この眠れる騎士に祝福を (【ユーマ】)
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第0話『眠りに付く騎士』

しんみり+シリアス系な内容ですが、現時点ではこの第0話だけの予定です。原作がこのすばと言う事もありますし、今後『このすば』らしくないシリアスを入れるかどうかはまだ未定です。


 大きな湖畔、その真ん中に浮かぶ一つの浮き島。巨大な大木その周りを花が咲き乱れるその場所に俺は立っていた。

 

「怒るだろうな、あいつ……」

 

 そんな事を呟くと、同じギルドのメンバー、そして、ギルドは違うが一緒にこの世界を冒険した仲間達の視線が集まる。。

 

「『なるべくゆっくり来るんだよ』、って言ってたのになぁ。ものの一ヶ月でこのザマか……」

 

 もう立っているのも辛いし、さっきから意識が遠くなりそうになってるのがはっきりと自覚できた。手に持っていた一枚のスクロール、この場に居るみんなを見渡し、やがてそれを同族の刀使いにそれを渡す。

 

「あいつの技ほどスゲーもんでもないから、これをどうするかは任せるよ……」

 

 そして、浮き島の縁に立って、最後にもう一度仲間達の方を振り返る。

 

「そんじゃ……そろそろ、行くわ。おとなしくしてるとは言ってたけどあいつの事だ、ぜってー待ちきれずににあっちにフラフラこっちにフラフラし始めているだろうしな」

 

 そう言って、何時ものように羽を展開し、その場から飛び立つ。そして、ある高度に到達したところで停止。霞む視界に喝を居れ、目の前に広がる世界を目に焼き付ける。この目に映る最後の光景は無機質な白い病室ではなく、この世界の風景にしようと最初から決めていた。

 

(……ったく、自分だけ言いたい事言って、俺の返事は聞かずに逝きやがって、あんたは満足だろうがこっちは墓まで持ってくしかなくなったんだぞ)

 

 友人である水色の髪をしたフェンサーの腕の中、今際の際に彼女が残した言葉。

 

『ホントはね、ぼく……クロムの事、ずっと……ずっと、大好きだったよ……』

 

 返事は要らない、単なる最後のわがままだから聞き流してくれてかまわない、との事だったが……

 

(流せる訳、ないよなぁ……)

 

 今でも耳に残っている告白の言葉。お互い、明日をも知れぬ身……いや、いずれ死に別れる事がほぼ確定しているような身の上だ。死別の悲しみを少しでも抑える為にも、友人、もしくは闘病仲間、と言う間柄がちょうど良いと、ずっと想いは伏せ続けて、友人以上の感情は無いという風に振舞い続け、あいつにはそう言う気持ちにはさせないようにしていたのだが、何がきっかけだったのやら……。そこまで考えたところで、本格的に意識が遠くなり始め、飛翔状態も維持できなくなってアバターが水面へと向けて落ちて行く。

 

(もし……)

 

 死後の世界や生まれ変わり、そういったものがホントにあるのなら……

 

(もし、もう一度会う事ができたのなら……)

 

 そこで俺の意識は途切れる。それは俺の人生の終わり。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、神埼 黒斗さん。残念ですが貴方は先ほどなくなられました。短い人生でしたが貴方の生は終わってしまったのです」

 

 そして、全く予想だにしない形で俺の人生は再び始まりを告げた。



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第1話『天国?転生?それとも異世界?』

 何も無い、真っ暗な空間。その中にポツンと用意された椅子に俺は座っていた。黒いミドルヘアーに水色の病人服。最後にログインしてたゲームのアバターではなく、現実の自分の姿でだ。

 

「ようこそ、神埼 黒斗(かんざき くろと)さん。残念ですが貴方は先ほど亡くなられました。短い人生でしたが貴方の生は終わってしまったのです」

 

 そして、目の前に居るのは一人の天使。死んだらどうなるのか、死後の世界はあるのか、ぼんやりとそんな事を考えてはいたが。ホントにあったんだな、死後の世界って。

 

「随分と落ち着いていらっしゃいますね。貴方ぐらいの年齢の人達は自分の死を告げられると、嘆いたり取り乱したりするものなのですが」

 

