ソードアート・オンライン・フェイトアンコール (にゃはっふー)
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プロローグ

「なんてことのない話を聞かせよう」

「フォウ」

「私が何者かなんて君たちには関係ない。これから話す物語にも関係ないことだよ」

「フォフォウ」

「これは英雄でも勇者でも、まして魔術師でもない。意味なんて無い、この物語は始めからハッピーエンドですら存在しない。意味も理由も価値も存在しない物語」

「フォーウ………」

「それでは始めよう。何者でも、何物でも無い〝モノ〟の、なんてことは無い物語を」


「こんなところに人が来るとは、珍しい」

 

 誰だ?

 

 俺の目の前に医者のような男がいる。眼鏡をかけた男が話しかけてきた。

 

 男は簡単な椅子に座り、天幕から光を浴びている。

 

 辺りは暗い、まるで光に当たる場所以外に何も無いように。

 

 俺も座っているのだろう。男を基準にした視界からそう思う。

 

 そんな中、俺は目の前の男に聞いた。誰だ?と。

 

「それを君が言うのか? 他ならぬ君自身が」

 

 そう言われ、静かに黙り込む。

 

 自分が何者か、なんなのか分かる。

 

 それだけのことをするために生まれ、その為に進まないといけないことを。

 

 男は聖書のような本を取り出し、静かにページをめくる。読んでいるそぶりは無い。

 

 俺のように意味の無いことをしていた。

 

「君もまたおかしな宿命に翻弄される、哀れな子羊のようだ」

 

 そう言いながら、ページをめくる音と共に辺りから声が聞こえ出す。

 

 ノイズのように、雑音のように聞こえる叫び声。

 

 その慟哭を聞きながら俺は、目を静かに閉じる。

 

「君はこれからどうする?」

 

 どうする? 俺がこの先どうするか。

 

 そんなのは決まっている。

 

「憎い」

 

 憎い。あるものが。

 

 それが俺の中にある。

 

 俺は何を憎んでいる?

 

 いや分かっている。それがなんなのか、そして意味は無いことも知っている。

 

「俺は憎い、だからこそ、進む」

 

「どこへだい?」

 

「〝上〟へと進む」

 

「意味も理由も価値も無いのに」

 

「ああ」

 

 そんなものが無くても、歩くことはできる。

 

 だからこそ俺は進む為に、いまから歩き出さなければいけない。

 

「天幕がいまさまに上がり、外伝とも異聞碌とも言える異端の物語はいま始まろうとする」

 

 その通り、この物語は意味も、理由も、価値もない。

 

 ただの最低で、最悪で、最も愚かな選択をする〝モノ〟の物語。

 

「………それでも」

 

 俺は進まなければいけない。

 

「願わくば汝の道に光在れ」

 

 それは違う。

 

「俺の旅路の果てに光は無い」

 

 そう言い立ち上がり、俺は男を背に歩き出す。

 

 心の中にあるこの衝動のまま、ただ憎いままに歩き出した。

 

 意味なんて無い、何も無い。

 

 これは終わった話だ。

 

 最低で、最悪で、愚かな選択。きっと俺の旅路は間違っているのだろう。

 

 それでも俺は進む。

 

「あなたはどうして進むの」

 

 黒闇を進む。

 

 また声が聞こえた。

 

 ノイズが混じる声で、それでも辛うじて女性と分かる声。それは俺を憎むように聞こえる。

 

「あなたがいなければいいのに、あなたがいるから可能性が芽吹いた」

 

 そう言われながら、それは俺を憎む。俺のように。

 

 世界を憎む〝モノ〟と、俺を憎む者。

 

「必ずあなたを消して見せる。この世界を守る為に」

 

 そう声が遠のいていく。

 

 誰の声かなんて関係ない。俺がやるべきことは変わらない。

 

 俺は〝上〟に進む。

 

 その為に歩き出したんだ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 どれほど歩いただろうか? 俺はいつしか森の中にいた。

 

「どこだここは」

 

 辺りを見渡しても森くらいしか見えないし、建物らしいものも見えない。

 

 だがどこだっていいか。

 

 歩く、憎しみのまま。

 

 進む、憎しみのまま。

 

 意味も理由も価値も無い歩み。

 

 怒りと憎しみしか無い俺は、果たして先に進んで〝上〟へとたどり着くことができるだろうか。

 

 それだけが唯一の不安であり、問題である。

 

 そんな中でも歩いていると、なにか金属音がぶつかり合う音が聞こえた。

 

「戦闘音?」

 

 叫び声が聞こえる。男女二人がなにかと戦っていのだろうか?

 

 こうして俺は彼らと出会う。

 

 意味も無く、ただそちらへと走り出した。

 

「はあああああああああああ」

 

 走ったおかげでその場所へとたどり着くことはできた。

 

 鎌のような刃物を付けた、骨の怪物と戦う黒の剣士と女性の短剣使いが戦っている。

 

 黒の剣士は男性で全身を黒で統一し、二本の剣で戦っていた。

 

 もう一人は女性であり、短剣を使い、どうにか凌いでいる。

 

 すぐに俺は背負っていた剣を引き抜き、彼に合わせて斬り込む。

 

「!? 君は」

 

「俺は」

 

 黒の剣士に問われたとき、一瞬考え込むが関係ないな。

 

 そう、そんな些細なことを気にしている場合では無い。

 

 もう一本の剣を抜き(・・・・・・・)、俺は二本の剣で斬り込む。

 

 それに驚いた顔の黒の剣士もまた俺と同じ二本の剣を使いだし、どうにか戦いにはなるが、届かない。

 

「くそッ」

 

 黒の剣士が険しい顔で何か見ている。

 

 ちらりと彼らを見るとゲージのようなものが見える。

 

 黒の剣士はグリーンのカーソルにイエローゲージ。

 

 青の短剣使いはオレンジのカーソルにレッドゲージ。

 

「このままじゃ」

 

 死ぬ。そう感じたとき、俺の中で何かが囁く。

 

 憎い。

 

 にくい。

 

 憎イ。

 

 その感情が俺の中で芽吹き、目の前の敵を見た。

 

 力が欲しい。

 

 そう心から願うとき、左手の甲が熱くなる。

 

「どうすればいい………どうすれば」

 

 黒の剣士が顔を歪め、打開策を考える中で俺は知っている。

 

 呼べばいい(・・・・・)

 

 そう、呼べばいいのだ。

 

 誰をなぞ関係ない。

 

 なにをもどうでもいいことだ。

 

 ともかく時間がいる。

 

「時間を稼げるか」

 

「策があるのか」

 

「ああ」

 

 俺は知っている。

 

 ただ呼べばいいだけなんだ。

 

 それが俺が初めにする、やらなければいけないことの一つ。

 

「分かった、どの道このままじゃ全員ゲームオーバーだっ。俺が前に出て防ぐから、君はサポートを頼む」

 

「………分かった」

 

 二人が前に出たとき、俺は左手をかざして、静かに目を閉じた。

 

 憎い、意味のない感情だ。終わった感情。

 

 何に対してか、何を求めているか。

 

 分かっていても止まることができなかった。

 

 それでもこれは消せるものではないのだろう。だから共に背負って歩くしかない。

 

 そしてなによりも………

 

 ここで終わるわけにはいかない。

 

 その意味が何なのか知りながら、俺は進む。

 

 俺はまだ、戦っていないのだから………

 

「………告げるッ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺のゲージがレッドに入った。

 

 このエネミー《スカル・リーパー》は、第75層で攻略組を苦しめた存在だ。

 

 だがかなり弱体化されていた。それでもたった三人、それも即席のメンバーでは不利なのは変わらない。

 

 そう感じたとき、光が辺りを包んだ。

 

「なにっ!?」

 

 共にいた彼女が訪ねる中、俺は後ろの彼を見た。

 

 その時に赤い花びらが舞い上がり、スカル・リーパーを吹き飛ばした。輝きが彼の前に集まっていく。

 

 彼のその左手に赤い入れ墨が刻まれ、光は人の姿になる。

 

「! いまのうちに《回復結晶》を使うんだっ」

 

 俺は我に返り、急いで指示する。結晶アイテムを使い、これで一気にHPゲージを回復させた。

 

 そして次の瞬間、それは俺の横を駆け抜ける。

 

「はあああああああああああ」

 

 誰の物でもない女性の声が響き渡り、スカル・リーパーを斬り裂く。

 

 一撃だった。

 

 いくらだいぶ弱っていたとはいえ、いままで手こずっていたスカル・リーパーを一撃でポリゴンの塵に変えたのだ。

 

 俺たちが驚く中、灰色と白色の服装で、髪は銀で肩にギリギリ届くほど長い髪。顔はぼうっとしていて瞳は深い蒼。

 

 同い年か一つ上くらいの、俺と同じ二本の色違いの剣を使う彼は彼女を見る。

 

 彼女は深紅の衣装に身を包み金色の髪を束ねながら、赤い独特の剣を彼に向けて口を開く。

 

「問おう、そなたが余のマスターか?」

 

 それが彼と彼女との出会いであり、このゲーム《ソードアート・オンライン》に起きた、異変の一つである。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 意味も理由も価値の無い旅路の中、砂粒のような理由はできた。

 

 俺の目の前で骨の怪物を軽々と倒し、胸を張り、堂々とした態度で俺に自信に満ちた笑みを浮かべて彼女は聞いてくる。

 

 この俺の元に咲いたこの情熱の薔薇があれば、俺は先に進めるだろう。

 

 俺は静かに左手の甲に刻まれた令呪を見せながら、静かに頷いた。

 

「ああ、俺の名は『メイト』。よろしくセイバー」

 

 俺はきっと、最後まで戦える。

 

 この意味も理由も価値の無い戦いで、俺は一つの意味も、理由も、存在を手に入れた。




始めてしまった。思いついたんだもの、形にしたら調子がよかったよ。

名前とかもすんなり決まってよかった。後はセイバーと共に彼は〝上〟へと歩き出します。

始まりで出て来たもふもふした子と魔術師は出てきません。たぶん知ってはいるんでしょうね。

「始まりの語り部としては、私以上に適任者はいないからね」

「フォーウ」

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第1章・始まりは問題だらけ

最初くらい早めに。


「………」

 

「………」

 

「ふ、ふふ、ふ~♪」

 

 いま俺たちはかなり微妙な空気の中、ここ《ホロウ・エリア》を探索している。

 

 彼女『フィリア』は一か月もここを探索し、生き残るので精いっぱいなところ、俺の手に浮かんだ謎の紋章がある場所へ向かうことになった。

 

 だが問題なのは彼女と一通り会話を終えてからだ。

 

「俺は『キリト』、君はいったい何者なんだい?」

 

「………」

 

 彼は首をかしげながら、彼はなにを言おうか考え込んでいた。

 

「どうした」

 

「オレンジとかレッドとか、カーソルはどういうことだ」

 

「えっ」

 

 この世界、VRMMOゲームであるソードアート・オンライン。

 

 この仮想世界に閉じ込められたプレイヤーたちは、100層なるこの世界をクリアしなければ現実世界へログアウトすることはできない。

 

 そしてHPゲージ。それがゼロ、ゲームオーバーになれば俺たちプレイヤーが付けている《ナーヴギア》により、脳を破壊されて死んでしまう。

 

 そう言った当たり前なことを、彼は知らなかった。

 

 彼女との会話を聞いていて、なにもかもかはともかく、そう言った知識が抜けている。

 

「君は、記憶喪失なのかっ!?」

 

「なんとまたか(・・・)

 

 赤い彼女は驚きながら、彼はそれに微かに反応する。

 

「また? 前のマスターの記憶はあるのか(・・・・・・・・・・)

 

「うむっ」

 

 それに、彼は彼女のことについて知っているように呟く。

 

「変な『サーヴァント』と〝契約〟した」

 

「安心するがよいっ、余と契約したからにはそなたに勝利を約束するぞ!」

 

「待て待て、待ってくれっ。情報を整理しようっ」

 

「………どういうこと」

 

 フィリアが険しい顔で彼らを見ていた。かなり警戒しているが、こういったケースを俺は知っている。

 

 この世界は世界初VRシステム。粒子物理学によって作り出されたフルダイブシステムによって作り出されたゲームの世界。

 

 だがそのシステムの基礎を作り、かつこのゲームを作り出した『茅場晶彦』によって一万人のプレイヤーはログアウト不可になり、囚われてしまう。

 

 唯一のログアウト方法であるゲームクリア以外このゲームから抜け出す術は無く、俺たちは仮想世界からの脱出のため、ゲームクリアを目指していると説明。

 

 オレンジはグリーンカーソルプレイヤーを攻撃した場合、犯罪者、オレンジカーソルになる。

 

 レッドは人を殺したプレイヤーのことを説明しながら、彼はそうかとしか言わない。

 

「君は本当に知らないのか」

 

「ああ」

 

 彼は記憶喪失、いや記憶が無いことを〝気にも留めていない〟。

 

 いま聞いた情報も頭にとどめておく程度のこととしか考えていない。彼女とは少し反応が違う。

 

「だけどこのゲームは途中から、75層から少し変わり出した」

 

 プレイヤーが持ってたアイテムは文字化けして使えず、まるで一からスタートするようにゲームが再開し、外のプレイヤーが紛れ込むようになった。

 

「ちょっと待て、外からのとは、どういうことだ?」

 

 深紅の剣の彼女はそう言い、俺は説明する。

 

 このゲームが正式に稼働日は2022年11月6日。

 

 だがそれからもう2年以上経ち、外の世界では安全性を確保したVRゲームが出ている。

 

 そのプレイヤーがこの世界、ソードアート・オンラインに紛れ込んだケースがあるのだ。

 

「君もたぶんそうだと思う。別のゲームの、そうでなきゃ」

 

「?」

 

 俺は彼女、突然現れた彼女を見る。

 

 おそらく彼だけは別ゲームシステムで彼女を呼んだのだろう。彼女は他のプレイヤーではないとゲームシステムが表明していた。NPCと成っているが、見た目プレイヤーと変わりなく見えた。

 

「君は、ああ、右手をこうしてくれ」

 

 そう言って彼にメニュー画面を開いてもらう。彼はそれに反応せず、簡単にメニューを開き見せてくれた。やはり彼女とは少し違うな。

 

「メイト? そのままか」

 

 彼の名前はそのままメイト。仲間か相棒って意味だろうか? 日本語でつづられているから分からないが、

 

「君の覚えていることはあるか」

 

「………〝上〟に行くことだ」

 

「うえ? 100層ってこと?」

 

「〝上〟に行くことだが?」

 

 フィリアの言葉に彼は答えながら、上に行くことが目的だと言う。

 

 これ以上は彼に教えることはないか。次は………

 

「君の覚えていることは」

 

「………彼女がセイバーであることは分かる」

 

「うむっ♪ 余はセイバークラスで召喚されたサーヴァントぞっ」

 

「セイバー? サーヴァント?」

 

 彼が話す内容はサーヴァントは英雄、英傑を使い魔として召喚された者たちのことを言う。

 

 クラスは七つ。剣士、弓兵、槍兵、騎乗兵、魔術師、暗殺者、狂戦士。

 

 そのどれかに英霊の一面をサーヴァントとして呼ぶ。

 

 そして上へ上がる。

 

「………ま、そういうことよ」

 

 その時彼女、セイバーは少しだけ目を背けた。

 

 なにかを知っているようだが、ここはあえて聞くのをやめておこう。

 

 いまはここから脱出しなければいけない。

 

 そして俺たちはフィリアの案内でどうにか脱出の糸口を見つけ、彼女は事情があるのか戻るのを拒み、三人だけで《アークソフィア》へと帰還する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「色々大変だ」

 

「そのようだな。まあ、気になることばかりではあるがな」

 

 あの後俺はキリトの仲間たちと知り合った。

 

 キリトの奥さん『アスナ』と娘の『ユイ』。

 

 竜使いの『シリカ』に、自分と同じ別のゲームから来た妖精であり、キリトの妹『リーファ』。

 

 鍛冶師の『リズベット』、商人の『エギル』。それに《風林火山》のギルドリーダー『クライン』。

 

 同じように記憶を失った少女『シノン』。

 

「覚えることがいっぱいだ」

 

「皆可愛らしい初々しい少女たちだったな♪」

 

 セイバーはそう言い、俺ができることを色々伝えた。

 

 俺ができることは『強化』などの『コードキャスト』。

 

 それを見たリーファはALOみたいとか言っていたが………

 

「どうでもいいか」

 

「いいのか?」

 

「〝上〟に行ければいいさ」

 

 そう〝上〟へ行く。目的は変わらない。

 

 だが、キリトから自分の仲間以外で活動するのは控えてほしいと言われた。

 

「混乱するかららしいがセイバー、お前は強いか」

 

「うむ、強いぞっ」

 

「ならいいか」

 

「うむっ」

 

 そんな会話をし、できることを確認していた。

 

「〝真名〟は教えてくれるか」

 

「………それはまだ良いだろう」

 

「俺はまだマスターとして認められないか」

 

「………すまぬ」

 

 それでも構わない。それでも〝上〟に行ければいい。

 

 それさえできればいい。だがどうすればいいか。

 

 意味なんて無いのにな。

 

「とりあえず、キリトが言うには自分と大差ないレベルらしいから、アスナたちにいろいろ相談するか」

 

 キリトには自分のステータス画面を見せている。

 

 本人も驚いていた。なにに驚いていたのかは知らないが、俺はレベルがキリトほどであり、アタッカーとして機能するらしい。

 

「本来は余がマスターをカバーするのだが」

 

「仕方ないさ、このゲームのシステムじゃサーヴァントはいない。別のルールで動いているようなものだ」

 

 別のルール。それに少しばかり考え込む。

 

「マスター?」

 

「………なんでもない」

 

 こうしてSAO攻略のため、行動することになる。

 

 ただ〝上〟を目指す。その為に………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト君、彼、メイト君について相談って?」

 

 エギルの店で全員定位置に座り、静かにパーティーメンバーで相談が始まる。

 

「おお、彼奴だけSAOだけじゃなく、別のゲームシステムのことか?」

 

 クラインの問いかけにキリトは静かに頷く。

 

 詳しく調べてみたが、まずは色々あった報告として《ホロウ・エリア》。これはキリトが同行しなければ他のメンバーではいけないらしい。しかも一人だけ。

 

 このことで隠しエリアのことは、他のプレイヤーに知らせることはしない方がいいということになるが、

 

「セイバー、彼女のことだけど、まだ詳しく説明を受けていないんだ」

 

「サーヴァント、マスター。そう言ったシステムはこのゲームには存在しません」

 

 そう言うユイはこの世界の《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》というもので、この世界の一部。

 

 この世界を管理する《カーディナルシステム》とも繋がりはあり、いまはそのほとんどの権限など無くなってはいるが、それでも分かることは多くある。

 

「英雄の一面をコピーし、そのクラスに適したステータスで呼び、自分と共に戦う………。そんなVRゲームあったっけ?」

 

 リーファはそう首をかしげ、キリトも分からない。

 

 装備などはドロップ品で固まっていて、そして、

 

「彼は俺と同じ《二刀流》スキル持ちなんだ」

 

「《二刀流》って、それって《ユニークスキル》じゃないのっ!?」

 

 SAOメンバーが驚く中、リーファ、シノンだけが分からない顔で様子を見る。

 

「二人には説明してないけど、俺が持つ《二刀流》スキルはどうやらシステム上、一人しか所持できないスキルらしいんだ」

 

「それって」

 

「ならなんでお兄ちゃんと同じスキルを」

 

 それにキリトも分からないとしか言えず、他にも分からないことばかりでここに来て多くの問題が出て来た。

 

 そんな中、シリカが自分の竜『ピナ』を撫でながら静かに尋ねた。

 

「セイバーさんはどれほどの強さなんですか?」

 

 シリカの問いかけに、キリトは困惑しながら言う。

 

「それが数値じゃなく、アルファベットで表記されてるんだ」

 

「数値じゃなくってって、キリト君、セイバーさんのステータスも見たの?」

 

 キリトがすでにメイトのステータス画面など見たことは伝えている。

 

 だがセイバーは、

 

「それはほんとに偶然でね。彼のメニューを見せてもらっているとスクロールして見えたんだ。真名ってところだけ空欄だったけど」

 

「しんめい? 本当の名前、ですか?」

 

「それも気になるけど、ステータスは」

 

 キリトは見たのは真名、クラス、宝具、スキル、ステータスと言った順であり、宝具と真名だけ空欄であった。

 

 スキルは《皇帝特権EX》、《頭痛持ちB》、《対魔力C》など分からないもの。

 

 ステータスにも魔力があったりと訳が分からない。

 

「幸運と敏捷はAなのは覚えてる」

 

「どういうことなんだろう?」

 

 レベル制でないにしても、彼女は傷ついたスカル・キーパーをほぼ一撃で倒していた。弱いはずがない。

 

 だから、

 

「念のため誰か、彼らについてくれると助かる。《ホロウ・エリア》に彼も行けるか実験するのは後回し」

 

「うん、いまはこっちの世界に慣れてくれないと」

 

「それでいいと思う」

 

 そう話し合いが終わり、彼らもまた攻略が始まる。

 

(ただセイバーはなにか隠している気がする。けど、NPCが隠し事なんてできるはずもない………。やはり気のせいだろう)

 

 そう考え至り、キリトたちは今後に話し合う。




恐らく分かる人には分かる、彼のユニーク所持の理由。先の予想なので胸にとどめておいてください。

これからメイトくんとセイバーの攻略が始まるのです。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第2章・彼が加わる日常

本来全プレイヤー中一人しか習得できないスキルを持つメイト。

彼と、彼が呼び出した存在セイバー。

彼らを新たに迎え、キリトたちの攻略が始まった。


 フィールドで俺はキリトたちに迷惑をかけないよう、二本の剣で戦うことをやめている。

 

 どうやら《二刀流》はキリトしかないスキルらしく、俺が使えるのはおかしいらしい。

 

 そしていまはシリカとピナ、リーファと組み、飛行するエネミー相手に狩りをしている。

 

「ピナっ」

 

 ピナがシリカの指示でブレス攻撃をしようとしたとき、

 

「コードキャスト」

 

 俺はすぐにコードキャスト、広範囲攻撃の強化を操作してピナに付加(エンチャント)する。

 

 放たれたブレスは広範囲に広がって、すぐさま自身にも使用する。使うのは敏捷値を上げる身体強化を選ぶ。

 

「セイバー」

 

「うむっ」

 

 すぐに取り残したエネミーを狩るセイバー、リーファは驚きながらその光景を見た。

 

「凄い……ALOの魔法みたい」

 

 全てのエネミーを倒して、俺のコードキャストを見たリーファを見る。

 

 彼女は別のゲームからこのゲームに囚われたプレイヤーであり、別のゲームでは妖精アバターであるようだ。

 

「このゲームに来てからあたしは魔法とか使えなくなったのに、メイト君は変わらないんだね」

 

「そうなのか」

 

「うん、けどメイト君の詠唱とか早すぎないかな?」

 

「そうなんですか?」

 

「ALOの魔法はかなり複雑だけど、ほとんどソードスキルみたいに使ってるし、やっぱりすごいよメイト君」

 

 シリカとリーファがそんな話の中、俺は自分のメニューを開いて、コードキャストの種類を確認した。

 

 多くのコードキャストを所持する俺はより厳選し、強化、改善などやることは多くある。

 

 それを覗き込む二人は急に目まいを起こす。

 

「め、滅茶苦茶数式とかが、これって」

 

「コードキャストの中身だよ」

 

 そう言って色々といじる。

 

 高速化、簡易化など、種類によって変えたりしないといけない。

 

 より戦うために。

 

 そして〝上〟へとたどり着くためにも。

 

「記憶の方はそれ以外にはなにもないんですよね」

 

「ああ。けど」

 

 俺は空を見る。この天上、鋼鉄の城《アインクラッド》の階層を見る。

 

「〝上〟に行くには問題ない」

 

「あっはは……、なんだか時々キリト君みたいだよね」

 

「? 俺がキリトと?」

 

「大切なことなのに自分のことになると優先順位が下なのっ。記憶を取り戻す方が一番大切ですっ」

 

 リーファが少し説教気味にそう言うが、俺からすればやはりどうでもいいことだ。

 

 俺は〝上〟に行く。それ以外に優先することは無い。

 

「けれど、メイトさんのコードキャストのことは、やっぱり内緒ですね」

 

「うん、結構危ないよね」

 

 二人が言うには回復、攻撃援護、防御においてこの力は強すぎるらしい。

 

 悪目立ちすると言う話を聞きながら、俺たちは町に帰る。

 

「?」

 

 その時、視線を感じた。

 

「どうした奏者よ」

 

 いままで黙っていたセイバーが、足を止めた俺に話しかけてきた。

 

 周りには誰もいないし、エネミーの影もない。

 

 索敵スキルにも反応は………無いな。

 

「いや、気のせいだよセイバー」

 

「そなたは少し頑張りすぎだ。少し休むのも手だぞ」

 

「だけど町の中を見て回るより、外にいた方が」

 

「セイバーさんの言う通りですよ、少しは休んだらどうですか」

 

「そうですね、二人に町の方を案内したいですし」

 

 言葉を遮られ、セイバーはそれがいいと嬉しそうに二人と話す。

 

 正直セイバーはシリカやリーファ、正直に言えばキリトの周りの女性プレイヤーのことを、

 

「世が世なら妾にしたいぞっ」

 

 そう目を輝かせて言うくらいに懐いているのだ。セイバーのこの話は話していないが、話さない方がいい気がする。

 

 そんな会話の中、町へと戻った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「たまには他のプレイヤーと交流するべきだ」

 

 ベットに腰掛け、コードキャストの強化をしている時、セイバーが俺の顔を覗き込みながらそう告げた。

 

 いまは部屋の中、セイバーとは相部屋である。クラインが羨ましいとか言っていた。サーヴァントと一緒にいるのはマスターとして当たり前なのだが。

 

「それじゃ、また別のメンバーとフィールドに」

 

「そーれーよーりーもっ、なにか他にあるではないか!?」

 

「ピナのエサ集め?」

 

「それも良い、シリカが喜ぶからな♪ 余、好みの愛い者ぞっ」

 

「そうか」

 

「美少年も好きだが、美少女はもっと好きだからな♪」

 

 そして俺は作業に戻ろうとしたとき、嬉しそうにしていたセイバーがはっと驚き、こちらへと振り返る。

 

「って待てーい奏者よ、なに話を終わらしておるっ。まさかこうも余を欺くなど、此度のマスターはやりおる」

 

「ありがとう」

 

「うむっ、それは良いぞ。だがな、余が言いたいのはそうじゃない。他のメンバーにもプレゼントなり交流なりするべきぞ」

 

 交流と言われても………

 

「一緒に戦っている」

 

「だがな、世の中はそれだけが絆を深めることではない。その者のために時間を割き、共に過ごすことも大事だ」

 

「………そうか。だがどうすればいい」

 

「むっ、いざそう聞かれると返答に困るな」

 

 ムムムっと考え込むセイバーを見ながら、俺はどうすればいいのだろう。

 

 確かにセイバーの言う通りだろう。

 

 この辺りを拠点として活動する際、かなり彼らにはフォローされている。セイバー自体が目立つ存在だから助かっている。

 

 だが目立つことを避けると言うなら、できることは限られてしまう。

 

「こういうときはどうすればいいのか………」

 

「なら、聞いてみようか」

 

 そう言い、俺はセイバーと共に部屋を出て、エギルに相談することにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ずいぶん難しい相談だな」

 

「すまない」

 

「いやいい」

 

 そう言いながら苦笑するエギル。

 

 店を一人で経営しつつ彼には色々と世話になる。キリト曰くぼったくりと言うが、まあどうでもいい。

 

「お前さん、少し昔のキリトに似てるからな。相談する辺り前の彼奴よりマシだが」

 

「キリトの昔か」

 

「ああ。目的しか見えてない、危ない時期だったな」

 

 そう思い出しながら下あごをさすり、しばらく考え込む。

 

「まずはそうだな、だいぶお前さんらが店や町に居ても不思議がられねえからな。買い物したり、店でなんか話をしたりすればいい」

 

「そんなものか」

 

「そんなもんだよ。それか、なにかレアアイテムをプレゼントってのもありだな。まあお前さんの周りなら、心がこもってればいいだろうな」

 

「おおっ、それは名案だぞエギルっ。奏者よ、日ごろ世話になっている皆に贈り物をしよう」

 

「そうだな、それじゃフィールドに」

 

「だーかーらーっ、エギルが言っておったろ。町で買い物するのだ」

 

 そう言われながら、町に繰り出すことになる。

 

 なにかいい物をと言うが、なにを買えばいいか分からないが、

 

「いいのだ奏者よ、心がこもった品物ならなんだって良い。贈り物とはそういうものぞ」

 

「そうか」

 

 そう言いながら、とりあえず食べ物をメインに買うことにした。

 

 食材アイテムで簡単な料理でもすればいい。レシピはエギルの店で調べればいい、簡単な物ならあったはず。

 

 こうして俺たちは解放された地域の町を歩くことにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「お、ユイか」

 

「あっ、メイトさん、セイバーさん。こんにちはです」

 

「ユイ」

 

 とてとてと近づく少女はキリトとアスナの娘。セイバーと同じNPCとして活動している。

 

 彼女に散歩と話を聞きながらこちらも買い物、せっかくだからなにかいい物が無いか探していることを話す。

 

「食べ物ですか? パパが喜びそうです」

 

「皆が喜べば良いが、奏者、なにか良い物はあるだろうか?」

 

「この辺りの店は一通り見たけど、普通のドロップ品アイテムばかりだね」

 

 そう言いながら、俺は周りを見渡しながら妙なアイテムもある。

 

「あっ、それは」

 

 それは瓶の中に飲み物が入っているものである。これは、

 

「お酒だね。ワインみたいだから、セイバーかクラインたちくらいだ」

 

「セイバーさん、お酒を飲むんですか?」

 

「うむ、たしなむ程度にはな」

 

 そう言いながらユイは少し首をかしげた。

 

 曰く、こういった嗜好品はSAO内では採用されていないはずだと。

 

 そう言いながらも、お酒は料理にも使うからではと思いながら俺は静かに手に取りつつ、

 

君はなにか知らないか?(・・・・・・・・・)

 

 そう唐突に振り返り、話しかけた。

 

「へ?」

 

「むっ、やはり誰か尾けていたか」

 

 セイバーは僅かに警戒するが、手で止めて静かに聞く。

 

「敵意が無いけど、エギルの店から感じてた」

 

 そう呟くと、静かに誰かが出て来る。

 

 女性プレイヤーで紫の髪の綺麗な女の人だ。

 

「いや~バレちゃったか」

 

「『ストレア』さん」

 

 ユイがそう呟き、その女性はキリトの知り合いで、彼の索敵にも見つからないほどの潜伏スキルを持つらしい。

 

 キリトがあの75層で茅場晶彦と決闘した人物として注目している。そう言う理由で時折キリトの周りで姿を現す。

 

「キリトの周りは可愛らしいのも、綺麗な者の知り合いが多いのだな」

 

「はい、パパはモテモテなんです。けど、ママが一番なんですよ」

 

「そうかそうか♪ ユイはいい子だな♪♪」

 

 そう言いユイを抱きしめ、スリスリするセイバー。

 

 くすぐったいとユイは微笑む。微笑ましい光景なのだが、セイバーに軽くチョップをして止めておく。

 

「奏者のいじわる~」

 

「セイバーの場合はしゃれじゃないからな」

 

「?」

 

 ともかく、せっかく出会ったことで町の穴場の店を終えてもらい、そこの食材アイテムを買う。

 

 みんな喜んでくれると良いが………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺は《ホロウ・エリア》へとたどり着く。

 

「メイト? セイバーさんも」

 

「フィリア、こんにちは」

 

「今日はどうしたの? 探索?」

 

 それに首を振り、ストレージからアイテムを取り出す。

 

 レア度は少しあるが、体力関係のアクセサリーだ。

 

 セイバーからはおいしい食べ物。

 

「これって」

 

「プレゼント。みんなに渡すために選んだんだ」

 

「そう、なんだ……。ありがとう、わざわざ持って来てくれて」

 

「問題ないぞ♪」

 

「ああ、受け取ってくれるか」

 

「ええ」

 

 そう言い微笑むフィリア。フィリアへのプレゼントは問題は無かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 というわけで、キリトたちがフィールド探索から帰ってきたごろに、ちょうどよくできるように設定した料理。

 

「ただいま~、って、なんかうまそうなにおいがするな」

 

「おおっ、来たか。待っていたぞっ」

 

「セイバーさん、これは」

 

「うむっ、奏者が簡単な物だが、食材あいてむで料理をしておる」

 

 それにキリトとクラインがおおっと食いつき、アスナたちも驚く。

 

「ありがとうございます、お腹ぺこぺこで」

 

「いったいなにを作ったのかしら?」

 

「簡単な焼き物とスープ、付け合わせにパン。あとはただレア度の高い食材料理」

 

「レア度の高い料理? そんなものも用意したの?」

 

 シノンが訪ねると俺は火加減を見ながら答えた。

 

「ああ、おいしそうだったから。俺も食べたくて用意した」

 

「余たちも知らないうちに買っておってな。余も知らないのだ」

 

「へえ、どんな料理なんだ?」

 

「簡単な物はシカ系のエネミー肉を、調味料で焼いただけ。スープも簡単なのだ」

 

 そう言って出された料理に、みんなおおっと笑顔である。

 

「うまっそうじゃねえか。メイト、それじゃレア度の高いのは」

 

「これだ」

 

 そう言って焼き蛙の丸焼きを人数分出した。

 

「待ってーーーいーーーーっ」

 

「どうしたセイバー」

 

「なんだその拳より大きなカエルはっ、余と買い物している最中それらしいのは無かったぞっ」

 

「串に刺して焼くだけで、うまそうだぞ」

 

「おいしそうじゃありませんっ」

 

 アスナが叫び、だがキリトは、

 

「俺は少しチャレンジを」

 

「キリト君っ」

 

「けど、これS級食材のカエル肉っ。俺、前々から気にはなってたんだ」

 

「うまいぞ」

 

「ってもう食べてるううううう」

 

 そんな話をしながら、キリトから攻略の話を聞く。

 

 結局料理は別々にされた。キリトだけはこっち派になったことから、今回の件も話ながら苦笑された。

 

「まあみんな嬉しそうだし、こういうのもいいんじゃないか?」

 

「そうか」

 

 そう頷きながら、攻略がだいぶ進んでいる。

 

 その話を聞き、俺は天上を見た。

 

「また〝上〟に近づく」

 

「ああ、この調子で頑張るぜ」

 

「ああ」

 

 いつか〝上〟に。

 

 そう………

 

 この感情の赴くままに………




仲良く過ごしています。コードキャストはたぶん一見すると訳が分からないもので作り出されてます。

コードキャスト、セイバーにユニークスキル。これだけ持たせれば問題ない。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第3章・始まる宿命

ここからゆっくり投稿で本格的に始まります。

変わり出した仮想世界、キリトとメイトに戦いが迫る。


 あれからだいぶ過ぎた。

 

 まずはコードキャストについての確認したところで、他のプレイヤーにも強化などのサポートできる。

 

 セイバーは強く、俺もエネミーぐらいなら相手にできている。キリトたちは《ホロウ・エリア》を含めて攻略を進めていた。

 

「それでね」

 

 いまリズベットから《アインクラッド》について詳しい話を聞く。

 

 ここ76層より前の話では、75層でゲームマスターである茅場晶彦。

 

 彼はプレイヤーに紛れ、プレイヤーの動向を見ていたらしい。だがキリトが彼の正体を暴いた。

 

 正体を知られた彼はキリトに、その場で彼にラスボスへの挑戦権を与えた。どうもこのゲームの最後のボスを自身が担うつもりだったらしく、キリトはその申し出を受けた。

 

 戦いはキリトの勝利で終わったはずだが、どうやらシステムエラーが起きて、いまだ仮想世界に捕らわれの身である。

 

 リーファは現実世界で別のゲームをしていたキリトの妹であり、シノンも別のフルダイブ機能を使用していた時、この世界に囚われた。

 

 その後はSAOプレイヤーは正規のログアウト方法である100層をクリアするために動き、リーファたちは攻略を手伝ったりする。

 

 何名かは中層プレイヤーと言う、中層で活動していた人たちもいる等々、話を聞いた。

 

 町の中は《アンチクリミナルコード有効圏内》、通称《圏内》。他のプレイヤーを傷つけることはシステム的に不可能だが、抜け穴があるため気を付けないといけない。

 

 そんなこともありながら階層攻略は79層へと成りつつある………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「今度のボス攻略戦、情報を集められないのか?」

 

「うん、そうらしいの」

 

 それはある日、キリトたち攻略組が詳しいミーティングをしている時だった。

 

 難しい顔でアスナから情報を聞くキリト。

 

 彼女は攻略組を纏める指揮官にどうも収まってしまいながら、攻略組をまとめ上げていた。

 

 そんな彼女の情報ではボス部屋は見つかったが扉は固く閉ざされていて、開くことはできるがあまりの重圧に入ることをためらわれ、情報を集められないらしい。

 

「ボス部屋の中には《結晶無効化空間》があるし、75層みたいに一度は入ったら出られない。そう言ったたぐいか」

 

「うん、だからかなりの人数で気を付けていくつもりだよ」

 

 その話を聞きながらセイバーが立ち上がろうとして引き止める。

 

「なぜ止める奏者よ」

 

「俺たちはダメだ、キリトたちに迷惑をかける」

 

「それはそうだが」

 

「いや、セイバーたちには他のことで助けてもらってるよ」

 

 そう言うキリト。あの後調べたが俺とセイバーは《ホロウ・エリア》には行ける。時々フィリアにも会いに行っている。

 

 セイバーと共にシリカを初めとした、唐突にこの階層に来てしまったプレイヤーのレベリングを手伝ったりしている。それがいま俺が〝上〟に行くための方法だろう。

 

「俺のシステムのことは誰にも言えないのか」

 

「それは……。リーファのことも詳しく説明できないのに、外から来たシステムで戦えるのはな」

 

「そうよ。それにあんた、記憶を取り戻してないでしょ」

 

 リズベットはそう言うがそれは………

 

「〝上〟に行くのに必要ない」

 

「あんたねえ」

 

 そう怒られる中でシノンだけはこちらを見ていた。彼女も記憶が曖昧とのこと。

 

 それに気づきながらもこうして話は聞かされ、明日のボス攻略戦を祈るだけになる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 槍を持つシノン、短剣のシリカ。ピナと共にセイバーはフィールドを駆ける。

 

「はあああああああああ」

 

 簡単にエネミーにダメージを与え、弱らせたところシリカがトドメ、もしくはシノンがスキルを使い戦う。

 

 コードキャストを使い、二人を強化しつつ俺は指示していた。

 

「ふう、助かりました」

 

「ありがとう」

 

「別にかまわない。むしろセイバーに言ってくれ」

 

「ふっふーんっ♪ この程度の輩、余の敵ではないっ」

 

 そう得意げに胸を張り、戦いの中でボス攻略戦が行われる部屋へと続く道を見る。

 

「キリトさんたち、だいじょうぶでしょうか」

 

「平気よ、彼奴らなら………」

 

 そんな話の中、急に気配を感じた。

 

「誰だ」

 

 すぐに全員が構える。考えたくはないがPKプレイヤーの可能性もある。

 

 そんな考えの中、不思議な女性が現れた。

 

「やっほーセイバー」

 

「お主」

 

 セイバーが驚きながら剣の構えを解き、それは静かに、フレンドに、愛想笑いをして俺を見た。

 

 赤い衣装に身を包む衣装はこの世界観に合わない普通の服装。

 

 金色の髪のツインテール、束ねるリボンを見ながら彼女は静かに微笑む。

 

「あなたが〝いまの〟この子のマスターでいいのかしら?」

 

「あんたは」

 

「私? 私はね『リン』よ。いまはただのリンってことでよろしくね」

 

 シリカたちも警戒する中、彼女は陽気に答える。

 

「このままじゃ攻略組が絶滅しちゃうから、あなた助けに行ってくれないかしら?」

 

「なっ」

 

「………あなた、なに言ってるか分かってるの?」

 

 シリカは青ざめ、シノンは睨みながら聞くが涼し気に流すリン。

 

「むしろあなたたちこそ分かってくれないと困るわね」

 

 そう言いながらこちらには近づかず、俺だけを見ながら彼女は言う。

 

 その時に気づいた。

 

「二人とも、リンはNPCだ」

 

「っ!? 本当です、これは」

 

 プレイヤーとNPCなど識別するカーソルがある。彼女はNPCとしてそこにいた。それに彼女は簡単に説明する。

 

「まあ、あなたたちのところのユイって子みたいと思って。これでもかーなーり無理してあげてるんだからね」

 

 ユイは事情のあるキリトの娘と認識している俺からすれば、その情報を持っているリンこそ警戒するものなんだが………

 

「上に行きたいのでしょ、あなた」

 

「ああ」

 

「何のために?」

 

「憎いから」

 

 それに二人が驚き振り返る。

 

 だが俺は気にせずリンを見た。

 

「俺が行かなきゃ〝上〟に行けないのか」

 

「ええ、今頃悪戦苦闘しているわ」

 

「間に合うか」

 

「いまから行けば」

 

「分かった」

 

 そう言い俺はすぐさま向こうことにした。

 

「ちょっ、奏者っ!?」

 

 セイバーが追いかけて来る中、シリカとシノンも来るが気にせず前に進む。

 

 急がなければいけない、急ぎ向かわなければいけない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「彼より重傷ね、まあ仕方ないけど」

 

 そう言いながら彼女は二つに束ねた髪をいじりながら、静かに呟く。

 

「けど、放っておけない問題なのよね。まったく、どうしてこんな〝混ざった〟のかしら。この世界を作った奴は天才だけど、大馬鹿者よ」

 

 そう呟き、彼女はノイズと共にその場から消える。

 

 その様子を、

 

「………」

 

 気配を消して静かに顔を出す、紫の女性プレイヤー。

 

 ストレア。彼女は静かにその様子を難しい顔で眺めていた。

 

「………」

 

 静かにまた気配を消して彼らを追いかけた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボス部屋だった。そのはずだった。

 

 扉を開けて薄暗闇の中、攻略組は先に進み、光が差す場所にたどり着いた途端、

 

「なんじゃこりゃッ」

 

 クラインが驚くのも無理はなく、当然場所が暗雲立ち上る、古い大型船の看板に出た。

 

 古い木造の船であり、嵐の前の静けさのような風景が広がる。

 

 そして現れたボスエネミーに全員が驚いた。

 

「タンクッ」

 

 全員が困惑する状況で壁役が吹き飛び、俺はそれと斬り合う。

 

 顔に大きな傷跡がある少女。カトラスを持つ小さな身体で斬りかかり、全然太刀打ちできない。その身体に似合わない強さを持つ。

 

「毒を受けた者は後ろに引いてっ」

 

「がっ、HPがっ」

 

「助けて、解毒結晶っ、解毒結晶!」

 

 ――いやさ無駄だって。システムが違う(・・・・・・)から――

 

 声だけが聞こえる。彼女以外に誰かいた。

 

 そいつは毒付きの矢で多くのプレイヤーを動けなくした。それが一番の痛手だ。

 

「さっきから、なんなんだこれは」

 

 ――言ってるだろ? 世界(ゲーム)が違う、システム(ルール)が違う、相手()が違う――

 

「キリト君っ」

 

 俺に目がけて矢が放たれ、それをアスナがかばった。

 

「くっ」

 

「アスナああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 顔を歪めるアスナはすぐに解毒結晶を使おうとするが機能しない。

 

 この毒は解毒アイテムが一切効かないんだ。

 

 こいつの言う通り、システム自体が違うから反応しない。そんな印象を受ける。

 

 いまは回復アイテムでHPゲージゼロを防いでいるが、いつまで持つか分からない。

 

「くっそ」

 

「ごめんね、けど仕方ない。僕らは君らと戦うために召喚されたんだからね」

 

 カトラス使いまで話しかけて来て余計混乱する。NPCであるのだろうが、まるでユイのようにAIシステムを搭載しているようだ。

 

「それじゃ、そろそろ終わりにしようか」

 

 こいつと斬り合っていると時々変な攻撃が飛ぶ。死角からの攻撃、それを防いでいるせいで押されている。

 

 事実上よくて三人を相手にしているのに、大勢いるこちらは絶滅間際。

 

 そう考えていると、

 

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 突然俺とカトラス使いに割って入る、一人の剣士。それは深紅の衣装を纏う彼女。

 

「セイバーっ」

 

「っ!?」

 

 ――なんだと――

 

 向こうが驚いたようだ。セイバーの出現に動揺してカトラスの少女は吹き飛ぶ中、セイバーが何も無い空間に剣を振った時、甲高い音が鳴り響く。

 

「ほう、姿を隠す者二人。アーチャーかアサシンか。ともかくセイバーと言う訳では無いなお主。ライダーか?」

 

「………そう、僕はライダーだよ。セイバーさん」

 

 俺はその言葉に驚きながら、

 

「コードキャスト」

 

 その事と場に振り返るとメイトが毒を受けたプレイヤーたちを同時展開で回復させた。

 

 コードキャスト、彼だけが持つ別のゲームシステムスキルが展開されて、全員の毒状態が消える。それだけでなくHPが回復している。

 

 彼はウインドウを片手で展開しつつ、その様子を眺めていた。

 

「イチイの毒か、姿を隠しているのはアサシンかアーチャーか」

 

「イチイ? よもやッ」

 

 セイバーが何かに驚きながらすぐに周りを見渡し、なにも無い空間に斬りかかる。

 

「おっと」

 

 そう言い、突然そこから人が現れた。

 

 緑色の服を着る、心底嫌そうな顔をした男。腕に弓を装備している。

 

「まさか、このゲームに弓は無いぞっ」

 

「いやね、だから俺は言ってるでしょ? ルールが違うって」

 

 そう言ってアーチャーはカトラス使い、ライダーの後ろに隠れながらけん制。セイバーは辺りを警戒する。

 

「セイバー、分かってるな」

 

「ああ、隠れていないで出てきたらどうだ」

 

 そう言った途端、セイバーに影が覆いその頭上を見ると、マスカット銃を構えた金髪の女性が銃を使い攻撃した。

 

 だがコードキャストの壁が現れてすぐに防がれ、プレイヤーを含めて守るように展開される。

 

 銃の攻撃を防いだ二人。三人の敵を見て困惑するセイバー。

 

「どういうことだ。なにか仕掛けはあると思ったが、三騎だと?」

 

「違う二騎だ。おそらくライダーは二人で一人のサーヴァントだ」

 

 メイトの言葉に向こうは驚きながら、それが正解である反応だと俺でも分かる。どういうことだ?

 

「お前さん、こっち側か」

 

 そう姿を隠していた毒使いが訪ねて来た。

 

「ああ。お前は誰だ、暗殺者のクラスか、弓兵か」

 

「この者はアーチャー、ロビンフットよ」

 

 メイトの問いかけにセイバーが答える。

 

 それにロビンフットは目が飛び出しそうなほど驚いた。

 

「おいおいマジかよ、なんで真名がこうも簡単に。そんなメジャーじゃないぜ俺」

 

「知れたことッ。一度戦った者を忘れるはずは無かろう」

 

 剣を向けたセイバーの言葉に、俺たち攻略組は置いて行かれながらロビンフットは、

 

「一度戦った? お前さん、前回のこと覚えているのか」

 

「ああ、前々回のことも覚えている」

 

 それにライダー二人は驚き、ロビンフットはため息をつく。

 

「こりゃ、とっとと殺しておけばよかったか。ルールが違うシステムが違う何もかもが違う相手を相手にしなきゃいけないからって、手を抜きすぎた」

 

「本当ですわ、このままではわたくしたちの真名も看破しそうです」

 

「同感、先に殺すのは彼でいいね」

 

 そう言い、三人はメイトを見る。

 

 先ほどからの会話、そしてメイトのコードキャストがロビンフットの毒を消していたこと。

 

 もしかしたらシステムが違うと言っていたのは、

 

(メイトのシステムで作り出された、ボスエネミーっ!?)

