊魂はユキの目の前に出現したゲートの中に飛び込んでいった。

 

「さらに1枚ドローして、それが通常召喚可能なモンスターなら攻撃表示で召喚できる。……ドロー!」

 

 ユキがカードを引き抜くと、ゲートから閃光が放たれた。すると次の瞬間ゲートは消えており、代わりに円盤を背負った亀が現れていた。

 

UFOタートル 攻撃表示1400

 

「ならばゾンビ・マスターで攻撃!」

 

「…………墓地の超電磁タートルの効果を自身を除外して発動! バトルフェイズを強制的に終了させる!」

 

「無駄なことを! アンデット化した超電磁タートルの効果をドーハスーラにより無効とする!」

 

 ゾンビと亀に同極の磁性が帯びさせられ、反発し合う反応を見せたが、ドーハスーラが人魂を放つと、その高温により磁性は消滅してしまった。障害が無くなったゾンビの噛みつきにより、亀は倒されてしまう。

 

(アンデットワールドのせいで機甲部隊の最前線が使えない……。種族に干渉されるのって、こんなに戦いづらいんだ。……!?)

 

「うあっ……!?」

 

ユキ LP4000→3600

 

 身を引き裂くような痛みに、ユキは苦悶の声を漏らして片膝をつく。

 

(これがデュエルでの衝撃……! 痛い……けど! 亮さんはこの痛みを堪えて、ユキたちを守ってくれたんだ)

 

 ここで心が折れる方が胸が痛むと言わんばかりに、ユキは左胸を押さえながら立ち上がった。

 

「……破壊されたUFOタートルの効果! デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する!」

 

「ち……こやつの効果はそれぞれ1ターンに1度。これ以上は封じれぬか」

 

(力を借りるよ)

 

「来て! きつね火!」

 

 フィールドに残された円盤から光線が放たれると狐のシルエットが浮かび上がり、やがて光線が途切れると彼の尻尾の先についた火がユキの場を照らした。

 

きつね火 攻撃力300

 

「よっしゃ、任せな! って言いたいところだが、オイラじゃちょいと役者不足かな……?」

 

 相手フィールドに佇む三体のモンスターはいずれも大きな体躯を有しており、彼は小さな自分の力ではどうにもしようがないと感じていた。

 

「今はそうでも、あなたの中には強さも潜んでる。ユキに任せて?」

 

「分かった! 頼りにしてるぜ、嬢ちゃん!」

 

「カードを1枚伏せてターンを終える。再びこやつの効果も使用可能になる……。貴様らが策を弄しようが、無駄な足掻きよ」

 

(確かにこのターンはカードを費やして使い切らせたけど、この先もという訳にはいかない。亮さんは不死のコンボにプレイヤーにはライフという限界があることを突いて対抗した。けどユキのデッキじゃとてもじゃないけど、1ターンで削り切るのは難しい。でも同じやり方で突破する必要はない……。ユキには、ユキのデュエルがあるんだから)

 

悪魔憑き LP4000

 

フィールド 『死霊王 ドーハスーラ』(守備表示) 『ゾンビ・マスター』(攻撃表示) 『X—ヘッド・キャノン』(攻撃表示)

 

セット1 『アンデットワールド』 『フィールドバリア』

 

手札1

 

「ユキのターン……ドロー! ……!」

 

(そっか。どんなカードにも強い所と……弱い所がある)

 

「……マジックカード、森のざわめき! このカードでドーハスーラを裏側守備表示に変更する!」

 

「なんだと……!?」

 

 墓場を囲む森が風で怪しく揺れると、怒りを以て主たるドーハスーラの虚像を溶かすように崩した。

 

死霊王 ドーハスーラ 守備力2000(裏側守備表示)

 

「このターンのドーハスーラの効果を回避する算段か。だが不死のコンボがある限り、虚しき延命に過ぎぬ!」

 

「そうとも言い切れない? 森のざわめきのさらなる効果を発動! フィールド魔法を持ち主の手札に戻す!」

 

「……! アンデットワールドが……!」

 

 墓場に漂っていた闇色の霧が森から吹き上げた強烈な突風により、跡形もなく消え去っていく。

 

「小細工を……。延命に過ぎぬということが、まだ分からぬか」

 

「……。本当にそうなのか……あなたの目で確かめれば良い。きつね火を守備表示に変更。さらに自分より相手フィールドのモンスターの数が多い場合、ブラスターキャノン・コアは手札から特殊召喚できる!」

 

 ユキの場にワープトンネルが出現すると、そこを通って宇宙より未知の金属で築き上げられた要塞のごとき援軍が駆けつけてきた。

 

きつね火 守備力200

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500 カウンター0→3

 

「召喚に成功したブラスターキャノン・コアにはカウンターが3つ置かれる。バトル! ブラスターキャノン・コアでX—ヘッド・キャノンを攻撃!」

 

「足掻きで自らのモンスターを砕くか。それもまた面白い……」

 

 砲塔からの撃ち合いになったが、機体と戦艦の明確な性能の差が顕れる。戦艦から放たれたレーザー砲が機体を包み込み、爆散させた。

 

悪魔憑き LP4000→3300

 

「ブラスターキャノン・コアは戦闘で破壊されない代わりに、バトルを行うたび自身のカウンターを1つ取り除き、取り除けなくなった場合に破壊される」

 

「自ら破滅へのカウントダウンを数えるか。滑稽なものだな」

 

 機体の砲撃をある程度受けた戦艦は中心にある弱点のコアを守るための遮蔽板を1つ失った。

 

ブラスターキャノン・コア カウンター3→2

 

「さらに機械族モンスターが戦闘で破壊され、ユキの墓地に送られたことで、機甲部隊の最前線の効果を発動!」

 

「なに……そうか。……褒めてやろう。このデュエルでそのカードの効果を通したことをな」

 

「そんな余裕も今のうち? ユキはY—ドラゴン・ヘッドを呼び出す!」

 

 X—ヘッド・キャノンのパーツが基地にある投入口へと放り込まれると問題無く稼働し、部品を再利用して新たな機体が生み出された。

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500

 

「ふん。バトルもこれで終わりだというのに、世迷言を」

 

「あいにくバトルフェイズは終わっていない? 速攻魔法、無許可の再奇動(メイルファクターズ・コマンド)。ユキの場の機械族モンスターに装備可能な機械族ユニオンモンスターをデッキから装備する。ユキはY—ドラゴン・ヘッドにZ—メタル・キャタピラーを装着!」

 

 デッキから発射された機体が前線基地に到着すると、翼を広げたY—ドラゴン・ヘッドの下から伸ばされたプラグで結合され、性能がチューンナップされた。

 

「Z—メタル・キャタピラーのユニオン効果により、装備モンスターの攻守は600上昇する!」

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500→2100 守備力1600→2200

 

「む……」

 

「さらにゾンビ・マスターに攻撃……!」

 

 攻撃司令に従いY—ドラゴン・ヘッドがZ—メタル・キャタピラーから電力を補給すると、口を開いて青白い電撃を放った。とっさに逃げるゾンビだったがフィールドを縦横無尽に走る稲妻からは逃れられず、身体が焼き尽くされる。

 

悪魔憑き LP3300→3000

 

「……くくく。ダメージを優先してこやつを破壊するチャンスを逃すとはな」

 

「バトルフェイズを終了する。けど、チャンスは続く? Y—ドラゴン・ヘッドとZ—メタル・キャタピラーを除外!」

 

「何をするつもりだ?」

 

「ユキの場に揃ったこれらのカードを除外することで、『融合』を使わずに、融合デッキのこのモンスターを特殊召喚出来る……!」

 

 Z—メタル・キャタピラーがアームを伸ばすと、飛んでいたY—ドラゴン・ヘッドがゆっくりと降下していく。するとZ—メタル・キャタピラーが土台となり、そこへと降りたY—ドラゴン・ヘッドが翼を畳んで砲撃に特化した竜の頭の姿へと変形していった。

 

「合体完了! YZ—キャタピラー・ドラゴン!」

 

YZ—キャタピラー・ドラゴン 守備力2200

 

「手札を1枚捨てて効果を発動! 相手フィールドの裏側表示モンスターを1体破壊する!」

 

「……! まさか……!?」

 

「森のざわめきでセットされているドーハスーラを破壊!」

 

 エネルギーを充填した竜の口から威力のある砲撃が放たれると、大きな反動が機体に生じたが、安定感のある土台が揺らぐことはなかった。これにより寸分の狂いもなく、地に伏しているドーハスーラに砲撃が命中した。

 

「全滅だと……!?」

 

「これでもまだ余裕を見せていられる?」

 

「……当然だ! 貴様はまだ不死のコンボを破ったわけではないのだからな」

 

「……YZ—キャタピラー・ドラゴンのコストで墓地に送ったシャッフル・リボーンの効果を除外して発動する。ユキの場のカード……機甲部隊の最前線をデッキに戻して、カードを1枚ドローする」

 

「い、良いのか嬢ちゃん? さっきのを見るに結構頼りになるカードみてえだけど……」

 

「うん。永続魔法での戦線維持戦術は頼りになる……それはよく分かってる。でもそればかりに頼っていては……先へ進めないことも、よく分かったから」

 

「格好をつけおって。我がアンデットワールドの前に無力となるが故に切り捨てたのであろう?」

 

「……カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

ユキ LP3600

 

フィールド 『巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア』(攻撃表示) 『YZ—キャタピラー・ドラゴン』(守備表示) 『きつね火』(守備表示)

 

セット2

 

手札0

 

「我のターン! 我は再びフィールド魔法、アンデットワールドをはつど……。なっ!?」

 

 森のざわめきにより手札に戻されたフィールド魔法。悪魔憑きがそれをフィールドに置いた瞬間だった。ディスクの拒絶反応が彼自身に襲いかかる。

 

「ぐおおっ!? ……な、何故だ……!」

 

「………フィールドバリアによって、フィールド魔法を発動することは出来ない。不死のコンボは既に崩壊しているの」

 

「……! し、しまった……!」

 

「その効果は張り替えによるアンデットワールドの破壊を防ぐ強力な効果でもあった。けど……あなたは自分のカードの弱い部分に目を向けず、偽りの姿を見ていた。それはあなた自身が偽りだから」

 

「そうだそうだ! 本物のアニキならそんなミスは絶対しないぜ!」

 

「小童がっ……! 我を愚弄するか!」

 

 肉体的にも精神的にも彼の受けたダメージは大きかった。先ほどまでの余裕は既に消え去り、骸骨の顔が邪悪な悪魔のように歪んでいく。

 

「生者の書—禁断の呪術—を使い、墓地からドーハスーラを蘇らせ、貴様のX—ヘッド・キャノンをゲームより取り除く!」

 

「……!」

 

(……気迫が伝わってくる。死に物狂いで、ユキを仕留めるつもりなんだ。負けない……!)

 

死霊王 ドーハスーラ 攻撃力2800

 

「マジックカード、龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)! 我の墓地のモンスターを除外し、それらを素材としてドラゴン族融合モンスターを呼び出す!」

 

「ドラゴン族専用の融合カード……?」

 

「2体のアンデット族……ゾンビ・マスターと闇より出でし絶望を融合させる。悪意より生まれし闇よ、絶望となりて、冥界より姿を現せ!」

 

 フィールドに発生した渦に悪魔憑きの身体から溢れ出した闇が全て取り込まれていくと、そこから出現した龍の翼は禍々しく漆黒に染まっていた。

 

「冥界龍 ドラゴネクロ!」

 

冥界龍 ドラゴネクロ 攻撃力3000

 

「さっきアニキから感じてたいやーな雰囲気が、あのドラゴンに全て移った……。気を付けた方がいいぜ。デュエルを介して直接嬢ちゃんの力を奪いに来るつもりだ」

 

「それなら……デュエルで迎え撃つよ。トラップカード、E.M.R.(エレクトロ・マグネティック・レールガン)を機械族のYZ—キャタピラー・ドラゴンをリリースして発動!」

 

「……!」

 

 YZ—キャタピラー・ドラゴンに新たな兵器が搭載されると、備えられた全ての電力が注ぎ込まれた。

 

「リリースしたモンスターの元々の攻撃力1000につき1枚までフィールドのカードを破壊できる!」

 

「YZ—キャタピラー・ドラゴンの攻撃力は2100……!」

 

「よってドーハスーラとドラゴネクロを破壊する……!」

 

 YZ—キャタピラー・ドラゴン自体は機能を停止したものの、電力によって磁場が発生し、その力を利用して2発の弾が放たれた。

 

「良いぞ! あいつらさえ破壊しちまえば……!」

 

「させぬ! カウンタートラップ、大革命返し! フィールドのカードを2枚以上破壊する効果の発動を無効にして除外する……!」

 

 猛スピードで投射された弾だったが、ドラゴネクロが翼をはためかせると、吹き荒れた暴風によって空の彼方へと弾き飛ばされてしまった。

 

「うっ……防がれた!?」

 

「あ、アニキめ……フィールドバリアを引けなかった時用に他に守るカードも入れてたんだな!」

 

「焦らせおって。終わりにしてくれる!」

 

(終わり……? 残された手札は発動できないアンデットワールド。ドラゴネクロはドラゴン族、効果を使ってもドーハスーラの効果は発動しない。……それほど、ドラゴネクロが強力な効果を持っている……?)

 

「……トラップカード、挑発! このカードは相手のメインフェイズ1に発動可能。相手が攻撃を行う場合、ユキが指定したモンスターがフィールドに存在する限り、攻撃対象に選択しなくちゃいけない。ユキは選ぶのは……きつね火!」

 

「こ、来い! お前なんか怖くないぞ!」

 

「……ちっ。ならばバトルだ! こやつできつね火を攻撃する!」

 

「げえっ! アニキ!? ……ええい、来い!」

 

 抜け殻のように動かなかったドーハスーラが操り人形のように動き出すと、杖を振り下ろした。勇敢に応戦したものの、力強い打撃にきつね火は倒れてしまう。

 

「邪魔をしおって……。さらに我はブラスターキャノン・コアへと攻撃を行う!」

 

(来る……!)

 

 戦艦の砲撃を振り払いながら接近した龍は骨が剥き出しとなった爪で遮蔽板を切り裂いた。

 

「ぐ……!」

 

ユキ LP3600→3100

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター2→1

 

「我と戦った相手はバトルでは破壊されない。そやつには関係ないがな。それでもそやつの生気は吸い取らせてもらおう」

 

「どういう意味……!」

 

「我と戦ったモンスターの攻撃力は0となり、さらにそやつの元々のレベル・攻撃力を吸い取ったダークソウルトークンを我の場に呼び出す!」

 

「……! ユキのモンスターの力を……!?」

 

 戦艦が機能停止したのも束の間、さらに翼を黒く染め上げた龍が吸い取った魂を彼の場で具現化させた。闇で形成された戦艦の砲塔がユキたちに向けられる。

 

巨大戦艦ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500→0

 

ダークソウルトークン 攻撃力2500

 

「そんな……!」

 

「やれ!」

 

 無防備を曝け出す戦艦を闇の戦艦から放たれた怨念が貫いた。

 

「ぐうっ……!?」

 

ユキ LP3100→600

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター1→0

 

 怨念を込めた弾はそのままユキの胸を貫き、そのあまりの衝撃にユキは身体を地面に預けた。

 

「ふはは! 力が漲ってくる! あと少しだ。あと少しで我は自由の身になる!」

 

(……頭がぼーっとする……。……身体中が痛い……)

 

 力を吸収しつつある悪魔憑きの姿をユキは倒れたまま、ぼやけた視界で捉える。

 

「ターンを終える! さぁ、貴様の最後のターンだ!」

 

「最後……」

 

「貴様はどうやら馬鹿ではないらしい。なら分かるだろう。今、この場が! どれほど絶望に満ち溢れているのか!」

 

「……確かに、状況は厳しい……」

 

「厳しい、すら生温い! 貴様の場にはあと一度戦えば崩れ去る木偶の坊のみ。次のターン我の力で奪い取るだけ奪い取って、消え去る存在だ。我に更なる力を与えてな」

 

「……絶望に溢れている、その表現も大袈裟とは言えない。けど、希望は……ある」

 

「ほう? そんなものが、どこにあるというのだ!」

 

「このモンスターさんは戦闘で破壊されたターンのエンドフェイズに特殊召喚できる……戻ってきて」

 

「おうっ!」

 

 ユキの視界を小さな火が照らした。

 

きつね火 守備力200

 

「………何かと思えば。そんなものが希望だと? 吹けば消し飛ぶような灯火ではないか!」

 

「時に風は火をより大きくする。後はユキがそんな風を吹かしてみせる……!」

 

「嬢ちゃん……。オイラは信じるぜ!」

 

悪魔憑き LP3000

 

フィールド 『死霊王 ドーハスーラ』(攻撃表示) 『冥界龍 ドラゴネクロ』(攻撃表示) 『ダークソウルトークン』(攻撃表示)

 

セット0 『フィールドバリア』

 

手札1

 

 明かりがデュエルディスクを照らす。力を振り絞り、ユキは懸命にそこに向かって手を伸ばした。そして飛び込んできたカードを掴み取り、発動させた。

 

「融合を発動……!」

 

「融合だと? 絶望を束ねた我に融合で挑むというのか!」

 

「ならユキは希望を束ねる。あなたが一笑に付したモンスターさんの力を借りて……! 機械族のブラスターキャノン・コア、炎族のきつね火を融合!」

 

 フィールドに発生した渦に2体のモンスターが取り込まれると、灯火が起爆剤となって力を失った戦艦が新たな姿へと変化していった。

 

「融合召喚! 爆撃せよ、起爆獣ヴァルカノン!」

 

 鋼鉄の身体を持ちし大型ロボットが出現すると、尻尾を大きく揺らして咆哮を響かせた。

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

「その攻撃力では我のどのモンスターも倒せぬ。貴様の希望とやらは吹き飛ばされたようだな!」

 

「そうではない? 今、希望は光焔(こうえん)となって輝いている! ヴァルカノンが融合召喚に成功した時、相手フィールドのモンスター1体を選択し、そのモンスターとこのカードを破壊して墓地に送る!」

 

「なんだとっ!?」

 

「ユキが選ぶのは……ドラゴネクロ!」

 

 ロボットの足が傾けられると、足からジェット噴射された炎の勢いで瞬時に龍に近づき、翼を両腕で押さえ込んだ。

 

「くっ、だが我が破壊されようとも。貴様の場はガラ空きになる!」

 

「さらにこの効果で墓地へ送った相手モンスターの攻撃力分のダメージをあなたに与える!」

 

「なっ……!? ば、馬鹿な。そんなことが……! くそっ、離せ……!」

 

「融爆!」

 

 ロボットが背負った爆薬庫に小さな火が投入されると、爆発が彼らを包み込んだ。

 

悪魔憑き LP3000→0

 

(……ありがとう。あなたの勇気に力を分けてもらったよ)

 

 これにより、デュエルの決着がついた。ドラゴネクロに込められていた彼の意思が器を失い、闇となって宙に漂う。

 

「あり得ぬ! 一度ならず二度までも! 世界を支配する我が、このような子供に……!」

 

「あなたには強さを引き出す力はあった。けど弱さを認められる心が無かった……だからあなたは、負けた」

 

「……くっ……!」

 

「……よく言った。人の子よ」

 

「……! ドーハスーラ……さん?」

 

 先ほどまで操られていたドーハスーラが動き出すと、厳粛たる声色で話しかけていた。

 

「悪意が払われて、取り憑けぬ……!」

 

「邪なる意思よ。もはや汝に抵抗する力はあるまい」

 

「……覚えておけっ……我が再びこの世を支配する時まで……!」

 

 ドーハスーラの杖の先が闇に向けられると、断末魔のごとき叫び声と共に闇は消え去った。

 

「もう……大丈夫?」

 

「ああ。三幻魔と共に奴も彼の地に封印された……。もう安心だ。……ありがとう。人の子よ」

 

「オイラからも礼を言っておくぜ。本当にサンキューな!」

 

「どういたしまし……て……」

 

「嬢ちゃん!?」

 

「……無理もない」

 

 緊張の糸が途切れ、辛うじて保っていた意識がシャットダウンされた。倒れたまま最後まで戦い抜いた彼女をドーハスーラが抱え上げる。

 

「やはりダメージが蓄積されている……が、幸い安静にしていれば回復するだろう」

 

「そ、そっか。それなら良かった」

 

「……どうやら同胞も全員正気を取り戻したようだ。感謝してもしきれぬな」

 

 森が穏やかに揺れ、風の便りが知らせを運んできた。訪れた平穏にきつね火は安堵と、寂しさが混じった表情を浮かべる。

 

「……ずっと、こっちにいてもらうって訳にはいかねえかな」

 

「彼女にもあちらでの生活がある。それは得手勝手な言い分であろう」

 

「だよな……」

 

「だが……彼女の迷惑にならない我儘であれば、許されるのではないか」

 

「……!」

 

 翌日。部屋に朝の日差しが入り込み、レイは目を覚ました。腕を伸ばし、身体を起こすと、隣のベッドで熟睡しているユキを見てぽかんとした顔つきになる。

 

(……そっか。暴走を止めた後、気を失っちゃったんだ。僕が止めた人が一番最後だって言ってたから……。全部解決して、戻ってこれたんだ。良かった……)

 

 いつもの日常に戻って来たことが実感として現れ、レイはようやく肩の荷が降りたようだった。

 

「おはよう! レイちゃん!」

 

「……!? お、おはよう。ブラック・マジシャン・ガール。実体化して大丈夫なの? 凄く魔力使うから、滅多なことがないと出来ないって言ってたのに」

 

「ふふふっ。大丈夫だよ。魔力は使ってないから」

 

「そうなの……?」

 

「それより嬢ちゃんが全然起きねえんだが、大丈夫なのかこれ?」

 

「ああ。それはいつものことだから…………。……!? えっ! 狐!?」

 

「クリリ?」

 

 思わず驚きを声に出したレイ。青紫色の帽子を被ったクリボーと戯れていたジャンクリボーがそれに反応し、首を傾げる様子が彼女の目に映った。

 

「暴走してた精霊から、二人へのささやかなお礼……だって」

 

「え……ええーっ!?」

 

 これからの日常はどうやらいつもより少しだけ、騒がしくなるようだった。




本当は切りの良いここまで昨日のうちに投稿したかったけど、細かい確認してたらタイミングを逃してしまいました。


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胸中を託して

「……残念。触れない……」

 

「こっちの世界だとオイラ達は実体化できないんだ」

 

「毛づくろいしたり、ネジにオイル塗ったりしたかった……。でも、見えるようになったのは嬉しいな。これからもよろしくね」

 

「へへっ、よろしくな!」

 

「クリクリ〜」

 

 目の前で浮かんでいる精霊にユキは柔らかく笑うと両手を伸ばす。するときつね火とジャンクリボーは本当に頭を撫でられているかのように嬉しそうに笑ったのだった。

 

「……それで、嬢ちゃん達は今何をやってるんだ?」

 

 それから少し経つと、部屋に広げられたカードの数々にきつね火は尻尾の炎でクエスチョンマークを作った。

 

「デッキのカードを入れ替えてるんだよ」

 

「オイラ早速お役御免!?」

 

「ふふ……安心して? 今入れ替えてるのは、シングルデュエルじゃないと真価を発揮しにくいカードだから。機械族だけしか特殊召喚出来なくなるモンスターさんとか……」

 

「ほっ……。……ん? それってつまり……」

 

「うん。タッグデュエル用にデッキを作ってる」

 

 今度は尻尾の炎がエクスクラメーションマークへと変わり、それを見たジャンクリボーもネジの尻尾で真似をした。

 

(かわいい……)

 

「この前まで寝込んでたのに、なんでタッグデュエルをやる流れになったんだ?」

 

「部屋に決闘状が放り込まれてたんだ」

 

「しかも2通……」

 

「お相手は?」

 

「それが……どっちにも書いてなかった? 日時と場所とデュエル形式の指定はあったけど……」

 

「そりゃまた怪しいお手紙だな。本当に信じて大丈夫なのか?」

 

「その代わり『明日香様を賭けて勝負よ』! ……って書いてあったんだ。明日香さんを様付けで呼ぶ二人組といえば——」

 

 そして、勝負の時がやってきた。

 

「来たわね! ちびっ子達!」

 

「やっぱり……ジュンコさんとももえさん」

 

 ユキとレイはわざわざ借りられていた学園のデュエルコートに赴いた。するとそこで待っていたのは、やはりと言うべきかジュンコとももえだった。

 

「待ちかねましたわ!」

 

「ちゃんと指定された時間の5分前に来たよ!」

 

「そうではありませんわ」

 

「あんた達と決着をつけるこの日を待っていたのよ!」

 

「……け、決着? 僕たちと?」

 

「知らぬ間に因縁が生まれてる?」

 

 今ひとつ要領を得ない話を展開する二人に、ユキとレイは困惑を露わにしていた。

 

「ジュンコ、ももえ。こんな所まで呼び出して一体何の……えっ?」

 

 そこに明日香がやってきた。呼び出した二人しかいないと思っていた彼女はデュエルコートでその二人と向かい合っているユキとレイに気付き、目を丸くする。

 

「来てくれたんですね!」

 

(俺もいるぞ)

 

「このデュエル……勝った暁には、是非! わたくしを特訓相手にして下さいまし!」

 

「ちょっと! 抜け駆けはずるいわよ。アタシ達二人を、でしょ!」

 

「あなた達が?」

 

(どういう風の吹き回しかしら? 二人がそこまでデュエルに熱を入れるなんて……)

 

「……結局、どういうことなんだろ」

 

「明日香さんの特訓相手になるためにデュエルでアピールしたい……のかな?」

 

「僕たちが相手なのはよく分からないけど、そういうことならいっか。幼馴染タッグの強さを見せちゃおう!」

 

「うん……!」

 

「負けないわよ! こっちの幼馴染タッグの方が強いってところ、見せてあげる!」

 

「ええ! やりますわよ、ジュンコさん!」

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 些細な疑問は捨て置き、兎にも角にもデュエルの幕が上がった。

 

(フィールド、墓地、除外ゾーンがパートナーと共有されるタッグフォースルールか……。これはタッグの息が試されるぞ)

 

「僕のターン! 黒き森のウィッチを召喚! カードを3枚伏せてターンエンドだ!」

 

 身体よりやや大きめの黒いローブを羽織った美魔女が大の字で降り立つと、ローブに覆われた手をクロスしながら前屈みに座り込んだ。

 

黒き森のウィッチ 守備力1200

 

レイ&ユキ LP4000

 

フィールド 『黒き森のウィッチ』(守備表示)

 

セット3

 

手札3(レイ)、5(ユキ)

 

「お二人とも覚悟してくださいまし! わたくしのターン、ドローですわ。わたくし達の場にモンスターがいないことでマジックカード、魔獣の懐柔が発動できます! デッキからレベル2以下の獣族を3体、効果を無効にして呼び出しますわ」

 

「一気に3体も……!?」

 

「出番ですわよ! コアラッコ、ラッコアラ、モジャ!」

 

 出現した小さなドアを通り、三匹の愛くるしい獣が出てきた。コアラのような見た目をした生物は水溜りに仰向けで浮かび、ラッコのような見た目をした生物は木の上に登ってユーカリの葉を食べ、毛根のような見た目をした生物はその辺でピョンピョンと跳ね出す。

 

コアラッコ 攻撃力100

ラッコアラ 攻撃力1200

モジャ 攻撃力100

 

「わぁ。可愛いー!」

 

「獣は時に可愛さの中に怖さを潜ませていますわ。コアラッコとラッコアラを生け贄に捧げ、百獣王(アニマル・キング) ベヒーモスを召喚!」

 

 野生の勘が働き、二匹の獣は姿を隠した。するとピンク色の巨体、鋭い爪の生えた四つ足、研ぎ澄まされた牙を持ちし怪物が足音を響かせてフィールドまで歩いてきた。

 

百獣王 ベヒーモス 攻撃力2700

 

「うっ、可愛くない……」

 

 唸り声をあげる怪物に怯えたレイだったが、彼女の声が聞こえたのか怪物はしょんぼりとした表情になる。

 

「あっ、嘘だよ! 可愛いよ!」

 

「ベヒーモスは生け贄に捧げた数だけ、墓地の獣族を手札に戻せますわ。わたくしはコアラッコとラッコアラを手札に!」

 

 そんな隙を突いて二匹の獣は安全地帯へと避難した。

 

「さらに融合を発動しますわ! 今手札に戻したコアラッコとラッコアラを融合!」

 

(最上級モンスターを呼び出しながら、融合の消費を抑えた……!? ももえの速攻パワーデッキは、攻撃を凌がれると打つ手が無くなるほど手札消費が荒かったのに……)

 

 ももえのデッキを友人として以前からよく知っている明日香は、戦術の些細な変化を感じ取っていた。

 

「弱肉強食に打ち克つため、鍛えに鍛えてまた鍛えて! 融合召喚! 今こそ食物連鎖の頂点に! コアラッコアラ!」

 

 先程までの愛らしさはどこへやら。融合により生み出されたのは筋骨隆々な肉体と太い腕っぷしを備えた巨獣だった。隣に突然現れた巨獣に、怪物は頭を低くしてへりくだる。

 

コアラッコアラ 攻撃力2800

 

「そのまま効果を発動しますわ! 手札から獣族を1体墓地に送ることで相手モンスターを破壊できますのよ。黒き森のウィッチには消えてもらいますわ!」

 

 巨獣が手を組んで叩き下ろすと、地面がひび割れていった。やがて魔女の下の地面も完全に割れてしまう。

 

「……! なら、望み通り消えてみせるよ! 速攻魔法、ディメンション・マジック!」

 

「なっ!?」

 

 しかし魔女が落ちることは無く、一瞬にして姿を消してしまう。その代わり先程まで魔女がいた場所にはこのひび割れを起こした巨獣の姿があった。

 

「僕の場に魔法使い族がいる時、自分のモンスターをリリースすることで手札の魔法使い族を特殊召喚して、その後相手モンスターを選んで破壊できるよ!」

 

「コアラッコアラが……! ……やられましたわ」

 

 先程まで巨獣がいた場所に現れた小さき乙女に怪物が照れている間に、巨獣は地の底へと落ちてしまった。

 

恋する乙女 攻撃力400

 

「レイちゃん、ナイス。融合モンスターを失うのは、使い手にとって結構ダメージがある」

 

「へへっ、ありがと! さらに僕は黒き森のウィッチが墓地に送られたことで守備力1500以下のモンスター……マジシャンズ・ソウルズを手札に加えるよ」

 

「ですが! そのようなモンスターでわたくしの大型モンスターを止める気なのですか?」

 

「試してみれば分かるよ!」

 

「なら試しましょう。ですがその前に……。先程墓地に送ったキング・オブ・ビーストはフィールドのモジャをリリースすることで蘇ることが出来ますわ。よって墓地から特殊召喚いたします!」

 

「……! さらにもう1体の大型モンスター……!?」

 

 小さな獣が進化を遂げていくと、黒い毛が急激に増え、中から黄金色の足が無数に生えていき、愛嬌のあった顔ですらもはや恐怖を感じるほど歪んでしまった。

 

キング・オブ・ビースト 攻撃力2500

 

(ユキの言う通り、融合使いが折角呼び出した融合モンスターを失えば、動揺が見られるものだ。しかし、今の彼女にそれは一瞬しか見られなかった……)

 

「これでも耐えられて? バトルですわ! キング・オブ・ビーストで恋する乙女に攻撃!」

 

 黒板を引っ掻いたような不快感のある雄叫びが響くと、耳を塞いだ乙女は尚も届いてしまう音をあからさまに嫌がった。

 

「くっ! 恋する乙女は攻撃表示の時、バトルでは破壊されない!」

 

「ですがダメージは受けてもらいますわ!」

 

「ううっ……!」

 

レイ&ユキ LP4000→1900

 

キング・オブ・ビースト 乙女カウンター0→1

 

「攻撃を受けたことで、キング・オブ・ビーストに乙女カウンターが乗ったよ!」

 

「構いませんわ。ベヒーモスで恋する乙女に攻撃!」

 

 涙目でへたりこむ乙女に怪物は頬をかくと、そっと近づいてデコピンにより攻撃を仕掛けた。

 

「これが決まれば、アタシ達の勝ちよ!」

 

「させない! トラップカード、ガード・ブロック! バトルダメージを0にして、さらに1枚ドロー!」

 

 しかし見上げる乙女に怪物は攻撃を躊躇し、慌てて手を引っ込めた。

 

(レイちゃんのデッキは乙女カウンターを乗せるために、ダメージを軽減するカードが多い。だから力押しではそうはやられない。だけど……)

 

(さすがにディメンション・マジックがあって、そこから大型モンスターが2体も来るのは計算外だったな……!)