「まぁ、二十歳まで生きられないだろうとは予め言われていたので。未練は残っていても、受け入れる準備ぐらい出来ますよ」

 

 小さい頃から不治の病を患ってるのが確認され、二十歳まで生きられるかどうか分からない状態だった。そして半年前に余命宣告を受けて、宣告どおり先ほど俺はその生涯を終えたと言う訳だ。

 

「そうですか。では、改めまして、初めまして神崎 黒斗さん。私は若くして死んだ人間を導く女神……の、代理をしている天使です」

 

 代理?女神や天使でも風邪とか引いて病欠したりするのだろうか?そんな疑問が顔に出ていたらしく、天使は困ってるような、呆れてるような、そんな複雑な表情に変わる。

 

「実は不測の事態がありまして、日本を担当していたはずの女神が不在になってしまったのです。それで、代わりの女神を派遣しようにも色々手続きもあるのですぐにはとは行かず……」

 

 なんと言うか、神々と天使の世界も現実の企業同様色々大変らしい……

 

「コホン、さて、お亡くなりになってしまった黒斗さんには二つの選択肢があります。一つは今までの記憶や経験を全てリセットし、新たに人として生まれ変わる事。もう一つは天国で永遠の安寧の中で生きること」

 

 完全に生まれ変わるか、天国に行くかの2択と言う訳か。

 

「ちなみに天国の暮らしってどんな感じなんでしょうか?」

 

 もし、自分としてのまま天国で普通に暮らしていけるならそれに越した事は無い。目の前の天使に訊ねてみると――

 

「結論から言うと、何もありません。病も怪我も苦しみも、その代わり食事も飲み物も娯楽……というよりモノがありません。過ごしやすい穏やかな空間で何もせず日向ぼっこをして過ごし、たまに他の死者と会話する。そんな暮らしです」

 

 よし却下。その暮らしの何が楽しいと言うのか。となると自分という存在が消えるのは残念だが、ここはやはり生まれ変わりを選ぶしかないだろう。

 

「本来でしたらこの2つのどちらかなのですが、今の貴方にはもう一つ選択肢があります」

 

 もう一つ?

 

「それって……もしかして地獄行きって奴ですか?」

 

「いいえ、黒斗さんには今の記憶と人格のまま。別の世界で生き返ってもらいます」

 

 簡単にまとめるとこうだ。剣と魔法、いわゆるファンタジーの世界があり、その世界は魔王に支配されそうになっている。そして魔王の軍勢に殺された人々が怖がってしまい、その世界での生まれ変わりを拒否。現在その世界では赤ちゃんが生まれる事が少なくなり始めているとの事。

 

「緊急で神様会議を開き、協議した結果。貴方達の様に若くして死んでしまった、まだ生に対して未練が強いであろう魂をあちらに送り込む。貴方達で言う所の移民政策的な事を行う事になりました」

 

(異世界転生、かぁ。面白そうでは有るけど、自分ではその世界に生まれ変わっても、速攻でモンスターに殺されそうなんだよなぁ……)

 

 ゲームの世界でなら自分はモンスターにも負けないほどの剣士だ。けれど、現実の自分は非力な16歳の少年でしかない。

 

「勿論、そのまま世界に放りだす事はしません。貴方達が新しい世界で生きていける様に、そして魔王を討ち、世界に平和をもたらす勇者となれるように転生された方たちには一つだけ特典をつけています」

 

「特典?」

 

「はい、優れた才能や能力、もしくは強力な神器。それを一つだけ貴方に授けます」

 

 そう言いながら、天使は何もない所か一冊の本を取り出し、俺に渡してきた。その中身は特典の一覧。《超怪力》や《魔剣グラム》など、色々な能力や装備の詳細が書かれている。装備品項目の中に、大きくバツ印が付いてるのは、他の誰かが持っていったのだろう。

 

「後、お分かりかと思いますが特典として私たち天使や神様たちを連れて行くのは当然無しですからね」

 

「いや、しませんって。と言うか、そういうことする奴なんて……」

 

 居ないでしょう、と、言いかけて言葉を止める。そう言えば、先ほど元々此処を担当していた女神が不測の事態で居なくなった、と言っていた。そして今の天使の言葉……

 

