if物語 市丸ギンの息子 (フ瑠ラン)
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本編
ifの始まり


藍染…ヨン様に殺され幕を閉じた市丸ギン。もしも市丸ギンがあそこでギリギリ生きていて、乱菊と結婚し、子供を授かっていたら。そんな沢山のもしものあるお話。


「ギン!どこ行ってたのギン!!それ、死神の服じゃない…!どこでそんなもの…」

 

「決めたんや。ボク、死神になる。死神になって変えたる。乱菊が泣かんでも済むようにしたる」

 

 

ボクの決意。ぼくが死神になった理由の1つ。ボクは、ボクの世界の中心にはいつも乱菊がおった。乱菊の為に全て行動にうつしとった。けど…

 

 

「ギン!!」

 

 

あかんかった。結局、乱菊のとられたもん取り返されへんかった。ああ、やっぱり

 

 

 

――謝っといて

 

 

――()かった

 

 

 

顔に水が流れる。ボクのやない、乱菊のや。泣かんで、乱菊。ボクは乱菊泣かすため死神になったんやない。泣かせないためや。

 

ああ、体が動かん。どうしたら、ええんや。乱菊の涙さえ拭うこともできん。

 

ああ、だめやなぁ、ボク。何も乱菊のために出来とらんやないの。ここ何百年全て棒に振ってしもうたわ。

 

ああ、黒崎一護。強い眼にになった。()かった。今のキミになら任せて()ける――。

 

 

こうして、ボクは一生と言う幕を閉じた、と思っていた。

 

 

「ギン、ギン、ギン!!」

 

「ら…んぎく……?」

 

「ギン!!」

 

 

何故かボクは目が開けられて、乱菊の顔も見える。乱菊と喋れる。…何故や?ボクは死んだはずや……。

 

 

「目を覚まされましたか?市丸元隊長」

 

「卯ノ花隊長…」

 

 

卯ノ花隊長はボクを見てニコリと微笑むと「松本副隊長が血だらけになって貴方を連れてきた時は流石の私でも少しびっくりしてしまいました」と言った。

 

 

「アンタがボクを助けてくれはったんですか…」

 

「いいえ、違いますよ。市丸元隊長。松本副隊長が私の元に貴方を連れてこなければ助けられなかった命でした。貴方を助けたのは松本副隊長ですよ。お礼なら是非、松本副隊長に言って上げて下さい」

 

 

乱菊の方を向くと乱菊は涙を溜めてボクを見ていた。そんな乱菊に驚くけどそんな顔は出さんで笑顔を作り言った。

 

 

「ありがとう、乱菊」

 

「ギン!!」

 

 

乱菊はボクに抱きついてそして泣きながら言った。

 

 

「当たり前じゃない!ギンはいつも行き先を告げずにどこか行っちゃうんだもの!もう、待ってるだけなんて嫌!それに…私の元に帰って来ないなんてもっと嫌だし許さないんだから!」

 

「…怖いなぁ乱菊は」

 

 

トン、トン、と規則正しく乱菊の背中を叩くと更に強い力で乱菊は抱きついてきて泣いた。声を上げて泣いた。乱菊が強くボクを抱き締める様はまるでもうボクを離さんと言っているかのようで少し嬉しくて恥ずかしかった。

 

 

「もう、もう、絶対に離さないんだから!勝手に私の前から居なくなることも許さないんだから!」

 

「ああ。ボクもや。もう乱菊の元から離れんし離さへん。また、昔みたいに一緒に暮らそう」

 

「当たり前よ!!」

 

 

ボクと乱菊の誓い。もう絶対に離さんし離れん。ボクは乱菊にそう誓った。

 

乱菊はまだまだ仕事が残ってるらしくカンカンに怒り狂った日番谷隊長はんに連れていかれた。「ギン~!!」なんて叫んでたけどボクは知らんふり。

 

 

「では、落ち着いたところですので、市丸元隊長。貴方に総隊長からの伝言をお伝えします」

 

「…伝言?」

 

「ええ。ついこの前まで尸魂界は大変でしたから。総隊長もお忙しいのです。だから市丸隊長が目を覚ましたら処罰についての伝言を頼みたい、と」

 

 

卯ノ花隊長は一息つくとニコリと笑って言った。

 

 

「安心してください。市丸隊長が死ぬことはありませんよ。松本副隊長がかなり抗議した結果です。では、処罰を言います。市丸元隊長、貴方は尸魂界追放とします」

 

「…軽くありまへんか?ボクの処罰」

 

「先程も言ったでしょう。松本副隊長の抗議があった、と。それに平子隊長も抗議したんです」

 

「平子…隊長……?」

 

「ええ。藍染を投獄した後、一部の人達はまた、尸魂界に戻って来ました。平子隊長もその1人です。平子隊長は総隊長に「自分の好きな女護るために仕方なくやったんや。凄いやろ、俺の元部下は。格好ええやろ」って永遠と貴方の事について語っておられましたよ」

 

「何で、そんな事…。あの人はボクを恨んでる筈やろ?仮にもボクは藍染に加担しとった。何で助けるんや…」

 

「私も、格好いいと思いますよ。大切なものを護るため、取り返すために貴方は戦いました。何かを護るためには何かを犠牲にしなければならない時があります。それを知っているからこそ、平子隊長は総隊長に抗議をしたのでしょう。それに…せっかく助かった命。それを粗末にするなんて私が赦しません」

 

 

「なんや、卯ノ花隊長も抗議してくれはったんですか」と笑うと卯ノ花隊長は「当たり前です」と言った。当たり前、か。ボクには出来ひんかった。死ぬ覚悟もした。なのに“当たり前”でボクを助けて更には抗議までしてくれた卯ノ花(この人)が凄いとボクは思う。卯ノ花隊長だけやない。平子隊長だってそうや。あの人だって今回ボクを助けてくれはった。…後で礼言わなあかんなぁ。

 

 

「次に貴方の体についてです」

 

「ボクの体…?」

 

 

ボクが聞くと卯ノ花隊長は「ええ」と頷いた。

 

 

「貴方の体は藍染にボロボロにされました。私の力で一命をとりとめ、助かりましたが全てを治すことは流石の私でも…」

 

「別にええよ。また、乱菊と喋れたんや。治してくれはっただけでも感謝ですわ」

 

「激しい運動は控える…と言うか、止めてくださいね。そんな事したら死にますよ」

 

 

いきなりの死の宣告。まあ、激しい運動をしなければええんやろ?そんなの楽勝や。

 

 

「はい、斬魄刀をお返しします」

 

「ええんですか?ボクに斬魄刀を返して」

 

「あら暴れる気ですか?どうぞ暴れてもらって構いません。その代わり…ここで斬られることになりますけど」

 

「うわぁそれは嫌やな。それこそ乱菊に怒られてしまうわ」

 

「そう思うならしないで下さいね」

 

 

卯ノ花隊長はそう言うと「私にも仕事がありますので、これで」と言って部屋を出てしまう。部屋にポツンと1人取り残されたボク。ボクは斬魄刀、神鎗の刃を見て呟く。

 

 

「また、会えたで神鎗。これからも宜しゅう頼むわ」

 

 

神鎗から「分かってるよ」と聞こえた気がした。

 

世界が逆さまになった。ボクが天井にいて、天井が床におる。

 

 

「どうや?逆さまの世界は」

 

「あかんですわ。酔ってしまって今にでも吐いてしまいそうや」

 

「それはあかんなぁ」

 

 

窓から現れた平子隊長は始解を止める。カツカツと歩いてボクに近づいて来たかと思えば思いっきりボクを一発殴った。

 

 

「これで今までやって来たこと全部チャラにしてやるわ。ああ、俺なんて優しいんやろ。お前もそう思うよなぁ?ギン」

 

「そうやなぁ。意外と優しいじゃあないですか。ホントはもっとボク殴りたくて仕方ないちゃいますか?」

 

「せっかく助かった命や。俺もそこまで鬼とちゃう。まあひよ里にあったら用心しとき。死ぬまで殴られるで」

 

「それが普通や。隊長はんが可笑しいだけやで」

 

 

ボクがそう言うと隊長はんはボクを殴る。

 

 

「おとなしく礼も言えへんのか。餓鬼」

 

「それじゃあ遠慮なく。抗議してくれはった見たいでありがとうございます。おかげで死刑は免れましたわ」

 

「お前のために抗議してやったとちゃうで。乱菊ちゃんのためや。お前のために流す涙あるんなら幸せに暮らさせてやりたいやろ。あの子も充分頑張っとるからなぁ」

 

 

「それに礼を言うのに遠慮も何も無いわアホ」と言う平子隊長。ボクは平子隊長に「そう言うとこ一々言うから女にモテへんとちゃいます?」と言った。

 

 

「アホ。モテとるわバカ。少なくともお前さんよりかはバリバリモテとるで俺は」

 

「そないな嘘つかんでええですよ。まあ、元部下拠りもモテてないって知ったときの現実が怖くてそないなこと言ってやはるんだと思いますけど」

 

「ほお。そこまで喧嘩売ってくるか。ええで、買ったわ。俺の経験人数教えたる。俺はな」

 

「死ねぇ!!!!!!」

 

「ゲホォ!!」

 

 

平子隊長の後ろから凄い蹴りが出てくる。その蹴りは見事に平子隊長にクリーンヒットしはって、平子隊長はそのままクルクルと回転して飛んでいった。

 

 

「女子の前でなんちゅうこと言い出すんや!死ね!!ボケ!!死ね!!!!」

 

「ひ、ひよ里ちゃん…そんなに蹴ったら可哀想だよ…」

 

「ええんや、織姫!!ウチはなぁ、コイツのこと大っ嫌いや!!それが更に嫌いになったわ!!」

 

 

地べたに倒れている平子隊長を更にゲシゲシと蹴り続ける猿柿はん。猿柿はんを止めようとしとる茶髪女子は確か……。

 

 

「黒崎一護と一緒に行動しとった奴やな」

 

「は、はい!!井上織姫です!い、市丸さんのことは結構乱菊さんに聞いてて、ひよ里ちゃんに言って尸魂界に連れてきて貰ったんです!」

 

「そうか、乱菊の友達やったんやな。あ、ボクのことはギンでええで」

 

「はい!ギンさん!」

 

「…それはあかんかな。同じジャンプでもボク主人公ちゃうから」

 

「…ジャンプ?」

 

「んー、やっぱ市丸でええか?」

 

「?分かりました!」

 

「宜しゅうな織姫ちゃん」

 

 

とりあえず織姫ちゃんとの話に一区切りついたので猿柿はんの方を見ると猿柿はんは平子隊長の前髪を鷲掴みにして「お前が隊長でホンマにええんか?更に酷くなるわけないよなあ?ふざけてるなら1回死ぬか?ウチが介錯してやるであ"あ"!?」と言っていた。

 

 

「ひ、ひよ里ちゃん……?」

 

「死ぬか?なんとか言えや!」

 

「猿柿はん、そこまでにしとき。死ぬで隊長」

 

「ここで死んだらそこまでやったちゅうことやハゲ」

 

 

ゴン!と大きな音をたてて平子隊長の頭を地面に打ち付けると「帰るで織姫」と言って部屋を出てしまう。織姫ちゃんは「ま、待って、ひよ里ちゃん!」というとボクに一礼してから部屋を出ていった。

 

……とりあえず平子隊長どないしよ。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

尸魂界を追放されて早一年。ボクは現世に家を置いてそこに住んでいた。激しい運動=走ったり戦ったりすることだと思ったボクは歩くぐらいならいいだろう、と歩いて近くを散歩していた。

 

 

「お前…市丸ギン!?」

 

「ん?黒崎一護やないの」

 

 

散歩して偶々出会った黒崎一護。黒崎一護はボクが生きとることを聞いとらんかったのかボクを指差してプルプルと震えていた。

 

 

「織姫ちゃん、久しぶりやな」

 

「こんにちわ!市丸さん!」

 

 

黒崎一護の後ろにいた織姫ちゃんに話しかけると織姫ちゃんは元気よく挨拶してくれた。ええ子や、この子。

黒崎一護は織姫が返事したことでボクと面識があることを知り織姫に恐る恐る質問した。

 

 

「い、井上……知ってたのか?」

 

「?何が?」

 

「…市丸ギンが生きてるって…」

 

「うん、知ってたよ!あ、そう言えば結婚おめでとうございます!私も呼んでくれれば良かったのに!」

 

「キミら噂じゃテストの日って聞いたんや。現世じゃそのテスト受けなあかんのやろ?誘いたくても誘えんかったのや」

 

「ああ!確かに!!」

 

 

織姫ちゃんはウンウンと頷くと「市丸さん頭いい!」と言った。もう、黒崎一護は話の流れにはついていけず置いてきぼりである。

 

 

「…市丸ギンって結婚したのか…?」

 

 

恐る恐る黒崎一護は言う。織姫ちゃんは大きく頷くと「そうだよ!!」と言った。

 

 

「乱菊さんとね、半年前に結婚したんだよ!」

 

「そやそや。っちゅう言っても乱菊とは離ればなれやけどね」

 

「かわいそう…」

 

「ええんや、ええんや。結婚できただけでもボクは嬉しいで?」

 

 

「キャー」と顔を隠して叫ぶ織姫ちゃんが面白くてついつい笑ってしまう。

 

 

「ま、安心してええよ、黒崎一護。ボクは尸魂界に追放された身やしここで暴れまわるっちゅう無謀なこともせえへん。敵視するな、とまでは言わへんけど肩の力ぐらいなら抜いてええで」

 

「そ、そうか…」

 

 

ボクは「じゃあな、織姫ちゃん」と織姫ちゃんに言うとわざと黒崎一護の横を通り囁いた。

 

 

「はよ織姫ちゃん口説かな取られるで?」

 

 

ボクの囁きががっつり聞こえた黒崎一護は「はあぁぁ!?」と顔を真っ赤にして叫んだ。ああ、餓鬼はおもろいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、ギン』

 

「なんや?乱菊」

 

 

ボクは今、尸魂界にいる乱菊と電話をしょった。基本は乱菊からかけてくる。だってボクがかけたとき丁度戦闘中とか洒落にならんやろ?だから乱菊が暇なときにかける、と言う約束になっとる。

 

 

『私…出来ちゃったみたいなの』

 

「……は?」

 

 

乱菊と結婚して早半年。会ったのは大体1ヶ月前。最後にヤったのも大体それぐらい。

 

 

『…卯ノ花隊長にね、「おめでとうございます」って言われたから「なにがですか?」って聞いたら「あら?気付いていなかったのですか?多分、出来てますよ」って…』

 

「……」

 

『その後詳しく卯ノ花隊長に調べて貰ったら男の子って。隊長にね、言ったの。そしたら『とりあえず、市丸のいる現世に行って、産んで帰ってこい』だって。だから明日から産むまで暫く一緒にいられるわよギン!!』

 

「…ごめん、今ボクの頭がキャパオーバーしてて整理つかへんわ。とりあえず…暫くの間現世に住むんやな…?」

 

「そう言うこと!!」

 

 

速報。乱菊の中に餓鬼おったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 




時空軸?そんなのバラバラに決まってるだろ!だってif物語だもん!藍染を退けて「はい、終わり」の世界があってもいいじゃん!ユーバッハとか知らねー。ゾンビシロちゃんとかみたいって思うけど知らねぇもん!!


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市丸碧

フーハッハッハ。誰が市丸ギンが主人公だと言った?主人公は市丸ギンの息子さ!!


ボクの父ちゃんは数々の死闘を繰り広げた凄い死神だ。母ちゃんがボクを産む前から父ちゃんの体は段々弱っていったらしい。少しやんちゃんし過ぎたんだって。そんなお茶目な部分のある父ちゃんだけど、それでもボクは父ちゃんを誇りに思うし、尊敬だってしている。

 

父ちゃんは昔沢山のやんちゃをしたらしい。そのせいで死神の住む世界、尸魂界を追放されちゃってて今は現世にボクと父ちゃんは住んでる。時々死神の仕事を休んで母ちゃんも来てくれるし俺にとっては楽しいからなんとも思ってない。

 

尸魂界に行きたいか、と聞かれるとボクは首を振って行きたくない、と答えるだろう。滅多に会えない母ちゃんに会いたい気持ちもあるけど、尸魂界を追放された、ボクよりも母ちゃんに会いたいと思ってる父ちゃんを置いてまで尸魂界に行きたいとは思わない。ボクは重度の父ちゃんっ子なんだ。

 

 

「ごらぁ!!食材持ってきてやったで!出てこんかい!チビすけぇ!!」

 

「こんちわ、ひよ里さん」

 

 

食材をいつも買って持ってきてくれるのは猿柿ひよ里さん。ひよ里さんの知り合いが昔父ちゃんの上司をやってたらしく、ひよ里さんがちょくちょく見に行けと言われたらしく月に1回ボク達の家に来てくれる。

 

ひよ里さんは1ヶ月に1回、1ヶ月分の食材を持ってきてくれる。ひよ里さんが来る前はボクが買い出しとかしてたんだけど、ひよ里さんはそれを知ると「子供が買い出し?なんや、ええ子ぶっとんのか!子供は外で元気よく遊ぶってのが仕事やろ!買い出しなんかしとる暇あったら父ちゃんの為にも友達の1人や2人作ってこんかい!!」と言って食材を持ってきてくれるようになった。言葉は厳しいがひよ里さんは優しいのだ。

 

 

「どうや、お前のヘタレ父ちゃんは」

 

「父ちゃんはヘタレじゃないよ!今は寝てるけど」

 

「餓鬼1人の面倒も録に見れとらんのや。ヘタレや、ヘタレ。…まあ、お前の父ちゃんは凄いと思うで。母ちゃんの為にあそこまでやったんやから」

 

「父ちゃんは凄いんだ!!」

 

「…お前、分かっとらんやろ」

 

 

ひよ里さんはボクを呆れたような目で見ると「まあヘタレな父ちゃんに早起きでもしろ、って言っとき。ウチはもう帰るわ」と言って帰ってしまった。父ちゃんの顔いつも見ないで帰るけどいいのかな…?

 

1人になったボクは父ちゃんの部屋へと行く。部屋に入る前にノックすれば「入ってええよ」と声が聞こえた。部屋に入ると布団から起き上がった父ちゃんがニコニコと笑って「おはようさん」と声をかけてきた。ボクも笑顔で「おはよう!父ちゃん!!」と返した。

 

 

「ひよ里はん来てくれはったんやろ?ボク起こしてくれてもええ言ったやんか」

 

「だめ!昨日も夜遅くまで干し柿作ってたんだから寝てていいの!」

 

「別に起こしてもええんやで?ボクが夜遅くまでやってたんのがいかんとやから…。まあ、それが(アオイ)の優しさやな」

 

 

(アオイ)”とはボクの名前だ。父ちゃんが色の名前だからボクの名前も色にしよう、と言う話になり一時期は「キン」とかそんな名前になりそうだったのを母ちゃんの上司とかが色々止めてくれたらしい。で色々と喧嘩とかがおきたらしいけど父ちゃんの昔の上司さんが「碧とかどうや?」と言ってくれたらしく碧で落ち着いた。

 

名前を決める話とかよく母ちゃんがよく話してくれるけど、聞けば聞くほど変な名前が多かったから碧でよかったと思う。昔の上司さんに感謝、感謝。

 

 

「ボク、父ちゃん大好きだから沢山寝てて欲しいんだよ」

 

「ハハハッ嬉しいこと言ってくれるなぁ碧は。ボクも碧のこと大好きやで」

 

 

ボクは父ちゃんの影響を沢山受けている。一人称だってそうだ。父ちゃんが自分のことを「ボク」って言ってたからボクも真似して「ボク」って言い始めたし、笑顔とかもよく似てるって母ちゃんに言われる。産まれた時からボクは父ちゃん似だったらしいけど歳をとるごとに更に似てるって言われる。父ちゃんに似てくることはボクにとって凄く嬉しいことだ。

 

 

「いつもよりたくさん寝てたみたいだけどどう?」

 

「うん、いつもよりなんか体軽い感じするわ。折角やから朝ごはんボクが作ろうかなぁ」

 

「えっ!?ホント!?」

 

「ええよ、朝ごはんぐらい作ったる」

 

 

朝ごはんとかはボクの方が早起きだからいつもボクが作る。父ちゃんが作ってくれることは珍しいし、父ちゃんの作る料理は美味しいから好きだ。

 

 

「ふっふっふ。善きにはからえ」

 

 

ボクのセリフを聞いて苦笑いする父ちゃんにボクは「それでいいのだよ、市丸君」なんてふざけたことを言う。

 

 

「どう言うキャラやねん、それ」

 

 

父ちゃんも笑ってくれたしよしとする。

 

 

「よし、朝ごはん作ろうか」

 

「ボクも手伝う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方はこの世界が全てだと思いますか?

 

――アタシはそうは思わないねェ。

 

貴方は眼に見えている全てが真実だと思いますか?

 

――眼に見えてるものが全て?そんなのふざけるなよォ。

 

もしも貴方の身の回りで生きていたヒトが本当は生きていなかったとしたら?

 

――それはそれで面白いんじゃないのかなァ?

 

 

…さあ!これから楽しいshow(ショー)が始まるよォ!!楽しんでもらえるかなァ?市丸碧クン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

「碧、お前友達居るんか?」

 

 

ギクリと自分の肩が跳び跳ねるのが分かった。朝ごはんを食べているとき、父ちゃんにそう訪ねられボクは返答に困る。はっきり言ってボクは周りの人間と深く関わりを持たなかった。理由は特にない。家事業が忙しかった、と言われればそうかもしれないし、人間と関わりたくなかった、と言われればそうかもしれない。

 

ボクが家を出るときは限られた時であって、それ以外はずっと家にいる。だから生まれてから友達、なんてものを作ったこともなかった。

 

 

「少し家の周り散歩でもしてきたらどうや?なにか新しい出会いっちゅうもんがあるかもしれへんで」

 

「うん、分かった」

 

 

父ちゃんはボクに口煩く言うことは少ない。少なくともボクがしっかりしてるからだと思う。けれど父ちゃんもやっぱりボクの人間関係のことは気になるようでちょくちょく聞いてきたりするのだ。家の周りを散歩して何か変わるかどうかは分からないけれど、父ちゃんを心配させないためにも散歩ぐらいはしようと思う。

 

朝ごはんを食べきるとボクは靴を履いて散歩に出掛けた。

 

 

「行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい。周りちゃんと見るんやで」

 

「うん」

 

 

和を想像させるそこそこ大きい家を出てボクは散歩する。ボクの住んでる街は死神代行やら元死神やらが住む面白い街だ。…と言っても、ボクはひよ里さん以外会ったことないんどけどね。

 

歩いていると通りすがりの人とぶつかってしまった。

 

 

「あっ、すいません!!」

 

「だいじょォぶ。アタシ怪我してないよォ」

 

 

朱い髪を高く2つに纏め、右側には鬼のようなお面をつけた高身長の女性がボクを見下ろしていた。

 

 

「んー。ぶつかってしまったお詫びだァ。キミはshow(ショー)は好きかィ?」

 

「ショー?…見たことはないですけど…」

 

 

突然そんなことを聞かれるためボクはしどろもどろになりながら答える。ボクの返答を聞いた女性は嬉しそうに手を叩くと「じゃァアタシが楽しいshow(ショー)を見せてあげるよォ!!」と言った。

 

 

「え?」

 

 

「何を」とまでは言えなかった。急にボクが眩しい光に包まれたからだ。慌てるボクに女性は手を振りながら言った。

 

 

「バイバァイ!市丸碧クン!!」

 

 

初対面の女性。何故ボクの名前を知っているのか。この光はなんなのか。聞きたいことは沢山あった。だけど聞く前にボクは意識を手放した。

 

 

原作(真実)を知った彼がどンな行動に出るのかァ。楽しみだなァ」

 

 

女性はそう呟くと白いコートを翻し、消えた。もう、碧の姿も見えなく碧に女性の呟きが聞こえることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「なんや?こんなとこに倒れとって。どないしたんやろ?」

 

 

父ちゃんに似た、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

「ん…むぅ……」

 

 

目を開けると眩しい光が見えた。視界が段々クリアになってくるとよく周りが見えるようになり、状況確認が出来るようになってきた。

 

和式の部屋にポツンとボクの入った布団が1つ。部屋には家具とかは少なくて、端に机と小さいタンスが1つあるくらいだ。

 

サッと襖が開けられる。襖を開けたのは銀髪で、糸目で、身長もボクと変わらないぐらいの父ちゃんに似た、人物だった。その人は片手で小さなかごを持っていてよく見ると中に沢山干し柿が入っていてそこからまた父ちゃんを連想させる。

 

 

「おっ、目ぇ覚ましたんやな」

 

 

「どうや?体の調子は」と京都弁で聞いてくる銀髪さん。

 

 

「え、えっと…」

 

「アンタ、ウチの目の前で倒れてたんやで?とりあえず家にいれたんや。まあ気絶しとっただけみたいやから大丈夫だとは思うけどなぁ」

 

「大丈夫です。わざわざありがとうございます」

 

「しっかりしとんなぁ。ボクと同じぐらいやろ?歳」

 

 

「た、多分…」と頷くと銀髪さんは笑って「そない警戒せんでもええよ」と笑った。

 

 

「名前、なんや?」

 

「市丸…碧」

 

 

ボクが名前を言うと銀髪さんはピクリと片眉を動かした。何か悪いことでもボク言っただろうか?

 

 

「偶然も有るもんやなあ」

 

「え?」

 

「ボクの苗字も“市丸”なんや。市丸、市丸ギンっちゅう名前。ボクの名前も色の名前やし色々共通点あるな」

 

 

色々と驚いた。え?今「市丸ギン」って言った?もうしかして父ちゃんとかじゃないよね…?で、でも父ちゃんはボクと同じぐらい歳なわけないし…。他人のそら似?嫌々、似すぎでしょ。似すぎだって。可笑しい、めっちゃ可笑しいって。

 

 

「ここ、どこか分かるか?自分家どこにあるか分かるか?」

 

「えっと……」

 

「その顔は分からんみたいやな。ま、ええで。好きにここいたらええよ。ボク1人で飽き飽きしとったんや」

 

 

話の流れでここに住むことになってしまった…。まあここがどこか分からないボクにはありがたいのだけれど。

 

 

「とりあえず…よろしくお願いします?」

 

「何で疑問系なのかは分からんけど、まあこれから宜しゅう頼むわ。アオイ」

 

「うん…ギン」

 

 

こうしてボクはギンと一緒にこの家に住むことになった。まだ何が何だか分かってない状況だけど、とりあえずここでギンと一緒にこの場所のことについて色々と知って理解していこうと思う。

 

まあ、早めに父ちゃんのところに帰らないと心配してると思うから帰る手段も探しながら。

 

 

 

 

 

 

 

何故だろう。ここに来てからと言うもの、自分のナニカがずっと警鐘をならしている。まるで見るな、関わるな、と言っているかのように。

 

ボクはそれに気づかないフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【設定】
名前:市丸(アオイ)
性別:男
容姿:
髪色→銀髪
目の色→瑠璃色
基本の服装→深緑色のした甚平
大体八歳ぐらいの姿
斬魄刀:不明
始解:不明


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消えたボクの息子

狂ったキャラァ?そンなこと言ってもらえるなンてアタシ嬉しいなァ!!


走って、走って、走った。碧が姿を消して約3日。市丸ギンは居場所の分からない碧をずっと探していた。

 

 

「どこや、碧!!」

 

 

碧が何か事件に巻き込まれているとしたら。そんな事を考えると気が気じゃなくて寝れない市丸ギンは寝るまも惜しんで碧をずっと探していた。

 

大通り。右を見ても、左を見ても、碧はいない。逆に碧どころか、人1人見えない。現在は朝。誰かいても可笑しくない時間帯だ。人気のない静かな大通りは何とも不気味で仕方がなかった。

 

 

「さァさァ!愉しンでもらえてるかなァ!?アタシのMAGIC(マジック)SHOW(ショー)!!」

 

「誰や…アンタ」

 

 

突然現れた朱毛に市丸ギンは警戒する。朱毛の気配すら感じなかった。それに…。

 

 

「その右の面、アンタ破面(アランカル)やな」

 

 

少し前まで見慣れていた白い鬼のような面。それを見て市丸ギンは思わず顔を歪める。それとはまた逆に市丸ギンの顔を見て嬉しそうな顔を朱毛はすると大きな声で喋り市丸ギンの“破面”と言う言葉に大きく肯定した。

 

「そォだよォ!!アタシの名前は“MAGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)”!!破面さァ!!特技はアタシのMAGIC(マジック)SHOW(ショー)で愉しンでもらうことォ!!好きなモノは死神(ヒト)の絶望のカオとォ、赤い血だよォ!!」

 

「アンタ…狂っとるな」

 

「狂ってるゥ?ありがとォ!!アタシにとってはァ褒め言葉でしかないのさァ!!」

 

 

更に顔を歪めた市丸ギンを見てマジシャンズレッドは笑みを深める。

 

 

「キミが探しているのは市丸碧クンかなァ?」

 

「!!アンタ、碧どこに居るんか知っとんのか!!」

 

 

市丸ギンの質問にマジシャンズレッドは「クククッ」と笑うと「知ってるよォ!」と言った。

 

 

「だって彼をこの世界から移動(・・)させたのはアタシだもン!知ってて当たり前だよねェ」

 

「どこにやったんや。はよ、碧返せ!!」

 

「ン~、無理だなァ。キミの要望にはアタシ答えられなィ」

 

 

キランと星が語尾に付きそうな勢いでマジシャンズレッドは言う。

 

 

「アタシはアタシの意志(・・)で行動してる訳じゃァないのさァ!アタシにはアタシの創造主(・・・)がいるゥ!!だからァアタシにはココロもなァにもないただの“操り人形”!!」

 

 

悲しみも何も含んでいない、逆に嬉しそうな声色でマジシャンズレッドは言う。

 

 

「アタシの創造主は望ンでいる!!退屈を忘れたいとォ!つまりィ、今回創造主に選ばれた退屈しのぎはァキミの息子、碧クンだったってことさァ★☆★」

 

「退屈しのぎ…やて…?」

 

「そうだよォ!!碧クンには真実を見てきてもらうのさァ!」

 

「真実?」

 

 

“真実”とはどういう意味なのか。市丸ギンには分かっていない。分かっていないからこそ、マジシャンズレッドは面白くて笑う。「何も知らない死神達(ヒトタチ)は滑稽で仕方がない」と。

 

 

「ヒトには沢山の“もしも”がある!『あそこで飛び降りていなければ』『道路に飛び出さないでいれば』『~を作らなければ』後悔や喜びを沢山に含んだ“もしも”!!さァて、ここでキミにクイズを1つ!!“もし”『この世界がある創造主によって造られた(・・・・)世界』だったらァ?」

 

「創造主によって造られた世界?そんなん」

 

「あり得なくないよォ!だってホントだもン!この世界はある創造主によって造られた(・・・・)世界!!それもォ沢山の“もしも”が“分岐”して造られた世界さァ!!」

 

 

マジシャンズレッドは市丸ギンとの少しの間合いを一瞬で懐に入ると言った。

 

 

「“もしも”キミがあの時キミが松本乱菊に助けられていなかったらァ?“もしも”あの時黒崎一護に全てを託しキミが絶命していたとしたらァ?」

 

「~っ!!」

 

「“もしも”キミの息子が生まれていなかった(・・・・・・・・・)としたらァ?」

 

 

もしも碧が生まれていなかったとしたら、少しだけ市丸ギンは想像してしまう。きっと市丸ギンは1人で現世に住むことになるだろう。もし、そうだとしたら。それはとてもつまらない。

 

 

「彼にはねェ、その“生まれてこない”世界に少しだけ翔んでもらってるンだァ。だァかァらァ、暫く帰れないのォ」

 

「そんなん言われても「はい、そうですか」って言ってなぁ、引き下がるほどボク、ええ子やないんよ。意地でも返してもらうで」

 

「何故キミはそこまで碧クンに執着するのォ?」

 

 

マジシャンズレッドが聞くと市丸ギンは当たり前だと言うように笑った。

 

 

「それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――碧がボクの大切な息子やからや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピクリとマジシャンズレッドの眉が動く。

 

 

「……」

 

 

マジシャンズレッドは何も言わない。数秒、時が過ぎるとマジシャンズレッドは笑った。

 

 

「そうかァ。分からないなァ」

 

「別に分からんでもええで。キミはここでボクが殺すんやから」

 

 

懐から取り出した脇差し(斬魄刀)。それを構えると市丸ギンは解号を呟く。

 

 

射殺(いころ)せ『神鎗(しんそう)』」

 

 

市丸ギンの斬魄刀『神鎗』は物凄い早さでマジシャンズレッドの顔めがけて伸びる。ギリギリ『神鎗』の早さについていけたマジシャンズレッドは避ける。

 

 

「あはッ★危ないなァ★☆★」

 

「全然そうは見えへんで。正直楽勝とちゃいますか?」

 

「全然だよォ☆こう見えてもアタシ避けたの凄くギリギリなンだからァ!!」

 

 

悠長に話している間に市丸ギンの第二擊目に襲われるマジシャンズレッド。第二擊目もギリギリのところで避けるとマジシャンズレッドは声に出して大きく嗤った。

 

 

「アッハッハッハ!!どォしよォ!これじゃァアタシ勝てないよォ!流石元三番隊隊長なだけあるなァ!★☆★」

 

 

第三擊、四擊、と攻撃をギリギリ避けるマジシャンズレッドは言う。市丸ギンから見るとマジシャンズレッドはまだまだ余裕そうに見えてそれがまた、市丸ギンの怒りを誘うのだ。

 

――プルルルル

 

マジシャンズレッドの携帯が鳴る。マジシャンズレッドは市丸ギンの攻撃を避けながら通話を始めた。

 

 

「ハロハロ?こちらMAGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)ォ!」

 

『遊ぶの…止めて。時間…ありません』

 

 

マジシャンズレッドの電話の相手はどうやら少女らしく、小さな少女の声が聞こえた。

 

 

「えェ!?今から愉しい時間なのにィ!キミはアタシの愉しい時間を奪うつもりなのかィ!?」

 

『…困ります……』

 

 

本当に困ったように言う少女。どうやらマジシャンズレッドはこのギリギリの直面が愉しく、それを指摘されたことが気に入らないらしい。

 

 

MAGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)

 

「oh~創造主サマァ★☆★」

 

 

どうやら通話する相手が変わったらしい。次は男性の声に変わった。

 

 

『残念だが、時間切れだよ』

 

「えェ~!!これからが愉しい時間なのにィ!」

 

『また、今度遊びなさい』

 

「はァい」

 

 

マジシャンズレッドは大人しく男性の言い付けを聞くと通話を切った。マジシャンズレッドは市丸ギンを見てこういい放つ。

 

 

「残念だけどォ帰らなくちゃいけなくなっちゃったァ★ごめンねェ☆」

 

 

謝罪とは思わせない口振りである。もちろん市丸ギンだって逃がすつもりはなく「逃がさへんよ」と『神鎗』を構える。それを見たマジシャンズレッドは困ったように嗤った。

 

 

「ン~、アタシも遊びたいンだけどォ、創造主サマがァ、帰ってこいってェ。創造主サマの言い付けはアタシ達の中では絶対なんだァ☆」

 

「こっちとしても碧、返してもらうまでは返せんなぁ」

 

「はいは~い、そこ、危ないですよ~」

 

 

間延びした中性的な声が聞こえたかと思えば市丸ギンに何本もの電柱が襲いかかった。

 

 

「げェ。何でここに“掃除屋”がいるのさァ!」

 

「どうも~。創造主サマに頼まれて飛んできた掃除屋です~。以後、良しなに~」

 

 

金髪のメッシュが入った黒いフード付きパーカーに程好い長さのズボンを履いた青年――それも、鼻の下から顎までは白い仮面がついていて破面だと言うことが伺える。

 

 

「ココに来たのは、ボクだけじゃないんですよ~」

 

「こ、困ります。早く帰りましょう、マジシャンズレッド」

 

PINKY(ピンキー)まで来たわけェ?サイアクゥ」

 

 

先程までマジシャンズレッドと通話をしていた声――薄いピンクのボーイッシュな髪型に、白いワンピースを身に纏った少女、ピンキーは顔の左半分全てが仮面で覆われている。彼女も破面だろう。

 

 

「創造主サマがお待ちだよ~」「創造主様がお待ちです」

 

 

声を被せてまで「早く帰ろう」と言う掃除屋とピンキーの声にマジシャンズレッドはキレながら「帰ればいいんでしょォ!!帰ればァ!」と言った。

 

 

「文句なら創造主様に言ってください」

 

「そうだよ~。ボク達に当たらないでよ~」

 

「帰るって言ったじゃん!何でアタシ掃除屋に抱えられてるわけェ!!」

 

 

「帰る」と宣言したはずのマジシャンズレッドはいつの間にか掃除屋に肩で担がれており、マジシャンズレッドはバタバタと動く。

 

 

「止めて~。落としちゃうから~」

 

「なら止めろよォ!」

 

「逃げるの、ダメです」

 

「逃げてねェしィ!」

 

 

「ン~でもなぁ」と困ったように空いている手で頭をかく青年。それを見たピンキーは「早く帰りましょう」と言っているか市丸ギンを見据えた。

 

 

「では」

 

「これにて~」

 

「おーろーせーよォ!!」

 

 

ピンキーが煙玉を地面に叩きつける。煙が大通り全てを覆う。周りが見えない。マジシャンズレッド達の気配もしなくなった。市丸ギンは舌打ちをする。

 

 

「…逃げられて、しもうた…」

 

 

早く、早く碧を見つけて抱き締めて、碧が生きていることを実感したい、と思う市丸ギンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

「お帰り。MAGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)、掃除屋、PINKY(ピンキー)

 

 

薄い水色が混じったような白い髪色をした青年。青年は頭に黒いサングラスをつけていて正直言って似合わない。青年の仮面は右目だけを覆うようにしてできていた。

 

 

「ただいま帰りました~創造主サマ~」

 

「ただいまです」

 

「……ただいまァ」

 

 

まるで遊ぶオモチャを取られたように不貞腐れているマジシャンズレッドを見て「創造主サマ」と呼ばれた青年は困ったような顔をする。

 

 

「ごめんよ、MGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)

 

「もっと遊びたかったのにィ~」

 

「そもそもキミは遊ぶ為に行かせたわけじゃないだろ?」

 

 

優しく、諭すようにマジシャンズレッドに言う。マジシャンズレッドは「そうだけどォ~」とばつが悪いように言う。

 

 

「また、今度遊んでいいから」

 

「むゥ、約束だよォ」

 

「嗚呼、約束だ」

 

 

「ならいいやァ」と満足したらしいマジシャンズレッドは部屋を出ていく。マジシャンズレッドが出ていったのを見て「創造主サマ」と呼ばれている青年は「仕方がないなぁ」と声を漏らした。

 

 

「どうだった?市丸ギンは」

 

「市丸碧、凄く探してた」

 

「大切にされてるんですね~。市丸碧~」

 

「市丸ギン、親の顔だった」

 

「だね~」

 

 

二人の話を聞いて「創造主サマ」と呼ばれている青年は「そうか」と言った。

 

 

「退屈しのぎになりそう~?創造主サマ~」

 

「うん。今回はアタリだね」

 

「なら、よかったです」

 

 

これから先のモノガタリを見て精神を安定させられるのか、市丸碧のことを考えるとニヤケが止まらない。誰でも良かった。「創造主」の生け贄になるのは。偶々だった。「創造主」がマジシャンズレッドを作って(・・・)本当の世界を見つけた(・・・・)のは。本当の世界にはいないイレギュラーな市丸ギンと市丸碧。退屈が消えたような気がした。退屈がなくなる予感がした。だから使った。ただそれだけだった。

 

 

「嗚呼。こんなにもドキドキワクワクしたのは久しぶりだよ」

 

 

「創造主サマ」は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【設定】

名前:MAGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)
身長:百七十六
体重:六十二
性別:女
所属:破面
容姿:
朱く左右に結われた髪、黒いシャツと短パンの上に白くブカブカなコートを羽織っている。右の顔から髪にかけて狐のような仮面がある。大体20代前半に見える。



名前:掃除屋
身長:百九十八
体重:八十二
性別:男
所属:破面
容姿:
金髪のメッシュが入っていてガタイがいい。黒いフード付きパーカーを着ている。下は程好い長さのズボン。鼻の下から顎まで覆う仮面。大体背の高い10代に見える。



名前:PINKY(ピンキー)
身長:百四十八
体重:三十九
性別:女
所属:破面
容姿:
薄いピンク色でボーイッシュな髪型をしている。服装は白いワンピースで肌は色白。黄色と白のオッドアイで左半分全てが仮面で覆われている。


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市丸碧の焦燥

皆さんキャラは誰が好きですか?


