「オギャー!オギャー!」
なんか赤子の声が聞こえる。しかもめっちゃ近いな。はっきり言ってうるさい。ん?体が動かない!?しかも真っ暗、何も見えないときた…。
「よくやったなアル!元気な男の子だぞ!俺たちの子供だ!!」
は?????????!!!!!!!
あれから一年経った。この1年の成果を発表しようと思う。
まず、俺は転生したらしい。今1歳児だ。前世でもういい歳だった俺としては精神的にきつい事この上ない日々なのだが、愚痴を言っても仕方がない。身の回りの情報を集めたところ、俺の名前はアルディ・スン、母親はアルテミナ、父親はルディスというらしい。畑で作物作ってる平和な村人だ。農家いいね、転生先としては割とあたりなんじゃないかと思う。
言葉についてはもうマスターした。どこの言葉か知らないが、子供の脳は優秀だ。ちょっと喋るの早かったかもだけど、うちの子スゴッ!で済んだし、問題ない。
運動面では、寝返りにハイハイ、掴みだちなどの訓練を毎日必死でする事で半年くらいで歩くことに成功した。今や小走りすらできる。頭が重くてたまにこけるが、そのうち慣れるだろう。これからは走り込みによる体力強化と、農家の勉強だな。早く今世の両親の役に立たねば。
さて、早速走り込みを初めて数日経ったが、どうやら俺は普通じゃないようだ。いやまぁ、転生者って時点でおかしいんだけども、それだけじゃなくて、成長速度というか、発達が速い気がする。最初はこけながら家の周りを一周したらバテたのに、今では村を無事1周できる。ちょっと怖くなった。軽い筋肉痛はあるものの、これといった不調もないし、大丈夫だよな?それと、村の外に出ようとしたら止められた。なにやら魔物が出るらしい。うん、異世界かな?異世界転生ってやつなのかな??せっかく平和な農家に生まれたと思ってたのに!
農家の勉強なんてしてる暇ねぇ、こういう世界で村人ってのは死亡率高すぎるからな。家族を守るために強くならねば!もちろん自分の身もね!
そうと決まれば明日からさらに訓練に励もう。多分剣と魔法の世界的なやつだろうから、棒切れを振る訓練を混ぜてみるかな。木剣とかあればいいけど、今の筋力じゃ振り回されそうだしなぁ。
そんなこんなでさらに1年。アルディ少年2歳になりました!
さて、最近の俺の1日を紹介しよう。
まず、体感時間4時に起床、6時までランニング(今は村を10周できるよーになった)、そのあとは水汲みなどの手伝いをして、食事の後素振りを昼まで行う。昼飯の後もひたすら素振り。1日1000本くらいが今の限界だ。始めた時は100本くらいで腕が上がらなくなったことを思えば、だいぶ進歩したと思う。たまにくる冒険者さんとかには毎回びっくりされる。いつかはどっかのアニメキャラよろしく、10000本くらいできるようになるといいなぁと思ってる。この体ならまじでできそうだ。異世界少年ぱネェ。魔物というのがどれほどのものか知らないが、そのうち狩に行きたい。村の大人にも森で狩りをする人もいるからそんなに強くない奴もいるんだろう。なんとなくだが、あの人もそこまでずば抜けて強いわけではないだろうことはわかるのだ。俺にできないことはあるまい。おそらく俺はすでに、この村で1番強いのだから。
「アルディ!隣のエモットさんとこで子供が生まれたんだって!お祝いに行くよ!」
母の声だ。どうやらお隣さんがおめでたらしい。平和だな。はて?エモット?どっかで聞いたことあるような…。気のせいか?