 

 二度目の攻撃は防いだものの、開始早々の大ダメージに二人は焦りの色を顔に浮かべ、気を引き締め直していた。

 

「ベヒーモスにも乙女カウンターが1つ乗ったよ!」

 

 手を引っ込めた怪物に乙女は柔らかい微笑みを見せると、怪物はその笑顔に思わず見惚れてしまった。

 

百獣王 ベヒーモス 乙女カウンター0→1

 

「でもライフを半分以上削ったから、キューピッド・キスを恋する乙女に装備してもコントロールを奪う前にライフが尽きるわ!」

 

「しかもこれはタッグデュエル! 次はユキちゃんのターン。その戦術を成り立たせるのは、難しいようですわね。ターンエンドですわ!」

 

「ユキ、ごめん。いきなりダメージ受けすぎちゃった」

 

「ううん。レイちゃんだから、これだけのダメージで済んだ。無駄には、しないよ」

 

「……うんっ! 後は、任せたよ! 遠慮なくいっちゃって!」

 

ももえ&ジュンコ LP4000

 

フィールド 『百獣王 ベヒーモス』(攻撃表示、乙女カウンター1) 『キング・オブ・ビースト』(攻撃表示、乙女カウンター1)

 

セット0

 

手札2(ももえ)、5(ジュンコ)

 

「ユキのターン! 相手フィールドのモンスターの数がこちらより多い場合、巨大戦艦 ブラスターキャノン・コアは手札から特殊召喚出来る?」

 

 宇宙より飛来し戦艦がフィールドに降り立つと、弱点になる中心部のコアを守るために3つの遮蔽板を出現させた。

 

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500 カウンター0→3

 

(レイちゃんは遠慮しなくて良いって言ってくれた。恋する乙女はかなり特殊なモンスター……ユキが無理に扱うより、ここは……)

 

「……さらに恋する乙女を生け贄に、機械王を召喚!」

 

「……! 恋する乙女を手放しましたわね……」

 

 デートに呼び出された乙女が怪物に手を振って去っていくと、代わりに耐熱性に優れた超合金ロボットが参上した。

 

機械王 攻撃力2200

 

「機械王はフィールドの機械族1体につき、攻撃力を100ポイントアップする。ユキの場のモンスターは全員機械族。よって攻撃力200ポイントアップ!」

 

機械王 攻撃力2200→2400

 

「しかしその攻撃力では、わたくしのビースト軍団は倒せませんわ!」

 

「ブラスターキャノン・コアはバトルの度にカウンターを1つ取り除いて、取り除けない時に破壊される効果がある代わりに、戦闘では破壊されない」

 

「……! キング・オブ・ビーストを一方的に倒すおつもりですわね……!」

 

「そうではない? ……レイちゃん!」

 

「うん! 僕は伏せていたキューピッド・キスをブラスターキャノン・コアに装備する!」

 

「……! ま、まさか……!」

 

「永続魔法、機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)を発動しておいて……バトル! ブラスターキャノン・コアで攻撃。対象は……ベヒーモス!」

 

 乙女を見失って放心状態にある怪物に、戦艦がぶつかった。力の溢れる巨体に、戦艦といえども弾き返される。

 

レイ&ユキ LP1900→1700

ブラスターキャノン・コア カウンター3→2

 

「キューピッド・キスを装備したモンスターが乙女カウンターの乗ったモンスターに攻撃してダメージを受けた場合、ダメージステップ終了時にそのモンスターのコントロールを得るよ!」

 

「そのための戦闘破壊耐性でしたのね……!」

 

「タッグデュエルでその戦術を成立させてくるなんて……!」

 

 放心状態にあった怪物が意識を取り戻すと、乙女が消えた時にあの場にあった戦艦に彼女が乗り込んだと思い込んだ彼は、主人から離れてユキ達の場までやってきた。

 作戦を成功させレイに向かって小さく拳を上げるユキに、レイも親指を立てて嬉しそうに返す。

 

(……良い連携だ。フィールドが共有される、タッグフォースルールならではだな)

 

「コントロールを得たベヒーモスでキング・オブ・ビーストに攻撃!」

 

 乙女を見つけようとしていた怪物はそれを邪魔するように雄叫びをあげる奇妙な生物を爪で薙ぎ払った。

 

ももえ&ジュンコ LP4000→3800

 

「これで場が空いた。機械王でダイレ——」

 

「——そうは問屋が卸しませんわ! 獣族モンスターが戦闘で破壊されたことで、手札の森の狩人イエロー・バブーンの効果を発動!」

 

「……! 手札から……」

 

「その効果で墓地の獣族を2体……コアラッコとラッコアラを除外することで、自身を特殊召喚いたします!」

 

 獣の討伐を感知した類人猿型の狩人が駆けつけてくると、ロボットと対面した。

 

森の狩人イエロー・バブーン 攻撃力2600

 

(一気にこっちも大ダメージと思ったのに……どうしよう)

 

 予想外のさらなる大型モンスターの登場に虚を突かれ、ユキは迷いながら手札を見た。そして少しの間考え込むと、決断して顔を上げた。

 

「機械王でイエロー・バブーンに攻撃! ジェットパンチ!」

 

「えっ、一体何を……!」

 

(この戦術は、明日香様の時にも使っていた……)

 

「ももえ! 機甲部隊の最前線よ!」

 

「……! なるほど。ダメージ覚悟でデッキから機械王より攻撃力の低い機械族を呼び出すつもりですわね」

 

「……その通り、です」

 

(ジュンコがユキの戦線維持戦術を読み切っている……。あまり相手の分析が得意ではなかったはずなのに)

 

 ロボットが腕をまっすぐ伸ばすと、腕そのものがジェット噴射で飛ばされて狩人を襲った。しかし狩人は華麗な身のこなしで二つの腕を避けると、逆に放った矢によりロボットを仕留めてみせた。

 

レイ&ユキ LP1700→1500

 

「機甲部隊の最前線でデッキから攻撃力0の無限起動ハーヴェスターを守備表示で特殊召喚! その効果でデッキから無限起動モンスター……無限起動ブルータルドーザーを手札に!」

 

 ロボットのパーツを再利用し、収穫用の農業機械が生成された。

 

無限起動ハーヴェスター 守備力2100

 

「メインフェイズ2に入ります。ブルータルドーザーは地属性・機械族をリリースすることで手札から守備表示で特殊召喚可能……ハーヴェスターをリリースして呼び出し、その効果でデッキから無限起動スクレイパーを守備表示で特殊召喚!」

 

 さらにそれらのパーツが再利用されていき、最終的には整地用の建設機械と壁面を削る重機が生み出された。

 

無限起動ブルータルドーザー 守備力2100

無限起動スクレイパー 守備力500

 

「カードを2枚伏せて……ターンを終了します」

 

レイ&ユキ LP1500

 

フィールド 『巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア』(攻撃表示) 『無限起動ブルータルドーザー』(守備表示) 『無限起動スクレイパー』(守備表示) 『百獣王 ベヒーモス』(攻撃表示)

 

セット2 『キューピッド・キス』 『機甲部隊の最前線』

 

手札3(レイ)、1(ユキ)

 

「いくわよ! アタシのターン! アンタ達の場に同じ属性のモンスターが2体以上いれば、このモンスターは手札から特殊召喚できるわ!」

 

「……! ユキ達の場にいるのは、全員地属性……!」

 

「来なさい! 神禽王(しんきんおう)アレクトール!」

 

 赤く立派な双翼を羽ばたかせ、雄鳥がフィールドに舞い降りた。

 

神禽王アレクトール 攻撃力2400

 

「効果発動よ! 1ターンに1度、表側表示のカード1枚の効果をそのターン中無効にできるわ。アタシはブラスターキャノン・コアを選択!」

 

「うっ……」

 

 雄鳥の翠色の眼が光を発すると、見つめられた戦艦の機能が停止してしまった。それに伴い、出現させていた遮蔽板も消滅してしまう。

 

ブラスターキャノン・コア カウンター2→0

 

(まずい……。カウンターだけじゃなく、戦闘破壊耐性まで消えちゃった……)

 

「まだまだいくわよ。ハーピィ・ハーピストを召喚!」

 

 緑色の翼を生やした女性の鳥人が透き通った赤い長髪を靡かせ、優雅に降り立った。

 

ハーピィ・ハーピスト 攻撃力1700

 

「召喚に成功したから効果発動よ! このカード以外のアタシの鳥獣族モンスターと相手フィールドの表側表示モンスターを1体ずつ持ち主の手札に戻すわ! 戻りなさい! アレクトール! ベヒーモス!」

 

(折角奪ったモンスターを取り返された……!)

 

 鳥人が肩にハープを乗せ、奏でる。するとその音色が乙女の幻想を追っていた怪物の目を覚ました。そして鳥人が雄鳥の従者を向かわせ、彼の案内で怪物はジュンコのもとへとやってきた。

 

「もう一度アレクトールを特殊召喚!」

 

「……! そっか、まだ2体以上いるから……」

 

 案内を終えた雄鳥は仕える主のもとへと戻ってくる。

 

神禽王アレクトール 攻撃力2400

 

「さらに効果で機甲部隊の最前線を無効にするわ!」

 

「あっ。しまった……!」

 

「一度場を離れたから、また効果が使えるようになったんだ……!」

 

 雄鳥が今度は前線基地を見つめると、稼働していたレーンが停止してしまった。

 

(厄介な戦線維持戦術に上手く対応したわね……。あのカードを使えなくすれば、ユキの息切れが狙えるはずよ)

 

「フィールド・墓地で『ハーピィ・レディ』扱いになるハーピストがいることで、マジックカード、万華鏡—華麗なる分身—を発動! このカードでルール上『ハーピィ・レディ』として扱うハーピィ・レディ1(ワン)をデッキから呼び出すわ!」

 

(目まぐるしい展開……。ももえさんがパワーで押すのに対して、ジュンコさんは展開力で撹乱するタイプなのかな)

 

 鳥人に鏡が向けられると、驚くことに映し出された鳥人が鏡を抜けてフィールドに出てきた。

 

ハーピィ・レディ1 攻撃力1300

 

「このモンスターが場にいる限り、風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップよ!」

 

「ジュンコさんが呼んだモンスターは全員風属性……!」

 

神禽王アレクトール 攻撃力2400→2700

ハーピィ・ハーピスト 攻撃力1700→2000

ハーピィ・レディ1 攻撃力1300→1600

 

「覚悟はできたわね! バトルよ! アレクトールでブラスターキャノン・コアを攻撃!」

 

 鋭い眼光で敵を見定めた雄鳥は強烈な羽ばたきで羽根を飛ばした。

 

「……永続トラップ、魂のさまよう墓場を発動。……くっ……!」

 

レイ&ユキLP1500→1300

 

 鋭い羽根が戦艦を撃ち落とすと、その魂がフィールドに浮遊しだした。

 

「このカードがある限り、こちらのモンスターが戦闘で破壊されて墓地に送られる度に、攻守100の火の玉トークンが呼び出される」

 

火の玉トークン 守備力100

 

「なんとか壁を出そうってわけね。けどアンタの機械は残さないわよ! イエロー・バブーンでブルータルドーザーに攻撃!」

 

 狩人から放たれた矢が建設機械へと降り注ぐ。

 

「そうはさせない? 速攻魔法、瞬間融合! 自分フィールドのモンスターを使って、融合召喚を行う!」

 

「このタイミングで融合ですって……!?」

 

「ユキは機械族のスクレイパーと炎族の火の玉トークンで融合! 爆撃せよ、起爆獣ヴァルカノン!」

 

 降り注ぐ矢が届く前に全て燃え尽きたかと思うと、狩人は肩にある銃口から火の弾を放った大型ロボットの存在に気付いた。

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

「そのモンスターは初めて見たわね……。けど、その攻撃力なら!」

 

「攻撃は果たされない? ヴァルカノンが融合に成功したことで効果発動。融爆! このカードとイエロー・バブーンを破壊し、その後破壊したイエロー・バブーンの攻撃力分のダメージを与える!」

 

「なっ!?」

 

「そんな……イエロー・バブーンの攻撃力は2600もありますのに!」

 

 狩人が気付いた時にはもう遅かった。既に至近距離まで接近していたロボットは自身を起爆させる。

 

ももえ&ジュンコ LP3800→1200

 

「……やってくれたわね!」

 

(瞬間融合で融合召喚したモンスターはターンの終わりに破壊される。しかしあのモンスターには関係の無いデメリットというわけか)

 

「良いよ、ユキ! その調子!」

 

「うん……! これで攻撃可能なのはハーピィ達だけ。その攻撃力ではブルータルドーザーは倒せない」

 

「……カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

ももえ&ジュンコ LP1200

 

フィールド 『神禽王アレクトール』(攻撃表示) 『ハーピィ・ハーピスト』(攻撃表示) 『ハーピィ・レディ1』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札1(ももえ)、2(ジュンコ)

 

「レイちゃん。遠慮なく、いっちゃえ」

 

「分かった! 僕のターン、ドロー! デッキからレベル6以上の魔法使い族……マジシャン・オブ・ブラックカオスを墓地に送ることでマジシャンズ・ソウルズを手札から特殊召喚するよ!」

 

 墓場から魂が抜け出し、魔法使いの姿となって場に現れた。

 

マジシャンズ・ソウルズ 守備力0

 

「効果を使うよ! 自分の手札・フィールドの魔法カード……機甲部隊の最前線と魂のさまよう墓場を墓地に送って、僕はその枚数分……つまり2枚のカードをドローする!」

 

(機甲部隊の最前線は機械族専用のサポート……。僕には使いこなせない。けど、無駄にはしないよ。……来た!)

 

「僕の場にレベル1のモンスターがいることでマジックカード、ワンチャン!?を発動するよ! デッキからレベル1のモンスターを手札に加える! 代わりにこのターンで召喚できなかったら、2000ダメージを受けちゃうけどね」

 

(ものマネ幻想師のステータスコピーは元々の値だから、ハーピィ・レディ1がいる今はダメだ。なら……!)

 

「僕はディメンション・コンジュラーを加えるよ! そして召喚!」

 

 黄色い箱が出現したかと思うと、そこから手足が伸びていき、擬態していた魔法使いであることが判明した。中にはどうやら誰か入っているようだ。

 

ディメンション・コンジュラー 攻撃力500

 

「召喚に成功したことで墓地のディメンション・マジックを手札に戻すよ!」

 

「あの厄介な速攻魔法を……!」

 

(今……いや、まだよ……。もう召喚はしたんだから、すぐに使ってくるはず)

 

「儀式魔法、イリュージョンの儀式を発動!」

 

「ここで儀式ですって……!?」

 

「ディメンション・コンジュラーをリリース!」

 

 魔法使いが箱の形態に戻ると無数のチェーンで巻きつけられていく。そして身動きの取れない彼が炎で包まれた。やがて鎮火されると、そこにあったのはただの箱。本物はいつのまにか脱出に成功しており、自らの身体から一眼の救出者を送り出した。

 

「儀式召喚! その邪眼で虜にしてあげて。サクリファイス!」

 

サクリファイス 攻撃力0

 

「攻撃力0?」

 

「サクリファイスは相手モンスター1体を装備カードにして、ステータスを吸収することが出来るんだ!」

 

「なんですって!? その効果を使われたらアレクトールが……」

 

「その前に……モンスターゾーンから墓地に送られたディメンション・コンジュラーの効果発動! 僕の場の魔法使い族の数だけドローして、同じ枚数を好きな順番でデッキの上に戻すよ!」

 

「……仕方ないわね。ハーピィ・レディ1をリリースして、トラップカード、ゴッドバードアタック! フィールドのカードを2枚……サクリファイスと、ブルータルドーザーを破壊するわ!」

 

「なっ……! さ、させない! ディメンション・マジック! サクリファイスをサクリファイス・エスケープ!」

 

 身命を賭して低空飛行で突撃してきた鳥人に気づき、魔法使いは救出者を再び自身の中に入れると、脱出マジックの要領で消え去った。しかし建設機械までは手が回らず、そちらは特攻により破壊されてしまう。

 

「来て、ブラック・マジシャン・ガール! さらにディメンション・マジックの追加効果でアレクトールを破壊するよ!」

 

 特攻に気を取られていた雄鳥は背後を取られ、放たれた魔導弾をまともに受けてしまう。

 

(やっぱり使われたわね。出来たらあのカードを使った後を狙いたかったわ……)

 

(使わされた……。ここはサクリファイスとブルータルドーザーで攻めて、ディメンション・マジックは温存しておきたかったのに)

 

 カードの撃ち合いをした二人だったが、双方思惑を外されたことで苦い表情を浮かべていた。

 

「……墓地にマジシャン・オブ・ブラックカオスがいることで、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は300上がるよ!」

 

「……ハーピィ・レディ1がいなくなったことで、ハーピストの攻撃力は300下がるわ」

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000→2300

 

ハーピィ・ハーピスト 攻撃力2000→1700

 

「ディメンション・コンジュラーの効果で2枚ドローして……。……! 2枚戻すよ。マジックカード、モンスター・スロットを発動!」

 

 フィールドに三列のスロットのリールが出現した。

 

「このカードは僕の場のモンスターを選択して、それと同じレベルのモンスターを墓地から除外するんだ。その後1枚ドローして、引いたカードが同じレベルのモンスターだったら特殊召喚できるよ! 僕はマジシャンズ・ソウルズを選択して、ディメンション・コンジュラーを除外!」

 

 左のリールにマジシャンズ・ソウルズ、真ん中のリールにディメンション・コンジュラーの絵柄が表示されると、残る右のリールの回転も止まろうとしていた。

 

「そんなのそうそう成功する訳……。……! あっ……!」

 

「そう! デッキの上に戻したのはレベル1のミスティック・パイパー!」

 

 止まったリールに描かれていたのは赤色のマントを背負った青年だった。するとファンファーレが鳴り響き、その青年が実際に場に現れた。

 

ミスティック・パイパー 守備力0

 

「さらに自身をリリースして効果発動! 1枚ドローしてそれがレベル1モンスターならもう1枚ドロー出来る!」

 

「さっき戻したのは2枚……! ってことは!」

 

「このカードもレベル1! もう1枚ドローだ!」

 

 笛を鳴らした青年は光の粒子となってデッキに降り注ぎ、レイに新たな力をもたらした。

 

(やるわね……! 一応儀式モンスターを失わせたから、それ相応にダメージがあったはずなのに……!)

 

「バトルだ! ブラック・マジシャン・ガールでハーピストに攻撃!」

 

「はあっ!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールがステッキを鳥人に向けると、紫色の魔力を帯状にして放った。翼を羽ばたかせて回避を試みた鳥人だったが足が巻き込まれ、そのまま身体が魔力の奔流に飲み込まれていった。

 

「くうっ……!」

 

ももえ&ジュンコ LP1200→600

 

「よし! これで全滅だ! カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「……そうはいかないわよ! ハーピストが墓地に送られたターンのエンドフェイズにデッキから攻撃力1500以下の鳥獣族を手札に加えられるわ。この効果で加えた超重禽属コカトリウムを墓地に捨てて、永続トラップ、ヒステリック・パーティ発動! 墓地のハーピィ・レディを可能な限り呼び戻すわ!」

 

「……! 折角倒したのに……!」

 

 上空から傷を癒す光が降り注ぐと、鳥人は翼を思い切り羽ばたかせ、華麗に交差する動きを見せてフィールドに舞い戻った。

 

ハーピィ・ハーピスト 攻撃力1700→2000

ハーピィ・レディ1 攻撃力1300→1600

 

レイ&ユキ LP1300

 

フィールド 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示) 『マジシャンズ・ソウルズ』(守備表示)

 

セット1

 

手札1(レイ)、1(ユキ)

 

「ナイスですわ、ジュンコさん! わたくしのターン、ドロー! 墓地のコカトリウムはわたくし達の場の獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかをリリースすることで呼び戻せます! ハーピィ・レディ1をリリースして復活させますわ!」

 

 鳥人が自身の周りに風を起こしたかと思うと、止んだ瞬間には代わりに金属で形成された鳥が現れていた。

 

超重禽属コカトリウム 攻撃力1300

ハーピィ・ハーピスト 攻撃力2000→1700

 

(良い塩梅で機械族チック。心をくすぐられる……)

 

「コカトリウムはデッキから同条件の種族を除外することで、ターンの終わりまでそのモンスターの同名カードになり、さらに同じ種族・属性・レベルになりますわ! この効果でモジャを除外いたします!」

 

 変幻自在の金属で出来た鳥はその身体を毛根のような獣へと変えていった。

 

超重禽属コカトリウム→モジャ

種族 鳥獣族→獣族

属性 風→地

レベル 4→1

 

(……ロボットっぽさが無くなった……)

 

「さらに(ケン)タウルスを召喚!」

 

 鎧を纏った生命体が場に現れた。下半身は四本足が生えた犬の胴体、頭部も犬の顔をしているのだが、上半身から二本の腕が生えて剣と盾をそれぞれ装備している。

 

犬タウルス 攻撃力1500

 

「マジックカード、烏合の行進! わたくしはこのターン他のマジック・トラップを発動できなくなりますが、自分の場の獣族・獣戦士族・鳥獣族1種類につき、1枚ドローします!」

 

「……! コカトリウムはモジャになって獣族、ハーピストは鳥獣族……」

 

「犬タウルスは……まさか、獣戦士族……?」

 

「その通りですわ! よって3枚のカードをドローします!」

 

(……上手いわね。消費をリカバリーしているのは勿論。ももえのデッキはモンスターの効果で大型モンスターを呼び出すことができるから、デメリットをある程度抑えられる。その証拠に……)

 

「さらにモジャとなっているコカトリウムをリリースすることで、キング・オブ・ビーストを墓地から特殊召喚しますわ!」

 

「……! そのためにコカトリウムを墓地に送ったんだね……!」

 

(……自分が突破口を開くだけじゃなく、パートナーの助けになること。それも勝つために大事なんだって、伝わってくる……)

 

 先程のヒステリック・パーティに隠されていた意図にようやく気付いた二人は、タッグデュエルの奥深さを突きつけられた気がしていた。

 

キング・オブ・ビースト 攻撃力2500

 

「自身の効果で呼び出したコカトリウムは除外されますわ。バトル! キング・オブ・ビーストでブラック・マジシャン・ガールに攻撃!」

 

(全ての攻撃が通れば、ももえとジュンコの勝ち……!)

 

 雄叫びを防ぐ術は無く、音波を浴びたブラック・マジシャン・ガールは倒れてしまった。

 

レイ&ユキ LP1300→1100

 

(どちらのモンスターのダイレクトアタックでも通ればライフは尽きますわ。ここは相手の防御手段がモンスターの特殊召喚である可能性を警戒して……)

 

「さらにハーピストでマジシャンズ・ソウルズに攻撃しますわ!」

 

「……僕は手札のマジクリボーの効果を発動するよ!」

 

「……! ここで手札のモンスター効果ですか……!」

 

「ダメージを受けたターンのバトルフェイズにこのカードを手札から墓地に送ることで、墓地のブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚できる!」

 

「クリリー!」

 

 青紫色の帽子を被ったクリボーが現れると、その手に持ったロッドで倒れているブラック・マジシャン・ガールに治癒魔法をかけた。降り注ぐ光の粉で傷が癒えたブラック・マジシャン・ガールが礼を伝えると、マジクリボーは笑ってその場から去っていく。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2300

 

(ブラック・マジシャン・ガール……! 攻撃力が2000のままだったら、足りましたのに……)

 

「……ハーピストの攻撃を中断しますわ! 犬タウルスでマジシャンズ・ソウルズに攻撃!」

 

 四本の足を巧みに動かし、犬の兵士が魂に勢いよく剣で斬りかかった。

 

「ダメージ計算時に犬タウルスの効果を使いますわ。デッキから獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれか1体を墓地に送ることで、バトルフェイズが終わるまで攻撃力をそのモンスターのレベル×100アップします!」

 

「でもマジシャンズ・ソウルズは守備表示! ダメージは受けませんよ!」

 

「ええ、その通りですわね。わたくしはレベル3獣族のペロペロケルペロスを墓地に送りますわ」

 

犬タウルス 攻撃力1500→1800

 

 わずかに大きくなった剣で斬られた魂はひとたまりも跡形もなく消え去った。

 

「マジクリボーの効果発動! 僕の場の魔法使い族モンスターが戦闘で破壊されたことで、墓地のこのカードを手札に戻すよ!」

 

「……! 厄介ですわね……」

 

 ブラック・マジシャン・ガールを治癒したマジクリボーはそのままレイのもとへと戻ってきた。

 

犬タウルス 攻撃力1800→1500

 

「ですがペロペロケルペロスにも墓地で発動する効果がありますのよ。わたくし達が戦闘、または相手の効果でダメージを受けた場合。墓地のこのカードを除外することでフィールドのカードを1枚破壊できますわ!」

 

「うー……そっちも厄介だね」

 

「お互い様ですわね。カードを3枚伏せてターンを終えますわ!」

 

ももえ&ジュンコ LP600

 

フィールド 『キング・オブ・ビースト』(攻撃表示) 『ハーピィ・ハーピスト』(攻撃表示) 『犬タウルス』(攻撃表示)

 

セット3 『ヒステリック・パーティ』(使用済み)

 

手札0(ももえ)、2(ジュンコ)

 

(……確かに厄介。けど対処する手段はある……。ブラック・マジシャン・ガールでハーピストに攻撃すれば、効果を使われる前にゲームエンドに持っていける。……でも、焦っちゃダメ。ドローしてから、考えよう)

 

「ユキのターン……ドロー! ……!」

 

(…………よし。そうしよう!)

 

「神機王ウルを召喚」

 

 赤を基調としたロボットが稼働音と共に現れ、鋭い金属の一本足を軸に両手を横に伸ばして着地した。

 

神機王ウル 攻撃力1600

 

「さらにマジックカード、渾身の一撃を神機王ウルを対象に発動……!」

 

(これは……俺とのデュエルでも使用したコンボか!)

 

 ユキが発動したカードから白いオーラが出てくると、ロボットの身体を包み込んでいった。

 

「選択したモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、またその攻撃で発生するお互いへの戦闘ダメージは0に。そしてそのモンスターに攻撃された相手モンスターはダメージ計算後に破壊される……!」

 

「なっ! ここでそんなカードを……!」

 

「バトル! 神機王ウルでキング・オブ・ビーストに攻撃!」

 

 ロボットが軸足を中心に回転を始めると、独楽のように移動していき、オーラを纏った爪を獣に向けて薙ぎ払った。

 

「……僕はダメージステップで、トラップカード、捲怒重来(けんどちょうらい)を発動! このカードをキング・オブ・ビーストに装備して、攻守を500上げる!」

 

(一体何を……?)

