アインツベルンのバーサーカー、真名を茶渡泰虎というらしい。 (サンゴの友達)
しおりを挟む

召喚失敗

BLEACHとfate/staynighat 二次創作小説です。BLEACH側はチャドしか出て来ませんが回想などでは仲間たちを出演させようかなと考えています。どちらも原作は読破していますが話の都合上、微改変があるかも知れません。

…チャドが活躍するところが見たかった、後悔はしていない。


ドイツのとある川の近く、吹雪吹き荒れる山岳地帯の中にその古城は存在した。決して開けることの無い降雪の結界はここを支配する一族の防御魔術である。何人たりとも許可無くば通ることは叶わず、白銀の世界を永遠と彷徨うこととなる。そんな閉ざされた異界において現在類を見ない物々しさが城内に充満していた。

 

冬木の地にて行われる聖杯戦争、万能の願望機を奪い合う殺し合いにおいて始まりの御三家とされ屈指の錬金技術を持つ魔術の大家アインツベルン。主人無き人形達の城、第三魔法の成就に妄執した魔術師達の影法師、目的に猛進するホムンクルス達は遂にその願いに最も近い場所に辿り着いていた。

 

彼等は確信していた。過去の聖杯戦争の敗北も今回の勝利の為の布石だったと言っても過言ではないと。何故なら彼らは高いマスター適性を持つ最高傑作のホムンクルスと、考えうる限り最強の英霊の聖遺物を手に入れたのだ。

 

最早勝利は揺るがない。されど僅かな失敗があってはならない。計画通り召喚する英霊を狙い通りのクラスで召喚しなくてはならないからだ。

 

こうしてアインツベルン、その中で魔術に特化したホムンクルスが集められ大講堂にて召喚の儀を執り行っていた。

 

これから行われるのはサーヴァントの事前召喚だ。この戦いにおいていかに優秀な英霊を手に入れるかはそのまま勝敗に直結する。過去4度において屈辱を味わったアインツベルンは他陣営に目的のサーヴァントを取られぬようにと先んじて召喚の儀を執り行うことを決めたのだ。

 

 

 

「…今宵の召喚により我等は宿願に大いに近づく。以後これ以上の好条件を揃える事は叶わないだろう。故に、我等は万全を持って事に当たらねばならぬ。…さて召喚を始めたまえ」

 

ホムンクルス達の統括たる白い長髪の老人、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンの号令にならい皆一様に白いホムンクルス達は詠唱を始める。

 

聖堂を模した魔術工房、その中央に水銀により描かれた魔法陣にホムンクルス達の魔力が注がれる。飽和した神秘は魔法陣の先、祭壇に掲げられた斧剣に殺到する。

 

 

今回アインツベルンが用意した聖遺物はかのギリシャの大英雄に所縁あるものだ。

 

 

大英雄ヘラクレス、知らぬ者など探す方が難しいそんな英霊の中の英霊こそアインツベルンの用意した最大戦力だった。

 

英霊としての格は言わずもがな知名度による補正は開催地の極東においてもズバ抜けている。この英雄と渡り合える力を持つ者を用意する事は他陣営には難しいだろう。これは財力において力を持つアインツベルンがなせる技だ。

 

しかし力強さはそのままその英霊の我の強さに直結する。召喚は出来たとしても御せなければ意味が無い。そこでアインツベルンは二重に策を巡らした。

 

まず大英雄をクラス:バーサーカーで召喚すること。理性を抑えてしまえば反逆を起こされる事もない。更にサーヴァントのパラメーターに大幅な補正を受けられるこのクラスでの召喚が出来ればただでさえ強力な能力は隔絶したものになるだろう。

 

そしてマスターであるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンには特製の令呪を付与した。肉体の大半を魔術回路で構成する彼女であればその強制力は言霊一つで令呪一画分に相当する。

 

物言わぬ究極の戦闘マシンがここに完成した。後は計画通り召喚するだけだ。

 

魔力は巡り、現実と神秘の境界を曖昧にする。密閉されて居るはずの工房に何処かから風が巻き起こった。その場の誰もが見つめる先に強大な力の権化が現れる事を確信した。

 

風が強くなる。魔力切れを起こし次々と倒れる者達がいた。しかし他の者が振り返る事は無い。彼らはこの為に鋳造され消費されるのが当初からの目的だったからだ。

 

 

魔法陣は眩く輝いた。魔法陣中央から放たれた極光は正しくアインツベルンを照らす希望の光であった。

 

 

…光のはずだった。

 

 

「むっ……、ここは何処だ…?」

 

 

…おかしい。そう直感したのは誰だっただろうか。

 