そして俺は引っかかりを覚えつつ、お隣に向かうのだった。
次からやっと原作キャラを出せる。オーバーロード臭薄すぎて…
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2話
エモット家に入ると、居間の奥の寝室らしき部屋で、幸せそうな笑顔を浮かべる女性と、安らかな寝顔の赤子がいた。栗毛色の髪の毛が数本、ちょこんと頭から生えているのが見える。
「アルディくん、この子、エンリっていうの、抱いてあげて?」
あぁ、この子か。原作キャラに会える、なんて思ってたけど。そんなことどーでもいい。大事そうに抱えられたその小さな身体を、俺はそっと、慎重に受け取った。小さな子供の高い体温が、俺の身体を、心を温めてくれている気がした。彷徨う紅葉のような手が俺の服に触れて、キュッと掴んだ。安心したように俺の胸に身を寄せてくる彼女は、とても儚くて、愛しくて、泣いてしまった。産まれたばかりの赤子の前で泣くという、全く締まらない事してるけど、でも、こんなにも暖かい涙を流したのは初めてで、幸せな気持ちになった。
『おばさん。この子は、俺が守るよ。』
この子の笑顔を、この安らかな寝顔を守ろう。彼女の両親も救おう。彼女の愛するだろうこの村を、守り抜くと決めた。今日の日の出来事の、溢れる愛しさの、せめてものお返しに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その日の夜、俺は森の前に立っていた。『トブの大森林』
カルネ村の近くにある森で、多くのモンスターが生息している。
ただ、この付近は『森の賢王』と呼ばれる強大な魔獣のテリトリーなのだ。森の賢王とは魔法すら使用する魔獣で、一説では数百年の時を生きている蛇の尻尾を持つ白銀の四足獣らしい。こいつのお陰でモンスターの数は少ない。が、原作を知ってる自分からしたら、でっかいハムスターでしかない。まぁ、実際滅茶滅茶強いから森には深入りしないつもりではある。さて、今回の俺のお目当ては、ラットとかワームとか所謂、雑魚モンスターだ。やっぱまずはスライムからでしょ!とにかく、魔物を狩らなくては経験値がたまらん。木刀振ってるだけでももちろん筋肉はつくし、技量は上がるのだが、レベルはほぼ上がらない。そうゆう仕様だったはず。だからプチプチ雑魚退治だ。千里の道も一歩からってやつだな
結果。一匹も狩れなかった。ラットといっても暗視の能力があり、俺が見つける前に逃げられるのだ。気配を消して探しているつもりなのだが、多分できてないんだろうな。でも、昼間に2歳児が森に入ろうとすれば、即刻連れ戻されるし、見つからなくてもみんなに不審がられるだろう。隠密能力と暗闇の中での気配察知は絶対に身につけなければならない。これから毎日訓練だな。この身体に夜中まで夜更かしはしんどい。帰って早く寝よう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夜の森での狩を始めて3年ほど経った。最近では単体だと物足りなくなって、ちょっと遠出して魔物が普通に出てくる森でレべリングしてる。戦士として敵をバッタバッタとなぎ倒す感じを憧れてたんだけど、いかんせん夜はやつらの領分だ。視界というディスアドバンテージがある以上、先に察知して回り込み、奇襲による短期決戦が定石になっていた。ポーションなんて高いものないし、まともな防備もないのだから、怪我なんて出来ない。俺は成り行きで、アサシンとしての技量を磨きまくってた。視界ほぼゼロの中で暗視持ち相手にパーフェクトゲームというのは、なかなか難しい。しかし、今や半径50メートルくらいの生物は察知できる。さらに近づけば大凡の強さもわかるので、無謀な戦闘はしないで済む。これにはだいぶ助けられた。近接戦闘に関しても、なんとなく相手の動きを感じとってやれるようになった。なんかあれだな、見聞色の覇気みたいだな。アサシンってのはそーいう職業なんだろうさ、気にしたら負けだ。