 

 黄金色の足を束ねて身体を軸に薙ぎ払い対抗した獣だったが、オーラに触れた瞬間、その身体は現世から消えてしまった。

 

「装備モンスターがフィールドを離れたことで捲怒重来が墓地に送られた場合、さらなる効果が発動するよ。しかもこのターンに発動していたから、1枚ドローの効果じゃなく、2枚ドローして1枚捨てる効果が適用される!」

 

「そのためでしたのね……」

 

「ドロー! ……ユキは超電磁タートルを墓地に!」

 

(……! あれは墓地から除外することで、相手ターンのバトルフェイズを強制終了させるモンスターだったわね……!)

 

「さらに神機王ウルはバトルダメージを与えられない代わりに、相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる?」

 

「まさかっ……!?」

 

「ハーピスト、犬タウルスにも攻撃を仕掛け、渾身の一撃の効果で破壊する!」

 

 ロボットは勢いを絶やすことなく回転移動を続けていくと、彼女達のフィールドのモンスターを一掃する紫電を走らせた。

 

「……犬タウルスの効果で獣戦士族の暗黒のマンティコアを墓地に送りますわ!」

 

「それでも破壊は免れない?」

 

 鳥人を守るように盾を構えた兵士だったが、その盾をすり抜けるようにオーラを纏った爪が通過し、そしてロボットが一周し終えると通り道には何も残っていなかった。

 

「ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!」

 

 ももえに向かってブラック・マジシャン・ガールがステッキを突き出すと、魔力を帯状にして放とうと集中力を高めていく。

 

「ぐぬぬ……。トラップカード、恐撃ですわ! わたくしの墓地からモンスターを2体……イエロー・バブーンとコアラッコアラを除外することで、攻撃表示モンスター1体……ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力をターンが終わるまで0とします!」

 

「……!? 攻撃力を……」

 

(……危なかった。選択を間違えていたら今頃……)

 

 主のピンチに2つの霊体が出てくると、お気に入りのブーツを掴まれたブラック・マジシャン・ガールは集中が途切れてしまい、その隙にステッキを弾かれてしまった。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2300→0

 

「ダイレクトアタックは受けますが、ダメージは有りませんわ!」

 

「防がれた……。カードを1枚伏せて、ターンを終了します。これでブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は、元通りに」

 

 ようやく霊体を振り払ったブラック・マジシャン・ガールはステッキを拾いあげた。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力0→2300

 

「ハーピストの効果でコカトリウムを手札に加えますわ。さらに暗黒のマンティコアは墓地に送られたターンの終わりに、手札かフィールドから獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかを墓地へ送ることで特殊召喚できます! コカトリウムを墓地に送って復活させますわ!」

 

「……! モンスターを残された……!?」

 

(あちらも良いタッグだな。どちらもパートナーにモンスターを残して、戦術のサポートに繋げている)

 

暗黒のマンティコア 攻撃力2300

 

レイ&ユキ LP1100

 

フィールド 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示) 『神機王ウル』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札1(レイ)、0(ユキ)

 

「よく繋いだわ! アタシのターン、ドロー!」

 

「後はお願いしますわよ! 伏せていた永続魔法、魂吸収を発動! このカードがある限り、わたくし達はカードが取り除かれる度に1枚につきライフを500回復します!」

 

(このタイミングで……? ……そっか。烏合の行進のデメリットで使えなかったんだ)

 

「任せなさい! 暗黒のマンティコアをリリースしてコカトリウムを復活させるわ! その効果でデッキからハーピィ・レディ1を除外!」

 

「まずいね……。あんまりライフを回復されちゃうと、ペロペロケルペロスの発動が防ぎにくくなっちゃう」

 

「うん……。コカトリウムも場から離れたら除外されちゃうし……」

 

(この状況ではこちらが除外を避けるのにも限度がある。長期戦は……不利)

 

 再び場に現れた鳥が今度は鳥人の姿へと変形していった。変形対象となった鳥人の魂は、ももえの後ろに置かれた門へと飛び込んでいき、命の源となって二人に降り注ぐ。

 

超重禽属コカトリウム→ハーピィ・レディ 攻撃力1300

種族・属性・レベルの変動無し

 

ももえ&ジュンコ LP600→1100

 

「装備魔法、D・(ディファレント・)D・(ディメンション・)R(リバイバル)を発動するわ! 手札を1枚捨てることで、除外されているモンスターを1体攻撃表示で特殊召喚するわよ!」

 

「……! まさか。コアラッコアラを……」

 

「ベヒーモスを捨てて……来なさい! ハーピィ・レディ1!」

 

「えっ……!?」

 

(何故……? もう1枚の手札を捨ててコアラッコアラを呼べば、ベヒーモスをコストに効果を使えたのに……)

 

 怪物が爪で空間を切り裂くと、次元の狭間から鳥人が帰還した。

 

ハーピィ・レディ1 攻撃力1300→1600

超重禽属コカトリウム(ハーピィ・レディ) 攻撃力1300→1600

 

「さらにハーピィ・パフューマーを召喚よ!」

 

 女性の鳥人がビンを片手に現れると、調合を終えた香水を振り撒いた。

 

ハーピィ・パフューマー 攻撃力1400→1700

 

(見ていてください。明日香様)

 

(見逃さないでください。アタシ達のデュエルを!)

 

(二人とも……)

 

 一瞬だけ向けられた視線に明日香は驚いた。友人としてこれほど真剣な表情を見たのは、初めてだった。

 

「パフューマーが召喚に成功したことで、デッキからハーピィ・レディ—鳳凰の陣—を手札に加えるわ。このマジックカードを発動するには、このターンデッキ・融合デッキからの特殊召喚とバトルフェイズを放棄して、さらに場に3体以上の『ハーピィ・レディ』を揃える必要がある! 今、アタシ達の場のモンスターは全員それぞれの効果で『ハーピィ・レディ』として扱われているわ!」

 

「……! なんて厳しい制約……」

 

「来るよ、ユキ!」

 

「発動! 華麗なる舞を見せてあげなさい!」

 

 七色の羽根がフィールドを縦横無尽に飛び交い、視界を塞いでいく。とっさに二手に分かれたブラック・マジシャン・ガールと神機王ウルだったが、三人のハーピィ・レディによる三角形の頂点が疾風怒濤の勢いで円を描き出し、逃げ場を塞がれてしまった。

 

「アタシ達の『ハーピィ・レディ』の数までユキ達の場のモンスターを破壊し、破壊したモンスターの内、元々の攻撃力が一番高いモンスターの数値分のダメージを与えるわ! ヴァルカノンの借りは返すわよ!」

 

「……!?」

 

「ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は2000、神機王ウルの攻撃力は1600……ということは」

 

「片方の破壊を防げたとしても、残りライフ1100のユキ達は耐えられない……!」

 

(……凄い……。ジュンコ、ももえ。あなた達を突き動かす……強い気持ちが、デュエルを通して……伝わってくるわ)

 

 次第に描く円が小さくなっていき、少しずつ獲物が追い詰められていく。そして羽根が止んだ頃、ハーピィ達は一点に集まっていた。

 

「やりましたわ、ジュンコさん!」

 

 フィールドのどこを見渡しても、獲物の姿は完全に消え失せていた。

 

「ええ! やっ……。……! パフューマーがいない!?」

 

 そして一点に集まっていたハーピィは二人だけだった。

 

「……トラップカード、はさみ撃ち……! ユキ達のモンスターを2体、ジュンコさん達のモンスターを1体破壊する……!」

 

「ええっ!?」

 

「まさか……鳳凰の陣で破壊する前に……!?」

 

「先に……破壊していた?」

 

「つまり鳳凰の陣では破壊は行われなかった! だから僕達へのダメージも……0だ!」

 

レイ&ユキ LP1100→1100

 

(あれを……防ぐのね。決まったと……そう思わせるほどの、攻撃だったのに)

 

「嘘でしょアンタ……。アタシ達が、どんな思いで……」

 

「強い信念を……カードを通してユキも、レイちゃんも感じています。けど……ユキ達も、ここで絶対に成し遂げたい想いがあるから……。だから、負けたく……ありません」

 

「……!」

 

「ユキ……」

 

「……ええ、そうですわね。ジュンコさん。ここで折れるほど、わたくし達の思いは弱くありませんよね!」

 

「……当然よ!」

 

「ならカードに託して戦いましょう! マジックカード、ビーストレイジを発動しますわ! わたくし達のモンスターはゲームから除外されているわたくし達の獣族、及び鳥獣族の数×200ポイントアップしますわ!」

 

「アタシ達が除外してるのはコアラッコ、ラッコアラ、モジャ、コカトリウム、イエロー・バブーン、コアラッコアラ……全部で6体よ!」

 

「1200の全体強化……!?」

 

 ここまで戦いを繰り広げてきたモンスターの魂が、今もなお戦い続けるモンスターの糧となって取り込まれていった。

 

ハーピィ・レディ1 攻撃力1600→2800

超重禽属コカトリウム(ハーピィ・レディ) 攻撃力1600→2800

 

(ダメージは回避したが、モンスターを全て失ったことに変わりはない。ここで高攻撃力のモンスターが2体というのは、素直に厳しい状況だな)

 

「ターンエンドよ! さあ、思う存分かかってきなさい! それでも勝つのは、アタシ達よ!」

 

ハーピィ・レディ→超重禽属コカトリウム

 

ももえ&ジュンコ LP1100

 

フィールド 『ハーピィ・レディ1』(攻撃表示) 『超重禽属コカトリウム』(攻撃表示)

 

セット0 『魂吸収』 『D・D・R』 『ヒステリック・ハーピィ』(使用済み)

 

手札0(ももえ)、0(ジュンコ)

 

「行きます! 僕のターン……ドロー!」

 

(レイの手札はマジクリボーを含めて2枚か……。超電磁タートルを頼りにユキに繋げる手もあるが、ユキも手札は0だ。場の状況だけじゃなく、ペロペロケルペロスの存在もある。これ以上の長期戦はジリ貧と言わざるを得ないな)

 

「レイちゃん。ここで勝負をかけよう」

 

「うん! お願い、ユキ!」

 

「一体何をするつもりなのでしょう……?」

 

「墓地のスクレイパーの効果を自身を除外して発動します……! ユキ達の墓地から機械族・地属性のモンスターを5体デッキに戻すことで、レイちゃんはカードを2枚ドローできる!」

 

「そんなカードを残していたのね……! けど、魂吸収で回復させてもらうわよ!」

 

(私もユキの戦線維持戦術を封じたことで息切れしたと思っていたわ。それだけに頼らず、崩れた戦線を立て直す術を築き上げていたのね……)

 

「僕はブラスターキャノン・コア、ハーヴェスター、ヴァルカノン、ブルータルドーザー、神機王ウルをデッキ・融合デッキに戻して……。カードを2枚……ドロー!」

 

 こちらも戦いを繰り広げたモンスターが起き上がると、主のために残る力を全て振り絞った。それらの力を糧とし、2枚のカードが引き抜かれる。

 

ももえ&ジュンコ LP1100→1600

 

(あの時みたいに魂吸収を破壊するカードは無い。ユキの言う通り、ここで勝負をかけるんだ!)

 

「マジックカード、救魔の標! このカードは1ターンに1枚だけ発動出来る。その効果で墓地の魔法使い族効果モンスター1体を手札に戻すよ。マジシャンズ・ソウルズを手札に! そしてデッキからレベル6以上の魔法使い族……マジシャン・オブ・カオスを墓地に送って効果発動!」

 

「またそのモンスターを特殊召喚するつもりね……!」

 

「……いや! 僕はもう一つの効果を選択するよ! このカードを墓地に送って、墓地からブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚だ!」

 

 疲弊していたブラック・マジシャン・ガールだったが、自分を呼ぶ声が届くと、満面の笑みを浮かべてフィールドに舞い戻った。

 

「ブラック・マジシャン・ガールは墓地のブラック・マジシャン、マジシャン・オブ・ブラックカオスの数×300ポイント攻撃力をアップする! マジシャン・オブ・カオスはフィールド・墓地ではブラック・マジシャンとして扱われるよ。だから攻撃力は600アップだ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000→2600

 

「それでもアタシ達のモンスターには一歩及ばないわ!」

 

「だからこそ……! マジックカード、魔法石の採掘を発動します! 手札を2枚捨てることで、僕達の墓地からマジックカードを1枚手札に戻すよ!」

 

「マジックカードを……!?」

 

「この状況で使えるカードは……。……渾身の一撃ね! でもこっちには2体いるのよ。アタシ達の有利は変わらないわ!」

 

(ユキ)

 

(うん)

 

 全ての策と手札を費やして魔法石の採掘を発動させたレイはユキに力強い眼差しを向けた。そしてユキも力強く頷くと、レイは手を伸ばした。

 

「僕が加えるのはこのカードです! そして……発動だっ!」

 

「……! その、カードは……!」

 

 フィールドに出現したのは三列のスロットのリールだった。一番左のリールが止まり、ブラック・マジシャン・ガールの絵柄が表示される。

 

「モンスター・スロット……ですって!?」

 

「先程と違い、デッキの上のカードは不明ですのに……! それに! そのカードを使うには同じレベルのモンスターを墓地から除外する必要があるはずですわ!」

 

「僕が墓地に送ったカードにブラック・マジシャン・ガールと同じレベル6のモンスターはいないけど……」

 

「機械王のレベルは6。ユキ達はこのカードを除外します……!」

 

「……!」

 

 真ん中のリールが止まり、機械王の絵柄が表示される。

 

「けど、それはつまりレイのデッキにはレベル6が多くは入ってないってことよ!」

 

「確かに……数は多くありません。でも今ここが勝負の瞬間だと思ったからこそ、可能性に賭けたんです!」

 

(このドローに、全てを懸ける!)

 

「…………ドローッ!」

 

 響く心臓の鼓動が様々な感情を巡らすと、その全てが1枚のカードに託された。そしてスロットの最後のリールが止まる。

 

「僕が引いたのは……ミュータント・ハイブレイン!」

 

 モンスターの絵柄が表示されると、鳴り響いたのはファンファーレだった。

 

「レベル6……!?」

 

 絵柄が飛び出し、身長3メートルを超える突然変異体が出現した。

 

ミュータント・ハイブレイン 攻撃力0

 

ももえ&ジュンコ LP1600→2100

 

「……ですが! その引き当てたモンスターで場を覆せなければ意味はありませんわ!」

 

「やってみせる! ミュータント・ハイブレインでハーピィ・レディ1に攻撃!」

 

「攻撃力0のモンスターで攻撃するっていうの!?」

 

「ミュータント・ハイブレインは相手フィールドにモンスターが2体以上いる場合、攻撃宣言時に効果を発動できるんだ! その効果で相手の攻撃表示モンスター1体のコントロールをバトルフェイズが終わるまで得て、さらにその奪ったモンスターと相手モンスターでバトルを行わせる!」

 

「ここで……コントロールを奪う効果ですって……!?」

 

「効果発動だ! テレキネシス・ハンド・フォース!」

 

 変異体が手をかざすと、念力により鳥人の心を意のままに操り、金属の鳥へと攻撃を行わせた。鳥もとっさに迎撃を行うと、両者とも地面へと叩きつけられた。

 

ももえ&ジュンコ LP2100→2600

 

「相打ち……!?」

 

「……! こ、これでは……ペロペロケルペロスの効果が使えませんわ……!」

 

(……信じてたよ。レイちゃんなら、ここ一番でコントロール奪取戦術を決めてくれるって)

 

 はさみ撃ちで破壊する相手モンスターをユキは迷っていた。決断の決め手になったのは、親友への信頼だった。

 

「ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック! 黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールがステッキを両手で持ち、天に掲げる。するとステッキの先に紫色の魔導弾が生成され、放たれた。魔導弾は同士討ちにより空いた場をそのまま通過していき、ジュンコへと命中した。

 

「うううっ……!」

 

ももえ&ジュンコ LP2600→0

 

 この一撃により、決着がついた。悔しそうに涙ぐむジュンコの肩に、ももえがそっと手を乗せる。

 

「……お見事でしたわ。二人とも」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます。ももえさんもジュンコさんも……強かったです」

 

「ううっ……! アタシ達は負けたのよ……」

 

「お互いに全力を出して戦えば、勝つ人と負ける人が出る……。けどそれは……負けた人が抱いていた信念が否定されたわけではない、です」

 

「……!」

 

 ジュンコのもう一方の肩にも手が乗せられた。思わずジュンコが顔を上げると、そこには明日香がいた。

 

「私が見ない間に強くなったのね。……いや……。私が見ようとしなかっただけ、かしら」

 

 デュエルアカデミアでは女子は全員オベリスクブルーに所属することになる。またオベリスクブルーはエリートコースであり、ももえとジュンコはそのことに安心していた節があった。セブンスターズの一件があってから強くなるために特訓相手を探していた明日香はそういった事情もあって彼女達に見向きもしていなかった、と感じていた。

 

「……アタシ。この前、明日香様に特訓なんてしなくても強いって……言いました。けど……」

 

「明日香様に振り向いてもらうために特訓を始めて……気付いたんです。わたくし達が現状に満足している間も、みんな強くなっていることを。わたくし達は置いていかれたまま立ち止まっていた……だから、明日香様の目に映らなかったのだと、ようやく……分かったんです」

 

「それに気付いた途端……凄く、怖くなって……。見て見ぬふりしてた分析も勉強してっ……それなのに、勝てなくて……」

 

「……そうね。けれど、負けは終わりではないわ。これからは一緒に特訓して、勝利への糧にしましょう」

 

「……!? え……」

 

「よろしいのですか? その……勝利したら、という話でしたが」

 

「負けたらダメ、なんて言ってないでしょう?」

 

「「明日香様ーっ!」」

 

「きゃあっ! ……もう、二人とも」

 

 二人に一斉に抱きつかれ、明日香は困ったように笑ったのだった。

 

「ジュンコ、ももえ。私のデュエルも……見てくれないかしら」

 

 そうしたまま少し時間が経った頃、二人が落ち着いてきたところに明日香は話しかけた。

 

「はい! 見せてください!」

 

「わたくしも見たいです! お相手はどなたでしょうか?」

 

「……ユキ! 前にしたリベンジの約束……果たさせてもらうわよ」

 

「喜んで。ただ、再戦は受けても……リベンジは阻止させてもらいます」

 

「あ、あれ? 特訓はユキちゃん達とされていたのでは……?」

 

「……? 違うわ。特訓は三沢くんにお願いしていたのよ」

 

「ああ。試験が終わった後に相談を受けてね」

 

「ええっ! そ、そうだったんですか!?」

 

「……それは意外でしたわね……。オベリスクブルーに誇りを持っている明日香様が、イエローの三沢さんに相談しているとは……思いもよりませんでした」

 

(……そっか。だから僕達に挑んできたんだね)

 

「確かに、そう思われても仕方ないかもしれないわね。けど、私が何よりも誇りにしたかったのは……」

 

 明日香はユキがレイのデッキに紛れ込んだカードを返してもらい、シングルデュエル用にデッキを組み直したことを確認すると、青いグローブをはめて彼女と向き合い、デュエルディスクを構えた。

 

「デュエリストとしてのプライドよ」

 

「……!」

 

 その眼光はいつにも増して鋭く、射るような視線で貫かれたユキは焦りを生まないよう一度深呼吸を挟んでからデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

 こうして一つの幕が下り、そしてまた新たな戦いの幕が上がったのだった。




初のタッグデュエル回。シングルに比べて使える枚数の多さから、思った以上に複雑で手間取りましたが、満足のいく仕上がりになりました。


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ワルツを踊るは乙女達

「頑張れー! 明日香様ー!」

 

「ファイトですわー!」

 

(オベリスク・ブルーの女王とすら呼ばれ、周りにちやほやされてきた……。それだけの実力があると思っていたし、私自身それが当たり前だと思っていたわ。思えば十代に負けてからかしらね。自分が井の中の蛙であることを知ったのは)

 

「私のターン、ドロー! センジュ・ゴッドを召喚するわ。召喚に成功したことでデッキから儀式モンスター……サイバー・エンジェル—弁天—を手札に!」

 

「……!」

 

(この前のデュエルでは序盤は融合で攻めてきたけど……今回は儀式中心で来るのかな)

 

「さらにマジックカード、トランスターン! センジュ・ゴッドを墓地に送り、種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスターをデッキから呼び出すわ! 来なさい! 光神テテュス!」

 

 無数の手を背にした仏のモンスターが明日香に新たな仲間を与えてから光の粒子となると、分散した粒子が再び集まっていき、大きな翼を備えた女性の天使へと姿を変えた。

 

光神テテュス 攻撃力2400

 

「さらにマジックカードを使うわ。慈悲深き機械天使! 手札の弁天をリリースして2枚のカードをドロー! そして手札を1枚デッキの下に戻すわ」

 

「折角の儀式モンスターを……?」

 

「弁天にはリリースされた場合に発動できる効果があるのよ! デッキから光属性・天使族のモンスター1体を手札に加えるわ」

 

「なるほど……」

 

「私が加えるのは……アーティファクト—ベガルタ!」

 

「え……!? サイバー・エンジェルじゃ……ない?」

 

 機械天使の祈りが天に届き、天使が明日香の手に舞い降りた。

 

「カードを3枚伏せてターンエンドよ!」

 

(特訓で君が見出した新しい形……。実戦でも、見せてもらうよ)

 

明日香 LP4000

 

フィールド 『光神テテュス』(攻撃表示)

 

セット3

 

手札2

 

「ユキもファイトだよ!」

 

「ありがとう。ユキのターン……ドロー!」

 

(前にデュエルした時には影も形も無かったモンスター……。次のターンでの攻めに使ってくるかもしれない。ここは今のうちに態勢を整えておこう)

 

「2枚の永続魔法を発動します。マシン・デベロッパー、一点着地!」

 

「……! 得意の戦線維持戦術ね……!」

 

「さらに相手フィールドのモンスターが自分より多い場合、巨大戦艦 ブラスターキャノン・コアは特殊召喚できる?」

 

 天を切り裂き、要塞のごとき戦艦が地球へと突入してきた。天が途切れるほどでも未だに見えない全容がその大きさを予感させる。

 

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500→2700

カウンター0→3

 

「マシン・デベロッパーの効果で機械族モンスターの攻撃力は200ポイントアップします。さらに一点着地の効果発動! 手札からユキの場にモンスター1体が特殊召喚された場合、ユキは1ターンに1枚だけドローできる」

 

 フィールドの一点にだけスポットライトが当てられると、ようやく降りてきた戦艦は見事な操縦でピンポイントに着地してみせた。

 

「マシンナーズ・ギアフレームを召喚! このモンスターはユニオン効果以外にも、召喚に成功した時マシンナーズモンスター1体を手札に加えられる効果があります。マシンナーズ・ピースキーパーを手札に!」

 

 オレンジ色の装甲を纏った中型ロボットが場に降り立つと、電波を飛ばして仲間を招集した。

 

マシンナーズ・ギアフレーム 攻撃力1800→2000

 

(……! ユニオンモンスターを装備されたら、身代わりにされてしまう。テテュスは場に残しておきたいわ)

 

「……この瞬間速攻魔法、アーティファクト・ムーブメントを発動するわ! フィールドのマジック・トラップカード1枚を破壊する!」

 

「えっ……! ここで……?」

 

(一点着地に使えばドローを防げたのに……?)

 

「私は伏せていたアーティファクト—ベガルタを破壊して、さらにムーブメントの効果でデッキからアーティファクトモンスター……アーティファクト—モラルタを魔法カード扱いでセットする!」

 

「……!? モンスターを魔法&罠カードゾーンにセット……!?」

 

「アーティファクトモンスターはそのモンスター効果で手札から魔法カード扱いでセットできる効果があるのよ。そしてもう一つの共通効果がこれよ! 魔法&罠カードゾーンにセットされたアーティファクトが、相手ターンに破壊され墓地に送られた時、そのカードは特殊召喚される!」

 

「……ということは、さっき破壊されたベガルタは……」

 

「モンスターとして場に現れるわ!」

 

 古代に作られた人工物が遺跡から発掘されると、その中にあった片手剣が、使い手の記憶から形成された精神体により持ち出された。構えられた途端、剣には赤い紋様が浮かび上がる。

 

アーティファクト—ベガルタ 守備力2100

 

「ベガルタが相手ターンに特殊召喚に成功したことで、私のセットカードを2枚とも破壊するわ!」

 

「まさか……」

 

「そう。破壊されたのはどちらもアーティファクト! モラルタ、そしてカドケウスの効果を発動! 永き眠りより目覚めなさい!」

 

 同様にして遺跡から持ち出された杖は黄色の紋様が浮かび上がり、続いて持ち出された片手剣は先程の剣とは異なり水色の紋様が浮かび上がった。

 

アーティファクト—カドケウス 守備力2400

アーティファクト—モラルタ 攻撃力2100

 

「ね、ねえ。今ユキのターンだったよね……?」

 

「ええ……。そのはずですが……」

 

「とんでもない展開力ね……」

 

「……いや、本領はこれからだ」

 

「カドケウス、モラルタの効果を発動よ! 相手ターンにモラルタが特殊召喚されたことで、相手フィールドの表側表示のカードを1枚破壊できる! 消えなさい、ブラスターキャノン・コア!」

 

「ユキのターンで……展開だけじゃなく、攻撃まで……!?」

 

 上に向かって構えられた片手剣がそのまま突き上げられると、規格外の切れ味により、戦艦の下から上に向かって亀裂が走った。攻撃を行った精神体が戦艦を背に着地すると、その背後で戦艦は大爆発を巻き起こした。

 

「……機械族モンスターが破壊される度に、マシン・デベロッパーにジャンクカウンターが2つ置かれます」

 

マシン・デベロッパー ジャンクカウンター0→2

 

「そしてカドケウスが場にいる限り、相手ターン中にアーティファクトが呼び出された時、私は1枚ドローするわ。ドロー!」

 

(よし!)

 

「さらにテテュスの効果を発動するわ! ドローカードが天使族だった場合、相手に見せることでドローすることができる! 私が引いたのはサイバー・エンジェル—韋駄天—よ!」

 

「サイバー・エンジェルは天使族……!」

 

「よってドロー! 引いたのは……アーティファクト—フェイルノート!」

 

「……! アーティファクトも……天使族」

 

「ドロー! 魂の造形家(スピリット・スカルプター)! ドロー! サイバー・エンジェル—荼吉尼(ダキニ)—!」

 

(あの儀式モンスターは確か……)

 

「ドロー! ……ここまでね」

 

(……見た感じ、前に入ってた戦士族モンスターは全部抜いちゃったのかな)

 

 連続したドローを見せられたユキは以前のデュエルで苦労させられた戦士族モンスターのことが頭をよぎっていた。

 

(そうだとしたら……テテュスだけは絶対残さないようにしなきゃ)

 

「……フィールド魔法、転回操車を発動!」

 

 フィールド全体が車両の入れ替えや編成を行う停車場へと変貌を遂げる。

 

「手札を1枚……ピースキーパーを墓地に送って効果発動! デッキから機械族・地属性・レベル10のモンスター……弾丸特急バレット・ライナーを手札に!」

 

「よし! バレット・ライナーはユキの場が機械族・地属性モンスターのみなら、手札から特殊召喚できるんだ!」

 

「マシンナーズ・ギアフレームは機械族・地属性……!」

 

「よってバレット・ライナーを発進させます……!」

 

 中央にあるターンテーブルが回転し前後が入れ替えられると、運転席が行き先に向いた特急列車は出発進行し、目的地のユキのもとへと辿り着いた。

 

弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000→3200

 

「アイアンドローを発動して2枚ドローします。……バトル! バレット・ライナーは攻撃のためにユキの場から2枚のカードを墓地に送る必要があります。転回操車とギアフレームを送って、テテュスに攻撃!」

 

(ブラスターキャノン・コアを破壊すれば、このターンでテテュスを超えるのは難しいと思っていたのに……)

 

 新たな目的地が設定されると、ユキの横を弾丸のごとき勢いで通過した特急列車は地球を一周し、明日香の場の天使を弾き飛ばした。そのあまりの勢いに、停車場とロボットが巻き込まれる。

 

明日香 LP4000→3200

 

「くっ! やったわね!」

 

「それはお互い様? メインフェイズ2に入って新たなフィールド魔法、ユニオン格納庫を発動します!」

 

「……! 2枚目のフィールド魔法……!?」

 

 新たなフィールドも停車場として展開されていったが、先程と違って機体を格納する倉庫となっていた。

 

「このカードは発動時に機械族・光属性のユニオンモンスターを手札に加えられます。来て、Y—ドラゴン・ヘッド!」

 

 出動命令に応じ、側面にYと書かれた格納庫が移動を始めた。そして格納庫が止まり、開かれる。すると海に建てられていた格納庫から上に向かって道が伸びていた。カウントダウンが0を告げ、瞬く間に機体がスピードに乗っていくと、道から飛び出して飛行形態へと変形した。そしてスピードを保ったまま、要請のあった場所へと辿り着く。

 

「ふふっ……。カードを1枚伏せてターンを終了します」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『弾丸特急バレットライナー』(攻撃表示)

 

セット1 『マシン・デベロッパー』 『一点着地』 『ユニオン格納庫』

 

手札2

 

「私のターン、ドローよ!」

 

「どうしてユキちゃんはギアフレームをバレット・ライナーに装備せずに、コストにしてしまったのでしょう……?」

 

「……もしかすると、さっき明日香様が見せた儀式モンスターの効果を考えての選択かもしれないわね」

 

(私もジュンコに同感ね。ただ、それにしても装備しないで残しても良さそうだけれど……)

 

「スカルプターを召喚よ!」

 

 新たな作品の完成を夢見て、髭を生やしたガタイの良いクリエイターが遺跡へと赴いた。

 

魂の造形家 攻撃力1600

 

「ベガルタをリリースしてスカルプターの効果発動よ! リリースしたベガルタの攻守の合計3500と同じく攻守の合計が3500となるモラルタをデッキから手札に加えるわ!」

 

「……! ユキのターンで攻撃をしてくる厄介なモンスター……」

 

(次のターンの攻撃にも余念がないね。君らしい攻めのデュエルだ)

 

 赤く輝く片手剣を見つけたクリエイターは心の赴くままに弄り倒すと、性質が変わり青く輝き出した。

 

「行くわよ、ユキ! 儀式魔法、機械天使の絶対儀式! レベルが同じになるよう自分のモンスターをリリース、あるいは自分の墓地の天使族・戦士族モンスターをデッキに戻すことで、手札のサイバー・エンジェルを儀式召喚するわ! 私はレベル4のスカルプターをリリースし……墓地に眠るレベル4のセンジュ・ゴッドをデッキに戻すことで儀式召喚を行う!」

 

「……!? 墓地のモンスターで儀式の消費を軽減した……!?」

 

(……参ったよ。俺の戦術をヒントに、そこまで辿り着くんだからね)

 

 赤い炎で照らされた祭壇に2体の供物が捧げられると、炎が消えた代わりに、天からの閃光が明日香の場に突き刺さる。

 

「目もくらむほどの速さを持ちし光の天使よ。光速の刃で敵を切り裂け! 降臨せよ! レベル8、サイバー・エンジェル— 荼吉尼(ダキニ)—!」

 

 閃光の正体は四本の手が生えた天使だった。前にある両手で鋭い鎌を、後ろにある手はそれぞれ短剣を握っている。

 

サイバー・エンジェル—荼吉尼— 攻撃力2700

 

「ダキニが儀式召喚に成功したことで、あなたは自身のフィールドのモンスターを1体墓地に送らなくてはいけないわ。覚えているわよね? だからこそ、身代わりに出来ないユニオンモンスターの装備は諦めたのでしょう」

 

「はい。覚えていました。だから……対応もばっちり?」

 

「……!」

 

「相手が手札からモンスターを特殊召喚した時、手札のこのカードを特殊召喚できます。来て? サイバー・ダイナソー」

 

 全身が鋼鉄で覆われた恐竜型のロボットが場へと降り立つと、あまりの重みで格納庫の一部が破損した。

 

サイバー・ダイナソー 攻撃力2500

 

「厄介な効果だけど、あくまで選ぶ権利はユキにある? だから……。……いきなりごめんね、サイバー・ダイナソー」

 

 天使がかけた不幸の呪いが彼に及んでしまった。そのまま格納庫に穴が空き、海へと落ちてしまう。

 

「墓地に送る効果だからジャンクカウンターは乗らないけど、一点着地の効果でドローします」

 

「……やるわね」

 

(今の天上院君の強みは相手ターンで攻撃に使ったアーティファクトをそのまま自分のターンの総攻撃に加えられることだ。この除去を躱されたのは痛いな……)

 

(なら、次のターンも攻撃するまで!)