「えっと、ちょっと、タンマ。ワンモアプリーズ」

 

「ん?これで五回目やで?ま、ええけど」

 

 

六回目となる説明を嫌な顔をせずギンはボクに教えてくれる。

 

 

「ココは現世ちゃう。尸魂界や。現世は確か…織田信長やったか?そんなん奴が威張っとったなぁ」

 

 

織田信長がいた時代だと…約百年前。あれ?二百年前だったっけ?まあ、どっちでもいいか。…とりあえずだけど、ボクは現世の歴史とかそんなに知らない。でも、時々父ちゃんが教えてくれたから少しだけだったら分かる。

 

え?百年前?いやいや、可笑しいって。変なヒトと遭遇したと思ったら急に体が光はじめて、意識飛ばしたかと思えばまるで父ちゃんを小さくしたような市丸ギンとういう同性同名のヒトがいて…。

 

え?もうしかして、もうしかしてだけどボクの目の前にいる市丸ギンって父ちゃんじゃないよね?ココ、父ちゃんが小さい頃の世界とかそんな感じじゃないよね?いやいや、あり得ないって。だってボクそんな力持ってないし……。

 

ん?それはボクの話しであってあの変質者みたいなヒトがボクを飛ばした可能性は?……うぉおい、なんかそんな気がしてきたよ。アタリのような気がするよ。

 

え?どうすれば帰れるわけ?て言うか、帰れるの?帰れないなんてことないよね?まさか、そんなわけ……。

 

 

「ないよねぇぇええ!!ないと言ってぇぇええ!!」

 

「なっ、なんや!急に大きな声出して!?」

 

「ふざけんなよぉぉおお!あの変質者がぁぁああ!!」

 

 

帰れなかったらどうしてくれるワケ!?絶対父ちゃん血眼になって探してくれてるよ!!何、ボク変なのに巻き込まれたの!ざけんな!!

 

 

「ハァハァハァ」

 

「…なんや、大変そうやな……」

 

 

もし、もしだよ!?目の前にいる“市丸ギン”が父ちゃんだとすると…。えっ!?ボク父ちゃんさっきまで呼び捨てにしてたわけ!?

 

 

「ご、ごめんなさいぃぃいい!!」

 

「さっきからなんや!急に大声出しよったと思ったら土下座なんかして!!謝るな、アンタ何もしとらんやろ!!」

 

「したの!してたの!ボクは親不孝者だぁぁああ!!」

 

「はぁ!?親不孝!?ワケ分からんわ!ちょっ、ええかげんにして!!」

 

 

急に土下座をし始めたボクに驚きの声とほんの少しの怒りの声を含んだギン(父ちゃん)は言う。

 

 

「何で悩んどるのか分からんけどまあ、ここに居るんやろ?」

 

「と、当分は……」

 

「当分、なぁ。すぐにアンタの家に帰れたらええな」

 

「うん」

 

 

ギンは優しくボクの頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボク、干し柿取ってくるわ」

 

「行ってらっしゃい」

 

「うん、すぐ帰るから安心してな」

 

 

そう言って家から出ていくギンを見送るボク。ギンに拾ってもらってかれこれ数十年経つが大体理解した。ボクの予想ではココは過去の世界。ギンはボクの父ちゃん。ギンはボクの父ちゃんだけどまだボクは生まれていないから父ちゃんではないと言う何とも分かりずらいことこの上ない世界だと思う。

 

ギンのことを父ちゃんと呼びたいのは山々だが、ギンに普通に却下された為、ギンと呼んでいる。とりあえず元の時代に戻ったら父ちゃんに土下座して謝ろうと思う。そうしないとボクの気が済まないからね。

 

過去の世界でもやはりギン(父ちゃん)の趣味は変わらなかった。ギンは家の近くに柿の木を作って、その柿で干し柿を作っている。ついさっきその柿を収穫しに行ったところだ。

 

ギンが帰ってくる前にご飯を作ろうと思う。干した茸や木の実などでシチューのようなスープを作ろうと現在考え中だ。野菜のお浸しなんかもいいかな。明日はゆっくりと休みたい気分なので多めに作ろう。考えの纏まったボクは具材をとって切り始める。

 

約数十分経つとスープは出来上がり、後はギンの帰宅を待つだけとなった。…遅いなぁ、ギン。いつもなら数分で帰ってくるギンが帰ってこない。何かに巻き込まれてなければいいんだけど…。

 

 

「すまん、遅なってしもうた」

 

 

がらがらとドアが開く音がしてボクは慌てて玄関に行く。するとギンの後ろに茶髪の女の子が隠れていた。その光景を見てボクは一言。

 

 

「…ギン、犯罪だよ」

 

「違うわ!!」

 

 

「えっ、拐ってきたんじゃないの?誘拐違うの?」と聞けば「アホ!!ボクはそんな事せえへん!!」と怒られてしまった。…良かった、とりあえず誘拐じゃないらしい。ボクの父親がこんなにも小さいときから犯罪者とかたまったもんじゃないから。安心、安心。

 

 

「ホラ、乱菊。ちゃんと自分で挨拶せな」

 

 

ギンの後ろに隠れている彼女をギンは突っつきながら言った。……え?さっきナチュラルにギン、爆弾発言したよね?乱菊って言ったよね?え?乱菊なの?まさかボクのお母さんですかぁぁああ!?

 

身長の小さい、しかも普段想像つかないぐらいのボロボロの服を着ている乱菊を見て内心ボクの心はフィーバーしていた。

 

わ、若ぇぇええ!!すっごい若いし化粧もしてない!!ボクの母ちゃん確かに、化粧とかはそんなにしない方だけどでもやるからなぁ。すっぴんボクにも見せてくれないからかなり激レアだと思う。

 

しかも服とかも今の母ちゃんなら絶対着ないぞ、あれ。母ちゃん着ないくせに新しい服とか買ったりするもんなぁ。服を置く場所がないとかなんとかで昔上司と喧嘩してたような気がするし。

 

それにしても母ちゃん小させぇぇええ。色々と小さいわ。うん。……なんだろ、小さい父ちゃんよりも小さい母ちゃん見たときの方がなんか凄い、って感じするわ。うん。

 

ギンの後ろに隠れていた乱菊は恐る恐る出てくると言った。

 

 

「…松本、乱菊…」

 

「はーい、了解」

 

 

小さい頃、母ちゃんと父ちゃんは一緒に住んでいたらしい。時々酒に酔った母ちゃんが懐かしそうに話していたのを思い出す。まさか、父ちゃんが母ちゃんを拾ってきたとは思わなかった。

 

 

「あれ?あんま驚いてないなぁ」

 

「いやいや、充分驚いたから。とりあえずはギンが誘拐してないことにホッと息をついた感じかな」

 

「なぁ、ボクってキミにどないな印象なん?」

 

「いやぁ、ニコニコしながら適当に人一人拐ってるイメージはあるよね」

 

「アオイ、奥でボクとちょっと楽しいお話でもしよか。安心してくれてええで。一発顔面に殴り入れるだけや」

 

「あ、遠慮しておきます。ボクMじゃないんで。そんな趣味ないんで」

 

 

余談だが、この頃ギンの口癖は「キミ、性格変わったとちゃうの?」だ。ギン曰く昔のボクはもっといい子で純粋だったらしい。…今でもボク純粋だから。まあ性格についてはノーコメントと言うことで。

 

ギャアギャアギャアギャアとギンと口論していると乱菊がクスッと笑みをこぼした。

 

 

「なんや?急に笑いだして」

 

「ギンの顔が面白かったんでしょ」

 

「は?ちゃうで。アオイの顔がおもろかったんや」

 

「…二人とも似てるな、って」

 

「「どこが!?」」

 

 

正直、嬉しい。ホラ、ボクなんだかんだ言って父ちゃん大好きし。ギンも好きだ。ちなみに変な扉とかは開けてないからそこんとこは安心してほしい。人として好きなだけだから。性的な意味じゃないからね!

 

 

「顔も、髪の色も、行動も、全部」

 

「そんなボクら似とる?」

 

 

「血ぃ繋がりはないんやけどなぁ」と呟くギンに思わず苦笑い。だってボク、キミの息子だし。アンタの目の前にいる乱菊さん将来嫁さんになるからねー。

 

 

「双子みたい」

 

「それ、褒められてる気せんわ」

 

「うん、褒め言葉ありがとう。ギン、喜べ。キミはボクに似てるんだってさ!!」

 

「うわぁ、いややわぁ。何でボクがアオイに似なあかんの?アオイがボクに似てきたとちゃう?」

 

 

…ごもっともです。よく母ちゃんからは父ちゃんの生き写しと言われています、ハイ。ぐうの音も出ません。

 

 

「とりあえず、ご飯食べよ。もうできとるんやろ?」

 

「うん。今日は少し多めに作ったから乱菊の分もあると思うよ」

 

「なんや、アオイ予知でもできるんか」

 

 

違います。本当は明日の朝ごはんにして楽しようとしてました。楽するために多めに作りました。だからそんな尊敬の眼差しで見るのをやめてもらいたい。

 

 

「あ、ボク碧。市丸碧って言うんだ」

 

「市丸…?ギンと一緒」

 

「偶々や。ボクも最初びっくりしたわ」

 

「うん、ボクも」

 

 

ボクがスープを机の上に運んでいる間にギンは茶碗にご飯をよそいでいた。三人分のご飯の用意が完了すると手をあわせて「いただきます」と言う。

 

 

「そう言えば、乱菊もこの家で暮らすわけ?」

 

「うん。ええやろ?どうせ部屋もあと一個余っとるし」

 

「うん、いいんじゃない?ボクは賛成」

 

 

ちなみにギンの「部屋一個余っている」と言うのには少しばかりの誤弊がある。この家には小さな部屋が3つしかなく、1つの部屋はリビングとして。もう1つの部屋はボクとギンの寝室として使っていて余った部屋は食料等を保管する部屋として使っていたのだ。なので余っている、と言えば余っているし、使っている、と言えば使っていると言う微妙な感じなのだ。

 

とりあえず、乱菊が使えるようにご飯を食べたら部屋を片付けようと思う。さすがに女子が男子と同じ部屋は駄目だからね。ギンがそんな過ちを犯さないと信じてはいるが男は皆狼。獣である。

 

え?ボクはどうなのかって?よしてくれ。ボクも生物学上男だけれどそこまでの心は持っていないさ。よく考えてくれたまえ?この三人は親子である。ギンは未来の父ちゃん。乱菊は未来の母ちゃんだ。それを知っていてなお、母ちゃんに手を出すなんてできない。そんな事やったら土下座ぐらいじゃ足りない。切腹だよ、切腹。

 

父ちゃんの母ちゃんに対しての溺愛っぷりを間近で見てるからこそだよね。それに今のところ女に興味ないし。たとえ興味を持ったとしてもボクはこの世界の本当の住民じゃないから結局は意味をなさない。これこそが悲しい現実なのさ。

 

 

「…美味しい」

 

 

乱菊がスープを飲んで呟く。ボクは乱菊に褒められたことが嬉しくて「ありがとう」とお礼を言う。

 

 

「ほんま、アオイ主夫向いとるで。料理こんなにも上手なんやもん」

 

「残念ながら主夫になるつもりはこれから先の予定にはないよ」

 

「んー、今のところはボクたちの主夫でいてくれたらええよ」

 

「……」

 

 

いや、ギン達の主夫になるつもりもこれっぽっちもないんですけど。勝手に話し進めないでもらえます?

 

こうしてボクの母親こと松本乱菊が新たなメンバーに加わり、三人で暮らすこととなった。



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市丸碧の性格

念のためグロ注意。私的にはそんなにグロくはないと思うけど。

書いてて思った。段々碧くん黒くなってきてるなぁって。当初の予定ではもう少しいい子なカッコいい男の子を想像してたんだけどなぁ…。


「テメエどこ見てんだァ?ああ!?」

 

「あ"?」

 

「ひっ…」

 

 

流魂街を歩いていた。たまには乱菊やギンに美味しいものを豪華なものを食べさせてあげたいと思ったからだ。だから尸魂界に来てからコツコツと貯めたお金を奮発して買い物に出掛けていたのだが――。

 

あっちからボクの肩にぶつかってきた。多分ボクの金を狙って来た奴等なんだろう。現代にもそんな腐った奴いるけど、狙うやつ間違ったね。ボクなんか狙ったら……。

 

ボクは霊圧を扱える。小さい頃から父ちゃんが霊圧の扱い方を教えてくれたからだ。「碧はボクよりも乱菊よりも霊力が高い。虚にも追われることが多い。せやから、力の使い方、ボクが教えたる」って。正直言って父ちゃんはスパルタだった。

 

だから死神の使う鬼道とかそこら辺は使える。今のところ六十番台までなら詠唱破棄でできたりするのだ。覚える事とかは比較的好きだ。

 

父ちゃんに霊圧の使い方を教わっていて良かったと思った。だってこう言う奴には自分の霊圧にあてるのが一番楽だからだ。

 

案の定ボクの霊圧にあてられた男は口から泡を吹いて気絶した。ボクはそんな男を冷たい眼差しで見る。ボクは父ちゃんと母ちゃん以外、いやギンと乱菊以外にはかなり冷酷な性格に変わる。自覚アリである。だけど変えるつもりはない。

 

だってボクにはこの世界にあの二人さえ生きていてくれればいいのだから。人類がたとえ滅びようとも、二人が生きていてくれるのであればボクはなにもしない。ただ笑い「良かった」と言葉を紡ぐだけだ。ただそれだけ。ボクにはあの二人が五体満足で生きていてくれるのであれば「平和」と変わらないのだから――。

 

 

「なんや、急に霊圧大きくなった思うたらこんな奴が出しおったんか」

 

 

ギンと同じで訛ってる言葉…。勿論声の主はギンではない。後ろから声がしたのでボクは振り向く。後ろには白い羽織を羽織った金髪ロン毛が立っていた。

 

 

「…誰、アンタ」

 

「俺にそんな口聞いてええんか?こう見えても俺、死神の隊長なんやぞ」

 

 

金髪の羽織っていた白い羽織が風に揺れ、黒いインクで書かれた漢数字が見える。『五番隊』それは昔、父ちゃんが所属していた隊だと聞いた。だとすると、この人はボクの名前をつけた人ではないのか…。

 

父ちゃんの元上司。その人がまともな名前をつけてくれたと言う。まあこの人がギンが入隊するその時まで、生きていたら、の話だけど。

 

 

「ふーん。その隊長さんが何でこんな流魂街なんかに?」

 

 

「お偉いさんなんでしょ?」と問えば「口の聞き方がなっとらん餓鬼やな」と帰って来た。

 

 

「ただ暇もて余しとっただけや。だから流魂街に来た。あかんか?」

 

「知るか」

 

「ほう。いい根性しとんな、お前…」

 

 

歩いて近づいてくる金髪。ボクは逃げない。こいつの顔面に赤火砲(しゃっかほう)を顔面に放ったらキレるかな?怒るかな?ちなみにボクは餓鬼と言われて少し腹立ってます。

 

金髪はボクの目の前で足を止めるとグググッとボクの頭を鷲掴みにした。上に上げるので段々足が地面につかなくなっていき、最後には空中で足がブランブラン出来るほど。ちなみに頭は凄く痛い。

 

 

「お前、死神に興味ないか?あるなら俺がしこたましごいてやるで」

 

「遠慮する。ボクにはやることがあるんだ」

 

「……その霊圧が周りを危険にするって言うてもか?」

 

「ボクの周りにはそんな弱い奴、いないよ」

 

 

「後悔しても俺知らんで」そう言うと金髪はボクの頭を離した。足が地面につく。浮遊感もない。頭はまだ少し痛いけどさっきほどではない。

 

金髪の伝令神機(でんれいしんき)がなる。どうやら虚の知らせではなく連絡が来たらしい。金髪は連絡を受けると「ああ。分かったわ」と言いボクの顔を一瞬見たかと思えば瞬歩で何処かへと消えてしまった。

 

この出会いはなんだったのか、そう思いながら当初の目的、食材集めをする。何度でも言うが今日は奮発するつもりで流魂街へと来たのだ。食材を買わねば。それはもう美味しそうなやつを。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

とある古い店。そこに一人の老人が店を構えていた。この老人はこの流魂街で唯一値切るのが難しいと噂されている老人である。勿論碧はそんなことも知らないで老人に話しかける。

 

 

「おじちゃん、これ美味しい?」

 

「ああ。美味しいよ」

 

「でも高すぎない?」

 

 

ボクがそう言うとおじちゃんは「おやおや、値切るつもりかい?」と言った。ボクは勿論頷く。さすがにこんな値段で買ったらボクのお財布の中身は一瞬で消えてしまうから。

 

 

「うん。単刀直入で言うね。もっと安くしろ」

 

 

おじちゃんは「ほっほっほ」と笑うと薄く開いていた目をおもいっきり開いてボクの顔を見据えた。

 

 

「やれるものならやってみんしゃい」

 

 

あの後、おじちゃんからかなり値引きしてもらい結論からいうとボクの小遣いのうち三割をも使わずそこそこの材料を買えてしまった。またあの店に行こうと思う。

 

余談だがかなり値引きをさせたせいでおじちゃんは泣き「頼むから帰ってくれ」と言われた。街の住民からは暫く「小さい悪魔の子」と呼ばれるがそれは知らない。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「うわっ!いつもの食材より美味しい!!もうしかして買ってきたの!?」

 

「今日は狩りに出掛けんでええって言っとったのはこのことやったんか…」

 

 

ボク達は流魂街六十二地区花枯(かがらし)のはずれに小さな小屋を建てて住んでいる。街に行くにはそこそこ遠いし金もそんなにないので狩りで暮らしている。ちなみにこの狩り暮らしに不自由は感じていない。

 

 

「そうなんだ。どう?美味しい?」

 

「ああ、美味しいで。それにしても金っちゅうもんアオイ持っとったんやな」

 

「うん。時々散歩で街に行ったりするんだけどその時カツアゲとかされそうになるんだ。だから…逆にカツアゲしてやってる」

 

 

ボクがそう言うとボクの作った炊き込みご飯を美味しそうに食べながら乱菊は言った。

 

 

「へぇ~、そうなの?なら、私もそうして稼ごうかしら」

 

「乱菊、止めとき。マトモな性格失うで」

 

「酷いなぁギン」

 

 

ボクは少し頬を膨らませて言うとギンは「男がそんなモンやっても全然可愛くないで」と言った。父ちゃんに言われた感じがしてちょっと悲しくなったのはここだけの話。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「ぎゃあ!ちょっ、やめて!!ごめん!マジ!マジすいませんっしたぁ!!」

 

「お前、次狙ったら……殺すよ?」

 

 

最近、ギンと乱菊の周りをコソコソと嗅ぎ回っている奴がいたことにボクは気づいていた。多分だけどギンも気づいてたと思う。ギンは人一倍警戒心強いし。

 

コソコソと嗅ぎ回っていた奴…所謂、ストーカーを調べあげるのには時間はかからなかった。犯人はつい先日ボクから金を奪い取ろうとして逆に霊圧にあてられ泡吹いて気絶した男だった。詳しく聞けば、あの二人を人質にすれば金が沢山手にはいると思ったらしい。

 

ストーカーはほんの、ほんの少しだが霊圧があるようで腹が減るとか。食材を買おうにも凄く高く想像手が出せない値段ばかりで金に困っていたらしい。自分の未来のためにも金が必要だと泣きながら熱弁していたのをギンと乱菊を含めた三人で聞いていた。

 

 

「で?」

 

「え……?」

 

 

ボクがそう言うとストーカーは訳の分からなさそうな顔をして首を捻った。

 

 

「だから、なに?そんな理由で狙ったわけ?こんな子供を?莫迦じゃないの?莫迦でしょ?死ねば?餓死すればいいじゃない」

 

「鬼……」

 

 

隣の乱菊の呟きが聞こえなかった訳ではない。あえて聞こえなかったフリをする。

 

 

「そもそも働けば?楽して力の扱い方も知らないくせに金を手に入れようとするから逆に取られるんだよ。自業自得じゃん。だから、死ね」

 

「えっ、えぇっ、ええぇぇええ!?」

 

 

首を絞めてやろうかとするとストーカーは物凄い早さで後ろへと下がっていく。ボクはストーカーに恐怖を植え付けるため、笑みを張り付けジリジリとストーカーに近づいてやった。

 

 

「止めとき」

 

 

後一歩でストーカーを殺せるのに。ギンがボクに静止の声をかけた。ボクはストーカーに近づくのをやめ「はあ」とため息をつく。

 

 

「…ギンがそこまで言うなら止めるけど」

 

 

ボクがそう言うとストーカーは嬉しそうな顔でギンを見て「か、神が降臨した…!!」と言った。ボクはストーカーを睨み付ける。するとストーカーは「ひぃ!!」と小さな悲鳴を漏らした。

 

 

「そんな奴、殺す価値ないわ」

 

「でもね、またこんなことがあったら困るんだよ。ボクはね、ギンと乱菊が生きていればとりあえずこの世界がどうなろうとどうでもいいんだ。正確に言えばね、ギンと乱菊にもしものことがあったら…その首謀者の腹切って一個ずつ内臓を取り出して…………それでね「これは何の内臓でしょーか?正解はねぇ」なんて言いながら目の前で…潰していって、それでね、最後には……」

 

「もうええわ!なんやそれ!!恐いわ!!なんちゅうモン聞かせてくれとんのやお前は!!」

 

「ギン、確かこれは『ヤンデレ』ってやつよ」

 

 

ギンにおもいっきり頭をひっぱたかれた。ギンは凄い剣幕でストーカー男に「お前、はよ逃げろ!殺される事より苦しいことされるで!!」と言った。乱菊もウンウンと頷いている。

 

ストーカーはギンに言われ、顔を真っ青にして出ていった。その後ろ姿を見送ったギンは「お願いやから道踏み外さんでな?マジで恐いから」と言った。

 

ボク、道踏み外してるつもりも踏み外したこともないけどなぁ?

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

走って、走って、走って逃げた。殺されるかと何度も思った。アイツ絶対狂ってる、そう感じた。俺は無我夢中で走ると街に出た。街に出ても植え付けられた恐怖は拭えずただひたすら街を突っ切って走った。すると人にぶつかった。

 

ぶつかった人は茶髪の黒淵眼鏡をかけた優男だった。どっかの貴族にでも支えていそうな風貌で金を持ってそうな匂いもした。いつものようにカツアゲをしてやろうかと思ったが……先程のようなことがあると中々そんなことも出来なくて、俺はまた逃げようとした。今はただあの恐怖を忘れたかったのだ。だが、走って逃げることはできなかった。

 

茶髪の男に肩を捕まれていたからだ。

 

 

「キミ、私に謝罪も告げず逃げようとしているのかい?」

 

 

茶髪の男はよく見ると黒装束を着ていて死神だと分かった。少しずつではあるが霊圧が段々と上がって来ているのが俺でも分かる。

 

自分の見に危険を感じた。だから俺はすぐに謝った。

 

 

「す、すまねぇ……」

 

「謝るのが…遅い」

 

 

茶髪の男は俺にそう言うと言うと前髪を後ろへとかき上げ、黒淵眼鏡を取った。風貌、印象が変わる。先程の優男?そんな奴どこにいる。俺の目の前にいるのは…危険な匂いがプンプンとする奴だけだ。

 

下手すれば、いや。確実にさっきの子供よりも強い。それに手練れだろう。茶髪の男は「キミみたいなグズみたいな命でもいい使い道があるさ」そう言った。

 

 

――殺される

 

 

助けを、逃げなくちゃ、そんな事を考えている間に俺は……。

 

男は服だけを残して何処かへと消えた。茶髪の男の電気神機がなる。男は応答した。

 

 

「はい、藍染です」

 

『どこにおるんや、藍染。お前、書類持ってどこさん消えたんや。はよ渡さな俺卯ノ花隊長に怒られてまう』

 

「ああ、すいません。今すぐ帰りますね」

 

 

茶髪の男は上司からの電話で先程の殺伐とした空気をしまい、眼鏡をかけ前髪を最初のように戻し瞬歩で上司の元へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の歯車が回る音がした――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はーい、ヨン様でたぁぁああ!!ヨン様っていつ護廷十三隊に入ったんだろう…。謎だね、うん。ああ、私的には早く推しのシロちゃん出したいけど…出てくるのはきっと当分先だろうなぁ。


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市丸碧の風邪

日常編を書こうと頭を悩ませますが、中々思い付かない。そろそろ原作突入の予感。こんなもの書いてほしいなどの要望があれば言ってもらえると嬉しい。


朝5時。ボクは朝ごはんを作るため、目を覚ました。現在の季節は冬。その為、布団から出たくないのだがその気持ちを押し殺ししぶしぶ冷水で顔を洗う。

 

 

「ゴホッ」

 

 

喉が痛いような気がする。頭が痛いような気がする。あくまでも気がするだけである。ボクが風邪引くなんてそうそうないし(多分)。

 

ご飯を炊いて味噌汁作って鮭を3つ焼く。乱菊は朝はそんなに食べないから量は少なめで鮭の大きさも小さいのを。ギンは気分によって食べる量が違うからいつも適当。多く出しても残しはしないので適当でいいのだ。今回、ボクは食欲がないので少なめにしておく。

 

6時15分頃に頭にピョンと可愛らしい寝癖をつけたギンが起きた。

 

 

「ふあぁぁ。寒いわ~」

 

「おはよ、ギン」

 

 

起きて初めて今日しゃべったのだが、声がなんともガラガラだ。ギンも勿論それに気づいていて「風邪か?」と聞いてきた。ボクは頭を横に振る。

 

 

「朝だから、声が、出てない、だけだよ」

 

 

ギンは納得していない様子だったが「とりあえず顔洗ってくるわ」と言って顔そして寝癖を直しに行った。

 

ギンが戻って来る頃には朝ごはんの準備は完了していて後は乱菊を起こすだけとなった。

 

 

「ボク、乱菊起こしてくるわ」

 

「う、ん」

 

 

いつもなら自分の料理を見て空腹心を擽られ早く食べたいと思うのだが今日はそれがない。逆に吐き気があり正直に言うと今でも吐いてしまいそうだ。

 

 

「おはよ~…顔色悪くない?」

 

 

乱菊が起き、ボクの顔を見て一言。ギンは「さっきよりも顔色悪くなっとるで」と言った。

 

 

「熱あるんじゃない?」

 

「……吐きそう」

 

 

ボクの呟きに驚く乱菊とギン。乱菊とギンがあたふたしてる間に結局ボクは吐いてしまってダウン。布団の中へと連行されてしまった。

 

 

「ちょっとこれ熱高いじゃない!!なんで早く言わなかったのよ!!」

 

 

なんでって…乱菊寝てたでしょ。そんな事を口に出す前にボクは目を瞑った。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

体が弱いのは誰に似たのかはわからない。いつも季節の変わり目に熱を出して父ちゃんに看病されてた記憶がある。

 

 

「きついならきつい、ってちゃんと言わな。ボクわからんで?」

 

「…ごめんなさい…」

 

「怒っとるわけやないんやけどなあ…。まあ早く治し」

 

 

父ちゃんはボクにそう言うと笑って頭を撫でてくれた。父ちゃんの手は暖かくてそれでいて優しくて。安心できた。

 

 

――そんな昔の夢を見た。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

女が1人立っていた。銀髪のボクに似たような…まるで成長したかのような男も立っていた。男と女は白い、なにもない世界で何かを話していた。内容は聞こえない。

 

女は姿を変えた。男の姿へと。男は二人になった。表情も体つきも全て同じ男に。男は苦笑いだった。もう1人の男はまるで悪戯が成功した時の子供のような笑みで笑った。

 

場面が変わった。

 

銀髪の、ボクと言うよりかどちらかと言うとギンに…父ちゃんに似た男が口から血を出して倒れていた。それに寄り添うように乱菊に似た…母ちゃんに似た女が泣いていた。

 

それを遠くで目を真っ赤にしたボクを成長させたような男が見ていた。男の顔からは憎しみ、怒り、哀しみ現れていてすぐに分かった。

 

男は叫んだ。なんて言っているかはノイズのようなものがかかっていてわからない。確かのは母ちゃんに似た女が男に何かを言っている事だけ。ギンに似た男は前に立っているオレンジ色の髪をした男の瞳を黙って見ていた。

 

 

「あいぜェェェェンンンンンンン!!」

 

 

急にノイズが取れたかと思えば聞こえたのはボクを成長させたような男が叫んだ『藍染』と言う単語だけ。一体ボクは何を見ているのだろうか。何故こんなにも…『藍染』と言う男を殺したい衝動に駆られてしまうのだろうか。

 

分からない、わからない、ワカラナイ。

 

目の前が赤く、黒く染まっていく。何がなんだか分からない。何故だか恐くて鳥肌が凄くて涙が止まらなかった。

 

ボクの瞳とギン似の男の瞳があった。ギン似の男はこの場では似合わない笑顔で、口パクで「ありがとう」と言った。

 

どんな意味のありがとうなのか分からない。何故ボクが見えているのか分からない。どうしてボクに言うのか分からない。全てが分からなかった。けれど、今ボクもこれを言っておかなければいけないような気がして――。

 

目に涙を溜めてボクも言った。

 

 

「こちらこそ、ありがとう」

 

 

ギン似の男は嬉しそうに笑って、そして瞼を閉じた。乱菊似の女の叫び声が空に、空座町に響いた。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「ギン!!ギン!!」

 

 

どんなに叫んでも、揺すってもギンは私を見ようとはしない。一護の瞳を見たかと思えば全然違う方をただボーとしたような感じで見ていた。

 

 

「ありがとう」

 

 

ギンが誰かに呟いたかのように言った。ギン、それは一体誰に言った言葉なの?なんでそんなに…嬉しそうな顔をしているの?私には分からない。

 

ギンは暫くすると更に嬉しそうな顔をして目を瞑ってしまった。何故そんなに安らかな顔なのか聞きたくてもギンはもう目を瞑ってしまって聞けなかった。それに今の状態じゃ…声も出せないわ。

 

 

 

 

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目を開けると一番最初に見えたのは木と藁でできた屋根だった。次に見えたのは心配そうなギンの顔と乱菊の顔。

 

さっきのは…夢か。何を見ていたのか忘れてしまったけれど、悲しい夢だったような気がする。まるで大切な人が死んだような――。

 

 

「大丈夫か?もう夜やけど飯、食えるか?」

 

 

ギンに喋りかけられ現実に戻る。結構長く寝ていたらしい。空腹感はそんなにないけれど何かを胃に流し込まなければならないと思い「少しだけなら」と言った。乱菊はボクの返答を聞いて「あたし持ってくるわ!」と炊事場へと走って行ってしまった。

 

 

「乱菊が珍しく作ったんやで。命の保証は出来ん」

 

「…なにそれ、恐っ…」

 

 

ガラガラな声で言うとギンは「何度聞いてもおもろいわ、その声」と笑いながら言った。仕方がないじゃん。風邪引いてるんだから。

 

 

「持ってきた!!」

 

 

乱菊はどうやら鍋からおわんに少しだけうつして持ってきてくれたようだ。乱菊曰くたまごがゆを作ったらしいのだが尋常デパートないほどグツグツと言っている。少し…煮込み過ぎたではないだろうか?

 

ギンもそう思ったらしく「これ煮込みすぎやない?」と乱菊に言っていた。

 

断言できる。今あんな熱さのたまごがゆなんか食ったら違う意味で喉が死ぬ。それだけは避けたい。だが乱菊作たまごがゆは一向に冷える気はない。

 

あんな人を一人殺せそうなお粥をとりあえず冷めるまで放置しとく事にする。熱のせいか頭が痛いようなボーとして体も鉛のように重い。

 

数十分経つとさすがに殺人たまごがゆも冷めてきて食べれる温度になった。たまごがゆはとても辛かった。そこら辺の漫画の主人公のように口から火が出せるかと思ったぐらい辛かった。

 

余談だが次の日ギンと乱菊も風邪を引いた。

 

 

 

「…あ…~……久しぶりに風邪なんて、引いたわ…ゴホッ」

 

「あ、あたしもよ……ゴホッ」

 

「お粥作ったよ~!!」

 

「…なんでアオイ、そんなに嬉しそうななん?」

 

 

 



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平子真子現世へ行く

 

 

「あれ?ギンと連絡がつかない…」

 

 

ようやく五番隊も落ち着きちゃんとした隊として活動ができるようになった頃。偶々近くを歩いていた乱菊ちゃんが道のど真ん中で歩く足を止め、伝令神機を見つめながら呟いた。

 

 

「そんな所につっ立っとったら危ないで乱菊ちゃん」

 

「平子隊長…」

 

 

「どないしたん?」と聞けば乱菊ちゃんは「ここ最近ギンと連絡がつかなくなっちゃって…」と心配な表情で言った。

 

俺の元部下、市丸ギンは死刑にはならなかったものの尸魂界を追放され現在息子と一緒に空座町に住んでいるらしい。噂によると子供ができたせいなのかかなり丸くなったという。

 

 

「そりゃ心配やわ」

 

「…現世に行こうかしら…」

 

 

心配そうに呟く乱菊ちゃんに俺は「ついこの前も行っとらんかった?」と聞く。乱菊ちゃんは「でも……」と。かなりギン達のことが心配らしい。ギンお前、信用されとらんな。少しだけザマァみろなんて思うが勿論声には出さない。今そんなこと言ったら目の前にいる彼女に殺されるだろう。それだけはごめんだ。

 

 

「なら俺が見に行ってやろか?」

 

「え?」

 

 

「忙しいんじゃ…」と言う乱菊ちゃんに俺は「今まで忙しかったからなぁ。取れなかった分の有給取るんや。ちょうどギンの息子に会うてみたいと思っとったしええやろ」と言った。乱菊ちゃんは「ありがとうございます!」と俺に頭を下げた。

 

……美人に頭下げられるのも悪くはないわ。

 

ついこの前まで五番隊は忙しかった為、ギンの結婚式にも何もでれんかった。強いて言うなら乱菊ちゃんが息子の名前で「キン」か「シロガネ」と言う何とも言えない名前で悩んでいるところに「碧」と言う新たな選択肢を与えたぐらいだろうか。

 

乱菊ちゃんのネーミングセンスに違和感を感じていたギンには礼を述べられた。勿論悪い気はしない。逆にそんな名前で良かったのかと思う程だ。

 

勿論碧に会ったことはない。現世になんて本当に久しぶりに来るぐらいだ。道に迷わず行けるか、そこが鍵だと思う。

 

穿界門(せんかいもん)を開き現世へと下り立つ。人間界は相変わらず尸魂界とは違って洋風である。久しぶりに来ると慣れないものだ。

 

乱菊ちゃんから家までの地図を貰っていた為それを見て行くとする。地図によると街の近くではなく遠く離れた人が住まないようなところに家を建て住んでいるとのこと。…アイツ、なんやかんや言ってヒトと関わるの嫌いやもんなぁ……。

 

基本は一人でいることを好むギン。そんな奴が父親になっとるんや。やっぱ長生きしてみるもんやと思う。

 

クスクスと笑いながら歩くこと30分。かなり大きい家が見えてきた。思わず俺は苦笑いを漏らす。

 

 

「…二人しか住んどらんのにこんな大きな家いるか?」

 

 

張り切って大きく作りすぎてしまったのか、そんなことはギンにしか分からない。もうしかすると乱菊ちゃんからの頼みかもしれへんしな。

 

ドアをノックするが誰も出てこない。ドアには鍵がかかっていないようでドアは開く。どうせギンの家なんやし勝手に開けてもええやろ。俺はドアを開けてズカズカへと入っていく。

 

電気も何もついていなくて、廊下は暗い。ギンの姿も見えなければギンの息子、碧の姿も見えない。ヒトの気配がしない。まさか…ギン、お前変なもんに巻き込まれとるとちゃうやろな?