それにしても、今の俺はレベルでいうとどれくらいなんだろう。この世界の人間がクソ弱いことはわかるが、具体的な基準がないと、俺より弱い、俺よりめっちゃ弱い、とかの自分基準な能力ではわからんのだ。とはいえ、レベルという概念が一般的ではないかの世界では、教えてくれる人なんてそうそういないのだが。
因みに言っておくと、この世界ではレベルの代わりに『難度』というものがある。難度はレベル×3くらいなので、レベル10の人がいたなら、その人の難度は30ということになる。ともかく、人口120人程度の辺鄙な、しかも斜陽も斜陽のリエスティーゼ王国の開拓村には、そんなまともな戦闘要員は皆無なのだ。自分の立ち位置も分からないまま、俺は今日も森に向かった。
鬱蒼とした木々の合間を縫って、昨日雨が降った事でジメジメとする土を踏みしめ歩く。手には、去年両親がなけなしの金を払って買ってくれた鉄剣が握られている。いつもなら、索敵に引っかかった獲物をサクサク殺るだけなのだが、今日はなんとなく、森からイヤな感じがする。この辺に強いモンスターはいないはずだし、索敵にも何も反応はない。問題ない…はず。
「…………!!!??」
咄嗟に剣を抜き放ち、横に振り払いつつ後ろに飛びのく。
『…ほう。なかなか良い勘じゃのう。お主の『気配察知』は、半径50メートル程だと思って、その外から来たんじゃが。ふむ、面白い。』
そうだ。俺の索敵には一切反応はなかった。突然そこに出現したのだ。つまりこれは、転移系の魔法!正直勝ち目はない。どれくらい差があるかは分からないが、果てしなく俺より強いことだけはわかる。どうやら人間のようだが、いきなり転移で出てくるあたり、まともなやつではあるまい。どうするか…
『そう警戒するな。儂は世界を廻っている途中でな、この辺りには似つかわしくない気を放つ奴がおるから、ちと覗いてみたくなっただけじゃよ。儂の名は「リグリット・ベルスー・カウラウ」しがないネクロマンサーさね。』
「……え?…。」
はい???もしかして?もしかしなくても元十三英雄の?銀ピカドラゴンと仲良しのバアさんか???!!顔が見えないから確認はできないが、そうであるならこの強さも納得いく。
…待てよ?これは、強くなるチャンスじゃないか?本職ではないとはいえ、強者から学ぶ事は多いはずだ。旅のついでに、気まぐれで少しくらい修行つけてもらえるかもしれない。どっかのクライムくんみたいにね!
「あのさ、真っ暗で顔も見えない中悪いんだけど、俺強くなりたいんだ!少しでいいから、修行つけてくれないか?」
リグリットは少し驚いたように目を見開いて、フッと苦笑を漏らした。
『歳上に先に名乗らせておいて自分は名乗りもせず修行をせがむか。若いの、何のために強さを求める。その歳でお主は、この世界に何をみた。』
この問いに対する答えは、おそらく俺の人生を左右する。けど、俺の答えは簡単だった。
「大事な人を守るためだ。おれは、やがてくる脅威の前に萎縮して、何もしないでいるような臆病者にはならない。その為に、あんたの力を借りたい。」
リグリットはこの時、この子供に1つの可能性をみた。『百年の揺り返し』その時が近い今、5歳かそこらの子供が貪欲に強さを求め、愛を語る。この子ならば、あるいは。自分ですら届かなかった領域に、プレイヤーと呼ばれる、神の領域に、到達しうるのではないだろうか、と。
『いいじゃろう。明日の夜またこの森にこい。お主に、かけてみるとしよう。』
(ツアーよ、わしは、見つけたやもしれんぞ。)
月明かりも刺さない漆黒の森で、1人の老婆の怪しい笑みが浮かんでいた。その隣で少年は、自分の幸運に歓喜し、この機を逃すまいと目をギラギラさせていたのである。
また、次の夜からの修行を甘くみていたことを、大いに後悔することになるのだが、それはまだ、彼の知らない事である。
話が進まない…
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3話
ブンッ!ブンッ!シュッ!