現れたのは褐色の偉丈夫。ギリシャ人というには南米の血が強い様に見えるが、引き締まった身体つきは服の上からでも歴然としている。

 

少し困ったように癖っ毛の多い黒髪の頭を掻いている大男。

 

 

「…お前達、ここが何処か教えてくれないか?」

 

…しかし、

 

「喋っている…?」

 

 

「ポロシャツに、パンツ……?」

 

 

明らかな異常、それも魔術に長けた彼らから見た現状況は余りにも残酷な一言で片付けられた。

 

 

…誤召喚、召喚の儀の失敗を意味していた。

 

 

明らかに当世風の衣装、伝承に無い右腕を覆う黒い鎧、そして狂戦士にあるまじき明確な理性…

 

 

本来【狂化】を施されるバーサーカーでの召喚はサーヴァントの理性を奪い、名の通りの狂戦士へと変質させる。会話が成り立つなど本来あり得ないのだ。

 

ならば目の前に立つこのサーヴァントは何だ。

 

 

…明らかに、アインツベルンがもとめた物ではない。

 

 

「アハト翁!召喚は成功したのでしょうか⁉︎…これは、バーサーカーと言うには…余りにも不可思議です‼︎」

 

 

一人のホムンクルスが声を上げる。日頃の殆ど表情を顔に見せない人造人間達が一様に冷や汗をかき口元を震わせていた。動揺は広がり工房に波紋の様に広がっていった。

 

 

「むぅ…、言葉が通じていないのか…」

 

慌てふためくホムンクルスの渦の中で、茶渡泰虎はあご髭をなぞりながら考えていた。

 

 

ボクシングのタイトル戦後、祝勝会として気心の知れた高校時代の知人達と会う約束をしていた矢先の出来事だった。

 

気がつけば城の中に立っていた。

 

見覚えのない場所、白を基調とした中で神秘を帯びた厳かな内装は彼の知識の中で合致するものが無かった。

 

(雰囲気はいつかの滅却師達の城に似ているな…)

 

脳の片隅でそんな事を考えながらも、辺りを見渡し少しでも情報を搔き集める。

 

一様に白い髪と赤い目を持つ集団。ある者は杖を、ある者は水晶の様なものを持っている。その奥には兵士だろうか、長い得物を持つ戦士が控えていた。

 

さらに己が立つのは不思議な魔法陣の上にいる事を認め、祭壇や篝火など魔術めいた儀式の中央に自身がいる事に気がついた。

 

(何かの儀式だろうか…、浦原さんなら何か気づいたりするんだろうが…)

 

胡散臭さに定評のある知人を思いながら、茶渡は一人の人物に目線を向ける。

 

長い白髪に白い法衣、護衛に両脇を固めさせ、明らかに目の前の集団の指揮として立つ老人と目があった。何故彼に目がいったのかと言えばただ一人動揺することも無くジッとこちらを向いていたからだ。

 

(無機質というかロボットを見ている気になってくるな)

 

 

「…問おう、偉丈夫。貴様の真名、ギリシャの英雄ヘラクレスで相違ないか」

 

 

唐突な問い、茶渡は一瞬固まる。そして少し黙った後口を開いた。

 

 

「……いや、違う。こんな風貌だが俺は日本人だ。名前は茶渡泰虎という」

 

何を聞いているのか理解できていない。突如としたトンチンカンな質問に思わずたじろぐ。

 

「…そうか」

 

少しだけ眉を落とすと静かに片手を上げる。

 

「…一先ず捕らえよ、再召喚を行うにしろ、計画を変更するにしろ、其奴は曲がりなりにもサーヴァント。利用法は幾らでもある」

 

「「…っは‼︎」」

 

ユーブスタクハイトの冷静な命令にホムンクルス達は元の平静を取り戻し、召喚されたサーヴァントを取り囲んだ。

 

 

「…‼︎、待て、俺は争いたい訳じゃない!急な事でこちらも困惑しているんだ‼︎」

 

 

偉丈夫は慌てた様に説得しようとするがホムンクルスは先程の喧騒は何処へやら、一切の感情を見せずこちらを見つめている。

 

 

「一体全体どうなっている…」

 

「捕らえろ‼︎」

 

「……クソッ!」

 

 

武装したホムンクルス達が四方から襲いかかる。皆身の丈より巨大な槍や、ハルバードを振り回し茶渡に肉薄する。

 

 

「くっ…!悪いが抵抗させてもらう‼︎」

 

 

茶渡はボクサースタイルに構えると、正面から迫る槍を最小限の動きで躱す。

 

 