「もしかして、居たんですか?」

 

「……はい」

 

 マジか、そりゃ神様のご加護どころか直に協力を得られるのは大きなアドバンテージなのだろうが。と言うか、良く受理されたもんだ……

 

「なにぶん、初めてのケースでしたので。ですが、ここを担当していた女神は、その……素行に少し問題があり、その転生者の要望もどう処理すればいいかも分からなかったので、とりあえずそのまま送っちゃえばいいか、と言う結論に」

 

 なんかもう、色々と酷い話だ。これ以上、神様達の裏事情を聞けば聞くほど神様=神々しい存在というイメージがドンドン崩れていく。さっさと選んで生き返ろう、そうしよう。

 

(装備とか道具は万一なくした時が困るからなぁ……ここは才能や能力系にしておくのが無難か……ん?)

 

 才能系の特典の中の《コンバート》と呼ばれるものが目に付いた。

 

「あの、この《コンバート》と言うのは?」

 

「えっとですね。そちらは貴方達の世界の娯楽の一つ。VRMMMOと言うモノをプレイしていた人だけが選べる能力で、その人がプレイしていたキャラのスキルを貴方自身の素養として引継ぐ、と言うものです。」

 

 なんでも、去年一昨年に日本で何千という人々が死に、日本を担当していた女神は涙目になるほどの大忙しだったそうだ。

 

(恐らく、SAO事件の事だな……)

 

 世界初のVRMMORPG《ソード・アート・オンライン》。フルダイブと言う、まさしく違う世界に来たと言っても過言ではないほどのリアリティを持ったVRMMORPGとして、世界的に有名となったその作品はサービス開始と同時に、ゲームの中で死ねば、リアルの自分も高出力のマイクロウェーブにより脳を破壊され死ぬという命がけのデスゲームと化した。サービス開始から2年後、ゲームはクリアされてプレイヤー達は帰還したのだが、それでも死者は約6千人にも及ぶ大事件となった。

 

「一応、こちらのカタログにも載ってないものでも要望があれば可能な限り受け付けています。そんな中、SAO内での自分の能力を特典として望む方が沢山いまして、それでいっそのこと正式な特典の一つとして取り扱う事にしたのです。勿論、SAOに限らず他のオンラインゲームにも対応しています」

 

 注意点として引継げるのはソードスキルや魔法といった戦闘に用いるアクティブスキル系列のみ。《戦闘回復(バトルヒーリング)》の様なパッシブ系や生産に関わるスキルは引継げない。また、引継がれるのはその人が生前にコンバート元のキャラクター覚えさせた系列のスキルのみ。

 

「また、本来であればその人自身の身体機能等で決定される異世界での貴方の初期ステータスも、引き継ぎ元のキャラの影響を受けます。まぁ、少なくても《コンバート》を選ぶ事で、本来の黒斗さん自身のステータスよりも総合的に低くなる事は無いのでご安心下さい」

 

 あくまで、どのステータスが成長しやすいかといった傾向や、初期値違いが出る程度との事だ、簡単に言えば現実ではバリバリの肉体派なら本来は物理職向けのステになるが、魔法使いキャラの引継いだ場合はその人の初期ステータスは魔法職向けになる、と言う事らしい。と、一通りの説明は受けたが、自分の中では既に答えは決まっていた。

 

「この《コンバート》にします。引継ぐゲームはALO。キャラはサラマンダーの刀使い、《クロム》」

 

 まぁ、俺はALOしかやってなかったので、引継ぐキャラは一択なんだが。

 

「分かりました。それでは魔方陣の中心に立ってください」

 

 天使がそう言うと同時に足元に魔方陣があらわれ、身体がゆっくりと浮かび始める。

 

「神崎 黒斗さん。貴方をこれから異世界に送ります。魔王討伐の勇者候補の一人として。魔王を討伐した暁には神々から贈り物を授けましょう。世界を救った偉業に見合った贈り物……例えば、なんでも一つ願いを叶えましょう」

 

 なんでも、か……つまりは魔王を討てば日本に帰る事も出来るというわけか。

 

「さぁ、勇者よ!」

 