山々の隙間から朝日が昇り、いく筋もの光がまだ残る夜を引き裂く。月が光を失うのと反比例して、剣先の輝きは増していった。
朝霧の降りる、まだ肌寒い村の広場で、上半身裸の5歳ほどの少年は、しかし、その身体から湯気を上げていた。
唐竹、横薙ぎ、袈裟懸け、突き、逆袈裟懸け、次々とくりだされる剣撃はー本来ならば鉄の剣に振り回されてもおかしくない体格であるにもかかわらずー洗練されており、1つの踊りのように途切れなく続く。少し剣をかじった程度の人間では視認することすらできない剣速。それを2時間休みなく、体に一切のブレなく行えることは、少年が既に剣士として達人の域にあることの証左であった。
「よし、こんなもんかな。」
彼の愛剣『龍翔』(なんとなく自分でつけた)を鞘に収め、稽古により生じた大量の汗とこもった熱を拭うために井戸へと向かう。
村の朝は早い。この時間になると、家々の煙突からは煙が立ち上り、朝食の準備をする女性達が忙しそうに動いている。
「今日も稽古かい?頼もしいね。うちのバカ旦那にも見習って欲しいもんだ。アディの何倍生きてると思ったんだか…、」
1人の女性ー年齢は40代前半といったところだろうかーがアディに話しかける。
「いやいや、僕は農作業の手伝いもほとんどしてないし。
好きなことやってるだけだから。おじさんを悪く言わないであげて。」
アディは気まずそうな頰を掻くが、その年齢の割に大人びた対応に女性は感心していた。
「今度うちの息子にでも教えてくれないかい?」
「もちろん。僕でよければいつでも。」
そういって女性と別れ、井戸から水を汲むと、ガバッと頭からかぶった。身体中の汗が流れて、足元に小さな水溜まりが出来る。
「ふー、スッキリした。」
こうしてカルネ村の朝は始まる。いつもと変わらない、清々しい朝だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「アディ!朝ごはんできたわよ!」
「うん!今行く!」
母の声に努めて元気に応えて食卓に向かう。
この世界の村、いや他の村は知らないが、カルネ村の人々の食事は実に質素だ。
まぁ王国だし?9公1民みたいな馬鹿げた税率だから仕方ない部分はあるのだが。卵かけご飯とか、味噌汁とか、納豆とかさ、まぁ元日本人としては朝はそーいうの食べたくなるんですよ。
とは言ってもそんなものがあるはずもない。パサパサでガチガチのパン半分と具のほとんどないスープ、あと漬物みたいなのがつくこともあるが、まぁそんなもんだ。食後のコーヒーとかそんな優雅なものもない。三食食えるだけ良いと思うけど、ちゃんと身長伸びるかな?チビは嫌なんだけど。
とりあえずタンパク質に関しては、自分で獣を狩ってこよう。村の猟師のおすそ分けなんて待ってられないからね。俺は食べ盛りなのだ!
それよりも、今夜からリグリット師匠による修行が始まる。何日やってもらえるのかはわからない。もしかしたら今日限りかもしれないのだ。全てを吸収して少しでも強くならなければなるまい。今から楽しみだ。
「アディ。何かいい事でもあったのか?エンリちゃんに告白でもされたか?」
父の言葉に一瞬ドキリとしつつ、表情には出さないよう当たって冷静に応える
「あはは、そんなことあったらいいんだけど、残念ながら違うよ。今日は剣の調子が良かったんだ。なんかこう、また一歩上達した気がしてね。」
嘘ではない。今日の稽古では袈裟懸けからの横薙ぎに移る動作をより無駄なくできるようになった。1人稽古で見つける自分の動きの改善点は、その剣士の宝となるのだが、だからこそ、そうそう見つけられるものではない。
大抵は決められた型を習い、それを体に覚えさせるのでーたとえ自分にとって最善の動きでなくてもー生涯その型通りに剣を振るのだ。
また、師を持たずに我流で剣を振っていたとしても、効率化された
「型」を超える『型』を自ら産み出せるものは極僅かである。
その上、これに辿り着いたのが20を超えない頃であるというのは、彼を置いて他にいないだろう。
ただ、彼は自分の才能の非凡さにまだ気づいていなかった。
それはそう、彼の場合、毎回の稽古でこの改善を行なっているのだから。
「なーんだ。またそんな事だったのか。剣のことはよく分からんが、まぁ楽しいならいいやな!」
「全くアディったら、ほんとに剣のことかエンリちゃんのことしか興味ないのね!うちの子はなんになるのかしら、王宮の騎士様とか?」