放たれる一撃は常人では決して再現不可能な怪力の技。戦闘用ホムンクルスという身体能力に特化した者達が成せる神秘だ。

 

「…ッ⁉︎、人間ではないのか?」

 

その見かけによらぬ一撃を認めた茶渡は瞠目しながらも華麗に避けてゆく。

 

巨体を縮め、人垣の隙間を縫う様に突貫していく。襲いかかる得物を右手でいなしながら壁際へとたどり着いた。

 

「…悪いが逃げさせてもらう」

 

 

黒い鎧に覆われた右手の握り拳を壁に当てる。その肩口の出っ張りが開き爆発的な白いオーラが噴き出した。

 

これは茶渡泰虎の異能、仲間達とともに研鑽を重ね、鍛え上げた技だ。あの戦い以降も鍛錬は怠っていない。放つのは久方振りだが身体が、魂が戦い方を悟っていた。

 

巨人の…(エル)

 

噴き出すオーラが拳に集積する。白光を帯びた拳は破壊の一撃となる。

 

霊子と呼ばれる魂を形作る因子を纏った拳が、ボクサーとして磨き上げた揺るがない鋭い一撃となって壁に衝突する。

 

 

瞬間、茶渡の視界に映ったホムンクルス達が奇妙な動きをしていた。

 

 

立ち止まり、こちらをジッと見ているのだ。特に先程の老人、【アハト翁】と呼ばれていた男は誰よりも驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

…一撃(ディレクト)!!!」

 

 

 

魔術で強化されている筈の壁は容易く崩壊し、土煙の中に茶渡泰虎は消えた。

 

既に追跡を放ったが彼らでは足止めが関の山だろう。サーヴァントとはそれ程までに常人から逸脱した存在であり、強化されたホムンクルスであってもそうは変わらない。

 

「…どうされましたアハト翁」

 

傍の護衛がユーブスタクハイトに問いかける。彼は現在召喚の間に置いて用意された椅子に腰掛け、ただでさえ皺だらけの顔にしかめ面を刻んでいた。

 

「…よもやあのようなサーヴァントが召喚されるとは、…しかしこれこそ我等の願いに…いや、あり得ん。我等が願いは天の盃(ヘヴンスフィール)によって成就されねばならぬ。……だが、計画の変更は必要だ。」

 

脱出の際、茶渡泰虎が放った一撃はユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンの保有するライブラリに合致する物を浮き彫りにした。

 

 

それは彼の創造主が残した記憶。妄執の中に埋もれた第三魔法の輝きであった。

 

 

独り言を終えるとユーブスタクハイトは立ち上がり、場に残ったホムンクルスに告げる。

 

「かのサーヴァントはどうゆう訳か、ユスティーツァと同質の力を行使する様だ。……誠に遺憾だが我等の宿願の成就には奴の力が必要だ。よってこれより正体不明のサーヴァント真名 茶渡泰虎と我等が生み出した最高傑作イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの適合実験を始める。茶渡泰虎の捕縛、更にイリヤスフィールの契約の準備を始めよ」

 

ホムンクルス達に動揺が走る。されど指揮官たるユーブスタクハイトの命に従い、すぐさま駆け足で場を離れていった。

 

「…先程のお話、誠ですか?」

 

護衛が問う。第三魔法と呼ばれる技術はアインツベルンの叡智の結晶であり、…既に失われたものだ。犯し難く、アインツベルンのプライドの塊と言える様なソレをどこぞの馬の骨の持つものと同列に扱って良いわけがない。

 

されど目の前の老人の瞳が揺るがない事を察すると、護衛は口を紡いだ。

 

「…我等は今度こそ掴まねばならぬ。この戦い、最も苛烈になるものと覚悟せよ」

 

ユーブスタクハイトは静かに目に決意を灯す。

 

この戦いの果てに願いは叶うと信じて。

 

 

 




一護「チャドの霊圧が…消えた⁉︎」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

イリヤスフィールの憂鬱

もう既にプロットから離れてる件


外を一望できる大窓、しかしその景色はいつも変わらない。雪と氷と針葉樹林、窓際と同じ様に冷たい景色こそが彼女の見慣れた外の世界であった。

 

そしてそれは彼女の心象風景そのものとも言えた。

 

「イリヤ、どうしたの?いつもより元気なさげ」

 

彼女の従者リーゼリットが声を掛ける。イリヤは彼女を一瞥すると再び窓に視線を向けた。

 

「…なんでもないわ、リズ。ただ少しだけ昔の事を思い出していただけ」

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに思い出と呼べる物は少ない。彼女の18年間の人生は大半が痛みと魔術に占められていた。