 

一抹の不安を掲げながら俺はリビングと思われる扉を開く。中には電気も何もつけず座り込んでいるギンがいた。

 

 

「…おるなら出ろやボケ」

 

「平子隊長…」

 

 

ギンは座り込んでいる為、俺を見上げる形となっている。ギンの瞳には光がないように思える。思わず「なんかあったんか?」と聞いてしまった。

 

 

「…碧がいなくなってしもうた。探しても探してもおらん。何処に行ったんや碧」

 

「…どう言うことや。詳しく話せ」

 

 

ギンから詳しく話を聞いた後、帰ってこない可能性を感じた。少なくとも今は帰ってこれないだろう。ギンも同じことを思っていたのかいつでも碧が帰ってこれた時のために家にいるとか。

 

 

「お前、今みたいな暮らし碧が帰ってくるまで続けてみ?死ぬで?」

 

「………」

 

「ほら、飯食え。買うて来たから」

 

 

ギンの家に来る前、腹が少し減ったので弁当を買ってきたのだが……ここはギンに譲るとする。ああ、俺なんて優しいんやろ。部下思いやわぁ。

 

弁当をギンに渡すと渋々と言ったような感じで食べ始めた。ギンが弁当を食べているのを見て俺は少し懐かしく思う。

 

昔のギンはこれ程食べなかった。貧しい生活を乱菊ちゃんと二人でやっていた為か自分が食べるのは半分も満たないぐらい。他の全ては誰かにあげてしまうのだ。時々昼飯など一緒に行くと「平子隊長お腹空いとります?ボクもうお腹いっぱいやからあげる」なんて言って半分入った飯を無理やり食わされた記憶がある。

 

草食で気を抜いたら朝飯と夜飯を抜こうとするものだから無理やり食べさせていた。けれどやっぱり全部食べることは出来なくてそのせいかギンは細くて小柄だった。

 

今のギンだってそうだ。昔よりかは食べるものの相変わらず身長と比べ体重は少なく時々心配するほど。家事は碧がやっていて碧の作ったものなら残さず食べると乱菊ちゃんから聞いていた。息子ができたのはギンにはええ影響を与えてるみたいや。良かったなギン。

 

 

「…そんなジーと見られると食いにくいんやけど」

 

 

俺の視線に気付いた記憶は嫌そうな顔をしながら言う。俺はニヤニヤとした顔で「気にせんで食え」と言った。

 

 

「せやから無理やて」

 

「なんや、器の小さい男やな」

 

 

「ボクは隊長さん程図太い神経持っとらんやけや」と減らず口が帰ってきたので「そんなこと言っとると捨てられるで」と言った。

 

 

「乱菊はボクのこと捨てんよ」

 

「おっ、惚れ気か?嫌やわぁ、自慢なんて聞きとうないわ」

 

 

「嫌や嫌」と言うとギンは段々と調子を取り戻してきたのか、空元気なのか「ひよ里さんといつ籍入れるや?」なんてアホなことを聞いてきよった。思わず自分でいれた茶を溢してしまう。

 

 

「人ん家で茶溢さないでもらえますか?ちゃんと片付けてな」

 

「なんでひよ里や!!もっとましなもん居ったやろ!!」

 

「てっきり隊長はひよ里さんのこと好いとると思っとったんやけど…違うんか?」

 

 

コテンとした顔で首を傾げるギンに俺は叫ぶ。

 

 

「違うわ!アホ!!誰があんなチビ猿……」

 

「誰がチビ猿や!!」

 

「ぐふっ!!」

 

 

急に背中が痛くなってなんやと思えばひよ里が飛び蹴りしょった。…いつの間に入ってきたんや。

 

 

「なにすんや!!殺されたいんか!?」

 

「はっ、誰がお前ごときに殺されるかアホ!逆にこっちが殺してやるわ!!」

 

「おーおー!やれるもんならやってみ!!返り討ちにしたる!!」

 

「…人ん家の家で堂々と喧嘩するの止めてもらえますか?後、勝手に入ってこられちゃ困るんやけど」

 

 

ギンがひよ里を見つめて言うとひよ里は「アホ!!何回もドア叩いたわ!!出てこんお前が悪いんやろ!!」と言った。

 

 

「それにしても何しに来たん?」

 

「あ?食材持ってきただけや」

 

「食材?」

 

 

「碧、主夫業忙し過ぎて友達できとらんかったからウチが手伝えること手伝っとるだけや。今は月1で野菜なんかを持ってきてやっとるやで」などと得意気な顔で表情でひよ里は言った。

 

 

「なんや、アイツ友達おらんのか?そんなとこもギンに似よったな」

 

「ちょっとそんな誤解を生むようなこと言わんでもらえます?ボクにも友達の一人や二人おりますから」

 

「誰や?ぜひ聞きたいなぁ」

 

「…………」

 

 

俺の質問に答えられないギンを見て「おらんやないか」と言えば「シンジも似たようなもんやろ」とひよ里は言った。

 

 

「はぁ?俺はギンと違っておるで。友達。…拳西とかおるしなぁ」

 

「あれは友達ちゃう。腐れ縁言うんや」

 

「はあ!?」

 

「ふっ、五番隊の男共は友達もおらんのか。ダサいなぁ」

 

 

この後ギンと俺とひよ里でどこからが友達なのか、というくだらない話を二時間程やった。話終わった後の何とも言えない虚無感などは見てないフリをした。

 

 



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市丸碧と市丸ギンの怒り

この小説に初めて感想が来た。作者今ホクホクとした顔で小説投稿しちゃってます。今日沢山投稿する!って断言したいところだけどこう見えても忙しいから気長にお待ちいただけるとありがたい。

感想、ありがとうございます。励みにして完結までがんばります!


 

 

「今日はあたしが料理するわ!!」

 

「「はぁ?」」

 

 

乱菊の突然の宣言にボクとギンは顔を歪める。正直行って乱菊は料理は上手ではない。彼女もそれを重々承知のようで料理はボクやギンに任せてきた。

 

 

「あたしも女よ!料理の1つや2つできないと!!」

 

「そんなこと言ってボク達が死んだらもとも子もないやろ」

 

「ちょっと!!それはどう言う意味よ!!」

 

 

乱菊とギンの言い合いをボクは微笑ましく思いながら見ていた。乱菊はギンに拾われここに来た。ボクは乱菊よりも先にここにいたからギンとの付き合いはボクの方が長いのだがどうにもボクよりも乱菊との方が仲良く見えて仕方がない。

 

それがとても羨ましく、そして喜ばしく思えた。ボクはこの世界の本当の住民じゃないから。そんなに深く関わりは持てない。だから良かったと思える反面少し寂しく思う気持ちもあるのだ。勿論口に出すつもりはない。だって二人ともそんなこと思っていないから。

 

これからもずっと3人で、なんてそんな夢物語は永遠に続かない。少なくともボクは本当の世界に帰らないといけないし、二人だって二人の未来がある。

 

 

「ほら!早く薪とか拾ってきて!!」

 

 

ギンと一緒に家を追い出されボクとギンは顔を見合わせる。二人同時にため息をつくと「仕方がないなぁ」と言った。

 

 

「…今日、まともなもん食えるとええんやけど」

 

「…乱菊を信じよう…」

 

 

ついこの前作ってもらったお粥がトラウマになりつつあるので正直言って乱菊の手料理は食べたくない。けれど本人はやる気満々なので文句を言うこともできず、腹を括る。ギン、ボクが死んだら骨を拾ってもらいたい。

 

ギンとふたてに別れて重い足取りで薪を拾っていく。時々黒い死覇装を着た男たちを見かけるが無視した。興味ないし関係もない。

 

ある程度薪を拾い終えるとギンと合流。どんな夕飯が出てくるのか、なんて議論しながら家までの道のりを歩いた。

 

遠くから見ても分かった。家がボロボロで、誰かが立っている。黒い死覇装を着てて側に寝ているのは――。

 

 

「乱、ぎ、く…?」

 

 

隣でギンの呟く声が聞こえた。このままだとボクらまで見つかってしまう。それは…得策ではない。そう判断したボクはギンの片腕をつかんで大きな木の後ろに隠れた。

 

 

「離せ!!乱菊助けな!!乱菊助けな!!」

 

「落ち着いて…!ここでボクらまで見つかったら更に乱菊助けられなくなる!!」

 

 

きっとあの男は隊長クラスだ。斬魄刀を所持しないボクでは勝てないだろう。それはギンだって同じ。ギンはボクの言葉を聞いて黙った。そして乱菊を傷つけた男を覚えるように、恨むように見つめていた。

 

男は乱菊から何かを取ると満足したような顔で消えた。ボクたちは走って乱菊に駆け寄った。

 

 

「乱菊!!乱菊!!」

 

「…気絶してるだけ……」

 

 

土まみれになっている乱菊の土を払いおとすとギンが乱菊を背負った。

 

 

「一先ず乱菊が安心して寝れるところ探さな」

 

 

ボクはギンの言葉に頷いた。

 

何百メートルも歩いて歩いて歩くと誰も使っていない小屋を見つけた。ついこの前作ってまで人が暮らしていたのだろう。家具とかも充実していて乱菊を寝かせることに成功した。

 

布団に乱菊を寝かせるとギンは立ち上がった。

 

 

「何処に行くつもり?」

 

「…ボク、アイツがゆるせへん」

 

「それはボクも一緒だよ」

 

「…ボク、死神になろうと思う」

 

 

「は?」とそっけない声がボクから出たのが分かった。ギンもこんな返答を予想していたのか驚いた様子はない。

 

 

「死神になってアイツ欺くんや。そして…乱菊から奪ったものを取り返す」

 

「……」

 

「だからボク、行ってくる」

 

 

ギンは行き先を告げずに消える悪い癖がある。けれど、ギンはわざわざボクに行き先を告げてくれた。教えてくれた。それがちょっと嬉しくてこんな雰囲気でも笑ってしまう。

 

 

「なんで笑っとるん?」

 

「…ボクも手伝うよ」

 

「は?」

 

 

ボクは笑いながら言った。

 

 

「きっとアイツは強い。ボク達よりもはるかに強い。強い相手に1人で勝とうなんて無謀なことしないで二人で力を合わせて確実に勝つんだ。それで、乱菊が奪われたもの、取り返そう…?」

 

「ははっ……なんやそれ……」

 

「ギンだけに業は背負わせないよ。ボクも一緒に背負う」

 

 

ギンの手のひらを握りしめるとギンは「ありがとう」と小さく呟いた。

 

 

「これから、ヨロシクね相棒」

 

 

ボクとギンは寝てる乱菊に行き先は告げず死神になるためその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

死神になるには真央霊術院(しんおうれいじゅついん)に通わなくてはならないらしい。さてどうしたものか。ギンとボクは話し合う。

 

 

「いっそのこと死神襲おう」

 

「…それ、大丈夫なの?」

 

 

いきなりの爆弾発言にボクは目を丸くしながらギンに聞くと「知らん」と帰って来た。

 

 

「けど、襲った死神アイツに見せたら死神なれると思うんや」

 

「根拠は?」

 

「勘」

 

 

策も何もないのでとりあえずギンの案で行くことになった。とりあえずって言うか…ギンの案は一発勝負でそれもかなりリスクが高い。下手すれば死神になる前に牢に入れられる可能性だってあるし、逆に返り討ちにされて死ぬかもしれない。けど、そんなことを言ってる時間はボク達にはなくてギンの案で行くしかないのだ。

 

死神を襲う前に乱菊を襲った男のことについて調べた。案外簡単に出てきたのだが――真実とその男の偽りの姿は大変な差があった。

 

乱菊を襲った男は尸魂界でもモテる男として、有能な副隊長として有名だった。優男だとかなんだとか色々と情報は手にはいった。けれどこれは全て…偽り。

 

乱菊の大事なもん奪っといて優男?紳士?冗談はよしてもらいたい。あんな冷酷な目をした男が優男で紳士な訳がない。アイツは周囲を嘘の情報で騙しているらしい。

 

男の名前は『藍染惣右介』。どこかで聞いたことのあるような名前であるが思い出せない為あきらめる。こいつは五番隊の副隊長をやっているとか。

 

五番隊…これまたどこかで聞いたことのある単語だ。勿論思いだせはしなかった。無念。

 

 

「なあ、あれ」

 

 

ギンが指差したのは流魂街へと赴く藍染の姿。藍染が瀞霊廷から出たこのチャンスを逃す訳にはいかない。ボク立場近くにいた死神の身ぐるみを全てはきとる。多少怪我はしたが大丈夫だろう。

 

 

「…君達は……」

 

 

僕達の霊圧に気づいた相手にが近寄ってきて話しかけた。ボクとギンは張り付けたような胡散臭い笑みを浮かべて言った。

 

 

「あんた、藍染惣右介言うんやろ?」

 

「ボク達、どうしても死神になりたいんだ」

 

「何でも手伝う。せやから――」

 

「「――ボク達を死神にして」」

 

 

藍染惣右介は一瞬キョトンとしたような顔をしたがすぐに笑った。

 

 

「…何でも手伝う、それに二言はないね?」

 

 

ボクとギンは頷く。すると藍染はボク達に手のひらを差し出してきた。

 

 

「いいだろう。私は藍染惣右介。これから君達の上司となる人間だ」

 

 

ボク達は忌々しい藍染の手をとった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

藍染の力によって真央霊術院に通うことが決定したボクとギン。真央霊術院とはとてもつまらないものであった。今では始解も習得し約一年で卒業。みんなからは『神双』と呼ばれるようになった。

 

 

「ギンの斬魄刀と同じ名前だね。ボクら」

 

「ああ、『神双』のことかいな?そう言えばボクら双子だと思われてる見たいやで」

 

「あ、それ知ってる。ボクも時々ギンと間違えられる」

 

「ボクもや」

 

 

髪の色も表情も体型もほとんど似ているボク達は双子だと思われていた。周りからは見分けがつかないらしく「とりあえず関西弁の方がギンな」という噂が流れている程だ。

 

ギンは「血は繋がっていない」と否定しているらしいが名字も風貌も同じなボクらが信じて貰えないようだ。ギンは父ちゃんだから血は繋がっているのだけれどこれはさすがに教えられない。

 

 

「うわあ、いっぱいスカウト来とるで」

 

「…全隊舎から来てるじゃん」

 

「ボクらえらい人気者になってしもうた」

 

「まさかここまでとは…。噂の力恐るべし」

 

 

卒業と同時に護廷十三隊に入らなければならない。その為何処に入ろうかふたりで話し合っているところだ。

 

 

「何処に入隊する?」

 

「五番隊に決まっとるやろ」

 

「だよね。アイツを監視しなきゃだし」

 

 

こうしてボクらは五番隊に入ることとなった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「『神双』っちゅう奴は餓鬼なんやろ?そんな奴が入ってきてホント大丈夫なんか」

 

「確かに彼らは小さい。けれど、力があることは確か。真央霊術院を一年で卒業するなんて前代未聞ですよ」

 

 

「それは隊長も分かっていることじゃないんですか?」と藍染に言われ俺は眉を潜めた。藍染、お前は一体なにを考えとる。

 

『神双』が五番隊に入ると決まる約半年前。五番隊の参席と四席が虚に殺されたと連絡が来た。そのせいで今そこは空席となっており、『神双』の二人は参席と四席につくこととなったのだ。それも…藍染の推薦で。話が良すぎると思った。

 

まさかお前、『神双』も巻き込むつもりちゃうやろな?ここまで藍染の全て策略通りだとしたら――。俺は少し頭が痛くなった。

 

 

「隊長、部下の前なんですからしゃんとして下さいね。いつもみたいなぐーたら披露したら今度こそ殴ります」

 

「おーおー、上司を殴る副官なんてこの世に存在しちゃあかんやろ。そないなことしたら後でどんでん返し来るで」

 

 

藍染は「はぁ」とため息をつくと木製のドアを開いた。

 

部屋の中には銀髪の二人が椅子に座っていた。開いたドアに気づいたのか少しだけだが戦闘態勢に入る。ほう、反射神経はええみたいやな。

 

 

「そんなに身構えないで。この人は一応隊長だから」

 

「一応ってどう言うことや惣右介。ってこいつら俺に身構えとったん!?」

 

「「藍染副隊長こんにちわ」」

 

「なんや!!この餓鬼イラつくなぁ!!」

 

 

俺はまるでこの場にいないみたいな扱い方。上司普通はこんな扱い方されへんで。っちゅうか……。

 

 

「なんや『神双』の片割れはあん時の餓鬼かいな」

 

「…ロン毛なオッサン。キモ」

 

「…お前、やっぱり指導が必要みたいやな」

 

 

まさかあん時俺が死神にスカウトした奴が『神双』なんてたいした異名つけてくるとは思わんかったわ。相変わらず口は悪いし上司に「キモい」なんて普通使わんやろ。それにしても。

 

 

「お前らほんまに似とるな。それでも血は繋がっとらんとやろ?」

 

「そうやで。幼なじみではあるけど全くもってあかの他人や」

 

「この世には同じ顔が3人いるって言うぐらいだしまあ変じゃないでしょ」

 

「いや、可笑しいやろ!!」

 

 

二人とも張り付けたような胡散臭い笑みを張り付けているため全くもって見分けがつかん。ありがたいことに二人の喋り方は違うのでそこから見分けをつける、ということ。こいつらが俺の部下になる。…俺の部下にはまともなもんおらんのか?

 

 

「まあ、これから頑張れや。餓鬼共」

 

「禿げろロン毛」

 

「宜しゅうお願いしますわ」

 

「おいこら右!!ちょっと表出ろや!!」

 

 

俺は確か碧っちゅう名前の奴を指差した。

 

 

 

 



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平子真子の悩み

いつの間にか五人の人がこの小説を評価してくれていたようで…ありがとうございます!

なんだろ、凄くやる気わいてくる!!これからも宜しくお願いします!!


「あー、もうイラつくわぁ!!」

 

「どうしたんですか?そんなに怒っちゃって」

 

「喜助、俺とんだじゃじゃ馬部下持ったみたいやわ」

 

 

藍染が側にいないことをいいことに俺はサボっていた。十二番隊の隊長浦原喜助とはそこそこ仲がよくこうして時々サボっては顔を出したりしていた。

 

 

「ああ、噂の『神双』って言う二人組ッスね?ボクも噂でしか聞いたことないッスけど、そんなにじゃじゃ馬なんスか?」

 

「あんなのただの餓鬼やで。静かに休憩しとるなぁ思うたら俺の隊首羽織を布団がわりにしとったり、すぐ甘いもん要求してくる。あれは餓鬼や餓鬼」

 

「…やっぱりこう言うものは噂じゃ分からないものッスね」

 

 

――情のない残忍な二匹の蛇

 

――本当は実力なんてなくて金でもつぎ込んだのではないか

 

――どこかの死神の手柄を横取りしたのではないか

 

 

裏で言われたい放題をしているギンと碧。そんな奴見つけたら俺はちゃんとした真実を教えてやっとる。が、こんな悪い噂程中々消えないのだ。

 

 

「金でもつぎ込んだ、なんてアホらし。そもそもアイツら流魂街出身やのにどうやってつぎ込むねん。金なんか持っとらんわ。それにつぎ込まれてもこっちは腐るほど持っとる。そんなに要らんわ」

 

「えぇーボクとしては研究費とか諸々かかっちゃうんで欲しいッスけどね」

 

 

「って言うかその腐るほど持ってるお金ボクにもわけてくれません?」なんて言う喜助の頭を俺はおもいっきり叩いた。

 

 

「えーと確か市丸サンと碧サンでしたっけ?」

 

「ん?それがなんや?」

 

 

突然あの餓鬼達の名前を出してきた喜助は「あの二人って容姿とても似ているんでしょう?見分けつくんですか?」と聞いてきた。

 

 

「これが意外に結構つくもんやで。なんちゅうか…碧とギンには上下関係みたいなもんができとってな」

 

「上下関係?」

 

「無意識やろな。なんか碧がいっつも下手に出てる感じや」

 

 

そないなところを見てると、なんだか危なっかしく思うんや。碧がいつかギンの盾になって死んでしまいそうで、目が離せん。

 

 

「あ、平子サン」

 

「なんや?」

 

「隊首羽織に…涎、ついてますよ」

 

 

喜助が指差したところを見ると確かに涎だと思われるシミが2つほどついていた。俺はそれを見て叫ぶ。

 

 

「……あのくそ餓鬼共ォォオオ!!」

 

 

明日、隊首会あるのにどうしてくれるんや!!

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「…こっちにはおらん」

 

「こっちも」

 

 

ボクとギンはロン毛こと平子隊長を探していた。藍染は虚討伐とかなんとかで五番隊を留守にしており、平子隊長のサボりを監視する人がいなくなってしまった。

 

それに藍染からの言い付けで『平子隊長の監視と見張り頼むよ。すぐに帰ってくるから』と言われてしまった。しかしあんなお転婆ロン毛をずっと見張ることはできず少し目を離したすきに消えてしまっている。今慌ててギンと探している状況だ。

 

 

「どないしよ。これ絶対ボクら怒られてまうで」

 

「…マジどこ行ったんだあのくそロン毛」

 

「口、悪ぅなってもうてるって」

 

「ついうっかり」

 

 

ギンに口の悪さを指摘されやめる。そもそももういい歳した大人なんだからサボるなよ。子供に探させてどうするんだ。隊長として失格じゃね?なんて怒りを持ちながらも探すこと数十分。十二番隊の周りをウロウロしているとひよ里さんにあった。

 

……ひよ里さん、死神やってたんだ…。なんか意外。前ひよ里さんは死神が嫌いだと言っていた。そんなひよ里さんが黒装束を身に纏っているところを見るとなんだか新鮮に思う。

 

 

「こないなところで何しとんのや」

 

 

「確かシンジのところに新しく入ってきた奴やろ?」と聞かれボクらは頷く。

 

 

「市丸ギン言います。どうぞこれから宜しゅうお願いしますわ」

 

「市丸碧です。よろしくお願いします」

 

 

名前を言って一礼するとひよ里さんは一言。

 

 

「なんやお前ら礼儀正しい奴らやな!!ウチそう言うの嫌いじゃないで!!」

 

 

「猿柿ひよ里や。シンジのことで困ったことあったら遠慮なくウチに言い。成敗してやるわ!」と笑って言ってくれた。ボクとギンは顔を見合わせる。そして頷いた。

 

 

「ん?なんや?なにかあったんか?」

 

「今、隊長何処に居るか知っとりますか?サボって消えはったんですよ」

 

「お陰でボクらほとんど瀞霊廷歩き回ってしまって…」

 

「アイツ…!!」

 

 

 

ひよ里さんはワナワナと肩を震わせると「ついて来ぃ。ウチが案内してやるわ」と言って歩き始めた。

 

 

「居場所分かるんですか?」

 

「瀞霊廷探し回って居らんかったのやろ?」

 

「後は十二番隊の周りだけやで。探しとらんの」

 

「だったらここにしかおらんわ。アイツ…友達おらんからな」

 

 

ひよ里さんはズカズカと隊舎に入ると真っ直ぐ隊首室を目指した。隊首室のドアの目の前で足を止めたかと思うと――ドアをおもいっきり蹴飛ばした。

 

 

「おいコラシンジ!!なに部下に迷惑かけとんねん!!アホか!!死ね!!」

 

「あら、ひよ里サン。お帰りなさい」

 

 

クリーム色をした髪の男の人の横にはボクらの隊長平子真子が座っていた。ひよ里さんは隊長の胸ぐら掴むとグワングワンと前後に揺らし言う。

 

 

「お前も隊長なんやろ!!仕事ぐらいサボらずにやれ!だから部下に呆れられるんやろ!!」

 

「はあ!?呆れられとらんわ!俺だってな少し休息が必要やねん!ずっと働き蟻のように働いてられるか!!」

 

「なにが休息やねん!そんなマトモな言葉で取り繕うとしても無駄やハゲ!!」

 

「ハゲとらんわ!チビ!!」

 

 

マシンガンのように悪口の言い合いをしていくひよ里さんと隊長を遠目で見ているとクリーム色が話しかけてきた。

 

 

「どうも。十二番隊の隊長を勤めさせてもらってる浦原喜助ッス。宜しくしてもらえるとありがたいッスね」

 

「「……胡散臭」」

 

「…酷い!」

 

 

思っていたことが思わず声に出てしまった。どうやらそれはギンも同じのようで声が重なる。ボクらは顔を見合せると笑った。

 

 

「ぷぷー!!喜助!お前嫌われとるな!!」

 

 

笑っている隊長にボクは「安心してください、隊長。ボクらもそんな隊長好きじゃないですから」と言った。すると隊長は「なんやて!!どう言う意味や!!」と言ってきたので「そのまんまの意味ですけど?」と返しておく。すると横から「ちゃっかりボク巻き込まんといてよ」とギンが言ったがボクは聞こえていないフリをした。

 

 

「お前、入隊してまもないコイツらにそんなこと言われるなんてもう信用がた落ちやんけ」

 

 

呆れた目で呟くひよ里さん。ひよ里さんの言葉を聞いてギンが口を開いた。

 

 

「ボクはそんなこと言っとらんで」

 

「…ギン……!!」

 

「ま、好きか嫌いかで言われたら嫌いやけど」

 

 

上げて落としたギンはかなり性格が悪いと思う。そんなギンを見てボクらのような胡散臭い笑みを更に深くしているこの浦原って言う人は更に性格が悪い。

 

 

「嘘や嘘。本当はそないなこと思っとらん。だからそんなに泣かんで。ええ年頃なんやから」

 

「な、泣いとらんわ!!アホ!!」

 

 

「帰るで!!」と大声を出して先に行ってしまった隊長を見て慌ててボクらはひよ里さんと浦原(呼び捨て)に一礼をし、追いかける。

 

そんな姿を見て浦原がボソリと言った。

 

 

「…なんだか、親子みたいッスねぇ」

 

「あれがか?」

 

 

ひよ里の疑問に浦原は「ええ」と言った。

 

 

「なんだかんだ平子サンも好かれているようですし、ボクらは研究を進めようとしましょう」

 

「ウチ、手伝わんからな」

 

 

ひよ里の言葉に浦原は土下座をして頼み込みひよ里から冷たい目で見られるのは数分後の話。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

瀞霊廷と流魂街は違う。その為、ボクとギンに慣れないことが沢山あった。例えば――。

 

 

「なんやお前ら。ほんまにもう食べへんのか?」

 

「うん。お腹いっぱい」

 

「ボクもや」

 

 

食事の量、とか。ボクもギンもかなり草食な方なので食べるという概念がそんなにない。昔乱菊に食べなさすぎると怒られたこともあった。

 

流魂街にいるときは生きるのに必死で食事の調達なんか自給自足だったからそんなに多く食べれない。そんな流魂街とは違い瀞霊廷では沢山ご飯が出てきた。その為、ご飯なんか半分も食べきれずダウンしてしまう。

 

残すのももったいないので平子隊長にあげようとするのだが中々平子隊長は受け取ろうとしない。嘘じゃなくて本当にお腹いっぱいなのに。

 

 

「食べな背大きくならんで」

 

 

ボク達の前に置かれていた丼を食べながら平子隊長は言った。ボク達、食が細いからこんなに小柄なのかな?

 

多分こんなところは父ちゃんに似たんだと思うけど。父ちゃんいつも母ちゃんに「あんた身長と体重の比率がおかしいのよ!!」なんて言われて怒られていたこともあったし。……うーん、やっぱり父ちゃん似か。

 

 

「よくそんなに食べれるよね」

 

「よく太らんなぁ」

 

「俺はお前らとは違って働いとるからな」

 

「「それ、あんたが言えん」」

 

 

平子隊長はよく食べるけど太ってもいないし細過ぎてもいないちょうどいいぐらいの感じの人だ。身長もそこそこ高い方だし少し羨ましい。ちなみに父ちゃんはもっと高かった。

 

 

「お前ら流魂街時代なに食いよったんや」

 

「よく食べてたのは……」

 

「干し柿やね。あれは美味しい」

 

「それ、腹に溜まるか?」

 

 

「意外に溜まるんや、これが」というギンの言葉にボクは頷く。平子隊長は怪訝そうな目でこっちを見てきている。嘘じゃないって、本当だって。

 

結論から言うと平子隊長は約二人前を食べた。…よく食べるなぁ、この人。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「平子真子よ。その隊首羽織についておるシミはなんじゃ」

 

 

とある隊首会。総隊長に聞かれ俺は冷や汗を流す。総隊長は隊首羽織を何故か大事にしとるからシミとかがついとると五月蝿いんや。

 

 

「わあ、ホントだ。2つほどついてるねぇ。…涎かい?」

 

 

「ボクもよく枕にするんだ」と言う京楽に「アホか」と言う。

 

 

「うちの餓鬼共が布団がわりにしょった。お陰でこの様や」

 

「ん?平子結婚なんてしていたか?猿柿との間にできた子供か?」

 

「ちゃうわ!!て言うかなんで相手がひよ里やねん!…新しく入ってきた奴や。二人おってな、これがとんだじゃじゃ馬で……」

 

「ほう、会ってみたいな」

 

 

浮竹がにこりと笑う。アイツ餓鬼好きやからな。全く餓鬼のどこがええんか…。

 

 

「ぺいっ!!」

 

 

この後すっごく総隊長に怒られた。勿論、隊首羽織を枕として使ってるなんてカミングアウトをした京楽と共に。

 

 



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市丸碧の斬魄刀

今日は短め。
今日から10月半ばまで忙しくて投稿できない日があるかもしれません。ごめんなさい。


 

 

「なぁ、そう言えば、お前らの斬魄刀ってどないな物なんや?」

 

 

平子隊長がボクとギンに聞いてきた。ボクとギンは顔を見合せると言った。

 

 

「『鬼火(おにび)』って言う名前の斬魄刀です」

 

「ボクのは『神鎗(しんそう)』やで」

 

「いやそないなこと聞いとるとちゃうねん」

 

 

「能力や、能力」と言う平子隊長に「えー、教えたくないなぁ」とボクは言った。

 

 

「ボク達のが教えて欲しいなら隊長の斬魄刀も教えて下さいよ。何気に始解も卍解も一回も見たことないし」

 

「俺のか?俺のは『逆撫(さかなで)』っちゅう名前の斬魄刀や」

 

「能力は?」

 

「誰が餓鬼なんかに教えるかアホ」

 

「ほらー、教えてくれない」

 

 

「隊長が教えてくれないのになんでボク達が教えなきゃいけないんですかー」と言うと「俺隊長やからな。部下の斬魄刀の能力ぐらい把握しとかなあかんやろ」とボクの頭を叩きながら言った。ボクの頭は叩かれる為にあるんじゃないぞくそやろう。

 

 

「「…秘密」」

 

「なんやねん!!教えろ!!」

 

「どうせ今度虚討伐しに行くとき見るやないですか」

 

「別に今教えなくてもいいしー」

 

「……はぁ、ほんま餓鬼やなお前ら」

 

 

「餓鬼」という言葉にムスッとすると隊長は「そうやって一々反応すんのがあかんねん」と笑いながら言った。

 

 

「次回隊長ナンパする」

 

「普通にビンタされて終わるでー」

 

「「見てなぁ」」

 

「誰に次回予告しとんねん!!って言うかフラれる前提かいな!!」

 

 

ボク達は平子隊長の言葉を無視して歩き出した。結果、隊長に背中蹴られた。痛い。虐待だ。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

(まど)わせ『鬼火(おにび)』」

 

射殺(いころ)せ『神鎗(しんそう)』」

 

 

とある虚討伐。平子隊長が凄く五月蝿かったので始解を披露することとなった。ボク達の隊長は凄くめんどくさい。そしてうざくてくどい。特にウザいのは髪形だと思う。

 

因みにボクとギンはもうすでに具象化まで進んでおり卍解までの道のりもそう遠くはない。これを教えると「お前らほんまに天才か!」と隊長に言われた。隊長曰くボク達は「生意気な餓鬼」であり「天才」には程遠いと思っていたらしい。普通の人間は本人を目の前にしてそんなことは言わない。遠回しに隊長は普通じゃないといってたりする。

 

え?ここまで自分の自慢と隊長の愚痴しかないじゃないかって?仕方がないだろ。それほどまでにボクはストレスが溜まっていると言うことだ。考えてみて欲しい。ボクとギンの上司にマトモな奴がいないことに。一人は黒幕だしもう一人はウザウザロン毛と来た。ストレスしか溜まらん。だからこそこんな戦闘の時にストレス発散をするのである。

 

 

「死ねぇぇぇえええ!!」

 

 

ボクの斬魄刀『鬼火』は火炎系の斬魄刀である。周りに沢山の鬼火を出し攻撃すると言うものであるが…。

 

 

「…荒れとるなぁ」

 

 

ギンが呟いた。ボクの後ろには数百個の鬼火が浮かんでおり、そのまま鬼火は虚へと突撃していった。

 

 

「フーハッハッハ!!滅びろ!!消えろォォオオ!!」

 

「…なんか壊れとるで、碧」

 

「なにが碧をあんな姿に…」

 

「ストレスやない?この世界はストレス社会やし」

 

 

後ろ(セリフは上から順番)で平子隊長と藍染、ギンがそんな会話をしているなんてボクは知らない。

 

因みにこの日ボクは約数十匹の虚を倒したとして表彰されるのだがこれもまた別なお話。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「悩みあるなら人生の先輩に言うてみ。俺が教えたる」

 

 

ついこの前、虚討伐時にボクが沢山のストレスを抱えていることが発覚した。隊長面をする平子隊長はそんなことをいい始めた。

 

 

「隊長程“人生の先輩”と言う言葉が似合わない人は初めてです」

 

「おいコラ、そりゃどう言う意味や」

 

「そのままの意味ですけど?」

 

 

「…なんかコイツ藍染に似てきおったわ」と呟く隊長の足をおもいっきりボクは踏む。因みに後悔もなければ悪気もない。

 

 

「いった!!部下が隊長の足踏みおった!!ええんか!?そんなことしてええんか!?」

 

「それ、ストレスの原因の1つだから」

 

「やっぱり……」

 

 

ギンが隣で頷いた。ギンもストレスの原因が分かっていたらしい。って言うかこの人しかいなくね?いやまぁ藍染とかいるけれど、アイツ一応優しい設定で今生きてるから。本性を知ってるこっちとしては更に気持ちが悪くてそれがまたストレスになってるんだけど。

 

 

「なんやねん!碧もギンもほとんど仕事サボってばっかりやん!なんで俺がこんなにも苛められなあかんねん!!」

 

「隊長、全て自分に返ってきてますよ」

 

 

「ブーメランです」といつの間にか現れた藍染に隊長は驚きの声をあげた。

 

 

「惣右介!いつの間に帰って来よったんや!」

 

「つい先ほどですよ」

 

 

にこりと優しい笑みで笑う藍染はなんとも気味が悪い。ストレスである…。藍染を倒すまではボクのストレス治りそうにもないな。誰か助けてー。

 

 



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バカ二人、追いかけて

かなりの捏造。サブタイトルが浮かばないんです。誰か心優しいお方、私にサブタイトルを…!!

今回のサブタイトル鈴原拓海さんが考えてくれました!ありがとうございます!!


ギンと碧に置いてかれて何十年も経った。あの二人は私を置いて真央霊術院に通うと言う噂を聞き付けた私は慌てて同期のテストを受けて入学した。

 

結論から言うとあたしとギン、碧の差は大きかった。ギンと碧は一年で卒業し『神双』なんて大層な異名までつけられているにも関わらず私は真央霊術院にきっちり六年居座った挙げ句卒業した後、席官入りすることも出来なかった。

 

ギンは参席、碧は四席まで上り詰めたと言うのに。

 

男女の差とかそんな生易しいものじゃないと思う。きっと天才か凡人の差で才能やセンスがあるかないかの差だと思う。そんなの勝てるわけないじゃない。あの二人ののとなりを…歩けるわけないじゃない。

 

ダメよ、弱気になっちゃダメあたし。天才?才能?センス?そんなの…あたしは要らない。あたしはそんなの必要とせずに自分の努力で上まで上り詰めるんだ。

 

そして今日見事、副隊長にあたしは任命された。話を聞くと前任の高須(たかす)春寿(はるひさ)副隊長が高齢のため、辞退なされたそうだ。その時高須副隊長が新たな副隊長に推薦したのがあたしだったと。

 

理由が知りたかった。つい最近ようやく始解が使えるようになったようなあたしが副隊長なんて荷が重すぎる。だからあたしは聞いた。「なんであたしを推薦したんですか?」って。高須さんは一瞬きょとんとした顔をするとすぐに笑いだし言った。

 

 

「キミが夜遅くまで残って練習し斬魄刀と向き合っていた姿をずっと後ろで見てきたんだよ」

 

「え……」

 

 

まさか見られていたとは。思わぬ言葉にあたしはものすごい間抜けな顔を晒してしまう。それを見た高須副隊長は更に笑いながら言った。

 

 

「副隊長の仕事としてね、最後に十番隊隊舎全ての施錠があるんだよ。キミが帰らないことには儂も帰れなかったものだからねぇ。ついつい後ろのほうで覗き見してしまった」

 

「す、すいません!!」

 

 

まさか修行が終わるまで待っててくださってたなんて…!!あたしなにやってんのよ!バカ!!副隊長の気配ぐらい気づきなさいよ!!