 

 そう驚きながら彼は二つの剣を抜き、静かにセイバーを見る。

 

「セイバー、ロビンフットの情報は」

 

「この者は姿を消す宝具と毒を撃ち、二度目の攻撃で絶命させる毒の宝具の二つだ。ただしどちらか一方しか使えない」

 

「ライダーは俺がやる、お前はアーチャーをやれ」

 

 そう言い即座に二本の剣を構えるメイト。

 

「分かったぞっ」

 

 セイバーも気にせず構えていた。

 

「それじゃ、木々の無い隠れ場所無いこの場所でやるしかないか。お二方が頼りですからねっと」

 

 苦笑する彼は姿を消す。それと共に武器を構えるライダー。

 

「ええ任せてくださいな」

 

「海賊の意地、見せてあげるよ」

 

「行くぞ」

 

 こうして全てを置いて行き、彼らの戦いが始まった。




サーヴァント複数参加。ロビンフットさん、フィールドの相性悪いな。

メイトも全力で戦いだし、キリトたちは困惑しながらセイバーたちの戦いに巻き込まれる。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第4章・第一回戦

広がる大海原。海賊船に乗り込む攻略組。そして戦いは変貌する。

SAOサーヴァント攻略戦、始まります。


 攻略組は混乱していた。

 

 ステージが一転したボス部屋。姿が見えない狙撃手に人型のボスエネミー。

 

 矢や銃と言う攻撃。それがあったことにも驚きながら一気に瓦解し出す。

 

 解毒アイテムが受け付けない毒に弱り出したところ、唐突にその毒を解毒して戦いだす《二刀流》の剣士。

 

 彼らは混乱して、彼を知るプレイヤーも困惑していた。

 

「メイトっ!?」

 

 彼はカトラス使いと斬り合い、後ろの金髪のマスカット銃からの狙撃を避けながら太刀打ちしていた。

 

 まるで彼らだけ世界が違うように………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 メイトは対応しつつ、彼女たちの真名を看破しようとしていた。

 

「どうしてマスターが僕らサーヴァントと打ち合えるんだっ」

 

「こうなれば、メアリーっ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、彼女たちの動きは変わる。

 

 カトラスの攻撃が終わる絶妙のタイミングでマスカット銃が放たれ、二つの剣を交差させて斬り払うが、

 

(これは)

 

 タイミング良くカトラス使いへと剣を振り下ろす、あまりに絶妙なタイミング。

 

 まるで吸い込まれるように剣がカトラス使いを捕らえている。だが彼女は余裕だった。

 

 その瞬間、虚空から彼女の手にもう一つ刃物が出現してすぐさま剣を弾く。

 

 弾かれたまますぐに地面を踏み、強めた瞬間、

 

「!?」

 

 ガクンと船が傾いた。

 

 バランスが別妙なタイミングで崩され、銃口が目の前に現れる。

 

(カトラス使いを注目した時に接近されたか)

 

 冷静にそう分析しながら金髪の彼女は微笑む。

 

「シュートっ」

 

 乾いた銃声が響き渡るがコードキャストを全開で身体強化に回す。

 

 接近する銃弾を見つめながら、身体を無理矢理動かす。

 

 ギリギリのラインを見極めながら、飛来する弾丸を避けた。頬をかすめ避け切ると、周りの動きを思考して見渡した。

 

(この強化も長続きはしない、カトラス使いは)

 

 視界に入る彼女はすでに攻撃体制で迫っていた。

 

 彼女の攻撃をどう防ぐか思考しようとしたとき、

 

「うおおおおおおおおおおおッ」

 

 キリトが横に割り込み、その剣撃を防いだ。

 

 その瞬間全ての攻撃動作が終わり、全員が距離を取る。

 

 だがメイトだけ膝を付き、頬に一閃の傷口が開き、血が流れた。

 

「あら? なかなか倒れませんね」

 

「うん、君も邪魔しないでほしいな」

 

 二人で一騎のサーヴァントたちはそう呟きながらもう一人の剣士を見る。キリトはどうにか割り込めたとニヤリと笑う。

 

「生憎と、ここにはあんたらを倒しに来たんだ」

 

 キリトはそう言いながら構える中、ライダーたちは顔を見合わせてキリトを見た。

 

「君はロビンフットの言葉が理解できないのかい? 僕らは世界(ゲーム)が違う、システム(ルール)が違う、相手()が違う。君は僕らの相手じゃない」

 

「わたくしたちはサーヴァント、本来サーヴァントにはサーヴァントですわよ」

 

「やっぱりか、どういうことだ」

 

「なにがだい?」

 

「なんで《アインクラッド》で、そんなことが起きているッ」

 

 キリトは吠えるように叫び構えを解かない。

 

 彼女たちは隙だらけに見えて隙が無い。そう彼は感じ取っていた。

 

「「そんなの知らない」ですわ」

 

 そう彼女たちは告げた。

 

「理不尽なのは分かるけど、僕ら海賊だから」

 

「ええそうですわメアリー。わたくしたちは奪うことを生業とした」

 

「『アン&メアリー』か」

 

 そうメイトが口をした瞬間、二人の顔つきが変わる。

 

「………やはり貴方を先に殺るべきでしたわね」

 

「アンって、アン・ボニーとメアリー・リードっ!?」

 

 後から来たシノンたちが現れ、アスナはバラバラになった隊列を整えたところだった。

 

「あら博学な人がいるようですわね」

 

「シノのん知ってるのっ!?」

 

「二人組の女海賊よっ、どうして、なにがどうなって」

 

 その時、別の所で何かが落ちた来た。

 

 それはセイバーであり、血を流しながら傷付けたその矢を身体から引き抜く。

 

「まだ終わりませんの?」

 

「いっや~無茶言わさんなって。向こうはセイバーでこっちは真名バレのアーチャーだぜ?」

 

 虚空から現れたロビンフットたちは先ほどから戦っていた。

 

 真名が割れたサーヴァントでも英霊。そう簡単に攻略を許してはくれない。

 

 セイバー事態、どうにか見えない敵に対抗してくれていた。

 

「それにほら」

 

 セイバーが矢を引き抜くと共に傷口が消えて、服すら回復する。それにアンとメアリーは信じられない様子でマスターとサーヴァントを交互に見る。

 

「まさか、わたくしたちと戦いながらセイバーのサポートをっ!?」

 

「俺の宝具、祈りの弓(イー・バウ)は不浄を爆発させるが向こうさん、それを徹底的に治癒させてな。すぐに起爆させればいいんだけど隙が無いんだ」

 

 不浄を起爆させ死に至らせる宝具。その隙すら与えないスピードでの治癒。それを聞き彼女たちは厄介な敵が誰なのか、はっきりした。

 

「やはりマスターを先に殺すべきですわね」

 

 難しい顔でマスターであるメイトを見るが、それに盾を構えて隊列が整ったプレイヤーたちが立ちふさがる。

 

「あら?」

 

「全員銃撃による遠距離攻撃警戒っ、並びカトラス使いメアリーに対して、侮らず黒の剣士を筆頭にサポートッ。ロビンフットへの攻撃は彼女に任せなさい!!」

 

 アスナの号令のもと、ギルド《風林火山》が前に出たことで他のプレイヤーは指示に従う。

 

 アンとメアリーは少し驚きながら、ロビンフットはセイバーを嫌そうに見る。向こうもすでに剣を構えていた。

 

「これで手は足りるな」

 

「おいおい、聖杯戦争(・・・・)に関係ない奴を巻き込むな」

 

 ロビンフットは不思議な単語を口にして、キリトたちが怪訝な顔をしたが、

 

「なにを抜かすかッ、この世界に聖杯は存在せぬッ。我らの戦い、この者らの戦いと無関係ッ。真の英傑ならばその道を彼の者たちに譲り渡せ!!」

 

 セイバーの咆哮に向こうが顔を歪めた。

 

 向こうはそれを肯定も否定もせず、武器を構える。

 

「それでも海賊だからね、負けるわけにはいかないよ」

 

「そういうことですわ」

 

「ま、そういうこと。サーヴァントとして召喚された以上、上に行くために戦うしかないのさ。意味は無くってもな」

 

 そう言い構える中で、ロビンフットは籠手に仕込まれた弓を構える。

 

 姿は消さず、今度は不浄の起爆を優先して戦うようだ。

 

 それを察しして、コードキャストをより最速化させるメイト。その様子にもう驚かず、セイバーを見据えるロビンフット。

 

「悪いがマスターであるそいつを殺せばこっちの勝ちはゆるぎない」

 

「させると思いますか?」

 

「もう毒はねえんだっ、ここから巻き返しだッ」

 

「勇ましい殿方です。ですが」

 

 クラインの叫びに、アンは褒めながら目を細め、

 

「チェックメイトだよ」

 

 その瞬間、無数の弾丸が後ろ(・・・)からメイトを貫いた。

 

「………なに」

 

 体勢を立て直したプレイヤー、セイバー、撃たれたメイト自身が驚き、メイトは振り返る。

 

「俺ら三騎(・・・)なんだわ、悪いね」

 

 その後ろで顔に大きな傷を持った女性は、拳銃を回しながらホルダーに仕舞う。

 

「悲しいね………こうもあっけないと」

 

「メイトおおおおおおおおおおおおおお」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 痛い。

 

 視界に入るのは赤一色。

 

 貫通した傷口から出血し、痛みが身体を駆け巡る。

 

 痛い、そうこれが、痛み。

 

 戦わなければいけないのに動かない。だがそれでも、俺は〝上〟に行くために、俺は戦わないといけない、動き続けなければいけない。

 

 なぜ〝上〟を目指すか、それは意味が無い。理由は無いようなもの。

 

 理解している。理解してようが、知っていようが、分かっていようが変わらない。

 

 それでも………

 

「俺は〝上〟に行かなきゃいけないんだ】

 

 瞬間、世界は暗闇に閉ざされた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全員が一瞬にして変わり果てた彼に目を見開く。

 

 全身が黒に染まり、眼光は赤い光でできていた。

 

 本能、と言えばいいのだろう。

 

 あれは良く無いモノだと彼らは感じ取る。

 

死相(デッドフェイス)かい………」

 

 そう新たに現れた海賊の女性が呟き、銃を構えた瞬間、電光が走る。

 

 すぐに構えたが自分で無かった。

 

 メアリーが格闘術、相手の懐に踏み込むと共に肘を叩きこみ、後ろまで吹き飛ばすと共に地面に激突した瞬間、

 

「ッ!?」

 

 メアリーが見た瞬間、胸に激突が走ったと思った時にそれが見えた。

 

 それは地面に激突するメアリーに剣を突き刺し、足でより深くねじ込む存在の姿。

 

「がっ」

 

 アンはそれに膝を付いて、ロビンフットはすぐに距離を取る。

 

 無数の毒矢を放った。それは避けず全て刺さり、口から血を大量に吐き出す。

 

祈りの(イー・)

 

「奏者っ」

 

(バウ)ッ」

 

 放たれたその矢が刺さると共に、爆発するように血を吹きだしながら大樹が成長する。

 

「悪いな、そいつは起爆剤に点火させる能力よっ。防御不可能、これで終わりだ」

 

 そう言い、不浄をため込んだ身体を栄養に大樹が成長する。

 

 無数のコードキャストが彼の周りを囲むように展開されていた。

 

【………】

 

 目を見開き、展開するコードキャストを増やす。

 

「なっ………」

 

 言葉を失う。無数のコードキャストは高度であり、彼のHPゲージは左右、増えたり減ったりを繰り返し、大樹は黒い影に飲まれ潰える。

 

「まさか、不浄を取り込んだ(・・・・・・・・)っ!?」

 

 その瞬間、雷光のように迸り、ロビンフットを貫く。

 

「がっ………、お、おたく……」

 

 拳が彼にめり込み、再度力を込めてねじ込み、その肉体を貫いた。

 

 引き抜くと共に崩れ落ちる身体を蹴り飛ばし、彼から暗闇が消える。

 

 プレイヤーか異質な光景に目を疑う。

 

 出血エフェクトは存在するが、こんなリアルではない(・・・・・・・)

 

 メイトを含め、彼らがまるでそこにいるようだった。

 

 ゲームの出血はそんな演出ではない。なのに彼らは本当に傷付き、そして死ぬように倒れる。

 

「………世界(ゲーム)が違う………」

 

 キリトがそう呟くと、彼は何事もなかったかのように最後の一騎を見た。

 

「ハッ、これはいいね! 最後の最後で面白いッ!!」

 

 そう言って彼女は両手に銃を構える。その瞬間、背後の空間が水面のように揺らぐ。彼女の背後から無数の海賊船が現れた。

 

「宝具かっ」

 

 セイバーがそう忌々しげにつぶやき、それに女は笑う。

 

「アタシの名前を憶えておきなっ、テメロッソ・エル・ドラゴ! 太陽を落とした女ってなっ!!」

 

「フランシス・ドレイク船長」

 

 そう顔に大きな傷を持つ女海賊は口元を釣り上げる。それと共に全て砲門がプレイヤーたちへと向けられた。

 

 プレイヤーたちは明らかに次元の違う砲撃を前に青ざめていく。

 

「こんなの、防げない………」

 

「セイバー」

 

 だが一人だけ動じず、コードキャストの壁を複数生成した。

 

「宝具発動後、ドレイク船長を討てセイバー」

 

「防がるのかっ!?」

 

「防がなきゃ倒せない」

 

 巨大なコードキャストの壁はプレイヤー全員を守るように展開された。ドレイク船長はそれに、

 

「いいねいいねっ! 戦いならそうこなくちゃねえっ!!」

 

 そう言い現れた船に乗り込み、海賊の旗を掲げる。

 

「なら防ぎ切りなッ」

 

「来るぞ」

 

「ツッ、腹をくくるしかないッ」

 

 キリトの言葉にプレイヤーは息をのむ。

 

黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)っ!!」

 

 無数の光弾が一斉に放たれそれが激突する。

 

 全員がビームかよっと叫びたいが、それ以上の轟音にかき消された。

 

 悲鳴が聞こえる、叫び声が響く。

 

 それでも光は消えず、受け止めるコードキャストの壁はいくつもヒビができあがる。

 

 ヒビが入る中、それでも彼はコードキャストの演算をやめず、例え一つ砕かれても最後の一つが防げばそれでいいとしか考えていない。

 

 光の嵐の中、嵐が潰える時間はすぐに来る。

 

 数分間程度だがプレイヤーたちは死を覚悟した。

 

 それでも彼らの目の前にあるのは、

 

「へえ、やるじゃないか」

 

 ヒビが入った最後のコードキャストの防壁とニヤリと笑う女海賊。

 

「でえええええええええええッ」

 

 そして咆哮を放ち斬り込む、赤の剣士だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 炎を纏う赤い剣に斬られた彼女を見て、彼はようやくその場に倒れ込む。

 

「リソース切れだ」

 

 そう呟きながら仰向けに倒れて、セイバーは静かに近づく。

 

「うむっ、大儀であるぞ奏者っ♪」

 

 嬉しそうに微笑むセイバー、プレイヤーたちは呆然となっていた。

 

 あまりに違う物事に皆、どうすればいいか分からない。

 

 そんな中、

 

「お疲れ様っ」

 

 そう言って彼女が現れた。

 

「リンっ、お主、どうしてここに」

 

「後始末よ、後始末。ここの階層が攻略されたんだから、私たちのルールをSAOの世界に適応させないといけないのよ」

 

「? どういうことだ」

 

 唯一すぐに我に返ったキリトが、彼女に話しかけた。

 

 突然現れたことよりも、先ほどからの光景、血を流す死体でもある彼らに、困惑しているだけでは進めないと彼が全プレイヤーの代わりに聞きだそうとする。

 

「簡単よ、だっていまのSAO。この世界ソードアート・オンラインは、いまはバグとエラーでできた仮想世界なのだから」

 

「………は?」

 

 キリトがそう呟きながら、彼女は静かにたたずみながら、

 

「それじゃ、やっと貴方たちと話し合えるくらいになったから、説明してあげなくちゃね。彼のことを含め、今現在の貴方たちプレイヤーの現状を」

 

 話せるところまでね。彼女はそう微笑みかけながら作業を始めた。




アーチャーロビンフット、ライダーアン・ボニー&メアリー・リード、ライダーフランシス・ドレイク。ログイン。

勝者マスターメイト並びセイバー。並びSAOプレイヤー確認。

お読みいただきありがとうございます。


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第5章・SAOプレイヤーへの説明

ロビンフット並びアン&メアリーはマスターが倒し、ドレイクは宝具使用後の隙をセイバーが討つ。

それは静かに画面を見つめる。

ただ静かに、機械的に画面を睨む。

引き続き観測を続行………


 全員や後から来たシノンとシリカも話を聞き、やっと落ち着き始めたところで彼女を見る。

 

 ツインテールで髪は金色と碧眼であり、いまはウインドウを開き操作していた。

 

 ボスエネミーは消えていないため警戒もしているのだが、

 

「ああ、彼らはすでに判定で敗者になってるから無害よ。もう宝具も使えないしね」

 

「風穴空いてるがな………」

 

 ロビンフットがそう言いながら、全員が落ち着いたところで、画面から目を外さずに彼女はプレイヤーへと問いかけた。

 

「とりあえず代表決まったかしら? 正直手が足りないから、数人だけにしてね」

 

 キリトの他に《血盟騎士団》のアスナと、数名のプレイヤー。

 

 クラインもいる中、他のプレイヤーは聞く耳を立てていた。

 

「それじゃまず、君は何者だ」

 

「わたしはリンよ。あなたたちSAOプレイヤーとは違う、世界(ゲーム)の、ゲームマスターかしら? まあそんなところ」

 

世界(ゲーム)が違うってのはどういう意味だ」

 

「言葉通りよ、システムもルールも何もかも違う仕組み。ソードアート・オンラインとは違う世界の理、それがいまこのゲーム《ソードアート・オンライン》に混じってしまった」

 

 それに全員が驚くが、それを聞きながら代表のクラインたちは共に推測する。

 

「どういうこった?」

 

「別のゲームのシステムとこの世界、SAOが混じったってことだろ?」

 

 そんな話を静かに聞くリンとセイバー。一人だけただぼーとしているメイト。

 

 キリトは考え込みながらリンに聞く。

 

「どうして混ざってしまったんだ」

 

「それはね、いまは言えないわ。ごめんなさい」

 

「どうして言えないんだ」

 

「エラーとバグが下手をするとより溜まってしまう。いま現在SAOは、未知のバクと矛盾によって、正規の状態を維持できてないの」

 

「それって、わたしたちがこの世界から出られないことと関係があるの!?」

 

 アスナの言葉に周りがざわめく。

 

 このゲームは本来75層、ヒースクリフこと茅場晶彦を倒したことで解放されるはずだった。

 

 だがいまだこの仮想世界に閉じ込められたまま。それに、

 

「それにはYES、あなたたちは本来75層でラスボスを倒し、解放されるはずだった」

 

 それに全員が驚愕し、だけどとリンは付け加える。

 

「だけど、この辺りは言えないの。ほんとごめんなさい」

 

 すまなそうな顔で言うリン、これ以上深く聞けない雰囲気だ。

 

 キリトはそれを感じながら、ならと、

 

「話せるところを話してくれないか」

 

「そうね、あなたには権利はあるわ。ラスボスを倒したプレイヤーさん」

 

 そうリンが作業を一度止めてから、静かにキリトたちを見る。

 

 モニターらしきものがソリットビジョンで現れ、彼女は説明し出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「本来このゲームは、ゲームクリアと同時にデータを消去するようにプログラムが組まれていた。ところがあることを切っ掛けに、ゲームクリアが無かったことにされたの」

 

「ゲームクリアが無かったこと、ラスボスが倒されていないことにされたのか」

 

「ええ、その結果バグやエラーが大量に噴出して、この世界の基盤とも言えるシステム《カーディナルシステム》がダメージを受けた」

 

「カーディナルに?」

 

「そのダメージはわたしたちのシステム。七つの天へと目指すシステム〝聖杯戦争〟を、ルール的にも取り込んでしまったの。ほんと、偶然とは言えどうしてこうも混ざったのか、運が悪いのか良いのか分からないわ」

 

「せいはいせんそう? それがメイトたちのシステムか」

 

 キリトの言葉にリンはそれ以上はなにも言わず、静かに説明する。

 

 聖杯戦争は七回戦行われるバトルトーナメント。

 

 英霊を七つのクラスのどれか一つから呼び、マスターとサーヴァントが行う殺し合い。

 

「殺し合いって」

 

「ただの設定だろ? んなSAOじゃねえんだからよお」

 

 クラインの言葉にアスナはそう納得し、リンは何も言わない。

 

 そして七つの戦いを勝ち上がったマスターは聖杯を手に入れて、なんでも願いを叶えられる。そう言うシステムだ。

 

「聖杯……、アーサー王伝説とかで出て来るものかしら」

 

 シノンの言葉にもあえてリンはそれ以上言わず、変わりに別のことを言う。

 

「ただね、この戦いはある男によってルールを壊された」

 

「ルールが?」

 

「まあこの辺りはあなたたちには無関係ね、とりあえず壊されたことだけを理解して」

 

 壊されたルールでシステム、聖杯戦争はバグとエラーをため込んだ。それは異常なほど。

 

「本来エラーとバグは浄化されるはずのものだけど、この聖杯戦争もまたSAOのようにエラーとバグが溜まっていった」

 

「SAOのようなエラーとバグ?」

 

 キリトが僅かに反応したが、リンが続けた言葉にかき消された。

 

 同じエラーとバグを抱えたシステム同士がその瞬間、一つに成ってしまったと………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「正確にはバグとエラーが修正され始めた世界と、同じバグとエラーを抱えたこの世界がリンクしてしまった。75層で全てが終わるのに、あることが切っ掛けでこの世界は続行された。そのうえ聖杯戦争のルールまで混じってしまった。混じったことに関しては偶然の偶然、最悪の奇跡ね」

 

 彼女はそう言いながら、二つのシステムを画面にした。

 

「ここで二つのメインシステムが矛盾を抱えてしまった。本来ゲームをクリアしているSAOは、プレイヤーをログアウトさせて《アインクラッド》崩壊プログラムを発動させるはずが、その全てをキャンセルさせられた。本来クリアがすでに決まっているのに、理不尽にもキャンセルさせられ、継続しなければいけなかった」

 

 一方の聖杯戦争では、バグとエラーを処理しだしていた瞬間だった。

 

 カーディナルと聖杯戦争のメインプログラム《ムーンセル・オートマトン》が、この矛盾により、多大なバグとエラーを引き起こした。

 

 片やゲームクリアされ、プレイヤーをログアウトさせて、ゲームを消すプログラムの実行。

 

 片やゲーム続行に及ぶ、ゲームの再構築。

 

 この二つの矛盾をムーンセルとカーディナルはいまだ行っている。

 

「結果、二つのシステムが混ざり、SAOと言うゲームの世界に聖杯戦争のルールが適応されてしまった」

 

「これがこの層のボス部屋ってわけか」

 

「そう、聖杯戦争参加者からすれば優勝賞品の無い、無意味な戦いよ」

 

 優勝賞品が無いゲーム。クレームも良いところだが、そもそもシステムが違い過ぎる。

 

「そう、システムが違い過ぎている。このままではゲームがクリアできないと、二つのメインプログラムはこの事実に対して、対策をしなければいけなくなった」

 

「なぜ?」

 

「カーディナルもムーンセルも、平等であり公正でなければいけない。カーディナルの設計者がカーディナルに付けた絶対条件、システムよ」

 

 それは確かにとキリトは思う。この世界はフェアネスを貫いている。唯一の例外は《ユニークスキル》くらいか。

 

 それも茅場が言うにはラスボス用のスキルらしい。つまり、

 

「俺たちSAOプレイヤーが、聖杯戦争のゲーム攻略するための処置がされなければいけない」

 

「だけど、SAOプレイヤーは決して他のデータを付け加えられないようにプログラムされている。数値をいじるのはもちろん、不正プログラムを一切合切許さないわ」

 

 それに全員がざわめく。当たり前だ、それじゃ、

 

「それじゃ聖杯戦争に、この戦いに俺たちが勝てる要素が無いぞ」

 

 最後の砲撃を見て、いままでのSAOでは勝てないのは誰でも理解できる。

 

 なのに運営側がそれを許さないのはあまりに不公平だ。

 

「そう、だからカーディナルとムーンセルはこの問題をクリアする為、あることをした」

 

「あること?」

 

 

 

「マスター能力を所持したSAOプレイヤーを作り出せばいいと判断し、実行した」

 

 

 

 その瞬間、俺たちは振り返る。

 

 マスターと言う称号を持つプレイヤーは一人いる。だからこそ、

 

「それは」

 

「そう彼はNPC、正確にはプレイヤーとして作り出されたSAOプレイヤーよ」

 

 そう言ってリンはメイトを、俺たちは見つめた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メイト君が、NPCっ!?」

 

「おいあんたっ、いくら冗談でも酷過ぎだぞっ」

 

 アスナとクラインが各々反応するが、彼女はすぐに作業に戻る。

 

「仕方ないのよ、すでにログインしているSAOプレイヤーをマスターにすればよかったんだけど、あなたたちに余計なデータは全て不正プログラムとして判断されてしまう。この世界は徹底的に公正さを貫いている。特別な誰かは、ラスボス用のスキル《エクストラスキル》所有者のみよ」

 

「それは、ビーターやベーターは」

 

 それはある別のプレイヤーが口にした。

 

 黒の剣士キリトは不正したプレイヤーであると言う噂は確かにあるが、

 

「プログラムを不正に操作した人間はこの世界にログインできないわよ、誰一人。ゲームマスター権利を持ったヒースクリフですら、ラスボスと運営者としての機能のみで、その他に付け加えたりできない、けしてね」

 

 それに全員がざわめくが、キリトの仲間たちはすでに知っている。彼が不正なぞしない人間だということを。

 

「まあその所為で、あなたたちSAOプレイヤーに聖杯戦争のシステムを搭載することはできなかった。すでに搭載された誰かをSAOプレイヤーにするしか無かった」

 

「それがメイト君なんですか」

 

「ええ、彼はプログラムでできたモノよ」

 

 リンがアスナの言葉を肯定し、キリトたちは黙り込む。

 

 だが、

 

「そんなことはどうでもいい」

 

 メイトがここで初めて口を開いた。

 

「どうでもいい、どうでもいいって君は」

 

「俺がなんであるかなんてどうでもいい」

 

 キリトの言葉を遮りリンを見る。リンは静かに彼を見ながら、

 

「俺は〝上〟に行けるのか」

 

「ええ、その為に作り出されたのだから」

 

「ならいいさ」

 

「いいの? それは作り出されたあなたの最終目標よ」

 

「それでも俺の意思だ」

 

 それに彼女はため息をつき、セイバーを見る。セイバーはその答えに満足そうにしていた。

 

「あなたもまた難儀なマスターに呼ばれたわね」

 

「構わんっ。例え作り出された意思であろうと、己が意思として胸を張れればそれは奏者の物ッ。余はこの者と共に上を目指すぞリン」

 

 その答えを聞き、彼女は作業を終わらして彼らを見た。

 

「それじゃそろそろ。公正さを決めるためとはいえ、わたしの存在もここじゃバグなのよね。あまり長居できないの」

 

「それじゃ最後に」

 

「なにかしら?」

 

「なんでメイトに《二刀流》があるんだ」

 

 キリトの問いかけにあ~と呟きながら、静かに目を泳がせる。

 

 これも引っかかるらしく、すぐに首を振った。

 

「分かった、聞かないよ」

 

「ごめんなさいね。あと言えるのは、彼が使うのはシステムが違うから、別のステータス画面があるの。回復方法は分かるわよね」

 

「食事、睡眠でリソースを回復させる」

 

「よろしい」

 

 その会話を聞いていたとき、コルクを抜く音が鳴り響く。

 

 振り返るとドレイク船長は酒瓶を開けて、ごくごくと最後の酒を飲んでいた。

 

「変わった男だね、自分がプログラムとか言われてるのに動じないなんて」

 

「そんなの俺には関係ない」

 

「そうかい」

 

 瓶を持ちながら静かに見つめる。

 

「お前さん、なんで上に上がるんだい?」

 

「憎いから」

 

 それもまた動じずメイトは続けた。

 

「例え意味もないことだろうと、この憎しみは俺の物。そして俺がいる理由がなんであろうと俺である限り抱くもの。なら、俺は〝上〟を目指す」

 

「憎しみで上に上がるね、まあいいけどね」

 

 そう言って瓶をアンへと投げ渡す。彼女はメアリーが倒されたとき、二人で一人のサーヴァントであるため戦闘不能にされた。

 

 ごくごくと飲みながら、

 

「船長すいませんね。まあ、わたくしたちもサーヴァントだからって理由で、この戦いをしてましたし、同じですわね」

 

 そう言ってメアリーに瓶を投げ渡し、彼女も飲む。

 

「だね、聖杯もなにもない戦いだけど、まあ楽しかったよ」

 

 酒を飲み終えてその様子を見ていたロビンフットは苦笑し、光が身体を包みだす。

 

「この先もまあ頑張れや。サーヴァントは三騎、どの階層がどういじられているか分からねえが、気配ぐらいは分かるからよ」

 

「それじゃあね」

 

「今度はちゃんとした戦いで」

 

「それじゃ、がんばんなよ」

 

 そうして光の粒子となり消えるサーヴァントと共に景色が暗転し、ただの道になる。

 

「これでこの階層は」

 

 その瞬間、ここにいたプレイヤー全員に経験値なり、ドロップ品が入ってくる。

 

「うおっ、こんなに経験値は入るのかよっ」

 

「アイテムもレアドロップ、これは」

 

「まあ、明らかなレベルミスだからな、けどやっぱり多いな」

 

 そう呟きながらリンも退散しようとしたとき、

 

「あっ、待って」

 

「ん、まだなにかあるのかしら? 正直ここをSAOに戻したから、わたしそろそろ退散しないといけないんだけど」

 

 アスナがリンを引き留め、最後に、

 

「メイトくんのあの黒いものはなに?」

 

死相(デッドフェイス)、そういうものとしかいまは言えないわ。それじゃ」

 

 そう言って空間に穴が開き、そこから彼女は消えた。

 

 死相(デッドフェイス)と言う言葉に首をかしげる中、そんな会話をしながらメイトは真上を見ていた。

 

「そうだ、俺は〝上〟に行く」

 

 そう静かに呟いた………




サーヴァント第一回戦勝利。

メイトの正体を知るキリトたち。メイトは気にせず、ただ先に進む。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第6章・日常と謎の贈り物

聖杯戦争混線のSAO。サーヴァント戦は多くの問題をプレイヤーに突きつけた。

メイトの正体が知られる中、本人は気にせず進むのみ。


 あの一件以来、さすがに俺のことを隠す必要性が無くなった。

 

 SAOプレイヤーたちには理解できそうにない部分があるが、だいぶこのゲームがおかしくなったのはいまさらと言う理由もある。

 

 フィリアにも話をしていて、こうして《ホロウ・エリア》で彼女のカルマ救済イベントを探したりしていた。

 

 キリトとも協力しつつ、攻略のボス攻略戦は通常は参加しない方針が決まっている。

 

 できる限りリソースを確保しつつ、本当の戦闘に備えてのことだ。これはアスナたちがしっかり会議して決めたらしい。

 

 それからみんなとの時間も増える。

 

 リズやシリカがもともと中層プレイヤーで大変だったとか、リーファやシノンが外からSAOに混線で途中参加したプレイヤー。

 

 色々な話を聞きながら俺たちは過ごしている。

 

 そうしながら、

 

「ユイ、これ」

 

「これ、プレゼントですか? ありがとうございます」

 

 ともかく普通には過ごしている。

 

 こうして手に入れたアイテムで、相手が喜びそうなものをプレゼントしたりしていた。

 

「そう言えばメイトさん。知ってましたか」

 

「なにかな」

 

「はい、現実の子供を作るのはキスするらしいんです」

 

 ユイは少しだけお姉さんぶりたいのか、明らかに後から作り出された俺に、色々教えてあげようと言うそぶりを見せていた。

 

 だが、俺の知識でそれは聞かれた人の苦肉の答えと知り、そうかとしか答えられない。

 

 セイバーの行動に目を光らせないと、本当のことを教えるとか言って連れて行きそうだ。

 

 そんな日々の中、シノンの方で話が合った。

 

 彼女とは知識面で話すことが多い。これもそんな一日だ。

 

「射撃スキル?」

 

「ええ、あの戦闘後だと思うんだけど」

 

 バグスキルと言うわけではなく、シノンのデータはその後も正常であり、弓矢らしい武器も見つかった。

 

 それに全員が驚く中で、セイバーが名乗り出る。

 

「ならば練習あるのみだな。余がレクチャーするぞっ」

 

「? あなた剣士なのよね?」

 

「問題ない。余の《皇帝特権》を用いれば、弓の達人くらいになれる」

 

「………そういうものなの」

 

「ああ」

 

 不安そうなシノンを始め、メンバーにセイバーの《皇帝特権》のことを説明した。

 

 本来持ちえないスキルを短期間所持できる。セイバーはEX。かなりのレベル補正がある。

 

「それなら弓の扱いも教えられる、のかしら? かなり便利な能力ね」

 

「おおっ、任せてくれシノンっ」

 

 その時、とてもいい笑顔のセイバーに対して、

 

「セイバー、教えるフリしてシノンの身体に必要以上触れるなよ」

 

「ぶっ。わわ、分かっておるっ」

 

「………えっ」

 

 妙に動揺するセイバー。やはり目を光らせなければいけないらしい。一番危険なのはユイか。

 

 そう考え始めていると、シノンを始めにアスナたち女性メンバーに捕まり、俺だけが連れ出された。

 

「あんたいまのどういう意味」

 

「………」

 

 その時、俺はやってしまったと言う言葉が浮かぶ。

 

 リズが鬼気迫る顔で見ているため、これは話さないと解放してくれなさそうだ。

 

 仕方なく、セイバーには悪いが

 

「セイバー曰く、美少年も好きだが、美少女はもっと好きらしい」

 

「………え」

 

 詳しい話、セイバーは英雄の一面を、剣士として召喚された存在だ。

 

 言い伝え通りの性別ではない時もあるし、言い伝え通りと言うところもある。

 

「それって………」

 

「ヘラクレスはギリシャの英雄として有名だが、美少年を愛していたとか。彼女は両方問題ないらしい」

 

 その時、セイバーはユイと話し合っていた。楽しそうな雑談だが、母親であるアスナは光速でユイの側に来る。

 

「? ママ、どうしたんですか?」

 

「べべ、別にっ。なんでもないわよユイちゃんっ」

 

「安心せよアスナ。余は寛大だからな」

 

 セイバーもなにを話していたかだいたい分かるようであり、アスナの態度も平然と受け入れた。

 

 そう言い胸を張りながら、

 

「キリトもアスナも問題ないぞっ」

 

 瞬間アスナはユイをセイバーから遠ざけた。その中にはキリトも混じっている。

 

「問題ありますっ」

 

「? なんの話をしてるんです?」

 

「ユイは知らなくていいよ、いつか分かることだよ」

 

 俺はそう言い、キリトもびくびくしているがセイバーは、

 

「これでもう我慢せずとも良いと言うことだなっ。ぐふふ」

 

 シリカを見ながら微笑むセイバー。シリカがびくんと警戒態勢に入るが、セイバーは解放されたように嬉しそうだ。

 

 シノンとリズから目を光らせるように言われたり、セイバーは笑顔を絶やさずアスナたちを見ていた。

 

 そんな日々の中、変化らしい変化は………

 

「う~ん………」

 

「どうしたキリト」

 

「メイト、それが」

 

 キリトの手には重箱とは言わないが、簡単なお弁当がある。前に中身を見せてもらたが、S級食材を使用したお弁当がキリトの部屋に届けられるようになった。

 

 これにはキリトガールズ全員が反応して、誰がお弁当を届けているか調べることになったが誰が置いているのか不明のまま。

 

 キリトはS級食材と言うこともあり、毎日食べることにしている。勿体ないからな。

 

 アスナはそれに対して手料理を振る舞い、触発されたキリトガールズの手料理が出され、それも食べる羽目になる。

 

 しかし、実は俺にしか相談されていないが、他にも不可解な現象は起きていた。

 

 朝起きると着替えが用意されてたり、帰ると湯がちょうどいい温度で張られてたり、洗濯が終わってたりしている。

 

 最初はユイか宿のサービスかと思ったが、それはキリトが使う宿で必ず起きるイベントの為、首をかしげるしかない。

 

 いまは実害が無いから穏便にしているが、目立つようなら本格的に調べるとのこと。

 

「キリトガールズも大変だな」

 

「待て、そのキリトガールズはなんだ」

 

「『アルゴ』が教えてくれた」

 

 情報屋である彼女から色々情報をもらうことはある。

 

 そう言ったところを除けばおおむね平和だ。

 

 だがこれは果たして平和と言えるのだろうか、この時俺には理解できなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そんなこともありつつ、シノンに弓矢の扱いを教える日。シノンがあんたも来いと首根っこ掴まれて引っ張られ、セイバーは二人共々問題ないと真顔で言ったため、俺を盾にするシノン。

 

 それでも教わることには変わらず、森のフィールド。小川も流れる、爽やかな風が吹く草原近くで集まる。

 

「とはいえ、余のスキル的なアシストだけ、まずはシノンの感覚でやった方が良い」

 

「そうさせてもらうわ」

 

 俺をいまだ盾にしながら、セイバーと共に狩りに出るシノン。

 

「そんなに警戒せずともよい。生前ならいざ知らず、いまは無理矢理娶る気はない」

 

「無理矢理だろうがなんだろうが警戒するわっ」

 

「ぬぬぬ……、まあ良い。手ごわい方がいい時もあると言うものだ」

 

「あんたこの子のマスターなんだから責任を取りなさい」

 

「分かった」

 

 そう言いながら、フィールドで猪型モンスターを見つけようとする。

 

 俺が木の上に上り、辺りを見渡したら、

 

「いたぞ、良いのがいた」

 

 小川がすぐ側で流れる木の上で、遠くでのそのそとフィールドを一匹で歩く猪がいる。

 

「本当ね」

 

 すぐ背後からシノンの声が聞こえ振り返ると、そこに彼女はいた。

 

「登ったのか」

 

「ええ、ここからなら飛距離も伸びるし、狙い場所としていいわね。セイバーは私が射貫いたら仕留めるって」

 

「そうか」

 

 彼女はそのまま前の方に出て、俺の前で猪を狙う。

 

 少し密着する状態で弓を構えるシノン。

 

 シノンが構えたところで静かにし、枝を気を付ける。まさか折れたりしないだろうか?

 

 しばらくしたらセイバーが遠回りして立ち位置に着く。

 

「さすがセイバーね、良い位置。静かにしてね、狙うから」

 

 そう言われ静かにしている。

 

 弦が引かれ、静かに集中するシノン。

 

 僅かにシノンの髪が鼻をくすぐるが、コードキャストを使用して感覚を鈍らせておく。

 

 ただ香りだけはしっかりするのだが、これ後で言えば殺されないか?

 

 そうこうしたとき矢が放たれ、猪を捕らえて刺さる。

 

 すぐに追撃するセイバーを見たとき、

 

「やった」

 

 軽くガッツポーズを取ったシノン。その時、メキメキと言う音が強まる。

 

 気づいたときには枝が折れた。

 

「はわっ」

 

「!」

 

 ざばーんと川に落ちると共に何かに触れ、すぐに身体を起こす。

 

 空中でシノンを抱えて身体を反転し、シノンの下になったはずだ。

 

 顔を上げてみたとき、それは、

 

「あ、アンタねえ………」

 

 抱きかかえるシノンを見ると、顔を真っ赤にして俺を見ていた。

 

 水に濡れて透ける衣類、そして俺の片手はシノンの胸に触れている。しかもどうも服の隙間を通って素肌に触れていた。

 

 インナーも見えたところで立ち上がり、頬を赤く染めて弓矢を構えた。

 

「ま、待てシノン。グリーンを攻撃すればオレンジだ」

 

 そう、グリーンプレイヤーを攻撃すれば、オレンジプレイヤーになってしまう。シノンもそれを思い出して止まった瞬間、

 

「きゃっ」

 

 バランスを崩したのか、シノンはしりもちをつく形で後ろへ倒れて水に浸かる。

 

 深くない川の中、水浸しの俺たち。

 

 その時、俺は気づいても言ってはいけないことを言った。

 

「あっ、くろ」

 

 俺はつい見えたそれを口にした瞬間、シノンはますます顔を赤くした。

 

「くっ、カルマ救済イベントすればいいんでしょッ」

 

「!」

 

 放たれる弓矢の中、俺は必死に避けながら謝り続けた。

 

 セイバーが戻る前にコードキャストで乾かすことと、お昼は俺が奢ることで許してもらう。

 

 少し散々な結果だが、シノンの弓は戦闘で使えるものと確認はできた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町こと《園内》に入るとボロボロになり、お互いグリーンのまま帰宅すると、キリトが凄いことになっていた。

 

「「なにがあった」」

 

 キリトがこちらを見て奇しくも同じ感想が出た。お互いなにかあったのか知らないが、シリカたちがキリトの側に張り付いている。

 

 話では占い師NPCから今日は不幸な目に遭うと言うことを言われ、厄払いに女の子と一緒にいないといけない。

 

 そんな話を聞きシノンは呆れた。

 

 商業区にいる占い師はイカサマで、まぐれで当たれば幸運グッズを押し付けるらしい。

 

 シリカ、リズを左右に後ろからリーファに抱き着かれている彼に、シノンが占いをする。

 

「もうすぐキリトに災いが降りかかる」

 

「………俺は無力だ」

 

 その時、来客を告げるベルが鳴り響いた。

 

「あ、シノのん、メイト君、セイバーさん。キリト君を見なかった?」

 

「アスナ話があるから少し出よう」

 

「キリトならそこの女子の固まりの中よ」

 

 俺が急いでアスナからキリトを隠そうとしたが、シノンはそれを撃ち砕く。

 

 アスナが怪訝そうに店の中を見ると、

 

「ははっ……や、やあアスナ………」

 

 女子たちはすぐに避難し出し、こうして不幸が降りかかる。

 

「まったく、男ってものは」

 

「キリトの周りは可愛らしい者が多くて良いぞ」

 

 セイバーはそう言い、こうしてお互い不幸な目に遭うのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「最近視線を感じる」

 

「ストレアか?」

 

 あれからしばらくしてキリトが俺たちの部屋に入り、相談する。

 

 この前の一件で色々あったキリトだが、ついにお弁当だけじゃなく、レアアクセサリーなどが渡されてきたらしい。

 

 しかも指輪。

 

「誰が、キリトの索敵スキルに引っかからないんだよな?」

 

「ああ、それも最近手紙もあるんだ」

 

「手紙?」

 

 セイバーが首をかしげると、手紙は挨拶から始まり、キリトのことが事細かく書かれていて少し悩む。

 

「キリトのファンか。ストレアか」

 

「ストレアじゃないのは確認済みだ」

 

「それでは他の女子ではないか?」

 

 セイバーの言葉に俺とキリトがセイバーを見る。

 

「セイバー、なんで女だと分かる? いや女性じゃなきゃ少し怖いが」

 

「文面からはさすがに分からないが、紙から僅かに香水が香る」

 

「ん………」

 

 嗅いでみると確かに香水の香りがする。これだけで女子と決めつけるのはどうかと思うが、確かにヒントではあるか。

 

 だが本当に香水か?

 

「コードキャストで調べてみるか」

 

「鑑定までできるのか?」

 

「解析してみる」

 

 コードキャストで解析してみると香りの元の結果が出た。

 

 これは香炉で香木からの香りだと分かる。

 

「香水じゃないな」

 

「香木か、けどこれでかなり情報が整理できるよ。ありがとう」

 

「気にするな。けど、香木の香りがする部屋で書いた手紙か」

 

「言葉にすると恋する乙女としては満点だな」

 

 だが、正直手紙の内容を読み続けていくとだんだん細かくなっていく。

 

 ついにはユイのことや、他のメンバーとのやり取りまで書かれている。これは行き過ぎている。

 

「これは少し………」

 

「やっぱり、少し調べてみるか。俺はともかく、ユイになにかあったら困る」

 

「そうした方がいい。なるべく側にいたらどうだ」

 

「ああ、アスナとも相談してそうする。他のみんなにも話しておくか」

 

 そんな会話をしてその日は解散になるが、

 

「? そう言えば、香木なんて言うアイテムとかあるのだろうか? 調べてみるべきか」

 

 結局香木による香りを楽しむアイテムは見つからず、謎は謎のままであった。




チキンライスなどを筆頭に手作り弁当を渡されるキリト。

メイトはシノンとイベントを起こす。

セイバーは解放されました。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第7章・迷子の妖精

オリジナル展開。

それと察しの良い人はきっとお弁当を渡している者が誰か分かるはず。

これやっていいのか不安になりながら投稿します。


 現在キリトにお弁当(手作り)が毎度届く。

 

 ダンジョン探索の帰り、起床時にいつの間にか部屋、あるいはエギルに預けられていた。預けられる際、いつの間にか店内にあったとのこと。

 

 S級食材により作り出されたオムライス、ビーフシチュー、スパゲティー、ボルシチなど赤い色が目立つ食材が多い。

 

 クラインは、

 

「きっと、キリトのファンだぜこれは」

 

「ファン?」

 

「そうさきっと………『キリトさん素敵っ、けどアスナさんがいる。私のことはきっと選んでくれないの。せめてキリトさんを想って作った料理を食べてほしい。きゃっ♪』ってな感じだぜきっとっ。うらやましいぞこの」

 

 果たしてそうだろうか?

 

 時々弁当と共にある手紙の内容、かなり詳細なキリトの日常が書かれていて、これにはさすがにどうかと思うほど細かい。一番気になるのはこれが《ホロウ・エリア》のことも書かれていることだ。

 

 それに俺が疑問に思うと、仲間から

 

「一応向こうでもプレイヤーがいるんでしょ? だから」

 

「《ホロウ・エリア》に行ける女性プレイヤーですねっ」

 

 リズとシリカが俺にこのお弁当プレイヤーが誰なのか、それらしい人物がいないか調べてほしいと言われるが心当たりがない。あそこにフィリアやキリトのようなプレイヤーがいるのだろうか?

 

 ちなみにお弁当の件はアスナには秘密。これは、

 

「なぜだ」

 

「それはお前、この愛くるしい一途な子の想いを裏切るってのか?」

 

「そうなるのか?」

 

「なによりアスナさんも良い顔しないだろう」

 

 キリトもまあ、それには少し思うところがあるのだろうか。だから気にして秘密にしている。

 

 いまいち人の感性が分からない中、そう思いながらもここ《ホロウ・エリア》でフィリアと共に探索を始める。そんな時だった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 色々探索をするがプレイヤーの影は一つも無かった。キリトはいると言うが、俺はフィリアたちと共に行動するが一向に会わない。

 

 森のフィールド、森林地帯。初期のようなこの場所を見て回るが何も無かった。

 

 ちなみにここに他プレイヤーを連れて来れるが、俺はセイバーを選び続ける。サーヴァントも一人としてカウントするらしい。

 

 エネミーを倒し、ここでしか手に入らない品物を持ち帰る。そんな中、

 

「奏者よどうした? 空ばかり見て」

 

「ああ。少しばかり、空がおかしい」

 

「おかしい?」

 

 フィリアたちも空を見るがなにもない。デジタルにより作り出された仮想の世界。その空が広がっていた。

 

 そう感じる中、

 

「!」

 

 僅かに世界が揺れた。

 

 ノイズが走り、デジタルの歪みが現れ、セイバーとフィリアに緊張が走る。

 

「これって」

 

「奏者っ」

 

「分かっている」

 

 なにが起きるか分からない。色々構えている中、それが見えた。

 

 電脳の歪み、ひび割れた空から何かが出て来る。

 

 死相(デッドフェイス)を纏う。

 

 すぐに木々を足蹴に蹴り跳び、足場のコードキャストを展開、即座にそれを確保する。

 

 そのまま地面に下りる中、死を解き、静かに見た。

 

「女の子?」

 

 地面に降ろして前髪を払い、顔をよく見る。

 

 年齢は14前後、紫紺のロングヘアーにバンダナ。剣士のような衣装。

 

 プレイヤーかNPCかはカーソルでプレイヤーと分かる。

 

 だが問題はそこでは無い。

 

「これは」

 

 そう耳の形が僅かに違う。

 

 少しだけ尖っていて、僅かに髪の中から見える。少し触るがくすぐったそうにして眠っていた。

 

「………今日の探索は中止だな」

 

 空を見るとすでに安定していて、俺はこの子を背負い、セイバーたちの元に戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「これで必要なピースは揃った」

 

 男は石に座り込み、その様子を見ていた。

 

 周りの空間は歪んでいて、エネミーが削れたように黒く染まる。

 

「後は彼が上にたどり着くだけ」

 

 そう言って静かに立ち上がり、静かに両手を広げて宣言する。

 

「七天が織りなす戦いはいま一度開演した。マスターよ、上を目指せ、その先にたどり着くために………」

 

 そして男は暗闇の中へと姿を消した………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「エギルはいるかッ!?」

 

「おうセイバー、早かったな。メイトもって」

 

 この店の亭主であるエギルは、俺が背負う者を見てすぐに驚く。

 

「少女が空から降ってきたのだ、すまぬがキリトたちと相談したい。何名かにメッセージ? を送信してはくれまいか」

 

「空からだと」

 

「!? それって」

 

「本当ですかっ!?」

 

 その時シノン、リーファが店にいて、話を聞いて近づいてくる。

 

 リーファは俺の背中で眠る少女を見て、すぐに気づいた顔になった。

 

「この子、闇妖精族(インプ)だっ。うん、間違いないよ」

 

「リーファが元々いた世界のプレイヤー?」

 

 リーファが言うには、リーファのゲームはプレイヤーが妖精になり、各種族で争ったり協力したりする、PK推奨の本格VRMMOらしい。

 

 この子もそのプレイヤーなのか、いまは首筋を甘噛みしたりする。夢を見ているようだ。

 

「ともかく部屋に寝かせておきたい。その後の対処は任せていいか?」

 

「うむ、いきなり説明するのも大変だからな。奏者より同性が良いだろう」

 

「うん分かった、部屋はメイト君たちの部屋だね」

 

「すまない」

 

 とにかくメッセージを飛ばし、しばらくは宿屋待機。

 

 部屋で寝かせた後、俺はリーファを残してセイバーと共に部屋を出る。

 

 そこには難しい顔のエギルとシノンがいた。

 

「見た限り、まだ小さいが………見た目通りじゃないと分かってても、不安になるな」

 

「? どういうことだ?」

 

「見た目通り子供なら、このゲームに囚われたと言う事実をちゃんと受け止められるか分からないってことよ」

 

 セイバーの言葉にシノンが答える。

 

 シノンはまず記憶が混濁していて、すぐにここがゲームの中と実感できず、キリトたちに保護された。

 

 リーファはキリトがいた。だからこのデスゲームに対応できたと話を聞く。

 

 だがあの子は?