 

 

そんな彼女が幸せだった瞬間、両親との幸せだった時間があった。

 

しかしそれは今の彼女には呪いの様にこびりついていた。

 

「…お母様、私はこれから貴女と同じ様に聖杯戦争に参加します。今度こそ私たちアインツベルンの願いが叶うでしょう。天の盃(ヘヴンスフィール)の誕生、その時まで…お母様…見守っていて…」

 

小さな手が震える。それは決して外の寒気に当てられたものではなかった。

 

 

 

「大丈夫、イリヤは、私たちが守る」

 

 

気づけばリーゼリットの手がイリヤに重ねられていた。いつ見てた表情の乏しい顔、しかししっかりとこちらを見る瞳があった。

 

 

「…ありがとうリズ、…そうね、こんな事で怖気付いていたら皆に笑われてしまうわ。……そう言えば少し寒いわね、セラも呼んでお茶会にしましょ?取り置きのクッキーがあったわよね?」

 

 

「…!お菓子‼︎急いで用意する!」

 

 

少し駆け足でリーゼリットが出て行く。これではどちらが世話役か分かったものではない。

 

 

「…ほんと食べることが好きよね。……でもこんな日常も最後なのかもね」

 

 

現在、彼女の祖父にあたるユーブスタクハイトが召喚の儀を執り行っている。歴代最強のサーヴァントを召喚すると言われたが彼女にとってはハッキリ言ってどうでもよかった。

 

 

これから血で血を洗う戦いが始まるのだ。戦う事に恐怖を感じてはいない。自分だって魔術師の端くれだ、常識から外れている事なんて理解している。

 

 

ただ漠然と、この胸がぽっかり空いてしまった様な不安がいつまでもイリヤの魂に纏わり付いて離れないのだ。

 

 

第五次聖杯戦争の器として生み出された彼女は逆らえない死の運命が待ち構えている。それでも投げ出さなかったのは彼女のプライドの高さと裏切り者への憎悪だった。

 

 

衛宮切嗣、実の父でありアインツベルンと母アイリスフィールと私を裏切った罪人。

 

 

報復を、宿願を果たすまでは戦い続けると誓ったのだ。イリヤの中で繋がった歴代の聖杯の金型達がこちらにそう囁くのだった。

 

 

「…ま、私が勝つのは決まってるんだけどね。お爺様はどんなサーヴァントを召喚するおつもりなのかしら?クラスはバーサーカーらしいけど……キャア⁉︎」

 

 

突如として起きた揺れにイリヤは尻餅をつく。何処かで爆発音が鈍く鳴り響いた後、喧騒とした叫び声が遠くから聞こえた。

 

 

「…ええっ?なに⁉︎なに⁉︎地震?耐震偽装されてたのこのお城⁉︎待ってさっき爆発したよね?大丈夫なの?」

 

 

誰もいない部屋で一人騒ぐイリヤ。従者を呼ぼうとしたが自ら少し離れた台所にやってしまった為情報を得る手段がない。

 

 

「…なんだか外が忙しいし、てゆうかドンドン騒ぎ大きくなってない?」

 

 

慌しい靴音と共に怒号がこちらに響く。「待てえ!」だの「そっちに近づけさせるな」など普段大人しいホムンクルスが声を張り上げていた。

 

 

「…え?本当に何が起こってるの?……こっちから音がするわね」

 

 

そう言ってイリヤは音がする方向の壁に耳を当てた。

 

 

…瞬間、

 

 

 

「チェストオオオオオオオ!!!」

 

 

壁が吹き飛んだ。

 

 

 

「ええええええええ!?!?!!?!!」

 

 

 

自室の繊細な調度品を巻き込んで白磁の壁が土煙を捲き上げながら消し飛んだ。余りの突然の出来事にイリヤは淑女にあるまじきあんぐりとした口を開けたまま固まってしまった。

 

 

「…むっ、やっと広い場所に出たか。同じ様な通路ばかりでまるで分からない。しかし一体ここは何処な……んだ…」

 

 

壊れた壁の中から現れた巨人。黒い鎧の右腕はその肩口から白いオーラを放ち凄まじい迫力を放っていた。

 

 

そしてそんな化け物と目が合ってしまった。

 

 

「わわわわわわ、私なんか食べても美味しくないです!?多分リズとかの方が食べる所あると思いますーー!!」

 

 

最早そこにアインツベルンの子息としてのプライドは無く、見た目相応に慌てふためく幼子の姿があった。

 

 

「お、落ち着け、済まない、ココが君の部屋とは知らなかったんだ。…本当に済まない」

 

 

