2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン (槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ)
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西住姉妹と熊本での日々
01:※出会いと依存/西住みほ


 オレ、大瀬良俊一が初めて西住みほと出会った時。彼女の様子はそりゃあもう酷いものだった。

 

 

 

 黒森峰女学園が戦車道全国高校生大会で10連覇を逃し、彼女はその原因を作り出したという。それを苦にし、自責の念に駆られて圧し潰されそうになっていた。

 自責の念だけならまだいい。実際、その影響は精神どころか身体にも影響していたようで。フラフラと覚束ない足取りで歩いていて、トラックに轢かれそうになったんだから笑えない。その場に居合わせて、間一髪、手を伸ばして抱き寄せなければどうなっていたことか。大事故になるのは免れなかっただろう。死んでたねきっと。

 そんな事態になっても、彼女の目は虚ろなままで反応が薄かった。何が起こったのか分からない様子だったのは、怒るべきか呆れるべきか。

 ともあれ。このまま放置してまた轢かれでもしたら気分が悪い。手近な公園に連れ込んで、ベンチに座り込んで様子を見た。並んで座りながら、名前やら事情やらを聞き出す。

 この時はまだ、彼女が何者かオレは知らなかった。まぁ名前を聞いても、戦車道に興味は薄かったから誰だか分からなかったけどね。

 こちらが問いかけるままに応える西住みほ。その内容は想像以上に重たいもので、名前しか知らなかった戦車道、その名門が抱える闇のようなものにドン引きした。戦車道、隊長の姉、家元である母親のことなど、淡々と語る彼女に、さらにドン引きした。

 その大会そのものを知らなかった一般人のオレからすれば、彼女の語るものはどれもこれも理解し難い内容で。まるで文化の違う外国で起きていることなんじゃないかと思ったくらい。

「人命を救ったことで損なった名門の威厳って、何?」

 オレはごくありふれた一般人のつもりだから、人の命を切り捨ててでも勝たなきゃいけない武道の在り方、名門の理念ってのが理解できなかった。

 戦車道は乙女の嗜み、淑やかで慎ましく、凛々しい女性の育成を目指すものだという。

 ……マジで?

 健全なる乙女の育成とやらを掲げているのに、その乙女を使い潰してでも勝つことが求められる戦車道って何なの。正直、怖い。

 あれこれ歯に衣着せぬ素人の感想を返していく。

 勝利よりも仲間の命を大切にしたのは、間違ってないと思うけどなぁ。

 オレは素直に、彼女の行動と想いを肯定した。

 相当追い詰められていたんだろう。

 彼女はオレに抱きついて、大声で泣き出した。

 気が済むまで胸を貸し、優しく抱きとめ、頭を撫でてやる。

 ずいぶん長いこと、彼女の泣き声は止むことがなかった。

 

 

 

 それからもまぁ、なんやかやいろいろあって。

 彼女、西住みほに懐かれた。

 それこそ、心も身体も離れないといわんばかりに。

 

 

 

 あれからしばらく経って。

 みほは、オレのところへ入り浸るようになった。

 時期は8月末。学園艦ということもあって、周囲はまだ夏休みを満喫している人たちが多い。けれど戦車道チームは、全国大会の反省会やら何やらで忙しいようで、大会が終わったばかりだというのに連日登校しているらしい。みほも律儀に参加して、やり玉に上がるのをひたすら耐えているのだとか。

 学園艦というからには基本は学校。しかも女子校だ。本来同年代の男はいない。けれどオレは、両親の仕事の都合でここを訪れていて、短期間ながら滞在が許可されていた。その期間に住む仮住まいがあるのだが、幸か不幸か、両親は忙しくてずっと不在。オレがいなければこの貸し家は必要なかったに違いない。

 それはともかく。

 学園での用事が終わると、みほはオレの家を訪ねてくる。オレが出掛けていて不在の時など、玄関前で忠犬よろしく待っていることさえある。今日はまさにそうだった。

 遠目から見た、捨てられた犬かと思ってしまいそうな寂しげな顔。

「あ、俊一くん!」

 一転、オレの姿を見つけると表情を明るくさせた。パタパタと駆け寄ってくるのも、どこか犬のような雰囲気を感じさせる。

 黒を基調にした、硬い雰囲気さえある黒森峰の制服を着たみほ。そんな可愛い女の子が、嬉しそうに駆け寄ってくる。ギャップがまた可愛らしさをさらに募らせる。

 みほは目の前で足を止めて、きゅっ、と、遠慮がちにオレの手を取った。そのまま手をつなぎ、歩く。それだけで彼女は嬉しそうな笑顔を向けてくる。

 家の中へ上げると、今度は腕に抱きついてきた。人の目がなくなったところで大胆になった、というべきか。それとも感情を抑えなくなったというべきか。おずおずと、少しずつスキンシップの度が高くなっていくのも可愛らしい。

 部屋に入れば、オレと彼女の距離はゼロになる。腕に絡めていた手を離し、みほはオレの身体に抱きついてくる。寂しさを埋めようとするかのように。

「俊一くん……」

 したいようにさせる。オレも彼女を抱きしめ返した。

 今、みほは学園の中で腫物のような扱いをされているらしい。大会連覇を逃した戦犯として、裏に表に非難されるとか。

 無視や悪意のある視線はまだいい方で。中には、代々積み重ねてきた伝統を無にしただとか、流派の誇りを損ねた面汚しだとか、強いて責め立てる輩もいるらしい。みほはそれらを前にして、目を伏せ、うつむき、じっと耐えることしかできないでいる。今は戦車道の関係者だけらしいが、夏休みが終わったらどうなるか、想像もできない。

 そんな悲しみやストレスの鬱屈が、彼女の行動に歯止めを利かせなくさせているんだと思う。

 オレはその行動を受け止めた上で、肯定する。甘やかす。

 抱きしめられながら大泣きをして、スッキリしたのが尾を引いているんだろうか。みほは、オレに抱きしめられるのをとても好む。もっと言うと、抱きしめられながらキスをするのが好きらしい。

「んっ、ふぅ……ちゅっ。俊一くん、んっ、ふぁ……」

 抱きしめられ、抱きしめ返しながら。オレは短いスカートの上からみほのお尻を揉みしだく。こちらもまたほどよく大きいお尻の感触を、手のひら一杯に堪能する。

 みほも、キスをしながら手の動きに耐える。けれどすぐに耐え切れなくなって、唇を離してしまった。悶える吐息とこぼれる嬌声が、色っぽい。

 こちらの様子をうかがいながら、少しずつスキンシップの強さを上げていく傾向のあるみほ。けれどオレの方から求め出すと、たちまちされるがままになってしまう。

 積極的な受け身、とでも言うべきか。

 でも、そんな姿も可愛らしい。

 正直なところ、気持ちにつけ込むようなところがあったのは否めない。けれど、無防備な女の子に密着されているんだ。「そういう」気持ちになっても不思議じゃない。

 みほの唇を奪う。

 彼女も、逆らわなかった。むしろ身を任せてきた。

 求め、奪ったというのが、彼女の中で不安定だった心をつかんだのかもしれない。

 みほは拠りどころを求めるかのように、オレと身体を重ねるようになった。

 出会ってからまだ指折り数えるほどしか経っていない。

 けれど、そんなことは関係なかった。

 

 

 

 巨乳とまでは言わないけれど、形が良く十分に大きな胸が押しつけられる。身体をよじらせるたびにムニュムニュと形を変える、柔らかな感触が堪らなく気持ちいい。

 抱き着いてくる彼女に応えて、腰に手を回して引き寄せた。合わせて頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めて、うっとりとした表情を見せる。可愛い。

 横手が長くなったボブカット、とでも言えばいいんだろうか。彼女の髪に指を差し込んで、梳き、撫でる。

「はぁ……ん、ふぁぁ……」

 気持ち良さそうな声を上げる、みほ。オレの胸板に手を置き、背伸びをするようにして、キスを求める。そんな仕草が可愛らしくて、たぎる。

 抱きしめ、キスをし、お尻を揉みしだきながら、部屋の中を動く。

 ベッドの上に、みほを押し倒した。

「あっ、ん……。んんっ、ふぁ……」

 覆いかぶさる形になって、彼女の逃げ場を奪うように肘をつき。

 改めて、唇を奪った。

「んちゅ、ふ、あっ、ん……」

「みほちゃん、可愛い」

「ん……。お願い、もっと俊一くんで、いっぱいにして」

「もちろん」

「はぅ、んっ」

 倒れ込んだベッドと、みほのおしりに挟まれた手をうごめかす。

 指先がお尻の割れ目が始まる部分にたどり着いた。スカートの上から、股下へと這わせていく。

「柔らかくて、気持ちいい」

 お尻の感触を味わいつつ、少しずつ指と手をずらしていく。短いスカートの部分はあっという間に終わり、指先はショーツの上に。そしてさらに奥、秘唇に向かって進んでいく。

 ショーツの上から触れるみほの秘部の柔らかさ。

 手を挟んでくるみほの太ももの感触。

 指と手から伝わってくる気持ち良さが、たまらない。

 少しでも気持ち良さをお返ししようと、指に少し力を入れる。くにくにと、秘部に指を押しつけて浮き沈みさせる。割れ目に沿って擦り上げる。

「あっ、だめ、はぁ、んっ。俊一く、んんっ、はんっ」

 オレの身体の下で、指の動きに合わせて悶えるみほ。黒森峰の制服はしわくちゃになって乱れ、はだけたところからわずかに上気した肌がチラチラ覗く。

 片方の手でみほの秘部を弄り回し。もう片方の手は、みほの手を取ってつないでいる。

 指を絡め、力を入れれば、彼女も握り返してくる。

 秘部を弄られる快感に力を込めてくれば、オレも優しく握り返してやる。

 可愛い。

 たまらずキスをする。舌を口内へと差し入れて、掻き混ぜる。

「んっ、ふぁ、は、あっ……。ちゅ、ん、んんっ」

 みほも、オレの舌の動きに応えてくれる。溺れているかのような乱れた息遣い。されるがままに、彼女の意識が蕩けていくのが見て分かる。

 秘部に這わせていた指を、ショーツの腋から中へと潜り込ませた。

 陰毛の感触。漏れ出る愛液に濡れたせいで、わずかに水気も感じる。

 ショーツ越しとはまた違う、秘部、おま○この柔らかさもオレを夢中にさせた。

「くぅ、ん、んんっ、あっ、は、あっ、はぁっ」

 口づけを繰り返しながら、みほのおま○こを弄り、愛液まみれの膣内を掻き回す。

 浅いところだけの刺激でも、こみ上げてくる快感は相当なものらしい。みほは細切れに声を漏らし、震えながらオレにしがみつく。性的な快感に染まったみほの表情を、目の前で眺め、堪能する。

 股間への責めとキスを止めて、オレは目標を胸に移す。

 黒森峰女学園の制服。黒をベースにし、襟部分のエンジのラインがワンポイントとして映える、堅牢ささえうかがわせるそれを手ずから脱がせていく。

 ジャケットのボタンを外し、左右に開く。

 その下にあるグレーのシャツも、ひとつふたつとボタンを外し、はだけさせる。

 この瞬間がたまらなかった。すでに何度もみほを抱いている。そのたびに、彼女の制服を脱がしていくことに妙な高揚感を覚えていた。

 オレが半脱ぎセックスやズラしハメに目覚めてしまったのは、黒森峰の制服を着たみほとのセックスで感じた性的な高ぶりのせいだと思う。

 今回も同じ興奮を覚えながら、シャツの中に手を差し込み、左右に開く。

 制服とは反対に、真っ白な、可愛らしいブラジャーに包まれたおっぱいが姿を見せた。

 巨乳というにはボリュームが足りないかもしれないけれど、十分に大きな、形のいい胸。何よりも白くて綺麗な肌が、これまた黒の制服と相反してとても美しく映える。何度見ても感激し、無意識に胸を、お腹を、撫で回してしまう。

「んんっ、あっ、俊一くんっ、んっ……」

 ブラジャーの上から胸を撫で、さする。ふにふにと感触を味わいながら、ホックを外す。

 胸の膨らみがまろび出る。少し硬くなり、自己主張する乳首も姿を現した。

 オレは迷うことなく、むしゃぶりつく。

「はんっ、あ、ふぁっ」

 両胸をこね回すように揉みしだきながら、口に含んだみほの乳首を舌で転がす。時折、唇を立てて甘噛みもする。

「ひぅっ、あぁっ、んっ」

 ビクビクと身体を震わせて、いい反応を見せてくれるみほ。可愛くてつい、何度も何度も、コリコリと乳首を食みながら、吸い立て、舌で圧し潰し、唾液まみれにして舐め回す。

「はぁっ、はぁ、ん、ふぁ……。俊一く、んっ……」

 いつも、つい夢中になり過ぎる。そのたびに、みほも、息が絶え絶えの状態になってしまう。

 けれど、彼女は、オレの手でメチャクチャにされることを嫌がらない。

 むしろ「もっと」と求めてくる。

「俊一くんで、いっぱいに染めて」

「もちろん」

 表情を蕩けさせているみほ。

 おっぱいから顔を上げて、何度目か分からないキスをする。

「んっ、ん、ちゅぷ、ふぁ、れる、ふぁ……」

 細かく何度も、唇を重ねたり離したり。舌を這わせ、口の中に差し込み、彼女の歯、歯茎、舌と口内を舐っていく。

 そうしながら、オレはズボンを脱ぐ。トランクスも脱ぎ捨てて、丸出しになったチ○コをみほの股間に押しつける。ショーツ越しや直接、愛撫を繰り返していた彼女の秘部は、愛液でショーツに大きなシミを作っていた。

「んっ、んんっ……」

 腰を動かしてチ○コを擦りつければ、みほは切なそうにもぞもぞと腰を動かす。

 それがまた、オレの快感を高まらせる。

 手を彼女の股間に伸ばして、可愛らしいショーツを横にずらす。そして、みほの割れ目にチ○コを押し当てる。

「はぁ……。俊一くぅん……」

 少し体重を掛けるだけで、彼女のおま○こは迎え入れるかのように、オレの怒張を飲み込んだ。

 初体験から毎日のようにセックスをしている。それでも変わらず、みほの膣内は狭い。挿入しただけでオレのチ○コを強く締めつけ、離さないとばかりに絡みついてくる。

 挿れたまま、腰を動かさなくても、じっとしているだけで気持ちいい。

 この快感はクセになる。何度でも何度でも、みほを抱き、犯したくなるくらいに。

 再び覆いかぶさって、みほと唇を重ねた。

「ん、ちゅっ、んむっ」

「ふぁ、んっ……。キス、もっとぉ……」

 おねだりをするみほ。

 お望み通り、キスをする。

 ちゅっ、ちゅっ、と、ついばむように。

 はたまた口内を舐るかのように深く、強く。

 彼女も嬉しそうに応えてくる。オレに抱きつき、甘えながら、自分からも唇を押しつけてくる。

 快感で乱れた息がオレの顔に吹き掛かる。そんなみほの痴態に我慢ができなくなってきた。

「んっ、ふぁっ、あんっ」

 制服がシワになってしまうのも気にせず圧し掛かる。組み伏した状態で、腰を振り、潤み切った彼女の膣内を貪っていく。

 みほはそれを拒まない。むしろ自分からしがみついてくる。もっと奥までいっぱいにしてと、突き入れられたオレのチ○コをより深く飲み込んで、包み込み、揉みしだく。膣壁がぐにぐにとうごめき、亀頭や陰茎の敏感なところを隙間なく刺激する。

 それがたまらなく気持ち良くて、みほにチ○コを突き入れるピストンが止められない。

「みほちゃん、可愛い。もっと、もっと気持ち良くなって」

「ふぁ、ん、んんっ……。えっ、ひあっ」

 彼女の腕を引き、身体を持ち上げる。

 つながったままの股間を起点に、起き上がったみほ。

 合わせてオレが横になる。

「はぅ……、んっ。深いよぉ……」

 彼女が、オレの腰の上にまたがる体勢に。

 騎乗位の状態だ。

 みほの自重で、チ○コがさらに彼女の奥深くへと突き刺さる。

「みほちゃん。自分で動いて、気持ちいいところを探してみて」

 オレの言葉に、みほは恥ずかしそうな顔をする。というよりも、オレの上でまたがって挿入していることに羞恥を覚えているのかもしれない。

 でも、オレにはその反応のいちいちが可愛らしくて仕方がない。黒森峰の制服をはだけさせた姿というのも、エロくて興奮する。

 チ○コに貫かれたまま、みほがもどかしそうに腰を動かす。

「はっ、あ、んっ、ふぅ、ん、はぁん……」

 顔を赤らめながらも、少しずつ腰の動きがスムーズになっていく。

 もっと恥ずかしがらせたい。乱れさせたい。

「よっ」

「んあぁっ!」

 オレは軽く腰を突き上げる。

「あっ、待って、んぅ、あっ、はぁんっ」

 とんっ、とんっ、と、みほの膣奥を亀頭がノックする。その繰り返しに彼女の膣壁も反応し、チ○コをぎゅうぎゅうと締め上げてくる。

「みほちゃんのナカ、すっごく気持ちいいよ」

「あっ、んっ、言わないでぇ……」

 顔を真っ赤にし、半べそをかきながら応えるみほ。

 けれど彼女は、自分から求めるように腰を動かしている。狭くてキツい膣でチ○コをしごき上げ、オレの快感を引き出そうとうごめく。膣壁が絡みつき、上下に揺れる動きがチ○コを刺激する。

「俊一くんっ。俊一くん、俊一くんっ」

 オレの上で腰を振りながら、すがるように名前を呼ぶ。

 羞恥でいっぱいだったみほの表情が、快楽の波に押されて蕩けていく。

 腰を動かし、身体が跳ね上がるたびに、はだけた黒森峰の制服からこぼれ出たおっぱいがぷるぷると揺れる。

 つながっている股間部分は、短いスカートに隠れてしまっている。けれど、ぬるぬるのおま○こに飲み込まれたチ○コの感触と、そのさまが隠れて見えないというギャップが、オレを妙に興奮させた。

 騎乗位で彼女が腰を振ると、上下の動きに合わせてスカートが揺れる。ふわふわと時折まくれ上がるスカートの奥に、つながっている互いの股間がチラチラ見えるのもエロくてたまらない。

 またがっているみほの太ももに手を置いて、思い切り腰を突き上げた。

「あぅんっ!」

「もっと、いやらしくて可愛い姿を見せろっ」

 オレの上で、みほがいやらしく身体を跳ねさせる。弾むように上下する腰が、彼女はもちろん、オレにも強い快感を与えてくる。

 膣内のいたるところをチ○コでえぐられて、嬌声を上げるみほ。それが耳に心地良くて、もっともっとと、より強く腰を跳ね上げた。感じている声だけじゃなく、股間同士がぶつかり合う音と、愛液が掻き混ぜられる水音も響いてくる。

 あふれ出る愛液が、狭くてきつい膣内でもチ○コをスムーズに動くことを助けていた。おかげでピストンが速く強くなり、快感をより引き出してくる。それがまたさらに愛液をあふれさせ、回り回ってどんどんセックスを激しくさせる。2人の快感は際限なく高まっていく。

「はっ、あっ、んん、あっ、だめ、イク、んっ、んんっ!」

 先に限界がきたのは、みほ。快感に表情を歪ませ、身体を強張らせる。

 絶頂の震えがひと際強く、みほのおま○こから感じられた。キツキツでブツブツでヌルヌルなアソコが、チ○コをぐにぐにぎゅぎゅぎゅーっと締めつけて、しごき上げる。

 オレの胸板に手を置いて、ブルブルと震えながらエクスタシーに耐えるみほ。ものすごく可愛い。

 といっても、オレの方もそう余裕があるわけじゃない。チ○コを包み込む、みほの絶頂おま○この締めつけと快感を必死に耐えていた。

 オーガズムの波が落ち着いたのか、脱力したみほがもたれ掛かる。騎乗位の体勢から、股間はつながったままオレの胸に倒れ込んできた。

「はぁ……、ふぁ、ん……」

 イッた余韻が残る、みほの吐息がこそばゆい。

 我慢比べに勝ったような奇妙な優越感が芽生えて、みほを労わりたくなる。胸板に顔をうずめる彼女の頭を優しく撫でる。

 みほは嬉しそうに、にへら、と緩んだ笑みを浮かべた。

 その表情を見て、股間の奥がうずく。

 オレは覆いかぶさるみほのお尻に手を伸ばす。

「んっ、ひゃっ、あんっ」

 みほは一度イッているが、オレはまだ果てていない。スカートの上からお尻をわしづかみにし、押さえつけるようにして腰を突き上げた。

 再び、彼女の膣内のそこかしこをチ○コでえぐっていく。亀頭が膣奥を突き、カリのかさが膣壁を引っ掻く。陰茎が膣内を行き来するたびにあらゆるところをガリガリと刺激する。

「あっ、あっ、だめっ。んっ、はんっ、あぁんっ!」

 みほの上げる声があっという間に艶を含み始める。

 何度も身体を重ねて分かったこと。一度絶頂したみほは、次のオーガズムまでのスパンが短い。オレは激しい腰使いでその短い距離を一気に駆ける。

 ラストスパートとばかりに、彼女のナカの締めつけも強くなる。キュウキュウどころじゃない、ギュウギュウと強くチ○コを締めつけてくる。

 さっきのオーガズムは耐えられたけれど、オレの方も限界寸前だ。みほの絶頂おま○この気持ち良さにもう我慢ができそうにない。

「みほちゃん、オレもう、イッちゃいそうだ」

「わたしもっ、またイッちゃうっ」

 言うや否や。みほのおま○こがひと際強くしまり、チ○コを締め上げてきた。

 みほ、2度目の絶頂。抱き着いて身体を震わせる。

 オレも、彼女のお尻を握りしめながら、みほの膣奥へと向けて思い切り射精する。

「くぅっ、んっ」

「はうぅ……、出てるぅ……」

 どくっ、どくっ、とザーメンをみほのナカに注ぎ込む。

 オレのチ○コが射精するたびに、みほの腰もビクビクと震える。オーガズムと胎内が満たされていく感覚に悦ぶように、彼女の表情はすっかり蕩け切っていた。

 みほのおま○この締めつけ、握りしめたお尻の感触、抱き着いてくる彼女の身体の柔らかさ、首元に吹き掛けられる乱れた吐息。身も心も蕩けさせる、彼女から伝わるすべてにうっとりする。

「はぁ……、みほちゃん……」

「あんっ、ん……。俊一くん……」

 抱き合いながら、どちらともなく唇を寄せた。

 優しく、キス。絶頂の余韻と満たされた想いを味わうように、2人に互いに身を任せ合った。

 

 

 

 オーガズムの波がいくらか落ち着いて。オレもみほも、相手の身体をまさぐり合いながらまったりとした時間を過ごす。

 みほは、仰向けになったオレの上に乗っかって、露になった胸板に頬ずりをしながら甘えてくる。

 程よく大きな胸が腹部に押しつけられて、むにゅむにゅと、柔らかく形を変える。

 密着した太もももオレのチ○コに押しつけられている。彼女が身じろぎをするたびに擦られ、微妙な快感を与えてくるのも心地良かった。

「あのね。わたし、決めたことがあるの」

 抱き着いている胸元から見上げるようにして、みほがそんなことを言ってくる。

 可愛らしくて思わず彼女の頭を撫でた。髪に指が通り抜けていく感触に、彼女は気持ち良さそうに目を細める。

「決めた、って、何を?」

「んっ……。わたし、黒森峰を出ることにしたんだ」

 少し、驚いた。

 同時に納得もする。

 彼女の話を聞く限り、このまま黒森峰女学園に居続けるのは針の筵だ。「優勝を逃した原因」という有形無形の責めを受け続けるくらいなら、どこか戦車道と縁のない学園に移った方が精神的にもいいように思える。

「じゃあ、転校するってこと?」

「うん。もうお願いはしてあるんだ。手続きとか細かいことはいろいろあるみたいだけど、学園側も受け入れてくれるみたい」

 黒森峰の学園も戦車道も、不穏の元をなんとかしたいと思っていたのかもしれない。そう考えると、みほの転校願いは渡りに船だったのかな。

「そっか。転校先とか時期が決まったら……」

「茨城だよ」

「え?」

「茨城の、大洗学園。俊一くんが行くところと同じところに行くの」

 マジで?

 オレ、大瀬良俊一は、約1カ月後、両親の仕事の都合で茨城県大洗町へ引っ越すことになっていた。今、黒森峰の学園艦に来ているのも、その両親について来ているだけということも、彼女には話してある。

 もちろんオレも、このまま関係を切ってしまうつもりはなかった。けれど。

 西住みほは、嬉しそうに、オレを追いかけて転校すると言ってのけた。

 

 

 

 ―続く―

 




ごぶさたしております。槇村です。
2年振りに二次小説を書いてみた。

2話目は19時に投稿。
とりあえず続きます。


※矛盾した描写があったので修正しました。ご指摘感謝です。


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02:しこりの氷解/西住まほⅠ

 黒森峰女学園の学園艦から降りるまでのわずかな時間。

 オレとみほは、ひたすら遊び倒し、同じくらいヤリまくっていた。

 

 

 

 本来、女子校である黒森峰の学園艦に同年代の男が入れる機会はない。けれどオレの場合、両親が学園艦に関連する仕事に就いていることと、時期が夏休みの後半だったこともあって許可が下りた。

 女子校に侵入するようなものじゃないか、と最初はテンションが上がっていた。

 けどよく考えてみれば、黒森峰の学園艦には生徒を含めて約10万人が暮らしている。同年代は確かにいないみたいだけど、男が皆無なわけじゃない。実際に学園艦のあちこちを見学して、ごく普通の街並みが広がっているように見えたし。現実はそんなもんかと思ったものだ。

 あとは、戦車道チームが10連覇を逃したっていうのが、学園艦の人が少なく感じた理由のひとつかもしれない。盛り下がって外に出る気分じゃない、みたいな。一歩間違えばゴーストタウンじゃないかってくらいに人の姿を見ない時もあった。

 戦車道に詳しくないオレは後からそれを知ったんだけど、事情が分かればなんとなく納得できる。むしろ貴重な時期を体感できたと喜んでおくべきかもしれない。戦車道とは無縁の人間だからこそ言えることだろうけどね。

 そんな普段とは違った雰囲気の黒森峰に何も知らずにやってきて、偶然、みほに出会った。

 なんやかやといろいろあって。

 精神的に弱っていたみほがオレにひどく懐き。

 会った次の日には身体を重ねて。

 夏休みの最終日、学園艦を降りる日までみほと遊び回った。

 ちなみに連日続いていた反省会という名のつるし上げ集会に、みほは転校を決意してから参加しなくなったらしい。それでまたひと悶着あったらしいが、オレは詳しいことは知らない。みほが何も言わないってことは、大したことじゃないんだろう。

 ただ、ひとつだけ。オレにも悶着が降りかかってきた。

 みほの姉で、黒森峰戦車道の隊長、西住まほ。

 彼女が、オレのところにやって来たんだ。

 

 

 

 西住まほと初めてあったのは、オレが学園艦を降りる3日前のこと。

 みほと身体を重ねるようになって1週間後。

 みほが転校を決意してわずか2日後だ。

「君が、大瀬良俊一くんか」

「初めまして」

 オレの感じた第一印象は「キツそうな人」。

 言葉は丁寧だけど、難詰寸前の口調でプレッシャーをかけてくる。鋭い目つきで睨みつけてくるのも、印象が良くなかった。戦車道の隊長なんてやっていると、威厳だとかなんだとか、そんなものが必要になるからそんな風になってしまうのか。オレにはまったく関係ないけれど。

 でも、美人さんだなぁと思う。そのお陰でいくらかキツさを緩くしているかもしれない。

 いや、むしろとっつきにくさを強めているのかも。彼女が出してるピリピリした雰囲気はM気質の人にはたまらないかもしれないが。

 とにかく。

 オレのところに、みほの姉・西住まほがやって来た。

 玄関のチャイムが鳴り、みほかと思って扉を開けたら、お姉さんの方がいたというわけ。もっとも、みほもその後ろにいたけれど。申し訳なさそうな顔をしている彼女を見て、何となく経緯を想像できた。

「とりあえず、上がって」

 みほに顔を向け、次いでまほに向けて、促す。

 みほはもう慣れたように、家の中へと入っていった。

 それを見て、まほは少し驚いたような表情をする。けれどすぐに改めて、妹の後を追った。

 ……これって、修羅場ってやつの一種なのかね。

 そんなことを考えるオレだった。

 

 

 

 テーブルを挟んで、オレとまほが対面する。

 まほはピシリと背筋を伸ばした正座で。オレは緩くあぐらをかいた。みほも正座で、オレに寄ったところに座り込む。これがまた、まほの表情を少しだけ動かした。

「まず、君とみほが出会った経緯を教えてくれないか」

「……どうして?」

 まほが、オレの言葉に驚いた。

 いやいや、なんでだよ。本気で理由が分からなかった。

 妹に寄ってくる悪い虫を追い払う、という気持ちなら理解できる。けど、みほから聞く限りでは、このところはずっと姉妹として接することはなかったという。精車道の隊長としてしか、彼女はみほに対応してこなかったらしい。いや、それさえも少なかったようだけど。

 だから、素直にそう言ってみせる。

「すっごい落ち込んでいるみほちゃんに、姉としてよりも、戦車道の隊長として接したんでしょ。なら、みほちゃんのプライベートは貴女には関係ないのでは?」

 大会決勝で何かやらかしたというみほに対して、肉親がメンタルケアのようなことをしようとしたとは思えない。それどころか追い込むような対応をしたみたいだし。姉である彼女が何かフォローをしたとも、みほからは聞いていない。

 結果として、オレを相手にいろいろと鬱屈を吐き出して少なからず気が楽になったようだし。みほに対してなら、彼女の両親や姉よりも役に立ったと思う。身体を重ねたとかいろいろあったけれど、馬の骨扱いされるのは少々心外だ。

 ……いや、妹の貞操を奪った男だと考えれば、キツい態度なのも当たり前なのかな?

「関係ない、だと?」

 まほの目つきがもっと鋭くなった。おぉ、怖い怖い。

「妹を心配する気持ちは立派だと思うけど、もっと早くみほちゃんに向けるべきだった」

 会った時のみほは、心身共に憔悴しきっててひどい有様だったよ。そのまま死んじゃうんじゃないかってくらい。実際、車に轢かれかけたしな。

「全国大会とやらの決勝戦。みほちゃんの話を聞く限りではだけど、オレは彼女の行動を全面的に支持する。連続優勝の名誉より、仲間の命。人命優先の考えが通用しない集団なんて、普通は関わりたくないでしょ。少なくともオレの人生には無関係な人たちだ。みほちゃんとも考えが相容れないだろうから、彼女とも関係ないって言ってもいいんじゃないかな」

 だから、その隊長である貴女の言うことに従う必要を感じない。

「オレは戦車道のことは名前ぐらいしか知らない。けど、仲間を助けたみほちゃんを責め立てるあんたたちの感覚にはついていけない。もし見捨てたまま試合を続行して、本当に死んでいたらどうなっていたか。普通に考えれば、連続優勝どころの騒ぎじゃないよ。悪い意味で」

 まほの顔が歪む。歯ぎしりをする音さえ聞こえるような気がした。

「……確かに、私はみほが非難されていることを知っていた。助けることができなかった。大事な妹が落ち込んでいる、仲間に責められている。私は一刻も早くみほを慰めて、みほをかばわなければいけなかった」

 大事な妹だ。そうしてしかるべきだった。

 まほは、ふり絞るような声でそう言う。

 うつむいていた彼女の顔が、がばりと上を向く。

「しかし、私は、黒森峰戦車道の隊長でもあるんだ。みほだけに意識を向けることができなかった。立場もあって、押し寄せてくる人の多さもあって、みほに近づくことができなかった。大会の事後処理、西住流としての雑務。気がつけば数日が経って、私の方が余裕がなくなっている始末。その間に、みほは仲間たちに、あんな目に遭って。それからも私は、みほを守ってやれなかった!」

 姉として、接してやれなかった。

 まほは、まるで懺悔をするように声を上げる。絶叫する。

 

 

 

 隊長としてチームを率いる責任感と、落ち込んでしまった大切な妹を助けたいという想いの板挟み。どちらも捨てられず鬱屈していた想い。まほは、感情に任せて胸の内をさらけ出す。

 妹を犠牲にしてまで守る西住流とは何なのか。

 妹も戦車道も大切な私はどうすればよかったのか。

 これから自分はどうするべきなのか。

 渦中の当人であるみほと、所縁も何もないオレを交えた不思議な語り合いが行われ。

 その結果。

「済まなかった。みほ、本当に済まなかった……」

「お姉ちゃん、お姉ちゃん……」

 すれ違っていた姉妹の想いが、改めてひとつになった。

 姉・まほは、栄誉を求めた戦車道の伝統よりも、たったひとりの妹を守ることを選び。

 妹・みほは、自分が思う戦車道の在り方を理解してくれた姉に感涙する。

 オレはただ、手を取り合って喜び合う2人を眺めているだけだった。

 

 

 

 次の日の夕刻過ぎ。また、まほがやって来た。

 オレとみほは日中から遊び倒し、日が高くなって暑くなったら自宅に戻って身体を重ねる。そんな自堕落な時間を過ごしていた。

 一方、まほは今日、戦車道のメンバーに隊長としていろいろ語ったらしい。わざわざ戦車道の試合と同じ服装で、気合を入れて臨んだのだとか。その服装のままオレの家まで来たらしい。ちなみにみほは朝からずっと私服のままだ。

 それはさておき。

 戦車道チームの隊長としてまほが主張したのは、みほが川に落ちた仲間を助けに行ったのは間違った行動じゃない、というもの。

 彼女は、隊長として妹の判断と行動を認めた。そしてあの試合でフラッグ車を撃たれて敗北したのは、仲間の危険と10連覇の栄光を天秤に懸けてしまったがために判断が遅れた自分のミスだと、言ってのけた。

 これからは「何よりも勝利を」という考えは改めていこう。本来戦車道で目指すべきものは、勝利そのものではなく、その過程と、勝敗の向こうから見出されるものなのだから。

 まほの提言は受け入れられなかった。

 戦車道のメンバーからの反応は芳しいものではなく、ほぼ全員から、不満でいっぱいの冷たい視線と無言の圧力を受けたという。

 それでも彼女は、あの決勝戦で何がいけなかったのか、どうすべきだったのか、これからどのように試合に臨んでいくべきかなどを語った。しかし、そのことごとくが伝わらなかった。

 今日の集まりは、普段よりも早く終わった。幸か不幸か、みほをはじめとした例の戦車に乗っていたメンバーは出席を自粛していたため、まほの言葉に賛同しそうな面子はいなかったらしい。

 出席していたメンバーからすれば、自分たちの隊長が、これまで黒森峰がやってきた戦車道に対して反意を示したように見えただろう。まほの言葉に驚き、反発する者を増やしたようだと、彼女は言う。

「ほんのわずかだが、みほと同じ、仲間に疎まれるという状況に立った。目の当たりにした」

 失意のままオレのところへやって来たまほは、うつむいたまま、淡々とそんなことを言う。

「私は、やり方を間違えたんだろうか」

 いや、オレにそんなことを尋ねられても。

「分かるわけないじゃない。戦車道のせの字も分からない奴に、アドバイスなんてできるわけないでしょ」

 会ったばかりのみほに負けないくらいの憔悴振りを見せている、まほ。目も当てられない姿がみほと被ったせいなのか、ついつい、彼女を抱きしめてしまった。

「門外漢に愚痴を吐き出す、くらいの相手にはなってもいいよ」

 強く抱きしめながら、肩に腕を回して引き寄せ、優しく頭を撫でてやる。

 ここしばらく毎日のように、みほに対してやっていることだったから、オレの方に抵抗はなかった。やってしまってからすぐ、年上の女性に馴れ馴れしかったかと思ったが。

 むしろまほの方が、涙ぐみながら抱き着いてきて驚いた。

「すまない……。少し、このまま……」

 声を上げない。涙も見せない。

 けれど、震えている彼女は確かに泣いていた。

 まほの後ろから、妹のみほが身を寄せてきた。姉の肩に手を置き、ぴたりと密着する。

「お姉ちゃん、ひとりで無理し過ぎると壊れちゃうよ」

「みほ……」

「わたしはもう逃げることを決めちゃったけど。それまでに少しでも黒森峰が変われるように、わたしも頑張るから」

「しかし、みほは……」

「それでも辛くなったら、一緒に俊一くんに甘えて、元気を出せばいいんだよ!」

「え?」

 いきなりオレの名前が出てきて驚いた。

 そりゃまぁ、みほに関してはもう何度となくべったべたに甘えさせてるけど。

「お姉ちゃん。俊一くんに抱きしめられて、ホッとした気持ちにならない?」

「……あぁ。不思議と心が落ち着いてくる」

「俊一くんに包まれてる感じが、ささくれた心を癒してくれるの」

「なるほど……。誰かに甘えて、心を委ねるというのは、こんなに安らぐものなのか」

 そう言いながら、まほは抱き着いたまま、オレの首元に顔を埋め、擦りつけてくる。

 年上の、ついさっきまでキツい態度を見せていたお姉さんが甘えてくる。そんな姿が可愛らしくて、ついつい、もっと強く抱きしめてしまう。みほとはまた違った柔らかさが、黒森峰の制服越しに伝わってくる。

「オレに甘えて気持ちが楽になるなら、いくらでも甘えてくれていいよ」

 あ、でも。

 オレのすぐ正面で、姉の背中に抱きついているみほに目を向ける。

「わたしは、俊一くんのことが大好きだけど。お姉ちゃんのことも大好きだから」

 みほはそう言いながら、オレを見つめ、キスを求めてきた。

 少し背伸びしながらの彼女に応えるように、みほと唇を重ねる。

「なっ……」

 背中をみほに、正面をオレに抱きつかれて、挟まれているまほ。そんな状態のまま、自分の顔のすぐ横で、出会って間もない男と妹が口づけをしている。さぞ驚いたことだろう。

「ふあ、ん……。ちゅっ、んちゅ、んんっ……」

 少しうろたえているまほをそのままに、みほの唇をしっかりと味わう。

 唇を舐り。

 優しく食み。

 舌を口内に差し込んで絡ませ合う。

 みほもそれに応えるように、懸命に舌を動かしながら、熱い吐息を漏らす。

 まほの身体を間に挟んだまま、みほの身体を抱き寄せた。

「あっ」

「んんっ」

 女の子2人分の柔らかさが、オレの身体に伝わってくる。

 抱きしめた腕の先からは、みほの腰回りとお尻の感触が。身体の正面からは、押しつけられて形を変えた、まほの大きめの胸や全身の感触が。

「んっ、ちょっと、力を緩めてくれ……」

 まほが、戸惑いながら身体をよじる。

 背中から妹に胸を押しつけられて、下腹あたりに勃起したモノを押しつけられている。妹のみほはともかく、ズボン越しとはいえ男の下半身が密着しているのは戸惑うだけで済むことじゃないだろう。それでも、離れようとして突き飛ばされたりしないのは、みほ絡みでそれなりに好感を持たれたおかげか。いやそれでもどうかと思うけれど。

 オレは勃起したモノをまほに押しつけながら、その後ろにいるみほと口づけを繰り返す。

「んっ、んふぅ、はぁ……。俊一くん、んっ、あふ……」

 みほの口の中を舌が動き回る。歯茎をなぞり、舌同士を絡ませて、互いの唾液を掻き混ぜる。

 オレが求めるままに応えるみほの姿がたまらない。ゾクゾクする。

「今のみほちゃん、すっごくエロくて、可愛いでしょ?」

 口づけを少しお休みして、まほの耳元でささやく。

 ぶるりと、まほが身体を震わせた。

 耳のすぐ側から、オレの声と、キスで蕩けたみほの吐息が聞こえてくる。それがこそばゆいのかもしれない。顔を赤くしながら、オレとみほの懐から抜け出そうとしないまほが、とても可愛い。

「まほちゃんも、可愛い」

 思っていたことが口に出た。

 しかも年上のお姉さんを「ちゃん」呼びで。

 でも、可愛かったんだから仕方ない。

 漏れ出た想いに任せて、彼女の頬にキスをする。

 軽いキス。ちゅっ、ちゅっ、と、くすぐるように、まほの頬に何度も唇で触れる。

 すぐに、みほの唇へと移る。

「はふ、ん。俊一くん……」

 今度は軽く重ねるだけのキス。何度も何度も、ちょんちょんと繰り返し唇を合わせる。

 またすぐに、まほの頬に唇を当てる。

 場所は違っても、2人とも慈しむように、愛でるように、キスをする。

「あっ、はぅ、ん、ふぅ……」

「ん、はぁ……、んんっ」

 みほはすでにキスだけで息も絶え絶えになり、表情を蕩けさせていた。

 まほの方も、男との慣れない、というか初めてだろうスキンシップに高揚しているように見える。

 まほの、唇以外のあらゆるところに優しくキスをする。頬、目元、鼻先、耳、額など。今さら唇を避ける意味がないんじゃないかというくらいに、あらゆるところを唇で触れる。

 そのたびに、まほは身体を震わせて、声を漏らし、良い反応を見せてくれる。

「あっ……」

 キスが初めて唇に触れそうになって、寸前。止める。

 まほと目を合わせて、見つめると、瞳を潤ませている。拒否しようという様子は、見えない。

 オレは唇を合わせようとした。

 同時に、まほの方も唇を寄せようとして。

「んむっ」

「んっ、痛っ」

 勢いあまって、思い切りぶつけるキスになってしまった。

 唇どころか歯まで当たってしまい、がちんと音が鳴る。

 至近距離で、思わぬ痛みに2人して声を上げる。

 次いで目を合わせて。

「……ははは」

「ふふっ」

 ついつい、笑ってしまった。

 力の抜けた笑顔。吊り上がっていた目元が少し下がる。そんなまほが可愛らしい。

 再度、唇を奪おうと口元に近づく。

「まほちゃん、可愛い」

「んっ、ふぁ、ん……」

 おあずけをしていたように、最後まで残していた唇。その感触は、ただ重ねているだけでも気持ちいい。

 まほは少し目を潤ませながら、されるに任せている。

 何度も唇を重ねたり、舐めたり、なぞったり。やがてまほの方からも唇を押しつけてくるようになって、彼女は手をオレの背中に回してきた。

 まほとキスをしているすぐ横で、妹のみほは笑みを浮かべている。自分と同じく、姉がオレを受け入れたことが嬉しいかのように。

 オレは唇を離して、まほとまた見つめ合う。

「ファーストキスが、痛い思い出になってしまったぞ」

「忘れられない一瞬になって、よかったんじゃない?」

 額を合わせながら、恨めしそうなまほの言葉。オレはそれに茶化すような口調で返す。

 まほもオレも、同時に吹き出してしまった。思わず笑ってしまう。

「……こんな風に笑ったのは、ずいぶん久しぶりのような気がする」

 身体の力を抜き、身を任せながら、まほは言う。

「全国大会前後だけじゃない。伝統ある黒森峰の新しい隊長として、西住流の次期師範として、思っていた以上に気負い過ぎていたんだと思う。それこそ、大事な妹に気を回せなかったくらいに」

「お姉ちゃん……」

 まほは、自分の身体に回されたみほの手を握り返した。

「みほと君の関係はわかった。大事な妹を助けてくれた相手に、私がどうこう言うつもりはない」

 けれど。

「私まで甘えてしまっていいんだろうか」

 先ほどみほが言っていた、「辛くなったら一緒に甘えればいい」というセリフのことだろう。

 まるで二股を公認するような言葉。普通に考えれば褒められたことじゃない。

 みほは、気にしていないように言う。

「わたしは俊一くんが好き。でも、お姉ちゃんのことも大好きなんだよ?」

「みほ……」

 私も、みほが大好きだ。

 そう言って、まほは、みほに抱きつく。

 みほも、姉を抱きしめ返した。

 そんな2人を、オレは腕の中に収め、一緒に抱きとめていた。

 

 

 ―続く―

 




次はエッチシーン。
20時に投稿します。


※誤字報告ありがとうございました。


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03:※杖柱とも頼む/西住まほⅡ

「ちゅっ、ん、ふぅ、んっ、はぁ……」

 ベッドの上で横並びに座りながら、まほとキスをする。唇を合わせる強さ、動き、舌の絡ませ方など。オレがするキスの後を追いかけるように彼女も真似をしてくる。

 上手くできたら、頭を撫でる。よくできましたと褒めるように。そうされるのが嬉しいのか、まほはそのたびに笑顔を見せ、学んだばかりのキスを返してくる。

 オレの方もそれが気持ち良くて。彼女の頭を撫でながら、さらにキスを深くしていく。

 まほは、オレの首に腕を回して抱きつきながら、キスに夢中になっている。年上のお姉さんが甘えるように身を寄せてくるのは、なんというか、ものすごく可愛い。みほが犬っぽいなら、まほは猫っぽいと言うべきか。抱き着いてくる彼女の密着具合からそんなものが感じられる。

 片手で頭を撫でながら、もう片方の手はまほの腰に回している。その手を、黒森峰の制服の上から、お尻の方へと伸ばしていく。

 手のひらが、スカートの上からお尻の膨らみをつかむ。

 まほは少し身体を震わせたが、それ以上の反応を見せない。

 拒否はない。

 オレは柔らかい、まほのお尻を揉みしだいた。

「んんっ」

 かすかに声を漏らすまほ。けれどすぐにキスの続きに戻る。

 彼女の口づけに応えながら、まほのお尻の感触を手のひらいっぱいに味わう。

 ベッドに座っているから、オレの手は彼女のお尻に圧し潰されている状態。彼女の自重が、柔らかなお尻を通してオレの手のひら全体に圧し掛かってくる。

 幸せな感触に、ついつい指が動いてしまう。

「ふぅ、ん、あっ、こらっ……」

 指が、お尻の割れ目を通って前の方へ。

 スカートの上から、まほの秘部に触れる。

 少しだけ指に力を入れ、くすぐるように彼女の大事な部分を刺激する。

 下半身に振られた意識をまた上の方へ向けさせる。

 頭を撫でる手に力を入れて、ディープキス。

 身体を引き寄せたことで体勢が変わり、お尻が浮いた。

 その隙にスカートの中に手を潜り込ませ、ショーツの上からまほの秘部をさする。

「んむっ、んんっ」

 唇をふさがれて声の出せないまほ。オレの手をお尻で圧し潰していることで、立てている指を自分から秘部の割れ目に押し込んでいるような形になる。

「ぷは。んっ、そこはっ」

 まほが、唇を離して、慌てたような様子を見せる。おそらく初めて秘部を男に触れられた、その恥じらいからだろう。

 けれどまだオレのターン。

「え、きゃっ」

 バランスを崩して、そのまま。まほをベッドの上に押し倒す。

 特に押さえつけるようなことはしない。いつでも彼女が逃げられる状態で、オレはまほの制服をはだけさせる。

 黒いジャケットの前を開き。

 シャツのボタンを外していって。

 ブラジャーに包まれた胸を露にする。

 黒とグレーの制服の下にある、白いブラジャーと綺麗な肌がまぶしい。ブラジャーに包まれた豊かな胸も柔らかそうでオレの劣情をそそる。

 両手でそっと、まほのおっぱいを包み込んだ。

「んっ……」

 思った通り柔らかい。それなのに、重たい。

 仰向けに寝転がっている彼女の胸に手を添えて、少し持ち上げただけ。それだけで、手のひらの中に重量感が生まれる。

 指と手首に力を入れて、ゆっくりと揉みしだく。ブラジャーの上からでも、むにむにと形を変えるおっぱいの感触はたまらないものだった。

 直接、触りたい。

 まほの背中に手を伸ばして。

「あっ」

 あっさりとホックを外す。

 緩んだブラジャーの隙間に指を入れて、まほのおっぱいの膨らみをなぞるように持ち上げる。可愛らしい乳首と乳輪が姿を現した。

「まほちゃんの乳首、可愛い」

「くっ、恥ずかしいから言うなぁ……」

 顔を真っ赤にしながら、小さな声で抗議する。そんなまほが本当に可愛い。

 可愛すぎて、おっぱいを揉む手にも力が入ってしまう。

 乱暴にならない程度に強く、まほのおっぱいを揉みしだく。

 円を描くように回し。

 手の中でふるふると揺らし。

 乳首を指の間に挟み込んで刺激を与え。

 こねくり回す。

「はぁ、あっ、んっ。待てっ、そんなに、んぅっ」

 男に好き放題弄られる、愛撫される感触に、まほは悶えるばかり。

 反応からうかがう限り、彼女に不快感はないようだ。少し強張った表情は、こみ上げてくるものを必死に堪えているように見える。

 それならもっと。こらえきれないほど責め立てて、心の澱を解放してあげよう。

 豊かな胸をすくうように持ち上げて、その先端にしゃぶりついた。

「はぅっ、んんっ」

「まほちゃん、もっとオレを受け入れて」

 かぷり、と、乳首と乳輪を一緒に口の中へ含み、舌を動かしまくった。

 硬くなった乳首を舌の腹で弄り倒し、乳輪の周辺を舐め回す。乳首の根元に舌先を突き込むと、まほが大きめの反応を見せる。

 湧き出ているだろう快感を染み込ませるように。

 胸の膨らみを揉みほぐしながら

 乳首を責め立て。

 吸い上げる。

「はぁ、あっ、ん、くぅ……。はんっ」

 まほのおっぱいを両方とも、同じように揉み、舐め、吸う。快感と嬌声を引き出していく。

 合間に彼女の股間にも指を這わせれば、白いショーツはにじみ出る愛液でシミを作っていた。

 上から下から愛撫を加えて、まほのキリッとした表情を崩していく。性的に蕩けていく彼女の変化を目の当たりにして、興奮と勃起が抑えられない。

 どうやらみほも、同じみたいだ。

 オレがまほを愛撫し可愛がっている間、みほは姉の手を取って、甘い言葉をささやいていた。

 気持ちいいのは悪くない。

 もっと素直に感じちゃおう。

 そんなことを口にしながら、姉が快感に身悶える姿を見てウットリとしていた。

「お姉ちゃんが感じてるところ、すごく可愛い」

「あぅ、んっ……。みほに、んっ、見られてっ……」

「お姉ちゃんはずっと、西住流のこととかすっごく頑張ってきたんだから。俊一くんの前とか、頼りにならないかもしれないけどわたしの前でも、今みたいにもっと力を抜いてもいいんだよ?」

「んっ、私は……」

「わたしはお姉ちゃんに頼れなくて、潰れそうになっちゃったから。だからお姉ちゃんも、西住流とか戦車道とか関係なく、他の人に甘えることを覚えた方がいいと思う」

 みほが、まほの手をきゅっと握るのが見えた。

「西住流じゃない、自分を見せる……」

「わたしは、俊一くんの前ではただの"みほ"だから」

「みほ……」

「お姉ちゃんの前でも"みほ"でいたいよ」

「あぁ……。みほ、みほ……」

 まほは嬉しそうに、妹を抱きしめた。

 みほもそれに応えて、やっぱり嬉しそうに姉を抱きしめ返す。

「お姉ちゃん、大好きだよ」

「私も、私もみほが大好きだ」

 ……そんな風に、2人がさらに姉妹愛を深めているのをよそに。

 オレは愛撫の先を胸から下半身に移して。まほの股間に、ショーツの上から顔を埋めていた。

 すっごいいい雰囲気のところなのにさ。

 やべぇ、今オレなにやってるんだよって思った。

 さすがに空気を読んで、愛撫やら何やらするのをやめてじっとしてたよ。傍から見たら間抜け極まりないだろうな、なんて思いながらも。目の前には愛液に濡れたまほの股間がある。顔全体に広かる柔らかな感触だけで、もうたまらないものがある。

 空気を読むのはここまでだ。

 オレは、まほのまくれ上がったスカートの下、ショーツの後ろの方に手を伸ばした。巻き取るようにしてショーツを脱がしていく。

「えっ、あっ、きゃっ」

 まほが声を上げる。何をされているのか気づき、手を下半身へと伸ばしたがもう遅い。

 ショーツは足首まで下ろしてしまった。そのまま彼女の足を抜く。

 膝の裏に手を入れて、大きく足を開かせる。

 露になった、まほの秘部。

 愛液がにじみ、少し荒い呼吸に合わせてひくつくそこを眺めながら。

「ひゃっ、ああっ」

 太ももにキスをする。

 舌を這わせ、頭をゆっくりと足のつけ根の方へ上げていく。

 すぐに、まほの秘部の割れ目が目の前に現れた。

「はぅ、あっ、ちょっと待っ、んんっ」

 そっと指を添えて、少しだけ押し開きながら。濡れた秘唇を舐め上げる。

「んんっ、ふぁ、あっ、ああんっ」

 まほの意識が、みほからオレの方へと移る。

 同時に、こみ上げてくる快感にも気づかされたようだ。彼女は舌の動きに合わせて艶のある声を上げる。じゅるじゅると舌を這わせる音が聞こえなくなるくらい。

 丸出しの股間に顔を埋めるオレを離そうとして、頭に手を当てて押してくる。けれど、まほの腕に力はまったく入っていない。

「さすがに恥ずかしっ、ん、はぅっ」

「我慢しなくていいんだよ、お姉ちゃん。わたしと一緒に、俊一くんに甘えよう?」

「はぁっ、ん……。みほと、一緒に、っ」

 股間に顔を埋めるオレの頭を挟んでいた太もも。その力が緩む。左右の頬に感じていた幸せな感触が少し遠ざかってしまって残念だ。

 タイミングもいいので、オレは身体を起こした。

 まほの足の間に座り込み、勃起したチ○コを割れ目に押し当てる。

 再び身体を倒して、まほに覆いかぶさった。

 すぐ目の前に、まほの顔。みほとの会話で気が休まったのか、表情はいくらか穏やかになっている。けれど、恥ずかしさで真っ赤になっているのは変わらない。

「あっ……」

 腰に少し体重を掛けただけで、まほの秘唇がチ○コの先端を咥え込んだ。

「まほちゃんも、オレのモノにする。いくらでも甘えてきて」

 年上のお姉さんに対して、まるで年下をなだめるような言い方。けれど、みほにもっと甘えるようにと声を掛けられていたせいか、彼女はすんなりオレの言葉を受け入れる。

「俊一……」

「んっ」

 まほが、自分から唇を重ねてきた。

「私も、俊一のモノにしてほしい。みほと同じように可愛がってくれ」

 オレは返事に代えて、深い深いキスを返す。

 同時に、腰に力を入れる。秘部の入口をくすぐっていたチ○コを、まほのナカへと押し込んでいく。

「くっ、はぁ……んっ」

「まほちゃん、んっ……」

 膣の入口は、思いの外スムーズに陰茎を飲み込んでいった。

 けれどすぐに、亀頭にぶつかるもの、処女膜に突き当たり。

「行くよ」

「んんっ、くぅっ」

 まほのおま○この、さらに奥へと押し入った。

「つぅ、はぁ……」

「まほちゃん」

 破瓜の痛みからだろう。顔をゆがめるまほ。

 そんな彼女を労わるようにキスをする。唇だけじゃなく、頬に、耳元に、額に、目元に。顔中にキスをして、汗や涙を舐め取っていく。

「おま○この中が、オレのチ○コでいっぱいになってるの、分かる?」

「んっ……。あぁ。俊一の、たくましいモノで、私の中がいっぱいだ」

 まほは、オレの首に腕を回して抱きついてきた。

「初めては痛い、と聞いたことがある。だが、抱かれたことで満たされているというか、奪われた悦びというか。そんなものの方が、強いな」

 抱き寄せた頭を抱え込み、耳元でそんなことを囁く。

 どこか陶然とした、まほの言葉。

 ゾクゾクと、えも言われぬ快感が背筋を走る。

「んぅ……。私のナカに入ったモノが、何か反応して動いたぞ」

「そりゃあ反応するよ。耳元で、オレに抱かれて嬉しい、処女を奪われて嬉しいなんて囁かれたら」

「あ……。いや、そういうつもりは」

「まほちゃんのおま○こが締めつけてくる……」

 初めて男を受け入れた、狭くてキツくい、まほのおま○こ。ぎゅうぎゅう、ぐにぐにと、締めつけてくる膣の感触がたまらない快感を与えてくる。覆いかぶさって、腰を動かさずにじっとしているだけでも気持ちいい。

「というか、まほちゃん。おま○ことかチ○コって言葉は知ってるんだね」

「なっ、ん、あっ。あんまりいじめるな……」

 顔を赤らめ、恥ずかしそうに視線を逸らす彼女。そんなしぐさにも、まほのナカは合わせるようにうごめく。オレのチ○コを吸い立てて、刺激してくる。

「あー。まほちゃんが可愛くて、たまんない」

「何を、っ。んん、ひあっ」

 まほのナカの気持ちよさに耐え切れず、腰を動かし始めた。

 腰を引くだけで、みっちりと隙間のない膣の中を、カリの出っ張りが引っ掻いていく。

 再度挿入していけば、ぴっちりと閉じた膣の中を掻き分けるようにしながら、彼女のナカ全体を陰茎が擦り上げる。

 未開発の地を耕すかのように、ゆっくりとじっくりと、チ○コを出し入れする。まほの膣内がオレの形に馴染み、ほぐれていく感覚を味わう。

「んっ、くぅ、んん、あっ。俊一、俊一っ」

 抱き着きながら、まほが耳元で喘ぎ声を漏らす。もっと鳴かせたいという衝動を抑えながら、ゆっくりと腰を動かしていく。

 片腕で覆いかぶさる体勢を支えながら、もう片方の手でまほの手を握り、指を絡める。オレがチ○コを深くまで押し込むたびに、まほも手を強く握り返してくる。

 まほのもう片方の手は、みほが握っていた。痛みと快感に身悶える姉を愛おしそうに見つめている。

「こんなに無防備なお姉ちゃんは、初めて見たかも」

「はぁ、んっ……。言わないで、くれっ。んんっ」

 緩い挿入とピストンの繰り返しに震えながら、恥ずかし気に言うまほ。

「お姉ちゃん、可愛い」

 オレが口にするよりも前に、みほが姉の姿にうっとりとしながら褒める。今のまほの痴態が、弱々しい態度が、本当に珍しいんだろう。愛し気に顔を寄せて、頬ずりまでしている。

 その反対側には、覆いかぶさっているオレがいる。みほに合わせて、オレもまほに頬ずりをした。心を許す、甘えさせてくれる相手からの頬ずりサンドイッチだ。

「みほ……。俊一……。ふぁ、ん、んふぅ……」

 正面から圧し掛かられ、オレに挿入されている。両手をオレとみほの2人につながれて、頬ずりができるほど密着。まほはろくに身動きができず、身を委ねることを強いられているような状態になっている。

 けれどそれがまた、彼女の感情を刺激しているみたいで。まほの表情は蕩けっぱなしだ。

 オレは頬ずりから離脱して、身を起こす。

 正常位の体勢で、まほから快感を引き出すべく大きく腰を動かした。

 強い締めつけと相まって、膣壁がチ○コに吸いついてくる。亀頭から陰茎から、全体を刺激する。

 それを引きはがすように腰を動かせば、すぐにまた膣が絡みついてくる。

 じっとしているとチ○コを飲み込まれそうな感覚に襲われる、まほの膣内。たまらず出し入れすれば、襞がチ○コ全体にまとわりついて、まるで引っ掻きながらしごかれるような刺激を与えてくる。ちょっと痛いけれどかえって気持ちいい、そんな感じだ。

「はっ、あっ、んんっ、んあっ。俊一、しゅんいちっ……」

 気がつけば、腰の動きがかなり速く、強くなっていた。まほのおま○この気持ち良さと、何よりオレのピストンに合わせて甘い声を上げてくるのがたまらない。

「俊一くん、わたしもぉ……」

 みほもたまらなくなったのか。起き上がり、姉から離れてオレに抱きついてくる。

「もちろん、みほちゃんも可愛がってあげるから」

「嬉しいっ。っん、ちゅぷ。ふぅ、ん……」

 片腕でみほを抱き寄せて、唇を奪う。舌を絡め合い、唾液が混ざる音を立てながら、みほの唇の感触を味わう。

「はふ、うぅん、もっとぉ……」

 彼女も夢中になって唇を重ね、舌を、口元を、舐め回す。

 その間ももちろん、チ○コを挿入しているまほへの責めも休めない。強く強く、時々弱く、腰を振って彼女の膣内を掻き回す。

「あ、んっ、あっあっ、はんっ」

 まほも、突き入れられるごとに身体を震わせる。カリが膣内のいろいろなところを引っ掻くたびに声を上げていた。

 2人の反応を見ながら思う。

 戦車道がどういうものなのか、詳しくは知らない。けれど、まほとみほを見る限りでは、ずいぶんと厳格で、ストイックさが求められているように思える。だからこそ、規律のようなものを気にすることなく、タガを外し、素を曝け出せる相手を欲しがった。

 そんな2人が、今、オレの目の前で激しく乱れた姿を見せている。

「みほもまほも、2人とも大好きだぞ」

 抱き着いていたみほの身体が震えた。抱き着く力を強くしてより唇を押しつけてくる。

 同じくまほも、身体をひと際大きく反らして反応する。膣がこれでもかとチ○コを締め上げる。身体の中も外も痙攣させながら、指を絡めたオレとみほの手に力を込めた。

「くぅ、はっ、あっ、んっ、あぁぁぁぁっ!」

 まほが感極まり、快感に濡れた声で叫ぶ。

 強すぎるくらいの締めつけ。

 荒々しいくらいにまとわりつきしごき上げてくる膣壁の感触。

 下半身にまほ、上半身にみほの柔らかさに溺れながら。

「で、るぅっ」

 こらえにこらえていた精を、まほの胎内へと思い切り注ぎ込む。

 オレも、つないでいたまほの手を強く握り。

 腕の中に抱えていたみほを強く抱きしめる。

「はぁ……、はぁ、ん……」

「んぅ、ふぅ、ん、あぁ……」

 姉妹揃って抱く快感。しかも姉の処女喪失に、同じく処女を奪ったばかりの妹を立ち会わせてしまうというあり得ないシチュエーション。オレはこの上なく興奮していた。

 興奮と同時に、2人に対する愛しさも募る。

 彼女たちはオレにすがって、甘えてくる。

 ならオレも、その想いに応えたい。

 みほを腕にかかえたまま、まほの上に覆いかぶさって。

「きゃっ」

「ひゃっ」

 2人を思い切り抱きしめる。

 オレは、まほに、みほに、想いを込めて口づけをした。

 

 

 ―続く―

 




おかしいな。もっと2コマ堕ちっぽく、あっさりセックスに持っていくつもりだったのに。
こんばんは、槇村です。御機嫌如何。

想像以上にノってしまって、とりあえず2万5000字ほど書いてみた。
どうせ書くならオリジナルの方を書けと自分に言いたい。

エロシーンの書き方をあれこれ試行錯誤しております。
やり玉に上がったみぽりんやまほさんが不憫で仕方ありません。(お前が言うな)

あと3話分くらいはネタのアウトラインがあるので、それなりに反応があるようなら続きを書きます。
反応がないようなら、不規則更新でゆったり書いていこうと思います。(結局書くんじゃん)



※誤字報告ありがとうございました。


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04:※身も心もⅠ/みほ&まほ (主にみほ)

 8月31日。夏休みが今日で終わる。

 つまり、オレが黒森峰女学園の学園艦にいる最後の日だ。今夜の7時には学園艦を降りて、連絡船で熊本県の内地へ戻らないといけない。

 ちなみに学園艦を降りるのはオレだけだ。両親はもうしばらく仕事で残るらしい。俺が出発する頃には仕事を切り上げてくると言って、朝も早くから仕事へ行ってしまった。本当に忙しいみたいで、ありがたいやら申し訳ないやら。

 それからしばらくして、玄関のチャイムが鳴った。

 

「おはよう、俊一くん」

「おはよう、俊一」

「おはよう。みほちゃん、まほちゃん」

 

 朝駆け上等とばかりに、みほとまほが姉妹揃ってやって来た。明日から新学期が始まるからか、いろいろと熱心な戦車道チームもさすがに今日は休みのようで。みほもまほも今日は私服姿だ。

 可愛い。

 今日の夜に内地へ戻るということはもちろん2人に伝えてある。だから午前中の早いうちからオレに会いに来てくれたらしい。嬉しくて胸がキュンキュンしてしまう。

 

「さて、じゃあ何をしようか」

 

 時間があるといっても、充分にあるわけじゃない。

 みほとはいろいろ出掛けたりもしたけれど、まほとはきちんとそういうことをしていない。

 一昨日に初セックスを経験し、昨日は姉妹揃ってデートへと繰り出した。戦車道の集まりがあった後にだけど、まほが何も言わないということは、オレが気に掛ける必要はないんだろう。

 けれど、何もなかったというわけではないようで。ことさら甘えてくるまほを、お望み通り存分に甘えさせてあげた。男とのデートは初めて、妹のみほとのお出掛けも久しぶりだったらしく、まほどころかみほまで終始御機嫌だった。

 今日も同じようにお出かけ、というのもいい。けれど時間のリミットがある状況じゃ存分に楽しめないだろう、と判断する。

 

「じゃあ、お家デートにしよう」

 

 みほがそんな提案をする。要は、家の中でのんびりしながら時間いっぱいまでイチャイチャしよう、ということだ。

 続けて「みんなと一緒に映画を観たい」と言い出したので、レンタルビデオ店に足を運んだ。

 

「……何だか、すごく新鮮だ」

 

 女の子と一緒に「どんな映画を観ようか」とあれこれ物色するのは結構楽しい。世の中にはこういう楽しさもあるんだということを初めて知った。

 相手のことを考えながら選ぶとなると、楽しくも難しい。自分だけだったらアクションものかホラーものに偏ってしまうのが目に見えている。

 

「だから、2人に任せるよ」

 

 みほが見るからに楽しそうに、まほは少し笑みを浮かべながら、棚を眺めつつゆっくりと歩く。あれこれソフトを手に取る2人を後ろから覗き込みつつ、どんな内容なのかと会話を交わす。

 しばらくして、結局借りたのは2本。みほが選んだラブコメものと、まほが選んだ有名なラブストーリーものを1本ずつ。

 映画2本分の時間は、ダラダラ過ごすにはちょうどいいくらいだろう。

 

 

 

 というわけで。

 家に戻ったオレたちは、ソファに並んで座りながら映画を観ている。

 みほは、横にいるオレにもたれ掛かっている。肩に頭を乗せ、完全に身を任せてリラックスした様子を見せていた。

 オレも時折、みほの頭を撫でたりする。そのたびに、彼女は嬉しそうにすり寄ってくる。

 可愛い。

 まほは、身を寄せるどころか倒れ込んでしまい、オレの膝の上に頭を乗せてしまっていた。つまり彼女を膝枕していることになる。

 そんな状態でも、まほは映画の方にじっと集中していた。膝枕をされたまま真面目な表情をしているのが妙におかしくて、ついちょっかいを出したくなる。

 膝の上にある、まほの頭に手を乗せる。髪を梳くようにして優しく撫でた。

 少しだけ反応して、身をよじらせる。けれどすぐに気を取り直したのか、また映画の方に集中しだした。

 あぁもう、可愛いなぁ。

 まほの気が散らない程度に、間を置きながら彼女の頭を撫で続ける。

 同じように、肩に乗ったみほの頭も撫でる。

 みほは映画よりもオレの方に意識を向けているみたいだ。頭を抱きかかえるようにして引き寄せると、彼女はそれに応えるように頭を擦りつけてくる。頭どころか頬ずりするくらいの勢いだ。

 オレは終始、映画に集中できなかった。

 

 

 

 密着度は高いけれど極めて健全なスキンシップを続けているうちに、映画が終わる。

 気がつくと、みほが肩にもたれ掛かったまま寝息を立てていた。

 膝枕で横になっていたまほが起き上がって、妹に気づく。

 

「ふふっ。妬いてしまいそうなくらい、みほは俊一に懐いているんだな」

 

 まほは、微笑ましそうにそんなことを言う。

 こんな風に油断した姿を見せてくれるのは、気を許してくれているようで素直に嬉しい。頭を撫でる手に慈しみが増すというものだ。

 

「みほには悪いが、もう1本の方を観てもいいだろうか」

 

 さっきまで観ていたのは、まほが借りたラブストーリーもの。思いの外楽しかったんだろうか。みほが選んだラブコメ映画のDVDを指し出してきた。

 少し上目遣いで、うかがうようにオレを見る。

 

「いいんじゃない? みほちゃんは、今観てたのも結構寝てたみたいだし」

 

 返事を聞いて、彼女は顔をほころばせた。

 ……まほちゃん、それは反則級に可愛いぞ。

 

「今度はみほちゃんを膝枕すればいいよね」

「それじゃあ私は、俊一にもたれ掛かることにしよう」

 

 寝ているみほをそっと抱えて、横たわらせる。頭を膝の上に乗せて、優しく撫でた。

 まほはDVDを新たに再生させ、妹の反対側に座り込む。

 そしてオレの腕に抱きついてきた。

 

「腕が疲れたら言ってくれ。触れ方を変えるからな」

 

 豊かな胸が遠慮なく押しつけられて、幸せな感触が腕に広がっていく。

 できるだけ長く味わうように頑張ろう。

 2本目の映画がスタートする。

 けれどオレは、腕を包み込むまほの胸と身体の柔らかさを堪能することと、膝枕で寝ているみほを撫でることに意識を向け続けていた。

 

 

 

 観ていたラブコメ映画のエンドクレジットが流れる。結局、みほはずっとオレの膝枕で眠ったままだった。

 

「こんなにのんびりした時間は、どのくらいぶりだろうか」

 

 まほが、オレに身を任せたままつぶやく。

 

「戦車道漬けの生活がイヤだったわけじゃないが。こんな過ごし方もあったのかと思うと、少しもったいなかったなという気もする」

 

 まほは、力を抜き、オレにもたれかかっている。

 彼女はプライベートでも戦車道でも、姉、流派の次期家元候補、チームの隊長など、常に頼りにされる立場にあった。過剰な期待を向けられたこともあっただろう。当人にそのつもりはなくても、常日頃から自然と力んでいたのかもしれない。

 オレと一緒の時くらいは、リラックスしてくれると嬉しい。

 

「何を言ってるんだ。自分で言うのもなんだが、こんなに油断している姿を見せたのは、俊一の前くらいだぞ」

 

 それは、みほも同じだ。

 妹の頭を撫でながら、まほはつぶやく。

 オレがみほと会って、まだ2週間経つかどうか。あくまでオレの前ではだけれど、みほはとても明るく振る舞っている。初めて会った時のうつむき具合が嘘みたいだ。

 

「俊一の前のみほは、まるでこんな小さな頃にそっくりだよ」

 

 自分の胸よりも下あたりに手を持っていき、背の高さを現す。小学校の頃か、それよりも前か。そんな小さい時期と同じくらい無邪気だと言いたいんだろう。

 ……まほもオレもソファに座ったままなので、その手の位置では小人より小さいのでは、なんて思ってしまったのはスルーしておこう。オレは必要な空気は読める男だ。

 ともあれ。

 姉のまほいわく、小さい頃のみほはかなり腕白で、明るく、アグレッシブだったらしい。一方で、一緒にいたまほの姿が見えなくなると途端に不安がるところもあったとか。

 

「頼れる相手や気を許した相手の前なら、無邪気になれるのかもしれないな」

 

 ということは、私は気を許せる相手から外れかけていたわけだ。

 やや自嘲気味に、まほはそんなことを言う。

 オレが口を開く、その前に。

 

「そんなことないよ!」

 

 がばっ、と。膝枕で寝ていたみほが勢いよく起き上がった。

 どうやら狸寝入りをしていたみたいだ。

 

「わたしは、どうすればいいか分からなかったから。お姉ちゃんに頼ろうとすることだって思いつかなかった。俊一くんに会って初めて、余裕ができたくらいだもの」

「みほ……」

「それならわたしだって、お姉ちゃんに見捨てられたって勝手に思い込んでた」

「あながち、間違いでもない。結局、チームの皆の考えを把握しきれなかった。みほを責め立てることを許してしまったんだからな」

「でもっ」

 

 思わぬところで言い争いが再燃した。

 姉妹のすれ違いは解決させたはずなのに、2人はオレを間に挟んでまた蒸し返す。

 みほは、オレの膝に手を置いて身を乗り出している。

 まほは、身を任せていたオレの腕をつかみながら、落ち着いて言葉を返していた。

 性格からくるのか、みほもまほも、一度そう思い込んだら抱え込んでしまうところが見受けられる。和解したのに、いや、和解したからこそか、すれ違いの原因が抜けないトゲみたいに気に掛かってしまうのかもしれない。

 部外者だからそう思うのかもしれないけれど。

 こういうのはキリがないでしょ。

 オレは、2人をまとめて抱き寄せる。

 

「きゃっ」

「んむっ」

 

 みほと、まほを、頭ごと抱え込む。胸板に顔を押しつけて、言い合いをぶった切ってやった。

 

「もうそのあたりの話は仲直りして終わったでしょ。お互い大好きだってことは再確認してるんだから、もし同じようなことがあったら今度はちゃんと頼りにしようってことでいいじゃない」

 

 落ち着かせるように、2人の頭を撫でる。さらさらの髪が指の間を通って心地いい。

 

「変にこじれそうな話はもうやめようよ」

 

 まほが、やや拗ねたような顔をして見上げてくる。

 可愛い。

 彼女の髪を少し掻き上げて、まほのおでこにキスをした。

 

「あっ」

「ああっ、お姉ちゃんズルイっ」

 

 みほが、声を上げながら抱き着いてきた。

 

「俊一くん、わたしもっ」

「もちろん」

 

 みほを抱く腕に力を入れて、彼女のおでこにキス。もうひとつ、頬にも唇を落としてあげる。

 

「えへへ。ほっぺにもしてもらっちゃった」

 

 ふにゃり、といった感じに、みほは表情を緩ませた。彼女は抱き着いたまま、オレの首元に唇を押しつけて、お返しとばかりに吸いついてくる。

 となると今度は、まほが黙っていないわけで。

「俊一、私は頬にしてもらってないぞ」

「張り合わないでよ、まほちゃん。ちゃんとしてあげるから」

 少しむくれた顔をするまほの頬にも、ちゅっ、と口づけをしてあげる。それだけで、まほの顔から険しさが取れた。

 それから、みほとまほと交互に、ついばむようなキスを繰り返す。

 

「みほちゃん」

「ちゅっ。ちゅ、んっ、はぁ、ん……」

「まほちゃんも」

「んっ。ちゅっ、はぁ、んむ。ふぁ……」

 

 左右に姉妹をはべらせながら、もっとしてと唇をせがまれる。

 嬉しい。

 気持ちいい。

 求められるままに応えたくなる。応えていく。

 2人の体勢を少し変えさせる。

 大きく脚を開いてソファに浅く座ったオレ。その太ももをまたいで、腰を下ろさせた。

 右脚に、みほ。

 左脚に、まほが座る。

 2人ともスカート姿だ。彼女たちの太もも、お尻、そして秘部の柔らかい、女の子の感触がズボン越しに伝わってくる。

 そのまま2人を、オレにもたれ掛かるように身体を倒させた。

 密着する彼女たちの身体を、ぎゅっ、と抱きしめる。

 身体中に広がる、みほとまほの感触。胸とかお尻とかだけじゃ収まらない、全身の、幸せな柔らかさに包まれる。至福とはこのことか。

 

「あ、この体勢好き」

「……確かにいいな。こう、抱きしめながら抱きしめられるというのがとてもいい」

 

 みほも、まほも、腕の中に収まって包まれるという感触が気に入ったみたいだ。

 身を委ねて、正面から抱き合う。

 2人は精神的に満たされる感じがいいらしい。

 オレの方は、あちこちの柔らかさとか、いい匂いとかで、股間がギンギンに響くくらいに興奮していた。

 でもオレの首元に顔を埋め、目をつむりながら密着具合を堪能してている癒され顔な2人を見ると、邪な気持ちがほんの少し穏やかになる。エロい気持ちよりも、愛しいと言おうか尊いと言おうか、そういったものが湧き上がってくる。

 とはいえ。イヤらしい気持ちが完全に萎えるわけでもなく。

 

「あっ」

「んっ」

 

 もたれ掛かる、みほとまほのお尻に手を伸ばした。

 スカートの上から魅惑的な丸みを撫でる。姉妹のお尻を両方同時に触ることに、興奮の度合いが強くなってくる。

 みほも、まほも、手をのけようとはしない。OKだと判断して続行。

 オレはゆっくりと、お尻全体を撫で回す。手の動きに合わせて、2人のスカートが波打つ。手のひらに広がる最高な感触をしばし、無心で味わい、噛みしめる。

 手と指に、少しだけ力を入れた。撫でていただけの動きが、だんだんと愛撫に変わっていく。

 

「んっ、ん、あっ」

「はぁ……。んんっ……」

 

 2人の息が乱れてきた。漏らす吐息に艶っぽさが混じってくる。

 目をつむっている分、お尻を撫でられる緩い性感がダイレクトに伝わっているのかもしれない。手の動きに合わせて、ぴくぴくと表情が動くのが可愛らしい。

 たまらなくなって、飽きもせずまたキスをする。

 みほに。

 まほに。

 ちゅっ、ちゅっ、と。何度も何度も繰り返し唇を重ねる。

 彼女たちもキスに応えてくれる。もっとしてほしいとねだってくる。

 どちらが熱心かと言えば、まほの方だ。

 一昨日、オレやみほに「甘えていいぞ」と言われながら初セックスをした彼女。そのせいなのか、今のまほはベッタリとオレにくっつき、甘える素振りを隠そうとしない。オレの名前を口にしながらキスをねだり、音を立てながら唾液を混ぜ合う。

 

「はぁ、ん……。俊一、しゅんいちぃ……」

「ん、ちゅっ、ふぅ……。可愛いなぁ、まほちゃん。大好きだよ」

「私も好きだ。大好きだぞ、俊一」

 

 名前と一緒に、好き、大好きと言葉を重ねながら、まほはオレに頬ずりをする。唇に、頬に、首筋に、口づけする。夢心地というか、酔っているかのようにというか。とにかく彼女は、オレとのキスやペッティング、とにかく触れ合うことに夢中になっていた。

 身体を重ねたばかりのまほに対して、みほとはもう毎日セックスをし続けている。その間に見えてきた彼女の嗜好。それはオレが求めに応えること、自ら従順になることに悦びを覚える傾向があった。

 みほが、オレが興奮していることに気がつく。キスに夢中になる姉より先に、下半身へと目を向けて、オレのズボンに手を掛ける。

 ベルトと外し、チャックを下げ、ズボンを脱がそうとする。オレは少し腰を上げて、みほに脱がされるままに任せる。

 続けて、勃起したチ○コで大きく膨らんだトランクスを脱がす。

 まほとキスをしているうちに、オレは下半身を丸出しにされてしまった。

 

「こんなに感じてくれて、嬉しいな」

 

 真正面に立って、自ら服を脱ぎ、下着姿になるみほ。

 可愛いフリルのついた、薄いピンクのショーツとブラジャーが露に。

 背中に手を回して、彼女はブラジャーのホックを外した。

 ほどよく大きなおっぱいがまろび出る。

 続けてショーツに手を掛けて、するりと脱いでいく。

 かがんだ際に、みほの胸が揺れるのが実に眼福だ。

 

「俊一くん」

 

 素っ裸になったみほが、恥ずかしそうにオレを見つめる。

 くるり、と背を向けて。

 お尻を突き出した。

 

「わたしのアソコで、もっと気持ち良くなって」

 

 エロい言葉を口にしながらも、みほの顔は真っ赤になっている。うなじと背中とお尻をこちらに向けていて、顔は見えない。けれど、きっと恥ずかしさでいっぱいに違いない。

 なんてことを考えているうちに、ふるふると震えるお尻が近づいてくる。勃起したチ○コを恐る恐るつかみながら、みほは自分からおま○こへと誘導する。

 

「んんっ……」

 

 みほの小さくて柔らかい手で陰茎をいじられつつ、彼女の秘部へとあてがわれる。

 愛液でトロける割れ目が、簡単に亀頭を咥え込んだ。

 

「はぁ……。みほちゃんのナカ、気持ちいい……」

「嬉しい。あっ、ふぁ、ん……」

 

 目の前で、オレのチ○コが、みほのおま○この中にゆっくり収まっていく。

 卑猥で、いやらしくて、たまらない。

 チ○コを根元まで呑み込んで、彼女のお尻が、オレの股間の上に乗る。密着したお尻と、チ○コを揉みしだくようにうごめく膣の感触が、下半身をしびれさせる。

 みほが、お尻をゆっくりと持ち上げた。

 おま○こに収まっていたチ○コが姿を現す。

 咥え込む陰唇がチ○コを締めつけ、追い掛けるようにめくれ上がる。

 亀頭まで腰を上げると、先端の敏感な部分だけを刺激するように締めつける。

 そしてまた腰を下ろしていって、チ○コ全体を膣内に収めていく。

 

「あっ……。あふ、んっ……。んっ、んんっ……」

 

 みほの丸いお尻が、いやらしく上下運動を繰り返す。彼女の尻たぶと、オレの股間がぶつかり、ぱちんぱちん、と音を立てる。愛液がこぼれ出るおま○こを出入りするチ○コを眺める。

 こんなイヤらしい姿を、自分から、オレだけに見せてくれる、みほ。

 愛しさが募る。

 興奮が高まる。

 下半身がたぎる。

 

「気持ち良くてたまらない。みほちゃんのまぁるいお尻も、オレのチ○コを咥え込んだヌレヌレのおま○こも、イヤらしい恰好が全部丸見えで興奮する」

「そんな、恥ずかし、んんっ、恥ずかしいっ」

 

 快感に喘ぐみほ。恥ずかしいと言いながらも、お尻を上下させ、腰を振る動きは止まらない。グニグニでトロトロな膣で締めつけながら、緩やかに、けれどテンポよく、オレの性感を刺激する。 

 もちろん、その痴態を見ているのはオレだけじゃない。

 姉のまほも、夢中になっていたキスを止めて、妹の乱れる姿を凝視していた。

 

「みほ、すごい……」

「まほちゃん、ほら。みほちゃんがお尻を揺らして、オレのチ○コを咥え込んでる」

「あぁ、イヤらしい……」

 

 呆然と、けれど艶のこもった声を漏らす、まほ。

 その言葉と吐息を耳元で聞いて、オレの興奮はさらに高まる。

 姉のまほを片腕に抱きとめながら、妹のみほに腰を振らせている。

 自分でも意外なほどに、性的な面では攻撃的になっていた。

 

「みほちゃん、気持ち良くなるところをもっと見てもらおうね」

 

 オレはみほのお尻をしっかりつかんで、腰を突き上げた。

 

「ひゃうっ、おくっ、強いぃっ」

「目の前でみほちゃんの可愛いお尻が躍ってるんだ。我慢できなくて、強引になっちゃうよ」

「強引でもいいからっ。俊一くんがしたいならそれでっ。もっと気持ち良くなってっ」

 

 チ○コに絡みついて、搾り取るかのように動く彼女の膣壁。動いてもじっとしていても、質の異なる快感がオレの下半身に突き刺さってくる。

 どちらでも同じなら、と。みほのナカを存分に貪っていく。

 テンポ良く、けれど少しずつスピードを上げて、みほの膣内をチ○コで何度もえぐる。

 たんたんたん、と腰をぶつけるごとに弾むお尻。

 がっつりとつかんだ指がみほの尻肉に食い込む。

 指先と手のひらいっぱいで味わう柔らかさと、張りのあるお尻の感触にもう夢心地だ。

 

「あっ、はっ、はんっ。んんっ、あっあっ、あんっ」

 

 みほのナカが、絶え間なくオレのチ○コを絞り上げる。小刻みだけれど鋭い快感を与えてくる動き。これは彼女を襲う快感が、オーガズムの波に煽られている証拠。身体にも力が入らなくなっているようで、上半身を前に投げ出し、突き出したお尻だけがオレと密着しているだけ。それもオレの腰の動きに合わせて弾ませているだけだ。

 オレにされるがまま。それでもみほは、強い快感を覚えている。

 

「もうっ、ん、だめ、あっ、あっ、んっ、んんんんんんっ!」

 

 みほのお尻が大きく跳ねた。

 絶頂をこらえきれなかった彼女の身体が痙攣し、震える。

 暴れるみほのお尻を抑え込み、膣奥に向けて腰を、ぐっ、ぐっ、と押し込む。

 一番奥までチ○コを入れ込んで、オーガズムの強烈な締めつけを堪能する悦び。

 こみ上げてくる射精感に耐え、みほを襲う快感の波が落ち着いてくるのを待つ。

 

「はぁ、ん、んんっ……。ふぁ、あ……」

「みほちゃん、可愛い。すっごく気持ち良かった」

「んっ……。でも、俊一くんが……」

「まだ時間はあるから。もっと可愛がってあげるよ」

 

 息を乱しながらオレの方を振り向く、みほ。

 その姿はとてもエロかった。

 まだチ○コを挿入したままのおま○こ。

 快感で震えるお尻。

 汗に濡れた背中。

 身をよじったことで見えるおっぱいの膨らみと乳首。

 そして絶頂したばかりの上気した表情。

 思わず射精してしまいそうになる。

 けれど、まだだ。

 

「次は、まほちゃんの番だよ」

 

 妹の痴態を見て蕩け始めている、まほを可愛がるのが残っているんだから。

 

 

 

 ―続く―

 




背面騎乗位で、揺れるお尻を眺めながら腰を振るシチュエーションが大好きだ。
槇村です。御機嫌如何。



想像した以上に多くの人に読んでもらったようです。
2年前のエロ小説の総合評価を、1週間で超えてしまいました。
ガルパンすげぇな。

本当にありがとうございます。
いい気になって続きを書きました。

とはいえ。
みほ、まほ、3Pとまとめて1話にしようとしていたのに、
長くなってしまったので分割。
「主にまほ&姉妹丼」は次回になります。

ただ次は、早くても2週間先くらいになるかも。
あらかじめお知らせまで。



作中のレンタルビデオ店での描写。
西住姉妹はどんな作品を選んだのか。
みほは、ラブコメものとか好きそうという勝手なイメージを抱いた。『ノッティング・ヒルの恋人』『アバウト・タイム 愛おしい時間について』『プリティ・ウーマン』とか。『マンマ・ミーヤ!』とかどうかなと思ったけど、あれはお母さんの話だから、違う意味で泣いちゃうかもしれないと思ってカット。作品チョイスが古いとかいったらオレが泣きます。
まほは、映画とかの知識に明るくなくて、名前だけは聞いたことがあるタイトルを手にしたみたいな感じ。『ロミオとジュリエット』とか『ローマの休日』あたりの古典的名作を選ぶイメージ。

映画ネタと絡めると、妄想がはかどって仕方がない。
学園艦を舞台にして『ポセイドンアドベンチャー』をするとか、
『MEG ザ・モンスター』や『シャークネード』の世界観で、学園艦を襲うサメに戦車で対抗するとか。
自動車部がデロリアンを開発して、戦車道が廃止される20年以上前の大洗学園に助けを求めるべく『バック・トゥ・ザ・フューチャー』するとか。
誰か書いてくれ。オレはそこまで手が回らない。
プロットを書くのが精いっぱいだ。(プロット……?)



※誤字修正。ご指摘ありがとうございました。


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05:※身も心もⅡ/みほ&まほ (主にまほ)

 目の前で、みほのお尻がオーガズムに震えている。

 オレの股間の上で、まだ硬いチ○コをおま○こに咥えたままだ。みほの乱れた呼吸に合わせて、膣壁がゆるやかに締めつけてくるのが気持ちいい。

 名残惜しさを感じながら、彼女の膣内からチ○コを抜き出す。

 

「ふぁ、んっ……」

 

 みほの丸いお尻をつかみ、手のひらいっぱいに柔らかさを感じながら持ち上げる。愛液でヌラヌラになった秘部の割れ目から、少しずつチ○コが姿を見せてくるのがたまらなくエロい。

 おま○こから抜け出ると同時に、ぶるん、と、硬いままのチ○コが大きく揺れた。

 

「ふぁっ、ん……」

「ありがとう、みほちゃん。すっごく気持ち良くて、エロくて、可愛かった」

 

 ソファから身を起こして、みほの背中から抱き着く。

 揉み応えのあるおっぱいに手を回しながら、彼女のうなじにキスをした。ちゅっ、ちゅっ、と。キスマークがつきかねないくらいに唇を落とす。

 柔らかい胸の膨らみを堪能して、みほを抱き直してからソファへと座らせる。

 

「みほちゃんはちょっと休憩ね」

 

 ちゅっ、と。もうひとつだけキス。

 そして。

 オレは、まほの方を見る。

 

「次は、まほちゃんの番だよ」

「俊一……」

 

 オレは再度ソファに座り込んで、まほに立つよう促す。

 初めて会ってからまだ数日。会う時はいつも黒森峰の制服姿だったから、私服のまほは新鮮だ。

 だからなおさら、彼女を脱がせることに興奮する。

 

「まほちゃんも、服を脱いで」

「そんなに見ないでくれ……」

 

 脚をもじつかせながら目の前に立つ、まほ。顔を真っ赤にしながらこちらを見つめてくる。

 その視線を受けてオレは、笑みを浮かべた。

 言葉で促したわけじゃない。けれど彼女は確実に意を汲んで、自分の服に手を掛けている。

 ブラウスのボタンをゆっくりと外していく。

 上着がはだけていくにつれ、まほの綺麗な肌と、白いブラジャーが姿を現す。

 次はスカート。

 腰部分のホックを外し、スルリと、足元に落とす。

 あっという間に、上下が白でお揃いの下着姿になった。

 ちらりとオレの方を見てから、まほは手を背中に回して、ブラジャーを外す。

 支えを失ったおっぱいが、ふるりと揺れる。

 まほが胸を抑えるように腕を回せば、柔らかそうに形が変わる。

 ブラジャーを取ると、大きな胸の膨らみと、小さな可愛らしい乳首が露になった。

 

「いい眺め」

 

 つい手を伸ばしたくなるけれど、もう少し我慢。

 まほは胸を隠しながら、もう一度オレの方を見る。

 顔を赤くしたまま、ショーツに手を掛けた。

 身をかがませたところで、まほのおっぱいが重力に従って大きく揺れる。その胸越しに、ショーツが下ろされていくさまと、露になっていく秘部を眺める。

 ショーツを脚から抜いて、まほは全裸になった。

 

「隠さないで」

 

 胸と股間を手で覆う彼女を諫める。

 まほは、おずおずと手をどけた。張りのある豊かなおっぱいと、愛液で少し湿り気を帯びているらしい秘部が丸見えになった。

 オレはピンポイントに恥ずかしいところよりも、まほの身体のラインに見惚れてしまう。

 羞恥をこらえている表情から、見ても揉んでも夢中になってしまうおっぱい、その丸みから引き締まったウエスト、腰のラインへと目線が流れる。すらりとしていながら、鍛えられた筋肉の感触と触れば心地い柔らかさを兼ね備えた太もも、脚のライン。

 みほと同様、まほの身体も眺めているだけで満足してしまいそう。甘えてくる際に密着してくる彼女の身体の感触は、どこを抱きしめても気持ち良く、心地いい。

 そんな甘えたがりな女の子に、少し意地悪をしながらいうことを聞かせる。

 これは相当、ゾクゾクきた。

 けれど、やり過ぎて泣かせるつもりもないので。

 

「まほちゃん、おいで」

 

 腕を大きく広げて促す。

 まほは、全裸のままオレの腕の中に飛び込んできた。身を縮めて、裸の自分を隠そうとするかのように擦り寄ってくる。

 もちろん、彼女の綺麗な身体は少しも隠れることはない。むしろ直接肌が擦りつけられて興奮してしまうくらいだ。

 

「……身も心も許したとはいえ、恥ずかしくないわけじゃないんだぞ」

「うん、知ってる」

「くっ。ならっ」

「恥ずかしがってるまほちゃんが可愛らしくて。ついイジメてみたくなっちゃうんだ」

 

 ごめんね。

 詫びながら、抱きしめた。

 まほは、虚を突かれたような顔をする。けれどすぐに、恥ずかしさで顔を伏せた。オレの胸板にぐりぐりとおでこを押しつけてくる。

 こういう仕草が可愛いんだよ。

 思いはしても口には出さず。抱きしめながら彼女の頭を撫で回した。

 

「まほちゃんだけが裸じゃ不公平だからさ。オレの上着も脱がせてよ」

「なっ」

 

 オレは下半身がすでに丸出し。でも上半身はまだシャツを着たままだ。密着するなら裸で、肌をくっつけながら抱き合いたい。直接、まほの身体の柔らかさを堪能したい。

 

「本当に、お前は意地悪だな」

「そういう可愛い反応してくれるから、ついつい」

「……そんなことを言っても、許してやらないからな」

 

 クールなお姉さんが、オレのひと言で拗ねたり恥ずかしがったりする。

 あぁもう、可愛くてたまらない。

 まほは拗ねたような表情を見せてから、オレのシャツに手を伸ばす。

 全裸で、オレの膝の上に座りながら服を脱がしてくれる。

 ……オレ、ここ数日でいろいろな性癖に目覚めちゃった気がする。

 それはともかく。

 彼女はボタンを外し終えて、袖から腕を抜き、シャツを脱がす。

 さらにTシャツも、オレにばんざいをさせながら脱がしていく。その途中でオレの胸板をぺたぺたと触っていたのご愛嬌だ。逆の立場だったらオレもやると思うし。今度はオレがやろう。

 脱がした服をソファの背もたれに掛けた。そういうところから彼女の几帳面さが窺える。

 

「ありがとう、まほちゃん」

 

 まほが手ずから脱がしてくれ、オレは真っ裸に。

 彼女を抱きしめ、全裸同士で密着する。

 

「抱き合うのって、気持ちいいよね。相手の感触というか、肌が触れ合うとなんだか落ち着く」

「俊一も、そうなのか?」

 

 そう言って、まほは本当に嬉しそうに笑みを浮かべ、抱き着いてくる。

 目尻が下がり、口元を緩めて、表情が柔らかくなる。

 うん。そんな顔もすっごく可愛い。

 意地悪をされて困った顔もいいけれど、やっぱり女の子は笑顔の方が素敵だと思う。

 まほの肩を抱きながら、あごに指を添える。

 クイ、と顔を上に向かせて。

 

「んっ……」

 

 唇を重ねた。

 まほの顔が、うっとりと蕩けたものになる。

 

「ん、ちゅ……。ふぁ、んぅ、しゅんいちぃ……」

 

 甘えた声で、オレの名前を呼ぶ。

 オレの前だと素の姿を見せてくれる。

 それがたまらなく嬉しくて、もっと可愛がってあげたくなる。

 

「まほちゃん、ちょっと立ってくれる?」

「え、あんっ」

 

 体勢変更。ソファに座っているオレをまたがせて、改めて座らせた。

 そうしている間も、全裸のまほの身体を眺め、存分に愛でる。

 そして当然のように、彼女の秘部に勃起したモノをあてがうと。

 まほが、腰を落としていく。

 

「んっ……。はぁぁ……」

 

 徐々にオレのチ○コが、まほのおま○こに埋まっていく。

 対面座位の状態だ。挿入しながら抱き合い、ぴったりと肌を重ねることができる。

 

「私のナカが、俊一のモノでいっぱいだ……」

「オレも、まほちゃんのおま○こに包まれて、すっごく気持ちいいよ」

 

 まほが強く抱きつき、頭を肩の上に乗せてくる。自分の言った言葉、あるいは俺に言われたストレートな言葉に照れたのかな。耳を赤くして、顔を合わせようとしない。

 それならば。

 

「んんっ。あぁっ、んっ」

 

 まほの、柔らかくも引き締まったウエストに腕を回して、オレの方から腰を動かし始めた。彼女のおま○こを下から突き上げ、まだきつくて狭い膣内をチ○コで擦り上げる。

 

「は、んんっ、あ、ふぅ。俊一、あんっ」

 

 ソファのスプリングを活かしながら、まほの身体を弾ませる。

 突き上げるごとに彼女の身体が浮き、引けば自重でぺたんとお尻を押しつけるように腰を落とす。そんな動きを細かく、何度も繰り返した。

 まほのおま○こが、亀頭から陰茎の根元まで呑み込んでいる。出し入れするごとに膣壁が締めつけてきて、うねうねぐにぐにとチ○コを撫でつけ、刺激する。

 抽挿の1回1回、チ○コの敏感な部分を優しく引っ掻かれるような快感に襲われ、下半身が甘く痺れる。気持ち良さを散らそうと、あるいはもっと気持ちいいところを探すように、腰を振る。まほのナカを前後左右、チ○コが届くすべての場所をえぐっていく。

 

「だめっ、あっ、俊一、んっ、はっ、ああっ」

 

 まほから切羽詰まったような声が上がり、少しペースを落とす。手を尻へと回してわしづかみにし、彼女のナカのより深い場所へ亀頭を届かせようと、腰をぐっぐっと押しつける。

 

「はふ、んぁ……。だめだ、頭も身体も俊一でいっぱいにっ」

「ダメじゃないでしょ。オレのことしか考えられなくなるくらい、気持ち良くなってよ」

「もうとっくに、私にはっ、お前だけだっ。気持ち良過ぎて頭が、馬鹿にっ」

 

 不意打ちの言葉。

 お尻をつかむ手と、挿入しっ放しのチ○コに思わず力が入る。

 

「嬉しいなぁ。大好きだよ、まほちゃん」

 

 まほのナカの一番奥までチ○コを押し込みながら、唇を奪った。

 彼女の顔はすぐ目の前。顔の距離に初めて気づいたのか、まほが夢中でキスを返してくる。

 

「んちゅ、ふぁ、んっ。しゅんいち、ちゅ、んっ」

 

 オレの首に回された、まほの腕に力がこもる。唇を押しつけるたびに、彼女の膣内もより強く、チ○コを擦り上げるようにうごめく。

 上半身と同じく、まほのおま○こはチ○コに抱きついているかのように密着している。そんな中でも、にじみ出る愛液が腰の動きをスムーズにしてくれていた。みっちりとした狭いナカに、チ○コを出し入れする。その気持ち良さは筆舌しがたい。

 けれど逆にいえば、まほの方もおま○この中全体を刺激され続けているということで。

 

「もうっ、あ、んんっ。俊一、しゅんいちっ」

 

 まほの方が先に限界を迎えた。

 対面座位で抱きつく彼女が、耳元で快感を叫ぶ。気持ちいい、もうだめと繰り返す。気持ち良さと愛おしさで、身体中がしびれてくる。

 

「っ……、んんっ、くぅっ……」

 

 まほは、声を殺しながらオーガズムにさらわれていった。

 抱き着いた手が、オレの背中に爪を立てる。絶頂の痙攣が密着したオレにも伝わり、ひと際強く、まるでねじ切ろうとするかのような強さと動きでチ○コを搾り上げてきた。

 強く、強く。

 短く短く長く、短く。

 強く。

 そんな風にうごめく膣壁。襲い掛かってくる快感に身を委ねながら、オレもまほを抱きしめ、口づけをする。彼女もそれに応えて、唇を求めてくる。

 まほは快感の波が引いてくるまで、いや引いてからも、熱にうなされるかのようにキスをねだり続けた。

 

 

 

 対面座位の状態で、絶頂の波が引いてからもまほは抱き着いたまま離れようとしない。オレの肩に顔を乗せて、オーガズムの小さい波に身を委ねながら息を整えようとしている。

 

「俊一くん、わたしももっと、可愛がってほしいな」

 

 その逆の肩に、背中の方から、みほが顔を覗かせてきた。先にイカされて、ひと休みしていたものの、姉の乱れる姿をすぐ隣で見せられているうちにまたこみ上げてきたようだった。

 まほの身体を抱きかかえたまま。今度は、みほとキスをする。

 

「んっ、ふぅ……、はぁ。しゅんいちくぅん……」

 

 みほは、オレの頭を抱えてキスに夢中になる。

 ついさっきまで、姉のまほの唇を貪っていた。

 そのすぐ後に、妹のみほとも。

 独占欲を刺激する感覚に、下半身の力がさらに強くなってくる。タイミングを逃して射精し損ねた精力も、グルグルとさらに渦巻き出す。

 みほと、まほの、身体の全てを一緒に味わい、楽しむ。

 想像するだけでたまらない。

 もちろん、想像だけで終わらせるつもりは微塵もなかった。

 

 

 

 ―続く―

 




ガルパン総集編の映画館上映、今日からじゃないですか。(2018年9月29日)
槇村です。御機嫌如何。



そんなわけで(どんなわけだ)
急遽、続きを仕上げました。
ただし、まほさんとのエッチだけ。
姉妹丼は次回に持ち越しです。
楽しみにされていた方はもう少々お待ちください。



※誤字のご指摘ありがとうございました。
※重ねて、誤字のご指摘ありがとうございます。本当にありがとうございます……。






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06:※身も心もⅢ/みほ&まほ (ダブルフェラ)

 まほのおま○こに対面座位で挿入したまま、みほと口づけを交わす。

 姉妹を一緒に抱き、可愛がる。自分の中の満足感、優越感、征服感みたいなものが満たされていくのが分かる。

 もっと、もっと彼女たちを味わいたい、貪りたい、可愛がりたい。

 まほのナカからチ○コを抜く。耳元に吹き掛かる乱れた吐息と、密着した身体の心地良さを惜しみつつ、まほをソファに座らせた。

 オレの方はそのまま立ち上がった。全裸の2人の前に、仁王立ちになる。

 さっきまでとはまるきり逆。ということは、みほとまほを絶頂させてもまだ勃起したままのチ○コが、丸出しになっているというわけで。みほが顔を赤くしながら、仁王立ちしたオレの顔と、目の前に突き出されたチ○コを交互に見る。

 

「みほちゃん、触ってみて」

 

 何を、と言うまでもない。オレは腰に力を入れて、チ○コをぶるりと揺らしてみせる。

 出会ってから今日まで、みほを貫き喘がせてきたオレのチ○コ。思えばまじまじと見られるのは初めてかもしれない。

 

「間近で見ると、大きくて、なんだかすごい……」

 

 みほが、そっと指を伸ばす。チ○コの先端、亀頭に、ちょん、と指が触れた。

 

「ひゃっ」

 

 揺れたチ○コに思わず指をひっこめる。

 その仕草が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。

 

「みほちゃんの手の感触で、思わず反応しちゃったんだよ。もっと触ってくれると嬉しいな」

「もっと触ると、気持ち良くなるの?」

「うん。みほちゃんの手で、気持ち良くしてほしい」

 

 オレに求められるまま、みほはチ○コに手を伸ばす。

 彼女の指が、陰茎に触れた。竿部分のあちこちを、指先だけでふにふにとつまんでくる。

 力を入れて指を動かすと、チ○コも反応してひくひくと動く。それを見て気を良くしたのか、添えていただけの指が1本、2本と増えて、みほの指がチ○コを握る形になる。

 

「みほちゃんの手、気持ちいい」

 

 指でつまむだけじゃなく、すべての指と手のひらが陰茎を包み込む。握ってもらっているだけでもう、気持ち良かった。

 ついつい、みほの頭を撫でてしまう。彼女は褒められて嬉しそうな顔をした。

 そこに、まほが近づいてくる。オーガズムの波が落ち着いたみたいだ。

 

「みほ、私にも触らせてくれ」

 

 茎の部分をみほが握っているので、まほは先端部分に手を伸ばす。亀頭の表面、ざらついたところを触れられて刺激が走った。

 

「先っぽは特に敏感だから、優しく触って」

 

 まほの頭の上に置いた手に、つい力がこもる。撫でるだけだったのが、指に力が入り、彼女の頭をつかんでしまう。

 オレの反応の違いが分かったんだろう。まほの手の動きが、亀頭を指で包みながら揉むような動きになる。

 

「んっ、ふぅ……」

 

 みほにゆったりと陰茎を擦られながら、まほに亀頭を優しく揉まれる。

 やべぇ、天国かよ。

 そんなことを思ってしまうほど、幸せな気持ち良さに下半身が包まれる。

 

「俊一くん、すごく気持ち良さそう」

「今度はみほが先っぽを触ってみろ。私は陰茎の方を」

「うん、分かった」

 

 2人が触る場所を交換する。今度はまほが陰茎に指を回し、みほが亀頭に触れてくる。

 それぞれが違う場所を触りながら。

 息を合わせるように指の力に強弱をつけて。

 オレのチ○コを揉み、愛撫してくる。

 

「くおぉ……。気持ちいい……」

 

 もみもみ、くにくにと、もどかしいくらいのタッチで弄られる快感に声を漏らしてしまう。

 オレが気持ち良くなっているのが分かるんだろう。みほとまほは嬉しそうに笑みを浮かべて、手の動きにもっと熱を込めてくる。2人とも夢中で勃起したチ○コを触り、握り、凝視している。その姿に興奮してしまう。

 触るだけじゃなくて、もっといろいろと気持ち良くしてほしい。

 

「みほちゃん、まほちゃん。お願いがあるんだけど」

 

 フェラチオって知ってる?

 2人は何のことか分からないように首をかしげた。

 オレは、みほとまほの頬に手を伸ばして優しく撫でる。

 

「口で咥えたり舐めたりして、チ○コを気持ち良くすることなんだ」

 

 2人の表情が羞恥の色を帯びた。

 手で握っているモノを見て、またオレの顔を見上げてくる。

 

「こんなに大きいのを……」

「これを口で……」

 

 みほもまほも、改めて勃起しているモノを凝視する。

 本人たちが意識しているのかは分からないけれど、握っている2人の手に微妙な力が入る。思わず不意打ちのような気持ち良さがこみ上げてきた。

 オレは、みほとまほの頭に手を置いて、少し強引にチ○コへと近づけた。腰も突き出して、握っている手を通してだけれど、2人の顔に挟むようにして押しつける。

 

「みほちゃん、まほちゃん。お願い」

 

 オレの望みに応えることが嬉しいみほ。

 甘えたがりになったけれど元よりお姉さん気質なまほ。

 2人はお願いに応えてくれた。

 

「舌で、全体を舐めて」

 

 ソファに腰を下ろしたみほとまほが、立ったままのオレの股間へ顔を近づけ、舌を伸ばす。

 

「んむ……」

「れろ……」

 

 ふたつの舌が、裏スジを控えめに舐め始める。

 同じところをチロチロとくすぐってくるだけ。それはそれでむずがゆいような気持ち良さはあるけれど、高まってくるようなものじゃない。

 むしろ、2人を抱いてイキ損ねていた快感が少し落ち着いてきたような気もする。股間に顔を寄せているみほとまほの頭がちょうどいいところにあるために、ついつい撫で回してしまう。

 

「私たちの貞操を奪った男のモノ……。間近で見ると、何というか、すごいな」

「うん。俊一くんのこれで、わたしも、お姉ちゃんも……」

 

 ついさっきまで自分のナカを掻き混ぜていた。それに気づいたのか、オレの股間に顔を擦りつけた状態のまま、そそり立つチ○コを見上げている。

 

「お姉ちゃん。わたしたち、姉妹揃って俊一くんの砲塔に撃ち抜かれちゃったんだね」

「……そうか。私たちはこれで白旗を上げさせられたんだな」

「戦車みたいに、ちゃんとメンテナンスしないと」

「確かにそうだ。きちんと愛情を込めてしなければ」

 

 みほとまほの中で、何かスイッチが入ったのか。急に、熱を入れてチ○コを舐め始める。舌の先端で触れるくらいだった動きが、舌の表面全体をチ○コに押しつけて、根元から先端へと舐め上げてくる。

 裏スジを上下に舐め回し、陰茎のあらゆるところに唇を押しつけて、キスの雨を降らせていく。女の子2人にチ○コを舐められる感触。膣内とはまた違った気持ち良さがオレの性感を刺激する。

 

「くはぁ……。気持ちいい、それ」

 

 みほとまほの舌の動きに陶然としてしまう。直接的な快感はもちろん、姉妹揃ってチ○コを舐め回しているという光景がたまらない。2人の手を取って、指を絡めてつなぎ合わせる。もう片方の手はオレの内ももに置いて、頭と舌だけを動かして奉仕してくれている。

 陰茎だけじゃなく、亀頭にも舌が伸びてきた。

 カリの表面、カサの裏側、尿道の口。あらゆるところを、みほとまほの舌が入れ代わり立ち代わり、時には2人同時に舐め上げる。れろれろと舌が動き回り、んちゅ、くちゅ、と唾液が水音を立てる。チ○コの特に敏感な部分を刺激され、快感に腰がうずく。

 

「みほちゃん、先っぽを口に咥えて」

「えっ……。うん、頑張る」

 

 新しく、お願いを口にする。

 みほは少し尻込みした。けれど意を決して、亀頭をじっと見つめる。

 

「まほちゃんは、チ○コの根元を軽く握って、揉む感じで……」

「……こうか?」

「そうそう、いいよ。気持ちいい、って、くあぁ……」

 

 みほが、あー、と可愛らしい口を開く。

 そして、ぱくりと。

 開かれた口に亀頭が収まり、ヌルヌルした感覚に包まれた。

 

「すっごく、いい……」

 

 カリのくびれた部分に、みほの唇が引っかかる。そこで唇をすぼめて力を入れられると、思わず声が漏れてしまうほどに気持ちいい。

 

「みほの口の中が気持ちいいのか。陰茎がものすごく震えたぞ」

 

 まほの言葉にも応えられないまま、オレはみほの口淫を味わう。

 敏感な部分を唇で締めつけられる感覚。

 口の中で行きどころを失っているのか、あちこち動き回る舌。

 その感触がしびれるような快感を生んでくる。

 しばらくその気持ち良さを堪能した後、みほが口を離した。

 

「気持ち良さそうな俊一くんの顔と、おち、ん、ちんが、口の中で震えるのが可愛いかも」

 

 恥ずかしそうに、チ○コの部分だけ少し言葉を濁しながら、みほが言う。顔を真っ赤にさせながらも、オレの反応の良さに悪い気はしないみたいだ。

 

「次は、私だな」

 

 今度はまほが、チ○コに顔を寄せる。

 目をつむり、口を開けて、亀頭を咥え込んだ。

 

「はむ、ん……」

「まほちゃんの口も、気持ちいい……」

 

 みほの口の中とは微妙に違う、ねっとりした絡まみつき具合というか、ぬめり気の柔らかさというか。そんなものを比べるように味わう。

 ゾクゾクする。

 オレの妙な高揚を感じ取ったんだろうか。まほは亀頭を咥えたまま、上目遣いで見つめてくる。

 さらに、舌を動かしてきた。

 

「おぉっ。まほちゃんっ」

 

 口の中で、亀頭に舌が這い回る。カリ首のつけ根、くぼんだ部分をほじくるように舌先が動く。舌全体を絡みつかせるように、表も裏もまんべんなく舐め回してくる。

 そのひとつひとつを、オレの反応を見ながらしてくる。何かコツをつかんだのか、時折動きを変えてくるのがまた気持ちいい。

 

「ふはぁ……。んっ、俊一、気持ち良かったか?」

「最高に、気持ち良かった」

 

 口の中からチ○コを解放し、尋ねてくるまほ。

 夢見心地のオレは満足感いっぱいで答えを返すだけ。

 それを聞いて嬉しそうに笑みを浮かべる、まほの表情。可愛らしいのに、エロい。

 

「みほ。この出っ張っている裏を舐めながら、ぐるぐると舌を回してやると反応が違うぞ」

「分かった。わたしもやってみる」

 

 何やら、どこをどうすればオレの反応がいいかのレクチャーをしている。

 まほがチ○コをつまみ、指先を舌に見立てて亀頭を撫で回す。

 みほも教えを受けながら、ふんふんとうなずきつつ先っぽを触ってくる。

 

「ん、あむっ」

「おぉ……」

 

 再び、みほが咥えてきた。

 姉に教えてもらった通りに舌を動かしてくる。カリ首の裏側を舌でほじるように一周しながら、亀頭全体をねっとり舐め回してくる。

 さっきのまほと同じような、けれど感触の違う口淫。悔しいけれど、気持ち良くて快感の声が漏れてしまう。

 だってたまらないんだもの。

 なんて風に、亀頭を包む温かさに浸っていたら。

 

「んっ、ん……。んむっ」

「うっ、くぅ……」

 

 みほが、少し深くまでチ○コを咥え込んできた。

 カリのくびれ部分を締めつけていた唇を、陰茎の真ん中くらいまで届かせる。

 亀頭が口の中の粘膜に押しつけられる感触。

 これも膣の中で味わうのとはまた違った気持ち良さだ。

 

「みほちゃん。歯を立てないようにして、唇に力を入れて」

「んっ」

「そうそう。そのままちゅうちゅうと吸ってみて」

「んむ……。ちゅ、ちゅぱっ」

「おぉ……。吸われるぅ……」

 

 みほは、唇の力に強弱を入れながら頭を前後に揺する。唇でチ○コをしごく動きに、下半身が快感で痺れてくる。

 

「んっ、ちゅぶ、んぶっ。ふは、はぁ……。んむ、んんっ」

 

 深めに咥えた時の反応やポイントが、今度はみほからまほへと伝えられる。その上で、まほも同様のフェラチオを実践してくる。ちゅぶちゅぶと、深く浅く、頭を前後させながら、口の中全体でオレのチ○コを気持ち良くしてくれる。

 

「2人とも、すっげぇ気持ちいい……」

 

 みほと、まほが、交互にオレのチ○コを咥える。

 そのつど、2人は自分のしたことを互いに伝え合う。

 どこに触れれば、どう舐めれば、そのくらい力を入れれば、オレがどんな反応見せるのか。

 勃起したモノを咥え、上目遣いでオレを見つめながら、どこが気持ち良くなるのかを彼女たちは探る。そしてその結果を互いにすり合わせるのだ。

 おかげで2人のフェラチオは、たちまちオレをメロメロにしてしまうほどに技量を上げた。気がつけば、みほとまほの頭に手を置いて、快感のあまり腰砕けになっていたくらいに。

 

「みほちゃん、まほちゃん、もうだめ、たまらん」

 

 今の2人は、同時に亀頭を甘噛みしながら先っぽだけを舐め回している。実際にこみ上げてくる気持ち良さもさることながら、みほとまほが股間に顔を埋めているその姿がイヤらしくて、興奮して。

 もう、こらえきれなかった。

 

「出る、イクよっ」

「んふ、んっ、ふぁっ」

「んんっ、ん、はぁ……」

 

 2人に見つめられながら、思い切り射精する。 

 みほとまほをイカせるほど抱いて、でも出し損ねていた快感の塊を一気に吐き出した。その気持ち良さは中出しセックスに勝るとも劣らない。

 射精している最中も、2人の舌と唇はチ○コを刺激し続ける。

 ぺろぺろ、にちゅにちゅ、はむはむと。

 長い射精を終えて萎えかけたチ○コが、お掃除フェラのおかげでまた勃起し始める。精子がタマの中に再装填される感じだ。

 

「これ、クセになりそうでやばい……」

 

 ほぼ無意識につぶやいていた。股間に舌を這わせて綺麗にしてくれる、みほとまほの頭を撫でながら。下半身にまとわりつく快感を堪能する。

 オレの反応と興奮具合を見て、2人は満足げだ。イカされてばかりだった相手をイカせた、というのもあるのかもしれない。もちろん、本当のところは分からないけれど。

 ただ、つい口から漏れ出た「お掃除フェラ」という言葉を、2人は覚えたみたいだった。

 

「みほちゃん。まほちゃん。2人ともすっごく気持ちよかった」

 

 ありがとう。

 こうまでしてくれた彼女たちに、愛しさを込めて礼を述べた。飽きずに2人の頭を撫でる。

 今気づいたけれど、フェラチオをしていた状態で頭を撫でたら、またチ○コに押しつけるような形になる。そういうつもりはなかったけれど、みほもまほも、促されたと思ったのかフェラチオを再開した。

 ダブルのフェラチオが気持ち良過ぎる。股間に顔を埋めながらこちらを見上げる2人の顔がエロくて、もっと見ていたくて、止められない。

 いや、奉仕してもらってばかりじゃだめだ。彼女たちももっと気持ち良くしてあげないと。

 

「2人とも、今度はオレの番だよ」

 

 オレは、ソファに座っていたみほとまほを、揃って横たわらせた。

 

 

 

 ―続く―

 




「ガルパン総集編」を観に行ってもらったフィルム、結構アタリなシーンなのではあるまいか。
槇村です。御機嫌如何。



はい、西住姉妹との3Pプレイはまだ続きます。なげぇよ。
今回分、姉妹丼も含めて6000字くらいに収めるつもりだったのに。
まさかフェラチオシーンだけで5000字に届くとは思わなかった。
今後エッチシーン書く際にボリュームつけなきゃってプレッシャーになってしまう。
次回こそ、みほ&まほの味比べです!(ストレートかつ下品な引き)






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07:※身も心もⅣ/みほ&まほ (姉妹丼)

 みほとまほを、ソファの上に並んで横たわらせる。

 といっても、浅いところに座らせて、背もたれにもたれ掛かるような体勢。オレはその前に座り込み、2人の裸体をじっくりと眺める。

 綺麗な肌。

 十分に豊かな胸。

 そそられるお尻や腰つき。

 すらりとしながらしっかり肉づきもある脚。

 流れるようなボディライン。

 上から見ても下から見ても飽きない。そそられる。

 ……よし。今回は下から責め立てていこう。

 

「あっ」

「んっ」

 

 彼女たちの膝に手を置いて、そのまま滑らせるように太ももへ。引き締まっているけれど柔らかい、触り心地満点な感触を味わいながら、撫でる。さする。

 みほとまほ、2人とも同じところを、同じように手を這わせて、同時に愛撫する。くすぐったそうな反応をするのが可愛らしい。

 太ももをあちこち行き来しながら、指先は少しずつ上の方へとのぼっていく。

 そして、同じタイミングで秘部に触れた。

 

「はぅ、んっ」

「っ、くぅっ」

 

 割れ目を、軽く撫でる。それだけで、みほもまほも、腰を震わせた。指先にかなり濃い愛液が絡みつく。

 2人ともすでに一度挿入されて、思い切り絶頂している。その時点でもうヌレヌレの状態だった。続けてオレのチ○コを舐めまくっていた間も、にじみ出る愛液と、下半身のうずきは収まっていなかったみたい。少し指に力を入れただけで、ぬちゃりと、2人の陰唇は揃って指を咥え込んでくる。

 

「俊一くんの、ゆびっ……」

「ナカが、んんっ、圧されるっ」

 

 みほのおま○こも、まほのおま○こも、咥えたオレの指をきゅうきゅうと締めつけてくる。

 その動きに逆らうように、指で押し返す。浅い部分を掻き混ぜるようにして、膣口と陰唇を刺激する。みほとまほは、こみ上げてくる快感をこらえるように顔をしかめた。

 指を、もう1本増やす。

 

「んんっ、あぅ、ん……」

「はぁ、く……」

 

 指2本分、2人の割れ目が横長に広がった。どちらのおま○こも指を強く締めつけてくる。それを押し返すように、指を動かす。膣の入口すぐのところを、内側からまんべんなく撫でる。

 みほとまほの口から漏れ出る喘ぎ。もっと聞かせてくれとばかりに、彼女たちの膣内をゆっくりと掻き混ぜる。絡みついてくる膣壁、膣内のざらざらするというか、ぬるぬるするというか、そんなところを刺激する。

 みほも、まほも、おま○こに差し込んだ指の動きはほぼ同じだ。膣の浅いところを一緒に刺激すると、反応する場所が似たようなところにある。姉妹だとこんなところも見るのかと少し感動し、同時にこみ上げてくる性感にゾクゾクさせられる。

 けれど、指が膣内の深いところまで入っていくと、2人とも反応するポイントが違う。指を締めつけてくる動きも違ってくる。姉妹とはいえやっぱりGスポットは異なるんだなと改めて感動し、もっと喘がせたいという欲求に神経がぞわぞわしてくる。

 

「我慢できた方から、先にシテあげるからね」

 

 そう言ってオレは、みほとまほのおま○こに差し入れた指をさらに動かしていく。

 

「あっ、ん、ふぁあ……」

「くぅっ、ん、はぁんっ」

 

 ゆっくりとした動き。2人はそれに合わせて切なそうに声を漏らす。明らかな喘ぎの声をこらえようとせずに、みほもまほも、オレの愛撫をと責めを素直に受ける。それがまた可愛らしくて、動かす指に力が入ってしまう。愛撫が激しくなっていく。

 くちゅくちゅと、指の動きに合わせて愛液が音を立てる。絡みついてくる水気が、おま○こを掻き混ぜる動きをスムーズにしていく。

 脚を開いたみほとまほが、オレの指マンを受けて喘ぎ、身をよじる。指を咥え込んで、吸いつくように締めつけてくる。さっきまでチ○コを挿入して、イカせていたかと思うと興奮が治まらない。

 直接イカされてから間が開いていなかったせいか。先に高まりきったのは、姉のまほ。

 

「だめだっ、あっ、俊一、いく、イカされっ、ん、くぅっ!」

 

 オーガズムに腰を痙攣させ、震える太ももでオレの手を力いっぱい挟み込む。けれどそれは、おま○こに咥え込んでいる指を抜けなくさせただけ。むしろもっと奥へと引き入れることになってしまう。それをいいことに、オレは締めつけてくる膣の中でさらに指を動かす。撫で上げる。擦り回す。

 

「……っ、んくぅ、ふぁ、は……」

「まほちゃんのおま○こ、すっごいビクビクしてる」

 

 可愛いなぁ。

 絶頂に蕩けた表情をしながら、でもどこかで快感に流されまいと理性を残しているように見える。そこがまた、オレの劣情を刺激する。もっとイカせたいとか、鳴かせたいとか思ってしまう。

 けれど。

 

「まほちゃんが先にイッちゃったから。順番は、みほちゃんからね」

 

 少し意識を飛ばしてしまったまほに軽くキス。

 そして。

 すぐ隣にいる、みほに圧し掛かった。

 

「いくよ、みほちゃん」

「俊一くんっ、待って、あたしももう、はぅんっ」

 

 さんざん指で掻き回された、みほのナカにチ○コを挿入する。

 すでに快感が限界近くまで高まっていたんだろう。膣奥までスムーズに突き進み、途端に強く、きゅーっと締めつけられる。気持ち良さに、背筋が震える。

 

「みほちゃんのナカ、気持ち良くて、最高だよ」

「恥ずかしいから、言っちゃ、んっ、やぁっ、だめ、あぁんっ」

 

 みほに覆いかぶさり、腰を振り出した。

 愛液でぐしょぐしょになったおま○こに、勃起チ○コを突き入れる。絶え間なく締めつけてくる膣壁を押しのけて、亀頭が、カリが、陰茎が、彼女のナカを擦り上げていく。ヌルヌルの粘膜がすれ合って、オレの快感もどんどん高まる。

 まだ挿入したばかりなのに、みほは限界を迎えた。

 思い切り力を込めて、抱き着いてくる彼女。まるでオーガズムの波にさらわれまいとするように。

 腕と同じように、みほのおま○こも、オレのチ○コに絡みつきながら締め上げてくる。膣壁が震えて、陰茎の敏感なところを擦りつける。気持ち良さに腰がしびれて、彼女のナカの奥の奥まで届けとばかりにチ○コを押し入れた。

 

「くっ、ふぅ、んんっ」

「俊一くんっ、だめ、またイッちゃうからっ」

「いいよ、イッちゃって。オレに見られながら気持ちよくなって」

「んっ、はぁんっ、んんんんんんっ!」

 

 女の子のおま○この、きつくて柔らかくて蕩けそうな感触。

 みほの絶頂する膣内が、きゅっきゅっきゅんっ、と強く締めつけてくる。

 その動きをチ○コいっぱいで感じて、快感を噛みしめながらたっぷりと味わう。

 

「すっごい蕩けた顔してる。みほちゃん、そんなに気持ち良かった?」

「はふ、んぅ……。しゅんいちくぅん……」

 

 イッてしまって意識をトロトロにさせた、みほ。軽く口づけるだけのキスをすると、抱き着いてきて「もっと」とねだってくる。

 

「俊一くんのことを考えるだけで、お腹の奥がウズウズするの……」

「じゃあもっと、オレなしじゃいられなくしないと」

「もう、俊一くんじゃないとダメなの。俊一くんが大好きなのっ」

「オレも大好きだよ。オレの、みほちゃん」

 

 みほは、オレのモノ。

 彼女の耳元で囁く。

 身体を震わせて、さらにおま○こを締めつけてきた。

 気持ち良さを散らすように、求められるまま唇にキスをする。

 ちゅ、ちゅっ。

 おねだりに応えて口づけると、彼女の膣内も合わせてきゅっ、きゅっ、とうごめく。

 たまらない。

 みほが甘えてくるのに身を任せてしまいたくもあるけれど。

 

「まほちゃんにおあずけをしてるからね」

「んぅ……。あぁ、ん……」

 

 すぐ隣で、まほが、妹の甘えながら抱かれている姿を切なそうに見つめている。

 名残惜しいけれど、みほのナカからゆっくりとチ○コを引き抜く。

 

「おまたせ、まほちゃん」

 

 オレの興奮はまだ収まらず、チ○コは大きく勃起したまま。股間のたぎりはむしろ強くなっている。けれど、姉妹揃ってのダブルフェラで射精したおかげでまだ余裕があった。

 まほの脚の間に場所を変えて、彼女の引き締まった腰を抱える。

 そしてチ○コを股間にあてがった。

 

「んんっ、ふぁぁ……」

 

 愛液でびしょ濡れのおま○こは、すんなりとチ○コを飲み込んでしまう。

 離さないと言わんばかりに、まほはオレを抱きしめてくる。

 

「しゅん、いちぃ……」

「まほちゃん、待ちきれなかった?」

「もっと、もっと俊一で、私のナカをいっぱいにしてほしい」

 

 可愛らしい言葉に、まほの頭をつい撫でてしまう。

 年上のお姉さんが甘えてくる。たぎらずにはいられない。

 

「もちろん。まほちゃんも、オレのモノだから」

「私を、私もっ、俊一のモノにっ」

 

 切なそうに懇願するまほ。

 興奮が止まらない。

 腰に力が入って、おま○こに突き入れるスピードが上がる。

 オレしか知らない、まほのナカの一番奥までチ○コで埋め尽くす。

 亀頭が膣奥を押して、腰を引く。

 愛液でヌラヌラになった膣内を擦りながら、抜けないギリギリまで戻っていく。

 その繰り返し。

 けれど1回1回、チ○コを締めつけてくる感触が違う。快感の声の上げ方が違う。

 

「俊一、あっ、んっ、しゅんいちっ」

 

 まほの喘ぎが、口づけを通してオレの口の中に響く。もっとしてと言わんばかりに、彼女の方から首に腕を回して、キスをする。吐息と声と快感を注ぎ込んでくる。

 彼女の頭を抱えていた手を離し、まほのおっぱいに手を伸ばす。

 

「ふぁ、んっ、胸、はんっ……」

 

 大きくて、形が良くて、柔らかい。そんなまほのおっぱいをぐにぐにと揉みしだく。

 片方の胸が、オレの手でいやらしく形を変える。もう片方は、オレが腰を動かしてピストンするごとにぷるんぷるんと踊りまくる。

 

「あぁもう、いやらしいし、可愛いなぁ」

 

 胸を揉んでいた手を自分の身体の支えに回して。腰の動きをより強く速くしていく。まほに抱きつかれたまま、腰の動きだけで彼女の快感をより高めていく。

 

「っ、あっ、んっ、くぅ、ん、んんっ」

 

 まほのナカの弱いところをチ○コで探り当てる。

 ここと、ここ。

 カリを擦りつけるように、右へ左へと腰を回す。

 

「そこは、あぁっ、だめっ、あっ、はぁんっ」

 

 強くなっていく締めつけが気持ちいい。

 けれど、まほの方はもう限界が来てしまったみたいだ。

 

「まほちゃん、イッちゃえ。オレにイカされちゃえ」

「イク、俊一、イッてしまう、んんっ、はぁ、あぁぁっ!」

「大好きだよ、まほちゃん」

 

 ひと際激しい膣内の動き。強い締めつけ。その中を、ずんっ、と限界までチ○コを突き入れる。ごりごりと押しつけながら。うごめくナカのうねりを、チ○コ全体でいっぱいに感じ取る。

 

「まほちゃんの、ナカ、さいっこう……」

「はぁっ、はぁ、あ、ん、くぅ……」

 

 ぴくぴくと、絶頂でのけ反り、震える、まほの身体。膣内も同じようにきゅんきゅんと、ぎゅっぎゅっと絶えずうごめいて、オレのチ○コを締め上げてくる。

 たまらない快感。

 けれど、また耐えられた。

 彼女だけ、いや、連続して彼女たちだけを先にイカせてしまった。そのことに言いようのない興奮と、悦びを感じてしまう。

 絶頂おま○この連続締めつけをしばらく味わって、チ○コを抜く。

 姉妹2人分の愛液にまみれて、まだまだ果てずに勃起したままのイチモツ。もっとみほとまほを抱きたいと主張しているようだった。収まらない興奮と性欲に、我ながら頼もしくなってしまう。

 

「みほちゃん、こっちにきて」

 

 まだ興奮に蕩けたような顔をしている、みほ。

 抱き寄せて、ひとつ口づけを落とす。

 

「んっ……。え、きゃっ」

 

 彼女の脚を取って、まだソファに横たわっている姉・まほの上にまたがらせた。

 上に、みほ。

 下に、まほ。

 重なった2人の股間が、オレの目の前で露になる。

 

「これは、絶景だな」

 

 姉妹のおま○こが揃って丸出しだ。2人のこんな姿を見られるのはオレだけだと思うと、チ○コがさらに硬くなってくる。

 みほのお尻、まほの内股に手を置く。

 

「あんっ」

「んっ」

 

 親指をそれぞれの陰唇に添えて、2人のおま○こをゆっくり広げた。

 べっとりと愛液に濡れた、陰唇の先、膣の入口がひくひくと動いている。オレのチ○コが出入りしていた。そう思うと、みほとまほへの想いが募り、胸のうちと下半身がうずいてくる。

 2人の股間に顔を近づける。

 まずは、姉・まほのおま○こ。

 

「はぁっ、ん……」

 

 イッたばかりで敏感なんだろう。大陰唇を舌でなぞっただけで、まほは腰を震わせた。

 彼女の太ももを抱えて、まほのおま○こをさらに舐め回す。小陰唇から膣の入口、再び大陰唇をと、股間全体にまんべんなく、何度も何度も舌を行き来させる。

 加えて不意を突くように、割れ目全体を舐め上げたり、陰裂上部にあるクリトリスを舌で強めに弾いたりする。

 

「ひあっ、あっ、く、ふぅっ、ん……」

 

 舌を這わせるだけじゃなく、唇を当てて軽く吸い立てる。

 ちゅっちゅっとクリトリスを吸い、舌を使って掘り出すかのようにつけ根から舐め上げる。陰唇全体にも舌を這わせながら、強く唇を押しつけていく。

 まほのおま○こに、キスの嵐。マーキングをするかのように。れろれろ、じゅるじゅると、音を立てながら、クンニをして責め立てる。

 

「俊一っ、それっ、気持ち良くて、つらいっ」

 

 喘ぎを上げる、まほ。けれど、股間に顔を埋めているオレからは表情が見えない。

 まほの上には、みほが覆いかぶさっている。まほの股間から顔を上げても、みほのヌレヌレになった股間が目に入ってくるだけだ。

 もちろんそれも興奮するんだけど。

 

「感じてるお姉ちゃん、色っぽい……」

 

 みほはみほで、姉が快感に喘ぎ乱れる姿をじっと見つめていた。

 みほの手が、まほの胸に触れる。形のいい膨らみを手のひらいっぱいに収めて、快感で勃起した乳首を弄った。

 

「あぅっ、あっ、みほ、そこはっ」

「お姉ちゃん、可愛い」

 

 妹が、普段は凛々しい姉をペッティングで責め立てるとか興奮ものだ。みほの声はどこか楽しそうでもある。思わぬ一面を垣間見たような気もした。

 そんな彼女に意地悪をしてみたくなる。

 まほのアソコをクンニしていた口を離して、目線を上へ。姉の胸に夢中になっているみほの秘部とお尻が、目の前でふりふりと揺れている。

 目標をみほのおま○こへと変更した。

 

「ひゃっ。あんっ」

 

 みほの秘部に指を添えて、割れ目を広げて見せる。

 合わせ目が離れる時に、ぬるついた愛液がくちゅりと音を立てる。

 したたりそうなそこを、オレは舌を伸ばして舐め上げた。

 

「はぅ、んんっ」

 

 みほが可愛らしく声を上げる。もっと鳴かせたいと、おま○こ全体に舌を這わせていく。

 ひとしきり大陰唇を舐め回し、割れ目をぱっくりと開いて舌を突き入れた。

 膣の浅い部分を舌先でなぞる。唇に触れる小陰唇の感触を味わい、みほのナカを貪ろうとする。

 

「そんなに、舐めちゃっ、ん、あんっ」

 

 ぺろぺろ。

 ふにふに。

 じゅるじゅる。

 

 思うままに、みほのおま○こを舐め、触り、吸う。

 横になった姉をまたいだ体勢だから、みほは脚を閉じられない。オレにお尻を突き出した状態だ。おま○この割れ目からお尻の穴までさらけ出している。

 そんな彼女のお尻をわしづかみにしながら、秘部を舐め回す快感といったらない。

 

「あっ、はっ、ん、あっ、俊一くんっ」

 

 口元を愛液でどろどろにしながら、みほの喘ぎ声を聞く。彼女の快感の震えが、おま○こを通して口元に、揉みしだいているお尻から手に伝わってくる。もっと感じろとばかりにクンニと愛撫を加えていって、みほの快感を募らせる。

 

「ふぅ。みほちゃんの気持ち良さそうな声も、最高だよ」

 

 みほひとりの声でもゾクゾクしてしまう。

 なら、みほとまほ、2人が同時に喘いだら?

 

「2人とも、もっと声を聞かせて」

「あぁっ、んっ」

「はふ、んんっ……」

 

 オレは、みほとまほの膣内へ、同時に指を差し入れた。

 上と下に重なる姉妹のおま○こ。その割れ目の奥の感触を、両手の指で感じられる。

 この悦び。

 興奮せずにいられない。

 あふれ出る愛液を掻き出すように、くりくりと指を動かす。2人の膣壁を刺激すると、咥え込んだ指を締めつけてくる。みほもまほも、おま○この中は同じようにきつくて柔らかい。けれど、指を通して伝わってくる感触は、みほとまほで全然違う。それを直に感じられることが嬉しくて仕方がない。

 指を動かし、膣壁を優しく擦りながら、2人のおま○このナカを掻き回す。ぬちゃぬちゃ、くちくちと音を立て、ぬめり気いっぱいの膣。強く締めつけながらも、指の出入りはスムーズに行える。

 

「あっ、はっ、は、んっ。ふぅ、あ、くぅんっ」

「くぁ、んっ。しゅんいち、んっ、ああぁ、しゅんいちっ」

 

 彼女たちのナカの気持ちいところを探り出し、快感と喘ぎを引き出していく。

 爪を立てないように気をつけながら、指先だけで膣内のあらゆるところを擦り立て、刺激する。2人のおま○この締めつけも小刻みになってきて、きゅうきゅうと指を吸い込もうとする。

 何度目か分からないオーガズムの前兆が、膣のうごめき方から伝わってくる。姉妹揃ってイッてしまえと、オレは指の動きにより熱を込める。

 

「だめっ、イク、イクっ。しゅんいちくんっ、あっ、しゅんいちくんっ!」

「あっ、んくっ、私も、あっ、そこだめっ、いっ、あぁっ!」

「2人とも、いいよ。イッちゃって」

 

 みほとまほが、身体を重ねて互いに抱き合いながら腰を震わせる。

 背がのけ反り、脚を張り詰めさせて。

 一瞬、硬直。

 そして、揃って大きく嬌声を上げた。

 絶頂。オレの指をおま○こに咥えたまま腰を暴れさせる。膣壁が指を食いちぎろうとするかのように強く締め上げてくる。

 

「はーっ、はぁ、んぅ。あ、ん……」

「ん、くぅ。はぁーっ、はぁ……」

 

 息絶え絶えの、みほとまほ。

 その呼吸に合わせてぎゅうぎゅうとと締めつけてくる2人のおま○こ。

 この締めつけの気持ち良さを、オレは知ってる。

 挿入したい。

 チ○コで味わいたい。

 我慢なんて、しなかった。

 オレは指を抜いて、立ち上がり、みほのおま○こにチ○コを当てる。

 

「んっ……」

「ふぁぁ……。しゅんいちくんが、入ってくるぅ……」

 

 ゆっくりと、でも躊躇いなく、みほのナカ深くまで押し入れた。

 オーガズムの余韻が残る彼女の膣内はまだまだ強く締めつけてくる。

 あぁ、やっぱり気持ちいい。

 この快感をもっと味わうべく、オレは腰を振り始める。

 ぱんっ、ぱんっ。

 ぬちゅ、ぱしっ。

 みほのお尻と、オレの股間がぶつかる音がいやらしく響く。

 おっぱいに負けないくらいに揉みがいのあるお尻を両手でわしづかみにする。つかんだ尻たぶの間に、お尻の穴と、チ○コを飲み込んだおま○こ。腰を前後に揺するのに合わせて追いかけてくる襞。チ○コにダイレクトに響いてくる快感と、視界が脳に与えてくる精神的な快楽に溺れる。

 みほを抱いてる。身も心も許してくれているというのが嬉しい。

 腰の動きが速くなる。

 ピストンが強くなる。

 合わせて、みほの喘ぎ声も短く切羽詰まったものになっていく。

 

「ひゃんっ、あぁっ」

「みほちゃん、みほちゃんっ」

 

 彼女の名前を呼びながら、ナカの奥深くまで突き込む。下半身でグルグル回る性的なうずきが、みほの膣にチ○コがしごかれることでどんどん大きくなっていく。

 でも、まだ達してしまうのはもったいない。

 盛り上がっていく性感を抑え込んで、チ○コを引き抜いた。

 

「んっ、はぁん、あ……」

 

 封が外れたように、みほの股間から愛液があふれ出た。そのまま垂れ落ちて、まほのおま○こに飛び散る。エロい。

 

「次は、まほちゃん」

「んっ……。はぁ、あっ……」

 

 妹の愛液にまみれたチ○コを、続けて姉・まほのナカへ。

 膝の裏に手を入れて、大きく脚を開かせる。上に覆いかぶさっている妹・みほごと盛り上げる勢いで、腰を突き入れた。

 

「しゅん、いちぃ……。んぅ……」

「まほ、ちゃんっ」

「はうっ」

 

 膣奥までいっぱいにされて、まほはその圧迫感に声を漏らす。

 同時に、みほも嬌声を上げた。密着していた股間が刺激されたのかもしれない。

 それならそれで好都合。

 まほの太ももを片手に抱え、みほのお尻をもう片方の手で撫でながら、まほの膣内にピストンを送り込む。その振動が、みほの秘部に刺激を与えるようにしながら。

 腰を押しつけるごとに、まほが声を漏らす。膣内全体を、亀頭とカリがくまなく擦り上げる。彼女の身体の内側から快感を引き出そうとする。

 みほの方は、自分の股間を姉のアソコに押しつけられている。その状態のまま、さっきまで挿入されていたのと同じように、オレの腰を連続してお尻に打ちつけられる。

 チ○コを包み込み締めつけてくる、まほのおま○こはもちろん気持ちいい。けれどピストンするごとにお腹に当たる、みほのお尻の感触にも目が移ってしまう。

 

「我慢する必要はないよね」

 

 まほのナカの感触を十分に味わって、チ○コを抜く。再度、みほのナカへと挿入した。お尻をつかみながら、大きく勢いをつけて腰を振る。みほの膣内を擦り立てるように。

 2人の秘部を渡り歩くように、交互にチ○コを突き入れる。上下に重なった姉妹のおま○こを、好きな方に挿入して、好きなように堪能する。

 上のみほ。下のまほ。それぞれの、ほぐれた膣の締めつけ具合、愛液にまみれたぬめり気、絡みつく膣壁の動き、刺激するごとに上がる喘ぎ声などなど。姉妹のエロい反応や感触を存分に味わう。

 オレの愛撫やピストンの刺激をこらえながら、みほとまほが喘ぐ。快感に身体を震わせる。乱れる姿に、まるで2人同時に挿入しているような気持ちになってくる。

 みほのお尻をわしづかみにして、突き込むようにナカで暴れる。

 まほの太ももを抱えて、押し込むようにナカを貪る。

 交互に姉妹のおま○こに挿入して、同じようでまったく違う膣内の感触と締めつけ具合を比べるように堪能する。

 すでに1回射精しているといっても、この気持ち良さをこらえるのも限界がある。みほのナカで、まほのナカで、いつ快感が爆発してもおかしくなかった。

 

「みほちゃんっ」

「あんっ、はっ、しゅういちくんっ、あっ」

「まほちゃんっ」

「しゅんいち、しゅんいちっ、んっ、ふぁっ」

 

 もうこらえるのを止めた。ただ快感で登り詰めるためだけのために、がむしゃらに腰を振る。みほに、まほに、またみほにと、小刻みに2人のおま○こを行き来して情欲をぶつける。

 

「ふたりとも、大好きだぞっ」

 

 射精の寸前、最後の最後で、オレは2人の重なったおま○この間にチ○コを差し込んだ。

 

「ひゃんっ、そんなところっ」

「んぅっ、こすれて、響くっ」

 

 泡立った愛液でぬるぬるになった彼女たちの秘部。上下から割れ目に挟まれて、腰を振る。

 陰唇同士が陰茎を挟み込む。その間を前後するごとに、亀頭の先とカリ部分が2人のクリトリスを引っ掻いて刺激した。

 挿入されるのとは違った、姉妹揃って受ける快感。みほとまほは上下に重なった状態で抱き合いながら、絶頂する最後のひと押しに2人が震えた。

 オレも限界がきた。おま○こでサンドイッチにされるチ○コの気持ち良さ。膣内で感じるのとはまた違う快感。2人の割れ目に包まれながら、こらえきれない射精感を解放する。

 

「いく、出るぞ2人ともっ」

「あっ、しゅんいちくんっ、んっ、あぁっ!」

「しゅん、いちっ、ふぁぁぁっ!」

 

 みほと、まほ。2人の股間挟まれたまま、思い切り射精する。吐き出した精の塊が柔らかなお腹をべとべとに汚していく。オレは精どころか心も身体も吸い取られてしまうかのような感覚に襲われた。

 

「はぁ、ふぅ、んっ……」

「ん、はぁ、あふ……」

 

 絶頂して、呼吸を乱す、みほとまほ。オレも射精した気怠さを感じながら、2人がオーガズムに震える姿を眺める。

 みほの色っぽい背中と上気したうなじ。

 まほの性に蕩けた表情と吐息。

 ……性懲りもなく、下半身がたぎってきた。

 

「あんっ。また大きくなってきた」

「たくましいな、俊一……」

 

 みほとまほが、チ○コの変化に気づく。おま○こに挟まれたまま、再び腰を振り始めた。

 黒森峰の学園艦を去るまで、残り時間はあと少し。両親が帰ってくる夕方までまだ時間はある。

 オレは彼女たちとの3Pをもっと堪能すべく、第3ラウンドへと突入した。

 

 

 

 ―続く―




推敲しながら思ったこと。
なんとなく、まほさんとのエッチを厚くしようとしてないか?
いや決して、みほをないがしろにしているつもりはないのだが。
槇村です。御機嫌如何。



しばらく間が開きました。
正直に言うと、エッチシーンが続き過ぎて、書いてて疲れていた。
内容が3Pだとはいえ、エッチ1回が文庫本換算で約1/4のテキストになるのはどうかと思う。
読んでる方も疲れない?

今度からはもっとスリムにできるように心掛けよう。
でも「書きたいなぁ」と思うに任せて進めたので結構満足はしていたりする。
ただ未だに書き方を模索しているのはあって。自分で気になる点もいろいろと。
前述の「1回のエッチが長くなり過ぎた」と思ったのがひとつ。
もうひとつは、気がついたら「チ○コ」「おま○こ」を使い過ぎたのではないかと。
どうだろうか。気にならない?
ここらへんもスリムにしていきたいなと思っている次第。

もう1回お話を挟んで、その次が大洗入りになるかと思います。(主人公が)


※誤字のご指摘ありがとうございました。




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08:君がいるだけで/みほ&まほ (イチャイチャ回)

 おま○こサンドイッチで盛大に射精して、みほとまほをザーメンでべったべたにしてしまった後。一緒に風呂に入って身体を洗い合ったりした。

 狭い風呂場で、みほとまほの柔らかな身体を隅々まで洗ってあげるのは思いの外楽しかった。触れていないところが思いつかないくらいに、全身にくまなく手を、指先を這わした。時々舐め回したりもして、身体を洗っているのか愛撫しているのか分からなくなったりしたけれど。

 ともかく、彼女たちの身体を自分の手で綺麗にしていくのは征服欲のようなものが満たされた。

 同じように、オレの身体も2人に洗ってもらう。みほとまほの手が全身を這い回り、身体を押しつけてくるのはたまらなく気持ちよかった。風呂の前のセックスで2回射精していなければ、あっという間に達していたかもしれない。ガン勃ちとまではいかなくとも、またまた勃起してしまうほどの夢心地さ。半勃ちのチ○コを、みほとまほの2人の手で弄ってもらうのは最高だった。

 そんな風に、オレは学園艦を降りる最終日を爛れた感じで過ごしてしまった。

 残りの数時間も違った意味で濃い時間を過ごしたよ。

 夕方近くになって、服を着た状態で健全に西住姉妹とイチャついたり。

 帰ってきた両親に、みほとまほを見られて驚かれたり。

 黒森峰では有名な2人といつ知り合ったのかとか問い詰められたり。

 テンパって「2人ともオレの恋人だから」と爆弾発言をして父さん母さんに呆れられたり。

 まさかの両親へのおつき合い宣言に、みほとまほが真っ赤になって同じようにテンパったり。

 戦車道大会決勝の経緯を知っていた母さんが、みほの優しさと行動を褒めたり。

 それを聞いたみほが号泣して、母さんに抱きついたり。

 みほとまほが、気がつけばオレの両親をお義母さまお義父さま呼びしていたり。

 女性同士の話が盛り上がっている間にオレが夕食を作るはめになったり。

 当然のようにオレと両親、みほ、まほが食卓を囲んだり。

 もう学園艦を降りる時間だというところで、みほとまほと抱き合って別れを惜しんだり。

 連絡先を交換して再会を約束したりと。

 ……むしろ、エッチなことをした後の方が濃厚な時間だった気がするな。

 

 

 

 そんな夏休みの最終日に黒森峰の学園艦を去ってから、もう1カ月が経った。その間、オレとみほ、まほの関係は、陸地と学園艦の間での遠距離恋愛のようなものになっている。

 で、今日は、黒森峰の学園艦が熊本港に帰港する日。西住姉妹と毎日している電話やメールで教えてもらって、2人と会うために港まで来ているわけだ。

 期間は10日から2週間くらい、らしい。スケジュール的に、学園艦が離れたらすぐにオレも大洗に引越すことになる。タイミングがいいと喜んでおこう。

 すでに港には学園艦が入港している。船から降りるタラップもつながっていて、艦から降りてくる人たちの中から彼女たちを探すだけだ。

 黒森峰の制服を着た女の子が、2人。

 きょろきょろと学園艦の下をうかがっている彼女たちと目が合う。

 オレが手を振ると、1人はぶんぶんと大きく手を振り返し、もう1人は落ち着いた様子で手を上げて応えてくれる。

 みほと、まほだ。

 

「俊一くんっ」

 

 タラップを降りてすぐ、みほは勢いよく駆け寄って抱き着いてくる。

 オレはあらかじめ身構えて、彼女の突進を受け止めた。

 

「うぅー、1カ月ぶりの俊一くんだぁ……」

 

 抱きついた状態のまま、みほはオレの胸板に顔を埋めてぐりぐりと押しつけてくる。

 

「俊一くん、会いたかったよぉ……」

「オレもだよ、みほちゃん」

 

 彼女を抱きしめ返す。

 みほは嬉しそうに表情を崩して、さらに強く抱きついてきた。

 そんな反応が可愛らしくて、彼女の頭を抱えながら優しく撫で回す。

 

「俊一」

 

 そうしているうちに、まほも追いついて目の前にやってきた。

 

「まほちゃんも、1カ月ぶりだね」

「あぁ」

 

 抱き着いているみほにちょっと離れてもらう。

 そして「おいで」と言わんばかりに、両手を広げた。

 まほは嬉しそうに、顔をほころばせながら、オレに抱きついてくる。

 

「会いたかったぞ、俊一」

「オレも会いたかった。電話やメールじゃ足りないよね」

「まったくだ」

 

 しばらく抱き合ったまま、互いの感触を味わって。ひとまず離れる。

 人目のあるこんなところじゃ、あまり落ち着けないしね。

 

「2人とも、今日はどういう予定なの?」

「俊一と会う以外は特にないぞ」

「わたしもお姉ちゃんも、俊一くんと会うのを一番の楽しみにしてたからね」

 

 さも当然のようにクールに言うまほと、少しテンション高めのみほ。

 思わず苦笑してしまう。

 けれど、すごく嬉しい。

 

「とりあえず、どこかで腰をすえておしゃべりでもしようか」

「うんっ」

「そうだな」

 

 みほに手を伸ばすと、嬉しそうに指を絡めて握ってきた。

 まほは抱きとめていた腕に身を寄せて、ぎゅっと腕を組んでくる。

 両手に花。ぴったりとくっついた状態で、オレたちは場所を変えるべく港から歩き出す。

 どこに行くかは決めていない。けれど、歩きながら行き先を決める会話でさえ、みほとまほは、楽しそうにしている。その姿を見るだけで、オレも嬉しくなってしまった。

 手をつなぎ、腕を組み、会話に花を咲かせながらしばらく歩いて。それから手近なコーヒーチェーン店に入って、腰を据えてから簡単な近況を交わし合う。

 といっても、毎日のように電話やメールをしていたからこれといって目新しいことはない。でもお互いの顔を見ながら話を聞くと、知っていることでも中身に厚みが出てくるように感じられる。その程度のこと。でも「その程度」の違いが嬉しかったりするよね。

 そんな会話の中で気になることがひとつ。

 ついさっきは2人とも「予定はない」と言っていたけど、正確には違うみたいだった。

 学園艦が着港したのは土曜日の午前中。艦から降りる許可が下りたのが午後イチ。2人はいの一番に艦を降りて、オレに会いに来てくれた。でもこの後、夕方には実家の西住家に戻らなければいけないという。

 

「予定あるじゃん。オレに会いに来たって言ってくれるのは嬉しいけど、そっちの方が重要なんじゃないの?」

「でもたぶん、家で待ってるのはお母さんのお説教だと思うから」

「……戦車道の?」

「戦車道の」

 

 たはは、と、みほは諦観したような笑いを浮かべる。

 オレはどう言葉を返せばいいか分からず。テーブル越しに彼女の手を握るくらいしかできない。

 みほの隣に座っている姉・まほも、妹に肩を寄せて抱きしめた。

 

「お母様があの試合のことをどう言おうと、私はみほの味方だ」

「お姉ちゃん……」

「西住流の戦車道として、あの試合の結果は受け入れられないのかもしれない。けれど、道から外れてしまったら、それで戦車道を否定されるわけじゃない。あの時の、みほが信じて取った行動は間違いじゃない。胸を張っていいと、私は思う」

 

 みほは、姉の言葉に感極まったのか。まほに強く抱きついた。

 うん。美しい姉妹愛というやつだね。

 この光景を見て。それにしても、とオレは思う。

 

「戦車道のことになると、門外漢のオレは役立たずだな」

「そんなことないよ」

 

 姉に抱きついたまま、みほはオレの方に顔を向ける。

 体勢はともかく、その表情はすごく真剣だ。

 

「俊一くんがいてくれたおかげで、すっごく救われてるんだから。もし俊一くんがいなかったら、わたし、もっと鬱々としてたと思う」

「そういう意味なら、私も救われてるな。俊一がいなかったら、私はこんなに素直にみほと接することが出来たかどうか」

 

 みほが、オレのことを持ち上げる。まほも、妹の頭を撫でながら同意した。

 ……2人の評価が、ものすごく、くすぐったい。

 顔が赤くなってくるのが自分でも分かる。2人も、オレが照れているのに気づいたみたい。

 みほがオレの手を握る。その上から、まほも手を置く。

 

「普通に接してくれるだけで、嬉しいんだよ?」

「役に立たないなんて、そんなことは言わないでくれ」

 

 ……やっべぇ。なんでこんなに照れ臭いのか。

 つい、視線を外してしまう。

 視界の端に、笑顔のみほとまほが映って見えた。

 

「それはいいとして。自由になる時間は夕方前までなら、これからどうする?」

 

 ごまかすようにして新しく話題を振る。分かりやすい照れ隠しでも、スルーしてくれる西住姉妹に感謝感激である。

 乗ってくれた2人も、少し悩む。

 時間にしてあと3時間くらいか。がっつり何かをしようにも、ちょっと中途半端な残り時間。どうしたものかと考える。

 すると。

 

「俊一くんのお家に行ってみたい」

 

 挙手しながら、みほが言う。

 まほも、控えめに手を上げながらそれに乗っかった。

 そういうわけで、2人をわが家へ招待することになった。

 ちなみにこのあと実家に戻るという予定があるので、エッチなことをすることもなく。時間いっぱいまで健全にイチャイチャしながら、1カ月分のスキンシップ不足を補った。

 みほもまほも精神的に満たされたような表情をして、我が家を離れていった。

 学園艦もしばらく着港してるんだから、会う時間はまだまだ作れるでしょ。

 

 

 

 夜遅く。両親も仕事から帰ってきて、ゆったりしていた頃。玄関のチャイムが鳴った。

 こんな時間に誰だと思ったら。

 

「まほちゃん、に、みほちゃん?」

 

 まさかの西住姉妹だった。

 夕方前に、実家へ戻るのを見送って数時間しか経っていない。

 

「どうしたの、こんな時間に」

「俊一。済まないが一晩泊めてもらえないだろうか」

「は?」

 

 見たところ、2人は黒森峰の制服姿のまま。実家に戻りはしたものの、着替えを用意する暇もなくオレの家にとんぼ返りした、といったところか。

 ということは、何かあったんだろう。

 

「……あー。分かった。ちょっと待ってて」

 

 両親をどう説得しようか、と思ったところで。

 母、登場。

 戻ってこない息子をいぶかしんだのかもしれない。けど玄関にいたのがみほとまほだと分かって、途端に上機嫌になった。あらあらまぁまぁという感じ。

 とりあえず、2人を今晩泊めてあげたい、と頼んでみる。

 母、オーケーを出す。まさかの即答だ。

 決めるや否や、早く上がれと急かし出した。

 強引に西住姉妹を家に上げる母。

 手を引かれながら、戸惑いの顔を向ける、まほとみほ。

 いやオレに助けを求められても困る。

 でも正直なところ、揉めることもなくて助かった。

 母さん少しは悩むなり常識を説くなりしろ、なんてことをちょっと思ったけれど。

 結果オーライだから、まぁいいや。

 

 まほとみほに少し遅めの夕食を振る舞って。さらに「埃を落としてスッキリしろ」とばかりに風呂へ入れさせる。母さんの勢いに負けて、2人は言われるままに風呂場へ押し込められた。

 2人が風呂に入っている間に、母さんと父さんから「事情は知らないがちゃんと慰めてあげろ」と言われた。上がったらオレの部屋に送り込むからと、まほとみほ用の布団が持ち込まれる。

 いやいや、年頃の男女を同じ部屋で寝かせようとか、親としてどうなの? と思いもしたけれど。好都合ではあるから何も言わずにおく。さすがに両親がいる家の中でエロいことをするつもりはない。それくらいの節度はある。

 しばらくして。ノックの音がした。

 

「俊一、入ってもいいだろうか」

「どうぞー」

 

 ドアを開けて、顔を覗かせたのは、まほ。その後ろに隠れるように、みほがいる。

 2人とも、なぜかオレ用のジャージを着ていた。寝巻として渡されたんだろう。まほもみほも、揃って少しぶかぶかなところとか、短めの髪がまだ少しお湯で湿っているのとか、なかなか見られないだろう姿がとっても可愛い。

 座っているベッドの両隣をぽんぽんと叩く。まほとみほは、促した通りにオレの両隣にそれぞれ座った。

 

「何があったか、オレが聞いても平気?」

「あぁ、問題ない。簡単に言えば、親子喧嘩をして家を飛び出したというだけだからな」

「……戦車道のことで?」

「戦車道のことで、だ」

 

 まほいわく、こういうことらしい。

 先だっての戦車道大会決勝から続いている、みほと西住流の考え方の違いから生まれた確執。流派の家元である彼女たちの母親は、再指導という名の下、ことあるごとに説教をしていたという。今日は、みほに加えて、まほに対しても説教が及んだらしい。

 まほの考え方が、みほをかばうものになった。

 しかもそれを黒森峰の戦車道チームに説いている。

 その考え方は西住流として許容できないものだ。

 西住流の後継者として育ててきたのにいったいどうしたんだ。

 などなど。

 そんな話に展開していったらしい。

 冷静にその時の状況を語るまほ。

 対してみほは、その場面を思い出したのか苦笑しきりだ。

 

「それで、私とお母様との言い合いになってしまってな。同じように説教を受けていたみほが止めに入ろうとする始末だ」

「お姉ちゃんが、お母さんに言い返すところなんて初めて見たかも」

「確かに、そうかもしれない。これまでの私は、西住流を体現する者であろうとしていた。お母様が家元として口にすることはすべて必要なことだと考えていたからな」

「お母さんも驚いてたよね。たぶん、お姉ちゃんが言い返してくるなんて思ってなかったんじゃないかな」

「ふふっ、私にも反抗期が来たのかもしれないな」

 

 まほも、みほも、落ち着いてきたのか口調は穏やかだ。少なくとも、落ち込んでいるような雰囲気は感じられない。そのことに、オレは少しほっとする。

 

「じゃあ、その戦車道についての言い争いが収まらなくて、2人して飛び出してきたってこと?」

「あはは……。本当は家に泊まって、明日になってから学園艦に戻るつもりだったんだけど」

「飛び出したのはいいが、こんな時間では学園艦に入れないことに気づいた。どうしたものかと考えて……」

「オレのところを思いついたと」

 

 まほに対して抱いていたイメージが、少し崩れた気がした。もっときっちりとして、感情任せの行動は取らないような印象があったのだけれど。

 悪くない。むしろいいと思う。

 

「……迷惑だったか?」

「いや、全然。頼られて嬉しいくらいだよ」

 

 オレは、まほの身体を抱き寄せる。

 密着する彼女の身体。柔らかくて温かい感触が伝わってくる。

 

「あっ、ずるい」

「ん。みほちゃんもおいで」

 

 もう片方の腕で、みほも抱き寄せた。

 両腕に姉妹を抱えたまま、オレは背中からベッドに倒れ込む。

 

「きゃっ」

「ひゃんっ」

 

 2人もつられて、オレに覆いかぶさるような形で倒れ込んだ。

 抱きかかえながら、まほとみほの頭を撫でる。

 風呂上りの、少し水気の残った髪が指先をくすぐって気持ちいい。

 2人とも逆らう様子は見せず、むしろ身体を擦りつけてきて密着しようする。

 

「聞いてる限り、実家のお母さんとバトったのは主にまほちゃんなの?」

「俊一くん、バトるって……」

「今日に限っては、そうだな。これまでお母様は、私やみほと1対1で話をすることが多かった。姉妹でお説教、というよりも、揃って顔を合わせたのは決勝戦直後以来かもしれない」

 

 ……通ってるのが学園艦だというのを差し引いても、それでいいのか西住家の親子関係は。

 余計なことだと分かっていても、思わずそんなことを考えてしまう。

 

「わたしの場合は、もうあの時の行動を全否定されてるから。俊一くんとお姉ちゃんのおかげで落ち込まずに済んでるけど、考え方を改めろってお説教され続けてたら……」

「私がみほを擁護する論調を打ち始めたからな。お母様は、みほよりも私の方を何とかしようと考えているんだろう」

 

 ごく普通の一般家庭で育ったオレには分かりかねる世界だ。2人の話す内容や口調が、妙にドライに感じられて仕方がない。

 

「なんというか、母親というよりも、家元として接することが多いの?」

 

 思わず、そんなことを尋ねてしまう。

 まほは疲れたような様子を隠さず、脱力してオレにもたれ掛かる。頬ずりをしてきて、甘えながら、彼女は言葉を続ける。

 

「何も黒森峰の、西住流のすべてを否定しようというわけじゃない。起きてしまったことを反省して、それを糧に、こうした方がいいという問題提起をしているんだ」

「まほちゃんと、みほちゃんもか。もしまたこういうことが起きたらこうするべきっていう主張をして、それが受け入れてもらえずにぶつかってる。そういうこと?」

「そういうことだな」

「てことは、さ。家元をはじめとした大多数は、改める必要なしって考えてる?」

「……そういうことだな」

「戦車って、浸水するよね?」

「当たり前だろう。潜水艦じゃないんだ。カーボンが守る云々とは話が違う」

「もし試合中に水没したらどうするか、っていうマニュアルみたいなものはあるの?」

「……正直なところ、私も考えたことがなかったんだ」

 

 言いながら苦笑いする、まほ。

 腕枕の状態で、寝返りを打ち、密着してきた。

 まほが首筋に顔を埋めてくる。

 少し愁いを帯びた表情が目の前に。

 豊かなおっぱいが、脇に押しつけられる。

 あぁ、美人さんが気を許してくれて、油断したところを見せてくれるって幸せだなぁ。

 無防備なまほを抱きしめたくなってしまう。

 というか、抱きしめた。

 

「何を言えばいいか分からないから、抱きしめてごまかすくらいしかできない」

「ふふ、悪い男だな」

「自覚はしてる。姉妹揃って手を出した最低男だからね」

 

 まほのおでこに、ぐりぐりと自分の額を押しつける。

 こらやめろ、と言いながら、彼女の表情は楽しげだ。オレも、年上のお姉さんとふざけ合うスキンシップが出来てとても楽しい。

 

「俊一くん。お姉ちゃんばっかり構って、ズルイ」

 

 まほとイチャついていると、反対側からみほが抱き着いてきた。

 姉に負けず劣らず、柔らかくて気持ち良くて幸せな感触が、オレの身体に広がっていく。

 

「ごめんごめん。もちろん、みほちゃんも大好きだよ」

「……もっと言ってくれないと、許してあげないから」

「みほちゃん、大好き」

「きゃっ」

 

 みほの肩に手を回して、もっと近くに抱き寄せる。

 まほと同じように、オレの脇に密着して身体を押しつけるような状態になる。

 首筋に顔を埋めさせると、密着度が上がったせいか、みほの表情が緩んでくる。

 へにゃりとした顔が可愛らしくて、愛でるように彼女の頭に頬ずりしてしまう。

 それもまた気持ちいいらしくて、みほは気持ち良さそうな声を漏らす。

 

「はぁ……。癒されるぅ」

「癒されるって、みほちゃんも何かやらかしたの?」

「おい俊一、"も"とはなんだ」

「俊一くん、その言い方は人聞きが悪いと思う」

 

 まほとみほの両方から文句が飛んできた。不本意そうに歪めた顔も可愛く見えてしまうのは、姉妹揃って美人さんだからなのか、それとも恋人だからという欲目なのか。

 

「だが、みほ。やらかしたというのもあながち間違いじゃないだろう。そもそも家を飛び出す直接の原因は、みほの方じゃないか」

「え、そうなの?」

「お姉ちゃんっ!」

「本当のことだろう?」

「確かに、そうだけどっ」

「え、何があったのさ」

「実はな」

「待ってお姉ちゃん、やめてぇーっ!」

 

 間にオレを挟んで寝っ転がりながら、何やら言い争いを始める、みほとまほ。

 とはいっても、険悪なものではなくて。仲のいい姉妹がじゃれ合っているような感じだ。見ているだけ、聞いているだけで、何だか微笑ましくなってくる。

 

「……俊一くん、どうして笑ってるの」

 

 みほが、ジト目で見上げてくる。

 それがまた妙なツボに入って、おかしくなって笑えてくる。

 

「いやー、仲がいいなと思ってさ」

 

 そう言いながら、今度はみほのおでこに、ぐりぐりと額を擦りつけた。

 きゃー、いやー、なんて風におどけた声を出す、みほ。少しも嫌がっていない。声の調子は姉と同じくどこか楽しそうだ。

 

「む、俊一。みほだけじゃなく私も構ってくれ」

「待ってお姉ちゃん、もうちょっと」

「なに、そんなに額ぐりぐりが気に入ったの?」

「いや、されたことも新鮮だったが。俊一がすごく近くにいる感じが、いいといおうか」

「じゃあお姉ちゃん。わたしたちの方から、俊一くんにぐりぐり作戦をすればいいんだよ」

「なるほど。自分から頬ずりをしていくんだな。……うん。恋人っぽくていいじゃないか」

「え、ちょっと待って。嬉しいけど、ちょっと待って」

 

 なんやかやと、イチャイチャし続けるオレと、まほとみほ。

 思わぬ風に始まった、男側の両親公認による、恋人たちとのお泊り会のようなもの。スキンシップはあれど、強いてエロい雰囲気になることもなく。夜が更けても、終始楽しげな会話とやり取りは終わる気配を見せなかった。

 

 

 

 ―続く―





黒森峰の学園艦って、熊本港に入れるのか?
槇村です。御機嫌如何。



「懐に入って、抱きつきながら頬ずりをする西住姉妹」が書きたかった回。
でもまさかイチャイチャさせるだけで終わるとは思いませんでした。
本当は学園艦が離れるまでのデートとかエッチとかを書くつもりだったんだけど。
これで区切っちゃってもいいかなと。
なお、西住家で何があったのかは想像にお任せします。

次回はついに大洗入りです!(主人公が)
新たに彼の毒牙に掛かるのは誰なのか(笑)
お楽しみに。





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08.5:うれしい!たのしい!大好き!/幕間

お泊りの後を簡単に書いてみた。



 みほとまほが泊まり込んだ夜。オレたちは随分と遅い時間まで、どうってことのないおしゃべりとじゃれ合いを続けた。

 最後は3人とも寝落ち。2人のために敷いた布団にオレも寝転がって、みほとまほがしがみつくようにして寝てた。ぐっすり寝ていて、母さんが起こしに来たのにも気づかないくらい。仲良く川の字になって寝ていたそうで、そんな俺たちを見た母さんは、呆れ半分微笑ましさ半分だったらしい。

 

「おしゃべりしながらご飯を食べられるって、すごくいいよね」

「賑やかな食卓というのは、いいな」

 

 みほとまほは、オレの家で朝食を済ませてから学園艦に帰っていった。

 後から聞いた話だと、家を飛び出した2人の連絡がなかったせいで、西住家はちょっとした騒ぎになっていたらしい。学園艦に連絡をしても、夜だからもちろん2人は中に入れない。じゃあどこへ行ったんだ、警察に連絡を、いや連絡はちょっと待て、などと大わらわだったとか。

 ウチの両親も、夜中に西住家の電話番号を調べて連絡を入れようとしたらしい。でもつながらなかったんだとか。タイミングが悪かったんだな。

 結局連絡がついたのは、学園艦に戻った西住姉妹本人たちからの電話。友人宅に泊めてもらったとごまかした、と言っていた。

 彼女たちがそう言うなら、そういうところで収まったんだろう。

 幸いにもと言おうか、西住家の人や警察は我が家に来ていない。

 オレの知る限りではだけど。

 

「港に着いてるのに、学園艦から降りられないなんてぇ……」

「連絡を怠った報いと言われればそれまでなんだが、な」

 

 そんな騒ぎがあったせいか。その日は2人とも学園艦から降りることができなかった。

 みほとまほから電話があって、デートできなくてごめん、と謝られた。残念ではあるけど、気にするなと返しておいた。会えるのは今日だけってわけじゃない。

 ところで。

 学園艦というのは学校だ。帰港している間も、もちろん学校はある。みほとまほも、日中は学園艦の中で授業を受けているわけだ。オレも学校に行ってるしね。放課後になれば自由時間もできるだろうから、彼女たちの都合に合わせて、顔を合わせるようにしようと思っていた。

 思っていたんだが。

 平日の放課後も、2人は学園艦を降りる許可が下りなかったらしい。

 これはちょっと予想外だった。

 すぐ近くにいるのに会いに行けないなんて、ストレスが溜まる。

 そんな電話やメールがひっきりなしにきた。

 正直なところ、オレもすごく残念だった。

 「学園艦をバルコニーに見立てて、ロミジュリごっこでもする?」なんて冗談をメールで送ったら、まほが本気にして、みほが必死に姉を止めるというヌケたやり取りがあったりもした。それを聞いたオレは真面目に2人に謝ったよ。もっとも、みほとまほとで謝る内容のベクトルが違っていたけど。

 

「1週間ぶりだよ俊一くん!」

「思っていたよりもこの1週間は長かったぞ俊一……」

 

 週末になってようやく、みほとまほの下艦許可が下りた。

 先週と同じように、オレが港まで迎えに出向く。

 学園艦を降りるなり、みほは駆け寄ってきてオレに抱き着き。

 まほも少し小走りで近づいて、抱き着いてきた。

 可愛さを再認識する。もちろん2人を抱きしめ返してあげる。

 そんな感じでスタートした土曜日は、オレの家に直行。両親が仕事でいないのをいいことに、会いたくても会えなかった鬱憤を晴らすかのようにセックスしまくった。みほもまほも私服だったから、黒森峰の制服で着衣プレイが出来なかったのが少し残念。

 夕方前までデロデロでヌルヌルな爛れた時間を過ごす。

 風呂に入って精臭をさっぱり落としてからは、だらだらとイチャついていた。これといって何もせず、密着しながらのんべんだらりとするだけ。

 それだけなのにあっという間に夕方過ぎになり。

 遅くならないうちに、みほとまほは学園艦へと戻っていった。同じ間違いはもうしないのだ。

 

「今日は健全デート大作戦です!」

「みほ、健全を強調して言うのはよせ」

 

 日曜日は、3人で連れ立って遊び回る。

 午前中にまず、母さんの「2人を連れてきなさい」という命令の下に我が家へ集合。みほとまほが、母さんからのハグ攻撃を受け。当たり前のようにオレ、両親、みほとまほで、少し早い昼食を済ます。

 それからようやく、出陣だ。

 といってもやることは大したものじゃない。

 ウインドウショッピングにしゃれ込んだり。

 3人でクレープを買い食いして「あーん」をし合ったり。

 カラオケは未経験だという2人を連れて、カラオケボックスに入ってみたり。

 戦車道について何も知らないオレに、西住姉妹が本屋でレクチャーを始めたり。

 公園でまったりと寝転んで、膝枕をしたり、されたり。

 ……うん、健全なデートだな。

 月曜日になったら学園艦は出港して、みほとまほは海の上へ。

 来週にはオレも熊本を離れて、大洗へ行くことになる。

 オレも、みほも、まほも、しばらく会えなくなる分まで楽しみ尽くそうとしていた。

 

 そして夕方、タイムリミット。

 学園艦に戻るタラップ前まで、みほとまほを送る。

 

「じゃあ、またね」

「俊一くん……」

「俊一も、元気でな」

 

 2人をそれぞれ、ぎゅっ、と抱きしめる。

 名残惜しいけれど、切りがないからこれで今日はお終い。

 

「たぶん、年末年始は熊本に来れると思う。というか来るから」

「分かった。楽しみにしている」

「俊一くん、約束だからね」

 

 再会を約束して、2人と別れる。

 みほとまほが学園艦に乗り込んでいくのを、姿が見えなくなるまで見送った。

 そして月曜日。学園艦は熊本港から出港していった。

 

 その翌週。

 オレは家族と一緒に熊本を離れて、茨城県大洗町へと引っ越した。

 ……それはいい。それはいいんだ

 でも父さん、母さん。ひとつ言わせてくれ。

 転入する学園艦で一人暮らしするなら、オレは熊本にいたままでもよかったんじゃないの?

 

 

 

 ―続く―




9話の導入を書いていたらバランスが悪くなったので、短いけれど独立させた。
槇村です。御機嫌如何。



タイトルは「うれしはずかし朝帰り」にしようと思ったんだけど、ちょっと違うなと。
それじゃあB面の「うれしい!たのしい!大好き!」でいいかという単純脳。
……このタイトルにするなら、もっと濃いデート回にすべきだったなと思った。

次回は、主人公が大洗学園に転入してからのお話。
感想欄でズバリ正解されてしまったので言いますが、次のお相手は柚子さんです。





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主人公、新天地・大洗へ
09:気がつけば君のこと/小山柚子


 両親の仕事の関係で引っ越し、共学になったばかりの元女子校に転入する。

 どんなギャルゲーのシチュエーションだよ!

 自分の境遇に思わずツッコミを入れてしまう。

 ……考えてみると、可愛い姉妹2人と関係を持って同時につき合ってるんだから、ギャルゲーというよりもむしろ十八禁な主人公じゃねえか。今さらながらの自分の状況にびっくりだわ。

 いくら言ってもキリがないから、そのあたりはもういいとして。

 新しくオレが通うことになる県立大洗学園。

 内地の学校かと思っていたら、まさかの学園艦だった。

 しかも両親の仕事の関係でついて来たのに、両親は内地勤務になって、オレは学園艦の中で一人暮らしをすることに。

 こんなことなら熊本で一人暮らしをしてても良かったんじゃなかろうか。みほとまほとも近い距離でいられるしな。

 その場合、内地と学園艦で離れているとしても、一応は同じ熊本県内だ。引っ越した今の、九州と北関東じゃ距離的に違いがあり過ぎる。まさかの事態に思わず嘆いてしまう。

 ちなみに同じことを電話で、みほとまほに言ってみた。2人ともオレと同じように嘆いていた。「どうしてこうなった」と。

 

 さて、気を取り直して。

 本拠地が茨城の学園艦・県立大洗学園。数年前までは、女子校だったらしい。

 なんでも、生徒数の減少や学校運営の諸々とかが絡んで、共学化に踏み切った。そのお陰なのか、少しではあるが人も運営も持ち直している傾向にあるとか。転入手続きをする際に、生徒会の人たちからそんな話を聞いた。

 ひょっとすると、変な時期の転入だから受け入れられる学校がなかったのかもしれない。大洗学園は生徒を集めている最中だったから、受け入れる余裕があった。そんなところなのかも。

 とはいえ、共学になったばかりでまだまだ女子生徒の方が圧倒的に多い。比率で言えば、男子生徒1に対して、女子生徒が3から4くらいじゃなかろうか。さすが元女子校。男子生徒1人が学園内の女子生徒3人と同時につき合っていても、数的には問題ない計算だ。

 ……いやいや、数の計算以外は問題だらけじゃねぇか。自分の想像に思わず呆れてしまう。自分がハーレム状態だから考え方が麻痺していたのかもしれない。普通に考えれば、オレの男女関係の方がおかしいんだから。気をつけろオレ。

 おかしいといえば。

 

「気のせいじゃなかったみたいだなー」

 

 生徒会が握っている権力というか、実務の多さについて。

 明らかに生徒がやることじゃないよね、ということまで生徒会が手掛けていることが気になった。学園の運営の重要なところまで、生徒会がかなり強い力を持っているように感じられる。

 転入する際の説明やら手続きやらは、ほとんど生徒会の人たちがやっていた。最初こそ担任の先生が大枠の説明をしていたけれど、詳しいところは生徒会に任せっぱなし。生徒の自主性がどうとかこうとか。そんなことを言っていた。

 いいのかそれで。

 オレの転入手続きを請け負った生徒会の人たちが、どうやら就任したばかりみたいで。いろいろと手探り状態のまま処理をしていた。見ていてそれが分かるくらいに。

 こっちの方が不安になってきて、思わず平気なのかと声を掛けてしまった。

 すると片眼鏡の生徒会広報の人からキレられた。いきなりヒステリックになって、黙って見ていろ言われる。いやいや、訳が分からない。

 それがきちんと処理されないと、オレはこの学園に通えないんですよ?

 呆然とするオレを見て、生徒会長は広報の人を諫めるでもなく笑っていて。

 副会長の人はこっちが気の毒に感じてしまうほど謝ってきた。

 なにこれ。崩壊学級ならぬ、崩壊生徒会なの?

 また後日、転入の書類に関することで職員室を訪れる。担任の先生に話をすれば、「書類関係の処理は生徒会に」と言われてしまう。

 

「マジかよ」

 

 正直、関わりたくねぇ。

 初対面で怒鳴ってくるような人には近寄りたくないし、それをほったらかしにするような人にも会いたくないわぁ。

 学園に関わる雑事の処理やら書類やらは生徒会主導なんだとさ。最終的には先生に回ってくるらしいけど、そんな内情は知らんよ一般生徒は。

 先にも触れた通り、現生徒会は代替わりをしたばかり。あれこれこなしたり、あちこち行ったり来たりすることが多いと聞いた。

 

「オレ、ちゃんと転入できるのかな」

 

 大丈夫大丈夫と、担任の先生は笑う。

 ……オレの考え過ぎなのかな。本当に大丈夫?

 

「まぁ、オレが気にしても仕方のないことだけど」

 

 ただでさえでっかい学園艦なんだから、処理もろもろが集中してこなしきれなくなったらまずいのでは。素人考えながらそんなことを思ったけれど。いやでも逆に、だからこそ生徒会まで駆り出されてるのかもしれない。

 だとしたら、生徒会の人間が3人って少なすぎないかね。

 

 生徒会会長・角谷杏。

 生徒会副会長・小山柚子。

 生徒会広報・河嶋桃。

 

 書記はいないの?

 それはいいとして。

 3人とも2年生の先輩。前述の通り、それぞれ役職に就いてまだ日は浅く、今はまだてんやわんやの状態。やるべきことのあれこれを3人で分担してこなしているそうな。

 転入手続きのあれこれで、オレの相手をしてくれたのが、副会長の小山柚子さん。

 第一印象では、この人だけが生徒会の中で唯一まとも。対応してくれるのが彼女で本当に良かった。初対面で怒鳴ってきた広報と、それを笑って見ていただけの会長に対しての印象が良くないから。仕方ないよね、人間として。

 ただ本当に、この人しかオレに関わらなかった。それぞれ担当しているアレコレが忙しいらしい。はー。

 

「じゃあ、書類関係はこれで全部お終い。転入は3日後だね」

「はい。ありがとうございます」

「当日の朝は職員室に行ってもらって、担任の先生から指示を受けてくださいね」

「分かりました」

「何か気になるところがあったら、生徒会まで連絡してね。またわたしが対応することになるけど」

「はぁ」

 

 やっぱり、生徒と直に相手をするのは生徒会なんだ。改めて思ってしまう。

 返事が気の抜けたものだったせいか、小山さんがオレの方に目を向ける。

 

「何か気になるところがあった?」

「いや、なんというか。転入手続きやらの対応ってのは、生徒会がここまでするもんなのかなぁと。普通は先生がやるもんじゃないかと思っていたんで」

「確かに、そうかもね。他の学校がどうしてるのかは知らないけど」

「そりゃそうだ」

 

 オレも想像で言ったり考えたりしているだけで、実際はどうなのかは何も知らない。転校だとか転入だとかをする生徒なんて、そう多くはないだろうし。

 でもなぁ。

 

「小山先輩。傍から見て、むちゃくちゃお疲れに見えるんですけど。身体、平気ですか?」

「え、そんな風に見える?」

「フラついてるのに顔は笑ってるから、なんだかハラハラしますよ。オレのヘンテコな時期の転入が面倒なことをさせてるんじゃないかとか」

「別にそんなことはないと思うし、そんなことも言われてないんだけどなぁ」

「……指摘する余裕がないだけなのでは」

 

 自覚がないとかヤベェ。

 この人、本当にフラフラなんだよ。

 なのに笑顔を見せようとしてるのが痛々しく見えるんだよ。

 なに、他の人は気づかないの?

 それともそう見えてるのはオレだけなの?

 

「本当にお疲れ様でした。えぇもう、いろいろと。おかげでココに通うことができます」

「あはは、これがお仕事だから」

「いやマジで、ありがとうございます。最初に片眼鏡の人が怒鳴ってきた時は、本当に転入できるのかなと思いましたから。今考えると、あの人もやること多すぎてテンパってただけなのかもしれないし」

「あはは……」

 

 結局、他の人も同じ環境でデスレース中だから気遣いが出来てないんだと判断する。

 かといって、学園の偉い人たちがやることだから、オレができることなんて何もない。

 なので、気持ちだけ。

 

「はい、どうぞ」

「え?」

「チョコレートと、飴玉です。ほんの気持ちだけでも労わろうと思って」

 

 持ち合わせていたおやつを、小山先輩に手渡す。

 ポケットの中から飴玉と、カバンから小箱のチョコレートを取り出した。

 

「甘いものを食べると幸せな気分になりますよ」

 

 キョトンとした表情が、なんだか可愛い。

 次いで、嬉しそうに表情を緩ませた。

 

「ありがとう、大瀬良くん。気遣ってくれて、嬉しいな」

「いえいえ。根を詰めるにしても、倒れない程度にしてくださいね」

「ふふ、気をつけるね」

 

 箱を開けて、キューブ型のチョコレートをひとつ摘まみ、口の中に放り込んだ。それから箱を彼女の前に置く。小山さんも勧められるまま、という感じでチョコを摘まんで、ぱくりと口の中に入れる。

 

「おいしい……」

「染みわたります?」

「うん」

「それは何より」

 

 はふぅ、と、力を抜くように息を吐く小山さん。オレはその姿を見て「うんうん」とうなずきつつ、口の中のチョコを転がす。

 少し力の抜けた雰囲気と、甘い味を楽しみながら。

 しばらく2人してまったりとした時間を味わった。

 

 

 

 そんなこんなで迎えた転入初日。これから通う教室に入って、改めて思わされる。

 元女子校ってのは本当なんだなー、と。

 担任の先生に促されてクラスメートにご挨拶。教壇の横に立って教室内を見渡せば、約40人のクラスに男子生徒は10人もいなかった。ほとんど女の子。こんな光景初めて見た。

 とりあえず自分の席の周囲から、男女問わずにコミュニケーションを取りつつ授業を受ける。放課後になったら男子生徒たちに声を掛けて、あれこれと話をしてみた。

 どうやら彼らは少しばかり肩身の狭い思いをしているらしい。自分たちの4倍も多い女子生徒たちに委縮しているみたいだった。

 あー、下手なことをしてクラスの女子勢力からこぞって責められたくないとか、そういうのを恐れているのかな。もしくは女の子の数が多すぎて、どう接していいか分からないとか。

 

「普通にすればいいんじゃないの?」

 

 と思うんだけど、男子たちは「そう簡単なことじゃない」と言う。

 よく分からん。

 ひょっとするとこれから、オレの知らないサスペンスフルな大洗ワールドが展開されるのだろうか。そんなことを言ったら逆に「ないない」と笑われた。

 同性の親交を深めるべく、身になったりならなかったりする話をしていると。担任の先生に声を掛けられた。転入の書類に抜けがあったから生徒会にこれを持っていけ、と書類を渡される。

 なんでオレが、と思いながらも書類を受け取り。クラスメートと別れて生徒会室へ。

 ノックをしてから入ってみると、小山さんがいた。

 

「あれ、大瀬良くん?」

「お疲れ様です。担任の先生からこれを持っていけと」

 

 そう言いながら書類を手渡すと、彼女は大きなため息を吐いた。

 おや、らしくない。

 

「ごめんなさい。わたしのミスで面倒を掛けちゃったね」

「いやいや、これくらいは大したことじゃないですよ」

 

 はいどうぞ。

 フィルム詰めされた小さなチョコレートを小山さんに渡す。

 彼女は小さく笑いながら、それを受け取ってくれた。

 

「言い訳になっちゃうけど、普段はこんなミスをしないように気をつけてるんだけどね。やっぱり疲れてるのかなぁ」

「放課後、いの一番に生徒会室で仕事してるんじゃ、疲れる要素しかないような気がしますけど」

「言い返せないなぁ」

 

 小山さんは苦笑しつつ、小粒のチョコを口の中に入れる。

 

「ん。おいし」

「それは良かった」

 

 席を薦められたので、隣の椅子に座る。

 彼女は、書類のミスがあっただろうところを見直して、何かを書き込んでいる。

 

「じゃあこれは、わたしの方から先生に渡しておくから」

「ありがとうございます」

「ううん、こっちのミスだから。むしろ足を運ばせちゃってごめんね」

「それはいいんですけど……」

 

 んー。あんまりごめんごめん言われると、かえってモヤモヤしてしまう。

 彼女自身に悪気はまったくないのだろうから、どうこう言うのも失礼だろうと思ってスルーしよう。顔を見せていると気を遣われそうだし、退散しようか。

 

「じゃあお仕事の邪魔にならないように、お暇しますね」

 

 追加でどうぞ、と。

 ひと口サイズのチョコを数個、彼女の前に置く。

 

「あまり根詰めないでくださいね」

「ありがとう、大瀬良くん。気を遣ってくれて」

 

 笑顔で送り出してくれる小山先輩。

 可愛い。

 ……いやこれは浮気じゃないから。

 みほ。まほ。浮気じゃないから。

 小山さんの立派な胸とか見ないように気をつけてるから。

 

 

 

 でも、縁があるんだろうか。ふとしたところで小山さんと会ったりする。そのたびに、彼女は何かをしていたり、何かを運んでいたりと、本当に忙しそうにしていた。

 ひょっとして、気がついたらいろいろ抱え込んでしまうお人好しな性格なのかな。

 というかちゃんと授業は受けてるのか。

 疑問に思って、荷物運びを手伝った際に聞いてみた。

 生徒会権限とやらで、一部の授業が免除されてるんだってさ。その空いた時間を生徒会のあれこれに当てていると言われた。

 ……それはちょっと違うような。内申点をエサにしてこき使われてませんかね。学生の本分ってやつにケンカを売ってませんか?

 

「オレは真面目に授業を受けてた方がいいなぁ」

「えっ?」

 

 あ、思ってたことがつい口に出てた。

 でも小山さんは気にしなかったようで。

 

「わたしも時々、何やってるのかなって思うことがあるけど……」

 

 彼女の方も、つい口に出しちゃったみたい。

 ぽつぽつと、独り言のように言葉を漏らす。

 頼られるのが嬉しくて、いろいろと仕事を引き受けていた。

 そのうちにいっぱいいっぱいになってしまった。

 でも何とかやりこなすことができていた。

 するとまた仕事を任される。

 頼られるのは嬉しいから引き受けて、何とか終わらせて、また仕事を任されて。

 そんなループになっていたと。

 

「いやダメじゃんそんなの。冗談抜きで倒れちゃうよ」

「でもちょっとずつ仕事にも慣れてきたし。最近は、大瀬良くんがいい感じで息抜きさせてくれるし」

「オレを持ち上げてくれるのは正直嬉しいですけど」

 

 問題はそこじゃないよね。仕事に慣れたっていうよりも、仕事詰めの状況に慣れちゃったっていった方が正解なんじゃないの?

 ほんわかしていた小山さんの笑顔も、心なしか力がないような気がする。本当に倒れちゃうんじゃなかろうか。そんな危機感を覚えてしまった。

 

 

 

 その不安は早々に現実のものになった。

 翌日、小山さんが倒れて保健室に運ばれたと耳にした。言わんこっちゃない。

 放課後になって、見舞いのために保健室へ向かう。

 その途中で。

 

「あれ、ひょっとして小山のお見舞い?」

 

 ちっこい生徒会長と、片眼鏡の広報の2人に出くわした。

 面倒だな、と、正直なところ思ったけれど。顔には出さずに済んだと思う。

 

「最近、小山からさぁ、キミの話を結構聞いてたんだよねぇ」

 

 生徒会長の方が、何やら親し気に話しかけてきた。

 小山さんがオレの話題を出していたとは初耳だ。世間話だったとしても、ちょっと嬉しい。

 

「……小山を気に掛けてくれて、ありがと。それと、ごめんね」

 

 生徒会長の口調が、からかい交じりのものから変わる。いきなり真面目な声で、礼と、謝罪をされた。何についてのことなのかさっぱり分からない。

 

「まぁ、なにかとタイミングが合って、いろいろ話をしたりしてたのは事実ですけど。礼を言われるようなことをした覚えはないですよ。ましてや謝られる理由が分からない。むしろそれは小山先輩に言うことでは?」

「小山には、目を覚ましてから改めて言うよ。忙しいのを理由に仲間を蔑ろにしてて、その間に少なからず小山の支えになってくれてたのはキミだからさ」

 

 礼は言っておかないと、ってね。

 彼女はそう言う。

 

「……まぁ、そういうことなら、素直に受け取っておきますよ」

「うん、そうして」

「というか」

 

 聞き捨てならないセリフがあったよ?

 

「小山先輩、寝てんの?」

「そうだよ。今、保健室で寝てる」

「倒れて運び込まれたって小耳に挟んだんだが」

「現場にいたわけじゃないけど、そうらしいね」

「倒れて意識を失くして、そのまま熟睡? どんだけ無理してたんだよ。どんだけ仕事を突っ込まれてたんだよ。ブラックかよ生徒会」

 

 呆れてものが言えない。

 

「おい、貴様っ」

「あー、実際倒れちゃってるから反論できないねー」

「会長!」

 

 側に控えていた広報の人が口を挟もうとしたけれど、会長さんが半笑いで認めたせいで何も言えなくなっていた。というか認めるのかよブラックって。

 

「言い訳になっちゃうんだけどさ。生徒会のメンツが先輩たちから自分らに変わって、ほんっとやることが多くてね。小山がすっごく有能だから、あれこれ任せすぎちゃったってのがあるんだよね」

 

 あははー、と笑う生徒会長。

 おい、笑いがすごく乾いてるぞ。

 というか倒れる前の小山さんと同じ笑い方じゃねぇか。

 

「この学園の回し方がどうなってるかは知らないけど、生徒にそこまで負担を掛けてるってのはどうなの。学生の本分って言葉は存在しないの?」

「あ、こう見えてもわたし勉強はできるんだぞ」

「そういう問題じゃねぇから」

 

 なんだかもう、どうでも良くなってきた。さっさと小山さんの見舞いに行こう。

 頭痛を覚えつつ、ポケットから飴玉を取り出す。

 目の前の2人に放り投げると、それぞれキャッチした。

 会長さんは冷静に。広報さんの方は少し慌てながら。

 

「この後もいろいろやることがあるんでしょ? 甘いもんで気分でもほぐしてください」

「お、小山の言ってたおやつだね」

「小山先輩、そんなことまで話してたの?」

「嬉しかったってね。愛されてるなー、大瀬良くん」

「愛されてますか? そりゃあ素直に嬉しいですね」

 

 美人さんに好意を持たれて嬉しくない男子はいません。

 冗談交じりの受け答えが、不真面目でヘラヘラしていると思われたのか。広報の人が噛みついてきた。

 

「お前、会長に対して馴れ馴れし過ぎるぞ。しかもなんだ、柚子ちゃんに手を出すつもりか。許さんぞ」

「あ、オレ彼女がいるんで」

「なんだと?」

「それも2人」

「なんだと!」

「おぉ、やるねキミぃ」

「柚子ちゃん騙されてるぞ、こいつはとんでもない軟派男だ!」

 

 軟派男だっていうのは否定しない。そう思われても仕方ないし。改めるつもりもないけど。

 それにしてもこの広報の人、反応がいいな。打てば響くってやつだ。会長さんも面白そうに眺めてるし。

 ……あ。今のオレって、会ったばかりの会長さんと同じじゃねぇ?

 少しブルーになってきた。

 でもこの広報さんは確かにからかいたくなる。

 そんなやり取りをいくらかして。目的は小山さんのお見舞いだったとその場を離れることに。

 

「じゃあ後はよろしく。小山を労わってやって」

「いかがわしいことをしたら許さんからな!」

「少なくとも、同意がなければしませんよ」

「不純異性交遊は禁止だ!」

「広報さん、顔を赤くして何を想像したのかな?」

「かーしま、何かエロいこと考えた?」

「会長まで!」

 

 オレと会長さんの弄りに、広報さんが気持ちいいくらい反応する。

 やべぇ、この人面白いかも。

 そう思った時、会長さんと目が合った。

 2人して悪い笑みを浮かべる。

 あ、この人オレと同じこと考えてるな。

 わめく広報さんをニヤニヤしながら眺める、オレと会長さん。

 悪かった第一印象を少し改めよう。つきあい方次第では楽しい学園生活を送れそうだ。

 そんなことを思いながらその場を離れる。

 広報さんが指をさしながらオレに向かって何か言ってるのと、会長さんが楽しそうに笑っているのが、視界の端に見て取れた。

 

 

 

「失礼しまーす」

 

 保健室の扉をノックして、開ける。返事を待ってからの方が良かったかと思ったけれど、幸か不幸か保健の先生は不在らしい。

 部屋の端にベッドがふたつあって、ひとつはカーテンで仕切られている。たぶんそこで小山さんが寝てるんだろう。

 

「小山先輩?」

 

 声を掛けながらベッドに近づくも、返事はない。

 まだ寝てるのかな。

 

「カーテン、開けますよー」

 

 そう言ってしばし待ち、カーテンの向こうを覗き込む。

 横になっている小山さんが寝息を立てていた。

 見た限りでは、辛そうな様子はない。気持ち良さそうに寝息を立てている。倒れて気を失って、そのまま寝ていると聞いた。良かったと安堵するのが適当なのか、やや判断に苦しむ。

 そうしているうちに、保健の先生が戻ってきた。

 小山さんに世話になっている後輩だと言い、運ばれてきた経緯や状況なんかを聞く。数日前からフラついていたことを伝えると、保健の先生も苦笑いしていた。

 生徒の健康を考える立場として、生徒会の仕事量などに問題がないのかどうか確認してくれるらしい。状況に応じて、改善の具申などもするつもりだとか。

 それはいい話だね。思わず礼を言ってしまう。

 どうして君がお礼を? と聞かれて気づく。うん、オレは強いて礼を言うような立場の人間じゃないなと。

 でもまぁ、多少なりとも縁のある人が倒れてしまって、その状態が改まるかもというのだ。浅い関係だとしても、礼のひとつくらい言ってもバチは当たるまい。

 なかなかイケメンな考えだな、と先生が言い。

 外から見えないのが残念ですけどね、とオレは返しておく。

 先生と2人して笑い合った。

 ひとしきり会話をした後、先生は職員室へ。彼女が目を覚ましたら呼べ、と言われた。

 おい。男子生徒を、女子生徒が寝ているところに残していいのか。

 信用していると言いいながら、先生は保健室を出ていった。

 そんなことを言われても困るんだけどな。

 なんてことを思いつつ、ベッドの方に目を向けると。

 カーテンの隙間からこちらを覗いている小山さんが。

 

「目が覚めましたか」

「えっと、うん」

 

 なんだか、オレと目を合わせないようにもじもじしている。どうしました?

 すごく可愛らしい仕草なんだが、そんなことをされる理由が分からない。

 

「倒れたって聞いたから、お見舞いに来ました。オレの前に、会長さんと広報さんも来てたみたいですよ」

「あ、そうなんだ」

「廊下で会いましたから」

 

 会話をするも、小山さんの挙動不審は変わらない。

 あ、もしかすると保健室にふたりきりっていうので、緊張しているのかもしれない。

 それなら席を外すのが得策か。

 

「じゃあ、職員室に行ってきます。保健の先生、呼んできますね」

「あっ」

「ん?」

 

 保健室の外に出ようとすると、制服の袖をつかまれた。自分でも無意識だったのか、小山さんは少し顔を赤くして、わたわたしている。

 何その仕草。可愛いなちくしょう。

 

「どうか、しました?」

 

 努めて優しく、にこりと微笑む。小山さんの態度が微笑ましくて笑顔が自然と出てしまう。

 ベッドの脇にある椅子に座って、小山さんを見つめた。彼女は顔を赤くして、オレから視線を外す。……こんな可愛い態度を取られるような、好感度上げる行動をしていた覚えはないんだけど。眼福だから気にしない。

 

「えっとね、お礼を言わなきゃと思って」

「会長さんにも同じようなことを言われたんですけど。オレ、何もしてないでしょ?」

「ううん。程好いところで大瀬良くんと会ってたのが、わたしの息抜きになってたから。大瀬良くんがいなかったら、もっと早く倒れてたかも」

「大洗の生徒会、ブラック過ぎてやべぇ」

 

 オレの言葉に、小山さんがくすくすと笑う。

 笑顔になると、少し目が細くなるのが可愛い。

 

「保健の先生が言ってましたよ。倒れるほど生徒に仕事を任せるのはいかんと。仕事の割り振りなんかも、先生主導で変わってくるんじゃないですかね」

「本当に倒れちゃったから、言い訳できないね」

 

 小山さんが溜め息を吐いた。

 そしてつぶやく。

 任されたことをしっかりこなせなかったなぁ、と。

 いやいや、それはちょっと違うでしょ。

 

「え?」

「先生ならともかく、生徒会とはいえ学生だよ? 生徒会長、というよりもっと上か。この場合は先生たちの問題だと思うな」

 

 こなせる量をオーバーして倒れちゃったんなら、分量を見極められなかった上部の責任になるんじゃないかなと思う。実際、会長さんはキャパオーバーになるほど任せすぎたことを認めてたしさ。

 

「むしろ小山先輩は、できることをしっかりやっていたと思う。オレにはすごく親切丁寧にしてくれたじゃない」

 

 小山さんの肩をぽんぽんと叩く。強張っていたのが、ふっと脱力した。ように感じた。

 ベッドの端に腰掛ける。小山さんは、ベッドの上に座り込んだまま。ものすごい近い距離で、お互いを見つめ合っている。

 

「小山先輩、すごく頑張ってる。すごい。えらい」

「あっ」

 

 少しだけ強く、引き寄せた。それだけで、柚子は崩れるように、オレにもたれ掛かる。

 肩に手を回して、抱きしめた。

 といっても、これっぽっちも力は入れていない。手はただ肩に乗せているだけ。落ち着かせて、なだめるように、彼女の肩を優しくさすり、撫でる。

 そのままオレの胸板に、小山さんの頭を押しつける。頬ずりをして、心臓の音に耳を傾けているような体勢に。ゆったりと、彼女の頭を撫でる。

 

「心臓の音に集中すると、心が落ち着くらしいです」

 

 少なくとも、情緒不安定だった女の子2人の先例がある。多少なりとも効果はあるだろう。

 こちらに何の感情も抱いていないなら、ただのセクハラとして嫌悪されてお終いだ。でも小山さんの反応を見る限り、そこそこ好意を持たれている自信はある。その理由はさっぱり分からないけれど。

 ともあれ。

 頭を撫でていた手を、そっと目元へ。

 

「眼をつむって。心音に意識を向けてみて」

 

 彼女の目を手で覆って、下へと下ろす。

 小山さんのまぶたも、それに合わせて閉じていく。

 

「聞こえる?」

「……うん」

 

 とくん、と。心音が響く。

 彼女は反応して、身じろぎを止める。

 戸惑っていた様子が落ち着いたようで。オレの言葉に従って、目をつむり、大人しくなる。

 

「会長さんも、言ってましたよ。小山先輩がすごく有能で助かってるって。でもそれに甘えて、仕事を振り過ぎたって反省してたみたいです」

「……そうなんだ」

「広報さんも、同じ考えみたいですね。その話をしてる時は、突っかかってきませんでしたし」

「突っかかるって、桃ちゃんが?」

 

 もぞり、と、少しだけ頭を動かした小山さん。胸板から頭を離さないまま、オレを見上げるような形になる。

 可愛い。

 

「桃ちゃんって、広報の人のことかな」

「うん。片眼鏡の、ちょっとキツそうな 顔立ちをしてる子」

「はいはい。ひょっとしてあの攻撃的な表情って、やたらヒステリックになるせいじゃない?」

「ヒステリックって。何か、言われたの?」

「柚子ちゃんに手を出すな、と言われました」

 

 さらに顔を赤くさせる小山さん。

 でも、抱きかかえられた腕の中から離れようとはしない。

 この状態って、あの人から見ればもう手を出したも同然なんだろうなぁ。

 なんてことを考えながら、小山さんの頭を撫でる。

 

「でも、何もしてないのに、手を出したと思われるのもどうかなと思うんです。だから」

「きゃっ」

 

 ベッドの上で女の子座りをしていた彼女を、ゆっくりと押し倒す。

 寝転ぶ体勢になった小山さん。その上から、上半身だけ、覆いかぶさる。彼女の頭の横に手をついて、床ドンみたいな形で彼女を見下ろす。

 

「柚子さん」

 

 名前を呼ぶ。

 少しだけ、顔を下げる。

 彼女が少し涙ぐんでいるように見えるのは、オレの気のせいか。

 でも、嫌な顔はしていない。そう見えるのは、オレの気のせいじゃないと思いたい。

 

「手を、出しちゃうからね」

「っ……」

 

 きゅっ、と、彼女は目をつむる。

 オレはゆっくりと、さらに顔を近づけて。

 

「好き」

「んっ……」

 

 柚子さんの唇を、奪った。

 

 

 

 ―続く―




弱っているところにつけ込むのは常套手段です。(ゲスい笑み)
槇村です。御機嫌如何。



劇場版、お風呂シーンでの会長さんの言葉じゃないけど。
「長い」
もっとちゃちゃっと、2コマ堕ちっぽく進めていくつもりだったんだけど。
なんだか楽しくなってきちゃって。
これでも削ったんだよ。
でも本番シーンに届かなかったという。
次はもちろんエッチシーンです。

※誤字のご指摘感謝です。ありがとうございます。(ただ一カ所はそのままになってます)




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10:※包み込むように/小山柚子 (初体験)

 学校の保健室で、可愛い先輩を押し倒して唇を奪う。

 なんと興奮することか。

 

「んっ……。ふぁ……」

 

 キスを受け入れて、潤んだ瞳を向けてくる柚子。

 本当に可愛い。もっともっと、キスしたくなる。

 

「柚子さん」

「あっ。ん、ちゅ……、んっ……」

 

 軽く、唇を重ねる。何度も何度も、小刻みに。

 口づけて、ちゅーっ、と。軽く吸い立てて。離す。

 彼女は目をつむったまま、ふは、と息を継ぐ。

 にまにまと笑みを浮かべながら、柚子を見つめる。

 オレの視線に気づいた彼女が、ものすごく恥ずかしそうにする。

 それがまた可愛らしい。

 

「柚子さん、可愛い」

「うぅ……」

 

 思ったことがそのまま口から溢れてくる。本当にそう思っていることなので、彼女に聞かれても、オレとしては何の問題もない。

 キスしているくらいの至近距離で、目を合わせながら、可愛いと言われる。柚子には少し攻撃力が高かったみたいだ。止める気はまったくないけどね。

 

「柚子さん」

 

 ちゅっ。

 

「可愛い」

 

 ちゅっ。

 

「柚子さん可愛い」

 

 ちゅっちゅっ。

 

 唇を重ねては、離しを繰り返す。

 その合間合間に、柚子の名前を呼び、可愛い可愛いと連呼する。

 彼女の顔はもう、茹でだこのように真っ赤っかになっていた。

 

「柚子さん、恥ずかしい?」

「恥ずかしいよ……」

「じゃあ柚子さん、嬉しい?」

「……嬉しい」

 

 オレも嬉しくなって、もう何度目か分からないキスをする。

 ただし、今度は少し強く、深めに。

 

「んっ」

「ふぅ、ん、ふぁ、はぁ、ん……」

 

 唇を離すと、息を乱して、目を潤ませながらオレを見つめてくる。

 

「苦しかった?」

「……少しだけ」

「ごめんね」

「でも、ぽぉーっとしちゃったというか、気持ち良かったというか」

 

 そんなことを言う柚子の頬に、ちゅっ、とキスをして。言葉と行動で謝ってみせた。

 

「もう……」

 

 彼女は頬に手を当てて、表情を緩めてしまう。

 嬉しそうに。

 音にすると、にへら、っていう感じだ。

 また顔を近づけると、柚子も応えようとしてくる。

 今度は少し形を変えて。

 

「んっ」

「んんっ」

 

 キスだけじゃなく。唇で、彼女の上唇を咥えた。

 はむはむと、唇の柔らかさと感触を味わう。

 同じように、下唇も、食むようにして挟み込み、弄る。

 触れ続ける唇で愛撫をしながら、キスを重ねるような感じ。口元に広がる感触と、柚子の吐息が吹き掛かるのが心地いい。

 

「はふぅ……」

 

 しばし、オレにされるがままだった柚子。唇を離すと、少し恨めしそう目を向けてくる。

 なんてことをしてくれたんだ、みたいな。

 彼女は息継ぎをしつつ、弄られた自分の唇に舌を這わせている。

 あ、今のちょっとエロい。

 

「同じこと、できる?」

 

 柚子の方に唇を突き出してみた。

 もう互いの顔の距離はほぼゼロ。彼女も少し突き出せば、唇同士が触れてしまう。

 

「んぅ……」

 

 初めて、柚子の方から唇を押しつけてきた。

 ちゅっ、と。柔らかくて少し唾液で湿った感触が広がる。

 本当に、触れただけのキス。

 でもそれだけで。

 

「えへへ……」

 

 柚子はものすごく嬉しそうな顔をした。

 あぁもう、本当に。

 

「可愛いなぁ、柚子さん」

 

 お返しに、オレの方からもキスをする。

 同じように軽く触れるだけ。今度は柚子もすぐにキスを返してくる。

 

「はぁ、んっ、大瀬良くん。んんっ、はふ……」

「下の名前で呼んでほしいな。俊一、って」

「えっ」

「俊一」

「俊一、くん」

「よくできました」

 

 また、オレの方から唇を奪う。キスをしながら、柚子の名前を呼ぶ。

 彼女もそれに応えるように、俊一くん俊一くんと、オレの名前を呼んでくる。

 キスをし、漏れ出る吐息に混じって、熱にうなされたような声で聞こえる自分の名前。

 嬉しい。

 可愛い。

 興奮する。

 いくらキスをしても物足りない。

 もっとしたいと、下半身にぐるぐると熱が集まってくる。

 

「柚子さんを、食べちゃうぞ」

 

 そう言ってから。彼女のお腹辺りを制服の上から撫でる。

 愛撫ではなく、撫でるだけ。

 オレの手が触れるということを意識してもらおうとしたんだけれど。

 

「あ、待って、そのっ」

 

 柚子から、ストップが入った。言われるままに、オレは手を止める。

 もっと先に進みたいという気持ちはある。でも無理やり奪ってやる、とか考えているわけではないので。柚子が嫌がるなら止めることはやぶさかじゃない。残念ではあるけれど。

 

「あ、違うの。その、今日は……」

 

 ひょっとして、残念がってるのが顔に出てたかな。彼女が慌ててフォローするようなことを口にする。別段、オレとそういうことになるのがイヤというわけじゃないみたい。

 今日は、ということは。

 

「いわゆる、女の子の日ってやつ?」

 

 恥ずかしそうに、柚子はうなずいた。

 なるほど。そういうことなら仕方がない。タイミングが悪かった。

 

「ごめん。そういうところまでは想像してなかった」

「あ、あのね、イヤなわけじゃないんだよ、むしろ気持ちとしてはもっとして欲しいというかっ」

 

 何か言い始めた彼女。自分でも、何を言おうとしてたのかが分かったみたい。言葉を飲み込んで、恥ずかしそうに両手で顔を覆う。すっごく恥ずかしそうに。

 うんもう、可愛くてたまらんな。

 

「無理しなくていいよ。その気持ちだけで十分嬉しいし」

 

 よしよしと、柚子の頭を撫でる。

 柚子の、顔を覆っていた手が少しだけ下りる。目だけを出して、オレをうかがってくるような感じ。いちいち反応が可愛いんだよ、本当にもう。

 

「オレも、ちょっと突っ走っちゃった。もっとイチャイチャしてからでも遅くないよね」

 

 そう言って、軽いキスをおでこに落とした。

 また、柚子の表情が緩む。

 

「キスより先は、もうちょっと後でね」

 

 何か、想像してしまったらしい。さっきまでとは別の恥ずかしさがこみ上げてきたようで。オレに床ドンされているような状態のまま、何やら悶え始めた。

 オレは彼女の頭を撫でて、髪を梳き、落ち着いてくるまで待つ。

 ……結構時間が掛かって、腕がしびれた。

 

 

 

 なんやかやで。一線は超えなくとも、柚子と深い仲になった。

 柚子の見た目の印象は、おっとりした人。性格も穏やかで、お人好しなところも多々ある。生徒会の仕事で疲労困憊の状態でも笑顔を絶やさなかった。そのことからも分かるように、気配りができる明るい人だ。

 そんな彼女が、笑顔いっぱいで、オレに対する好意を隠さずに接してくる。

 正直、メチャクチャ嬉しい。

 もっとも、他に人がいるようなところではそれなりに節度のある態度を取っている。けれどふたりきりになると、少しずつ身体を近づけてくる。明らかに距離が近い。それだけ気を許してくれているのが嬉しい。

 意識していなくても触れてしまいそうな距離感。でもふとした拍子に実際に触れてしまうと、途端に恥ずかしそうな反応をする

 可愛いなぁ。

 可愛い。

 倒れる前にこぼしていたセリフから判断するに。柚子は他人から頼られると嬉しくなる傾向がある。弟や妹がいっぱいいると聞いたので、頼られたり甘えられたりといったことが多かったのかもしれない。

 試しに年下らしく甘えた態度を取ってみたら、すっごく嬉しそうにしていた。頭を抱えて抱きしめられたくらい。柚子の大きなおっぱいに顔全体が包まれる感触がとても幸せだった。蕩けてしまうかと思ったよ。

 一方で、強く迫られるのに弱いみたい。お姉さん気質で、頼まれると断れない性格のせいもありそうだ。オレ以外の男に押し切られたりしないように言い含めないといけない。

 なんてことを考えて。抱きしめて、キスをしながら、「柚子はオレのモノ」みたいなことを繰り返し言っていると、柚子はものすごくうっとりした表情をする。

 ……何か、拗らせちゃったかな?

