彼は月迅竜である。 (一般的な犬)
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幻想郷縁起風 怪物紹介

幻想郷縁起風のキャラ紹介です。

目次先端に有りますが、ネタバレ注意です。


"幻の白月" 朧

 

能力"霧に溶け込む程度の能力"

危険度"高"

人間友好度"普通"

活動場所"永遠亭"

 

 迷いの竹林の何処かにあるという永遠亭にて生活しているらしく、永遠亭や迷いの竹林以外にも人里でも見かけるため比較的会いやすい妖怪とも言えるだろう。

通常時は人間状態で生活しており、肩よりも少し長い銀髪 紅い細目 それなりの身長があるためわかりやすい。

人間関係はそれなりに広く、一見無愛想の様で、根は優しいのだろうか。妖怪にしては珍しく人を見下す態度はとらず、平等に接する。

ただし、後述する永遠亭の薬師 八意永琳 とは恋仲のようで、彼女を侮辱したり、手を出そうとしようものなら彼の逆鱗に触れること間違いなしだろう。

 

《目撃情報》

 

 迷いの竹林の入口で、藤原妹紅さんと親しげに喋っていました。あの人達って結構無愛想なイメージがあるのに以外でしたね(射命丸文) 

 妹紅さんは人見知りなだけで知り合いには結構ズカズカと喋りますけどね

 

 

 朧さんですか?いつも茶屋を利用してもらっています。なんでも餡蜜が気に入ったようで、週に一回は来ています。たまに同じ髪色の女性と来ていますね。見てるこっちが胸焼けするような甘さでイチャついていました(とある団子屋の娘) 

 私も見た事があります。最近外から入ってきた珈琲という苦い飲み物ですら甘く感じました

 

《対策》

 

 そもそも彼に襲われる事例がなく、人間形態以外を見た人が少ないためにこれと言った対策はない。彼の能力には謎が多く、強いて言うなら彼を怒らせないようにするぐらいだろうか。

 

 

 

 

 

 

"空の王者" 赫

 

能力"火を操る程度の能力"

危険度"高"

人間友好度"中"

活動場所"人里"

 

 人里の何処かに居を構えており、甘味処や貸本屋、寺子屋に果ては人里はずれの香霖堂にすら現れる。それだけで彼の性格が伺えるだろう。中には危険度が極高の妖怪と楽しげに話している様子が見られ、明確に敵対的な態度を取らない限り彼とは友好的に付き合えるだろう。中でも仲が良いと思われるのは竹林の案内人 藤原妹紅 だろうか。彼らは明言してないが、[P.N.竹林のお姫様]氏の情報提供によると、実は付き合っているらしい。

基本的には人型であり、赤黒い髪に平均的な身長。人里だけでなく、様々なふらふらとしているために見つけようと思って見つけるのは難しいかもしれない。

 

《目撃情報》

 

 妹紅は人見知りで恥ずかしがり屋だから人前では中々赫と引っ付かないのよ。逆に言えば人目がないと反動で凄いイチャつくわよ。(P.N.竹林のお姫様)

これって目撃情報ってより男女の情事じゃないですか?

 

 あいつなら魔法の森で見たぞ。なんでも夕食に使うキノコを取りに来たって言ってたが、手に持ってるのが毒キノコだったから食用キノコと交換してもらったぜ。(霧雨魔理沙)

慧音さん曰く、彼の料理は絶品らしいですね

 

《対策》

 

前述の通り、こちらから明確に敵対しない限りは平気である。もしも何か彼の尾を踏むようなことがあれば、すぐさま誠心誠意謝ることが大切だ。

 

 

 

コピペ用

 

 

能力" 程度の能力"

危険度" "

人間友好度" "

活動場所" "

《目撃情報》

《対策》

 

 




気が向けば追加します。


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古代編
プロローグ


第三者視点=作者なので普通にメタります。
言わば全てを見透かす第三者が観察してるようなもんです。

それ以外はメタを控えめにしときます 
東方キャラは次回からでます


 深い霧の立ち込める森の中、

 

 とある異形がいた。

 

 それ……いや、彼は妖怪である。

 

 ある二点を除けば、この世界にはあまり珍しくない種族?である。

 

 が、しかしながらそのある二点というのが曲者なのである。

 

 まず一点、彼は人間だった頃の……いわゆる()()の記憶というものが残っている。

 

 そしてもう一点、それは彼の姿形にある。

 

 前腕に生えたブレードのような翼、体長の半分ほどもある長い尻尾 そして全身を彩る月白色。

 

 もう描写が面倒なので読者に分かるよう書いてしまおう。

 彼はナルガクルガ希少種、もしくは月迅竜と呼ばれる飛竜種である。

 

 

 これは、そう。

 そんな彼の物語である。

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 気が付いたらナルガクルガになっていた。

 しかも希少種の方。

 

 死んだわけではないが、神様?には会った。

 

 曰く「ちょっと平行世界の古代日本に転生してね☆」だそうだ。

 まあ今の生活にうんざりしていたので軽い気持ちでOKしたら、あっという間にこの身体に。

 

 いくら直前に某狩ゲーをやっていたからって酷くないか?

 

 

 

 で、今の状況を簡潔に纏めるならば

 

 ・既にナルガクルガになってから20年

 ・周りはかなり広い森

 ・謎のファンタジーな生物を食べて生き延びてる

 

 という所だろうか。

 

 

 霧と月光だけで透明になり、人間どころか太い木すらも真っ二つにする超生物が現代日本にいたら大騒ぎどころの話じゃないが、生憎ここはファンタジックな世界観なので問題ない。

 

 通常よりも一回り大きい狼の群れ、蜘蛛の体に牛の頭をもつ奴、でかい蛇、黒い鶴、etc(エトセトラ)……中には小さな火球を飛ばしてきたやつもいた。

 たぶん妖怪とか言うやつなんだろうか 日本だし。

 

 最初の頃こそは逃げ回ってたが、今となっては霧に紛れ全身を駆使して狩りをする生粋の狩人だ。

 人間の適応力って凄い。

 いやもう人外と化してるのだが。

 

 

 

 

 

 さて、なんだかんだ言って20年も生きてきた訳だが未だに人間や(会話出来るという意味で)知性あふれる妖怪とかと会ってみたい。

 生肉とよく分からない木の実は飽きたし、今の俺は会話に飢えている(´・ω・`)

 

 後者の知性あふれる(以下略についてはあまり期待してない。

 野生の獣はテリトリーを侵さない限り積極的に襲ってなんて来ないが、前述した妖怪共は見つけ次第襲いかかってくる。

 だから知性(以下略なんかは会話は出来ても笑顔で「こんにちは!死ね!」とかしてきそうで怖い。

 

 前者の現地人は十分に可能性があると踏んでいる。

 というのも何度か人間の死体を見つけたりしている。

 あるものは下半身の欠けた白骨死体であったり、またあるものは猿の妖怪に貪られていたり……

 

 だからという訳では無いが、ほほ確実に人間の集落又は町があると思う。

 

 という訳で今から寝床を後にして森を出よう。

 

 そんじょそこらの妖怪なら相手にならない……というか今日は満月が綺麗に出ているので、光学迷彩もびっくりなステルス性能を発揮しつつ移動出来る。

 

 

 

 さて、取り敢えず川を目指すか。

 人類の起点は川に有りってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、しかし。この時彼はある事を見過ごしていた。

人間の白骨死体には齧られた後があり、また猿妖怪が人間を貪っていた意味を。

 

人間と妖怪の関係性を示唆するヒントはあったのだ。

 

彼は果たして人間と無事和解出来るのか。

 

答えは神のみぞ知る。

 

 




There are no facts, only interpretations.

事実というものは存在しない。
存在するのは解釈だけである。byニーチェ

次回は来月1杯までには⋯⋯


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地上の薬師

思ったより見てくれた人が多かったので書きました。

感想が入るとさらに執筆速度が1.15倍になります。

前半は読み飛ばしてもあんまり問題ないです(´・ω・`)


[第三地域 通称─霧の森の生態調査の結果について]

 

都市の南に位置し、我々が霧の森と呼称する第三地域。

 

その実態は四六時中霧に包まれ、多数の中級妖怪が蠢き、他の地域よりも危険度が頭一つ高い。

 

今まで数度、小隊を送り込んだものの殆どは数の暴力により撤退せざるを得なくなり、一度は大妖怪二体に全滅させられている。

 

また、依然として森の入口側のみしか調査出来てはないが、品質は悪く量は少ないものの貴重な薬草や果実が採取でき、現在都市に流行している病の治療薬の材料となる。(番号ID-15346 都市に蔓延る病についてのメモ参照)

 

これには都市の天才と呼ばれる八意XX氏から要請がきており、近々彼女を加えた少数部隊で森の奥へと侵入を試みる作戦を決行する。

 

 

[ID-15346 都市に蔓延る病についてのメモ]

 

穢れ(妖力が変質したもの)により、人間の霊力が変質し自然に流れ出てしまい枯渇してしまう。

 

伝染元は恐らく前回南門にて中規模な襲撃を行った狼型の妖獣からかと思われる。

 

症状しては一般的な霊力枯渇症状を強くしたもので、目眩などの症状から、最悪死に至る可能性がある。

 

霊力が多い者ほど発症の自覚が遅い傾向がある。

 

治療薬の材料としては殆ど都市の備蓄で賄えるが、霧の森に自生する薬草と果実が必要数に全く足りない。

 

それぞれ薬効として、変質を防ぎ、霊力や妖力の自然に流れ出る量を抑えるという効果があるため、治療薬の根幹を成すものであり、なるべく上質な物を多く取り揃えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は八意XX。

 親しい人には永琳と呼ばれていて、都市で薬師をしている。

 

 

 今現在、私は都市で流行る奇病への治療薬の材料を取りに来ている。

 

 本当は一人で来たかったのだが、今回は採取する量が量だし、第三地域はかなりの危険が伴うと上層部に半ば無理やり少数精鋭という形で護衛が付けられた。

 

「八意様 必要数は集まりましたか?」

 

 もうそれなりの歳である隊長がそう問いかけてくる。

 やはり熟練の兵士とてここに長居はしたくないものなのだろうか?

 

「いいえ、薬草はともかく果実は全然足りないわね」

 

 しかしながら、果実はまだまだ足りないので続行せざるを得ないのだ。

 

「了解しました……」

 

 隊長は不承不承と言った感じであった。

 

 しかし、それなりに深く潜っているのだが未だに妖怪に遭遇していない。

 

 なにか森に異変があったのか、偶然なのか。

 

 それとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「敵襲ーッ!」

 

 

 

 

 思考の海に沈んでいたため、遅れてしまった。

 

「モガッ!」

「八意様ァ!」

 

 奇妙に手足の長い猿の妖怪に顔を掴まれ、部隊と引き離され、森の奥に連れ去られる。

 

 それと同時に、足止めに入るかのように様々な妖怪が部隊に襲いかかる。

 

 

 なんとか抜け出そうと藻掻(もが)くも、息苦しさを感じた後に気を失ってしまった。

 

 

 

 




2話を乾燥した完走ですが( ˘ω˘ )


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エンカウント

ちなみに次回投稿は来月末になります。


 体がだるい……アタマが痛い……

 

 確か妖怪に連れ去られて……

 

 「──!八──が目を─ましました!」 

 

 どうやら私はまだ生きているようだ。

 

 「八意様!私の声が聞こえますか?!」

 「……ここは…何処?」

 

 起き上がると目の前には隊長と部隊員が二人おり、残りの隊員は見当たらない。

 周りには霧と森が広がり、妖怪などの気配もない。

 

 「先程妖怪の襲撃があった場所よりも深い場所です。妖怪を退けて急いで追ってきたのですが、その際に二人犠牲に……八意様を連れ去った妖怪は何故かそこで死んでいます」

 

 ふと隊長の後ろに目を向けると、先程の猿妖怪の死体があった。死体は下半身と右腕らしきものしか無く、食いちぎられたような跡があり、まだ生暖かい血が出ている。

 

 しかし解せない。あの猿は何に食い殺されたのか そして何故私は助かったのか。

 

 「八意様、今は悠長に考えている場合ではありません。タダでさえ深い場所で、戦力もたりず、近くに大妖怪が潜んでいる可能性さえあるんです。ですから急いでてっ……」

 

 隊長が不自然に言葉を途切れさせ目を見開き、不意に地面に影が差す。

 

 そっと振り向くと、そこには月が佇んていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 どうも俺です

 

 

 さて、前回意気揚々と巣を旅立ったのはいいんだが、十分程のんびりと移動していると人間(美人さん)に出会った。ただし猿の妖怪に頭を鷲掴みされてだが。

 

 生きた人間……いや実際どうか分からないがもしかしたら生きてるかもしれないので助けることに。

 

 ちょうど小腹がすいていたので上の方をマルカジリ。

 うーん  微妙なお味。

 

 さて、この人はどうしようか。見た感じ呼吸してるから気絶してるだけかな?

 しかし、見れば見るほど綺麗な人だな。

 

 っと、向こうからなんか走ってくる……人間かな?武装してるし、状況だけ見れば俺が襲ってるようにしか見えないし一旦透明になって隠れよう。

 

 そして起き上がった美人さんとオッサンが何かしら会話を……あれ?向こうからまた妖怪が寄ってきてる。この人達が気が付いた様子もないし。

 

 うーん ここはあれだ。

 追い払っていい所見せよう。

 たぶん第一印象は良くなるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれぇ?この人達こっち見たまま硬直しちゃった……

 なんで?妖怪もどっかいっちゃったし。

 

 あれこれ考えていると、ようやくオッサンが口を開いた。

 

 「あ、貴方様はこの森の主でいらっしゃいますか?」

 

 おうふ、ガッチガチに緊張してらっしゃる。

 とりあえずそんな事実はないので首を横に振る。

 

 「では、私たちを襲う為に姿を表したので?」

 

 ハッとした感じで美人さんが訊ねてくる。

 元人間としてはあんまり人間を襲いたくないのでこれも無し。

 

 ……今気がついたが、俺って今の姿形は化け物だよね。人間が化け物に出会ったら大概怯えるよね。完全に失念してたわ。道理でみんな緊張してたり警戒してたりするわけだわ。

 俺は人間襲わないよーって伝えられたらどんだけ楽か。喋れないしね、人間になりたいね。

 

 そんな俺の思考が伝わったのか、先程の質問の答えを信じたのか、少しだけ緊張と警戒が解けたようだ。

 

 「私達は今都市で流行している病気の治療薬の材料を取りに来たのです。このような果実がなる木を知りませんか?」

 

 おぉう、都市なんてあるのか。まあだいぶ文明的な武装をしてらっしゃるのでもしかしたらと思ってたんですけどね。

 

 しかしこの果実、巣の近くに何本か実る木があって少し前まではおやつにしていたものだ。 まあそのうちまた生えてくるし別にあげてもいっか。

 

 ということで巣の方に案内してあげることにした。

 




急にヤル気が出て萎んだので。
評価とか感想がくるとテンションの上がり具合が凄い。


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そして人になる

一話辺り1000字しかないのに書くの時間かけすぎてね?

10/9 誤字訂正 および 糸目→こちらを圧倒するような細目に変更

糸目で目の色見えんのおかしくね?って思った。

10/15 内容変更 最初から刀は持ってなかったことに


蒼身がかった月白(げっぱく)色の妖怪──おそらく大妖怪クラス ──の後を付いていくと、寝床らしき洞穴が見えてきた。

それに伴い、例の果実がなる木がちらほら見えるようになる。

 

「や、八意様  これは……」

「えぇ、とても質が良いものよ。あの妖怪の縄張りにだれも近づかなかったのが原因かしらね」

 

果実のなる木は養分として周りの妖力を吸い取る為、妖怪が少ない入口と違い、多く居る深部の方が質がよく多いのは道理である。さらにここにはそうそう妖怪が近づかないのであろうか、少しもぎ取られた跡はあれども必要分には十二分に足りる。

 

「隊長 あなた達は果実の回収、選定を行いなさい。 必要量以上は取らないように」

「了解しました。八意様はどうなさいます?」

「私? 私は───」

 

洞穴の方に目を向けると、あの妖怪が入っていくところが見えた。

 

「───あの妖怪ともう少しおはなししてくるわ。大丈夫よ、危害を加えるつもりなら今更だし、逆鱗に触れないように慎重にするわ。」

 

隊長は呆れたような、諦めたような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞穴の中は思ったより浅く、一番奥にはあの妖怪が丸まっていた。

改めてその姿を観察する。

眼が赤く、全身は蒼っぽい滑らかな白色。四足歩行で姿形はトカゲのようだが、足にはしっかり関節があり、鱗だけでなく毛も生えている。前足が発達し、V字のようなトゲがはえ、翼のように皮膜が張っている。さらに一番外側のトゲの側面は刃物のように鋭い。尻尾は長く、先端に行くほど細くなり、途中で小さなトゲが先端に向かって何本も生えている。

 

と、そこまで観察しているとその妖怪が首を上げて視線をこちらに向けてくる。その視線は他の妖怪のように獲物を狙うような視線ではなく、どちらかと言うとこちらに興味津々と言った感じだ。

 

その時ふと思い出したことがある。大抵の大妖怪は人語を理解し会話をすることが出来、人の形を取ることも出来るらしい。会話が出来れば森の情勢や私たちが知らないことが知れるかもしれない。一度聞いてみる価値はあるだろう。

 

「失礼ですが、貴方様は人化……人の形を取ることが出来るのでしょうか?」

 

なるべく失礼にならないように低姿勢で伺う。

 

すると妖怪は"?"っと感じで首を傾げたあと"?!"と驚愕していた。もしかして人化を知らなかったのか?

 

少しの静寂が流れたあと、妖怪の身体に異変が現れた。少しずつ縮み、歪に変形し、やがて人の形をになり、やがて完全に人になってしまった。人になる所は初めて見たため戸惑ってしまったが、どうやら人化は成功したようだ。

 

目は妖怪の時と同じ赤色で、こちらを圧倒するような細目。顔立ちは整っていて、髪は私と同じ銀色、肩よりも少し下まで生えておりちょっとボサボサだ。簡易的な紺の服。全体的にシャープで、どこか存在感が希薄な男性だ。

 

さて、彼の第一声はなんなのか。

 

彼は口を開いた。

 

 

 

 

 




応援してくれると作者は喜びます。
でも執筆速度は上がりません。


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第一声

評価ゲージ赤  Σ(゚д゚;)
        (⊃д⊂;)ゴシゴシ
評価ゲージ赤  Σ(゚д゚,;;)


彼がおそらく初の人化の第一声はなんというのか。

聞き逃すまいと全神経を研ぎ澄ます。

 

「つ……」

「つ?」

「つかれた……」バタリ

「へっ?」

 

彼は前のめりに倒れてしまった。

慌てて駆け寄って脈や呼吸、瞳孔など簡易的なチェック──一応薬師なのだが平凡な医者よりも医療の腕は確かだと自負している───をすると一般的な霊力枯渇症の初期症状に凡そ当てはまった。

 

つまりは霊力……いや、この場合は妖力の使い過ぎによる疲労で倒れてしまったのだろう。

 

霊力枯渇症の初期症状程度ならこのまま放置していても二、三日程で自由に動けるまでに回復する。ので果実の回収が終わり次第都市に帰る必要があるのだが、今回は前例の無い妖怪であることなので何時回復するか確証が無い。さらにここは安全とは言い難いので流れの妖怪が偶然抵抗出来ない彼を殺し、力をつけてしまう可能性がある。

 

人間に友好的とまでは行かなくても中立を保つ珍しさと、ここまで案内してくれた事、そして私を助けてくれたこと。

 

様々な事を天秤に掛け、結果的に出した私の決断は

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ」

 

思わず某アニメのセリフを呟いてしまった。

 

あの身体は猫のように丸まって寝るため、最初に目に入るのは土の壁なのだが、今目の前には清潔感のある白いタイルが広がっていた。

 

というかなんで白いタイル?