両親の認識としては、小さいうちは家のことなんて気にしないで、好きなことをさせてあげよう。という程度のものであり、そのうち飽きるのでは、とさえ思っていた。
三つ子の魂百まで、とは言っても、5歳そこらの頃の気持ちを一生持ち続けるものはほぼいない。僕ウルトラマンになる!というセリフを20歳で言ってるやつは相当危ない奴である。つまりはそう、微笑ましいものを見る目、というやつである。
「ハハッ!それは大出世だな!もっといい剣を買ってやらんと。あぁそうだ!鎧も必要だな、王宮で息子がバカにされてはたまらん!」
しかしこの5歳児は、精神年齢的にはとっくに三十路を過ぎた、いい大人であった。
「母さん?王宮に入れるような騎士様には、農民出身じゃあ逆立ちしたってなれないんでしょ?父さんも、俺はこの龍翔に満足してるし、5歳児に合う鎧なんてなくない?あったとしても、すぐきれなくなるからお金がもったいないよ。」
「「…………」」
幼い息子に至極もっとな正論で言いくるめられ、2人はなんとも言えない気持ちになった。
先に沈黙を破ったのは、親としてのプライドを守らんとする父親の方であった。
「確かにな、しかしアディよ、デケェ夢を持つ男にこそいい女は魅力を感じるもんなんだぜ?」
およそ5歳児に向かっていう内容ではなかったが、もはやそんなことは頭になく、この現実主義者をなんとか言い負かそうと必死になっていたのだ。
「へー、よくわかんないけど、それじゃあ僕は『アダマンタイト級冒険者』を目指そうかな!」
アルディとしては、この微妙な空気をなんとかしようとてきとーに言ったでまかせだったのだが。今までのやり取りで現実主義を叩きつけられていた2人は、もろに間に受けた。
そして、我が子の大いなる目標の為に、自分たちは何ができるだろうか、と真面目に考え出した頃
それは訪れた。
【バタンッ】
ノックもせずに勢いよく訪れた、仕立ての良いシスター服に身を包み、見るからに高価そうな装飾品の数々をつけた老婆
リグリット・ベルスー・カウラウが、口元に笑みを浮かべて立っていた
「おいおい小僧、お主にはその程度で止まってもらっては困るぞ?さらに先へ、もっと先へ行って貰わねば、な。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どうもアルディです。何故か元十三英雄様が家に来てから数分、絶賛現実逃避中であります。夜までには心の準備をしておこうと思っていたのを、朝一番に出て来られては、心臓の1つも止まるというもの。
放心くらいで済んだ自分を褒めたい気分だ。偉い偉い。
「というわけじゃから、少しの間世話になるぞい。飯とかは自分で用意するからの、そう迷惑はかけん。では小僧、食べ終わったら修行開始じゃ。」
なにやらしらぬ間に話が進んでいた模様。てかうちの両親警戒心薄っ!コミュ力高っ!知らないばあさんをそんな簡単にうちに入れちゃっていいの?大事な息子預けちゃっていいの!?
「どうぞよろしくお願いします!うちの息子を、強くしてやってください!俺たちには、してやれる事なんて全然ないですから…。」
「私からも、お願いします。」
あ、これ、さっきの信じちゃったのか?いや強くはなりたいんだけどね?
……でもまぁ、ラッキーか?災い転じてラッキーだな。じゃんじゃん吸収してスイスイ強くなってやろうじゃないの!
「あの、剣は持って行った方が?」
「いらんの、わしに剣は教えられん。」
「はい、分かりました。すぐに準備して来ます!」
ネクロマンサーが剣とか使ってたら焦るわ。いちよー聞いてみただけ、ノープロブレム。死霊魔法とか覚えたいな、かっこいいし。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
森の中、目の前で立っている少年を見つめる。
リグリットは今朝の光景を思い返していた。
息を呑むような剣技は、彼の恵まれた剣の才を雄弁に語っており、秘めたる資質は今まで自分が見た剣士の中でも群を抜いているといっても良いものだった。
これほどの剣の才の持ち主が、魔法を覚える。一体どれほどになるのだろう。もちろん、魔法の才能は全く無いということもあり得るのだが、それはないと、何処かで確信している自分がいた。
「さて、お主にはまず召喚魔法を覚えてもらう。これは位階が上がるごとに強力になって行くものだが、途中を飛ばすことはできない。
お主は剣士じゃが、召喚モンスターは盾役にも使えるし、物によっては後衛も出来る。戦闘の幅は大いに広がるだろう。