 

 

「なに、謝ることはない。若い子が頑張るのはとてもいいことではないか。儂は嬉しいよ。最近はキミみたいな情熱を持った子が少なくなった。確かにキミには副隊長はまだ重荷かもしれないね。けれど、いつかキミはなってよかったと思う日が、キミの実力を感じられる日が来るはずさ。キミがなにかを守りたいと強く願うとき、平隊士であることが嫌になるかもそれない。その時は副隊長の権限を使えばいい」

 

「…え?」

 

「キミが正しいと思ったことは部下も分かってくれる、隊長も分かってくれるはずさ。少なくとも十番隊にそんな分からず屋はいないと儂は思っている」

 

「………」

 

「キミならこの十番隊をもっとよく、明るくしてくれる、儂はそう信じているよ」

 

 

高須副隊長はあたしの肩に手を乗っけると、引き継ぎを全て終わらせ出ていってしまった。

 

そして高須副隊長と入れ替わるように十番隊隊長志波(しば)一心(いっしん)が入ってきた。

 

 

「お前が新しい副隊長か!!俺は志波一心だ!!これからよろしくな!!」

 

 

「ガハハ」と笑いながらあたしの背中をバンバンと叩き隊長が言った。背中がジンジンと痛くなる。きっと赤い手形がついているであろう背中のことを思うと思わず顔が歪む。勿論隊長は気づいていない。

 

鈍感ね。ギンなら気づいてくれるのに――。

 

そもそもギンはそんなことしないかと少し笑いながら思うとふとなんでギンが出てきたのだろうと疑問に感じた。

 

 

「高須さんがキミは頑張りやだと聞いたからな!どんな男かと想像したら…まさか女だったとは!!」

 

 

さっきの疑問なんかを吹き飛ばすぐらいの声で隊長は言った。あたし、男だと思われてたの…。

 

 

「普通、乱菊って言う名前で分かりません?」

 

「男かもしれんだろ!!」

 

「あたしには隊長の言ってる意味が理解できないわ」

 

 

あたしの言葉を聞いてまた隊長は大きな口を開け、笑う。

 

 

「その調子ならこれからもやっていけそうだな!!」

 

 

隊長の言葉にあたしはついクスリと笑ってしまう。

 

 

「…これから、よろしくお願いします、隊長」

 

「ああ!松本!よろしくな!!」

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「え?なんやて?もう一回言ってくれへん?」

 

 

ギンは珍しく笑みを崩し驚いた表情でボクに「もう一回」と言ってきた。ボクは苦笑いでもう一度言ってあげる。

 

 

「乱菊がね、十番隊の副隊長になったんだって」

 

 

「元十番隊副隊長に推薦されたらしいよ」と言えばギンは「…いつの間に乱菊、死神になっとったんや……」と呟いた。

 

 

「乱菊あれでもボクらと同期だよ?」

 

「…なんやそれ。初耳なんやけど」

 

「まあクラスも違ったし、ボク達は飛び級しまくったからね。会うこともなかったし」

 

 

因みにボクが乱菊が死神になったと知ったのは数年前。平子隊長にパシりにされ十番隊へ足を運んだときだった。まさか瀞霊廷(ここ)にいる筈のないと思っていた女性…乱菊と鉢合わせしたのだ。勿論ボクは乱菊が死神になってたことを知らなかったので驚く。乱菊はそんな驚いているボクを無視して言ったのだ。

 

 

「あんた達あたしを置いてホントなにしてんのよ!!」

 

 

そんな乱菊のきつい言葉と共にボクは頬をおもいっきりビンタされた。

 

頬は腫れるし隊長には笑われた(十番隊、五番隊両方の隊長に)。悪いのは乱菊じゃなくボクとギンだと分かっていたので隊長達に笑われてつもりつもった怒り全ては平子隊長に行った。とりあえずは平子隊長の頬をつねりボクと同じ顔にしてやるので気をおさめた。因みにこの後、平子隊長に凄く怒られたが後悔はしていない。笑う方がいけないんだバカヤロウ。

 

そもそもギンは乱菊が死神になったことを知っていると思ってた。だから何気なく普通に「乱菊副隊長になったらしいよ」と言えば驚きの顔と「もう一回言え」。予想外にも程がある。

 

 

「今の話からすると…乱菊とは瀞霊廷で一度もあってないわけだよね?」

 

「そうやな」

 

「ってことは、ギンもあったらビンタされるんじゃない?」

 

 

「だってギンは乱菊を拾った…いわば保護者みたいなところにいたわけだし、その乱菊を置いていった訳じゃん?往復ビンタは覚悟しといた方がいいんじゃない?」と言えばギンは笑って「乱菊ならやりそうやね」と言った。

 

 

「ええ。あたしはギンに往復ビンタの1つや2つやってやるわよ」

 

「……」

 

 

突如後ろから聞きなれた…いや、昔よりも声が少し高くなっている声が聞こえた。ギン肩が強ばるのが見える。そして…ギンは瞬時に相手に自分の心情を悟らせない笑みを張り付けた。

 

 

 

「…なんや、松本副隊長おったんか」

 

「ええ、いたわ。といってもついさっき来たばかりだから往復ビンタの話しか聞いてないけど」

 

 

乱菊が来たのは本当についさっきらしい。乱菊の声からも表情からも怒っているのがわかる。ボクは口出しするつもりはないけれど、ギンはどんな風に乱菊に対応するのか。だいたいは想像がつく。

 

どうせ冷たく接するんだ。わざと自分から突き放すように。

 

それは本当にボクの考えた通りとなった。

 

 

「あんたは…あんた達はいつも、いつも…!!なにも言わずどこかへ行っちゃう!待ってるあたしの身にもなりなさいよ!!」

 

 

乱菊は大きく手を振りかぶりギンの頬を叩こうとした。けれどそれはかなわなかった。なぜならギンがあたる直前に乱菊の腕をパシりと掴んだから。

 

 

「それで?そんなこと言いにわざわざここまで来たん?…案外副隊長も暇なんやね」

 

 

いつもの笑みを張り付けたままギンは乱菊に言った。乱菊は泣かなかった。でもとてつもなく儚い、壊れそうな顔で言った。

 

 

「もう…あたしはギンをビンタすることさえできないのね」

 

 

「邪魔したわ」乱菊はそう言うとどこかへと去ってしまった。乱菊の霊圧が感じられなくなるとギンは「はあぁぁ」と長いため息をつき地面にしゃがみこむ。

 

 

「…なにやってんやろ、ボク」

 

 

「乱菊悲しませてしもうた。見捨てられるかもしれん」そう頭を抱えながら言うギンに「自分がやった行動なんだから責任持ちなよ」とボクは言う。

 

 

「…せやけど……。はあぁぁ」

 

「本当にギンってバカだよね」

 

「…それでも碧の『相棒』なんやろ?ボクは」

 

「うん。たとえギンが好きな女子の前では仮面を被った内心気弱な少年だとしても、どっかの少女マンガでありそうな性格だとしてもボクの『相棒』にはかわりないよ」

 

「……ボク碧の『相棒』やめたい。言葉が痛いわ」

 

 

ギンの言葉にクスッとボクは笑うとギンに手をさしのべた。

 

 

「乱菊の奪われたものを取り返すまでは『仮面』をかぶり続けるんだろ?こんなところでへこたれるなよ」

 

 

ギンはボクの手をつかむとボクは力をいれギンを立ち上がらせる。

 

 

「せやな。乱菊の奪われたもん取り返して全部終わったら乱菊に謝ろう。それまでの…辛抱や」

 

「そうそうそのいきだよ。たとえボク達よりも乱菊が上の立場にいたとしても、ボク達三人の中で乱菊が一番出世してたとしてもこの調子で頑張ろう」

 

「…なあ、なんなん?さっきから。ほんまにボク励ます気あるか?さっきから要らんことばっか言うとるやん。五月蝿いねん」

 

 

珍しくギンに蹴られた。尻痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――少年達は厚い厚い仮面を被った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――上司も部下も全ての人を欺く仮面を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――カオもカラダもココロも、全てに仮面を被せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――少年達は少女の為に全てを殺した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして明日。少年達は自分達のことを気にかけてくれていた『上司』を裏切ることとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それでもなお、少年達は仮面をかぶり続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――全ては少女の為に

 

 



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上司が消えるトキ①



――信じるのは、まだ早い







 

「…本当にいいの……?」

 

 

ボク達は“あの人”を裏切る準備をしていた。

 

 

「ボクはやる。碧、やりたくないんやろ?ならせんでええよ。ボク一人でやる」

 

「それはダメ」

 

 

「何がダメなん?」とボクに聞いてくるギンにボクは「ギン、そんなに一人で抱え込まなくていい」と言った。

 

 

「…抱え込んでなんかあらへんよ」

 

「ううん。抱え込んでる。断言する」

 

「そんな…断言いらんわ……」

 

 

苦笑いで言うギンにボクは言った。

 

 

「ボクはあの人よりもギンの方が大切だから。ギンを見捨てて一人でいくことはないし、見捨てもしない」

 

 

ボクとギンはいつか離れ離れになるだろう。でもギンが乱菊とくっついてくれたらまたボクは…この世界の本当のボクとギンは会えるから。

 

この世界に来て早数百年。まだ本当の世界に帰るメドは経ってないし、どうやって帰れるのかもわからない。だから決めたのだ。自分が帰れるその日までボクはボクを大切に育ててくれた…この世界のギンではないけれど、ギンを助けると。

 

乱菊の奪われた物を取り返して、ギンは乱菊とまた平和な暮らしをする。そんな世界にするためにボクはギンに力を貸す。これが今ボクにできる最大の親孝行だと思うから。

 

 

――帰れるその日までボクは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

カランと下駄の歩く音、そして次にザッと草履の歩く音がする。

 

 

「お」

 

 

藍染を連れて歩いていた平子は下駄の音で振り向き後ろを歩いていた三人組に話しかけた。

 

 

「お――す。おはようさん」

 

「あ、おはよッス平子サン」

 

 

平子達の後ろを歩いていた一人、浦原喜助が返事をする。

 

 

「シンジでええ言うてるやろ。めんどいやっちゃな」

 

 

平子の言葉に浦原は「ハハハ」と笑う。平子は浦原の後ろを歩いていた一人、(くろつち)マユリに話しかけた。

 

 

「おはようさんマユリ」

 

「余所余所しく涅と呼べといっているだろう。不愉快な男だネ…!」

 

「めんどいやっちゃなァ」

 

 

平子はせっかく挨拶してやったのに、と言うような顔で涅に文句を言うと平子は話題を変えようとした。そうした(・・)である。

 

 

「そういや聞いたかオマエあの話」

 

「どの話ッスか?」

 

 

平子の腰に渾身の蹴りが入る。音もズゴォといい音がした。平子を蹴った人物に平子は怒鳴る

 

 

「何やねんひよ里いきなり!」

 

「ウチへの挨拶がまだやっ!!」

 

「なんでオマエにアイサツせなあかんねん!!」

 

「あかんにきまっとるやろ流れ的に!一人だけアイサツせえへんて」

 

「ええんですー!俺は隊長オマエは副隊長!隊長のすることにイチイチ口出さんといてん…あ痛たたたたたァっ!!」

 

 

ドタンバタンと目の前で乱闘が起きているにも関わらず浦原も藍染もいつも通り平然とした顔で立っている。

 

 

「そうだ浦原隊長。もう耳にされましたか?」

 

「何をッスか?」

 

「流魂街での変死事件についてです」

 

 

藍染が浦原に告げると平子はひよ里との乱闘を止め「それや俺が言いたかったんは!ナイスフォロー惣右介!!」と言った。

 

 

「変死事件?」

 

 

どうやら浦原は聞いていなかったようで平子達に説明を求めた。平子は浦原に説明する。

 

 

「せや。ここ一月程、流魂街の住人が消える事件が続発しとる。原因は不明や」

 

「消える?どこかへいなくなっちゃうってことッスか?」

 

 

浦原に疑問を平子は「アホか」と言って一蹴する。

 

 

「それやったら蒸発て言うわ。ちゃうねん。消える(・・・)ねん。服だけ残して跡形もなく。死んで霊子化するんやったら着とった服も消える。死んだんやない、生きた(・・・)まま(・・)人の形を(・・・・)保てん(・・・)ように(・・・)なって(・・・)消滅(・・)した(・・)。そうとしか考えられへん」

 

「生きたまま人の形を保てなく…?」

 

 

浦原にはまだまだ疑問が残るようだが平子にはそれが答えられなかった。

 

 

「スマンなァ。俺も卯ノ花隊長に言われたことそのまま言うてるだけや。意味わからへん。ともかくそれの原因を調べる為に今、九番隊が調査に出とる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「不明ってなに~~~~ね――拳西(けんせい)~~~~~~~」

 

 

緑色の髪色にゴーグルを着けた女性九番隊副隊長久南(くな)(ましろ)は自分の隊の隊長六車(むぐるま)拳西(けんせい)に聞いた。

 

 

「うるせぇぞ!不明なもんは不明なんだよ!ゴチャゴチャ言うな!」

 

「なにそれー!原因不明なモンの為に隊長出る必要ないじゃんかあ!」

 

「だからソレを調べに行くんだろうが!!」

 

「先遣隊のコたち出たじゃん!10人も!あのコたちの連絡待てばいいのに拳西のせっかち!出たがり!」

 

 

さすがに白の言うことに苛ついたのか無言で殴りにいこうとする拳西。慌てて隊士達が拳西を止める。

 

 

「そもそも俺がいつてめえについて来いなんて言ったよ!?てめえなんかついてこなくてもいいんだよ!帰ってクソして寝てろボケ!」

 

「ぶ~~~~!白は副隊長だから隊長についていかなきゃダメなんですー!知らないのバカじゃないの拳西。ば~~~~~~~~か」

 

「…………!!」

 

「隊長!!」

 

 

またしても白を殴ろうとした拳西を隊士達が止める。すると白は「おはぎが食べたい」だの「お腹すいた」だのとダダをこね始めた。

 

 

「どうします?隊長…」

 

「ほっとけ!!」

 

 

即答だった。

 

 

「うわあああああ!!」

 

「!!」

 

 

人の叫び声がする。走って叫び声の方向に行くと虚が現れた。拳西達は自分の斬魄刀を構えると虚に向かい、斬魄刀をフリ翳した。

 

 

「吹っ飛ばせ『断地風(たちかぜ)』」

 

 

拳西が斬魄刀の解号、そして始解の名を呼ぶ。すると拳西の目の前にいた虚は爆発した。拳西は『檜佐木(ひさぎ)修兵(しゅうへい)』と言う名の男の子を助け逃がそうとする。すると戦闘中にどこかへと行っていた白を見つける。

 

 

「白…てめえ戦闘中どこ行ってやがっ…」

 

「そこの茂みの中にねぇ!こんなの落ちてたよ!」

 

 

「ほい!死覇装!」白はそう言って拳西に落ちていた死覇装を見せた。

 

 

「ここにねいっぱい脱いであんの!10着も!」

 

 

死覇装が10着。それは九番隊の先遣隊の人数と同じであり、先遣隊の可能性が高いだろう。魂魄消失で初の死神の犠牲者。拳西はてきぱきと部下に指示を出していく。「瀞霊廷に近づく前にここで殺す」と宣言した拳西は修平に「日が落ちないうちに帰れ」と言った。

 

修平は69と書かれた拳西の腹を見ていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「フム…良いネ…良い感じだヨ…!」

 

 

マユリは試験管の中に入った液体をぐるぐると掻き回しながら言った。

 

 

「オイ!二十二番の容器はまだかネ!」

 

 

マユリは机をバンバンと叩きながら言う。ひよ里は小柄な為、大きい容器を持ってくるには少し時間がかかる。だがそんなことも考えずマユリはひよ里に文句を言う。

 

あまりにもマユリがうるさかった為ひよ里は容器をおもいっきり地面に叩き落とした。

 

 

「ヒトが親切で手伝ったっとったら何やねんその口のきき方は!ふざけんなやハゲ虫コラァ!!」

 

「…何を急に怒っているのかネ?君のそう言う処……正直引くヨ」

 

「やかましい言うてるやろ!!」

 

 

ひよ里はマユリを指差して怒鳴る。

 

 

「そもそもなんでウチがオマエの手伝いせなあかんねん!!ウチ副隊長やぞ!オマエ何席や言うてみい!!」

 

「笑止。この私に席次なんて必要ないのだヨ」

 

 

真顔で言うマユリにひよ里が「ウチが言うたるわ!」と言った。

 

 

「参席や参席!!わかるか!?ウチは副隊長オマエは参席!!オマエがウチに命令したらあかんねやっ!!」

 

「君こそ解っているのかネ?この技術開発局に於ては私が副局長君は研究室長。私の方が上だ」

 

 

ひよ里は瞳孔をカッ開いて浦原の名前を呼ぶ。浦原は目を擦りながら何かを肩にかけ出てきた。ひよ里もそれに気がつきそれの説明を求めた。

 

 

「何やねんそれ?」

 

「あコレッスか?新しい義骸の試作品ッス。今朝平子サンが言ってたじゃないッスか。流魂街の事件は人の形を保てなくなって魂魄が消えるんじゃないかって。仮にそれが本当だとすれば分解しかけた魂魄をもう一度人型の器に入れれば魂魄は消えずに済むんじゃないかと思って。その器を義骸技術を転用して作ろうとしてるトコッス」

 

「オマエ…」

 

 

ダダダダッと誰かが走ってひよ里たちのところへ向かってきている音がする。九番隊隊士であり拳西の伝言…研究員の要請を浦原は聞いた。

 

浦原はひよ里を指名。ひよ里は文句を言っていたがうまく浦原が丸め込み結果ひよ里がいくこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

うざい白の寝言を聞きながらテントの中で休んでいた拳西。外から呻き声が聞こえたので慌てて外に出ると自分の隊士が仲間を殺しているところを目撃した。しかし、その男も何者かによって殺される。

 

――敵はまだ近くにいる。

 

結果は周りを警戒した。白を起こそうとするが白は起きず仲間が一人、また一人と殺られていく。

 

――異様な霊圧。そして刺された自分の…腹。

 

 

「…て……めえ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

『緊急招集!緊急招集!各隊長は即時一番隊舎に集合願います!!九番隊に異常事態!九番隊隊長、六車拳西及び副隊長久南白の霊圧反応消失!それにより緊急の――』

 

 

寝ていた頭が一瞬にして覚醒した浦原。ひよ里はどこに行ったのか、そう研究員に聞くと「先程出発した」と。浦原は慌ててひよ里を追う。

 

 

ボクが行くべきだった……――

 

こんなことになるなんて……――

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「火急である!前線の九番隊待機陣営からの報告によれば夜営中の同隊隊長・六車拳西、同副隊長・久南白の霊圧が消失。原因は不明!これは想定し得る限りの最悪の事態の一つである!昨日まで起きた単なる事件のは一つであったこの案件は護庭十三隊の誇りにかけて解決すべきものとなった!よってこれより隊長格5名を選抜しただちに現地へと向かってもらう!」

 

 

総隊長が全て言い終わると同時に浦原が到着した。浦原は自分に行かせて欲しいと頼むが却下され選ばれた5名は――。

 

 

――三番隊隊長、鳳橋(おおとりばし)楼十郎(ろうじゅうろう)

 

――五番隊隊長、平子真子

 

――七番隊隊長、愛川(あいかわ)羅武(ラブ)

 

――鬼道衆総帥大鬼道長、握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)

 

――鬼道衆副局長、有昭田(うしょうだ)鉢玄(はちげん)

 

 

話し合いの末、鬼道衆のトップ2を出すのはさすがにと言うことで握菱鉄裁の代わりに矢胴丸(やどうまる)リサがいくこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

ひよ里は逃げていた。ボロボロな体で逃げていた。刀は決して抜かない、いや――抜けない。

 

やられるかと思った。しかし平子が間一髪助けに入ったお陰で死にはしなかった。

 

 

「……真子…!」

 

「アホか。なんで刀抜かへんねん」

 

 

ひよ里はうつむいて言う。

 

 

「…アホか。抜けるわけないやろ」

 

 

ひよ里を襲っていた人物、それは――

 

 

「…拳西……!?」

 

 

虚の仮面をつけた九番隊隊長、六車拳西だった。

 

平子の後を追って他のみんなも来る。しかし真実を目の当たりにし、走る足を止めた。信じられなかった。仮面も霊圧も全て虚なのに…姿は拳西のまま。何がなんだかわからなかった。

 

勿論先に到着した平子にも分からなければ、ひよ里にもわからない。

 

 

「俺にもよう分からへんわ。ほんまに拳西なんか違うんか…。とにかく確かなんは刀抜かんと……死ぬゆうことや」

 

 

拳西(ホロウ)が吠えた。一瞬のうちにラブの後ろへと回り込むとラブをぶっ飛ばした。ラブも咄嗟に受け身をとったのか大丈夫だった。

 

刀を構えた皆を見てひよ里が叫ぶ。「拳西なんやぞ!」と。しかし皆は言った。「俺らが止めなあかんねん」と。「殺さなくても助ける方法は沢山ある」と。

 

リサと鳳橋が拳西(ホロウ)に向かう。すると鳳橋のすぐ後ろに――。鳳橋がわけもわからず吹っ飛ばされる。

 

白のような奴。(ホロウ)は平子をターゲットにし、凄いスピードで向かっていった。平子は受け身をとるがそれでもダメージは受けてしまう。なんとか鉢玄のおかげで助かったが。

 

鉢玄が(ホロウ)を『五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』で身動きをできないようにしたあと、拳西(ホロウ)を『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』で拳西(ホロウ)の動きも封じる。

 

しかしそれも単なる時間稼ぎに過ぎなかった――。

 

拳西(ホロウ)にリサがやられた。鳳橋がやられそうになっているところを鉢玄が九十番台の詠唱破棄でなんとか捕まえる。

 

 

「…さァてと……どないしたモンやろなァ…。鬼道でどうにかならへんか?」

 

 

鉢玄に無茶振りをかける平子だが原因が分からなければ治せるものも治せないと言われてしまう。

 

 

「げほっ、ごほっ」

 

 

平子が抱えていたひよ里が突如咳き込む。

 

 

「何やねんひよ里。大丈夫か?ハッチぃとりあえずコイツから治したってく…」

 

「…シン…」

 

 

ひよ里が苦しそうな声で平子の名を呼ぶ。

 

 

「シン…ジ…はな…放……せ」

 

 

ひよ里の顔が白い仮面で覆われる。そして平子の肩から足にかけて斜めにおもいっきり斬った。倒れる平子、ひよ里が平子を斬ったことへの仲間達の動揺。そしてひよ里の遠吠え。

 

 

「グオオオオオオオオ」

 

「ひよ里!」

 

「ちィッ!どうなってんだよっ!!」

 

 

突然、皆の体に異変が起きた。気づいた時には遅く皆は東仙(とうせん)(かなめ)に斬られてしまう。

 

 

「なんでや…お前…拳西を…自分とこの隊長を…裏切ったんか…!?」

 

「裏切ってなどいませんよ」

 

 

平子からしては聞き慣れた声が聞こえる。この場にはいないはずの“声”が。

 

 

「彼は忠実だ。ただ忠実に僕の命令に従ったに過ぎない。どうか彼を責めないでやってくれませんか――平子隊長(・・・・)

 

 

平子は敵の名を、敵の親玉の名を呼ぶ。

 

 

「…藍………染…!!」

 

 

自分の部下。藍染惣右介の後ろには何気に平子が気にかけていた人物――市丸ギンと市丸碧がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し前半足しました。主人公ほとんど出てこなかったから…。


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上司が消えるトキ②

人を美しいとは思わないけれど
花を美しいとは思う

人の姿が花に似るのは
ただ斬り裂かれて倒れる時だ


「やっぱし…お前やったんか…」

 

 

ジリジリと近づいて来る藍染に平子は言った。藍染は焦らず顔色一つ変えずに余裕の表情で言う。

 

 

「気づかれていましたか。流石ですね」

 

「当たり、前やろ…」

 

「いつから?」

 

 

藍染が平子に聞くと平子は怪我のせいだろうか。荒い息をしながら藍染に言う。

 

 

「オマエが母ちゃんの、子宮ン中、おる時からや…ッ」

 

「成程」

 

「俺はずっと、オマエを…危険やと…信用でけへん、男やと、思っとった…。せやから俺は、オマエを五番隊(ウチ)の、副隊長に選んだ…。オマエを…監視する為や、藍染…!」

 

 

平子は藍染に告げる。藍染は余裕な表情を崩さない。いや、藍染は…笑っていた(・・・・・)

 

 

「…ええ。感謝しますよ、平子隊長。あなたが僕を深く疑ってくれたお陰であなたは気づかなかった(・・・・・・・)

 

「…気づいとった、言うてるやろ…」

 

 

平子の言葉に藍染は「いいえ」と否定する。

 

 

「気づかなかったでしょう?この一月、あなたの後ろを歩いていたのが僕で(・・)()なかった(・・・・)と言う事に」

 

「…な…!?」

 

 

平子は驚愕する。藍染から告げられた真実に。自分は本当になにも見えていなかったと言う事に。

 

 

「“敵”にこの世界のあらゆる事象を僕の意のままに誤認させる。それが僕の斬魄刀『鏡花水月』の真の能力です。その力を指して――“完全催眠”と言う」

 

「…完全………催眠やと……!?」

 

 

藍染の口は止まらない。まるでここであなたが知っても支障がない、と言うように。

 

 

「あなたは鋭い人だ平子隊長。あなたが普段他の隊長が副官に対するそれと同じように、ギンや碧のように僕を気にかけて接していたのなら。或いは見抜くことができたかも知れない。だがあなたはそうしなかった。あなたは僕を信用していなかった故に常に僕と一定以上の距離を保ち、心を開かず、情報を与えず、決して立ち入ろうとしなかった。だからあなたは気づかなかったんです。僕が全くの別人に掏り替わっても。僕の身代わりをさせた男には僕の普段の行動とあなたや他の隊士、隊長に対する受け答えのパターンを全て完璧に記憶させました。もしあなたが僕のことを深く理解していたなら、僅かな癖や動きの違いに違和感を覚えたでしょう。あなたが今そこに倒れているのは、あなたが僕のことを何も知らないでいてくれたお陰なんですよ、平子隊長」

 

「…藍染…」

 

 

平子は藍染の名を呼び立ち上がる。

 

 

「…それからもう一つあなたは先程僕に“監視する為に副隊長に選んだ”と言いましたがそれは間違いです。隊長の『副隊長任命権』と同様に隊士側には『着任拒否権』と言うものもあります。まあ実際にそれが行使されることは稀ですか、それでも僕には“副隊長にならない”と言う選択肢もあった。何故そうしなかったか。…理想的だったからです。あなたのその僕に対する過大な疑念と警戒心が、僕の計画にとってまさに理想的だったからです。解りますか?“あなたが僕を選んだ”んじゃない。“僕が(・・)あなたを(・・・・)選んだ(・・・・)んです(・・・)。平子隊長。あなたは仲間達に謝罪すべきかも知れませんね。あなたが僕に選ばれたが為にあなたも、その仲間も、そこに横たわる羽目になったんですから」

 

「……………藍染…!」

 

 

平子の霊圧が急激に上がる。すると平子の目から、口から白い液体(・・)のようなものが出てきた。それを見て藍染は更に笑みを深める。

 

 

「…安い挑発に乗って頂いてありがとうございました」

 

「くそ…ッ!…俺もか…!」

 

 

平子の後ろでは仲間達も平子のように顔から液体が現れ苦しむ。白い液体はやがて虚のような(・・・・・)仮面(・・)が現れ後に――虚化(ホロウか)と呼ばれる。

 

拳西、白を除くもので一番早く虚化した人物は猿柿ひよ里だった。ひよ里は虚のような雄叫びをあげる。そしてひよ里は平子の方を向くと言ったのだ。「…シ…シ…ン………ジ………?」と。ひよ里はまだ自我を失ってはいなかった。

 

 

「要」

 

「はい」

 

 

藍染に命令された東仙要はひよ里を平子の目の前で斬った。そして藍染は平子に告げる。

 

 

「――終わりにしましょう平子隊長。あなたは完璧な上官だった。あなたは僕を警戒しすぎたが故に距離を取った。あなたはその目で見ることで僕の動きを抑制しようと考えた。…最後に覚えておくと良い」

 

 

藍染は斬魄刀に手をかけ、言った。

 

 

「目に見える裏切りなど知れている。本当に恐ろしいのは目に見えぬ裏切りですよ平子隊長。さようなら。あなた達は素晴らしい材料(・・)だった」

 

 

藍染は平子に斬魄刀を振りかざし――

 

振りかざせなかった。浦原に止められたからだ。藍染の副官章は浦原によって斬り飛ばされる。しかし藍染は顔色を変えることはなかった。

 

 

「これはまた…面白いお客様だ…。…何の御用ですか?浦原隊長」

 

「あかんやん見つかってもた」

 

「どうするんですか?藍染副隊長」

 

 

「あかん」や「どうするんですか」などと言っているギンにも、碧にも焦りの表情はない。逆に…余裕の表情である。それほどまでに藍染達は浦原達に対して優勢なのだ。

 

浦原は全て知っていた。平子達が虚化をしていると。そして浦原は藍染の思っていた通りの男だった。

 

藍染達は虚化した人間を置いて、逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「『目に見える裏切りなど知れている。本当に恐ろしいのは目に見えぬ裏切り』ほんまそうやなぁ藍染」

 

 

浦原達から逃げると藍染はこれからのことを準備する為、瀞霊廷へと戻った。ギンとボクは別についていかなくてもいいと言われたので現在藍染とは別行動中である。

 

 

「はよ見たいなぁ。藍染の吃驚する顔。ボクらが伝えていた斬魄刀の能力が本当は違う(・・・・・)と知ったときアイツどんな表情(カオ)するんやろ」

 

「さあ、どんな表情(カオ)だろうね。ボクには解らないや」

 

「せやね。ボクらはアイツと違う。解る筈がないんや。愚問だったわ」

 

 

流魂街を二人で歩きながらギンは言った。

 

 

「せやけど…あかんで碧。さっき、ひよ里はんと隊長が切られたとき一瞬本当の(・・・)解放しそうになったやろ。ほんまに一瞬やっから、それも藍染は隊長達に気をとられとった。だからバレてはないんやと思うんやけど…」

 

「つい。あの人達はボク達に色々なことを教えてくれてたから。情がわいちゃった」

 

 

――それにひよ里さんは本当の世界でもお世話になっていたから

 

――平子隊長はボクの名前をつけてくれた人だから

 

 

「…解ってるならええんや。次からこんなことないようしてな」

 

「うん」

 

 

その後の会話はなかった。

 

いつもはもう一人(平子隊長)が真ん中にいて、ウザイぐらいのマシンガントークを続けて来る人がいないからかもしれない。いつの間にか三人でいることが“当たり前”となっていたボクら。

 

 

――“当たり前”と言うものは恐い。

 

――だってもしその“当たり前”が壊れたとき、

 

――自分達は何をすればいいのか解らないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――馴れるのにはまだ時間がかかりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

――『妖刀』

 

『妖刀』と呼ばれる刀は沢山ある。そして市丸碧の斬魄刀もその『妖刀』の一つだった。名前はない。『妖刀』と呼ばれるだけで刀自体に名前はなかった。

 

碧が初めて斬魄刀と対話をした日。それは忘れられない程濃く、忘れられない1日となった。

 

一回の対話で死ぬかと思った。本当の命の危険を感じた。それほどまでに碧の斬魄刀は危険(・・)なモノなのだ。しかし碧はこれからのことを考えて“卍解”を習得しなければならない。卍解には“具象化と屈服”が必要となり、それがまた碧を追い込ませる要因の一つである。

 

 

――あんな奴()を具象化…?屈服…?できる訳がない

 

 

碧の卍解への道のりはまだまだ遠そうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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妖怪――アヤカシ――

感想を下さった皆様、ありがとうございます!感想とか来ると凄く嬉しいんです!励みになります!

この小説書いてる時が今一番楽しいです。やっぱりBLEACHって偉大だなぁと思いました。


妲己(だっき)様!ご指名です!」

 

 

妖怪一つ目小僧は妲己と言う名の九尾の元へと駆け寄った。妲己は皇帝の座るような大きな椅子に座っている。黒い髪色に白い肌。紫色の浴衣には赤色の彼岸花の刺繍が入っている。妲己と言う人物はとても妖艶で美しくそして近寄り難い人であった。

 

 

「わっちを指名?ほぉ、あの小僧もやりおるのぉ」

 

 

「わっちから契約(やくそく)をするなど小僧の死に等しいと言うのに」と妲己はクツクツ笑いながら言った。

 

 

「それほど力が欲しいのか、はたまた只の自殺希望か…。まあ良いわ。どっちでもわっちには変わらん。ちっとばかし小僧の指名とやらに付き合ってやろうではないか」

 

「本気ですか、妲己様!?」

 

「ああ、本気じゃよ。わっちの力に耐えられなく死んで行ったのならそこまでの命。わっちらを使うには等しくなかったと言うことじゃ」

 

 

「少なくともわっちはわっちよりも強い奴に使われたい」そう言った妲己に一つ目小僧は反論を止めた。

 

 

「それに…今は『妖刀』の名はなくとも、わっちらが小僧を認めた時には名がつく(・・・・)であろう。どんな名がつくのか、楽しみで仕方ない」

 

「…妲己様はアイツのこと、どう思っているのですか?」

 

「………わっちは小僧に同情するわ」

 

「同情?」

 

「暇潰しのために家族と離ればなれにされ、最後には興味もない死神になり、家族が死する時を見せられる。小僧はわっち達とは違って悪いことなんぞ何一つやってはおらぬのにな。可哀想な奴よ」

 

 

妲己は空を見る。空には沢山の雲がかかっており月は見えなかった。

 

 

「無理して大人になろうとすると子供はいつかは壊れる。子供の内は沢山甘えておればいいものを…。現実とは、神とは時に残酷じゃ」

 

 

妲己は椅子から立つと歩きだした。目的地は妲己の言う“小僧”の元である。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

妲己は姿を変えた。先程の女性の姿から、銀髪の、――と瓜二つの少年の姿へと。

 

 

「小僧、わっちを指名したらしいの」

 

「お前が一番扱うのに難しいと聞いた」

 

「ほう、それでわっちを選んだ、と。…小僧はわっちをなめているらしいの。そんなんでは小僧――死ぬぞ」

 

 

妲己に「小僧」と呼ばれた少年は怯まなかった。それほどまでに少年は妲己の力を使いたいのかもしれない。

 

 

「ボクは死なない。ボクは大切な人の大切なモノを取り返さないといけないんだ。そして、あの人達には平和に暮らして欲しい」

 

 

――小僧それほどまでに“仇”を討つ力が欲しいのか

 

 

「だから妲己力を貸して欲しい」

 

 

妲己は目を瞑った。数秒程考える。小僧は何も知らない。小僧が護ろうとしている人が死ぬと。小僧のいた世界とは違う(・・)のだ。その真意に小僧は気づいていない。

 

 

「小僧は護るため(・・・・)の力が欲しいのだな?」

 

「ああ」

 

「……そうか。良いだろうわっちの力で良ければくれてやる」

 

 

――小僧がどう足掻こうが死ぬと決まっている者は死ぬ

 

――それは小僧が護ろうとしているやつも然り

 

――だからくれてやろう、わっちの力を

 

――貸してやろう、わっちの力を

 

 

 

 

 

 

 

 

――“仇”を討つ為の力を

 

 

 

 

 

 

「わっちを、上級妖怪(アヤカシ)を呼びたい時は『――』と呼べ。解号は――じゃ」

 

「ありがとう、妲己」

 

「ああ」

 

 

――ああ、楽しみじゃ

 

――小僧が真実を見たとき、誰の力を使うのか

 

――小僧は“藍染”を殺せるほど真実(原作)に影響を及ぼせるのか

 

――ああ、楽しみで仕方ない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「ギンと碧には三番隊の隊長と副隊長をやってもらいたい」

 

 

藍染はボクとギンを呼び出してそう言った。浦原や隊長達が尸魂界を追放されて早百年。藍染は新しく五番隊の隊長についた。そしてギンは副隊長に、ボクは副隊長補佐となった。全ては藍染のもくろみ通りに進んでいる。

 

 

「どっちが隊長なんやろ」

 

「ギンでしょ」

 

「ボク?無理やてそんな堅苦しいとこ嫌いやもん。碧やってな」

 

「嫌だ」

 

「げぇ、即答はあかんやろ」

 

「嫌だ」

 

「……話通じんわ」

 

 

結局どっちが隊長をやるかでじゃんけんをするとボクが勝ったので負けたギンが隊長をやることに。隣でぶつぶつとギンの小言が聞こえるが全て無視した。

 

 

「で、いつからなんです?ボクらが三番隊に移動するのは」

 

「今からだよ」

 

「すんません隊長。もう一度言ってくれます?今聞こえちゃあかん言葉聞こえて」

 

「今からだよ」

 

「…空耳じゃなかったわ」

 

 

と言うことは今から早急に引き継ぎをやらなきゃいけないらしい。と言っても引き継ぎをやるのは副隊長のギンだけで後任のいないボクはやらなくていいらしい。

 

藍染は隊士に呼ばれ出ていった。ボクは藍染が出ていった後、ギンに応援をした。

 

 

「頑張ってギン」

 

「少しは手伝ってな」

 

「嫌だ」

 

「…また即答…」

 

 

ギンは苦笑いだ。今回の嫌だにはちゃんと意味が込められている。

 

 

「だってボク、雛森桃のことそんなに好きじゃないからさ」

 

「……」

 

 

どうして雛森は藍染が全て正しいと思うのだろうか。ボクには信じがたい。東仙に続く藍染信者。ボクは嫌いだ。東仙も雛森も藍染も。

 

 

「そうか。確かに分かるわ。ボクもあの子のことは好きになれんなぁ」

 

「うん」

 

「どうせいつかは藍染に捨てられる、それを分かってないあの子は可哀想や」

 

「うん」

 

「…憂鬱やなぁ」

 

「頑張れ」

 

 

…応援したらギンに足蹴られた。痛い。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「三番隊に誰おるん?やっぱ隊士ぐらいの名前は覚えておかなあかんやろ」

 

「えっとね…」

 

 

ボクは三番隊隊士名簿を見て名前を言っていく。

 

 

「…あれ……?」

 

「どうしたん?」

 

「副隊長補佐がいる」

 

 

副隊長補佐の欄に“吉良イヅル”と言う名前が。

 

 

「ほな、その子に沢山仕事預けよか」

 

「だね」

 

 

基本サボり魔のボク達は仕事を全て吉良に預けることにした。

 

 

「それにしてもギンが隊長だなんて考えられないなあ」

 

「せやね。ボクもあんまし想像つかへんわ」

 

「……ボクはギンの味方だから」

 

「なんや急に」

 

 

ギンは笑った。ボクも笑った。なんとなく、言いたかっただけなんだ。ただそれだけ。

 

 

「…ギンはボクの前から消えないよね?」

 

「………」

 

「藍染倒してまた三人で暮らすんだもんね」

 

「そうや。藍染倒すまでは三人誰も欠けちゃあかん」

 

 

「――ボクは消えへんよ。碧の前から。今も昔もこれからもずっと相棒や。相棒には嘘つかへん」

 

 

ギンは初めてボクに嘘をついた。

 

ボクがそれを知るのはまだまだ遠い未来の話。

 

 

 

 

 

 



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親子






――同じ世界に同じ人物は二人も入れない。それは世界の理――








碧が消えて早3ヶ月。碧はまだ帰ってきていない。

 

 

「はよ帰って来てもらわな俺尸魂界に帰らなあかんのやけど」

 

 

平子隊長はまだ何故か現世に残りボクと一緒に碧を探してくれていた。「帰らないで大丈夫なんですか?」と聞けば五番隊副隊長雛森桃に「それなら一緒に探してあげてください!」と言われ帰るに帰れなくなったらしい。

 

 

「そうや、喜助ンとこ行ったんか?」

 

「喜助?それって浦原喜助?」

 

「ああ。同じ街すんどること知らんかったのか?」

 