 

落ち着いて現状を整理しよう。

えーと確か……あぁ、あの銀髪の美人さんから人化という素晴らしいものを聞いて、何とか念じていたら体が急に小さくなって人型になり…………なんとも言えない喪失感と凄い疲労感を感じ眠ってしまった。

 

人型であるなら目に入るのは土の天井のはずだが……寝てる場所も柔らかいし。

 

「あら、おはようございます」

 

隣から声が聞こえた。

首をそちらに向ける───どうでもいいが人の状態は実に二十年ぶりなのだが、なんの違和感もなく動いた───と、例の銀髪の美人さんが佇んでいた。……鮮やかな赤青ツートンカラーのその服は現代のファッションに疎い俺でもちょっと刺激的だ。

 

まず何故自分はここに居るのか説明を求めると、妖力の使い過ぎで倒れた恩人……恩妖?をあのまま放置するのは忍びなく、半ば彼女の独断で都市、ひいては彼女の自宅で療養させることにしたらしい。

 

「貴方様に命を助けていただけただけでなく、必要な物も集まり感謝の念が尽きません」

 

とりあえずその敬語はやめて欲しい。

何だかむず痒い。

 

というか人の街に妖怪って入って大丈夫なのか?

 

 

「そうです……コホン、分かったわ。自己紹介をしましょう。私は八意XX この都市で薬師をしていて、それなりの役職についてるわ。今回の件も妖怪を都市に引き込むって普通なら大問題なのだけど、一応あなたは遭難者として話が通っているから。それと、親しい人には永琳と呼ばれているからあなたもそう呼んでくれて構わないわ」

 

大問題な事を改変できる権力者だったわ。

 




次回 遂に主人公の名前が明らかに。(名前どうしようかな?)

あ、あと5件の評価と36件のお気に入り登録ありがとうございます

これからも頑張ります


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自己紹介

やっとこさ主人公の名前が明らかになります 
話数的には遅いはずなのに文字数的にはそこまで遅くないとかいう不思議


「そう言えばまだあなたの名前を聞いてないわね」

 

名前、名前か。

前世の名前はもう忘れてしまって、実質名無しだ。

 

「名前は、無いな」

 

その言葉に、少し永琳は思案顔で沈黙する。

 

(おぼろ)、って言うのはどうかしら? 初めてあなたを見た時、まるで霧の中に浮かぶ月のように見えたから。」

 

朧か。霧に紛れ敵を狩る月迅竜にはぴったりな名前だな。

 

「うん、いい名前だと思う。今日からそう名乗るよ」

「そう。気に入ってくれたなら良かったわ」

 

永琳は初めて嬉しそうに笑った。

 

それは思わず見惚れてしまうぐらい綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、朧 あなたには二つの選択肢があります」

 

名前を貰ったあと、俺の住処である森……都市では第三地域と言うらしいが、その場所について俺の知る限りの情報を提供した。といっても大まかな地形や妖怪の種類位しか分からなかったが、それでも十分だという。

 

情報を開示し終えたあと、永琳から二つの選択肢を提示された。

 

元の住処に戻るか、都市で暮らすか。

 

どちらを選んでもお互いメリットとデメリットがあるため、どちらかを俺が決めて欲しいとの事だ。

 

まず前者はメリットもデメリットも少ない。元に戻るだけだ。手土産も持たせてもらえるらしいが、せっかく都市で人間達との交流の切っ掛けを掴めたのでそれを手放すのは論外だ。

 

後者のメリットだが、俺は人間と交流持てて、今はもう懐かしい文明的な生活が送れる。まあ色々と制限をかけるらしいが。デメリットとして、妖怪とバレたら何が起こるか分からないとのこと。追放だけならまだ可愛いもので、拷問 極刑 人体実験 etc... 

 

でも、もう独りはいい。

 

「俺は都市で生活したい」

 

「この都市では妖怪のあなたはきっと窮屈な思いをする。だって都市にとって妖怪とは明確な敵だから。それでも、いいの?」

 

「あぁ、大丈夫だ。独りでいるのはもううんざりだし」

 

「……わかったわ。じゃあ今日からあなたはここで暮らすことになるから、色々と覚えてもらうことがあるわ」

 

「わかった……ん?ここって永琳の家じゃないの?」

 

「ええそうよ?」

 

「不味くないの?」

 

「何が?こっちの方が色々と便利よ?」

 

「いやそうじゃなくて……俺は男で永琳は女だろ?永琳は美人なんだからもっと危機感持たなきゃ」

 

「びじっ……」

 

何やら耳まで赤くなって俯いている。褒められるのに慣れないのだろうか?

 

「と、ともかくあなたの家はここです。私は仕事があるので、細かいルールは後で一緒に決めましょ!」

 

と、早口で捲し立てると部屋から出ていってしまった。

 

 

 

 




朧月(おぼろ-つき)霧や靄(もや)などに包まれて、柔らかくほのかにかすんで見える春の夜の月


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一年経過

筆が乗って一時間ほどで書けた。

今回は1400字ダイジェストでどうぞ


この都市に来てから一年程過ぎた。

(飛びすぎ?こうでもしないと進まない)

 

なにか電波を拾ってしまったが、俺は元気である。

 

 

さて、この一年の様々な出来事があった。

掻い摘んで話そうと思う。

 

まずこの都市に来たばかりの頃は、与えられた部屋でひたすら妖術の練習をしていた。というのも外に出れず、永琳も忙しそうだったので、家事以外やることが無かったのだ。そこで教えて貰ったのが妖術だ。曰く、妖力を効率的に運用するための"式"、だそうだ。

 

以前人化した途端妖力切れで倒れてしまったのだが、あれは式の部分を力技で誤魔化したから人化するのに必要な妖力がギリギリで倒れてしまったらしい。

 

「普通の妖怪は本能的にある程度の妖術を扱えるのだけどね。あなたはそういう意味でも規格外ね」

 

と、苦笑されてしまったのは苦い思い出だ。

 

ともかく、その甲斐あってか今では人と月迅竜を行ったり来たりするのにも全く負担を感じなくなったが。

 

 

 

 

 

 

続いて、二ヶ月程たった頃。

 

永琳の仕事──どうやら都市で流行病があり、その治療薬の材料をあの森に取りに来ていたらしい。この二ヶ月間ずっと治療のため奔走してたそうだ。───が一段落し、俺にも新しく仕事が与えられた。

 

事務仕事兼治験の被験者だ。正確には治験がメインで、事務仕事は手に職が欲しかったからだが。

 

治験は文字通り新薬の実験で、貴重な妖怪のサンプルケースを取れると喜んでいた。

様々な薬を飲んできたのだが、シンプルな体調を良い方向に向ける薬もあれば、胡蝶夢丸(ナイトメア)とかいう飲むと悪夢を見る薬とかも無理矢理飲まされた。

 

内容は朧気だけど、凄い酷い悪夢で、起きたあと四日程気分が沈んでいた記憶が有る。ちなみに調合を間違えたらしく、本当なら引きずっても一日だそうだ。結構永琳が気を使ってくれたため四日で復帰出来たが。

 

……今更だが一体何種類の薬を俺は飲んだのだろうか?副作用とかないよな? 永琳ってここでは天才と呼ばれてるらしいが、それでも怖いものは怖い。調合ミスという前例があるだけに。

 

 

ま、まあなんだかんだで上手くやってると思う。

 

……え?男女ひとつ屋根の下なんだからもっと浮ついた話は無いのかって?

 

無くはない。この都市の実質トップであるツクヨミ様という方がいるのだが、一度会っておくべきと、永琳を交えて会話したことがある。初対面で妖怪と見破られ、「永琳を籠絡しようとする妖怪死すべし」と殺されそうなった。曲がりなりにも神なのだから見破られるのは考慮すべきだった、とは永琳談である。

 

 

ともかく初対面でそんなことはあったものの、永琳の説得により現在ではお茶飲み仲間程度にはなっている。そこで問題なのだが、毎度毎度永琳を弄る。

 

 

「永琳ってだいぶマッドサイエンティストだよね」と軽いジョークから、「あれれwww永琳太った?あれかな?幸せ太りってやつかなwww」女性にしてはいけない体重の話まで、神とは思えないぐらい軽い。

 

 

さらに「朧君とはいつ結婚するの?」とか「実際どこまでシたの?」と、そっち方面でも弄ってくる。

 

 

当初こそ面食らったものの、今では軽く流せる……永琳も最初は真っ赤になって「彼とはまだ恋人じゃありません!」と「あ、まだなんだ。いつ頃告白するの?」と自爆していたが、今となっては毎回ツクヨミの額に矢をぶち込んでいる。仮にも神なのだけど、それでいいのか。

 

 

 

 

 

 

そしてちょうどここに来てから一年目の事

 

いつもように書類仕事をしていると、気になるものを見つけた。

 

  [月移住計画予算書]

 

 

これは一波乱ありそうだ。

 

 




ツクヨミ様

すっごい軽い神
別に永琳に懸想してる訳ではない。
むしろ永琳と朧をくっつけようとあの手この手で頑張ってる。それでいいのか神


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告白

月に移住する理由
穢れ(当小説では自然に放出された妖力が変質したものと解釈)を体に溜め込むと、寿命が削られる。都市ができたばかりの頃は妖怪は少なく、同じく穢れは少なかったのだが、人が増えるにつれ妖怪も増加。結果穢れも増加し、長寿を維持するために穢れなき月へと移住することになった。

今回ははっちゃけた


「立食パーティー?」

 

私は多分怪訝な顔をしていた。まさか朧の口からそんな単語が飛び出るなんて思っていなかったから。

 

「そ、さっきツクヨミ様から招待状が届いた。月移住計画の準備はほとんど完了し、後は 軍部 民間人 上層部の順にロケットで送り込むだけらしいからな。日付は明日 前祝いってやつだな」

 

「……あなたは出席するの?」

 

そう聞くと、彼は難しい顔をした。

 

「俺の分もある……けど俺が出ても百害あって一利なしだろう。無駄に波風を立てる必要は無いはずだ」

 

それもそうだろう。自惚れでは無いが、私は都市では上位の地位にいて、それなりに美人だ。裏返せば男共の欲望の標的となりやすいということだ。

 

立食パーティーに私が出席すれば、あるのは舐め回すような視線か、嫉妬の視線か、あるいは縁談などだろう。

 

そこに彼という爆弾が入ればどうなるか。私の近くにいる男と言うだけで好機、嫉妬、恨み、妬み。様々な感情が織り交ぜになって私や彼に降り注ぐことは想像に固くない。もしかしたら素性を調べられるかもしれない。

 

「……そうね、考えが足りなかったわ」

 

彼には行くメリットが無い。

彼と一緒に出たいというのは我儘だ。

 

「…………そういえば、俺はどうすればいいんだ?地球に残るのか?月に行けるのか?」

 

自責の念に囚われかけた時、追い討ちをかけるように避けていた話題を振られた。

 

月移住計画 もちろん彼の席はある。

 

 

しかし、彼は妖怪で、私は人間。

 

きっと月は今よりもずっと窮屈な生活になるだろう。

 

私の我儘で彼をそんな場所に押し込みたくない。

 

これも我儘だ。

 

彼と一緒にいたいという我儘だ。

 

 

 

何時から彼のことを意識したのだろうか。

 

もしかしたら一緒に暮らす中で彼に惚れたのかもしれない。もしかしたら最初に出会った時には既に心を奪われていたのかもしれない。

 

彼が愛おしい。

 

出来ることならば月に行っても一緒に暮らしたい。

 

でも、彼が私をどう思っているのか分からない。

 

拒絶されるのが怖い。

 

今の関係が壊れるのが怖い。

 

でも、今の関係も、もう少しで終わってしまう。

 

嫌だ。そんなのは嫌だ。

 

初めて心から愛せた(妖怪)なのだ。

 

彼をいつまでも愛して、彼から愛されたい。

 

 

 

 

この関係が壊れるのは嫌だ。嫌だ。嫌だ 嫌だ いやだ いやだ いやだ ……

 

 

「永琳」

 

 

彼が錯乱していた私を優しく抱き寄せて、頭を撫でてくれる。

 

「俺は、永琳に迷惑をかけたくない」

 

彼は優しい。だから、私は甘えてしまう。

 

「迷惑じゃ、ない。私は、出来るなら ずっと あなたと 居たい。絶対、離れたくない」

 

詰まりながら、ついに、言ってしまった。

 

怖い。

 

拒絶されるかもしれない。

 

「……永琳」

 

あぁ、聞きたくない。

 

「本当は、俺は永琳と一緒に居たい。君を大切にしたい」

 

返ってきたのは 肯定。

 

「あっ……あぁぁ、ほんとうに? わたしでいいの?」

 

「何度でも言うぞ。永琳、俺は君が大好きだ」

 

今まで胸につかえていたものが取れた。

 

「っ……うれしい。これからもよろしくね」

 

彼を感じようと抱きしめると、涙が溢れてくる。

 

心が満たされていくのを感じる。

 

 

彼は抱きつく私を撫で続けていた。




作者が作るゴミに評価やお気に入り登録、感想をしてくれる心優しい皆様に感謝を。


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パーティー

遂に☆1がつきしたね……
悲しいしbo4が発売されたので暫く更新速度を0.5倍にします……

というかなんで☆1……やっぱり文がダメなのか

1500字


前回の件から早一日。

私はというと一人でパーティーに出席していた。

 

……既に一人で出席した事を後悔しているが。

 

というのも、このパーティーには様々な立場の人々が参加する。

 

つまりは

 

「モブ山サンシタと申します。今回は主にロケットの制御システムに関わらせていただきました。前々から八意様とはお話したかったのですが、今回遂に機会を得られまして」

 

と全身を舐め回すような視線を向けて話しかけてくる若い男や、

 

「聞けば八意殿は未だに独身でいらっしゃる。そこで私の自慢の息子はどうですかな? 将来性もあり顔も良い。今でこそ開発局の一職員ですが、いずれは私のように局長の席に座るでしょう」

 

と縁談を持ちかけてくる中年男性など、

 

ほとんどが打算や下心をもって話しかけてくる。おちおち料理も食べれやしない。

 

結局彼は出席しせず家にいる。私が家を出る前に何やらコソコソとしていたが、聞いても「帰ってきてからのお楽しみだ」と返された。

 

 

「やあ永琳!」

 

とようやく人が途切れたと思ったらツクヨミ様が実に腹が立つ笑顔こちらに近づいてきた。

 

「ツクヨミ様ですか……私は少々気分が悪いので医務室に行かせてもらいます」

 

あの笑顔の時はこちらを揶揄う時の笑顔だ。さっさと逃げるに限る。

 

「そなんこと言わずにさ、おはなししようよ!」

 

バ神は無視しよう。

 

「流石にバ神は酷くないかい……?」

 

おっと、声に出ていたようだ。

それにしてもしつこいなこの神は。

 

「そ、そう言えばさ、会場に入る前は幸せそうな顔してたよね?なんかあったの?」

「…………別に何もありませんでしたよ」

 

思わず私は顔を顰め、彼は口角を上げる。

 

「ほんとかい? もしかしたら彼となにかあったとか?」

 

恐らくこのやり取りを聞いていたであろう周りの人々はにわかにザワつく。

私は原因のツクヨミ…様を引き寄せ小声で問いただす。

 

(ツクヨミ……様、時と場所を弁えてください) 

 

(今呼び捨てにしようとしたよね。まあいいけどさ 今回のは牽制だよ。君の恋も実ったんだろ?)

 

(っ! どこから仕入れたんですかその情報!)

 

(あれ?ほんとに実っちゃったんだ! ねえねえ挙式はいつ挙げるの? ぜひ呼んでね!)

 

こ、この神は……!

 

しかしここは大衆の前なので何も出来ない。それにいつものからかいではなく、私の事も考えてのことだろう……半分ぐらいは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りをしていると突然、アラームが鳴り響いく。

 

 

 

 

[緊急事態発生 緊急事態発生 都市の南門にて大規模な襲撃があり 門が突破されました これより民間人の皆様はマニュアルに従って迅速にロケットに搭乗してください 軍部の皆様は至急本部に集合してください]

 

 

無機質な音声が会場に響き渡り、会場にいた人々はパニックになる。我先にと出入口へ向かうもの、身内と連絡を取ろうとするもの。

 

 

パァン!

 

 

と、そこに大きな音が響く。

その音を聞いた人々はまず驚き、そしてその音の発生源へと目を向ける。

 

そこには先程までの笑顔の面影もない、神であるツクヨミ様がいた。

 

 

「皆の者、落ち着くのだ。南門が突破されたとはいえ、ここにたどり着くには時間がかかるであろう。 冷静になって行動し、民全てを月へと送るのだ」

 

 

神であるツクヨミ様を目にしてか、その言葉が真実であると納得してか、皆それぞれの役割を全うすべく行動する。

 

「……ロケットの最終調整をしてきます」

 

私は私で行動を起こす。

 

「あいわかった。……終われば朧君の様子を見に行くのだろう? 彼は曲がりなりにも神を退ける力を持つのだ。たとえ心配でもあまりロケットの周辺から離れぬように」

 

「…………わかりました」

 

渋々といった様子で頷く私を苦笑してこちらを見るツクヨミ様。もうそこにはいつものツクヨミ様がいた。

 

 

 

 

 

 




no comment


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人妖大戦

なんか過去作(プロットもない状態で書いたせいで続きを思いつけずに断念した作品 この作品の原型)みたら割と今よりも良い文章書いてね?って思いました。(自画自賛)

1673字 少しづつ慣れてきてる?

ちなみに:古代の妖怪は現代の妖怪よりすごく強い設定。

Q,人間が少なく、畏れも少ないってことは妖怪が弱いんじゃね?