 

「カードを3枚伏せてターンエンドよ! エンドフェイズにダキニの効果で機械天使の絶対儀式を手札に戻すわ」

 

 天使が空間を鎌で切り裂くと、そこから一枚のカードを引き寄せて明日香へと与えた。

 

(……今だ!)

 

「トラップカード、E.M.R.(エレクトロ・マグネティック・レールガン)! バレット・ライナーをリリースして、フィールドのカードを元々の攻撃力1000につき1枚……つまり3枚破壊します!」

 

「なんですって……!?」

 

「ギアフレームを装備しなかったのはこうする予定だったから? 明日香さんのセットカードを全て破壊……!」

 

「えっ。アーティファクトを破壊してしまったら、呼び出されてしまうんじゃあ……」

 

「……あ! ももえ、違うわ! だって今は……」

 

 列車の爆発的エネルギーが全て注ぎ込まれると、目にも止まらぬ速さで弾が投射され、3枚の伏せカードを見事に爆散してみせる。

 

「アーティファクトは相手ターンに破壊されて初めて効果が使える……。なら明日香さんのターンに破壊すれば安全?」

 

「く……まさか、あなたが私のターンで攻めてくるなんてね」

 

「モラルタとフェイルノートに報復の隠し歯か。報復の隠し歯で2体のアーティファクトを破壊し、モラルタで攻撃。フェイルノートで墓地のモラルタをセットして次の攻めを用意しつつ、カドケウスで2枚ドロー。さらに報復の隠し歯の効果でターンを強制終了させるつもりだったんだな」

 

(相手ターンでも攻撃をするとなれば消費は激しくなる。天上院くんはテテュスやカドケウスを用いて攻撃すればするほど、消費を回復できる……いわば攻めのデッキ回転を目指した。しかし、こうなった場合がきついな。これ以上ユキのターンで苛烈な攻撃を仕掛けるのは難しいか……)

 

(明日香さんの攻撃を両方応じてたら、守りを固めるしかなくなる。だからまずは片方を押さえて……)

 

「バレット・ライナーは墓地に送られたターンのエンドフェイズに、バレット・ライナー以外の機械族を1体手札に戻せます。戻ってきて、ブラスターキャノン・コア」

 

 機能停止した特急列車の代わりとして戦艦が送られてきた。

 

(相手を良く観察しているな……俺の時もそうだった。強みと弱みを冷静に見抜き、的確な選択をしてくる。……思えば似ているかもな。相手をリスペクトし、本当の姿を見つめ、全力を叩き込んでくる……カイザーのデュエルに)

 

明日香 LP3200

 

フィールド 『サイバー・エンジェル—荼吉尼—』(攻撃表示) 『アーティファクト—モラルタ』(攻撃表示) 『アーティファクト—カドケウス』(守備表示)

 

セット0

 

手札4

 

(……このターンは守るしかない……!)

 

「今のうちに攻めれたら大きいよ! がんがんいこう!」

 

「うん……! ユキのターン! ブラスターキャノン・コアを特殊召喚して、一点着地の効果でドロー。……!」

 

(……よし! 巡りが良い。流れが来てる……!)

 

 先程大爆発を起こした戦艦だったが、懸命の作業によって修復が為され、無事動き出した。

 

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500→2700

カウンター0→3

 

「マジックカード、森のざわめき。ダキニを裏側守備に!」

 

 悪寒を感じた天使はとっさに短剣を投擲するも手応えは無く、空いた両手で防御の構えを取った。

 

サイバー・エンジェル—荼吉尼—(裏側守備表示) 守備力2400

 

「森のざわめきのさらなる効果! フィールド魔法……ユニオン格納庫を手札に戻します! もう一度発動してW—ウィング・カタパルトを手札に!」

 

(いいようにやられているわね……。守りに入ることが、ここまで不安に感じられるなんて……)

 

「Y—ドラゴン・ヘッドを召喚します! さらにユニオン格納庫のもう一つの効果で機械族・光属性のユニオンモンスターをデッキから装備可能。Z—メタル・キャタピラーを装着!」

 

 格納庫から発射された赤と黄色の機体が空中で変形していく。

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500→1700→2300

 

「2体を除外することで、このカードを融合デッキから特殊召喚する?」

 

(Y—ドラゴン・ヘッド……前回同様、厄介な動きをしてくれるわね)

 

「合体完了! YZ—キャタピラー・ドラゴン!」

 

 戦車としての土台の形態になったZ—メタル・キャタピラーの上に龍の口として砲撃形態になったY—ドラゴン・ヘッドが乗り、バトルフィールドにたどり着くまでに合体を完了させ、スムーズに任務へと入った。

 

YZ—キャタピラー・ドラゴン 攻撃力2100→2300

 

「キャタピラー・ドラゴンの効果発動! 手札を1枚……W—ウィング・カタパルトを捨てることで、相手の裏側守備表示モンスターを1体破壊する? ダキニを破壊!」

 

「……! 森のざわめきはそのためでもあったのね……!」

 

 安定感のある土台から放たれた強烈な一撃に防御の構えは意味を為さなかった。天使は天へと帰還を余儀なくされる。

 

「バトル! ブラスターキャノン・コアでカドケウスに攻撃!」

 

 宇宙とは違い稼働音を響かせ、戦艦はレーザー砲を放った。杖が振られ魔法のビームで応戦が行われると、しばらく続いていた均衡が崩れる。エネルギーが残っている戦艦に対し、精神体の魔力が尽きたためだった。杖は精神体と共にレーザーに包まれ、滅却される。

 

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター3→2

 

「キャタピラー・ドラゴンでモラルタに攻撃!」

 

 スムーズに合体を済ませていた甲斐あり、二発目の装填が間に合った。放たれた一撃が剣で切り裂かれていくが、途中で弾かれ、飲み込まれていった。

 

明日香 LP3200→3000

 

「くうっ……!? ……さすが、と言っておこうかしら」

 

 伏せカードを失ったとはいえ、一度モンスターがいなくなったユキが3体いた自分のモンスターを全滅させたことに、明日香は少なからず動揺があった。

 

「ありがとうございます。でも、まだデュエルは終わってないから……。もう一度その言葉を聞けるように頑張ります。カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

(明日香さんにはダキニで戻した絶対儀式と、テテュスで引いた韋駄天がいる……確かレベルは6だった。墓地の弁天をデッキに戻して儀式召喚ができる……油断はできない)

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア』(攻撃表示) 『YZ—ドラゴン・キャノン』(攻撃表示)

 

セット1 『マシン・デベロッパー』 『一点着地』 『ユニオン格納庫』

 

手札1

 

(……この手札では、ユキのターンでの攻撃ができない。目指したデュエルの形が、崩れてしまっている……)

 

 先程のE.M.R.がもたらしたダメージは見た目以上に大きかった。オベリスクブルーの誇りより優先させたデュエリストとしてのプライド。自ら目指した形の崩壊は彼女のプライドを揺るがせていく。

 

「明日香様、踏ん張りどころですわ!」

 

「ここからガツンといっちゃってください!」

 

(二人とも。……そうね)

 

「……私のターン! ドロー……!」

 

 先程見せつけられた二人のデュエルを思い返した明日香は弱気になった自分を恥じると、目の前のカードに向き合った。

 

(韋駄天を呼び出せば、使用した絶対儀式をサルベージできる。呼び出すのも手だけど、攻撃力1600の韋駄天を迂闊に場に出すべきではないかしら。もしユキの伏せカードが呼び出したモンスターを破壊するようなカードだったら…………このターンで決めきれないもの)

 

 明日香は攻撃による防御が出来ないのであればと、もはや次のターンのことは考えていなかった。

 

「機械天使の絶対儀式! 墓地のレベル5のフェイルノートと同じくレベル5のモラルタをデッキに戻すわ!」

 

「……! レベル10の儀式モンスター……!?」

 

(しかも実質生け贄無しで……!)

 

「無窮なる力を秘めし光の天使よ。今あまねく世界にその姿現し、万物を照らせ! 降臨せよ! レベル10、サイバー・エンジェル—美朱濡(ビシュヌ)—!」

 

 捧げられた供物が天に昇り、儀式が成就した。天から舞い降りしは半透明の翼が生えた流麗な天使。翼からこぼれ落ちし光がフィールドを煌びやかに照らしていく。

 

サイバー・エンジェル—美朱濡— 攻撃力3000

 

「儀式召喚に成功したことで効果を発動よ! アセンションバースト!」

 

 翼が柔らかく開かれると波紋が広がっていった。

 

「融合デッキから呼び出された相手モンスターを全て破壊し、その数×1000のダメージを与えるわ!」

 

「……! YZ—キャタピラー・ドラゴンが……」

 

 全てのモンスターが波紋に触れると、YZ—キャタピラー・ドラゴンだけが消失してしまった。

 

「うっ……!」

 

ユキ LP4000→3000

マシン・デベロッパー ジャンクカウンター2→4

 

「さらにこの効果でダメージを与えたビシュヌはこのターン2回攻撃を行える!」

 

「……! ……ユキのモンスターさんが破壊されたことで、手札の異界の棘紫竜(きょくしりゅう)の効果を発動! このカードを特殊召喚します!」

 

(……ドラゴン族……? ユキがドラゴンを使ったところなんて、見たことがないわ……)

 

 身体中が紫色に染まった竜が異世界より出現する。至る所から棘を生やしているが、口の中でさえ生やされた棘からは身を守るだけでなく、その攻撃性を窺わせる。

 

異界の棘紫竜 守備力1100

 

「一点着地の効果でドロー!」

 

(……たとえモンスターが増えたとしても!)

 

「バトルよ! ビシュヌで攻撃! 対象は……ブラスターキャノン・コア!」

 

「……!」

 

「ブラスターキャノン・コアはバトルでは破壊されませんわ……!」

 

「カウンターもまだ2つ乗ってて自壊もさせられないわね……。明日香様なら、分かってると思うけど……」

 

(……何かある……? ……あるかもしれないけど、ここは……)

 

 天に向かって天使の手が掲げられると、戦艦の頭上から光の柱が降り注いだ。

 明日香の決死の表情に身がすくむ思いを感じたユキはとっさに手を伸ばそうとしたが、考えた末の決断は様子見だった。

 

「……ダメージステップに入ったこの瞬間! 速攻魔法、荘厳なる機械天使を発動! このカードは手札またはフィールドのサイバー・エンジェル儀式モンスターをリリースすることで使えるわ。私は手札の韋駄天をリリース! そしてターンが終わるまで、ビシュヌの攻守をリリースしたモンスターのレベル×200アップする!」

 

「……! 韋駄天のレベルは6……!」

 

「さらにリリースされた韋駄天は自分の場の全ての儀式モンスターの攻守を1000上昇させるわ!」

 

「さらなる強化……!?」

 

 新たに捧げられた供物が天使の力を強めると、発した光の柱が光量を増していった。

 

サイバー・エンジェル—美朱濡— 攻撃力3000→4200→5200 守備力2000→3200→4200

 

「きゃっ……!?」

 

 光の柱は巨大な戦艦すら包み込んだ。多くの損壊により、殆どのシステムがダウンしてしまう。

 

ユキ LP3000→500

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター2→1

 

「ブラスターキャノン・コアは戦闘では破壊されない……だからこそ狙ったのよ」

 

「……! 攻撃力2700のブラスターキャノン・コアをサンドバッグに……!?」

 

「これでフィナーレよ! ビシュヌでもう一度ブラスターキャノン・コアに攻撃!」

 

 天使がもう一方の手を天にかざした。光が集約されていく様が地上からでも分かるほど、それは大きい力だった。

 

「ユキ……!」

 

「……させない! 速攻魔法、瞬間融合!」

 

「なっ……!?」

 

「あれはアタシ達とのデュエルでも使った……!」

 

「自分フィールドのモンスターで融合召喚を行うカード……!?」

 

「機械族のブラスターキャノン・コアと、ドラゴン族の異界の棘紫竜を融合……!」

 

「……! しまった……!」

 

(ブラスターキャノン・コアを場から逃された……!)

 

「堅固なる要塞を兼ね備えし戦艦よ、棘を(まと)いし暴虐なる竜よ。今ひとつとなりて我が身を守る鉄壁の守護竜となれ!」

 

 数多くの損傷がありながらも諦めずに戦い続けた戦艦が渦によって竜と交わっていく。

 

「融合召喚! 顕現せよ、重装機甲 パンツァードラゴン!」

 

 そして渦より、戦艦の硬い金属から形成された厚い装甲を身につけた戦車が現れると、それを土台として機械竜の首が伸ばされる。その口からのぞかせる砲塔は、棘のように鋭かった。

 

重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600

 

「そっか! パンツァードラゴンがいたね!」

 

「く……攻撃続行よ! 荘厳なる機械天使の効果でこのターン、バトルを行う融合デッキから呼び出されたモンスターの効果は無効化されるわ!」

 

 天使は機械竜目掛けて光の柱を降下させた。機械竜は光線を放って迎撃を試みたものの、圧倒的な光量の差に押し潰されてしまう。

 

マシン・デベロッパー ジャンクカウンター4→6

 

「……パンツァードラゴンはフィールドじゃなく、破壊され墓地に送られた場合に効果が発動する? その効果でフィールドのカードを1枚破壊できる!」

 

「……!」

 

「ユキはビシュヌを破壊する!」

 

「そんな……ここでモンスターを失ったら!」

 

「明日香様の場ががら空きになっちゃうわ……!」

 

 ならばと機械竜は天使に向かって光線を放ち、その後すぐに光の柱へと飲み込まれて消え去った。

 

「させないわ! ビシュヌのもう一つの効果! 1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果の発動を、墓地の儀式モンスター1体をデッキに戻すことで無効にして破壊する! 私はダキニをデッキに戻すわ」

 

「なっ、防がれた……!?」

 

 その悪足掻きに天使は柔らかく笑うと、動くこともせずに頭の後ろに浮かばせていた金色の輪を前に出し、輪を通った光線は光の粒子となって彼女の翼をさらに輝かせた。

 

(明日香さんの墓地にはまだ2体の儀式モンスターがいる……。次のターン効果破壊での突破は現実的じゃない、な)

 

(……攻撃を凌がれた。まさかドラゴンを呼び出して、融合素材にしてブラスターキャノン・コアを逃す、なんて。……もし韋駄天を呼び出していれば……)

 

(韋駄天の攻撃力なら守備表示の異界の棘紫竜を倒せた。場に出していた場合、ユキの手札が防御に使えるカードでもない限り、彼女の選択に関係なく天上院君が勝っていた。……が、ターン開始時の場を考えれば韋駄天を出す必要性は薄かった。プレイングミスというよりは、読み違えの範疇と捉えるべきだろう。ここは切り替えるんだ)

 

「……ターンエンドよ……」

 

サイバー・エンジェル—美朱濡— 攻撃力5200→4000 守備力4200→3000

 

明日香 LP3000

 

フィールド 『サイバー・エンジェル—美朱濡—』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札1

 

「このターン大事だよ!」

 

「うん! ユキのターン……ドロー!」

 

 引き抜いたカードと合わせユキは場の状況を見通す。そして自分が選ぶべきと思える道に向かい、カードを取り出した。

 

「マジックカード、優麗なる霊鏡(ネクロイップ・プリズム)を墓地のレベル4以下のモンスター、W—ウィング・カタパルトを対象に発動……! 効果でそのモンスターのレベル以下のレベルを持つモンスターを手札から特殊召喚する! W—ウィング・カタパルトのレベルは4! よってレベル4のV—タイガー・ジェットを特殊召喚!」

 

 Wと側面に書かれた格納庫に置かれていた鏡が、Vが書かれた格納庫を照らした。呼応するように格納庫が開かれ、虎を模した機体が出撃する。

 

V—タイガー・ジェット 攻撃力1600→1800

 

「さらに対象にしたモンスターを特殊召喚したモンスターに装備し、攻撃力を装備したモンスターの攻撃力の半分アップさせる」

 

「……! W—ウィング・カタパルトはユニオンモンスターだったわね……!」

 

「その通り……なのでユニオン効果が適用され、攻守が400アップします」

 

 鏡から青色の機体の幽霊が飛び出てくると、黄色の機体に装着されるように憑依した。

 

V—タイガー・ジェット 攻撃力1800→2450→2850 守備力1800→2200

 

「けれど、その攻撃力ではビシュヌに及ばないわ!」

 

「……悔しいけど、その通り。なのでユキは……このカードに懸けます。一点着地の効果発動! カードを1枚……ドロー!」

 

「……!」

 

 デュエルコートが緊張感で静まり返る中、ユキは命運を託した1枚のカードを引き抜いた。身体全体を使ったドローの余韻が残る中、ユキは手首を返してドローカードを目にする。

 

(……来た!)

 

「永続魔法、X・Y・Zコンバインを発動! さらに、フィールドのV—タイガー・ジェットとW—ウィング・カタパルトを除外して融合デッキからモンスターを特殊召喚……!」

 

 憑依していた霊体が実体を取り戻すと、青い機体は土台となる飛行形態へと、そしてその上に砲撃形態となった黄色い機体が結合される。

 

「合体完了! VW—タイガー・カタパルト!」

 

VW—タイガー・カタパルト 攻撃力2000→2200

 

(さっきと同じで『融合』を使わず素材の除外で呼び出される融合モンスターね。けれど、あのモンスターを呼び出したところで……)

 

「機械族・光属性ユニオンモンスターのW—ウィング・カタパルトが除外されたことでX・Y・Zコンバインの効果発動! デッキからX—ヘッド・キャノンを特殊召喚する……!」

 

「……! ここでX—ヘッド・キャノンですって……?」

 

 機体の鼓動に反応し、Xと書かれた格納庫が開かれる。するとそこから青と黄色をベースとし、二つの砲塔を取り付けた機体が参上した。

 

X—ヘッド・キャノン 攻撃力1800→2000

 

「マシン・デベロッパーの効果を自身を墓地に送って発動します! 乗っていたジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ機械族モンスターを1体墓地から復活させます……!」

 

「ジャンクカウンターは6つ……! 墓地のキャタピラー・ドラゴンを呼び戻すつもりかしら?」

 

「残念ながらキャタピラー・ドラゴンは墓地から特殊召喚できない制約があります……。だからユキはレベル5のパンツァードラゴンを選択……!」

 

 今まで破壊されてきた機械のパーツが修復に充てられ、機械竜が復元された。

 

重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600

VW—タイガー・ジェット 攻撃力2200→2000

X—ヘッド・キャノン 攻撃力2000→1800

 

「パンツァードラゴンの効果はビシュヌには通用しないわ」

 

「パンツァードラゴンに限らず、ユキのデッキのほとんどのモンスターが敵いません……。だから……その少ない突破口を目指して、カードを紡ぎます。X・Y・Zコンバインのもう一つの効果を発動……! ユキの場の融合モンスター、パンツァードラゴンを融合デッキに戻すことで、除外されているY—ドラゴン・ヘッドと、Z—メタル・キャタピラーを帰還させる!」

 

「……!」

 

 機械竜の砲撃が異次元へと通じる道をこじ開けると、僅かな時間だけ保たれた道を通り、赤と黄色の機体が帰還した。全ての力を使い果たした機械竜は粒子となって融合デッキへと戻っていく。

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500

Z—メタル・キャタピラー 攻撃力1500

 

「さらにX—ヘッド・キャノン、Y—ドラゴン・ヘッド、Z—メタル・キャタピラーを除外……! お願い、XYZ—ドラゴン・キャノン!」

 

(これは……!?)

 

 YZ—キャタピラー・ドラゴンの形態から、さらにX—ヘッド・キャノンの球形の足がY—ドラゴン・ヘッドの背中のくぼみに接続される。

 

XYZ—ドラゴン・キャノン 攻撃力2800

 

「……そして! VW—タイガー・カタパルトとXYZ—ドラゴン・キャノンを……除外!」

 

「……5重合体……!」

 

 大掛かりな合体指示に応じ、一度合体が解除される。そしてV—タイガー・ジェットは頭部に、X—ヘッド・キャノンは胸部の砲塔に、Z—メタル・キャタピラーはX—ヘッド・キャノンの腕と接続して全体の腕部に、Y—ドラゴン・ヘッドは閉じていた翼を広げながらバランスを取るコアに、W—ウィング・カタパルトは分離してそれぞれY—ドラゴン・ヘッドに接続されて足部となった。

 

「究極合体完了! 出陣せよ。VWXYZ(ヴィトゥズィ)—ドラゴン・カタパルトキャノン!」

 

VWXYZ—ドラゴン・カタパルトキャノン 攻撃力3000

 

「……さすがね。まさかモンスターのいない状況から、ここまで繋げてくるなんて……」

 

(それもこれまでの選択を的確に判断してきた成果……ということかしら。だとしたら私は……)

 

「ドラゴン・カタパルトキャノンの効果を発動! 1ターンに1度、相手フィールドのカードを選択して除外できる……! ビシュヌを除外します!」

 

「……! ビシュヌが防げるのは破壊効果だけですわ!」

 

「そのためにこれだけの合体を重ねたのね……!」

 

 機体の電力を一点に集め、ドラゴン・カタパルトキャノンは強烈なプラズマ砲を放った。天使は焦りの顔を浮かべながら金色の輪で吸収を試みるが、膨大なる力を変換しきれず。音を立てて崩壊した輪を信じられないように見ながら、プラズマ砲をその身で受けた。

 

「やった! ビシュヌを倒した!」

 

「道は開けた……! バトル! ドラゴン・カタパルトキャノンで明日香さんにダイレクトアタック……!」

 

「明日香さんのライフは3000! これで決まりだ!」

 

(私と違って、美しく繋いでみせた。この状況……どう見ても、私の負け……ね)

 

 飛行のために使っていたパワーを脚の力として使った機体は高らかに跳ぶと、背にある翼の羽ばたきを推進力とし、ユキの場から明日香の頭上まで一気に移動する大ジャンプを見せた。そして伸ばしたアームを打撃武器とし、勢いそのままに振り下ろした。

 

「……それでも、アイツだったら諦めない……?」

 

「えっ?」

 

 逆境に立たされ、己の選択を悔いていた明日香は負けを認めようとしていた。しかしその瞬間、デュエルが終わるまでは絶対に諦めなかった彼の姿が脳裏によぎった。

 

「……手札のアーティファクト—ヴァジュラの効果発動! 相手の直接攻撃宣言時にこのカードは手札から特殊召喚できる!」

 

「なっ……!」

 

アーティファクト—ヴァジュラ 守備力1900

 

 振り下ろされたアームが捉えたのは銅によって作られた両端が三つ又となっている杵の形をした武器だった。精神体が必死に押し返そうとするものの、歴然とした力の差に敵わず。しかしアームの軌道は明日香から逸らしてみせた。

 

(防いだか! だがヴァジュラは相手ターンに呼んだ場合、自分の魔法&罠ゾーンのカードを全て破壊できる。その本領は発揮出来ないな……)

 

(……この、気迫。以前デュエルした時にも……感じた)

 

 彼女の目を見たユキは既視感を覚える。伝わってくる気迫で首筋に冷や汗が伝うユキだったが、このターンこれ以上出来ることは無かった。

 

「ううっ。防がれちゃったか! でも次のターン、もう一度除外してダイレクトアタックすればいけるよ!」

 

(……ユキもそう思う。除外ならアーティファクトのトリガーも踏まないし……)

 

「……ターンエンド、です」

 

ユキ LP500

 

フィールド 『VWXYZ—ドラゴン・カタパルトキャノン』(攻撃表示)

 

セット0 『一点着地』 『X・Y・Zコンバイン』 『ユニオン格納庫』

 

手札0

 

「……き、厳しいですわね」

 

「手札も場も……全部失っちゃったからね。さすがの明日香様でもこれは……」

 

(……どうして、なのかしら。私も二人の言う通りだと思っている、のに。その一方でこのドローを楽しみにしている……そんな私も、確かにいる)

 

 うるさいくらいに響く心臓の鼓動。その意味するところを受け入れた明日香はカードを引き抜いた。

 

「……サイバー・チュチュを召喚!」

 

 薄くて張りのある生地を重ねて作られた短いスカートを履いた女の子が現れると、右手をお腹のあたりに持っていき、深々とお辞儀をした。

 

サイバー・チュチュ 攻撃力1000

 

(バレリーナを彷彿とさせるサイバー・ガール。前にも同じようなモンスターを見た……)

 

「戦士族……?」

 

「ええ、そうよ。私のデッキに唯一残っている戦士族。……バトル! 相手フィールドの全モンスターの攻撃力がサイバー・チュチュの攻撃力より高い場合、このモンスターは相手プレイヤーにダイレクトアタックを行える!」

 

「うそ……!? 土壇場で、そんなカードを……」

 

「頼んだわよ、サイバー・チュチュ! ヌーベル・ポアント!」

 

 砲塔からのプラズマ砲も、アームを振り下ろしたハンマーも、華麗でダイナミックな踊りで躱したサイバー・チュチュは機体を通り抜けてユキのもとへと辿り着いた。そしてつま先立ちを保ったままジャンプして身体を180度切り返し、ハイキックを食らわせた。

 

(まさか、あそこから再逆転されるなんて……)

 

ユキ LP500→0

 

 この一撃が決まり、決着がついた。ソリッドヴィジョンが消えていく中、明日香はサイバー・チュチュに子供のようなあどけない笑みを向けていた。

 

「どうしてその戦士族だけデッキに……?」

 

(……あのモンスターのレベルは3。レベル5のアーティファクトと合わせてレベル8のサイバー・エンジェルを呼び出すことはできる。……が、同様の役割は天使族も可能。俺は今のデッキに変えるなら天使族で統一した方が絶対良いと助言したんだがな……)

 

「このカードはずっと私を支えてくれたサイバー・ガールだったから……よ」

 

「そう……だったんですね」

 

(デュエルに絶対、というのはないんだな……。また一つ、君から教えられたよ)

 

 しばらく悄然としていたユキだったが、顔を上げると彼女の方から歩み寄った。それに気付いた明日香はグローブを外すと、差し出された手を握った。

 

「正直ビシュヌを倒して……勝った、と思いました。でもそうではなかった。あなたに次のターンを渡してはいけなかった……」

 

「今のデュエルは本当に紙一重だった……良いデュエルだったわ」

 

「また、やりたい」

 

「ええ。喜んで」

 

 二人が握手を交わすと、ギャラリーからも自然に拍手が送られていった。

 

「明日香様! 見せてもらいました!」

 

「お見事でしたわ!」

 

「先程のタッグも含めて、今日は良いものを見させてもらったよ」

 

「ユキがやられちゃったのは悔しいけど……ワクワクするデュエルだったよ! まるで十代様のデュエルみたいだった!」

 

「……! そ、そうかしら?」

 

(明日香さん? ……もしかして)

 

 明日香が浮かべた笑みに照れが混じった。思わず同性である自分もドキッとしてしまった乙女の笑みから、ユキはその意味を感じ取っていた。

 

「……さて、勝ちはしたけど。課題が多く残ってしまったわ。またトライアンドエラーの繰り返し……ね。……三沢くん。これまで特訓に付き合ってくれて、ありがとう」

 

「ああ。こちらこそ良いデータが取れたよ。また相談があったら遠慮なく言ってくれ」

 

「ええ、分かったわ。……ジュンコ、ももえ! 早速特訓に付き合ってもらうわよ!」

 

「えっ! 今から……ですの?」

 

「そうよ。付き合ってくれるわよね?」

 

「勿論です!」

 

「タフですわね……。わたくしも負けていられませんわ!」

 

 こうしてもう一つの幕も下り、明日香は休息も挟まずにジュンコ達が借りたデュエルコートで特訓を始めた。その様子を見たユキは頭の中で何かが弾けた感覚が起こる。

 

「——ということがあったんですよ!」

 

 そしてデュエルコートを後にしたユキとレイは亮の部屋を訪れていた。

 

「そんなことがあったのか……。明日香は吹雪が見つかってからも、どこか元気が無かったからな。気になっていたんだ。吹っ切れたようで安心したよ」

 

「……そ、そうですね」

 

「うん……。良かったと、思います」

 

「……? それにしても、二人はタッグデュエルの心得もあるんだな」

 

「はい! お互いのデッキのことはよく分かってますし」

 

「名タッグの自負あり?」

 

「ほう。かなりの自信だな」

 

「亮様はタッグの方はどうなんですか?」

 

「昔は吹雪とよく組んだものだが……。……そうだな。吹雪も戻ってきたことだし、また組んでみるのも面白いかもしれないな」

 

「亮さんと師匠のタッグ……難敵の予感が、ひしひしと」

 

(そういえば師匠と呼ばれているのだったな……)

 

 話し始めてそれなりに経った頃だった。話が落ち着いてきたところで、ユキは珍しく自分から語りかけた。

 

「……あの。今日デュエルして、思ったんです。切磋琢磨してユキ達の進化したデュエルを見せて欲しい……あの時の亮さんの言葉。あれはもしかしたら、ユキ達だけに向けたものじゃなかったのかな……って」

 

「え! そ、そうなんですか!?」

 

「……そうだな。まずお前達にそれを望んだことは本当だ。安心してくれ」

 

「ほっ……」

 

「その上で……お前達が皆とデュエルすることで、他の皆にとっても良い刺激になればいいと思ったんだ」

 

「……今日の明日香さん。さらに強くなってた。それでも満足せずにもっと高みを目指して……それにジュンコさんもももえさんも引っ張られるように……。切磋琢磨していく姿が、映ったんです。その姿を亮さんは……皆に望んでいたんですね」

 

(……ユキ……)

 

「ああ。その通りだ。しは……校長からも、学園全体が今の実力に満足して向上心が低下しつつあると相談を受けていたし、それに俺が卒業するまでに……」

 

「……!」

 

「卒業……」

 

(……これ以上続けるべきではないか)

 

 刻一刻と迫るその時を今は意識させまいと亮は一度飲み物を取りにいった。麦茶を注ごうとしたところ、コーヒーで大丈夫と言われて目を丸くする。

 

「……それはそうと、ここは本当に色んなタイプのデュエリストがいるだろう」

 

「はい! どのデュエルも新鮮で楽しいです!」

 

「ユキも楽しいです。でも同じくらい悔しい……。強くなったと思っても、その先を行かれて……だから負けじと追い越すために、追いかけて。それが……切磋琢磨するってこと、なんですね。……にがい……

 

(あ、でもお砂糖入れてくれてる……)

 

「ああ。その悔しさを次も味わいたくなければ勝つしかない……。だからこそ……強さに終わりはないんだ。競い合う仲間がいれば、俺達はどこまでも強くなれる」

 

「そうですね……! 僕ももっともっと上を目指します!」

 

「ユキも……! ……そうだ。ユキ、デュエルしてみたい人がいるんです」

 

「へえー。珍しいね」

 

「誰とやりたいんだ?」

 

(亮さんに一途だったレイちゃんと、万丈目さんのラブデュエルにも今はデュエルに恋していると断った明日香さんに、恋心を芽生えさせた……)

 

「十代さん。どんなデュエルをするのか、ユキも実際に戦って確かめてみたい」

 

「そう、なんだ。ちょっと意外かも」

 

(うう〜! どうしよう。もしユキも十代様のことが好きになったりしちゃったら……。ああ〜! でも二人のデュエルも見てみたい……!)