「知っとったけど頼る気にはならんかったなぁ。あの人もボクのせいで尸魂界追放されたもんやし」

 

 

ボクがそう言うと平子隊長は「ちゃうで」とボクの言葉を否定した。

 

 

「あれは全て藍染のせいや。確かにギンも加担しとったけど俺らはオマエを恨んでなんかおらんで」

 

「…ボクには隊長達の考えてることが全然解らんですわ。仮にも加担しとったんや。ここで斬られてもボクは可笑しくない。なのにそんなこともせず碧を探すために力を貸してくれるなんて……アホちゃいますか」

 

「アホでも何でもええわ。家族がおるやつを斬ることなんで俺にはできん」

 

 

平子隊長はそう言うと立ち上がり「ほな、行くで。早く立ち」と言った。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「えっ、市丸サン結婚してたッスか!?それはおめでとうございます」

 

「いや喜助、今そんなんどうでもええねん。碧探しとるんやどうにかできんか?」

 

「どうにかって言われてもッスね…。アタシはその碧サンに会ったことがないんで探しようが…」

 

 

ボクは隊長に連れられて浦原商店と言う店に来ていた。隊長が浦原に事情を話すと先ずは結婚してた事に驚かれ次は子供が居たことに驚かれた。最後には碧に会ったことがないから探しようがないと。

 

 

「でもまあアタシも頑張ってみますよ。平子サンからの頼みッスからねぇ」

 

 

「じゃあ市丸サン質問していくんで答えてください」と突然やる気になった浦原の言葉にボクは頷く。

 

 

「碧サンは霊力が高いッスか?」

 

「うん高い。ボクよりも乱菊よりも高い」

 

「…そりゃそうだ。元隊長と現副隊長の子供なんスから高くないほうが可笑しい」

 

 

浦原はウンウンどうでも頷きながらメモ帳に何かスラスラと文字を書いていく。

 

 

「じゃあその碧サンの霊圧はどっち似(・・・・)ッスか?」

 

「は?霊圧にどっち似とかあるん?」

 

 

平子の疑問の声に浦原は「あるに決まってるじゃないッスか」と言う。

 

 

「遺伝で顔や雰囲気、味覚等が似るように霊圧も親に似てくるんスよ。もう一度聞きます。碧サンの霊圧はどっち似ッスか」

 

「多分ボクやと思う。乱菊が言っとった。霊圧から風貌まで全部ボクに似とるって」

 

「解りました。……もうしかしたら探せるかもしれないッスね」

 

「おお!!ほんまか喜助!!」

 

 

平子隊長が聞くと「はい、アタシがその装置を作れれば、ッスけど」と言った。

 

 

「「装置?」」

 

「そうッス。ボクの昔の実験で色んな世界があることは解ってたッス。だからその世界…いやこの世界だけを抜いて市丸サンと似たような霊圧を探す。一つの世界に2つの反応が起きたとき、その世界に碧サンがいる、って魂胆スね」

 

 

「先ずは霊圧探知機作らないと」と呟く浦原。

 

 

「碧サン見つけたら次はその世界に市丸サンを飛ばす装置を作るッス。とりあえず市丸サンは碧サンの顔を見れれば安心でしょう?」

 

「そうやね」

 

「なら先ずは霊圧探知機を造るところから始めないと」と言って奥に消えようとした浦原だが寸前で止まる。

 

 

「3日ッス」

 

「「は?」」

 

「3日で仕上げてみせます。それまで待って貰えますか?」

 

「当たり前やろ。こっちは頼んでる側や。文句は言えん。せやろ?ギン」

 

「そうやね。ボクは何でアンタが碧を探してくれるのを手伝ってくれとるかの方が謎に思えて仕方ない」

 

「アタシは、別に尸魂界を追放されようがそんなに変わんないんスよ。けれど平子サン達は違う。尸魂界で隊長として瀞霊廷を尸魂界を護ることに誇りを持っていた。平子サン達の方が辛かった筈だ。なのに今平子サンはあなたの味方として碧サンを探している。平子サンがあなたを許しているのにアタシが許さないなんてあり得ないでしょう?」

 

 

浦原はそう言うと今度こそ奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

3日経ったある日。浦原から連絡を受け平子隊長とボクは浦原商店に来ていた。

 

 

「碧サンがどこにいるのかも解って設定もしてあります。後は市丸サンがこの中に入ってもらえれば」

 

 

目の前にあるのは人が一人入れるぐらいの小型機械。

 

 

「成功するかどうか解りません。それでもやりますか?」

 

「やるに決まっとるやろ」

 

 

ボクはそう言うと機械の中へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「家族を持つと人は変わるものなんスね」

 

「ほんまそうやな」

 

 

暫く平子サンと会話をする。あるボタンを押しながらマイクに喋りかける。

 

 

『聞こえますか?市丸サン』

 

 

市丸サンに喋りかけると市丸サンは返事をしてくれた。

 

 

「ああ聞こえるで」

 

『ボクのカウントダウン後に市丸サンを飛ばします』

 

「解ったわ」

 

 

市丸サンが理解してくれたようなのでアタシはカウントダウンを始める。

 

 

『――3、――2、――1、』

 

 

市丸サンは白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

機械は無事作動することができた。後は市丸サンの体が消えて碧サンのいる世界に市丸サンの霊圧が2つあれば…成功。しかし市丸サンの体は消えておらず碧サンの世界にも市丸サンの霊圧は2つなかった。失敗に終わってしまった。

 

横たわって倒れている市丸サンを揺らして起こす。しかし市丸サンは起きない。暫く放置しておけば起きるだろうと思いアタシは平子サンに手を貸してもらって市丸サンを空いている部屋に寝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

目を覚ますとボクは久しぶりの景色を見ていた。ここは――三番隊隊首室か。『三』と書かれた白い隊首羽織を来て椅子に背に凭れかかっとるボク。ここが碧のいる世界、か。早く碧を探して顔を見たい。

 

ボクは何故昔の自分の体に入っているのかとかそんなのは気にせず碧を探し始めた。

 

碧はそもそも瀞霊廷にいるんか?流魂街とかにおらんやろな?そもそも、今の時代ってまだ藍染おるやん。藍染になんか変なことされとらんやろな碧。ああ駄目や心配で仕方がない。

 

三番隊隊舎の廊下を歩いていると反対側からボクに似た銀髪と男が来ていた。一目で解ったわ。碧や。あああんなに大きくなって。思わずボクは碧に抱きついた。

 

 

「えっ、えっ…!?ちょ、ギンどうしたの?変なもの食べた?熱にでも侵された?」

 

 

随分毒舌になってしもうて。でも……

 

 

「ああ、碧や。ボクの大切な(むすこ)

 

「…むすこって、もうしかして…父ちゃん…?」

 

「久しぶりやな、碧」

 

 

ボクが碧の名前を呼ぶと碧は目に涙を浮かべて「父ちゃん!!」と抱きついてきた。

 

 

「会いたかったで碧」

 

「うん、ボクも、会いたかった…!」

 

「積もる話もあるんやけど…そろそろ時間やな」

 

「え、時間……?」

 

「また来るわ碧。顔だけでも見れて良かった」

 

 

ボクは碧の話なんかまともに聞かず目を瞑る。

 

そして次、目を開けたときは平子隊長のドアップの顔が見えて思わずひっぱたいた。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

イヅルが五月蝿くて渋々ボクと碧は仕事に取り掛かった。ボクは隊首室で書類に判子を押す作業をしている。…こんな作業ならイヅルでもできるやん。イヅルにまわそ。

 

ボクは椅子の背に凭れかかり目を瞑る。

 

いつもやらんことやったから疲れたわ。休憩や休憩。ボクは意識を飛ばした。

 

目を開けると木の板で作られた天井が見える。何故か布団に入っとるボク。…可笑しいやろ。ここは隊首室でもなければ尸魂界でもない。ここ、どこや。

 

 

「やっと起きたか、ギン」

 

「…アンタは……!!」

 

「なんや俺の顔見てそんな幽霊でも見るような顔しおって。なんか俺の顔についとるか?」

 

「なんで、なんでアンタが。なんかアンタが隊首羽織着とるねん!!アンタは虚化で…」

 

 

ボクがそう言うと目の前にいた人物――平子真子は驚きの表情になった。

 

 

「失敗だと思ってたんスけどねぇ。以外にも成功でしたか」

 

 

襖を開けて出てきたのは浦原喜助。こいつは藍染の手によって平子達と追放されたはず…!

 

 

「浦原喜助!!」

 

「どうもこんにちわッス、市丸サン。あなたに質問なんですが碧サンって知ってます?」

 

 

碧のことを聞いてくる浦原にボクは警戒体制に入る。何が狙いや、こいつら。

 

 

「…オマエ、碧を狙っとるんか…」

 

「違いますよ。次の質問です。あなたには碧サンと血縁関係(・・・・)がありますか?」

 

 

浦原の問いにほうがではなく平子が答えようとする。

 

 

「は?そんなもん」

 

 

勿論平子の言葉を全ては言わせない。

 

 

「ないに決まっとるやろ」

 

「!!」

 

 

平子の表情が「あり得ない」と言っている。何故そんな顔をするのかボクには全く解らなかった。

 

 

「ボクは碧とは血は繋がっとらん。前に言うたやろ?」

 

 

ボクの言葉を聞いて浦原は「やはり…」と声を漏らす。そして顔をあげたかと思うと浦原は言った。

 

 

「改めましてこんにちわ。碧サンが翔んだ世界の市丸サン。ボクの名前は浦原喜助ッス。どうやらアタシの作った装置のせいでこの世界の市丸サンと碧サンのいる世界の市丸サンの魂が入れ替わったようで」

 

「ほんまか?」

 

 

そう言って平子はボクの顔にズームしてくる。そこでボクの意識は途切れた。

 

碧が翔んだってなんや?浦原はまるで碧がボクのいる世界の住民やないみたいな言い方。それに平子のあの驚きよう。まさか…ホントは碧とボク血が繋がってるみたいなこと…ないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「?倒れたでこいつ」

 

 

平子サンが市丸サンの顔に更に自分の顔を近づけ頬をつねったりしていると…。平子サンはおもいっきり市丸サンからビンタを食らっていた。

 

 

「いった!!何すんねんオマエ!!顔腫れたらどうしてくれるんや!」

 

 

晴れ晴れとしている表情の市丸サン。アタシは市丸でに「お帰りなさい」と言った。

 

 

「なんや、オマエこっちの世界のギンかいな」

 

「どうでした?碧サンの様子は」

 

「三番隊の副隊長やっとった。それに大きなってカッコええ男になっとった」

 

「話せたんスね。それは良かった」

 

「ああ。元気そうで良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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旅禍

誤字脱字で皆様に迷惑をかけていることをお詫びします。これからは更に念入りに執筆していくので見捨てないで貰えると嬉しいです。


「朽木ルキア処刑だってよ」

 

「らしいなぁ。六番隊隊長さんへこんでたりしてな」

 

「見に行ってみる?」

 

「せやね」

 

「「性格悪いなぁボクら」」

 

 

朽木ルキアの処刑を言い渡された隊首会の後、ボクらは歩いていた六番隊隊長に絡む。

 

 

「随分冷静やったなあ六番隊隊長さん」

 

「それほど朽木ルキアに興味ないんでしょ?」

 

「ご立派ご立派!」

 

 

ボク達の声を聞き、朽木隊長は歩く足を止める。少しだけの殺気が肌にヒシヒシと伝わる。相当朽木隊長はご立腹のようだ。

 

 

「自分の妹が死ぬってのにあの冷静さ。サッスが六番隊隊長さん。死神の鑑!」

 

「バカ言えや。死神で死ぬだの何だのにビビってんのはテメーらと九番隊長ぐれぇのモンだ」

 

「え――そうかァ?」

 

「ギンはそうかもしれないけれどボクは違うよ?ギンと乱菊が生きてればボクはそれでいいし」

 

「市丸達に依存してるおめえも変わらねぇよ」

 

「そうかな?」

 

 

朽木隊長は振り返りボク達に話しかける。

 

 

「隊長格が三人も揃って私に何のようだ?」

 

 

朽木隊長は鋭い眼差しでボクらに言った。殺気も数分前とは確実に変わっている。まるで首もとに刀を突き付けられているような感覚。

 

 

「いややなぁ。妹さんが処刑されるってンで六番隊長さんがへこんでへんか心配しててやんか」

 

「ボクだったら耐えきれないなぁ。だってギンが処刑されるようなモンでしょ?絶対殺すわ。ギンを処刑させようとするやつも、賛成したやつも全員、死体を直視できないぐらいにぐちゃぐちゃに殺してやる」

 

「…兄等には関係の無い事だ」

 

「ヘコむ訳ゃ無ぇよな。名門にゃ罪人の血は邪魔なんだからよ」

 

「…ほう。貴族の機微が平民に理解できるとは意外だな」

 

「そうでもねぇよ。俺ぁ昔っから気が利く方なんだ。どうだ?気が利くついでにさっきの罪人、処刑より先に俺が首を落としてやろうか!?」

 

 

朽木隊長と更木隊長の霊圧同士がぶつかり合う。なんだかんだ言って朽木隊長ってすぐにキレるからなぁ。困りもんだよ全く。

 

 

「ほう知らなかったな。兄程度の腕でも人の首は落とせるのか」

 

「試してやろうか?」

 

「試させて欲しいのか?」

 

 

乱闘が始まる十秒前。ギンとボクは更木隊長に白い布をグルグルと巻き付け動けなくし、朽木隊長から離れる。

 

 

「ボク、草鹿副隊長探してくる」

 

「うん、頼んだわ」

 

 

ボクは瞬歩で消え、近くにいるであろう草鹿副隊長を探す。正直言って草鹿副隊長がこの場にいても変わりはいないだろうが、あの人を見つけたら大人しく帰るだろう十一番隊舎に。

 

 

「カンニンしてや六番隊長さん!」

 

「おいコラ市丸!!放せこらてめえ!!」

 

「少なくともボクと碧はあんたのコト怒らす気は無かってん!」

 

「あいつを斬らせろ!!斬らせろっ!!」

 

「碧も草鹿副隊長見つけたみたいやし、ほんなら妹さんによろしゅう」

 

 

市丸ギンは碧のもとへと更木を連れて向かった。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

父ちゃんと久しぶりに会ったあの日からギンはボーっとすることが多くなった。今のところ何も支障は出ていないけれど、これからもそうとは限らない。

 

 

「だからギン、なにかあるならちゃんとボクに相談…」

 

「………」

 

「ギン」

 

「………」

 

「ギン!」

 

「………」

 

「…人の話ぐらい聞けよ!!」

 

「うわっ!?なんやねん!急に大声出さんで!?びっくりするやろ!」

 

「何度も名前呼んだわ!ボーっとするな!いつか死ぬよ!?」

 

「すまん、ちょっと考え事しとってな」

 

 

ボクは「はぁ」とため息をつく。

 

 

「これからは気を付けるから安心してな」

 

「当たり前。逆にしなかったらボクが一回痛い目に合わせるところだよ」

 

「それ、本人の目の前で言うか?普通」

 

 

ボク達は“いつもの日常”を送っていた。今現在だって吉良から逃げて歩いている。最近は瀞霊廷内で逃げているとすぐにバレるので流魂街まで行って逃げているのだが…。

 

大きな霊圧。それをボクらはすぐに察知した。

 

 

「…白道門の方やね」

 

「どうする?」

 

「行こか。どうせボクら暇やし」

 

「だね。旅禍かな」

 

 

ボク達は白道門の方へと向かった。白道門につくと兕丹坊が旅禍に白道門を開けていた。話を少し聞くと兕丹坊は旅禍に負けたらしい。

 

 

「へぇ。負けたんだ、兕丹坊」

 

「負けたらあかんやろ、門番」

 

「負けたのに門開けちゃってるね」

 

「…始末せな、あかんね」

 

「だね」

 

 

話が纏まったボクらは一気に霊圧を解放する。ボク達の霊圧に気づいた兕丹坊は顔を真っ青にさせ、汗を流していた。

 

 

「誰だ?」

 

「さ…三番隊隊長…市丸ギン…そして、市丸…碧……!?」

 

「あァこらあかん」

 

 

兕丹坊の首横を光の速さで何かが通る。

 

 

「…あかんなぁ…門番は門開けるためにいてんとちゃうやろ」

 

「負けた門番の末路、解ってるよな?」

 

 

兕丹坊の片腕が民家の屋根まで吹っ飛ぶ。兕丹坊の腕からは血が吹き出す。それでもなお、兕丹坊は片腕で白道門を支え続ける。

 

 

「うっわ!!片腕でも門支えてるよ」

 

「サスガ尸魂界の豪傑。けどやっぱり門番としたら失格や」

 

 

ニコニコといつもの表情でボクらは言う。兕丹坊は汗をダラダラと流しながら言った。

 

 

「…オラは負けたんだ…負げだ門番が門を開げるのは…あだり前のこどだべ!!」

 

「――何を言ってるの?わかってないねぇ」

 

「負けた門番は門なんか開けへんよ。門番が“負ける”ゆうのは“死ぬ”ゆう意味やぞ」

 

 

ギンの霊圧がドンと上がる。ギン、完全に遊んでるな…。ボクは思わず「はぁ」とため息をついてしまう。旅禍はギンを斬るつける。しかし、ギンは防ぎ怪我はなしだ。当たり前か。

 

 

「兕丹坊と俺たちの間でもう勝負はついてたんだよ!それを後からちょっかい出しやがってこのキツネ野郎×2!」

 

「…………」

 

 

旅禍は後ろにいた女に話しかける。

 

 

「…井上、兕丹坊の腕の治療たのむ」

 

「あ…はっ、はい!」

 

 

旅禍は斬魄刀を構えるとギンに言った。

 

 

「来いよ。そんなにやりたきゃ俺が相手してやる。武器も持ってねぇ奴に平気で斬りかかるようなクソ野郎は…俺が斬る」

 

「ふっ、面白い子だねギン。ボク達に喧嘩売ってきちゃったよ。旅禍の分際で」

 

「せやね。おもろい子や。ボクらが怖ないんか?」」

 

 

ギンが旅禍に問うとさも当然と言うように「全然」と言った。

 

 

「もうよせ、一護!!」

 

 

――一護…?

 

――萱草色の髪に…身の丈ほどもある大刀…

 

――そうか…

 

 

「キミが黒崎一護か」

 

「!知ってんのか俺のこと?」

 

 

ボク達は後ろへ後ろへと歩く。黒崎一護との間合いを伸ばしているのだ。

 

 

「この反応彼が黒崎一護で確定じゃん」

 

「あっ!?おい!何処に行くんだよ!?」

 

「ほんなら尚更…ここを通すわけにはいかんなあ」

 

 

ギンは斬魄刀を構える。

 

 

「何する気だよそんな離れて?その脇差でも投げるのか?」

 

「脇差?ギンの斬魄刀が?……笑わせないでよ」

 

「脇差やない。これがボクの斬魄刀なんや」

 

 

ギンは右足を後ろに引き右手で持っていた斬魄刀を前に出す。左手を前に自分を抱き締めるようにすると解号を呟いた。

 

 

射殺(いころ)せ『神鎗(しんそう)』」

 

 

ギンの斬魄刀『神鎗』の刃が伸びる。黒崎一護は咄嗟に自分の斬魄刀で受け身を取るが神鎗によって兕丹坊と共に門の外へと出されてしまった。

 

 

「「バイバ――イ♡」」

 

 

門が落ちてきて黒崎一護は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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殺意と怒り

 

 

『隊長各位に通達!隊長各位に通達!只今より緊急隊首会を召集!!繰り返す――』

 

「あ――あ。呼ばれてもうた。早いで嗅ぎ付けんの」

 

「藍染がそう仕向けてるんだから当たり前でしょ?嫌だなぁ怒られるの」

 

「ボクだって怒られるの嫌や」

 

 

そんな話をしながらボクらは一番隊隊舎へと向かう。門の前につくと声が聞こえた。どうやら隊長各は全員集合しているらしい。

 

 

「…来たか」

 

「さあ!今回の行動についての弁明を貰おうか!三番隊隊長――市丸ギン!!!」

 

「そして三番隊副隊長――市丸碧!!!」

 

 

ボク達は歩いて中へと入り真ん中に立つ。ちなみに緊張はしていない。

 

 

「何ですの?イキナリ呼び出されたか思うたらこないな大袈裟な…。尸魂界を取り仕切る隊長さん方がボクらなんかの為にそろいもそろってまァ……――でもないか」

 

「十三番隊長さんが見えないですね?どうしたんですか?」

 

「彼は病欠だよ」

 

「あ――聞いたことあるわ。お大事にって言ってもらえません?」

 

 

ボクが東仙隊長に言うと横から「フザケてんなよ」と声が聞こえた。勿論発した人物は更木隊長である。

 

 

「そんな話にここに呼ばれたと思ってんのか?てめえら、二人で勝手に旅禍と遊んできたそうじゃねぇか。しかも殺し損ねたってのはどういう訳だ?てめえら程の奴が旅禍の4、5人殺せねぇ訳ねぇだろう」

 

「あら?死んでへんかってんねやアレ」

 

「ギンはともかくボク、過大な評価受けてるなぁ」

 

 

ボクは呟く。勿論ボクの声はこの場にいるであろう隊長全員に聞こえていると思う。

 

 

「てっきり死んだ思うててんけどなァ。ボクらの勘もニブったかもしれん」

 

「だねぇ。少しサボり気味だったし」

 

 

ボクがギンの言葉を肯定するとある人物の笑い声が部屋に木霊した。

 

 

「猿芝居はやめたまえヨ。我々隊長クラスが相手の魄動が消えたかどうか察知できないわけないだろ。それともそれができないほど君達は油断してたとでも言うのかネ!?」

 

「いややなぁ。まるでボクらがわざと逃がしたみたいな言い方やんか」

 

「そんなにボクらをしながら悪者にしたいの?涅隊長」

 

「そう言っているんだヨ」

 

「うるせえぞ涅!今は俺がコイツらと話てんだ!すっこんでろ!俺に斬られてぇなら話は別だがな!」

 

「…下らぬ」

 

「やれやれ」

 

 

ボクら達の間に不穏な空気が流れたその時だった。

 

 

「ぺいっ!」

 

 

言い合いを止めたのは総隊長であり、驚いたみんなは総隊長に注目する。

 

 

「やめんかみっともない!更木も涅も下がらっしゃい!…じゃがまあ今のでおぬしらがここに呼ばれた理由は概ね伝わったかの。今回のおぬしらの命令なしの独断行動。そして標的を取り逃すというのは隊長、副隊長としてあるまじき失態!それについておぬしらからの説明を貰おうと思っての!その為の隊首会じゃ。どうじゃい。なんぞ弁明でもあるかの、市丸や」

 

 

総隊長がボクらを睨む。ボクらは顔を見合わせると笑みを作り言った。

 

 

「「ありません!」」

 

「…なんじゃと?」

 

「弁明なんてありませんよ。ボクらの凡ミス。言い訳のしようもないですわ」

 

「だからどんな罰でも受ける覚悟――」

 

「…ちょっと待て、市丸、市丸副隊長」

 

 

「どんな罰でも受ける覚悟です」とすべてを言い切る前に藍染がボクらに話しかけてきた。それと同時に警鐘が鳴り響く。なんでも瀞霊廷に侵入者が出たそうだ。

 

更木が走り出す。きっと彼の頭にはもう旅禍のことしか入っていないだろう。藍染の静止の声も勿論聞かない。無視である。

 

それを見た総隊長は隊首会を一先ずお開きにする決断を下した。皆が部屋を出ていく。藍染も出ようとしたがボクらの横を通り過ぎる時、呟いた。

 

 

「随分と都合よく警鐘がなるものだな」

 

「…ようわかりませんな。言わはってる意味が」

 

「…それで通ると思ってるのか?僕をあまり甘く見ない事だ」

 

 

日番谷隊長はその光景を見ていた。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

僕達は歩いていた。現在は旅禍も侵入しているためなんとも雰囲気がギスギスとしている。

 

 

「いやあああああああああ」

 

 

雛森の叫び声が響く。ボクらはそれを聞いても急ぎはしない。

 

 

「藍染隊長、藍染隊長っ、いやだ…いやです、藍染隊長!」

 

 

吊るされた藍染を見て雛森は叫ぶ。

 

 

「何や。朝っぱらから騒々しいことやなァ」

 

「お陰で目ェ覚めたからいいんじゃない?」

 

 

雛森がボクらの顔を見てまた目に涙を溜める。そして――目の色を変えた。

 

 

「お前か!!!」

 

 

雛森が斬魄刀を手にかけ、ギンに突進していく。それを見たイヅルが動こうとするがボクがイヅルに静止の言葉をかけ、ボクが動き出す。

 

 

「~っ!!」

 

「ボクの隊長に手をだそうとしているキミはボクに殺されても文句は言えないはずだよね?」

 

「どけ!!」

 

「……話が通じないようだ。やはりキミは好きになれない」

 

(はじ)け!!『飛梅(とびうめ)』!!!」

 

「――『――』」

 

 

雛森の始解の言葉に被せるようにボクは小さく自分の斬魄刀の始解の名を呼ぶ。お陰で『飛梅』を食らってもボクは無傷。

 

 

「コロス」

 

 

一気に霊圧をあげ、斬魄刀の能力を使おうとしたその時――ギンがボクに声をかけた。

 

 

「やめぇ、碧」

 

「…ギン」

 

「そないなことで本気出したらあかんよ。瀞霊廷が壊れてまう」

 

「………」

 

「イヅル、雛森副隊長捕らえてな。せやないと碧が殺してまうから」

 

「は、はいっ!!」

 

 

イヅルが雛森を捕らえる。数秒後に騒ぎに駆けつけた日番谷隊長がボクらの前に現れた。どうやら遠くからでもこの光景を見ていたらしくボクらに近寄ってくると日番谷隊長は言った。

 

 

「…市丸。てめえ今…雛森を殺そうとしたな?」

 

「はて、どちらの市丸かわかりませんな」

 

「…雛森に血ィ流させたら俺がてめえを殺すぜ」

 

「あら、ボクの質問には答えてくれないんか。それにしても怖いなぁ。悪い奴が近づかんように見張っとかなあきませんな」

 

 

大切な(好きな)女を護ろうとしている騎士。日番谷隊長が一瞬ギンと被って見えた。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

藍染は全ては日番谷氷獅郎に擦り付け、雛森に刀を抜かせた。日番谷隊長は身に覚えのない罪を藍染に被せられ驚愕している。雛森は泣きながら日番谷隊長に刃を向けたら。

 

日番谷隊長はなんとか雛森を説得しようとするが、それは叶わなかった。遺言として雛森に渡された藍染の手紙。それは全て藍染の字で書いてあり自分が見間違う筈がないと。

 

日番谷隊長は試行錯誤する。そして見つけたのだ。

 

――笑っているボクとギンを

 

 

「…そうか…これもか…これも全部てめえの仕業か!!!市丸!!!」

 

 

日番谷隊長は霊圧を上げてボクらに向かってくる。するとボクらと日番谷隊長の間に雛森が間に入る。

 

 

「…雛森…ッ!」

 

 

空中で避けられなかった日番谷隊長は雛森を思わず殴ってしまう。

 

 

「…あらら。酷いなァ十番隊長さん。傷ついて我を忘れた女の子をあない思いきり殴らんでもええのに」

 

 

日番谷隊長は唇を噛み締め、何かを思い出すように言った。

 

「…てめえの目的は何だ」

 

『…はあ……相変わらずやなァ…』

 

『だね。最後の警鐘くらいゆっくり聴いたらいいのにね』

 

『そうやで。じきに聴かれへんようになるんやから』

 

「藍染だけじゃ足りねぇか…。雛森まで…こんな目に遭わせやがって…血が滲むほど刀を握り締めなきゃならなくなるまでこいつを追いつめやがって…雛森に血ィ流させたらてめえらを殺す!!!」

 

「…あァ…あかんなァ。十番隊長さん。こないなところで斬魄刀(かたな)抜かれたら…ボクが止めるしかないやないの」

 

 

ボクら、と言わなかったと言うことは遠回しにボクに下がっていろ、と言う意味だ。大人しくボクは後ろに下がる。珍しくギンもうやる気になってることだし。

 

 

霜天(そうてん)()せ!!『氷輪丸(ひょうりんまる)』!!」

 

 

溢れた霊圧が創り出す水と氷の竜。そして天候さえも支配する。これが日番谷隊長の持つ氷雪系最強の斬魄刀――。

 

日番谷隊長は凄い早さで突進していく。勿論ボクに向かってくるおこぼれの攻撃は全て避けきった。

 

ギンと日番谷隊長の攻防は続く。そして遂に日番谷隊長がギンの片腕を凍らせて封じ、勝利したかと――勝利に確信したその瞬間。

 

 

「終わりだ市丸」

 

「射殺せ『神鎗』」

 

 

ギンは日番谷隊長を狙ったのではない。日番谷隊長が避けると予想したギンは日番谷隊長の後ろで横たわって寝ている雛森を狙って始解をしたのだ。

 

 

「…ええの?避けて。死ぬであの子」

 

「…雛――…」

 

 

しかし雛森に『神鎗』が当たろうとしたその時、乱菊が間に入り斬魄刀で攻撃を相殺した。

 

 

「松本…!!」

 

「…申し訳ありません。命令通り隊舎へ帰ろうとしたのですが…氷輪丸の霊圧を感じて戻って来てしまいました…。…刀をお退き下さい市丸隊長(・・・・)。退かなければ――ここからはあたしがお相手いたします…!」

 

 

ギンの凍っていた片腕が段々と溶けていく。ギンは――笑っていた。ギンは刀を退く。日番谷隊長はボクらを追おうとしたがギンはそれを止める。

 

 

「ボクを追うより五番副隊長さんをお大事に」

 

 

「行くで」とボクに声をかけギンは瞬歩で消えてしまう。ボクは一瞬悲しそうな顔をしている乱菊を見て――ギンを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

日番谷隊長達の霊圧が感じられない程遠い場所でギンは頭を抱えていた。

 

 

「あ――!!何してんねんボク!!ら、乱菊に斬魄刀向けてしまった!切腹!今すぐ切腹するから後始末頼んでもええか、碧!!」

 

「いや、なんで!?なんで切腹!?ちょ、やめて!ここで死なれてもボク困るって本当にマジで!!」

 

「でも、でもでもでも!!ボク乱菊傷つけてまったんやぞ!?死んで詫びるしかないやろ!!」

 

「詫びれてないよ!だからやめて!死んだら元も子もないから!!」

 

 

この後無駄にしぶといギンを説得するのに一時間かかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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沢山の違和感

評価が10人を越えました!!この小説を評価してくださった皆様、ありがとうございます!お気に入り登録も3桁にいって作者舞い上がり中!!


碧を見つけて、一緒に暮らし始めてどれ程の時が過ぎただろうか。今までは碧が隣にいることが当たり前やったけど、今はそれに違和感(・・・)を感じ始めていた。

 

碧がボクん家の前で倒れているところを偶々発見して、看病をした。家に帰れないと聞いたからボクは家に居ていいと言った。そして碧は居候をし始めた。

 

ボクは見たことがなかった。碧が(・・)家族を(・・・)探している(・・・・・)ところ(・・・)を。当たり前のように家に居て当たり前のようにご飯を作っていた。ボクもそれになれていたから可笑しいとは思っていなかった。

 

他にも碧は寝ぼけてボクのことを「父ちゃん」と何度か呼んだことがある。挙げ句の果てにはボクのことを「父ちゃんと呼ばせてくれ」なんて頼まれた時もあった。勿論断ったが。

 

異様に似ている顔、体つき。それに碧はまるでボクの癖から何までを知り尽くしているような感覚。今思えば全て違和感である。元々この違和感を感じ始めたのは死覇装(・・・)()隊首羽織(・・・・)()着た(・・)平子真子(・・・・)()緑色の(・・・)しましま(・・・・)帽子(・・)()被った(・・・)浦原喜助(・・・・)に出会ってからだ。

 

尸魂界を追放された平子真子が何故死覇装を来て、隊首羽織を着ているのか、色んな疑問は浮かんだ。が、一番疑問に感じたのは浦原喜助が『碧の翔んだ世界の市丸さん』と言ったことだ。浦原のその言い方ではまるで碧はこの世界の住民やないみたいな言い方。これがずっと気になっていた。

 

 

「ギン」

 

「……」

 

 

頭を叩かれる。叩いたのは碧で碧は鬼の形相だ。後ろに般若が見える。

 

 

「旅禍も今は尸魂界内にいるんだから気抜いちゃダメ。またボーっとしてたよ?」

 

「なァ碧」

 

「…反省してないなコノヤロウ」

 

「碧の“家族”ってどんな奴なんや?」

 

 

碧の顔が驚愕へと変わる。そして驚愕の顔から少し懐かしそうにそして悲しそうな顔へと変わった。

 

 

「……急になんでそんなことを?」

 

「…ホントはずっと前から気になってたんや。そもそも碧は家の帰り方解らんくてボクん家住んでた訳やろ?でも家の帰り方探しとるようにも見えへん。逆に碧、ボクを手伝ってくれとるやん。それが謎で仕方がなかった」

 

「もうしかしてだけどそれが原因でここ最近ボーっとしてた訳じゃないよね?」

 

「………」

 

 

急にボクが黙ると碧は「図星かよ…」と呟く。碧は「はあ」とため息をついたかと思うと「ボクん家は少々特殊でね」と語り始めた。

 

 

「…教えて、くれるんか?」

 

「こんなことなら別に。隠す必要もないしね」

 

 

碧は懐かしむように目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「父ちゃんはやんちゃ者でね、死神だったんだけど尸魂界追放されちゃって現世でボクと暮らしてた」

 

「…尸魂界追放ってどれだけのやんちゃやったんや……」

 

 

いやあんただけどね、なんて言葉は口に出さない。確かにボクの父親は『市丸ギン』だけどこの世界の『市丸ギン』ではないから。

 

 

「やんちゃのし過ぎで死にかけた父ちゃんを血だらけになってまでも母ちゃんが救護室に連れていって父ちゃんを死なせなかった。そこで父ちゃんと母ちゃんは永遠の愛を誓った。もう二度と離れない、離さないって。二人は凄くラブラブだけど母ちゃんは死神を仕事としてるから父ちゃんに中々会えなくてそれでも二人は仲睦まじく、ボクが生まれた。ボクは父ちゃんっ子で母ちゃんよりも父ちゃんが好きで、父ちゃんの真似を沢山してた」

 

「……」

 

「家に籠ってばかりだったからボクは友達を探す旅に出掛けた。お陰で変なところに迷いこんで帰れなくなるしここ何百年も生きてるのに友達はギンと乱菊だけ。後はもうギンが知ってる通りだよ」

 

「妹とか居らへんのか?」

 

「いないね。ボクは一人っ子。こう見えても長男でね」

 

 

ボクはニコリと笑うと「無駄話はここまでにしようか」と言って話を変えた。

 

――きっとギンは何かに勘づいてるんだろうな

 

ボクがギンの“息子”だとバレそうになったら死神を辞めよう。ギンの元から去ろう。そしてボクはストーカー業にでも転職してギンを影から見守ろう。

 

ゲシリとギンから蹴られる。

 

 

「いった!?何すんの!?」

 

「嫌な予感がしたから蹴っただけや。後悔はしとらんで」

 

「理不尽っ!!」

 

 

理不尽な暴力反対!!たとえボクの心をギンが読んだとしても!!

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「ねェねェ創造主サマァ。楽しいィ?こんなの見てて愉しいィ?」

 

「嗚呼、愉しいよ。あまりにも藍染が(・・・)愉快過ぎてね愉しいさ」

「アタシはねェ暇なのォ。創造主サマと一緒で暇は好きじゃないンだァ。…人間脅かしてきても(殺してきても)いい?」

 

 

MGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)は長い髪の毛をくるくると指先でまわしながら言った。「創造主サマ」と呼ばれた男性は「ダメだよ」と言う。

 

 

「えェ~なンでェ」

 

「現世では市丸ギン達が気を張っているからね。現世に降りた瞬間キミは浦原喜助の実験材料となってしまうだろう」

 

「アタシそンなに弱くないモン。だァかァらァ大丈夫ゥ!!」

 

「ダメなモノはダメ。……其処まで聞き分けの悪い子に育てた覚えは、無いけどなァ」

 

「………ゴメンナサイ」

 

「解ればいいんだ」

 

 

冷や汗をダラダラと流しているマジシャンズ・レッドの頭を「創造主サマ」は撫でる。

 

 

「…創造主サマって“藍染惣右介”好きだよねェ」

 

「好きじゃないさ。どちらかと言うと嫌いな部類だよ」

 

「えェ!?似てるよォ?二人とも」

 

「止してくれ。そんなことを言われると……藍染惣右介を殺したくなる(・・・・・・)

 

 

殺気と霊圧を一気に放出する「創造主サマ」を見てマジシャンズ・レッドは「創造主サマも殺る気満々じゃァン」と嬉しそうに呟いた。

 

 

「この世の人間の中でどうしても藍染は好きになれない。何故だろう」

 

「それはァ二人が似てるからでしょォ?似た者同士は磁石と一緒で引き合わないしィ。仲のイイ人だって大抵自分とは性格が全然違う奴じゃン」

 

「何度も言うが私は藍染とは似ていないよ」

 

 

「創造主サマ」は侵害だ、と言う風に頭を振った。

 

 

「認めちゃえばいいのにィ。そっちの方がラクだよォ?」

 

 

「なんで変なところで創造主サマって頑固なのォ?」と聞いてくるマジシャンズ・レッドの頭を「創造主サマ」は軽く叩いた。

 

 

「私は部屋に戻るよ」

 

 

「創造主サマ」が部屋に戻ろうと歩き出したときマジシャンズ・レッドはボソッと呟いた。

 

 

「創造主サマと藍染は血が繋がってるからなァ。そこが許せないのかもねェ」

 

 

「創造主サマ」は何も聞いていないフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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「創造主サマ」と藍染






――兄弟だからと言って仲がいいとは限らない







昔々。何千年も前のこと。四大貴族とは、また違う貴族があった。名は“藍染”。後に没落し、過去から書類から尸魂界から抹消される貴族である。

 

藍染と言う貴族は四人家族。それ以外の血筋もなく、小さな貴族であった。家族構成は父と母、兄と弟。

 

父は死神をやっており、高貴でプライドの高い人だった。母は体が悪く、いつも寝ていた。自分が死の瀬戸際にいると言うのに家族のことばかり心配する優しい人である。兄は知的で死神の卵が通う真央霊術院でもトップを誇っていた。弟は人と簡単には馴染めない引っ込み思案ではあったものの、兄以上の天才で研究等をよく好む性格であった。

 

父、藍染(あいぜん)大介(たいすけ)

母、藍染(あいぜん)右左湖(うさこ)

兄、藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)

弟、藍染(あいぜん)悠右介(ゆうすけ)

 

家族の仲はとても良好だと思っていた。そう、思っていた(・・・・・)であった。

 

家族が壊れ始めたのは母、右左湖の死から始まった。朝起きて、母の容態を確認しに行った時にはもう死んでいた。父は母を愛していた。だからこそ母の死に嘆いた。それでも兄弟の前では悲しさを感じられないほど気丈に振る舞った。そして――父は殺された。殺した人物は…兄だった(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

兄、惣右介と入れ違うように真央霊術院に入学した僕…悠右介は現在気持ちが昂っていた。真央霊術院から『浅打』と言う斬魄刀を貰ったからだ。

 

斬魄刀は自分の片割れ。どんな能力を秘めているかは解らない。謎ばかりの斬魄刀。そんなモノを貰った僕は早く斬魄刀と対話をしてどんな能力なのか確かめたかった。何より父様と兄様に褒めて貰いたかった。

 

走って家に帰って、部屋を開けたら信じられない光景が広がっていた。血だらけの兄。真っ赤な父様。僕は狂ったと思った。兄は父を殺し、そしていつか尸魂界の王となると言ったのだ。信じられなかった。あんなに優しい兄が、あんなに父と母を愛していた兄が父を殺したなんて。

 

 

「悠右介、いつ僕が父様と母様を好きだと言った?」

 

 

「一度も僕は言ったことはないよ」そう笑いながら言う兄を凄く軽蔑した。

 

 

「まあ、感謝はしているよ。僕が生まれなければこんな野望も持つことができなかったしね」

 

 

ジリジリと歩いて近づいて来る兄を見て僕はついつい後退りしてしまう。

 

 

「父様の次は――君だよ、悠右介」

 

 

僕の背中にはひんやりとした感触が伝わった。壁だ。もう後ろは壁、目の前には兄。死ぬ覚悟をした。兄が僕のは首を絞め殺そうとしたその瞬間――。

 

 

「ひゃははははっ!!」

 

 

兄の時が止まった。兄は僕の首を絞める寸前で止まり動かなくなった。そして僕の目の前には長い金髪を三つ編みにして高いツインテールにした20代ぐらいの女性が立っていた。

 

 

「時が止まったね!!面白いね!!」

 

 

「きゃははははっ!!」と笑い駆け回る女性を僕は呆然と見る。僕の視線に気づいたしたは走るのをやめ僕を見た。

 

 

「自己紹介?自己紹介して欲しい!?きゃははははっ!!いいよ、やってあげる!!アタシはねぇ『明鏡止水(めいきょうしすい)』って言うんだ!!こう見えてもねぇ、キミの斬魄刀なのさ!!ひゃははははっ!!」

 

 

――斬魄刀?こんな五月蝿いのが僕の…?