A,畏れはいわば妖怪の糧 少ないということは他の妖怪の畏れを奪って生存競争に生き残ろうとみんな必死に強くなる

10/15 誤字修正 めっちゃガバってた


都市 それは現代日本よりも近未来的で、霊力という幻想的な手段も交えて発展した、もはや国とでも言えるものである。

 

その中でも武を司る部門 通称軍部

 

軍部の主な主力は自律式の近代兵器 または霊力を扱い、個人火器を取り回す人間の部隊である。

 

ここで問題なのがその数だ。

 

そもそも都市の規模は国と言うには小さく、人口は現代日本に比べるとやはり少ない。さらに都市の人間の部隊の役割とは防衛戦力よりも治安維持の面が強い。(もちろん一部の私兵や遠征に抜擢されるような兵士は違うが)

 

ならば攻めてきた妖怪をどうするのか。都市を取り囲む壁上の霊力式自動迎撃装置(オートタレット)がほとんどの妖怪を霊力弾で蹴散らす。さらにこれを潜り抜けようとも、自律兵器による数の暴力で押し潰す。

 

 

 

これだけあれば安心であろうか?

 

いやいや、そんなことはない。

 

大妖怪とは規格外の存在である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

距離測定に拡大縮小、熱源感知にナイトスコープが着いた多機能双眼鏡 こちら今ならXXXX程のお値段であなたのおてもとに!

 

南門の壁上に伏せながら、そんな通販じみたキャッチフレーズを思い出した。手元の双眼鏡を覗き込み、眼前に広がる光景を眺める。

 

 

南門付近は火の手が上がり、瓦礫と鉄クズ(壊れたロボット)が至る所に転がる。

 

よく見ればそこには人間の死体も転がり、妖怪が群がっているのも見えた。

 

無数の妖怪達のほとんどは辺りを破壊しながらあちら……ロケットの発射場へ向かっている。 まあさっきから何本か飛んでいたため、目立つことこの上ないのだが。

 

 

 

あちらに向かっている中で特に目立つのは二人の妖怪。

 

一人は赤い肌に額に一本角、一人は青い肌に二本角。

 

典型的な赤鬼青鬼だが、赤鬼は全身から火を噴き出させ、青鬼は稲妻を身体に帯電させている。

赤鬼がいるだけで周りの建物は火事になり、青鬼はロボットだろうが人だろうが感電させ使い物にならなくさせて行く。

 

それ以外の妖怪だけなら壁の上のタレットで殲滅できただろう。

どちらか片方だけなら多大な犠牲を払って仕留めることができただろう。

 

しかしIFの話には意味がない。重要なのは、奴らがあちら……永琳のいる方向へ向かっているのが問題だ。このまま放っておけば、直ぐにでも辿り着いてしまう。

 

[緊急プロトコルが発動しました ロケットは設定時間経過で 残りのロケットが 全て同時に発射されます 民間人の皆様 及び軍部の皆様は 至急ロケットに搭乗してください また 最終便が 発射するまで あと 00:29:49 です]

 

「……行くか」

 

奴らに勝てなくてもいい。この身は妖怪で、寿命が人間よりもずっと長く、核爆弾でも喰らわない限りそう簡単には死なないし、死んでやるつもりもない。月迅竜の速きこと疾風の如し、足止めすればいいんだ。

 

 

 

俺はそう考え、壁上で人化を解き宙を滑空する。

 

あぁ、今日は満月か。

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急プロトコルってどういうことですか!」

 

私は怒気を顕にし、その男……モブ山とやらを糾弾する。

 

「ヒッ! さ、緊急プロトコルは、このような事態をそ、想定し、私、あ いや、部下が組んだものです」

 

緊急プロトコル、目の前の男が我が身可愛さに発動し、現場だけでなく前線の軍部にすら混乱に貶めた。

 

民間人は我先にとロケットに乗り込み、戦場からも兵士が逃亡してくる始末。

 

プロトコルはキャンセル出来ず、防衛線は崩壊、士気はガタ落ち。このままでは全員共倒れだ。

 

そんな所に偵察隊からの情報が入る。

 

「報告!突然南門の壁上から全身月白色の妖怪が現れ、前線に飛んできました!奴は仮称赤鬼及び青鬼と交戦を開始!」

 

その報告を聞いた時、私は思わず問い返した。

月白色の妖怪なんて一人しか知らない。

 

「その妖怪の情報をもう少し詳しくお願い」

 

「ハッ!四足歩行で長い尻尾があり、目が赤く光っています!」

 

……無茶だ。大妖怪が二体に無数の妖怪。勝てるわけがない。

 

私が顔を青くしていると、ツクヨミ様が肩に手を置いた。

 

「彼は曲がりなりにも僕を退けた奴だ。きっと戻ってくるさ」

 

今はその言葉を信じるしかなかった

 

 

 

 

 




Q.つまりどういうことだってばよ?
A.あと30分でロケット全部打ち上げられちゃうよ!でも妖怪はもうすぐで着いちゃうから間に合わないよ!
朧「せや!足止めしたろ!」



今作挫折するか幻想郷までいったら息抜きしよ


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人妖大戦 其の二

たとえ低評価がついても!私は負けない!
あ、いやごめんなさい 流石に付きすぎると負けます

1300字

10/15 ちょっとまって!タイトル付けてないやん!ってことでタイトル追加 完全に忘れてた。


俺の名前は……まあどうでもいいか。

 

俺は軍部の第五小隊に所属している、普通の新兵。他人との違いはせいぜい霊力のキャパが多いって所か。本当ならもっと時間をかけて訓練する所を、こんな緊急事態で駆り出された哀れな新兵さ。

 

周りを見渡しても瓦礫と死体が転がり、目の前には数えるのも億劫になるほどの木っ端共と、恐らく大妖怪であろう赤鬼と青鬼がいる。ぶっちゃけ絶望的だ。部隊は既に半壊してるし、手元の火器もついさっき弾が切れた。

 

あぁ、さっさと尻尾巻いて逃げてぇが、目の前の奴らは逃がしてくれねぇだろう。俺達の最後の任務はその命を持ってあいつらを一秒でも長く足止めする。

 

そんな覚悟を決めていると、奴らの後方上空……南門の壁上から、月が飛んできた。

 

そいつは全身を月白色に染めていて、感じる妖力も目の前の鬼と遜色なかった。

 

ああ、もう終わったな、と思ったら、突然その月の妖怪が鬼の方を向き、尻尾を立てて円を描くように回し始めたんだ。ひゅんひゅんと風切り音を出したかと思えば、次の瞬間一際大きな音が響き、鬼の隣にいた蛇みたいなのが吹っ飛んで行った。

 

俺が呆けていると、無線から通信が入る。

 

「第五小隊 前線から引き、最終防衛ラインで待機」

 

最終防衛ライン……つまりはロケット発射場の目の前であり、実質的には撤退だ。

この展開は目の前の月の妖怪のおかげか。まあそんなことはどうでもいい。

 

上の許可が出たんだ。さっさと逃げるに限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まずった……想定よりも強い)

 

息を切らしながら鬼達と相対する。

 

 

「弟者よ!もっとこいつと死合おうぞ!」

 

赤い鬼が全身で喜びを表すように炎を勢いよく撒き散らす。

 

「兄者よ、本来の目的はどうしたのだ?」

 

青い鬼はこちらを確実に仕留めようと雷を何本も打ち込んでくる。

 

幸いにも月迅竜は雷や火にも耐性があるために大したことは無いのだが、喰らい続けると体力を消耗する。

 

鬼の力は凄まじく、腹部や尻尾にまともに拳や蹴りを受ければ洒落にならない。

 

 

 

「そんなものは良い!鬼に産まれしものは闘争を是とするもの!弟者も口ではそうはいっても口角がつり上がっておるぞ!」

 

会話の端々を拾うと、どうもこいつらは大量の人間が月に行くのを防ぎに来てるという。地上に畏れそのものが無くなれば、妖怪という種族は衰退し、最悪の場合消滅してしまう。それを防ぐべく奴らはここに来たらしい。

 

「……我は先に行く」

 

と言う冷静な青鬼を阻止すべく、妖術で霧をだし、持ち前の光学迷彩を発動する。

 

「小細工なぞ無駄ァ!」

 

赤鬼がグッと力を溜め、開放すると爆炎が広がる。それにより霧を吹き飛ばされるどころか俺自身まで吹き飛んでしまう。

 

 

[ノ…リ5分…… 至…民間………]

 

 

 

壊れたスピーカーからひび割れた声が聞こえ、残酷にタイムリミットを宣言する。

 

「……ゲホッ」

 

向こうは的が大きく、こちらは的が小さい。さらに奴らはインファイトを好む傾向があるために、妖怪の形態では不利だ。

 

青鬼は既に視界には存在しない。急がなければ。

 

俺は人型に変化し、手頃な大きさの瓦礫をで赤鬼に投げる。

 

「ムッ」

 

体を傾けあっさり避けてしまったが、傾けた体制が戻る前に全力で接近し、右アッパーを顎に叩き込む。

 

手応えを感じ、そのまま足払いをかけ転ばせる。

 

本当なら確実にトドメを指すべきなのだが、そのまま赤鬼を放置し、青鬼を追った。




あれ?無駄が多過ぎない?


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月は想う

溢れる俺のぱうわぁー 

2146字です 

今回は全部永琳視点

妄想爆発注意


「皆の者!結界を途切らすでないぞ!」

 

ツクヨミ様が大声で叫びながら神力を開放し、青い鬼に細かな白い弾幕を張る。

 

「ぐぅ!小癪な!」

 

青い鬼も応戦するために、雷の幕で防御しながらツクヨミ様やロケットに雷の槍を撃ち出す。

 

ツクヨミ様はともかくロケットに過剰な電流を流されようものなら、良くて動作不良、悪くて燃料タンクに引火してしまうかもしれない。

 

それを阻止すべく私は結界を構築し、残っている兵士達も霊力もかき集めて無理矢理にでも防ぐ。

 

「ツクヨミ様!プロトコルが発動しました!これよりロケットを順番に打ち上げられます!」

 

「あいわかった!我は寸前まで足止めする!」

 

そうやり取りしてる間にも民間人が乗ったロケットは三十秒程の間隔で次々と打ち上げられる。

 

「ぬぅ!行かせはせんぞぉ!」

 

青鬼は防御をもかなぐり捨て、渾身の一撃であろう一撃を結界に撃ち込む。 その結果遂に結界を打ち破る。

 

「しまった!」

「見つけたりィ!」

 

すぐさま再構築を試みるが、青鬼は結界を構築する私を目敏く見つけ、電撃を放ってくる。

 

「永琳!」

 

ツクヨミ様が間に入り込みその身で電撃を防ぐが、防御が間に合わなかったらしく私を巻き込んで吹っ飛ぶ。

 

「グッ……」

 

流石の青鬼でも無防備にツクヨミ様の弾幕を受けたせいで傷を負っている。しかし、それでも止まらずに雷をロケットに放とうと力を練っている。

 

ロケットは残り三機、時間にして一分半。

残りの軍部の兵士八人では太刀打ち出来ず、ツクヨミ様は完全に気絶 私も全身に痺れが残っている。もはやここまでか。

 

 

 

 

 

「吹き飛べぇ!!」

 

 

 

 

 

青鬼の真横から朧が飛び出し、見事なフォームでドロップキック。青鬼は頭から上を壁にめり込ませた。

 

あまりにも常識外れの光景を見せられ、その場にいた全員がぽかんとした。

 

「お前らさっさとロケットに乗れ!動けるやつはツクヨミ様持ってけ!」

 

その言葉で気を取り戻した兵士の八人は素早い動きでツクヨミ様を抱えると、発射寸前のロケットに飛び乗り、すぐさま月に向かって飛び立つ。

 

「永琳、遅くなってごめん」

 

朧はそう言いながら私に肩を貸してくれる。

 

「あり……がと…う」

 

体は動かず上手く喋れないが、感謝の気持ちをなんとか伝える。

 

安心感と疲労感で意識を持っていかれそうになるが、なんとか耐えた。

 

 

 

 

 

 

「…………ッ!」

 

 

ロケットに乗ろうとした時、彼にロケットの中へ突き飛ばされる。

 

 

 

その瞬間、彼は豪炎に包まれる。

 

「ふははははは! 目が回るというのは貴重な体験だな! だがしかし、まだ我は死んではおらぬぞ! 死合は続行だ!」

 

「チッ もはや人間は目の前の女ただ一人か」

 

そこには赤鬼と青鬼がいた。青鬼は未だに傷だらけだが、赤鬼には目立つ傷は見当たらない。

 

豪炎はすぐ止み、朧は一見無傷のように見えた。だが確実に消耗しているだろう。

 

不味い 結界を張ろうとも体の痺れは取れず いくら朧が強いとはいえ、彼にとっては 私とロケット どちらかに攻撃が行くだけでアウトだ。 時間を掛けてもロケットが自動的に飛び立ってアウト。

 

「のう、そこの銀妖怪」

 

赤鬼が朧を見て問いかける。

 

「どうだ? そこの女と"ろけっと"なるものを見逃す代わりに我らと死合え」

 

朧は訝しげに鬼を睨む。

 

ダメ、絶対にダメ

 

私は朧に縋ろうとする。体は動かない。

 

「……その口約束をお前らが守る根拠は」

 

無人のロケットが飛び立つ。あと三十秒で私の乗っているロケットが飛び立つ。

 

「鬼は嘘が嫌いだ…………断ればロケットを撃ち落とす」

 

青鬼は威嚇するように雷を体に纏わせる。

 

「最後に一言話させてくれ」

 

「構わぬぞ」

 

朧は倒れている私の手に小箱を握らせ、こう言った。

 

「短い間だったけど、ありがとう ごめん」

 

涙が溢れてくる。体は動かない。

行かないで と、叫ぼうとした。体は動かない。

 

彼は最後に額にキスを落とすと、ロケットのドアを閉めてしまった。

 

続いて激しい振動。

 

 

 

ようやく動けるようになって窓を除くと、地球は遥か下に見えた。

 

「う、うあああ……うわあああ……」

 

涙が止まらない。誰も見てないことをいいことに泣き尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら寝てる間に泣いていたらしい。

 

辺りを見ると簡素な部屋で、備え付けのベットと何も入ってないクローゼット、小さな机ぐらいしかない。

 

月に来てから三日、本当なら色々と仕事もあるのだが私は部屋に篭りっぱなしだ。 それでも誰も部屋に来ないのはツクヨミ様が気を使って人払いをしてくれているからだろうか。

 

そのとき、あることを思い出し、机の引き出しを開ける。

 

「これ……」

 

別れる直前に握らされた小箱。厳重に保存用の妖術がかかっており、特定の霊力に反応して開く仕組みのようだ。

 

中には指輪が入っていた。

 

控え目な銀の装飾に、月と見紛う宝石が使われており、上品な雰囲気を醸し出している。

 

ふと、考えた。

 

彼は妖怪で、死にはするものの長命だ。それこそ何千、何万年と生き続けるかもしれない。では彼は鬼に殺されたか? 私は否と信じる。では私はどうだろうか?月に来てから穢れは一切なく、つまりはここにいる限りは永い命だろう。

 

生きていればいつか会える。そう考えると心が少し軽くなった。

 

まずは仕事を片付けよう。そして何とかして彼と再開する。

 

幸い私には時間ならいくらでもある。まずは彼の横に並べるよう、鍛えるしようか。

 




古代編 これにて幕引き

リクエストの話を挟んで平城京編へ
あと息抜き作品も書いたりするので次回は遅くなるの


IF√のリクエスト募集中です



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IFのお話
もしも彼が月に行き着いたならば


カリーシュ様よりのリクエスト
「綿月姉妹との絡みが見たい」
を元に、IFのお話を書きました。

あくまで本編とは関係ないので読んでも読まなくても問題ないです。


とある日の朝のこと

 

 

「ねえ兄様」

「ん?」

 

俺は妖怪の朧 永琳に付けてもらった名前で、結構気に入っている。

 

そして今俺に話しかけてきたのは綿月依姫。月の都市の防衛隊長をやっているのだが、小さい時から姉の豊姫と一緒に遊び相手になったり、剣の稽古を付けてやったことがあった。それ以来俺の事を兄様と呼ぶようになった。

 

なんか心無しかいつもより萎んでる気がするが。

 

「これなんですけど……」

 

と、俺に差し出したのは一冊の本。今月でブームになっている恋愛小説だ。

 

にしても珍しい。彼女は暇があれば訓練をするような生粋の軍人だったはずだが、よりによって恋愛小説とは。豊姫に感化されたのだろうか?

 

「今失礼なこと考えませんでしたか?」

「そんなことはございませんよ……で、これがどうかしたのか?」

 

彼女は無言でページをめくり、とあるページの真ん中あたりを指でさした。

 

「えーっとなになに……「男は眠る女を優しく、慈しむように撫でた」……まあよくあるシーンだな で、何が言いたいんだ?」

「……えーとですね、その……」

 

依姫の目がめっちゃ泳ぎまくっている。

と、そこへ依姫の姉である豊姫がやってきた。

 

「あれ?兄様と依姫じゃない」

 

彼女はホラーサスペンス物の小説を片手に携えていた。

 

「あぁ、豊姫か。いやな、依姫の言わんとするところがイマイチ分からなくてな」

 

と、豊姫に聞いてみると明らかに依姫がビクッと反応した。なにかやましいことでもあるのだろうか?