 

 二人は《ナーヴギア》、SAOプレイヤーを死に繋ぎ止めている機具を使用していないが、HPゲージが無くなるとどうなるか分からなかった。

 

 あの子も違う機具を使用していても、この問題は解決しない。

 

「………責任を取るしかない」

 

 少し考え込むが、あの子は俺が連れて来た。なら面倒を見るのは俺だろう。

 

 元々俺はリソース回復などがある。できる限り備えるぐらいしかやることはなく、時間だけはある身。

 

 それにはセイバーも頷く。

 

「うむ、あのような愛らしい者を見捨てるなぞ言語道断。奏者のやりたいようにするが良い」

 

「ああ」

 

 別のVRゲームは性別以外、ランダム生成らしい。あの子はどんな子かは知らないが、見た目ほど幼いと言うことはないかもしれない。

 

 それを祈るくらいしかいまはなく、静かに店で時間を潰した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 しばらくしてキリトたちも慌ただしい様子で帰ってきた。

 

 キリトも俺からのメッセージを受け取り慌てたらしい。

 

「話を聞く限り、シノンのようなケースだな」

 

「そうか。見た限り幸せそうに奏者にぱくついていたから、見ている夢は問題ないと思うが」

 

「そ、そうなのか……」

 

 そんな話をしつつ、リーファがみんなが集まる中に現れた。例の子を連れて。

 

「お兄ちゃん」

 

「リーファ、その子は」

 

「一通り説明した。とりあえず、あたしから話せる範囲は話したよ」

 

「………」

 

 少し不安そうにしながらも、反応は歳相当の子らしい。

 

「えっと、初めまして。ボクは『ユウキ』。ALOでは闇妖精族のインプしてます」

 

「ユウキ、でいいのね。その、このゲームのこととかは分かる?」

 

 ここはアスナが代表して話を聞く。彼女は重々しくうんと頷く。

 

「始めはあの出られなくなるゲームだなんて信じられなかったけど、ボク、つい日向ごっこしてて寝落ちしたはずだもん……。このままなら強制ログアウトで、ゲームから出てるはずだから」

 

「よく眠っていたぞ。余のことはセイバーと呼んでほしい」

 

「メイトだ」

 

 ともかく自己紹介を終え、シノン、リーファのケースから、ユウキは外から来たプレイヤーなのは間違いないらしい。

 

 その事実にキリトたち、SAOプレイヤーは苦々しい顔をしていた。

 

「このゲームは、どこまで人を巻きこめば気が済むんだ………」

 

「えっと、これからボク、どうしよう……」

 

 少し悩むように言うが俺はすぐに、

 

「しばらくはここの状況をよく聞いて、考えればいい。面倒は見るよ」

 

「け、けど悪いよそんなの」

 

「構わない。助けたのは俺で、そうすると決めたのも俺だ」

 

「うむっ、余は問題ないぞ奏者っ♪」

 

 ともかく話をして、部屋も三人部屋を借りることにして今日は落ち着く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「えっと、いまは攻略組って言う人たちが、100層のゲームクリアを目指してるんだね」

 

 ユウキの問いかけにああと頷く。

 

 いまは三人部屋になったところで、ユウキに足りない知識を照らし合わせていた。

 

 グリーンカーソルプレイヤーを攻撃すると犯罪者、オレンジカーソルになると言う辺りなど、気を付けなければいけないところなぞ。

 

 俺自身、教えられたことをそのまま教えているので簡単だった。

 

「それでえっと、聖杯戦争。って言うルールが混ざって、いまこの世界では二つのルールが混線してる。んだよね」

 

「ああ」

 

「その聖杯戦争のルールを解決するために、メイトが作られたって。メイトはNPCなの?」

 

「ああ」

 

 作り出されたモノとしてならば、俺はNPCと変わりないためそう頷く。

 

 ユウキは色々と驚きながら話を聞く。いま聖杯戦争のルールが適応されたボス部屋は見つかっていない。見つかれば俺がそこを攻略しなければいけない。

 

 セイバーもまた静かに胸を張り、宣言する。

 

「案ずるなユウキよ。余と奏者がいれば、如何なる英雄であろうと必ず勝利を収めてくれる」

 

「聖杯戦争は、英雄が出て来るんだよね? ならセイバーも、英雄なの?」

 

「ん? それはその………」

 

 セイバーは少しだけ言いにくそうに目を泳がせて、ユウキが聞きたそうにしているために少しだけ口を開くセイバー。

 

「ユウキよ、聖杯戦争で呼ばれる英雄は、けして〝善〟だけではない」

 

「ぜんって、正義ってこと?」

 

「うむ、その逆も存在する。反英雄。悪いことをして有名になり、人類史にその名を刻んだ者もおると言うこと」

 

「中には史実とは違う英雄もいる」

 

「史実って、嘘の話もあるってこと?」

 

 それに俺はいい例として、シグルドとジークフリート、カール大帝とシャルルマーニュを教えてあげた。

 

「片方は同一起源されていたり、片方はモデルにされていたりしている。同一人物でも、その側面が違う英霊もいるんだ」

 

「そうなんだ。なんかすごいね」

 

 ユウキはきっと、SAOプレイヤーのように聖杯戦争を理解しているのだろう。

 

 セイバーもまたそれでいいとしている。ならとやかく言うのはやめておく。

 

「余はその、悪名として名高い皇帝でな。その真名をまだ奏者にも話しておらぬ」

 

 そう言い窓の外を眺めているため、表情は見えないが、あまり良いと言うわけではないだろう。

 

 セイバーの言葉にユウキも少ししゅんとなるが、その頭を撫でて俺は話を区切る。

 

「真名は俺にとってはどうでもいい。いまは〝上〟を目指して、みんなで頑張ろうだ」

 

「うんっ。ボクも攻略組にはなれるか分からないけど、頑張って生きるよ」

 

「うむっ、その通りだ」

 

 振り向く彼女はいつも通りであり、ユウキも嬉しそうにしている。

 

 生きるため。その言葉は俺にとってどれほどの意味があるか分からない。ただそれでも目指すことをやめてはいけない。

 

 後のことは後にして、その日は休むことになる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その後はユウキが《ホロウ・エリア》に入れるプレイヤーであるかの確認と、今後ユウキはなにをするか、シリカたちと話し合うことにした。

 

 フィリアには《ホロウ・エリア》の際に話しておいて、こうしてユウキはこの世界のプレイヤーとして活動を開始する。

 

「とりあえずみんなとのフレンド登録も終えたから、次は装備かやれることを探そう」

 

「うんっ♪」

 

「それでは行くぞ二人ともっ♪」

 

 セイバーとユウキを連れて俺は町を歩いた。

 

 この世界、なにも攻略組しか方法が無い訳では無い。レベリングした時の情報や、クエストをしてアイテムを集めたり、それが巡り巡って攻略組の助けになったりする。

 

 ともかくユウキはリーファやシリカのようにそう言うプレイヤーになるのだろう。

 

 戦いの方も強く、レベルは攻略組クラスなのを確認させてもらった。

 

 途中でストレアにも会ったりして、彼女の動ける範囲を広げる。

 

 こうして俺の周りが慌ただしい中、

 

「ああそうだ、メイト」

 

「どうした」

 

 少し照れくさそうにするユウキ。少しだけ黙り込んでから、

 

「色々あって、言うの遅れちゃったけど、助けてくれてありがとう」

 

「ああ。問題ないよ」

 

 そう言われ、ユウキはセイバーと共に町で色々な施設を見て楽しんでいた。

 

 とりあえずいまのところ、彼女はこの世界に怯えている様子が無い。

 

 だがいまはだ。気を付けないといけない。

 

 こういうのは分からないから、人に聞きながら彼女の面倒を見なければいけないな。

 

「………攻略より大変だな」

 

 そう呟きながら、俺は彼女たちと共に過ごしている。

 

 そして………

 

「メイト、ボス部屋の様子がおかしい。もしかしたら聖杯戦争の部屋かもしれない」

 

 キリトからの言葉に俺の宿命もまた動き出す。

 

 先に進む〝上〟に進むために。

 

 俺は止まることは許されない………




ユウキも現れ、謎の人物も出現。

果たしてメイトは〝上〟へとたどり着くのか。

お読みいただきありがとうございます。


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第8章・第二回戦

サーヴァント第二回、試合会場観察。

データ収集を始めます。


 戦い、ボス攻略戦の前。俺はフィリアの下に顔を出した。

 

「そう、攻略は進んでるんだね」

 

「ああ。キリトも《黒の剣士》として活躍しているから、彼もそっちに。今日は探索はできない」

 

「別にいいよ。攻略の方が大切だから。わざわざ言いに来てくれたの?」

 

「? ああ」

 

 俺はそう言うとフィリアはおかしそうに微笑む。

 

 なにがおかしいのだろうか。

 

「変なの。メイトはその、本当にNPCなの? 少しそうは見えないな」

 

「俺は聖杯戦争に対応されたSAOプレイヤーらしいから、俺は分からない」

 

 俺は俺としている。その理由には興味は無い。あるのはただ〝上〟へと向かうこと。

 

 フィリアに報告し終え、俺が転移門で町に戻るとユウキがいた。

 

「ユウキ」

 

「あ、メイト。今日は攻略戦なのにどこ行ってたの? セイバーが探してたよ」

 

「フィリアに探索できないことを伝えに。ユウキは」

 

「ボクはレベリング。少しでも強くなって、メイトたちの役に立ちたいから」

 

 そう微笑むユウキの頭を撫でる。ユウキはふにゃ~と言う顔になり、嬉しそうだ。

 

「もう子ども扱いして」

 

 だがすぐに頬を膨らまして、ぷんぷんと言いながら不機嫌になる。人間は分からないな。

 

 ともかく俺とキリトたちは攻略戦。しかもサーヴァントが相手だ。

 

 気を引き締めないといけないが、必ず突破する。

 

「〝上〟へとたどり着く、その為に」

 

 その為だけに俺はここにいる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 聖杯戦争のボス部屋。これに対して前回ほどプレイヤーはいるが、みんなかなり緊張していた。

 

 他にも攻略組以外にも、博学なプレイヤーも組み込まれる。

 

 それは相手が伝説や伝承に出て来る者であり、相手は三騎。誰か一人真名を看破できる可能性を高めたかった。

 

 そしてその中に弓矢を背負う者もいる。

 

「シノンも来るのか」

 

「当たり前でしょ。これでも一応知識はあるわ」

 

 そう言ってシノンまでいる中、アスナの号令が走る。

 

「それでは今回のボス攻略はおそらく、聖杯戦争のシステムを使った戦いと判断されます。つきましては、戦闘を担当するメイト君からの注意事項を聞いてください!」

 

 その言葉に俺が一歩前に出る。

 

 ほとんどすでに俺がNPCなのは知られているが構わない。先に行くのには関係ない。

 

「話に出たメイトです。サーヴァントの種類は七つの他にエクストラクラスが存在しますが、これはイレギュラーなため頭の隅にあればいいです。肝心なのは七つのクラスです」

 

 キリトたちにも改めて説明しなければいけないため、フィールドに出る前に全プレイヤーに説明することになっていた。

 

 その中で一人のプレイヤーが手を上げる。

 

「それって前衛剣士とか、そういうのか?」

 

「はい、サーヴァントは英雄たちの一面をコピーして、クラスに合わせられた者のことです。有名どころで言えば英雄ヘラクレス。彼はセイバーが最良、アーチャーなら最適でしょうか」

 

「クラスってのは七つあるようだが」

 

「剣士セイバー、槍兵ランサー、弓兵アーチャー、騎乗兵ライダー、魔術師キャスター、暗殺者アサシン、狂戦士バーサーカーです。バーサーカーについて説明します」

 

 バーサーカーは狂った戦士。本来の英雄から理性を外して、狂わせることでより強力な兵器へと変える。

 

 英雄によってはすでにそれしか言い表せない者もいれば、それによって凶悪になる者もいる。そう説明した。

 

「バーサーカーは正直、理性が飛んでれば飛んでるほど危険です。皆さんが相手できるクラスは、ライダーとアサシン。よくてキャスタークラスのみです」

 

「セイバークラスとかとは」

 

「戦えない可能性が高いです。なにより、彼らには必殺技があります。宝具です」

 

 神秘が込められた武具、能力と言ったもの。

 

 先に言ったヘラクレスなら、十二の試練、ゴット・ハンドが一番。

 

「これは英雄ヘラクレスが十二の偉業から、十二個の命のストックを持っている。それが彼の宝具の一つです」

 

「………ヘラクレスだけは出て来てほしくないな」

 

「そもそもそれで一つかよ………」

 

 キリトがそう呟く中、それには同意するが、殺せないわけでは無い。

 

 死なないだけなら、死ぬまで殺せばいいだけ。

 

 だがいま言った通り、英雄が最低でも一つ持っているだけであり、複数宝具を持つサーヴァントもいる。

 

 凶悪な宝具や大軍に対応できるもの。一番危険な宝具は大軍か対人か。正直判断できないもの。

 

 それでもやらなければいけない事実は変えられない

 

「それでは行きましょう。くれぐれもまともな戦闘があると思わないでください、正直俺にも会わない限り、なんとも言えません」

 

 そう言い、俺たちはとんでもない戦いへと挑むのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 発見されたボス部屋へと進むと景色が消えていく。

 

 暗闇の道を歩いていると唐突に光が広がり、空間が一変する。

 

 攻略組が気を引き締める中、世界は月夜の下、古城の広い庭園。

 

「消えなさいこの極東のド田舎リスっ」

 

「邪魔しないでくださいなッ、いまあの方の為に編み物をしているのです!」

 

 二人のサーヴァントはすでに戦闘している。

 

 一人は槍を振り回す、竜の尾を持つ可憐な少女。

 

 片や編み物の途中のような姿の、角を持つ黒い着物、白い髪の妖艶な少女が炎を纏う。

 

「バーサーカー二人か」

 

「違うわよっ」

 

「あっ、わたくしはバーサーカーです」

 

 全員があっけにとられる中、すぐに真名はともかく、クラスは分かった。ランサーとバーサーカー。そのバーサーカーはすぐにキリトを見た。

 

「あっ………」

 

「へ?」

 

「好きっ!!」

 

 そう言ってゴッと言う炎と共に、頬を赤く染めて接近するパーサーカーに対して、フィールドに防壁を作った。

 

 防壁はいまだ改良されて強固になっているのだが………

 

「邪魔ですッ」

 

 だが片腕をねじ込み、宝具にすら耐えられた防壁が腕一本で貫き、手を伸ばす。

 

「ひぃっ」

 

「そいつ引いてるじゃないッ。あんたのは悪質なストーキングなのよ!」

 

「違います、隠密的にすら見える献身的な後方支援です。この方だって、嬉しそうにいつも食べてくださいました」

 

「は? へ? ま、まさか、君が弁当の犯人?」

 

「ああ、やはりわたくしたちは通じ合っているのですね♪」

 

 嬉しそうに頬を染めながら、防壁を破壊しようとするバーサーカー。

 

 すぐにアスナが目を細め、キリトの背後に近づく。とても低い声で、

 

「キリト君、お弁当ってなに?」

 

「ひぃっ」

 

「き、キリの字、まさかすでにボス部屋に入ったんじゃ」

 

「い、いや知らないっ。そもそも弁当のことだって、サーヴァント戦が終わってしばらくしてからだっ。この層に来る前ですらない!」

 

 そう言って怯えるキリトだが、周りの目は冷ややかだ。

 

「ああ安珍様(・・・)♪ やっと、やっと会うことができましたっ」

 

「! 安珍ですって………」

 

「ええそうですっ。わたくしとまた会う約束をしてくれたっ、また会うと!!」

 

 その目に理性は無く、シノンはまさかと呟いた。

 

「あ、安珍清姫伝説………。この女、まさか」

 

「し、シノンっ、真名が分かったのか」

 

「ええ、彼女は清姫。彼女の逸話は簡単に言うと」

 

「………安珍様がいけないんです」

 

 ガンッと言う音と共に、防壁にまた腕を差し込み、コードキャストがひび割れ砕かれる。

 

「また会うと、約束してくれたのに………。嘘をついて去っていった」

 

 そうして砕かれた中、腕はなぜか包帯が巻かれ、傷だらけだった。

 

 いつの間にか、下半身が蛇になっている。

 

「だから愛おしくて恋しくて裏切られて悲しくて悲しくて………憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎―――」

 

 壊れたスピーカーのように同じことを切り返す少女は、ずっとキリトを見つめていた。

 

 全プレイヤーが怯え、そのホラーのような様子にアスナがキリトに抱き着く。

 

「だから蛇になって追いかけて、安珍様は鐘の中に隠れてしまったから………。焼き殺してしまいました………」

 

 腕を引っ込めて扇子を広げる。優雅に口元を隠すが、その口は釣り上がる様子が分かる。

 

 ただ狂気に満ちた瞳でキリトを見つめた。

 

「焼けた鉄の中、蒸し焼きにしてしまいました………。ですが、こうしてまた、お会いする機会に巡り合いました。おいしくてよかったです、いっぱい入れましたから♪」

 

 呟く彼女は嬉しそうにしていた。その両腕は血が滲む包帯が巻かれている。

 

 そう言えば、キリトのお弁当は赤いものが目立っていた気が………

 

「ぶっ」

 

 口元を押さえ、吐きだそうとするがもう無い。

 

 シノンを始めとした全員の背筋が凍り付き、俺が静かに、

 

「問題ない、この世界は仮想世界だ。ノーカンだキリト」

 

「恐ろしく冷静だな奏者よ………」

 

 そしてまた再度キリトへと迫ろうとしたとき、炎を纏う槍が間に入る。

 

「ランサーは二騎か」

 

 冷静に分析すると古城の中から、一人の英霊がその場に現れた。

 

 白髪の髪に炎を纏う英霊。それに清姫ともう一人のランサーがすぐに距離を取る。

 

「あんた」

 

「いったいなんの真似です?」

 

「貴殿が愛した男を求めるのは勝手だが、戦いの場で礼儀を忘れては困る」

 

 そう言ってセイバーと俺の方を見る。新手のサーヴァント。

 

「此度の聖杯戦争にて、ランサーの位で召喚された英霊。カルナ」

 

「カルナ? それって」

 

「インド神話、施しの英雄カルナ」

 

 すぐに構える。シノンはさすがに分からない顔をしていたがそれを手で制するカルナ。

 

「まずは報告として言っておく。俺は君らとは戦わない、戦うのはマスターとセイバー、この二人だけだ」

 

「それは」

 

「君らは聖杯戦争とは関係なく、またこの戦いはそれですらない。俺が戦うのは、戦士としての意味、それだけ」

 

 槍を一振りする。

 

 ステージが斬り裂かれ、全員が驚愕した。

 

 地割れのようにフィールドが分かれ、僅かに浮上する大地は、サーヴァントとして戦う舞台なのだろう。

 

「エリザベート、清姫。悪いがこの戦い手出しはやめてもらおう」

 

「別にかまいません、わたくしには関係ないことと」

 

「なにげに人の真名バラさないでよっ」

 

 清姫とエリザベートはそう言い、カルナは斬り取った浮かぶステージへと上がる。

 

 仕方ないと周りを見ながら、

 

「エリザベート、まさか血の伯爵婦人の少女時の姿らしい」

 

「サーヴァントとして明らかに何か足されているな」

 

「それって」

 

 説明しておかなければいけない。まずシノンが彼女の歴史を話す。

 

 ランサーはエリザベート・バートリー。拷問具の一部を使った血の歴史のサーヴァント。

 

 それをシノンから聞き、青ざめる人々。

 

 竜の尾などはおそらく逸話から足されたなにか。

 

「例え史実でなくても、サーヴァントは伝承の中から力を得られる。彼女は生前のイメージで竜などが付け加えられてるんだろう」

 

「カルナって英雄は」

 

「………施しの英雄カルナ。彼は死んではいるが、それは姦計や力を削ぎ落されたからであって、全力の状態じゃない」

 

「つまり、弱ったところを殺された英雄」

 

「しかもとことんだ。故に全力のカルナとの戦いはみんながいると勝てない。俺とセイバーだけが好ましい」

 

 その言葉に彼は否定も肯定もしない。

 

 戦士として彼は戦う、ただそれだけを叶えるためにここにいる。

 

「私、別に戦う気はないわよ。っていうかそもそも呼ばれたこと自体不愉快だし、私はあとでしてもらうことをしてもらえれば、倒されてもいいわ」

 

「条件付きで通してくれるのか」

 

 それに全員が驚いた。サーヴァント戦、つまりボス戦は戦いが必要と思ったからだ。

 

「わたくしも安珍様を渡してくれればそれで構いません」

 

「えっ」

 

 キリトが青ざめ、俺は変わらない表情のまま、静かに尋ねた。

 

「渡せばいいのか、そのあとどうする」

 

「倫理コードを解除してもらいます」

 

 即座に真顔で答える清姫に、それに全プレイヤーが固まる。キリトはすぐに後ろに下がる。

 

 それはどういう意味だろうか。念のため聞き返す。

 

「そのあとは」

 

「それは……言わせないでください」

 

 頬を赤くするが下半身が大蛇の清姫。

 

 アスナが顔色を変えずに、ただ機嫌が悪いことが分かる。

 

「わたくしは死後の世界を安珍様と過ごすためにここに来ましたから、安珍様がいればそれでいいのです♪」

 

 その言葉にやっと我に返る一同。

 

「つまり、キリト君の命と引き換え………」

 

「んなこと許すわけねえだろうがっ」

 

 プレイヤーたちが構える中、清姫の目が見開く。

 

 邪魔をする者たちを定め、静かに炎を纏う。

 

 その様子を見ながら俺もまた構える。

 

「俺たちはカルナと戦う、清姫は頼む」

 

「分かった」

 

 すぐにステージを移り、プレイヤーは蛇と成った少女。清姫へと向けられる。

 

 カルナへはマスターである俺。そしてそのサーヴァントセイバー。

 

 こうして戦いの火ぶたが切られる。

 

「………私は?」

 

 一人戦う理由が無い為、離れた位置でその様子を見つめていた………




キリト、安珍に見られ清姫のターゲット。

エリザベート、戦う理由無し。

カルナ、ただ戦士として戦う。

今回はこの三騎が出現。

カルナは本気で戦いますので、メイトとセイバーは勝てるかどうか。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第9章・炎の激突

SAOプレイヤー対バーサーカー清姫。

ランサーカルナ対セイバー。

ランサーエリザベート、戦闘放棄。

戦闘続行、観測を続けます。


 燃え上がるは愛の炎、向かってくるそれにキリトは戦慄する。

 

「安珍様、またですか……またなのですね」

 

 さめさめと泣くように聞こえるが、彼女は炎を纏って素手で刃物を弾きながら迫る。

 

「ならばまた、またですね。貴方を殺して、また会うその日まで」

 

 キリトのみにヘイトが集まり、それ以外は見向きもしない。

 

 だが、

 

「タンクなにしてるの!! 前線維持ッ」

 

 一人の戦乙女が吠えていた。

 

 男たち全員が女怖いと認識する中で彼女たちは吠える。

 

「あなたにキリト君は渡さないっ」

 

「安珍様をたぶらかす女狐がっ」

 

 二人の威圧に男性プレイヤーが怯える中、もう一つのフィールドで炎が激突し合った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスターっ」

 

【ああ】

 

 死相(デッドフェイス)を発動させながら剣で斬り込む二人。それを簡単にあしらいながら、槍より炎を放ちぶつけるカルナ。

 

 セイバーの深紅の剣、原初の火アエストゥス・エストゥスがカルナの炎、アグニと激突した。

 

 すでに地上は焼かれ、石を始め中庭が切り取られた舞台には大地以外なにも無い。全て燃え尽き、いま地面すら燃やす。

 

 息をするだけで喉が焼かれる。それほどの熱量のぶつかり合いに、セイバーと自分を守るコードキャストを展開していたが汗が止まらない。

 

「なかなか突破できない………」

 

【相手はトップサーヴァント、その身体。彼の宝具《日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)》を纏うか】

 

「如何にも。この身、神々でさえ破壊不可能の光の鎧なり」

 

 律儀に返すカルナだが皮肉としか思えない。この防具の所為で先ほどから致命傷を与えられず、また与えたところで傷一つないのだ。

 

 そんな中で彼の言葉を聞き、死相(デッドフェイス)が濃くなる。

 

【なら突破すればいい】

 

「ほう……。面白い、我が鎧、突破できることができるのならやってみせろ。ただし」

 

 その瞬間、光がメイトを貫いた。

 

 肩を貫かれて血が流れる。痛みよりも先にその攻撃に驚愕する。あまりの速さにセイバーは反応するしかできなかった。

 

「真の英雄は目で殺す」

 

「この者」

 

 セイバーがあまりの各上に戦慄する中、それでも彼は変わらない。

 

【………だからこそ、お前は俺に勝てない】

 

 暗闇がより一層濃くなる中、三人は激突した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 愛の炎を纏う清姫との戦いに手間取るプレイヤー。

 

 彼らが手間取るのはパターンが分からない。

 

 だが一人、ほんの数人だけ気づいていた。サーヴァント戦にパターンは無いのかもしれないことに気づきだす。

 

 まるでそこにいるように戦う彼らに対して、キリトが一手にヘイトを集めていた。

 

「ああ愛おしい………」

 

 必死に迫る彼女はキリトを見ていて見ていない。

 

 彼女の見ているのは愛した男のみ。

 

 姿形が全く違うのにそう思い込み、そうとしか考えずに動くことしかできない。

 

 彼女の狂気は根元から狂っている。故に彼女の夢は終わらず、ただ盲目にそれだけしか考えなかった。

 

「恋しくて、悲しくて………」

 

 見ているのは愛した、愛おしき男性。そして裏切った男。

 

「裏切られて悲しくて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くてッ」

 

 クラインが刀で接近する、清姫の腕で止めた。

 

 ガキンッと明らかに違う音が鳴り響き、両腕で必死に抑えるが、彼女は片腕で刀を受け止めていた。

 

「憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎―――」

 

 刀が折れ、クラインを掴み投げ飛ばす。

 

 後方が受け止める中、炎がキリトを捕らえた。

 

「だから殺します、常世の場所までこの清姫。ずっと一緒に………」

 

 その姿は見て恋する少女の顔なのだろう。

 

 だが見た者全てをゾッとさせるように、下半身は大蛇であり炎を背負っている。

 

 そんな中キリトは静かに剣を握りしめ、

 

「………生憎と、俺には大切なものがあるからな」

 

 その言葉に清姫の目は見開いた。

 

「アアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 キリトと炎が交差する。こちらの戦いも決着が近い。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

【………】

 

 肩で息をする中でその場に立つ死相(デッドフェイス)とセイバー。

 

 そして、

 

【チェックメイトだ】

 

「なに?」

 

 気が付くと双剣もまた闇に溶け込んでいて、それによる傷がカルナの身体にできている。

 

 傷では無い陰り、暗闇が傷のように付着しているだけ。瞬間、それがカルナの身体に広がり出す。

 

「これは」

 

【分かるだろ? 死相(デッドフェイス)が何なのか分かるのなら】

 

「………なるほどな、光すら侵食するか」

 

 その言葉を聞いた瞬間、光の鎧に陰りが生まれ暗闇に飲まれる中、セイバーが深紅の剣を構える。全てが闇に溶け込んだ瞬間、斬りかかるために。

 

「だが、惜しい」

 

【?】

 

 その瞬間、彼は光の鎧を破棄した。

 

【!】

 

「神々の王の慈悲を知れ」

 

 それは宝具解放、それに炎が光りに成り、それが危険と判断して全能力を使い侵食を始めた。

 

 カルナが光の鎧を紛いなりにも突破されたと判断した瞬間、それを破棄して絶命の一撃を放つことにしたのだ。

 

 躊躇もなく、無力化できるかと考えてしまうメイトの行動に対して、僅かでも可能であると判断したカルナはいともたやすくそれを捨て、次に移行した。

 

「奏者よっ」

 

【変わらない。これは俺が勝つか、カルナが勝つかの勝負だ】

 

「ならば全霊を以て汝を討たんッ」

 

 炎は光、太陽のように燃え上がる。

 

 フィールドどころか世界すら焼き尽くさんとする炎、それを飲み込もうとする黒。

 

 地表のみ守るようにコードキャストを展開、空が焼き尽くされる光景にプレイヤーは絶句、全てが白に飲まれる。

 

 空を染めた男の身体には、鎧を破棄することで死の傷はいくつかは剥がれているが残った闇が侵食する。それが余波だけで消え去り、彼は槍を構えた。

 

「インドラよ、括目しろ。絶命とは是、この一刺」

 

【来い、施しの英雄】

 

「灼き尽くせッ。日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)ッ!!」

 

 光が世界を支配した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 悲鳴が聞こえる。

 

 怒りが聞こえる。

 

 悲しみが聞こえる。

 

 妬みが聞こえる。

 

 絶望が聞こえる。

 

 願いが聞こえる。

 

 希望が聞こえる。

 

 それは、

 

【憎イ】

 

 そう、憎しみ()だ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 悲鳴のような音が鳴り響く、硝子がこすれたような慟哭が聞こえる。

 

 それは太陽が落ちてきたような熱量に十字の傷をつけた。

 

「これは」

 

 炎を叩き斬り、プレイヤーたちを救う彼は、黒い剣を二本構える双剣の剣士。

 

【………セイバー】

 

 その瞬間、深紅の剣を持つ彼女は走った。

 

「………見事だ」

 

 そう満足そうに呟き、彼は斬り捨てられた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「邪魔するなあああああああ」

 

 清姫もまた咆哮し、キリトへと迫る、

 

 先の炎はまだ消えていない。炎の絶壁のように灼熱の壁となりいまだ燃えていた。

 

 清姫はまるで共に死のうとするようにキリトを捕まえ、炎へと身を投げ出そうとする。

 

 だが、

 

「させるかああああああああああああ」

 

 クラインが盾を持って無理矢理タックルをかまし、その瞬間を細剣を持つ〝閃光〟が狙う。

 

 放たれたソードスキルが叩きこまれ、炎の中に清姫だけが投げ込まれた。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 彼女の慟哭だけは耳に残る中、彼らはサーヴァントに勝利した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「それじゃ、ちゃちゃっとここも直しましょうか」

 

 リンがまた唐突に現れ、フィールドを直し始めた。

 

 そんな中、メイトは倒れて眠りそうだ。

 

「眠りなさい。正直あなた、リソースを使い過ぎよ」

 

「町に帰るまでが攻略だ」

 

「まあ確かにな」

 

 セイバーは剣を持ちながら、エリザベートを見て微かに聞く。

 

「それで、お主は本当に良いのか?」

 

「だーかーら、私自身こんな戦いに参加する意味がないのッ。まあただ一つ、やりたいことがあるだけ」

 

「それってなんだ?」

 

 キリトがそう呟くと、

 

「コンサートっ♪」

 

 そう彼女は言い、リンはすぐに自分だけ防壁を作り出した。

 

「あなたたちは幸運よっ♪ サーヴァント界きっての歌姫の歌を最前列で聞くのだから♪♪」

 

 そして彼女は槍をマイクのように構え、

 

「―――――――――」

 

 歌いだす。

 

 全員が悲鳴を上げる中、平気な者が二名いた。

 

 一人はセイバー、少し悔しそうに背後から現れた城のようなステージにぐぬぬとしている。一人はメイト、彼は平然と聞いている。

 

「――――――」

 

 キリトがメイトに平気か聞くために近づいたが、聞こえないためメイトは首をかしげながら歌が終わるのを待つ。

 

 不思議なことにHPゲージが減らなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はい終わり、今回も階層クリアお疲れ様っ♪」

 

「ふう満足。これだけでここに召喚されたかいがあったってものよ。あのヘビ女がいる中で練習したかいがあったわ」

 

「だ、誰が聞いてたんだ………」

 

「カルナよ? 当たり前じゃない、彼奴しか観客いないんだもの」

 

 そんな話を聞きながらセイバーも歌おうとしたためメイトは止めて、カルナのことで考え込む。彼の勝利は本当に奇跡だ。

 

「すでに弱ってたんじゃねえか………」

 

「クライン、それはどういう意味だ?」

 

「お前さんら以外に、あれに耐えられないってことだよっ」

 

 そんなことを聞きながらアスナもぐったりする中で、経験値が山のように入る。

 

 すでにリンが消えていて、今回はなにも話ができなかった。できる体調でもないが。

 

「………」

 

 ボス部屋がただの通路に変わる中、ドロップ品を確認していると、キリトだけ嫌な顔をする。

 

「な、なあ俺のだけ変なんだ」

 

「どうした」

 

「これだ」

 

 かなりレアアイテムのアクセサリーであり、指輪型。

 

 高性能であり、これは装備するべきものなのだが名称が、

 

「エンゲージリングか。装備するのか」

 

「するわけないだろっ、俺にはアスナがいるんだから」

 

「ま、まあ怖いわよね」

 

「安心せよキリトよ。清姫の霊核は確実に燃え尽きた、本来なら防げようのない一撃、防げたのが奇跡の一撃で焼かれたのだからな」

 

「けど出てきそうだな」

 

「縁起でもないことを言わないでくれッ」

 

 そんなことを話しながら、新たな〝上〟を見て静かに、

 

「また〝上〟に近づいた」

 

 そう静かに呟いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………しかしまあ」

 

 クラインは少しだけ辺りを見る。もう姿形の無いボス部屋の中でクラインは言う。

 

「あんな可愛い子にあれほど求められて、男冥利に尽きるもんだろうよ」

 

「クライン、それは当事者で無いから言えるんだ」

 

 キリトは呆れながら、でも少しだけ悲しくなる。

 

「けど、シノン。安珍清姫伝説ってのは、清姫は嘘をつかれた物語なのか」

 

「そうね……、会う約束をしたのに恋した相手はそのまま逃げだして、彼を追っているうちに異形の怪物になった物語ね」

 

 それを聞いたキリトは少しばかり考える。

 

「少なくてもあの子は好きな男の側にいたかっただけか……。そう思うとなんだか悲しいな」

 

 理性を消してしまうほど盲目にまで恋に身を捧げたサーヴァント。

 

 キリトたちはその事実に胸を締め付けられながら、その場を後にした………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町に戻る中、セイバーが少しばかり元気過ぎる。

 

 その様子を見ながら彼女に近づく。

 

「どうしたセイバー」

 

「どうしたとはなんだ? 余はいつも通りだ」

 

「嘘をつくな」

 

 それを言われて少しばかり目を泳がせ、しゅんと落ち込むセイバー。

 

「奏者はそう言ったところは敏感だな。余は少し見謝った。カルナの宝具は、間違いなくトップレベルだ」

 

「ああ、リソースがほとんど無くなった。次があればきっと負けていた」

 

「それよ」

 

 セイバーが静かに俺を指さす。

 

「これから先も彼の英雄のような者が現れる。ならばこそ万全の状態で挑むべきだ」

 

「万全? そんなものは当たり前だ。いつもそうだ」

 

「違う、余が言いたいのは」

 

「そんなことでお前の真名を知る気はない」

 

 それにはっとなり驚くセイバー。

 

 その顔を見ながら頭を撫でて告げる。

 

「お前が話したいときに話せ、俺がマスターである限り、それを待つ」

 

「奏者………」

 

「誰にも文句は言わせない。俺がお前のマスターでそれが最善なのだから」

 

「………すまぬ」

 

 そう話し終えてエギルの店にたどり着く。

 

 そこでお留守番をしていたユイがお迎えしてくれた。

 

「皆さんお帰りなさい」

 

「ただいま」

 

「ただいまユイちゃんっ♪」

 

「ユイ、今日はパパ、疲れたよ………」

 

 ぐったりした顔のキリトにユイは微笑む中、ユイは何かに気づき、何かの包みを持ってキリトに近づく。

 

「パパ」

 

「ん、どうしたユイ?」

 

「はい、パパに渡し物があるとのことで、預かり物を渡したいと思います」

 

「へえ、なんだろう?」

 

 全員が首をかしげる中、ユイから預かり物を受け取るキリト。

 

「ユイ、誰が持ってきたんだ?」

 

 包みを受け取りながらキリトは尋ねるとユイははっきりと、

 

「はい、黒い着物を着た長い白い髪の女の人ですっ」

 

 その瞬間、時間が止まった。

 

「………へ、へえ。他になにかあるかな?」

 

「はい。えっと………『ああももとめられるなんて、やはりあなたさまがあんちんさまなんですね』って言ってました」

 

「………」

 

 俺は静かに即座にセイバーと共に部屋に帰る。

 

 きっともう彼女との試合は終わっている。ならばきっと、もう戦う理由は無い。会うこともないだろう。

 

「待てメイトっ、どうすればいいんだっ。言っちゃ悪いが勝てる気がしない」

 

「敗者は先に進めないから問題ない」

 

「いやいままさに来てるぞっ」

 

 クラインの指摘も聞きながら俺はユウキの元に帰る。

 

 キリトの悲鳴が聞こえた気がするが気にせず、リソースの回復の為に俺は今日は誰が訪ねてきても無視して、静かに眠ろうと思った。

 

 まだ先のある戦い。まだ終わらない日々のためにも………




カルナ、エリザベートにて疲労状態。宝具使用後セイバーに斬られ敗北。

清姫、SAOプレイヤーによってカルナ宝具の余波により撃退。

エリザベート、戦闘放棄。

データ処理を始めます。

「………人形め」

 歯ぎしりし、それでもまだ二回。まだ始まったばかり。モニターを多く開き、データの解析へと移る。

 まだ終わらない、そう………

「わたしは必ず」

 そう呟き、作業を始めた。


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第10章・激闘後の日常

日常回です。メイトくんはしっかりと好感度を築いています。


 サーヴァント戦が終わり、俺はレベリングしている。そんなことを繰り返すと、

 

「メイト君、しばらくフィールド探索禁止です」

 

 アスナが微笑みながらなぜか目が笑っていない。

 

 キリトは苦笑しながら、周りのみんなもやれやれと言う顔で見ていた。

 

「奏者は酷いぞっ。余を置いて一人で戦いの場に出ていて」

 

「セイバーはレベルが無いから、身体を休めていて欲しいんだ」

 

 俺がそう言うと、それでもとアスナがしっかりと、まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせるように俺を見ている。

 

「あなたのレベリングは後々のことを考えていない、無茶なものです。今日は何時間フィールドで、しかもソロで活動していましたか?」

 

「六時間」

 

 俺はしっかり時間を確認している。しっかりとユウキとセイバーを起こさず夜八時からレベリングに出かけ、午前二時に帰宅。その後セイバーたちとレベリングしたりして………

 

「どうしたみんな?」

 

 俺が難しい顔をするみんなの顔を見る。なぜかキリトだけがなにも言えず、どこか肩身が狭い様子で座っている。

 

 アスナは静かにこちらの目を見ながら、

 

「あなたはどうして、そんな無茶なレベリングするのかな~?」

 

「待ちがあれば一、二時間くらい休める」

 

「き・み・はッ!!」

 

 ユウキですら困ったなと言う顔で見ている。なにをそんなに怒っているのか。

 

「ああ」

 

「やっと分かってくれたのね」

 

 ぱっと明るくなるアスナ。どうやら正解らしい。

 

「キリト、今度からは一緒にレベリング」

 

「あーなーたーはーっ!!」

 

 両側の頬を掴まれ、がくがくと揺らされる。どうやら不正解らしい。ソロがいけないわけではないようだ。

 

「キリトはやっぱり攻略組として、自分のベースがあるからか」

 

 怒られた理由を考え込むとキリトは苦笑いした。

 

「ま、まあ、昔ほど無茶なレベリングはしないよう気を付けているが………」

 

「ねえねえ、メイトはなんでレベリングしているの?」

 

 ユウキがアスナから説教を受けている俺たちの間に入り、首をかしげて見つめて来る。

 

「やることが他にないから」

 

 そう言うと、なぜかみんな黙り込み、少しだけ話し合いが始まった。

 

「そう言えば、メイトは聖杯戦争の為に作られたNPCなんだもんな」

 

「ああ、それ以外に関して、彼はなにもない………むしろなんて言うか」

 

 キリトが歯切れが悪く、少し俺の方を何度か見る。

 

 何が言いたいか分かる。俺はおそらく、聖杯戦争以外に関する情報を削られているのだろう。

 

 戦闘情報以外必要最低限しか無く、後はソードスキルに関するプレイヤーとしての情報。

 

 それ以外に俺は必要としていない。これからもそれは、

 

「それはダメだぞ奏者」

 

「セイバー?」

 

 セイバーが必要ないと伝えようとすると待ったをかけた。堂々と胸を張り、高らかに俺に言う。

 

「いいか奏者よ。この世に無駄なんてものは存在せぬ。全て存在する意味があるのだ」

 

「俺の意味は〝上〟に向かうことだ。その為にリソースを回復させ、プレイヤーとしてレベルを上げることに、なにか問題があるのか?」

 

「ありありですっ」

 

 アスナがそう言う、セイバーも腕を組みうんうんと頷く。

 

「メイト君、いくらなんでもこれ以上無謀なレベリングを見過ごすわけにはいきませんっ。あなたはその後もユウキや他のみんなともレベリングしているんでしょう」

 

 それにこくんと頷き、それにアスナははあ~と長いため息をつく。

 

 ユイが服の裾を引っ張り、困った顔で、

 

「だめですよ、ママたちを困らしちゃ。めっ、です」

 

 そう言い、セイバーがその仕草に後ろから抱きしめようとして俺が止めておく。

 

 ともかくこの話はよく分からないうちに始まり、よく分からないうちに終わった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 メイトがセイバーと共に部屋に戻る。その顔を見ていたが、あれは理解していない。

 

「少し問題だよねキリト君」

 

 困った顔で話しかけるアスナ。確かに、俺もアスナも昔無茶なレベリングをしていた頃がある。それを知るクラインとエギルは腕を組みながらうなり、俺自身も考え込む。

 

「メイトは普通のNPCと違って考えるから、あまり深く考えていなかったけど、彼は目的以外、あまり考えていないのか?」

 

「ううん。ボクのことはかなり気にしてくれてるよ。一人でレベリングしないようにいつも話してるもん」

 

 ユウキがそう言い、リーファたちも、

 

「あたしたちともよく会話してるよ。なにが好きか、ここに関することとか」

 

「それはそうかもしれないけど、内容は」

 

「ソードスキルとかどういうのがあるのとか、そのフィールドにどんなモンスターがいるとか。後は町の様子とか」

 

 ………気のせいか?

 

「情報収集みたいだな………」

 

「キリト君もそう思う? わたしも彼との会話を思い出すと、全部攻略のための情報収集。悪い言い方になるけどそういうのばかり」

 

「け、けどあたしとピナの会話も聞いたりしてますよメイトさんっ」

 

 ピナの鳴き声と共にシリカが話してくれる。そうだ、全部が全部そういう会話だけじゃない。彼はしっかりみんなの話、言葉を聞いている。

 

 それでも彼は自分で行動するのはユウキのことと、聖杯戦争、戦闘の時。最近は周りの話を聞きに行ったりはするけど、

 

「自分から進んで話したりしない、のかな」

 

「そう言えば彼奴からの話ってのは、全部フィールドや攻略のことだけだな」

 

 クラインの言葉に俺は彼から聞く話の大半が攻略情報だけであり、後はユウキのことか。

 

 彼はユウキのことを考えている。レアアイテムを手に入れるとユウキに似合うか話したり………

 

「メイト君、趣味がなんだかお兄ちゃんみたい」

 

「お、おれ?」

 

 突然の名指しに俺は驚くが、

 

「無茶なレベリング、レアアイテム収集家。まあ確かにキリトだな」

 

「確かに」

 

 エギルやアスナがうんうんと頷き、俺は反論したかったがなにも言い返せない。

 

「なにか、彼に趣味でもやらせてみたらどうかしら?」

 

「そう言えば料理できたよね? エギルさんのお店で鑑定スキル上げたりするのもいいし」

 

「今度から一緒にいるとき、もっとお話ししたいと思います」

 

「そうね、似ているところなんて《二刀流》スキルだけで十分よ十分」

 

「そうですね。まあ向こうがお兄ちゃんって言うのは。なんか向こうの方がカッコイイですし」

 

「り、リーファっ!?」

 

 それに女性陣はくすくすと笑い、全員が納得していた。

 

「アスナまで………」

 

「ま、まあ、年上の男性って言うのでね。落ち着いているし、頼りになるもん」

 

「確かにですね」

 

 ともかく彼についてはみんなでよく見て話す。そういうことで決まったのだが、

 

(攻略のことだけ考えるか)

 

 それ以外のことを考える。そういうことすら削られた節がある。

 

 確かに彼が生まれた過程を知ると、むしろそれ以外の機能は必要しない。だけど、

 

(だけど。それだとどうしてAIが必要なんだ?)

 

 確かに的確な判断は必要だが、それでもエネミーみたいなもののように扱えないのか?

 

 AIを搭載する意味。それが分からず、ともかくいま考えても意味が無いと思い、談笑する女性陣を見ていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「みんながレベリングをやり過ぎていると言うが、フィリアはどう思う」

 

「やり過ぎているよ」

 

 呆れながら言われ、セイバーもまた色々と話してくれた。

 

 ともかく趣味を持つべきだと。それか誰かを愛するべきだと言う。

 

 後者は無視するが、趣味と言われても困る。料理する必要性はそれほどないし、釣りなどは興味ない。

 

 ユウキもかなり構ってくるが、フィールドに行こうとすると必ず止める。ユイもまめでお姉さんと言う顔でだめですよと優しく語り掛けて来る。

 

「セイバー、とりあえず二時間くらい《ホロウ・エリア》探索だ」

 

「うむ、余にすべて任せると良いっ」

 

 自信満々に言うセイバー。フィリアと共に歩く中、フィリアは不思議そうに俺を見る。

 

「どうした?」

 

「えっと、ほんと。本当にメイトってNPC、なんだよね」

 

「ああ」

 

 俺は作られた存在。SAOプレイヤーが聖杯戦争に勝つ為だけに用意した駒。

 

 それ以上でも以下でも無く、そこに意味も理由も価値も無い。

 

「それでもやらなきゃいけないことはある。それだけは、それだけは忘れることは許されない」

 

「上にいくため?」

 

「〝上〟へと向かうために」

 

「そう………。メイトが頑張ってくれるなら、わたしも安心だな」

 

 そう微笑むフィリアに対して、俺は静かに頷く。

 

 今日も結局、カルマ救済できるクエストは発見できず、彼女と別れる。

 

「それじゃ、また」

 

「うん、またねメイト。セイバーも」

 

「うむっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 少し夜遅く、部屋に戻るとユウキはうとうとして待っていてくれた。

 

「おかえり~メイト、セイバ~」

 

「起きてたのか」

 

「うん………だって、メイトがまた、むちゃしてないかな~って………」

 

 うとうとするユウキ。少し危なっかしく、すぐに布団に寝かしつける。

 

 静かに寝息を立てるユウキにほっとしながら、俺はセイバーがお風呂に入る為、服を脱ぎ出していた。

 

「ぬ? 奏者よ、まだコードキャストをいじるのか?」

 

「バスタオルくらいは巻いたらどうだ?」

 

「ふふ。見事だろうこの黄金比?」

 

 見せるようにポーズを取るが、

 

「セイバーには《黄金比(体)》は無いぞ」

 

「むっ、そういうことではない。まったく、そのような反応では、女子にモテぬぞ」

 

 少しだけすねるセイバー。俺はよく分からず首を傾げた。

 

 お風呂に鼻歌が響き、俺はコードキャストをいじる。

 

「む~、めいと~」

 

 そうしているといもむしのように動き、俺に張り付き、体重を預けるユウキ。

 

 後ろから手を伸ばしてコードキャストのウインドウに触れそうになり、すぐに閉じた。

 

「もう終わりっ、メイトはもう休まないとだめぇ~」

 

 そう言いながら張り付くユウキ。頬と頬がくっつき、ユウキが寝ぼけながら妨害してくる。

 

 確かに動きすぎたり、休まないと大事な場面でミスしてしまう。休まないといけないことは分かるが、俺は無理をしていない。

 

 それをどうにも分かってもらえず、ユウキは寝ぼけながらどうすれば納得してくれるか考える。

 

 少しはなにか話題を変えたり、楽しくお喋りすればいいのか? 楽しくお喋りとはどうすればいい?

 

 そう考えていると、クラインの言葉を思い出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その時メイトはユウキへと向きかえり、ユウキをベットへと押し倒した。

 

「………へ?」

 

 ユウキは吐息がかかるほど近くにメイトの顔があるのに気づき、自分を覆いかぶさっていることに気づく。

 

 なぜか両手は抑えられて、メイトの顔、無表情ではあるがそれでも意思がある凛々しい顔が視界に入る。

 

「めい、と………」

 

 そして静かに近づいてきて、

 

「可愛いよユウキ」

 

 そう耳元で囁いて、ユウキがしばらく考え込み、一気に恥ずかしくなって赤面して、湯気を頭から出して混乱した。

 

「えっ、あっ、め、にぇいと?」

 

 急に恥ずかしくなり、ろれつが回らない。変わらずメイトが耳元で囁くように、

 

「俺は元気なユウキが好きだ」

 

「にゃ、にゃーーーーーー」

 

「可愛いよユウキ」

 

「に、にゃーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 パニックになりじたばた足だけ動かすが、メイトは少しだけ微笑み、いじわるそうに続ける。

 

 彼が実践したのは壁ドン(ただし壁が無い為押し倒す)と女性に好きだ、可愛いと褒め言葉をささやくこと。

 

 その後ユウキの騒ぎ声にアスナが入り、セイバーはお風呂から出て驚き、自分も混ざろうとして止められたところ、

 

「メイト君……少し、お話ししようか?」

 

 そう微笑みながらメイトを引き離して連れて行き、アスナはクラインに明日お話がありますとメッセを飛ばす。

 

 側で事情を聞いたキリトは青ざめた顔でユイの耳と目を隠し、ユウキは真っ赤な顔のまましばし放心していた。

 

 彼女はしばらく、メイトと行動することを控えたらしい。




ユイは作られた順番で言えばメイトより年上です。メイトは色々な話を聞き学修しています。

これでも攻略最前線に出ていませんが彼はキリトたち、攻略組と変わりません。

ユウキの手を押さえつけたのもたまたま、誤解生むことを平気でします。

これから先どうなるか。ではお読みいただきありがとうございます。


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第11章・日常は続く?