本当に済まなそうに頭を下げる大男、何もしてこない事にイリヤは両目を塞いでいた腕を外した。

 

「…あ、貴方は?」

 

子猫、というよりは最早バイブレーションの様な震え方をしているイリヤを前に大男は頰を掻いた。

 

 

「俺は……気がついたらここにいてな、俺自身よく分かっていないんだ。名前は茶渡泰虎という」

 

 

「……突然ここに来たって、もしかしてあなたサーヴァント!?」

 

魔術師としての目は目の前の茶渡を正確に捉える。明らかに人とは違う成り立ち、しかし人間の肉体を持っている、そんな混じり合わさった様なな気配を感じ取っていた。

 

 

「サーヴァント?確か儀式の場に居た奴らもそんな事を言っていた……危ない!!」

 

 

「…え?キャアアア!?」

 

 

突如としてこちらに伸びた太い腕がイリヤの細い腰を掴みこちらに引き込んだ。

 

 

「ちょっと!!何する…

 

 

イリヤは文句を言おうとした瞬間、電撃が着弾する。

 

 

「ふぇ!?魔術!??誰よ!私の部屋に電撃放ったの!!」

 

 

「多分俺に向かって放ったんだな。…済まない巻き込んでしまったらしい」

 

 

「本当にね!てゆうか貴方なんで逃げ出してるのよ、使い魔でしょ!?大人しく召喚主に従いなさいよ」

 

 

「悪いが話は後だ!今は安全な場所まで逃げるぞ‼︎」

 

 

そう言ってやれ茶渡はイリヤの軽い身体を小脇に抱えるとそのまま走り出した。

 

 

「ちょっと待ってーー?!私の関係ないんだけどーー!?」

 

甲高い叫び声をあげるイリヤ。バタバタと手足を振り回すが茶渡は全くブレる事なく走り続ける。

 

「ギャーー!!セラァァァ!!リズゥウウ!!!たすけてーー‼︎」

 

 

「あんな所では君が怪我をするかもしれない!安全な所で降ろすから我慢してくれ!!」

 

精一杯の釈明をしながら茶渡は走る。見るからにか弱い少女、少し力を加えるだけで折れてしまう、そんな儚さを纏った少女を放置するわけにはいかなかった。

 

 

「………。って!!狙われてるの貴方でしょ!?張本人が私担いでたらキリがないわよー!」

 

「む、それもそうだな。…だが降ろすのはあの集団を巻いた後だ!」

 

扉を蹴破る、待ち構える敵がいないのを確認すると茶渡は全力で走った。

 

依然として後ろには兵士が追ってきている。時折炎や雷撃がこちらに飛んできている。何処も同じような廊下をジグザグに曲がりながら避けているが時間が経つごとに増えてきている気がする。

 

放たれた雷撃の一つが茶渡の真横、イリヤの近くに着弾する。

 

 

「ギャーー!!あいつら私が見えてないの?!お構い無しに撃つんじゃのいわよ!!」

 

 

「…なんだか、わざと打ってきてないか?さっきから君の方へ飛んできてるんだ…ガッ!!」

 

 

上半身をひねり、飛んでくる光弾を避ける。突如の事にイリヤの奇声は更に大きくなる。

 

「狙ってる!あいつら絶対狙ってきてる!!……絶対わざとよね。となるとお爺様、何か企んでるわね!!」

 

聖杯戦争に不可欠であるイリヤスフィールを傷つける理由はない。相当の奇跡がない限りホムンクルスが自律的に反逆を起こす事もあり得ない。ならば糸を引いている者がいる。…そうなれば一番に上がってくるのはあの男しかいない。

 

「……もしかしてあの長い髪の爺さんか?」

 

 

「…ええ、融通の利かない堅物よ。……ならそろそろ私が一人前ってこと教えてあげないとね!」

 

 

「何をする気だ?何か手はあるのか?」

 

 

「貴方も私を見かけで判断してるみたいだから教えてあげる!私がすごいって事その目にしかと刻み付けなさい!!…後、かたぐるまぁ!!」

 

 

茶渡の太い首に脚をかけるとイリヤは両手を広げる。すると袖口から光を帯びた金属の糸が縦横無尽に飛び出した。まるで意思を持つかのように金属の糸は組み合わさり二匹の小鳥の形となった。

 

 

天使の詩(エルゲンリート)!さぁ!私のコウノトリの騎士(シュトルヒリッター)たち!私を害するものを叩き潰して!!」

 

小鳥達から光弾が放たれる。それらは迫り来る兵士に衝突し、爆ぜる。

 

 

「これは…鬼道?いや違うな、霊力の起こりは感じるんだが…」

 