 

「あら?……ふーん 依姫、そのぐらい子供の頃によくやったでしょ? 恥ずかしがらずに言えばいいじゃない」

「で、でも流石にこの年になってこれは……」

「ほら、速く言わないと代わりに私が言っちゃうよ?」

「わ、わかったから!」

 

と、小声で相談していた。

 

そこに、永琳が襖を開けてこちらにやってきた。どうやら俺達を探していたらしい。

 

永琳が声をかけようと口を開くのに被せるように依姫が大声で喋る。

 

「おぼ「兄様!私と一緒に寝て下さい!」ろ?」

「えっ」「えっ」

 

依姫は言い切ってやったと言わんばかりの顔をし、

豊姫は素で動揺、

永琳の顔は凍りつき、目が笑っていない。

 

「ちょっとまって依姫!それは誤解されるから!」

「朧?ちょっと向こうでお話しましょうか?」

 

まて永琳!誤解だ!だからその注射器をしまってくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、子供の時みたいに寝るまで傍にいて欲しかったのな」

「はい……うぅー恥ずかしい」

 

誤解も解け、無事に修羅場を潜り抜けた俺は依姫に理由を聞いてみることにした。

 

「なんで急に?」

「じ、実はですね……」

 

どうやら最近暇潰しに本を読むようになり始めたらしい。そこでそういうのが大好きな豊姫()にオススメのものを聞いたらしい。

 

途中までは普通のものだったんだが、昨日勧められたのはホラーサスペンス物。部屋の明かりをつけ、一気に読んでしまったのはいいのだが、気がついたら夜。ホラーな内容が頭から離れず、昨晩は一睡も出来てないという。

 

要するに怖くて眠れないから眠るまでそばにいて欲しいという事だ。

 

そんな子供っぽい理由に思わず笑ってしまう。

 

「わ、笑わないでください! 今日は休みだからともかく明日は訓練の日なので死活問題なんですよ!」

「あぁ、すまんすまん……俺にとってはいつまで経っても子供みたいなもんだから、好きに甘えていいんだぞ」

 

依姫は少しの間ポカーンとしていたが、やがてクスリと笑った。

 

 

「はい!そうさせてもらいます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、後日 永琳に膝枕をねだられた。

 

曰く、可愛い彼女の嫉妬 らしい。




思ってたのと違う気がしなくもない

というかこういうのは筆が乗る


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竹取物語
プロローグ


俺の歴史メモリーじゃ竹取物語は平城京にあった事実だからね。

1117字


あれからどれだけの時を過ごしただろうか。

 

10から先は数えると陰鬱になった。

 

100から先は数えるのが億劫になった。

 

1000から先は数えなくなった。

 

過去を振り返れど後悔は消えず。

 

未来を思えど希望は見えず。

 

これを生きていると形容するには些か不可であり。

 

死んでいると表現するには少し足りない。

 

これはそんな俺の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

と表現したは良いものの、この千年ほど……といっても最後に数えたのが千なので正確にはそれ以上……あちこちを彷徨いては時折元都市帰ってくる、というのを繰り返している。

 

流石に千年も経てば変わるもので、建物などは全て風化してしまい、今では立派な竹林が出来ている。俺はそこに所謂日本家屋を立てて拠点にしている。

 

「朧 また出掛けるの?」

 

縁側に腰掛けて竹林を眺めていた時、話しかけてきたのは因幡てゐ 白いうさ耳に黒い髪、赤い目の幼女詐欺師兎妖怪だ。こいつはここが竹林になり始めた辺りからいつの間にか住み着き始め、ここらの妖怪の中でもかなりの長命らしい。俺は出自が特殊なため枠には当てはまらないが、こいつは明らかに長生きし過ぎてる気がする。本人曰く「健康に気を使ってきたから」らしい。

 

「あぁ、また京が移ったらしいからな。期待はしてないが一応な」

 

俺は未だに月へ行く方法や月の住民の情報を集めていた。最も有力だったのは浦島太郎だろうか? 老衰によりイマイチ要領を得ないものだったが、確実に時代を凌駕したものが出てきたときは一歩前身出来たと思った。 何せ月と地球は完全に絶たれてはいなかったのだから。

 

「朧の人探しは何時になったら終わるのかな〜」

 

俺と同じように縁側に座り、足をブラブラとさせて同じように竹林を眺める。しばらく眺めていると、てゐが思い詰めたように問いかける。

 

「……もし見つかったら、朧はここからいなくなっちゃうの?」

 

長生きする妖怪で、忌み嫌われているのは孤独だ。いくら強い妖怪でも孤独には打ち勝てない。だからこそ知能があるものは温もりを求める。

 

「仮定の話は意味がないが……もし見つかったらここに住むのもありかもしれないし、お前を連れていくのも良いかもしれないな」

 

そう聞くと、てゐは嬉しそうにはにかむ。

 

「そっかぁー」

 

最初こそ様々なイタズラを仕掛けられたが、永い時を過ごす中でこいつとは兄妹見たいになっている。俺が長い間生きてこられたのはこいつのおかげもあるかもしれないな。

 

「……ありがとな」

 

なにが?という顔をしているてゐを放置し、京へでる準備を整える。 先程期待はしてないと言ったが、実は一つ気になるものがある。

 

竹取物語 竹から生まれたかぐや姫が、最終的に月に帰ってしまう話。

 

もしかしたら、あるかもしれないな。

 

 




次回 遂にアイツが登場


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平城京にて

あれは紛れもなくヤツさ

1948字

10/17  時間の描写を追加 赫の一人称を変更 赫が朧を見抜いた理由を追加


少量の金銭に、流れの旅人のような服。髪と目を妖術で黒く染めて、妖怪であることを隠すように隠蔽の術を使う。最後に腰に刀(拾い物)を挿して準備完了だ。

 

「相変わらず見事な手際」

 

と、呆れたような声を出すのははてゐだ。

 

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

塒をでて、竹林を歩く。

 

近くの人里ではここは迷いの竹林とか呼ばれてるが、そもそもここを迷いの竹林にした張本人は俺である。

竹林そのものに迷いの術や、霧を萃めて滞留させる術を使っており、毎日のように竹林を散歩するてゐや、術者である俺以外ではあの家に辿り着くのは不可能に近いだろう。

 

「今回はどうなるかな」

 

竹林を抜け、どんよりとした空を見上げて、独り言を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます旅人様」

 

目の前には深々と頭を下げる老人。先程、竹林(迷いの竹林にあらず)へ竹を取りに来てた所を妖怪に襲われていたので助けてた。 中級妖怪レベルらしかったが、都市時代の木っ端レベルでしかなかった為一撃で吹き飛んでしまったのがここまで頭を下げられる原因だろうか。

 

「いえ……偶然通りかかっただけですから」

 

と、さっさと去って京に向かいたいのだが、老人は是非家でおもてなししたいと言って聞かない。結局老人が折れたのだが、「今回はお急ぎのご様子、では次会った時こそ恩返しさせていただきますゆえ」と、妥協された。

 

 

 

道中でそんなことがありながら、京に着いたのだが。

 

「Hey!そこゆく旅人君。君は()()ってやつなのかい?」

 

迅竜、ね。明らかに出自を知ってるような口振りだ。

 

そいつは男 身長は俺より少し低く、黒っぽい赤髪。妖力も感じるため、警戒するに越したことはない。

 

「……そうだと言ったらどうする?」

 

声のトーンを落とし、少しでも妙な動きをすれば直ぐに首を

刎ねれるように刀の柄に手をかける。

 

その動きを見たヤツはというと

 

「はいストーップ! えっ!?なんで初手から殺気満々なの!?僕なんかやった?!」

 

……どうやら困惑しているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずお前の名前は(カク)で、元はリオレウスと」

Exactly!(その通り!)Nice to meet you!(よろしく!)

「……んで、俺とお前含めて最低四人は転生者がいるってことか」

「スルー……そういうことよ。あーお茶うめぇ」

「そんでもって僕以外は大体同時期にこっちに来たと」

「そっ!といっても数百年単位は平気でズレるらしいし、僕も未だに出会ってことはないね。ただ、出逢えば同族だって分かるって言われたよっ、この団子もうめぇ。おっちゃんお代わり!」

 

呑気に茶屋で駄弁るこいつの話を整理すると

最低でも転生者(モンスター)は俺たち含めて四人

俺だけかなり速く生まれ落ちて、ほかの連中は同時期……といっても数百年単位でズレるらしく 俺だけが規格外らしい。

 

「ところで金はあるのか?」

 

俺がお茶だけを飲んでいるのに対し、こいつはさっきからバクバクと団子を食っている。

 

「もちろんよ。一応就職してるからな」

「就職してんのか……陰陽師か?」

 

この妖怪の(質はともかく量は)多い世の中、陰陽師というのはかなり重要な職なわけで。近隣の妖怪退治から貴族の護衛まで、言わば傭兵みたいなもんだ。

 

「あー……そこんところちょっと複雑でな。守秘義務見たいなのもあるし……まあ君ならいっか」

「いや良くねえだろ 出会ってまだ一時間ねえぞ」

「いーや、君とは長い付き合いになりそうだしな…………で、僕の仕事は──藤原不比等って知ってるか?」

 

藤原不比等……史実だと結構な位の貴族だったはずだが

 

「知ってんのなら話は早い。あの人に雇われてるんだが、主な仕事はあの人の子供……妾の子なんだが、その子の護衛兼子守りだよ……っと、あんまり遅くなると妹紅に心配されるからな。おっちゃん勘定!」

 

確かにもう夕暮れで、人通りは少なくなっていた。この時代は夜の灯りが乏しいため、日暮れ時に出歩く者はすくない。

 

茶屋をでて道すがら話を聞いてみると、どうやらその子……妹紅は妾と酔った勢いで出来てしまったらしく、その事に正妻が激怒。妹紅が生まれて直ぐに妾は死んでしまい、結果本家には居られず今は本家から離れた家で赫と二人暮しらしい。

 

「不比等さんは妹紅も愛しているんだがな……如何せん貴族故のしがらみも多くてあまりに妹紅と会えないんだ。そこで護衛兼子守り兼家事代行の僕が妹紅と暮らしてるってわけよ。ってことで着いたぞ」

 

そこにはこの時代では珍しくない普通の家屋。まあ子供と二人暮しなんてこれで十分だろう。

 

「おーい妹紅ー 帰ったぞー」

 

声をかけながら戸を開けて中に入ろうとした赫は固まってしまった。

 

「おい、どうした?」

「……妹紅の履物がない」

 

慌てたように駆け出す赫。

俺はとりあえずその背中をおうことにした。

 




ということで登場せしはリオレウスの赫(カク)

赫とは赤く、勢いが盛んという意味で、今作のギャグ担当になってもらう予定です。

ちなみ平城京に来る前はとある原作キャラとも絡んでいます。それもそのうち


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赫の家族

1349字

結構な駄文


あぁ、どうしてこうなったのか。

 

私は怖い大人から逃げている。

 

もう足元は見えにくいぐらい辺りは暗く、何度も転びそうになる。

 

「待てガキ!」

 

すぐ後ろからそんな怒声が聞こえてくる。

 

 

遂に捕まって、頭に袋を被せられる。

 

もうダメだって思った時、私の家族の声が聞こえた。

 

「ぶっ殺す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りは暗くとも、夜霧の中で狩りをするオリジナル(ナルガクルガ希少種)になぞらえてか暗中でも良く見える。

 

 

「で、色々説明してくれ」

 

赫の背中ですやすやと寝ている少女……妹紅を起こさないように尋ねる。

 

「とりあえず、君がいま引きずっている男は最近京で話題の人攫いの犯人だと思うよ。多分妹紅が一人で家を出た所を狙ったんじゃないかな?」

 

俺は頭がない死体の服の襟首を掴んで引きずっている。首の部分は炭化しており、血は一滴も出てない。

妹紅が今まさに攫われそうな所を見て、キレた赫が頭を殴る時に多量の熱で消し飛んだ。まあ俺も永琳になにかあれば冷静でいれるかどうか分からないが。

こんな光景はたとえ夜でも目立つことこの上ないが、そこは認識阻害の妖術でカバーしている。妖術ってすげーな。

 

「じゃあ次、どこに向かってんだ?」

「その死体の処理 斬り殺したならともかく炭化じゃあ俺や妹紅が妖怪だって陰陽師に目を付けられると面倒臭い 京の外で、道から外れてた場所に置いとけば野良妖怪が勝手に食ってくれるだろ」

 

なるほど まだ死後一時間も無いし、血液もほとんど漏れてない。脳は無いが人喰いにとってはご馳走だろう。

 

「その次、どうやって妹紅の場所を特定したんだ?」

「企業秘密……と言いたいところだけど、まあいっか」

 

こいつ結構口軽いなぁ。

 

「妹紅に御守りを持たせてるんだけど、その中に僕の鱗の一部が入ってるんだ。それのおかげで探そうと思ったら地球の裏だって見つけれるさ」

 

「そうなのか。あとでやり方を教えてくれ……代わりにこいつ捨ててくるから先に帰ってていいぞ」

 

赫は立ち止まって右を向いた。

俺はそのまま立ち止まらずに歩いてく。

 

「じゃあお言葉に甘えて。時間は……そうだな、明日の昼過ぎに家に来てくれ」

 

俺は返事する代わりに左手を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

目が覚めると、家のお布団で寝ていた。

周りを見渡しても怖い大人は見えなかったけど、赫の姿が見えなくて不安だった。

 

「あ、起きたか?」

 

そんなことを考えていたら土間の方から赫がやってきた。

 

なんて謝ろうか。怒られるんじゃないか。見捨てられるんじゃないか。

 

そんな暗いことを考えていたら涙が出てきた。とにかく謝らなくちゃ。

 

「ひっぐ……かく、ごめん……なさい……」

 

赫はこっちに来て手を上げた。叩かれるとおもって思わず身構えたけど、頭を撫でてくれた。

 

「僕が悪かった。寄り道なんてせずにさっさと帰れば良かったんだ。そうしとけば妹紅を怖い目に合わせることも無かった」

「赫は……悪くな……いもん。私が、勝手に家を……でたのが悪い……もん」

 

赫は私を膝の上に座らせて、目線を合わせる。

 

「でも妹紅は僕を心配してくれたんだろう? 僕は嬉しいよ。さあ、もう夜も遅いし寝ような」

 

私は納得してなかったけど、体は正直でもうウトウトとし始めた。

 

せめてもの抵抗に、赫の服をがっしり掴んでから眠りに落ちた。

 

 

 

 




今更だけど一日三つも投稿してやんの


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竹取物語 序

1153字


赫と出会ってから数年、千を生きる者としてはもはや数年単位は長いようで短い。

しかし、人にはやはり長いもので少しだけ変化があった。

 

まず妹紅、幼女が少女に成長した。それにつれて口調がなんだが中性的になったり、俺の事を朧と呼ぶようになったり。

 

赫は全然変わらない。数年とはいえ普通の人間なら多少変わるのだが、周りの人間に不審がられないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

いつのように京をふらついていると、

 

 

「おや? もしや貴方様はあの時の旅人様ではありませんか?」

 

目の前には老人……数年程前に妖怪から助けたという事例以外は特に接点のないはずなのだが、律儀にも覚えていたようだ。

というか以前見たときはもっと継ぎ接ぎだらけのボロの服を着ていたはずだが、今では貴族のようなしっかりとした服を着ている。

 

 

「ん? あぁ、あの時のご老人か、元気そうでなによりだ。 所で何故京に? そしてその服装は?」

 

 

曰く、三ヶ月程前、竹林で赤子を拾ったのだが、不思議なことにスクスクと成長し今では大変な美少女に育ったこと。

 

曰く、赤子を拾ってから時折竹林で黄金を見つけるようになり、家が裕福になったのだが、あのまま田舎でただの若者に嫁がせるよりも、京でふさわしい相手を見つけれるさようにと引っ越してきたという。

 

曰く、その赤子の名前は[なよ竹のかぐや姫]と名付けたと。

 

 

当たり、かもな。

 

普通の人間では三ヶ月で赤子から少女に成長は出来ない。

ではかぐや姫は妖怪か? もちろん人外の線もあるだろう。

 

しかし、竹取物語では最後にかぐや姫は月へ帰る。史実と照らし合わせるならかぐや姫は月の関係者、というのが最有力だろう。

 

どのような関係なのか。何故地上にいるのか。果たして月から迎えは来るのだろうか。

 

疑問は尽きないが、それを一度胸にしまい込む。

 

「どうかされましたか? 先程から難しい顔をして」

「……いや、なに。まだ名乗ってもいなかったと思いまして。改めまして、朧 と申すものです」

「おお、これはご丁寧に。みなに私は竹取の翁と呼ばれております」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのやり取りがあった後、翁の家へお邪魔したのだが。

 

 

「こちらは、爺の命の恩人である旅のお方です。」

 

翁達は余程かぐや姫を大切に思っているのだろうか。姿は簾で遮られてて見えない。

 

「そう、おじいさんの命を救ってくれてありがとう旅のお方。よろしければお名前を聞いても?」

 

「旅人の朧と申します」

 

 

「……おじいさん。少しこの方とお話するので二人きりにしてくれないかしら」

 

月の関係者というのは当たりだろう。いや、永琳の関係者という方が正しいだろうか?

 

かぐや姫は"朧"という名前に反応した。よくよく観察していたらか分かったものの、簾越しというのは思ったより反応が見づらい。

 

 

さて、かぐや姫は何を語るか?

 

 

 

 

 




筆が重くなってきた


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竹取物語 中

この話を執筆中、遂にUA10,000突破してしまった。
零細な活動なだけに、嬉しくて小躍りしそうです。

あ、あと誤字報告ありがとうございます。こう見ると多いですね

1771字


翁が退室したあと、かぐや姫は簾から出て姿を表し、俺の前に座った。

 

現代日本に生まれたものなら、和風美人と称するような出で立ちであり、なるほど 「かたち清らなること世になく、家の内は暗き處なく光滿ちたり」と謳われるだけはある。

 

 

「失礼ですが、朧 という名前は誰に付けてもらったか教えて貰っても?」

 

そのかぐや姫だが、こちらを探るような、警戒するような目付きで質問してくる。やはり朧という名は知っているようだ。問題はどのように伝わっているかだが。

 

「……昔、とある女性に相手に付けてもらいました」

 

素直に答える。嘘をついても仕方が無い。

 

「そう……もしかしてその女性は銀色の髪をしてなかったかしら?」

 

俺は無言で頷く。

 

おそらく永琳に教えて貰ったのだろう。つまりは月の住人で、なおかつ永琳と近しい関係、ということだろうか。

 

「じゃあ、これが最後の質問です。 ……最後の時、貴方は彼女に何を贈ったの?」

 

「…………銀色の指輪です」

 

先程まで猜疑の目を向けていたかぐや姫は、その答えを聞いて驚愕の表情を示し、その次に喜色を表す。

 

「改めて自己紹介するわ。 蓬莱山輝夜 輝夜って呼んでちょうだい。口調ももっと気軽でいいわ。 で、多分貴方は色々疑問に思っているでしょうけど、ここに私がいる理由含めて全部話すわ」

「わかった。ただ、その前に一つ質問しても?」

「ええ、もちろんよ」

 

俺は、千年以上前からずっと気掛かりだったことを尋ねる

 

「永琳は、元気、か?」

 

輝夜は、あっけらかんと答える。

 

「えぇ、元気よ。 月じゃこれと言った大きな事件も、争いもない 停滞したと言っても過言じゃない環境だわ 少なくとも私が永琳に出会ってからはずっと変わらず元気に見えたわ」

「そう……か……」

 

少しだけ気持ちが軽くなった気がする。かなり酷い別れ方をしたと自覚していたから、かなり心配だった。

 

「あらあら、永琳も想われているわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、始まりは私が永琳との出会いからよ。

 

月ではそこそこの地位に産まれた私は、ある程度の年になると月の頭脳こと永琳の元に送られたわ。体のいい厄介払いって感じだったけどね。まあ割と退屈しない生活だったわよ。

 

まあそうして一緒に暮らしていた訳だけど、ある日 とあることに気付いたの。 年に一度、決まった日には必ず休みを取ってはふらっと姿を消すのよ。まあ次の日にはいつの間にか帰っているんだけどね。

 

コホン、話を戻すわ。 それに気が付いた私はもちろんストーキング……もとい、尾行して何をしているか確認したわ───途中でバレたけどね。

……なによ、永琳ってあれでも結構鋭いもの。しょうがないじゃない。

 

まあバレたけどそのまま堂々と着いて行って、辿り着いたのは人っ子一人いない高台。そこに座り込んでぼーっとしているだけだったわ。

 

私もしばらく一緒に座っていたら、永琳がぽつりぽつりと喋ってくれたわ。

 

地上で貴方に出会ったこと

貴方との思い出

月へでる直前の出来事

 

語っている間、ずっと左手の薬指にはめていた愛おしそうに、悲しそうに撫でていたわ。

 

その時既に私は月に飽き飽きしていたのだけど───停滞ほどつまらないものも無いでしょ?───その話を聞いてより地上への興味が深まったわ。

 

 

 

 

 

 

 

それで、事態が急変したのは今から半年ぐらい前の話。

 

永琳の本職が薬師なのは知ってるわね? 月の頭脳、天才と言われるだけあって、ありとあらゆる分野の薬を見境無く作っては実験していたのだけど、その時作られたのは月の禁忌に触れるもの。

 

蓬莱の薬、と永琳は呼んでいたわ。飲んでしまえば未来永劫死ぬことも老いることも無くなる不老不死、不変の薬。

 

……えぇ、お察しの通り。私はそれを飲んでしまったわ。地上へと堕ちるためだけに、ね。

 

結果は見ての通り、赤子にされて地上へ一時追放。本当なら三ヶ月でここまで成長する予定じゃ無かったみたいだけど、蓬莱の薬のおかげであっという間成長、もとい元に戻ったわ。

 

え?永琳は罪に問われてないのか、だって?