 天使は両手を広げ、俺を見上げる。

 

「願わくば、数多の勇者候補の中から、貴方が魔王を討ち倒す者である事を祈っています。さぁ、旅立ちなさい!」

 

 光が俺の包み込み、視界が白一色に染まる。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、異世界……」

 

 次に視界が開けたとき俺の目の前には明らかに日本のそれとは違う町並みが広がっていた。




今後、このすばの原作と世界観設定で違いが出る場合は、その都度この後書きにて説明を行っていきます。


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第3話『これぞまさにリアルファンタジー(笑)』

 VRMMORPGも、確かにファンタジーの世界に来たと思えるほどリアリティだった。とは言え、画面にHPゲージが見えたり、モンスターも死体はポリゴン片となって消えたりと、その世界はあくまでゲームである事を認識させる要素があった。

 

 

(けれど、此処にはメニュー画面もないし、HPゲージも無い)

 

 正真正銘、本物のファンタジーの世界。その世界で心踊るような冒険をする……はずだったのだが。

 

(まぁ、ゲームの様にとんとん拍子とはいかないという事か……)

 

 実際はこうしてコテ板片手に壁の建築作業をしている。この街に降り立った後、街の人に冒険者ギルドの場所を聞いて登録に向かったは良いが、冒険者登録には普通にお金が取られる。幸い、駆け出し冒険者の集まる街と言うだけあって、冒険者志望の人や冒険者稼業だけでは食っていけない人の為にバイトの斡旋もしてくれてるらしく、こうしてバイトにいそしんでいる訳だ。

 

(どの道、登録だけでなく装備も揃えないといけないし、何よりまず服を確保しないと……)

 

病人服と言う者を知らない人にとっては、俺の服装は服の形をした布を纏っている状態に近い。ギルドの受付のお姉さんを始め、何人か哀れむような視線をこちらに向けていた。

 

(暫くバイトだなぁ……)

 

 

 

  *

 

 

 

「はい、登録料千エリス確かに預かりました。それでは、冒険者志望の方ならある程度は理解されてると思いますが、改めて説明させていただきます」

 

 それから数日後、私服などの日用品を揃えた俺は、改めて冒険者ギルドの登録に来ていた。受けた説明は経験値、レベル、ジョブとRPGでは良くある設定だった。少し違うとしたら、経験値はモンスターを倒すだけでなく、種族問わずに生物を殺した時や食事を摂取した時にも入る事ぐらいだ。そしてレベルが上がる事でステータスの向上と、そのジョブのスキルを覚える為のスキルポイントを入手出来るという事。それらは本来目で見る事は出来ないが、冒険者になった時にもらえる冒険者カードを使う事でそれらを数値化して確認する事が出来るらしい。

 

「それではこちらの書類に身長、体重、年齢等の記入をお願いします」

 

 差し出された書類に必要事項を記入し、受付に提出。それと入れ替わる形で免許証サイズのカードが渡される。

 

「はい、結構です。それでは次にこちらのカードに触れてください。それで貴方のステータスが判りますので、数値に応じてなりたい職業を選んで下さい」

 

 言われるままにカードに触れるとカードの一部分が輝き、文字が刻まれた。

 

「はい、ありがとうございます。カンザキクロトさんは……敏捷が一般的な平均を大幅に上回ってますね。それに筋力と魔力も敏捷ほどではありませんが割りと高い数値です。器用度と知力が平均的で生命力と運は少し低めですね」

 

 ALO時代はサラマンダーの種族で避けるタイプの魔法剣士型ビルドだったからコンバートの効果と考えれば順当な所だ。生命力と運が低いのは間違いなく地球での不幸な身の上(不治の病持ち)の所為だろう……。

 

「後は……あら?」

 

 冒険者カードを見ていた受付のお姉さんがある項目に目を止めた。

 

「既にスキルが2つほど習得状態になってますね。これはその該当するスキルに対し優れた素養を持っている時に起こる事で、大体はそのスキルに合わせた職業を選ぶのが無難とされています。それにこのスキル……《ソードスキル・刀》、ですか。去年辺りまではこの《ソードスキル》系のスキル持ちが冒険者登録に来てたのを結構見かけたのですが最近では殆ど見かけなくなったのですよ」