 

「十代か。アイツは面白い奴だ……。ユキは十代のこと、どう思っているんだ?」

 

(えっ! 亮様、そんなズバリと……!?)

 

「これまで見た状況が特殊すぎて曖昧だけど……奇跡のようなデュエルをする人、だと思ってます」

 

「そうか……」

 

(……な、なるほど。そうだよね。デュエルの話、してたもんね)

 

「……だが、それだけではない。アイツがそれだけの男ならば、俺も今ほどは興味を抱かなかっただろう」

 

「何か……あるんですね。亮さんをそこまで言わせるほどの、何かが。……ふふっ。ユキも見てみたいな」

 

 亮の含みのある言い方にユキはますます興味を抱いたのだった。

 そうして三人は夕日が部屋に差し込むまで話し込んだ。亮は帰路に就く彼女達を見送り、自分の部屋へと戻ってくる。

 

(卒業……。時間の猶予はあまりない、か)

 

「翔。お前に話がある」

 

「……あっ。お兄さん!? め、珍しいっすね……」

 

 そして戻ってくるなり、すぐに電話をかけた。電話の相手は弟の翔。受話器越しでも動揺していることを亮は分かっていた。

 

「……え……。どういう、ことっすか……?」

 

「ユキはお前に見えていないものが、見えている……」

 

 しかし彼が掛けた言葉はその比ではないほど、翔の心を揺れ動かしたのだった……。



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その立脚は前を向くために

「あ……ユキ」

 

「おお! よく来たな!」

 

 明日香達とのデュエルから一夜明け、ユキとレイはレッド寮にある十代達の部屋を訪ねていた。

 

「……あれ。隼人さんは?」

 

「あ……そっか。ユキは知らないんだっけ」

 

「……?」

 

 部屋を見渡してもいない隼人にお出かけ中かと考えたユキだったが、レイの言葉を聞いて首を傾げた。

 

「隼人さんはね。ペガサスさんにスカウトされてI2(インダストリアル・イリュージョン)社にカードデザイナーとして入ったんだよ!」

 

「ええっ!? 凄い……! いつの間に……」

 

「この前精霊界に行っただろ? その次の日に隼人はクロノス先生とデュエルして、推薦を認められたんだ! くうー……あれは燃えるデュエルだったなあ……!」

 

「隼人さんがね。僕とユキからは、道を切り開くのに早いも遅いもないことを教わったって」

 

「そうだったんだ……。あまりお話は出来なかったけど……デュエルを見て、そう思ってくれたのが嬉しいな」

 

「ああ! 今も夢に向かって気張ってると思うぜ! ああー! 思い出したら俺もデュエルしたくなってきたー!」

 

「グッドタイミング。ユキから十代さんにデュエルのお誘い?」

 

「本当か! 早速やろうぜ! ……っと、ちょっと待った。そういえばこの前まで寝込んでたけど大丈夫なのか?」

 

「もう、ばっちり。昨日も連戦でデュエルしていた?」

 

「そっかー、良かった! 一日安静にしてれば大丈夫だってカイバーマンが言ってたのに、ユキは結局一週間ぐらい寝込んでたからさ。心配してたんだぜ」

 

「僕もだよ! 起きた時、元気そうで本当に安心したんだから!」

 

「……何? そんなに寝込んでいたのか……」

 

「お、万丈目」

 

「万丈目さん、だ!」

 

 なにやら騒がしい部屋に文句の一つでも言ってやろうとやってきた同じくレッド寮の万丈目だったが、聞き及んでいなかった事態に眉をひそませた。

 

(万丈目さん、凄い沢山の精霊がいる……)

 

「俺も十代と同じ内容を聞いたからこそ、貴様を女子寮まで運んで、ちょうどどこからか帰ってきたジュンコとももえにお前らを預けて部屋まで運んでもらったんだがな」

 

「え……万丈目さんが運んでくれたの?」

 

「十代と分担してな。貴様は放っておくとどうなるか分からんからな……」

 

「……ありがとうございます」

 

「ふん……」

 

「あ! 分かったのよん! 万丈目のアニキ、末っ子だから妹がで——」

 

「ええい、黙れ!」

 

 沢山いる精霊の中からおジャマ・イエローが飛び出してくると、万丈目は余計なことを言わせまいと振り払った。

 

「ふふっ……そうなんだ」

 

「違ーう!」

 

(……えっ。ってことは僕を運んでくれたのは……)

 

 暴走した精霊との戦いで疲弊していたはずの万丈目の優しさに思わずビックリしていたレイだったが、気がついたさらなる事実に顔が一気に赤くなっていった。

 

「それより! 本当に体調は大丈夫なんだろうな。どこかおかしな所があれば言え」

 

「ううん、特に異常は……あ。そういえば、一つだけ……」

 

「なんだ!?」

 

「その……デュエルに勝ってドーハスーラさんに取り憑いていた人を切り離した時、身体に力が……漲ってきた感覚があったんです」

 

「……なに? 意味がわからんぞ」

 

「ユキもちょっと説明できない……。でも気を失う前に、そんな感覚がありました」

 

「ユキのとこはさらに大変だったって聞いてるぜ。きっとそんな相手に勝てて、安心したんじゃないか?」

 

「……そう、かも」

 

「なんだ……。まあ、無事ならいい」

 

「だな! 心配事も晴れたところでさっそくデュエルしようぜ!」

 

「うん……!」

 

 話が一段落つくと、二人は部屋では狭いからと表に出て行った。

 

「……レイ、翔。何をぼーっとしている?」

 

「へっ!? あはは……な、なんでもないよ!」

 

「……あれ。ユキは……?」

 

「十代とデュエルしにいったぞ。まったく、余計な心配を……」

 

「アニキと……」

 

 ユキがやってきてからずっと考え込んでいた翔はようやく二人がデュエルをすることに気付いた。万丈目とレイが部屋から出ていくと、また少し考えていた翔は顔を上げ、一歩を踏み出すのだった。

 

「「デュエル!」」

 

「ユキのターン、ドロー。お呼びとあらば即参上? 無頼特急バトレインを召喚」

 

 ユキの場にレールが敷かれると、そこを通って赤色の特急列車が場へと到着する。

 

無頼特急バトレイン 攻撃力1800

 

「効果発動。トレイン・レイン! このターンバトルフェイズを行えなくなる代わりに、十代さんに500ダメージを与える」

 

「いきなりか!?」

 

 燃料庫が開かれると燃料が噴射され、炎の雨が十代に降り注いだ。

 

十代 LP4000→3500

 

「先制パンチをもらっちまったか……!」

 

「仕掛けは上々。そのまま仕上げもご覧あれ? カード2枚伏せてターンエンド」

 

(ん……こいつ、いつもはアニキアニキと心配そうにするのに。十代ではなくユキのことを……見ている?)

 

 開幕からダメージを負った十代を心配するかと思いきや、翔は静かにユキのことを見つめており、万丈目は不思議そうにしていた。

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『無頼特急バトレイン』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「良いよユキー! 十代様も頑張ってー!」

 

「おう! 俺のターン、ドロー! 来い、フェザーマン!」

 

 大きな翼を生やした筋骨隆々なヒーローが空より参上した。

 

E・HERO(エレメンタルヒーロー) フェザーマン 攻撃力1000

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

「……!」

 

十代 LP3500

 

フィールド 『E・HERO フェザーマン』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「ユキのターン。ドロー!」

 

(明らかに攻撃を誘ってる。……けど、ここは)

 

「サイファー・スカウターを召喚!」

 

 赤外線センサーが取り付けられたマスクを被った冷徹なる機械兵士が場に降り立った。

 

サイファー・スカウター 攻撃力1350

 

「追撃のモンスターを出したか。強気だな」

 

 新たに場にモンスターを呼び出したユキは予め伏せていたトラップカード、アヌビスの呪いに視線を落とす。

 

(もし十代さんの伏せカードがユキの攻撃表示モンスターを全滅させるミラーフォースのようなカードでも、効果モンスターを全員守備表示にできるこのカードがあれば躱せる……)

 

「……バトル! サイファー・スカウターでフェザーマンに攻撃! このモンスターさんは戦士族とバトルを行うダメージ計算時のみ、攻守を2000上昇させる!」

 

「2000もか!?」

 

 罠を警戒しつつもユキは攻撃指示を送る。するとフェザーマンの位置を特定したサイファー・スカウターの肩に置かれた二つのランプのうち、上のランプが赤く光った。急所を見抜いたサイファー・スカウターは銃を構え、的確に標準を合わせる。

 

「けど、そうはさせないぜ! 通常モンスターのフェザーマンに攻撃が行われたこの瞬間! トラップカード、ジャスティブレイクを発動だ! 攻撃表示で存在する通常モンスター以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「なっ……!」

 

(まずい! これじゃあ守備にしても凌げない……なら!)

 

「カウンタートラップ、トラップ・ジャマー! バトルフェイズ中に相手が発動したトラップの発動を無効にして破壊する!」

 

「させないぜ! こっちもカウンタートラップだ! フェザー・ウィンド! フェザーマンがいるときに発動されたマジックかトラップの発動を無効にして破壊!」

 

「……! しまった……!」

 

 フェザーマンが天空に向けて手を掲げると雷が落ちてくる。感電を阻止しようと機械兵士と特急列車に絶縁体の膜が張られるが、羽ばたきにより放たれたフェザーマンの羽根が膜を切り裂いていくと、正義の鉄槌が下された。

 

(やられた……)

 

「へへっ。こっちの仕掛けも中々だろ?」

 

「……中々どころか上々、あるいはそれ以上です。カードを1枚伏せてターンエンド! 墓地のバトレインの効果で機械族・地属性・レベル10の除雪機関車ハッスル・ラッセルをデッキから手札に加えます」

 

(うう〜! さすが十代様! でもユキもダイレクトアタックされた時に自分の魔法&罠ゾーンのカードを全て破壊する代わりに特殊召喚できる大型モンスターを手札に加えた! 勝負はまだまだこれからだね……!)

 

ユキ LP4000

 

フィールド 無し

 

セット2

 

手札3

 

「今度はこっちから行くぜ! 俺のターン……ドロー! 来てくれ、ワイルドマン!」

 

 長い髪を束ねて纏め、背中に大剣を背負った大男が高所から素足で着地した。

 

E・HERO ワイルドマン 攻撃力1500

 

「ワイルドマンはトラップの効果を受け付けないぜ!」

 

「なるほど……そのモンスターでダイレクトアタックを」

 

「その前にこのマジックカードだ! R—ライトジャスティス! 俺のエレメンタルヒーローの数だけ、マジック・トラップを破壊する!」

 

「……! まずい……」

 

(アヌビスの呪いは守備にした後、そのターンでの表示形式変更を封じられるけど、どちらのモンスターにも効かない……!)

 

 羽ばたきと振られた大剣から放たれた一陣の風がユキの場に伏せられていたカードを全て吹き飛ばしてしまった。

 

(よし! これで一気に……!)

 

「……破壊された荒野の大竜巻の効果発動! セットされたこのトラップカードが破壊されて墓地に送られた場合、フィールドの表側表示のカードを1枚破壊する。フェザーマンを破壊!」

 

「なんだって!?」

 

 伏せカードが無くなり安心していた十代が驚く中、突風は竜巻となり、フェザーマンを巻き込んでしまった。

 

「そう来たかあ……!」

 

(魔法&罠ゾーンにカードがないとハッスル・ラッセルは呼び出せない。ダイレクトアタックは甘んじて受け入れるしかない……)

 

「戦士族専用装備魔法、最強の盾をワイルドマンに装備だ! 攻撃表示の時、守備力分攻撃力をアップするぜ! ワイルドマンの守備力は1600!」

 

「……!?」

 

 ワイルドマンが新たに大盾を授かると、大剣と一つとなり攻防一体の最強の武器となった。

 

E・HERO 攻撃力1500→3100

 

「攻撃力3100……!?」

 

「バトル! ワイルドマンでユキにダイレクトアタックだ! ワイルド・スラッシュ!」

 

 その武器の性能を余すことなく活かした剣さばきがユキを襲った。

 

「きゃあっ……!」

 

ユキ LP4000→900

 

「ユキっ!?」

 

「甘んじて受けるには手厳しい攻撃だった……」

 

「容赦はしないぜ! ターンエンドだ!」

 

(トラップの連携でモンスターを全滅させて、マジックで伏せカードを無くした上で、総攻撃力4000を超えるダイレクトアタックを狙ってたんだ……。……奇跡だけじゃない。その意味が分かってきた気がする)

 

十代 LP3500

 

フィールド 『E・HERO ワイルドマン』(攻撃表示)

 

セット0 『最強の盾』

 

手札1

 

「ユキのターン……ドロー!」

 

(奇跡のイメージは一旦置いておこう。全力を出すために、まずは基になる考え方を見直す……!)

 

(……ユキ?)

 

 ドローカードを確認したユキは十代の方を見ると、少しの間固まっていた。時間にして10秒程度、しかしその時のユキの目が翔にはやけに印象的だった。

 

「……無限起動ロックアンカーを召喚!」

 

 崖から伸びるワイヤーロープに重機が吊るされると、作業が始められる。

 

無限起動ロックアンカー 攻撃力1800

 

「召喚に成功したことで手札から機械族・地属性モンスター……ハッスル・ラッセルを守備表示で特殊召喚します!」

 

 作業により足場が安定したことで列車がそこを通っていくと、積もっていた雪が綺麗に吸われていった。

 

除雪機関車ハッスル・ラッセル 守備力3000

 

「ロックアンカーのもう一つの効果を使います……! ハッスル・ラッセルとロックアンカーのレベルをターンが終わるまで合計した値に!」

 

「なんだ!?」

 

無限起動ロックアンカー レベル4→14

除雪機関車ハッスル・ラッセル レベル10→14

 

「そして手札からマジックカード、アドバンスドローを発動? 自分フィールドのレベル8以上のモンスターを1体リリースすることで2枚ドローします。ロックアンカーをリリースして2枚ドロー……!」

 

「おおっ! そのカードを下級モンスターに使うかあ……!」

 

(……このモンスターさんなら。そのためにも今は守って、長期戦に持ち込む……!)

 

「カードを1枚伏せて……ターンエンド!」

 

除雪機関車ハッスル・ラッセル レベル14→10

 

ユキ LP900

 

フィールド 『除雪機関車ハッスル・ラッセル』(守備表示)

 

セット1

 

手札2

 

「ガンガンいくぜ! 俺のターン、ドロー! 頼むぜ、バーストレディ!」

 

 金色の兜を被った黒髪ロングの女性が場に降り立つと、指を弾いて火の玉を出しながらウィンクをして挨拶してきた。

 

E・HERO バーストレディ 攻撃力1200

 

「うっ。バーストレディかあ……」

 

「へへっ。レイとのデュエルを思い出すな。このデュエルでも活躍してもらうぜ! バトルだ! ワイルドマンでハッスル・ラッセルに攻撃!」

 

「ワイルドマンはトラップの効果を受け付けんからな……。十代としては強気に攻めていけるわけか」

 

 その健脚で山を信じられないスピードで駆け上がったワイルドマンは除雪作業をしていた列車をそのまま一太刀で分解してみせる。

 

「よし! 倒した!」

 

「このままバーストレディのダイレクトアタックが決まればユキのライフは0だ……」

 

「そうはさせない? トラップカード、時の機械—タイム・マシーン……! 戦闘で破壊されたモンスターを同じ表示形式でフィールドに呼び戻す!」

 

「うっ。復活させたか……!」

 

 剣を収めたワイルドマンは感じた気配に驚きながら振り返った。すると整備された道に突然出現した大型列車の中から先程破壊したはずの除雪列車が傷一つない姿を見せる。

 

除雪機関車ハッスル・ラッセル 守備力3000

 

「バーストレディじゃ倒せない……! カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

(よし。繋がった……!)

 

十代 LP3500

 

フィールド 『E・HERO ワイルドマン』(攻撃表示) 『E・HERO バーストレディ』(攻撃表示)

 

セット1 『最強の盾』

 

手札0

 

「ユキのターン、ドロー! ……! ふふっ。シュレツダーを召喚!」

 

 書類を裁断する機械が場に現れたかと思うと、ロボットの手足が生え、ガラス部分から放たれた光が目となって動き出した。

 

シュレツダー 攻撃力1600

 

「シュレツダーは手札の機械族モンスター1体を墓地に送ることで、そのモンスターのレベル以下の相手モンスター1体を破壊できる……! ユキは手札からレベル5の無限起動スクレイパーを墓地に送って、レベル4のワイルドマンを狙います……!」

 

「……!」

 

「よし! トラップは効かないけどモンスター効果なら……!」

 

 建設機械を分解したシュレツダーはその全ての部品をワイルドマンに投げつけた。とっさに盾で防ぎ、剣で切り裂くワイルドマンだったが、自身より大きい部品の物量に抗いきれず、飲み込まれていった。

 

「ワイルドマンが……!」

 

「やった! ……ああっ! でも十代様がピンチに!」

 

「何を忙しい反応をしているんだ貴様は……」

 

(厄介なワイルドマンを倒せた! 反撃のチャンス……!)

 

「ハッスル・ラッセルを攻撃表示に!」

 

 除雪作業を終えた列車は次なる目的地に進路を定めた。

 

除雪機関車ハッスル・ラッセル 攻撃力2500

 

「バトル。ハッスル・ラッセルでバーストレディに攻撃!」

 

 列車は進行を開始し、線路上の雪を根こそぎ掻き分けられるほどの巨大な板で逃げ場を塞がれたバーストレディはそのまま弾き飛ばされてしまった。

 

「バーストレディ! うっ……!」

 

十代 LP3500→2200

 

「けどお前のファイトは無駄にしないぜ! ヒーローの魂は次のヒーローに引き継がれる! トラップカード、ヒーロー・シグナル!」

 

「……! このタイミングでトラップを……」

 

「俺のモンスターが戦闘で破壊されたことでデッキからレベル4以下のエレメンタルヒーローが呼び出される! さあ、出番だ! バブルマン!」

 

 バーストレディがとっさに空に向かって放った火の玉が花火のように開くと、それが救援信号となり、泡を発射するポンプを腕に取り付けたマスクマンが駆けつけてきた。

 

E・HERO バブルマン 守備力1200

 

「さらにバブルマンが呼び出された時に俺の手札とフィールドに他のカードが無ければ2枚ドローできる!」

 

「そんな手札の回復方法が……。けれどモンスターは残さない。シュレツダーでバブルマンに攻撃!」

 

 近づいてくるシュレツダーにバブルマンは標準を合わせてバブル・シュートを放った。しかしその泡を頭の裁断部分で全てシャットアウトしてみせたシュレツダーは泡が尽きた隙を見逃さず、裁断の勢いで起こした風をかまいたちのようにしてバブルマンを切り裂いた。

 

「ヒーロー・シグナルもあったのに、まさかこのターンで全滅させられちまうなんてな……!」

 

「こちらも容赦はしない? ターンエンド」

 

ユキ LP900

 

フィールド 『除雪機関車ハッスル・ラッセル』(攻撃表示) 『シュレツダー』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札1

 

「望むところだ! 俺のターン……ドロー! ……! へへっ。マジックカード、闇の量産工場を発動! 墓地から2体の通常モンスターを手札に戻すぜ。さらに融合を発動だ! 今戻したフェザーマンとバーストレディを融合!」

 

「ここで融合……!?」

 

「融合召喚! さぁ、真打登場だ! フレイム・ウィングマン!」

 

 風と炎のヒーローの力が一つに束ねられ、赤と緑を基調としたヒーローが参上した。左の背より立派な片翼を、右手より龍の口を模した砲塔を生やしており、堂々たる立ち姿で相手を見据える。

 

E・HERO フレイム・ウィングマン 攻撃力2100

 

「バトルだ! フレイム・ウィングマンでシュレツダーに攻撃! フレイム・シュート!」

 

(バブルマンで増えた手札が誤算だったな……。あそこから融合は難しいと思ってたのに)

 

(フレイム・ウィングマン……。そういえば最後はあのモンスターに恋する乙女を攻撃されて、やられちゃったんだよね。でもユキのライフはまだ残る!)

 

「まずいぞ! この攻撃を食らったら……!」

 

「えっ?」

 

 万丈目の迫真の声にレイが思わず素っ頓狂な声を漏らす中、シュレツダーの放った身を切り裂く風を次々と躱しながら迫ったフレイム・ウィングマンが左手の鋭い爪で逆に斬り裂いてみせた。

 

ユキ LP900→400

 

「フレイム・ウィングマンの効果発動! 戦闘で破壊し、墓地に送ったモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「……!」

 

 さらにフレイム・ウィングマンは身体を翻すと右手をユキに向けた。そして龍の口の中で溜められていく火のエネルギーを前にしたユキは驚きで目を見開く。

 

「そんな効果があったの……!? シュレツダーの攻撃力は1600……!」

 

「決まりだな……」

 

 すると次の瞬間、爆発が巻き起こった。

 

「えっ!?」

 

「決めさせない……! 相手のユキにダメージを与える効果の発動を手札のジャンクリボーを墓地に送ることで無効にし……破壊する!」

 

「なっ……なんだって!?」

 

 それはジャンクリボーが身を挺して砲塔に詰まり、起こさせた暴発だった。機雷化したジャンクリボーを巻き込んだ爆発は到底耐えられるものではなく、フレイム・ウィングマンは地に伏してしまった。

 

「ジャンクリボー……ありがとう」

 

「クリリ〜!」

 

 ユキが語りかけるとジャンクリボーは彼女と同じように楽しそうに微笑み、ゆっくりとその姿を消していった。

 

「今のを躱すとはな……!」

 

「それどころかフレイム・ウィングマンを倒したよ!」

 

「くっそ〜! 今度こそ決まったと思ったのにな……! モンスターを伏せてターンエンドだ! 来い、ユキ! もっともっとぶつけ合おうぜ!」

 

「……はい!」

 

(胸がドキドキする……。けど、これは亮さんとは少し違う?)

 

十代 LP2200

 

フィールド 裏側守備表示1

 

セット0

 

手札0

 

「ユキのターン! 墓地のスクレイパーの効果を自身を除外して発動します! ユキの墓地から機械族・地属性のモンスターを5体デッキに戻すことで、カードを2枚ドローする?」

 

「うっ。そんな手を用意してたのか! ここでさらに手札を増やされるのはきついぜ……!」

 

(不利な状況なのに、楽しそう……)

 

「墓地からバトレイン、サイファー・スカウター、ロックアンカー、シュレツダー、ジャンクリボーをデッキに戻して2枚ドロー……! ……永続魔法、遮攻カーテン! ユキの場のカードが破壊される場合、その1枚の代わりにこのカードを破壊できる!」

 

 ユキのフィールドが半透明のカーテンで囲われていった。

 

「出た! ユキの戦線維持戦術だ!」

 

「身代わり効果か……。あのカードが機能している限り、一発逆転は狙いにくくなるな」

 

「さらにマジックカード、ダウンビート! ハッスル・ラッセルをリリースして種族・属性が同じでレベルが1つ低いマシンナーズ・メタルクランチをデッキから特殊召喚する……!」

 

 除雪列車が消え去りオレンジ色の戦車がやってきたかと思うと、パーツが展開されて手足が伸ばされていき、人型のロボットが颯爽と現れていた。

 

マシンナーズ・メタルクランチ 攻撃力2800

 

「さらにメタルクランチを呼び出したことで効果発動。デッキから機械族・地属性モンスター3体を見せて、その中から十代さんがランダムに選んだ1体を手札に加える!」

 

「お! 俺が選ぶのか。こういうのってワクワクするよな!」

 

「確かにカードパックを開ける時みたい? ユキが選んだのはサイファー・スカウター、穿孔重機ドリルジャンボ、弾丸特急バレット・ライナー!」

 

「……真ん中だ!」

 

「了解した? 残りのカードはデッキに戻して……穿孔重機ドリルジャンボを召喚!」

 

「選ばれたのはそいつか!」

 

 ゴムクローラーを回転させて現場に辿り着いたのは削岩作業用の重機。太い二本のアームからは動かすために必要な油圧シリンダーをのぞかせている。

 

穿孔重機ドリルジャンボ 攻撃力1800

 

「エンジンの始動を確認? バトル! ドリルジャンボでセットモンスターに攻撃! ドリルジャンボの攻撃力がその守備力を超えていれば、超過分の戦闘ダメージを十代さんに与える!」

 

「げっ! 貫通効果か!?」

 

 エンジンにより歯車が回転していき、油圧による動力が伝達されると、アームが力強く振り下ろされた。

 

「クリッ!?」

 

ハネクリボー 守備力200

 

「うおっ!?」

 

十代 LP2200→600

 

 その一撃は凄まじく、羽の生えたクリボーが倒された衝撃が地割れとなってそのまま十代にも襲いかかった。

 

「倒した! メタルクランチのダイレクトアタックでユキの勝ち!?」

 

「……いや……」

 

「これは……?」

 

 ハネクリボーの残滓が光のヴェールとなって十代を覆っていく。

 

「ハネクリボーが破壊されたことで、このターン今から俺が受ける戦闘ダメージは0になる!」

 

「……! ……むぅ。防がれた……」

 

「助かったぜ、相棒」

 

「クリクリ〜」

 

 ピンチを迎えても相棒の力を信じていた十代とその信頼に応えてみせたハネクリボー。両者が嬉しそうに笑い合うと、ハネクリボーは完全に十代を守るヴェールへと姿を変えた。

 

「攻撃を行ったドリルジャンボはエンジンを冷ますため、守備表示になる?」

 

 一通り作業を終えた重機はアームを下ろし、エンジンを止めて休憩の時間に入った。

 

穿孔重機ドリルジャンボ 守備力100

 

(出来ることなら決めたかったけど、想定はしていた。だからこその布陣……。決め切れないなら、守り切るのも一つの手。十代さんの一手とユキの一手。どちらが上手(うわて)か……勝負!)