…………あくまで服用するのがダメなのであって、作るだけじゃ罪には問われないわよ。

 

多分あと一年もしないうちに月から迎えが来る。戻ったらどうなるかなんて予想がつくし、大人しく戻ってやるつもりなんてないわ。

 

もちろん永琳の協力も得てるしね。

 

まあ、ここまで踏まえた上でお願いするわ。

 

私の護衛をやってくれないかしら?

 

 




やっと進むよ⋯⋯

そういえば投稿の時間は朝昼晩どれが最適なんだろ?


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竹取物語 間

2771字

作者「いやほんとごめんなさい(いつから序、中と来て終が次にくると錯覚していた?)」

朧「本音と建前逆だぞ」


「かーくー」

「はいはい」

 

暇だ。

 

私は赫の背中にもたれかかり、顎を肩に乗っけて赫の名前を呼ぶ。──赫の背中は私のお気に入りの場所だ。

 

その赫はというと朝御飯の準備中。手伝わないのか、だって?切る程度ならともかく料理は下手だ。以前手伝った時、料理は黒ずんだ何かになった。赫は苦笑しながらも、美味しいと言って食べてくれたのだが、味は壊滅的だった。

 

「そういえば、最近朧見ないね」

「ああ、彼なら僕みたいに護衛の仕事を受けたらしくてね。多分そのせいで手が離せないんじゃないかなぁ」

 

護衛、か。赫は私の事をどう思ってるんだろうか? ただの護衛対象は無い……と、思いたい。では妹? まあ未だに子供扱いされてはいるが、それは……すこしモヤッとする。

じゃ、じゃあこい……

 

「邪魔するぞ」

 

噂をすればなんとやら。甘い思考をぶった斬るように朧がやってきた。

 

「おはよう朧」

「そういうのは普通戸を叩いて許可をとってから言うもんじゃないかな……おはよう朧君」

「この時間ならお前らは起きてるだろう?」

 

と、至極当然のように居間に上がって席に着く。普通なら図々しいことこの上ないが、彼は毎回飯を貰う代わりに色々と食材を置いていく。今日は私の好きなタケノコのようだ。

 

「起きているからと言って、妹紅が着替えてたりするかもしれないじゃないか。覗こうものならコブラツイストを掛けてやる」

「別に興味もない」

 

む、そうズケズケと言われるとすこし落ち込んでしまう。確かに口調は男っぽいし、お淑やかさもない。む、胸も薄いし……

 

「ほほう、妹紅に女の魅力が無いと申すか」

「別にそこまで言ってねぇだろ」

「ではやはり興味があると。あぁ!友人の毒牙から妹紅を守らねば!」

「……一発殴っていいか。全力で」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

と、馬鹿なやり取りを尻目に私は朧が持ってきたタケノコを保管場所に運ぶ。また少ししたら私の大好物であるタケノコ料理を赫が作ってくれるのだろう。そう思うと頬が緩む。

 

…………甘え方といい、これが未だに子供扱いされる理由かな?

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

「あなたがたの情熱と、想いの深さから私は五つの難題を出しましょう。これを成し遂げた方こそ、私と結婚するに相応しい」

 

 

多治比嶋殿には天竺にあると言われる

 

仏の御石の鉢を。

 

 

阿部御主人殿には燃え盛る炎にも耐える

 

火鼠の皮衣を。

 

 

大伴御行殿には龍の頸にあるとされる

 

龍の頸の五色の玉を。

 

 

石上麻呂殿には燕が産むとされる

 

燕の子安貝を。

 

 

藤原不比等殿には蓬莱山に生えるという

 

蓬莱の玉の枝を。

 

 

「期日までに私に差し出した者を、私に足る夫と認めましょう」

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

「はぁ、少し前から思っていたがお前はだいぶ性格が悪いな。ありもしない物をどうやって持ってこいと」

「だってこうでもしないと諦めないじゃない? 偽物を持ってきて失格になるか、諦めてしょぼしょぼ帰るか。二つに一つよ」

 

そもそも結婚する気が無いのだろうな。

というかみんな正妻は良いのだろうか?まあ貴族は女を囲うのは一種のステータスだから良いのだろう。

 

輝夜には言ってないが妹紅の父親もいたな。あの人は悪人じゃないが善人でもない。蓬莱の珠の枝といえば根は白銀、茎は黄金、実は白玉でできている木の枝のこと。彼は作ろうと思えば作れる立場にいる。たしか偽物を作って、職人が給料を払えと輝夜の屋敷まで要求しに来てバレていたはずだが。

 

竹取物語(原作)も仔細まで覚えているわけではないし、俺や赫がいることでどのような展開を取るか、少し楽しみではある。

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

現在、輝夜の屋敷の庭に三人の男がいる。

 

それぞれ名を、多治比嶋、阿部御主人、藤原不比等、という。

 

その周りには使用人や見物人で溢れかえっている。

 

「かぐや姫よ、二人ほど来ていないのですが?」

 

多治比嶋が質問する。

 

「大伴御行殿は結局、龍の頸の五色の玉を手に入れられずに辞退。石上麻呂殿は燕の子安貝を取ろうとして(足場)から落下し、腰を痛めておいででした。つまりはここに来ない二人は失格ということです」

 

輝夜がスラスラと答えると、残り三人の顔が喜色に染まる……いや、不比等氏だけは少し固い。

 

「では、まず仏の御石の鉢を」

 

多治比嶋は前に出て、得意げな顔で懐から手のひら大の黒い鉢を取り出す。

 

「私は天竺まで行き、苦心の末これを手に入れました」

 

しかし、輝夜はこう答える。

 

「本物であれば、鉢は輝くはずです。しかし、これにはその様子はない。つまりは偽物です。 次、火鼠の皮衣を」

 

多治比嶋は悔しそうな顔をしつつも、何も言わず引き下がる。続いて阿部御主人が前へでて、使用人に一枚の皮を持ってこさせる。

 

「これは大陸のさる商人から手に入れたものでございます」

 

しかし、輝夜はこう答える。

 

「これが本物であるならば、燃える道理は無いでしょう。私付の陰陽師に燃やさせてみましょう」

 

と、庭で控えていた俺に自称火鼠の皮衣を渡してくる。俺は妖術(とバレないように偽装した陰陽術)を使用して派手に燃やす。

あまりに良く燃えたので、これを持ってきた本人は腰を抜かしていた。

 

「これも偽物でしたね。最後、蓬莱の珠の枝を」

 

輝夜は表面上は冷静に促す。

 

最後に残った不比等氏は、落ち着いて使用人に命令を下す。その使用人が持ってきた物をみて、輝夜は動揺したように眉を少し動かす。

 

「こちらが、蓬莱の珠の枝になります」

 

一見は本物のように見える。実際輝夜も内心焦っているだろうし、翁は寝室を整えに姿を消した。

 

しかし、輝夜が口を開こうとした時、乱入者が現れる。

 

 

 

 

 

「不比等様!いい加減給金を払ってくだされ!」

 

「そうですぞ!我ら職人一同、まともな飯を食っておりません!」

 

 

それは蓬莱の珠の枝を作った職人達。おそらく材料費は払えても給金までは手が回らなかったのだろう。

 

輝夜は一瞬、勝ち誇ったような顔をしていたが巧妙に表情を整えると、こう告げた。

 

「残念ながら、私の出した難題に答えられる殿方はいらっしゃらなかったのですか。あぁ、ごめんなさいおじいさん。私はまだまだお嫁に行けそうにありませぬ」

 

わざとらしく落胆した声で告げると、屋敷の奥へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、朧殿 最近妹紅のとこで見ないと思ったらこんな所にいたのか」

「どうも、不比等氏」

 

あの後、ほとんどの貴族や見物人帰る中、藤原不比等が話しかけてきた。

 

「いやぁ、結構良い線まで言ったと思ったんだけどね」

「あれは自業自得でしょう。それに女性に紛い物を贈ってなんになるというのです」

 

以外にも彼は落ち込んではなく、むしろ燃え上がっているようだ。しかし、多くの人の中で紛い物とわかって物を出し、それを自分のミスで見破られるのだから。彼はしばらく謹慎するそうだ。

 

「恥の上塗りは避けたいからね。少し大人しくしとくさ」

 

彼は愉快そうに笑っていた。

 




作者の段取り不足のせいなんだよね⋯⋯

次回は平城京編 最終だと思います。 たぶん

あ、あと基本的に出来たら次の日の朝に上げることにします。 例外あり


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竹取物語 終(前)

2568字

二話同時投稿 前編です

いやちゃいますやん。
終の前後編に分けただけですねん。


最近、京でこんな噂を聞くようになった。 

 

かぐや姫という、絶世の美女がいる。

 

曰く、今まで様々な身分の人々に求婚されたが、誰一人として色良い返事を得られず、ついには五人の貴族、(みかど)すらもフッたとか。

 

それまでなら、私は特にこれと言って興味を抱かなかっただろう。年頃の少女らしく、自分の恋を追いかけ、他人の惚れた腫れたなど目にも入らなかったはずだ。

 

しかしながら、一つだけ、こんな噂が流れた。

 

「藤原不比等は紛い物を作ってをかぐや姫に献上した恥知らずだ」

 

事実は分からない。様々な人が好き勝手に尾ひれ背ひれを付けて噂を流すためだ。父に聞こうにも、自宅に謹慎し外には出てこない。

 

ただ、そんな父にまつわる噂で、ひとつこんなものがあった。

 

「紛い物で自分を騙した藤原不比等を、かぐや姫が見せしめで辱めた」

 

これも真偽は分からない。だけど、私が好きな父を侮辱されたのは、少し 悲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

ある時を境に、かぐや姫が月を見上げて嘆くようになりました。心配になった翁はかぐや姫に理由を訪ねます。

 

「おじいさん、私は実は月の住人なのです。もうすぐ、月から迎えが来るでしょう。私は月に帰りたくない、慣れ親しんだこの地で生きたいのです」

 

それを聞いた翁は、帝や貴族達にこの話を広めます。かぐや姫はどんなことをしても無駄だ、と諭そうとしますが、結局二千の兵がかぐや姫の屋敷を取り囲みました。

 

おじいさんは奥の部屋にかぐや姫を押し込め、前の部屋にはおじいさんが座り込み、兵の指揮をとるために藤原不比等が立ち、かぐや姫がいる対角の部屋にはどうやって忍び込んだのか、妹紅と赫が覗き見していた。

 

朧はというと、不比等の横で壁にもたれかかっていました。

 

 

そうしてしばらく待っていると、月が一際強く輝きました。それを見てしまった外の兵士たちは呆然と立ち尽くします。

 

 

その時、月の方向から宙を歩く牛車がやって来ました。

 

その中から出てきたのは、ガッチガチに武装した兵士たちとら銀色の髪をした美しい女性でしたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝夜の作戦……地上に来る前に永琳が考えた作戦は、あまり賛成出来るようなものでも無かったし、もっと単純に皆殺しでも行けそうな気がする。

と、同じように輝夜が永琳に提案したらしいが、送られてくるのは腐っても月の最新技術で固められた兵士たち。失敗の可能性は極力減らした方がいいらしい。

 

 

先程の強い光はおそらく催眠術の一種だろう。弓を持ち、月を見上げていた兵士たちは全て催眠状態に陥って無力化されている。

 

屋敷の中にいた翁や不比等は催眠にはかかっておらず、そもそも妖怪である俺には生半可なものでは意味をなさない。

 

やがて、宙に浮く牛車がゆっくりこちらに向かってくるが、見た感じブースターも、霊力も使ってない。月の技術力は星間戦争を起こせるレベルで発展してそうだから反重力だとかそんな感じだろう。

 

牛車の周りには九人、先頭には隊長であろう兵士と、銀色の長い髪をした美しい女性……永琳がいた。多分俺には気がついていないだろう。

 

やがて屋敷の前に辿り着くと、先頭の兵士と翁と一言二言会話を交える。

 

「かぐや姫を出せ」

 

「はて、なんのことやら」

 

翁は思ったより肝が据わってるのか、仮初とはいえ、娘への深い愛情がなせる技か。バリバリに殺気を飛ばす兵士に一歩も引かない。

 

ところで、向こうの部屋から覗き見している妹紅と赫はどうやって忍び込んだのだろうか。赫はまあともかく妹紅は危ないんじゃないか?

 

思考がズレ始めた時、ついに埒が明かないと兵士が強硬手段へと出る。

 

「邪魔だ!」

 

翁を押し退け、無理やり奥の部屋へと押し入ろうとする。それを太刀を構えた不比等が行く手を阻む。

 

「邪魔だと言っている!三度目はないと思え!」

 

しかし、動かない。兵士も武器を構え、射撃体制に入った。

 

普通なら撃たない。不比等の後ろには輝夜がいる部屋があり、銃の威力次第では貫通して後ろにも被害が及ぶだろう。

 

しかし、輝夜が不老不死であること その兵士がプライドが高そうなこと。引金は引かれてしまった。

 

 

バシュン、と気の抜けた音が聞こえると不比等が倒れ伏した。畳には血が染み込み、不比等が動く様子もない。

 

 

その時、奥の部屋に続く襖が開き、輝夜が歩んでくる。倒れ伏す不比等をみて、悲しそうな顔をしたがすぐに顔を引き締める。

 

「これはこれは、かぐや姫 我々と一緒に来てもらいますぞ」

「ええ、勿論ですわ。その前におじいさんと今生の別れをさせて頂けないかしら?」

 

兵士は頷くと、輝夜はおじいさんに蓬莱の薬を渡し、一言二言会話を重ねる。

 

「終わりましたかな?」

「えぇ」

 

輝夜は牛車に乗り込み、牛車は月へ向かって動き始める。

 

俺は兵士が全員後ろをむくのを待ってから、不比等の傷の応急処置をする。と、そこで隠れていた赫が妹紅を抱えて出てくる。

 

「不比等さん、助かりそう?」

「さぁな……この分だと助かっても目を覚ますのは時間かかりそうだ。妹紅はなんで気絶してんだ?」

 

妹紅は赫の腕の中でぐったりとしている。顔には血の気がなかった。

 

「親の死に目なんて見たら誰だって冷静にはいられないだろ?飛び出そうとしたから無理矢理ね…………朧君はどうするの?」

 

おじいさんは嘆き悲しむように項垂れており、兵士たちは未だに使い物にならない

 

「俺はあれを追いかける。ちょっと訳ありでな」

「もう見えないよ?光学迷彩かな? 凄いよね月の文明。君の十八番も再現出来るんだから」

「大丈夫だ、前に教えて貰った追跡のヤツを使う」

 

赫は納得したように続ける。

 

「あぁ、かぐや姫になにか持たせてるんだね」

「いや?輝夜にはなんも持たせてないぞ」

「え?」

 

追跡するのは、永琳に贈った指輪。宝石の部分、実は朧月の欠片を埋め込んでいる。

 

訳が分からないといった赫に全てを説明している時間はないので、こういう。

 

「まあまた今度説明する。もしも俺を探すなら[迷いの竹林]って場所にこい。そこの奥に家があるから」

 

それだけいうと、妖力を込めて空を飛ぶ。最近覚えた技術で、それなりに簡単で速度もそこそこでる。元の身体(ナルガクルガ希少種)で飛んだ方が速いが、目立つ。

 

「お、おう。まあ、とりあえず僕は妹紅が俺の事を必要無くなるまでは動けないから。またね」

 

俺は同類の友人に別れを告げ、空へ飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、次回には終わるから……


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竹取物語 終(後)

2492字

二話同時です。こちらは後編

こんなガバガバな構成で投稿する作者を許して


「姫様 なんでそんなにニヤニヤしているんですか」

 

私はこの後の作戦を考えて、少し気落ちしている。

 

作戦は至ってシンプル。兵士たちの気を逸らして上空五千メートルからその身一つで飛び降りる。

 

この牛車擬きは防音、光学迷彩、反重力スラスター、酸素フィールドなどなど無駄に機能を積んではいるが、速度はないため追いつきは出来ないだろうし、既に姫様も私も不老不死である。ミンチになっても時間をかければ復活するだろう。めちゃくちゃ痛そうだが。

 

「ふふふ、いやね。永琳が驚く顔が楽しみだわ」

 

何が楽しみなのか。彼女は小さい時からお転婆でよくイタズラをして叱られていたが、この顔はそのイタズラの成功を確信している顔である。

 

と、その時 牛車擬きの外が騒がしくなる。

 

すこし外を覗いていると、雲の中なのだろう。周りの様子は見えない。

 

しかしながら兵士たちは戦闘に入っているようで、牛車擬きを囲うように外側を警戒している。

 

こんな高高度で一体何が襲ってくるというのか。

 

 

 

 

 

 

そのとき、すぐ真横で姫様以外の気配を感じる。

いつのまに、そう思う前に身体が勝手に動き、忍ばせていた短刀を刺そうとする。しかし、短刀を持つ手を捕まれ防がれてしまう。

 

「永琳、感動の再開直後に短刀を刺そうとするのは流石に無いと思うわ」

 

姫様に言われて初めて気がついた。

 

「あー……久しぶりだな、永琳」

 

懐かし声が聞こえる。

最後に聞いたのはもうどのくらい前だったか

 

 

そこには、確かに朧がいた。

 

「久しぶり、朧」

 

今の状況をも忘れて飛びついた。

 

「もう離さない」

 

彼も私を離すまいと抱き締めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい、二人の世界に入るのは終わってからよ」

 

輝夜の声で戻ってきた俺は名残惜しいながらも抱擁をとく。まだ少し赤い永琳は雰囲気を誤魔化すように俺に聞く。

 

「朧、どうやって牛車を見つけたの? 一応光学迷彩を積んでいるから地上から見えないはずなんだけど。 それにどうやって姫様と知り合ったかも教えてもらうわ」

 