 

 

「ひゃははははっ!!五月蝿いって失礼だねぇ!!まあ、いいけど!!あ、因みにアタシの能力はね時を止めるんだ、キミの霊圧を使って!!だからキミの霊圧が底を尽きたらまた時間は動き出す!!早く殺しちゃいなよ!!じゃないとアンタが殺されることになるよ!?きゃははははっ!!」

 

「いや、殺さない。僕は逃げるよ」

 

「なんで?殺した方がラクだよ?簡単だよ?」

 

「…こんな奴殺す価値もない」

 

「ひゃははははっ!!キミは怒っているんだね!!だから殺さないのか!!キミは変わってる!!うん、解った!!アンタの指示にアタシは従うよ!!」

 

 

『明鏡止水』はそう言うと僕を持ち上げた。

 

 

「ちょっ、!?何しているんだ、キミは!?」

 

「ひゃははははっ!!アンタよりもアタシの方が足早いから!!こっちの方がラクだろ!?きゃははははっ!!」

 

 

もう兄の霊圧が感じられないほど遠く、遠い場所まで『明鏡止水』は走った。それにわざわざ空き家まで探してくれる、なんとも好い斬魄刀である。

 

 

「これからどうするんだい!?きゃははははっ!!」

 

「とりあえず、“藍染”と言う貴族は無かったことにするよ。丁度人の記憶を消せる試作品を作っていたところだ」

 

「試作品なんかでホントにいいの!?きゃははははっ!!」

 

「僕の理論には間違いはないよ。きっと大丈夫だ」

 

「凄い自信だねひゃははははっ!!」

 

 

結果、記憶は消せた。記憶も書類も全て尸魂界に“藍染”と言う記録は残っていない。記憶を消したのは僕だが書類から“藍染”を消したのは兄だ。

 

もう僕も“藍染”には興味がなかった。研究に没頭し忘れようとした。だが、忘れることは出来なかった(・・・・・・)

 

兄が憎かった。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

マジシャンズ・レッドがあんなことを呟くから、遂に夢まで出てきてしまった。別に黒歴史とか言うまでの過去ではないが、思い出したくない記憶ではある。あんな奴と似ていると言われると無性に腹が立つのだ。まあ兄弟なので似ていて当然だとは思うが。

 

部屋を出て顔を洗う。

 

 

「お早うございます、創造主サマ」

 

「お早うPINKY(ピンキー)

 

 

途中廊下で会ったピンキーに挨拶をし、マジシャンズ・レッドを起こすため、マジシャンズ・レッドの部屋に向かった。

 

マジシャンズ・レッドを起こすのに約一時間奮闘したことをここに書き記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かなりの捏造です。


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朽木ルキア

この作品の完結はまだまだなのに、もう次回作の構成をしてしまう作者は悪い人です。因みに次回作の主人公はぶっ飛んだキャラにするつもり。これまたある人物の“if”にするつもりです。


「なァ碧」

 

「ん?」

 

「朽木ルキアっちゅう子に会いに行ってみよか」

 

 

突然ギンがそんなことをいい始めた。ボクはそれに驚くこともなく「いいよ」と了承する。

 

 

「おおきに」

 

「礼を言われる程でもないと思うけどね」

 

 

ボクは苦笑いをすると朽木ルキアのいる懴罪宮へと向かった。

 

大きな霊圧どうしが先ほどまでぶつかっていた。戦闘をしていたのだろう。2つの霊圧のぶつかり合いがなくなり、1つの霊圧が消える。

 

 

「やっぱ、勝てんかったか六番隊隊長さんには」

 

「でも卍解かぁ。この土壇場でよく覚えられるなぁ。ホント尊敬するわ」

 

 

ボクはケラケラと笑いながら言った。

 

 

「全然尊敬しとるように見えんよ、その顔」

 

「えー、ホント?」

 

 

懴罪宮に着くと朽木ルキアは言葉を呟いていた。

 

 

「…恋……次…?」

 

 

今しがた消えた霊圧が阿散井のものだと気づいたルキアは叫ぶ。「何故お前の霊圧が消えるのだ!!」と。叫ぶルキアにボクとギンは段々と近づいていく。

 

ボク達の霊圧に気づいたルキアは目を見開きこちらを見た。

 

 

「おはよ。ご機嫌いかが?ルキアちゃん」

 

「いいお目覚めはできてるかな?」

 

「――市丸、ギン。…――市丸、碧」

 

 

ボク達のことを呼び捨てにするルキアにギンは「あかんなァ」と咎める。

 

 

「相変わらず口悪いんやねぇキミは。ギン、碧やのうて 市 丸 隊 長、市 丸 副 隊 長。いつまでもそれやったらしかられるでお兄様に」

 

 

ルキアはボクらの霊圧にあてられたのか沢山の汗をかきながら「…失礼しました……市丸…隊長……副隊長…」と謝った。

 

 

「あ、もうしかして本気にしちゃった?別にいいよ、ボクらはそんなの気にしないから。ボクらとキミの仲でしょ?…ねぇギン」

 

 

「そうやで」とボクの言葉を肯定するギン。ルキアは恐る恐る「何故ここに来たのか」とボクらに問うた。ギンとボクは厭らしい笑みを浮かべながら言った。

 

 

「ちょっと嫌がらせしに」

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

――この男が、…いや、この男“達”が嫌いだった。

 

 

私が護廷十三隊に入隊する前に兄様は六番隊の隊長になった。それと時期を近くして三番隊の隊長、副隊長になったこの男達は私が時折兄様と歩いていると決まって兄様に声をかけてきた。

 

傍から見れば隊長各同士の世間話に見えただろう。実際話の内容など有って無いようなものだった。だが私にはとてもそうは思えなかった。初めてこの男達を見た時、全身から刺すような汗が吹き出したのを憶えている。

 

――指先も

 

――口も

 

――僅かな眼の動きさえも

 

――全てが蛇の舌嘗めずりに見えて話しているのは兄様なのに常に私の喉元に手をかけられているように思えて瞼一つさえ動かせなかった。

 

 

――この男達が嫌いだった

 

 

日常の小さな亀裂を毒気で溶かされ、知らぬ間に病のようにぬるりと奥底へと入り込まれる。そういう恐怖をこの男達に感じていた。

 

理由など無い。最初から私の中の何かがこの男の総てを悉く拒絶していたのだ。それはそれから幾度言葉を交わしても微塵も薄れることはなく、そして今も――

 

 

「どないしたん?」

 

「急にボーっとしちゃってさ」

 

 

何一つ変わってはいない――

 

 

「…いえ…」

 

 

市丸ギンは空を見上げると言った。

 

 

「あァそうや。死んでへんみたいやねぇ…阿散井クン」

 

「…な…まさか…!」

 

 

 

私は必死になって恋次の霊圧を捜す。すると集中して捜せば弱々しいが恋次の霊圧が感じられた。しかし…このままでは……。

 

 

「死んじゃうだろうね直ぐ」

 

 

市丸碧の発言に私は目を細めて睨む。

 

 

「可哀想やなァ阿散井クン…」

 

「ルキアちゃん助けようとしたばっかりにこんなことになって…」

 

 

れ、恋、…次が私を助けようとした…!?

 

 

「莫迦な…!適当なことを言うな!!何故、恋次が私を…」

 

「怖い?」

 

「…何…だと…?」

 

 

市丸ギンの言葉に私は何故か核心をつかれた気がした。

 

 

「死なせたないやろ。阿散井クンも他の皆も。死なせたない人おると急に死ぬん怖なるやろ?」

 

「…………………!!!」

 

 

市丸ギンの言うとおりだった。今、私は……死ぬのが怖い……。

 

 

「助けたろか?」

 

「…な…!?」

 

 

市丸ギンの言葉に回りは唖然する。そして直ぐ市丸碧を除いて騒ぎ始めた。

 

 

「ルキアちゃんも阿散井クンも旅禍のみーんなも」

 

何を言っているのだこの男達は…!?正気か!?私を助けてこの男に何の得がある!?一護や恋次を助けて何の得があるのだ!?いや、それとも本当に――

 

市丸ギンと市丸碧は私の頭を掴むと耳元で囁いた。

 

 

「「嘘」」

 

「バイバイルキアちゃん」

 

「次は双極で会お」

 

 

手を振って去っていく二人の姿を私は暫く見届けた。希望は捨てた筈だった。生きる理由も失った筈だった。未練などない。死ぬことなど恐ろしくはないと。

 

――揺るがされた

 

 

希望に似たものをほんのわずかちらつかされただけでこんなにも容易く、生きたいと、思わされてしまった。覚悟を――。

 

 

「ああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「ボク達性格悪いね」

 

「やね」

 

 

満面な笑みでボク達は歩いていた。心なしか少しスッキリしたような気がする。

 

 

「ルキアちゃん壊れちゃったかな?」

 

「さァ。どうやろね」

 

 

「でもボクはこれぐらいじゃ壊れんと思うで?」とギンは言った。

 

 

「…やっぱり?」

 

「ここで壊れたら全てがおしまいや。何も意味を成さん」

 

「うん」

 

「どうせ黒崎一護が助けに来る。絶望と言う名の闇におったときの希望と言う名の光は凄く眩しく…救われるんや。心身共にな」

 

 

ギンは少し羨ましそうに言った。

 

 

「はよこんなの止めて乱菊と共に……」

 

 

ギンは苛つく程青い空を見て呟いた。ボクも空を見て「そうだね」と小さい声で返した。



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悲痛な叫び、そして願い

 

 

「碧、乱菊頼むわ」

 

「……ごめん。ボク、乱菊とは付き合えな…」

 

「なんでそうなるんや!?」

 

「え?違うの?」

 

 

突然ギンからの乱菊頼む宣言。流石にボクも将来自分の母親となる乱菊とは付き合えないので断ったのだが…。どうやら違ったらしい。まあ、当たり前か。

 

 

「碧が囮になって十番隊長さんと乱菊を離れさせるんや。いけるやろ?」

 

「もちのろん」

 

 

ボクが頷くとギンは「おおきに」と言った。

 

 

「それじゃ作戦開始としよか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

中央四十六室。尸魂界全土から集められた四十人の賢者と六人の裁判官で構成される尸魂界の最高司法機関。尸魂界、現世を問わず死神の犯した罪咎は全てここで裁かれ、その裁定の執行に武力が必要と判断されれば隠密機動、鬼道衆、護廷十三隊等の各実行部隊に指令が下される。

 

そして、一度下った裁定には例え隊長各といえど異を唱えることは許されない。それが四十六室だ。その四十六室が今、俺の目の前で全滅――――している――…

 

試しに血を触ってみる。が、それも黒く変色してひび割れるぐらいに血は乾いており、四十六室はかなり前に全滅させられたことがわかる。

 

いつだ!?いつ殺された!?阿散井がやられて戦時特令が発令されて以降はこの中央地下議事堂は完全隔離状態に入り、誰一人としてここへ近付くことさえ許されなかった。

 

そして今日、俺達が強行突破するまでここへ至る十三層の防壁は全て閉ざされたままで何者も侵入した形跡はなかった。

 

殺されたのはそれよりも前!そしてそれ以降に俺達に伝えられた四十六室の決定は全て――

 

 

「贋物か…!」

 

 

やったのは誰だ?市丸か?だが誰にも気づかれず四十六室を皆殺しにし、それを今まで隠し通す……それほどのことを奴ら二人で?他にも協力者がいるのか――

 

 

「やっぱりここにいたんだ、十番隊長さん」

 

 

遠い入り口で俺に話しかけて来たのは…――

 

 

「……市丸碧…!やはりお前らが…!」

 

 

市丸碧は俺と目を合わせるとその場から立ち去った。

 

 

「!!追うぞ松本!!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「待て市丸!てめえらが四十六室を殺ったんだろ!!」

 

「さぁ、それはどうだろ」

 

「質問に答えやがれ!!」

 

 

ボクに怒鳴ってくる日番谷隊長に優しいボクは教えてあげる。

 

 

「いいの?十番隊長さんボクなんかを追って」

 

 

「どういう意味だそれは!!」

 

「キミは雛森桃の騎士(ナイト)なんだろ?だったらちゃんと守ってあげなきゃ」

 

 

ボクの言葉に日番谷隊長は驚いた顔をする。

 

 

「何言ってやがる…!?雛森は今…」

 

「十番隊隊舎にはいないよ。十番隊長さんは雛森桃の為に高等結界『鏡門(きょうもん)』を張ってきたみたいだけど…あれって案外内側からじゃ普通に破れるんだ。知らなかったでしょ?雛森桃は鬼道の達人と言われる程の腕前だし結界を破るなんてわけないよ。自分の周りに結界を張って霊圧を消すことなんて更に簡単だろうね。……気づかなかったの?十番隊長さん達の後ろついて来てたことにさ」

 

 

日番谷隊長は唇を噛み締めると「松本!!」と乱菊の名前を呼んだ。

 

 

「任せていいか!」

 

「どうぞ!」

 

 

日番谷隊長はボクを追うのをやめ、雛森桃を追いに反対方向へと走り出す。ボクは逃げる足を止めた。

 

 

「…何?逃げるのやめたの?」

 

「……こうやってちゃんと話すのって久しぶりじゃない?乱菊」

 

 

ボクがそう言うと乱菊は一度目を閉じた。そして乱菊は目を開くと「スゥ」と息を吸う。一体乱菊は何をし始めるつもりなんだろうか。

 

 

「………アンタ…アンタとギンは一体何をしようとしてるの?いっつも二人で悪巧みしてるような顔しちゃって…姿を消す…!」

 

 

ボクは乱菊の問いにいつもの仮面のような笑みを張り付けて言った。

 

 

「ボクの役目はね、乱菊をここで足止めすることだよ」

 

「足止め…?あたしを?」

 

 

意味がわからない、そんな顔をしている乱菊の言葉にボクは肯定の意味として頷いた。

 

 

「そう。乱菊は関わる必要はないんだ。死神なんか止めてひっそりと暮らして。そしたらキミの目の前に、乱菊の目の前にいつか…騎士(ナイト)が現れるからさ」

 

 

ボクが乱菊にそう告げると乱菊から怪訝な目で見られた。

 

 

騎士(ナイト)?そんな人、あたしにはいないわよ」

 

「いるよ。好きな女性(ヒト)の目の前ではカッコつけたがりやで自分の行動にいっつも後悔してる騎士(ナイト)がさ。乱菊にここで死なれたら騎士(カレ)は生きる意味をなくしてしまう。だから乱菊、死神やめてひっそりと暮らして…?」

 

 

ボクが乱菊に言うと乱菊は「そんなことできるわけないじゃない!!」と大声で言った。

 

 

「あたしはいっつも独りぼっち!碧みたいにギンに近い人間じゃなければ、あたしは碧のこと全然知らない!!何も知らない無知な哀れな女よ!カッコいい、好きな背中を追いかけても最後には見えなくなって、視界にすら入らなくなる…!!…あたしは、あたしは…!!また三人で前みたいな暮らしが出来ればいいと思って、アンタ達を止めに来たの!!こんな危ない仕事なんか、早くやめて欲しかったのに!!そんなあたしの気も知らないでアンタ達はまたあたしを独りぼっちにする!!騎士(ナイト)?そんなのあたしが知るわけないじゃない!!」

 

 

乱菊は「ハァハァ」どういう肩で息をした後、言葉を続ける。

 

 

「あたしは諦めない…!!ギンに壁を作られたあの日から!!あたしの意思は固まったの!!アンタ達を連れ戻して、またあの日常に戻るって!!」

 

 

「だから、こんなことはやめて碧!!」それは乱菊の悲痛な叫びだった。

 

 

「乱菊…」

 

「アンタならギンを止められるでしょ!?ギンにも言ってよ、もう止めて、って……」

 

 

乱菊の頬が濡れた。雨は降っていない。憎い程の晴天である。空を見ても雲1つ無かった。

 

それを見てなお、ボクは首を横に振った。否定の意である。

 

 

「なんで…!?」

 

「ギンにはやりたいことが有るんだ。それが成し遂げられるその日までボクらはやめられない、とめられない。だから…乱菊のお願いは聞けない」

 

「~っ……!?」

 

「…ごめんね」

 

 

ボクは乱菊に一言謝るとギンのいる場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

いっつもそう。あたしの言葉なんかろくに聞かないでいなくなる。碧のいなくなった地面を見てあたしは唇を噛み締めた。

 

また、またあの二人を止められなかった――。

 

あの二人があたしの言葉を聞かないのは日常茶飯事。だから期待はしていなかった。していなかったけれど…。

 

 

「…少しぐらいは迷って、くれると、思ったんどけどなぁ……」

 

 

目から涙が溢れ出す。泣きたい訳じゃない。けれど止まらない。止める術を今のあたしは知らなかった。

 

独りぼっちは辛い。寂しくて、怖くて、胸がはち切れそうで。

 

 

一体あたしはいつまで、独りぼっちでいればいいの…?

 

 

もう、あの頃のような、三人で楽しく笑いあっている日常は戻って来ないような気がした。

 

 

「ごめんな、乱菊」

 

 

ギンの謝罪の言葉はあたしの耳には届かない――。

 

 

 

 

 

 

 



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生きていた

「ここは…清浄塔居林(せいじょうとうきょりん)…四十六室の為の居住区域…どうしてあたしをこんなところに…?市丸隊長」

 

 

現在ボクと雛森ちゃんは清浄塔居林と呼ばれる場所へと足を運んでいた。ボクが雛森ちゃんに「ここに来たことは?」と聞くと雛森ちゃんは「来たことも、見ることも初めてです」と答えた。

 

 

「…逢わせたい人おんねん」

 

「…逢わせたい…あたしに…ですか?」

 

 

雛森ちゃんの問いにボクは「そうや」と答えた。

 

 

「ほれ、後ろ見てみ」

 

「うし…ろ…?」

 

 

雛森ちゃんの後ろにある扉には死んだとされていた藍染が立っていた。雛森ちゃんは本当の藍染か、と確めそして藍染に抱きついて泣いた。

 

…全く趣味の悪いやっちゃ――。

 

雛森ちゃんは藍染の計画の捨て駒に過ぎない哀れで可哀想な子。だがボクは決して助けようとはしない。

 

乱菊が静かに安全に暮らせるなら犠牲だって何だって捧げる――。

 

 

「君を部下に持てて本当に良かった…。ありがとう雛森くん…。本当に、ありがとう…」

 

 

藍染は雛森ちゃんを抱き締めると冷たい目で見下ろし言った。

 

 

「さようなら」

 

 

雛森ちゃんの腹を刺す。雛森ちゃんはあり得ない、と言うような顔で藍染を見上げた。

 

 

「嘘」

 

 

雛森ちゃんの腹を刺した斬魄刀を藍染は抜くと同時に雛森ちゃんは倒れた。藍染は斬魄刀に着いた血を振り払い言った。

 

 

「…行くぞ、ギン」

 

「…はい。藍染隊長」

 

 

いつか、いつかお前も地面にひれ伏す時が来るんやね、藍染。その日が楽しみやわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

藍染が阿散井に朽木ルキアを渡せと言っている時にようやくボクはギンと合流できた。

 

 

「ただいま、ギン」

 

「お帰り。遅かったなァ」

 

「そう?急いで来たつもりだったんだけど」

 

 

これでも結構本気を出して走ったのだ。大体七割ぐらい。少しぐらい勘弁してほしい。

 

 

「…断る」

 

 

阿散井は藍染の言葉を受け入れなかった。ギンとボクは斬魄刀を構えようとするがそれを藍染は止める。藍染は『鏡花水月』を構え言った。

 

 

「こちらも君の気持ちを汲もう。朽木ルキアは抱えたままで良い。腕ごと置いて退がりたまえ」

 

 

藍染は阿散井に攻撃を仕掛けるが、全て、とは言えないが藍染のほとんどの攻撃を交わすことに成功していた。成長とは恐ろしいものである。

 

阿散井の攻撃を素手で受け止める藍染は化け物だ。

 

 

「最後だ。朽木ルキアを置いて退がりたまえ」

 

「…放さねぇぞ……誰が、放すかよ…バカ野郎が…!」

 

 

藍染の最後の忠告に阿散井は笑いながら断った。

 

 

「そうか。残念だ」

 

 

藍染は『鏡花水月』を構え阿散井の首に振り落とそうとした。が、それは旅禍、黒崎一護によって止められてしまう。

 

 

「よォ。どうしたよしゃがみこんで。ずいぶんルキア重そうじゃねえか。手伝いに来てやったぜ、恋次!」

 

 

藍染は黒崎一護を見て少し笑う。剃ればボクもギンも一緒だった。その後、少しの間先ほどの真剣な雰囲気が無かったかのように阿散井、黒崎、朽木は喧嘩(漫才)をし始める。

 

 

「すいませーん、藍染隊長」

 

「手ェ出したらあかんおもってあの子が横通るん無視しました」

 

「ああ、いいよ。払う埃が一つでも二つでも目に見える程の違いはない」

 

 

藍染の言葉を聞いて三人は喧嘩(漫才)をするのをやめて藍染をロックオンした。どうやら阿散井と黒崎の共同戦線が始まるらしい。

 

 

「あの子ら藍染隊長の隙を狙ってるね」

 

「そやね。…そないなことしても無駄やのに…」

 

 

ギンの言うとおり全て無駄であった。阿散井は肩を斬られ黒崎は腰を斬られる。全ては一瞬のことである。

 

 

「立つんだ。朽木ルキア」

 

 

藍染は朽木の首についている首輪を触りながら言った。藍染は朽木の首についている首輪を斬られ無理やり持ち上げ立たせる。

 

 

「…ああ、そうか。僕の霊圧にあてられて体が弛緩(しかん)してしまっているのか。なに、気にすることはないよ。自分の足で歩かせた方が程のが楽だと言うだけの話だから――」

 

 

鎖の擦れる音がする。音の主は黒崎一護でどうやら生きていたらしい。頑張って立とうとしている。そのまま黒崎に藍染は真実を伝えた。「全ては浦原の仕業である」ことそして崩玉(ほうぎょく)のこと全てを。

 

 

「藍染!!!!」

 

 

上空から降ってきた狛村。狛村は藍染に攻撃を仕掛ける。

 

 

「…随分久し振りだね。その素顔を見るのは。どういう心境の変化かな…狛村くん」

 

 

狛村の攻撃を片手で受け止めた藍染。狛村は藍染に言った。

 

 

「何故…そうして笑っていられるのだ…藍染!!!」

 

 

狛村の鉄拳が藍染を襲う。が、もちろん藍染には効いていない。

 

 

「我々、全員を(たばか)った貴公の裏切り…儂は決して赦しはせぬ!!」

 

 

狛村は藍染の横に立っていた東仙に視線を移し「…貴公もだ東仙…!」と言った。

 

 

「何か弁明でもあるなら言ってみろ!」

 

「…………」

 

「…無いのか、何も…!残念だ……東仙…!」

 

 

狛村は霊圧を上げ叫んだ。

 

 

「卍解!!」

 

 

藍染は未だ東仙の横から動かない。

 

 

「破道の九十『黒棺(くろひつぎ)』」

 

 

同じ隊長各同士で、手も足も出ない。そこまで藍染と護廷十三隊の力の差は激しいのだ。

 

 

「…『鏡花水月』の完全睡眠は完全無欠だ。例えかかるとわかっていても逃れる術などありはしない」

 

 

そう言った藍染の元へとボクとギンは歩いて近づいていく。

 

 

「九十番台詠唱破棄!…怖いわァ」

 

「ボクも練習したらできるようになるかな?」

 

「出来るんとちゃう?碧はボクよりも霊圧高いんやから」

 

 

ギンはボクにそう言うと藍染に言った。

 

 

「いつの間にそんなコトまでできるようになりはったんです?」

 

「いや、失敗だ。本来の破壊力の三分の一も出せていない。やはり九十番台は扱いが難しいよ」

 

 

藍染はそう言うと朽木ルキアを再び無理やり立たせる。

 

 

「…さて、済まない。君達との話の途中だったね。そう、朽木ルキア。君が現世で発見された時真っ先に僕が行ったこと。それが四十六室の抹殺だ」

 

 

藍染は笑って言う。

 

 

「君達は恐らく勇音くんからこう聞いている筈だ。“藍染惣右介は死を装って行方をくらませ然る後に四十六室を殺害した”と。だがそれは間違いだ。君が発見されてすぐに僕は四十六室を殺し“中央地下議事堂全体”に『鏡花水月』をかけた。そうして“四十六室が生きて会議を続けている状態”に見えるようにしておけば万一何者かが入ってきても異変に気づかれることは無い。尤も四十六室(うちがわ)から許可しない限り隊長各に議事堂に入る権限など無いんだがね。そうして僕達は常に四人の内一人を議事堂に置きそれ以降今に至るまで四十六室を演じ続け全ての命令を操作し続けた。捕縛を確実にする為に君の捕縛役を六番隊の二人に替え君を人間から遠ざける為に義骸の即時返却破棄を命じ君の魂魄を完全に蒸発させ内部から『崩玉』を取り出す為に双極を使って君を処刑することを決めた」

 

 

朽木ルキアと黒崎一護の目が見開かれる。

 

 

「僕達が地下議事堂を完全に開けたのは二度の隊首会を含む前後数時間だけだ。死を装って地下議事堂に潜伏したのはその直後。君達の働きで処刑が失敗する可能性が出てきたと判断したからだ」

 

 

藍染は懐から何かを取り出す。

 

 

「魂魄に直接埋め込まれた異物質を取り出す方法は二つしかない。双極のように超々高度の熱破壊能力で外殻である魂魄を蒸発させて取り出すか何らかの方法で魂魄組成に直接介入して強制的に分離させるか。万一双極での処刑が失敗した場合そのもう一つの方法を見つけなければならない。その為に必要だったのが尸魂界の全ての事象、情報が強制集積される地下議事堂の大霊書回廊だ。僕はそこで浦原喜助の過去の研究を一つずつ細かに調べ上げた。魂魄への異物質埋没は彼の編み出した技術だ」

 

 

カシッと何かを藍染はセットしながら言う。

 

 

「ならば其を取り出す技術も彼の過去の研究の中に必ず隠れていると読んだ。…そう」

 

 

藍染を円形状に囲む白い柱。

 

 

「これがその」

 

「…待――」

 

(こたえ)だ」

 

 

藍染はルキアの心臓を貫いた。そして『崩玉』をルキアの中から取り出す。

 

 

「…ほう、魂魄自体は無傷か。素晴らしい技術力だ。…だが残念だな。君はもう用済みだ」

 

 

藍染はルキアを持ち上げギンに命じた。

 

 

「殺せ、ギン」

 

 

ギンは斬魄刀に手をかけると「…しゃあないなァ」と言う。

 

 

「射殺せ『神鎗』」

 

 

ギンの斬魄刀の刃が伸びる。ルキアの元へとギンの刃が行ったか、と思ったが――。朽木白哉がルキアを庇い刺された。

 

 

「…兄…………様…!」

 

 

朽木白哉が両膝を地面につく。ルキアが白哉に「何故だ」と問いかけるが白哉は答えない。いや、答えられないのだろう。

 

藍染がルキアにジリジリと近づいていく。ルキアはすかさず白哉を抱き締め護ろうとした。藍染が斬魄刀を触ったとき…二人の隠密機動衆が藍染の首に刃を向けた。

 

 

「…これはまた、随分と懐かしい顔だな」

 

「「動くな」」

 

「指一本でも動かせば」

 

「即座に首を()ねる」

 

 

瞬神夜一と二番隊隊長砕蜂が言った。藍染はそれを見て「……成程」と呟く。ドン、と大きな音が3つ。それは兕丹坊以外の門番がこの地に降りてきた音であった。

 

藍染は三人の門番までも手懐けており、更に優勢へと持ち込む。するとまたドン、と音がなった。その音の主は空鶴を肩にのせた兕丹坊が落ちてきた音であった。

 

 

「空鶴!!!」

 

「おう夜一!あんまりヒマだったからよ散歩がてら様子見に来たぜ!」

 

 

空鶴は夜一にそう言うと「さァ行くぜ兕丹坊!」と兕丹坊に声をかける。

 

 

散在(さんざい)する(けもの)(ほね)

尖塔(せんとう)紅晶(こうしょう)鋼鉄(こうてつ)車輪(しゃりん)

(うご)けば(かぜ)

(とま)れば(そら)

槍打(やりう)音色(ねいろ)虚城(こじょう)()ちる!

破道の六十三『雷吼炮(らいこうほう)』!!!」

 

 

空鶴が『雷吼炮』で門番の一人を吹っ飛ばす。しかし他の門番は眉毛一つ動かさなかった。それを見て兕丹坊は覚悟を決め、また一人と門番を吹っ飛ばす。

 

砂やら小さな岩などがボク達に当たる。

 

 

「うわぁ、派手だなぁ」

 

「どないしよか?」

 

 

ボクとギンは飛んでくる小さな岩を手で払い除けていたら手首を捕まれる。

 

 

「動かないで」

 

 

ボクとギンの手首を掴んでいたのは乱菊でボク達は捕まってしまう。

 

 

「すいませーん藍染隊長」

 

「「捕まってしまったわ」」

 

 

藍染はちらりとこちらを見る。乱菊を筆頭に他の隊長各がこの場に集まっていた。優勢から劣勢に、そう思われたが――。

 

藍染は笑った。

 

 

「…どうした何が可笑しい藍染」

 

「…ああ済まない時間だ」

 

 

藍染が立っている地面に正方形の光が灯る。その光は空まで行き届き…大虚(メノスグランデ)が空を裂いて出てきた。それも数十体。

 

光は藍染だけではなく、東仙、ボク、ギンの足元にも光が灯る。ギンは残念そうな顔をすると言った。

 

 

「…ちょっと残念やなあ…。もうちょっと捕まっとっても()かったのに…。さいなら乱菊。ご免な」

 

 

ボク達の体が浮き上がる。藍染はかけていた黒淵の眼鏡を握り潰して髪をオールバックにかえた。そして言う。

 

 

「私が天に立つ」

 

藍染は二言ぐらい死神達に言葉を言うと空へと呑み込まれた。それはボク達も一緒だった――。

 

 

 

 

 




~おまけ~

ギン「あ、ああ!!見てた!?見てたやろ碧っ!!ら、乱菊に手ェ繋いでもろうたで!!あ、ヤバいヤバいわぁ!!」

碧「藍染隊長~。ギンが壊れたぁ~薬、薬頂戴~」

藍染「碧、それはもう治せないよ。人間はそこまで万能じゃないんだ」

東仙「其処らに捨てておけ。邪魔だ」

ギン「あ!乱菊や!!」

碧「…こいつ酔ってる?酒の臭いが…」


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何もない

この作品も完結が近づいてるような気がする…!ちなみに本編が完結した後は暫く番外編を出す予定です。
今コツコツと書き溜め中。


「それにしても虚圏(ウェコムンド)ってなァんにもない所やなァ」

 

 

砂しかない大地を見てギンは言った。

 

 

「…退屈しそうだね」

 

「そやね」

 

 

乱菊にお別れを言ったあの日からギンの元気がない。それに気づいているのは多分…いや絶対にボクだけだろう。ギンはもう乱菊に会ったあの日ぐらいから自分の気持ちを隠す事を得意としていた。が、それでも縁が深いボクと乱菊は分かっている。

 

ギンはすぐ人に壁を作り笑みで気持ちを隠すからみんなからは不気味と言われ畏れられてきた。ギンのメンタルって意外に弱いからそんなので少し悩んだりする。そんな事を知っているボクだからギンの表情を読み取られる。

 

 

「……そんなに後悔するなら全部ボクに任せて残れば良かったのに」

 

「…昔碧言ったやろ?ボクだけに業は負わせんって。ボクも一緒や。それに…アイツには大きなモン貸しとるからなァ。返して貰うまでは乱菊の元に戻れん」

 

「変な意地張っちゃって…。バカだなぁ」

 

 

クスクスと笑うとギンは少しムッとした表情に変わる。いつぶりだろうか。あの仮面のような笑みが取れたのは。

 

 

「ボクは莫迦じゃあらへんよ。少なくともお前よりかは頭ええわ」

 

「ハイハイそうですねー隊長殿ー」

 

「なんやその棒読み苛つく」

 

 

「それにボクもう隊長あらへん」そう言って先に歩きだしてしまうギン。ボクは慌ててギンの後を追う。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

暫くの時が経ったとき。グリムジョー・ジャガージャックと言う十刃(エスパーダ)が独断行動をして藍染信者の一人、東仙に片腕を切り落とされていた。挙げ句の果てには破道の五十四『廃炎(はいえん)』で切り落とされた腕を燃やされていた。

 

東仙に攻撃をしようとしたグリムジョーだが藍染に釘を刺され大人しく…若干荒れてはいたが戻っていった。

 

 

「あーあ。また部下で遊んでさァ」

 

「意地が悪いなァ…」

 

「――見ていたのかギン、碧」

 

 

藍染はボクとギンの顔を見た。

 

 

「あそこであんなん言ったら要やったらああすること最初からわかってはったやろ?」

 

「腹黒いよなァ。意地悪いよなァ」

 

「…碧、うるさいよ。それに本当にそう考えていたのかはわからないだろう?」

 

 

「それに破面が五体消えても問題はない」と藍染は言った。

 

 

「所詮は最下級(ギリアン)だ。予定には寸分の狂いもない。最上級(ヴァストローデ)を揃えて十刃が完成すれば我々の道に敵は無い」

 

 

そう言って藍染は歩いて行ってしまった。

 

 

「…我々の道に敵は無い、ねぇ」

 

「ああ、虫酸が走るわ。あんな奴の仲間なんて」

 

「少しの辛抱だよギン。いつかぜったいに」

 

「わかっとる。ここまで我慢してきたんや。後少しぐらいできる」

 

 

ギンの顔は無表情だった――。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「結局、No.6(セスタ)はグリムジョーなんだよね?」

 

「そうやろ。だってルピ生きとらんし」

 

 

井上織姫の力で片腕を取り戻したグリムジョーはルピを殺しNo.6の力を再び取り戻した。

 

 

「コロコロ替えるのやめてもらいたいな。覚えるのめんどくさいし」

 

「覚える系は好きやろ碧。変なところで手ェ抜こうとしちゃあかんやろ」

 

「だってー」

 

 

ぶーすかぶーすかと文句を言うボク。ボクは歩く足を止めた。それに気づいたギンも足を止め振りかえる。

 

 

「?どうしたんや碧」

 

「いやー、暇だし井上織姫さんに逢いに行こうかな」

 

 

ボクは呟いた。

 

井上織姫。彼女とは本当の世界で何度か会ったことがある。主に両親が誕生日は二人で居させるようにボクが仕向けて織姫さんの家に泊まりに行くのだ。

 

織姫さんの家だったら父ちゃんも母ちゃんも文句は言わない。人間で唯一ボクと関わりのある人間だと言ってもいいだろう。

 

 

「…この時代の織姫さんにお世話になった訳じゃないけど……恩は返さないといけないし……とりあえず、側に…いやでも多分お世話係はウルキオラになるだろうし…うーん……」

 

 

とりあえずギンとボクは別れブツブツと言いながら歩いていた。するとなんと言うことだろう。いつの間にか部屋についてしまったじゃあないか。

 

考えても仕方がない。流れに身を任せようと思ったボクはとりあえずノックをした。

 

 

「は、はいっ…!!」

 

 

「どうぞ!!」と上ずった声が聞こえてボクは思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

グリムジョーっていう人の腕を治したら人が一人殺されちゃって、その後私は軟禁…?なのかな。されちゃった。部屋に居ても何もすることはないし私はとりあえず窓を見つめた。

 

 

「どうしよ…」

 

 

思わず呟いた時、ドアがノックされちゃって驚きのあまり私は上ずった声で返事をしてしまった。

 

は、恥ずかしいぃぃ!!