 ちなみに柚子のことは、みほとまほに事情を説明済みだ。電話越しに土下座する勢いで連絡した。というか土下座してた。

 まずメールで「もうひとり、親密になった子ができました」と送り、すぐに電話。スピーカー状態にしてもらって、2人同時に説明した。

 自分で言うのもなんだけど、クズだなオレ。改めて自覚する。広報さんの言う軟派男くらいの罵り言葉じゃ足りないよ。

 で、肝心の西住姉妹の反応なんだが。

 なぜか、罵られるようなこともなく。彼女たちは想像よりも冷静だった。

 最初こそ面白くなさそうな雰囲気があったけれど。柚子とそういうことになった経緯を説明したら、溜め息を吐きながら、むしろ共感してきて。

 あれかな、自分たちのことと重ねたのかな。考えようによっては似たような状態だったし。

 みほもまほも、精神的に弱っていたところをオレに助けられた、と思っている。似たような境遇の人がいるなら手を差し伸べて欲しい、と言ってきた。

 みほは、「わたしみたいに、辛そうに見えたのなら助けてあげて」と。

 いい子過ぎて泣きそう。

 まほはただひと言、「許す」とだけ。

 男前過ぎる……。

 それからしばらくして、いつのまにか柚子、みほ、まほで連絡先を交換し合ったらしい。オレ抜きでいろいろ話をしたりもしているみたい。何を話しているのか気になるけれど、変に詮索しない方が吉だろう。うん。

 

 

 

 柚子の態度や雰囲気が変わった。それは同じ生徒会メンバーである会長さんや広報さんも気がつくわけで。

 

「結局、そういうとこに落ち着いたかー」

「柚子ちゃん正気か!」

 

 会長さんは楽しそうに、からかうように囃し立て。

 広報さんはこの世の終わりが来たかのように、考え直せと柚子に詰め寄る。

 肩をつかまれてガクガクと揺さぶられ、柚子は困惑しながらも笑顔は絶やさない。彼女としても、自分のことを心配されているということは分かっているので、されるがままだ。

 なお、熊本に恋人が2人いることは承知の上で、しかもその彼女たちにも話は通してある、と聞いた広報さん。絶望で魂が抜けたかのような顔をして崩れ落ち、膝をついていた。

 気持ちは分かる。仲のいい友人が、平然と何股もしている軟派男の毒牙に掛かったと知れば、落ち込むくらいはするよね。

 

「わたしは基本的に、色恋沙汰は当人同士の問題だと思ってるから。小山が泣くようなことがなければ、それでいいよ」

「そう受け入れてくれるのは、当事者としてはありがたいんですけど。会長さんはそれでいいんですか?」

「んー。見た限りでは小山も幸せそうな顔してるからねー。わたしも、女癖の悪いところを除けば悪い印象は持ってないよ。キミに対して」

「もうすでにダメダメじゃないですか」

「肝心なところがもう最悪だよねー」

 

 ははは、と笑い合う会長とオレ。少なくとも、顔を見るなり罵倒してくるようなことはないみたいで助かる。まぁ普通に考えれば、柚子の考えを改めようとして、オレには指をさしながら突っかかってくる広報さんの態度の方が当たり前なんだけどね。

 

「それが自覚できてるなら、まだマシなんじゃないの?」

「マシで済ませていいもんなのか。今となっては改めるつもりもないけど」

「ある意味、男らしいねぇ」

「褒めても何も出ませんよ?」

「全然褒めてないよ?」

 

 オレは会長さんと意味のない会話を交わしながら。半泣きで柚子にすがりついている広報さんの姿を、距離を置いたところから一緒になって愛でていた。

 

 

 

 さて。

 学校が休みの土曜日。柚子に学園艦の案内をお願いしてみた。どこに何があるのかも分からないので、デートがてら歩き回ろうと思ったわけだ。

 柚子は大喜びで引き受けてくれた。

 当日。待ち合わせをして柚子と合流。

 

「……可愛い」

「ふぇっ」

 

 ひと足先に待っていたオレのところに、柚子が小走りでやってくる。初めて見た私服姿に、思わず口から漏れてしまった。彼女も、開口一番のオレの言葉に少し顔を赤くする。

 白いシャツの上に、ピンク色のカーディガン。プリーツミニスカートにハイソックス、足元はローファーだ。うん、可愛い。

 特に、ミニスカートから伸びる太もも、脚のラインに目が行ってしまう。制服もミニスカだけど、これはまた違った良さを感じられて素晴らしい。

 ……ごめんな。そんなところにばっかり目が行っちゃって。

 もちろんその部分は口にすることなく。ごまかすようにして、彼女に向けて手を伸ばす。

 

「さ、行こう」

「うんっ」

 

 柚子はオレの手を握る。オレたちは手をつないで、横並びになって歩き出した。

 といっても特に目的地があるわけじゃない。散策する、という言葉そのままだ。

 手をつなぎながら、あちこち周囲を見渡し、気の向くままにブラブラする。

 ブラブラするといっても、学園艦はそれなり以上に大きい。全長は約7600m、幅が約1000m。およそ3万人の人間が艦の上で暮らしているらしい。これはもう学園というか、街だよね。

 でも学園艦という名の通り、艦上に住んでる半数以上が学生なんだとか。しかもこの学園艦、重要な場所以外は基本的に学生たちの手によって運営されているらしい。

 ……単に大人が少ないのか。生徒会が特にブラックだったというわけじゃないのかも。

 ちなみに生徒会も、生徒会スタッフみたいな人がいっぱいいると知った。役職づきが3人だけってことらしい。考えてみればそれも当然か。学生主導といっても、こんなでっかい学園艦のあれこれを3人で捌けるわけないものな。

 

「それでも倒れるほど忙しかったの?」

「いろいろな人に任せていたことも、まとめたり認可するのは生徒会だから」

「なるほど。マジで大変だ」

 

 学園艦についての小話や内情など、柚子の興味深い話に耳を傾けながら歩く。

 道々で目に入るものについても、彼女から説明が入る。あれは何だ、これは何だと、素直に感心させられる。さすがは、学園艦を動かす一端である生徒会の副会長。そのひとつひとつが正確なものだ。

 個人的に面白かったのが、老舗のお店などがあったりすること。

 大洗学園は、学園艦としてかなりの歴史を持っている。学園艦上で開店しているお店の中には、運行開始直後から店を構えているところもあるんだとか。老舗の蕎麦屋とかテーラーとか、そういったお店も結構あるらしい。

 

「元女子校だったのに、老舗の蕎麦屋があるの?」

「うん。わたしは入ったことはないけど」

「普通の女子高生とかだったら、蕎麦屋は入らないかもね。というか、よく潰れずにやっていけたな。その店」

「女子校っていっても、家族で学園艦に乗ってる人もいるから。ご両親がメインターゲットだったんじゃないかな」

「なるほど。狙う客層が違うってことか」

 

 そんな会話をしながら歩き。少し疲れたかなと思ったら、適当なところで小休止する。

 いわゆる「お茶をする」というやつ。女同士の仲間内ではしたことがあっても、相手が男なのは初めてだとか。

 うん、光栄です。

 嬉しいね。

 要所要所でほんわかした気持ちになりつつ、1日かけて学園艦のあちこちを歩き回った。ぐるりとめぐって、夕方近くには女子寮近くまで戻ってくる。

 

「柚子さん、ありがとう。楽しかったし、すっごくためになった」

「ううん。わたしの方こそ、楽しかった」

 

 にっこにこの笑顔で、そう言ってくれる。それだけで嬉しくなる。

 こんな可愛い先輩が好いていてくれるなんて、オレは果報者だ。

 もっと一緒にいたい。そう思ってしまう。

 だから、我慢せずに誘う。

 

「もう少し一緒にいたいから、オレの部屋に寄っていかない?」

「……あのね」

 

 つないでいた彼女の手に力がこもった。

 そして、恥ずかしそうに少しうつむいたまま。小さく声に出す。

 

「今日は、会長のところに泊まることになってるから……」

 

 ものすごく恥ずかしそうな、柚子。顔はもう真っ赤っかだ。

 可愛い。

 オレは、彼女の手を強めに握り返した。

 

 

 

 オレが住んでいる、やや古めのアパート。柚子が住んでいる学生用の女子寮からほど近い場所にあるそこに、彼女を連れ込んだ。

 つないだ手を引いて、ベッドの側まで連れていき。押し倒す。

 柚子の頭の横に手を置いて、覆いかぶさる体勢になる。

 あの日の保健室と同じようなシチュエーションだ。

 

「保健室の時の、続きをするよ?」

 

 そう言って、さらに顔を近づける。

 柚子も、同じように目をつむった。違うところは、あの日よりも緊張していないように見えること。いや、ある意味では今日の方が緊張してるかもしれない。

 

「んっ」

「ん……」

 

 唇を、合わせる。

 オレだけじゃなく、柚子の方からも口づけを求めてくる。保健室でしたキスの仕方を復習するかのように。唇を重ねて、唇を食み、感触を反芻する。

 ここまでは柚子とも経験済み。今度はもう少し違ったことをしてみる。

 

「んひゃっ」

 

 舌を伸ばして、唇を舐め上げた。

 いきなりのことに驚いたのか。ちょっと変な声を上げながら、柚子は唇を離してしまう。

 

「びっくりした?」

 

 口元に手を置いて、真っ赤になりながらコクコクとうなずく柚子。

 うん。その仕草、可愛い。

 

「もっといっぱいキスするから。はい、手をどけてー」

 

 なんてことを言いつつ、自分の口元を覆っている柚子の手にキスを落とす。ちゅっ、ちゅっ、と、彼女の可愛い指を唇でくすぐる。

 力の抜けた彼女の手をそっとどかして。再び唇に、キス。

 今度は舌を、柚子の口の中へと侵入させる。

 

「れろ、ん、ちゅ、ちゅっ」

「んっ、ふぁ、んんっ」

 

 唇を重ねながら、彼女の唇の裏側や歯茎を、舌先でなぞる。

 柚子が震える。口の中の柔らかいところを自分以外の舌で触れられて、舐められて、びっくりしているんだろう。口元どころか、身体全体をぴくぴくと震わせていた。

 口の中を舌先で愛撫する感じ。時折、舌同士が触れ合い、柔らかで滑らかな感触が伝わってくる。それにまた柚子は敏感に反応して、身体をびくりと跳ねさせる。

 強く、弱く。飽きずにひたすらキスを繰り返す。唇を重ねて、舌を這わせ、唾液が混じり合うのも構わずに、柚子の唇を貪り続けた。

 存分に堪能してから、唇を離す。柚子はもう、蕩け切ったような表情をし、息も絶え絶え。すっかり脱力した状態になっていた。

 

「柚子さん、ごめん。ちょっとがっつき過ぎた」

 

 彼女の口元から垂れる唾液。それを舌ですくい取ってから、唇に優しくキスをする。

 

「保健室でキスしてからずっと、もっとしたいと思ってたから。止められなかった」

 

 求めすぎて嫌がられる、嫌われるのは勘弁したい。

 ベッドに横たわった柚子の頭を抱えて、ポニーテールにした髪を梳くように優しく撫でる。

 彼女の表情が、ほにゃり、と緩む。くすぐったそうに、笑みを浮かべる。

 

「ううん。むしろ、そんなに求められてると思うと、嬉しい」

 

 それにね。と。

 言葉を継ぎながら、柚子がオレの首に手を回してきた。

 

「倒れちゃう前から、わたしを気遣ってくれてたでしょ。保健室でも、キス以上のこともできたのに、わたしのことを第一に考えてくれた。大事にされてるって感じられて、すごくキュンとしちゃったの」

 

 腕に力を入れて、オレの顔を引き寄せる。

 唇が触れる寸前の距離。

 熱のこもった目で見つめながら、彼女は言った。

 

「わたしの全部、俊一くんのモノにして欲しい」

 

 今日は我慢しなくていいよ?

 こんなことを言われたら、オレも抑えが効かない。

 オレと柚子は、同じタイミングで唇を重ねた。

 

 

 

 柚子と初めて会った時、最初に目が行ったのは大きな胸だった。

 思春期の男なら、仕方ないと思うんだ。でも、じろじろ見るのはよろしくないとも思っていたから、できるだけ目が胸に行かないように気をつけてたんだよ。

 けど、その大きなおっぱいが今、オレの手の中に収まっている。なんたる感動。

 横たわっていた柚子を起き上がらせて、オレが背中から抱き着くような形に。彼女はそのまま寄り掛かるようにして身を任せる。腕の中にすっぽりと、柚子の身体が収まってしまっていた。

 ガーディガンをまず脱がして、その下のシャツの上から大きな胸に手を添える。

 

「あぁ……」

 

 手のひら全体に広がる感触に、思わず声が漏れてしまった。少し力を入れるだけで、柔らかなおっぱいに指が沈む。シャツの上からでも素晴らしい触り心地だ。

 

「柚子さんのおっぱい……」

「んんっ……。もう、そんなに感極まったように言わなくても」

「いやでも。ずっとガン見しないように気をつけてたから、つい。どれだけ実践できてたかは分からないけど」

 

 おっぱいに夢中になるオレを、柚子が肩越しに振り返って、見つめてくる。

 仕方ないなぁ、みたいな顔で、オレの言葉に苦笑しながら。

 

「ん、あっ……。確かに、胸に目が行っても、すぐに目を逸らしてくれるなって思ってたよ」

「やっぱり、目線には気づくんだ」

「同性なら、慣れもするけど。男の人の目は、やっぱり気づいちゃうね」

「あー。ごめんなさい」

「ううん。むしろ俊一くんは、見られたらわたしが不快だって思っていたんでしょ? そういう気遣いは、女の子としてはポイント高いよ」

 

 なるほど。

 柚子のみならず、女性を前にする時はこれからも気をつけよう。

 

「良かった。いい判断だったぞ、転入前のオレ」

「くす。ほら、今はいっぱい見てもいいから」

「ありがとうございますっ」

 

 そう言いながら。オレは背中から覆うように柚子を抱きしめる。

 もちろん、両手は彼女のおっぱいをつかみながら。

 

「柚子さん、抱きしめてるだけで気持ちいい……」

「俊一くん、そんなにわたしの胸、揉みたかったの?」

 

 あ、これは本当に呆れられそうな流れなのでは。

 オレは慌てて弁解する。

 

「おっぱいの柔らかさももちろん嬉しいんですけど。下世話な言い方をすれば、抱き心地がいいと言おうか。こうしてハグしてるだけで心地良い気分に」

「ライナスの毛布みたいな感じ?」

「柚子さんがそうなら、片時も毛布を放そうとしないライナスの気持ちが良く分かるわ……」

 

 さっきまでのキス責めとは打って変わって、なんだか妙にまったりとした空気になっていた。密着したまま、柚子のうなじに顔を押しつけつつ、少しふざけるような会話をする。

 その間も手の動きは止まっていない。揉む、というよりも、撫でる、という感じで。柚子のおっぱいを服の上から堪能している。

 オレの股間はギンギンに勃起していた。もたれ掛かる柚子のお尻に押しつけっ放し。彼女も何が当たっているのかは分かっているようで、時折もじもじと身体やお尻を揺らしたりする。それがまた緩い快感になって下半身を刺激してくる。

 

「柚子さん、シャツも脱がすよ」

「うん……」

 

 同意を得た。彼女のシャツのすそに手を差し込んで、まくり上げる。

 柚子にばんざいをしてもらい、するするとシャツを脱がしていく。

 露になる肌色、大きな胸を包む白いブラジャーが目の前に。

 背中越しに彼女の胸を見下ろせば、豊かな膨らみと深い谷間が目に入ってくる。

 ブラジャーの上から、胸を支えるようにして持ち上げ、軽く揉む。

 

「んっ、あんっ」

「あ、痛い?」

「カップの、ワイヤーが引っ掛かると、ちょっとだけ」

「カップの、ワイヤー。あ、これか」

 

 ブラジャーのカップの一番下、とでも言えばいいのか。

 とにかくそこにある、柔らかめの芯みたいなものが指に触れる。

 

「なるほど。ごめんね」

 

 服の上からおっぱいを揉む時は、今度から注意しよう。

 そんな決意をしながら、胸から手を離す。

 代わりに触れるかどうかのタッチで軽く撫でる。

 そのまま指を背中の方に回していって。

 ブラジャーのホックを。

 

「あぅ」

 

 ぱちん、と。外す。

 柚子の大きなおっぱいが支えを失って、ふるりと揺れた。

 肩ひもの間からするりと彼女の腕を抜いて、ブラジャーを取り去ってしまう。

 

「きゃっ」

 

 胸を抱えるようにして隠し、身を縮めて前かがみになる柚子。何も身につけていない背中と肩が、目の前で無防備になる。

 とても綺麗で、そそられる。

 お腹に手を回して抱き寄せた。うなじ、首から肩、背筋にと、キスをする。

 柚子はくすぐったそうに身をよじる。やんやん、と言いながらも嫌がっているような感じはまったくない。

 

「もう。年下なのに、なんだか慣れてる感じ」

「慣れてるってつもりはないけどなぁ」

「イヤではないんだけど、手玉に取られていつの間にか裸にされてるみたいな……」

「まぁ、悪い男だからね。仕方ない」

 

 彼女のお腹に回した腕に力を入れて、綺麗な背中に密着。オレはふざけて、吸血鬼よろしく首筋に唇をつけて、甘噛みをする。柚子は身をよじって逃れようとするけれど、オレの腕の中から出ようとはしない。

 そんなことをしていて、オレの方はまったく脱いでないことに気がついた。

 どうせなら、生身でぴったりとくっついて、柚子の綺麗な背中に直に触れたい。

 抱きしめていた手を、しばらく緩める。

 

「よいしょ」

 

 手早くちゃちゃっと上着を脱ぎ散らかす。ズボンも勢い良く脱いでしまって、トランクス1枚の姿になった。

 改めて柚子に抱きつく。

 

「あぁ……。直に抱きつくと、すげぇ気持ちいい」

「わたしも、背中、あったかい……」

 

 身体の前面全体に、柚子の背中がぴったりとくっつく。密着した肌の感触がたまらなく気持ちいい。彼女の腰に回した腕に力を入れて、抱きしめ、密着度を増す。

 片方の手は大きなおっぱいをつかんだままだ。

 柚子のおっぱいを直に揉む。吸いつくような肌の感触と、指が吸い込まれてしまいそうな柔らかさ。手のひらに広がる幸せに、ついつい手の動きが大きくなってしまう。

 たぷたぷと、手の中で弾ませるようにおっぱいを弄ぶ。

 強くなり過ぎないように気をつけながら、じっくりと揉みしだく。

 指で乳首を弾いたり、挟んでつねり上げたりして刺激を与える。

 

「んっ……。ふ、はぁ……」

 

 しっかり性感を刷り込んでいくようなイメージで、激しさのない愛撫を与えていく。

 柚子の口から漏れ出る吐息も、どこか快感を帯びるようになっていた。

 片手で胸を揉みながら、もう片方の手を下の方へ。お腹から腰を通って、太ももに伸びる。

 

「あっ。はぁ、んん……」

 

 張りのある、スベスベした触り心地。女の子らしい柔らかさでいっぱいの内股をさすりながら、その感触を堪能する。

 

「柚子さん。どこもかしこも、触ってて気持ちいいよ」

「やぁ、ん……。恥ずかしいよ……」

 

 息を乱しながら身悶える柚子。反応が可愛らしくてもっと触ってしまう。

 太ももを撫でさすり。

 大きな胸を優しく揉み。

 首筋に顔を埋めながら。

 何回もうなじにキスをした。

 柚子の身体を上下から刺激し続けていた指の動き。下を責めていた指先を、少しだけ上へと向かわせる。

 内ももを這いながら、股間部分へと。

 

「ひゃっ、あぅんっ」

 

 指が触れた。

 ショーツの上から、柚子の秘部の割れ目が感じ取れる。

 少しレースの掛かった、可愛くてちょっとセクシーなショーツ。見られることを意識していたのかもしれないそれは、彼女の愛液でしっとりと湿っていた。

 シミを広げるように、指を割れ目に沿って動かしていく。しゅっしゅっ、くにくにと。擦りつけるように、引っ掻くように。

 

「は、あぁ、んっ……。俊一くん、それ、切な、あんっ」

 

 柚子の息がさらに荒くなる。身を委ね、愛撫を受け入れて、こみ上げる快感のうねりに翻弄されているかのように。オレに向けてくる表情が、蕩けながらも少し涙目な、たまらないものになっていた。

 柚子の肩を抱いて、ベッドにそっと横たわらせる。息を乱して、彼女はされるがままだ。

 残っていたミニスカートを脱がして、ショーツ1枚の姿にする。色っぽい格好を堪能する間もなく、愛液のシミができたショーツも脱がしてしまう。

 

「あぁ……」

 

 ゆっくり、大きく、足を開かせた。柚子の秘部、おま○こが丸出しになる。

 恥ずかしそうな声を上げる柚子。そんな姿がまたオレをゾクゾクさせる。

 まだ誰にも見られたことのない、触れられたことのないだろうそこに、手を伸ばす。しっとりと濡れた陰唇に指を添えて、そっと割れ目を押し広げた。

 

「柚子さんの、おま○この中……」

「恥ずかしいから、そんなに見ないでぇ……」

 

 本当に恥ずかしそうに、彼女は手で顔を覆い隠しながら声を漏らす。

 もちろん、その言葉は聞き入れない。もっと恥ずかしくなってもらうんだから。

 

「あー、んっ」

「あっ。はぅ、んっ」

 

 まだ硬さが残っている柚子のアソコをもっとほぐそうと、おま○こにしゃぶりついた。

 大陰唇の縁を、突き出した唇でなぞる。

 舌先で愛液を舐め取る。

 割れ目の上の方にある陰茎を軽く弾く。

 

「ひゃっ。だめ、そこは、はう、んんっ」

 

 クリトリスはちょっと刺激が強かったみたい。割れ目への愛撫をメインにして、クリトリスは少し控えめにしよう。

 舌を伸ばして、小陰唇の周囲を舐め上げた。

 形の整った小さなピラピラを舌先で優しく弄り。

 思い出したようにクリトリスにもチョンチョンと舌を当てる。

 じっくり、じっとりと、柚子のおま○こ全体を舐め上げて、刺激し、わき出てくる愛液をこそぎ落とす。それがまた愛撫になって、彼女を刺激する。

 

「れろ、んちゅ……、ふは。可愛い。柚子さん可愛い」

「はっ、ん、俊一く、んんっ、はぁんっ」

 

 ひくひくと震える彼女の太もも、腰。おま○こもヌレヌレになって、割れ目が少し開き気味になってきた。顔を埋めている柚子のおま○こから目線を上げると、スベスベしたお腹から大きなおっぱいが。さらにその向こうには、息絶え絶えで蕩けさせた柚子の顔が見える。

 もういいかな。

 というか、オレがもう我慢できない。

 彼女の股間から顔を上げる。体を起こしながら、まだ残していたトランクスを脱ぎ去って。横になっている柚子の足の間に座り込んだ。

 勃起したチ○コを、彼女の秘部に当てる。軽く腰を揺すって、割れ目に沿って擦りつけた。柚子の愛液とオレの唾液が混じり合って、くちゅくちゅと音を立てる。

 

「大きいのが、わたしのアソコに……」

「オレのコレが、柚子さんのナカに入っちゃうからね」

 

 綺麗なお腹を撫でながら、少し腰に力を入れる。

 それだけで、亀頭の先っぽが少しだけ、柚子の割れ目に食い込んだ。

 もう少し押すと、小陰唇が亀頭にまとわりついてくる。

 この先っぽの感触だけで、オレはもう気持ちがいい。

 けれど柚子は、緊張しているように身を硬くしている。少し涙目になっていた。

 

「柚子さん、手を貸して」

 

 股間は挿入直前の状態のまま、オレは柚子に向けて手を伸ばす。彼女は言われるままに、手を差し出してきた。

 柚子の手を、両手にそれぞれ取って。

 指を絡めて、握りしめる。

 つないだ手を、柚子に見せつけるようにしてひと言。

 

「恋人つなぎ」

 

 しばし、虚を突かれたような顔をする柚子。

 そしてすぐに、嬉しそうな、満面の笑顔を見せてくれた。

 

「行くよ」

 

 つないだ手を少し引く。

 同時に腰を押すような形になり。

 チ○コが柚子のナカへと押し入っていく。

 そして。

 

「んっ、痛っ、はぁっ、んんっ……」

 

 処女膜だろう場所を突き破って、柚子の膣奥までチ○コを挿入しきった。

 柚子のナカが強く、ぬるぬる、ぐにぐに、きゅうきゅうと締めつけてくる。

 

「はぁ……。柚子さんのおま○こ、すっげぇ気持ちいい……」

「そんな、ストレートに言わないでぇ」

 

 柚子が恥ずかしそうに首を振る。手が空いていれば顔も覆っていたに違いない。でも今、彼女の手は俺と恋人つなぎをしたままだ。真っ赤になった顔は隠したくても隠せない。

 つまり、破瓜したばかりのおま○この強い締めつけを味わいながら、恥じらっている可愛い顔を見放題というわけだ。

 

「ちょっと動くよ」

「あんっ」

 

 つま先を立てて、腰を持ち上げた。その勢いで奥までチ○コを突き入れてしまい、柚子が声を漏らす。

 オレはそのまま覆いかぶさった。もちろん、下半身はつながったまま。つないだ手もそのままで、彼女はばんざいをしている体勢になる。文字通り、組み伏した状態だ。

 すぐ目の前に、柚子の顔が。真正面から見つめると、あわあわと目を泳がせるのが可愛い。

 

「柚子さん、可愛い」

 

 思うだけじゃなく。口にして、キスをして、行動で表わす。

 チ○コを膣奥深くまで挿入して、腰を押しつけて動かさない。手も恋人つなぎで拘束していて動けない。彼女をそんな状態にしたまま、想いを込めてキスを繰り返す。

 

「柚子さん」

 

 ちゅっ。

 

「可愛い」

 

 ちゅっ。

 

「柚子さん可愛い」

 

 ちゅっ。

 

「柚子さん、好き」

 

 ちゅーっ。

 囁きと、キスの繰り返し。

 

「可愛い。すっごく可愛い」

「……ふぇ。はぁ、んふぅ」

 

 何度目か分からないほど、柚子の表情が蕩けていく。まさに悦楽という感じだ。

 そして、彼女にキスをして、目の前で囁くたびに、オレのチ○コを咥えている膣がきゅんきゅんと締めつけてくる。

 たまらない。腰を動かさないようにするのが大変なくらいに、気持ちいい。

 口だけじゃなく、頬や鼻先、目元、おでこ、耳など、あらゆるところに唇を落とす。そのたびに、柚子は嬉しそうな声を上げて、おま○こがオレのチ○コを締めつけてくる。

 キスをしている間、オレも柚子も身をよじったりなんだりと身体を動かしている。ということは、細かく腰も動かしているわけで。ズリズリと、彼女の膣内を行ったり来たりしている。

 キスの方に意識が行っているのか、柚子は小さなピストンに痛みを訴えてはこない。むしろキスの間に漏れ出る声や吐息は、かなり快感の色が混じっていた。

 意識して、大きめに腰を動かしてみる。

 ぬるりと、愛液でいっぱいの膣からチ○コを引き出して。ゆっくりと、けれどしっかり、膣の奥まで再び押し込んでいく。腰を引いて、押す。それを繰り返す。

 

「柚子さん、痛くない?」

「はぁ、ん……。痛みは、あんまり、ないよ。んっ、はんっ」

「じゃあ、気持ちいい?」

 

 ゆっくりとした腰の動きは止めずに、そんなことを聞きながら、またキスをする。

 

「ん、ちゅ。ふぁ……。俊一くん……」

「オレは、柚子さんのキスも、身体に触れる感触も、締めつけてくるおま○こも、全部気持ちいいよ」

「……わたしも。わたしも、もっとキスしてほしい。もっと触ってほしいし、もっと気持ち良くしてほしい」

 

 強めに、柚子のナカ深くまでチ○コを突き入れる。

 その途端、彼女の膣壁が、ナカ全体が、強く締めつけてきた。

 

「これからも、いっぱいイチャイチャしようね」

 

 返事を待たずに、唇をふさぐ。

 舌を柚子の口の中に差し込むと、彼女も追いすがるように舌を絡めてくる。唾液まみれの柔らかさがオレを夢中にさせる。

 柚子の下半身はチ○コの出し入れでベッドに押しつけられ、手はずっと恋人つなぎで封じられたままだ。今の彼女が自由にできるのは、首と舌。意識はしていないだろうけれど、膣の動きくらい。その全部で、柚子はオレに絡みついてくる。すべてをオレに委ねてくる。

 たまらなく嬉しくて、気持ち良くて、興奮する。

 彼女の膣もきゅうきゅうとうごめいて、陰茎をしごき上げてくる。オレの腰の動きと合わさって、精を搾り取ろうとするような動きになる。

 腰が動く。柚子のおま○こをえぐるごとに、下腹に快感のゾクゾクが集まってくる。ぐるぐると渦巻いきてて、腰に力が入ってしまう。

 圧し掛かるように、柚子と密着する、腰を動かすたびに、彼女の大きなおっぱいがオレの胸板に押しつけられて、潰れて形を変える。むにゅむにゅとした感触と、時々肌をくすぐってくる乳首の硬さも気持ち良かった。

 

「柚子さん、可愛い。可愛いところ、もっと見せて」

「俊一くんっ。俊一くん、好き、しゅんいちく、んんっ」

 

 覆いかぶさって、頬を擦りつけ合うような形。オレも柚子も、こみ上げてくる想いを互いに耳元で声にする。

 おっとりした可愛い年上のお姉さんに、耳元で好き好きと快楽混じりで囁かれる破壊力。

 否応にも高ぶる。

 下半身がいきり立つ。

 我慢ももう限界だ。柚子の膣奥に亀頭をねじ込んで、チ○コ全体をおま○この中に押し込んだまま、ぐっぐっと腰を押しつける。今にも射精しそうな状態で、柚子の耳元でひたすら彼女の名前を呼ぶ。

 

「あっ、ああっ。すごっ、いっ、はんっ。しゅんいちく、だめ、イク、んんっ」

「柚子さんのナカを、オレでいっぱいにする。染めてやる。オレだけの柚子にっ」

 

 2人揃って、互いの耳元でオーガズムの声を聞いた。

 ひと際強い、うねるような締めつけ。

 思い切り、柚子の膣奥へと射精した。

 ドロドロの欲望で彼女のナカをいっぱいにしてしまう。

 柚子も、噛みしめるように絶頂の声を漏らす。つないだままの手を思い切り握られた。快感に身体を弓なりにして、組み伏したオレの下で暴れさせる。

 腕の中で、柚子が身悶えながらオーガズムに硬直する。その姿がまた興奮を呼んで、射精感を後押しする。まだ足りないとばかりに、思い切り、柚子のナカを、オレの精でいっぱいにしてみせた。

 

「お腹の中が、あったかい俊一くんでいっぱい……」

「柚子さん」

 

 精に、性に蕩けた表情の柚子。どんな顔でも可愛いな、とばかりにキスをする。

 柚子も嬉しそうに、キスを返してくる。

 

「俊一くん。俊一くん……」

 

 絶頂で脱力した身体をそのままに、彼女はオレの名前をつぶやく。

 もう離さないぞと。チ○コを抜かずに腰を押しつけ、手をつかんだまま密着し続ける。

 思うがままにして、されるがままになりながら。

 オレと柚子は身体を重ね続けた。

 

 

 

 ―続く―




より具体的にエロくしていく試み。
槇村です。御機嫌如何。


2週間ぶり? そして早い時間にこんにちは。
今回、書いててめちゃくちゃ楽しかったです。
そのせいか懲りずにまた長くなった。
今後エロシーンの長さがこれ基準になっても困る。
ひょっとしたらもっと長くなっちゃうかもしれないし。(やめろ)


※すごく恥ずかしい誤字をしていた。ご指摘ありがとうございます。
※重ねて誤字報告、ありがとうございます。
※ご指摘いただいた誤字部分、作者の意図の通りなのでそのままにしてあります。ご了承ください。


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西住姉妹、大洗入り
11:※ラブラブ一直線/柚子、みほ&まほ


 恋人と一緒の学園に通っている。

 それだけで毎日がこんなに楽しくなるものだとは思いもしなかった。

 

「おはよう、俊一くん」

 

 朝、玄関を開けると制服姿の柚子が笑顔で挨拶してくれる。

 朝イチの登校前に、可愛い女の子が迎えに来てくれるなんて最高だよね。

 

「おはよう、柚子さん」

 

 オレも挨拶を返しながら、彼女に軽くキスをする。

 ちゅっ、と、唇が触れる程度のもの。柚子は嬉しそうに受け入れて、微笑む。

 これだけでもう、1日が楽しくなること請け合いだ。

 キスは日課。

 素晴らしい。

 朝の挨拶とキスを交わしてから、連れ立って登校する。

 あれこれと会話をしながら歩き。

 並んで学園の正門をくぐって。

 手を振ってから互いの教室に別れていく。

 周りの目?

 むしろ見せつけようよ。

 

「不真面目な態度ではいられないし、勉強にも身が入るってもの」

 

 午前中の授業をこなして、昼休みになる。

 昼食は食堂で。柚子に生徒会などの予定が入っていなければ、一緒に過ごすことが多い。

 しかも柚子はわざわざお弁当を作ってきてくれる。お弁当箱を指し出してくる彼女の、ものすごく嬉しそうな顔といったら。可愛くて嬉しくて、胸キュン必至。

 逆にオレの方も弁当を作ってきて、柚子に差し出したこともある。この時はえらく驚かれた。同時にものすごく喜ばれたけど。

 そんなふうにして食事とおしゃべりを楽しむ。時には、会長さんがニヤニヤしつつ絡んできたり、広報さんから嫉妬混じりに突っかかられたりすることもあるけれど。おおむね穏やかにお昼時を過ごしている。

 女の子と一緒にお昼。優雅な青春だね。

 

「満足感いっぱいで、午後の授業なんてあっという間だ」

 

 午後の授業をこなせば、放課後だ。

 今のところ、オレはどこか部活に入っているわけでもない。放課後は基本的にフリー。

 一方で、柚子は生徒会の仕事が入ることが多くて忙しい。なので、それぞれの都合に合わせて過ごしている。

 時々、会長さんに「ちょっと手伝って」と強引に駆り出されたりするけれど。その時はまぁ、多生の縁ということでできることは手伝っている。誰でもできるような雑用だけどね。

 というか。一緒に雑用をこなす生徒会スタッフの面々にも、オレと柚子の仲は伝わっているようで。最初は何かとスタッフ女子たちに恋バナを求められたりした。恥ずかしそうにする柚子の姿が眼福だった。

 一度調子に乗ってノロケ話をしようとしたら、真っ赤になった柚子に止められたことも。

 そのじゃれ合い方がいかにもラブラブに見えたみたいで、後で「ごちそうさま」と言われたりした。どういたしまして。

 

 

 

 平日はそんな感じ。できるだけ顔を合わせようとはするけれど、案外それぞれ自分のことを優先にして過ごすことが多い。

 けれど週末になれば、さぁイチャつくぞとばかりにデートをする。

 

「俊一くん、今日は何をしようか」

「とりあえず、一緒に歩きながら決めよう」

 

 学園艦のあちこちをぶらついたり。

 ウインドウショッピングを楽しんだり。

 公園に出向いてまったりしたり。

 はたまた、オレの部屋に引きこもってダラダラしたりとか。

 その日の気分によって、過ごし方はいろいろだ。

 ちなみに柚子は寮住まいなので、彼女のところにオレが出向くというのは最初から選択肢に入っていない。

 自分で言うのもなんだけれど、年相応に健全なデートをしているな。

 

 

 

 もちろん、エッチなこともする。

 抑えきれない欲望にまみれて、濃いめに過ごしたりもする。これもある意味、年相応だ。

 

「ん、ちゅ、ちゅぷ、ふぁ、ん……」

 

 オレの部屋で、ベッドに腰掛けたオレの股間に、柚子が顔を埋めている。

 身体を重ね続けるうちに、いろいろとして欲しいことを教え込んでしまった。

 フェラチオもそのひとつ。

 

「俊一くん、気持ちいい?」

「すっごく、気持ちいい」

 

 気持ちいいか尋ねてくる彼女に、ノータイムで返事をする。声を掛けながら優しく頭を撫でると、柚子は嬉しそうに笑みを浮かべて、またチ○コを咥え込んだ。

 もともと世話好きな性格だったのもあってか、柚子は尽くしたがりなところがある。

 オレのお願いに応えて、喜んでくれると自分も嬉しい。

 そんな様子を見せてくる。

 嬉しそうな彼女を見てついつい、調子に乗っていろいろなことをお願いしてしまった。

 思い切りハグをしてみたり。

 膝枕をしてもらったり。

 お弁当をあーんしてもらったり。

「キスは日課」も、これがきっかけで始まったものだった。

 そういった健全っぽいものから、フェラチオみたいなエッチなことまで。恥ずかしがりながらも応えてくれる柚子が、可愛くて嬉しくてもう、といった感じで仕方ない。

 ついには「着衣プレイが好き」という性癖まで暴露してしまって、やっちまった感に身悶えしたりもしたけれど。それはさておき。

 そんなこともあって。今日は一緒に学校から帰宅して、オレの部屋に立ち寄り、制服を着たまま柚子にフェラチオをしてもらっている。

 こんなことをさせて申し訳ない、という気持ちと。

 ここまでしてくれることに対する悦びが、ない交ぜになって。

 オレはひどく興奮していた。

 

「んっ……。ん、ちゅ……。ふは、んむ……」

 

 柚子の、ゆったりとしたフェラチオが堪らなく気持ちいい。

 陰茎全体を根元から舐め上げてくる。

 舌先を突き出して、つつつ、と這うように。

 上に、下にと柚子の舌が動き回って。

 もどかしいような気持ち良さがこみ上げてくる。

 

「れろ、んっ」

「ふぉ……。柚子さ、ん」

 

 彼女の舌先が、亀頭の裏側から尿道へと伸びていく。

 チロチロと、スジに沿ってくすぐられる感覚。

 それが、カリの窪み、傘の部分、カリから亀頭の表面までまんべんなく広がっていく。

 

「あ、ん。ちゅ、んむ……」

「あったかい、気持ちいい、柚子さんの口……」

 

 次いで、ぱっくりと、亀頭全体を咥えてきた。

 柚子の口の中の粘膜が、亀頭を舐め回して、唾液まみれにする。

 舌が控えめに、裏筋からカリまで絡みついてくる。

 唇が、陰茎を緩く締めつけつつ、もごもごとうごめく。

 さらに、ちゅっ、ちゅっ、と吸われるものだから。

 気持ち良くてたまらない。

 

「はぁ……。柚子さん……」

 

 下半身に広がる快感に酔いしれながら。彼女の頭に手を置いて、撫で回す。少しでもこの気持ち良さが伝われとばかりに。

 オレの手の動きに気を良くしたのか。チ○コを咥える柚子の口の中で、舌の動きが大きくなる。亀頭全体をゆったりと、包むように舐め回してくる。

 特に敏感な先っぽは、彼女の舌の奥あたりで常に撫でられているような状態。柔らかくてぬめぬめした感触が、オレの快感中枢を激しく刺激する。

 

「ごめん、柚子さん。気持ち良過ぎて、もう限界きちゃう」

「んむ、ん、ちゅぷ……。はぁ、んっ……」

 

 オレのギブアップ寸前の訴えに、柚子さんはチ○コから口を離した。

 口元から少し垂れる唾液が、エロい。

 

「柚子さん、お願い」

「わたし、どんどんエッチな子になっちゃう……」

 

 そんなことを言いながらも、お願いを聞いてくれる彼女が愛おしくてたまらない。

 柚子が、制服の上を脱ぐ。

 シャツも脱いで、上半身はブラジャーだけの姿に。

 背中に手を回して、ホックを外し、ブラジャーも取ってしまった。

 上半身裸になった柚子が改めて、勃起したオレのチ○コの前に座る。

 ほよん、と柔らかく揺れるおっぱい。少し芯を持ったようにツンと上向いた乳首。

 彼女は自分でふたつの大きな膨らみを持ち上げて、胸の谷間を広げた。

 そして、オレのチ○コに押しつけてから。

 

「えいっ」

 

 おっぱいを外側から内側へと寄せて、チ○コを挟み込む。

 つまり、パイズリだ。

 自分のチ○コが、大きなおっぱいに包まれている感触。アソコとも口内とも違う柔らかさが下半身から伝わってくる。鋭い快感ではないけれど、これはこれで気持ちいい。

 けれど、それよりなにより。

 

「あの、俊一くん?」

 

 チ○コをおっぱいで挟みながらこちらを見上げてくる、柚子の姿がチ○コに響く。

 

「やばい柚子さん。これ、癖になりそう」

 

 腰回りに、おっぱいの柔らかさが押しつけれられる。

 これがまた、快感というか。

 なんだか嬉しい。

 でも快感の面でも、もう少し楽しんでみたい。

 

「柚子さん。胸で挟んだまま、チ○コに擦りつけるようにしてみて」

「んっ……。こう、かな」

 

 おぉ、これは……。

 柚子が、自分の胸を手のひらで持ち上げる。それだけで、挟まれたチ○コが強く擦られる。

 ふわふわだけれどみっちりとしたおっぱいが、勃起したチ○コをたっぷりと包み込む。

 その上で、もちもちとした吸いつくような肌が、まんべんなく擦り上げて刺激を与えてくる。

 ついさっきまで口で咥えてもらっていたおかげで、唾液でぬるぬるになっている。

 それがまた、おっぱいとチ○コが擦れ合うのを滑らかにさせていた。

 むにむに、しゅるしゅる、にゅるにゅると。

 彼女の胸が動けば動くほど、擦れれば擦れるほど、気持ち良くなる。

 

「柚子さんごめん。本当にやばい。気持ち良くて出ちゃう」

 

 下半身の奥の方、睾丸のつけ根から精がこみ上げてくる感覚。

 チ○コを包むおっぱいの気持ち良さを少しでも長く味わおうと、射精感を我慢する。

 あふれ出そうになるのを少しでも遠ざけようと、ついつい腰を突き出してしまう。

 それが柚子にチ○コを突きつけるような形になって。

 より深く、彼女のおっぱいと密着することになり。

 胸の谷間の中でさらに、みっちりと包まれてしまう。

 また快感が増して、射精をこらえるのがより苦しくなり……。

 気持ちいいけれど、苦しい。でも気持ちいい。

 

「俊一くん、すごく嬉しそう」

 

 柚子も、気持ち良さに震えるオレの反応を楽しんでいるところが見られる。おっぱいをぐにぐにと動かして、身体まで揺すりながら、チ○コを弄んでくる。

 柚子のおっぱいに包まれたチ○コ。

 胸の谷間からのぞく亀頭。

 自分の胸を揉みしだき、息を少し上気させながらまじまじと見つめている柚子の表情。

 

「あ、くっ」

「きゃっ」

 

 腰が震えて、いきなり射精感が爆発した。

 こらえる余裕もなく、柚子のおっぱいに包まれたまま思い切り射精してしまう。

 いきなりの射精に彼女も思わず声を上げた。胸はもちろん、柚子の顔にまで射精が届いて、ベタベタに汚してしまう。

 ……思わぬところで、ぶっかけを経験してしまった。

 何というか、年上のお姉さんを染めるみたいな背徳感がこみ上げてくる。

 無意識に、腰が動く。柚子の胸の谷間にチ○コを挟まれながら、ぐいぐいと腰を動かすのが気持ちいい。射精後の気怠さが、おっぱいの柔らかさでほぐされていくような感じだ。

 はふぅ、と、心を落ち着かせるように息を吐いて。

 

「いやいや、はふぅじゃねぇだろオレ」

 

 自分が何をしているかに気づいて慌てる。

 勝手に彼女の胸を堪能して、一方的にザーメンまみれにしておいてその態度はどうかと。

 

「ごめん柚子さん。勝手に吐き出して満足するとか、本当にごめん」

 

 さっきまでの気持ち良さや心地よさをすっとばして。オレはわたわたと濡れティッシュに手を伸ばした。柚子と同じ目線まで腰を落として、彼女の顔や胸に飛び散ったザーメンを拭い取っていく。

 自分でやっておいて、勝手に慌てているオレの姿が滑稽だったのか。柚子はくすくすと笑いながらじっとしている。

 

「俊一くん、綺麗になった?」

「とりあえず目につくところは。あ、風呂。風呂沸かしてさっぱりした方が」

 

 ばたばたと風呂場に向かう後ろで、柚子のこらえるような笑い声が聞こえた。

 ちなみに慌てている間ずっと、下半身が丸出しだった。

 ひょっとして彼女が笑ってたのはこれのせいだろうか。

 風呂に入る直前に気づいて少しへこんだ。

 

 

 

 そんな感じで、イチャイチャしたりエロいことをしたりしながら、大洗の学園艦での生活を楽しんでいる。

 柚子との関係は特に隠そうとしていない。

 人前で親しく接するのをためらったり、変に態度を変えたり、なんてことはしない。さすがに恥ずかしくなるようなことはしないけれど。クラスメイトの前でキスをするとか。そこら辺の節度とか羞恥心とかは、もちろんある。

 ある、つもりだったんだけど。

 傍から見ると、どうやらそうでもないらしい。

 先輩で生徒会副会長の柚子とオレが恋仲だ、というのが、あっという間にクラスで話題になった。クラスメイトの女子たちの食いつきがかなりのもので、さすがは元女子校と思ったね。

 でもオレと彼女の仲を見たり聞いたりするうちに、クラスメイトたちが「バカップルって言葉を実際に使うとは思わなかった」と言ってきたのは少しショックだった。

 

「バカップルに見えるんだってさ」

 

 それを柚子に言ったら、彼女は顔を真っ赤にしてしまった。オレと一緒で、いかにもカップルがはしゃいでる、みたいな意識は表に出していないつもりだったらしい。

 

「いやいや。小山も大瀬良くんも、丸分かりだったよ?」

「面の皮が厚い大瀬良はともかく、柚子ちゃんまで無意識に惚気てたなんて……」

 

 オレと柚子の認識の仕方に、会長さんと広報さんが揃ってツッコミを入れてきた。

 マジかよ。

 でも考えてみると、みほともまほとも、常にベタベタしてたから。オレ、そのあたりの感覚が少しずれてるのかも。

 

「でもまぁ、困ることはないし。別にいいでしょ。オレと柚子さん、バカップルで」

「開き直って、カノジョとイチャつくのを取るのか。ある意味、男らしいねえ」

「公然とオレのオンナって振る舞えるんだから、むしろいいこと尽くしじゃないかな。ほら、柚子さんってモテそうじゃないですか」

「確かに。あれかい? もうツバつけてるんだから手を出すな、みたいな」

「柚子ちゃんをモノ扱いするな!」

「本当に桃ちゃん先輩は、柚子さんが大好きですねー」

「やめろ! お前に桃ちゃんとか呼ばれたくない!」

「あれだよ。かーしまは、小山を取られて寂しいんだよ」

「何言ってるんですか会長!」

「桃ちゃん先輩、顔が真っ赤っすよ」

「だから桃ちゃんと呼ぶな!」

「うぅ……。恥ずかしいから俊一くんも会長も桃ちゃんもやめてぇ……」

 

 気がつけば、会長さんとオレとで、広報さんを弄り倒している。

 柚子と恋仲になってから、会長さんこと角谷杏先輩、広報さんこと河嶋桃先輩との接点が増えた。まぁ大抵は、会長さんがからかってきて、広報さんが突っかかってくるんだけど。で、それを柚子がなだめて、オレと会長さんが改めて広報さんを弄るのが定番になっていた。

 なんのかんので、この2人にもそこまで嫌われてはいないようだった。女の子と親しくなれるのは嬉しいし、できるなら嫌われたくないものね。こういうふざけ合えるような関係は、大切にしていきたいものだ。

 

 

 

 柚子との仲だけじゃなく、他の面でもいろいろと楽しく充実した学園生活。そのおかげなのか、時間が経つのが本当に早い。11月、12月とあっという間に過ぎていく。

 クリスマスは、大洗で柚子と一緒に過ごした。なぜか会長さんや広報さんまで乱入してきて、ロマンチックどころじゃない愉快な時間を過ごす羽目になったけど。それはそれで楽しかったし、柚子もそれで構わないと思っていたみたいなので良しとする。

 その翌日に、柚子と2人きりになってちょっぴりロマンチックなことをしてみたのは秘密だ。柚子の恋人ネットワークで、みほとまほには筒抜けだったけど。

 ちなみに、学生の一般的な冬休み期間中、学園艦は大洗に帰港している。そのおかげで、年末は内地で働いている両親と一緒に過ごすことができた。

 その際、両親に柚子を紹介した。

 まさかの新しい恋人に父さんも母さんも驚いていた。熊本のみほとまほにも了解済みと言ったら、驚きを通り越して呆れてしまったみたいだけど。

 父さんは「我が子のどこにこんなモテ要素があるのか」と本気で悩んでいた。うん、正直なところ、それはオレも思ってる。

 母さんは「みほちゃんも、まほちゃんも、泣かせたら許さないからね」と凄んできた。うん、母さんは本当に西住姉妹を気に入ってるなぁと再認識。もちろん、みほもまほも泣かすつもりはないから。説得力皆無なのはよく分かってるけど。

 とまぁそんな感じで。両親が「我が子の恋人がまだ増えるんじゃないか」と戦慄するのに落ち込んだり、ちょっと真面目に将来のことを考えたりしながら、年を越した。

 正月。松が開けないうちからオレは熊本へ向かう。

 もちろん、みほとまほに会うためだ。

 黒森峰女学園の学園艦も、年末年始は帰港している。西住姉妹も学園艦を降りて、実家に帰っていた。

 熊本の町中で一緒に過ごそうと誘いだす。さすがに実家に押しかけたりはしない。

 でも何やら、名家ゆえの難しいことがいろいろとあるようで。待ち合わせ場所で顔を合わせた途端、2人に強く抱きつかれた。

 

「俊一くぅん……」

「俊一……」

 

 一般の出のオレとしては、2人が何に苦しんでいるのか理解しきれない。ただ、みほとまほを抱きしめ返して、落ち着かせるように頭を撫でる。それくらいしかできなかった。

 1月3日から5日の熊本滞在中、2人は揃ってオレにべったりと引っついていた。少しでも2人の気持ちが晴れるように、オレは彼女たちの望むままに行動する。

 会えずにいた間の渇きを癒そうとするかのように、オレに甘えてくる、みほとまほ。

 オレが大洗へ越してからずっと、電話やメールでのやり取りだけだった。触れ合えなかった分を取り戻そうと、一緒に過ごし、はしゃぎ、笑う。

 たった3日だけだったけれど、オレたちは楽しみ尽くした。

 最後の日は、オレが泊まっている宿にみほとまほが乗り込んできて、夜を通して一緒にいた。健全にあれこれしゃべり倒したり、エロいことをしまくって心身ドロドロになったりして。

 それでも足りないような気がしたんだから、オレにしても彼女たちにしても大概だなと、後になって思ったものだ。

 

 

 

 名残を惜しみながら、オレは大洗へと帰り。

 新学期が始まって、特筆することもなく時間が過ぎる。

 1月は行ってしまった。

 2月は逃げてしまった。

 そして去ってしまうという3月の末。

 大洗学園の学園艦は、地元大洗に帰港している。4月から新しく大洗学園に進学する生徒たちを迎え入れるためだ。

 その期間の初日。オレは学園艦を降りて、転入してくる女の子を待っていた。

 待ち合わせの時間までかなりの余裕を残して、待ち人が姿を見せる。

 

「俊一くんっ」

 

 オレの姿を見つけて、彼女は大きな声を上げる。手に荷物を抱えたまま、えっちらおっちらとふらつきながらも、小走りで近づいてくる。

 西住みほ。

 約半年前、オレが転校する学園に自分も行く、と宣言して、実行に移した女の子。

 その頃に着ていた黒を基調とした黒森峰の制服に対して、大洗の制服は白地に緑線の入ったセーラーと、同じく緑色のスカート。それを着ている今のみほは、落ち込み抑圧されていたかつてと違って、とても明るく爽やかに見える。

 オレも笑顔を浮かべながら、彼女の方へと歩いていく。すぐ近くまで行くと、みほはもどかしくなったのか、荷物を放り出して、抱き着いてきた。

 

「俊一くん。来ちゃった」

「言葉では聞いていても、いざ実際に目の当たりにすると驚きだよなぁ」

 

 状況とタイミングが合わさったとはいえ、オレを追いかけて学校を移ってきたわけだから。その決断力と行動力に脱帽だ。

 もちろん、素直に嬉しい。

 嬉しいけれど、そこまでさせてしまったことに、いくらか責任感みたいなものも感じる。

 オレは強く抱きしめて、みほを受け入れる。

 

「ようこそ。今日からみほちゃんも、大洗学園の生徒だ」

「うん。俊一くんと同じところに通えるって、ずっと楽しみにしてたんだよ」

 

 みほは本当に嬉しそうに、オレの胸板に頬を擦りつけてくる。

 と思ったら、何やら怪訝そうに見上げてきた。

 

「俊一くん、少し背が伸びた?」

「え、そう?」

「抱きついた時に顔の当たるところが、ちょっと違う気がする」

 

 そんなことを言いながら、みほはつま先立ちになって、首元に顔を埋める。

 すぐに足を戻して、今度は胸板に顔を押しつけて、強く抱きしめてくる。

 顔を当てていた場所が違うということか。そんな違いが分かるほど、オレに好意を見せてくれる。そんなみほが可愛らしくて、愛おしくて。思わず抱きしめそうになる。

 そんなところで。

 いきなり、目を覆われた。

 次いで、背中に広がる柔らかな感触。

 

「誰だと思う?」

 

 問い掛けてくる言葉。

 というかこの声は、間違えようもなく。

 

「……まほちゃん?」

「当たりだ」

 

 ふさがれていた視界が元に戻って。

 後ろを振り向くと。

 

「ふふっ。3カ月ぶりだな、俊一」

 

 悪戯が成功したかのように微笑むのは、年上の、恋人のひとり。

 西住まほ。

 彼女もまた、みほと同じく大洗の制服を着ていた。

 

「え、どういうこと?」

「つまり、私も大洗に転入するということだ」

「これでみんな一緒にいられるね」

 

 素で驚いたオレ。

 西住姉妹は揃って、嬉しそうに、まぶしいくらいの笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ―続く―




さぁ、4Pの幕開けだ!(最悪)
槇村です。御機嫌如何。


まほさんの大洗入りは、実は最初から考えていた。
一応それらしい背景も考えてはいる。
というか、感想欄でオレの心を読み取った方がいて。
触れないようにするのに苦労した。

正直なところ、早く西住姉妹を絡ませたくて。
今回は巻きまくりました。

次回、ついに原作突入です!
……いや原作というよりも、淫蕩の学園性活の始まりかな。(それは言い過ぎ)
でもさ。
柚子さんにパイズリをしてもらいながら、西住姉妹の胸を両手で揉みつつキスしまくるとか。
横たわった股間の上でみほが腰を振って、両腕に抱いたまほと柚子が甘えてくるとか。
最高だと思わんかね。







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12:※ラブラブ一直線Ⅱ/みほ&まほ

 正面からみほに、背後からまほに抱きつかれながら、オレは少し混乱した。

 なんで、まほまで大洗にいるの?

 でも、2人の柔らかくて温かい感触に挟まれているうちに、「まぁいいか」という気持ちになってくる。

 まほは少し苦笑。

 みほは悪戯が上手くいったかのような笑みを浮かべている。

 

「深刻になり過ぎないで、笑って受け止めてくれるところには本当に救われる。ありがたくて、癒されて仕方ないぞ」

「びっくり作戦、大成功だね」

 

 うん、まぁいいや。

 今目の前に、みほとまほがいる事実の方が大事だよね。

 

「いやでも、本当に驚いたよ。みほちゃんの転入は聞いてたけど、まほちゃんはそれらしいことは何も言ってなかったじゃない」

「この日のために、ずっと黙っていたんだ」

「柚子さんにも、内緒にしてもらってたからね」

 

 そうだよ。転入なりなんなりの手続きなら、柚子が知らないわけがない。恋人ネットワークと称して、みほやまほと連絡を取り合ったりしているくらいだから。転入の書類関連じゃなくても、話は通していたんだと思う。

 ということは、柚子もこの「びっくり作戦」とやらに絡んでいるに違いない。

 

「でも確かに、まほちゃんと会えたサプライズはすごく嬉しい」

「正直なところ、ずっと言えずにいたのは辛かった……」

「あはは……。お姉ちゃん、本当に辛そうだったよ」

「ある意味、黒森峰のゴタゴタよりもつらかった」

「……えーと。それって、オレが聞いてもいいものなの?」

 

 背中にもたれ掛かっていたまほが、あっ、という感じで声を漏らす。どうやら無意識に出てきた言葉らしい。……オレの前だと少し無防備というかヌケてるというか、そんな感じになるところが可愛いぞ。まほちゃん。

 

「まぁ、特に部外秘というわけではないしな。強いて吹聴することでもないが」

「お姉ちゃんが大洗に来てる時点で、内緒も何もないよね」

 

 西住姉妹の自己弁護のようなセリフを聞きつつ。2人の言葉に耳を傾ける。

 簡単に言うと、みほが転入してきた理由と同じように、まほに対しても同じような騒動が起きたんだとか。そのために、黒森峰からしばらく離れることになったらしい。

 去年の戦車道全国大会決勝での、みほの行動。まほはこれを擁護して、黒森峰の戦車道における意識改革を試みた。でも黒森峰の戦車道メンバーはおろか、OBたちや西住流関係者などからこぞって突き上げを食らったという。

 ことが大きくなり、流派家元である母親にまで話が届き、まほはしばらく黒森峰の戦車道から距離を置くように命じられた。

 

「少し頭を冷やせ、ということだな」

 

 まほは苦笑しつつ、そんなことを言う。

 いやいや、それって結構な大事なんじゃないの?

 

「退部というか除名というか、そういうこと?」

「いや、しばらくの活動自粛、という方が適当だろう。自分で言うのもこそばゆいが、私は戦車道の世界ではそこそこ有名人だ。流派の意に沿わない行動をしたからといって、西住流から勘当するにはいささかデメリットが大きい。家名にも傷がつくしな」

「家名、って、そういう問題なの?」

「そういう問題になってしまうんだ」

 

 気負うことなく、まほは淡々と状況を説明する。

 状況もさることながら、そんな彼女の態度を見て、なにやら頭を抱えたくなってしまう。

 

「うあー。分かりたくねぇー」

「分からなくていい。面倒なゴタゴタに、俊一を巻き込みたくない」

 

 とにかく、しばらく戦車道から一歩引いたところで頭を冷やせ、ということになったらしい。黒森峰にいたままでは、まほも西住流も落ち着かないだろうということで、まほの他校への短期転入が決まったのだという。

 

「戦車道絡みの知人がいる学園でもよかったんだがな。どうせなら戦車道のないところがいいだろうと、大洗を選んだわけだ」

 

 手続きそのものは、すでに転入が決まっていたみほと同じだから楽なものだった。

 まほはそんなことを言う。

 けれど。

 

「なんだか、手続きそのものもまほちゃんがやったみたいに聞こえるんだけど」

 

 なんてことを口にする。

 まほは、オレの唇に人差し指を置いて、言葉を止めた。

 その指を自分の唇に戻して、「しー」と、少しお道化てみせる。

 オレはそれ以上、何かを言うのを止めた。

 

「分かった。遠距離恋愛だった恋人と学園生活を送れるってのを、素直に喜ぶことにするよ」

「そうしてくれ」

 

 難しい話はこれで終わりだと、まほはオレの腕に思い切り抱きついてくる。制服の上からでも分かる、豊かなおっぱいの感触に嬉しくなる。

 

「私だって、一緒にいられるようになって嬉しいんだからな」

「オレだってそうだよ。大洗の制服を着たまほちゃんも見れたし。新しいイメージを見たような感じがして、なんだか得した気分」

「む、そうか?」

「黒森峰のピシッとした感じもカッコよかったけど。今のまほちゃんの、ふんわりした雰囲気も好きだよ。ぶっちゃけすっごく可愛い」

 

 彼女の髪を少しかき上げて、おでこにキスをしてしまう。

 ちゅっ、と触れるだけのもの。

 まほは不意打ちを食らって、驚いた顔をする。

 けれどすぐに、嬉しそうに緩んだ表情に変わる。

 

「そうか、嬉しいな。……うん、嬉しいぞ」

 

 まほがより強く、ぎゅーっと、腕に抱きついてくる。

 可愛い。

 

「お姉ちゃんとばっかりイチャイチャするの、ずるい」

 

 幸せに浸っていると、もう片方の腕にしがみついてくる、柔らかな感触が。

 少しへそを曲げたような顔をする、みほだ。

 

「ごめんごめん。もちろん、みほちゃんも大好きだよ」

 

 しがみつく手を優しく離して、みほの頭をわしわしと撫で回す。それから抱きかかえるようにして、みほのおでこにも同じようにキスをした。

 途端に、みほは笑顔になった。甘えるように頭を押しつけてくる。

 

「とりあえず、学園艦に上がろうよ。熊本からの荷物とか、届く時間も決まってるんでしょ?」

「そうだな。積もる話は落ち着いたところでしよう」

「わたしとお姉ちゃん、一緒に住むことになってるからね」

「あれ、学園の女子寮じゃないの?」

「2人分借りるよりも、広めのところを借りて一緒の方がいいということになってな」

「俊一くん、いつでも遊びに来ていいからね!」

「確かに、女子寮に出向くのはちょっと勇気がいるからなぁ」

 

 そんな会話をしながら、3人連れ立って歩き始める。

 片手でみほの頭を抱きかかえて。もう片方の腕はまほに組まれたまま。

 2人の手荷物を持とうとしたけれど、やんわり断られた。自分で持つからその分べったり密着させろ、と言われたのでされるに任せる。

 この時は気づかなかったけれど、女の子2人を両手にはべらせながら歩くオレはたいそう目立っていたらしい。「なんだあの男は」みたいな感じで注目を集めていたと、後からクラスメイトの男子から聞いた。

 当たり前の反応かな、うん。

 元女子校でそんなに堂々とイチャつける神経に感心するとも言われた。

 それについては反論があるな。オレとしては、相手のことを考えながら、自分のやりたいようにしているだけなんだけどね。

 

 

 

 両手に花の状態で、べったりとくっついていたオレと西住姉妹。でも学園艦の上へと上がるタラップなりなんなりではさすがに歩きにくいため、手を離してもらう。2人とも少し落ち着いたのか、近めに寄り添う程度の距離を取って、並んで歩く。

 その間も、あれこれとおしゃべりを続けていた。

 同じ学園艦でも黒森峰とはここが違うだとか。

 大洗の町を学園艦の上から眺めて感想を言い合ったりとか。

 両親の住んでるのがあの辺りと指を差せば、「挨拶に行かないと」と2人が言い出したり。

 行ったことはないけれどあの辺りにボコミュージアムなる施設があるらしいと言ったら、みほのテンションが異様に高くなったり。

 学園艦に上がったばかりなのに「いつ下艦するか」の予定を組み始めたり。

 あれやこれやと賑やかにしながら、オレたちは学園艦上の道を歩いている。

 そんななかで聞いた、まほの言葉につい胸キュンしてしまった。

 

「転入した大きな理由のひとつは、私だけ置いていかれるのが嫌だったからなんだ」

 

 みほが大洗学園へ行くことは決まっていた。

 さらにオレが、柚子という恋人を増やしたと聞く。

 みほと柚子が、大洗でオレの側にいるのに、自分だけが取り残されてしまう。

 そのことに、焦りと、寂しさを感じてしまったんだとか。

 

「私への戦車道自粛要請は、正直、渡りに船だと思ってしまった」

 

 まほは少し恥ずかしそうに、そんなことを言う。

 ……こんな可愛いところを見せる年上のお姉さんが、オレの恋人なんだぜ?

 

「それならお姉ちゃんも一緒に大洗へ行こうって、わたしが誘ったの」

 

 みほがそんなことを言ってくる。ものすごく自慢げに。

 無邪気さ丸出しなところが可愛らしくて、みほの頭をつい撫で回してしまう。

 そんなオレとみほに、まほは苦笑を漏らす。

 

「戦車道は、その気になればどこでもできる。だが俊一がいるのは大洗だけだ、と言われてな」

「……そこまで想ってくれる2人に、ドキドキが止まらないよ」

 

 でもその一方で、みほとまほが打ち込んできただろう戦車道に対して、どうするつもりなのかが気になってしまう。始まりはどうあれ、彼女たちが戦車道から距離を置くことを決めたきっかけが、オレなのだ。秀でた才があるわけでもない一般人としては、本当にいいのだろうかなどと考えてしまう。

 

「ひとまずは、本来の目的の通りにするつもりだ。西住流から距離を置いて、普通の学生生活を送ってみようと思う。せっかく恋人の側にいられるんだ。色恋にふけるのも悪くはないだろう?」

「まほちゃんは、それでいいの?」

「逆に何かいけないことがあるのか? 今の自分に、私は案外ワクワクしてるぞ。かといって戦車道を止めるつもりも、ないがしろにするつもりもない」

 

 まほは、真剣な顔をして言葉を紡ぐ。

 オレもみほも、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「大洗学園は、20年ほど前は戦車道が盛んだったそうだ」

「えっ。お姉ちゃん、そうなの?」

「あれ、そこは姉妹で情報共有できてないのか」

 

 素でおどろいているみほ。

 まほは何かごまかすように、こほん、と息を吐く。

 

「いや、俊一のおかげでみほも落ち着いたとはいえ、戦車道がないはずの転入先で、戦車の話をするのは……。みほの気持ちを暗くさせてしまうかもしれない、と思って、な」

「お姉ちゃん……」

 

 オレの横で歩いていたみほが、反対側にいるまほの方へと移動する。そして、少しばつの悪そうな顔をしていた姉に、しがみついた。

 

「平気だよ、お姉ちゃん。わたしも、戦車道が嫌になったわけじゃないから」

「……そうか」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん」

 

 仲睦まじく、微笑み合う、みほとまほ。

 美しき光景かな。オレまでつい笑みを浮かべてしまう。

 

「話を戻すと、だ」

 

 気を取り直したように、まほが話を再開させる。

 顔は真面目になっていても、腕にしがみついた妹・みほをそのままにしているのが何だか可愛らしい。

 それはともあれ。

 まほの話が続く。

 

「大洗学園はかつて戦車道をしていた。だがいろいろあって廃れてしまい、現在に至るまで戦車道にまつわる活動はない。所有していた戦車も、売却するなどして処分してしまったんだとか」

 

 まぁ、戦車はデカいし重いし、維持費も大変だろうから。当然と言えなくもない。

 しかしよくそこまで調べたものだと感心してしまう。

 

「だが、1輌だけ残っているらしい。それを使わせてもらえないか、柚子を通して頼んでみるつもりなんだ」

「あ、柚子さんは生徒会だから」

「そういうことだ」

 

 オレとしては戦車云々よりも、まだ顔を合わせていないはずの柚子を名前呼びしていることに驚く。直接の接点はまだ電話とメールだけのはずなのに、みほ、まほ、柚子の仲がずいぶん親しくなっていてびっくりだ。

 

「大洗で戦車道をやろう、というわけじゃない。個人的に戦車を触りながら、初心に戻ってみようという話だ」

 

 オレが内心でズレたことを考えていることも気づかれないまま、話は進む。

 まほが、しがみついているみほの頭を撫でた。

 

「みほも、一緒にやるか?」

「うんっ」

 

 みほは嬉しそうに、本当に嬉しそうに、まほにしがみつく。

 姉として、何か感慨深いものがあるのか。まほは愛おし気に、妹のみほを撫でる。

 仲良きことは美しきことかな。

 部外者には分からない、戦車道絡みのわだかまりみたいなものがあったのかもしれない。それが少しでも解消されたのなら、こんな嬉しいことはない。

 

「こうして私たちが仲良くなれたのも、本当に、俊一のおかげだな」

「え、オレ?」

 

 いきなりの名指しに面食らってしまった。

 オレが何かしたか。

 ……何も思いつかない。

 

「オレ、何もしてないでしょ。というか、いてもいなくても大して変わりはないんじゃ」

「そんなことないよっ!」

「おぉう」

 

 食い気味にオレへと視線を向ける、みほ。

 あれれ、その顔は怒ってませんか?

 

「俊一くんがいたから、わたしは落ち込んでた状態から抜け出せたんだもの。転校とか、いろいろ、前向きに考えられるようになったのも、俊一くんのおかげなんだから」

「そうだな。俊一がいなかったら、私はみほが苦しむのをそのままにしていた。西住流や黒森峰の隊長といった立場に捕らわれて、大事な妹をないがしろにしていたかもしれない」

 

 みほが、いかにオレに救われたかを熱弁する

 まほも、真剣な表情でオレを見つめながらそんなことを言う。

 

「俊一は何もしていないというが、辛い時に側にいて、気を遣ってくれていた。それだけで、私たちはどれだけ助けられたか」

 

 姉の言葉に、みほも大きくうなずいている。

 たかがその程度、とオレが思っていること。

 それが十分に救いになっていたと、彼女たちは言う。

 

「恩を感じているというのはある。だが今はそれ以上に、お前と一緒にいることの嬉しさや楽しさの方が強い。私たちは俊一のことが好きで、お前の側にいたいんだ。あんまり自分のことを下に見ようとするな」

「俊一くんを好きなわたしたちのことまで、卑下することになるんだからね」

 

 ……なんだか、顔が熱くなってきた気がする。

 見れば、みほもまほも、真剣ながらも少し顔を赤くさせている。

 まいったな。

 ごめん、悪かった、と、素直に謝る。

 そして。

 

「あー。正直、なんて言えばいいのか分からないんだけど」

 

 始まりや過程はどうあれ、迷わず言えることは。

 

「オレも、みほちゃんとまほちゃんが大好きだよ」

 

 これに尽きる。

 彼女たちに失望されないように、精進していこう。

 

 

 

 学園艦で、みほとまほが暮らす住居。しっかりとした作りの、アパートというよりは規模の小さなマンションだ。広めに作られた2LDKで、大きめの家具類は備えつけられていた。

 学生の姉妹2人が住むには豪華だな、なんて思いながら中へと招き入れられた途端。みほとまほが揃って抱き着いてきた。

 

「ずるいよ。あんなストレートに言われたら、好きが止まらなくなっちゃう」

「まったく、俊一は弱いところを外さず撃ち抜いてくる。私たちは負けっぱなしだぞ」

 

 みほとまほが、2人同時にキスをせがんでくる。

 彼女たちの方から唇を寄せてきて、オレの頬にキスをする。何度も何度も。

 少しずつ、唇に近づいてきて。

 

「みほちゃん」

「ちゅ……。はぅ」

 

 みほの唇を奪い。

 

「まほちゃん」

「んっ……。ふぁ……」

 

 すぐに、まほの唇も奪う。

 そして交互に、2人と唇を重ね合った。

 

「んちゅ、ふ、んっ。はぁ……」

「は、んっ。ん、ちゅっ」

 

 舌を絡めて。

 唇をはみ。

 音を立てながら唾液を混じり合わせる。

 オレが2人を抱き寄せると、彼女たちは逆らうことなく身体を押しつけてくる。大洗の制服越しに、みほとまほの身体の柔らかさが伝わってきた。

 

「久しぶりのキス。久しぶりに抱きしめる感触。嬉しくてたまらない」

「わたしたちだって、3カ月以上も俊一くんに触れられなくて、触れてもらえなくて、寂しかった」

「あぁ……。俊一。会えなかった分まで、力いっぱい抱きしめてくれ」

 

 求められるままに、みほとまほを両腕に包み込む。2人の部屋の奥へと歩いていって、備えつけのベッドに腰掛けた。

 と同時に、みほとまほが圧し掛かってきて。

 

「おっ、と」

 

 背中からベッドに倒れ込んでしまう。

 そんなオレの両脇から、みほとまほが、示し合わせたかのように覆いかぶさってくる。

 

「はぁ……。俊一くぅん……」

「俊一、もっといっぱい、キスしてくれ」

 

 姉妹揃って豊かなおっぱいを押しつけながら、2人は競って唇を重ねてくる。

 

「はぁ、ん。俊一くん、んっ、俊一くんっ」

「んぅ、もっと、俊一。はぁ……。ちゅ、ふぁ、ん」

 

 熱を込めて、夢中でキスを求める、みほとまほ。唇だけじゃなく、口元、頬、顔のあちこちから首筋まで、至るところに唇を這わせてくる。おかげでオレの顔周りは、どこもかしこも、みほとまほの唾液でべたべただ。

 オレはオレで、2人の唇が近づいてきたところで、好きな方の唇をついばんでいく。

 みほと舌を絡ませる。

 まほと唇をねぶり合う。

 その一方で、オレの手は2人の身体をまさぐっていた。

 制服のスカートに包まれたまぁるいお尻を、たっぷりと撫で回す。

 右手にみほのお尻、左手にまほのお尻の柔らかさが伝わってくる。

 なんて幸せな感触か。

 揉みしだく手がついつい強くなってしまう。指が尻たぶに食い込んで、程よいところで押し返してくる張り。揉み込む動きに合わせてフルフルと揺れるのがたまらない。

 夢中になって2人のお尻を揉む。そうしているうちに、みほとまほのキスの嵐が少し穏やかになる。その代わりに、快感を我慢するような艶っぽい吐息が頬にかかってくる。

 

「あっ、ん、俊一くん、はんっ」

「しゅんいち、あ、はぁ……。んっ、くぅっ」

 

 キスするくらいの至近距離で、みほとまほが軽い喘ぎを漏らしている。すぐ目の前にある2人の切なげな表情に、興奮がさらに高まってくる。

 お尻の丸みを堪能する手の動き。それに合わせて短いスカートにしわが寄り、めくり上がる。あっという間に、みほとまほの可愛いショーツが露になってしまう。

 オレはお尻の方から、割れ目に沿って秘部へと指を滑らせた。

 

「はぁんっ」

「んんっ」

 

 ショーツの上から、みほとまほの割れ目をなぞり、擦り上げる。2人ともクロッチの部分がすでに湿っていた。キスに夢中になっていた時から反応していたのかもしれない。

 ショーツのシミを広げるように、2人の秘部への愛撫をエスカレートさせる。

 おま○この柔らかさを、愛液を吸ったショーツの生地越しに味わう。

 指先が沈んでいく感触が心地良くて、くにくにと動かす指の動きが大きくなる。

 

「はぁ、ふぅ、ん……」

「んっ、あぁっ、切なくなる、んんっ」

 

 みほもまほも、声を漏らしながら身をよじる。

 秘部を弄られる快感から逃れようとしてるのか、2人ともお尻を左右に揺すってみせた。けれどその動きがオレの手と指を、お尻と秘部に押しつけることになってしまう。

 

「あんっ、俊一く、んんっ、はぁんっ」

「ふぁ、ん、んっ、俊一の、指、あぁっ」

 

 姉妹揃って、明らかに快感の反応を見せる。下半身への愛撫を受け、気持ち良さをこらえながら、みほとまほがしがみついてくる。制服越しながら、押しつけられるおっぱいの柔らかな感触がたまらない。

 でも一番たまらないのは、2人が漏らす喘ぎと、吐息だ。

 みほとまほが、オレの頭の左右に顔を埋めているような形になっている。そんな状態のまま、耳元で、オレの名前を呼びながら、快感に喘いでいる。

 2人の喘ぎに包まれて、頭の芯から蕩けてしまいそうだった。

 

「みほちゃんも、まほちゃんも。もっとエッチな声、聞かせて」

 

 ショーツの脇から指を差し入れて、みほとまほのおま○こに直接触れる。

 愛液に濡れて、ほぐれていることを確認してから。

 膣内へと指を潜り込ませた。

 

「あぅ、ん。俊一くんの、ゆびぃ……」

「私のナカに、あっ、んん……」

 

 まだ指先を、膣のほんの入口が咥え込んだだけ。それだけで、きゅっきゅっと指を締めつけて、しゃぶってくる。

 

「指が、気持ちいい……」

 

 指を折り曲げて、もう少しだけ奥に。そのまま円を描くように指を動かして、膣内を軽く掻き混ぜる。

 もっとも、指の動きはそれほど大きくはできない。お尻の方から指を差し入れているのと、2人とも足を閉じているから自由はきかない。でも、そのまさぐるような指の動きだけで、みほもまほも喘ぎっ放しだ。

 爪を立てないように気をつけながら、指の腹でおま○こを撫でる。入口を擦り上げる。姉妹の喘ぎ声を左右の耳元でそれぞれ聞きつつ、反応のいいところはないかと指を動かしていく。

 

「みほちゃんは、こことか?」

「あんっ、そこ、あっ、はぁんっ」

「まほちゃんは、ここかな」

「んんっ、気持ち良くて、あぁっ」

 

 2人の腰に腕を回して、抱きかかえながら、姉妹のおま○こを同時に掻き回す。みほとまほが脱力してしな垂れかかり、オレの全身が2人の柔らかい身体に包まれている。

 どこもかしこも気持ち良くて。気持ち良過ぎて。

 

「オレの方がイッちゃいそうだ」

 

 まだズボンも脱いでいない。でもオレの股間はもうパンパンになるほど勃起している。当たり前だ。越して来たばかりの恋人たちの部屋で、姉妹揃ってオレの指で喘いでいるんだから。

 でも結局、先に登り詰めてしまったのは。

 

「ん、んんっ、あっ、はぁんっ」

 

 腕の中で、みほが大きく身体を震わせる。

 指を咥え込んでいるおま○こも、きゅんきゅっ、きゅーっと強く締めつけてきた。

 締めつけてくる、濡れ濡れのおま○この感触。

 たまらない。

 

「は、はっ、はぁ、ん、あぁ……」

「みほちゃんがイクところ、久しぶりに見ても、やっぱり可愛い」

 

 みほのこんな姿は、オレが独り占めしてる。

 そう考えるだけでゾクゾクする。

 息を乱すみほの頬に、軽くキスを落とす。

 そして。

 

「まだイッてない、まほちゃんから可愛がってあげる」

 

 みほとまほを抱えて、身体を起こす。

 一足先にオーガズムに達したみほを、ベッドに寝かせた。うつぶせでベッドの縁から上半身を投げ出したような体勢。突き出されたお尻を、スカートの上から少し撫でる。

 

「まほちゃんも」

「あっ」

 

 同じように、まほもベッドの上にうつぶせにさせた。上半身はベッドの縁にもたれて、床に膝を立てた形。

 お尻に手を置いて、制服のスカートをめくる。ちょっとレースの飾りが入った白いショーツが現れる。

 

「まほちゃんの、お尻」

「あっ。顔を、んっ、埋めるなぁ……」

 

 もちろん、そんな言葉には耳を貸さない。

 ショーツに包まれた豊かな尻たぶを、両手でしっかりと揉みしだく。

 さらに顔を埋めて、愛撫していたおま○こを今度は舌で舐め上げる。

 

「まほちゃんのおま○こ、濡れ濡れ」

「言うなっ。恥ずかしい……」

 

 本当に恥ずかしそうに、まほはベッドに顔を押しつける。

 あぁもう、可愛い。

 まほの反応、可愛い。

 もっと弄り倒して声を上げさせたいけれど。

 オレの方がもう我慢できなかった。

 ひと足先にズボンとトランクスを一緒に脱いで、まほのお尻にキスをする。

 

「ひゃっ。くぅ……」

 

 可愛い悲鳴を聞きながら。張りのあるお尻からむき取るように、ショーツを脱がす。

 愛液がクロッチ部分にねっとりと染みついて、糸を引く。

 尻たぶをつかみ、大陰唇に親指を掛けて押し開いた。

 ぬちゃあ、と。ねとついたおま○この奥まで、目の前で露になる。

 

「あぁ……。俊一に、見られている……」

「まほちゃんのイヤらしいおま○こが、全部丸見えだよ」

「恥ずかしくて死にそうだ……」

「平気。こんな格好を見られるのはオレだけだから」

「……そうだぞ。私の恥ずかしい姿を見てもいい男は、俊一だけだから、な」

 

 まほの裸はオレだけのモノ。

 彼女の口にした言葉に、心がたぎる。

 悦びで高揚する。

 その気持ちが股間にまで伝わってくる。

 耐え切れないくらいに勃起したチ○コを、まほの割れ目に押し当てた。

 腰にちょっと力を入れるだけで、まほの膣はオレのモノを飲み込んでいく。

 

「はぁ、ん……。入って、くるぅ……」

「まほちゃんのナカ、久しぶりで、気持ちいい……」

 

 チ○コに絡みついてくる膣壁。ぬるぬるの愛液が滑りを良くしながらも、強く締めつけてくる動きがとんでもない快感を与えてくる。うっとりと、思わず声が漏れてしまう。

 

「まほ、ちゃんっ」

 

 彼女の名前を呼び。

 お尻をつかみながら。

 腰を押しつける。

 

 ぱん。

 

「んっ」

 

 ぱんっ。

 

「ふぁっ」

 

 もう止められない。

 まほの膣内を貪り、えぐるように、腰を動かす。

 

「あっ、はっ、あぅっ。俊一、もっと、俊一っ」

「もちろんっ。快感で、オレのことしか考えられなく、なれっ」

 

 まほはオレのモノ。そんな想いをぶつけるように腰を振り、ピストンを速めていく。

 ぱんっ、ぱんぱんっ、と。オレの腰がまほのお尻を叩き、音を立てる。尻たぶを揺らす。

 引き締まっていながらも、豊かでしっかりとした丸みのある、まほのお尻。バックの体位でつながっている互いの秘部が、ぬれぬれで水音を立てているところも丸見えだ。

 しかも、今日初めて見た、まほの大洗の制服姿。それをただ、スカートをまくり、ショーツを下ろしただけの状態で、セックスをしている。彼女を汚すような申し訳なさも感じてしまい、それがまたオレを興奮させる。

 

「まほちゃん、気持ちいい。可愛い。好き。大好き」

「もっと、もっと言ってくれっ。私も好き、大好きだぞ俊一っ」

 

 彼女のお尻をつかむ手に力を込めて、さらに強く腰を打ちつける。膣内の奥の奥まで届けとばかりに、まほのナカにチ○コを押しつける。

 

「まほちゃんっ。はぁ……」

「んっ、はぁ、あ、すごい、くぅ、ん……」

 

 ぐりぐりと腰をお尻に、亀頭を膣奥に押しつけながら。まほに覆いかぶさる。

 後ろから手を回して、彼女の襟元のリボンを外す。

 制服の上、セーラーの前にあるジッパーを下ろして、前をはだけさせた。

 そのまま背中に手を伸ばしていって、ブラジャーのホックを外す。

 支えを失った豊かなおっぱいがまろび出て、優しく、けれど強めに揉みしだく。

 

「まほちゃんの、おっぱい。気持ちいい」

「私の胸を、んんっ、揉んでいいのも。俊一だけだけだから、な」

「嬉しいなぁ。まほちゃん、全部大好き」

「はぅ、あぁっ」

 

 まほに背中から圧し掛かって、胸に手を回しながら抱きしめる。柔らかな膨らみを堪能しながら、彼女の膣内にチ○コを突き入れていく。

 圧し掛かっても、下になっているまほが苦しくならないように。

 という気遣いはあまりできていない。

 背中から組み伏して、胸を握りしめるようにして彼女を抱えながら、体重を込めて腰を振る。

 

「あっ、あっ、はんっ。俊一、俊一っ、しゅんいちっ」

「大洗まで来てくれて嬉しい。離さないからね。まほちゃん、絶対離さないから」

 

 心からの本音。

 欲望。

 まほはオレのモノ。

 好き。

 大好き。

 もう自分の言葉にも興奮していた。

 久しぶりの、まほとのセックス。我慢するとかそういう余裕はない。

 こみ上げてくる射精感に任せて、まほの胎内をオレの精でどろどろにしてやりたい。

 

「イク、俊一ので、イッてしまうっ」

「オレもイクよ。イク。まほちゃんのナカをいっぱいにするよ」

「出してくれっ。私を俊一で満たしてくれっ」

 

 ぱんっ。

 

 ひと際強く腰を叩きつけた。

 隙間ができないくらいに、ぐりぐりと押しつけて。

 まほの膣内をオレのチ○コでギチギチにする。

 ちぎれるかと思うくらいに、まほのおま○こが激しく締めつけてくる。

 絡みつき、収縮する膣壁の動きに絞り上げられて。

 まほのナカへ、思い切り射精した。

 

「くぅっ、んっ。まほっ、ちゃんっ」

「はぁっ、あぁ、好き、大好き、しゅんいちぃ……っ」

 

 何度も何度も腰を押しつけて、こみ上げてくるすべての精を彼女のナカに注ぎ込む。

 同じくオーガズムに震えるまほ。

 腕の中で身体を震わせても、彼女は抱きとめられていて身動きが取れない。その分までというつもりか、まほの膣壁が強烈にチ○コを締めつけしごき上げてくる。粘膜の濡れたぐねぐね感がチ○コ全体を這い回り、もっと出せとばかりに精を搾り取ろうとする。

 

「はぁ……。まほちゃん、気持ちいい。すっごく気持ちいい……」

「私も、俊一に出されたモノが染みわたっていく感覚が……。幸せを感じてしまう」

 

 絶頂に息を乱しながら、そんな嬉しいことを言ってくれる。

 可愛い。

 

「今日からは毎日会えるんだから。大小いろいろな幸せを感じられるよ?」

「あぁ。もっと私を幸せにさせてくれ」

 

 まほの身体を強く抱きしめて、口づけをする。

 彼女は嬉しそうに、オレとのキスを受け入れた。

 

 

 

 秘部への愛撫だけでひと足早く絶頂してしまったみほ。でも性的な高ぶりは治まらず、むしろ身体のうずきはよりひどくなってしまっているみたいだ。もっとも、すぐ隣で姉が抱かれ、激しく乱れるのを目の当たりにしていたのだから無理もないかも。

 

「みほちゃん」

「んぅ、ふぁ……。しゅんいちくぅん……」

 

 キスひとつで、みほは表情をすっかり蕩けさせてしまった。

 彼女も、ベッドの縁に上半身を寝かせた体勢でお尻を突き出している。その上から覆いかぶさって、背中の方から唇を重ねている。

 これまた今日になって初めて見る、大洗学園の制服を着たみほ。可愛くて、可愛らしくて、脱がすのがもったいないと思ってしまう。そんな自分の性癖に従って、みほを半脱ぎ状態に。上着部分のセーラーをはだけさせ、ブラジャーを外して、抱き着きながら胸を揉む。

 

「みほちゃんのおっぱい、気持ち良くていつまでも揉んでいられそう」

「はぅ、んっ。俊一くんなら、好きなだけ触っていいんだから」

「あぁもう、可愛いなぁ」

「ひゃうっ。んんっ」

 

 おっぱいを揉みながら、唇を奪う。

 漏れ出る吐息と喘ぎが、吹き掛かってきてこそばゆい。

 少し苦しそうにしながらも、みほはキスを拒もうとしない。むしろ、オレが唇をはみ、舌を差し込み、絡ませる動きにも、彼女なりに応えようとしてくる。

 その健気さがまた可愛らしくて。じっくりと、何度も何度も、唇を重ねてしまう。みほの頭に回した手で優しく撫で回す。

 

「ん、ちゅっ、ちゅ。んむ、んっ、はふ……」

「はぁ、ん、んむ、ちゅぶ……。ふぁ……」

 

 キスをしながら、ほどよく豊かな胸の膨らみを手の中で弄ぶ。

 おっぱいの感触だけじゃない。抱きしめている腕から伝わる、みほの身体の柔らかさとか。腕の中に収まる抱き心地とか。全部が気持ちいい。

 

「みほちゃん。ちゅ、ちゅっ。みほちゃん」

「俊一くん、俊一くんっ。んっ、ちゅっ。ふぁ……。好き、大好き」

 

 キスをするたびに、名前を呼んで求められる。好きと応えてもらえることの悦び。再びチ○コが固く勃起してくるのが分かる。制服のスカートがまくれ上がったお尻に、丸出しのままのチ○コを押しつけると、それがまた気持ち良くて。腰を動かし、ショーツの上からお尻の感触を味わおうとしてしまう。

 

「あんっ。お尻に、硬いのが……」

「久しぶりにみほちゃんを抱きしめてるから、嬉しくて興奮が止まらないんだ」

「わたしも、久しぶりに抱きしめられて嬉しいの」

 

 唇を伸ばして、自分から唇を重ねようとする、みほ。うつ伏せのまま抱きしめられていて動けない彼女に代わって、オレの方から唇を寄せた。

 みほにたっぷりキスをして。

 おっぱいの柔らかさを堪能して。

 密着する身体を半脱ぎの制服越しに味わって。

 お尻にチ○コを押しつける。

 まほのナカに思い切り射精したばかりなのに、オレのチ○コはもう準備万端。ギンギンに勃起していた。

 キスをしながら、片方の手をお尻に伸ばす。

 薄い青の可愛らしいショーツをずり下ろした。

 指先が秘部に触れて、みほのおまんこが濡れ濡れになっているのが分かる。

 

「いくよ、みほちゃん」

「はぁっ、ん。入って、くるぅ……」

 

 みほのやや小ぶりなアソコが強く締めつけてくる。

 オレのチ○コ全体が彼女のナカを押し広げて、それを押し返してくるかのように膣内が収縮しする。絡みつくようなぐねぐねした動きが、あふれ出る愛液を陰茎に塗りたくってくるようだ。

 そのおかげで、膣内への出し入れが滑らかになって。

 

「みほちゃんのナカも、気持ちいい……」

 

 声が漏れ出てしまうほどの快感を生み出してくる。

 姉のまほとはまた違う、妹・みほのおま○この気持ち良さ。

 3カ月以上ぶりにみほを抱いているという悦びが、オレの股間をしびれさせる。

 

「んっ」

「はうっ」

「ふぅ、んっ」

「はぁ……。あぁっ」

 

 強く腰を突き、みほの膣奥を亀頭が押す。彼女はその勢いに息を吐く。

 ゆっくりと腰を引いて、おま○こから亀頭が抜けてしまうギリギリで、再度突き込む。

 みほはその動きが膣内を刺激されて、たまらず声を上げた。

 ピストンのギアを上げていく。みほのナカの気持ち良さをひたすら貪る。

 

「みほちゃん、みほちゃんっ。オレの、みほちゃんっ」

「あぅ、はっ、ん。あっ、あぁっ。気持ち良くて死んじゃうっ」

 

 腰を振るごとに下半身が、ぱんっぱんっと、みほのお尻を叩く音。

 チ○コで掻き回されて、ぐちょぐちょと、おま○こからあふれ出る愛液の水音。

 みほが恥ずかしさからベッドに顔を押しつけていても、彼女の耳にはその音が届いてしまう。それがまた羞恥を煽って、しごき上げてくる膣壁の動きを活発にさせる。

 

「気持ちいい。みほちゃん好き。もっと喘いで、イヤらしいところ見せて」

「あっ、んっ、はんっ。俊一くん、んんっ。わたしも好き、大好きっ」

 

 みほに覆いかぶさって、耳元で好き好きと囁きながら腰を振る。そのたびにきゅんきゅんと締めつけてくる彼女のナカの動きに快感は青天井。オレの興奮と高ぶりは止まらない。

 そしてみほの方も、喘ぎに混じって好き好きと返してくる。

 胸のうちが温かくなる。みほに対する愛しさと、誰にも渡さないという独占欲が募る。下半身の奥で渦巻いていた射精感がこみ上げてくる。

 

「みほちゃんのナカを、オレでいっぱいにするから」

「出してっ。わたしでいっぱい気持ち良くなってっ」

 

 みほのナカを、オレのモノだという証でいっぱいにする。

 ただそれだけを考えて、腰を振る。ピストンをより強く速くする。

 

「もうっ、出るっ」

「わたしもっ、イク、イっちゃうっ。あっ、はぁっ、んんんっ!」

 

 みほのナカの一番奥まで届くように、腰を突き込む。

 愛液まみれの粘膜が擦れ合って、鋭い快感が襲ってくる。

 射精する、という瞬間。

 みほのおま○こが強烈に締めつけてきた。

 

「おぉ、搾り取られるぅ……」

 

 搾られるどころか、吸い込まれてしまいそうな膣内の動き。

 気持ち良過ぎて、みほを抱きしめる腕に力が入る。

 思い切り抱きしめて、動きの取れない彼女のうなじに顔をうずめた。

 手は、みほのおっぱいをつかんだまま。搾り取ろうとする膣内の動きに対抗して、母乳を搾るかのように、おっぱいを、乳首を、しごき立てる。

 

「みほちゃん、みほちゃん……」

「あっ、はっ、ん、ふあぁ……」

 

 みほのナカに思い切り射精した快感と、オーガズムの通り過ぎた気怠さを噛みしめる。

 チ○コを絞り上げる彼女のおま○この締めつけが、少し落ち着いてきた。少し力の抜けた、揉みほぐすような膣壁の動き。連続して射精したオレのチ○コに緩い快感を与えてくれる。あたたかくて、心地良くて、気持ちいい。

 

「はぁ……。気持ちいい……」

 

 ちゅ、ちゅ、と彼女のうなじにキスをする。みほもそれが気持ちいいのか、くすぐったいのか、抱きしめられた状態のまま身じろぎをする。

 というか。

 みほ、絶頂の痙攣にしても震えが長すぎるんではないか。

 

「ふぁ、はぁ、ん……」

「みほちゃん、みほちゃん平気?」

 

 チ○コを抜いて、みほの横に寝転んで抱きしめる。声を掛けながら、落ち着かせるように、彼女の頭と背中を優しく撫でる。

 

「へい、き……。ありがとう、俊一くん」

 

 言葉が返ってきて、少しだけ安心する。

 みほは息を乱しながらも、抱き着いてきた。

 

「あの、ね。久しぶりに俊一くんに抱かれて、その、セッ、クスしたから。気持ち良過ぎて、身体がびっくりしちゃったみたい」

 

 いくらか落ち着いた様子を見せつつ、みほはそんなことを言う。セックスと口する時に、恥ずかしそうにするところが可愛らしい。

 あー。みほには悪いことをしてしまったかもしれない。

 でもそう思う一方で、彼女がそんなに感じてくれたことに嬉しくなる。

 エッチの最中は背中からだったけれど、今度は正面から抱きしめた。

 みほも嬉しそうに抱きしめ返してくる。

 

「えへへ……。今日から一緒にいられるんだよね。嬉しいな」

「オレも嬉しいよ。まほちゃんもいるから、嬉しさは倍どころか二乗だな」

「俊一、その言い方は卑怯だぞ。嬉しさが止まらなくなるだろう」

 

 横になって、みほを抱きしめているオレ。

 その背中から、まほも抱き着いてきた。

 

「やっぱり、俊一が大好きだということを再認識した。久しぶりにお前に抱かれて、心も身体も喜んでいるのが分かる」

「え、そこまで?」

「わたしも同じだよ。嬉し過ぎて、痙攣までしちゃうとは思わなかった」

 

 姉妹揃って、オレに中出しされたお腹をさすっている。

 ……やべぇ。エロ過ぎて、また興奮してしまう。

 と思った時はもう遅かった。

 

「あっ」

「む?」

 

 正面を向いて抱きしめ合っていたみほが、オレの股間の変化に気づいて顔を赤くする。そんな妹の様子に、まほも続いて気がついたみたいで。

 

「ふふ。元気だな本当に。いや、それだけ私たちに魅力を感じてくれているということか?」

 

 まほが、背後から手を回してチ○コを撫でてくる。

 年上のお姉さんの手コキ。ゆっくりとした手つきが、オレの下半身をたぎらせる。

 

「みほ。今度は私たちが俊一を気持ち良くさせてあげないとな」

「うんっ。俊一くん、わたしとお姉ちゃんのご奉仕で、いっぱい気持ち良くなって?」

 

 みほとまほに両側から挟まれて、下半身を這い回る2人の手と指に悶えるオレ。

 気持ち良さを隠さないオレの反応に、みほもまほもすごく嬉しそうだった。

 

 

 

 西住姉妹の大洗入り初日。結局、オレたちは会えなかった3カ月強の渇きを癒そうとするかのように、セックスをしまくった。

 途中、引っ越し業者が荷物を持ってきた時は全員で慌ててしまったけれど。

 どうにか無事にやり過ごした。

 それはまぁ、余談だね。

 

 

 

 ―続く―




まったく、ウチの主人公はケダモノだなぁ。(今さら)
槇村です。御機嫌如何。



大人しくエロい話だけを書いていればいいものを、
なんとなくそれっぽい自己解釈なお話を入れてしまう。
原作にない部分を書くのは二次創作の醍醐味だよね。
ガルパンおじさんのツッコミは怖いものの、自分では書いていて楽しい。
でもさっさとエロに持っていきたいという気持ちもあってジレンマが。

それはともあれ、今回もなぜか長くなってしまった。
本当は第12話で、

西住姉妹と3P→翌日に柚子と初顔合わせ→柚子も交えた4P

ここまで持っていこうとしてたんだぜ。
文字数がどれだけ膨らむか自分でも分からない。


※誤字のご指摘ありがとうございます。今回多いな……。





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13:ラブラブ一直線Ⅲ/イチャイチャ回

 みほとまほが大洗学園にやって来た翌日。さっそくというか、オレの住んでいるアパートに恋人3人が集結。西住姉妹と柚子が初めて対面した。

 

「はじめまして、って言うのも変な感じだけど。小山柚子です」

「西住まほだ。こちらこそ、よろしく頼む」

「妹の、西住みほです。これからお世話になります」

「ううん、こちらの方こそ。いろいろお騒がせしちゃって」

 

 顔を合わせるのは初めてでも、電話やメールでのやりとりは何度も重ねている。始まりはオレを通したものだったのに、今ではむしろオレとよりも3人同士でのやり取りの方が頻度が高いくらいだ。

 

「あのね。2人に会ったら、言いたいことがあったの」

 

 柚子はそう言いながら、みほとまほに頭を下げた。

 

「恋人がいるって分かっていたのに、横入りして、ごめんなさい」

「待ってくれ。それは……」

「柚子さん。そのことはもう、わたしもお姉ちゃんも納得してることですから」

 

 恋人がいると知っていながら、好きになって、受け入れられた。

 柚子はそのことがわだかまりとして残っていたという。

 というか、電話やメールだけのやり取りをしているうちに話はついているらしいのだが。

 

「うん、それは分かってる。でも実際に顔を合わせて、謝りたかったの」

 

 この場合、謝るべきはむしろオレだ。恋人がいるのに、別の女の子に手を出したわけだから。

 実際にそう思って、みほとまほに電話越しだけれど土下座して謝っている。土下座姿を自撮りして、2人にメール送信するということまでした。

 どういう納得の仕方をしたのか、2人には許してもらえている。めでたく、柚子もオレの恋人の仲間入りをしたわけだ。本当に、彼女たちには頭が上がらない。

 

「まぁ普通なら、男を取り合うシチュエーションだからな」

「俊一くんを振り向かせるために、お姉ちゃんや柚子さんと張り合うなんて自信ないよ……」

「何を言ってる。みほは可愛い。自信を持っていいぞ。むしろ戦車道しかない、面白味も何もない私の方が……」

「そんなことない。お姉ちゃんだって、綺麗で凛々しくて、憧れの女性って感じだし」

 

 気がつくと、みほとまほが姉妹で互いの良いところを挙げ合うやり取りになっていた。

 それがいつの間にか、柚子も交えて、オレとの出会いと馴れ初めを語り合う展開に。

 どうしてそうなる。

 せめてオレのいないところでやってくれ。恥ずかしくて死んでしまう。

 もちろん、そんなことは言えない。

 だって、みほもまほも柚子も、すっごく嬉しそうなんだもの。いかにオレに救われて、助けられたのかを嬉々としてしゃべってる。

 

「柚子さん、それは仕方ないです。知らないうちからそんなに優しくされていたことが分かったら、ドキドキが止まらなくなっちゃいます」

「私も、みほがいるのに横入りしてしまったクチだからな。よく分かる。俊一のちょっとした気遣いというか、私を想ってくれていると分かる仕草というか。そういうものが、すごく嬉しいんだ」

「そうなの。小さいことでも目を向けてくれてることに気づいて、大事にされてるって感じが心地良くなっちゃうの」

 

 そんな大層なことはしていない。

 と言うと怒られるので。すでに怒られた経験もあるし。

 オレは耳をふさいでじっと黙っていることしかできない。

 どんな羞恥プレイだ。

 確かに、できる限り気を遣ってるよ。彼女たちの嫌がるようなことはしないように、彼女たちが喜んでくれるような言動を心掛けてる。

 いやさ、ただでさえ三股なわけだから。普通ならとんだ下衆野郎なわけじゃない。ならせめて彼女たちがオレと一緒にいても不快に感じないようにって、気を配ってるだけなんだよ。

 みほもまほも柚子も、みんな可愛くて魅力的だから。好意を向けてくれるのはすごく嬉しい。オレは自然とモテるようなイケメンじゃあないと自覚しているから、少しでも好きでいてもらえるように心を砕いていかないと。あっという間に見限られること請け合いだ。

 もう何股とか関係なく、みほもまほも柚子も大好きなので。彼女たちを手放すつもりは毛頭ない。どこかの男と、みほが、まほが、柚子がつき合うとか、想像するだけで気分が悪くなる。それなら、彼女たちに少しでも好いてもらえるようになろう。

 そう思っているわけ。

 自分が、彼女たちに釣り合っているのかってビクビクする。

 そんなことを言うとまた怒られるので。

 オレは何も言わないけれど。

 でだ。

 何も言わずにいる間に、恋人たち3人のおしゃべりはさらに盛り上がってきたようで。

 

「わたしは、体育で汗をかいてるこの写真。普段とちょっと違うところが好き」

「私はこれだな。肘をついてウトウトしている俊一。油断している姿がこう、ぐっとくる」

「わたしはどちらかというと、みほさん寄りかな。つい最近のこれ、生徒会の手伝いをしてくれた時の写真。こういう真面目な顔を見るとドキドキしちゃう」

「あ、これ初めて見ます」

「む。これはいいな」

「でも、まほさんの言うような少し気の抜けた顔も好きなんだよね。膝枕をしてあげた時とかに見せてくれる、ちょっと緩んだ表情とか」

「分かる。リラックスしている時の俊一は、甘やかしたくなるというか」

「うん。やっぱり年上として、お姉さんぶりたいっていうのはあるよね」

「柚子さん柚子さん、その写真欲しいです。送ってください」

「ちょっと待ってね。ん、よし。みほさん、メール送ったよ」

「ありがとうございます。……えへへ。真剣な顔した俊一くん、いいなぁ。かっこいいなぁ」

「凛々しい俊一も、もちろん好きだぞ。柚子、私にも頼む」

「一緒に送ってあるから。慌てなくても平気だよ」

「すまない。ありがとう。……この写真の中では、私はこれが好きだな。後ろから写した、肩越しの表情が、こう」

「わたしも、この写真好きなの。真面目な横顔と、肩と背中に頼もしさを感じちゃうよね」

「あ、分かります。背中から抱き着いて、俊一くんに甘えたくなっちゃいます」

「みほ、それは良く分かるぞ。甘えてほしくもあるが、私の方から甘えたくもなる。……これまでは腕に抱きついていたが、背中というのもいいな」

「お姉ちゃん、昨日、背中に抱き着いてたよ」

「あれは抱き着いたんじゃない。背中から目を覆っただけだ。まぁ、密着していたことには変わりないが」

「まほさん、何かあったの?」

「私が転入してくることは、俊一に内緒にしてもらっていただろう? 大洗の港で、みほと俊一が顔を合わせたところに、私が背中に回ってだな」

「だーれだ、って、お姉ちゃんが後ろから目隠ししたんだよね」

「あぁ。あの時の、俊一の驚いた顔はとても良かったな。写真を撮らなかったのが悔やまれる」

「ふふふん。お姉ちゃん。これ、なーんだっ」

「……みほ。決定的なタイミングを逃さないその手腕。さすがだ」

「あ、これはなかなかレアな俊一くんだと思う。みほさん、わたしにもその写真ください。お願いします」

「みほ、私にも頼む」

「もちろん。すぐメールで送るね」

 

 ……互いのスマホを覗き込みながら、やたら楽しそうにしている3人。

 いやいや、ちょっと待ってくれ。

 

「何してんのさ。……いや、言わなくていいや。というかその写真データはなんなの」

 

 本当、いつの間にそんなもののやり取りをしていたんだ。

 お互いに譲り合えるくらい写真があるってどういうこと。いつの間に撮ったの。

 

「熊本にいた頃から今まで、こつこつ撮り溜めていた写真だ」

「わたしたちと俊一くん、学園艦と内地で離れていたでしょ。大洗に引越しちゃってからもそうだけど、この写真で寂しいのを紛らわしてたんだよ」

「大洗に行ってしまってからの写真は、柚子のおかげで手に入った」

「うん。これはという俊一くんを撮影して、まほさんとみほさんに送っていたの」

「俊一くんとはほぼ毎日、電話とメールをしてたけど、やっぱり顔も見たくなっちゃうし」

 

 確かに、パシャパシャと撮られ続けてた。

 熊本でも、学園艦と内地で遠距離恋愛していたようなものだった。写真が欲しいという気持ちも分かったし。大洗に引越す直前にも、ツーショットやスリーショットをねだられた。

 

「でも、コレクター紛いなやり取りはなんなの。まぁ嫌ではないんだけどさ」

 

 嫌ではないが、こそばゆい。だって自分の写真が目の前で、譲り譲られってやり取りされてるんだぜ。反応に困るわ。

 

「もちろん、実際に会った方が嬉しいに決まっている。だがな」

「俊一くん。それはそれ、これはこれ、だよ」

「特にわたしは、大洗に来る前の俊一くんは知らないから。見たことのない俊一くんを写真で見て、いいなと思ったら止められなくなっちゃって」

「私たちは熊本時代の俊一の写真を送り、柚子からは大洗での写真を送ってもらっていた」

「まほさんもみほさんも、すごく反応してきて」

「柚子さん、私たちのせいにするのは良くないと思う」

「そうだぞ。柚子の反応の仕方も大概だったじゃないか」

「でも、それはお互い様だと思うな」

 

 ……まぁいいか。彼女たちは揃って楽しそうだし。

 好いてもらえてることがよく分かって、嬉しいし、ありがたい。仲良きことは以下略。

 

「じゃあオレは、3人と一緒の写真が欲しいな」

 

 愛しの恋人たちに囲まれて、こう、密着した感じで。

 自分のスマホを取り出して、彼女たちを手招きする。

 

「とはいっても、自撮りする感覚で撮って、フレームに4人も収まるのか」

「くっつけば収まるんじゃないか?」

「背中からと、腕に抱きついて密着すればいけると思うけど」

「じゃあ、わたしは俊一くんの前。俊一くん、抱きしめて欲しいな」

 

 みほが、胡坐をかいたオレの前に座り込んで背中をあずけてくる。

 オレの腕の中にすっぽりと収まる感じ。片方の手はスマホを持って、もう片方の手はみほの腰に回して抱き寄せる。彼女の頭がすぐ目の前にやってきて、ボブカットといえばいいのか、みほの髪が鼻先をくすぐってくる。

 

「あっ。みほさん、その場所はずるいです」

「早い者勝ちですっ。というよりも、場所を変えて何回も写真を撮りましょう」

「なるほど。それもそうだな」

 

 ならば早速と。

 まほは、オレの背中に回って肩に手を置く。

 そのまま身を寄せて、密着してきた。

 肩甲骨のあたりに、まほの豊かな胸の感触が服越しに伝わってくる。

 

「これなら4人でも収まるかもね」

 

 反対側の肩には、柚子が同じように密着してくる。

 服越しでも分かる彼女の大きな胸が、腕に押しつけられた。

 ふにょん、という感じで形の変わる感触が伝わってくる。

 両肩に感じる、まほと柚子の幸せな柔らかさ。

 そして頬がくっつくほどに近づいても許される意識の近さ。思わず頬を擦りつけたくなる。

 にやけそうになる顔を抑えながら。

 

「とりあえず、試しに1回」

 

 パシャリと。

 カメラモードのスマホを掲げて撮影。

 みほ、まほ、柚子に囲まれた男子垂涎の写真が撮れた。

 と思ったのだけれど。

 

「待って。これナシ。やり直し」

「え、どうして? 俊一くん。写真、ぶれちゃった?」

 

 腕の中で、不思議そうにオレの顔を見上げてくる、みほ。

 うん。その可愛さに思わず頭を撫でたくなるが、残念ながら今はそれどころじゃない。

 

「俊一、その写真を見せてみろ」

「俊一くん、その写真もある意味レアだよ。消しちゃダメ」

「ダメ、消すから。絶対に消すから。こんな写真、絶対残しちゃダメなやつだから」

 

 背中から手を伸ばして、スマホを奪おうとするお姉さんズ、まほと柚子。彼女らに奪われる前に、この写真画像をデリートしなければならない。

 でれっでれに緩んだオレの情けない顔なんて見せられるか。恥ずかし過ぎる。

 

「え、どんな写真なの柚子さん」

「あのね、わたしとまほさんが後ろから抱き着いたから。すっごく幸せそうな顔を」

「やめて柚子さん! やめて、言わないで!」

 

 みほの無邪気な問い掛けがオレを焦らせて。

 柚子さんの返答がさらにオレの精神をえぐりにくる。

 

「俊一、そのスマホを渡せ。見せろ。な、見せるんだ」

「まほちゃん、クールに迫られると怖いよ。いやいやダメだから。絶対に見せないからね。って、ちょっと。まほちゃん腕キメないで。まほちゃん待って!」

「人聞きの悪い。俊一の大好きな胸を押しつけているだけだろう? だからそのスマホを渡せ」

「だからって何! 確かにまほちゃんのおっぱいは最高だけど関係ないでしょ!」

 

 なんと、まほが色仕掛けをしてきたぞ。腕にまとわりついて、引き寄せようとする。

 さらに腕関節をキメながら迫ってきた。オレの動きを封じて、スマホを手中にしようとしているのだ。

 もうまほは胸だけじゃなく、全身を押しつけながら手を伸ばし、スマホを奪おうとしている。オレは理性を総動員しながら、わずかなリーチの差を駆使してスマホを死守する。

 

「俊一くん、わたしもその写真、ちゃんと見たいなぁ」

「ちょっと、柚子さんまで何してるの。あ、待って。抱き着いてくるのは嬉しいしおっぱいは最高だけど。待って、動けなくなるから待って!」

 

 さらに、柚子まで加わってきた。

 逆側の腕を抱き込んで、豊満なおっぱいに埋もれさせる。

 そうすることでオレを押さえつけようとしているのだ。

 あぁ、おっぱい柔らかい。

 両腕に年上お姉さんたちに抱きつかれる幸せ。

 けれど、今この状態では地獄と同様。

 彼女たちの猛攻に全力で抗う。

 オレは腕力と精神力を総動員して、スマホを守らないといけない。

 この画像を他人の目にさらさないために。

 

「こら、暴れるな俊一。大人しくしろ」

「俊一くん、強情だなぁ」

 

 とかなんとか言いながらも楽しそうな、まほと柚子。ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてオレの腕に抱きつき、柔らかな身体が押しつけるのも厭わずに抑えつけてくる。

 必死に手を伸ばしてスマホを奪おうとしてくる仕草も、可愛らしくてたまらない。

 そのたびに身体の上で動く2人の身体の感触も、気持ち良くて心地良くて神経が削られる。

 もう腕どころか全身で押さえつけられているような状態だった。

 

「さすが男の子。腕の長さとか、身体の大きさはやっぱり違うんだね」

「こういうじゃれ合いも楽しいが。ここまでだ、俊一」

「え?」

「行け、みほ」

「たぁっ」

 

 あ、しまった。

 手を伸ばしているまほと柚子に気を取られて、みほを意識から外してしまっていた。

 気がつけば、まほと柚子にしっかりと抱きつかれている。2人の身体の柔らかさを全身で感じられて、これはこれでとても素敵なんだが。身動きが取れなくなっていた。

 そこに、みほが身体を乗り出してきた。伸ばした腕の先のスマホを奪おうとすべく、オレに飛びついてくる。

 すると。

 

「わぷっ」

「俊一くんのスマホ、確保しました!」

 

 みほを受け止める形で、背中から倒れ込んでしまう。もちろん抱き着いているまほと柚子も巻き込む形で。

 みほは床に寝転がったオレに覆いかぶさるような体勢に。手を伸ばして、宣言通りにスマホを奪い取ってはしゃいでいる。

 それよりも重大なことが。

 飛びついて来たみほの胸に、顔が潰されてしまった。

 正直に言おう。

 ものすごく幸せ。みほのおっぱいも最高です。

 服の上からでも十分に伝わってくる柔らかさ。顔全体に広がる幸せな感触。

 もっと言えば、みほは身体全体で圧し掛かっているので、全身の感触を味わっている。

 しかも両脇には、まほと柚子のお姉さんズが抱き着いているのだ。

 全身を、女の子の柔らかい身体で包まれていると言っていい。

 なんたる至福。

 もう写真とかどうとか、どうでもよくなってしまった。

 オレは、両腕でまほと柚子を抱え込み、みほまで含めて3人いっぺんに抱きしめた。

 

「きゃっ」

「おっと」

「ひゃんっ」

 

 同時に、まほと柚子のおっぱいをつかんで、揉みしだく。さらに顔に押しつけられている、みほのおっぱいも堪能すべく、頭を擦りつけるように動かした。

 

「あんっ、もう。そんな乱暴にしなくても、わたしのおっぱいは逃げないからね」

「私は、もっとがっついてくれてもいいぞ。ほら、柚子の分まで揉むといい」

「まほさん、わたしはそんな意味で言ったんじゃないのに。あ、俊一くん。わたしもおっぱいも、もっと触っていいからね?」

 

 ものすごく嬉しいことを言われている。天にも昇る気持ちとはこのことだ。

 もっとも、みほのおっぱいを顔に押しつけられたままなので十分に天国なんだけど。というか、みほはオレの頭を抱え込んで、自分から胸に押しつけてくる。

 

「お姉ちゃんと柚子さんよりは小さいけど、わたしもそれなりにあるんだからね?」

 

 みほも張り合うような態度を見せる。それが可愛らしい。

 3人それぞれ、オレが好きだと表現してくれるのが嬉しくて仕方がない。だからこそオレは、彼女たちに似合うような男になるように、精進し続けようという意思を固める。

 まずその第一歩として。

 

「あっ。スマホは死守!」

 

 スマホを取り返して、あの情けない顔をした画像を消す!

 

「くっ、卑怯だぞ俊一!」

「みほさんっ、こっちにパス!」

 

 あぁっ、スマホがみほから柚子に。

 くそっ、負けるかっ。

 

 

 

 なんて風に。ものすごく些細だったり下らなかったりすることをめぐって、交流とスキンシップを重ねてこの日は時間が過ぎた。

 みほ、まほ、柚子の恋人たちが揃って、割と健全にイチャイチャしていただけ。あとは、きちんと4人揃って密着した写真を撮ったり、べったべたに抱き合ったツーショット写真を何度も撮ったりした。

 むちゃくちゃ楽しかった。

 ……一番最初の写真を消せたかは、ノーコメントで。

 

 

 

 ―続く―




みほまほ柚子にまとわりつかれる至福。(至福)
槇村です。御機嫌如何。



ストレートなエロではない、うらやましくなるようなシチュエーションを目指してみた。
どうだろう。わちゃわちゃ感やイチャイチャ感を、覚えてもらえただろうか。
これからは、こんな感じの学園生活が展開していくんだ。
……原作ってなんだっけ?






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14:※ラブラブ一直線Ⅳ/トリプルフェラ

 新学期が始まるまで、まだ2週間ある。これは新入生を学園艦に受け入れる期間でもあって、日が経つにつれてそこかしこが賑やかになってくる。

 学園艦が大洗に帰港したその日に、みほとまほは待ってましたとばかりに乗り込んできた。少しでも早くオレに会いたかった、と言ってくれるのはすごく嬉しい。

 ともあれ。今はまだそれほどでもないけれど、生徒たちや家族などの乗艦でてんてこ舞いになる。つまり生徒会副会長である柚子の仕事も増えて、忙しくなるということだ。

 みほ、まほ、柚子とのドタバタが落ち着いてから、そんなことを話す。

 

「分かってたことだけど、少しテンション下がっちゃうなぁ……」

「まぁ、こればっかりは仕方ないことだよね。癒しが欲しいならいくらでもつき合うから」

 

 そう言いながら、柚子のあごに指を添える。

 クイ、と少し顔を上げさせて。

 

「あっ」

 

 ちゅっ、と、軽いキスをする。

 キスは日課。

 今日はさらにハグも加えて、ちょっと気持ちが落ちてしまった柚子を労わろうとする。

 

「ふぁぁ……。しゅんいちくぅん……」

 

 オレの腕の中で、心地良さげに声を漏らす柚子。脱力しながら抱きしめ返してくるのが可愛い。押しつけられる大きなおっぱいの感触も素晴らしくて、何度味わってもたまらないものがあった。

 柚子の頭を抱えて、優しく撫で回す。彼女の方も、もっと撫でてとばかりに頭を擦りつけてくる。可愛い。

 

「柚子さん、いいなぁ」

「俊一、私たちにも同じことをして欲しいぞ」

 

 もちろん、みほにもまほにも同じようにキスをする。求められるまでもない。

 柚子に少し離れてもらって。

 まずは、みほに。

 

「ん……。ふぁぁ……」

 

 まほにも、顎クイからのキス。

 

「ちゅ……ん。はぁ……」

 

 唇を交わしてから、両手を広げて、みほとまほを抱きしめる。

 2人揃って表情を緩めて、とても嬉しそうな顔をするんだ。可愛い。

 もうね、男冥利に尽きる。

 再び柚子も加えて、3人と代わる代わるキスをして、抱きしめる。

 それを繰り返した。

 そんなことをしているうちに、オレが興奮してきちゃって。

 

「んっ、ちゅぶ、んむっ」

「はぁ、ん。ちゅ、ちゅっ」

「れろ、ん。ふぁ、ん……」

 

 みほ、まほ、柚子の3人同時にフェラチオをしてもらっている。

 トリプルフェラチオだ。

 

「ちゅっ。ぺろ、ん、はふぅ……」

 

 ズボンも下着も脱いで仁王立ちするオレ。その正面に、みほがペタンと座る。

 手を床についたまま、股間に頭を寄せて、亀頭だけを咥える彼女。

 唇をはむはむと動かして、刺激を与えてくる。

 時折、咥えたままこちらを見上げてくるのにゾクゾクさせられた。

 

「んちゅ、れろ、ん。はぁ、ん……」

 

 左側には、まほ。

 同じく座り込みながら、オレの腰に手を置いて、陰茎の横手に舌を伸ばしている。

 ぺろぺろ、れろれろと、一生懸命にチ○コを舐めている姿

 普段のお姉さん然としたものとのギャップに興奮させられる。

 

「ちゅっ、ちゅ。ぺろ、ん、はぁん……」

 

 右側には、柚子。

 年上のお姉さんが、オレのチ○コを中心にして対照的に座り込んでいる。

 唇を寄せて、陰茎をはみ、舌を這わせてくるのがエロい。

 まるで優しく揉みほぐされるような動きが、じんわりと快感を盛り上げてくれる。

 身体を支えているんだろうけど、彼女の手が太ももを撫でてくるのもたまらん。

 

「3人の口が、いっぺんに舐め回してきて、気持ち良過ぎる……」

「本当? 良かった」

「気持ち良さそうな俊一の顔、すごくそそられるぞ」

「うん。もっと気持ち良くしてあげたい、って思っちゃう」

 

 チ○コ全体を、それぞれ違うタイミングで、至るところを舐め上げてくる。快感はもちろん、彼女たちはオレのモノ、という独占欲も大いに刺激された。

 まほと柚子の頭を撫でてから、口を少し離してもらう。

 それから、みほの頭に手を置いて。

 より近く、チ○コの方へ引き寄せる。

 

「みほちゃん」

「え、あんっ。ん、んんっ……」

 

 みほの口の中に、ゆっくりと、チ○コを差し入れていく。強くならないように、押し込み過ぎないように気をつけながら、彼女の口の中をオレのチ○コでいっぱいにする。

 

「みほちゃん。舌を絡めながら、吸ってみて」

「んむ……。ちゅ、じゅ。じゅるっ」

「ふ、くぅ……。みほちゃん、気持ちいい」

 

 思わず、みほの頭に置いた両手に力がこもる。

 チ○コを吸い立てられながら、彼女の頭をゆっくりと前後させた。

 

「んむっ。ふ、ちゅっ。じゅる、んふぅ」

 

 みほの口の中で、舌が動き回って、チ○コが唾液まみれになっていくのが分かる。口内の粘膜と、舌のざらついたぬとぬと感、唇の締めつけが、蕩けてしまいそうな快感を生み出してくる。

 

「んっ、んんっ。ぷはっ。はぁ……」

 

 みほが、チ○コを口の中から解放する。

 オレの股間に顔を埋めながら、息づぎしているのがエロい。

 頭を撫でると、彼女は嬉しそうに顔をほころばせながら、口から放したチ○コにキスをした。

 

「まほちゃん」

「はむ。んぅ、んむ……」

 

 次いで、同じようにまほの頭に手を置く。妹のしていた奉仕を目の前で見ていたせいか、彼女は逆らうそぶりも見せず、目を潤ませながらオレのチ○コを口に含んだ。

 

「んっ……ん。ちゅる。ふぅ、ん」

「まほちゃん、気持ちいい。もっと。ん、そう……」

 

 まほは、唇に力を入れながら頭を動かし、陰茎を締めつけつつしごき立てる。

 されるに任せて、チ○コから下半身に広がっていく快感に集中する。

 気持ち良さはもちろん、愛おしさもこみ上げてくる。

 彼女の頭に両手を乗せて、前後する動きに合わせながら撫でてあげる。

 

「ぷは。はぁ、ん。んっ……」

 

 チ○コから口を離すと、まほは切なそうな顔で見上げてくる。

 エロい。

 口元から垂れる唾液もエロ過ぎた。

 蕩けている彼女の顔は、まだしゃぶり足りないと言っているように見えるのは、興奮したオレの妄想だろうか。

 

「柚子さん」

「あむ、ん。ちゅぷ。れろ、んっ」

 

 柚子は頭に手を置いただけで、自分からチ○コを咥えてきた。西住姉妹に連続でフェラチオをさせて、次は自分の番だと思っていたのかもしれない。

 彼女はゆったりと、でも奥の方までたっぷりと、チ○コを口の中に収めてしまう。

 

「ちゅぷ、ちゅ、ちゅぱっ。ん、ふぁ、んぅ」

「柚子さんの口の中、すっごくあったかくて滑ついて、最高……」

 

 チ○コ全体を舌で舐め上げて、さらにぬるぬるにしていく。

 唇でくにくにと陰茎を締めつけながら、ちゅうちゅうと吸い立てられる快感。

 カリのでっぱりに彼女の舌がはりついて、亀頭を這い回るのが気持ち良過ぎる。

 それでいて頭を前後に揺らしてしごいてくるから、快感で腰が抜けてしまいそうだった。

 

「んっ。ぷは。はぁ、ん……」

 

 口を離したチ○コの先と、彼女の唇の間に唾液のアーチが掛かる。

 エロい。

 すぐにまたチ○コを押し込みたくなってしまうけれど、ぐっと我慢する。

 柚子の頭を引き寄せて、チ○コに頬ずりさせるだけにとどめた。

 

「はぁ……。気持ち良過ぎる……」

 

 気がつくと、みほも、まほも、柚子も、揃ってオレのチ○コを凝視している。

 顔を上気させて、吐息を漏らす可愛い女の子3人。

 ゾクゾクする。

 めっちゃくちゃに愛でたい。慈しみたい。

 でも同じくらいに、思い切り欲望をぶつけたいという想いにも駆られる。

 

「もっと、しゃぶって」

 

 そんな気持ちが漏れ出てしまったのか。

 オレは3人にもっと、口内奉仕を求めてしまう。

 

「はむ。ん、んっ、んんっ」

「ちゅぷ、んむ。ふぅっ、ん」

「ふぁ、ん、ちゅる。れろ、はんっ」

 

 みほ、まほ、柚子に、順番にチ○コを咥えてもらう。

 彼女たちは、唇を締め、頭を振って、舌を這わせて、オレを気持ち良くしようとしてくれる。

 3人でトリプルフェラチオ。普通ならあり得ないシチュエーションだ。言葉だけでもそうそうお目に掛からないだろう。

 それを、こんな可愛い女の子たちにしてもらえる。

 幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうだ。

 

「そこ、みほちゃん、舌で突かれると、あ、そこ舐め、くぅ」

「あふ、ん。ちゅ、ちゅっ、れろ。はぁ……」

「まほちゃん、それいい、吸いながら甘噛み、んっ」

「じゅる、ん、んむ。ふぅ、ん、んんっ」

「柚子さん、奥まで、はぁ、あ、先っぽ締められるの、いい」

「れろ、ん。んっ……。んむ、んぅ」

 

 3人の口の中の温かさ。

 舌の柔らかさ。

 唾液の滑りけ。

 唇の感触から吐息の熱さまで。

 すべてをチ○コで味わう。堪能する。

 みほも、まほも、柚子も、それぞれ全然違うお口の気持ち良さ。

 それを、オレの股間だけが知ってる。

 その事実に、たぎる。

 腰の奥で、精がぐるぐると渦巻いてくる。

 

「3人とも。もうだめ、気持ち良過ぎてっ」

 

 みほ、まほ、柚子。みほ、まほ、柚子と。代わる代わる咥えてくれる恋人たちの連続フェラチオにもう我慢は限界まできていた。

 情けない声を出すオレに、みほが、咥えていたチ○コから口を離して微笑む。

 

「いいよ。いっぱい出して。わたしのお口で、気持ち良くなって」

 

 そう言って再びチ○コを咥え込んだ。

 思い切り吸い立ててきて、腰を持っていかれそうな快感に襲われる。

 

「じゅる、じゅっ、んむ。ちゅる、んんっ」

「やべ、出るよ。みほ、ほんと、イク、からっ」

「ん。じゅるるっ、んっ」

「くぅっ」

 

 ぬるとろな柔らかさと温かさに包まれて、快感の堰が壊れた。

 みほの口の中に、思い切り精を注ぎ込む。

 さらに。

 

「おっ」

「きゃっ」

 

 みほに口内射精しながら、まほと柚子の頭に手を置いて引き寄せた。

 チ○コのつけ根、下腹部分に、2人の頬をぐりぐりと押しつける。

 射精する腰の震えが、まほと柚子の顔にも伝わっていく。

 

「あぁ。みほが、俊一のモノを受け止めている顔。いやらしい……」

「みほさんのお口に注がれてるのが、ほっぺから伝わってきちゃう……」

 

 年上のお姉さんたちの頬に挟まれてイクような感覚。これがまた、快感だった。

 着衣セックス、姉妹丼、複数プレイに続いて、頬ズリというエッチに目覚めてしまった。

 しかも亀頭を咥えられながら思い切り射精する。

 罪深ささえ感じてしまう。

 でも興奮して仕方がない。

 

「ん、んんっ。むふぅ、ん……」

 

 射精しきって、みほの口の中からチ○コが姿を現す。

 彼女は口元に手を当てて、出された精子を少しずつ飲み込んでいく。

 精飲。

 エロい。

 興奮する。

 少し力が抜けたものの、まだ十分に硬いチ○コが震えてしまう。

 

「たくましいな、俊一」

「綺麗にしてあげるからね」

 

 まほと柚子が、精子にまみれたチ○コに舌を這わせて舐め取っていく。

 お掃除フェラ。

 たまらなく、気持ちいい。

 射精したばかりのチ○コを刺激されて、力を取り戻してまた硬くなっていく。

 

「はぁ……。すっごい」

 

 気持ち良過ぎて、声が漏れる。

 心からの言葉があふれてしまう。

 

「みほちゃん好き。まほちゃん好き。柚子さん好き。3人とも好き。大好き」

 

 呻くように「好き好き」と言いながら、3人をいっぺんに抱き寄せてキスをする。

 みほに、まほに、柚子に、何度も何度も口づける。

 

「んっ。俊一くん。わたしも好き、大好きっ」

「あぁ……。私も大好きだ。俊一、もっと。もっと言ってくれ」

「俊一くん。俊一くんっ。好きっ、好きっ。ちゅっ、ちゅっ」

 

 唇を重ねて、舌を絡ませて、ねぶり合う。

 フェラチオをしたばかり?

 そんなの関係あるか。

 3人抱きしめて、思い切りキスしたい。その想いだけ。

 さらに言えば、今度は彼女たちを気持ち良くさせたい。

 

「きゃっ」

「あっ」

「ひゃんっ」

 

 オレは恋人たち3人を抱きしめたまま、ベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

 ―続く―




そうか、頬ズリっていうのもあるのか……。
槇村です。御機嫌如何。



今回はテキスト量がやや少なめ。
4Pまで行くつもりだったのだけれど、
例によって中身が膨らんでしまいそうだったので。
切りの良いところで以下次回。
みほまほ柚子をはべらせて、連続フェラしてもらうとか最高だろ。





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15:※ラブラブ一直線Ⅴ/4P その1

 みほ、まほ、柚子を揃ってベッドに押し倒して、覆いかぶさりながらキスをする。もう何度目か分からないけれど、何度キスしてもまだ足りないと思ってしまう。

 

「んちゅ、ふぁ、ん。はぁ……」

「ちゅ、んむ。ふぅ、ん……」

「ふぁ、ちゅ、ちゅっ。んふぅ……」

 

 オレの想いでいっぱいになれとばかりに口づけを繰り返す。恋人たち3人の唇をキスで渡り歩く贅沢を堪能する。

 しばらくして、まず最初のひとりに狙いを絞った。

 

「みほちゃん。服、脱がすよ」

 

 押し倒したばかりなのに、みほの身体を起こして、服を脱がせていく。

 彼女の裸を見たくなったのだ。仕方がない。

 可愛らしいブラウスのボタンを外して、さらにスカートを下ろす。

 

「下着姿、可愛い」

「もう。嬉しいけど、恥ずかしいんだからね」

 

 何度身体を重ねても恥じらいを失くさない。そんなみほにドキドキしてしまう。

 ブラジャーの上からおっぱいを撫でる。彼女の胸も高鳴っているのが伝わってくる。触れられたのが恥ずかしいのか、それとも鼓動を知られたせいか。みほは身をよじって胸を隠そうとした。

 背中を見せたところで、ターゲットを変更。みほのブラジャーのホックに手を伸ばす。

 ぷちん。

 

「きゃっ」

「はい。みほちゃん、脱ぎ脱ぎしようねぇ」

 

 彼女の肩に掛かっていたストラップを下ろして、腕からするりと抜き取った。みほの些細な抵抗も意に介さず、あっという間におっぱいを露にしてしまう。これで彼女はショーツ1枚きりだ。

 それに合わせて、オレも上着を脱ぎ去った。下の方はトリプルフェラをしてもらった時に脱いでいる。ひと足先に全裸になってしまった。

 

「はうぅ……。俊一くん、いきなり過ぎるよぉ」

「ほらほら。みほちゃんも全部脱いじゃおうか」

「きゃっ」

 

 みほに抱きついて、背中の方からお尻へと手を回す。

 ショーツの中に差し入れて、柔らかなお尻を直に撫でた。

 

「みほちゃんのお尻、触り心地最高」

「恥ずかし、んっ、あんっ」

 

 ショーツの内側で、ぐにぐにと尻たぶを揉みしだく。

 同時にもう片方の腕で抱きかかえて、横たわらせつつ。

 彼女の腰を持ち上げた。

 

「ひゃんっ」

 

 みほを、まんぐり返しの状態にしてしまう。

 ショーツに包まれたお尻と秘部が目の前に。お尻の張りと、割れ目の浮き出た膨らみのぷっくり具合がイヤらしくて、眼福だ。

 オレは剥き取るようにしてショーツを脱がす。しっとりと濡れたみほのおま○こがたちまち露になる。

 みほはいきなりのことに目を白黒させていた。でも自分がどんな格好をしているのかを理解したのか、恥じらいの声を上げる。

 

「俊一くんっ。この格好、恥ずかし過ぎるよぉ」

「みほちゃんの全部が丸見えで、オレは興奮しっ放しだよ」

「やだもう……」

 

 目の前でひくつく、みほのおま○こ。

 オレはたまらずに、舌を伸ばして割れ目を舐め上げた。

 

「ひゃっ、ん、あんっ、あぁっ」

「みほちゃん、エロくて、可愛い」

 

 本当に、エロい。

 みほの太ももを押さえつけて、股間に顔を埋めてしまう。愛液に潤んだ割れ目を舌でかき分けて、膣の入口から届く限りを舐めまくる。

 

「俊一くん、すごい」

「俊一。鮮やか過ぎて何をしたのか分からなかったぞ」

 

 両隣にいる柚子とまほが驚いていた。

 ちょうど2人とも、自分で服を脱いでいたところだった様子。みほをどうやってひっくり返したか見損ねたみたい。

 下着姿のお姉さんズが素でびっくりしている。それと、みほが身体をひっくり返されたまま股を広げている格好に顔を赤くしていた。自分も同じことをされるのか、と考えてしまったのかもしれない。

 ともあれ。

 今は、みほを可愛がることに専念する。

 みほのおま○こに口をつけて愛液をすする。

 陰唇を丁寧に舐め回す。

 そのひとつひとつに、彼女は切なそうに、恥ずかしそうに声を漏らした。

 もっと、聞きたい。

 喘がせたい。

 まんぐり返しの体勢が崩れないように、彼女の腰に腕を回して密着する。

 もう片方の手はおっぱいを揉みしだいて、時折乳首をこねくり、弄る。

 勃起したチ○コをすべすべした背中に押しつけているのも、妙な興奮を誘った。

 

「俊一くんっ。だめ、はんっ、はぁ、あっ。んんっ」

 

 みほの喘ぎ声が止まらない。

 その声に負けないくらいに、彼女の愛液をすする水音が耳元を犯してくる。

 彼女のおま○この柔らかさと、愛液の水気が口元に広がって、オレを夢中にさせた。愛撫とクンニで引き出されていく嬌声と痴態が、下半身をビリビリと刺激する。

 

「はぁ……。我慢できない。みほちゃん、挿れるよ?」

「うんっ。我慢しないで、わたしでいっぱい気持ち良くなってっ」

 

 体勢を変えて、普通にベッドに横たわらせる。

 足を開かせて、触り心地のいい太ももを抱えて。

 ぬらぬらになったみほの秘部にチ○コを添える。

 

「んっ……。みほちゃん」

「は、んんっ……。しゅんいち、くぅん……」

 

 腰にちょっと力を入れるだけで、チ○コが膣の中へと入り込んでいく。オレしか知らないみほのナカの熱さ、締めつけ具合に快感がこみ上げてくる。

 何度となく味わっても、気持ち良さと心地よさが尽きない、みほのおま○こ。チ○コが少しずつ膣の奥へと進むに合わせて、彼女が身体を震わせるのが可愛くて仕方ない。

 正常位で挿入したまま、包み込むように覆いかぶさる。

 みほの頭を抱えながら、腰を振る。

 

「みほちゃん。オレのみほちゃん。可愛い、オレのみほちゃんっ」

「好きっ、俊一くん大好きっ。あっ、はうっ、んんっ」

 

 ピストンをしながら、耳元で彼女の名前を囁き続ける。

 彼女も、オレを抱きしめ「好き好き」と言葉を返してくる。

 離すまいとしているのは腕だけじゃない。足もオレの腰に絡めている。そして何より、みほのおま○こが、ぎゅうぎゅうと強く締めつけていた。

 

「オレも好き。みほちゃん大好き。好き、大好き」

「あっ、はんっ。嬉しいっ。もっと言って欲しい、んっ、もっと、愛してっ」

「もちろん、いっぱい、愛してあげるからっ。離さないから、なっ」

 

 みほが、全身で甘えるようにしがみついてくる。

 密着して、唇を貪り合う。キスをしながら腰を振り、彼女のナカをチ○コで掻き回すのがたまらなく気持ちいい。

 

「好きって言われて、抱きしめられて、お腹のナカいっぱいにされてっ」

「ん、幸せ?」

「しあわせっ、んっ、んんっ!」

 

 みほが声を上げながら、早くも絶頂してしまう。

 膣内がうねって、咥え込んだチ○ポをぎゅぎゅぎゅっと締め上げてくる。亀頭から陰茎全体までまんべんなくしごき上げる、みほの膣内の動きが気持ち良過ぎた。ぬるぬるの愛液が塗り込まれていくような感触が、腰回りの快感をこの上なく高めてくる。

 

「はぁ、ん、あ、ふぁ、あ……」

「みほちゃんのイキ顔、エロい。可愛い」

 

 みほの膣奥にチ○コをぐっぐっと押し入れながら、思い切り抱きしめる。

 オーガズムに震える彼女の身体を腕の中でじっくりと堪能する悦び。

 快感に乱れる姿を目の前にして、蕩けた表情を見せるみほを慈しむように、小さなキスを何度も落とした。

 絶頂したみほは、力が抜けて、オレにしがみついていた腕を落とす。

 身動きが取れるようになった。

 柔らかな彼女の身体から離れて、身を起こす。

 

「はぁ、ん……」

 

 チ○コはまだ、みほのナカに収まったまま。射精まで至らなかったことを責めるかのように、硬く猛ったままのチ○コをきゅうきゅうと締めつけてくる。

 快感はまだ途切れない。息を乱しながらおっぱいを揺らしている、みほの姿にもゾクゾクする。

 それはオレだけじゃなかったようで。

 

「あぁ……。みほが、俊一に甘えて夢中になっている姿。可愛い……」

「わたしも、みほさんみたいに乱れちゃうんだ……」

 

 まほと、柚子が、全裸になった身体を押しつけてきた。

 うずきを押さえつけようとするかのように、2人は柔らかな身体を擦りつけてくる。

 エクスタシーに達するみほを見ていたせいか、吐息は熱っぽくなっている。そんなお姉さんたちに下腹を撫でられると、快感で腰が震えてしまう。

 2人を抱き寄せて、おっぱいに手を伸ばす。大きな胸を揉みしだきながら、まほに、柚子に、キスをする。

 

「んっ、んちゅ。ふ、んんっ」

「あふ、ん、ちゅぷ、はぁ……」

 

 まほの豊かなおっぱいと、さらに豊満な柚子のおっぱい。同時にその柔らかさを手のひらに味わいつつ、2人の唇を代わる代わる貪り、舌を絡め合う。柔らかな感触と、漏れ出る吐息に、みほのナカに挿入したままのチ○コがさらにたぎってくる。

 名残惜しいけれど、みほのおま○こから、チ○コを引き抜いた。

 

「次は、まほちゃん」

 

 まほを強く抱きしめる。彼女も逆らうことなく、オレの身体に密着して、鎖骨や首元に唇を這わせてくる。

 柚子には、少し待ってねと、深いキスをしてもうしばらくお預けをした。切なそうにしながら、オレの言葉に従ってくれるのにもゾクゾクしてしまう。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と、柚子に多めのキスをしてから。

 

「まほちゃん」

「あっ、んっ。俊一……」

 

 まほと、改めて深いキスを交わす。

 目元に涙をにじませながら、彼女は腕を回してオレに抱きつき、より熱を込めてキスをしようとする。大きなおっぱいが押しつけられてくる感触も心地いい。

 

「んちゅ、ちゅ、ふぁ……ん。俊一、しゅんいちぃ……」

「可愛い。まほちゃんも好き。大好きだよ」

 

 蕩けながらも笑顔を浮かべているまほが可愛すぎて。唇だけじゃなく、それ以外の場所にも口づけをしたくなってしまう。

 頬に目元、鼻先、おでこ、耳元から首筋まで、至るところにまんべんなく。ちゅっちゅっちゅっ、と、キスの雨を降らせる。

 唇で触れていたのが、舌を這わせる愛撫に変わる。

 そのまま南下していって、まほのおっぱいにたどり着く。思い切り抱きついて、豊かな膨らみに顔を埋めてしまう。

 

「はぁ……。まほちゃんのおっぱい、柔らかくて気持ちいい」

「あんっ、こらっ。……ふふっ。甘えん坊な俊一も大好きだぞ」

 

 まほの胸の谷間に顔を押しつけると、頭を優しく抱きとめてくれる。顔の両側に感じられる、おっぱいの柔らかさがさらに広がる。

 胸の谷間に埋もれながら、しっとりと汗をかいたまほの肌を舐める。両頬に胸の膨らみを、頭の後ろに優しく撫でてくれる手の感触を覚えながら、おっぱいに包まれる気持ち良さを堪能する。

 同時に、抱き着いた手は少し下の方へ。お尻の膨らみへと伸びる。

 いわゆるパフパフをしてもらいながら、引き締まりつつも柔らかいお尻を揉みしだく。

 幸せ過ぎる。

 幸せ過ぎて、顔をさらにおっぱいに押しつけて、お尻をぐにぐにと揉みこんでしまう。

 

「んっ、あっ、こらっ。あんっ、はうっ」

 

 顔を胸の谷間から脱出させて、まほのおっぱいを膨らみの麓から舐めていく。

 舌にオッパイの重たさを感じながら。れろん、と。舐め上げる。

 ぽよん、という感じに震えたおっぱいに目を奪われて。

 オレは可愛らしい乳首に吸いついた。

 

「はぁ、ん。ちゅ、れろ、ん……。まほちゃんのおっぱい。乳首……」

「そんなに、んっ、はぁ……、夢中になって。仕方のない奴だな」

 

 半勃ちになったまほの乳首を、乳輪と一緒に舐め回す。

 ちゅうちゅうと乳首に吸いつくオレに呆れたような声を掛けながらも、まほは頭を抱きかかえ、優しく撫でてくれる。慈しむような手の動きが、オレの舌が与える刺激に反応して時々震えるのも可愛らしい。

 左右のおっぱいに代わる代わる吸いつく。乳首だけじゃなく、豊かな膨らみも、舌で、唇で、柔らかさを味わうように堪能する。

 

「んっ、ん、俊一、あっ。胸がじんじんして、せつな、いっ、あんっ」

 

 しつこい胸への責めに、まほも息を乱し始めていた。快感の色を帯びてきて、オレの頭に置いた彼女の手に、指に、力が入ってきているのが分かる。

 もっと声を出させたい。気持ち良くさせたい。そんな思いがこみ上げてくる。

 

「ちゅ、ちゅっ。ん、んちゅ、はぁ……」

 

 まほのおっぱいに夢中になっている間、柚子はオレの背中にぴったりとくっついていた。大きな胸がむにゅりと形を変えるほど密着して、肩やうなじ、首回りなどにキスを繰り返している。

 

「俊一くん、ちゅっ、俊一くん……」

 

 首筋に掛かる柚子の吐息がくすぐったい。彼女が名前を呼んでくるごとに、快感で頭の中がしびれるような気持ちになってくる。

 何より、おっぱいの感触だ。まほと柚子、お姉さんズのおっぱいに前後から挟まれることになって、とんでもなく気持ちいい。

 

「んっ、ちゅ、ちゅっ。俊一くんの背中……。はぅ、ん……」

 

 背中にくっついているので顔は見えないけれど、柚子の声は相当蕩けている。意識しているのかしていないのか、抱き着いている柚子の手がオレの下腹あたりを撫で回している。股間にまで伸びないのは、まさか焦らしているのだろうか。もし無意識だというなら、天然で寸止めプレイをしているに等しい。

 そんなわけで。オレのガマンもそろそろ限界だ。

 

「ひゃっ。俊一、あんっ」

 

 まほのお尻を揉んでいた手を、さらに先へと進めて。

 お尻の割れ目に沿い、秘部に指を滑り込ませた。

 指先が割れ目を捉えると、くちゅり、と、愛液でいっぱいになっているのが伝わってくる。小陰唇を掻き分けて、膣の入口を少し撫で回す。それだけで指が愛液まみれになってしまった。

 

「まほちゃん。おっぱい吸われてるだけで、濡れちゃった?」

「ふぅ、ん……。当たり前、だろう。好きな男に、求められているんだからな」

 

 身体がうずいて、応えたくなってしまうんだ。

 そんなことを言うまほに、オレはもうたまらなくなってしまって。

 

「まほちゃん、大好き。もうずっと離さないから」

「んむっ。ちゅぷ、んっ、あふ。ふぁ……」

 

 不意を突いて、まほの唇を奪う。

 可愛いことを言ってくれる彼女に、オレの方が我慢できなくなった。まほのうずきを鎮めようと、チ○コがいきり立つ。 

 

「まほちゃん。お尻をこっちに向けて」

 

 お尻越しに彼女の膣内を掻き回しながら、四つん這いにさせる。触り心地のいいお尻がオレに向けられて、まほは振り向きながら、綺麗な背中越しにオレの顔を見つめる。

 

「俊一、んっ、あぁっ」

「いくよ、まほちゃん」

 

 まほのおま○こから指を抜くと、少し開いたワレメから愛液が滴りそうになっている。

 エロい。

 オレは彼女のお尻をつかんで、秘部にチ○コをあてがう。

 

「んっ」

「しゅん、いちぃ……」

 

 ぬちゅ、と水音を立てながら、まほのおま○こがチ○コを飲み込んでいく。

 

「はぁ……。まほちゃんのおま○こが、締めつけてくる……」

「俊一の、大きいのが、私のナカをいっぱいに……」

「まほちゃん、苦しい?」

「むしろ、満たされているのが感じられて嬉しい……」

 

 なんてことを言いながら、まほの膣壁がチ○コをきゅうきゅうと締めつけてくる。

 それがまた気持ち良くて。彼女の腰を優しく撫でる。

 オレの手に反応してか、まほがさらに身体を震わせた。チ○コを咥え込んだままお尻を振るような形になって、オレの快感をもっと高めてしまう。

 腰に渦巻くゾクゾクした気持ち良さに押されて。

 まほのお尻をつかみ、強く、チ○コを突き込む。

 

「くぅっ。あぁ……、しゅんいちぃ……」

「オレも、まほちゃんのおま○こが、ぐねぐねにゅるにゅる絡みついてきて」

 

 すっごい気持ちいい。

 言いながら、もう1回強く腰を押しつける。

 まほが喘ぎ声を上げた。

 同時に、亀頭のざらざらを、陰茎の筋を舐め回すかのように、彼女のナカで膣壁がまとわりついて、刺激を与えてくる。気持ち良くて、オレの方まで声が出てしまう。

 後背位で突かれて、まほは膣内をいっぱいにされた勢いからベッドに手をつく。

 

「あっ……」

 

 その先には、絶頂にさらわれて息を整えていた妹・みほが横たわっている。

 気づくと同時に、まほは、みほに抱きしめられた。

 

「お姉ちゃんのエッチなところ、わたしにも見せて?」

「みほ、んむっ」

「おぅ。まほちゃん、締まる……」

 

 横たわったみほが、まほの頭を抱きかかえる。

 妹の柔らかな胸に包まれたのに反応したのか。まほの膣がひと際強く締めつけてくる。

 全裸のまま、姉の頭を自分の胸にかき抱く妹。

 妹の胸に顔を埋めて密着する姉。

 そんな姉妹を、姉のおま○こに挿入しながら眺めるオレ。

 なんだこの天国は。

 オレも興奮しているけれど、まほも相当感度が上がってしまっているみたいだ。膣内をチ○コでかき分けて、押し込んでいく感触がとんでもなく気持ちいい。

 妹のみほもそうだけれど、チ○コで押し広げられた膣が、元に戻ろうとするようにして締めつけてくる。そのままおま○こに飲み込まれてしまいそうなほどの快感だ。

 姉妹でイチャつく姿を眺めながら、思い切り腰を振って、まほのナカを貪りたい。

 でも、その前に。

 

「柚子さん、待ちきれなかったの?」

 

 ちょっかいを出してきた柚子に、改めて「おあずけ」をしないと。

 

「はぁ、ん……。だってぇ」

「反論は受けつけません」

「んむっ。ふは、んぅ……」

 

 問答無用とばかりに、唇で、柚子の口をふさいでしまう。

 首の後ろに手を回して、柚子がキスから逃げられないようにする。唇を舐るうちに、柚子の表情が蕩けていく。ぴちゃぴちゃと舌を絡めて、息も絶え絶えにしてしまう。

 

「ふぁぁ……。俊一くん……」

「柚子さん。もうちょっと、待て、だよ?」

「……うん」

 

 頬を上気させたまま、オレの言うことに応える柚子。

 可愛い。

 まほに挿入して、きゅんきゅんと締めつけてくる膣内を味わいながら、柚子に「待て」をさせるというこの状態。

 興奮が抑えきれない。

 寄り添う柚子の肌と、おっぱいの柔らかさを感じながら。

 意識を再び、まほに向ける。

 

「お姉ちゃん、可愛い」

「はぁ……。みほぉ……」

 

 彼女の方も、妹との裸のスキンシップでのぼせてしまっていた。

 頭を妹のみほに、身体をオレに蕩けさせられて、朦朧としているように見える。

 

「いくよ、まほちゃん」

「んっ、あぁっ」

 

 チ○コと腰に力を入れて。つながったままだったまほのおま○こを、えぐるように、腰を打ちつける。

 まほが上げた声は、明らかに快感のもの。

 もっと、もっとと、オレは腰を振って、まほのナカを貪っていく。

 

「あっ、あぁっ。俊一、俊一っ」

「お姉ちゃん、可愛い。妬けちゃうくらい、俊一くんのことが大好きなんだね」

「はっ、んっ。オレは、まほもみほも、大好きだぞっ」

「わたしも、俊一くんが大好きだよ」

 

 膣内の締めつけに腰を蕩けさせながら、好き好き大好きと臆面もなく口にする。

 言葉以外でも、行動で伝える。

 まほには腰の動きに想いを込めて。

 みほには、少し身体を倒して唇を伸ばしながらのキスで。

 ……姉妹を上下に並べてのセックス。姉のおま○こに挿入している上で、妹と唇を重ねる。

 たまらない。

 興奮でチ○コが膨らんできてしまう。

 ついつい腰の動きが速く、激しくなる。

 

「んっ、あっ、俊一のが、また大きくっ」

「まほちゃん可愛くて、気持ち良くて、可愛いから。たまんなくって」

「お姉ちゃん、可愛い。すっごく可愛い」

 

 オレからは、チ○コでナカを掻き回されながら可愛い可愛いと連呼されて。

 みほからは、妹の柔らかな胸に顔を押しつけられながら可愛い可愛いと連呼される。

 2人の褒め殺しにあって、まほは蕩けた声を上げていた。

 バックの体勢で、みほが抱きかかえているから顔は見えない。でも声に負けないくらいに蕩けた表情をしているだろう。

 まほの膣内の締めつけが、震えるように小刻みになっていく。まほの絶頂が近いことが経験から分かる。乱れてイキまくる姿を見ることが出来るのはオレだけだ、と思うと、それだけでゾクゾクしてしまう。

 

「いいよ、まほちゃん。思い切りイッちゃって。気持ち良さで弾けちゃえ」

 

 ねじるようにうごめく膣内の気持ち良さに耐え、膣壁の至るところをカリで引っ掻くように刺激する。腰の動きを速くして、刻むようにチ○コを突き込んでいく。

 

「あっ、あっ、俊一、もう、んっだめ、あっ、あぁっ!」

「くぅ、うっ。まほ、ちゃんっ」

 

 きゅーっ、と、強く握りしめるような、まほが絶頂する締めつけ。膣奥に亀頭を押しつけるように腰を押し込んで、チ○コ全体で彼女のオーガズムを受け止める。お尻をつかんでいた手に力が入って、それがさらにまほのナカ深くへチ○コを押し込むことになる。

 少しでも長く、いっぱい、まほのナカの気持ち良さを味わおうと。

 こらえる。

 こらえる。

 目の前に、絶頂で震えているまほのお尻。その動きのひとつひとつが、オレのチ○コにまで伝わってくる。

 気持ちいい。

 嬉しい。

 

「まほちゃんの、ナカイキ、たまんないっ……」

「はぁっ、あっ、は、ん……。しゅん、いち。しゅんいちぃ」

 

 まだ、オレのチ○コは絶頂せずにいた。

 みほを、まほを、絶頂させて。2人目のナカイキするオマ○コを味わいながら。

 

「柚子さん」

 

 おあずけしていた3人目に手を伸ばす。

 柚子は、切なそうな表情を浮かべて、待ちかねたように抱き着いてきた。

 

 

 

 ―続く―




今さらだけど、「割れ目」より「ワレメ」の方がエロく感じない?
槇村です。御機嫌如何。



年をまたいで、2週間ぶりに更新。
今回は4Pです。でもエッチの途中で次回持ち越しという。
相手が3人いるとはいえ、エロシーンがどんどん長くなっていく。
これでもし、あんこうチーム全員が堕ちたりしたらどうなってしまうのか。







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16:※ラブラブ一直線Ⅵ/4P その2

 まちかねたとばかりに柚子が抱き着いてきた。

 首に腕を回して、自分から唇を重ねてくる。

 

「んちゅ、ちゅっ。ふはぁ……」

 

 こみ上げてくる快感を堪えきれないのか、夢中になってオレを求めてくる柚子。みほとまほの乱れる姿に当てられてしまったのかもしれない。普段は穏やかなお姉さんタイプの彼女が積極的になっていることに、なんだか興奮してしまう。

 柚子の口づけに応えながら、まほのナカからチ○コを引き抜く。

 イカせたばかりのひくつくおま○こと震えるお尻を眺めながら、別の女の子を愛でる。

 我ながらどうかと思うけれど、彼女たちに向ける愛しさは平等で、変わりはないつもり。

 みほとまほを抱いて、絶頂させたんだから。

 

「おまたせ」

 

 次は、柚子の番だ。

 まほの横に寝そべらせる。仰向けにして、柚子の足を大きく開かせた。

 大きな胸の張りに負けない、ムッチリとした太ももがそそられる。オレは彼女の股間に顔を埋めて、太ももに唇をつける。

 

「んっ、ちゅっ」

「はぅ、ん。俊一くん、ん、はぁ……」

 

 ちゅっ、ちゅっ、と、跡がつかないような軽いキスをいくつもいくつも。

 さらに舌を這わせて、しっとりと汗をかいた太ももを舐め上げる。

 柔らかな太もももを舌で押すと、押し返してくる感触が口周りに伝わってくる。気持ち良く、心地良くて、もっと唇を押しつけてしまう。

 

「ちゅ、んっ、ん。ちゅっ」

「あんっ、だめ、ん、んんっ」

 

 キスする場所が秘部の方へと上って行って。唇が、柚子のワレメに触れる。

 太もものつけ根。彼女自身と、オレ以外には目が届かないような場所に、少し強く吸いついた。マーキングをするように。

 本当に跡をつけたりはしない。ただ柚子が、跡をつけられたと思うだけでいい。

 そんな風に、しばらく柚子のおま○この周りを舐め回し、舌先で弄り倒した。

 彼女の腰に手を回して抱きつき、太ももに顔を挟まれながらクンニを繰り返す。

 秘部の柔らかさと、溢れる愛液の水気、漏れ出る喘ぎ声を楽しんだ。

 

「柚子さんも、すっかりヌレヌレだね」

「やぁ、んっ。言わないでぇ……」

 

 ひくつくおま○こを間近に、喘いでいる柚子の姿を股間と大きなおっぱい越しに眺めている。興奮必至の景色だ。いつまでも我慢できるわけがない。

 身を起こすなり、彼女の秘部にチ○コを押し当てて、腰に力を込めた。

 

「はぁ、ん……っ」

 

 愛液まみれの柚子のおま○こは、あっさりとオレのチ○コを飲み込んだ。

 

「柚子さんのナカ、あったかくてぬるぬるで、気持ちいい……」

「わたしも、んっ……。お腹が、俊一くんのでいっぱいになって……」

「気持ちいい?」

「……うん。気持ちいいの」

「オレも、柚子さんのおま○こが柔らかく締めつけてくるのが、すっごく気持ちいいよ」

「あんっ」

 

 そんなことを言いながら、彼女のナカ深くまでチ○コを押し入れる。ズルズルと、陰茎全体で膣壁をなぞる感覚がしびれるような気持ち良さを生んでくる。

 オレの腰と彼女の股間がくっつくくらいまで挿入されて、柚子がたまらないような声を上げた。同時に彼女の膣壁が、チ○コにまとわりつきながらきゅうきゅうと締めつけてくる。

 

「もっと、気持ち良くしてあげるからね」

 

 柚子の手を取って、指を絡める恋人つなぎをしながら、じっくりと腰を動かす。

 つないだ手を引いて、腰を押す。

 彼女の手のひらを押すようにして、腰を引く。

 ピストン、と言うにはゆっくりとした動き。柚子のナカで揺するようにチ○コを前後させて、膣内をまんべんなく擦り上げるように刺激を与える。

 

「あぅ、んっ、はっ。あっ、ふ、んんっ」

「気持ち良さそうな柚子さん、可愛い。エロい」

 

 テンポよく、柚子のおま○このナカを出入りするチ○コ。その動きに合わせて彼女が声を漏らし、喘ぐのがたまらなくエロい。可愛くて、目に毒で、下半身に直接響く快感をさらに強くさせる。

 つないだ手を引っ張ると、柚子の腕が大きなおっぱいを挟むような形になる。

 柔らかく形を変えて、ツンと飛び出すようなあんばいに。

 そして突き込む腰の動きに合わせて暴れるように揺れる。

 すごくチ○コにクる光景だ。

 みほもまほのおっぱいも十分に大きい。揉み心地も触り心地も最高だ。同じようにすればイヤらしく揺れて、眼福な姿を何度も堪能させてもらっている。

 でも柚子のおっぱいは、2人のさらに上を行く。ピストンをするごとに、ぶるんぶるんという感じで揺れまくる。迫力もあって、やっぱり男としては目が離せなくなる。もちろん、他の男にこんな姿を見せたりはしないし、そんなことは許さないけれど。

 

「柚子さん好き。オレの柚子さん。オレだけの柚子さんっ」

「あう、あっ、嬉しい。もっと、言ってぇっ」

 

 誰にも見せたくないという独占欲に駆られて、柚子に覆いかぶさる。組み伏すような体勢になって、「お前はオレのモノ」みたいな言葉を柚子の耳元で囁く。囁きながら、腰を振って、何度も何度も彼女の膣内をチ○コでえぐっていく。

 柚子は「オレのモノ」扱いされると喜ぶところがある。案の定、彼女はすっかり表情を蕩けさせて、オレにされるがまま。むしろ彼女の方から抱きついてきて、「もっとして」と求めてくるのがたまらなく興奮する。

 言葉だけじゃない。彼女のアソコの反応の方が、素直というか、ストレートだった。

 柚子の膣内の動きが、強く、弱く、強く、弱くと、チ○コを締めつけたり撫で回したりする。彼女のナカの奥深くまで挿入したまま、じっとしているだけでもたまらなく気持ちいい。ヌルヌルの愛液にまみれた粘膜に包まれて、快感のあまり声が出てしまうくらいだ。

 

「はぁ……。気持ちいい……。柚子さん。ちゅっ。柚子さんっ」

 

 組み敷いた状態で抱きしめる。

 腕の中に収まる柚子の身体の柔らかさを味わいながら、深く口づけ。

 彼女の頬に手を添えて、貪るようにキスをする。

 

「んっ、んちゅ。ちゅ、ちゅぱ。はふ……」

「可愛い。ちゅっ。柚子さん。ちゅ、ちゅっ。好き、大好き」

 

 キスをしながら、好き、可愛い、大好きと、恥ずかしげもなく連呼する。

 3人の女の子を連続して抱いている。こみ上げてくる快感は半端なものじゃない。今にも射精しそうなのをこらえて、オレの頭も呆け気味になっていた。だから、口から出てくる言葉を飾る余裕なんてない。素直な気持ちを口にしながら、柚子の膣内でチ○コを暴れさせる。

 今すぐにでも、柚子のナカにぶちまけたい。絶頂間近な彼女の膣の動き。それをチ○コ全体で感じながら、もう少し待てと自分に言い聞かせる。

 柚子を気持ち良さで溺れさせるつもりで腰を動かす、

 彼女のナカを掻き回す。

 亀頭で膣奥を叩く。

 カリで膣壁の敏感なところを引っ掻く。

 ヌルヌルだけれどきゅうきゅうな膣内全体を刺激する。

 

「あっ、は、んぅ。俊一くん、だめ、いっちゃ、ん、あんっ」

「オレもダメ。気持ち良過ぎてオレもイク」

「うんっ、ん、はぁ、あ。いっしょに、俊一く、あぁっ!」

 

 思い切り柚子を抱きしめて、動きを奪いながら。彼女のナカ深くへとチ○コを突き込んで。

 下半身のしびれと腰の震えに任せて、思い切り精子を注ぎ込んだ。

 女の子3人分のオーガズムを味わってからの射精。こらえていた分、吐き出す量も、一気に柚子のナカへと注ぎ込む快感の大きさもとんでもない。彼女の膣も、まるでチ○コを吸い込むかのようにうごめき、強く締めつけ、精を絞り取ろうとする。

 

「あっ、んっ。ん、ふぁ、あ……」

 

 オレに組み伏された状態で、柚子は乱れた姿を曝け出している。

 絶頂に痙攣するおま○こ。

 震える身体。

 胸板に潰れながらもぶるぶる揺れるおっぱい。

 気持ち良さで蕩けた表情。

 身も心も委ねてくれているのが分かって、より強く抱きしめてしまう。

 

「はぁ……。しゅんいちくん……」

 

 ポニーテールの髪が解けて、汗をかいた顔に貼りつかせた柚子。酔ったような表情で見つめながら、オレの名前を呼ぶ。

 可愛くて、エロくて。可愛い。

 膣壁にしごかれるまま射精し、少しでも奥まで届けと腰を押し込む。中出しするままチ○コを締めつけられる快感にしばらく酔って。

 

「柚子さん」

「んっ、はぁ。あっ……」

 

 柚子のナカから、チ○コを引き抜いた。

 おま○この割れ目から、注ぎ込んだ精子が少し垂れ落ちる。

 

「俊一くんのが、こぼれちゃう……」

 

 すごく満たされたような顔で、そんなことをつぶやく彼女。大きく足を開いていたままの姿もまたエロい。思い切り出したばかりなのに、また興奮が下半身にこみ上げてくる。

 と思っていたら。

 

「柚子さんばっかりズルいよ。俊一くん」

「私たちはまだナカに出してもらってないぞ?」

 

 みほとまほが、両横に腰を下ろして、股間に顔を埋めてきた。少し力を失ったチ○コに、2人して舌を伸ばして舐めてくる。

 

「くぅ……。出したばっかりで、敏感だから」

「でも、嬉しいんでしょ。優しくするからね」

「気持ち良さそうな顔。可愛いぞ、俊一」

 

 姉妹揃って、精子と柚子の愛液でべったりの陰茎に舌を這わせてくる。

 特に、カリ首から少し下あたりまでを、表から裏まで刺激されると弱い。

 ただでさえ敏感なところが、射精したばかりのせいもあってより快感が増す。2人に責められる気持ち良さが、チ○コに響く。

 

「ぴちゅ、しゅぷ。ん、んっ。俊一くん、気持ちいい?」

「ちゅ、ちゅっ。れろ、ん、ふぁ……。俊一のが、こんなに硬くなって……」

 

 みほとまほのお掃除フェラで、チ○コがあっという間に元気になってしまった。自分たちの口技で硬さを取り戻したのが嬉しいのか、2人は勃起したチ○コに左右から頬ずりをする。柔らかな頬に挟まれる感触が伝わってくる。

 チ○コに頬ずりをしながら、オレを見つめてくる西住姉妹。

 その向こうには、中出しされたばかりの柚子が息を乱して横たわっている。

 ハーレムプレイのエロさを改めて実感して、噛みしめる。

 なんたる幸せか、と。全身に悦びの震えが走る。

 同時に股間がさらにたぎった。

 びくびくと動くチ○コが、みほとまほの頬を叩く。

 

「きゃっ。すごい、まだまだ元気」

「たくましいな。惚れ惚れするぞ」

「お望み通り、みほちゃんにもまほちゃんにも、思い切り中出ししてあげる」

 

 オレのモノだって、いっぱいマーキングしてやるから。

 独占欲丸出しの言葉を掛けながら、2人をベッドに横たわらせた。

 みほとまほが、仰向けになって、自分から足を開く。

 膝の裏に手を回して、そのまま腰を浮かせるように、足を持ち上げる。

 

「俊一くん。お願い」

「私たちのナカも、いっぱいにしてくれ」

 

 姉妹揃って、誘うように秘部をさらけ出す。

 顔を赤くして、恥ずかしがりながらも、オレを求めてくれる。

 嬉しい。

 興奮する。

 待ちきれないのか、愛液でトロトロな姉妹のおま○こを前にして。

 オレは再度、みほとまほに手を伸ばした。

 

 

 

 ―続く―




エッチシーンよりも、健全寄りのイチャイチャシーンが書きたくなってきました。
槇村です。御機嫌如何。



ハーレムプレイっぽく、最後にみほまほ柚子がくんずほぐれつな展開に持っていこうとしたのだが。
ごめん、今回のエッチシーンはここまで。

自分で言うのもなんだけど、1回のエッチシーンを長くし過ぎたと思う。
読む方から見れば、飽きちゃったかもしれない。
事実、第15話を投稿してすぐにお気に入りから外した人がかなりいたみたいで。
あれだよ、AVを見ていて早送りしたくなる感覚になったんだよ。
ない? そういうこと。
私はある。

次回、お待ちかねの日常回。(お待ちかね?)
他の女の子たちとの接点を作るための話があれこれ続くかと。
というかそっちの方を思いついちゃって、エッチシーンがなかなか進まなかったのは秘密です。



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大洗学園、戦車道始動?
17:戦車道行進曲!パンツァーフォー!/前準備


今回は三人称にて進行。
主人公は出てきません。



 茨城県に属する学園艦・県立大洗学園。この学園はかつて貧窮の一歩手前にまで陥り、一時期は廃艦の憂き目にさらされていたという。

 大洗学園は元々女子校で、生徒数の減少、資金難による運営の苦境といった諸問題が表面化。それに伴い、もっと広く人を集めるために男女共学へと舵を切った。現在、男女の比率はまだ女性の方が多いものの、生徒数は格段に上がっている。艦上で生活する人の絶対数も増え、経済的な循環も良くなっていた。当面、学園艦の進退がどうこうなるという事態はないだろう。

 今現在、学園の運営はいくらかマシになってきている。

 でも、もう一押し何かが欲しい。

 大洗学園の生徒会長・角谷杏はそう思っていた。

 学園が活性化し、知名度を上げるために出来ることが何かないものか。

 そう思っていたところに、西住みほ及び西住まほの転入を知った。

 昨年の戦車道全国高校生大会の準優勝校。そんなところの隊長と副隊長が、戦車道のない学園にやってくるのだ。目を引かずにはいられない。

 杏はそこで閃く。

 戦車道をやってみてはどうだろうか。

 大洗学園でも、数十年前までは戦車道をやっていたという記録がある。この上ない経験者が学園にやって来るのだ。教えを乞うて、戦車道を復活させれば、学園のアピールとして相当なものになるのではないか。

 名案だと思えた。

 次いで、転入してくる西住姉妹のことを思い。

 杏は頭を振る。

 わざわざ戦車道のない学園に移ってくるのだ。事情があるに決まっている。そう簡単に協力が得られるとは思えない。

 杏は転入の理由までは知らない。けれど妹・みほの事情については、想像がついた。

 昨年の戦車道全国高校生大会決勝戦。川に落ちた戦車に乗る仲間たちを救うため、単独行動を取る。その結果、仲間を救うことはできたが、試合には負けてしまった。そのあたりが関係しているんだろう。何しろ前代未聞の10連覇が懸かっていたのだから、周囲からの突き上げなどもすごかったに違いない。

 となると、姉・まほの転入も同じような理由か。それならなおさら協力を得ることは難しいだろう。杏は頭を抱えてしまった。

 

「んー。難しいかねぇ」

 

 半ば諦めていたところに、朗報が入った。生徒会副会長の柚子を通して、西住まほが、大洗学園に1台だけ残っている戦車の使用許可を求めてきたのだ。

 

「少なくとも、姉の方は戦車道に関わることに問題はないってこと?」

 

 とりあえず、協力のお願いだけはしてみよう。

 杏は、まほとの顔合わせの場を用意することにした。

 

 

 

 西住姉妹が学園艦にやってきて数日後。艦上や大洗港の周辺は、新入生やその家族、新たな学園関係者などで賑わい、どこも慌ただしくなっている。そんな中、春休み中の学園校舎は生徒もほとんどおらず、静かなものだった。

 その校舎の一角、生徒会室に、まほは呼び出されていた。

 対面するのは、生徒会長の杏、副会長の柚子、広報の桃の3人。テーブルを挟んでソファに座り、顔を合わせる。挨拶もそこそこに、まほが希望している戦車使用の許可についてと、現在の戦車の取り扱いなどが説明された。

 その途中で、杏が話を変える。

 

「実は、西住さんにお願いがあってね。いや、お願いというよりも、意見を聞きたいっていう方が正確かな」

「私に?」

「そう。実はね、大洗学園で戦車道が復活するんだ」

 

 杏の言葉に、まほは少しだけ目を険しくする。

 何か言おうとするまほを、杏は手を上げて遮る。

 とりあえず最後まで耳を貸して欲しい。

 その言葉に、まほは再度、聞く姿勢を整える。

 

「わたしは生徒会長として、大洗学園の知名度をもっと上げたいと思ってる。その一環として、戦車道を選ぼうと考えたんだ」

 

 杏は正直に話す。

 戦車道の世界での有名人が転入してくることを知り、何とか頼れないかと。

 けれど昨年の戦車道大会の顛末も知っているため、接触にはためらいがあったこと。

 ところがまほから戦車使用の話が来たので、忌避感があるわけではないと判断。

 おそらくは初心者ばかりの中で、戦車道を始めてどうにかなるものか話を聞きたかったこと。

 まほ側の事情はまったく分からないので、不愉快であれば断ってくれて構わないこと。

 などなど。

 

「どうだろう。少しばかり関わってもらえないだろうか」

「……いくつか、言っておくべきことがある」

 

 まほは、まずこちらの事情も考えた上で事情を話してもらえたことに礼を言い、彼女自身の事情を差しさわりのない程度に話す。

 自身の転入はあくまで一時的なものだということ。

 いつ黒森峰に戻されるか分からないこと。

 アドバイス程度でいいのなら問題ないが、戦車道チームそのものには深く関われないこと。

 何より、自分が絡むと西住流、黒森峰の亜流になってしまうこと。

 もし自分が率いるとなったら、初心者にはいささかキツい内容になること。

 などなど。

 

「去年の戦車道大会決勝。何があったかは知っているか?」

「試合の映像と、戦車道連盟のコメントに目を通したくらいだけどね」

 

 十分だ。

 そう言って、まほは居住まいを正す。

 

「あの試合を巡って、黒森峰の戦車道チーム、西住流の流派内で騒動が起きた。その結果、みほの追放と、私の一時謹慎が決定。西住流から離れるため、わざわざ戦車道のないところにやってきたわけだ」

「それ、私たちに言っていいもんなの?」

「構わんよ。少し事情に通じていれば想像できることだ。それに何かが起きたとしても、それで西住流の歪なところが改まるきっかけになるなら望むところ。いくらでも矢面に立つさ」

 

 もっとも、そう言うなら最初からやれという話なんだが。

 まほは自嘲するような笑みを浮かべる。

 杏と桃はどう反応したものか分からない。だが柚子は、まほに苦笑いを返している。俊一を通して、彼女は西住姉妹の両方から少なからず話を聞いていた。

 

「まぁ、いろいろと事情があってな。私が大洗学園の戦車道立ち上げに参加するのは、良くないと思う。自分で言うのもなんだが、私は戦車道の世界ではそこそこ有名人だ。ハードルが高くなり過ぎて、かえって失敗できなくなるぞ?」

 

 黒森峰、西住流、日本戦車道連盟など、いろいろなところからあらぬ期待や圧力が掛かりかねない、と。まほは口にする。

 杏はそれを受けて、なるほどとうなずいた。

 一流を引き入れたのだから、すぐさま見合った結果を出さないと関係各所が納得しないということ。学校運営に関わる生徒会長という立場から、外部からくるしがらみの面倒さはよく理解している。

 

「じゃあ、妹さんはどうなの?」

 

 杏は、いろいろな意味を込めて尋ねる。

 まほ自身のことは分かった。ならば追放されたという妹の方はどうなのか。

 戦車道を避けている、というのであれば無理強いはしたくない。

 けれど可能ならば、杏としては無理をしてでも引き入れたい人材である。

 

「……戦車道を嗜む者として見れば、みほの方が初心者を率いるのに向いているだろう。新しい戦車道チームとして引き込もうとするなら、私よりよっぽど適任だ」

 

 私は西住流に染まり過ぎているからな。

 それ以外の応用が利かないと、彼女はまたも自嘲の笑み。

 手のひらを合わせ、組んだ手を額に当てる。

 

「だが姉としては、正直なところ、悩む」

 

 まほは想いを吐き出すように、嘆息。身じろぎをし、座っているソファがわずかに音を立てた。

 妹・みほは、自分の行動と理想を、西住流そのものから否定された。心に負った傷は決して小さいものではなく、まほの目にも、その意気消沈ぶりは痛ましいほどだった。

 今でこそ、俊一との出会いと交流のおかげで明るさを取り戻している。戦車道に対する忌避感のようなものも和らいでいた。

 

「ようやく笑顔になってくれたんだ。それなのに、戦車道に関わらせてしまっては、元の木阿弥になってしまうんじゃないか。また妹を傷つけてしまいそうで、怖い」

 

 みほは、戦車道に対してトラウマのようなものを抱いてしまった。

 戦車道のないところで、好きな男と一緒に穏やかに過ごす。その上で、戦車に触れる程度のことから慣れていけば、心の傷も払拭できるのではないか。まほはそう考えていた。

 だが、戦車道の試合となると話は変わってくる。

 みほはまだ、精神的にリハビリをしているような状態。姉としては、もう少し落ち着かせてやりたいというのが本音のところだ。

 けれど。

 

「結局は、みほ次第だな」

「……妹さん、巻き込んでいいかな?」

「何かあれば、私はお前たちよりもみほを優先する。それは忘れるな」

「オーケーオーケー。当然だよ」

「というかだな。私に打診するまでもなく、すでに戦車道復活は動いていたんだろう?」

 

 まほの言葉に、今度は杏の方が苦笑する。

 彼女の言う通り、大洗学園の戦車道復活はもう確定事項だ。学園のカリキュラムが追加されるのだから、昨日今日のやり取りでやるやらないが決まるはずもない。学園運営に影響力を持つ生徒会長といえど、独断でそこまで決めることはさすがに出来ない。4月から始められるように、下準備はもう済んでいるのだ。

 

「きっかけが西住さんたちだってことは否定しない。強引に勧誘してでも参加してもらいたいところだけど、そこは自重するよ」

「そうしてもらえると、助かる」

「でも西住さんから、妹さんに伝えてもらえないかなぁ。君の才能を欲している、みたいな感じで」

 

 一から始めることになる戦車道。実際に関わるメンバーの中に経験者がいるといないとでは大違いだ。できることなら、みほも引き入れたい。そう思うのも当然で。

 

「……何度も言うが、みほ次第だぞ」

「分かってるよ。せっかく得た相談役まで失いたくないからね」

 

 協力を快諾してくれて、ありがとう。

 杏は手を差し伸べ、感謝を述べる。

 まほも、それに応えて、杏の手を握り返した。

 

「相談に乗るくらいなら構わない。だが、私から口を出すことはまずないと思ってくれ」

「了解了解。いやー、新学期の前に懸念事項が解消できて嬉しいね」

 

 笑顔で応える杏。

 ただ話を聞いているだけだった柚子と桃も、ほっと息を吐く。

 

「じゃあ早速なんだけど、相談に乗ってくれない?」

 

 いきなり、杏は身を乗り出して話を振った。

 いわく。

 戦車道を始めるに当たって、どのように進めていくべきかのノウハウを知る人間が大洗学園にはいない。だからこそ経験者である西住姉妹に協力を仰ごうとしたのは前述の通り。日本戦車道連盟に指導員の派遣を依頼してあるものの、それはあくまで戦車の扱い方などを指導をすることに限定したものだ。

 

「戦車を動かす人の目線じゃなくて、学園を運営する立場から、他の学園はどういう風に戦車道を扱っているのか知りたいんだよね」

「ふむ。なるほど」

「で、他校にちょっと見学に行こうと思ってるんだ。わたし個人のツテで、友人が戦車道をやってる学校に行く予定なんだけど。ぶっちゃけると、そこって運営がカツカツのところでさ」

 

 資金難の辛さって良く分かるよー。などと笑う杏。まほはもちろん、彼女の両隣にいる柚子と桃もどう反応していいか分からず微妙な顔をしている。

 

「そことは別に、余裕をもって戦車道チームを抱えてる学校を見てみたい。それで、西住さんにそういうツテはないかなーと思って」

「ツテといっても、あくまで他校で戦車道をしている知人、というだけだぞ?」

「もちろん、運営上の書類まで見たいとは言わないよ。単にその学校での戦車道の受け入れられ方とか、そういうのを実際に見てみたいだけだから。あとは施設なんかを見ながら、チームの隊長格の人と話ができたらなーって」

「ふむ……」

 

 まほは腕を組んで、しばし思案する。

 

「連絡を取れる相手は、いるにはいる。その前に、行くつもりだという学校は?」

「アンツィオ高校だよ」

「……あぁ、イタリア系のところだな」

「新学期前の今の時期、どの学園艦も母港に寄ってるでしょ。アンツィオの母港は静岡の清水港だから。できればその道中か、近辺だと助かるんだけど」

「そんな都合のいいところが……」

 

 言いかけた言葉を飲み込んで、まほは何かを思い出すように黙り込んだ。

 

「……あるな」

「え、本当に?」

「聖グロリアーナ女学院。確か、母港は横浜だったはず。そこの戦車道チームの隊長とは、いくらか交流がある」

「西住さん、連絡取れる?」

「連絡自体はできる。だが見学を受け入れてくるかどうかは、先方次第だぞ」

 

 ちょっと待っていろ、と、スマホを手にしてソファから立つ。生徒会室の窓際へ移動して、電話を掛け始めた。

 それを見ながら、杏は本当に楽しそうな顔をする。

 

「いやぁー、助かった。しかも聖グロかぁ。お嬢様学校ってやつだよね。楽しみだなぁ」

「会長、ウキウキし過ぎですよ」

「え、そう? 大瀬良くんと一緒にいる小山よりは浮かれてないと思うけど」

「なんでわたしが出てくるんですか!」

「でも、ウキウキしてるじゃん」

「してますよ。ウキウキですよ!」

「柚子ちゃん、当然のように惚気るのはやめてくれ……」

 

 杏、柚子、桃の生徒会3人がコントのようなやり取りをしているのをよそに。

 まほの電話での話は進んで、会話を終えた。

 戻ってきたまほは改めてソファに座り、メモ帳にペンを走らせる。

 

「生徒会長、連絡が取れた。とりあえず連絡先を教えるから、直接話を通してくれ」

「ん、分かった。ありがとう、西住さん」

「なに、これくらいは」

「で、先方さんの名前は?」

「聖グロリアーナの戦車道チーム隊長、ダージリンだ」

「だー……、何?」

「ダージリンだ」

 

 いきなり横文字の名前、名前と言っていいんだろうか、紅茶っぽい名前を耳にして、杏は少し面食らう。思わず聞き返してしまったが、どうやら聞き間違えではなかったらしい。

 

「え、外人さん?」

「日本人だ」

「あぁ、ニックネームとかあだ名とか、そういうのかな」

「まぁそんなものだと思っていい」

 

 まほから電話番号の書かれた紙を渡されて、杏はひとまず自分の出した答えに納得することにした。書かれているのは、電話番号と、ダージリンという名前だけ。

 徹底してるなー。

 杏は呆れるやら感心するやら、だった。

 

「それで、行くのはアンツィオと聖グロになるのか」

「これから連絡して、先方の返事次第だけど。んー、今日明日に先方とウチの許可を取って、アンツィオと聖グロで1日ずつ、っていうのが希望かな。新入生とかの受け入れで忙しいのは大洗だけじゃないだろうしね。強行軍でちゃちゃっと終わらせたい」

「なるほど」

 

 まほは、またも思案顔。

 

「それは私も行った方がいいんだろうな」

「一緒に来てくれるなら、聖グロとの面通しも楽になるし大歓迎だけど。いいの?」

「いや、私が同行するのは問題ない。ただ、少し気になることが」

 

 腕を組み、難しそうな顔をするまほ。

 杏はそんな彼女を見て、何か問題でもあったかといぶかしむ。

 

「何か都合の悪いことでも思い出したの?」

「そういうわけじゃない。なんというか、ものすごく私的なことになってしまうんだが」

 

 そういうわりには真剣な顔をしている。先ほど、妹のみほのことを話していた時と同じような雰囲気だ。いったい何事だと、生徒会の3人が思っていると。

 

「アンツィオ行きに、俊一も連れていっては駄目だろうか」

「え?」

「俊一くん?」

「西住、なぜここで大瀬良が出てくる」

 

 まほの予想外の言葉。

 杏、柚子、桃は思わず素っ頓狂な声を漏らす。

 

「まほさん。それって俊一くんも、アンツィオか聖グロリアーナに知り合いがいるってこと?」

「いや、そういうことはないと思う。そもそも俊一自身は戦車道に詳しくないしな」

 

 今回の視察に関係があるのかと思えば、まほはそれを否定する。

 柚子は、俊一にまだ自分の知らない女の子が他校にいたりするのかと考えてしまった。人知れず、少しほっとする。

 それはさておき。

 

「それならなぜだ。なぜあいつを連れていく必要がある」

「大したことじゃない。そもそも視察とはまったく関係ないからな」

 

 食って掛かるような桃の物言い。

 まほはその語調を気にすることなく、涼しい顔で応える。

 

「アンツィオ高校は、校風がイタリアを模したものだろう?」

「イタリアっぽい街並みとか施設とか、観光地化してるくらいらしいね」

「ついさっき、電話を掛けた後に軽く調べてみたんだが。アンツィオ高校はトレヴィの泉やコロッセオ、その他にもいろいろと、本場に迫るくらいのイタリアぶりらしい」

「だからどうした」

 

 深刻な話じゃなさそうだと、杏と柚子は肩の力を抜く。

 ただ桃だけは、少しイラついているような態度を見せていた。

 もちろん、まほはそんなことを気にしていない。

 

「思いついたんだ。アンツィオに俊一と一緒に行って、『ローマの休日』の真似をしてみたいと」

「はぁ?」

 

 一瞬の沈黙。

 何言ってんだこいつ、という感じの空気になって。

 

「あははははははは!」

 

 杏が、爆笑した。

 

「いいよ、面白いよ西住さん。うん、大瀬良くんも連れていこう。ぜひとも連れていこう」

 

 腹を抱えて笑う杏。

 その横で柚子は良く分からない様子で首を傾げ。

 桃は怒り狂っていた。

 

「お前本気か! 会長は遊びに行くわけじゃないんだぞ!」

「視察の邪魔をするつもりはない。ついでに少し楽しいことをしようと思っただけなんだが」

「『ローマの休日』って映画ですよね。有名だけど、わたし観たことなくて」

「あはは、ひひっ、あー、お腹痛い。小山小山、教えてあげるよ、映画の内容。たぶん西住さんがやりたいってのはさ……」

 

 杏が楽しそうに、柚子に『ローマの休日』の内容を吹き込んでいく。映画の中で主人公の男女がどんなことをするのか、ローマの街を巡る様子を情景も含めてたっぷりと。

 すると。

 

「まほさんずるい! わたしも俊一くんと『ローマの休日』ごっこしたい!」

「だが柚子は学園のあれこれで忙しいんじゃないのか?」

「でもでも」

「ごっこ、『ローマの休日』ごっこって。あはははははは、あー。面白過ぎて涙が」

「会長! わたしもローマに連れてってください!」

「柚子ちゃんローマじゃないぞ、行くのはアンツィオだ」

「どっちでもいいよ『ローマの休日』ができるなら!」

「ひひひひ、だめ、小山、これ以上笑わせないでくれぇ」

 

 最後の最後で、訳の分からないヌケたやり取りになりつつも。

 生徒会長である杏、顔つなぎのためのまほ、そして俊一が視察に出向くことでまとまった。

 

 

 

「おい西住。『ローマの休日』の真似をしたいってことは、最後は……」

「最後は真似しないぞ。絶対に真似しないからな」

「都合のいいことを言っているな、お前」

「え。桃ちゃん、最後まで知ってるってことは映画を観たことが」

「ないぞ! ないからな! ときめいたりしてないんだからな!」

「かーしま、墓穴掘り過ぎ」

 

 

 

 ―続く―




こうして、主人公の毒牙は大洗を飛び立つ。(毒牙って言うな)
槇村です。御機嫌如何。


どうやって他校の面々と絡ませていくかを考えていたら、こうなった。
会長はドゥーチェを「チョビ子」呼びしていたので、顔見知りの友人ということに。
まほさんは戦車道絡みでそこそこ交流があるだろうということで、練習試合前に聖グロと絡めた。
正直、このくだりはものすごく気に入っている。
というか、ウチのまほさんはすっかり恋愛脳に……。





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18:たまり場/視察前々日

 大洗学園の新学期が始まるまで、あと10日ほどある。

 みほとまほは、少しでも早くオレに会いたいと学園艦乗り込みの初日にやってきた。オレも久しぶりに2人と会うことが出来て嬉しかったし、これからは同じ学校に通えるってことはもっと嬉しい。気持ちが盛り上がり過ぎて、柚子も交えた3人と爛れた4Pプレイをしてしまったくらいだ。正直、少しがっつき過ぎたと思っている。

 とはいえ。オレたちが四六時中べったりと引っついているかといえば、そういうわけでもない。

 昨日は、みほがコンビニを求めて、散策ついでにひとりであちこち歩き回っていた。しかも寮住まいの同級生と知り合って、友だちになったんだとか。

 嬉しそうに、満面の笑みで報告するみほ。オレは胸が温かくなるのを感じて、まほに至っては少し涙ぐんでいた。いろいろと入り組んだ事情もあって、妹の交友関係が広がるのが我がことのように嬉しく思えてしまったんだろう。妹思いなお姉さんだ。うん。

 まほも、今日は生徒会に呼び出されて学園校舎に出向いている。学園艦に1輌だけ残っていた戦車を使わせてもらうための許可とか説明とか、そういうものがあるらしい。

 その戦車をいじるのには、みほも参加すると言っていた。これまでがどうあれ、戦車に触れること自体は楽しいらしく、今から楽しみだと彼女は言う。門外漢ではあるけれど、みほのそんな笑顔を見るととても嬉しく思える。

 戦車絡みの話から、オレにも戦車道について興味を持ってもらいたいと、西住姉妹が揃って言い出して。今日は、まほが帰ってきたら3人で戦車についての勉強会が開かれることになっている。

 まほが帰宅するまでまだ時間があるので。定番となりつつある映画鑑賞の流れになった。

 テレビのスイッチを入れ、プレーヤーにDVDをセット。

 オレがソファに座って、みほが足の間に腰を下ろして背中をあずけてくる。

 そして背中から彼女を抱きしめる。

 この体勢が、自宅で映画鑑賞をする時のスタンダードになっていた。

 で。約2時間が経過して、映画が終わった頃。

 

「ただいま」

「おじゃましまーす」

 

 まほが帰ってきて、柚子も一緒にやってきた。

 ちなみにここはオレの部屋。まほだけじゃなく、当たり前のように「ただいま」と言ってくる西住姉妹に、嬉しいやらくすぐったいやら。

 それはそれとして。

 

「……2人とも、どうした?」

 

 まほと柚子が部屋に入ってきた時、オレは、みほに腕をつかまれてぐわんぐわんと揺さぶられていた。傍から見ればケンカをしているように見えたかもしれない。

 でも中身はそんな大層なことじゃなくて。

 

「コメディだって、コメディだって言ってたのに!」

「いやいや、コメディだったでしょ」

「ラブコメのつもりで観始めたのに、どうしてゾンビばっかりのお話になるのぉ」

「でも結構、ラブだったでしょ?」

「確かにラブだったよ。ラブだったけどさ」

「じゃあ問題ないじゃん。ラブでコメでしょ。ホラーだけど」

「しかも結構グロかったよ!」

「面白くなかった?」

「……面白かった」

「うん、よかったよかった」

「うー。絶対騙されてるよわたし……」

 

 なんてやり取りをしていた。

 まほも、何を騒いでいるのか想像はついたようで。特に騒ぐ気配もない。

 

「まぁ、なんとなく経緯は分かった」

「みほさん、そんなに大騒ぎするような映画だったの?」

「柚子さん柚子さん、気になるなら柚子さんも観ましょうよ。今なら俊一くんに後ろから抱きかかえられる特等席で」

「みほちゃん、それって被害者仲間を増やそうとしてないか?」

 

 呆れるまほと、興味を示す柚子。

 少し黒い考えを見せたみほに、元凶のオレ。

 まぁ、それくらい仲がいいってことで。

 

 

 

 お茶を入れて、ひと息ついて。

 まほが、生徒会に呼ばれていた理由を話し始めた。

 戦車の使用許可についての話だと思ったら、大洗学園に戦車道が復活するんだとか。

 まほと柚子が気まずげというか、心配するような目をみほに向けている。

 オレも彼女の様子をうかがうけれど。

 

「へぇ、偶然だね」

 

 みほは、落ち込むとかそういった反応は見せなかった。

 

「へぇ、って、それだけか?」

「え、どうして?」

「せっかく戦車道のないところに来たんだ。それなのに、新しいチームの立ち上げに巻き込まれるかもしれないんだぞ」

 

 言い方は荒いけれど、言っていることは真っ当だ。熊本で打ちひしがれていた、みほの姿。それを知っているなら、また戦車道に関わらせようというのは躊躇せずにはいられない。

 オレが心配したところと、姉の言葉の意味が分かったんだろう。

 

「心配してくれてるんだよね。でも、大丈夫だよ」

 

 みほは照れくさそうな笑みを浮かべて、オレたちに言葉を返す。

 

「戦車道が嫌だとか、そういう気持ちはないから。確かに、学校でいきなり言われたら戸惑ったかもしれないけど」

「じゃあ、戦車道に参加するの?」

「んー」

 

 オレの問いかけに、みほはあごに指を当てながら可愛らしく悩んでみせる。

 ちなみに、映画のドタバタが収まってからずっと、彼女はオレにあすなろ抱きをされたまま。

 まほも柚子も、この体勢を見ても特に何も言わない。いつものことだし、まほにも柚子にも同じことを良くしているから。

 閑話休題。

 今は、みほのことだ。

 

「柚子さん。学園としては、わたしの参加を望んでるんですか?」

「……うん。正直に言うと、そう」

 

 みほの言葉に、柚子がうなずく。

 もともと戦車道のない学園だしね。集まるとしても経験のない生徒ばっかりだろう。それは生徒会側も同じように思っているみたいだ。

 

「新学期になったら勧誘用のガイダンスをするつもりなんだけど、どれだけ集まるかは分からないから。そうだ、人を集める方法も考えなきゃいけないんだよねぇ」

「柚子さんが遠い目してる……」

「まぁ、ゼロから集めないといけないからな」

 

 やらなきゃいけないことに思いを馳せて、乾いた笑いを漏らす柚子。

 まほは、そんな姿をすぐ隣で見ても至ってクール。

 いかん、話をもとに戻さないと。

 

「それなら、みほちゃんみたいな、経験者だってもう分かってる生徒は貴重だよね」

「うん。そうなんだよね」

 

 気を取り直して、柚子がオレの言葉を拾ってくれた。

 

「副会長としては、みほさんにぜひとも参加して欲しいんだけど。でもわたし個人としては、無理強いはしたくないっていうのが本音かなぁ」

「なるほど」

 

 オレを通じて仲良くなって、もう互いに良く知る間柄だから。柚子は学園の役職と、個人の思いが板挟みになっちゃってるのかもしれない。もし知り合っていなかったら、学園のことを優先して立ち回ってたかもしれないな。

 でも、まほはどうなんだろうか。

 そう思ったのはオレだけじゃなく、妹のみほも同じようで。

 

「お姉ちゃんはどうするの? 経験者が必要なら、わたしより適任だと思うけど」

「私は転入したといっても、戦車道の所属に関しては黒森峰のままだからな」

「あ、そっか。扱いは一時的な転入なんだっけ」

「自分でも忘れかけていたけれどな」

 

 みほとまほが笑う。

 目の前のまほも、抱きとめている腕の中のみほも、ごく自然に。

 

「とにかく。大洗の戦車道チーム新設に私は関われない。せいぜいクラスメイトや友人として、求められればアドバイスをする程度だ。それについてはもう、生徒会長にも理解してもらった」

 

 黒森峰と西住流のあれこれが、まほをずいぶんと難しい立場にしているようだった。

 でも、みほについてはそうでもないみたい。

 

「みほ。お前は、好きなようにしていい。大洗でまた戦車道に関わるのも、普通の学生として過ごすのも、みほ次第だ」

「会長も、みほさんの事情は分かってるから。無理に引きずり込もうなんてことはしないよ」

 

 みほが、オレの腕を取って少しうつむいた。肩から彼女の前へ出していた腕を、みほが自分の胸に抱きしめてくる。胸の柔らかさと、少しだけ震えているような感覚が、手から伝わってきた。

 

「いいお姉ちゃんたちだな」

「……うん」

 

 いい話だなぁ。

 なんて風に思っていたんだけど。

 

「……柚子。その言い方は穏やかじゃないな。場合によっては無理やりなことをするつもりだったのか」

「え、まほさんどうしたの。って、目が怖いよまほさん。違うよ言葉の綾だよ。実際にみほさんをどうこうしようなんて、私も会長も思ってないから」

「それなら片メガネの広報はどうなんだ。高圧的なところもあったが」

「桃ちゃんは、えーと、その……。どうだろう」

「語るに落ちたか」

「あー。桃ちゃん先輩は、目的達成のためなら過激な手段も採りそうだよね」

「……俊一くん。桃ちゃん先輩って誰? ずいぶんフレンドリーな呼び方だけど」

「俊一。まさかあの広報にもツバをつけていたのか?」

「え、なんで姉妹揃ってオレを睨んでくるの?」

「みほさんもまほさんも落ち着いて。俊一くんにとっては、桃ちゃんはいつもからかってる相手ってだけだから。そういう感情はないから」

 

 仮にも生徒会の同僚に対して、ずいぶん辛口な物言いをする柚子。

 まぁ確かに、からかいやすい先輩って目でしか見てないけど。

 

「とにかく、生徒会としてはみほさんに無理強いするつもりはないから」

 

 話がズレて荒れかけたけれど、どうにか持ち直して。

 大洗の新規戦車道チームに関わるかどうかは、みほの気持ちを重視するということになったらしい。よかった。

 でもポジティブに考えてみれば、みほとしても、新しく戦車道をやり直せると考えればいい機会なのかもしれない。

 そう言ってみると、まほがうなずき、柚子は少しホッとしたような顔をする。

 

「やってもいいかな、とは思ってる」

 

 でも、もう少し考えさせて。

 みほは気負う様子もなく、そう告げた。

 

「みほが決めたことなら、私は何も言わない。尊重する。だが辛くなったら、無理をすることはない。いつでも休め。私はみほの味方になる」

「ありがとう。お姉ちゃん」

 

 真剣な顔で告げる、まほ。

 対して、みほの表情は穏やかなままだった。

 

 

 

「話は変わるんだが」

 

 姉が妹を想う感動シーン、みたいな展開があって。

 当人である姉・まほがその流れをぶった切った。

 彼女のマイペースぶりにはほとほと感心させられる。

 

「実は生徒会長の付き添いで、他校の戦車道チームを視察に行くことになった」

 

 ほほう。

 戦車道っていう新しいカリキュラムが始まるわけだから、参考のためにってことだろうか。

 あの生徒会長さんは、そういう下拵えというか、基礎部分の準備というか、そういったものはしっかりとやるタイプだ。つき合いはまだ短いけど、そう思える。

 

「早ければ明後日に出ることになるんだが。みほも行くか?」

「わたしも?」

 

 行き先は、アンツィオ高校と聖グロリアーナ女学院だという。アンツィオには会長さんの、聖グロにはまほの知り合いがいるらしくて、それぞれお邪魔することになったんだとか。まほ自身は先方との仲介なんかをするらしいけど、みほは特にやるべきこともない。

 単に観光というか、遊びに行くノリで誘ってみた。

 そんな感じみたい。

 なぜか、まほを見る柚子がジト目になっているのが気になったけど。

 話をきいていたみほは、ちょっと考えてから、同行を断った。

 

「せっかくだけど、わたしは大洗に残るよ。知り合った同級生と会う約束もしちゃったし」

「そうか」

 

 少し残念そうな、まほの顔。

 妹と一緒にお出掛け、と思っていたのにしょんぼり。

 みたいな。

 そう考えると、可愛らしいなぁと思ってしまう。

 

「それじゃあ、生徒会長と私、それに俊一の3人だな」

「え?」

「は?」

 

 思わず声を出す、みほと、オレ。

 いやいや聞いてないよそんなこと。

 みほがオレに目を向けてくるけど、知らないとしか言いようがない。

 

「まほちゃん。オレも行くなんて初耳なんだけど」

「今、初めて言ったからな」

「そんな当たり前だみたいに言われても」

「聖グロはともかく、私がアンツィオに行くのは、俊一がいないと意味がないんだ」

「オレが?」

 

 いわく。

 アンツィオはイタリアを模した学園艦で、本場のローマさながらの街並みが広がっているらしい。まほは、そこで『ローマの休日』の真似をしたいんだという。

 

「もしかして、まほちゃんが視察の同行を受けたのってこれのため?」

 

 まほは迷う素振りも見せずにうなずいた。

 柚子がジト目になっていたのはこのせいか。みほも、姉の言葉にどう反応すればいいのか分からないみたい。

 

「確かに、お姉ちゃんは古めのラブロマンス映画に夢中だけど」

「まぁ、映画の真似をしたくなるって気持ちは分からないでもないな」

 

 みほにせよ、まほにせよ、後ろから抱きしめながら一緒にDVD観賞をするっていうのを良くやっている。それをきっかけに映画に興味を持ったまほは、特にクラシックなラブストーリーものに傾倒していた。まさか『ローマの休日』の真似ができる場所がある、行こう、なんて言い出すとはさすがに思いもしなかった。

 

「もしかして、俊一も都合が悪かったか?」

「いきなりではあったけど、オレは平気」

 

 平気なんだけど。

 腕の中で抱きかかえられたままのみほが、何やら苦悩していた。異国情緒のある場所で俊一くんとロマンチックなひと時、でも友だちの誘いを断るわけにも、みたいな感じで。

 ちなみに柚子も、同じようなことを考えて爆発したらしい。自分も連れていけと。結局、生徒会に課せられた新学期前の仕事あれこれを放置できず、涙をのんで諦めたんだとか。うん、そんな責任感のある彼女が大好きです。

 

「というか、どちらも女子校じゃないの? オレが同行していいもんなのか」

「男子禁制、というわけじゃない。それに、どちらも今は新入生受け入れの時期だ。男性だっていろいろ行き来しているだろうから、問題ない」

 

 そういうわけで。オレは求められるままに、アンツィオ及び聖グロへの視察に同行することになった。

 みほは悩んだ末に、できたばかりの友だちとの約束の方を取ったらしい。うん、そんな相手を思いやる気持ちでいっぱいな彼女が大好きです。

 もっとも、帰ってきたら相応のイチャイチャ対応をしろと、みほと柚子に約束させられた。

 それくらいはなんてことない。

 むしろ愛されていることが良く分かって嬉しいくらいだ。

 うん。すっごく嬉しいです。

 

 

 

 みほと柚子のフォローをいっぱいしていたせいか。

 今度はまほがおねだりをしてきた。

 

「ところで俊一。ずっと、みほを抱きしめっ放しだぞ。私も抱きしめてくれ」

 

 さぁ早く、とばかりに両手を広げる、まほ。

 何というか、自分を偽らずに素直だよねぇと思わず苦笑してしまう。

 

「映画を観ていたということは、約2時間、ずっと抱きしめられていたんだろう? みほ、交代してくれないか」

「うん、いいよ」

 

 オレの腕の中に納まっていたみほは、姉の言葉を受け入れて立ち上がった。

 離れ際に、頬に触れるだけのキスを残して。自分でやっておきながら少し照れている。そんなみほがとても可愛らしい。

 姉妹とその男の微笑ましくもうらやましいやり取りで済むかと思ったんだけれども。

 いきなり、柚子が異議を唱える。

 

「ちょっと待って。まほさんは一緒に視察へ行くんだから、いっぱいイチャイチャできるでしょ。だから留守番のわたしの方が抱きしめてもらうべきだと思う」

 

 俊一成分の補給は、柚子の方こそ優先されるべき。

 そんなことを言い出した。

 

「言いたいことは分かるが、出発までまだ余裕があるんだから、いくらでも甘えられるだろう。今は私がみほに譲ってもらったんだからな」

 

 柚子の物言いに怯むことなく、まほはオレに抱きついて、頬を擦りつけてくる。柚子を煽っているようにも見えるけれど、ひょっとすると意識してやっているのだろうか。

 でも、喧嘩になるのはよろしくない。

 

「まほちゃん、そんな言い方しないの。抱きしめるくらいならいくらでもしてあげるから」

 

 なだめながら、まほを抱きしめる。

 ハグは日課。

 日課と言っても、1日1回と決まってるわけじゃないからね。

 伝わってくる彼女の身体の柔らかさは何度感じても気持ちいい。もちろん、それはまほに限ったことじゃなくて、みほも柚子も気持ちいいんだけど。

 まほの頭に手を置いて、撫でる。髪を梳くようにして動かすと、彼女は大人しくなった。気持ち良さそうに、無言で、顔や身体を押しつけてくる。

 

「柚子さんも、おいで」

 

 まほを抱きしめている腕とは逆の手を、柚子に差し伸べる。

 柚子は嬉しそうに、オレの腕の中に飛び込んできた。

 

「んー。しゅんいちくぅん……」

「よしよし」

 

 甘えるように、胸板に頭を擦りつけてきた。優しく頭を撫でてあげると、表情を和らげて嬉しそうにする。可愛い。

 美人のお姉さんたちが、自分から抱き着いてきて甘えてくる。何度目であろうと幸せを新たにしてしまう。柔らかな身体やおっぱいを押しつけて密着してくる無防備さ。彼女たちがオレを好いていてくれることに嬉しくなる。

 

「まほちゃんも、柚子さんも、大好き」

 

 2人の頭を抱きかかえる。撫でる。キスをする。

 そんなイチャつきぶりを見せつけられて、我慢できなくなったのか。離れていたみほがまた抱きついてきてもみくちゃに。

 さらにみほ、まほ、柚子がそれぞれ、オレのどこに密着したいかみたいなことを話し始めて。

 結果、3人は今の自分が好きな密着ポイントの住み分けをした。

 みほは、オレの横手から胸板に顔を押しつけるように抱きついて。

 まほは、膝枕を要求しつつ腰に腕を回すようにしてしがみついている。

 柚子は、後ろから抱きつきながらオレの頭をかきいだいてご満悦だ。

 女の子たちのむにむにした感触に全身を包まれて、なんというか、もう、至福。

 興奮というよりも、幸福感に満たされて。

 エッチなことをするでもなく、純粋にスキンシップを楽しむ時間が過ぎていく。

 そんな、急遽決まったお出かけ前のひとコマだった。

 

 

 

 ―続く―




何かにつけてイチャつかせようとする試み。
槇村です。御機嫌如何。


とりあえず、みほがアンツィオ&聖グロ視察に行かないってことも書いておかないと、と思って。
その結果、グダグダした感じの日常っぽい描写になった。
次回はちゃんと視察に出発します。
ちなみに冒頭で主人公がみほに観せていた映画は『ショーン・オブ・ザ・デッド』です。
まったくひどい奴だな(笑)


※誤字のご指摘、ありがとうございました。





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大洗学園視察団が行く!/いちゃいちゃアンツィオ観光
19:フニクリ・フニクラ/真面目にアンツィオ入り


 アンツィオ高校と聖グロリアーナ女学院への視察について行くことになった。それが決まった、というか知らないうちに決まっていたのが一昨日。

 先方の2校と、大洗学園側で視察の許可が下りたのが昨日。

 そして今日。朝5時起きで出発し、アンツィオ高校へ。1泊して明日、続けて聖グロへ行くというスケジュールになっている。なんだこの強行軍。

 大洗学園の舵取り役のひとりである生徒会長・角谷杏いわく。

 

「ウチもそうだけど、3月末から4月頭は、新入生の受け入れとかでいろいろ忙しいんだよ。余計な仕事をしている暇はないんだから、ちゃっちゃと終わらせないと」

 

 とのこと。

 学生の中では一番忙しいだろう生徒会長の言葉だ。説得力がある。

 そんなわけで。今回、視察に向かうメンバーである会長、まほ、そしてオレの3人は、朝の6時前に大洗を出発し、陸路で静岡県へ。

 東京まで特急、静岡まで新幹線と乗り継いでいき、静岡県・清水港に着いたのは午前10時前。乗り継ぎ時間も含めておよそ4時間をかけて、清水港に停泊しているアンツィオ高校学園艦までやって来た。

 

「やっと着いた……」

 

 港でもひと際大きな威容を見せている学園艦を前にして、会長さんが心底疲れたような声を漏らす。まぁ4時間も電車に乗ってれば、誰でも疲れるよね。

 

「平気か会長。電車に酔ったのなら、少し休むか」

「気分が悪いなら、水でも買ってきましょうか?」

「あー。いや、平気。気持ちだけありがたくもらっとくよ。電車に酔ったわけじゃないし。というか、疲れてるのはキミらのせいだから」

 

 まほとオレが気遣ってみせれば、返ってきたのは予想外の言葉。

 オレたち何かした?