 

「カードを1枚伏せてターンエンド……!」

 

ユキ LP400

 

フィールド 『マシンナーズ・メタルクランチ』(攻撃表示) 『穿孔重機ドリルジャンボ』(守備表示)

 

セット1 『遮攻カーテン』

 

手札0

 

「十代様、手札だけじゃなくフィールドのカードも無くなっちゃった。ちょっと厳しいかな……?」

 

「しかしユキのライフも400しかないからな。引き次第では逆転もあり得るだろう」

 

「行くぜ! 俺のターン……ドロー!」

 

 追い込まれた十代はその逆境にも諦めることは考えず、可能性に手を伸ばして引き抜いた。

 

「マジックカード、戦士の生還! 墓地から戦士族モンスターを1体手札に戻すぜ」

 

「ハネクリボー以外は戦士族……。一体誰を?」

 

「俺が戻すのはバブルマンだ! さらに手札がこのカード1枚の時、バブルマンは特殊召喚できる!」

 

「……! そっか。この状況だからこそ……」

 

 招集に応えて再び水色を基調としたヒーローが場に見参した。

 

E・HERO バブルマン 攻撃力800

 

(ここでバブルマンを呼び戻すか……やるな。しかし守備で出してもドリルジャンボの貫通効果を受ければライフは0になるからな。十代は背水の陣で挑むしかあるまい)

 

「手札・フィールドに他のカードがないからバブルマンの効果で俺はさらに2枚のカードを…………ドローッ!」

 

 バブルマンがノズルの水圧を入れ替えて水流を放つと、十代の背に降り注いだ。滝行のごとくそれに耐えながら、十代はさらに2つの可能性を手にする。

 

(どうくるかな……)

 

「……いくぜ、ユキ!」

 

「……!」

 

(やっぱり十代さんは……攻めを選んできた! 後は……!)

 

「速攻魔法、バブルイリュージョン! こいつはバブルマンがいる時に発動できるぜ。このターン俺は1枚だけ、手札からトラップカードを発動できる!」

 

「なっ……! 手札からトラップを!?」

 

「早速使わせてもらうぜ! マジスタリー・アルケミスト! フィールド・墓地から4体のHEROを除外することで、墓地から1体のHEROを召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

(召喚条件を……ということは、融合召喚でしか呼び出せないモンスターも……!)

 

「フィールドのバブルマン。墓地のフェザーマン、ワイルドマン、バーストレディを除外!」

 

 除外されたカードがポケットにしまわれ、一度やられてしまったヒーローが復活を果たす。

 

「頼んだぜ。マイフェイバリットヒーロー!」

 

 翼と龍を備えしヒーローが地面を突き破り、山の頂点へと腕を組んで着地した。

 

E・HERO フレイム・ウィングマン 攻撃力2100

 

「あの状況からフレイム・ウィングマンを!? 十代様、凄い……」

 

「だがフレイム・ウィングマンでは……」

 

「いけるさ! 仲間の力を借りれば! マジスタリー・アルケミストは『地』『水』『炎』『風』の全ての属性を除外して発動したら、さらなる力を発揮できる! ワイルドマンは地属性!」

 

「バブルマンは水属性……!」

 

「バーストレディは炎属性だ!」

 

「フェザーマンは風属性だったな……!」

 

 黄土色、水色、赤色、白色の光の球体がフレイム・ウィングマンに集い、身体に吸収されていく。するとオーラが彼を包み込むと同時に、彼を中心として波動が放たれた。

 

「仲間の力を得たフレイム・ウィングマンの攻撃力は倍になり、ユキのフィールドの表側表示のカードの効果は全て無効になる!」

 

「……!? そんな……!」

 

 その膨大なるオーラがフレイム・ウィングマンの力の糧となると共に、波動に触れた者の心を浄化していった。

 

E・HERO フレイム・ウィングマン 攻撃力2100→4200

 

(まさか、ここまでのことをしてくるなんて……。……戦闘ダメージは防げる。けれど……)

 

 ユキは伏せカードに手を伸ばそうとしたが、フレイム・ウィングマンと光を遮れなくなったカーテンを見ると、その手を止めた。

 

「バトルだ! フレイム・ウィングマンでメタルクランチに攻撃! マジスタリー・シュート!」

 

 山の頂点から飛び降りたフレイム・ウィングマンは滑空しながら右手をメタルクランチに向け、砲塔から虹色の光線を放った。見る者を虜にするような美しい一撃が、ロボットを包み込む。

 

ユキ LP400→0

 

 ユキは予想を上回られて放たれた一撃から目を逸らさず、その余波を受け入れたのだった。

 

「やられました。あなたは……奇跡も起こせるデュエリストでした」

 

「ん? どういうことだ?」

 

「とてもワクワクするデュエルだった……ということです」

 

「俺もだ! ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 十代は中指と人差し指を自分の額に向けると、掛け声と共にユキに指先を力強く突き出した。指で隠れていた満面の笑みに、ユキも思わず笑みをこぼす。

 

「ユキ……。ちょっといいっすか?」

 

「……! はい。なんですか?」

 

「良ければその伏せていたカード……教えて欲しいっす」

 

「問題ない? 伏せていたのはトラップカード、挑発……。相手メインフェイズに指定した自分のモンスターがいる限り、そのターン相手は攻撃するならそのモンスターに攻撃しなきゃいけません」

 

「そんなカードを伏せてたんすか……!?」

 

「昨日と同じ手ではやられないように……。他の手でも大丈夫なように。その、つもりだったけど……まだまだだったみたいです」

 

(ジャンクリボーでフレイム・ウィングマンを破壊した時点で……ユキはかなり有利だったはずっす。なのに攻めと両立させて、守備表示のドリルジャンボを用意しておくことで次のターンの防御まで見据えていた……?)

 

「次はやらせない? もっともっと練り上げて、一度きりの奇跡にしてみせます」

 

「おう! 楽しみにしてるぜ!」

 

(ふふっ。面白い人……。亮さんが面白い奴って言ってたのは、こういうことだったんだ)

 

「お疲れ、ユキ! 十代様も素敵でした! あ、僕ともデュエルして! 僕だってあの時より強くなってるんだから!」

 

「へへっ、知ってるぜ。試験の時に見てたからな。俺もまたやりたいと思ってたんだ!」

 

「「デュエル!」」

 

(……なんだ。翔のやつ、見ないのか)

 

 続けてレイと十代のデュエルが始められると、翔は部屋へと戻っていった。扉を閉め、ベッドへと倒れ込むように身体が預けられる。

 

(お兄さんは、僕よりユキにリスペクトデュエルを継いで欲しいのかな。僕にはお兄さんの真意が……見えないよ)

 

 昨日の電話で言われたことを反芻し、再び翔は考え込んだ。しばらくして翔は身体を起こす。

 

(お兄さんはそれ以上何も言ってくれなかった。けどユキのデュエルを見てみたら、確かに僕に足りないものを持っている気がした。それがなんなのか、ハッキリ知るためには……見ているだけじゃ、ダメなんだ!)

 

 立ち上がった翔は勢いよく扉を開くと、さらなる一歩を踏み出した。

 

「恋する乙女でバーストレディに攻撃! 一途な想い! 光子化(フォトナイズ)の効果でエッジマンの攻撃力分上がってるから、攻撃力は3000。これで終わりだ!」

 

「それはどうかな?」

 

「えっ?」

 

「トラップカード、異次元トンネル—ミラーゲート—! 攻撃対象になったエレメンタルヒーローと攻撃モンスターのコントロールを入れ替えてダメージ計算を行うぜ!」

 

「レイちゃんのお株ごと奪うコントロール奪取戦術……!?」

 

 金色の鎧を纏ったエッジマンを誘惑して肩と力を貸してもらった乙女がバーストレディに切れ味の鋭い斬撃を放ってもらったが、斬り裂かれたのはバーストレディを映した鏡だった。鏡の破片は因果応報となって乙女に襲いかかる。

 

レイ LP1400→0

 

 ちょうどレイと十代のデュエルの決着がついた。十代のガッチャに対し、レイも同様に返し、二人とも楽しそうに笑っていた。

 

「なんだ翔。今更デュエルを見に来たのか?」

 

「そうじゃないっす。ユキ……僕とデュエルしてくれないっすか?」

 

「……! 喜んで」

 

(……本当だ。昨日、亮さんが言った通り……)

 

 その申し出を聞いて、ユキは昨日帰り際に亮に言われたことを思い出していた。

 

「明日、十代のところに行くのであれば……。もし翔からデュエルを申し込まれたら、受けてやってくれないか」

 

「……? ええと……機械族の使い手だって聞いているので、十代さんとのデュエルが終わったら元々お願いしようと思ってて」

 

「いや……悪いが、ユキの方からは頼まないでくれないか」

 

「え……。……何か理由が、あるんですね」

 

「ああ」

 

「分かりました。亮さんの言う通りにします」

 

「……助かる」

 

 そして今、翔にデュエルを申し込まれたユキはそれを快諾していた。

 

(……そうだ。翔。相手を知るためには……まず自分自身を見つめ直すんだ。そうして初めて、相手のことが理解できるようになる)

 

「「デュエル!」」

 

 その様子を近くの林から亮が見つめる中、戦いの火蓋が切られたのだった。



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光景を捉えて

「「デュエル!」」

 

「ユキのターン! 永続魔法、補給部隊。1ターンに1度、ユキの場のモンスターが破壊されたらカードをドローします」

 

「今回はいきなり来たね!」

 

 ユキの場にエネルギーの補給を目的とした基地が建設された。

 

「十代とのデュエルでも似たような戦術を使っていたな。なるほど……あれがユキの得意戦術というわけか」

 

「その通り? さらにモンスターをセットしてターンを終了します」

 

(……セットか。リバース効果を持っているか、情報を非公開にすることがユキにとって有利に働く、といったところか。翔……お前はどう見て、どう動く?)

 

 木陰から亮が静かな立ち上がりになったデュエルを見守る中、ターンが翔へと回る。

 

ユキ LP4000

 

フィールド 裏側守備表示1

 

セット0 『補給部隊』

 

手札4

 

「僕のターン! スチームロイドを召喚するっす!」

 

 蒸気機関車がやってくるとそのヘッドライトの下には眠そうな半開きの眼があり、帯びた丸みがデフォルメされた可愛らしさを醸し出していた。

 

スチームロイド 攻撃力1800

 

(ううん……。ちょっとオモチャっぽい見た目。せめて内部の機械構造が剥き出しになってたら……)

 

 ユキにとっては亮以来となる久しぶりの機械族の使い手だけに、上がりすぎていたハードルは残念ながら超えられなかった。

 

「バトルっす! スチームロイドでセットモンスターに攻撃! スチームロイドは攻撃を受けた場合のダメージステップに攻撃力が500下がる代わりに、攻撃する場合は500上がるっす!」

 

 燃料を燃やして蒸気とやる気を出したスチームロイドは車輪のついた手を地面につけると、4つの車輪がついた足と合わせてスピードを出し、突撃していった。

 

きつね火 守備力200

 

スチームロイド 攻撃力1800→2300

 

「そんなに頑張らなくてもオイラは倒せるって!?」

 

 伏せられていた尻尾に火を灯している狐が姿を現すと、その突撃をモロに受けて星となった。

 

スチームロイド 攻撃力2300→1800

 

「きつね火の尊い犠牲は無駄にはしない? 補給部隊の効果でドロー!」

 

「よ、よし! カードを1枚伏せてターンエンドっす! どうっすかユキ!」

 

「今の攻撃がどうだったということなら……ユキにとっては有り難かった?」

 

「なんすと!?」

 

「きつね火は戦闘破壊されたターンのエンドフェイズに復活する不死身のモンスターさん? もう戻って良いよ」

 

「はいよっと!」

 

 吹き飛ばされたのは陽炎による光の屈折で生み出していた幻影だった。本物はちゃっかり攻撃を回避してユキの後ろへと避難しており、安全を確認するとユキの肩をジャンプ台にして戻ってくる。

 

きつね火 守備力200

 

(こ、これじゃあ、ただドローさせただけっす……)

 

(モンスターを残さないためにリスクがあっても攻撃に踏み切るのはおかしくはない。が……俺の目には攻撃可能だから攻撃したように映った。視野を広げるんだ翔。目先のことに囚われては、お前のデュエルは生きないぞ)

 

翔 LP4000

 

フィールド 『スチームロイド』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札4

 

「ユキのターン! …………」

 

(……! あの目は……)

 

 翔はこちらを見つめるユキの目に既視感を覚えていた。

 

「……機巧蛙(きこうわ)磐盾多邇具久(イワタテノタニグク)を召喚!」

 

 フィールドに御神体として祀られている大きな岩が出現すると、ヒキガエルの形をしたロボットがその上に座っていた。曲げられた足の膝からは鉄骨を覗かせ、接合部が擦れる金属音を響かせながら手を顎に持ってきて何やら思案している。

 

機巧蛙— 磐盾多邇具久 攻撃力1450

 

「召喚に成功したことで効果発動。デッキから攻撃力と守備力が同じ機械族……深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトを選んで、デッキの一番上に置きます」

 

 妙案を思いついたロボットは拳を手のひらに置くと、その後お腹にあるボタンを押して遠くにいる仲間と連絡を取り合った。

 

(次のターンの備えをしてきたっすか……。抜け目がないっすね)

 

「バトル! イワタテノタニグクでスチームロイドに攻撃!」

 

「スチームロイドは攻撃力が500下がるから……逆転されちまうのか!」

 

「……その弱点を突いてくるのはお見通しっす! トラップカード、あまのじゃくの呪い! このターンのエンドフェイズまで攻守のアップダウンは逆になるっす!」

 

「……! なるほど……そんなコンボが」

 

 岩から飛び降りたロボットが舌を伸ばしてパンチを放つと、慌てて手を上げていたスチームロイドはモロに食らいそうになる。しかし時空が歪みいつのまにか上げていた手が地面につくと、その上をパンチが通過していった。攻撃による隙が生まれたロボットに全速力を乗せた突進が炸裂する。

 

スチームロイド 攻撃力1800→2300

 

ユキ LP4000→3150

 

(ふぅ。なんだ……ちょっと嫌な予感がしてたっすが、なんてことなかったっす)

 

(……安心するな、翔。ユキが反撃を予想していたのであれば、デッキトップ操作の意味合いは変わってくる……!)

 

「補給部隊の効果でドロー! さらにメインフェイズ2に入り、融合を発動します!」

 

「なっ……! このタイミングで融合っすか!?」

 

「今ドローしたナイト・エクスプレス・ナイトとフィールドのきつね火を融合……! 銀河を駆ける騎士よ、灯火を照らす(あやかし)よ。光焔となりて活路を開け!」

 

「任せろ嬢ちゃん!」

 

 機械騎士が変形して急行列車となり渦へと走っていくと、きつね火も元気よく飛び込んでいき、その力が束ねられる。

 

「融合召喚! 爆撃せよ、起爆獣ヴァルカノン!」

 

 渦から爆発と共に現れたのは鋼鉄の身体を持ちし巨大ロボット。その巨体から響く咆哮が大地を揺るがしていく。

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

「ヴァルカノンが融合召喚に成功したことで効果発動! このカードとスチームロイドを破壊して、墓地へ送られたスチームロイドの攻撃力分のダメージを翔さんに与える!」

 

「そんな……!?」

 

 すると地面から吹き出したマグマが大爆発を巻き起こす。そして止んだ頃には、フィールドにいた2体のモンスターは跡形もなく消え去っていた。

 

翔 LP4000→2200

 

「……け、けど! それじゃあユキの場もがら空きっす!」

 

(そうだ。そしてその先まで考えるんだ。無策で場を空けはしないだろう。つまり……)

 

「心配には及ばない? 墓地のイワタテノタニグクの効果を自身を除外して発動。墓地の攻撃力と守備力が同じ機械族モンスターを守備表示で特殊召喚できます。ナイト・エクスプレス・ナイト、安全第一でただいま到着?」

 

 先ほど連絡していた仲間が紆余曲折を経て、ようやくユキの場に辿り着いた。

 

深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト 守備力3000

 

「守備力3000……!?」

 

(モンスターを失った状況から超えるには難しいステータス。超えられなければ、同様に高い攻撃力で攻勢に移れる……!)

 

「ターンエンド」

 

(……ユキは反撃を食らっても大丈夫なように備えてたんすね。つまり僕の伏せたカードが何か、とまでは分からなくても。スチームロイドの弱点を簡単に突かせず、迎撃を狙ってくる可能性を……予め見据えていた)

 

 翔は先程の十代とのデュエルも加味して、ユキの考えを推察していた。相手の立場に立って、物事を考えていた。そんな彼の目に亮は変化を感じ取っていた。

 

ユキ LP3150

 

フィールド 『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』(守備表示)

 

セット0 『補給部隊』

 

手札4

 

「僕のターン……ドロー! ドリルロイドを召喚!」

 

 採掘用の乗り物が現れると、鼻に位置するドリルと足代わりのクローラーが同時に回り始めた。

 

ドリルロイド 攻撃力1600

 

「バトル! ドリルロイドでナイト・エクスプレス・ナイトに攻撃っす!」

 

「えっ!?」

 

 前進しながらドリルが守備表示で横を向いている列車の側面に触れると、削れた部分にドリルが押し出されていき、やがてドリルロイドは列車を通り抜けていった。

 

「ドリルロイドは守備表示モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算前にそのモンスターを破壊するっす!」

 

「……! それじゃあ反射ダメージも発生しないまま、ナイト・エクスプレス・ナイトが一方的に……! むぅ……なら、補給部隊の効果でドローします!」

 

「カードを2枚伏せてターンエンドっす!」

 

(戦線維持戦術が厄介っすね。けど、さすがに守備力3000のモンスターをすぐに倒されたのは計算外だったはずっす)

 

翔 LP2200

 

フィールド 『ドリルロイド』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札2

 

「ユキのターン、ドロー。……!」

 

(よし。ブラスターキャノン・コアが来てくれた! あのモンスター相手に守勢に回るのは避けたい。ここは攻め入る!)

 

「ブラスターキャノン・コアは自分フィールドのモンスターが相手より少ない場合に特殊召喚できます! さらにジェイドナイトを通常召喚!」

 

 宇宙より巨大な戦艦が飛来すると、さらにそこから緑を基調とした一機の戦闘機が出動した。

 

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500 カウンター0→3

ジェイドナイト 攻撃力1000

 

「バトル! ブラスターキャノン・コアでドリルロイドに攻撃!」

 

「やらせないっすよ! 攻撃宣言時にダブルリバース! スーパーチャージ! 攻撃の無力化! その攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させるっす! さらに僕の場に機械族ロイドモンスター1体しかいないことで、2枚ドローっす!」

 

「……!」

 

 ドリルが高速回転されると前面に発生した空気の渦が戦艦から放たれた砲撃を全て遮ってしまった。

 

(……補給部隊でドローさせてばかりっすからね。また大型モンスターが来てもおかしくないとは思ってたっす。それでもナイト・エクスプレス・ナイトに続いてそのモンスターもすぐに倒されたら、さすがに苦しいはずっすよね。このターンはそのための……予備工作っす)

 

(躱された……。けれど攻撃表示しかいなければあのモンスターの真価は発揮されない。戦闘破壊されないブラスターキャノン・コアがいるこちらの方が有利。そうなると怖いのは……)

 

「……カードを1枚伏せてターンを終了します!」

 

ユキ LP3150

 

フィールド 『巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア』(攻撃表示) 『ジェイドナイト』(攻撃表示)

 

セット1 『補給部隊』

 

手札3

 

「僕のターン! ドリルロイドを守備表示に変更するっす!」

 

(えっ……! 何故……?)

 

「僕のモンスターが攻撃表示から守備表示になったターン、そのモンスターにのみこのカードは装備できるっす! プリベント・スター! さらに僕はブラスターキャノン・コアを選択!」

 

(なるほど。そのための守備表示。1ターン凌いだのもそのため? ただ……)

 

 ドリルロイドの身体が発光し内部から星が発射されると、ブラスターキャノン・コアの身体に埋め込まれていった。その軌跡が糸電話のように2体のモンスターを繋ぐ。

 

「ドリルロイドへの装備と同時にブラスターキャノン・コアを選択……?」

 

「これにより選択した相手モンスターは攻撃と表示形式の変更が封じられ、さらに装備モンスターが破壊されたらゲームから取り除かれるっす!」

 

「……! むぅ……」

 

(こう着状態を望んでいる? これではお互いに攻められない)

 

「……さらに! フィールド魔法、メガロイド都市(シティ)発動っす!」

 

 出現した複数の近未来都市を透明の管が繋いでいく。するとそこをドリルロイドが通っていった。管は未来における道路であり、展開されたのは交通機関であった。

 

(このフィールドは結構良い……! ……じゃなくて。このタイミングで使ってきたなら、守勢に回るのか攻勢に転じるのか分かるかも)

 

「メガロイド都市の効果を発動するっす! このカード以外の僕の場のカードを破壊することで、ロイドカード1枚をデッキから手札に加えるっす!」

 

「サーチ効果……。……!? あっ、まずい……!」

 

「気付いたっすね。けどもう遅いっす! 僕はドリルロイドを破壊してエクスプレスロイドを手札に加えるっす!」

 

 管が自動で取り外され別の管が装着されると、ドリルロイドと入れ替えで新たな乗り物が翔のもとに辿り着いた。

 

「プリベント・スターの効果発動っす! ブラスターキャノン・コアを除外!」

 

 張り詰めていた光の糸が消え失せていくと、埋め込まれた星ごとブラスターキャノン・コアは姿を消してしまった。

 

(やられた……! 自分で自分のモンスターを破壊することで、ユキのモンスターを除去するなんて。しかもその上でデッキから任意のロイドを持ってきたということは、攻勢に転じてくる……!)

 

「エクスプレスロイドを守備表示で召喚っす! 効果で墓地から2体のロイドモンスター……スチームロイドとドリルロイドを手札に戻すっす!」

 

 新幹線を模した乗り物モンスターがマッハでやってくると、休んでいた仲間を連れてきていた。

 

エクスプレスロイド 守備力1600

 

(ユキはそう簡単にまた大型モンスターを呼び出せないはずっす。だから、このカードでこっちが大型モンスターを出せば手詰まりが狙えるっす!)

 

「マジックカード、ビークロイド・コネクション・ゾーン! このカードでビークロイド融合モンスターの融合召喚を行うっす!」

 

「ここで専用融合魔法カード……!」

 

(攻勢に……いや、それ以上の……勝負を賭けてきた……!)

 

「手札のスチームロイド、ドリルロイド、サブマリンロイドを融合っす! 出でよ! スーパービークロイド—ジャンボドリル!」

 

 都市に組み込まれているターンテーブルに3両の乗り物が到着すると、車体が連結されていく。そして蒸気によるエネルギーを有し、それによりクローラーとドリルの回転の鋭さが増し、さらに潜水機能までついた新たな乗り物が完成した。

 

スーパービークロイド—ジャンボドリル 攻撃力3000

 

「ビークロイド・コネクション・ゾーンの効果で特殊召喚されたビークロイドは効果では破壊されず、効果も無効化されないっす!」

 

「……! 耐性の付与……」

 

(あの耐性があることで効果破壊という突破手段は封じられた。そして大型モンスターを連続して失ったユキが攻撃力3000のモンスターを戦闘破壊するのは容易ではない。相手の状況も鑑みた良い戦略だ)

 

「……相手がモンスターの特殊召喚に成功したことで速攻魔法、終焉の地を発動します! このカードの効果でユキはデッキからフィールド魔法を発動させる!」

 

「なっ! ここでフィールド魔法っすか!? それじゃあメガロイド都市が……!」

 

「そのフィールドも悪くないけど、ユキ好みのフィールドに変形してもらう? ユキが選ぶのは……転回操車!」

 

 水色だったターンテーブルが金属の重みを感じるような赤みを帯びた茶色へと塗り替えられていく。そして都市自体も塗り替えられていくと、重厚な機関車等を停める停車場へと変貌を遂げた。

 

(……これでいい。あのフィールド魔法に他にも効果があるかもしれないし、何より恐れていた事態だけは避けられる)

 

(戦闘する時にもう一つの効果でカイトロイドを墓地に送っておこうと思ったっすが……仕方ないっすね。なら、切り替えて大ダメージを狙うっす!)

 

「バトルっす! ジャンボドリルでジェイドナイトに攻撃!」

 

 慣れないフィールドで動きにくそうにしていたジャンボドリルだったが、蒸気を下に噴射することで空中に浮き、ジェイドナイトと空中戦を繰り広げた。そして放たれたレーザーを潜水用のプロペラを回転させて弾いたジャンボドリルは攻撃の隙を突いて接近戦に持ち込み、強烈なドリルの回転を食らわせ、撃墜してみせた。

 

「うっ……!」

 

ユキ LP3150→1150

 

「ジェイドナイトが戦闘で破壊されたことでデッキから機械族・光属性・レベル4のモンスター……ビック・バイパー T301を手札に加え、さらに補給部隊でドローします……!」

 

(大型モンスターが厳しいなら、小型モンスターの連携で突破を図るかもしれないっすね。ここは念のため……)

 

「カードを1枚伏せてターンエンドっす!」

 

「いいぞ、翔! このまま押し切れー!」

 

翔 LP2200

 

フィールド 『スーパービークロイド—ジャンボドリル』(攻撃表示) 『エクスプレスロイド』(守備表示)

 

セット1

 

手札0

 

「まだまだこっから! 巻き返せるよ!」

 

「うん……! ユキのターン、ドロー!」

 

(………よし。それでいこう。そうすれば仮に防がれても……)

 

「マジックカード、予想GUY(ガイ)。ユキの場にモンスターがいない場合、デッキからレベル4以下の通常モンスターを1体呼び出せます」

 

(X—ヘッド・キャノンとビック・バイパー T301の連携による相打ちも選択肢の一つだけど、ここはこっちの道へ進む……!)

 

「来て。レアメタル・レディ!」

 

 突如として強力な電磁場が発生すると、そこには希少な金属の鎧に身を包んだ女性の機械戦士が現れていた。

 

レアメタル・レディ 守備力900

 

「さらに転回操車の効果を発動? 手札を1枚……ビックバイパー T301を墓地に送ることで、デッキから機械族・地属性・レベル10のモンスターを1体手札に加えます」

 

「なっ……大型モンスターをサーチするフィールド魔法、っすか……!」

 

(終焉の地は僕の特殊召喚に反応して発動されるカード。どうやら手詰まりを避けるための手を用意していたみたいっすね……!)

 

「弾丸特急バレット・ライナーを手札に加えて、ユキの場が機械族・地属性モンスターのみのため特殊召喚?」

 

 金属の軋む音を響かせながらターンテーブルが回転されると、仲間がいる場所へと前面を向けたバレット・ライナーが、弾丸のごときスピードで駆けつけてきた。

 

弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000

 

「攻撃力3000か……。これなら相打ちが狙えるな」

 

「けどバレット・ライナーは攻撃のために自分の場のカードを2枚墓地に送らないと。その結果が相打ちだと、次の翔さんのターンで場がどうしても空いちゃうよ。残りのライフも少ないのに……」

 

「ここは道半ば……。目的地はまだ先に? ユキはこのモンスターさんを召喚します。融合呪印生物—地!」

 

 脳のような形をした岩の集合体が出現する。

 

融合呪印生物—地 攻撃力1000

 

「そのモンスターは……えーと、そう! 三沢君とのデュエルで使っていた……!」

 

「このモンスターさんの力を借りて、新たな道を切り開きます」

 

「……! そうか! あのモンスターの効果は! それにレアメタル・レディも確かお兄さんとのデュエルで……!」

 

「ご明察の通り? 融合呪印生物—地の効果を自身とレアメタル・レディをリリースして発動。このカードを含めた融合素材一組をユキの場からリリースすることで、『融合』を必要とせず、地属性融合モンスターを特殊召喚できる……!」

 

 兜のように岩がレアメタル・レディの頭に取り付くと、その素材の材質を読み取り、離れた。

 

「さらに融合呪印生物は融合素材モンスターの代わりになれます。よってレアメタル・ソルジャーとして扱い、レアメタル・レディと一つに!」

 

 そして自身の身体をレアメタルを纏った男性の機械戦士に変容させると、手を突き出した。

 

生贄融合(リリースフュージョン)! 来て……レアメタル・ナイト!」

 

 すると今度は彼女の身体が変形していき、持ち手が赤く左右を刀身とした武器となって彼の手に渡った。

 

レアメタル・ナイト 攻撃力1200

 

「おおっ! ここでユキも融合モンスターを呼び出したか!」

 

(攻撃力はたったの1200。だけど、あのモンスターの力は侮れないっす……!)

 

「さらにマジックカード、受け継がれる力。バレット・ライナーを墓地に送ることで、レアメタル・ナイトの攻撃力をターンが終わるまでその攻撃力分上昇させます……!」

 

(……! ユキは……このターンで一気に決めるつもりなんすね……!)

 

 バレット・ライナーがその姿をレールへと変えると、ギアを組み込んだ加速装置となってレアメタル・ナイトの前に敷かれていった。

 

レアメタル・ナイト 攻撃力1200→4200

 

「やった! これなら……!」

 

「バトル! レアメタル・ナイトでジャンボドリルに攻撃! レアメタル・ナイトはモンスターとバトルを行うダメージステップ時に攻撃力を1000上昇させます……!」

 

「何……! さらにパワーアップするのか!? 翔の残りライフは2200、ジャンボドリルの攻撃力は3000。ということは……!」

 

 機械戦士がレールに乗ると、見る見るうちに加速していく。勢いそのままに大ジャンプからの一撃をお見舞いしようと踏ん張った、瞬間だった。

 

「させないっすよ! トラップカード、進入禁止!No Entry!発動っす! このカードでフィールドの攻撃表示モンスターを全て守備表示にするっす!」

 

「えっ! 守備表示に……!?」

 

(……!)