 

顔が真っ赤になるのがわかる。ドアが開かれると同時にクスクスと笑い声が聞こえる。部屋に入ってきたのは、銀髪の男の人だった。

 

 

「…市丸碧って言うんだ。これから少しの間よろしくね、井上織姫さん」

 

「え、えっと…」

 

 

私が困った顔をしていると市丸さんはまたクスクスと笑いながら「ここは、私は貴方達とはよろしくするつもりはありません!!って言うところだよ」と言った。

 

…あれ?この人…もうしかしたらイイ人かもしれない…。

 

 

「ここは退屈で暇だよねぇ。分かるよ。ボクだって…そうだ」

 

「な、なら何で虚圏(こんなところ)に貴方は居るんですか…!?」

 

 

私が聞くと市丸さんは「織姫さんはさ、松本乱菊って知ってる?」と聞いてきた。

 

 

「…え?ら、乱菊さん…?知ってますけど…」

 

「乱菊とは腐れ縁でね。ボクの知り合いが乱菊に好意を持ってるんだ。乱菊もきっとアイツに好意を持ってる。でもね、色々な理由があってボクの知り合いは乱菊の側に居られない。アイツは自分の気持ちも素直に言えないような奴だからなァ。ボクが側に居てやらないといけないんだ」

 

 

悲しそうな笑みで市丸さんは言った。

 

 

「…市丸さん……」

 

「碧でいいよ。市丸って虚圏(ここ)にはボクともう一人いるしね」

 

 

…市丸って…。この前、乱菊さんが寝ている時に寝言で呟いていた単語。本当にこの人は乱菊さんと知り合いなんだ――。

 

 

「織姫さんはさ、仲間を裏切る時苦しかった?」

 

「え?」

 

「多分…いや苦しかったよね。ボクはね、無心だった。何も感じなかったんだ。いや乱菊を裏切る時悲しかったよ?でもそれだけ。多分未だギンも乱菊も生きてるからだと思う」

 

 

何を、言ってるんだろう。私には碧さんの言っていることは理解出来なかった。

 

 

「もし自分がこの世界の住民じゃなかったらどうする?」

 

「?」

 

「ボクは見えない壁を作って、それでできるだけ情を持たないようにする。……けれどやっぱり」

 

 

「…親に情を持たないようにすることなんてできっこ無いよね」そう小さく呟いたのを私は聞き逃さなかった。

 

 

「急に変なこと言ってごめんね!!意味わからなかったでしょ!!ぜーんぶ冗談!!」

 

 

ニカッと笑う碧さんの顔は乱菊さんの面影があるような気がした――。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

敵襲が来て藍染に呼び出された。正直に言うと話の内容はそんなに覚えていない。それほどつまらない会議だった、と言うことだ。

 

会議が終わった後、ボクはギンと廊下を歩いていた。

 

 

「よう気に入ったようやね碧」

 

「んー、まあね」

 

「ようやくオトモダチ出来たんやない?」

 

「…それ、ボクが友達いないみたいな言い方…!」

 

「そう言ってるんよ」

 

 

ほんの数十分ギンとの殴り合いをした。

 

 

 

 

 

 

 



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戦い

「…なんや覗き見かいなあんまりええ趣味やないなァ東仙サン」

 

「キモい、キモいよ東仙!!」

 

 

本当の事を言っただけなのにボクはギンに頭を叩かれる。

 

 

「…心外だな。君も奴等の動きが気にかかって此処へ観に来た口だろう?市丸」

 

「いややなァ。冗談やないの」

 

「これだから冗談も区別の出来ないお堅い人はさ」

 

「…一旦黙ってくれへん?碧」

 

 

…また頭を叩かれた。痛い。絶対たんこぶ出来たねコレ。

 

 

「ねー東仙。コレどうにかしてよ」

 

 

ワンダーワイスがボクの腕をつかむ。捕まれてない方の手でワンダーワイスを指差すと東仙は「ワンダーワイス」と名前を言う。すると大人しく手を離すなるワンダーワイス。

 

 

「…何やあの難しい子があんたにはえらいなついてるなァ」

 

「…純粋なものはそれ同士引かれ合うものだ。その子が何について純粋なのかは未だ量りかねるがな」

 

「成程なァ。道理でボクらには仲良うしてくれへん筈やね」

 

「え?ボクは至って純粋ですけど?なのに何でギンよりも敵視されちゃってんの?ボク?」

 

 

ボクがワンダーワイスを指差して言うとギンは「当たり前やろ」と言った。

 

 

「生粋のドSが何言っとんねん。アホか」

 

「はあ!?Sじゃないし!!どこ見て言ってんの!?」

 

 

ギンの胸ぐらを掴みグワングワンと揺らす。

 

 

「…っちょっ、止めてェ。酔う、酔うから」

 

「………奴等五人に別れたんだが…」

 

 

東仙はボクとギンが言い合っているのを見ながら小さく呟いた。

 

 

「ボクはSじゃなぁぁいいいい!!」

 

「…吐く…」

 

「ワンダーワイス!!袋だ!!袋を持ってこい!!」

 

「……袋…?」

 

 

その場はカオスだった。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「あー。碧のせいで大変な目にあったわ」

 

「ホント何ボクの一張羅に吐いてくれてんの!?汚れた!!臭い!!」

 

「何度も止めろ言うたわ!!それを無視して振り続けたんは碧やろ!!」

 

「はあ!?ボクが悪いって言ってんの!?」

 

「碧、ギン。喧嘩は止めてもらえるかな」

 

 

「せめて外でやって来てくれ」そう言う藍染にボクは挙手して言う。

 

 

「藍染隊長ー。喧嘩してませーん。ただのじゃれ合いでーす」

 

「そやそや。これが喧嘩の内に入るんやったらボクら何回も喧嘩やっとるで」

 

「……無性に燗にさわるね」

 

 

プププと笑うと藍染にギンと共に軽く頭を叩かれた。ジンジンする。

 

 

「…何か言うことは?」

 

「「ご、ご免なさい…」」

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「眠ーい。何かあったらギン起こして」

 

「今寝るん?場違い過ぎるやろ」

 

 

横でブツブツ姑のように五月蝿いギンを無視してボクは目を瞑る。そして、目を開けた時は……

 

 

「何で現世?」

 

 

護廷十三隊を敵にしてギンに抱えられてました。

 

 

「ほんま何度も起こしたんやで?なのにこの状況下で寝れるってどれだけの神経しとんねんお前」

 

「…なんかご免なさい」

 

 

とりあえずギンにおろして貰う。

 

 

「寝起きに戦闘かぁ。きっついなァ」

 

「多分未だボクらは戦闘せんで」

 

 

ギンがそう言った瞬間――

 

 

「おー、珍しい」

 

「イヅルが怒っとるなぁ」

 

「「元気そうで何より」」

 

 

急激に大きくなったイヅルの霊圧を感じてボクとギンは笑いながらそう言った。

 

 

「何でこんなにイヅル怒ってるんだろ?」

 

「大方イヅルと中った奴がボクらの名前出したんとちゃう?ボクら裏切り者やし」

 

「そっか」

 

 

 

ここでボクとギンの会話は途切れた。

 

ピクリとギンの眉毛が動く。

 

 

「…乱菊…」

 

 

反射だろうか。ギンは斬魄刀の柄を手にかけている。

 

 

「抑えて、ギン」

 

「…わかっとる」

 

「わかってないよ」

 

「わかっとる!!」

 

「なら…斬魄刀から手を離しなよ」

 

 

ボクがギンの手を指差すとギンはハッとしたような顔をして斬魄刀から手を離す。

 

 

「…もう少し、もう少しだから……抑えて、お願い…!」

 

「……わかっとる…」

 

 

ギンの横顔は苦しそうで見てるこっちが辛かった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「…なんやえらい…懐かしい顔が揃うてるやないの」

 

「ホントだ。平子サンいるじゃん。生きてたんだ」

 

「久し振りやなァ藍染」

 

 

目の前には昔失踪したとされる元隊長各がたっていた。それは懐かしい顔が沢山いて表情筋がついつい緩みそうになってしまう。

 

だが直ぐに戦闘は始まり簡単に“フーラー”がやられてしまう。それを見たギンが嬉しそうな声色で言った。

 

 

「ひゃあ可哀そ」

 

 

戦闘を観戦していたボク達だが平子さんがボク達に攻撃を仕掛けてきたせいで観戦とも言わなくなった。ボクとギンが応戦する。

 

 

「もういいよ。ギン、碧。終わりにしよう」

 

「………何やと…?」

 

 

藍染は用済みのハリベルを斬った。

 

 

「どうやら君達の力では私の下で戦うには足りない。ギン、碧、要。行くぞ」

 

 

ハリベルはすかさず藍染を攻撃したが首を斬られて瞬殺されてしまう。

 

 

「さあ始めようか。護廷十三隊そして――不出来な破面もどき(・・・)達」

 

 

藍染がそう言うとひよ里さんが「…藍染…」と声を漏らす。

 

 

「…迂闊に近付かんとけよ。藍染のあの能力や。考えなしに近付いたらその時点で終いやど」

 

「…わかっとるわ」

 

 

ひよ里さんが歯軋りしながら平子さんの言葉に答えた。

 

 

「アホ。お前に(・・・)言うて(・・・)んねん(・・・)。柄から力抜けひよ里」

 

「流石思い遣りの深い言葉だ。平子隊長(・・・・)

 

 

藍染の言葉にひよ里さんが顔を上げる。藍染の言葉に反応するひよ里さんを平子さんが咎める。

 

 

「だが迂闊に(・・・)近付いたら(・・・・・)終わり(・・・)とは滑稽に響くな。迂闊に近付こうが慎重に近付こうが或いは全く近付かずとも全ての結末は同じこと。未来の話などしていない。君達の終焉など既に逃れようのない過去の事実なのだから」

 

 

ひよ里さんだけではなく、平子さんを除く他の皆が藍染の言葉に反応する。

 

 

「挑発や!乗るな!!」

 

「――何を恐れるコトが有る?百年のあの夜に君達は既に死んでいると言うのに」

 

 

もう我慢は出来なかった――。

 

ひよ里さんが目をかっ開き藍染に攻撃を仕掛ける。

 

 

「ひよ里っ!!!」

 

 

しかしひよ里さんを攻撃したのは藍染ではなくギン。ギンの斬魄刀『神鎗』でひよ里さんの胴体を切り離した。

 

 

「お一人様お――――終い」

 

「ひよ里!!!!」

 

 

平子さんが慌ててひよ里さんのところへ駆け寄る。

 

 

「…ご……ゴメンな……シンジ……ウチ…ガマンできひんかった……」

 

 

平子は織姫の力にすがった。早く一護は帰って来ないのかと。平子さんの悲痛な声だけが木霊する。

 

平子さんが藍染を睨む。

 

 

「良い眼だ。百年振りに生き返った眼を見た気がするよ。平子真子。憎いかわたしが。憎ければ向かってくるがいい。君は特別に私の剣でお相手しよう」

 

 

平子さんはひよ里さんを地面に置くと「一護が戻ってくるまでハッチ頼む」と言った。

 

 

「随分と信頼しているんだね。あの少年を」

 

「理解でけへんやろ。仲間すら信じひんオマエにはのォ」

 

「信じるということは頼るといえことと同義だよ。それは弱者の行いだ。我々には無用のものだよ」

 

「あんだけ手下引き連れてた奴がよう言うわ。部下には自分のこと信じるように口八丁(くちはっちょう)(たぶら)かしとってんやろが」

 

「いいや。私は部下達に自分を信じろなどとただの一度も言ったことは無い。共に来いとは言ったが信じて共に来いなどとは言わなかった。常に私を含めた何者をも信じるなと言って聞かせた。だが悲しいことにそれを徹底出来る程強き者はそう多くない。全ての生物は自分より優れた何者かを信じ盲従しなければ生きてはいけないのだ。そうして信じられたその重圧から逃れる為に更に上に立つ者を求め上に立つ者は更に上に信じるべき強者を求める。そうして王は生まれそうして全ての神は生まれる。まだ私を信じるなよ平子真子。これからゆっくりと信じられる神が誰なのか教えよう。信じるのは、それからだ」

 

 

藍染は冷たい眼で言った。藍染が斬魄刀を抜く。それを見た平子さんは嬉しそうに「やっと抜きおったか」と言った。

 

 

「オマエは俺の斬魄刀の能力を知らん。――言うとくで藍染。他人の神経を100%支配する斬魄刀がオマエの『鏡花水月』だけやと思ったら大間違いや。――(たお)れろ『逆撫(さかなで)』」

 

 

全てが逆様の世界へと変わる。しかし藍染は「只の眼の錯覚」で済ませ平然と平子さんを斬る。「只の子供遊び」だと。それは一瞬の出来事で、藍染は“ついで”のように東仙も斬る。前の戦いで重症を負っていた東仙は直ぐに死んでしまった。

 

黒崎一護が虚圏から現世へと戻ってきた。そして藍染に斬りかかる。が、藍染に一撃目を防がれてしまう。

 

 

「…良い斬擊だが場所が良くない。首の後ろは生物の最大の死角だよ。そんな場所に何の防御も施さず戦いに望むと思うかい?」

 

 

藍染は振り返って黒崎一護を見据えて言う。

 

 

「…何を考えているか当ててみようか。初擊の判断を誤った。今の一撃は虚化して撃てば一撃で決められた――。撃ってご覧。その考えが思い上がりだと教えよう」

 

 

黒崎一護は顔に仮面をつける。

 

 

「そうだ、来い」

 

 

黒崎の攻撃『月牙天衝(げつがてんしょう)』は藍染に届いていなかった。そして一瞬で黒崎一護の下へと藍染は行くと言った。

 

 

「こうすれば今すぐにでも心臓に手が届きそうだ」

 

 

藍染が黒崎一護に問いかける。藍染に呑まれそうになった黒崎一護を狛村が止める。そしてその場にいた全員が言った。「俺達がお前を護ってやる」と。一護は「みんなボロボロなのに何を言ってるんだ」と言う。すると平子さんは言った。

 

 

「オマエ一人で戦わす方がよっぽど無茶やろ。一人でやられたハラの虫おさまれへん奴がようさんおんねん。一人で背負うな、厚かましい。これは俺ら全員の戦いや」

 

 

そう言って全員が藍染に斬魄刀を向けた。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

藍染だと思っていた者は雛森だった。動揺した隊長各及び仮面の軍勢(ヴァイザード)はやられる。総隊長まで出て来て戦う。総隊長の攻撃、そして黒崎一護の攻撃で藍染を少しだが斬ることに成功した。だがそれは直ぐに治ってしまう。藍染が黒崎一護を“生まれた瞬間から特別な存在だった”そう言った瞬間、元十番隊隊長黒崎一心が出てきた。

 

 

「――喋りすぎだぜ藍染」

 

「………お………親父………か…?」

 

 

全ての真実を知らない黒崎一護は動揺する。黒崎一心は一護を連れて距離を取った。

 

 

「…それにしても随分と長い見物だったね。ギン、碧」

 

「見物してたのと違いますよォ。手助けに入る隙も必要も見つからへんかったんです」

 

「みーんな藍染隊長の方に行っちゃうからこっち暇だったんですよ?」

 

「…そうか」

 

 

黒崎一護が後ろから攻撃してくる。ギンがそれを受け止めた。

 

 

「ねえねえギン。どっちが戦う?」

 

「せやね…。ボクから行こか」

 

 

ギンはそう言うと黒崎一護の下へと歩いて行く。

 

 

「…久しぶりやね。君と戦うんは。今度は手加減無しや。卍解『神殺槍(かみしにのやり)』」

 

 

ギンの周りの建物全てが真っ二つに斬られる。ボクはギリギリ回避成功。

 

 

「あっ、ぶねぇ…!」

 

 

し、死ぬかと思った…!!しかしギンの攻撃は黒崎一護に止められていた。

 

 

「同じ卍解が卍解で止められるワケねぇだろ」

 

 

そう言って黒崎一護がギンに攻撃する。ギンは避けられず頭に傷を負ってしまった。

 

 

「ギン…!!」

 

「大丈夫や。安心してええよ」

 

 

「にしても…」とギンが言葉を続ける。

 

 

「…やっぱり気味の悪い子や。怖いなァ。これは今のうちにちゃんとお仕置きしとかんと…難儀なことになりそうや」

 

 

ギンはいつの間にか斬魄刀を縮めており、それを構える。

 

 

「さてしかしどうしたもんやろね。ボクの卍解はあっさり止められてもうたし――普通に戦うしかないんやろか」

 

 

そう言ってギンは黒崎一護に突進する。素早い剣技。黒崎は防御で精一杯だ。

 

 

「大した刀やね。斬り込んでるこっちのんが折れてしまいそうやわ」

 

「よく言うぜ。じゃあさっさと折れちまえよ!」

 

 

ギンは黒崎一護と間合いを取ると『神殺槍』を伸ばし黒崎一護の肩を斬る。黒崎一護は戦いの中でギンの卍解が一番怖いのかを見極めた。伸縮の速度(・・・・・)だと。

 

それを聞いたギンはニヤリと笑みを深めると手を叩いた。そして言ったのだ。『神殺槍』の速さは手の叩いた音が聞こえる速さの五百倍だと。そしてそれを知ったところで勝ち目はないと。

 

 

「…大丈夫だよね、ギン」

 

 

――何か嫌な予感がする。

 

 

その嫌な予感が当たってしまった。ボクは目の前が真っ暗になる感じを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ifの終わり

最終回です。ここまでのご愛読ありがとうございました。後数話番外編も載せるのでそれも見てもらえれば幸いです。


ギンが乱菊をどこかに連れて消えたとか今となってはどうでもいい。今のボクにはギンが藍染に(・・・)斬られ(・・・)刺されている(・・・・・・)この光景の方がよっぽど重大だ。

 

 

「…ギ、ン……?」

 

 

乱菊が空から降ってくる。ボクの体は冷たくなって動かない。

 

やめろやめろやめろやめろやめろヤメロっ!!

 

ギンの下へと走って行きたいのに足が鉛のように重くて動かない。指先が驚くほど冷たい。自分の顔が自分で理解出来る程――青い。目が充血してボクは…吼えた。

 

 

「あいぜェェェェンンンンンンン!!」

 

 

ボクは藍染に斬りかかった。

 

 

 

 

 ▼▲▼▲▼

 

碧から違和感を感じ始めたのはだいぶ前からやった。何者なのか、ボクは詳しいことは知らん。ずっと考え取った。そして結論に行き着いた。

 

碧は多分ボクの息子や――。

 

母親はきっと乱菊だろう。時折見せる碧の笑顔。あれは乱菊の笑顔と同じだ。どこの世界のボクの息子かは解らんけど――ご免な碧。この世界では生んでやれんかった。

 

黒崎の強い眼になったのを見てボクは安心する。ふと視線を外すとそこには小さい碧が眼に涙を溜めてこちらを見ていた。

 

この世界で生めない事を謝る?いや……ここはお礼を言おう。少なくとも何らかの形で碧はこの世界に来てくれた。ボクに顔を見せてくれた。こんな情けないボクに着いてきてくれた、その事全てのお礼を言おう。最高な笑顔で。

 

 

「ありがとう」

 

 

この世界に少しだけでも来てくれてありがとう

 

ボクと一緒に行動してくれてありがとう

 

ボクに笑顔を見せてくれてありがとう

 

ボクと乱菊の奪われたモン取り返そうとしてくれてありがとう

 

ボクの息子…ボクと乱菊の息子として生まれてきてくれてありがとう

 

――さいなら

 

小さな碧から「こちらこそ、ありがとう」と言われたような気がした。

 

 

 

 

 

 ▼▲▼▲▼

 

 

ボクの斬魄刀は藍染に意図も容易く受け止められてしまう。

 

 

「キミは随分とギンに執着していないかい?」

 

 

藍染はそう言うと言った。

 

 

「やはり君達親子(・・)は似ているよ」

 

「!!」

 

「どうやってこの世界に来たのかは流石の私でも解らない。教えてくれないかい?」

 

 

 ボクは無言で斬魄刀を振り回す。

 

 

「…無視か」

 

「……ボクは藍染に嘘をついていた」

 

「……」

 

 

ボクは斬魄刀の握る力を強める。

 

 

「ボクは火炎系の斬魄刀だと言ったな?ホントは違うんだ。名だって『鬼火』じゃない。ボクの斬魄刀は――(あく)契約(やくそく)堕落(だらく)しろ『臥薪嘗胆(がしんしょうたん)』っ!!」

 

 

黒い霧がボクと藍染を覆う。

 

 

(ころ)せ『神殺槍(かみしにのやり)』」

 

 

ボクの斬魄刀が『神殺槍』へと変わる。藍染は一瞬驚いた顔をすると「成程」と呟いた。

 

 

「キミの斬魄刀は只の物真似(・・・)か。面白くない」

 

「ボクの斬魄刀は契約している妖怪(アヤカシ)の力を使うことが出来る!!妲己行くよ!!」

 

 

 妲己が得意とするのは“変化”。その変化の力を使って色んな斬魄刀のに姿を変えることが出来る。

 

 

「…しかしこの程度の力。先程のギンの攻撃の方が強かった。もうしかしたらその妲己とやらは持ち主以上の力を出すことが出来ないんじゃないのかな」

 

「!!」

 

「もしそうでないのなら、キミはまず『鏡花水月』を使えばいい。しかし使わないと言うことは…本体を持っている私には通用しないから。それでいて幻覚の作用も弱いのだろう。…残念だ」

 

 

藍染はそう言うとボクの体を斬った。

 

 

「本物以上に成れない物真似など虫けら同然だ」

 

 

勝てなかった。仇を討てなかった。ここで死ぬのだろうか。もう何もかもがどうでも良くなってきた。ああ、死ぬをだな。

 

ボクの体が光に包まれた――。

 

 

 

 

 

 ▼▲▼▲▼

 

「もォー。何でアタシが市丸碧(こんなやつ)持たなきゃならないのォ創造主サマァ」

 

MGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)がチマチマしたことはやりたくない、と言ったのだろう?」

 

 

 

暗い、暗い道。そこには小さな(・・・)市丸碧を抱えたMGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)と創造主サマこと藍染(あいぜん)悠右介(ゆうすけ)が歩いていた。

 

 

PINKY(ピンキー)は現世を掃除屋は尸魂界の“市丸碧”のことについて全ての記憶を消しに行ってるんだ。ここにはMGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)と私しかいないだろう。仕方の無いことだ」

 

 

そう言って歩く創造主サマを見てマジシャンズ・レッドは頬を膨らませる。

 

 

「いい退屈しのぎになったよ。彼は良かった」

 

「ホント創造主サマって兄に似て性格悪いよねェ」

 

「…先の言葉は撤回しよう」

 

 

創造主サマの言葉に思わずマジシャンズ・レッドは吹き出す。

 

 

「どれ程嫌ってるのォ!?クククッ」

 

「……(カレ)とはもうおさらばだ。開くぞMGICIANS(マジシャンズ)RED(レッド)

 

 

二人は足を止めると大きな扉がギギギと音を立てて開いた。扉はとある場所の空に繋がっていた。下を見るとそこには市丸ギンが立っていた。

 

 

「…初めまして、かな。市丸ギン」

 

「はよ碧返して貰えんか」

 

 

一年。碧がいなくなって本当の世界は一年しか(・・・・)経っていなかった。それも全て創造主サマの仕業である。

 

碧の体は本当の世界の体の形になっており、子供の姿だ。碧が飛ばされた世界の体は本当の碧の体ではなく、マジシャンズ・レッドが作った「魂すら違和感を感じない本物そっくりな体」に一時的に碧の魂魄を移していた。そのお陰で藍染に体は殺された碧だが瞬時に本物の碧の姿に魂魄を移し変えたことで生き延びている。

 

マジシャンズ・レッドは市丸ギンに碧を引き渡す。

 

 

「今回は有意義な時間を過ごせた。ありがとう、そして済まなかった」

 

 

創造主サマは市丸ギンに頭を深く下げるとマジシャンズ・レッドと共に何処かへと消えてしまった。

 

 

 

 

 

 ▼▲▼▲▼

 

 

戦争が終わって藍染は投獄された。ギンは死んで碧はいなくなってしまった。

 

 

「碧っ!!碧っ!!」

 

 

あたしはいなくなってしまった碧をずっと探し続けた。

 

 

「おい、松本。一体誰を探してる」

 

「碧が!碧がいないんです隊長!!」

 

 

あたしがそう言うと隊長は首を傾げて「…碧って誰だ……?」と言った。

 

 

「…え?」

 

「松本の知り合いか?」

 

 

あたしは碧の特徴をあげていく。だけど隊長は「知らない」と頭を横に振った。

 

碧の存在を覚えているのはあたしだけだった――。

 

 

 

 

 ▼▲▼▲▼

 

碧が眼を覚ました。あれから一週間眼を覚まさなかった碧。ボクは碧に抱きついた。

 

 

「大丈夫か、碧っ!?怪我しとらんか…?」

 

「怪我?そんなのしてるわけないよ。だってボク散歩してただけ(・・・・・・・)なんだから」

 

 

「もぅ心配性だなぁ」と笑いながら言う碧にボクは眼を見開く。…もうしかして記憶が抜かれとる……?この後碧に確かめを取ったら「友達を作るために散歩して帰って来て疲れて寝た」と返って来た。

 

碧に何があったのかは解らんけど、記憶を消すほど悲しいことがおきたのならボクは詮索はせん。碧が無事に生きているのであれば――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は記憶を消した。

 

 

記憶を消したことで少年は忘れようとした。

 

 

記憶は忘れても魂魄は覚えている。

 

 

楽しいあの記憶も悲しいあの記憶も全て。

 

 

いつか少年が思い出すその日まで――

 

 

 

 

――パンドラの箱に仕舞われることとなる。

 

 

 

fin

 

 



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番外編
結婚


番外編①

乱菊とギンの結婚話。


 

松本がサボってきた仕事を俺は手伝う。…ったく、なんでアイツはこうもサボるんだ。志波隊長の時は自分があれほどサボるな、と口煩く言っていたのに。書類と睨めっこを俺はかれこれ何時間やったことだろうか。

 

 

「隊長」

 

 

珍しく真剣な声色で俺に話しかけてくる松本。俺は書類から前に立っている松本へと視線をかえた。

 

 

「…あたし、籍を入れることになりました」

 

「市丸か」

 

 

俺がそう聞くと松本は嬉しそうに「はい」と答えた。

 

 

「式はいつだ?」

 

 

どうせ松本のことだ。ソファーにでも寝そべって式場のカタログ片手にブツブツと何かを言っているんだろう。式の日程等が決まっていればその日は俺も速く仕事を片付けるつもりだ。そのため、知っておきたい。

 

松本は少し悲しそうな顔をすると「式は挙げないんです」と一言。

 

 

「…松本、熱でもあるのか」

 

 

仕事のことをし過ぎだろうか。基本的松本は仕事をサボるのでまともにやった日には体がついていけないのかもしれない。そんなことを考えていると松本は「なんか失礼なこと考えてません!?」と言った。

 

 

「ほら、ギンは尸魂界を追放されてるでしょ?だから…」

 

「尸魂界では挙げられない、ってことか」

 

「それにあたしは現世のことはよくわからないから現世で挙げるとこも出来ないですし。だから挙げなくてもいいかな、って」

 

「そうか」

 

 

俺はそう一言告げると書類を持って隊舎を出た。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

十三番隊舎。書類を十三番隊に渡さなくてはならなかったので持ってきた。

 

 

「浮竹、体の調子はどうだ」

 

「今日はいい感じだ。…日番谷隊長はそうでもないみたいだね」

 

 

「暗い顔をしている」浮竹は俺の頬を引っ張りながら言った。

 

 

「悩み事があるなら俺に話してみてはどうだ?こう見えても俺は日番谷隊長よりも長く生きてる。もうしかしたら力になれるかもしれない」

 

「……実は…」

 

 

俺は先ほどの事を全て浮竹に話した。すると浮竹も「意外だ…」と呟いた。

 

 

「…どうせ松本のことだ。式は挙げたいんだろう。だが市丸のこともある。…今回アイツは充分な働きもした。だからこそ俺は挙げてやりたいと思っている」

 

「日番谷隊長は部下思いなんだな」

 

「そういうわけじゃねぇ!」

 

 

浮竹は笑いながら「照れなくてもいいよ」と言った。

 

 

「わかった。俺も一肌脱ごうじゃないか。俺にいい考えがある」

 

「?」

 

 

浮竹は襖の方に視線を移すと「聞いていたんだろ?京楽」と言った。襖が開き京楽が「バレちゃってたか」と頭をかきながら部屋に入ってきた。

 

 

「話聞いていたか?」

 

「ホント、盗み聞きするつもりはなかったんだよ?偶々タイミングが良かったと言うか…」

 

「聞いてたんだな」

 

 

俺が呆れた声で言うと京楽は「ゴメンよ」と言った。

 

 

 

「いや、隠すことでもないし別に気にしてねぇよ」

 

 

俺がそう言うと浮竹が横で手をパチンと叩いて「さて」と言った。

 

 

「本当なら現世で挙げるのが得策なんだが…生憎俺達は現世のことについてよく知らない」

 

「黒崎達に聞こうとしてもまだアイツらは学生。知るはずもねぇよな」

 

「となると…山爺を説得して尸魂界で挙げるのが一番得策かもしれないね」

 

 

京楽の言葉で雰囲気が微妙な雰囲気へと変わった。

 

 

「山爺頭カタイからなぁ」

 

「可愛い日番谷隊長の部下の為だ。俺達が頑張るしか無いだろう。なぁ!日番谷隊長!」

 

「…………」

 

「女の子の為ならボクも一肌かすよ」

 

 

こうして俺を含む三人は一番隊舎へと向かった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「ならぬ。尸魂界を追放されたものが尸魂界に入るなど言語道断!」

 

「いいじゃん山爺。挙式ぐらいさぁ」

 

「ならぬ!」

 

「そこをどうにか頼みます!源流斎先生!」

 

「お願いだ総隊長!!」

 

「…………」

 

 

総隊長は上から俺を見下ろす。俺は頭を下げているので総隊長の顔は見えないがきっと見下ろしているだろう。

 

 

「あ、あのっ!!総隊長!わ、私からもお願出来ないでしょうか!」

 

 

この場からは聞こえる筈のないソプラノの声。俺が振り向くと「ハァハァ」と肩で息をしている雛森が立っていた。

 

 

「雛森!」

 

「…日番谷くんは暫く五番隊の仕事を手伝ってもらってた時もあったし…私にはこれぐらいしか出来ないけれど…」

 

 

雛森はそう言って笑った。

 

 

「総隊長!市丸はもう尸魂界に攻撃する気はねぇ!!そんな気があるならアイツはもうとっくに現世を滅ぼしている!!」

 

「そうだよ山爺。だからさ」

 

「源流斎先生!」

 

「総隊長!!」

 

「…ふむ」

 

 

総隊長は長い髭を触りながら言った。

 

 

「…そこまで言うのなら許可しよう。ただし市丸が居ていいのは1日限りとする」

 

「…!!ありがとうございます!!総隊長!!」

 

「やったね!シロちゃん!!」

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「松本」

 

「?何ですか隊長。仕事ちゃんと珍しくやりきりましたよ?」

 

「…総隊長から尸魂界で式を挙げていいと許可がおりた。良かったな」

 

「えっ!?」

 

 

「何で急に」と驚く松本を見て「珍しくお前は今回頑張ったからな。神からのプレゼントだろ」と言った。

 

 

「隊長の嘘とかじゃないですよね!?」

 

「ちげぇよ」

 

「じゃあホントに…!?やった!!あたしギンに連絡してきます!!」

 

 

ダダダと走っていく松本の後ろ姿を見て俺はため息をついた。

 

全く元気な奴だな。

 

その元気を仕事にもまわしてもらいたい。俺はそう思った。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「やっぱり尸魂界で挙げるんだから着物かしら?」

 

「でも最近は尸魂界でも“ドレス”って言う衣服が流行ってるんでしょ?」

 

「そうなのよ~。弓親、アンタはどう思う?」

 

 

あたしが弓親にカタログを見せると「乱菊さんはどう考えてもドレスでしょ」と言った。

 

 

「それ、ギンにも言われたわ」

 

「ならドレスでいいじゃん。何迷ってるのさ」

 

「…ドレスにする!!」

 

 

急に立ち上がったあたしを見て弓親は思い出したように「よく総隊長からのお許し出たよね」と言った。

 

 

「そうなのよ~。あたしもびっくり」

 

「え?らんらん達知らないの?」

 

「あら!やちるじゃない!!」

 

 

突然ヒョコリと現れたやちる。やちるの片手には金平糖の入った袋を持っていて、今もボリボリと食べている。

 

 

「あのね、ひっつーとうっきーとしゅんしゅんがじいじに直談判したんだよ」

 

「え?隊長達が?」

 

「へぇ。意外にいい隊長じゃん」

 

「ひっつーね、ひなもんと一緒にじいじに頭下げてたよ!!」

 

「ひ、雛森まで!?」

 

 

やちるはまだ金平糖が沢山入った袋をあたしに預け笑って言った。

 

 

「いい上司と後輩持ったね!らんらん!!結婚おめでと!!お祝いに金平糖(それ)あげるっ!!」

 

 

やちるはそう言うと何処かへと行ってしまった。

 

 

「…隊長…」

 

「……何で副隊長知ってたの?」

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

結婚式当日。結婚式には沢山の人達が来てくれた。本当は一護や織姫達も呼びたかったんだけど現世で“テスト”なるものをやっていると耳にはさみ、呼ぶのを急遽止めたのだ。

 

 

「乱菊綺麗やで」

 

「ふふっ、ギンもカッコいいわ」

 

 

ウェディングドレスを身に纏ったあたしを見てギンが言った。あたしは嬉しくて顔を綻ばせながらギンにも「カッコいい」と言う。

 

式が始まると横側に座っていた雛森と目が合う。雛森に口パクで「ありがとう」と伝えると雛森はぶわっと目から涙を出しブンブンと首を縦に振っていた。それを見てあたしはクスッと笑う。

 

 

「…シロちゃーん」

 

「おい、雛森。泣くの早すぎだぞ!?まだ始まってもねぇのに…」

 

「乱菊さんかわいいよぉ、綺麗だよぉ、美人だよぉ」

 

「分かった、分かったから泣き止め」

 

 

泣いている雛森の横に座っている隊長がアタフタとしている姿を見て早くくっつけばいいのにと思ってしまう。

 

着々と式は続いてそして今式が終わろうとしている。

 

 

「新郎新婦、誓いのキスを」

 

 

その言葉を聞いた瞬間あたしはジャンプしてギンの唇にあたしの唇を重ねた。まさかこんな荒業をしてくるとはギンも思っていなかったのだろう。眼を見開いていた。

 

唇を離すとあたしはギンに言った。

 

 

「愛してるわ!ギン!!これからもよろしくね!!」

 

「ボクも乱菊のこと世界一愛してるで。もう、離さへん」

 

 

あたしとギンは抱き締めあった。盛大な拍手が会場に響き渡った――。

 

 

 

 

 

 

 




やちるは乱菊と雛森にはあだ名をつけていないみたいで…オリジナルです。


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子供の名前

番外編②

碧の名前を考えるエピソード。


あたしの中に子供がいることが判明したのであたしは産休をとってギンのいる現世へと来ていた。

 

 

「うわぁ、大分腹大きくなっとるな」

 

「そうね。何回もお腹蹴られたりするのよ」

 

 

あたしがお腹を擦りながら言うとギンは「乱菊と同じで活発なんやね」と言った。どういう意味よ、そう聞こうとしたらあたしの伝令神機がなった。電話である。

 

 

「はい、松本です」

 

 

「あたし産休取ったんですけど」と言ったら隊長の怒声が聞こえた。

 

 

『産休届け出してねぇだろ!早く出せ!!』

 

 

ついうっかり。産休届けを隊長に出すの忘れてたわ。あたしはきっと机の上に置きっぱなしとなっている産休届けを出すため、穿界門を通ろうとしたらお見送りに来たギンが「あんまり走ったりしちゃあかんで」と言った。

 

あたしはそれに「わかってるわよ」と返した。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「…ちゃんと受け取った。ったく…」

 

 

隊長があたしを睨み付けて来るのであたしは視線をずらす。

 

 

「あ、そう言えば隊長」

 

「…なんだ」

 

「この子の名前何がいいと思います?男の子何ですけど」

 

 

あたしはお腹を擦る。隊長はあたしのお腹を凝視したかと思えば「それは俺じゃなくて市丸に聞くことだろ」と言った。

 

 

「ギンに聞いたら(みだれ)がいいって。絶対性別勘違いしてるわ」

 

「………」

 

「あたし的にはキンかシロガネがいいと思ってるんだけど全部ギンが却下しちゃって」

 

 

あたしが頬をふくらませながら言うと隊長は真剣な表情で「松本」とあたしの名を呼んだ。

 

 

「名前は市丸に決めさせろ」

 

「それどういう意味よ!!」

 

 

近くにあったクッション隊長にを投げてあたしは走って隊舎を出た。

 

 

「…。松本ォ!走るんじゃねぇ!!」

 

 

隊長の怒号を聞いてあたしは慌てて走るのを止めた。ふぅ、ナイス隊長!