 まほと顔を合わせる。彼女も分からないようで、首をかしげている。

 

「寝てても起きててもイチャついてるキミらのすぐ横に4時間もいたんだぞ。ひとりもののわたしには、ちょーっとツラい時間だった……」

「そんなにイチャついてるつもりはなかったんだが」

 

 今度は、まほの方がオレに目を向けてくる。オレとしても、首をかしげるしかない。

 そんなオレたちに、会長はでっかい溜め息を吐いた。幸せ逃げるよ?

 

「東京までの特急に乗って早々に寝ちゃったかと思えば、肩を寄せてもたれ合って、しかも手をつないでて。しかも西住さんは、寝言で大瀬良くんの名前呼んでたし」

「……覚えがないな」

「聞きたかったな、もったいない。起きてればよかったオレ」

「夢の中でもイチャついてるとは恐れ入ったね」

 

 会長のボヤキはまだ続く。

 

「起きてれば常に寄り添って、会話しながらさりげないボディタッチを自然にしてるんだもの。イチャイチャしてる、を目の当たりにした。無理に話を振ってキミらの空気に入るのも壊すのもはばかられて、黙ってるしかなかったし」

「妙に静かだったのは、そんなことを考えてたのか」

「普通にお喋りをしてただけのつもりなんだけどな」

「うむ。ただ楽しい、嬉しいと思うことをしているだけだ」

「くっそぅ。ひとり身には出せない空気を振りまきやがって……」

 

 会長が、らしからぬ荒れた言葉をもらしている。そんなに居心地悪かったのか。

 この場合は、すいませんと言うべきか、ありがとうと言うべきか

 どうしたものかと考えていると。

 

「おーい、角谷ぃー」

 

 どこからか、会長の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 周囲を見回してみれば、手を振りながら近づいてくる女性がひとり。紺のスカート、白いシャツ、ネクタイという制服姿に、なぜかマントを羽織っている。会長の知り合いって人かな?

 会長はうなだれていた頭を上げて、呼んだ相手に向かって歩き出す。ずいぶんと重たい歩調で。

 

「チョビ子ぉ。今日はありがとねぇ」

「チョビ子って言うな。……というかお前、平気なのか。無茶苦茶疲れた顔してるぞ」

「大洗から4時間、横でずっとバカップルを見せつけられていれば疲れもするさ……」

 

 紹介するよー、と。本当に疲れた声を出しながら、会長が俺たちを手招きする。

 あと初対面の人にバカップルとか言わないで欲しい。

 

「いろいろあって、今回同行してくれているウチの生徒」

「西住まほだ」

「大瀬良俊一です」

「安斎千代美だ。アンツィオ高校戦車道チームの隊長を務めている。アンチョビ、と呼んでくれ」

 

 手を差し出して、フレンドリーに握手してくる女の人、安斎さん。

 でも、アンチョビって……。魚のアンチョビ?

 いやまぁ、本人がそう呼べと言ってるんだから、いいんだろうなそれで。

 

「えーっと。じゃあ、アンチョビさんで」

「うんうん。素直なのはいいことだ。ウチは女子校だからな。男子にそう呼ばれるのは新鮮だ」

 

 はっはっは、と、ツインテールにした長い髪を揺らしながら、アンチョビさんは大らかに笑う。すっげぇ人当たりが良くて、いい人オーラを感じる。

 次いで、彼女は少し表情を引き締めてから、まほに目を向ける。

 

「人違いだったら済まない。西住というのは、もしかして西住流の?」

「そうだ」

 

 あぁ、なるほど。

 戦車道に関わっている人からすれば、西住という名前は相当知られているみたいだし。そのことを改めて実感する。

 でも、まほは特に気を悪くした様子もなく。淡々と言葉を返す。

 

「少しワケありでな。黒森峰から、一時的に大洗に転入している」

「今回、角谷がアンツィオに来たのは、新しく戦車道を始めるにあたっての視察だと聞いている。黒森峰、というか、西住流が絡んでいるのか?」

「いや、そんなことはない」

 

 まほは、少しだけ可笑しそうに笑った。

 今の自分やみほの状況を知っていれば、そりゃあね。

 

「どちらも絡んでいないさ。私が同行しているのは、次に立ち寄る聖グロとの仲介役としてだからな。私個人としては、アンツィオにお邪魔するのは半ば以上、観光だよ」

「そうか。……私も去年の全国大会決勝のことは知っている。まぁ、詳しくは聞かずにおこう」

 

 戦車道の名門校の隊長が、戦車道のない学校の生徒としてやって来たわけだから。ワケありですと言っているようなもの。いろいろ考えてしまうだろう。でも想像はしても、当人に突っ込まない心遣いは、いい人だなぁと思わせる。

 

「観光だというなら大いに楽しむといい。我らアンツィオは歓迎するぞ。もっとも、たった1日では味わい尽くせないだろうがな!」

 

 難しそうな顔から一転。思い切り手を広げ、気持ちのいいドヤ顔で母校を誇るアンチョビさん。ぶわさ、と、マントをひるがえすのも様になっている。カッコいいなオイ。

 

「じゃあ早速案内しよう。3人ともついてくるといい。あ、大瀬良、だったか。ウチは女子校だが、停泊中の今は男性の出入りもそれなり以上にある。変に緊張する必要はないぞ」

「ありがとうございます」

 

 ちょっとした気遣いが嬉しい。素直に礼を述べると、彼女はうんうんとうなずきながら親しみやすい笑みを浮かべる。なんというか、頼れる姉御みたいな感じでとても好感度が高い。

 アンチョビさんは先導するように、会長と並んで歩き出す。気安く会話をしている姿は、後ろから見ていてもとても仲が良さそうで、微笑ましい。でも基本的に、会長さんが弄り倒してるみたいだけど。

 ……そういえば。

 

「アンツィオ高校って、戦車道の世界ではどんなもんなの?」

 

 ちょっと気になったこと。

 まほに顔を寄せて、話しかける。

 

「正直なところ、名を馳せているというわけではないな。確か、彼女がスカウトされてアンツィオに入り、同好会レベルだった戦車道チームを立て直したと聞いた覚えがある。新興と言ってもいいかもしれない。それでも、去年の全国大会には出場していたはずだ」

「ということは、入学からたった1年で、大会に出られるくらいにしてみせたってこと? それってすごくない?」

「あぁ。私もすごいと思う。そのあたりは、今の大洗と重なるところがあるな。だから会長はアンツィオに話を聞こうと思ったのかもしれない」

「なるほどねぇ」

 

 もうね、「すげぇ」としか言いようがない。

 というか、戦車道に関わる女の子って、誰も彼もいろいろレベルが高すぎる気がするんだけど。みほしかり、まほしかり。

 

「どうした?」

 

 じっと見つめていたオレに、首をかしげるまほ。

 思わず苦笑しながら、何でもないとごまかす。

 こんなレベルの高い女の子たちがオレを好いてくれてるんだから。一体どうなってるんだろうね。

 男としては、そんな彼女たちにふさわしい奴でありたいと思う。見限られないように気負いながら、日々精進していくしかないんだけど。

 ハードル高いなぁ、と、また苦笑が漏れそうになる。

 今度はそれを、胸の内だけに留めてみせた。

 

 

 

 アンツィオ高校の戦車道について、アンチョビさんによる説明が始まった。

 まず、学校で所有している戦車の格納庫に案内される。戦力をさらすことになりかねないとのことで、全部を見せてもらったわけじゃない。でも初めて戦車を間近に見て、触れて、思わず興奮してしまった。一番の部外者なのに、一番盛り上がっているオレ。アンチョビさんはもちろん、まほと会長にも、微笑ましい感じの表情を向けられてしまった。

 大きいんだなぁと感心していると、驚きの事実が。見せてもらったものは戦車の中では小型で、むしろマメ戦車と呼ばれている部類だと聞かされて、驚愕。マジかよ。

 もっとでっかいのを、学生が乗って操ってるの? しかも何輌も?

 素で驚いた。

 そんなオレに、アンチョビさんはやたらと「小型戦車は弱くない」というアピールをしてきた。確かに高火力の大型戦車も欲しいが、金銭的にそうホイホイ導入できるわけじゃないんだとも。

 だんだんトーンが落ちてくる語り口に、あぁ、切実なんだなぁと察せられた。会長も、予算に関しては他人事じゃないせいか、難しそうな顔をしている。

 まほは、黒森峰での経験からいろいろと話を付け加えてくる。

 ことに、小型戦車の運用について。確かに小型で大型を撃破するのは難しいが、それも戦略次第だと。そもそも本当に小型戦車が役に立たないのなら、大会に出場できるまで立て直すことはできなかったろう、とも。

 それを聞いた途端、アンチョビさんが復活。むっちゃ明るい顔で、ありがとう、ありがとうと言いながら、まほの手をブンブン振り回していた。

 

「じゃあ次は、実際にチームを稼働させるまでの話だな」

 

 戦車の現物を見てから、戦車道チームに割り当てられているという部屋のひとつに通される。いろいろな書類や記録などの束を積み上げて、アンチョビさんは説明を始めた。

 時折ノートやら書類やらを広げて、会長の前に差し出す。さらにホワイトボードまで用意してあれこれ書きながら、解説を重ねていくアンチョビさん。会長もそのひとつひとつに目を向け、耳を傾けて、真面目に説明を受けている。

 まほも、アンチョビさんの話を真剣に聞いていた。別チームの所属がはっきりしている以上、さすがに書類などを見るのは、はばかられるんだろう。あくまで耳を傾けているだけだ。

 彼女いわく、すでに形が出来ている戦車道チームではなく、ほぼゼロから今の形にしていったアンチョビさんの話はとても興味深かったらしい。

 

「みほを連れてくるべきだった」

 

 後でそんなことを言っていたくらい。大洗の新生戦車道チームに関わるであろうことを考えると、自分よりもみほが聞いた方がためになる話だった、という。なるほど。

 でも正直なところ、オレは一事が万事ちんぷんかんぷんだった。

 とはいっても、彼女たちの熱量は分かる。アンチョビさんをはじめとして、戦車道というものに真剣に取り組んでいる、取り組もうとしているのは、とても強く伝わってきた。

 いいなぁ。

 オレにはまだ、そこまでのものがないことに改めて気づかされて。

 少しうらやましくなった。

 

 

 

 ―続く―

 




1時間後(20時)にもう1話、投稿します。




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20:ローマの休日/アンチョビ、まほ&杏

映画『ローマの休日』の展開に触れる描写が多々あり。
気になる人はまず映画を観ることをお薦めします。



 およそ3時間ほど経って。アンチョビ先生による、戦車道のチーム運営講義が終わった。

 むちゃくちゃ密度が高くて、細かいところはオレなんかにはさっぱり。でも聞いてるうちに内容がうっすら分かってくるところもあって、門外漢なのに退屈はしなかった。アンチョビさん、何かを教えたり指導したりするの、上手すぎない?

 会長もいろいろためになったようで、満足げだ。

 

「私で分かる範囲なら相談に乗るからな。何か疑問点があったら連絡しろ」

「分かった。いや本当に助かったよ。ありがと、チョビ子」

「だからチョビ子って呼ぶな」

 

 講義を終えた先生と生徒、アンチョビさんと会長がそんなやり取りをしてる。

 丁寧な教え方だけじゃなく、アフターケアまで万全とか。アンチョビさんマジすげぇな。というか、これだけの人を中学時代から目をつけて、スカウトしてきたアンツィオ高校、やべぇ。

 

「よし、硬い話はここまでだ。気分転換も兼ねて食事をしながら、我がアンツィオ高校のいいところを紹介しようじゃないか」

 

 アンツィオの食事は美味いぞぉー。

 そう言って、オレたちに笑顔を向ける。邪気のない表情がとてもまぶしい。

 さぁ食事だと張り切りながら、オレたちを先導するアンチョビさん。講義をしていた建物を出て、大きな通りに面したオープンテラスのレストランへと案内された。大きなテーブル席をひとつ、オレたちで占領してしまう。

 メニューを渡されて、さぁ何を食べようかなと考える暇もなく。アンチョビさんのお薦めで注文がポンポン決まっていった。いやいや、メニューの意味ないじゃん。まぁ下手に悩むよりは現地の人のお薦めに従う、ってのも分かるけど。

 

「なんだ、食べられないものとかあるのか?」

「特に好き嫌いはありませんよ」

「それはいいことだ。まんべんなく美味しいものが食べられる。アンツィオの食事は何でも美味いぞ!」

「あ、でもイカスミのスパゲティは苦手かな。あの真っ黒なのが、どうにも」

「あぁ、なるほど。分からないでもない。だが美味いものに当たると蒙が開かれる思いをするぞ。その苦手意識、私が自ら取り除いてやりたいくらいだ」

 

 なんだこの、笑顔で勢い良くグイグイ来る感じ。でも嫌な気持ちにならないのはアンチョビさんの人徳なんだろうか。

 大洗組のメンバーを見てみると。

 会長は苦笑しきり。友人らしいから、こういう人だと分かっているんだろう。

 まほは、メニューを眺めながらも何も言わない。お任せコースの流れに乗ることにしたみたい。

 オレも文句が言いたいわけじゃないので。同じようにお任せにした。

 でだ。

 さほど待つこともなく料理が運ばれてくる。いろいろな種類のパスタにピザ、リゾットやTボーンステーキにサラダとか。これがまたどれも美味い。

 

「やべぇ。マジで美味い……」

「そうだろう、そうだろう」

 

 アンチョビさん、我がことのように喜んでドヤ顔を見せている。

 でも本当に美味しい。こんな腹ペコキャラじゃないのにってくらい夢中で食べてる。

 こんな店があったら通うよ? 大洗に店は出してないの?

 え、運営は学園艦なのか。

 ということはこのお店、学食扱いなの? マジで?

 

「なんで大洗にはアンツィオ高がないんだろう……」

「俊一、胃袋をつかまれ過ぎだぞ」

「まほちゃんもかなり虜になってるみたいだけど」

「美味しいものに罪はない」

「大瀬良くん、大洗に美味しいものがないみたいに言わないように。あるから。美味しいものいっぱいあるから。ただ方向性が違うだけだから」

 

 あ、それは確かにそうだ。

 ごめんなさい。

 素直に謝るオレ。

 大洗にも美味しいものはいっぱいあるし。鍋も美味いし。学食だって結構イケるもんね。

 とまぁ、そんな風に。

 主にオレが食事の美味しさに騒ぎ、アンチョビさんがそれを喜ぶ形で賑やかに食事が進む。

 会長は、騒がしいオレとアンチョビさんに時々突っ込みを入れながら笑っている。

 まほは、料理の皿を凝視しながら黙々と食べ進めていた。オレと目が合うと、彼女はクールな表情で親指を突き出してみせる。

 どうやらグッドだと言いたいらしい。口元にミートソースがついたままなのが、可愛いやら微笑ましいやら。貴女の方こそ、そんな腹ペコキャラじゃないでしょ。

 

「まほちゃん、口元。ソースついてる」

「む、そうか、あぁすまん。ありがとう」

 

 見かねてナプキンで彼女の口元を拭う。まほも大人しくそれに従った。

 それを見て、会長とアンチョビさんがまたニヤついている。

 どうしました。やってほしいの?

 

「いやいやいや、そういうわけじゃないぞ!」

「チョビ子、慌て過ぎ。いつものことだから。きっとこの2人にはいつものことだから」

 

 確かにいつものことだけど。会長、どうして分かったの?

 そう言ったら溜め息を吐かれた。なんでだ。

 とまぁ、そんな感じで。食事の時間が賑やかに過ぎる。

 食事が美味しいと、嬉しくて、楽しいよね。うん。

 

 

 

 さてさて。

 お腹が膨れたところで、本日第2のメインイベントに移る。

 

「よし。じゃあまずは、どこで何をするか決めようじゃないか」

 

 これを見ろ、と、アンチョビさんは大きな地図をテーブルに広げる。それはアンツィオ高校の全体地図だった。

 

「西住は観光目的と言っていただろう。どこか行ってみたい希望はあるのか?」

「行ってみたいというよりも、やってみたいことがあるんだ」

「やってみたいこと?」

「実はな」

 

 アンチョビさんの陽気な問いかけ。

 それに答えるまほは対照的に超クール。

 やり取りの温度差が正反対で面白い。

 なんてことを考えている間に、まほの説明が進む。

 彼女の本当の目的。

 すなわち、『ローマの休日』ごっこ。

 映画のシーンと同じ場所を巡って、オレと一緒に再現してみたいというもの。

 このためにアンツィオへ来たと、まほは堂々と口にしてはばからない。

 

「どうだろうか」

「おぉ……」

 

 それを聞いたアンチョビさんの反応。妙に食い気味になっていやしませんかね。すっごい目を輝かせてるよ。

 

「西住、それはいいな。実にいいじゃないか!」

「分かってくれるか。嬉しいぞ」

 

 互いに何か通じ合ったのか、手を取り合うアンチョビさんとまほ。

 性格というか、キャラクターは正反対なのに、同じ話題で盛り上がれる。アンチョビさんは、身振りも手振りも大きく。まほはそれに対して、静かにマイペースに、けれど饒舌に。

 

「なるほど。確かにそれは楽しそうだ。相手がいるならなおさらだな。うらやましいぞ。よし、映画に沿って名所めぐりをしよう。なんだったらベスパも貸してやろうじゃないか」

 

 『ローマの休日』といえば、ベスパでふたり乗りをしているシーンが印象的だ。

 さすがに大洗からスクーターを持ってくるのは無理だから、徒歩でアンツィオを練り歩くだけだと思い込んでいた。まさかベスパがあって、貸してもらえるとは思わなかった。

 でも。

 

「アンチョビさん、すいません」

 

 正直に言わねばなるまい。

 盛り上がっている乙女たちに冷や水を浴びせることになってしまうけれど。

 

「ふたり乗りはできません」

 

 以前、オレはスクーターで盛大に転んだことがある。スクーターは半壊。幸いケガはなく、打ち身程度で済んだ。それでも身体の痛みは相当なものだった。

 そのせいもあって、後ろに人を乗せて走るのがひどく怖い。もし転んでケガをさせて、あの痛みを乗せた相手に負わせてしまったらと思うといたたまれなくなる。それが恋人ならなおさらだ。

 

「そういうわけだから。まほちゃん、オレはふたり乗りはできない。楽しそうなのは分かるけど、それよりも、ケガをさせるかもっていう怖さの方が強い。悪いけど、絶対にだめ」

 

 一時の楽しさよりも、長く一緒にいられるような平穏を取りたい。

 気分を害したかな、と思ったんだけれど。

 

「……分かった。それなら仕方ない」

 

 思いの外あっさりと、まほは受け入れてくれた。

 自分で断っておいてなんだけど、いいの?

 

「私のことを大切だと思ってくれてのことだろう? なら喜びこそすれ、気を悪くするいわれはない」

 

 ありがとう、俊一。

 きゅっ、と、まほが抱き着いてきた。会長とアンチョビさんが見ていても構うことなく。

 案の定というか、2人はニヤつきながらオレとまほを見ている。

 そっちがそのつもりなら、こちらも開き直るか。

 オレの方からも抱きしめ返して、せいぜい見せつけてやろう。

 

「おい、角谷。すっごい堂々とイチャつきだしたぞ。なんだこれ」

「あー。大瀬良くんとその彼女たちは、割と所構わずイチャつくんだよ。でもまぁ、人前では最低限の節度は保ってるから」

「はー、すごいな。って、おい。彼女、たち?」

「そう。大瀬良くん、3人の女の子とつき合ってるから。彼女たち公認で」

「はぁ?」

「西住さんと、その妹さん。あとウチの生徒会の副会長。小山とのイチャつきぶりしか知らなかったけど、西住さんを見る限りでは、3人揃ってべったべたなんだろうなぁ」

「……妹っていうと、あの、去年の戦車道大会決勝のか?」

「あ、知ってるんだ」

「角谷と違って、私は戦車道が本職だぞ。何があったかは知ってるし、何かあったんだろうということは想像できる」

「ま、わたしも詳しくは知らないけど。聞く限りでは、決勝戦以降、その妹さんが元気を取り戻したのは彼のおかげらしいよ」

「そうなのか……」

 

 会長とアンチョビさんが何か話をしてる。まほを愛でるのに夢中になって、そっちの方に気を向けてなかった。

 気がつくと、アンチョビさんがニヤニヤしながらオレを見ている。

 

「西住、なかなかいい男をつかまえたじゃないか」

「うむ。分かってくれるか」

「できないことを、きちんとできないと言える奴は信用できる。できないのにできると言って、後々大惨事にしてしまう奴もいるからな。戦車道に限らず、集団行動でそういうのはとても困る。まぁ、できないと言うばかりの奴は問題外だが」

 

 なるほど、確かに。

 人の上に立つ役割にあると、いろいろなことを考えてるんだなぁと感心しきり。自分が持ち上げられるのは、正直こそばゆいものがあるけれど。

 

「見栄を張っても、後で困るのは自分ですから。どうせなら、少しは勝ち目のあるところでで見栄を張りますよ。それから勝率を上げるためにはどうすればいいか考えます」

「くくく。私は好きだぞ、そういう考え方」

 

 笑いながらそんな返しをしてくるアンチョビさん。思わぬ好感をいただきました。

 つられてか、会長も一緒に笑っている。もっともこの人の場合は、合わせてオレを弄ってくるのも忘れないけど。

 

「これで女性関係がだらしなくなければ完璧なんだけどねぇ」

「あぁ、その話も聞いた。まぁ、なんだ。当人たちが納得してるなら、いいんじゃないか? 私はどうこう言うつもりはない」

「チョビ子、顔が赤くなってるよ?」

「なってない! というかチョビ子と呼ぶな!」

 

 そう言ってもらえるとありがたい。

 普通に考えれば三股かけてるダメ男だからね。内心はどうあれ、嫌われることなく接してもらえるのは嬉しい。こんな接していて気持ちいい姉御肌な人に嫌われるとか、想像するだけで落ち込んでしまいそうだ。感謝を込めて、アンチョビさんを拝んでおこう。

 さて、話を元に戻すと。

 とりあえず、ベスパのふたり乗りはなしということになって。

 アンツィオ巡りは徒歩ということになった。

 

「私も『ローマの休日』は観ている。映画に出てきた場所をなぞろうとするなら、ここアンツィオ高校でほぼすべてを網羅することが可能だ」

「マジかよ」

「それはすごいな」

「さすが、ローマよりローマ、と言われているだけあるね」

 

 アンチョビさんいわく、スパーニャ広場、トレヴィの泉、パンテオンにコロッセオ、真実の口まであるんだとか。ポンペイの巨大宮殿もあって、その石柱は本物なんだという。アンツィオ半端ねぇ。

 

「ただ、祈りの壁はない。というか、ローマでも場所は確定されていなかった気がするぞ」

「そうなんですか?」

「私の記憶違いかもしれないがな。少なくともアンツィオにはない。残念ながらな。あ、あと言っておくが飛び込む川もないぞ」

「そりゃまぁ、学園艦の上だからねぇ」

「追手が来たら逃げられないな」

「さすがに艦の上から海に飛び込むのは勘弁してもらいたい」

「西住さん、某国のエージェントに追われる覚えはないよね?」

「手を取られながらの逃走劇には魅かれるがな」

「分かる。分かるぞ西住」

「分かってくれるか、アンチョビ」

「まほちゃん、アンチョビさんも、勘弁してよ」

「愛されてるねぇ、大瀬良くん」

 

 女性3人に男が1人。映画をすでに観ているという前提で話が進み、ネタのひとつひとつに笑い合う。いいね、こういう会話。楽しい。

 そんな雑談を経て。アンチョビさんの案内による「『ローマの休日』ツアー in アンツィオ」が行われることになった。

 

 

 

「それにしても、本当に街並みがローマっぽいよね。行ったことはないけど」

「これだけ雰囲気作りが徹底してると感心するな」

 

 まずは一番近い場所にあるトレヴィの泉へ向かう。両脇に並ぶ店や建物を眺めながら、気持ち良く歩道を歩いていく。

 お店もいろいろあるけれど、いわゆるチェーン店っぽいのは見掛けない。個人経営のような、雰囲気のいい店構えが軒を連ねている。

 

「雰囲気を重視しようとすると、チェーン店なんかが店を構えるのは難しいんですかね」

「いや、そんなことはないぞ。確かにアンツィオは観光地としての一面もあるが、私たちはこの学園艦の上で生活しているんだ。服や食料品や日用品、日常的に使うようなものを扱うスーパーなんかももちろんある。コンビニやファーストフードだってあるぞ」

「まぁ、そうだよね。イタリア製とひと口に言っても、全部が全部ブランド品ってわけじゃないだろうし」

「確かにその通りなんだが。角谷、何だか引っ掛かる言い方だぞ」

「別に他意はないよ?」

「あってたまるか」

「まぁまぁ、アンチョビさんも会長もエキサイトしないで」

 

 じゃれ合いの延長だと分かっていながらついつい仲裁してしまったり。そんなやり取りに混ざるのも結構楽しい。

 と、思ったら。まほちゃんが足を止めて、お店のひとつを覗き込んでいる。

 

「まほちゃん、何か気になるものでもあった?」

「……靴だ」

 

 彼女が見ているショーウインドウの中に目を向けると。なるほど、靴がディスプレイされている。善し悪しは分からないけれど、オシャレな感じにいろいろな靴が並んでいる。

 ふと、まほの足元に目を向けた。

 これはもしかして、映画みたいに靴を変える展開に?

 

「まほちゃん、靴を変えたいの?」

「気持ちとしてはやってみたいが、さすがにそこまでの余裕はないぞ」

 

 しばし悩んでいたかと思ったら。

 まほが、オレの方に顔を向けて口を開く。

 

「新聞記者さん、お金を貸してもらえないだろうか」

「いやいや。そのシーンではまだ記者だって分かってないでしょ」

 

 まさかここまで真似しようとするとは思わなかった。

 彼女のおねだりに応えたい気持ちはあるけれど、さすがに靴を買えるほどの金をポンとは出せない。あの記者は借金はあっても働いていたんだから。懐具合が違い過ぎる。

 

「でも、まぁ」

 

 ショーウインドウの奥を眺めながら、少し悩む。

 靴は無理でも、他のものなら。

 

「おいで、まほちゃん」

 

 まほの手を取って、ふたりしてその靴屋さんへと入る。

 意外な行動だと思われたのか、まほが少し驚いた顔をした。

 お店の一角に、アクセサリーの置かれたスペースがあった。足につける、アンクレットというやつ。靴屋なのに、いや、靴屋だからと言った方がいいのか。こういったものも一緒に置かれているのが洒落ている。

 店員さんに許しを得てから、アンクレットを手に取る。ミサンガのように編まれたハンドメイドっぽいタイプで、アクセントとしてビーズと、ハートのチャームが組まれている。割りと可愛いんではあるまいか。

 

「さすがに靴は無理だからさ。代わりに新しくこういうのをつけて、気持ちだけでもそのつもりになってみるってのはどうだろう」

 

 これくらいなら今のオレでも買ってあげられる。恋人へのプレゼント、ってやつだ。

 ……あれ、まほが本当に驚いてる。

 

「いいのか?」

「こういうものを贈ったりするのはなかったしね。いい機会でしょ。もちろん、まほちゃんの好みに合わないっていうなら話は別だけど」

 

 オレの言葉に、まほは顔を赤くしながら首を振る。同時に、彼女の表情が緩んで、嬉しそうになる。可愛い。

 

「それなら、これを」

 

 まほは、黒をベースにしたアンクレットを手に取った。

 黒森峰にいたせいか、まほには確かに黒のイメージがある。それでいいのかと聞けば、あまり派手な色に手を出す勇気が湧かないんだとか。

 

「戦車道ばかりで、こういった身を飾るようなものとは無縁だったからな。どうすればいいのか、正直なところ分からない」

「オレだってそんなセンスはないよ。もし興味があるなら、これから経験値を積んでいけばいいんじゃない?」

「なるほど。確かにそうだ」

「ただでさえ元がいいのに、まほちゃんがオシャレにも目覚めていくのか。たまらないなぁ」

「……俊一。そういう、恥ずかしいことをストレートに言われると」

 

 からかわれていると思ったのか、まほは少し咎めるような、拗ねたような、そんな表情をする。でも、こちらに向けている彼女の顔は真っ赤っかだ。

 からかっているつもりはないんだけどね。でもこういうことは、恥ずかしがらずに伝えていく方がいいと思うんだ。

 

「まほちゃんは、こういうこと言われるのはイヤ?」

「その聞き方は卑怯だろう……」

 

 まほが小さな声で、「嫌じゃない」とつぶやく。オレの耳はそれを聞き逃さなかった。ご要望に応えて、これからも積極的に「可愛い」「可愛い」と口にしていこうと思う。

 さて。

 まほが選んだものと、みほと柚子へのおみやげ用に色違いを手にしてお買い上げ。彼女はこの場で身につけていくと言い、店員さんに許可をもらって、靴の試し履きに使う腰掛けに座る。

 

「俊一。私の足につけてくれないか」

 

 短いスカートから伸びる、スラリとした足をオレへと向けた。

 まほのその仕草に、かなり、くらっときた。

 店員さんにアンクレットのつけ方を教えてもらう。その間、微笑ましそうな笑顔を向けられっ放しだった。すっごく、ニッコニコ。まぁいいけども。

 まほの足元にかがんで、左足の足首に触れる。幸い、と言おうか、今日の彼女はくるぶしが出るタイプのソックスを履いている。教わった通りに、アンクレットをつけた。

 うん。イイ感じ。

 目線を上げる。

 まほの足首からふくらはぎ、膝、太ももへと続く、足のラインを視線でなぞる。

 それから、彼女の顔へと目が移ると。

 ものすごく嬉しそうに、まほは微笑んでいた。

 

「男性からの贈り物なんて、初めてだ」

「それは光栄だね」

「自分でも驚くくらい、女としての喜びを感じている。すごく、嬉しい」

 

 ありがとう、俊一。

 まほは、とても綺麗な笑顔で、そう言ってくれた。

 

 

 

 ―続く―




まほさんを優遇し過ぎなのではなかろうか。
槇村です。御機嫌如何。


仕事が立て込んでいたのもあって、やや間が空きました。
しかも『ローマの休日』ごっこの入口までしか行けなかったという。
アンツィオ&聖グロ視察編、長くなりそうだ……。
大洗に戻ってからも、みほと柚子のイチャイチャも入れたいし。
新学期が始まる原作前に、あの娘とあの娘とあの娘とあの娘を出すつもりなのに。
我ながらどれだけ長編になるんだか。

長丁場を駆けるために、
評価とか感想をもらえると活力になります。
書いてもらえると小躍りして喜びます。
ツッコミも大歓迎です。




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21:トレヴィの泉にて/アンチョビ、まほ&杏

 買ったアンクレットを手にしたオレと、腕に抱きついて笑みを浮かべているまほ。連れ立って靴屋を出ると、ニヤついているアンチョビさんと、何かにあてられたかのようにゲンナリしてる会長に出迎えられた。

 

「一部始終を見させてもらった。恋人からの贈り物。いいな、西住。うらやましいぞ」

 

 アンチョビさんがからかうような口調で、でも気持ちいい笑顔でサムズアップしてくる。まほも、それに応えるように親指を立てた。

 本当にノリが良くなったよね。出会ったばかりの頃とは大違いだ。

 

「お待たせしてすいません」

「いやいや。アンツィオ巡りをするのは西住さんの希望だったわけだし。ただ初っ端からこう、甘々なのを見せられると、ほら。こう、ね」

 

 会長が、うまく言えない感覚をむにゃむにゃと口にする。

 今回に限ったことじゃないんだけど、こちらに見せつけるつもりがなくても、周囲はそうでもないらしい。少し気をつけようと思う。自重はしないけどな。

 

「あ、会長。はいこれ」

「ん?」

「アンチョビさんもどうぞ」

「これ、もしかして今買ったやつか?」

 

 みほと柚子のおみやげ用とは別に、会長とアンチョビにもアンクレットを買っておいた。

 包装されたものをそれぞれ渡す。ふたりとも驚いた顔をしてる。

 

「アンクレットって素足につけるものらしいんで、今の会長とアンチョビさんはソックスを履いてるから合わせられないと思いますけど。ちょっといじってブレスレットにするとか、キーホルダー代わりに使ってもよさそうだなと思って。よろしければご笑納ください、みたいな感じで」

 

 まほだけに買って、同行している先輩方は置いてけぼり、っていうのも何となく気分が悪かったから。オレは連れてきてもらっている立場だからね。

 会長には杏という名前から、安直だけど赤みの入ったアプリコットカラーのものを。

 アンチョビさんは、何となく浮かんだイメージでエメラルドグリーンのものを選んだ。

 ちなみにオレも色違いの同じものを買ってる。少し改造してキーホルダーにしようと思ってる。

 受け取った包装を覗き込んでから、会長とアンチョビさんが互いに顔を合わせた。

 え、何ですかその反応。

 

「やばい。ちょっと嬉しいとか思ってる自分がいる」

「おい角谷。もしかして私は、彼に気に入られてしまったのか?」

 

 まいったな、みたいな表情で顔を手で覆う会長と。

 なんだか焦った様子を見せているアンチョビさん。

 いや、そんな深いことを考えて買ったわけじゃないんだけども。お世話になる感謝を少しだけ形にしたっていうだけだから。

 

「罪作りな奴だな、俊一は」

「え、いやいやいや。ないでしょそんなこと。ないない」

「ふふ。どうだかな」

 

 まほが何を言っているのかは、想像できる。

 できるけど。

 でもさすがにそれはないでしょ。うん。

 特にアンチョビさんは今日初めて会ったばかりじゃない。

 そもそも、この状況でどうしてまほが楽しそうにしているのか。

 

「実際、楽しいからな」

「まほちゃん的にはいいの? ないと思うけど、まだ増えるっていうのは」

「私をないがしろにしないなら、構わないぞ。そもそも私自身、みほとの仲に後から入り込んだ身だ。どうこう言えるわけがないだろう」

「ないがしろになんてしないよ。そんな恐れ多い。オレは独占欲が強いから、まほちゃんも、みほちゃんも柚子さんも絶対誰にも渡さない。それ以前に、これ以上増えても責任取れないよ」

「おぉ。ちゃんと取ってくれるのか」

「そりゃあもちろん。3人揃って何とかする。するつもりでいる。そのためにあれこれ模索中」

 

 これはマジで。

 何を言われても、恋人として3人とも手放すつもりはない。彼女たちに見限られないように気を張ってるし、将来彼女たちを養っていくためにはどうするべきかを本気で考えてる。後々のことも考慮して、今さらながらエッチなことも控えようと思っているくらいだ。

 

「エッチ禁止はだめだ。愛されてる実感が薄くなる。絶対にだめだぞ」

「いやでもさ」

「とにかくだめだ。むしろ私は毎日可愛がってほしいくらいだぞ」

「おぉう……」

 

 女の子の方から毎日抱けと言われるのは、正直嬉しい。下半身がムラムラしてくる。

 むちゃくちゃ嬉しいんだけどさ。どうなのそれ。

 

「お前らな、仮にも生徒会長の前で不純異性交遊の話をするのはやめてくれ。反応に困る。というか西住さん、さりげなく経験の有無をカミングアウトするのやめて」

 

 さすが生徒会長の角谷杏。確実に突っ込んでくる。いやまぁ確かに、まほの今のセリフはツッコミどころしかないけど。会長がツッコミながらも顔を真っ赤にしているのも仕方ないと思う。

 

「あの黒森峰の西住が、恋人がいるだけじゃなくてあんなことやこんなことを……」

「チョビ子が壊れちゃったよ」

「もしかして私まで、いやそんな」

「止まれチョビ子、それ以上は危険危険!」

 

 一方でアンチョビさんは何やら妄想に走り出した。会長が必死に止めようとして、身体をつかんでがっくんがっくん揺さぶる。

 なんだか愉快な展開になってきた。オレの笑いは引きつってると思うけど。

 

「もうこの話はやめよう。やめやめ。次に行こう、次!」

 

 微妙な流れになってきた雰囲気を、会長が無理やり、わめきながらリセットする。

 でもまぁオレとしては、まほのあんな言葉が聞けたのは嬉しい。正直、興奮した。

 会長やアンチョビさんまでそれに当てられた感はあるけど。

 いやでも、口説こうとか堕とそうとか、そういうつもりはなかったよオレ。

 

「だから、たちが悪いんだ」

 

 ナチュラルに口説くなと叱られてしまった。

 

 

 

 とにかく。会長の言う通りに話題をぶった切って。

 オレたちは当初の目的地、トレヴィの泉にやって来た。

 学園艦が帰港していて人の出入りが多いのもあるんだろう。泉の周辺には、アンツィオ高校の女の子ばかりじゃなく、観光客らしい人たちもかなりいた。本家ローマでも、この泉は名スポットらしいしね。

 

「トレヴィの泉って、後ろ向きでコインを投げ入れると願いが叶う、ってやつですよね」

「そうだな。アンツィオにあるのはもちろん、ローマの現物を模したものだ。でも観光客にはなかなか人気だぞ」

 

 本家のトレヴィの泉に準じているなら、後ろ向きで泉に向かってコインを投げる。

 1枚の場合はまたローマに来れる。ここだとまたアンツィオに来れるってことになるのか。

 2枚の場合は、大切な人と永遠に一緒にいられる。

 3枚だと、恋人や妻や夫などと別れることができるらしい。

 

「というか、映画にトレヴィの泉って出てきたっけ?」

「周辺は出てきたと思いますよ。単にコインを投げるシーンがなかっただけで。……なかったよね?」

「確か、散髪するシーンあたりだったか。あれは地味に驚いたぞ。仮にも王女が、抜け出した先で長い髪をばっさり切ってしまうとか。思い切りがいいにも程があるだろ」

「でもオレ、最初のロングな王女よりも、髪を切った後の方がいいと思う」

「それは分かる」

「悔しいくらい、可愛いよなぁ。女からみてもあれはすっごく可愛かった。映画がカラーじゃないのがまた、美貌を引き立ててるというか」

 

 オレと会長とアンチョビさんで、オードリー談義に花が咲く。

 ……あれ?

 

「まほちゃん?」

 

 話にまほが入ってこないことに気がついて。

 周囲を見回すと、またどこかのお店にフラフラと引き寄せられている。

 っておい、美容室じゃねぇか。

 

「まほちゃん、待って待って。これ以上短くしてどうするの」

「俊一は、オードリーみたいなショートが好きなんだろう? それなら」

「いやいや、十分似合ってるよ。今のまほちゃん、すっごい可愛いから」

 

 衝動的に散髪しようとする彼女を止める。気持ちは嬉しいし、耳を出すくらいのショート姿も見てみたい気もするけれど、今のまほの髪形もすごく似合っている。勢いだけで切ってしまうのはちょっと惜しい。

 

「それに、理容師にナンパされたら気分が悪いから。やめとこうよ」

 

 まほの頭を撫でながら、似合っているボブカットっぽい髪に指を差し入れる。梳くように手を動かすと、まほは気持ち良さそうな顔をした。

 

「確かにそうだな。ダンスパーティにでも誘われたら困ってしまう」

「それより、泉で一緒にコインを投げよう。ふたり揃ってやれば効果も2倍だぞ、きっと」

「ふふ。みほと柚子の分もちゃんと投げないとな」

「それはもちろん。想いを込めて投げるとも」

「力み過ぎて外すんじゃないぞ。外したら泣くからな」

「あれ、なんだか急に緊張してきた」

 

 というわけで。

 まほを美容院から引きはがすことに成功して、会長とアンチョビさんのところに戻る。

 

「なんというか、大瀬良ってすごく女慣れしてるんだな」

「そりゃあ、三股かけて全員に認めさせてるくらいだから。マメさは一級品でしょ」

「ちょっとおふたりさん。人聞きの悪いこと言わないで」

 

 そんな言葉を返してくるお姉さん方2人。

 アンチョビさんは呆れたように、でも少し顔を赤くして。

 会長は、何か達観したような感じで、でもやっぱり少し顔を赤くしながら。

 ……さっきのやり取りに顔を赤くされるような要素あった?

 

「チョビ子、これがバカップルだ」

「あー。確かに、こんなのが朝からずっと横にいたら辛いな」

 

 あ、まほの頭を抱きながら撫で続けてた。

 確かにこれはバカップル扱いされても仕方ないかもしれない。

 

「私は明日の聖グロ行きと、さらに大洗への帰り道でも、このふたりの横にいなきゃいけないんだぞ。チョビ子も一緒に行かない? 歓迎するよ、主に私が」

「行けるわけないだろ。もういっそのこと角谷もくっつけばいいじゃないか。自分もバカップルの仲間になれば、少なくとも辛くはなくなるぞ」

「やめて。ちょっとだけそれでもいいかなとか思っちゃったから。他人の色恋沙汰に口出しはしないけど、私は普通がいいんだよ」

「お前が、普通の恋愛ねぇ……」

「何が言いたいのさ」

「べっつにぃ。大瀬良の前ではお前、かなり素だからな。そんな角谷は見たことないと思っただけだ」

「チョビ子こそ。今日会ったばかりなのに、ずいぶん大瀬良くんのこと気に入ったみたいじゃん? あぁ、チョビ子の方が気に入られたんだっけ」

 

 会長とアンチョビさん、当人の目の前で変な会話しないで。

 もしかして逆に聞かせようとしてるんだろうか。

 

「ふたりとも、せめて聞こえないように気を回してくれないかな」

 

 あ、もっと顔が赤くなった。ふざけて聞かせようとしていたわけじゃないらしい。

 やっちまった、というか不覚を取ったみたいな表情。ふたり揃って「ぐぬぬ」みたいな顔をしているのに、羞恥で赤くなっているのがとてもいい。ぶっちゃけ、すっごく可愛い。

 

「そんな顔を赤くして睨みつけても、可愛いだけですよ?」

「なぁ、大瀬良くん。なんでこんなに女たらしなんだ。キミには小山がいるだろ。甘い言葉は小山に向けときなよ。なんでわたしにまでそんなセリフが出てくるのさ」

「アンチョビ、ドゥーチェと呼ばれる私が、こんな……。これが恋愛小説に良くあるトキメキというやつなのか」

 

 お姉さん方、大混乱の模様。

 いやなんというか、ふたりの反応が本当に可愛くて、つい。

 

「いや待てチョビ子。落ち着け。オードリーを褒めてたってことは、大瀬良くんの好みはショートヘア。つまりわたしたちは好みから外れるということだ」

「おぉ、なるほど!」

 

 なんだか、自分の頭を抱えながら威嚇してくる会長とアンチョビさん。長い髪の自分たちは、オレの悪しき毒牙(?)から逃れられると言い合っている。ひどい言い草だ。

 

「でもさ。大瀬良くんの好みはショートヘアだってことなんじゃないの? 西住さんも、まぁショートだしさ」

「え、なんだかオレの好みの話になってる?」

 

 会長が、からかい交じりの言葉を向けてくる。何かの意趣返しなのか、それともいつものペースを取り戻そうとしてるのか。オレを弄る気満々だ。

 

「映画の中のオードリーいいよね、ショートカット似合ってるよね、っていう話だったじゃないですか。オレの好み云々で言うなら、どんな髪型でも似合ってればいいじゃん、としか言いようがないし」

「当たり障りのない、日和った答えだねぇ」

「どうしてそう攻撃的な言い方に。というか、ショートじゃなきゃ嫌とか、ポニテじゃなきゃ嫌とか、そんなんで女の子の好き嫌いを決めてたら相手に失礼じゃないですか」

「あ、そうか。小山はポニーテールだもんね。そうか、守備範囲広いなぁ」

「なんですか、守備範囲って」

「なんなら、私もポニーテールにしてみてあげようか?」

「ちょっと見てみたい気もするけど、そのニヤついた顔が気に食わない」

 

 いい加減にしろ、と言わんばかりに実力行使に出る。

 会長の頭を両手でつかんで、ぎりぎりと締め上げた。

 

「うあー。キズモノにされるー」

「ふはは、己の口の悪さを悔やむがいいわー」

 

 まぁ、締め上げるといっても、マッサージよりも少し強いかなくらいの力加減。互いにふざけ合ってるのは分かってるので、会長の非難の声もどこか棒読みだ。

 ノリで頭をつかんでみたけれど、思ったよりも会長が拒否反応を見せなくて驚いた。さっきまでお褒めの言葉を向けていたせいか。もしくは、これまで重ねてきたコミュニケーションのおかげかな。桃ちゃん先輩を一緒に弄るくらいしかしてない気もするけど。

 

「そういえば」

 

 つかんでいた会長の頭を解放して。

 会長とアンチョビさんを交互に見る。

 

「会長もアンチョビさんも、形は違うけどツインテールなんですね」

「言われてみれば、そうだね」

「気にしたこともなかったけどな」

「……うん。会長もアンチョビさんも、似合ってますよ」

 

 うん。オレは好き。

 思ったことをただ口にしただけなんだけど。

 

「くぅ。汚い。不意打ち過ぎる」

「……あー、なんだ。お世辞に決まってると思っていても、ほんのり嬉しいぞ」

 

 ふたり揃って、胸を抑えるオーバーアクション。

 口説くとかそういうつもりもない誉め言葉。

 でも、どうやらストレート過ぎたらしい。

 

「気分を悪くしたならすいません」

「いや、別に、そういうわけじゃないんだが」

「うん、まぁ、嫌というわけじゃ」

「次からはもっと回りくどく褒めることにします」

「そういう問題じゃないだろ」

 

 アンチョビさんの鋭いツッコミ。世界が取れるぞ。なんの世界かは分からないけど。

 

「大瀬良くんはこれで、口説いてるつもりはないんだぞ。むしろその分、悪質だ」

「おい角谷。私は女子校暮らしだから知らないだけで、もしかして世間には彼みたいな男子でいっぱいなのか?」

「落ち着けチョビ子。そんなわけあるか」

「そうだよな。大瀬良が妙に女慣れしてるだけだよな」

 

 素直に会長とアンチョビさんを持ち上げただけなのに。えらい言われようだった。

 そんなオレの横に立って、楽しそうに肩を叩いてくるまほ。

 なに、その「全部分かってるぞ」みたいな優しい笑顔は。

 

 

 

 告白したけど答えを保留にされたクラスメイト同士みたいな、微妙な空気を醸し出しながらしばらく歩いて。目的地のトレヴィの泉(アンツィオ版)に到着する。

 着くや否や、これまでの空気がすっかり吹き飛んだ。

 

「いくぞ、俊一」

「よしきた」

 

 まほとオレはそれぞれ500円玉を2枚取り出して、後ろ向きに放り投げる。

 無事着水を確認し、喜びを露にして抱き合った。

 さらに、大洗にいるみほと柚子を想いながら再度、500円玉2枚投げを試みて、これも成功。

 ガッツポーズをしてみせて、まほから拍手とお褒めの言葉をいただいた。

 このやり取りに、会長はもちろんアンチョビさんまで呆れて半笑い。

 

「500円玉2枚って、勇気があるな」

「それを2回やるんだから、相当だね」

「何と言おうか、とりあえず大瀬良が恋人さんたちを本気で想っているのは伝わってきた」

「やっていることは結構おバカなんだけどねぇ」

「恋人のためならピエロにもなるか。そういうのもなかなかいいな」

「チョビ子、恋愛小説っぽいねその言い回し」

「恋愛小説が好きで何が悪い!」

「いや悪くはないけどさ」

 

 オレたちをネタにしてまた何か言っているお姉さん方ふたり。もっとも、こちらはこちらでテンションが上がっているので、オレとまほは気に掛けていなかった。

 

「おい、お前たち。盛り上がるのはいいが、めちゃくちゃ注目されてるぞ」

 

 アンチョビさんに声を掛けられるまで、むっちゃふたりの世界に入ってた。

 頭の中で「My Heart Will Go On」が流れていたもの。

 

「すいません。周りに迷惑かけちゃったかな」

「そこまではいってないから安心しろ。コイン2枚投げで盛り上がる奴が珍しいだけだ」

「え、そうなんですか?」

 

 彼女いわく。アンツィオ高校にあるトレヴィの泉では1枚投げの人が圧倒的だという。

 なんでもアンツィオ高校は、中学生の進学したい高校ランキングで1位なるような学校らしい。アンツィオ高校入学を目指す中学生がやってきて、「春になったらまた来るぞ」と願いを込めてコインを投げるんだとか。

 観光客にも開放しているのでカップルが来ることももちろんある。けれど女子校ということもあって、恋の成就を願ってコイン投げをする人は少ないらしい。

 

「出会いの場が多いというわけでもないしな。それ以前に、ウチは仲間内で盛り上がるだとか、派手なものを好む生徒が多いから。どちらかというと地味なトレヴィの泉は、生徒の間では今ひとつ……」

「女子校だからそういうのがもてはやされるかと思えば、女子校だからこそそういう話題で盛り上がれないということか」

「色気より食い気なところもあるしな……」

「確かに、露店の多さは半端ないですね」

「新学期前の人の出入りが多い時期だから、何割か増しで出店してるぞ」

「たくましいなぁ」

「でも、皆楽しそうだな」

 

 確かに。すれ違う人たちが誰も彼も笑顔なのが印象的だ。時折アンチョビさんを見掛けて声を掛けてくる人たちも、みんな明るく楽しそうにしている。雰囲気はこの上なく開放的だ。

 それにしても。

 

「アンチョビさんが歩いてるだけで方々から声が掛かるけど。アンチョビさんって有名人なの?」

「自分で言うのもなんだが、アンツィオ高校の中では顔が広いと思うぞ。戦車道は周囲の認知と理解が大切だと考えている。入学した時からチームのために各所へあれこれと働きかけていたから、自然と、な」

 

 すごいな。

 自然にとか言ってるけど、誰からも広く好かれるような人には普通、そうそうなれないと思う。アンチョビさんの人となりとか、そういうのがあって受け入れられてるんじゃなかろうか。率先して人を引っ張るような姉御肌なところとかが、アンツィオ高校の人たちを引きつけているのかもしれない。

 

「おいおい大瀬良。そんなにおだてても何も出ないぞ」

「今日会ったばかりですけど、アンチョビさんを嫌うような人はそういないと思うけどなぁ」

 

 そんなオレの言葉に、アンチョビさんは笑いながら謙遜してみせる。でも結構、嬉しそうだ。

 オレ、割りと本気で言ってるんだけどね。

 

「ベクトルは違うけど、会長も似たようなところありますよね」

「私?」

「周囲に気を配りながら、率先して人を引っ張っていこうとするところとか」

 

 同じリーダーシップを取る人でも、タイプは異なるけどね。

 アンチョビさんは、他の人にも分かるような明るく大きなアクションで引っ張る。

 対して会長は、人の見えないところで万全の準備をしつつ、結果で人を引きつける。

 みたいな。

 ……あれ。会長もアンチョビさんも、手で顔を覆って悶えてる。耳まで真っ赤。

 どうやらまた誉め言葉が、ふたりの胸をえぐってしまったようだ。

 

「どうして私はこんな羞恥責めを。誰かあいつの恥ずかしいセリフを止めてくれ!」

「と言うか西住さん、うんうんとかうなずいてないで彼氏を止めてよ!」

「なぜだ。止めるような内容じゃないだろう?」

 

 会長とアンチョビさんが、オレのセリフに頭を抱えながら吼える。

 さらにふたりは、まほにまで突っかかってきた。

 すごい迫力だけれど、まほは涼しい顔をしてまったく意に介さない。いつでも変わらないその動じなさは感心してしまう。なのに、みほやオレの前では、それが少し緩むのがまた可愛らしい。

 でも正直なところ、その煽るような物言いはいかがなものか。

 

「別にいいじゃないか。この際、溺れるくらいに褒められて、なだめられて見るといい。全部委ねてしまって甘えるのは、思いの外気持ちいいぞ?」

 

 なぁ?

 なんて具合にオレの方を見る、まほ。

 いやいや、同意を求められても困る。確かに甘やかす接し方は、まほ、みほ、柚子の3人には好評だけど。恋仲でもない女の人にそういうのを勧めるのはどうなの。

 まほに釣られて、会長とアンチョビさんが、オレに目を向ける。

 すぐ横にいることを失念していたのか。あるいは、まほの言うオレの褒め倒しを想像したのか。

 

「あ……」

「あぅ……」

 

 目を合わせたまま、顔を真っ赤にさせるふたり。

 可愛い。

 ちょっと、まほ。してやったりみたいな顔をしないでくれ。

 『ローマの休日』ツアーを始めて何度目かの、いたたまれなくも甘酸っぱい感じの微妙な空気がオレたちを包み込む。

 遠くでこちらを見ながらキャーキャー言ってるアンツィオ生徒には、気づかないふりをした。

 

 

 

 ―続く―




主人公、たちが悪いな(お前が言うな)
槇村です。御機嫌如何。


はい、『ローマの休日』ツアーが終わりませんでした。
本当は今回、スパーニャ広場とコロッセオと真実の口まで書こうとしてたんだけど。
トレヴィの泉しか書けなかった。
しかも気がつけば、ひたすら会長とドゥーチェを称えるような話に。
どうしてこうなった。

アンツィオ編、まだ続くよー。



※誤字の指摘、ありがとうございます。すっごい変な誤字してた……。




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22:スパーニャ広場にて/アンチョビ、まほ&杏

今回は三人称にてお話が進みます。
まほ&アンチョビ、隊長という立場から戦車道を想う?



 ゆだった頭を冷やすぞ、と言い出したアンチョビに連れられて。俊一たち『ローマの休日』ツアーの一行は、次の目的地でもある大きな広場へとやって来た。

 そこはローマのスパーニャ広場を模して造られたところ。

 目的は、映画と同じようにジェラートを食べることだ。

 

「映画の公開当時は知らないが、ローマのスパーニャ広場は今では飲食禁止になっているらしい。その点では、我がアンツィオ高校の方が本家より優れていると言っていいだろう」

 

 気を取り直したアンチョビが、母校の良さを猛アピールする。ローマには行ったことがない俊一たちでも、目の前に映画で見たような階段と建物が広がっているのはなかなか壮観だ。学生だけではなく観光客もたくさんで、広場全体が賑わっている。

 

「アンツィオは食事が美味い。ジェラートだってもちろん美味いぞ!」

 

 アンチョビはそう豪語しながら、広場に出ている露店をぐるりと見回す。目当ての店を見つけたのか、露店のひとつへと俊一たちを連れていく。大きめの手押し車にクーラーが詰まれている、ジェラートを扱う店だ。

 

「おぉ」

 

 露店とはいっても、品揃えはかなり豊かだ。フレーバーの種類が多く、色とりどりで目移りしてしまうほど。俊一は思わず声を漏らしてしまう。

 そんな一行に、店員らしき学生が声を掛けてくる。

 

「あれ、アンチョビじゃん。どうしたの?」

「他校の友人たちを案内しているんだ。美味しいのを頼むぞ」

「何言ってんの。ウチのジェラートに美味しくないのなんて、ないよ?」

「もちろん、分かってるとも」

 

 顔見知りらしい店員と軽口を叩きつつ、杏、まほ、俊一にジェラートを薦めるアンチョビ。

 それぞれ好みのものを選び、口にするや否や。

 

「あ、すっごく美味しい」

「ほう。これは」

「なんだこれ、濃厚なのにくどくないというか。超うめぇ」

 

 3人は揃って絶賛。

 店員は喜びの声を上げ、アンチョビも我がことのように笑顔を見せた。

 

「いいね。美味しいっていう素直な反応が嬉しいね」

「せっかくアンツィオに来ているんだからな。少しでも美味しいものを食べてもらいたいじゃないか。逆にどこのを食べさせるか、悩ましいくらいだぞ」

「なんだか気合入ってるね、アンチョビ」

 

 得意満面の顔をしているアンチョビに、店員がいぶかしむ。世話焼きで、明るくノリがいい性格は知っているが、なにやら普段より割増しで張り切っているように見えた。

 だがそれも、アンチョビが連れてきた顔ぶれを見て合点がいったようで。

 人の悪い、からかうような、さも楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「あぁ、なるほど。彼氏がわざわざ来てくれたのか」

「なっ、何を言ってるんだ!」

「それならアンチョビが張り切るのも無理ないよねぇ」

「違う、違うぞ、大瀬良は彼氏とかそういうんじゃ」

「ふぅん、大瀬良君っていうんだぁ。さすがドゥーチェと呼ばれるだけあって、なかなか隅に置けないっすねぇ」

「だから違うと言ってるだろ!そもそも大瀬良は一緒にいる、西住の彼氏だ!」

「あ、横恋慕? あたしはそういうの、否定しないよ。がんばんなアンチョビ。平気平気、アンタいい女だから、振り向かせることできるって」

「だーかーらーっ!」

 

 普段からつき合いのある気さくさからだろうか。顔を真っ赤にさせたアンチョビと、ニヤついた顔をしたジェラート屋の店員とで、そんなやり取りがあった。

 俊一たちはジェラートに夢中で、彼らの耳には届いていない。アンチョビにとっては幸いだったと言えるだろう。

 

「まったく、何を言い出すんだ……」

「アンチョビさん、どうかしました? なんだか顔、赤くなってますけど」

「なんでもない!」

「というか、なんでぐぬぬ顔なの?」

「なんだ、ぐぬぬ顔って」

「大瀬良くぅん。チョビ子はねぇー。さっきのジェラート屋の店員さんとぉー」

「聞いてたのか角谷! というかその語尾を伸ばす言い方はやめろ! うざいぞ!」

「えぇー。だってさぁー」

「確かにうざいぞ、会長」

「どうしたんですか本当に」

「なんでもないって言ってるだろー!」

 

 なんてやり取りをしながら。俊一たちは賑やかに広場の階段を上る。程よいところで、『ローマの休日』のオードリーよろしく座り込んだ。

 

「アンツィオ高校の食のレベルの高さはなんなの? ひょっとして調理師専門学校なの?」

「確かに、そう言われても納得しちゃいそうだね」

 

 誰に言うでもなく、美味しいものを口にした喜びからつい言葉が漏れてしまった俊一。杏も、彼の言葉に思わず同意してしまう。彼女も嬉しそうに、チョコのマーブル模様が入ったジェラートを美味しそうに舐めている。

 アンチョビはふたりの反応に満足しながら、手にしたラズベリー味のものを味わう。

 そんな中で、まほは静かにしている。シンプルなバニラ味を舐めながら、賑わうスパーニャ広場を静かに見つめていた。

 

「どうした、西住。今度は何が気になった?」

 

 彼女の隣に座りながら、アンチョビが話し掛ける。

 つい先ほどまで、映画『ローマの休日』の内容に沿うように靴屋や美容室に引き寄せられていたのだ。ここでも映画と同じようにジェラートを食べている。何か反応を示すかと思ったのだが。

 

「広場でジェラートを食べながら、アン王女はどんな気持ちでいたんだろうな」

「映画の話か?」

「そうだ」

 

 返ってきたのは、変わらぬクールな声。先ほどまではそれでもどこか明るい声音だったが、今の彼女は真面目な雰囲気を醸し出している。

 

「初めて映画を観た時、少し自分と重ねていたんだ」

「女だったら、恋愛ものに自分を重ねるのは普通のことじゃないか?」

 

 恋愛小説好きなアンチョビも、作品に没頭して自己投影することがある。恋人のいるまほなら、俊一を想定してあれこれ想像するくらいは当たり前のように思えた。実際、傍から見て一目瞭然なほどのバカップルぶりを見せているのだから。

 けれど。まほが思い巡らしていたことは、アンチョビが考えていたものとは少々違っていた。

 

「王女はここで、自分が帯びている役割について、思いを馳せていたんじゃないだろうか」

「役割?」

「そう。王女という、自分の役割についてだ」

 

 映画の中で、王女は自分が必要とされている世界から抜け出した。それは今の環境が嫌になって、窓の外にあるローマの人たちの賑やかさがうらやましくなったからだ。

 でも彼女は、ひと晩経ってきちんと帰ろうとしている。それは自分の立場と、自身の重要性を理解していたから。仕方がないから、返らざるを得なかったからだ。

 それでも、帰る道中で寄り道をしていたのはなぜか。それは今まで知らなかった世界を目の当たりにして、もう少しだけ、王女じゃない自分でいたいと思っていたからじゃないか。

 

「スパーニャ広場で記者と再会して、王女は自分が求めているものを肯定された」

「ジョーという相手がいて、その時だけは望んだ自分でいられた?」

「だと思う。多くの人が求めている王女の姿ではなく、自身のありたい姿を表に出して、初めてそれを許されたんだ。私はあの広場のシーンをそう捉えた」

 

 まほの話を聞きながら、アンチョビは頭の中で映画のシーンを思い浮かべる。

 なるほど、と彼女はうなずいた。

 

「一緒に過ごす時間が楽しければ楽しいほど、ラストが切なくなるな」

「彼女は自分から、王女という"あるべき姿"に戻っていったわけだからな」

 

 自立に目覚めていく女性を描いたラブストーリーとして、とても感動させられる。最後は自らの意思で王女という役割に戻った。だからこそ、無言で交わす視線と、言葉の裏側にある想いに、ときめかずにいられない。

 まほとアンチョビは手を取り合って共感を新たにした。

 それはさておき。

 

「去年の大会の決勝戦。何があったかは知っているか?」

「あぁ。私もその試合は観ていた」

「あの時の私は、黒森峰の隊長、西住流の後継という役割に囚われていたんだと思う」

 

 まほはジェラートを舐めながら、約半年前の自分を思い返すように、少し遠い目をする。

 あの全国大会決勝。黒森峰戦車道チームの副隊長である妹・みほが、川に落ちた戦車の仲間を助けるために、自らの戦車を離れた。フラッグ車である彼女の車輛はその間に撃破される。黒森峰は準優勝に終わり、10連覇の偉業を逃すことになった。

 今でこそ、まほは胸を張って「妹の行動は間違っていない」と言える。だが当時は、10連覇の懸かったチームの隊長という重責、西住流の後継者という肩書が、敗れる切っ掛けとなった妹をかばうことを躊躇させた。

 誰よりも傷ついているだろう妹を労わるのは、家族でもある自分の役目のはず。けれど、まほは家族としてではなく、戦車道チームの隊長として、妹に接してしまう。

 姉としての気持ちを持て余しているうちに、みほは、俊一と出会い、心の傷を癒していた。

 そしてまほも、彼と出会ったことで、自分がまず何を大切にすべきなのかに気づかされている。

 

「俊一がいなかったら、私は今でも素直になれずに、みほを苦しめていたと思う」

「隊長としてふさわしくあろう、期待に応えようと思っていたからこそ、か」

 

 その後は、みほのようなチームメイトが生まれないように、有事の際の対処法を含む、チームの意識改革を進めようとする。だがそれは、常勝を続けてきた黒森峰の「伝統」という価値観を突き崩すには至らなかった。

 

「これまでうまくいっていたことを、一度の失敗で改める必要はない。おそらくはそう考えたんだろう」

「まぁ、それも分からないでもないけどな」

「アンチョビは、アンツィオ高校のチームを立派に立て直して、新旧刷新に成功しているじゃないか。それに比べて私は、力が及ばず挫折して、チームからも流派からも扱いに困るような人間になってしまった」

「私と西住じゃあ、環境が違う。比べるのはどうなんだ?」

 

 いささか自虐を含んだ言葉に、アンチョビは待ったを掛ける。

 言っていることも言いたいことも分かるが、そもそも比べることがおかしいと。

 

「私は人のいない、同好会レベルだったチームを盛り立てただけだ。強豪チームを意識から変えようとしたお前とじゃあ、私なんて比べ物にならないぞ」

「……そうだろうか」

「そうだ。やろうとしていたことが全然違うぞ」

 

 アンチョビは力説し、意気消沈したようにも見えるまほを励ます。

 それからふたりは、戦車道チームの隊長として何をしてきたか、何を形にしようとしたかを言葉にし合う。

 方向性は違っても、責任ある立場に立つ人間として共通する思いはたくさんある。まほにとっても、アンチョビにとっても、互いに隊長という立場から考えていること、思うところを理解し合える会話はかなり有意義なものだった。

 

「私が大洗にいるのは、あくまで一時的なものだ。どんな扱いになるかは分からないが、いずれは黒森峰に戻ることになる」

 

 まほは、改めて言う。

 黒森峰を離れている自分を、『ローマの休日』の王女に重ねていたと。

 

「私も、俊一に会ったことで、黒森峰の隊長じゃない、役割から外れた自分自身を見つめることが出来た。今の私は、妹を大切に思い、好きになった男と一緒にいられることに喜びを感じている。こんな自分は、半年前には想像もできなかった」

 

 役割に囚われて、やりたいと思ったことが出来ずにいた。そんな時に、出会った男性が自分に素直になるきっかけをくれた。

 まほは、隊長という役割の外にあった「妹を擁護しなければ」という望みを叶えた。叶えた望みを抱えたまま、自分の役割に戻ろうとしたのだが。想像しない反発を受けることになってしまった。

 

「ひょっとすると、隊長という役割から外れた私は、黒森峰にはもう居場所がないのかもしれない。けれど、みほに手を差し伸べなければと思ったことは間違いじゃなかったと言える。それに」

 

 今の自分も、悪くないと思っているんだ。

 そう言って、まほは、はにかむように笑う。

 アンチョビには、お堅い印象のあった黒森峰の隊長が、とても可愛らしく見えた。

 

「役割、か」

 

 ジェラートを舐めながら、アンチョビはひとりごちる。

 チームは違えど、同じ隊長としての心がけや考え、悩みなどは彼女にも理解できる。だが、去年の全国大会決勝で何があったかを知っていても、名門・黒森峰の隊長がこんなに思い悩んでいたとは、想像もしていなかった。

 反面、果たして自分はどうだろうか。

 アンチョビは、隊長としてアンツィオ高校戦車道チームを率いてきた。これまでにやって来たことを頭の中で振り返ってみる。

 中学生の頃、戦車道での活動を認められてアンツィオ高校にスカウトされた。それから今まで、人も戦車も予算も少ない中を、どうにかチームとして動かせるようにと奮闘してきた。その甲斐あって、入学当時は片手で数える程度だったメンバーが少しずつ増え、活動の頻度も上がり、2年生になった時には20人を超える数に。チームとして作戦行動を取れるほどに練度を上げてみせ、大会に出ることもできた。

 総じて、やりがいもあったし、楽しかったと言える。

 けれど、辛いことや苦しいことがなかったわけじゃない。

 入学当時のアンツィオ高校は、戦車道の経験者がほぼ皆無だった。そのため、チームの運営に、人材の育成に、対外への折衝に、予算の配分にと、必要なやるべきことのほとんどをアンチョビがこなしていた。その苦労たるや半端なものじゃない。

 彼女自身、基本的に楽観主義な性格だ。ノリと勢いを大切にするために、ネガティブな面は深刻に捉え過ぎないところがある。

 だからこそと言おうか。一度ネガティブな方向にはまってしまうと、それに沈んでしまうことがあった。

 そうなると、戦車道チームを動かす隊長という立場や役割上、誰かに頼ることもできない。どうにか自力で、気持ちや気分が盛り上がるようにしたものだった。

 とにかくアンチョビは、誰かに頼ることもあまり出来ず、できることとは何でも自分自身でこなそうとしてきた。

 

「そういう意味じゃ、私も隊長という役割に囚われているのかもなぁ」

 

 まほの話を聞き、彼女は自分自身に当てはめてみると、そう思えてしまう。

 4月からアンチョビは3年生、最上級生になる。言うまでもなく、現役最後の年だ。程よいところで、後輩へすべてを引き継がなければならない。

 果たして後輩たちは、戦車道を続けていってくれるだろうか。

 自分のやって来たことが、戦車道の楽しさが、伝わっているだろうか。

 アンチョビは不安になる。

 それよりも前に、新しい1年生たちがどれだけ戦車道に興味を持ってくれるか、という悩みもある。チームに新人が入ってこないことには、想いを引き継ぐも何もなくなってしまうのだから。

 新学期早々、アンチョビには隊長としてやるべきこと、考えるべきことが山盛りだった。そのために少々、精神的な疲れも感じていた。友人である杏の来訪はいい息抜きになって助かった、と思うくらいに。

 事実、久しぶりに会った友人との会話は息抜きになった。戦車道を始めるという初心者にあれこれ教えることで、自身でもその楽しさを再確認することもできた。

 その上、黒森峰の隊長と友人になるというサプライズもあった。小説と映画という違いはあれど、ラブロマンスを好むという意外な共通点が知れたのも、アンチョビにしてみれば喜ばしい。

 そして。まったく畑違いの人物、しかも異性から、これまで自分がやって来たことを褒められ、肯定されるという稀有な体験をした。

 アンチョビは、異性との交遊経験が意外と少ない。

 中学時代は戦車道に没頭していて、自然と周囲は女子ばかりになっていた。

 そこから進学した先は女子校で、同年代の異性などもちろんいない。家族や肉親を別にすれば、それこそ年単位で、異性と接する機会がなかったことになる。

 いくらか境遇の似た、新しい友人に目を向けると。

 

「ほら、俊一。シンプルなバニラでも美味しいぞ」

「ん。やっぱり基本がしっかりしているからこそ、他の味でも美味しさが引き立つのかな。じゃあはい、おすそ分け。ストロベリーの酸っぱ過ぎないけど、濃い味がすごくいいよ」

「これもいいな。果肉の感触が、アイスに絡んで……」

「あの値段でやっていけるのかな。もう少し高くてもいいような気がする」

「確かに、お得感はとても高いな」

「これだけお店があるんだから、ひとつくらい大洗に出店してくれないかなぁ……」

「俊一、それはちょっとピントが外れているんじゃないか?」

 

 恋人と、互いのジェラートを食べさせ合っている。

 いわゆる「あーん」というやつだ。

 杏はその横で我関せずを貫いている。少し辟易しているように見えるのはご愛嬌といったところか。アンチョビは自然と、笑みがこぼれてきた。

 視線を外して、彼女は自問してみる。

 自分も、王女のように役割から解放されたいと思っているんだろうか。

 正直なところ、分からない。

 アンツィオ高校の戦車道チームを再興させるために、彼女はあれこれ奔走してきた。辛いことや苦しいこともあったが、総じて「楽しかった」という感情で占められている。隊長という役割の外にある楽しみ、というのは、それこそ恋愛小説を読むことくらいしかなかった。

 

「いや、恋愛小説がガス抜きになっていたのか?」

 

 ということは、自分でも知らないうちに恋愛や色恋への思いを募らせていたのかもしれない。

 背後でイチャついている、まほと俊一にまた目を向ける。お堅いイメージのある黒森峰というチームの隊長が、今、目の前で人目もはばからずにバカップルぶりを見せている。

 俊一と楽しそうにしている彼女に、アンチョビはうらやましいと思ってしまう。

 

「うらやましい?」

 

 自然と出てきた感情に、思わず驚いた。

 アンチョビにとって、俊一は久しぶりに出会った同年代の異性だった。

 最初は、友人の友人、という程度の認識。

 話しがしやすくて、ノリもいい。

 女性を持ち上げて、褒めることに照れがない。

 かといって、女性に追従してヘラヘラしているというわけでもなさそうだ。

 口説き落とそうというような、がっつく気配も見られない。

 第一印象は悪くない。むしろいいくらいだ。

 友人である杏が言う通り、難点は複数の恋人がいることくらいか。

 それも当人たちは気にせず受け入れているというのだからすごい。

 ならば、部外者がどうこう言うこともないだろう。

 当人が納得しているなら、まぁそれもいいんじゃないかと思う。

 むしろ、同じ男を好きになった者同士でつるむのも楽しそうだ。

 まほと、ひょっとすると杏も。

 恋人を挟んで交流が広がっていくわけだ。

 ロマンチックではないかもしれないが、それはそれで……。

 

「あれ?」

 

 アンチョビは、はたと気づく。

 なぜ自分が、俊一とくっつく前提で考えを巡らせているのかと。

 

「いやいや、どうしてそうなる」

 

 とんだ妄想だと切り捨てようとするアンチョビ。けれど顔は真っ赤になっている。

 ぶんぶんと頭を振って思考を追い出そうとするも、想像は離れていかない。大きくまとめられたツインテールがパシパシと顔を叩くだけ。けれど、今の彼女は内心で慌てふためき、それを気にする余裕もなくなっていた。

 一度頭に浮かんでしまった想像は止まらない。

 つい先ほどまで見ていた、まほと俊一のイチャイチャぶり。彼の相手がアンチョビに差し代わって、自分が俊一とイチャつく内容になって脳内で再生される。

 俊一と、ジェラートを「あーん」し合うアンチョビ。

 俊一に、優しくエスコートされるアンチョビ。

 俊一から、プレゼントを渡されて笑顔になるアンチョビ。

 俊一に、抱きしめられるアンチョビ。

 俊一に、耳元で想いを囁かれるアンチョビ。

 俊一に、頬を撫でられるアンチョビ。

 俊一に、正面から見つめられるアンチョビ。

 俊一に、至近距離まで顔を近づけられるアンチョビ。

 俊一の求めに、目をつむって応えようとするアンチョビ……。

 

「アンチョビさん、どうしたの?」

「うわぁっ!」

 

 息が掛かるほどの距離に、俊一の顔が。

 アンチョビは思わず声を上げる。

 一瞬、妄想と現実の区別がつかなくなってしまった。手にしていたジェラートを落としてしまうほど驚いて、跳び退るように立ち上がった。

 

「あ、アンチョビさん!」

「え?」

 

 勢いが突き過ぎて、腰掛けていた段差から足を踏み外してしまう。

 バランスを崩し、階段から落ちそうになるアンチョビ。

 身体の中身が浮くような感覚に襲われて、落ちる、と目をつむったが。

 

「……あれ?」

 

 彼女の身体はその場に留まった。

 アンチョビの腰に、意外とたくましい男の腕が回されて。

 ジェラートを落としてしまった手は、思いの外大きい男の手に包まれる。

 階段の下へと落ちかけたアンチョビを、間一髪、俊一が手を伸ばして支えていた。

 

「よかった。間に合った」

「お、おお、大瀬良!」

「あ、どこか打ったとか捻ったとか、あります?」

「いや。その、平気だぞ」

「それは良かった」

 

 安心したように、柔らかく笑みを浮かべる俊一。

 抱き合うような至近距離で、邪気のない笑顔を見てしまったアンチョビは。

 経験したことがないほどの、胸のときめきを感じていた。

 

「チョビ子、見たことがないくらい顔が真っ赤になってる」

「まぁ、無理もあるまい」

 

 すぐ側にいた杏とまほの声が聞こえないほどに。

 とはいえ無理もないだろう。恋愛小説など、ロマンチックなものを好むアンチョビが、まるで物語の中で見たようなシチュエーションに逢っているのだ。

 腰を抱き支えられ、手を取られて引き寄せられる。ラブロマンス映画くらいでしかお目に掛かれない、女性に迫るようなポーズ。まさか自分がそんなものを体験してしまうとは。アンチョビの乙女な心がこの上なく高まっていく。

 

「あの、な、大瀬良。その……」

「ん? ……あぁ、ごめんなさい。いきなり触っちゃって」

 

 どぎまぎしながら言葉を絞り出すアンチョビを見て、俊一は彼女が恥ずかしがっていると感じ。助けるためとはいえ、腰に手を回してしまったことを謝る。

 アンチョビの身体を少し引き寄せて、体勢を整えてから、彼は手を放した。

 

「あっ」

「すいませんでした。緊急事態ってことで、大目に見てもらえると……」

「いやっ、謝ることはないぞ。むしろもっと抱いていてくれても」

「え?」

「あ」

「アンチョビさん、本当に?」

「今のはなしだ! とにかくっ。ありがとう。助かった。うん、ありがとう」

「あー、うん。どういたしまして」

 

 真っ赤になりながら、すごい勢いで頭を下げて礼を言うアンチョビ。見るだけで照れ隠しと分かる彼女の態度に、俊一は「まさかなぁ」という思いに駆られる。

 自意識過剰ではなく、もし「そう」だというのなら。

 ものすごく嬉しい。

 アンチョビのような女の人に好かれるなんて光栄だ。

 でもまさか。

 いやこの反応はやっぱり。

 そんなことを考えているうちに、俊一の頭も少し茹だってきた。

 クールダウン、クールダウンだ。

 自分をそんな風に言い聞かせて、手にしたストロベリー味のジェラートに舌を這わせる。アンチョビの手を取った際にも、絶妙な指の回し方で落とさずに済んだ。奇跡と言っても過言ではないだろう。

 

「あ、でも。アンチョビさんのジェラート、落ちちゃいましたね」

「ん、あ、あぁ、まぁ、うん、仕方ないだろ。残念だが」

「じゃあ、オレが新しいの買ってきますよ」

「え。おいっ、大瀬良っ」

 

 俊一は、自分の食べていたジェラートをアンチョビに手渡して。そのまま広場の階段を降りていった。

 残されたアンチョビの手には、彼の食べ掛けのジェラート。戻ってくるまで持っていてくれ、ということなのだろう。どうしたものかと彼女はしばし戸惑う。

 そこに。

 

「アンチョビ。俊一が食べていたジェラート、口にしたらどうだ」

 

 まほの、小さな声。

 それは悪魔のような囁き。

 何を言われたのかが頭を通り。それが何を意味するかを理解して。

 アンチョビの顔がさらに赤くなっていく。

 

「そっ、それだと間接、キ、キッ」

「ジェラート、溶けるぞ?」

 

 まほの指摘と同時に、少し溶けたジェラートの雫が、アンチョビの手に垂れる。このまま放っておけば、彼女の手はベタベタになってしまう。

 

「もったいないだろう」

 

「た、確かにそうだが。でもなっ」

「じゃあ私がもらうぞ?」

「いや待て!」

 

 咄嗟に出てきた拒否の言葉。

 はっ、と。

 悔しそうな、恥ずかしそうな顔をするアンチョビ。

 まほは変わらず、マイペースでクールな表情。本気なのかからかっているのか判断しづらい。

 けれどその後ろにいる杏は、意地悪くニヤけている。からかうつもりなのが丸分かりだ。

 アンチョビはさらに羞恥を煽られる。

 

「このままじゃ、手が汚れてしまうからなっ」

「そうだな。仕方ないだろう」

「もったいないしな。うん、仕方ないなっ」

 

 もにゅもにゅと口を動かし。

 真っ赤な顔のまま、思いつめたような難しい顔をしてから。

 意を決して、アンチョビは、舌を伸ばす。

 ふるふると舌を震わせて、ストロベリー味のジェラートを舐めた。

 それはもう恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして。

 

「チョビ子ぉー。美味しいー?」

「仕方ない、仕方ないんだ!」

「いやぁー。私は美味しいかどうか、聞いただけなんだけどぉー?」

「角谷、お前……」

 

 ニヤつきながら、力いっぱい友人をからかう杏。

 弄られるアンチョビはものすごく悔しそうだ。

 けれど開き直ったのか。アンチョビは溶けかけたジェラートの表面をまんべんなく舐め始めた。おそらく彼が舐めたであろう場所をまんべんなく、舌先でこそぎ取っていく。

 

「チョビ子、大胆だねぇ」

「なんだ、会長も舐めたかったのか?」

 

 突然、まほの矛先が杏へと向けられた。

 まさか自分に振られるとは思っていなかったのか、杏は少し表情を引きつらせる。

 

「会長もまんざらではなさそうだからな。もし渡されたのが会長だったら……」

「いやいや、何言ってんの西住さん。妙な気を回さなくていいから」

「つまり自分でアタックするということか。なるほど。応援するぞ?」

「どうしてそういう話になるのさ。そもそも恋人の西住さんが応援するって」

「お待たせー」

「うわっ! びっくりした」

 

 アンチョビ、杏、まほの3人がやいのやいのしている間に、俊一が戻ってきた。手にはアンチョビが落としてしまったものと同じ、ラズベリー味のジェラートがある。

 

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」

 

 笑顔で差し出されたそれを受け取るアンチョビ。

 俊一が自分のためにこれを、と。

 彼女はまた違った方向から、胸の内をキュンキュンさせている。

 そして、修一は交換するように、あずけていたジェラートを受け取る。

 

「あっ」

「ん? どうかしましたか」

「いやいやいや。なんでもないぞ、うん」

 

 アンチョビの様子を少し怪訝に思いながらも。美味しそうにストロベリー味のジェラートを舐め上げた。

 もちろん、彼はそのジェラートを巡って何があったかは知らない。

 

「……っ!」

 

 この瞬間、アンチョビの羞恥がMAXにまで高まる。

 恥ずかしかったりなんだったりといろいろあったが。

 彼女は今日一番の恥ずかしさに襲われた。

 

「うぉぉ……。なんだ、この感覚は」

 

 ゾクゾクするものが、アンチョビの背筋を走る。

 それは彼女が経験したことのないもので。

 思わず身悶えてしまうほどに強烈だった。

 

「あの。本当に平気ですか?」

「平気だぞ! 気遣いはありがたいが気にするな!」

「はぁ。それならいいですけど」

「チョビ子ぉー。素直になりなよー」

「俊一、実はな」

「言うな西住ぃーっ!」

 

 生徒はもちろん、観光客もたくさんいる、アンツィオ高校のスパーニャ広場。

 そこに、アンチョビの焦りと羞恥にまみれた叫びがこだました。

 

 

 ―続く―




真面目とラブコメ、この格差よ。
槇村です。御機嫌如何。


「ジェラートで間接キス」の、アワアワするドゥーチェが書きたかっただけなのに。
なぜか1万字まで膨らんでしまった。
一人称だとそのシーンが書けないから、わざわざ三人称にした。
そのおかげで難儀したといっても過言ではない。

アンツィオ編、次で最後です。
最後になるはずです。(はず?)




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23:真実の口にて/アンチョビ、まほ&杏

主人公の一人称に戻ります。



 スパーニャ広場でアンチョビさんが恥ずかしさから絶叫。逃げ出すようにその場を離れたオレたち。観光客どころか同じアンツィオ高校の生徒たちからも注目を浴びて、アンチョビさんがものすごく取り乱していた。あちこちから名前も呼ばれてたし、有名人みたいだから、あっという間にその様子が広がっちゃうかも。友人らしきジェラート屋の店員さんが大笑いしてたのが、遠目からも見えた。

 

「まぁ、それだけ愛されてると思えば」

「大瀬良。自分が同じ状況で、奇声を上げたとか学校中に噂されても耐えられるのか?」

「……ごめんなさい。それはちょっと」

「チョビ子は元々有名人みたいだし、いいじゃん。武勇伝が増えたと思えば」

「有名税というやつか。異性関係ならなおさら盛り上がるだろう」

「なんだ武勇伝って。嬉しくもなんともないぞ。それと西住、そういうんじゃないから」

「違うのか? 私はてっきり俊一を」

「言うな。頼むから言うな」

「明日から話題になるぞ。あのアンチョビ先輩に恋人が、みたいな感じで」

「……角谷。お前は本当に、他人事だとイキイキするな」

「だって他人事だし」

 

 アンチョビさんと会長が仲良く言い合いをしながら。

 時折まほもそれに口を挟んで。

 最初はオレも混ざっていたけど、恋バナみたいな展開になってきてからは一歩引き。

 そんな緩くも楽しげな雰囲気で、オレたちは次の目的地へ向けて歩く。

 次に向かうのは、真実の口。

 というか、こんなものまであるアンツィオ高校すごいな。感心するやら呆れるやら。

 

「でもじっくり見ると、これって結構怖くない?」

「手首を切り落とされるとかいうくらいだからねぇ」

 

 丸くてでかい、コイン状の石の彫刻。立てかけられているそれの全経は、男のオレの身長よりもある。その中央に顔が彫られていて、目と鼻、口の部分に穴が開いている。

 正直、想像以上に大きかった。その上怖い。

 

「暗くなってからこれを見たら、泣くな」

「夜な夜な噛みついてくる、とかないよね?」

「あってたまるか」

「ないから。そんなホラー展開ないから」

 

 でも「本心じゃなかったら手を落とされる」とか、ホラーチックだよね。というよりも、寓話っぽいのかな。

 ともあれ。

 嘘を吐くと手を切り落とされてしまう。ということは。手が無事ならそれは心から思っている本当の事なのだ、という証明になる。

 

「だよね?」

「そういうことだな」

 

 まるで示し合わせたかのように、一歩踏み出すオレとまほ。

 オレはためらうことなく真実の口に手を突っ込んで。

 

「まほちゃん大好き。もちろん、みほちゃんも柚子さんも大好きだぞ」

 

 胸を張って、言ってのけた。

 照れ? そんなもんは恋人たちへの思いに比べれば気にするほどのことじゃない。

 ゆっくりと穴から手を引き抜く。当然、傷ひとつない。

 無傷の手を掲げてドヤ顔をするオレ。まほが称えるように拍手をする。

 

「私も行こう」

 

 まほも同じように、真実の口に手を差し入れて。

 オレへの愛を堂々と言葉にして、熱い視線を向けてきた。

 何事もなく手を引き抜く。もちろん、彼女の手は無事だ。

 

「まぁ当然だな」

 

 笑みを浮かべて、どこか誇らしげですらあるまほの姿に感動しきり。

 胸のうちが温かくなる感覚を覚えて。

 

「まほちゃん」

「俊一」

 

 オレたちは自然と抱き合った。

 

「……私は何を見せつけられているんだろう」

「なにこれ。コント?」

 

 アンチョビさんと会長が何か言っている。トレヴィの泉みたいに、オレたちのテンションについてこれなかったみたいだった。

 というか、さすがにコント呼ばわりは失礼じゃなかろうか。

 

「コントじゃなきゃ、寸劇? どちらにしても、ふたりともすごいなとしか言えない。感心しちゃうよ」

 

 会長は呆れ口調でそんなことを言う。

 恋人が喜んでくれるなら、これくらいは大したことじゃないでしょう。もちろん時と場合によるけどね。

 

「俊一。みほと柚子にさっきの写真を送っておいたぞ」

「いつの間に撮ってたの?」

 

 まほはどうやら、ついさっき真実の口に手を突っ込んだところをスマホのカメラで撮っていたみたい。愛を口にして手が無事だった云々の本文を添えて、みほと柚子にメールを送ったと言う。

 

「早いな。もうメールの返事が来たぞ」

 

 同時にオレのスマホにもメール着信が。

 みほと柚子から、それぞれ「私も大好き」というメールが届いた。

 照れるぜ。

 

「なんというか。幸せそうっていうよりも、楽しそうって言った方がいいかもな」

「青春ってやつだねー」

 

 楽しんでるっていうのは確かにその通り。滅多に来れないようなところで、なかなかできない経験をしているんだから楽しまなきゃ損だ。

 そういうわけで。改めて、真実の口をまじまじと観察する。

 

「こう言っちゃうと身も蓋もないけど。これって、レプリカですよね」

「そりゃあそうでしょ」

「さすがにローマから本物は持ってこれないだろうしな」

 

 オレの素朴な疑問。会長もまほも同意してくる。

 仮に、本心じゃないことを言うと本当に手が持っていかれるとして。公式にレプリカを作ったら、手を持っていくナニかも複製されるんだろうか。分霊みたいな感じで。

 

「イメージとしては、呪いのビデオをダビングするみたいな?」

「おい大瀬良。本当にそういうのがいたら怒るぞきっと、その例えは」

「俊一は本当にホラーものが好きだな」

「例えとしては分かるけどね」

 

 ひょっとしたら本当に手を切り落とされちゃうんじゃないか。そんなわけないと思っていても、不安になる気持ちはあるよね。敢えて口から出まかせを言って、手を突っ込む気にはならないし。

 

「わたしはあんまり、そういうのは信じない方かな。ゲン担ぎみたいなことも強いてしようとは思わないし」

「あー。分かる気がする」

 

 会長は確かに、現実主義というかなんというか、占いとか言い伝えみたいなものは気にしない印象がある。石の割れ目が手を食いちぎるわけないだろ、とか言うのが目に浮かぶ。むしろ他人をからかう道具にしそうだよね。

 

「それなら会長も、手を入れてみるか?」

「いいよー」

 

 まほの言葉にあっさりとうなずいて。

 会長は真実の口に手を突っ込んで見せる。

 行動が男前というか、無頓着と言おうか。

 夢も何もないな、という言い方もできそうだけど。

 

「そうだな……。じゃあ、俊一のことは好きか?」

「はぁ?」

 

 まほが、予想外のタマをぶっこんできた。

 さすがの会長も少し呆けている。

 というか、まほが少しにやけているように見えるのは気のせいか。

 

「そうだねー。嫌いではないよ。ウン、アイシテルヨシュンイチー」

「うわ、むっちゃ片言で言ってる」

「あはは」

 

 会長は笑いながら、真実の口から手を引っこ抜く。もちろん、傷なんて少しもついてない。そりゃそうだ。

 でも、本当の事を言ってるから何ともないんだ、と考えれば。つい顔がにやけてしまう。例え棒読みでも、ふざけた言い方でも、抵抗なく「好き」と言われるのはすごく嬉しい。

 

「じゃあ次はチョビ子だねー」

「はぁ?」

 

 話の流れからしてみれば確かにそうだけど。

 まぁ、アンチョビさんの反応は正しいと思う。

 どうして、嘘を吐くと手が抜けなくなるなんていわくのあるところで、男の好き嫌いを口にしないといけないのか。わけが分からないだろう。

 でも。今日会ったばかりだけど、アンチョビさんの言葉や態度の端々に好意っぽいものを感じてはいる。まほいわく、オレの対応の仕方というか、無意識でやっているらしい口説きが、彼女をその気にさせているらしい。

 明るくて楽しくて頼りになって、しかも性格まで可愛らしいお姉さん。そんな人に好意を向けられて嬉しくないはずがない。

 アンチョビさんに目を向ければ、ばっちりと目が合って。

 

「っっ!」

 

 たちまち顔を赤くしてしまう彼女。

 可愛い。

 

「おやおやぁ? チョビ子もまんざらじゃないみたいだねぇ」

「角谷ぃ……」

 

 聞いてみたい気持ちはある。アンチョビさんみたいな魅力的な人に好意を持たれているかどうか。出来るのなら確認してみたいに決まっている。

 でも、無理強いするのは違うだろう。しかも相手が目の前にいるんだ。内容がどうだったとしても気まずくなってしまう。

 

「アンチョビさん、別にやらなきゃいけないってわけじゃ……」

「いいや。ここまで言われたらこのアンチョビ、ドゥーチェの名がすたる。やってやろうじゃないか!」

 

 フォローに入ろうとしたら、当人に一蹴されてしまった。

 いやいや、そんな恥ずかしそうな顔で意気込まれても。どれだけ胸キュンさせるつもりなのかこの人は。

 とりあえず。煽るだけ煽ってニヤついている会長と、良く見ると少し口元を上げているまほにお仕置きをしておこう。

 ふたりの頭をがっしりとわしづかみにして。軽く力を込めて、握りしめる。

 うわー、やめろーとか、笑い半分の声を上げる会長。全然意に介していないのが丸分かりだ。

 まほは、むしろつかんだ手に自分の手を添えてきた。なにそれ。

 あー。馴れ馴れしいやり取りが、あまり経験のないスキンシップになってるとか。そういうのかもしれない。

 なんて風に。見方によってはイチャついてるように映る俺たちを、アンチョビさんはジト目で見つめてくる。真実の口に手を差し入れた姿と相まって、なかなかにシュールな感じ。

 

「お前たち。私にこんなことをやらせておいて、何をしてるんだ……」

「見ての通り、イチャついてるんだ」

「違うから。まほちゃん、違うから」

「平気だぞチョビ子。無事に手が引き抜ければ仲間に入れるから」

「だからそういうんじゃないって言ってるだろ!」

 

 アンチョビさんが吼える。恥ずかしさで顔を赤くしっ放しの彼女からは、迫力よりも可愛らしさしか感じられない。うん、眼福だな。

 というか、会長。さりげなく自分もイチャつく仲間に入れてたけどいいの?

 

「そもそも角谷、お前は」

 

 ある種の羞恥プレイに耐えられなくなったのか。アンチョビさんは手を引き抜こうとする。そして、まほと会長に突っかかろうとした。

 したのだが。

 

「え?」

「ん?」

「どうしたアンチョビ」

「チョビ子、まさか」

 

 真実の口に突っ込んだままの手を、アンチョビさんが凝視した。

 信じられないものを見たように。

 それからゆっくりと、オレたちの方に目を向けて。

 

「……手が、抜けないんだ」

 

 マジかよ。

 え、ふざけてるんじゃないの?

 羞恥で赤くなっていたアンチョビさんの顔が、焦りで青くなっていく。

 

「本当に効果あるんだねぇコレ」

「すごいな。ローマから分霊が来ているわけだな」

「いやいやいやいや。何言ってんの」

 

 何を「納得した」みたいな顔で冷静にしてるのふたりとも。

 真相がどうあれ、手が抜けなくなったのは大問題でしょ。

 慌ててアンチョビさんに近寄って、彼女の手を咥え込んだ穴を覗き込む。

 ……よく分からん。

 拳を握ってるから手が出てこないとか、そういうこと?

 アンチョビさんはもうパニック状態だ。無理やり引き抜こうとして、力を込めてグイグイ腕を引っ張り始める。

 

「いやいやいや待ってアンチョビさん。強引に引っ張ったら、手が傷ついちゃう」

「でもな大瀬良、本当に抜けないんだぞ! どうする、どうしたら!」

「あー。はいはい落ち着いて。クールクール」

 

 あわあわと大混乱のアンチョビさん。というか、もう半泣きになってる。申し訳ないけど、慌てふためく様子がむっちゃ可愛いと思ってしまった。

 

「俊一を好意的に見ていない、と言ってしまったからかもな」

「つまりチョビ子が本心を言わなかったから、真実の口が噛みついたわけだね」

「そういうことだろう」

「いやー、すごいなー」

「ふたりとも煽るのはやめて頼むから」

 

 まほと会長が覗き込んでくる。どうしてそんなに落ち着いていられるのか。

 しょせんは岩の切れ目でしかないんだから、落ち着けば抜けるはずなのに。まほと会長の言葉を聞いて、アンチョビさんがまた慌て出す。

 でも、手が抜けなくなった焦りとはちょっと違うような気がするんだが。

 

「アンチョビ。本当の気持ちを言えばきっと手は抜けるぞ」

「チョビ子。素直になりなよー」

 

 告白を強要するような真似をしないでくれ。嬉しいけど、嬉しくない。

 つまり「気になる異性として見ていない」というセリフが、真実の口に咎められたのだと言いたいんだろう。

 分かるよ。分かるけど。

 無理に好意を向けさせるみたいで、なんかイヤだ。

 3人とも落ち着け、と言おうとしたら。

 

「むがっ」

「俊一は、少し大人しくしていような」

 

 まほに背中から抱きつかれ、そのまま口を手でふさがれた。

 その横で、意地の悪そうな笑みを浮かべた会長が、アンチョビさんに囁く。

 

「チョビ子。本当に、そういうんじゃないの?」

「くっ……」

 

 さっきの、オレに対する好意だとかイチャつくだとか、それに対して言ったことについてだろう。アンチョビさんは、会長の問い掛けに言いあぐねている。

 ということはつまり、「そういう」ことなのだと。答えているようなものだった。

 オレにも分かってしまう。

 まいったな。

 胸がドキドキして、鼓動が速くなる。

 

「……今の自分にとって、一番近いところにいる男になっているぞ」

「つまり?」

「好きに、なりかけてる」

 

 小さな声で、つぶやくアンチョビさん。

 それはしっかり、オレの耳にも届いた。

 会長が、アンチョビさんの手を取ってそっと引っ張る。

 さっきまで騒いでいたのが嘘のように、あっさりと、真実の口から抜けた。

 アンチョビさんが、自分の手をさすりながらこちらを見つめてくる。恥ずかしそうに、同時にどこか悔しそうに。ふてくされるように見上げる彼女は、なんというか、とんでもなく可愛らしかった。

 でも、さ。

 

「まほちゃんも会長も、さすがにひどいでしょ今のは」

 

 とりあえずひと言言っておかないと。アンチョビさんに告白を強要するような真似はどうかと思う。しかも当人の前だぞ。逆の立場だったら恥ずかしくて死ぬかもしれない。

 これはお仕置きすべき事案だろう。

 改めて、ふたりの頭をがっしとつかむ。さっきよりも少し力をこめて。

 

「いやさ、どう見ても好意があるのは丸分かりだったからさ。いっそはっきりさせた方が大瀬良くんのためにも、チョビ子のためにもなる、ってイタタタタタ待ってギブ、ギブ!」

「好意を抱く相手と通じ合えないままでいるのは辛い。戦車道と同じく、落とせる時に確実に落としておいた方が……。む、俊一強いぞ、頭を握る手が強い、待て、ちょっと待ってくれ」

 

 いやもう本当に、何を言ってるんだこのふたりは。思わず呆れて、両手にすんごく力をこめてしまったよ。ギリギリと。

 正面から頭をわしづかみされて、悶える会長とまほ。少し反省しなさい。

 さて。

 お仕置きを実行してから、アンチョビさんと向き合う。

 びくりと、身を縮める彼女。

 ……ずっと見せていた明るさと元気さが、鳴りを潜めてしまっている。

 まいったな。

 身勝手かもしれないけど、そんな表情は見たくないなぁ。

 

「アンチョビさん」

 

 彼女の前に膝をついて、真実の口にかまれた手を取る。労わるように、優しく包み込んで、撫で、さする。

 

「今日初めて会ったばかりなのに、そこまで言ってもらえてすごく嬉しい。ありがとう」

 

 細い指、柔らかな手を慈しみながら、アンチョビさんの気持ちに感動していることを伝える。嬉しい。本当に嬉しい。

 でも。その気持ちに応えてしまっていいのか、とも思ってしまう。

 オレにはすでに恋人がいる。しかも3人も。

 世間的には、女の子を三股掛けている最低野郎なのだ。

 彼女たちと別れるつもりは微塵もない。女の子たちを弄ぶクズ野郎という誹りは甘んじて受け入れるし、彼女たちが「あんな奴に騙されて」などと言われないような男になろうとも思っている。

 

「アンチョビさんに好かれるのは、踊り出したくなるほど嬉しい。でもさ、端から見たら、クズ男の4番目の女、になっちゃうよ?」

 

 年頃の男はオレだけってわけじゃないし。オレよりもイケメンやイイ男なんてのはたくさんいるだろう。アンチョビさんみたいな女性だったら、いい男がより取り見取りでも不思議じゃない。

 オレ自身は他の女の子に目移りしてるのに、彼女には他の男に惹かれてほしくないっていう、馬鹿みたいな独占欲も持っている。もちろん、他の男に目移りされないように、オレの方が捨てられないように、常に精進していくけれど。

 好きになった女の子は全員抱きしめたい。

 そんな奴だからオレは。

 女の子から見たら、ロマンチックからは程遠い男だと思うよ?

 

「アンチョビさん、それでもいいの?」

 

 オレ、その気になったら手放さないからね。

 なんてことを言ったら。

 

「大瀬良。お前が私を気遣ってくれてるのは分かる。それこそ『ローマの休日』みたいに、離れた方が私のためだなんてことを考えてるだろう」

 

 当たりだ。

 オレの方の中では、とても複雑な感情が入り乱れてる。アンチョビさんをひとり占めしたいと思う一方で、オレなんかにはもったいない女性だとも思ってる。

 アンチョビさんは、さっきまでしぼんでいたのが嘘みたいに堂々と胸を張った。見くびるな、と言わんばかりに。

 

「角谷や西住に煽られた勢い、というのは否定しないが。お前に対する好意はきちんとある。むしろ自覚してみて、今の気持ちは悪くないと思っているぞ」

 

 これから先のことは分からない。

 だが今一番、一緒にいて心地いいと思える異性。

 それがオレだと。

 

「今日会ったばかりだし、他にも女がいても、その。す、好きと言うのも、やぶさかじゃないぞ」

 

 好き、というところで、自信満々だった態度が途端に可愛らしくなる。相変わらず顔を赤くして、少しもじつきながら。アンチョビさんはそう言ってくれた。

 ……覚悟を決めるか。

 オレは手を取って立ち上がり。彼女のおでこに、額をつけた。

 身長差から、オレの方が少し見下ろすような形になって。至近距離で見つめ合う。

 アンチョビさんは少し驚いた顔をするも、目線は外そうとしない。

 

「こんな女たらしを好きになってくれて、ありがとう」

「お前、自覚はあったのか」

「自覚はあるけど、意識はしてないから。ナチュラルに口説くなって言われる」

「実際に私を堕としに掛かってたろ。あれが無意識なんだから大したものだな」

 

 まぁそのおかげで、アンチョビさんという素敵な女性と仲良くなれたんだから。万々歳だよね。

 

「こいつはもう、本当に……」

 

 苦笑するアンチョビさん。呆れられてしまった。

 でも、彼女の表情は柔らかい。しょうがないなぁ、と、年上のお姉さんが世話を焼いてくれるような。そんな雰囲気を見せてくれる。

 うん。やっぱり魅力的だな。

 

「オレも、アンチョビさんのこと好きだわ」

「ふぁっ!」

 

 おでこ同士をくっつけた距離でいきなり告白。素っ頓狂な声を上げたアンチョビさんがすっごく可愛い。やべぇ。誰にも渡さないぞー、って力いっぱい抱きしめたいくらい。

 そうしたいのやまやまなんだが。その前にやっておかないといけないことが。

 4人目ができてしまいましたと、恋人たちに土下座しないと。

 まほと、みほと、柚子に、許しを乞わないといけない。

 

「だから、今はまだ『友達以上、恋人未満』でお願いします」

 

 すぐ恋人になれるよう努力するので。

 情けないというか、クズいことを言っているとは我ながら思うけど。オレなりに誠心誠意を込めて、より良い関係を保っていきたいという一念なので。なにとぞご容赦を。

 

「なんだろう。恋愛小説で感じたようなものじゃない、奇妙なむずがゆさが」

 

 言ってるセリフはなかなか最低なのにな。

 そんなことを言うアンチョビさん。いやもうまったく、おっしゃる通りで。

 

「分かった。やることを済ませて、さっさと奪いに来い。あんまり遅くなると拗ねるからな」

「はい。頑張ります」

 

 オレは再び、アンチョビさんの手を取って。

 真実の口にかまれたところに口づけをする。

 彼女は驚き。

 表情を緩めて。

 まぶしいくらいの笑顔を見せてくれた。

 

 

 

 そんなオレとアンチョビさんの後ろで。

 会長とまほが何やら話している。

 

「確かに煽りはしたけど。まさかこんな流れになるとは思わなかった」

「ようこそアンチョビ。私は歓迎するぞ」

 

 会長は、男女の恋仲が成り立つ瞬間を目の当たりにして驚きかつおののき。

 まほは、新しい友人が違った意味でも真の仲間となったことを純粋に喜んだ。

 

 

 ―続く―




ドゥーチェはしばし、プラトニックな遠距離ラブを強いられることに。
槇村です。御機嫌如何。


想像した以上に長くなってしまったアンツィオ編。
「エロが続いたので今度はイチャイチャをテコ入れしよう」
そう考えたはいいが、変に独自設定も入って長引いてしまう始末。
エロとイチャイチャを、バランスよく偏らないようにしないと。反省。
次話、ちょっと思いついた話が入ります。
その次で聖グロ入りです。

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引き続きよろしくお願いします。




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大洗学園視察団が行く!/聖グロ行き前夜
24:電話のむこう/アンチョビ&まほ


 アンチョビさんの可愛らしさに参ってしまって。拗れた独占欲を発揮させたオレ。

 告り告られ、想いを確認し合った後に。

 まずは。

 

「ないないと言いながら、結局手を出してしまいました」

 

 まほに、この場で土下座である。

 ハッキリ言ってド畜生。浮気者でごめんなさいと、ひたすら平身低頭しかない。

 けれど。まほはあっさりと許してくれた。

 彼女にしてみれば、何を今さらという感じらしい。

 

「アンチョビが、俊一に気を向けているのが分かったからな」

 

 好意が丸分かりだったと言われて、アンチョビさんも赤面する。まぁ確かに、当のオレでも察せられたくらいだったからね。

 

「私もちゃんと構ってくれるのなら、何人増えても構わないぞ」

「何人でもって」

 

 剛毅なことを言うまほ、オレの方が押されてしまいそう。すでに恋人4人とか公言している奴が何言ってるんだって話だけど。

 ないがしろにするつもりなんてこれっぽっちもないし、そんなことできるわけもない。全員全力で愛するつもり満々です。

 続けて、みほと柚子に事情説明。

 電話口で、またも土下座である。

 ちなみに。オレのスマホで柚子に、まほのでみほに連絡をつけて、スピーカーで同時通話ならぬ同時土下座をかましている。手をついて頭を下げるオレに代わって、通話中のスマホはまほに持ってもらっていた。絵面が超シュール。

 女の子が掲げているスマホに土下座している男、というシチュエーション。それを見つめるアンチョビさんと会長。

 どう見ても修羅場である。実際、修羅場みたいなものだけど。

 結果としては、みほと柚子にも許してもらった。

 というか。まほに限らず、みほも柚子も、さらに恋人が増えるだろうことは覚悟していたらしい。なんでや。

 いわく、優しくて気遣いが出来て女の子のことを尊重してくれる。

 いわく、側にいて欲しい時に抱きしめてもらえる安心感。

 いわく、それでいて押しの強い男っぽさもいいと思う。

 いわく、女の子が堕ちないわけがない。

 などなど。

 助けてくれ。

 電話越しとはいえ、べた褒めされる恥ずかしさに身体中がむずがゆくなってくる。土下座だったのが、いつのまにか頭を抱えてうずくまるような体勢になっていた。

 スピーカーにしていたことで、内容は全部丸分かり。もちろん、アンチョビさんにも会長にも聞かれている。なんという羞恥プレイ。いっそ殺してくれ。いや殺されるとみんなの責任を取れないので半殺しでお願いします。

 なんて風にオレが悶えている間に。

 アンチョビさんが直接、みほと柚子を相手に話を進めていた。

 今日会ったばかりなのにどうしてオレに惹かれたのかだとか。

 申し訳なさを伝えつつ、ノロケにも聞こえる話を勢いよく語っていく。

 さっきまで恥ずかしがっていたのはどこへ行ったんだとばかりに。

 まほのフォローも入って、なんだかいい感じに丸く収まってしまった。

 ……いいんだろうかこれで。

 ともあれ。

 

「こんなクズ男でごめんなさい。でもずっと大切にするから。オレの恋人になってください」

「まったく。勢いはいいが、最低の告白だな」

 

 お前だからな、許してやる。

 苦笑しきりなアンチョビさん。そんな彼女を、オレは優しく抱きしめる。

 彼女も、オレの背に腕を回して抱きしめ返してくれた。

 

 

 

 

 

 なんやかやといろいろあって。

 日が暮れてきた頃、オレたち大洗一行はアンツィオ高校の学園艦を降りていった。

 

「明日の朝は、学園艦を降りて見送りに行くからな!」

 

 アンチョビさんはぶんぶんと手を振りながら、明るい笑顔でオレたちを見送ってくれた。

 さて。

 今夜はここ清水港のホテルで一泊。

 明日の朝に次の目的地、聖グロリアーナ女学院へ向かうことになる。

 

「疲れた……」

 

 ホテルにチェックインして、部屋へと移動中。会長が絞り出すような声で疲れを訴える。

 

「戦車道云々よりも、後輩の色恋にあてられてこんなに疲れるとは思わなかった」

「それはまぁ、うん。すいません」

 

 素直に謝っておく。会長も、まさか他校の友人が自分の後輩とくっつくとは思わなかっただろうし。朝も、オレとまほがイチャついてるのを見せつけられて辛い、とか言ってたしな。

 

「しかも今、チョビ子からメールが来た。わたしは恋のキューピットだとさ」

 

 恋愛小説好きのロマンチストが、相手が出来たことで浮かれてるぞ。

 会長が、アンチョビさんについてそんな愚痴を漏らす。オレにも、アンチョビさんがドヤ顔で浮かれてる姿が目に浮かぶ。楽しそうで何より。可愛い。

 

「とりあえず。わたしと西住さんがふたり部屋で、大瀬良くんがひとり部屋のつもりだったんだけど。どうする? わたしがひとり部屋に行こうか?」

「いいのか?」

 

 好きにイチャついてくれ、とばかりに会長が言って。

 まほがすぐさま食いついた。

 本当にいいの? 生徒会長。

 

「防音はしっかりしてるみたいだから、好きなだけラブラブするといいさ」

 

 やや投げやりに、会長はそんなことを言って。ひとり部屋の鍵をひったくり。

 大浴場に行ってくると、ひとりでこの場から離れてしまった。

 残されたオレとまほ。手にはふたり部屋の鍵。

 

「せっかくだから、お言葉に甘える?」

「それは嬉しいんだが。少しアンチョビに申し訳ないな」

 

 ならこっちに呼んじゃおうぜ。とばかりに。

 部屋に入って早々。別れたばかりのアンチョビさんに連絡を入れてみる。

 ちなみに。オレは当然のこと、まほ、みほ、柚子とも、アンチョビさんは連絡先を交換済みだ。土下座コールの最中に終わらせてしまったらしい。横のつながりすごいな。

 電話がつながると、すぐにアンチョビさんの明るい声が聞こえた。なんだろう、顔がにやけてしまう。

 にやつきながらアンチョビさんを誘ってみたけれど。さすがに今から学園艦を降りる手続きは出来ないという。

 明日の朝に降りる許可はもうもらったんだが、と、残念そうに言うアンチョビさん。うわ、声がすごく残念そう。

 すでに申請済みのものを、明日の朝から今日の夜に変更って出来ないのかな。

 

『天才かお前は!』

「え、ちょっと」

 

 早速頼んでみる、と言うや否や。アンチョビさんの電話が切れる。

 約10分後。「変えられなかった」と、意気消沈した電話が掛かってきた。自分で言っといてなんだけど、そりゃあそうだよな。

 で、せっかくだからと。まほも交えてしばし会話になった。スピーカーにして電話のやり取りするの超便利だな。

 

「アンチョビ。恋仲になったばかりのお前に言うのは心苦しいんだが。俊一とイチャついてもいいだろうか。というか、せっかく同じ部屋に泊まるんだ。思い切りイチャつきたい」

『気遣いはありがたいんだが、許可を得るようなことじゃないだろう。っておい、同じ部屋ってなんだ。角谷はどうした』

「ふた部屋取って、本当はオレがひとり部屋だったんですけど。会長が気を利かせてくれて、オレとまほちゃんがふたり部屋ってことに」

『くっ、妬ましい。だがまぁ、それで私を誘ってくれたのは嬉しいんだが。いきなり男のいる部屋に呼び出すとかレベルが高すぎだろう。もう少し段階を踏んで恋人気分を味わわせろ』

「茨城と静岡に別れてしまうんだ。少しでも濃い時間を過ごして欲しいという、同じ男を愛する仲間の思いやりだぞ? 私も熊本と茨城で離れている間は辛かったからな」

『その気持ちはありがたいし、嬉しい。でもな、こう、少しずつ恋がステップアップするみたいな』

「ちなみに私は、想いを自覚して2日で俊一に抱かれたからな」

『早すぎだろ! 西住お前、黒森峰の頃のイメージが全然ないぞ!』

「アンチョビ。女はな、好きな男が出来ると変わるものなんだ」

『生々しいなオイ』

「実体験だからな」

『とにかく。誘ってくれたのは嬉しいが、許可が下りないから無理だ。残念だが、明日の朝に顔を合わせるのを楽しみにしておくよ』

「どんなふうにイチャついたかを明日、報告してやろう。あと俊一の写真も送ってやる」

『報告はいらん。あ、でも写真は欲しいぞ』

「分かった。写真は後でメールで送っておく」

『頼んだ』

 

 口を挟む隙間がなかった。これがガールズトークってやつか。というか、写真のやり取りってまだやってたんだ。アンチョビさんのためと言いながら、オレの知らないところでシャッターを押されまくるのが目に浮かぶ。

 そんな感じに、まほとアンチョビさんの電話が落ち着いたところでお開きに。

 

『大瀬良も、また明日な』

「はい。ちょっと早いですけど、おやすみなさい」

『……恋人のおやすみコールか。いいな。これはいいぞ』

「ははは。これくらいならいくらでも」

『というか、大瀬良。敬語はやめろ。もっと砕けた感じで構わないぞ?』

「そう、だね。うん、分かった。というか、オレのことも俊一でいいよ?」

『それはまだダメだ。照れくさい。さっき西住にも言ったが、もう少し段階を踏ませてくれ』

「アンチョビさんの中で、順に踏んでいくべき乙女の階段があるわけだね」

『そういうことだ』

「うん。乙女なアンチョビさん、可愛いよ」

『なっ。からかうなっ!』

「からかうつもりはないんだけどなぁ。本当にそう思うし」

『くぅ、こいつは本当に……』

「それじゃあ、また明日」

『うむ。また明日、な』

 

 顔を赤くしているだろうアンチョビさんを想像しつつ、電話を切った。

 同時に、まほが背中に抱きついてくる。大きなおっぱいの柔らかさが、肩あたりに広がって心地いい。

 

「よし。アンチョビの許可も得たことだし」

「……許可? まぁ、許可になるのか」

 

 これからイチャつくぞ、と宣言するまほ。

 なんというか本当に、自分に素直であろうとする態度は清々しいくらい。その上でちょっとしたズレというか、ヌケたところを見せるようになったのも可愛らしい。普段のクールなお姉さんぶりとのギャップに胸キュン必至だ。好き。

 そんな彼女が、甘えなるように言ってきた内容は。

 

「俊一。一緒にお風呂に入ろう」

 

 思ったより直球だった。

 

 

 

 ―続く―




かなり短めで失礼します。
槇村です。御機嫌如何。


前回の後書きで「ちょっと思いついたこと」とか言ってたけど。
うまく書けなかったのでやめました。(言わなきゃ分からないものを)

お風呂でイチャイチャまで書こうと思ったんだけど、
それだけで5000字を越えてしまいそうな気がして次回へ回した。
久しぶりにエロシーン突入。
ようやくエロ小説らしい展開になります。もう少々お待ちください。

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25:※ワンダフル入浴/まほ

少しエロいよー。



 観光客向けなのか、そこそこ立派なホテルのふたり部屋だ。備えつけの風呂場もそれなりの広さが取られている。少なくとも、ひとり暮らしのアパートにある風呂よりは断然広い。男女ふたりが一緒に入っても余裕があるくらいには。

 そんな風呂場で、お風呂用の椅子に座っているオレ。もちろん全裸だ。

 オレの後ろには、これまた全裸のまほが膝をついて座っている。ボディソープを泡立てたスポンジを手にして、嬉しそうにオレの背中を擦っていた。

 ハッキリ言おう。極楽だ。

 

「はぁ……。気持ちいい……」

「ふふ。一度やってみたかったんだ」

 

 顔は見えないけれど、まほの声を聞く限りでは楽しそうだ。

 もちろん、オレも嬉しい。恋人に背中を洗ってもらう。それがこんなにも嬉しく、ウキウキすることだとは思いもしなかった。

 大洗の学園艦で借りている部屋はひとり暮らしを想定している。風呂も明らかにひとり用。洗い場も浴槽も、ふたりで入るにはいささか狭い。

 一方、まほとみほが住む部屋は広めの2LDK。作りが家族用ということもあるのか、風呂場も少し広めになっている。女の子が使うなら十分に広く、男が入ってもゆったりめに湯船を堪能できる。でも一緒に入るにはもうちょっと余裕が欲しいなという感じだった。

 そんなわけで。何度となく肌を重ねているけれど、一緒にお風呂に入るのはこれが初めてだった。

 これいいな。とてもいい。

 大洗に戻ったら、時々はお風呂を一緒にしよう。まほだけじゃなく、みほと柚子さんともぜひ、お風呂をご一緒したい。

 とりあえず、今はまほに身体を洗ってもらうのを堪能する。

 これがまた気持ちいい。

 肩から肩甲骨。

 背骨の周辺。

 腰回りまで。

 背中全体を上から下へと擦られる。

 泡にまみれたまほの手で撫でられるたびに、余計な何かがこそぎ落とされていくような気持ちになる。ボディウォッシュ用のスポンジ越しでも、まほの手の感触が伝わってくるのが心地よい。

 気持ち良くて、全身の力が抜けて、リラックスしてくる。

 まほの柔らかい身体が密着してむにゅむにゅ、とか、風呂に入る前はちょっといやらしい意味で盛り上がっていたのは否定しない。でもそういうのではなくて、本当の意味で気持ち良く、心地良くなってきた。はふぅ。

 

「ほら、少し腕を上げてくれ」

「ん」

 

 言われるままに上げると、まほは続けて腕を泡まみれにしていく。

 二の腕。

 肘。

 前腕。

 手のひらに手の甲。

 指の間までしっかりと洗ってくれる。

 至れり尽くせりで、たまらなく気持ちいい。まさか指の内側で反応してしまうとは思わなかった。自分でもびっくりだ。

 両腕を泡まみれにされて。まほの手は続けて脇の下に伸びていく。

 敏感、というか、くすぐったくなって。つい身体が動く。身じろぎしてしまう。

 

「こら、動くな。うまく洗えないだろう」

「まほちゃん、そこはくすぐったいよ」

「少しは、我慢しろ」

 

 脇の下から、横腹へと。泡まみれのスポンジが上下する。

 いや待って。それ本当にくすぐったい。

 

「だから動くな俊一。じっとしてろ」

「いやいや無理無理。くすぐったくて耐えられないって」

 

 こそばゆさに我慢できず、身体をひねって逃げようとするオレ。

 追いかけるまほの手。

 オレも彼女も半分笑いながらのやり取り。まるきり、裸でじゃれ合っている恋人同士だ。まぁ実際そうなんだけど。

 

「次は下だな。座ったままでいいぞ」

 

 しばらくじゃれ合った後。

 まほは正面に回って、オレの足の間に座り込んだ。

 泡だらけのスポンジを太ももに当てて、足全体を洗い始める。

 太ももの内側、外側。

 膝からふくらはぎ、その裏側まで。彼女はしっかりと綺麗にしてくれる。

 足首と足の甲も泡まみれに。

 足の指の間と、足の裏を洗われた時に、またくすぐったくなって身をよじってしまった。まほに再度「大人しくしろ」とたしなめられてしまう。

 そんな感じに全身を洗ってもらって。残っているのは股間周辺だけ。

 

「少し腰を上げてくれ」

 

 言われるままに、椅子から腰を上げて中腰に。

 まほの手が、オレのお尻を撫で回す。泡とスポンジ、それに彼女の手の感触が伝わってきて気持ちいい。

 でも、お尻の谷間を拡げられたのには、思わず声を上げてしまった。

 あ、良く考えてみればオレがいつも彼女たちにしてることじゃん。

 こういう感覚なのかと、思わず感慨に耽ってしまった。

 

「ここもしっかり洗わないとな」

 

 再び椅子に押しを下ろして。

 まほの手は内股に伸びる。

 足のつけ根、鼠径部。

 下腹部分。

 そして睾丸まで。

 まんべんなく泡まみれにされていく。

 まほに全身を撫でられて勃起した陰茎も。

 ここはスポンジじゃなくて、彼女の手で、ぬるぬると。

 しごくんじゃなくて、純粋に洗っているだけの動き。

 でも、男の子だから。まほの手の柔らかさと、泡の滑らかな動きでオレの快感が押し上げられてしまう。

 射精には至らないけど、たまらなく気持ちいい。

 全身を泡だらけにされたオレ。その間ずっと、まほの手がそこかしこを優しく擦り上げていった。時には彼女の身体も密着してきて、ふわふわとかふにふにとか、そんな感じの柔らかさが伝わってくる。

 そして、洗ってもらっている間ずっと、まほの綺麗な裸を眺めていた。

 こしこしと洗う手が動くたびに、まほの髪がゆらゆら揺れる。おっぱいがふるふると震える。あぁ、幸せだ。

 

「よし。次は頭だな」

 

 丹念にオレのチ○コを洗ってくれたまほ。少し息が荒い気がするけど、疲れてしまったのか。それともチ○コを握っていて興奮したのか。

 どちらにしても、今はまだスルー。彼女に促されるまま、頭を下げる。まほがシャンプーを手に取って、オレの頭をわしゃわしゃと掻き回す。

 あ。これ、すっげぇ気持ちいい。

 

「はぁ……。頭を洗ってもらうの、気持ちいい……」

「ふふ。そんなにいいか?」

「すごくいい。しかも可愛い恋人に洗ってもらうとか、極楽過ぎる……」

「そう言ってくれると、私も嬉しいぞ」

 

 少し照れくさそうな声音で、まほはそう返してくる。下を向いて髪を洗ってもらっているから、彼女の顔は見えないけど。嬉しそうな笑みを浮かべているような気がする。

 そうしている間も、まほの手はオレの頭を掻き回している。

 髪を梳くように彼女の指が通り、シャンプーを泡立てる。

 少し指を立てて、指の腹で頭皮を押すように動き回るのが心地いい。

 頭の頂点から、後頭部。

 首の後ろの髪の生え際。

 こめかみ、耳の裏側。

 まんべんなく、彼女の手が綺麗にしていく。

 

「目をつむっていろ」

 

 シャワーを手にしてお湯を掛けてくる、まほ。髪の間に指を通しながらシャンプーを洗い流してくれる。

 同時に身体についた泡にもお湯を当てて、綺麗にしていく。まほの手が全身を撫でてまわって、泡を落としていく。

 最後に、股間にお湯を当ててくる。オレの下腹、陰毛部分、内股、勃起したチ○コの汚れを丁寧に落としていく。優しい手つきで敏感な場所を撫でられ、つままれ、握られる感触がすごく気持ちいい。

 

「よし。しっかり洗えたぞ」

「気持ち良かった。ありがとう、まほちゃん」

 

 お礼を言って、向かい合ったまま軽くキスをする。

 裸のままはにかむ、まほ。

 可愛い。

 

「次はオレが、まほちゃんを洗ってあげるよ」

「……優しくしてくれ」

 

 もちろん。まほの綺麗な肌を傷つけるようなことはしないとも。

 というわけで。

 今度はまほを、オレが腰掛けていた風呂用の椅子に座らせる。彼女の後ろに膝立ちになって、手に直接ボディソープを取る。

 しっかりと泡立ててから。

 

「失礼しまーす」

「ひゃっ」

 

 ぴた、ぬるり、と。まほの背中を撫でた。

 肩甲骨から、下へ。撫でる手をゆっくりと下ろしていく。

 背中、腰回り、お尻のすぐ上まで。

 下まで行って、また上へとのぼり、再び下へ。

 なだらかなボディラインに沿って、何度も往復する。

 まほの綺麗な背中を泡まみれにしていく。

 

「はふ……」

「痛かったり、嫌な感じはしない?」

「ん、平気だ。問題ないぞ」

「じゃあ、このぐらいの力加減でいくから。変な感じがしたら言ってね」

 

 無防備に背中をさらしている彼女。オレを信頼してくれているっていう気持ちがこみ上げて、嬉しさが募る。顔がだらしなく緩んでしまう。まほが背中を向けていて、本当に良かった。

 

「いくよー」

 

 軽い言葉を掛けて。でも、手には慈しみの念を込めて、丁寧に。背中全体をもう一度ゆったりと手を這わせた。

 続けて、首筋、肩回りに手が伸びる。ボディソープの泡をまんべんなくひろげるように動かす。

 

「んっ」

「はい、ちょっと腕を上げて」

 

 まほの右腕を手に取って、上へと伸ばさせる。

 腕のつけ根から、肘、手の先へと、ボディソープつきの手で撫でていく。裏に表に、泡まみれの手を何度も往復させていく。

 肘の裏側をくすぐると、彼女が軽く震える。まほは、オレがやられたと時と同じ反応を見せた。うん、お揃いだな。

 続けて、手首、手のひら、手の甲、指と、まんべんなく綺麗にしていく。

 手を両方の手のひらで挟み、包み込むようにして揉み、さする。

 彼女の指と指の間に、オレの指を入れ込んで、撫でてみる。

 1本1本磨くように、丁寧に動かして、泡のついていないところをなくしていく。

 

「んっ。はぁ……、ん」

「まほちゃん、痛くない?」

「いや。むしろ、気持ちいいくらいだ」

 

 それは良かった。

 同じようにして、今度は左腕を泡まみれにしていく。

 洗うのと一緒にマッサージもしている感じ。戦車道をしているおかげなのか、まほの腕は触れてみると案外筋肉質だ。それでも女の子らしい柔らかさはしっかりとあって、触れているだけでも心地いい。

 そんな上腕、前腕を揉み。

 肘をくすぐって。

 手の先を包み、洗い。

 親指から小指まで、それぞれ優しくしごくようにして汚れを落としていく。

 

「次は前の方にいくよ」

「あぁ……。ん、ふぅ……んんっ」

 

 両腕を洗い終えて。

 まほの締まっていながらも柔らかいお腹に手を回す。

 

「まほちゃんのお腹、柔らかい」

「そういうことを、言うなっ」

 

 彼女の後ろからそんなことを言うと、まほは恥ずかしそうな声を漏らす。オレの胸板と、まほの泡まみれな背中が密着して、ぬるぬるした感触が伝わってくる。

 幸せな柔らかさを感じながら、彼女の前面に回した手を動かし始める。

 おへその下あたりを中心にして、腰回りを優しく撫でる。

 股間までは手を伸ばさない。

 ギリギリ、まほの恥毛に指が触れるかというところまで。

 身体を洗っているだけだからね、まだ。邪な気持ちは自重する。

 そんな感じに、お腹全体を泡まみれにしてから。

 

「はぁ……。んんっ」

 

 まほの、大きな胸を両手で包み込んだ。

 何度揉んでも、触っても、飽きない感触。まほみたいな美人で可愛いお姉さんのおっぱいを独り占めできる。その幸せに蕩けてしまいそうになる。

 

「俊一、あんっ」

 

 おっと。

 今はエッチなことよりも、彼女を綺麗にすることの方を優先しないと。

 愛撫になりかけた手から力を抜いて。優しく、優しく、まほのおっぱいを撫でる。

 

「んっ……」

 

 両手のひらで膨らみを持ち上げて、落とす。ふにふにと弄ぶようにして上下に揺らし、おっぱいにボディソープの泡を塗りたくっていく。

 ふくらみの下の方。その裏側にも指を差し入れて、すりすりと動かす。

 胸のつけ根と言えばいいのか。まほのおっぱい山脈の麓部分。それと谷間になってふくらみが合わさる部分に、指を這わせていく。爪を立てないように気をつけながら。

 柔らかな下乳に指が埋もれるのが、なんというか、もう、最高の感触だ。

 

「はぁ、ん……あっ」

 

 胸に隠れた部分の肌、それに下乳を丹念に撫で回してから。

 次は、胸の谷間の内側と、ふくらみの外側。

 なだらかな胸のラインに沿って、手は内へ、外へと、行ったり来たり。泡のぬるぬるを、おっぱい全体へと広げていく。動かす手に合わせて弾み、揺れるふくらみが、目にも手にも心地いい。

 

「ん。はふ……」

 

 泡まみれになった、まほのおっぱい。

 でも、まだ触れていない乳首だけが姿を見せているのが妙にエロい。

 お待ちかね、とばかりに指で擦ると。

 

「あっ、はんっ」

 

 まほは小さく声を上げた。息を少し乱れしているのも、可愛い。

 でも性的にイジメているわけではないので。

 軽くこねくり回して、泡まみれにしたら指を乳首から引き揚げてしまう。

 最後に、少し愛撫をするつもりでおっぱいを揉んで、手を放した。

 

「上は終わり。次は」

 

 下半身に移るぞ。

 密着していた彼女の背中から離れて、まほの正面に回る。座っている真ん前に腰を下ろして。改めてボディーソープを泡立てた手を、彼女の膝に置いた。

 

「あっ。んぅ……」

「はい、力を抜いて」

 

 無意識にか、まほは足を閉じようとする。

 でもそれを許さずに、少しだけ足を拡げさせる。

 床についたオレの両ひざが、彼女の足が閉じられるのを抑えているような形。

 当然、まほの秘部が露になってしまう。

 何度となく見たし、触れたし、奥深くの具合まで知っている、まほの大事なトコロ。

 対して、オレの勃起したチ○コも丸見えのままだ。

 恥ずかしそうな彼女の反応を敢えてスルーして。まほの太ももに両手を当てる。

 

「ん……」

 

 まずは、右足。柔らかな太ももの表面を、磨き上げるように撫で回す。

 膝から太もものつけ根の方へ、ゆっくりと。そしてまた膝の方へと下りていく。

 それを太ももの裏表、外側内側と、丁寧に繰り返す。

 まほの太もものむちむちさ堪能しつつ、膝の裏まで綺麗にしてから。

 洗う手をさらに下へ伸ばしていって、ふくらはぎへ。

 

「はぁ……。ふぅ、ん……」

 

 ゆったりと、ふくらはぎをマッサージするように揉みしだく。

 まほが吐息を漏らすけれど、性的な色はさほど見られず。純粋に気持ち良くなっているようだ。うん、嬉しいね。

 ふくらはぎを揉み。

 脛を撫でて。

 くるぶしから足首をさする。

 足の甲、踵、土踏まず、指の1本1本からその間まで。

 手を這わせて、指でなぞり、泡まみれにしていく。

 

「まほちゃん。痛かったりしない?」

「平気、だ。少しくすぐったい、くらいだな」

「じゃあ、左足もいくよ」

「ん……」

 

 右足と同じように、今度は左足も綺麗にしていく。

 太ももから膝、ふくらはぎ、足の指の先まで。

 丹念に、まんべんなく撫で回し、指を這わせた。

 うむ。まほのほぼ全身を泡まみれにしてしまったぞ。

 ……オレと違って、足の裏とかに触れられてもあまりくすぐったがらなかったな。ちょっと悔しい。

 それはさておいて。

 洗ったのはほぼ全身。でも大事なところはまだ洗ってない。

 最後に残ったところを洗う前に。まほの足先にだけ、お湯をかけて泡を落とす。立った時に足を滑らせたら危ないからね。

 

「よし、と。まほちゃん、ちょっと立って」

 

 泡まみれの彼女を立たせて……うん。目の前が刺激的な光景になった。膝をついたオレの目の高さに、まだ洗っていないまほの股間がくる。これはガン見しても仕方ないよね。

 

「あまり、じっと見るなっ」

「恥ずかしがってるまほちゃんも、すっごく可愛いよ」

 

 見るなと言いながら、彼女は特に隠そうともしない。恥ずかしがっていても、オレの言うことを聞いてくれるまほが可愛い。

 そんな彼女のくびれた腰に手を回して。さらに後ろへと手を伸ばし。

 

「んっ」

「まほちゃん。お尻、洗うよー」

 

 まほのお尻を触る。

 身体を洗っている間は座りっぱなしだったからね。後回しにしていた彼女のお尻を、むにむにと軽く揉みながら撫で回し、綺麗にしていく。

 愛撫じゃなくて、ただボディソープの泡を拡げるようにして手で洗うだけ。

 といっても、手で直に触っているんだから、少しは反応してしまうのは仕方ない。

 まほは声を漏らしながら、もじもじと腰を震わせる。目の前で丸見えな彼女の秘部を眺めながら、お尻を触る。身体を洗っているだけといっても、オレのチ○コは勃起しっ放しだ。

 

「きゃっ。そこ、はんっ」

「まほちゃんの隅々まで、ちゃんと洗わないとね」

 

 尻たぶを撫でながら、お尻の割れ目にも指を這わせる。

 谷間に沿って指を押し込んで、前後に擦りながら動かす。柔らかくて、指先に伝わってくる感触がすごく気持ちいい。

 じっくりとお尻の割れ目を洗ってあげてから。

 最後はもちろん。

 

「あっ、そこまで。あぅ、んんっ」

 

 まほの秘部も、しっかり洗ってあげる。

 泡のついている手のひら全体で、股間を優しく撫でる。柔らかな陰唇のふくらみと、恥毛の感触。泡立っているせいか、ぬるぬるでさらさらな感じが際立って、妙に興奮してしまう。

 それはそれとして。

 ようやく、まほの全身を洗い終えた。

 シャワーから出るお湯の勢いを少し強めにして、彼女の身体に就いた泡を洗い流していく。もちろん、手を這わせて、撫で回しながら。まほの綺麗な肌がどんどん露になるのが、見ているだけで気持ちいい。

 

「はい。これで全身、綺麗になった」

「はふ……。しゅん、いち」

 

 少し上気した顔を向ける、まほ。身体を洗うだけと言い張っていても、しつこいくらいに触られていたんだから。感じてしまうのも仕方ない。でも湧き上がってくる性感は中途半端なものだから、生殺しの状態なのかもしれない。

 それなら。

 

「あっ、んんっ」

 

 まほのおま○こに指を這わせる。

 さっきまでとは違う快感を引き出そうとする動きで、陰唇の全体を撫で回す。

 指で割れ目を押し開いて、膣の入口を撫でさする。

 お湯じゃない滑り気を指の先に感じて、まほのナカに中指を優しく差し込んだ。きゅっきゅっ締めつけてくる彼女のナカで、指を少し折り曲げて擦る。

 

「あぅ、んっ。俊一、は、あんっ」

 

 押し開くように動かして、ゆったりと掻き回す。前後左右、円を描くように。指と、手首を動かして、まほから快感を引き出そうとする。

 まほの腰に手を回して、お尻をわしづかみ。そのまま彼女を引き寄せて。

 

「あー、んむ」

「はんっ。あうんっ」

 

 まほの秘部に、口づける。舌を伸ばして、彼女の股間を舐め上げた。にじみ出る愛液と、しっとりと濡れた恥毛の感触が、唇から伝わってくる。

 

「んっ、ちゅっ。えろ、ん。ちゅ、じゅぶ」

「いきなり、んっ。あんっ、俊一、はうっ」

 

 おま○こを舐められ、吸われ、ほじくられて。まほは敏感に反応して声を出す。

 性感の不意打ちを食らって、彼女は腰を震わせた。力が抜けそうになるのを、股間に顔を埋めているオレの頭に手を置いて踏ん張っている。

 でもそれがさらに、まほが自分の秘部にオレの顔を押しつけることになった。

 もっと感じさせようと、鼻先をくすぐる恥毛を舌でかき分けて。まほの秘唇に潜り込ませていく。少しでも奥へと舌を突き入れる。

 

「あっ、んっ、はっ。俊一、しゅんいちっ」

 

 艶っぽい声を上げるまほ。深くまでとはいかないけれど、膣の入口を舐め回し、ねぶって、柔らかなナカの感触を味わう。

 唇でクリトリスも一緒にくすぐれば、さらに色っぽい声で鳴く。身体を支える手が震えて、オレの頭を掻き回す。

 まほの震えが小刻みになってきた。絶頂が近くなっているのが分かる。

 彼女のおま○こに吸いつき、舐め、愛撫しながら、力の抜けてきたまほの腰を抱きかかえた。そのまま倒れないように、しっかりと支えてあげる。

 

「しゅん、いちっ。もう、ん。あふ、あっ」

 

 頭の上から聞こえる、まほの切ない声を聞いて。クリトリスを舌で弾くようにして弄り、吸い立てる。

 その途端。

 

「んんっ、く、ん、んんんっ!」

 

 まほは足を、腰を痙攣させて、全身を震わせた。オレの頭に置いた手にも力がこもって。オーガズムにさらわれないようにこらえようとする。

 

「……っ、んんっ、ふぅ、んっ、あふ、あぁっ」

 

 まほの、絶頂。彼女の膣内の痙攣が、舌先と唇に伝わってくる。

 股間から顔を離して。小刻みに震える彼女を抱きかかえた。

 乱れた息遣いと、蕩けた表情。

 エロいな。エロい。

 脱力したまほを横抱きにして座らせる。

 腕の中で、オーガズムの余韻に震えるまほ。

 色っぽくて、可愛くて、愛しくてたまらない。

 

「まほちゃん、可愛い。すっごく可愛い」

 

 抱きかかえながら、まほに口づけ。

 息をふさがないように、軽く唇に。それから頬、鼻先、目元、おでこと。いろいろなところに、ちゅっ、ちゅっ、ちゅーっ、っと。小さくキスを繰り返す。

 そのまま抱きしめて、まほの頭を優しく撫でる。首元に彼女の乱れた息を感じながら、優しく優しく、髪を梳く。

 ……あ。まほの髪をまだ洗ってないな。

 どうしようと、見当違いなことを想像したところで。

 

 ガタッ

 

 風呂の扉が音を立てた。

 体勢を崩したせいか。風呂場になだれ込んできたのは。

 顔を上気させて。

 でも少し慌てながら。

 制服のスカートの中に手を差し込んだままで。

 抱き合っているオレとまほを見つめる。

 

「会長」

 

 大洗学園の生徒会長・角谷杏その人だった。

 

 

 

 ―続く―




まほさんにご奉仕されたい。(直球)
槇村です。御機嫌如何。


この引き方、恋姫のエロ小説でもう使ってるぞ?
そう思った方、その通り。当たりです。

また例によって、書いてるうちにテキストが膨らんでしまって以下次回。
今さら言うまでもありませんが、
「こんなことをしてみたい」という劣情がこの小説の動力源になっています。
情事の真っ只中に踏み込んでしまった会長の未来はどっちだ。
待て次回。
……連休中には更新したいです。


評価を入れてくれた方、ありがとうございます。励みになります。
感想を書き込んでくれる方、ありがとうございます。嬉しいです。
引き続きよろしくお願いします。




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26:I Love Youからはじめよう/杏&まほ

おまたせ。



 角谷杏という人の性格を考えれば、覗きくらいはするかなーという気も確かにする。なんというか、こちらをからかうこと前提で。

 でも見られた側としては、どう反応すればいいのやら。

 だって、恋人と裸でイチャついていたら、学校の先輩が雪崩れ込んできたんだぞ?

 どこから見ていたのかは分からない。けどスカートの中に手を差し込んでいたから。ついつい自分で慰めてしまったってところか。

 もしこれが逆に、オレが覗いていた立場だったらどうだろうか。つい覗いてしまい、扉が開いて、チ○コを弄っているところを見られてしまったというのに等しい。

 うん。死にたくなるなコレ。

 

「いや、その、これはだね」

 

 慰める云々はともかく。こんなにテンパってる会長は珍しい。初めて見たかも。

 生徒会長っていう立場もあるのかもしれないけど、普段の彼女は、堂々としているというか、ふてぶてしいというか、そんなところを表に出している。あとは悪戯好きな、人の悪さみたいなところも。

 それが今は絶賛パニック中なのが見て分かる。

 まぁ、後輩の情事を覗き見ながらオナニーをしていて、それがバレたなら無理もない。

 おっと。決めつける前に一応確認しておこうかな。転げ出た勢いで偶然、手がスカートの中に入り込んだだけかもしれないしね。うん。

 

「会長。何してたんですか?」

 

 ごく普通に声を掛けた、つもり。

 でも会長は大袈裟なくらいに身体を震わせた。びくっ、という感じで。

 スカートの中から手を抜き出して、体勢を整えた。正座になって。

 ……えーと。何それ。

 片や、風呂場で正座をする制服姿の女子校生。

 片や、全裸で抱き合っている恋人同士の男女。

 なんだろう。むっちゃシュールな光景だな。

 まぁいいや。それはいいとして。

 

「ちなみに、どこから覗いてました?」

「えーと。大瀬良くんが、西住さんの身体を洗い始めたところ、かな」

 

 あ、正直に答えてきた。

 そりゃそうか。いまさらごまかしても覗いていたのは確定だもんね。

 というか、どうすんのコレ。

 変に気遣って、このままなかったことにしたところでどうなるか。

 会長とオレの間の空気が、これからずっと微妙なものになってしまう。明日の聖グロ行きはおろか、大洗学園に戻ってからもギクシャクしてしまいそう。

 それは避けたいなぁ。

 会長との悪友っぽくて緩い関係は、結構好きなのだ。オレが一方的にそう思ってるだけかもしれないけれど、気安く接することができる間柄は失くしたくない。

 ならどうするか。

 ……会長自身がやらかした恥ずかしさを、上塗りしてみようか。

 少なくとも、オレにやらされて恥ずかしい思いをしたってことに置き換われば、オレのせいってことで会長の気が楽にならないかな。

 ならないかね?

 いつまでも会長を正座させておけないし。

 オレとまほも湯冷めしてしまいそうなので。

 それの線でいこうか。

 

「会長。いつまでも風呂場で制服姿ってのもアレなので」

 

 ひとつ提案をして、ひとまず脱衣所に戻ってもらった。

 あくまでも、お願いだ。

 お願いだよ? うん。

 

 

 

 

 

「弱いところを見つけてすかさず突いてくる。さすがだな俊一」

「まほちゃんのその言い方、すっごい人聞きが悪いんだけど」

「素直に感心しているんだが」

「悪意がないなら、なおさらタチが悪いよ」

 

 まほがオーガズムから少し落ち着いて。絶頂で少し意識を飛ばしながらも、何があったかは把握していた彼女と他愛のないおしゃべり。会話をしながら、髪を洗う彼女をわしゃわしゃと手伝っていると。

 再び、風呂場の扉が開いた。

 

「来たぞ、大瀬良くん」

「おぉ……」

 

 現れたのは、制服を脱いで、下着姿になった会長だ。

 彼女に言ったのは簡単なこと。

 覗き見るくらいなら、一緒に風呂に入って堂々と見なよ。

 裸になるのは恥ずかしいだろうから、下着姿で入ればいいんじゃないかな。

 さすがに制服が濡れるのは困るだろうし、替えの下着はあるでしょ?

 だったらもう、一緒に入っちゃおうぜ!

 みたいな。

 ……我ながら「何言ってんだオマエ」と突っ込まずにはいられない。

 かえって関係が悪くなるんじゃないかと、今さらながら思ってしまう。オレの方も、乳繰り合ってるところを学校の先輩に見られて慌ててたのかも。

 でも会長の方も、オレの頭の悪い言葉に従ってしまっていた。負けず劣らず混乱したまま、妙な空気に呑まれてしまったのかもしれない。

 なんてことを考えていても。女の子の下着姿を見て喜んでしまうあたり、単純でダメ男と言われても反論できない。

 だって下着姿の会長が、恥ずかしそうにもじもじしてるんだよ?

 むっちゃ可愛いじゃない。

 

「あんまりじっと見るな」

「いやいや。会長には悪いけど、それは無理でしょ」

「そもそも、西住さんや小山に比べたら、見ても面白くないだろう」

 

 なんて自虐的なことを言う会長。

 んー。まぁ。

 小柄で身長も低く、はっきり言うと身体的な起伏に乏しい。柚子さんとか桃ちゃん先輩とか、すぐ近くにいる人が、制服の上からでも分かるくらいスタイルいいから。余計にそう見えてしまうのは仕方ないと思う。

 じゃあ会長に魅力がないのかといえば、そんなことはまったくない。

 転入してから、柚子さん絡みでそれなりにつき合いが増えた。なんというか、仲良くなるほど面白くなるタイプじゃないかなこの人。一緒にいて飽きない。

 そんな会長が今、目の前で下着姿になって、恥ずかしそうにしてるんだもの。

 普段とのギャップが、なんというか、うん。クルね。

 あまり飾り気のない、白のシンプルなショーツとブラジャー。スリムな身体をさらに縮ませて、見られる範囲を少なくしようとしているような仕草が可愛らしい。

 恥ずかしそうに顔を赤くしているのも新鮮だ。まぁそれは、何より下着姿だからね。仕方ない。

 もっと恥ずかしがらせて、覗いていたとか、自分で慰めてたとかを有耶無耶にしてしまおう。

 なんてことを、考えたわけなんだ。

 

 

 

 

 

 そういうわけで。

 3人で仲良く……仲良く? お風呂に入ることになった。

 

「なんで一緒に入ることになったんだ……」

「裸のつき合いという奴だ」

「普通は同年代の男女でそんなものはないだろ」

 

 オレの真ん前で、まほと会長が言い合いをしてる。湯船を満たすお湯の心地よさと、彼女たちのやり取りの微笑ましさ、密着する女の子の身体の柔らかさに、頬が緩んでくる。

 今のオレたちは、3人揃って同じ湯船に浸かっている。

 一番外側で、オレが浴槽に寄り掛かり。

 まほは、オレの前に座って背中をあずけてくる。

 会長が、さらにその前に座って、身を縮めていた。

 ちなみに会長は下着姿のままお湯に浸かっていて。オレとまほは当然、裸のままだ。

 浴槽はゆったりとしているけれど、3人も連なって入ればさすがにぎゅうぎゅう。でも女の子とぴったり密着できるから、オレとしてはむしろウェルカムだ。

 間にまほがいるから、会長に股間を押しつけるようなこともない。まほはむしろ、オレにお尻を押しつけてくるから気持ちいい。ありがとうございます。

 

「下着姿でお風呂に入ってるのって、ものすごく変な感じがする」

「じゃあ脱ぐか? 今なら間に私がいるから、俊一に裸は見られないぞ」

「脱ぐわけないでしょ。何言ってんの西住さん」

「会長、遠慮するな。手伝ってやろう」

「だから脱がないって。手を回さないで、おい、こら!」

 

 同じ湯舟の中で、年上のお姉さんふたりがじゃれ合う。

 眼福だ。

 うん。仲良きことは美しきことかな。

 

「いやいや、どこが仲良く見えるのさ!」

「あれ、会長に心を読まれた?」

「口に出してたよ! 大瀬良くん素ボケか!」

 

 おや、それは失礼。

 会長が、顔だけオレの方に向けて吼える。

 といっても本気で嫌がってるようには見えない。ノリとツッコミの勢いで声が高くなってしまったような感じ。

 でもまぁ、ボケっていうよりもさ。

 

「年上のお姉さんたちと一緒にお風呂、とか想像したこともなかったから。頭が少しのぼせてるのかもしれないなぁ」

「ふむ。嬉しいか? 俊一」

「むっちゃ嬉しい」

「よし。大洗に戻ったら、また一緒に入ろう」

「ぜひお願いします」

「……わたし、なんでこのバカップルと一緒にお風呂に入ってるんだろう」

 

 目の前の、まほのうなじに唇を寄せるオレ。

 くすぐったそうに身をよじる、まほ。

 そんなオレたちをよそに、溜め息を吐く会長。

 会長は、すぐ目の前にある浴槽の縁に、額を乗せる。脱力した感じの背中が、まほの身体越しに見えた。

 哀愁漂う、と言えばいいのかもしれないけれど。見えるのはブラジャー姿の背中と、華奢で細い肩。オレとしてはご褒美としか言いようがない。

 

「……あー。なんだか、あれこれ考えるのも馬鹿らしくなってきちゃったな」

 

 うなだれながら、会長はそんなことをこぼす。

 うん。学園のために考えなきゃいけないことはいろいろあるんだろうけど。根詰めて考え事してると疲れちゃうよね。

 

「戦車道チームをイチから立ち上げようとしてるんだからな。考えることも、やらなければいけないことも山積みだろう。大変だというのは良く分かる」

「そっちの方面では、オレは何も手伝えることがないからなぁ。疲れてるところに、甘いものを差し入れるくらい?」

「気持ちは嬉しいんだが。あまりそういうものが続くと、いろいろ気になってしまうぞ。体型とかな」

「まほちゃんのどこに気にする要素があるのさ」

「男には分からない、見えないところだ。これはみほもそうだぞ?」

「乙女心を察しろというやつか。難易度高いなぁ」

 

 軽い口調で、言葉のキャッチボールをするオレとまほ。

 あえて、難しく考えないようなことを口にしてみたんだけれど。

 

「ふたりとも、気遣いはありがたいんだけど。ちょーっと、違うんだよねぇ」

 

 どうやらオレたちが考えてたこととは少し違うらしい。

 今の会長が頭を悩ませてるって、戦車道のことじゃないの?

 なんというか、踏ん切りがつかずに言いよどんでいる、みたいな感じの会長。

 らしくない、という気もする。

 でも、そういう弱いところや素の部分を見せてくれている、と考えれば。ちょっと嬉しくなってくる。まぁその場の流れとはいえ、下着姿で一緒に風呂に入るのを良しとするくらいの親密度はあるということだろう。

 ……普通に考えて、それってもう恋人レベルじゃないかな?

 

「もうさ、この際だからぶっちゃけるけど」

 

 そんな風に切り出して。会長いわく。

 友人であるアンチョビさんが、今日会ったばかりの後輩とくっついた。

 まさかの急展開に驚きながらも、「ローマの休日」ツアーでのオレとのやり取りを見て、乙女チックなところのあるアンチョビさんが揺れてしまうのも無理はないと思ったらしい。

 でも、会長の中で何かモヤモヤしたものが残った。

 自分の方が、オレとのつき合いは長いのに、と。

 「ローマの休日」ツアーでも、自分も同じような扱いをされて、やり取りをしていたのに。アンチョビさんが、オレに素直な感情をぶつけてきたのが悔しかった。

 なんてことを、会長は言う。

 ……えっと。それってつまり。

 

「ようやく自覚したというか。わたしも、キミのことが好きっぽいんだよね」

 

 会長、杏さんが。

 告白してきた。

 湯船に浸かったまま座り込み、オレの方を振り向いて。

 たはは、と、彼女はどこか脱力した顔で笑う。

 

「正直、むちゃくちゃ嬉しい。嬉しいんですけど」

 

 なんで、オレなんだろうか。

 ご存じの通り、オレは女の子を何股も掛けている男だよ? みほ、まほ、柚子さんの3人と同時につき合ってるのに、さらにアンチョビさんが加わって。四股が確定しているスケコマシだ。さらに言えば、会長の羞恥心やら何やらにつけ込むように、下着姿になって一緒に風呂に入ろうぜ、とか言っちゃう最低男ですよ?

 

「どう考えても、オレって恋人候補にはならない奴でしょ」

「そうだねぇ。事実だけ並べたら、むしろ女の敵だよね」

 

 うん。オレもそう思うわ。

 じゃあ、どうして?

 

「なんかさ。大瀬良くんと一緒にいると、心地いいんだよね」

「ふむ。それは分かるぞ。ちょっとした気遣いや、ふとしたところできちんと自分を見てくれていることに気づくと嬉しくなる。安心感のようなものがあるな、俊一には」

「あるねー。あと私の場合、ちゃんと同年代の女扱いしてくれるのも、大瀬良くんが初めてだったんだよね。ほら、わたしって見掛けは幼い感じで、結構グイグイ先導するタイプだから。男の子から距離を感じることも多くてね」

 

 なんてことを、杏さんはニヤつきながら言う。

 ……えっと。これはどういう状況なんだろうか。

 旅先の旅館の風呂場で。

 全裸の恋人を間に挟んで。

 半裸の先輩に告白されている。

 しかも目の前で、ふたりからオレのいいところを挙げられながら褒められる。

 訳が分からないぞ。なんだこれ。

 

「昼間にさ。西住さん、身も心も任せちゃえば気持ちいいみたいなこと言ってたでしょ」

「言ったな」

「大瀬良くんの無意識な口説き文句。女の子として、かなり胸にキュンときたんだよね。で、チョビ子がさ、うらやましくなって。さっきも西住さんが身体を洗ってもらってるのを見てさ。いいなー、なんて思っちゃって」

「なるほど。会長、もう堕ちてるじゃないか」

「うん。もう駄目だわ」

 

 まほと、杏さんが、顔を合わせて笑う。なんだか通じ合ってる様子。

 男として、女の子に好かれるのはものすごく嬉しいし。向けられた好意にはきちんと向かいたいし、返したいと思っている。

 オレ自身は、彼女の想いに応えたいと思う。

 でもオレって、もう何人も女の子に手を出してる男なわけで。

 

「会ったばかりの会長の友だちを口説いて、4人目の恋人にしちゃうような男ですよ? となると、会長は5人目の恋人ってことになっちゃうんだけど。それはいいの?」

「んー。まぁ、思うところがないと言ったら嘘になるけどね」

 

 普通はそうだよ。みほも、まほも、柚子さんも、アンチョビさんも、できた女過ぎて頭が上がらない。でもオレ自身は、彼女たちを手放すつもりは毛頭ないし、好かれるように努力するし、嫌われそうなことはしないように心掛けている。

 

「それ。それだよ、大瀬良くん」

 

 こちらを振り向きながら、杏さんが何かを指摘する。

 え、それってどれ?

 

「女の子への接し方。恋人のために自分を磨く、みたいなつもりなのかもしれないけどさ。それ以外の娘にも変わらないその態度はさ、女の子にしてみれば悪い気はしないんだよね。普通に好感度上がるよ?」

 

 男の数が少ない元女子校ならなおさらだ、と。杏さんは言う。

 いやいや、そんなこと言われても。

 

「実際、わたしも悪い気はしなかったし。大瀬良くんとの掛け合いみたいなのも楽しかった。男の子の友人も特にいなかったから、なおさらねぇ」

 

 それって比較対象が少ないから、オレが良さげに見えただけなんじゃ……。

 

「前にも言ったけどさ。女性関係を除けば、大瀬良くんっていい男だと思ってたんだよ。逆に言えば、女性関係に納得できるんならすごくレベルの高い男の子なんだなって」

「納得って。むしろそこが大問題なんじゃ?」

「でもさ。大瀬良くんって、恋人たちにはすっごいマメだし、気遣いもすごいでしょ」

「慕ってくれてる女の子たちなんだから、当たり前じゃない?」

「当たり前だと言えるのがもう、ポイント高いよねぇ」

 

 続けて彼女いわく。

 オレは、一緒にいて楽しい異性。

 女の子が増えて、自分との仲が薄くなるんじゃないかと考えて寂しくなった。

 そのきっかけが友人だったということで、焦ったのは認める。

 でも、もっとオレと密な関係でいたい、と思ったことは事実だと。

 

「だからさ」

 

 杏さんが立ち上がって、こちらを振り向いた。

 お湯に濡れて透けた下着を隠そうともせずに、オレを見つめてくる。

 

「わたしも、キミの恋人にしてくれないかな」

 

 改めて、正面から。

 告白してくれた。

 普段でも見せる、少し不敵な感じの笑みを浮かべながら。

 でも、どこか、少し不安っぽい感じの陰もにじませて。

 

「杏さんが好意を寄せてくれるのは、すっごい嬉しい。でも、さ」

 

 我ながら、変なところで言葉を切ってしまった。

 杏さんが、顔色を変える。

 ごめんなさい。そんな顔をさせるつもりはないんです。

 

「オレ、むちゃくちゃ独占欲強いよ? みほちゃんも、まほちゃんも、柚子さんも、アンチョビさんも、みんな手放すつもりはないし。杏さんも、もう離さないよ?」

 

 杏さんも受け入れたい。

 でもそれで恋人たちが悲しんだり怒ったりするのはどうかと思う。

 腕の中に納まっているまほを、抱きしめる。

 

「昼にアンチョビさんを受け入れて、その日の夜に今度は杏さんって。この見境のなさ、まほちゃんとしてはどうなの? どれだけ増やすつもりだこいつは、とか思わないの?」

「昼間も言ったが、私としては、何人増えても構わないと思っている。ちゃんと私も構ってくれるのならな」

 

 ずっと可愛がってくれるんだろう? と。オレの方へ振り向きながら、まほが微笑む。そして頬にキスをしてくる。

 あぁ、甘やかされてダメになっていくような感覚……。

 でもこれが、心地いい。

 

「みほも、俊一が構ってくれて、甘えさせてくれれば、特に非難はしないと思うぞ。柚子は、私と同じように横から入ってきた負い目みたいなものがあるからな。きちんと話せば、関係を荒らすようなことはしないだろう」

「アンチョビさんも、なんだか大らかと言うか、男前と言おうか、他に女がいても構わんみたいなこと言ってたし」

「アンチョビも、私と同じく横入りだという自覚はあるみたいだからな」

「なんだその男に都合がいい考え方。マジでダメになっちゃいそうなんだけど」

 

 本当に、みんな天使。可愛くて、もう、可愛い。いいのか本当に。

 ダメって言われても、どうにかして全員抱きしめ続けられるよう頑張るけどね。

 なんてことを考えていたら。

 

「そういうわけだから、な」

 

 まほが裸のまま、正面から抱きついてくる。おっぱいがオレの胸板でむにゅりと潰れて、形を変える。とても眼福だ。

 さらに手を首に回してきて、柔らかな膨らみをもっと押しつけてくる。

 

「会長が、杏が加わったとしても。お前の恋人たちは受け入れてくると思うぞ?」

 

 可愛らしく、オレを見上げながら。まほはそんなことを言ってくる。

 ……正直なところ。自分の中ではもう、杏さんを他の男にはやりたくなくなってる。もっと、オレのことを見てもらえるようにならなきゃ、と思っている。

 同時に、また恋人たちに土下座でも何でもして説得しなければ、とも。

 どんどん、土下座の価値が下がってくなぁ。

 とにかく、だ。

 

「杏さん」

 

 今は、彼女に答えを返さないと。

 返事はもちろん、決まってる。

 

「大事にするからさ。オレの恋人になってくれない?」

 

 杏さんに、手を伸ばす。

 彼女は照れ臭そうに。でも、嬉しそうに。

 オレの手を取ってくれた。

 

「いやぁ、なんというかさ。照れくさいね」

 

 愛の告白、それを受け入れた、受け入れられた、っていう場面だから。照れくさかったり恥ずかしかったりするのは当たり前。でもそれ以上に、喜びだったり、嬉しさだったり、感情が満たされていく気持ちの方が強い。全裸と半裸で向き合ってはにかんでいる、意味不明な状況も気にならない。

 ……いやちょっと待て。意味不明過ぎるよね。

 同じ湯船の中で、まほにしがみつかれている。さらに手を、杏さんに取られたまま。裸の年上お姉さんと、下着姿の年上お姉さんに、同時に迫られているような体勢になっていた。

 

「なんだおい、この状態は」

 

 少し我に返って、逆に混乱をきたすという。わけが分からない。

 もちろん嬉しいんだけどね。

 と思っていると。

 手を握ったままの杏さんが、オレに顔を近づけてきた。

 抱きついているまほの上を通り過ぎて。

 顔を赤くした杏さんの、唇が。

 

「いやちょっと待って」

「もがっ」

 

 重なりそうになったところを、もう片方の手で拒む。

 杏さんの顔を容赦なくつかんで、唇まで距離ゼロになる寸前で接近を阻止した。

 くぐもった変な声をあげる杏さん。手のひらに唇の感触が広がったのが、ちょっと気持ちいい。

 じゃなくって。

 

「ちょっと大瀬良くん。シチュエーションはともかく、雰囲気はいい感じだったんだからさ。今はキスするところだったでしょ。しかも女の方からファーストキスに行こうとしてたのに。なにさ、この仕打ちは」

「いやいや、気持ちはすっごく嬉しいよ? 赤くなりながらキス顔で近づいてくる杏さん、めちゃくちゃ可愛かったし」

 

 本当に。いいもん見れた。胸キュンものです。

 ファーストキスと言ってくれるのも、すっごく光栄。

 でも。

 

「申し訳ないけど、まだキスはできません」

 

 きっぱりと告げる。

 虚を突かれたからか、杏さんは少し呆けたような顔をして。

 すぐに、ふくれたような顔になる。

 あ、その顔は初めて見た。

 ふくれっ面でも可愛いとか、反則でしょ。

 

「わけ分かんないことで褒めてもごまかされないからね。女の子のファーストキスを拒むなんて、何が気に入らないのさ」

 

 杏さんのふくれっ面が、赤くなったぞ。あれ、可愛くて反則とか声に出てた?

 でも本当のことだから仕方がない。くるくる変わる表情もいいね。とてもいい。

 

「俊一。さすがに今のは、私もどうかと思うんだが」

 

 頭の中でひとり悶えていたら。

 まほが、オレと杏さんに挟まれながら非難の声をあげてくる。

 確かにね、言わんとすることは分かるんだけどさ。

 

「先に告白してくれたアンチョビさんとは、まだハグしかしてないんだよ? それなのに、杏さんと先にキスしちゃうのは、アンチョビさんに申し訳ないじゃない」

 

 できればキスは、アンチョビさんと先にしたい。してあげたい。杏さんは、微妙に裸のつき合いを先にしてしまった感はあるけど。申し訳ないけれど、ここで変にサカってしまうんじゃなくて、同じ恋人の気持ちを大事にしてあげたいんですよ。はい。

 ということを口にしてみれば。

 目の前に迫っていた杏さんが、悔しそうに身を引いてくれる。

 

「悔しいけど、乙女心としては理解できる。くそぅ、チョビ子め」

「杏さん、くそぅとか言わない」

「でもね大瀬良くん。わたしの中でも結構、乙女心が盛り上がってるんだけど」

 

 自分でも、こんな気持ちになるなんてびっくりだ、という杏さん。

 確かに、男とベタベタするってイメージは湧いてこないな。

 

「小山がしてたみたいな、イチャイチャができると思ったのにさ。意を決して告白したらこんな扱いをされるなんて」

「人聞きが悪い。何を言われようと、今日はおあずけです。せめてアンチョビさんに話をつけてからじゃないと。あともちろん、エッチもダメだから」

「あ、いや、そこまではさすがに。告白したその日にシちゃうには、まだ勇気が足りないよ」

「濡れて下着がスケスケな状態なのにか?」

「西住さん、そう言うことは言わないで。これは不可抗力だから」

「そもそも下着で入浴する羽目になったのは、杏が覗きながら自慰」

「言わないで! 言わないで西住さん! ほじくり返さないで!」

 

 まほの容赦のない茶々に戦慄し、声をあげる杏さん。

 せっかく、オレも忘れようとしてたのに。思い出しちゃったじゃない。

 これだけでは収まらず、まほはさらにぶっ込んでくる。

 

「ん? ということは、私も今日はおあずけになってしまうのか?」

「あー。そうなるのか、な?」

「ちょっと西住さん、新入りの恋人仲間の前で乳繰り合おうとしてたの?」

「そもそも、覗いてるくらいなら間近で堂々と見ろ、という流れで風呂を一緒にすることになったんだろうに」

「え。大瀬良くん、変なこと言ってるのってわたしの方?」

「いやいや、まほちゃん。それって自分から見せてやるぜってことになるよ」

「それこそ今さらだろう。みほとも柚子とも、一緒に抱いてもらってるんだからな」

「言われてみれば、そうかも」

「ちょっと待って。いきなりハードルの高いこと言われてるんだけど」

「いずれ杏も通らなければいけない道だ。受け入れろ」

 

 はい。複数プレイとか着たままエッチとかが好きなんです。

 ハードルの高いことが好きな男でごめんなさい。

 

「とにかく。今日のところは、杏さんはキスはダメ。エッチもダメ。ハグならオッケー。明日以降どうするかは、朝になったらアンチョビさんと話をしてみて」

 

 ただでさえ遠距離恋愛確定なんだから、アンチョビさんの気持ちを重視します。

 でもまぁ、杏さんをおあずけしっ放しってのもアレだから。そのあたりのすり合わせは明日にでも。いや、風呂から出たらすぐ電話して、事情説明をした方がいいか。

 なんてことを言って譲らないオレに、杏さんは苦笑い。

 

「律儀だねぇ、大瀬良くん。それとも、わたしの身体が魅力に乏しいから、後回しでいいやとか思った?」

 

 オレは本気で、先に告白してくれたアンチョビさんに義理立てして、迫る杏さんに待ったを掛けた。杏さんも理解はしてくれたんだろう。おちゃらけた態度と自虐で、場を流そうとしたんだと思う。

 でも、なぁ。

 

「……あー、なるほど。まほちゃんたちが、オレが自虐気味になるのを嫌がる気持ちが今さらだけど分かった」

「だろう。俊一もちゃんと改めるんだぞ? 惚れてる私たちも侮辱していることになるんだからな」

「いちいちごもっともなんだけど。みんながイイ女過ぎるから、こぼしたくなるのも仕方ないと思うんだけどなぁ」

 

 まぁ、オレのことはいいんだよ。今は棚に上げておいて。

 杏さんの言葉に、カチンときてしまったわけだ。

 

「まぁ、さ。西住さんとか小山に比べたら抱き心地も悪いだろうけど」

「はいストップ。そんなことないでしょ」

 

 腰を上げて、湯船から立ち上がり。杏さんに顔を近づける。

 いきなりだったからか。少し身を強張らせた彼女。

 その隙に、杏さんの頬に手を添えて。

 手の方とは逆の耳元に、口を寄せた。

 

「スタイルがどうこうじゃなくて。杏さんだから、オレは、受け入れたんだよ?」

「あぅ……」

 

 小さな声で、囁く。

 添えた手で彼女の頬をそっと撫でる。

 耳に、ほんの少しキスをする。

 

「オレも人のことは言えないんだけどさ。あんまり自分を卑下すると、好きになったオレの気持ちを蔑ろにされてる気分になっちゃうよ」

「そんなつもりじゃ、ん、ない、ん、だけど……」

「じゃあ、もう、そういうことは言わないこと。分かった? 杏さん」

「んっ……。分かった」

 

 いい子だ、と、褒めるように囁きながら。耳元にまた軽くキスをする。囁いてる時にも動く唇が、杏さんの耳にこしょこしょと触れていて。そのたびに彼女は身体を震わせていた。

 可愛い。

 普段の姿からはうかがえない、しおらしい態度にゾクゾクしてしまう。

 杏さん可愛いなぁ、と、こみ上げてくる気持ちのままに。

 彼女の頬を撫でて。

 指先で耳たぶをくすぐる。

 ……やばい。このままいろいろとシタくなってしまう。

 というか、今のもギリギリアウトじゃない?

 杏さんが可愛くて、チ○コもかなりギンギンになっちゃってるよ。

 待て。クールになれオレ。ここはステイだ。アンチョビさんを思い出せ。

 杏さんにもっと手を出してしまいそうになっていた、その時。

 

「あむっ」

「ふおっ」

 

 勃起したチ○コが、温かくてヌルヌルした気持ち良さに包まれた。

 

「んむ、んっ、ん……」

 

 まほが、オレのチ○コを咥え込んでいた。

 立ち上がって、杏さんにちょっかいを出していて。まほの目の前でチ○コをぶらぶらさせていたせいか。

 何度されても気持ちいい、まほのフェラチオ。

 思わぬ不意打ちに腰が震える。まほとの身体の洗いっこと、杏さんの告白とかが重なって、オレも相当興奮していたから。いきなり襲ってきた快感に足の力が抜けてしまう。

 

「くぅ、うぉっ」

「ひゃっ」

「うわっ」

 

 踏ん張ろうとしたところで。

 足をすべらせてしまい。

 

 ばっしゃーんっ

 

 流れるように身体が倒れて、盛大な水音を立てながら湯船に沈んだ。

 もちろん、まほと杏さんを巻き込んで。

 湯船に沈むオレと。

 腰に抱きついていたまほは追いかけるように。

 顔に触れていた杏さんは引き込まれた形で。

 3人揃って、もつれるように湯船の中でもがく。

 

「まほちゃん、なに、げほっ、うおぁ」

「ああああ、平気か俊一、ごほ、無事かっ」

「ごほ、ごほっ、かは。西住さん、この、くぅ、このぉ……」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら。

 あわや溺れて息絶え絶えになるという、全裸と半裸の男女3人だった。

 

 

 ―続く―




会長、まさかのおあずけに憤る。(あと読み手も)
槇村です。御機嫌如何。


今回は全編、「裸、裸、下着姿」でお送りしました。
杏さん、恋人の中でも悪友チックな立ち位置になりそうです。
飄々としながら距離感が近い感じ? いいよね。

女の子が赤くなるようなシチュエーションを妄想するの、楽しいなぁ。



やっと聖グロへ行けますよ……。



※ちょこーっとだけ、文面に修正入れました




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27:君にシャラララ/朝、出立前

 朝、起きると同時に感じたのは、身体に押しつけられている柔らかな感触。

 目を開けてすぐ、ホテルの浴衣を着た杏さんの姿が飛び込んでくる。仰向けになったオレの上から抱きつくような体勢で、気持ち良さそうに眠っている。オレも浴衣姿だから、互いに薄着なのもあって。杏さんの身体の感触がほぼダイレクトに伝わってくる。むにゅむにゅとか、ふにふにとか。

 

「無防備だなぁ」

 

 杏さんがオレの上に。横手には、まほが、可愛らしい寝息を立てている。ゆるく胸を押しつけられていて。ほのかに柔らかさが伝わってくる。

 彼女も浴衣姿だ。というか、浴衣が少しはだけていて、胸のふくらみと谷間が際どい感じで見えている。朝からいいものを拝ませてもらって、感謝しかない。素晴らしいものは、何度見ても素晴らしいのだ。つまり、まほのおっぱいは素晴らしい。

 いいものというなら、杏さんのリラックスした寝顔もとても可愛い。眺めているだけで幸せを感じてしまう。これはあれか、恋仲になったからこそか。

 寝ている間にオレの浴衣も少し緩んで、胸元が少しはだけてしまっていた。そこに杏さんが頬を押しつけていている。杏さんの寝息が直接吹き掛けられて、くすぐったい。

 もっと言うと、うつぶせになってる杏さんの胸が、お腹に押しつけられているのも気持ちいい。確かにボリュームがあるとは言えないけど、ふくらみが潰れている感触はあるし。女の子の身体の柔らかさはしっかり感じられる。

 

「つまり、最高ってわけだな」

 

 胸板に乗っかった杏さんの頭に手を置いて、起こさないように、軽く髪を梳く。撫でられたせいか、彼女は目を閉じたまま少し身じろぎをした。

 さて。ここで気づいたことがある。

 昨夜は、やや変則的な裸のつき合いがあったものの、なんのかんのでエッチなことはしていない。ぶっちゃけて言えば、盛り上がりはしたけど射精してない。

 そのまま朝を迎えたおかげで、朝勃ちそのままにビンビンになっているわけ。下半身が。

 しかもそのイチモツを、杏さんのお腹が押しつぶしていた。

 浴衣越しとはいえ、彼女の身じろぎで擦られる。その動きに反応してしまう。

 杏さんの寝顔を見ながら、無意識に股間を擦られる気持ち良さ。勃起せずにいられようか。朝っぱらから、天国のような地獄。

 

「困ったな。さっさと起こして危機から脱出すべきか。少しでも長く耐えて寝顔を堪能すべきか」

「……さすがに寝顔の観察は、趣味が悪いんじゃない?」

「え、だって初めて見るレア顔だったから。すっごい可愛かったし」

 

 何気なく声を掛けてきた杏さんに、さらっと言葉を返すオレ。

 おはようございます、杏さん。

 目を覚ました杏さんに目覚めの挨拶。彼女も「おはよう」を返してくるけれど、少し恥ずかしそうな顔をしている。でも、にやけているのを隠しきれていない。まさか寝たふりをしてたんだろうか。

 

「これはかなり恥ずかしいな。でも、悪くないね」

 

 顔を伏せて、オレの胸元にぐりぐりと顔を押しつけてきた。その仕草がもう、可愛くて仕方がないぞ。甘えてくる杏さんをしたいようにさせつつ、オレは彼女の頭を撫でる。

 普段ツインテールにしている髪は、今は何も留めていない。ストレートにしたままだ。その姿も初めて見たので、すごく新鮮。

 慈愛を込めて、撫でながら、長い髪を梳く。杏さんも気持ち良さそうに、さらにぐりぐりと顔を押しつける。

 しばらく、そんなゆったりとしたスキンシップを続けていると。脇腹あたりをくすぐられるような感覚。

 目を覚ました、まほだった。

 

「おはよう、まほちゃん。朝からくすぐりって、かなり罰ゲーム感あるよ?」

「おはよう、俊一。なに、目の前でイチャつかれているのを見ていたら、こちらも見てほしいと思ったからな。つい」

 

 確かに、意識はまほに移ったわけだかた、目論見としては成功してるね。

 一方で、杏さんとも「おはよう」の挨拶を交わすまほ。

 

「杏、ずいぶんと吹っ切れたようだな。私が寝ている横で、ひとりでイチャつこうとするとは」

「なに言ってるの。西住さん、とっくに起きてたじゃない」

 

 なんて感じで、オレに引っついたままやり取りを始めるふたり。甘えられるのは嬉しいし、いくらでも歓迎。

 だから。

 杏さんの髪を梳いていた手をそのままに、オレの胸元に頭を引きつける。

 まほは、つかまれていた腕を引き抜いて、彼女の首に回して抱き寄せた。

 ふたりの頭を両腕でかき抱く形になる。まさに両手に華状態。まほも、杏さんも、嬉しそうに頬ずりを始めた。タイプの違う年上のお姉さんふたりに甘えられる。朝イチから幸せ一直線だ。

 でも。さっきも思ったけど、朝だから。股間が立派に自己主張してるんだよね。

 さらに、まほと杏さんが同時に身体を擦りつけてくるから。ふたりの可愛らしさと柔らかさに、もっと反応してしまう。

 圧し掛かってる杏さんは、オレが勃起してるのにもう気づいてるはずなんだよな。押しつけてるお腹の下で、チ○コがひくひく動いてるんだもの。

 

「ねぇ、杏さん。そろそろ本気でどいてくれないかな」

「まだいいじゃん。ひょっとして、抱き着かれるのはイヤだった?」

「そんなことないよ。むしろこちらから抱きしめたいくらい。でもそろそろ、股間がヤバいことに」

 

 もうね、ストレートに言ってしまう。キスもまだなのに、寝起きでぶっかけ未遂してしまうのは、オレとしてもできれば避けたい。

 なんて内心は、悲しいことに伝わることもなく。

 

「大きくなってるねぇ。男の子のアレって、こんなにたくましくなるものなんだ」

 

 軽い言葉で返してくる杏さん。

 でも恥ずかしさが消せていないのが、見ただけで分かる。少し顔が赤くなってるからね。

 そりゃあそうだろう。杏さんには直接的なことは何もしてないし。まだ着衣でのハグ止まりだから。昨夜は一緒に風呂に入ってしまったとはいえ、杏さんは下着姿だったし。まほとは洗いっこをしたけれど、杏さんとは裸で身体を押しつけるようなスキンシップはしていない。

 風呂場で足を滑らせて溺れかけ、何か劣情を催すとかそういう気分はなくなってしまったので。何もせずに出てしまったし。

 先に風呂を出た裸のまほと、濡れた下着姿の杏さんの後ろ姿にムラっとしてしまったけど。少し時間を置いて出たら、まほと杏さんが浴衣に着替えてベッドに座っていたのを見て、胸キュンしてしまって。ムラっとしたのがどこかへ行ってしまった。

 そのまま3人でベッドの上に座り込んで、ダラダラとおしゃべりをしたり。

 なぜか、まほとオレの馴れ初めの話になったり。

 杏さんが、大洗学園に来たばかりの頃のオレの印象を話し始めたり。

 まほとオレが、黒森峰と大洗で離れていた際の話になったり。

 気がついたら、3人同じベッドの上で雑魚寝してしまって。

 朝を迎えたと。

 明らかに友人以上な男女のやり取りだけど、どこかロマンチックじゃないな。でも、はだけた浴衣姿のまほと杏さんに抱きつかれたまま朝を迎えるとか。ほのかなエロスを感じる。

 ……なんかもう、ふたりを抱きしめられるんなら、細かいことはどうでも良くなってきた。

 

「それにしてもさぁ。西住さんの言ってたことが良く分かったよ」

「ん? 何がだ?」

「相手に身を任せると云々って奴だよ。これって相手を決めて、触れられることに抵抗がなくなるとさ。全部もたれ掛かっちゃうのが、こんなに心地いいもんだとは」

 

 そんなことを言いながら、杏さんはオレの身体の上で脱力している。ぐだーっと、ものすごく緩んだ表情でもたれ掛かっていた。

 まほも、オレの横で抱き寄せられた状態で、うんうんとうなずいている。

 

「受け止めてくれる相手がいると、安心する。肩ひじを張っていた自分から、こわばりが溶けていくような気持ちになるな」

「柄じゃないけどさ、守られたいとか、甘えたいっていう女の子の気持ちが分かる気がするよ。そりゃあ小山も、デレデレのバカップルになるわけだよ」

「恋人とのハグはもう日課になってるからね。お望みなら今日からいくらでもしてあげるよ」

「それで嬉しくなってるんだから。わたしって結構チョロかったんだなぁ」

 

 心地良さげに頬ずりしてくる杏さんを、優しく撫でる。

 告白をして吹っ切れたおかげなのか。べったりと密着するのが気に入ったご様子。オレとしても、女の子に抱きつかれるのは嬉しいので大歓迎。いつでもどこでも、どんとこいだ。

 

「あー。わたし、自分がこんな色ボケになるなんて思ってもみなかったよ」

「杏、次は私の番だ。私も抱きしめられたいんだぞ。正面から」

「え。ちょ、うわっ」

 

 まほが、早くどけとばかりに杏さんの身体を押して、オレの身体の上から転がり落とす。次は私だ、と、オレの上に乗っかかり抱きついてきた。腰をまたいで、はだけかけた浴衣からこぼれ落ちそうなおっぱいを押しつけながら、頬ずりをしてくる。

 

「改めて、おはようだ。俊一」

「おはよう、まほちゃん」

 

 ふたりのやり取りはじゃれ合いにも見えるので。オレは鮮やかにスルーする。場所を奪われた杏さんは、少しだけまほを睨みはしたものの。すぐにオレの横手に移動して、寝転がる。

 

「西住さん、今のはちょっとひどくない?」

「一晩中抱きついていたじゃないか。起きたのなら変わってくれてもいいだろう?」

 

 じゃれ合いならいいけれど、変に空気が悪くなるのも困るので。

 こういう時のオレは、総じて抱きしめてごまかすのだ。

 

「おっ」

「ひゃっ」

 

 オレの上に圧し掛かっているまほの腰に手を回して、抱き寄せる。そのまま彼女の首元に顔を埋めた。

 添い寝するような体勢の杏さんは、頭に手を回して、オレの胸板に引き寄せる。サラサラの長い髪を梳きつつ、頭を撫で回す。

 

「んっ……」

「ん。ちゅ、ちゅっ」

「おぉ……」

 

 まほが顔を上げて、唇を重ねてきた。

 さほど長くないキス。いきなり至近距離で見たせいか、杏さんが声を上げる。単純に驚かされた、みたいな感じで。

 そんな彼女に、まほが先輩風を吹かせるように。

 

「杏。ハグだけじゃなくて、キスも日課だからな。早いうちにアンチョビと話をつけておかないと、大洗に戻ってからの楽しみが半減するぞ」

「なるほど。よし、頑張ろうじゃないか」

 

 煽るようなことをいう。

 杏さんも、オレに腕枕をされながら、「望むところだ」みたいな言葉を返した。

 キスもハグも大歓迎、と受け取れる、年上のお姉さんたちのやり取りに、幸せを噛みしめる。まほを抱きしめ、杏さんを撫でる手につい力がこもる。

 同時に、猛っていた股間にも力が入ってしまい。

 

「……そういえば。昨夜は結局、何もしないままだったからな」

 

 感づいたまほが、勃起したオレのチ○コに太ももをおしつけてくる。

 浴衣の上からでも感じる柔らかさ。

 というか、浴衣がはだけて、肌が直接触れているような気もする。

 気持ちいいし、嬉しいし、もっとして欲しいのはやまやまなんだけど。

 今日は、これ以上はよろしくない。

 

「まほちゃんストップ。今日はエッチなことはダメ。さっきはつい許しちゃったけど、もうキスもおあずけだからね」

 

 まほの頭を撫でながら、これ以上迫ってくるのを止めさせる。

 正直なところ、オレの方が我慢できなくなっちゃう。

 

「……義理堅いところと、他の相手の気持ちを大切にするところは、私も好ましいとおもってるんだが」

「おあずけされた本人としては、ぼやきたくもなるよねぇ」

 

 まほは、オレの胸元に頬ずりしながら、拗ねるような言葉をこぼす。

 杏さんは、自分もその理由の一端と自覚しているせいか、苦笑しきりだ。

 まぁ、申し訳ないけれど我慢してもらおう。

 チェックアウトまでまだ時間は十分、というわけでもないので。

 もう少しだけ、ベッドの上でダラダラとイチャついてから。

 静岡を離れる準備を始めるオレたちだった。

 

 

 

 

 

 午前8時過ぎ。ホテルをチェックアウトした杏さん、まほ、そしてオレの3人は、次の目的地である聖グロリアーナ女学院の学園艦を目指して、横浜へと向かう。

 でも、その前に。

 

「おぉーい」

 

 アンチョビさんと待ち合わせだ。

 昨日と同じ、港の周りを見渡せる場所。紺のスカート、白いシャツ、ネクタイという制服姿に、マントを羽織ったアンチョビさんが、大きく手を振りながら近づいてくるのが見えた。

 彼女の声に応えて、こちらも手を振って見せる。気づいたアンチョビさんが、いっぱいの笑顔を浮かべて小走りで向かってくる。

 シチュエーションとしては昨日とほぼ同じ。だけど今日のアンチョビさんは、オレと恋人同士という関係なのだ。そう思うと、なんだかついつい、にやけてしまう。

 

「昨日ぶりだな、大瀬良」

 

 少し息を切らせながら、微笑むアンチョビさん。

 うん、可愛い。

 

「可愛いなぁ、アンチョビさんは」

「ひあっ」

 

 つい抱きしめてしまう。

 こみ上げてくる気持ちが抑えられなくて。

 

「おおおおおおおおせらっ、いきなり過ぎるぞっ」

「こみ上げてくる気持ちが抑えられなくて」

 

 思ったことがそのまま口に出てしまうくらいに。

 いきなりハグされたアンチョビさんは、真っ赤になって硬直してる。

 でも、腕の中から逃げ出そうとはしない。

 気を許してくれてるんだなぁと、実感する。

 でもその一方で、ね。

 

「気持ちに嘘はないんだけど。都合が良過ぎるだろこのスケコマシが、ってひっぱたかれても文句は言えないんだよね」

「あー……。角谷のことか」

 

 杏さんの告白とかあれこれ。昨夜、風呂から出てすぐにアンチョビさんに連絡を入れてある。杏さんに告白されたことと、受け入れたことを電話越しに告げた。もちろん土下座で。本当にもう、オレの土下座にどれだけの価値があるのやら。

 オレの土下座コールに続いて、杏さんも話に参加した。自分から、オレに告白して、受け入れられたことを、同じ電話でアンチョビさんに告げている。お前の勢い任せなアタックのおかげで自分の気持ちに気づかされたとか、いろいろと事情やら何やらを加えながら。

 その流れで、オレの携帯電話を通したガールズトークが始まり。まほ、杏さん、アンチョビさんの女の子サイドでうまいことまとめられた。

 もちろんオレが何かを言えるわけもない。その間ずっと正座である。電話代ももちろんオレ持ち。オレをネタにしたガールズトークを傍で聞かされるという、羞恥責めを受けながら。

 むしろそれぐらいで皆の心情が落ち着いてくれるなら、万々歳だ。

 そんなこんなで一応、納得済みで話はまとまったのだけれど。

 実際に顔を合わせたら、いろいろ申し訳なさとかもこみ上げてくるわけで。

 

「何度もぶり返すようで申しわけないんだけど」

「なんだいきなり」

「オレ、アンチョビさんのこと大好きです」

「ふわっ!」

「でも、杏さんも好きなんです。まほちゃんも、みほちゃんも柚子さんも大好きなんです」

 

 みんな大好きで、誰にも渡したくない。

 呆れた独占欲だけど、オレの偽らざる気持ちなわけで。

 そんなオレの、男に都合のいい物言いにアンチョビさんは微笑みを返す。仕方のない奴だな、みたいな表情で。

 

「それについてもはもう呑み込み済みだって言ってるだろう。何股云々と言うなら、むしろ私や角谷の方が許しを乞う立場じゃないか」

「まぁ確かに、冷静に言えばそうだね」

 

 恋人のいる男に言い寄ったんだからな。

 アンチョビさんの言葉に、背中の方から杏さんが同意する。彼女の方を見ていなくても、杏さんが苦笑いしているのが簡単に想像できた。

 

「でもこういう場合は、自制しない男の方が悪者になるもんじゃない?」

「まったく、お前は……」

 

 いきなり、ぐいと。

 アンチョビさんが、オレの背中に腕を回して。

 

「ん、ちゅっ」

「あ」

 

 頬に、キスをした。

 少し背伸びをしたアンチョビさんが、顔を赤くしたまま睨んでくる。

 

「大瀬良。他ならぬ私自身が選んで、お前がいいと決めたんだ。私を手放す気はないんだろう? なら、見限られないように精進すればいいだけじゃないか」

 

 気遣ってくれるのは嬉しいけどな。と、男前なことを言ってくるアンチョビさん。自信満々でキリッとした物言いだけど、頬を染めてるのがむしろ可愛さを強調させる。

 まいったね、どうも。

 オレの周りにいる女の子は、どうしてこんなにイイ女ばかりなんだろうか。

 

「これからもっと、アンチョビさんに惚れてもらえるように頑張ります」

「ん。それでよろしい」

 

 アンチョビさんはもちろんだけど、みんなと釣り合うような男でい続けるのは大変だ。

 でも。

 頑張りますよ。

 オレの答えがお気に召したのか。アンチョビさんが抱き着く力を強くする。

 彼女に倣って、オレも彼女の腰に腕を回す。細い腰を抱き寄せて、身体を密着させた。さらに覆いかぶさるように、顔を近づけて、頬と頬をくっつける。

 

「アンチョビさんは本当に、イケメンだなぁ」

 

 あまりの男前振りに惚れてしまいそうだ。

 いや、もう離したくないくらい好きになってるんだから。何も問題ないか。

 

「……大瀬良。それは褒めてるのか?」

「めっちゃ褒めてるよ。イイオンナで、可愛くて。もうね、好き。大好きだよ」

 

 抱きしめたアンチョビさんの頭に頬を、グリグリと擦りつける。

 さっきの男前振りはどこへやら吹き飛んで。途端に、女の子の恥じらいが前に出て慌て出す。はわわわ、って感じで、どうすればいいのか分からずパニクる姿も可愛い。

 

「なんていうかさ。チョビ子を贔屓し過ぎてない?」

「仕方ないだろう。私たちはアンツィオから離れてしまうわけだし。過剰なくらいにスキンシップをして、俊一成分を溜め込む必要がある」

 

 オレがアンチョビさんとスキンシップを取っている後ろで、まほが遠距離恋愛の辛さをとつとつと語っていた。

 

「わたしたちは同じ学校だから、慌てる必要もないってことか」

「遠距離で会えないっていうのはな、辛いぞ? 触れられなくて、触れてもらえなくて。抱きしめてもらえないし、キスもできないんだ」

「いやまぁ確かにそうだけどさ。西住さん、口調が重いよ?」

「経験者だからな」

 

 まほは黒森峰で、戦車道絡みの突き上げを受けていたことより、オレと顔を合わせられないことの方が辛かったって言ってたしね。果報者だよオレは。そういうのを聞いて、ハグや身体の触れるスキンシップが多くなってるのもあるかな。

 なんてことを考えていたら。

 

「そうだ、私だけ離れることになるんじゃないか。そう考えると、角谷が憎たらしくなるぞ」

 

 アンチョビさんがふたりの会話にツッコミを入れてくる。

 ちなみに今の体勢は、アンチョビさんに背中から抱きついて、腕を回し、彼女をあすなろ抱きにしている。肩ごとつかむように抱きしめているオレの腕を、アンチョビさんが手を置いて握りしめていた。

 これはオレでも分かる。明らかにバカップルだわ。

 でもまぁ、まほと杏さんの言う通り、アンツィオから離れてしまうわけだから。少しでもスキンシップを取っておきたいというのも事実。

 

「私の方が先に告白してるのに、どうして恋人っぽいことを先取りされてるんだ」

 

 納得いかん、と、アンチョビさんが吼える。オレにあすなろ抱きされたまま。

 あ、そっちなんだ。

 つまり昨夜の電話の後、杏さんがオレとイチャイチャしてたのが面白くなかったと。

 

「まぁ、うん。イチャついてたのは認めるよ。あれはいいね。好きになった男の子とベタベタするのはいいもんだって実感した」

「くそぅ。妬ましいな」

「でも、エッチなことはしてないよ。ハグ止まり。キスもしてないし」

「え、そうなのか?」

 

 アンチョビさんが、腕の中からオレを見上げてくる。

 その「そうなのか」はどういう意味ですか。想像はつくし、言い訳もできないけど。

 とりあえず、告白された順番を考えて、アンチョビさんを差し置いて杏さんと関係を深めるのはどうかと思ったこと。そのためにキスはなし、ハグのみ許可を出して雑魚寝したこと。エッチなことはもちろんしていないこと。まほも、その流れでおあずけを食らってぼやいたことなど話した。

 すると。

 

「……男に特別扱いされるっていうのは、こう、嬉しいものなんだな」

 

 アンチョビさん、ガチ照れ。

 顔を真っ赤にして、すっごいニヨニヨした表情を浮かべる。

 さらに、恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。

 まぁ、顔を埋めているのはオレの腕なんですけど。

 可愛い。

 特別扱いとは言っても、普通だったらする必要のないタイプの気遣いなんだけどね。

 もちろん言う必要のないことなので、口にはしない。

 オレはデキる男になるんだからな。

 

「それにしても、角谷が男に告白とはなぁ。恋愛に興味を持つとは思わなかったぞ」

「ひとのことを何だと思ってたんだチョビ子は。わたしだって女子の端くれだからな。気になる相手ができたんなら、相応に乙女なことを考えたりもするさ」

 

 アンチョビさんと杏さんが、憎まれ口の応酬を始める。お互い様だなと笑ってオチを決めるあたり、いがみ合うような剣呑さはまるでない。

 と、思っていたんだけど。

 

「でさ。大瀬良くんは、チョビ子のために、わたしの決意のファーストキスを拒む真似までしてくれたんだけど。いやさ、そういう義理堅いところは好ましいから、納得はしたよ。でもわたしの乙女心的には、モヤモヤするわけ」

 

 杏さんが、絡むようなことを言い出した。

 その気持ちは男のオレでも分からんではない。

 

「ぶっちゃけるとさ。チョビ子が先に進んでくれないと、わたしが乙女的におあずけされ続けることになるんだよねぇ」

「いや、昨日の今日でそんなことを言われてもだな」

「チョビ子。お前に、ファーストキスを拒否られた友人の気持ちが分かるか?」

「うぐっ」

 

 あすなろ抱きしているアンチョビさんの身体が硬直する。

 いやでも、それってオレを責めるべきで、アンチョビさんを責めるのは違うのでは。

 と思って杏さんを見てみれば。オレの視線に気づいたのか、杏さんがニヤリと笑う。

 この人、分かってて言ってやがる。

 でもまぁ。このあたりはアンチョビさんと杏さんの間で折り合いがつくのなら、オレとしては何も言うことはない。オレの気持ちを正直に言えば、むっちゃキスしたいです。

 

「いやでもな角谷。私としては、もっと段階を踏んだ交際ってやつを堪能したいんだが」

「じゃあさ、チョビ子より先にキスしてもいい?」

「それはダメだ!」

 

 アンチョビさん、即答。

 少し間を置いて、自分の言ったことに気づいて赤面した。

 可愛い。

 杏さんの方は、してやったりみたいな顔でニヤついてる。本当にこの人は……。

 対してアンチョビさんは、素直でピュアだなぁとか。もうなんて言えばいいのやら。

 

「アンチョビさんは本当に、可愛いなぁ」

 

 後ろから抱きしめたまま、アンチョビさんの耳元から頬に掛けて、唇を落とす。軽いキスを、ちゅっちゅっ、ちゅっ、と連続して。可愛くてたまらない。

 

「オレの方から、唇を奪いたくなる」

「え、おいっ。こら、大瀬良っ」

 

 ふざけるように、アンチョビさんの頬にちゅっちゅするオレ。柔らかくて、ぷにぷに。これが唇だったら、もっとドキドキとか、気持ちいいとか嬉しいとか。

 そんなことを思いながら。

 

「あっ」

 

 アンチョビさんのあごに指を添えて。

 くい、と。

 オレの方に顔を向けさせる。

 

「アンチョビさん。オレと、キスしよ?」

「……うん」

 

 抱きしめながら、あごクイをキメて。

 強引に迫るオレに、アンチョビさんは熱のこもった瞳を返す。

 オレはゆっくりと、唇を近づけて。

 触れる前に、ちょっと止まり。彼女と目を合わせながらひと言。

 

「千代美さん。大好き」

 

 名前を呼びながら、唇を重ねた。

 彼女の呼吸まで呑み込むつもりで。

 

「ん、ふ。んぅ……。ふぁ」

 

 オレとアンチョビさんの口元が、互いの唾液で濡れる。

 唇、柔らかい。

 少し早い息継ぎが伝わってくる。

 うっとりした、どこか焦点があっていないようなアンチョビさんの蕩けた表情。

 かなり、クル。ゾクゾクする。

 

「その表情、オレ専用だからね?」

「あぁ。大瀬良だけ、だからな」

 

 その返事が嬉しくて。もう一回、アンチョビさんに口づけ。

 ちゅっ、と軽く触れるだけの口づけに、彼女の顔が笑顔で緩む。

 

「優しいタイプの男に、強引に迫られるのってドキドキするな……」

「普段はキリッとしているお姉さんが、オレの前ではトロトロに甘えてくるっていうのもドキドキするよ?」

「お互い様か。いいことじゃないか」

「気が合うようで何よりだね」

 

 息が吹き掛かるほどの距離で、互いの目を見つめながら。くすりと笑った。

 でもまぁすぐに、アンチョビさんも気づくだろう。

 今いる場所が、さえぎるものが何もない場所だということに。

 キスを迫られていた一部始終を見られていたことに。

 その最前列にいた、まほと杏さんは、さすがに空気を読んだのかこちらに絡んでこない。

 

「どうしよう。今のがちょっと羨ましいと思ってる……」

「してもらえばいいじゃないか。遠慮せずに」

「え、いやでもさ」

「私は後でしてもらおう」

「本当に、自分の感情に素直だよね。西住さん」

「ちゃんとできると思うぞ? この通り、録画したからな」

「うおぉい西住! 何やってるんだお前はぁっ!!」

 

 前言撤回。

 すごく絡んできた。

 特にまほが。

 

「安心しろアンチョビ。ちゃんとお前にもデータは送っておくからな」

「そういう問題じゃないだろぉぉぉ!」

「じゃあ、消すか?」

「いや待て消す前に私だけに送っておいてほしいでもああああああ」

「チョビ子が壊れちゃったよ……」

 

 ツインテールを振り乱して、ガチで悶えるアンチョビさん。

 スマホを掲げたまほの、おそらくは好意からだけど容赦のない仕打ち。

 あんまりなやり取りに呆れた声を漏らす杏さん。

 どうにもならないその惨状に、オレは苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 アンチョビさんが、オレに抱きしめられたのも。

 唇を奪われたのも。

 羞恥で悶えるところも。

 実際に、それなり以上の人に見られていた。後でアンチョビさんに聞いたところによると、新学期が始まると同時に変な意味でも有名になってしまったらしい。

 また奇しくもそのおかげで、戦車道チームにえらく大勢の新人が入ってきたとか。

 そして「彼氏持ち!」「さすがドゥーチェ!」とか囃し立てられ、悶絶したという。

 でも、そんなことをこぼすアンチョビさんは、どこか嬉しそうにしている。

 もちろん、オレはそれを指摘することなく、微笑ましく見るだけだ。

 オレは指摘してないよ?