後半は少し目付きが鋭くなっていた気がするが、やましいことは無いので素直に話す。

 

次に、俺は今後の予定を聞く。

 

「とりあえず地上に戻ってから、落ち着ける場所……人が寄り付かなくて、結界的なもので護られている場所が良いわ。心当たりは?」

「ある。迷いの竹林って言って、今俺が拠点に使っているんだが、離れたとこに人里はあっても深部までは入ってこないし、入ってこれないように竹林全体を迷いの術を掛けたりしている。もっと強力なものに張り替えても良いだろう」

 

永琳は思案顔だったが、輝夜から肯定の声が出る。

 

「あら、いいじゃない。私は竹林は好きよ」

「……そうですね。姫様が言うなら良いでしょう」

 

ところで、さっきから永琳はなぜ輝夜の事を姫様と言っているんだ?と聞いてみたら。

 

「あぁ、永琳ってば。私は蓬莱の薬を飲んで処刑になってしまったのだけど、永琳は自分が無罪なのは納得いかないってね。罪滅ぼしの為に私の従者になりたいってさ。別に気にしてもないのにね」

 

とのこと。

 

 

 

 

 

「なあ、永琳。外の兵士は皆殺しで良いのか?」

「それは最終手段よ。一番は誰にも気付かれずにここから出ることよ。貴方が来た時みたいにね」

 

なるほど。俺は丁寧に妖術の式を組み、辺りに雲に見せかけた霧を出す。結構な広範囲に広めるために多めに放出しておこう。

 

「……無茶苦茶ね」

 

とは輝夜談である。

 

そうして辺りに浸透させたら自分達の周りの光の屈折を曲げて、擬似的な光学迷彩の完成だ。

 

「行くぞ」

 

俺は二人を小脇に抱えて、牛車を飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの竹林、我が家の縁側にて。俺は今回の顛末をてゐに説明していた。

 

夜も遅く、永琳と輝夜は精神的にも疲労していたため、先に寝かせた。紹介するのは明日でも遅くない。

 

「へー 今回はそんなことが……ついに朧の人探しも終わりかー……あの二人のことだけど、そもそも家主は朧なんだし好きに住まわせたら?私は余程酷くない限りは気にしないし」

 

くぁーっと欠伸をしながらも俺の話を聞き終えたてゐは部屋で眠るべく、縁側を後にする。

 

 

俺もいい加減寝るか、と立ち上がったら寝間着姿の永琳が縁側にやって来た。どうやらてゐが立ち去るのを待っていたらしい。

 

「どうした?」

 

俺の問いかけには答えず、無言で正面から抱き着いてくる。何も言わずに抱き締め返すと、永琳が独白する。

 

「……私は、不老不死よ。たとえ文明が滅びようとも、地球が崩壊しようとも、宇宙が消滅しようとも生きていられる。それは最早呪いよ。私はね、怖いの。貴方が妖怪であっても寿命という概念からは逃れなれない。いつか貴方の死を看取る日が来るかもしれない。それが怖いのよ」

 

そういう永琳は震えていた。俺はより強く抱き締めてこう囁く。

 

「だったら俺が不老不死になればいい」

 

それを聞いた永琳は首を横に振る。

 

「不老不死とは魂魄の魂を本体ともって不老不死と化すもの。妖怪は人間と違って魂の依存が強い。成功すればいいけど、失敗して魂にどんな副作用で何が起こるか分からないのよ。急死するかもしれないし、魂そのものが消えてしまうかもしれない。それだったら私は緩やかな死を選ぶ」

「…………それでも、永琳を悲しませるぐらいなら」

 

永琳は、言葉を重ねる。

 

「気持ちは嬉しいわ……いつか、私の踏ん切りが着いたら貴方は受けてくれるかしら?」

「あぁ、勿論だ」

 

俺は、あの時のように額にキスを落とす。

それだけで永琳は赤く茹だってしまった。

 

「も、もう……朧ったら」

「さあ、もう夜も遅い。寝よう」

 

俺が手を離すと、残念そうに永琳も手を離すが、イタズラを思いついた子供のような顔をしながら右手に全身を密着させてきた。

 

「………私が寝るまで、手を繋いでてくれないかしら?」

 

残念ながらツクヨミ様と赫に鍛えられた俺の鉄仮面はその程度では動揺することは無い。

 

「あぁ、いいぞ。なんなら抱きしめておいてやろう」

 

勿論後半は冗談なのだが、永琳はどうやら真に受けたらしい。耳まで赤く染めて混乱していた。

そして冗談だ、と言おうとした時。

 

「その、是非お願い……」

 

あんまりにも可愛くて、俺が少し赤くなった。

 




このあと滅茶苦茶快眠した。

平城京編 これにて終幕

最後は結構難儀した。

閑話とかいっぱい挟んで幻想郷編へ

184件のお気に入り及び18件の感想ありがとうございます。お陰様で頑張れます。


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閑話
妹紅と赫


閑話 その一

1773字


憎々しい程に青い空の下、私は駆けていた。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

呼吸は荒く、心臓の音はうるさいぐらいに聞こえる。

 

それも当然だろう。なんの訓練も積んでない少女が、小さいとはいえ重たい丈夫な壺を抱えて走っているのだから。しかも右腕には矢が刺さっていて、未だに血が流れている。

 

「はぁ……撒いた、かな?」

 

私は荒れた息を整えるために、木を背もたれにして座り込む。

 

 

手元には壺。中にはあのかぐや姫が残していった[蓬莱の薬]が入っている。

 

 

 

事の始まりは一週間前。かぐや姫が月に帰ってしまい、私の父である藤原不比等が息を引き取った日。

 

かぐや姫が置いていった蓬莱の薬……不老不死不死の秘薬は翁も帝も飲むことを是とせず、これを富士の山で焼こうとした。

しかし、愛する父の死に目所か殺される瞬間を見たこと、様々な心無い噂、それらが私の様々な感情を翻弄し、自暴自棄になってしまった。

 

その結果が、輸送中の蓬莱の薬の奪取。山から転がるように逃げて現在に繋がる。

 

 

「は、ははは……はぁ……」

 

 

そもそも何故蓬莱の薬を盗むという行動に出たのか。私にもよく分からない。疲れ切ってまともな判断が出来ていなかっただけかもしれない。もしかしたらかぐや姫に少しでも嫌がらせをしたかったのかもしれない。

 

さて、この薬をどうするか。どうせ京に戻っても犯罪者だ。いや、それ以前に出血で死んでしまうだろう。

 

 

そんな時、私の頭上を大きな影が遮る。

 

赤い甲殻に身を包まれ、二本の脚に鋭い爪、大きな翼に長い尻尾。明らかに人外の類で、ソイツは私と目が合った。

 

普通なら恐怖や畏怖を抱くのだろう。でも、疲れ切った私にはなにも感じない。

 

ソイツが目の前に着地すると、風圧だけで吹き飛びそうになる。それでも目を逸らさずに見つめていると、みるみる形が崩れ、人の形をとる。

 

赤黒い髪に、私より少し高い身長。小さい頃から一緒にいたため、絶対に見間違えるはずがない。彼は間違いなく赫だ。

 

「赫……いまのは……」

「妹紅……説明はちゃんとする。だから先に止血を」

「近づかないで」

 

赫は、とても悲しそうな顔をした。でも、ここで生き延びても未来は暗い。

 

彼は言葉を重ねる。

 

「ここに来たのは、自暴自棄になった妹紅を止めるため。妹紅にはちゃんと生きて欲しいから」

 

赫は妖怪だったけど、心の底から私を心配してくれていた。

 

「そっか……でも、もう手遅れだ。取り返しがつかないもん……帝の使者を傷つけて、薬を奪って……」

 

未だに血が止まらない。意識も朦朧としてきた。もう助からないだろう。

 

「っ妹紅!」

 

赫が駆け寄ってきて、力なく横倒れになる私を支える。その顔はとても私が拒否した時よりも焦燥していて悲しそだった。

 

そして、赫は覚悟を決めたように、こう告げる。

 

「妹紅、後で僕をどれだけ恨んでくれても構わない」

 

赫は私の左手にある壺の中身を一息で(あお)り、私に近づく。

 

意識を手放す前に感じたのは、優しい唇の感触だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと空は橙に染っていた。

 

体を起こすと、目の前で赫が土下座していた。

 

彼はこう言う。

 

「妹紅。本当にすまない。僕の感情を優先させて、君の命を無理矢理繋ぎ止めてしまった。それどころか不老不死の業をもムギュッ」

 

とりあえず喋れないように顔を上げさせて口を摘む。

 

「赫、これだけ答えて。赫は私のことをどう思ってるの? 妹?娘?」

 

彼は渋るが、私の視線に耐えられなかったのか、それとも罪悪感からか小さな声で呟く。

 

「好きだった」

「えっ?」

「異性として、好きだったんだよ」

 

衝撃的な告白。赫が妖怪だったとわかった時よりも驚いた。

 

「私もだ」

「えっ?」

 

今度は赫が聞き返す。

 

「小さい頃は、兄や父のように慕っていた。でも成長するに連れて一人の男として見始めた」

 

いつだか、父に見合いを勧められた。でも、こんな素敵な異性が近くにいれば、他に目が向くはずが無い。

 

「そ、そうか……」

 

沈黙が辺りを支配する。いつも弄る側にいる赫は珍しく顔を赤く染めているし、私も真っ赤だろう。

 

ふと、髪を見ると黒かった髪が白く染っていた。これでは迂闊に人前に出れないだろう。

 

「妹紅……」

 

彼の言いたいことはだいたい分かる。

 

だから、私はこういった。

 

「赫、私をこんなのにした、責任を取ってくれよな」

 

遠回しな二回目の告白

 

「……うん、僕の一生をかけてでも」




後悔も反省もしてないです。




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轟竜 in 紅魔館

閑話その二
幻想郷に来る前の紅魔館のお話
ちなみに閑話の時系列は滅茶苦茶なので悪しからず

2639字


とある森の奥深く。

 

そこには全てを紅く染められた洋館がありました。

 

人呼んで紅魔館。

 

地元の人間はそこに近づくことはありません。

 

なぜならそこは誇り高き吸血鬼の館。

 

今日はその館の中を少しだけ覗いて見ましょう。

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夜の帳が降りてきた辺り。

夜行性の妖怪にとっては朝であり、紅魔館の面々は食卓に集まっている。

 

自己紹介をしよう。

 

私の名はロアーク。元人間の転生者であり、今は轟竜、いわゆるティガレックスをやっている。しかし今は執事服に身を包み、紅魔館に世話になっている。

 

「はぁ、暇だわ」

 

目の前の高そうな、それでいて上品な椅子に深く掛けた幼女がそう呟く。水色の混じった青髪に、紅い目。薄いピンクのナイトキャップにそれに合わせた服。その背中には特徴的な羽が生えている。驚くなかれ、その幼女はもうすぐ齢五百程の吸血鬼である。

 

名をレミリア・スカーレット。紅魔館の主であり、一応私の主でもある。

 

一応 と付くのは、執事である前に私は彼女の親友であるし、仕えているのは彼女の五つ下の妹であるからである。

 

「レミィ、今日は何をやらかす気?」

 

そう言うのはレミィとテーブルを挟んで反対側に腰掛ける女性。長い紫髪の先をリボンでまとめ、パジャマのようなゆったりとした服を着て、頭にはナイトキャップのようなものを着用している。

 

名をパチュリー・ノーレッジ。齢百程の先天的魔女であり、レミリアの親友である。

 

ちなみにレミィというのはレミリアの愛称で、パチュリーはレミリアにはパチェと呼ばれている。斯く言う私もローという愛称で呼ばれたり、二人の事を愛称で呼んだりする。

 

「お嬢様、お手紙です」

 

レミィの傍に突然表れたのは銀髪のボブカットの女性。

ただの人間でありながら、"時を止める"能力を持った規格外の人間である。

 

名を十六夜咲夜。小さな頃にレミィに拾われ、それ以来私と紅魔館の門番とで鍛え、紅魔館のメイド長を務めている。

 

物凄く今更だが、一部の妖怪や人間は特殊な能力を持つことがある。私の見解では、妖怪や人間がより強くなるための一種の進化では無いか、とか思っている。ちなみにレミィも運命を操るとかいう能力を持っている。閑話休題。

 

あ、門番についてはまた後で。

 

 

「ふーん」

 

と、手紙を読んだレミィが面白そうに口を歪める。

 

曰く、東洋の島国にある幻想郷という妖怪の楽園があり、昨今科学の進歩で存在が否定されつつある我々が生き残るために作られた土地であり、西洋の複数の妖怪連合で攻撃、あわよくば制圧するため、わが紅魔館にも協力要請が来たらしい。

 

幻想郷、風の噂では聞いたことがある。

全てを受け入れる楽園と。

 

「で、レミィはどうするの? 向こうに定住するならともかく、攻撃には反対よ」

 

と、パチェは言う。それもそうだろう。

 

全てを受け入れる、ということはどんなことにも対応出来ると宣言している事にならない。東洋には吸血鬼と同格の鬼や、風よりも速い天狗、八百万の神なんて出てきた日には地獄を見るだろう。

 

「でもね、私は誇り高き吸血鬼よ。舐められるなんてあってはならないのよ!」

 

と、豪語する吸血鬼に、私は今日初めて口を開く。

 

「誇り高き吸血鬼ならコーヒーぐらいブラックで飲んだらどうだ」

 

レミィは盛大にずっこけた。

パチェは笑うのを堪えている。

咲夜は澄まし顔だが内心大爆笑だろう。

 

「ロー!あなた今日の第一声がそれなの!?」

「なんの問題がある」

「そうよレミィ、コーヒーぐらい飲めないとかりちゅまの名が泣くわよ」

 

と、羞恥に顔を赤くするレミィにパチェが追撃する。

 

「紫もやし、表へでなさい。吸血鬼の恐怖を教えてあげるわ」

「いやよ、なんでそんなに寒い外へ出なきゃ駄目なのよ」

 

ちなみに現在外は吹雪いている。

 

と、勝手にいがみ合っている二人を放置し、咲夜にさっきから疑問に思っていた事を聞く。

 

「咲夜、フランと美鈴、あとこあは?」

 

基本的に、朝食は紅魔館の面々が集まって食べる。勿論例外があり、喘息を患うパチェは体調が悪いと地下の図書館(自分の城)から出てこない。

 

その図書館では小悪魔というのがいる。愛称はこあ。図書館にて司書をするパチェの使い魔だが、よく魔法の実験台になったりして酷い目にあっている。名前が無いのは、使い魔的には未熟だからとのこと。

 

紅美鈴(ほんめいりん)は紅魔館の門番であり、中華出身の妖怪武術家である。が、よく居眠りしては咲夜に叱られている。

 

そして、フランドール・スカーレット それはレミィの妹であり、ありとあらゆる物を壊すことが出来る力を持って生まれた吸血鬼(化け物) 出会った頃はその能力に振り回されてよく泣いていたが、根気強く付き合った結果、今では制御も出来ている。ただ酷く感情的になった時、無意識で使ってしまうため注意が必要だが。

 

「美鈴はまた居眠りしていましたので吹雪の中門番して貰ってます。妹様は寝坊ですね……起こしに行ってあげたらどうですか?」

 

それもそうだな と、返事をして手をつけてない朝食を放置してフランの部屋を目指す。

 

 

……美鈴には後で何か上着と食べるものを差し入れてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

気持ち良く寝ていたところに、誰かが優しく肩を揺すってくる。寒くて毛布を取られまいと引き寄せると、諦めたのか肩に置いてあった手が離れる。

 

しかしいなくなったわけでなく、ベットに腰掛けたのか少し身体が沈む感覚がした。一体誰だろうか、咲夜なら起きるまで揺すって来るのに。

 

そこで、頭に優しい感覚がした。誰か……いや、こんなことをするのは一人しか思いつかない。

 

「お兄様っ!」

 

慌てて起き上がって目の前のお兄様に抱き着く。いつもの執事服に、私とお揃いの濃い黄色の髪に、青い瞳。うん、いつものお兄様だ。

 

「おはよう、フラン。朝食はもう出来てるよ?」

「えっと、お姉様達はもう食べちゃったの?」

 

朝食はみんなで食べることになってはいるけど、以前寝坊してしまった時はみんな食べ終わったあとで、食卓には私の食事だけが置いてあって一人で寂しく食べたことを思い出した。

 

「大丈夫だよ、みんなまだ飲み物にしか手をつけてないし、急げば間に合うさ」

 

それを聞いた私は直ぐにベットから飛び降りて、パジャマから着替えるべくクローゼットを開ける。

 

「部屋の外で待っているから、終わったら出ておいで」そういってさりげなく私に気を使ってくれる。お兄様のそんなところが大好きだ。

 

私はお兄様を待たせないように素早く着替えて、ドアノブに手をかけた。




吸血鬼異変は書きません(´・ω・`)

あと、フランちゃんの狂気設定は「過ぎたる力を持ったばかりに、約500年間幽閉され孤独で過ごした影響で精神が耐えられず狂ってしまった」と、解釈しています。つまり、早い段階でロアークという理解者が表れ、能力の制御の修練を積んだフランには狂う要素は無い、ということになります。

つまりは、フランちゃんうふふってことです




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模擬戦

閑話その三 まだ平城京にいた頃の話

モンハン要素いる?って言われたのでモンスターバトルさせます。
ちなみに戦闘訓練というのは、作者の戦闘シーン練習のためでもあります。つまりはガバ分多め

10/23 サブタイトル忘れてたので追加

1626字


「赫、今日お前暇だろう。模擬戦するぞ」

「模擬戦?」

 

オウム返しに問い返す赫に、俺は説明する。

 

「そうだ。他の怪物(モンスター)達が必ずしも友好的とは限らない。対人戦ならいくらでも出来るが、大型獣同士の戦闘は経験を積むのが難しい。よって、月迅竜と火竜の模擬戦だ」

「んー、まあ一理あるか。いいよ、っても京周辺で目撃されたら面倒臭いし、適当に離れたところまで飛ぼうか……君の場合は跳ぶ、かな?」

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

何処を見渡しても鬱蒼と木々が生える中、朧と赫は対峙していた。

 

「ルールは簡単だ。殺すような傷を与えないこと、モンスターの状態で戦うこと、敗北条件は気絶するか降参するか。ここまではいいか?」

「OK」

 

言うやいなや、朧は美しい色合いの月迅竜へと変化する。

 

「ひゅーっ!ナルガクルガ希少種って初めて見たけど綺麗だねぇ」

 

朧は速くモンスターになれ、と目で促す。赫は一号の変身ポーズをとると、ミキミキと音を立てて力強い火竜へと変身する。

彼の名誉の為に説明するが、変身ポーズは精神統一の為のものである。決してふざけてるわけではないのだ。

 

「gyaaaaaaaaa!!」

「gaaaaaaaaaa!!」

 

お互い大きく威嚇の声を上げ、牽制し合う。それだけで地面はビリビリと震え、辺りの生命体は逃げ出してしまう。

 