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「絶対いいと思うんだけどなぁ」

 

「何がだい?」

 

「あ、京楽隊長。またサボりですか?七緒に怒られますよ」

 

 

あたしがそう言っても京楽隊長はヘラヘラと笑って「産休取ったんじゃないの?」と聞いてきた。

 

 

「産休届け出し忘れちゃって」

 

「ああ、それでわざわざ出しに来たのね。大変だねぇ乱菊ちゃんも」

 

「そうなんですよ!隊長ホント五月蝿くて」

 

 

「まあ何気に優しいですけど」とあたしが言うと「意外と周り見てるよねぇ日番谷くんは」と京楽隊長は言った。

 

 

「早く雛森とくっつけばいいのに」

 

「早く雛森ちゃんとくっつけばいいのに」

 

 

言った事が被ったあたし達は笑った。

 

 

「お腹子供いるんでしょ?名前決めちゃったりしてるの?」

 

「それがあたしの言う名前全部却下されちゃうです」

 

 

京楽隊長はあたしの言葉を聞くと苦笑いになって「じゃあまだ決まってないんだ」と言った。

 

 

「美月とかどうだい?きっと可愛い子に育つよ」

 

「隊長、乱菊さんのお腹の子は女の子ではなく男の子です」

 

「な、七緒ちゃん……」

 

 

音もたてずに現れたのは伊勢七緒。七緒は眼鏡を光にキランと反射させると一瞬で京楽隊長を縄で縛った。

 

 

「書類は溜まりに溜まっています。さぁ、帰りましょう」

 

「えっ、ちょっ、七緒ちゃん!?」

 

「…七緒また腕をあげたわね…」

 

 

七緒はあたしに「ではお大事に」と言って京楽隊長を連れて消えてしまった。

 

 

「……女は怖いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「あっ!!らんらんだぁ!!ほら、ひなもん早く走って!」

 

「ま、待ってください…!」

 

 

前からドドドと音を発てて走ってくるのはやちると雛森。やちるはあたしの目の前まで走ってくると「わぁ、ホントにお腹おっきいよひなもん!」と言ってあたしのお腹に耳をあてていた。

 

 

「ほ、ホントだ…。確か男の子だったんですよね、乱菊さん!」

 

「ええそうよ。あたしの予想では絶対にギンに似ると思うのよね」

 

 

あたしがそう言うと雛森は「なんだろう。私もそんな気がする…」とあたしの言葉に頷いた。

 

 

「あっ!!今お腹蹴ったよ、らんらん!!」

 

「ええ、そうねやちる」

 

「凄いね!!」

 

 

やちるの笑顔に癒されたような気がした。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「名前。うーん、名前、ねぇ」

 

「なんや。そない悩んで。はよ止まらな看板に当たるで」

 

「うわっ!!」

 

 

名前のことで悶々と考えていたら目の前に看板があった。危ない。危うくぶつかるところだった。

 

 

「ありがとうございます、平子隊長」

 

「別にええよ。あ、そう言えば結婚オメデト。すまんね俺行けんくて」

 

「いえ。雛森の仕事代わったって聞いたし一応お祝いの品も貰いましたし別に」

 

 

あたしがそう言うと「一応ってなんや、一応って」と軽く頭を叩かれた。

 

 

「で、なんか悩みおったけど何に悩んどったんや?あ、もうしかして離婚か?離婚の危機か?」

 

 

あたしは無言で平子隊長の脛に蹴りを入れた。

 

 

「いっっった!!何すんねん!ちょー痛いわ!!」

 

「離婚とかしないですよ!何縁起の悪いこと言ってくれてるんですか!!」

 

 

「名前考えてたんですよ、な・ま・え!!」とあたしはふくらんだ自分のお腹を指差して言った。

 

 

「平子隊長はキンとシロガネ、どっちがいいと思います?」

 

「…いや、どっちもあかんやろ」

 

 

「それだけは子供の為にもやめておいた方がええで」と真顔で言われてしまった。

 

 

「えー。そうですか?んー、じゃあどうしよ」

 

「どないな名前がええんか?」

 

「ギンが色の名前だからこの子にも色の名前をつけてあげたいんです」

 

「なら、碧ってどうや?」

 

 

「“あお”って色の名前も入ってるやろ」と平子隊長は言った。

 

 

「あおい、アオイ、碧…。平子隊長、それに決定!!」

 

「うおっ、急に大声出して…ってもうおらん」

 

 

早くギンに教えてあげましょ!

 

こうしてあたしのお腹の中に入っている子は“碧”となった。

 

 

 



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市丸ギンの誕生日

番外編③

これは市丸ギンの誕生日に書いたお話。漸く出せました。


9月10日

 

今日は父ちゃんの誕生日。母ちゃんが気合いを入れて現世へと来ていた。

 

 

「久しぶりね!碧っ!!」

 

 

ボクの顔を見るなり母ちゃんはボクを抱き締める。母ちゃんの包容な胸に顔が埋まり息が出来ない。その為背中をバンバン叩くのだが、母ちゃんは「そんなに喜んでくれてるの!?碧好きっ!!」等と言って悟ってはくれない。

 

 

「ら、乱菊さん碧くん多分苦しがってるんじゃ…」

 

「あら?そうなの?ならちゃんと口に出さないとわからないわよ碧」

 

 

織姫さんに助けられた。危うく実の母親に殺されるところだった…。いや、口に出せって言われても喋れない状況下だったし。

 

今は父ちゃん抜きでお出掛けだ。勿論お出掛けの目的は父ちゃんの誕生日プレゼントを買うため。

 

ちなみに何故ここに織姫さんがいるかと言うとボクは父ちゃんへの誕生日プレゼントを買ったこの後織姫さんの家に直行しないといけないからだ。

 

誕生日の日ぐらい二人でラブラブして欲しいと言う子供なりの気遣いである。

 

 

「碧はギンになに買うの?」

 

「ボクは、父ちゃんの好きな小説家さんの新作だよ。買いたいとは言ってたけど本屋に行く用事もそんなになかったから買おうかどうか悩んでるのを見てこれを買おうかなって」

 

 

ボクがそう言うと母ちゃんは「あたし、なに買おうかしら……」と言った。

 

 

「干し芋?」

 

「母ちゃん、それ父ちゃんの嫌いなもの。せめて好きなものあげてよ」

 

 

父ちゃん曰く昔、上司に干し柿と称して干し芋を食べさせられたらしい。干し柿に似てるくせに柿じゃないことに怒りを覚えてから嫌いになったとか。ちなみにこれのせいで瀞霊廷通信と言うものに「んなアホな」と言う題名で連載を持っていたらしい。

 

 

「…んー、ギンって物とか欲しいってあまり言わないから困るのよねぇ」

 

「父ちゃん物とか必要最低限しか買わないよね」

 

 

「母ちゃんと違って」とボクが言うと母ちゃんに頭を叩かれた。

 

 

「だって家にあるタンス全部母ちゃんの服で埋まってるじゃん。着ない癖に何で買うの?」

 

「別にいいじゃない!欲しいんだから!」

 

 

母ちゃんを見て女性は全員こうなのか、と思ってしまう。

 

 

「織姫さんは母ちゃんと違ってちゃんとしてるよね」

 

「うーん。私の場合はお洋服とか買うお金がないからなぁ」

 

 

「あたしのおさがりあげるわよ、織姫!」「ありがとうございます、乱菊さん!」と女子トークに花を咲かせている為、ボクは置いてけぼり。……本買ってこよ。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

結局母ちゃんは最後の最後まで悩んだ末に写真立てをあげることにしたらしい。母ちゃん曰くそこそこお高い茶色を貴重としたカッコいいやつ。理由は父ちゃんがいつも家族皆で撮った写真を大事そうに持っているから、だそうだ。

 

 

「じゃあ織姫、碧を頼んだわよ」

 

「任せて、乱菊さん!」

 

「お幸せに~」

 

 

ボクん家まで母ちゃんを送ってボクと織姫さんは織姫さんの家へと向かう。

 

 

「今日は何が食べたい?」

 

 

「私、碧くんの為に腕を奮っちゃうよ!!」と織姫さんが言うのでボクは「パスタ食べたい」とリクエストした。

 

 

「パスタ、パスタかぁ~。んー、あんこ風味のカルボナーラ風パスタ作ろう!!」

 

 

…果たしてボクは生きて父ちゃん達の元へと帰れるのであろうか。

 

ちなみに織姫さんの作ったあんこ風味のカルボナーラ風パスタは意外にも美味しかった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「誕生日おめでとう、父ちゃん」

 

 

父ちゃんの誕生日は昨日終わってしまったけどボクは気にしない素振りで綺麗に包装された本を渡す。父ちゃんは本を見た後嬉しそうな顔をして「ありがとう、碧」とボクの頭を撫でた。

 

どうやら母ちゃんは写真立てを3つ程買ってきたらしく、その写真立てには既に写真が入れられていた。

 

1つ目の写真立てには父ちゃんと母ちゃんが小さい頃の写真。

2つ目の写真立てには父ちゃんと母ちゃんの結婚式の写真。

3つ目の写真立てにはボクが生まれて父ちゃんの指をしゃぶっている写真だった。

 

 

「ボク、今幸せや」

 

「なら良かった」

 

 

「今何歳?」と聞けば「覚えとらんよそんなチマチマしたこと」と返ってきた。

 

 

「意外と大雑把だよね、父ちゃんって」

 

「乱菊程じゃないけどな」

 

「ちょっと。それ、どういう意味よ」

 

 

ボクと母ちゃんの目が合う。二人で頷くと父ちゃんに抱きついて言った。

 

 

「ギン」「父ちゃん」

 

「「お誕生日おめでとう!!」」

 

 

父ちゃんは嬉しそうにボク達の事を抱き締め返した。

 

 



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松本乱菊の誕生日

番外編④

これまた誕生日番外編。投稿遅くなってごめんよ、二人とも。


9月29日

 

今日はボクの母親、松本乱菊の誕生日である。

 

 

「…乱菊って言ったら服やなぁ」

 

「でも男のボク達に母ちゃんの趣味ってわかんないよ」

 

「……無理やな」

 

「無理だね」

 

 

母ちゃんの誕生日プレゼントとして服をあげようとしたボク達だが、残念ながら女性の服の趣味がわからない為、断念。

 

 

「……人形とか…?」

 

「乱菊の喜びそうな人形わかるんか?」

 

 

「とりあえず派手なもの送っとけばいいんじゃないの?」と言えば「適当すぎやろ」と返ってきた。

 

 

「女性へのプレゼントが一番悩む」

 

「…せやなぁ」

 

 

ボク達は『女性のプレゼント特集!!』とかかれた雑誌をペラペラと捲り母ちゃんに良さそうなものを選ぶ。

 

 

「『第1位!今流行ペアリング!!』だって。母ちゃん父ちゃんから貰った指輪大事にしすぎて使えないって嘆いてたしもう一個買ってあげれば?」

 

「あー、それいいかもしれんなぁ」

 

「…ボクはなんか安い指輪をネックレスにして人形にでもつけてあげようかな」

 

 

「父ちゃんとは違ってボクそこまでお金ないし」とボクは言った。

 

父ちゃんは昔尸魂界で隊長をやっていたこともあったのでお金は一生暮らしていけるぐらいある。母ちゃんが使っても使っても無くならない、と喜んでいた程だ。

 

 

「ほな、買いに行こか」

 

「うん」

 

 

ボク達は何気に重い腰をあげた。

 

 

「…あかん、迷ったわ」

 

「…いつもは織姫さんとかがいるからなぁ」

 

 

ボク達は大通りと呼ばれる場所で迷っていた。いつもは案内人として織姫さんとかこの地に詳しい人がついてきてくれるのだが今回は居ない。織姫さんも忙しいのだ。

 

父ちゃんもボクも家を出る機会が少ないので全くといって良いほど道を覚えていない。下手すれば母ちゃんの方が覚えてるかもレベルである。

 

 

「…あら、市丸サン達じゃないッスか」

 

「「浦原」」

 

 

「どうもッス」そう言って扇子をヒラヒラと仰ぐ浦原はなんか似合っている。とてつもなくしっくりくる。…っていうか街中で扇子を仰げるのが凄いと思う。

 

 

「なんか困ってるようでしたけど……何かあったんですか?」

 

「…迷ったんだボクら」

 

「せやからどないしよ、って話とったところや」

 

「あー、そう言う要件ならアタシよりも適任な人がちょうどそこに」

 

 

「ホラ」と浦原が指差した先にはオレンジ色のツンツンとした髪の毛が特徴の男性が立っていた。

 

 

「ん?黒崎一護やん」

 

「げっ…浦原さんに市丸ギン…と、誰だ?」

 

 

オレンジ色はボクを見て指差した。思わずボクはその指をへし折る為、逆方向へと曲げてしまう。

 

 

「いててててっ!!てめえ何しやがんだよ!」

 

「人に指差したらあかんやろ?なぁ碧」

 

 

父ちゃんの言葉に「うん」と頷くとオレンジ色は「初対面で刀向けてきた奴には言われたくねぇよ!?」と言った。

 

 

「まあまあ黒崎サン。子供相手にそんなイライラしないで下さい」

 

「いや、どっちかって言うとこの親子にイライラしてる」

 

「そんなんどうでもええねん。はよ碧に自己紹介せぇや」

 

 

オレンジ色はキッと父ちゃんを睨み付けた後ボクに向かって「黒崎一護だ」と言った。

 

 

「…あんたが織姫さんの自慢の黒崎くん、か」

 

「井上知ってんのか…?」

 

「うん。何回かお泊まりしてるし」

 

 

黒崎一護は「そうか」と言うと浦原に「で、何してんだあんたらこんなところで」と言った。

 

 

「いやぁ、市丸サン達が迷ったんらしくてッスね?黒崎サンに道案内を頼みたいんスよ」

 

 

「どうせ暇でしょう?」と言う浦原の言葉に黒崎一護は一瞬嫌な顔をするものの「どこに行きたいんだ?」とボク達に聞いてきた。きっと彼は面倒見がいいのだろう。

 

 

「指輪ってどこで売っとるん?」

 

「指輪?指輪なら……」

 

 

「あそこだ」と黒崎一護が指を差す。意外に近かったらしい。父ちゃんは黒崎一護に「おおきに」とお礼を述べると「行こか」とボクの腕をひいた。

 

 

「……指輪って何しに行くんだ…?」

 

「さぁ。結婚記念日か何かのお祝いで買うんじゃないッスかね?」

 

 

ちなみにボクと父ちゃんのあげた誕生日プレゼントはとてつもなく母ちゃんに喜ばれ暫く上司に自慢をしたらしい。母ちゃんの上司からの怒りの電話と苦情の電話が来なくなるのは母ちゃんの誕生日の2ヶ月先の事だった。

 




~おまけ~

ピンポーン


碧「はーい、誰ですか……誰?」

日番谷「市丸はいるか」

ギン「なんや?用事かいな」

日番谷「…てめえの嫁ぐらいちゃんと躾とけ。ったく上司を()き使いやがって……」


母ちゃんの沢山服の入ったタンスが大量に母ちゃんの上司から届けられた。




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消えた碧を探して

番外編⑤

消えた碧を探す弱った乱菊


「…松本、いるか」

 

 

十番隊隊長 日番谷氷獅郎は副隊長 松本乱菊の部屋の目の前に立っていた。松本の部屋から返事は返ってこない。日番谷が松本の部屋のドアを開けると案の定松本はいなく、日番谷は眼を伏せて「…またか……」と呟いた。

 

市丸ギンが松本乱菊の目の前で殺されたあの日。松本の目の前から市丸とはまた別人の大切な人物がいなくなってしまったらしい。らしいと言うのも日番谷は彼の事を覚えていない。

 

松本曰く日番谷は彼とは仲のいい間柄だったワケではないが面識はあったらしい。けれど日番谷は忘れてしまっている。否、正確に言うと彼に関わる記憶を書き換えられた、と言うべきか。

 

松本はずっと探していた。市丸碧と言う人物を。ろくに休みも取らずずっと探していた。その姿はとても痛々しく日番谷でも見ていられない程だった。

 

 

「…そろそろ無理矢理にでも休ませるか」

 

 

日番谷は松本の居ない部屋を見て呟いた。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

穿界門を開いて碧のいなくなった現世でずっと碧を探していた。けれど碧は見つからない。見つかる気配もなかった。

 

探しても探しても見つからない。ホント、碧もギンもあたしには行き先を告げず何処かへと行ってしまう。探すあたしの身にもなって欲しい。

 

 

「…乱菊さん」

 

 

後ろから話しかけられあたしは振り向く。あたしに話しかけてきたのは織姫だった。

 

 

「…織姫」

 

 

「こんな時間に出歩いちゃ危ないじゃない」と織姫に言うと「乱菊さんも危ないよ」と織姫が言ってきたのであたしは「別に人間にはあたしの姿は見えないから大丈夫よ」と言った。

 

 

「違うよ。乱菊さん、最後にあった時よりも痩せちゃってる。ちゃんとご飯食べてないんじゃないの…?」

 

「……食べてるわよ」

 

「嘘」

 

 

織姫の眼を見て「食べてる」とは言えなかった。あたしは顔を伏せる。

 

 

「乱菊さん碧、って人探してるんでしょ?私多分だけどその人知ってる」

 

「ホント…!?」

 

「確か…乱菊さんみたいに綺麗に笑う人だった……と、思う」

 

「あたしみたいに、か。考えたことも…なかった、わ」

 

 

なんだか急に眠くなっちゃった。織姫の焦る声が聞こえる。…ダメね、あたし。ギンと碧が居ないと…ダメみたい。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「創造主サマァ。昨日まで夜遅くになに作ってたのさァ」

 

 

マジシャンズ・レッドは五徹目の創造主サマに聞いた。創造サマは「感情を人間化させる装置を作っていたんだ」と言った。

 

 

「感情を人間化させる装置ィ?一体何に使うのさァ」

 

「私のせいで心の傷を負ってしまった彼女の為に作ったんだ。だがまさか…死んだはずの市丸ギンまでも人間化、いや一時的に具象化させるとは思わなかったけどね」

 

 

創造主サマは水晶玉に映っている倒れた(・・・)松本乱菊を見て言った。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

乱菊は白い何もない世界に立っていた。

 

 

「…ここは…」

 

「ほんの少し会わんかっただけで随分久しぶりな気するなぁ、乱菊」

 

「ギン…!?」

 

 

「久しぶりやね」そう言ってあたしに手を振るのは紛れもなくギンだった。あたしは走ってギンに抱きつこうとする。しかしそれは叶わなかった。ギンは透けてあたしと触れることはできない。

 

 

「!?」

 

「ごめんなぁ乱菊。これでもボク死んでもうてるから触れんのや。今は無理矢理機械使うて具象化して乱菊の目の前に現れとるだけや」

 

 

「触れんでも少しの間だけやったら喋ることはできる。だからそない悲しそうな顔せんといて」ギンそうは言った。

 

 

「それにな、ここに来とるのはボクと乱菊だけやないんや」

 

「え?」

 

「お姉ちゃん!!」

 

 

急に足元に現れたのは小さい銀髪の男の子だった。その子の顔は…小さい時の碧の顔にそっくりで思わず目に涙が溜まる。

 

 

「…ボク、碧!!でもね、碧だけど碧じゃない」

 

 

碧はそう言った。

 

 

「いつまでも乱菊が前に進めとらんから小さな碧がわざわざこうして逢いに来たんや。もちろんボクも乱菊に逢いに来たんやで」

 

「ギン…碧……」

 

 

碧はあたしの手に触れようとする。しかし触れることは叶わず透けてしまう。それを見て碧は悲しそうな顔をするが見上げてあたしの眼を真剣に見た。

 

 

「悲しまないで。ボクもギンも居なくなってしまったけれどいつかそう言う運命だったんだ。特にボクはね。ボクはあるべき場所に帰った。だから探しても居ないんだ」

 

 

碧は真剣な表情で言う。

 

 

「まだ乱菊とは会えない。運命が巡って、巡って、巡った時いつかまたボクに会える。その時は三人一緒だ」

 

 

「運命は巡るもの。乱菊とギンは運命の人だから輪廻転生してまた巡り会える事ができるよ」と碧は笑って言った。

 

 

「凄いんだよ。ボクは楽しい(・・・)記憶(・・)しかわからないんだけど、ほとんど乱菊達といた記憶はね楽しかったんだ。抜けた記憶が少ない。それほど乱菊とギンはボクに影響を与えたんだ」

 

「だから前に進むんや、乱菊」

 

「…進む…?」

 

「碧が言うにはまたボクと乱菊はいつか巡り会える。それに、碧とはよ会いたいならボク探さなあかんし」

 

 

ギンの言っている意味がわからなかった。

 

 

「ここで乱菊とサヨナラしたらボクは輪廻転生するやろな。その輪廻転生したボクを乱菊が尸魂界で待つんや。そしたらまた会える。ボクが乱菊探し出す。そしたら今できんかったことやろな」

 

「何を、言ってるの…?」

 

「この先の言葉は来世のボクに聞いてや」

 

 

「来世でボクと会えたら碧とも絶対会えるから」ギンはそう笑って言うと「そろそろ行こか」と言った。

 

 

「うん。バイバイ乱菊。次は本物の(・・・)ボクと会ってね!!」

 

「また待たせることになるけど…ええか」

 

 

ギンが不安そうなん顔で聞いてくる。そんなギンの顔を見てあたしはクスッと笑った。

 

 

「当たり前よ!直ぐに探し出して見せるわ!」

 

「ならその日まで」

 

「「「バイバイ」」」

 

 

ギンと碧の姿は一瞬で見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

眼を開けると織姫の顔がドアップで見えた。

 

 

「あっ!!起きた!!良かったぁ…!」

 

 

「浦原さーん乱菊さん起きました!」と織姫は大きな声を出して言った。

 

 

「そうですか。それは良かったッス」

 

 

奥から浦原が出て来てヘラヘラとした顔で「いやぁ井上サンが貴女を抱えて連れてきた時はさすがのアタシでもびっくりしました」と言った。

 

 

「織姫、迷惑かけたみたいね。ここまで運んできてくれてありがとう」

 

「あれ?部屋を提供したアタシにはお礼の言葉ないんスか…?」

 

「…なんか乱菊さんスッキリしたような顔してる」

 

「そうね。きっといい夢見れたからだわ」

 

「無視?無視ッスか?」

 

 

横で五月蝿い浦原の顔面に一発拳をあてると大人しくなった。あたしは織姫の頭を撫でると「かし作っちゃったわね」と言った。

 

 

「そんな!かしだなんて思ってないよ!」

 

 

「乱菊さんが元気になってくれて良かった」そう笑う織姫にあたしは「一護に泣かされたらあたしに言いなさい。成敗するわ」と耳打ちした。

 

 

「へっ、えっ…!?な、な、な、何で黒崎くん!?」

 

「あら?好きじゃないの?」

 

 

「てっきり織姫は一護の事が…」と言うと織姫は大きな声で「わー!わー!!」と言った。

 

 

「もう、乱菊さんったら!」

 

「別にいいじゃない。隠すことでもないんだし」

 

 

あたしは織姫にもう一度「ありがとう」と伝えると穿界門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「帰ったのか、松本」

 

「はい、隊長。今までのご迷惑、ご心配をかけてしまって…すみませんでした」

 

 

あたしが頭を下げると隊長は「顔を上げろ松本」と言った。

 

 

「もう、いけるな」

 

「はい。もう大丈夫です」

 

 

「ならいい」隊長はそう言って書類に視線を落とした。

 

 

 

 

 

ギン、貴方があたしを見つけてくれるその日まで

 

あたしは待ってるから。だからその日まで

 

あたしは十番隊(ここ)で頑張るとするわ

 

 

 

 

 

 




活動報告の方で次回作についてのアンケートをとっています。ご協力して貰えるとありがたいです。期限は10月12日までです。


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市丸碧の誕生日

番外編⑥

碧の誕生日。

……ホントは作者の誕生日です。誰か祝って下さい。


10月12日

 

それは市丸碧の誕生日である。が、碧は走っていた。つい先日父親の市丸ギンから習った瞬歩を駆使して走っていた。いや、正確に言うと逃げて(・・・)いた(・・)の方が正しいかもしれない。

 

どこに行く!?織姫さん家…?いや、即母ちゃんにバレておしまいだ。ならこの前会った黒崎一護…?いやいや、そもそもアイツの家知らないよ!……じゃあ、浦原…?

 

浦原もバレル可能性が高い、そう判断した碧は浦原に協力(・・)()求める(・・・)ことにした。

 

碧は急いで、全速力で、浦原商店に向かう。

 

 

「浦原!!」

 

「…碧サン。せめてもう少し静かに入ってきてくれませんかね」

 

 

お茶を飲みながら店番をしていた浦原は突然開けられた戸にビビり肩を少しだけ動かす。碧とわかった瞬間は少しだけホッとした表情だった。

 

 

「こんな店ですけど泥棒かって少し焦っちゃったんスから」

 

「違うでしょ?ボクか父ちゃんか瞬時に見極められなかっただけだよね?」

 

 

ボクは父ちゃんの遺伝子をかなり濃く受け継いでいる。霊圧もその濃く受け継いだ1つで、霊圧を消していきなり背後などにまわられるとボクか父ちゃんか一瞬わからなくなる、と母ちゃんが言っていた。

 

浦原は苦笑いを溢すと「で、今日はどんなご用件で?」と話の流れを変えてきた。

 

 

「ボク、尸魂界に行きたいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「ひーつーがーやーくんっ!」

 

「……なんだ平子」

 

 

背後から「わっ」と平子は日番谷に声をかけるが日番谷は大して驚いていない。逆に冷静な顔で後ろに振り返って来るので平子の顔は不満げな顔に変わる。

 

 

「なんや、のり悪いなぁ」

 

 

「乱菊ちゃんなか肩びくつかせて驚いてくれる言うのに」と平子は言う。平子は少しニヤニヤしているのできっとその時の乱菊を思いだし笑っているのだろう。

 

 

「俺は松本じゃねぇ」

 

「せやろな。逆に一緒言われたら俺寝込むで」

 

 

ケラケラと笑う平子を見て日番谷は眉にシワを寄せる。

 

 

「…何のようだ」

 

「いやぁついこの前乱菊ちゃんが碧の誕生日ぃ言うて自慢してきおったからなぁ。どないなモン買ったか気になってん。乱菊ちゃん居るか?」

 

「…現世だ」

 

「え?」

 

「だから!仕事サボって現世に居るって言ってんだよ!!」

 

 

カッと眼を見開き言う日番谷は相当お怒りのご様子だ。その日番谷の圧に押されて平子は「そ、そうか……」と語尾が段々と小さくなっていく。

 

!!

 

平子と日番谷の近くにある気配がした。辺りを見渡すと「いててて…」と頭を押さえている子供の姿を発見する。

 

 

「…雑過ぎ。お陰で落っこちた……」

 

 

銀髪のふわふわとした髪に糸目な目。白い肌に身長とは似合わない痩せた体型。そして……市丸ギンと似たような霊圧。一瞬市丸ギンかと錯覚してしまう程霊圧は似ていた。

 

 

「…ギン、ではないなぁ。まあちびっこい頃にそっくりやけど」

 

 

「誰や、アイツ」と平子は少し警戒した声で日番谷に聞く。日番谷は「はぁ」とため息を出すと言った。

 

 

「松本の息子だよ。名は確か……碧」

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「乱菊さんやめた方がいいって、碧くん絶対嫌がっちゃうよ…!」

 

「あら?これでも毎年恒例なのよ?」

 

 

現在松本乱菊は市丸ギンと言うストッパーを家に置いて、井上織姫と現世でショッピングをしていた。ちなみにこのショッピングの目的は碧の誕生日プレゼントを選ぼう!と言う目的である。

 

現在松本乱菊達は空座ショッピングモールと言うデパートの女性服コーナーを歩いていた。

 

 

「毎年恒例でも!碧くん男の子なんだから女装は可哀想だよ!」

 

「んー、けどねぇ。これがあたしからの誕生日プレゼントだし……」

 

 

毎年、毎年。ギンが寝付いた後、乱菊は碧の身ぐるみをひっぺ剥がして、誕生日プレゼントと言う名の嫌がらせをしていた。

 

織姫はその嫌がらせを「やめてあげて」と言うのだが乱菊は「この服も似合いそうね」と全く打ち合う気がない。

 

ピリリリリ

 

織姫の携帯がなる。

 

 

「誰から?」

 

「えーと…あ、市丸さんからだ!」

 

 

ギンから連絡が来た織姫は慌てて通話ボタンをおし、通話を開始する。

 

 

「はい、いますよ。え?いないですけど……えぇー!?」

 

 

織姫は「わ、わかりました!こっちでも探してみます!」と言って勢いよく通話を切った。

 

 

「何かあったの?」

 

 

乱菊の質問に織姫は顔を青くして答えた。

 

 

「あ、碧くんが…居なくなっちゃったって!!」

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「ボク、尸魂界に行きたいんだ」

 

 

浦原はその言葉を聞いて驚きの表情を見せる。

 

 

「…確かに尸魂界を追放されているのは市丸サンですから碧サンは行けると思いますけど……理由を聞いても?」

 

 

 

碧は神妙な顔で頷いて言った。

 

 

 

「…もうボクは女装したくないんだ!!」

 

「………」

 

 

その後、詳しく話を聞いた浦原は頷く。

 

 

「…わかります、その気持ち。アタシも若い頃は夜一サンの無茶振りで女装をさせられたときがあったんですが…あの恥じと皆の冷たい目、大きく嗤われた口……全てが今でも鮮明に思い出せます」

 

 

「わかりました、お手伝いしましょう」そう言う浦原に初めて碧は尊敬した。

 

 

「何処の隊舎に行きたいですか?アタシ、設定しておきますよ」

 

「…十番隊で」

 

 

浦原は微笑みながら「わかりました」と言った。

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

「で、松本の息子が一体何のようだ」

 

「まあまあ。そないシワ寄せたらあかんって。ビビるやろ?碧が」

 

「市丸と松本の餓鬼がこんなところでビビってたまるか」

 

「あ、別に大丈夫です。世の中には色んな人いますから」

 

「……日番谷よりも大人やんけ、碧」

 

 

ヨシヨシと平子は碧の頭を撫でる。碧は気持ち良さそうに眼を細めた。

 

 

「で、遠渡遥々尸魂界にどうして来たん?ってかどないして来たんや」

 

「……逃げて来ました、母ちゃんから。尸魂界に来た方法は浦原です」

 

「…アイツは一体何をしたんだ……」

 

 

遠い目をする日番谷を見て碧は「アハハハ」と乾いた笑いを出した。

 

 

「母ちゃんって沢山サボってるんでしょ?お手伝いができることならボク、やりますよ」

 

「(本当に松本の息子か…?)」

 

「(顔はギン似やけど……性格はどっちとも似とらんなぁ。しっかりしとるわ)」

 

 

日番谷は目頭を押さえて言った。

 

 

「助かる」

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「やっぱり碧くん嫌だったんですよ!乱菊さんがやめないから!」

 

「そんなに嫌がってたのね…」

 

「ボクが寝とる間にそないなことしとったん!?どうりで碧が成長していくに連れて段々誕生日近づくと嫌な顔する訳や」

 

 

「ごめん、碧」と顔を俯かせる乱菊。勿論この場には碧はいない。

 

 

「悔やんでも仕方がないですよ!早く碧くん探さないと!」

 

「でもどこにも…」

 

「まだ探しとらんとこあったやろ」

 

 

ギン、乱菊、織姫は唯一探していない場所“浦原商店”へと向かった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「松本副隊長の息子さん!?す、すみません、こんな手持ちしか持っていませんが…」

 

 

十番隊隊士達はとても優しく、碧が乱菊の子供だと知ると沢山のお菓子やジュースを持ってきてくれた。

 

 

「いい隊ですね」

 

「ああ。なんだかんだでできる奴らばっかりだ」

 

 

「それにしても…」日番谷は視線を下に落とす。

 

 

「済まねぇな。ソレやってもらって」

 

 

日番谷の言う“ソレ”は今日乱菊がやる分の仕事である。日番谷が1の書類のやり方を教えるとなんと碧は10の書類のやり方を覚えた。

 

そして碧は言ったのだ。

 

 

「どうせ母ちゃんサボってるんでしょ?ボクが尻拭いします。下さい」

 

 

と。母親よりもしっかりしている。日番谷はホッとする。松本のダメな部分を碧が受け継がなくて良かった、と。

 

顔だけだったら正直言って乱菊にに似てもギンに似てもモテることは間違い無しだろう。日番谷は少しの間だが碧を観察して思った。「コイツは絶対苦労人になる」と。

 

 

「てめえはしっかりしてるな」

 

「ありがとうございます」

 

 

碧は脅威的なスピードで書類を片付けた。

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲

 

「碧サン?ここにはいませんよ」

 

「…どこ!?碧っ!!」

 

 

パニックになる乱菊にギンが「まあまあ」と声をかける。

 

 

「すぐに帰って来るやろ、碧も」

 

「…そうかしら」

 

「せやせや。だから家に帰って碧待とう。な?」

 

 

ギンに説得された乱菊は「わかったわ…」と浦原商店を出ていく。出ていく乱菊を見て織姫は慌てて乱菊の後を追った。

 

 

「で、どこにおるん?碧は」

 

「お見通しでしたか」

 

「当たり前や」

 

 

浦原は「敵わないッスね」と笑うと「尸魂界に今、いますよ」と言った。

 

 

「…尸魂界、か」

 

「はい。きっと日番谷サン達と仲よくなって帰ってくるんじゃないッスか?」

 

 

浦原がそう言うと同時にギンの携帯がピロリンとなった。メールである。メールの送り主は平子でそこには写真が。平子と碧は肩を組んでピースサインをしており、それにしても無理矢理巻き込まれている日番谷の写真だ。

 

そして平子からは「俺達が責任持ってギンとこに送り返すわ。だからちょっと待っててな」と書いてあった。

 

ギンはソレを見て「仲良うしとるみたいやわ」と笑った。

 

碧が返ってきたのはギンにメールが届いて約1日過ぎた日の事だった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

「碧っ!!」

 

 

碧の顔を見たとたん乱菊は抱きつく。

 

 

「ごめん、ごめんね!!」

 

「…もう、しない……?」

 

「しない!!」

 

「そうか。なら帰るぞ、松本」

 

 

碧の声とは違う若々しい声に乱菊はギギギと壊れた音をたてるロボットのようになった。

 

 

「な、何でここに……隊長…」

 

「碧を送り届けるついでにな。てめえも回収しようと思った」

 

「…あたし、碧の誕生日を祝わなきゃ……!」

 

 

救いを求めるような表情で乱菊は言った。それを見た碧はにこりと笑い……

 

 

「行ってらっしゃい。今度はいつ逢えるかな?」

 

 

と言った。乱菊は日番谷に引きずられる。

 

 

「う、裏切り者ぉぉおお!!」

 

 

碧の遅めの誕生日パーティーはギンと二人っきりであった。

 

 

 




例え今日、作者が学校でテストを受けなくてはならなくても、友達から「え、誕生日の日ってテスト日じゃん」と哀れみな目で見られたとしても、家族から忘れないうちにと約一時間フライングの「誕生日おめでとう」を聞いたとしても作者の誕生日です。

碧くんと同じ誕生日にしてみました。

おめでとう碧、おめでとう自分。

テストは死んだ(確定)けど、作者はまだまだ生き続けます。とりあえずは、アンケートを見て新作の下書きを書いていこうと思います。とりあえずはここでこの小説も終了です。ここまでのご愛読ありがとうございました。もし、他に番外編で書いてほしいものがあれば感想欄にお願いします。


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次回のif物語

 

皆、おはよう?それともこんばんわ?碧だよ。今回この『if物語 市丸ギンの息子』の主人公をやらせて貰っていた市丸碧だ。

 

だが今日でボクの物語も終了だ。次回はなんと…あの忌々しい『藍染』が主人公をやるらしいんだ。

 

 

「忌々しいとは酷いいいようだね、市丸ギン」

 

 

どこからか現れた藍染惣右介(?)碧は嫌そうな顔をする。

 

 

「げっ…藍染惣右介……!!」

 

「やぁ、次回の主人公藍染惣右介だ 」

 

 

手をヒラヒラと振る藍染に碧は小さな石を沢山投げる。

 

 

「…何をするのかな?碧」

 

「どっか行け!ここの物語はボクが主人公なの!まだお前の物語は始まってないの!!」

 

「別にいいじゃないか。ここで宣伝しとかないとだろう?」

 

 

藍染の物語はちゃっかり次回作の宣伝。本当にちゃっかりしている。碧は顔を赤くして藍染(?)に怒鳴った。

 

 

「五月蝿ぇ!偽物藍染が!本物のヨン様じゃない癖にいきがってんじゃねぇよ!!」

 

 

「偽物藍染」「本物のヨン様じゃない」と言う自分を否定させる言葉がかんに触ったのか藍染(?)もキレる。

 

 

「う、五月蝿いな!!こちとら頑張ってンの!!頑張ってキャラ作ってんの!!文句言うな!!」

 

「はーい、皆さん~!化けの皮剥がれ落ちましたよー!」

 

 

パンパンと手を叩きながら言う碧に藍染は「化けの皮ってなんだ!!」と怒鳴る。しかし碧は涼しい顔をしてどこ吹く風である。

 

 

「はい、黙ってね、どっか行ってね、ここボクの物語だから」

 

「…だーまーりーまーせーん!!ここまで来たらとことんやってやりますぅ!!」

 

「……キャラ崩壊もはなだたしいんだよ、糞が」

 

「お前もな!!」

 

 

約数分、ギャーギャーと碧と藍染(?)は言い合う。疲れ果てた碧と藍染(?)は肩を上限させて「ハァハァ」と肩で息をしていた。

 

 

「…やるな、藍染(仮)」

 

「褒められても嬉しくねぇよ。ってか、(仮)って言うな」

 

「でも(仮)はあってるでしょ?転生的なあれなんだからさ」

 

「いやまぁそうなんだけどね?うん、そうなんだけど…。逆に俺はこのヨン様に成り代わって良かったと思うんだよなぁ。本当の世界でも俺はマトモな暮らしはしてなかったわけだし」

 

「人間色々あるよねぇ」

 

「「ねー」」

 

 

どうやら碧と藍染(仮)は仲良くなったらしい。今となっては肩を組んで「猫踏んじゃった」を歌っている。何故「猫踏んじゃった」をセレクトしたのかはわからない。

 

 

「お前なら次回の主人公いけるよ、うん!!」

 

「過去の主人公にそう言われると嬉しいな、うん!!」

 

 

ガシッと腕と腕をぶつける碧と藍染(仮)。

 

 

「主人公には波乱万丈な人生しか送られねぇって決まってるんだ。頑張れよ!!」

 

「おうともよ!!」

 

 

次回作『if物語 藍染に成り代わった男』を見て貰えるとありがたいです。本当にここまでのご愛読ありがとうございました!!!!




作者の誕生日を祝ってくださった皆様、ありがとうございました!!なんやかんや言って家族よりも皆様の方が先に祝ってくれて嬉しかったです。思わず潤んでいると母から「何でアンタ涙目?」と聞かれたので「ネットでね、皆が私の誕生日祝ってくれてるの」と言いました。すると母は思い出したかのように「あっ!!」と声をだし「……おめでとう」と。その時、泣きましたね。まさか忘れられてるとは。

だからでしょうか。さらに皆様のお祝いの言葉がとても嬉しく感じました。本当に、本当にありがとうございます!!是非、次回作も見てもらえればありがたいです。


では、また会えたら次回作で会いましょう!!



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