 うん。オレはね。

 まほとか、杏さんが何を言ったかまでは知らない。

 知らないってことにしておく。

 

 

 

 ―続く―




気がついたらこんな内容になっていた……。
槇村です。御機嫌如何。


このお話って、誰に対しても「可愛い可愛い」って連呼してる自覚があるんだけど。
特にドゥーチェにはやたら「可愛い」って言ってるような気がする。

あくまでイメージだけれど。
ドゥーチェは、ロマンチックな雰囲気で強気に押されると弱そう。
杏さんは、ふたりきりになると途端に甘えたり拗ねたりしてくる感じ。
イメージというより願望じゃないのかこれは……。


評価を入れてくれた方、ありがとうございます。励みになります。
感想を書き込んでくれる方、ありがとうございます。めっちゃ嬉しいです。
次回こそ、聖グロ入りです。
引き続きよろしくお願いします。



※誤字のご指摘ありがとうございます。




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大洗学園視察団が行く!/聖グロでもひと騒動
28:ファーストコンタクト


短いけどカンベンな。



 アンチョビさんの見送りを受けながら、いろいろあったアンツィオ高校から離れるオレたち大洗学園一行。

 まぁいろいろあったのはほとんどオレなんだけどね。

 次はいつ会えるか分からないアンチョビさんの唇をやや強引に奪って、彼女の蕩けた顔を堪能したり。

 天然ぶりを発揮して、と言えばいいのか、まほのおかげでその場が騒がしく掻き回されたり。

 杏さんが、アンチョビさんと両手をがっつり組んで力比べをしながら何か言い合いしてたり。

 本当に騒がしかったなぁ。オレが言うのもなんだけどさ。

 特に杏さんは、キスの順番云々とかもあって、アンチョビさんとえらくエキサイトしてたみたいだけど。どうやら折り合いはついたらしい。

 

「いやー、なんていうかさ。自分の好きなタイミングでファーストキスをあげられるって考えると、いろいろシチュエーションを考えちゃうね」

 

 キス解禁が出たことで気持ちに余裕ができたのか。杏さんは「すぐにキスしろ」みたいなことは言わず、ごく普通に接してくる。

 むしろ自分でいかにファーストキスの場面を作るか、なんてことを考えてるみたい。

 アンチョビさんのことを言えないくらいのロマンチック思考だと、当人は気づいているんだろうか。もちろんオレはそんなことを口に出したりしないけど。

 でも、オレに面と向かってそれを言うのはどうなの?

 しかもむっちゃ楽しそうだし。イタズラを考えてるようなニシシ顔をしてるし。

 まぁ、飾らない素の部分を見せてくれていると思えば、嬉しいと感じられる。

 杏さん、可愛い。

 さてさて。

 本来、オレたちは戦車道チームの視察を目的にここまで来たわけで。これから第2の目的地、聖グロリアーナ女学院を訪ねるべく横浜へと向かう。

 静岡の清水港から神奈川の横浜港まで、約2時間ちょっと。道中は杏さんがやや浮かれ気味だったので、あれこれ楽しくやり取りをしている間に着いてしまった。

 特に新幹線に乗ってた時。3人掛けシートの真ん中にオレが、その両隣をお姉さんふたりが挟むように座った。昨日の杏さんが言うところの「イチャイチャ」に彼女自身も加わって、楽しい時間を過ごすことが出来た。うん、良きかな。

 横浜についてから、港へ向かう時もそれは変わらない。凛々しい美人タイプのお姉さんと、小柄な小悪魔タイプのお姉さん。そんなふたりに両腕を取られて、抱き着かれた状態で歩く。

 正直、目立つ。めちゃくちゃ目立つ。男の嫉妬混じりな視線はもちろん、女性の興味深げな視線まで突き刺さってきた。でもふたりの手を解いたりはしなかったけどね。

 オレたちのイチャつく姿はまさに堂々としたもの。まほの友だちだっていう、出迎えてくれた聖グロリアーナ女学院の人が呆れ顔をするくらいに。

 

「……私はなぜ、知人のバカップルぶりを見せつけられているのかしら」

「おぉ。お前でもバカップルという言葉は知ってるんだな、ダージリン」

「もしかしてバカにしてますの? まほさん」

「私はいたって真面目なんだが」

「なんだか調子が狂いますわね……」

 

 黒森峰にいた頃のまほを知っていれば、男にべったりと引っついてる今の姿はそりゃあ意外だろう。戦車道が絡む真面目な用件だと思っていたら、男連れでやって来たんだから。驚くのも無理はない。

 

「まほさん。貴女、わざわざノロケに来たのかしら?」

 

 頭痛をこらえるかのように、額に指を置きつつ顔をしかめる、ダージリンと呼ばれた女性。

 まぁ確かに、「何しに来たんだこいつ」と思うのも無理はない。だって、まほはまだノロケの類しか口にしてないもんな。

 

「えーと、ダージリンさんだっけ? 黒森峰の頃の西住さんは知らないけどさ、大洗に来てからの彼女はずっと恋愛脳丸出しだから。無理にペースに乗ると疲れちゃうよ?」

 

 自分の知るまほとのギャップに苦しむダージリンさんに、杏さんが笑いながらフォローに入った。これ以上脱線する前に、本来の要件に入ってしまおうと思ったのかもしれない。……フォローなのかなコレ。

 

「大洗学園の生徒会長、角谷杏だよ。今日は視察を受け入れてくれてありがとう」

「ダージリンですわ。聖グロリアーナ女学院、戦車道チームの隊長を務めています」

 

 ダージリンさんも、杏さんに乗っかってきて。互いに挨拶を交わして握手をする。

 

「このたびはよくいらっしゃいました。歓迎いたしますわ、角谷さん」

「新入生の受け入れとかで忙しい時期に面倒なお願いをして、済まないね」

「いいえ。新たに生まれる戦車道チームの一助になれるのですから、先達としてこれくらいはなんでもありません。交流という意味でも、意義のあることですわ」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

 にこやかに、柔らかい物腰で対応するダージリンさん。一方で杏さんの方は、かしこまった態度をしながらも、失礼にならない程度に口調を崩している。特に咎めるような雰囲気もないから、問題ないんだろう。そういう気配りみたいなのは、杏さんはできる方だし。

 

「で、気になる彼だけど。ウチの後輩で、大瀬良俊一くん。実を言うと視察そのものには関係なくてさ。ちょっと事情があって同行してくれてるんだ」

 

 ちょっとぼかしてオレを紹介する杏さん。まぁ、まほがアンツィオ高校で『ローマの休日』ごっこをしたいから連れてこられた、とか言えないよね。

 もちろん、オレもそのあたりを表に出すことなく。

 

「大瀬良です。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 

 ごく自然に挨拶を交わす。ダージリンさんの方も、礼儀正しく挨拶を返してきた。

 ……なんだろうか。礼儀正しくはあるんだけど、初めて会った時のまほのような、圧みたいなものを感じる。とっつきにくいというか、つき合うのが面倒そうな貴族のお嬢様っぽいというか。美人さんなのでとても様になっている。

 そもそも、女子校だと分かってるのにノコノコ着いてきた男って時点で、気に掛けるレベルも低くなるかもしれない。それなら仕方ないかもな。

 でもその割に、興味深げな目を向けられてる気もするけど。

 

「とりあえず、まほさんとの関係は後でうかがうことにしますわ」

 

 気のせいじゃなかった。

 むしろ興味津々じゃねぇか。

 

「あと、こちらはアッサム。チームの副官のような立場なので、今日はご一緒させていただきますわ」

「よろしくお願いします」

 

 アッサム、と紹介された人が、言葉少なに礼をする。

 ややツリ目でキリッとした見た目のせいか、少しキツい印象を受ける。でも、ロールのかかった長い髪を大きなリボンで留め、おでこが出るようなひっつめにしているおかげか、雰囲気が少し柔らかく感じられる。

 とまぁそんな風に、ひと通り挨拶も済んだところで。

 

「さて、まほさん。こんな格言を知ってる? 『愛とは一種の花。種子が風に吹かれ、落ちたところで開花する』。ちょっと見ない間に、貴女にどんな風が吹いたのか。興味があるわ」

 

 いきなりダージリンさんがぶっこんできた。

 せっかく話を真面目な方に持っていったのに、と、杏さんが笑顔を引きつらせる。

 アッサムさんは、隠す素振りも見せずに溜め息を吐いた。

 あ、もしかしてこの人、柚子さんみたいな苦労人タイプなのかも。

 そして、まほはここでも自分のペースを崩さない。

 

「何がと言われれば、お前の言う通り。最たるものは恋人ができたことだな」

 

 超クール。まさかのストレートな返しに、ダージリンさんが硬直する。直球過ぎて反応しきれなかったみたい。

 そして、まほの返しはまだ続く。

 

「話すのはいいが、盛大な惚気話になるぞ? ここまで来た当初の目的が終わってから、満足いくまで語ってやろうじゃないか」

「え、ちょ」

「杏もまざるか?」

「確かにその方がいいかもね。やることを終えてからの方が、学園艦を降りるギリギリの時間まで惚気られるだろうし」

 

 さらに杏さんが参戦。言葉に詰まったダージリンさんをほったらかしにして話が進む。

 というかさ、ちょっと待って。さっさと仕事を終わらせてから、残り時間全部使って恋バナしようぜ、って言ってるように聞こえるんだけど。ダージリンさんは引きつり顔で、アッサムさんも驚いている様子。

 そんなふたりを眺めていると、両腕に抱きつかれる感触。言うまでもなく、まほと杏さんだ。

 

「想像している通り、相手は俊一だ」

「加えてわたしも、大瀬良くんと恋人同士なんだよね」

 

 まほはほんのりと、杏さんは少しいたずら気味に、笑顔を浮かべる。

 一方、ダージリンさんとアッサムさんは驚天動地みたいな顔になっていた。公認二股みたいなことを言われたら、そりゃ驚くよな普通は。実際には二股どころじゃないんだけど。

 なんかもう、すいません。

 

「よし。そうと決まれば、やることを早々に終わらせてしまおう」

「あー。西住さん、気持ちは分かるんだけどさ。さすがに生徒会長としては、ちゃちゃっと終わらすとは言えないかな。やるべきことはきちんとやっておかないとね」

「む、それもそうか。いささか逸っていたようだ。杏、済まない」

「いやいや、わたしも気持ちは分かるからね。でも、そうかぁ。自分から惚気を語りに行くのか。想像したこともなかったけど、それもいいかもねぇ」

 

 なんだか訳の分からない方向に盛り上がってる、まほと杏さん。

 違うよ。違うだろ。

 

「ふたりとも、お願いだからちょっと待って」

「おっ、と」

「うわっ」

 

 落ち着けとばかりに、ふたりの首に腕を回して、押さえつけるように引き寄せる。

 妙な方向にテンションが上がっても、他の人はついていけないから。仲間内ならともかく、それ以外の人がいるなら少しは自重しようよ。

 みたいなことを、ふたりに顔をくっつけながら説得する。ほら、惚気すぎたせいで、まほの友人関係が微妙になるとかは避けたいし。

 

「後で何をするかは置いておいて。まずはきちんと視察なり説明会なりを真面目にやろうよ。ほら、杏さんも今は生徒会長モードで」

「分かってる、分かってるって」

「普段と変わらない軽さが、今は少し不安になるのはなんでだろう」

「あはは。締めるところはちゃんと締めるよ。西住さんと違って浮かれてばかりじゃないから」

「待て、杏。私が浮かれてばかりとはどういうことだ」

「え、自覚なかったの?」

「あーもう、ふたりとも。止めてよして落ち着いてー」

 

 なんてことを、ダージリンさんたちを置いてきぼりにしてやってしまい。

 それもどうにか落ち着いたところで。

 

「いやもうすいません。お待たせしちゃって」

「いえ、それはいいのだけれど……」

 

 ダージリンさんに謝るも、どう反応すればいいものか戸惑っているように見える。

 あ、これはあれだ。他人の目を気にせずイチャついて、困ってる人の反応だ。

 いかにもわざとらしく、大きめに咳をして。スルーしようぜと促してみる。

 彼女の方も、とりあえず場の流れと空気を換えようと思ったのか。息を継いでから、オレに話を振ってきた。

 

「ん、んんっ。ところで。大瀬良さん、でしたわね」

「あ、はい。なんでしょう」

「聖グロリアーナは女子校なので。申し訳ないのだけれど、さすがに校舎の中までは殿方を入れるわけにはいかないのよ」

「確かに。そりゃそうですね」

 

 うん、それはごく当たり前のことだね。

 それじゃあ、港周辺を適当にぶらついて時間を潰そうか。

 と、思ってたら。

 

「でも、案内役が同行した上で、指示に従ってもらえるなら、学園艦の見学を許可します」

「え、本当に?」

 

 いかが? と尋ねてくるダージリンさん。いいんですかそんなことして。

 ナビゲーター役がついて堂々と女子校を散策できるとか、オレとしてはむしろ願ったりかなったり。断る理由がない。ふたつ返事で了承し、お願いした。

 

「では、このアッサムに案内役をさせますわ」

「は? ちょっとダージリン」

「お願いね、アッサム」

「あなた、まさかこのために私を連れてきたのではないでしょうね」

「それこそまさかよ。殿方が一緒とは聞いてなかったのだし」

 

 ……なんだか揉めてるんだけど。あれか、基本的に仲は良好だけど、立場では上のダージリンさんが奔放とか愉快犯とかそんな感じで、サポート役のアッサムさんが振り回される。みたいな関係なのかな。

 どうしよう。ますます杏さんと柚子さんの関係とダブって見えてきた。

 

「ん? どうしたの大瀬良くん」

「いや、なんでもないです。えぇ」

 

 杏さんの顔をチラ見して。何か感づかれる前に視線を外した。

 何も考えてませんよー。

 

「ひとまず、オレたちの方は落ち着いたけど」

「今度はあちらの方が揉め始めちゃったねぇ」

「ダージリンのことだ。半分くらいはからかってるんだろう」

 

 でもそれって、される方は結構面倒だったりするんだよなぁ。

 なんて風に、大洗にいる柚子さんを思い返しながら。

 ちょっとした言い合いになっている、ダージリンさんとアッサムさんを眺める。

 変にこじれないといいけど。

 少し不安になるオレだった。

 

 

 

 ―続く―




賑わう横浜の街を、両手に華で堂々と歩くストロングハート。
槇村です。御機嫌如何。


せっかくだから『~最終章 第2話』公開日に更新しとこうかなぁと思い立って。
本当に、会っただけで終わらせてしまった。
ダー様の口調って書くの難しい、と思うのはオレだけだろうか。
最初期は「高飛車」って設定もあったからさ……。




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29:世界はそれをデートと呼ぶんだぜ/アッサム

 アッサムさんがダージリンさんを責め立てる、立て板に水みたいな言い合いが落ち着いてから。ダージリンさんはひと足先に、まほと杏さんを連れて学園艦に上がっていった。

 

「どんなところを案内するか、彼と決めてからゆっくりいらっしゃいな」

 

 去り際にそんなことを言ってきたダージリンさん。絶対あの人、楽しんでるよね。

 まほと杏さんも特に口出しすることなく、「また後で」とあっさり別れてしまった。

 いや、杏さんだけはニヤついてたけど。後で頬を引っ張ってムニムニしてやる。

 そんなこんなで。オレとアッサムさんはふたりきりにさせられた。

 

「すみません。お見苦しいところを……」

「いや、お気になさらず……と言っても難しいか。なんというか、お疲れ様です」

 

 心なしか憔悴した雰囲気を見せるアッサムさん。思わず出たオレの気遣うような言葉に、彼女は苦笑いを浮かべる。

 

「彼女も普段はそれなりにちゃんとしているのですが。ふとした拍子に、思いつきでおふざけを振ってくるところがあるんです」

「あ、やっぱり。失礼な言い方だとは思いますけど、苦労人というか、フォロー役の悲哀というか。そんなものを感じたのは気のせいじゃなかったんだなぁ」

 

 ウチの生徒会長も愉快犯タイプだから。副会長が日頃から振り回されている。

 なんてことを言うと。

 

「私と同じような、似た境遇の人もいるんですね……」

 

 と、アッサムさんは笑う。

 オレも合わせて笑うけど、どこか力のない空々しいものだった。仕方ないなぁみたいな。

 いや、このままじゃいけない。話題を変えよう。

 

「えっと。アッサムさん、と呼べばいいんでしょうか」

「あ、はい。アッサムで構いません」

「いきなり他校の男子生徒をお守りを押しつけられるのは迷惑じゃありませんか? なんなら、どこか腰を据えられる場所を教えてもらえれば、放置でも構いませんよ?」

 

 いきなり初対面の男の相手をしろとか言われたら困るだろう、普通。喫茶店とかファミリーレストランとか、そういうのがあれば、杏さんたちの仕事が終わるまで時間を潰しててもいいし。

 女子校を案内してもらうのは魅力的ではある。でも言い争いをするほど不快なら、お世話になるのも申し訳なくなってしまう。

 普通に考えれば、「女子校の中を見て回りたい? フケツ!」みたいに思われても不思議じゃないだろうと。ましてや相手が女性と何股を公言するような男なわけだから。

 なんてことを伝えてみると。

 

「……とりあえず、場所を移しませんか? それからどうするかを決めましょう」

 

 人の行き来が多い港。しかも新学期前の学園艦が帰港しているから、同年代の女の子の数が多い。突っ立ったまま男女が向き合っていたら、目立って仕方ない。

 とりあえず、手近にあったベンチに並んで腰を下ろした。

 

「きゃっ」

「あっ、と。ごめんなさい」

 

 ちょっと近いところ、腕が触れそうな距離に座ってしまった。謝りながら少し距離を置く。

 自分の周りにいる女の子は恋人たちが多かったから、接する際の距離感が狂ってた。

 パーソナルスペースってやつ?

 初対面の男がいきなり近い距離まで近づいてきたら、そりゃあ声も上げるよ。

 

「ごめんなさい。いきなり近くに寄っちゃって」

「い、いえ。驚いてしまっただけですから」

 

 幸い、というべきか。アッサムさんは虚を突かれて驚いた、っていうだけみたい。少なくともあからさまな嫌悪は表に出していない、ように見える。

 ただでさえオレは「何股も掛けるスケコマシ」っていう、女性に嫌われる要素があるわけだから。アッサムさんが気を悪くしないように振る舞わないと。

 えっと、まずは。

 

「再確認になっちゃうんですけど。オレが学園艦に上がっても平気なんですか?」

 

 ダージリンさんの方から提案してきたんだから、問題ないとは思う。でもアッサムさんいわく、面白がって周囲を振り回すようなところもあるみたいだから。思いつきで言ったはいいけど、実際にオレが学園艦を歩いていたら先生とかに詰問されました、なんてことになるのは勘弁してほしい。

 オレも男なので、女子校がどんなところなのかというのに興味はある。

 でも同じくらいに、他の学園艦がどんなものなのか見比べてみたいという気持ちがあった。

 熊本では内地の学校だったし。なんのかんのあったけど、初めて大洗学園の学園艦に乗った時は興奮した。すげー、でけー、みたいな。

 アンツィオ高校でもそれはあったんだけど。あそこは学園艦というよりも、ローマだったからな。他校とか女子校とかいうよりも、観光地に来たって感じだったし。

 

「確かに、聖グロリアーナは女子校です。ですが、学園艦そのものは男子禁制というわけではありません。生徒の家族もいますし、艦上で生活する人、働く人の中にも男性はいます。もちろん、校舎部分は基本的に女子ばかりになりますけど」

 

 言われてみれば、確かにその通り。内地の普通の学校だって、女子校でも関係者が全員女性しかいないというのはまずないだろうし。学園艦なんてスケールのデカいものならなおさらだろう。

 とりあえず、問題ないというのであれば。

 

「じゃあ、案内をお願いします」

「はい。お任せください」

 

 頭を下げて、お願いをする。

 アッサムさんは当然のように、クールに引き受けてくれた。仕事ですから、みたいな感じに。まぁ実際、仕事なんだろうけどね。

 

 

 

 

 

 アッサムさんに連れられて、学園艦のタラップを上がっていく。どんどん目線が高くなっていくのを感じると、やっぱり学園艦ってでかいなぁと思う。

 聞くところによると、聖グロの学園艦の大きさは、全長が大洗学園のおよそ2倍。体積は約8倍になるんだとか。デカすぎだろ。

 と思ったら、アンツィオ高校の学園艦も負けないくらい大きかったらしい。学園艦というくくりでは、むしろ大洗学園の方が小さいと言った方が妥当みたいだ。マジかよ。

 大きさに比例して、艦上で生活する人や働いている人もたくさんいるらしい。つまり、イメージ先行で思い浮かべる女子校像とか、お嬢様な女子生徒ばかりというのは、正しくないということだ。

 

「思ったよりも、普通っぽいな……」

 

 艦上に上がり、周りの光景や人の行き交いを眺めて。

 出てきたのがそんな感想だった。

 

「いったいどんなものを想像していたんですか」

「いや、なんというか。最初に会ったダージリンさんやアッサムさんから、きらびやかなお嬢様学校みたいな印象を持ったので。いかにもノーブルで、外国チックな街並みが甲板上に広がっているのかと」

「英国淑女を志す校風ではありますが、お嬢様ばかりというわけではありませんよ」

 

 頭の悪いオレの感想に、アッサムさんが苦笑しながらツッコミを入れてくる。

 イギリス風と聞いていたのも、先入観を持った理由かもしれない。アンツィオ高校はトレヴィの泉やコロッセオとかを再現してたんだから、聖グロにはビッグベンとかが建ってるのかな、なんて思ってた。

 

「さすがにビッグベンはありませんよ」

「そうなんですか?」

「そもそも、学校ですから。アンツィオ高校は観光客として一般来艦者を呼び込んでいるみたいですが、わが校は観光地ではありません。程度の差はあるでしょうが、施設や環境は"ごく普通"の学校と同じだと思います」

 

 内地の学校出身としては、学園艦自体が「普通」じゃないんだけど。まぁ、立っているのが陸の上か海の上かの違いと考えれば、同じようなものなのかもしれない。そういうことにしておこう。

 女子校云々についても、その違いはせいぜい「校風」の枠に入るくらいの違いだろうと思い至る。あれだな、思春期の男が女子校に夢見た結果、恥をさらしたような感じ。悲しいけれど、納得した。

 

「確かにおっしゃる通り。男子校だって全部が全部ムサいわけじゃないし。女子校が全部『ごきげんよう、お嬢様』みたいなところってわけじゃないよね」

「さすがにそれはイメージが偏り過ぎなのでは?」

「じゃあアッサムさん。男子校って聞いてどんなイメージが湧く?」

「……まったく情報がないので、なんとも言えません」

「その返事、ムサい学校を連想したって言ってるのと同じ気がするなぁ」

 

 先導されながらの会話。ふたりで歩きながら、主にオレが他愛のないことを口にして、アッサムさんが言葉を返す。艦上の光景の感想を言えば、補足して説明してくれる。

 そんな風にあちこち歩いてみて思ったのは、大洗学園とあまり変わらないということ。

 イギリスっぽい、と言えばそう見えるかもしれない。でも、何かすごい特徴があるというわけでもなく。大きめの通りを歩いてみる限りでは、アッサムさんの言う通り「普通」の範囲に収まる印象だ。

 ……男子学生にとって、女子校という言葉がどれだけ想像や妄想をかき立ててるのか、ってことだな。言ってしまえば、大洗学園だって元女子校なわけだし。変わらないと感じても不思議はないのかも。

 でもせっかく他校を見学できるなら、そこにしかないようなものを見てみたい。

 となると。

 

「アッサムさんも、戦車道をやってるんですよね」

「はい」

「じゃあ、動いてる戦車を見ることって出来ませんか?」

「はい?」

 

 ちょっとイメージとは違う、素っ頓狂な声を出したアッサムさん。視察とは無関係と言われていた男が戦車に興味を示したことを、意外に思われたのかもしれない。

 聖グロにしかないもの、と考えたら、すぐに「戦車」が思い浮かんだ。

 戦車にもいろいろと種類があるらしいから、アンツィオ高校で見た戦車とはまた違ったものがあるに違いない。ならば、それを見てみたい。

 昨日お邪魔したアンツィオ高校で初めて戦車を間近に見たこと。

 素直にかっこいいと思ったこと。

 動いてるところが見れなくてすごく残念だったこと。

 もっとでっかい戦車もいっぱいあると聞いて驚いたこと。

 そんなことを、アッサムさんにあれこれ話す。

 

「だから、可能であれば動いてる戦車を見てみたいんですよ」

「なるほど」

 

 ダメ元で戦車見学をお願いしてみたけれど、アッサムさんの反応はそう悪いものじゃない。彼女は腕を組み、あごに指を置いて考え込む仕草をする。

 なんだか参謀チックで、様になってるなぁ、アッサムさん。

 

「残念ですが、今日は鍛錬をしているメンバーはいないはずなので。動いている戦車は見れませんね」

「そうですか……」

 

 がっかり。

 落ち込んだのが目に見えて分かったのか、アッサムさんがまたも苦笑い。

 

「でも、車輌庫内の火が落ちた戦車でよければ。ちょっとだけならお見せできますよ?」

「まじでっ!」

 

 ぜひお願いします! と。彼女の譲歩案に食いついた。

 仕方ないなぁ、みたいな感じで。少し笑みを浮かべながらオレを見るアッサムさんだった。

 

 

 

 

 

 アンチョビさんも言ってたけど、保有する戦車の情報を他校に知られるのはあまりよろしくないのだとか。戦車の車種や保有総数など、そういったことが相手に分かってしまうと、大会などで対戦する際に対策を練られてしまうんだって。

 なるほど、確かに。

 

「ですが。すでに公式試合で何度となく使われていて、存在を知られている車輌なら、そう目くじらを立てることもありません。基本的なスペックなども、調べようと思えば簡単に調べられますからね」

 

 なんてことを話しながら、アッサムさんと並んで歩くことしばし。連れてこられたのは、学園艦のややはずれにある倉庫のような建物。聖グロが保有する戦車が置かれた車輌庫のひとつだ。

 ちなみにアッサムさんは、ここへ来る前にダージリンさんに連絡を取って、オレが戦車を見ることの許可を得ていた。融通をつけてくれたアッサムさんには感謝しかない。ダージリンさんにも、後で顔を合わせたらお礼を言っておかないと。

 車両用であろう大きな出入口。その横手にある人間用の扉を開けて、アッサムさんが中へ入るよう促す。

 大きな外観から想像した通り、それなりに天井が高くて、広い空間。オレの乏しい知識で例えるなら、車の整備工場みたいな感じ。でももちろん、並んでいるのは車じゃなくて、戦車だ。

 

「これが、私の乗っている戦車。"チャーチル歩兵戦車Mk.VII"です」

「おぉ……」

 

 その中の一輌を前にして、アッサムさんが戦車を紹介してくれる。少し誇らしげに見えるのは、きっと気のせいじゃないと思う。

 しかし、それにしても。

 

「はー。本当にでっけぇ」

 

 アンチョビさんのところの戦車が「豆戦車」って言われてるらしいけど、確かに大きさが違う。このチャーチルって戦車、縦も横も2倍くらいあるんじゃないの?

 

「アッサムさん、触ってもいいですか?」

「触るだけなら構いませんよ。でも、レバーやボタンの類には触れないでください」

「分かりました!」

 

 お許しが出たので。恐る恐る装甲に触れながら、戦車の外観をぐるりと見て回る。

 当たり前だけど、装甲は硬くてゴツゴツしてる。ドカンドカン撃ち合うわけだから、そりゃあ頑丈だよね。キャタピラっていうのも、名前は知っていても現物を見るのは初めてだ。

 ……あれ、アンチョビさんのところで見た戦車も、小型だけど、キャタピラだったよな。なんとなく車輪っていうイメージが出てきたんだけど。

 アッサムさんにそれを言ってみたら、戦車の足回り部分は無限軌道と呼ぶそうで、車輌の仕様やお国柄などでいろいろな形があるんだとか。

 

「大瀬良さんが見た戦車は、私の想像が正しければ"CV33"というものです。それなら、車輪で履帯を回転させるタイプですので、間違いというわけでもありません」

 

 へー。なるほど。

 自分のところだけじゃなく、他校の戦車にも通じてるとか、すげぇ。アッサムさんの情報通ぶりに、素直に感心してしまう。

 あ、あと砲塔っていうの? 戦車っていうとあれがぐるぐる回る印象があったんだけど、アンツィオ高校のCV33ってやつはそうじゃなかった。そこらへんも車種によって違うのか。

 本当にいろいろあるんだなぁ。

 ウキウキで戦車の周りを歩き、あれはなんだこれはなんだと素人丸出しの態度を見せるオレ。その後ろを追いかけながら、アッサムさんはあれこれと丁寧に説明してくれる。

 時々、そこは触るなとか叱られたり。でも、叱るというよりは、「めっ」って感じで注意されるといった方が合ってるかも。お姉さんに悪戯をたしなめられるみたいな。ちょっと胸がときめくやり取りだ。

 

「アッサムさん。これに乗ることって出来ませんかね」

 

 勢いに任せて、少し甘えたことを言ってみる。

 けれど。

 

「さすがに中に入るのはダメです。それなりに精密機械の塊ですから」

 

 ぴしゃりと、たしなめられた。素人に触られると困るということだろう。

 残念だけど仕方がない。大人しく引き下がった。

 

「でも、上に乗るくらいならいいですよ?」

「まじでっ!」

 

 落として上げる、みたいな感じで再びお許しを得て。

 戦車の上に上がってみた。

 

「おぉ。思ったよりも高く感じるな」

「全高は3m以上ありますからね。落ちないように気をつけてください」

 

 思わぬ視点の高さに、またもひとりではしゃいでしまう。

 戦車の上で騒ぐオレを、アッサムさんは終始微笑ましそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 しばらく戦車の実物を堪能した後。車輌庫から場所を移して、オレとアッサムさんは喫茶店に腰を据えていた。

 イギリス風という校風のせいか、出てきた紅茶がなんだか本格的。作法というか淹れ方というか、そんなものがさっぱり分からないオレは、アッサムさんに指南されながら紅茶を淹れる。

 ひと口飲んでみて、味に驚いた。

 なんだこれ、初めて飲んだぞこんな紅茶。

 でも。

 

「美味しいけど、こんなに手間のかかるものなのか……」

 

 思わずつぶやいてしまい、アッサムさんに笑われた。いやだって、ティーバッグかペットボトル入りの紅茶しか飲んだことないし。仕方ないじゃん。

 まぁ、それはいいよ。美人のお姉さんの笑顔を正面から見れたしね。

 さて。

 美味しい紅茶でひと息ついて。交わす会話の中身は戦車について。

 視察に同行する前に、みほとまほから戦車道についていろいろ教わるはずだったんだけど。西住姉妹による手取り足取り戦車道教室は、なんのかんのでお流れになってしまった。

 つまり、戦車や戦車道についての知識は未だにほぼゼロ。何を燃料にして動くのかとか、何人乗りなのかとか、そんなことも分からない。

 

「戦車って、普通は何人で動かすものなんですか?」

「動かすだけなら、ひとりでも平気ですよ」

 

 無知丸出しなオレの質問にも、アッサムさんは気を悪くすることなく答えてくれる。頼りになるお姉さんだ。素敵過ぎる。

 

「でも試合となると、1人では何もできません。チームを組み、それぞれに役割が当てられます。車種にもよりますが、乗員数は1輌につき3人から5人くらいが基本でしょうか」

 

 指揮を執る戦車長をはじめ、操縦手、砲手、装填手、通信手など、いろいろと役割分担がなされているんだとか。戦車の車種や装備、スペックなどによって乗員数もさまざまで、場合によってはそれらの担当を兼務したりもするらしい。

 

「アッサムさんが担当してるのは?」

「砲手になりますね」

「あのチャーチルって戦車で、相手を撃つ人?」

「はい」

 

 女子校生が、戦車で戦車をぶっ飛ばす。すげぇな戦車道。

 

「戦車道って、勝ち負けを競うって考え方でいいんですか?」

「それがすべてとは言いませんが、基本としてはそうですね。勝利を目指して鍛錬しますし、情報を集めて作戦を練り、チームが一丸となって試合に臨む。それらが実を結んで勝てば嬉しいですし、負ければもちろん悔しいです。でも結局、戦車道に何を求めるかは、人それぞれですね」

「なるほど」

 

 ふと、みほのことを思い浮かべる。

 戦車道に求めていた在り方や信念みたいなもの。彼女の場合、それが学校や実家の流派が掲げるものとズレてしまい、ズレの大きさに耐えられなくなった。そういうことなんだろう。

 他のスポーツでも、全国大会を本気で目指すチームと、楽しければオーケーなチームとじゃ、取り組み方も違ってくるのは当たり前。どちらがいいとか悪いっていうことじゃないしな。

 

「聖グロリアーナは、全国区の強豪校に数えられています。OGも多く輩出していますし、イギリスとの提携や後援なども豊かです。戦車道チームに入ることを目的に入学する生徒もかなりの数になりますね」

 

 本当にすげぇな、戦車道。

 そこまでメジャーな存在なのに、オレは名前を知っているくらいの知識しかなかったわけだ。いやこの場合は、興味の薄い門外漢でも名前は知っているっていう、認知度の高さの方がすごいのかもしれない。

 

「確かに、戦車道に携わるのはほぼ女性ですから。きっかけがなければ、男性が興味を示すことはないかもしれません」

「実際オレも、熊本にいたのに、黒森峰のことはほとんど知らなかったからなぁ」

 

 連覇がどうとか、地元に有名な流派があるとか、みほと出会って初めて知ったし。改めて、戦車道というものについて何も知らないんだなと自覚する。

 

「西住まほさんは、黒森峰にいた頃、車長であると同時にチーム全体の隊長でしたし。妹のみほさんも、1年生ながら車長かつチームの副隊長でした」

「そうなの?」

 

 しかも、ここにきて初めて、戦車道をする恋人たちの詳しいことを知った始末だ。戦車の中でどんな役割をこなしているのか、というところまで興味が深まらなかったとも言える。例えるなら、サッカーやバレーの試合を見ても、ポジションごとの戦略とかには疎いとか。そんな感じだろうか。

 

「恋人なのでしょう? 貴方がなぜ、知らないのですか」

 

 でもアッサムさんは、無知過ぎるオレに少し呆れてるみたい。ティースプーンで紅茶を掻き混ぜながら、やれやれまったく、みたいな言葉を掛けてくる。

 

「まほちゃんとみほちゃんが戦車道の世界では有名ってことは、今はもうさすがに知ってるけど。その中身までは把握してないなぁ」

 

 いや本当に、気にしたことがなかった。

 あれだよ。例えば、恋人がサッカー選手でゴールキーパーだということは知ってるけど、プレイスタイルまでは知らない、みたいなさ。今のオレは、「どうしてサッカーなのにキーパーは手を使ってるの?」みたいなことを聞いてるんだと思う。

 ちょっと違うか?

 

「考えてみると、まほちゃんたちと戦車道の話をしたことって、あまりないかもしれない」

「そうなのですか?」

「熊本で初めて会った時も、戦車道って名前しか知らなかったし。というか、みほちゃんが何者かっていうのも知らなかったから」

「あっ……」

「ん?」

 

 アッサムさんが、ちょっと言葉を詰まらせた。何事かと思ったけど、すぐに察する。

 あれだ。

 去年の全国大会決勝。

 みほがそこで何をしたのか。是非はともかく、戦車道をしている人間なら誰でも知っていると聞いた。アッサムさんもそうなんだろう。みほの名前を聞いて、何かを連想したのかもしれない。

 

「去年の大会の決勝で、黒森峰サイドで何があったかは知ってます?」

「はい……」

「強いて吹聴することじゃないですけど。決勝から数日経った頃に、むっちゃヘコんでるみほちゃんと会いまして」

「はい」

「まぁいろいろあったんですけど。彼女いわく、オレのおかげで元気を取り戻せたと」

「そうなんですか……」

 

 みほが元気になった、と聞いて、少しほっとしたような顔を見せるアッサムさん。面識もないだろうに、気遣ってくれている。その優しい気持ちに嬉しくなってしまう。思わずオレまで笑顔になる。

 

「それで、なんやかやあって。みほちゃんと恋仲になってから……」

「ちょっと待ってください」

 

 いきなり待ったを掛けてきたアッサムさん。

 え、どうしました。なんか、びっくり仰天みたいな顔をしてますけど。

 

「あの。貴方の恋人は、西住まほさん、と、角谷杏さんなのでは?」

「はい。あぁ、何股云々っていうのは、お互いにもう自覚も折り合いもついてるので。でも罵るなら、オレだけにしてもらえませんか?」

「いえ、それはいいんです。いや、良くないかもしれませんけど。とりあえず今はいいです」

「はぁ」

 

 理解に苦しむ、みたいな顔をしているアッサムさんに、つい生返事をしてしまう。何か変なところがあったかな。いやまぁ普通に考えれば、オレの周りの女性関係は変なところばっかりだけど。

 

「今、西住みほさんと恋仲だと」

「えぇ、言いましたね」

「その、お姉さんの方とおつき合いをしているのでは?」

 

 あぁ、なるほど。

 誰とつき合ってるとか、しっかりとは言ってないから。勘違いされたんだ。

 

「どちらかといえば、みほちゃんの方が最初なんですよ。まほちゃんは後から。これもまぁ、いろいろありまして。で、姉妹一緒におつき合いすることになったんです。熊本時代に」

「ということは、同時に3人と……」

「いえ、正しくは5人です」

「ごっ!」

 

 アッサムさん、驚き過ぎてすごい表情してる。目を見開いて、大きく口をあんぐりと。クールでデキるお嬢様な雰囲気はどこかへ行ってしまっていた。テーブル越しに、美人さんのいろいろな顔を眺められて。贅沢だなぁ今日のオレ。

 

「ちょっと待ってください。情報量が多くて、処理しきれません」

 

 こめかみを抑えながら、アッサムさんは必死に落ち着こうとしてる。

 そりゃまぁ、ねぇ。二股どころか五股だから。女子校通いの女性からしてみれば、オレはエイリアンみたいな存在だろう。

 エイリアンだからって、いきなり食いついたりしないよ。同意がなければエッチなことはしないし。そんなことを言っても信用されないだろうから、口には出さないけど。

 

「ですが、女性が5人も同じ男性を好きになるというのが理解できません。しかも女性側がそれを許容しているというのも」

「おっしゃる通りで。その反応が普通だと思いますよ?」

 

 あ、どうにか衝撃を乗り越えられたみたいだ。

 でも、内心でもやもやするものはあるみたいで。対面に座るアッサムさんは、なおも語る。オレを問い詰めるような口調じゃないことが、救いと言えば救いだな。

 本当に、このモテモテぶりはなんなんだろうね。オレにもさっぱり分からない。

 

「まぁ、好意を向けてくれるのはすごく嬉しいし、その想いに応えたいと思ってる。オレも皆のことが大好きなので。どうにか見限られないように、精進するばかりですよ」

 

 これはもう、本心から。

 胸を張って、満面の笑みで言ってやるよ。

 

「……。はぁ」

 

 なんだろう。溜め息を吐かれた。

 笑顔がキモいとか思われたか。それはそれでショックだぞ。

 

「いえ、そういうことではなくて。そもそも知り合ったばかりの男性の色恋に、口を挟む理由はないな、と。よそ様の恋愛事情にあれこれいうのも無粋でしょうし」

「……なんだか違った意味でも、つき合わせて申し訳なくなってきたな」

「そんなことはないですよ」

 

 ふんわりとほほ笑むアッサムさん。

 美人さんは、ふとした仕草や表情ひとつ取っても様になるなぁ。

 そんなヌケたことを考えてしまうオレ。

 

「今まで見たことのないような殿方と知り合って、得難い経験をしたと思っておきます。女子校育ちではまず見ることのできないタイプですし」

「いやいや。共学校だって普通はいないですよ、五股男とか」

「では、精力的なのは貴方だからと?」

「可愛い女の子に言い寄られて、頑張ろうとテンションの上がらない男はいないと思うけどなぁ」

 

 女の子もそういうのはありそうだけど。相手が好きになった人とか、気になる異性とか、テレビの向こうのイケメンとか相手に。アッサムさんは、そういうのはないんだろうか。

 

「あいにく、私にはそういった経験がないので」

「そうなんですか? 美人さんだし、気遣いができて優しいし、話をしていても楽しいですし。モテそうな気がしますけど」

「……女慣れしている男性というのは、怖いものですね」

 

 いや、これは女慣れとかそういうことじゃない。

 男女問わず、美点は積極的に褒めるべきだと思うんだ。そういうことを口に出しただけで、軽薄とかチャラいとか言われるのは納得いかない。想いや言葉は、きちんと形や行動に移すというのが大切だ。

 なので、オレがいかにコミュニケーションやスキンシップを重ねているのか、恋人たちと具体的にどんなことをしているのかを身振りつきで語ってみた。ただしエロいことは除いて。

 ハグは日課。毎日抱き合うことでどれだけ気持ちが落ち着いて、余裕が生まれるのか。

 会話は日常の潤い。一方的ではない対話を重ねることでどれだけ笑顔になれるか。

 気遣いは関係の潤滑油。互いを思いやり、想いが返ってくることがどれだけ嬉しいか。

 それらをどれだけ、恋人たちと交わしているか。

 などなど。

 臆面もなく口にする。

 ……オレは一体、何をくっちゃべっているんだろうか。

 ふと冷静になって。テーブルを挟んで座っているアッサムさんの顔を見ると。

 硬直して、真っ赤っかになっていた。可愛い。

 

「ごめんなさい。想いが溢れて止まらなくなっちゃったかも」

「いえ、その……」

 

 アッサムさんから返ってくる声はしどろもどろ。なんと言えばいいのか分からないって感じ。いきなり全力で惚気を聞かせられたら、そりゃあ反応に困るよね。

 自分で言うのもなんだけど、しゃべってたのは確かにただの惚気だわ。

 オレも落ち着こう。少し冷めてしまった紅茶で喉を潤す。

 あ、冷めても美味しい。本場仕様の紅茶はすげぇな。

 

「……ご自分が何を口にしていたか、自覚はありますか?」

「え。冷めた紅茶? 冷めても美味しいものなんですね」

「違いますっ」

 

 何か間違えたらしい。

 素ボケか。やっちまったなオレ。

 

「先ほど私に熱弁していたことです」

 

 あ、そっちですか。

 んー。

 

「まるっきり、惚気ですよね」

「分かっていて言っていたんですか?」

「ついさっき自覚しました」

「はぁ……」

 

 もうあからさまに、溜め息を隠そうともしないアッサムさん。

 テーブルに肘をついて、手を組み、その上に額を置くという、いかにもなポーズつきで。

 これはおふざけの混じったポーズか。それとも本気で呆れられてるのか。 

 素ボケもかましてるから、呆れの方かなこれは。

 今頃になって恥ずかしくなってきた。

 

「とりあえず。臆面もなく惚気られるほど、恋人さんたちを大切にしようとしていることは伝わりました。嫌になるくらいに」

 

 なんてことをアッサムさんが言う。取り出したハンカチで汗をぬぐいながら。

 落ち着いてみせたのか。ぱっと見た限りでは平静を見せている。まだ少し顔が赤いけど。

 

「ですが、そこまで想われるというのは少し羨ましい気もしますね」

「興味があるんでしたら、後でまほちゃんに話を聞いてみたらどうでしょう。淡々と、盛大に惚気てくれますよ」

「淡々と、というのが今ひとつ想像できませんが。いえ、私の知っている黒森峰の隊長なら、冷静に着々と物事を進めてきそうではありますが」

 

 あぁ、まほのイメージはそんな感じなんだ。

 彼女の性格の根っこは変わってないんだろうけど、今のまほは色恋にかなりのポイントが割り振られてるからなぁ。淡々と惚気るとか言われて、アッサムさんが戸惑うのも良く分かる。

 

「あの黒森峰の隊長が、恋する乙女に変わるなんて想像もできませんでした。その変化の過程を参考データとして見てみたいですね」

 

 確かに、去年の夏以前のまほを知っていれば、今の彼女に変わった理由が気になるかも。実際、いろいろあったしね。

 でもそれは、データとか情報とか、小さくまとめられるものでもない。

 

「データにしたら、ハグしました、キスしました、手をつなぎました、一緒に映画を観ましたとか。そんな些細なことしかピックアップされないと思うけど」

 

 そういったことの裏側で、何を思って、何を感じたかっていうことの方が大事だよね。

 

「色恋なんて、いくらデータを重ねても、経験ひとつで一蹴されちゃいますよ?」

 

 キスはどんな味、とかいくら調べたり思いめぐらせたりしても、1回本当にキスをしたら吹っ飛んじゃうでしょ?

 オレの言葉に、虚を突かれたような顔をするアッサムさん。

 同時に、また彼女は顔を赤くする。

 もともと色白な人だから、赤面するとことさら目立つ。おでこまで真っ赤にしてしまうのが、なんというか、可愛らしい。

 アッサムさんが、口元を手で覆って、少し横を向いた。何かこらえるような感じで。またオレ、変なこと言っちゃった?

 

「本当に、初めて会ったタイプの人です……」

 

 なんだか分からないけど、また気を落ち着かせようとしているみたい。正面を向き直して、ティーカップを手にする。ティースプーンで掻き回そうとするんだけど、すごくカチャカチャ音がしてるよ。聖グロ淑女的にどうなのソレ。

 でもアッサムさんはそれに気づかない。

 だからか、新たに隙を見せてしまう

 

「まったく、これがスケコマシというものですか。本当にそういう人が存在するとは」

「……アッサムさん」

「なんですか?」

「スケコマシって言葉の意味、分かってます?」

「……あっ」

 

 男が言うのはともかく、女性が言うのはどうかなーと。

 オレにツッコミに、アッサムさんは初めて気がつかされたような声を上げる。

 そしてたちまち、顔を真っ赤にさせた。

 まなじりを上げて、彼女のツリ目がさらに鋭くなった。むっちゃ睨まれてる。

 でも、頬とかおでこ、耳元まで、白くて綺麗な肌が赤くなっていた。そのせいかあまり怖いとは感じない。恥ずかしがってます、って言う反応はむしろ可愛らしいくらい。

 でも、ティースプーンを握りしめて、振り上げているのはいただけない。投げつけられそうで、そっちの方がびっくりするわ。

 

「アッサムさん、手を下ろそう。落ち着いて。クール、クールになろう」

「くっ。誰のせいだと」

 

 この場合、オレのせいなのかなぁ。

 でもこのままじゃまずい。戦車の砲手に狙い撃ちされてしまう。

 どうにかして御機嫌を取らなければ。

 

「そうだ。アッサムさん、甘いものは好きですか?」

 

 苦し紛れの思いつき。甘いものは人を幸せにする作戦だっ。

 またまたアッサムさんは、何言ってんだコイツみたいな目をしていぶかしむ。

 

「はぁ。それなりに好きですけど」

「オレ、和洋を問わず甘いものが好きなんですよ」

 

 言うや否や、オレは新しく注文をする。メニューに載っている写真からして実に見目麗しい、美味しそうなイチゴパフェだ。

 

「お詫びに、オレのイチゴパフェを横から強奪する権利をあげます」

「はぁ?」

「甘いものを食べたいオレの前でかっさらい、苦しみを与えて、留飲を下げるんです」

「すいません。何を言ってるのか分からないのですが」

 

 正直、オレ自身も「何言ってんだお前」と突っ込みたくて仕方がない。

 とかなんとか思っている間に、注文したイチゴパフェがやってくる。

 

「おぉ、すごくないかコレ」

 

 イチゴもクリームもいっぱいで、想像よりもかなりゴージャスな一品だった。カットされたイチゴの断面が、入ったグラスを通して色鮮やかに飾り立てる。花弁が広がるように配置されたイチゴも美しく、クリームの山の頂点に堂々と鎮座する大粒のイチゴがまた……。

 と、その姿を堪能していたら。

 

「ああっ!」

「奪っていいと言われましたからね」

 

 アッサムさんが、よりによってその大粒イチゴをさらいやがった!

 片目をつぶり、悪戯っぽい表情をしながら、指でつまんだイチゴをかじるアッサムさんは可愛くて色っぽかったけど。

 その感情も、すぐにイチゴを奪われたショックに流されてしまう。

 

「アッサムさん、なんてことを。ここはまず周囲から崩していくべきでしょう」

「トップを落とせる隙は見逃さない。砲手が持つ矜持です」

 

 それからしばらく。

 喫茶店のテーブルに向かい合って座りながら。

 イチゴパフェを間に挟んで、くだらないやり取りを続けるオレとアッサムさんだった。

 

 

 

 ―続く―




アッサムさんは情報通(耳年増)。
槇村です。御機嫌如何。


「2コマ堕ち」と称してるんだから、もっと簡単にチョロインしてもいいじゃないか。
でも距離感を縮めるのにもうちょっと厚みを、とか考えているうちに1万字を越える始末。

そんなわけで、アッサムさんです。
彼女を羞恥でおでこまで真っ赤にさせたい!
そんな想いがいささか込められております。(いささか?)

ちなみに、聖グロの学園艦上の描写は勝手な想像ですので。
むしろ描写しているものがあったら教えてください。


※誤字のご指摘ありがとうございました。




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30:春風スクランブル/アッサム、オレンジペコ&ローズヒップ

 戦車道についてとか、他愛のない話とかをしつつ、イチゴパフェを間に挟んだ攻防を繰り返していたら。アッサムさんの携帯電話にメールが届いた。

 送信元はダージリンさん。杏さんたちとの話がもう少しで区切りがつくというもの。時間を決めて合流しようということらしい。

 オレとアッサムさんの方も、やっていることは結構グダグダになりかけていたから。切りも良かろうということで、ふたりして喫茶店を出る。

 その頃には、アッサムさんも柔らかな表情を見せてくれるようになっていた。

 品よく笑ったり、容赦なくツッコミを入れてきたり、ツッコミ返したら言葉に詰まって睨みつけてきたりと。いやもう、ずいぶんと親しい感じで接してくれるようになったと思う。

 喫茶店を出て、オレとアッサムさんは並んで歩き出す。向かう先は聖グロの校舎が並んでいる一角。そこで杏さんが、まほとダージリンさんを相手に戦車道についてレクチャーを受けているんだとか。そこへ出迎えに行くわけだ。

 ……それにしても。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、なんでも」

 

 並ぶとよく分かるけど、アッサムさんって思ったよりも小柄だよね。彼女の頭が、オレの口元くらいの位置になる。大きなリボンのせいなのか、もう少し大柄なイメージだったけど。いや、大柄っていうのは言葉が悪いか。

 ともあれ。横でスタスタ颯爽と歩いていても、オレの歩幅だとすぐに追いついてしまう。ほんの少しだけ、歩幅を狭めて、足の運びをゆっくりめにする。すぐ横手でリボンがぴこぴこ揺れるのが、なんだか見ていて微笑ましい。

 歩きながら会話を続けるオレとアッサムさん。

 話のネタは、やっぱり戦車道のこと。主に1年を通した戦車道のイベントについてあれこれと、アッサムさんに教えてもらっている。

 

「まず目標となるのは、やはり全国大会ですね」

 

 7月から8月に開催される戦車道の全国大会。新興チームとなる大洗学園は、そこへの出場が当面の目標になる。

 と言っても、地方予選みたいなものがあるわけでもないようで。参加そのものは申請すれば問題なくできるのだという。もちろん、勝てるかどうかは別の問題になるけれど。

 

「詳しいことは知らないんですけど、20年くらい前は大洗学園でも戦車道をやっていたそうなので。設備だのなんだのは最低限揃えられるんじゃないですかね」

「まったくのゼロから、というわけでもないのですね」

「ウチの生徒会長は、前準備とかはきちんとやるタイプなので。万端とはいかないまでも、そこそこ形にはなるんじゃないかなぁ、と。願望含みで思ったりしますが」

 

 もちろん、いろいろ大変なんだろうってことは分かる。みほとまほをどうにかして抱き込めないか、って考えてたらしいし。学園にある物や情報を掘り起こしたとしても、20年前のものが今でも役に立つものかどうか。

 

「そもそも、大会に出るなら戦車は何輌くらい必要になるんですか?」

「そうですね……。大会規約では、1試合の参加車輛数の最大が10輌から20輌。最低が5輌になっています」

「つまり、5輌以上ないと参加すらできないと」

「そういうことになりますね」

 

 まほから聞いた限りでは、大洗学園には戦車が1輌ある。でもオレが知らないだけで、実はもっとあるのかもしれない。もしくは導入の目途が立っているとか。

 

「もし足りなかったとして。どこから手に入れてくるんだろうか」

「我々でも、新しい戦車の導入はひと苦労です。そう簡単に数を揃えられるものでもありません」

 

 初期費用も維持費もすごそうだからなぁ。そのあたりは、アンチョビさんも嘆いていたような気がする。

 でも大洗学園の場合、もっと根本的なところに問題があるよな。

 

「それ以前にウチは、人が集まるのかってところが……」

「新設ゆえの苦悩ですね」

 

 7月に全国大会が始まるとして。4月頭に戦車道チームを立ち上げて、人を集めて、戦車や設備を形にして。3カ月で、試合ができるくらいまで持っていかなければいけない。

 やるべきことは山盛りだろうことは、素人のオレでも想像できる。

 

「門外漢のオレに出来ることなんて、何もないな。せいぜい、練習で疲れてるのをどうやって癒して上げようかを考えるくらい?」

「ふふ。女性としては、恋人のそういう気遣いは嬉しいのではないでしょうか」

「じゃあ、アッサムさんだったらどうです? 例えば、戦車道の練習から戻ってきたら、恋人が紅茶を淹れて待っていてくれて。お疲れ様と労ってくれる。そんなシチュエーションは?」

「……いいですね。とても素敵です」

 

 「もしも」を想像しているんだろう、少し遠い目をするアッサムさん。うっすらと笑みを浮かべている。思ったよりツボにくる想像だったのかもしれない。

 でも、そうか。なるほど。銃後の守りじゃないけど、杏さんたちを陰からカバーするのもアリかもしれない。うん、考えておこう。

 

「戦車道の練習って、どんなことをするんです? 想像ができないんですが」

「そうですね……」

 

 学校によって違ってくるでしょうが、と前置きをしてから。彼女は一例をあげる。

 いわく。

 戦車の中は狭くて、暗くて、視界もさほど開けていない。気持ちが鬱屈することもある。

 砲弾や弾丸はそれなりに重く、力もかなり使う。撃ち続ければその分持ち上げたり下ろしたりという回数も増え、腕はすぐにパンパンだ。

 先に言った通り、外は良く見えない状態。そんな中で戦車を操縦し、周囲をうかがい、相手よりも早く存在を察知する必要がある。

 相手を見つければ、少しでも早く砲弾を装填。気づかれるより前に、気づかれても相手が打つより早く、正確に狙いをつけて倒さなければならない。

 瞬間々々で最適な判断を下して、実行する。

 それらを試合でも行えるように、練習を繰り返していく。

 集中力を常に求められて、精神力の疲弊は著しい。

 

「自分で言うのもなんですが。例え練習でも、心身の疲れは相当なものですよ」

「戦車道女子ハンパねえな。本当に」

 

 まぁ戦車道に限ったことじゃなく、どんなスポーツでも、いやそれ以外の何でも、楽しいからキツいこともやっていけるっていうのはあるよね。

 なんてことを歩きながら話していたら。

 曲がり角の向こうからいきなり人が飛び出してきた。

 

「きゃっ」

「うぉっ、とぉ」

 

 出会いがしら、急すぎて反応もできず。避けられずにアッサムさんがぶつかってしまう。

 小柄ゆえ勢いに流されて、倒れそうになったところを間一髪抱き留めた。

 咄嗟に手を伸ばしたオレの大手柄。と思う間もなく。オレも相手のぶつかってきた勢いに巻き込まれる形で、アッサムさんを抱えたまま倒れてしまった。背中から思い切り、ドカッと。

 

「いっ、つぅ……」

「平気ですか大瀬、ら、さん?」

 

 アッサムさんの気遣ってくれる声が、途中で変なアクセントに。

 どうしたのかと思えば、お腹に柔らかな感触。

 仰向けになったオレの上に、彼女が尻もちをつくような体勢になっていた。

 

「すみませんっ!」

 

 慌てるアッサムさんの声。身じろぎした際に押しつけられたお尻の柔らかさが、お腹から伝わってくる。これだけでもう、倒れた痛みとかはどこかへ行ってしまった。さらに、制服のスカートから薄い青の下着もチラリと見えて。こちらこそすいません。

 顔を赤くして、謝りながら、オレの上から勢いよく立ち上がるアッサムさん。ほんのわずかに密着した感触が離れていく。ケガはないようで、良かった良かった。

 でだ。

 ふたりして倒れてしまった原因。飛び出してきた人だけど。あちらの方も、同じように倒れてしまったようだ。しかも抱えていたバッグから荷物をぶちまけてしまったみたい。

 こちらは役得もあったせいか、ちょっとだけ申しわけない気持ちにもなりつつ。オレも立ち上がって拾うのを手伝おうと。

 したんだけど。

 

「そこのひとーっ。その人を捕まえてくださーいっ」

「待つんですのーっ!」

 

 曲がり角の向こうから、声を上げながら駆けてくる女の子が、ふたり。

 何事だと思いつつ、彼女らに目を向けてから、ぶつかった人に再度目を向ける。

 オレよりも少し年上、おそらく大学生くらいの男の人。ぶちまけてしまったものを、必死になってバッグに詰め込んでいる。だが、そのどれもこれもが、どう見ても女物。下着があったのは気づかないふりをした。

 

「アッサムさん」

 

 慌てる男。

 荷物は女物。

 捕まえろと声を上げて追ってくる女の子たち。

 つまり?

 

「話を聞いてから、ですね。念のため」

 

 言わんとするところを察してもらえたようだ。

 キリッとした表情で言葉を返すアッサムさん。凛々しくて、頼もしいね。

 そんな彼女が声を掛けようとしたら。

 男は、いきなり走り出そうとする。

 

「逃がすかよ」

 

 咄嗟に手を伸ばして、男の手をつかんだ。

 状況だけ見ればもうアウトだけど、何か事情があるのかもしれない。

 そんな感じで極力好意的に捉えようと思ったんだけど。

 目の前に、拳が飛んでくる。

 

「ぶはっ」

「大瀬良さんっ!」

 

 この男、問答無用で殴ってきやがった。オレの頬を拳が捉えて、振り抜かれる。

 痛ぇなこの野郎。

 でも逃げようとしていたせいか、腰の入っていないへなちょこパンチだった。痛かったけど効きはしない。

 野郎は続けて殴り掛かってくる。腕を上げてガード。2発も食らうほどボンクラじゃない。

 殴り返してもいいけど、それだとコイツと同じ土俵に立つことになってしまう。

 だから押さえつけるだけにした。

 殴ってきた腕を取り。

 関節をねじって。

 力を流すようにして振り回し。

 ずざっ! っと音を立てて。男を地べたに倒して見せる。

 咄嗟に出た、流れるような体回し。小学校の頃に習ってた合気道が陽の目を見たぜ!

 

「大瀬良、さん?」

 

 傍から見たら、あっという間に鎮圧したように見えたのかもしれない。アッサムさんが、すごいびっくりした顔をしてる。声を上げて追いかけてきた女の子たちも、急展開に驚いたのか目を見開いていた。

 

「アッサムさん。一応そのふたりから事情を聴いた方が」

「え。あっ、そうですね」

 

 再起動を果たしたアッサムさんが、女の子たちに話しかける。

 いわく。ふたりは聖グロの新入生で、学園艦に乗艦した際にたまたま隣り合っただけだとか。乗艦手続きをほぼ同じ時間に終えて、ひと息入れようと荷物を下ろして、飲み物を買おうとした。その少しだけ目を離した隙に、ふたり揃って荷物を持ち去られたという。

 

「置き引きですか」

「そうなんです。距離は取られましたけど、持ち逃げする姿は見れましたので。声を出して追いかけたんですけど」

「逃げ足が速くて、追いつけなかったんですわ!」

 

 この男が持っていたバッグふたつは、彼女たちのもので間違いないようだ。アッサムさんとぶつかって散乱してしまったけど、欠けた物はないみたい。ただ男が焦ってバッグに詰め込んだおかげで混ぜこぜになっているらしい。

 

「てことは、置き引きの現行犯ってことでいいんですかね」

「そうですね。このまま警察に突き出すことになるでしょう」

「それじゃあ、っ、とぉっ」

 

 警察と聞いて焦ったのか。「間違えただけだ」とか「俺は知らない」とか、支離滅裂にわめき出す。言い訳にしても今さら過ぎるだろソレ。

 しかも暴れ出したせいで、極めていた手が緩んでしまった。拘束が解けてしまい、置き引き男は腕をふり回す。

 そこで一撃、男の肘が、腹にめり込んだ。

 

「ぐふっ」

「大瀬良さんっ!」

 

 やりやがったなこの野郎。

 一瞬、息が詰まって。オレの腕から力が抜ける。その隙に逃げ出そうとする置き引き男。

 逃がすわけねぇだろ。

 腰をひねって、その場で回転。ふり回した腕が、男の下半身にぶち当たる。

 イヤなところに当たったんだろう。男が背中を見せながらよろけた。

 そこへさらに追撃。膝裏に軽く蹴りを入れてやる。それだけで男はさらにバランスを崩して、膝をついた。

 あとはもう簡単だ。

 

「あらよっと」

 

 腕を取り、後ろ手に回して締め上げる。再度、地べたを舐めさせた。今度は少しきつめに抑えつけながら、おまけに後ろから首もつかんでやる。

 ここまでしてようやく、置き引き男の抵抗がなくなった。と思った途端にまた暴れ出したり。そのつど力を込めて抑えつけたりする。

 あー。まったくもう。

 

「アッサムさん」

「はいっ」

「警察、早く呼んでください」

 

 意識してなかったけど、結構荒っぽい声が出た。

 通り魔に肘鉄くらったようなもんだから、イラつくのはしかたない。

 でもアッサムさんにそれを向けるのは、違うよね。

 いかんいかん。

 反省反省。

 気持ちをクールにして、声を荒げたことを謝る。

 アッサムさんは一瞬ポカンとした顔をして。

 手を口に置いて、くくく、と。笑いをこらえるように身をよじらせた。

 ……そんなにおかしなこと言いましたかね?

 

「いえ、なんでもありませんよ」

 

 なんだか楽しそうに、スマホを手にして警察に連絡を入れるアッサムさん。

 置き引き男を組み伏せながら、少しだけ憮然とするオレだった。

 

 

 

 

 

 騒ぎまくる置き引き男を、警察が来るまでどうにか抑えつけて。無事に引き渡すことが出来た。それから、どんな経緯で捕り物になったのかを説明するために派出所まで同行する。

 どうして他校の男が女子校の聖グロにいるの? みたいな話にもなった。置き引き犯が男だったから、怪しむのも無理はない。そのあたりはアッサムさんが客人だと説明し、保証してくれたので揉めずに済んだ。ありがたくて涙が出そう。

 そのおかげもあって、事の経緯を冷静に聞いてもらうことが出来た。

 喫茶店でお茶した後に歩いていたら、置き引き男とぶつかって、女物の荷物をばらまいた。怪しいと思ったところで、持ち主の新入生ふたりが合流し、荷物が彼女たちのものだと判明。相手が逆ギレしてひと悶着となり、押さえつけるに至った。

 とまぁ、こんな感じの流れ。

 オレとアッサムさん、荷物を盗られた新入生ふたりからも話を聞いて。

 ようやく解放された。

 

「うぁー。終わったー」

 

 思ったよりも長い時間引き留められたため、強張ってしまった身体を伸びをしてほぐす。オレが捕まったわけでもないのに、この開放感はなんだろうか。

 ちなみに、置き引き男の件はすでにダージリンさんに連絡済みだ。さすがアッサムさん。抜かりがない。

 そこから伝わったんだろう。まほと杏さんから気遣うようなメールが届いていた。

 こういうの、嬉しいね。

 これからそちらへ向かう旨を返信。詳しいことは顔を合わせて話をすることにする。

 オレがそうしている間に、置き引きに遭った女の子ふたりが、アッサムさんに礼を言っていた。なんだかふたりともテンションが高い。ひょっとするとアッサムさんが言っていた、戦車道目的で入ってきた子たちなのかもしれない。

 なんてことを考えていたら、彼女たちはオレのところにもやってきた。頭を下げながら、揃ってお礼を言ってくる。

 

「あのっ。本当にありがとうございました」

 

 小柄で、おっとりとした雰囲気の女の子。少し幼い感じのお嬢さんとでも言おうか。

 編み込んだ髪を左右でお団子のように丸めて、後ろ髪にまとめている。髪色に引っ張られたのかもしれないけど、笑顔がお日様を浴びたオレンジみたいな印象。つい頭を撫でてあげたくなる。

 

「取り戻せて良かったですわ。ありがとうですの!」

 

 もうひとりは、これまた違ったタイプ。勢いをつけてグイグイ来そう。

 赤毛というか濃いピンク髪の、ウェーブが掛かったボブカット、とでも言えばいいんだろうか。真ん中分けにした、アッサムさんとはまた違うオデコちゃん。髪色に負けない明るい雰囲気で、お嬢様というよりも、下町で男友だちと駆け回っていそうな感じ。オレ、そういうの好きだよ。

 

「なんと言うか、乗艦初日から災難だったね」

 

 オレはふたりの感謝を受けて、お疲れ様とばかりに労う。

 本当に、災難だったと思う。夢や希望でいっぱいの新たな女子校生活が、変な男のせいで、学校が始まる前からケチがついてしまった。まぁ、盗まれた荷物が無事で、犯人も捕まったっていうのが、不幸中の幸いだとでも思うしかないだろう。

 あとは、そうだな。学校が始まる前に、優しくて頼りになる先輩と知り合えたと思えば。プラスにならないかな。

 

「どうだろう。ねぇ、アッサムさん」

「そこで私に振って、どうしろというんですか」

 

 オレの勝手な言いように、アッサムさんは呆れ顔。でも少し笑ってるから、悪い気はしてないんだろう。そう思うことにする。

 でも、オレンジちゃんはそれに乗っかってきてくれた。

 

「なるほど。そう考えると、結果だけ見れば悪くないと思えるかもしれません」

「もちろん、置き引き男に感謝する必要はこれっぽっちもないけどね」

「当然です。なんと言おうとギルティですから」

 

 うんうん、と、オレンジちゃんはオレに合わせてうなずいている。

 とは言うものの。アッサムさんと知り合えたのは、聖グロで過ごすにあたって本気でプラスになると思うんだよね。

 

「そうですわ! 憧れの聖グロ戦車道チームのナンバー2ですのよアッサム様は。もっと喜ぶべきですわよ!」

「あの、嬉しいのは私も同じなのですが。すぐ隣でテンションを上げられると……」

 

 あぁ、分かる。醒めるというか、冷静になることってあるよね。

 赤毛ちゃんのはしゃぎっぷりに、オレンジちゃんがついて行けなさそうにしてる。気持ちだけじゃなくて身体ごと寄って言い募る赤毛ちゃんを、オレンジちゃんは迫ってくる顔を押し返しながら防御している。

 結構、遠慮ないな。赤毛ちゃんの方に嫌がっている様子はないから、問題はないのかもしれないけど。新しく出来た友人とのじゃれ合い、と見れば、微笑ましくもある。

 とは言っても、いつまでもこうしているわけにもいかない。待ち合わせをしていたのに、大幅に時間が遅れてしまっているわけだから。

 

「とりあえず、これからどうするんですか?」

 

 アッサムさんに尋ねてみる。

 どうやら元の予定通り、ダージリンさんと合流することになるみたい。

 

「話を聞きたくてうずうずしてるみたいなんです」

「アッサムさんじゃなくて、オレから?」

「はい」

「……まぁ、まほちゃんと杏さんに説明するついでと思えばいいか」

「それで結構です。ダージリンのわがままに少しつき合ってあげてください」

 

 アッサムさん、仮にも自分のところの隊長なのに扱いが雑じゃない? まぁ友人ゆえの気安さと考えれば、それだけ仲がいいってことなんだろうけど。

 

「それと、彼女たちのことなのですが」

 

 どうやら置き引きに遭った彼女たちも、戦車道志望の新入生だったそうで。このままオレたちに同行して、ダージリンさんのところへ行くことになったらしい。

 え、マジで?

 オレンジちゃんと赤毛ちゃんが、期待に満ちた目をキラッキラにさせてこちらを見ている。

 あれか。憧れの人に会う機会が早まって、期待で胸がドキドキみたいな。

 彼女たちの態度が、聖グロの戦車道がどれだけ名高いのかを良く表している。すでに副隊長格の人に会って、直々に誘われたんだから、テンションも上がるだろう。

 

「入学前の新入生にも名前を知られていて、慕われるってのはすごいな。さすがですね、アッサムお姉さま」

「褒められるのは悪い気がしませんが。大瀬良さんの言い方は、どこかからかって楽しんでいるように聞こえてなりません……」

 

 人聞きの悪いことを。結構な割合で本心なのに。

 少しの割合でからかいが混ざってるのは否定しないけど。

 話をずらしてごまかしてしまおう。

 

「でも、学年的にはお姉さまで間違いじゃないですよ?」

「……そうなんですか?」

「アッサムさん、3年生ですよね。オレは2年ですから」

「てっきり同学年だとばかり……」

 

 まほも杏さんも3年だし、後輩が同行してるとは思わなかったのかも。特に学年は言わなかったし、つき合ってる云々もあったから。同い年だと思い込んでたのかな。

 まぁ大したことじゃないよね。お姉さまって呼ばれるのも似合ってるしさ。

 

「でも、お姉さまはやめてください。お願いですから」

 

 あれ。口に出す前に止められた。

 オレの考えというか、ノリが読まれた?

 まぁ嫌がる呼び方を続けて相手の機嫌を損ねるのは本意ではないので。

 

「分かりました。ごめんなさい」

「まったくもう……」

 

 素直に頭を下げて、撤退である。

 アッサムさんはそんなオレに、呆れと半笑いで応えてくれる。

 こういう、肩ひじを張らないやり取りができるのは、嬉しいなぁ。

 でも、力を抜き過ぎていたせいか。話を聞いていたオレンジちゃんと赤毛ちゃんまで、アッサムさんをお姉さまと呼び始めた。

 

「これからどころか、学校が始まる前からこんなにお世話になったんですから。私たちも親愛を込めて"お姉さま"とお呼びした方がいいかなと」

「憧れと親愛を込めての呼び方ですのよ。これからもよろしくお願いいたしますわ、アッサムお姉さま!」

 

 邪気のない新入生ふたりに迫られて、じりじりと後退しつつ、アッサムさんが横目でオレを睨んでくる。うん、ちょっと悪いことをしちゃったかもしれない。

 フォローに入ろうかなと思っていたら。

 

「助けてもらえたというなら、お兄さまもそうですわ!」

「……それってオレのこと?」

 

 気がつけばオレの方にまで飛び火してきた。

 「お前も巻き添えだ」みたいに、ニヤつかないでよアッサムさん。ツリ目のせいか、そういう顔が良く似合う。美人はどんな表情をしても、どこか可愛らしくていいなぁ。

 なんて考えているうちに、赤毛ちゃんが標的をオレに変えて迫ってくる。

 正直、年下の女の子に「お兄さま」と呼ばれるのは悪い気がしない。オレンジちゃんが良く出来た真面目な妹で、赤毛ちゃんが手の掛かる元気な妹、みたいな感じ。タイプは違うけど、どちらも甘やかしてあげたい気持ちにさせられる。

 だからつい、目の前に来た赤毛ちゃんに心の声が漏れた。

 

「頭、撫でてもいい?」

「大瀬良さん、何を言って」

「構いませんわ!」

「ちょっ、貴女もっ」

 

 いきなりのことに慌てるアッサムさんはひとまず置いておいて。

 オレは許可をもらった上で、赤毛ちゃんの頭をしっかり撫でて、可愛がる。

 よーしよしよし。

 なんとなく、彼女の方も心地よさそうにしてる。

 ひとしきり撫で回したあと、ぽんぽんと軽く頭を叩いて、手を離した。

 赤毛ちゃんは目を細めて、「にひー」みたいな笑顔を向けてくる。

 うん。無邪気な年下女子に懐かれるとか、実にいいね。

 オレと赤毛ちゃんのいきなりなノリについてこれない、アッサムさんとオレンジちゃん。ただオレンジちゃんの方が、どこか羨ましそうにこちらを見ているような気がする。さすがにそれは自意識過剰か。

 ひと悶着あったとはいえ、いきなり頭を撫でられて不快に思わない、赤毛ちゃんが天真爛漫なだけだろう。

 でもこの赤毛ちゃん。やっぱりどこかヌケているようで。

 

「頼れるお姉さまとお兄さまに出会えて、わたくしの聖グロ生活はバラ色確定ですわ!」

 

 なんてことを嬉しそうに、声高に言ってきた。

 いやさ、オレと知り合えたのを悪くないと思ってくれてるのは嬉しいんだけど。

 

「勘違いしてるみたいだけど、オレは聖グロの人間じゃないぞ?」

「マジですの?!」

 

 いやいや。そもそも聖グロは女子校じゃないか。普通に考えれば、同年代の男がここにいるのはおかしいでしょ。

 

「言われてみれば。お兄さまはなぜ聖グロリアーナに?」

「あー。ふたり揃って"お兄さま"は確定なんだ」

 

 オレンジちゃんにまで、「お兄さま」と呼ばれてしまう。

 ……なんかこう、いいね。

 テンションが高い赤毛ちゃんに、マイペースなオレンジちゃん。妹系なふたりの様子と接し方に、ほんわかしてしまうオレ。

 アッサムさんはひとり、頭痛を堪えるようにおでこに手を置いて、嘆息する。

 軽くオレが聖グロに来た理由とかを話してしばし。

 オレたちはようやく、待たせっぱなしなダージリンさんのところへ移動し始めた。

 

 

 

 ―続く―




次回、自覚のない静かなイチャイチャがダー様を襲う!
槇村です。御機嫌如何。


新入生ふたりを新たなお供にして、一行はダー様の元へ。
そんな流れとなりました。
ぶっちゃけるまでもなく、オレンジペコとローズヒップなのですが。
こんな感じで接点を作ってみた。
紅茶ネームがまだだから、呼び方は苦肉の策でこんな感じに。


もう今年が半分終わったことに驚愕する。
「なろう」のオリジナル小説、まだ文庫1冊分も書けてないのに。
でもガルパンの二次エロ小説は、すでに今年だけで10万字以上書いていた。
……それならまぁいいか。(いいのか?)
いつ終わるか分からない二次小説ですが、これからもよろしくお願いします。

オリジナルのエロ小説も新しくネタを組んだから、書き始めないと腐っちゃう。
いやぁ書くものがいっぱいだなぁ!




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31:あの娘におせっかい

 アッサムさんと、オレンジちゃんと赤毛ちゃんの新入生コンビを伴って歩くことしばし。聖グロリアーナの校舎が並び建つ一角にたどりついた。

 普段なら、勉学に励む女子生徒たちが行き来しているんだろう。でも今は始業どころか入学式の前。残念ながら人の姿はさほど見られない。

 だから、合流する相手もすぐに見つかる。

 校門前に立っている女の子が3人。ダージリンさん、それにまほと杏さんの姿が見えた。

 あちらもオレたちに気づいたようだ。手を上げて彼女たちに応える。

 とまぁ、軽い気持ちで手を振ったんだけど。

 まほと杏さんが小走りでこちらに駆け寄ってきた。

 

「俊一っ」

「うおっ」

 

 そして、まほが勢いよくオレに抱きついてくる。

 予想はできたので、しっかりと彼女を抱き留めた。

 

「俊一、平気か? ケガはしていないか? 痛いところはないか?」

「心配してくれるのはすっごい嬉しいけど、何ともないよ」

 

 ほれこの通り、と。お道化た調子でポーズを取り、力こぶを作る真似なんてしてみせる。

 まほはしばらく、オレの顔をじっと見つめて。気が済んだのか、納得したのか。心配げだった表情を緩めて、笑顔になる。

 

「心配してくれてありがとう。まほちゃん」

 

 嬉しくって、腕の中にいる彼女を抱きしめた。

 ぎゅっと抱え込んで、目の前にきた頭に顔を埋めて頬ずりをする。

 

「んっ。俊一……」

 

 まほも同じように、オレの胸元に顔を埋めて。すりすりと擦りつけてくる。

 その動きが実に可愛らしくて、こそばゆい。

 甘えてくるまほの後ろでは、杏さんが苦笑いしてる。

 

「大瀬良くんが暴漢に出くわしたって聞いてさ。西住さん、そわそわしっ放しだったんだよ」

「暴漢? まぁ、暴漢になるのか。でも連絡が行ったのは、全部終わってからでしょ?」

 

 まほを抱きしめて、撫でてあげながら。杏さんの言葉に答える。

 でもオレの言いように、杏さんは少し呆れてるっぽい。

 

「事が済んだっていっても、好きな男の子が危険な目に遭ったって聞いたんだからさ。心配するのは当たり前だろう?」

「それはそうだ、うん。ごめんなさい」

「分かればよろしい」

 

 うんうんとうなずきながら、杏さんが笑みを浮かべる。

 

「まほちゃんもごめんね。それと、心配してくれてありがとう」

 

 まほの頭を抱えて、髪を梳きながら撫でる。加えて少し強めに、きゅっと、抱きしめた。

 それから、まほにちょっと離れてもらって。

 

「杏さんも」

 

 おいで、と、杏さんに向けて腕を広げる。

 ためらうことなく、彼女もオレに抱きついてきた。

 

「んー。なんにせよ、無事でよかったよ」

「ありがとう。杏さんにも、心配かけちゃった?」

「まぁ、それなりにね」

 

 なんてことを言いながら、抱き着く腕に力を入れてくる杏さん。それがまた可愛くて、嬉しくて。オレも彼女を抱きしめ返す。ツインテールの髪を梳きながら撫でてあげる。

 あー。オレって本当に幸せ者だわー。

 改めてそんなことを思いながら、ナチュラルにイチャつくオレ、まほ、杏さん。

 もちろんそれは、ダージリンさんたち聖グロ組の目の前でしているわけで。

 

「まほさんと杏さんから話は聞いていましたが。目の前で堂々とイチャつかれると、さすがに驚くわね」

「……本当に、おふたりと同時におつき合いをされてるんですね」

 

 遅れて近寄ってきたダージリンさんと、一緒に歩いていたアッサムさんに、感心するような呆れるような、そんな言葉を掛けられた。

 あと杏さんの呼び方が、「角谷さん」から「杏さん」に変わってる。ずいぶん仲良くなったらしい。杏さんのコミュニケーション力の高さには驚かされるな。

 あ、そうだ。お礼を言っておかないと。

 

「ダージリンさん、と呼べばいいでしょうか」

「えぇ。ダージリンでよろしくてよ、大瀬良さん」

 

 名前の呼び方を確認すると、ダージリンさんがにこりと微笑む。

 オレも笑みを返しながら、戦車を見せてくれてありがとう、と、頭を下げて礼を述べた。想像よりも大きなものを見て、触れられて、思わず興奮してしまったと。気がついたら、杏さんから手を離して、身振り手振りも交えながら「戦車すげぇ」をまくし立てていた。

 ダージリンさんは、そんなオレを見ながら楽しそうにクスクスと笑っている。

 

「喜んでいただけたのが良く分かりました。何よりですわね」

「えぇ、終始楽しそうでしたから。見ているだけで微笑ましくなるなるくらいに」

 

 さらにアッサムさんの微笑みまで加わって。はしゃぎ倒した自分の姿を想像して少し恥ずかしくなってしまった。アッサムさんに関しては、今さらな気がしないでもないけど。

 

「あー、すいません。舞い上がってしまって」

「そんなことはありませんわ。むしろ殿方にそこまで興味を持ってもらえるのは、戦車道をする者としては喜ばしいことですもの」

「そういうものですか?」

「そういうものですわ」

 

 オレ自身、みほたちと会うまで興味も知識も薄かったから。その分反応が強いだけなんじゃなかろうか。まぁ、ダージリンさんが本当に嬉しそうだから。無粋なことは言わないでおこう。

 

「それに、実際に案内をしたのはアッサムですもの。大瀬良さんが楽しめたと言うなら、アッサムのおかげでしょう」

「それは確かに。アッサムさんのおかげで楽しかった、っていうのはありますね」

「なっ」

 

 なぜか、驚いたような声を上げるアッサムさん。

 いやでも事実だから、驚くところではないでしょう? 戦車道に無知なオレに、分かりやすくいろいろとレクチャーしてくれて。とてもためになりました。

 そんな風に持ち上げたら、アッサムさん、顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 彼女の反応を見たダージリンさんは、いいものを見たという感じに笑みを浮かべる。

 でも。

 

「本当なら私とみほが、戦車道について手取り足取り教えてやるはずだったんだが……」

 

 まほが少し面白くなさそうな、というか拗ねた表情を見せる。

 なるほど。ごたごたして結局、「西住姉妹の戦車道教室」はお流れになっちゃったから。自分たちがするはずだったことを横から取られた、みたいな気持ちになったのかもしれない。

 うん。もうね、まったく。

 

「可愛いなぁ、まほちゃんは」

 

 まほちゃんの頭に手を伸ばして、慈しむように撫でてしまう。

 考えるより前に、手が動いていた。自分でも少しびっくりしたよ。

 

「これから大洗学園は、戦車道で賑やかになっていくんでしょ? これからいくらでも機会はあるじゃない」

「む。確かにそうかもしれないが」

 

 ぐずぐずと拗ねる姿を見せるのも、まほが甘えていると思うと嬉しくなってしまう。

 だから、また彼女を引き寄せて、抱きしめてしまう。まほも、オレの背中に腕を回して。抱き着いて何も言わなくなった。

 視界の端で、杏さんも飛び込んでこようとしてたのが見えたけど。

 

「本当に、黒森峰の頃からは想像できない変わりようですわね」

「自分でも、変わった自覚はあるな」

 

 ダージリンさんが、会話を差し込んできた。

 まほがそれに答えたおかげで、杏さんがタイミングを逃してしまう苦笑しつつ、おいでおいでをして。杏さんの頭を軽く撫でてあげる。

 

「まほさんの真面目な仏頂面が、ずいぶんと表情豊かになりましたわね」

「ダージリン。お前、私のことをそんな風に思ってたのか……」

 

 まほとダージリンさんの会話。言い方はどうかと思うけれど、中身は良く分かる。

 恋をすると人は変わる、と言うけれど。実際、まほは随分と変わった。出会ったばかりと同じく凛々しい雰囲気はあっても、どこか柔らかさがある。ダージリンさんはそのあたりを感じ取ってるんだろう。

 

「まほさんどころか、出会ったばかりのアッサムにまで影響を与えているようですし。本当に気が多いんですのね、大瀬良さんは」

「ダージリン。貴女は何を言ってるんですか」

 

 話を振られたアッサムさんが、目を細めて睨みつけてくる。

 もちろんダージリンさんは気にすることはなく。むしろ楽しげに弄ろうとするわけで。

 

「アッサムが異性に興味を示すなんて、初めて見たもの」

「そうなんですか?」

「女子校なんですから、男性との接点なんてほぼないのは当たり前でしょう。だから私が男性と一緒にいるところなんて、見たことがないに決まってるじゃないですか」

 

 第三者からそういうことを言われると、ちょっと嬉しい。オレも男だし。

 でもダージリンさんは楽しそうにしてるから。アッサムさんをからかおうとして言ってるように見えて、素直に喜べないところもある。

 実際、アッサムさんは少し赤くなってるけど、言い返してる声は案外冷静だ。

 

「そもそも異性との接点云々というのなら、ダージリンもそういうところを見たことがありませんよ?」

「あら、藪蛇だったかしら」

「私ひとりだけをやり玉に上げようとするからです」

「こんな言葉を知ってる? 『人生とは出会いであり、その招待は二度とくり返されることはない』。せっかく知己を得たのだからもう少し誼を深くしてあげようと、そう、これはアッサムの友人としての気遣いなのよ」

「ほほう、厚き友情というものですか。嬉しさのあまり涙が出そうです」

 

 ダージリンさんに、ジリジリと迫るアッサムさん。なんだか迫力のある様子に、ダージリンさんは笑みを浮かべながらも少しずつ後ずさっていた。心なしか冷や汗をかいているようにも見える。

 

「アッサムさん、友情物語はそれぐらいで」

 

 助け舟を出すわけじゃないけど、キリがないのも事実なので。

 

「……そうですね、皆さんをお待たせするのも申し訳ないですし。ダージリン、命拾いしましたね」

「ちょっとアッサム。からかったのは悪かったけれど怖いわよ」

「なるほど。やはりからかっていたのですね?」

「あっ」

 

 いやマジでキリがないからやめようよ。

 アッサムさんをなだめつつ。一方でダージリンさんには妙な感謝を向けられる。

 でも彼女は懲りる様子はないようで

 

「でも本当に、殿方と親しくするような印象が持てなくて。大瀬良さんと仲良さげなアッサムを見たら、つい、ね」

「ダージリン、貴女は本当に……」

「フォローに入るとか、彼も満更ではなさそうだし」

「まぁ、美人なお姉さんと親しくなれて、オレとしては嬉しいですけど」

「なっ」

 

 思わずオレまで乗ってしまう。

 いやでも本当に嬉しいし。

 

「あら、良かったじゃないアッサム。貴女さえその気になれば、新しい恋人候補になるのもいいんじゃないかしら。『男の幸せは"われ欲す"、女の幸せは"彼欲す"』と言うわよ?」

 

 ダージリンさんはからかいの色を乗せて、再びアッサムさんに言い募る。本当に懲りない、愉快犯タイプの人だと分かる。困ったもんだ。

 対して、アッサムさんはもう真っ赤っかになってる。慌てる年上のお姉さん、可愛い。

 上手く聞き取れない言葉で何やら反論しているけど、そういう態度を取られると、ひょっとしたらひょっとするんじゃないかとか思ってしまうじゃないか。

 そこへさらなる爆弾が投下された。

 

「お兄さまとアッサムお姉さまは、おつき合いされているんじゃないのですか?」

 

 オレンジちゃんから、想像外の言葉が突っ込まれる。

 

「ものすごく自然な仲良しさんに見えましたのに。意外ですわ」

 

 さらに同意するセリフを、赤毛ちゃんが突っ込んでくる。

 これにアッサムさん、ひどく狼狽。つき合ってなんていません! と、真っ赤になって、あわあわしながら否定の言葉を上げる。

 正直、その様子がすっごく可愛くて。にやけてしまいそう。

 ダージリンさんはすでに、にやけていた。確実にニヤニヤしてるんだけど、品が悪く見えないのはどういうことか。美人はどんな顔をしても様になるってことなのかね。

 

「もう、アッサムったら。そんな必死に否定していたら、かえって気になってますと認めてるようなものじゃない」

「ですから、違います! そもそも彼にはすでに恋人がいるじゃないですか!」

「複数の女性とおつき合いをしていて、まほさんも杏さんもそれを受け入れている。その上で幸せそうよ?」

「確かに、恋人が5人もいると聞いて驚きはしました。異性の友人として嫌ってはいないのも事実ですが」

「ちょっと待ってアッサム」

「はい?」

「聞き間違いかしら。5人? まほさんと杏さんだけではなくて?」

「彼が言うにはそうらしいですよ。むしろあのお二方は後の方から加わったらしいですが」

 

 ダージリンさん、今度は本気で驚いてる。虚を突かれたみたいな顔をした。オレを見てから、まほと杏さんの方に目を向ける。

 対して、まほと杏さんは。

 

「俊一をお兄さまと呼んでいたが、どういうことだ?」

「なんだかいろいろあったっぽいね。是非とも詳しく聞きたいなぁ」

 

 聖グロの新入生コンビに詰め寄っていた。

 

「ちょっ、近いですわ。待って、待ってほしいですの!」

「ひぁっ。あわわわわ」

 

 やんわりと問い詰めてくるふたりに、赤毛ちゃんが少し顔を引きつらせながらたじろいでいる。オレンジちゃんはその背中にしがみついて慌てふためき、怯えていた。

 まぁ、他校の上級生にいきなり迫られたらねぇ。ビビりもするよ。彼女たちが理解しているかは分からないけど、まほは戦車道の有名人だしね。

 

 

「ちょっと皆さん、落ち着こうよ」

 

 自分の左右両側で、別々のことで騒いでいる面々。

 どちらも原因が自分だってことを棚に上げて、途方に暮れるオレだった。

 

 

 

 ―続く―




おかしいな、全然先に進まない。(仕様です)
槇村です。御機嫌如何。


同じ場に7人もいてどうやって絡ませろというのか。
でも弄られるのは主にアッサムさんだけという。不憫な。

それはいいとして。(いいのか?)
ようやく「最終章第2話」を観に行きましたよ。
対知波単戦が想像以上に面白かった。なんだあいつら超強ぇ。
あとマリー様とそど子のヒーローものみたいなアクション。なんだアレすげぇ。
ボコミュージアムでのみぽりんが異様に可愛い。
とかいろいろあって、今回「劇場版」並みにかなりツボにきた。
続きを書く前にもう一度観に行こうかな。(早く続きを書け)


※誤字のご指摘、ありがとうございました。




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32:君に夢中ガール

 合流するなり起きた妙な衝突、というか盛り上がりというか。そんなものがひと心地ついて。オレたち大洗組と、ダージリンさんたち聖グログループは場所を変えた。

 聖グロ校舎の校門からほど近いところにあるカフェ。そのテラス席に腰を据える。円形のテーブルひとつに、ダージリンさん、アッサムさん、新入生コンビが。もうひとつにオレ、まほ、杏さんが座る。

 

「今さらかもしれませんが、自己紹介をしておきましょうか」

 

 賛成ですアッサムさん。考えてみるとオレ、オレンジちゃんと赤毛ちゃんにきちんと名前を言っていないような気がする。

 そんなわけで。

 

「大瀬良俊一です」

 

 改めてオレも自己紹介。

 聖グロの関係者じゃなくて、戦車道関連で視察に来た大洗学園の生徒であること。アッサムさんに学園艦を案内してもらっている最中に、置き引き男とぶつかって、あの騒ぎになったことなどを説明する。

 同時に、まほと杏さんのことも紹介。大洗学園に新しく戦車道チームが発足するため、それに先立って勉強会みたいなものをお願いしていて。今日はそのために聖グロに来たのだと話す。

 聞くところによると、オレンジちゃんも赤毛ちゃんも、聖グロの戦車道チームに憧れて入学したクチらしい。

 それを聞いた杏さんは。

 

「戦車道に関しては、わたしも1年生みたいなものだからさ。もし大会なんかで会ったら、よろしくね」

 

 なんて感じで、聖グロ新入生コンビに対してゆるやかに接している。さっきまで「お兄さまってどういうこと?」とか笑顔で迫っていたとは思えない穏やかさだ。

 まぁそれはいいんだけど。

 

「やっぱり、お兄さまはグロリアーナの人ではないのですね。残念です」

「頼りになるお兄さまと知り合えたと思ったんですのに……」

 

 だから聖グロは女子校だって言ってるじゃん。なんて当たり前の言葉がスルーされてしまうほど、オレンジちゃんと赤毛ちゃんにがっかりされた。オレが思ってる以上に慕われてるっぽいんだけど。そんなに好感度がアップするイベントだったのかアレ。

 名前を呼ぶより前に「お兄さま」呼びが定着してしまったことに戸惑う一方、そんな風に慕ってくれるのは素直に嬉しい。マンガなんかであるような「危機一髪を見知らぬ男が救ってくれる」ってシチュエーションは、実際に体験すると相当なインパクトがあるみたいだ。

 で、その置き引き男取り押さえ事件について。オレが説明することになったんだけど。

 オレでいいの?

 

「最初から最後まで中心にいて、率先して動いていたじゃないですか」

 

 アッサムさんがそんなことを言う。

 オレンジちゃんも赤毛ちゃんも、追随するようにうなずいている。

 まぁ、嫌なわけではないから問題はないけど。

 しばし順序を考えてから、話し始める。

 

「じゃあまずは……」

 

 戦車を見せてもらった後。喫茶店でアッサムさんとお茶をしながら戦車道についていろいろ教わっていたら、ダージリンさんから連絡がきて。合流するために店を出て、並んで歩いてたんだよね。

 

「あらあら」

「ダージリン。何ですかその顔は」

「別に、何でもないわよ? 仲がよろしいわね、と思っただけ」

 

 ダージリンさん、茶化さないで。

 アッサムさんも、実力行使で友情物語するのは後でお願いします。

 

「分かりました。そうします」

「え、ちょっと。お待ちなさいなアッサム」

 

 話を進めます。

 

「大瀬良くんもちょっと」

「ダージリン、静かにしてください」

 

 進めますね。

 オレとアッサムさんが普通に歩いていたところに、曲がり角の向こうから勢い良く駆け込んできた男がいて。相手の姿も見えず、気づくこともできなかったので。こう、ドーンと。アッサムさんにぶつかってしまった。

 幸い、とっさに手を伸ばして抱き留めるのが間に合ったので。アッサムさんが転んでケガをするとか、そういうことはなかった。うん、良かった良かった。

 

「アッサム、顔が赤いわよ?」

「なんでもありません」

「ねぇアッサム、こんな言葉を」

「なんでもありませんっ」

 

 えーと。

 こちらは大したことなかったけど、相手の方はそうでもなくて。勢いよくぶつかったせいで、持っていたバッグを落として、中身をぶちまけまして。

 で、その中身が女性向けのものばかりだったから。何かおかしいと思ったわけ。

 

「そこで、私たちが追いついたんですね」

「捕まえろーって声を上げながら、ふたりして追いかけてたんですのよ」

 

 そうそう。新入生コンビが叫んでる声を聞いて、こいつはヤバい奴なんじゃないかと。

 でも、何かの間違いだったら問題になっちゃうから。一応は事情を聞こうと、アッサムさんとふたりして声を掛けてみたんだけど。

 オレ、いきなりぶん殴られたんだよね。

 

「野蛮です」

「まったくですわ!」

 

 まるで自分のことのように、憤りの声を上げて、頬を膨らませるオレンジちゃんと赤毛ちゃん。アッサムさんも、何だかムスッとしてる。なんというか、オレのことで怒ってくれているのが嬉しい。ありがとうございます。

 で、まぁ。そんな感じで、置き引き男が力づくで逃げ出そうとしやがったので。こう、相手の腕を取って、ほいほいとねじ伏せてやったわけ。

 

「スムーズに鎮圧してみせた手並み。すごいものを目の当たりにしました」

「暴れていた男があっという間に抑えつけられて。すごかったです、お兄さま」

「何が起きたか分からないうちにのしてしまって。超速くて超強い腕前でしたわ!」

 

 アッサムさん、オレンジちゃん、赤毛ちゃんが、逃げようとした置き引き男を取り押さえた一幕を思い返しながら褒めくれる。可愛い女の子たちに笑顔で持ち上げられるのは、とてもくすぐったい。でも嬉しくなってつい笑みが浮かんでしまう。

 でも、笑ってばかりもいられなくて。

 取り押さえたはいいけれど。警察を呼ぼうとしたら、置き引き男がまた暴れ出したんだよね。

 

「一連の捕り物に驚きっぱなしだったので、警察への連絡が遅れてしまいました……」

 

 少しうつむいて、しゅんとした顔になるアッサムさん。

 ちょっと待ってほしい。通報のタイミングが多少前後したところで、あの場に警察が到着するまでどのみち時間が掛かるから。そこは気に病むポイントじゃないと思うよ?

 

「私も、荷物を盗られた本人だったのに、実際に犯人の男の人を前にしたら何もできませんでした。いち早く対応して、動いてみせたお兄さまに頼りきりでしたし……」

 

 オレンジちゃんもつられるように、落ち込んだような顔してみせる。

 でもそれは仕方ないんじゃないかな。

 置き引き男は、オレが抑えつけてても暴れてたし。オレンジちゃんとかが断罪よろしく迫ってたら、逆ギレしてもっと大暴れしてた可能性もある。だからオレが相手をしたのは妥当だと思う。アッサムさんたちに怪我でもされてたら、オレとしても気分は良くなかったろうしさ。

 

「そ、そうですか……」

「はぅ……」

 

 頬を染めるアッサムさんとオレンジちゃん。可愛い。

 可愛いふたりの反応はさておいて。

 オレンジちゃんと赤毛ちゃんの荷物も一応無事だったし、アッサムさんも怪我はしなかった。後からこうすればよかったとか考えてもキリがないし。変に思い込むのはなしってことにしようよ。

 警察に同じ話はしてるから、何かやり取りがあったとしても、それはもう先生たちとかがやるべき仕事じゃないかな。

 

「確かに、そうですね」

「あんな男のせいで気持ちが陰鬱になるのも、バカバカしいですし」

「それに比べてお兄さまは本当にカッコよかったですわ!」

 

 アッサムさんとオレンジちゃんが、納得いったのかうんうんとうなずいて。一方で赤毛ちゃんは、にっこにこの笑顔でオレの捕り物タイムを褒め称える。身振りもぶんぶん入れながら。

 それからなぜか、オレがいかにカッコ良かったかをテンション高くしゃべり出した。なぜに。

 いやさ、そんな風に持ち上げてくれるのは嬉しいんだけど。面と向かって激褒めされるのはむちゃくちゃ恥ずかしい。お兄さま呼びもそうだけど、好意的なフィルターを通して見過ぎじゃなかろうか。

 しかもそれに、オレンジちゃんまで乗っかってきた。

 ふんす、と、意気込む感じでしゃべる姿はどこか小動物っぽくってほんわかさせられる。可愛い。座ってる席が離れていなかったら、ぐりぐりと頭を撫でていたに違いない。

 でも、なんだ。大人しめな女の子に、正面からベタ褒めされるのは実にこそばゆい。恥ずかしさに身悶えてしまいそうだ。嬉しいけど。

 さらに、アッサムさんが静かに参戦してきた。

 美人のお姉さんが、少し顔を赤らめつつ、オレの言動を事細かに上げながら称賛する。その様子はむっちゃ真剣だった。

 今日会ったばかりの女の子たちに、寄ってたかって好意的な評価をいただくとか。何コレどういうことなの。やばい。恥ずかしい。羞恥にまみれて溺れ死んでしまいそうだ。

 さらにさらに。まほと杏さんが、わざわざ椅子ごと移動して、彼女たちの称賛話に加わってきた。すっごく興味深そうに耳を傾けてる。

 しかも、オレのいいところ探しなら負けないぞと言わんばかりに、オレとのエピソードをあれこれ語り始めた。なぜに。

 聖グロの3人も食いついてる。他人の口からオレの日常話や武勇伝が次々と語られて、みんなすげぇ興味津々。何だこの羞恥プレイは。誰か助けてくれ。

 

「大瀬良さん、こんな言葉をご存じ? 『初恋とは少しばかりの愚かさと、あり余る好奇心のことである』」

「バーナード・ショーかよ……」

「あら。分かってもらえて嬉しいわ」

 

 置いてきぼりにされたダージリンさんが、身悶えているオレに話し掛けてくる。この人、今の状況を楽しんでるでしょ絶対。オレが恥ずかしがってるのを見て、クスクス笑ってるしな。

 

「というか、まほちゃんと杏さんはもう恋仲だからともかく。アッサムさんたちに初恋云々はどうかと思うんですけど。女性から見たら、オレみたいなのはむしろ避けるべき男でしょ」

「確かに、驚かされましたわ。普通なら大瀬良さんのような方は、不誠実とそしりを受けておかしくないと思いますもの」

 

 うん。オレもそう思うよ。

 でもダージリンさんの態度からは、嫌悪感とか「フケツです!」みたいなものは窺えないんだよね。

 どういうことかと、ズバリ尋ねてみれば。

 

「5人の恋人さんたちに慕われて、うまくやっていけているのであれば。むしろ大物として一目置いた方がいいのではないかしら」

 

 ……そういう意味では、大物なのはオレよりも女の子たちの方だと思うよ。オレの方は、彼女たちに釣り合おうと背伸びするのに精一杯だもの。カッコいいところを見せなきゃ、と気張っているのは事実としてあるし。

 

「変に卑下してみせたりすると、怒られるので。自分を下げるような言動はしないように心掛けてますよ」

「それは素晴らしいですわ」

 

 女性に応えようとする態度が好かれるポイントなのかしらね、と、ダージリンさん。

 また、女子校生活ゆえに異性に触れる機会がないから、男性への認識が置き引き男に定着することが避けられて幸いだとも。置き引き男とオレの態度や行動の違い、落差が、オレへの興味につながっているんだろうと、ダージリンさんは言う。だから、オレのことを知ってみようと思ってるんだろうと。

 

「彼女たちが貴方に好意的なのは分かるでしょう?」

「まぁ、ねぇ。向けられた好意には好意で返したいと思っている奴なので。無碍な態度を取るつもりはないんだけど……」

 

 何人もの女の子と日頃からイチャついてる奴なので、自分に向けられる好意に関してはそこそこ敏感だと自負してる。アッサムさんたちの悪からぬ感情や、そういう想いに応えたいっていう強欲さも自覚してるし。

 でもさ。いくらきっかけがあったからといっても。とんとん拍子過ぎないかなとも思うわけで。昨日はアンチョビさんと杏さん、さらに今日も女の子に色目を使うっていうのは、オレ的にもどうかと……。

 まさか「強欲さが足りない」とでもいうのだろうか。

 

「私も、乙女として恋愛ごとに興味があるというのもありますが。もっと真面目な意味でも、大瀬良さんがいてくださって良かった、と思っていますの」

 

 ありがとうございます、と。綺麗な姿勢で、頭を下げて礼を述べるダージリンさん。

 いわく。偶然ではあるけれど、置き引き事件を未然に防ぐことが出来た。これは新入生ふたり、オレンジちゃんと赤毛ちゃんのメンタル的に、とても強い影響を与えかねなかったという。

 

「後輩たちの危険なところを救っていただいた。これは大瀬良さんが思ってらっしゃるよりも、私たちが強く感謝すべきことなのですよ?」

 

 キリッと、真面目な顔をしたダージリンさんが言う。

 言うまでもなく、聖グロは女子校だ。まったくいないわけではないけれど、やっぱり男性の数は少ない。しかも学園艦というのはある種閉鎖された空間だから。同年代の異性とまったく会うことなく卒業まで過ごすということも皆無ではないらしい。

 オレンジちゃんと赤毛ちゃんは、新1年生として学園艦に乗り込んだ。期待や希望でいっぱいだったろう第1歩でいきなり、置き引き被害に遭ってしまったわけだ。

 もし、置き引き男がオレとアッサムさんに出くわすことなく逃げおおせていたら、どうなっていたか。

 彼女たちの荷物が戻ってこないのはもちろんのこと。さらに入学前から盗難に遭ったというマイナスの意識を抱えたまま、聖グロでの新生活をスタートさせることになる。

 しかも、荷物を奪った犯人の男を目撃している。そのため、男性に対する苦手意識、あるいは嫌悪感が生まれることも考えられる。そうなると、卒業までの3年間、それを改善する機会のないまま過ごすことになりかねない。

 

「つまり、男性不信になる可能性があったと?」

「ひどい男嫌いにまで拗れるかもしれませんわね」

 

 なるほど、と素直に思った。

 新生活初日に生まれた男性への不信感や不快感が、3年間の女子校暮らしで拗れに拗れていく。女子校暮らしの間ならまだしも、卒業後は人間関係に問題が生じるだろうことは想像に難くない。

 

「新入生である彼女たちが、聖グロリアーナで過ごす前につまづかずに済んだ。要らぬトラウマを抱えずに済んだ。そして我が校が、いたずらに男性排除に傾きかねない事件を未然に防げたということ。いろいろな理由から、私は大瀬良さんに感謝していますわ」

「考え過ぎ、と一笑に出来ないリアルさがありますねぇ」

「やや大袈裟に言ってはいますが、あり得ない話ではありませんので。ここだけの話、実際に『男子禁制にすべし』という声も少なからずありまして……」

 

 男尊女卑ならぬ、女尊男卑みたいなものがあるらしい。

 しかも戦車道の名門として名を馳せる聖グロは、上下の関係がとても密になっている。それにはメリットもデメリットもあり、デメリットのひとつが「異性に対する軽視や悪感情の伝播」なんだとか。

 

「怖いな、名門女子校」

「ほんの一部ですわ。私もアッサムも、殿方というだけで毛嫌いしたりはしませんもの」

「でも、男はちゃんと選んだ方がいいと思うんだけどなぁ」

「片端から男性を避けるようになってしまうくらいなら、異性に対して多少だらしない方でもつき合いがあった方が、まだ健全だと思うのです」

 

 ダージリンさん、もう少しオブラートに包んでください。オレみたいな奴でもいないよりマシ、と言われてることくらい読み取れますよ?

 

「でもまぁ、だらしない自覚はあるけどさ」

「本当に嫌悪感があるなら、正面からこんなことは言いませんわよ?」

「なるほど。あれだな。嫌いという言葉は愛ゆえのもの、本当に嫌っている相手にはわざわざ嫌いなんて言葉は使わない。みたいな」

「あら、なかなか含蓄に富んだ言葉ですわね。何かの格言でして?」

「格言? どこかで見たか聞いたか、うろ覚えな言葉が出てきただけですよ」

 

 もっと言えば、これは誰かの言葉じゃなくて。自分自身の経験から出てきたものでもある。

 例えばの話。みほとじゃれ合ってたらちょっとエスカレートしちゃって、癇癪を起こした彼女が駄々っ子パンチしながらキライキライと言ってきても、本当に嫌われたとは思わない。むしろふくれた姿が可愛らしくてタマランよ。笑いながら謝って、抱きしめて頭を撫でて、めちゃくちゃ甘やかしてしまう。そうこうしているうちに仲直りだ。むしろ「嫌い」と口にして言われているうちは、全然嫌われてないよ。

 ……何の話だったっけ?

 

「格言っていっても、それが何であれ言葉で促しているだけ、注意喚起してるだけであって。知識としていくら知っていても、経験を通して身にならないことには仕方ないでしょ」

 

 そうそう。格言云々の話だった。

 過去の偉人の言葉ってのは、どれだけ吸収していたとしても、どれだけ実践に活用できるかが大切なんじゃなかろうか。ちょっと例えは悪いけど、恋愛ハウツー本には詳しいけど、実際に自分は恋愛したことがない、みたいな人は結構いるんじゃない?

 

「うぐっ」

「どうしました。持病の癪?」

 

 あれ。ダージリンさんが胸に手を置いて苦しそうにしてる。

 

「これは素なのかしら。それとも私をあげつらっている? 『賢者はことわざを生み、愚者はそれを繰り返す』とでも言わんばかりに」

「パーマーのそんな言葉がさらっと出てくるなら、格言好きもそれほど無駄にはなっていないでしょう」

「あらアッサム。大瀬良さんの好き好きポイント発表会はひと段落ついたのかしら?」

 

 あ、アッサムさんがこちらに入ってきた。

 あとダージリンさん。それ、オレからコメントしづらいから止めてくれないかなぁ。

 あとあとアッサムさん。好き好き云々は否定しないんですかね。顔を赤くしてダージリンさんを睨みつけてる顔、とても可愛くてぞくぞくする。

 

「ダージリンと大瀬良さんが、真面目な話をしているようでしたので」

「そうね。後輩たちを助けてくださってありがとう、という話よ」

「なるほど」

 

 表情が少し改まって、納得の顔をするアッサムさん。本当に真面目な話だったみたいですね、とかつぶやいたのはツッコミをいれた方がいいのだろうか。

 ダージリンさんに「好き好きポイント発表会」とか言われて、アッサムさんの顔は真っ赤っかだ。改めて自分たちが何の話で盛り上がっていたのか、自覚したのかも。

 でもムキになって否定してこないのは、言い返してもダージリンさんには効果がないとあきらめているのか。それとも、って感じ。オレの自惚れじゃなければ嬉しいけど、それはそれでどうしたらいいものか……。

 なんてことを考えていると。アッサムさんの後ろから、杏さんまで顔を出す。

 

「でも本当は、仲良さそうに話をしてるふたりが気になって仕方なかったんだよねぇ」

「なっ。杏さん何を言ってっ」

「まぁまぁアッサムさん。ムキになって言い返しても、可愛いだけだよ?」

 

 杏さんがニヤニヤしながら、アッサムさんをなだめる。というか絡んでくる。絶対に楽しんでるでしょコレ。

 

「そうそう、落ち着きなさいな。嫉妬なんてしなくても、大瀬良さんはきちんとアッサムのことも構ってくれるわよ」

 

 ダージリンさんまで、煽る煽る。

 ぱっと見た限り、彼女は落ち着いて紅茶を飲みながら、淑女然としているように見える。でも口元がにやけてるのは、カップだけじゃ隠せてないぞ。

 ダージリンさんと杏さんの愉快犯タッグが、人の悪い笑みを浮かべ見つめてくる。

 まほは、オレンジちゃんと赤毛ちゃんを相手にまだ「好き好きポイント発表会」とやらをしているみたいで。この3人はこちらをスルーしている状態。

 結果、アッサムさんは孤立無援で、からかいの魔手にさらされる寸前だ。

 

「くっ」

 

 状況を理解したのか、にやつくダージリンさんと杏さんから距離を取ろうとするアッサムさん。さらに助けを求めるように、彼女はオレの方に目を向けてくる。

 気持ちは分かるよ。でも思わず苦笑してしまう。

 その反応は、からかうネタをさらに提供するだけだと思うなぁ。

 なんてことを思いながら。自分のすぐ隣に空いた椅子を持ってきて。

 

「アッサムさん」

 

 ぽんぽんと、座面を叩く。

 彼女は顔を赤くさせて、促されるままにオレの横に来る。

 そして、今日一番の近い距離で、アッサムさんは自分から座り込んだ。

 

「あらあら」

「おー」

 

 声を上げるダージリンさんと杏さんを、アッサムさんは無言で睨みつける。

 おぉ、怖い怖い。

 

「でもそれ以上に、可愛いよね」

 

 あ、声に出ちゃった。

 

「おっ、おおせらさんあなたはなにをっ」

「すごいわ、ストレートに口説かれてるわよアッサム」

「あれをかなりの素でやってるんだから、大瀬良くんも罪作りだよねぇ」

 

 肩が触れそうなほどのすぐ隣で、真っ赤になって慌てふためくクール系お姉さん。

 可愛過ぎだろ。

 あまりに可愛くて、からかいの言葉は耳に入ってこなかった。

 

 

 

 ―続く―




オレ、何を書いてるんだろう……。
槇村です。御機嫌如何。


男慣れしていない淑女候補たちが、
インパクトのある出会いと対応を経験してコロッといった。
そんな感じだ。
これが吊り橋効果ってやつか……。

あとダー様について。
自分で書いてて思ったんだけど。
ダー様をネタキャラに振りきらないようにするのが大変でした。
日常会話の端々に格言を突っ込んでくるようなひとは、そりゃあネタキャラ扱いされるよ。
一方で、そういう人だから、ネタが分かってくれる人にはむっちゃ懐きそうな気がする。

ちなみに聖グロ編は次回が最後の予定です。




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33:MajiでKoiする5秒前

 アッサムさんが顔を赤くしているのは、ダージリンさんと杏さんにからかわれているから。

 どうしてからかわれているかというと、オレが「可愛い」「可愛い」と連呼しているから。

 そうだよね?

 でも仕方ないじゃん。本当に可愛いんだもの。

 クールで頼りになって物知りなお姉さんだよ?

 その上ちょっとした冗談にも気兼ねしないで乗ってくるノリの良さもある。

 きつめの目つきがとっつきにくさを感じさせるかもしれない。でもちょっと会話とかやり取りをすれば、優しいところとか世話焼きなところとかを感じられるでしょ。

 それでいて、恥ずかしくなったりするとすぐに真っ赤になっちゃうところとか。可愛いよね。肌が白いからかな、顔色が変わるとすぐに分かる。

 あとアッサムさん、顔が赤くなると一瞬動きが止まるんだよ。「あ、内心では羞恥に悶えてるのかな」とか思っちゃって、とっても可愛い。ギャップが半端ないでしょ。

 硬直が解けてから、鋭い目つきで睨みつけてくるんだけど。それも恥ずかしがってるのをこらえようとしてるのか、やり過ごそうとしてるのか。そんな風に思えちゃって、怖いどころか逆に可愛らしくてなぁ。もう、こちらの方が悶えちゃいそうだよ。

 でもやっぱりアッサムさん一番の推しどころは、しっかり者で面倒見のいいところだね。

 だってさ、いきなり押しかけて来た他校の男子生徒のお守りを任されてさ。どんな奴かも分からないのに、きちんと対応してくれるのってすごくない? 男なら胸キュンでしょ。少なくとも素敵なお姉さんだって慕っちゃうね。間違いない。オレンジちゃんや赤毛ちゃんがお姉さまと慕うのも良く分かる。

 それでいてお茶目なところがあるのも、可愛いよね。

 喫茶店でイチゴパフェを頼んだ時。主役といっていい大粒イチゴをかっさらわれた時は、「なんだと!」と声が出ちゃったもの。いや、オレが「取っていいよ」って言ったんだけどさ。いきなり目玉のものを持っていかれたのは驚かされた。「ターゲットを捉える隙があったなら逃さない。それが砲手の矜持だ」みたいなことを、してやったりな顔をして、イチゴをパクつかれながら言ってくるの。そんなの胸キュンでしょ。冗談交じりの言い方だったけど、気を許してくれたような気になれて、嬉しかった。

 なんというかさ。美人はどんな顔をしても、綺麗にも可愛くもなれてズルいなぁと思った。

 

「……っ。くぅ……っ」

 

 ……あれ?

 気がつくと、オレのすぐ隣に座っているアッサムさんが、両手で顔を覆いながらうつむき、震えていた。耳とおでこが真っ赤になってる。恥ずかしがり屋さんだなぁ。

 

「こんなことを間近で言われて羞恥を覚えない人がいますかっ!」

「うおっ」

 

 面を上げ、アッサムさんが吼える。うがー、みたいなすごい勢い。噛みつかんばかりの表情で、オレを睨みつけてくる。迫力満点だ。

 びっくりはしたよ。でもいわずもがな、彼女の顔は真っ赤っか。しかも上目遣いでこちらを見上げてくるのだから。もうね。

 

「可愛い」

「んなっ」

 

 自然と言葉がこぼれてしまう。

 だって可愛いんだもの。

 アッサムさんはまた手をやって、赤くなった顔を覆い隠そうとする。でもさっきとは違って目は隠しきっておらず。指の間からオレの方を見つめたままだ。

 

「私が異性に慣れていないからといって、そんなに弄んで楽しいですか?」

「人聞きが悪いなぁ」

 

 好ましい相手とスキンシップを取ろうとしてるだけですよ。

 まぁ確かに、アッサムさんの反応が可愛らしくって、調子に乗ってるのは否めないけど。

 

「あれですよ。気になる女の子にちょっかい出したくなる、みたいな。……あ、でもそれで嫌われたら困るな。んー」

「あうぅ……」

 

 気を引くために悪戯をするってのは悪手だな。でもあたふたするアッサムさんが見られないのも、それはそれでもったいないし……。

 なんてことを、悶えているアッサムさんの横で考えてしまう。

 

「ノリノリだな、俊一」

「大瀬良くんは、人を褒めたり好意を向けたりすることに躊躇しないからねぇ」

「この甘酸っぱさは何ですの。聞いているだけで恥ずかしくなってきますわ……」

 

 常日頃から「好き」だの「可愛い」だのと言われ続けているまほと、恋人になる前からオレの性格を知っている杏さんは、ふたりしてうんうんとうなずいている。然もありなんとばかりに。

 ダージリンさんは、そこそこ顔を赤らめながら何かをつぶやいてる。それでもアッサムさんにちょっかいを出してこない辺り、場の雰囲気を読んでいるというかなんというか。

 でも。

 そんなこと知るかとばかりに突っ込んでくる女の子が。

 新1年生の赤毛ちゃんだ。しかもかなりの直球で。

 

「お兄さまお兄さま! まほお姉さまと杏お姉さまだけじゃなくて、5人も恋人がいるって本当ですの?!」

 

 赤毛ちゃんがぐいぐいとオレに突っ込んできながら、そんなことを尋ねてくる。まほお姉さまに杏お姉さまって、なんだか響きが新鮮だな。

 

「あー、うん。それは本当。もったいないような恋人たちがオレを慕ってくれてるよ。もちろん、オレもみんな大好きです」

「はー。そんなマンガみたいな男の方は初めて見ましたわ」

 

 そりゃそうだろうねぇ。

 

「で、軽蔑した?」

「え? なんでですの?」

 

 なんでってオイ。

 何を言ってるのか分からない、みたいな感じで、赤毛ちゃんは首をかしげる。

 なんだかこういう反応が続くと、オレの常識の方が間違ってるような気がしてしまう。

 

「あちこちに色目を使ってるような奴は、女の子的には嫌なもんじゃないの?」

「でも、皆さんお兄さまのことが大好きでおつき合いしてるって、まほお姉さまは言ってましたわ。アッサムお姉さまも、お兄さまとお話してるのはすごく楽しそうでしたし。幸せならオールオッケーだと思いますの」

 

 天真爛漫と言うべきか、深く考えていないと言うべきか。赤毛ちゃんは「問題ない」と声を上げる。ふふん、という感じで胸を張って。

 というか、彼女の中ではすでにアッサムさんも恋人の仲間入りをしているらしい。

 

「そもそも他人様の恋愛ごとに首をつっこんであれこれ言うほど野暮じゃありませんわ!」

 

 ……なんだろう。赤毛ちゃんがすっげぇイイ女に見える。

 オレはたまらず、彼女の頭をわしゃわしゃと撫で回した。少し乱暴に可愛がるような手つきだけど、赤毛ちゃんはむしろ嬉しそうに反応する。「いやー」とか言いながらも笑顔を浮かべている。見る限りではご満悦だ。

 

「お兄さま。杏お姉さまからお聞きしたのですけれど」

 

 同じように、オレンジちゃんも話し掛けてくる。

 彼女の方も、杏さんのことをお姉さま呼びだ。どうやら「お兄さまの恋人だから、お姉さまだ」みたいなことらしい。

 ふたりとも聖グロの新入生なのに、まほとも杏さんともすっかり仲良しになってる。さっきまでしていたらしい「好き好きポイント発表会」なるもので、どんなやり取りがあったのやら。

 まぁそれはいいとしてだ。

 オレンジちゃんが聞いてきたのは、忙し過ぎてグロッキーになってた柚子さんを陰から日向から支えていたという話。相手のしようとしていることを尊重しつつも、心身を気遣って何かとケアしようとしたオレに感銘を受けたと、彼女は言う。

 ……杏さん、話をかなり盛ってませんかね。大枠ではあってるけど、細かいところを見ると間違ってる、みたいな感じでさ。

 

「忙しそうなところに、猫の手レベルで手伝ったとか。体調が悪そうに見えたから、声を掛けて心配したとか。その程度だよ? 大したことしてないよ?」

「そういうことを、大したことないって言いながらさりげなくできるのが、素敵なんです!」

 

 なんだろう。オレンジちゃんの中で、オレがものすごい聖人君子っぽくなってない? 柚子さんを気遣ったのは確かだけどさ。現状の問題提起やら、改善に動いたやら、そんな大それたことをした覚えはないぞ。

 心中複雑になりつつ、杏さんに目を向けると。

 あ、そっぽ向きやがった。

 ということは、いろいろと吹き込んだ自覚があるんだなこの人。

 

「いやでもさ、先生ぐるみで生徒会業務の在り方が見直されてるのは事実だし。そのきっかけは大瀬良くんだし。それに、小山が精神的に参ってたのを助けたから、つき合うようになったんじゃん?」

 

 杏さんが、言い訳するみたいにまくし立ててくる。

 いやいや、そんなこと一気に言われても困るよ。いっちょ噛みしただけなのに、成果のほとんどをオレが持っていってる、みたいな扱いをされてて居心地が悪い。

 何より、「お兄さますごいです」とキラキラした目でオレを見てくる、オレンジちゃんの純真さに心が痛む。オレはそんな大層な奴じゃないんだ、女の子とイチャつくのが好きなだけのスケコマシ野郎なんだ。

 自重しているはずの自虐が漏れ出てきそうになって。

 ごまかすかのようについ、オレンジちゃんの頭に手を乗せて。

 そのまま、ぐりぐりと撫で回した。

 

「え?」

「あ、ごめん」

 

 少し驚いたように、オレンジちゃんがこちらを見つめる。

 オレの方も、自然と手が伸びたことに驚いて。謝りながら手を引っ込めた。

 引っ込めたんだけど。

 

「あ、嫌じゃないです! むしろもっと撫でてほしいなぁ、って……」

 

 恥ずかしそうに、小さな声でそんなことを言うオレンジちゃん。

 ついさっき、赤毛ちゃんが撫でられているのを見て羨ましくなったんだとか。

 オレの方も、彼女の小動物のような可愛らしさに何度となく撫で回したいと思っていたので。お言葉に甘えて、再び彼女の頭に手を置いた。遠慮なく、愛でるように、努めて優しく。

 

「ん……。ふわぁ……」

「ズルいですわ! わたくしも撫でてほしいですの!」

 

 さらに赤毛ちゃんが、もっと撫でろと迫ってきて。

 聖グロの新入生コンビを、揃ってイイコイイコすることに。なんだこの状況。

 お兄さまと慕ってくれているふたりは、撫でられて嬉しそうにしている。

 オレも可愛い女の子たちを撫でられて嬉しい。

 ……どちらも嬉しいんだし、細かいことはいいか。

 そんな気持ちになったところに。

 

「ずいぶんと、嬉しそうですね」

 

 真っ赤になってあわあわしていたアッサムさんが、いくらか落ち着いた様子でツッコミを入れてきた。何やってんだコイツ、みたいな感じで、ジト目で睨みつけてくる。

 でも、少し拗ねているように見えるのは自意識過剰だろうか。

 

「アッサムさんも、撫でてほしかったですか?」

「え、なっ」

 

 つい、おちゃらけた返しをして、彼女を弄ろうとしてしまう。

 再度、顔を真っ赤にしてしまうアッサムさん。効果はてきめんだった。

 

「……っ。この人は、本当に、もうっ」

「あはは。ごめんなさい。」

「先ほども言いましたけれど、私をイジメてそんなに楽しいですかっ」

 

 アッサムさんには申し訳ないけれど、むっちゃ楽しい。

 クール系な年上お姉さんが、顔を真っ赤にして慌てる姿が可愛らしくて。ついつい。

 

「かわっ。そ、そんなことを言われても……」

「まぁ、オレみたいな気の多い奴の言葉じゃ説得力薄いかもしれませんけど。アッサムさん、自信持っていいですよ? 共学校だったら男が放っておかないと思うし。オレなら四六時中、可愛いとか大好きとか囁いても苦にならないけどなぁ」

「そんなのは貴方くらいです!」

 

 ついにアッサムさんが、爆発した。

 恥ずかしさで真っ赤になった顔を隠そうともせず、オレに食って掛かってガクンガクンと揺さぶってくる。ははは、本当に恥ずかしがり屋さんだなぁ。

 

「……なんですのあれは。学園艦の外には、あんな恥ずかしいことを堂々と言えるような殿方がいるのですか」

「いやいや、さすがにそれはないよ」

「あれだけストレートなのは俊一くらいだと思うぞ?」

 

 何か不本意なことを言われたような気がするけど。キレたアッサムさんに揺さぶられていてそこまで気が回らない。

 さらにオレンジちゃんと赤毛ちゃんの新入生コンビが、「お兄さまとアッサムお姉さまはやっぱり仲良しさん」なんて言い出して。アッサムさんがさらに取り乱す。訳の分からないままカオスになっていく。

 ダージリンさんたちが何を話しているのかとか、オレは意識が届かなくなっていた。

 

「でも本当に、ここまで感情を前に出すアッサムは初めて見るかもしれないわ。普段のあの娘は、データ主義で、冷静に物事を捉えようとするタイプなのに」

「俊一は感情や感覚で突っ切るところがあるからな。一度絡んだら振り回しっ放しになるか」

「そう? 大瀬良くんって、割と下準備はきちんとやって、それから好き勝手やるイメージなんだけど」

「なるほど。言われてみれば、行き当たりばったりではなかったな」

「振り回すにしても、相手が嫌がるようなことはしてこないからね。アッサムさんも本気で嫌がってるわけではないみたいだし」

「言うなれば、胸の内に感じる慣れないこそばゆさに戸惑っている、といったところか」

「おぉ。西住さん、乙女心をかなり適切に表現してるね」

「俊一の気遣いと心配りは天下一品だからな。彼女も俊一にメロメロのようだし」

「伊達に五股男を実現させてないよねぇ。でもさ、いいの?」

「何がだ?」

「アッサムさんが、大瀬良くんにメロメロになっちゃうこと」

「ふむ。杏にも言ったが、きちんと私も構ってくれるのなら、何人増えても構わんよ」

「男前だねぇ。実はさ、大洗にも何人か、怪しい女の子がいるんだよね。これが」

「ほぉ。さすが俊一。知らないところでモテモテだったわけだな」

「転入早々に、小山とくっついたからさ。あまり表立ってそんな様子は見せてないみたいだけどね。仲のいい女の子は、結構いるっぽいよ」

「その筆頭が、杏だったわけか」

「たはは。返す言葉もないなぁ」

「……まほさんに杏さん? ものすごく普通に、普通じゃないことを話してますけど」

「ん、なんだ? ダージリンも、俊一に興味が湧いたか?」

「いえ、そういう訳では……。あ、大瀬良さんのことは好ましい殿方だと思ってますわよ? だからそんなに睨まないでくださいな」

「どうどう、落ち着いて西住さん」

「まさか、恋人になびかなかったからといって威嚇されるとは思いませんでしたわ」

「あはは。災難だねぇ、ダージリンさん。それにしても、アッサムさんも新入生コンビも、今日会ったばかりとは思えない好感度だよね。やっぱり、アクシデントを経てロマンスが生まれた、ってことなのかな」

「となると、ダージリンだけが置いてけぼりにされるわけだな」

「まほさん。その言い方は何か悪意を感じますわよ」

「でも、事実ではあるよねぇ」

「杏さんまで……」

「わたしたちが大洗に帰った後でさ、アッサムさんと1年生ふたりが、大瀬良くんの話で盛り上がるでしょ? でも」

「ダージリンだけ、話題に入れないわけだな」

「ちょっと悪意があり過ぎませんこと? 特にまほさん、仲間外れを連呼されるのは心外ですわ」

「だが、事実だろう?」

「アッサムさんたち3人で、紅茶を飲みながらガールズトークに華が咲くわけだね。ダージリンさん、わたしも経験があるけどさ。他人のノロケを、相槌さえ打てずに聞き続けるって、辛いよ?」

「やっぱり仲間外れか」

「まほさん! もしそうなったとしても、大瀬良さんに関わる話ができればいいのでしょう? 彼は私の格言にも反応し、正解さえ返してくれましたわ。楽しく会話をやり取りできる証拠ではなくて?」

「ダージリン、お前の格言好きは相変わらずか……」

「格言好き?」

「杏、気をつけろ。ダージリンは、偉人やらなにやらが残した格言や有名な言葉が好きでな。普段の会話にも何かと絡ませてくるんだ」

「うわ、めんどくさ」

「杏さん、面倒とはなんですか!」

「ダージリン。実は私も少し面倒だと思っている」

「まほさんまで!」

「となると、反応して言葉を拾ってくれる大瀬良くんは貴重な男だねぇ」

「そうだな。男女問わず、趣味嗜好に理解を示してくれる相手は貴重だな」

「縁を切っちゃうのはもったいないよねぇ」

「あの、杏さん? まほさん? 話が妙な方向に向かってないかしら」

「え、そう?」

「気のせいじゃないか?」

「……絶対、気のせいじゃないですわ」

「それなら気のせいじゃなくなるように、ダージリンにもいろいろと吹き込んでやろう」

「あ、さっきの"大瀬良くん好き好きポイント発表会"だね」

「え。ちょっと、まほさん? 杏さん?」

「安心しろ。実体験と具体例を織り込んだ、アッサムも納得の"俊一情報"だ」

「アッサムさんにも新1年生ふたりにも大好評だった内容だよ」

「ちょっ、ふたりともお待ちに、お待ちになって!」

 

 なんだか、ダージリンさんたちがエキサイトしてるみたいだけど。

 こちらはこちらで、アッサムさんがエキサイトしてるので。気を回している暇がない。クールさをどこかへ放り投げた彼女が、本人いわく初めての褒め殺し体験に取り乱したのをなだめるのにいっぱいいっぱいだった。

 そんなところも可愛らしいとか言ってるうちに。アッサムさんが今度は拗ねてしまい。

 

「ごめんなさい、アッサムさん」

「もう、知りませんっ」

 

 半笑いながら、彼女をなだめつつ御機嫌を取ることに。

 結局。

 アッサムさんは脱力し、ふてくされたような顔をしながら、大人しくオレに頭を撫でられるという。まさかの結果に落ち着いた。

 ちなみにもう片方の手は、オレンジちゃんと赤毛ちゃんがジャンケンで奪い合っていた。

 そんな風に、なんやかやと騒がしく。

 聖グロリアーナ女学院での滞在時間は過ぎていった。

 

 

 

 ―続く―




800字超にわたるひたすら褒め称えるだけのテキストに、アッサムさんは耐えられるか!?
槇村です。御機嫌如何。


無理でした。アッサムさん赤面にて撃沈。

加えてなぜか、
ダー様が俊一以外に責め立てられるという不可解な事態に(笑)
ラスト部分。
主人公の一人称で進むがゆえに、
絡んでいないダージリンたちの話をどう書こうか悩んだ結果。
地の文を挟まない会話の連続で描写することにした。
主人公は、会話は聞こえてるけど、把握できず反応できない、というていで。

好感度的には、
アッサムさんとペコ&ローズヒップは「友達以上恋人未満」な感じをイメージ。
ダー様はまだ「友達止まり」だけど、まほと杏が外堀を埋めにきているみたいな。
何してんだよお前ら(笑)

アッサムさん、まさに「MajiでKoiする5秒前」。
……時間の問題だよね。
でも作者、これ以上どうすればいいか分からなくなっちゃったから。
練習試合の回まで丸投げだよ(メタ的発言)
気になる男子に胸ドキする苦しい時間を過ごすがいい!(鬼畜)

主人公が熱に浮かされてるみたいな言動をしていますが、
一番熱にやられているのは作者です(暑い)

次回、大洗へ戻ります。




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34:ただいまおかえり

 もうすぐ夕方になるかなという頃。

 俺たちが聖グロの学園艦からお暇する予定の時間になった。

 なったんだけど。

 

「お兄さま、もう行ってしまうんですか……」

「せっかく仲良しになれたんですのに……」

 

 オレンジちゃんと赤毛ちゃんがとてもぐずついた。まだ明るいんだから、帰るには早いんじゃないかとか。

 でもね、茨城の大洗まで帰るのに、電車で2時間くらいは掛かるんだよ。

 オレはともかくとして、生徒会長の杏さんは、帰った後にもあれこれやることがあるらしいから。そう長居もしていられない。

 オレだけ残る? 女子校に男ひとり取り残されるとか、勘弁してください。

 

「そんなわけだから。今日のところはここまで、ね」

 

 なだめるように、オレンジちゃんと赤毛ちゃんの頭を撫でる。もう互いにすっかり、撫でるのも撫でられるのも抵抗がなくなってしまった。それだけ親しくなれたんだと思えば、やっぱり嬉しくなってくる。

 お兄さまと呼ばれ続けたせいか、オレとしても妹を甘やかすみたいなつもりで、ふたりに接してしまう。妹がいたらこんな感じなのかなぁ、とか。ずいぶん懐かれたもんだ。

 もちろんふたり揃って、メルアドやら電話番号やらを交換した。オレンジちゃんも赤毛ちゃんも喜んで応じてくれた。せっかく仲良くなれたんだから、縁が切れてしまうのはもったいないよね。

 アッサムさんともかなり仲良くなれたと思う。お姉さま呼びされてるから、姉妹揃ってというのも変だけど。

 仲良くというか、オレ、最終的には口に出して好き好きって言ってたような気がするよ。そう口にすることに抵抗がなくなってる自分に驚いたけど、悪い気はしないから、まぁいいかな。素直なのはいいことだよ。

 

「貴方の場合は、もっとオブラートというものを知るべきだと思います」

「じゃあ、『月が綺麗ですね』みたいな言い回しの方が好きですか?」

「それはそれでストレート過ぎるでしょう!」

 

 なんてことを言ってみれば、アッサムさんは打てば響くように返してくれる。

 言葉だけを聞けば、オレが一方的にからかって、アッサムさんが激高しているみたいだけど。別にそういう訳でもなくて。隙があればアッサムさんの方から逆に、ジョーク混じりの言葉でオレをやり込めようとしてくる。うまい具合にいってオレが虚を突かれたりすると、してやったりととドヤ顔をしてくるんだぜ。可愛い。

 結構、他愛のないおバカなやり取りをするのが楽しくなっていた。彼女の方も、悪くないと思ってくれている。と、思いたい。

 もっとも、オレがアッサムさんを赤面させるのに悦びを感じていることに、向こうも気がついているようで。彼女がかなり警戒し出したのが、少し悲しい。

 

「そういう訳で。心の距離を縮めるためにも、連絡先を交換しましょう。してください」

「距離を感じているのであれば、原因は貴方が可愛いだの何だのと私を弄るからだと分かっていますか?」

「でも、アッサムさん可愛いんだもの。そういう時の反応、すごく好き」

「この人はもう、本当にどうしたら……」

 

 気がついたらもう、アッサムさんには好きとか可愛いとか感情をオープンにしちゃってたからね。どうしちゃったのオレ、ってくらいに。

 でも、感情を伝えているだけ。つき合ってとか、そういうことは口にしていない。

 なんのかんの言っても、嫌われてはいないと思うし、むしろ好意を感じられる。

 これでオレがフリーだったら、迷わず即告白なんだけど。すでに5人の恋人がいる五股男だから。そんなことをしたらアッサムさんに迷惑を掛けてしまう。

 ……オレの6人目の恋人になってくれ、とか、面と向かって言えるほどオレのメンタルはまだ強くない。ハーレム状態を受け入れて、彼女たちを何とかする覚悟はもうとっくにしてるけど。相手をほいほい増やそうとするほど軽くもなれないわけで。

 もうどうしろというのか。

 なんて内心ギリギリしているところに、ダージリンさんが声を掛けてきた。

 

「今日は本当に楽しかったですわ。アッサムの知らない一面も見れましたし」

「ダージリンさん、アッサムさんをからかうのもほどほどにね」

「貴方に言われたくありませんわ」

 

 ダージリンさんとは、あまり接点はなかったなぁ。最後の最後でちょっと話ができたくらいか。本来の用事を考えれば、仕方ないことだけどね。

 でも彼女も、五股男なオレを非難するような態度は見せなかった。驚きながらも、こういう男もいるのか、っていう興味を見せたくらいで。

 いや、友人のアッサムさんが女慣れしてる男に翻弄されているさまを見て楽しんでただけかもしれないけど。……字面だけ見ると最悪だなコレ。

 でもまぁ、少なくとも嫌われてはいないようだから、万々歳だろう。

 ありがたいことに、ダージリンさんも連絡先の交換をしてくれた。

 

「いいんですか?」

「あら。他の3人とは交換したのに、私だけ、除け者に、するのかしら」

「ダージリンさん、除け者って言葉に力が入ってません?」

 

 まほと杏さんに、ずいぶん熱のこもった話をさせられてたみたいだけど。何かあった?

 オレとしては、ダージリンさんみたいな美人さんとお知り合いになれて素直に嬉しいけど。でもどこか、オレを見る目が少し剣呑というか、トゲがあるように感じるのは気のせいだろうか。

 ……後から聞いたことだけど。格言好きなダージリンさんに対してオレは、いくら先人の言葉ばかり知っていても自身の経験につながらないなら無意味、みたいなことを言ってたらしい。それで思うところがあり、ダメージを負ったようで。

 オレ、そんなこと言った?

 とにかく、それが少し気に入らなくて、変な態度を取っていたんだと。

 あと、まほと杏さんにいろいろ吹き込まれたことも理由らしい。

 ふたりとも、ダージリンさんに何を言ったんだ……。

 

「いろいろありがとうね。本当にためになった」

「いえいえ。大洗学園の躍進を期待しておりますわ」

 

 杏さんとダージリンさんが、握手する。

 互いに別れを惜しみながら。

 オレたちは聖グロリアーナ女学院を後にした。

 港に降りて。学園艦を見上げて。甲板で見送ってくれている皆に手を振る。

 オレンジちゃんと赤毛ちゃんは、ぶんぶんと大きく手を振り返してくれて。

 アッサムさんは控えめに、胸の前あたりでひらひらと手を振ってくれた。

 ダージリンさんは、こっちに応えるように少し手を上げる。

 そんな風に見送られながら。

 俺たちは短くも濃い視察を終えて。

 茨城県の大洗へと帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 神奈川県の横浜から茨城県の大洗まで、電車でおよそ2時間強。特急やら快速やらを乗り継いで、長い時間をガタゴト揺られる。

 その道中、いろいろ疲れたせいだろうか。3人揃ってほとんど寝こけていた。

 並んで座って、真ん中にオレ。両隣に、まほと杏さん。それで、ふたりともオレの肩に頭をあずけて寝息を立て始めた。無防備なその顔がね、また可愛らしくて。思わずにやけてしまった。

 恋人たちの寝顔を眺めている間に、気がついたらオレまで寝落ちしまう。1回乗り継ぎを挟んで、両方とも即寝落ち。気がつけば乗っていた電車は大洗に到着。時間はもう午後6時を回っていた。

 大洗港に停泊している学園艦に上がるや否や。

 

「おかえりなさいっ」

 

 熱烈な出迎えを受ける。

 迎えに来てくれていたみほが、オレに飛びついてきた。

 あー。この腕の中に納まる感じ。すっごく久しぶりな気がする。

 

「ただいま、みほちゃん」

 

 出迎えに応えて、きゅっ、と抱きしめた。

 彼女は嬉しそうに表情を緩めながら、顔を押しつけてくる。

 しばらく堪能したかと思えば、今度はまほの方へと突進した。

 

「お姉ちゃん、おかえり」

「ただいま。みほ」

 

 抱きつく妹に、まほも表情を緩めながら、抱きしめ返す。

 仲睦まじい姉妹のやり取りだ。いいね。ついつい笑みが浮かんでしまう。

 

「本当に、仲がいいんだねぇ」

「仲良きことは美しきことかな、ってことだね。いいことじゃないか」

「大瀬良くん。今ちょっと、ダージリンさんっぽかったよ?」

「……あ、なるほど。ダージリンさんの格言って、ことわざとか故事成語とか、お婆ちゃんのためになる話とか、そういう括りなのか。そう考えると、目くじらを立てることもないじゃん」

「大瀬良くん。それ、本人に言っちゃダメだよ?」

「そうなの?」

「そうなの」

「まぁ、杏さんがそう言うなら」

 

 よしよし、と、聞き分けのいいオレの背中を叩く杏さん。

 言われてみれば、お婆ちゃんの知恵袋的な扱いをしようとしていたわけで。もしダージリンさんに知られたら激怒されること請け合いだ。

 うん。これはオレの中で封印しておこう。

 なんて風に、杏さんと親し気なやり取りをしていたら。

 

「会長、お帰りなさい。俊一くんも」

「お疲れさまでした、会長」

 

 柚子さんと、河嶋先輩が声を掛けてきた。

 河嶋先輩は杏さんにだけ、だけど。

 

「ふたりともごめんね。2日も留守にしちゃって」

「いえ、これといって問題も起こりませんでしたし」

「会長の多忙さに比べればこれくらい、なんということもありません」

 

 杏さんは出迎えに応えながら、不在の間にいろいろ任せっぱなしだったことを詫びた。柚子さんはおっとりとそれを受け取り。河嶋先輩はむっちゃ嬉しそうに、声をひっくり返しながら謙遜する。もし尻尾がついていたらぶんぶんふり回していたに違いない。

 ただいま、おかえりと、挨拶を交わして。河嶋先輩は杏さんの労をねぎらう。本当によくできた人だ。杏さん第一のその在り方はもう清々しいくらいだね。

 一方で、柚子さんが何かモジモジしてる。オレを見ながら。

 みほほど思い切りよくはなれないのかもしれない、と思いながら。ついつい苦笑。

 

「柚子さん」

 

 おいで、と手を差し出せば。

 ぱっと表情を笑顔に変えて、柚子さんが抱き着いてくる。

 彼女の豊かな胸と、柔らかな身体が押しつけられる。

 

「んー。俊一くぅん……」

 

 感覚的には2日間、日課だったハグをおあずけにされていたようなもの。柚子さんは何か消耗したものを補給するかのように、オレの胸元に頬ずりをしてくる。

 本当に嬉しそうで、思わずオレも抱きしめ返してしまう。腕の中に納まる柚子さんの身体の柔らかさと、押しつけられて潰れるおっぱいの感触が、極楽だ。

 

「小山小山。気持ちは分かるんだけどさ。キリがないから今日はほどほどにして、明日から存分に甘えなよ」

「それもそうですね……。あ、今は会長じゃなくて、杏の方がいいのかな?」

「半々くらいかなぁ。どっちでもいいよ。あ、このまま生徒会室に行くつもりだから、ちょっとつき合って」

「じゃあ、今日は生徒会モードでつき合うよ」

「ん。悪いね」

 

 杏さんと会話をしつつ、柚子さんが腕の中から離れる。

 オレの方が名残惜しくなって。少し手が泳いでしまった。

 それを見た柚子さんが思わず笑い。杏さんは笑いながら背中を叩いてくる。

 

「……会長」

 

 そんなオレたちのやり取りを見て。

 河嶋先輩がいぶかし気な顔をした。

 ことにオレに対して、胡乱な目を向けてくる。

 

「会長。何やら、その、大瀬良との距離が近すぎませんか?」

 

 おぉ。なんという観察眼。

 もともと親し気な対応をしていた杏さんだったけど。視察に行く前と比べて、親密度みたいなものが違って見えたのかもしれない。

 

「鋭いな、桃ちゃん先輩」

「桃ちゃんって、杏のことを尊敬してるというか、本当に大好きだから」

 

 河嶋先輩の疑問を受けて、好き勝手なことを言うオレと柚子さん。彼女の方はこの上なく真面目なんだけど、理由が分かっているオレたちにしてみれば、こちらから言う前に何か感づいたことに驚く。当人である杏さんは苦笑いしてるけど。

 

「あー。まぁ内緒にすることでもないんだけど」

 

 杏さんが、オレの腕を取って、ぐっと抱き寄せる。

 

「わたしも、大瀬良くんの彼女になっちゃったんだよね」

 

 ちょっと悪戯っぽい笑み。でもオレには嬉しそうに見える。身びいきといおうか、惚気ているというべきかもしれないけど。

 でも河嶋先輩にしてみれば、青天の霹靂。

 

「は?」

 

 信じて送り出した会長が、まさかスケコマシの毒牙に掛かっていたなんて。

 みたいな。

 河嶋先輩、しばし絶句。

 杏さんとオレを交互に見比べて。

 オレに射殺さんばかりの鋭い眼を向ける。

 と、次の瞬間。今にも泣き出しそうな顔になって、杏さんを見つめて。

 

「か゛い゛ち゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

 どうやって出した、みたいな声を漏らしながら。

 杏さんにすがりついた。

 

「こんな何股男じゃなくてもぉぉぉぉぉ、会長ならもっといい男が捕まえられるじゃないですかぁぁぁぁぁ」

 

 河嶋先輩はもう滂沱、って感じで泣き喚くように、杏さんに「考え直せ」と迫る。オレを指差してディスりながら。

 自分で言うのもなんだけど、正直、先輩の言う通りだと思う。杏さんだったら、その気になればどんなタイプの男でも選び放題だよね。一緒にいてすっごい楽しいタイプの女の人だもの。

 まぁ今となっては、どんな男が来ても杏さんを渡すつもりはないけどさ。

 とはいうものの、やっぱりこの反応が普通だと思うわけで。恋人になったみんなも、その周囲も、寛大というかなんというか、受け入れる態度を見せるから感覚がマヒしてしまいそうだ。

 オレとしては、都合のいい話だなと開き直ってしまうのもアリかもしれないけど。でも増長したり、いい気になったりするのは嫌なので。河嶋先輩みたいに常識的な返しをしてくれるのはとてもありがたい。

 そういう意味では、河嶋先輩のことも好きだよ。嫌がられるから口にはしないけどね。

 

「電話であらかじめ聞いてたけど、本当に増えちゃったんだね」

「杏の場合は、きっかけがあれば時間の問題かなとは思ってたけどね……」

「自覚してからは早かったな、杏は。驚くほどべたべたしていたぞ」

 

 みほと柚子が、河嶋さんをなだめる杏さんを見つつ話し掛けてくる。予定調和だと言わんばかりの言い方で。それを、経緯を見ていたまほが追従するようにうなずく。

 

「もう連絡してある通り、恋人仲間が2人増えた。加えて、堕ちるのは時間の問題な奴が1人。妹扱いで懐いたのが2人。友人ポジションだが、いろいろと吹き込んで洗脳中なのが1人、だ」

「待ってお姉ちゃん。思わず突っ込みたくなるところがいっぱいだよ」

「アンチョビさんと杏のことは聞いてたけど。妹とか洗脳とか、どういうこと?」

 

 まほがなんでもないことのように言った内容に、みほと柚子さんが待ったを掛ける。

 気持ちは分かるよ。オレも当事者じゃなかったら「なんだそりゃ」と思うだろうし。

 というか、アッサムさんが陥落寸前って。

 まほとしては、彼女がオレの恋人に加わるのは確定なの?

 

「アッサムさんっていう人はもう仕方ないね。俊一くんに白馬の王子様みたいにカッコよく助けられたら、胸キュンするに決まってるよ」

「実際に助けられたみほが言うと、説得力抜群だな」

「それなら、わたしも助けられたってことになるよね。そうかぁ。白馬の王子様かぁ」

 

 オレの新たな恋人候補に盛り上がる、まほ、みほ、柚子さん。

 何かおかしい、って思うのはオレだけなのかなぁ。それとも、いい加減にあきらめろとか、素直になれとか、そういうことなのかな。

 いやね、嬉しいんだよ? ぶっちゃければ、アッサムさんもオレの恋人にして、誰にも渡さないように四六時中抱きしめてさ、好き好きって言い続けたい欲求はあるよ? 口にしたらドン引きされかねない欲求がさ。

 こういう葛藤っておかしいのかね。どうすりゃいいのよ。意見をくださいアンチョビさん。

 ……考えてみると、一番年上っぽく接してくれるのってアンチョビさんのような気がする。頼れる姉御というか。

 まほ、柚子さん、杏さんは、年上だけど甘える方が好きっぽいし。もちろん甘えてくるお姉さんとか最高なのでいくらでもウェルカムなんだけどさ。

 でもアンチョビさんも、初キスの時の反応を見るに甘えたがりなところはありそう。

 甘えてくるアンチョビさんか。とてもいいね。いくらでも甘やかしてあげるよ、うん。

 それはそうと、みほ以外は全員年上のお姉さんなんだよな。

 アッサムさんも年上だ。

 自覚はなかったけど、オレって年上キラーなんだろうか。

 なんて風に、ひとりで考えていることが取っ散らかってきた頃に。

 

「おーい。そっちの話は区切りついた?」

 

 杏さんが声を掛けてくる。その声音は明るくて、顔には笑みが浮かんでいる。しかも、中腰になった河嶋先輩の首に腕を回して、抱き着いていた。

 先輩は半泣き状態で、なぜだか少し憔悴していた。杏さんの口車でオレとの関係を無理やり説き伏せられたのかもしれない。酔っぱらった上司に絡まれてる部下、みたいなイメージが浮かんだけど、スルーしとこう。

 

「わたしたち、一度生徒会室に寄っていくんだけど。視察のあれこれを簡単にまとめるからさ。よかったら西住ちゃんも一緒に来ない?」

「え、私ですか?」

 

 杏さんが、みほを誘ってきた。

 そういえば、まほはともかく、みほと杏さんって面識あったっけ? 電話ではもう話とかしてるみたいだけど。恋人ネットワークとやらで。

 

「考えてみると、顔を合わせて話をするのって初めてじゃない? 交流も兼ねてさ、視察の中身について意見を聞きたいなぁって」

 

 もちろん、視察先で大瀬良くんに何があったかもちゃんと話すよー。

 杏さんのその言葉に、みほは飛びついた。

 

「恋人仲間が仲良くするのは大事ですよね!」

 

 建前っぽい返事に、さすがのオレも苦笑いする。いや、たぶん彼女は本気でそう思ってるんだろうけど。そういうところも、可愛い。

 そんなわけで。

 杏さんと柚子さん、引きずられるようにして河嶋先輩が。

 さらに、まほとみほ、そして西住姉妹に引きずられるようにしてオレが。

 つまり全員揃って生徒会室へ向かうことに。

 そこでは、大洗学園の新たな戦車道チームについて真面目に意見を戦わせたり。

 アンツィオと聖グロで起きたあれこれを面白おかしく披露されたり。

 恋人メンバーによる今後の傾向と対策という何かが語られたり。

 いつのまにか「俊一の好き好きポイント発表会」が始まったり。

 日が暮れて遅い時間まで、いろいろな意味で濃厚な時間が流れた。

 疲れた。いろいろな意味で。

 特に、気に入らないオレについてのノロケを延々と聞かされる河嶋先輩。

 目の前で、好きなところを具体的にピックアップされて羞恥でふさぎ込むオレ。

 このふたりの疲弊ぶりは相当だった。嫌っている人間と嫌われている人間の、対極にいるはずの河嶋先輩とオレが、不思議なシンパシーを感じてしまうくらいに。

 何だったんだこれは……。

 

 

 

 

 

 生徒会室での大騒ぎを解散して、その後の夜遅く。

 杏さんから、まほとみほと柚子さんに恋人ネットワークを通じて連絡が回った。

 

「明日、大瀬良くんを貸してくれない?」

 

 詳しい内容までは知らないけれど、そんな内容だったという。

 それをオレが知ったのは、翌朝になってからだった。

 

 

 

 ―続く―




なんてことのないシーンで文字数が膨らんでいく。
槇村です。御機嫌如何。


ようやくホームへ帰還しました。
これで、ごく普通の生活の中に紛れ込むエロスを書けるぜ。
つまりエロいのを書きたくなったのです。
次回はエロシーン確定。
しばらくお待ちください。




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新たな大洗学園の始まり そのちょっと前に
35:ごはんができたよ/角谷杏


 視察から戻ってきた次の日。生徒会長の杏さんはもちろん、柚子さんや河嶋先輩など生徒会メンバーの皆さんは、新学期開始前の雑事あれこれで大忙しだった。

 まほとみほも、戦車道関係のことでいろいろと確認することがあったりだとかで呼び出されていた。なんだかすごく忙しない。

 できる範囲であればオレも生徒会の仕事を手伝おうかと言ったんだけど、個人情報やら重要書類やらの処理が多いらしく。一般生徒のオレが手伝うのはちょっと問題があるとのこと。それなら仕方ない。

 そんな中でオレは、杏さんに時間を作ってくれと頼まれていた。

 手伝いじゃないならなんだろう、と思ったけど。生徒会の仕事じゃなくて、プライベートな方らしい。今日の分の仕事は夕方までにケリをつけるから、その後にちょっとつき合ってほしい。そんなことを言われた。

 何をするのかは分からないけれど、恋人のひとりのお願いなら断る理由なんてない。お疲れだろう杏さんをどう癒してあげようか、なんてことを考えながら。夕方、指定の時間に、オレは彼女が住んでいる部屋へとお邪魔する。

 

「杏さん、寮住まいじゃなかったのか」

 

 柚子さんと河嶋先輩は学生寮に住んでいるけど、杏さんは外部の学生向けアパートでひとり暮らしをしてると聞いていた。

 目の前にあるアパートは、造りが結構しっかりした3階建て。オレが住んでるところよりも綺麗で立派だ。さすが生徒会長。

 なんてことを考えながら階段を上って、3階にある彼女の部屋の前に到着。

 インターフォンを鳴らすと。

 

「いらっしゃーい」

 

 すぐに、笑顔の杏さんが扉を開けて出迎えてくれた。

 まぶしいくらいの笑みを浮かべた彼女は、大洗の制服の上からエプロンをつけている。

 エプロン?

 何事だと一瞬思ったけど。

 

「エプロン姿の杏さん、可愛い」

「うわっ」

 

 あまりに新鮮でグッドな格好だったので、つい無意識に抱きしめてしまった。

 普段は見られない姿に、とっても胸がキュンキュンする。可愛い。

 

「なんの用で呼ばれたのか気になってたけど。エプロン姿の杏さんが見れたから、オレ的にはもう満足かなぁ」

「あのさ、大瀬良くん。喜んでくれるのも抱きしめてくれるのも嬉しいんだけど、そこは本題じゃないから。これだけで満足して帰られたら、わたしが困っちゃうよ」

 

 抱きしめていた腕の中から、杏さんがスルリと抜け出してしまう。オレの態度に苦笑しながら、指をさして、ツインテールの彼女が見上げてくる。可愛い。

 とにかく上がってくれ、と。杏さんに促されるまま、お部屋訪問と相成った。

 

「ほぉー」

「なにさ。別に変わったものがあるわけでもないのに」

「いやいや。女の子の、ましてや恋人の部屋ともなればいろいろ違うでしょ」

 

 ちょっと広めの1DK。8畳くらいの部屋と、ゆとりのあるキッチン部分。オレはまず、部屋の雰囲気とかを気にするよりも前に、料理の最中ですといった感じの台所部分に目が行ってしまった。

 

「おぉ、杏さんの手作り料理? これは嬉しい」

「こう見えて料理は得意だからねー」

「年末にあんこう鍋を振る舞ってくれたじゃないですか。あれ、美味しかったなぁ」

「鍋ばっかりっていうのもアレだからさ。今日は定番な料理をお披露目するよ」

 

 去年の末、柚子さんとまったりしようと思ってたところに、杏さんと河嶋先輩が乗り込んできて。4人であんこう鍋をつついたけど。今日はそれとは違う普通の「家庭料理」を食べさせてくれるという。

 もう、期待しかない。

 

「要らないところでは基本のんべんだらりとしてるのに、こんな風に料理が上手いとかさ。ギャップというか萌えというか、いいよね。うん」

「あれ。ひょっとしてわたし、少しディスられた?」

「そういうつもりはないけど。あ、でも、必要なことはきっちりやるタイプだから、杏さんって。料理好きなのは不思議でもないのかな」

「ごちゃごちゃ言ってるけど、なに? わたしの料理を食べたくないの?」

「めっちゃ食べたいです。なんでもこなしてみせる杏お姉さま、素敵!」

「ふふん。分かればよろしい」

 

 互いに予定調和っぽいやり取りをゆるゆるとしてから。杏さんは笑顔で台所へ。

 

「もう少しで作り終えるからねー。座って待っててよ」

 

 杏さんはそう言いつつ、オレを部屋中央に置かれたテーブルの前に座らせて。自分はウキウキと台所に戻っていく。

 座ったまま、杏さんの方に目を向けた。彼女が料理をしている後ろ姿をじっと眺める。

 ……新鮮だなぁ、こういうの。

 こういってはなんだけど。みほとまほに対しては、熊本時代、むしろオレが料理を作って振る舞う側だった。オレが黒森峰の学園艦に行くわけにもいかなかったから、会う時は彼女たちがこちらに来るのがもっぱらだったし。ウチの母さんがふたりを気に入ったってこともあって、自宅で食事をするのも多かったしね。その時の食事当番は主にオレだった。

 柚子さんは、女子寮住まいだから。男のオレがお邪魔するわけにはいかない。料理云々で言えば、お弁当のやり取りばかりだったな。時々、生徒会メンバーにプリンとかお菓子系を作って持っていったこともある。

 アンチョビさんも、料理が上手いらしいんだよね。アンツィオ高校って、料理の専門学校かよってくらいに食のレベルが高かったから。そこで名を馳せているんなら、料理の腕前のほどもうかがい知れる。

 ……なにか違うような気もするけど、まぁいいや。

 そんなわけで。今日の杏さんみたいに、招かれた上で、料理を振る舞ってもらうというのは初めての経験だ。

 恋人の部屋で、恋人のエプロン姿を眺めながら、恋人の手料理を待つオレ。

 男なら誰もが羨むだろうシチュエーション。なんという多幸感か。

 大洗の制服の上にエプロンという恰好で、台所を行き来する小柄な彼女の後ろ姿。

 動くたびに揺れるミニスカートとお尻、ツインテールの髪。

 鼻歌を口ずさみながら、料理の味見をして、うんうんと笑顔でうなずく表情。

 やべぇ。杏さん、可愛過ぎる。

 ラブコメ漫画なんかに、料理中の恋人に後ろから抱きついて邪魔扱いされるシーンとかあるけどさ。分かるわ。後ろから抱きつきたくなるものコレ。

 でもここはじっと我慢して、彼女の邪魔はしない。料理をしている姿を堪能するにとどめる。それだけでも十分にご馳走だけどね。

 そうこうしているうちに。

 

「お待ちどうさまー」

 

 テーブルに彼女の手作り料理が並んでいく。もちろん、お皿を並べるくらいは手伝った。

 さて。杏さんお手製のメニューは。

 肉じゃが。

 鳥の照り焼き。

 豚汁。

 ひじきの煮物。

 ほうれんそうのおひたし。

 そして、ほかほかのご飯。

 ……なにこれオレを堕としに来てるでしょ、胃袋から。

 

「杏さん、冗談抜きでメチャクチャ美味そうなんだけど」

「おかわりもあるからさ。いっぱいお食べー」

 

 手ずからご飯をよそって、茶碗を手渡してくれる杏さん。

 受け取るオレの目は、きっとキラキラしていたに違いない。

 

「では、いただきます」

 

 待ちきれずに、美味しそうな料理に箸を伸ばした。

 まずは、肉じゃが。

 ひと口大に切られたじゃがいもと、牛肉、玉ねぎ、人参というオーソドックスなもの。

 じゃがいもはとてもホックリしていて、柔らかくほぐれる。

 味が染みてしんなりした玉ねぎがとてもいい。好き。

 人参も芯が固いとかいうこともなく、食べやすく、甘くなっていて美味しい。

 牛肉も、じゃがいもと一緒に食べると味が濃くなってご飯が止まらない。

 

「あぁ……。肉じゃが美味しい。じゃがいも、ホロホロ……」

 

 鳥の照り焼きは、皮が少しカリッとしたところが好き。

 皮にタレの色目が綺麗について、肉の部分の白との対比が妙に食欲をそそる。

 これまたご飯が進んでしまう。

 

「このタレが絡んだ鶏肉の感触。そして皮が美味しい……」

 

 豚汁も。

 ひじきの煮物も。

 ほうれんそうのおひたしも。

 どれも美味しい。杏さん、美味しいよ。

 

「杏さん、おかわり」

「はいはい。たんとお食べ」

 

 空になった茶碗を差し出せば、杏さんはにこにこ顔でごはんをよそってくれる。

 しかし本当に、ご飯が進む。美味しい。お腹がふくれていくこの幸せよ。

 最初は味の感想もしっかり言ってたんだけど。そのうち、もくもくと箸を動かすだけになっちゃって。割りと静かな夕食の席になってしまった。

 その間ずっと、杏さんは笑顔のままだった。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「おそまつさま」

 

 作ってくれた杏さんの手料理を平らげて、お腹いっぱいになったオレ。

 空になったお皿をまとめて、流し場へと持っていって水に浸ける。オレがそのままごく自然に皿を洗おうとしたのに杏さんが驚くとか、そんなやり取りもありつつ。結局、オレと杏さんが並んで皿洗いなどの後始末を終わらせてしまい。

 

「はい。お茶どうぞ」

「ありがとう」

 

 ふたりしてまた座り込み。食後のお茶をすすりつつ、今はまったりとしている。でも杏さん、温かい緑茶が出てきたのはちょっと意外だったよ。嬉しいけど。

 

「それにしてもよく食べたねぇ。見ていて気持ちいいくらいだったよ」

「お世辞抜きで美味しかったですよ。つい夢中になっちゃった」

「あはは。本当にじっくり味わってたね。作り手としてはすごく嬉しいよ」

 

 食後の満腹感から、気の抜けたような雰囲気になって。オレと杏さんはなんてことのないことを駄弁り合う。ただ思いついたことを口にして、何となく言葉を返すような、肩ひじなんてこれっぽっちも張ってないもの。

 

「あー。こういうゆったりした空気、いいよねぇ」

 

 気の置けない相手とまったり過ごすって、いいよね。オレも同感。

 彼女もそう思ってくれていて、その相手がオレというのも、すごく嬉しい。

 

「昨日の今日でオレだけ呼び出されたから、何か特別なことでもあるのかなと思ったけど」

 

 いや、杏さんの手料理を堪能できたんだから、十分に特別なことだな。

 叶うなら、こういうのも普通のことになってくれるといいなと思う。

 なんだったら今度は、オレの方が料理を振る舞おうじゃないか。

 

「それは嬉しいねぇ。是非ともお願いしたいな」

「といっても、特別なものは作れませんよ? 作れるのはごく普通の、家族に出すような料理だけだから」

「いいじゃんそれで。わたしが今日作った料理だってありきたりなものだよ。大瀬良くん、気に入らなかった?」

「まさか。超最高」

「じゃあわたしにも、そういうので構わないでしょ」

 

 なるほど。そういうことなら、肩の力を抜いた「いつもの」料理を振る舞いましょうかね。

 でも杏さん、忙しいからなぁ。

 

「あれかな。超多忙な杏さんが疲れて帰ってくるのを、オレがご飯を作って出迎える、みたいな。今日の杏さんと同じことを、オレがやってあげるとかさ」

「いいねぇそれ。あ、でも。わたしだけしてもらったら、みんなから責められちゃうよ」

「杏さんだけズルいって?」

「そうそう。特に寮住まいの小山に」

「あー、そうか。みほちゃんとまほちゃんは普通のアパート、いやあれはマンションだな。どちらにしても、学園管理の部屋じゃないから」

「男を連れ込むのは難しいよねー」

「じゃあ公平にするために、あらかじめ日時を決めてオレの部屋に来ればいいんじゃない? 部活帰りにどこかで何か食っていこうぜー、みたいな感じで」

「そこはせめて、恋人の部屋にお邪魔するドキドキの時間とか、そういう表現をしようよ」

「でも、みほちゃんとまほちゃん、柚子さんはたまり場みたいな感覚で上がってくるよ?」

「それはそれで楽しそうだなぁ」

「もう合い鍵を渡して、好きに出入りしてもらってもいいかもしれない」

「お。その時はわたしにもちょうだいね」

「そりゃあもちろん」

 

 まったりとした雰囲気の中で、だらだらと駄弁り合うオレと杏さん。

 彼女が今日オレを呼び出した理由についても、なんとなく、ゆるゆると話し始める。

 

「あのさ。わたし、ファーストキスをどんなシチュエーションで演出しようかな、なんてことを言ってたじゃない?」

 

 うん、言ってたね。

 あれってアンチョビさんと折り合いをつけられたから、その余裕で出た言葉だと思ってたんだけど。本気だったの?

 

「それなりには。100%本気とは言わないけどね。こんな状況でできたらいいなー、みたいなことを、乙女チックに考えたりしてたのさ」

 

 でもねぇ、と。

 杏さん、いきなり溜め息。

 何があった。

 

「新学期が始まるまで、あと10日。その間に生徒会としてやることが山積みでね。新入生の受け入れ対応とか、選択科目に戦車道が入るあれこれとかさ、いろいろ。となると、甘々なことをする時間をまとめて取ろうなんて、無理っぽいんだよね」

 

 分かってたことなんだけどさ。

 杏さんが、力なく笑う。

 あ、これ精神的にいっぱいいっぱいな時に出てくる顔だ。久しぶりに見た気がする。

 

「それならもう、仕事の活力を得るためにって名目でさ。細切れの時間でも、大瀬良くんに甘えちゃうのもいいかなぁって」

 

 なるほど。スキンシップの時間を取るために、今日は呼ばれたということか。

 杏さんとそういうことをするのは初めてだから、みほたちも今日は遠慮をしてくれたのかもしれない。

 視察の時の宿でのあれこれ? あれはいろいろおあずけしてたから、ノーカンで。

 

「そういうことなら早速」

 

 オレは、杏さんに向かって手を広げる。おいで、という感じで。

 彼女は嬉しそうに、オレの前までやってきて。足の間に腰を下ろした。

 背中をこちらにあずけて、脱力した状態で身を任せてくる。

 杏さんの肩に腕を回して、背中から包み込むように抱きしめる。

 あすなろ抱き、というやつだ。

 抱きしめながら、杏さんの髪に顔を埋めた。

 彼女の小さな身体が腕の中にすっぽりと納まってしまい、なんとなく庇護欲みたいなものがかき立てられる。ものすごく構って、甘やかしたいみたいな。

 抱きしめる力を少し強くすると、杏さんはむずがるように身をよじる。その拍子に、彼女のツインテールが腕にかぶさってきて。その感触がこそばゆかった。

 

「あー、この抱きしめられる感じ。やっぱり心地いいなぁ……」

「お気に召したなら何より。これくらいいくらでもするよ」

 

 ハグは日課だからね。

 何より、抱きしめてるオレの方も心地いい。女の子の柔らかい感触を腕の中いっぱいに味わうのは何度やっても飽きることがない。

 杏さんの頭に頬ずりをすれば、彼女もそれを返してくる。こちらを見上げて、少し身をよじるようにして、互いに頬を擦りつけ合う。

 顔はもう言葉の通り、触れ合う距離だ。その気になれば、0.1秒で杏さんとキスできる。

 というか、キスしたい。

 

「杏さん、キスしてもいい?」

「シチュエーションがどうこうって言ってたのは私だけどさ。ここは大瀬良くんの方から迫って、唇を奪うところじゃない?」

「女心は難しいなぁ」

 

 お互いに苦笑い。

 オレは気を取り直して。杏さんの頭の後ろに手を置いて、少し引き寄せる。

 彼女は抱きしめられたまま、腕を首に回して身を寄せてくる。

 そして、求めるままに。

 オレと杏さんは、唇を重ねた。

 

 

 

 ―続く―




すまない、エロまで届かなかった(確定って言ってたのに)。
槇村です。御機嫌如何。

原作では寮住まいの杏さん。
二次創作的都合によりアパート暮らしになりました。
おかげでいつでも彼を連れ込めるよ!(最悪だ)

案の定というか、エロシーンだけで長くなりそうな予感がして。
まるまる次回へ持ち越しました。申し訳ない。
というか、
制服にエプロンの杏さんが「いらっしゃい」と出迎えてくれるシーンを思いついて。
「あ、今回はもうこれでいいかな」と満足してしまった。




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36:※抱きしめたい/杏

 身体の力を抜いた杏さんが、オレの胸板に寄り掛かって身を任せてくる。

 彼女の小さな身体が腕の中に納まって、可愛らしいとか愛おしいとか、そんな気持ちがこみ上げてきて仕方がない。

 もちろん、オレはそういうのを我慢したりしないわけで。

 

「杏さん」

「ひゃっ、んっ……」

 

 ぎゅっ、と抱きしめながら、杏さんの顔をこちらに向けて。ついばむように唇を重ねる。

 許しを得た勢いで、何度も何度も、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と。

 優しく優しくキスをする。

 唇をつけたり離したり。かと思えば、不意打ち気味に長く唇を押しつけたりもする。

 杏さんは最初こそ戸惑ってたけど。

 

「んっ。ん、ふぅ。あ、んっ……」

 

 気がつけば、彼女の方からもキスに応えるようになっていた。

 後ろ手で、首に回した腕に力を入れて、もっと強く抱きついてくる。

 キスに夢中になってる杏さん、可愛い。むっちゃ可愛い。もっとキスしてあげたい。

 とはいえ、これが最後のキスというわけじゃないので。名残惜しいけど唇を離す。

 

「あ、んぅ……」

 

 杏さんの方も、名残惜しそうな声を漏らした。

 突き出されたままの口元と、蕩けるように緩んだ目元が色っぽい。離れた唇の間に唾液の橋が架かる。それがまたエロくてもう。

 でもそれより、うっとりとしている杏さんの顔の方がもっとエロかった。

 初めて見る表情。たぶん、オレしか見たことがないに違いない。

 そう考えると、ゾクゾクした興奮がこみ上げてくる。

 

「どうしよ……。大瀬良くんに強く求められるの、すっごくいい」

「じゃあ、もっともっと、杏さんを求めちゃおうかな」

 

 それはもう、オレ以外の男には目が行かないくらいにね。

 腰あたりに回した腕に力を入れて、杏さんの背中に覆いかぶさるようにして抱きつく。互いの隙間を埋めようとするかのように、密着しながら、キスを繰り返す。

 

「大瀬良く、んっ。もっと、あっ」

 

 どうやら、抱きしめられながらのキスがお気に召した様子。

 もっとしてほしいようだったので、お望みの通りキスしてあげる。

 

「んっ」

「ふぁ、んんっ……」

 

 杏さんの頭を抱えるようにして、こちらを向かせながら唇を奪う。

 少し苦しそうにしながらも、彼女はキスを拒まない。

 重なった唇の端から漏れ出る吐息が、オレの鼻先をくすぐってこそばゆい。

 

「杏さん」

 

 唇が薄皮一枚だけ離れた距離で、彼女の名前を呼ぶ。

 名前を呼びながら、かすかに唇が触れ合う感触もたまらなくて。腕の中の杏さんを強く抱きしめてしまう。

 胸板にぴったりと、彼女の背中がくっつく。温かさが伝わってきて気持ちいい。

 さらに、股間には柔らかなお尻が押しつけられる。杏さんとの初めてのキスと、小っこくてふにふにな身体を抱きしめているおかげで、オレのチ○コはもうビンビンになっていた。

 密着しているんだから、彼女も自分のお尻に押しつけられてるものには気づいてる。でも何度も繰り返すキスで口をふさがれて、言葉で何かは言ってこない。出来るのは、わずかにお尻を動かすことくらい。

 でも、その動きもまた気持ちが良くて、オレとしてはご褒美でしかないんだけど。制服のスカート越しに感じる杏さんのお尻の感触。むっちゃチ○コに響く。

 

「大瀬良、くんっ。お尻に、硬いのが……」

 

 連続キスの合間に息を吐いて、杏さんが切なそうな声を出す。

 嫌がる素振りはない。ただ恥ずかしがってるだけ。静岡で告白した翌朝は、寝ているオレに圧し掛かって朝勃ちチ○コを押しつぶしてたのに。それとはまた違ったところの羞恥心が刺激されてるみたい。

 顔を赤くしながらモジモジと身をよじらせる杏さん。

 杏さんのお尻の柔らかさにさらに興奮してしまい、抱きしめる力が強くなる。

 そして積極的にチ○コを押しつけることになってしまうという悪循環。

 いや、オレにとっては悪いことじゃないけどさ。

 

「ふぅ、……ん。一昨日も思ったけど、すっごく、硬くなるもんなんだねぇ」

「杏さんを抱きしめてるから、こんなになってるんだからね。杏さんが可愛いのが悪い」

「いや、そんなこと言われても……」

 

 面と向かってそんなことを言われた杏さんは、顔を真っ赤にしながら言葉に詰まる。確かに、勃起したのは貴女のせい、とか言われても困るよね。女の子にしてみたら。

 でも反論は受けつけません。

 

「んっ。あぅ……」

 

 背中から杏さんを抱きしめたまま、何度目か分からないキスの雨を降らせる。

 今度の目標は、唇以外の場所。

 ツインテールで髪をくくられて、無防備にさらしているうなじとか。

 首筋、耳元、両頬などなど。

 ちゅっちゅっちゅっと、何度も何度も唇を当てる。

 

「こらっ。あっ、ん、ひゃっ。んん、あんっ」

 

 キスをしながら、その隙間隙間に「好き」とか「可愛い」とか、耳元で囁く。

 うなじにキスして、「好き」と囁いて、耳元にキス。

 耳元から唇を離して、「可愛い」と囁きながら、首筋に軽く吸いつく。

 また「杏さん可愛い」と口にしながら、連続して耳元に口づける。

 しつこいくらいに、「好き」と「可愛い」と囁き続ける。

 その言葉を唇で刷り込むかのように、キスを繰り返す。

 

「杏さん、好き。可愛い。すっごく可愛い。大好き」

「ひゃっ、あっ。おおせら、んっ、くんっ。んんっ」

 

 杏さんは、耳元で「好き」「可愛い」と囁かれながら、キス攻撃を受け続ける。

 さらにお尻に勃起チ○コを押しつけられているわけで。

 うなじを、耳元を、首周りを唇でくすぐられるたびに身じろぎをする杏さん。耳元で囁かれるたびに、ぶるりと震える。そんな彼女の腰に腕を回して、離れることを許さない。

 なんというか、あの杏さんが性的に翻弄されてる姿がひどく艶めかしい。しかもそれを自分が引き出してるんだと思うと、ゾクゾクする。

 制服どころかエプロンさえ脱がしていない。チ○コを押しつけてはいるが、胸にもどこにも愛撫らしいものはしていないのに、この反応。

 もっと気持ちよく可愛がってあげたら、杏さんはどんな顔を見せてくれるんだろう。

 

「杏さん」

 

 また、唇に深いキスを。

 想いを吹き込もうとするかのように。深く。深く。

 

「ふわぁ……」

 

 キスで蕩けた杏さんの顔。可愛くて、エロい。

 もっと可愛がってあげたい。

 そんな思いに駆られて。

 キスをして、頬ずりをして、耳元で「好き」「可愛い」と囁きながら、またキスをする。

 

「大瀬良くん。おおせらくぅん……」

 

 普段の生徒会長な杏さんからは窺えないような、甘えてくる姿。背中を向けたまま、身をよじって、彼女の方から強く抱きついてくる。もっとキスして欲しいとばかりに。むしろ杏さんの方から積極的に、唇を押しつけてくる。

 でもこのままキスを続けていたら、オレの方が我慢できなくなってしまう。

 

「杏さん。キスだけじゃ治まらなくなっちゃうよ?」

「……わたしは、いいよ? このままもっと、大瀬良くんのモノにしちゃっても」

「え、でもさ」

「チョビ子のことなら、気にしなくて平気。ちゃんと、話はつけてあるから」

「いつの間に」

「わたしの方が一緒にいる時間が長くなっちゃうから、さ。キスから先は、タイミング次第。順番も何もなしで、って感じで」

 

 本当にいつの間に。

 いやまぁ、オレとしては当人たちがいいなら、一向に構わないんだけど。こんなに可愛くてエロくなった杏さんを目の前にしてたら、理性を働かせて「おあずけ」なんて出来そうもなかったし。

 

「じゃあ、さ」

「んむっ」

 

 もう、遠慮はいらないよね。

 

「もっと、杏さんを可愛がっちゃおうかな」

「うん。もっと、可愛がって……」

「杏さん、大好き」

「わたしも。大瀬良くんのこと、好きだよ」

 

 顔を合わせて口にする、互いの想い。

 抑え込んでいた欲望が、オレの中でどんどん大きく膨らんでいく。

 彼女の首筋に顔を埋めて。

 スリスリと頬ずりをしつつ。

 しつこいくらいに唇を落とす。

 

「んー。杏さん……」

「ひゃっ。おい、こらっ」

 

 さらに加えて、抱きしめてるだけだった手も動かしていく。腕を回していた彼女の細い腰やお腹を、エプロンの上からゆっくりと撫で回す。

 愛撫なんていうものじゃなくて、本当に、ただ撫でるだけの手の動き。オレに触れられることに抵抗がなくなれば、と。

 とはいっても、勃起チ○コを彼女のお尻にグリグリ押しつけたりしてたんだから、今さら何を言ってんだって話でもあるんだけど。まぁ、それはそれで。

 

「んっ、あ……。大瀬良くんの手、大きいな」

 

 杏さんの身体は細くてちっちゃい。身長だって、オレと比べて30cmくらいは違うだろう。並んで立てば、彼女の頭がオレのあご先くらいのところになるんだから。背中から抱きしめたら、文字通りすっぽりと腕の中に納まってしまう。

 それがまた可愛くて。

 なんというか、オレのモノ、誰にも渡さない、っていう気持ちが煽られる。

 

「胸、触るよ?」

「あっ。んっ」

 

 杏さんの胸に、エプロンの上から手を回す。

 ただし、片手だけ。もう片方は彼女の腰に回したまま。

 そのまま両腕に力を入れて引き寄せる。

 さらに、オレの方からも少し体重を掛けて、杏さんに身を任せるようにもたれ掛かった。きゅっ、と、彼女の全身を包み込むような、より密着して抱きしめるような形になる。

 

「はぁ……。強めに抱きしめられると、全身が包まれる感じがして、すっごくいいかも」

「気持ちいい?」

「気持ちいいっていうよりも、心地いいって言った方がいいかなぁ」

「その違い、分かる。オレの方はどちらかというと、気持ち良さの方が勝ってるかな」

「そうなの?」

「杏さんのお尻に擦りつけるの、すっごい気持ちいいし。おっぱいにも触れるし」

「もう少し、デリカシーみたいなものが欲しいなぁ……」

「じゃあ、ちょっと身体を離そうか?」

「あ、それはダメ。ぎゅっとしてくれなきゃダメ」

 

 杏さんの要望に応えて、さらに抱きしめるオレ。

 もちろん、力任せにするようなことはしない。ちょっと強いかな、くらいの具合で抱きしめると、密着度が増して心地いい。杏さんも気に入ったのか、抱きしめられるままになっている。

 身体に密着したところと、腕と手のひら。そこかしこから伝わってくる杏さんのやわこい感触を堪能していると、彼女がこちらを見上げながら、窺うように声を掛けてくる。

 

「自分で言うのもなんだけどさ。触って嬉しいほど胸ないでしょ、わたし」

「そう? オレは、制服の上からでもおっぱいが触れて嬉しいけど」

「物好きだなぁ」

「あるかないかでいえば、確かに杏さんはそれほどないかもしれないけど」

「おいこら。大瀬良くん、デリカシーデリカシー」

「でも杏さんって、外側も内側もすっごい可愛いでしょ。そんなお姉さんが、自分の腕の中でリラックスしちゃうほど気を許してくれてるなんて最高じゃないか。いくらでも抱きしめたいし、抱きしめてあげたい」

「え、あ……。うん。……そうなの?」

「そうなの」

 

 オレの腕の中で、照れた顔を見せる杏さん。真っ赤になりながら、目があちこちに向けられて挙動不審。でも、口元が緩んでニヤついているのを見逃さない。可愛い。

 本当に、可愛くって仕方ない。さらにぎゅっと、彼女を抱きしめる。

 

「おっぱいが増えようが減ろうが、オレは杏さんが好きだよ?」

「……さすがにこれ以上は減ってほしくないよ」

 

 いい雰囲気が台無しだ、と。杏さんが笑う。笑顔も可愛い。最高じゃないか。

 オレも笑いながら、彼女のほっぺにキスをする。

 杏さんもそれに応えて、身をよじりながら、オレの頬にキスをしてきた。

 

「大瀬良くん。抱きしめられるだけじゃなくて、わたしからも抱きしめたいな」

「もちろん大歓迎。むしろお願いします」

 

 そんな要望を受けたので、体勢を変えることに。

 腕の中で背中をあずけていた杏さんが、オレと向き合って座り、腰に脚を絡める感じで抱きついてきた。

 ……制服エプロンの可愛いお姉さんに「だいしゅきホールド」をされるとは。

 嬉しさか興奮か。とにかく高ぶってしまったオレは、正面から杏さんを抱きしめる。彼女もそれに応えるように、抱き着く腕に力を入れた。

 互いを見つめながら抱き合う、と言いたいところだけど。実際はちょっと違う。

 腰を下ろした状態でだいしゅきホールドをされると、身体の小さな杏さんの頭はオレの首あたりの位置になってしまう。体格差があるゆえに、彼女が必死にしがみついてる感が出て仕方ない。

 

「大瀬良くん。わたし、これ好きかも」

 

 でも杏さんはこの体勢が気に入ったようだ。脚でオレの脇腹を挟み込んで、腕はしがみつくように胸板あたりで背中へと回している。そして頭を首元に押しつけて、嬉しそうに頬ずりをしてくる。可愛い。

 杏さんは本当に、ぴったりと密着する感じで抱きつくのがお好みらしい。

 恋人のお願いとあれば、応えてあげるのが甲斐性というもの。

 

「杏さん」

「……大瀬良くぅん」

 

 互いの身体をくっつけ合って、隙間ができないくらいに抱きしめる。

 杏さんの心地良さそうな吐息がオレの首筋に吹き掛かる。ゾクゾクした気持ち良さを感じながら、ツインテールな髪に指を差し入れて、優しく梳いてあげながら頭を撫でる。

 目をつむって、撫でられる感触を味わう杏さん。手の動き、指の動きに合わせて身じろぎをしたり、まぶたを震わせたり。そんな彼女の反応がいちいち可愛らしい。あぁ、たまらん。

 制服を着たまま、さらにエプロンもしているので、杏さんの身体の感触は直接的に伝わってこない。でも柔らかさはしっかり感じられるし、彼女の温かさは十分以上に伝わってくる。

 エロいっていうよりも、充実感とか満足感とか、そんなものが満たされていくような感覚。

 杏さんの頭を抱えた手と、腰に回して身体を支えている手に、ついつい力がこもる。互いが感じる身体の感触に幸せな吐息を漏らしてしまう。うん、幸せだね。

 でも一方で、下半身はまた違った幸せな感触を味わっていた。

 杏さんは制服のミニスカート姿で、その下の肌は丸出し。すらりとした脚を惜しみなく見せているんだけど。その魅惑的なおみ足が、オレの腰や脇腹に回されて、きゅっと締めつけてくるんだ。ここから離れないぞとばかりに。

 脇腹に押しつけられる素肌のままの太もも。その感触にとても幸せを感じる。服越しなのがもったいないくらい。今すぐ服を脱いで直接、杏さんの太ももに触れたい。

 と思ってしまうんだけど。

 

「んー。はぁ……」

 

 杏さんの幸せそうな顔を見ると、今の体勢を崩すのも申し訳なくなってしまう。

 なので、雰囲気を読んで自重しているのだ。

 でも、自重できるかいささか不安なところも。

 それは股間に触れているデリケートな感触。

 スカート姿でだいしゅきホールドをされてるんだから、大きく脚を開いた彼女の中心部分も、オレに密着しているわけで。しかも正面を向き合っているから、ズボン越しかつショーツ越しだけど直接触れ合っている。

 ぶっちゃけて言えば、オレの勃起チ○コが、杏さんの秘部に押しつけられてるってことだ。

 彼女も気づいてはいるんだろうけど。それよりもキスの方が大事なようで。あるいは自分から唇を求めていって、恥ずかしさを紛らわせてるのかな。

 

「んっ、ちゅ。大瀬良くん、ちゅっ」

 

 杏さんが求めてくるに任せて、ちゅっ、ちゅっとキスを繰り返す。そのたびに柔らかな唇の感触が伝わってくる。気持ち良くて、嬉しくて、抱き着いている彼女をもっと引き寄せてしまう。

 そのおかげでふたりの身体はぴったりとくっつき、もっとキスがしやすくなった。

 

「んっ、ちゅっ。杏さん、もっと」

「はぁ、ん。……え、大瀬良くん、ちょっとっ」

 

 小っちゃくて柔らかな杏さんを、もっとぎゅっと抱きしめる。

 さらに、抱きしめてるだけだった手を、彼女のお尻へと伸ばしていく。

 

「あんっ」

「はぁ……。杏さんのお尻、柔らかい」

 

 小ぶりだけれど、ちゃんと肉感のある触り心地が、手のひらに広がってくる。

 さわさわと、手をお尻全体に這わせて、スカートの上からその感触を存分に味わっていく。だいしゅきホールド状態の彼女を抱えるようにしながら、緩く、揉みしだく。

 

「まったく……。手つきが、イヤらしいぞ」

「そりゃあそうだよ。杏さんと、もっとエッチなことをするんだもの」

 

 片腕は彼女の腰に回して身体を支えて、もう片方はお尻をつかんで抱え込んでいる。もう逃がさないぞ、と言わんばかりに。しっかりと。

 

「そんなにがっつくほどの、んっ、ものじゃないだろうに」

「えっ。そんなことないよ。杏さんのお尻、すっごくいい感触だよ。いつまでも触ってたいし、揉んでいたいなぁ」

 

 言葉の通り、彼女のお尻を撫でながら。

 唇に、頬に、額に、キスをする。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と、じゃれ合うように。

 

「あっ、んっ。くぅ、ん……。もうっ」

 

 キス攻撃を受けた杏さんは、まんざらでもなさそうな顔をして。オレの首筋に顔を埋めてくる。お返しだとばかりに首筋に何度も、ちゅっ、ちゅっ、と唇を落としながら。

 やり返してる、みたいな気持ちなのかもしれないけど。恥ずかしそうな表情は隠せていない。性的な意味で男に触られるのは、おそらくは初めてだろうと思う。強気に出ても、身体を触られる感触に羞恥を覚えているに違いない。可愛い。

 でも、もっと恥ずかしくしちゃうよ?