 

 俺のカードに表示されているスキルは《火属性魔法》と《ソードスキル・刀》の2つ。まさにALO時代の主力としていた2つだ。

 

「そうですね。オススメとしましては魔法剣士の上位職《スペルブレイド》か《キュアフェンサー》のどちらかですね」

 

 どちらも魔法剣士である事は変わらず、武器に属性付与したり、対アンデットなどの性質を付与する魔法剣を共通とし、それに加えて前者は攻撃魔法、後者は補助と回復魔法を交えて戦う職業だ。ちなみに《キュアフェンサー》の説明を受けた時、脳裏にバーサクヒーラーと呼ばれる、あるウンディーネのプレイヤーの顔が思い浮かんだのはきっと俺だけでは無いだろう……。

 

「勿論、ソードマンやウィザードからスタートして、上位職である《ソードマスター》や《アークウィザード》を目指すのも十分ありですが、どちらかのスキルを持て余す形になるのであまりお勧めはできませんね」

 

 前々から魔法剣士のスタイルで戦っている以上、ALO時代からの慣れたスタイルに近い奴を選んだほうがいいだろう。

 

「でしたら《スペルブレイド》でお願いします」

 

「かしこまりました。……はい、これで全ての手続きが完了です。ようこそ、カンザキクロトさん。スタッフ一同、貴方のご活躍に期待していますよ」

 

 こうして、冒険者ギルドへの登録を済ませた事で、本格的に冒険者として活動を開始する事が出来る様になった。冒険者となって最初にはじめた事、それは――

 

 

 

 

  *

 

 

 

「よーし、今日は此処までだ!」

 

「お疲れ様でしたー」

 

 変わらずバイトだった……。ゲームでよくある薬草採取など、比較的安全なクエストは存在してない。そう言う必要な資源がある場所なら予めモンスターは駆除されて居る訳で、そんな安全な場所への資源採取にわざわざ金を出してまで冒険者を雇う人は居ない。結果、クエストと言えば魔物の討伐などが主で、未だ装備が揃っていない俺では受ける事ができない訳だ。例え剣と魔法の世界でも現実は現実。俺の異世界生活はそれを思い知る事から始まるのだった……。

 

 

 

 




スキルについて
 作中ではスキルは冒険者登録をし職業に付かなくても剣術の才能があったり、鍛錬を積んで自力で会得したものであれば、職業にしばられずに使用できる。
 例としては紅魔族はアークウィザード以外の職業でも、ある程度魔法を習得(本人の素養によって属性の向き不向きが出てしまうが)できる。しかし、そんなことをしても特に意味は無いので結局全員アークウィザードになっている。


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第4話『同じものでも世界が変われば、色々代わる』

 異世界に飛ばされ半月が過ぎた。今、俺は街の外に居る

 

「ここまで……長かったなぁ」

 

 冒険者登録をしたはいいものの、ろくに装備や日用品が揃ってない状況を何とかするのが先でクエストなんて受けれず、バイトの毎日。しかも、この世界は元々刀なんて存在せず、刀ソードスキルを覚えてる転生者がその製法等を伝え、最近やっとアクセルの街にも流通され始めた。なので、他の武器と比べて割高なのも俺のバイト生活延長の原因の一つだった。

 

(でも、それも今日まで……)

 

 日用品も揃え、質はそれなりだが刀も購入して武器も確保した。そんなわけで俺は遂にギルドでクエストを受注。今回のターゲットであるジャイアントトードの生息してる草原にやってきた。そして、モンスターの姿を見つけ、一瞬だけ「ん?」となるも、すぐに「ああ」と納得する。

 

(まだVRMMOにINしてる時の感覚が抜け切ってないか……)

 

 ジャイアントトードの傍にHPゲージがない事に一瞬だけ疑問を感じてしまっている。敵のHPが見えないから戦闘のペース配分も感覚で覚えていくしかない。

 

(さーて、そろそろ仕掛けるか!)