 

先手必勝、という思考の元 赫は朧へと飛びかかる。しかし、朧の速さは疾風の如き速さで、横に跳ぶことであっさりと避ける。

 

もちろん赫はそれだけでは終わらずに、飛び上がって空から火球を撃ち込む。朧は尻尾を鞭のようにしならせて、火球を()()()()

 

火球を凌いだ朧は反撃開始と言わんばかりに、妖力を使って辺りに霧を発生させる。もちろん赫は抵抗のために大きき翼を打った風で霧を霧散させようとする。しかし、朧の妖力で作られた霧は意志を持つように空中の赫を包む。

 

完全に視界が使い物にならなくなった赫は、呆気なく地面に叩き落とされた。

 

だが、地面に落ちただけでは気絶までは追い込めない。赫も妖力を利用し、自分体に焔を纏わせる。

普通の生物ならば、甲殻とはいえ焔を全身に纏わせようものなら焼かれて死ぬだろう。しかし、リオレウスの身体は耐熱性 耐火性に優れ、高温下における長時間の活動や溶岩上の歩行をも可能にする。

 

焔の防具を纏った赫にはいくら朧といえども近接格闘は不利。ならば近付かずに攻撃すれば良い。

 

尻尾を降って、猛毒の針を飛ばす。しかし、超高温の焔と頑丈なリオレウスの甲殻は針を弾く。それどころか針が飛んできた方向へ極大の炎を吐き出す。

 

このまま消耗戦に持ち込んでも朧の有利は揺るがない。しかし、彼はあえて自分から動く。

 

脚にありったけの妖力を込め、全力で尻尾を横向きに凪ぐ。

 

霧も、木も横に割れ、赫にも紅い鮮血が迸る。

 

「ストップ!降参!リザイン!」

 

赫が人の姿に戻っても傷は消えておらず、首元から右脇腹にかけて一文字の傷が入っている。

 

「朧君、いまのはどうなったの?というか君最後殺すつもりだったでしょ……」

「そんなことはないぞ……今のはいわば短期決戦用の必殺技みたいなもんだ。脚に妖力を集中させて、尻尾で切り裂く。言葉では簡単だけどミスると凄い尻尾が痛くなる……それよりお前の焔のアーマーの方が気になる」

 

そんな雑談を交えている間に、いつの間にか赫の傷は消えていた。リオレウスはブレスの度に喉を焼いては瞬時に再生するという能力があるが、妖怪になってからより強化されてると言えよう。

 

「あぁ、あれね。単純に焔を妖術で出してから纏わりつかせてるだけ。リオレウスの耐熱性があって初めて出来るから、真似はしない方がいいよ」

 

そんな感じで勝負は直ぐに決まったが、情報交換をしたり、お互いの弱点を洗い出したりしていたらいつの間にか夕暮れになっていた。

 

「さて、帰ろうか。あんまり遅いと妹紅に悪い」

「ん、わかった。またやろうぜ」

「……次はもう少し抑えめで来てくれよな」

 

 

赫は少しだけ冷や汗をかいた。

 

 

 

 




まーた低評価か悲しいなぁ……(´・ω・`)

悲しいのでしばらく評価欄見ないようにしよ


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鈴仙・優曇華院・イナバ

閑話その四

鈴仙・優曇華院・イナバが永遠亭に来た後の話

閑話は読まなくても問題ないと言ったな?
あれは撤回する。いやごめんなさい(´・ω・`)

2476字


私の名前はレイセン……じゃなくて、鈴仙・優曇華院・イナバ。鈴仙は朧さんに、優曇華院は師匠(八意永琳様)に、イナバは姫様に付けてもらった。

 

私は元月出身の月兎で、それなりのエリート兵士であったのだが……戦うのが怖くて月から逃げてきた臆病者でもある。だって怖いじゃない。他人の為に好き好んで戦いたくないし、自分が傷つくなんて以ての外だ。

 

まあ何やかんやで月から逃げて、ここ、幻想郷と呼ばれる土地の一部、迷いの竹林の永遠亭にてお世話になっている。話を聞けば、師匠と姫様も追われる身、情報提供と師匠の助手兼姫様のペットをこなせば匿ってくれるというので、即決で飛びついた。

 

で、師匠達との生活が始まったのだが、料理は美味しいし、朧さんは優しいし、ほかのイナバ達との会話も落ち着くし、助手としての第一歩である調薬の勉強も中々楽しいし。

 

困ったところを上げるとするならば、姫様の無茶振りが酷かったり、師匠の薬の実験台になるとロクな目に合わないし、てゐにはよく悪戯されるし……。

 

まあ永遠亭に来てから退屈はしない。

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

「あら、おはよう ウドンゲ」

「おはよございます、師匠」

 

私の朝は早くもないし遅くもない。兵士だった頃は早起きが当たり前だったので特に苦痛もなく起きることができる。

 

「今日の当番は……朧ね。朝食はもう出来ているだろうし、取りに行ってくるわ。……姫様は?」

「たしか散歩に行きましたよ。呼んできます?」

 

遅くても昼までには帰ってくるでしょ と、台所へ向かう師匠。

 

基本的に永遠亭の料理は交代制で、約七割を朧さんが占めている。残りの三割は私だ。というのも、姫様が料理を作ると暗黒物質になるし、師匠のは料理というか調合だし、てゐが作ると三回に一回は人参づくしになる。

朧さんは他にも荒事とかも担当してるためよく手伝いはするのだが、師匠が朧さんの元へ行く時はなるべく離れている。今更だが師匠と朧さんはいわゆる恋人仲ってやつで、たまに砂糖を吐きそうなぐらいにイチャつくことがある。今回も台所でイチャイチャしてるんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

時刻は進んで昼前。いつの間にか姫様が帰ってきてたけど、朝ごはんは食べ損ねたみたい。

 

私は朧さん謹製のお弁当と、師匠特製の薬箱を持ち、頭のウサミミを隠すように菅笠を被って人里へと繰り出す。菅笠を被るのは、人里では妖怪はあんまりよく見られないからだ。

 

わざわざこんなことをする理由としては、竹林だけでは食料や日常品を自己完結出来ないからだ。食糧面は勿論のこと、いざと言う時に現金や人里の顔繋ぎが欲しい。じゃあ師匠が作った薬を売り出そうということになった。

 

基本的には契約している家で薬箱を置いて、無くなってる分だけ補充して請求するという、配置販売業と呼ばれる商売である。まだまだ始めたてで知名度も信頼も無いが、値段は良心的に設定されてるのでいずれは売上も増えるだろう。

 

 

 

 

「えっと、咳止めと解熱剤が二日分だから、これだけの値段ですね」

「わかった、これで間違いないか?」

「ひぃふぅみぃ……はい、間違いないですね」

 

場所は変わって人里の寺子屋。教室には黒板には何やら数字が書かれてあって、文机には忘れ物か一枚の紙がおいてある。

 

いま机を挟んで目の前にいるのはワーハクタクという半妖の女性、上白沢慧音さんである。半妖でありながら常に人間側の立場に立ち、寺子屋で教鞭をとって子供達に色々教えている珍しい妖怪である。その立場からか、人里の守護者とか揶揄されてみんなの信頼も厚い。

 

その生真面目さや面倒見のよさからか、置き薬を真っ先に契約し、子供が病気にかかればすっ飛んでゆくという、本当に妖怪かと疑いたくなるような人物である。

 

「助かったよ。寺子屋の生徒が急に熱を出してな」

 

朗らかに笑う慧音さんを横目に薬箱の残りを計算する。こんなふうに寺子屋の生徒に使ってくれるだけで宣伝になるので有難いけど、回る家が増えるのは大変だなあ。

 

と、そこで教室の扉が開く。

 

 

「お邪魔しまーす。あ、やっぱりここにいた」

「邪魔するぞ……って鈴仙じゃないか」

「こんにちわです。赫さん、妹紅さん」

 

入ってきたのは妖怪の赫さんと蓬莱人の藤原妹紅さん───蓬莱人というのは、師匠が作った蓬莱の薬というものを飲んだ人間を指すもので、師匠や姫様もそれにあたる───だ。何故か妹紅さんは男物の上着を着ている。

 

「ああ、いらっしゃい二人とも って、妹紅は服がボロボロじゃないか……また輝夜と喧嘩したのか」

 

上着を脱いだ妹紅さんの上半身の服はズタズタのボロボロで、チラッとみえる素肌はさぞかし人の目を引く。

 

「あー……永遠亭に赫と一緒に朝飯(たか)りに行ったんだが、散歩してる輝夜と鉢合わせてな……最初は良かったんだが私が落とし穴に引っ掛かるとすげー煽ってきてムカついたからつい、な」

 

姫様と妹紅さんの関係はそれなりにいいと思う。

私がここに来る前に出会ったらしいけど、ある時は仲良くお喋りして、ある時は双六で対戦したり、殺し合ってることもある。まあ、お互い不死だからじゃれあってるようなものなんだけど。

 

「あ、上着ありがとな。赫」

「いーのいーの。恋人の柔肌が里の男どもに晒されるのが気に食わなかったからね」

「なな、な、なにをいきなり言うんだお前は!」

 

耳まで真っ赤になる妹紅さんと、ニヤニヤと笑う赫さん。師匠達と言いこの人達と言い、なんで私の周りはこんなに甘ったるいんだ。

 

そう二人にジト目を送っていると、慧音さんが咳払いし、話題転換を促す。

 

「コホン、そういえば、大結界の件はもう聞いたか?」

「大結界?」

 

一応話を聞いてみると、なんでもこのままだと妖怪は衰弱の一歩を辿るらしく、それを阻止するためにこの土地とその他の土地を常識と非常識で分けて土地、ひいては妖怪達を保護するらしい。

 

「まあ、今すぐどうこうの話じゃないらしいし、この里を離れることがない人にはあんまり関係ないんだけどな」

 

慧音さんはそう締めくくった。

 

あまり興味が無いが、一応師匠と朧さんに話しておこう。あ、朧さんからお小遣い貰ったし茶屋に寄ってから帰ろうかな?

 

 




補足 正史では鈴仙・優曇華院・イナバが地上にやってくる頃には既に博麗大結界は出来ていました(作者調べ)

敢えて言おう!この小説で細かい時系列は無意味であると!
ΩΩ、Ω「な、なんだってーっ!?」

補足2 妖怪は里でいい目で見られない
当時はあくまで、人里で人間を襲うのを禁止していて、人里から離れようものなら問答無用で殺されました。
ようするに、同じ部屋で自分と虎が居るようなものです。虎の飼い主も自分よりも上の身分の人で、絶対に人を襲いませんよ、と言っても信頼も信用も出来ないでしょう?

以上 作者の妄想設定垂れ流しでした


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八雲と 永遠亭と

おまたせ!
思ったより構成が糞で駄文だから注意してね!

あとクトゥルフ神話TRPGのルルブ買ってしばらくTRPG練習するからまた更新頻度おちるよ……ごめんね!
(´・ω・`)

3083字


まだ寒さが厳しい春先。

 

居間の炬燵───十人は入れる長方形の電気加熱式だ。電気は妖力か霊力を変換して使用している───に入りお茶を啜る。

 

お茶を飲む音がやけに響く。

 

「なにもやることないな……」

 

バリッと、お茶請けの煎餅を齧る音がより大きく聞こえる。

 

「そうだね……」

 

同じく炬燵に入ってる赫がそう答える。

 

永琳は自室で調薬、輝夜は竹林で妹紅と喧嘩、鈴仙は人里、てゐは日課の散歩。

 

「結界の修復は……散歩がてらに永琳誘って行くかな」

 

三日に一回、竹林を巡っては結界に綻びが無いか点検する。本当なら月一回でもいいのだが、散歩のついでである。

 

それに自室で篭ってる永琳も気分転換にちょうどいいだろう。

 

「君といいてゐちゃんといい、なんでこんな広い竹林を迷わず歩けるんだろうね。妹紅ですらここと人里の行き帰りが限界なのにね」

 

呆れたように呟く赫を放っておき、お茶請けの煎餅に手を伸ばす。

 

その時、何やら違和感を感じる。空気の流れが変わったというのか、何か視線を感じるというのか、言葉に出来ない奇妙な違和感。

 

「赫」

「わかってるよ」

 

どうやら赫も違和感を感じているらしく、いつでも行動出来るように妖力をチャージしているようだ。

 

 

 

「はぁい♪」

「お邪魔するッス」

 

空間が割れ、不気味な目が覗く割れ目から飛び出してきたのは女性と男性。女性は流れるような金髪に、中国で見かけそうな道士服。顔立ちも整っており、永琳の次ぐらいには美人だろう。

 

「サラッと惚気けないでくれる?」

「赫、お前はさとり妖怪か何かか?」

 

対する男性は短く刈り揃えられた水色の髪に、黄色のバンダナを額に巻いて、濃い紺色に黄色のラインが入ったツナギを来た、工事現場とかにいそうな若いお兄さんと言った感じである。

 

 

「初めまして、私は幻想郷の賢者、八雲紫と申しますわ。彼は友人の雷牙(ライガ)。今日はこの幻想郷に住む者にとって大事な話をしに来ました」

 

「雷牙ッス!先輩方、よろしくおねがいしますッス!」

 

八雲紫 通所妖怪の賢者はこの幻想郷を作った張本人で、「人間と妖怪の共存 妖怪の絶滅防止」を掲ている。実際人里の方でもモノ好きの妖怪はチラホラいるし、妖怪間でも()()人里では人を襲わない。というルールもある。

 

「どうも、朧と申します。まあ立ち話もなんですので炬燵へどうぞ」

「赫でーす。八雲さん達がここに来たのは永遠亭のメンバーと話すため? 僕お邪魔だったら席を外すよ」

 

そう言って席を立とうとする赫を八雲は手で制す。

 

「いいえ、その必要はありませんわ。今日は幻想郷のパワーバランスの一端を担う方々の元を巡っているのです。それと、八雲さんなどという他人行儀な呼び方ではなく、紫とお呼びください」

 

八雲、いや 紫は優雅に一礼すると、するりと炬燵に入ってきた。それに習って雷牙も紫の隣に座る。

 

「さて、単刀直入に申します。現在、幻想郷のバランスは非常に不安定ですわ。幻想郷が結界によって現世との隔絶され、互いの陣営はいがみ合い、いつ全面戦争に陥ってもおかしくない。いえ、戦争だけならまだしも人里が壊滅するという事態になれば妖怪は共倒れです」

 

基本的に妖怪は大なり小なりプライドを持っている。さらに他種族を排斥するような言動は日常茶飯事であるし、彼女が言う通り全面戦争ともなれば余波で人里が壊滅してもおかしくはない。幻想郷は隔絶された地 人里、ひいては人間が全滅すれば畏れは喰えず、妖怪も全滅。

 

「で、理想は互いを尊重して穏便に済ますこと……でもそんなこと出来たらゆかりんはここには居ないよね〜」

 

と、早速ゆかりん呼びする赫。相変わらず軽い。

 

「ええ、ですから私が作るのは拮抗状態。動くに動けない状態です」

「なるほど、動くに動けない状態を作るってことね。でもそれは問題の先送りじゃないのかい?」

 

確かにその通りだろう。たとえ拮抗状態になっても、何年も経てば状況も変わる。どこかの陣営に強力な妖怪が産まれるかもしれないし、新たな陣営が入って来るかもしれない。結局、いつ爆発するかも分からない時限爆弾を懐に抱えてるようなものだ。

 

「ええ、まったくもってその通りです。ですから、その間に強い妖怪や陣営が必要以上の力を出さないようなルール制定。妖怪や人間の意識改革。課題はいくつもありますが、それはコチラで解決します」

「で、結局俺達に何をさせたいんだ?」

 

単刀直入に訪ねる。そろそろ散歩に行きたい。

 

「あらあら、せっかちな殿方は嫌われますわよ?」

 

クスクスと笑いながら皮肉る紫。

 

「生憎こんな俺でも愛してくれてる人がいるんでね。……回りくどい話はいい。大事なのは動機ではなく行動だ」

 

うーわー盛大に惚気けてる。という赫は放置し、紫に核心を話させる。

 

「……雷牙、赫、そして朧。一人一種族という従来の妖怪の枠に当てはまらない貴方達が好き勝手動き回られると困るのよ。かと言って完全に引きこもっていても困る。理想を言うなら私の支配下に置いて抑止力に立てること」

 

支配下、ね。

 

「そんなに殺気立たなくてもいいじゃない。一人でも勝てるかどうかすら分からないのに、それが二人に増えて蓬莱人も参戦するとなら手が出せるわけないじゃない」

 

「……まあ信じよう。ところで雷牙はどうなんだ?」

 

さっきから全く喋らない雷牙に目を向ける。

 

「zzzZZZ…………うーんむにゃむにゃ、そんなにたべられないよらん…………」

 

雷牙は炬燵に突っ伏して寝てた。紫はこめかみをヒクヒクさせながら扇子を構え、

 

「……ていっ!」

「ふぎゃっ!」

 

幸せそうに寝ている雷牙に、紫が扇子を叩きつける。悲鳴が上がり、雷牙が跳ね起きる。

 

「いきなりなりするんスか紫さん!いたいッスよ!」

 

頭を抑えながら抗議する雷牙に対し、紫は瞳に炎を燃やして詰め寄る。

 

「あなた、一応私の護衛よね?なんでそんなにぐっすりなの?」

「お、おこたの魔力に抗えなかったんスよ……それに話が難しくてちんぷんかんぷんッスし……」

 

はぁ、と紫がひとつため息を着くと、冷たい目で雷牙を見る。

 

「……今からでも藍との件はなかったことに「大変申し訳なかったッス!だからそれだけは何卒ご勘弁ッス!」……はぁ、まあ貴方はやる時はやるって分かってるのだけど、何処か抜けているというかなんというか───」

 

突然説教が始まり、まるで親子だな と思っていたのだが、赫も同じ思考に至ったらしい。口を抑え顔を背け笑いを堪えている。

 

「ぷっ!ちょ、速くw話ww進めようよww」

 

全然堪えられてなかった。

 

「そ、そうッスよ紫さん!お説教は帰ってからでも出来るッス!ですから話を進めるッスよ!」

 

それに便乗して話題転換する雷牙にジト目を向ける紫だが、それも最もだと思ったのか話を戻す。

 

「えーと、どこまで話しましたっけ?」

「雷牙君の立場の話だったと思うよ〜」

 

そうでしたわ、と姿勢を正す紫。

 

「んー、そうね。一応私達の陣営というか、幻想郷の傍観者(オブザーバー)と言った立場ね。彼が出るのは幻想郷が崩壊するレベルの事態の場合。あとは……私の式である八雲 藍の恋人ね」

「そうッス。だから藍の主人である紫さんには頭が上がんないッスよね〜」

「そう言う割には大分呑気よね」

「いや〜照れるッスよ〜」

「…………」

 

俺は漫才を繰り広げまた話を逸らしていく二人を放置し、永琳の自室へ向かった。なんかもうアホらしくなってあいつらを放置した俺は悪くない。

 