 

何人かの前衛が吹き飛ばされ壁や地面に叩きつけられる。前衛が崩れ倒れた仲間に後方が引っかかっている。

 

 

茶渡はこの間に距離を離すべく全力で走った。

 

 

「……いいのか?君の仲間じゃなかったのか?」

 

 

前髪にかくれているが明らかに驚いた表情を見せる茶渡にイリヤはニヤリと笑ってみせる。

 

 

「いいわよ、お爺様達が何か企んでるっぽいし、……貴方名前なんだっけ?」

 

「…茶渡泰虎だ」

 

「じゃあヤストラ?私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。共闘しましょ?お爺様所に殴り込みに行くわよ!!」

 

 

 

「アハト翁、茶渡泰虎とイリヤスフィールが共闘を開始しました」

 

護衛の報告に僅かばかりの反応を示すと、待機していた部隊に号令をかける。

 

「かの者達を追い詰めよ。殺す気で構わん。さすればあのサーヴァントの力の一端も知れるだろう。さぁ、行け【イリヤスフィールを殺せ】」

 

武装したホムンクルス、総勢27名が統率者の命に従い走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チャドどんな喋り方かワカンねぇ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巨人の腕 前

本編始めないと…


「ヤストラ!もっと走って!!追いつかれちゃうわよ!!」

 

茶渡の頭上で鈴の様な声で命令する少女、イリヤスフィール。彼女の錬金術を用いた攻撃で追っ手を牽制しながら茶渡泰虎は走り続けていた。

 

 

「…くっ!さっきから体が重い、血が足りない様な疲労感があるんだ」

 

自覚したのいつだったか、最初は暴れ回っていたための疲労だと考えていた。しかし茶渡泰虎の現在は一流のボクサーだ。いくらボクサーは疲れやすい肉体だと言われていようとも超常的な力を宿した彼はその範疇外だ。

 

そもそも長年肉体管理はしてきている。ならばこの疲労は異常と言ってよいと判断した。

 

「私そんなに重くないわよ!……という冗談は置いといて魔力の消費が激しいのよ。ヤストラ、今の貴方は魔力の供給手段が無いからこのままではジリ貧ね」

 

「…魔力?俺からそれが無くなるとどうなるんだ?」

 

先程から言葉の端々に出てくる単語を茶渡は完全に理解出来ていない。魔術を鬼道、魔力を霊力や霊圧と置き換えて推察してはみたがイマイチ噛み合わない。憶測だが彼の知るものとは別物なのだろう。

 

…但し完全に別物という訳では無いようだが。

 

「貴方は正規のサーヴァントじゃ無いから分からないわね…でも元の場所に戻されるのか、そのまま死んでしまうのか、どっちかじゃない?……そこ左よ!」

 

「さらっと怖い事を言わないでくれ……了解した」

 

イリヤのナビに従い迷宮の様な城の中を駆け抜けてゆく。彼女が敵と鉢合わせしない様に隙間を縫う様な逃走を続けていた。

 

「このまま突き当たりに行けば広間に出るわ、そこで迎え撃つわよ!」

 

「共闘するとは言ってないんだが…」

 

流れで逃げてこそいるが、暴力を使わずに済むのなら茶渡はそちらを選ぶ。こちら側に無礼があったのならば下げる頭ぐらい何のことはない。

 

そもそも茶渡にとってはこの場の何もかもが不明なままだ。唐突な召喚、見慣れぬ人々、魔術という未知の技…元々慎重な彼には目まぐるしく変わる状況に状況の整理が付かないままであった。

 

(ただ逃げていたつもりが少女を肩車して喧嘩を売りに行く事になるとはな…)

 

良く勘違いされやすい茶渡は高校時代など特に知らぬ間に喧嘩を売られる事が多かった。……いや親友の喧嘩にいつのまにか巻き込まれていたことの方が多かったかも知れない。

 

しかし考えてみれば少しばかり個性的な高校生活が死神や(ホロウ)などという超常のものと出会い、自身が異能を手に入れるなどつゆにも思ってはいなかった。

 

(確かに何か行動を起こさない事には展開は無いだろうな…)

 

 

「……勝算はあるのか?」

 

茶渡は問う。巨人の右腕を持つ大男と魔術と呼ばれる不思議な技を扱う少女のたった二人、されど敵は100人を超える常人を超えたの力を持つ集団。数の利、地の利共にあちら側に傾いている。

 

「それは分からないけど心強い味方がいるわ!」

 

出会った時の様な儚さはそこには無く、緋色の瞳には諦めの悪い闘志が宿っていた。

 