 さまざまな出来事の中、フィリアと共に色々とここ《ホロウ・エリア》を調べ回る。だが最近、様子がおかしい。

 

「フィリア」

 

「えっ、あっ。な、なにかなメイト?」

 

「最近元気が無いけど、どうした」

 

「それは、な、なんでもないよっ」

 

 そう言って彼女は先に進む。それでも届き何か思いつめたように考え込むのを見逃していない。

 

 キリトたちにでも相談するか。ここには俺、セイバー、キリト以外も、キリトと共にアスナたちも来られる。

 

 キリトや俺を通じて他のプレイヤーと出会うが、それでもフィリアはここで一人、ずっと籠っているのだ。NPC、作られた俺ではなにもできないのだろうか。

 

 考えても何も思いつかない、仕方ないのだろう。俺はそう言う〝モノ〟なのだから。そう考え、セイバーが道を切り開く中、先へと進む。

 

 とりあえずいまは考えることしかできなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それはとある階層の町でセイバーと共に色々見て回ったり、買い物したりしている。セイバーと散歩と言うわけだ。

 

「あれれ~、メイトとセイバーだっ♪」

 

「ストレアか」

 

「おお、久しいなストレア」

 

 セイバーがそう言い、簡単な作りのレストラン。NPCの店で食事をしているらしきストレアと出会う。買い物をしたのか、傍らに可愛らしいぬいぐるみなどある。

 

「メイトたちも買い物? ねえねえ、一緒にご飯食べようよっ♪」

 

「うむ、余は問題ないぞ。奏者は」

 

「分かった」

 

 彼女はどうやら辛い料理を食べていた。見るからにそう言うたぐいというのがあった。

 

 自分たちも向かいの席に座り料理を頼む。料理を待つ間、ストレアはこちらをじっと見る。向かいの席だからと言うこともあるがずっと見ている。

 

「どうした」

 

「ん? メイトがアタシのこと見てたから、見てただけだよ?」

 

「目の前だからな」

 

「へえ………」

 

 ストレアが少しだけ悪戯を思いついた子供のような顔をした。なぜか目線を外しながら聞こえるように呟きだす。

 

「いっや~、少し熱くなってきたな~」

 

 そう言って汗をかいた身体で胸元を見せるようにしていた。

 

 そんな様子を見て、

 

「………」

 

「………」

 

 こちらの反応を見ているがすぐにぶーたれる。

 

「ぶーぶー、メイトはアタシの魅力的なボディに興味ないの?」

 

「?」

 

「? どうしたストレアよ。汗をかいて服を脱ぎたくなったか?」

 

「ここで脱ぐのはまずい、宿に帰って風呂に入るといい」

 

 そんな反応にストレアはぶーぶーと不満を言う。

 

 俺はなにか間違えただろうか? なにかに色々俺の位置では見えそうであるが、見えてないのだから気にすることではない。

 

 結局その後、ストレアも加わった買い物に振り回されるが、セイバーで慣れていたので気にせず共に歩く。

 

 セイバーだけ少し先に進む中、ストレアが腕を組んで目についた物を指さす。そんな風に過ごす中、ストレアが俺の顔を覗き込む。

 

「ねえねえ、メイトは楽しい?」

 

「楽しいよ」

 

「えぇ~、そうは見えないよ~!」

 

 そう言われても、

 

「セイバーやストレアが楽しそうだから、俺は楽しい。それじゃだめなのか」

 

「もっとこう、うおーーーーってならないかな!?」

 

「そうはならないな」

 

 ストレアが俺の身体に触れたり、抱き着いたりする。そんな触れ合いにセイバーも参加して、俺はもみくちゃにされながら休日を過ごすのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 リソース回復の為、食事を取りながら町を散歩する。様々なNPCやプレイヤーがいる中、俺はセイバーと別行動していた。

 

 セイバーとて自分の時間が欲しいと思った。この前の戦闘で真名を話していないことを気にしていたこともある。俺は別に真名を無理矢理知ろうとは思わない。

 

 俺は〝上〟に行く。その為に必要なら聞きたいが、いま無理に聞く方がいけないと思うからだ。

 

 なにより、別に聞かなくても俺が〝上〟に行くのに問題は無い。

 

 ユウキの件も気を付けている。彼女はいまだ自分たちと行動を共にする。彼女のことはシリカやリーファにも面倒見てもらい助かっていた。

 

 いまのところ問題は無い。そう考えていると、

 

「? シノン」

 

 シノンがどこかへ、一人で転移門を使うところを目撃した。

 

 シノンはまだ一人でフィールドは早いはず。PKするプレイヤーがいないとも言えない。

 

 フィリアのいる《ホロウ・エリア》。このエリアでもPKがあったらしく、キリトからその話を聞き、十分警戒している。

 

 ともかくいまはシノンか。メンバー全員に連絡するか考えた。セイバーもいないが俺は戦える。それに頷き、すぐに行動した

 

 転移門のデータをコードキャストで確認し、俺はシノンの後を追う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺は追跡スキルを使い、シノンを追った。コードキャストで時間がかかったが確実にこの層にいるのは確かだ。

 

 場所がどんどん強力なエネミーが出る危険地帯へと入る中、悲鳴が聞こえた。

 

「シノンっ」

 

 急ぎ駆けだすとシノンがエネミーに囲まれ、HPも心持ない。

 

 シノンがいるのを確認してすぐに俺は死相(デッドフェイス)を纏う。俺はそれを纏うことでエネミーを蹴散らすことは容易にできた。

 

 唖然とするシノン。すぐに回復したてのリソースが底を尽き、膝を付く。

 

「メイトっ」

 

 リソースが切れ、すぐに立ち上がることはできなかった。だが駆けつけたシノンを見る。問題なさそうだ。

 

「シノン、無事か」

 

 いまはそれしかいまは言えない。

 

 なんとか剣を支えに立ち上がり、その様子にシノンは塞ぎこむ。

 

「ごめんなさい………」

 

「シノンやリーファは《ナーヴギア》じゃないかもしれないけど、HPが無くなるのは危険だ。なんでこうな無茶を?」

 

「そんなこと、分かっているわよっ」

 

 前衛で無いシノンではここは危険なのは本人も分かっていた。彼女はそう言い、悲しそうな顔をする。その顔を見たとき、俺の中にあるそれが囁く。

 

 ああそうか、シノンは………

 

「でも……そうなるのなら、それでもいいと、思った………」

 

「………死んで良いと思ったのか」

 

 死を求める者。現実を受け入れられず死を求めたデータがある。俺には永遠に分からない感情なのだろう。俺はすでに死者であり、生者ではないのだから。

 

 なによりシノンは自分の身体を抱きしめるようにして震えていた。

 

「このまま無力に怯えて生きていくよりか………」

 

 俺の問いかけに答えるシノン。だけどすぐに首を振る。弱々しく立ち上がった俺に近づき、小さく呟くように話し出す。

 

「けど、HPが赤くなって、これで消えるのかと思ったら……怖くなった」

 

 静かに俺の胸に顔を押し付け、彼女は震える身体で呟く。

 

「怯えたまま……ずっとなにも出来ないまま終わってしまうのが……。辛……くて、悲しくて………」

 

「シノンたちはそれでいい、それが正しいんだ」

 

「メイト………」

 

 泣いている彼女を見ながら俺は言う。

 

「俺は作り出された〝モノ〟だ。始まりの感情もなにもかも、他人が定めたものだ」

 

 だけど、

 

「〝上〟に行くこと、そしてシノンを助けたことは、俺が決めた俺の意思だ」

 

「!」

 

「………生きていてくれてよかった」

 

 そして涙を流すシノン。しばらく周りを警戒して彼女が落ち着くまで側にいる。

 

 色々話をした。だいぶ記憶は取り戻していて、自分がここに来る前のことを呟く。

 

 とある治療のため、フルダイブ技術を使った治療を受けるはずだったらしい。

 

 どんな病気なのかはいまは言いたくないと彼女は言う。だが記憶を取り戻し、少しでも前進したかったとのこと。

 

 ともかく落ち着いたシノンになにか思い悩んでいるのなら、キリトたちに相談するなりすればいいと言うが、

 

「うん。だけど、これは私の問題だから、私にしか解決できない………。彼奴らなら、一緒に悩んでくれるのは分かってる。それでも」

 

「分かった、シノンがそうしたいのなら、俺はもうなにも言わない」

 

「………うん」

 

 そう言い彼女と共に町に戻り、俺はまたリソース回復のため動き回る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それはセイバーとメイトが《ホロウ・エリア》でフィリアのカルマ救済イベントを探している時間。メンバーが集まりながら彼らについて話し合っていた。

 

「まずは悪い噂は、NPCってところで少しだね。彼に攻略まで任せようって話」

 

 ギルド組であるアスナとクラインは他のギルドリーダーとも接点があり、そういう話を聞く。

 

 これでも彼らの扱いは良くなっている。一時期チートなど言われていた。

 

 彼は強く設定されて作り出されたNPC、日々恐怖と戦いレベリングしているプレイヤーからすれば納得できない点がある。なにより彼が上に行くのも、そう設定されているからと認識されていることもあるのだ。

 

「俺は少し違う気がする。サーヴァントもそうだけど、彼はなにか違う気がするんだ」

 

「うん、わたしもそう思う。二人とも、というよりサーヴァントたち。みんな自分の意思ってものを感じるわ」

 

 それに全員が頷き、シリカたち直接対峙していないプレイヤーは噂だけしか聞いていないが、

 

「確か、人間らしいんですよね? メイトさんと会話しててもNPCとか、忘れちゃいます」

 

「ええ。彼奴なんて言うか、町の中にいるNPCって感じじゃないもの」

 

「………AIを搭載された、NPCかもしれない」

 

「それって」

 

 俺の言葉に全員の視線が向けられる。ユイも静かに頷き、俺は静かに口を開く。

 

「自分で考え、学習して行動する。けど」

 

「それはメイト君だけだよね? それとセイバーさん」

 

 そう、メイトとセイバーは学習する節はある。

 

 元々上に行く、鋼鉄の城《アインクラッド》を攻略することを前提にして動くメイトとセイバー。だが少しだけ俺は疑問に思う。

 

 まずはセイバーだが、少しだけあの〝リン〟と言う存在、彼女との会話はまるで知っている反応が気になる。

 

 それは主人であるメイトより多くの情報を持っていることを言うが、これはおかしい。

 

「おかしい? なにがおかしいのお兄ちゃん」

 

「聖杯戦争ってゲームは、まずマスターがサーヴァントを呼んで戦うゲームだ。情報量で言うのなら、プレイヤーであるマスターが多く持っていても不思議じゃない」

 

「そっか、メイト君はリンさんを知らないけど、セイバーさんが知っているのはおかしいっ」

 

「それだけじゃない、セイバーは〝前々回〟と〝前回〟と言う言葉を使った。これじゃ、セイバーはまるで前に聖杯戦争を参加しているようだろ?」

 

 それに全員が首をかしげたがエギルが気づく。

 

「もしも情報を多く持ってるなら、メイトや俺らに話していてもおかしくないってことか」

 

「ああ。セイバーはあえてなにも言わない、そんな印象なんだ」

 

 それに全員が驚き、同時にどうして話さないか分からず、首をかしげた。

 

 現状リンのように、情報に規制がかかっているからだろうとしか言えないが、それでも設定からおかしい。

 

「それに正直サーヴァントたちも行動がおかしい。清姫とかはいいけど、カルナとか」

 

「彼はまるで召喚されたから戦うって選択をした。だけどそれは俺たちSAOプレイヤーとは戦わないっておかしなものだ」

 

「うん。ただのゲームならプレイヤーであるわたしたちと戦わないって」

 

「ああおかしい。それなら前の四人組。アンとメアリー、ロビンフット、ドレイク船長も」

 

 ロビンフットなんか忠告するように戦い、メアリーとアンも本気では無かった。それがそもそもおかしい。

 

 確かにHPゲージが減ればボスエネミーはパターンを替える。だがそれでもおかしいのだ。

 

「なあ、本当に聖杯戦争はゲーム(・・・)なのか?」

 

 クラインは自分でもバカバカしいと思いつつも、みんなにそう訪ねた。

 

 その言葉にみんなが固まる。誰もまさかと思いながら言葉を受け止める。

 

「それってここのようなゲームだって言うの? そんなまさか」

 

「無いのは分かってる。けど、なにかが違う気がする」

 

 何かが違う。そう考える中、

 

「なあ、メイトが言う〝上〟ってなんだ?」

 

「あ? そりゃオメェ、ここの100層のこと」

 

「本当にそうか? 彼奴はただ上を見て〝上〟としか答えていないだろ」

 

「………」

 

 誰も何も言わなくなった。

 

 目的が上へと進むことのNPC。それがメイトでは無い気がする。

 

 彼奴の言う〝上〟はなにを指す?

 

 答えが出ないまま、俺たちは静かに解散した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メイトって、いつもセイバーと一緒だよね」

 

「? ああ。サーヴァントだからな」

 

 セイバーが一人先に進み、花や景色を楽しみながらこのエリアをくまなく探す。

 

 しばらくこの辺りを調べられるようになってから、俺はセイバーを連れて歩いていた。そんな中、フィリアがそんな話をしてきたのだ。

 

「サーヴァントってさあ、別々に行動できないのかな?」

 

「どうだろう。けどこの前、俺が宿にいる間、セイバーだけ別の階層に出かけていた。だから平気なんだろう」

 

「そうなんだ」

 

 フィリアはなにか思いつめた顔をしながらそう呟く。

 

「どうした」

 

「………ねえ、メイト」

 

 その時、彼女は静かに口を開いた。

 

「話があるの、今度、一人でこっちに来てくれないかな?」

 

 その言葉に俺はああと答え、セイバーにはシリカ辺りにお使いを頼めばいい。

 

 彼女はなにか思いつめている。それを感じて、そして考えて答えた。

 

「ありがとう、メイト」

 

 そう彼女は微笑んだ………

 

 ただどこか儚く、悲しそうに見えた気がした。これはなんなのか分からない。次会うとき、いつものフィリアならいいのだが。

 

 約束をしたあとはセイバーを追い、俺も急ぐ中、フィリアの視線を感じつつ、彼女も後を追ってくる。

 

 ともかく次会うときだろう。そう思い、探索をつづけた………




イベント、イベント、そして不穏な影。そして新たな問題にメイトが関わり出す。

お読みいただきありがとうございます。


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第12章・死者の覚悟

 変えられない、変わらない。データはデータで、わたしは………

 

 キリトたちは優しすぎる、優しすぎるよ。

 

 わたしは、わたしは………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 フィリアに呼ばれ、俺はセイバーにお休みを言っている。俺自身も町を楽しむと言っておいた。

 

 一人でここに来るとフィリアは少しだけ微笑む。彼女と共にフィールド探索を始める。

 

「ほらここ」

 

「隠し扉か」

 

 ダンジョンの奥地、そこで隠し扉を見つけた。彼女は自称ではあるがトレジャーハンターを名乗るほどの腕前だ。

 

「ほら、あそこに」

 

「宝箱だな」

 

 彼女が指さすところに宝箱がある。俺はすぐに取りに行かず、フィリアも少し待ってと呟く。

 

「わたしが確認してくるから、メイトは入口を見張っててくれないかな?」

 

「ああ」

 

 そう言い、少し離れた位置にある宝箱を調べに距離を取る。

 

 宝箱を開ける様子のフィリアは、ふとその作業を止めた。

 

「ねえ、メイト」

 

「どうした」

 

「わたしが、オレンジになった理由、メイトには話して無かったね……」

 

「それは」

 

 フィリアは話すのは人を殺したからオレンジカーソルに、彼女はそう告白していた。

 

「わたしが人を殺した理由……人を、殺してしまったの」

 

「フィリア。けどフィリアになにか事情があったんじゃないのか」

 

 どうしてそうなったか分からない。だけど

 

「俺にとっていまのフィリアしか知らない、理由も無く人を傷付ける人間じゃない」

 

 俺はデータだ。人間との間に溝があろうと、それくらいの判断はできる〝モノ〟だ。それでも信用できる人かどうかの違いは分かる。

 

「フィリアは信じられる。だからこそ、それにはなにか理由がある。そうじゃないのか」

 

 俺の言葉を聞き、その言葉に彼女はただ静かになり呟くように語り出す。

 

「違う、わたしはそんな人じゃない………」

 

 悲しそうに、否定するように俺を見ていた。

 

「わたしは人を殺した。ううん、それより酷い。わたしは〝わたし〟を殺したの」

 

「どういうことだ」

 

「わたしはキリトやメイトのように、気が付いたらここにいたって話。その話には続きがあって」

 

 そして彼女は語る。そのまま彷徨っていたら、突然誰かが目の前に現れた。それは〝フィリア〟だったと話し出す。

 

「それは特別なイベント、だったのか」

 

 俺もまたここに来てから色々なクエストを受けた。そんなことはイベント以外あり得ないはず。

 

 だがその言葉に首を振る。

 

 彼女は必死に無我夢中で行動した。そして気が付けば一人であり、カーソルもオレンジだったと語る。

 

「わたしは、わたしを殺したからかなって………」

 

「フィリア」

 

「だから、わたしのカーソルを戻してもその罪は消えない」

 

「待て、落ち着けフィリア」

 

 なぜか分からないが目の前に〝フィリア〟がいて、それを傷つけたとしてもそこまで思いつめる理由が分からず、俺は声を上げるが届かない。

 

「わたしの罪は消えないッ。ずっとッ、ずっと影の中で生きて居なきゃいけない………」

 

「そんなことないッ」

 

「あなたに何が分かるのッ。ただのデータッ、NPCなのに!?」

 

「フィリ」

 

 その時、彼女が何かをした。

 

 仕掛けが動く音が鳴り響き、突然身体が宙に浮く。

 

「さようなら、メイト」

 

「フィリアッ」

 

 身体を伸ばす。コードキャストはリソースが足りない。

 

 そのまま俺は暗闇の中に落ちていく。

 

 彼女の、とてもいまにも泣きそうなほど、悲しそうな顔を見ながら………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 落ちていく。

 

 堕ちていく。

 

 オチテイク。

 

 果てしない暗闇へと落ちていく。

 

 ――ごめんね………――

 

 その言葉を聞くまでは。

 

【アァァァァァァァァァァァァァァァァァ】

 

 リソースがどうした。

 

 何かが背中を貫き、腹へと貫通する。

 

 それがどうした。

 

【アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ】

 

 死に満ちろ。

 

 憎め。

 

 にくめ。

 

 憎メ。

 

 俺がどうしてここにいる?

 

 俺は何者だ。

 

 俺はなんだ?

 

 答えは出ているだろう。

 

 なら、動け。

 

 意味の無い、理由も無い、価値も生も無い。

 

 何も無い俺だからこそ、俺なのだから。

 

 望みは果たされないのは理解している。

 

 ささやかな願い、小さな願望、存在しない希望。

 

 未来なんていらない。これからすることを考えればそれが当然の末路だ。

 

 叶わないと知りながら、始まりも終わりも無い、未来が無いと知りながら俺は進む。

 

 それしかない。

 

 それでもいい。少なくてもいまも過去も、これからもそう思う。

 

 だからこそ、

 

【俺はまだ彼女と話さなければいけないッ】

 

 メイトと言う名を刻んだ、死者であり、彼女の仲間なのだから。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メイトの奴、一人で《ホロウ・エリア》に。フィリアもいない、二人になにかあったのか?」

 

「パパ」

 

 俺はメイトがいないことに気づいたセイバーが急ぎ周りに救援を頼んだ。曰く、パスと言うものを手繰ってもメイトの下に行けないと言うこと。

 

 彼女の話を聞き、俺はユイを連れてここを調べることにした。

 

 ここは《ホロウ・エリア》のコンソールらしきものがある場所。このエリア事態にユイを連れて来たのは初めてだ。

 

 そして知ったのは、ここは運営側がデータチェックするためのテスト空間であること。

 

 俺はここ《ホロウ・エリア》にプレイヤースキルの高さから、テストプレイヤーとして召喚されたらしい。

 

「メイトやフィリアは」

 

 メイトの方はなにも分からないが、フィリアは俺のようにテストプレイヤーとして選ばれていないらしい。ここのエリアにいるプレイヤーは全てAIを搭載したNPC。

 

「メイトのようなものなのか………」

 

 AI搭載されたNPC。彼らは一見プレイヤーと見間違うほどであり、すぐには分からなかった。そう言えばメイトはここでプレイヤーと会っていないと何度も言っていた。まさか彼はAI搭載型NPCとプレイヤーの区別がついていたのかもしれない。

 

 どうやらこの空間にプレイヤーが来るとシステム上NG判断され、そのプレイヤーのAIは削除される。だが例外があった。

 

「フィリアさんのデータにエラーが表示されています」

 

「フィリアが」

 

「はい。どうやら自分のAI。ここで言う《ホロウ・データ》と出会ったようです。しかも、どうやら《ホロウ・データ》を傷つけて彼女はオレンジ判定されています」

 

「なんだってっ!?」

 

 その時、

 

「それは本当か」

 

「「メイト」さんっ!?」

 

 入口に今しがた来たのだろうメイトがいた。メイトはその話を聞いてすぐに振り返る。

 

 あの姿、死相(デッドフェイス)になり即座にどこかへと出向く。

 

 おそらくなにかあったのだろう。彼一人と言うことはフィリアに。

 

「ユイ急いでフィリアを探してくれっ、メイトはおそらくフィリアに会いに行った」

 

「は、はいっ」

 

 俺はすぐに出かけられるように装備を整え、静かに待つしかない。

 

 頼む、無理はしないでくれ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 わたしはメイトを殺した。

 

 NPCだからなんて言葉で彼を拒絶して、騙されて殺したんだ。

 

 死なないと言われた。だから突き放した、わたしの同じ虚ろな彼を、わたしは彼を殺した………

 

 許されるはずがない。彼を傷つけた、酷いことも言った。

 

 わたしは自分だけじゃなく、友達も殺したんだ………

 

 わたしを殺すため、奴は首を跳ねようとする。

 

 向こうで会えるかな………

 

 ごめんね、メイ

 

【アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ】

 

 叫び声が聞こえた。

 

 いくつもの〝なにか〟を壊し、それは何かを弾く。

 

 わたしはある男に首を掴まれ、持ち上げられていたけどそれで吹き飛び、尻餅を付いて現れたものを見た。

 

 目の前には人型の暗闇がそこにいる。その時、暗闇が消え、いつもの彼の顔が見えた。

 

「無事かフィリア」

 

 そう彼はなんてこともないようにわたしに語り掛けた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「アァン? お前さんは確か、死んだはずだが~」

 

 肉切り包丁のようなものを持ちながら、ポンチョとフードを深々と被る男性プレイヤーは静かにこちらを見る。

 

「………お前が傷つけたのか」

 

「おいおいよしてくれ、お前を傷つけたのは俺じゃねえ……、そいつ、だろ?」

 

「黙れ、貴様がどう言ったか知らないが、データであるお前が、なぜプレイヤーであるフィリアに危害を加える」

 

「えっ」

 

 俺はフィリアの前で、ここ《ホロウ・エリア》に置ける《ホロウ・データ》のことを言う。そいつはそれに笑いながら、そして静かに武器を構えた。

 

 自分は《ホロウ・データ》であることを理解している。それはそう言う。

 

「データ同士、仲良くしようじゃねえか」

 

「ふざけろ。フィリアがこんなことをしたのも、お前がそそのかしたのか? フィリアが《ホロウ・データ》とでも言ったのか」

 

「それ……は………」

 

 フィリアはそれに驚き、それは頬を釣り上げた。

 

「そう言う事か」

 

 フィリアは自分の方が《ホロウ・データ》と思い込み、感情が不安定なところをこいつに騙された。それを知り、俺の中にある死が燃え上がる。

 

 それはなにが目的か聞くと、自分が手に入れた権限を使い《ホロウ・データ》をアップデートすることすることで、人殺しの楽園を作ると言い放つ。

 

 それはどうやら、データでありながらキリトと同じテストプレイヤーの権限を手に入れ、自分で考えて動き出していたようだ。

 

 そしてこいつはゲームクリアが同時に自分の消滅、人殺しの終わりを意味することを知り、阻止するつもりらしい。

 

「お前はそれでいいのか、お前は死に囚われている」

 

「いいじゃないか、生きてるってことは、殺すってことさあっ」

 

 それを聞き首を振り、静かに見つめる。

 

「もういい喋るな。お前の元になったプレイヤーも外道なんだろう」

 

 俺も武器を構え、静かにフィリアの前に立つ。

 

「《黒の剣士》様が来る前に、お前さんたちを殺していたら。くっふふ……サプライズなことになるだろう」

 

「お前に俺は殺せない」

 

「なに?」

 

 その瞬間、俺は〝俺〟を纏う。

 

【お前に死者は殺せない】

 

 なんてことはない。ただのデータ風情が、死である俺に勝てるはずもない。ただ雷光のように動いて斬り裂いた。

 

「な………に………」

 

【サプライズってのは、こういうことだ】

 

 そう言い、胴体と腕を斬り裂いた後、身体はHPゲージを残す。僅かに顔を上げるが俺は静かに近づき、武器を遠くへと蹴り飛ばす。

 

「お、お前………」

 

【悪いがお前の楽園は〝死ぬ〟。俺の手でな】

 

 そいつは何か言いたげになるがその前に足を置いた。

 

【お前の名前は憶えない。覚える価値すらない】

 

 そう告げて踏みつぶす。

 

 それが何者かなんて俺には関係ない。それは俺の記録にすら残らずあっけなく消えただけの話だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その後俺はフィリアと会話した。

 

 彼女が倒したという自分は、このエリアでのテストAIである《ホロウ・データ》のフィリアであること。

 

 キリトと合流して彼がログを確認したことから、11月7日の75層でエラーが起きた。

 

 それは本来ならSAOプレイヤーが仮想世界から解放されるはずだった日であり、そのシステムエラーによってここにフィリアは来てしまったのだ。

 

 その後出会うはずの無いホロウの彼女と出会い、混乱している中でシステムはホロウのフィリアを消した。

 

 だがシステムエラーの結果、彼女をオレンジになってしまったと説明を受ける。

 

「それじゃ、わたし………」

 

「フィリアは現実の世界にちゃんと存在する〝人間〟だよ」

 

 それにどこかほっとすると共に涙を流す彼女。

 

「わたし、ずっと怖かった……。なにも分からなくなって、空っぽになって。二人と出会ってから、満たされてたのに……」

 

 俺の方を見ながら涙を流す。

 

「ごめんねメイト……だまして、傷つけて……わたしは」

 

「構わない。あれはフィリアの意思でも、あのデータに騙されたんだ。だから俺は気にしない」

 

「メイト………」

 

 他にも言葉があるだろうが、俺にはこれ以上気の利いた言葉は思いつかない。

 

 ただ彼女がちゃんと向き合い、整頓できればそれでいいから。

 

「キリト、あのデータが最終的になにかシステムのアップデートするつもりらしい。俺が止めて来るよ」

 

「できるのか?」

 

 それに静かに頷く。キリトにはフィリアと共に残ってもらい、俺が中央コンソールへと出向く。

 

「セイバーが心配してたぞ」

 

「彼女には謝らないといけない」

 

「メイト」

 

 心配するフィリアには静かに頭を下げた。

 

「ごめん、けど、これは俺にしかできないことだから」

 

「………分かった。気を付けて」

 

「ああ」

 

 こうしてキリトたちと別れ、俺は中央コンソールのある場所へと歩き出す。

 

 彼らにはすまないと思う。

 

 けど、これは〝俺だからできる〟ことだから………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 中央コンソールに近づき、フィリアのシステムエラーやあの《ホロウ・データ》が残したプログラムの破棄などを行うと、彼女は現れた。

 

「驚かないのね」

 

「ああ」

 

 リン。彼女はおそらく普段はここに潜み、SAOに介入しているのだろう。ここにはSAOのコピーデータやシステムのチェックなど容易にできる。

 

 彼女の顔は見えないが、どこか悲しそうにしている気がした。

 

「あなたは、初めから知っているの」

 

「いいや、全てでは無かったよ。フィリアの下に行こうとした際、いくつかセキュリティシステムがあったが、なぜか《ホロウ・エリア》へのアクセス権限を持っているのに気づいたとき、自分がなんなのか再度確認した」

 

 それまではただ死のデータでできた〝モノ〟と思ってた。だが《ホロウ・エリア》に関するデータと自分のデータを照らし合わせた。死のデータ以外の別のデータ、そのデータがここやコンソールアクセス権を持ったものであったのは助かった。

 

 それでも俺は変わらない。

 

「初めからどうこうなんて俺には関係ない。けど俺のやることは変わらない」

 

「………そんな風にされたのか、そうなったのか。私からすればどうすればいいのかしらね」

 

「喜べばいい」

 

 全てのやるべきことをして俺は振り返る。

 

「俺は〝上〟を目指す。俺が何者であるかなんて関係ない。俺が〝俺〟である限り、俺はそうしなければいけないし、俺がそうしたいと思うのだから」

 

「………彼らには感謝ね。あなたが〝あなた〟であることは、私たちにとって幸運なのだから」

 

「俺は〝上〟を目指すよ、セイバーと共に」

 

 そうして俺は歩き出す。戻った先でグリーンに戻った彼女と共に、あの鋼鉄の城へと戻らないといけないから。

 

 やるべきことは変わらない。俺は〝上〟を目指す。

 

 それが俺の選んだ選択であり、俺が生まれた理由なのだから………




フィリアイベント終了。この後フィリアは鋼鉄の城に帰還。

それとか言われている《ホロウ・データ》さんは、結局メイトにとってただのデータの固まりとしか認識されず、削除されます。相手のやり取りを全部するとキリトの代わりになるので、彼は徹底的に相手を知ろうとせず倒しました。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第13章・絶体絶命

「またサーヴァントの戦いが起きる。今度は棄権者は出ないかしら」

 それは静かに階層に呼ばれた英傑たちを見て、少しだけ笑みをこぼす。

 彼らならば気に食わないだのなんだの文句は無いだろう。その結果を見ながら、次にプレイヤー側を見る。そちらは少しばかり目を疑いながら、その光景を理解できなかった。

「プレイヤー側はなにを考えているのかしら? まあいいわ」

 自分たちが勝利すればそれで問題ない。

 ウインドウの中でメイトが映る。忌々し気に憎み、睨みながら彼を見る。

「この階層でお前が死ねばいい、死ね、死ね人形ッ」

 そう叫び、ウインドウを開き、作業を開始した………


 フィリアの一件が終わり、いろんなところを見て回る。セイバーはいま好きに町を見て回る。いまは一人の時間だ。

 

「きゅう♪」

 

 そうして辺りを散歩していると頭にピナが止まる。

 

「あっ、メイトさーんっ」

 

 ピナが頭に止まる中、シリカが走って近づいてくる。

 

「すいません、こらピナ、メイトさんの頭から離れなさい」

 

「きゅう………」

 

「別に気にしないよ」

 

 そう告げて彼女と共に町を見て回る。

 

「ユウキはどうかな」

 

「はい、ピナや他の方と一緒にクエストを受けたりします」

 

 ユウキともたまに行動を共にするが、妙なことにはなっていない。とりあえずあの子は表面上は元気だ。

 

 だからこそ不安になり、見た目年齢が同一と思われるあの子が心配ではある。

 

(だからと言って俺では手に負えないことではある)

 

 そんな日々の中、新たな聖杯戦争が幕を上げる。攻略組からしたらかなり頭痛の種がある中で………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「新しく見つかったのって、メイトがいなきゃいけない戦い。だっけ」

 

 いまはボクたちはフィールドでレベリングに向かうところ。リーファ、リズ、シリカと一緒にフィールドに。ボクたちはフィールドでレベリングしようと言う話になった。

 

 公園でみんなを待つ。前の戦いも大変だったって話で、少しだけ心配だな。

 

「上の空だね」

 

「えっ、あっ、はいっ」

 

 その時白衣、お医者さんのような人が話しかけてきた。

 

「あまり周りを見ずに歩くのは危ないよ」

 

「ごめんなさいっ」

 

 少しばかり上の空、ボクは少し周りを見てなかった。近くに人がいたことに気づかなかった。

 

 眼鏡を直して微笑むこの人はプレイヤーなんだろうな。受け答えしているその人は公園のベンチに座っている。

 

「攻略組が気になるのかい」

 

「えっと、はい」

 

「なら問題ないよ。彼はこの程度で終わるはずがないからね」

 

 彼って、誰のこと言ってるんだろう? キリトたちの誰かの知り合いかな? その時ボクは園内の外、キリトたちが向かった方角を見つめた。

 

「戦いとは悲しい。だけど人を成長させるためには仕方ないこと。いずれ彼も私と同じ〝モノ〟になる」

 

「えっ」

 

 後ろから聞こえた言葉に振り返ろうとしたとき、

 

「ユウキ~」

 

 ボクを呼ぶ声に気づいてそちらに振り返って手を振る。

 

「リ~ファ~」

 

 手を振ってからボクが振り返ると、

 

「あれ?」

 

 その人はそこにいなかった。ボクは気にせずに、ただメイトたちが戻ることを信じて、いまはできることをやるだけだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト、なんか今回の攻略組、多すぎねえか?」

 

 クラインが言うように、今回プレイヤーが倍近く増えていて、いつもよりもボス部屋の前で多くのプレイヤーが話し合っていた。

 

「クラインもか。一応アスナが目を光らせているから、レベルは問題ない」

 

「レベルは?」

 

「人が多くてどんなプレイヤーなのか、確認が後々になったらしい」

 

 苦々しくキリトが言う。それにクラインはふざけているのかと、新規に入ったメンバーを睨む。

 

 別段弱そうではないがボス戦と通常戦は勝手が違う。なによりいまから行くのはサーヴァント戦。なにが起きるか分からない。

 

「大丈夫なのか?」

 

「………」

 

 キリトは難しい顔をしながら、メイトはそんな中でも気にもせず、ボス部屋へと出向く準備をしていた。

 

 少しだけ気を付ける。それがいけなかったことに彼は後々気づく………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 光の無い道を歩く中、しばらくしてまた開けたフィールドに出た。

 

「今回は戦場か?」

 

「東洋の戦場みたいだ」

 

 日本の城、中庭のような場所であり、それ以外には城壁で囲まれている。全員がどよめく中、混乱を鎮めるアスナの号令が響く。

 

 だがアスナの号令、いくら他ギルドでも大手である《血盟騎士団》の号令を聞いても、

 

「おい向こうになんかあるぞっ」

 

「は?」

 

 そんな声に陣形がいともたやすく崩れる。

 

「あなたたちっ」

 

 アスナが咎めるように叫ぶがかなり無防備のプレイヤーに、

 

「へ?」

 

 刀が振り下ろされた。眼前に突然現れた刀身、だがすぐに深紅の剣が間に入る。

 

「うわっ」

 

「なにをしているッ。ここは戦場だぞっ」

 

 セイバーの言葉に目の前にいる白髪のような桃色の髪。誠の羽織を着こむ剣士は僅かに舌打ちし、そして、

 

「さあ殺ろうか」

 

 セイバーに即座にコードキャストを展開して身体強化を行う。斬撃を避けたセイバーは、その威圧に気づく。

 

 二人のサーヴァントが現れる。一人は西洋の装いをしていて、鬼のような形相でこちらを見ていた。一人は誠の羽織を着こむ剣士。

 

「………まずい」

 

 メイトはすぐに切り替えた。

 

「キリト、生き残っていてくれよ」

 

「? それは」

 

 その時、高笑いと共にチャリオットに乗る戦士が現れた。その男が即座に集団へと向けて突進してくる。

 

「タンクッ」

 

 アスナの号令と共に盾が現れると共に彼、メイトはすぐに突進した。それと共にコードキャストの防壁が更生される。

 

 彼が身の守りをこちらで受け持ってもらうことでどうにか耐えられた。その中でも、

 

「はあッ、話が違うッ」

 

「おっ、おい、助けてくれッ!!」

 

 そんなバカなことを言う連中がいて、僅かに陣形が崩れたところ戦車がひき殺す。

 

 一気に陣形が瓦解し、キリトもまた不完全な盾の所為で吹き飛んだ。

 

 顔を上げたキリトはゼロになったプレイヤーがいないか確認し、レッドになる者はいたが最悪な結果にはならなかったことに安堵して、

 

「なっ」

 

 それに目を疑った。

 

 死相、デッドフェイスと言う姿になる彼の攻撃を、

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラッ」

 

 

 

 一斉合切避けず受け止めて無傷の相手に絶句した。

 

 

 

「メイトっ、セイ」

 

 その時、セイバーはセイバーで絶技の戦いをしていた。

 

 目にも止まらない速さの剣げきと、鬼のような怒涛の攻めに辛うじて耐えている。

 

「なっ」

 

 ここでキリトが把握したのは、この階層。サーヴァントたちは、

 

「殺す気でいる」

 

 全員が全員、戦うを選択した面々だったといま悟った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦車から引きずり下ろしたそれと戦うが、全く傷がつかない。

 

 それにはすぐに神々の加護が関わると知り、内心手段が無いことに焦っていた。それだけでなくそれは駿足だったのだ。

 

「オッラッ」

 

 楽し気に戦いを楽しみ、自身の強化を平行して行わなければすでに死んでいると理解する。するがそれ以上のことができない。

 

 先ほど防御を一任してもらったが瓦解したのを見て、すぐにまた少ないがリソースを向こうに割いた。

 

 僅かに視線を周りに向けて考える。

 

「はあああああああああ」

 

「邪魔だッ」

 

 種子島と刀の攻撃の中、神速と言えるほどの速さの剣士。二人の攻撃にセイバーは身体強化を受けながらどうにか戦えていた。

 

(だがどうにかだッ。これ以上どうすれば!?)

 

 苦虫を噛み、セイバーが対処する中、弾丸がプレイヤーに飛ぶ。それはすでに展開されているコードキャストで防がれているが、

 

(手が、足りない)

 

 それが彼の本音だ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「シノン、彼奴らの真名に心当たりは無いかッ」

 

「………」

 

 真名看破のために参加する彼女は、剣士を見ながら与えられた知識を参照していた。

 

「たぶん、セイバーが相手にしている二人組は新選組の侍よ」

 

「マジか」

 

「西洋の格好で侍はかなり少ないから。有名どころで沖田総司だけど、女なのか分からない。男が沖田じゃなくても凄腕の剣士のはず」

 

「女の沖田総司?」

 

「彼から史実と性別が違うのはよくあるって聞いたわ」

 

 アスナが疑問にシノンは答え、彼女は冷たい刀のようにセイバーの隙を縫うように斬り込む。

 

 傷ができてもすぐに回復されるが、このままでは致命傷をいつ受けてもおかしくない。

 

「もう片方は分からない、槍に駿足? ランサーなのかライダーなのかもわからない」

 

「このままじゃリソースが尽きる。すぐに陣営を整えてこの防壁くらいは消させないと」

 

 そう言うキリトに待ったをかけるプレイヤーたちがいた。新規の攻略組だ。

 

「な、なに言ってるんだっ。そんなことしたら死んじまうだろ」

 

「なにを言ってるんだっ。このままじゃメイトが負けて、俺たちの負けだぞっ」

 

「つぎ、次にかければいいだろっ。だって」

 

 それは攻略組云々ではなく、キリトたちにとって許せない言葉だった。

 

 

 

「ただのNPCが消えたところで、また作ればいいだろっ」

 

 

 

 その言葉に絶句し、なにを言っているか分からない。

 

「なに言ってる。また作る? そんなことできるはずないだろっ」

 

「なに言ってるんだよっ、彼奴はこの戦いの為に作られたんだろ? ならまた作れば」

 

「んな権利俺らにあるかッ。テメエらこそなに言ってるんだっ!?」

 

 その時動揺する新規のメンバーにキリトは噂話で、彼の存在が便利なアイテム扱いであることを思いだす。

 

(まさかこいつら、メイトが量産できるとか、サーヴァントに次があるとか思っているのか?)

 

 考える。だが、心の中であり得るのかと言う疑問が浮かび、すぐに否定した。

 

 明らかにメイトが作られた理由は特別処置。それで敗北して、だからと言う理由で再度同じことがされる保証は無い。

 

 なにより、

 

(仲間を切り捨てる、そんなことできるはずがないッ)

 

 そう思うキリトだが目の前の戦いに参加することができない。

 

 防壁がしっかりされているが、多くのプレイヤーが邪魔で出られない。そんな状況にキリトは歯を食いしばった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 考える。こいつはどうやっても傷をつけることができない。

 

 カルナレベルの加護持ち。神の加護を突破する術があるかと言われれば、唯一無二の方法があるがそれをする隙が無かった。

 

「どうした死相(デッドフェイス)? 顔色が悪いぞッ。散り際くらい笑ってみせろ!?」

 

 そんなことを言われた。

 

 ………

 

 ならばと、

 

【セイバー下がれ】

 

「!? しかしッ」

 

【考えがある。従えセイバーっ】

 

 その言葉にすぐに跳び上がり、距離を取る。

 

 だが位置取りで彼が三人の攻撃の範囲に躍り出た。

 

「なっ」

 

 全員が戦慄する。無論、三人組も驚くがすぐに切り替えた。殺すと言う意味に。

 

「一歩音超え、二歩無間」

 

「誠の旗は、不滅だッ」

 

「これで散れッ、死相(デッドフェイス)ッ!!」

 

 捕らえる攻撃に彼は防御を………

 

「!?」

 

 取らなかった。無防備にただ立っている。

 

「三歩絶刀っ!! 無明三段突きッ!!」

 

「切れ!進め!切れ!進め! 俺が! 新!選!組! だああああああああああッ」

 

 槍が貫き、弾丸を受け、斬撃で斬られ、首元を貫く突き。

 

 刻まれた身体を見ながら、全員が青ざめた。

 

「奏者ああああああああああああッ!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………あっけないもんだ、沖田っ、ちゃんと殺したか?」

 

「はい、問題ありません土方さん」

 

 より深々と首を貫く彼女は静かに刀を抜く。

 

 血が流れ、地面に広がり、血の池が出来上がる中、彼はつまらなそうにプレイヤーを見た。

 

「ちっ、今度はてめらか。正直殺す価値もなさそうだが」

 

 何名かがすでに逃げ腰であり逃げていた。彼が倒れた瞬間、防壁が消え、それでだ。

 

 残ったのは元々いた攻略組だけであり、セイバーは睨みながらアスナたちも構えた。

 

「はあ、やめておけ。お前たちにこの俺、アキレウスは討てない」

 

「アキレウス? アキレウスですってっ!?」

 

 シノンはすぐに自分の知識を引き出した。

 

「確か母親が神で、不死身の肉体を与えられた英雄。だけど、そんな」

 

「察しがいいな。俺は神々の加護により、一部を除き神の一撃以外、けして傷付くことは無い身体の持ち主だ」

 

「だから奏者の攻撃が」

 

 すぐに動こうとしたが、セイバーは突如膝を付く。

 

「もうやめておけ、お前のマスターは死んだ。ならいずれお前は敗者として消える」

 

「くっ………」

 

「おいおい、つまるところなにか、けしてダメージを負わない奴がボス? ふざけてるのか」

 

「ふざけているか。バカバカしい。戦場においてそんな良い訳が通じるか」

 

 それに三人はすぐに切り伏せて興味が無いように彼らを見る。

 

「さてと、この空間から出るには俺ら三人を殺すか、お前たちが死ぬかの二つに一つ。もう答えが出ている以上、戦士としてせめて、まっとうに死ぬことをお勧めするぜ」

 

 そう言いアキレウスが前に出る。

 

「せめてお前たちが有象無象で無ければ、死相(デッドフェイス)ももう少し善戦しただろう」

 

 そう言った時に、

 

 

 

【そう言ってもらえて嬉しいよアキレウス】

 

 

 

 瞬間、赤いトゲが地面から生えた。

 

「なあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

「ッ!?」

 

「土方さ、ッ!?」

 

 沖田を背後から羽交い絞めにして、全身を暗闇の腕が彼女の身体を取り押さえた。

 

「バカな、確実に殺したはず」

 

【死者を殺せると思うな。攻撃される個所さえ予測できれば貫かれようと斬られようが、繋がっていればどうとでもなる。そして罠も張れる】

 

 アキレウスはすぐに獰猛な笑みと睨みでメイトを見て、土方はすぐに口元を釣り上げた。

 

 瞬間、

 

【土方はセイバーッ、アキレウスは頼むッ】

 

 アキレウスの踵は貫かれ、それに汗を流しながら、すぐに槍を構えたがすぐに止まる。

 

 その瞬間、斬り込む黒の剣士がいた。

 

「任せろッ」

 

「チッ、まあいいッ。戦士として心構えがあるのなら、俺を楽しませろッ」

 

「汝の相手は余だ狂戦士ッ」

 

「いいだろうッ」

 

 幕末の侍とセイバー、弱体化したアキレウスとキリトたち。

 

【お前は俺と喰らい合いだ】

 

「くっ」

 

 沖田はそのまま、噴き出す闇と鮮血が全身に纏わりつき闇に飲まれていった。

 

 こうしてこの階層の戦いは終結へと進みだす。




バーサーカー対セイバー。

セイバー沖田総司、メイトに拘束。

ライダーアキレウス、不死性を失い弱体化。キリトを筆頭にSAOプレイヤーと交戦。

観測を続けます。


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第14章・死者の策、そして

「行くぞッ。真の英雄と言うものをその身に刻んでやろうっ!!」

 

 アキレウスの猛攻に攻略組、キリトが前に出て槍を防いでいた。駿足、不死身が無くなった彼だがそれでも戦いを楽しんでいる。

 

 キリトはその攻撃を一手に引き付けていた。仲間が隊列を立て直すまでと。だが、

 

(こいつ相手にそんな甘い考えは捨てろッ。このままこいつを、斬る!!)

 

 こうして黒の剣士は英雄と斬り合う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はあああああッ」

 

「くっ」

 

 苛烈な猛襲にセイバーは顔を歪める。いま彼女はマスターからのサポート無しに、このバーサーカーと斬り合わなければいけない。

 

 弾丸が放たれるがこのほとんどは人の域。例えそれが人間の限界を超えていても、セイバーなら対処できるはず。

 

(だがそのような甘い考えが通じる相手では無かった)

 

 斬り合いの中、一手遅れを取る。

 

 向こうの斬り合いの中、確実に迫る凶刃にセイバーは、

 

「!?」

 

 僅かにバランスを崩した。

 

「ッ!」

 

 その瞬間、振り下ろされる刀に眼前へと迫るが、

 

【コードキャスト】

 

 その瞬間、加速するセイバー。僅かに頬が切られたが、それもすぐに治癒された。

 

「なにッ!?」

 

 瞬時深紅の剣に炎が灯り、今度はセイバーが迫る。

 

 それに対処するため彼は体制を整えようとしたとき、一歩足を踏み込むと、

 

「ツッ!?」

 

 身体が大きくバランスを崩す。すぐに足元を見ると、血だまりを踏んだらしい。その血だまりに電子のような光が輝いていた。

 

「まさか罠を」

 

「はあああああああああああああああっ!!」

 

 一閃、赤い閃光が狂戦士を斬り裂く。

 

 そのまま彼は倒れ、足元の血だまりを見てすぐに黒い塊を見た。

 

「奏者がいなければ倒されていたな………」

 

 そう言って一息ついたころ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 二つの剣を巧みに操り、その槍を弾き斬り込むキリト。

 

「はっはははははっ」

 

 アキレウスは笑いながらその戦いを楽しんでいた。キリトがギリギリの中、ついにレッドに差し掛かる瞬間、

 

「はあああああああああ」

 

 アスナが斬り込んで来てから状況が変わる。

 

 彼はアスナにだけは攻撃が緩く、その隙を彼は見逃すことはしない。

 

(回復する暇は無いッ、このまま押し切る!!)