次点で、そうさな、付与魔法、強化魔法を教えよう。武技は便利だが、身体に負担を強いる諸刃の剣よ。魔法は覚えておいて損はあるまい。取り敢えず大きくはこの2つじゃ。何か質問はあるかの?」
「いえ、ありません!師匠!始めましょう!!」
勢いよく返事をして修業を急かす彼を見ていると、やはりまだ子供なのだな、と当然のことに気づく。
この少年を見ていると、幼い子供というのを忘れてしまうことが多い。不思議な子だ、改めて思った。
猶予はそう長くない。急がねばなるまい。
「まずは手本を見せる。よく見ておんじゃぞ。
《サモン・アンデッド・1st/第一位階死者召喚》」
目の前の地面から【ゴボッ】という音を立てて何かが吹き出る。
その黒い物体は徐々に盛り上がり、成人男性程の大きさの、異臭を放つ屍が現れた。
「ゾンビじゃ。紛う事なき雑魚じゃが、上手くすれば何かには使えるかもの。」
自分の説明を聞いて、不満そうに顔をしかめるアルディ。
「えー。それじゃあ覚えたって肉壁にもならないじゃないですかぁ。早くもっと上の位階魔法を使いたいです。」
「阿呆。帝国のように魔法学の進んだ国で、専門の学校に数年間通ってなお、第一位階魔法を習得出来ないものも多くいるのじゃ。そう易々と第二位階以上などいけるはずもあるまい。」
気持ちはわからんでもないがのう。いくら才能があっても、一朝一夕で身につくものではない。しかし魔法論など座学やってる暇もない。
まだうだうだと何か呟いているアルディに顔を向ける
「とにかくやってみい。話はそれからじゃ。」
「了解です…。では、顕現させよ!我が永遠の友!
《サモン・アンデッド・1st/第一位階死者召喚》」
彼がイメージしたのはシンプルなスケルトン。
呪文を唱え終わったあと、地中からモゾモゾと姿を現したのは、確かに骨でできた人型であった。
「ほう。大したもんじゃ。多少ふらついてるようだが、一発で成功させるとは…、、。しかし、その痛いセリフはなんじゃ?」
「いや〜、なんか、厨二心くすぐられちゃって、つい。
あーほら、アンデッドは寿命とかないし、間違ってはいないですよね?」
「まぁ、な。普通に時間経過で消えるがの。」
「……あ。そっか。」
「言ってなかったかの。召喚モンスターはいつまでもあるわけじゃないぞい。術者の力量にも依るが、永遠の友にはなれんな。」
「いやーお恥ずかしい。全く考えずに、初めての召喚モンスターだし仲良くしよーなんて本気で…。まぁいいか。それで、このスケルトンどうしますか?」
「ほっといてよかろう。色々参考にもなるしの。」
第一位階魔法を難なくこなしてしまったアルディに内心驚愕しつつも、他のモンスターの召喚も試していくことにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「しかし、消えないなぁ。」
召喚して半日ほど経っても、スケルトンは変わらず立ち尽くしていた。
あの後召喚した数体のモンスターは、すでに時間経過で消えているのに。これはどう考えてもおかしい。
「ふむ…。召喚モンスターは召喚主の命令を可能な限り、全力で遂行する。通常、召喚モンスターが時間経過で消えることは魔法を多少勉強した者なら誰でも知っている。召喚魔法を覚えようと思うならなおのことの。
しかし、お主は本気で、永遠の友になれると思い、願った。俄かには信じ難いが、お主の出来るだろうという純粋な信じる気持ち、あれはその気持ちに応えたのやもしれん。その代償に、フラフラじゃがな、フハハハッ。」
「…えーーーー。どんなご都合主義だよ。てか、フラフラのスケルトンなんていても仕方ねーよ!確かにあの時はズッ友!!みたいなこと思ってたけど!ちょっとお熱だったんだよ!」
「そーはいってものう。長い事生きてるが初めて見る例じゃ。
壊してしまうのも忍びない。かと言って森に放置というわけにもいかん。お主の家に連れて帰ろう。」
……は!??頭大丈夫かこの人!??どこの世界にアンデッドと一つ屋根の下で暮らす村人がいんだよ!?あのー?もしもし?誰も彼もが貴方みたいな人間だと思わないでね?うちの両親ショック死するかもなんだけど!
こうして、自由なばあさんは死体を1つひとんちに持ち込みましたとさ。メデタシメデタシ。…………
「どうしてこうなった。」
もはや小説ではお決まりに近い台詞を吐いて、
朝家を出る時の軽い足取りから一転、とぼとぼと家路に着くのだった。
頑張れアディくん!