あとから赫に教えて貰ったが、「ルール制定まで、幻想郷の危機の時以外は大々的に動かないように」だそうだ。動く気もないので聞き流した。

 

あと、あれ以降たまに雷牙……その実は雷狼竜ジンオウガらしいが、威厳もクソもない……が遊びに来るようになった。




さて、次回はいつになるやら……


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紅魔郷
はじまりはじまり


お久しぶり

2241字


紫が来てから既に数十年の月日が流れている。永い時を生きてきたからなのか、特に何も無い平凡な日常だったからなのか。

 

相変わらず赫は飯を食いに来るし、妹紅と輝夜はなんだかんだで仲がいいし、雷狼竜こと雷牙もたまに顔をだす。

 

この前なんか九尾の狐であり、紫の式の藍と来ていたのだが、何やら妹紅や永琳と一緒に話し込んでいた。

仲が良いようで何よりだが、何やら妹紅と立ち聞きしていた鈴仙の顔が赤くなっていた。一体何を話題にしてたのやら。

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

「スペルカードルール?」

「ああ、幻想郷での新しいルールだそうだ」

 

季節は夏。常に竹林が霧に覆われていて、永遠亭も日陰ならば寝苦しい夜を過ごすことも無い。

 

縁側に腰掛け、膝に永琳の頭を横向きに乗っけて世間話に興じる。永琳に膝枕をしているのは「ちょっと疲れたから膝を貸して」と言われたからである。

 

「まあ簡単に言うと、スポーツに近い決闘だ。お互い霊力や妖力で弾幕を張り、必殺技としてスペルカードを宣言して放つ。難しさもそうだが、美しさも重視される。これによって幻想郷が崩壊するレベルじゃなければ、妖怪は異変(イベント)を起こして畏れを集め、人間は以前よりも比較的簡単にソレを解決できる」

 

ここで一息ついて、さっき鈴仙が置いていってくれた冷たいお茶を一口飲む。

 

「大事なのは、これによっての人間と妖怪が対等に戦えること。そしてこの決闘での勝敗で禍根を残さないことだ。ルールに則って戦うわけだから、どちらかというと暇を持て余した妖怪の遊び、って感覚だけどな」

「ふーん……」

「まあ俺達にも関係あることだからな。覚えといて損はない」

 

そういえばさっきお茶を持ってきてくれた鈴仙が微妙に疲れた顔をしていたが、疲れていたのだろうか?こんど甘いものでも差し入れよう。

 

「……彼女と二人っきりなのに、他の女の心配をするのはご法度よ」

 

と声に出ていたのか、心を読まれたのか。いつの間にか仰向きで俺の顔を見ていた永琳に冷たい目で睨まれたので思考を中断し、右手で頭を撫でながら話を逸らすように質問する。

 

「男の膝枕なんて何処がいいんだ?」

「あら、私は貴方の膝枕が良いのよ。こうやってるだけで落ち着くし、暑くて寝苦しい夜もぐっすり眠れそうよ」

 

と、左手を取られて永琳の手と繋がれる。

手はいつもよりも温かい。

 

「左様で。……というか竹林(ここ)は基本涼しいが」

「比喩よ、比喩。……本当に眠くなってきたから寝ちゃってもいいかしら?」

 

と欠伸混じりに言う永琳。

 

「まあ、いいが。板張りの床だと起きた時痛いぞ」

「いいわよ、三十分位したら起こして」

 

ああ、おやすみ と返事をし、視線を空へと向ける。

 

空は青々としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔異変 後にそう呼ばれた異変は夏のある日に始まった。空には紅い霧が広がり、太陽の光は遮られ、霧に含まれる微量の妖力により子供や老人等の体が弱いものが体調不良を訴え、妖精達が活発になった。

 

「ということで見学に行こうよ」

「何がというわけでだよ」

 

また朝飯を集りに来た赫がこう言う。

せっかくだしこの異変の元凶を見に行こうよと。

 

まあスペルカードルールというルール制定は既に行われてるし、今後俺達が異変を起こす側にならないとは限らない。予習は大切だろう。

 

「でも忙しそうな身内を置いてまで行こうとは思わないかな」

 

永琳も鈴仙もせっせと対抗薬、身体の霊力を微妙に増加させて妖力に対抗するという薬を作っている。値段設定は低いが、必要とする人は多い。薄利多売になるが、塵も積もれば山となるし、お金はあっても困らない。今のうちに稼いでおこうと提案した結果である。

 

薬が出来次第人里に持っていって、販売担当のてゐに手渡して、戻ってきたらまた薬が出来るのを待って……

 

「朧 永琳が「今あるやつを全部届けてくれたらあとは鈴仙に任せるわ。気をつけて行ってらっしゃい」って言ってたわよ。相変わらず永琳はあなたに甘いわね」

 

と、話を聞いていたのか輝夜が出てきた。ニヤニヤしているが、無視しておく。帰ったら永琳に出来るだけのことをしてやろう。

 

「さて、君の嫁さんの許可もでたことだし行こうよ」

「ああ。で、元凶の場所は把握してるのか?」

 

靴を履き、空へと飛ぶ赫を追いかけながら尋ねる。……この幻想郷に常識と非常識の結界が出来てから、多少力があれば人間でも飛べるようになった。

 

「もちろん。竹林に籠っている君たちと違って僕はあちこちフラフラしてるんだ。情報へのアンテナの数も強度も違うよ。君達ももっと外に目を向けようよ!」

 

ドヤァ、と言わんばかりの赫に妖力で弾を作って撃ち込む。イメージとしては尻尾の針だろうか。

 

「危なっ!」

「チッ、あーすまない、妖力が暴発してしまったようだ」

「いま僕の顔を狙ってなかった?!」

 

ギャーギャー言う赫を無視して手元にもう一本針を作る。毒々しい色の太い針だ。

 

「んっ?んー……朧君、ちょっとそれかして?」

 

と返事をする間もなく手元の針を取ると、上から下から眺める。

 

「……もしかしたら。ねえ朧君、これ鱗とかでもできる?」

「ああ、永琳の指輪も欠片もそうやって作った。ただ物凄く妖力を注ぎ込んだから創ろうと思っても時間がかかるぞ」

 

赫はニヤりとして針を俺に放り投げる。

 

「この異変が終わったら鱗とか創り溜めといて。溜まったらいいもの作ってあげるよ! あー!テンション上がってきた!先行ってるよ!」

 

と、大声で叫んでから速度を上げて飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

…………人里とは真逆の方向に。




最後雑だったかな?


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人喰い幼女と氷の幼女

またまた久しぶり

失踪はしてませんが自分の文章みててちょっと恥ずかしくなったり落ち込んだりしてました。

あと私生活やらbo4やらで忙しくて……

スマブラSPも来ますね。リドリー楽しみです

1931字


人里のてゐに薬を全て預け、現在霧の湖へ向かって空を飛んでいる俺達。

 

「やっぱり人里はてんわやんわだったな」

 

最初こそ妖力に触れて活発になった妖精が悪戯してくる、程度だったのだが、次第に体の弱いものが倒れ始めるとパニックが広がって行った。特に稗田の家の当主が倒れてからは酷かったとか。

 

「そりゃそうさ。空は不気味な紅に染まり、妖精が飛び回り、弱い人間は倒れる。君だって親しい隣人や愛しい家族が倒れたら焦るだろう?」

 

「…まあ、蓬莱人と妖怪ばかりだからそういうのはない……はず」

 

蓬莱人とは不老不死であり、あらゆる毒や薬に妖怪かそれ以上の耐性を付けている。であるから、たとえ風邪を治そうとしても永琳特性の濃縮薬でもないと効果はない。そもそも蓬莱人は普通の風邪なんてかからないが。

 

妖怪は……まあ大丈夫だろ。鈴仙とてゐだし。

 

「いんや、蓬莱人でもあるさ。体力を使い切ったり、心を折られたり。不死であるだけに、肉体的な攻撃よりも精神的な攻撃には弱いんだからさ、君も支えてやんなよ?」

 

「……それは経験談によるアドバイスか?」

 

「…………ノーコメントで」

 

なんだか遠い目をする赫であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、赫だー」

 

「ん? あぁ、ルーミア」

 

しばらく飛行していると、金髪の幼女がふわふわとこっちへ飛んできた。

 

既に太陽は身を潜め、辺りは暗い。こんな時間に外出する人間の幼女は居ないだろうし十中八九妖怪だろう。それに黒白の洋服を着た幼女を人里で見た事はない。いや、同じ条件に当てはまる少女ならいたような気がする。

 

「そっちの人類は食べても良い人類?」

 

「残念だけどそっちの彼は同類だよ。食べたらきっとお腹御壊すだろうね。代わりに僕特性の野苺の飴玉をあげよう」

 

わーい、と赫から飴を受け取った幼女はそそくさと口に入れてモゴモゴとしていた。んー、なんだか赫にあまり真面目なイメージを抱けない影響か、微笑ましい光景なのに少し事案じみてくる。

 

「あまくておいしー」

 

喜びを全身で表すように両手を広げて幸せそうな笑顔を浮かべる。なるほど、その仕草といい笑顔といいさぞそっちのお兄さん方には人気だろう。そういえば赫は子供の頃の妹紅をとても大切にしていた。つまり……

 

 

 

 

「赫、ロリコンはダメだぞ。いくら幻想郷に法はないとはいえ、友人としてはそれは見過ごせない。あと浮気もダメだ。最悪妹紅にマンガ肉にされてしまうかもしれん」

 

「ロリコンじゃねーし!浮気でもないよ!」

 

あたりに赫の魂の叫び(ツッコミ)が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

あの後、金髪幼女こと宵闇の妖怪ルーミアと別れ、引き続き霧の湖へと飛んでゆく。

 

「まったく、朧君は」

 

怒ってますよ!というポーズをとる赫を適当にあしらっていると、やがて濃い霧のかかった湖が見えてきた。

 

 

「おぉ……こんな日じゃなかったら永琳とピクニックにでも来たいな」

 

霧が濃いといってもそれなりに見渡せはするし、美しい湖と相まって幻想的な雰囲気を醸し出している。まあ空が紅いので台無しだが。

 

「そうだねぇ、僕も妹紅と……ってなんだか寒くないかい?」

 

そういえば微妙に寒い気がする。いくら夜霧がでている湖周辺とて、真夏ならここまで寒くはならないだろう。

 

と、そこに小さな影が一つ

 

「やい!お前達!アタイのナワバリになんのようだー!」

 

いさんで出るは薄い水色髪の幼女であった。なんだか今日は幼女が多い。まだ増えるのだろうか?

 

「あ、氷精だ。この時期は氷室で篭ってなかったっけ?妖力に当てられて出てきたのかな」

 

氷精、つまりは氷の妖精か。妖精とは、大袈裟に捉えるなら自然の化身である。木や花、岩や氷など根源になったものの性質を受け継いで生まれる。根源が根こそぎ無くなれば妖精は消滅するが、根源が一時的に無くなる季節や時期は住処に篭ったり、元気が無くなるらしい。

 

妖精は基本的に子供っぽく悪戯好きなのだが、大の大人であれば簡単に撃退出来る……のだが、目の前の氷精からは妖精としては規格外の妖力を有している。

 

「ふん!アタイのことをしっているとは、アタイもなかなか有名になったわね!赤いのはなかなか見所があるから子分にしてやってもいいわ!」

 

両手を腰に当てて、偉そうにふんぞり返っている。なかなか可愛げがあるために、悪感情は湧かないだろう。

 

「うーん、残念だけど遠慮させてもらうね。代わりに飴玉をあげるから見逃してくれるかい?」

 

「ふん!しょうがないから受け取ってあげるわ!アタイの気が変わらないうちに行きなさい!」

 

と、飴玉一つで見逃してくれるらしい。やっぱり根は子供なのだろうな。

 

あと赫、やっぱりロリコンの気があるんじゃ?

 

「ないよ……いつまでそのネタ引っ張るんだよ」

 

おっと、声に出ていたようだ。

 

 

 




誤字確認ヨシ!

次回は早めになるように頑張ります


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楽園の素敵な巫女さん

なんか目を離してる間にそこそこ閲覧数伸びててビックリな犬です。

stage2.5~です
今回はついに紅白のやべーやつが出てきますよ

2413字


「そこ行くお方、こんばんは。いい夜ね」

 

こんな紅くて妖精や妖怪がウロウロとする夜半ばに、少女特有の高い声が聞こえた。

 

「あぁ、今晩は」

「こんばんはー」

 

俺たちは振り返って挨拶を返す。

 

そこには巫女、と表現するしかない少女が浮いていた。

 

「さて、貴方達がこの真っ赤な夜の元凶かしら? 貴方達のせいでお布団は干せないし、お賽銭は入らないし。空が紅いってだけで鬱屈になるわ」

 

少女は肩と脇を晒した紅白の巫女服の()()()()()を纏い、両手には御札と針。かなりの霊力を込められたいるようで、当たればそれなりには痛いだろう。

 

「なにか勘違いしてないかい? 僕達は夜に散歩をする善良な里人さ」

 

赫は軽くそう言って見せるが、目を鋭くし何が来ても対応出来るように身構えているようだ。

 

それも当然か。少女は明らかに殺意、とまでは行かないものの敵意を持って接して来ている。

 

斯く言う俺も直ぐに回避に移れるレベルには心の準備をしている。

 

「そう。でもアンタ達が黒幕だろうがそうでなかろうが、妖怪は巫女に退治される運命なの、よっ!」

 

言うが早いか、針が俺達目掛けて飛来してくる。

かなりの速度であったが、危なげもなく避けていく。

 

「ふーむ。彼女が博麗の巫女で、これが弾幕ごっこ。こんな針とか刺さったら痛いし、妖怪とかだったら妖力を固めてばら撒くんだろう? 人間が当たれば良くて打撲悪くて粉砕骨折、下手すれば死にもするだろ?」

「そこはアレだよ。ラグビーとかアイスホッケーは怪我は多いし、ボクシングやプロレスだと死亡事故もある。弾幕ごっこも似たようなもんでしょ。そもそも人間が力が強い妖怪と公平に戦う為のルールだから、"ちょっと"危険なスポーツになるのは仕方ないさ」

 

確かに公平に勝負は出来るのかもしれないが、強者が力加減を間違えようものなら"ちょっと"ではすまないだろう。

 

そう会話を重ねている間にも、どこにしまってあったか針は大量に飛び交い、御札は何故かこちらを追尾して飛んでくる。

 

それでも、こちらが二人で的が絞れないからか、もしくは手加減されているのか、危なげなく回避していく。

 

「んー、あれって博麗の巫女だよな?」

「そうだけど? 博麗神社と呼ばれる里から離れた所にある神社に住んでいて、里から離れているせいか、もしくは彼女を気に入った妖怪がたむろするせいか、はたまた何を祀っているのか誰も知らないせいか、賽銭は殆ど無く、収入も乏しい、通称貧乏巫女」

「詳しい解説どうも」

 

どうやら幻想郷のキーマンなのに貧乏らしい。妖怪退治というのは儲からないのだろうか?

 

というか賽銭が入らないのは常日頃のことらしいので、この紅い夜は関係無いのでは?

 

「誰が貧乏巫女よ! 余計なお世話よ!」

 

どうやら会話が聞こえていたらしく、先程よりも弾幕の密度が増している。どうやら先程までは手加減、というか手を抜いていたらしい。針や御札に混じって霊力らしき弾も飛んできている。

 

「朧、くん、ちょっと、これは、キツくない?」

 

赫からはさっきの余裕綽々といった雰囲気は消え、会話も途切れ途切れとなっている。俺も無駄口を叩かず、回避に専念する。本来の弾幕ごっこなら反撃を織り交ぜて行くのだろうが、俺は手加減や回避しながらの弾幕発射は練習はしてないし、花形であるスペルカードも作っていない。

 

仕方がないので逃走を視野に入れて隙を伺っていると、ほとんど弾幕が当たらない俺達に焦れったくなったのか、懐から御札とは違うカードのようなものを取り出し掲げた。

 

「ええい、ちょこまかと! 霊符[夢想封印]!」

 

彼女がそう宣言すると、彼女の周りには七色の玉が浮かび、辺りに御札で出来たラインが無造作にひかれる。先程まで飛んでいたホーミング御札とは違い、動かない代わりにかなりの霊力を孕んでいる。これは大妖怪ですら触れれば危うい。

 

「これがスペルカード?切り札と言う割にはちょっと弱いんじゃないかい?」

 

赫が意識的にか、はたまた無自覚にか、そう彼女を煽る。

 

「ふーん。そういう口が聞いていられるのも今のうちよ」

 

彼女は彼女でどこぞの三流のようなセリフを吐く。その態度からはこの技と自分への自信が溢れていた。

 

「さあ!くらいなさい!」

 

そう彼女が叫ぶとそこに浮遊していた大きくて、それでいて大量の七色の玉がこちらへと飛翔してくる。先程の弾幕のようにかわそうにも、御札のラインが邪魔をする。

 

「ちょっ、やばっ」

 

赫が左の方から来た七色の玉に反応しきれず被弾し、破裂する。咄嗟左腕で庇ったのか、左腕がだらんと垂れ下がっていた。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫に見える? これ多分封印系の術式だね。おかげで左腕の感覚が無いよ」

 

どうやら左腕は封印されてしまったらしい。……赫の左腕が封印されていると聞くと、赫がただの痛い人に聞こえるな。

 

「いや、冗談言ってる場合じゃないって。マジでどうすんのこれ? 反撃できない、避けきれない、勝てない。これが世に言う詰みゲーかなー?」

「結構余裕そうだな、お前。そこまで出てるならもう手はひとつだろう」

「ああうん。ですよね」

 

つまり、だ。

 

 

 

 

「逃げるんだよォ!スモーキーーーーーッ!!」

「三十六計逃げるに如かず、だ」

 

ということで、俺達の初弾幕ごっこはこうして幕を閉じたのであった。めでたくねえよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「な、なんなのよあいつら……」

 

最初は適当にやっていたとはいえ、途中からは本気も出したし、切り札も使った。さらに言えばあちらは反撃すらしなかった。

 

その結果が、赤い方の左腕を封印しただけ。しかもあの様子だと簡単に解かれてしまう。

 

人生で初めて感じる、敗北感とは違ったモヤモヤ。

 

ああ、何となく自分にイライラする。

 

「おーい!霊夢! はぁ、やっと追いついた。あの宵闇妖怪しつこすぎだろ……霊夢?どうしたんだ?」

「……私、異変終わったら修行するわ」

「そうか、頑張れ……よ…………え?」

 

 

私こと博麗霊夢は人生で初めて、自主的に修行を行う決心をしたのであった。

 

 

 




なんか唐突に初めからしたくなる"ニューゲーム症候群"になったみたいで、この作品最初のほうから手直ししつつ書き直したいです……

ただでさえ更新遅いのに何言ってるか分からないって話ですけども


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