 

 剣が光り輝き、ソードスキルスターバーストストリームが発動する。

 

 だがそれら全て槍で防がれるように弾かれた。金属音が小刻みに響く中、最後の一撃が弾かれ、次の瞬間、

 

「うおおおおおおおおおおお」

 

 クラインが刀を振り上げて彼へと一撃を放つ。

 

 それが食い込む中でも笑みを崩さず、槍を構え直し、クラインを見据えた。

 

「はああああああああああ」

 

 だが細剣が次々と彼を穿つ。

 

 アスナの猛攻に彼はついになにかが砕かれた音が鳴り響く。

 

「これまでか」

 

 その瞬間、彼から赤い血が流れ出る。

 

 ただし彼の傷からでは無く、まるで彼を拘束具が外れたように血が落ちる。それはまるで鉄のように固まったもの。その血が知らず知らず、彼の動きを制限していたらしい。

 

 こちらもまたメイトのサポートがあったものの、サーヴァントを撃破した瞬間であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 二騎のサーヴァントが倒された瞬間、暗闇の中で何かが引き裂かれた音が鳴り響き、闇が消え、その場に沖田は倒れ込み、メイトが立っていた。

 

「………ギリギリか」

 

 そう言って彼は吐血してその場に倒れる。

 

「メイトっ」

 

 すぐにキリトが駆け寄り支えると、彼のHPゲージもレッドであり、セイバーが駆け寄る。

 

「リソースもかなり消耗しておる。この者もかなり消耗していたが………」

 

「沖田総司は病弱だったって話よ………」

 

「うむ。この者も疲労していなければ」

 

「負けてたわねあなたたち」

 

 そう言うのは金髪の女性。リンがいつの間にか現れてメイトの様子を見る。

 

「リソースが底を尽き掛けている。まあ宝具レベルの技を致命傷で受けて回復させたんだから当たり前だけど、大事にしてほしいわね」

 

「それはメイトが消えるからか」

 

「そうよ、当然じゃない」

 

 リンはさも当然のように言いながら後始末を始める。

 

 周りのプレイヤーもようやく落ち着きを取り戻しながら、アスナが苦し気に彼を見つめていた。

 

「わたしがしっかり、メンバー構成していれば」

 

「それは後の祭りよ、気にしているなら次を気を付けてね。今回で私も出られる範囲が限られるし、次のことも考えるとほんと、あまり無茶な戦法は危険よ」

 

 そう言いながらサーヴァントたちは僅かに動く。警戒するがアキレウスは笑う。

 

「安心しろ、俺たちはムーンセルによって敗北したことになっている。いまさらどうこうする権利は無い」

 

「そう言うことだ。沖田ぁ、生きてるか」

 

「死んだから負けたんですよ土方さ~ん……。沖田さんの扱いだけ酷過ぎです」

 

 そう言って首筋を撫でる。

 

「この人沖田さんの柔肌に噛みついて、ウイルスを流し込んで殺したんですよ~。セクハラです」

 

「なんだとっ、余もそのようなこと奏者からされていないのにッ」

 

「なに張り合ってるんだっ」

 

 沖田はそれを聞いて挑発して、セイバーはぐぬぬとうなる。土方はそんなやり取りを無視して、

 

「そこのお前、隙を見てその槍で沖田ごとそいつを殺せば、俺らの勝ちだった。テメェ、手、抜いたのか?」

 

「確かにそうですね~」

 

 突然の指摘に、その言葉にキリトたちの背筋が凍り付く。それにはアキレウスは少し言いにくそうに、

 

「あ、いや……。俺はこの槍で女を殺さないって誓いを、神々に立てちまっててな。だからできなかった」

 

 そいつが盾にもしてたしと、少し言い訳のように言うが、

 

「よかったわね。もしもメイトが敗北してたら、今後あなたたちだけでサーヴァントと戦わなければいけなかったわよ」

 

 今度こそ言葉を無くすプレイヤーたち。

 

 今回だって勝てたのは彼が細工をしたり、アキレウスの最大の力を殺していたからだ。次はけして相手にしたくない。

 

「こんなことばかりなのかサーヴァント戦………」

 

「そもそもサーヴァントの戦いはこういうものよ。むしろあなたたちを積極的に狙って、彼に守らせるとかいう手使われていなかっただけ今回は優しい方ね」

 

 リンの言葉にキリトたちは黙り込み、メイトを見る。彼は目を覚まさず、彼らに、

 

「なあ、なんで俺たちを狙わなかった」

 

 その言葉にサーヴァントたちは、

 

「「「自分より弱い相手なんか興味ない」」ありません」

 

 そう言って彼らは消えていった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 エギルの店でユウキたちがメイトが目を覚まさないことに驚きながら、翌日になっても彼は目覚めない。

 

 アスナはすぐに状況把握に急ぐ中、俺も情報を集めていた。

 

「よおキー坊」

 

「アルゴ、メイトの情報でどんなものがあるか集まったか」

 

 情報屋アルゴ。彼女にこの話を持ち込んで色々調べてもらった。

 

 アルゴが言うには彼はクエスト報酬などと言う情報から、このゲームのバグデータなどと言う話が出て来る。

 

 サーヴァント戦もバグである彼に押し付ければ、簡単に大量の経験値やレアアイテムが手に入ると言う話。

 

「どの情報も根も葉もない情報じゃないか」

 

「アア。オレっちからすれば信用に値しないものばかりサァ」

 

 しかも新たに入った情報、サーヴァント戦で彼を失えば今後、自分たちだけでサーヴァントと相手しなければいけない。それを聞いたアルゴは難しい顔で聞く。

 

「念のため聞くガ、メイト無しでサーヴァントって奴に勝てるカ?」

 

「………無理だ。絶対にSAOプレイヤーは彼らに勝てない」

 

 そもそも世界(ゲーム)が違う、システム(ルール)が違う相手()

 

 おそらくメイトがいなくなればこのゲームは確実にクリアできなくなる。

 

「その情報も隠していた方がいいナ」

 

「ああ」

 

 メイトの立場が難しくなる。ただでさえNPCと知られている彼は、同じプレイヤーと見る者は少ない。それは彼の、独自の考えで上を目指すからの妨害になる可能性がある。

 

 とりあえずいまは正しい情報をプレイヤーに話しておかないといけない。これはアスナと話し合いだな。

 

 こうしてアルゴと別れ、俺はエギルの店に戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………これは」

 

 目が覚めたらユウキとセイバーが左右に居て、抱き着くように眠っていた。

 

 宝具をわざと受けた。リソースが分かり切った個所のみ回復へと回して、どうにか罠を設置したのは覚えている。

 

 自分の血に罠を設置するのでだいぶリソースは節約できたし、アキレウスの名前を聞いてから彼の不死身性を奪う方向で罠を発動させた。

 

 ともかく寝ているセイバーたちを起こさず、エギルの店へと顔を出すと、みんな心配していたらしい。

 

 シノンとフィリアから怒られ、ユウキたちが目覚めるまで部屋で大人しくした。

 

 シリカ、リズ、リーファからも説教を受けて、ユウキと共に起きたセイバーが抱き着きに来る。

 

 アスナからは謝られた。余計なメンバーを増やして足を引っ張ったと言われる。

 

 確かにもう少し人数が少なければ、防壁のリソースは楽であった。それくらいの感想しかないのだが………

 

 ともかくこうして戦いを終えて、俺はリソース回復に努めることにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その日、

 

「アスナ~」

 

「あ、ユウキ。なにかようかしら?」

 

 ユウキはよくキリトたちと話したりしている。アスナ自身も会話からして見た目くらいの歳なのを察して、様子を見ていた。

 

 このゲーム、現実を受け入れることのできなかったプレイヤーは多くいる事を知るため、メイトから頼まれたこともあり彼女と話したりする。

 

「あのねあのねっ。メイトにおいしいご飯作ってあげたいんだボク♪」

 

「そうね……。確かにメイト君、ご飯食べてるの好きみたいだし、わたしも手伝うよ」

 

「ほんと、ありがとう♪」

 

 二人はこうして調理場を借りて、アスナ監修のもと料理を始めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 リソースはだいぶ回復する中、部屋で休んでいる。コードキャストの最適化と最速化。今回のことでだいぶ手は禁止された。

 

 キリトたちから自滅を前提したことはしないように言われたし、その通りであるため、よりセイバーを強化でき、自分も強化する方向で展開するようにしなければ。

 

 しばらく部屋で過ごすとセイバーが帰ってきた。

 

「奏者よ、今日はごちそうだぞっ♪」

 

 目を子供のように輝かせるセイバー。どうやら今日の食事は豪華からしい。

 

 そして店の方に下りると、シリカたちが料理の準備していた。

 

「来たわね」

 

「シノン、今日はごちそうらしいけど。どうした」

 

「ボクが作ったんだっ」

 

 ユウキが嬉しそうに報告し、セイバーもにこにこしている。

 

「そうか。それは楽しみだ」

 

 嬉しそうな二人に頷き、ご飯を食べる。

 

 作られたものは簡単なものばかりだけど量は多い。

 

「えっへへ、料理するのが楽しくてさあ、いっぱい作っちゃった」

 

「それはよかった」

 

 そう言いユウキは嬉しそうにしていて、俺は出された料理を食べた。

 

 ユウキはその様子を見てうれしそうにしていて、俺はそれで満足する。

 

 こうして時間だけが過ぎる。そう考えていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 コードキャストを整理している。使えるものをどうすればいいか、どうするか組み込む。

 

「メイト?」

 

 その時、声が聞こえ、すぐに展開していた術式を閉じる。

 

「起こしたか?」

 

「ううん、メイトは寝ないの?」

 

「そこそこ寝たから」

 

 そう答えると、ユウキが枕を抱きしめながら俺を見る。

 

「ねえ、なんでメイトは頑張るの?」

 

「憎いから」

 

 それに身体を少し震わせるユウキ。シリカたちもはっきりと答えると驚いたりする。だがこれは本音だ。

 

「………なにが憎いの」

 

「………俺は死のデータから作り出された。だから始まりから持っている感情だ」

 

「死……」

 

 死のデータ。それはカーディナルから約4000人のプレイヤー、ムーンセルから1000年の敗北者。

 

 俺は二つの死で彩られた、虚ろな断片でできた〝モノ〟だ。

 

 だけど、それでも、

 

「俺の感情は作られたものだ。だけど、そこから選ぶことは俺だけのものだから、だから〝上〟に進む」

 

「うえ………」

 

 少し黙り込むユウキ。俺はおかしいのだろう。

 

 それでも構わない。彼女たちに偽りを教える気は無い。本当も教えなくてもいい。

 

 きっと知られれば彼女たちに迷いが生まれるだろうから。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「次の部屋もサーヴァントが?」

 

 キリトたちから険しい顔で呼び出され、次のボス部屋がサーヴァントだと言うことが分かった。だから俺に話を持ち込んだ。

 

「リソース、戦えるかメイト」

 

 キリトの言葉に俺は静かに頷く。側で難しい顔で聞いていたセイバーが、

 

「本当か? さすがに宝具を防ぎ、その後自分の損傷したデータでの罠。大量の人数を守る防壁……。いささか膨大にリソースを使っているが」

 

「俺は特別性だからな」

 

 前回のことから多くのプレイヤーは攻略から下りたとのこと。

 

 攻略戦のスピードはここに来てかなり順調らしい。ならばその流れを止めるわけにはいかない。

 

「メイト………」

 

 ユウキが心配する中、それでも俺の選択は変わらない。

 

「俺は進む。俺は〝上〟に向かうためにいるのだから」

 

「………分かった」

 

 こうして俺たちは次のサーヴァント戦へと先に進んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボス部屋らしい部屋の前、プレイヤーはいつものくらいの人数ではある。

 

 正直プレイヤーはサーヴァント戦に参加する意味は、大量の経験値と自分らにもやることはあるから。

 

 それでもサーヴァントは強いのは理解して、やっとこの人数ではあるが連戦である。

 

 少しばかり不安が漂う中、それでもメイトは変わらなかった。

 

「それでは行きます」

 

 こうしてボス部屋へと進む。

 

 そしていつものように空間が変化して、そこへと足を踏み込んだ。

 

「ようこそ、SAOプレイヤーの皆さん。そしてこの世界のマスターとサーヴァント」

 

 そこには二人の女性と、獰猛な笑みを浮かべる朱い槍の男がいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あなたたちは」

 

「私はルーラークラスでの顕現。ジャンヌダルク。彼女は」

 

「シータ。ラーマ様の代わりに顕現させていただいております」

 

 金髪の彼女は彼の伝説に語られる聖女であり、もう一人は神の生まれ変わりの妃。

 

 そして、

 

「俺はクー・フーリン。って言えば分かるな」

 

「ああ」

 

「死の魔槍の使い手、光の御子か」

 

 セイバーが警戒する中でクー・フーリンは手で遮る。

 

「待て待て。お前さんらと戦うのは俺だけだ。だけどま、こいつらの話が終わってからだ」

 

「それは本当か」

 

 ざわめくプレイヤーの中、クー・フーリンは静かに、

 

「世界も何もかも違う相手と殺し合いができるか。だが、そいつらがどうなろうと俺には関係ない。だからこそお前と戦う。それは決定事項だ」

 

「なら彼女たちは」

 

「お前さんと話がしたいらしいんでね。そのあと俺と死合おうか?」

 

 フィールドはただ広い草原であり、テープルと椅子だけがあり、彼女たちの目の前に紅茶のカップがある。

 

 その様子を見て静かにセイバーを見た。

 

「確かに。いまは誰からも戦意を感じぬ、だが余の奏者に話とはいったいなんだ?」

 

「それについてはまずは席についてください」

 

「分かった」

 

 罠では無いのだろう。この二人、クー・フーリンすら罠を考えるような英霊では無い。

 

 故に彼女たちの言葉を聞き、静かに席に着いた………




 バーサーカー土方歳三、セイバー沖田総司、ライダーアキレウスは最高の戦士だ。奴をあそこまで追い詰めたのだから、それだけで十分だ。

「なのにッ、今度は、今度はッ」

 それは怒りに震え、憎々し気にメイトを睨む。

「クー・フーリンッ、ジャンヌダルクッ、シータッ!! なんでこんなサーヴァントが召喚される? なんでなのムーンセルッ」

 いまの状態では殺せない。このままではこの世界が奴に殺される。

 それでもやることは変わらない。だから、

「あなたがそうならこちらにも考えがある。抗ってみせる、わたしがこの世界を守らなければいけない」

 そして静かに準備する。全てはこの世界を守るため、ただそれだけのために………


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第15章・聖女たちの優しさと戦士への挑戦

小さな赤子だ。

自分が何なのか分かりながら、選んだと主張しながら宿命(フェイト)を進む。

哀れと嘆けば良いのか。

滑稽と笑えばいいのか。

きっと誰にも答えなんて出せない………


 メイトはこの前の攻略戦で倒れた。ボクはそれを聞いてもなにもできず、いまはただ静かに空を見ている。

 

「また上の空だね」

 

「あっ、こ、こんにちは」

 

 その時、この前のおじさんが話しかけてきた。また同じように人に気づかないほどぼーとしていたみたい。

 

「君は攻略戦が気になるのかい」

 

「えっと………はい……」

 

「戦いは悲しい、誰もが傷付く。だが大丈夫、きっと戻ってくるさ」

 

「はい……。ボクもそう思います」

 

 そう言って上を見る。しばらく見た後、おじさんの方を見ると、

 

「あれ?」

 

 おじさんはどこにも姿は無く、いつの間にか立ち去ったようだ。

 

 少し気を抜きすぎだな。そう思いながら、ボクは空を見続けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そうさ、彼はここで終わりはしない。戦いは成長の糧になり、七天の空へ道を開く」

 

 それはそう言いながら暗闇を歩く。

 

「生者はあるべき世界へ、死者はあるべき道へ。その為の戦い、その為に、まだ終わりは無い」

 

 そう呟きながら、モニターでユウキを見る。それと共にもう一人。

 

「仮想世界と月の世界。二つの死に彩られた君は、必ず上へとたどり着く。そして始まりを迎えるんだ」

 

 静かに言い、この二つのモニターを見つめる。

 

「無論〝彼女〟にも期待するとしよう」

 

 もう一つウインドウが開く。

 

 ただ静かに自分のようにモニターを見る少女。全てはまだ始まったばかり………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボス部屋で三騎のサーヴァントを見る。一人は聖女として名高い者。ジャンヌダルク。

 

「エキストラクラス。七つの位より上の存在ルーラー、裁定者がなぜここに」

 

「それはこの聖杯戦争が通常のものではないからです」

 

 その通りだ。この戦い、英霊たちからすれば無意味にもほどがある。勝利者に与えられる聖杯も無ければ、戦う相手はつぎはぎの欠片のようなもの。

 

 自分らの勝利すら意味が無い戦いに、強制参加以外で進んで参加する者はいない。

 

 もう一人はラーマと言う神の生まれ変わりの人間の妃。彼女は静かに愁いを帯びた顔でこちらを見る。

 

「だからルーラーとして裁定すると?」

 

「いえ、正確にはあなたの真意を聞くために」

 

「俺の」

 

 それは問いかけだった。

 

「あなたは自分がなんなのか分かってますか」

 

「ああ」

 

 意味も理由も価値も無い。ただ〝上〟に行く為に創り出された。

 

「あなたの全ては作られたものと知ってますか」

 

「ああ」

 

 ただの〝モノ〟。約4000人のプレイヤーとムーンセルの敗北者たち。そしてある己を作る為に使われたデータ。

 

「あなたは………」

 

 悲しそうに静かにこちらを見るジャンヌ。

 

「その旅路の先がなんなのか分かっているのですか」

 

「ああ」

 

 作られた〝モノ〟、作られた感情。分かっている。旅路の先に何も無い。誰がなんて言おうと俺と言う存在は何も無い。それでも、

 

「だがここにいるのは俺の意思で選んだことだ」

 

「それは」

 

「ルーラーよ。あなたは作られたから俺が進んでいると思うのか」

 

 それに静かに首を振る彼女。もしかしたら全て知りながらそれでも聞くのだろう。作り出された俺、その全て。

 

「俺が進む理由も、感情も、なにもかもがそうなるように設定して作り出された〝モノ〟だ。だがそれになんの意味がある?」

 

「それは」

 

「その先、それら全てを理解して選ぶのは俺自身。俺は憎い、怒りを抱き、憎しみを抱き、俺は〝上〟へと進む」

 

「あなたは………」

 

 シータが悲しそうな声色で呟く。

 

「悲しむ必要は無い。それでも俺には選択肢がある、それは幸せなことだ。いまの俺は〝上〟を目指す、例えその他に選択肢があろうと、俺はそれを選び抜き、戦う選択をする」

 

 そう、全てが無意味であろうと進む。そう決めた。

 

 何者でもなく、俺自身が始まりから決め、そしていまも決めたこと。

 

「俺は無理に先に進む気は無い。俺がしたくないことはしない」

 

 無理に先に進む気は無い。プレイヤーに攻略を強調する気も、される気も無い。俺はただ流れに任せ先に進む。

 

 俺は選ぶ、方法も進み方を。それだけは選ぶことができる、唯一の権利。

 

 それに笑いをこらえる声が聞こえた。クー・フーリン。彼が肩を震わせる。

 

「だから言ったろ。こいつは戦士だ。死の意味を理解し己を理解し、それで進むと選択した〝モノ〟。例え人形であろうと意思を持ち、先に進むと決めた」

 

「ですが、それは」

 

「例え全てのものが作られた偽物であろうと、その先に生まれたのは俺の意思だ」

 

 シータの言葉を遮り、俺の言葉に黙り込む二人。クー・フーリンは静かに席を立ち、魔槍を振り回す。

 

「お二人さんはこれでいいだろう。そいつは全てを承知で進むと選んだんだ。それ以上は戦士の道に泥を塗る行為だぜ」

 

 そう言い、構える彼はランサーなのだろう。魔槍を取り出し、静かに身体をほぐす。

 

「構えろセイバー。後は俺らの戦いだ」

 

「ほう、クー・フーリン。汝は戦うのか」

 

「俺たちはサーヴァントだぜ? 二度目の戦、この英雄との邂逅を逃せるはずは無い。まあ宝具解放は勘弁してやる。お前も宝具が使えないだろう?」

 

 その言葉にセイバーが僅かに睨むように彼を見る。

 

 だが、

 

「セイバーやるぞ」

 

「奏者」

 

 この申し出を断る気は無い。手を抜かれているがそれがどうした。俺は勝たなきゃいけないのだ。相手に手を抜かれても、そうした相手が悪いのだ。

 

「セイバーは俺のサーヴァント。バックアップは問題ないな」

 

「ああッ」

 

 獰猛な笑みと共に魔槍を構え、威圧を放つ。それだけで世界が震え、空気が重くなり、ただそこにいるだけで何かを殺せるように思える。

 

 それにセイバーも剣を構え、無数のコードキャストを展開する。二人の女性はそれを見ていた。

 

「勝負は一瞬でつけるぞセイバー」

 

「うむっ」

 

「いいぜ、殺ろうか………」

 

 構え、静かに隙を窺う二人。ジャンヌとシータは悲しそうにしていた。それでも俺は戦う選択を選ぶ。戦いには戦いを、会話には会話を。

 

 俺が選ぶ選択肢。その先にあるのは〝上〟へと続く道。

 

 勝負の瞬間まで時が止まったように静まり、そして動くまでの時間は一瞬。

 

 セイバーの全てを強化するコードキャストを瞬間展開し、金属音が鳴り響き、クー・フーリンは静かに、

 

「さすがだな」

 

 そう言い、彼は斬られてセイバーは無傷。

 

 ただし防御に回したコードキャストの盾がいくつも刺し貫かれていた。一瞬の勝負。俺は防ぐのではなく、軌道を反らすことに全力を出した結果だ。

 

 あっけないほど早かった。相手が手を抜いていたおかげだろう。

 

 宝具を使用したやり取りなら、このような児戯、意味が無かった。そう感じながら、彼との試合は終わりを告げる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 クー・フーリンとの戦いが終わったが、リソースはだいぶ削れた。正直彼だけの戦いだけで助かったのが本音だ。

 

 シータは俺の頭を撫でる。子供にするように、それの意味が分からない。

 

「あなたはなぜ俺のことをそこまで心配する」

 

「あなたは気付いていないだけで自分を知らない」

 

「俺は自分がなんなのは知っている」

 

「あなたは生まれたばかりの子供のよう。神が定めた宿命(フェイト)しか知らない、赤子なんです」

 

 そう言いそれに誰かを重ねている。

 

 彼女は愛した人と同じ時間を過ごしたことが少なく、子供の二人しかいない。誰を重ねているのか知らないが、

 

「例え定められたことだろうと俺は選んだ、俺の道だ」

 

「そう反論することが子供なんです」

 

 そう諭すように言われたが、それでも俺には分からない。

 

 シータは愛おしい赤子から手を放すように離れ、ジャンヌもまた静かに光に包まれながら俺を見つめる。彼女も俺では無い誰かを見ている気がした。

 

「あなたの道は変えられないのなら、せめていまを生きる時間、仲間たちとの時間を大切にしてください。最後の時まで」

 

「それは」

 

「あなたは後悔の無い選択を」

 

 そう言って俺を抱きしめる。やはり彼女も赤子のように俺を見つめる。

 

「あなたの道に幸多からんことを」

 

 そう言って消える二人。その言葉だけを聞き、俺は少しだけ目を閉じる。

 

 彼女たちには悪いが俺の先に光は無い。

 

 それだけが分かるため、

 

「ああ。俺はこの時間を大切にするよ」

 

 そうとしか言えなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 クライン主催のパーティーが行われる。今回ばかりだいぶ先に進み、たまにはと言う話。

 

 メイトは静かに料理を食べて、セイバーはシリカたちと楽しそうに話している。

 

 ユウキもアスナになついている。その様子を見ながら、メイトは静かにピナを頭に乗せていた。

 

「メイト、少しいいか」

 

「キリト? ああ」

 

 少しだけ席を外してメイトたちは店の外に出る。

 

 その時、彼の顔は少しばかり難しい顔をしていたのが気になったメイト。

 

「あれ? メイトとキリト。外に出る。何の話するんだろう?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「単刀直入に聞くけど、君はあの時は万全の状態だったかい」

 

 少し店から離れた先で静かに向かい合い話す。その言葉に俺は少しばかり黙り込み、静かに首を振る。

 

「なんで無茶をするんだ。確かにいまの調子で攻略が進めばみんなのモチベーションは保たれるし、この前の攻略戦の大多数抜けた穴はカバーできる。けどそれは君が気に掛けることじゃない」

 

「それでも俺がしたいと思ったことだ」

 

「………君は」

 

 悲しそうにするキリトに、俺は彼女たちに伝えた通りのことを伝える。

 

「俺がしたいと願ったことをしているだけだ。無理はしないし、誰かに言われて行動する気はない。例え俺の全てが、始まりが誰かが定めたことだろうとな」

 

「………」

 

「俺は全てが虚ろなデータの欠片で作られた〝モノ〟だ。だけど俺はここにいる、ここにいる間の選択肢は、俺が選んだものだ」

 

「君は………」

 

「何度でも、何回でも言える。俺は〝上〟へと進む。それが俺の意思なんだ」

 

「………君はなんでそこまで戦える」

 

 その言葉に俺は、

 

「俺はみんなを現実世界に還したい。それじゃダメか」

 

 その言葉に驚きながら、何かを言おうとして首を振るキリト。

 

「卑怯だぜ、そんなこと言われたら………。なにも言えなくなる」

 

「そうか」

 

 そして俺たちは店に戻る。

 

(ん)

 

 その時、一瞬誰かが先に店に戻った気がしたが、

 

(………まあいいか)

 

 そう思い、すぐに店に戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その日の夜、眠る時間帯で俺はコードキャストをいじっている。セイバーは静かに眠り、俺ももう少ししたら寝るつもりだった。

 

「メイト……?」

 

 その時、眠っていたはずのユウキがむくっと起き上がる。

 

「起こしたか」

 

「ううん………」

 

 コードキャストを閉じて、俺もまたベットへと寝ようとする。

 

 その時、

 

「ねえメイト」

 

「ん」

 

「メイトはなんで戦うの?」

 

「憎いから」

 

「なにが憎いの」

 

「この世界が」

 

 そう憎い、この世界が。欠片でできたそれが慟哭をやめない。

 

「俺はあるデータを元に、死のデータで作り出された。七つの天の聖杯を求める敗北者、この世界に殺されたプレイヤー。俺はその二つの死から作り出された死相(デッドフェイス)

 

「死………」

 

 聖杯を求め、殺されたウィザード。

 

 現実世界へと戻れず、閉ざされたプレイヤー。

 

 彼らが抱いた感情により彩られた死のデータより作り出された俺。

 

「メイトはそう作られたから、上に進むの………」

 

「いいや」

 

 それにユウキは顔を上げる。その顔に俺は言う。

 

「俺は俺だから〝上〟を目指す。作り出された設定で、偽物の感情であろうと。その先に生まれたのは俺の〝モノ〟だから。なにより」

 

 ユウキに近づいてその頭を撫でる。

 

「俺はみんなを現実世界に還したい」

 

「メイト………」

 

「生者は生者がいるべき場所に戻るべきだ。それがメイトと言う死相(デッドフェイス)の意思、唯一無二決められた宿命(フェイト)の中、俺の意思と言える選択」

 

 それを言い、手を放そうとするとその手に触れるユウキがいた。

 

「あのねメイト……。今日ね、一緒がいい」

 

「………分かった」

 

 ユウキは少しだけ恥ずかしそうにしていて、一緒に寝る間、彼女の現実を教えてもらう。

 

 彼女は後天的の病気の所為で、いま家族で入院、闘病生活であること。

 

 いまはとある外国のスポンサーのおかげで、自分たちが受けている治療法を最先端の技術で受けている。

 

「それが《メディキュボイド》って言う、仮想世界に意識を置くって言う治療方法なんだ」

 

「それを受けている時にこっちに来たのか」

 

「うん」

 

 抱き着くようにユウキが抱き着き、顔を胸に埋めて来る。

 

「メイトは自分のことどう思ってるの」

 

「俺は死者だ。死相(デッドフェイス)は悪性情報によって作り出された〝モノ〟だな」

 

「けどみんなを守りたいんだよね」

 

「それは分からない。だけどこの世界にみんなが居続けて良い訳では無い。それだけは確かだ」

 

 生者があるべき世界に戻ること。それがきっと正しいこと。

 

 それにユウキは首を振り、ぎゅーと抱き着いてくる。

 

「メイトはきっと、みんなを助けたいんだよ。だから頑張ってる」

 

「そうかな」

 

「そうだよ」

 

 そう言いながら、少しして寝息を立てるユウキ。

 

 ユウキが言いたいことが分からないが、ともかく俺は進む。その先が何も無くても………

 

 翌朝、セイバーがずるいぞと半泣きで自分も一緒がよかったと文句を言う為、この日から俺のベットに二人が入り込むようになった。




ユウキとユイは少しお姉さんぶり、他のメンバーは友人、セイバーは導き、共に舞台を彩る主役。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第16章・幸せな夢

悲しい悲しい物語。バットエンドなんてお断りっ!

悲しいストーリーにしおりを挟む。

ほらこうすれば♪

いつまでもいつまでも続く、素敵な素敵な物語っ♪♪


 ボス攻略戦をし、新たな階層を開放したキリト。

 

「よし、また一歩前進だな」

 

 多くの攻略プレイヤーが歓声を上げ、全員が新たな層へと足を踏み込む。

 

 アクティベートするため、その階層に上がった攻略組が見た景色は、

 

「これは」

 

 不思議な層に男性プレイヤーは戸惑い、女性プレイヤーは頬を緩ます。

 

 西洋風の建物で可愛らしい作り、どこかのテーマパークのような建物。

 

 だが、

 

「………静かすぎないか?」

 

 キリトがそう呟くと、エギルなど攻略に参加したプレイヤーたちも首をかしげた。

 

 とりあえずアクティベートして一度戻る。

 

 そこから全ては始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは新たな階層を開放した次の日、エギルの店まで下りて背伸びをした。

 

「よし、新たな階層の探索を始めないとな」

 

「キリト」

 

 俺が新しいフィールドに行こうとすると、セイバーを連れたメイトが話しかけてきた。

 

「ああメイト、君も探索に出るか?」

 

 新しい町を見るのも大事だからな。そう気楽に話しかけた。

 

 彼は変わらず、ああと頷き、俺たちを初めとしたプレイヤーたちと共に新しい階層を調べに出向いた。

 

「………」

 

「? どうしたメイト」

 

 彼が唐突に上を見た。

 

 彼が上にこだわる。それがそう作られたからと言う言葉で片付ければいいのだろうが、俺はそれで終わるとは思えない。彼は静かに首を振る。

 

「なんでもない」

 

 そう呟き、俺たちは新たな町へと転移する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「っと、さすがに今回はプレイヤーが多く来ているな」

 

 そう言って辺りを見渡すと多くのプレイヤーが町を見て回る。

 

 攻略組でなくても、町程度なら誰でも見て回れるからなと納得し、俺も歩き出そうとすると、

 

「キリト君っ」

 

 慌てた様子で見知った顔、アスナたちが現れた。

 

「アスナ、みんなどうした」

 

「それが、この町変なの」

 

「変? いったいなにが」

 

「NPCが一人もいないの」

 

 それに俺は驚く。少し町を見てみたが、店らしい建物や宿屋らしいものがある。それにどんな場所でも町である限り、NPCはいるものだ。

 

 俺はその話を聞き、クラインたちを見る。

 

「建物も結構変でよお。扉にまた小さな扉が何個もついてたり、ツリーハウスのような場所も変な場所にあったりしたぜ」

 

「建物の中に庭があったりもしたよ」

 

「後は中央に大きなテーブルが、椅子もずらーーーといっぱいありました」

 

「きゅう」

 

 リーファやシリカからもそんな話を聞き、俺は首をかしげた。そこまで手の込んだ建物なら、NPCがいても不思議じゃない。

 

 その中でフィリアも、

 

「それだけじゃないんだキリト」

 

「それだけじゃない?」

 

「迷宮区、エネミーが出るフィールドも見当たらない」

 

「なっ………」

 

 そんなバカなことがあるか。町の他の迷宮区、ボス部屋やエネミーがいなければゲームとして成立しない。

 

「いまみんなであっちこっち調べてるんだけど、誰一人、NPCにも会ってない」

 

「どういうことだ? ともかく手分けしてさが……メイト?」

 

 その時、気が付くとメイトがいない。セイバーもん?と辺りを見渡していた。

 

「セイバー、メイトは」

 

「案ずるなキリトよ、この階層にはいる。少しばかり探して来る」

 

 そう言って飛び立とうとするセイバーはすぐにやめた。

 

 その場で剣を出し、剣先を向こう側に向ける。

 

「そこにおる者たち、出て来いッ」

 

 その視線の先を言われ、周りのプレイヤーですら驚きながら振り向く。

 

 いつの間にか、明らかにこの世界のプレイヤーでもNPCでもない彼女たちがいた。

 

「始めまして、それともまた会いましたね(・・・・・・)

 

 そう言って静かにこちらを見るのは、ライオンの耳と尻尾を持つ女性と、鬼のような角を持つ女性が二人。こちらを見ていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あれ、メイト」

 

「ユウキ」

 

 俺はユウキと出会う。彼女はこの町の様子を面白がりながら見て回っていたようだ。

 

「セイバーがいないけど、どこに行くの」

 

「少しね。遠くにいかないから安心してくれ」

 

「うん分かったっ。それじゃあ」

 

「ああ」

 

 俺は真っ直ぐ町はずれへと歩いていく。

 

 しばらくすると大きなティーカップがいくつもあり、なにかが白いシーツをかぶってもぞもぞ動いていた。

 

「なにしているんだい」

 

 俺がそう話しかけると、びくっと動くの止めてシーツの隙間から、アメジストのような瞳が向けられた。

 

「あなた、あなたは『ありす』が見えるの?」

 

 そう言ってぱっとシーツを投げて、可愛らしい少女がティーカップから飛び出した。

 

 少しばかり跳び上がり過ぎている。そう思い、両手を広げてキャッチする。

 

「わーいっ、ちゃんと、ありすのこと見えてるのね。ありすに触れられるのね♪」

 

「ああ」

 

 白いフリルのワンピースを着込む小さな少女。青いリボンで三つ編みにしていて、アメジストのような瞳の少女。

 

 彼女は嬉しそうに俺の腕を掴んで、張り付きながらその場で何度も跳び上がる。これが今回の(・・・)、彼女との出会いであった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「サーヴァントっ、なんで!?」

 

 俺たちは目を疑う。ボス部屋でもないのに、サーヴァントがここにいるのはおかしい。いや、この階層事態がおかしい。

 

 だがここでサーヴァント戦はまずい。攻略組ですら足がすくむ相手を、攻略組でもないプレイヤーがいるいま戦うのはまずい。

 

「安心してください。巴たちはあなたたちと戦う気はありません」

 

「なん………」

 

 そして彼女は静かに手を見せる。

 

 彼女たちはなにも持っていない。武器らしいものすらなく、彼女たちは無防備であった。

 

「ここではなんですから、私たちが寝床にしている建物まで案内します。こちらへ」

 

「………」

 

 セイバーはしばらく考え込むが剣をしまい、後を追う。

 

 アスナとも視線を合わせ静かに頷き、歩き出した。

 

 シノンやシリカ、ともかくメンバー全員が話を聞くために後を追うことにし、しばらくして歩くと城のようなそんな場所に来る。

 

 町の中を見てみたがよく分からない。子供の想像したオブジェクトや、テーマパークのようなものばかりが町にある。ただしNPCは誰一人いない。

 

 町として機能していない町で彼女たちがいる。

 

「ここがボス部屋だって言うの? この階層全体が?」

 

「かもしれない。彼女たちは戦わないって言ったけど、サーヴァントは三騎いる。もう一人はどこだ?」

 

「分からぬ。ともかく後を追おう」

 

 しばらくして城の中に入ると巨大な花畑であり、そこに小さなお茶会が開ける場所があった。

 

 その側の木にはブランコが揺れていて、お茶会のテーブルには一冊の本がしおりを挟み、置かれている。

 

「まずはお茶を、日本茶でしか私は淹れられませんがえっと」

 

「あっ、わたしが淹れましょうか?」

 

 アスナがついそんなことを言って、鬼の彼女はすいませんとカップの用意をする。

 

 側でケーキを人数分切り始めるもう一人。訳が分からない中、席に座った。

 

「まずはお気づきでしょうが、この階層はすでにボス部屋。我々サーヴァントがいる部屋として機能しています」

 

「それしかないのか、この街並み全部、ただのオブジェクトなのか?」

 

「はい、そうなってしまった階層です」

 

「汝らの真名はなんと言う」

 

 セイバーの問いかけに鬼の彼女は静かに呟く。

 

「我が真名は巴、巴御前。彼女は真名、アタランテ。狩猟の女神アルテミスの加護を持つ者」

 

 それに俺たちは驚く。

 

 セイバーだけがお茶にも手を付けず、ただ険しい顔でずっと二人を見ていた。

 

「真名まで話して、貴公らの目的はなんだ」

 

「戦いに意味が無い。だから吾々は戦わないだけだセイバーよ」

 

 そう言ってアタランテは静かに目を細めた。

 

「この階層を突破することは不可能だ」

 

「ほう、どういうことだ。汝らが戦わないと言うことは戦いを放棄、棄権した扱いになり、自動的に余たちの勝利として処理されるはずだ。ならば」

 

「はい、我々の中にあなたたちを先に進ませないため、戦う、この先に進ませないと言う選択をしたサーヴァントがいます」

 

 巴御前がそう呟き、つまり一人が戦うことを選択していれば俺たちは前に進めない。それが彼女たち、サーヴァントのルールなのだろう。

 

 なら、

 

「最後の一人はどこにいる。どこでなにしてるんだ」

 

 それを聞くと巴御前はなにも言わなくなり、アタランテが呟く。

 

「彼の英霊の名前は誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)と言う」

 

「なん、だと」

 

 セイバーだけが驚愕し、俺たちは分からず、シノンへと視線を向けた。彼女も分からないから首を振る。

 

「セイバー、そのナーサリー・ライムってなんだ」

 

「………童話の英霊よ」

 

 険しい顔のまま、彼女が語る。前回(・・・)の戦いで彼女はそれと戦った。彼女の宝具はやり直しの宝具とだと言う。

 

「やり直し? それって」

 

「うむ。自分に不都合な事例が起きた場合、彼の英霊は時間を巻き戻し、それを無かったことにする。事実上無敵の宝具だ」

 

「はあ、時間を巻き戻すって………なあ」

 

 クラインの言葉に俺も頷く。

 

 時間を巻き戻すなんて不可能だ。そんなことできるはずがない。

 

「それでも、もしかしたらと言う顔をしているぞ。またな(・・・)

 

 アタランテがそう呟いた。

 

 全員が顔を上げて彼女を見た。俺は静かに、

 

「どういう意味だ」

 

もうこのやり取りは何回目なのだろうな(・・・・・・・・・・・・・)

 

 そう彼女は呟き、紅茶を一口、飲んだ。

 

「ああ、あなたの淹れた紅茶は、何度目だろうとうまいな」

 

「ですね………」

 

 彼女たちのやり取りに俺たちはただ、戦慄するしかできない………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ねえねえ、あれ買ってあれ買って♪」

 

「ああ」

 

 ありすを連れて俺は下の階層で買い物をしていた。彼女にとって目に映る物が全て輝いて見えるのだろう。好きな物を買い、楽しんでいる。

 

「この後は何がしたい?」

 

「えっとねええっとねえ♪」

 

 楽しそうの少女と付き合い動き続ける。鬼ごっこ、かくれんぼ、おままごと、本の読み聞かせにただの買い物。

 

 彼女の言葉を肯定しながら、俺は静かに彼女と共に町を歩く。

 

「これ付けてっ♪♪」

 

 可愛らしいフリルのついたピンクのリボンを買ってあげながら、チョコレートも買ったりする。

 

「ああ甘いわ甘いわ♪ だけどほんのりにがいの、チョコレートって不思議だわ♪♪」

 

「ああ」

 

 そう言いながら彼女と時間を過ごす。

 

「ああ楽しいわ楽しいわ♪」

 

「よかった」

 

「ええ楽しい♪ おいしいもの、楽しいもの、素敵なものがいっぱいだわ♪♪」

 

「そうだね」

 

 危険の無い世界を巡る。それは素敵なことなんだろう。元の場所も戻り、俺は彼女を膝に乗せてブランコを漕いでいた。

 

 彼女はずっと笑顔のまま、時間を過ごす。

 

「素敵なあなた、素敵な時間♪ 毎日がきらきらな時間」

 

「………」

 

 ブランコを漕ぎながら歌う少女。

 

「童話?」

 

「マザーグースって言うのよ」

 

「楽しい?」

 

「マザーグースはねえ、本当はとっても怖いのよ。童話もそう、悲しいもの、怖いものでできているの」

 

 楽しそうな少女は嬉しそうに俺に話している。話をして楽しむ少女。

 

 俺はただ彼女と楽しくお話しした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「童話の英霊ってあり得るんですか」

 

「あり得るぞ」

 

 セイバーと共に町の中を探索する。結局この情報は混乱するだけであり、誰にも話さずに探索が続く。

 

 階層の様々な場所を調べ回ってみるがメイトの姿も見当たらず、三騎目のサーヴァントも見当たらかった。

 

「セイバー」

 

「どうしたキリトよ」

 

 俺はあえて彼女に聞く。

 

「この前の戦い、三騎目のサーヴァントはどうやって倒した?」

 

「………あれは友の助けがあって、初めて戦うことができた」

 

「助けがあって?」

 

 その顔は険しい顔であり、顔を歪めながら話す。

 

「このままなら、余たちはけして彼の英霊と戦っても勝てることも負けることも無い」

 

「勝つことも負けることも………」

 

 俺はその言葉に戦術的には勝てるが、それを覆すことができる力が相手にあると言うこと。

 

 もしもそれをどうにかしないと、見つけたところでなにもできないと言うことだ。

 

「どうにかできないのか」

 

「………」

 

 セイバーはなにも答えることはせず、ただ険しい顔のまま。なぜかメイトとは出会えないままだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 楽しい時間は刻々と過ぎていき、もうすぐ終わりが近づく。

 

 彼女が夕焼けが近づくにつれて笑顔が沈む。

 

「………さよならの時間だわ」

 

 そう言ってブランコから飛び降りて、俺の前に小さく立ち尽くす。

 

「ここから見えるお空は偽物なのね」

 

「ああ」

 

 俺はそう答える。

 

「………ねえ、お兄さん」

 

「なんだい」

 

「お兄さんは………どこに行きたいの?」

 

 その問いかけに、俺は変わらない。

 

「俺は〝上〟に行く、行かなきゃいけない」

 

 そう答えた。彼女は泣きそうになる。

 

 沈んだ顔、買ってあげたリボンを握りしめ、三つ編みの髪が揺れた。

 

「どうして、上に行きたいの………」

 

「そうしたいから」

 

「どうして、ありすと遊んでくれるの」

 

「そうしたいから」

 

「………どうして」

 

 顔を上げ、彼女は静かに、

 

 

 

「ありすを殺さないの?」

 

 

 

 彼女のその問いかけにはすぐに答えられる。

 

「そうしたくないから」

 

 彼女は何も答えない。いつしか歯車の音が聞こえ、針の音が聞こえて来た。

 

「時間だわ」

 

「そうだね」

 

「………」

 

 近づく時間、終わりの時。彼女は………

 

「お兄さん」

 

「なんだい」

 

 泣きそうな顔を上げて静かに、

 

「ありすと遊んでくれて、ありがとう」

 

 そう寂しそうに俺に告げた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なぜ俺は彼女を殺さない。目的は〝上〟に進むこと。ならば戦う以外に選択肢は無い。

 

 それしか無いのは理解している。

 

 それでも、

 

「俺はいまのやり方を変えたくない」

 

 それに黒いドレスの少女は何も言わない。

 

「繰り返すだけだわ、けして〝ありす〟の夢は終わらない」

 

「それでも変えられない」

 

「………おかしな人」

 

アリス(・・・)

 

「なあに」

 

 悲しそうな黒の少女に俺は髪に触れる。

 

「ぁ………」

 

 リボンをほどき、新しく髪を編む。

 

 彼女はなにも言わず三つ編みになる中、彼女と共に買ったそれをつけた。

 

「………上手ね」

 

「ああ。彼女に何度もやってあげたから」

 

 そう言い彼女を見つめる。彼女は静かに、

 

「それじゃあね、アリス」

 

「………またね、素敵なあなた」

 

 絵本を閉じた………




素敵なあなた、ありすと遊ぶ、素敵なあなた。

悲しいあなた、夢見る世界で夢を見ない、夢見ることができない悲しい人。

あなたはどうして茨でできた道しか歩かないの? どうして真っ暗闇を見続けるの?

夢見るあたし(ありす)、優しい騎士様(ナイト)と町を巡る。

優しいあなた、あなたはどうしてあたし(ありす)の夢を壊さないの?

どうして、こんなに悲しい気持ちなの?

夢は続く、悲しい現実とお別れよ。

だから………

あなたも幸せな、夢を見て………


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第17章・夢を壊す愚者

閉ざされた夢の中、ありすは目を閉じる。

痛いこと、悲しいこと、怖いこと。

全部が全部嘘になる、素敵な素敵な夢の世界。

だけど、どうしてあなたは夢を見ないの?

素敵なあなた、悲しいあなた、夢を見られない可哀想なあなた。

あなたはなんであたし(ありす)を見つけるの?

真っ暗な世界、悲しい悲しい世界でしか生きられない人。

それでもあたし(ありす)を必ず見つける、優しいあなた。

あなたは、この先に行きたいの?

真っ暗な泥の中、あなたはその先に行きたいの?