 

「ひゃんっ」

 

 スカートの上から揉んでいた手を、直接、お尻に当てる。制服のミニスカートの中へと手を潜り込ませて、ショーツに包まれたお尻を撫でる。揉む。

 

「んっ。あっ。大瀬良、く、んんっ」

「杏さんの、生のお尻。柔らかくて、触ってて気持ちいい」

「そういうこと、言うなぁ……」

 

 オレの首元に顔を埋めて、悶えながら、恥ずかしさを耐える杏さんが可愛い。

 ショーツ越しにお尻を揉まれる羞恥から、抱き着いた彼女の腕に力がこもる。それはそれで、より身体が密着することになり。杏さんの身体の柔らかさが伝わってくることになる。

 恥じらいながらも、杏さんはオレに身を任せてくれる。

 

「もっともっと、恥ずかしがらせたい」

「ひゃっ、あっ、んんっ」

 

 まだまだ序の口だからね。

 杏さんへのキスに、ちょっと変化を加えた。

 さっきまでは唇を重ねるだけだったけど。彼女の口の中に舌を突き入れて、絡めさせる。

 

「んむっ。んっ、ちゅ。ふは……」

 

 オレの首に腕を回して、キスをしながらしがみついてくる杏さん。そんな彼女を支えるように、きゅっ、としたお尻を握りしめる。

 

「んんっ、こらぁ。おいたは、ダメだぞ」

「いやいや、杏さんを支えてるだけだから」

「屁理屈を、んひゃっ。あんっ」

 

 彼女の抗議に耳を貸さず。オレは杏さんのお尻をムニムニと揉みしだく。

 小柄な身体と同様にお尻も小ぶり。でも、すべすべした肌の感触は触っていてとても気持ちいいし。揉む指が押し返される、柔らかくて弾力のある尻たぶは、ずっと揉んでいたいほど心地いい。

 何より、キスするぐらいの至近距離で、お尻を揉むオレの手に動きに反応して悶える杏さんの顔を眺められる。至福とはこのことか。もうね、可愛くて可愛くて。

 

「杏さん、可愛い」

「あっ。んっ、んむっ」

 

 またキスをしてしまう。

 ちゅっちゅっと唇を合わせて。

 ぬるれろと舌を絡ませて。

 上唇を食むように。

 同じように下唇も食みながら。

 何度も何度も唇を合わせる。

 

「はぁ……、ん。大瀬良くぅん……」

 

 目が潤み、力が抜けて、蕩けたような顔をする杏さん。

 座ったまま向き合って抱き合い、彼女はオレの腰に脚を絡めてだいしゅきホールド状態。

 身体を支えるようにお尻をつかんで、柔らかな感触を堪能しながら、悶えている杏さんにキスをする。

 密着している身体をもっと近づけようとするみたいに、彼女は抱き着く腕に力を入れる。

 互いの胸がぴったりとくっついて、小ぶりなおっぱいが制服越しに押しつけられる。

 もちろん、下半身もぴったりと密着している。勃起したチ○コがズボン越しに、ショーツに包まれた杏さんの秘部に擦りつけられる。

 上から下までまんべんなく、柔らかな感触に包まれて極楽状態だ。

 でももっと、杏さんの身体を直接感じたい。

 だから。

 

「杏さん。制服、脱がしてもいい?」

「……うん。いいよ」

 

 杏さんが、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむいて。

 でも、小さな声で返事をしてくれたから。

 オレは彼女抱きかかえて立ち上がり、ベッドへと移動した。

 

 

 

 ―続く―




杏さんをひたすらハグ、キス。あと尻コキ。
槇村です。御機嫌如何。


キスとペッティングだけで8000字とかおかしくないですかオレ。
というわけで、本番は次回です(やるやる詐欺にも程がある)
もっと削れそうな気もするんだけど、悶々とした想いをそのまま書き出したので。
まぁいいかと思った次第。
くどいとかいうのは、こういう作風だと思ってもうあきらめてほしい。




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37:※もっと強く抱きしめたなら/杏 (初体験)

お待たせ。



 杏さんの部屋の、普段から彼女が寝ているだろうベッドの上。エプロンをした制服姿の杏さんが、ちょこんと座りながら、オレを見つめている。

 オレも、杏さんの前に座って見つめ返す。

 どちらともなく、顔を寄せていって。

 

「んっ」

「ん、ちゅっ」

 

 唇を重ねた。

 杏さんが、オレの首に腕を回してくる。

 目をつむって、自分からキスを求めてくるのが可愛らしくて、愛おしい。

 求めに逆らうことなく、されるがままに、何度も何度もキスをする。

 キスの合間に、蕩けた瞳を半目にしながら、心地良さそうに見つめてくるのが本当に可愛い。

 もう誰にもやらないぞ、とばかりに。オレも杏さんの背中に手を回して、抱き寄せる。彼女が座ったまま、少し背をのけ反らせるような体勢になる。

 

「はぁ、ん、んふぅ……。大瀬良くん。ちゅっ。ふぁ……」

「杏さん。ちゅっ、んちゅ。杏さん、可愛い」

 

 重なる唇の柔らかさと感触を堪能しながら、オレは自分の上着だけ先に脱いでしまう。ちゅっちゅっ、と杏さんにキスをしつつ、手は自分の胸元でボタンを外していき。上着を脱いで、Tシャツ姿になった。

 それから、杏さんの肩に手を置いて。

 少しだけ顔を離し。

 ちゅっ、と、彼女の頬にキスをひとつ。

 

「杏さん。制服、脱がすよ?」

「……うん。いいよ」

 

 顔を赤らめて、もじもじと身をよじりながら、少しだけ下を向く杏さん。それでいて目だけはこちらを見上げてくる。可愛過ぎるだろ。

 もう1回、彼女の頬にキスをしてから。

 小柄な杏さんに抱きついて、手を背中へと持っていく。

 

「あっ」

 

 まずは、エプロン。

 腰の上あたりにあった帯紐を引っ張って、解く。

 緩んだエプロンを持ち上げて、杏さんの頭を通して抜いてしまう。

 

「杏さんのエプロン姿、すっごく可愛かったよ」

「さっきまでの主役はエプロンじゃなくて、料理の方だったんだけどなぁ」

「料理は食べてる時にいっぱい褒めたでしょ。今は、これから食べる杏さんをいっぱい褒める時間だから」

「わたし、食べられちゃうんだ」

「できるなら毎日食べちゃいたい」

 

 なんてことを言いながら、杏さんにまたキス。

 右頬、左頬、そしておでこに。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と。

 

「大瀬良くん、恥ずかしいことしながら、なんて恥ずかしいセリフを……」

「結構、本心なんだけどな」

「なおさらタチが悪いでしょ」

「食べちゃダメ?」

「……ほどほどになら、いいよ」

 

 可愛い。

 すっかり顔を真っ赤にさせた杏さんの、唇にキスをする。

 下唇だけを、唇で食むようにして挟みながら。舌を伸ばして少しだけ舐めた。

 びくりと、杏さんが大きく身体を震わせる。

 それでも、彼女の唇を食むのを止めない。

 唇の先から、右へ、左へと位置を変えながら。

 はむはむと唇を食み。

 ちろちろと舌先で舐める。

 下側だけじゃなくて、もちろん上唇も同じように。

 はむはむちろちろと、弄り、舐め、杏さんの唇の感触を堪能する。

 

「はぁ……。ふ、んふぅ……」

「杏さんの唇、柔らかくて癖になりそう。もっともっと、キスしたい」

「わたしも、もっと……」

「喜んで」

「あ、んっ」

 

 何度も何度もキスをする。それはもうしつこいくらいに。

 でも杏さんは嫌がるようなそぶりは見せない。オレの首に回した腕を放すことなく、キスに応えてくる。

 同時に、杏さんの身体に手を這わせていく。

 大洗学園の制服の構造は把握済みだ。襟元のスカーフを外して、制服の前部分にあるジッパーに手を掛ける。下ろして、はだけさせると、可愛らしいブラジャーが姿を現す。

 

「杏さん、ちょっと力抜いて」

 

 首に回されていた杏さんの手を取って、抱き着いた状態から少し離れてもらう。それからおもむろに、杏さんの制服をゆっくりと脱がす。

 制服の上を脱がして。スカートは履いたまま。そんな杏さんを、ベッドに横たわらせる。

 また軽いキスをひとつして。

 

「ん、ちゅっ。次は、スカートを脱がすよ」

「はぁ、ん……。そう、いちいち確認を取られるのも、恥ずかしいんだけど……」

「でも、ちゃっちゃか脱がすぞー、みたいな真似をされても嫌でしょ?」

「そりゃ嫌だけどさ。ちゃっちゃかとか、ヒドい言い方だね」

「はい、杏さん。ちょっと腰を上げてー」

「おいコラ大瀬良くん。それこそちゃっちゃかみたいな言い方じゃない?」

「でもオレの言う通り腰を上げてくれる杏さん、好き」

「いやいや、そんな言葉じゃごまかされないからね」

「はーい、脱ぎ脱ぎしましょうねー」

「こら、ちょっと。きゃっ」

 

 お互いにふざけるような言葉の掛け合いをしつつ。

 オレは杏さんのスカートを下ろして、足から抜き取ってしまう。

 

「おぉ……」

 

 目の前に横たわる杏さんが、下着に靴下だけ、という格好になる。身をよじって、恥じらうような素振りを見せているのが、また堪らなくて。胸がキュンキュンしてしまう。

 

「そんなにまじまじと見ないでほしいなぁ……」

「なんで? 超可愛いよ、杏さん。むしろまじまじと見ないと失礼でしょ」

 

 お世辞抜きで言ってるつもりのオレ。でも経験上、こういう時の言葉はむしろ相手には逆効果だということを理解している。

 だから。口で言うのはお気に召さない杏さんには、行動で気持ちを表すことにする。

 寝転がる彼女に顔を近づけて。

 

「んー。ちゅっ」

「ひゃっ。待って、あんっ」

 

 すべすべしたお腹に、唇を押しつけた。

 さっきまでキスで蕩けた顔をしていたのが、今度はくすぐったがるようなものに変わる。

 でも、くすぐったさ半分、恥ずかしさ半分みたいな感じ。

 もっと恥ずかしがらせたいなー。

 

「きゃっ、ん、ふぁ……」

 

 お腹、可愛らしいおへその窪み周辺、脇腹からあばらにかけて、などなど。下着姿な杏さんの、肌をさらしている部分のあちらこちらにキスしまくる。

 ただし、強くは吸いつかない。キスマークがつかないように気をつける。

 杏さんの綺麗な肌をキスマークだらけにしたい、なんて欲求もあるにはあるけど。つく跡は要するに内出血だから。杏さんをキズものにして悦ぶ趣味があるわけじゃないので、自重する。

 自重しながらも、遠慮はしないで。

 キスする場所がどんどん上へと向かっていく。

 

「はぅ、んっ。あっ、あんっ」

 

 唇が、ブラジャーに包まれたおっぱいのところまで到達した。

 胸周りの肌に、ちゅっ、ちゅっ、と唇を落とす。

 口元に広がる、女の子の肌と身体の柔らかさ。触り心地。何度味わっても堪らない。小ぶりな杏さんの胸も、感触は十分に柔らかくて、心地いい。

 口をつけるだけじゃ物足りなくなって。ブラジャーの上からおっぱいを撫でさする。

 

「杏さん、可愛い」

「褒めてくれるのは、嬉しいんだけど。どうにも、小さいって言われてるみたいな……」

「いやいや。それはさすがに思い込みだよ」

 

 胸の大小で好きになったわけじゃないと、何度となく言っているにも関わらず。まだそんなことを口にする杏さん。コンプレックスのようなものは思いの外、根深いものらしい。

 仕方ない。

 残念だけど、おっぱいを味わうのはそこそこで切り上げて。目標を別のところに変更する。

 次に狙うのはもちろん。

 

「ひゃうっ。あっ」

 

 下半身だ。

 ベッドに横たわる杏さんの股間を、ショーツの上から、そっと触る。

 杏さんのおま○この、ふにふにした感触。指先、指の腹から伝わってくる柔らかさがこの上なく気持ちいい。

 

「はぁ、ん……。触られちゃってる。わたしのアソコ、触られてる……」

 

 杏さんは目をつむり、身を縮めて、太ももにぎゅっと力を入れた。

 彼女の股間に這わせたオレの手が、柔らかい太ももで挟まれてしまう。

 でも指を動かせなくなるほどではなくて。

 杏さんの可愛い反応を見ながら、オレは愛撫を止めようとはしない。

 愛撫とは言ってもまだ、触って、さすっているだけ。

 でも彼女にしてみれば、恥ずかしいところを男に触られているわけだから。羞恥が先に出てしまっても仕方がない。

 今はそうでも、いずれは気持ち良さとか嬉しさに変わるようにと想いを込めながら。

 少しずつ、焦らずに、ゆっくりと、指を動かす。

 

「んんっ。大瀬良くん。あぅ……」

 

 杏さんの秘部が、オレの指に馴染むように。割れ目に沿って、指を上下に動かしながら擦りつける。時折、指に力を入れて、ショーツの上から割れ目に食い込ませたりする。

 中指を割れ目にぴったりとくっつけたまま。人差し指と薬指で恥丘の膨らみを軽く押す。

 上に、下にと、杏さんのおま○こをショーツの上から優しく撫でさする。

 小さく刺激を、少しずつ、彼女の中に刷り込んでいく。

 

「んっ、ふ、あっ。はぁ、ん……」

 

 優しく、優しく、杏さんのおま○こを撫で続ける。

 気がつけば、指先にほんのりと湿り気を感じるようになっていた。

 オレの指に反応してくれている。そう思うとやっぱり嬉しくなってくる。

 

「杏さん」

「あ、んっ……。おおせら、く、ふぁ……」

 

 彼女の股間に手を這わせながら、またキスをする。

 んーっ、ちゅっ、と少し深めに唇を奪って。

 続けて、ちゅっちゅっちゅっ、と細かい口づけを雨あられ。

 上に下にと責め立てられる杏さんの表情はすっかり蕩けていて、吐息も熱っぽくなっている。ベッドのシーツを握っていた手も、もう力が抜けていて。時折、向かい合ったオレに手を伸ばして、肩や胸板、顔に触れてくる。

 されるがままに、身を委ねてくれている杏さんが、可愛くて、愛おしくて。

 

「杏さん、大好き」

 

 きゅっ、と、脱力した彼女の身体を抱きしめた。

 抱き寄せながら密着する。

 耳元で、好き好きと囁く。

 性感を刺激されたのか。杏さんはオレの腕の中で、ふるり、と少し身を震わせた。

 

「ブラジャー、取るよ?」

「ん……」

 

 抱きしめて、背中に回した手で、杏さんのブラジャーのホックを外す。

 なんの抵抗もなく、彼女の可愛らしい胸を露にしてしまう。

 

「杏さんの、おっぱい」

「そんな、感慨深げにいうなぁ……」

「だって、杏さんのおっぱいだよ?」

 

 そりゃあ感慨深くもなるってもんでしょ。

 つつましい膨らみに、オレはそっと手を伸ばして包み込む。

 

「はぁ、ん……」

 

 円を描くように、ゆっくりと手を動かして、揉む。

 杏さんが、切なそうに声を漏らした。

 それに気を良くして。もっと声を出してとばかりに、おっぱいを揉み込んでいく。

 

「大瀬良くん。そんなにされると、反応に、んっ、困っちゃうよ」

 

 何を言ってるんだか。また大きさがどうこうとか言うつもりなのだろうか。

 けしからん。

 ならば、と。

 オレは杏さんの小ぶりな胸を手で包み込み、寄せるようにして持ち上げて。

 

「あむっ」

「ひゃんっ」

 

 可愛らしい乳首を口に含んで、吸いついた。

 

「れろ、ん。ちゅぱ、ちゅっ、ん。ちゅぷ」

「あんっ。そんな、あっ、はぅっ」

 

 おっぱいの先にちょこんと乗っかっているような、小さめの乳輪。でも乳首は、盛り上がってきた性感と刺激のおかげか硬くなってきている。

 そんな乳輪と乳首をいっぺんに、ぱくりと口に含んでしまい。舌で転がし舐め回す。

 

「あう、んんっ。あ、ひゃぅ」

 

 杏さんが、悶えながら声を上げた。

 顔を真っ赤にして、ふるふると顔を振っている。こみ上げてくるものをこらえているような仕草が、とても可愛らしい。

 

「れろ、ん」

 

 舌の腹部分を乳首に押しつけて。れろれろ、と往復させて、ゆっくり舐め上げる。舌に押されて形を変える、硬くて柔らかな感触が伝わってくる。

 左の胸を、舐めて、吸って、舐め回す。胸全体をふにふにと撫でて上げる。

 同じように、右側の胸も。れろれろ、ちゅっちゅ、もみもみと、舌で、手で、弄り倒す。

 

「んんっ、あ、大瀬良、くん。触り方が、やらしくて、しつこいっ」

「杏さんの反応が可愛いから止まらなくて。イヤなら、やめるよ?」

「その聞き方、卑怯だぁ……」

 

 もっとして、という意味だと判断して。杏さんのおっぱいをさらに責め立てる。オレが吸い立てて、揉みしだくたびに彼女が悶える。それが本当に恥ずかしそうでもう、ゾクゾクする。

 よし、もっともっと恥ずかしがらせちゃうぞ。

 口と片手で、小ぶりのおっぱいを可愛がりながら。

 もう片方の手を、杏さんの下半身へ。

 そして、指をショーツの中に潜り込ませた。

 

「あんっ、そこ、あ、やんっ」

 

 杏さんのショーツの中は少し熱っぽくて、愛液でぬるぬるになっていた。

 指に触れる恥毛も水気を帯びている。指を動かすと、それに合わせて絡みついてくる。

 

「あぅ、んっ。ん、はぅんっ」

 

 恥じらいと喘ぎの混じった声を上げる杏さん。すぐ目の前で快感に悶える姿を見せられるのに、興奮を覚えずにいられない。

 

「杏さん」

「あ、ん、ちゅっ。はぁ、あ……」

 

 彼女の秘部を優しく撫でて、時々引っ掻いたりして刺激しつつ。

 合わせて、覆いかぶさってキスをする。

 口づける合間に漏れる、乱れた吐息がまたエロい。

 普段の生徒会長・角谷杏からは想像できない姿。オレだけがそれを知ってるんだと思うと、こじれた独占欲が満たされていく感覚を覚える。

 杏さんを、もっとオレのモノにしたい。

 

「んっ、はぁ……。あっ、やんっ」

 

 唇にキスをして、そのまま口を南下させていく。

 首元、鎖骨、肩の周りに口づけ。

 胸も、胸元から乳首、膨らみの麓までまんべんなく。

 お腹とおへそ周りを、くすぐるように、何度も何度もキスをして。

 そうしているうちに、オレの顔は杏さんの下半身、ショーツのところまで下りてくる。

 今度は何も言わずに、可愛らしいまっ白なショーツに手を掛ける。

 腰回りの縁に指を潜り込ませてから。

 お尻の膨らみに沿って、剥き取るように。

 手のひらでお尻を撫でながら。

 ゆっくりと、ショーツを脱がしていく。

 

「あぅ……」

 

 杏さんは恥ずかしそうに、太ももに少し力を入れる。

 でも、それ以上の抵抗らしきものはない。

 あっという間に、杏さんの大事な部分が、目の前に姿を現した。

 するするとショーツを下ろし、膝を通り過ぎて、片足を抜く。

 そのまま、彼女の膝に手を置いて。大きく脚を開かせる。

 隠すものが何もない、杏さんの裸体が、オレの手で露になった。

 

「さすがに、これは恥ずかしいよ……」

 

 真っ赤になった顔を両手で覆って、恥ずかしがる杏さん。

 でも指の間から、オレの方を窺っているのが可愛らしい。

 

「もっと恥ずかしがっていいよ。そんな杏さんを、オレだけが見れるんだって思うと、すっげぇ興奮する」

「……大瀬良くんって、思ってた以上にSっぽい性格だったんだ」

「思った以上って、何さ」

「いやいや。大瀬良くんは絶対、Sだよね」

 

 恥ずかしさを紛らわそうとしているのか、杏さんがずいぶんなことを言ってくる。

 脚を開かせて、その間にオレが座り込んでるから。彼女は何もできない分、せめて口で一矢報いようみたいなのがあるのかもしれないけど。人のことをドSとは何事か。

 

「じゃあ、ドSなオレはご要望に応えて、もっと杏さんをイジメちゃおうかな」

「え。そんなことは言ってな、きゃあっ」

 

 杏さんの足の間に腰を据えて、そのまま彼女に覆いかぶさる。

 脇に手を置いて身体を支えながら、キスする寸前まで顔を寄せる。

 互いに全裸の身体はほぼ密着した状態。丸出しのチ○コは彼女の股間に押しつけられている。ちょっと腰をよじれば、愛液に濡れたワレメを擦って、そのまま挿入してしまいそうだ。

 

「うわ……。こんなおっきいのが入ってくるんだ……」

「杏さんのナカから、オレでいっぱいにしちゃうからね」

 

 正直なところ。恥ずかしそうな杏さんの顔を間近に見ながら、おま○こに勃起したチ○コを擦りつけてるだけで、オレは高ぶりを止められずにいた。

 

「いくよ」

 

 杏さんを見つめながら、ぐっ、と、腰に力を入れる。

 ワレメに擦りつけるだけだったモノを、亀頭をあてがって、先っぽだけ、少し沈める。

 

「んっ……」

「あんず、さんっ……」

 

 うわぁ……。杏さんのおま○こ、ちっちゃい。

 にゅぷ、と、愛液に濡れた陰唇が亀頭を咥え込もうとする。

 亀頭の先っぽを押しつける。それだけなのに、彼女のおま○こをものすごく押し広げたような感覚がある。

 

「いっ、は……。おおせら、くっ……」

 

 少し辛そうな顔。まだ膣の入り口だけど、狭い膣内にチ○コが入り込もうとしてる感覚に、痛みとか苦しさとかを感じてるんだと思う。

 気遣ってあげたい。苦しいならこれ以上進まずに止めてあげようとも。

 でもその一方で。

 杏さんの全部を今すぐ奪ってしまいたい。

 そんな想いにも駆られてしまう。

 オレは今、自分の欲望を優先させた。

 

「杏、さんっ」

「あっ。つ、んんっ!」

 

 小さくて狭い膣口より、もっと先へと、チ○コを押し入れる。

 小陰唇を掻き分けたすぐのところに、その先を遮るようなものを亀頭に感じて。

 腰と股間に力を込めて、突き破った。

 

「大瀬良く、んっ。うぁ、つぅ……」

 

 杏さんのナカ深くへと押し入ると、チ○コを包み込むように膣壁が絡みついてくる。しかも強く、ぎゅうぎゅうと、締めつけてくる。

 いや、締めつけというよりも、おま○こ全体で強く握りしめられてるような感じだ。

 

「く、はぁぁぁぁ……」

 

 小さい身体のせいなのか。杏さんの膣は浅めで、狭い。

 気持ちいい。

 痛いくらいに気持ちいい。

 ペッティングという名のイチャつきが功を奏して、杏さんの膣内は十分に愛液で濡れていた。そのおかげで割とスムーズに、彼女のナカの最後までチ○コが到達する。

 一番奥に届くと同時に、また杏さんに覆いかぶさって、キスをする。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と、少しでも気を落ち着かせるように。

 

「杏さん、痛い?」

「痛い、けど。耐えられないほどじゃ、ないよ」

「ごめんね。オレの方は、腰が抜けそうなほど、気持ちいい」

「わたしも、嫌じゃないから。むしろ、何だか嬉しい、というか」

 

 お腹のナカだけじゃなくて、満たされる感じがするという杏さん。

 なんだよもう。そんな半泣きみたいな顔で微笑まれたら、可愛過ぎて堪らないじゃないか。

 

「杏さん、可愛い」

「んっ。あっ」

「ちゅっ、ん。んちゅっ」

 

 杏さんにキス。今度は唇だけじゃなくて、口元、鼻先、おでこ、目元、耳元、頬、また唇と、彼女のあらゆるところにキスをしまくる。

 

「ふぁぁ……。おおせら、くぅん……」

 

 覆いかぶさるオレに抱きついて、背中に手を回してくる杏さん。可愛い。

 あぁ、オレを求めてくれている。

 そう思うだけで今にもイッてしまいそうだ。

 というか、イクのをこらえるのがかなりツラい。

 杏さんが痛がるのを落ち着かせよう、っていう気持ちと同時に、下手に腰を動かしたら簡単に射精してしまいそうで。身動きが取れない。

 それぐらいに、杏さんのおま○このナカが気持ちいい。すっごいキツいのに、柔らかくてぬめぬめな膣壁が、ぎゅうぎゅう、うねうねと、チ○コ全体をまんべんなく刺激してくる。何度言っても足りないくらい、気持ちいい。

 初めて男を受け入れた、杏さんのおま○この感触。みほとも、まほとも、柚子さんとも違う気持ち良さに、腰のあたりに快感がぐるぐると渦巻く。

 ……考えてみると全員、オレが、処女を奪った初めての男なんだよな。

 なんてことを思いついたところに。背中に回していた杏さんの手が、つつ、と撫でた。

 途端に背筋を走るゾクゾクしたモノ。

 下腹と股間に気持ち良さが一気に流れ込んでくる。

 堪えきれなくなって、腰が震えた。

 

「やっ、べぇ。杏さんごめんっ」

「えっ。お、あっ、んんっ」

 

 杏さんの手を握って、組み伏しながら。思い切り腰を押しつける。チ○コを奥の奥まで差し込んで、1回だけ膣内を往復。

 それだけで、我慢していた快感が決壊した。

 腰回りの奥の方で震える、ドクンドクン、という感じの熱と震え。

 急激に溜め込まれた精を解放して、杏さんのナカへと思い切り注ぎ込む。

 

「杏さん。あんず、さんっ」

「はぁ、んっ。出てる、大瀬良くんのが。すっごく、わたしのナカに……」

 

 ぐにぐにとうごめく膣内を味わいながら腰を押しつける。

 杏さんの頭を掻き抱いて、頬ずり。股間の暴発で乱れた息を整えようとする。

 彼女の方も、いきなり射精されるとは思ってなかったろう。びくびく震えるチ○コを自分の中に感じているせいか、困ったような、恥ずかしいような、真っ赤になりながらも可愛らしい表情を浮かべている。

 

「はぁ、ん……。ごめん、杏さん。気持ち良過ぎて止められなかった」

「えっと。なんだかむしろ、辛そうな顔してたけど。平気なの?」

 

 気持ち良過ぎて我慢するのが辛かった、って意味なら、あながち間違いじゃないな。

 初体験から、男の方が勝手に暴発して中出しとか。最悪じゃなかろうか。

 ごめんなさい、と、杏さんに素直に謝る。

 

「杏さんの初めてがオレ、って考えたら、すっごいのがこみ上げてきちゃって」

「それは、なんていうか……」

 

 正面から「めっちゃ気持ち良かった」とか言っちゃうのはどうかと我ながら思ったけど。

 杏さん、ガチ照れしていた。

 気持ち良くなってくれて嬉しいとか、小声でごにょごにょと言いもらしてる。

 全裸で、顔を覆いながら、真っ赤っかの杏さん、可愛い。

 もちろん、そんな彼女にチ○コは反応してしまう。射精して少し力の抜けていたのが、ナカに納まったまま硬さを取り戻してくるのが自分でも分かる。

 

「あっ。また大きくなった」

「杏さんが可愛いから。もっとオレのモノにしたくて、復活しちゃった」

「……悪い気はしないけどさ。それ、わたし以外にも言ってるでしょ」

「今、抱いてるのは杏さんでしょ。他の女の子の名前は出さないくらいの分別はあるよ?」

 

 せっかくデリカシーを働かせてたのに。

 杏さんの方からそんなことを言われたら台無しじゃないか。

 

「ちょっと、お仕置きかな」

「え。ちょ、んむっ。あんっ」

 

 また杏さんに、深めのキス。唇を吸い立て、舌を絡ませる。何度唇を重ねても、柔らかさと、息が吹き掛かるこそばゆさが気持ちいい。

 呼吸を乱した彼女から、上半身を離した。全裸で横たわった杏さんを、下半身はつながったまま、見下ろすような形に。普通の、正常位の体勢だ。

 彼女の脚を抱えて、ゆっくりと、腰を引く。

 

「あっ、んっ」

 

 亀頭が、杏さんのおま○こから抜けないくらいまで引いて。

 再度、彼女のナカへとチ○コを押し入れていく。

 

「は、んんっ……」

 

 杏さんのおま○こを、チ○コで押し広げていく感じ。

 相変わらず狭くて、締めつけが強い。でも、さっき中出しした精液と、さらに溢れてきた愛液のおかげで、膣内のすべりがスムーズになっている。イッたばかりだけどまだ硬いチ○コなら、キツキツのおま○こを掻き分けるのもあまり苦にならない。

 というか、むしろもっと気持ち良くなってる。

 すっごく締めつけてくるのに、ぬるぬるになった膣壁が、ぬめぬめと吸いついて、にゅるにゅると絡みついてくる。もうため息が出て、腰が蕩けてしまいそうだ。

 じっとしてたら、かえって快感に持っていかれる。

 ぬるり、と、ゆっくり腰を引く。

 混ざり合ったオレの精液と杏さんの愛液を、カリで掻き出すように。

 

「はぁ、あ……」

 

 亀頭が抜けきるギリギリで止めて、腰を少しひねる。膣の位置口を掻き回す。

 それから、ぶちゅり、と、杏さんの膣奥までまたチ○コを埋めていく。

 

「んっ、んくぅ……」

 

 ゆっくり、ゆっくりと。狭くてキツくて握りしめられるような杏さんのナカを、チ○コで往復する。腰を前後させるたびに、杏さんがこみ上げてくるものを堪えるように吐息を漏らす。エロい。

 彼女の反応を見る限り、もうあまり痛みを感じてないっぽい。

 腰を振るごとに、中出しした精子がチ○コに絡まって、膣内全体に染みわたっていく感じ。キツいながらも出し入れがスムーズになっていくのも相まって、杏さんがオレに染まっていくような気がして興奮する。

 なにより、オレの緩やかな腰の動きに合わせて悶える杏さんが、可愛くて色っぽくって、堪らなかった。

 

「杏さん、つらくない?」

「んっ、は……。うん、平気。大瀬良くんが優しく、してくれてる、ん、から、ね」

「それは、良かったっ」

「むしろ、わたしのナカが大瀬良くんで、あっ、広げられて、いっぱいになってく感じが。んっ。嬉しい、というか」

 

 杏さんが、はにかみながらそんなことを言ってくれる。

 可愛過ぎだろ。

 さらにおま○こがきゅんきゅんと締めつけてくる。

 チ○コがヤバい。

 あぁ。頭と腰が蕩けてしまいそう。

 なんて思いつつも、腰の動きは止められない。

 前後にピストンするだけだった動きに変化をつける。

 ぐりん、と円を描くように腰を回した。杏さんのナカ全体、膣壁にまんべんなくチ○コを擦りつけるように。

 

「うぁ、んっ、はぁ……」

「杏さん、痛かった?」

「んっ。いや、平気、なんだけど。お腹の奥を撫でられる感じで」

 

 嫌じゃない。

 艶っぽく、そんなことを言われたら我慢できなくなってしまう。

 

「杏さん、可愛いっ」

「きゃ、あんっ。は、あっ」

 

 チ○コを挿入したまま覆いかぶさって、杏さんの唇を奪う。

 キスをしながら、腰を振る。彼女の頭を掻き抱いて、唇を重ねながら、おま○このナカを掻き回す。

 

「あっ。はっ、んむ。んっ。おおせらくん。おおせらくんっ」

「杏さん、可愛い。好き。大好き。オレの杏さん。オレだけの、杏さんっ」

「あぅ、んっ、んっ。うんっ、もっとして、大瀬良くんのモノにしてっ」

「杏さんっ、杏さんっ」

 

 オレが杏さんの名前を呼ぶたび、好きと言うたび、彼女のおま○こがぎゅうぎゅうぐにぐにと、うねるようにチ○コを締めつけてくる。むちゃくちゃ締まりが強くて、膣壁がうごめいてるのに、ナカがヌルヌルのおかげで滑りが良くなっている。腰を振って出し入れすればするほど、気持ち良くて快感が高まってくる。

 杏さんも、キスするたびに唇を吸い立てて、舌を伸ばして絡めてくる。オレの興奮に合わせるかのように、彼女の吐息も快感に乱れていく。嬉しそうに緩んだ表情は真っ赤っかで、瞳もトロトロに蕩けている。抱きしめているオレを抱きしめ返して、足を腰に絡めてくる。強く抱きついているせいで背中を引っ掛かれたけど、その痛みさえ気持ちよく感じてしまう。

 もう何をしても気持ち良くて。

 可愛い杏さんをオレのモノにするって気持ちが先走る。

 初めてな杏さんへの気遣いもどこかへ行ってしまい、腰を振りまくる。

 

「杏さん、また、出ちゃうよっ」

「わたしもっ、きちゃう、初めてなのに、イッちゃうっ」

「いいじゃん、イッちゃおうよ一緒に。オレもっ」

「いっしょ、一緒にっ。おおせらく、おおせらくんっ」

 

 オレの名前を呼びながらしがみつく杏さん。

 抱き着く力と、おま○このうねりと締めつけが強くなる。

 互いに抱き合って身体を貪り合う。

 彼女の耳元で杏さんの名前を呼びながら。

 オレの耳元で名前を呼ばれながら。

 

「んっ、は。あっ、あっ、んんっ。んんんっ!」

 

 ひと際強く、杏さんが抱き着いてくる。

 足にもピンと力が入って、やわこい太ももがオレの腰を挟み込んだ。

 彼女のおま○こも、まるで飲み込もうとするかのようにチ○コに吸いついてきて。

 締めつけなんて単純な言葉じゃ足りないくらいに、うねるように強く絡みつく。

 頬が触れあう距離で、気持ち良さに陶然とした顔を見せながら。

 耳元で、こみ上げる快感に蕩けた声を上げてくる。

 そんな杏さんに、オレも我慢の限界が来た。

 

「杏さん。あんず、さんっ」

「あ、あっ。またっ、あぅ、ナカにいっぱいぃ……」

 

 2回目の中出し。

 新たに溜め込んだ興奮と精液を、杏さんのおま○こいっぱいに解放させた。

 内側からオレに染まっていけ、とばかりに。思い切り注ぎ込む。

 

「はぁ……。杏さん……」

「ふぁ、はぁ、ん……。大瀬良くん……」

 

 射精で震えるチ○コを包み込んで、オーガズムで強くうごめく膣壁の感触に酔いながら。

 杏さんに、キスをする。

 彼女もそれに応えて、舌と吐息を絡ませる。

 絶頂で脱力した身体を重ねたまま。

 オレと杏さんは何度も唇を求め合った。

 

 

 

 ―続く―




ウチの杏さんは、ふたりきりになるとべったべたの甘えん坊になる。
槇村です。御機嫌如何。


仕事が詰まったとかいろいろあって、約1カ月ぶりの更新に。
オリジナルの方も放置気味で。書き方を忘れてるぞオレ。
出来れば週イチ、10日に1回は更新したいんだけど。
まずは2週間に1回くらいを目安にリハビリしようかな、と。

あと悔やまれることがひとつ。
杏さんのエッチシーンをもっとはやく書き終えていれば、
ドゥーチェの誕生日に「杏&アンチョビのトークネタ」を仕込めたなぁと。
すっかりタイミングを逃した。
誕生日ネタは楽しそうなんだけど、作中ではまだ3月末。
書くとしてもどうしたらいいものか。
「本編進めろよ」でファイナルアンサーになりそうだけど。




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38:部屋とYシャツとわたし/杏&柚子

 まどろみから意識が戻って来て、目を覚ましたオレがまず感じたのは右腕に掛かる重さ。

 見てみると、寄り添って眠っている全裸の杏さんが腕の中にいた。

 あー、そうか。杏さんの初体験から続けて、イチャつきしながらセックスにふけっていたんだっけ。

 辺りを見回せば、ベッド脇に置いてある時計が目に入る。時間は朝の7時前。まだ早い時間と言っていい。学校の始まっていない春休みならなおさらだ。

 でも生徒会長である杏さんは別かもしれない。やることがたくさんとか言ってたし。

 とはいえそれでも、起こすにはまだ早いだろう。

 寝息を立てている杏さんの寝顔をしばらく堪能することにする。

 

「寝てる杏さんも、可愛いなぁ」

 

 なんというか、自分の腕の中で恋人が眠っている無防備さというか、信頼ゆえの緩さみたいなもの。そういう気安さを見せてくれていると思うと、嬉しくなるね。

 愛おしさがまたこみ上げて、つい、杏さんの頭を撫でる。

 

「んぅ……」

 

 触れられたことに反応してか、杏さんが少し身じろぎをする。さらにオレにすり寄って、密着してきてから、また寝息を立て始めた。

 可愛い。

 起こさないように気を使いながら、彼女の頭を撫でる。髪を梳く。指の間を抜けるサラサラの髪に心地良さを覚えつつ、杏さんの寝顔を眺める。

 恋人関係になれたから、っていうのはもちろんあるけれど。こういうのは相手が気を許してくれているからこそ。そう考えると、ついつい顔にニヤニヤした笑みが浮かんでしまう。傍から見たら、さぞ気色悪いに違いない。

 

「……大瀬良くん。何をニヤついてるのさ」

 

 見られていました。なんてこと。

 でもまぁ、隠すようなことでもないので。

 

「可愛い恋人が、気を許して無防備なところを見せてくれるのが嬉しいなぁ、って思ってた」

 

 思っていたことをストレートに伝える。

 あと、おはようの挨拶と一緒に、おでこにキスをひとつ。

 途端に、杏さんが顔をほころばせて。ふにゃりと、柔らかな表情になった。

 でもすぐに、恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして。オレの胸板に顔を押しつけてくる。

 

「うぅー。あんなにイジめておいて、またさらっと恥ずかしいことを」

「あはは」

 

 昨夜、エッチをしまくってそのまま寝落ちしてしまってから、ふたりとも全裸の状態だ。今、杏さんは裸のままのオレの胸に顔を埋めている。同時に、何も隠していない裸の身体をオレに押しつけている。

 つまり、お腹に杏さんのおっぱいが直接ぷにゅぷにゅ、ということになるのだ。

 朝っぱらから至福の時。オレは彼女を抱きしめてしまう。

 

「わっ」

「あぁもう。杏さん、本当に可愛い」

 

 抱きしめながら、杏さんの頭に頬ずり。

 彼女もそれに逆らうことなく、同じようにぐりぐりと、オレの胸元に頭を押しつけてくる。

 

「あー、ダメになりそう。大瀬良くんに甘えるのが心地良くて仕方ないよ……」

「ふたりでいる時くらいはいいんじゃない? ほら、忙しさを乗り切るための清涼剤みたいな感じで。もともとそういうつもりだったんでしょ?」

「まぁ、確かに。切り替えが出来れば問題ないかな」

「普段からダダ甘になったら、桃ちゃん先輩がキレそうだけど。オレに対して」

「にひひ、それはそれで面白いかな」

「勘弁してください」

 

 そんな感じで、全裸のままベッドの上でしばらくイチャつく。

 で、さすがにそろそろ起きるかということになって。

 オレがまず、シャワーで汗やら愛液やら精液やらでべたついた身体を洗い流す。一緒にお風呂場へ、とも思ったけど。軽い朝食の準備をすると杏さんにかわされてしまった。

 オレがさっぱりしてから、続けて杏さんもお風呂場へ。

 テーブルの上には、食パンとトースター、マーガリンにマーマレードジャム、バナナ、牛乳とオレンジジュースのパックが並んでいた。うん。なんか、いいね。

 テーブルの前に座っていると、シャワーを浴び終わった杏さんが戻ってくる。濡れた長い髪をタオルで拭いながら。もちろんいつも見ているツインテールじゃない。格好も、ダボッとした前ボタンのシャツに短パンというラフなものだ。

 あぁ。こういう油断した姿も可愛いなぁ。

 

「杏さん。髪を乾かすの、手伝おうか?」

「え、できるの?」

「髪の長さは違うけど、経験はあるよ」

「あぁ、西住姉妹にだね。さすがスケコマシ。気配りのスキルが半端ないね」

「スケコマシはやめて。反論できないから」

 

 確かにその通りなんだけどね。

 熊本時代、オレの家にみほとまほが乗り込んできた時とか、風呂上がりのふたりの髪を乾かしてあげたり、ヘアブラシを通してあげたりしたことがある。考えてみると、あの体験が「女の子を優しく扱う」の始まりかもしれない。

 

「それじゃあ、甘えちゃおうかな」

 

 杏さんはお風呂場の方へ取って返し。ドライヤーとヘアブラシ、新しいタオルを持って戻ってくる。

 テーブルの前に座った彼女とは逆に、オレの方は立ち上がって。杏さんの背中に回って膝立ちになり、スタンバイ。

 

「じゃあ、ちょっと失礼しますよ。あ、髪が傷みそうとか、そういう時は言ってね。すぐ止めるから」

「了解了解」

「じゃあ行くよー」

 

 杏さんの湿った長い髪を目の前にして、乾いたタオルを優しく当てる。

 といっても、シャワーから出た時点であらかた搾り取ってるみたいだから。髪が傷まないように、きゅっとタオルで髪を包み込み。ゆったりと水気を吸い取っていく。

 

「なんだか、想像以上に丁寧でびっくりなんだけど」

「それは良かった。でも考えてみると、長い髪は初めてだよ。平気なのかなこんな感じで」

「ん、平気だよー。というか、ひとにやってもらうのって気持ちいいなぁ」

「お姫様扱い、みたいな?」

「お姫様か。いいねぇ」

 

 軽い口調で会話のやり取り。リラックスした雰囲気が心地いい。

 長い髪の場合、ひとりで乾かすならタオルで巻いたりするらしいけれど。丁寧に水気を拭いたおかげで、それはなくても平気だと言われた。

 次いでドライヤーをスイッチオン。近づけ過ぎないように気をつけながら、温風を杏さんの長い髪に当てる。

 長い髪に手を差し入れて、手櫛で空気を入れつつ、温風を届けていく。

 根元から髪の中間、毛先へと順番に、まんべんなく水気を飛ばす。

 地肌も含めて、指先に濡れた感じがなくなってきたところで。杏さんにお伺い。

 

「お姫様、どんな感じでしょうか」

「……大瀬良くん。もしかして理容師志望?」

 

 どうやら思った以上にイケてたらしい。良かった良かった。

 ドライヤー後の髪に丁寧にヘアブラシをかけて、ひとまず終了。

 髪型とかのコーディネートとかまではさすがに分からないからね。

 

「いやもう、ほとんどやることないよ。髪をくくって、前髪をちょっと整えるくらいで」

 

 でも、ちょっとやり過ぎたかもしれない。髪のセットとか、その人なりのやり方とかこだわりとかもあるだろうし。途中まで他人がやって、それから自分でまた整えるってのも面倒じゃなかろうか。

 

「でもいい感じだったよ? 手櫛で髪を梳かれながら頭を撫でられるの、好きだなぁ」

「それぐらいないつでも。でも髪の手入れをオレから申し出るのは、自粛しようと思う」

「えー」

「親しい仲とはいえ、そこまで無遠慮に踏み入るのはどうかなぁと」

「さんざん撫で回してるのに、今さら何を言ってるのさ」

「ごもっともです。はい」

 

 もしかしてコントなのでは、みたいなやり取りを、朝食そっちのけでやってしまい。

 オレも杏さんも半笑い。

 そんなところに。

 

 ピンポーン

 

 部屋のチャイムが鳴った。

 お客さん?

 時計を見てみれば、いつの間にか朝8時半過ぎ。

 起きてからこっち、思ったよりも時間が過ぎてた。

 

「はいはーい」

 

 乾かした長い髪をなびかせながら、杏さんはチャイムに応えて扉へ向かう。

 とりあえずオレは、テーブルの向こうに座り直す。しばらく待っていると、杏さんはやって来たお客さんと一緒に戻ってきた。

 

「おはよう、俊一くん」

「あれ、柚子さん。おはよう」

 

 訪ねてきたのは柚子さんだった。

 どうしたのこんな朝から、なんて思いながら。立ち上がって、柚子さんをごく自然にハグする。朝イチからの日課のハグに、彼女も嬉しそうに抱きしめ返してくる。

 ちなみに。柚子さんが離れた後に、杏さんも抱き着いてきた。可愛い。

 

「というか、オレがこんな朝から杏さんの部屋にいるのは変に思わないの?」

「思わないよ。だって、昨日から杏の部屋で何をしてたかは分かってるから」

 

 どうやら筒抜けだったらしい。ちょっとびっくり。

 

「もしかして、みほちゃんとまほちゃんも?」

「もちろん」

 

 まぁ、オレを貸してほしい云々って話が、オレに届くよりも前に恋人ネットワークで根回しされてたらしいし。当然と言えば当然か。

 

「それで、たっぷり可愛がられた杏が、生徒会の仕事に行きたくないとか言い出したりしないように、迎えに来たの」

「ねぇ小山ー。時間を延長できないかな。もうちょっと大瀬良くんとダラダラしてたい」

「ダメに決まってるでしょ。わたしだってイチャイチャしたいのを我慢してるのに」

 

 続けて言われた柚子さんのセリフが、まぁ遠慮のないこと。

 杏さんも想像は出来ていたみたいで、わざとらしく落ち込むポーズを見せている。

 

「杏には悪いけど、生徒会の仕事がまだまだ山積みだから」

 

 柚子さんの無情な言葉に、杏さんは苦笑い。改めてテーブルを挟んでオレの正面に座って、柚子さんにも座るように促した。

 迎えに来たといっても、今すぐ引きずっていくというわけじゃないようで。まずは朝食を済まそうと、杏さんは食パンにマーガリンを塗り始めた。

 

「大瀬良くん。トーストと、そのままマーマレードとどっちがいい?」

「あ、トーストでお願いします」

「んー。分かった」

「オレンジジュースもらっていいですか?」

「いいよー。小山も食べる?」

「わたしはいいよ。牛乳だけもらってもいいかな」

「どうぞー」

「柚子さん、オレが注ぐよ。杏さんはどっち飲む?」

「オレンジジュースで」

「はいはい」

 

 当たり前のように、テーブルを囲んだ3人で緩く会話が始まる。

 トーストを焼き。

 飲み物を注ぎ。

 簡単な朝食をつまみながら。

 まったりとした朝のひと時を過ごす。

 でも、杏さんと柚子さんが交わしている会話はちょっと……。

 

「自分でもびっくりなんだけどさ。これって決めた相手に甘えるのがこんなに心地いいとは思わなかったよ」

「だよねぇ。心が癒されていく感じがもう、すごいよね」

「小山をバカップルとか言って悪かったよ。これはバカップルになるわ」

「でも、人前ではそれなりに節度は守ってるつもりだったんだけど」

「小山はそのつもりでもさ、傍から見たらもうべったべただったよ?」

「それはもう言われまくってたよ……」

「わたしもそうなっちゃうのかな。関係を知られるのは、私的には一向に構わないけど。あんまりはしゃがないように気をつけた方がいいのかねぇ」

「4月からは、みほさんとまほさんも学園に入るから。気をつけても意味がないかも」

「あー。あのふたりは恋愛感情を隠さないね。自重するとは思えないなぁ」

「みほさんはまだ、行き過ぎた時にふと自分に気づいて、恥ずかしがるところがあるけどね」

「まほさんの方は、見られて困るようなことはしていない、とか思ってそうだよね」

「正直に言えば、わたしも見られても困らないけどね。ちょっと恥ずかしいだけで」

「いやまぁ確かに、そうなの、かな?」

「杏も、別に隠すつもりはないんでしょ? なら普通に接してればいいじゃない。その結果でバカップルに見えるなら、それでもいいよ」

「小山、開き直った?」

「わたしはさんざんバカップルって言われてるからね!」

「そんなキレぎみに言われても」

 

 ふたりとも、そんなやり取りで盛り上がる。オレは口を挟むことなく、もくもくと、杏さんの焼いてくれたトーストをかじっているだけだ。

 でもまぁ確かに、言っていることも分からなくはなくて。

 これまでは柚子さんとイチャついてたのに、みほちゃんたちも加わることでどう見られるだろうか。そう考えると、学園内でも振る舞い方とか、少しは考えるべきなのかもしれない。

 でも、特に何か構えたり、関係を隠したりするつもりはないんだよね。

 そう言うと、杏さんも柚子さんも嬉しそうな顔になる。

 

「考えてみるとさ、俊一くんの方が騒々しくなっちゃうんじゃないかなぁ」

「まぁねぇ。同じ学園で4人の女の子をはべらせてるんだから、フケツとか、スケコマシとか、いろいろ言われそうだよねぇ」

「仕方ないでしょそれは。オレがそう言われるのは構わないんだけど、皆が毒牙に掛かったみたいなことを言われるのはちょっと……」

「大瀬良くんが転入早々、小山をオトしたってのも話題になったしねぇ」

「わたしがオトされたって。確かに間違いじゃないけど」

「実際、バカップルぶりを見せつけられてたから。反感っぽいのはなかったかな」

「確かにそうかも。生徒会を手伝ってる人たちは、柚子さんとの惚気を聞く気満々だったし」

「傍から見れば、1対1のつき合いだったしね。でも、今度は転入生ふたりに、生徒会長のわたしまで加わるんだから、大騒ぎになるかな?」

「少なくとも、騒ぎになってキレる桃ちゃん先輩は簡単に想像できる」

「あはは……」

 

 どう思われたとしても、オレは、みほもまほも、柚子さんも杏さんも手放すつもりはないし。もちろんアンチョビさんも。

 こうなったらもう、むしろ見せつけるくらいの方がいいんじゃないかな。変な陰口をたたくのがバカらしくなるくらいに。

 

「ふむ。いいかもね、それ」

「わたしとしては、俊一くんと大っぴらにイチャつけるのは嬉しいかな」

「小山、今まで大っぴらじゃなかったみたいな言い方だね」

「え、もちろん違うよ?」

「……これが熟練のバカップルってやつか」

 

 じゃあそんな感じで、節度は守りつつ自重しない感じで行こうか。

 みほとまほにも、積極的にイチャついていこうぜって伝えておこう。

 

「というわけだから。イチャイチャの練習しようぜ」

 

 オレはそんな頭の悪いことを口にしつつ。

 トーストをひと口サイズにちぎる。

 そして。

 

「はい、あーん」

 

 杏さんの口元に差し出した。

 オレのやろうとしていることに、彼女も気づいたようで。促されるまま、杏さんは「あー」と口を開けて。トーストにパクついた。

 表情を緩めて、嬉しそうに口をもぐもぐさせる杏さん。差し出した指にも彼女の唇が少し触れて、ちょっとエロい気持ちになってしまった。

 パンくずのついた指を舐めたら、杏さんが少し顔を赤くさせた。

 可愛い。

 

「次は柚子さん。あーん」

「あー」

 

 同じように、小さくちぎったトーストをつまんで、柚子さんに差し出した。待ってましたとばかりに、彼女も口を開けてパクつく。

 柚子さんの方は、自分からオレの指まで咥え込んできた。ちゅぽ、という感じに、指にしゃぶりついてから、口を離す。エロいな。

 オレも咥えられた指を、ぱくりと、しゃぶってみせたら、柚子さんも顔を赤くする。

 可愛い。

 

「じゃあ次は、杏さん」

 

 再び、ト-ストのかけらを杏さんに差し出す。

 杏さんは、餌付けされているひな鳥のように口を開けて待っていた。

 

「あー、んっ」

「あっ」

 

 でも、ちょっとイジワルをしたくなる。

 口元まで持っていったトーストを、おあずけするように引っ込めて。

 自分の口に放り込んだ。

 

「ちょっと大瀬良くん、それはないでしょ」

 

 口を開けて待っていたのをかわされて、杏さんはさっきとは違ったベクトルの恥ずかしさで顔を赤くする。可愛い。

 

「次は柚子さんねー」

「こら、ちょっと」

「はい、あーん」

 

 そのまま杏さんをスルーして。柚子さんに「あーん」を続行。きちんと口に入れてあげる。

 

「んふ。おいし」

「それは良かった」

「おーい大瀬良くーん。ちょっとー」

 

 ご満悦の柚子さんと、抗議の声を上げる杏さん。

 もちろん、イジワルしっ放しのつもりはないので。

 ごめんなさいと謝りながら、杏さんに改めて「あーん」をしてあげる。

 憎々しげに、上目遣いでオレを睨んでくる杏さん。憎いというよりも、すねているみたいな顔をして、差し出すトーストを平らげる。にこにこ顔であーん攻撃を受ける柚子さんと対照的で、ついつい笑みがこぼれた。可愛い。

 

「やっぱり大瀬良くんは、ドSだと思う」

「杏さん、面と向かってそんな人聞きの悪いことを」

「でも俊一くん。わたしは押せ押せで強引なところもイヤじゃないよ?」

「小山、イジワルなのと強引なのは違うよ絶対」

 

 なんて風に、だらだらと緩いやり取りをしながら。

 オレと杏さん、柚子さんの朝のひと時は流れていった。

 

 

 

 ―続く―




年上のお姉さんふたりに、交互に「あーん」をする至福。
槇村です。御機嫌如何。


やっべぇ。書いてて超楽しかった。
女の子がラフな格好で油断してる姿って、すっごくいいよね。
まさかこれだけで6000字超えるとは思わなかったけど。

お気に召したなら、感想とか評価とかもらえると嬉しいです。
引き続きよろしくお願いします。
程よくイチャイチャとエロが混ざるよう、頑張っていきたい。




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39:以心電信/アンチョビ

 杏さんと柚子さんと、おしゃべりをしながらまったりと朝食タイムをしばらく過ごして。気がつけばもう午前10時前になっていた。

 迎えに来たはずなのに、ミイラ取りがミイラになったと笑いながら。身づくろいをして、3人揃って杏さんの部屋を出る。新学期が始まる前に、生徒会がやっておくべきことがいろいろとあるらしくて。今日も今日とてお仕事だ、と、杏さんは笑いながら言う。

 

「時間は問題ないの?」

「平気平気。手続きやら書類やらがくるのは、ほとんど午後からだからね」

「やることがいっぱいって言っても、対処しなきゃいけないことがひっきりなし、ってわけじゃないから」

 

 いつぞやオレが「生徒会はブラックか」とか言いまくってたけど。杏さんと柚子さんが言うには、今は仕事量も緩くなっているらしい。よく分からないけど、生徒会室の中が切羽詰まっていたりはしていないようなので、オレとしてはひと安心だ。

 まぁ、きつかったり疲れたりしたなら、何か差し入れをするとか、オレの出来る範囲で癒してあげようなんて思っていたりする。

 

「じゃあ今日は根詰めて頑張らなくちゃ!」

「いやいや小山、それは本末転倒でしょ」

「でも疲れ切ったところで俊一くんが、がんばったね、とか言いながら撫でてくれたりして、甘えさせてくれるんだよ? 癒し効果抜群だよ?」

「染み渡りそうだなぁ、とか思っちゃう自分にびっくりするよ」

 

 間違った方向で気合を入れる柚子さんに、それに突っ込む杏さん。でも最終的には、ふたりしてオレに甘えようとしてくる。

 年上のお姉さんたちが両サイドにはべりながら、彼女たちの方からベタベタしてくるのがすごく嬉しい。オレも際限なく甘やかしてあげたくなってしまう。

 柚子さんと杏さんに挟まれ、おしゃべりをしながら歩く。目的地はそれぞれ違っていて、ふたりは生徒会室のある校舎へ。オレは自分の住むアパートへ戻る。その分かれ道に差し掛かったところで、もう一度、柚子さんと杏さんをそれぞれハグした。

 

「俊一くん。今日は何か予定があるの?」

「特にこれといってはないかな。みほちゃんとまほちゃんが吶喊してきそうな気もするし」

「昨日はわたしが独り占めしちゃったからねぇ」

「今日の生徒会が終わったら、わたしも行くからね!」

「分かった。あんまり根詰めないようにね」

 

 夕方過ぎの訪問を約束されて、オレはふたりと別れる。揃って手を振る柚子さんと杏さんを、こちらも手を振り返しながら見送った。

 

「さて。帰りますか」

 

 彼女たちの姿が見えなくなったところで、オレも足を動かす。

 自宅に戻ったら、ひと眠りするか、それとも本でも読むか。何をするにせよ、さっきも言った通り、みほとまほがやって来るような気がする。

 一昨日に視察から帰ってきて、昨日はなんのかんのでほとんど杏さんと一緒にいた。まほは視察に同行していたからまだしも、みほは「俊一成分」なるものが足りないとか言い出すんじゃなかろうか。

 まぁ、そんなことを言いながら抱き着いてくる、みほも、まほも、姉妹揃ってとても可愛い。スキンシップを求めてくるのは、オレとしてもすっごく嬉しいので。オレ成分が足りないというなら、いくらでも補充してあげようじゃないか。

 ニヤつきそうになる顔を鋼の意志で抑えつけながら、オレは自宅までのたいして遠くもない距離を歩く。

 と、その途中で。

 

「そういえば」

 

 ふと思い出して、スマホを取り出す。

 メールをひとつ書いて、送信。帰ってから改めて連絡をしようと思い、また歩き出したら。

 

「うわっ」

 

 スマホの着信音が鳴った。

 相手を確認して、つい顔がほころぶ。

 メールを送ったばかりの、アンチョビさんからだった。

 

「もしもし」

『メールを見たぞ。どうした?』

 

 電話口から聞こえる彼女の声が、はしゃぐようにウキウキしてるのは気のせいじゃないと思う。相手がオレだから、という連想も、気のせいじゃないと思いたい。

 

「朝からごめんね。でもアンチョビさん、レスポンス早すぎでしょ」

『う、迷惑だったか?』

「いや、全然。むしろめっちゃ嬉しいよ」

 

 アンチョビさん大好き、と。電話越しにキスをするように唇を鳴らす。

 

『ばか、からかうな』

「かなり本気で言ってるんだけどなぁ」

『うぅ。それはそれで反応に困るぞ』

 

 スマホ片手に歩きながら、イチャつくように言葉のやり取りをする。もちろん、歩きながらでも構わないんだけど。出来れば腰をすえてからお話をしたい。アンチョビさんの声も落ち着いて聞けるしね。

 

「アンチョビさん、今、電話しても平気?」

『問題ない。むしろ大歓迎だぞ。朝から声が聞けたしな』

「ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいなぁ」

 

 電話ひとつで、声を聞いただけで喜んでくれる彼女に顔がほころぶ。オレの方も、アンチョビさんの声を聞いただけでウキウキしてしまう。相思相愛だね。

 とはいえ、メールを送って即座に電話が掛かってくるとは思わなかった。こちらから電話をしてもいいか、って確認するだけの内容だったんだけど。

 

「今、ちょっと外に出ていてさ。家に戻る途中なんだけど、もう5分くらいしてから掛け直してもいいかな?」

『む、そうなのか。ちょっと焦り過ぎたか』

「あはは、気にしなくていいよ。むしろ反応の速さに愛を感じたね」

『う。いやまぁ、その』

「恋人との電話のやり取りっていうのに、アンチョビさんの乙女心がくすぐられたのかな」

『くっ。そうだ、悪いか!』

「いやいや、全然悪くないよ」

 

 むしろありがとうございますって感じ。待ちきれずに電話を掛けてきたアンチョビさんを想像すると、ニヤついてしまいそうだ。

 

「じゃあ、ちょっとしたら掛け直すから。せっかく電話をくれたのに、ごめんね」

『ん。分かった。あと、気にしなくていいからな』

『……電話の約束をして、掛かってくるのをソワソワして待つっていうのは、アンチョビさん的にはアリ?」

『……アリだな』

「やっぱり可愛いなぁ、アンチョビさん」

『おいっ、おおせら』

 

 オレはくすくす笑いながら、返事を待たずに電話を切った。アンチョビさんが真っ赤になって、スマホに向かってしゃべりかけている姿が目に浮かぶ。可愛い。

 そんな想像をしつつ、歩くことしばし。オレの部屋に到着する。

 鍵を開けて、部屋に入り。ソファに腰を下ろしてから、アンチョビさんにリダイヤル。

 掛けるなり、またノータイムで電話がつながった。

 

「もしもし」

『待ちかねたぞ!』

「アンチョビさん大好き」

『ちょっ、いきなりなんだ!』

 

 負けじとこちらも、ノータイムで言葉のスキンシップを叩き込む。不意を突かれたらしいアンチョビさんが、声をうわずらせて叫んできた。

 

「ごめんなさい。アンチョビさんの反応が可愛くって、つい」

『大瀬良、お前な。そうやってからかうのもほどほどにしろ』

「あ、ほどほどならいいんだ」

『揚げ足を取るんじゃない!』

「じゃあ、好きとか可愛いとか言うのを自粛すればいい?」

『いや待て、それはそれで困る』

 

 反射的に出てきたっぽいアンチョビさんの言葉。それを聞いて、つい笑みがこぼれてしまう。電話の向こうにもそれが伝わったのか、なんだかふてくされるような声が聞こえてくる。

 

『大瀬良、そういうところだ』

「うん、ごめんね。調子に乗らないように、努力はするよ」

 

 アンチョビさんの可愛さに耐えられなくなったら、自然に言葉が出てきちゃうかもしれないけどね。その時は諦めてもらおう。

 でだ。

 電話をしようとしたのは、奇しくも好意の表し方云々とも通じること。柚子さん、杏さんと話した、これからの接し方についてだ。

 

「もうすぐ新学期が始まるでしょ? で、五股男なオレは、同じ学園に4人の恋人がいるわけで」

『あー。いろいろ言われそうだな』

「そうそう。オレ自身は何を言われても気にしないんだけどさ。杏さんたちが何か言われちゃうのは申し訳ないから。どうしたもんかね、って話をしたんだけどね」

『ふむ』

「いっそ大っぴらにして、節度を守りながら堂々とイチャつこうぜ、ってことにしたんだ。周りを気にして仲良くできないのは、なんか違う気がするし。オレはもう、みんなを手放すつもりはないから」

『ある意味感心するくらい、お前は欲求に素直だよな』

「もちろん、アンチョビさんも手放さないよ?」

 

 むしろ遠距離恋愛になってしまっているアンチョビさんにこそ、会えないなりに密なコミュニケーションを欠かさないようにしなければ。もっと好き好きと言い続けて、想いを太くしていくのだ。

 

『くぅ……。身悶えるほど恥ずかしいのに、それ以上に嬉しいと思っている自分がいる』

「好意はしっかり伝えて、応えていかないとね。口にしなくても伝わってるとかいうのは、ヘタレの甘えだよ」

『大瀬良の場合は、少しヘタレた方がいいような気もするがなぁ……』

 

 アンチョビさんが、電話の向こうで少し溜め息。

 確かに、向けられた好意に対してそれ以上の好意を素直に返してきたから、五股なんて状況になってしまったところはある。

 

「言いたいことは分かるし、オレも少なからず納得できるんだけど。でもヘタレだったら、アンチョビさんと恋仲になれなかったよ」

『そうなんだよなぁ。今さら好意を表に出すのを自重されても、なんだか大瀬良っぽくないよな。逆に気持ち悪いかもしれん』

「アンチョビさん、言い方。言い方選んで」

 

 なんてことを言いながら、お互いに笑い合う。

 うん。こういうくだらないやり取りとか、いいよね。気負わない会話とかが気軽に出来るのは楽しいし、相手が気を許してくれている感じがしてすごく嬉しい。

 でも、電話を掛けた理由とはズレているので。残念だけれど、今日のところはこれくらいで切り上げることにする。

 

「でさ、好意を伝える云々にも関係するんだけど」

『話が戻ったな』

 

 今度は茶化すことなく、話を進める。

 杏さんたちと話した通り、五股だろうが当人たちが納得してるんだから、普段からイチャついて幸せを噛みしめようぜ、みたいなことになったことを伝える。

 

「アンチョビさんは別の学校だから、残念だけどイチャイチャするのに差が出来ちゃうでしょ。だから、ウザくならない程度にメールとか電話とかをいっぱいやっていこうと思って。改めて伝えておこうかなと」

『気になる男子と、毎日のように電話やメールをやり取りする……。いいな。恋人っぽくていいぞ』

 

 アンチョビさん、自分の中にある乙女の階段をまたひとつ踏みしめた様子。それくらいならいくらでもやりますよ。アンチョビさんの乙女ポイントは、全部オレを相手にしてクリアしてもらうからな。覚悟してもらおう。

 というか、乙女なアンチョビさんを前にして自重なんて出来るか?

 無理だろ。

 可愛い、好き好きと言わずにいられる自信はない。

 そもそも我慢する必要ってないよな?

 

「前言撤回。アンチョビさん、可愛い。大好き」

『いきなりなんだ!』

「やっぱり積極的に好きとか可愛いとか言っていくことにする。こういう感情を抑え込むのはさ、無理だと思うんだ」

 

 これが顔を合わせて、ハグしたりして直接触れ合えるならいくらか抑えられると思うけど。場所が離れていて、声と言葉でしかコミュニケーションが取れないなら、密度を上げていくしかないでしょ。

 

「そういうわけだから、自重するのは取りやめになりました」

『いや、そんな当たり前のように言われても』

「オレがアンチョビさんのことを好きなのは、当たり前のことだよ?」

『……くぅ。私はどう反応すればいいんだ』

 

 電話の向こうから、恥ずかしさで悶えているのが丸分かりな声が聞こえる。拒否反応みたいなものが感じられれば、もちろん無理強いするつもりはない。恥ずかし過ぎて死ぬ、とか言うなら、仕方なく自重しようかという思いはある。少しくらいは。

 

「恥ずかし過ぎるから嫌だ、って言うなら。残念だけど抑えるよ?」

『卑怯だろう、そういう言い方は』

 

 確かにおっしゃる通り。我ながら質が悪いと思うけど、かなり自覚して口にしてる。アンチョビさんが、本当に恥ずかしがってるけど、本気で嫌がってるわけじゃないことも伝わっているから。

 ヘタレじゃないオレは、あえてそれを口にしていくのだ。

 

「でも、嫌じゃないよね?」

『……嫌じゃ、ない。むしろ嬉しいぞ』

「オレも嬉しい。大好きだよ、アンチョビさん」

『私も、好きだぞ』

 

 アンチョビさんが、小さな声で返事をしてくれる。聞き取れるかどうかの小声から、彼女の照れがこれでもかと感じられる。可愛い。

 くそぅ、どうしてアンチョビさんを抱きしめられないんだ。今すぐアンツィオ高校に乗り込んで、思い切りハグしたい。力いっぱい抱きしめたい。

 

「よし、決めた。ゴールデンウィークになったら、またアンツィオに行くから」

『はぁ!? いきなりどうした大瀬良!』

「だってアンチョビさんが可愛くて仕方ないから。抱きしめたいしキスもしたいから、会いに行く」

 

 いきなり放り込んだオレの言葉に、アンチョビさんは困惑しきり。そんな彼女から、5月に入ってから学園艦が帰港することを聞き出して。自分の中でアンツィオ行きを決定させる。

 

「もちろん、戦車道の隊長として忙しいだろうから。アンチョビさんの予定に合わせるよ。オレを振り回すつもりで、都合よくスケジュールを組んでいいからね」

『大瀬良……』

 

 予定が立ったら連絡ちょうだい、と告げる。

 電話の向こうのアンチョビさんは、どこか熱っぽい声を漏らしていた。遠距離恋愛の恋人がわざわざ遠征して会いに来てくれる、というシチュエーションが、彼女の乙女心にヒットしたらしい。喜んでくれるなら、これくらいのことはえんやこら、というやつだ。

 

『楽しみにしてるからな!』

「オレも楽しみだよ」

 

 明るくてノリノリなアンチョビさんの声に、オレもウキウキしながら返事をする。女の子との約束って、なんだか嬉しくなっちゃうのはどうしてなんだろうね。

 他にも恋人っぽい約束とか、取り決めとか、いろいろ話す。

 おはよう、おやすみのメールを送ろうとか。

 会ったらアンチョビさんの料理が食べたいなぁとか。

 改めて『ローマの休日』ごっこをしようとか。

 電話越しのやり取りだけど、アンチョビさんのまぶしい笑顔が簡単に思い浮かべることが出来て。オレも自然と笑顔になっていた。

 

 

 

 ―続く―




恋人の予定をあらかじめ押さえておく男。
槇村です。御機嫌如何。


お話がしばらく大洗オンリーになるので、
アンチョビさんを少しフォローしておきたかった。
聖グロ勢は練習試合があるからね。そこでまでおあずけです。
次回は西住姉妹とイチャつきます。




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40:今すぐ Kiss Me/みほ&まほ

 アンチョビさんとの電話はとても楽しかった。

 1カ月後の連休にアンツィオまで会いに行く約束をして。他にもありふれた会話にやり取りをあれこれと。それだけなのに、声が弾む。気持ちが高揚する。嬉しくなる。

 彼女の方が出掛ける時間になったというところで、残念だけど電話は打ち切り。アンチョビさんも残念そうだったけど。

 

「声が聞きたくなった、くらいの気軽さで電話し合えばいいんじゃない?」

 

 なんてことを言ったら、電話の向こうからアンチョビさんの悶えるような声が聞こえた。どうやらまた彼女の乙女ポイントにヒットしたらしい。

 

「アンチョビさんの声が、聞きたいな」

『おぉぉ……』

 

 からかい交じりに改めてそんなことを言ったりして。合間に「可愛い」とか「好き」とか織り交ぜて、アンチョビさんをもっと悶えさせる。本当に、可愛い。

 

『待ってくれ、胸がときめき過ぎて死んでしまう』

「む、それはいけない。ちょっとセーブしようか」

『いや待ってくれ、それはそれで寂しくて死んでしまう』

「どうしよう。アンチョビさんが可愛すぎてツラい」

 

 そんな馬鹿話を最後に、ひとまず今日のところはこれでと、電話を切った。もちろん、最後に「大好き」という言葉を送ってから。

 あ、「戦車道、頑張ってね」と言い損ねたから、メールで送っておこう。これから練習があるって言ってたし。

 さて、と。

 アンチョビさんと違って、オレの方はこれといって用事はない。

 どうしようかな、と思ったところで。

 

 ピンポーン

 

 部屋のチャイムが鳴った。

 それと同時に。

 

「俊一くーん」

 

 ドアの向こうから、みほの声が聞こえた。

 幸せな気持ちが、胸の奥から湧き上がってくる。嬉しさでニヤつきながら、ドアまで歩いて。彼女を迎え入れる。

 

「いらっしゃい、みほちゃん。まほちゃんも」

 

 開けたドアの向こうには、笑顔のみほがいた。その横には、同じく笑顔のまほもいる。

 ふたりとも私服姿。みほからは可愛らしさを感じて、まほの方はお姉さんっぽく少し落ち着いた感じ。どちらもとても似合ってる。可愛い。

 

「ふたりともどうぞ、上がって」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔するぞ」

 

 西住姉妹を招き入れて、ドアを閉める。

 すぐに、まほがオレの腕にしがみついてきた。

 一方で、みほはオレの背中に思い切り抱きついてくる。

 

「移動するよー」

 

 まとわりつくふたりを半ば引きずるようにして、揃って部屋の中へと入っていった。

 先にふたりを座らせて、飲み物でも用意しようかと思ったんだけど。みほもまほも離れてくれない。苦笑しつつ、まとわりつくのに任せたまま、オレが先にソファに座る。ふたりもそれに合わせて動き、両隣に腰を下ろした。

 

「よっ、と。お?」

 

 ソファに座った途端、みほが改めて抱きついてきた。

 脚にまたがって、そのまま身体をあずけてくる。

 みほのアソコが服の上から密着。

 太ももがオレの股間に押しつけられる。

 さらに首に腕を回してしがみついてきて。

 柔らかなおっぱいもオレの脇腹から胸板あたりで押しつぶされている。

 その上、肩から首筋あたりに彼女は顔を埋めている。

 もうね、みほが本当に全身を密着させている状態。

 至福。

 至るところで彼女の身体の柔らかさが感じられてしまう。

 心地良くて堪らない。

 

「みほちゃん、いつにもまして甘えん坊だね」

 

 彼女の頭を撫でてあげれば、嬉しそうに声を漏らしてくる。きっと表情も緩んでいるに違いない。可愛い。

 オレとしては、甘えてくるのはすごく嬉しいんだけど。どうしたというのか。部屋に入ってくる時も、抱き着いてきた時も、悲しそうな顔はしていなかったから。ネガティブな理由ではなさそうだけど。

 

「んー。だって、俊一くんが視察に行っちゃってから3日くらい、十分に甘えられなかったから。我慢できなくて」

「あれか。オレ成分とかいうのが足りなくなってきたのか」

「そうそう。俊一くん成分がエネルギー切れになってたの」

「エネルギー切れなら仕方ないな」

「うん、仕方ないんだよ」

 

 どうやら単純に甘えたかっただけみたい。みほはもっと強く、ぎゅーっ、と抱きついてきて。首元に頬ずりをしてくる。

 こういう態度を素で見せてくれるのは、すごく嬉しい。オレも、みほの頭を撫でながら、指で髪を梳いていく。頬ずりをしたりする。

 んー、心地いい感触。柔らかくて、いい匂いがして、甘えてくる態度も可愛らしい。いくらでも甘やかしてあげたくなる。

 まほも、妹のゆるゆるな姿を見て微笑ましそうに表情を緩めていた。

 

「なまじ一緒に過ごせるようになったせいで、数日離れているだけでも耐えられなくなってしまったのかもしれないな」

「ちょっと前までは、熊本と茨城で遠距離恋愛だったのに?」

「そうだ。今考えてみると、私も、みほも、よく耐えられたなと思う」

「みほちゃんとまほちゃんの愛が染みるなー」

「思う存分、噛みしめるといい」

 

 まほはまほで、ソファでオレの隣に座ると、身を寄せて、肩に手とあごを乗せてきた。気安い態度というか、彼女がそういうラフな接し方をしてくれるのが嬉しい。

 みほの頭を撫でながら、反対側に身を寄せているまほの頭を抱える。妹と同じように、姉の彼女も同じように優しく撫でる。髪を梳く。

 まほも気持ち良さそうに、目をつむって、表情を緩めている。可愛い。

 両腕に姉妹揃って抱き寄せて、女の子の柔らかな感触と、温かさを感じる。オレはこの世でトップクラスに幸せな男に違いない。

 

「みほちゃん。んー」

「あっ。ん、ちゅ。はぅ……」

 

 みほの頭を抱えたまま、顔を近づけて。唇を重ねる。

 少し深めのキス。唾液越しに、柔らかな唇の感触が伝わってくる。

 唇を離すと、みほは顔を赤らめながら吐息を漏らした。

 

「みほちゃん、オレ成分はチャージできた?」

「……うぅん。もっと、欲しいな」

「喜んで」

 

 再度、彼女を頭を引き寄せて、キスをする。

 みほの方も、オレの首に回していた腕に力を入れて、もっとしてと唇を押しつけてくる。

 お互いにどんどん息が荒くなっていく。唇をはんで、舌でくすぐって、絡ませ合う。みほとのキスが、気持ち良くて仕方がない。

 

「みほちゃん。オレのみほちゃん。可愛いみほちゃん」

「はぁ、ん……。ちゅ、んんっ。俊一くん。好き。しゅんいちくん」

「オレも大好きだよ。みほちゃん大好き」

 

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と。何度も何度もキスをする。少し乱暴になるくらいに唇をねぶる。夢中になって、みほとキスしまくる。

 

「ふわぁ……」

 

 みほはもう、呆けるみたいになっていた。

 可愛くて、 いくらキスしても足りない。

 だけど、もうひとりを待たせてしまってるので。

 

「みほちゃん、ちょっと待っててね」

 

 一瞬触れるだけのキスを頬にしてから、もう片方の腕に力を入れる。

 腕の中にいたまほは、それに逆らうことなく身を寄せる。妹がオレの首に腕を回したままなのに対して、姉の方は身体に腕を回してきた。彼女の胸が押しつけられて、ワキあたりに幸せな柔らかさが広がる。

 

「まほちゃん、お待たせ」

「待ちかねたぞ。私も、俊一成分が足りていないんだからな」

「一緒に視察に行ってたのに?」

「むしろ結果的には、ある意味おあずけされ続けていたじゃないか」

「あー、うん。そうかも。ごめんね」

「謝る必要はないぞ。ただ、私もきちんと可愛がれ」

「それはもちろん」

 

 まほへと顔を寄せれば、彼女の方も顔を近づけてきて。

 唇を重ねた。

 

「んっ」

「んむ、ん……。はぁ」

 

 キスをする瞬間、まほが目を閉じる。身を委ねて、唇の感触を味わって。うっとりとしたように吐息を漏らす。

 

「俊一、もっとキスしてほしい。抱きしめてほしい。触れてほしい」

「まほちゃんも、今日はいつも以上に欲しがりさんじゃない?」

「アンツィオでも言ったが、私は毎日でも抱いてほしいんだぞ? なのに、3日間もハグ止まりだったんだ。俊一の部屋に入った途端に、身体がうずいてきてしまったんだ」

 

 我慢できないとばかりに、まほもオレの脚にまたがって、柔らかな身体を押しつけてくる。さらに、太ももに股間を擦りつける。

 キスをしながら、服越しにおま○こを擦りつけるように腰を振ってくる、まほ。身体がうずくと言いながら、オレの身体を使ってオナニーをしているような感じだ。

 恋人にそこまで求められて、何も応えないほど唐変木じゃない。

 左腕に、みほ。

 右腕に、まほ。

 姉妹揃って一緒に抱きしめながら。

 オレはひどく興奮して、股間をイキらせていた。

 

 

 

 ―続く―




西住姉妹を両腕に抱いてイチャつくのが、このお話のベース。
槇村です。御機嫌如何。


ごめん、エッチシーンまで手が回らなかった。
また間が開いてしまいそうだったので、
書けたところまで先にアップしてしまう。
短いけど勘弁な。
次はすぐにエッチシーンです。
書きたいネタはあるのに手が回らない。




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41:※大きな木に甘えて/みほ&まほ

 みほと、まほが、揃って身体を擦りつけながら甘えてくる。押しつけられる柔らかさを感じながら、ふたりをまとめて抱きしめて、交互にキスを繰り返す。

 

「ちゅ、ん、はぁ……ん。んむ、ふぁ……。しゅんいち、くぅん」

「俊一、ん、ふぅ、あ……。ちゅ、ん、あ……」

 

何度も何度もキスをして、ふたりのぷるぷるした唇をたっぷり味わう。

 

「はぁ……。みほちゃんもまほちゃんも、キス、すっごく気持ちいい」

 

 もうね、いつまでもちゅっちゅしていたい。

 唇を舐め合って、舌をねぶって、唾液を吸って。

 ぬらぬらのでろでろになりたい。

 いっぱいキスをして、みほも、まほも、酔ったように蕩けた表情に。

 ふたりの肩をつかんで、思い切り抱き寄せる。

 腕の中に納まる、みほとまほの柔らかさを感じながら。

 愛しさ全開で、頬ずり。

 ぐりぐりと愛でてから、おでこにちゅっちゅっと唇を落として。

 また強く抱きしめた。

 

「ふたりとも好き。みほちゃんも、まほちゃんも大好き」

「ふわぁ……。嬉しいよぉ、俊一くん」

「私もだ俊一。俊一、しゅんいち……」

 

 感極まった風に、姉妹揃ってキスをしてくる。

 キスといっても、唇どころではなくて。

 頬に、目元に、耳元に、首筋にと、あらゆるところに唇を寄せる。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と、雨あられとばかりに。

 みほとまほのキスの絨毯爆撃。

 身体中にくすぐったさと気持ち良さが走り回る。

 なんという快感か。

 ゾクゾクしっ放し。

 チ○コが勃起して止まらない。

 ふたりがひたすらキスしまくるのに任せて。オレは抱きついているみほとまほを引き寄せて、おっぱいに手を置く。

 

「あんっ」

「んっ」

 

 服越しでも伝わってくる、膨らみの柔らかさ。この手の中に広がる感触は、何度味わっても嬉しくなるし、心地いい。

 胸を軽く揉んだことで、みほとまほの、キスの嵐が一瞬途切れた。

 されっ放しは性に合わないので。この隙に反撃する。

 

「みほちゃん」

「あ、んっ。ふぁ、ん、はぅ……」

 

 みほちゃんの、程良く大きなおっぱいを揉みながら、唇を奪う。

 

「まほちゃんも」

「しゅん、ん、あ……。はふ、んんっ」

 

 続けてまほも、やっぱり大きめのおっぱいを揉みつつキスをする。

 姉妹を同時に抱きしめ。

 腕の中に納めて。

 胸を揉みながら。

 交互に唇を合わせる。

 女の子からキスされまくるのもむちゃくちゃ幸せだけど。

 やっぱりオレの方から、してあげたくなる。

 

「そういう訳だから。もっとキスしちゃうよ」

「うん、もっとキスして欲しい……」

「私も、もっとキスしたいぞ俊一……」

「今日も明日も明後日も、いっぱいキスしようね」

 

 なんてことを言いながら、みほに、まほに、ちゅっちゅっちゅっちゅっとキスしまくる。

 姉妹でも微妙に異なる唇の感触、柔らかさ。

 オレだけがそれを知ってる。

 そう思うと、興奮と独占欲が湧き上がって仕方がない。

 ふたりも気持ちが高ぶっていて。のぼせたように、夢中になって唇を重ねてくる。

 左を向いて、みほとキスすれば。まほの漏らす吐息が首元に掛かり。

 右を向いて、まほとキスすれば。みほの息遣いが耳元をくすぐる。

 そして、キスをしながらふたりの胸を優しく揉みしだく。

 

「ふぁ、んっ、ん……。はぁ、あふぅ」

「んっ、く、ん。はぁ、あ、俊一、あぁ……」

 

 みほも、まほも、漏らす息が艶っぽくなってきた。すぐ目の前で姉妹揃って悶える姿にもう、チ○コが苦しくなって仕方がない。

 

「ふたりとも、服、脱がすよ?」

 

 まずは、みほ。

 寄り掛かっていた彼女の身体を起こして、そのまま上着を脱がす。

 その下に着ていたシャツも、みほを万歳させて、するすると。

 またがっていたオレの脚から下ろして、スカートも脱がしてしまう。

 

「うん。下着姿のみほちゃん、可愛い」

「本当? 恥ずかしいけど、嬉しいな」

 

 白地に薄い青のストライプ。ブラジャーとショーツでお揃いだ。

 小柄だけど、女の子らしい膨らみがしっかり自己主張しているスタイル。下着だけじゃとても隠せるものじゃない。もじもじと恥ずかしがっているのと相まって、とても可愛らしい。

 手を伸ばすと、みほはまたオレの腕の中に飛び込んでくる。

 抱き留めてから、唇に軽くキス。

 彼女は嬉しそうに、ゆるゆるな表情で笑みを浮かべた。

 

「まほちゃんも、脱ぎ脱ぎしようね」

 

 続けて、まほも。

 抱きついていた身体を起こしてあげて、服に手を掛ける。

 落ち着いた色合いのシャツを脱がせば、すぐブラジャーが露に。

 スカートのホックを外して、足を抜いてあげる。

 まほはあっという間に下着姿になってしまう。

 派手さはない、白のブラジャーとショーツ。シンプルだけれどおしゃれな感じがして、よく似合っていた。

 

「まほちゃんも素敵。下着姿、可愛い」

「あぁ……。嬉しいぞ、もっと褒めてくれ」

 

 言うや否や、まほもオレに抱きついてくる。

 そして自分から唇を重ねてきた。

 

「ちゅ、ちゅっ。んむ、はぁ……。しゅんいち……」

「俊一くん、わたしにも、キスして……」

「もちろん。ふたりとも、いっぱいキスしよう」

 

 あ。でもその前に、オレも服を脱がないと。

 脱いでから直接、みほとまほと密着したい。

 肌と肌で触れ合いたい。

 

「だから、オレの服、脱がしてくれる?」

「うん、分かった」

「じっとしていろ」

 

 求めに応じて、ふたりが手を伸ばしてくる。

 みほが、オレのシャツのボタンをひとつ、ふたつと外していく。すべて外して、前をはだけさせ、袖から腕を抜いてと、かいがいしく上着を脱がしてくれる。オレはTシャツ1枚の格好になった。

 

「はぁ……。俊一くん……」

 

 みほがTシャツの上から、オレの胸板、お腹と、手を這わせてくる。うっとりとした表情、声、くすぐったい感触にゾクゾクさせられてたまらない。

 もう一方で、まほは下半身に手を掛けた。

 ズボンのホックを外して、チャックを下ろす。

 オレが少し腰を浮かせると、彼女はお尻の方に手を差し込んで、そのままズボンを脱がす。

 足を抜くと、まほの正面に、トランクスを持ち上げる股間が現れる。

 

「あぁ……。たくましいな、俊一」

 

 勃起しているチ○コに、まほはトランクス越しに頬を擦りつけた。

 年上の美人なお姉さんが、オレのチ○コに躊躇いなく頬ずりをしてくれる。それだけで、さらに股間がうずいてくる。トランクスの中でチ○コが擦れる。

 

「ふたりとも、くすぐったいけど、気持ちいい……」

 

 みほは、Tシャツの中に手を差し入れながら身体を撫で回している。

 まほは、勃起したチ○コをトランクスの上から甘噛みしてくる。

 上から下から、やっべぇくらいにこみ上げてくる気持ち良さ。

 射精を促すような快感じゃなくて、くすぐったいゾクゾクしたもの。

 たまらない。

 左手を、みほの身体に回す。胸板を撫でるのに夢中な彼女に、背中から脇へと手を通して、おっぱいに触れる。

 

「あ、はんっ、ん……」

 

 ブラジャーの上から、軽く撫でるような力加減で、やんわりと揉む。

 でも指には少し力を入れて。みほの乳首の部分を擦り上げる。ちょっとしつこく、スリスリ、くにくにと。

 

「は、あ、ん。俊一く、しゅんいちくん。胸、切なく……」

 

 みほのおっぱいを、手のひらで、指で、優しくしつこく愛撫する。切なげにオレを見上げてくる彼女の表情が、エロくて可愛い。本当に可愛い。

 同じように、右手は、まほへと伸ばす。

 トランクス越しにオレのチ○コを甘噛みし、頬ずりする。そんな彼女を愛でるように、頭を撫でてあげる。

 まほは嬉しそうに、潤んだ目で見上げてきた。頬に当てたオレの手に、自分の手を添えてくる。

 でも反対側の頬は、股間にくっついたまま。

 つまり、まほの顔が、オレのチ○コと手のひらでサンドイッチされているような形だ。

 

「俊一。しゅんいち……」

 

 明らかにエロい状態なのに、微笑むまほ。もう可愛くて仕方がない。

 そんな風に、みほとまほの感触を目と肌でひとしきり味わって。

 みほにTシャツを、まほにトランクスを脱がしてもらう。

 ひと足先にオレの方が全裸になった。必然的に、ふたりの視線はチ○コに向けられる。こそばゆい。興奮する。

 

「ふたりとも、触って」

 

 みほとまほが、オレの両脇に座り直す。

 それから姉妹揃って、チ○コに手を伸ばしてきた。

 みほが亀頭に、まほが陰茎を軽くつかんで。

 きゅっ、と、わずかに力を入れる。

 

「はぁ……。気持ちいいよ」

 

 ふたりの頭に手を置いて、優しく撫でる。

 それだけで、みほもまほも、嬉しそうな顔をする。

 可愛い。

 下着姿の女の子ふたり。

 しかも姉妹が。

 嬉しそうな顔をして。

 オレのチ○コを弄ってる。

 興奮せずにいられようか。

 

「俊一くん、すっごく大きくなってる……」

「可愛くて大好きな恋人に、ふたり揃って触られてるんだからね」

 

 嬉しくて気持ち良くて仕方ない。

 そう言いながら、みほの頭を撫でて、髪を梳いてあげる。

 嬉しそうに、恥ずかしそうに、はにかむ彼女は本当に可愛い。

 みほは優しい手つきで亀頭全体を、やわやわと弄り始める。

 おぉ……、気持ちいい……。

 一方で、まほは。陰茎に回した指を、きゅっきゅっと、握ったり緩めたりしながら、力を強弱させて刺激を与えてくる。

 

「本当に、ふたりとも、気持ちいい……」

 

 みほのすべすべした手が、亀頭の表面、尿道口、傘の部分を撫でる。

 細い指が、カリの窪みや裏スジ、皮膚の薄い敏感なところを擦る。

 まほの少し熱を持った手が、太さを増した陰茎を揉みほぐす。

 繊細な指が、根元から睾丸全体に行き来していく。

 ふたりの手と指の動きが、こみ上げてくる欲情を後押しする。

 こすこす、にぎにぎ。

 くりくり、もみもみと。

 オレの下半身が、とんでもない気持ち良さに包まれていく。

 思わず声が漏れて、蕩けてしまいそうなほどに。

 

「俊一くん、気持ち良さそう」

「もっと、気持ち良くしてやるからな」

 

 そう言いながら、ふたりはチ○コに顔を寄せてくる。

 

「あー、んむ」

「あむ、んっ」

「ふぉぉ……」

 

 みほが、可愛い口の中に亀頭をふくんで。

 まほが、ぷるぷるの唇で陰茎を挟み込んだ。

 声を漏らすだけじゃ治まらず。頭を反らして、身をよじるオレ。

 無意識につい、ふたりの肩をつかんでしまった。

 すぐに気づいて、力を抜き。ブラジャー姿の肩を撫でてあげる。

 みほとまほも、その意味が伝わったのか。姉妹揃って、少し微笑み。

 唇に少し力を入れて、チ○コを刺激してくる。

 

「みほちゃん、まほちゃん。今の、気持ちいい……」

 

 つい漏れた言葉。ふたりはその通りに、また唇に力を入れる。

 

「んむ、ちゅぷ、じゅ。れろ、ん……」

 

 みほは、オレの亀頭をぱっくりと咥え込んで。

 カリの裏側を緩く締めつけるように、唇をすぼめる。

 さらに、ちゅっちゅっと軽く吸い立てながら。

 口の中で小さく舌を動かしていく。

 チ○コの先っぽが、ぬるぬると濡れた感触に包まれる。

 敏感なところをすべて、口の内側の粘膜になぞられ、くすぐられる。

 気持ちいいとか、そんな生やさしいものじゃない。

 

「は、あむ、んっ。はふ、れろ、ちゅ。んちゅ……」

 

 まほは、唇だけで陰茎の至るところを甘噛みしてくる。

 あむあむ、と、上に下に唇を動かす。

 同時に、れろれろ、と舌を這わせてくる。

 陰茎全体がどんどん、まほの唾液にまみれていく。

 それが甘噛みする動きをスムーズにさせて。

 もどかしいような気持ち良さが広がっていった。

 

「ふぁ、ん、ぷちゅ、ちゅ。はぁ、んむ、ん……」

「はぁ、んむ、ん。れろ、ん、ちゅ、、ちゅぷ、んふぅ……」

 

 姉妹で別々に刺激してくるかと思えば、そればかりじゃない。

 ふたりは睾丸にも手を伸ばして、やわやわと揉みしだいてくる。

 みほとまほが、まるで息を合わせているかのようにして。

 絶妙な力具合で、オレの睾丸を揉む。

 さする。

 撫でる。

 くすぐる。

 もちろん、みほは亀頭を咥え、まほは陰茎に甘噛みしながら。

 下半身が快感で震える。

 自分でも、睾丸の中で精がぐるぐる唸っているのが分かる。

 ふたりのご奉仕が、オレの中に快感の渦を生み出していく。

 気持ちいい。

 エロい。

 愛おしい。

 オレの股間に顔を埋めている、みほとまほ。

 ふたりに対する気持ちがどんどん募っていく。

 

「ぷはっ。お姉ちゃん、今度は」

「ん。責め方を交代だな」

「え?」

 

 言うや否や。

 今度は、まほが亀頭を咥えてきて。

 みほが陰茎に唇を押しつけてきた。

 

「うぉ……。さっきとはまた違った気持ち良さがっ」

「くす。たっぷり味わうといい」

 

 まほは、カリの裏側の窪みに唇を挟む。

 さらに左右に擦るようにして締めつけてくる。

 しかも口の中で舌を、れろれろと動かしてかき回す。

 亀頭全体を絶え間なく舐められて、鋭い刺激がチ○コに響く。

 

「俊一くんが悦んでくれると、わたしもお姉ちゃんも嬉しいから」

 

 みほは、陰茎じゃなくて、睾丸を口にふくんできた。

 可愛らしい口が、ふぐりをくにくにと甘噛みしてくる。

 合わせて舌が、ちろちろと、押すようにしてうごめく。

 気持ち良過ぎて、快感で下半身がえぐられるような感覚に襲われる。

 

「もう、気持ち良過ぎて、はぁ……。みほちゃんっ、まほちゃんっ」

 

 ふたりに股間を舐められながら、腰を動かしたくなってしまう。でも左右から彼女たちが圧し掛かっているおかげで、そうもいかない。それがまたもどかしさになって、もっと興奮してしまう。

 

「ちゅぶ、れる、ん、んっ。むふ、ん……んっ」

「あむ、ん、ぷは。あ、ん……んっ、む……」

 

 西住姉妹のダブルご奉仕が止まらない。

 チ○コと下半身にまとわりつく、感触と快感。

 ぬめぬめとか。

 ふにふにとか。

 ぷにぷにとか。

 そんなものに翻弄される。

 オレは「気持ちいい」「もっと」としか言えなくなっていた。

 少しでも長くこの快感をあじわっていたい。

 その一心で、必死に我慢をしていたわけだけど。

 

「ごめん、だめ。もうだめ!」

「ぷはっ」

「ひゃんっ」

 

 耐えられませんでした。

 

 

 

 ―続く―




こんなん我慢できるか!
槇村です。御機嫌如何。


エッチ前とかの脱がそうとしているシーンで、
誰がどんな服を着ているかっていう描写はどれくらい必要だろうか。
服の色とか形とかボタンの位置とか考えてたんだけど、
読んでてうるさくなるかなと思って取っ払った。
その点、制服エッチは偉大だなと思ったよ。
描写が少なくて済むものね。
……つまり、私服よりも制服でのエッチシーンが増えるということか。
どんとこいですよ(自分で言うな)

あ、次回もエッチシーンです。




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42:※ボディ・スペシャルⅠ/みほ&まほ (主にみほ)

 西住姉妹による変幻自在なペロペロ攻撃。これにオレはあっけなく撃沈させられた。ふたりの顔に目掛けて射精。思い切り、顔射してしまう。エロい。

 砲撃したオレのチ○コに次弾装填とばかりに、みほとまほが、熱心にお掃除フェラをしてくれている。しかも時々、顔に掛かった精子をお互いに舐め合いながら。すごくエロい。

 なんという。絶景かな。

 

「れ、ちゅ、んっ。は、ん、んちゅ……」

「んぁ、ん、ちゅぱ。ふぁ……ん、ちゅ」

 

 ふたりは、射精したばかりのオレのチ○コを丁寧に舐め回す。

 陰茎にカリ、裏スジ、鈴口と。

 それこそ全体をまんべんなく、舌で綺麗にしてくれている。

 射精を促すようなものじゃないけれど、確実に興奮が高まっていく。

 いやもう、エロ過ぎてたまらない。興奮が収まらない。

 ソファに座って。

 下着姿のみほとまほを両脇にはべらせつつ。

 射精した後の余韻に浸りながら。

 姉妹でのダブルフェラを堪能する。

 

「天国でしょ……」

 

 加えて、みほとまほのお尻を、下着の上から撫で回している。おっぱいとはまた違った柔らかで幸せな感触を、両方の手のひらいっぱいに感じている。

 お尻の膨らみを味わいつつ、指を、ふたりのおま○こに滑らせた。

 

「はぅ、ん、あんっ。ちゅ、れろ、ん……」

「ん、んんっ。はぁ……、んむ。ちゅぽ、ちゅ……」

 

 ショーツ越しに、みほの、まほの、股間の割れ目をなぞる。

 お尻の方から手を回して、ぷにぷにした内股も同じように撫でる。

 柔らかい。とても気持ちいい感触。幸せ。

 ふたりは股間部分を触られたことに反応しながらも、オレのチ○コを舐めるのを止めようとしない。それにまた興奮が募る。

 普段はスカートに隠れているところ。その手触り、スベスベ感を知ってる男はオレだけなんだと思うと、またチ○コに力が入ってしまう。

 

「俊一くん。また大きくなった……」

「んっ、はぁ……。本当に、俊一は底なしだな」

 

 オレの太ももに頭を乗せて、みほとまほが、お掃除フェラにひと息入れる。目の前で揺れる勃起チ○コを舐めていたせいか、オレがお尻やおま○こを愛撫していたせいか、ふたりの息遣いはかなり荒くなっていた。

 

「みほちゃんも、まほちゃんも。ココが湿ってるよ?」

 

 そう言いながら、ふたりの秘部に指を食い込ませる。

 途端に、イヤらしく声を漏らした、みほとまほ。

 吐息がチ○コに吹き掛かって、股間がむず痒くなってしまう。

 

「ふぁ、あんっ」

「んんっ、はぁ……」

 

 姉妹揃って、ショーツのクロッチ部分を愛液で湿らせている。

 弄り始めた時にはもうしっとりと濡れていた。

 つまりチ○コを舐めながら、おま○こをうずかせていたことになる。

 興奮する。背筋がゾクゾクしてしまう。

 湿ったショーツの上から、ふたりのおま○こをさする。

 ゆっくり、ねっとりと。

 布地の上からでも割れ目がはっきりと指に感じられて。

 いやもう、幸せな感触だ。

 ショーツの上から触るだけでも感じてくれる。エッチなことも受け入れてくれているのが嬉しい。

 オレの手の動きに負けじと、みほとまほも、股間に舌や唇を這わせてくる。でも愛撫をし続けているうちに、ふたりともただ喘ぐだけになってしまった。

 唾液にまみれた勃起チ○コを挟むようにして、みほとまほが、股間に顔を埋めたまま快感の声を漏らす。喘ぎ声と吐息が切れ切れに吹き掛かって、フェラチオとは違った熱がチ○コにまとわりついてくる。

 エロくて、興奮する。

 もっと喘がせたい。悶えさせたい。

 

「ひゃうっ。ん、あぅん」

「は、あっ。しゅんいち、ふぁっ」

 

 おま○こを撫でていた指を、ショーツの横から中へと潜らせた。

 ふたりのおま○こに直接触れて、恥丘の膨らみをなぞる。

 クロッチ越しからでも分かっていたけど。みほも、まほも、おま○こが愛液にまみれて濡れ濡れになっていた。

 指先から伝わる、ぬめついた水気。

 濡れた恥丘の感触も、姉妹でそれぞれ微妙に違う。

 興奮から、愛撫する指にもつい熱がこもってしまう。

 少し力を入れただけで、つぷり、と、ふたりの秘唇は簡単にオレの指を咥え込んでしまった。

 

「しゅんいちくんの、ゆびぃ……」

「はふ、う、んっ。しゅん、いちぃ……」

 

 左手の指を、みほのおま○こに優しく押し込み。

 右手の指が、まほのおま○こを掻き分けるように沈めていく。

 指をそれぞれ1本だけ。

 ゆっくりと、少しずつ。

 深く、深く。

 ふたりの膣内で、オレの中指が締めつけられる。

 指に絡みつく、膣壁の柔らかさ。

 彼女たちが喘ぎ、呼吸をするたびに。

 きゅう、きゅう、きゅっ、と。

 強く、優しく、イヤらしく、指を咥え込んでくる。

 

「指、気持ちいい。みほちゃんのおま○こと、まほちゃんのおま○こ」

 

 名前を連呼して、オレのモノだと刷り込むように。

 ふたりの膣内に、中指を出し入れさせる。

 傷つけないように、気をつけながら。

 

「指、そんな、んっ、あっ。お腹の奥、うずうずしちゃうっ」

「もっと、んんっ。俊一で、いっぱいにして、あっ、くぅ」

 

 みほとまほのおま○こが、愛液でいっぱいになったナカを掻き混ぜられて水音を立てる。それはもう、ぐちゅぐちゅと。

 その水音は、ふたりが漏らす喘ぎ声に負けないくらいの大きさになっている。それこそ、彼女たちの耳にも聞こえているだろうくらいに。

 いや、気持ち良さに気を取られて、意識できてないかも。

 それだけ夢中になっていることになるから。それはそれで嬉しい。

 ふたりのおま○このナカを中指で掻き回して。

 膣壁全体をまんべんなく撫で回す。

 同時に、他の指と手のひらは、尻たぶをつかんで揉みしだいている。

 その両方の動きに反応して、みほとまほが、身体を震わせる。

 艶のこもった喘ぎを途切れることなく漏らして、荒くなった息がチ○コに吹き掛かってくる。こそばゆくてたまらない。

 何より、目の前の光景だ。

 勃起したチ○コの左右に、蕩けた顔を押しつけている西住姉妹。

 興奮せずにいられようか。

 

「オレ、そろそろ我慢も限界だわ」

 

 みほに、まほに、思い切り挿入して、気持ち良くなりたい。

 気持ち良くしてあげたい。

 

「ふたりにいっぱい、オレ成分を注いであげるからね」

 

 悦びと、期待に満ちた目を向けられた気がした。

 もちろん、ふたりまとめて応じてあげるともさ。

 みほとまほの身体を起こして、改めてソファに座らせる。

 オレの方は立ち上がって、少し息を乱している彼女たちの前に立つ。

 

「みほちゃんも、まほちゃんも、可愛い」

 

 下着姿のふたりが、もじもじと身をよじりながら、全裸のオレを見上げてくる。その視線は、オレの顔だったり、勃起したチ○コだったり、あちこちを行ったり来たりしていた。

 見られてると思うと、背筋にゾクゾクとしたものが走って、腰が震えてくる。チ○コに力が入ってしまう。

 

「まずは、お留守番をしてた、みほちゃんからね」

 

 身をかがめて、まほに軽いキス。

 それで少し「待て」をしてもらってから。

 ソファに手をついて。

 みほに覆いかぶさった。

 

「みほちゃん」

「俊一く、ん、ちゅ……。ふぁ、んぅ」

 

 顔を寄せて、みほの唇に優しくキス。

 オレの首に腕を回して、彼女はさらに密着しようとする。

 唇を重ねて。

 舌を押しつけ合い、絡め合って。

 互いの唾液を混ぜ合い、吸い合う。

 みほは、上気した表情をさらに蕩けさせていく。

 

「ちゅ、ちゅぷ。ふぅ、ん、はぁ。俊一くん、好き。大好き」

「オレだって好きだよ。ずっと一緒。みほちゃんは全部、オレのモノ」

「はぁ……、嬉しい。俊一くん。しゅんいちくん……」

 

 抱きつきながら、みほは「好き好き」と甘えてくる。可愛い。

 そのひと言ごとにキスをする。

 「好き」と言うたびに、ちゅっ、と唇を重ねる。

 彼女の想いを飲み込んで、肯定して応えていく。

 

「背中、触るよ」

 

 みほにキスをされるに任せて。オレの方は彼女の身体を撫で回す。

 抱きしめ返すようにして腕を回し、綺麗な背中に指を這わせる。

 上は肩あたりから、つつつ、と、なぞるように下ろしていって。

 ブラジャーの紐を越えて、腰回りへと手が伸びる。

 次いで、脇から引き締まった腰に。

 そして、お尻のすぐ上あたりに指が伝う。

 もちろんお尻の膨らみにも手を這わせる。

 優しく、優しく。

 ゆっくり、ゆっくり。

 そんな感じに、みほの身体の後ろ側だけを、上に下にと撫で回す。

 

「はぁ、ん。んちゅ、ちゅ、ぷは。俊一くん、あふぅ……」

 

 もちろん背中側だけじゃない。

 今度は前の方へと愛撫の手を向ける。

 やっぱりどうしても、形のいいおっぱいに手が伸びてしまう。

 ブラジャーごと包み込めば、感動的な柔らかさが伝わってくる。

 感触を確かめるように、緩く、緩く、揉みしだく。

 つんとした乳首が、ブラジャーの上からでも感じられて。くにくにと指を引っ掛けるようにして刺激する。こね回す。

 それだけでも、みほは、身体を震わせて悶えてしまう。

 快感の声を上げていても、キスは止めようとしない。そんな甘えたがりなところを見ると、愛おしさがどんどん募ってくる。

 

「本当に、可愛いなぁ」

 

 すぐにでも、みほを貪ってしまいたい。

 愛撫をしつつ、彼女の脚を広げて。その間に身体を入れる。

 ショーツはすっかり愛液がにじんで、薄い青のストライプを色濃くさせている。さらにおま○この割れ目が浮き上がっていた。

 濡れたクロッチ部分に、勃起したチ○コを押しつける。

 割れ目に沿って、擦りつけるように腰を動かす。

 もうこれだけで気持ちいい。

 みほも、抱き着く腕に力をこめて、唇に、首筋に、何度もキスをしてきた。こみ上げてくる快感をこらえようとしてるのかもしれない。

 

「みほちゃん、挿れるよ?」

「うんっ。わたしのナカを、俊一くんでいっぱいにして欲しい」

 

 愛液まみれのショーツに手を掛けて、股間の部分をズラす。

 みほのおま○こに、チ○コを当てがって。

 

「あ、んっ。は、んん……」

 

 じゅぶり、と。

 彼女を抱きしめたまま、チ○コを挿入する。

 

「んっ」

 

 みほの頭を抱きかかえて、さらに肩へと手を回す。

 密着したまま、ソファの背もたれに彼女の身体を押しつけるように。

 体重を掛けながら。

 膣奥へと、チ○コを押し込んでいく。

 

「ふぁ、あぁ……。俊一くんので、いっぱいにぃ……」

 

 みほが、オレの腰に脚を絡みつける。

 言葉の通り、うっとりとした顔で、離すまいとしがみついてくる。

 

「俊一くんの、で、お腹の奥がいっぱいになるのが、すごく幸せ……」

「オレも、みほちゃんに包まれてるのが、嬉しくて、気持ちいいよ」

「わたしも、気持ちいい。俊一くんも、気持ち良くなってほしい」

「ふたりでいっぱい、もっと気持ち良くなろう?」

「うん、あっ。はんっ」

 

 しばし言葉を交わしつつ、みほの膣内の感触を堪能して。

 ゆっくりと腰を動かして、チ○コの出し入れをする。

 

「はぁ、ん、ふぅ。は、あ、はっ、あんっ」

 

 膣壁が強く、優しく、ぐねぐねと、チ○コを絞り上げてくる。

 少しきついくらいの、みほのナカ。その感触と締めつけ具合。何度味わってもたまらなく気持ちいい。

 ぎゅっ、と抱きしめて、上半身はぴったりとくっついたまま。腰だけをゆるゆると動かす。

 亀頭がおま○この奥にくっつくまで押し入れて。

 チ○コを膣壁に擦りつけながら腰を引く。

 抜けないくらいの膣口ぎりぎりまできたら、またゆっくりと。みほの、狭くてキツイおま○このナカを掻き分けるように挿入していく。

 まるで飲み込もうとするかのように、ぎゅうーっ、と膣壁が吸いついてきて。亀頭が、陰茎が、敏感なあらゆるところを擦ってくる。

 快感。声が漏れるほど、すっごく、気持ちいい。

 

「はぁ……。みほちゃん。みほちゃんっ」

 

 彼女を求める気持ちがどんどん高まっていく。

 でも、荒々しくならないように。努めて優しく、みほのナカを行き来する。

 腰を前後させて、あるいはぐるりと回すように。膣内全体を探る気持ちでチ○コを擦りつける。それこそ、オレの触れていないところはどこにもないくらいに。

 

「はぁ、あ、あっ。広がる、俊一くんに、広げられちゃうぅ」

 

 みほも、緩いピストンを追いかけるようにして、おま○こを締めつけてくる。膣奥へと吸い込まれていくような感覚が、気持ち良くて仕方ない。まるで、こみ上げてくる快感と、射精感を吸い上げているようだった。

 下半身を痺れさせながら、みほを思い切り抱きしめる。全部委ねる彼女の反応や仕草に、いろいろな感情がオレの中で沸騰する。

 

「もっといっぱい、好きなだけ、甘えてきていいから。いくらでも受け止めてあげるから」

「俊一くん。俊一くん、しゅんいちくん。しゅんいちくぅん……」

「可愛いみほちゃん。オレの、みほちゃん」

「うんっ。わたしっ、しゅんいちくんの、モノだからっ」

「これからも、ずっと、みほちゃんは、オレの、モノっ」

 

 オレも、みほも、お互い「好き好き」と言い合いながら。

 抱きしめ。

 密着して。

 それこそ身も心もというくらいにくっつき合う。

 みほの一番奥まで挿入したまま。

 ぐっぐっ、と。

 持ち上げるように押し込むだけ。

 べったりと密着して。

 彼女のおま○この締めつけ。

 身体の柔らかさと肌触り。

 蕩けた表情に唇の感触まで。

 みほのすべてを全身で味わう。

 

「しゅんいちくん。あっ、ん、ふぁ、しゅんいち、くんっ」

 

 みほは、ひたすらオレの名前を呼びながらしがみついている。

 抱きしめてくる腕の力。

 名前を呼ぶたびに吹き掛かる吐息。

 ブラジャー越しに押しつけられるおっぱいの柔らかさ。

 離れないぞと絡めてくる脚、太ももの感触。

 それ以上に離すまいとする、おま○この締めつけ具合。

 彼女を抱きしめるたびに、名前を呼ぶたびに、チ○コを押し込むたびに。みほは強く反応して、全身で応えてくれる。

 

「もう、ん。しゅんいちく、わたし、イッちゃう。わたしっ」

 

 そうしているうちに、みほに限界がきた。

 ソファに押しつけられるようにして、オレの腕の中で抱かれ、悶えていた彼女がひと際高く声を上げる。

 

「いいよ。みほちゃんのエッチなところ、オレにいっぱい見せて」

「うんっ、ん、はぁ、あ、あっ、んんんんんんっ!」

 

 絶頂を訴えるみほを抱きしめる。

 頭を抱えて。

 お尻をつかんで引き寄せるようにして。

 膣内に埋め込んだチ○コをさらに奥へと押しつける。

 ナカから外から、離れないように密着し合って。

 みほはオーガズムを迎えて、声を上げながら果てた。

 

「くぅ。みほちゃん、気持ち、いい……」

 

 エクスタシーにうごめく、みほのおま○こ。

 ただでさえ狭くてキツい膣内が。

 きゅうきゅう、ぎゅうぎゅうと強く締めつけてくる。

 チ○コに絡みついて。

 吸いつき。

 搾り取ろうとするような動き。

 腰ごと持っていかれそうな快感に、下半身が痺れてくる。

 というか、気持ち良過ぎてオレも耐え切れず。

 みほのナカに挿入したまま、堰を切ったような勢いで精を解き放つ。

 

「みほ、ちゃんっ。んんっ」

「はぁ、ん……。しゅんいちくん、しゅんいち、くぅん……」

 

 奥へ奥へと、思い切り注ぎ込む。

 どくっ、どくっ、どくっ、と。2発目だとは思えないくらいに。

 可愛い恋人を、ナカから染めていくような感覚。

 全部、オレのモノ。

 誰にも渡さない。

 離さない。

 そんな思いを込めながら。

 みほの膣奥にチ○コを押しつけながら。

 思い切り、抱きしめる。

 みほも、絶頂に身体を震わせながら抱きしめ返してくる。

 

「しゅんいちくんの、あったかいのが、お腹の奥に広がって……」

「これからもずっと、みほちゃんはオレのモノだからね」

「うん。わたしを離さないで……」

 

 抱きしめる、というよりも、すがるように。

 みほはオレにしがみついて、キスをしまくる。

 もちろんそれに応えてあげる。

 優しく、慈しむように、彼女の唇を受け入れた。

 

「ちゅ、ちゅっ。んちゅ、ふぅ、ん……。俊一くん……」

「みほちゃん、好き。可愛い。大好き」

「ふわぁ……。わたしも大好き。俊一くん、大好き」

 

 飽きることなく、抱き合ったままキスを交わす。

 もちろん、チ○コは彼女の膣内に納まったままで。

 キスをするたびに、膣壁がきゅんきゅんとうごめく。

 それがまた、チ○コをぐにぐにと揉みしだくように刺激する。

 思い切り射精して力の抜けていたのが、あっという間に硬さを取り戻した。

 節操なしと言われても仕方がない。だって気持ちいいんだもの。

 なにより、まだ終わりじゃないしね。

 オレとみほが、じゃれ合うようにキスをし合っている横で。

 まほが、じっと見つめている。

 切なそうに。

 蕩けた表情をして。

 自分の股間に手を差し入れて、身をよじらせていた。

 

「あぁ……。みほ、俊一……」

 

 みほのナカへと注ぎ込む射精が落ち着いてきたところで。まほが、背中に抱きついてくる。肩に、首筋に、キスをする。

 押しつけられる大きなおっぱいの感触。ブラジャー越しでも、その柔らかさはしっかりと感じられる。無意識なのか、身体を動かして、おっぱいを擦りつけてくるからなおさらだ。

 

「俊一。私も、みほと同じように、俊一でいっぱいにして欲しい……」

「もちろん。まほちゃんも、オレのモノだから」

「はぁ……。しゅんいちぃ……」

 

 後ろから顔を寄せてくる、まほ。

 彼女の頭に手を回して、引き寄せながら、唇を奪った。

 

「ちゅ、ん、れろ、ふぅ……。ん、んっ、はぁ……」

「まほちゃん。まほちゃんも可愛い」

「……嬉しいぞ、俊一」

 

 背中に、まほのおっぱいが潰れる感触。

 胸板には、みほのおっぱいを押しつぶすような感触が。

 もっと言えば、チ○コはまだみほのナカに挿入したままで。

 イッた後の震えるおま○こを味わっている。

 

「俊一くぅん……」

「俊一……」

 

 こんなに幸せなサンドイッチ状態があるだろうか。

 オレのチ○コは、もうすっかり次弾装填を完了していた。

 

 

 

 ―続く―




いっぱい出た(最悪だ)。
槇村です。御機嫌如何。


聖夜にエロ小説をアップする、まさにエロ小説家の鏡。
なんというか、二次小説でエロの書き方を試行錯誤している感がある。
正直、楽しい。

次回は、まほさんメイン&姉妹丼。
まだエッチシーンが終わらないよ!




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43:※ボディ・スペシャルⅡ/みほ&まほ (主にまほ)

 みほをソファに押しつけるように抱きしめながら、中出し射精の余韻に浸りつつ。背中にしがみついてくるまほと、顔だけ後ろを向いて口づけを交わす。

 前から後ろから、さらに上下でも、ふたりの柔らかい身体に挟まれている状態。

 天国だ。

 

「はぁ、ん。ふぁ……」

「ちゅ、ちゅぷ、ん。んむ……」

 

 下半身で、みほと。唇で、まほとつながって。粘膜同士のぬるぬるで柔らかな接触を味わう。

 みほのナカに射精したばかりなのに、まほの熱のこもったキスとハグのおかげで、興奮がまだまだ治まらない。

 つながったまま猛るチ○コを落ち着かせようとするような、みほのおま○この吸いつきもたまらない。

 きゅーっ、きゅーっと、吸いこもうとするようだった膣壁の動き。それが、きゅっきゅっきゅっ、と余韻で締めつけてくるような、やんわりとした刺激を与えてくる。

 

「あぁ……。みほのおまんこ、気持ちいい……」

「俊一くん。俊一くん……」

 

 みほの絶頂も落ち着いたみたいで。少し乱れた息をしつつも、オレの首筋や胸板に唇を押しつけてくる。この甘えてくる姿や仕草が、可愛らしくて仕方ない。

 吸いついてくるような、彼女の絶頂おま○この感触も合わせて、名残惜しいけど。ゆっくりと腰を引く。

 

「あっ、抜いちゃやだっ」

 

 そう言って、みほが自分から腰を突き出してきた。

 おかげでチ○コがまた、みほのナカに突き込む形で戻ってしまう。

 

「うおっ」

「あんっ」

 

 不意打ちな気持ち良さに、思わず声を上げてしまった。

 彼女の方も、自分で膣奥に亀頭を押しつけるようにしたせいで声を上げた。可愛らしくて、つい笑みが浮かんでしまう。

 

「みほちゃん。おねだりは嬉しいけど、ちょっとだけおあずけだよ」

「んっ。んん……」

 

 みほの顔を両手で包んで、少しだけ上を向ける。

 そしてそのまま、キスをした。

 舌を差し込みつつ、口元を封じている間に再度、腰を引く。

 キスをしたまま、みほのナカからチ○コを引き抜いた。

 

「んむ。んっ」

 

 と思ったら。まほが背中から手を回して、チ○コを握ってきた。

 優しく、片手で陰茎を握って。もう片方で亀頭を包んで揉んでくる。

 

「これで、みほは鳴かされてしまったんだな……」

 

 まほはチ○コを愛撫しながら、オレの背中に口づけてくる。ブラジャー越しの胸も押しつけられていて、たまらなく気持ちいい。

 

「俊一くぅん……」

 

 さらに、みほが抱きついてきて。また唇を求めてきた。

 されるままに、みほと口づけをして、舌を絡ませ合う。

 正面から、みほとベロチューをしつつ。

 後ろからは、まほに手コキをしてもらっている。

 口にしたのが何度目か分からないけど、極楽だ。

 

「はぁ……。俊一、切なくてどうにかなってしまいそうだ……」

 

 3人でドロドロに絡まり合っているうちに、まほがか細い声を漏らす。おあずけされ続けて、こみ上げてくるいろいろが限界にきちゃったのかもしれない。

 

「ごめんね、まほちゃん。待たせちゃって」

「私も、みほみたいに、もっと俊一で染めてくれ」

「もちろん。オレなしじゃいられないくらい、可愛がってあげるから」

 

 今度は、まだ欲しがっているみほにおあずけをして。

 まほにチ○コから手を離してもらってから、立ち上がって向き合う。

 軽いキスをして、抱きしめてから。彼女をソファに座らせた。

 妹のみほと同じように、ソファに押しつけるような形で圧し掛かる。

 

「まほちゃんも、オレのモノだからね」

「あぁ、もちろんだ。大好きだぞ、俊一」

「オレも、大好きだよ」

 

 覆いかぶさって、唇を重ねた。

 まほも抱き着いてきて、待ちかねたとばかりにキスしてくる。

 

「んっ。ん、ちゅぷ、ちゅ」

「あふ、ん、ふぁ。あむ、んふぅ……」

 

 普段はクールなお姉さんという雰囲気の彼女が、熱を込めて、夢中になって、甘える女の子なところを見せてくれる。オレだけが見られる姿、と思うと、たまらなく嬉しくなる。

 

「まほちゃん、ちゅっ、んっ。まほちゃん可愛い。ちゅっ。可愛い」

「はぁ、ん、ちゅ。ふぁ、あ……。俊一、もっと、キスして」

「いっぱい、いっぱい、キスしてあげるよ」

 

 蕩けた表情でさかんにキスを求めてくる、まほ。キスの合間に漏れ出る吐息が色っぽくて、興奮が止まらない。

 興奮に任せて、手を彼女の下半身へと伸ばす。

 

「あぅ、んっ」

 

 まほの股間に触れると、愛液ですっかり濡れ濡れになっていた。白のショーツは大きなシミを作っていて、おま○この割れ目を浮き出させている。

 指先で軽くなぞる。それだけで、くちゅりと音が立つくらいに、しとどに濡れそぼっていた。

 

「まほちゃん、本当に待ちきれなかったみたいだね」

「うんっ、あっ……。俊一でいっぱいにしてほしくて、犯してもらいたくてたまらないんだ」

 

 身体の反応だけじゃなく、感極まった言葉でも、求められる。

 もう本当に、嬉しくて仕方がない。

 

「嬉しいな。まほちゃん、大好き」

「んっ、ちゅ、ちゅう、ん……ぷは。しゅんいち、んっ、ふ……」

 

 まほを抱きしめて、動きを奪い。唇を奪って、言葉を封じる。全部オレのものだと言わんばかりに。

 同時に股間を撫で回して、ショーツのシミを広げていく。ぷにぷにで、くにゅくにゅな秘部の柔らかさは、何度触っても飽きることがない。

 おまけに、抱きついてきた彼女の口元が、耳に押しつけられている。おかげで嬌声と吐息がダイレクトに吹き込まれる。

 まほのような美人のお姉さんが、オレの指の動きやキスのひとつで、身悶え、喘ぐのもたまらない。わき上がる興奮が抑えられず、チ○コはびくびくと反応しっ放しだ。

 やっぱり、可愛い。そしてエロい。

 

「いくよ、まほちゃん」

「あっ。んっ、ふぁぁ……」

 

 秘部を弄っていた指で、ショーツのクロッチ部分をズラす。そのまま、愛液まみれのおま○このナカへと、チ○コを押し入れた。

 

「しゅん、いちぃ……」

 

 腕の中で震える、まほ。その震えが膣内にまで伝わって、チ○コを強く締めつけてくる。とても強く、きゅーっ、と。亀頭から陰茎から、全体をまんべんなく刺激して、快感を搾り出そうとしてくる。

 とんでもなく、気持ちいい。

 でも、まほの方がもっと、すごい快感に襲われてるっぽい。彼女のナカの、膣壁の収縮、ぐねぐねとチ○コに絡みつく動きが止まらない。治まらない。

 さっきのみほじゃないけれど、抱かれること、挿入されるのを待ちかねて、身体が反応し過ぎてるのかもしれない。

 ふたりとも、それだけオレに抱かれたがってた。

 そう考えると、たまらなくゾクゾクする。

 

「まほちゃん、平気?」

「は、あ……。久しぶりに、俊一で、いっぱいにされて……」

 

 まほは、挿入しただけでイッてしまっていた。キュウキュウきゅんきゅんと、強く忙しなく絶え間なく、おま○こがオレのチ○コを締めつけてくる。

 その快感を堪能しながら、息を荒くしてしがみついてくるまほの姿を愛でる。興奮もするけれど、可愛らしさと愛おしさもこみ上げてくる。もっと満たしてあげたくなる。

 

「まほ、ちゃんっ」

 

 きつく抱きしめて。ソファに身体を押しつけながら。さらに腰を押し込んでいく。まほの奥の奥まで、オレのチ○コでえぐってやる。

 

「あぅ、は、あぁっ」

「もっといっぱい、何度でも、イッちゃって、いいからね」

 

 キツくてぬるぬるな膣内を、まんべんなく擦りつけるように。腰を振って、チ○コの出し入れを繰り返す。快感を引き出していく。

 

「俊一、んっ、あっ、は、しゅんいちっ」

 

 久しぶりのセックスといっても、開いた時間はほんの数日。でも視察の間はずっと側にいたから、まほ自身が言っていた通り、おあずけ感がかえって高まってしまったのかもしれない。

 そのせいか、彼女の反応がものすごい。腰を振ってチ○コの出し入れをするごとに、すごい強さで締めつけてくる。オレもまほも敏感になっていて、快感の度合いがとんでもなくなっていた。

 

「やべ。もうイっちゃいそう」

「私も、んっ、はっ、あっ。止まらない。いっぱいイクっ」

 

 限界すれすれな声でイキっ放しを伝えてくる。そんな彼女がたまらなく可愛い。

 まほの腰を抱いて、離れないように引き寄せる。奥の奥までチ○コを押し込む。

 

「出る、よっ」

「来て、私をしゅんいちでいっぱいにしてくれっ」

 

 頭を掻き抱いて、離さないとばかりに密着しながら。

 思い切り、射精する。

 まほの膣奥へと、精子を注ぎ込む。

 応えるように抱きしめ返してくる、まほ。

 背中に腕を回してきて、胸板に豊かなおっぱいが押しつけられる。

 同時に、快感をこらえているまほの手が、指を立てて、オレの背中を引っ掻いてくる。正面の心地良さと、背面の痛み。そのどちらもが快感につながって、まほのおま○このオーガズムに合わせた締めつけのままに、チ○コが射精を繰り返す。

 

「まほ、ちゃん。まほちゃんっ」

「しゅんいち、しゅんいちっ、しゅんいちぃ……」

 

 全身まんべんなく、肌を合わせながら、互いに好き好きと囁く。身体どころか心まで蕩けてしまいそうだ。

 まほのナカイキを、中出ししながら堪能して。ゆっくりと腰を引く。

 

「は、んふぅ……」

 

 まほが可愛らしく、熱い吐息を漏らす。チ○コにぴったりと張りついたような膣内から、ちゅぽん、と、抜き取って。まほのおま○こに包まれていた心地よさから解放される。なんだか寂しい気持ちになった。

 でも、それはほんの少しの間で。

 

「んおっ。みほ、ちゃんっ」

「俊一くんの、すっごいべとべと……」

 

 オレの背中に張りついて、手を伸ばしたみほがチ○コを握ってきた。ついさっき、まほがしていたのと同じように。

 今度は、姉に中出ししたばかりのチ○コを、妹が弄り回してくる。

 やべぇ。そう思うだけでまた下半身がたぎってくる。

 

「俊一くん。お姉ちゃんのナカ、気持ち良かった?」

「すっげぇ、気持ち良かった」

 

 にゅるにゅるとチ○コをしごかれながら、問われるままに答えるオレ。さっきもそうだったけど、中出ししたばかりのチ○コを、別の女の子に弄られるのってかなり興奮する。もう何度でも勃起してしまいそうなくらいに。

 というか、また硬くなってくるのが自分でも分かった。節操ないなと思うけど、みほやまほみたいな可愛い姉妹に続けて求められたら、そりゃあハッスルするってもんでしょ。

 

「みほちゃんの手も、気持ちいいよ」

「あんっ」

 

 後ろへと手を伸ばして、みほの股間に指を這わせる。中出しした精子と、まだ溢れてくる愛液で、彼女のおま○こはさらにぬるぬるになっていた。

 あぁ。姉妹揃って、オレに身も心も委ねてくれる。

 幸せで、興奮して。もっと応えてあげたい。

 そんな想いに駆り立てられる。

 でも今のみほは、愛撫されるよりも、オレにシてあげたいという気持ちの方が強いみたいで。

 

「好きなだけ触ってあげるから。いっぱい気持ち良くなって」

「ふぉぉ……」

 

 みほの小さくてつるつるした手が、少し力の抜けたチ○コを握る。人差し指と親指で輪を作って、カリ裏を緩く締めつけてくる。さらに手のひらで亀頭を包み込んで撫で回す。

 もう片方の手は、陰茎全体をきゅっきゅっと握りしめる。しごくような動きで、時々指が睾丸に当たるのも気持ちいい。

 というか、みほとまほ、姉妹それぞれに、射精したばかりのチ○コを弄ばれているのに興奮が止まらない。

 

「あー、もうだめ。みほちゃんっ」

「ひゃっ。あっ、んんっ」

 

 後ろ手で愛撫していた、みほのおま○こに指を差し入れる。

 指先に愛液と精子のぬるぬるを感じながら、それを塗り込むように指を膣壁に擦りつけて、掻き回す。みほのアソコはそれだけで、くちゅ、ちゅく、と水音を立ててしまう。

 

「みほちゃんと、またシたい。もっともっと抱きたい」

「うんっ。わたしは、俊一くんのモノだから。俊一くんの、おち○ちんで、もっと可愛がって」

 

 チ○コを握る、みほの手に、きゅっと力が入る。

 あぁ。こんなエロいことをさせて、エロいことを言ってもらえて。

 たまらん。

 みほの手を離させて、オレも彼女のおま○こから指を抜く。背中に張りついていたみほを移動させて、横抱きにしてから、キス。

 

「んっ」

「は、ん……。ふわ、はぁ、ん……」

 

 そして、みほを、まだソファの上でオーガズムの余韻に浸るまほの上に覆いかぶせた。みほとまほ、西住姉妹を上下に重ねる。お互いの顔がすぐ目の前だ。

 

「お姉ちゃん。俊一くんでいっぱいにしてもらって、幸せそう」

「みほ……」

「お姉ちゃん、可愛い」

 

 みほが、まほの頬にキスを落とす。愛おしむよう、ちゅっちゅっと。

 まほはくすぐったそうにして、妹のスキンシップを受けている。時折、みほの頬に同じようにキスをしたり。

 可愛らしく、微笑ましいやり取りだ。

 でも、ふたりの格好は下着姿のまま。ズラしハメで揃って中出しをしたばかり。まほは仰向けになって脚を開いたままで。その上に重なるみほは、お尻を突き出した体勢だ。

 なんてエロい光景か。

 みほのお尻に手を置いて、愛液と精子で濡れたショーツをずらす。前振りもなく、そのまま、みほのナカへチ○コを挿入した。

 

「あんっ。俊一くん、いきなりぃ……」

「みほちゃんが、可愛くてエロイから。我慢できなくて」

「はぅ、んんっ」

 

 一気に膣奥まで突き入れて、再びみほの膣壁のぐねぐねした締めつけを味わう。

 はぁ……。快感。気持ちいい。

 みほとまほ、姉妹をいっぺんに抱く。このこの贅沢さに腰が震える。

 みほのお尻をがっしりとつかみながら、腰を引く。

 チ○コに吸いつく膣壁を一緒に引っ張っていくような感覚。

 抜けそうになるギリギリまで持っていって、また突き入れる。

 めくれ上がった肉襞を押し込むようにして、彼女のナカを掻き回す。

 汗ばんだお尻を撫で回して、トロトロに絡みつく感触を堪能する。

 

「あっ、は、んっ。ひゃんっ」

「次は、まほちゃん」

 

 みほからチ○コを抜いて、その下にいるまほの股間へ。穿いたままのショーツをずらして、しとどに濡れたワレメへと挿入する。

 

「んっ、あぁ……。俊一がまた、入ってくるぅ……」

 

 まほのアソコも、愛液と精子でびしょびしょだ。きつくて締めつけの強い膣内もぬるぬるになっていて、スムーズに一番奥まで呑み込んでしまう。

 

「は、ん、んっ。まほちゃん、まほ、ちゃんっ」

「あっ。俊一、はっ、あ。しゅんいち、もっとっ」

 

 チ○コを出し入れし、腰を押し込むごとに、まほが声を上げて喘ぐ。

 柔らかいのにきつく締めつけてくる膣内を何度もえぐって、もっと快感を声を引き出そうとする。

 耳に、手に、目に、下半身に。心地良くて仕方ない。

 

「んっ、はぁ……」

「あ、俊一く、はぅんっ」

 

 まほからチ○コを抜いて、みほのショーツをずらして再び挿入。

 そしてまた、みほから引き抜き、まほのショーツをずらして膣奥へ。

 姉妹を上下に並べて、みほからまほ、まほからみほと、交互にズラしハメを繰り返す。

 

「みほちゃんも、まほちゃんも、気持ちいい。幸せ。最高」

「わたしも。俊一くん、わたしもぉ」

「俊一、もっと。もっと私たちを、幸せにしてくれっ」

 

 ずにゅずにゅ、じゅぽじゅぽと、ふたりのナカを奥から手前からまんべんなく掻き回す。チ○コを膣壁の至るところに擦りつけて、強く弱く絶え間なく締めつけてくる感触を満喫する。

 しかもそれを、みほの、まほのと、同時に交互に。

 さっきまでのセックスの余韻が残っているようで。まほは挿入するたびに軽い絶頂を繰り返している。イキっ放しというやつか、1回1回強く、ぎゅーっと、膣壁が締めつけてくる。たまらない。

 対して、みほは、少しずつ快感度が上がっていくような感じみたい。徐々に喘ぎ声が高くなって、膣壁の締めつけも強く複雑になってくる。

 

「みほちゃん、いくよ」

 

 留守番組だった、みほを可愛がることに専念する。

 みほのお尻を撫でて、くびれた腰をつかみながら、バックで腰を打ちつける。

 さらに、ナカをチ○コで刺激されて喘ぐ彼女を、まほが下から抱きしめた。そして頬にキスをする。

 

「みほ。ちゅっ、んっ」

「あんっ。お姉ちゃ、あっ」

 

 オレの下で組み伏されながら、姉のスキンシップまで加わって、みほはさらに身悶える。彼女の嬌声を聞きながら、綺麗な背中と、触り心地のいいお尻が、腰を突き入れるごとに震えるのを眺める。

 

「みほちゃん、可愛い。エロい。すっごく可愛い」

「あぁ。俊一に染められるみほが、イヤらしくて、可愛いな……」

「恥ずかし、いっ、あ、んっ。でも、嬉しいよぉ……」

 

 みほは、姉に抱きつき返しながら羞恥の声を上げた。でも同時に、背中にオレ、正面から姉のまほに挟まれながら愛でられるのに悦びを感じているように見える。というか口にしていた。

 そんな妹に、まほも感極まったのか、夢中になってみほの顔のあちこちにキスをする。オレもどんどん興奮が高まって、みほの背中に覆いかぶさって、体重を掛けながらピストンを強くする。みほのナカのより深いところまで、チ○コを埋め込んでいく。

 腰を振りながら、身体の正面はみほの綺麗な背中にぴったりと密着。手は、妹を愛おしげに抱きしめているまほの肩をつかんでいた。挿入しているみほと、まほも一緒に抱き寄せるようなつもりで。

 

「しゅんいちくんっ。おねえちゃんっ。あっ、ん、も、だめっ」

 

 まほとオレとで可愛がっているうちに、みほは登り詰めていくような声を漏らす。膣壁の締めつけも忙しなくなって、隙間なく絡みつきながら、しごくようにうごめいていてくる。その刺激のせいで、マグマのような快感が下半身に渦巻いてくる。

 

「可愛いぞ、みほ。私までイってしまいそうだ……」

 

 まほは、みほとオレに圧し潰されながら、妹の痴態と嬌声にうっとりとした笑みを浮かべている。オレが腰を振る振動が伝わってくるのか、言葉の通り、絶頂前のように少し震えているのが伝わってくる。

 

「オレも、またイクよ」

 

 ふたりのおま○こを行き来して、姉妹で異なる膣内の具合を味わって。ラストスパートとばかりに腰を押し込み、みほのナカを勢いよくえぐっていく。

 

「しゅんいちくんっ、気持ち良くて、あっ、イク、イっちゃうっ」

「いいよ。オレとまほちゃんに、イヤらしいところ見せて」

「あっ、お姉ちゃんっ、や、あっ、んっ、はんっ」

「あぁ、みほ、みほ……」

 

 オレに突かれて、まほに抱きしめられながら。快感をこらえられなくなったみほが絶頂の声を上げた。

 お尻を大きく震わせて、みほの膣壁が強くきつく、吸い上げるように絡みついてくる。その気持ち良さに我慢することなく、ぱんっ、とひと際強く腰を突き入れて。

 みほの膣奥へと、思い切り射精した。

 

「はぁっ、あ、んっ。しゅんいちくん、いっぱい、出て、あぁっ」

 

 バックからチ○コを突き入れられて、みほの身体がオーガズムに溺れるように震えるのが分かる。腕の中で伝わってくる。

 なんてエロさ。可愛い。たまらない。

 しかも、絶頂する妹を抱きしめているまほが、蕩けた顔でうっとりとほほ笑んでいる。

 これがまたエロい。可愛い。

 

「あぁもう。ふたりともたまらない。好き。大好き。絶対離さない」

 

 みほの身体を挟んで、まほの頭に手をやり、撫でる。

 

「私も、俊一が大好きだ。みほも、私も、離さないでくれ」

 

 妹を抱きしめながら、まほは片方の手をオレの顔に当てて、撫でてくる。とても嬉しそうな笑顔で。

 

「しゅんいちくんも、お姉ちゃんも、大好き……」

 

 オレとまほに挟まれたまま、みほが小さく声を漏らす。まだオーガズムの波に呑まれたままで、無意識に出てきたのかもしれない。

 聞こえた言葉に嬉しくなったのか。

 まほは、みほの頬に優しくキスをする。

 もちろん、オレも嬉しくなって。みほのうなじに唇を落とす。

 みほは笑みを浮かべて、俺たちの親愛の情に反応してみせた。

 

 

 

 ―続く―




あれ、こっちも「主にみほ」じゃないか?
槇村です。御機嫌如何。


なんだか書いているうちに、
「みほを、まほと主人公でサンドイッチする」という絵が浮かんで。
突然現れた妄想のビッグウェーブに乗って、
当初考えていた締めを変更してこんな展開になった。
個人的には満足している。

そろそろ日常系イチャイチャに入ります。




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44:※朝の陽ざしに君がいて/柚子、みほ&まほ

 全身が気持ち良い。特に下半身、チ○コあたりがそんな感覚に包まれて目を覚ます。

 目を開けると目の前に、柚子さんの寝顔があった。可愛い。

 ベッドの上で仰向けになって寝ているオレの上で、抱き着くようにして寝息を立てている柚子さん。形も大きさも見事なおっぱいが押しつけられて潰れている。むにゅりと形を変えて、感触的にも視覚的にも、柔らかさが伝わってきてとても心地いい。柚子さんのおっぱい、最高。

 さらに、オレの身体をまたいでいる彼女の股間が密着。というか、チ○コが柚子さんのおま○こに入ったままだ。ハメたまま寝てしまったことに気づいて我ながら驚く。

 

「セックスして、イチャついて、セックスして、の繰り返しだったな」

 

 昨日、みほとまほをでろっでろになるまで抱いて。それからイチャつきつつ可愛がって、まったりと過ごしていたんだけど。夕方になって、柚子さんがやってきた。

 それからは柚子さんも加わって4人でイチャつき、そのまま全員が泊まっていくことになり。柚子さんをメインにして4Pセックスに雪崩れ込んだ。

 柚子さんも数日振りだったせいなのか、かなり激しく求めてきた。

 尽くしたがりで甘やかし好き、それでいて甘えたがりなところもある柚子さん。彼女を抱く時は、優しいけれど強引に、オレのモノ扱いしながら責めるとあっという間に蕩けてしまう。可愛い。

 なんて風にあえて柚子さんをがっつくように抱いて、みほとまほもおなじようにそれぞれ可愛がった。あるいは3人まとめて一緒に可愛がりまくった。

 

「で、そのまま寝落ちと」

 

 ベッドの上に横たわって、身体の上には柚子さんが乗っている。さらには右腕にみほ、左腕にはまほを抱きしめていた。全員裸で、オレに抱きついた状態で眠っている。3人とも、無防備な寝顔が本当に可愛らしい。

 昨夜のことを思い出したら、というか。両腕の西住姉妹と、正面の柚子さんの肌触りと身体の柔らかさで、また下半身が反応してきた。

 

「ん……、んぅ……」

 

 半勃ちだったチ○コが、柚子さんのおま○このナカでしっかり勃起してくる。ムクムクと。

 寝ていても違和感を覚えたのか、柚子さんが少し身じろぎをする。それがチ○コをしごくような感じになって刺激してくる。きゅぅ、きゅっ、と、緩く締めつけてくるのがまた気持ちいい。

 腰をもぞもぞさせると、合わせるように柚子さんが身体をもじつかせる。それがまた、彼女から腰を振るような形になって。緩やかに快感がこみ上げてくるのを感じてしまう。

 

「はぁ……。気持ちいい」

 

 朝からもう、天国過ぎるだろ。

 おまけに、柚子さん、まほ、みほの寝顔がすぐ目の前だ。腕の中で無防備になれるほど気を許してくれているのが嬉しくて、愛しさもさらに募っていく。

 

「柚子さん、大好き」

 

 身動きできないまま、頭だけ少し上げて。寝息を立てている柚子さんのおでこにキスをする。

 

「まほちゃんも、大好き」

 

 左腕に抱いている、まほにも同じようにおでこへキス。

 

「もちろん、みほちゃんも大好き」

 

 そして、右腕に納まっている、みほのおでこにもキスをした。

 タイプの違う3人の女の子を抱えて、一緒に朝を迎える。幸せ過ぎる。なんて贅沢な朝の目覚めか。

 しかも昨日のセックスそのままに、チ○コが柚子さんの中に納まっている。昨夜の彼女の乱れようを思い出して、股間の気持ち良さがさらにすごいことになってきた。

 

「んっ……」

 

 あ。寝てる柚子さんが、なんだか嬉しそうに表情を緩めた。

 それとは逆に、おま○こがきゅっと締めつけてくる。

 挿入したままのチ○コはすっかり勃起を取り戻していて。うごめく彼女の膣内をいっぱいにしちゃってる。眠っているせいなのか、普段のセックスの時よりも緩やかな膣壁の動きが、かえって刺激になって気持ちいい。

 寝てる女の子のナカって、こんな感触なんだ……。

 と思ったら、なんだかムラムラしてきた。

 

「ちょっと、腰を動かすよ」

 

 柚子さんに小さく声を掛ける。

 もちろん、寝ている彼女からの返事は期待していない。

 腰に力を入れて、少しだけ持ち上げた。

 

「ん……」

 

 彼女のナカを、亀頭で押す感じ。さらに持ち上げた腰に彼女の下半身全体の重さが圧し掛かる。腰回りに押しつけられる太ももの感触も最高だ。もちろん、膣内をいっぱいにしているチ○コを締めつける、ぬめぬめ、きゅうきゅう、といった感触もたまらない。

 

キツいけれど柔らかな、何度シてもたまらない柚子さんのおま○こ。その奥へと腰を押し上げて、膣内全体にチ○コを擦りつける。。

 

「ん、んっ、は……」

 

 亀頭が彼女のナカの奥を叩く。それから力を抜いて腰を落とすと、追い掛けるように彼女の腰も落ちてくる。ベッドのスプリングを利かせてテンポよく腰を振れば、騎乗位でチ○コを出し入れするような形になる。

 ぎし、ぎし、ぎし、とベッドがきしむ音。ぱちん、ぱちん、下半身がぶつかる音が、部屋の中に響く。絡みついてくる柚子の膣壁が、出入りするチ○コをしごき上げて快感を引き出してくる。

 なにより、柚子さんの寝顔を見ながら、というのがオレをひどく興奮させた。心なしか、彼女の顔が快感で赤みを帯びてきたようにも見える。

 というか、ベッドがきしむくらいに腰を振っていて、柚子さんの抱き心地最高な腰回りを弾ませてるんだから。もう起きていたって不思議じゃない。

 

「ふわぁ……」

「……」

 

 実際、左右の腕の中にいる、みほとまほは、すでに目を覚ましていた。息をひそめてはいたけれど、すっごいガン見してる。みほに至っては声を漏らしてるしね。

 でも、オレはそれに気づかないふりをして。腰をもっと跳ね上げて、覆いかぶさっている柚子さんの下半身をリズム良く跳ねさせる。

 

「……ん、ふ、んんっ」

 

 たぶん、柚子さんももう目を覚ましてるだろう。でも、目はつむったまま。寝ているふりをして、こみ上げてくる気持ち良さをこらえてる。もう寝息じゃなくて、喘ぎになってるし。必死に声を押し殺してる。可愛い。

 分かっていながら、オレは腰を振って、下から膣内をチ○コでえぐり。膣奥を亀頭で叩く。どれだけ我慢できるかな、と、意地悪な気持ちに駆られてしまう。

 さらに、両腕に西住姉妹を抱きかかえて。右手でみほの、左手でまほの胸を揉みしだいている。

 気持ちいい。

 幸せ。

 なんて至福の時。

 だからもう、我慢しない。

 気持ち良さを求めて、柚子さんの膣奥へと腰を送り込む。ぴっちりと納まった状態で腰を回して、彼女のナカ全体にチ○コを馴染ませて。それからまた腰を突き上げて、柚子さんの身体を弾ませる。

 

「は、あっ、ん、はんっ。あっ、あぁっ」

 

 もう寝てるとか起きてるとか関係なく、お互い気持ち良さに身を任せていた。やっぱり、柚子さん起きてたね。

 彼女はオレにしがみつきながら、チ○コに貫かれた下半身だけを上下させる。強く締めつける膣壁は、絶頂寸前だと言わんばかりにきゅうきゅうと絡みついてくる。

 ぱんっ、ぱん、ぱんっ、と、下から腰を打ちつける音もイヤらしい。

 

「待って、しゅんいちく、んんっ。は、あっ、だめ、イッちゃうっ」

「オレもイキそう。柚子さんもイッて。可愛くてエロいところ見せて」

「だめっ、あっ、はっ。イク、んっ、あんっ、は、あっ」

 

 起きたばかりの柔らかな締めつけから、目を覚まして中身が詰まっていくようにキツくなっていくアソコの締めつけ具合。それと、溢れてくる愛液が絡みつくぬめりの変化。チ○コ全体を襲う刺激と快感を堪能する。

 

「……っ、んんぅ、あ、んんんんんっ」

「柚子さん出る、んっ。柚子さん、柚子さんっ」

 

 オレの上で、胸板に顔を埋めるように身を投げ出したまま、柚子さんが絶頂に震える。ひと際強い締めつけに搾り取られるような感覚に、下半身が襲われて。おま○こに吸われるまま、柚子さんのナカ深くへと思い切り精を吐き出した。

 

「んっ、ん。柚子、さんっ」

「は、あ、あっ。また、わたしのナカ、いっぱいにされちゃう……」

 

 柚子さんの腰をつかんで突き入れる、ようなつもりで。両腕に抱きかかえている、みほとまほの胸に力を入れてしまう。

 

「あんっ」

「んんっ」

 

 みほとまほを抱きしめながら、騎乗位の状態でへたり込む柚子さんに中出しする。両手に華どころか、3人の女の子を一気に手折ってしまうような、自分勝手な独占欲が満たされていく。朝から贅沢過ぎる。

 

「はっ、ん、んはぁ……。しゅんいちくん、意地悪だよぅ」

「ごめん。朝イチから柚子さんの可愛い寝顔を見たら、我慢できなくなっちゃって」

 

 恨めしそうな口調で責める柚子さん。でも息は乱れていて、瞳はオーガズムで蕩けてしまっている。そんな顔をされたら、余計にチ○コがたぎってしまう。

 

「あっ……。もう」

 

 寝起きのおま○こに中出ししたばかりなのに、またチ○コが硬くなっていく。締めつけてくる膣壁を押し返すような感じがして、たまらなく気持ちいい。

 柚子さんも、ナカに納まったままのモノが反応したのに気づいたんだろう。むぅー、といった感じでにらんでくる。にらむ、といっても可愛らしさしかないけどね。

 なんてことを思っていたら。

 柚子さんは顔を上げて、勢いよくキスをしてきた。

 

「んっ。ちゅ、ん、んんっ」

「柚子さ、んっ、んちゅ。ちゅ、ぷはっ」

 

 大きなおっぱいを押しつけながら、唇を重ねてくる。全体重を掛けて圧し掛かってくるので、彼女の身体の柔らかさがまんべんなく伝わってくる。オレは両腕にみほとまほを抱いたままの状態なので、身動きができず、されるがままだ。

 

「あっ、柚子さんズルい。わたしもっ」

「私たちにも、おはようのキスをさせてくれ」

 

 みほとまほも、腕の中から飛び出して。キスをしようと顔を寄せてきた。

 正面から柚子さん。右からみほ、左からはまほが。全裸の女の子3人が競って唇を押しつけてくる。唇に、頬に、触れるところならどこでもとばかりにキスされる。ちゅっ、ちゅっ、ちゅっちゅっちゅっ、ちゅっ、と、全方位からの口づけ。柔らかなキスの爆撃を受けまくる。

 

「はぁ……。幸せ……」

 

 3人の柔らかい身体に包まれて。

 大きなおっぱいを3方向から押しつけられながら。

 ちゅっちゅ、ちゅっちゅと、キスの雨。

 

「たまんない。んちゅ、ちゅっ。好き。みんな好き。大好き」

 

 なんて幸せなのか。

 柚子さんも、みほもまほも、絶対放さない。

 もちろん杏さんもアンチョビさんも。

 彼女たちにフラれないように頑張らないと。

 好き好きと口にしながら、キスをして、されて。

 オレは3人の可愛くもエロい猛攻撃に溺れていった。

 

 

 

 

 

 目を覚ましたのがだいたい6時半くらい。寝たまま柚子さんを可愛がってから、みほとまほも交えて3人でねっとりと絡まり合って。さらに、みほとまほともエッチ。起きて早々3人揃って絶頂に溺れさせて、マーキングする勢いで精を注ぎ込む。

 朝イチから恋人たちの乱れる姿をたっぷりと堪能してしまった。

 しかも昨日は杏さんと朝チュンしてるんだよね。

 色ボケ生活を送ってると言われても否定できない。

 でも、甘えられると応えたいと思うもの。

 そんなこんなで、気がつけばもう午前8時を回っていた。このまま全員揃って寝て過ごしたいところだけど、そうもいかない。

 彼女たちがベッドの上でオーガズムに浸っている間に、オレはちょっとその場を抜けて、風呂を沸かす。さらに朝食用に米を研いで、炊飯器をスイッチオン。冷蔵庫をあけながら、4人分のおかずをどうしようか考える。

 昨日は、部屋に帰ってすぐに西住姉妹がやってきて、そのままイチャイチャに突入しちゃったから。買い物に行ってないんだよな。冷蔵庫にたいしたものがない。

 仕方ない。朝食は簡単に済ませようか。代わりにお昼過ぎくらいに、何か差し入れでもしようか。今日も生徒会絡みでいろいろありそうだし。

 そうこうしているうちに、風呂場からアラームが鳴る。ベッドに移動して、恋人たちに声を掛ける。

 

「3人とも、落ち着いた?」

「俊一くん、どうしてそんなに元気なの……」

「ベッドの上の俊一は、あんなにケダモノなのにな……」

「今の俊一くん、すっごく主夫っぽいよ……」

 

 柚子さんも、まほもみほも、ベッドの上で全裸のままだ。部屋に差し込んでくる朝の陽の光にさらされて、オレを見上げてくる姿がとても色っぽい。

 横になったまま何か言ってくる彼女たちに、顔を近づけて。軽く唇が触れるだけのキスをする。ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と。それだけで、表情を緩めてくれるのが、嬉しいし、可愛らしい。

 

「お風呂を沸かしたから。順番に汗を流しておいでよ」

 

 口には出さないけど、汗以外にもいろいろなものでベトベトだからね。オレはひと足先に服を着てエプロン姿になったけど、負けないくらいに汗まみれ体液まみれだし。オレも後で身体をさっぱりさせないと。

 なんてことを考えつつ、バスタオルなんかを用意していたら。

 

「俊一くん。抱っこして、起こして欲しいな」

 

 横たわっているみほが、手をつき出して、そんなことを言ってきた。全裸のままだから、おっぱいもアソコも丸見えの状態なんだけど。起こしてくれとおねだりする彼女は、イヤらしいというよりも、なんだか微笑ましく思ってしまう。

 まったく、この甘えん坊さんめ。

 

「仰せのままに、オレのお姫さま」

 

 苦笑しながら、みほの手を取って。引っ張り上げる。

 身体を起こすと同時に、程良い大きさの美乳がぷるぷると震えた。これまで何度も、それどころか昨夜も今朝も、このおっぱいの柔らかさを満喫していたと思うとものすごく嬉しくなる。

 オレの視線に気づいたのか、みほは顔を赤くして、胸を手で隠しながら身を縮ませた。そんな彼女を丸ごと包むように、オレはぎゅっと抱きしめる。

 

「俊一くん」

 

 名前を呼ぶなり、みほは頬にキスをしてきた。

 ちゅっ、と、触れるだけのもの。彼女は少し恥ずかしそうにはにかむ。可愛い。

 

「俊一。私も起こして欲しいぞ」

 

 まほも手を伸ばして、抱っこを要求してくる。

 妹の様子を見て、自分もしてほしくなったのか。お姉さんの方も、オレの前ではずいぶんと欲しがりさんだ。可愛い。

 

「はいはい。いくよー」

 

 お望み通りに、まほの手を取って引き上げる。

 身を起こすのに合わせて、大きなおっぱいがぷるんと揺れる。こんな美人なお姉さんの胸を、揉んだり舐めたり挟んだりしてるのはオレだけなんだ。なんていかがわしい思いに駆られて、内心で感動する。

 

「どうした。もっと揉むか?」

「すっごい魅力的な言葉だけど。また今度でお願いします」

 

 まほが、自分の胸を持ち上げながらそんなことを言う。半笑いでオレが答えを返すと、彼女も頬にキスしてきた。

 

「私は全部、俊一のモノだからな。遠慮しなくていいんだぞ」

 

 あぁもう、たまらんよ。

 みほに続いて、まほも、優しく抱きしめる。

 で。ここまできたら柚子さんも、となるんだけど。

 

「俊一くん。わたしも、お願い」

 

 やっぱり、柚子さんも手を差し出してきた。

 もちろん、喜んでそれに応えてあげる。

 手を取って起き上がらせれば、たっぷりとした豊満なおっぱいが目の前で大きく揺れた。何度見ても、触っても、たまらないものがある。柚子さんも、絶対誰にも渡さないからな。

 

「もう。俊一くんは本当に、胸が大好きなんだから」

「いやいや。好きなのはおっぱいだけじゃないから。柚子さんのことは丸ごと大好きだから」

 

 おっぱいをガン見するオレに、柚子さんは苦笑いする。胸だけにしか目が行かないみたいな言われように反発しつつ、全裸の彼女を抱きしめる。むにゅりと胸板で潰れるおっぱいの感触は、服越しでもその素晴らしさが伝わってくるくらいに最高だ。

 柚子さんを抱擁して感触を味わっていると、彼女も仕方がないなぁみたいな感じで。頬にキスをしてきた。可愛い。思わず、抱きしめたまま頬ずりしてしまうくらい。

 そんなスキンシップをしているうちに。

 

「お姉ちゃん一緒にお風呂入ろうよ」

「柚子。先に私たちが入らせてもらってもいいか?」

 

 みほとまほが、昨日脱いだ服をまとめて。お風呂を先にもらうと許可を得てから、風呂場へと向かっていった。広いとは言えないけど、女の子ふたりならまぁ、問題ないでしょ。

 西住姉妹がお風呂に入っている間、柚子さんは朝食を作るオレの手伝いをしてくれると言ってくれたけど。手伝ってもらうほどのことがないんだよね。

 今はコンロの火も止めてあるから。お風呂の順番を待っている間、柚子さんとイチャついていてもいいくらいだ。

 

「……ふむ」

 

 ちょっと、思いついたことがある。果たして現実に体験した人がどれくらいいるものなのか、と思ってしまうようなもの。

 どうしよう。思いついたら興味津々になってきたぞオレ。

 

「ねぇ、柚子さん。ちょーっと、お願いがあるんだけど」

「え。なにかな、こんな状況で」

「裸のまま、エプロンをしてみてくれない?」

「え?」

 

 自分が着けていたエプロンを、首から外して。ベッドの上で、胸を隠しながら、女の子座りをしている柚子さんに向けて掲げてみる。

 

「ちょっとだけ。ちょっとだけだから。平気平気、今ならオレしか見てる人いないし。みほちゃんとまほちゃんがお風呂から出てくるまでまだ時間もあるだろうし」

「ちょっと待って俊一くん。俊一くんの性癖は結構把握したつもりだけど、さすがにいきなり過ぎるよ」

「裸のエプロン姿で料理をしてとまでは言わないからさ。着るだけ、着るだけだから。裸エプロンを見てみたいだけだから」

「何それ裸エプロンって。待って、待ってよ俊一くん。正気に戻って」

 

 ……この時のオレは、いきなり降って湧いた思いつきに興奮していたんだと思う。エプロンを掲げながら、全裸の女の子ににじり寄る。そんな自分の姿を思い返すと、変態そのものじゃねぇかとガチへこみしてしまう。

 そんなこんなで。甘々だった朝のひと時が、一気に妙なドタバタ風に変わってしまった。我に返ってから、へそを曲げてしまった柚子さんに土下座で平謝りですよ。

 デリカシーも何もないね。反省。

 最終的には、着てほしいならまずお前がやってみろ、みたいなことになって。裸エプロン姿になってポージングをキメるオレ、爆誕。

 それを見て大笑いする柚子さんの声が、朝の光でいっぱいの部屋の中にこだました。みほとまほが、何事かと風呂場から顔を覗かせるくらいに。

 ちなみに、ふたりにも笑われました。

 

 

 

 ―続く―




これがオレの夢見た朝チュンだ。
槇村です。御機嫌如何。


突然の、柚子さん推し。
やはり参加させないとまずかろうと思ってこんな展開に。

裸エプロンをお願いされた恋人がどんな気持ちになるか。
まず自らそれを体験しようとした主人公の心意気も描写。
エロゲーなどでも、裸エプロンそのもののシーンは見るけど。
お願いしているシーンの描写は多くないような気がする。
どうなの実際。どうやってお願いしてるの彼らは。

次回からしばらく日常系なお話に。
次の次くらいには新しい娘たちも登場させる予定です。
ようやく原作が見えてきた、か?(作中はまだ3月末です)

お気に召したなら、感想とか評価とかもらえると嬉しいです。
引き続きよろしくお願いします。




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45:シュークリームのうた

 裸エプロン騒動は、オレひとりが泣きを見ることで決着した。

 確かに興味に駆られて柚子さんに迫っちゃったけど、嫌がってるのに無理やりやらせようとは思わない。エロいことは同意の上でやるのだ。そこは譲れない。

 だから、オレの裸エプロン姿を撮影しようとしていた、まほを。強く強くたしなめたオレは絶対に悪くない。

 

「みんなにシュークリームを振る舞っている時に、まほちゃんだけ、ワサビを詰め込んだやつを食べさせるぞ」

 

 なんて風に迫ったら、彼女も分かってくれたのか。全面降伏を見せて謝ってきた。オレの想いが伝わってくれて嬉しい。あとはやっぱり、女の子は甘味に弱いんだなぁとしみじみ。

 

「俊一くん。絶対に意味が違うと思う」

「まほさん、もしかして餌付けされてるの?」

 

 みほと柚子さんのツッコミは聞こえないふりをする。お風呂を済ませた今は、朝食の仕上げに忙しいのだ。

 というか、まほと一緒になって、台所で朝食を作るオレをスマホで撮影してるのは気づいてるからね。エプロン姿とはいっても服はきちんと着てるから、目くじらは立てないけれど。

 それはまぁ、いいや。

 みほ、まほ、柚子さん、加えてオレも、風呂に入って昨夜や今朝の汚れやらをスッキリさせて。テーブルを囲んでまったり朝食となった。

 炊き立てご飯。豆腐とわかめの味噌汁。納豆。ベーコンエッグ。

 今朝の冷蔵庫の中身ではこれが限界だった。

 

「うぅん。十分だよ俊一くん」

「なにより、恋人の手作りだからな」

「そう思うと、すごくウキウキするよね」

「これくらいでいいなら、いつでもいくらでもオーケーだよ」

 

 本当に嬉しそうな顔をしている、みほ、まほ、柚子さん。面映ゆさを感じながら、恋人たちにご飯を盛って、茶碗を渡す。

 なんだか恋人というよりも、お母さんな気分だ……。

 そんな感じで談笑しつつ、簡単な朝食を平らげて。みんなはオレの部屋から帰っていった。

 それぞれ自分の部屋に戻ってから、今日の予定を始めるとのこと。

 柚子さんは、杏さんと一緒に生徒会の仕事。

 みほとまほは、保管されていた戦車のところへ。午後には実際に動かすらしいので、予定がないなら見に来いと言われた。念願の動く戦車が見られると、喜んでお誘いに乗ることにした。

 

「じゃあ、午後過ぎまでどうしようかな」

 

 とりあえず、ほぼ空になった冷蔵庫の補充をしよう。

 オレも部屋を出て、スーパーへと足を向ける。

 程良く温かい、春を感じさせる陽気。気持ち良く歩きながら、買う必要のある食材を考える。

 

「さっきのまほちゃんじゃないけど、差し入れ用にシュークリームでも作ろうか」

 

 もちろん、ちゃんと甘いやつをね。

 じゃあその材料も買わないとなー。

 卵に牛乳に生クリームに……。

 なんて事を考えてるうちにスーパーに到着して、あれこれと買い物。

 その行き帰りにメールがいくつか届いた。

 まず、アンチョビさん。「ごちそうさま」ってどういうこと?

 どうやら、まほから今朝の朝食作りの動画が送られてきて、それを見たらしい。男の料理する姿を見るのが新鮮だったんだとか。

 というか、撮ってたのは写真じゃなくて動画だったのか……。

 すぐに、「お望みなら、アンツィオに行った時に手料理をごちそうするよ」と返信しておく。

 間を置かずに「楽しみにしている」というメールが返ってきた。

 ついニヤついてしまったのは、仕方ないでしょう。

 次に、聖グロのオレンジちゃんと赤毛ちゃんからもメールが届く。「お兄さまは料理もできるのか」と盛り上がったらしい。いやいや、そんなに言われるほど大したものは作ってないから。

 

「というか、オレの動画をどこまで拡散させたんだよ、まほちゃん」

 

 思わず苦笑してしまう。

 ちなみに聖グロの妹分コンビが言うには、アッサムさんとダージリンさんのところにも送られているらしく。動画を見たふたりは顔を赤くしながらなにやら悶えているらしい。赤毛ちゃんいわく「ギャップ萌えですの」だとか。なんでだ。

 ちなみに「今日はこれからシュークリームを作ります」とメールを送ったら、「いいなー」「わたくしも食べたいですの」と、オレンジちゃんと赤毛ちゃんからさらに大騒ぎな返信が。やはり女の子は甘いものに弱いようで。

 なお、アッサムさんとダージリンさんは、洋菓子を作るオレを想像してさらに悶えだしたとか。オレンジちゃんいわく「ギャップ萌えです」とのこと。だからなんでだよ。

 動画にどんな萌え要素があったのか。さっぱり分からないぞ。エプロンなのか? というか、ちゃんと服を着た動画なんだろうなそれは。知らないところでオレの裸エプロン動画が拡散されてたら精神的に死ぬ。まほが相手だったとしても、ワサビシュークリームくらいじゃ済まさないぞ。

 最後に、杏さんから。メールじゃなくて電話が掛かってきた。

 

『なにアレ。小山とまほさんと西住ちゃんから、アングルの違う料理動画が送られてきたんだけど』

「3人とも何やってんの」

 

 マジで何やってんの。アングルが違うっていっても、中身は同じなんだから誤差でしょ。3人並んで撮影してたんだから。どんな風に映ってるのかは知らないけどさ。

 

『いいなぁ。私も朝からお邪魔すればよかった』

「リクエストをもらえれば、いつでもオッケーだよ?」

『予約制のレストランだね』

「そんな大層なものじゃないけどね」

 

 あ、そうそう。食事というわけではないけれど、今日はこれからシュークリームを作ることにしたので。お昼過ぎくらいに差し入れに行く旨を伝えておく。

 

『おぉ。楽しみにしてるよ』

 

 嬉しそうな杏さんの声。可愛い。うん、やる気出てきた。

 そんなことを挟みつつ、食材やら何やらを買い込んで帰宅。今日の午前中はシュークリーム作りに費やすことに決定した。

 

「さて。恋人たちのために、愛情を込めて作りましょうかね」

 

 材料を並べて、再びエプロンを身に着ける。

 

「まずはカスタードクリームから」

 

 牛乳を小鍋に入れて、沸騰直前くらいまで温める。

 その間に、ボウルに卵黄を入れて溶きほぐし、さらに砂糖、薄力粉、コーンスターチを投入。泡立て器で混ぜていく。

 次いで温めた牛乳を少しずつ加えながら、泡立て器でさらに混ぜる。混ぜる。

 よく混ざったら、改めて中火に掛けて。全体に火を通すようにかき混ぜ、とろみをつけていく。焦がさないように注意が必要だぞ。

 いい感じにとろみがついたら、火を止めて。バットに平たく流し込んで、冷蔵庫にイン。良く冷やす。生クリームの投入は冷えた後だ。

 

「次はシュー皮だ」

 

 鍋に牛乳とバターなどを入れて沸騰させる。

 火を止めて、薄力粉を入れながら木べらで混ぜていく。

 ひと塊にする感じで混ぜつつ、溶き卵を入れながらさらに混ぜる。混ぜる。冷えないうちに手早くやらないといけない。

 もったりと垂れるようになったら、生地を絞り袋に入れて。オーブンシートの上に間隔を開けながら丸く絞っていく。そうそう、霧吹きも忘れずに。

 そして、オーブンレンジに投入。膨らんで、焼き色がつくまで焼いたら、シュー皮の完成だ。

 

「あとは、冷えたクリームを詰め込むだけ」

 

 といっても、これが案外大変。それなりの数を作ろうと思ったらなおさらだ。まぁ、喜んでくれる顔を想像すれば、大変ではあっても面倒とは思わない。

 そんな感じで、鼻歌をふんふんと口ずさみながら、シュー皮にカスタードクリームを次々と注いでいく。

 ちなみにシュー皮を2回焼いて、結構な数を用意してる。恋人たちだけじゃなくて、桃ちゃん先輩とか、生徒会の手伝いをしている先輩方とかの分もあるからね。

 

「よし。かんせーい」

 

 20個ちょっとのシュークリームができました。

 ひとつ試食してみれば。

 うん。シュー皮の触感も、クリームの甘さもいい感じだと思う。

 なんやかやで、気がつけば時間はもうお昼時に。

 タッパー3個を用意して、潰れないように詰め込んでから。

 結構な大荷物の状態で部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 向かう先は、生徒会室のある校舎。杏さんと柚子さんには「これから行くよー」とメールをしておいた。時間は午後1時前。お昼時もそろそろ終わって、ちょっとひと息といった頃だろう。

 通い慣れた校舎、生徒会室へ続く廊下を歩いて。見慣れた扉を前にして数回ノック。

 

「どうぞー」

「失礼しまーす」

 

 杏さんの声を聞いてから、ゆるい感じで生徒会室へと入る。室内にある応接セットのソファに座って、生徒会の面々がテーブルを囲んでいるのが目に入った。

 杏さんは軽く手を上げて、嬉しそうに出迎えてくれる。

 柚子さんは手を振りながら、満面の笑みを向けてくれた。

 桃ちゃんこと河嶋先輩は、鋭い目つきでオレを睨みつけてくる。まぁ、いつもの通りだ。

 他にも生徒会スタッフの先輩方が5人いて、それぞれに挨拶をする。

 

「で? 何をしに来たんだ、大瀬良」

「差し入れを持ってきただけですよ。そんな睨みつけないでくださいな、桃ちゃん先輩」

「だから桃ちゃんと呼ぶな」

 

 これまたいつもと変わらない、桃ちゃん先輩とのやり取りをしつつ。手にした大荷物をテーブルの上に置いて中身を取り出す。シュークリームだと分かると、何が出てくるのかと注目していた先輩方の目が嬉しそうになる。うん、女の子が笑顔になってくれるとこっちも嬉しくなるね。

 

「ちなみに、オレの手作りなので。食べるのに抵抗がある人は言ってくださいね」

 

 断りを入れてから、「シュークリームを食べたいひとー」と尋ねてみれば。全員がすごい勢いで手を上げた。あの桃ちゃん先輩まで。やっぱり甘いものは正義なのだ。

 オレは苦笑しながら、用意していた紙皿を全員に配る。

 

「はい。じゃあひとり1個、取ってください」

 

 シュークリームの入ったタッパーを、まずは三役の3人に向ける。

 

「男の子の手作りデザートかぁ。すごくいいねぇ」

「ありがとう、俊一くん」

「……いただくぞ」

 

 杏さんも柚子さんも、ニッコニコだ。桃ちゃん先輩は何か思うところがあるのか、すねたような顔をしながらも、素直に手を伸ばしてくる。

 生徒会スタッフの先輩方にも、移動してタッパーを差し出す。皆さん嬉しそうに手に取って、パクついてくれた。うん。喜んでもらえたようでなにより。

 満足しながら、席を空けてくれた柚子さんの隣に座る。

 同時に、杏さんと柚子さんにシュークリームをもうひとつ勧める。

 

「やー、嬉しいなぁ」

「え、でもいいの?」

「それくらいの贔屓はしますよ」

 

 ほら、恋人だからね。

 なんてことを言いながら、柚子さんの口の端についたクリームを指でぬぐって。そのまま自分の口に入れる。

 何をされたか気がついて、顔を真っ赤にさせる柚子さん。可愛い。

 杏さんは、そんなやり取りを見てニヤニヤしてる。楽しそうだねぇ。

 

「なに? 杏さんも同じことしてほしいの?」

「あれ、クリームついてる?」

「ついてないけど、拭ってあげようか」

 

 これまた同じように、杏さんの口元に指を置いて。唇を優しくこする。クリームなんてついてないけどね。ただオレが、ふにふにの柔らかい感触を楽しむだけ。杏さんの唇、触るだけでいい気持ち。

 不意打ちだったのか、杏さんが顔を赤くさせた。いいね。可愛い。

 

「……大瀬良、場所を考えろ。あと会長も、自重してください」

 

 桃ちゃん先輩に、溜め息交じりで突っ込まれた。珍しく、杏さんにも苦言を呈する。オレと杏さんが恋人関係になったことには、まだ思うところがあるみたいだけど。杏さん自身が選んだ以上はどうこう言うものじゃない、と考えているらしい。

 そんなオレたちのやり取りを見て、生徒会スタッフの先輩方はキャーキャーと囃し立ててきた。

 彼女たちはもう、オレが柚子さんと杏さんをはじめとして、複数の女の子と付き合っているのは知っている。その上で普通に接してくれるのは、とてもありがたい。本当にそれでいいのか、と思わなくもないけど、納得してもらえてるならそれに越したことはないからね。

 感謝の念を込めて、もうひとつシュークリームを振る舞いそうになったけど。それはぐっと堪えた。

 

「残念ながら、ひとりひとつだけです。我慢してください」

 

 おかわりなしを告げると、他の皆さんからブーイングが起きた。ズルイズルイ、私ももうひとつ食べたい、などと声が上がる。

 もっと欲しいと言われるのは、作った人間としてはすごく嬉しいんだけど。やっぱりほら、恋人は別枠だからさ。どうにか不満を抑えてもらう。

 

「こういう小さなことでもさ、特別扱いされると嬉しいもんだねぇ」

「はうぅ……」

 

 杏さんは、少し顔を赤らめながらしみじみと言い。

 柚子さんは、真っ赤な顔を手で覆って、ぽわわんと表情を緩めてる。

 明らかな贔屓を受けて、ふたりとも嬉しそうだった。

 

「しかし大瀬良。そのタッパー、まだ中身が入ってるんだろう? いささか量が多くないか?」

 

 おや。桃ちゃん先輩がそんなことを言ってきた。目ざといね。

 

「桃ちゃん先輩、そんなに気に入ってくれたんですか?」

「なっ。いや確かに美味しかったが、別に無心しているわけじゃ」

「そこまで言うなら、また作ってきますよ。あ、そうそう。あらかじめ人数を教えてもらえれば、先輩方の分も用意しますから」

 

 と言うや否や。生徒会スタッフの先輩方は大喜び。桃ちゃん先輩もちょっと嬉しそうにしているように見えた。くそぅ、もうひとつあげて餌付けしたくなるじゃないか。

 でも、そういうわけにもいかないんだよね。

 

「この後、みほちゃんとまほちゃんのところにも顔を出すんで」

「あー。今日は戦車を動かすって言ってたね。そういえば」

 

 さすが生徒会長。そこまで把握してるとは。飄々としていても仕事はきちんとしているところとか、すごく好感が持てる。

 ついつい、杏さんの頭に手を置いて、優しく撫でてしまう。彼女がふたつめのシュークリームにかぶりついたところだったので、なんだか「たんとお食べ」と見守ってるみたいな構図に。お母さんかオレは。

 

「……どうしたのさ」

「いや別に。杏さんは可愛いなぁと思って」

 

 シュークリームを口にしながら、杏さんが不審げな目を向けてくる。微笑ましい感じで撫で続けるオレをいぶかしみながらも、頭から手をのけようとするでもなく。彼女はされるに任せてシュークリームを頬張った。可愛い。

 そんな感じで、少しばかり談笑する。

 でも、いつまでも座り込んでいたら、生徒会のお仕事の邪魔になるだろうから。

 

「このへんでお暇します」

 

 次は、みほちゃんとまほちゃんのところへ差し入れに行かないと。

 加えて念願の、動いてる戦車が見られる。テンション上がるぜ。

 

「あー。アンツィオでも聖グロでも、動いてるのは見れなかったしね」

「俊一くん、すごく嬉しそう」

「どんなタイプの戦車かっていうのも楽しみだね。まぁ、知識は全然ないんだけどさ」

 

 今のオレは「戦車かっけぇ!」としか感想が言えないしね。

 ともあれ。空になったタッパーを回収して、ソファから立ち上がる。

 

「それじゃあ。根詰めない程度に、お仕事がんばって」

 

 そう言いながら、柚子さんと杏さんの頭を順々に抱き寄せて。それぞれ頬ずりする。スキンシップスキンシップ。

 少し顔を赤くしながら、逆らわない恋人ふたり。

 しかめ面をしながらも、何も言わない桃ちゃん先輩。

 再びキャーキャーと声を上げる生徒会スタッフの先輩方。

 ふふ。節度を持ちながらも隠さないと決めたからな。これくらいは序の口よ。見せつけるつもりはないけれど、見たいならいくらでも見るがいい。

 なんてことを考えつつ、生徒会の皆さんに手を振って。

 オレは生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 校舎の裏手、広いグラウンドの隅に、5棟建ての倉庫みたいな建物がある。聞くところによると、そこはかつて大洗学園が戦車道をやっていた頃に使われていた車庫らしい。

 といってもそれは約20年も前のこと。今はかなり寂れていて、生徒も教師も、近づく人はあまりいない。

 あまり、ということは、少なからず利用している人はいるわけで。そのメンバーに今日、戦車を扱うみほとまほが仲間入りしたわけだ。

 倉庫の前に、鎮座している戦車が一輌。さらに戦車の周りで、あれこれしている女の子がいる。

 少し小走りになって、彼女たちところへ向かう。

 つなぎを着ている女子生徒がこちらに気付いた。一緒にいたジャージ姿の子に声を掛ける。

 顔を上げたジャージの女の子は、みほ。オレに気付くなり笑顔になって大きく手を振ってきた。遠目でも満面の笑みだというのが見て取れる、可愛い。

 待ちきれないとばかりに、みほの方から駆け寄ってきて、オレに飛びついた。もちろん、オレもしっかり抱き留める。タッパー入りの荷物があるから、片腕でだけどね。

 

「お疲れ様、みほちゃん」

「俊一くぅーん……」

 

 抱きついたみほが、嬉しそうに自分の顔を胸元に擦りつけてくる。

 オレ成分とやらがもう足りなくなってきたんだろうか。昨夜からたっぷりナカに出してあげて、今朝方にも思い切り抱きしめてあげて。それからまだ6時間も経ってないのに。足りないっていうなら、いくらでも注いであげるけどね。オレ成分。

 ひとしきり、みほの頭を撫で回して。腕の中から彼女を解放する。

 

「差し入れを持ってきたんだけど。もしかして、午後の作業を始めちゃってた?」

「うぅん。まだみんなお昼休み。わたしが先に外へ出てただけだから」

 

 みほに手を取られて、戦車のある倉庫前へと引っ張られる。彼女の無邪気さな明るさがとても可愛い。ジャージ姿っていうのも、なんだか新鮮だ。自然と笑みがこぼれてしまう。

 で、連れられた車庫の前では。

 

「いやー、本当にイチャつきまくるんだねー」

 

 先にオレが近づいてくるのに気付いた、いかにも整備士といった風のつなぎを着た同級生。これまでこの車庫を最大限利用していた自動車部のメンバー・ツチヤさんが、糸目になったニッコニコの笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 ―続く―




ん? タイトルに他意はないですよ?
槇村です。御機嫌如何。


他の人の目があろうと、小さくイチャついていくスタンス。
ただその気持ちがどれだけテキストに表せているかは分からない。

みぽりんの同級生として、あんこうチームより先にツチヤが登場するというサプライズ。
でもちょっと思うんだ。聞いてよ。
みほが転入時に、
戦車道に対する忌避感がなくて、
大洗学園に戦車があるって分かってたら、
みほとツチヤは結構早い時点で仲良くなれそうな気がしない?
そんな妄想をしたので、こういう展開になりました。

次回、自動車部の4人がシュークリームをもふもふします。
トロリとした白いモノで口の中をいっぱいにしてやる(生クリームです)




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46:ってかもう/自動車部、みほ&まほ

ごぶさた。



 みほとまほが手掛けている、大洗学園に残されていた戦車の再使用。レストア、という言葉が適当なのかは分からないけれど、整備とかなんとかいろいろなことには、自動車部の面々も関わっていたようだ。

 20年近く前の戦車でも、あの4人が手をつけるなら動かせるようになるんだろう。そんな謎の信頼感がある。しかも戦車道の本職が監修してるならなおさらだ。

 自動車部のみんなの腕前は、車だろうがバイクだろうが関係なくガンガンいじってるのを見てるから良く知ってる。オレのスクーターもお世話になってるし、腕前に疑いはない。

 で、今回さらに、みほとまほが戦車の件でお世話になるというわけだ。

 いやはや、頭が上がらないなぁ。

 そんなことを考えながら、みほの頭を撫でる。どうして撫でられるのか分からなくて、彼女は首をかしげてたけど。

 

「みほさんから話は聞いてたけど、本当に副会長以外とも付き合ってるんだねぇ」

 

 あー、そういう色っぽい感じの話はしたことがないね。ツチヤさんをはじめ、自動車部の4人は自動車とかの機械いじりに一途だから。むしろ色恋の話に興味が湧くんだ、ってことに少し驚く。

 

「どんな話をしたのかは知らないけど。そういうのはオレのいないところでしてね、ツチヤさん。恥ずかしいし」

「いやいや、同級生の目の前でイチャつくのはどうなのかな。それは恥ずかしくならないの?」

「ならないねぇ。むしろもっと見ろや、みたいな感じ」

「大瀬良君、メンタルが強いとは思ってたけど。元女子校でそれをやれるのは素直にすごいと思うなぁ」

 

 ほんわかした雰囲気のまま、なにやら感心しているツチヤさん。

 まぁ、メンタル云々は今さらだね。柚子さんと無意識にイチャついてるって有名らしいし、オレって。さらに恋人がいっぱいの何股野郎だってことをオープンにしていこうってんだから。我ながら並のハートじゃない思う。

 でもそんなのは、みほたちと堂々とイチャつくためだと思えば、大したことじゃない。

 なんて思いながら、すぐ隣にいるみほに目を向ければ。彼女は笑顔を返してくれる。可愛い。

 

「はー。ラブラブだねぇ」

 

 目と目で通じ合う、みたいなオレたちを見て、ツチヤさんが反応に困ったようにぼやいた。こりゃ失礼。

 でも、ツチヤさんのそういう顔は初めて見たかもしれない。いつも笑ってるって印象があるから。笑顔以外、真顔っぽい表情を見るのは、それこそ初めて会った時以来じゃなかろうか。

 ていうか、ツチヤさんと顔を合わせるのも久しぶりな気がする。

 

「そうでもないでしょ。春休みに入ってからすぐ、スクーターの修理とかしてあげたじゃん」

「あれは修理じゃなくて魔改造の域に入ってるでしょ。オレは自動車部みたいにスピードやロマンは求めてないから。何度も改造されたら困るって」

「せっかく中型バイク相手でもいい勝負ができるようにしたのに」

「ヒトのスクーターに何をしてるんだよ本当に」

 

 再び相変わらずの笑顔になって、ツチヤさんはとんでもないことを言ってくる。勘弁してくれ。

 学校が春休みに入る前に、スクーターの点検を自動車部のみんなにお願いしたんだけど。ツチヤさんが言うようなぶっとび仕様にされていて驚いた。少しアクセルを吹かしただけでウイリーしちゃうくらいにエンジンが強化されてたからな。オレはスピードやロマンよりも使いやすさを求めてるんだよ。

 そんなことがあって、元のスクーターに戻してくれと迫ったのが、西住姉妹が学園にやってきた数日前だから。ツチヤさんと会うのもそれ以来ということになる。

 ……大して開いてないな。単にオレの方がいろいろあり過ぎて、久しぶりに感じてるだけなのかもしれない。

 

「というか。みほちゃんとツチヤさんって、ずいぶん仲良くなってるね」

「うんっ。新しいお友達だよ」

「みほさんには戦車のメンテで、いろいろ教えてもらってるからねー」

 

 めっちゃ嬉しそうなみほと、めっちゃ楽しそうなツチヤさん。ジャージとツナギ姿で、ふたり並んでニコニコ顔だ。無邪気な笑顔のみほとツチヤさんって、なんだか少し幼く見えるな。口に出しては言わないけど。

 

「よかったねぇ、みほちゃん」

 

 しみじみと言いながら、みほの頭をまた撫でてしまう。

 

「ツチヤさんも、ありがとうね」

 

 みほの頭に手を置きながら、ツチヤさんにもお礼を言ってしまった。過保護なお父さんか。

 でもまぁ、みほの友だちの輪が広がって楽しそうにしているのは、オレも嬉しい。みほは頭を撫でられてはにかんでる。ツチヤさんはなんだか苦笑気味だけど。

 まぁそれはそれとして。

 

「シュークリームを作ってきたんだけど、みんな余裕ある? 時間とかお腹とか」

 

 大きめのタッパーが入ったトートバッグを掲げて、ツチヤさんに尋ねる。

 でも反応したのは、みほの方だった。

 

「食べる食べるっ。俊一くんのっ、シュークリームっ」

 

 みほが声を上げて、オレの手を振り回しながらはしゃぐ。もちろん、もう片方の手に持っているトートバッグに影響しない程度に。いやもう本当に、素直に感情を表に出すようになって。オレは嬉しいよ。

 ……なんだか、ツチヤさんが面食らったような顔をしてるけど。どうかした?

 

「シュークリームって。大瀬良君、お菓子作りとかするんだ」

 

 どうやら、男のオレがシュークリームを作ってきた、っていうのが意外だったらしい。言われてみれば、そういう話はしたことなかったかもしれない。

 

「お菓子も料理も、そこそこできるよ。凝ったものはできないけどね」

「へー。私はそういうのはできない方だから、うらやましいなー」

「人それぞれだから、まぁいいんじゃない? みほちゃんも、どちらかといえば食べる専門だし」

「俊一くん、さりげなく恥ずかしいこと言わないで!」

 

 いきなり話に自分を盛り込まれて、みほが顔を赤くしながら慌てる。慌てるというか、オレの手を取ってブンブンと上下に振りながら抗議してくる。まぁまぁ、いいじゃないか。

 

「みほちゃんもまほちゃんも、美味しそうに食べてくれるから。作る方としては気持ちいいし、嬉しいよ?」

「うー。そんなことじゃ誤魔化されなんだから」

「じゃあ、このシュークリームは美味しく食べてくれないのかな?」

「……食べる」

 

 甘いものの誘惑には勝てなかったようだ。みほはオレの腕を振り回すのを止めて、拗ねるように唇を尖らせる。ははは、ジト目でにらみつけてきても、可愛らしいだけだぞー。

 一方で、オレたちの小芝居みたいなものを見せられたツチヤさんは少しゲンナリしていた。そういうのは家に帰ってからやれ、なんて気持ちなのかもしれない。

 でも、ちょっと羨ましそうに見えたのは、気のせいだろうか。

 まぁいいか。

 さて。

 ひと悶着といおうか、ただのイチャつきといおうか、そんなものがとりあえず終わって。みほとツチヤさんに連れられて、車庫の中へとお邪魔する。

 

「おねえちゃーん、俊一くんが来たよー」

「こんにちはー」

 

 天井が高くて広いスペースが取られている車庫。工業科の学校かと思ってしまいそうな機材やら工具やらが乱雑に置かれている一角で、テーブルを囲んでくつろいでいる女子学生たちがいた。

 ジャージ姿のまほと、自動車部のツナギを着た先輩方、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさんだ。

 

「お、いらっしゃーい」

「こんにちは、ナカジマさん。作業前にお邪魔しちゃってすいません」

「別に時間を決めて何かをこなしてるわけじゃないからな。お邪魔なんかじゃないぞ?」

「そうそう、好きで集まってるわけだしね。気にしなくていいよ?」

「ホシノさん、スズキさんもこんにちは。そう言ってもらえるとありがたいな」

 

 自動車部のお姉さん方と軽く挨拶を交わす。知り合ってまだそんなに時間は立っていないけれど、出会いで思わぬトラブルがあったわりには、けっこう仲良くさせてもらってると思う。ゆるいやり取りが、相変わらず心地いい。

 そんなやり取りをしている横から、まほが抱き着いてきた。

 

「待ちかねたぞ、俊一」

「まほちゃんも、お疲れ様」

 

 抱きつく彼女に応えて、腰に手を回して控えめに引き寄せる。さすがに人前で、自動車部の4人の目の前で本気のハグをするのはちょっと、はばかられるし。学校の敷地の中ではそれなりに自制しているのだ。

 でも、まほはそういうのをあまり気にしていないみたいで。

 

「んっ」

「ちょ、こらっ」

 

 まほが、首筋にキスをしてきた。

 身長差の関係で、抱きつくと彼女の頭がちょうど首元に収まる感じになる。その上、オレが首周りをくすぐられるのが弱いと発見したもんだから。恋人たちは積極的に首周りを責めてくるようになった。

 美人な女の子が、自分から首筋にキスしてくるんだぜ。最高だな。

 

「うわ。本当にためらわずにイチャつくんだ」

「まほさん、本当に嬉しそうだな……」

「姉妹揃って惚れられるなんて、大瀬良君、すごいね……」

「んー。ちょっと羨ましいかなー」

 

 でも少しは、周囲の目も気にしてほしい。

 気持ちは嬉しいよ。嬉しいんだけどさ。

 

「まほちゃん、それはちょっとやり過ぎ」

「いいじゃないか。関係は隠さないでいくんだろう?」

「それはそうだけど。もう少し抑えた、って、ん、ふわっ」

「俊一くん、隙ありー」

 

 まさかの不意打ち。みほが背中に飛びついて、うなじにキスしてきた。おんぶ状態になって押しつけられる胸の感触も相まって、思わず声が漏れてしまう。

 というかおい、ちょっと待ってくれ。オレひとりだけが羞恥責めを受けてるような気分になってきたぞ。

 実際ほら、ナカジマさんもホシノさんもスズキさんもツチヤさんも、めっちゃガン見してるし。

 特にホシノさんとスズキさん。恥ずかしそうに手で顔を覆ってるけど、全然隠せてないから。指の間から見てるの丸分かりだから。

 

「まほちゃん、みほちゃんも。ちょっとタンマ。いやマジで」

 

 いやマジで。思わず2回言っちゃうくらい、本当に待ってほしい。

 確かにイチャつくのは大好きだし、恋人みんなとの関係を隠すつもりもないけれど。強いて見せつけたいわけじゃないから。そこらへんは最低限の節度を持ってはいたいのよ、オレは。手をつないだり軽いハグくらいはオーケーだけど、人前でキスは抵抗がある。

 ……え? アンチョビさんとは開けた港でキスしてたじゃないか? あれはしばらく会えなくなるから勢いで、っていうのもあったので。例外にしてほしい。

 

「キスもハグも大歓迎なんだけど、人前ではできるだけ自重しようよ」

 

 割と当たり前のことを言っているつもりなんだけど。恋する乙女的には、そういうのは些細なことなんだろうか。

 

「でも見ているのは、自動車部の4人だけだろう?」

「みんな俊一くんと、仲良しなんだよね?」

 

 確かに、自動車部のみんなとはそれなりに親しくさせてもらってるけども。というか、みほとまほ、ふたりとも思った以上に濃い話までしてるんじゃなかろうか。

 

「4人全員と、ハグまではしているらしいじゃないか」

「なに、そんなところまで話しちゃってるの?」

 

 素直に驚いたよ。

 まほの言葉に、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが揃って顔を赤くした。どうやら本当に話はしているらしい。

 イヤらしいことをしたとか、堕としたとかそういうことじゃないよ?

 いろいろあったんだよ。自動車部の4人と初めて会った時に。知られて困ることじゃないけど、これってオレからも改めて説明した方がいいのかな。

 顔見知りの前で、西住姉妹に抱きつかれながら。どうしたもんかと困惑するオレだった。

 

 

 

 ―続く―




自動車部メンバーの言葉遣いが、まだつかめない。
槇村です。御機嫌如何。


生存報告を兼ねて、短いけれどアップしました。
コロナではないけれど、いろいろあったんだよ。

次回も自動車部絡み。
主人公と自動車部メンバーが出会った経緯などを。
あとは西住姉妹&自動車部のガールズトークとか?




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47:ときめきのアクシデント/ナカジマ&ホシノ


主人公の回想エピソードです。



 オレが自動車部の4人と知り合ったのは、2カ月ちょっと前。1月中旬くらいのこと。学園艦の外周を走る通りで鉢合わせしたのが切っ掛けだ。

 

「夜の学園艦をうろついてみよう」

 

 その日、オレはそんなことを思い立ち。スクーターで寒空の中をツーリングに出掛けた。

 街そのものといっていい学園艦。その外周に沿って大きな通りが走っている。そこを夜風と潮風を感じながら、のんびり運転していた。

 艦尾付近で、大きなカーブの向こうから車のライトが向かってくるのが見えた。

 と思うや否や、派手なドリフトをしながらコーナーを突っ込んでくる車が目の前に現れる。

 

「うおっ」

 

 いきなり飛び込んできたライトと、ギャギャギャとタイヤを軋ませる車の勢いに驚いて。オレは慌ててハンドルを切ってしまい、路肩に突進。スクーターごと派手にすっ転んだ。

 幸い、転んで全身を強く打っただけで、骨が折れたとかそういうのはなかった。声が出なくなるくらい息が詰まって、えらく苦しかったけど。

 でも車の方からみれば、そうとは分からないわけで。轢いてしまったかと、乗っていた人たちが慌てて車から降りて、駆け寄ってくる。

 それが自動車部の4人。ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんだった。

 

「大丈夫ですか!」

「馬鹿かナカジマ、大丈夫なわけないだろ!」

「病院、病院に連れていかないと!」

「じゃあ早く、早く乗せて!」

 

 うずくまってなにやら苦しんでいるオレを見て、彼女たちは大パニック。大変だ、病院に連れていかなきゃ、という感じで、彼女たちの車に連れ込まれて。そのまま病院へ直行した。

 ハンドルを握るツチヤさんが、ドリフトをキメながら飛ばし。

 助手席に座ったナカジマさんが、携帯電話で病院に連絡して。

 後部座席のホシノさんとスズキさんが、シートに横になったオレに声を掛け続ける。この時、狭い後部座席で密着していたから、ふたりの身体がかなり押しつけられていた。これは今でもふたりには秘密にしている。

 後から考えてみると、救急車を呼んだ方が良かったんじゃないかなぁ、と思う。でも実際の症状は強い打ち身程度で済んでいたので、結果的に大事にならなくて良かった、と言えなくもない。接触事故ならともかく、オレが勝手に転んだだけだしね。

 とりあえず、診察では大きな異常は見られなかった。意識もはっきりしていて、歩くこともできる。念のため明日改めて検査をしよう、ということで、その晩は解放された。

 でもその後、ツナギ姿の女の子4人に捕まって。大丈夫なのかと問い詰められた。

 夜の病院の待合室。そんなところで女の子4人が頭を下げながら声高に謝ってくる。誰もいない病院に「ごめんなさい」の声が響くわけだ。時間が時間なので他に来診の人はいないけど、お医者さんや看護師さんはもちろんいるわけで。

 

「とりあえず外に出よう。なんならメシでも食べて落ち着こう。な?」

 

 変な目で見られる前に病院を退散。夜のファミレスに5人で乗り込んで、自己紹介をしながら、彼女たちを落ち着かせることに。病院で言われた自分の容態みたいなものを伝えると、ものすごくホッとした感じになった。

 そこで改めて、彼女たちは謝ってきた。特に運転していたツチヤさんのヘコみようはすごくて。調子の乗らなかったら前方不注意もしなくて済んだのにと、ガチヘコみ。

 頭を下げたり気落ちしたりと、なんだか訳ありな感じの女の子たちに囲まれてるわけですよ。ファミレスで。周りに人目があるわけですよ。さらし者ですよ?

 まだ、声は響くけど誰もいなかった病院の待合室の方がマシだったかもしれない。変な目で見られたらたまったもんじゃないと、必死こいて「気にしなくていいからやめてくれ」と説得したのは言うまでもない。

 なんやかやあって、ファミレスを出て。ひとり暮らしの部屋まで車で送ってもらった。

 この時、事故ったスクーターを放置していたことに気付いたけど。明日、病院に行った帰りにでも拾いに行けばいいか、なんて考えて。その晩はもうすぐに寝てしまった。

 で、翌朝。クラスの担任の先生と、恋人の柚子さんに連絡を入れてから病院へ向かう。柚子さんにはえらく驚かれて、むちゃくちゃ心配された。申し訳ないと思いつつ、嬉しくもあったね。なだめるのに時間がかかって、病院へ行く時間が少し遅くなってしまった。

 幸い、思わぬ訪問者で解決したけれど。

 

「おはよう、大瀬良君」

「ナカジマさん?」

 

 玄関を開けたら、制服姿のナカジマさんがいた。

 昨夜は送ってもらったから、オレの家を知っているのは不思議じゃない。でもこんな朝からどうしたの? と思ったら。なんでも病院まで送るつもりでわざわざ来てくれたらしい。

 なんて律儀な。でもものすごく助かる。

 

「ナカジマさん、ありがとうございます」

「いやいや、お礼なんて言われたら困っちゃうよ」

 

 彼女としては少しでも罪滅ぼしを、という気持ちなんだとか。しかもホシノさん、スズキさん、ツチヤさんと4人揃ってのお出迎え。さらにスクーターを回収するため、オレを病院へ送る車とは別に軽トラまで駆り出していた。なんて律儀な。でもものすごく嬉しい。

 

「本当に、ありがとうございます」

 

 本気で感謝の気持ちを込めて、頭を下げた。途端に、ホシノさんもスズキさんもツチヤさんも、同じように慌て出す。「悪いのはこっちだから、これくらいは」と彼女たちは言うけれど、オレは自分で勝手に転んだと思っているので。どうにも申し訳なさの方が大きくなってしまう。

 でも助かることは事実なので。お言葉に甘えることにした。ナカジマさんとツチヤさんの車で、オレは病院へ送ってもらい。ホシノさんとスズキさんの軽トラ組は、昨夜オレが転んだところへスクーターを回収に向かう。いやもう、本当にありがたい。

 わざわざ送り迎えまでしてもらって、病院で午前中からいろいろ検診やらをした結果。やっぱり異常なし。骨が折れたとか内臓を痛めたとか、そういうのはまったくなかった。痛かったところも一晩寝たらなんともなくなったしね。良かった良かった。

 なぜか病院でオレを待っていたナカジマさんとツチヤさん、さらにスクーターの回収を終えて合流してきたホシノさんとスズキさんにも、異常なしの旨を伝える。すごくホッとしたようで、胸を撫で下ろしていた。

 彼女たちのその反応が、起こした事故が大事にならずに済んだってことじゃなく、純粋にオレのことを心配してくれていたのが伝わってきて。なんだがすごくありがたくなってくる。

 自然とお礼を言いながら、頭を下げてしまうくらいに。それを見て4人がまた慌てたりするわけだけど。ついつい笑みを浮かべてしまったのは、許してほしい。

 

「とりあえず、大瀬良君のスクーターはあずかるよ」

「きっちり直してみせるからな」

「これでも腕前は車両整備のプロにも認められてるからね」

「むしろ前よりも乗り心地良くしてあげるから。期待してていいよ」

 

 昨夜のことから学習して、オレは早々に病院の外へと出る。

 駐車場へと移動しながら、4人と話をしたんだけれども。その流れで、ナカジマさんたちに事故ったスクーターを修理してもらうことになった。

 そこまでしてもらうのはどうかと思ったけど、「任せろ」と意気込む制服姿のナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんの意気込む姿がなんだか可愛らしくて。負担にならないのなら、と前置きをした上でお願いすることにした。もっとも、自動車部を名乗る彼女たちにしてみると朝飯前のことらしいんだけどね。

 オレとしては、それだけでも十分なのに。

 

「他に何か、お詫びにできることってないかな」

 

 なんてことを言うナカジマさん。

 いや本当に充分ですよ。マジで。

 

「でも修理だけでいいなんて、申し訳なくてこちらの気が済まない」

「なんでもするから、遠慮しなくていいよ?」

「そうそう。何か思いつくこと言ってみて」

 

 スクーターの修理も相当なものだと思うんだけど、どうやら本気で言っているようだ。どれだけ遠慮しても、ナカジマさんたちは引こうとしない。困った。そこまで気にしなくてもいいんだけどなぁ。

 あと、女の子がうかつに「なんでもする」とか言うのは危険だと思う。彼女たちが弱みに感じていると分かったら、そこにつけ込むような奴だっているかもしれないのに。

 でも、そうだな。

 弱味につけ込むようなお願いをして、お礼はもういいよってことを分からせてしまおうか。ついでに「なんでもする」っていう言葉の危険性にも気づかせよう。

 そんなことを思いついてしまって。

 

「じゃあ、みんなに。思いっきり、ぎゅーっと、ハグさせてほしいな」

 

 口にしたのは、紛うことなきセクハラだった。

 もっとも、本当にする気はなかった。ナカジマさんもホシノさんもスズキさんもツチヤさんも、顔を赤くして身を固くした。それだけで満足する。

 ……今考えてみると、杏さんにもやった「バツの悪さにつけ込んでなにかさせる」って、この時が初めてだった気がする。

 

「なんでもするとか言うと、こんなことも言われかねないでしょ? 気持ちはすごく嬉しいけど、本当にもう十分だから」

 

 この時はもう、みほにまほに加えて、柚子さんも恋人だったから。女の子を抱きしめたいなら恋人を相手にするし。

 少し言葉を選べ、という気持ちを込めて、諭すように言う。

 言ったんだけど。

 

「よし、分かった。さぁ来い、大瀬良君!」

「はぁ?」

 

 ナカジマさんが、思い切るように拳を握ってから、両手を広げてそんなことを言い放つ。これにはオレも思わずびっくりだった。

 

「おい、ナカジマ!」

「ナカジマ、本気か!」

「うわぁ、思い切ったなぁー」

 

 顔を赤くしたまま、オレの言ったことを受け入れようとするナカジマさん。残りの3人は「マジかよ」みたいに驚きの声を上げる。

 というか、言った当人のオレが一番びっくりしてるよ。

 身長の小さめな、杏さんよりは高いけど、アッサムさんよりは低いかな、くらいのナカジマさんが。オレと向き合って、顔を赤くしながら両手を広げている。

 なにこれ可愛い。

 胸キュンしたオレは、気がつけばナカジマさんをハグしていた。

 

「うわっ。本当に抱きついたぞ」

「大瀬良君、なんだかいいこと言ってたっぽいのに」

「でもさすが、彼女持ちは慣れてるなぁ」

 

 囃し立てるような3人の声はとりあえずスルー。でもナカジマさんは仲間たちの声も届いていないみたいで。自分から「来い」と言ってきたにも関わらず、抱き着かれた状態で、手を広げたまま硬直していた。

 ナカジマさんとオレは身長差がそれなりにあったから、ちょっと覆いかぶさるような形に。抱きつく、というよりももたれ掛かるような感じだ。

 彼女の腰に手を回し、肩を支えるようにしているけれど、触れているのは手の甲。気休めではあるけれど、手のひらで触れないように、締めつけたりしないように気をつけながらハグをする。ナカジマさんの感触は十分伝わってくるけどね。

 

「ナカジマさん、ごめんね。ありがとう」

 

 身体を離しても、彼女は手を広げた状態で固まっていた。どうやら想像以上に衝撃を与えてしまった様子。

 あるいは、まさかとは思うけど。

 

「もっとハグして欲しかった?」

「え。いやっ、違うよ! いやいやいや!」

 

 我に返ったナカジマさんが、手と顔を思い切りぶんぶんと振りながら否定する。それはそれでちょっと傷つくぞ。

 まぁ、昨日会ったばかりの男に抱きつかれた、なんてのは拒否反応があって当然だろうし。わたわたと取り乱す赤面した女の子を見れて眼福、と思っておこう。

 

「ごめん。なんだか偉そうなこと言っといて、ナカジマさんをハグしたくなっちゃって」

「えーと、さぁ来いって言ったのは私の方だし……」

「勢いってのもあるかもしれないけどさ。でもいきなり男に抱きつかれるとか、女の子なら普通は苦痛でしかないんじゃない?」

 

 そう考えてみると、なんでもするとか言ってきたとはいえ、やっぱりやり過ぎたかな。

 なんてことを思っていたら、ナカジマさんはこれにもぶんぶんと手を振って否定してくる。

 

「私って、車いじりとかばっかりで、女の子っぽいところが特にないからさ。こういう扱いをされるのが新鮮だったというか」

 

 びっくりしたのと、恥ずかしさはあるけれど、嫌悪感みたいなものはあまりないみたいだった。まだ顔を赤くして、何かを取り繕うように笑うのがなんだか可愛い。

 でも、女の子っぽさがないとかどうとか言う彼女に、オレは首をかしげてしまう。

 

「えー。そうかなぁ」

 

 ハグした時に伝わってきた柔らかさとかはひとまず置いておいて。

 女の子っぽくないと言ってるけど、じゃあ男臭くて粗暴かと言われればそんなことない。明るくて、相手のことを気遣えるところは、男女関わらず好ましい。車いじりが好き、っていうのは趣味の問題だし。別に非難されることじゃないでしょ。

 

「ナカジマさんに限ったことじゃないけど、異性として避ける理由にはならないんじゃない?」

「……そう、かな」

「少なくともオレは気にしないかなぁ」

「でも、いつも機械油で汚れてるんだよ?」

「食事時とか、要所できちんと綺麗にしてれば、問題ないんじゃない?」

 

 むしろ汚れた手で食事を始めたら、オレはキレる自信がある。

 でも、そうか。趣味に没頭して周囲の目をあまり気にしていないから、異性に対しての警戒感が薄いのかもしれない。オレの場合は、車で轢きかけた、っていうのもあるだろうし。その弱みにつけ込んだお前が言うな、とか突っ込まれそうだけど。

 ともあれ。勢いでハグしてしまったとはいえ、嫌われたりはしていないようなので、良かった。

 と思ったら。

 

「よしっ! 次はホシノだ!」

「うっ。やっぱりそうなるのか」

 

 ナカジマさんが、はい次の人、とばかりに言ってくる。指名されたホシノさんが、やや顔を赤らめながらたじろいで見せる。

 ツナギ姿の時は、姉御というかイケメンというか、なんとなくキリッとした印象があったけど。制服姿でわたわたしている今は、なんだか親しみを感じて、可愛らしい。ナカジマさんとオレの顔を交互に見ながら、どうすればいいのか分からない感じだ。

 すでにナカジマさんをハグしてしまったので、ここで止めるわけにもいくまい。

 オレは腹を括って、ホシノさんに向けて両手を広げる。

 

「うぅ……」

 

 たじろぐホシノさん。

 ゴーゴーと、なぜか煽るナカジマさん。

 「おいで」とばかりに、飛び込んでくるのを待つオレ。

 ……今さらだけど、なんだこの状況。

 

「よしっ。行くぞ」

 

 意を決したようにホシノさんが一歩踏み出して、オレの正面に立つ。ただし、手を自分の胸に押さえ込むようにして、心なしか身を縮ませながら。

 怯えている、というわけじゃなさそうだけど、少しびくついているような様子。至近距離で、顔を赤くしながら不安げに見つめてくるのが可愛らしい。

 

「よいしょ」

「あっ」

 

 ホシノさんの背中から、腰の後ろ当たりに手を回す。もちろん、手のひらで彼女の身体に触れないように気をつけて。手の甲を当てながら、強くならない程度に引き寄せて。彼女の肩にあごを乗せる。

 密着、とまではいかない。ホシノさんとオレの身体の間には彼女の腕が差し込まれているから、胸を押しつぶしている感触もない。可愛い女の子を抱き寄せている、っていうことには変わりないけれど。

 でもホシノさんの場合、可愛いというよりもカッコイイに入るのかな。雰囲気や見た目的に。

 

「真っ赤になってもじもじしてるホシノさんは、すごい可愛いけど」

「え。いや、それは。えっと」

 

 いやマジで、可愛い。まなじりを下げる、というと言い方が悪いか。ツリ目の目尻をゆるめて、自信なさげというか儚げというか、そんな雰囲気にギャップを感じてしまう。

 しばしホシノさんをハグする感触を堪能して、離れる。彼女は胸の前で手を組んだ状態のまま、顔を真っ赤にして固まったままだ。

 ……あれ。今のオレ、思ってたことを実際に口にしてなかったか。彼女の耳元で。

 

「すごいな。ホシノが口説かれてたぞ」

「あんなにカチンコチンなホシノ、初めて見た」

「でも内心でパニクってるのが丸分かりだね」

 

 やっぱり、声に出してたらしい。気付かなかった。

 誉め言葉はきちんと苦にするのはいいことだとオレは思ってる。でも女の子相手にそれをやると口説いてるように聞こえるらしいんだよね。みほたちに良く言われる。恋人になる前の杏さんにも言われたなぁ。

 これ、今は特に自重した方がいいよね? 流れからすると、スズキさんとツチヤさんにもハグすることになるんだけど。どうしたものか

 口は禍の元?

 いやいや。正直、幸福でしかないでしょ。

 ちらりとスズキさんとツチヤさんに目を向けたら。

 ふたり揃って、顔を赤くさせた。

 

 

 

 ―続く―




中途半端にぶった切ってしまい、すまない。
槇村です。御機嫌如何。


アンツィオの「ローマの休日」編で言っていた事故云々は今回の話のこと。前振りの回収である。
本当は自動車部4人分を今回で全部書くつもりだったんだけど、書ききれなかった。

次回も回想編。スズキとツチヤをハグします。その後の話も少し。
次々話で時間軸が元に戻ります。




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48:ときめきのアクシデント/スズキ&ツチヤ

 ここまで来たらオレだって止められない。全員ハグという状況になってしまった切っ掛けのスズキさんも、ハグしてしまうぞ。

 笑顔で手を広げると、彼女は緊張したのか少し身を強張らせた。

 でも、表情は怖がっているようには見えない。たじろいで逃げようとする様子もなかった。

 

「大瀬良君、身長っていくつくらい?」

「えー、っと。176、いや、5かな」

 

 スズキさんいわく、自分は168cmあるという。同年代の女子と比べると背が高い方で、周りの女友達は彼女よりも背は低い。クラスメイトの男子を見ればそれ以上の背丈は見掛けるだろうけれど、特に意識したことはなかったという。

 で、今の状況。目の前に立っているスズキさんは、オレを少し見上げていることに気がついて、なんだか新鮮な気持ちになったらしい。

 

「そもそも、面と向かって男子と話すことがなかったからね」

「まぁ、大洗学園は今でもほとんど女子校状態だしねぇ」

 

 照れたようにはにかみながら、スズキさんはそんなことを言って。オレの方は、噛み合っているような、いないような言葉を返す。

 オレの勝手な今のスズキさんの印象だけれど。なんというか、強いて異性と交流することがなかったから、自動車部の仲間と同じような感覚でオレにも接しちゃったのかもしれない。「なんでもする」って最初に言い出したのもスズキさんだったし。

 で、正面からオレと向き合って、身長差に気付いたら、何か違うぞって感じたのかも。

 ともあれ。オレ的には女の子をハグできるのはすごく嬉しいので。

 

「スズキさん、行くよー」

「はうっ」

 

 ゆっくりと。

 驚かせないように。

 スズキさんに抱きついた。

 抱きつくといっても、それほど密着しているわけじゃない。手のひらで彼女の身体に触れないように、手を返して、甲を向ける。

 スズキさんは割と無防備なまま抱きしめられた。身体の間に手を入れたりもしていないので、胸の膨らみがオレの胸板に当たってしまう。

 彼女の背に回した手に力を入れず、添えるだけにして、少し腰を引く。肩だけが触れるようなつもりで、ゆるくスズキさんをハグする。

 

「なんだろ。女の子として気を使われてるのが、すごい新鮮」

 

 ……想像してなかった言葉を、スズキさんが返してきた。

 自分からハグしたいと言っておきながら、オレが極力、嫌悪感の少ないだろうところに触れようとしていることに気付いたっぽい。そんなに気を回すなら「ハグしたい」とか言うなよ、って話だけど。

 オレの棚上げ思考は置いておいて。

 続けて彼女は訳の分からないことを言う。

 

「ほら、わたしってあんまり女の子っぽくないから」

「え。そんなことないでしょ」

 

 何言ってんだこの人。

 スズキさんいわく、女子にしては背が高いし、短髪のくせっ毛だし、色黒だし、車いじりが好きだし、などなど。

 言っていることは、確かにその通り。でもそれが女の子らしくないっていうのは、違うんじゃあるまいか。

 なんてことを耳元で囁いてから。中途半端なハグを止めて身体を離す。スズキさんの顔は、褐色肌でも十分に分かるくらいに赤くなっていた。

 

「すっごい、ドキドキした」

 

 自分より大きな人に包まれる、という感覚が初めてのことらしく。少しときめいてしまったという。そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、弱みにつけ込んで抱きつくようなことをして申し訳ない、という気持ちにもなる。

 

「でも男の子って、副会長みたいな女の子が好きなんじゃないの? わたしなんて真逆じゃない」

「いやいやいや。そんなことないでしょ」

 

 本当に、何言ってんのこの人は。

 柚子さんがモテそうっていうのは分かる。だからってスズキさんがモテなさそうっていうのは飛躍し過ぎじゃないか。好みは人それぞれだろうけど、少なくともオレは、スズキさんが女の子っぽくないとは思わないし。むしろ美人さんじゃない?

 スズキさんに限ったことじゃないけれど、車いじりが好きっていうのも、別にマイナスイメージを持つ理由にならないでしょ。逆に、打ち込める趣味とか興味とかがあるのはいいことだと思う。まぁ、押しつけられたら困るけどさ。

 

「えーと、その、うん。なんていうか……。ありがと」

 

 あれ。またオレは思ったことをそのまま口にしてたみたい。

 目の前のスズキさんが、赤くなった顔で自分の頬を抑えている。恥ずかしそうにしているのが可愛らしい。

 

「同年代に車いじりを肯定されたのって、初めてかも」

「確かに。女子からも男子からも、変わり者扱いされてたかな」

「あれだよね。車の話が合うのって学園長くらいだったし」

 

 ナカジマさん、ホシノさん、ツチヤさんも、反応して何やらしゃべり合っている。ひそひそ声どころじゃないボリュームだから丸聞こえだ。彼女たちも、スズキさんと同じく赤面してるっぽいのは気のせいか。

 

「さて。最後はツチヤさんだ」

 

 腕を広げながら、少しお道化た感じで口にする。

 連続ハグの最後のひとり、ツチヤさんが自分からオレの前に立った。でも、ツチヤさんの表情は少し暗くなっている。

 さっきまで、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさんがハグされている時には、いろいろと感想というか合いの手というか、そんなものを入れていたけれど。いざ自分の番になって、どうしてこんなことに、みたいな思いが湧いてきたのかもしれない。無理もなかろう。

 なんて思っていたんだけど。ちょっと違ったみたい。

 

「危ない目にあわせちゃって、ごめんなさい」

 

 ツチヤさんは、何度目か分からない謝罪をしてきた。

 4人にそれぞれ謝られるたび「気にするな」と言っている。でも特にツチヤさんは、あの時にハンドルを握っていたというのもあって、気に病んでいるっぽかった。

 

「コーナーを攻めるとか調子に乗ってなければ、驚かせることもなかったと思うし。スピードをもっと落としてたら。後はドリフトじゃなくて普通にコーナリングしてればとか……」

「何度も言ってるけどさ。オレ自身は、自分が勝手に転んだと思ってるんだよ。実際、ツチヤさんが運転する車とはぶつかってないわけだからさ」

 

 しゅんとした感じで気落ちしているツチヤさん。そのせいか、身長が少し低めな彼女がもっと小さく見える。オレは自分の膝に手を置いて、腰をかがませ、ツチヤさんと同じ目の高さになってなだめようとするけれど。どうにも聞き入れてくれない。

 しょうがないな。

 

「ツチヤさん」

「わぷっ」

 

 他の3人と同じように、ツチヤさんもハグしてしまう。

 といっても、抱きしめるのとはちょっと違う。頭を抱え込んで、よしよしとあやすような形。オレの胸元にツチヤさんの顔を押しつけて、心音を聞かせる体勢。恋人たちには大層効いていた、相手を落ち着かせるための必殺技だ。

 

「正面にドリフトをキメた車が出てきたのは確かにびっくりしたけど、ツチヤさんはちゃんと左車線を走ってたでしょ。なら、反対車線で勝手に転んだ奴のことに罪悪感を覚えることないって」

「……そうかなー」

「そうだよ。少なくとも今回のことは、そうだと思うよ」

 

 気に病む必要はないんだと、なだめてあげる。ツチヤさんの頭をわしゃわしゃと撫でながら。

 

「そんなに気にするんだったら、今度からはもっと前方注意を心掛けよう、ってことでいいんじゃないかな」

 

 ツチヤさんの頭を抱き寄せて、心音を聞かせながら。今度は優しく、落ち着かせるように、彼女を撫でる。髪を梳く。

 と、そこで。まるで恋人たちにしているのと同じことをしてると気付いた。慌ててツチヤさんの頭を離す。

 ちょっと馴れ馴れしくし過ぎたな。手のひらで抱きしめちゃったし。

 そう思って謝ったら。

 

「え。あ、気にしなくていいよ。うん。平気、平気」

 

 オレのことを見上げながら、ツチヤさんは慌てたようにそう言ってくる。笑顔を向けてくれてるけど、少し赤くなって、照れたような顔をしてる。おぉ、可愛らしい。

 なんて考えていたら。いきなりツチヤさんがオレの上着を引き寄せて。自分から、オレの胸元におでこを押しつけてきた。それから、ぐりぐりと、頭を左右に振って擦りつけてくる。

 

「分かった。もうぐじぐじしない」

 

 ありがとう大瀬良君、と。

 ツチヤさんは、何か吹っ切れたような笑顔を浮かべた。

 笑みを浮かべると糸目になる、そんな顔がまた可愛くて。

 ついつい、彼女の頭を撫でてしまった。

 

「おぉ、ツチヤがデレたぞ」

「どうしてあんなに堂々と恥ずかしいことができるんだ……」

「それってツチヤのこと? いや、どっちもかな」

 

 とまぁ、そんなやり取りをしたりして。自分たちが切っ掛けで事故らせてしまったと思い込む自動車部の4人を、いきなりハグという罰ゲーム的なことで罪悪感を感じさせないようにしつつ。お互いさまという感じで手打ちにした。

 実際にオレは、対向車線の彼女たちの車に勝手に驚いて自爆しただけ、と思ってる。話の流れで強引にとはいえ、可愛い女の子4人とハグできたから。こちらは得しかしてないし。

 さらにスクーターの修理まで請け負ってくれた。四輪と二輪の違いはあれど、エンジンで動く車輌には違いない。だから任せておけと、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが揃ってやる気になっていた。オレの方がもらい過ぎなくらいなんだけど、4人とも譲ろうとしなかったので、お言葉に甘えてスクーターの修理をお願いした。

 したんだけど。

 いや、張り切ってくれる気持ちはすごく嬉しいんだけど。

 張り切り過ぎるのも正直、困るわけで。

 

「スクーター、直ったから取りにおいでよ」

 

 スクーターをあずけて数日後、ツチヤさんから直接声を掛けられて。自動車部が根城にしているという、彼女ら以外にはあまり使われていない車庫まで引っ張ってこられた。

 ちなみに、この時に初めて、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさんが先輩だということを知る。同級生はツチヤさんだけだってことに少し驚いた。4人揃って随分とフランクな関係っぽかったから、全員同級生だと思ってた。思い込みはいかんな、うん。

 それはさておいて。

 ツチヤさんに腕を引かれて、自動車部の皆さんがたむろしている車庫に到着すると。

 

「お。大瀬良君、いらっしゃーい」

「よくきた。生まれ変わった相方に驚け」

「これで大瀬良君も、大洗の風になれるよ」

 

 出迎えてくれたのは、妙にテンションの高い、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさんの3人。さらにここまで連れてきてくれたツチヤさんも加わって、修理済みらしいオレのスクーターを囲んで仁王立ちする。なんなのこのノリ。

 ツッコミどころはあるけれど、ひとまずスルー。

 で、そのスクーターなんだけど。外側を見た限りではしっかり直ってる。すっ転んだせいで至るところが割れてたし、ミラー部分とかブレーキとかもひしゃげていたはずだから。壊れていたようには全然見えなくて、素直にすごいと思う。

 

「本当に、ありがとうございます」

 

 いや本当にありがたい。嬉しいなぁ。

 心から礼を言って、頭を下げる。

 ところが、ナカジマさんが勢いよくストップを掛けてきた。

 

「礼を言うのはまだ早いよ。このコに乗ってみないことにはどんな案配か分からないし。まだ手直しが必要かもしれないしね」

 

 言われてみれば、確かにその通り。それじゃあ早速と。自動車部の4人に促されるままに、愛車たるスクーターにまたがる。

 目に見える範囲には、壊れたようなところや傷は残っていない。あの半壊したスクーターとは思えないくらいだ。

 キックスターターを出して、足を掛け。思い切り踏み込む。

 

 ドルンッ

 

 一発でエンジンが掛かる。おぉ、すげぇ。

 ……気のせいかな。エンジンの勢いが凄くなってない?

 不思議に思って、ナカジマさんたちに目を向ければ。4人ともすっごくわくわくしているような顔でオレを見てる。なんだその期待に満ちた目は。

 

「気をつけてね」

「大丈夫。制御しきれると信じてるぞ」

「運転はやっぱり乗って慣れるのが一番だよ」

「風になれるぞー」

 

 なにやら不穏な声を掛けられる。意味が分からないぞ、どういうことだ。具体的に言ってくれ。

 仕方ない。とりあえず、走ってみよう。

 シートに座り、ヘルメットを被って。

 スタンドを外し、アクセルに手を掛けて。

 少しだけ、エンジンをふかす。

 

「どわっ」

 

 アクセルを軽くひねっただけ。なのにエンジンは想定外のパワーで回り、スクーターは勢いよくウイリーする。

 オレはその場で派手にすっ転び。乗り手を放り出したスクーターは、ウイリーしたまま走り出して、すぐに転倒した。

 なんだコレ。スクーターのパワーじゃねぇぞ。

 呆然としているところに、慌てて駆け寄ってくるナカジマさんたち。

 

「大瀬良君! 大丈夫?!」

「ケガは、ケガはしてないか?!」

「どこか痛くしてたら無理しないで言って?!」

「また車に乗せて病院に!」

 

 ちょっと待ってくれ。

 彼女たちにしても想定外のことだったのか、駆け寄るなりケガの心配をしてくれる。同時に、異常はないかとオレの身体のそこかしこをぺたぺたと触ってくる。

 身体を起こしてくれて、オレの様子を窺うナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさん。本気で気遣ってくれているのは伝わってくる。

 ありがたい。いやね、ありがたいんだけどさ。

 

「なんだよ今の。なんだアレ」

 

 この原因は、あの修理したって言うスクーターのせいだよね?