 

 フィールドを揺るがした地響きにより踏み込みに失敗したレアメタル・ナイトはもとより、攻撃に備えていたジャンボドリルさえも体勢を崩してしまった。

 

レアメタル・ナイト 守備力500

 

スーパービークロイド—ジャンボドリル 守備力2000

 

「ああっ! 防がれちゃった……!」

 

「あの状況からライフを根こそぎ持っていく大打撃を放ったのには驚いたが……。それだけに防がれたのはきついぞ」

 

「……カードを2枚伏せてターンエンド。墓地に送られたバレット・ライナーの効果でユキの墓地からバレット・ライナー以外の機械族……ナイト・エクスプレス・ナイトを手札に戻します」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力4200→1200

 

ユキ LP1150

 

フィールド 『レアメタル・ナイト』(守備表示)

 

セット2 『補給部隊』 『転回操車』

 

手札1

 

「僕のターン、ドローっす! ジャンボドリルを攻撃表示に!」

 

スーパービークロイド—ジャンボドリル 攻撃力3000

 

(2枚の伏せカードがあるっすが、今のジャンボドリルは効果で破壊されないっす。ここは強気に攻めて……勝負を決めるっす!)

 

「バトル! ジャンボドリルでレアメタル・ナイトに攻撃! さらに、ジャンボドリルは守備表示モンスターに攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その分の戦闘ダメージをユキに与えるっす!」

 

「……! ドリルジャンボと同じで貫通効果を……!」

 

(……さっきのトラップはジャンボドリルを守りながら、その効果を最大限に活かせる連携だったんだ……!)

 

「そんな! レアメタル・ナイトの守備力は500しかないのに!」

 

「効果破壊もそうだが、その効果を無効にもできん。これは厄介だぞ。ユキに打つ手はあるのか……?」

 

「……ユキのモンスターが相手モンスターとバトルを行う攻撃宣言時に、墓地のビック・バイパー T301は特殊召喚できます。救援を要請……!」

 

 味方のピンチに飛ばされたSOSに応じ、白を基調とした戦闘機が現場へと駆けつけてきた。

 

ビック・バイパー T301 攻撃力1200

 

「ジャンボドリルに貫通効果があるから、800しかない守備よりは攻撃表示にするのは分かるけど……」

 

「何の意味がある……?」

 

「どっちを攻撃してもユキのライフは0になるぜ。けど俺の時は発動しても、影響が無かった挑発は使わなかった。もしかしたら何かあるのかもな……!」

 

(翔。見せてもらうぞ。お前の選択を)

 

(僕は目先のことしか見えていなかったのかもしれないっすね……。今まで色々見えていたはずだった。けど、その本質まで見抜こうとはしていなかった。それは全力を出せていない……相手へのリスペクトが欠けた行為だった!)

 

「僕はレアメタル・ナイトに攻撃を続行するっす!」

 

「……!」

 

 プロペラとドリルを回転させて地中へと潜ったドリルジャンボはモグラのように地中を突き進むと、やがて体勢を崩しているレアメタル・ナイトの下の地面が隆起した。

 

(……仕方ない!)

 

「手札のナイト・エクスプレス・ナイトを墓地に捨てて、トラップカード、共闘を発動! このターンレアメタル・ナイトの攻撃力・守備力はナイト・エクスプレス・ナイトのそれぞれの数値と同じになります!」

 

「……! ナイト・エクスプレス・ナイトの攻守は3000……!」

 

レアメタル・ナイト 守備力500→3000

 

 加速レールに乗って走ってきた急行列車が機械戦士を柔らかく弾き飛ばすと、騎士形態へと姿を変え、地面から突き出たドリルを盾で受け止めてみせた。

 

「防いだっ!」

 

「ビック・バイパー T301に攻撃していれば相打ちになっていたな……」

 

「やるっすね……! 急遽変更された守備表示モンスターに、迎撃カードを応用して防御に充てるのはさすがに読めなかったっすよ!」

 

「翔さんこそ……。どちらの攻撃でも仕留めさせてくれないとは、読み切れませんでした」

 

「へへっ、どうもっす。カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

(気付いていたな。先程のターン、ライフを削り切る攻撃を防がれたのにも関わらず、そこより守備にされたことへの動揺が大きく見られたこと。そして……俺とデュエルした時のように、攻撃を防がれても迎撃を狙っていたことを)

 

 以前ユキとデュエルした時に同様の読みをした亮には、翔が相手が密かに狙っていたカウンターを読み切ったことがよく分かっていた。そして亮は卒業までに見たかった翔の目を見れて、人知れず満足した笑みを浮かべていた。

 

翔 LP2200

 

フィールド 『スーパービークロイド—ジャンボドリル』(攻撃表示) 『エクスプレスロイド』(守備表示)

 

セット1

 

手札0

 

「ユキのターン……」

 

(転回操車を使ってハッスル・ラッセルをサーチすることはできるけど……耐性と貫通効果を有したジャンボドリルがいる状況で、ライフも劣っているユキが長期戦に臨むのは、不利。このターンのドローで……勝機を掴み取る!)

 

「……ドロー!」

 

 ジャンボドリルを残されたユキは全体の状況を見渡すと、追い込まれたことを強く感じていた。それでも諦めず、逆境をひっくり返すために可能性に手を伸ばし、足腰をフルに使って引き抜いた。

 

(……!)

 

 そして手にしたカードに目を見開くと、頭の中で複数のカードを連ねた道筋を描き出した。

 

(……これが最後の勝負!)

 

 そして退路を断ったユキと翔の目が合う。互いに勝負の時を感じ取り、覚悟を決めていた。

 

「レアメタル・ナイトのもう一つの効果を発動! リバーサル・エクスチェンジ!」

 

「さらなる効果っすか……!」

 

「このカードは特殊召喚されたターンで無ければ、融合デッキに眠るレアメタル・ヴァルキリーと交換することができます……!」

 

「ここで……融合モンスターを入れ替えるっすか!?」

 

 起き上がった男性の機械戦士が剣を宙に放ると、剣は赤いレアメタルの装甲を纏った女性へと姿を戻した。そして今度は逆に男性の機械兵士が青い持ち手の剣へと姿を変え、彼女の手に収まった。

 

レアメタル・ヴァルキリー 攻撃力1200

 

(攻撃力は変わらない……。何を狙っているっすか?)

 

「マジックカード、クロス・アタック!」

 

 先が二つに分かれた戦闘機の間にエネルギーが充填されると、放たれたエネルギーは翔の場のモンスターを超えていき、翔の目の前で着弾した。

 

「このカードは自分フィールドに攻撃表示で存在する同じ攻撃力のモンスター2体を選択して発動できます。片方のモンスターの攻撃を封じる代わりに、もう片方のモンスターはこのターン相手プレイヤーへのダイレクトアタックが可能になる……!」

 

「……! ユキの場のモンスターはどっちも攻撃力1200……!」

 

「この効果でレアメタル・ヴァルキリーのダイレクトアタックを可能に!」

 

 エネルギーの放出が保たれると、戦闘機の上にレアメタル・ヴァルキリーが降り立つ。目の前に架け渡された橋はまるで虹のように弧を描いていた。

 

「あ、あれ? ユキのデッキにそんなカード入ってたっけ?」

 

「このカードは昨日の夜に入れたんだ」

 

「……そっか。昨日のデュエルで、味わったもんね」

 

(ダイレクトアタックを受けても、ライフは残るっす。だとしたら次のターンの反撃でユキはやられる。まだ僕には見えていない、何かが……。……!)

 

「レアメタル・ナイトはモンスターとのバトルで攻撃力を1000上昇させる。ということは、もしかしてレアメタル・ヴァルキリーは……!」

 

「そう……。相手へのダイレクトアタックを行った際のダメージステップ時に攻撃力を1000上昇させる」

 

「じゃあ攻撃力は実質2200なのか!」

 

「やるな……! この土壇場でそんな手に繋げるか」

 

「これで……決着をつけます! バトル! レアメタル・ヴァルキリーで翔さんにダイレクトアタック!」

 

 エネルギーの橋へと足を踏み出したレアメタル・ヴァルキリーが上へと続く道を突き進んでいく。

 

「トラップカード、統制訓練を発動っす! ユキの場のレベル5以下のモンスター……ビック・バイパー T301を選択して、フィールドに存在するそれ以外のレベルのモンスターを全て破壊するっす!」

 

「……!」

 

「そんな! ビック・バイパー T301のレベルは4……」

 

「レアメタル・ヴァルキリーはレベル6だ……!」

 

「エクスプレスロイドはレベル4だし、ジャンボドリルはレベル8だけどビークロイド・コネクション・ゾーンの効果で破壊されない! すげーぜ、翔!」

 

 橋を維持していた戦闘機にエラーが発生すると、暴走したエネルギーが拡散されていった。運良く避けられた者、強靭な身体で跳ね除けた者がいる中、エネルギーそのものの上に立っていたレアメタル・ヴァルキリーはそのどちらの条件も満たすことが出来なかった。

 

「やった……。……!?」

 

 すると場にT301とは異なる、緑を基調とした戦闘機がワープホールを通って出現した。

 

「永続トラップ、リミット・リバース! このカードはユキの墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できます。ユキはジェイドナイトを呼び戻しました……!」

 

「確かにジェイドナイトはレベル4っすが……」

 

「そしてジェイドナイトが攻撃表示で存在する限り、ユキの場の攻撃力1200以下の機械族モンスターはトラップの効果では破壊されない?」

 

 ジェイドナイトがすぐ横を通過し、レアメタル・ヴァルキリーは驚きながら振り返ると、作られたワープホールの意味を咄嗟に理解して飛び込んだ。

 

「……そうか……! このタイミングじゃレアメタル・ヴァルキリーはまだ……!」

 

「ダメージステップに入っていないため、攻撃力は1200! だから……」

 

 小型のジェイドナイトが通れる程度のワープホールだったが、レアメタル・ヴァルキリーは身を(かが)ませて、辛うじてそこに突入した。そしてジェイドナイトが一度ワープホールを閉じるとエネルギーの奔流がフィールドを飲み込んだ。しかし別空間に避難したレアメタル・ヴァルキリーが被害を受けることはなく、再び開かれたワープホールから帰還し、エラーを修復したT301のエネルギーの橋を再び駆け出した。

 

(一か八かの勝負じゃなく、トラップでの破壊を対策した上で踏み込んで来てたんすね……。……完敗っす)

 

「ダメージステップに入ったことでレアメタル・ヴァルキリーの攻撃力が1000上昇します……!」

 

 橋を駆け降りていったレアメタル・ヴァルキリーはその勢いを乗せて大きくジャンプし、身体を一回転させて斬りかかった。

 

レアメタル・ヴァルキリー 攻撃力1200→2200

 

翔 LP2200→0

 

 そして剣戟(けんげき)を振るったレアメタル・ヴァルキリーが着地し、勝利への架け橋を渡り切ったのだった。

 

「強いっすね、ユキ」

 

「ありがとうございます。翔さんも手強かったです」

 

 ソリッドヴィジョンが消えていく中、二人は健闘を讃えあった。

 

「それと……翔さんの中に亮さんの面影を感じました。鋭く射抜くような、恐ろしくも真剣な眼差し。……正直なことを言うと、プレッシャーだった?」

 

「……! それは僕にとって……何よりの褒め言葉っす。……プレッシャーを感じてた風には見えなかったっすけど」

 

「きっと亮さんならそこまで見えていた?」

 

「参ったっすね……。精進するっす」

 

「ユキももっと頑張ります。一緒に頑張りましょう。翔さ……あ。……兄さん?」

 

「えっ!? ……あー。いや、逆じゃないっすか? ってそもそも気が早過ぎっす!?」

 

「ふふっ……冗談です」

 

「やめておけユキ! そんなやつを兄にするのは!」

 

「お、どうしたんだ? 万丈目のアニキ〜?」

 

「嫉妬してるの〜?」

 

「ええい、うっとおしい!」

 

 賑やかな彼らを背にした亮は静かに笑いながらその場を去っていくのだった。

 

 日が沈み、海ももはや青とは言えないほど黒く染まった頃。亮は灯台のふもとで遠くを見つめながら、碧色の髪をなびかせ、打ちつけられる波の音を聞いていた。

 しばらくそうしていた彼は、波の音に紛れていた来訪者の足音に少し遅れて気付くと、顔をそちらに向ける。

 

「明日香か」

 

「あら、奇遇ね。もうここに集まる必要はないのに」

 

「なんとなくな。潮風を浴びたくなったんだ」

 

「私もよ。……ふふ。お互い良いことがあったみたいね」

 

「ふっ……そのようだな」

 

 顔を見合わせた二人はそれ以上詮索することなく、並んで海の方を見た。灯台の明かりさえも届かない遠くを見つめながら、明日香は寂しげに問いかける。

 

「もうじき卒業してしまうのね……。在校生への卒業模範デュエル。誰を指名するか、もう決めたのかしら?」

 

「ああ。ちょうど今日な。迷いは吹っ切れた……。後は俺自身悔いを残さぬよう、全てに決着をつけるつもりだ」

 

「そう言うと思ったわ。あなたの目には、もうやるべきことが映っているんだもの」

 

 未だ遠くを見つめる亮を見て、明日香は仕方なさそうに笑った。

 

「……すまない」

 

「いいのよ。その代わり、見せて。あなた達の最高のデュエルを」

 

「約束する」

 

 そうして月日が流れた。決して長いとは言えないが、亮にとっても濃密で充実したひとときだった。切磋琢磨し己が腕を磨く後輩たち。今日、卒業を間近に迎えたこの日。そんな彼らに模範を示すべく、亮はデュエルコートに向かっていた。

 

「……! 吹雪」

 

「や。今日は楽しみだね。僕は在校生の立場だけど、君の同級生として今日のデュエル……楽しませてもらうよ」

 

「ああ。そのつもりでいてくれ。今日は俺達にとって……集大成となる日だ」

 

 亮は胸の高鳴りを今日だけは抑えるつもりはなかった。吹雪に対してもいつものようなクールな表情ではなく、昂る感情を乗せるように口角を上げると、見据える先へと歩みを進めるのだった——。




メガロイド都市に融合モンスターしかEXデッキから特殊召喚出来なくなる縛りがあるので、存在するのが不自然かと採用を迷いましたが、制約を破っているわけではないし、EXデッキ=融合デッキのこの世界ではその一文自体が無くなっていると考えてOKとしました。


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分岐する道の先で

「受け取れカイザー! トラップ発動! ファイナル・フュージョン!」

 

「なっ……!? ふっ。負けず嫌いが……」

 

「このカードにより俺たちはお互いのモンスターの攻撃力分のダメージを受ける! 行くぜ、カイザー!」

 

「来い!」

 

 十代が発動した決戦融合—ファイナル・フュージョンによりサイバー・エンド・ドラゴンとシャイニング・フレア・ウィングマンが激突し、その衝撃が二人を包み込んだ。こうして卒業生代表と在校生代表により行われた卒業模範デュエルは引き分けという思わぬ結末を迎えた。

 

「続けて卒業模範タッグデュエルに入るノーネ!」

 

「行こう、レイちゃん」

 

「うん!」

 

 十代とすれ違うようにして二人はデュエルコートへと向かっていった。待ち構える亮の隣には、既に彼のパートナーが立っている。

 

「吹雪。お前にしては大人しい入場だったな」

 

「今日のスポットライトは君に譲るよ。さっきのデュエルにも負けない最高のデュエルにしようじゃないか」

 

「ああ」

 

 そして彼らと同じ舞台にユキとレイも立ち、対峙した。

 

「二人とも、言葉はいらないな」

 

「はい。亮さんがタッグデュエルの相手として指名してくれた時から……ユキ達なりに心構えはしてきました」

 

「後は僕達が積み重ねてきたものをぶつけるだけです!」

 

「良いだろう。お前達の全てをぶつけてこい!」

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 こうして卒業模範タッグデュエルが始まった。興奮冷めやらぬ会場の熱気が彼女達を包み込む。

 

「僕のターン、ドロー! 早速行かせてもらうよ。竜の霊廟を発動! デッキからドラゴン族モンスターを1体墓地に送るよ。神竜 ラグナロクを墓地に!」

 

「あのカードは……。通常モンスターを墓地に送った場合、もう1体ドラゴン族を墓地に送ることが出来たはず」

 

「ラグナロクは通常モンスターかあ……!」

 

「よって霊廟の守護者も墓地に送らせてもらうよ。続けて思い出のブランコを発動!」

 

「……! 来たわね。兄さんの得意戦術……!」

 

「通常モンスターのラグナロクを復活させるよ! さらに融合呪印生物—闇を召喚!」

 

 神の使いと言い伝えられている伝説の竜がその姿を現すと、神々しきオーラに触れた岩に魂が宿された。

 

神竜 ラグナロク 攻撃力1500

融合呪印生物—闇 攻撃力1000

 

(竜の霊廟、思い出のブランコ、融合呪印生物—闇。これは……前にデュエルした時と同じ入り。けど以前とは違う展開……)

 

「飛ばしていこうか! 融合呪印生物—闇の効果をラグナロクと自身をリリースして発動だ! リリースしたモンスターを融合素材とする闇属性融合モンスターを特殊召喚できる! さらに融合呪印生物—闇をロード・オブ・ドラゴン—ドラゴンの支配者—の代わりとさせてもらうよ」

 

「その組み合わせでも融合を……!?」

 

 魂の宿った神の石を自らの身体に取り込んだ竜は闇に染まっていく。

 

生贄融合(リリースフュージョン)! さぁ、おいで! 竜魔人 キングドラグーン!」

 

 竜はその背より漆黒の翼を生やし、晴れ渡っていた空が暗雲で埋め尽くされていった。

 

竜魔人 キングドラグーン 攻撃力2400

 

「キングドラグーンが場にいる限り、相手はフィールドのドラゴン族を効果の対象には出来ないよ!」

 

「……! 師匠のデッキはドラゴン族が中心……しかもキングドラグーンもドラゴン族。凄く厄介?」

 

「その厄介さ、とくと味わってもらおうかな。キングドラグーンのもう一つの効果! 1ターンに1度、手札からドラゴン族1体を呼び出せる! 出番だ! 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)!」

 

「さらにレッドアイズまで……」

 

 暗雲を黒炎が突き抜け、隙間から青天白日を覗かせると、その隙間を塗りつぶすように通り抜けた黒き竜が仲間の傍へと降り立った。

 

真紅眼の黒竜 攻撃力2400

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

(あれだけ待ち遠しく感じた亮さんと師匠とのデュエル……。けど始まってしまえば、待ってと望んでも待ってはくれない。だからこそ……この一瞬に全てを注いで、精一杯輝かせよう)

 

吹雪&亮 LP4000

 

フィールド 『竜魔人 キングドラグーン』(攻撃表示) 『真紅眼の黒竜』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札1(吹雪) 手札5(亮)

 

「次は僕の番だ! 僕のターン、ドロー! ……!」

 

(恋する乙女! ……よし、いける!)

 

「召喚師セームベルを召喚!」

 

 暖かそうな茶色のコートに身を包んだ少女がとことことやってきた。

 

召喚師セームベル 守備力400

 

「セームベルは1度だけ自分と同じレベルのモンスターを手札から特殊召喚できるよ!」

 

「セームベルのレベルは2っす!」

 

「ってことは……!」

 

「お願い! 恋する乙女!」

 

 少女が手を合わせて擦るとポン、という軽快な音と共に同じくらいの年齢の可憐な女の子が現れる。

 

恋する乙女 攻撃力400

 

「可愛らしい二人だけど、そこからどうするのかな?」

 

「僕の場に魔法使い族が二人以上揃ったことで、このカードが使えるようになるんだ! 奇跡のマジック・ゲート! 相手フィールドの攻撃表示モンスターを1体選んで、守備表示に!」

 

「……! 対象を取らないカード……キングドラグーンの効果の範囲外か!」

 

「それだけじゃないよ! さらに僕は守備にしたモンスターのコントロールを得る!」

 

「……!」

 

「上手い……!」

 

「なんだって!? じゃあ……!」

 

 お互いのフィールドに門が出現すると、一方の門から伸ばされた腕がキングドラグーンを掴んで引き摺り込み、もう一方の門からキングドラグーンが引っ張り出された。

 

竜魔人 キングドラグーン 守備力1100

 

「この効果でコントロールを得たモンスターは戦闘では破壊されないよ!」

 

「……まずいな。キングドラグーンは自身の効果で相手に対象に取られない」

 

「そこに戦闘破壊耐性まで加えられたら……」

 

「今度は師匠達がその厄介さを増し増しで味わうことに?」

 

「してもらおうか! キングドラグーンを攻撃表示に変更してバトルだ! 真紅眼の黒竜に攻撃! トワイライト・バーン!」

 

竜魔人 キングドラグーン 攻撃力2400

 

 目を覚ましたキングドラグーンは敵地に立つ真紅眼の黒竜に裏切られたと思い込み、雷を纏った闇色のエネルギー弾を放った。それに気付いた真紅眼の黒竜も黒炎を放つと、ちょうど中間点で爆発が巻き起こる。しかし倒れていたのは真紅眼の黒竜だけだった。

 

「やるね……! 僕なりにコントロールを奪われないようにしていたつもりだったんだけどなあ。でもやられてばかりじゃないよ! 僕の場のドラゴン族モンスターが墓地に送られたことで、墓地の霊廟の守護者は1ターンに1度だけ特殊召喚できる!」

 

「……! さっき竜の霊廟で墓地に送ってたモンスター……」

 

(最初の場も中々良かったのに。やられることも考えてたんだ。やっぱり師匠も隙が無いなあ……!)

 

 英霊を祀る(みや)に真紅眼の黒竜の魂が捧げられると、そこの守護者が鎮魂の儀式を執り行った。

 

霊廟の守護者 守備力2100

 

「さらに墓地へ送られたのが通常モンスターだった場合、墓地のドラゴン族通常モンスターを1体手札に戻せる! 戻っておいで。真紅眼の黒竜!」

 

「折角倒したのに……!」

 

 肉体から離れた魂が儀式により再び鎮められると、真紅眼の黒竜は主のもとへと戻っていった。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「……この瞬間! 永続トラップ、闇の増産工場を発動するよ!」

 

「ここでトラップを?」

 

「1ターンに1度、自分の手札・フィールドのモンスターを1体墓地に送ることで1枚ドロー出来るんだ。僕は霊廟の守護者を墓地に送ってドローするよ!」

 

(あのモンスターが残っていれば、亮さんはサイバー・ドラゴンを始めとする相手フィールドにのみモンスターがいることを条件とするカードが使えないと思ったのに……)

 

(タッグとしての息もバッチリってわけか。ますます気を抜けないな……!)

 

レイ&ユキ LP4000

 

フィールド 『召喚師セームベル』(守備表示) 『恋する乙女』(攻撃表示) 『竜魔人 キングドラグーン』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札2(レイ) 手札5(ユキ)

 

「ゆくぞ! 俺のターン! ……闇の増産工場の効果で手札のサイバー・ドラゴン・コアを墓地に送り、ドローする!」

 

「……! 確かあのモンスターは……」

 

「さらに相手フィールドにのみモンスターがいることでコアの効果を発動する。自身を除外し、デッキからサイバー・ドラゴンモンスター……サイバー・ドラゴン・ヘルツを特殊召喚する!」

 

「うっ……」

 

(なんて無駄のない連携なの……!)

 

 墓地から伸びたプラグが亮のデッキに眠るカードを引っ張り出すと、呼び出された機械竜はドラゴンと呼ぶにはあまりにも小さいトカゲのようなモンスターだった。

 

サイバー・ドラゴン・ヘルツ 守備力100

 

「さらに俺はこのモンスターを召喚する! 融合呪印生物—光!」

 

「えっ!?」

 

「うそ……」

 

 見覚えのある岩石の集合体が出現した。先程とは違い蓄光石が混ざっており、一部が輝いている。

 

融合呪印生物—光 攻撃力1000

 

「ユキよ……お前が吹雪の戦術を見て、学んだように。俺も相手の戦術に敬意を表し、自分の戦術に生かした」

 

「……! つまり……」

 

「ヘルツはフィールド・墓地ではサイバー・ドラゴンとして扱われる。融合呪印生物—光の効果発動! 融合呪印生物—光をサイバー・ドラゴンの代わりとし、ヘルツと共にリリース! それらを素材とする光属性融合モンスターを特殊召喚する!」

 

(やはり習得していた……。……亮さんは相手へのリスペクトがあるからこそ、足りないものを認め合い、不足を補うだけじゃなく、お互いにさらなる高みに昇ることが出来ると伝えたいんだ。ユキやレイちゃんにだけじゃなく……このデュエルを見ている、みんなに)

 

 言葉こそ多くは重ねられなかったが、カードを通してユキは語りかけられた感覚があった。

 

生贄融合(リリースフュージョン)! 来い! サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 ヘルツの材質を読み取った集合体は自らも同様の金属から形成された機械竜となると、ヘルツも映された影と同じ大きさへと進化を遂げて結合される。そして腹部が繋がり、二つの首と二つの尻尾からなる鋼鉄の機械竜が誕生した。

 

サイバー・ツイン・ドラゴン 攻撃力2800

 

「さらにヘルツが墓地に送られたことで、デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える!」

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンは2回の攻撃が可能なモンスターだ……!」

 

「恋する乙女は攻撃表示の時、バトルでは破壊されないっすよね……」

 

「カイザーは早くも勝負を決めにいくのか!?」

 

「バトルだ。サイバー・ツイン・ドラゴンでセームベルに攻撃する。エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

「……!」

 

(恋する乙女を狙わない!?)

 

 二つの口の周りにエネルギーが充填されると、ブレスとして放たれた。広範囲に渡るブレスから逃れる術はなく、セームベルはエネルギーの奔流に飲み込まれていった。

 

(ここで攻撃を止めるのも手だが……)

 

「……続けて恋する乙女に攻撃を行う!」

 

 ブレスが結合しさらに範囲が広げられると、恋する乙女もその圏内へと入った。

 

「光属性の恋する乙女がいることでトラップ発動、光子化(フォトナイズ)! 攻撃を無効にして、その攻撃力分だけ光属性の恋する乙女の攻撃力を、次の僕達のエンドフェイズまでアップさせる!」

 

(セームベルも恋する乙女もステータスは低い。恋する乙女だけ攻撃表示にした理由を考えれば……月一試験で使用したミラーメールか、十代とのデュエルで使用した光子化。そう思っていたが……どうやら合っていたようだな)

 

 乙女の纏うドレスがエネルギーを光子に変換して蓄えていく。その結果、乙女は無傷な上にその力を自らのものとしていた。

 

恋する乙女 攻撃力400→3200

 

(今の攻撃順は恋する乙女と伏せカードのコンボを警戒していたように見える……。ハナから光子化に当たりをつけていた? それならサイバー・ツイン・ドラゴンを失うリスクは承知しているはず。……サイバー・ツイン・ドラゴンを守る策があるのかな)

 

「カードを3枚伏せ、招来の対価を発動してターンエンドだ。招来の対価はこのターンリリースしたモンスターの数により効果が決定する」

 

「亮様がリリースしたのは2体……」

 

「よって俺の墓地のモンスター2体を選んで手札に加える効果が適用される。俺はヘルツと融合呪印生物—光を手札に戻す!」

 

(今日の亮様。なんだか十代様みたいに楽しそう……)

 

吹雪&亮 LP4000

 

フィールド 『サイバー・ツイン・ドラゴン』(攻撃表示)

 

セット3 『闇の増産工場』

 

手札3(吹雪) 手札4(亮)

 

「ユキのターン……ドロー!」

 

「……スタンバイフェイズに竜嵐還帰(りょうらんかんき)を発動し、除外されているコアを特殊召喚する!」

 

「……!」

 

 亜空間の壁を竜巻が突き破ったかと思うと、その正体は小さな機械竜だった。

 

サイバー・ドラゴン・コア 守備力1500

 

(このタイミングで……? けど、これで亮さんの場に機械族が2体。闇の増産工場の効果で躱される心配は無くなった?)

 

「ユキはキングドラグーンの効果を発動します!」

 

「なに……?」

 

「手札からドラゴン族モンスターを特殊召喚する効果かい……!?」

 

「はい」

 

「私の時もそうだったわ。今のユキのデッキにはドラゴン族モンスターが投入されている……」

 

「そうでしたわね」

 

「狙いもあの時と同じかしら?」

 

「お願い。アルバスの落胤(らくいん)!」

 

 白髪の少年がやってくる。その左目は髪によって覆い隠されていた。

 

アルバスの落胤 攻撃力1800

 

「アルバスの落胤を呼び出したことで、手札1枚を捨てて効果を発動? このモンスターさんを含む融合素材を自分・相手フィールドから墓地に送り、融合召喚を行います!」

 

「……そうか! 前に僕と戦った時にも……。今回は僕たちの場の機械族1体を取り込むつもりなんだね……!」

 

「……!? ほう……。……カードの発動は無い」

 

「……! ならサイバー・ツイン・ドラゴンとアルバスの落胤で融合……!」

 

 少年が髪を上げると、まるで火傷の跡のような瞳が機械竜を捉えた。すると不思議なことに機械竜が彼に吸収されていき、取り込んだ力を以て、竜の姿へと変身していった。その力に準拠し、少年が為ったのは機械から成る竜だった。

 

吸収融合(アブソーブフュージョン)! 顕現せよ、重装機甲 パンツァードラゴン!」

 

重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600

 

(相手モンスターを取り込んだ融合召喚か……見事だ。そんな戦術を見出していたんだな。卒業する身であっても、学ぶべきことはまだまだあるものだ……)

 

(光子化を読んでいたのなら、攻撃に対する防御カードの可能性が高い。さすがの亮さんでもこれは想定外だった? 上手くサイバー・ツイン・ドラゴンを処理して、守備も固められた……!)