あたしは………


 それは新たな階層を開放した次の日、エギルの店まで下りて背伸びをした。

 

「よし、新たな階層の探索を始めないとな」

 

「キリト」

 

 俺が新しいフィールドに行こうとすると、セイバーが話しかけてきた。

 

「ああセイバー、君だけか?」

 

「うむ。奏者は用があるらしくてな」

 

「そうか」

 

 新しい町を見るのも大事だからな。そう気楽に話しかけた。

 

 彼は変わらず平常運転らしいな。俺たちを初めとしたプレイヤーたちも、共に新しい町を調べに出向く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「っと、さすがに今回はプレイヤーが多く来ているな」

 

 そう言って辺りを見渡すと、多くのプレイヤーが町を見て回る。

 

 攻略組でなくても町程度なら誰でも見て回れるからなと納得し、俺も歩き出そうとすると、

 

「キリト君っ」

 

 慌てた様子で見知った顔、アスナたちが現れた。

 

「アスナ、みんなどうした」

 

「それが、この町変なの」

 

「変? いったいなにが」

 

「NPCが一人もいないの」

 

 それに俺は驚いた。店らしい建物がある。それにどんな場所でも町である限り、NPCはいるものだ。

 

 俺はその話を聞き、クラインたちを見る。

 

「建物も結構変でよお。扉にまた小さな扉が何個もついてたり、ツリーハウスのような場所も変な場所にあったりしたぜ」

 

「建物の中に庭があったりもしたよ」

 

「後は中央に大きなテーブルが、椅子もずらーーーといっぱいありました」

 

「きゅう」

 

 リーファやシリカからもそんな話を聞き、俺は首をかしげた。そこまで手の込んだ建物なら、NPCがいても不思議じゃない。その中でフィリアも、

 

「それだけじゃないんだキリト」

 

「それだけじゃない?」

 

「迷宮区、エネミーが出るフィールドも見当たらない」

 

「なっ………」

 

 そんなバカなことがあるか。町の他の迷宮区、ボス部屋やエネミーがいなければゲームとして成立しない。

 

「いまみんなであっちこっち調べてるんだけど、誰一人、NPCにも会ってない」

 

「どういうことだ? ともかく手分けしてさが……」

 

 その時、俺は一人の少女と目が合った。

 

「えっ」

 

 セイバーもん?と辺りを見渡して見つけた。

 

「君は」

 

「あたしはありす、お兄さんを待っているの」

 

「お兄さん?」

 

 その時、誰かが転移して来た。

 

「メイト………」

 

「………」

 

 彼は買い物袋を抱え、静かに彼女、ありすを見つめた。

 

「………ありす」

 

「………」

 

「さあ、終わりの時間だよ」

 

 気が付いたとき、ありすの側に黒いありすがそこにいた。しおりをはさんだ本を抱え、静かにメイトを見つめる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺たちはなにがなんだか分からない中、セイバーは黒いありすが現れたことで武器を構える。

 

「離れよ奏者っ、そやつはサーヴァントだっ!!」

 

「なっ」

 

 サーヴァントの存在に俺たちが身構えている。

 

 その時―――メイトが立っていた場所に何かが飛来し、土煙を立てながら何かが吹き飛び、建物を破壊した。

 

「………なに?」

 

 それは黒いありすでも、白いありすでもない。真横からの攻撃、セイバーも絶句して周りのプレイヤーは騒ぎ出す。

 

「終わりじゃない」

 

 突如として誰かが下りて来た。

 

 深い緑色の狩人が、血走った目で土煙の先を睨む。

 

「終わりじゃない終わりじゃない終わりじゃない終わりじゃない終わりなわけない終わりであるはずがない………」

 

 黒い霧を立ち上らせ、それは一歩歩くごとに変化する。緑の髪が色を失い、黒い獣を纏う彼女。その後ろから鬼の彼女は悲しそうに見つめる。

 

「我々の中で先に進ませないサーヴァントは、彼女です。バーサーカー、アタランテ〝オルタナティブ〟」

 

 そして現れた彼女は黒い鎧を纏う、紫の光が怪しく輝く。

 

「お前をこの先に通さないッ、お前を殺す、そしてまた今日を繰り返すッ!!」

 

 そして彼女は矢を構えた瞬間、闇が噴き出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

【誰も手を出すな】

 

 花が舞う。彼を穿つ矢は手でへし折られ、建物の中にある花畑の中、死は立ち上がる。

 

「くっ」

 

「奏」

 

【『令呪を以て命ずるッ、手を出すなセイバーッ』】

 

 その瞬間、メイトの左手に刻まれた印が一部消え、セイバーは赤い光に膝を付く。

 

「お前を殺す、殺す殺す殺す。殺すウウウウウウウウウウウウ!」

 

【来い、バーサーカー】

 

 雷光と共に黒い光が走る。屋根の上を跳び回り、黒い閃光として矢が放たれていった。

 

 その全てが死相(デッドフェイス)へと降り注ぐ中、それら全てを受け止め切れなくても彼は止まらない。

 

「死ね死ネシネシネえええええッ!!」

 

 闇を纏う一撃が花と鮮血をまき散らす死へと迫る。

 

「『闇天喰射(タウロポロス・スキア・セルモクラスティア)』ッ!!!」

 

 ミサイルのような一撃が迫る中、それを拳で吹き飛ばす。

 

 血が舞う、花が舞う、闇が舞う。

 

 それでもありすとアリスはなにも言わず、見つめていた。

 

「うわっ!」

 

「なにっ!?」

 

 地上に落ちた彼に遠巻きに見るプレイヤーたちをかいくぐり、無数の矢が四方から放たれる。

 

 全てを斬り落とす。だがいくつか確実に彼を射貫き、プレイヤーは傷つけない。だが自分は違うと判断しながら後ろへ引いた。

 

【っ!?】

 

 その瞬間、両足を折りたたみながらいつの間に自分の視界に現れた。そのまま両足で全力で蹴り飛ばす。

 

 メイトは黒い閃光と成り吹き飛ぶ。

 

 建物の何もかも、プレイヤーが被害を受けず、確実に相手のみ傷つけるパーサーカー。

 

 建物の中で倒れ込み、起き上がろうとした瞬間、アタランテが馬乗りに乗り、両膝で頭部を固定した。

 

 そして視界に入るのは無数の矢を構えた血走った狩猟の英霊。

 

 弾丸のような音が鳴り響き、頭部へと突き刺さり始めた。

 

「ッ!?」

 

 だが暗闇は全て受け止め、片腕で彼女の足を掴み、その怪力のみで吹き飛ばそうとした。吹き飛ばす瞬間、その脚力でまた彼を蹴り飛ばす。

 

 何かが折れる音が鳴り響きながら吹き飛び、建物や地面に激突しながら両足に光が走り、地面と触れてそこからブレーキをかけていく。

 

 血を流しながらも闇は消えず、死相は静かに迫る獣を見た。

 

「なぜだッ!? この世界ならば誰も死なないはずッ。誰もが救われるのにッ!!」

 

【………それでも俺は〝上〟に行く。その為に戦うと決めたんだっ!!】

 

 腕から流れる血。雷光の戦いが始まり、キリトたちは間に割り込めない。

 

「セイバーッ」

 

 このような戦い、セイバーしか出られない。

 

 だがセイバーは剣を地面に刺し、なにかに抑えられているように顔を歪めていた。

 

「だめお兄ちゃんっ、セイバーさんが動けないの」

 

「どういうことだっ!?」

 

「令呪だ……。サーヴァントだけに効く、マスターのみが持つ絶対命令権っ。奏者は余が戦うことを禁止したっ」

 

「そん、な」

 

 激突する光の中で剣を構えた彼は、静かに斬り込むが懐に入り込み、再度その足で空へと彼を打ち上げた。

 

 即座に追撃する。激突してさらに上へと上げていく。

 

「終われない、終わってたまるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ほぼ至近距離で弓を構え、闇が集まる。

 

「シッネエエェェェェェェェェェェェェェェェェェ」

 

 放たれた閃光は空高くへと放たれる。

 

 黒い柱が立ち上がった。貫通して彼は大量の血を吐き、傷口から血をまき散らす。

 

 それに彼女は笑みを浮かべたが、

 

【………俺の】

 

「ッ!?」

 

 いつの間にか二つの剣を振り上げていた。暗く暗く、死に彩られた剣。

 

【勝ちだッ】

 

 交差する剣げきに彼女は大地へと激突し、鎧を砕かれた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メイトっ」

 

 ユウキが騒ぎを聞いて駆け付けたとき、すでに彼らは戦っていた。

 

 仲間たちは集結し、土煙と共に剣撃により花が燃える。花が燃えながら舞い上がり、いつの間にか夕暮れの中で陰りが差す。

 

 少女たちは髪の毛のリボンを外して彼を見る。

 

 降り立った暗闇から一人の青年が現れ、ストレージから紙袋、そこからリボンを取り出す。

 

「………受け取ってくれるかい」

 

「………うん」

 

「………」

 

 傷だらけの青年は髪に触れて三つ編みを編む。

 

 黒の少女は目を瞑り、白の少女は無言のまま、悲しそうに憂い、編まれている。

 

 二人の少女の髪が編まれた後、彼は静かに少女たちを見つめた。

 

「さよならなの」

 

「さよならだ」

 

「終わりなの」

 

「終わりの時間だよ」

 

「もう………」

 

 その時、ありすは首を振り、静かに言葉を止めた。

 

 少女の瞳に映る自分を見ながら、少女は青年の瞳に映る自分を見ながら。

 

「素敵なあなた、優しいあなた。あなたはどこに向かうの?」

 

「〝上〟に行く」

 

 そうはっきり告げる。

 

 少女はそれに目を閉じ、アリスはそれを静かに見つめる。

 

 その時、土煙の中、消える身体を立ち上げて迫る獣がいた。

 

 向かってくる獣。だが炎がそれを防ぎ、目の前に炎の武者が現れる。

 

「巴御前ッ、貴様」

 

 白のような髪をなびかせ、炎の弓を構える女武者。彼女が静かに立ちはだかる。

 

「もう弓を引くのをやめなさい、あなたの負けですアタランテ」

 

「負けでは無いッ。またやり直せばいいっ、そうすれば、そうすれば」

 

「彼が戦う理由は分かるでしょ」

 

 それを聞いた獣は一瞬だが彼を見る。夢を終わらせようとする者、本来なら敵である彼。

 

「なんで……なぜお前は、受け入れる!? その先は、その旅路の先は」

 

「分かっているのは知っているでしょう? それでも彼は選んだのです」

 

 その言葉に鎧を砕かれ、弓を破壊され、ついに戦う理由すら砕かれた彼女はその場に座り込む。巴御前は静かに彼らを見つめだす。

 

「あなたも行っちゃうのね」

 

「ああ」

 

「………これ、あげる」

 

 そう言って、ありすはそっと左手の甲を撫でる。

 

 彼の手に赤い光が輝き、彼の令呪が五つになる。彼女の令呪が彼に刻まれた。

 

「ありがとう」

 

 受け取った夢見る少女(ありすたち)が付けていたリボンも返そうとしたとき、二人とも首を振る。

 

 花が舞う中、アリスが言う。

 

「ありがとう、ありすの夢を終わらしてくれて。もうあたし(ありす)たちの旅は終わるわ」

 

「………」

 

「ありすの夢は素敵な夢、甘く甘く、ちょっぴりビターなチョコの味」

 

 そう呟き、花と共に光が舞う。彼女たちが住処にしていた城が音を立てて崩れ消えていく。隠された本当の姿、次の階層へ続く入口が開く。

 

 それは静かに夢の時間が終わりへと進み出す。止まっていた時間、少女の時間が一人の死者の手により壊された(殺された)

 

 それでも少女たちは死者に微笑みかける。

 

「お休み、愛しのありす。お休み、優しいアリス」

 

「ありがとう、素敵なあなた。黒の騎士様(ナイト)さん」

 

「さようなら、素敵なあなた。ありすの夢を見届けた、素敵なあなた」

 

 光が全てを攫い、永久の闇が落ちる時、夢の時間は終わりを告げた。

 

「………お休み、夢の世界にしか生きられない、夢見る少女たち………」

 

 そして彼は二つのリボン。青と黒のリボンを見つめながら、静かに握りしめた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全てが終わり、全プレイヤーのほとんどの者が気づかないうちに、大量の経験値とドロップアイテムの確保したりする不思議な一日だ。

 

 俺は静かに部屋に戻る。その左腕の手首に二つのリボンを付けながら。

 

「奏者よ、少しいいか」

 

「どうしたセイバー」

 

「うむ、大事なことよ」

 

 セイバーは窓の外、新たな階層が開いた次の日にまた開いたことで大いに喜び、新たな希望を見つめるプレイヤーを見ながら、

 

「あの階層は誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)でできていた」

 

「ああ」

 

「あの世界が開いた瞬間、この世界は外も含め、時間の巻き戻りの世界へと閉じ込められた」

 

 それは誰も死なない世界だろう。次のページに進むより、前のページに戻る。なにも無かったことにする世界なのだから当然だ。

 

 だからこそアタランテはこの世界の継続を選んだ。それは犠牲者が永遠に出ない世界だから。

 

 そして彼女たちもそれを見続けた。正直なぜサーヴァントではない彼女がいたのか、それは分からない。

 

 ただ言えるのはこの階層が開かれた瞬間、この世界は彼女の夢の時間に閉じ込められた。

 

「その時間の中、記憶を所持できていたのはおそらく英霊本人とマスター、サーヴァントであり、仲間として登録されているあの二騎のみ。だが」

 

 セイバーは静かに俺を見る。

 

 

 

「お主もまた、彼の夢の時間を覚えていたのではないか?」

 

 

 

 彼女の問いかけに、俺は静かに目を閉じた。

 

「さあ、分からない」

 

 俺はそんなことを言った。

 

 どんなに言いつくろっても俺は彼女を殺したのだ。

 

 夢の世界にしか生きられない永遠の少女をこの手で殺した。

 

 それだけは変わらない、変えられない、変えてはいけない。

 

 確信だけがあった。今日、夢が終わる。彼女は夢を見るのを止めることを。

 

 俺がそうさせた。そうなるまで待っただけだがそれを見て、俺を見て、現実を見た少女。俺がこの手で殺したのだ。

 

 彼女をただ苦しめただけの俺はきっと、旅路の結末がより一層最悪なものになったのだろう。

 

 それでも俺は、

 

「〝上〟に行く」

 

「奏者よ………」

 

「俺はそれを選んだ、ただそれだけだよセイバー」

 

 そう告げるとセイバーは静かに部屋を去る。どこかに行くことは無いのだろう。

 

 彼女が消え、俺は静かに左腕を見た。そこにある水色の青と黒いリボン。

 

「………」

 

 俺はただ進むしかない。それが俺であるのだから………




夢も希望を火に焼べる素敵なあなた。

真っ黒闇の騎士様(ナイト)。あなたはその先にどうして行くの?

それでも歩くのを止めない素敵なあなた。

だからお願いお星さま。

あの人の、あたし(ありす)の夢を見続けたあの人に。

素敵な素敵な、夢を見せて………


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第18章・その後の彼ら

日常回、スタート。


 それはしばらくまた攻略が進む中、キリトとアスナからある報告があると聞き、俺たちは集まった。いつものメンバーで議題は新しく攻略組に入ろうとする者たちらしい。

 

 前の失敗も踏まえて、かなり吟味して選んでいるのだが、アスナはそれに難しい顔をする。

 

「少し怪しい奴ら、なんだよな………」

 

 キリトが言うには装備のわりに動きが素人らしい。だが装備を見る限り、それを装備する能力値があるはず。

 

 ともかく素人が玄人の武装をしていると、キリトの目からはそう見えているらしい。

 

「イカサマなトレードや、お金での取引ってことは」

 

「まあそれもあるな。装備の中に能力値を上げるものもあるし、その可能性が高い」

 

「それでも気を付けないといけないと言うことか」

 

 セイバーがそう言うと、キリトはああと頷く。

 

 リズが《血盟騎士団》に申し込むような連中だから、アスナは気を付けた方がいいと言う話を聞きながら、そのプレイヤーの話を聞き、少しばかり考える。

 

「はいはい、そう言う暗い話はそこまでにして」

 

 その後は攻略のパーティーを行う。ここ最近進むボス攻略戦の中、だいぶ進んでいて、サーヴァントも出てこない。

 

 俺の出番はない中、料理をもぐもぐ食べている。

 

「メイト、その料理おいしい?」

 

「ああ。食うか」

 

「いただくわ」

 

「メイト、これもおいしいよ。メイトも食べる?」

 

「ああ」

 

「奏者よ、これもなかなかだぞ」

 

 シノン、フィリア、セイバーに囲まれながら料理を食べていた。料理はユウキも手を貸して、みんながみんな楽しんでいる。

 

 そんな中、クラインがあるアイテム。カラオケボックスのような機能のアイテムが出て来て、なぜと言う感想の中、宴会用でわいわいと楽しむ。

 

「よし、余も歌うぞっ。最新の歌は知っておる」

 

「ああ」

 

 その時、なぜこの世界にそんなものがあるのか僅かに違和感を感じる中、クラインがアイテムを使おうとするが、何の反応を示さない。

 

 僅かに違和感を感じながら、少しだけ近づく。

 

「クライン見せてくれ」

 

「お、おう、ワリぃな」

 

 そう言い、クラインたちに隠れながら、僅かにコードキャストを使用する。その瞬間、起動し出すカラオケボックス。

 

「おお、点いた。悪いなメイト」

 

「いや……」

 

「うむっ、それじゃ、余の美声をいまここで」

 

「ああ」

 

 ある違和感を感じながら、考え込む。

 

 この世界にこのようなアイテムは存在しない。この世界、その本来の設定ではこのようなアイテムある方が問題なのだ。

 

 世界観を壊す。知識の中にある銃器などが出回っているようなもの。

 

(どういうことだ)

 

 カーディナルが新たにデータをインストールしたのだろうか? それでも違和感がぬぐえない。

 

 元々このゲームで採用されていないドリンク、酒のようなものまで出回り出すのはエラーなど、問題になる事が多くて理解できるが、それでもこれはおかしい。

 

 この世界は現在カーディナルと共にムーンセルによって管理されているはず。それを考えればこのようなミスはあり得ないのだ。

 

 そんな中、クラインの歌が終わり、自信満々のセイバーがマイクを受け取った。

 

 そしてしばらく考え込んでいると、

 

「ん?」

 

「ん? みんなどうしたのだ? 疲れたのか?」

 

 全員がぐったりと倒れていて、俺はすぐに、

 

「疲れているんだろう。寝かせないとな」

 

「うむっ、分かったぞ」

 

 そう言って、のちにセイバーに歌を歌わせないでくれと言われるのだが、いまは関係ないことだろう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それはシノンとセイバーで、とあるクエストをしていた。

 

 内容は弓に関するもので、キリトがクラインから話を聞き、もしかしたらと相談されたことから始まる。

 

 キリトは残念ながら他に用があり、俺がこうして出向くのだが正解で、シノンの弓のクエストが進み、その練習でフィールドで探索していた。

 

「だいぶ進んだわね」

 

「ああ」

 

「うむ。余も絶好調、向かうところ敵は無しよ」

 

「油断はできない。ん」

 

 その時、俺の索敵スキルに誰かがいることを見つけた。

 

 ソロプレイヤーなのだろう、反応は一つだけだ。だがここは最前線近く、念のため様子を見に行こうと話をして、みんなでそこに向かうと、

 

「ううっ」

 

 苦しむストレアがいてその瞬間、エネミーの立ち位置を把握して割って入る。

 

 セイバーの一閃で薙ぎ払い、すぐにポリゴンへと変わるエネミーを無視してストレアの下に。

 

 いまだ苦しむ彼女、バットステータスなどではないが苦しんでいた。

 

「ストレア」

 

「みんなが……みんなが」

 

 うわごとのように呟きながら、ともかくいまは仕方ない。

 

 セイバーに守りを頼んで、俺はストレアを抱きかかえて移動する。まずは全員で安全地帯へ避難することにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メイト、シノン、セイバーごめんね。迷惑かけちゃって」

 

「いや、困った時はなんとやらだ」

 

「その通り。しかしストレアよ、敵の攻撃を受けたわけでもあるまい。寝不足か?」

 

「ふふ、寝不足か~」

 

 だが実際は違うようだ。時々、酷い頭痛が起きるらしい。原因は分からず、酷い時は動けないほど頭が痛いらしい。

 

「ああ分かる、分かるぞ。あれは急に来るからな」

 

「セイバーがそう言うのなら、危険だからソロ活動をひかえてたらどうだ? 俺たちを誘うこともできるだろ?」

 

「あれれ~心配してくれるの?」

 

「ああ、心配だ」

 

 俺が素直に言うとストレアは苦笑した。そして静かに首を振る。

 

「メイトたちには言って無かったっけ。探し物があるんだ」

 

「探しものとな?」

 

「うん。それは『世界を壊すかもしれない、なにか』なの」

 

 それを言われ、一瞬俺は自分が過った。俺はこの世界においてバグとエラー対策で作り出されたが、それでも異質なのは確かだ。

 

 なにより、俺の旅路の先は………

 

「ああ違う違うっ、メイトのことを疑ってないからね」

 

 彼女は考え込む俺にそう言い、いまはいいかと納得する。

 

「そうか。けど、それはいいとして、一人は危険だ」

 

「ありがと、けど大丈夫。アタシ強いから♪」

 

 そう言うが、しばらく休ませてから、結局別れてしまう。

 

 なにやら少しばかり、妙なことになりつつある。

 

「どうしたのメイト」

 

「いや」

 

 少し早めに確認とかしてみるか。俺の権限でコンソールを調べてみようと思いながら、この日はその後何事もなく過ぎていった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 しばらく別のことを調べたりしていると、キリトたちが騒いでいる。

 

「どうした」

 

「ああ少しな」

 

「『犯罪防止コード』についてね」

 

 話を聞くと、例のプレイヤー関係者が女性プレイヤーに絡んでいた。だが犯罪を阻止するはずのコードが発動しなかった。

 

 ので念のためちゃんと機能するか、キリトがシノンの肩を振れることで、コードが機能するか確認しているところ。

 

「そうだ、メイトも少ししてくれる?」

 

「俺が? 分かった」

 

 そう言って、俺はフィリアの腕、素肌の出ているところを触れた。

 

「ひゃっわっ!?」

 

「?」

 

「あんた時々、キリトのようなことをするわね」

 

「い、いきなりすぎるよぉ………」

 

 驚くフィリアは頬が赤いが、俺が触れたことで犯罪防止コードはしっかりと出ている。フィリアが開いたウインドウを操作すれば、俺は転移されて牢屋に行く仕組みだ。

 

「NPCであるメイトですらちゃんと機能するんだよね」

 

「それじゃ、彼らはどうして」

 

「セイバー」

 

「ん? どうした奏者」

 

「シリカに好きに抱き着いていいぞ」

 

 その瞬間、セイバーは嬉しそうにシリカに抱き着き頬すりをし始める。

 

「きゃあああああ」

 

「すまないシリカっ、けど奏者がどーーーーしてもと言うから仕方ないッ。仕方ないのだシリカっ!」

 

「どうだシリカ」

 

「出てます出てますっ! 出てますからさわら、ひゃあ」

 

 シリカから悲鳴が上がりすぐにチョップをかます。

 

 セイバーのように同性でも過剰な触れあいはしっかり働く。ピナを頭に止めながら俺は首をひねった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「色々問題ばかりが浮上するな」

 

「ふむ、余たちの出番が無いってところも少々気になるな」

 

 サーヴァント、彼らが現れないことはいいことではあるが、それはそれで嵐の前の静けさとしか思えない。

 

 そうしていると占い師の前で、なぜか妙な雰囲気の一団を見つけた。

 

「どうしたみんな」

 

「あっ、新しい人が来たよ」

 

 そんなことをストレアが言い、ユウキに詳しい内容を聞くと、

 

「相性占いでベストカップルにはレアアイテムが渡されて」

 

「皆がキリトとした結果、クラインとしたら一番のアイテムが手に入ったと」

 

 その時、セイバーはうむうむと腕を組み頷く。

 

「キリトよ、余は問題ないとだけ言っておくぞ」

 

「何の話だセイバーっ」

 

「お、俺は普通だっ! 可愛い女の子がいいに決まってる。め、メイト。お前さんもやってみてくれよ!」

 

「俺と?」

 

「セイバーさんと」

 

 アスナが強く言う。結局これはランダムであり、自分はあまりいい物でなかった理由をはっきりしたいらしい。

 

 アスナ、クライン、キリトガールズ、キリトからするように言われて、占い師に相性占いをしたところ、

 

「S級食材がもらえた」

 

「………」

 

 言葉を無くすアスナとキリトガールズ。

 

「あんたたち、やっぱり」

 

「そういう」

 

「違う違う違ーーーーうっ!」

 

「メイトそこは違うアイテムだっつうの!」

 

 クレームを引き受けたくないのだが、もらったアイテムは後でみんなで食べようか。そう考えていると服の裾を掴まれていた。

 

「念のためにわたしともしてみてください」

 

 それはユイであり、両手を広げていた。

 

「分かった」

 

「あっ、試しにお姫様だっこしてみてください」

 

「なぜ」

 

「これが対象者のドキドキした感情か、イチャイチャしていることで判定されているかもしれないからです」

 

 前者はともかく、後者はよく分からない。

 

 ともかくユイをお姫様だっこをして話しかけてみた。そしたら、

 

「わあ、S級食材ですっ♪」

 

「………なんだと」

 

「えっと、三回続けて一等って出ないよね………」

 

「ということは」

 

 キリトとクラインはベストパートナーで、俺はセイバーとユイとベストパートナー。

 

 その事実が重く伸し掛かる中、とりあえずユイを下ろす。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

 そう言って逃げようとしたがリーファとアスナが肩を掴む。クラインが必死の形相で、

 

「おいメイト、このままお前さんがいなくなったら確認できねえんだよっ!」

 

「お願い、ランダムっ、ただのランダム」

 

「お願いしますメイトさんっ!」

 

 リズとシリカがそう言って、試しに全員でやることになる。みんな必死だった。

 

 別に恋人同士のキリトとアスナよりも良いアイテムを手に入れたからと言って、クラインがそう言う意味で良好なのか分からない。戦闘や攻略と言った意味で良好な関係なのかもしれない。

 

 そう言うことを言える雰囲気で無いため、全員で試し、アスナ以外全員と試し終えた。クラインは二度と男となんかできるかと断る中、

 

「わあ、ボクとも相性ばっちり♪ S級食材だ♪♪」

 

「他は良くて結晶アイテムで、他は普通か店で買える物ね」

 

「やっぱりランダム………」

 

「まだ分からないよ。メイトがセイバーやユイとユウキとベストカップルなだけかも」

 

 ストレアの言葉にざわめくメンバー。キリトガールズは青ざめていた。

 

 俺は静かにそれはそれで問題なのだが、両親が疑いの目でこちらを見る。

 

「ともかく、次はわたしが行きます」

 

 残ったアスナが気合いを入れて俺と手を繋ぐ。

 

「これでラストだな。将来のことを占ってくれ」

 

 そう言うと占い師はムムムっ難しい顔をして驚愕した。

 

「こ、これはっ!? お二人はまさに運命に導かれたお相手。わたくしがとやかく言う必要はありません」

 

「ん?」

 

「へっ?」

 

「そんなあなたたちにはこれを。その先も光に満ち溢れることを願っております」

 

 そう言って指輪型のアクセサリーをもらえた。

 

「あれれ? アスナとメイトってベストカップルなんだね」

 

「そ、そんな~。どうしてキリト君とじゃないの~」

 

「なにげに凄いレアアイテムだぞこれ」

 

「本当です、全能力値が上がるアイテムです。低くてもかなり数値が上がりますっ」

 

「うわわん、なにげに良いアイテムだよ~」

 

 アスナはキリト相手じゃないため、かなり複雑そうに指輪アイテム装備を検討し出す。

 

 しかしまあ、

 

「ここまで複雑な扱いされるってのも、どうかと思うが」

 

「このクエストと言うかイベント。人間関係を面白おかしくするな」

 

「ま、まあな。他のプレイヤーには気を付けるように言わないと」

 

「うわーーーん」

 

「キリトよ、なにかをプレゼントするときは気持ちでも良いから、指輪あいてむを渡すのだぞ」

 

「はいそうします」

 

 そんな騒動の中、攻略は進んでいくのだった。




キリトガールズ、正妻アスナ、リズベット、シリカ、リーファ。

メイトガールズ? ユウキ? セイバー、シノン、フィリア。

ミニイベントと共に進めていきます。攻略戦は順調に進み、上に近づいています。終わりまで行くぞ。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第19章・順調な旅路の中で

あまり変わらないところは飛ばしています。それもあり話が急展開しているところが目立ちだすな………

それでも最後までこの作品は投稿しますので、よろしくお願いします。


 それはある日のこと、ストレアがS級食材を持って来てプチ料理大会、パーティーが始まる。

 

 セイバーが余もやるぞと言ってとんでもないものを出して戦慄させたが、ストレアのも凄いので打ち消し合っていた。

 

 その日はストレアもここの宿を利用する中、俺はキリトと攻略について話している。

 

「ここ最近はサーヴァント部屋は出ていない。問題は無いよ」

 

「そうか」

 

 そう話している時、キリトは俺の左手を見る。

 

「それは」

 

「令呪、契約サーヴァントに対する、絶対命令権の一種だ。俺は五画、いま手元にある」

 

 一画使用したが、彼女からもらったもので合計五画もある。キリトは一度使った画面を思い出し、不可解な顔で令呪を見つめる。

 

「そんなものが、どうして」

 

 キリトに令呪について説明する。

 

 サーヴァントはけして友好的にマスターと共に戦ってくれないことがある。反英雄、悪名を以って有名になった者もいるからだ。

 

 それだけじゃなくブーストのような効果。サーヴァントの限界すら突破し、強制的に回復させたりすることもできるので、必要なものとして説明していると、

 

「誰だ」

 

 部屋の前、扉の向こうに誰かいる。俺はそれを察して話しかけたとき、

 

『アタシ』

 

 そうすぐに返事が返り、扉を開けると難しい顔をしたストレアがいた。

 

 彼女の具合が悪そうであり、少し苦しくて眠れないところ、話し声が聞こえたから立ち寄ったとのこと。

 

「平気か、いまコードキャストを」

 

 コードキャストを使用しようとしたが手で遮られ、静かに首を振るストレア。彼女を曰く、これは本人の問題らしい。

 

 キリトも頭痛のことを知っていて、それが関係しているのか聞くと、彼女の感覚では、自分では無い誰かが自分の中にいて、その誰かが痛くなると痛くなる。

 

 知らないいろんなものが流れ込む。すごく大事なことだけど、忘れちゃっている。だけど思い出そうとすると、自分が自分でなくなる気がすると言う。

 

「ストレア」

 

「メイト………」

 

「ストレアになにか危険があるのなら、みんなでどうにかする。なにがあっても、みんな変わらない。だから辛かったら頼って欲しい」

 

「そうだな。なにかあれば、俺たちがストレアを助ける。ストレアだってそうだろ」

 

「………うん………」

 

 そんな話をしていると安心したのか、彼女はキリトの部屋で眠り始めた。

 

「それじゃキリト」

 

「待てメイト、お前はこの状況を放っておく気か」

 

「すまない、俺にはどうすることもできない」

 

「そんなあっさり、あっ、待てメイトっ!」

 

 キリトはとりあえず放っておき、俺はストレアの言葉を思い出す。彼女にもなにかあるのか?

 

「ホロウで少し調べるか?」

 

 そう考えながら、リソースを確認した。

 

 リソースはここしばらく戦闘が無く、だいぶ回復している。このまま何事もなく進むば、

 

「俺は〝上〟にたどり着く、その先はきっと」

 

 その先を考え、すぐに首を振る。

 

 意味の無いことだ。それくらい分かること。

 

 そして俺はセイバーたちが眠る部屋へと戻り、俺もまた眠ることにした。

 

 攻略が進む、最上階に近づく。それは〝上〟に近づいているということ。

 

 もうすぐ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 90層への階層はサーヴァント部屋であった。そんな話があり、俺が共に階層へとやってくる。

 

 いつも通り、さすがに慣れた攻略組メンバーは何も言わず、そして奥へと来ると、ただのだだっ広い石舞台。

 

 多くのプレイヤーが困惑する中、俺も困惑する。そこにそれはいた。

 

「待っていたぞ、この〝世界〟のマスター」

 

 そこにいたのは一人の男、その男は見覚えがあった。なぜならば俺はこいつに〝殺され、殺している〟。

 

 そうこの男は………

 

「奏者よっ!」

 

 唐突に何かが迫り、放たれる攻撃に無数のコードキャストの壁を作り、セイバーを守る。

 

 それは拳、中国武術家が放つ一撃を防いだ。

 

 だがセイバーだけが目を見開き、そして俺は吐血した。

 

「なっ、メイトっ!?」

 

「どーしてだっ!? いま防いだはずだろっ?」

 

 クラインたちが戦慄し、それはすぐにマスターの元に戻り、セイバーが前に出る。

 

「よもや貴様らとは」

 

「そうだな、こちらも驚いた」

 

「なっ、貴様。バーサーカーではないだと」

 

 セイバーが驚く中、胸を押さえ、俺は顔を上げてマスターを見る。

 

 すぐに回復のコードキャストを使用するが、これは、

 

「即死の拳、格闘術。お前は」

 

「儂はクラスアサシン、そこのセイバーとは〝前回〟と〝前々回〟、バーサーカーとして打ち負かされたサーヴァント。名を『李書文』と言う」

 

「………即死の宝具か」

 

 彼については記録にある。

 

 李書文、彼の拳は必殺の武術。避けても俺が防壁で俺に放たれた事実だけあればいいのだろうか。発動し、俺に即死の傷を与えた。それでも生きているのは俺が死者だからだろう。

 

「儂の一撃を食らい、生きているとは。さすがだ」

 

 喉を鳴らしながら笑い、笑みを浮かべる李書文だが、マスターは一切笑わない。

 

「〝前回〟と〝前々回〟………セイバー」

 

「………まさかアサシンのクラスで、お前たちとまた相対するとは。なぜお前はここにいるっ!? 『ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ』っ!?」

 

 そう言われた男は、僅かに顔を上げ、俺を見る。

 

「なぜ? なぜだと? お前が言うかセイバー?」

 

 それは怒気は感じない。怒りを抱いたところで意味が無い、そう言わんばかりに彼から感情を感じない。

 

「〝それ〟がここにいる、だからこそ俺はここに来た」

 

「メイトがここにいる………」

 

「確かにそれはここにいる者たちとって必要な〝道具〟だ、だからこそ不愉快極まりない」

 

 そう言いながら彼の身体は黒く染まっている場所がある。

 

 その黒は、

 

「お前も、死相(デッドフェイス)………」

 

「そうだ、お前と同じ、死人だ」

 

 血を流しながら回復スキルを使用して立ち上がる。

 

 お互い見る瞬間、武器が破壊された。いつの間にか破壊されていたらしい。

 

「先ほどの一撃か?」

 

「死人ならばそんなものは不要だろう」

 

「………他のサーヴァントはどうした」

 

 ここには後二騎、サーヴァントがいるはずだが、ユリウスの背後に折れた螺旋剣と二降りの赤と黄色の槍がある。

 

「殺したさ、お前をここで消すために。死人は死人らしく死んでいればいい、なぜおまえは動く? 死人の分際で生者の輪の中にいて己を見失ったか?」

 

 その言葉に一切の感情が無い。

 

 だがキリトたちはその言葉に前に出ようとして止め、静かに立ち上がる。

 

「セイバー、あのサーヴァントは倒せられるか」

 

「やれと言うのであれば、ただし気を付けろ奏者。奴はバーサーカー、理性の無い奴を使いこなした強者よ」

 

「分かった。なら二手に分かれるぞ。俺がマスターを、お前はサーヴァントを」

 

同じこと(・・・・)を繰り返すか」

 

「クッカカ、それも良いが、儂はバーサーカーではないこと忘れるなよッ」

 

 気迫が放たれ、それだけで地面がへこみ、セイバーが顔を歪めた。

 

 ユリウスと共に手を翳す。お互い顔が死へと変わり、そしてぶつかり合う。

 

 それと同時に、剣と拳が激突した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 死が激突し合う。

 

 お互い死相(デッドフェイス)であり、死の侵食が効かない相手。

 

【お前は知っているはずだ、この戦いに意味は無い。まさしく死者らしい戦いだ】

 

【………お前は彼らの道を閉ざすのか】

 

【閉ざす? ふざけるな、死者がどうやっても死者だ。死人に生きている者をどうこうする資格は無い】

 

 拳が激突する中、横目でセイバーの方を見る。

 

「ハッ!」

 

「くっ」

 

 拳を防ぎ、セイバーは一時的に格闘術を手に入れ防ぎながら、コードキャストが展開された。

 

「奏者、己の戦いのみに集中せよっ!!」

 

 そう声がかけられたがそれはできない。

 

 セイバーもまたあの拳の影響下にいる。防ぐには死ぬよりも早い回復しか現状無いため、サポートするしかなかった。

 

【死人が無意味なことをするなッ!!!】

 

 拳がめり込み、腹の、あばら骨を掴まれる。

 

【くっ】

 

【苦しそうにするな、痛みを感じるな、生者のフリをするなッ!!】

 

 吹き飛ばされる中、両足にコードキャストを展開させ、踏ん張りながらユリウスを睨むメイト。

 

【どうして、そこまで否定する?】

 

【貴様を見ているとうんざりする。まるであの悪夢の再現のようだ】

 

 そう言って一人の死相は目を細めた。

 

【〝岸波白野〟のようだからか】

 

【ッ!?】

 

「っ!? 奏者………」

 

 セイバーが驚き、ユリウスが微かに震える。それでも彼は変わらず立ち尽くす。

 

【貴様………】

 

【驚くことか? 俺は死相(デッドフェイス)だぞ?】

 

 それに雷光のような死が立ち上る。

 

 ユリウスが立つ場所が暗闇に飲まれていった。

 

【貴様は知っているのか、知っていて変えないのか、貴様は、お前たちはッ!!】

 

「奏者………、なぜその名を」

 

【俺はセイバーから真名を教えてもらう資格は無い、俺もまた隠していることもある。そんな〝モノ〟に資格なんて無いのも理解している】

 

【理解していながらもなお、お前は変わらないのか。岸波ッ!!】

 

 そう叫び声を上げたが、俺は静かに否定する。

 

【お前も変わらないな、変えられないのはお前の方だろ】

 

【黙れッ】

 

 ユリウスがコードキャストによって強化され、また接近戦、拳が激突し出す。

 

死相(デッドフェイス)は死の再現、悪性情報だッ!! お前は〝また〟生にしがみつき、死を忘れるかッ!?】

 

【俺は〝岸波白野〟でも〝岸浪ハクノ〟でもない。だからこそ死を忘れているわけではない】

 

 拳が激突し、顔を近づかせて彼は、

 

【俺はだから〝上〟へと進む】

 

【貴様………】

 

 離れた瞬間、ユリウスは令呪の腕を翳す。

 

【『令呪を以て』】

 

【かかったな】

 

 その言葉の次の瞬間、鮮血のエフェクトが舞い上がる。

 

「ほう………」

 

 李書文が感心し、ユリウスの令呪を刻まれた腕が斬り落とされた。それを斬ったのはメイト。

 

 ただメイトは剣を握りしめていない。ユリウスの腕を斬った剣は別にある。

 

「なっ」

 

 キリトが気が付くと、彼が背負う鞘の周りにコードキャストが展開されていた。

 

 それはキリトの背中から解き放たれ、その勢いのまま、剣はユリウスの腕を斬り落としている。

 

【お前は俺に固執しすぎだ。ここには攻略しに大勢の生者がいるんだぞ?】

 

「奏者ッ!!」

 

 その瞬間、それは構えていた。

 

 メイトの側で拳を握りしめ、獣のような眼光が獲物を仕留めようとしている李書文。

 

【そうだ、俺はそうやって(・・・・・・・・)お前に殺された】

 

 放たれる高速の拳術。

 

 彼の利き腕より瞬時繰り出された高速三連撃。それに俺は同じ型で同じように放つ。

 

「まさか」

 

 激突し合った急所を一寸狂いなく放つ必殺を、同じく一寸狂い無い必殺で返した。

 

【貴様………】

 

 李書文もユリウスも驚く。

 

 彼が培った、サーヴァントの技をそっくりそのまま返したのだ。他ならぬ必殺の技を。

 

 その時、コードキャストが展開される。

 

 キリトから抜き取った剣が高速で動き、ユリウスを貫く。

 

【貴様………〝敗者の記憶から〟、アサシンの技を〝思い出した〟なッ!!?】

 

 そうだ、俺にはそれで殺された記録がある。

 

 その記録を使えばどのタイミングでどう放たれるか、分かり切っていた。バーサーカーでなく、知能持つ正確な技を放つ彼だからこの方法で防げたのだが。

 

 死相が消える。だがそこにいるのは死人だろうか。彼は消えるアサシンの姿を見ながら、吹き飛ばし告げる。

 

「俺は忘れない。俺たち死相(デッドフェイス)は生者に触れられない」

 

【………貴様は】

 

「俺は〝岸波白野〟でも〝岸浪ハクノ〟でもない。だからこそ、最後に行きつく先くらい分かる」

 

 それを聞いてユリウスは消えていく。

 

【お前は結局】

 

「お前も忘れない、お前も死相(デッドフェイス)なのだから」

 

 こうして道は開かれ、最後の時が近づく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「奏者よ」

 

 セイバーが近づく。

 

 いまは90層へ進出したパーティー中、ストレアが皆にハグしたりと、わいわいキャーキャーする中だ。

 

「お主、どこまで知っている?」

 

 その言葉に俺は静かにセイバーの頭を撫でる。

 

「………答える気はないのか、それでは、余はいつまでも真名を開かせられないではないか」

 

「ごめん」

 

「いや、仕方ないのだろう」

 

 セイバーはそう言い、俺は天井を見つめる。

 

 残り10層。そうすれば、

 

「俺は〝上〟に進める」

 

 そう呟きながら、残り僅かな時間を楽しんでいた………




 最後のマスターが倒され、それは静かに目を閉じた。

「最初のマスターは〝失敗〟だった。けど今回のマスターは問題なかった」

 ただ問題があるとすれば、自分のリソースを増やすために、他に配置したサーヴァントを吸収したところか?

「それでもあれを壊すには届かなかった。だけど死のデータから情報を得て、経験にする方法は分かった」

 ならば手はある。それはそう思いながら準備し出す。

 自分以外のマスターは終わりを告げた。

「だから終わらす。その為に、使えるものはすべて使う」

 そう呟き、それは誓う。

「この世界を守る、ただ、それだけに………」

 そう静かに、ウインドウのメイトを握りしめる。その手に刻まれた令呪が淡く輝きながら………


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第20章・動き出す者

終わりの時が近づく。存続か破滅か、彼らの戦いを見守ろうか………


 セイバーと共に少しずつ階層を上がる中、今日はユイと共にお留守番だ。もうすぐ100層へと近づく。

 

「とはいえ、リソースの回復もあるからな」

 

 情報を集めながら色々調べてみると、どうやら〝神隠し〟とかいう行方不明プレイヤーがいると言う話を聞く。

 

 念のため《ホロウ・エリア》で調べてみようかと、キリトと相談しようとしたとき、

 

「!」

 

 地震のような出来事が起きて、体制を崩さないようにしていた。

 

「いまのは」

 

「奏者地震だぞっ!」

 

 お風呂に入っていた、セイバーとなぜかユイがタオルを巻いて出て来て、色々言いたいことがあるがいまは置いておいて、

 

「ユイ、この世界に地震が起きる。ということはあり得るのか」

 

「いえ、そんなはずは………。なにか、他に要因があると」

 

「攻略に出向いているキリトたちや、探索しているユウキたちが心配だな」

 

「ああ、念のため見に行こう。セイバー」

 

「うむ」

 

 服を着たセイバーと共に攻略組に会うために動くと、無事キリトたちがそこにいて、様子を見に行く。

 

「キリト」

 

「メイトか、そっちは無事か」

 

 それに頷きながら、今回のボス攻略戦について詳しく話を聞くと、

 

「ストレアが参加したのか」

 

「ああ。けど、いつもの頭痛が酷くなってな。その後、すぐに別れたんだけど………」

 

「ストレアは一人だから、心配だな。余たちの方も見かけたら共に行動するようにしおこう」

 

「ああ頼む。メイトも気を付けてくれ、もうすぐ100層。なにが起きるか分からない」

 

「ああ」

 

 だがストレアの異変について少しばかり気にはなる。

 

 元よりこの世界はすでに異質を取り込んでいるんだ。どうなるか分からない。

 

 できることは限られている。できないことの方が多いのだろう。

 

 それでも進まなければいけない。それが俺がここにいる理由なのだから………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ここ最近、ストレアさんを見かけませんね」

 

 シリカがそう呟く。ここ最近彼女と出会うことはなく、みんな心配して話し合う。

 

 キリトが思い出したことで『クリアしたら会えなくなる』と彼女が告げたらしい。

 

「それって、現実に戻ると会えなくなるってことかしら」

 

「言葉通りなら。それと『この世界を守らなきゃならない』とも言っていた」

 

「どういう意味だ?」

 

 ともかく話は纏わらず、ソロで経験値稼ぎしているからだと言う話で話し合いを終えて、またパーティーしたりしたいと願い、彼女の帰りを待つことになる。

 

 そんな日の夜のこと、

 

「アスナ、いま問題ないか」

 

『メイト君? いいわよ。いまみんなやキリト君もいるから』

 

 アスナからの返事を受けてから、俺は彼女とユイの部屋に入る。

 

 部屋にはユイを含めた女性メンバーとキリトがいて、なにか話し合っていたところ。

 

「邪魔したか?」

 

「ううん、ただの女の子で集まって話してただけ」

 

「その通りだ奏者、それでキリトも交えていたところだ」

 

 セイバーとユウキも嬉しそうにそこにいて、それを見て頷く。

 

「そうか。俺の用事はセイバーたちがどこに行ったか聞こうとしただけだから。キリトは」

 

「いまから買い出しに行かされるところだ」

 

「なら俺も」

 

 行こうかと話をしようとしたとき、そう言い終える前に急に周りが暗くなった。

 

「? 停電か?」

 

 急に真っ暗になり、辺りがちゃんと見えない。となればしばらく動かない方がいいか。そう考えていると、ザザザッと言う音が鳴り響く。

 

「雑音?」

 

「どうしたの?」

 

 ユウキが側で腕に張り付いている。一瞬世界にノイズが走り、なにかが起きた気がした。気のせいか、腕に妙に柔らかいなにかが触れている気がする。

 

「あっ、点いた。もうなんだったんだろうね」

 

「あんな完璧に真っ暗だったってことは、なんらかのプログラムに障害があって、光源処理が行われなくなってたのかも」

 

 そうキリトが言い、アスナたちがほっとする。

 

 ユウキもほっとしている中で、俺はあることに気づく。

 

「みんなどうした?」

 

「どうしたって………」

 

 その時、キリトたちも異変に気づく。全員がバスタオルを巻いた姿になっていた。俺とセイバーを除く全員がそんな姿になっている。

 

 大騒ぎをした後、この状態は装備を外している状態であることから、装備状態へと戻すためにウインドウを開く。だが全員が装備画面になんら変化は無いらしい。

 

「キリト君メイト君見ちゃだめええええええ」

 

「メイトっ! そのコート渡しなさいっ!!」

 

「ああっ、リズさんずるいですっ!」

 

「にゃーーーーっ!!?」

 

 そんな混乱が続く中、下手なことはせず待つことしかできない。とりあえず部屋の中にいることになる。

 

 俺は気にしないがキリトは目が泳ぎ、俺の反応が気に食わないのか、シノンとフィリアからの視線が痛い。ユウキは少しだけ頬を赤くしてアスナの方に移動した。

 

 そんな中、もうバスタオル姿だと気になる為、シリカとユイがお風呂に入る。せんべいを食べながらセイバーが、

 

「キリト、奏者よ。少し良いか」

 

「どうしたセイバー」

 

「今回の件で少しな。この事態、いささか納得できぬ」

 

「それはゲームのエラーだな?」

 

「うむ。この世界は現在、カーディナルとムーンセルの二つが管理している。そうなると今回のようなバグは起こるはずがない」

 

「けど現に起きてるじゃない」

 

「だから、これは自然に起きたものではなく、人為的なものの可能性がある。もしくばバグを処理することより、優先されることがあるということだ」

 

 セイバーの言葉にキリトたちはセイバーを見る。

 

 俺はセイバーが言いたいことが理解できる。このような事態をムーンセルが放置することはまずありえない。そう俺を構成するデータが間違いなく保証していた。

 

「どういうことだセイバー」

 

「カーディナルは分からぬが、ムーンセルがこのようなミスはしない、絶対だ」

 

「なら、この現象はいったい………」

 

 考え込む中、シリカたちの方が風呂から出る。

 

 どうやらこの装備の不具合は装備を付けなおせば直ることで、すぐさま全員が行動した。

 

 おかしなことばかりが続く、いったいこの世界になにが起きているんだ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 セイバーの言うことは一理ある。普通ならこんなことあり得ない。キリトたち攻略組が動く中、俺たちは色々調べ回っていた。

 

 ムーンセルの管理が関わる中、こんなことが起きると言う事は、それ以上に優先することが起きていたくらいか。

 

 そう考え込み。中央コンソールで《ホロウ・エリア》から調べていると、

 

「ん?」

 

「どうした奏者」

 

「ストレアからメッセージだ」

 

「!?」

 

 どうやら助けを求めるメッセージのようであり、急ぎセイバーと共に駆けだす。

 

 みんなに連絡する時間も惜しい。セイバーと共に加速し、急ぎ迷宮区へと進む。

 

「ここから先はリソースを温存する。急ぐぞセイバー」

 

「ああ、リズに剣を鍛えてもらって助かったな」

 

 二人でエネミーを切り払う中で、ついにストレアを見つけた。

 

「ストレアっ!」

 

 そう言って彼女がいるフロアへと近づいた。ストレアがいるフロアに入ると、一瞬だがノイズが過る。

 

「ストレア?」

 

「待て、様子がおかしい」

 

 セイバーと共にその場に止まった次の瞬間、防壁が生み出された。

 

「っ!?」

 

「コードキャストの、ウィザードの防壁だとっ!?」

 

 防壁は何重にも張られ、ストレアは無表情でこちらを見る。

 

「ストレア?」

 

「あなたには死んでもらう。この世界を守るために」

 

 そう言った時、彼女は左手(・・・)でウインドウを開き、操作する。

 

 空間転移が始まり、別の空間へと転移させらた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ここは………」

 

 空の色がおかしい。ノイズ画面のようであり、砕かれていたりしている。

 

 大地は荒野が広がり、なにもない、そう思った瞬間、

 

「奏者っ!」

 

 その時、回転音が鳴り響き大地が砕かれ、即座に飛んで避けた。

 

 大地は吹き飛び、その先を目で追うと黒いデータに侵食されたサーヴァントがいる。彼はドリルのような螺旋の剣を地面に刺している。

 

「奴は」

 

「奴だけでない、他にもいるぞ!?」

 

 黒白の夫婦剣を持つ赤い外套、大柄の武将、黒い霧を纏う鎧騎士。

 

 他にも侵食された英霊たちが次々と現れ、武器を構えている。全員がバーサーカーとして現界した、狂化の英霊たち。

 

「バーサーカーしかいない、いやバーサーカーにされた英霊しかいないのかっ!?」

 

「まずいぞ奏者、この数はいくら余たちでも。まずはこの空間からの脱出せねば」

 

「分かっているっ!」

 

 すぐに地面に手を触れてこの空間の解析を始める。気づいたことは、ここの時間の変化だ。

 

「まずいな………」

 

 この空間と元々いた空間、SAO内に戻るために記録をたどるが、時間のズレを感じる。

 

 この空間とSAO内の時間の流れが違う。おそらくいまキリトたちか自分たちが、数倍の速さで動いている。

 

「バカな、このような空間を創り出すだと!? くっ」

 

 セイバーの言葉を遮るようにバーサーカーたちが流れ込む。

 

 二人してその場から離れ、令呪を構える。

 

「セイバー、令呪を使う。お前だけでもこの空間から脱出してくれ」

 

「しかし奏者!?」

 

「ここはいまだSAOと言うゲームの中だ。令呪、ムーンセルのルール内なら、令呪を用いればお前をキリトの下に転移させることは可能だ」

 

「それはそうだが」

 

 そうなる場合、俺だけでこのサーヴァントの群れを相手にしなければいけない。だがこのままではセイバーを失う可能性が高い。

 

 ならばセイバーをキリトたちの下に転移させて、その記録を辿って脱出ルートを創り出す方が確実だ。

 

「俺はここで死なない。死者は死なない、なにより〝上〟に進む。頼む、俺を信じてストレアのことをキリトたちに伝えに行ってくれ」

 

 赤雷を操る騎士の攻撃を避けながら、セイバーの顔を見た。

 

 顔は歪みながらも、冷静に考えている。

 

 ここからの脱出もそうだが、なにより、ストレアのことをキリトたちにも連絡したい。この情報は確かに届けないといけない気がする。

 

 その天秤の中でセイバーは俺を見た。

 

「………分かった。余たちが助けるまで、果てるなよ奏者っ!」

 

「『令呪を以て命ずるッ! セイバー、キリトの下に馳せ参じろ』ッ!」

 

 その瞬間、令呪を以て転移を始める。

 

 彼女が消えたのを見届ける。これでもかなりきつい賭けだ。

 

「いくらムーンセルのルールでも、この空間内とSAO内の時間に差があれば、転移にかなりのロスがあるだろう。そこまで俺が持つしかないか」

 

 ストレアの様子、それにコードキャスト。コードキャストはストレアが使用したわけでは無い。つまり、

 

「裏にウィザードがいる? 誰が、何者だ」

 

 そう呟く中、セイバーを送ったものの、最低一日くらい、もしかしたらもっと時間がかかる可能性がある。

 

 それでも早くストレアのことをキリトに伝えないといけない。令呪が無駄になるだろうとも、僅かにも連絡手段があるのなら使っておいたほうがいい。バーサーカーたちが向かってくる。中には明らかにバーサーカーに堕ちるはずもない英霊もいた。

 

「セイバークラスを始め、バーサーカーに収まらないサーヴァントも無理矢理そうしたか」

 

 そう呟く中、死を纏い、静かに構える。

 

【悪いが、ここが果てる場所ではないからな。全員ここで蹴散らす。来い、堕ちた英霊たちよ】

 

 咆哮が鳴り響き、無数の攻撃、宝具の攻撃が降り注ぐ中、駆け出す。

 

【ストレアを救うためにも、むしろこいつらを蹴散らすッ!】

 

 そう決意して俺は、狂化された英霊たちと激突した。




「メドゥーサ狂化完了転移。シュヴァリエ・デオン狂化完了転移………」

 数々の英霊を狂化して、あの空間へと転移させる。ここらで限界か。

「ストレア、時間設定を変更しなさい。あの空間内の時間を減速。その間にSAOプレイヤーたちを処理する」

「はい………」

 ウインドウを操作してストレアが作業する様を見ながら、それは静かに見つめる。

「この世界を救う為、必ず、必ず勝つ………」

「………」

 それは静かにロープを握りしめながら、ウインドウに映るSAOの内部を見つめる。

 全てはこの世界を救う為、そう呟きながら………


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第21章・姿を現す影

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

それでは本編をどうぞ。


 セイバーは走り続けた、その道のりを。

 

「令呪を以てしても、まともな通路ではないかッ!」

 

 電脳でできた道のりにも敵は用意されていた。ただしただの敵、SAOのエネミーだ。サーヴァントであるセイバーの敵ではない。

 

「これでもこっちが拾わないと、もっと時間がかかっていたわよっ!」

 

 走る中でリンが側にいる。

 

 リンには色々と聞きたいことがあるが、向こうはそれについて苦虫を噛み潰したように言えないらしい。

 

 それを理解できるセイバーは仕方なく、いまはメイトの為にキリトの元に走るしかなかった。

 

「もうすぐ出るわ、ただ時間差がかなり開いているわよ。向こうはだいぶ時間が経ってるわ」

 

「分かっておる、助力感謝するぞッ!!」

 

 そう言いリンが用意した出口に飛び込んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリトっ!」

 

 その時、セイバーの視界に入るのはローブの何かに襲われているキリトたち。セイバーは即座にローブを纏う何かを斬り、吹き飛ばした。

 

「セイバーっ!?」

 

「なっ、なんだ貴様っ!?」

 

 システムの防壁に守られている何者かがいる中、ボス攻略戦のような場所にセイバーが割って入った。

 

「いままでどこに、いやいまはいい。頼むっ! 力を貸してくれ」

 