 いきなりアクセル全開にしたわけでもないのに吹き飛ばされるってどういうことなの。暴れ馬なの? エンジンがフェラーリにチェンジしたの?

 女の子に怒鳴るのはいかがなものか、という自制が辛うじて働いたものの。実際には静かにキレていた。自動車部メンバーは、なにやらバツの悪そうな顔をしている。

 

「いやー。修理ついでにスペック以上のものに仕上げようって張り切っちゃってさ」

 

 ナカジマさんは半笑いでそんなことを言う。

 気持ちは嬉しいけどさ、仕上げって言葉のベクトルが物騒な感じがするのは気のせいかな。お願いしたのって修理だよね?

 

「ただ元通りに修理しただけじゃ申し訳ないからな。エンジンのオーバーホールからグレードアップまで、しっかり手を入れたんだぞ」

 

 ホシノさんはどこか誇らしげだ。

 気持ちは嬉しいんだけどさ、オーバーホールって必要だったの? それはいいとしても、グレードアップってどういうこと?

 

「私たち4人が、大瀬良君のために技術と知識を総動員したからね。スクーターとは思えないポテンシャルを秘めた自信作なんだよ」

 

 スズキさんがものすごく満足げに言う。

 気持ちは嬉しいんだけど、そのポテンシャルとやらを教えてもらえなかったから放り出されたわけで。乗る前に詳しいことを教えといてくれよ。

 

「スクーターの皮を被った狼だよ。もし大瀬良君が走り屋に勝負を挑まれても、そこらの中型バイク程度には負けないスペックになってるんだ」

 

 ツチヤさんが身振りを入れつつ興奮気味に言う。気持ちは嬉しい……嬉しい? とにかくオレのことを思って言ってくれてるんだろうけど。そういうのは実際に乗る前に行ってくれ。あとこの学園艦の上じゃあ、ツチヤさんたち以外の走り屋っていないんじゃなかろうか。

 

「気持ちは本当に、ありがたいんだけど。違う。違うでしょ」

 

 最初こそ、心配が先だったのか神妙にしていたけれど。気がつけばスクーターがいかに生まれ変わったのかを熱弁し始める。

 なんだか、怒るのも馬鹿らしくなってきた。

 でも、これだけは言っておかないといけない。

 あのスクーターを、元に戻せと。

 

「オレは別に、スピードを追い求めるとか、風の向こう側へ越えていくみたいな衝動はないから。変なパワーはいらないよマジで」

「こんなスペックなのは他にないから、走ってて気持ちいいいよ?」

「軽く吹かすだけでひっくり返るスクーターなんて、どう扱えと。じゃじゃ馬もいいところでしょ」

「でもほら、乗りこなせるとカッコイイだろう?」

「これまで乗りこなせてた、普通のスクーターがいいです」

「せっかくだからさ、乗りこなしてみようとは思わない?」

「わざわざ改造してまで、オレをどうしたいのいったい」

「わたしたちみたいに、夜風を切って走る、大洗の狼的な?」

「本当に狼になって襲ってやろうか」

 

 これはあれか。修理させてという気持ちは純粋にあったけど、スクーターをいじっているうちに趣味の方に振り切れちゃったみたいな。

 でもあのアクセルの軽さは問題あるでしょ。怖くて乗れんわ。

 

「そういうわけだから。ノーマルなスクーターに戻してください」

「えー」

「えー、じゃない」

 

 かんべんしてくれ。

 ツナギ姿とはいえ、駄々をこねる4人の女の子に囲まれる。言葉だけだとなんだかときめくシチュエーションだけど、中身は「自分たちが改造したスーパーパワーなスクーターに乗れ」というもの。わけが分からない。

 

「あんまり駄々をこねると、また罰ゲームよろしくハグしちゃうぞ」

 

 埃を払いながら立ち上がって、そんなことを言いつつ4人を諫める。 その途端、ナカジマさんたちは顔を赤くさせた。

 オレとしては、パワー過多な改造をさせられたスクーターですっ転んだせいで、いささか気持ちがささくれ立っていたのは否めない。軽い気持ちで、ちょっとダークな気分もありつつ、そんなことを口にしてしまったんだけど。

 

「ちょっと待って」

 

 ナカジマさんが発した待ったの声。

 それからなぜか、場の空気が明後日なものへと変わっていく。

 

「大瀬良君。ということは、ハグされればあのスクーターに乗ってくれるってことなのかな?」

「……ナカジマ。お前は何を言ってるんだ」

「待ってホシノ。ナカジマの言ってることは一理あるよ」

「むしろわたしたちから抱きついたら、大瀬良君も乗るしかなくなるんじゃないかな?」

「「「それだ!」」」

 

 それだじゃねーよ。

 声を合わせるナカジマさんたちに思わず突っ込みを入れてしまう。

 

「大瀬良君は、私たちみたいな女でも抱きつかれたら嬉しいんでしょ? 私たちはあのスクーターに乗ってもらえて嬉しい。両方嬉しくてウィンウィンじゃない」

「いやいやそれはおかしいでしょ。確かにナカジマさんたちをハグできるのは嬉しいけどさ」

 

 でもあんなじゃじゃ馬スクーターに乗るのは嫌だよ。ナカジマさんたちだって、改造スクーターの試乗相手ができるのは嬉しいかもしれないけど、オレに抱きつかれるのは嫌なんじゃないの? それならウィンウィンどころかプラマイゼロじゃん。むしろマイナスじゃない?

 

「全然知らない男ならともかく。大瀬良が相手なら、それほど……」

「嫌ではないかな。テストドライバーの伝手ができるって考えれば、むしろ私たちの方がプラス?」

 

 照れた顔でそっぽを向くホシノさんと、ニコニコ顔で妙に打算的なことを言うスズキさん。ハグされてもそれほど嫌じゃない、って思われているのは素直に嬉しい。

 でも。でもさ。

 

「いいからいいから。とりあえず抱きつかれちゃおうよ」

 

 なんだか悪戯を仕掛けるような笑みを浮かべて、ツチヤさんがにじり寄ってくる。自分の言ってることが、セクハラオヤジと大差ないことに気がついてないんだろうか。

 でも正直、内心でむっちゃ悩む。なまじ4人とも可愛らしいから、そんな風に迫られるとその気になってしまいそう。

 ひと思いに抱きしめて、あの改造スクーターに翻弄されるか。それとも頑なに、ノーマルなスクーターとの平穏を求めるか。

 と、悩んでいる間に。ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが揃ってすぐそこまで迫っている。

 

「おいちょっと待て。強制はよくない。というかこれセクハラだろ!」

 

 迫る彼女たちを見て、オレは吠えながら逃げ出した。

 

「あっ、逃げた!」

「くっ、女にここまでさせておいて」

「往生際が悪いぞっ」

「追えーっ!」

 

 ナカジマさんたちも、理不尽な声を上げつつ追い掛けてくる。

 かんべんしてくれ。

 

 

 

 ……そんな風に、愉快な追いかけっこがしばらく続き。結局、彼女たちとのハグ1回ずつの代わりに、その場限りのテストドライバーを引き受ける羽目に。

 言うことを聞かない改造スクーターの乗りこなしに悪戦苦闘し、最終的にまた御しきれず放り出されたため。

 もうスクーターは直さなくていい!

 こんなじゃじゃ馬くれてやらぁ!

 なんてことを叫び、半ギレ。

 スクーターをほったらかして帰ろうとするオレを、慌てたナカジマさんたちが謝りながらなだめに掛かるという結末に。

 それ以降オレは、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんたち自動車部の面々と、そこそこ親しい付き合いをするようになった。

 恋人が複数人いると言っても、驚かれはしたけれど、反発みたいなものは受けなかった。全員ハグする、なんて女にだらしないところを見せてたんだから、「今さら何を」という感じなのかもしれない。

 ……喜んでいいのだろうか。

 

 

 

 ―続く―




自動車部とのワチャワチャしたやり取りが書きたかった。
槇村です。御機嫌如何。


自動車部の4人との馴れ初めを全2話でお届け。
ツナギ姿のまま彼女たちをハグしたかった。それが発端だった
うまく書けていたかは、ちょっと自信がない。
これからも騒々しいやり取りを書いていくつもり

次回はエロが書きたくなったので、柚子&杏回の予定です。




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49:ロマンスの途中/自動車部、みほ&まほ

気がついたら駄弁り回になっていた。



 オレと自動車部メンバーの馴れ初めみたいなものを、みほとまほに改めて語りつつ。差し入れとして持ってきたシュークリームを振る舞う。

 

「じゃあ、別腹用のおやつに甘いものをどうぞ」

 

 紙皿をみんなに渡してから、シュークリームの入ったタッパーを差し出す。自動車部の4人は喜びの声を上げながら手を伸ばしてきた。

 

「ありがとうね、大瀬良君」

「大瀬良が作ったのか。すごいな」

 

 ナカジマさんが、目をキラキラさせながら嬉しそうにお礼を言い。

 ホシノさんが、オレの自作だと聞いて驚いている。

 

「あ、おいしい。大瀬良君、お菓子作りとか上手なんだ」

「あまーい。おいしー。しあわせー」

 

 スズキさんが感心しながら、シュークリームをはむはむしていて。

 ツチヤさんは、美味しさを堪能しつつ顔をほころばせていた。

 

「そう言ってもらえると嬉しい。作った甲斐があったってもんだ」

 

 自動車部メンバーの反応に気を良くしつつ。みほとまほにもシュークリームを渡す。

 みほは満面の笑みを向けてくれた。

 でも、まほはなにやら怪しむように、手にしたシュークリームを見つめている。

 

「どうしたの、お姉ちゃん」

「……俊一。まさかこの中に、ワサビは」

「入ってません」

 

 どうやら、今朝の裸エプロン騒動の時に言ったことが気に掛かった様子。「まほだけワサビ入りシュークリームを食べさせるぞ」というのを、実行するかと思ったらしい。

 

「ちゃんと甘いクリームだから。安心してお食べ」

 

 険しかった目元をゆるめて、まほはシュークリームにぱくつく。

 そのとたん、目尻を下げて、表情が嬉しそうにゆるむ。可愛い。

 

「俊一くんの作る甘いものも、久しぶりだよ」

「熊本にいた時以来だからねぇ」

 

 オレが大洗学園に転校する前、熊本にいた頃。会うたびに、手作りのお菓子をよく振る舞っていた。どれも喜んで食べてくれるから、餌付けするように何度も作ってあげてたねぇ。

 特にクッキーは、黒森峰の学園艦に戻る彼女たちにおみやげとして持たせたりしてたし。

 ほくほく顔でシュークリームをぱくつく女の子たちに囲まれて、美味しい美味しいと称賛される。とてもいい気分。喜んでもらえたようで何よりだ。

 

「あれ、みほさんとまほさんはふたつなの?」

 

 ツチヤさんが、声を上げる。自分の分はもう平らげる寸前なのに、西住姉妹の紙皿にはふたつめのシュークリームがある。

 その指摘に、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさんも反応して。ズルいじゃないか、みたいなブーイングを受けるのだが。

 

「いやだって、恋人だし。そのくらいの贔屓はするよ?」

 

 さも当然のように、胸を張って言ってやる。ナカジマさんたちともそれなりに仲良くしているとはいえ、やっぱり恋人とは接し方が違ってくるのは仕方ない。

 

「特別扱いか。まぁ納得はできるな」

「というか、両手に華状態で堂々と言えるのがすごいね」

 

 ホシノさんとスズキさんが感心するように言う。それを聞いたみほとまほが、少し恥ずかしそうな顔をした。でもどこか嬉しそうに見えるのは、オレの欲目じゃないと思う。

 

「ねぇ、大瀬良君。タッパーにシュークリーム、残ってなかった?」

「ナカジマさん、目ざといな」

 

 思わぬ指摘につい苦笑するオレ。

 それぞれにシュークリームを1個ずつ、みほとまほには2個ずつ、加えて自分用に1個。そんな分け方をして、余った分が2個、タッパーに入っている。中途半端に残ったから持ち帰るつもりだったんだけど。ナカジマさんはもちろん、ホシノさんもスズキさんもツチヤさんも、オレの足元にあるタッパー入りのバッグを見つめていた。

 なんだか必死になってないか、アナタたち。オレのシュークリームを気に入ってくれたと思うと嬉しいけどさ。

 

「誰が食べる、食べないでケンカになっちゃうじゃん」

「じゃあ、ジャンケン。ジャンケンで決めよう」

 

 グーの手を振りかざして煽るナカジマさん。

 いやいや、なぜか余ったシュークリームを出すのが決定みたいなノリにしてるけど。出さないからね?

 

「でも、本当に美味しかったよ。何か勝負してもう1個食べられるなら、参加しない手はないな」

「私も。仲間と争ってでも勝ち取る価値があるね」

「だから、やらないって言ってるでしょ」

 

 ホシノさんとスズキさんが、はいはいと挙手しながら争奪戦への参加を表明する。そんなにやる気になられても困るぞ。

 他方で、なぜかツチヤさんだけがひとり、なにやら考え込んでいる。人差し指をあごに当てて、んー、みたいな感じで。

 何を考えているのかと思っていたら。

 

「大瀬良君。ハグしていいから、シュークリーム、くれない?」

「はぁ?」

 

 チャームポイントと言っていい、糸目になったニコニコ笑顔をオレに向けて。さぁこい、とばかりに両手を広げるツチヤさん。

 どうしてそうなる。

 

「大胆だなツチヤ。でも、私も乗っかろうかな」

 

 ナカジマさんまで、同じように両手を広げてハグ上等な体勢に。ちょっと待ってくれ。

 確かに、対価としてハグを要求、っていう前科はあるけど。それにしたって、同年代男子に対してちょっと警戒心がゆるくないかね。

 いやでも、ツチヤさんとナカジマさんが並んで、両手を広げてハグをおねだりしている姿は、めっちゃ可愛い。シュークリームくらいでいいならいくらでも放出してしまいそうだ。

 でもさ。

 

「恋人の目の前で、そうじゃない女の子を抱きしめるとか。そんなことができるほどツラの皮は厚くないぞ」

 

 呆れながらふたりを見てしまう。さすがのオレも苦笑い。

 時と場合と状況とか、それなりに考えてるよ? 誰彼構わず抱きつくとか、見境なしに女の子に手を出すとか、そんなことはしません。

 していないつもりです。

 ……他からみればどう見えているかまでは自信がないけど。

 

「ハグくらいなら嫌な気もしないし。もう2回も3回も変わらないよ」

「恋人が何人もいる男に、ツラの皮とか今さら言われてもなー」

 

 なんだか、気を許してくれているようなセリフを言ってくるナカジマさんとツチヤさん。笑顔でそんなこと言われたら、勘違いしたくなってしまう。ただでさえ気の多い五股男なんだから、あまりそれっぽいことをにおわせないで欲しい。こっちの勝手な言い分なのは重々承知してるけれど。

 まぁ、オレのことはいいとして。

 

「ふたりとも、そんな思い切ったことをっ」

「うわぁ……」

 

 ホシノさんとスズキさんは、仲間ふたりの態度に突っ込むやら呆れるやら。でも同時に、顔を赤くしながらオレの方をチラチラ見てくる。

 まさか、自分たちもとか言って参戦してこないだろうな。ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんと、4人揃って「抱きしめろ」とか言われたら抵抗できる自信がない。

 甘味、おやつのためとはいえ、目の前で恋人が誘惑されているのはどう見えるのか。みほとまほに目を向けると、ふたり揃って苦笑いしていた。

 あ。みほがまほに何か耳打ちしてる。

 まほがそれに、なにやらうなずいた。

 え、なにか「いい気になるなよ」とか折檻されるんだろうか。

 

「ねぇ、俊一くん」

「はい。すいませんでした」

「いきなり謝られても、なんのことか分からないぞ。俊一」

 

 声を掛けてきたみほに、思わず反射的に土下座をキメてしまうオレ。

 まほは先走ったオレに呆れたような目を向ける。クール系お姉さんな彼女の呆れの視線は、なかなか攻撃力高いな……。

 

「なにに謝ってるのかは分からないけど。シュークリームのことなんだけどね」

「え?」

「わたしとお姉ちゃんの2個目を足して、ツチヤさんたちにもうひとつづつ渡していいよ」

 

 みほが苦笑しながら、勃発寸前なシュークリーム争奪戦の落としどころを提案してくる。

 え、いいの?

 

「私たちは、その気になればいつでもリクエストできるわけだからな」

 

 構わんよと、まほも同調してくる。

 確かに彼女の言う通り、「今日、何々が食べたい」と言われたら、できる範囲でなら応えてあげるし、応えてあげたいと思っている。さすがに毎日は勘弁してほしいけど。

 ともあれ。

 みほとまほがそれでいいなら、オレは構わない。余った2個と合わせて、ちょうど4個。ナカジマさんたちにそれぞれもう1個ずつ渡せるようになった。

 

「というわけなので。もう1個ずつあげましょう」

 

 少し残念ではあるけれど、ハグはなしで。

 みほとまほに感謝するように。

 そう言いながら、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんに、追加のシュークリームを渡してあげる。

 4人は揃って嬉しそうな顔をして、2個目を頬張った。

 うん。やっぱり喜んでもらえると、作って良かったと思えるなぁ。

 

「後で埋め合わせに、みほちゃんとまほちゃんには何か作らないと」

「じゃあ、プリン。プリンが食べたい」

 

 言うや否や、みほが挙手しながらリクエストしてきた。その横で、まほもキリッとした顔で同じように手を上げる。

 彼女たちの要望を受け入れて、作ることを約束する。ただし、明日以降で。材料も買ってこないといけないしね。

 そんなオレたちのやり取りを見て、またまたナカジマさんたちが、なにやらこそこそと言葉を交わしている。

 

「さすがと言うか、マメだなぁ。大瀬良君」

「これだけ気に掛けてくれるなら、甘えたくなるのも分かる気がする」

「ひょっとしなくても、異性としてレベルが高いよね」

「ちょっと、羨ましいかも」

 

 いっそ羨まれるくらいにイチャついてみせるのもアリだよね。

 という感じで、恋人たちを特別扱いする。人前でも照れることなく、節度はそれなりに守るようにしながら。

 だからハグするくらいはどうということもない。

 

「ツチヤさんじゃなけど、抱きしめてほしいな」

 

 ナカジマさんとツチヤさんが言い出した、ハグの代わりにシュークリームをってやつ。自分のを差し出したんだから、ハグされる資格がある、というところか。

 そんな条件がなくたって、いくらでも抱きしめてあげるよ。

 というか、オレの方が抱きしめたい。

 

「みほちゃん」

 

 みほを、しっかりと抱きしめる。もちろん、手のひらでしっかりと身体に触れながら。

 

「んー。俊一くぅん……」

「よしよし」

 

 みほの腰に手を回して、身体を引き寄せながら、頭を抱きかかえる。髪を梳いてあげると、みほは心地よさそうに声を漏らして、頬ずりをしてきた。可愛い。

 

「俊一」

「はいはい」

 

 次はもちろん、まほの番になる。みほから身体を離すと、「ん」という感じで手を広げてくる。

 お望み通り、まほをきゅーっといっぱい抱きしめてあげる。

 あぁ。クールなお姉さんタイプの女の子が無防備に甘えてくれるのは、何度味わっても嬉しくなって堪らない。可愛い。

 

「すごいな、大瀬良君。まったく照れがないぞ」

「私たち相手でもそうだったんだから、恋人なら当然か……」

「勝ち取ったはずなのに、なんだか負けたような気持ちに……」

「やっぱり、羨ましいなー」

 

 何か言われてるけど、耳には入ってきません。目の前の恋人を愛でるのに忙しかったので。

 そんなこんなで。

 あれこれとやり取りをしつつ、みほとまほ、それにナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんたちと、お昼時をゆるく楽しんでいた。

 

「それにしても」

 

 ひと息ついて、大洗学園に残っていたという戦車に目を向ける。

 あれを年頃の女のが動かすっていうんだから。戦車道すげぇな。

 動かすのもそうだけど、整備も自前っていうのにも驚かされる。

 しかも本職じゃない、というか同年代の女の子がやろうっていうんだから。自動車部のメンバー、本当にすげぇな。

 

「半壊したスクーターを中型バイク並にチューンできるくらいだから。戦車の整備だってお手のものなんだろうか」

 

 門外漢には、車やバイクがいじれるからといって戦車もイケる、とは思えないんだけど。なんとかなるもんなの? 実際になんとかなってるみたいだから、できるんだろうけど。

 

「でもほら、どっちもエンジンで動かす乗り物だし」

「全部同じとは言わないけど、どこをどうすれば動くとかは案外分かる」

「内地の整備工場とかで、そこそこ見たことはあるし」

「でもさ。学園に戦車があるって、もっと早く知りたかったよねー」

 

 ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんがそれぞれ、戦車を見ながらそんなことを言う。車いじりが大好きな彼女たちにしてみても、戦車の整備は未知のものだったようだ。

 でも、みほとまほという戦車道経験者の知識を得たことで、新たな車輌いじりの世界が開けたらしい。4人ともにっこにこ。戦車整備についてあれこれ熱弁するツナギ姿の彼女たちは本当に楽しそうだ。オレの作ったシュークリームを持ちながら、っていうのも、なんだか微笑ましい。

 

「ところで。あの戦車、動くの?」

「うん。もう動かせるよ」

「マジで? 大洗学園が戦車道をやってた頃の戦車でしょ?」

「約20年前の戦車だが、思っていたよりも状態は悪くない」

 

 ずっと放置されていた戦車がちゃんと動くものなのか。疑問に思うなり、みほとまほからあっさり平気だと返される。

 

「なにより、ナカジマたちの整備技術がとんでもなくてな」

「わたしたちが戦車のことをちょっと教えるだけで、すぐにモノにしちゃったの」

 

 西住流という、戦車道家元の教えを受けたみほとまほから見ても、ナカジマさんたちの整備の腕前はすごいものらしい。

 はー。素直に感心してしまう。

 思わずそう口にすると、ナカジマさんたちは照れるような表情を見せた。可愛い。

 

「でさ。動くんだったら……」

「俊一くん、乗ってみたい?」

「乗ってみたい!」

 

 みほの問い掛けに、勢いよく返事をするオレ。

 どう返ってくるかは彼女も分かっていたんだろう。食い気味に迫るオレに苦笑している。

 

「あとは、足回りを少しいじるくらいか?」

「履帯周辺と、その駆動部分を再チェックすればオーケーかな」

 

 まほとナカジマさんが、修理の状況を確認し合う。おぉ、なんだかできる女のやり取り、みたいな感じでカッコいいな。

 

「それじゃあ、戦車整備を再開するか」

「だいたい30分もあれば、足回りのチェックは終わると思うよ」

「大瀬良君。シュークリーム、おいしかったよー」

 

 ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんも立ち上がり、作業に戻ろうとする。その際、ぽんぽんぽんと、3人それぞれがオレの肩を叩いていった。

 ……あれ?

 ホシノさん。その言い方だと、オレも混ざらなきゃいけないの?

 スズキさんは、戦車に乗れるまでの時間を笑顔で教えてくれた。

 ツチヤさんは、差し入れの感想を嬉しそうに言ってくれる。

 同じように、ナカジマさんも加わって4人から「ごちそうさま」と声を掛けられた。そう言ってもらえると、こちらも嬉しい。

 作って良かった。喜んでくれたなら、また何か差し入れすることにしよう。みほとまほ絡みで、戦車整備の付き合いも増えるだろうしね。

 そんなことを考えながら、オレも立ち上がって。彼女たちの邪魔にならないところから、戦車の修理を見学する。

 目の前の戦車が動く。どんな光景が見られるんだろうか。

 想像をめぐらせつつ、ひとりで胸を躍らせるオレだった。

 

 

 

 ―続く―




エッチシーンまで行かなくて申し訳ない。
槇村です。御機嫌如何。


恋人たちのターン(エッチ)に行く前のシーンをちょっと書くだけ。
そのつもりだったのに、思った以上に膨らんだ。

親しい異性の友人が見せる、
恋人と自分たちとの態度の違いにちょっともやもや。
みたいな感じの自動車部メンバーを描きたかったんだけど。
うまくいってるだろうか。

次回こそ、柚子&杏とのイチャイチャエッチです。




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50:ただいまの魔法/柚子&杏

イチャイチャ回です。



 大洗学園に長く眠っていた戦車が再び陽の目を見た。

 みほとまほが戦車道の知識と経験を惜しみなく注ぎ込み、それを基にして、ナカジマさんたち自動車部メンバーが車いじりの技術をこの上なく発揮する。その相乗効果によって、20年以上は優に経っているだろう戦車が復活を果たしたのだ。

 ……マジかよ。

 女子高生たちの手によって、20余年も放置されていた戦車がレストアされ。今、目の前で動いている。みほとまほが乗り込んだ、うなりを上げて走る戦車に興奮する。

 いや本当に直しちゃったんだ。ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさん、4人ともマジすげぇ。

 オレも、動く戦車に乗せてもらった。

 思ったよりも音がうるさくなかったのが印象的。あくまで「思ったよりも」だけど。

 あと、走っている戦車から身を乗り出して、風を切る感覚がすごく気持ち良かった。すげぇ。

 なんというか、終始「すげぇ」としか言えないオレ。みほにも、まほにも、自動車部の4人にも、微笑ましい目を向けられていた。うん、分る分かる。

 でも、別に恥ずかしくもなんともない。だって本当にすげぇんだもの。

 そう言ったら、なぜかみんなに「うんうん」とかうなずかれた。なに、その反応。

 まぁ、それを気にすることもなく。初めての動く戦車を存分に楽しませていただいた。

 みほとまほには、これから発足する戦車道に対するエールを送り。

 ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんには、古い戦車を復活させたその腕前に感嘆の声を上げた。4人それぞれの手を握って、ぶんぶんと振り回すくらいに。

 べた褒めしたせいか、ナカジマさんたちは揃って照れた顔をしていた。でもすごいと思ったことは素直に褒めちぎるべきだと思っているので。容赦なく褒め倒しておいた。

 さて。

 

「じゃあ、お邪魔しました。続きも、無理しない程度に頑張ってね」

 

 戦車に乗るという初めての体験を終えて。まだいろいろと調整やらがあるそうなので、邪魔にならないようにお暇した。

 いやー、楽しかった。

 アンツィオと聖グロにお邪魔した時は、動いてる戦車を見ることはできなかったから。念願のというか、走る戦車にお目に掛かれて感慨無量。さらに乗せてもらえたから、感動もひとしおだ。基本的に、戦車道に携わるのはほとんど女性らしいから。男で戦車に乗ったことがある奴ってそんなにいないんじゃなかろうか。整備とか本職の人とかは別にして。

 そんなこんなで、いい気分のまま家路につく。途中で、リクエストされたプリンの材料を買うためにスーパーへ立ち寄ったけど。その間も鼻歌を歌ったりしながら。

 でも。

 

「あ。晩飯のおかず、何も考えてなかったな」

 

 プリンの材料に気を取られて、それ以外は何も意識していなかったことに気付いた。それが、自宅についてひと息ついてからのこと。

 また外に出るのもなんとなく面倒で。じゃあどうするかと、しばらく冷蔵庫の中を眺める。

 

「カレーにするか」

 

 カレーの中辛ルウが目に入って、ジャガイモとニンジンとタマネギがあるのを思い出したので。あっさりメニューを決めてしまう。

 外に出るのが面倒とか思いながらも、肉がないことに気付いたので結局は買い物に出掛けたり。

 肉の種類に悩んだ末に鶏肉を選んで、他にもいろいろ見繕って。

 帰るなりさっそく調理を開始。

 鶏肉、ジャガイモ、ニンジンを同じくらいのサイズに切り。

 ジャガイモを油で素揚げして煮崩れしないようにし。

 ニンジンを軽く茹でて青臭くならないようにして。

 鶏肉を炒めてから、タマネギを加えてさらに炒め。

 鍋に水を入れて沸騰させ、材料を投入し、煮込む。

 程良く柔らかくなったら、カレールウを投入して、さらに煮込む。

 もろもろ味を調整しつつ進め、いい感じに仕上がった。

 と、気がつけばもう午後6時過ぎになっている。

 

「学校にいるみんなも、もう帰る時間かな」

 

 みほとまほも、戦車の整備やらいろいろを切り上げる頃だろう。

 そう思ったところで、スマホにメールが届いているのに気付いた。

 

「おやおや」

 

 送ってきたのは、みほとまほの両方。なんでも、戦車の整備がひと通り終わって、自動車部の4人と非常に盛り上がり。その勢いで、ガールズトーク込みのお泊り会をすることになったらしい。

 ふたりからきたメールの文面から、微妙にはしゃいでいるような感情が伝わってくるのは気のせいだろうか。

 姉妹揃って、楽しく友達付き合いができてるなら喜ばしい。新しい友達とお泊り会をする、みほとまほ。想像するだけで、つい表情がゆるんでしまう。

 ただ、メールに気付かないまま、ふたりの分も見越してカレーを多めに作ったのは、しくじったかもしれない。いざとなったら冷凍でもして保存すればいいことだけどね。

 

「……なんだか、考えてることが恋人というより、お母さんだな」

 

 会ったばかりの頃の精神状態を思い出しながら、今の友達付き合いの良さを喜んだり。帰りが遅くなったせいで余る夕食に悩んだりしてるオレ。考えてることもやってることも、お母さんそのものだ。

 我がことながら苦笑してしまう。

 

「全然嫌じゃないから、いいけどね」

 

 と、そこに。

 

 ピンポーン

 

 チャイムが鳴った。

 たぶん、西住姉妹じゃない。

 ということは、だ。

 玄関まで移動し、扉越しに外をうかがって。つい笑みが浮かぶ。

 警戒心なく扉を開けると。

 

「あ、カレーだ」

「開口一番、それ?」

 

 制服姿の、杏さんと柚子さんがいた。

 彼女たちもやることを終えて、わざわざ来てくれたようだ。部屋の中から流れてくるカレーの匂いに杏さんが鼻をくすぐらせ、その反応に柚子さんが苦笑する。

 

「生徒会の仕事が終わって、今日の疲れを癒しに来たよー」

「ごめんね、俊一くん。迷惑じゃなかった?」

「いやいや、全然。さ、上がって」

 

 今日も1日お疲れ様、とばかりに。ふたりを歓迎する。

 玄関に迎え入れて、靴を脱いでもらってから。ハグをして労う。

 まずは柚子さん。

 

「ふわっ」

 

 軽く、力を入れずに、ふんわりと。でも全身が密着して、包み込むように抱きしめる。彼女も抱き返してきて、嬉しそうに表情を緩めた。

 きゅーっ、と、少し力を入れて抱きしめてから。身体を離して、柚子さんの頬にひとつキスを落とす。

 

「ちょっとだけ、エネルギー注入ってやつ」

「俊一くん。もうちょっと、もうちょっとエネルギー欲しいな」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど。ちょっと待ってね」

 

 すぐ横で、順番を待ってる人がいるからね。

 杏さんの方に向くと、彼女の方から抱きついてきた。

 

「わたしもエネルギー充電。充電したいっ」

「もちろん。杏さんにも注入するよー」

 

 背の小さな杏さんに、立ったまま覆いかぶさるようにして。肩を抱き、腰に手を回して、きゅっと引き寄せる。

 彼女の方も、自分から顔を押しつけて密着しようとしてくる。奔放なところのある杏さんが甘えてくるのは、すごく可愛らしくて。いくらでも甘やかしたくなってしまう。

 ぐりぐりと頭を撫でてあげてから、身体を離し。杏さんの頬にもキスをひとつ。にへら、と、明るい笑みを見せる彼女も、柚子さんに負けず劣らずラブリーだ。

 でもね、部屋の入り口でいつまでも立ちっぱなしというわけにもいかない。どうせイチャつくなら腰を据えて、存分にやろうじゃないか。

 と、その前に。

 

「ふたりとも、夕食の予定は?」

 

 寮暮らしと、オレと同じようなひとり暮らし。帰宅後にどうするつもりなのかは聞いてみれば、ふたり揃って、何も言わずに首を振る。

 

「お腹はすいてる?」

「すいてるっ」

「ご想像の通り、カレーです」

「カレーっ!」

 

 打てば響くと言わんばかりに、ノリ良く言葉を返してくれる杏さん。

 柚子さんは柚子さんで、声には出してこないけど、なんだかすごくワクワクしてるような目を向けてきた。

 そんなふたりを両脇に抱き寄せた状態で、部屋の奥へとご案内。テーブル前に座ってもらって、オレはキッチンスペースへ戻る。カレーの鍋に火を入れ直して、ゆっくりと掻き混ぜ始めた。

 

「あー。カレーの匂いって、抗いがたい魔力があるよねー」

「ぺこぺこなお腹を刺激するねー」

「部屋に帰ったら、誰かが待ってくれてるって、いいよねー」

「しかもその相手が、年下の男の子で、恋人なんて」

「たまんないよねー」

「幸せを感じるねー」

 

 なんだか、背中の方からすごい恥ずかしい言葉が聞こえるぞ。それでいて、声の調子は力の抜けたもので。ほんわかした雰囲気が伝わってくる。

 

「確かに、これはいいなー。恋人が自分のためにキッチンに立ってくれる姿。撮りたくなっても仕方ないよ、こやまー」

「だよね。撮影したくなるよね」

「というか、また撮影してんの? 今度は杏さんまで」

 

 お米の炊けた炊飯器と、カレー鍋を置く鍋敷きを持ってテーブルに向かえば。そこには動画モードにしたスマホを構える杏さんと柚子さんがいた。

 そんなふたりに、オレは少し呆れ声。

 いや、愛されてると思えば悪い気はしないんだけどさ。同じ光景を並んで撮影しても、そんな誤差程度の違いしかない動画になるわけでしょ。どうせ共有するっていうなら需要ないじゃん、とオレは思ってしまうのだけど。

 彼女たちいわく、そんなことはないという。すごく否定された。なぜ。

 

「まぁ、当人たちが楽しいならいいけどね」

 

 仲間内だけならともかく、変に拡散するのだけは勘弁してほしい。

 ぶつくさ言いながら、キッチンとテーブルを往復し、お皿にスプーンなどを用意する。最後に、テーブル中央にカレーの入った鍋を置く。それから、ご飯をよそったお皿を彼女たちの前に置いた。自分の好きなだけカレーをよそえ、というスタンスだ。

 

「ご飯のおかわりもあるから。たんとお食べ」

 

 ちなみに、みほとまほが今夜は来れないことはみんな把握済み。柚子さんと杏さんのところにも、その旨の連絡はあったらしい。

 

「大丈夫。この夕食シーンもバッチリ録画して、まほさんたちに送っておくから」

「何が大丈夫なのか、さっぱり分からないんだけど」

「気にしたら負けだよ大瀬良くん。可愛い恋人たちが喜んでるんだからオッケー、とか思っておけばいいじゃん」

「まぁ、確かにオッケーではあるね」

 

 柚子さんが使命感に駆られたような顔で、なんだかトンチンカンことを言えば。杏さんがそれをフォローするように、なんだかすっとぼけたことを言う。

 結局のところ、恋人たちが笑っていてくれるならいいか、というところに落ち着いた。半ばあきらめた、と言ってもいいかもしれないけど。

 そんなオレを放置して。柚子さんと杏さんはカレーをよそってご飯にかけ、その様子を互いに撮影し合っている。食レポか。

 

「おー。これは美味しそうだねぇ」

「どうしよう。食べ過ぎちゃいそうだよぅ」

 

 今日作ったのは、味のベースが中辛のカレー。ルーは少し固めでどろっとしていて、ひと口サイズの鶏肉、ジャガイモ、ニンジンがゴロゴロしている。食べるときは、具が口の中で転がってヤケドするかもしれないので注意が必要だ。

 

「それじゃあ、さっそく」

「いただきます」

 

 杏さんも柚子さんも、揃って行儀よく声を掛ける。さすがに撮影しながら食べることはしないらしい。うん、よかった。

 さてさて、オレの作ったカレーを食べた反応はどうなのか。

 スプーンですくったカレーを、ひと口頬張って。

 杏さんも、柚子さんも、表情をゆるませた。

 

「大瀬良くん。わたし、これ好きな味だわ」

「美味しい。美味しいよ俊一くん」

 

 どうやら、お口に合ったようだ。喜んでもらえて何より。

 気分を良くして、オレもカレーを口にする。

 うん。程良い辛さとトロみが、いい感じに口の中に広がって。あぁ、カレーを食ってる、って気持ちになる。我ながら美味くできたな。

 

「考えてみると、オレが料理を振る舞うのって初めてかな?」

 

 杏さんは初めて、っていうのはもちろんだけど。柚子さんは恋仲になって半年くらいになるのに、ちゃんと料理を作ったことはなかったような気がする。お菓子類は何度か作って出したことはあるけど。

 

「そう? あ、でも泊まった時に朝食を出してくれたことは何度も」

「つまりそれだけお泊りをしてるってことだよねぇ」

「う、そうだけど」

「にひひ、照れない照れない」

 

 自分の言葉の裏側を指摘されて、顔を真っ赤にする柚子さん。それを意地悪い笑みで突っつく杏さん。確かに、朝チュン後に簡単な朝食、というのは何度も作っていたかな。今朝みたいな感じで。

 

「でもさ。彼氏の部屋で手料理を作る、っていうのは経験済みなんでしょ?」

「うん。わたしが作ってあげることは結構多かったかな」

 

 言われてみると、部屋に来た柚子さんにいろいろ作ってもらってた。

 性格が良くて、世話好きで、ナイスボディで、料理までしてくれる。

 柚子さん、完璧過ぎるんじゃないかな。

 

「男としても、そのシチュエーションはかなりグッとくるので。料理に関しては柚子さんに甘えっ放しだったかもなー」

「俊一くんに食べてもらえるのが嬉しかったから。作ってもらうっていう想像はなかったかも」

「でも次は、一緒に台所に立つってのができるでしょ」

「いいねそれ。今度は一緒に作ろうよ、柚子さん。もちろん杏さんも」

 

 美味しいカレーを食べながら、そんな会話を交わしていく。

 のほほんとしたやり取り。その割にはふたりとも、カレーが減る速さはなかなかのものだった。

 杏さんが普通に2回もおかわりをして。

 柚子さんも、1回目は普通に。2回目は「ちょっとだけお願い」と恥ずかしそうに、お皿を差し出してきた。遠慮することないのに。

 

「あー。美味しかったー」

「ごちそうさま、俊一くん」

「お粗末さまでした」

 

 食べ終わったお皿を台所のシンクで水に浸して、洗うのは後回し。まだ少し残っているカレーの鍋は、ふたをしてひとまずコンロに置いておく。明日の朝食に決定だ。

 テーブルをふきん掛けしてから、食後にオレンジジュースでもと、コップ3つとジュースのパックを持ちだしたら。

 

「あれ?」

 

 柚子さんと杏さんが、ソファの方に移動していた。しかも座っているふたりの間にスペースを空けて、手招きしてくる。

 ジュースも後回しにしようか。

 コップとパックをテーブルに置いてから。オレは求められるままに、ふたりの間に座り込んだ。同時に、柚子さんも杏さんも、オレの肩にもたれ掛かってくる。

 

「はぁ……。落ち着くぅ……」

「これはクセになりそうだねぇ……」

 

 くっついてはいるけれど、密着するというほどじゃなく。身を寄せて寄り掛かっている感じ。

 されるに任せたまま、オレはふたりの手を握る。

 右手で杏さんの、左手で柚子さんの手を。指を絡めて、ゆるく握りしめると、彼女たちも握り返してくれる。

 

「ハグもいいけど、手を握るだけっていうのもなんだかいいかも」

「この恋人つなぎ、好き」

 

 リラックスした、ゆるい口調でそんなことを言うふたり。にぎにぎと手を動かしながら、気の抜けた姿を見せてくれるのが嬉しくなる。両肩に感じる、杏さんと柚子さんの重さが心地いい。

 というか、そこまでエネルギーをチャージしなきゃいけないほどお疲れなんだろうか。

 今日はそんなのに忙しかったの?

 なんてことを聞いてみれば。

 

「そうでもなかったかな。普通?」

「そうだね。特に変なことがあったわけでもないし」

 

 どうしてそんなことを聞くのか、みたいな感じで見上げてくるふたり。オレの肩に頭を乗せながら、目だけ動かしてこちらを見つめてくる。可愛い。

 

「癒し癒しっていうから、何かあったのかなー、と思って」

「あ、なるほどね。そういう意味では、何もないかな」

「むしろ、何もなくても一緒にいたいって思ってるだけだよね」

 

 嬉しいことを言ってくれる。

 握っている杏さんと柚子さんの手が、にぎにぎと動いている。それがなんだか照れのようなものを伝えているようで。なんだか嬉しい。一緒にいる時間が欲しい、と思われるのは、恋人冥利に尽きるというものだ。

 

「オレ成分とやらが必要なら、存分に補充しておくれ」

「もちろん。そのために来たのもあるしね」

「大瀬良くんのカレーっていう、思わぬサプライズでお腹もふくれたし。気力の方を充電だ」

 

 そんな「食欲を満たしたら、次は性欲だ」みたいなことを。

 ……いや、ちょっと違うか。語弊があるな、うん。

 お詫びに、オレ成分が溜まるように手伝おうじゃないか。

 

「ちょっとごめんね」

 

 指を絡めて握っていた手を、ちょっと離して。ふたりの手のひら全体を改めて握り直す。

 そのまま手を持ち上げて、手の甲に、唇を落とした。

 

「あっ」

「んっ」

 

 杏さんの、柚子さんの、それぞれの手にキスをする。

 ちゅっ、ちゅっちゅっ、と。それぞれ交互に、想いを込めつつ。

 

「杏さん、嫌じゃない?」

「嫌では、ないけど。恥ずかしいというか、むずがゆいというか」

 

 手の甲にキスとか、お姫様っぽくない?

 なんてことを言いながら、ちょっと顔を赤くしている杏さん。

 喜びと羞恥がないまぜになっているのか、複雑な表情になっていた。

 

「杏、杏。俊一くんって、性癖がフェチなところがあるから。覚悟しておいた方がいいよ」

「なにさ、覚悟って」

「オレのモノだーって、全身くまなく触られて、キスされちゃうよ」

 

 言われた杏さんが顔を赤くする。

 というか、そう言ってくる柚子さんも真っ赤になっていた。

 うん、柚子さんは身をもって体験してるしね。

 柚子さんの身体で、オレの指と唇が触れてないところってもうないかもしれない。頭のてっぺんから足の指の間まで、全部制覇してるからね。指と唇が。

 これはもちろん、みほとまほもそう。独占欲をこじらせている自覚はあるけど、誰にも渡さないという気持ちは抑えられないのだ。

 

「だから杏さんも、オレのモノだって跡を刷り込んでいかないと」

 

 杏さんの手にキスをしながら、なんのてらいもなくそう言ってのける。もちろん、彼女が嫌がるなら自重するけどね。それなりに。

 

「恋人に自分の跡をつけたいとか、こじらせてるなぁ」

 

 そういいつつ、杏さんは苦笑い。

 顔を赤くしてるけど、まんざらでもなさそうなのは贔屓目だろうか。

 

「どうしよう。大瀬良くんにオレのモノ扱いされて、わたし、結構喜んじゃってるんだけど」

「振り切っちゃうと、楽になるよ。幸せも感じちゃうし」

 

 さらに柚子さんも、同じ場所に立てとそそのかしてくる。

 そそのかすって、オレが言うことじゃないな。

 

「これからも喜んでもらえるよう、いろいろと頑張ります」

 

 杏さんの手を優しく包んで、小さな指にキスをする。

 ぶるりと、彼女が身体を震わせる。

 そして、赤くなった顔をオレの腕に押しつけて、表情を隠した。

 でも、ゆるんだ口元が隠せてないぞ杏さん。

 うん。可愛い。

 改めてそう思うオレだった。

 

 

 

 ―続く―




エッチシーンまで行かなくて申し訳ない。(何回目だ)
槇村です。御機嫌如何。


前振りを描いているうちに、中身が膨らんでいってしまった。
おかしいな、カレーを振る舞うだけのはずだったのに。

不定期更新にも関わらず、読んでくださる皆さんに感謝です。
せめて2週間に1回は更新できるように頑張ろうオレ。
面白いと思っていただけたなら、評価や感想をいただけると嬉しいです。
仕事の合間に小説ネタを考える励みになります。(仕事しろ)




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51:※欲しくて欲しくてたまらない/柚子&杏

 指と唇で、杏さんの全身にマーキングをしてしまいたい。

 そんな欲求を抱えていても、いきなり実行するわけにはいかない。

 当たり前だ。ムードとか手順とか、相手の気持ちも考えつつ、段階を踏んでいくくらいの手は回す。それくらいの理性もある。独占欲が強いと言っても、性的に貪りたいだけってわけじゃないからね。

 

「んっ、ん。ふ……」

 

 優しく優しく、杏さんの左手を包み込み、指1本1本にキスをする。

 

「んーっ。ちゅ、ちゅっ」

「あぅ、ん……」

 

 まずは、人差し指。杏さんの指先だけを口に含み、軽く、唇で食む。

 唇に挟まれた感触に、彼女がちょっと切なそうな声を漏らしたのが可愛らしい。

 少なくとも抵抗する気にはならないみたいだ。恥ずかしそうではあるけどね。

 杏さんが感じているのが羞恥だけなら、もっといろいろやっちゃうぞ。

 指先から口を離して、細くて小さい彼女の指全体に唇を押しつける。

 ちゅっ、ちゅっと、指の節ひとつひとつに口づけする。

 同時に舌でも触れながら、指のつけ根へと口をのぼらせていく。

 指先から手の甲まで、キスをして、唇で食み、舌先でくすぐる。それをゆっくりと、全部の指にしていく。舐るように。

 

「ちょっと、大瀬良、くん。これはちょっと」

「んっ。嫌だった?」

「嫌だと思えないから、困るんだよ……」

 

 照れ隠しでモジモジしている杏さんが超可愛い。

 というか、相手が恋人で気を許してくれているとはいえ、しつこく指を舐められても嫌な顔をしないとか。なんて心が広いんだとか思ってしまう。自分がやってることはひとまず棚に上げておくけど。

 まぁ舐めるといっても、ねちっこくしゃぶりつくとかじゃなくて。大切に慈しむような気持ちを込めてはいる。もちろん、彼女の反応を見つつね。

 

「ん、んぅ、ちゅ。んむ……」

「うわぁ……。こやま、すごいな」

 

 オレが、杏さんの指をペロペロしているのを横目に。柚子さんが、同じようにオレの指をペロペロしていた。

 蕩け顔で、目を潤ませながら、オレの指をしゃぶる柚子さん。

 正直、エロい。

 指をちょっと動かして、彼女の舌に触れる。こしょこしょと弄る。

 すると柚子さんの舌先が指を追い掛けて、くすぐってくる。唾液にまみれた彼女の舌が、中指と人差し指に絡まってきて。ぬめぬめした柔らかな感触に興奮してしまう。

 でも。

 

「柚子さんは、今朝もオレ成分充電してたから。今は杏さん優先ね」

「はふ……。ずるいよぉ」

「順番、順番。可愛い柚子さんも、ちゃんと可愛いがるから」

 

 思わず「可愛い」を2回言ったりしながら。指をペロペロしていた柚子さんにあごクイをキメて。彼女が不満を言うより前に、唇をふさいでしまう。

 

「ん、ん……。ふぅ、あ……」

「ちょっとだけ、待っててね」

「もう……。わたしもちゃんと構ってくれないと、イヤだからね」

「それはもちろん」

 

 むしろオレの方がお願いします、と。柚子さんにもうひとつキス。

 少しむくれていた彼女の顔が、ふんわりと笑顔に変わる。可愛い。

 

「そんなわけだから。杏さん、続きをしちゃうよ」

 

 杏さんの指から手を離して、首の方へ回す。

 後ろから彼女の頬を撫でて。

 抱き寄せながら。

 オレの方へ顔を向けさせるような体勢に。

 

「おおせら、んむ、ふあっ」

 

 そのまま、有無を言わさず杏さんの唇を奪った。

 添えただけの手で、彼女の顔を逃がさないようにしつつ。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と、キスを重ねる。

 杏さんは、初体験をしたばかりだから。いきなり性的なことを求めてがっつくのは抵抗がある。まずは大いに愛でて、甘やかして、精神的に癒してあげなければ。少なくとも、オレが紳士的に我慢できるだろうギリギリまで。

 

「杏さん、こっちきて」

 

 横に座っていた杏さんを立たせてから、オレをまたがせた。

 そのまま腰を下ろさせて、対面座位で抱き合う形だ

 

「ぎゅー」

「はぁ……。いい気持ち……」

 

 杏さんの腰に腕を回して、抱き寄せる。

 でもそれよりも前に、彼女の方から抱きついてきた。

 力を抜いて身を委ねつつ、オレの首に腕を回して密着する。

 あごを肩に乗せて、頬がくっつけてくる。すりすりと、甘えるような仕草をしてくるのが可愛らしくて。杏さんの頭を抱えながら、優しく撫でてあげる。

 

「よしよし」

「んー……。大瀬良くん」

 

 髪を指で梳きながら、頭を撫で続ける。

 抱きしめて、撫でる。

 お尻を触るとか、制服の下に手を入れるとか、エロいことはしない。オレの腕に包まれてリラックスしている杏さんが満足するまで、ただひたすら慈しむだけ。

 でも、女の子に抱きつかれて、密着しているわけで。しかもだいしゅきホールド状態だ。エロい気持ちを抑えようとしていても、思うようにはいかない。

 杏さんの小っちゃくて柔らかな身体を押しつけられていて。

 ズボン越しとはいえ、股間に、ショーツに包まれた秘部が密着して。

 ミニスカートから伸びるすべすべの脚と太ももが腰に絡み。

 制服の上からだけど、無防備におっぱいが押しつけられて。

 首筋に顔を埋める彼女の吐息が、吹き掛けられる。

 全身にぞくぞくする感覚が走るわけさ。チ○コに響く。反応する。

 となると。杏さんのアソコに、勃起してしまったのが伝わるわけで。

 

「大瀬良くん。すごく大きくなってる」

「杏さんを抱きしめてるんだから。大きくなるに決まってるでしょ」

「わたしでもそういう目で見られるんだって思うと、変な気分だね」

「またそういうことを言う」

 

 女子として魅力がどうとか、身体つきがどうとか。普段の杏さんなら笑い飛ばしそうなことを口にするのは、それだけオレに気を許してくれているからなのか。

 そう考えると嬉しくもなるけれど。やっぱり、そういう自虐的なことを言われると面白くない。

 ならば、女の子としての感覚を全身で感じてもらおうじゃないか。

 甘やかしタイムは終了。これからはオレの時間です。

 

「んっ」

「あ、んむっ。んんっ」

 

 頭を撫でていた手に力を入れて、逃がさないようにしつつ唇を奪う。

 深く、貪るようにキスをする。呼吸ひとつも逃がさないとばかりに。

 合わせて、腰に回していた腕を南下させて。

 杏さんのお尻を、わしづかみにした。

 

「杏さんを、女の子としていっぱい可愛がってあげないとね」

「んっ。ちょっと、待って、ひゃんっ」

 

 小ぶりだけど、柔らかなお尻を揉みしだく。手のひら全体に広がる感触が心地いい。

 いきなり触られて驚いたんだろう。杏さんが声を上げて、身じろぎをする。

 でも、がっちりと抱きしめてそれを許さない。

 頭を抱きかかえて、お尻をつかんで引き寄せる。もっと密着して、勃起した股間を杏さんのアソコに押しつける形になる。

 ぐりぐりと、杏さんの秘部に押しつける感触が心地いい。でもズボン越しなのでもどかしさも感じてしまう。

 

「というわけで」

「え、ひゃっ」

 

 ズボンのチャックを下ろして、勃起したチ○コを取り出した。

 今の杏さんはオレにだいしゅきホールドをした状態。だから、丸出しになったチ○コの上に、彼女の秘部が乗っていることになる。

 改めて杏さんの頭を片手で抱きかかえてから、もう片方の手を可愛いお尻に回した。指を動かして優しく揉みつつ、腰をわずかに押し上げる。

 

「大瀬良く、んっ。あぅ……」

「恥ずかしがってる杏さん、可愛い」

「そりゃ恥ずかしくもなるよっ」

 

 まぁ恥ずかしがるようにしているんだから仕方がない。

 普段は飄々としている杏さんが、オレにしがみつきながら、顔を赤くして恥ずかしがっている。そんな姿にそそられて、ぞくぞくしてしまう。もっと恥ずかしがらせたくなる。

 

「あぁもう。可愛いなぁ、杏さんは」

「ひゃっ、ん、ん。ふぁ……」

 

 拗ねるような顔をする彼女に、唇を重ねる。問答無用で口をふさいでしまい、反論は受けつけない。

 舌先で唇をくすぐって、そのまま口の中へ舌を滑り込ませる。

 彼女の舌を捕まえて、れろりと、全体を軽く舐って、ちゅーっ、ちゅーっと、舌を絡めながら吸い立てた。

 重なった唇の柔らかさと、密着する舌のぬめり具合が堪らない。

 杏さんの小さな身体を抱き寄せながら、何度も何度もキスをする。

 舌を絡めて、舐るようにして吸い立てる。

 陶然とした杏さんは、力の抜けた身体を委ねて、されるがまま。

 かと思えば、小刻みなキスで柔らかな唇の感触を味わったり。

 そうなると、今度は杏さんの方からもキスをしてくる。

 オレがちゅっ、ちゅっと口づけをすれば。彼女も同じようにちゅっ、ちゅっ、ちゅっと口づけを返してくる。

 しがみつきながら、顔がとろとろになっている杏さんが可愛くて。オレの方もまたキスをしてしまう。その繰り返しだ。

 そんなキスの応酬をしていると、触れる場所が唇以外にも広がっていく。

 

「んっ。ちゅ、ちゅっ。杏さん、可愛い。ちゅっ」

「ふぁ、ん、んぅ……。大瀬良くん。ちゅっ。大瀬良くん……」

 

 唇、頬、鼻先、目元、耳、おでこと。唇が届く、あらゆるところにキスをする。キスをし合う。

 オレも杏さんも、もぞもぞと身体を動かしながら唇や舌を這わせているから。そのたびに杏さんのアソコが、オレの股間に押しつけられる。

 ズボンから取り出した丸出しのチ○コを、杏さんのおま○こへショーツ越しに擦りつける興奮。気持ち良さ。女の子特有の柔らかさが、直接チ○コに響いてくる。

 杏さんに夢中になっていたら。下半身とは違う、女の子特有の柔らかなものが背中に押しつけられた。

 

「私も、俊一くん大好き」

「うお。柚子さんっ」

 

 柚子さんの大きなおっぱい。みっちりしてるけど、ふわふわな膨らみで不意打ちされる。思わず変な声が出てしまった。

 しかも。

 

「待って柚子さん、そこ弱いんだから。って、あ、杏さんもっ」

「んっ。ちゅっ、ちゅ、ふわ……。俊一くん、気持ちいい?」

「ちゅ、ん、ちゅっ。声出してる大瀬良くん、可愛いよ」

 

 前後からお姉さんふたりに抱きつかれて、首筋にキスをされる。

 オレは首周りが弱点、というのはもう恋人たちの共通認識になっているようで。ちょっとまさぐられるだけで、ぞくぞくして震えてしまう。

 普段はオレの方が恋人たちを責めることが多いので。彼女たちの方から性的に迫ってくるのは、それはそれで嬉しいし、可愛らしくて堪らない。

 

「ふわぁ……。柚子さん、杏さん……」

 

 弱いところ、といっても責められているのは性感帯。嫌どころか気持ち良くなっているわけで。首周りを前から後ろから、女の子に吸い立てられるのはとんでもなく快感だ。

 

「俊一くん、ちゅっ、んっ。俊一くん……」

「ちゅ、ちゅっ、ちゅ。ん、はぁ……。んちゅ、んっ」

 

 名前を呼びながら、オレのうなじに何度も唇を押しつける柚子さん。

 声や震える反応を面白がって、オレの首元にキスしまくる杏さん。

 弱いところを前後からダブルで責められて、力が抜けてしまう。

 そのせいで、手がすべった。

 

「ひゃっ」

「あうんっ」

 

 ごめん、少し嘘。

 負けられないと思って、杏さんと柚子さんの股間に指をすべらせた。

 ふたりの格好は、大洗の制服をしっかり着たまま。短いスカートの下に手を差し込んだ状態だ。改めて考えると興奮する。指先に力がこもってしまう。

 

「大瀬良くん、あっ、はう、んんっ」

 

 オレの正面で抱きついている杏さん。

 お尻をつかんでいた手をもう少し奥へと伸ばす。

 小ぶりなお尻の分かれ目に沿って、前の方へと指を進めて。

 スカートをまくり。

 おま○こ部分を撫でる。

 チ○コと指の両方で、割れ目をなぞっていることになる。

 

「ん、ふ、あっ、あんっ。俊一くん、んっ、俊一くんっ」

 

 背中に覆いかぶさる柚子さん。

 ムッチリした太ももに手を這わせて。

 スカートの中に潜り込み。

 そのまま、おま○こ部分を擦る。

 後ろ手で悪戯している感じが、何だか妙に興奮する。

 

「ふたりとも、柔らかくて気持ちいい」

 

 杏さんも柚子さんも、指で軽く割れ目を刺激しただけで声を上げた。

 さっきまでのオレよりも大きく身体を震わせる。

 オレしか知らない、彼女たちの秘部の感触。

 そう思うだけで、気持ちが高ぶってしまう。

 

「ちょっ、大瀬良く、んんっ、はうっ」

「は、あ、俊一くん、あっ、俊一くんっ」

 

 少し中指に力を入れて、ショーツの上から割れ目に押しつける。

 杏さんの、柚子さんの秘唇を、指の腹で同時に撫でた。

 そして、人差し指と薬指で、おま○この土手部分をきゅっと挟む。

 右手で杏さんの。

 左手で柚子さんの。

 それぞれの股間に這わせて、くにくにぷにぷにと優しく弄る。

 ショーツの上からでも、極上の柔らかさは十分に伝わってくる。

 極楽だ。

 指の動きに合わせて、恥ずかしそうに声を上げる杏さんと柚子さん。

 激しくならないように、ゆったり丁寧に、ふたりの秘部を愛撫する。

 ショーツのクロッチ部分が愛液で湿ってきている。

 その上からオレが指を擦りつけているので、ぴったりと割れ目に張りついているのが分かる。動かすたびにショーツにシミが広がっていくのと、にじんだ愛液の水気が指先から伝わってくる。

 

「は、んんっ。あぅ、あんっ」

「はぁ、は、はぁー、ん。ふぁ、んっ」

 

 おま○こを弄られている杏さんと柚子さんが、息を乱しながら、オレにもたれ掛かってくる。

 杏さんは、抱きつきながらオレの右肩に頭を乗せて切なそうに。

 柚子さんは、オレの背中に手を置きつつ左肩に頭を乗せて喘いでる。

 年上のお姉さんがふたり、オレの両肩に頭を置いて。しかもすぐ耳元で快感の声を漏らしながら、熱い吐息を吹きかけてくる。

 もうね。我慢できるはずがない。

 

「柚子さん、ちょっと立って」

「はぁ、ん……」

「杏さんは、しっかり抱きついててね」

「あ、んんっ。ひゃうっ」

 

 ふたりの股間から指を離して、促す。柚子さんの手を取り、杏さんのお尻を抱えて、ソファから立ち上がる。

 もちろん、バキバキに勃起したチ○コは丸出しのまま。杏さんの、愛液が染みたショーツに押しつけた状態。むしろ立ち上がったことで、もっと強く押しつけることになる。

 ともあれ。

 蕩けた顔をしたふたりを促して。

 というか杏さんは大しゅきホールド状態で抱きかかえたまま。

 オレはベッドへと場所を移した。

 

 

 

 ―続く―




ごめん、ここまでしか書けなかった。
槇村です。御機嫌如何。


かなり間隔が開いてしまいました。
放置と思われるのもなんなので、書けたところまでをまず投稿。
次は杏さんと柚子さんとの3Pを最後まで。
でも今月中に更新できるかは怪しいです。
もう少々お待たせすることになってしまいます。

この二次エロ小説、改めて書こうとしている内容を時系列で並べてみたら。
学校が始まるまでまだかなり掛かることに気付いて愕然。
オリジナルのエロ小説も書き始めようとネタを組んでるのに。
つまりさっさと書けということですな。
頑張らないと。




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52:※とろけるリズム/柚子&杏

 杏さん、柚子さんを連れ立ってベッドへ移動する。

 といっても、杏さんは抱きかかえたまま。大しゅきホールド状態でしがみついている彼女を、片手でお尻をつかんで支えている。腕よりも腰、というかチ○コの根元に、あとは腕が回されてた首に体重が掛かっているので。あまり辛さは感じない。もともと杏さんは小柄で軽いしね。

 柚子さんは、オレに寄り添いながら自分で歩いている。そんな彼女の腰に腕を回して、密着しつつベッドまでエスコートする。

 涼しい顔をしながら、ベッドの上に杏さんを下ろして。

 その隣に柚子さんを座らせてから。

 いっぺんに抱き寄せるようなつもりで、ふたりに圧し掛かった。

 

「ひゃっ」

「あんっ」

 

 並んで横たわる杏さんと柚子さんに床ドンするような形になる。

 ふたりの顔の横に手をついて。

 肘をつき。

 頭に手を置いて。

 髪を梳く。

 そして、それぞれの頭を引き寄せて口づけをした。

 

「んっ。ちゅ、ふぁ、ん……」

「あっ。んちゅ、ん、んぅ……」

「はぁ……。ふたりとも可愛い。杏さんも柚子さんも、大好き」

「あー。正面からはっきり言われると、すっごい嬉しくなっちゃうよ」

「わたしも好き。俊一くん、大好き」

 

 ふたりに少し体重を掛けるくらいにくっついて。

 でも押しつぶさないように気をつけながらふんばりつつ。

 顔の両側に、杏さんと柚子さんの頬がくっつくくらいに密着する。

 ちょっと首を振るだけで、彼女たちの頬に唇が触れ。

 ちょっと口元を突き出せば、ぷるぷるな唇にキスできるくらい。

 杏さんに、柚子さんにと、交互にちゅっちゅっとキスしまくる。

 夢中で唇を重ね合う。

 

「はぁ、んっ。んちゅ、ちゅっ。ふぁ、ん……」

「ちゅ、ちゅっ、ん、んむ。ふぁ、しゅんいちくん、んっ。はぁ……」

 

 キスの雨あられ。思うままに、ふたりの唇をついばむ。

 杏さんも柚子さんも、オレのキスに応えようとしてくれる。

 杏さんにキスすると、柚子さんが頬や首筋に唇を押し当ててきて。

 柚子さんにキスすると、杏さんが首元やうなじに吸いついてくる。

 唇を重ねて貪り合う。舌を絡めて相手の唾液にまみれる感触に陶然とする。

 オレにしがみつきながら、気持ち良さそうに、でも真っ赤になってキスを求めてくる彼女たちが可愛過ぎる。

 たまらない。

 もっともっと貪りたい。

 でも、今は杏さんを優先する時間。

 

「柚子さんは、もうちょっとだけ待っててね」

「んっ。はぁ……」

 

 なだめるようにそう言いつつ、少し深めに柚子さんの唇を吸い立てる。続けて軽く、鼻先にキスをした。

 ちょっと不満げなところを見せつつも、言う通りに「待て」をしてくれる柚子さん。可愛い。普段から見慣れている大洗の制服姿で、そんな顔をされるとゾクゾクしてしまう。

 もちろん、杏さんも制服姿のままだ。

 オレの部屋のベッドの上で。

 制服のまま無防備に寝っ転がって。

 キスしまくって蕩けた目を向けている。

 制服の上着の裾がめくれてお腹がチラ見した状態で。

 スカートもまくれ上がって、細身の太ももと下着が露になっていた。

 興奮する。ズボンから飛び出たままのチ○コが、さらに硬くなる。

 

「ん。よっ、と」

 

 起き上がって、先にズボンとトランクスを脱いだ。下半身だけすっぽんぽんになって、杏さんの足に間に身体を入れ込む。

 再び覆いかぶさって、チ○コを彼女の股間に押しつけながら、またキスをする。

 

「んっ、ん、ぷは。ケダモノだよ、大瀬良くん……」

「蕩け顔の杏さんを見たら、我慢なんてできるわけないでしょ」

 

 がっついちゃっても仕方ないと思うんだよね。

 でも、乱暴に扱うつもりは少しもない。

 できるだけ優しく接してあげないとね。

 杏さんの心も身体もトロトロにほぐしていって。

 オレのモノだっていうのを刷り込んでいくのだ。

 

「痛かったり苦しかったりしたら、無理せず言ってね」

「気遣いというか、大事にされてるのは伝わってくるから嬉しいんだけど。なんだか、どこか違うような気がするんだよね」

「細かいことは気にしない。いいからオレ色に染まるのだー」

「ちょっ、優しくするって。んっ、あんっ。こらっ」

 

 問答無用とばかりに、杏さんと唇を重ねて。反論を封じてしまう。

 こんな時でも、おちゃらけてとぼけたようなやり取りになってしまう。そんな杏さんとの気安さはとても嬉しいし、心地いい。エロいことをするときでも、それは変わらなくて。また別の嬉しさがこみ上げてくる。

 でも今は、エロいことを優先する。

 杏さんのおま○この柔らかさと、ショーツの布地の感触が、チ○コから伝わってきて脳に響く。普段は奔放で頼りになるちっこいお姉さんが、オレに組み伏された状態でされるがままになっている。そのことに猛りがこみ上げてきて仕方がない。

 

「ひゃ、んっ、あんっ、はぅ……」

 

 首筋に顔を埋めて、杏さんのきめ細かい肌に唇を押しつける。

 跡にならない程度に強く。

 でも肌の下へとオレの跡をつけるようなつもりで。

 

「可愛い、杏さん。オレのモノだって染めちゃいたい」

「んっ……。いいよ、もっとして。大瀬良くんで染めちゃって」

 

 そんな嬉しいことを言ってくれる杏さん。

 喜びを詰め込んで、大好きと言いながら思い切りキスをする。

 同時に、手を下半身に伸ばしていく。

 ベッドに移動する前から、あれこれ弄り回していたおかげなのか、杏さんのおま○こは愛液を滴らせていた。

 ショーツに横から指を差し入れて、クロッチ部分をずらす。

 露になったワレメに、勃起したチ○コを押しつけた。

 

「挿れるよ」

「うんっ、ん……。はぁ……っ」

 

 ちょっと腰に力を入れるだけで、杏さんの潤んだ秘部に沈んでいく。

 陰唇が亀頭に絡まりついてくる、その気持ち良さに震えながら。

 ワレメを押し開いていくように。

 杏さんのおま○この奥へとチ○コを挿し入れていく。

 

「は、んっ。くふぅ……」

「杏さん、痛くない?」

「痛くは、ないよ。ただ、大瀬良くんのおっきいのでいっぱいになって、ちょっと苦しい、感じかな」

 

 杏さんの言葉に興奮する。

 たぶん、意識して口にしたセリフじゃないんだろうけど。

 背筋にすっごい快感が走っていく。

 

「お、やべ」

「んっ」

 

 腰が震えて、彼女の狭い膣内をえぐるように腰が動いてしまった。

 それを非難するかのように、膣壁がきゅうきゅうと締めつけてくる。

 

「うぁ。杏さん、嬉しいし気持ちいいし可愛いし、たまんない」

「そんなこと言われても。はぅ、んっ。また大きくなった気がっ」

「杏さんが興奮させるようなことを言ったせいだ、よっ」

「あんっ」

 

 彼女のナカの一番奥まで、ずっぷしとチ○コを挿し込んだ。

 小さい身体相応と言うべきか、杏さんの膣内は狭くてキツい。亀頭の先っぽが膣奥にくっついているけど、陰茎はまだ全部は納まりきれていない。

 それでも彼女のナカの膣壁は、もっと飲み込もうとするかのように吸いついてきて。痛いくらいの締めつけでチ○コを刺激してくる。

 下半身に広がる快感を噛みしめながら。

 杏さんに覆いかぶさった状態で。

 ツインテールの髪ごと頭を撫でつつ。

 ついばむように何度もキスをする。

 

「は、ん、んっ。お腹の奥、いっぱいにされたままキスされるとっ」

「何? キスされると?」

 

 キスをしながら、杏さんの膣内をチ○コでなぞるように腰を動かす。

 ゆっくり、まったりと、馴染ませるようにおま○こを掻き混ぜて。

 キスした唇から離れて、彼女を見つめながら意地悪く問い掛ける。

 

「そんな、恥ずかし、んっ、あんっ」

「恥ずかしがってる杏さん、可愛いなぁ」

 

 もっと恥ずかしがらせたい。

 なんてことを考えながら。

 杏さんのおま○この奥まで押し込んで、チ○コをぐりぐりと揺する。

 陰茎全体を舐めるように、膣壁がヌルヌルと絡みつく。

 彼女もそれが分かるのか、恥ずかしそうにオレに抱きついてくる。

 またそれが可愛らしくて。

 

「あぁもう。杏さん可愛い」

 

 杏さんの両頬を手で包み込んで、深くキスをする。

 同時に、腰を小さく揺さぶって。

 キツキツな狭い膣内に、まんべんなくチ○コを擦りつけていく。

 腰を前後に振るというよりも、小刻みに膣壁に押しつける感じ。

 杏さんのナカをいっぱいにし続けて。

 オレのモノを馴染ませる。覚えさせる。

 少しでも苦しさがないように、優しく何度もキスを繰り返して。

 慈しむようにして、杏さんを愛でる。

 上から下から、オレ色に染めようとする。

 

「んっ、ん、あっ。あぅ、は、あんっ、んんっ」

 

 キスをするたび。

 好きと言うたび。

 亀頭が膣奥のいいところを擦るたび。

 杏さんは声を漏らして身体を震わせる。

 それがまた可愛くて。

 甘やかすようにキスをして、頭を撫でて抱き寄せてしまう。

 

「大瀬良くんが、女の子扱いしてくれて、力いっぱい抱きしめてくれるのが嬉しい。いろいろ求められると、お腹の奥が切なくなっちゃう」

 

 抱きしめられながら、杏さんがふにゃふにゃの笑顔を向けてくれる。

 しかも、さっきよりストレートな言葉が出てきた。

 おまけに、背中へと腕を回されて。

 足を腰に絡ませてきて。

 挿入したチ○コを、おま○こが強く締めつけてくる。

 それこそ、上から下まで、杏さんは全身でしがみついてきた。

 可愛い。

 

「これからもずっと、杏さんを可愛がるし。オレのモノだって求め続けるし。そのたびに切なくさせちゃうから。覚悟してね」

 

 覆いかぶさり、頬と頬をくっつけて、頭を撫でてあげながら。そんなことを、杏さんの耳元で囁く。

 言われるまでもなく、杏さんも末永くオレのモノ。

 オレの気が多いのは、正直済まないと思うけど。質の悪い奴に気に入られたと思って諦めてほしい。喜んでもらえるように頑張るから。見限られないように。

 頑張りますともさ。いろいろと。

 想いを込めて口づけをし、舌をねじ込んで絡めていく。

 杏さんは、喘ぎと一緒にオレの名前を漏らしながら、キスに応えようとする。はっ、はっ、と息を乱して、唾液を混ぜ合わせるように舌を動かす。

 オレが彼女の、彼女がオレの口の中に、舌を差し込んで掻き回す。にゅるにゅるした感触に夢中になって、お互いの口内を貪り合う。

 

「はぅ、んっ、大瀬良くん。んちゅ、あっ、あんっ」

 

 そうしている間も、チ○コは挿入したまま。キスをしながら、ゆるゆると腰を動かしている。彼女のナカ、膣壁にまんべんなく陰茎を擦りつけるように腰を回して。あるいは浅く小さく、揺する程度に腰を前後に振る。

 じわじわと、下半身に快感が溜まっていく。

 杏さんのおま○こが、キツいけれど優しく、吸いついてくるように強く締めつけてきて。少し動くだけでもとんでもなく気持ちいい。

 おまけに愛液でぬるぬるになっているから。ナカの襞に擦れるたびにすごい刺激が押し寄せてくる。

 初エッチを終えたばかりの杏さんのおま○こは、まだオレのチ○コに馴染んでいなくて。ほぐれたといっても、いくらか硬さを感じる。でも快感を覚えてくれているのか、溢れるくらいの愛液でねとついていた。

 そのおかげで、杏さんのナカのキツさがかえって気持ちいい。強く締めつけてるのに、愛液のぬめぬめで滑りが良くなって、膣壁がスムーズに絡みついてくる。じっとしていても、しごき上げるように刺激してくるのがたまらない。

 

「はぁ、んっ。杏さん、気持ちいい。杏さんっ」

「んっ、ん、は……。わたしも、すっごく、切ないのに。もっとしてって、あっ、はんっ」

 

 激しく求めるというよりも、ゆったりとイチャつくようなスローセックス。どうやらお気に召したようだ。

 杏さんが痛みを感じないように、ゆっくりゆっくり、優しく優しく、腰を動かしていたおかげか。彼女の方も快感が募っていって、思った以上に高ぶっているみたいだった。吐息が乱れ、熱くなっていて、顔に吹き掛かるのがこそばゆい。

 オレが腰を前後するよりも、杏さんのナカの膣壁の動きの方が忙しない。きゅうきゅう、きゅっきゅっと、隙間なくみっちり締めつけてくるのを感じながら。膣奥までぐっとチ○コを押し込む。

 杏さんが絶頂寸前なのは、蕩けた表情からも、切なそうな吐息からも、おま○この締めつけからも感じられる。素直な反応を見せてくれる彼女が愛おしくて、覆いかぶさったまま、抱きしめた。

 

「大瀬良くん、切ないのが、きちゃう。きちゃうよ」

「いいよ、イって。切なさいっぱいの杏さん、見せて」

「あっ、やだ、んっ。あ、うんっ、ん。んんっ」

「くぅ。杏、さんっ」

 

 杏さんに、腕で抱きしめられて。

 足で腰を引き寄せられて。

 おま○このキツくてぬるぬるな締めつけに、チ○コが絞られる。

 あまりの心地良さと気持ち良さに力が抜けた。

 彼女の小さな身体に圧し掛かってしまう。

 同時に、さらに深くへと腰を押し込むことになり。

 杏さんのナカを、隙間がないくらいチ○コでいっぱいにしながら。

 射精のタガが外れて。思い切り、精子を爆発させてしまう。

 彼女のおま○この奥深くへと、思い切り注ぎ込む。

 

「あぅ、んっ、んぅ……。出てる、大瀬良くんのが、いっぱい……」

 

 スローセックスで、オレのチ○コに馴染ませるように、杏さんのナカを味わいつつ。少しずつ高まりながら、絶頂させて、マーキングする。

 射精を受ける杏さんが、性感に蕩けた表情を向けるのがたまらない。

 

「オレの杏さん。可愛い。杏さん、好き、可愛い。大好き」

 

 愛おしさと気持ち良さに任せて。

 中出ししながら。

 杏さんの耳元で好き好きと言い募る。

 それに応えるように、彼女の抱き着く腕も足も、膣壁まで、強く強く締めつけてくる。

 ぎゅーっと。

 きゅっきゅっきゅっと

 もっとしてとおねだりするみたいに。

 

「ふぁ、あ、大瀬良くん。ん、ふぅ、おおせらくん……」

 

 密着。組み伏して、抱きつかれて、ぴったりと。

 ただし、制服越しに。

 オレの方はズボンを脱いでる。でも杏さんの方は、制服姿のまま。上着もはだけず、スカートも脱がしていない。ショーツもそのままで、横ずらしして挿入。絶頂から射精までそのままだ。

 杏さんには申し訳ないけど、すっごく興奮する。

 

「杏さんも、オレのモノ。これからもずっと、可愛がってあげるから」

「……うん。ずっと、可愛がって」

 

 絶頂で力の抜けた無防備な笑顔で、杏さんが抱きしめ返してきた。

 可愛い。

 普段から見慣れた大洗学園の制服姿で、杏さんとつながっている。

 中出しされながら絶頂して、快感で顔を蕩けさせている。

 可愛くて、エロい。

 おま○こに挿入したままのチ○コが、射精したばかりなのにまた硬くなっていく。

 と、そこに。柚子さんが、オレの背中にもたれ掛かってくる。

 

「杏もすっかり、俊一くんに夢中だね」

 

 むにゅり、と。大きくて柔らかいものが押しつけられる。

 制服の上からでもしっかり伝わってくる、その膨らみの大きさ。

 可愛い杏さんに中出しした余韻に浸りながら、柚子さんのおっぱいの感触を味わうとか。なんて贅沢なサンドイッチ。

 杏さんの、めくれた制服から覗くお腹に手を置いて、優しく撫でる。

 他の男に目が行かないように、もっと可愛がってあげなきゃ。

 

「いつもの頼れる先輩な杏さんもカッコいいけど。甘えてくる杏さんの可愛さを知ってる男はオレぐらい、って考えると、ゾクゾクしちゃう」

「わたしもそこそこ長い付き合いになるけど、こんな誰かにべったべたな杏って見たことないよ?」

「男冥利に尽きるなぁ」

 

 息を乱しながら絶頂に浸っている杏さんを眺めつつ。ゆっくりと腰を引いて、膣奥まで押し込んでいたチ○コを引き抜く。中出しした精子が、カリに掻き出されて、少しおま○こから垂れ落ちた。

 エロくて腰が震えてしまう。

 愛液と精液にまみれた怒張はまだまだ元気。射精して少し力が抜けたけど硬さは失っていない。我ながら頼もしい。

 

「俊一くん。次は、わたしだよ」

 

 柚子さんが背中に張りついたまま、おねだりを囁く。

 うなじにキスをしてきて。

 大きなおっぱいをむにゅむにゅと押しつけながら。

 オレの下腹部に、さわさわと手を這わしてくる。

 こそばゆい。

 でもそれ以上に性感が刺激されて、ゾクゾクする。

 

「お願い。わたしも、可愛がって」

「もちろん。柚子さんも、オレのモノだからね」

「俊一くん、好き」

「オレも大好き」

 

 柚子さんの頭に手を回して、キスをする。

 重なる唇と、押しつけられる身体の柔らかさ。

 特に大きな胸のぽよよんとした膨らみの感触がたまらない。

 

「柚子さん、こっちおいで」

 

 背中にしがみついていた彼女に、オレの横へと移動してもらって。

 そのまま抱き寄せつつ、また唇を重ねる。

 

「んっ。ちゅっ」

「あっ。んむ、ふぁ。はふ……」

 

 柚子さんの腰に手を回せば、彼女はオレの首にしがみついてくる。

 お互いに唇を押しつけて、舌先を触れ合わせる。柚子さんはもう、気持ち良さそうなトロトロ顔になっていった。

 

「柚子さん、横にするよ」

「んっ。あんっ」

 

 まだオーガズムの余韻に酔っている杏さんの横に寝かせる。

 スプリングが鳴って、柚子さんの身体が沈んだ。

 その上からオレは覆いかぶさる。

 柚子さんの頭の横に手を置いて、再び床ドンな状態に。恥ずかしさとか嬉しさとかもろもろで、真っ赤っかな彼女の顔が目の前にくる。

 どれだけ見つめても、やっぱり柚子さんは可愛い。

 彼女の頬に手を添えて、深く、深く、キスをする。

 

「はぁ、んっ、柚子さん。んちゅ、ちゅっ。柚子さん」

「んは、あ、あふ、俊一くん。しゅんいちくん……」

 

 ぴちゃぴちゃ、ねろねろと、唾液が絡まる音を立てながらキス。

 さらに身を任せるように圧し掛かっているから、柚子さんの大きなおっぱいが制服越しに、オレの胸板に押しつけられる。

 短いスカートがまくれ上がって、むっちりした太ももが露に。

 その両足の間に身体を押し込んで。

 杏さんの愛液にまみれたチ○コを、柚子さんの秘部に押しつけた。

 ショーツの上から、愛液の湿り気を感じつつ。濡れてできた染みを広げるように、おま○このワレメに沿ってチ○コを擦りつける。杏さんを抱いていて「待て」をしている間に、柚子さんはもうすっかりぬれぬれになっていたみたい。

 指でも、チ○コでも、直接的間接的を問わず何度も触れた、柚子さんのおま○こ。何度目であっても、やっぱり気持ちいいし、興奮する。

 

「柚子さん、挿れるよ」

「うん、きて。あっ、んんっ……」

 

 着ている制服はそのまま。

 ショーツをずらして。

 柚子さんのおま○こに、チ○コを押しつける。

 少し腰に力をこめるだけで、オレのモノはすんなり飲み込まれた。

 

「入ってきた、んっ、はぁ……」

「はぁぁ……。柚子さんのナカ、気持ちいい……」

 

 下半身が蕩けそう。

 愛液でぬるぬるになった膣内が、オレのチ○コをぐにゅぐにゅと包み込む。亀頭の先から陰茎の根元まで、まんべんなく膣壁がからまりついて。しごき上げてくるのがたまらなく快感だ。

 気持ち良過ぎて、腰をもっと押しつけてしまう。柚子さんの奥の奥まで、オレのモノでいっぱいにして。少しでも広く、大きく、柚子さんのおま○こに包まれようとする。

 

「柚子さん、柚子さん。柚子さんっ」

「しゅんいち、くん。しゅんいちくんっ」

 

 股間に体重を掛けながら、柚子さんと密着する。

 制服を盛り上げている大きなおっぱいを胸板で押しつぶして。

 彼女の頬に手を添えて。

 もう片方の手で頭を抱きながら。

 何度も何度もキスをする。

 何度も何度も、チ○コを柚子さんの膣内全体に擦りつける。

 

「んっ。あ、はぅ。あっ、あっあっ」

「柚子さん可愛い。柚子さん好き。可愛い。大好き」

 

 キスの合間に漏れ出る、柚子さんのエロい喘ぎ声と熱い吐息。

 口元に、首元に、吹き掛かるたびにたまらなくなる。

 ねっとりと、唇を重ねて、舌を絡ませながら。

 名前を何度も呼んで、好き好き、可愛い可愛いと囁く。

 柚子さんは蕩け顔のまま、すっごく嬉しそうにする。

 それがまた可愛くて、たまらずキスをする。

 腰を揺する。

 チ○コを擦りつける。

 

「あっ、ん。俊一くん好き、好き。わたしも好きっ」

「嬉しい。柚子さん、オレの柚子さんっ」

 

 派手に腰を動かしたりしない、スローセックスな交わり方。

 でも内面の盛り上がり方は、オレも柚子さんもスローとは言い難い。

 杏さんとの中出しセックスで、オレは身体中が敏感になってたし。

 柚子さんもおあずけをされていたせいで、すっかり盛り上がってた。

 高ぶり過ぎて、射精感があっという間にリミットを越える。

 彼女の方も、締めつけが絶頂寸前の優しくキツイものになっていた。

 

「ごめん柚子さん。気持ち良過ぎて、もうイッちゃいそう」

「わたしもっ、イク、あんっ。俊一くん、わたしにいっぱい出してっ」

 

 彼女の方から、ナカに出してと言われる。

 そこまで想われていることに喜びと、悦び、興奮がこみ上げる。

 さっき、杏さんのナカへといっぱい注いだのに。それに負けないくらいの精子が下腹部に渦巻いてくるのが分かる。睾丸とチ○コのつけ根でぐるぐると練り上げられていくモノが、外に出せとせっついてくる。

 柚子さんのおま○こが、それを吸い取ろうとするかのようにチ○コに絡まりついてきて。擦り上げ、揉み込み、きゅきゅきゅっと締めつける。

 精子どころか精根まで吸い尽くされてしまいそうな快感。

 

「く、イクっ。出るっ」

「あっ、ああっ、あんっ。は、んっ、んんんっ」

 

 何度味わっても我を忘れそうになる気持ち良さに、柚子さんを組み伏せ、抱きしめながら。こみ上げるものを我慢することなく注ぎ込む。

 

「柚子さん。オレの、柚子さんっ」

「ふぁあ、あっ、あっ。俊一くんのが、お腹の奥、にぃ……」

 

 柚子さんを逃がさないように、がっちりと抱きしめたまま。おま○この奥へと精を注ぎ込む。染み込ませるようにチ○コを押し入れる。

 彼女の方も、オレを逃がさないとばかりに抱きしめてくる。腕は首の後ろに回して、足は腰に絡みついてくる。

 

「柚子、さんっ」

 

 どくっ、どくどくっ、という感じで。重くて濃い精の塊が、柚子さんのナカをいっぱいにしていく。

 気持ちいい。

 柚子さんエロい。

 可愛い。

 好き。

 頭の奥の方が少し朦朧としていくような気がしてくる。

 チ○コを搾り取ろうとする膣壁の動きと。

 腰回りに絡みついてくる太ももの柔らかさ。

 制服越しでも感じ取れるおっぱいのむにゅむにゅ感。

 抱きついて、耳元でオーガズムの声をあげる柚子さん。

 どれだけ注いでも足りないくらいに、猛って仕方がない。

 

「柚子さん好き。ずっと好き。オレの柚子さん。オレだけの柚子さん」

「はぅ、ん、うん……。わたし、俊一くんだけだから。俊一くん専用だから」

 

 うめくように、柚子さんをオレのモノ扱いしながら。彼女のナカへと射精する。震える睾丸の中身を、柚子さんの奥深くまで注ぎ込む。

 

「はぁ……。柚子さん……」

「しゅんいちくぅん……」

 

 オレも、彼女も、すっかり脱力して。絶頂で息を乱しながら、重なり合った状態で、キスをする。

 唇が重なって、舌が触れるたびに、柚子さんのおま○こが優しく締めつけてくる。きゅっ、きゅうきゅうと。それが気持ち良くて、またチ○コが硬くなってしまう。

 覆いかぶさっていた自分の身体を持ち上げた。

 目の前には、オーガズムとキスで蕩けた顔をした柚子さん。

 正常位で下半身はつながったまま。

 しかも大洗の制服は脱がしていない。

 完全着衣のまま、恋人ふたりを絶頂させて、思い切り中出しした。

 そんなエロ全開の興奮に改めて高ぶっていると。

 

「わたしにも小山にも、遠慮なくナカで出しちゃってさ。鬼畜だよね」

 

 やっぱり制服姿なままの杏さんが、柚子さんの横に寝っ転がったままそんなことを言ってくる。

 口調はからかうような感じだけど、顔はもう真っ赤っかだ。

 すぐ横で、柚子さんがオレのモノ扱いされながら乱れていくのを見せられていたんだから、無理もないと思う。

 でも、同じように精子を注がれたお腹をしきりに撫でていて。ちょっと嬉しそうに見える。そんな顔で鬼畜とか言われても、オレはかえって悦んじゃうよ。

 

「杏さんも、柚子さんも、身体の奥からオレのモノだって染めちゃいたいっていう気持ちでビンビンだからね」

 

 独占欲でいっぱいなセリフを、なんの照れもなく言ってみせる。

 杏さんはそれを聞くなり、恥ずかしそうに、真っ赤な顔をうにゅうにゅさせた。生徒会室や校舎では見せることのない、可愛らしい反応にオレは胸がキュンキュンして仕方がない。

 絡みついて離れようとしない柚子さんのおま○こから、チ○コを抜く。名残惜しそうに、柚子さんが色っぽく声を上げた。

 もっと可愛がってあげたいのはやまやまだけど。

 次はまた、杏さんの番なのだ。

 

「杏さん」

 

 柚子さんから離れて、ベッドの上で杏さんににじり寄る。

 ロックオンされた彼女は、少し身を強張らせた。

 でも、逃げるような素振りは見せなくて。

 あっさりと、オレに組み伏されてしまう。

 

「あう……」

「ケダモノだって自覚はあるよ。でもその分、普段はべったべたに甘やかしてあげるし。いや、ベッドの上でも可愛がってることには違いないかな?」

「好き勝手言ってくれちゃって」

「柚子さんも杏さんも大好きだから。ふたりともいっぱい可愛がりたいし、オレでいっぱいにしてあげたいのは本心だから。嫌がることはしてないつもりだけど」

「いやまぁ、イヤではないんだけど」

 

 オレの下で、なにやらゴニョゴニョと言いながら身をよじる杏さん。そういう可愛い反応を見せられると、もっと愛でてあげたくなる。

 

「可愛いなぁ、杏さん」

「あっ。んむ、んっ」

 

 覆いかぶさったまま、唇を近づけて。

 そっと、優しくキスをする。

 ちゅっ、ちゅっ、と軽く重ねるだけ。

 だけどあっという間に、杏さんの表情が嬉しそうに緩んでしまう。

 そんな反応に気を良くして。

 軽いキスを繰り返しながら。

 杏さんの制服を脱がしていく。

 

「今度は裸の状態で、ぴったりくっつこうね」

 

 上着のチャックを下ろして、はだけさせる。

 つつましいけれど、可愛らしいおっぱいを包むブラジャー。

 その上から優しく、膨らみを撫で回す。

 同時に、杏さんの身体をよじらせながら。制服の上着から腕を抜いて、脱がす。

 ブラジャーのホックも外して、しゅるしゅると脱がしてしまう。

 あっという間に上半身を裸にされてしまった杏さん。

 自分の状態に気がついて、目を白黒させている。

 

「ちょっと大瀬良くん。手際がいいにも程があるでしょ」

「裸の杏さん、綺麗で可愛い」

「恥ずかしいけど、正面からそんなこと言われると照れる……って、違う。そうじゃなくて!」

 

 オレに組み伏されたまま、杏さんが腕を上げて吼えた。

 ごまかされてるとでも思ったのかな。そういうつもりはないんだけど。単純に、杏さんを裸にしてしまいたいだけで。

 丸出しになった胸を隠そうともしていない、杏さんの無防備さを突いて。オレは彼女のおっぱいに吸いついた。

 

「あむっ」

「ひゃうっ。ちょ、大瀬良く、あんっ」

 

 ゆるやかな膨らみの先っぽで、ぷくりと自己主張している乳首を口に含む。ちゅうちゅうと吸い立てて、唇で挟んでしごき、舌先でねっとりと舐る。

 もう片方の胸には手を置いて、やわやわと撫でさする。自分でさんざん小さい小さいと言ってるけれど、触ってみればちゃんと膨らみを感じられるし、触り心地がとてもいい。

 大きいかどうかというのは、あまり重要じゃない。

 杏さんのおっぱい、というのが興奮するのだ。

 

「杏さんのおっぱい。ちゅっ、れろ、ん。可愛い。ちゅ、ちゅっ」

「こら、大瀬良く、んひっ。やんっ、噛むなぁっ」

 

 硬くなった乳首が自己主張してきたので、くりくりと弄りまくってしまう。杏さんの乳首、可愛い。

 なだらかな丘を手のひらで撫で回しつつ、乳首に指を引っ掛けて、くりくりとこねくり回す。杏さんの乳首が硬くなってる、っていうのが指先から伝わって来て、妙に興奮してしまう。

 

「今度はこっちを。はむっ」

「あんっ。あんまりしつこく、舐めるなぁっ」

 

 杏さんの右のおっぱいに続いて、左のおっぱいに吸いついた。

 指で転がして硬くなった乳首を、唇ではみながら、ちゅうちゅうと吸い立てる。さらに、乳輪に沿ってまんべんなく舐め上げる。

 さっきまで舐め回していた右の乳首は、今度は指でコリコリと弄る。胸全体をゆったりと撫でながら、優しく優しく愛撫する。

 

「大瀬良くん。あんっ、あ、んんっ」

 

 乳首を責められて、羞恥からか快感からか、杏さんがオレの頭を抱きかかえてきた。おかげでおっぱいに顔を押しつけられて、口元に柔らかな感触が広がっていく。

 

「は、んっ、あぅ。んぁっ」

 

 オレの頭を抱きしめていても、杏さんの嬌声は止まらない。もし抵抗しているつもりで抱きしめているんなら、むしろ興奮してしまうので逆効果だ。

 そのまま舌を動かして、口の中にふくんだ杏さんの乳首を舐め回し、転がし倒すのに夢中になった。

 

「俊一くん。ちょっと手をこっちに、そうそう」

「んー」

 

 杏さんのおっぱいに夢中になっている間、柚子さんはオレの上着を脱がしてくれていた。ボタンを外し、上着から腕を抜こうとする彼女を助けるように、身体を動かしながら。下も上も素っ裸にされてしまう。

 柚子さんもいつの間にか制服を脱いでしまっていたようで。全裸になった彼女が、改めて背中に抱きついてきて、おっぱいを押しつける。大きくてむにゅむにゅな、柔らかくて至福な感触が背中に広がる。

 正面には、杏さんの控えめなちっぱい。

 背面には、柚子さんのボリュームたっぷりな巨乳。

 幸せ過ぎる。

 

「ちょっと大瀬良くん。わたしの胸をいじめながら、小山のおっぱいにデレデレしないでよ。失礼じゃないか」

「え、そんな顔してた?」

「小山が抱き着いた時、すっごいだらしない顔してたよ」

 

 どうやら顔に出ていたようだ。

 幸せを感じたのは事実だけど、それはちょっと違う。そこは言い訳させてもらわないと。

 

「デレデレしちゃったのは、杏さんのおっぱいと、柚子さんのおっぱいに挟まれたからだよ。柚子さんだけがどうこうじゃないよ?」

「でもそれは、んひゃっ」

 

 反論は受け付けません。再度、杏さんのおっぱいにしゃぶりつく。

 ちゅっちゅっ、ちゅーっ。

 ぺろぺろ、れろれろ。

 強くならないように気をつけながら、可愛く勃起した乳首を吸い立てた。杏さんのおっぱい、最高だ。

 音を立てて舐め回すと、彼女は身体を震えさせる。でもオレの頭を抱きしめる力は緩めようとしない。

 可愛い。

 胸を責め立てながら、杏さんの腰に手を伸ばして。

 スカートのチャックを下ろす。

 杏さんの身体を抱きしめるようにして密着。自分の身体ごとちょっとずらして、腰を浮かせる。そこからするすると、スカートを脱がせた。

 ついでにそのまま、身体を反転。

 オレが仰向けになって、杏さんが身体に乗っかるような体勢に。

 

「え、どうやったの今。というかスカートまで脱がされてる」

「裸の杏さん、可愛いよ」

 

 今度はオレの方から手を伸ばして、彼女の身体を抱きしめる。杏さんのちっぱいがオレの顔に押しつけられるような形になって、そのままホールドするような感じに。顔全体に広がるむにむにな柔らかさ。あー、最高だなー。

 なんて風にひとりで悦に入っていたら。

 

「この、えいやっ」

「ふむっ」

 

 杏さんの方も、オレの頭を抱きしめてきた。

 自重でおっぱいが押しつけられて、さらに彼女の腕の力でより強く押しつけられる。もう柔らかいというよりも、口と鼻がおっぱいでふさがれる苦しさの方が強くなってしまう。

 

「ほらほら、大瀬良くんの大好きなおっぱいだよー」

「ふむっ、んっ、んんーっ」

「んー? 何言ってるか分からないなー」

 

 杏さんが胸をぐりぐりと、オレの顔に押しつけてくる。

 いやさ、杏さんのおっぱいに埋もれてるのはすっごい嬉しいんだけど、それにも限度はあるわけで。

 鼻呼吸がいくらか自由になるだけの状態で、必死に呼吸をしているオレ。ベッドの上で裸になってプロレス、というか本来の意味でギブアップしてしまいそうなんだけど。

 さらに、そこへ柚子さんが乱入してきて。

 

「杏とだけ楽しそうにしてるのは、寂しいなぁ」

 

 なんて言いながら、仰向け状態のオレの太ももに手を置いて。

 勃起し直したチ○コを舐め始めた。

 

「れろ、ん、ちゅぷ。ちゅっ、んちゅ。ん、はふ……」

「んむ、ふ、ん、んんっ」

 

 柚子さんの舌が、まだ元気を残しているチ○コを舐め上げる。

 ついさっき、自分の中に射精したばかりのチ○コを、彼女が躊躇いもなく舐めてくれている。そう考えるだけで、またまた興奮してしまう。顔全体に広がる、杏さんのおっぱいの柔らかさも合わせて、もうビンビンだ。

 でも、さすがに息苦しさの方が強くなってきた。

 

「んっ、んー。ふはっ」

 

 ちょっと強めに頭を動かして、杏さんの胸に包まれた状態から脱出。口元と鼻の自由を取り戻す。

 深めに呼吸をして落ち着こうとするけれど、頭の側面にはまだおっぱいの感触が残っていて。しかも視界の端には杏さんの乳首がまだ見える。なんというか、極楽だなコレ。

 

「ちょっと大瀬良くん。せっかくカノジョが頑張ってご奉仕してるっていうのに、その反応はないんじゃないのー?」

「いやいやいや。確かにすっげぇ嬉しいけど、息ができないのは問題でしょ。確かにすっげぇ嬉しかったけど」

「2回も言うこと?」

「何回でも言えるよ?」

 

 優勢に立ったつもりだったのか、ドヤ顔をしていた杏さん。

 でもオレのストレートな返しで、また顔を真っ赤にさせた。

 可愛い。

 と思ったら、またオレの頭を抱きしめてくる。こめかみ、耳から頬にかけて、頭の側面全体に幸せな柔らかさが広がる。杏さんのおっぱい、最高だろ。

 そうしている間も、下半身では柚子さんがご奉仕を続けていて。

 

「れろ、ん、んちゅ。はぁ、ん、んっ。ふぁ……」

 

 仰向けになったオレの上に、杏さんが乗っかっているおかげで、柚子さんの姿はよく見えない。でもチ○コ全体を這い回る舌と唇の感触、唾液のぬめり気はしっかり感じられる。見えないけど吐息だけ聞こえてくる、っていうのも、それはそれでエロいな。

 というか、今の状況そのものがすさまじくエロい。

 杏さんに抱きつかれ、彼女のおっぱいに顔をうずめさせられて。

 柚子さんにチ○コを舐められて、丁寧にフェラチオをされている。

 上から下まで、女の子の肌と柔らかな感触に包まれて。

 

「やっべぇ。幸せ過ぎてダメになりそう……」

 

 思わず声が漏れ出てしまう。

 それぐらい、最高だった。

 

「喜んでくれるなら、わたしも嬉しいなぁ」

「わたしたちを幸せな気持ちにさせてくれる分、お返ししないとね」

 

 杏さんは、丸出しの胸にオレの頭を埋めて撫で回しながら。

 柚子さんは、ぬるぬるになったオレの股間を揉みほぐしながら。

 嬉しいことを言ってくれるふたり。

 愛想を尽かされないように、みんなと釣り合ういい男にならないと。

 そんなことを改めて考えつつ。

 年上のお姉さんたちの可愛らしさと柔らかさに溺れるオレだった。

 

 

 

 ―続く―




ギリギリ8月中に間に合った……。
槇村です。御機嫌如何。


約1ヵ月半ぶりです。
すっかり書き方を忘れてしまったような気がする。
みんな太陽のせいだ。(責任転嫁)

次回は日常回になる予定。
誰の何を書くかはまだ決めていません。
書きたいところに届かなくて悶々としてしまうな。
早く書き進めないと。




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53:ガールズ・トーク/みほ、まほ&自動車部

西住姉妹と自動車部の4人が駄弁るだけです。



 修復された戦車が校庭の片隅を走り回り、乗り込んだ俊一が大はしゃぎ。操縦する西住姉妹と、直してみせた自動車部の4人を手放しで褒め称え。前者を笑顔にさせて、後者を照れで思い切り赤面させてから。俊一は彼女たちの作業場であるガレージをお暇した。

 彼を乗せて走らせはしたが、これはあくまでも動くというだけのことで。車体の耐久性であるとか、砲がきちんと機能するかだとか、もろもろの動作の微調整だとか、確認すべきことはまだまだ山のようにある。

 みほとまほ、ナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤの自動車部4人は、気を取り直して戦車の整備に取り組みだす。戦車道の知識と、自動車整備の技術を、互いにすり合わせ、あれやこれやと声を掛け合いながら戦車をいじる。

 西住姉妹の戦車に対する造詣の深さが、自動車部4人が持つ車輌全般に通じる技術と知識に乗る。彼女たちの「できること」が噛み合って。20年以上前の戦車を、より自然でスムーズな動きができるように蘇らせていく。

 それが楽しくて楽しくて。

 気がつけば、時間はもう夕方過ぎ。空は暗くなり始めていて、校庭には灯りが点いている。学園敷地の端にあるガレージの中では手元が見えづらくなっていた。

 

「もうこんな時間か。早いな」

「楽しいことに集中してたら、そんなのいつものことだよ」

 

 車庫内のガレージに戻した戦車、IV号戦車D型の履帯部分を覗き込んでいたまほが、身を起こして大きく伸びをする。同じ部分に手を突っ込み、レンチを繰っていたナカジマは、彼女の言葉に笑いながら応える。

 

「暗くなってきたことだし、そろそろ切り上げるかー?」

「お腹もすいてきたしねー」

 

 戦車の向こう側から、ホシノとスズキが声を上げた。まほとナカジマがいるのとは反対側の履帯部分をいじっていたふたりにも、まほの声は聞こえていたようだ。

 

「修理を急ぐ必要はないんでしょ。続きはまた明日にしようか」

 

 そういいながら、ナカジマは締めた箇所のゆるみを確認して、手にしたレンチを差し出す。まほは、ごく自然にそれを受け取り、工具箱へとしまい込んだ。

 

「ツチヤー。みほさーん。そろそろ上がるよー」

 

 ナカジマも立ち上がって、屈みっ放しだった身体をほぐすように大きく伸びをしつつ。戦車の上の方へと声を掛ける。まほ、ナカジマ、ホシノ、スズキが履帯周りをいじっている間、みほとツチヤは戦車内部に入り込んでいた。

 ナカジマの声が聞こえたのか、みほの声が戦車の中から返ってくる。

 

「お姉ちゃーん。ちょっと砲塔動かすから、気をつけてー」

「ん、分かった。ホシノ、スズキ、砲塔が動くから気をつけろ」

「はいよー」

「りょうかーい」

「ふたりともー、動かしていいよー」

 

 ナカジマが返事をするなり、砲塔が動き始める。ゆっくりと、右へ、左へと、砲身を大きく振る。

 

「ふむ。思ったよりスムーズになったな」

「軋むような音も聞こえないし、これで問題ないかな?」

「実際に撃ってみないことにはなんとも言えないけど」

「平気だと思うよ?」

 

 動く砲身を見上げる、まほとナカジマ。戦車の反対側にいたホシノとスズキも移動してきて、つぶやきに参加する。

 砲塔や砲身の金属が劣化しているかと思われたが、幸いそういうことはなかったようで。戦車用砲弾の実射はまだできていないが、無事動くようになったことに一同は安堵する。

 

「よーし。砲塔周りはきっちり動くようになったねー」

「ツチヤさん、お疲れ様」

 

 砲塔部分のハッチが開き、中からツナギ姿のツチヤが這い出てきた。それを追い掛けるように、ジャージにTシャツ姿のみほも姿を見せる。

 ツチヤはツナギの上着を盛大にはだけさせて、みほはTシャツの襟元をつかんで風を入れようとする。ふたり揃って汗をぬぐいつつ、胸元を扇ぎながら涼を取ろうとした。

 

「戦車の中って、思った以上に暑くない? 今はまだしも、夏場なんて暑さでのぼせちゃうんじゃないかな」

「今の戦車はそうでもないよ。それなりに冷暖房もついてるし」

 

 戦車の中という密室の暑さにツチヤが辟易とし。

 それを受けて笑いながら、みほが現行戦車のエアコン事情について語る。

 

「この戦車は20年くらい前の構造そのままだから。車輌の修復だけじゃなくて、そういう装備の追加も考えないとダメかも」

「まずはエアコン設置が急務かなー」

「それでも快適とは言い切れないけどね」

 

 汗まみれは勘弁してというツチヤに、苦笑いで同意するみほ。

 仲良さげにやり取りするふたり様子を見て、姉のまほは微笑ましさに表情をゆるめていた。

 

 

 

 

 ひとまず今日のところは切り上げるということになって。ガレージの隅にある詰め所のような部屋へ入る。彼女たちはそこを更衣室にして、ジャージやツナギに着替えていた。それぞれが作業していた服を脱ぎ、タオルで汗をぬぐいながら、あれこれ会話を交わす。

 その内容は、今日のうちに進んだところについてがほとんどだった。

 とはいえ、戦車の修理は急いでやるべきことでもない。早く直るに越したことはないが、突貫作業をせねばならないというわけではなかった。

 ならば、戦車について基礎を学びながらの方が、効率がいいのではないか。西住姉妹はそう考える。

 そして機械いじりが趣味な自動車部の4人も、経験者から詳しく教われるのなら大歓迎。むしろいろいろ教えてくれと迫る勢いだった。

 

「お姉ちゃん。俊一くんに渡すつもりだった教本とか、あるよね」

「そうだな。手取り足取り戦車道を教えるつもりだったが、アッサムに先を越されてしまったことだし。ナカジマたちに渡してしまってもいいか」

 

 仕方ないなと、残念そうに言う姉に、妹は苦笑しきり。

 戦車道についてほぼ知識のない俊一のため、懇切丁寧に教授すべく、関連書籍やら資料やらを大量に用意していた西住姉妹。しかし視察に行った聖グロリアーナ女学院で、触りだけとはいえアッサムに先を越されてしまっていた。

 まほは、それが面白くなかったようで。未だにぼやいたりする。

 そんな姉の姿に、みほはまたおかしくなって、笑ってしまいそうになる。

 妹の目から見ても、黒森峰にいた頃、まほは感情を表に出すことは多くなかった。それが自然とできている今の姉の姿に、嬉しさを感じてしまう。

 妹・みほがそんなことを考えていることには気付かずに。まほはナカジマと話を続ける。

 

「元々は俊一のために用意したものだが、戦車道関係の本や資料がそこそこある。良ければ持っていくか?」

「いいの? 戦車の仕組みとかちょっと勉強しようかなと思ってたから、すっごくありがたいけど」

「構わない。こうして修理も手伝ってもらえてることだしな」

「じゃあ、分からないところがあったら、そのつど教えてもらえるかな」

「それくらいはお安い御用だ」

「本職の指摘をもらえるのは心強いよね」

 

 ホシノとスズキも加わって、思わぬ申し出に喜ぶ自動車部の面々。機械の面ではともかく、戦車道という面では彼女たちも無知同然だ。戦車に対する知識について、まほとみほが博識で頼りになることは身をもって感じている。そんな彼女たちが選んだものなら、役に立つに違いない。

 

「じゃあ、このまま受け取りに行っちゃってもいいかな?」

 

 善は急げとばかりに、ナカジマがそんなことを言ってくる。

 まほにしても、断る理由はなく。じゃあ皆で私たちの部屋まで来るか、と誘うことになった。

 

「……お姉ちゃん。大変だよ」

 

 そこで、みほはあることに気付き、愕然とした表情になる。

 一体何事かと思えば。

 

「わたし、お友達を部屋に呼ぶなんて初めてかも」

 

 本気で漏れ出たのは、そんな言葉。

 妹の言うことに、まほもはっとした。

 思い返してみれば、彼女もそんな記憶はない。

 西住姉妹が黒森峰にいた頃、学園艦ではふたりとも寮住まいだった。西住流、という名前を背負っていたこともあって、気軽に誰かを部屋に招くといったことはしたことがない。熊本の実家、西住の屋敷ならなおさらだ。

 

「みほ。私もたぶん、初めてだぞ」

「すごい。普通の学生みたいだよ、お姉ちゃん」

 

 まほとみほは手を撮り合って喜びを見せる。姉は静かに。妹はひと目で分かるくらいの笑顔で。

 ナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤの4人は、西住姉妹のはしゃぐ姿に少し戸惑い気味だ。少し前までいたという黒森峰ではどんな学園生活を送っていたのかと。

 とはいえ、迷惑だとは思われていない、ということは分かる。

 それならいいかと、自動車部の4人はいろいろとスルーすることにした。

 

「どうせなら、お泊り会でもするか?」

「じゃあそのまま戦車道教室をしてもらおうよ」

「わたしたちも車トークで夜明かししたりとか、よくあるしね」

 

 言い出しっぺのナカジマに乗っかるようにして、ホシノもスズキもツチヤも言葉を続けてくる。

 手をつないだままの西住姉妹が、改めて彼女たちに顔を向けてきた。

 

「お泊り会!」

 

 ことに、みほが強い反応を見せる。目をキラキラとさせながら。

 いわく。

 

「お泊り会なんて、仲のいい友達みたい!」

 

 それを聞いて、ナカジマたちはまたも苦笑い。

 この娘は今さら何を言っているのか、と。

 

「私たちはもうとっくに友達のつもりだったけど」

「車と戦車の違いはあっても、機械いじりの話ができる相手は貴重だ」

「むしろこちらの方こそ、仲良くしてほしいよね」

「もちろん、まほさんもだよ?」

 

 笑いながら軽い口調でそんなことを言う、新しい友達を前にして。

 みほとまほは、まぶしいくらいの笑顔を返した。

 

 

 

 

 

 西住姉妹と自動車部の面々は、車庫周りの後片づけをしてから学園を出た。

 大洗学園の生徒は、ほとんどが学生寮に住んでいる。学園艦上に自宅があったり、学園直営ではない賃貸アパートなどを借りて通学している生徒も中にはいる。けれどそれは全体から見てみるとごく少数だ。

 ナカジマもホシノもスズキもツチヤも、揃って寮住まいだ。クラスメイトなども皆そうで、付き合いのある中では寮外生はほとんどいない。俊一は数少ないそのひとりだが、部屋の前まで行ったことはあるものの、中に上がったことはさすがになかった。

 

「だから、寮以外で暮らしてる人の部屋って知らないんだよねー」

 

 友達と一緒に下校し、歩きながらあれこれと他愛のない話をする。

 ナカジマたち4人にしてみればいつものこと。

 けれど、みほとまほには初めてに等しいことで。

 みほは嬉しさを表に出し、まほは少しばかり足取りを軽やかに。形は違えど、ふたり揃って浮ついた姿を見せている。

 お泊り会になるということで。まずナカジマたちが寮へと帰り、着替えなどのお泊りに必要なものを用意する。その後に西住姉妹の部屋へ向かう、という手はずだ。

 西住姉妹と自動車部メンバー、6人でおしゃべりをしつつ連れ立って歩く。

 みほ、ナカジマ、ツチヤが何かと会話を交わし。

 まほ、ホシノ、スズキがその後ろで相槌を打つように言葉を挟む。

 そんな賑やかなやり取りを、彼女たちは交わしているうちに。

 気がつけば、みほとまほが住む小規模なマンションに到着した。

 

「おー。なんだか豪華じゃない?」

「学生向けというより、家族向けな感じだな」

 

 しっかりした造りの建物を見上げながら、ナカジマとホシノがそんなことを口にする。

 自分たちの部屋の前に立ち、まほがカギを開けて。ナカジマたち4人も促されるままに玄関をくぐり、友人宅への初訪問を果たす。

 

「ふたりで住んでるからかもしれないけど、結構広いね」

「寮以外の誰かの部屋を見るのって初めてー」

 

 スズキとツチヤが、興味深げに室内を見回しながら言う。ナカジマとホシノも同じような反応だ。もちろん、部屋の主に失礼にならないように気をつけながらだが。

 そこへ。

 

「ただいま! 飲み物とおやつ、買ってきたよ!」

 

 みほが遅れて、外から勢いよく戻ってきた。にっこにこの笑顔で、両手には中身の詰まったスーパーのビニール袋を掲げている。

 帰宅途中、友達をもてなす飲み物やら食べ物やらが何もないことに気付いた彼女。そこで、ひとり別れて買い物に行ってくると言い出した。

 じゃあ全員で行こうか、と、一行は行き先を変えようとしたのだが。みほが、自分が行ってくると言って聞かなかった。

 いわく。

 お友達を家に招く準備をするワクワク感を味わいたい。

 どんな飲み物やお菓子を出せば喜んでくれるかって考えるのが楽しい。

 などなど。

 みほがものすごくキラキラした目で言ってきたので、任せることにした。

 意気込む妹に、まほは「なるほど」と素直に感心し。

 一方でナカジマたちは、そこまで気負わなくてもと思ってしまったが。

 

「じゃあ、座ってくれ」

 

 少し広めの丸テーブルの前に座るや否や、みほが買い物袋から紙コップとジュースの大きなペットボトルを取り出す。ウキウキしながら人数分の飲み物を用意して、それぞれの前に差し出した。

 その横で、まほも、妹が買ってきたおかしを開けてテーブルに並べていく。かいがいしい姿に、ナカジマたちはついつい微笑ましくなってしまう。

 

「なに、こんな風に誰かが遊びに来るとか、集まって駄弁るとか、そういうのは滅多にないの?」

「……なかったな。黒森峰にいた時は、戦車道一辺倒だった。西住流の娘として見られることの方が多かったから、普通の友人付き合いというのが難しかったのもある」

「戦車道の流派の家元、だっけ」

「黒森峰は西住流戦車道のお膝元、と言っても過言ではないからな。流派家元の娘、となれば、気軽に接するのは難しいだろう」

「はー。大変だねぇ」

「黒森峰の外になら、戦車道絡みでもそこそこ知人はいるんだがな。そういったしがらみを気にせず人付き合いができそうなところは、大洗にきて良かったと思える点のひとつだな」

「こっちに来てまだ何日も経ってないのに、すっごく満喫してるよね」

 

 そんな会話をしつつ、まほとみほは戦車道に関するあれこれを取り出す。

 次から次へと積み上げられていく関連書籍や資料の類。想像以上の数にナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤは面喰ってしまった。

 とはいえ車いじりの延長からきた興味から、彼女たちはさして抵抗なくそれらに手を伸ばす。自然と読み込んでいき、気になったところは遠慮なく質問してくる。やり取りにも熱が入ってきて、どんどん盛り上がっていく。

 西住姉妹も、こと戦車に関することなら誰よりも熱が入る。

 ナカジマたちが揃ってやる気満々で、戦車とは少々異なる視点やアプローチから質問やツッコミが飛んでくるのは、自動車部所属という点ゆえか。みほやまほも楽しくなってしまう。

 気がつけば、6人は時間を忘れて戦車談義を交わしていた。

 そうこうして、それなりに時間が過ぎた頃。

 

 ピロピロリンッ

 

 着信音が響く。

 音を立てたのは、みほとまほのスマホだ。

 

「……お姉ちゃん、メール来た?」

「あぁ。柚子と杏から、動画付きで来たぞ」

 

 先ほどまで楽しげに戦車談義をしていた西住姉妹が、いきなり真顔になってスマホを見つめる。いきなりの変わりように、ナカジマも、ホシノも、スズキも、ツチヤも、何事かと訝しんだ。

 

「え、どうしたの。何かあった?」

 

 代表するようにナカジマが話し掛ける。

 西住姉妹はそれに答えず、手にしたスマホをそれぞれ操作していた。

 顔を見合わせる自動車部の4人。杏と柚子、生徒会長と副会長からメールが来たと聞いただけなので、その内容は分からない。もしかしたら修理していた戦車について、なんらかの注意や通告でも受けたのではないか。そんなことを思いめぐらせ、いささか不安を覚えてしまう。

 ほどなくして、なにやら音が漏れてきた。

 届いたメールに添付されていたという、動画だろうか。

 

「えっと。それは私たちが見たり聞いたりしても、平気なのか?」

 

 恐る恐るといった風に、ホシノが西住姉妹に尋ねれば。

 みほとまほは無言で動画をいったん止め、アイコンタクト。

 真剣な顔のままうなずいてから、手招きをする。

 今度はナカジマたちの方が困惑してしまう。なんだなんだと。

 4人は誘われるままに、ふたりの背中から覗き込む。ナカジマとツチヤは、みほの手元を。ホシノとスズキは、まほの手元を。

 再生された動画は、どちらも同じもの。

 エプロン姿で台所に立つ俊一が、映っていた。

 

「ん?」

「……なにこれ」

「もしかして、大瀬良君かな?」

「そうっぽいね」

 

 火をかけながら鍋の中身を掻き回すエプロン姿の俊一。

 振り返りながら「また撮影してるのか」と苦笑する俊一。

 テーブルを拭いて、お皿やスプーンを用意する俊一。

 カレーの入った鍋をテーブル中央に置いて、全員分のご飯をよそう俊一。

 ご飯にたっぷりカレーをかけて、いただきますをする俊一。

 カレーライスをスプーンですくい、口に入れるも少し熱がる俊一。

 はふはふ、と口の中で少し転がして熱を逃がそうする俊一。

 味と辛さに満足したのか、少し微笑む俊一。

 嬉しそうにカレーを食べ続ける俊一。

 そして、カレーを食べながらも撮影を止めない柚子と杏を叱る俊一。

 

「撮るのはいいかげん止めて、あったかいうちに食べなさい」

 

 はーい、という素直な返事が動画内から聞こえて。

 ほかほかご飯にカレーをたっぷりとかけた、カレーライスが映り。

 改めて「いただきます」という声が聞こえてから。

 動画が終わった。

 

「……」

 

 6人ともしばし、再生の終わったスマホの画面を見つめたまま動かない。声を漏らすこともなく。唾液なのかヨダレなのか、何かを飲み込むような音が少し聞こえただけだ。

 

「これって、いわゆる飯テロってやつ?」

「聞いたことはあるな。美味しそうな画像やら何やらを見せつけて、空腹を煽ってくるっていうやつだ」

「なるほど。これは強烈だね」

「お腹が鳴りそう……」

 

 口々につぶやく、ナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤ。さも恐ろしい何かを見せつけられたかのように、その声に力はない。ただ揃って、自分のお腹をさすっているのは共通していた。

 一方で、スマホを手にしたままの西住姉妹は。

 

「今日は、カレーだったのか……」

「柚子さんと杏さんが、俊一くんのカレーをふたり占め……」

 

 ものすごく絶望したような顔をして、力のない声を漏らす。一緒に動画を見ていた自動車部の4人が「そこまでか」と突っ込んでしまうくらいに、力を落としている。

 というよりも、実際に手を床についてうなだれていた。

 

「ねぇねぇ、ふたりとも。大瀬良君のカレーって、そんなに美味しいの?」

「ものすごく美味しいよ!」

「実に美味だ」

 

 何気なく聞いたスズキのひと言。みほとまほは、それに反応して勢いよく顔を上げる。少し腰の引けるスズキたちを気にすることなく、拳を握りながら、恋人の作るカレーがいかに美味しいかを主張し始める。

 いわく。

 俊一の作るカレーは少し辛さを抑えた中辛が基本で、とろみは強め。

 具だくさんだけれど、形が崩れるくらいに煮込んだものを好む。

 旨味が濃縮されていて、とても美味しい。

 さらに意識してやや硬めに炊くご飯との絡みが最高。

 つい食べ過ぎて困ってしまう。

 そんなことを、ちっとも困っていなさそうな笑顔で熱弁する。

 さらに「美味しいのはカレーだけじゃない」とばかりに、俊一の作る料理がいかに美味しいかを語り出した。

 みほは、身振り手振りも交えてテンション高く。

 まほは、噛みしめるように強く深く。

 いささか押され気味ではあったものの、ナカジマたちはその語り口に大いに食欲をそそられた。美味しそうなカレー動画を見た後だからなおさらだ。

 昼間には俊一お手製のシュークリームをご馳走になっている。あれも非常に美味だった。それを思い出して、ナカジマも、ホシノも、スズキも、ツチヤも、口の中に唾液が溜まってくる。

 

「熊本にいた頃も、俊一くんが、お義母さんとお義父さんのご飯を用意することも多かったらしいし。ほっとする家庭料理、っていうのかな」

「そうだな。私たちがお邪魔してお義母様方と話をしている間に、食事の用意をしていたこともあった」

「あ、ごめん。ちょっといいかな」

 

 俊一の食事話から、なにやら惚気に変わりそうになって。

 少し気になるところがあって、ナカジマが思わず話の腰を折る。

 

「今の話に出てきたお母さんお父さんって、もしかして大瀬良君の?」

 

 ナカジマが問い掛ければ、まほが答える。

 もちろんそうだ、とさも当たり前のように。

 

「ということは、まほさんもみほさんも、大瀬良君のご両親と面識が?」

 

 ホシノが尋ねてみれば、みほが答える。

 面識どころか自分の方がいろいろと良くしてもらっている、と。

 

「もしかして、姉妹揃って恋人だって、公認なの?」

 

 スズキが驚いてみせれば、まほがその通りとうなずく。

 もちろん俊一のご両親だけだが、と、なぜか誇らしげに。

 みほは、お母さんが知ったらどんな顔をするだろう、と苦笑した。

 

「恋人っていうより、もうお嫁さん寸前なんじゃ……」

 

 ツチヤが少し呆れたような声を漏らすと、まほが言葉を返して胸を張る。

 私はそれでも一向に構わない、と。

 みほはみほで、姉の言うことに迷いなく何度もうなずいている。

 西住姉妹はふたり揃って、ものすごく嬉しそうな顔をしていた。

 みほは、頬に手を当てつつ、満面の笑みを見せて。

 まほは、目元を緩め、薄く微笑んで。

 その表情が、ナカジマたちにはとても可愛く、綺麗に見えた。

 

「ちなみに柚子も、俊一のご両親に紹介されてるぞ」

「杏さんとアンチョビさんは、さすがにまだだけどね」

 

 自動車部の4人はさらに驚く。

 そもそも何人もの女の子と同時にお付き合いをするというのが、普通の感覚では信じがたいこと。しかも女の子側が納得づくというのだからなおさらだ。

 その「普通の感覚」というのは、ある意味では俊一自身が一番持ち合わせていると言ってもいい。こんなに魅力的な女の子たちに好かれて、次々と手を出してしまっていいんだろうか、という気持ちは彼の中に常にある。

 もっとも、最近はそれも呑み込んだ上で開き直っていた。

 複数人の女の子と同時に付き合っている。

 何股男だのスケコマシだの言われることは受け入れている。

 外から何を言われても「好きなんだから仕方がない」というスタンス。

 その分、恋人たちにふさわしい男であろうと常に意識している。

 

「俊一は、自分がもっといい男にならないと釣り合わないと言うが」

「そんなことないのに。むしろわたしの方が釣り合ってるか不安だよ」

 

 彼女たちへの接し方も、俊一は自分よりも恋人たちを優先する節がある。

 優しく甘やかしてくれて、粗雑な扱いをしない。

 彼女たちのやりたいことや考えていることを優先してくれる。

 でも間違っていると思ったことは、きちんとたしなめる。

 

「依存してる自覚はあるけど、受け入れてくれるのが嬉しくて……」

「私の場合は、初対面から噛みつかれていたな。今考えると新鮮だ」

 

 恋人たちが第一といっても、自己主張がないわけではなくて。

 何人も恋人がいるのだから、むしろ我は強すぎるくらいだろう。

 強引に押せ押せで迫ってくることもあるが、決して粗暴ではない。

 相手への好意を隠さない。程度の差はあれ、これは恋人に限らない。

 しっかりと言動で表に出して、恋人たちに愛情を注いでくれる。

 しかも全員に、偏らないようにしながら、存分に。

 その分とても独占欲が強い。

 けれど拘束しようとは思っていない。

 

「俊一くんのことばかり考えてるわけじゃないんだけど。ちょっと息をつく時とか、自然と俊一くんのことが頭に浮かぶようになっちゃってるね」

「そうだな。俊一のことを考えると、心が温かくなってくる」

 

 俊一は「キラキラな王子様」というような目立つタイプではない。

 けれど、勉強も運動もそれなり以上にできる。

 合気道の経験者で、いざという時に恋人たちを守る素地もある。

 これは聖グロリアーナ女学院で実証済みだ。

 趣味は、映画や音楽鑑賞、読書とありきたり。だが割と広めで雑食。

 戦車道一辺倒だった西住姉妹にも、多少なりとも影響を与えていた。

 他人の好きなものを尊重するスタンスは、このおかげかもしれない。

 元女子校ゆえに女の子が多い学園内でも物怖じせず。

 男女問わず温和に接して、いろいろと気遣いも欠かさない。

 杏いわく、「女性関係以外は相当高レベルな男の子」。

 

「俊一くんも自分で言ってるよね。肝心なところがダメだから、女子が仲良くなったらいけない奴だって」

「言っていることはもっともだ。だがな、みほと私は、俊一がいいんだ」

「お姉ちゃん、ずっと言ってるよね。ちゃんと自分も構ってくれるなら、俊一くんの恋人が何人になっても構わないって」

「独占したいというよりも、独占されたい気持ちの方が大きいんだ」

「そうそう。あと、わたしのことを好きって言ってくれるのは、すっごく嬉しいんだけど。わたし自身が、俊一くんのことが好きっていう方が重要かなって」

 

 いきなり始まった、俊一に対する盛りだくさんの想いと惚気。満面の笑みで繰り出される言葉の勢いに押されて、ナカジマも、ホシノも、スズキも、ツチヤも、ただ聞き役に徹することしかできなかった。ふたりの惚気を自分に置き換えたのか、4人揃って顔を赤くしていたが。

 友人たちの想いは他所に、西住姉妹のマシンガントークはまだ続く。

 

「私としては、俊一にメロメロになる女が増えるのは一向に構わない。もちろん、本気で俊一のことが好きなら、の話だが」

「でもお姉ちゃん。それはわたしたちがベタベタしてたらいいんじゃないかな。何人も恋人がいるのはちょっと、って思って、深入りしてこないような気がするけど」

「なるほど。普通なら、何人目の恋人、なんて見られるのは避けたいだろう。確かにそれはありそうだな」

「恋人かぁ……。わたしも、俊一くんに飽きられないように頑張らないと」

「何を言ってるんだ、みほ。お前はむしろ1番目の彼女だろう」

「それは俊一くんと出会った順番だよぅ。恋人として魅力があるかって言ったら、わたしなんてむしろ5番目だし」

「本当に、何を言ってるんだ。そんなことはないぞ? むしろ私の方が」

「そんなことないよ。お姉ちゃんはわたしから見ても素敵だし」

 

 いやいや、いやいや、という感じで言葉を交わす西住姉妹。

 気がつけば、姉妹でお互いの良いところを挙げ始めた。みほは姉を、まほは妹を褒め称えて、そちらの方こそ俊一とお似合いだと譲り合っている。

 困惑するナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤの4人。話が惚気から始まり、俊一の恋人事情になって、まほとみほの姉妹愛トークへと変化した。何を見せられているんだろうかと、4人はついて行けずに傍観するばかり。

 だが、いきなり話の矛先が変わる。

 

「そういうわけだからな。ナカジマたちが俊一に好意を向けたとしても、私たちは一向に構わないぞ」

「わたしとしてはむしろ、仲間が増える感じがして嬉しいなぁ」

 

 はぁ?

 揃って声を上げてしまう、ナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤ。言葉の意味が呑み込めたのか、4人は赤くした顔をさらに真っ赤にさせて、「いやいやいやいや」と盛大に手を振りながら慌て出した。

 

「だが、お前たちが俊一のことを話す時は、顔がにやけてるぞ?」

「ハグされた時も、たぶん俊一くんは触らないようにとか気を使ってたと思うけど。俊一くんに心を開いて、ぴったり密着しながら強く抱きしめられると、すっごく幸せな気持ちになれるよ?」

 

 みほとまほが言う、俊一の気遣いに心当たりがあったのか。ナカジマも、ホシノも、スズキも、ツチヤも、思わず言葉を詰まらせる。

 冗談交じりではあるものの、年頃の女の子が自分から「抱きしめてもいいぞ」と言えるような相手なのだ。それなり以上の好意があると見られても不思議ではない。

 本気で抱きしめられたらどうなるのか。想像すると、彼女たちは不意にゾクゾクした感覚に襲われた。

 彼女たちにしてみれば、出会いは最悪だった。そのせいもあって、俊一に対して負い目と言おうか、申し訳なさや引け目のようなものを感じていたのは事実。だがそれなりの付き合いを経て、彼の人となりと接しているうちに、仲良くなることができている。

 俊一としては、自動車部の4人が罪悪感で落ち込むのを見て、「気にするな」とあれこれフォローしていただけ。彼がどう思っていたかはともあれ、彼女たちにとって癒しになっていたのは事実でもある。

 大洗学園は元女子校で、男子生徒の数が圧倒的に少ない。学園生活を送るにあたって、まったく異性と接することがない、ということも往々にある。

 ましてやナカジマたちは自動車部という、趣味に全振りしたような活動にのめり込んでいたこともあって、男子生徒の知り合いがまったくと言っていいほどいない。俊一が唯一と言ってよかった。

 4人とも、俊一のことを頭に思い描いてみる。

 出会いは、自分たちの車に驚いて転んだ、ほぼ交通事故の危うい現場。

 その後も、明るく優しく接してくれた。

 機械いじりという、女の子にしてはコアな趣味にも理解を示し。

 わがままを言っても、聞き遂げてあげようという器量がある。

 でも限度を越えたら、きちんと怒ってたしなめることもする。

 そんな、同年代の男の子だ。

 半ば女子校の学園に通う、異性に免疫のないナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤたちが、彼と親しく接してきて、好意を向けずにいられるだろうか。

 

「無理強いはしないさ。俊一以外にも男はいる、と言われれば反論できん」

「でも、俊一くんみたいないい男はそうそういないと思うけど、ね」

 

 その気があるなら、俊一の新たな恋人仲間として受け入れる。

 第1、第2の恋人、みほとまほは、笑顔でそう言ってきた。

 自分が、俊一の恋人になる。

 ナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤの全員が想像してしまい。

 火照った自分の頬を手で押さえる。

 

「確かにさ、好きか嫌いかって言われたら……」

「嫌いじゃないぞ。うん。いやむしろ、あー……」

「こう、照れくさいというか、ふんぎりがつかないというか……」

「みほさんたちがうらやましい、っていうのはあるかなー……」

 

 赤面しながら、わたわたと慌てる4人。

 みほとまほはそれを見て、これは脈ありと嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 ―続く―




タイトルの通り、女の子オンリーでお送りしました。
槇村です。御機嫌如何。


なんとか、月をまたぐ前に更新できた。ギリギリセーフ。
……おかしいな。最初はこの半分くらいでまとめるつもりだったのに。
もっとスリムにできると思ったけど諦めました。

スマホを手にした女子校生6人が、
キッチンに立ちながらぼやく男の後ろ姿と、
カレーが並ぶ食卓を映した動画をじっと観賞する。
なんだこの絵面は。

なお作中にある戦車の冷暖房云々の描写は、あくまで私の想像です。
実際はどうなのそのあたり。

次は別の女の子と出会う日常回の予定。
10月中に仕上げられるといいなぁ……。


※誤字のご指摘、ありがとうございました。




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54:夕空ア・ラ・カルト/みほ、武部沙織&五十鈴華

 学園艦・大洗学園は、新学期を前にして母港である大洗港に帰港している。

 新年度前といってもまだ3月末だからか、学園関係者の忙しさには波があるらしい。今日はその波が高い日のようで、先生方も生徒会もいろいろやることが多くて大わらわだとか。

 柚子さんと杏さんは、その渦中で生徒会室に詰めっ放しになる様子。帰りも遅くなりそうとのことで、今日はウチに立ち寄らずに直帰するという連絡があった。

 

「その代わり、明日の登校前に、大瀬良くんのところに寄るから」

「俊一くん成分を充電させてもらうためにね」

 

 ……直帰っていう言葉の使い方に少し違和感を覚えたけど、可愛いことを言ってくれる恋人たちの前では些細なことだな。うん。

 ちなみに今日は、まほも不在だ。

 

「ナカジマたちと、学園艦を降りてくる」

 

 なんでも、内地の自動車工場に出向く用事ができたらしい。

 戦車の整備絡みで、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんの4人が馴染みにしているという工場で、なにやら都合してもらうとかどうとか。

 ……女子校生が行きつけにしている工場、か。えらいパワーワードだな。

 

「俊一くんを独り占め~」

 

 そんなこんなで。オレの側にいるのは、みほだけになる。彼女は下艦するのについていかなったらしく、思わぬところでふたりきりになれて御機嫌だ。可愛い。

 せっかくなので、みほちゃんを存分に愛でる。

 頭を撫でながらイチャついたり。

 そのままエッチなことに雪崩れ込んだり。

 一戦終えてそのままダラダラしたりと。

 まったりとした時間を過ごしていた。

 

「ちょっと早いけど、夕食の買い物に行こうか」

「行くっ」

 

 夕方近くになって、みほと連れ立って夕食の買い物に出掛ける。

 ……さっきまで裸で抱き合ってた女の子が、思い切りナカに注いだモノを溜めたまま、オレのすぐ隣を笑顔で歩いてる。そう考えると、申し訳ないと思いながらも興奮してしまう。

 いかんいかん。外では自分を律すること。エロいことは部屋の中だけ。

 そんなオレのリビドーと葛藤を知ることなく、みほは、オレと手をつなぎながらニコニコ顔で歩いている。可愛い。

 ほっこりして、気持ちを改めてから。夕食の献立に頭をひねる。

 

「さて、何を作ろうかな」

 

 とりあえず用意するのは、みほとオレのふたり分。でも、まほ、柚子さん、杏さんにも、帰ってきた後なり明日以降なりに食べてもらうのもいいなぁと考える。

 ならば、作り置きができて、なおかつお疲れさまな3人の疲れが癒せそうなもの。あるいは力が出てきそうなものがいいかな、と考えて。

 

「ハンバーグにしようか」

「俊一くんのハンバーグ!」

 

 みほが、オレの言葉に即反応して、手を上げる。可愛い。

 というわけで、ハンバーグ。タネを多めに作り置きしておいて、不在の3人には後々、良きところで振る舞えばいいかな。

 めでたく夕食に作るものが決まって。みほを連れたオレはスーパーに来店して、もろもろの材料をカゴに入れていく。

 やや多めのひき肉。

 玉ねぎ。

 牛乳にパン粉。

 卵はまだ冷蔵庫にあったはず。

 調味料は足りないものはないはずだから……。

 気がつけば、そこそこの量になってしまった。

 金銭的にもそこそこいったが、まぁ、恋人たちが喜んでくれると思えば。

 

「俊一くん。袋、持つよ?」

「じゃあ、ひとつお願い」

「はーい」

 

 いっぱいになった買い物袋がふたつ。みほにひとつを渡して、空いた片方の手を、彼女の方に差し出す。すると、みほは嬉しそうにオレの手を取った。

 みほとオレ、それぞれが片手に買い物袋を提げて。もう片方の手は互いに握ったまま歩き出す。仲良く手をつないで、オレの部屋への家路につく。

 

「あっ」

 

 その道中で、みほが声を上げた。

 何かと思えば、誰か知っている人を見つけたらしい。この学園艦に上がって早々に知り合って、友達になった同級生だという。

 

「そういえば、話は聞いてたけど、どんな人かはまだ知らないな」

「俊一くん、紹介するよ」

 

 言うやいなや、みほは買い物袋を手にしたまま駆け出そうとする。

 オレは待ったを掛けて、彼女が持っている買い物袋を引き受ける。

 みほは礼を言ってから、改めて駆け出して行った。

 その先には、私服姿の女の子が、ふたり。

 

「沙織さん! 華さん!」

 

 みほが声を上げると、相手も気がついたようで。手を振って応えてくる。

 あぁ、みほの交友関係が確実に広がっている。良きかな。

 そんな保護者目線で見てしまうのは、熊本時代のどんより顔を知っているからだろうか。

 

「あれー。みぽりん、何してるの?」

「こんにちは、みほさん」

 

 親し気に挨拶を返すふたり。

 みほいわく、同じ学年だということだけど。オレ自身は見覚えがない。1年の時のクラスメイトじゃないとすれば、違うクラスの女子生徒なんだろうと、少し頭をめぐらせながらそんなことを考える。

 笑顔でおしゃべりをしてる、みほにほんわかしながら。買い物袋を両手に提げたオレはゆっくりと彼女たちに近づいていく。

 女の子たちふたりも、オレに気付いたようだ。

 

「ねぇねぇ、みぽりん。後ろの人って」

「あら。もしかしてその方が、みほさんが以前におっしゃっていた……」

「うん。俊一くんだよ」

 

 わたしの大切な人です!

 ばばーん、みたいな感じでそう紹介してくれる。

 みほ、めっちゃ、嬉しそうなんだけど。

 躊躇いなく「大切な人」と言ってくれることに、少し恥ずかしさを感じながら、もっと大きな嬉しさがこみ上げてくる。

 

「はじめまして。みほちゃんとお付き合いしてる、大瀬良俊一です」

 

 自分からも名乗りながら、頭を下げる。両手に買い物袋を提げたままだから、全然さまになってないけどな。

 顔を上げると、なにやらオレを凝視しているふたりが。

 あれ、会ったことあったっけ?

 なんて思っていたら、彼女たちの方から話し掛けてきた。

 

「気になっていたのですが、もしかして生徒会の……」

「あっ、そうだよ。転入早々に、あの副会長をオトしたっていう有名人!」

 

 君たち、初対面なのにずいぶんとズバズバくるね。

 まぁ、そういう言われ方をするのは想定内だし、仕方ないこと。オレの不徳の致すところではあるけれど、今さら改めるつもりはない。

 

「自分で言うのもなんだけど。うん、その人です」

「俊一くん、本当に有名人だったんだ」

「こういうことで有名になっても、普通は嬉しくないと思うんだけど」

「でも柚子さんみたいな先輩とくっついたなら、騒がれても仕方ないんじゃないかな。柚子さん、いろいろ慕われてても不思議じゃないし」

「そうだよなー。柚子さん、魅力的だもんなー」

「そんな柚子さんをオトした俊一くんも、魅力的だよ?」

「みほちゃん、オトしたって言い方は止めない?」

 

 屈託のないやり取りを、笑いながら交わすオレとみほ。ついついいつものノリで、目の前の女の子たちを置いてけぼりにしてしまったけど。

 放置するのはよろしくないと、みほを促せば。慌てて彼女たちに謝り出す。あわあわした身振り手振りが可愛らしくて、またしてもほっこりしてしまう。

 彼女たちの方も、気を悪くしているようには見えなかった。というより、唖然としているというか、呆れているというか。そんな感じ。

 

「みほちゃん、落ち着いて。はい、深呼吸深呼吸」

「はううううう」

 

 買い物袋をひとつ、地面に置いて。片手を空けてから、みほの頭を撫でて落ち着かせようとする。彼女は慌てた様子を少しクールダウンさせて、言われた通りに息を吸い、息を吐く。

 ……頭にオレの手を置いたまま深呼吸する、みほ。うん、可愛い。

 なんてことをしていたら、目の前のふたりの方が先に我に返ったようで。

 

「いいなぁ。仲の良さが自然な感じで、うらやましい……」

「想像していたよりも、普通の男性なのですね……」

 

 なにやら、オレたちをうらやむ声と、弄ばれているのではないかと危惧していたような言葉が向けられた。みほからいろいろなことを聞いていたようで、実際にオレを見て漏れ出たみたいだ。

 さて。

 みほも落ち着いてきたあたりで、改めてお互いに自己紹介をする。

 武部沙織さんと、五十鈴華さん。

 新学期から2年生になる、みほやオレと同い年。

 なんでも、学園艦に上がったばかりのみほが、コンビニを探していた時に道を尋ねて、それをきっかけに知り合ったとか。転入してきたこととかを話しているうちに仲良くなったんだという。

 恥ずかしがりなところがあるみほが、コミュニケーション能力を上げているのが感じられて感涙を禁じ得ない。いいことだ。

 

「新学期から新しく同級生になるとか、彼氏を追い掛けて転入してきたとか。恋愛マンガみたいなことって、本当にあるんだね」

「行動力があって、まぶしいくらいですわ。わたくしも見習いたいです」

「でも、俊一くんと出会ってなかったら、こんな思い切ったことできてなかったかもしれないし」

 

 みほの、出会った頃から何度も聞いている「オレのおかげ」という言葉。

 きっかけにはなったかもしれないけど、実際に行動に移したのは、みほだし。悩んだのも考えたのも、決めたのも、みほ自身だ。オレがどうこうというのは持ち上げすぎだと思うんだけど。それを口にするとムキになって反論されるので黙っている。

 まぁ、悪い気はしないけど、ね。

 にやけそうになる顔を、力を入れてこらえながら。

 ごまかすように、みほの頭をまた撫でてしまう。

 

「あれ? みぽりんと付き合ってるってことは、副会長は?」

「柚子さんも恋人ですよ?」

 

 不思議そうに首を傾げた武部さんに、ストレートな答えを返したオレ。

 途端に、彼女の表情が引きつった。

 うん。そういう反応が普通だよね。

 

「ということは、みほさんと副会長のおふたりとお付き合いを?」

「うん、そう。彼女たちの公認を得たうえで」

 

 訝し気な顔をした五十鈴さんに、これまた素直に答えるオレ。

 聞くや否や、彼女の表情がより険しくなった。

 うん。何を言いたいのか良く分かるよ。

 そんなふたりの内心を知ってか知らずか。

 

「俊一くんのことが大好きな恋人仲間は、いまのところ5人いるから」

 

 みほがあっけらかんとぶっこんだ。

 さすがに五股とまでは想像できなかったんだろう。武部さんも五十鈴さんもびっくり顔だ。

 さらに、みほとまほの姉妹で熊本時代からお付き合いをしているとか、西住姉妹と柚子さんはオレの両親に紹介済みだとか、みほが勢いよく吹き込んでいく。

 これ、止めた方がいいのかなオレ。

 

「なんだろう。うらやましいというか、なんというか……」

「ここまでくると、不誠実ですとかふしだらなどと言うのも、空しい気がしますね……」

 

 毒気を抜かれたような顔になったふたり。言いたいことはあるけれど、みほが当事者なのにむっちゃ笑顔で幸せそうにしてるから。部外者がどうこう言うのもなぁ、みたいな感じなのかも。

 彼女たちの心境が窺えて、つい苦笑してしまう。

 

「まぁ、ほめられたもんじゃないことは自覚してるから。でも、オレのことは悪しざまに言ってもいいけど、みほちゃんのことは嫌わないでくれないかな。この娘、すごくいい子だからさ」

 

 学校を移ってきて、自分で得た友達なわけだから。オレのせいで付き合いがなくなっちゃうのは、あまりに申し訳ない。

 なんてことを思いつつ、深々と頭を下げてお願いをする。

 

「……」

 

 頭を上げたら、さっきとは一転、驚いた顔をした武部さんと五十鈴さん。

 と思えば、みほはなんだか苦笑いしてる。

 え? オレって何かした?

 

「うぅん。なにもないよ、全然」

 

 笑みを崩すことなく、みほは、オレの手をきゅっと握った。

 なんなのか分からないオレを置き去りに、みほがいきなり張り切りだす。

 

「そうだ。沙織さんも華さんも、この後は予定ある?」

「え、ううん。別に何もないけど」

「はい。これといってすることは特に」

 

 いきなりのお誘い。勢いにつられてか、ふたりは素に戻って返事をする。

 それを聞いて嬉しそうに。

 

「じゃあ、夕ご飯を一緒にどうかな?」

 

 みほが、武部さんと五十鈴さんをナンパした。

 ……あぁ、なるほど。オレと晩飯を食べるのは、ある意味いつでもできるわけだから。せっかく会った友達とご飯に行く、っていうのもいいかもしれないな。友達付き合いってやつだ、うん。

 ならばオレはお邪魔だろうと考えて。食材の入った買い物袋を手にして、ひと足先に帰ろうとしたんだけど。

 

「ねぇ、俊一くん。あとふたり分追加することってできる?」

「は?」

 

 みほから、虚をつくような言葉が。

 もしかしてさっきのは、オレたちの晩飯に誘おうって意味だったの?

 んー。

 でもさ、みほは良くても、彼女たちにはよろしくないんじゃなかろうか。オレとは初対面で、なおかつ印象もあまり良くないだろうし。

 さらに言うならば、だ。

 

「場所はオレの部屋だよ。武部さんと五十鈴さんは抵抗あるんじゃない?」

 

 五股上等な男の部屋に上がり込むとか、普通は避けたいでしょ。

 ……みほに関しては、初めて会った時に自宅へ連れ込んでた気がする。

 それは、みほの精神状態がアレで緊急事態だったから。ノーカンで。

 

「とにかく。友達の恋人とはいえ、初対面の男の部屋に誘うのはどうかと思うけど。ハードル高すぎるんじゃない?」

「初対面……。そっか。そうだよね」

 

 テンションがくるくる変わる、みほ。今度はなにやら悩むように、腕を組み、片手をあごに押し当てて、ムムムという感じに唸っている。

 忙しいなぁ。可愛い。

 というか、悩むようなことかコレ。変なことを言ってるつもりはないんだけど。それともオレの考え方が、男女の観念的に古風とか古臭いとか、そういうことなのか。

 などと、オレはオレでぐるぐると思い悩んでいたら。

 

「えっと。大瀬良くん、でいいんだよね」

「はいはい」

 

 武部さんから話し掛けられる。

 ふわふわな感じの長い髪と、おっとりした雰囲気。

 ちょっと垂れ目きみで、明るくなったみほと、なんとなく似てる気が。

 でも、みほよりも社交的な感じ。

 ちょっと話をした限りではノリも良い。

 場を賑やかにするムードメーカーっぽい、というべきか。

 

「みぽりんに誘われたけど、それって、自分たちが夕ご飯を作るから来なよ、ってことなのかな」

「オレもいきなりだったからびっくりしたけど。みほちゃんはそのつもりだったみたいだねぇ。作るのはオレだから、許可をもらおうとしたってことじゃないかな」

「あら。大瀬良さんが作られるんですか?」

 

 今度は、五十鈴さんが会話に加わってきた。

 綺麗なストレートのロングヘア。お淑やかな和風のお嬢様って印象。大和撫子ってやつか。

 でも言うことはきっぱり言う、気の強さみたいなのを感じた。オレに対しても警戒するような目を向けてたし。うん、正しいと思うよオレは。

 オレを見る目がちょっと険しかったのは、たぶん、女性に対してだらしない奴、というイメージを抱いたからだと思う。

 でもその態度は、新しい友達のみほを思ってのことだというのは分かる。だからオレとしては、むしろ好ましい。

 でもその割には、みほの誘いに乗り気味なのが意外だけど。

 

「もともと、みほちゃんと夕食の予定だったし。今日はいない娘たちの分も作る予定だったから。オレとしては人数が増えても問題はないけど」

 

 いいのか? 五股男の部屋に上がることになるんだぞ?

 オレなりにそう注意をしたつもりだったんだけどなぁ。

 どうやら武部さんも五十鈴さんも、オレが心配しているようなことは気にも留めていないようだった。

 これは信頼されているのか、それとも舐められているのか。

 考え過ぎなのかな。そんなことないと思うんだけどなぁ。

 心中複雑なオレを置いてけぼりにして、みほたちの話は進む。

 

「俊一くんのオッケーはもらえたから。沙織さんも華さんも、どうかな」

「んー。わたしは興味あるかな。みぽりんは、わたしの周りで初めての彼氏持ちだし。その彼氏も交えていろいろ話も聞きたいなーって」

「わたくしも構いません。むしろ同級生の殿方が作る料理に興味津々です」

 

 結局、ふたり揃って我が家の夕ご飯にお呼ばれすることにしたらしい。

 まぁ、細かいことを気にしてたら負けなのかも。みほは笑顔で喜んでるし。彼女が嬉しいなら、それでいいか。

 

「となると、もう少し食材を買っておいた方がいいかな」

 

 手にした買い物袋を持ち上げながら、買ったものの内容と、冷蔵庫の中身を思い返す。武部さんと五十鈴さんの分は問題なくても、後で振る舞う予定だった、まほ、柚子さん、杏さんの分も用意するには足りないだろう。

 

「ってことだから、買い足してくる。みほちゃん、先に帰っててくれる?」

「うん、分かった」

 

 返事をしながら、みほが手を差し出してくる。

 じゃあよろしくと、買い物袋ふたつを手渡した。

 オレはこのままスーパーに戻って、追加分の材料を買ってこよう。

 

「あ、ご飯だけは炊いておいて。ちょっと多めに」

「はーい」

 

 なんて言葉を自然に交わしつつ、反転。

 オレは再びスーパーへと向かった。

 

「みぽりん! 今のイチャラブ夫婦みたいなやり取り! うらやましい!」

「みほさん、今のは見ていてときめきました。ぜひともお話を」

 

 なぜか、みほを問い詰める武部さんの姿が見えたけど、スルー。

 何も聞こえないぞ。

 申し訳ないけど、みほが慌てたような声を上げたのも、聞こえないのだ。

 仲良きことは美しきことかな、ってね。

 笑いをこらえつつ、その場を離れるオレだった。

 

 

 

 ―続く―




さおりんが妄想しそうなことは、ウチのみほ、ほとんど経験済みなのでは……。
槇村です。御機嫌如何。


はい。ようやくあんこうチームが登場です。
まずは沙織さんと華さん。
今回は顔合わせだけ。区切りが良かったからここで切った。
次回、食事が絡んだのほほんトークが展開されます。

華さんが、案外書くの難しい。言葉遣い、なのかな。
反面、さおりんが動かしやすい。
本文にも書いたけど、明るくなったみほって、さおりんっぽい気がする。
そう感じるのオレだけかな。





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55:夕空ア・ラ・カルト その2/みほ、沙織&華

 今日の晩飯はハンバーグで確定。みほも大喜びしていたので変更はない。スーパーにとんぼ帰りをしたオレは作り置きの分も考えた追加の材料、主にひき肉を買い込んだ。

 みほを基準に考えて、女の子ふたり分にプラスアルファくらいの量があればいいか。武部さんと五十鈴さんがどれくらい食べるかは分からないけど。

 

「まぁ大丈夫でしょ」

 

 ハンバーグの材料に加えて、お菓子やジュースなどもあれこれ買った。ぱんぱんになった買い物袋をぶら下げて、行きと違ってひとりで帰宅。

 アパートの部屋にたどりついて、扉を開ける。

 

「ただいまー」

「おかえりー、俊一くん」

 

 帰ってきたぞと声を掛ければ、みほの声が部屋の奥から返ってくる。

 恋人の返事を聞いて、少しにやけつつ、靴を脱ぐ。

 いいよね、こういうの。

 三和土にはすでに靴が3人分。みほと、おそらく武部さんと五十鈴さんのものが。みんな上がり込んでいるようだ。

 戻ったぞーと部屋の中に入って、まず出迎えてくれたのは。

 

「あ、おかえり。エプロン借りてるね」

 

 エプロン姿の、武部さんだった。

 ……可愛いけど、どういうこと?

 

「おかえり、俊一くん。あ、お菓子とかもある。ありがとう」

 

 みほが寄ってきて、買い物袋を受け取った。

 彼女は、虚を突かれたオレを気に留める様子はないようだ。

 オレはオレで、自分の部屋で、恋人以外の女の子がエプロン姿で出迎えてくれた、ということに少し混乱したせいか。

 

「ひゃっ」

 

 思わず、みほを抱きしめてしまう。

 腕を彼女の細い腰に回して、頬をサラサラヘアの頭に擦りつける。ちょっと小柄な体が、腕の中にすっぽりと納まる感じが心地よい。

 

「俊一くん、どうしたの?」

「いやー。オレ、エプロン姿の女の子に弱いのかもって。思わず武部さんに抱きつきそうになっちゃったから。自制したら、つい」

 

 会ったばかりの女の子、もっと言えばろくに会話もしてない相手に、そんなことはさすがにできない。代わりにと言ったらすごく申し訳ないけど、恋人であるみほに、直接的なスキンシップをしてしまった。

 いやでもさ、考えてみてほしい。

 自分の部屋に戻ったら、可愛い女の子がエプロン姿で「おかえりなさい」なんて出迎えてくれたんだよ? 男だったら胸キュン必至だと思うんだよ。実際、杏さんにやられてオレ、胸キュンせずにいられなかったし。今だって、よく頑張ったよ、オレの理性。

 なんてボケたことを言うオレに、みほは「しょうがないなぁ」みたいな呆れた顔をする。いや本当に、すいません。

 それでも、みほが腕の中から出ていこうとしないのが嬉しくて。さらに抱き寄せてしまった。密着した身体の柔らかさを堪能してしまう。

 一方、武部さんの反応はというと。

 

「やだもー、わたしの女子力は彼女持ちもメロメロにしちゃうんだー」

 

 なんだか嬉しそうに、自分の頬を両手で包みながら身をよじっていた。

 今日初めて会ったばかりだけど、ずいぶんと親しみやすい性格みたい。おまけに明るくてノリもいい。女子力云々といっているところから見るに、さぞかしモテるのだろう。うん、無理もない。

 一方で五十鈴さんは、テーブルの前に座って微笑んでいた。浮かれている武部さんを生温かく見守っている、とも取れるけども。

 

「残念ですが、わたくしは戦力にならないようなので」

 

 彼女は笑顔のまま、自分の手を持ち上げてみせる。

 人差し指に、絆創膏が巻かれていた。どうやら武部さんと一緒に料理を手伝おうとしたら、包丁で切ってしまったらしい。

 

「あ、ごはんはちゃんと研いでスイッチ入れておいたよ。5合くらい」

 

 お米を研ぐくらいしかしてなくてごめん、と言う彼女。指を切ってしまった五十鈴さんにあわあわしていたらしくて。絆創膏を引っ張り出すなりなんなりして、落ち着いたところにオレが帰ってきたと。

 それはいいんだけどさ。

 5合ってちょっと多くない? 女の子3人に男1人だよ?

 武部さんが、オレの疑問に答えてくれる。

 

「華って、あぁ見えてすごく食べるんだ。そのくらいの方がいいよって、わたしが言ったから。それ以上はさすがに、他人様の台所で勝手に増やすのははばかられて」

「そうなの? というか、武部さん。ただ待ってるだけでも良かったのに」

「みぽりんから、メニューはハンバーグだって聞いたからね。ご馳走になるんだから、下準備くらいはしておこうかなって思ったの」

 

 なるほど、それでエプロン姿なわけか。その気遣い、とてもありがたい。

 みほが、オレにお願いされた通りにお米を研ぎ始めて。さらに冷蔵庫の中やら戸棚の中やらを開けたり閉めたりしているのを見て、手伝いを申し出たらしい。えぇ娘たちや。

 

「わたしがハンバーグのタネを作ろうとして、華に付け合わせ用のジャガイモをお願いしたら、早々に指を切っちゃったから」

「なるほど。そうこうしてるうちにオレが帰ってきたと」

「そうなの。ごめんね、何もしてなくて」

「いやいや。その気持ちだけでも嬉しいよ」

 

 もともとオレが全部用意するつもりだったんだし。今からでもテーブルに戻って、みほたちと駄弁っててもらっても構わないくらい。

 

「でもせっかくだから、わたしは手伝うよ」

 

 むん、となにやらやる気一杯の武部さん。

 五十鈴さんはリタイヤを宣告済み。

 みほは座り込んで、五十鈴さんの相手をすることにしたようだ。

 

「じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 

 というわけで。

 オレもエプロンをつけて、広くはない台所に武部さんと並んで立つ。

 

「武部さん、ハンバーグの作り方は分かる?」

「分かるよ。どうして?」

 

 まずはじめに、今日のメニューの作り方について尋ねてみる。

 一緒に作るのはいいんだけど、各家庭ごとのルールみたいなものもあるからね。同じ料理を作ろうとしてるのに、やってることが食い違ってるなんてことは避けたい。

 で、オレがやろうとしてる作り方と、彼女の知っている方法のすり合わせをしてみたんだが。幸い、材料や手順はさほど違わなかった。

 

「ハンバーグって作る順番的に、分担してやるところってないじゃない」

「確かに、そうかも。タネを形にする時くらい?」

「だからいっそのこと、ふたりで並行して作ればいいんじゃないかな、と」

 

 無理をすればまな板もふたつ並べられるし、包丁もフライパンも2人分あって、コンロも2口のもの。だから同時にハンバーグを作っていこう、という提案だ。多く作ってしまった分は冷凍して保存しておけばいいだけなので、オレとしてはむしろその方がありがたい。

 

「では、始めまーす」

 

 オレと武部さんは、ハンバーグ作りを開始する。

 まずは、玉ねぎをみじん切りに。

 

「ひたすら、切る」

「大瀬良くん、慣れてる手つきだね。危なっかしさがないから、安心して見てられるよ」

「見てるだけじゃなくて、武部さんも切ってよ」

「はいはい。トントントンっと」

「って、すげぇな。よどみない包丁の使い方。速いし正確だ」

 

 手慣れたように玉ねぎを切っていく武部さん。しゃべりながらでも危なげないその手つきは相当、料理をやり慣れていることが窺える。

 

「料理は得意だよー。未来の旦那様のために女子力を上げてるからねー」

「胃袋を責めて、わしづかみにするわけか」

「得意料理は肉じゃがだよ」

「なるほど。ベタだけど効果的だと思う」

「だよね。そうだよね。男の子からお墨付きをもらっちゃった」

「でも、オレみたいに料理をする奴ならともかく。普通の同年代の男って、ラーメンとかハンバーガーとか、ジャンクっぽいのが好きそうなイメージがあるけど」

「え? 家庭的な女の子アピールは効かないってこと?」

「どうなんだろう。味を吟味するよりは、量をがっつり食べられるかどうかを重視しそうな気がする。もちろん、美味しいのは前提で」

「美味しいのが当たり前だと思われるのは嬉しくないなー。作るにもいろいろ苦労はあるのに。あとはほら、付き合ってる彼氏が、作ってもらうのが当たり前だと思ってるとか」

「ありそう。でもその話で言うなら、オレは作る側の人間だからなぁ。当人がどう思ってるかにもよるんじゃないの? 世の中にはダメ男に尽くすのが好きって人もいるらしいし」

「うっ。それってつまり愛が足りないってこと?」

「武部さん、ダメ彼氏につかまって尽くしちゃいそうなタイプじゃない? わたしがついてないと彼はダメなの、とか言って」

「え? そう見えるの?」

「なんとなくそう思った」

「無責任すぎるー」

「今日会ったばかりなのに、責任を求められるとか理不尽だろ」

 

 自分で言うのもなんだけど、くだらない会話のやり取り。

 けっこう楽しい。

 減らず口を叩きながら、オレも武部さんも料理の手は止まっていない。

 みじん切りを終えて、フライパンに玉ねぎを投入。もちろん、切っている間に油を引いた上で熱しておいたもの。木べらでかき混ぜながら、色がつくまで玉ねぎを炒めていく。

 

「よし。こんなもんか」

「そうだね。このまま粗熱を取って……」

「ひき肉の用意をしよう」

 

 炒めた玉ねぎから熱を逃がしている間に、ハンバーグのタネ作り。

 冷やしていたひき肉を冷蔵庫から取り出して、ボウルにイン。本当はボウルを二重にして、氷水で冷やしながらひき肉を練りたいところ。でもボウルの数が足りないので、そこは諦める。

 なぜなら。

 

「ここからは少し、みほちゃんと五十鈴さんにも手伝ってもらいます」

 

 ふたりに、ひき肉の入ったボウルと、調理用の使い捨て手袋を渡す。

 台所からテーブルに移ったオレと武部さんの前にも、同じようにひき肉入りのボウルが置かれている。もっとも、ボウルが3つしかなかったので、オレの分は大きめの丼で代用してるけど。

 

「とにかく、練る。練り上げる。肉の粒を潰して、粘り気が出るくらいになったらオッケーです」

 

 丸テーブルにオレ、みほ、武部さんに五十鈴さんが座り。

 ひき肉練り練り作戦が始まった。

 用意したひき肉の量はかなりのものになったけど、4人に分けたおかげで、ひとりが担当する量はそれほどでもない。それぞれが食べるだけのハンバーグ、プラスアルファ分の肉を練ってもらおう、というわけだな。

 

「わたし、ハンバーグの材料って初めて見たかも」

「わたくしもです。作るのも、思ったより大変なのですね」

「でも案外、そんなに時間は掛からないんだよ。育ち盛りの子供がいる家族の分を用意する、ってなると、ちょっと大変かもしれないけどね」

 

 みほと五十鈴さんは、ハンバーグを作るところを初めて見るらしい。汚さないように、袖をまくり、手袋をして、ひき肉を掻き混ぜる彼女たち。その手つきはいかにも慣れてない様子で、微笑ましくもある。

 対して、武部さんは料理が得意というだけあって、動かす手に迷いがない。みほと五十鈴さんに目を向けながら、あれこれ会話も挟みつつ、しっかりとひき肉を練り続けている。なんだか娘たちのお手伝いを見守るお母さんポジションで、頼もしい。

 そんなこんなで、男ひとりと女の子3人でひたすらひき肉を練り続けてしばし。粘り気が出てきたところに、牛乳に浸しておいたパン粉と調味料もろもろ、溶き卵、冷ました炒め玉ねぎをさらに投入。

 

「こんなもん?」

「うん。いいんじゃないかな」

 

 オレの目分量でぶち込んで。

 武部さんにも確認を取ってオッケーをもらい。

 みほと五十鈴さんに改めてボウルを渡した。

 そして再び練り練り作戦を指示する。

 

「それにしても、手慣れてるんですね」

「オレ? まぁ、実家でも食事作りのローテーションに入ってたから。大洗に転入してからもずっと自炊だしね」

「わたくしは、ほとんど料理をしていませんでしたから。美味しい料理をきちんと作れるというだけで、尊敬してしまいます」

「といっても、そんな豪勢なものは作れないよ?」

 

 ハンバーグのタネを練りながら、五十鈴さんが話し掛けてくる。おっとりとした雰囲気ながら、ひき肉を練る手元は結構パワフルだ。

 だからといって不器用というわけでもないようで。さっきジャガイモの皮を剥こうとして指を切ってしまったのは、単純に慣れていないだけだったみたい。

 

「ただ、どうしても食べる方に夢中になってしまう質でして……」

「さっきも言ったけど、華ってこう見えてすっごく食べるの。もし彼氏ができて食事に行こうってなったら、おしゃれなディナーより、食べ放題の焼き肉の方が喜んじゃうかも」

「いいですねぇ、食べ放題。何も気にせず食べられるって素敵です」

「華は素材がいいんだから、もっとロマンチックを意識しなよ」

「あー。肩が凝らない相手との食事って意味では、いいんじゃないの?」

 

 ハンバーグのタネをこねながら、なんともグダグダな会話をするオレたち。今日会ったばかりの女の子を部屋に連れ込んでの会話とは思えない。

 そんなオレたちを見て、みほはにこにこと御機嫌の様子。自分の友達とも仲良くなってくれて嬉しい、みたいな感じなのだろうか。微笑みながらボウルの中のひき肉を掻き混ぜてると考えると、少しシュールなものがあるけど。

 

「俊一くん、これくらいでいいの?」

「うん、いいね。いい感じ」

 

 材料全部入りで根気よくこね上げたハンバーグのタネ。肉もとろっとして、いい具合になっている。みほの手元のボウルを覗き見て、オーケーを出した。

 武部さんも、五十鈴さんのボウルをチェックしている。あちらの肉ダネも無事に仕上げることができたらしい。

 

「じゃあ次は、このタネをハンバーグの形にしまーす」

 

 手元のボウルに入っている肉ダネを、自分が食べるのにちょうどいいくらいの大きさにまとめる。程よい大きさの楕円形にして、両手で投げ合うように、パンパンと往復させる。

 

「こうして肉の中の空気を抜く。空気が入ったままだと、焼く時にひびが入ってしまうんだ。ひびが入ると、中から肉汁が逃げちゃうので、味のグレードが落ちてしまう。だから空気抜きは丁寧にやるように」

 

 変に力を入れてやらなくてもいいからね。

 そういうと、みほは「はーい」と返事をする。武部さんと五十鈴さんもそれに乗って、返事をしてくれた。ノリがいいね。

 各々が、それぞれ違った大きさのタネを手にする。こういうのにも、その人の性格とか、食の太さ細さとかも出てくるのかもしれない。

 五十鈴さんを見て、そんなことを思ってしまう。

 

「五十鈴さん、それデカ過ぎ。火が通らないからもっと小さくして」

「え、そうなのですか? 自分が食べる大きさにしろと言われたので」

「華、確かに言ったけどそれはちょっと……」

 

 自分が食べる分のハンバーグを、自分でこねる。そういうスタンスだった。でも五十鈴さんが手にしているのは、ボウルに入った肉ダネを全部まとめた巨大なもの。座布団と言うべきか、ラグビーボールと言うべきか。そんな感じの塊に、オレと武部さんは思わずツッコミを入れてしまう。

 

「わんぱく過ぎるだろ。せめて手のひらサイズにしてくれ」

「伝え方が悪かったかなー。火が通るかどうかまでは伝わらなかったねー」

「食べたい大きさのハンバーグを形にしたわけか。まぁ、分からんでもないけど。座布団みたいなでっかいハンバーグ、とか憧れたしさ」

「作ってみたの?」

「フライパンいっぱいにデカいやつを。うまく焼けなくて苦い思いをした記憶が」

「あるある、そういうの。作ってみたら想像してたのと違う、とかね」

 

 ビッグサイズの肉ダネを手にして不思議そうにする五十鈴さん。

 友人を見ながら嘆息する武部さんと、料理あるあるを言うオレ。

 その様子を見ながら笑いをこらえている、みほ。

 とりあえず五十鈴さんに、肉ダネをもっと小分けにするよう指示する。

 ……お母さんの料理を手伝う子供たち、みたいな雰囲気になってきたな。

 もっとも、オレとみほに関しては、それは当たらずとも遠からず。オレが横であれこれ声を掛けたりして。みほも素直に、集中するような真剣な顔をして、従ってくれる。今も、オレのやり方を真似するように、ハンバーグのタネを右手に左手にと往復させていた。

 

「うん、うまいうまい。オッケーオッケー」

「えへへ」

 

 褒めてあげると、みほが照れくさそうに微笑む。可愛い。

 つい頭を撫でてあげたくなるけれど、調理用の手袋をしているのでさすがに無理だった。外してから撫でてもいいんだけど、手袋越しとはいえひき肉を混ぜていた手でそのまま、みほの髪を触るのはなんとなく抵抗があるので。仕方ないから、後で思い切り撫で回してあげよう。

 

「みぽりんと大瀬良くんって、本当にラブラブな感じがするよねー」

 

 武部さんが、みほとオレの仲良しぶりを見てうらやましそうにつぶやく。

 みほに限ったことじゃないけれど、恋人たちとの接し方は特別なことをしているつもりはない。でも転入してきてからこっち、柚子さんとのやり取りはバカップルと言われ続けてるからなぁ。みほやまほと一緒にいる時も、やっぱりバカップルに見えるんだろう。

 

「これだけベタベタしてるのに、みぽりんは五股を許容してるのかー。人生っていろいろあるんだねー」

「逆に言うなら、他の恋人の方たちも、みほさんと同じくらい仲良くされているってことですよね?」

 

 内心は分からないけれど、武部さんも五十鈴さんも、オレが5人の女の子と同時に付き合ってるってことに興味はあるらしい。

 普通はもっと、オレが罵られたり、みほを説得したりするもんじゃなかろうか。まぁ、何を言われても手放すつもりはないし、見限られないように頑張るつもりではあるけど。

 みたいなことを言うと、ふたりは「あー」みたいな抜けた声を漏らす。コイツ自覚はあるんだ、って感じ。みほは相変わらず苦笑いしてるけど。

 

「五股はともかく、やっぱりうらやましい。甘々でべったべたで、頼れる彼氏とか憧れちゃう。しかもみぽりん、大瀬良くんの部屋の鍵とか持ってるし! ラブラブな関係っぽくてうらやましい!」

「そういえばお部屋にお邪魔した時も、ごく自然に鍵を開けてました」

 

 いろいろ思いがこみ上げてきたのか、武部さんが吠えてくる。みほのいろいろなところから、恋人との仲の良さを匂わせるものがあったらしい。五十鈴さんも、それは感じ取ることができたとか。その最たるものが、オレの部屋の鍵、ということか。

 

「恋人の部屋に、好きな時に入れるんだよ? もう通い妻じゃん!」

「つまっ」

「あらまぁ」

 

 武部さんの指摘に、みほは顔を真っ赤にして声を詰まらせた。

 さらに、ひき肉をこねていた手を、思わず自分の頬に当ててしまう。

 

「あっ」

 

 もちろん、調理用の手袋はしたままで。

 みほの頬が、ハンバーグ用のひき肉で汚れてしまう。

 

「あー、はいはい。みほちゃん動かないで。じっとしてて」

「はぅぅぅぅぅ」

 

 取り乱しそうになったみほにストップを掛けつつ。オレは慌てず騒がず、自分の手袋を外して、ウェットティッシュとタオルを取ってこようと立ち上がる。

 

「なんだか、大瀬良くんの方が奥さんっぽいかも」

「でも、みほさんが愛されているのは良く分かりますね」

「沙織さんも華さんも、いじめないでぇ!」

 

 友達のいじりに悲鳴を上げる、みほ。

 でもその声は、どこか楽しそうでもある。

 そんなやり取りを背中で聞いて。

 

「可愛いなぁ、みほちゃん」

 

 オレは顔がニヤつくのを抑えられなかった。

 

 

 

 ―続く―




まだ引っ張るのかよ。
槇村です。御機嫌如何。


自分でも驚いてます。
沙織さん華さん編、あるいはハンバーグ作り編は、
全部でもせいぜい1万字くらいで終わると思ってたのに。
でも、ハンバーグのタネを巨大にする華さんが出せて満足です。

次回、調理&実食編。
ダラダラトークはまだ続く。




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56:夕空ア・ラ・カルト その3/みほ、沙織&華

 オレとみほ、加えて武部さんに五十鈴さんの手伝いもあって、大量のひき肉からハンバーグのタネが出来上がった。あとは焼くだけである。

 

「というわけで、また武部さんの力をお借りします」

「まかせて!」

 

 エプロン姿のオレと武部さんが、フライパンを手にして再び台所に立つ。やる気に満ちた武部さんが、ふんすと手に力を入れている。その仕草がなんだか可愛らしい。

 さてさて。

 ふた口コンロの左右に、それぞれフライパンをセット。左側にオレ、右側に武部さんが陣取って。山盛りになったハンバーグのタネを手分けして焼いていくことになる。

 ちなみに、すぐ隣に立っている武部さんだけど。肩が触れそうなほど距離が近い。パーソナルスペース近くない? 

 友達の恋人だっていう気安さみたいなのがあるんだろうか。彼女は特に気にしていないみたいなので、オレも気にしないことにした。

 ふたり並んで会話をしつつ、フライパンを温める。

 そういえば、今さらだけど。

 

「武部さん、外で会った時はメガネ掛けてたっけ?」

「今になってそれ? 大瀬良くんが帰ってきた時にはもうしてたよ」

「あー。帰宅直後は、エプロン姿の方に目が行ってたから。メガネには気付かなくて、スルーしちゃってたよ」

「家庭的なイメージにやられちゃった? それともエプロン萌えとか」

「自覚はなかったんだけど。なるほど、エプロン萌えか」

「えぇ……。認められるとは思わなかったなー」

「エプロン姿の杏さんを見た時も胸キュンしちゃったし。否定できないな」

「それって、生徒会長? え、副会長だけじゃなくて、会長もなの?」

「あ、五股云々は聞いてても、相手が誰かは言ってなかったか」

 

 呆れたような声を漏らす、メガネ姿の武部さん。少し顔を赤くしてる彼女に、ちょっとオレのあれこれについてざっくり話す。

 オレが大洗に転入してきて早々、柚子さんを落としたというのは結構有名になっているので、割愛。その後のこと、柚子さんとイチャついてるうちに杏さんとの交流も増えていったとか、杏さんが憎からずオレのことを想ってくれていたとか、つい先日告白されたとか。いろいろと。

 

「なにそれ、恋愛漫画みたいな展開」

「そう言われると、確かにそうかもなぁ」

「友達の恋人が気になって、遂に告白とか。そんな話、本当にあるんだ」

「何股かけてるっていうのは杏さんも知っていたからね。武部さんが思ってるよりはハードルが低かったんじゃないの?」

「それって別の意味でハードルが高いよ」

「違いない」

 

 恋バナと言ってもいいのかなコレ。ずいぶんとズレたもんだけど。

 内容はともあれ、ぐだぐだな感じで会話をするオレと武部さん。

 お互いに手元のフライパンを見ながらだからね。仕方ない。

 そうこうしてるうちに、火も通ってきた。

 ハンバーグの数はいっぱいあるけど、急いでもろくなことはない。生焼けになって、味も今ひとつとか。そんなことになったら目も当てられない。

 

「そろそろいいかな」

 

 温まったフライパンに油を引いて、火は中火に。

 熱くなってきたら、ハンバーグのタネを並べて入れる。

 大きめのフライパンなので、1回に4つ焼くことができる。

 片面に焼き色がつくくらいまでしばし焼く。

 こんがりとした焼き色がついたら、裏返し。

 弱火に落とし、ふたをして、じっくりと蒸し焼きに入る。

 

「フライパンふたつを使って、オレひとりで焼いてても事足りたような気がしてきた」

「できないことはないけど、焦がしちゃうんじゃない?」

「あー。それで慌ててたらフライパンにくっついて、剥がそうとしているうちにもう片方のフライパンが大惨事、みたいな」

「ありそうありそう」

 

 フライパンを前にして、オレが他愛もないことを言えば。武部さんも同じように、のほほんとしつつも笑って言葉を返してくれる。料理に限ったことじゃないけど、一緒に何かをしながらおしゃべりとかしてると、共通する話題があるせいか、妙に通じ合うような感じになるよね。

 心地良さを覚えていたのは、どうやらオレだけじゃなかったようで。

 

「誰かと一緒に料理するって楽しいんだねー」

「基本的なことが分かってる者同士だと、お互いツーカーみたいにテンポ良くできるのがやりやすいからじゃない?」

「決めた。わたし、恋人にするなら一緒に料理ができる男の人にする!」

 

 キラキラした感じでそんなことを言う武部さん。エプロン姿で、火の掛かったフライパンを前にしてるっていう絵面で。なんだか微笑ましい。

 

「ハードル高いんじゃないかなそれ。同年代なら特に」

「理想は高くないと。自分を安売りしちゃダメだと思う」

 

 この場合、安売りというより高望みと言った方が合ってるのでは。

 というか、自分から台所に立つ男子学生がどのくらいいるのやら。

 

「大瀬良くんはできるじゃない。買い物だって自分から行ってるし」

「自分で言うのはなんだけど、オレはレアケースだと思うなぁ」

 

 というかそもそもの話。武部さん、彼氏いないのか。モテそうなのに。

 よく、手料理で相手の心と胃袋をつかむ、みたいな言葉を聞く。考えてみると、料理を振る舞うシチュエーションに持っていけるなら、すでにそこそこ親しくなってるよね。会ったばかりで一緒に料理するとか、今日のオレみたいな状況はそうそうないだろう。

 となると。彼氏が欲しいっていうなら、料理よりは出会いとかに比重を置いた方がいいような気がするのはオレだけだろうか。激しく余計なお世話だけど。

 

「武部さんレベルの女の子なら、相手なんて引く手あまただろうに」

 

 明るくて、ノリが良くて、可愛くて。

 友達思いで、気遣いもできて、料理が得意。

 レベル高過ぎだろ。

 会ったばかりのオレでさえ、これだけいいところを挙げられる。

 なんというか。みほの周りはレベルの高い女の子がいっぱいだなぁ。

 オレはしみじみとそんなことを考えてしまう。

 

「……もしかして、わたし口説かれてる?」

「あれ、声に出てた?」

「出てたよ。何言ってんの!」

 

 どうやら考えてたことが声に出てたようだ。

 こういうこと多くないかオレ。気をつけないといかんな。

 恥ずかしがっていやんいやんと身をよじる武部さんをスルーしながら、フライパンの火加減を気に掛ける。

 彼女の方も、きちんと手元の料理を注意しているみたい。良くできた女の子だ。本当に、どうしてこれで恋人がいないのか分からない。

 

「恥ずかしいじゃない。やだもー」

「割と本心だけどなー」

 

 こんな風に、ぐだぐだと会話をしてるんだけど。

 その一方で、オレたちの後ろでは。

 

「俊一くんと沙織さん、なんだか新婚夫婦みたいだよ」

「沙織さんが、これまで培ってきた女子力を発揮してます」

 

 みほと五十鈴さんがなにやら話してる。

 こそこそとかそういうのではなく、すぐ後ろに立ってコンロを覗き込みながら。オレにも武部さんにも丸聞こえだ。

 

「みぽりん。自分の恋人を当てがって夫婦みたいとか、どうかと思うな」

「意外ですね。嬉しくないのですか?」

「華はわたしのことをどう思ってるのよ。確かに、料理とかいろいろ頑張ってきたのが活かせてるのは嬉しいけど。友達の彼氏にアピールするのは違うでしょ」

「あら。でも大瀬良さんは何人も恋人がいらっしゃいますし。もうひとりくらい増えても……」

 

 みほもそうだけど、五十鈴さんがすごいことを言ってきた。

 待ってくれ。オレは誰彼構わず手を出してるわけじゃない。

 なんてことを言うと、なぜか武部さんがショックを受けたような顔をする。

 

「えっ。じゃあ男の子から見て、わたしって魅力ないの?」

「いやいや何言ってんの。むしろ武部さんはモテそうな気がするけど。その気になれば恋人のひとりやふたりはあっという間にできるでしょ。むしろ去年同じクラスだった男子生徒どもはどんだけ見る目がないんだと」

「待って。大瀬良くん待って。フォローする気持ちは嬉しいんだけと、わたしの心がえぐられてるような気がする」

 

 いちいち反応が大きい武部さんに、オレもついつい乗っかってしまう。

 さらに、みほや五十鈴さんまで絡んできて始末に負えない。

 

「沙織さん沙織さん。本気で俊一くんを好きになったなら、いつでも告白オッケーだよ」

「みぽりん、ちょっと! 恋人がさらに相手を増やすのを勧めてどうするのよ!」

「あ。華さんも、もしそういう気持ちになったら悩まなくていいから。恋人仲間と、俊一くんの美味しい料理が歓迎してくれるよ」

「なるほど。それは魅力的なお誘いですね……」

「おいちょっと待て。特にみほちゃん、なんでそうなる」

「華、ご飯に釣られるとかチョロ過ぎるよ!」

 

 ……武部さんじゃないけど、話をしながら料理するのって楽しいな。

 だらだらとした会話のやり取りをしつつ、ハンバーグを焼いていくオレたちだった。

 

 

 

 

 さて。ようやくご飯の時間だ。

 結構な量のハンバーグを、それなりの時間を掛けて焼き上げた。

 

「お待ちどうさまー」

 

 焼きたてのハンバーグが盛られた大皿をテーブルに置いていく。

 ちなみに4人それぞれの作ったタネのハンバーグがひとつの皿に盛られて、4つの皿が並んでいる。個別にお皿を用意するんじゃなく、大皿から食べる分だけを自分で取る、というのが大瀬良家のスタンスだ。

 なので、テーブルの中央に付け合わせの皿とハンバーグソースの入ったお椀があって、それを囲むように山盛りハンバーグの皿が4つある形になる。

 みほと五十鈴さんは、すでにテーブル前に座っている。武部さんとオレも、同じようにテーブルについた。

 座るなり、武部さんは取り皿と箸をみんなに渡して。

 オレはお椀に少し多めにご飯をよそって、3人にそれぞれに渡す。

 これで支度は完了だ。

 

「お腹いっぱい食べなー」

「いただきまーす」

「いただきます」

「はい、召し上がれ」

 

 元気よく挨拶をしながら、みんながハンバーグに箸を伸ばす。

 なぜか3人とも、オレがこねたタネの皿から取っていく。

 おい、どういうことだ。

 

「俊一くんのだから」

「同い年の男の子が作った料理だよ。味が気になるじゃん」

「こんな機会はそうありませんし」

 

 みほは、いつものことだ。熊本にいた頃から食べてくれてたし。

 武部さんと五十鈴さんも、男の作った料理に興味があるみたいだった。

 いやはや、嬉しいやら恥ずかしいやら。

 苦笑いしつつ、オレはみほの前の皿からハンバーグを取る。

 ご飯の上に乗せて、箸を通し。

 割ったハンバーグから肉汁が溢れて、米に染みついていくのが堪らない。

 ソースも何もつけないでそのまま、ハンバーグを口にした。

 

「うん。みほちゃん、美味しい」

「俊一くんのハンバーグも、もちろん美味しいよ」

 

 みほのこねたハンバーグは、十分に美味しい出来だった。焼いたのはオレだけど、ひき肉をこねて形にして、空気抜きをしたりして形にしたのは、みほだからね。

 

「大瀬良くん、美味しいよ。すごくいい出来だと思う」

「大瀬良さん。すごく美味しいです」

 

 どうやら武部さんと五十鈴さんにも、お気に召してもらえたようだ。

 お褒めの言葉に「ありがとう」と返しながら、オレもふたりのハンバーグをそれぞれいただく。

 うん、どちらも美味しい。

 そう伝えると、武部さんも五十鈴さんも嬉しそうに笑ってくれる。

 ……なんだこれ。女の子に囲まれてご飯を食べて、微笑みながら自分の作った料理を褒めてもらえるとか。すげぇ幸せ者じゃねぇかオレ。

 再びハンバーグを口にする。

 うん、美味しい。

 オレをはじめとして、みほ、武部さん、五十鈴さんとそれぞれがひき肉をこねたハンバーグ。形とか肉の固まり方とかが微妙に違ってるのも、個性というかなんというか、違った美味しさを出してるような気がする。

 というか、同い年の女の子たちの手ごねハンバーグだからな。美味しいに決まってるだろ。やっぱり幸せ者だなオレ。

 

「あー、肉汁の染みたご飯が美味しい」

 

 こう感じているのはオレだけじゃないようで。

 みほは、元気よくおかわりをお願いしてきたし。

 武部さんも、少し申し訳なさそうにおかわりのお椀を差し出してくる。

 驚いたのは、五十鈴さん。すごく食べると聞いていたし、遠慮しなくていいとは言ったけど、すでにご飯を3杯おかわりしている。しかもハンバーグはもう5個も平らげていた。そして今6個目に箸を伸ばしている。

 

「すごい食べる、っていうのがどれくらいかは分からなかったけど。本当に良く食べるねぇ」

「でしょ? あれだけ食べてどこに消えるのか不思議なくらいだよ」

「でも料理する方からしたら、気持ち良く食べてくれる人は嬉しいんじゃない? 少なくともオレは嬉しい」

「それはそうかも。確かに華って、すごく嬉しそうに食べるから」

「オレも、みほちゃんとかまほちゃんが美味しそうに食べてくれると嬉しいし。また作ってあげたいと思わせてくれるよなー」

「分かる、その気持ち。わたしも、未来の旦那様が美味しそうに手料理を食べてくれるのを想像するだけで、嬉しくなっちゃう」

「作る方を信頼して、メニューをリクエストされるのも嬉しいもんだよ。今日も、武部さんたちと会う前に買い物した時、ハンバーグにしようって言ったら、みほちゃんが嬉しそうに声を上げて……」

「俊一くんストップ! やめてぇ!」

「みぽりんも意外と食いしん坊キャラだったの?」

「ちがっ、食いしん坊じゃなくて、俊一くんのご飯が美味しいだけなの!」

 

 ぶんぶんと頭を振って、思わぬキャラ付けを懸命に否定する。

 でもさ、オレの料理が美味しいって言ってくれるのは嬉しいんだけど。それだと食いしん坊を否定しているようには聞こえないんだけど。

 話を振ってきた武部さんは、それ以上掘り下げてこなかった。

 

「そっか。みぽりんまで、華みたいな食いしん坊だったらどうしようかと思った」

「あら、沙織さん。わたくしをそんな風に見てたんですか?」

「いやでも五十鈴さん。ひき肉こねてた時のタネを見たら、否定はできないと思うんだが」

「……あのくらい大きいのは、やっぱり無理なんでしょうか」

「華、ハンバーグを焼くのと、ホットケーキを焼くのは同じじゃないよ?」

 

 ここまでくると呆れるというか、感心してしまうというか。

 どちらにしても、美味しそうに食べてくれるのは見ていて気持ちいい。

 

「こんなに食べてるのに、このスタイルはズルいと思う」

「確かに。華さんって、すごくスタイルがいいよね」

「あら。沙織さんも、みほさんも、素敵じゃないですか」

「わたしは、華みたいな細さが欲しいの!」

「もっと食べれば、華さんみたいに背が伸びるかなぁ」

 

 なんだかスタイル談義になってきた。男が混ざるとロクなことにならないだろうから。オレは黙々と食事を進めるのみ。

 最後のハンバーグを取ったら、五十鈴さんが「あっ」みたいな声を出したけど、全力でスルーだ。恨めしそうな目を向けても気に留めない。

 というか、ごはんもハンバーグも、オレより食べてるじゃないか。

 

「本当に美味しかったんです。ついつい箸が進んでしまって」

「そうだねー。すごく美味しかったよ、大瀬良くんのハンバーグ」

 

 五十鈴さんと武部さんに、改めて褒められてしまう。

 うん、悪くない。むしろ嬉しいぞ。

 

「料理上手な彼氏とか、みぽりんがうらやましいー」

「あら、恋人に作ってあげるのが夢じゃなかったんですか?」

「一緒に料理する良さに気付いたの。料理のできる彼氏が欲しい!」

「そっか、俊一くんと一緒に料理を作るのも楽しそう。でも、杏さんと柚子さんには勝てないし。アンチョビさんも料理が得意らしいし。わたしとお姉ちゃんは……」

 

 武部さんが、さっきも言ってたみたいに料理のできる恋人希望と咆える。

 五十鈴さんは、マイペースに武部さんをいじり立てて。

 みほは、なんだか苦悩し始めた。

 前者ふたりにはひとまず触れないようにして、だ。

 みほと、まほについては、料理に興味があるならこれから覚えていけばいいんじゃないかな。

 

「なんだったら一緒に台所に立って、教えながら料理をしてもいいし。新学期になったら戦車道もするんだから、負担にならない程度のことから始めるのがいいと思うよ」

「……うん、そうする」

「とりあえず今度、一緒にエプロンを買いに行こうか」

 

 形から入るのも、その気になるにはいい方法だからね。

 みほは「お揃いにする」と言いながら、なんだかやる気を出している。

 

「ん? 大瀬良くん。じゃあ、わたしが借りたエプロンは誰のなの?」

 

 みほとオレの会話に、武部さんが挙手しながら混ざってくる。

 うん、ひとり暮らしの男の部屋に、普通ならいくつもエプロンはないからね。恋人用のエプロンだと考えたのも無理はない。この場合は、みほのエプロンだと思ったんだろう。

 確かに、恋人用のエプロンではあるんだけど。

 

「あれは、柚子さん用のエプロンなんだよ」

 

 柚子さんは、よくオレの部屋に来て料理を作ってくれたりしてたから。逆にこれまで、オレが柚子さんに何か作ることがなかった。我ながらちょっと意外だ。

 

「通い妻じゃん! みぽりんじゃないけど!」

「おっしゃる通り。今言われて気がついた」

 

 いやマジで。

 そうか、おっとりした年上お姉さんが通い妻してくれてたのか。

 台所に目を向けて、エプロン姿の柚子さんを思い返す。

 ……うん、顔がにやけてくるね。

 でも今はやばい。女の子たちの前で緩んだ顔は見せられない。

 とっさに顔を手で覆ってみせたけど、遅かった。

 

「俊一くん、何を想像したの?」

「にやけてた顔、隠せてないよー?」

「何を思い出していたのか、ぜひとも教えてほしいですね」

 

 女の子3人が身を乗り出してくる。テーブル越しだから迫ってはこないものの、なにやら迫力を感じてしまう。

 気がつけば、なんやかやと話をするはめになってしまった。オレとみほの馴れ初めだとか、オレの女性関係についてだとか。もちろん、生々しくない、差しさわりのない範囲で。

 オレの目線からの色恋あれこれも気になっている様子。まぁ普通は、何人も恋人がいて、それを公言するような奴はいないだろうし。そんな男の言うことは、貴重と言えば貴重かもしれない。

 特に、武部さんの食いつき方がすごい。みほとオレが、自然な感じでイチャついてるのがうらやましくて仕方がないのだという。

 それを聞いたみほは顔を真っ赤にさせる。自分では意識してなかったことを他人から指摘されると、恥ずかしくなることってあるよなー。

 

「彼氏の部屋に出入りしてるところとか、すっごく距離が近く感じる!」

 

 彼女の注目ポイントは、みほがオレの部屋の鍵を持ってることらしい。部屋に上がる時、すごく自然に鍵を取り出して扉を開けたから、みほの部屋に来たんだと最初は思ったんだとか。

 

「ちょっと前に、オレの部屋の合い鍵を渡したばっかりなんだよね」

 

 みほだけじゃなく、まほにも、柚子さんにも、杏さんにも、もちろん渡してある。全員揃って、思った以上に喜んでくれた。みんな可愛い。

 ちなみにアンチョビさんには、宅配便で発送した。「オレの部屋の鍵、いる?」って電話したら、えらく食いついてきた。またアンチョビさんの乙女心を打ち抜いてしまったらしい。可愛いなぁもう。

 そんなわけで。恋人たちはみんな、オレの部屋の鍵を持っている。

 武部さん的にも、「恋人の部屋の鍵」は乙女心をくすぐるようだ。

 

「ちなみにオレも、みほちゃんの部屋の鍵はもらってる」

 

 部屋の隅にある机を指差す。そこには鍵をまとめたキーホルダーが。みほとまほの部屋の鍵も、一緒になっている。

 ちなみに杏さんからも部屋の鍵をもらった。柚子さんは住んでいるのが学園の寮なので、さすがにもらってないけど。

 

「まぁ、鍵をもらったからって、勝手に上がり込んだりはしないけどね」

「それはそうだよ。わたしもお姉ちゃんも、あらかじめ許可をもらってるか、いるって分かってる時しか使うつもりはないし。普通はチャイムを鳴らしてからお邪魔するしね」

「当たり前といえば、当たり前のことなんだけどね」

 

 イチャイチャするし、デロデロな関係ではあるけれど、なぁなぁというわけじゃないから。そこらへんはちゃんと、節度とか良識とかにのっとっているつもり。

 ……今のオレが節度とか良識とか言っても説得力ないな。

 

「というかさ。武部さんの言う通い妻してるのって、どっちかっていうとオレの方じゃない?」

「うっ」

「あ、責めてるわけじゃないよ。オレ自身は、みほちゃんやまほちゃんに頼られたり甘えられたりすると嬉しいし。可愛くてもっと甘やかしたくなっちゃうし」

「はうっ」

 

 みほが再び、声を詰まらせた。

 しかも二度。

 おそらくそれぞれ違う意味で。

 最後は照れた顔をしてうめき出した。

 

「みぽりん、可愛い!」

「本当に、大瀬良さんが大好きなんですねぇ」

 

 友達ふたりにとどめを刺されて、みほが轟沈した。

 恥ずかしがって下を向き、なんだかうにゃうにゃ悶えてる。

 うんうん、可愛いぞ。

 

「大瀬良さんは大洗に転入される前から、みほさんとお付き合いをされてたんですよね」

「そうだね。熊本にいた頃から」

「つまり恋人を遠いところに残した状態で、副会長に手を出したことに」

「港ごとに女を作る、ってやつだ!」

「五十鈴さん、武部さん、言い方。反論はできないけど」

 

 笑顔の五十鈴さん。乗っかってきた武部さん。どちらも遠慮ないな。

 まぁ、陰口をたたかれるよりは何倍もマシだけどね。

 

「悩んでらしたみほさんと、みほさんのお姉様に寄り添っていたとお聞きしましたから。心の支えになる方がいるというのは、うらやましいです」

「私の場合は、俊一くんが見守ってくれてるっていう心強さがあったから。そのおかげで思いきれたし。でないと、もっと落ち込んでたと思う」

「副会長も、辛い時に励まされたっていうのが切っ掛けらしいじゃない。いいなぁ、わたしもそういう出会いが欲しい!」

 

 五十鈴さんが、本当にうらやましそうに言い。

 みほが、しみじみと熊本時代を振り返り。

 武部さんが、テンション高く「彼氏が欲しい」と咆える。

 そして今度は、みほからオレとのあれこれの話を聞き出す流れに。

 ……みほちゃんや。ノリノリになるのはもう、この際止めないからさ。せめてオレのいないところでやってもらえないだろうか。

 いたたまれなさを感じながら、いそいそと食事の片づけを始めるオレだった。

 

 

 

 ―続く―




やべぇ、さおりんとの掛け合いが書いてて楽しい。
槇村です。御機嫌如何。


本当に、駄弁っている様子を描いているだけだった。
ただもうちょっと華さんと絡む会話を入れたかったんだけど。
後でちょっとフォローしていこうかな。

今年中にもう1話くらいは更新したい。
がんばれオレ。




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【原作突入】大洗学園の新学期、始まります!【ようやく】
57:桜の花、舞い上がる道を


 新しい朝がきた。そう、大洗学園の新学期の始まる日が。

 早くも、いや、ようやくと言うべきか。みほとまほが熊本から大洗にやってきて、まだ半月経つかどうかくらいなんだけどね。もうすいぶんと長いこと時間が経ってる気がする。

 この春休みの間、いろいろ充実してたせいかもしれないな。

 暇さえあれば、それこそ朝から晩まで彼女たちと一緒にいたし。思い返してみても、離れていた分を取り戻そうとするかのようにイチャついてばっかりだった。日によっては晩から朝までエロいことをしっ放しっていうこともあった。

 もちろん、柚子さんも一緒になってイチャイチャべたべたしてた。

 といっても彼女の場合、生徒会の仕事があるおかげで、頻度そのものは西住姉妹よりも少なかったけど。その分べったりと甘えてきて、可愛がってくれとおねだりしてくるのが可愛くて堪らなかったなぁ。要望に応えて濃いめに甘やかしてあげましたとも。

 あとは、あれだ。恋人が増えたこと。

 アンチョビさんと、杏さんという、魅力的過ぎるお姉さんがふたり。すでに恋人がいるオレを受け入れて、好きだと言ってくれた。思い返すだけで顔がにやけてだらしなくなってしまう。

 とはいえ、まさか5人の女の子と付き合えるようになるとは思わなかった。春休みの思い出と簡単に言うには、濃密で濃厚過ぎる。こんな奴はオレくらいだろう。

 ともあれ。

 そんなこんなで、今日からまた学校に通う日々が始まるわけだ。

 普段通りに起きて。

 朝食を済まし。

 久しぶりの学生服に腕を通す。

 

「よし」

 

 いろいろあったけど、改めて気を取り直して。恋人たちに見限られないようなイイ男になるために精進していこう。

 そう決意を新たにしていたところに。

 

 ピンポーン

 

 部屋のチャイムが鳴った。

 一緒に登校する約束をしていた、みほとまほだろう。

 カバンを手にして、玄関に向かう。

 扉を開けると。

 

「おはよう、俊一くん」

「俊一、おはよう」

 

 大洗学園の制服を着た、みほとまほが笑顔を浮かべて立っていた。

 可愛い。

 

「おはよう。みほちゃん、まほちゃん」

「今日から学校でも一緒だよ!」

「同じ学校に通えるというのは、思った以上にワクワクするな」

 

 姉妹揃って、ずいぶんと御機嫌だ。

 みほは分かりやすいくらいにウキウキしていて。

 まほも一見クールっぽいけれど表情が柔らかくなっている。

 あとはやっぱり、大洗学園の制服を着てるのが目に新しい。

 黒森峰の制服もキリっとしていて良かったけど、これもすごくいいな。

 

「みほちゃんも、まほちゃんも、すごく似合ってるよ。うん、可愛い」

 

 白地に緑のライン、緑のスカートのセーラー服を着るふたり。揃って制服姿を見るのは、学園艦に来た時以来かな。西住姉妹の可愛さを改めて認識する。

 

「俊一くんの学生服姿も、カッコいいよ」

 

 そんなことを言いながら、みほが抱き着いてきた。

 オレもそれに応じて、彼女を抱きしめ返す。

 片腕を腰に回し。

 もう片方は頭を抱え込むようにして。

 優しく力を入れる。

 軽く髪を梳きながら、みほの頭に頬ずりする。

 さらさらの髪の感触が心地いい。

 幸せ。

 

「俊一。私も抱きしめてほしいぞ」

「もちろん」

 

 待ちかねたのか、まほがハグをおねだりしてきたので。みほにちょっと離れてもらうと、入れ替わるようにして、まほも抱き着いてきた。

 もちろん、彼女も抱きしめ返してあげる。

 腕を回した腰の位置とか。

 胸の膨らみが当たる場所とか。

 頬ずりした時の頭の高さとか。

 みほとの違いがいろいろなところで感じられる。

 でも抱きしめると柔らかくて気持ち良くて、可愛いのは変わらない。

 つまり幸せだ。

 ハグを堪能していると、まほが少し背伸びをしてきて。

 

「んっ」

 

 ちゅっ、と。唇を重ねてきた。

 それがあまりに可愛らしかったので。

 オレの方からも、ちゅっ、と。唇を重ねてしまう。

 

「あっ、ずるい。わたしもキスしてほしい」

 

 もちろん、大歓迎だ。

 片腕を差し出すと、みほが嬉しそうにまた抱きついてくる。

 再度、彼女の腰に手を回して抱き寄せつつ。

 ちゅっ、と軽くキスしてあげる。

 みほは表情を緩ませながら、キスを返してくれた。

 

「みほちゃんもまほちゃんも、可愛い。大好き」

 

 制服姿のふたりを両腕に抱きしめて、ちゅっちゅっと交互にキスをする。

 おいおい、朝の登校前から天国過ぎるだろ。

 とはいえ、こうしてばかりもいられない。部屋の中とはいえ玄関先に突っ立ったままだし。何より、そろそろ登校しないと、時間的によろしくない。

 

「というわけだから、学校に行くよー」

 

 ハグもキスも、これから毎日できるわけだから。

 がっつかなくても逃げやしないぞ?

 

「むー。確かにそうだけど」

「仕方ない。行くとするか」

 

 なぜかしぶしぶという感じで、みほとまほは言うことを聞いてくれた。

 おかしいな。オレ、当たり前のことを言っただけなんだけど。

 まぁオレだって、ふたりの柔らかい身体をぎゅーっとしていたい気持ちはあるから。分からんでもないけどね。

 そんなこんなで、オレたちは部屋を出る。

 すぐさま、みほは手をつないできて。

 まほは、腕を絡めてきた。

 両手に華の幸せな状態で、3人揃って学校へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 オレの住んでいるアパートから、校舎まで短くない距離がある。つまりその道中は、同じように登校する生徒がいっぱい歩いているわけだ。

 となると、女の子をはべらせて歩いているオレは注目されてしまう。もともとは女子校で、今でも男子生徒が少ない中、朝から女の子とイチャついてる男がいれば目立つのは仕方がない。

 ちなみに、杏さんと柚子さんはもう登校してる。生徒会の人だから、始業式でいろいろとやることがあるんだろう。前準備では済んでいても、当日じゃなきゃできないこととかさ。本当にお疲れ様です。

 そんなわけで。杏さんと柚子さんは、登校前の早い時間にオレの部屋に立ち寄って、ハグとキスでオレ成分なるものを補給していった。嬉しいなぁ、可愛いなぁと思いつつ、求めに応じて思い切り抱きしめて、いっぱいキスをした。やっぱり幸せ者だな。

 で、今もまさに幸せ気分続行中のオレ。

 みほとつないだ手を握り返し。

 まほが腕に身体を押しつけてくる柔らかさを感じつつ。

 おしゃべりをしながら歩いている。

 うん。周りの目を気にしてこの幸せを自重するとか、あり得ないな。見たければ見ればいい。むしろ見せつけてやるぞ。

 なんて風に、悦に入っていたら。見知った顔に声を掛けられた。

 

「朝から恋人とイチャついてるとか、わたしにはまぶし過ぎる……」

「仲良しさんで素敵じゃないですか」

 

 武部さんと、五十鈴さんだ。なにやら苦悶してるような声と、微笑ましいものを見つめるような目を向けられる。

 

「あっ。沙織さん、華さん、おはよう!」

「みぽりん、おはよー」

「おはようございます、みほさん」

 

 みほが笑顔で挨拶をし、ふたりもそれに返してくる。

 うん。仲良さそうなところを見ると、オレまで嬉しくなってくるな。隣にいるまほも、心なしかほんわかしているような気がする。

 さて。オレとも朝の挨拶を交わしてから。みほが、初対面の姉・まほを紹介する流れに。これまた嬉しそうなみほに、武部さんと五十鈴さんも少しばかり苦笑していた。

 

「話には聞いていた。妹と仲良くしてくれて、ありがとう」

「いえそんなっ。友達になったくらいで」

「むしろわたくしたちの方こそ、親しくさせてもらえて嬉しいです」

「ひとつ年上だが、良ければ私とも仲良くしてやってほしい」

 

 まほがそんなことを言ってくる。

 対して武部さんと五十鈴さんの方は、食い気味で首を縦に振ってきた。

 

「むしろわたしの方こそ仲良くしてほしいです。ひと味違うできる女の人、みたいな雰囲気に憧れますっ」

「芯のあるたたずまいと言いますか、ひとりの女性として素敵です。ぜひともいろいろご教授いただきたいです」

 

 まほの、きりっとしているけど柔らかな笑顔。

 うん。すっごい破壊力あるよね。

 案の定、ふたりともメロメロになっていた。そんな魅力的な顔を間近で見せられたら堪らない。頼れるお姉さんって雰囲気で、その上ちょっと親しみやすさも感じるというか。

 と思っていたら、別の意味で破壊力のあるセリフがぶっ込まれる。

 

「俊一の恋人仲間になりたい場合も、私は大歓迎だぞ」

「おーい。まほちゃん、ちょっと待って」

「む。そういうのはないのか。私はてっきり……」

 

 ついツッコミを入れてしまった。成り行きを見守っていた後方から、まほの頭をがしっとわしづかみしてみせる。

 

「いや、俊一、痛いぞ。力を緩めてくれ」

「まほちゃんが変なこと言うからでしょ。そんなこと言って、みほちゃんから友達が離れていったらどうするのさ」

「……なるほど。それは良くないな」

「普通は、オレたちみたいな関係は良く思われないものなの。隠せとまでは言わないけど、知り合いを変に巻き込もうとするのは止めなさい」

「私はそれなりに相手を見て誘っているつもりなんだが」

「そもそも誘うのがおかしいよね? 自分の恋人に女の子が増えるのを勧めるとか、おかしいよね?」

 

 オレも男だから、女の子と仲良くなれるのは嬉しいよ。まほといい、みほといい、恋人が複数いることを許容してくれていることにはもう、頭が上がらないし。でも彼女たちが率先して増やそうとするのは違うでしょ。

 

「俊一、そろそろ本当に頭が痛くなってきたんだが……」

「あ、ごめんね。って、オレが謝るのは何か変じゃないか?」

 

 まほの頭をつかみ、ぎりぎりと力を入れてお仕置きをしていたのを止めて。彼女の頭を撫でてあげる。

 つい反射的に謝っちゃったけど、絶対違うよな。

 でもまぁ。まほが嬉しそうにしてるから、細かいことはいいか。

 みほも、オレたちの様子を見ながらにこにこ顔だし。

 

「それにしても本当に、姉妹で同じ男の人が好きなんだね」

「実際に目の当たりにすると、やっぱり驚きです」

 

 確かに。話を聞いただけなら、モテない男の妄想そのものだからなぁ。

 だから、みほも変な勧誘をするのは止めなさい。

 姉と同じように恋人云々とか言い出したので、みほも頭をわしづかみにしてやる。いやー、とか言ってるけど、声がなんだか楽しそうだぞ。構ってもらえて嬉しいのか?