 

 鞘から刀を抜きジャイアントトードに向かって賭ける。やがて相手も俺の存在を感知、迎撃、いや捕食すべく長い舌をこちらに向かって伸ばしてくる。

 

「よっ、ほっ!」

 

 が、直線的に伸ばしてくるだけならしっかりと相手を見据えていれば避けるのは簡単。やがて、こちらの間合いに捉えると同時にまずは普通に一太刀。トードが苦悶の鳴き声を挙げたがまだ討伐には至っていない。そのまま舌をいなしつつ、二太刀、三太刀と攻撃を重ねて攻撃の頻度が低下してきて、明らかに弱ってきてるのが見て取れる段階まで来た所で――

 

「そんじゃま、お待ちかねのっ!」

 

 俺は少し間合いを置き、刀のの切っ先を地面すれすれにまで下げる。すると刀身を緑色の輝きが包み込む。そのまま一気に間合いを詰め、刀を斬り上げる。ジャイアントトードの身体に緑色斬撃痕が走り、ジャイアントトードの体が少しだけ宙に浮いた、刀のソードスキル《浮船》だ。直後、俺はある違和感を感じた、と言ってもそれは決して不快なものではない。

 

(もしかしたら)

 

 そのまま続けざまに振り上げた状態からそのまま上段に構えなおそうとして……そのまま構えなおす事が出来た。すると、刀身の輝きが今度は赤に変わる。そのまま落ちて来たトードのに向かって刀を振り下ろし、返す刃で振り上げ、突きの構えを取る。すると刀身が炎に包まれる。物理と火属性、両方の性質を持つ《緋扇》、その最後の一撃をトードに放つ。刀身が突き刺さると同時にトードの肉体を突き抜けるように炎が噴出す。それがトドメの一撃となり、ジャイアントトードは仰向けに倒れ、動かなくなった。

 

「やっぱりだ、アシストもなくなってる代わりに技後硬直もなくなってる」

 

 ソードスキルはALOとSAOでは少し仕様が違うが共通してる部分が2つある。一つ目はモーションアシスト、これは各スキルの初動のモーション、すなわち最初の構えを取り、スキルを立ち上げれば後はシステムが自動でアバターを動かし、スキルの挙動を取ってくれる仕組みだ。無論アシスト中も自分でアバターを動かす事が出来るので、技の挙動を覚えてその動きを自分でとる事で威力などの性能にブーストを掛ける事が出来る。もう一つが技後硬直、ゲーム上のMPと言ったリソースの消費無しで放てるソードスキルだが、発動直後は数秒ほどアバターを動かす事が出来なくなる。故にソードスキルを避けられたら無防備な状態で反撃を喰らうリスクがある。この世界ではその2つが消えている。分析を続けているとふと頭の中にこの世界でのソードスキルについて頭の中に浮かんできた。

 

(これは……なるほど。カードを通じてスキルを習得した状態を同じと言う訳か)

 

 この世界に元々存在しているスキルは冒険者カードを通じて覚えることが出来る。覚えたいスキルを選び、スキルポイントを消費する事で魔法の詠唱や体の動かし方と言った、スキルを使用するのに必要な知識が自動で記憶の中に刻まれる。

 

(これならアシストに頼ってた連中でも問題なくスキルが使えるし、硬直が無い変わりに魔力を消費する訳か)

 

 技の挙動は身体と頭が覚えているのだからアシストが無くても問題なく、硬直は無いが変わりに魔力を消耗する。これがこの世界でのソードスキルの扱いだ。すると、こちらが分析を終えるのを待っていたかのように、地中から新たに2体のトードが姿を現した。

 

「硬直の隙さえ無いならこっちのもんだ」

 

 硬直時にサポートしてる仲間がいない為、ソードスキルを使う上で技後硬直をどうするかが一番の懸念だった。が、それが杞憂に終わったのであればこちらのもの。再び《浮船》の構えをとり、ニヤリと笑みを浮かべる。 

 

「それじゃ、このまま一気にクエストクリアさせてもらうぜっ!!」




ちなみに、魔法に関してはこの世界の魔法をそのまま使えると言う仕組みにし、魔力が足りるかどうかは置いといて、初級から上級まで全て覚えている状態です。(意訳:ALOを魔法の詠唱が分からないので書く事が出来ません)

次の話辺りからいよいよこのすば原作キャラも登場してきます。


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