 

「さらに勇気機関車ブレイブポッポを召喚します」

 

 緑色に塗装された機関車の到着を告げる汽笛が鳴り響いた。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400

 

(以前のデュエルでは攻撃モンスターを対象に攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる、攻撃の無力化を使われた……なら)

 

「バトル。キングドラグーンでサイバー・ドラゴン・コアに攻撃?」

 

(なるほどな……だが)

 

「場でサイバー・ドラゴンとして扱われるコアをリリースすることで、サイバネティック・レボリューションを発動! これによりサイバー・ドラゴンモンスターを融合素材とする融合モンスターを融合デッキより呼び出す!」

 

「なっ……! また融合モンスターを……!?」

 

「もっともこの効果で呼び出したモンスターは直接攻撃できず、次のターンのエンドフェイズに破壊されるがな。だが、十分だ。出でよ! サイバー・エタニティ・ドラゴン!」

 

 先の見えない胴体を持ちし機械竜が姿を現す。その長い身体でとぐろが巻かれ、上から見ると終わりのない渦のようだった。

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン 守備力4000

 

「守備力4000……!?」

 

「さらにサイバー・エタニティ・ドラゴンは俺の墓地に機械族融合モンスターがいる限り、相手の効果の対象にならず、また相手の効果では破壊されない!」

 

「……!? そんな……」

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンはもちろん機械族だね……」

 

(……違ったんだ。亮さんは最初からサイバー・ツイン・ドラゴンはやられても構わないと思っていた……。だから構わずに恋する乙女と連動するトラップを消費させたんだ)

 

「……攻撃を中断します。……すぅ……はぁ……」

 

 ユキは一度深呼吸を挟んだ。亮の狙いの一部が分かり、焦燥感が自分を包み込もうとしているのが分かったからだった。

 

(このターンの攻撃は諦めるしかない。サイバネティック・レボリューションで呼び出されたモンスターは次のターン、破壊される。ここは守る……!)

 

「恋する乙女を守備表示にし、カードを2枚伏せてターンを終了します! このエンドフェイズでアルバスの落胤のコストで墓地に送ったバトレインの効果を発動。デッキから機械族・地属性・レベル10の……深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトを手札に加えます」

 

恋する乙女 守備力300

攻撃力3200→400

 

「ならば俺も闇の増産工場を発動し、手札からモンスターを1枚墓地に送ってドローする。さらにヘルツが墓地に送られたことで、デッキよりサイバー・ドラゴンを手札に加える!」

 

(……! あの永続トラップ、あまり残しておきたくないな……)

 

レイ&ユキ LP4000

 

フィールド 『竜魔人 キングドラグーン』(攻撃表示) 『勇気機関車ブレイブポッポ』(攻撃表示)『重装機甲 パンツァードラゴン』(守備表示) 『恋する乙女』(守備表示)

 

セット2

 

手札2(レイ) 手札2(ユキ)

 

「僕のターンだね! 手札の真紅眼の(レッドアイズ・)亜黒竜(オルタナティブ・ブラックドラゴン)は手札かフィールドのレッドアイズモンスターを1体リリースすることで特殊召喚できる!」

 

「師匠の手札にはさっき霊廟の守護者で戻した真紅眼の黒竜が……!」

 

「その通り! よって真紅眼の黒竜をリリースして特殊召喚するよ!」

 

 再び真紅眼の黒竜が姿を現したかと思うや否や、尻尾から胴体、そして翼へとラインが描かれていき、刻まれたラインが怪しく茜色に発光し出した。

 

真紅眼の亜黒竜 攻撃力2400

 

「サイバー・エタニティ・ドラゴンを攻撃表示に変更し、バトルといこうか! まずはサイバー・エタニティ・ドラゴンでパンツァードラゴンへ攻撃!」

 

 巻いたとぐろが解かれ、地の果てまで尻尾が伸ばされると、その身体に秘めた力が全て口の先に集約されていく。

 

サイバー・エタニティ・ドラゴン 攻撃力2800

 

「吹雪様。耐性を備えたサイバー・エタニティ・ドラゴンから行ったわね……」

 

「防ぎにくいですわね。けれど確かパンツァードラゴンは破壊されて墓地に送られれば、フィールドのカードを1枚破壊できたはずですわ」

 

「承知の上でしょうね……。兄さんは真紅眼の亜黒竜を狙われても構わないのよ。こちらの攻撃を後回しにしたのは耐性だけじゃなく、ユキの選択次第で動きを変えるつもりよ」

 

 観客席で明日香達が話している間に充填されたエネルギーが放たれると、パンツァードラゴンも砲塔から弾を放って応戦した。

 

(……ここは破壊を受け入れる!)

 

 しかし圧倒的なエネルギー量に弾が一瞬で消し炭になると、今度はパンツァードラゴンを包みこんでいく。

 

「……破壊されたパンツァードラゴンの効果でフィールドのカードを1枚破壊します! 狙いは……闇の増産工場!」

 

「そう来たかあ……!」

 

 抗えないことを悟ったパンツァードラゴンは咄嗟に砲塔で吸引を行うと、1枚のカードを内部に吸い込んだ。そしてエネルギーに包まれたパンツァードラゴンと共にそのカードも消え失せてしまう。

 

「……なら、真紅眼の亜黒竜でブレイブポッポに攻撃だ!」

 

「……! 相打ち……?」

 

 レールが伸びていくと飛んでいる竜の尻尾を絡めとり、そこを通って機関車が走っていった。加速した機関車が燃えだすと、炎の矢となって体当たりを仕掛ける。すると身動きを封じられている竜は雄叫びを上げ、身体に刻まれたラインを完全に輝かせると、そこから無差別に茜色の光線を放った。

 

「ブレイブポッポが……」

 

 尻尾から放たれた光線でレールが消し飛んでしまう。無防備をさらけ出した機関車に避ける術はなく、光線が機関車を貫いた。

 

「けど、レッドアイズだって!」

 

「悪いね。真紅眼の亜黒竜は戦闘か相手の効果で破壊された場合に、墓地の真紅眼の亜黒竜以外のレベル7以下のレッドアイズを復活させられるのさ!」

 

(闇の増産工場が残っていれば、霊廟の守護者も復活させてドローに充てたいところだったけどね……)

 

「……!? まさか……」

 

「もう一度頼んだよ! 真紅眼の黒竜!」

 

 やがて発光が収まると、描かれたラインが剥がれていくように消えていった。

 

「さらにこの効果で真紅眼の黒竜を特殊召喚した場合、元々の攻撃力は倍になる!」

 

「えっ!? 真紅眼の黒竜の本来の攻撃力は2400……!」

 

「それが倍ってことは……!」

 

 無差別に放っていた力を制御できるようになった真紅眼の黒竜は紅き眼を一段と鋭く光らせた。

 

真紅眼の黒竜 攻撃力2400→4800

 

「「攻撃力4800……!?」」

 

「早速味わってもらおうか! キングドラグーンに攻撃だ! 黒炎弾!」

 

(頭数を減らすより、ダメージを優先してきた……!)

 

 竜の顔を覆うほどの大きさの黒炎が放たれると、キングドラグーンも雷を纏ったエネルギー弾で応戦する。しかし今度は爆発は起こらず、雷弾を掻き消すほどの黒炎がキングドラグーンに直撃した。辛うじて耐え切ったキングドラグーンだったが、その身に受けた傷がダメージの大きさを何よりも語っていた。

 

「うっ……!」

 

レイ&ユキ LP4000→1600

 

(こちらの攻撃表示モンスターは両方攻撃力が2400もあった。それなのにここまでのダメージを与えてくるなんて……!)

 

「カードを2枚伏せてターンを終了するよ!」

 

「この瞬間、サイバネティック・レボリューションで呼び出したサイバー・エタニティ・ドラゴンは破壊される」

 

 機械竜は光の粒子となって霧散した。無数の粒子が彼らのフィールドに降り注がれていく。

 

(……破壊されるまでの猶予で大型モンスターを呼び出されちゃった。サイバー・エタニティ・ドラゴンがいなくなったここで、反撃に移りたいのに……)

 

吹雪&亮 LP4000

 

フィールド 『真紅眼の黒竜』(攻撃表示)

 

セット3

 

手札0(吹雪) 手札5(亮)

 

「……レイちゃん、お願い!」

 

「うん! 任せてよ!」

 

(このターンで僕がやるべきことは二つ。反撃に移ることと……亮様の攻撃に備えることだ)

 

「僕のターン……ドロー! ……アームズ・ホール発動! このターンの通常召喚を放棄する代わりに、デッキの一番上のカードを墓地に送って、デッキから装備魔法を1枚手札に加える!」

 

(さっきのターンで恋する乙女に攻撃してたらキューピッド・キスでコントロールを奪いにいくところだったけど、乙女カウンターが乗ってない今は……このカードだ!)

 

「僕はハッピー・マリッジを手札に!」

 

「よし! そのカードなら! 行っけー、レイ! 一発ぶちかましてやれ!」

 

「う、うん! やるよ僕! ハッピー・マリッジをキングドラグーンに装備だ!」

 

 恋する乙女の投げキッスがキングドラグーンに飛ばされると、やる気を出したキングドラグーンは普段以上の力を漲らせていった。

 

「装備モンスターの攻撃力は、僕達の場にいる元々の持ち主が相手となるモンスターの元々の攻撃力分アップする!」

 

「……! キングドラグーンは元々僕のモンスター。つまり……」

 

「攻撃力が……倍になるというわけか」

 

竜魔人 キングドラグーン 攻撃力2400→4800

 

「攻撃力が並んだっす!」

 

「キングドラグーンは奇跡のマジック・ゲートにより戦闘では破壊されんからな……。上回ったも同然と言えるだろうな」

 

「バトルだ! キングドラグーンで真紅眼の黒竜に攻撃! トゥワイス・トワイライト・バーン!」

 

 三度(みたび)双方のドラゴンが口先に力を集めていくと、今度はキングドラグーンも真紅眼の黒竜に負けないほどの大きさのエネルギー弾を生成していた。

 

「過度な力は怪我の基だよ! トラップ発動! オーバースペック! 元々の攻撃力よりも高い攻撃力を持つフィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「……! ここで対象を取らないトラップ……!?」

 

「……で、ですが、これでは攻撃力が同じく倍になっている真紅眼の黒竜も……」

 

「違うわももえ。どちらも倍になっているけれど、異なる上がり方をしているのよ」

 

「……あっ! そ、そうか! キングドラグーンは元々の攻撃力分、攻撃力が上がってる。それに対して……」

 

「ああっ……!? 真紅眼の黒竜は元々の攻撃力が倍になっていましたわ……!」

 

「そう……つまり、真紅眼の黒竜はそのスペック通りの力を発揮しているのよ」

 

 内に秘める力を制御してエネルギー弾をコントロールする真紅眼の黒竜に対し、キングドラグーンは生成したエネルギー弾を扱い切れていなかった。

 

「長居させすぎたからね。そろそろ返してもらうよ」

 

 そして真紅眼の黒竜が黒炎を放つ体勢に入り、キングドラグーンも再び受ける訳にはいかないと同様の体勢に入った。しかしその無謀な挑戦により、黒炎を受ける前に自らの力が降り注ごうとしていた。

 

「そうはさせない? 逆さ眼鏡を発動……! このターンが終わるまで、全てのモンスターさんの攻撃力が半減します!」

 

「なっ!? それじゃあ……!」

 

「忠告を受けて、こちらも本来のスペック通りに?」

 

 すると次の瞬間、生成されたエネルギー弾が本来の大きさへと戻っていく。それによりコントロールを取り戻したキングドラグーンが難を逃れながら攻撃を放つと、真紅眼の黒竜も同程度の大きさに戻った黒炎を放った。

 

真紅眼の黒竜 攻撃力4800→2400

 

竜魔人 キングドラグーン 攻撃力4800→2400

恋する乙女 攻撃力400→200

 

「元々の攻撃力に戻ることで、オーバースペックでの破壊を避けたか……!」

 

「しかも真紅眼の黒竜の攻撃力も一緒に下げられた……!」

 

「ナイス、ユキ!」

 

「こちらこそ? レイちゃんが突破口を開いてくれたから、このカードも生きたんだよ」

 

「へへっ、そっか。なら僕達の攻撃を師匠に受けてもらおう!」

 

「うん!」

 

 中間点で起こった爆発が両者を包み込む。するとキングドラグーンは雷を身に纏い、耐熱装甲としていた。

 

(……参ったな。キングドラグーンを奪われたのが、ここまで響いてくるなんてね……!)

 

 爆発に巻き込まれた黒き竜は墜落し、翼を閉じたまま身体が地面に叩きつけられた。

 

「くっ……! やるね二人とも!」

 

(……あれっ。霊廟の守護者を蘇生させない? 真紅眼の黒竜も手札に戻せるのに……)

 

「……まだまだ勝負はこれからだよ! 僕は恋する乙女を攻撃表示に変更! カードを……2枚伏せてターンエンドだ!」

 

「この瞬間、逆さ眼鏡の効果は終了します」

 

(……! 恋する乙女は攻撃表示の時、バトルでは破壊されない。それに関連したコンボを仕掛けるつもりか)

 

恋する乙女 攻撃力200→400

竜魔人 キングドラグーン 攻撃力2400→4800

 

レイ&ユキ LP1600

 

フィールド 『竜魔人 キングドラグーン』(攻撃表示)『恋する乙女』(攻撃表示)

 

セット3 『ハッピー・マリッジ』

 

手札0(レイ) 手札2(ユキ)

 

「俺のターン、ドロー! ……相手フィールドにのみモンスターがいることで、墓地のコアを除外してその効果を発動する!」

 

「……! そっか……」

 

(師匠が霊廟の守護者の効果を使わなかったのは恐らくこれのため。ただ、微妙なところ。霊廟の守護者はステータスが低いわけじゃないし、サルベージも可能。そこまでするの……?)

 

「デッキよりサイバー・ドラゴン・フィーアを呼び出す!」

 

 デッキに突き刺さったプラグから引っ張り出されたのは淡い紫色の金属光沢を放つ機械竜だった。

 

サイバー・ドラゴン・フィーア 攻撃力1100

 

「フィーアが場にいる限り、サイバー・ドラゴンの攻守が500上昇する! よってサイバー・ドラゴンとして扱う効果を持つフィーアも強化される!」

 

サイバー・ドラゴン・フィーア 攻撃力1100→1600 守備力1600→2100

 

「さらに墓地のサイバー・エタニティ・ドラゴンを除外することでその効果を発動する! これによりこのターン、俺の場の融合モンスターは相手の効果の対象にならず、また相手の効果では破壊されない!」

 

 彼らのフィールドに降り注いだ無数の粒子が体を守る細胞のように外敵から身を守るヴェールとなった。

 

「……! サイバー・エタニティ・ドラゴンが持っていたのと同じ耐性を……!?」

 

「しかも融合モンスターがいない状況で使ったということは……!」

 

(サイバネテイック・レヴォリューションであのモンスターが呼び出された時、防ぎ切れば良いと思った。けど、全てはこの一撃のためだったんだ……!)

 

 二人が緊迫した表情で亮を見つめる中、彼は手札から1枚のカードを取り出し、発動させた。

 

「パワー・ボンド……!」

 

(お兄さんはパワー・ボンドの力に驕らず、最大限に生かすための布石を打っていたんだね……)

 

「このカードにより機械族融合モンスターの融合召喚を行う! 融合呪印生物—光をサイバー・ドラゴンとして扱い、3体のサイバー・ドラゴンを融合させる!」

 

 火花が散り、結合された3つ首の機械竜が出現した。猛り、唸り、吠える様は相対する二人の身を否が応でも震わせる。

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000

 

「サイバー・エンド・ドラゴン……!」

 

(やっぱり来た……! 恋する乙女を守備表示にしていても、安全じゃないと思ってたよ)

 

「亮さんのエースモンスター……! しかもパワー・ボンドの効果で、攻撃力が元々の攻撃力分上がる……!」

 

 胴体が天井に届くかというほど伸びていき、遥か上から見下ろすサイバー・エンド・ドラゴンの迫力は圧巻という他なかった。しかし二人はその身の震えを認めながらも、後退することはなく向き合っていた。

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000→8000

 

「俺もその覚悟に応えよう。バトルだ! サイバー・エンド・ドラゴンでキングドラグーンに攻撃する! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

「このターン、ユキ達はサイバー・エンド・ドラゴンを効果の対象にも、効果で破壊することも出来ないっす……!」

 

「絶体絶命のピンチってやつだな……!」

 

 それぞれの首から放たれた光線が1つに交わり、圧倒的な力となってキングドラグーンに襲いかかった。とっさに通常の倍の雷弾を放つことに成功したが、それでも威力は目に見えて足りなかった。

 

「ひっくり返してみせる! トラップカード、大番狂わせ! このカードは僕の場に攻撃表示で存在するレベル2以下のモンスターをリリースすることで発動できる!」

 

「何……!?」

 

(……しまった。攻撃表示の時に戦闘で破壊されない効果があるからといって、伏せカードもそれに関連したものと思い込んでしまった……)

 

「僕は恋する乙女をリリース! 頼んだよ!」

 

 すると両者の間に乙女が割り込んだ。誰もが無謀かと思うような行動だったが、なんと乙女はそれぞれの手で光線と雷弾を受け止めていた。

 

「その効果で、フィールドの特殊召喚されたレベル7以上のモンスターを全て手札に戻す!」

 

「なんだって!? それじゃあサイバー・エタニティ・ドラゴンの効果をすり抜けて、レベル10のサイバー・エンド・ドラゴンを……!」

 

「レベル7のキングドラグーンも巻き込まれちゃうのは惜しいけど、背に腹は変えられない!」

 

 しかし受け止めた乙女の身体は限界を超えて消えてきていた。そんな身体でも乙女は攻撃を放った両者に憎しみの表情ではなく、笑顔を見せて消滅した。それによりキングドラグーンはようやく裏切っていたのが自分の方だと気づき、主のもとへと戻っていく。そしてサイバー・エンド・ドラゴンもその後を追った。

 

「……えっ!?」

 

「融合……解除……!?」

 

「……危なかった。だが、俺とて一つの策に溺れはしない。この速攻魔法によりサイバー・エンド・ドラゴンを一手早く融合デッキに戻し、融合素材一組を呼び戻させてもらった」

 

 しかし場には彼の子とも言うべき機械竜が取り残されていた。

 

サイバー・ドラゴン×2 攻撃力2100→2600

融合呪印生物—光 守備力1600

 

(サイバー・エタニティ・ドラゴン以外にも策があったなんて……!)

 

(俺の場には攻撃力1600のフィーアがいる。その上で使ったということは、まだ防御策はある。だがこの追撃に耐えられるか?)

 

「サイバー・ドラゴンでダイレクトアタックだ! エヴォリューション・バーストッ!」

 

 空いた場を機械竜の光線が通過していく。

 

(貫通効果のあるサイバー・エンド・ドラゴンさえいなければ……!)

 

「トラップカード、ピンポイント・ガード! 相手モンスターの攻撃宣言時にユキ達の墓地からレベル4以下のモンスターを守備表示で呼び戻すことができます。レイちゃん、恋する乙女を!」

 

「……! 分かった!」

 

 終わらぬ戦いに悲しげな顔をしながら乙女が戦場へと舞い戻った。

 

恋する乙女 守備力300

 

「この効果で呼び戻したモンスターさんはこのターン破壊されない?」

 

「くっ、やるな……! 攻撃を中断し、バトルフェイズを終了する……」

 

「よし! 攻撃を防ぎきった!」

 

「パワー・ボンドはその効果で上昇させた攻撃力分のダメージを、エンドフェイズに発動したプレイヤーへ与える……」

 

「だからこそ亮は決死の猛攻を仕掛けた。けどレイとユキはそれを凌ぎ切った。勝負は決したのかしら……」

 

「……いや……。ここまでお兄さんには驕りは見られなかったっす。攻撃が必ず通るとは思っていなかったからこそ、融合解除で備えていた。なら……」

 

「俺は融合呪印生物—光の効果を発動する! 自身をサイバー・ドラゴンとして扱い……生贄融合(リリースフュージョン)! 再び出でよ! サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

「サイバー・エンド・ドラゴンを呼び戻した……!?」

 

「融合モンスターをまるで自分の手足のように……」

 

 主の声に呼応し、巨大な3つ首の機械竜がもう一度その姿を現した。

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000

 

「……け、けど! サイバー・エンド・ドラゴンがいても効果ダメージを打ち消すことはできない!」

 

「直接的にはな」

 

「えっ……」

 

「一体何を……?」

 

「フィーアをリリースし、トラップ発動! 苦渋の黙殺! リリースしたフィーアと元々のカード名が異なり、かつ元々の種族・属性・レベルが同じモンスターを1体デッキから手札に加える!」

 

「つまり機械族・光属性・レベル4のモンスターを……」

 

「どのサイバーモンスターを手札に加えるのかな……」

 

「俺はヒール・ウェーバーを手札に加え、召喚する!」

 

「……! サイバーモンスターじゃない……!?」

 

 機械竜の残滓が集結して新たな生命が生み出されると、鏡にメーターとボタンを取り付けたマシーンが誕生した。

 

ヒール・ウェーバー 守備力1600

 

「このカードにより俺のデッキは輝きを増す! サイバー・エンド・ドラゴンを対象にヒール・ウェーバーの効果発動! 1ターンに1度、このカード以外の俺の場のモンスターを選択し、そのレベル×100のライフを回復する!」

 

「ライフを回復……!?」

 

「そんな……あれほどの猛攻を仕掛けて、尚。……あっ!」

 

(……そう、だったんだ。霊廟の守護者を呼ばなかったのは……パワー・ボンドのデメリットによる敗北を回避するため、だったんだ……)

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの姿が鏡に映し出されると、ボタンが押され、メーターに10の表示が浮かび上がった。すると鏡の裏側から光が亮に向かって照射される。

 

吹雪&亮 LP4000→5000

 

「出来ることならこのターンで決めたかったけど、こうなったら仕方ないね」

 

「ああ……カードを1枚伏せてターンエンドだ! 俺はパワー・ボンドの代償を受ける……!」

 

吹雪&亮 LP5000→1000

 

フィールド 『サイバー・エンド・ドラゴン』(攻撃表示) 『ヒール・ウェーバー』(守備表示)

 

セット2

 

手札0(吹雪) 手札0(亮)

 

「……それでも攻撃を凌いだのは無駄じゃない! サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は元々の数値になったし、ライフも1000まで減らすことができたんだから!」

 

「うん……! 後は、任せて! ユキのターン、ドロー! ナイト・エクスプレス・ナイトはレベル10だけど、攻撃力を0として妥協召喚できる! さらにアドバンスドロー発動? レベル8以上の自分フィールドのモンスター、ナイト・エクスプレス・ナイトをリリースして2枚ドローします」

 

(分かってるよ、ユキ。貫通効果があるサイバー・エンド・ドラゴンがいる以上、守りには入れない。このターンで勝負にいくんだよね)

 

(二人で協力してなんとか繋いだターン……勝機があるとしたら、ここしかない! そのためには……!)

 

「……ドローッ! ……!」

 

(来た……!)

 

 固唾を呑んでギャラリーが見守る中、カードが引き抜かれた。そのカードを確認したユキは目を見開き、そして前を見据えた。そこには亮が待ち構えていた。

 

(来るか……)

 

「レイちゃん、伏せカードを!」

 

「うん! マジックカード、二重魔法(ダブルマジック)! このカードを発動するためにユキは手札のマジックカードを1枚捨てる!」

 

「融合を墓地に!」

 

「さらに相手の墓地のマジックカードを1枚選び、自分のカードとして発動させる!」

 

「ユキが選ぶのは——」

 

「……! まさか……」

 

 レイが発動したカードからマジックハンドが伸びていくと、1枚のカードを掴み取り、ユキに授けていった。

 

「——パワー・ボンド!」

 

「なっ! パワー・ボンドを使うっていうのかい……!?」

 

「はい! これにより機械族融合モンスターの融合召喚を行います! 手札の融合呪印生物—地を召喚師アレイスターとして扱い——」

 

(このモンスターさんに……)

 

「光属性の恋する乙女と——」

 

(僕達の全てを懸ける!)

 

「「融合!」」

 

 爆発と見紛うような大量の火花を散らしながら、渦に取り込まれた2体のモンスターの力が束ねられた。

 

「融合召喚! 出撃せよ! 召喚獣メルカバー!」

 

 渦が収まると、現れ出でたのは戦車の身体をした機械獣。鋭い爪を持つ前脚に対し、後脚はそれぞれ車輪となっており、搭乗する騎士の攻撃の補助と移動をこなせる形態をしていた。

 

召喚獣メルカバー 攻撃力2500

 

「パワー・ボンドの効果で元々の攻撃力分、攻撃力が上昇します……!」

 

召喚獣メルカバー 攻撃力2500→5000

 

「攻撃力5000だと……!?」

 

「まさかユキがパワー・ボンドを使うとは思わなかったっす……!」

 

「これなら決着をつけられるぜ!」

 

(エンドフェイズにはパワー・ボンドの代償が待ち受けてる。もう、後戻りはできない)

 

「バトル! メルカバーでサイバー・エンド・ドラゴンに攻撃……!」

 

 既に覚悟を決めていたユキに迷いはなかった。機械獣が駆け出し、機械竜へと接近していく。

 

「トラップ発動!」

 

 すると亮の声が聞こえてきた。その声はギャラリーが思わず呆気に取られたこともあり、ユキの耳によく響いてきた。

 

「ファイナル・フュージョン!」

 

「そのカードは……!?」

 

「十代様とのデュエルで決着をつけた……融合モンスターの攻撃力の合計をお互いに受けるカード……!?」

 

(亮……)

 

 言葉を失っていたギャラリーが次第にざわめき立つ。卒業模範デュエルの決着が二戦とも引き分け、という結末は誰一人として予想していなかったからだった。収まる気配はなかったが、段々とある声が目立ち始める。

 

「あの二人に引き分け、というのは凄いことですわ」

 

「ええ、そうよね」

 

「兄さんと亮の攻撃を耐えるのも大変だったはずだもの。よくここまで持ち込んだと思うわ」

 

 しかし、亮とユキにはギャラリーの声は聞こえていなかった。

 

(亮さんが引き分けという道を示してきた。つまり進める道は……二つ。このまま引き分けを受け入れるか。あるいは……)

 

 ユキは亮と並び立つことを目標としていた。そしてそれが叶う道の先で彼が待っていた。するとユキは彼が立っていない、もう一つの道を見た。

 

(勝利に繋がるカードがあれば、そちらを使えばいい。その上で発動したのが、引き分けに持ち込むカードであるなら。……この勝負、ユキ達の勝ちだ……!)

 

「メルカバーの効果を発動します! 1ターンに1度、発動されたカードと同じ種類の手札を1枚墓地に送ることで、その発動を無効にして除外する! ユキはディーラーズ・チョイスを墓地に送って……ファイナル・フュージョンを無効にします!」

 

「……!」

 

「な……なんだって!?」

 

(よし! ユキの手札にトラップカードがあった……!)

 

 機械獣の額に埋め込まれた宝石が紫色に輝くと、亮が発動したトラップカードは次元の彼方へと飛ばされて封印されてしまった。

 

「力あるカードにはリスクが伴う……」

 

「……!」

 

「パワー・ボンドはそれを体現したカードだ。そしてユキ……お前がこのカードを使うのであれば。それを分かった上で使うと、そう思っていた。……吹雪!」

 

「……まったく、君ってやつは! トラップカード、燃える闘志をサイバー・エンド・ドラゴンを対象に発動し、装備! 元々の攻撃力より攻撃力が高いモンスターが相手フィールドに存在する場合、装備モンスターの攻撃力はダメージステップの間、元々の攻撃力の倍になる!」

 

「え……」

 

「嘘でしょ……!?」

 

 接近した機械獣が爪を薙ぎ払い、騎士が剣で斬りかかった瞬間。機械竜の胴体が再び天井まで伸びていき、首元を狙っていた双方は切り落とすことはできなかった。そして、二つのブレスに誘導されて一箇所に固まってしまった二人に、渾身のブレスが襲い掛かった。

 

「きゃあっ……!」

 

「あああっ……!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000→8000

 

レイ&ユキ LP1600→0

 

 こうして決着がついた。ギャラリーが今日一番のざわめきを見せる中、ソリッドヴィジョンが静かに消えていく。すると亮と吹雪が二人に歩み寄っていった。ユキは顔を伏せて悔し涙を拭うと、その顔を上げた。

 

「……ユキ。このカードを受け取ってくれないか」

 

「……! パワー・ボンド……良いんですか?」

 

「ああ。お前に受け取って欲しい。俺は……今日、ここにいる誰よりもお前がこのカードを使う姿が想像できていた。だからこそ、最後の駆け引き……迷わなかったのかもしれないな」

 

「……そっか。亮さんは、卒業した後も。翔さんとユキがお互いに高めあって、リスペクトデュエルをもっと昇華させて欲しい。……そんな真意が、このカードには込められているんですね」

 

「ああ。そうだ」

 

「大事にします」

 

 パワー・ボンドがディスクから取り出されると、亮はユキの目を見てそのカードを渡した。今のデュエルで痛いくらいに彼の気持ちが伝わってきたユキは少し困ったような表情を浮かべてから、綺麗な笑みを見せてそれを受け取ったのだった。

 

「亮さん。卒業、おめでとうございます。あなたは先へ進んでしまうけれど……いつか、絶対に。追いついてみせます」

 

「……! ふっ……ははは! ……ああ。待つことはできないが、進みながらその時を期待しているぞ」

 

 ユキが手を差し出すと、亮は目を丸くしてからその手を握った。そんな二人を拍手が包み込み、卒業模範デュエルの幕は賑やかに閉じられたのだった——。



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