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4話
帰って来たカルネ村は、アンデッドの出現によって阿鼻叫喚の地獄絵図、とはいかないまでも、当然結構な騒ぎになり、俺の家周辺に人影は一切無くなっていた。
まぁ当然の反応だな、村人総出で滅ぼされてもおかしくはないと思っていたから、まだマシと言えるだろう。
「ただいまー。」
いつもなら明るい声で迎えてくれる2人も、今は青い顔で問いただすような視線を向けてくるだけだ。この状態で〝アンデッドと一緒に暮らしてくれ〟と言うのは、正直言って気が重い。
しかし原因が俺自身にある以上、やらねばなるまい。
「母さん、父さん。リグリットの隣にいるアンデッドなんだけど、実は僕が魔法で召喚したものなんだ。召喚主である僕には絶対服従だから、2人や村の人達に危害を加えることはないよ。
……それでね。その、そいつはすごく特別なアンデッドで、壊しちゃうわけにもいかなくて…。うちに置いとくことって、出来ないかな?」
それから1時間程の説得で、なんとか両親の了解を得ることができた。休憩いらずで費用もかからないから、農作業の手伝いには使えるというのを重点において話だが、ちゃんと出来るだろうか?
帝国の研究室では単純な作業ならできていたし、大丈夫だとは思うが…。
取り敢えず、必死で説得する俺の隣でニヤついてたリグリットには、いつか何かしら仕返しをしなくてはな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌朝、俺は召喚したスケルトンを連れて畑に来ていた。
とにかく今は、俺自身がスケルトンを使って農作業を行い、その有用性と安全性を理解してもらうしかない。
時間はかかるかもしれないが、第二位階魔法を習得するにはある程度第一位階の習熟が必要らしい。スケルトンだけでなく他にも何体か出して行えばいい訓練になる。アンデッドを指揮する経験も積んでおいて損はないだろう。
「よーし、それじゃあボーン、鍬を持って土を掘り返せ。」
このスケルトンには、ボーンというなんとも安直な名前をつけた。
なお、原作のアインズ様は思念だけでアンデッドに指示を与えることができたし、膨大な数のアンデッドを同時に動かすことも出来ていたが、俺には出来ない。召喚の時は俺の気持ちに応えたらしいのだが、何故なのだろう。
とにかく、ひよっこネクロマンサーの俺は、まず単体のアンデッドを口頭で指揮、慣れてきたら思念で、次に数を増やして、という感じでいく予定だ。因みに今召喚できる最大数は三体だ。ボーン合わせて。まだまだ先は長い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
突然だが俺の名はルディス。最近の悩みは一人息子のアディの事だ。昔から変なとこがあるアディだが、今回はなんとアンデッドを連れてきたのだ。
最初家において欲しいと言われた時には、流石の俺も背筋を冷たい汗が流れたもんだ。しかしまぁ、息子可愛さと必死さに根負けして早1ヶ月。俺は以前ほどアンデッドに対して恐怖心を抱かなくなっていた。
「おーい、ボーン。この辺りの雑草むしっといて貰えるか?」
俺の言葉を聞いてアンデッド、もといボーンは草むしりを始めた。
息子の話を聞いた時は眉唾物だと思っていたが、実際に使ってみてその有用性を痛感した。
どれだけ働かせようと文句は言わないし、疲労も無ければ食費も人件費もかからない。理想の労働力と言えるだろう。
まぁ、アンデッドと仕事をするとか、アンデッドが作ったものを食べるとか、そういったことに忌避感が無ければの話だが。
その息子はと言えば、ボーンの他に2体のアンデッドを召喚して違う作業をしている。家庭教師のリグリット監修の下、ネクロなんとかとしての実力を高めているらしい。もっと力の強いアンデッドを使役できるようになったら、村の防備を固めるための工事も行うという話を聞いた。
とまぁ、村としてはいいことだらけの現状で、何が悩みなのかと聞かれれば、アンデッドは優秀過ぎるのだ。というか、うちの息子が優秀過ぎる。世の親たちにとっては贅沢な悩みなのだろうが、親としての威厳が保てない。そのうちあの子は、村の人たち全員を1人で養ってしまいそうだ。息子の活躍は嬉しい。成長も嬉しい。嬉しいのだが…複雑だ。