少しだけ、その顔は友人に似ていた。

 

 

 

「…分かった、少しスピードを上げるぞ!」

 

言い合えるよりも先に茶渡は加速する。彼に死神、滅却師や破面のような特殊な移動手段は無い。だが霊力を巡らせ、霊子で最適な踏み台を作る事で加速を得る事に成功した。

 

どうにもこの世界は元の場所よりも霊子の濃度が濃い様だ。

 

「はっ…速い!?」

 

「オオオオオオ!!!」

 

右手が唸り、巨大な扉が軋む。加速を加えた一撃は分厚い木製の扉を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

 

彼らが侵入したのは中庭の広場。中央には噴水が設置され周り全てが大理石の壁や敷石で埋められている。無機質さと神秘性を浴びたその空間に少しばかり茶渡は息を飲んだ。

 

「まだ安心するのは早いわ!」

 

そう言うと少女は自身に追尾していた鳥の形を成した針金を先程侵入した扉に突撃させる。衝突の瞬間鳥は形を瞬間的に変化させ、巨大な剣へと変貌する。周囲の城壁が砕け追っ手の迫る扉は無残にもガレキにより封じ込められた。

 

「とりあえず巻いたかしら……?どお?私、強いでしょ?」

 

「ああ、恐れ入った。かわいさとは裏腹に獰猛さすら感じる闘気だったよ」

 

茶渡が走る中彼女は攻撃の手を緩めなかった。それも敵を殺さぬ様にと加減してのものだ。冷静な判断能力は一級品といっても差し支えはないだろう。

 

「……ッ!貴方は恥ずかしげも無くそんな言葉を吐けるの?見かけはもっと無口でも良いと思うんだけど」

 

「…大人になれば多少なりとも社交性は必要だからな。……ところであれが君の言っていた()()()()()か?」

 

茶渡が視線を向けた先、何も無いはずの草陰を凝視する姿を見てイリヤもつられた視線を向ける。

 

 

それは突然現れた。僅かに空間が震えると鈍い光を浴びた鋭い矢がイリヤの眼前に現出する。矢じりと彼女の距離は僅か、防ぐ手段などありはしない。

 

「キャッ!?」

 

 

瞳を閉じる事しか出来なかったイリヤはいつまでも痛みが来ない事に瞼を開いた。

 

「…………へっ!?」

 

「大丈夫か?」

 

矢じりは眼前で停止している。茶渡の分厚い拳が矢を握り締めピタリと動きを止めていた。

 

どんな反射神経と瞬発力があればこんな曲芸じみたことが出来るのか。イリヤは目の前の大男がイレギュラーなれど英雄の資質を秘めた人間である事を認識した。

 

自身の直線上に人影が浮き出る。魔術を解き表したのは物言わぬ瞳でこちらを見つめる黒服の兵士だった。その髪と瞳はイリヤと同様にホムンクルスの特徴を持っている。その手に収まっているボウガンから彼が攻撃を仕掛けてきた事は明白だ。

 

「……ありがとう、それと気をつけて、そいつらはさっきまでの奴らとは違うわ。対代行者用に用意された特化戦闘型、って言っても分からないわね、…警戒度を限界まで上げておきなさい、さもないと死んじゃうから!」

 

アインツベルンには珍しい戦う事に特化した戦士型のホムンクルス。その戦闘能力は平均的な代行者に迫るものだ。普段表に出ない集団の為イリヤに顔見知りは居ない。しかし噂に聞く分にはアインツベルンの最大戦力と呼んで良い部隊だろう。

 

「そうか、なら後ろと屋根に潜んでいる奴らもそうだな?ザッと見積もって30人程度はいるか」

 

 

イリヤにはその言葉が素直に入っては来なかった。30人?何を言っているんだとばかりにとぼけた顔をする少女を置いて茶渡は無造作に右腕を振るった。

 

「ぐあっ!?」

 

突如姿を表した黒服が屋根から落ちていった。

 

先程の矢は手元には残っていなかった。圧倒的な膂力で投げ飛ばされた矢はボウガンよりも速く、威力を持って不可視の兵士の肩口を貫いたのだった。

 

「姿は隠せても、霊圧でバレているぞ?……もしかして俺しか認識していないのか?」

 

 

「スゴイ……、ヤストラ!貴方は彼らが見えているの?さっきも追っ手の攻撃を避け続けてたみたいだけど。……もしかしてそれが貴方の力なの?」

 

彼らの不可視はアサシンと同等という事はない。所詮認識阻害と多少の景色への同化というものだ。匂いなど獣レベルでしか分からない以上機能美を追求した最低限の機能だ。彼らにとって奇襲など手段の一つに過ぎないのだから。