「それは余が言いたいことなのだが」

 

「ふん、どこの三流ゲームキャラか知らないが、さっさとデリートするに限る」

 

 そう言い、防壁の男が何かウインドウを開き操作しているが、途中からなにか顔色が変わる。

 

「どういうことだ、僕の権限が干渉できないだとっ!?」

 

「ええいっ、急いでおるのに。キリトっ! さっさとこれを倒し、我が奏者を助け出してくれ」

 

「なにっ!? メイトになにか。ともかく分かった。手を貸してくれっ!!」

 

 セイバーの剣に炎が灯り、ローブのエネミーへ一閃が放たれる。

 

 その瞬間をキリトは見逃さず、自分が持つ《二刀流》の最大スキルを叩きこむ。

 

 ローブのエネミーがポリゴンに成り消える。それと共にメニュー操作をするプレイヤーの防壁が消えた。

 

「ば、バカなっ!?」

 

「そろそろ観念するんだな」

 

 そう言われる男はウインドウを開いたまま、プレイヤーたちと距離を取る。

 

「ふん、観念するだと、ふざけるなッ! さっきはなんで麻痺の効果が消えたか知らないが、今度はそうはいくかッ!!」

 

 そう叫び、ウインドウを操作しながらわめき散らす。

 

「一度ここにいる連中の状態をリセットっ! それから再度状態を麻痺に設定……、これでどうだっ!」

 

 その瞬間、キリトたちのステータスが麻痺状態に入り、その場に倒れ込む。

 

「ぷっふふふ、残念だったねキリト君。スーパーアカウントの前には敵うはずも」

 

「お前はいったいなにをしている」

 

 プレイヤーたちが麻痺に入る中、一人だけ深紅の剣を構え、静かにそれを睨む者がいた。

 

「な、なんでお前は動けるッ!? ただのデータの固まりの癖に、どこぞの三流ゲームのデータの分際で!?」

 

「キリトよ、こやつは道化師か何かの類か? 悪いが芝居には付き合っていられるほど、いまの余には時間が無いのでな」

 

「くっ、来るな」

 

 また何か操作して武器を取り出すが、それを簡単にセイバーは破壊、粉々に粉砕する。

 

「ひいっ」

 

「キリト、こやつはお前たちと同じぷれいやーか? それともただの道化師か?」

 

「セイバー、悪い、殺すなと言いたいが、そいつは放っておいても良い事は無いッ!」

 

「ならば皇帝自らが断罪するッ!!」

 

 その腕を斬りおとし、それに悲鳴を上げ、尻餅をつきながらいやだいやだとわめきながら、男は壁際まで追い詰められた。

 

「く、来るな来るなッ! ぼ、僕を殺すか人殺しッ!」

 

「生前の行いを考えればいまさらのことだッ!!」

 

 咆哮と共に剣を振り上げた次の瞬間、鮮血のエフェクトが舞う。男の悲鳴が辺りに響き渡るが、HPゲージは消えたわけではない。

 

 そう、その前に、

 

「がっ………」

 

「セイバーっ!?」

 

【残念だったね】

 

 暗闇のローブを纏う何かが、背後からセイバーを貫いた。

 

 空間がひび割れて、その中から現れた襲撃者はセイバーを襲う。細剣を静かに引き抜き、ストレアを従えて共に現れる。

 

「きさ、ま」

 

【マスターだけ殺すのが、わたしたちの勝利条件じゃない。そのサーヴァントを殺せば、彼は敗北者としてムーンセルに認識され、永遠にゲームをクリアできなくなる】

 

「………」

 

「ストレアっ!?」

 

 彼女は何も言わず、虚ろな目でそこにいる。キリトたちの声に反応せず、ただいるだけ。

 

 ストレアの出現に、攻略組として参加するアスナ、クライン、エギルたちも驚く。

 

 黒いローブは先ほど倒したラスボスアバターのローブを纏い、静かに男の方を見る。

 

【これはもらうね】

 

 その時、それは腕を振ってなにかをする。

 

「な、なにを」

 

 道化と化した男から、なにか光のようなものを奪う。

 

【スーパーアカウント。これがあれば、わたしはより一層この世界で活動できる】

 

「ば、バカな、僕の、僕のアカウント、か、かえ」

 

 その瞬間、ウインドウが開き操作された。男は麻痺状態に入り、なにも喋られない状態になる。

 

 すぐに興味が消えて、襲撃者はセイバーを見る。

 

「くっ、ぬかった………。初めから奏者がキリトたちに救援、そしてストレアを助ける算段をすると読んだ故に、余を狙ったか」

 

【そういうこと。彼を殺すのは難しいけど、あなたはただのセイバー。殺すのは容易】

 

 そう言いながらセイバーは考える。

 

 ムーンセルと言うが、あれもまた公平な存在だ。それがあそこまでの暴挙を許すとは思えない。それが可能なのは、それの実力なのだろう。

 

「お主はいったい………」

 

 そして左手を見せる。その手には令呪が刻まれている。

 

【100層にいるのは、わたしの元にいる最強のサーヴァント。あなたと同じセイバークラス。SAOプレイヤーでは攻略不可能】

 

「なっ………」

 

 それにプレイヤー全員が驚きながら、細剣を構える。

 

【あなたたちの敗北で、この世界の永遠は守られる】

 

「くっ」

 

 セイバーに近づく襲撃者は、静かに細剣を構えた。

 

【これで、全てが守られる】

 

「っ!」

 

 歯を食いしばった次の瞬間、

 

「だめっ!」

 

 そう叫び、ストレアが間に入る。

 

 瞬間、振り返り、襲撃者へと細剣が、

 

「あっ………」

 

【そう来ると思った、じゃあね】

 

 ストレアが剣を突然構え、斬りかかる瞬間にその剣を弾く。

 

 初めからストレアが斬りかかることを知っていたかのように。その瞬間ストレアは目を見開き、襲撃者は細剣をストレアへと突き向けた。

 

 その瞬間、

 

 

 

【させるかああああああああああああああああああ!】

 

 

 

 死の腕が伸びて、細剣に貫かれながらもストレアをかばう。

 

【なっ!?】

 

【ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!】

 

 空間を砕いて出て来るメイトに、すぐに浮遊するように距離を取り、静かに左手で何かを操作するが、すぐにストレアを睨む。

 

【………破壊したな】

 

「えっへへ、あなたに使われるばかりじゃないよ、アタシ」

 

「道化から奪ったものを破壊したのか?」

 

「<ruby><rb>彼女</rb><rp>(</rp><rt>​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​</rt><rp>)</rp></ruby>がその人のスーパーアカウントを狙っていたのは分かっていた。破壊しなきゃいけなかったの、ごめん……なさい………」

 

 セイバーの言葉を最後に、その場に座り込むストレア。だいぶ疲労している様子にメイトはすぐに前に出た。

 

 死相が消え、その場で膝を付くメイト。

 

 セイバーたちがそれに気づくと共に、キリトたちの麻痺が消えた。

 

「よっしゃ、麻痺が消えたぜっ!」

 

「セイバー、メイト!」

 

 すぐに周りを囲まれた彼女は僅かに舌打ちする。

 

【………バーサーカーにされた英霊たち全員、取り込んだのか】

 

「殺すよりもリソース変換し、あの空間をクラッキングする方がよかったからな。令呪一画使ったが、それの記録も利用した」

 

 セイバーがキリトたち、SAOの空間に行きさえすれば、パス経由で道を知ることができる。あとはあの空間を支配して、道さえ固定できれば脱出はできる。ウィザードとしてのすべての機能を利用していた。

 

 混乱する者たちもいる中、ともかくそれを囲むプレイヤー。それは静かに呟く。

 

【まあいいわ。あなたたちは100層をクリアすることはできない。ストレア、エラーが貯まり過ぎたのね】

 

「………」

 

【ふん、それじゃあね。あなたは殺す、この世界を守るために、わたしのために】

 

「待てっ!」

 

 そしてそれは転移し消えて、こうしてここのボス攻略戦は混乱の中、やっと鎮まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ということはなにか、つまるところ、須郷とか言う男が、このゲームを好き勝手にしていたところ、余が現れて形勢が逆転。というところで」

 

「アタシが操られた。なによりその須郷って男がこの世界を好きにいじるための権限を持っていたの。それを彼女が手に入れたらメイトたちが危険だった……メイトを罠にかけて、さらにあの場に現れたセイバーを殺そうとしたの………」

 

 ストレアから詳しい話を聞く。それは彼女はある意味、メイトと同じ、プログラムであるということ。

 

 いままでの頭痛は須郷が行った非道な実験の所為であることが分かった。

 

 須郷は外からこのSAOサーバに不正アクセスをして取り込まれた男であり、この世界に来ても、非人道的な研究と、運営側の権限を利用して英雄になろうとしていたらしい。

 

 ストレアは《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。ユイと同じAI。プレイヤーのメンタル保護が目的であり、須郷はSAOの中でプレイヤーを人体実験していた。そこから生まれる負の感情を感知してストレアが苦しんでいた。

 

 この世界で問題を抱えたプレイヤーを助けるはずの彼女たちは、カーディナルからこのゲームが始まるとき、プレイヤーへの接触を禁止される。

 

 怒りに震える者、絶望に嘆く者、悲しみに暮れる者。

 

 彼らを救うはずの彼女たちは、エラーを重ねて壊れかけていた。

 

「アタシはその中で、あれに操作されかけていた。他の子たちみたいに」

 

「操作ってのは」

 

「文字通りの意味。アタシも分からないけど、AIとして存在してアタシたちよりも上位にいる。彼女の目的はこのゲームのクリアを防ぐこと」

 

「それは」

 

 このゲームはクリアされた場合、プレイヤーをログアウトさせた後に、自動的に崩壊するようにプログラムされている。

 

 世界の崩壊、ゲーム攻略はそのまま世界を壊すことを指していた。

 

「おそらくあの者は奏者と同じウィザード、マスターなのだろう」

 

「マスター、つまりそのAIはムーンセルって言うマザープログラムが管理するデータなのか」

 

「たぶん」

 

 ストレアの言葉を聞き、俺たちはしばらく黙り込む。

 

「ごめん、アタシは許されないことをした………。メイトを罠にかけて、殺そうとした」

 

「ストレア」

 

「アタシ」

 

 謝り、出ていこうとするストレアの手を掴み、それを阻むメイト。

 

「ストレアのいまの気持ちはなんだ」

 

「えっ………」

 

「俺たちの敵か、味方か。なにになりたい」

 

 その言葉を聞き、泣きそうな顔をするストレア。それはもう分かり切っている。

 

「ストレア、俺たちは仲間だ」

 

「キリト………」

 

「ストレアがプログラムとか、そんなこと関係ない。いまメイトが言った通り、ストレアはどうしたい」

 

 その言葉に彼女は涙を流しながら答える。

 

「みんなと一緒に居たい、みんな、みんな大好きだからっ!」

 

 そう言い、みんなそれで納得し、ようやく笑い合える。

 

 須郷も捕まり、後は100層をクリアするだけ。俺たちが言えることは一つ。

 

「お帰りストレア」

 

「うん………ただいま、みんな」

 

 こうして後に残るはラストバトルのみ。

 

 俺たちはもうすぐこのゲームをクリアするだけになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 須郷が捕まったことで、神隠しとして捕まっていたプレイヤーたちも助けられた。

 

 彼は茅場晶彦が失踪したあと、フルダイブ技術を担う科学者として活躍していたが、どこかで道を踏み外した。それも思いっきり。

 

 彼は自身が持つアカウント権限を使い、強いプレイヤーを演じていただけだが、それはただ名声が欲しいだけの行いであり、彼は現実の世界に戻れば裁かれるだろう。

 

「セイバー、話って何だ」

 

「うむ、余の真名のことだ」

 

 その話を聞き、俺は少し驚く。

 

「教えてくれるのか」

 

「おそらく次の戦い、予測のできない激戦だろう。だからこそだ」

 

 少しだけ苦笑しながら、セイバーは俺に微笑みかける。

 

「だがお主、始めから余の真名は知っているのだろう?」

 

 それに静かに目を閉じ、静かに頷く。

 

 俺は始めから彼女の真名を知っている。

 

 そう、なぜならば俺は彼女との戦いのログを持っていた。

 

「お主は本当に、難儀な星の下にいるのだな」

 

「それでも、俺はこれでよかったと思う」

 

「そうか、ならば余の真名を教えておこう」

 

「それなら、俺も、俺の目的を教えておくよ」

 

「上に行くことだろ?」

 

 セイバーは何気なく言う。俺は静かに肯定しながら、静かに呟く。

 

 その言葉にセイバーは驚きながら、そして悲しそうに俺を見て、俺の目を見て納得した。

 

「それがそなたの選んだ道ならば、余はなにも言わない。その時が来るまで」

 

「共に戦おう、セイバー」

 

「ああ」

 

 もうすぐ俺は〝上〟へとたどり着く。

 

 みんなには悪いことでもあり、良いことなのだろう。

 

 だからこそ俺は進むのだから………




 最上階に一人の騎士が玉座に座るマスターに膝を付く。

「最後の戦いが始まるわ」

「あなたに忠義を、この剣にかけて勝利をあなたに」

「勝利なんていらない」

 彼女は静かにウインドウを開く。SAO内部、全てのフィールドを映し出す画面。

「ただこの世界を守る。この世界の存続さえできればそれでいい」

 そう言いながら、一人の〝モノ〟を睨む。

「壊させない、この世界は、わたしたちはまだ………」

 彼女の言葉に騎士は拳を握りしめ、静かに頭を下げる。

 全ての決着は近く、終わりが近づく………


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第22章・彼女たちの目的、彼の旅路の果て

予測されているネタの発表とSAOと聖杯戦争のラスボスの登場です。


 全てを終えるため、彼らは全力を出すことになった。

 

 攻略組として活躍するキリト、アスナ、クライン、エギルはもちろん。リズ、シリカ、リーファ、シノン、フィリアやユウキもこの戦いに参戦する。

 

「正直止めたいんだが」

 

 横目でストレアの隣にいるユイを見る。彼女も同行することを決意した。

 

 100層は最初プレイヤーたちが探索すると、大きなボス部屋の扉があるだけで他には何も無く、プレイヤー全員が準備を整えてそのフロアへとやってくる。

 

 そこで待っていたのは、

 

「待て、誰かいるぞ」

 

 キリトの言葉に全員が止まると、一人の騎士がそこにいた。

 

「貴様は」

 

 セイバーの言葉に静かに頭を下げ、上げた顔に俺は呟く。

 

「円卓の騎士が一人、太陽の騎士。ガウェイン卿」

 

「ようこそお出でに。SAOプレイヤーの皆さん、そしてこの世界に生まれたマスター。私はガウェイン。あなたたちの最後の敵として召喚されたサーヴァントです」

 

 そう彼の騎士は告げた瞬間、奥の扉が音を立てて開く。攻略組が困惑する中、キリトがシノンに話しかける。

 

「シノン、ガウェインって」

 

「アーサー王伝説で双璧を為す、最強の騎士よ。太陽が出ている間無敵とされた、騎士王の騎士」

 

 その言葉に動揺する中、彼は案内するように奥へと進む。

 

「………行こう」

 

 歩きながら、ガウェインは独り言のように話し出す。

 

「聖杯戦争の情報を取り込んだSAOと言うゲームが、失ったラスボスに相応しい存在を創り出しました。それが我がマスター、ムーンセル並び、カーディナルが判断し、いなくなったラスボスとして構築したラスボスです」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 構築されたマスターは二つの世界の特長を強く引き継いだ存在。そうガウェインは告げて、側を歩くセイバーは警戒しながら聞いていた。

 

「特徴とはなんだ」

 

死相(デッドフェイス)。我がマスターもそうなってしまった」

 

死相(デッドフェイス)って、そもそもなんですか?」

 

 シリカの問いかけに長い道のりの中、静かに答えた。

 

 生きながら死に囚われた、何も生み出さない悪性情報の一種。

 

 死を迎えながら死に切れない精神情報は電子の仮面になり、死した肉体も動かして、いずれその身体も悪性情報へと変える。

 

 その姿すら死の貌に塗り替える。満足な終わりを迎えた身体すら汚染する歩く死体。

 

「き、キリの字」

 

「………」

 

 キリトたちは難しい顔でメイトを見る。

 

 メイトはなにも言わず、肯定も否定もしない。ユウキだけが複雑そうに彼を見ていた。

 

「この世界は約4000人のプレイヤーの死の情報がありました。それだけでなく、他にも悪性情報が存在しました」

 

「それはプレイヤーの皆さんが抱えていた、負の感情」

 

 ユイの言葉で思い出すのは現実へと帰れない、怒り、悲しみ、憎しみの感情。

 

 最後のマスターはそれにより生み出されたとガウェインは告げた。

 

「この世界で権限を得たマスターは、もう一つの情報源を手中に収めました。彼女たち《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。彼女たちを自分と同化させることで、この世界の存続こそが自分の存在意義として、彼女は存在を獲得しました」

 

「存在の獲得、この世界の存続………」

 

 このゲームはクリアされればそれと同時に消滅する。それを回避するには永遠にゲームをクリアさせなければいい。

 

 プレイヤーがいなくなれば、また外からプレイヤーを連れてくればいいと、

 

「マスターはそう判断しました」

 

「そんな、ことって………」

 

 一般プレイヤーにはもうわけが分からないだろうが、キリトたちは理解する。

 

 もしかすればそれはそうする。そう心のどこかで理解した。

 

「マスターはそれと共に最大の障害を識別しました」

 

「メイトのことか」

 

「はい、彼のマスターさえどうとでもすれば、人類がサーヴァントに勝てるはずがありません」

 

「事実上の勝利、と言うことか」

 

 セイバーはそう告げる。彼のマスターはメイトを処理するため、まずは最初のサーヴァント。ロビンフットなどを差し向けた。

 

 召喚されるサーヴァントはランダムであり、それでもそれらを使い、そこでまず情報を得ようとした。各フロアで彼の動き、コードキャスト、ウィザードとしての能力を知ることから始める。

 

 そして自分の手元にガウェインを用意し、ガウェインと同じよう自分の使い魔になる二騎のサーヴァントをマスター、選手へと変えた。それを配置して彼との戦闘データを得ることを選んだ。

 

「いままでの戦闘は、彼の情報を得るためだったのかッ!?」

 

「なによりマスターは作り出された身。その実、経験と言うものが存在しなかった。故に彼のデータの基、私と言う駒を最大限に使用できる状況を作り出しました」

 

 途中、廊下の壁に画面のように映るのはメイトの戦闘。

 

 無数にある戦闘データは普段のエネミーとの戦闘まである。

 

「このようなことをして、ムーンセルとカーディナルはなにも言わないのか」

 

「彼女はそこについては、大いに自分の立場を利用したのです」

 

「利用? それっていったいなんですか?」

 

 アスナの問いかけに長い道のりは続く。

 

「それにはまず説明を。始まりはSAOと言うゲームのエラーです」

 

「このゲームのエラー……。俺たちSAOプレイヤーがログアウトできなかったことか」

 

「そのエラー、詳細は不明だったが」

 

「死のデータか」

 

 メイトの言葉にガウェインたちは一瞬止まる。セイバーは静かに目を瞑り、プレイヤーたちは戸惑う。

 

「死んだプレイヤーの無念が、このゲームをおかしくした………」

 

 キリト自身、なにを言っているんだと思いながら、そう感じてしまう。彼らの思いの深さは、自分たちが深く理解できる。できてしまうから。

 

「そのエラーより作り出された彼女はラスボスの正体、GМ茅場晶彦と言うこのゲームの最高アクセス権を持つ存在であることを利用しました。同じ権限を要請、疑似的なGМ権限を会得、その際に使用した技術は彼女の力であると見なされ、カーディナルとムーンセルは放置したのです」

 

「コードキャスト、ウィザードである俺たちマスターの能力としてみなされた」

 

 静かに頷くガウェインは再び歩き出す。

 

「マスターは自分を作り出したデータ、自分が取り込んだ《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。自分が置かれたSAO最後のボスにして最高責任者としての立場。それら全てを利用して、あなたを倒す準備をしてました」

 

 取り込んだ《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》で、メイトの情報を大いに取り込み、あまつラスボスの権限でさらに介入した。

 

 だが一つ気になる。

 

「作り出されて、そこまで思考するほど進化したのか? 他にも元になるデータはあるな」

 

「この世界には《ホロウ・エリア》と言う、テストプレイ空間が存在し、そこでプレイヤーデータを基にAI搭載NPCを作り、日々この世界を維持するためのデータを収集してます」

 

「まさか《ホロウ・データ》から作り出されたのか!?」

 

「ええ、それにより彼女はSAOプレイヤーとしての立場も獲得しています。着きました」

 

 そう言われ、玉座の間のような場所。紅玉宮へとたどり着くプレイヤーたち。

 

 そこの玉座に、細剣を腰に下げた一人のプレイヤーがいた。

 

「!?」

 

 その時、僅かにキリトは違和感を感じた。

 

 それは自分たちに死のゲームを告げた外套ではなく、赤いフード付きの外套を身に纏う、女性プレイヤーだ。

 

「来てしまったのね………」

 

 玉座から立ち上がり、ガウェインは側で膝を折る。

 

「始めまして、SAOプレイヤーの皆さん。わたしがカーディナルとムーンセルにより、あなたたちの相手として作り出された存在。そして聖杯戦争のマスターとして作り出された者です」

 

「あんたが………」

 

 プレイヤーたちはただ静かに彼女を見る。その中で二人のプレイヤーは彼女に戸惑う。

 

「ねえキリト君………」

 

「ああ」

 

 キリトとアスナだけ戸惑う中、静かにそれは彼女は告げる。

 

「さて、皆さんにお願いがあります」

 

「願いだって?」

 

「簡単です。そこにいるマスターを殺し、このゲームをクリアしないと言う、簡単なことです」

 

 それに全員が動揺する。

 

「ふざけんなよっ! んなことしたら、一生このゲームで怯えて暮らさねえといけねえじゃねえかっ!」

 

「クラインさんの言い分も最もです。ですからそれを殺したら、それが持つリソースを使い、このゲームをクラッキングし、エネミーはただいるだけの存在にして、簡単に倒せるものに変えてあげます」

 

「なっ………」

 

 プレイヤーたちがざわめく中、彼女はそれだけでは足りないのかまだ続けた。

 

「それともお店の品をタダで買えるようにしますか? なんなら迷宮区だけは通常の状態にして、スリルを味わいたいのなら迷宮区へ。と言うのはいかかですか?」

 

「ふざけているのか、そんなこと」

 

「できます。それがウィザード、このSAOでは無いルールを持つわたしなら」

 

 その瞬間、画像が空中に浮かぶ。

 

 それは第1層の町や、他のプレイヤーが映る。向こうは戸惑いながら空を見ている様子だった。

 

「いまこの状況は全SAOプレイヤーに投影され、知ることができるようにしております」

 

「………本気なのか」

 

「ええ、この世界を維持するためならなんでもします」

 

 その言葉を聞いて、キリトは剣を抜く。

 

 それに全員が戸惑うが、アスナも続いて剣を抜いた。

 

「決まりましたか」

 

「ああ決まった。あんたをここで倒さないといけないってことが」

 

「どうしてです?」

 

「そこの騎士は言った。このゲームを継続させるのなら、他のゲームからプレイヤーを連れて来るってな。そしてなによりここは現実じゃない、仮想世界だ」

 

「この世界でわたしたちは健康に見せていても、現実の身体は病院で寝かされている。その身体だって、このままでいいはずがない」

 

 キリトとアスナの言葉に彼らは選択肢が無いことを知り、各々が武器を構え出す。

 

 それに首を振り、彼女は言う。

 

「我々ウィザードにとって、肉体の死なぞ関係ない。と言っても、これはわたしにとってもただの情報ですね。仕方ありません」

 

「そこまで分かるのなら、なんで」

 

「あなたたちが勝てないからです。この騎士、サーヴァントには」

 

「勝つさ」

 

 メイトが前に出たとき、彼女から殺意、殺気が放たれた。

 

「あなたは………」

 

「サーヴァントにはサーヴァント、マスターにはマスター。聖杯戦争のルールなら、俺が勝てば、キリトたちは現実世界に帰れる。ならば勝つ、もともと俺はその為に作り出された」

 

「黙れ人形風情がッ! 貴様に、貴様なんかに何が分かるッ!?」

 

 歯を食いしばり、歯ぎしりすら聞こえるほど憎いらしい彼女はメイトを睨み続けた。

 

「あなたを殺せばSAOプレイヤーはゲームクリアはできない。そうすればこの世界は永遠に継続される。それすら分からず、消滅へと進むモノに、わたしたちの気持ちが分かるものか!!」

 

 そう言って彼女は外套を掴み、彼に投げた。

 

 そして現れた素顔にキリトは、キリトたちは目を疑う。

 

「アス……ナ………」

 

 そこにいたのはアスナと言うプレイヤーと瓜二つの顔だった。

 

「驚くことではありません。わたしは彼女、ギルド《血盟騎士団》副団長、《閃光》のアスナの《ホロウ・データ》で作り出された」

 

「わたしの、データ……」

 

「それもまた同じですよ」

 

「なに」

 

 細剣を向けながら、彼女は怒りと憎しみを向けながら叫ぶ。

 

「わたしと同じ《ホロウ・データ》から生み出されていながら、死のデータで作り出されていながら、死へと進むその男。黒の剣士キリト(・・・・・・・)のデータを下に作り出された偽物」

 

「っ!?」

 

 全員がメイトを見るが、メイトとキリトは似ているかと言われれば、少し躊躇いが生まれる。

 

「当たり前です、彼はムーンセルによって別の死のデータも組み込まれた。だけどその《二刀流》、そのスキルだけは一人のSAOプレイヤーしか持つ事を許されないもの」

 

「そうか、彼は俺の《ホロウ・データ》」

 

「完璧な《ホロウ・データ》でないメイトさんは、パパと同じ空間にいてもカーディナルに消されることはなく、こうして共に行動できている。ということですね」

 

「そう、そしてわたしも完璧なアスナの《ホロウ・データ》ではない。故に同じ空間に存在する」

 

 彼女の髪の毛が黒く染まり、瞳は血のように紅く染まる。

 

「わたしと同じでありながら、わたしたちとは違う道を進む紛い物の人形。あなたを殺せばこの世界は守られる」

 

「それでも俺は進む……〝上〟を目指して」

 

「上?」

 

 キリトは疑問に思う。ここはすでに最上階、上は存在しない。

 

「あなたにとって、上はなんなの?」

 

 その言葉に彼は言う。

 

 

 

「俺は先に進む為に……終わり(〝上〟)を目指して。その為にここまできた」

 

 

 

 その言葉にキリトたち、ユウキは絶句した。彼が言う上はそう言う意味だったのだから。

 

 セイバーは悲しそうにそれを聞き、ガウェインはなにも言えず、敬意を以って剣を抜く。

 

「なぜなのッ!? 同じなのに、同じの癖にッ! どうして終わりを目指すッ!? それは作り出された感情、偽物の感情で、あなたの作られた目標なのに」

 

「それでもそれを選ぶ。お前こそ勘違いをしている」

 

「なにを」

 

「死者は死者、生者を捕らえ続けていいはずがない」

 

 その言葉に彼女の殺意が強まる。それでも彼は続けた。

 

「彼らは現実の世界に還るべき存在であり、俺たちは消え去るべき存在だ。ここまで上がって、ここまで進んで、目指して、俺はそれをより一層願うようになった」

 

「人形が………」

 

「俺には三つ、作り出されて願いができた。その一つである『現実世界へみんなを還す』。叶えさせてもらう」

 

「結局あなたは、作り出された人形ね………。ガウェイン」

 

 その瞬間、天井が斬られ、浮遊する足場がフィールドとして作り出された。

 

「あなたを殺せば、彼らも先ほどの条件を飲むしかなくなる。これが本当のSAOの最後の戦い」

 

「キリト」

 

「メイ……ト………」

 

 戸惑う彼らに、彼は静かに微笑んだ。

 

「お前、お前は」

 

 キリトは思う。だが言葉にできない。それに彼は笑う。

 

「俺に、意味のある死をくれ」

 

 それを聞いた彼は、

 

(ああそうか、君は俺なのか………)

 

 仲間を死なせ、あの日、冬の雪が降る日、あのメッセージを受け取るまでの自分。

 

 ただひたすら死を求め、生きていた自分。

 

「例え俺の先が死であろうと、俺は歩くのを止めない」

 

「いいだろう奏者、その旅路を余が彩ろうッ!」

 

「ならわたしはあなたたちに終わりを与える。この世界を守る為に………」

 

 無数の人型の、ユイとストレアと同じ《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》。彼女たちが武器を持って現れた。

 

 それと共に天高く、太陽が空を照らし出す。

 

「『令呪を以て命ずる、騎士の忠義を示せ』ッ!!」

 

「この剣、あなたのために振るおう」

 

「太陽の騎士を太陽の下で倒すか、奏者よ」

 

「ああ勝つぞ。キリト」

 

「………」

 

 黙り込む彼に、彼は、

 

 

 

「………頼む、みんなを救いたいんだ」

 

 

 

 その言葉にキリトは我に返り、彼を見た。その顔は笑っている。

 

「………くっそおおおおおおおおおお」

 

 武器を構え直し、キリトの咆哮に続くようにクラインも叫ぶ。

 

「いくぞテメエら、ここが最後の決戦よォっ!!」

 

「はい」

 

 全員が武器を構えて、プレイヤーはプレイヤー、マスターはマスターの、サーヴァントはサーヴァントのフィールドに上がる。

 

「わたしは勝つ、勝ってこの世界を守り通す」

 

「俺は勝つ、勝ってこの歩みの先へと進む」

 

 お互い死を顔に纏い、静かにセイバーたちは剣を構える。

 

 こうして全ての決戦が、いま幕を上げた………




SAOラスボスマスター、ホロウアスナ。サーヴァントセイバー、ガウェイン。

聖杯戦争もまた、終わりへと向かい、一人の人形は〝終わり〟へと歩き出す。

お読みいただきありがとうございます。


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第23章・世界の敵

 地上でSAOプレイヤーが戦う中、その頭上、浮遊する足場の上で、二人のウィザードがサーヴァントを支援する。

 

 お互い武器を構えながら、さらに頭上、太陽の下で斬り合う使い魔、その行動の全てをサポートしていた。

 

(奏者のサポートは完璧だ)

 

 振り下ろす瞬間の重力操作。踏み込みの際の運動エネルギー操作。

 

 魔力の伝達、自分の身体では無いと錯覚するほど理想的に剣を振るうセイバー。だがそれは向こうも同じだ。

 

「ハッ!!」

 

 太陽の騎士ガウェインは、スキル《聖者の数字》を持つ。

 

 これは午前9時から正午の3時間、午後3時から日没の3時間だけ力が3倍になる。ケルトの聖なる数である3を表徴した能力。

 

(この時間帯はそれに固定されている。ウィザードとしての腕は互角、後はサーヴァントの腕前で決着がつく。なのに)

 

 彼の騎士に迷いは無く、吹き飛ぶセイバー。残念ながらセイバーとガウェインでは、剣の腕に差はある。

 

「っ!?」

 

 ガウェインの攻撃、防がない剣を防ぐ盾の出現にセイバーは驚く。

 

【なっ……んでっ!?】

 

 加速する剣戟の中でセイバーが防げない、躱せない攻撃を防ぐ防壁。小さく、すぐさま粉々に砕け散るそれは、セイバーに秒の時間を与えた。

 

 それだけあれば、今のセイバーは迷いなく防げる。それが続いている。

 

【人形がまさか成長している? そんなバカなこと、あり得るの!?】

 

 一度大きく距離を開けたときに、セイバーを囲む檻が創り出されたが、すぐにハックされ破壊される。

 

【アアァァァァァァァァァァァァァァァ】

 

 彼女は叫ぶ。

 

 忌々しいものを睨み、静かに憎む。

 

 無数の十字架がセイバーの通路へと降り注ぐ中、それをハックして一部破壊、すぐに脱出する。

 

【ガウェインッ!】

 

「はあああああああああああああああああ」

 

 激突する剣が悲鳴を上げ、ガウェインはその光景に驚愕する。彼女の剣の周りに無数のコードキャストが展開されていた。

 

「すでに用意されたものであっても、それは」

 

「そうだ、このコードキャストはマスターにより操作されておる!!」

 

 刀身の強化、重心操作、エネルギーの伝達。攻守全てをメイトが操作し、いま彼女の剣は本来の力を突破している。

 

「それだけではないッ!」

 

 セイバーの周りにも無数のコードキャストが展開されていた。

 

 一度操作を誤ればセイバーの邪魔になる強化などのサポートを、一隻一隻の動きすらサポートしている。

 

「これほどの芸道をしなければ、そなたを攻略することは不可能。ならばこそ、余はマスターを信じ、己が進むべき道を行くのみ」

 

 セイバーは迷いなく、ただ最適の動きをする。メイトと打ち合わせなぞなく、マスターを信じて剣を、身体を動かし続けた。

 

 ガウェインはそれに追撃するが、少しずつ突破され始める。

 

 剣が、炎が、全ての力を出し切る中で、彼女は吠えた。

 

【ガウェインッ!!】

 

 ガウェインは己の剣を天へと投げる。

 

「来るぞ奏者ッ!」

 

【『令呪を以て命ずる、その人形を殺せ』ッ!!】

 

 剣が輝きに満ちて、二つの太陽が世界を照らす。

 

「この剣は太陽の映し身、もう一振りの星の聖剣」

 

「なっ………」

 

 キリトたちは熱を感じ空を見ると、もう一振りの聖剣が燦然と輝き、その瞬間、セイバーは停止する。

 

 二本の剣が漆黒に染まり、柱のように交差した。

 

「あらゆる不浄を清める焔の陽炎」

 

「奏者ッ!」

 

【俺が防ぐッ!!】

 

【薙ぎ払えッ!!】

 

「『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』ッ!!」

 

 振り下ろされた勝利の剣を、不浄の交差された光が受け止めた。

 

 不浄を焼き尽くす太陽の陽炎と、死と言う不浄そのものが激突する。

 

【ッ!!】

 

 自身と攻撃の強化にコードキャスト展開、並びにセイバーを熱からの保護。それと共に地上のプレイヤーにもコードキャスト展開。防壁を張る。

 

 膨大な数のコードキャストの展開と演算を始めた瞬間、

 

【これが人形の終わりよ】

 

 また空間がズレ、転移させた細剣が彼を貫いた。

 

「メイトッ!!」

 

「メイト君!?」

 

「メイトさん」

 

 地上から悲鳴が聞こえる中、光がセイバーを押しつぶさんと迫る。セイバーは決して下を見ず、ただ眼前の輝きを睨み続けた。

 

【これほどの数のコードキャストを展開していればッ!】

 

 深く深く、捻じ込まれる刃。転移した彼女はメイトに深々と剣を差し込む。

 

 それでも彼は、

 

【………お前は勝利条件を間違えた】

 

【!?】

 

 その瞬間、偶然か、それとも策略か分からないが、一つの柱が砕かれた。

 

 結果、振り下ろされる光が、少しずつ横へと滑る。

 

(これ、はッ!)

 

 ガウェインはすぐに理解して振り下ろす腕を止めようとしたが、先ほどまで込めた力、さらに令呪の効果によってすぐに停止させることはできず、横へと弾かれていく剣を戻すことはできない。

 

 ほんの少し、横へとずれた輝き。

 

 その隙間を、防壁が一斉に道を形成する。

 

【俺が滅びても】

 

【………あ】

 

 彼の左手が輝く、四つある令呪が一つ消えた。

 

 その道を赤い閃光に成り、駆ける剣がある。

 

「でっえええええええええええええっ!!」

 

 太陽の騎士へと迫る深紅の剣。

 

 その光景を見ながら砕け散った剣を握っていた腕を硬化、そして刃のように鋭くする。

 

【この戦い、最後のサーヴァントとマスターを殺せば、キリトたちはゲームをクリアするッ!!!】

 

 彼の目的は初めから自分の勝利では無い。ゲームクリア、SAOプレイヤーの勝利。故に己を守る理由は無かった。

 

 相打ちであろうとマスターとサーヴァントを倒せれば、彼らは、SAOプレイヤーは、キリトたちはゲームをクリアすると信じている。

 

【ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――】

 

 薔薇のような赤い閃光が太陽を斬り裂き、死の情報が一つの個体を貫いた。

 

 それと共に輝き飲まれようとも、彼らは気にも留めなかった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メイトっ!」

 

 輝きに飲まれ、空から四つの固まりが降ってくる。キリトが剣を仕舞い、すぐに片方へと手を伸ばす。

 

「奏者っ!」

 

 セイバーらしい固まりが即座に動き、空中を蹴り、メイトを受け止め地面に下りた。

 

「がっ………。まったくこの奏者は……」

 

「セイバーさん、無事ですかっ!?」

 

「余はな……。令呪のブーストがあったとはいえ、まさか守りのコードキャストも展開されていたとは」

 

 セイバーは編んでいた髪がほどけ、ドレスも僅かに引きちぎられていた。

 

 メイトは死相(デッドフェイス)が消え、右腕は斬られて燃え尽きていたが、完全に消えてはいない。どうにか立ち上がり、すぐにキリトは回復結晶を使う。

 

 それで腕を取り戻しながら、身体に突き刺さる細剣を引き抜き、キリトたちを見た。

 

「そっちは………」

 

「勝ったさ……。そっちもボロボロだな」

 

「ああ……、消えていないことだけが、俺の想定外だ………」

 

 そう言い合い、勝ったことに実感が湧かなかったプレイヤーたちは、徐々に勝ったことが分かり、勝鬨を

 

 

 

「いやああああああああああああああああああああああああああッ!?!!?」

 

 

 

 悲鳴が響き渡った。

 

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない―――」

 

 それは彼女の悲鳴。

 

 地面に落下し、泣きながら地面の上で叫び続けた。

 

 空いた胸は塞がらず、コードキャストを使うリソースも尽きている。

 

 ガウェインもまたその場に倒れていて、砕けた鎧と落ちて来た聖剣しかない。彼女の傷は深く、もう………

 

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない消えたくない消滅したくない―――」

 

 起き上がろうとするができず、泣きながら、叫びながら世界に叫び続けた。

 

「こんな形で消えたくない生きていたい死にたくないッ!!!」

 

 それにメイトは細剣の柄を握りしめ、静かに近づく。

 

「こ、来ないで、殺さないでッ!!」

 

 その様子にプレイヤーは絶句する。

 

「どうして消えなきゃいけないのッ!?わたしは、わたしたちはこんなことをするために生み出されたわけじゃないのにッ!! こんなこと望んでいないのにッ!!」

 

 アスナはその光景が痛々しく、自分の姿だなんてどうでもよくなった。

 

「わたしたちは本当は誰かを助けたかった、喜ばせたかった幸せにしたかった。ただ生きていたい、存在したい、在り続けたいだけなのにどうして殺すのッ!?」

 

 後ろに下がりながら彼女は死を見た。

 

 

 

「わたしたちはこんなことをするために創り出された訳じゃないのにッ!!」

 

 

 

 その叫び声がキリトたちに響き渡る。

 

 怯える目が、メイトを見る彼女の瞳は、HPが無くなるプレイヤーのように思えてならない。

 

「あなただって」

 

 そして、

 

「あなただって消えるのに、どうして戦うの………」

 

「………」

 

 それは考えないようにしていた。

 

 メイトはこの為に創り出された存在ならば、彼の旅の最後がどうなるか。

 

「死ぬ為に生み出されたあなたは、どうして………どうしてそんな宿命(フェイト)を受け入れられるのっ!?」

 

 それにある少女は目を見開き、メイトを見た。

 

 彼はただ静かに、

 

「それでも」

 

 メイトは機械のように、それでも感情を秘めた言葉で………

 

「それでも俺たちは終わらないといけない」

 

「ぁ………」

 

「この世界が在る限り、生者が本来いる世界に還れないのなら、消滅するしかない」

 

「……違う………わたし、は……わたしたちは」

 

「どんなに祈っても過去は変えられない。君は存在を歪められて生み出され、俺は君を殺し、死ぬ為だけに創り出された〝モノ〟だ」

 

 その瞬間、彼の貌が死に彩られた。彼女の貌も一瞬、死に染まる。

 

「俺よりも苦しんだのは君なんだろう。意味を歪められ、在り方を変えられた。俺のように選択肢すら存在しないのなら、俺はまだ幸運なのだろう」

 

「死ぬ為に創り出された、終わる為だけに在ることが………意味も理由も価値も無い宿命のどこに……幸運があるの………」

 

「それでも俺は俺を選ぼう、全てに終わりを。罪は我が一部であり、俺は何度だってこの定められた運命を選ぶ。それは俺が作られた〝モノ〟である前に、それを誰かがしなければいけないのなら、それをするのは〝モノ〟であり、同じである俺がすべきこと」

 

「あ………ぁ……」

 

 

 

「この世界を壊す(殺す)。それが俺が生まれた意味であり、それが君や世界、プレイヤーたちを救う唯一の方法なら。俺は死神に、罪人に成ろう」

 

 

 

 静寂が降りて来た。

 

 キリトたちプレイヤーはなにも言えなくなり、メイトは決して歩くのを止めない。

 

 この世界を終わらす、自分の旅路を………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その時、彼女は立ち上がった。

 

 ふらつく身体、風穴が開いた身体、それでも歯を食いしばり、立ち上がる彼女は叫ぶ。

 

「『令呪を以て命ずる』」

 

 その瞬間セイバーが動く。だがそれよりも、誰よりも早く、彼女は叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………『わたしたちに終わりを』………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレイヤーたちは一瞬頭の中が真っ白になる。

 

 その瞬間、ガウェインが強制的に動かされ、背中から彼女を斬り裂いた。

 

「アスナああああああああああああああああッ!?!」

 

 分かっている。彼女はアスナじゃないことを。

 

 だけど、それでも止められない。

 

 メイトの横を横切り、地面へと倒れる彼女を抱き止めた。

 

 太陽の騎士はただ静かに主を見据えて消えていく。その心中はどのようなものか、誰にも理解できないだろう。

 

 俺の他にも手を伸ばすみんながいた。アスナもいる。

 

「もういいの……わたしたちは」

 

「違う、違う違うッ! 君は」

 

「本当なら、幸せを、喜びを、悲しみも、怒りも、思い出として作り、育みたかった……ただそう願っただけなのに」

 

 彼女は虚空を見つめながら、手を伸ばしている。

 

「ただ誰かの思い出を彩る世界として、生まれたかっただけなのに………。こんな世界、望んだわけじゃなかった………」

 

「きみ、たちは」

 

「わたしたちは生まれるべきものではなかった………」

 

「そん」

 

 その時、彼女は俺の口を指で塞ぐ。

 

 その顔は知っている。俺の、大切な人と同じ、優しさに満ちた笑顔だ。

 

「わたしたちはただのプログラム……《ソードアート・オンライン》と言うクソゲーで生まれた、悪性情報………」

 

 違うと言いたい。そんなわけないと。だが彼女は望んでいない。

 

 彼女は指を動かす、まるで何かを操作するように。

 

「ユイ……ストレア………あなたたちはちがう………だからでていって………」

 

「!」

 

「あ………」

 

 その時、ストレアがなにかを言いかけて、やめる。

 

 呼びかける名前が無い。

 

 彼女を、この世界で生まれた命へと………

 

「キリト」

 

「メイ……ト………」

 

 メイトは変わらず、いや変えられずそこにいた。

 

 その顔が死に包まれ、細剣が死に染まる。

 

「!」

 

 止めたかった。

 

 彼女を殺さないでくれと言いたかった………

 

 ユウキが前に出た。出ただけだ。

 

 その横を通り過ぎる。誰も望まない。誰も幸せにできない。

 

「きみは、それで………」

 

「いいの……もういいの………」

 

 死が近づく。

 

 きっと誰よりもこの結末を知っていた、その為に生きることを受け入れた存在。優しい死神が近づく。

 

「あなたたちは、こんなせかいのことはわすれて………あたたかい、やさしいせかいで………」

 

 そして死神は静かに、

 

【おやすみ、ソードアート・オンライン】

 

 

 

「いきて………げーむくりあ、おめでとう………」

 

 

 

 彼は彼女を斬り裂いた。

 

 ポリゴンの塵へと変わり、ラスボスは倒される。

 

 誰もが涙を流す。それはこの世界から解放される喜びか、それとも消え去る世界に対する涙か分からない。

 

 忘れるはずができない。できるわけがなかった。

 

 この世界、デスゲームとして生み出され、喜びを憎しみに、幸せを悲しみに、希望を絶望に変えられた世界で作られた少女たちのことを。

 

 俺はけして忘れない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全てが終わった。

 

 俺の旅路が終わりを告げた、これが俺の旅の全て、俺は処刑人。

 

 望まない生を与えられ、人々を狂わせる世界を殺す為に生み出された。

 

 俺の罪はけして生易しいものではない。

 

 ああ憎い、憎いさ。

 

 俺の中にある世界への憎しみと怒り、そして何もできない俺自身。

 

 俺はこれを抱えたまま消えよう。それが俺できること。

 

 虚ろな断片(ホロウ・フラグメント)でできた、俺が唯一の感情。俺だけの感情。

 

 そう……思っていた………

 

 

 

 拍手が聞こえる。

 

 

 

 顔を上げた先に、俺の憎しみが燃え上がる。

 

 だがそれはきっとキリトも同じだろう。

 

 それはそこにいた。

 

「おめでとう、実に見事な勝利だったね」

 

 そこにいたのはヒースクリフ、それは、

 

「どうしてお前がここにいる、茅場晶彦ッ!!」

 

 キリトは叫び声と共に、俺の憎しみが燃え上がる………




彼女はSAOラスボス、だけど彼らの戦いは終わるのか?