 

「仲いいなー」

「本当にそうですね」

 

 コントみたいなやり取りをするオレたちに、武部さんと五十鈴さんが少し呆れたような声を掛ける。

 まぁ、うん。無理もない。

 

「あと、ドヤ顔でお姉ちゃんを自慢するみぽりん。可愛かったよ?」

「はい、とっても」

「でもさ、美人姉妹だよね。みぽりんは可愛い系で、お姉さんは美人系」

「お姉さんを自慢したくなるのも、分かる気がしますね」

 

 微笑ましい目を向ける武部さんと五十鈴さん。みほはそれに気づいて慌て出すけど。今さらだと思うぞ。

 

「あううう」

「まぁまぁ、みほちゃんが可愛いことは周知の事実だし」

「そうだぞ。みほは可愛いんだからな。もっと自信を持て」

「それも恥ずかしいけど、違う意味でも恥ずかしいよぉ……」

 

 顔を赤くして悶えるみほを、オレとまほが、よしよしと撫で回す。それがまたみほを恥ずかしくさせる。

 対して武部さんは、やや呆れ顔になっていて。五十鈴さんは変わらずにこにこしていた。

 まぁ、オレたちはこんなやり取りが普通なので。慣れてもらうか、あきらめてもらうか。悪感情は持たれていないようだから、オッケーということにしておこう。うん。

 

 

 

 

 

 まほと、武部さんと五十鈴さんのファーストコンタクトが問題なく、問題なく? とにかく終わって。オレは4人の女の子と連れ立って登校することに。学生として、すごい幸せな状況を味わってるぞ。果報者だなぁオレは。

 少し顔が緩むのを自覚しつつ、女の子たちとおしゃべりをしながら歩いてる。校舎が近づくにつれて、登校する生徒の数が増えていくのが分かる。

 やっぱり女子生徒の方が圧倒的に多い。その中で、女の子に囲まれているオレはなかなか目立つ。でもまぁ、今さらなことなので。オレは気にすることなく。みんなと一緒に正門を通り過ぎた。

 校舎の入口近くには人だかりができていた。そこには壁一面に、各学年のクラス分け一覧が張り出されている。

 

「みんな一緒のクラスだといいなぁ」

 

 みほが、それはもうウッキウキな笑顔でそんなことを言う。オレとまほはもちろん、武部さんと五十鈴さんまで、微笑まし気に彼女を見つめてしまった。

 うん、可愛いよね。

 熱心な願いが通じたのか。みほとオレは同じクラスに。さらに武部さんと五十鈴さんも同じクラスになっていた。

 もうね、みほが上機嫌になって、大喜びだよ。

 

「沙織さんも華さんも、これからよろしくね!」

「こっちこそ、よろしくねー」

「1年間、楽しく過ごしましょう」

 

 女の子3人が手を取り合いながら、きゃっきゃとはしゃいでいる。

 うん。いいね、この光景。

 特に、みほが明るくなれているのを見ると、それだけで嬉しくなる。

 

「なんというか、みほちゃんが大洗に来るって言った時は驚いたけど。新しくできた友達とじゃれてるのとか見ると、よかったなぁとか思っちゃうね」

「そうだな。みほがあんなにはしゃいでいるのを見るのは、それこそ小さい頃以来かもしれない」

 

 まほも、姉という立場から同じようなことを考えていたようだ。黒森峰にいた頃や、それより前のこととか、いろいろ思うところがあるんだろう。

 オレには、ふたりがどんな思いでいたとかは推し量ることができない。でも、せめてオレと一緒にいる時くらいは、ふたりとも気負うこともなくいられたらいいな。みほも、まほも、笑っていてくれるならなによりだ。

 

「まほちゃんも、嬉しそうだね」

「ん。みほもそうだが、こう、立場や振る舞いを気にすることなく、嬉しいとか楽しいとか、そういった感覚を出していられるのが、いいなと思えてな」

 

 これも俊一のおかげだ、と。まほは言う。

 相変わらず持ち上げ過ぎだと思うんだけど、口にすると「卑下するな」と怒られてしまうので。何も言わずに受け入れることにする。オレも、これから毎日、ふたりの笑顔を見ることができるのは嬉しいし。

 でも、まほは少し不満があるようで。

 

「みほだけ、俊一と同じクラスになれるのはズルいぞ」

「いやいや、さすがにそれは」

 

 仕方ないでしょ、お姉ちゃん。

 それに一緒の学年じゃないってことでは、柚子さんと杏さんも同じなんだから。同じ学園に通えるんだし、授業中以外は顔を合わせることができるじゃないか。

 そうなだめても、彼女の表情はまだ優れない。

 

「どうして私は学年が違うんだ……」

 

 うわぁ、ガチへこみしてる。

 でもそんな風に拗ねているのも、なんだか可愛らしくて。

 ついつい、まほの頭を撫でてしまう。

 

「まぁまぁ。その気になればすぐ会える距離にいられるようになったんだから。不満ばかり言ってたらキリがないでしょ?」

「確かに、そうか。そうだな」

「オレ成分とやらが必要になったら、いつでも充電を受けつけるからさ」

「よし。それを聞いたら元気が出てきたぞ」

 

 本気なんだか冗談なんだか、まほは妙に抜けたことを口にする。

 でもこれ、たぶん本気で言ってるんだよなぁ。

 小さく拳を作って、ぐっ、て感じで気合を入れている。可愛い。

 

「私にとっても、せっかくの新天地なんだ。黒森峰では味わえなかった、普通の学校生活というのを楽しむことにするさ」

 

 なるほど。身の回りの環境が変わったという意味では、まほの方が変化が大きいのかもしれない。黒森峰では常に「西住流の次期家元」みたいな期待を一身に背負っていたみたいだし。大洗学園に来た今なら、西住流や戦車道とかをあまり気にすることなく、わりと自由に過ごせるんじゃないか。

 聞いてみれば、柚子さんと杏さんも同じクラスだったらしい。知り合いが誰もいないっていう状況じゃないなら、楽しく過ごせるかもしれない。

 なにより、一緒にいられる時間が圧倒的に増えた。それが一番良かったところだな。

 うんうん、と、ひとりで悦に入っていたら。

 

「じゃあ、私は自分のクラスに行くからな」

 

 まほが声を掛けながら顔を近づけてきて。

 頬をくっつけてきた。

 不意打ちに、ちょっと驚いてしまう。

 

「まほちゃん。あんまり直接的なのはダメって言ったでしょ」

「だから、キスはしてないだろう? 頬ずりをしただけだ。スキンシップの範囲じゃないか」

 

 楽しそうに笑みを浮かべながら、まほはすぐに離れて。ひと足先に校舎へ入っていった。

 同時に、周囲がざわついたのを感じ取る。

 即時撤退。それは戦略として正しかったんだろう。

 そう、ここは校舎の入口で。常に生徒の出入りが激しい場所。

 しかも今は、クラス分けの張り出しがされてるから。いつも以上に生徒が集まっているわけで。

 まほみたいな美人が堂々とイチャつくようなことをしてたら、目を引いてざわつくのは当たり前。しかも相手は、ある意味で有名なオレだからなおさらだ。

 まいったねこりゃ。

 と思うや否や、さらに不意打ちが。

 

「俊一くん、わたしもっ」

「うわっ」

 

 みほが、オレに向かって突進し、抱きついてきた。

 さらに周りのざわつきが強くなる。注目の的だ。

 でも、みほを受け止めてこらえるのが精いっぱいだったので。そこまで気を回せなかったのは、幸か不幸か。武部さんと五十鈴さんが苦笑しているのだけは見えたけど。

 結果的に、人前で女の子たちとイチャつくのを見せつけたことに。

 これ、みほが自分のしたことに気付いてまた慌てる流れじゃないかな。

 うん、間違いないな。

 そう考えたら、自然と笑みがこぼれてきて。

 抱きついてきた彼女を、抱きとめ返し。

 いつものように、みほの頭を撫でてあげた。

 

 

 

 ―続く―




原作に入るも、第1話のAパート分さえ消化できず。
槇村です。御機嫌如何。


年が明けて初めての更新です。あけましておめでとうございます。
どのくらい続くのか分かりませんが、今年もご贔屓に。

そしてようやく、原作に入ることができました。
書き始めてから2年ちょっと経ってますよ。
書きたいネタもそれなりにあるので、
せめて月に2回は更新していきたい。

感想や評価をいただけると、
嬉しくなってモチベーションが上がります。
よろしければ書き込みなど、お願いします。




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58:毎日がスペシャル/みほ&まほ

 生徒がいっぱい集まっている校舎の入口で、まほに頬ずりされたり、みほに抱きつかれたり、周囲の目に気がついたみほが真っ赤になって慌てたりと。わちゃわちゃしたやり取りがひと段落ついてから。オレとみほ、武部さんに五十鈴さんは、2年生の自分のクラスへと移動する。

 廊下を歩きながら、みほは周囲にきょろきょろと目を向けている。生徒会室には何度か足を運んだことがあるものの、教室がある棟は初めてだからかな。でも周りに気を取られているせいで、少しばかり危なっかしい。

 

「ほら、ふらふらしない」

「ふわっ」

 

 行き交う生徒や、廊下の壁などにぶつかりそうになる。そのたびに彼女を引き寄せる。オレたちのそんなやり取りを見つめる、武部さんと五十鈴さん。視線を感じはしたけれど、悪い感情ではなさそうなのでスルーした。

 そんなこんなで、新しい2年生の教室に到着。

 でも教室に入るなり、一瞬ざわついたような気がした。

 なんだなんだと思う暇もなく、男友達連中が迫ってきた。そのままオレの手を引いて教室の隅に連れ込む。なんだなんだ。

 あ、クラス分け表を見て分かってたことだけど、お前らも一緒のクラスだな。よろしくなー。

 なんて軽く挨拶をしたもの、こいつらは「そんなことはどうでもいい」と一蹴してきやがった。それよりも校舎入り口でのことだ、とグイグイくる。小声だけれど、すごい勢いで。見てたのかお前ら。

 いわく。

 副会長の柚子さんと付き合ってるのは知っている。

 でも違うタイプのお姉さんとイチャついていたじゃないか。

 しかもまた別の女の子と親しそうにしている。

 どういうことだ。

 妬ましい。

 うらやましい。

 自分たちもモテたい。

 カノジョが欲しい。

 どうすればいいんだ教えてくれお願いします。

 などなど。

 最後は本音がダダ漏れで懇願になっていた。

 お前ら「女の子と接するのがなんか怖い」とか言ってなかったっけ?

 でも、いいね。素直で好感が持てるよ。

 とりあえず、迫ってくる連中をなだめて。後でゆっくり話をしようじゃないかと落ち着かせる。

 ホームルーム前の短い時間で適当に済ませていいのか?

 そう言ったら、迫ってきた全員が受け入れてくれた。よしよし。

 こちらが治まって、みほの方に目を向けてみると。武部さんと五十鈴さんを間に挟んで、新しいクラスメイトとなにやら話をしていた。どうやらふたりの紹介で、挨拶やおしゃべりのきっかけをつかむことができたようだ。

 うん、いいね。みほにもっと友達が増えたら、オレも嬉しい。

 ほんわかしてると、男友達連中がまた絡んできて。再び問い詰められる。

 なんだあの可愛い子は。

 お前えらく親しげじゃないか。

 妬ましい。

 うらやましい。

 自分たちもモテたい。

 紹介してくれお願いします。

 などなど。

 また同じようなやり取りになる。

 思ったよりも必至だなお前ら。

 でも最後の。みほを異性の相手として見るなら紹介しないよ。彼女はオレのモノだから。手を出そうとしたら全力で立ちふさがるからね。

 そんなオレを見て、連中は揃って顔をひきつらせた。

 後で聞いたら、えらい迫力で怖かったらしい。

 ……そんなに凄んだつもりはなかったんだけど。

 さてさて。

 そんなタイミングで担任の先生がやってきて。おしゃべりをしていた生徒たちが席に着く。ひとまず出席番号順に座り、先生が簡単な自己紹介と挨拶。これからの予定などを説明する。

 それからすぐに、始業式をする体育館へと移動した。学校初日のお約束だよね。

 でもまぁ、だからこそ。

 

「特に珍しいことはないな」

 

 体育館でクラスごとに並びつつ、始業式が進むのをぼんやり眺める。男女問わずクラスメイトの連中はみんな「早く終わんねーかなー」みたいな顔をしてた。いや、みほだけはなんだかニコニコ顔だったけど。

 そんなこんなで、ようやく式が終わったかと思ったら。続けて新設される必修選択科目なるものの説明会が始まった。

 ぶっちゃけると、戦車道についてのオリエンテーションだ。

 生徒会執行部の皆さんが、生徒たちの前にやってきて。さらに生徒会三役の、杏さん、柚子さん、桃ちゃん先輩が壇上に登場する。

 キリッとした顔で、桃ちゃん先輩が戦車道が始まる経緯の説明をして。

 柚子さんのナレーションで「戦車道入門」なる映像が流され。

 杏さんがゆるい感じで「参加待ってるよー」みたいなことを言う。

 そして、戦車道をやるとこんなに得だよという餌が撒かれた。柚子さんが「どうやって人を集めようか」って悩んでたけど。結局は分かりやすい特典を用意して釣り上げることにしたらしい。

 でもこれが結構すごい。

 食券だとか、遅刻見逃しだとか、通常より3倍の単位だとか。

 本当なのかなコレ。

 でもオレが女だったら、食いついて戦車道を選ぶと思う。

 実際、戦車道に惹かれた女子生徒はそれなりにいたようで。

 

「戦車道ってすごいんだねー」

 

 体育館から教室へと戻る道中、武部さんがすごく盛り上がっていた。その勢いで迫ってくる彼女に、みほはタジタジ。さらにその横で、五十鈴さんもなんだか陶然としているみたいだ。

 

「みぽりんみぽりん、戦車道をすればわたしもモテモテ?」

「モテモテはともかく、戦車道って素晴らしいじゃないですか。わたくしも、アグレッシブなことをやってみたかったんです」

 

 どうやらふたり揃って戦車道に興味を持ったらしい。まっとうに。特典目当てで選びそうとか思っていた自分がなんだか恥ずかしくなってくる。すいませんでした。

 オレのことはともあれ。みほは、盛り上がる友人ふたりを見てどことなく嬉しそうだ。自分が好きなものに興味を持ってもらえて、御機嫌といったところか。可愛い。

 

「戦車道って、もともと始まりは女性の……」

 

 廊下を歩きながら、みほが戦車道について説明をし始めた。

 武部さんと五十鈴さんが、その両隣で耳を傾けている。

 話の内容が気になったのか、クラスメイトの女子も何人か集まってきた。

 オレは口を挟まずに、微笑みながら彼女らの後ろを歩くだけ。

 みほが楽しそうに話をして。

 思いのほか大人数が聞いていることに気付いて顔を赤くしてしまい。

 その慌てぶりに周囲がほんわかする。

 

「あー。よかったねぇ、みほちゃん」

 

 なんて、あたたかな目を向けてしまうオレだった。

 良きかな良きかな。

 そんな風に教室まで戻って、軽いホームルームが終われば今日の学校は終了。始業式が終わればもう特にやることはなく。お昼前くらいには帰宅できてしまう。

 みほは、武部さんと五十鈴さんと一緒にクラスメイトとのおしゃべりに参加していた。

 まほも、クラスメイトたちと少し交流をしてから帰るというメールが。

 オレはオレで男友達連中に捕まって、みほたちについて話を聞かせろと迫られていた。後で説明すると言っちゃってたし。今日はオレも男連中とつるむことにしようか。

 となればさっそく繰り出そう。

 その前に、恋人4人にその旨をメールしておく。

 今日は男友達と連れ立って帰るよ、と。

 送信するや否や。目の端に映っていたみほがスマホを取り出して。すぐさまこちらに顔を向けた。笑顔でうなずいて、ひらひらと小さく手を振ってくる。可愛い。オレも手を振り返してあげる。

 そのやり取りを見た男友達連中が、揃って激情。話を聞かせてもらうと、オレの腕を取って引きずっていく。

 同時に、みほの方も。「キャー」みたいな声を上げるクラスメイトの女子たちに囲まれて、キラキラした目で迫られていた。

 問い詰められるのは確定だな、と。他人事のように思ってしまった。

 

 

 

 

 

 さてさて。

 男友達らと雁首並べて、恋人たちと付き合う経緯だとか惚気だとかを差しさわりのない程度に話したり。はたまた手を出したらどうなるか知らんぞと釘を刺したりして。久しぶりに男子同士のトークを楽しんだ。

 帰宅してグダグダしているうちに時間は過ぎ。夕方近くになって、みほとまほが連れ立って部屋にやってきた。

 

「いらっしゃい」

「ただいまー」

「お邪魔するぞ」

 

 上がり込むなり抱き着いてくる、みほとまほ。ハグは日課とはいえ、今のふたりはたいそう御機嫌だ。何があったかを聞くまでもなく、テーブルに着くなり話し始める。

 ふたりともそれぞれ、新しいクラスメイトと仲良くなることができたようで。特に、戦車道が絡まずに接することができるのが新鮮だったらしい。

 

「たぶん、黒森峰で新学期を迎えていたらこうはならなかったよ」

「黒森峰は西住流のお膝元、という空気があるからな。どうしても戦車道ありき、で見られてしまうのは避けられないだろう」

「特にお姉ちゃんは、次の家元候補で、隊長だったから」

「同級生との会話で、戦車道のせの字も出てこないというのが新鮮だった。どれくらいぶりなのか分からないぞ」

 

 みほも、まほも、笑顔で楽しそうに話をしている。オレはそれを眺めながら、ただニコニコと相槌を打つばかりだ。

 他の話題としては、やっぱり恋人関係についても聞かれたらしい。

 みほは、教室でオレに手を振ったのを見られた流れで、出会いから転入してきた経緯まで盛大に語ったらしい。大好きオーラを全開にして。マジかよ。

 まほも、朝の校舎入り口でのスキンシップを見たクラスメイトがそれなりにいたようで。そこからいろいろ聞き出そうとしていたらしいんだけど。むしろまほの方から、同じように出会いから転入してきた理由まで全部語ってみせたんだとか。妹と一緒に恋人として受け入れてもらっていることも含めて。

 さらに、その場には柚子さんと杏さんもいたらしく。ふたりも、オレとの付き合いを惚気始めて。その相手が同じ年下の男ということにざわついたとか。

 

「またオレは有名人になっちまったか……」

「いや、さほど悪い印象は持たれていないと思うぞ?」

「そうなの? 贔屓目なしで?」

「贔屓目なしで、だ」

 

 自信満々に言う、まほ。ちょっとドヤ顔なのが、らしくなくて可愛らしい。思わず彼女の頭を撫でてしまう。

 ともあれ。ふたりとも、男に囲われているみたいな意味で疎まれようなことはなかったようだ。むしろ生徒の比率が女子の方が多い大洗学園において、貴重な恋バナの発信元みたいな立ち位置になったらしい。なんだそれ。思わぬ展開にちょっと驚かされた。

 でもまぁ、うん。

 

「みほちゃんも、まほちゃんも、大洗デビューは大成功だったみたいだね」

 

 ふたりが転入初日の今日にあったことを楽しそうにしゃべっているのを見ていると、本当に良かったなぁと思う。

 

「これも全部、俊一くんのおかげだね」

 

 ……いやいや、さすがにそれはないでしょう。

 みほの言うことに思わず「ないない」と手を振ってしまった。

 でも、まほは妹の言葉になにやら深くうなずいている。

 

「私も、気負うことなく転入できたのは、俊一のおかげだと思ってるぞ」

「えー。まほちゃんも、それは言い過ぎじゃないかなさすがに」

 

 姉妹揃って持ち上げてくるけれど、オレがそこまで何かしたってのはないんじゃないかなぁ。これは自分を卑下するとかそういうんじゃなく、マジで。

 このオレの物言いも、西住姉妹は気に入らなかったらしい。

 

「でも、今のわたしが前向きでいられるのは、俊一くんが支えてくれてるっていう頼もしさを感じてるからだよ」

「私が黒森峰の外に出ようと決めることができたのは、俊一がいたからだ。この大洗に来て、柚子や杏という仲間のおかげで早々に馴染めたのも、俊一のおかげだぞ」

 

 確かに、彼女たちが甘えてくると、思う存分甘やかしてしまうね。オレ自身も自覚はある。それが癒しというか安心感というか、ふたりの助けになっているなら、こんなに嬉しいことはない。

 熊本で出会ったばかりの頃と比べて、みほもまほも、明らかに笑顔が増えた。オレと一緒にいることで、彼女たちが安らぎを覚えてくれてるというなら、男冥利に尽きるというもの。末永く想いに応えたいと思ってしまう。

 ……やべぇ。なんだかオレの方が恥ずかしくなってきたぞ。

 少し照れ臭くなって。お茶のおかわりを淹れるふりをして、電気ポットを手にその場を立った。

 テーブルを離れて、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、ポットに水を注ぎ入れる。その間、ふたりに見えないように顔を緩めてしまう。

 いや、だってさ。

 

「そこまで言われたら、男冥利に尽きるってもんでしょ」

 

 嬉しくなっちゃうよ男としては。

 しかもオレにはもったいないような、性格も顔も何もかもレベルの高い女の子が、好意と信頼を向けてくれているわけだから。その想いに応えられるように精進していかなければ。もちろん、柚子さん、杏さん、アンチョビさんのためにも。

 なんて風に、密かに意気込みを新たにして。

 振り返ってテーブルに戻ろうとしたら、

 

「あれ?」

 

 みほとまほは、ソファの方に移動していた。ふたりは間にスペースを空けて座り、空いているところをポンポンと叩いている。

 オレは苦笑しながら、手にしたポットをテーブルに置いて電源をセットして。それから、促されるままにソファへと腰を下ろす。

 座るや否や。

 

「えいっ」

「んっ」

 

 みほは、オレの胴に腕を回して抱きついて。

 まほは、オレの腕を抱き込むようにしてしがみついてきた。

 右わき腹と、左腕全体に、何度味わっても最高な柔らかい感触が広がる。

 この無防備さが、嬉しい。

 自由になる右手で、みほの頭をかき抱く。

 左腕は抱きつかれるに任せて、まほの太ももを軽く撫でた。

 もう定位置になっている、3人での横並び。その状態で、身体を密着させたままイチャつく。

 みほの頭を撫でながら、サラサラの髪に頬ずりをして。

 まほに顔だけ近づけて、おでこに軽くキスをする。

 するとふたりは嬉しそうに表情をゆるませながら、もっと身体を押しつけてくる。可愛いなぁ。可愛い。

 

「好き。大好き。みほちゃんも、まほちゃんも、ふたりとも大好き」

 

 左手側、まほの頭に頬をおしつけて。右手側のみほを引き寄せる。

 あー、幸せ。幸せ過ぎるだろオレ。

 

「わたしも大好きだし、幸せだよ」

「好きな人と一緒にいられて、こんなに満たされてるぞ」

 

 みほと、まほが、ふたり揃って顔を近づけてくる。

 そして。

 ちゅっ、ちゅっ、と。同時に頬へキスをしてくれた。

 はにかむふたりに、ときめきが止められなくなって。

 思い切り抱きしめた。

 

 

 

 ―続く―




原作では描かれていない隙間を想像するのが大好きです。
槇村です。御機嫌如何。


転入初日のあれこれを、
恋人にあれこれ話している西住姉妹。
というのを描きたかっただけ。

次話は、少々お待ちください。




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59:アタックNo.1/磯辺典子&バレー部

 大洗学園の新学年度が始まって2日目。始業式の翌日にはもう授業が始まった。教科書を広げて、先生の話を聞き、必要な内容をノートに書き込み、時折ぼけーっと勉強とは関係ないことを考えたりする。まぁ、ごく普通の学園生活がスタートしたわけだ。

 とはいえ、一部の生徒にはまだ気になることが残っている。

 戦車道を履修するかしないか、だ。

 今日の放課後までに履修届を提出するように、と言われているので、いろいろ考えたり悩んだりしている生徒はそこそこいる。もちろん、オレの周りにも。

 

「ねぇねぇ、みぽりん。やっぱり戦車道を選ぶの?」

 

 昼休みになって、みほがオレの席に寄ってくるのと同時に、武部さんと五十鈴さんも一緒になってやってきた。席を囲んで話題になったのは、やっぱり戦車道のことで。武部さんが話を振ってくる。

 

「うん。せっかくだし、やろうと思ってる」

 

 みほは履修届を取り出しながら、武部さんの声に応えた。気負わず、無理はしていない物言いに、オレは内心でホッとする。熊本で会ったばかりの頃みたいな危うさはまるでない。それがオレのおかげだと言ってもらえることに、嬉しくなってくる。

 というか、嬉しくてつい彼女の頭を撫でてしまった。

 

「どうかしたの? 俊一くん」

「いやー。なんかいろいろと、良かったなぁ、って思って」

 

 いきなり撫でられて不思議に思ったみほが、こちらを見ながら首をかしげてきたけれど。返したオレの言葉に、はにかむような顔をする。可愛い。

 

「大瀬良くんもさ、みぽりんが可愛いのは分かったから。自重してよ」

「みほさんは本当に、大瀬良さんに気を許してるんですね」

 

 イチャつき始めたオレたちにツッコミを入れる武部さんと五十鈴さん。

 みほは顔を赤くするけど、頭に置かれた手をどかそうとはしない。

 オレはそれをいいことに、みほの頭を撫で続ける。

 

「話の腰を折らない。今は戦車道の話なのー」

 

 いい加減にしろ、と武部さんが声を上げる。そんな怒った振りみたいな言い方をされても、同級生の男はニヤついてしまうだけだぞ。これも女子力というやつだろうか。

 気を取り直して、戦車道の話に戻る。といっても雑談だけどね。

 武部さんと五十鈴さんも、履修届を見せてきた。ふたりとも戦車道のところに丸をしている。

 

「やっぱりここは戦車道だよね。みぽりんと一緒なのも楽しそうだし」

「わたくしも戦車道にしました。初めてのことですから、ワクワクします」

「目指せイイ女! これでわたしもモテモテだよ!」

「何も知らない初心者ですので。いろいろと教えてください、みほさん」

「もちろん。わたしにできることなら」

「おー、頼りになるー」

「よろしくお願いしますね」

 

 そんなやり取りを隣で眺めつつ。和気あいあいな女の子3人に微笑ましさを覚えるオレ。良きかな良きかな。

 なんて思っていたら。

 

「大瀬良ぁーっ!」

 

 突然、スパーンと、教室の扉が勢いよく開けられて。いきなり大声で名前を呼ばれた。

 声の主は、1年生の時に続いて同じクラスになった、磯辺典子さん。昨日のうちに「今年もよろしく」と声を掛けたし、みほと磯辺さんも挨拶を交わしている。

 えらい勢いだがいったい何事、と思う暇もなく。

 

「西住さん、ちょっと大瀬良借りるね!」

「え? あの」

「行くよ大瀬良!」

「ちょ、おいこらっ」

 

 問答無用でオレの手を取り、引っ張りながら教室を飛び出そうとする。

 わけが分からない。でも踏ん張って抗うのもはばかられるので、手を引かれるままに足を動かすオレ。そのまま教室を出てしまう。

 

「え、何? 今の」

「さぁ。みほさん、恋人さん関係ですか?」

「違う、と思うけど。たぶん」

 

 武部さんと五十鈴さんを交えた、みほたちの会話が聞こえたけど。磯辺さんの小柄ながら全力で引っ張られるのについて行くことに気を取られていっぱいいっぱいだった。

 というか、どこへ連れていくつもりだ。

 

「ちょっと磯辺さん、どこに行くの」

 

 引っ張られながら尋ねてみても、いいから一緒に来いと言うばかり。こっちを振り向きもしやしない。前を向いてまっすぐ全力で根性だ、みたいなところは相変わらずだ。

 というか、女の子が同級生男子の手を取って廊下を走るとか、目立つんじゃなかろうか。いろいろ言われそうな気がしないでもないけど、磯辺さんはたぶん、そんなことは考えてないんだろうなぁ。オレの方は、何か言われたとしても今さらだし。まぁいいか。

 そんなこんなで、連れてこられたのは体育館。

 そこには見知らぬ女子生徒が3人いた。

 磯辺さんはオレの手をつかんだまま、彼女たちの前でようやく止まる。

 

「みんな、お待たせ!」

 

 なんだ、いつも以上にテンション高いな。磯辺さん、何があった。

 というか、オレも彼女たちと関係あるの?

 

「あの、キャプテン。その人は……」

 

 首をかしげているオレと同様、目の前の女性と3人も「こいつは誰だ」と思ったんだろう。ひとりが代表するように、磯辺さんに尋ねてくる。

 キャプテン、ということは、バレー部絡み?

 初対面もいいところなオレたちを置いてきぼりにしたまま、磯辺さんだけが盛り上がっている。いい加減に説明してくれ。

 

「大瀬良。この3人は新しい1年生で、待望のバレー部入部希望者だ!」

「おぉ、それはめでたいな」

 

 マジでめでたいじゃないか。

 バレー部は先輩方が卒業して、今は磯辺さんひとりだけ。廃部待ったなしの状態だったけど、3人も入ったとなれば起死回生できるかもしれない。去年は転入早々、彼女に振り回されたから、磯辺さんのバレー熱は嫌というほど知っている。そりゃあテンションも高くなるだろう。納得納得。

 でもオレはまだ、彼女のバレー熱を甘く見ていたらしい。

 

「これで大瀬良が入れば部員が5人。バレー部、復活だ!」

「ちょっと待てコラ」

 

 思わずツッコむオレ。

 というか、磯辺さんの頭を思わずチョップした。

 何言ってんのこの娘。わけ分かんねーよ。

 

「磯辺さんや、よくお聞き。アイアムアボーイ。ユーアーガール。キミが復活させようとしてるのは女子バレー部。つまりオレは入れないの。ドゥーユーアンダースタン?」

 

 ついカタコトの英語まで交えて諭してしまった。女子バレー部に入部とか、できるわけないだろうに。頭数に入れるなよ。

 でも、彼女はそんな正論は求めていないらしい。

 

「いいじゃんいいじゃん。大瀬良、結局どこにも部活入ってないんだからさ。助けると思って入ってよー」

「言ってることがキテレツだってことに気付いてくれよ……」

 

 磯辺さんが、オレの腕にすがってガクガクと揺さぶってくる。駄々っ子か。そんなことされても困るっての。

 

「前にも言ったけどさ、試合に出られないやつを勧誘してどうするんだよ。せめて女子を誘えよ。頭数だけ揃ってても仕方ないだろうに」

「選手云々の前に、バレー部がなくなったら意味ないじゃないかー」

「そもそも男を入れるのって、生徒会が認めないんじゃないの?」

 

 女子バレー部存続のつなぎに男を入部させるって、いいのかね。前提というかルールというか、杏さんはそういうのをきっちりしてそうだから、認めてくれないんじゃないの? いや、だからこそ、マネージャー扱いでも数が揃えば認めかねないのか?

 みたいなことを考えていたんだけど。いつもの癖で、どうやら口に出していたらしい。磯辺さんが何やらキラキラした目をして、嬉しそうにオレを見つめている。

 

「つまり、生徒会長がOKを出せば問題ないんだな!」

「え、そういう問題?」

「それならさっそく、許可をもらいに行ってくる!」

「おい待てコラ、話を聞け」

 

 と、止めにかかるも徒労に終わり。磯辺さんは耳を貸すことなく、体育館を飛び出していった。

 マジで杏さんのところに直談判に行ったの? というかさ、入部してくれるっていう後輩たちを置き去りにするのはどうかと。

 少し呆れながら、同じく放置された1年生3人に顔を向ける。

 

「あー、なんというか。入部希望者が来て舞い上がってるんだよ。たぶん。大目に見てあげて」

 

 ごめんなー、と。磯辺さんのフォローを入れつつ、頭を下げた。オレはまぁいいとして、彼女たちは時間を潰されているわけだし。これぐらいはしておいた方いいだろう。

 と思ったんだけど。顔を合わせたばかりの先輩がいきなり謝ってきたのを見て、面食らったのか。3人揃って慌て出す。

 

「とんでもないです。バレー部に人がいない、っていうのは聞いてましたし」

「実際、私たちが入部するって言った時も、すごく喜んでましたから」

「あと1人、って言いながら飛び出していったのは驚きましたけど」

 

 みんな揃って磯辺さんをフォローしてくれる。

 いい後輩たちだねぇ。

 

「それで連れてきたのが男なんだから。いろいろおかしいよなぁ」

 

 4人揃って、この場にいない磯辺さんのことを考えながら苦笑する。彼女がバレー部復活のために駆け回っているのは知っているし。その熱量は本物だから。巻き込まれても、どうにも憎み切れない。

 少し和んだところで、一応、自己紹介。

 

「大瀬良俊一です」

 

 バレー部とは多少縁があるけれど関係そのものはまるでない、ただのクラスメイトだと付け加えて、名乗る。

 彼女たちは、磯辺さんが言っていた通り入学したばかりの1年生で。近藤妙子さん、河西忍さん、佐々木あけびさんというらしい。

 

「あれ? 本当に部員じゃないんですか?」

 

 素ボケなのかなんなのか、近藤さんが首をかしげる。

 さっきも言ったけど、女子バレー部に男がいるのはおかしいでしょ。

 

「えっと、大瀬良先輩、が引っ張ってこられたのはどうしてですか?」

 

 純粋に不思議そうに、河西さんが尋ねてくる。

 あー。部の先輩が卒業した今、バレーボールを共有できる相手がオレくらいしかいなかったからじゃなかろうか。だから何かと振り回されてる感がある。

 

「じゃあ、キャプテンの恋人なんですか?」

 

 なんだか興味津々に、佐々木さんが突っ込んできた。

 残念ながら違います。恋人はいますが、磯辺さんじゃありません。

 当たり障りのないことを話していたつもりなんだけど。手をつないで引っ張られてきたって言う親密さが、キャプテンこと磯辺さんとの関係を感じさせてしまったらしい。3人揃って、磯辺さんとの馴れ初めを聞こうとしてくる。これは彼女が慕われてるって考えればいいんだろうか。

 

「馴れ初めっていうほど、特別なもんじゃないよ?」

 

 まぁバレー部絡みで、多少は親しくなってるとは思うけれど。

 普通のクラスメイトの関係でしかないんだけどな。いやマジで。

 そう断りを入れてから、オレは話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 オレが大洗学園に転入してすぐの頃。転入手続きをあれこれしている中で、柚子さんが部活動の一覧を作ってくれた。もらったその日の昼休みに、一覧のプリントを見ながら「部活はどうしようか」なんて考えていたわけだ。

 熊本の内地の学校にいた頃は、サッカーをやっていた。ポジションはゴールキーパー。自分で言うのもなんだけど、結構上手い選手だと思っている。

 で、転入してからもサッカーをやりたいなと思っていたんだけど。

 

「サッカー部は、ないか」

 

 考えてみると、大洗学園は元女子校で、男子生徒が圧倒的に少ない。プレイヤーの数が必要な球技とかは、部活として成立するほど部員を集めるのが難しいのかもしれない。

 

「となると。次点は、バレー部……」

 

 実はバレーボールも少しかじっていた。「キーパーなんだからボールを後ろに通さない、落とさないようにするのは得意だろう」みたいな乱暴な理屈で、バレー部の友人に駆り出されたことがきっかけだ。

 無茶を言うなと思っていたけど、ボールに対する反応とかは応用が利いて。案外楽しみながら、時々バレー部に混ざってたんだよね。

 でも男子バレー部もない。あるのは女子バレー部だけだった。残念。

 じゃあどうしよう。いっそ文化部系に行こうかな、と思っていたら。

 

「バレー、興味あるの!?」

 

 突然、隣の席に座っていた女の子が、大きな声を上げた。

 それが、磯辺さんとの初めての会話。この時は驚いたね、すごい勢いだったから。口にしたバレーという言葉を耳にして、食いついてきたみたい。

 この当時、女子バレー部の部員は6人。そのうちの5人は3年生で、時期的にはもう部活から引退している。残るのは磯辺さんひとりだけという状況だったので、先輩方も変わりなく部活をしたり、部を存続させるにはどうすればいいかみたいな話をしていたとのこと。

 そんな時に、男子とはいえバレーに興味を持つ生徒が現れた。これに磯辺さんは大興奮。そのまま3年の先輩たちのところへ引っ張られてしまったんだよね。もっとも、先輩方に「男子を入れてどうする」ってチョップされてたけど。当然だな。

 このことを機に、何かと「バレーやろうぜ」みたいなことで絡まれるようになり。実際に先輩方も交えてバレーをして遊んだりもした。

 本業はサッカーで、バレーはちょっとかじった程度。あらかじめそう言っていたんだけど。リベロよろしくボールを拾いまくるオレの相手が楽しくなってきたらしくて。いつの間にか先輩方にまで「バレーやろうぜ」と呼び出されるようになっていた。

 

「オレはサッカー選手なの。バレーボールのプレイヤーじゃないの」

 

 そう言っても聞きやしない。磯辺さんと一緒に、時間の空いたバレー部の先輩方までいっしょになって、オレをバレーに誘ってくるように。しかも手加減なしで、楽しそうにボールを打ち込んできた。理不尽過ぎるだろ。

 参加しないで逃げればいい?

 無理にボールを拾おうとしなければいいんじゃないか?

 なんか負けた気がするから、それは嫌だ。

 むしろボールを全部拾ってみせて吠え面かかせてやるわ!

 みたいな、妙な負けず嫌いが発動して。女子バレー部と絡むことが増えた。おかげでどこの部活にも入らず帰宅部になってしまったけど。結果的には楽しかったから、オッケーだったかも。

 で、磯辺さんはセッターだから。オレが拾いまくるボールをトスするのがすごく楽しかったらしくて。それはもう頻繁に絡んできた。部活じゃなくても、遊びのバレーに誘われることもすごく多かった。

 バレー部の先輩方いわく、オレと磯辺さんのコンビはなかなかいい感じだったらしい。どんなサーブを打っても、アタックをしても、オレが全部拾ってみせて。そのボールをいい具合にトスして、磯辺さんが攻撃の起点になる。彼女の試合の組み立て方は、敵に回すとかなりやっかいらしい。

 磯辺さんも、オレが絶対拾うっていうのを前提で責め方やボール運びを考えていて、それが楽しいと言ってたな。それはもう嬉しそうに。

 そんなこんなで。バレー部の先輩方が受験勉強の合間に遊びにきて、一緒にバレーをしていたりしたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、そんな感じかな」

 

 何も面白いことはないでしょ? 色っぽいこともなかったし。磯辺さんからもそういう雰囲気を感じたことはなかったかなぁ。

 なのに、興味深そうな顔をする近藤さん、河西さん、佐々木さん。

 

「そんなにバレーでも通用するものなんですね」

「サッカーは詳しくないけど、そう簡単にいくもんじゃないでしょ」

「でもキャプテンが勧誘するくらい、上手いんですよね?」

 

 近藤さんが、素直に感心したような顔をした。

 河西さんは、バレーは掛け持ちというオレをいぶかし気に見てるけど。

 佐々木さんは、どのくらいの腕前から気になるようでワクワクしてる。

 で、だ。佐々木さんのセリフが、他のふたりの何かを刺激したらしい。

 3人でアイコンタクトを取ったかと思ったら。

 

「先輩、バレーをしましょう!」

「お前らも磯辺さんと同じタイプかよ」

 

 バレーに関してはまっすぐゴーみたいな意味で。

 どこからかボールを取り出して、オレを指差しながら「いざ勝負」みたいな流れになった。近藤さんも河西さんも佐々木さんもノリノリで。類は友を呼ぶというけれど、この1年生3人も、磯辺さんに負けないバレー第一主義らしい。

 それはそれで構わないよ。趣味嗜好は人それぞれだからな。

 でもオレを巻き込むのは勘弁してほしい。

 

「いきますよー。そーれっ」

 

 拒否も反論もする暇なく。近藤さんが軽くサーブを打ってきた。

 山なりでゆっくり向かってくるボールを無視することもできず。

 オレは無難に、レシーブをしてみせる。

 

「おっ。大瀬良先輩、思ったよりしっかり形になってますね」

「掛け持ちとは思えないです。よっ」

 

 河西さんが感心しながら、オレの拾ったボールをトスして。

 佐々木さんも、筋がいいとオレを褒めつつ、上がったボールをはたく。

 そんな風に、4人で軽くボールをラリーしていく。

 止めるに止められなくなってしまった。

 まいったな、と思いつつ、オレは飛んでくるボールをさばいていく。

 それにしても、やっぱり本職は上手いなー。レシーブにしろトスにしろ、ボールのさばき方に安定感がある。

 だから、絶対に気のせいじゃないと思うんだよな。

 

「おいちょっと3人とも。無理に拾わせようとして楽しんでるだろ」

 

 オレの方へボールを飛ばす時、前後左右にしっかり散らしてくる。どこに飛んできてもきっちり拾いつつ、彼女たちのところまでどうにか返せているわけだけど。ワンタッチツータッチで全部オレの方へとボールを寄こしてくる。

 

「えー、そんなことないですよー」

「先輩もちゃんと拾ってくれるので、楽しんでるのは確かですけど」

「別に、拾えそうなギリギリを狙ったりしてませんよ」

 

 あ、これは確信犯だな。

 会話を挟んだせいか、今は近藤さん、河西さん、佐々木さんでボールを回している。おかげでちょっとひと息つけた。制服姿なのに、ボール拾いに駆け回って、汗をかいてきたぞ。彼女たちも揃って制服姿なのに、涼しい顔をしてるのがなんだか納得いかない。

 

「せんぱーい、またいきますよー」

 

 近藤さんが可愛らしく声を上げ、オレの方へ向けてボールを打つ。

 今度はかなり強めで、まるっきりサーブのように。

 

「くっ、ほっ」

 

 勢いよく飛んでくるボールの下に素早く移動して、レシーブ。

 強さと速さのあるボールだったけど、辛うじて拾うことに成功する。

 でも近藤さんたちのところまではボールが届きそうにない。

 と思ったら。

 

「おっとっ、はいっ」

 

 おぉ、河西さんナイスフォロー。

 オレの隣に位置していた河西さんが、レシーブしたボールの落下地点に駆け寄って入り込み、トスを上げて返す。

 これで少し、流れが変わった。

 中途半端プレイヤーのオレ1人対本職バレー部員3人みたいな構図だったのが、オレと河西さん、近藤さんと佐々木さんの組み合わせでラリーをし合うような形になる。間にネットは張られてないものの、完全に2対2の試合形式になっていた。

 といっても、狙われているのは相変わらず常にオレ。近藤さんが返す時も、佐々木さんが返す時も、オレに向かってボールを打ち込んでくる。しかもそれなりに力の入ったアタックで。

 ちくしょうが、なんて内心でぼやきながら。オレはそのボールをことごとくレシーブして見せる。

 オレがボールを拾い、河西さんがトスで返し。

 それを佐々木さんが再度トスして、近藤さんがアタック。

 またオレがレシーブをし、河西さんが球威を整えながらトスをする。

 今度は近藤さんがそれを拾って、佐々木さんがアタックしてくる。

 またそれをオレが拾ってと。その繰り返し。

 気がつけば相当長く、一度もボールを落とさずにラリーを続けていた。

 オレはもうね、意地になってた。

 絶対に落としてやらんと、後輩たちがボールに触れる瞬間を凝視する。

 ボールの流れを予想しつつ。近藤さんの、佐々木さんの、それぞれのインパクトに合わせて瞬時に身体を動かす。

 

「大瀬良先輩、すごいね」

「先輩のレシーブを抜けないのが、なんだか悔しくなってきた」

 

 佐々木さんからは、お褒めの言葉をいただいた。

 でもオレの方は、それに応える余裕はないのよ。必死必死。

 一方で、近藤さんはなにやら悔しそうな顔をしてる。

 

「先輩。あの子、頭に血が上ってきてるよ」

「だろうね」

 

 河西さんが、ボールをトスしながら呆れたように言う。

 それはもう、オレの方がよく分かってる。だって彼女のアタックする強さがどんどん上がってるもの。容赦ねぇな。レシーブする手が痛いのなんの。

 と思っていたら。

 

「これで決めるっ。渾身の、ジャンプアタックっ!」

「ちょっ」

 

 近藤さんが、力いっぱい反動をつけて飛び、腕を振るう。

 まさか全力でジャンプアタックするとは思わなかったのか。佐々木さんがトスを上げた体勢のまま驚きの声を漏らした。

 でもオレの目は、跳んだ近藤さんに向いたまま。

 彼女がボールを叩いた、インパクトの瞬間。

 方向を予測して身体が動く。

 それだけでは足りず、手を伸ばし。とっさに飛んだ。

 アタックされたボール。

 勢いのまま床を叩くより前に。

 オレの手が追いついた。

 片手で、レシーブ成功。

 拾ったボールが、河西さんの方へふわりと浮く。

 転がったオレは身をひねって、すぐに膝立ち。

 目はボールの方へ向けて、立ち上がる。

 

「河西さん、オレにくれっ」

 

 トスを返そうとする寸前、オレの声に反応した彼女はとっさにボールをこちらへと浮かせる。トン、と、絶妙に柔らかいタッチで。

 ナイスボール。

 程よい高さに飛んできたボールに向かって、ステップ。

 身をかがませて、腕を振り。

 反動で全身を大きく反らしながら、跳ぶ。

 

「オラぁっ!」

 

 思わず吼えながら。

 渾身の、ジャンプアタック。

 振り上げた手をボールに叩きつける。

 

「あっ」

「ひゃっ」

 

 ズバンっ、と。

 久しぶりに響いた、体育館の床を叩く音。

 ボールはちょうど、近藤さんと佐々木さんの中間でバウンドした。

 ふたりとも拾おうとして中腰になった状態で、止まっている。動こうとして動けなかった、ということだろう。

 つまり、オレの勝ちだな。

 

「よっしゃあっ!」

 

 拳を握り、声を上げた。

 いいね。気持ちいい。我ながら今のはいい一撃だった。

 

「大瀬良先輩ナイスアタック!」

「おぉ、サンキュー。河西さんもナイストスだぜ」

 

 河西さんとオレ、お互いに褒め合いながらハイタッチ。いい連携を見せてテンションが上がってしまった。

 彼女も嬉しそうに満面の笑み。つり目がちな表情が笑顔でゆるんで、柔らかい顔を向けてくれるのがまた嬉しい。オレまで笑顔になってしまう。

 でも、気分がいいのはオレと河西さんだけだった。

 

「くやしぃーっ! 先輩もう一回、もう一回勝負しましょう!」

 

 近藤さんが「リベンジだ」とばかりに声を上げる。目を釣り上げて。

 あー、すっげぇ悔しそう。

 対して佐々木さんは、転がったボールを拾いながら苦笑してる。

 というかさ、そもそも勝負じゃなかったでしょ。

 ……あ、今「オレの勝ちだ」とか思っちゃってたわ。

 口火を切ったのは近藤さんの方だったけど、勢いで反応してた。

 でもなんだか、落ち着いたら疲れてきちゃったよ。

 

「だからもう、やめとこうぜ」

「先輩なのに、勝ち逃げするつもりですか!」

「バレー部が、部員じゃない奴にバレーで挑むってどうなの?」

「うぐっ」

 

 スポーツマンらしくないぞ、みたいな反論に言葉を詰まらせる近藤さん。河西さんと佐々木さんは、そんなやり取りを横で見つつ苦笑いだ。

 

「まぁ、いいんじゃない? そろそろ昼休みも終わっちゃうし」

「あ、もうそんな時間?」

 

 河西さんが諭すように言って。佐々木さんは時間を確認して驚く。

 ふたりともナイスフォロー。

 近藤さんはぐぬぬ顔をしてるけどさ。ここで終わりにしとこうよ。

 同じ1年生のふたりに頃合いだと言われて、引きそうになっていた近藤さんだったんだけども。

 

「どうせやるなら、ちゃんと動ける格好でリベンジすればいいじゃない」

「それもそうだね。制服のままじゃ思い切り動けないし」

 

 河西さんと佐々木さんも、彼女と同類だった。

 ちょっと待って河西さん。再戦が決まってるみたいに言わないでくれ。レクリエーションならともかく、本気でボールを打ち込んでくるような試合もどきは勘弁してほしい。

 さらに。同調していた佐々木さんが、想定外のネタを放り込んできた。

 

「それに制服のままだと、ジャンプした時にまたスカートが……」

「また!?」

 

 その途端、近藤さんは顔を赤くして短いスカートを抑えつける。

 あー、そうだね。大洗学園のセーラー服、スカートが短いからなぁ。飛んだり跳ねたりしたら、そりゃあめくれちゃうよね。

 つまり佐々木さんは、近藤さんがジャンプアタックした時にスカートがめくれて見えた、と言っているわけだ。

 でもさ、安心してほしい。

 

「ボールと、アタックする手に注目してたから。そっちは見てなかった」

 

 正直、ちょっと残念。

 可愛い後輩女子がスポーツ中にパンチラとか、ドキドキする。

 まぁそんなことは口に出したりしないけど。デリカシーってやつだ。

 実際に気が回らなかったから見てないしね。

 

「……それはそれで、眼中にないって言われてるみたいで複雑ですけど」

 

 見てないと言ってるのに、なぜだか近藤さんはオレをにらんでくる。

 いやいや、知らんし。

 

「今のって、オレが悪かった?」

「先輩が悪い、ってわけじゃないですけど」

「でも、ねぇ。言ってることはなんとなく分かるかな」

 

 どうやら河西さんと佐々木さんも、彼女と同意見らしい。

 女心ってやつか。難しいなぁ。

 

「じゃあやっぱり、大瀬良先輩もバレー部に入りましょうよ。そうすれば、先輩に挑んでも問題ないじゃないですか!」

「それ、オレの事情を全然考えてないよね?」

 

 グッドアイデア、みたいな感じで笑顔になるな。だから女子バレー部に男子を入れようとするのは止めてくれ。本当にもう、磯辺さんと同類のバレー第一女子なんだな近藤さん。

 

「でも確かに、大瀬良先輩と一緒にバレーをするのは楽しそうだね」

「わたしも先輩が入部するの、賛成です」

 

 おいちょっと待て。河西さんと佐々木さんまであちら側になったぞ。

 好意的に見てくれるのは嬉しいけど、勘弁してくれ。そもそも女子だけの部活に男が混ざれるわけがないだろ……。

 

「よく言ったーっ!」

「うおっ」

 

 体育館の入口で、戻ってきた磯辺さんが仁王立ちしていた。

 え、戻ってきて笑顔ってことは、もしかして。

 

「条件付きだけど、大瀬良がうなずけば女子バレー部入部のOKが出たぞ」

 

 え、マジで? 何考えてんの杏さん。

 というか、杏さんも柚子さんもこの場に来ていた。生徒会室に突貫してきた磯辺さんと一緒に、体育館まで来たようだ。

 あと、みほも体育館に来ていた。武部さんと五十鈴さんを連れて。

 みんな揃って、オレが1年生3人とバレーのラリーをしているのを途中から見ていたらしい。しかも、みほと柚子さんはスマホを構えていた。みほが写真担当で、柚子さんが動画担当とのこと。いや知らんよそんなこと。

 そんなギャラリーを背に、磯辺さんはものすごく御機嫌だ。

 

「新入生が3人も入った。見た限り仲良くなったみたいだし、チームワークもばっちり。生徒会からも許可はもらった。これはもう入部するしかないぞ大瀬良!」

「だからそれ以前の問題だって言ってるでしょ」

「いいじゃんかー。あと1人で部として体裁は整うんだからさー」

「ならなおさら、ちゃんとした部員を捜しなって」

「でも大瀬良も他には変えられない。好きだぞ、大瀬良のレシーブ」

 

 おぉー、と、歓声を上げるバレー部1年3人組。

 絶対、磯辺さんは言葉の通りの意味しか込めてない。でもそれが分かって、近藤さんも河西さんも佐々木さんも囃し立ててるだろ。

 

「だから大瀬良、バレー部に入ってよ。な?」

「わたしからもお願いします!」

「可愛い後輩のお願いじゃないですか」

「みんなで一緒にバレーボールを楽しみましょ?」

 

 磯辺さんが、オレの制服をつかみながら見上げてくる。

 さらに近藤さん、河西さん、佐々木さんまで、にじり寄ってきた。

 おい、怖いぞお前ら。

 クラスメイトと後輩たち、可愛い女の子4人に迫られて悪い気はしない。でもこの状況は素直に喜べないぞ。磯辺さんに制服をつかまれてるから逃げ出すこともできない。嫌だって言ってるんだから諦めてくれよ。

 助けを求めて周囲を見渡せば。

 意地悪そうにニヤついてる杏さんと。

 楽しそうにスマホをこちらに向けている、みほと柚子さん。

 呆れたような顔で苦笑いの武部さんと五十鈴さん。

 誰もこちらに近づいてこようとしない。

 

「おおせらー」

「大瀬良先輩ー」

「いいでしょ、先輩」

「ねぇ、大瀬良先輩」

 

 近いよ、近い近い。

 というか四方向から囲まれるみたいな状況に。

 どうしろっていうんだ。

 天国かもしれないが、地獄でもある。

 この場にいない、まほに助けを求めてみた。胸の内で。

 もちろん、その思いは届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。誰とも会わず体育館に来れなかった、まほはというと。

 後になって一連の話を聞いて、仲間外れにされたと拗ねてしまった。でもバレーをするオレの写真と動画を見て、少し気分を取り戻す。スポーツをしているオレの姿が新鮮だったらしい。

 ちなみに加えて。その写真と動画は、当然のように恋人ネットワークによって共有された。

 もちろんアンチョビさんにも送られて、楽しそうで何よりというお言葉をいただく。ちょっとうらやましそうだったけど。

 あと、アッサムさんたち聖グロのメンバーにも送りつけたとのこと。

 ……いったいどこまで拡散されるんだ。

 

 

 

 ―続く―




バレー部と仲良くなるには、バレーしかないと思った。
槇村です。御機嫌如何。


というわけで、みんな大好きバレー部の4人が登場です。
初めて顔を合わせるシチュエーションとか、
その後のやり取りとか、
いろいろ考えるのが楽しい。

でも、そろそろエロいのも書きたくなってきた。




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60:君にご奉仕Ⅰ/みほ、まほ、柚子&杏

 大洗学園の新年度、授業初日。授業の他には、戦車道とかの必修選択科目について少し悩むかな、くらいしかやることがない。

 そう思っていたんだけど。昼休みのバレーのせいで、疲れた。身体がというよりも精神的に。

 新しく後輩の女の子と知り合いになれたのは嬉しい。でも良く考えてみたら、近藤さんも河西さんも佐々木さんも、会うたびにバレー部に入れって言ってきかねないわけでしょ。つまりこれまで磯辺さんだけだった勧誘が4倍になるということか。

 

「嬉しいって思ったけど、プラマイゼロかもしれん」

 

 ちなみに昼休みの、女の子4人に囲まれたバレー部への勧誘は断った。バレーが嫌なわけじゃない。時々気晴らしに身体を動かすくらいならいいけど、本腰を入れてやるのはちょっと抵抗がある。掛け持ちっていうオレのスタンスじゃ、本気でやっている磯辺さんたちにも失礼だと思うし。

 そう言ったら、しぶしぶながら引いてくれた。

 でもたぶん、また勧誘してくると思うんだよな。校則的には、あと1人入部すれば部として成立するわけだし。しかも杏さんが男子のオレでも頭数に入れていいって言っちゃったらしいし。

 オレはオレで、いろいろとやりたいこともあるんだよ? 勘弁してくれ。

 

「とまぁ、内心でいろいろぐちぐち言ってみたわけなんだが」

 

 帰宅して、時間は経ってもう夕方。なんでまたそんなことを未だに言っているのかといえば、もちろん理由があるわけで。

 ぶっちゃけ現実逃避といっていい。

 

「俊一くんの引き締まってる身体は、サッカーのおかげなんだね」

「種目は違うのに、これだけ動けるというのはすごいと思うぞ」

「スポーツマンだね。素直にすごいと思う」

 

 一緒に帰ってきた、みほとまほが、昼間のバレー動画を観賞し始めたからだ。しかもあれこれとコメントをしながら繰り返し見てる。それがまた誉め言葉ばかりで、気恥ずかしくて仕方がない。あげくの果てに、これまで撮影してきたらしいオレを映した動画のリピートを始めた。せめてオレのいないところでやってほしい。

 そんなわけで。いたたまれなくなったオレは台所へ逃げて、合法的に西住姉妹から背を向けた。夕食用のカレーを作り始めて、鍋の中をじっと凝視し続けている。

 今日の夕食はカレー。何日か前に、柚子さんと杏さんにカレーを振る舞ったんだけど。その時にいなかったみほとまほが、自分たちも食べたいと言っていたので。今夜のメニューが決定したわけだ。

 背後から聞こえる、オレ動画に対するコメントのあれこれ。聞こえない聞こえないと思い込みながら、鍋の中のカレーをかき回す。少しでも長く台所に立っていようと思ったせいで、少し弱火でカレーを火にかけている。お玉でかき混ぜる手も止まらず、気のせいかいつもよりもとろみが出てきたような気がした。

 さすがにそろそろ食べ時か、というところで。

 

 ピンポーン

 

 部屋のチャイムが鳴った。

 

 ピンポンピンポンピンポンピンポーン

 

 しかも連打してきやがった。

 

「はいはいはいはい、どちらさーん」

 

 火を止めて、手を洗って。エプロンをつけたまま小走りで玄関へ向かう。どちらさんと言いながらも、だいたい想像はできてるけど。

 扉を開けたら。うん、やっぱり。

 

「あ、今日もカレー?」

「杏、開口一番でそれはちょっと……」

 

 杏さんと、柚子さんだった。

 カレーの匂いに鼻をひくつかせるふたりを、部屋の中へと招き入れる。

 扉を閉めるなり、杏さんが抱きついてこようとしたけど。ちょっとストップ。今のオレの格好は、ちょっとまずい。料理途中のエプロンをしていて、しかもカレーだ。白が基調の大洗学園の制服にシミができてしまうかもしれない。

 なので。

 

「ハグじゃなくて、こっち」

 

 少し身体を屈めて、杏さんのおでこにキスをした。

 柚子さんには、ほっぺにキス。

 ふたり揃って、表情をゆるませるのが可愛い。堪らなく可愛い。

 

「杏さんも柚子さんも、ご飯食べる?」

「食べるっ」

「お分かりかと思いますが、カレーです」

「俊一くんのカレー、本当に美味しいよね」

 

 ふたりを促し、部屋の奥へ。

 スマホで動画観賞をしていた、みほとまほが、顔を上げて出迎える。

 

「柚子さん、杏さん、おかえりなさい」

「ふたりともお疲れさま、だ」

 

 部屋の主のように、まったりしているふたりに苦笑い。

 まぁいいけどね。それだけリラックスしてる、ってことだからさ。

 

「ふたりとも動画はそれくらいにして。ご飯の用意するよー」

 

 はーい、と元気よく返事をしてくれる恋人たち。いい返事です。

 全員それぞれ、分担して夕食の準備を始める。

 台所に戻ったオレは、人数分のお皿なりスプーンなりを取り出す。

 みほが、ふきんを搾ってテーブルを拭き。

 まほが、お皿やスプーン、コップなどを運んでテーブルに並べ。

 柚子さんが、炊飯器を持って先に座り、各お皿にご飯をよそい。

 杏さんが、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコップに注ぐ。

 そして、最後にオレがカレーの入った鍋をテーブルの上に置く。

 あっというまに、夕ご飯の用意ができた。

 丸テーブルの正面に、みほと杏さん。両隣に、まほと柚子さんが座る。

 

「はい。それじゃあ召し上がれ」

 

 いただきます、と揃って声を上げ。順番にカレーをご飯にかけていく。

 最初のひと口を、スプーンで口に入れて。

 全員の顔がゆるむ。

 うん、美味い。

 

「美味しいよぉ、俊一くん」

「あぁ……。幸せを感じるな」

「この辛すぎない辛さが、わたしすっごく好き」

「本当に、素直に美味しいんだよねぇ」

 

 みほ、まほ、柚子さん、杏さんと、みんなからお褒めの言葉をいただく。そう言ってもらえると嬉しいねぇ。スプーンが止まらず、あっという間に平らげていくのを見ると気持ちいい。

 

「おかわりもあるからねー」

 

 言うまでもなく、全員おかわりをご所望だった。お皿を出されるたびに、新しくご飯をよそってあげる。気分はますますお母さんである。

 一杯目はカレーに夢中だったけど、二杯目のお皿を前にして少し落ち着いたのか。食べながらおしゃべりも始まる。

 というか、杏さんが思い出したかのように、オレに突っかかってきた。

 

「必修選択科目のこと、大瀬良くんに聞きたかったんだよ!」

 

 びしっ、と、手にしたスプーンをこちらに向けてくる。行儀が悪いからやめなさい。

 でも、身に覚えがないぞ。いったい何のことだど思ったら。

 

「大瀬良くん、どうして戦車道を選ばなかったのさ」

 

 ……は? いやいや、当たり前じゃないの、それって。

 と、オレは思ったんだけど。

 みほとまほが、姉妹揃って驚いた顔をしてオレを見てくる。

 ちょっと待って。その反応はこっちの方がびっくりなんだけど。

 

「戦車道って、女子がやるものなんでしょ? オレが関わるところなんて、何もないじゃない」

 

 本気でそう思ってるんだけど。

 いやさ、仲間内で戦車をいじってるとかなら、遊びに行って顔を出すってのも分かるけど。仮にも学校の授業の一環なわけだからさ。戦車道の履修は女子オンリーだと思うのが普通じゃない?

 でも、みほがなんだかすっごく落ち込みだして。

 まほがそんな妹を慰め始めた。

 

「しゅんいちくんと、せんしゃどう、いっしょにできるって……」

「俊一、さすがにこれは……」

 

 え、オレが悪いのかコレ。

 当たり前で普通なことを言ってるつもりなのに。なんでか責められることが多くないかな。そんなにオレの常識ってズレてる? そんなことないよね。

 柚子さんを見れば、困ったような苦笑いを浮かべてる。

 杏さんは、悪い顔でニヤついていた。

 ふたりの反応を見て安心する。よかった。オレだけがズレてるわけじゃないんだ。というか杏さん、ニヤニヤしながらスプーンを振り回すのは止めなさい。

 

「言ってることはごもっともなんだけどさ。西住ちゃんのやる気を出すためにも、できれば大瀬良くんも戦車道に加わってほしいんだよねぇ。マネージャーとかでいいからさ」

「戦車道のマネージャーって、何をするのさ。想像もつかないんだけど」

「んー。今のところ、特に思いつかない」

「おいコラ」

 

 遠慮のなさ故に、杏さんもオレもポンポンと言い合いをする。テーブルを挟んでるオレと杏さんの間で、柚子さんがまぁまぁとたしなめてくる。まぁ、お互いに軽口のやり取りではあるんだけど。

 

「あ、でもわたしは、側にいてくれるとやる気が上がるかなぁって」

 

 そう言って、柚子さんがはにかんだ。可愛い。思い切り抱きしめて、わしゃわしゃと頭を撫でてあげたい。

 

「あ。それならわたしは、戦車道の練習の後におやつを作ってほしい」

 

 杏さん、本当に遠慮ないな。食べ物で釣るまでもなく、もっと普通にやる気を出してほしい。半分くらいは冗談なんだろうけどさ。

 でももう半分は、たぶん本気だ。あわよくばオレにおやつを作らせようと思ってるに違いない。作る手間よりも、材料費を考えるだけで眩暈がしそうだ。

 

「もし作ってくれるなら、参加者をねぎらうのが目的ってことで、材料費は戦車道の予算から出すよ? 毎日作れとは言わないからさ。基本は週イチで、あと気が向いたら何か振る舞うとか」

 

 なんだか具体的な案が出てきた。

 戦車道を選んだ女の子たちに手作りお菓子をふるまって、必修選択科目分の単位と特典をもらえるという。正直、魅力的なお誘いではある。材料費が向こう持ちというならなおさらだ。

 

「あとは、戦車道を頑張る恋人たちを至近距離で見られるよ」

「なるほど。それはかなり魅力的だな」

 

 マジでいいかも。腕を組みながら、本気で考えてしまう。

 さっきまで落ち込んでいたみほが、なんだか必死な顔をしてオレを見つめてくる。そんなに一緒にいたいのかと、思わず苦笑い。でも、それだけ慕ってくれている気持ちは、すっごく嬉しい。

 

「分かった。オレも参加するよ」

 

 絶対イヤだってわけじゃないし。みんなと一緒にいられる機会が多くなるのは嬉しいことだしね。

 承諾するなり、みほと柚子さんが手を上げて大喜び。

 まほと杏さんは、嬉しそうに笑顔でうなずく。

 提出済みの履修届は、杏さんたち生徒会の方で処理し直しておくと言われた。最初からそのつもりだったのかもしれないけど、それはまぁ、言わぬが花ってやつだろう。

 ちなみに。まほも、戦車道に参加することになってるらしい。といっても選手ではなく、相談役みたいな扱いになるようだけど。いろいろ事情があるらしい。大変だなぁ。

 なんて思っていたら。

 ついつい、隣に座っているまほの頭を撫でてしまった。

 

「どうした?」

「いや、なんとなく」

 

 撫でられながら、まほは不思議そうに首をかしげる。でも、手をどかそうとはせずに、されるがままだ。可愛い。

 

「これで西住ちゃんが一層頑張ってくれるのは確定だね」

「頑張ります!」

「杏さん、みほちゃんを煽らないでよ」

「俊一くん、わたしも頑張るから!」

「柚子さん、落ち着いて」

「俊一、私も……」

「いやいや、まほちゃんも落ち着こうよ。ステイステイ」

 

 盛り上がる恋人3人と、ニヤついている恋人1人に囲まれて、なにやらワチャワチャと騒ぎながらの夕食。こういうの、いいよね。

 そんな感じで、おしゃべりしながらカレーを食していたのだけれど。杏さんが、ちょっとしおらしく詫びてきた。

 

「一般的に、戦車道は女子がやるものだからね。実際、戦車道を選んで提出してきた男子は、ひとりもいなかったからさ」

「そりゃそうだろうなぁ」

 

 むしろ選んでる奴がいたら、何をやるつもりだったのか聞いてみたい。実はどこかで戦車バトルをしてるとかないよね。闇試合みたいな。

 とりあえず、オレに何をさせるかは後で考えておくという。いつか考えていた銃後の守りじゃないけれど、いろいろケアするような立場で参戦しようかね。

 あと、さらに加えて。杏さんが変なことを言ってきた。

 

「無理強いしたとは思ってるからさ。お詫びと言ってはなんだけど、今日はわたしがご奉仕してあげるよ」

 

 ご奉仕?

 杏さんはそう言うなり、自分のお皿のカレーをスプーンですくい。

 

「はい、あーん」

 

 テーブル越しに、オレに向かって突き出してきた。

 ちょっと顔が赤くなってるのは、気のせいじゃないだろう。

 ……ご奉仕?

 おいおい、可愛いことをしてくれるじゃないか。

 オレは素直に口を開けて、杏さんのスプーンに顔を近づける。

 

「あむ」

 

 ん、おいしい。

 可愛い恋人が手ずから食べさせてくれるとか、嬉しいね。

 

「じゃあ、お返しだ」

 

 今度はオレが、自分のお皿からカレーをすくって。杏さんにスプーンを差し出す。

 

「あれ、ご奉仕返し?」

「まぁいいじゃない。いらないなら自分で……」

「いるっ。食べる食べるっ」

 

 スプーンを引っ込めようとしたら、杏さんが慌ててストップを掛けてきて。あー、と、口を開ける。まるで餌を待つ雛鳥状態。無防備だなぁと思いつつ、カレーを乗せたスプーンを近づける。

 

「はい、あーん」

「あー。んむ」

 

 スプーンを咥えて、はむはむと口を動かす杏さん。ゆっくりとスプーンを抜き取ると、嬉しそうな顔をしてもぐもぐとカレーを味わう。

 うんうん。愛情も加わって、美味しさも何割か増しって感じがするね。

 

「俊一くん」

「俊一」

「俊一くん」

 

 もちろん。みほも、まほも、柚子さんも、黙っているわけがない。むしろ目の前で、テーブルを横断するようにして「あーん」の応酬を見せられたんだから、たまったものじゃないだろう。

 そんなわけで。

 

「俊一くん。あーん」

 

 すぐ隣に座っていた柚子さんが、いち早くスプーンを差し出してきた。すくったカレーが落ちないように手を添えているのが、彼女の気遣いとかそういうのを感じられてすごくいい。

 

「あーん」

 

 口を開けながら柚子さんに近づいて、スプーンにぱくついた。

 その瞬間、彼女の顔が嬉しそうに、ふにゃりとゆるむ。可愛い。

 柚子さんの可愛い顔を見つめながら、あーんしてもらう。

 最高だな。

 もちろん、こちらもお返しに「あーん」をしてあげる。

 

「はい、柚子さん。あーん」

「あー」

 

 素直に口を開ける柚子さん。少し薄目で、待てをしているような状態。手を前に置いているせいで、柔らかなおっぱいを挟んで強調するような形になっている。

 なんだか、エロい。

 

「あむっ」

 

 差し出したスプーンを咥えて、頭を引く。カレーを口の中に収めて、手で口元を隠しながら、美味しそうに頬を緩める彼女。オレの方も、思わず笑顔になってしまう。

 

「俊一くん、次はわたし、わたしっ」

 

 次に声を上げたのは、みほ。テーブル越しに顔を向けたら、もうスプーンを差し出してスタンバイしていた。

 

「俊一くん、あーん」

 

 杏さんと同様に、少し身を乗り出して。みほも「あーん」をしてくる。

 ちょっと勢い込んで見えるのは、出遅れてしまったからだろうか。はやくはやく、と急かしてくる様子が可愛らしくて。つい笑みがこぼれてしまう。

 

「あー、んむ」

 

 みほのカレーを頬張る。

 オレの笑みがうつったのか、みほも笑みを浮かべていた。可愛い。

 そんな彼女に、オレもカレーをすくったスプーンを差し出すと。待ちかねたとばかりに身を乗り出してきた。テーブルに手をついて、あー、と口を開ける。

 

「はいはい、いくよー」

「あー、んっ」

 

 ぱくりと、オレのスプーンにパクついた。

 スプーンを口から抜くなり、美味しそうに口を動かして、表情を緩める。うん、やっぱり可愛いね。

 

「さて」

 

 残るは、まほ。なんだけど。

 彼女はもう自分のカレーを平らげてしまっていた。つまり、あーんをすることができないということ。それだけのためにおかわりするのもどうかと思うけれど。

 

「……」

 

 うわぁ。落ち込んでるというか、面白くなさそうな顔をしてる。

 でも、それだけ夢中で食べてくれたっていうのは、料理を作った側としてはすごく嬉しい。まほの食べっぷりは気持ちいいしね。

 といっても、こういうほめ方をしても女の子は嬉しくないかな。

 

「俊一」

 

 どう声を掛けたものかと、数瞬悩んでるうちに。柚子さんとは逆隣に座っているまほが、ずずいと迫ってきた。スプーンは持たずに。

 相変わらずキリッとした美人さんだなぁ、なんて改めて思ってしまうほど顔を近づけてきて。何をするのかと思ったら。

 

「んっ」

「んむっ」

 

 いきなり唇をふさいできた。

 不意打ちもいいところ。さすがにオレも驚く。

 でもそれ以上に驚いたのは、みほ、柚子さん、杏さんで。

 あーっ、と、声を上げる。驚きというよりも非難の声になっていた。

 ずるいずるいという3人の声を気にせず、まほはじっくりと唇を重ねてきて。お互いにカレー味のキスを堪能する。

 

「ぷはっ。……どうだ、美味しかったか?」

「もちろん、美味しかったよ」

「食べたくなったら、いつでも食べてくれていいんだからな」

 

 少しいたずらっぽく、まほはそんなことを言いながら微笑む。

 食べるって何を、とは聞かない。

 くっ。なんて小悪魔な真似を。

 これは「あーん」と同じように、キスをお返ししなくては。

 そう思って顔を近づけたら。

 まほが、人差し指を突き出して、オレの唇に重ねてくる。

 

「杏が、ご奉仕をしようと言っていたからな。俊一からキスをされたら、私が嬉しくなるだけになってしまう」

 

 だから私の方からキスをさせてくれ、と。

 まほが、オレの唇に当てていた人差し指を、自分の唇に重ねる。

 その仕草に、ゾクゾクした。やっべぇ、今のすごく可愛い。

 まほから雨あられのようにキスされて、ご奉仕されちゃうんだろうか。

 嬉しくて気持ちを高ぶらせていたら。

 

「お姉ちゃん、今のはズルいよ」

「そうだよ、まほさん。わたしもいっぱいキスしてあげたい」

「それじゃあ4人揃って、大瀬良くんにご奉仕してあげよっか」

 

 気がつけば、みほも、柚子さんも、杏さんもすぐ側にいて。

 自分たちも忘れるな、とばかりに。

 

 ちゅっ。

 ちゅっ。

 ちゅっ。

 

 順番にキスをしてくれた。

 もちろん3人とも、柔らかい唇はカレーの味がした。

 

 

 

 ―続く―




エッチシーンまで行くつもりだったのに。
槇村です。御機嫌如何。


十八禁のエロ小説といいながら、約半年もエロシーンなし。
なので、久しぶりにエロをぶっ込もうと思ってたんだけど。
前戯にすら行かなかった。
次回、エロに入ります。




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61:※君にご奉仕Ⅱ/みほ、まほ、柚子&杏

 全員、夕ご飯のカレーをたいらげて、ごちそうさま。ひとまずお皿を水につけるだけはしておいて。オレはそのままベッドの上へと連れていかれた。

 みほ、まほ、柚子さん、杏さんの4人が揃ってご奉仕してくれる、という話になったらしく。興奮しながら横になる。

 

「大瀬良くんは何もしないで、じっとしてていいからね」

 

 杏さんが代表するようにそう言って、唇に軽くキスをしてくる。そのまま下半身の方へと移動して、入れ替わるように、みほとまほがすり寄ってきた。

 

「楽にしていればいいからな、俊一」

「わたしたちが、俊一くんを喜ばせてあげるからね」

 

 まほが、仰向けになっているオレの頭を持ち上げて、膝枕をする。

 みほは、横になっているオレの服に手を伸ばして、ボタンを外し始めた。

 おぉ。もうこの時点でご奉仕されてる感が爆上がりだ。膝枕状態で頭を撫でられつつ、服を脱がしてもらえるとか。姉妹で甘やかしてくれるなんて、最高過ぎる。

 しかも下半身の方では、柚子さんと杏さんがズボンを脱がしに掛かっている。身体はリラックスしてるんだけど、今の状況とこれから何をしてもらえるのかっていう興奮で、チ○コはすっかり勃起していた。

 杏さんが、こちらを見てニヤニヤしながら声を掛けてくる。

 

「大瀬良くん、もうこうんなに大きくしちゃってるじゃん。エッチなこと想像してたの?」

「何言ってんの。可愛い女の子4人に連続でキスされたんだぞ。興奮するに決まってるでしょ」

 

 当たり前のこと言わないでよ。決まってるでしょ。

 思わず2回言っちゃうくらいだ。可愛い恋人たちに囲まれて、あちらこちらを触られている。エッチな気分になるに決まってる。

 何度も強調するオレに、赤面する杏さん。

 その横では柚子さんが、ズボンを脱がしながら顔を真っ赤にしてる

 みほも、胸板に顔を擦りつけながら顔を赤くしていて。

 見上げると、まほも微笑みながらほんのり頬を赤らめていた。

 みんな可愛い。

 甘えてくるみほの頭を片手で撫でて。

 まほの、頭に置いている手とは逆の方を握りしめる。

 下半身側にいる柚子さんと杏さんには、腰を震わせてみた。

 それが急かしているように取られたのか。柚子さんが、ズボンと一緒にトランクスを脱がす。少し引っ掛かって、下ろすのと同時にチ○コが勢いよく飛び出した。

 

「きゃっ」

「相変わらず元気がいいねぇ」

 

 勢いあまってチ○コが頬に当たり、声を上げる柚子さん。

 杏さんは、やんちゃぶりをからかうように笑みを浮かべる。

 

「たっぷり、ご奉仕してあげるから」

 

 杏さんが小さな手で、チ○コの根元を、きゅっ、とつかんだ。

 言葉はからかい交じりだけど、力加減は優しいもので。知ってか知らずか、絶妙な力加減で刺激してくる。気持ち良くて、腰が震えてしまう。

 

「いっぱい、気持ち良くなってね」

 

 さらに柚子さんが、亀頭を両手で包みこんで。にぎにぎと、優しく揉んでくれる。その感触にぞわぞわした。

 

「杏さんも柚子さんも、たまんねぇ……」

 

 女の子ふたりの手が、指が、オレのチ○コを弄り回してくる。根元から先端までまんべんなく。すべすべな手の感触が気持ち良過ぎてやばい。

 

「俊一くん、すごく気持ち良さそう」

「ふふ。蕩け顔の俊一も可愛いぞ」

 

 下半身からこみ上げてくる快感に身悶えてると、みほが嬉しそうにキスをしてきて。まほはそんなオレを膝枕したまま、頬を撫でて、甘やかしてくる。

 上から下から、気持ち良くて心地良くて。ダメになりそう。

 

「大瀬良くん、さっそくトロトロになってるねぇ」

「まだまだだよ。もっと喜んでもらわなきゃ」

 

 下半身の方から、妙にやる気になってる柚子さんの声が。

 と思ったら、彼女は制服の上を脱いで、ブラジャーに手を掛ける。ぷるん、と、柚子さんの大きなおっぱいが姿を現した。

 そして。

 

「よいしょ」

「お、おぉ……」

 

 柚子さんが、そのおっぱいで、オレのチ○コを挟み込んだ。

 豊かな膨らみに埋もれて、吞み込まれるような感じ。

 何度味わっても、柔らかくて、気持ち良くて、下半身が震えてしまう。

 

「大瀬良くん、すっごい嬉しそうな顔してる。妬ましいなぁ」

「きゃっ。杏、ちょっとっ」

「おぉう」

 

 杏さんが、オレの顔を見て少しニヤついてから。チ○コを挟んだ柚子さんのおっぱいを見る。見るだけじゃなくて、大きな膨らみを突っついた。

 そのひょうしに、柚子さんがパイズリ状態のまま身をよじった。勃起したチ○コを擦り上げられて、思わず声を上げてしまう。

 

「柚子さんのおっぱい、たまんねぇ……」

 

 いやもう本当に。

 何度挟んでもらっても、気持ちいい。

 この快感はオレしか知らないと思うと、余計にたぎってしまう。

 素直にそんなことを言うと、オレのモノ扱いされると喜ぶ柚子さんは嬉しそうになって。「もっと頑張るから」とばかりに、おっぱいをぐにぐにと動かして、チ○コを刺激し始めた。

 

「あぁ……。柚子さん好き。気持ちいい」

 

 ご奉仕モードの柚子さん、可愛くてエロい。

 エロくて可愛い。

 メロメロになっちゃうのも無理ないよ。

 

「どうあがいても、胸は小山に勝てないからなー」

 

 熱心にパイズリをする柚子さんを見て、杏さんがぐぬぬみたいな顔をしてる。たゆんたゆんな柚子さんのおっぱいと、胸の谷間から顔を出している亀頭をじっと見つめてると思ったら。

 

「えい」

「ふおっ」

「あんっ」

 

 いきなり杏さんが、亀頭を指でさすった。

 陰茎部分をおっぱいに包まれて気持ちが蕩けていたところに、ことさら敏感な部分を触られて思わず反応。腰を跳ね上げてしまう。

 同時に、柚子さんのおっぱいを突き上げてしまって。一緒に声を上げてしまった。

 でも、やべぇ。おっぱいに挟まれながら腰を突き上げるの、気持ちいい。

 柚子さんのおっぱいの内側に、チ○コ全体が強く擦り上げられる感じ。

 しかもパイズリされながら、他の女の子に亀頭を弄られるとか。

 ちょっとベクトルの違った快感に目覚めてしまいそうになる。

 

「いい反応したねぇ。そんなに気持ち良かった?」

「杏さん。そこ、敏感だから。優しく、触って」

「あ、触るのは構わないんだ。オッケーオッケー」

 

 杏さんが「任せとけ」とばかりに胸を張り。

 再度、亀頭に指を這わせてきた。

 

「はぁ……。なんて極楽……」

 

 思わず、声が漏れてしまう。

 柚子さんの豊かなおっぱいにチ○コを挟まれて、柔らかく擦り上げる感触が下半身に広がって。さらに、胸の谷間から顔を出している亀頭を、杏さんがピンポイントで刺激してくる。

 むにむに。

 すりすり。

 むにゅむにゅ。

 くりくり。

 柚子さんが、付け根から茎部分まで全体をおっぱいで包み込む。膨らみを圧しつけながら、擦りつけるようにして、優しくしごいてくれる。

 杏さんは、亀頭の表面をそっと撫でてくる。傘の部分、鈴口、どこもかしこも。指の腹で敏感なところを撫で回してくる刺激が、もどかしかったり強烈だったり。時々、カリの淵に、裏スジのくぼみまで、くすぐるように触れてくる。

 柚子さんと、杏さんが、それぞれ質の違った愛撫を繰り返す。たたみ込んでくるような性的な責めに、腰が震えるほど気持ち良くなってしまう。

 

「俊一くん、すごく感じてくれてる」

「じゃあ、もっと喜んでもらわないとね」

 

 オレの反応に気を良くしたのか。下半身を刺激するふたりが嬉しそうに言い。

 柚子さんが、オレのチ○コをさらに豊満おっぱいで揉みしだいて。

 杏さんは、先端だけ飛び出た亀頭に顔を寄せて、舌を這わせてきた。

 

「うお。それ、んくっ」

 

 ギアが上がったかのようなコンビネーション技。パイズリフェラ、というのを、ふたりの年上お姉さんにしてもらうなんて、贅沢過ぎて興奮が止まらない。

 

「んっ、ん、ふ。は、んっ」

「ちゅ、れろ、んふ。ちゅる、あふ、ん、ちゅっ」

 

 柚子さんと杏さんに責められて、襲ってくる快感を必死に堪える。少しでも長く、この極上な快楽を味わい続けるために。

 正直なところ、すっごくだらしない顔をしてると思う。でも今さら取り繕っても仕方がない。何より、みほが胸板に頭を乗せたままこちらを見つめていて。まほも膝枕をしながら見下ろしている。快感に悶えてる姿を全部見られているわけだから。

 

「俊一くんの、気持ち良さそうな顔。見てるとわたしもゾクゾクしちゃう」

「あぁ。俊一、可愛らしくて堪らないぞ」

 

 うっとりした声で、そんなことを言う西住姉妹。

 みほは、制服姿のままオレの上半身に抱きついて、半裸の胸板に頬ずりしている。

 まほも制服姿のまま、オレの頭を膝の上に置いて、甘やかすように撫で回してる。

 なんだか羞恥責めを受けているような感じだった。オレが快感に身悶えるごとに、みほの肩を抱き寄せてる腕に力が入り。まほとつないだ手を強めに握ってしまう。オレがどれだけ気持ち良くなってるのかが、みほにまほにも、丸分かりになっている。

 

「わたしも負けずに、気持ち良くしてあげないと」

「おぉう」

 

 顔を赤くしながら、妙にやる気を出してきたみほ。

 何をするのかと思ったら。

 オレの乳首に、キスをしてきた。唇を押しつけて、舌で肌をくすぐったりもする。

 

「ちゅっ、ちゅっ。ん、ちゅ、ふわぁ……」

「みほちゃん、可愛い」

 

 それと、何だか妙にエロい。

 無意識に彼女の頭を撫でてしまう。

 触り慣れた、綺麗な髪。みほの髪を手櫛で梳いていく感触は、何度触っても飽きがこない。気持ち良くて、愛おしさが募っていく。

 彼女も気持ち良くなっているようで。嬉しそうに、撫でられるに任せている。

 と思ったら、みほはさらに愛撫の範囲を広げてきた。

 

「くぉ。こそばゆい……」

 

 オレの胸板にキスを繰り返しながら、お腹にも手を這わせてくる。すりすりと撫で回される感触に、腰から力が抜けてしまいそうになる。

 ただでさえ、柚子さんのパイズリと、杏さんの亀頭舐めの快感に耐えようとして、腰周辺に力を入れている。なのに、みほにお腹を撫でられるのが気持ち良くて、快感を堪えるのが一苦労。

 

「私も、負けてはいられないな」

「え、ちょっと、まほちゃん?」

 

 妹に触発されたのか、自分もご奉仕をすると言い出して。

 まほは、着ている制服の上着を脱ぎ始めた。

 膝枕をされているオレが、下から見上げている状態のまま。

 彼女はセーラー服の上を脱いで。

 ブラジャーを外し。

 あっという間に上半身裸になる。

 豊かで柔らかくて、形のいいおっぱいが、目の前でぷるんと揺れた。

 寝転がった顔のすぐ上で、美人のお姉さんが服を脱ぐシーンのエロさたるや。

 

「いくぞ、俊一」

「え。むぎゅっ」

 

 見惚れる暇もなく、まほは身体を傾けてきて。

 膝枕したままのオレの顔に、おっぱいを押しつけてきた。

 

「ふぉぉ……」

 

 顔全体に、まほのおっぱいの柔らかさが広がる。

 視界をおっぱいでふさがれた感じ。目元から頬にかけて、極上の感触に包まれる。

 こんな幸せな目隠しがあるだろうか。

 息はしっかりできるので、幸せいっぱいなオレの溜め息も直に漏れ出てしまう。

 

「なにこれ。やべぇ。まほちゃん、こんな嬉しい真似どこで覚えたの」

「なんとなく思いついたんだが。想像以上に俊一が喜んでくれて、我ながら驚きだぞ」

 

 まほはそう言いながら、もっと胸を顔に押しつけてくる。

 むにゅむにゅの、実に至福な感触。

 寝転がってるオレの顔が、まほのおっぱいと太ももでサンドイッチにされてる。

 気持ちいいのもあるけれど、それよりも多幸感の方が強いかもしれん。

 

「はあぁ……。お、ちょっ、みほちゃんっ。見えないせいで余計に敏感っ」

 

 おっぱいで目隠しをされて、その柔らかさに酔ってばかりもいられなかった。

 みほが、胸板とお腹をくすぐりながら、オレの乳首を集中して責め始める。

 

「ちゅっ。ちゅ、んっ。俊一くん。しゅんいちくん……」

 

 あのみほが、乳首責めなんてことをしてくれるなんて。

 普段の彼女とのギャップに、興奮が抑えきれないぞ。

 というか、全身を上から下まで、女の子たちにこれでもかと刺激されまくってる。

 気持ちいいなんて言葉じゃ収まらない快感が、全身を駆け回っていた。

 まほに、おっぱいを顔面に押しつけられながら、頭を抱えられて。

 みほに、お腹をくすぐられつつ、乳首を舐められる。

 柚子さんに、勃起チ○コをたっぷりとパイズリされながら。

 杏さんに、亀頭を咥えられて、ちろちろと鈴口をほじられるとか。

 

「我慢なんてできるかぁっ!」

 

 あっという間に限界がきた。

 腰が震えて、じっとしてなんかいられなくなる。

 上半身に覆いかぶさっている、みほとまほを両手で抱きしめながら。

 下半身を刺激する、柚子さんと杏さんに向かって腰を突き出してしまう。

 

「きゃっ」

「わぷっ」

 

 ぎゅーっ、と挟み込んでいる柚子さんのおっぱいの間で、思い切り擦り上げ。

 勢いにまかせて、杏さんの口の中を突いてしまう。

 それがとどめだった。

 

「もうだめ、出るよ、出るっ」

 

 言い切らないうちに。

 思い切り、射精した。

 どくっ、どくどくっ。

 そんな音が自分の中で響く。

 我ながらびっくりするくらいの勢いで、精をまき散らす。

 

「俊一くん、わたしの胸の中で、すっごくびくびくしてる……」

 

 柚子さんが、限界に達したオレのチ○コをオッパイに挟んだまま、うっとりしたような声を漏らす。射精して震えている陰茎を、左右のおっぱいをぐにぐにと動かしながら、優しく擦り上げてきた。

 

「うおぉ……。包まれながら搾られる感じ……」

 

 勢い良く射精して、さらに二度三度と、残弾を小出しするみたいに精を吐き出す。柚子さんのおっぱいがチ○コ全体を包み込み、撫で回すかのようにうごめいて。まるで萎える気がしない。

 

「すっごい勢いで出たけど、大瀬良くん平気? 辛くない?」

 

 杏さんが、ちょっと心配するような声で話し掛けてくる。

 というか杏さんの方こそ、チ○コを舐めてくれてたから、もろに射精を浴びちゃったかもしれない。まほのおっぱいで視界をふさがれているから、姿は見えないけど。杏さんにぶっかけちゃったかも、と考えたら、さらに興奮してしまった。

 

「オレ、こんなに幸せでいいのかな……」

「あ、平気そうだね」

 

 呆れるような、杏さんの声が聞こえた。

 いやまぁ、今のオレの姿を見たら呆れちゃうのも仕方ないだろう。

 だってマジで、仕方ないだろ。こんな可愛い恋人たちに、寄ってたかって気持ち良くされたら、だらしない姿を見せちゃうに決まってるじゃないか。

 

「もう、どうしよう。こんなにしてくれて、嬉し過ぎる。みんな好き。みほちゃんもまほちゃんも、柚子さんも杏さんも、好き。大好き」

 

 盛大に射精して、恋人たちのにふにふにな身体に包まれているせいか。頭が少しバカになってる気がする。無意識に言葉が出てくるけど、嘘偽りない本心だ。オレって幸せ過ぎるだろ。

 

「ふふ。喜んでもらえて嬉しいな」

「なんていうか、そこまで言ってくれるとやりがいがあるねぇ」

 

 ぐったりしているオレに、柚子さんと杏さんが嬉しそうに声を掛けてくる。

 ……やりがいって、なに?

 

「よし、今度は私たちの番だな」

「俊一くん、いっぱいいっぱい、ご奉仕するから」

 

 まほが、押しつけていたおっぱいを離してから、至近距離で笑顔を見せて。

 みほが、胸元からさらに顔を寄せてきて、頬にキスをする。

 まるであらかじめ決まっていたかのように、柚子さんと杏さんが上半身の方に移動してきて。みほとまほが、交代するように下半身へと場所を移す。

 

「おぉ……」

 

 今度は、柚子さんがおっぱいを丸出しのまま膝枕をしてくれて。

 杏さんは、制服の上を脱いで、ブラジャーも外してから、オレの胸板に顔を乗せる。

 そして、みほとまほが、射精したばかりのチ○コの根元に手を添えてくる。

 上下の担当が変わって、さっきと同じ快感を味わわせてくれるのか。

 そう思ったところで。

 みほが、まほが、柚子さんが、杏さんが。オレを見つめて微笑む。

 悦びと興奮で背筋が震えて。

 また下半身に精力が渦巻いてくるのを感じた。

 

 

 

 ―続く―




「最終章」第3話、楽しみだなぁ!(絶賛劇場公開中)
槇村です。御機嫌如何。


本当はもっと先まで書くつもりだったんですけど、
みほまほ柚子杏に包まれるシーンでオレ的山場が1回来たので。
続きは次に持ち越し。エロいのはまだ続きます。
エッチシーンの大筋は考えてあるんですけど、
テキスト量がまた多くなりそうです。
あと2話分くらい?
しばらくお付き合いください。




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62:※君にご奉仕Ⅲ/みほ、まほ、柚子&杏

 寝っ転がったまま恋人4人にまとわりつかれて、ご奉仕されるままにイカされた。

 これがまた極楽のような気持ち良さで。オレは夢心地のまま脱力してしまう。女の子4人と5Pなんて、想像もできなかったよ。

 いやゴメン、ちょっと嘘。何人も恋人がいる時点で「想像してない」なんて言えないわ。人数は違っても、3Pなら何度となくヤってる贅沢者だし、オレって。

 それにしても、女の子4人にいっぺんに責められるのは想像以上の快感だった。

 上から下まで、恋人たちの柔らかい身体に包まれる。

 柚子さんにパイズリされながら、杏さんに亀頭を舐められて。

 まほに顔面をおっぱいプレスされつつ、みほに乳首を弄られる。

 それを同時に受けるわけだから。我慢できるはずがない。気持ち良さに任せて思い切り射精して、柚子さんと杏さんをべとべとにしてしまった。

 

「幸せ過ぎる……」

 

 しかも今度は、みほとまほが股間に顔を埋めている。

 相手を変えて、さっきの快感をおかわりできるなんて。

 想像するだけでチ○コがたぎってしまう。

 

「俊一くん、すっごい元気」

「期待に応えるからな。存分に気持ち良くなってくれ」

「うおっ」

 

 言うや否や。

 みほとまほは揃って顔を横向けにして。

 陰茎に、口づけした。

 

「ん、、ん。ちゅぷ、は、ん」

「んむ、ん。ちゅ、ちゅちゅっ」

「おぉ……」

 

 姉妹で、オレのチ○コに口づけ。舌を這わし、唾液まみれにしていく。エロ過ぎる光景だ。

 まほは、オレを膝枕していた時点で制服を脱いでいた。

 みほも、下半身側に移動するのと同時に制服の上を脱ぎ、ブラジャーを外している。

 今は上半身裸で、スカートはまだ残したままの西住姉妹が、オレの股間に顔を埋めている。それだけでもう勃起してしまう。

 

「俊一くん、すごく嬉しそう」

「大瀬良くんは、何を見て、だらしない顔をしてるのかなー?」

 

 仕方ないなぁ、みたいな感じで苦笑いする柚子さんと。

 いつものように悪戯っぽい笑みを向けてくる杏さん。

 ふたりとも、上半身はもう裸になっている。

 膝枕をしている柚子さんは、さっきまでパイズリをしてくれていたから。オレの視界のすぐ上に、豊かなおっぱいをさらしてる。絶景とはこのことか。

 杏さんは、みほと同じく場所を変わる時に上着を脱いでしまっていて。おっぱいを露にしたまま、オレの上半身にもたれ掛かっている。すべすべな肌の感触と、小ぶりな胸の柔らかさを直に感じられた。

 ちなみに4人とも、スカートはまだ身に着けたまま。

 

「みんな、エロい」

 

 杏さんが「誰で興奮してるんだ」とか言ってきたけど。

 そんなの全員に決まってるじゃないか。

 それこそ、1回や2回射精したくらいじゃ収まらないくらいに興奮してる。

 というか、みほとまほのダブルフェラでもう、再充電待ったなし状態だ。

 

「んちゅ、んっ、む。れろ、はむっ」

「はぁ、ん、ちゅ、ちゅぷ。ちゅっ、ん、んぷ」

 

 さっきまではお掃除フェラだったのに。気がついたらふたりとも、本格的に気持ち良くさせようとしてチ○コを舐め上げている。

 みほと、まほの、舌と唇が。

 オレのチ○コに這い回って。

 震えるくらいに気持ちがいい。

 快感に身悶えてしまうけれど、一回射精してるおかげでまだ気持ちに余裕がある。みほとまほのダブルフェラを堪能しつつ、柚子さんと杏さんにも気を回せる程度には。

 柚子さんがはにかみながら柔らかな表情を見せている。

 普段からほんわかした気持ちにさせてくれる、魅力いっぱいの顔だ。

 しかも今は、膝枕をしてもらっている状態。

 丸出しになったおっぱい越しに、柚子さんの顔を眺めることができる。

 大きくて柔らかな膨らみ、ぷっくりとした可愛らしい乳首まで丸出しなギャップ。

 しかもパイズリで射精した名残というか、ザーメンがついたままなのがエロい。

 エロいんだけど、いつまでも精子をつけたままなのは申しわけない。

 

「柚子さん、ちょっとじっとしてて」

「ひゃっ」

「おぉう」

 

 上半身を少しよじって、ベッド横に常備しているウェットティッシュを手にする。

 胸板にもたれ掛かっている杏さんも、それに合わせて動くのがちょっと面白かった。

 

「よいしょ」

 

 元の膝枕状態に戻って、改めて上を見上げる。

 もちろん、そこにあるのは柚子さんのおっぱいだ。

 目の前のたわわな光景と、下半身からこみ上げる快感を噛みしめながら。柚子さんのおっぱいを濡らした精子を拭き取ろうとする。

 

「あんっ」

 

 少し力をいれながら、べとついた精子をウェットティッシュで拭っていく。拭き取るごとに柚子さんのおっぱいが柔らかく形を変えて、ふにふにと指が沈む感触が心地いい。それを下から見上げるのは、なんというか、絶景だ。

 

「俊一くん、くすぐったいよ」

「しかしさー。こうして見てると、小山の胸って本当におっきいよねー」

 

 柚子さんは、悪戯されて困ったような声を出す。

 その姿を杏さんは間近で見つつ、感心したようにぼやき出した。

 オレとしては、純粋に綺麗にしてあげようという気持ちでやってるんだけど。やっぱり下半身ではダブルフェラをされながらなので。こみ上げてくるムラムラに任せて、ちょっと愛撫っぽくなってしまう。

 

「あの、俊一くん。夢中になるのはいいんだけど、もうちょっと力を抜いてほしいな」

「あ、ごめん。幸せに浸り過ぎて、つい」

 

 精子で汚れたおっぱいを拭いてたのに、いつの間にか胸を揉むことに没頭してた。

 でもちゃんとしっかり、綺麗にふき取ったよ。このままおっぱいプレスをされても気にならないくらい。というかむしろしてほしい。

 ニヤニヤしてたら、杏さんから突っ込みが入った。

 

「小山の胸にメロメロなのは分かったけどさ。あんまり揉んでばっかりいると、もっと大きくなっちゃうんじゃない?」

「あー。揉むと大きくなるとか、言うよね。本当かどうかは知らないけど」

「俊一くんが喜んでも、これ以上大きくなるのはちょっと……」

「小山、それならちょっと分けてよ……」

 

 膝枕をされながら、柚子さんのおっぱいを下から揉むオレ。

 これ以上大きくなるのは困ると、オレの手ごと胸を抑え込んでしまう柚子さん。

 そんなオレたちを見ながら、ある者の悩みだとぼやく杏さん。

 なんだこのやり取り。

 

「じゃあ大瀬良くん、代わりにわたしの胸を揉んでいいよ。育てがいあるよー」

 

 うつ伏せで抱きついていた杏さんが、今度は仰向けになって、オレの胸板を枕にする。そしてこっちを見ながら、自分の胸に手を置いて揉みだした。

 

「小山に挟んでもらって、大瀬良くんがすっごい嬉しそうだったから。わたしも挟めるくらいに大きくなりたいなーって」

「もちろん、喜んで」

 

 ニヤつきながら言う杏さんに、オレ、即答。

 片手を杏さんの胸に伸ばして、小ぶりの膨らみ全体を撫で回す。

 体勢のせいで両手をおっぱいに回せなかったので。もう片方の手は杏さんの頭に乗せて、撫でてあげる。杏さんはちょっと嬉しそうに、目を細めながら表情を緩めた。可愛い。

 まぁ、それはともかく。

 確かに、杏さんの胸はボリュームに乏しい。でもオレとしては「だからどうした」って感じなんだけどね。柚子さんに限らず、みほとまほのおっぱいにもメロメロになっているオレが言っても説得力弱いけどさ。

 とにかく、揉んで育てろと言うのなら、恋人として責任を持って育てねばなるまい。

 

「好きな男に揉まれると大きくなる、というのは、あながち間違いじゃないぞ?」

 

 オレたちの会話に混ざるように、まほが下半身の方から話し掛けてきた。

 さっきまでオレの亀頭を咥えていたとは思えない、いつも通りのクールな口調。でも口元が少し唾液で濡れているのがなんだかエロい。顔はこちらに向いてるけど、手はオレのチ○コの根元を握ったままだ。

 ちなみに、今はみほが亀頭を咥えている。唇をモゴモゴと、舌先をチロチロと動かして刺激を与えてくるのが、すっごくエロい。まほが合わせて陰茎を揉みしだいてくるから、ゾクゾクして堪らないぞ。幸せ過ぎる。

 

「揉まれると大きくなる説は、眉唾じゃないってこと?」

「熊本にいた頃にも、何度となく俊一に抱かれて、胸も揉まれてるんだが。その頃より少し胸が大きくなっているような気がするぞ」

「んむっ。わたしも、ちょっと下着のサイズがきつくなったような気がするよ」

 

 オレのチ○コを弄びながら、まほとみほが、そんな赤裸々なことを言ってくる。

 気持ち良さに悶えるオレを、膝枕をしている柚子さんが優しく撫でる。夢心地だ。

 

「むむ。それじゃあ、今のまほさんと西住ちゃんのおっぱいは、大瀬良くんが育てたと言っても過言ではないわけだね」

 

 極楽気分なオレをよそに、なんだか妙な会話をしている杏さんと西住姉妹。

 でもさ、こう言っちゃなんだけど。みほもまほも、熊本の頃から姉妹揃ってけっこう大きかったよ。おっぱい。ふたりに抱きつかれると、すっごい幸せな気持ちになる。もちろん柚子さんも、杏さんだって、抱きつかれたり抱きしめたりしたら幸せいっぱいだ。

 ……なんの話だったっけ?

 オレが頭の中で少しずれたことを考えてたのがバレたんだろうか。みほとまほが、さらにアピールをしてきた。

 

「よし。私たちの成長を、俊一に確かめてもらおうじゃないか」

「お姉ちゃんって本当に、そういうこともストレートに言うようになったよね」

「ん? みほはいいのか? それなら私だけで俊一を喜ばせても……」

「するっ。わたしも俊一くんにご奉仕するっ!」

 

 話は決まったと、まほは微笑み。みほは少し慌てながら姉の言葉に乗っかる。

 そしてすぐさま、姉妹揃って座る位置を変わり。寝転がるオレの腰の両側に陣取る。

 腰を上げろと、彼女たちに言われるまま持ち上げると。みほとまほは、オレのお尻の下に膝を入れる。

 

「柚子には敵わないが、私たちの胸もそれなりに大きくて、柔らかいぞ」

「わたしも、がんばるから」

 

 まほは、なんだか楽しそうに。

 みほは、顔を赤くしながらも意気込んで。

 

「んっ。こうか」

「よいしょ、えいっ」

「ふぉぉ……」

 

 ふたりで形のいいおっぱいを寄せ合って。オレのチ○コをサンドイッチにする。

 姉妹で、ダブルパイズリだ。

 陰茎部分を左右から、微妙に異なる柔らかさの膨らみに挟まれる。スベスベでモチモチした肌がチ○コに密着して、ぎゅっと圧迫してくる感触が気持ちいい。

 

「お姉ちゃん。俊一くん、すごく嬉しそうだよ」

「私たちの胸も、柚子に負けていないということだな」

「じゃあもっと喜んでもらわなきゃ」

「よし、いくぞ」

 

 あまりの気持ち良さ、心地良さに腰を震わせるオレ。その反応に気を良くしたのか。みほとまほが嬉々とした声を上げて、柔らかな膨らみをさらに押しつけてくる。

 

「んっ」

「えいっ」

「うあぁぁ……。気持ちいい……」

 

 ふたり揃って、チ○コに圧しつけた柔らかなおっぱいを動かし始める。

 それぞれ自分の胸を手で押さえて、タイミングを合わせながら、ぐいぐいと擦りつけてくる。

 西住姉妹のおっぱいに挟まれて、みっちりと隙間がないくらいにチ○コが包まれる。

 ぽよよんとした胸の膨らみに擦られ、しごかれる快感。

 股間の奥の方がぐるぐると熱くなっていく。

 ふたりのおっぱいの間から、亀頭だけが顔を出していて、ひょこひょこと動く。みほとまほが、胸を動かしながらそれをじっと見つめているのが、すっげぇエロい。堪らん。

 

「俊一くん。気持ち良さそうな顔をしてて、可愛い」

「やっぱりおっぱいはあった方がいいのか。わたしも大瀬良くんを悶えさせたい」

 

 みほとまほの、ダブルフェラからダブルパイズリの連続責めを受けて、快感に酔いしれるオレ。さぞかしだらしなくなってるだろう顔を、柚子さんと杏さんにさらしているわけだけど。そこまで気が回らない。

 柚子さんが、オレの顔を愛おしそうに撫でてきて。杏さんが乳首をコリコリと弄ってくる。それがまたさらに快感を高めてくる。

 

「幸せ過ぎて堪んねぇ……」

 

 さっきまでとは違った感じで、全身を恋人たちの柔らかな身体に包まれる。

 1回出したっていうのに、また射精したくなってきた。

 というか、こんなことされたら何度でも勃起するし、何回だって絶頂しちゃうよ。

 

「わたしの胸で気持ち良くなったばかりなのに。今度はまほさんとみほさんのおっぱいでも、気持ち良くなっちゃうんだね」

 

 頭の上から、柚子さんがなんだか嬉しそうに言う。

 視界いっぱいに、柚子さんのおっぱいが目に入ってくる。

 さっきはこのおっぱいにもみくちゃにされたんだな、と思ったら。まるで今、みほとまほ、さらに柚子さんにまでパイズリをされているような気分になってきた。

 

「大瀬良くん、おっぱいばっかり夢中になってないでさ。こっちも気にしてほしいなぁ」

 

 今度は胸板にもたれ掛かってる杏さんが、くすくす笑いながら喋りかけてくる。

 目を向けるなり、杏さんは、オレの乳首を指でくすぐりはじめて。

 さらにもう片方の乳首を、唇でついばんできた。

 

「んー、んちゅ。ちゅっ。れろ、んちゅ。ちゅっ」

「杏さんくすぐったい。ゾクゾクする」

「んっ。気持ち良くない?」

「めっちゃ、気持ちいいです」

「素直でよろしい」

 

 杏さんはそう言うなり、さらに強く乳首に吸いつく。

 さっきのチ○コ舐めといい、おっぱい以外で勝負しようとしてるのか。もしそうだとするなら、実に大きな効果を見せていると言っていいだろう。

 杏さんエロい。可愛い。つい頭を撫でてしまう。

 もちろんそうしてる間にも、股間からはさらに直接的な快感が襲ってきてるわけで。

 

「あ、くぅ。みほちゃんまほちゃんちょっと待って。今のヤバい」

 

 ひと際強い快感が下半身に走った。

 亀頭の傘の部分を、みほとまほの乳首がくすぐってきて。

 同時に陰茎の敏感なスジ部分を、おっぱいが擦り上げる。

 さらにカリの裏側にまでまんべんなく、おっぱいが押しつけられる。そこから上下に揺するもんだから、胸の膨らみでカリが持ち上げられつつ、揉みほぐされるような感じになってしまう。

 それがまた、絶妙に気持ちいい。

 単独でならまだ刺激を味わう余裕もあったけど。たたみかけてくるような責めの連続に、声を上げて、腰を震わせずにはいられなかった。

 柚子さんに膝枕をされながら、耳元や首筋をくすぐられて。

 杏さんに密着されて、乳首を唇と舌と指で弄ばれ。

 みほとまほにダブルパイズリをされ、特に弱いところを責められつつ、チ○コをおっぱいでもみくちゃにされる。

 

「は、んぅ。すげぇいい……」

 

 みほとまほ、姉妹揃って恋仲になったおかげで、普段のイチャイチャからエロいことに至るまで、いろいろと一緒にすることが増えた。そのおかげで、複数人の女の子とエッチをするのが大好きになったわけだけど。オレが複数プレイに喜ぶと分かった彼女たちは、姉妹で一緒にエッチなことをするのに積極的になってしまった。嬉しいやら申しわけないやら。

 

「んっ、ふ、ん。んっ。ぴくぴくしてきたぞ。俊一、我慢できなくなったか」

「いつでも、イッちゃっていいから。いっぱい、出してくれていいからっ」

 

 

 逆に言えば、オレの弱いところをことごとく知っているというわけで。しかもチ○コを刺激しながら、こちらをうかがうように見上げられるとぞくぞくしてしまうのも、彼女たちはお見通し。その見上げてくる視線が、みほとまほのふたり分だから、破壊力はハンパない。

 恥じらいを残しながらも、オレの前ではエロい姿を見せてくれる、みほとまほ。そんなふたりにダブルで責められるのは、すっごい興奮する。虜になってると言ってもいい。同時に触られたり、舐められたり、咥えられたり、擦られたりすると、もう条件反射でチ○コがビンビンになってしまう。

 気持ち良過ぎて、2回目の射精がすぐそこまでこみ上げていた。

 

「ごめん、もう無理。また出ちゃ、うっ」

 

 みほとまほが、嬉しそうに微笑んで。互いを抱き合うようにしながら、おっぱいを強くきつく、押しつけてくる。さらに胸を張るように身体を反らしたから、よりチ○コが擦り上げられた。

 絶頂ギリギリの精子がチ○コにこみ上げてきて。

 みほとまほのおっぱいにこねくり回される。

 

「だめ、いく、イクよっ」

「ひゃっ」

 

 腰回りに力が入る。

 腕にも同じように力が入って。

 オレの胸を弄り回していた杏さんを、思い切り抱きしめてしまう。

 ちっこい身体を抱き寄せて。

 杏さんの頭をかき抱きながら。

 と思ったらさらに、膝枕をする柚子さんに弱い首筋を撫でられて。

 耐え切れなくなった。

 

「んんっ。出るっ」

 

 みほとまほのダブルパイズリに包まれて、快楽いっぱいの状態で射精した。

 びゅるびゅるっ、どくどくっ、みたいな感じで。

 

「はぁ……。胸の間で、俊一のが脈打って……」

「こんなにいっぱい。んっ……。俊一くん……」

 

 射精の勢いが強すぎて、みほとまほの顔にまで届いてしまった。

 図らずも姉妹同時に顔射をして、精子まみれにしてしまう。エロい。

 

「みほの顔が、俊一のでベトベトだぞ」

「お姉ちゃんも、ぬるぬるになっちゃってるよ」

 

 顔に掛かったザーメンを拭うように、お互いの顔を舐め始める西住姉妹。

 さらにエロい。

 

「うおぉ……」

 

 ふたりが顔を近づけたおかげで、射精したばかりのチ○コにまたおっぱいが押しつけられた。改めてパイズリ状態になってチ○コが擦られる。敏感なところを、むにゅむにゅと包まれながら刺激を受けて。何度目か分からない、快感のうめき声を上げてしまう。

 

「俊一くん。イッちゃった時の顔、すっごく可愛い」

 

 膝枕をしてくれている柚子さんが、濡れたような声を漏らしながら、嬉しそうにオレの頭を撫でる。全身が気持ち良さでいっぱいなのに、柚子さんの手は心地良さの方を強く感じる。絶頂顔をさらしてしまって恥ずかしいのに、それでもいいかなという気分になる。

 細かいことはどうでもいい、と思ってしまうほどの快感だった。

 さっきは、まほに膝枕をされながら、みほに乳首を弄られて、柚子さんにパイズリをされつつ、杏さんに亀頭を舐められて。思い切り射精して、柚子さんと杏さんに精子を浴びせてしまった。

 今度は、柚子さんに膝枕をされて、杏さんに乳首を舐められながら、みほとまほのダブルパイズリで、2回目とは思えないほど射精した。もちろん、みほとまほの、顔とおっぱいに精子を浴びせてしまう。

 思い返すだけで、興奮必至のシチュエーション。

 恥ずかしいとか、イキ過ぎて少し苦しいとか、そんなこと言ってられるか。

 

「俊一くん、まだ元気なままだね」

「本当にたくましいな。惚れ惚れしてしまうぞ」

 

 まだ硬さを残しているチ○コに、みほとまほがそれぞれ感心しながら。ふたりでおっぱいをぐにぐにと押しつけてくる。

 

「ふはぁ……。幸せ過ぎる……」

 

 何度口にしても足りないくらいの、幸福感。可愛い恋人たちの、ふにふにとか、むにむにした柔らかさに包まれて。際限なく精力がたぎってくるような気がする。

 実際に今、連続で射精してるのに、みほとまほのおっぱいに挟まれているうちに、オレのチ○コはまた力を取り戻してきた。我ながら頼もしい限りだ。

 

「もっと、してあげるから」

 

 みほが、顔を赤くしながらも積極的に、そんなことを言ってくれる。

 身体を持ち上げて、まほに支えられながら。

 オレの方にお尻を向けて、腰をまたいでくる。

 上半身は裸で、制服の緑のスカートはまだ身に着けたまま。

 でも下着はいつの間にか脱いでいた。

 つまり、みほが自分から足を開いて、おま○こを見せつけてきたわけで。

 これが興奮せずにいられようか。

 

「おぉ……」

「あんまり、見ないでぇ……」

 

 恥ずかしそうな声を漏らしながら、性懲りもなく勃起しているオレの股間に、みほが腰を下ろす。

 

「んんっ」

「うあぁ、柔らかい……」

 

 チ○コの上に乗って、割れ目に沿って少し擦ったと思ったら。

 みほのおま○こに、ぬるりと、呆気なく飲み込まれてしまった。

 

「はう……。わたしのナカが、俊一くんでいっぱい……」

 

 自分から腰を下ろしたせいで、みほの膣奥まで一気に届いてしまった。奥を突かれて刺激されたのか、膣壁が、きゅーっと強く、飲み込んだチ○コを締めつけてくる。

 おかげで勃起が完全に力を取り戻した。みほのナカで、もうギンギンだ。

 

「んっ。はぅ、あんっ」

 

 あおむけになったオレの股間に腰を落として、背面騎乗位の状態になっている。目の前に、チ○コを咥え込んで、ねっちょりした愛液でいっぱいなおま○こと、小ぶりに思えて意外とむっちりしたお尻が震えているのが丸見えだ。エロい上に、嬉しそうな反応に興奮する。

 

「うわぁ。西住ちゃん、エッロい」

「みほさん、すっごい気持ち良さそう」

 

 胸板に頭を乗せた杏さんと、膝枕をしてくれている柚子さんが、声を漏らす。

 自分から挿入した姿を見られたせいか、みほが恥ずかしそうに体を震わせる。でもその腰の動きがチ○コにまで伝わってきて、ぬるぬるの膣壁がさらにチ○コを締めつけてくる。

 

「はぁ……。みほちゃん、すっげぇ気持ちいい」

 

 ぱっくりとチ○コを咥え込んで、ひくついている濡れ濡れなおま○こ。それに、ぷるぷると震えるお尻を眺めているだけで興奮してくる。無意識に腰を揺すってしまうくらいに。

 

「あんっ。んっ、待って、俊一くん。わたしが、ごほうしする、から」

 

 みほはそう言うなり、おいたをするチ○コをたしなめるように「きゅっ」と締めつけてきて。再度ゆるゆると、腰を揺すり始めた。

 自分から奉仕するという彼女の言葉に甘えて。オレはチ○コを突き上げたくなる欲求を押さえながら、されるがままになる。みほの、膣内のうねるような感触と、目の前でお尻が揺れる絶景を堪能する。

 

「は、んっ、ん。ふぅ、んっ、あ、あんっ」

 

 みほが、オレにまたがったままリズムよく腰を振って、たぱん、ぱちんとお尻を打ちつけてくる。

 腰を持ち上げようと力を入れれば、膣壁がうごめき締めつけてきて。吸いつくようにまとわりついて、チ○コをしごき上げてくる。普段は甘えたがりで恥ずかしがり屋のみほが、自分から挿入してきて、腰を上下させているというだけで、もう堪らない。

 でも。オレが思っていたよりも、彼女は高ぶっていたようだ。

 

「あっ、は、あ、んっ。俊一くん、しゅんいちくんっ。んぅ、しゅんいちくんっ」

 

 みほは、おま○こから溢れる愛液をじゅぷじゅぷと音を立てて、好き好きと言いながら腰を振る。淫らにお尻を前後左右に動かす。何度見てもエロい光景だ。

 オレだって我慢できるわけがない。ご奉仕するからじっとしてろと言われても、限度がある。堪えきれずに、みほの動きに合わせて腰を突き上げる。チ○コを膣奥へと押し込んでしまう。

 

「やっ、あ、だめっ。すごい、んっ、あんっ。あ、はっ、はぅんっ」

 

 みほのお尻が、オレの腰の上で踊る。

 それに合わせて、腰に残した制服のスカートがひらひらと波打つ。

 柔らかな尻たぶが、スカートに隠れたり、丸出しになったりを繰り返す。

 チ○コが出入りするおま○こも、見えたり隠れたりするのがエロい。

 つい、つながっている部分をガン見してしまう。

 

「みほ、可愛いぞ。俊一も夢中になって、すごく嬉しそうだ」

「あんっ、あ、うれし、いっ。あっ。しゅんいちくん、しゅんいちくんっ」

 

 まほは、懸命に腰を振る妹を見つめてうっとりしてる。みほの揺れるお尻と背中、その向こう側に、まほが妹の顔を包み込んでいるのが見えた。紅潮した顔がまた、エロくて堪らない。

 ……なんだか頭が馬鹿になって、エロい、可愛い、興奮する、としか言えなくなってるような気がしてきた。

 一応、みほのご奉仕するって言葉を尊重して、腰を動かすのは最小限にしようと頑張る。でも腰を踏ん張る分、上半身にも力が入って。胸板に頭を乗せていた杏さんを、さらに強く抱きしめてしまう。

 

「どうしよ。思い切り抱きしめられるの、好きかもしんない」

 

 そんなことを言いながら、潤んだ目で見上げてくる杏さん。

 またそれが可愛らしくて。背筋がゾクゾクしてきて、腰回りまで震えてくる。

 で、我慢が緩んで腰が動き。みほの膣内をチ○コでかき回すことに。

 

「ひゃうっ。あっ、は、あぅんっ」

 

 ぶるぶるっ、と、みほがお尻を痙攣させる。

 チ○コをしぼるように膣壁が動いて、膣奥へ吸い込もうとする。

 みほのナカ、気持ち良くて仕方がない。

 でも快感でいっぱいなのはオレだけじゃない。むしろみほの方が、フェラチオやパイズリをしていた時から身体をうずかせていたようだ。2回射精しているオレと違って、彼女はあっさりと絶頂してしまう。

 

「あ、は、あ、んんっ。はぅ、ん、んんっ。……あ、はふ」

 

 こちらに向けたお尻を可愛らしく震わせて。オーガズムで膣壁が締めつけてくる。きゅっ、きゅきゅーっと、チ○コを締めつけながら、さらに奥へと飲み込んでいくような感覚。

 

「うぉ。チ○コが締めつけられる……」

 

 ぴくっ、ぴくっと、みほのお尻が痙攣する。まだ余裕のある勃起チ○コで、絶頂する彼女の気持ち良過ぎる締めつけおま○このナカをじっくりと味わう。

 もっと感じてほしい、イカせてあげたいと思ってしまう。

 でも、みほだけを可愛がるわけにもいかない。贅沢な悩みだ。

 

「俊一。次は私で、気持ち良くなってくれ」

 

 オーガズムでへたり込む妹を支えながら、まほが言う。

 見るからに高ぶっているその顔に、オレはチ○コがまた硬くなってくるのを感じた。

 

 

 

 ―続く―




なんとか4月中に更新間に合った!
槇村です。御機嫌如何。


4人をまんべんなく構うエッチシーンの難しさよ。
何より一番の悩みどころは、長くなるところだね。
そんなわけでもう1話、エッチシーンが続きます。

ほぼ月イチ更新にも関わらず、読んでいただきありがとうございます。
なんのかんので、毎日誰かが読んでくれているようで嬉しい。
スローペースなエロ小説ですが、今後ともよろしくお願いします。




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63:※君にご奉仕Ⅳ/みほ、まほ、柚子&杏

 みほが、自分からオレにまたがって、背面騎乗位でイキ果てた。

 上半身は裸で、スカートは履いたまま。でもショーツは脱いでいるから、お尻の丸みは見えている。みほがお尻を揺するごとに、スカートの襞がひらひらと舞って。オレのチ○コを咥えて放さないおま○こが、見えたり隠れたりしてたんだけど。堪らなくエロい。

 オーガズムに流されながら震える、みほのお尻と、ひくつくおま○こ。目の前のエロい光景を凝視しながら、チ○コが絶え間なく締めつけられるのをじっくりと味わう。

 

「あー……。気持ちいい。みほちゃん、すごい。好き、大好き……」

「あん、はぅ……。しゅんいちくん、わたしも、すきぃ……」

 

 みほが、うわ言のように好き好きと言ってくれるのが、可愛らしくて、愛おしい。

 絶頂して力の抜けた彼女の身体を、まほが支えてる。正面から抱き留めて、頭を撫でながら、柔らかい表情を浮かべていた。

 

「すごく幸せそうだ。可愛らしいぞ、みほ」

 

 まほが、妹に頬ずりをして。ゆっくりと身体をずらしながら、みほのおま○こから、チ○コを抜いた。

 オレの身体をまたいだまま、股間からお腹の方へとスライドさせる。丸くて可愛いみほのお尻が近付いてきた。腹筋部分や脇腹に、お尻やおま○こ、太ももの柔らかさが感じられるのが心地いい。

 と思ったら。まほが、まだ射精していない勃起チ○コを握ってきた。

 

「私の身体でも、気持ち良くなってくれ」

「お、くぅ……」

 

 そう言うなり、まほは自分からおま○こに当てがって、腰を下ろす。不意を突かれて、チ○コが膣に包まれる気持ち良さに声が漏れてしまう。

 

「はぁ……。まほちゃんも、すっごく気持ちいい」

「んっ……。俊一のも、相変わらずたくましくて。私も、気持ちいいぞ」

 

 お互いに、快感を口に出す。みほの肩越しに、まほが蕩けたような微笑みを向けてくる。

 みほに続いて、今度はまほの膣にチ○コが包まれる。姉妹で違う締めつけや感触を味わっていることに、贅沢な快感を噛みしめずにいられない。

 みほの膣内は、キツいながらも優しく締めつけて、吸いついてくる感じ。

 それに対して、まほのナカは、ちょっと深めで、陰茎全体をまんべんなく締めつけてくる。

 でも、姉妹揃って濡れやすくて、高まってくると愛液が多めになるのはそっくりだ。

 

「んっ。ん、ふぅ……。は、はっ、あっ」

「はぁ……。お姉ちゃん、気持ち良さそうなお姉ちゃん、可愛い」

 

 オレの股間の上で、まほが切なそうに声を漏らしながら腰を振る。

 お腹の上では、みほがまたがったまま、さっきとは逆に乱れる姉を支えている。

 まほが腰を振るごとに、彼女の膣が、オレのチ○コをしごき上げる。きゅうきゅうと締めつけてくる膣壁の動きの強弱が、そのつどオレの性感を刺激する。

 でも、視界にあるのは、みほのお尻と背中。実際に挿入しているまほの身体は隠れてしまっている。妹に抱きついた腕と、肩越しに上気した顔が見えるだけ。それがまた、エロい。

 

「まほちゃん。感じてくれてる顔、可愛い」

 

 クールなお姉さんが快感に乱れる姿は、何度見ても堪らない。オレの方も快感がこみ上げてきて、つい腰回りに力が入ってしまう。

 

「あっ、しゅんいち、んん、あぅっ」

「ひゃっ。俊一くん、すごい、あんっ」

 

 まほを貫きつつ、みほをお腹に乗せたまま。タイミングよく腰を揺する。

 股間とお腹に女の子がふたりまたがっている状態なので、腰を振るなんてことは無茶もいいところ。ベッドのスプリングを活かして、身体全体を弾ませるような感じになる。

 まほとみほ、オレの上で抱き合う姉妹を、ふたり同時にチ○コで貫いているような感覚。それがまたオレを興奮させた。腰を振って、身体を揺すり、まほとみほが弾んで揺れる姿を見上げるのにゾクゾクしてしまう。

 

「俊一、あっ、んっ、だめだ、いく、イクっ」

 

 まほのキツキツなおま○こが、オレのチ○コを飲み込もうとして忙しなくうごめく。

 膣壁がうねるように動いて、チ○コを膣奥へと吸い込んで。

 さらに上下する腰の動きに合わせて、強い締めつけでしごき上げてくる。

 

「まほちゃん、気持ちいい。可愛い。エロい。可愛い」

「お姉ちゃん、綺麗。可愛い。気持ち良さそうなお姉ちゃん、すごく可愛い」

 

 オレが、下からおま○こを貫きながら。みほが、正面から抱きしめながら。まほに向かって好き好き、可愛い可愛いと言い募る。

 まほが、オレの股間に腰を押しつけて激しく震えた。挿入してからあまり長くもたなかったのは、彼女も高まり過ぎていたのかもしれない。絶頂する妹を目の前にしたり、おあずけ状態になっていたせいだったり。思ったより強いオーガズムだったのかもしれない。

 そんなまほの蕩けた顔を見つめながら、膣イキするおま○この感触をチ○コいっぱいに堪能する。締め上げ、吸い立ててくる、まほの膣内の動きに腰が持っていかれそうだった。

 

「は、あ、ふぅ、ん……」

「お姉ちゃん、可愛い」

 

 絶頂した姉の身体を受け止めて、みほはうっとりした声を漏らす。そんな彼女の肩越しに見える、まほのイキ顔がエロくて可愛い。みほの背中とお尻を一緒に眺めていると、いろいろな気持ち良さがごっちゃになって襲ってくる。

 

「ふぁ、あ、ん。んふぅ……」

「あ、んぅ……。ひゃっ」

「おっと」

 

 脱力したまほが腰を震わせて、妹に抱きついたままもたれ掛かる。みほも、またいでいたオレのお腹に股間を擦りつけていたので。軽いオーガズムに晒されていたのかも。力を入れることができずに、抱きつく姉を抱えたまま、オレの方に背中から倒れ込んできた。

 絶頂したまほと、半イキのみほを、重なった状態でいっぺんに抱きしめる。ふたりともオレのモノ、放さないぞばかりに。

 

「まほさんも、みほさんも。気持ち良さそうで、すっごく嬉しそう」

 

 頭の上から、柚子さんの声が聞こえる。

 倒れ込んできた西住姉妹を抱きしめたオレは、柚子さんに膝枕をされたまま。柚子さんは折り重なっているオレたちを見ながら、にこにこ顔でオレの頬を撫でてくる。なんだか柚子さんの方が嬉しそうだ。

 頭の後ろに、柚子さん。正面の腕の中に、みほとまほ。前後を恋人たちに挟まれる。

 柔らかい。

 いい感触。

 可愛い。

 エロい。

 いろいろな感情をごちゃまぜにしつつ、腕の中の西住姉妹を抱き寄せて、頬ずりをし、撫で回す。

 

「んっ。あふぅ……」

「しゅんいちくぅん……」

 

 その拍子に、まほのおま○こから、チ○コが抜けた。

 挿入する本番前に2発も出しているせいか、まだ射精に至っていない。

 みほとまほを連続でナカイキさせて。

 絶頂したおま○こを姉妹で続けて味わった。

 そのおかげで、オレのチ○コはまだ硬いままでビンビンだ。

 

「本当にいけないコだねぇ。大瀬良くんのコレは」

「おぅっ」

 

 解放されたチ○コが、小さな手に優しく握られる。いつの間にか下半身の方に移動していた杏さんだ。

 みほとまほを相手に腰を振っていた時は、オレの胸板にしなだれ掛かっていたのに。次は自分の番だと、スタンバイしていたのかもしれない。

 

「おぉ……。やべぇ、杏さんの手、気持ちいい……」

「いいよー。もっと声出してー」

 

 寝転がったオレの上に、みほとまほが乗っかっている状態なので。杏さんの姿は隠れて見えないんだけど。だからこそ、見えないところで勃起チ○コを弄られるのは、なんだか妙な興奮がこみ上げてくる。

 

「まほさん、西住ちゃん、場所を譲ってよ」

 

 杏さんが、オレのチ○コを弄びながら、脱力しているふたりに声を掛けた。イっちゃったのなら次は自分の番だ、ということだろう。

 とっかえひっかえ、みたいな感じで。正直、興奮する。でもそれ以上に、女の子の方が待ちきれないでいるっていうのに、高ぶってしまう。

 ぺちぺちと、みほとまほの肩を軽く叩いて、オレからも交代を促した。姉妹揃って、オーガズムの余韻に少し息を乱しながら、オレの上から降りる。

 視界をいっぱいにしていた、半裸姿のみほとまほが横にずれて。その向こうでは、杏さんがオレのチ○コをつかんで、こちらにお尻を向けながら挿入しようとしていた。

 

「んっ、くぅ……」

「あんずさ、はぁぁ……」

 

 小さくてキツキツな、杏さんのおま○こが、チ○コを飲み込んでいく。愛液にまみれて濡れ濡れになっていたから、割とスムーズに、杏さんの膣奥まで入り込んでしまった。すっげぇ、気持ちいい。

 

「うはぁ……。杏さん、つらく、ない?」

「う、んっ。お腹が、大瀬良くんのでいっぱいになるのが、少し苦しいけど。つらいというより、どちらかといえばなんか、幸せな感じ」

「なんて、嬉しいことを言ってくれる」

 

 杏さんが、息を継ぎつつ、お尻を震わせる。

 合わせるように、狭いおま○こが、きゅーっと、強く締めつけてきて。

 膣壁がまとわりついて、愛液を塗り込むかのように陰茎をしごき上げてくる。

 気持ち良過ぎて堪らない。

 というか、みほとまほをイカセている間も、杏さんがアソコを濡らしながら待ってたんだ。そう思うと、さらに興奮が高まってくる。

 

「あぁもう。杏さんも大好き。すっごい好き」

 

 腰にスカートを残したままこちらを向いている、可愛らしい小さなお尻。思わず手を伸ばして、お尻を撫でながらつかんで固定。そして優しく、ゆったりと、掻き回すように腰を揺する。背面騎乗位の状態で、オレのチ○コを咥え込んだ杏さんのおま○こが丸見えだ。

 

「あぅ、ん、はっ、待って。大瀬良くんが動いたら、わたしが、気持ち良くなっちゃうからっ」

 

 杏さんからストップが掛かった。チ○コを膣内に飲み込んだまま、腰をぎゅっと押しつけてくる。オレが動こうとするのを抑えるように。

 

「おぉ……。杏さん、それも気持ちいい」

 

 こちらの動きを止めようとしたんだろうけど、それはそれで気持ちいい。また腰を振ってしまいそうになるのを、必至に抑え込む。

 

「わたしの方が、ご奉仕するんだから、さ」

 

 背中を向けている杏さんが、肩越しにこちらを振り向いて。

 上気した顔で、そんな可愛らしいことを言いながら。

 ゆるゆると、腰を振り始めた。

 うわぁ、エロい。

 

「んっ、ふぅ、ん。はっ、あ、はぅ、んんっ」

 

 杏さんの小さな身体が、オレの股間の上で前後する。

 小ぶりなお尻に、綺麗な背中が、目の前で震える。

 腰に残っている大洗の制服のミニスカートがひらひら舞って。

 オレのチ○コを咥え込んだおま○こが、見えたり隠れたりする。

 なんたる絶景か。

 杏さんが身をよじって、腰を振るわせるごとに、チ○コが膣壁に締めつけられる。しごき上げられる。もっと奥へ吸い込まれそうになる。

 とはいえ、杏さんのナカは身体のサイズ同様、小さくて浅めなので。亀頭があっという間に膣奥まで届いてしまう。チ○コを全部飲み込むことなく、一番奥を刺激されて、杏さんが身震いをする。その拍子にまたチ○コが締めつけられて、快感に襲われる。

 

「うわぁ。杏さんのアソコ、俊一くんのをいっぱい吞み込んじゃってる」

「すごく気持ち良さそうだぞ、杏」

 

 気持ち良さを隠さないオレと、頑張ってご奉仕しようとする杏さん。そんなふたりの結合部分を、場所を開けたみほとまほが眺めていた。

 

「はぅ、んっ、恥ずかしいから、言うなぁ」

 

 オレのチ○コを咥え込んで、腰を揺する杏さん。

 その股間をガン見している、みほとまほ。

 杏さんもさすがに恥ずかしそうにするけれど、腰の動きは止めない。エロいな。

 エロいと言えば、両脇にいる、みほとまほもそう。オレと杏さんのつながっているところを覗き込んでいるせいで、ふたりとも可愛いお尻をこちらに向けた体勢になっていた。

 無防備におま○こをさらしていて、うっすら開いたワレメが愛液をにじませているのも丸見え。さっきまで、このふたりのおま○こに挿入してイカせてしまい、今は杏さんのナカに出し入れしながら喘がせている。

 そう考えたら、我慢なんてできるわけがない。

 

「ひゃあっ」

「はうっ」

 

 みほとまほの、魅惑的な股間に手を伸ばして。ふたりのおま○こにそれぞれ指を差し込んだ。

 右手の中指を、みほのおま○こに。

 左手の中指を、まほのおま○こに。

 ぬるぬるになっているふたりの膣は、ぬるりと、簡単にオレの指を咥え込んだ。

 オレ専用だとばかりに、膣のナカをぐるぐると指で掻き混ぜて、柔らかな膣壁を撫で回す。

 

「みほちゃん。ここ、いいよね」

「ひゃんっ、あ、あっ」

「まほちゃんは、ここ」

「待て、はぅ、あっ、んんっ」

 

 いつもチ○コで責め立てている、彼女たちの弱いところ。膣の入り口の近くとか、奥の方のちょっと上側とか。傷付けないように、指の腹を擦りつける。努めて優しく、でも容赦なく刺激する。

 みほとまほが、指を動かすごとに悶える。

 突き出されたお尻が震えて、おま○こがオレの指を忙しなく締めつける。

 指にまとわりつく愛液の量もどんどん増していく。

 指の動きがさらにスムーズになって、ふたりをもっと快感で鳴かせる。

 オレもどんどん高まってきて、自然と腰が動いてしまう。

 

「ちょっ、あっ。はぅ、んん、大瀬良、くんっ」

 

 杏さんが、切なそうに声を漏らした。

 背面騎乗位でチ○コを咥え込み、お尻を動かしていた彼女。いきなりオレの方から突き上げてきたせいで、たちまち腰砕けになってしまった。

 杏さんの浅いおま○こを、乱暴に突いたりしないように気をつけつつ。彼女のナカ全体をチ○コで擦りつける。

 

「あっ、あ、んっ。待って、イッちゃう、イッちゃうからっ」

 

 杏さんが、切なそうな声を出す。喘ぎのトーンが上がってくるのに合わせて、彼女の狭いおま○こが、さら強くぎゅうぎゅうと締めつけてくる。

 しかも一生懸命にお尻を振ってくるものだから、愛液まみれになったヌルヌルでキツキツな膣壁にしごかれて。もうね、腰が持っていかれそうになるほど気持ちいい。

 その快感に煽られるように、みほとまほのおま○こに差し込んだ指にも力が入って。ぐちゅぐちゅと、オレのチ○コで絶頂済みの膣内を同時に掻き回してしまう。

 

「あうっ、んっ、んんっ。あっ、あんっ」

「そこ、あっ。は、あっ、くぅ、んんっ」

「くぅ、んっ、ん、あっ。あぅ、んうっ」

 

 可愛い女の子3人の感極まった声がユニゾンして、ベッドの上に響く。

 杏さんのおま○こが、痛いくらいチ○コに絡みついてきて。

 みほとまほのおま○こが、咥え込んだ指をキッツキツに締めつけてきた。

 目の前に並んでいる、オーガズムで小刻みに震える3人のお尻、おま○こを凝視する。

 エロい。エロ過ぎる。

 

「はぁ、あ、んん……」

 

 杏さんが、蕩けた声を漏らしながら身体を震わせた。

 びくり、びくりと腰が跳ねて。膣壁がチ○コをひと際強く締めつけながら。前後にしごき上げるようにして刺激を与えてくる。

 

「んんっ。杏、さんっ」

 

 お尻を少し持ち上げた拍子に、彼女のおま○こから、チ○コが飛び出した。

 ただでさえキツい杏さんのおま○この、ナカイキしたうねりや締めつけ。強烈な快感を耐えた勃起チ○コが、ぶるりと震える。

 杏さんのナカが堪らなく気持ち良くて。もっと言うと、目の前に突き出された3人、みほ、まほ、杏さんのお尻とおま○こがオーガズムで痙攣するのを、指とチ○コで堪能してたわけだから。快感と興奮が凄すぎて、3度目の射精を堪えるのもギリギリだった。

 

「俊一くん、すごいね。女泣かせだなぁ」

 

 膝枕をしてくれている柚子さんが、頭の上からそんな言葉を掛けてくる。

 いやまぁ、そう言いたくなるのも分かる。すぐ目の前に、恋人仲間とはいえ、3人の女の子が同時に責め立てられて、イカされるのを見せつけられたわけだしね。

 でも柚子さんの声が、興奮して艶っぽくなってるのは気のせいじゃない。

 

「次はわたしでも、気持ち良くなってほしいなぁ」

 

 柚子さんが少し身体を引いて、前かがみになり。唇を重ねてきた。

 

「んっ。んちゅっ」

「んむ。ふ、ちゅっ。柚子さん……」

 

 杏さんをナカイキさせて、みほとまほのおま○こに指を出し入れしつつ、柚子さんにおっぱいを押しつけられながらキスをする。

 全身を、恋人たちの柔らかい身体に包まれている状態。

 幸せで、気持ち良くて。死んじゃうんじゃなかろうかオレ。

 

「挿れるね、俊一くん」

 

 膝枕を止めて、下半身の方に移動した柚子さん。巨乳に負けないくらい豊満なお尻をこちらに向けて。オレのチ○コに手を添えながら、挿入しようと自分のおま○こにあてがう。

 

「んっ。んふぅ……」

「うっわ。柚子さんのナカ、とろっとろ……」

 

 背面騎乗位の形で、柚子さんが自分から腰を下ろした。

 あっというまに、にゅるにゅるなおま○こが、チ○コを飲み込んでしまう。もうすっかり愛液でべとべとになっている膣壁が、キツいけれど優しく絡みついてくる。

 さっきまで、みほ、まほ、杏さんを立て続けにイカせていたけれど。その間ずっと、柚子さんは膝枕をしてくれていた。恋人仲間がイカされているのを見ながら、オレの頭を乗せてくれていた太ももの奥をドロドロにさせていたなんて。考えるだけで興奮する。

 

「柚子さん、気持ちいい。エロい。可愛い。好き。エロい」

「あんっ、あっ。嬉しいけど、あんまり、言わない、で」

 

 好き好き、エロいエロいと言うたびに、言葉に反応するかのようにおま○こがきゅうきゅうと締めつけてくる。もっとも柚子さんの場合は、締めつけてくるというよりも、吸いついてくる感触が強い。

 

「オレの前ではエロい姿を見せてくれる柚子さん、最高」

 

 大洗学園に転校してきて、彼女と恋仲になってから半年くらい。恋人になったのは、みほとまほの方が先だけれど、熊本と茨城に離れてたから。一緒にいた時間では、柚子さんが一番長い。

 身体を重ねた回数も、一番多いだろう。柚子さんのおま○こは、すっかりオレのチ○コに馴染んでる。挿入するたびに感じるジャストフィット感は、何度味わっても堪らない。そのたびに高まって、柚子さんをオレのモノ扱いしてしまい。彼女もそれを喜んでくれる。

 何度シても、気持ちいい。普段は甘やかしたがりで甘えたがりなお姉さんが、自分からオレの股間にまたがって、おま○こで優しくキツく、オレのチ○コを包み込む。

 

「オレの柚子さん。すっごい気持ちいい。好き、柚子さん大好き」

 

 たっぷりとした柚子さんのお尻が、オレの腰の上で跳ねる。

 その動きに合わせて、大洗の制服のミニスカートがヒラヒラと舞う。

 尻たぶのふくらみと、その奥でチ○コを咥えたおま○こが見え隠れするのがエロい。何度見てもゾクゾクしてしまって、より強く、膣奥の方へと、腰を押し上げたくなる衝動に駆られる。

 

「は、あ、あっ、んっ。俊一くん、激しい、よ、やんっ、はぅ、んんっ」

「気持ち良過ぎて、止まらない、ぞっ」

 

 寝転がったまま、みほ、まほ、杏さんにご奉仕をしてもらって。乱れる姿とナカイキするおま○この締めつけを連続で味わった。さらにとどめとばかりに、柚子さんも自分から腰を振って気持ち良くしてくれる。2回も射精した後といっても、4人目ともなれば耐えるのにも限界がくるってものだ。

 柚子さんのナカの、奥の奥に、亀頭をぐりぐりと擦りつける。それが刺激になって、膣壁が強くチ○コを締めつけてくる。亀頭にまとわりついてくるのと同時に、陰茎をしごくような動きをしてくる感触が、気持ち良くて気持ち良くて。

 

「今日も、柚子さんのナカ、オレのモノでいっぱいにするよっ」

「うんっ、いっぱい出してっ。俊一くんで、わたしを染めてっ」

 

 みほ、まほ、杏さんのナカイキおま○こを連続で貫き渡って、ギリギリまで高まった3回目の絶頂射精を、柚子さんの膣奥深くへと思い切り解放する。

 柚子さんもそれに合わせるように、オーガズムの波に呑み込まれながら。おま○こを絶頂に震わせて、注がれるに任せてザーメンを受け止めてくれる。

 

「はぁ、ん、んぅ……。俊一くんので、わたしのナカいっぱい……」

 

 オレはためらうことなく、睾丸で渦巻くザーメン全部を柚子さんに注ぎ込む。ナカイキしたおま○この締めつけと吸いつきが、もっと射精しろとばかりに刺激してくる。

 気持ち良さに堪らず、柚子さんのお尻をスカートの上からわしづかみにして。もっと奥まで届け、彼女の全身に染み渡れとばかりに、ぐっぐっと膣奥に向けて亀頭を押しつける。

 

「独占欲を向けられてる小山って、本当に嬉しそうだよね」

 

 オレが、絶頂する柚子さんへのマーキングに夢中になっていたら。少し呆れるような口調で杏さんが顔を近付けてくる。そのまま覆いかぶさって、首に腕を回し、唇を重ねてくる。そして甘えるようなことを言ってきた。

 

「小山みたいに、わたしのナカもいっぱいにしてほしいなー」

 

 普段の杏さんと同じような、軽い口調。でも間近で感じられる吐息は、熱っぽくて艶めいている。すごくエロい。

 自分にもナカ出ししてほしい。そうおねだりされていると思うと、性懲りもなくチ○コがまたうずいてしまう。

 

「もちろん。杏さんも、身体の中からオレ色に染めちゃうから」

 

 杏さんの頭に手を置いて、引き寄せながらキスをする。んーっ、ちゅっ、ちゅちゅっ、と。深く浅く、杏さんの唇を貪る。

 絶頂で震える柚子さんのおま○この感触を味わいながら、杏さんとキスしまくる。贅沢過ぎて、頭も下半身も蕩けてしまいそう。

 なんてことを感じているなり早々。

 

「ふぁ、んふぅ」

「んっ。んむっ」

 

 射精したばかりのチ○コが、柚子さんのおま○こから解放されて。違った柔らかさと気持ち良さに包まれる。

 みほとまほの、お掃除フェラ。ふたりがオレの股間に顔を埋めて、チ○コに舌を這わせ始めた。

 

「柚子さんだけじゃズルい。わたしにもいっぱい出してほしい」

「私のナカにも、俊一のモノを注いでくれ」

 

 みほとまほがナカ出しをおねだりしながら、オレのチ○コに頬ずりをする。微笑みながら、でも熱っぽい目を向けてくるふたりに情欲がこみ上げてくる。

 で、その向こう側には、絶頂すると同時に思い切りザーメンを注がれた半裸の柚子さんが。顔をほころばせながら、嬉しそうにお腹を撫でていた。

 杏さんも、みほもまほも、同じようにされるのを望んでる。

 また興奮がこみ上げてきて、腰が震えた。

 

「みほちゃん、まほちゃん。もっと元気にして」

 

 半勃ちになったチ○コを、ぶるぶると揺すって促す。すると再び、みほとまほは股間に顔を埋めてきた。チ○コの裏スジ、カリの表面、傘の裏面などに、ふたりして舌を這わせてくる。

 ダブルフェラをされて、また精がこみ上げてくるのを感じながら。杏さんを抱きしめて、せがまれるままにキスをする。

 柚子さんだけじゃなく、3人とも満足させないと。

 オレは何度目かも分からない、こみ上げてくる幸せを噛みしめた。

 

 

 

 ―続く―




前回更新から3ヵ月経っていて我ながら驚いた。
槇村です。御機嫌如何。


ご無沙汰しております。辛うじて生きています。

リアル書き仕事の細かい締切に追われたり。
オリジナルエロ小説の序盤3万字を書いたはいいけど
「何か違う」と全ボツにしたり。
改めてエロ小説のプロットを組んでみたり。
そっちにかまけて二次エロ書きが不安定になったり。
映画『映画大好きポンポさん』の素晴らしさに涙したり。
映画『ライトハウス』の狂いっぷりに歓喜したりと。
まぁいろいろあったんですよ。
(最後のふたつ必要?)

次話は原作沿いの日常シーンになる予定ですが、
更新がいつになるかは分かりません。
月末に出せれば上出来かなという感じ。
思い出した頃に覗いていただけると幸いです。
引き続きよろしくお願いします。




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64:小さなごほうびⅠ

 新学期が始まったってことは、毎日登校しなけりゃいけないってこと。春休みの時みたいにダラダラ過ごせないし、前日に恋人4人とどれだけ頑張っていても「もうダメ」と寝こけるわけにもいかない。

 辛くはないよ? 恋人たちから連続して求められるなんて男冥利に尽きるというものだ。ただちょっと張り切り過ぎたせいか、太陽が黄色く見えるっていうのを実体験してしまった。

 まぁ、オレの昨夜の頑張りは置いておいて。

 新学期になって大きく変わったのはやっぱり、戦車道に関わるようになったこと。関わると言っても、オレは何をすればいいのかなんて不確定もいいところなんだけど。

 

「とりあえず、何かお菓子を作ってくれない?」

 

 杏さんにはそんなことを言われた。なんでも、初日の授業からちょっと無茶ぶりをするそうなので。おやつで気を逸らしてなだめよう、というつもりらしい。

 何をさせるつもりなのやら。なんて思いながら、俺は朝からシュークリームを作る用意をしていた。割と手軽に作れて、持ち運びもできるから振る舞うのもやりやすいので、おやつとしてチョイスすることが多い。

 そんなこんなで、放課後。新設された必修選択科目「戦車道」を選んだ生徒たちが、初めて顔を合わせることになったんだけども。

 

「これって、多いのかな。それとも少ないのかな」

 

 校庭の端にある5棟建てのガレージ。その前に並んでいる戦車道を選んだ女の子たちを眺めながら、ついつい口から出てしまう。もちろん、男はオレひとりだけだ。

 

「全部で18人。わたしたちを入れて21人。あ、まほさんと俊一くんを除いてだよ」

「思ったよりも集まりませんでしたね」

「いやー、こんなもんでしょ。上出来上出来」

 

 横にいるオレのつぶやきに応えるように、柚子さんが参加メンバーを数える。

 桃ちゃん先輩は、実際に集まった人数にやや不満があるようだ。

 でも杏さんは笑いながら、悪くない結果だと言い切った。

 まぁ確かに、人が集まるのかっていうのが心配どころだったわけだし。そこそこの人数が来たっていうのは喜ぶべきことだろう。オレが言うのもなんだけどさ。

 ともあれ。大洗学園の新生戦車道チーム、記念すべき第一歩だ。杏さん、柚子さん、桃ちゃん先輩が、戦車道履修者たちの前に立つ。

 オレ? オレは目立つ立場の人間じゃないので、後ろの方で待機。ちなみに、みほは履修者側の方で、武部さんと五十鈴さんと一緒にいる。

 戦車道への参加に集まったのは、主に2年生と1年生だった。しかも意外なことに、顔見知りがけっこういる。

 

「みほちゃんたち、仲が良さそうで何より」

 

 みほはもちろんだけど、武部さんと五十鈴さんも戦車道をすることにしたらしい。みほの後ろの方にもうひとり立っているけど、その娘は知らない顔だ。

 

「バレー以外に目を向けるとは思わなかったな」

 

 バレー部の4人、磯辺さん、近藤さん、河西さん、佐々木さんもいた。体操服やユニフォーム姿で、妙に気合いが入っている。こないだの勧誘騒動の時に、オレを入部させる条件云々と言っていたから。ひょっとすると戦車道への参加がそれだったのかもしれない。

 

「おりょうさんも、意外な感じがする」

 

 歴史大好きな歴女グループ4人もいた。といっても、実際に顔見知りなのはそのなかのひとり、おりょうさんだけだけど。歴史好きの友達といつもつるんでいるという話は聞いたことがあるので、おそらく彼女たちがそうなんだろう。制服の上から羽織っているものとか、服装がそれぞれ個性を出していて、どの国のどの時代が好きなのかがなんとなく分かる。

 

「そして、1年生グループが6人か」

 

 新入生なんだから、もちろん知っている顔はいない。ただ、オレの方をやたらとチラチラと見ている。女子生徒ばかりのところに男がひとりだけいるんだから、気にはなるよね。うん。

 

「これより戦車道の授業を開始する」

 

 そんな面々の前に立って、桃ちゃん先輩が堂々と宣言した。普段の、どこかポンコツで、杏さん至上主義なところはまったくうかがえない。キリッとした態度のまま、あれこれと説明が進められる。実にそつがない。

 けれど、肝心の戦車が見当たらない。疑問に思ったんだろう、女子生徒のひとりが声を漏らした。

 そこに、ガレージの中からエンジン音が響き。西住姉妹と自動車部の面々が修理した戦車が姿を現す。ちなみに運転しているのは、まほである。

 

「おぉー」

 

 動く戦車を目の当たりにして声を上げる女子生徒たち。オレもそうだったけど、実際に動く戦車を見ると「すげー」とか思っちゃうよね。

 

「あの、1輌しかないのですか?」

 

 再び上がる、疑問の声。確かに、1輌だけ済むわけがない。戦車道っていうのは、複数の戦車でチーム戦をするのが基本だと聞いた。聖グロに訪れた際にアッサムさんは、大会に出るなら最低5輌は必要だと言ってたし。ということは、あと4輌はないといけないわけなんだけど。

 

「それじゃあ、戦車を探そっか」

「はぁ?」

 

 あっけらかんと、わけの分からないことを言う杏さん。思わず声を上げてしまったオレは悪くないと思う。実際、1年生のひとりが「探すってどういうことなのか」って聞いてたし。

 杏さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて、ちょっとだけオレの方に目を向けた。その一方で桃ちゃん先輩が、後を継ぐように説明を続ける。

 いわく。かつて大洗学園は戦車道をやっていた。だが事情があって活動しなくなり、多くの戦車が売却なり処分なりされてしまった。だがその中で処分を免れた戦車が何輌か、この学園艦のどこかにあるはずだという。

 

「明後日、戦車道の教官がお見えになる。それまでに最低4輌、見つけ出す必要がある。そこで、今日は皆に戦車探索を行ってもらう」

 

 まさか「自分の足で探せ」なんて言い出すとは思わなかった。

 ではその戦車はどこにあるのか、と質問が上がれば。

 

「いやー、それが分かんないから探すの」

 

 なんてことを臆面もなく言ってきた。杏さんマジかよ。オレ聖グロで、ウチの生徒会長は下準備をきっちりして物事に臨むタイプなんだ、とか言ってたのに。

 手掛かりはないのかと、1年生の娘が食い下がったけど。杏さんは「ない!」とバッサリ。明るく言い切ることじゃないでしょソレ。

 思わずジト目になってしまうオレ。もちろんと言うべきか、杏さんも桃ちゃん先輩も涼しい顔をして、こちらを気に止めようともしない。

 ただ柚子さんだけは微妙な顔をして、目を逸らしていた。あ、少なからず無茶なことを言ってる自覚はあるんだ。よかった。改めて、柚子さんは生徒会メンバーの良心だなと再認識した。

 

「それでは、捜索開始!」

 

 桃ちゃん先輩が、さっさと行けと解散を促す。集まったばかりなのに早々に散れと言われた女の子たちは、ゆるゆるとこの場を離れていった。

 

「なんか思ってたのと違うー」

 

 武部さんのぼやく声が聞こえた。まぁそりゃぼやきたくもなるわな。思わず同情してしまう。

 

「戦車のあてが放置車輌、というのも驚きだな」

 

 運転していた戦車から降りてきたまほが、そんなことを言う。声音はどこか、感心しているというか呆れているというか。うん、分からんでもない。

 

「大洗学園が戦車道をやっていたのは20年前だろう? それからずっと放置されていた戦車が、使い物になるのか?」

「平気じゃないかなー。ガレージにあったやつも、ずっとほったらかしにされてたやつじゃん。なんのかんので動くようになったし。自動車部のみんなならできるでしょ」

 

 さらっと、さらなる無茶ぶりをする杏さん。自動車部の4人は、戦車が発見されたらすぐ回収に向かうための準備をしているのでこの場にはいない。ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんに、内心で合掌する。後で何か差し入れして労わってあげよう。

 

「確かにあの4人なら、ちょっとした故障程度ならあらかた直してしまうだろうが。そもそも見つからなかったらどうするつもりだ?」

「あー、そうだよね。あるかどうか定かじゃないものを探せっていうのは、さすがに無茶ぶりが過ぎない?」

 

 まほの言葉に、オレもうなずきながら同調する。でも杏さんは悪びれる様子もない。まるでオレたちのツッコミは想定内だとばかりだ。

 

「だから言ったじゃん。今日は無茶させるよー、って」

「確かに言ってたけどさ」

 

 無茶にも程があるんじゃなかろうか。地図もなしに宝探ししろって言ってるようなものじゃん。

 と思っていたんだけど。実は何輌かはもう場所を特定してるらしい。

 

「少なくとも全国大会の最低参加車輌分はカバーできるよ」

 

 なるほど。やっぱり抜かりはなかったのか。丸投げしっ放しとか考えてごめんなさい。内心で杏さん謝っておく。

 

「でもさ、それならあらかじめ回収しておけばよかったんじゃないの?」

「んー、そこまで手を回す余裕がなかったっていうのもあるけど。やっぱり、戦車道履修者がどれだけ集まるか分からないのに、たくさん戦車を抱えても仕方ないかなと思って。だから後回しにしちゃった、っていうのが本音かな」

「ふむ。一理あるかもしれん」

 

 ふと思ったことを聞いてみれば、杏さんは淀みなく答えてくれる。やっぱいろいろと考えていたようだ。まほも、その考えには納得できたらしい。

 確かに、戦車を用意して参加者を待っていたら、みほしか履修者がいなかった、なんてこともあり得たわけだしね。もしそうだった場合は、回収して修理するのが無駄になってしまう。

 

「もっと言うなら、回収しちゃうと学園の備品として手続きを取らなきゃいけないし、維持費とかも計算しなきゃいけなくなるからさ。表現は悪いけど、打ち捨てられた状態なら未処理の放置車輌として扱えるし。予算的に見て見ぬふりができるんだよね」

 

 ……なんだか生々しい話になった。そうか、学園内部での手続き云々とかの関係があるんだ。生徒会って、生徒会長って大変だなぁ。

 思わず、杏さんの頭を撫でてしまう。彼女の方は、なんで撫でられたのか分からなかったみたいだけど。嬉しそうに笑顔を見せてくれた。

 

「まぁとにかく。いざとなったら戦車がある場所をナビするなりなんなりして、見つけたって流れにすることもできるし。あれだよ、これから乗るかもしれない車輌なんだから。自分たちで見つけたモノの方が、多少ボロでも愛着がわいてくるじゃん?」

 

 なるほど。分からんでもない。

 ガレージに眠っていた戦車を、みほとまほ、それに自動車部の4人が自分たちで直していた。実際に動いたところを見た時は、関わってないオレでも、なんだか感動的だったからなぁ。自分たちで発見して、磨き上げて、戦車道の実力を一緒に揚げていくとか、なんだか熱血青春ドラマっぽさがあるね。

 そんなことを考えて、ちょっと感心させられたオレだった。

 

 

 

 

 

 とはいっても、学園艦はひとつの町といって過言ではない広さを持っている。その中で女子高生たちに、どこにあるとも知れない戦車を探せというわけだから。そう簡単にはいかないだろうと思ってたんだけど。

 夕方までに4台の戦車が発見された。すげぇ。

 発見の連絡が入るたびに、自動車部が出張って回収に回ったらしい。これまたすげぇ。ナカジマさんも、ホシノさんも、スズキさんも、ツチヤさんも、揃いも揃ってスキル高過ぎだろ。

 ちなみに、らしい、って言ってるのは、その場にオレがいなかったせい。戦車探しのためにみんなが解散してから、オレは自分の部屋に戻って、頼まれていたおやつ作りの仕上げをしていた。学園艦中を駆け回ったであろう女の子たちのため、お疲れさまということで甘いものを振る舞おうというわけだ。

 ワンパターンだけど、シュークリームを人数分作った。手渡しがしやすくて、後処理も不要だから、差し入れとかには勝手がいいんだよね。これがプリンとかだと、人数分の容器やスプーンとか、食べ終わった後はどうするかとか、いろいろあるし。

 で、作ったシュークリームがいい感じに冷えた夕方頃。柚子さんからスマホに連絡がきたので、タッパーに詰めたシュークリームを手にして再びガレージに戻る。オレが着いた時には、みほたちのチームがもう戻ってきていた。

 

「俊一くん俊一くん!」

 

 すっごい嬉しそうに、みほが駆け寄ってきて、勢いよく抱きついてきた。

 タッパー入りのバッグを守りつつ、片手で彼女を受け止める。なんというか、みほだけじゃなくてまほもだけど、ことあるごとに抱きついてくるので。オレの方も受け止め方とか勢いの逃がし方とかが上手くなったような気がする。

 一方で、みほは抱きついて、抱きしめられてから、周囲の目に気付いてわたわたするのがお約束になっていて。直る気配が見られない。まぁ可愛らしいから一向に構わないんだけどね。

 でも今日は何やら様子が違う。みほは、抱きついたまま顔を上げて、興奮したように言い募ってくる。

 

「俊一くん、新しいお友達ができたの!」

 

 ばばーん、みたいな感じで、みほは自分の後ろに向けて手を向ける。さぁ見ろとばかりにテンション高く。その先には、戦車道の授業が始まる前にちょっと離れた場所にいた女の子。

 

「秋山優花里であります!」

 

 これまた、びしーっ、みたいな感じで、敬礼しながら自己紹介してきた。

 ……ちょっと虚を突かれたけど、すぐに復活して。オレの方からも自己紹介する。でもなんだか、彼女の反応がいちいち大袈裟な気がするんだけど。

 

「西住殿の彼氏殿とお聞きしました。お会いできて光栄であります!」

 

 敬礼したと思ったら、今度は頭を下げてきた。いやいや、そんなことされたらかえって困ってしまう。

 

「そんなにかしこまらなくていいよ。オレのことは、みほちゃんのついでくらいに思ってくれれば」

「いえっ、そんなことはできませんっ!」

 

 なんでこんな持ち上げるような対応なのか。戸惑うオレ。何があった。

 秋山さんの後ろにいる、武部さんと五十鈴さんに目を向けて助けを求めれば。ふたりとも微笑ましそうなものを見るような顔でやり取りを見つめている。本当に何があった。

 

「油断してると、ちょっかい出されちゃうよー」

 

 しかも変なベクトルで煽ってきたぞ。おのれ武部さん。でも現状五股男なオレが違う違うと言っても、説得力皆無なんだよな。

 

「いえそんな、わたしなんて何もいいところなんてありませんしっ」

「そんなことないよっ。優花里さん可愛いよ、可愛いよっ」

 

 みほが、秋山さんの卑下するような言葉を即座に両断する。かと思ったら、可愛い可愛いと褒め始めた。

 秋山さんは途端に顔を真っ赤にさせて。照れからだろうか、癖のある髪を自分でわしゃわしゃとかき回しながら悶える。

 うん、確かに可愛いな。

 

「会ったばかりですぐに目をつけるなんて。大瀬良さん、さすがです」

 

 五十鈴さんまで、ずいぶんと人聞きの悪いことを言ってきたぞ。冗談にしたって言いようってものがあるだろうに。……冗談だよね?

 

「そんな人聞きの悪いことをいう武部さんと五十鈴さんには、差し入れをあげるのはやめとこうかな」

 

 うん、そうだな。そうしよう。その分は、みほと秋山さんにあげて、シュークリームを頬張る姿を見て癒されることにしよう。

 オレは手持ちのバッグからタッパーを取り出す。みほはそれが何を見当がついたようで、見ただけ喜びの声を上げる。ふたを開けたら、秋山さんに加えて、武部さんと五十鈴さんも感嘆の声を漏らした。

 

「これは大瀬良殿が作ったのでありますか?」

「料理だけじゃなくてお菓子も作れるんだ。大瀬良くん、レベル高いねー」

「すごいです大瀬良さん。美味しそうなものを作れるって、尊敬します」

 

 ……秋山さんはともかく、武部さんと五十鈴さんが急によいしょしてきた。

 でもやっぱり、何かを作る人間としては褒められると嬉しい。仕方ない、武部さんと五十鈴さんにもシュークリームをあげることにしよう。

 同時に、オレが手あたり次第に女に手を出すみたいなことをいうなとクギを刺しておいた。同意もなしに変なことをしたりしないからなオレは。

 

「ということは、同意があればそういったことをすることも……」

「五十鈴さん、ずいぶんエグいことを言ってる自覚ある?」

「えっ。じゃあ、わたしって魅力がないのかな……」

「武部さんは女子としてかなりレベル高いと思うけど。いやそうじゃない。論点がズレてる。オレが武部さんを狙ってるみたいに聞こえるぞ」

「自分は、男子からそういう目で見られたことがないので……。どうお答えすればいいのか分かりません」

「ちょっと待って秋山さん。なんで口説いてるみたいなノリになってるの」

「わたしとしては、みんなが恋人仲間になるのはむしろ大歓迎だけど」

「みほちゃんステイ。まほちゃんもそうだけど、自分から恋人に女の子をあてがおうとするのは普通じゃないから。いい加減に学びなさい」

 

 なんだか、変にわちゃわちゃしたやり取りに。どうしてこうなった。

 みほ、秋山さん、武部さんや五十鈴さんと、シュークリームを片手に他愛もない会話を繰り広げる。友人付き合いというか、意味のないやり取りが気軽にできる仲っていうのは嬉しいよね。

 でも、みほはやたらと恋人仲間を増やそうとする節がある。オレとしては、女の子と仲良くなれるのは嬉しいんだけど。女の子側からしてみれば、五股男を薦められるのはたまったものじゃなかろうに。

 おまけに、知り合う女の子たちがあまり嫌悪感を見せないものだから。オレの方も勘違いしてしまいそうになる。そのたびに「自制しろオレ」と言い聞かせているくらいだ。

 みほ、まほ、柚子さん、杏さん、アンチョビさん。自分にはもったいないくらいに魅力的な女の子たちが、オレのことを好いてくれている。恋人たちを失望させるような真似はしないように、身を律しないと。

 ……5人も女の子に手を出してる時点で、「何言ってんだオマエ」と突っ込みたくなるけれど。自分でも、「もう恋人は増えません」と胸を張って言えなくなってる気がするんだよなぁ。

 オレってこんなに強欲だったんだと、再認識するのだった。

 

 

 

 ―続く―




主人公、強欲な自分を自覚する。(今さら)
槇村です。御機嫌如何。


原作1話後半から2話部分。
まずはあんこうチームメインで。
秋山殿と初邂逅。
西住殿の大事な人なら同じように対さねば、みたいなスタンスでいくつもり。
次回は、書ききれなかった他の戦車道メンバーと絡みます。
見知ったメンツや、初めて顔を合わせる面々とのお話です。

あと本文中で生徒会の裏事情をいろいろ言ってますが、
当作品のオレルールということで。
劇場版で紛失の書類云々って描写があったからでっち上げました。




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65:小さなごほうびⅡ

 大洗学園の戦車道がスタートした授業初日。まさかの戦車探しから始まったわけだけど、その日のうちに4輌も戦車が発見された。

 ……自分で言っておきながら、本当かよと突っ込まずにはいられない。

 とにかく。学園艦中を駆けずり回ったであろう戦車道履修の女の子たちを「お疲れ様」と労わる。それが今のオレの役割になる。最初に戦車を発見して戻ってきた、みほ、武部さん、五十鈴さん、秋山さんのグループの労をねぎらっている間に、次々と戦車発見の連絡が入ってきて。各グループが戻ってくるたびに、オレはシュークリームを振る舞うのだった。

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまー。甘いものをどうぞー」

 

 2番目に戻ってきたのは、バレー部チーム。磯辺さん、近藤さん、河西さん、佐々木さんの4人。お疲れ様と言いながらシュークリームの入ったタッパーを差し出すと、たいそう驚かれた。

 

「すごいなこれ。大瀬良の手作りなのか」

 

 シュークリームを手に取って、まじまじと眺めながらそんなことを言う磯辺さん。珍しいものを見るように、大袈裟に掲げたりするのはどうなの。そんなに意外だったかね。

 

「すごいです先輩。わたしこういうの作ったことないから、憧れます」

 

 ものすごくキラキラした表情で、素直に感嘆の声を上げる近藤さん。そう思い切り褒められると気分が良くなってしまう。いいね。頭を撫でてあげたい。

 

「ということは。大瀬良先輩がバレー部に入ってくれたら、部活が終わるとこんな風に労ってもらえる……?」

 

 ちょっと待って佐々木さん。自分たちの欲望でいっぱいなことを口にするんじゃない。もしそういう状況になったら、気遣ったりするのはやぶさかじゃないよ。でもそんな扱われ方をされるって分かってるなら、入部する気になんてならないぞ。

 

「ちょっと、さすがにそれは申しわけないでしょ。でも大瀬良先輩、こういうお菓子も作れるとか、なんでもできるんですね」

 

 河西さんがツッコミを入れてきた。他のメンバーに比べてちょっと気遣いを見せてくれるのがありがたい。あと素直に褒められると嬉しい。ありがとう、とスマイル付きでお礼を言っておいた。

 

「じゃあ、おやつは我慢するからバレー部に入ってくれ」

 

 じゃあってなんだよ。意味が分かんねぇぞ磯辺さん。

 

「戦車道でも一緒なんですから。これはもうバレー部も一緒になるしか」

 

 いやいや、そんな可愛くあざとく迫られてもやらないからな近藤さん。

 

「可愛い後輩がこんなにお願いしてるんですから。少しはなびいてくれても」

 

 みんな可愛い、っていうのは認めるけど。だからって、ちょっとチヤホヤされただけで落ちると思うなよ佐々木さん。

 

「入部してもらえたら嬉しいけど、確かに無理強いってのはちょっと……」

 

 あー、前の時もそうだったけど、フォローしてくれるのはキミだけかもしれないよ河西さん。感動した。今度、彼女だけにクッキーとか作ってあげよう。

 そんなことを言ったら、河西さんはちょっと顔を赤くしながらも喜んでくれた。磯辺さん、近藤さん、佐々木さんは「えこひいきだ」と抗議してきたけど。

 

「勧誘を控えてくれれば、同じ扱いをしてあげるよ」

 

 そう言ったのを聞くなり、4人は顔を寄せ合って何やら話し合い。すぐに元に戻った。何事だいったい。

 とりあえず今はバレー部云々は止めて、手にしたシュークリームに集中することにしたようだ。実際、疲れもそこそこあるらしいし。

 

「思ったよりハードだったので。疲れた身体に甘いお菓子が染みます」

 

 河西さんが、シュークリームをぱくつきながらそんなことを言う。ちょっと凛々しい顔立ちの娘なので、洋菓子の甘さに表情を緩ませているのを見ると、可愛らしいと思ってしまう。

 というか、ハードってどういうことだ。

 

「戦車を見つけるのに手こずったってこと?」

「私たちが見つけたのは、崖下なんです」

「はぁ?」

 

 オレの疑問の声に、近藤さんがあっけらかんと答える。想像していなかったワードが出てきて、ちょっと戸惑った。崖で見つかった?

 

「学園艦に、崖なんてあった?」

 

 いくらでかいとはいえ、船の上だぞここは。そんな自然味溢れる場所があったのか。まだまだ知らない場所がある大洗学園。それでも、数ある学園艦の中ではサイズが小さい方だっていうんだから驚かされる。

 

「というか、よくそんなところにあるのを見つけられたね」

「大変でしたよ。気分はもうクライマーでしたから。バレー部なのに」

 

 佐々木さんいわく、切り立った崖の中腹に戦車が引っ掛かっていたそうだ。すぐ側まで降りていって確認するために、身体を張ってクライミングしたんだとか。

 

「うわ。大丈夫だったの?」

「なんとかなったぞ。そこは根性でやり通した」

 

 いかにも脳筋なことを言うのは、磯辺さん。ぐっ、と腕に力を入れながら、大したことじゃないと胸を張る。実に彼女らしい。でも、オレが言いたいのはそういうことじゃなくて。

 

「崖の上り下りとかしたわけでしょ、その恰好で。ケガとかしなかったのか。気付かないうちにどこか切ったとかさ」

 

 崖をクライミングして戦車捜索とか、今の彼女たちの服装でやるようなことじゃないと思うんだが。磯辺さんは体操服にスパッツだし。近藤さん、河西さん、佐々木さんはバレー部のユニフォームを着ていて、短パンだから脚を出した状態だ。岩肌とかで肌を擦ったり切ったりしかねないだろ。

 割と本気で心配する。どこか痛めたところがあるならすぐ保健室に行った方がいい。アザとかできて痕になったら大変だと、強めに勧めた。というか、今すぐ行け。

 

「んー。戦車道チームのマネージャーもどきとしては、ケガとかに備えた救急箱なんかも用意した方がいいんだろうか」

 

 後で杏さんに話してみよう。うん。

 ひとりで納得していたら、さっきまでとは違って静かになったことに気付く。どうしたのかと思ったら、バレー部4人組がなんだか嬉しそうな顔をしてる。本当にどうした。

 

「わたしたちを心配してくれたんだろ? それが嬉しかっただけだ」

 

 なぁ、みんな、と。話を振る磯辺さん。それに応えて、近藤さん、河西さん、佐々木さんも、「ありがとうございます」と言いながら頭を下げてくる。

 ……気を悪くしてないならいいか。素直にお礼は受け取ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 次は、個性強すぎな歴女チームの4人。杏さんたち生徒会メンバーに見つけた戦車の話をしていると思っていたら、4人揃ってオレのところへやってきた。もちろん、彼女たちの労をねぎらう。

 

「お疲れさまー」

「なんでお前さんが戦車道の授業にいるんかの? 大瀬良」

「正直、未だにオレもよく分からん。強いて言えば、恋人に頼まれたから?」

「やれやれ。犬も食わんとはこのことか」

「いやー、そんな風に褒められても」

「全然、褒めちょらんからな」

 

 このグループで唯一の顔見知りである、おりょうさんに話し掛けた。向こうも慣れたもので。お互いに軽口を叩き合う。一番最初に顔を合わせた時に、恥ずかしい思いをしたからね。今さら取り繕うこともなかろう、そんな風に考えている。

 おりょうさんと初めて会ったのは去年、そろそろ期末試験の勉強をしないとなーっていう頃。思うところあって時代小説を書き始めたばかりのオレは、両親のお下がりのノートパソコンを図書館に持ち込んで、カタカタとテキスト打ちに励んでいた。

 で、場所が悪かったんだな。コンセントに差し込んでいた電源アダプターのコードに、たまたま通り掛かった彼女が足を引っ掛けてしまった。

 バランスを崩してよろける彼女。

 その勢いでコードが引っ張られて。

 ノートパソコンがどんがらがっしゃん、と相成り。

 

「のおおおおおおおおおーーーーーーーーっ!」

 

 図書館中に響かんばかりの悲鳴を上げてしまったオレ。

 血の気が引く思い。あの時は寿命が縮んだよマジで。

 幸い、テキストデータもノートパソコン自体も破損は免れた。

 オレの大声と狼狽振り、実際に吹き飛んだノートパソコンを見て、おりょうさんはその場で平謝りしてきた。でも後になって考えてみると、図書館の、人が通るようなところに電源コードを横切らせていたオレの方がどうかしてると思う。

 ともあれ。テキストデータも無事だったので、おりょうさんに当たるような無様な真似をせずに済み。ペリー来航直後を書いた2万字がー、というオレの叫びから幕末という共通点ができて。オレとおりょうさんはちょくちょく話をするようになった。書いた時代小説を読んでもらってツッコミを入れてもらったり、彼女の知識によるネタの補強とかもしてもらったな。その節は大変お世話になりました。

 そんなこんなで、おりょうさんとはそこそこ交流があるわけだけど。他の3人とは初対面だ。シュークリームを差し出しながら、自己紹介をする。それぞれ左衛門佐、エルヴィン、カエサルと自分のことを呼ぶのを見て、なり切りスゲェなと素直に感心してしまう。

 

「なるほど。おりょうが言っていた小説家の卵とは君のことか」

「ふむ。おりょうから男の話が出てきた時は驚いたが」

「趣味が通じる相手となれば、手放すのは惜しかろう」

 

 幸いにも、歴女チームメンバーの反応はそんなに悪くなかった。

 傾向は違えど同じ歴史好きの同士がいるということで、おりょうさんの話に上がったらしく。名前を聞いていたらしい。そいつが別の意味でも有名なスケコマシ野郎だということは知らなかったみたいだけど。

 というか、後者の噂の方はまったく興味がなさそう。ディープな歴史ネタを振ってもついてこれることの方が、彼女たちにとっては重要なようだ。うん、分からんでもない。

 とはいえ、おりょうさんとはたまたま幕末ネタという興味が被ったわけだけど。話してみると、他の3人とは微妙にズレがあった。

 

「戦国大名が割拠する時代は、小説でもなんでもネタの宝庫じゃないか」

「あー。そのあたりだとオレ、興味あるのは南北朝時代なんだよねぇ」

 

 左衛門佐さんは、戦国史フリークらしい。でもオレが幕末の次にネタを掘っていこうと思ってる時代は、ちょっと違うんだよね。

 ……南北朝期って、戦国時代に入るか?

 あと、杉山さんって呼んだら怒られた。

 

「近代も面白いぞ。時代が近いがゆえのロマンもあるしな」

「分かるんだけど、現代から一番近い歴史知識はオレ、日露戦争なんだよ」

 

 エルヴィンさんは、第二次世界大戦期が専門分野とのこと。でもオレの中の歴史年表は、明治時代で足踏みしてる状態だ。大正、昭和は、正直なところ疎い。

 彼女も、松本さんと呼んだら「エルヴィンだ」と強く訂正された。

 

「わたしの場合は、他の3人と比べて時代が違い過ぎるか」

「あ、でも塩野七生さんの本は好きだよ?」

 

 カエサルさんは、そのソウルネームの通りローマ史が専門だとか。オレも興味がないわけじゃないんだけど、個人的にはちょっと守備範囲が遠くなる。某ローマ人の物語も、文庫本を数巻だけ読んでそのままなんだよなぁ。

 もちろんと言うべきか、鈴木さんと呼んだら睨まれてしまった。

 ともあれ。

 歴史好きという共通点のおかげか、初対面の3人とも思ったよりフランクに話をすることができた。オレが噂のスケコマシ野郎だと分かっても、引かれるとか毛嫌いされるとか、そういった反応は見られない。ありがたいことだ。ちょっとばかり、カエサルさんの目付きが険しいような気がしたけども。

 

「でもさ、なり切りが激しいというか、思い入れが強いというか。そんなおりょうさんたちから見ると、オレの書いてるものって受け入れにくいんじゃないの? かなり荒唐無稽だけど」

「そうでもない。個人的には、時代小説でも歴史小説でも、目くじらを立てるつもりはないぜよ」

「司馬遼太郎でも山田風太郎でも、ばっちこいってことか」

「なるほど、それは分かりやすい」

「ローマ史を山田風太郎っぽく書くとかどうだ?」

「……あれ? カエサルさん、それ面白くなりそうなんだけど」

 

 それからしばらく、歴史モノ談義が続いて。妙な盛り上がりを見せてしまう。いやー、小説ネタももらえたし、楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 最後は1年生チーム。澤さん、山郷さん、丸山さん、阪口さん、宇津木さん、大野さんの6人組という、一番の大所帯だ。

 なんでも彼女たちは、まず図書館で大洗学園の戦車道についていろいろ調べてみたらしい。それであたりをつけてから、戦車捜索に出たんだとか。すごいな。

 分からないことはまず調べよう、っていう姿勢は個人的にすごく好き。当たり前かもしれないけど、素晴らしいと思う。えらい。

 話を聞くなり、オレが手放しで褒めちぎったら。彼女たちは少し顔を赤くしつつも、はにかんでいた。

 ……素直に褒めるのって、そんなに照れくさいと思われるんだろうか。

 

「オレの手作りだけど、抵抗がなければどうぞ」

 

 変な空気になるも嫌なので、気を取り直し。お疲れさまという気持ちで、1年生6人にシュークリームを差し出す。途端にぱっと表情を変えて、喜色満面になる面々。反応は上々だった。

 

「わっ。これ、先輩が作ったんですか」

「え、すごーい」

「……おいしそう」

「わーい、シュークリームだー」

「もちろん、いただきますー」

「先輩ありがとー」

 

 驚く声あり、喜ぶ声あり。めいめいに反応を見せながら受け取ってくれた。口にして美味しい美味しいと言ってくれるのを見ていると、ほっこりしてしまう。

 にこにこしているうちに、彼女たちはあっという間にシュークリームを平らげてしまって。ごちそうさまでした、と、揃ってお礼を言ってくれた。おぉ、礼儀正しい。気分が良くなって嬉しくなる。また何か作ってあげなきゃ。

 

「えっと。大瀬良先輩、でしたよね。男の人なのに、どうして戦車道に?」

「あ、それは確かになんでかなって思った」

 

 甘いものでひと息つき、落ち着いたところで。彼女らから質問攻めにあう。

 まず当然な疑問を振ってきたのは、澤さん。他の面々も不思議そうに、うんうんとうなずく。

 そんな1年生たちに、戦車道チームのマネージャーみたいなものになったことを話す。合わせて、少しおどけながら、恋人にお願いされてやることになったことも。

 ひゃー、みたいに、1年生たちがはしゃぐように声を上げる。本当に盛り上がるんだねぇ、恋愛ネタって。

 

「はーい、しつもーん。朝の下駄箱でカノジョとイチャついてた噂の人って、先輩のことですかー?」

「その相手って、戦車を運転してた3年の先輩ですよねー?」

「ちょっと、あゆみも桂利奈もぶしつけ過ぎるでしょ」

「えー。でも気になるしー」

「梓も興味あるんじゃないのー?」

 

 いきなり、山郷さんが元気よく手を上げながら噂の確認をぶっ込んできて。

 阪口さんも乗っかるように、その相手のことまで窺ってくる。

 ちょっと慌てたように、澤さんがふたりを止めに入るけど。

 宇津木さんが、ゆるい声で興味津々なのをアピールし。

 大野さんが、止めようとした澤さんを巻き込もうと躍起になって。

 彼女たちの横で、丸山さんはじっと見つめている。

 後輩の女の子6人が迫ってくるのは、なかなかの迫力がある。オレも思わずたじろいでしまった。話のネタが恋愛だから食いついてきたのかも知れないけども。

 

「あれ? でも大瀬良せんぱい、副会長とお付き合いしてるんじゃないんですかぁ?」

「あ、その噂はわたしも聞いたよー」

 

 宇津木さんが、ふわふわした声音で尋ねてくる。ちょっと小首をかしげるしぐさに、なんだか素直に応えてあげたくなるような気持ちになってしまうぞ。まぁそもそも答えに困るようなことは何もないんだけど。

 またそれに大野さんが言葉を重ねてきた。あー、1年生にまでオレのスケコマシ云々の話が広がってるのか。はえーなー、噂が出回るのって。

 

「ってことは、戦車に乗ってた西住先輩は?」

「もしかして、そっちもカノジョとかー」

 

 阪口さんが、ストレートな言葉を漏らす。ただ純粋に疑問に思っただけみたいだけど。それに対して、山郷さんがからかうようにおどけてみせる。でも、それが正解なんだよなぁ。

 そんな4人の後ろで、澤さんは顔を赤くしながらオロオロしていて。丸山さんはなにやらジッとオレを見つめている。……丸山さん、さっきから何も言わずに凝視してるけど。どうしたんだいったい。

 それはそれとして。

 彼女云々の話は、隠すことでもないので堂々と言う。柚子さんも、まほも、オレの恋人だと。もっと言えば、みほと杏さんもそうだと。さらに他校のアンチョビさんのことにも触れる。

 さっきよりも大きい声で、きゃー! と。一同は大騒ぎだ。

 ……なぜだろう。不思議なくらいに「フケツです」みたいな反応がない。そりゃあ嫌われないのは有難いけど、いいのか本当に。オレの常識というか良識というか、そんなものが揺らいできそうだ。

 

 

 

 

 

 

 各グループからの連絡を受けて、戦車の回収に駆け回っていた自動車部メンバーが戻ってきた。クレーンやレッカーを操りながら、ガレージ前に次々と戦車を並べていく腕前に惚れ惚れする。すげぇなー。

 

「4人とも、お疲れさまでした」

 

 もちろん、彼女たちにも労いの声を掛ける。ある意味、ナカジマさんたちが一番働いていたようなものだし。

 

「いやー、事前に戦車をいじってたおかげでやりやすかったなー」

「どこにフックをかませばいいかとか、引っ張る時に意識するサイズ感とか」

「いきなりだったらもっと戸惑ってたかもしれないね」

「スムーズにいったよね。まほさん、ありがとー」

 

 ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが、いい仕事をしたとばかりに爽やかな顔をして言う。まぁ確かに、みほやまほと一緒に戦車をいじっていたから、いろいろな前情報を頭と身体で把握できていたんだろうけど。聞いたところでは、崖下とか池の底とかに放置されてた戦車もあったらしいのに。どうやってここまで持ってきたんだろうか。

 ……まぁ、4人とも笑ってるし、ケガをしているようにも見えないので。深く考えたら負けなのかもしれない。

 あと自動車部メンバーも、別口で戦車を発見したらしい。

 

「戦車の回収に行く途中だったからさ。それはまた後で取ってくるよ」

 

 ナカジマさんが、シュークリームを手にしながらさも簡単そうに言う。そんなホイホイできることなのか? 回収された戦車に目を向けながら、そんなことを思ってしまう。

 

「別に難しいことはしてないからな。クレーンで持ち上げて、補助の車輪を噛ませて、牽引車で引っ張ってるだけだから」

「大きくて重いから、大変そうに見えるけど。搬送だけなら普通の車とたいして変わらないよ」

 

 ホシノさんとスズキさんも、さも当たり前のように言ってくる。いやいや、オレみたいな門外漢からしたら、それがもうすごいことに思えるんだけど。というか、女子高生がクレーンを持ち出して動かせるってことに驚き。少なくともオレにはできないことなので、素直に「すげぇ」と思ってしまう。

 

「まぁ扱うモノが違うとはいえ、わたしたちはそういうのに慣れてるからさ」

 

 ツチヤさんいわく、好きこそものの上手なれ、みたいなことらしい。……言いたいことはなんとなく分かるけど、合ってるんだろうかそれで。

 

「でもまぁ、なにかあったらケガじゃ済まないだろうし。気を付けてね」

 

 いやもう本当に。オレは労いの意味も込めて、4人にもうひとつずつシュークリームを渡す。ナカジマさんも、ホシノさんも、スズキさんも、ツチヤさんも、諸手を挙げて喜んでくれた。

 うん。可愛い女の子たちの笑顔が見れると、作った甲斐があったと思えるよね。また何か作ってあげなきゃ。

 ……あれ? 結局、戦車道のためにお菓子を作るのは決定事項なのか。作ること自体は苦じゃないし、女の子たちが美味しそうに食べてくれるのは嬉しいから。まぁいいか。

 

 

 

 

 

 

 いろいろとありながらも。まさかの戦車5輌発見、4輌回収という大成果を得て。記念すべき大洗学園戦車道の初回授業は終わった。探し回った女子たちは、なんのかんので疲れたんだろう。三々五々に解散していった。

 さて。ガレージ前に残ったのは、生徒会の3人と、自動車部の4人。加えて、まほとオレだ。ちなみに、みほは新しく友達になった秋山さんと、武部さんと五十鈴さんも加えて、寄り道しながら帰るらしい。友達と学校帰りに寄り道だ、なんて大はしゃぎだった。うん、良きかな。

 みほの微笑ましい姿を見送ってから。オレの方はまだもうちょっと居残り。

 

「杏さんたちも、甘いものを召し上がれ」

 

 他の面々と同じように、シュークリームを振る舞う。

 杏さんと柚子さんは大喜び。まほも表情を緩めていた。可愛い。桃ちゃん先輩も少し柔らかな顔になって、素直に受け取ってくれた。うん、みんな満足してくれたようで何よりだ。

 自分の作ったお菓子で、こんなにいっぱいの女の子が喜んでくれるとか。すっごいウキウキするね。これは作りがいがあるというもの。思わずにやけてしまう。

 

「とりあえず明日は、回収した戦車の掃除だね」

「でも、動くのかな。20年モノなんだよね?」

 

 杏さんは満足げに戦車を眺めているけど、柚子さんはいささか不安げだ。20年も野ざらしになってたっていうんだから、それも当然だろう。

 

「ガレージに残っていたIV号戦車が直せたからな。程度の差はあるだろうが、おそらく他の戦車も直せると思うぞ」

「これまで自動車部は目こぼししてたんだ。どうにかして直してもらう」

 

 でも、今の大洗学園で一番戦車に詳しいだろう、まほが、問題ないという。一方で、桃ちゃん先輩が「関係ない、とにかく直せ」と無茶ぶりをしてくる。

 

「河嶋。そういう無理を通すような言い方は良くないぞ」

「うっ」

 

 そんな生徒会広報様に、圧を掛けるような真似はよろしくないと、まほが苦言を呈した。多少は思うところがあったのか、桃ちゃん先輩が言葉を詰まらせる。……ひょっとすると、黒森峰女学園の戦車道を率いてきた、まほの無意識な圧に屈したのかもしれない。

 

「確かにナカジマたちならできるかもしれないが、それが当たり前だと思ったら大間違いだぞ。黒森峰でも、修理やレストアをしようと思ったら、それなり以上に時間や手間が掛かったものだ」

 

 ごくごく真面目に、まほが戦車修理の常識を説く。やっぱり、ウチの自動車部4人のスキルは目を見張るものがあるらしい。

 まほいわく、直した戦車を目の前にして整備の腕をプレゼンすれば、戦車道をする学園やチームの奪い合いが起こるだろうとのこと。引く手あまたってやつだ。

 

「正直なところ、ナカジマたちがよければ、好条件を出して黒森峰に引き抜きたいくらいだ」

 

 だから粗雑に扱うんじゃないぞ、とばかりに、まほが桃ちゃん先輩をにらみつける。当人はにらんでいるつもりはないかもしれないけど、桃ちゃん先輩の方は迫力に押されて腰が引けていた。

 まぁ、これでナカジマさんたちのすごさが少しでも伝わって、アレやれコレやれと無茶ぶりをされなくなったらいいなぁと、しみじみ思った。

 

「だが明後日までに直してもらわないとまずいんだぞ。先ほども言ったが、明日は皆にそれぞれ戦車を綺麗にさせる。その後に自動車部は、明後日の放課後までに全車両を動かせるようにしてもらわないと困る!」

「いやいや、桃ちゃん先輩。それはさすがに無茶が過ぎるんじゃないかな」

「明後日には、戦車道連盟から教官の方が指導にいらっしゃるんだ。戦車が動かないと何もできないじゃないか!」

 

 怯みながらも、桃ちゃん先輩が言い返してくる。でもなぁ。やっぱり無茶だと思うんだけど。つまりは約半日で、4輌の戦車を直せと言ってるんだぞ。たった4人で。

 オレは抗議の声を上げたんだけども。

 

「んー。まぁ、なんとかなるんじゃないかな。」

 

 ナカジマさんが、まさかの許諾。無茶ぶりをあっさりと受け入れた。

 なんでも、みほとまほも交えて直した戦車修理の手応えを元に考えると、動かす程度ならひと晩で修理可能だと見込んでいるらしい。もちろん、故障や傷みの具合によるそうだけれど。マジかよ。

 

「4輌とも全部、軽く見た限りでは大きな損傷はないっぽいから」

「たぶん、ひと晩あればどうこうできるレベルだと思うよ」

「学園艦の上で放置されてた割には、潮風の影響もそれ程ないみたいだしね」

 

 ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんも、それぞれ問題なしと言い切った。すごい自信だ。かっこいい。

 そんな自動車部の4人を見て、桃ちゃん先輩は満足そうにうなずいてるけど。まほがさっき言った通り、ナカジマさんたちだから可能なことなんじゃないかなぁと思うんだけど。自動車部の4人が嫌がってるわけでもなく、むしろ楽しそうなのが救いというか幸いというか。

 どちらにせよ。ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんは、明日は夜通し作業するのが確定したわけだ。

 なにか夜食でも作って差し入れをしてあげようかな。

 そんなことを考えるオレだった。

 

 

 

 ―続く―




ようやく、本編第2話の前半に到達。
槇村です。御機嫌如何。


ご無沙汰しております。いやマジで。
月に1話の更新も怪しくなってしまった。まさに不定期更新。
書きたい欲はあるよ。ネタもある。
だからせめて月に1回は更新したい。したんだが……。

次は柚子さんの白ビキニ回だよ。
何が起こるかはお楽しみに。


※誤字指摘ありがとうございました。
「カエサル」が「カサエル」になってたよ……。



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66:セクシー・ユー

戦車の洗車シーン(第2話)を独自解釈。
なぜ柚子さんだけビキニだったのかを考えてたら、こうなった。
今回は三人称でお届けします。



 新学期を迎えて遂にスタートした大洗学園戦車道チーム。果たして女子生徒が集まるのかという不安が残っていたものの、ふたを開けてみればそれなりの参加者が集まった。

 参加した女子生徒たちも、戦車道にいろいろと期待を募らせていたようだった。だが戦車道の授業初日、彼女たちがしたのは、自分たちが乗る戦車探し。沙織が「思ってたのと違う」とぼやいたのも致し方ないと言える。

 さらに2日目となる今日の内容は、回収した戦車を綺麗にするというもの。みほたちのグループ、バレー部、歴女グループ、一年生たち、さらに生徒会メンバーが、それぞれ1輌ずつ担当して掃除を開始する。風雨にさらされ、汚れやサビにまみれた戦車を洗えというのは、これまで戦車に縁のなかった女子学生には少々酷なことかもしれない。

 しかし。いざ始めてみれば、それなりに楽しんでしまうもので。

 

「それーっ!」

「きゃあっ」

 

 昨日はなにかとぼやいていた沙織が、いの一番にホースを手に取り、勢いよく水をまき散らす。戦車に水をかけるのと同時に、放射線上にいた華も水浸しにしてしまった。

 

「沙織さん、冷たいです……」

「あはは。ごめんごめん」

 

 全身を濡らしてしまった華は、長い髪と、着ている体操服を身体に張り着かせる。大和撫子を思わせる容姿で、抜群のスタイルを持つ彼女の、ボディラインが丸分かりになってしまった。その場に男子生徒がいれば彼女のセクシーな姿に悩殺されることだろう。

 だが、大洗学園で戦車道に関わる男子生徒は俊一だけ。幸か不幸か彼はこの場にいなかった。だからこそ沙織もはしゃいでいたのかもしれない。

 他の面々も、似たような状態だった。

 バレー部チームは、ガッチリしてるからいいアタック打てそう、などと言いながら戦車にモップ掛けをし。

 歴女チームは、高松城を水責めだなど、お得意の歴史ネタから水に関わるものを言い合いながら掃除を進める。

 1年生チームは、戦車よりも人にホースを向けて水をかけまくり。恵みの雨だのブラが透けてしまうだのと大騒ぎしている。

 生徒会チームも、桃が「戦車を洗車」などと真面目にボケるようなことを口にし、杏がそれに突っ込んだり、柚子がふたりに「ちょっとは手伝ってくれ」とぼやいたりしていた。

 そんな中で。

 

「それにしてもさー」

 

 杏が不思議そうに声を漏らす。その相手は、文句を言いながらも真面目に戦車をブラシ掛けしている柚子だ。

 

「小山、なんで水着姿なの?」

「え?」

 

 杏も、桃も、果ては他の戦車道メンバー全員が体操服などの動きやすい服装をしている中で。柚子だけが水着姿だった。しかもかなり際どい白のビキニである。この場に男子生徒がいたら、目を向けずにはいられないだろう。

 尋ねられた柚子の方は、何を言ってるんだと反抗するように言葉を返す。

 

「だって、会長が言ったんじゃないですか」

 

 昨日、戦車道の授業を解散する前のこと。杏は「明日は戦車を水洗いするから、水着とか着といた方がいいよー」と、軽い調子で全員に告げていた。

 柚子はその言葉の通り、きちんと水着を着てきたわけなのだが。実際には彼女以外全員、体操服を着ていて。水着姿なのは彼女だけだった。

 そのこともあって、柚子が、杏に向ける言葉には少しばかりトゲがある。

 しかし杏はまったく意に介さない。なぜなら。

 

「それって単に、濡れてもいいようにしてって意味だよ?」

 

 体操服とかの下に着ておけば、濡れて下着が透けたりしないでしょ?