「お、終わったか。それなら次はあれをやってもらうか。」
自分であれば2日はかかったであろう作業を、ボーンはその日の午前中に終わらせていた。
…アンデッドは便利だな。負けたよアディ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ボーンを初めて畑に連れて行ってから一年が経った。
現在の進歩状況としては、召喚魔法、強化魔法共に第二位階には到達している。第一位階を1日で使えた割に次の段階まで時間がかかり過ぎだと思うかもしれないが、これでも相当早い方なのだ。
アンデッドの運用に関しては随分上達したし、みんなもその存在を受け入れつつある。
ボーンに関してだが、父に預けたまま放ったらかしにしてる。
仕事はうまくやっているようで、この前ボーンに会釈してる人を見かけた。あれを見た時は驚愕したな。
さて、現在俺はカルネ村を絶賛要塞化中だ。
とは言っても、原作でゴブリンの皆さん主導でやったもののパクリでしかないが。
いくら俺が強くなったとしても、村を囲む形で襲撃してくる騎士を1人で全員相手取るのは難しいだろう。それに、丁度俺が村を離れている時に起こるかもしれないのだ、堀や塀、櫓などがあるのとないのとでは大きく被害が違うはず。
それと、多少の自衛訓練を始めた。俺の村への貢献度を鑑みて、参加してくれている大人も幾人かいるが、大抵は子供だ。
流石に6歳児の声をまともに受け止める人は少ない。これに関しては、今後も信頼を得ていくことで解決するしかないかと思う。
「アディ、もう着くぞ。」
「ほんとですか!どれどれー………おおおぉぉぉお!スゲーー!」
俺が今向かっているのは『エ・ランテル』と呼ばれる、三重の城壁に守られた堅牢な城塞都市だ。資材と時間と人手があればカルネ村もこんな風にしたいなぁ、なんて。ずっと寂れた村にいた人間としては、なんだか遊園地にでも来た気分になる。
一緒に来た村の大人が検問所で手続きをしたり、中に入って薬草を売ったりしている間中、俺はキョロキョロと都市を見ていた。
今回の俺の役目は馬車番だ。子供に大事な収入を任せるわけにはいかないとのこと。だから馬車にさえいれば何しててもオッケーなのである。
『おいガキ。護衛もなしで一丁前に馬車番でもしてんのか?
この辺は治安が良くねぇんだぜ?俺らみてぇな物盗りが出るからよぉ〜。』
ボンヤリしてたら剣を持った男が5人程集まってきていた。
「はぁ。油断していたとはいえ、こんな近くに来るまで気づかなかったとは、最近狩してないから鈍ったかなぁ。気をつけなくちゃ。」
反省しつつ馬車を降り、龍翔に手をかけると、
『…え?』
声をかけてきた男の手首を切り落とした。
『ギャァアアアア!やめてくれ!俺が悪かった!』
「油断し過ぎだよ。」
『て、てめぇ!ちょーしにのんじゃねぇぞ!』
残り4人のうち1人が突っ込んでくる。男のゆっくりとした振り下ろしを躱しつつ背後に回り、首筋にピタリと剣を添える。
「そんなに死にたいのか?」
感情の抜けた底冷えするような声に、5人は悲鳴をあげて我先に逃げ出した。後には、放り投げられた数打ちの剣と、血塗れの手首と、剣を持つ手をカタカタと震わせるアディが残った。その目には先程までの冷酷な色はなく、はっきりとした恐怖が宿っている。
両手首を切り落とされた人間が生き残れる確率など、ゼロに近いだろう。
自衛のためとはいえ人の命を奪ったかもしれないという事実と、ぬるりとした生暖かい返り血が、彼に少なくない動揺を齎していた。
(何を今更、今までゴブリンとか散々殺してきたじゃないか。
あんな野蛮なやつ、モンスターと変わらないさ。)
自分を落ち着かせるように心の中で呟くと、馬車にあった布で返り血を拭き取り、忌々しそうに視線を街中へと向ける。
「存外、嫌なもんだな。せっかく楽しかったのに。……チッ。」
硬く握り締められた拳は、まだ僅かに震えていた。
普通の日本人に殺人はしんどいです。
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