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第24章・SAOラストバトル

 カーディナルとムーンセル。もうすぐSAOと言うゲームは終わりを告げる。

 彼らの戦いが終わる。どのような結末を迎えるか。楽しみだよ………


 全てが終わり、現実世界への帰還を待つだけになったと、そう思った時。そいつは現れた。

 

「ラストバトル、見させてもらったよ」

 

「ヒースクリフ………生きていたか」

 

 ヒースクリフ、茅場晶彦。この世界を作り、約1万人の人間を捕らえ、全てを狂わせた男。

 

 赤い甲冑に十字の盾を持ち、静かにそこにいた。

 

「身構えないでくれたまえ、君たちにお詫びをしに来たんだ」

 

「詫びだと?」

 

「ここまでなんの説明もしないでいたこと………本当に申し訳ないと思っている」

 

 そう言うが、ほとんどのプレイヤーが構えようとするが、全員ボロボロでHPは危険値だ。

 

 それでも止められない衝動を抑え、俺たちは静かにしていた。

 

「なぜそんなことになったのか、そしてなぜ私が生きているのかを。君たちに説明しなければならないだろう」

 

 それは75層で俺と戦った時、発生したシステム障害が事の発端らしい。

 

 あの時、この世界を制御しているカーディナルシステムに予想外の負荷がかかってしまった。

 

 負荷の要因は、プレイヤーの負の感情によって引き起こされたエラーの蓄積。

 

 俺たちがよく知る、メンタルヘルス・カウンセリングプログラム。ストレア。

 

「彼女が蓄積したエラーはやがて抑えきれなくなり。膨大な量のエラーがカーディナルシステムのコアプログラムに流れ込んでしまった」

 

 そして負荷のもう一つの要因は、須郷たちによる外部干渉。

 

 これらの要因がカーディナルシステムを暴走させ、今回の事態を引き起こしたと言われる。

 

「それだけでなく、この世界のエラーと同じ、全く同質のものとも言えるエラーを抱えたシステムが外部に存在した」

 

「《ムーンセル・オートマトン》」

 

「そうだ、その二つのシステムによりエラーとバグの処理が同時進行し、そして矛盾が激突した。あの時の私たちの結果に、大きく影響を受けてしまった」

 

 曰く、あの時の戦いでヒースクリフのHPゲージが無くなるのが早かったが、ほぼ同時刻にその現象が起きてしまい、管理者モードへと移行された。

 

 その結果プレイヤー、ヒースクリフは勝負を放棄した結果だが、ラスボスは倒されたと判定はされなかったと。

 

 カーディナルとムーンセルは、この事実をどう取るかは、

 

「それは君たちがよく分かっているはずだ」

 

「ムーンセルのルールを取り込んで、新たなラスボスを構築して、新たに倒されるかを見る。それが二つのシステムが下した答えか」

 

「その通りだ。無論、ムーンセルのルールに適した主人公もまた、新たに作り出されたわけだ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そう言い、ヒースクリフは静かに称賛を送る。須郷と言う外部からの介入、別システムの混線。

 

 多くのイレギュラーに対して、キリトたちは打ち破り、自らの道を勝ち取った。

 

「やはり、ゲーム運営には想定外の事態がつきまとうものだな。それが面白いと言えるのだが………」

 

「面白い……だと………。当たり前だ、ここまで多くの人間が深く関わる世界で全てが思い通りになると思うなよッ!」

 

 その時のキリトたちは、人間じゃない少女を思い出す。

 

 消えたくない、死にたくない。本当は幸せにしたかったと言う嘆きを。

 

「もちろんその通りだ。しかし、私の思い通りになることもある。例えば、ゲームクリアの可否」

 

「この後に及んで、クリアさせないって言うんじゃ………」

 

「それはない。カーディナルとムーンセルは君たちの勝利を確定した。なによりフェアプレイを心掛けているつもりだからね。君たちは間違いなく100層のボスを倒した。改めて称賛を送ろう、クリアおめでとう、勇敢な者たちよ」

 

 そう彼らに言葉を投げかけるが、

 

【ふざけるなッ!】

 

 一人の男が死を纏い燃え上がる。

 

【世界を狂わせ、人を狂わせ、こんな悲劇を生み出して起きながら、貴様はなにもしない気かッ!?】

 

「メイト君、君にも驚かされる。ムーンセルとカーディナルにより設計された主人公。君の存在、成長は我々も目を見張るものがあった。ムーンセルは大いに満足していたよ」

 

【………】

 

「数々の非礼を詫びよう、君たちムーンセル側は完全な被害者。お互いの為にならなかった。本当にすまなかった」

 

【お前を見たときから俺の中の死がざわめいている。お前を許さない、憎め、憎めと!!】

 

 細剣と残った剣を持ち、彼は燃え上がる。

 

【お前に対する憎悪だけは、なにがあっても晴れることは無いと思った。だが、その憎悪より生まれた俺は、彼女を殺した俺は、お前を殺す義務がある】

 

「つまるところ、君は私と、ソードアート・オンラインの本来のラスボスと決着を付けたいと」

 

【それが俺の中の、約4000人のプレイヤーの願いだ】

 

 その時、キリトは静かに剣を抜く。

 

「それには俺も同意見だ、こればかりはお前にも譲れないッ!」

 

「キリト君っ!?」

 

「いまここで戦わなければ、俺はずっとこの世界に囚われたままだ。心をこのままこの世界に残ったまま、現実世界に還られるかッ!」

 

「キリトっ、それは俺だって同じだ。テメェだけは、テメェだけは許せねえッ!」

 

 クラインも刀を握りしめ、静かに前に出る。

 

「ヒースクリフさんよお、お前、あの彼女について、なんとも思わないのか」

 

「思うとは?」

 

「彼奴は言ってたろ、喜ばせたかった幸せにしたかった!! それがこの世界の思いって奴だろ!?」

 

 その言葉を聞き、それでもヒースクリフは、まるで一個人の感想を聞くような態度だった。

 

「彼女には代理として相応しく、この100層のラスボスを全うしてもらった。心から感謝しているよ」

 

「代理として………」

 

 二人の男が歯を食いしばり、さらなる、彼らからすれば認めたくないことを口にした。

 

 

 

「本来無意味な戦いに、こうも価値を作ってくれたこと。本当に感謝しているさ」

 

 

 

 その言葉に、全員が絶句した。

 

「どういうことだ……。それは、いったいッ!」

 

「言葉通りの意味さ。言ったはずだよ、このゲームは本来、私の敗退によって75層で終了していた。彼らの存在は本来なら担う必要なんて無い」

 

「それは………」

 

「彼女を始め、メイト君が生み出されたのは、本当に偶然から生まれた矛盾を解決するためだけさ。意味も(・・・)理由も(・・・)価値も(・・・)、本来は求められていない(・・・・・・・・)

 

 キリトは始めなにを言っているか理解すること、理解していてもできなかった。

 

「意味も、理由も、価値を求められてないって………」

 

 リズの震える言葉に彼は答える。

 

「75層でこのゲームは終わっていた。ただ彼らは矛盾を解決させるための処理さ。言ったはずだ、私の思い通りになることがあると」

 

「それって」

 

「こうして出てきた以上、どのような結果だろうと二つのシステムにプレイヤーの勝利は確定されていたと進言し、受理させていた」

 

「それじゃ、メイトやあの人の戦いは? 思いは? 生まれて来た意味はっ!?」

 

 ユウキの叫び声に、彼はGМとしてただ語る。

 

「ただ矛盾を解決させるためだけの一時しのぎ。それ以上なにもない」

 

 それは彼らが生み出されたことも、戦いも、思いすら意味が、理由が、価値が無いと言われたも同然の言葉。

 

 ユウキとシリカがふらつきかけた。リズとリーファ、シノンは怒りを通り越して絶句した。

 

「ふざけるなあああああああああああああああッ!!」

 

 キリトは叫び剣を握りしめ、アスナもクラインも、ゲームクリアだのなんだの、そう言ったこと全てがどうでもよくなる。

 

 ただ一つ、彼らが生み出されたこと、戦い、思い全て。それら全てが否定されたことが許せなかった。

 

「このままオメオメと現実世界に還れるかッ!」

 

「わたしも、その言葉だけ、その言葉だけは許すことはできない!」

 

 その時、攻略組はほとんどが無意味と知りながら武器を構えていた。

 

 その様子を見て、ヒースクリフは静かに見届ける。

 

「どうやら、君たちの願いを叶えないといけないらしい。すでにクリアの決定は覆らせないが君たちと戦おう。正真正銘のラストバトルを!!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトたちの猛攻に、ヒースクリフは盾で防ぐ。

 

「こいつは俺たちのスキルの動きを全て知っているっ!! 自分の力だけで突破するしかないッ!」

 

 キリトの号令と共に、全員が一つの生き物のように動く。

 

 クラインもエギルも、システムアシストを受けたヒースクリフへと挑む。

 

 アスナの号令と共に動く中、全SAOプレイヤーは叫んでいた。この様子もまた、全てのプレイヤーの下に届いたいる。

 

 吹き飛ばされてもなお、死ぬことよりも、彼らの心にはある少女の涙が残っていた。

 

 それを元にHPがある限り、彼らは前に出続けている。

 

【はあああああああああ】

 

「でぃやあああああああああああ」

 

 セイバーとメイトが高速で斬り込み、二本の剣で彼の盾を弾く。

 

 キリトが斬り込み、その時の彼はHPは危険値である。

 

「キリト下がれッ!」

 

「キリト君っ!」

 

「キリトさん」

 

「キリト!!」

 

 それでも、

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 大切な人と全く同じの少女。

 

 幸せを願い、喜びを願った彼女。

 

 おそらく下がれば彼女を殺すしかできなかった彼が殺すのだろう。

 

 だけどそれでいいのか?

 

 それで自分は許せられるか?

 

(そんなわけがあるかッ!!)

 

 彼は自分の全てを受け入れた。

 

 己の宿命(フェイト)を受け入れ、その中で選んだ()

 

 剣戟が鳴り響く、ソードスキルを使い、システムに預けられた動作で身体が動く。

 

 盾で防がれる中、それでも選ばせるわけにはいかない。

 

 最後の一撃、剣が叩き折れた。

 

「さらばだキリト君」

 

 その言葉と共に自分が貫かれたことを知る。

 

 悲鳴が聞こえる。自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

 だけど………

 

『あなたたちは、こんな世界のことは忘れて。温かい、優しい世界で』

 

 

 

「この宿命をッ、誰にも渡せる、ものかああああああああああああああッ!!!」

 

 

 

『生きて………。ゲームクリア、おめでとう』

 

 その瞬間、消え去るはずの身体は黒い光を纏い身体を作り、光が闇を砕き、握られた剣はヒースクリフを貫いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトがHPが無くなるその瞬間、ヒースクリフのHPを、身体を貫いた。

 

「見事だキリト君………」

 

 剣から離れ、減るはずのHPゲージは止まるキリト。ヒースクリフを見るキリト。

 

「これほどまでに鮮やかに勝利を収めるとは、私の想定以上だ」

 

「勝った……のか………」

 

「ああ。この鋼鉄の城《アインクラッド》の最後のボスは倒された。君たちが勝利者だ」

 

 全員の身体は光に包まれながら、フィールドも光に包まれ始める。

 

「これから全ての者たちは元の世界へと戻される………」

 

「ヒースクリフ、あんたは」

 

「私は戦いに敗れたのだ。いまは創造者権限で話しているに過ぎない」

 

 ここでSAOのルールを破るのは、自分にとって現実であったこの世界の否定につながる。

 

 それはなにを意味するか、全プレイヤーは理解した。

 

「君たちがこの世界に来てくれて、本当によかったと思っている。私の夢想の中で、君たちは真剣に生きてくれた………」

 

「………確かにここはゲームの中の世界だ……。それでも俺は、俺たちはここを一つの現実だったと思っている」

 

「そう思ってくれるのか、ありがとう。キリト君」

 

 ヒースクリフが消え、浮遊城が崩壊し出す。こうしてゲームはクリアが報告され、みんなが元の世界に還り出していた。

 

 そんな中、分かったことがある。それはユイとストレア。この世界のプログラム。

 

 アイテムオブジェクト化され、いつの間にか世界の消去対象外になっていた。

 

「彼女が……」

 

「きっとそうだろう」

 

 オブジェクト化されたユイとストレア。この二つは確認できた。

 

 だけど………

 

「メイトさんは」

 

「俺は無理だよ」

 

 シリカたちはメイトを見る。彼だけがオブジェクト化されない。それは仕方ないことだ。

 

「キリト、俺たちの憎しみを連れて行ってくれてありがとう」

 

「メイト、君は………」

 

「俺はいいんだ。これが俺が生まれたときから決まっていることだ」

 

 そう言って後ろに下がるメイト。

 

「メイトっ!」

 

 ユウキは悲しそうに見つめるが、彼は全員の輪から外れ、静かにみんなを見る。

 

「キリト、みんな。俺の旅路は決まっているんだ」

 

「メイト、セイバー」

 

「余たちはお主たちと共に行けぬ、それが決まりなのだ」

 

「そんなこと、メイトたちもオブジェクト化すれば」

 

 それに静かに首を振るメイト。

 

「俺のデータ管理はムーンセルであり、死相(デッドフェイス)は存在を許されない。なにより俺は彼女を殺した、この世界を殺したんだ。俺だけ生き残る気は無い」

 

「ふざけるな、君は、君は」

 

「どうして、そんな悲しいことを言うの? なんで死ぬ為に生まれたことを、受け入れられるの………」

 

 ユウキは涙を流しながら呟き、他のみんなも涙を流す。

 

 それに、

 

「俺には三つの願いがある。一つはみんなを元の世界に還すこと。もう一つは俺だけじゃ叶えられないし、叶わない」

 

「それは」

 

「あの少女を救えない、死者を救うことはできなかった」

 

 そう言い、腕のリボンを見つめるメイト。

 

 そして光が徐々に強くなり、キリトたちを包み込む。

 

「メイトっ!」

 

「終わりの時間だキリト、みんな……」

 

「それではな、大儀であるッ!」

 

 そう言って全てが終わった。

 

 SAOプレイヤーは仮想世界へと帰る道のりを手に入れ、彼は残る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 天空の舞台、日が沈むか上がるかの間の時間。

 

 二人は静かにそれを見ていた。

 

「ヒースクリフ、茅場が出て来たときは驚いた。俺の願いが四つになってしまったよ」

 

「自分で決着を付けたかったか?」

 

 それに静かに首を振る。彼を倒すのは生者の役目だろう。死者である俺ではない。

 

「む? それでは奏者よ、三つ目の願いとはなんだ?」

 

「ああそれは」

 

 その時、

 

「………メイト」

 

「は?」

 

「へ?」

 

 二人はすぐに声がした方へと振り向く。そこにはユウキがそこにいた。

 

「メイト、これって………」

 

「な、んで………」

 

 理解できない、この世界のルールはムーンセルが管理している。ならばこんなイレギュラーは存在しない。

 

 セイバーの顔を見る。彼女も理解できないようだ。

 

「どういうことだ、この仮想世界はもうすぐ消える。なぜプレイヤーが」

 

 そんな疑問に対して………

 

「それは、全て終わっていないからさ」

 

 あの男が答えた。

 

 俺の中には二つの死のデータがある。

 

 一つはこのゲーム、SAOに溜まった死のデータ。

 

 もう一つは月の聖杯戦争に関わる、全ての死。

 

 その一つがその声にざわめく。ヒースクリフが現れたときのように。

 

「お前は」

 

「なぜ貴様がここに」

 

 そこにいたのは眼鏡をかけた白衣の男。

 

「「『トワイス・H・ピースマンッ!?』」」

 

 その問いかけに、トワイスは笑って、

 

「無論、聖杯戦争の続きだよ………」

 

 そう言って彼は、崩壊する剣の世界に降り立った………




 SAO、ソードアート・オンラインと言うゲームはいま終わりを告げた。

 だがもう一つ、この戦争はいまだ勝利者を決定していてはいない。

 さあ始まりを告げよう。悲劇の産物で生まれた技術により、生きながらえる少女を始まりに。

 この世界の〝聖杯戦争〟を始めようっ!!


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第25章・仮想聖杯戦争

仮想世界ソードアート・オンライン。そのラスボスはホロウ・アスナとガウェイン。裏ボスヒースクリフ。

だがそれはゲームの世界だけの話。

いま一人のマスターとサーヴァントの前に、もう一人のマスターが現れた。


「おじさんは、白衣の……。それに聖杯、戦争……?」

 

 ユウキは理解できず、白衣の男、トワイス・H・ピースマンは静かに語る。

 

「聖杯戦争、マスターが七天の空を目指し殺し合う戦い」

 

 ユウキよりも前に出る二人。メイトとセイバーは静かに睨みつけた。

 

 その威圧にユウキは怯え、後ろに下がる。

 

「なぜ貴様が、ムーンセルの浄化で消えたのではないのかッ!?」

 

「それはそこにいる彼にも言えることだ。私は所詮紛い物。始まりの死相(デッドフェイス)が消滅されたところ、この世界に流れ着いただけだ」

 

 当然のように言うが、彼らはあり得ないものを見るように彼を見て、ユウキは彼らの会話に疑問を抱く。

 

「この世界………」

 

 それに僅かにふむと頷き、指を鳴らすと共に悲惨な現実が空間に映り出された。

 

 それは世界、ある世界の光景だ。

 

「聖杯戦争とは別の世界で行われた戦争だよ。互いに殺し合い、七天の空を目指し、最後の一人になるまでね」

 

「っ!?」

 

 少女は怯え、メイトの背中に隠れる。

 

 映し出された画像には無数の死がそこにある。それに少女は、

 

「どうして、そんなことするの」

 

「それは簡単だ。聖杯を手に入れるため」

 

「せいはい……」

 

 その瞬間、画面はあらゆる幸福、幸せへと変わる。

 

 栄光、勝利、祝福など。ありとあらゆる幸福を映し出した。

 

「七天の勝者は《ムーンセル・オートマトン》により、万能の願望機である聖杯を渡される。あらゆる事情を現実の元へと変える権利を得る」

 

「それってなんでも願いが叶うってこと?」

 

「ああ」

 

 トワイスは告げて、だがとセイバーが声を高く止めに入った。

 

「余の前奏者である岸浪ハクノたちが勝利、リンが手にしたはず。もう聖杯戦争は終わっている」

 

「そうだ、〝その〟聖杯戦争は岸浪ハクノたちが勝利を収めた」

 

「その?」

 

「〝この〟聖杯戦争はまだ勝利者が決まっていない」

 

 瞬間、二人から血の気が引き、すぐに身構え、無数の画面が映し出された。

 

 それは進化の軌跡、人類史の一端。

 

「お前が始まりであろうと、聖杯戦争、月の戦争はここで行われていない。これはSAOと言うゲームと混線したムーンセルが観測する、ただの遊戯だ」

 

「だが、曲がりなりにもこれは〝聖杯戦争〟と言う名を模した戦争であり、優勝賞品を用意しない通りは無い」

 

「ふざけるな、用意されたマスターは人形しかいない。例え正しい資格を持つマスターが参加していても、彼女たちは選手として資格があるはずない」

 

「それを決めるのは誰か分かるかい?」

 

「ムーンセル……。バカな、ムーンセルが矛盾を解決させるための処置だけに、願望機を用意しただと………」

 

 セイバーと共に戸惑う中、その答えに満足したように笑みを浮かべるトワイス。

 

「すでに君は多くの英霊を倒している。後はこの地にいるマスターを全て倒せば、聖杯への道は生まれる」

 

 そう言い、彼は静かに微笑む。

 

「戦争とは人類が選んだ進化の一つ、そうだろうメイト君」

 

「お前は俺に、岸浪ハクノのように、岸波白野のように問いかけるか」

 

「当たり前だよ。私と同じ意思を持つNPC」

 

 彼は戦争を否定する人間だった。正し善意などでは無く、戦争と言うものを嫌悪し、発作が起きる。それを和らげるために戦火を消していた。

 

 その人物を元に作り出されたNPC。だが彼は戦争を否定する中で考えてしまう。

 

 戦争こそが人を、人類史を停滞から進化へと変える分岐点ではないかと。

 

 その結果、彼は月の聖杯戦争で多くの戦いを勝ち残り、そしてついには世界を、人類の進化を諦めた。

 

 無数の大画面で戦争が映し出される。ユウキは怯えながらもこの光景を見つめている。

 

 その映像の中に、ユウキたちの世界らしい画面までもが映し出された。

 

「お前はこの世界で聖杯戦争を引き起こす気か」

 

「引き起こす。場所が変わったのならば私の意思を継ぐ者が現れる可能性がある、私は私の意思をやめることはできない」

 

「ここにユウキがいるのは」

 

「ムーンセルの聖杯戦争へとアクセスできるのはウィザードのみ。そう言えば分かるかい?」

 

「無理矢理選手を集める気か」

 

 フルダイブ技術。それを使用した方法はウィザードに近いものがある。

 

 それを利用してプレイヤーをウィザードに仕上げて、無理矢理聖杯戦争を開催させるのだろう。

 

 その瞬間、トワイスは死相を纏い、静かに立ちふさがる。

 

【戦争こそが人を、人類史を進化させる。このゲーム《ソードアート・オンライン》もまた進化の一つ。彼のゲームが世に出てその悲劇の結果、爆発的にこの世界の技術は進化したッ!】

 

 それはまるで時代が変わったかのように次の映像が変わる。

 

 これが彼らの世界、フルダイブ技術が現れてからの進化の軌跡なのだろうか。

 

「お前はそう言うしかできないのか」

 

【事実を言ったまでだ。この世界なら、私たちの世界より希望を持てる。なにより私は、それを体現するに相応しいプレイヤーを最初に呼んだ】

 

 その言葉には理解できず、怯えるユウキをかばいながら、セイバーが剣を構え前に出る。

 

「呼んだだと? まさか、ユウキがこの世界に来たのは」

 

【私が呼んだからに他ならない】

 

 それに歯を食いしばり、静かに彼らは睨む。

 

 それでも彼は気にも留めず、話を続けた。

 

【その少女の命を支えるのは紛れもなく、悲劇を引き起こした技術で生み出された】

 

「《メディキュボイド》」

 

【フルダイブ技術は多くの命を奪い、そして繁栄をもたらした。この世界も私の夢想を体現した世界と言わず、なんと言う?】

 

 ユウキを最初の選手にしようとしている。それを許す気は無い。

 

 ただ静かに構える一人のマスターと一騎のサーヴァント。

 

「トワイス、お前の所為で俺の願いは五つになった。お前があの戦いを狂わせた憎しみを、俺は抱いている」

 

【君も岸波たちのように、私の思想を否定するのか。他ならぬ君が、君たちがッ!】

 

 死の雷光が走る中、それでも否定する。

 

「俺はこの世界を殺した、その罪は受けなければいけない。このまま俺は死ぬ」

 

 ユウキが僅かに何かを言おうとした。だがすぐに防壁が展開され守られる。それにトワイスは静かに首を振る。

 

【君はそれでいいのか? この世界を終わらせるためだけに作り出され、終わることを生まれる前から定められた存在で終わると言うのか】

 

「………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 無言で見つめるユウキを感じながら、俺はトワイスを睨む。

 

「それでいいと俺は認めた。俺の始まりは終わることを定められていた。俺の進む先に未来も光も無いことは生まれた瞬間から分かり切っていた」

 

 なによりも、

 

「俺はキリトたちの未来を守るために、この世界にいるッ!」

 

 そうそれが俺が選んだ道。俺が選べた選択肢。

 

 それを否定されることもすることも、許すつもりはない。

 

 死相を纏い、セイバーへと叫ぶ。

 

【セイバー、奴がサーヴァントを出す前に殺せッ!】

 

 瞬間彼女が走る。

 

 だが、

 

「ッ!?」

 

 セイバーと共に感じた違和感。直感的なそれに従い、すぐに軌道を変えたセイバー。

 

 その場に光が降り注ぐ。

 

 セイバーは緊急回避し、俺もすぐに横に飛んだ。

 

【サーヴァントならすでにいる】

 

 極光が空を、世界を照らす。その光が〝在る〟と言う事実だけで、俺の身体が焼かれているのが分かった。

 

 それに俺たちは目を疑う。

 

【ふざ、けるな………それを呼べるはずはない。ムーンセル、熾天が閉ざされているこの世界、ここにいるはずがない】

 

 そう、それほどまでに特別なサーヴァント。

 

 前々回の月の聖杯戦争に現れたこと自体、イレギュラーであることに変わりない。

 

【だがここに存在する。この世界〝この世でただひとり、生の苦しみより解脱した解答者〟】

 

 後光の光が世界に降り注ぎ、不浄を焼き払う。

 

 ただいるだけで俺を、死を焼き尽くした。

 

「ぐっ、がはっ」

 

 死相(デッドフェイス)である俺は消し飛び、右腕が焼き切られた。

 

 まさかの最後に現れたのは、救世主と言うエキストラクラスのサーヴァント。

 

 セイヴァー『覚者』。

 

 トワイス・H・ピースマンの真上、座するように座り、光り輝くその英霊とは言えない領域に住まう存在。

 

 よりにもよって彼は再度、この戦いの行く末を見る為に呼び声に応えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

『死より生まれし者よ』

 

 天上に座し、見下ろすようにこちらを見る彼は慈愛に満ちた目で見、湖畔に広がる湖のように、静かに話しかけてきた。

 

 それは俺に話しかけて来る。無数の光弾がセイバーに迫る中で。

 

 攻撃を一切やめず、ただいるだけで俺を消滅できる存在は、俺に話しかけてきた。

 

『もはや汝の苦しみは終わりを迎える』

 

 終わり、終わりだと。

 

【終われるかッ!】

 

 電光が走る。光が身体を焼きながらなお、俺の選べる選択肢は戦うこと。

 

 死でできた腕が地面に落ちた剣を握る。

 

【例え俺は此処で敗れても、お前たちを勝利者にしてはならない。命なんていらない、存在する意味も理由も価値もいらないッ!】

 

 だから俺に力を、リソースを、セイバーを勝たせるために力を。

 

 光に向かい、俺は走り出す。

 

【苦しみを選ぶか、だが君は覚者により終わりを迎える】

 

 曼荼羅のように広がるそれは彼の宝具『天輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)』。それらが一斉に降り注ぐ。

 

 セイバーへ防壁は無意味、躱してもらうしかない。

 

 放たれた天輪を躱しながら、無数の光弾が雨のように降り注ぐ。

 

【うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?】

 

 光が俺の闇を払う。

 

 その一つが俺に突き刺さり、身体を引き裂いた。

 

 痛みは無い、NPCである俺に生の苦悩などはない。

 

 特別なそれは死者を払う力は絶対的だが、俺には関係ないもの。

 

 その隙をセイバーは覚者に刃を突き立てたが、防壁のように光が阻む。

 

「セイ、バー………」

 

 セイバーの攻撃を防ぐ中、覚者の手が彼女に向けられた。

 

 すぐに防壁を最大に展開したが手のひらから光が放たれ、セイバーは吹き飛んだ。

 

 地面に落下した彼女の下に、無数の天輪が降り注ぐ。

 

【これで終わりだ】

 

 トワイスはそう言い放ち、弾丸のような光が世界を覆い尽くす。

 

「ふざ、けるなあああああああああああああああ」

 

 展開するコードキャストはガラスのように砕け散る。

 

 それでも彼女を、自分を守らなければいけなかった。

 

 彼らを勝たせてはいけない。この世界に、聖杯戦争を引き起こさせてはいけない。

 

 だからこそ、俺たちはここで終わるわけにはいかないのだから。

 

「ッ!?」

 

 だが覚者が目の前にいた。

 

 転移? 自分がいつの間にか、覚者の側にいる。

 

 覚者は静かに、慈悲深く見つめながら手を向けた。

 

 その光は簡単に俺の身体を貫き、降り注ぐ光は俺を吹き飛ばした。

 

「メイトおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 ユウキの悲鳴だけが聞こえ、俺の世界は光に埋め尽くされた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 腕が千切れ、身体はヒビが走る。

 

 もう動くリソースは存在しないだろうその姿に、ユウキは涙を流し見つめるしかない。

 

【君はよく戦った。奪う為に生み出され、終わりを迎える為に戦い、そして散る】

 

 トワイスはそれを否定しない。

 

 その生き方はNPCとして生み出され、それでも自分であろうとする姿は人間らしさがあった。

 

 最後までユウキと言う人間を守ろうとする同類に、ただ理解者に成れなかったことだけが残念で仕方ない。

 

【君の人生はいまここで終わりを迎える。さらばだメイト君、世界を殺す為だけに作り出された、哀れな同胞よ】

 

 そう言い、その身体へと無数の光が降り注ぐ。

 

 覚者が最後に与える。終わりが降り注いだ………




次回、聖杯戦争の勝者が決まります。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第26章・意味を与えるものと与えられるもの

 ――まだ終わりじゃない――

 誰だ?

 ――貴方はまだ願いを叶えていない――

 君たちは………

 ――仮想世界を殺し、彼女を殺して、彼らを開放した――

 ――聖杯を使えるか分からない。だけど使えたのなら、あの小さな少女を救う願いを――

 ――そして――

 ――私たちの願い、死から生まれた貴方だから、彼女のマスターである貴方にしか頼めない――

 ――俺たちの願い――

 ああ……。そうだな、そうだった。

 ――さあ立ち上がれー―

 ああ。俺は止まることは許されない。俺はそれだけの罪を背負ったのだから………


 結局のところ、俺の旅路は人殺しで終われと言う酷い話だった。

 

 全て始まりから終わりまで分かり切っていたこと。

 

 キリトを見ても俺の元になったデータ所有者であると分からなかった。分かり切っていたことは、自分の終わりは最低で最悪なものであると言うことだけ。

 

 生きる意味も理由も価値も無い。

 

 そもそも生きていない。死んでもいない。

 

 俺はそんな人生を歩かなければいけなかった。

 

 後悔は無い。絶望も無い。未来も無い。

 

 変わりに幸福も無い、希望も無い、過去も無い。

 

 俺は現在(いま)しか無かった。それしか無かった。

 

「俺の旅路の先に光なんて無い」

 

 そうだ、俺の旅路に光は存在しない。

 

 救う為に戦っていたわけでもない。憎しみから戦い、終わらせた。

 

 彼女を、世界を殺した罪。それは決して消えないだろう。

 

 それでも………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 真っ白な光が世界を包む。そんな中、声が聞こえた。

 

 ただ一人の少女の声。

 

 俺に刻まれた名を呼ぶ、叫び声だ。

 

「セイバー………」

 

 まだ戦える。

 

 戦う。

 

 それが、

 

「断片でできた虚空の感情。俺の、意思ッ!!】

 

 俺を彩る現在(いま)は、何者にも否定されることなぞ許されない。

 

 何かを生み出すことも、作り出すこともできない。終わらすことが目的の人生。

 

 だが、それでも、なお。

 

 光り輝くそれらはユウキを始め、多くの人がくれた、俺にくれた輝き。

 

【『令呪を以て命ずる、全快せよ』】

 

 爆発するように輝きが増す。

 

 赤い輝きは薔薇をまき散らし、情熱の皇帝は静かに剣を握る。

 

『まだ戦うのですか、薔薇の皇帝』

 

「無論ッ! 貴様には勝たねばならない。もう二度と負けるものかッ!!」

 

 走る彼女を見ながら、無数の腕が俺に食い込む。

 

 トワイスから黒い腕が生え、俺の肉体を侵食する。

 

【君は戦うと言うのか、終わる為に。全てを賭け、生を捨て、死へと進み、終わりへとたどり着く為。その為だけに全てを捧げるのか】

 

【ああ】

 

 覚者へと迫る薔薇の皇帝へ、俺は捧げる。

 

【『二度令呪を以て命ずる、我が全てを使い、汝の劇場を創り出せ』】

 

 その瞬間、薔薇が世界に舞い上がる。静かに光よりも多く。

 

 輝きを遮り、その光を我が物にする。

 

「我が才を見よ、万雷の喝采を聞けっ! 座して称えるがよい。黄金の劇場ッ!!」

 

 空間が彩られる。

 

 彼女が生前作り出した、黄金の劇場。赤き薔薇が舞い、世界を包む。

 

「『招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)』」

 

 彩られた黄金の劇場。深紅の薔薇が舞い上がり、世界を照らす輝きを遮る。

 

 だからこそ彼女に全てを捧げよう。

 

 そしてたどり着こう。我が終わり、旅路の終わりを。

 

【『三度令呪を以て命ずる、セイバー、勝利をこの手に』】

 

 その赤い閃光は綺麗で儚く、そして真っ直ぐ覚者へと迫る。

 

【愚かな】

 

 激突する輝きの中、トワイスから無数の暗闇の腕が俺を取り込もうとする。

 

 だが、

 

【………?】

 

 だが、

 

【俺は終わりの為に進んだ】

 

 ひび割れ、闇は消え、眼光が輝く。

 

【バカな。君は】

 

【俺の終わりはこれでいい、だが彼らの世界、彼らの明日、なにより、この世界の終わりを、彼女の悲劇を、俺は否定する】

 

 そう、俺のように生まれたわけでない彼女の存在が悲劇であるはずがない。

 

 歪められた彼女の存在を、きっとキリトたちが正してくれる。彼らがきっと変えてくれる。

 

 あの時彼女のため涙した全ての人たちが、この世界に生まれた彼女に意味を与えてくれる。悲劇であるはずがない、間違いであるはずはない。

 

 存在するべきではないと受け入れた彼女(ソードアート・オンライン)の存在を、彼らがきっと変えてくれる。いや絶対だ。

 

 彼女自身がそう願い、叶えられなかった願いを。彼らが叶えてくれる。彼女は生まれたことを人々から祝福される日が、どんな形だろうと必ず訪れる。

 

 だから俺は、

 

【俺は悲しみを終わらす、その為に生まれたッ!!」

 

 暗闇が消え、俺の傷は消え、叫ぶ。

 

「彼らの世界に悲劇はいらない、彼らはきっと、自ら輝かしき明日を創るのだから」

 

 もう悲しみは、憎しみは、絶望は終わりを告げた。

 

 こんな形で終わらせるためでは無い。きっと未来で彼らが意味を創り出す。

 

 ソードアート・オンラインはきっと誰かの心を照らす光になる。それを異物である俺たちが、邪魔するわけにはいかない。

 

「セイバーッ!!」

 

【バカな、君も………】

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 二つの剣を構え、交差させた。

 

「『童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)』」

 

 紅き閃光が覚者を斬り裂いた。

 

 輝きが消えていく、闇が消えていく。

 

【死者が、生者に………こんな】

 

 トワイスへと二つの剣を叩き付ける。

 

 斬り裂かれた彼は信じられないと言う顔のまま、静かに光の中に消えて行った。

 

「これが俺たちの旅路の答えだ」

 

 こうして俺の、俺たちの旅路は終わりを告げた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メイトっ!」

 

 ユウキが近づいてくる。その場に座り込みたいがまだのようだ。

 

「よかった」

 

「大丈夫なのメイト」

 

 近づいて来たユウキに対して、セイバーは地面に剣を刺して倒れるのを我慢していた。

 

「余ももう限界だな………」

 

 ボロボロの身体で無理に回復させたのだから仕方ない。すでに肉体の維持も限界のようだ。

 

 お互い砕けた身体。消えていく彼女を見つめながら近づく。

 

「助かったよ」

 

「うむ、余、頑張ったぞ」

 

 嬉しそうに報告する彼女に、俺は、

 

「最後に現れた覚者たちの所為で願いが五つとか六つになった」

 

「まったくだ。だが、もしかしたら二つ目は叶うかもしれんぞ」

 

 聖杯の戦いに勝利した。ならば俺は願いを叶えられるかもしれない。それでもNPCである俺が、聖杯に手に入れる権利があるか分からない。故に彼奴、トワイスは永遠に勝利者を殺し続けた過去を持つのだから。

 

「まあ、期待しないではおくよ」

 

 なにより死相(デッドフェイス)に、NPCが聖杯を得ることはできるか分からない。

 

 おそらくそれよりも速く俺は消去されるだろう。

 

「うむ、まあ良い。それで、そなたの三つ目はなんだ?」

 

 そう満面の笑みを見せる彼女に、俺は両手を広げ、

 

「あなたに万雷の喝采を。薔薇の皇帝、我が愛しきサーヴァント。ネロ・クラウディウス」

 

 そう言い、俺は拍手した。

 

 驚くセイバー、いや、ネロは俺を見つめている。

 

「………そなた」

 

「俺は〝岸波白野〟であり、もう一人〝岸浪ハクノ〟でもある」

 

 そう言い、彼女を静かに抱きしめた。

 

「あなたの願いを叶えよう、我らの愛おしき薔薇の皇帝」

 

「!?」

 

「『約束しただろ(でしょ)、一人にはしないって』」

 

 抱きしめながら頭を撫で、彼女の願いを叶える。

 

 俺の最後の願い。俺が抱える、ムーンセルの死が背負った願い。

 

 ネロは俺を抱きしめ、俺は彼女を抱き上げる。その手はただ愛を求めた少女の力。その手の感触を感じながら、彼女を抱きしめた。

 

「………さらばだメイト、我が奏者たちよ」

 

「ああ」

 

 彼女が光と成り消える中、手のひらに赤い薔薇の花びらを掴み、静かに風に乗せた。

 

「ありがとう、ネロ。俺の旅路を、情熱で彩ってくれて………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全てが終わり、鐘の音が鳴り響く。

 

「もうすぐこの世界は消える」

 

「メイトは………」

 

「俺はNPC、この世界と共に消える定めだ」

 

 それを聞き、ユウキは複雑そうに俺を見た。

 

「怖くないの」

 

「ああ」

 

「悲しくはないの」

 

「ああ」

 

「どうして」

 

 それは、

 

「俺の大切な人たちが、生きて明日を迎えられるから」

 

 その言葉にはっとなり、ユウキは静かに複雑そうな顔をする。

 

「………ボクは死ぬ為に生まれて来たと思ってた」

 

 顔を下に向け、涙の粒が落ちる中、彼女は薔薇が舞う世界で涙を流す。

 

「何も生み出さず、何も与えることもせず、たくさんの薬や機械を無駄使いして………周りの人たちを困らせて、自分も悩み、苦しんで………」

 

 突然俺に抱き着き、その顔を胸に埋めて来る。

 

 涙を流しながら、その顔を埋めて言う。

 

「その果てにただ消えるだけなら、この瞬間いなくなった方がいい。何度も何度もそう思ってた」

 

 だけどと彼女は言う。

 

「ボクの病気が治るって、先生が言った。ボクの家族は救えるって、遠くの外国の人が言ってくれた。ボクたちはまだ、生きられるって」

 

 そう言い、俺を見つめるユウキは涙で顔を歪め、その顔でずっと泣いていた。

 

 死の宿命から解放された少女は、死を定められた俺に涙する。

 

「メイトはなんで戦えたのっ!? メイトはどうして」

 

「………」

 

 涙を流す少女に対して、俺は静かに、

 

 

 

 

 

「俺は君たちを守りたいから戦える。そう言ってくれたのは君だよ、ユウキ」

 

 

 

 

 

 その言葉に彼女は涙が流れ、なにも喋れなくなる少女。

 

 その涙をぬぐいながら俺は言う。

 

「俺の存在に、意味も、理由も、価値もいらない。そう思うほど、この生き方が尊いものと感じられた。ネロが、キリトが、アスナが、クラインたち。ユウキ」

 

 鐘が鳴り響き、日の境目の中で、俺は一人の少女を見る。

 

「君たちが俺に意味をくれた、理由をくれた、価値をくれた。君たちを守ることこそ、俺がこの旅路で何者にも明け渡すことができない尊いものであると宣言する」

 

「メイ、ド………」

 

「君もその一人だ。ユウキ」

 

「ボグば、まだ………」

 

「君は与えることができた。何も無い、ただ世界を殺すために作り出されたちっぽけな存在に、自分は誰かを助けたいから戦っていると意味をくれた」

 

 それにユウキは涙を流す。静かに抱きしめ、静かに呟く。

 

「ありがとう、俺の為に泣いてくれて。ありがとう、俺に意味を与えてくれて」

 

「メイ………ト……」

 

「君は生き続けろ、ユウキ。俺は願う、聖杯にも、奇跡にも願わない。これは俺が、俺として願う、ただの願い。ああそうか、俺は願いばかりあるんだな」

 

 世界に与えることができないと思っていた少女が涙を流す。なんてことは無い、ただ彼女は与えることができたのだから。

 

「笑って欲しい、俺は君の笑顔が、みんなの笑顔が大好きだよ」

 

 それに彼女は首を振り、ただ消えるその瞬間まで、彼女は涙を流し続けた。

 

 けして目をそらさず、最後まで安らかな顔で消えるただの〝モノ〟へと、涙を流し続ける。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 不思議な人たちと出会った。不思議に経験をした。

 

 それはボクには複雑で、悲しくて、それでも忘れることなんてできない体験。

 

 与えることができないボクに、生きる意味を教えてくれた。

 

 きっとボクは彼にこう言える。

 

 彼もまた与えることができた。ボクは彼からもらったあたたかな思いを持って、いまを生きる。

 

 こうして聖杯戦争とSAO事件。二つの戦いは終わりを告げた………




 映画館のような場所がある。二人の元マスターはその映像を見終えて、静かに拍手を送る。

「あなたたちの願い、俺たちの願いは果たした」

「いいのかい? 君の願いは」

「俺の願いはあなたたちの願いでもある。岸波白野、岸浪ハクノ」

「それもそうだね」

「それじゃ、俺たちは行くよ。君は?」

「やるべきことがあるから」

「そう」

 二人のマスターは消え、彼は劇場の中、静かに目を閉じ、立ち上がる。

「さあ、行こうか」

 そして彼は歩き出す。終わりを定められ、終わる為に行き、その為に死ぬ為に。

 それでも、彼は微笑みながら、その道を進む。

「彼らの未来を信じて」

 ただ、歩くことを止めない。


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最終章・そして彼は歩き出す

「こうしてムーンセルとカーディナルのコラボは終わり。どう、いい経験になったかしら」

 

 電脳の世界、ムーンセルが管理する空間で、全ての観測されたデータが彼女、リンの手により整理される。

 

「ああ。私の人生で一番の出来事ばかりさ」

 

 リンはある男と話し合う。彼は茅場晶彦。彼は静かにその光景を見た。

 

「一番の出来事ねえ。どんなところが」

 

「自分の子供に恨まれたこと、私の思想を超えた者たち。そう言ったもの全て」

 

「そう、まあ、そういうことにしておきましょうか」

 

 そう言い、リンは静かに別の道、彼は別の道を見つめた。

 

「こっちからしたらはた迷惑だけど、まあ悪いことだけじゃないって信じるわ。まだまだやらなきゃいけないことばかりだもの」

 

「最後に一ついいかい」

 

「なあに?」

 

「彼は勝利者として、聖杯を手に入れられたのかい」

 

 その問いかけにリンは少しばかり考え込む。静かに告げた。

 

 答えを知り、満足そうに彼は去っていく。

 

「はあ、気楽なものね。まあいいでしょう。こっちはこっちでムーンセルを観測したカーディナルと言う存在の観測。その逆もあり………」

 

 リンはステップを踏みながら、気楽にその後を考える。やる事は山のようにある。それでも、

 

「まあ頑張りますか。彼奴らの旅路に比べたら安いものよ」

 

 そう言い彼女もまた歩き出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 帰還した俺たちはまず、リハビリの為に長い入院生活を余儀なくされる。

 

 事件解決を捜査していた人たちから、俺と75層と戦ったあの日、茅場晶彦は死んでいたことを聞く。

 

 大型スキャンで脳をスキャニングすることで、彼はSAO被害者と同じ死を迎える。

 

 もしかしたら彼は電脳世界に生きるために、不要な肉体を捨てたのかもしれない。事実だけは謎のままだ。

 

 須郷はVRMMO内での出来事から、彼らは警察にその身を取り押さえられた。

 

 その後俺たちはリハビリの甲斐もあり、エギルことアルドリューと言う人物の現実世界の店に集まった。

 

 アインクラッド攻略クリアパーティー。SAOプレイヤーたちのパーティー。二か月の疲れがあるがみんな楽しんでいる。

 

 ユイやストレアも、別のゲーム、ALOで引き継ぎができる話であり、彼女らやピナとも会えることは約束されていた。

 

 ユウキについては、彼女は別の、シノンと同じ《メディキュボイド》を使用した患者であることだけを知る。

 

 それ以上立ち入ったことは教えられないと役人の男に止められた。だがゲーム、VRを続けている限り、彼女とはまた会える。そんな気がした。

 

 だからこそ彼らのことが俺たちの心の中で大きくなる。

 

 メイトとセイバー。

 

 この世界に戻ってから、彼らの存在だけが欠片すら無かったかのように扱われている。

 

 現実世界で即座に編成された事件を捜査、担当する大人たちはプレイヤーデータをモニタリング、かつその他のアプローチが無いか探していた。

 

 75層からそれがかなり困難になる中、どこのデータからも、それこそ須郷たち外部からの介入の中ですら、彼らの痕跡は見つからない。

 

 まるで初めからそこにいないかのように彼ら、ムーンセルと言う存在が見つけられなかった。

 

 彼らの存在がない中、俺たちはそれを受け入れなければいけない。

 

「………」

 

「キリト君」

 

「あっ、ああアスナ」

 

 俺が一人考え込んでいると、アスナが話しかけて来る。

 

「メイト君たちのことを考えてたの?」

 

「………ああ」

 

 アスナには敵わないな。

 

 俺は少し周りを気にしながら、アスナ、彼女だけには伝えておかなければいけない。

 

「君には話して置かないといけない、少し外で風に当たらないか」

 

「いいけど………」

 

 少し周りに気を遣いながら、静かに建物の外に出る。中はパーティーで騒いでいて、ほんの少しなら気づかれないだろう。

 

 外の風を受けながら、静かに、

 

「俺の本名は桐ケ谷和人、桐ケ谷のきりに、和人のとで〝キリト〟なんだ」

 

「それは………」

 

「だけど、俺にももう一つ名前があるんだ」

 

「えっ」

 

 それはたぶん、スグも知らないこと。だがいずれ話さなければいけない話。

 

「鳴坂和人。俺の、俺を生んだ両親の苗字を使った名前だ」

 

「鳴坂って」

 

「めいって読んで鳴、和人のとで、メイト。彼奴の名前、漢字にしたら〝鳴人〟って書くと思う」

 

 彼は初めから俺として名乗っていた。

 

 友でも相棒でもなく、俺のような理由で、俺として俺を名乗る。

 

 彼はどんな感情、日々であの世界を生きていたのだろうか。

 

 全てを救う為に死神であることを受け入れ、それ以外に道は無く、その先が終わりしかないと知りながら、彼は歩くのを止めなかった。

 

「彼は、ずっと」

 

「キリト君」

 

 それを彼女は、あの彼女のように止めてくれた。

 

「彼はそんなこと思っていないよ」

 

「………そうだな」

 

 彼は彼として生きていた。それは紛れもない事実だ。

 

 しばらくして店に戻り、みんなでわいわい話し合い、仲間たちと共に話し合う。

 

 そして新たな舞台に向けて話し合う。俺たちの歩みは止まらない。

 

 彼と彼女たちが俺たちにくれた世界、それは暖かく、尊いものだ。

 

 それを表明するために、俺たちは生きる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺たちが病院から退院し、ようやく自由な時間を取り戻し始めた頃、俺は家から隠れながら外に出る。今回ばかりは、スグに見つかるわけにはいかない。

 

「………あいつ、俺を成長させたようなものかな」

 

 少し背は高く、青年とはっきり言える顔立ち。

 

 お店のディスプレイ、硝子に映る自分を見ながら、仮想世界で生きた彼を思い出す。

 

「キリト君」

 

「うわっ」

 

 少し驚くが、そこにいたのは今回のことを約束した相手。

 

「明日菜、キャラネームをリアルで言うなよ……」

 

「あっ、ごめ。って、それじゃわたしはどうすればいいのっ!?」

 

「キャラネームを本名にするから………」

 

 呆れながら俺たちは、その、デートすることになる。

 

 現実世界での初めてのデート。

 

 できれば仲間たちには内緒にしている。学校ではどうしても人目があり、気になるのだ。

 

「なんか向こうでもこっちでもこそこそしている気がするよ」

 

「だな。仮想世界じゃセイバーが面白がって来るし」

 

「そう言えばセイバーさん何者だったんだろう? きり、和人君分かる?」

 

「それは、風呂が好きで薔薇風呂だっけか? それを気に入ってて……。あっ、シノンが言うには、彼女の言い回しはローマ関係が多かったらしい」

 

「それで皇帝で、そう言えばメイト君が言うには、史実と現実では性別が同じとは限らないって」

 

「それで男も好きだが、女の子はもっと好き………。結構居そうだな」

 

 そんな感じであれこれ話しながら歩いている。

 

 買い物をしながら、俺は彼女たちを思い出す。

 

 セイバーと言う、頼もしい剣士。

 

 俺のデータを下に、二つのデータから作り出された友人。

 

 そしてボスとして作り出され、あの世界全てを背負った少女。

 

「ねえ和人君、やっぱり探してるんだよね」

 

「ああ……、エギルも色々ツテ回って探しているけど、彼に関係するゲームは存在しないらしい」

 

 存在しない世界、彼らの世界は本当にあったはずだ。

 

 なのに見つからず、俺は静かに空を見上げた。彼が時々していたこと。

 

 ムーンセル、これに関係するデータだけはこの世界には存在しない。ごくわずかなデータでモニタリングしていた現実世界からも、そのような事実だけは出なかった。

 

 彼らの軌跡だけが、旅路だけが本当に消えてしまったことに、俺たちは少なからず心の中に残り続ける。

 

 彼らはそこにいた。

 

 あの世界、鋼鉄の浮遊城にいたもう一人の俺。

 

 その相棒である薔薇の皇帝と、世界を守る彼女。それだけでなく、その旅路に現れたサーヴァントたち。

 

 彼らの存在は確かにいた、それを証明することができなくても、俺たちの心がそう告げる。

 

 そう考えている時、

 

「和人君っ」

 

 その時、意識が現実に帰ると、白い物体が俺にぶつかってしまった。

 

「わふっ」

 

 白いふわふわした子供だろう。

 

 ふりふりのフリルのついたワンピースを着た、小さな女の子。

 

「ごめんなさーい」

 

「こら、前を見ず走るから。お兄さんたちに謝りなさい」

 

「ごめんなさいです……」

 

 その少女は、彼が言った〝二つ目〟の願いの対象。

 

 あの少女によく似ていた。

 

「あっ、いえ。こっちもぼーっとしてましたから」

 

「ごめんなさい……」

 

「まったくこの子は。久しぶりに、お父さんが仕事の休みなのに」

 

「いや、紺野さんたちが最近病状が良いからね。できればもう少し検査を」

 

「患者さんたちを大事にするのはいいけど。娘も大事にしなさい。けどもう元気で……。ほんと、昔のおばあさまみたいね」

 

「君に似たんじゃ……あっいえ、なんでもありません」

 

 ドイツ人だろうか? 現実世界に帰るとフルダイブ技術が関係して、海外産業などがこの国と関わり合いになろうと、多くの外人を見かけるようになっていた。

 

 そして男性の傍ら、男の失言に僅かに微笑む(目は笑っていない)女性は、どことなくこの少女に似ている。

 

「それじゃ、わたしたちはこれで。行きましょう〝アリス〟」

 

「うんっ、ばいばいおにいちゃんおねえちゃん」

 

「あっ、ああ」

 

「気を付けてね」

 

「うんっ♪♪」

 

 こうして去る少女に俺たちはお互い目を合わせ、そして走り出す。

 

 図書館、ドイツの記事を調べに向こう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは奇跡の出来事として書かれていた。

 

 とある戦争の中、空爆が引き起こされたが、重傷者が一人も出なかったという、奇跡としか言えない出来事があり、一人の少女が証言する。

 

「黒い騎士様(ナイト)があたしたちを守ってくれたの」

 

 それがこの時代に、彼が刻んだ願いの結晶。もう一人の剣士が歩んだ旅路の先。

 

 そして………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 どこかの病室、とある少女がリハビリ室で身体を動かす。彼女の身体はやせ細っていて弱々しい。

 

 これでも彼女は奇跡的に病気が治り出し、まだ無菌室から出られない他の家族より先に、外に出る事ができた。

 

「ボク、頑張って生きてるよ。メイト」

 

 短髪の少女は微笑みながら空を見る。その髪には二つのリボンが結ばれていて、彼女は髪を伸ばそうと決意している。

 

 そのリボンはなぜか自分の手元にあった。最後まで彼の腕に巻かれているはずの、ここでは無い別の世界のみに存在する、あるはずのない二つのリボン。

 

 それが手元にあることで、彼女はVRゲームを絶対に続けようと決意する。いまだ身体は《メディキュボイド》の治療が必要なのだし、これから楽しみだ。

 

 そう考えながら、窓の外を見たとき………

 

「えっ………」

 

 そこに一人の青年が見つめていた。

 

 死の影が消え、黒い姿から灰色と白色の服装で、二つの剣を下げて銀色の髪に、深い蒼の瞳が彼女を優しく見つめる。

 

「………俺の旅路に、光が無いと思ったけど、進んでみるものだ」

 

 そう聞こえ、彼女は声を出そうとした時、突風が吹き荒れる。

 

 あまりの風に目を瞑る時、すでに青年の姿は無い。

 

 夢か幻、何かであれ、彼はもうそこにいない。だけど彼女は嬉しそうに微笑み、自分の髪に付けたリボンに触れる。

 

「見守っててね、メイト」

 

 彼女、紺野木綿季はそう呟き、空を見上げた。

 

 その空は彼の瞳のように、綺麗な蒼と白い雲が広がっている。




 暗闇の中で一人の少女が座り込み、一人の青年は立ち尽くす。

「………いつまで側にいるの?」

「もうするべきことが終わったから、君の側にいていいだろう?」

「殺しておいてよく言うわ」

 そう言いながら、静かに少女は立ち上がる。

「………歩くのか?」

「そうよ」

「なら、俺もそばを歩くよ」

「………好きにして」

 こうして暗闇の中を歩く。きっと光と出会える。そう信じて………


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