 そんな意味で、杏は皆の前で言ったのだった。

 事実、他の面々は体操服の下に水着を着こんだ上で掃除をしている。ホースの水を浴びて濡れた女子生徒も、濡れた体操服の下から水着が透けて見えていた。中には着てくるのを忘れたのか、下着を透けさせている者もいたけれど。

 

「……え?」

 

 思わぬ返事を聞いて、柚子は驚きの顔を見せた。

 杏は自分の着ている体操服を少しめくる。綺麗なお腹と、胸の部分を包んだ赤いビキニが姿を現す。

 驚きを強くした柚子は、もうひとりの生徒会メンバー・桃に目を向ける。桃も、体操着の首の部分に指を掛けて、少しずらす。そこから黒色の水着がチラリと見えた。

 

「柚子ちゃん。恋人がいるといっても、せめて授業中は控えてほしい」

「あ、大瀬良くんを悩殺しようと思ってたの?」

「ちがっ、違うからっ!」

 

 素で勘違いしていた柚子だったが、杏と桃は逆に何か考えがあったのではと思ってしまい。恋人である俊一に見せようとして水着姿で来たのではないかと邪推した。

 これで困ったのは柚子である。思いもしなかった方向で誤解され、彼女は顔をまっ赤にしながらブンブンと手を振った。

 

「大瀬良くん、小山のこと大好きだからなー。そのビキニ姿で色っぽく迫ったら、もっとメロメロになっちゃうこと間違いなしだよ」

「柚子ちゃん……」

「そんなつもりじゃないから! 誘惑しようとか思ってないから!」

 

 からかう気満々の杏と、珍しく少し呆れたような顔を向ける桃。そんなふたりに対して、柚子は恥ずかしがりながら力いっぱい否定する。顔のみならず、露出の大きいビキニにおさまりきらない肌のそこここまで、いささか羞恥で赤らんでいるようにも見えた。

 そんな生徒会3人のやり取りは、もちろん他の戦車道メンバーにも筒抜けになっていて。ホースを振り回しながら恥ずかしがる柚子に、視線が集まる。恋人仲間のみほは苦笑しているが、それ以外の面々は興味津々だ。むしろ彼女だけ大胆な白ビキニでやってきた理由が分かって、納得してしまった者さえいる。

 

「ちょっと待って、違うから。誤解しないでぇ!」

 

 後輩たちにまで注目されて、さらに取り乱す柚子。わたわたと手を振って懸命に否定するも、功を奏しているとは思えない。むしろ逆効果かもしれない。それが分かっているのか、彼女はさらにパニックになってしまう。

 そこへ、タイミングがいいのか悪いのか。

 

「え。ぶわっ」

 

 俊一が、まほと一緒に顔をだした。そして、柚子が振り回していたホースの水を俊一だけが全身に被り。着ている制服ごとずぶ濡れになってしまう。

 

「えっ」

「あ」

 

 ホースを振るっていた柚子も、煽っていた杏も、一瞬動きを止める。

 いや、この場にいた戦車道メンバーの女子全員が、作業を止めて目を向けてしまう。動きどころから時間まで止まったかのようだった。

 

「ぶえっ、くしゅ!」

 

 ずぶ濡れになった俊一が盛大に、くしゃみをひとつ。

 それで、呆然としていた意識を取り戻したのか。柚子が大いに慌て出す。

 

「ああああああああ、ごめん、俊一くんごめんなさいっ」

 

 手にしたホースを放り出して、俊一に駆け寄った。

 いきなりのことでフリーズしかけていた俊一だったが、白ビキニ姿の柚子を見て我を取り戻す。ビキニに包まれた大きなバストが、たゆんたゆんと揺れる。何度となく柚子を抱いて、そのおっぱいを揉んで吸って舐めまくって、水着の下まで知り尽くしているとしても、目を惹きつけずにいられない。

 一方で、柚子は焦りまくりだった。

 大好きな彼氏に粗相をしてしまったという気持ちが、彼女をよりパニックに陥らせた。

 だからこそ、柚子は思いついたままの行動を取ってしまう。

 

「風邪ひいちゃうから、俊一くん脱いでっ」

 

 駆け寄るなり彼女は、俊一の濡れたシャツを脱がそうとする。シャツのボタンを外していく手つきが、慌てながらも慣れていることに、自分では気付いていない。

 ボタンを外し、襟元に手を入れて、肌を撫でるようにしながら彼の腕を抜く。手早く脱がしてしまい、びしょ濡れのシャツは腕に掛ける。

 さらに、やっぱりびしょ濡れのTシャツにも手を掛ける柚子。ズボンから裾を抜いて、そのまま上へとまくり上げた。俊一に少しかがんでもらい、頭と、ばんざいをした腕をTシャツから抜く。甲斐甲斐しい手つきを見せる柚子だったが。

 

「あ、そうだ身体を拭かないと……」

 

 そこで、目の前の恋人の姿を改めて見つめた。

 半裸姿の俊一がいる。屋外で、戦車道の女子生徒たちの見ている前で、強引に服を脱がしてしまった。ここでようやく、柚子は自分が何をしたのかを自覚する。

 今日一番の羞恥と混乱に見舞われた彼女は。

 

「ごめんなさいっ」

 

 手にした恋人のシャツで、真っ赤になった顔を隠しながら。

 勢いよく、その場から逃げ出した。

 

「……いったい何事?」

 

 俊一は呆然となった。

 いきなり全身を濡れねずみにされて。

 慌てた柚子によって上半身を裸にされ。

 さらに恥ずかしさで取り乱した彼女に上着を持ったまま逃げられ。

 何が起きたか分からないまま放置された。

 あまりといえばあんまりな仕打ちに、俊一はその場で立ち尽くす。

 

「何が起きた?」

 

 一方、彼の後ろにいたまほは、幸い濡れずに済んだ。だがいきなりの展開についていけず呆気に取られた。目の前で恋人が水浸しにされたかと思ったら、いきなり上半身を裸に剥かれていくのを見て面食らっている。

 そんな硬直した場の雰囲気を壊したのは。

 

「ぷっ。はははははは!」

 

 杏の、爆笑する声だった。

 遠慮のない笑い声。それこそ腹を抱えての大爆笑だ。

 追い剥ぎに遭ったかのような恋人の姿と、混乱のあまり彼を身ぐるみ剥いていった柚子の奇行。その両方に笑いのツボを刺激されながら、杏は彼のところに近付いてくる。

 

「ひひひ、災難だったね大瀬良くん」

 

 杏はこみ上げてくる笑いを隠そうともせず、俊一の丸出しになった腕をパシパシ叩く。遠慮も何もなく、心底から楽しそうに。

 俊一は複雑な顔をしながらも、彼女に対して気を悪くしたような素振りは見せない。むしろ遠慮がないのはお互い様だとばかりに、お腹を抱えて笑う杏の頭を荒っぽく撫で回す。

 

「ふふ。水も滴るいい男というやつだな」

「まほちゃん、それはさすがに欲目が過ぎるんじゃないかな」

 

 彼のすぐ後ろにいたまほも、からかうように声を掛けた。彼女が手を伸ばすと、俊一はそれだけで意を汲んだのか、持っていたおやつ入りのバッグを手渡す。空いた両手でびしょ濡れの頭を撫で上げるようにして、水気をぬぐい取ろうとする。

 

「うあー。マジでびしょびしょになっちまった」

 

 戦車道の授業に少し遅れてやってきたら、とんだ災難に遭った。俊一は思わずぼやいてしまう。

 それを聞いた杏はまたおかしくなってきたのか、笑いながら彼の腹筋に軽くパンチを入れ始め。まほも柔らかい笑みを浮かべつつ、俊一の背中をペシペシと叩く。

 

「せっかく作ってきたおやつは濡れてないようだ。不幸中の幸いだな」

「あ、平気そう? 良かった」

 

 俊一は今日も、戦車道の女の子たちに振る舞うためのおやつを用意していた。戦車道の授業前に一度自分の部屋に戻って、仕込んでおいたものを使っておやつを作り、改めて顔を出したというわけだ。

 まほも彼に同行して、おやつ作りの手伝いをしていた。恋人の横で台所に立ち、作り方をレクチャーしてもらうという初めての経験に胸をときめかせていたのだが。

 

「これはこれで……」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 

 さらに「不意のアクシデントで弱っている俊一」を見ることができて、まほは内心でご満悦だった。

 もちろん俊一は、彼女が何を考えているかなど知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 さて。

 いきなり発生した「俊一びしょ濡れ事件」と、半裸になった彼にごく自然に接している杏やまほを見て。他の女子生徒たちはいろいろな反応を見せている。

 

 

 

 

 

 

 沙織、華、優花里は、顔を突き合わせて言葉を交わしていた。

 

「えっ。大瀬良くんってすっごくたくましくない?」

「確かに、さりげなく筋肉質って感じです」

「あわわ、初めて男の人の裸を見てしまいました」

「ちょっと待って、裸とか言ったら意識しちゃうじゃない!」

「確かに秋山さんのおっしゃる通り、たくましくて素敵ですけど」

「はうっ。いえいえ、決してハレンチな意味で言ったわけではっ」

「ハレンチとか言わない! もー、ドキドキしちゃうじゃない」

 

 俊一の方をチラチラ見ながら、こそこそする3人。

 そんな友人たちに、みほは何気ない言葉を落とす。

 

「俊一くんって、服の上からだとあんまりそう見えないんだけど、触るとすごくがっしりしてるから。体力もあるし」

 

 何気ないけれど、かなり破壊力高めの言葉。

 もちろん、みほには特に含むものはない。

 

「みぽりん、そんな大胆なことをさらっと」

「なんだか、違ったふうに聞こえてしまいます……」

「五十鈴殿、その言い方はかなりハレンチなのでは」

 

 ちなみに、みほは少ししてから自分の言ったことに気付き。顔を真っ赤にしながら頭を抱えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 バレー部チームは、親しい男子生徒である俊一の半裸姿に揃って赤面。けれどそれ以上にスポーツ少女として、彼の身体の引き締まり方に興味を引かれていた。

 

「なるほど、バレーとサッカーで鍛えられてるんだな」

「制服姿だと分からなかったけど、しっかり筋肉がついててすごい」

「大瀬良先輩、細マッチョ……」

「素敵……」

 

 典子は、数少ないバレー仲間の動ける身体を目の当たりにして大いに納得。

 妙子は、思った以上にたくましい俊一の上半身に見惚れ。

 あけびと忍は、細くて筋肉質な先輩の半裸姿にときめいていた。

 

「いつだったか肩車された時も、簡単に持ち上げられてたなー。そう言えば」

「えっ、キャプテンそれってどういうことですか」

「キャプテンは小柄だけど、それでも女の子ひとり持ち上げるって」

「……私でも、持ち上げられるのかな」

 

 典子の聞き捨てならない言葉に反応する妙子とあけび。さらに、忍がボソッと漏らしたつぶやきも、ふたりは聞き逃さなかった。

 自分に置き換えて想像してしまったのか、妙子とあけびは火照ってしまった顔を抑えつける。忍も同じように、さらに顔を赤くさせた。

 そして、なぜか態度が変わらない典子に1年生3人が食ってかかり。肩車云々の話や、彼女でもないのに妙に距離感が近い理由を聞き出そうとする。典子は後輩たちのその勢いに戸惑うばかり。

 加えて、同年代の男子に肩車されるというのが、年頃の女の子にとって普通はどれだけあり得ないことなのかを説かれ。典子は珍しく羞恥を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 普段から仲間内で歴史トークに花を咲かせることが多い、おりょうをはじめとした歴女チーム。彼女たちは教室でも強いて男子生徒と接することはなく。色恋どうこうに対する興味は薄い方だった。

 実際、俊一が制服を脱がされていく騒動を目の当たりにしても、あまり色っぽい連想にはならなかったようで。

 

「あれだけ鍛えているなら、寺田屋で襲撃を受けても咄嗟に動けるぜよ」

「なるほど。戦に備える武士のように、普段から気を配っているからこその、たくましさなのか」

「ふむ。近代の兵であっても、身体が資本なのは変わりないからな」

「さすがに古代ローマと比べれば、まだ細いか?」

 

 おりょう、左衛門佐、エルヴィン、カエサルと、それぞれが自分の得意分野に合わせていくあたり、ぶれていないと言える。

 とはいえ。さすがに同級生男子の半裸姿を見てしまって、何も感じないというわけではないようだ。

 

「寺田屋襲撃に備えているということは、その後の危機をおりょうが救うということか。はてさて、いったい龍馬は誰なんだろうな」

「なっ。左衛門佐、おんし何を言うちょるか!」

「いやー、深い意味はないんじゃないか? 左衛門佐は歴史的事実を言っただけだろうしな」

「エルヴィンの言う通りだ。それとも、おりょうは何か思うところでもあるのか?」

「ぐぬぬ」

 

 4人の中で唯一、俊一と親しかったおりょうが、他の3人にイジられる。歴史ネタに絡めているとはいえ、色恋にまつわる話を自分たちからするというのは珍しい。けれど残念ながら、彼女たち自身はそのことに気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 1年生チームにとって、俊一は「世話焼きの優しいお兄さん」という位置付けになっているようだ。もしかすると、昨日振る舞った手作りおやつや、優しく接してくれた物腰がそういった印象を与えたのかもしれない。

 慌てる柚子に俊一が半裸姿にされる一部始終を見て、年頃の女の子らしく顔を赤らめる。だがそれ以上に、「すごいものを見ちゃった」というテンションの方が高くなったのか、大騒ぎしていた。

 あゆみ、桂利奈、優季、あやは、ミーハー的に声を上げ。

 梓は彼女たちを落ち着かせようしつつ、ちらちらと俊一に目を向ける。

 紗希だけは、顔を少し赤らめたまま、じっと凝視し続けていた。

 

「あわわわ」

 

 一番意識してしまっているのは梓かもしれない。

 真っ赤になって俊一を見つめ、そんな自分に気付いて手で顔を覆う。けれど、また指の間からしっかり半裸の俊一を見てしまう。

 

「……」

 

 逆に、紗希などは顔を隠しもせずに、じっ、と視線を向けていて。

 

「すごーい。強そう」

「ムキムキって訳じゃないのに、なんか強そうだよねー」

「たくましくて優しくて頼りになるって、せんぱいすごーい」

「やーん、すてきー」

 

 他の4人、あゆみ、桂利奈、優季、あやは、キャーキャーと声を上げている。

 そして、ことさら取り乱している梓をからかい始めた。

 

「梓がそんなに赤くなってるのって、初めて見たかも」

「でもでも、胸キュンして止まらないんじゃ仕方ないでしょ」

「だったらー、大瀬良せんぱいって恋人がたくさんいるから」

「そっか。梓がひとり加わるくらいなんてことない!」

「……がんばって」

「えぇー!」

 

 はやし立てる4人。さらになぜか紗希まで加わって、静かに梓を煽る。

 もちろん冗談交じりではあるのだが。名指しされた梓は羞恥とパニックで目をグルグルさせていた。

 その反応に周囲は「まんざらでもなさそう」と思い、にやついていた。

 

 

 

 

 

 

 生徒会メンバーのうち、柚子が暴走し、杏がからかう方に走ったせいで、桃だけが置いてけぼりをくらった。そのおかげで彼女は、俊一の濡れた半裸姿をじっくりと見ることになってしまう。

 

「弟と大差ないと思っていたのに、脱いだらずいぶん違うじゃないか……」

 

 姉弟のいる桃にとって、男の裸など弟で見慣れたものだったはず。しかし1歳年下の後輩の半裸姿は、思いのほか引き締まったもので。意外とたくましいその姿に、桃はなぜか恥ずかしくなってしまった。

 

「なになに、大瀬良君のことを意識しちゃった?」

「おわっ」

 

 いきなり声を掛けてきたナカジマに、桃は思わず声を上げてしまった。自分の声の大きさに狼狽し、赤らめた顔をもっと色濃くさせる。

 

「無理もない。アクシデントとはいえ、男の裸を見てしまってはな」

「しかもけっこう鍛えられてるし。セクシーってやつ?」

「見とれちゃうのも仕方ないよねー」

「そんなことはない! 見とれてなんかいないぞ!」

 

 さらにホシノ、スズキ、ツチヤの、ツッコミかつ具体的な煽りを受けて。桃は自分が思った以上のうろたえぶりを見せる。

 

「いやいや私は会長や柚子ちゃんみたいにアイツを気にしたりしてないぞ。気の迷い、そう、いきなりのことだったから驚いただけだ。女だらけの戦車道チームでためらいなく脱ぐようなやつがいたら風紀が乱れるだろうだから心配しただけだうんそうだそうに違いない。アイツは敵、女の敵だ」

 

 頭を抱え、顔を赤くしながら、なにやらブツブツとつぶやき始める桃。それはまるで自分に言い含めようとしているようだった。

 一方で、彼女をからかった自動車部の4人も、少し顔を赤くしていた。

 

「でも本当に、がっしりした身体してるなー」

「確かに。細マッチョというやつだな」

「けっこうスポーツマンだって、西住さんたちも言ってたしね」

 

 プールなどならともかく、女子生徒の方が多い学園生活の中で男の半裸を見る機会などないに等しい。実際、彼女たちも、同年代の男性の裸を見たのは初めてのことだった。自動車や機械いじりに夢中なナカジマたちも、年頃ということもあって、俊一の半裸姿につい目が行ってしまう。

 そんな中で、ツチヤが言葉を漏らす。

 

「あの胸板に、顔を埋めちゃったんだ……」

 

 本当に、小さなつぶやき。けれど、ナカジマ、ホシノ、スズキは耳ざとくそれを拾い、さらに顔を赤くして。

 

「思い出しちゃっただろツチヤ!」

 

 3人は思わず、声を合わせて叫んでしまう。

 俊一に抱きしめられたり、冗談交じりで「抱きしめろ」などと自分から言ったりした。そんなことを思い出し、頭の中で反芻してしまう。本人たちが思った以上の破壊力に、ナカジマ、ホシノ、スズキ、ツチヤは揃って悶えることになった。

 

 

 

 

 

 

 なんやかやと騒ぎが起きた後のこと。俊一は「女の子たちの前でいつまでも半裸のままではいられない」と、この場から離れ、濡れたシャツを奪っていった柚子を追いかける。

 しばらくして、俊一と柚子が揃って戻ってきた。並んで歩きながら、濡れたままのTシャツを再び着込んだ俊一が、顔を赤くしながらうつむいた柚子の頭を優しく撫でている。その様子はとても仲良さげに見えたとか。

 この日は結局、俊一はひと足先に戦車道の授業から引き上げることになった。持ってきた手作りおやつはまほに託し、キリのいいところで振る舞ってくれと伝えて、帰宅する。

 ちなみに濡れたシャツは、柚子が「私が洗って返すから!」と頑なに主張したので。俊一は濡れたTシャツ姿で帰ることになった。

 

「まぁいいんだけどさ。何か、違うような気がする……」

 

 さらに後日。柚子が洗濯をした俊一のシャツを自分で着て、「恋人に包まれている」と悦に浸っていたことが恋人仲間にバレてしまい。よく分からない騒動が起こったとかどうとか。

 もちろんその騒ぎ自体は、俊一のまったくあずかり知らないところで起きて。何も知らぬうちに収束した。唯一関わったことと言えば、なぜか恋人たちにシャツをねだられ、奪われたことくらいだろう。俊一は首をひねり、不思議がるばかりだった。

 

 

 

 ―続く―




どうにか年内に更新できた。
槇村です。御機嫌如何。


お久しぶりです。
書きたいことはいっぱいあるんだけど、
手と頭と時間繰りがうまいことできずにいます。
ちなみに年末年始も仕事漬けです。

今後も、正直なところ月イチ更新できたら上出来かなって感じです。
次は1月中に投稿できたらいいなぁ。




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67:アクシデント/冷泉麻子

 やっぱりね、夜通しで戦車の整備とか大変だと思うわけ。いくらナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが楽しんでやってるとしてもさ。疲れるだろうし、眠くなるだろうし、お腹も空くだろう。

 なので、昨日の戦車道の授業が終わった後、夕方過ぎてから改めてガレージに出向いて。夜食とコーヒーを差し入れして、自動車部のみんなを労った。

 さらに今朝も、厚めのタマゴサンドと紅茶を作って、ガレージに様子を見に行ったんだけど。マジで修理を終わらせててびっくりした。すげぇな4人とも。

 ただ校内とはいえ、場所は校庭の隅にあるガレージ。戦車道発足前は人も寄り付かないような場所で、普段はひと気もない。そんなところで、年頃の女の子たちが寝こけているのは不用心にも程があるだろう。オレが性欲を抑えきれないタイプの変質者だったらどうなっていたことか。

 でも正直、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんの可愛い寝顔が見れたのはちょっと得した気持ちになった。

 

「それはいいとして」

 

 4人とも起こして、寝ぼけた様子の彼女たちが覚醒するのを待ちつつ。作ってきた朝食と目覚めの紅茶をふるまって。みっしり中身の詰まったタマゴサンドが思いのほか気に入ってもらえて、お褒めの言葉をもらいつつ。ダラダラとゆるく会話をしていたら、あっという間に登校時間になってしまった。オレも、みほからメールが届かなかったら気付けなかったかもしれない。

 ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんも、慌てて身支度をする。寮に一度戻って、シャワーを浴びなきゃとか言っていた。いや、分かるんだけどさ、男の前でそういうこと言わないでほしい。

 ツッコんだら、4人揃って顔を赤くさせた。

 無意識かよ。まぁ、それだけ気を許してくれていると思えば、悪い気はしない。

 そんなこんなで、ツナギ姿のままの彼女たちと連れ立ってガレージを出て。寮の前で別れる。オレも登校の用意をするために、自分の部屋へと小走りで向かった。

 

「あれ?」

「おかえりなさない、俊一くん」

「朝からご苦労さま、だな」

 

 鍵を開けて部屋の中に入ると、制服姿のみほとまほがいた。

 遅刻ギリギリの時間だったので、まさか待ってるとは思わなかった。

 

「先に登校しててよかったのに」

 

 わざわざオレの部屋に立ち寄って、一緒に登校しようとする彼女たち。でも今朝は自動車部の4人に差し入れを持っていくから、先に登校した方がいいかも、みたいなことを前もって伝えておいたんだけど。

 

「だって、一緒に登校したかったし」

「今日のハグとキスをせずに行くのも落ち着かなかったからな」

 

 そう言うなり、姉妹揃ってオレに抱きついてきた。ふたり並んで胸板に顔を埋め、ぐりぐりと押しつけてくる。

 もちろん、そんなふうに言われて胸キュンしないわけがない。

 

「ありがとう。みほちゃんも、まほちゃんも。嬉しいなぁ」

 

 両手で彼女たちを抱き寄せて。みほの、まほの、それぞれの頭に頬ずりする。サラサラの髪の感触が心地よくて、心が穏やかになっていくような感覚になる。

 

「ふたりとも大好き」

 

 腕の中に納まる、みほとまほの柔らかな感触に愛しさが募る。

 抱きしめながら、回した手を、みほのあごに添えて。軽く持ち上げる。

 少しかがんで、顔を近付けた。

 

「みほちゃん、好き」

「あ、んっ」

 

 みほに、口づける。

 嬉しそうに表情を緩ませて、キスに応えてくれるのが可愛らしい。

 

「まほちゃんも、好きだよ」

「んっ。ふぅ、ん……」

 

 同じように、まほにも口づけをする。

 頬を撫でて、あごクイをしてあげると、目をつむってキス待ちの顔になる。それがまた可愛いらしくて堪らない。

 

「んむ、ちゅっ。んぅ。しゅんいちくん……」

「はぁ、んっ。俊一、しゅんいちぃ……」

 

 みほとまほを抱きしめながら、ちゅっちゅっ、ちゅっちゅと、交互にキスを繰り返す。

 唇を重ねるたびに、ふたりともすごく嬉しそうにキスを返してくる。ぷるぷるな唇の感触が、ぬめついた唾液の絡まる感覚が、気持ち良くて仕方がない。

 気が付けば、彼女たちの方から積極的に求めてきている。

 みほは、オレの首に手を回して、より近くまでくっつこうとするし。

 まほは、オレの頭を抱きかかえるようにしながらキスをねだってくる。

 このままずっとイチャイチャしていたい。

 というか、止まらなくなる。

 でも悲しいかな、そんな時間はないわけで。

 

「みほちゃん。まほちゃん。そろそろ登校しないと、遅刻しちゃうよ」

 

 今朝のキスはここまで、と言えば。姉妹共々「えー」と不満の声を上げる。

 ダメだから。揃ってサボりとか遅刻とかすると、何してたんだとか言われちゃうから。目を付けられて、付き合いにくくなっちゃうから。

 

「むぅ。仕方ないか」

「じゃあ、続きは帰ってきてからね」

 

 まほが、我がままを前に出して拗ねるところも。

 みほが、あっけらかんと無意識にすごいことを言ってくるのも。

 どちらもギャップがあってキュンキュンする。

 こんな可愛い女の子たちが恋人として慕ってくれて。オレは幸せ者だなぁ。

 西住姉妹が納得してくれたところで。さっそく登校しよう。

 と思ったら、いつの間にかもう時間はギリギリ。本当に遅刻してしまう。

 

「ほらほら、みほちゃんもまほちゃんも。行くよー」

「みんなで慌てて登校するとか、すごく新鮮!」

「彼氏と一緒にバタバタ走るなんていうのも、なかなかいいな」

 

 ふたりは何やら、遅刻云々よりも違ったことに気を取られている様子。

 言ってしまえば、遅刻しそうだから急げ、というだけのことなんだけど。そんななんでもないようなことが、みほとまほには初めて経験するようなことだったりもするみたい。

 それだけ戦車道に打ち込んできた、ということなんだろう。オレは戦車道とは違ったところで、楽しい時間を過ごせるようにしてあげよう。

 改めてそんなことを思いつつ。

 最後にもう一回ずつ、みほとまほにキスをした。

 

 

 

 

 

 

 新学期が始まってから、みほやまほと、手をつないだり腕を組んだりしながら登校していたけれど。さすがに今日はそんな余裕はない。軽く走らないと遅刻確定だ。3人揃って小走りで校舎へと向かっている。

 遅刻ギリギリ、もうすぐ正門が閉まる時間帯だからか。オレたち以外、周囲に学生の姿ははない。

 

「おや?」

 

 少し先に、お仲間がいた。

 歩道をゆったりと歩いている女子生徒がひとり。遅刻寸前だというのに、その後ろ姿からは急ごうとする気配がまったくうかがえない。

 というか、ふらついていて足取りがおぼつかない。よそ見をしながら歩くことが多いみほよりも、さらに危なっかしく見える。

 ふらふらしているその女子生徒と違って、オレ、みほ、まほは軽く走っているから。あっという間に追いついてしまう。

 と、その矢先に。

 

「おいおいっ」

 

 タイミングがいいのか悪いのか。

 女子生徒が大きく車道の方へとよろけて。

 さらに、車が正面からこちらに向けて走ってくる。

 

「あぶねぇっ!」

 

 とっさに足を踏ん張り、スピードを上げる。

 すぐ側まで駆け寄り、歩道からはみ出そうになる彼女を引き寄せた。

 

「俊一くん大丈夫!?」

「間一髪だったな」

 

 みほとまほが、すぐ後を追いかけてきて声を掛ける。

 同時に、向かってきた車はすぐ横を走り去っていった。

 まぁ、どう見ても車の方に落ち度はない。というか、あのまま女子生徒が車道へと倒れ込んで撥ねられていたら、オレは車を運転していた人の擁護しただろう。

 これはひと言注意すべきか、と声を掛けようとしたら。

 

「……つらい。生きてるのがつらい」

 

 なにやら不穏なセリフを漏らしてくる。

 え。おいマジかよ。まさか本当に車の前に飛び出そうとしたのかこの娘。

 まさかの展開に内心で慄いていると。

 

「これが夢の中ならいいのに……」

「うおっ」

 

 彼女は、オレが抱えた状態のまま脱力した。

 足の支えが失くなった分だけ、いきなり体重が掛かる。

 

「よいしょ」

 

 その場にへたり込みかけた彼女を、ワキに腕を通して持ち上げた。杏さんに負けないくらい小柄なので、わりと簡単に抱えることができてしまう。

 

「あの、しっかりしてください」

「本当に、平気なのか?」

 

 みほとまほが、横手から覗き込みつつ彼女の様子を窺う。

 ……ふたりとも、オレがこの娘を張り付けポーズみたいな感じで抱えていることにツッコミはないのかな。

 そんなことを考えるオレを放って、なんだかやり取りが成立している女の子3人。どうやら、さっき口にした「つらい」どうこうは、眠いのに起きて学校に行くのがつらい、みたいな意味だったらしい。マジかよ。

 

「だが、行く。行かねば!」

 

 眠気のせいでうつむいていたという、ロングヘアの小柄な女の子は、握りこぶしを作ってなにやらキリッとした顔でそんなことをのたまう。

 でもオレが、ネコみたいに抱えて半ば宙ぶらりんの状態なんだよな。

 というか、自分の足で立ってくれないかな。

 小柄とはいえ、女の子ひとりを持ち上げ続けるって、案外疲れるのよ?

 まぁ、行くって言ってるんだから。もう放してもいいだろう。

 腕の力をゆるめて、持ち上げていた彼女を下ろそうとしたんだけど。足を付けた途端に、ヒザを崩れさせた。慌ててまた彼女を抱える。

 

「いやいや。行くっていうなら自分の足で歩いてくれよ」

「……このまま抱えていってくれないか?」

「ものぐさにも程があるだろ」

 

 何言ってんのこの娘。

 最初は心配していたみほとまほも、今は姉妹揃って苦笑いだ。

 というか、もうオレたちまで遅刻確定じゃねぇかよ。勘弁してくれ。

 その後もなんやかやあって。

 なぜかオレがこの眠たげ女子をおんぶしていくことになる。

 どうしてこうなった。

 

「なんてラクチンなんだ……」

 

 オレの背中におぶさった状態で、すっかり力を抜いて身を委ねている。おかしいな、ついさっき会ったばかりのはずなのに。

 彼女は小柄で細身だけれど、女の子らしい柔らかさはしっかり背中から伝わってくる。足を抱えているせいで、太ももが脇に押しつけられているのも、感触が心地いい。

 でもさ、警戒心なさすぎじゃないだろうか。おぶっておいてなんだけど。

 大洗学園の女子は心の壁みたいなものが薄いんだろうか。普通は見ず知らずの男に触れられたりするのは、抵抗あるもんじゃないの?

 

「ねぇ、お姉ちゃん。わたし、おんぶはまだしてもらったことないかも」

「そうか? いつも俊一に飛びついているような気もするが」

 

 後ろの方では、西住姉妹がなにやら楽しそうに話をしている。先に登校していいよと勧めたんだけど、彼女たちは一緒に行くと言ってくれた。

 

「まぁ、どのみち遅刻は確定だしなぁ」

 

 えっちらおっちらと歩き、ようやく正門までたどり着く。

 当然のごとく、遅刻者チェック中の風紀委員に声を掛けられた。

 

「大瀬良君。どうして冷泉さんをおんぶしてるのよ」

「この娘、冷泉さんっていうの?」

「あなた、名前も知らない女子生徒を背負ってきたわけ?」

 

 風紀委員の委員長・園みどり子先輩が呆れたように言う。

 オレが大洗学園に転入してきて、柚子さんと恋仲になってから、この先輩には何かと突っかかられている。イチャイチャしているのを「風紀を乱す!」と言われ、目を付けられているわけだ。

 こちらとしては、表立って風紀を乱すようなことはしているつもりはないんだけど。外から見ればそんなことはないのかもしれない。

 そんなわけで、普段から風紀を乱す問題児扱いされてるんだけど。今はそんなのを通りこした、「何やってんだコイツ」みたいな目を向けられている。女の子を背負って遅刻してくれば、面喰らうのも仕方あるまい。

 で、冷泉さんとやらをおんぶすることになった経緯を話す。そしたら園先輩は、さらに呆れの色を強くした。

 

「西住さん……、まほさんとみほさんも、一緒に遅刻してしまったと?」

「まぁ、そういうことだな」

 

 まほの答えに、園先輩はあからさまに溜め息を吐く。

 

「西住さんたち、あと大瀬良君も。途中で冷泉さんを見掛けても、今度からは先に登校するように。今回は仕方ないと思うけど、付き合ってたらキリがないわよ」

 

 いわく。冷泉さんは遅刻の常連で、連続245回の遅刻を記録しているという。

 なんというか、そこまで行くとむしろアッパレという気になってくる。そんなに朝、起きられないんだろうか。そんなことを考えてたら。

 

「朝はなぜ来るのだろう……」

 

 おぶわれたままの冷泉さんが、オレの耳元でぼそりとつぶやいた。

 耳がこそばゆい。

 でもそれ以上に気持ちがこもり過ぎてて。思わず笑ってしまいそうになる。

 

「冷泉さん? 朝は必ず来るものなの」

 

 耳ざといというべきか。園先輩も、そのつぶやきが聞こえていたようで。

 

「成績はいいのにこんなに遅刻ばかりして。留年しても知らないわよ」

 

 突き放すような、でも気遣いが感じられる言葉。園先輩の言いように、オレはついつい笑みを浮かべてしまう。

 でも、冷泉さんは面白くなったようだ。

 

「そど子……」

「冷泉さん。何か言った?」

「別に」

 

 そど子? なんだそれ。

 いぶかしむ声が、口から出てたみたいで。冷泉さんが耳元で答えてくれる。

 

「園みどり子。略して、そど子だ」

「あー、なるほど」

「そど子って言わない! あと大瀬良君、あなたも余計なこと言うんじゃないわよ!」

 

 おー。今まで何度か突っかかられたことはあるけど、今回が一番勢いがあるかもしれない。まぁ、そう親しいわけでもない男に、あだ名や愛称で呼ばれてもいい気分はしないよな。抵抗することもなく、オレは「何も言いません」と全面降伏する。

 

「まぁいいわ。大瀬良君と、西住さんたちは見逃してあげる。冷泉さんの危ないところを助けてくれて、ありがとう」

 

 そど子、じゃなくて、園先輩が、丁寧にお礼を言ってきた。

 冷泉さんの「そど子」呼びから察するに、あれこれ言いつつも仲がいいんだろう。連続245回遅刻ともなれば、毎日毎朝、顔を合わせて言葉を交わすわけだから。へたなクラスメイトよりも互いによく知る間柄になっていてもおかしくなさそう。

 そう考えると、なにかと突っかかってくるその先輩が微笑ましく思えてきた。ツンデレっていうやつ?

 オレが内心そんなことを考えているとも知らず。園先輩は、遅刻をお目こぼししてくれた。といっても、オレ、みほ、まほだけ。冷泉さんは遅刻扱いで、テンション低くブーイングをしていた。

 文句をつけるなら降りるか? と思ったけど。オレの背中にしがみついて離れようとしなかったので。そのまま正門を通り抜けた。そんなに歩くのが面倒か。

 おんぶをしたまま教室まで連れていけと言われたけれど、さすがにそれは勘弁してほしい。というか、いい加減に下りてくれ。

 

「いいじゃないか。減るものでもない」

 

 いやいや、けっこう減るものあるんじゃないの? 冷泉さんの風評とか、オレを見る世間の目の温度とか。オレの方は今さらかもしれないけど。

 とにかく。下駄箱のある昇降口のところで無理やり背中から下りてもらう。

 

「短い距離だったが、こんなにラクチンな登校は初めてかもしれない。ぜひともまたお願いしたいものだ」

「いやいや、普通は女の子をおぶって登校とかしないから」

「有名なハーレム男が普通を説くとは。面白いな」

「いやいやいや、ハーレムとか関係ないし。否定はできないけど」

「まぁいい。悪かったな」

 

 軽口の応酬をした後、冷泉さんは最後に礼を言ってきた。その場の流れとはいえ、オレたちまで遅刻に巻き込んでしまった自覚はあるようだ。

 次いで彼女は、みほとまほにも顔を向ける。

 

「彼を足代わりにしてしまって、すまなかった」

 

 いつか借りは返すと言って、ふらつきながら校舎へと入っていった。

 ちなみに。オレも、みほもまほも、授業開始にはギリギリ間に合った。

 

 

 

 

 

 今日も今日とて、戦車道の授業が始まる。でもオレはその前に、すっかりお馴染みになりつつあるお手製おやつを取りに一回帰宅していた。少し遅れてガレージへと向かっていたんだけど。

 途中、なんだかごつい飛行機が飛んでいるのを見た。

 ずいぶん低いところまで下りてきたなと思ったら。

 

「え?」

 

 その飛行機から、戦車がパラシュート付きで落ちてきた。

 離れたところにいても聞こえてくる派手な音をまき散らし、戦車はガレージの方へと走っていく。どうやらあれが、桃ちゃん先輩の言っていた戦車道の教官みたいだ。

 聞いた限りでは、戦車道っていうのは大和撫子を育てるものらしいけど。

 

「戦車ごとスカイダイビングする大和撫子か。アグレッシブだな……」

 

 オレのイメージする大和撫子像は、ちょっと古いのかな。

 益体もないことを考えつつ、戦車道メンバーが集まるガレージ前に向かう。ちょうど、ビシッとした制服姿の女性が自己紹介をしているところだった。

 遅れてきたオレはこっそりと、ガレージ前に並ぶ戦車道メンバーの後ろに紛れ込む。裏手に回ろうにも、かえって目立つことになってしまうし。

 

「戦車道は初めてという人が多いと聞いています。一緒に頑張りましょう」

 

 戦車教導隊の自衛官・蝶野亜美一尉。特別講師としてやってきたという。張りがありつつも柔らかな声が、なんとなく頼もしく聞こえる。

 返事をする生徒の声に気を良くしたのか、うんうんとうなずきながら一同を見渡す教官。と思ったら、みほのところで目が留まり、笑顔で近づいていく。

 

「西住師範のお嬢さんじゃないですか」

 

 意外なところで意外な人に会ったと、フレンドリーに接してくる。なにやら西住流にはお世話になってるとのことらしいけど、西住姉妹の近況までは知らなかったようで。「お姉さまもお元気?」とか尋ねている。

 

「えっと、その……」

 

 みほも、蝶野教官が事情を把握していないことに気付いたんだろう。

 ちょっと言いにくそうにしながらも、口を開いた。

 

「あの。お姉ちゃん、姉も、大洗にいます」

「……え?」

 

 というか、まほはこの場にいないのかな。

 そう思って周囲を見回してみれば、なんのことはない。普通に、生徒会の3人の横に立っていた。陰に隠れて見えなかったのかも。

 オレが目を向けているのに気付いたのか、まほがひらひらと手を振ってくる。もちろんこちらも、軽く手を上げて応えてあげる。

 ちょうどその時、みほが、まほのいるところを指差していて。

 手を振っているところを注目された。

 驚いた表情の蝶野教官を見るに、本気で気付いてなかったようだ。

 けっこう抜けてるというか、お茶目なところもありそうだなこの人。

 失礼ながら、そんなことを思うオレだった。

 なんやかんやありつつも。とりあえず、今日も戦車道の授業が始まる。

 先生役が来ての授業だから、どんなことをするのかと思ったら。

 

「本格戦闘の練習試合、やってみましょう」

 

 いきなりかよ。初心者だらけのメンバーだと判っていながら、いきなり戦車でガチンコしろとか言ってくるとは思わなかった。

 

「大丈夫よ。何事も実践実践」

 

 習うより慣れよというか、千尋の谷に突き落としてあがけというか。

 まぁ、門外漢のオレが何か言えるはずもなく。戸惑いながらも戦車に乗り込んでいく面々を見送るだけだった。

 ただオレなりに、少しでもテンションが上がればと思って。

 

「今日のおやつは、チョコチップがたっぷり入った蒸しパンだぞー」

 

 試合の後を楽しみにしてなー、と声を掛けてみる。

 全員なんだか妙にやる気になったように見えたのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 試合前、スタート時点に指定された場所へとそれぞれの戦車が移動する。その隙間時間で、蝶野教官にご挨拶。本来は女性だけのはずの戦車道にどうして男がいるのかを説明して、納得してもらう。

 

「男子のマネージャーかぁ。いいわねぇ」

 

 あとついでに、というには少々重たい話だけど。まほが自分から、大洗に転入している理由を簡単に話した。合わせて、オレと恋仲だということも。母親には機を見て自分から言うつもりだから、恋人ができたことは内緒にしておいてくれとお願いしていた。

 さすがに驚いている蝶野教官。というか、まほがここにいる理由よりも、恋人云々の方に驚いてない?

 確かに、黒森峰の頃のイメージを持っていたなら、今のオレの腕にしがみついてる西住まほは別人に見えるかもしれない。

 

「恋人かぁ。いいわねぇ……」

 

 あれ。なんだか萎れてるぞ。

 これは下手に触れると良くないやつだ。

 よし、話題を変えよう。オレはデキる男だからな。

 

「蝶野教官。試合、試合ですよ。ほら、指示とかしないと」

「確かにそうだけど。恋人が腕にぶら下がってる子に言われてもねぇ」

「うわっ、めんどくさっ」

 

 思わず声に出してしまった。

 でも幸い、蝶野教官は気にしてない様子。

 良かった、大らかな性格の人で。ジト目でこっちを見てはいるけれど。

 

「というか、まほちゃん、離れて。今は一応、戦車道の授業中でしょ」

「むぅ。仕方あるまい」

 

 しぶしぶながら、まほがオレの腕を離してくれる。

 そんなやり取りを見ていた蝶野教官の視線が、さらに穏やかじゃなくってきた。どうしろというのか。

 

「まぁいいわ。彼女たちの初模擬戦を観戦といきましょう」

 

 気を取り直したのか、蝶野教官はキリッとした態度に戻った。おぉ、意識の切り替えがすごいな。さすが大人の女性。

 それにしても、模擬戦。戦車同士の模擬戦か。

 考えてみると、たくさんの戦車がいっぺんに走っているところは初めて見ることになるのか。しかも実際に砲弾を撃ってやりあうんでしょ? どんなことになるのか、これは楽しみだ。

 オレは胸を高鳴らせつつ、試合開始を待つことにした。

 

 

 ―続く―




まだ乗ってないんじゃないか?
槇村です。御機嫌如何。


試合が終わるまで書くつもりだったんだけど、
思いのほか長くなってしまったのでここで切る。

というか、タイトルに入れるほど麻子さん出てないな。
でも初登場なので入れておこう。




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68:控えめな気遣い

 みほをはじめとした女の子たちが、戦車に乗ってガレージを出ていった。

 実践練習の舞台になるのは、学園校舎の横手に広がっている森林地区。試合の内容は、各チームがばらけたところからスタートして、互いを撃破し合うというものらしい。すげぇな。

 

「よし。みんなスタート地点に着いたわね」

 

 蝶野教官の弾んだ声が聞こえる。すごく楽しそうだ

 オレたちが今いる場所は、ガレージ横に立っている櫓の上。森林地区が一望できるくらいの高さがある。木々の間に紛れて走る各チームの戦車を俯瞰して見て取れた。

 そこにオレ、まほ、自動車部のナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんもいる。一緒に並んで実践練習を見学することになったんだけど。

 

「けっこう、高いな」

「ん? 俊一は高いところが苦手だったか?」

「いや。そんなことはない……と思ってた」

 

 ふと漏れたつぶやきに、まほが反応した。

 高所恐怖症っていうわけじゃないんだけどさ。この櫓、なんだか怖くない?

 いや、ちょっと違うか。

 

「怖いっていうよりも、不安っていう方が正確かもしれない」

「不安?」

 

 だってさ、オレたちが立ってるココってさ、櫓を支えてる基礎のタワー部分よりも出っ張ってるところにあるわけじゃん。なんていうか、ほら。ねぇ。

 落ちたりはしないと思うよ。そんなことはまずないと思うけど、なんとなく不安になる。ビビリと言われても構わない。そう感じてしまうんだから、仕方ないじゃないか。

 

「なら、私と手をつなぐか?」

 

 少しは不安もまぎれるだろう、と。まほが微笑みながら手を差し伸べる。

 まるで菩薩のような優しい笑顔。

 まほちゃんマジ女神。

 オレは、まほの手を取って握りしめた。

 ちょっと力をこめると、彼女の方も「きゅっ」と握り返してくれる。

 現金なもので、それだけで不安が和らぐ。

 恋人の存在っていうのは偉大だなぁ。

 

「ありがとう、まほちゃん」

 

 ほんわかした気持ちのまま、お礼を言えば。

 まほも笑みを返してくれる。

 クールな年上お姉さんの微笑み。

 いいね。

 可愛い。

 そんなふうに内心でほっこりしていたら。

 

「じゃあさ、もう片方の手は私とつなぐ?」

 

 まほと逆側から、思わぬ声が聞こえてきた。

 振り向いてみると、そこにいるのはナカジマさん。何か気負うでもなく、「持ってる荷物を少し持とうか」くらいの軽さで手を差し伸べている。

 あまりに自然過ぎて思わず、オレの方も当たり前のように。

 

「じゃあ、せっかくなのでお願いします」

「いいよー」

 

 ナカジマさんの手を取った。

 ……うん。趣味で機械をいじってばかりと言ってるけど、ナカジマさんの手は女の子らしくて柔らかい。思っていたよりも小さくてついつい、にぎにぎと、手の中の収まり具合を確かめるように何度も握ってしまう。

 彼女はそれに気を悪くした様子も見せず、ふんわりと笑顔を浮かべる。

 おぉ、ナカジマさんも女神。

 ……ちょっとだけ、「どういうこと?」みたいな気持ちが浮かんできたけど。まぁいいか、細かいことは。女の子の笑顔に比べれば些細なことだな。

 とはいえ。

 ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんはそうでもなかったみたいで。

 

「ナカジマ、すごく自然な流れで手を握らせたぞ」

「うん。恥ずかしがるとかなしで、ナチュラルに手を出してた」

「というか、恋人のまほさんと同じ距離感で、大瀬良君の横に立ってたよ」

「え? ……え?」

 

 ……あ、ナカジマさんが真っ赤になった。

 これはなかなかレアなショットなのではなかろうか。

 普段はおっとりというかマイペースというか、フレンドリーなお姉さんが、素で赤面してるとか。すごく可愛いなぁ。

 それでいてつないでる手は離さずに、オレの手を握ったままというのも。

 うん、キュンキュンする。

 やべぇ、顔がニヤつく。

 

「いや違うんだって。私そんなつもりじゃなかったからっ」

「つまりナカジマの中で、大瀬良は素で手を握れるポジションにいると」

「でも抜け駆けとか、そういう考えじゃないっぽかったよね、今の」

「それだけナチュラルに出てきたってことじゃない? 好意とかが」

 

 なんかナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが、小声で言い合いをしてるけど。全部聞こえてるって気付いてるんだろうか。悪い気はしないんだけどさ。どんな顔をすればいいか悩んでしまう。

 

「モテモテだな、俊一」

 

 そんなことを言いつつ、まほが手が握り返してくる。柔らかな感触が心地いい。

 モテモテかぁ。うん。

 嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ。

 オレって、5人も女の子を恋人にして、誰にも渡さないからって公言しているやつじゃない? なのに、気さくに接してくれるのが少し、申しわけなく思ってしまって。少なからず好意も感じられるからなおさら。

 傲慢な考えだってことは百も承知。

 でも、どんな反応をすればいいのか悩んでしまうのも事実。

 ホイホイと手を出すのは倫理的にどうかと思う。今さらなのは分かってるが。

 だから、まほちゃん、恋人仲間を増やすような囁きをしてくるのは止めて。

 

「あなたたち。もう始まるわよ」

 

 蝶野教官が、オレたちの方に目を向けながら注意をしてきた。

 口調はいささか穏やかではないもの。でも怒っているというよりは、どこか呆れてるような感じがする。目付きもなんだか、半目というかジト目というか、イチャつきやがってみたいな感じ。

 どちらにせよ、非難していることには違いない。どうもすいません。

 あとナカジマさんたちが、オレのすぐ横で何をしゃべっていたのかを自覚したようで。オレと目が合うなり顔を赤くさせた。ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんまで。

 みんな可愛い。

 でもまぁ、ここはあえてスルーしておこう。

 

「それでは、試合開始!」

 

 さてさて。

 蝶野教官がマイク越しに合図をするなり、戦車たちが動き出した。

 おぉ、ちゃんと動いてる。

 というか、みんな今日初めて戦車に乗るんだよね?

 

「蝶野教官。戦車ってそんな簡単に動かせるようになるものなんですか?」

 

 門外漢の、素朴な疑問。

 みほはともかく、他の女の子たちは、戦車に触れるのは初めてっぽかったのに。いきなり「試合をやるぞ」と言われて、戸惑いながらも、地図上に指定されたポイントまで戦車を運転してみせている。これってすごいことなんじゃないか。

 

「そうね。正直なところ、もっとたどたどしいかと思ってたけど」

 

 どうやら教官の目から見ても、やっぱり大したもののようだ。

 蝶野教官いわく、進む道を外さずに目標地点まで動かせれば上出来。その上、相手を撃退しようとそれなりの作戦や意図を持って戦車を動かせているのは見どころがあるとか。

 

「今日、初めて戦車に乗ったとは思えないわね。みほさん、あるいは、まほさんが前もってレクチャーでもしていたのかしら」

「いえ、私は何もしていません。みほもそうだと思います。そもそもメンバーが顔を合わせて、まだ数日ですから」

 

 感心している蝶野教官に、まほが言葉を返す。

 確かに、誰が戦車道に参加するのかも分からない状況だったし。ましてや戦車が揃ったのは昨日一昨日のレベルだしね。

 

「その割には、作戦っぽいものをちゃんと考えて動かしてるみたいだけど」

「確かに。即興で、戦車同士が同じ目標を狙いに行く。なんとなくではできない動きですね」

 

 なんだろう、すごく褒めているように聞こえる。まほと蝶野教官、戦車道経験者から見て、目の前の試合展開は初心者にしてはなかなかのもののようだ。

 でも、ちょっと待って。

 

「作戦?」

「そうだ。見てみろ」

 

 まほが指を指している先には、1輌の戦車。みほたちが乗っている「IV号戦車D型」というタイプのものらしい。

 

「試合が始まってまず、みほのチームが砲撃を受けた。単発なものではあるが、2輌の戦車からほぼ同時に標的にされている」

 

 話を聞くに、その2輌というのは歴女チームとバレー部チーム。自分以外全部敵というバトルロワイアル状態の中、結託して一番強いヤツから墜としていこうという判断をしたんだろうとのこと。なるほど。

 

「じゃあ、みほちゃんが集中砲火を受けるってこと?」

「そうだな」

「いやいや。そうだなじゃないでしょ、お姉ちゃん」

「だが戦略としては、唯一の戦車道経験者であるみほが乗っている戦車をまず狙う、というのは間違っていない」

 

 おぉう。まほが、戦車道プレイヤーとしてマジな表情になってる。

 オレがいつも見てる、妹大好きな顔とは違ったもの。

 その凛々しい横顔に「やっぱり美人さんだよなぁ」とか思ってしまう。

 

「見ろ。示し合わせていたのかまでは分からないが、他の面々も、みほの戦車を狙い始めたぞ」

「え?」

 

 まほに促されてフィールドを見てみれば、河に架かった吊り橋の上で戦車が立ち往生してる。あれが、みほの乗ってる戦車らしい。その後ろからも前からも、挟み撃ちをするように戦車が迫っていた。

 うわぁ。絶体絶命じゃない?

 

「というか、みほちゃんはなんで戦車から降りてるのさ」

「戦車を先導してるようだな。橋の耐久度が限界で、バランスを取りながら渡り切ろうとしてるのかもしれん」

「フリードキンの『恐怖の報酬』かよ」

 

 思わずツッコんでしまったオレ。残念ながら誰にも分かってもらえなかった。

 そんなことを言ってるうちに、ドカンドカンと砲撃が始まった。

 距離が離れているにも関わらず、オレたちのところまで音が響いてくる。

 でも、みほたちの戦車には当たっていないようだ。気がついたら、外に出ていたみほは戦車に乗り込んでいて。砲塔がキリキリとゆっくり回っている。

 

「俊一、見逃がすな」

「え?」

 

 ドォンっ!

 

 何を、と返す暇もなく。橋の上にいた戦車が砲撃を返した。

 ゴァンっ、と、激しい着弾音が響き渡る。

 

「当たった!」

「しかも撃破判定が出る、いい砲撃だ」

 

 見ろ、と再び促された先には、撃たれた戦車が白旗を出していた。

 運行不能となる部分に直撃を受けたりすると、エンジンが止まって白旗が飛び出るようになってるらしい。それで撃破判定をするんだとか。

 

「遮蔽物がなくて丸見えということは、逆に言えば見渡しがいいということでもある。視界に相手の戦車が見えて狙っているということは、こちらからも狙えるということ。もちろん地形上の位置取りによる有利不利はあるが、互いに相対している状況なら、みほの指示が付いた砲撃にはそうそう勝てまい」

「初心者ならなおさら?」

「そういうことだ」

「はえー」

 

 思わずマヌケな声を上げてしまう。

 そうこう言っているうちに、みほの乗る戦車が次のアクションに移る。

 1輌を撃破してすぐ、また砲塔を回転させていた。今度は端の反対側に陣取っている戦車を狙っている。

 

「あっ」

 

 と思う間もなく、次弾を発射。

 着弾するなり、相手の戦車は鈍くて通る音を立てて、白旗を上げた。

 

「マジかよ、すげぇな」

 

 経験者は強い、ということだろうか。その後も、みほのチームは他の戦車も見事に撃破してみせた。1年生チームだけは、泥濘にはまって動けなくなったせいっぽいけど。

 ともあれ。

 みほのチームが勝利ということで、試合終了となった。

 

「回収班を派遣するので、行動不能の戦車はその場に置いて戻ってきて」

 

 蝶野教官が通信越しに集合を求める。

 試合参加者はこれで授業終了。

 だけど、これからが本番の人もいるわけで。

 すぐ横を見れば、やる気になっている自動車部の4人がいた。

 

「さて、私たちの出番だね」

 

 ナカジマさんが、自分の手を叩きながら言う。さっきまでオレの手を握っていたのを放して、真面目モードに切り替わっていた。

 といっても、いつもの笑顔なんだけどね。大変な作業だけど、楽しそうなのが救いかな。そんな風に、自動車部の4人を見送るオレ。

 

「あ、そうだ。今日もおやつを作ってきてるから。ナカジマさんも、ホシノさんも、スズキさんも、ツチヤさんも、戻ってきたら食べてね」

「分かった。じゃあ、行ってくるねー」

 

 嬉しそうに言葉を返してくるナカジマさん。ついでに、笑顔のまま手を上げてきたので。ノリに合わせて、オレも彼女に手のひらを向けて、ハイタッチをする。

 

「今日のおやつも楽しみにしてるよ、大瀬良」

「戦車道が始まってから、いっぱい美味しいものが食べられて幸せだね」

「整備以外でも、放課後が楽しみになっちゃうよねー」

 

 続けてホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが、同じように手を上げてきたので。順番にハイタッチをする。パン、パン、パン、と手を合わせてから、4人は先に櫓を降りていった。

 いやでも本当に、自動車部は大変じゃないか? 試合なり訓練なりをするたびに、戦車の回収やら修理やら整備やらをしなきゃならないんだから。

 

「何か喜ぶようなものを差し入れすれば、少しはフォローになるんだろうか」

「十分なるだろう。実際に、4人ともすごく嬉しそうにしてるじゃないか」

 

 腕を組んで唸っていたら、まほが、オレの背中を叩きながら声を掛けてくる。考えていたことがまた独り言になっていたみたいだ。

 このクセ、いい加減に直さないといかんのではあるまいか。

 

「まほさんも、大瀬良君も。降りるわよー」

 

 ともあれ。

 最後は戦車道に全然関係ないことを考えたりして。

 蝶野教官に促されつつ、オレたちも櫓を降りていった。

 

 

 

 

 

 ナカジマさんたち自動車部メンバーが戦車を回収に向かうのと入れ違いになるようにして。試合に参加していた面々がガレージまで戻ってきた。

 

「みんなグッジョブ! 初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ」

 

 出迎えた蝶野教官は、初心者揃いの大洗戦車道チームをべた褒めする。

 素人目で見ても、初めて戦車に乗ったのに、試合の形になるほど動かせてるっていうのは素直にすごいと思う。試合をした女の子たちも、教官のお褒めの言葉にちょっと嬉しそうだ。

 

「あとは日々、走行訓練と砲撃訓練に励むように」

 

 何か分からないことがあったらメールしてね、と。蝶野教官はアフターケアばっちりなセリフで話をしめた。なるほど、撮影した動画とかがあれば、メールでの指示や指導もできるわけだ。

 

「一堂、礼!」

「ありがとうございました!」

 

 蝶野教官の激励と、それを受けた元気な礼で、今日の戦車道の授業は終わった。初めて実際に戦車を動かした、模擬戦で戦車道を体感したということで、いろいろと記念日的なものになるかもしれない。

 さて。

 これからは、そんな戦車道ガールたちを労うおやつタイムである。 

 

「今日のおやつは、チョコチップをたっぷり入れた蒸しパンです」

 

 ちょっと小さめの食べやすいサイズで、おひとり様2個用意。しっかり袋詰めまでしたものを掲げてみせれば、女の子たちから感嘆の声が上がる。

 20人近い女の子たちにキャーキャー言われるという体験に気分をよくしつつ、全員におやつを手渡していく。みんな「ありがとう」と笑顔を向けてくれるのが嬉しい。桃ちゃん先輩でさえ嬉しそうに食べてくれるのだから、やっぱり甘いものは正義なのだということがよく分かる。

 もちろん、蝶野教官にもおすそ分けをしたのだが。

 

「私も学生時代、こんな楽しみのある戦車道をしたかったわ……」

 

 喜んでもらえたようだけど、何かを思うところがあったようで。それ以上触れないようにした。いきなり遠くに目を向けたので、ちょっと驚いたよ。

 驚いたといえばもうひとつ。

 みほたちのチームに、なぜか冷泉さんが混ざっていたこと。

 

「おぉ。これは美味しいな」

「でしょ? 俊一くんの作るものって、おやつもご飯も美味しいの!」

 

 渡した蒸しパンを頬張る冷泉さんが、目の色を変えて声を漏らす。それを聞いて、みほがなぜか鼻高々になる。まぁ可愛いからいいけど。

 みほが言うには、授業をサボって寝ていた冷泉さんを試合中に拾ったんだとか。拾ったってなんだいったい。

 

「冷泉さんすごいんだよ! 経験者なんじゃないかっていうくらい、すっごい上手く戦車を動かすの!」

 

 こちらの戸惑いを気にすることなく、みほがまくしたててくる。おやつの蒸しパンを手にしたまま、冷泉さんの操縦がいかにすごかったかを熱弁する。可愛い。

 その横で、冷泉さんが蒸しパンをパクつきながら照れているように見えるのも微笑ましい。武部さんも五十鈴さんも秋山さんも、ニヤついてたりにこやかだったりしているので、同じことを考えてるのかもしれない。

 でだ。

 みほが話す、試合中の戦車内でどんなことがあったのかを聞いていたら。砲撃を受けた際に、五十鈴さんが頭を打って気絶したんだとか。おいおいちょっと待てよマジですか。

 

「平気ですよ。すぐに気がつきましたし、今はなんとも有りませんから」

「いやいやいや五十鈴さん、念のため病院に行っといた方がいいって」

 

 のほほんとしている五十鈴さんに対して、その現場にいなかったオレだけが慌てている。あれ? オレの反応ってそんなにおかしいことかな。

 でもさ、後になってまた倒れたなんてことになったらシャレにならないじゃん。サッカーでも、ヘディングをやり損なって頭を軽くぶつけただけなのに、時間差で大惨事とかあり得るんだから。もっと硬い戦車のボディに頭突きかましたっていうなら、もっとヤバいことなりかねないんじゃないか。

 

「みほちゃんも、武部さんも秋山さんも冷泉さんも。どこか打ったとかケガしたとかあったら、無理しないですぐ病院行ってね」

 

 いやマジで。

 マネージャーもどきとして救急箱を用意する云々、みたいな話が前にあったけど。逆に言えば、オレには救急箱レベルのことしかできないわけで。重いケガを負ったなんて場合は救急車を呼ぶことしかできないし。そこまでいかずとも、みほちゃんの肌にアザとかできちゃったら、オレはオロオロして使い物にならなくなる自信がある。

 あー。そう考えるとオレって本当におやつを作るくらいしかできることないんじゃなかろうか。ちょっとヘコむ。

 

「危ない真似はよせ、ってのは無理だろうけど。くれぐれも気をつけてね」

 

 そんな風に、みほたちの身体の調子まで本気で心配したら。

 

「俊一くん、ありがとうっ」

 

 みほが、いきなり抱きついてきた。

 なんだなんだ。友達どころか、戦車道メンバーの目もあるところで大胆だなと思ったら。なにやら気遣われたことが嬉しかったらしく。「大好き」と言いながら、オレの胸板にグリグリと顔を押しつけてくる。

 みほの喜びアピールをありがたく受け取って。軽く抱き寄せながら、頭を撫でてあげる。他の人の目もあるから控えめにしておいた。

 

「相変わらず愛されてるねー、みぽりん」

「あら。気遣われているという意味では、わたくしたちもその対象になるのでしょうか」

「その理屈ですと、少なくとも五十鈴殿はそうなるのでは?」

「まだハーレムが広がるのか。たいしたものだな、大瀬良」

 

 何か言われてるけど、まぁいいや。

 それはそれとして。

 あんなでっかい戦車に乗り込んで、撃ったり撃たれたりするわけだから。どこかに身体をぶつけるなんてことも、当たり前にあり得るわけで。そういったケガとかに、外にいる人間はどう対応すればいいいのか分からない。戦車道の試合はもちろん、普段の練習中だって、何も起こらないとは限らないからな。

 

「じゃあ本職の人に聞いてみよう」

 

 というわけで、蝶野教官にそのへんのことを質問してみることに。

 戦車道のメンバーがケガをした場合はどう対応すればいいのか、単純に救急車を呼ぶだけでいいのか、救急箱みたいなものは何を揃えればいいのか、などなど。

 途中で、戦車の回収から帰ってきた自動車部の4人も交えて、戦車にまつわるケガや補修についてなどの話になり。さらに杏さんたち生徒会の3人も呼び寄せて、試合や練習以外の裏方仕事についていろいろ教えてもらった。

 ちなみに。

 オレたちがそんなやり取りをしている他方で。まほは戦車道メンバーを集めて、さっきの練習試合の解説をしていたらしい。まほが試合の流れを客観的に話し、みほが自分の乗っていた戦車がどんな判断をして動いたのか、などを補足していったとのこと。戦車道経験者が語る、試合の全体像や攻防のあれこれに、初心者な女の子たちは感心しきりだったという。

 さらにその後。気がつけば、みほがオレに抱きついていたことが話題に上がって。みんなから「ラブラブだー」と言われ、真っ赤になっていたとか。みほが恥ずかしがりながらも反論はしないことに、みんなほんわかした気持ちになったという。

 みほちゃん可愛い。

 

 

 

 ―続く―




最低1ヵ月に1話とか、どの口が言っていたのか。
槇村です。御機嫌如何。


前話から、間を開け過ぎた。
そうしている間も、なぜか書いてみたいエピソードは増えていく。
不思議で仕方ない。(さっさと書け)

そうそう。
テレビ版の第3話、あの吊り橋のシーンなんですが。
初見時は「おっ、『恐怖の報酬』じゃん」とテンション上がったものです。
ウィリアム・フリードキン監督の1977年リメイク版は傑作だぞ。
好みはあるだろうけど、1953年のオリジナル版もオレは好きだぞ。




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69:やさしさに包まれたなら/みほ、まほ、柚子&杏

 大洗学園で初めて行われた戦車道の授業。いきなり「試合をやれ」と言われて、どうなるのかと思ったけど。これといったトラブルもなく無事に終わった。

 

「みほちゃんが楽しそうだったのが、何よりだよね」

「そうだな。みほが笑って、戦車に乗れていたことが、私も嬉しい」

 

 そんなことを話しながら、オレとまほはひと足先に帰宅する。

 試合後のみほは、傍から見て分かるくらいに、楽しそうにはしゃいでいた。

 参加した女の子たちも、実際に戦車を動かしたり砲弾を撃ったりの余韻をいろいろと感じていたようで。大なり小なり興奮していたと思う。

 高揚していたのは、みほもそう。授業終了後も、同じチームを組んだ武部さん、五十鈴さん、秋山さん、それに冷泉さんと戦車トークに花を咲かせたり。一緒に汗を流そうと、お風呂に入りに行ったりしたくらい。

 アクティブだなぁ。みほが友達付き合いを楽しんでいるようで何よりだ。

 あと、突発的に参加してしまった冷泉さんは、これからも戦車道をすることになったらしい。結局、遅刻免除をはじめとした各種特典には抗えなかったようだ。245回連続で遅刻している猛者には、さぞかし魅力だったろう。

 加えて、戦車道をすればオレ特製のおやつが食べられる、というのも後押しになったらしい。「これからも期待している」という伝言を受けて、「マジかよ」と思う一方、気に入ってもらえて嬉しいとも思ってしまう。我ながらチョロいぜ。

 ほどなくして、みほもオレの部屋へとやってきた。

 

「ただいまっ」

 

 遅れて帰宅したみほから、そんなことをいろいろと聞く。

 みほはチームの皆で寄り道をしながらお喋りに花を咲かせ、解散後は当たり前のようにオレの部屋にやってきた。

 顔を見せるなり、嬉しさいっぱいのウキウキ具合を隠そうともしない。「ただいま!」と元気よく声を掛けると同時に、勢いよくオレに抱きついてきた。その状態のまま喋り通しである。

 

「今日、すっごく楽しかった!」

 

 久しぶりに戦車道の試合をして感じた興奮。

 新しい友達と戦車を動かした喜び。

 そんな想いを共有した仲間たちのすごかったところを列挙したりと。

 みほは思うままに喋りまくる。

 感情がいろいろ溢れてきて止まらない。そんな感じで、聞いて聞いてとまとわりついてくるみほがすごく可愛い。微笑ましくて頭を撫でてしまう。

 

「よかったねぇ、みほちゃん」

 

 いつものソファに座ったオレ。

 抱きついて身を任せている、みほ。

 その反対側にはもちろん、まほも座っている。

 妹のはしゃぐ姿と、戦車道に対して前向きになった気持ちを感じ取って、まほは嬉しそうに優しく微笑んでいた。

 でだ。

 みほは、最初はソファに横並びで座っていたんだけど。話をしているうちにテンションが上がっていったせいか、スキンシップのレベルが上がってきた。

 みほの身振り手振りが大きくなっていき。

 気がつけば、手を握ってきたり、袖を引っ張ったりしてくる。

 さらには、オレの足に手を置いたり、腕を抱えこんだりするように。

 最後は抱きついてきて、こんなに楽しく過ごせてるのはオレのおかげと言う。

 ある意味、いつもの流れに。

 

「しゅんいちくぅん……」

 

 熊本時代、みほの自己肯定感が激低だった頃からのお約束。オレに抱きしめられたり、撫でられたりしてスキンシップを重ねることで、みほの弱った気持ちや精神的なものが回復していく。そんな気持ちになるらしい。

 西住姉妹いわく、オレ成分が足りない、というやつ。

 今日1日で、みほの中のいろいろなものが発散されたらしく。その分をまたしっかり取り込まないと、と言い出して。今度は充電タイムに入ったようだ。

 

「む。みほの時間が終わったのなら、私も構って欲しいぞ」

 

 妹のお喋りがひと段落ついたと判断したのか。見守りモードに入っていたまほも、オレにしがみついてきた。思い切り、ぎゅーっと、左腕を抱え込んで密着してくる。

 右腕に、みほ。左腕に、まほ。姉妹で両腕に抱きつかれて、ふたりの胸とか身体の柔らかな感触が染み込んでくる。幸せな感触だ。

 甘えるふたりに、頬ずりで応えてあげる。撫で回してあげたいところがけれど、腕をホールドされて自由が利かないので。頭を少し下げて、みほと、まほの頭に頬をすりつけた。

 

「俊一くん」

「俊一」

 

 彼女たちもそれに応えるように。腕をもっと抱き寄せて、オレの胸板にそれぞれ頬ずりをしてくる。すごく可愛い。

 

「みほちゃんも、まほちゃんも、可愛い」

 

 何度口にしても足りないくらい、甘えてくるふたりが可愛くて。交互に何度も、みほとまほの頭に頬ずりをする。サラサラした心地いい感触の髪に、唇を落とす。

 

「んっ、ちゅ、は。ん、はふ……」

「ちゅ、ちゅっ。ん、ふぅ、ん……」

 

 みほもまほも、頬ずりだけだったスキンシップが直接的なものになっていく。

 オレの首元に顔をうずめて、鎖骨部分や首元、頬などに何度もキスをしてくる。

 可愛らしい唇を押しつけながら、ふたりしてオレ成分とやらを補充しようとする。

 あぁもうなんだコレ。

 

「ふたりとも、可愛いなぁ」

 

 こそばゆくて堪らない。

 抱きつかれていた腕を離してもらって、今度はオレの方から抱きしめる。

 腕を、みほとまほの腰に回して、引き寄せた。ふたりの柔らかな身体がより密着して、ふにゅり、という感じの幸せな感触がオレの上半身に広がった。

 

「んー。可愛いぞ、みほちゃん、まほちゃん」

「ひゃっ」

「んっ」

 

 嬉しさ全開で、ふたりを抱きしめる腕に力を入れる。といっても少しだけ強く引き寄せる程度だけれど。

 その勢いで、みほとまほの顔が、オレの首元に埋まる。

 

「んっ。ん、ちゅっ。俊一くん。しゅんいちくん……」

「ちゅっ。れろ、ん、ちゅ。気持ちいいか、俊一」

「ふぉぉぉ……」

 

 みほとまほが、オレの敏感な弱点である首筋に吸い付く。

 ちゅっちゅっ、れろれろと、唇と舌先で、愛撫するみたいに舐め回してくる。

 それぞれが思い思いに、あるいは息を合わせるようにして、オレの首周りに舌を這わせる。唇を押しつけて吸い立ててくる。

 気持ち良すぎてヤバい。クラクラする。

 弱いところをふたり掛かりで責められて、翻弄されつつ。さらに身体のあちこちを撫で回さしながら、キスもしてくるんだから。もうなんというか、みほとまほがまとわりついてくる感触に溺れてしまいそう。

 そろそろオレも我慢できなくなってきた。

 そんなところに。

 

 ピンポーン

 

 部屋のチャイムが鳴った。

 誰かが来たのか。といってもたぶん、柚子さんと杏さんだろう。

 少しだけ、我に返る。

 助かったというべきか、残念というべきか。

 

「ちょっと、待って」

 

 抱きついているみほとまほをあやし、離れてもらう。ふたりにそれぞれ軽いキスをして、ソファから立ち上がった。

 玄関の扉を開けると、いたのはやっぱり、柚子さんと杏さん。

 

「あ、イチャイチャしてる最中だった?」

「なんで分かるの?」

 

 顔を合わせるなり、杏さんがぶしつけなことを言ってくる。確かにその通りなんだけど。素直に疑問で返すオレに、柚子さんは苦笑いしきりだった。

 とりあえず、部屋の中へと招き入れて。柚子さんと杏さん、ふたりをしっかりハグとキスでお迎えする。

 抱きしめながら聞いてみれば、オレの首筋にキスマークができていたらしい。それを見つけて「あぁ、またイチャついてたんだな」と思ったんだとか。

 

「恥ずかしながら正解です」

「やったね」

「杏さん、そこは喜んでいいところなの?」

「次はわたしたちがイチャイチャする番だよ」

「柚子さんが妙にやる気満々なんだけど」

 

 あれやこれやと話ながら、両腕にしがみつく柚子さんと杏さんを連れて部屋の中へ。みほとまほが揃って「お帰り」と声を掛けてくるけど、なんというか、こそばゆい。彼女たちが自分たちの部屋のようにリラックスしているのが嬉しくなる。

 で、恋人たちでなにやらやり取りがあって。ソファに座る位置が変更になった。中央にオレが座り、左右に今度は柚子さんと杏さんが位置する。

 座るなり、ふたりは再び抱きついてきた。柚子さんと杏さんが、オレの首筋に顔を埋めて吸い付いてくる。さっきまで、みほとまほがしていたように、オレの弱いところを唇でくすり出した。

 

「ひやっ。いきなりか」

「ん、嫌だった?」

「いいえ全然嫌じゃないです」

「そんな食い気味に否定しなくても、もっとしてあげるよー」

 

 そんなことを言いながら、ハグとキスを重ねてくる杏さん。

 ……なんだか、普段よりも甘えん坊具合が強いような気がする。

 抱きついてくるのはいつも通りだけど、密着具合が強いというかなんというか。ぎゅーっと強めにしがみついて、頭をすりつけてくる。可愛い。

 

「何はともあれ、今日もいろいろお疲れ様」

「そうだねー。ある意味、今日は特にそんな感じかなー」

 

 思わぬ返事がきた。

 戦車道の授業が終わった後に何かあったの?

 杏さんの反対側にいる、柚子さんに顔を向けると。彼女はただ笑うだけ。別に何かトラブルがあったとかいうわけではないらしい。

 

「ようやく戦車道の授業が動き始めたから」

 

 なるほど。ほっとひと息ついて、力が抜けたって感じかな。

 確かに、生徒会は見えないところで下準備をいろいろしてきたわけだし。授業が無事に始まって、実際に戦車が動き出したのを見るのは、感慨深いものがあるのかもしれない。

 

「それなら、柚子さんもしっかり労わらないと」

 

 左腕に抱きついている柚子さんは、少し目を下にやれば彼女の頭がすぐそこにある。オレも頭だけを動かして、柚子さんに頬ずりした。綺麗な髪のサラサラ感が伝わってきて、それだけでもう堪らない。

 

「んー。俊一くーん」

 

 柚子さんも嬉しそうに、顔を上げて頬ずりを返してくる。いや、頬ずりというよりも、鼻先を擦りつけてくると言った方が正確かもしれない。

 

「小山だけずるいぞ。大瀬良くん、私も私も」

「もちろん喜んで」

 

 杏さんが、反対側から身を乗り出してくる。自分にも頬ずりしろと言わんばかりに、頭を突き出してるんだけど、彼女の方から押しつけている状態だ。

 お望みの通り、杏さんの頭に頬を乗せて、すりすりと押しつける。そうすると彼女の方も、オレの肩あたりに顔を埋めてきた。

 

「あー。ごくらくー」

「はぁー。ん……」

 

 杏さんと柚子さんが、気の抜けた声を漏らしながら、オレにもたれ掛かる。

 精神的な疲れがこみ上げてきた、というのはあるのかも。ふたりはもちろんのこと、桃ちゃん先輩や、生徒会に関わる先輩方も、みんなあれこれ頑張っていたことはよく知っている。

 

「無事に始まって、良かったね」

 

 お疲れ様、と。杏さんと柚子さんを撫でながら、労わってあげる。

 ふたりとも、嬉しそうに表情をゆるめながら。甘えるように顔を押しつけてきた。

 杏さんも、柚子さんも、可愛い。

 オレはしがみつかれる、抱きつかれるに任せて、ただふたりを優しく撫でるだけ。したいようにさせて、好きなだけ甘やかす。

 

「杏さんも、柚子さんも。いっぱい頑張ったよね。えらい。もちろん、桃ちゃん先輩や生徒会関係の人たちも。みんなえらい」

 

 なんてことを言いつつ、腕をちょっと自由にさせてもらい。杏さんと柚子さんの頭を抱えるようにして、改めて抱き寄せる。

 ふたりの頭を撫でながら、おでこにそれぞれキスをした。それだけでも、すっごく嬉しそうな笑顔を見せてくれる。

 やべぇ。杏さんも柚子さんも、超可愛い。

 

「大瀬良くん、今のはやばいくらいキュンときたよ」

「俊一くん、嬉しいっ」

 

 オレの腕の中に収まった杏さんと柚子さんが、身体に腕を回して抱きついてくる。

 力いっぱい、ぎゅーっと。

 左右のワキから伝わってくる、女の子の柔らかな感触。

 ボリュームたっぷりな柚子さんの巨乳と、慎ましいけれどぷにぷにな杏さんのおっぱいが、両側からしっかりと押しつけられる。

 幸せ。

 顔が緩んでしまう。

 

「俊一くん。んっ、ちゅっ」

「んんっ」

「あ、小山抜け駆けっ」

「杏さ、んちゅ」

 

 抱きつきながら、柚子さんがキスしてきた。

 すぐに杏さんも、自分もするとばかりに唇を重ねてくる。

 ふたりとも、ちゅっちゅっちゅっと、何度もキスをしてくれる。

 唇だけじゃなく、頬や首筋まで、いろんなところに。

 くすぐったいけど、幸せ。

 それからしばらく、ふたりのしたいように身を任せていた。

 

「ちゅっ、ん、んっ。ちゅ、はふ……」

「しゅんいちくん。ちゅ、んむ。ふぁ……、は、んんっ」

 

 杏さんも柚子さんに何度となくキスをねだられ、交互に応えてあげる。頭を撫でながら、先輩なお姉さんふたりの唇を堪能する。

 

「はぁ……。とりあえず満足」

「俊一くんに癒されるぅ……」

「杏さんも柚子さんも、ご満悦なようでなにより」

 

 むしろオレの方が、いっぱいキスをして大満足なのだが。嬉しそうな彼女たちが可愛くて、つい抱きしめる腕に力が入ってしまう。

 そんな感じで、イチャイチャしていたわけなんだけども。

 

「むぅ。いいなぁ」

 

 みほが、うらやましそうな目を向けてくる。

 さっきまでは、みほとまほを甘やかしていたので。ふたりは杏さんと柚子さんに譲るようにして、今はテーブル横に座っている。微笑ましいというか、生温かいというか、そんな感じの笑みを浮かべていた。

 でももう、我慢できなくなったみたいだ。

 

「そろそろいいだろう?」

 

 まほがズズイと、座布団を持って近寄ってきた。

 ソファに座ったオレの足元まで移動して、床に座ったまま右足に抱きついてくる。

 太ももに頭を乗せたまほが、見上げるように目線を向けてくる。

 くっ。まほちゃん、どこでそんなの覚えたんだ。可愛いうえに、色っぽいぞ。

 

「わたしもするっ」

 

 姉に負けじと、みほも同じように座り込む。そして逆の左足に抱きついた。

 やっぱりオレの太ももに頭を乗せて、頬ずりしてくる。

 もちろん、オレの方を、可愛らしく見上げながら。

 まほとみほ、姉妹揃って上目遣いで見つめられる。

 

「ふたりとも、可愛いなぁ」

 

 もちろん、西住姉妹だけじゃない。

 両腕に、杏さんと柚子さんを抱きかかえていて。

 両足に、まほとみほがしがみついている。

 上から下から、女の子の柔らかくてむにむにな感触でいっぱいだ。

 やばい。

 嬉しい。

 幸せ。

 

「杏さんも、柚子さんも、まほちゃんも、みほちゃんも。みんな好き」

 

 密着して甘えてくる恋人たちに、オレって贅沢者だなぁという気持ちを噛みしめる。

 両腕両足にくっついている4人は、「オレ成分」の充電とやらをしながら、あれこれとお喋りを始めていた。今日の話題は言うまでもなく、戦車道の授業についてだ。

 

「初めて戦車を動かしたけどさ、想像よりもっと迫力あったよねー」

「しかも自分で動かしてるっておもうと、なんだか興奮しちゃった」

「そうなんです! 自分がやる側になると、戦車道ってもっと楽しくなるんです!」

「確かに、未経験の人間が戦車に乗れば、いろいろと衝撃的だろうな」

 

 今日が戦車道デビューの杏さんと柚子さんが感想を漏らせば、みほとまほが経験者目線から言葉を返す。実際に戦車を動かしてみての印象であるとか、動くたびに伝わってくる振動、乗員の視野が思ったよりも狭いなど、あれこれと挙げながら、意見交換をしている。

 そんな彼女たちを邪魔しないように、オレはただ、にこにこしているだけ。

 ソファに座っている体の上下に恋人4人をはべらせながら、まったりとした時間を過ごした。

 

 

 

 ―続く―




またしても放置しておりました。
槇村です。御機嫌如何。


2カ月ちょっとのごぶさたです。
そのわりには、抱きつく女の子たちをただ撫でるだけという内容。

いい加減にストーリーを進めたいのですが。
次はいつ頃になるのやら、という感じです。
思い出した頃に覗いていただければ。
よろしくお願いします。




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70:最上級 I LIKE YOU/アッサム


今回は三人称、アッサムさん視点でお届けします。



 4月も半ばを過ぎて、世の学生たちが新天地での生活に慣れ始めた頃。聖グロリアーナ女学院でも、それなりに慌ただしかった学内の雰囲気は穏やかなものになり始めていた。

 戦車道の世界では全国屈指の強豪校であり、憧れを募らせて入学してくる生徒も多い。

 そんな新入生たちを率いて、隊長であるダージリンの下、それなりに厳しいの鍛錬を日々を送っていたのだが。憧れ一辺倒だった新入生たちの浮ついた性根も落ち着き、普段通りの生活を送れるようになっている。

 まぁ一部、手が掛かって頭を悩ませる新入生もいるが。それはさておき。

 副隊長であるアッサムも、精神的に余裕が生まれていた。

 参謀役とも言うべき彼女にとって、新入生たちを気遣いながら実力を見る期間が終わった。伸び代を配慮しつつ、各個人のデータを元にしながら、いかに戦力に組み込んでいくか。そんなことを考え始めている。

 とはいっても、アッサムも24時間ずっと戦車道のことばかり考えているわけではない。

 戦車道の練習が終わり、「紅茶の園」と呼ばれる戦車道履修者用のクラブハウスで仲間たちと紅茶を楽しんでいるあたりはまだ、聖グロ戦車道の副隊長として振る舞っている。

 だが寝起きしている寮の自室に戻れば、基本的にプライベートな時間だ。制服を脱ぎ、その日の身体の汚れを落とし、ゆったりとした部屋着に着替えて、無意識ながら少し気を張っていた心身をゆるめる。そうして就寝までの時間をリラックスして気ままに過ごすのが常だった。

 最近のアッサムのお気に入りは、時代小説を読むこと。

 ちょっとした事から同年代の男子と知り合いになり、あれこれとやり取りをしている中で薦められたもの。これがなかなか彼女のツボにはまり、思っていた以上に楽しんでいる。

 この日の夜も、読んでいる途中の文庫本を手にし、時代小説の世界に没頭した。

 読書のお供に淹れていた紅茶が冷めてきた頃、スマホからメールの着信音が鳴る。

 文庫本から顔を上げ、ナイトテーブルに置いていたスマホを手に取る。

 届いたメールの送信者を見て、アッサムはわずかに表情をゆるませた。

 メールの主は、大瀬良俊一。

 このところメールや電話でのやり取りが増えている、年下の男の子だ。

 

「まったく、律儀なことです」

 

 メールの文面を読みながら、アッサムは苦笑する。しょうがない人ですね、と思いながら、了承の意味を込めてメールを返信する。

 その時のアッサムの表情はとても柔らかなもので。もしダージリンがこの場にいたら、全力で彼女のことをからかい倒しただろう。

 さて。アッサムをそんな魅力的な顔にさせたメールはどんなものだったのか。

 なんということはない。「ちょっと聞きたいことがあるので電話をしてもいいだろうか」という、お伺いを立てる内容だった。

 なんでも、紅茶の淹れ方について分からないところがあるので、意見を聞きつつ教えを乞いたいのだとか。都合が悪いとか、気分がよろしくない、という場合はスルーしてもらって構わない。電話をしてもいい場合だけ返信をしてほしい、とのこと。

 意地の悪いところがあるのに、ちょっとした気遣いを忘れずにしてくれる。そういった心配りを欠かさないところは、アッサムにとってもポイントが高くて。彼のことを憎めない。

 ゆえに、俊一のことになると、自然と苦笑いみたいなものが浮かんでしまう。

 しかし、その時の彼女はどこか嬉しそうな顔をしている。それはダージリンも、オレンジペコも、ローズヒップも知っているが、アッサム自身は気付けないでいた。

 

「おや。相変わらずレスポンスが早いですね」

 

 メールを返信して、それほど待つことなく。アッサムのスマホが鳴った。

 電話を掛けてきたのは、もちろん大瀬良俊一。

 液晶画面に出た彼の名前を見て、再び笑みを浮かべてから、電話に出る。

 

「もしもし?」

『もしもしアッサムさん? 夜分にごめんね』

「夜とはいっても、まだ非常識な時間ではありませんからね」

『そう言ってもらえると助かるなぁ』

 

 電話がつながって、まず交わすのは軽い挨拶。

 それから軽いボケと突っ込みの応酬だ。

 まず俊一が軽口を叩き、アッサムがクールに言葉を返す。

 さらに、俊一がベクトルを変えたボケを見せる。

 アッサムが呆れた反応を見せたら、最後は俊一が謝ってオチ。

 さして中身のない、なんとなくのノリで会話が続く。

 不思議と、アッサムはこのやり取りが嫌いではなかった。

 

「それで、何か聞きたいことがあるとのことでしたが」

『あ、そうそう。実は、紅茶の淹れ方について聞きたいことがあって』

 

 俊一は、ここ最近の大洗学園の事情を軽く話す。

 新学期が始まって、大洗学園の戦車道チームがスタートした。

 どうにかメンバーも数が集まり、戦車を駆りながら日々鍛錬をしている。

 そんな中で、俊一は戦車道チームのマネージャーのようなものをしている訳なのだが。これについてはアッサムも既に知っている。割と頻繁に電話やメールのやり取りをしている中で、彼から直接教えてもらっていた。

 

『マネージャーといっても、練習の後におやつを振る舞うことがメインだけど』

 

 やることはお菓子作りだけだと、俊一は笑っている。

 実は少し、アッサムは「うらやましい」と思っていた。

 

『今日はパウンドケーキを焼いてふるまったんだよ』

「なんというか、レパートリーが広いですね」

『おかげさまで好評でした』

「練習後に美味しいおやつが待っているというのは、素直にうらやましいかもしれません」

『アッサムさんも大洗に転入する? 食事とおやつ付きで歓迎するよ?』

「ふふ。魅力的なお誘いですけど、遠慮します」

『そりゃ残念』

 

 ははは、ふふふ、と。お互いに笑い合う。

 そんな他愛のない会話をいくらか交わしてから、ふたりは本題に入った。

 

「紅茶の淹れ方、ですか」

『うん、そう。聖グロにお邪魔した時に、軽く教えてもらったでしょ?』

「……そんなことしましたか?」

 

 スマホを手にしたまま、アッサムは首を傾げる。

 思い出せず、記憶をさかのぼってみるのだが。それより前に俊一が話を進めてきた。

 

『ほら、喫茶店でデートした時に。ちゃんと淹れた紅茶は美味しいなーって話をしたでしょ』

「デ、デート……」

『ペットボトルかティーバッグの紅茶しか飲んだことがなかったから。茶葉からきちんと淹れた紅茶って、まるで別モノなんだなー、って』

 

 デートという単語に反応して、少し取り乱すアッサム。

 俊一は電話越しにそれを感じ取ったが、ニヤつきながらあえてスルーする。

 もし今の彼の表情がアッサムに見られていたなら、彼女は顔を紅くさせながら、誤魔化すかのように突っかかってきたことだろう。あるいは拗ねてみせたかもしれない。どちらにしても、俊一にしてみればご褒美同然だったが。

 それはともかくとして。

 アッサムは、喫茶店でのやり取りを思い出した。確かに、どうやって紅茶を淹れるかといったレクチャーをした覚えがある。

 

「それがなぜ今頃?」

『パウンドケーキを焼いてる時に、飲み物が欲しいなと。それで紅茶を連想して。そう言えば聖グロでアッサムさんに教わったなーっていうのを思い出したんだ』

「なるほど」

『で。ティーバッグじゃない紅茶を買ってきて。ネットで手順とかを調べながら淹れてみたんだけど。何か違う気がするんですよこれが』

「そんなあやふやなことを言われても困ってしまうのですが」

『アッサムさんと一緒に飲んだ時と比べて、美味しさが足りないんだよね』

「……これはおそらく、意識せずに言ってるんでしょうね」

 

 俊一いわく。アッサムから聞いた紅茶の淹れ方を思い出しつつ、さらにwebサイトや動画などをいろいろ検索して復習しながら、自分で淹れてみたらしい。

 けれど、何か違う。

 でも、何が違うかは分からない。

 

『茶葉の違いなのかな。もしくは気付いてない見落としがあるとか』

「確かに、茶葉の分量であるとか、沸騰したお湯の温度やタイミング、茶葉を泳がせる時間のわずかな違いなどで、味はかなり変わりますね。このあたりはもう好みとしか言いようがありませんが」

『好みの問題かー。あ、あとは一緒に飲む人の有無とか?」

「それは少なからずありますね」

『そっか。あの時はアッサムさんと一緒だったから、美味しかったのか』

「……それを私がうなずくのは、さすがにちょっと」

『あははは』

 

 務めて冷静に答えを返そうとするアッサム。

 ここで慌ててみせたら俊一の思うつぼ。

 そんなことを思っていたものの、顔が赤くなることまでは抑えきれなかった。電話越しでは表情までは窺えないのが幸いしたと言っていい。

 ともあれ、俊一の紅茶について。さすがにアバウトな説明では、アッサムとしてもやり方の良し悪しまで判断はできない。

 

「具体的には、どんな淹れ方をしたのですか?」

 

 多少の味のズレはあるだろう。だがあまりに突拍子のないやり方でもしていなければ、そうそうヘンテコな味にはならないはず。

 アッサムは、電話越しに彼がどんなやり方で紅茶を淹れたのか聞く。

 しかし、俊一の説明するやり方が間違っているようには思えなかった。

 

「聞く限りでは、問題なさそうなのですが」

『何が足りないんだろう。愛情かなぁ?』

「……恋人のために淹れたのでしたら、大瀬良さんは過剰なくらい加えていそうですけれど」

『あ、なんかオレのことを分かってもらえてるようで嬉しいな』

「それはもう。いろいろとノロケを聞かされていますから」

『そう? アッサムさんにノロケとか、言ってたかなぁ』

「自覚がなかったんですか……」

 

 少し横道にそれた会話を挟みつつ。アッサムは彼の望み通り、紅茶の淹れ方を改めてレクチャーする。その時は彼も、茶々を入れるようなことをせず。彼が真面目に聞いているのが、スマホ越しでもアッサムに伝わってきた。

 

『なるほど。わかった。アッサムさんに指摘されたところを意識して、再チャレンジしてみるよ』

「ふふ。お役に立てたならなによりです」

『でも本当に、助けを求めてよかった。ありがとう、アッサムさん』

 

 素直に感謝を述べる俊一。

 耳に当てたスマホから聞こえる声音に、アッサムは気分を良くする。

 上手く淹れられたらまた報告します、と彼は言い。今夜の電話はここでお開きとなった。

 

『それじゃあ、アッサムさん。おやすみなさい』

「はい。おやすみなさい」

 

 アッサムは通話を切り、スマホを耳から離してしばし見つめる。

 

「ふふっ」

 

 この時の彼女は、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 2日後の夜、アッサムのスマホに再び俊一からメールが届く。

 内容は、これを観て意見をくれというもの。

 メールには動画サイトのアドレスが貼られている。さらにパスワードも添えられていた。

 

「感想が欲しいということは、大瀬良さんが撮ったもの、でしょうか」

 

 いぶかしみながらも、リンク先をタップする。

 動画サイトのページが開き、パスワードを入力すると、動画がスタート。

 内容は、俊一がひとりで喋りながら紅茶を淹れるものだった。

 

『こんにちは、あるいはこんばんは。大瀬良です』

『レクチャーしてもらったことを参考に、アッサムティーを淹れるよ』

『ここおかしいんじゃね? みたいなところがあったら教えてください』

『それじゃあ、いってみよう』

 

 映っているのは、基本的に俊一の手元だけ。台所らしきところに並んだ茶器やカップ、それらを使って紅茶を淹れる彼の手。

 時折、画面をのぞき込むようにして、ひょっこりと俊一の顔が入り込んでくるのだが。

 

「少し自信なさげなところが、なんだか新鮮ですね」

 

 手元の再確認しながらなのか、たどたどしい印象を覚えてしまい。アッサムはついつい、彼の顔が映るたびに笑みをこぼしてしまう。

 

『まず、水道から勢いよく出した水をヤカンに入れて、沸かしまーす』

『ミネラルウォーターの方がいいんじゃないの? と思ってたんだけど。ペットボトルに入った水って、中に空気が入ってないんだってね。それが紅茶を淹れるにはあまりよろしくないとか。初めて知った』

『水道から水を汲む時に、空気とかイオンが入ってどうこう、っていうことなんだとか。深いな』

 

『お湯が沸いてきた』

『熱湯で、ティーポットとティーカップを温めまーす』

『オレ、最初はここまでする意味あるのかなーって思ってたんだけど』

『自分で淹れてみて分かった。意味あるわコレ』

 

『次いで、ティーポットに茶葉を入れます』

『茶葉はアッサム。アッサムティーですよ、アッサムティー』

『紅茶2杯分で、スプーンに山盛り3杯。けっこう使うんだな』

 

『沸騰したお湯を、一気にポットに注ぎます』

『高いところから注ぐといいみたいなことを聞いたことがあるけど』

『調べてみたら、普通に注げばいいみたいだね』

『実際はどうなんだろう。高いところから注いだ方がいいの?』

『見た目としては、ケトルを高く掲げた方がインパクトはあるよね』

『でもヤケドする危険もあるから。味が変わらないなら普通に注ぎます』

 

『ティーポットの中で、茶葉が踊ってる。いいなコレ』

『お湯に色が付いていくのも、なんだか見てて楽しい』

『アッサムティーの色、綺麗』

 

『約1分、茶葉を泳がせて。茶漉しを抜きます』

『で、カップに紅茶を注いでー』

『やっぱりいい色。アッサムティー、淹れました』

 

 ただ、紅茶を淹れるだけの動画だ。アッサムにもそれは分かっている。けれど、ところどころで彼が「アッサム」と口にするところで、気恥ずかしさを感じてしまう。

 自分のことじゃない、淹れている紅茶のことだ。そう思いながらも、「アッサム」と聞こえるたびに、彼女はぴくりと身体を震わせてしまう。

 

「これは絶対、分かってやっているでしょう」

 

 動画を見ながら、アッサムは断定していた。「アッサムさんのことじゃないですよー」などと言いながら、意地悪く笑みを浮かべる俊一のことが簡単に想像できた。

 録画された俊一はもちろん、そんな彼女に気を留めることなく。動画は先へと進んでいく。

 

『言いつけを守って淹れたアッサムティー』

『なんだろう。心なしか香りがいいような気がする』

『では、いただきます』

『……うん、美味しい。前に淹れたのより、いい感じかもしれない』

『でもやっぱり、聖グロで飲んだ時と何か違うんだよな』

『なぜだ。分からん』

『これはもう、一緒にお茶してる相手の有無だと思うことにします』

 

 動画の中で、さらっと恥ずかしいことを言う俊一。これはつまり、「アッサムが一緒にいたから美味しかったのだ」と言っているに等しい。

 女子校育ちのアッサムとて、それくらいは察しが付く。彼女はスマホの画面を見つめながら、ひどく赤面していた。

 

「本当に、この人は……」

 

 アッサムはついつい、悪態を吐いてしまう。しかし顔は真っ赤になっていて、心なしか照れくさそうに、表情を緩ませていた。ここが自分の部屋だったのは幸いだったと言える。

 

『とりあえず、数をこなしてみよう。濃さとかいろいろ、好みを見つけてみようかと思います』

 

 そんなこんなで、俊一からの動画は終わりになるようだ。殊勝なことを言いながら締めの言葉に入っている。カメラを動かしたのか、場面が切り替わり。俊一の顔が大きく映し出される。

 

『いろいろ教えてもらって感謝します。ありがとう、アッサムさん』

「なっ」

 

 最後の最後に、名指しで呼ばれたアッサム。

 紅茶の名前ではなく、彼女自身を指しての言葉。不意を突かれて、アッサムは驚きの顔になる。

 だが同時に、嬉しさもこみ上げてきた。

 頼られて、応えてあげて、礼を言われる。たったそれだけのこと。けれどアッサムは、戦車道で献策をして上手くいき、褒められた時と同じような感覚を覚える。

 

「本当に、この人は」

 

 憎めない。アッサムは、思わず笑みをこぼした。

 そのまま彼女は、動画を見た感想をメールする。「淹れ方は問題ないと思う。動画の中で言っていた通り、あとは好みの問題だろう」と。

 送信してすぐさま、俊一から返信のメールが届いた。「ありがとう。精進します」、「また分からないことがあったら相談に乗ってほしい」という内容。

 アッサムは柔らかく微笑みながら、了承のメールを送り返した。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 それから数日。アッサムはなんとはなしに、俊一が紅茶を淹れるだけの動画を何回も観返していた。なんだか微笑ましく思えて、観るたびについつい笑みがこぼれてしまう。

 もちろん、そんなところを誰かに見られたら何を言われるか分からない。特にダージリンに見つかったら、普段は使わないような恋愛系の格言を持ち出してからかってくるに違いない。だからアッサムは注意深く、周囲に人がいないことを確かめてから観るようにしていた。

 していたのだが。

 

「アッサムお姉さま、何を観てらっしゃるんですの?」

 

 ちょっとした隙が生まれていたのか。ローズヒップに見つかってしまう。

 慕ってくる妹分の声に、焦るアッサム。

 いや待て、まだ誤魔化せる。

 

「あっ。お兄さまの声ですわ!」

 

 耳聡いローズヒップに、動画から漏れた声を聞き取られた。

 アッサムは思わずおでこに手を置き、虚空を見つめてしまう。

 手元のスマホが声の発生源だと分かり、それは何だとじゃれついてくるローズヒップ。アッサムは仕方なく、ふんわりと説明をする。なるべく興味を持たれないように、ぼんやりとした内容で。

 しかし、お兄さまと慕う俊一が絡むものならば、彼女が食いつかないはずもない。ローズヒップの追及はさらに熱くなっていく。

 

「わたくしにも観せてほしいですの!」

「待ちなさい。ただ、大瀬良さんが紅茶を淹れているだけ。しかも手元が映っているだけよ?」

「それでも構いませんわ!」

「貴女が構わなくても、私が構うのよ……」

「お兄さまの動画なのに、アッサムお姉さまが困ることがあるんですの?」

「あるわよ。困るわ。恥ずかしいし」

「恥ずかしい?」

「あっ」

 

 アッサム、自爆する。

 

「とにかく、これは見せられません!」

「いいですわ。それならお兄さまに直接お願いして見せてもらいますの」

「待ちなさい、ローズヒップ。お願い待って!」

 

 普段のクールさはどこへやら。アッサムはらしからぬ必死さで、兄貴分に電話をしようとするローズヒップを止めようとする。

 だが、アッサムの制止の声も虚しく。ローズヒップがかけた俊一への電話はあっさりつながってしまう。

 

「お兄さま、ご無沙汰しておりますわ!」

『相変わらず元気そうで何よりだね、ローズヒップちゃん』

「お兄さまの声を聞いたら元気100倍ですのよ!」

『オレは元気のモトか。オレの声で元気になれるなら、いくらでもお喋りしちゃうぞー』

「やーん、さすがお兄さまですわー!」

 

 電話がつながるなり、スマホ越しにテンションの高いやり取りを始めるローズヒップと俊一。ちなみにローズヒップという呼び名が与えられていることは、彼女が自ら俊一に報告済みだ。その時のローズヒップも、ものすごくテンションが高くなっていた。

 一方、側にいるアッサムは、ふたりのノリについて行けず。ちょっと毒気を抜かれたような顔になっている。

 

「そうそう。今日お電話したのは、お願いがあったんですの」

『お願い?』

「はい! アッサムお姉さまに送られた動画、わたくしも観たいです!」

『あー、あれかー』

 

 話の流れから、俊一は見当をつけた。何かの拍子に、アッサムが動画を見ているところにローズヒップが突貫。興味を持ってしまったのだろうと。

 

『あれ、ただ紅茶を淹れてるだけの内容だし。何か面白いことをしてるわけじゃないよ?』

「でもアッサムお姉さまは、動画を見てニヤニヤしてましたわ」

「ちょっ、ローズヒップ何を言ってるんですか!」

『あれ? アッサムさんも一緒にいるの?』

 

 電話越しに、アッサムの悲鳴みたいなものが聞こえた俊一。事情は分からないが、彼女がローズヒップを慌てて止めようとしているところが容易に想像できた。

 

『オレとしては、観られて恥ずかしいものは映ってないと思うけど』

「端々の言葉選びを聞く限り、絶対確信犯でしょう!」

『全部否定することはできないかな』

「だから恥ずかしくて見せたくないんです!」

「あのアッサムお姉さまがこんなに恥ずかしがるなんて。本当にどんな内容なんですの?」

『でもマジで、紅茶を淹れてるだけなんだけどなー』

 

 ローズヒップのスマホを通して、俊一と、なぜかアッサムまで交えた会話になっていく。アッサムの顔は羞恥でいっぱいになっていたが、ローズヒップは楽しそうに満面の笑み。電話の向こうの俊一は、そんな二人を想像して苦笑しきりだった。

 動画を見せろ、見せない、という攻防が、主にローズヒップとアッサムの間で行われて。俊一は電話の向こうで置いてけぼりにされている。訳が分からなくて、彼は思わず笑ってしまいそうになる。

 仕方ないので、動画制作者である俊一がふたりをなだめに掛かった。

 

『ローズヒップちゃんには悪いけどさ。送った相手のアッサムさんが嫌がってるなら、他の人に見せるのはちょっとできないかなぁ』

「えー」

 

 お姉さまだけズルイズルイ、と駄々をこねるローズヒップ。電話越しでは通じないけれど、ブンブンと手を振り回しながら抗議の声を上げている。

 そんな彼女と俊一のやり取りを聞いて、アッサムはホッとひと息。危機を回避することに成功した、と。

 

『じゃあさ、ローズヒップちゃん用に新しい動画作ろうか?』

「え、いいんですの?」

『たいした手間じゃないしね。妹分と同じ名前の、ローズヒップティーを淹れる動画を撮ってみようか』

「やったー! ですわ!」

 

 ローズヒップ、大歓喜。

 アッサムも、動画を見られることを避けられた上で、妹分が喜んでいるなら「まぁいいか」と。

 この日の騒ぎは、ひとまずこれで収束した。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 後日、俊一は約束した通り、ローズヒップティーを淹れる動画を撮影。アッサムにチェックを入れてもらった上で、動画サイトにアップ。そのアドレスをローズヒップに送信する。

 妹分は大喜びし、楽しそうに何度も再生していた。

 同時に、彼女は「自分も紅茶を淹れてみたい」と言い出し。俊一の動画を参考にしながら、ローズヒップティーを淹れるのにチャレンジするようになる。

 それを見て、同じく俊一の妹分・オレンジペコが動画の存在を知り。これまた「ズルい」とゴネて、俊一に電話で突撃。彼は3本目の紅茶淹れ動画を作ることになった。

 さらにさらに、そのやり取りからダージリンまで乱入。アッサム宛てのもの以外はパスワードを設定していなかったこともあり、なぜか聖グロ戦車道チーム内に拡散されてしまう。

 その結果、アッサムが他校の男子と仲がいいということが暴露される結果となり。聖グロの淑女たちからあれこれ質問攻めを受ける羽目になった。

 

「なぜこんなことになったのでしょう」

 

 アッサムは、上手く言えない心中複雑な面持ちで溜め息をつく。

 けれど、悪い気はしていなかった。

 

 

 

 ―続く―




主人公、なんてタチの悪い男なんだ。(知ってる)
槇村です。御機嫌如何。


ご無沙汰しております。
相変わらず「原作って何?」な内容ですが、
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

今回は、
「親しい男子に名前を連呼される動画を観て悶えるアッサムさん」
というのを思いついてしまったので書いた。
もうちょっと書きようがあった気もするが、おおむね満足です。

パスワード付きの動画なので、
再生数がそのままアッサムさんによる視聴回数になるのですが。
はてさて何回観たのやら。(ゲス顔)




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走り出す前にひと息。ゴールデンウィーク編
71:うれしくって抱きあうよ/アンチョビ



アンチョビさんやアンツィオ戦車道チームについて、
作者の自己解釈が強く出ている箇所があります。
ご了承ください。



 大洗学園が新学年を迎えると同時に、新たに始動した戦車道。メンバーもそれなりに集まって、オレもマネージャーみたいな立ち位置で参加することになった。

 といってもオレの場合は、ただおやつを作って、戦車道の練習を終えたみんなに振る舞うことしかしてないんだけど。いいのかこれで。

 まぁ、他になにかできる訳でもないので。OKということにしておこう。

 そんなこんなで、戦車道メンバーは毎日放課後になると、戦車に乗り込んで練習に励んでいる。しかも勢いづけるためなのか、杏さんはさっそく他校との練習試合をすることにしたんだとか。

 相手はなんと、聖グロリアーナ女学院。マジかよ。

 聖グロは名門だと聞いている。大洗学園の戦車道が動き出す前にちょっと親交があったとはいえ、ウチみたいな新設チームとの練習試合なんて受けてくれるものなんだな。正直、驚いた。

 しかもそれを身内からじゃなく、聖グロのアッサムさんから聞いて。二度びっくりした。アッサムさんからも「なんで知らないのか」と呆れられたよ。

 それはともかく。

 我らが大洗学園戦車道チームは、ゴールデンウィークが明けたらすぐに練習試合をすることになった。先方が大洗学園の方へ来てくれるらしい。学園艦ごと。……スケールがでっかいなぁ。

 当面の目標ができたおかげか、ウチの戦車道チームの面々は練習にも熱が入っているようだ。

 特に桃ちゃん先輩が張り切っていて、ゴールデンウィークも練習漬けにしようとしていたらしい。さすがに他のメンバーからブーイングが起こって、自由参加の自主練に変更されてたけど。確かに、連休の予定を全部潰されるのは堪らないよな。

 オレだって今月の頭から、ゴールデンウィークの予定は埋めていたのだ。後から「練習に付き合え」と言われても困ってしまう。オレは桃ちゃん先輩を脅してでもスケジュールを死守するつもりだった。

 

「なんたって、アンチョビさんに会いに行くんだからな」

 

 そう。こっちは1ヵ月も前から、アンツィオ行きの予定を組んでいたのだ。今さらキャンセルなんてできるはずがない。するつもりもなかったし。

 連休を使って、遠距離恋愛の恋人に会いに行く。

 言葉だけ聞くと、青春真っ只中なノロケ話に聞こえる。でもこれが自他ともに認める5股男のセリフとなると、何とも言い難い気持ちになる。自分でもそう思うもの。

 ちなみにアンツィオ行きについては、みほ、まほ、柚子さん、杏さんにも伝えてある。

 約1ヵ月ぶりにアンチョビさんと会う、と言ったら、「自分たちのことは構わず行ってこい」とむしろ送り出されてしまった。

 いわく、「もし自分だったら、1ヵ月も会えずにいるなんて耐えられない」とのこと。みほ、まほ、柚子さんが力説。そんな3人の後ろで、杏さんが苦笑いしてたのが印象的だった。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 ようやく迎えた4月末、ゴールデンウィーク初日。今日から土日を含んだ3日間、オレは泊りがけでアンツィオに行き、アンチョビさんとデートしまくる予定である。

 大洗学園の学園艦は、昨日のうちに大洗港に帰港している。気が急いていたのもあって、オレは朝一番で学園艦を下りた。目指すはアンツィオの学園艦の母港、静岡県・清水港だ。

 道中の電車の中では、乗り換えの時以外はほぼ爆睡。だから気がついたらもう目的地の清水駅、という感じだった。ずっと座りっぱなしだったせいで少し身体が痛いけど。

 

「着いたぜ、清水港」

 

 遠距離恋愛な恋人が待つ地である。気持ちが盛り上がって仕方がない。港に収まっているアンツィオの学園艦を眺めているだけで、少しソワソワしてしまう。

 とはいえ、待ち合わせは午前10時。時間までまだ30分以上ある。

 早く着く分には構わないだろう、と思って待ち合わせ場所に向かったのだが。

 

「あれ?」

 

 学園艦が接岸している埠頭近くにある、商業施設の待合所。待ち合わせをしていた場所に、もうアンチョビさんがいた。

 なんとなく落ち着かない様子で、浮足立ってキョロキョロしている。

 前に会った時は制服姿だったけど、今日のアンチョビさんは私服だ。

 ワンピース姿に、アウターを羽織っていて、どこかのお嬢様っぽくも見える。女性の服装のことはよく分からないけれど、とても似合っていた。

 めかし込んでるアンチョビさん、可愛い。

 それがオレとのデートのためだと思うと、胸がキュンキュンしてしまう。

 

「千代美さーん!」

 

 いてもたってもいられず、大声でアンチョビさんを呼んでしまった。つい本名の方で。

 名前を呼ばれて、周囲を見渡すアンチョビさん。

 オレに気付いて、目が合う。

 その瞬間、彼女の顔がすっごい嬉しそうになった。

 一瞬で喜色満面。パァァァァァっって感じ。

 やべぇ、可愛過ぎる。

 思わず小走りになって彼女のところへ向かう。

 逆にアンチョビさんは、ほぼ全力で駆け寄ってきて。

 

「おおせらぁーっ!」

 

 そして、オレに思い切り抱きついてきた。

 もちろんしっかりと、飛び込んできたアンチョビさんを受け止める。

 腕の中に納まる感触。嬉しい。

 

「うぁー。千代美さんだぁ……」

 

 そのまま、ぎゅーっと、抱きしめる。

 至福。オレはこのために静岡までやってきたと言っていい。

 

「千代美さん。会いたかった」

「私だって、会いたかったぞ」

 

 嬉しいことを言ってくれる。アンチョビさん、好き。

 お互いに再会を喜び合い、もっと密着するように彼女を抱き寄せる。

 アンチョビさんも、応えるように抱きしめ返してくれる。

 

「あ、そうだ。アンチョビさんって呼んだ方がいいんだっけ?」

「え? ……あー、おほん。うん、そうだな。アンチョビと呼べ」

 

 本名の方で呼ばれていたことは、気付いていなかったのかも。わざとらしい咳払いをしつつ、呼び方を修正するよう命じてくる。

 可愛らしい。

 

「了解しました。アンチョビさん」

 

 言われた通りに呼び方を変えてから。改めて抱きしめる。

 アンチョビさんも、なんだか恥ずかしくなったのか。赤くなったのを隠そうとするように、オレの胸板に顔を押しつけてくる。

 可愛いなぁ。

 片手を腰に回して、もう片方は頭を抱え込む。腕の中いっぱいに、アンチョビさんの柔らかな感触が広がる。幸せ。

 アンチョビさんも、すっごく緩んだ顔になっていた。オレと同じく喜んでくれているなら、嬉しいことこの上ない。

 しばらく、アンチョビさんを抱きしめる感触を堪能していたんだけど。

 彼女がいきなり真顔になる。

 

「……大瀬良。ちょっと確認したいんだがな」

「なに?」

「ひょっとして今の私たちは、周りからすごく見られているか?」

「見られてるねぇ」

「!!!!」

 

 何を今さら。オレは「むしろ見せつけてやるぜ」くらいの心持ちだ。

 ところがアンチョビさんはそこまで吹っ切れていなかったようで。

 すごい勢いで、オレの腕の中から離脱した。残念。

 でも、真っ赤になってる顔はとても可愛い。羞恥に震えるアンチョビさんは、非常に眼福だ。

 

「こ、ここここここういうことはだな、公共の場ではそのやっぱり!」

 

 慌てた様子で、ブンブンと身振りを入れながら、人目のあるところでは恥ずかしいと訴えてくるアンチョビさん。可愛い。

 

「落ち着いて、アンチョビさん。もっと注目されちゃうよ?」

「うぅ……」

「オレだって、少しは人目を気にしてるつもりなんだけどな」

「本当かぁ?」

 

 今度は、いぶかし気なジト目を向けてくる。

 くるくる表情が変わって、本当に可愛い。

 それはともかく。オレなりに周囲の目を気にしてるってのは嘘じゃない。

 

「だって、キスまではしてないでしょ?」

 

 だから、今はこれでガマン、と。

 少し頭を屈めて、アンチョビさんの頬に軽いキスをした。

 相変わらず真っ赤になったままだけど、驚いた顔になる彼女。

 そしてすぐに、嬉しさも混じったような複雑な表情になる。

 

「今日はふたりでいっぱい、デートを楽しもうね」

 

 オレはそう言いながら、手を握る。

 アンチョビさんは、キュッと、手を握り返してくれた。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 今いる場所は、商業施設の待合所。もちろんオレたち以外にも人はいっぱいいる。

 正直なところ、けっこう注目を浴びていた。

 恥ずかしさがリミットを超え始めていたのか。アンチョビさんは握った手をそのままに、むしろオレを引っ張るかのようにして、待合所を出ていこうとする。

 それに逆らうことなく、小走りのアンチョビさんの後ろについていく。

 目の前で、長いツインテールの髪が揺れる。揺れるたびに彼女の耳が見え隠れして、すごく赤くなっていた。可愛いなぁ、と思わず笑みがこぼれてきてしまう。

 

「……そんなに私を恥ずかしくさせて楽しいか」

 

 オレの楽しそうな雰囲気を感じ取ったのか、足を止めたアンチョビさんが振り返り、睨みつけてきた。

 でもその表情は、怒っているというよりも、拗ねているといった感じで。オレの中の「アンチョビさん可愛い」ゲージがさらに上がっていく。

 

「ごめんね。久しぶりに会ったアンチョビさんが可愛くて、つい」

「うぅ……。男と会うというのは、こんなに恥ずかしくなるものなのか」

「異性なら誰でもってわけじゃないよ。好きな人が相手だからこそこう、ドキドキとかワクワクとか」

「好きな人……。いや、そうかもしれないがはっきり言われるのもこう、なんというか」

 

 我ながらちょっと恥ずかしいやり取りをしながら歩いていたら、気がつくともう学園艦に乗り込む入り口まで来ていた。

 道中、アンチョビさんの知り合いらしき人と何人もすれ違う。そのたびに声を掛けられていた。からかわれたり、はやし立てられたりっていうのがほとんどだったけど。どちらにしても、人気者なことには変わりない。

 アンチョビさんも最初は慌てたり照れたりしていたものの。最後の方は開き直ったのか。

 

「彼は私のアマンテ(恋人)だ!」

 

 と、自ら公言してくれるように。嬉しい。

 嬉しい。

 堂々と言っておきながら、顔は照れまくりで真っ赤っかなのも可愛い。

 可愛い。

 学園艦の甲板上に出る頃には、アンチョビさんも吹っ切れたみたいで。

 手をつないだまま、ノリノリでオレを引っ張ってくる。

 

「さぁ、我らがアンツィオを存分に味わってもらうからな!」

 

 明るい年上彼女と手をつないで、先導されながら小走りで街を散策。

 これだけでも、顔が緩んでしまうシチュエーションだ。

 そんな、満面の笑みのアンチョビさんがお願いしてきたこと。

 そう。「ローマの休日」ごっこだ。

 前回、アンツィオをあちこちめぐった時の「ローマの休日」ごっこ。あの時は、まほがメインだったわけだけど。

 今日は、アンチョビさんが主役である。

 だから彼女は、自分も同じことをしたい、と言ってきた。

 

「後になって、すごくうらやましくなったんだ」

 

 ダメか? と、窺うようにオレを見つめてくる。

 上目遣いでおねだりをするアンチョビさん。うん、すごくいい。なんでも言うことを聞いてあげたくなってしまう。可愛い。

 

「アンチョビさん」

「ん? ひゃっ」

 

 学園艦の外からずっとつなぎっぱなしの手を、ちょっと引っ張る。

 そのままアンチョビさんは、オレの腕の中にポスンと収まって。

 彼女の腰に手を回しつつ、軽く抱き寄せた。

 

「これはあれだ、『なんという幸せ、あぁ幸せ』ってやつだね」

「それ、言うのは私の方じゃないか? キャスティング的には」

「でもオレ、すっごく嬉しいもの」

「私だって、嬉しいぞ」

 

 アンチョビさんはそう言いながら抱きついてくる。

 イメージよりもちょっと小柄な身体。柔らかな感触が、腕の中に広がる。

 可愛い。

 可愛くてつい、抱きしめたまま、彼女の頭に頬ずりをしてしまう。

 アンチョビさんも、オレの胸板に頭を押しつけてきた。グリグリと。

 そのたびにツインテールの髪が揺れる。

 つい抱きしめる腕に力が入るけど、アンチョビさんも逆らおうとはせず。むしろ抱きしめ返してきた。

 気がつくと、場所も構わずイチャつき始めてしまった。

 ……今いるのは、アンツィオ学園艦の甲板上。港ほどではないにせよ、人はそこそこいるわけで。しかもアンチョビさんは、アンツィオでは有名人。ということは、だ。

 

「うぉぉぉぉぉ、なんで私は場所も選ばずあんな大胆なことをぉぉぉ……」

 

 後々、アンチョビさんが思い返して悶えることになるんだけれど。

 それは割愛しておこう。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 自分から恋人の存在を公言し、キャーキャー言われたことで羞恥心が限界を迎えてしまったのか。アンチョビさんは、オレの手を引っ張りながら駆け出してしまう。早くも2度目の逃亡だ。

 でもまぁ確かに、顔見知りやら後輩やらに、恋愛事ではやされたりしたら恥ずかしくもなる。

 

「それにしても。慕われてるね、アンチョビさん」

 

 手をつないだまま走って、少し息が上がってしまったので。ちょうどいいところにあったベンチでひと休み。並んで座りながら、アンチョビさんに声を掛けてきた人たちを思い返した。すごい人数だった。

 

「はは。前にも言った気がするが、アンツィオではちょっとばかり顔が広いからな」

 

 まいったまいった、と、アンチョビさんはおどけるように笑う。

 でも、なんだか。

 上手く言えないけれど。

 ちょっとだけ、今の彼女は陰があったような気がして。

 

「アンチョビさん」

「ん?」

 

 つないだままの手に少しだけ力を入れた。

 きゅっ、と。優しく。包み込むように。

 

「気のせいかもしれないけど。アンチョビさん、何か気にかかることがあるのかな、って」

 

 驚いたような顔をするアンチョビさん。なんで分かった、みたいな感じ。

 分かりやすいなぁ。そんなところも可愛いけど。

 気にかけていることが何かは分からない。でも、笑顔が曇る何かがあるのなら、力になってあげたい。もちろん、無理やり聞き出そうとかは思わないけども。

 

「言いづらいなら無理に言わなくてもいいよ。でも、んー。そうだな」

 

 少しだけ思案を巡らせて。

 もう一度、彼女の手を握る。

 

「『今はできるだけ、好きにした方がいい』」

 

 いきなりだったせいだろう。アンチョビさんはちょっと呆けた感じで、目をパチクリさせた。

 でもすぐに察したのか。苦笑しながら、彼女は表情を緩ませる。

 

「なんだ。ジョーだけじゃなくて、主治医役までしてくれるのか」

「話を聞くくらいはできるかなって。戦車道のことだったらなんの役にも立てないけどね」

「これは、『サンキュー、ドクター』と返した方がいいのか?」

 

 アンチョビさんが笑う。うん、やっぱり笑顔の方がいいな。

 まぁそもそも、オレが見当違いなことを言ってるだけなのかもしれない訳だし。そうならサンキューどころの話じゃないんだけどね。

 笑みを浮かべながら、アンチョビさんが視線を外す。ちょっと、遠いところを見つめるような表情になった。

 

「……そうだな。アンツィオにも戦車道にも関わりが薄い、大瀬良なら言いやすいかもしれない」

 

 少し甘えさせてくれ、と彼女は言う。もちろん、どんとこいです。

 そう言ったら、彼女はちょっと苦笑したけれど。改めて話し始める。

 

「港で会った時に、大瀬良は『千代美』って呼んだろう? あれな、実は嬉しかったんだ」

 

 確かに、アンチョビさんは本名の方を呼ばせない。杏さんが『チョビ子』呼びしていた際も、そのつど「アンチョビと呼べ」と言っていた。

 オレもついさっき、久しぶりに会ったアンチョビさんに感極まって、つい『千代美さん』と呼びながらハグしてしまった。タイムラグはあったけど、その時もツッコまれた。

 

「アンチョビという名前にこだわるのはな、私なりの決意とか意気込みとか、そういったものの現れなんだよ」

 

 いわく。『アンチョビ』とは、アンツィオの戦車道を引っ張る隊長、頼りになる存在として立つため、自分を鼓舞するためにつけた名前なのだとか。ちなみに命名は後輩らしい。

 

「確か、戦車道チームを建て直すためにスカウトされたんだっけ?」

「そうだ。正直なところ、スカウトされたのは嬉しかった。だがな、いざアンツィオに入学してみれば、戦車道履修者はほぼ皆無。文字通りゼロからの建て直しだったよ」

 

 まさに孤軍奮闘。よくもまぁ頑張ったものだと、アンチョビさんは笑う。

 でだ。

 入学当時は、戦車はあっても人がいない。仕方ないので、1年生当時はとにかく戦車道の周知に徹したんだという。やがて、まだ見ぬ新規メンバーを率いる隊長として、それっぽく振る舞った方がいいだろうと考えて。今のアンチョビさん、アンツィオの総統(ドゥーチェ)というスタイルが生まれたのだとか。

 

「そんなこんなで。地道な活動が実を結んで、アンツィオの学園艦内で戦車道が認知されるようになった。後輩もたくさん入ってきてくれた。全国大会にも出れた」

 

 ……約2年でそこまでにするって、相当なことだと思うんだけど。ひょっとしなくても、アンチョビさんスゲェな。まほが「チームを再建してみせた手腕はすごい」と言っていたのも納得だ。

 

「1年生の時から3年生になった今まで、アンツィオ中を駆け回っていたおかげでな、私の顔はかなり広く知られてる。ありがたいことに、いろいろな人たちに良くしてもらっている。戦車道の後輩たちも慕ってくれている、と思う」

「うん。前回も今日も、いろんなところで声を掛けられてるでしょ。みんなすっごい笑顔で。アンチョビさんが人気者、というか、すごく慕われてるっていうのは伝わってくるよ」

「そうか。それは、素直に嬉しい。私もアンツィオのみんなが大好きだよ」

 

 でもな、と。アンチョビさんは、ちょっと複雑そうな笑みを浮かべる。

 

「私はこの学園艦で、『アンチョビ』でいることが当たり前になり過ぎて。気がついたら、『千代美』を表に出すことが難しくなっていたんだ」

 

 もちろん、『アンチョビ』は『千代美』さんの一部ではある。けれどアンツィオの戦車道を引っ張っていくために、誰の前でも『アンチョビ』でいる必要があった。ということか。

 

「期待に応えないといけない自分と、素の自分、みたいな?」

「そうだな。あ、でもな、『アンチョビ』な自分が嫌なわけじゃないんだぞ? ただちょっと、肩の力を抜きたい時もあるというか。例えば朝起きる時に、もう10分寝てたいみたいな。甘えに負けたくなるみたいな」

 なるほど。分かるような気がする。

 というか、その状況って。

 

「まさに、アン王女じゃない?」

「おこがましいけどな。映画を観て、自分を重ねてしまったのは確かだ」

 

 でも、ちょっとだけだぞ? と。なんだか申しわけなさげに言ってくる。その表情が、こちらの様子をうかがう小動物っぽく見えて。ついつい撫でてあげたくなってしまう。

 というか、自然にアンチョビさんの頭を撫でていた。

 いきなり撫でられて、アンチョビさんはちょっと驚いたみたいだけど。嫌がるような素振りは見せず、目をつむって、されるに任せている。心なしか嬉しそうに見えるのは、気のせいじゃないと思いたい。

 

「別に、『アンチョビ』であり続けるのが嫌なわけじゃない。でもな、あの『黒森峰の西住まほ』が、大瀬良の前で全然イメージと違う姿を見せているのが、見せられる相手がいるのが、うらやましいと思った」

 

 まほも確かに、西住流の後継者だとか、名門の娘だとか、連覇の懸かったチームの隊長だとか、いろいろな「求められている姿」があった。オレと恋仲になってからは、それとは違う、妹思いな自分を無理せずに出して、楽しそうにしている。アンチョビさんにも、どこか通じるところがあったのかもしれない。

 

「そのあたりが、私も大瀬良に惹かれた理由なのかもな」

 

 なんて言いながら、アンチョビさんは微笑む。

 すごく、照れくさい。

 今度はオレの方が顔を逸らしてしまう。

 

「前に、お前たちがアンツィオに来た時。西住が『ローマの休日』ごっこに夢中だったろう」

「うん。あったね」

「あの時はびっくりした。戦車道の世界では名の知れた、あの黒森峰の西住まほが、男にべったりと甘えていたんだからな。これまでの彼女を知っている人間が見たら、絶対にびっくりするぞ? イメージが全然違う」

 

 うん、それはオレも良く分かる。熊本で会ったばかりのまほと、今の彼女の落差は相当なものだと思うし。それ以前のまほを知ってる人からすればなおさらだろう。

 

「西住も、アン王女に自己投影してたらしいからな。黒森峰の隊長、それに西住流の人間としての自分と、全部とっぱらった素の部分。どうあるべきか悩んでいたようだな」

「まほちゃんにも、被るね」

「今まで戦車道を通してばかり見られていたけれど、自分の素の部分を受け入れてもらえて救われた、と言っていた」

 

 私もそうだ、と。

 アンチョビさんは続けて言う。

 

「というかお前は最初から『アンチョビ』も『千代美』も関係なかったな」

「うん。そうだね」

 

 まぁオレは、戦車道の世界を何も知らないわけだから。アンチョビさんと会った時にも、いわゆる『アンチョビ』のフィルターはなかった訳だしね。見たままのアンチョビさんと接していただけだ。

 

「たぶん私は。『千代美』の部分を見てもらえるのが嬉しかったんだよ」

 

 つないでいた手が、彼女の方から握りしめられる。

 アンチョビさんは、オレの顔を見つめて。

 まぶしいくらいの笑顔を見せてくれた。

 

 

 

 ―続く―




こんなアンチョビさんはいかがですか?
槇村です。御機嫌如何。


仲間思いで滅私的なところのある、戦車道第一な「アンチョビ」と。
恋愛小説好きでちょっと自信のなさもある、素の部分の「安斎千代美」。
そんなアンチョビさんの中にあるふたつの面を、
『ローマの休日』のアン王女に見立てて書いてみようとした。
王女としての自覚と、王女ではない部分をさらけ出したい心の両面性。
伝わるだろうか、この感覚。
どれだけ形に出来ているか不安である。

ちなみにこの小説では、
聖グロとの練習試合はゴールデンウィーク明けに設定しております。




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72:ローマの休日 トレヴィの泉にて/アンチョビ

 アンチョビさんと、ベンチに並んで座りながらいろいろと話をする。可愛い笑顔を向けられながら、アンツィオにおける彼女の立ち位置だとかをいろいろと聞いた。

 彼女が個人的に引っ掛かっていることはなんなのか。

 オレが思うにそれは、アンツィオにいる限り求められ続けるだろう『アンチョビ』像からは逃れられない、ということなんじゃあるまいか。

 

「難儀な話だよなぁ」

 

 アンツィオの戦車道チームを引っ張る者として、常に『アンチョビ』として在らなければいけない、と、アンチョビさんは言った。聞いているだけだと、立場を強いられているような感じがして大変だなと思いはする。

 でもアンチョビさん自身、それはやりがいがあって楽しいことだ、と嬉しそうに言うのだから。きっとマイナスな感情はないんだろう。アンツィオのみんなのことが大好きだと言っていたし。

 ただ、『アンチョビ』で在り続けるのも肩が凝る。肩の力を抜きたい時もある。

 彼女が言っているのは、そういうこというなんだと思う。

 それならオレは、アンチョビさんが素の『千代美』を気兼ねなく出せるような接し方をしよう。甘えられるのは、迷惑どころか嬉しいくらいだ。オレの前でくらいは、戦車道の「せ」の字もないようなやり取りがあってもいいんじゃないかな。

 彼女が『千代美』を出したいと言うなら、その手助けをしよう。

 望むことに応えてあげよう。

 思うままに甘やかしてあげよう。

 オレと一緒にいることが、普段のアンチョビさんの息抜きや救いになるように。

 喜ぶようなことをいっぱいしよう。

 

「まずは、『ローマの休日』ごっこだね」

 

 前回のアンツィオ行きで、まほとやっていたおふざけみたいなこと。今度はアンチョビさんが主役で、同じようなことをやろう。思う存分、お姫様扱いしてあげよう。

 ……いや、この場合はお姫様扱いっていうのは間違いなのかな。

 

「どう思う? アンチョビさん」

「お姫様扱いはすごく惹かれるものがあるんだが……。お姫様だと分かっていながらも自然に接してくれる、みたいなシチュエーションもいいなと思ってしまう」

「まぁ、難しく考えなくてもいいか。アンチョビさんを大事にしたいって気持ちは変わらないし」

「うぉぉぉ……。こっぱずかしいぞぉ……」

「こっぱずかしいって」

 

 頭に手をやりながら、何やら悶え始めるアンチョビさん。可愛いなぁ。

 恥ずかしがるアンチョビさんを愛でつつ、当面の目的地を頭に思い描くオレ。

 『ローマの休日』ごっこというのは、映画のストーリーをたどりながら、要所要所でイチャイチャしようというのが趣旨になる。ベースとしては、まほと回ったルートが鉄板だとは思う。でもアンチョビさんが何か一緒にやってみたいこととか、行ってみたいところがあるなら、どんどん追加していこう。

 

「というわけなんだけど。アンチョビさんは何かある?」

「……昨日まで、いろいろと考えていたはずなんだが。いざとなると、そういうのがすっかり頭から飛んでいってしまった」

「アンチョビさんは可愛いなぁ」

 

 片手で顔を覆いつつ、恥ずかしそうにそっぽを向くアンチョビさん。可愛い。

 それはつまり、デート当日になるまであれやこれやと、オレと何をしようかと考えていてくれていたってことになる。嬉しい。

 つないだままの片手をにぎにぎと握りしめつつ、とりあえず大まかな流れを提案してみる。

 トレヴィの泉で、恋愛成就のコイン投げ。

 スパーニャ広場で、ジェラートを食べる。

 真実の口で、愛の再確認。

 その他にも、あれこれと。その場その場での思いつき次第ということで。

 

「アンチョビさん、どう?」

「なんというか、見事に恋愛系のものばっかりだな」

「何を他人事みたいに。アンチョビさんは当事者だから。オレとラブラブするための……」

「言うな! 分かってるんだ! 分かっていても恥ずかしいんだ!」

「でも嬉しいんでしょ?」

「……嬉しい」

「いやもう本当に、アンチョビさんは可愛いなぁ」

 

 なんというか、彼女の反応がいちいち可愛らしくて。アンチョビさんに抱きついてしまう。

 アンチョビさんはいきなりのことに、あわあわし始めた。でも抵抗したりせず受け入れてくれる。嬉しい。

 

「何も今すぐ決めなくったっていいよ。歩いてる途中で何か思いついたら、そのつど実行していけばいいでしょ」

 

 アンチョビさんに抱きついて、頭に頬ずりをしながら、オレはそんな風に言う。

 彼女は顔を真っ赤にしたまま、ちょっとだけふてくされたような顔をする。あれかな、オレに振り回されてるみたいな気持ちになっているのかな。

 それでも、オレの腕を振りほどこうとするでもなく。抱きしめられるままでいる。

 可愛い。

 愛でたいという気持ちのまま、アンチョビさんの頭にぐりぐりと頬ずりをする。ちょっと大袈裟なくらいに。

 

「おいこら、あんまり調子に乗るな」

「だって、アンチョビさんが可愛いんだもの」

「お前、そう言えば私が喜ぶと思ってるだろ」

「えー。嫌だったなら、これからは言うのを控えるけど?」

「よせ、嫌じゃない。いやそうじゃなく、嫌じゃないんだがもっとこう」

 

 アンチョビさんがわたわたしながら、オレのスキンシップに苦情を入れてくる。でも「止めるな」と言ってくるあたり、やっぱり可愛らしくて仕方がない。

 

「まぁいいじゃない。アンチョビさんは可愛いなぁ、と思ってるのを素直に口にして、スキンシップで現してるだけなんだから」

 

 だからオレの前では難しいことを考えずに、素の「千代美」を出してくれると嬉しいな。

 そんなことを言うと、アンチョビさんはとたんに顔を真っ赤にさせて。オレの腕に顔を押しつけて、表情を隠そうとする。どれだけ恥ずかしかったのか、ぎゅーっと、思い切り押しつけてくる。

 赤面顔は見れなくても、その反応だけで照れているのが丸分かりだ。可愛い。

 

「とりあえず、せっかくのデートなんだからさ。ローマの休日ごっこでもなんでも、アンチョビさんがやりたいと思ったことをおねだりしてみればいいよ」

 

 やりたいと思ったことを、片っ端から一緒にやっていこうぜ。

 彼女の頭に頬ずりをしながら、悪戯っぽく言ってあげる。

 

「……」

 

 アンチョビさんの、顔を押しつけてくる力が弱くなった。

 あれ、どうしたんだ?

 いぶかしんでいると、アンチョビさんが、恐る恐るという感じで顔を上げる。オレの方に目を向ける彼女は、ちょっと困ったような表情をしていた。

 あれ? 何か困らせるようなこと言っちゃったか?

 

「あのな、大瀬良」

「うん。なに?」

「気持ちはすごく嬉しい。こう、なんだか、甘えさせてくれるというのも心地良くて。すごくいいんだが」

「うん。ばんばん甘えてほしいな」

「えーっと、だな」

 

 言おうか言うまいか、みたいに、むにゃむにゃと口を濁すアンチョビさん。視線を外して、ものすごく言いづらそうな感じ。

 いったい何事か、と思っていたら。

 

「さっきも言ったが、私も、今日のことが楽しみで。どんなことをしようかとか、昨夜はいろいろ考えたりしていたんだ」

「おぉ」

 

 つまりアンチョビさんも、オレとデートをするのを楽しみにしてたってことだよね。

 それは嬉しい。また彼女の頭に頬ずりをしてしまう。

 

「おい、茶化すんじゃない」

「いやー。アンチョビさんもウキウキしながら今日を待ち望んでいたのかと思うと、嬉しくなっちゃて」

「だからそういう……。まぁ、間違いじゃないんだが」

 

 さっきとはまた違った感じで、ごにょごにょとつぶやくアンチョビさん。

 声が小さくなっていたけど、ばっちり聞こえてたからね。

 

「可愛いなぁ、アンチョビさん」

「くっ。こう、何度も何度も……」

 

 なんだか「ぐぬぬ」みたいな反応をしてる。

 でもオレの腕の中から抜け出す素振りは見せない。

 それをいいことに、もっと抱きしめて。頬ずりと一緒に頭まで撫でてしまう。

 そんな状態で話の続きを聞くと。

 

「いざ自分がそんな立場になって、好きなことをあれこれやろうと思ってもな。その、何をすればいいのか分からなくなった」

 

 つまり、デートで何をすればいいのか分からない、と。

 ものすごく恥ずかしそうにアンチョビさんが言う。

 いざ本番になって準備していたものが吹っ飛んでしまう、というのはオレも分かる。

 それがオレとのデートが楽しみ過ぎて、というのだから。

 胸がキュンキュンして仕方がない。

 ならばオレの方がリードしてあげる、というのが男の甲斐性ではなかろうか。

 よしオレに任せろと、アンチョビさんに豪語して見せる。

 

「何をしようかとか、どこに行こうかとか、思いつかないなら一緒に考えればいいよ。なんなら一度決めたことだって、なんか違うなと思ったら止めちゃって、また新しい何かを一緒に考えればいいしね」

 

 というわけで。とりあえずは「ローマの休日」ごっこでいくことにした。変に奇をてらうことなく、まほと前回巡ったルートをそのままたどることにしよう。

 

「じゃあ、さっそく行こうか」

 

 オレが手を差し出すと、アンチョビさんは素直に手を取ってくれた。

 照れくさそうにしているのが可愛らしい。

 手を握ると、彼女も「きゅっ」と握り返してくれる。

 普段から戦車に触れているからなんだろう。アンチョビさんの手はちょっとがさついているというか、たくましい感じ。

 でも女の子らしい小ぶりな手で、柔らかな感触が伝わってくる。

 なんだか嬉しくなってしまって、つないだ手を何度も握ってしまう。

 アンチョビさんもそのたびに、手に力を入れて握り返してくる。

 しばらくそんなことをしてから、なんとなく目が合って。

 

「ぷっ」

「くく、何をやってるんだろうな」

 

 あはは、と、ふたりして笑いながら。

 手をつないだまま一緒に歩き出した。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 トレヴィの泉。「後ろを向いた状態で泉にコインを投げると願いが叶う」という名所で、その願いの内容は投げる枚数によって変わる。

 アンツィオにあるのは、言うなれば本場イタリアのものを模しただけ。でも願いが叶う云々も一緒に輸入されてきたようで。願掛けスポットとして内外で人気を集めているという。

 

「というわけで、やってきましたトレヴィの泉!」

「私が言うのもなんだが、テンション高いな大瀬良」

 

 盛り上がっているオレに、ツッコミを入れてくるアンチョビさん。そう言いながら、彼女もウキウキしているのは丸分かりだ。

 恋人と一緒に来たからには、願うのは恋愛成就系のもの。コインを2枚投げると大切な人と永遠に一緒にいられる、と言われている。

 前回来た時は、まほとイチャついてばかりだったので。今回は改めて、アンチョビさんのためにコインを投げるのだ。

 ツッコまれてしまった通り、オレはテンションを上げてノリノリ。

 でもアンチョビさんは、高揚しているのと同時に、ちょっと緊張している様子。

 

「まさか私が、恋愛関連の当事者としてここに来るとは想像もしていなかったからな」

「まったく? 少しも考えなかった?」

「……ちょっとだけ、した、な」

「じゃあ今からオレと、その想像を現実のものにしよう」

「そういうのを声に出すな! 恥ずかしいだろ! 嬉しいけど!」

 

 アンチョビさんが、ぷいっ、と、そっぽを向いてしまった。

 拗ねちゃったのか、それとも恥ずかしくなったのか。

 どちらにせよ、甘えてくれているように思えて悪い気はしない。

 オレは張り切って、あらかじめポケットに入れていたコインを2枚取り出す。

 もちろん、500円玉だ。

 合計1000円の硬貨を手の中で弄ぶオレを見て、アンチョビさんは何度目か分からない呆れた声を漏らす。

 

「前も思ったが、500円玉2枚とか豪気過ぎるだろう」

「変にケチると、好きって感情も出し惜しみしてるような気がして」

 

 もちろん、100円玉だから想いが小さいとか言うつもりはこれっぽっちもない。あくまでオレの気持ちの問題だ。滅多に来れない場所でのイベントなら奮発しちゃおうぜ、みたいな感じかもしれない。

 

「じゃあ、さっそく行くよー」

 

 泉に背を向けて、硬貨を投げるべく身構える。ちょっとわざとらしいくらいに。

 そして、「アンチョビさん大好きだ―」と口にしながら、背中を向けた泉に向かって勢いよく投げる。

 

「アンチョビさん、泉に入った?」

「おぉ、しっかり入ったぞ」

 

 無事着水を確認して、ガッツポーズをするオレ。

 さらに勢いでアンチョビさんとハイタッチをしてみせた。

 

「じゃあ次は、アンチョビさんの番ね」

 

 はいどうぞ、と、500円玉を2枚手渡す。

 その途端、アンチョビさんが身をこわばらせた。

 触っている手からも伝わってくるくらい、ガチガチだ。

 

「アンチョビさん?」

「お、おおおおお、うん、平気だぞ平気よし行くぞ」

 

 明らかに不自然な態度。というか、言葉だけじゃなく挙動までおかしい。錆びたロボットみたいなぎこちなさを見せたと思ったら、500円玉2枚を握りしめて超スピードで背中を向けてしまった。

 さらに、少し背中を丸めて何やらブツブツつぶやいている。

 

「……私だけ失敗なんてできないぞ」

 

 小さな声で聞こえたセリフ。どうやら、オレが成功させたのに、自分がうまくできなかったらどうしようとか思っているみたい。それはそれで、彼女の好意が伝わってきて嬉しくなってしまう。

 内心ニヤついているオレをよそに、アンチョビさんは。

 

「よし、行くぞ!」

 

 何か覚悟を決めたかのように、むっちゃ気合を入れたポーズで500円玉を投げようとする。

 大袈裟に見えるけど、それがまた絵になるのがなんとも。

 

「とりゃあ!」

「あ」

 

 でも、勢いのよさが空回りしてしまったのか。

 背後の泉へ向けて投げたつもりの500円玉が、アンチョビさんの頭上高くへと飛んでいった。

 アンチョビさん、投げた手を真上に上げたまま硬直していた。しかも目をつぶってる。

 これはいかん、と駆け寄って。

 

「アンチョビさん、ちょっとごめんね」

「ひゃわっ!」

 

 彼女を片手で抱き寄せる。いきなり抱きしめたせいか、アンチョビさんが変な声を出した。

 ひとまず彼女のことは置いておいて。抱き留めたのとは逆の手を伸ばす。

 そこに、アンチョビさんが投げた500円玉が落ちてくる。2枚ともしっかりキャッチ。

 よしよし。

 

「アンチョビさん、アンチョビさん」

 

 投げ終わって腕を上げた状態のまま、腕の中で硬直しているアンチョビさんに声を掛ける。

 なんだか目を白黒させているけれど、彼女は手にした500円玉を見せると驚いた顔をした。

 くるくる表情を変えるのが本当に可愛らしい。

 と思ったら、今度は泣きそうな顔になった。

 え、どうしたのアンチョビさん。

 

「コイン投げ、失敗してしまった……」

「あぁ、なるほど」

 

 恋愛成就を願ったコインが泉に入らなかった、だから自分の恋は成就しない、どうしよう。

 みたいなことを考えてるのかもしれない。

 乙女心をくすぐるものにアンチョビさんは滅法弱い。だから、トレヴィの泉でコインを投げて恋愛成就、みたいなことはツボに刺さりまくりだと想像できる。

 だからこそ、いざ自分がやるとなると緊張して、ガチガチのまま投げてしまい、「しくじった!」と大ショック。失敗したら、もしかするとオレとの仲がどうこうしてしまうかも、なんてことまで連想してしまったのかな。

 そんなわけないのに。

 

「もう本当に、可愛いなぁ」

 

 腕にちょっとだけ力を入れて、涙目のアンチョビさんを抱きしめた。落ち着かせるように頭を撫でてあげる。

 戦車道ではイケイケな感じっぽいアンチョビさんだけど、「千代美」の方では案外そうでもないのかも。どっちでも自信を持っていいと思うんだけどな。

 

「平気だよ、アンチョビさん。コインが落ちる前にオレが取ったから、セーフセーフ」

 

 失敗じゃないよ、問題ないぞと彼女にアピールする。

 むしろちゃんと泉に着水するまで何度もやっちゃえばいいじゃん。

 というか、一緒に投げ直せばノーカンになるんじゃない?

 

「そうなのか? 本当にセーフなのか?」

「そうそう。セーフセーフ。オレが許します」

「いいのかそれって」

「恋愛成就の相方であるオレがそれでいいって言ってるんだから。イタリアの恋の神様だろうとオードリーだろうと、文句は言わせないよ」

「なんだそれは」

 

 アンチョビさんが、オレに抱きしめられたまま笑う。

 うん。いろいろ百面相が見れるのも嬉しいけど、やっぱり笑顔が一番だよね。

 というか、おまじないが気になるのなら、成功するまで何度だってコイン投げをすればいい。

 恋でもなんでも、加点式で行こうぜ。

 空中でキャッチした500円玉をポケットに仕舞い、逆のポケットから新たに500円玉を2枚取り出す。投げるコインを交換して心機一転、再チャレンジだ。

 そんなオレにアンチョビさんは、何度目かの呆れた顔を向けてくる。

 

「大瀬良、お前はどれだけ用意してたんだ」

「とりあえず4回分くらい」

 

 胸を張って言うオレ。腕の中で、呆れの色を深くするアンチョビさん。

 なんだか気に病むのも馬鹿らしくなってくるな、と、アンチョビさんが小さな声で漏らし。力を抜いて、もたれ掛かってくる。可愛い。

 抱きしめたまま、彼女の頭に頬ずりをする。

 アンチョビさんもくすぐったそうにするけれど、拒否感はないようだ。

 しばらくアンチョビさんをハグする感触を堪能して。

 話を元に戻す。

 

「ともあれ、コイントスのリベンジ。不安ならオレと一緒にやろうよ」

 

 改めて、恋愛成就のコイン投げに挑戦だ。

 抱きしめていたアンチョビさんの肩に手を置いて、そのまま彼女の身体を回れ右させる。

 そのままアンチョビさんと一緒に、泉を背中に向けた状態でスタンバイ。

 500円玉2枚を彼女に握らせて、その手をさらにオレの手で包む。

 

「さっきのはノーカン。やり直しは、オレもサポートするよ」

 

 恋人同士の共同作業ってやつだね。うん。

 なんてことを耳元で言ってみたら、アンチョビさんがまた硬直した。

 

「恋人との、共同作業……」

 

 と思ったら、今度は急に脱力して、片手で顔を覆いながら身悶え始めた。

 どうやらまた、アンチョビさんの乙女心に何かヒットしたらしい。

 

「うおおお、恥ずかしい。でもイヤじゃない」

 

 なんというか、何度言っても足りないくらい可愛いんだけど。

 アンチョビさんの背中から覆いかぶさるような体勢だったので。そのまま手を彼女の顔に持っていって、ほっぺたをむにむにしてみた。おぉ、柔らかい。素晴らしい。

 

「ひゃにをする、ひゃめろおおひぇら」

「いやもう、アンチョビさんが可愛くて、何をしてもメロメロだよオレ」

 

 よし。ここはひとつ、しっかりコイン投げも成功させて、アンチョビさんとの仲をさらに強固なものにしようじゃないか。

 だから頑張ろう、と。アンチョビさんに後ろから抱きついて、彼女の手にオレの手を添える。

 500円玉を握った手を軽く腕ごと上下させて、コイントスの動作をするように動かす。

 

「こんな風に、てっぺんに行ったところで手を放せば、後ろの方に飛んでいくよ」

「少し落ち着いていれば、なんてことのない簡単なことなんだがな。なんでさっきの私はしくじったのか……」

「それだけ真剣に、オレとの仲のことを考えてくれてたってことでしょ?」

「大瀬良やめろ。いじめるな」

「ごめんごめん」

「うー……」

 

 ごまかすように、アンチョビさんの頭に頬ずりをする。ちょっと乱暴にぐりぐりと。バックハグをした状態なので、身体の前面がアンチョビさんの背中に密着する。彼女は何やら恥ずかしそうに唸るばかりだ。

 

「イチャついてばかりだとキリがないから、そろそろ本題に入ろうか」

「いやその、こういうやり取りがイヤなわけじゃなくてだな」

「じゃあコイン投げを成功させてから、もっとイチャつこう」

「堂々と言うな恥ずかし過ぎる!」

 

 スキンシップが過ぎたのか、アンチョビさんが半ギレ気味に吼えた。

 でもむしろ、緊張しないという意味ではいい状態なのかもしれない。いい具合に硬さがなくなっているので、今のうちに2回目のコイン投げを始めてしまおう。

 

「アンチョビさん、さっき言ったとおりに。1、2、3で、腕をてっぺんに上げて投げる。じゃあいくよー」

「え。いやいや大瀬良ちょっと待て」

「待たなーい。はい、いーち、にー」

「あーもう! とりゃあーっ!」

 

 強引なリードでやけっぱちになったのか。アンチョビさんは吼えながら腕を上へと振るう。

 オレと一緒に投げた500円玉たちは弧を描いて、いい感じに後方へと飛んでいく。

 

 ちゃぽん

 

 今度は見事に、泉へと着水した。

 

「お……、おぉ! 大瀬良大瀬良、成功、成功したぞ!」

「さすがアンチョビさん。やったぜ」

 

 アンチョビさんは大歓喜。オレの手を取って、ぶんぶんと振り回しながら喜びを伝えてくる。

 喜色満面、まぶしいくらいの笑顔。

 オレだけに向けられてるその表情を至近距離で堪能しながら。

 トレヴィの泉の前で一緒にくるくると回りながら、お互いに喜び合うのだった。

 

 

 

 ―続く―




まごうことなき、バカップル。
槇村です。御機嫌如何。


ご無沙汰しております。
どうしてこんなに時間が開いたのか、自分でも分からない。
せめて月イチ更新くらいにはしたい。(何度目だろうこのセリフ)

自分のことはさておき。
もっと展開が早くなるかなと思っていたんですが、
気がついたらトレヴィの泉だけで8000字に。
おかしいな。

アンチョビさんとのイチャイチャはまだ続く。
次回はジェラートを「あーん」します。




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73:ローマの休日 スパーニャ広場にて/アンチョビ

 アンツィオの学園艦にある、トレヴィの泉。学園内外の人たちが集まる観光スポットで、オレとアンチョビさんは恋愛成就のコイン投げをしながら堂々とイチャついていた。

 アンチョビさんは自分でも言っていた通り、アンツィオではかなりの有名人。時々周りから「ドゥーチェが男と一緒にいる!」みたいな声が聞こえていた。

 

「あれが噂のドゥーチェの彼氏?」

「うっわドゥーチェすっごいデレデレ」

「正直可愛い」

「可愛い」

「ドゥーチェ! ドゥーチェ!」

 

 って言う感じ。愛されてるなぁ、アンチョビさん。

 でも当の本人は、周囲の声に気が回せるほど余裕を持ててないようだ。衆人環視の中でベタベタとイチャついていた事実に気がついて、羞恥のあまり悶えている。

 うん、可愛い。

 前回アンツィオに来た時に見た、戦車道について語る自信満々なアンチョビさんとは違った顔だ。まぶしい笑顔だったり、緊張感のないゆるんだ表情だったり、おどおどした不安げな顔だったり、パニックになって涙目で取り乱す顔だったり。素の部分をくるくると絶え間なく見せてくれるのが、なんともまぁ、愛らしい。

 

「百面相をしてるアンチョビさんも可愛いよ」

 

 なんてことを囁けば、アンチョビさんはさらに羞恥心をヒートさせてしまう。

 とはいえ、あんまりやり過ぎて怒られるのはよろしくない。

 分かってはいるんだけど、ついつい愛でたくなるのだ。

 

「そうやって何度も何度も! あんまりいじめるな、泣くぞ!」

 

 あ、やっぱり怒られた。

 アンチョビさんが顔を真っ赤っかにしながらキレる。

 

「ごめん。本当にごめん。これからは極力、からかうのは控えるから」

「やっぱりからかってたんだな! ひどいぞ大瀬良!」

「すっごく素直な反応をしてくれるアンチョビさんが可愛くて、止まらずついつい」

「あ、うぅ、そういうことを言うなぁ……」

 

 オレの言葉に彼女はまた硬直する。改めて自分のしていたイチャイチャを思い返したのか、頭を抱えて再び悶え始める。

 少しは吹っ切れたみたいだけど、おおっぴらに「自分は彼氏とラブラブだぞ」と公言するのは恥ずかしい。そんなところだろうか。さすがのオレでも、それくらいは分かるし、同意できる。

 

「別に隠すつもりはないが、強いて触れ回るつもりもないんだからな。というか、身内の誰かに知られたら、ノリノリで噂を広めるのが簡単に想像できるぞ」

「じゃあもう、あれこれ考えても遅いのでは?」

「うあああああ……」

 

 アンツィオの生徒たちのノリと勢いは随一、と言われるらしい。アンツィオ有数の有名人であるアンチョビさんの恋愛事情なら、それはもう生徒たちにバンバン広がっていきそうだ。

 アンチョビさんも同じようなことを考えていたのか、頭を抱えてる。

 そんな彼女の肩をポンポンと叩きながらなだめる。

 

「オレは、アンチョビさんの恋人として認知してもらえるのはすごく嬉しいよ?」

「あうっ。そんな恥ずかしいことを堂々と……」

「好意はストレートに伝えてなんぼだと思ってるので」

「恥ずかしいけど、嬉しいぞ。でもな、嬉しいけど恥ずかしいんだ!」

 

 そんなやり取りを、声が大きくなりそうなのを抑えつつ、お互いの顔を近づかせてやっている。内緒話というわけじゃないけれど何となく、周りに聞かれるのを避けるような感じになってしまった。

 ちょっと困り顔なアンチョビさんが、頬がふれそうなくらいのところまで近づいてくる。

 可愛い。

 ここまで距離が近くなっても抵抗がない、っていうのが、本当に嬉しい。

 また周りが見えなくなっちゃってるのも、それだけ気を許してくれてるからなのかな。

 

「ねぇねぇ、アンチョビさん」

「ん?」

「ひょっとしたら忘れてるかもしれないので、改めて言うのですが」

「いきなりかしこまってなんだ。怖いぞ」

「今、顔を寄せてこしょこしょしてるのも、周りの人に見られているのですが」

「……あ」

 

 キスまで1秒も必要ない距離。赤くなったアンチョビさんの顔がよく分かる。

 

「油断してるアンチョビさんも、可愛いよ」

「そういうことを言うな! 嬉しいけど!」

「それだけ気を許してくれてると思うと、オレとしても胸キュン必至なんだよね。千代美さん」

「千代美言うな! いや、言ってもいいけど時と場所を選べ!」

 

 顔を赤くして身悶えながらも、オレに突っ込みを入れてくるアンチョビさん。いやもう、どうしてこんなに可愛いのか。

 思わず彼女の頭を撫でてしまう。その手を払うこともなく、抵抗しないところもまたキュンキュンしてしまう。

 

「うぅ、男とイチャついてるという噂がどこまで広がってしまうのやら……」

「オレは別に構わないよ。本当のことだし」

「大瀬良は大洗に帰るんだから被害はないだろ!」

 

 確かに。男にメロメロとか噂される未来が、オレでも簡単に想像できる。その渦中にアンチョビさんが残されることを考えると、少しばかり申しわけない気持ちも生まれてくる。

 だからといって、アンチョビさんとイチャイチャするのを自重しようという気にはなれないわけで。

 

「もうさ、細かいことは考えずに楽しんじゃおうよ。いっそのことツッコむのも野暮なくらいにイチャついちゃおうぜ」

 

 難しいことは考えずに、一緒にいる時間を目いっぱい楽しもう。

 そう言いながら、オレはアンチョビさんの手を取る。

 握る手に少し力を入れれば、アンチョビさんも恥ずかしそうに握り返してくれる。

 

「よっし。それじゃあ、次のイチャつきスポットにアバンティ!」

「あっ。おい、こらっ」

 

 英語とイタリア語のちゃんぽんな掛け声と共に。

 オレは、アンチョビさんの手を引きながら歩き出した。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 スパーニャ広場の、通称・スペイン階段。映画『ローマの休日』でアン王女がジェラード食べてるシーンなどで有名な場所だ。

 そういえば、ちょっと気になったんだけど。

 

「アンツィオ校って、外部からも観光目的の人とかが出入りしてるんだよね」

「そうだ。特にこの広場なんかは、観光客目当てに店を出す生徒がいっぱいいるぞ」

「たくましいなぁ」

 

 さっきまでいたトレヴィの泉もそうだけど、恋愛絡みのスポットもあるじゃない? 『ローマの休日』の舞台そっくりなところがいっぱいある。目の前のスパーニャ広場に足を運んだ人たちの中には、ロマンチックさを目的にした人もそれなりにいると思うんだ。

 

「この場所に、カップルってどれくらいいるのかな」

「アンツィオの生徒には、あまりいないような気がするぞ。女子校だしな」

「へー」

「あと、前にも言ったが、ウチの生徒は色気より食い気なところがあるからなぁ」

「なるほど」

 

 ということは、だ。

 

「じゃあオレとアンチョビさんが、ほぼ唯一のカップルなんだね」

「そ、そう、なのか?」

「ゼロではないだろうけど、その中で一番ラブラブなカップルにはなりたいなぁ」

「だから、そういうのは、恥ずかしいから止めろ! 嬉しいけど恥ずかしい!」

 

 顔を真っ赤にしたアンチョビさんが、ポコポコと駄々っ子パンチをしてくる。

 ははは、そんなことをしても可愛らしいだけだぞう?

 可愛い反応を返してくれるアンチョビさんと、スパーニャ広場にきた目的はひとつ。

 ここでアイスを買って、お互いに「あーん」をすることだ。

 そう言うと案の定、アンチョビさんは羞恥にまみれながら声を上げる。

 

「恥ずかしくて死んでしまいそうだ……」

「じゃあやめる?」

「やる!」

 

 あぁ。アンチョビさんの乙女な反応がいちいち可愛いくてツラい。

 勢いでうなずいてしまって、また恥ずかしがるところも可愛いよね。

 恥ずかしいけどやってみたい、でも恥ずかしいと悶えっ放しな彼女の手を取って、いざジェラート屋さんへ。前回アイスを買ったのと同じ場所に、アンチョビさんの友達がやっているというアイス売りのワゴンがいた。

 

「あれー、アンチョビの彼氏さんじゃん」

 

 どうやらあちらもオレの顔を覚えていたようで、気さくに声を掛けてくれた。

 

「なになに、アンチョビに会いに来たの?」

「はい。ゴールデンウィークに入るのを待って、茨城から」

「わざわざ静岡まで? すごいね。アンチョビ、果報者じゃん」

「いやいや、アンチョビさんと付き合えるオレの方が果報者ですよ」

「言うねー。いい男捕まえたねアンチョビは」

 

 あっはっは、と、笑いながら世間話をするオレと店員さん。ちなみに、ノロケが混じっているのはさすがのオレも気づいている。

 で、話題の人物であるアンチョビさんはどうしているかというと。なぜか、オレの背中にしがみついて、友人である店員さんから隠れるように身を潜めていた。

 当然、店員さんがそれを見逃すはずもなく。

 

「アンチョビ、彼氏の背中の居心地はどう?」

 

 すごくニヤニヤした顔で、からかうように声を掛けてきた。

 あ、アンチョビさんの、シャツの背中をつかむ手がちょっと強張った。

 アンツィオは女子校ということもあってか、はたまたアンチョビさんいわく「色気より食い気」の気質があるせいか、恋愛関係の噂はあまり上がらないのだという。だからこそ、有名人のアンチョビさんが男連れで、普段とはちょっと違った姿を見せている、というのは大きな話題になるんだろう。友人なら食いつくのも当たり前かもしれない。

 

「アンチョビ、それで隠れてるつもりなのかもしれないけどさ。はたから見たら、男とイチャついてるようにしか見えないよ?」

「いやいや、そんなわけないだろ!」

 

 オレの背中に隠れたまま、顔だけ突き出して抗議するアンチョビさん。シャツの背中をつかむ彼女の手に力がこもるのが伝わってくる。勢いよく声を上げても、オレの背後から出ようとしないので、なんとなく様にならないのはご愛敬といったところか。オレにしてみればすごく可愛らしく見えるんだけど。

 

「だいたいアンタ、身体はカレシに隠れてたけど。ツインテールが思い切りはみ出てたじゃん」

「え、本当か?」

 

 不意を突かれたのか、素っ頓狂な声を漏らすアンチョビさん。思わぬ指摘、というやつだったんだろう。何も言わずオレの方に目を向けてくるけれど、ただ苦笑いを返すことしかできなかった。

 

「なんて言うかさ、アンチョビって恋人の前ではけっこうポンコツになるんだね」

「いやいやそんなことはないだろ。例え大瀬良の前でも、私はドゥーチェとしての威厳をだな」

「オレは、ドゥーチェじゃない素の千代美さんも大好きだよ?」

「だから千代美言うな! いや、言ってもいいが時と場所を選べ」

「ねぇアンチョビ。アンタ、めっちゃノロケてる自覚ある?」

 

 なぜか妙に軽快な会話のラリーが続く。でも悲しいかな、またアンチョビさんがイジられる展開になってるけど。友達さんもノリがいいので、ついオレもそれに乗っかってしまう。

 そうこうしているうちに、彼女の羞恥心が限界を迎えたようで。

 

「私から告白して、恋人関係になったんだ。文句あるか!」

 

 アンチョビさんが吼えた。ヤケになったのか、それとも開き直ったのか。

 顔を真っ赤にしながら言い返しているのが可愛らしい。オレの後ろに隠れていたのが、前に出てきて胸を張ってみせる。

 でも店員さんは、思わぬ反撃にちょっと驚いた様子。意外な反応だったようだ。

 

「前回、アイスを買った時はまだそういうのはなかったんだけど。まぁいろいろあって、めでたく恋仲になりました」

 

 アンチョビさんの言葉をフォローするようなことをオレも言ってみる。

 オレたちラブラブでーす、みたいに。彼女を後ろからあすなろ抱きにして。

 あ、アンチョビさんが硬直した。

 いきなりだったから驚かせちゃったかも。顔を真っ赤にして、微動だにしない。

 

「あのドゥーチェに本格的な春が来るとはねぇ」

 

 目の前でイチャつくオレたちに、毒気を抜かれたのか、呆れてしまったのか。どちらなのかは分からないけど、店員さんのからかいはひとまず収まったようだ。

 でも最後に友人として、「彼氏ができておめでとう」とアンチョビさんを祝福してくれた。

 さんざんイジられたアンチョビさんだったけど、その言葉にまた恥ずかしくなってしまったようで。「ありがとう」と言いながらモジモジし始める。可愛いなぁ。

 店員さんは「アンチョビ恋愛成就記念」と称して、アイスをおまけしてくれた。

 

「また今度、詳しく話を聞かせてもらうから」

 

 アイスを渡されると同時にそんなことを言ってくる。

 受け取ってしまったアンチョビさんに、拒否する術はなかった。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 ジェラート屋の店員さんと、アンチョビさんのやり取りがあれこれあったその後。アイス入りのカップを手にしたオレたちは、スペイン階段を上る。程よいところで、ふたり並んで腰かけた。

 アンチョビさんは、友人でもある店員さんにイジられまくったおかげでお疲れ気味のようだ。主に精神面で。

 

「ノリと勢いは誰にも負けない連中ばかりだからな。これからいいように囃し立てられるのが簡単に予想できる……」

 

 うあああ、と、悶えるアンチョビさん。もっとも、片手はジェラートを持ったままなので、頭を抱えるというよりは、うなだれていると言った方が適当かもしれない。

 なんとなくアイス屋さんの方に目を向けると、さっきまで応対していた店員さんがこちらを見ていた。

 

「アンチョビさんアンチョビさん」

「ん? なんだ」

「あれ」

 

 指をさした方に、アンチョビさんが目を向ける。

 あちらも、オレたちが目を向けていることに気づいたようで。手を振ってからサムズアップしてきた。本当にノリがいいなぁ。

 遠目にその様子を見たアンチョビさんは顔を赤くさせた。

 

「まったくあいつは……」

 

 友人の態度になにやら悪態を吐きつつ、彼女はアイスに口をつける。スプーンですくうというよりは、何かの仇のようにアイスに突き立てている感じだったけど。

 とはいっても、からかい交じりとはいえ祝福されていることには違いない。

 そう指摘してみると、アンチョビさんは複雑そうな顔をしながらも、やっぱり恥ずかしそうにする。どうやらまんざらでもないようだ。可愛い。

 ちょっと気を落ち着けて、手にしたアイスを口に運ぶ。

 

「んー。美味しい」

 

 今回買ったのはカップタイプのもの。オマケしてもらった分もあって、アイスの玉が味違いで3つも重なりボリュームたっぷり。オレがチョコチップ、ラムレーズン、バニラ。アンチョビさんがチョコミント、ストロベリー、クッキークリームを選んだ。それぞれ味が異なって、アンチョビさんのものも含めていろいろな味が楽しめる。

 すぐ隣に腰を下ろしたアンチョビさんも、アイスをすくったスプーンを口にして幸せそうな顔をしている。

 美味しそうに食べる姿を見ているだけでも、オレとしては大満足と言っていいんだけど。メインの目的はそこじゃない。

 アンチョビさんと、「あーん」をし合う。

 これだ。

 アイスをカップタイプにしたのも、「あーん」をしやすくするためである。

 というわけで、さっそく実践だ。

 

「アンチョビさんアンチョビさん」

「ん?」

「はい、あーん」

 

 声を掛けると、アンチョビさんがスプーンを咥えたままオレの方に顔を向ける。

 アイスをすくったスプーンが自分に差し出されているのを見て、キョトンとしたと思ったら。何を求められているのか理解したようで、またも顔を赤くさせた。

 何度目か分からないけど、やっぱり可愛い。

 

「イチャイチャの定番でしょ。ほらほら」

「な、え、ちょ、待ってくれ、その」

「このままだと、溶けちゃうかなー」

 

 恥ずかしそうに、わたわたと慌てた様子を見せるアンチョビさん。

 彼女には申し訳ないんだけど、どうにもイジワルをしたくなってしまう。

 なので。

 

「あむっ」

「ああああっ!」

 

 差し出していたスプーンを、オレは自分の口に持っていった。

 アンチョビさんが、目の前でおあずけをされたかのように声を上げる。

 彼女の表情がくるくる変わる。恥ずかしそうで真っ赤っかだった顔が、今度は目を見開いた驚きの表情になって。さらに恨めしそうな目でじっと見つめてくる。

 可愛くて仕方がない。

 

「もう一回。はい、アンチョビさん。あーん」

「うぅー。あー」

 

 改めて、アイスをすくったスプーンを差し出す。

 アンチョビさんはまだ恥ずかしそうにしながらも、今度は素直に口を開けてくれた。

 

「んっ」

 

 可愛らしい口元にスプーンを持っていったら、勢いよくパクついてきた。

 また取り上げられちゃうと思ったのかな。それはそれで可愛らしい。

 

「……うん。うん、んぅ……」

 

 アンチョビさんが何やら噛みしめるみたいに、うんうんうなずいてる。

 表情はゆるゆるだ。嬉しさ半分、恥ずかしさ半分みたいな感じ。

 そんな顔をされると、もっとしてあげたくなってしまう。

 

「アンチョビさん。あーん」

 

 今度は別のフレーバーをスプーンですくい、再び差し出す。

 アンチョビさんは赤い顔のまま、素直に口を開いて「あーん」をしてくれた。

 

「あー、んむ」

 

 ぱくりと、スプーンを口の中へ。うごめく口と舌のもごもご感が手に伝わってくる。

 ゆっくりスプーンを抜き取ると、アンチョビさんの表情がふにゃりとゆるむ。

 可愛い。

 なんだか餌付けしてるみたいな気持ちになってきた。

 よしもう一度、と思っていたら。アンチョビさんは自分のアイスに目を落とす。

 

「こ、今度は私の番だな」

 

 アンチョビさんが、アイスをすくったスプーンを差し出し、「あーん」を促してくる。

 照れくさいのか、恥ずかしいのか、相変わらず顔は真っ赤なままだ。

 可愛い。

 せっかく彼女の方からしてくれる「あーん」なのだ。ためらう理由なんてない。

 

「あーん」

「っ……、よし。あ、あーん」

 

 素直に口を開けたオレに、なぜかアンチョビさんが一瞬怯んだ。

 でもすぐに気を取り直して。「あーん」待ちをしているオレの口に、アイスをすくったスプーンを近付ける。

 差し出す手が、少しプルプル震えているのが可愛らしい。

 

「あむっ」

 

 差し出されたアンチョビさんのスプーンにパクつく。

 彼女が差し出したのはストロベリー味。アイスの甘みと一緒に、イチゴの甘酸っぱさが絡んで、非常に美味。しかもアンチョビさんの「あーん」で食べさせてくれるとなったら、その美味しさは天井知らずだ。

 

「幸せ」

 

 しみじみと噛みしめてしまうくらい、美味である。

 漏れ出たオレのつぶやきが聞こえたのか。アンチョビさんがさらに顔を赤くさせる。

 

「大瀬良、むちゃくちゃ恥ずかしいぞ……」

「そう? オレは『あーん』するのもされるのも、めっちゃ嬉しいけど」

「本当にお前は心が強いな」

「アンチョビさんは、嬉しくない?」

「……う、嬉しい」

「せっかくアンチョビさんとイチャイチャできるんだから。変に恥ずかしがって自重するなんて、もったいないじゃない」

 

 堂々と胸を張って、アンチョビさんとイチャつけるの最高、と言ってのけるオレ。

 むしろもっとイチャつこうぜと、またアイスをすくったスプーンを彼女に向けて差し出す。今度はラムレーズン味だ。

 アンチョビさんは、なんだか面映ゆそうな顔をして。オレのスプーンにぱくついた。

 可愛い。

 嬉しい。

 楽しい。

 それから何度も、お互いにアイスを食べさせあって。オレとアンチョビさんで「あーん」をし合う。アンチョビさんも最初は恥ずかしがっていたものの、回数を重ねて羞恥心が麻痺してきたのか、アイスをすくったスプーンを笑顔で差し出してくるようになっていた。

 

「あむっ」

「美味しいか?」

「最高」

「そうかそうか」

 

 舌の上に転がるアイスの冷たさを堪能する。アンチョビさんに「あーん」される嬉しさに胸がぽかぽかしてしまう。

 アンチョビさんも、オレに「あーん」をしながら表情をゆるませてる。はたから見たらもう、デレッデレだ。

 

「なんだか、楽しくなってきたぞ」

 

 そう言いながら、満面の笑み。可愛い。

 オレも嬉しくなって、お返しとばかりに自分のアイスをスプーンですくって、彼女に差し出す。

 アンチョビさんもそれに応えて、「あー」と口を開いてパクついてくる。

 お互いにアイスを食べさせ合いながら、あれやこれやと他愛のないおしゃべりをする。それがまた楽しい。

 

「楽しいと言っても大瀬良は、私が恥ずかしがるのを面白がっていただけだろ」

「それは否定できないかなー。顔を真っ赤にさせるアンチョビさんが可愛くて」

「お前は、可愛いと言っておけばいいと思ってないか?」

「そんなことないよ。実際、アンチョビさんが可愛いから、可愛い可愛いって言ってるだけだし」

「連呼するんじゃない、恥ずかしいだろ!」

 

 やいのやいのと、他愛のない会話をしているオレたち。アンチョビさんも、なんのかんので楽しそうにしているのが嬉しい。自然とオレもニコニコしてしまう。

 

「ん?」

 

 代わる代わる「あーん」を繰り返しながら、アイスを堪能する笑顔のアンチョビさんを愛でていると。彼女の口元にクリームがついているのに気がつく。

 なんというか、ちょっと油断したところも見せてくれるのも、いいよね。可愛い。

 

「アンチョビさん、じっとしてて」

 

 スプーンをアイスのカップに突っ込んで、空けた手を彼女へと向ける。

 アンチョビさんの、頬に触れた。

 

「ちょっ、大瀬良」

「はいはい、動かないでー」

 

 頬に手を添えて、ゆったりと撫でてあげる。

 指が首元に届いて、そのまま軽くくすぐってみた。

 

「んぅ……」

 

 ぴくり、と身を震わせて、少し悶えるような声を上げるアンチョビさん。なぜか姿勢を正して、シャキッと背筋を伸ばしていた。そのまま動きを止めて、目をつむっている。

 オレに「待て」を命じられて、次に何かされるのを待っているような状態。目を閉じて、ちょっとオレを見上げるような形で、何かを堪えるようにフルフルと震えている。それでいて、何か期待しているように見えるのは、アンチョビさんの顔が真っ赤になっているせいなのか。可愛い。

 

「そのまま、じっとして」

 

 彼女の頬に手を添えたまま、親指で唇をなぞる。

 優しく、ゆっくり、口元についたアイスをぬぐった。

 

「アンチョビさん、アイスがついたままだったよ」

 

 そう言いつつ、アイスのついた指を自分の口に入れてしまう。

 こういうのも、間接キスと言っていいんだろうか。

 

「……え?」

 

 一方でアンチョビさんは、何を言われたのか、されたのかよく分からなかったようで。

 しばし目をぱちくりさせて。

 唇をぬぐった指を咥えたオレを見るなり、一気に顔が真っ赤になった。

 

「お、おおおおおおせらっ、いやその、私はてっきりっ」

「ん? てっきり?」

 

 慌てる彼女を見て、何を勘違いしたのか察する。

 でもそのままスルーした。

 とぼけてみせると、アンチョビさんはあわあわとうろたえてしまう。

 可愛いなぁ。

 もっと愛でたい気持ちはあるけど、調子に乗って嫌われるのはイヤなので。

 ここは素直に謝った。

 

「本当に悪いと思ってるのか?」

「思ってるよ、本当に。嫌われたくないしね」

 

 でも、オレの口調にからかわれてると思ったのか。

 アンチョビさんはちょっと拗ねたような顔になる。

 

「むー。……ていっ」

「ああっ!」

 

 と思ったら。アンチョビさんが不意に、オレのアイスに手を伸ばした。

 彼女のスプーンが、オレのラムレーズンフレーバーの最後のひと塊を奪ってしまう。

 

「なんてことするのアンチョビさん! 最後のひと口だったのに!」

「ふふん。からかってばかりの大瀬良にお返しだ」

「くっ。いくら大好きなアンチョビさんでも、やっていいことと悪いことがあるぞ」

「お前、そう言えば私が取り乱すと思ってるだろう。そうはいかないぞ」

「でもアンチョビさん、顔が赤いまんまだよ?」

「うるさい、いちいち突っ込んでくるな」

「本当に、アンチョビさんは全方位から可愛いなぁ」

「どうしてコイツは、こうも恥ずかしいことをポンポンと……」

「スキありっ」

「ああっ! お前、私の最後のストロベリーをっ」

「食べものの恨みは恐ろしいものなのです」

「大瀬良がそういうつもりなら、私も容赦しないぞ」

「面白い。返り討ちにしてくれるわ」

 

 さっきまでお互いにアイスを「あーん」し合って甘々だったはずなのに。

 気がついたら、睨み合って相手のアイスを奪い合うムーブになっていた。

 後で考えてみると「なんだそれは」という感じなんだけれど。

 この時はオレも、アンチョビさんも、妙なノリと勢いに身を任せて。

 アイス用のスプーンを手に、気持ちはコロッセオで対峙する剣闘士のごとく。

 いやもう、親しい者同士でじゃれてるとしか言いようがない。

 実際、そんなオレたちの様子を、スペイン階段にいる人たちは遠巻きから見つめていて。

 さらに、ジェラート売りの友達さんは爆笑しながら、スマホで動画撮影していたという。

 後日、その動画がアンチョビさんに送られてきて、彼女は悶絶するんだけど。

 それはそれで、まぁ別の話ということで。

 

 

 

 ―続く―




なにやってんだコイツら。
槇村です。御機嫌如何。


アンチョビさんとアイスを「あーん」し合う。
それだけのために数千字を費やしました。

後は、原作ではアンツィオの最上位の人として描かれるアンチョビの、
同級生トークっぽいのを書いてみたかった。
イメージとしては、
普段はいろんな人から頼られているアンチョビさんが、
視線の高さが同じ相手と、
肩の力を抜いてワチャワチャしている感じ。



気が付いたらもう、前回の投稿から3カ月も経っていた。
あと数話はアンツィオ編が続く予定なのに。
この調子じゃいつまで経っても終わらないぞ。
なんとか活を入れていきたい。
不定期更新なお話ですが、引き続きよろしくお願いします。




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74:ローマの休日 真実の口にて/アンチョビ

 ゴールデンウィークということもあって、生徒どころか観光客もたくさんいて賑わう、アンツィオ校のスペイン階段。

 そのど真ん中で、男女でアイスを「あーん」し合う。

 目立つだろう。

 アンツィオは女子校だから、なおさら目を引きそうだ。

 しかもその女子の方が、この学園艦の有名人で人気者のアンチョビさんだ。当人が一向に気づかないまま、アイスを食べさせあったり、お喋りに花を咲かせたり、笑ったり恥ずかしがったり、果ては訳の分からないふざけ合いをしたりしているのだ。

 うん、注目されるのも仕方がない。

 

「うぉぉぉぉ、恥ずかし過ぎるぅぅぅ……」

 

 無自覚で素なイチャつきぶりをたくさんの人に見られていたということに、アンチョビさんが気付いて。今日一番というくらいにムチャクチャ悶えていた。食べ終わったアイスのカップを足元に置いて、両手で頭を抱えている。

 なんかこう、今日だけでこういう無防備な姿を何回も見てるような気がする。

 可愛いなぁ、もう。

 羞恥にまみれるアンチョビさんの頭を、ついつい撫でてしまう。

 なだめるつもりはあるんだけど、彼女が恥ずかしがっている原因がオレでもあるから。マッチポンプなんじゃないかって気もするけど、そこは無視してしまおう。

 

「よし。じゃあ、アンチョビさん。この場から一緒に逃げ出そう」

「え? おいこら、大瀬良っ」

 

 空になったアイスのカップをふたり分重ねて、立ち上がる。

 アンチョビさんに手を差し出すと、無意識なのか彼女は手を取ってくれた。

 ゆっくりと立ち上がらせる。そして何かを考えさせるより前に、アンチョビさんの手を引いて歩き出した。

 

「オレはもっと、アンチョビさんとイチャイチャしたいな。ひと目が気になるなら、場所を変えて、さりげなくイチャつこうぜ」

「お前、そのストレートすぎるのは本当にどうなんだ? いや、別にイヤなわけじゃないんだが」

「だって、遠距離恋愛なんだから。なかなか顔を合わせられないじゃない。それならここぞとばかりにイチャついて、千代美成分を存分に摂り込むべきだと思うんだよね」

「なんだその成分は。あー、うん、いや、分かるぞ。分かるんだけどな」

「アンチョビさんは、オレ成分、いらない?」

「いるに決まってるだろう」

「もうほら、可愛いことを言って。アンチョビさん大好き」

「でも恥ずかしいんだ! 嬉しいけど、恥ずかしいんだよ!」

 

 歩きながら、なんだかバカっぽいやり取りをしてる。

 ぶんぶんと手を振り回しながら抗議をしてくるアンチョビさん。でも片方の手は、オレと手をつないだままで、離そうとはしない。なんのかんの言いながら心を許してくれて、好いてくれているというのが感じられて嬉しい。

 

「アンチョビさんは、オレとイチャイチャするのがイヤなわけじゃないんでしょ?」

「それは、まぁ、イヤじゃないぞ。面と向かって聞かれると恥ずかしいが」

 

 アンチョビさんの手を引いて歩き出したけど、どこかへ向かっているという訳じゃない。ただイチャついてるのを見られた場所から離れようとしているだけ。スペイン階段からちょっと距離が取れて、彼女も落ち着いてきたみたいだ。

 息をついて、なんとなくアンチョビさんに目を向ける。

 ちょうど彼女の方も、オレを見つめてきて。

 目が合うなり、訳もなく面白くなってしまい。

 どちらからともなくつい、笑ってしまった。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 スペイン階段にはたくさんの人がいた。でも離れていくにつれ、少しずつ人の声や姿が薄くなっていく。まるで人の目を避けて、何かから逃げるような感じ。

 

「なんだか、ちょっと『ローマの休日』っぽくない?」

「ははっ。追われてるわけじゃないが、手を繋いで逃げるというのは、それっぽいな」

「普段から"アンチョビ"として見られてる視線から連れ出す、って意味ではまさに、さらって逃げるって感じじゃない?」

「……好きな男に連れ去られるとか、乙女心にちょっと響くものがあるんだが」

 

 アン王女とは違って、"アンチョビ"としての自分に嫌気がさしてるわけじゃないだろうけど。たまには羽を伸ばしたくなることだってあるだろう。

 オレとのプライベートな時くらいは、素の部分を強めに出してくれると嬉しい。なんだったら『ローマの休日』のジョーみたいに、アンチョビさんをあちこち振り回して気晴らしをさせてあげたりして。そんなことをすれば気も晴れるだろうか。

 

「さて、アンチョビさん。この後はどこに行く?」

「いやいやちょっと待て。私が案内するならともかく、大瀬良が先導してどうする気だ」

「んー、特に何も考えてない」

「おい、それはそれでどうなんだ」

「アンチョビさんと手を繋ぎながら、一緒に歩いてるだけで嬉しいし。気の向くままに歩いていけばいいかなって。アンチョビさんがいるわけだから、迷うことはないでしょ」

「おお……」

 

 アンチョビさん、なぜだか分からないけれど感無量のご様子。また彼女の乙女心のどこかにヒットしてしまったらしい。

 そんな彼女の手を取って、引き続き歩き出す。アンチョビさんはなにかに悶えつつも、オレに手を引かれるままついてきてくれる。

 もうなんというか、可愛いくて仕方がない。

 アンチョビさんが喜びそうなことはなんだろう、なんて考えながら、足のおもむくまま気の向くまま、歩を進めるオレだった。

 

「そう言えばアンツィオ校って、全区域を観光客に開放してるの?」

 

 手を繋いで歩きながら、その場で思いついたことをつらつらと話したりする。

 そんな中のひとつ。学園艦でありながら観光地でもあるアンツィオ校は、学生以外の人もそれなりに多い。女子校でありながら、男の姿もけっこう見られる。単純に、今がゴールデンウィークだからなのかもしれないけど。

 

「基本的には、特に制限はないな。とはいっても、学園艦上に住んでいる人たちの住居区とかは、わざわざ足を運ぶ観光客はいないぞ。校舎や学生寮がある区画もそうだ」

「言われてみれば確かに。いくらローマを模してるとはいっても、全部が全部、観光地化してるわけじゃないよね。普通に暮らしてる人がいるわけだし」

 

 あれこれと会話を交わしながら、手を繋いだままゆったりと歩く。

 いわゆる観光地エリアをまだ歩いているため、街並みや景色はいかにも異国情緒を感じられるものだ。そんなアンツィオの風景を眺めつつ、気になるところがあればアンチョビさんに尋ねてみて。彼女もいろいろとエピソードを交えながら、オレの問い掛けに答えてくれる。

 嬉しそうに話すアンチョビさんにナビゲートされながら、あちこちを歩き回る。

 本当に、これといって目的地を決めずに歩いているだけ。

 すごく、楽しかった。

 そうこうしているうちに。気がつくと、ひと際大きな建物、建物? とにかくでっかい建築物の前にたどり着く。

 

「おぉ、間近で見るとひと際でっかく感じるなぁー」

 

 遠目からでも目立つそれは、 古代ローマ時代の巨大な円形闘技場・コロッセオ。

 トレヴィの泉を再現してたのもすごいけど、これにもまた驚かされた。

 超リアル。

 でっけぇ。

 というか、デカすぎだろ。学園艦の上だぞ?

 実際にイタリアにあるコロッセオは、周囲が500メートル以上、高さは50メートルにも及ぶという。でもアンツィオ校にあるコロッセオは、さすがにスケールダウンされているようだ。それにしたってデカいけど。

 

「アン王女よろしく、アンチョビさんの家はここになるの?」

「いくら寝ぼけていてもそんなこと言えないぞ、私は」

 

 アンチョビさんと一緒にコロッセオの中へ入っていく。

 実際に中に入ってみると、これまたデカさを感じられる。

 本当にただの観光場所として建てられたのか。それとも何か意図があるのか。ひょっとしたら夜な夜な、アンツィオの剣闘士たちがしのぎを削って闘いを繰り広げているのかもしれない

 

「彼女たちはいったい何を目指して闘うのか!」

「想像力豊かだな、お前は……」

 

 思いついたことをそのまま口にしていたら、アンチョビさんに呆れられてしまった。

 それはともかくとして。

 このコロッセオ、観光場所であると同時に、多目的ホール的な扱いなんだとか。

 さらになんと、戦車道の練習場所としても活用してるらしい。

 このコロッセオの中で、戦車たちが入り乱れて走り回るのか。胸アツだな。

 

「ウチのメインになるCV33は、戦車としては小型だからな。コロッセオの中でもガンガン動き回れる。むしろ限られた空間だからこそ、小回りを活かした操縦方法なんかも身につけられるっていうのはあるぞ」

「はー、なるほど。環境がテクニックを生み出した、って感じなのかな」

「そうだな。実際に、私たちがナポリターンと呼んでいる動かし方も……」

「アンチョビさん、ストップ」

 

 ノリノリで解説するアンチョビさんを制止する。

 一応、オレは他校の生徒で、少なからず戦車道に関わっているわけだから。そういうのを聞いてしまうのはあまりよろしくない。いくらオレが戦車道について無知だとしても、いやだからこそかな、何かのきっかけで気がつかないまま口外してしまうこともありえる。

 アンチョビさんに迷惑を掛けてしまうかもしれないので、あまり内情に関わることを聞くのは避けたい。

 そう言うと、アンチョビさんはえらく感心してみせた。

 

「すごいな、大瀬良。そんな気遣いをされるとは思っていなかった」

「調べたりすれば、思いついたり行き着いたりする情報かもしれないけど。少なくとも、オレの口からそういうのが漏れちゃうのは避けたいなぁ」

 

 他校に恋人がいるっていうのは、そういうことも考えなきゃいけないな。

 もちろん、戦車道を頑張るアンチョビさんは応援したい。でも、実際の試合でアンツィオと大洗が対決、みたいなことになったら、どちらを応援するのか。

 大変申し訳ないが、その時はやっぱり、大洗を応援することになるだろう。

 

「待てよ? チームの勝利を応援するのはそれでいいとして。アンチョビさんが大活躍するところを素直に喜ぶのは、大洗サイドにいても問題ないのでは」

「いやその、あのな? そう言ってくれるのは嬉しいんだが……」

 

 そんな風にあれこれとおしゃべりをしつつ、コロッセオを歩いて回る。

 肩ひじを張らないゆるいやり取りが心地いい。

 アンチョビさんも、笑ったり慌てたりドヤ顔をしたり笑ったりと、いろんな表情を見せてくれる。それが、すごく嬉しかった。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 コロッセオを出て、再びぶらぶらと歩き回り。

 次にやってきたのは、真実の口。

 

「ここが、オレとアンチョビさんの恋の始発駅だ」

「大瀬良、お前もしかしてイタリア人じゃないだろうな」

 

 歯の浮くような言葉を、照れも躊躇もなく口にするオレ。

 対してアンチョビさんは呆れた声を漏らしている。顔は真っ赤になってるけど。

 

「ここはやっぱり、アンチョビさんへの愛を再確認すべきだろう」

 

 右手を掲げながら、オレはそう豪語してみせる。

 前回は、まほたちへの愛を叫びながら手を突っ込んて、真実の愛を証明してみせた。

 今度はアンチョビさんへの愛を証明するために、改めて手を突っ込まなければ。

 例え周りからハーレム野郎だと思われても、彼女たちへの想いは本物なのだ。

 

「見ててねアンチョビさん。オレの真摯な想いをイタリアの神様にも見せ付けてやる」

「もしかして大瀬良、アンツィオと相性いいのか? 勢い任せっぽいのに案外本気なところとか」

「勢いじゃなくて、冷静に『アンチョビさん大好き』って言った方がいい?」

「恥ずかしいから止めろ。いや、止めて欲しくない気持ちも確かにあるが」

「じゃあそっちの方はまた後でってことで」

「なんだまた後でって」

 

 絶妙なボケとツッコミと言うべきか、バカップルのノロケの応酬と言うべきか。

 とにかく、アンチョビさんとのやり取りを楽しみながら。オレは真実の口、でっかい石の円盤の中央にある顔の穴に、手を突っ込んだ。

 

「アンチョビさん、大好きだぞー!」

 

 照れも何もなく、アンチョビさんへの想いを口にする。

 そして言葉を噛みしめるように、ゆっくりと手を引き抜いていく。

 

「どうだ!」

 

 ババ-ン、と効果音が出てきそうなどや顔で、無事に引き抜かれた手を掲げる。

 これがアンチョビさんへの愛の証である、とばかりに。

 彼女の方を見れば、すごく恥ずかしそうな顔をしていた。赤くなった顔を両手で包んで、ふにゃふにゃと身悶えている。実に可愛らしい。

 

「イタリアの神様も、オレとアンチョビさんの恋路を祝福してくれてるぞ」

「お前、実は酔っ払ってるんじゃないだろうな。嬉しいけど。嬉しいけど!」

 

 何度目か分からない、ノリとツッコミのようなやり取り。

 オレがなんの照れもなく好き好きと言って見せれば、アンチョビさんが顔を赤くしながら言葉をかぶせてくる。

 すごく楽しい。

 

「じゃあ次は、アンチョビさんの番だね」

「は?」

「だって、前回は手が引っ掛かってたでしょ。考えてみればそれのおかげで恋仲になれたっていうのはあるけど、リベンジというかさ。すんなり手を引き抜けた経験をしておいた方が、スッキリすると思わない?」

「むぅ……」

 

 前回アンチョビさんは、真実の口に手を突っ込んだけど引っ掛かって、パニックになっていた。杏さんに騙されて、みたいなところはあったけど、オレに対して好意なんて別に、みたいな態度を取ったら手が抜けなくなった。つまりはオレに対して好意があるということが間接的に分かってしまったわけだ。正直、嬉しくて顔がにやけてたねその時は。

 アンチョビさんが何を考えているかまでは分からないけど、渋々ながら真実の口の前に歩を進める。中央に顔を模した彫刻のあるでっかい円盤の前で、手を差し入れる穴を見つめている。

 ひょっとすると、また抜けなくなったらどうしようとか考えてるのかもしれない。

 

「あんまり気負わなくてもいいよ、アンチョビさん」

 

 彼女の肩に手を置いて、フランクに声を掛ける。

 緊張をほぐすように、アンチョビさんの肩を軽く揉んであげながら。

 耳元に口を近づけて、ゆっくりと囁く。

 

「オレは、アンチョビさんのことが大好きだよ」

「っ……」

「アンチョビさんは、オレのこと、どう思ってるの?」

 

 言い聞かせるように、ストレートに好意を伝える。

 リラックスさせるつもりが、もっと硬直させてしまったかもしれない。

 あぁもう。顔を真っ赤にさせて恥ずかしがってるアンチョビさん、すっごく可愛い。

 踏ん切りをつけたのか、アンチョビさんが真実の口に手を突っ込んだ。

 そして、彼女の口から、想いが紡がれる。

 

「……私も、大瀬良のことが好きだぞ」

 

 耳元まで顔を近付けているのに、それでもギリギリで聞き取れるような小さな声。

 でもはっきり、オレへの好意を口にしてくれるアンチョビさん。

 とはいえ恥ずかしさが勝るのか、オレの方に顔を向けてくれない。

 それはそれで、ツインテールの髪が上げられたうなじを間近に見ることになって。

 綺麗な白い肌をした首筋が、赤面した顔に負けないくらい赤くなっていた。

 

「アンチョビさん、可愛いなぁ」

「ひやっ」

 

 想いがあふれ出てしまって、ついつい彼女を抱きしめてしまう。

 アンチョビさんの背後から抱きついて、思ったよりも細い肩をゆったりと包み込む。

 いきなりのハグに硬直するアンチョビさん。

 片手は、真実の口に差し入れたまま。

 オレは彼女の手をそっとつかんで、ゆっくりと引き抜いていく。

 アンチョビさんの手は、何かに引っ掛かることなく、真実の口から抜けてくれた。

 

「ありがとうアンチョビさん。嬉しいな」

 

 背中に抱きついたまま、彼女の手を持ち上げて。

 綺麗で小さな手に、軽く口づけた。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と。

 手の甲や手首、石で擦れたかもしれないところを癒すように。

 

「お前は本当に、恥ずかしげもなくそういうことを……」

 

 まぁ、自分でもキザったらしいなとは思うけど。アンチョビさんが喜ぶかなと思って。

 案の定、ものすごく恥ずかしそうに、赤面しながら、もう片方の手で自分の顔を覆っている。でもその向こう側の表情は、悶えながらもニヤけているという、すごく複雑なものになっていた。

 

「うぉぉぉ……。やっぱり恥ずかし過ぎるぅ……」

「照れてるアンチョビさんも可愛い。好き」

 

 背中からあすなろ抱きされたまま悶絶するアンチョビさん。それでもオレの腕をほどいたりしないところが、恥ずかしいけど嫌なわけじゃないっていう感じがして。すっごく嬉しくなる。抱きしめながら頬ずりをしてしまうくらい。

 明るく頼もしく、堂々とした態度の頼れる年上お姉さんが、オレの腕の中で身を委ねてくれているのが堪らない。愛おしさがどんどん募っていく。ベッタベタに甘やかすようなつもりで、抱きしめながら耳元で好き好き、可愛い可愛いと囁き続けた。

 そんなことを続けていると、羞恥心に限界がきたのか。

 

「ぬあーっ! いい加減にしろーっ!」

「おっと」

 

 アンチョビさん、両腕を振り上げながらいきなり絶叫。

 抱きついているオレの腕を振りほどいて、身体を反転させて正面を向いてくる。

 真っ赤になった顔で見上げてきて、睨みつけたかと思ったら。

 がばっ、と大胆に抱きついて。思い切り顔を押しつけてきた。

 なんというか、衝動的になると大胆になってくるのかな。

 可愛い。ほんわかする。

 抱きつかれるに任せて、オレはアンチョビさんの頭を撫でた。

 それがまた羞恥心を煽ったのか、彼女はさらに顔をぐりぐりと押しつけてくる。

 空気を読んだのかは分からないけれど、幸いにも真実の口にいるのはオレたちだけ。それをいいことに、アンチョビさんはしばらくの間、オレに抱きついたままだった。

 最初は恥ずかしそうだったけれど、だんだん慣れてきたのか。抱きついている彼女の表情がゆるんでいく。

 可愛い。

 周囲に誰もいないのは、アンチョビさん的には幸いだったろう。

 ひと目がないなら、オレも遠慮する必要はない。

 彼女を抱きしめ返しながら、さらに頭を撫でて、頬ずりをする。

 アンチョビさんも力を入れてきて、より強く抱きついてきた。

 腕の中に収まっている感触が心地いい。

 もっと言うと、胸とかいろいろ、女の子の柔らかさも伝わってくるけど。

 興奮よりも、愛おしさみたいな感覚の方が強くこみ上げてくる。

 

「ん-。アンチョビさーん」

 

 しばらくされるがままになっていたら、抱きついていたアンチョビさんの力がゆるんだ。

 オレ成分みたいなものは充電できただろうか。

 目を合わせようとすると、アンチョビさんは照れくさそうに顔をそむける。真っ赤っかになりながら。可愛い。

 恥じらうアンチョビさんの頭を撫でながら、これからどうしようかと考える。時間はまだ夕方には早い頃。デートはまだまだ終わらない。

 

「この後は、どうする? アンとジョーみたいに、パンテオンの前でお茶する?」

 

 映画と同じように、パンテオン前にカフェがあるかどうかは知らないけど。

 でもありそうな気がするな。

 一緒に歩き回るのもいいけど、腰を据えておしゃべりをするのもいいんじゃないかな。

 ということで、提案をしてみたんだけど。

 

「……えっと、だな」

 

 何か言いたそうに、言葉を濁すアンチョビさん。もじもじしつつも、オレの腕の中から離れようとしないのが嬉しくて、胸がキュンキュンしてしまう。

 

「どうかしたの? アンチョビさん」

 

 優しく先を促してみれば、彼女は「あー」とか「うー」とか口ごもりながら言うか言うまいか躊躇うようなそぶりを見せて。

 意を決したように、赤くなった顔をオレに向けてきた。

 そして。

 

「その……。これから、私の部屋に来ないか?」

 

 想像していなかった言葉が飛び出てきた。

 ちょっとびっくり。

 アンチョビさんの方から、誘われてしまった。

 

 

 

 ―続く―




意味深なアンチョビの言葉に、俊一の胸が高鳴る。
槇村です。御機嫌如何。


約1ヶ月ぶり。
前回は2ヶ月空いてたから、半分の時間で更新できたぞ。
もう少しアンツィオ編は続きます。
あれもこれもと、いろいろ入れ込みたくて。

なおネタバレしますが、次回はエロくなりません。
甘々にはするつもりです。




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75:買い物へ行こう/アンチョビ

 まさかのアンチョビさんからのお誘い。顔を真っ赤にさせて、言うにつれて声のボリュームが小さくなっていくあたり、むちゃくちゃ恥ずかしさを感じているんだろう。

 でもそんな彼女が可愛らしくて、愛おしい。

 改めてアンチョビさんを抱きしめて、耳元で囁く。

 

「もちろん、お誘いを受けますよ」

 

 その途端、アンチョビさんが一気に表情を明るくさせた。

 彼女の笑顔にときめいて、またしつこく彼女を抱きしめてしまう。

 せっかく笑顔になったアンチョビさんが、あわあわと慌てた様子を見せる。もうちょっとまぶしい笑顔を堪能したかったオレは、しくじったかと少し思った。 

 

 あと、真実の口を離れる前に、杏さんのためにもう一回手を突っ込んだりした。愛を叫びつつ、無事に手を抜き出すことに成功。杏さんとのラブラブも問題がないことを証明してみせる。前回の時はまだ恋仲じゃなかったからね。

 アンチョビさんとふたりきりだというのに、他の女の子のことを話題に出すのは申し訳ないとは思うんだけど。やっぱり杏さんの分もやっておかないと不公平だし。

 というわけで、手をつっこむ前の真実の口の写真をスマホで撮り、杏さんに送信。

 さらに、真実の口に手を突っ込んだ写真と、無事に手を引き抜いた写真を改めて送信する。

 しばらくして、「ありがとう」というシンプルな返信がきた。

 

 ちなみに、大洗に帰ってから杏さんに聞いたところ。恥ずかしさのあまり悶えてしまい、素っ気ない返事になってしまったと言っていた。可愛い。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 さて。

 真実の口から離れて、アンチョビさんと手を繋ぎながら歩き出す。

 目指すはアンチョビさんの部屋、と言いたいところだけど。その前にスーパーに立ち寄って買い物をすることになった。なんと、手作り料理を振る舞ってくれるという。

 

「ほら、あれだ。恋人にご飯を作ってあげる、というのをだな、やってみたいと……」

 

 そんな可愛いことを言ってくるわけですよ、アンチョビさんが。可愛過ぎる。

 もちろん、そんなおねだりならいくらでも叶えますとも。

 というかオレの方から、ぜひともお願いしたい。

 

「アンチョビさんの手料理、楽しみだなぁ」

「ふふん。期待してくれて構わないぞ」

 

 ドヤ顔で胸を張るアンチョビさん。やっぱり可愛い。

 前回、アンツィオへ来た時に、レストランで料理についての話で盛り上がった。その際にアンチョビさんは料理好きというのを教えてもらっていたので。どんなものを振る舞ってもらえるか、ワクワクが止まらない。

 でも。もてなされるだけっていうのも、オレ的にちょっとアレだな。

 

「それじゃあ、オレはなにかデザートを作ろうか」

 

 アンチョビさんが食事を作ってくれるなら、オレは別のことでおもてなししよう。

 そう思い立って提案すると、アンチョビさんがコテンと首をかしげる。

 

「む? そう言えば、大洗ではチームのおやつ作り担当と言ってたな」

「うん。皆にはかなり好評なので、アンチョビさんにもぜひ食べてほしいな」

「正直、めちゃくちゃ嬉しいんだが。私が食事をごちそうすると言っているのに、逆にごちそうされてしまうというのも、なんだか複雑な気持ちに……」

「細かいことはいいじゃない。というか、あれだよ。キッチンで、恋人と肩を並べて、一緒に料理をするっていうシチュエーション。アンチョビさんの乙女心的に、どうかなそういうのは」

「……いいな。それはすごくいいぞ」

「あと、今日は何を食べるー、とか言い合いながら、恋人と一緒に買い物に行くんだ。オレがカゴを持ってさ、アンチョビさんがメニューを考えながら必要な食材をポイポイ入れていく、みたいな」

「おぉ……。いいぞ、すごくいいぞ」

 

 どうやらお気に召した様子。アンチョビさんが嬉しそうに声を弾ませる。

 心なしか足取りも軽やかに。というか、ちょっとスキップになっていた。ボリュームのあるツインテールの髪がフリフリと揺れる。 

 

「あっ」

 

 合わせてというか、つないでいた手が、スキップをした勢いで離れてしまった。

 アンチョビさんが慌てたように足を止めて、離したオレの手をまた握ってくる。

 手をつなぎ直してから、照れくさそうな笑みを向けるアンチョビさん。

 

「あぁもう、可愛いなぁ本当に」

「なっ」

「アンチョビさん、可愛い」

 

 つなぎ直した手を持ち上げて、彼女の細くて綺麗な指に口づけをする。

 案の定、アンチョビさんは顔をさらに赤くさせた。

 クサくて恥ずかしいくらいのことをすると、アンチョビさんは面白いくらいに反応してくれる。羞恥で目を泳がせて、それでいてチラチラとオレの方を窺う感じ。恥ずかしいけれど、悪い気はしない、みたいな。

 度が過ぎて嫌がられたら即止めるけど、アンチョビさんの反応は悪くないようなので。これからも乙女チックなことを思いついたら積極的に振っていくことにしよう。

 そんなことを考えながらアンチョビさんに目を向けると、タイミングよく目が合った。

 慌てて目をそらすアンチョビさん。相変わらず顔は真っ赤っかだ。

 

「これからもいっぱい、恥ずかしがらせちゃうから。加減が必要なら言ってね」

「そういう言い方は卑怯だぞ」

 

 嫌なわけじゃないんだと、アンチョビさんは小さな声でごにょごにょと口ごもる。

 可愛いなぁ、とつぶやきながら。オレはもう一度、彼女の手に口づけをした。

 

 アンチョビさんをしばらく恥ずかしがらせてから、思考をデザートの方に戻す。

 作ると言ったのはいいものの。何を作ればいいものか。

 イタリアのデザートと言えば何だろう。

 さっき食べたのはジェラート。

 となると他には、ティラミスとか?

 

「でもティラミスは作ったことがないなぁ」

「考えてみると、私もデザート方面は明るくないな……」

「ふむ。ちょっと調べてみようか」

 

 そう言いつつスマホを取り出して、ささっと作り方を調べてみる。

 足を止めて、あれこれスマホをいじるオレの手元を、アンチョビさんが覗き込んでくる。

 さりげなく身を寄せて、彼女の方から自然と身体に触れてくる、近い距離感。

 無意識に出てくるちょっとしたスキンシップが嬉しくて。つい顔がにやけてしまう。

 

「それはそれとして、だ」

 

 調べ物の方はちゃんとしなければ。

 そう、ティラミスの作り方だ。

 いろいろなサイトの作り方を流し読みしてみた限り、割と手軽に作れるっぽい。

 

「じゃあアンチョビさんが食事を作ってる横で、オレはデザート作りに勤しもう」

「何と言うか、そんな簡単に作れるものなのか?」

「こう見えて、おやつ作りのレパートリーは広いから。その感覚からすると、戸惑いそうなところはないっぽいし。平気だと思うよ?」

「すごいな、心強い」

「それはこっちのセリフだよ。アンチョビさんの手料理、すっごい楽しみ」

「いや、そんなに期待されても困るぞ。豪勢なものは作れないからな」

「よそ行きじゃないってことでしょ? オレはむしろそっちの方が嬉しいかな」

 

 アンチョビさんの手作り料理、楽しみだなぁ。

 ウキウキ気分でそう言うと、アンチョビさんは顔に手を当てて、照れくさそうにする。可愛い。

 

「オレもそこそこ料理は出来るつもりだけど、家庭料理の域を出ないものしか作れないよ。それこそ、カレーとかハンバーグとか肉じゃがとか。お洒落で気取った感じのものは作れません」

「いやいや十分だろ、それだけ作れれば」

「じゃあ、今日はデザートだけど、明日はオレが何か料理を作ろうか?」

「……彼氏の手料理とか。これはこれで魅力的な響きがあるぞ」

 

 なんてことを、あれこれとお喋りしながら歩く。

 歩いているうちに、周りの風景から観光地らしさが抜けていって。たたずまいがごく普通の住宅街っぽくなってきた。

 そして、目的地に到着。アンチョビさんとやってきたのは、ごく普通のスーパーだ。

 

「気合いを入れた食事も魅力的だけど、まだお昼過ぎだし。肩に力が入らないようなものがいいかな」

「それじゃあ、このアンチョビご自慢のパスタとピザを振る舞ってやろう!」

 

 ということで、食材を買いにやってきたわけだ。

 異国風とかそういう雰囲気はなく、よくあるような内装や品揃えのスーパー。買い物をする側としては、変に奇をてらったりしていないお店は買い物がしやすくてありがたい。それでもアンツィオの校風ゆえか、イタリアンっぽい品揃えが強い気がする。

 そんな店内を、ふたり並んで歩く。アンチョビさんが先頭に立ってあれこれ食材を吟味し、その後にオレが買い物かごを持ってついていく。

 

「パスタだと、オレはペペロンチーノが好きだな。王道だよね」

「アーリオ・オーリオか。大瀬良お前、地味に腕が問われるやつにしてきたな」

「簡単だけど、作るのをしくじると味気なくなるよね。素パスタになるっていうかさ」

「素パスタって。いやまぁ確かにそうだが」

「美味いペペロンチーノって、いくらでも食べられる気がするのってオレだけかな」

「分かる。にんにく、オリーブオイル、唐辛子だけなのに、止まらなくなるな」

「自分で作っててさ、これはうまくできたって感動して。もっと食べたくなったから分量を増やして続けて作ったのはいいけど、今度は微妙だったみたいなことも」

「あるな。あるある。全部平らげるのが苦しくなるやつだな」

「そうそう。美味しかったペペロンチーノを食べるのが苦行に思えるなんて……」

「でも残すことはできない」

「もちろん。何が悪かったのかを考えながら、全部平らげます」

「うむ。料理の道は険しいからな」

 

 まさに、色気よりも食い気、という会話。

 でも、それが楽しい。

 パスタの太さはどれくらいが好きかだの。

 唐辛子は丸々入れるべきか、輪切りで入れるべきかだの。

 ピザは端っこまでカリカリの方がいいだの。

 チーズの種類を変えるとどれだけ味に変化が出てくるのかだの。

 肉のパックを見比べながら何を作るならこれがいいだの。

 棚に並ぶ食材や調味料を実際に手に取りつつ、あれこれ料理トークを交わす。

 アンチョビさんも楽しそうに笑顔を振りまきながら、おしゃべりが止まらない。

 一緒に、楽しい時間を過ごせる。

 それが嬉しい。

 

「ふむ。こんなもんか」

「思ったよりいっぱいになったね」

 

 ひと通りスーパーの中を歩いて、アンチョビさんの料理の材料や、オレが作るデザートの材料などを、買い物かごに突っ込んだ。あとはお会計、というところで、アンチョビさんにちょっとした疑問をぶつけてみる。

 

「アンチョビさん。このスーパーって、なんだか品揃えがよくない?」

「お、分かるのか」

「しかも心なしか、全体的に値段がお安めのような」

「そうだろうそうだろう。食にこだわるアンツィオは、こういう店で支えられていると言っても過言ではないぞ」

「いいなー。素直にうらやましい」

 

 もちろん、大洗の学園艦にあるスーパーに不満があるわけじゃない。

 でも事実として、アンツィオの方がいろいろとちょっとだけ安い。

 肉や野菜、調味料なんかの値段を比べたり、どんな材料で何を作るかなんて話で盛り上がる。

 色気はないけれど、心の距離がすごく近くに感じられて、嬉しい。

 そんなことを言うとアンチョビさんは、はにかみながら、嬉しそうな顔をする。

 可愛いなぁ。

 ちなみにお会計の際、アンチョビさんが「私がごちそうするんだから、私が支払う」と言い出して。いやいやそれはちょっと、オレも払うべきなのでは、みたいに、少しばかり言い合いになったりした。結局、食材分はアンチョビさんが、おやつの材料分はオレが支払うということで落ち着いたけど。

 でだ。お店のレジ前でそんなことをしていたから、会計係のおばさまや周りの買い物客の人たちから温かい目を向けられてしまい。その視線に気が付いたアンチョビさんがまた顔を赤くする、という一幕があった。

 

「行き着けのスーパーなのに……」

 

 しばらく買い物に行けない、なんてボヤくアンチョビさんに、「ご愁傷様」と他人事のように言いながら。彼女の頭を撫でてあげた。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 なんのかんのといろいろ買い込んで、思ったよりも大荷物になった。買ったものを買い物袋ふたつに詰め込んで、両方とも持とうとしたら。

 

「さり気なく荷物持ちをしてくれるのは嬉しいが、片方は持つぞ?」

 

 アンチョビさんから待ったが掛かる。

 それじゃあ、お言葉に甘えてということで。

 こっちの方が軽いかな、という袋の方をアンチョビさんに手渡した。

 あと、空いた手をそのまま差し出す。

 

「恋人と一緒に買い物に行って、お互いに買い物袋をぶら下げて、手を繋いで帰宅する。こういうのって、アンチョビさん的にはどう?」

 

 今のシチュエーションを言葉にして言ってみたら、またまたアンチョビさんの乙女心にヒットしたらしい。彼女の口元はゆるんで、目元が下がっていく。表情がニヤケてきて、恥ずかしいだけじゃないのは丸分かりだった。可愛いなぁ。

 恥ずかしがりながら、彼女は差し出したオレの手を取る。

 オレが、きゅっ、と手を握ると。アンチョビさんも握り返してきた。

 

「じゃあ、行こうか?」

「……おぉ? あ、うん。そうだな」

 

 また乙女的な何かを噛みしめていたのか、にぎにぎとオレの手の感触を確かめてから、彼女はちょっとうわの空みたいな感じで返事をしてくる。

 顔はゆるゆるになっていた。喜んでくれてるならなにより。

 オレの方もにこにこしながら、ふたりしてスーパーを後にした。

 買い物袋を片手にしつつ、アンチョビさんと手をつないで歩く。

 さっきまではいろいろと会話をしながら歩いていた。でも今は打って変わって、これといって話しもせずに黙ったままだ。

 とはいっても、オレも、たぶんアンチョビさんも、沈黙が辛いとかそういうのはない。むしろ何も言わなくても、つないでいる手を握ったり、握り返してきたりして。心のほんわか度はむしろ高い。

 

「……」

 

 顔を赤くして黙ってるアンチョビさんだけど、はにかむ表情は嬉しそうに見える。

 時折、オレの方をチラ見してきて。

 目が合うと照れくさそうな顔をする。

 可愛いなぁ。

 そう思うたびに、彼女の手をにぎにぎと軽く握りしめる。

 気が付けば、指を絡める恋人繋ぎになっていた。

 

「やっぱり、男子の手って大きいんだな……」

「アンチョビさんの手はちっこくて、スベスベしてて、可愛いよ」

「お前は本当に。なんでも可愛いと言っておけばいいと思ってるだろう」

「だって本当にそう思うんだもの。そういう気持ちはちゃんとその都度、言葉にして伝えておいた方がいいでしょ」

「嬉しいんだが、恥ずかしいんだぞ。嬉しいんだが」

 

 バカップルよろしく、そんなやり取りをしながらしばらく歩いていると。

 どうやら目的地に到着したらしい。

 

「ほら。あそこが私の住んでるところだ」

「おぉー」

 

 アンチョビさんが指差す建物。レンガ調と言えばいいんだろうか、お洒落な感じで大きめな3階建てのマンションがある。

 遂にアンチョビさんのお部屋にお邪魔することになるわけだ。

 ……あれ? なんだかちょっと緊張してきたぞ?

 

 

 

 ―続く―




アンチョビさんと肩を並べて買い物や料理をするとか、最高だと思わない?
槇村です。御機嫌如何。


ご無沙汰しております。いやマジで。
いろいろあって全然手をつけていなかったのだけれど、
気が付けば前話から半年も経っていた。マジかよ。
次もいつ更新とか、約束はできないんですが。
気が向いたら覗きにきてください。

「ガルパン最終章第4話」の戦車滑降バトル、「最終章」の中では一番好きかもしれん。





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