 

「……分からない。ただ魔術というものを使う時、霊圧……魂が発する圧力の様なものが分かるみたいだ。理屈までは俺も知らない」

 

 

「霊圧…ね。聞いたことのない概念ね。礼装も使わずにそんな事が出来るなんて、それが俗にゆう超能力って奴なのかしら。取り敢えずアイツらの不可視は貴方には障害にはならないようね」

 

「だが数が多い、流石の君でもこれは押し切られるぞ」

 

「…心配ないわ、ちゃんと私の従者が追いついたみたいよ?」

 

そう言って天を仰ぐイリヤつられて茶渡も空を見る。黒い雲が空の果てまでも覆い尽くす淀んだ空の中に白い目で人影がこちらに向かって来たのを認めた。

 

人では骨折必至の高さからの跳躍も彼女達は問題無く着地する。少し変わった白を基調とした修道服の様な衣装。見え隠れする髪は同じ様に白く、瞳と共にイリヤと同様の輝きを見せていた。

 

「お嬢さま!ご無事ですか!?」

 

「ええ、大丈夫よセラ。彼のお陰で全くの無傷よ」

 

心配そうに駆け寄った従者にイリヤは余裕を持って答える。ここだけみれば気品あるお嬢さまの様にしか見えない。

 

 

「…恐れながらお嬢さま、何故にそのお方の肩に座っていらっしゃるので?」

 

「「そういえば…」」

 

考えてみれば肩車したままである事を理解した茶渡は速やかにイリヤを肩から下ろす。

 

「…貴方はだれ?イリヤを助けてくれたのは貴方?」

 

もう一方の従者、巨大なハルバートを担いだ従者が茶渡に問う。

 

「茶渡泰虎だ、正確に言えば巻き込んでしまったと言うべきだが……」

 

「お爺様に私の力を証明して差し上げるのも一興かと思っただけよ。ああ、あとこの二人はリーゼリットとセラ、私の従者よ。……自己紹介は後にしましょう?周りの奴らがいつまでも待ってくれないみたいだし」

 

気付けばかなりの距離を詰められている。仲間が増えたとはいえその差は未だ歴然とした差がある。

 

「二人は戦えるのか?そのハルバートはかなりの業物の様だが…」

 

「大丈夫、戦える。この巨人の腕(リーゼンアルム)はすごく強い。」

 

リーゼリットは表情は乏しいながら自慢げに構える。

 

「【巨人の腕】か、いい名前だな」

 

サムズアップする茶渡にリーゼリットも同じジェスチャーをする。

 

「はいはい、……さっさと終わらせるわよ。リズとセラは左右面をお願い。ヤストラは正面から吹き飛ばして頂戴、私が援護してあげる」

 

「…お嬢さま、その前にもう一つだけ。……茶渡泰虎、お前は戦わずとて良かったはずです。なのに何故お嬢さまに味方するのです?……貴方は何故戦うのです、答えなさい」

 

その目は臆せず泰虎を捉える。その真剣な眼差しには泰虎も真摯に答えなければならないと感じた。

 

「…そうだな、俺はイリヤスフィールを信頼しても良いと思ったんだ。これは直感に近いものだが、確かに俺の中で納得のいくものだ。背中を預けてもいい、そう思える程にはな」

 

「…そうですか、一先ずその言葉信じるとしましょう」

 

セラは素っ気なく後ろを向き敵へと立った。

 

「…やっぱり貴方は少し世辞が過ぎるわ。これは殆ど自己満足だってゆうのに……さぁ!やるわよ!!パッパッと終わらせるわよ!!」

 

顔を赤面させながら小さな体が号令をかける。それに応えてセラとリーゼリットは戦闘態勢へと切り替えた。

 

「了解だ。…開幕の一撃は俺がやろう!」

 

茶渡は右腕を高く掲げ、地面を殴りつけた。敷石は弾け飛び、大地が割れる。天変地異を思わせるような地割れに敵陣は足を取られることとなる。

 

 

激戦の狼煙がここに上がった。

 

 

 

 

 

 

 




セラってどんな魔術が得意なんですかね?

10/05少し書き加えました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巨人の右腕 後

すいません遅れました。リアルが忙しいとここまで手をつけられないのかと痛感する日々です。

次回からは多分他のサーヴァント達も出せると思います。


戦いは激戦に次ぐ激戦であった。

 

しかしいくら強力な個の力を有する茶渡たちであっても統率の取れた軍隊の様に展開するホムンクルス達には後手に回らざるを得なかった。

 

対魔術師といえるような完成されたスタイルを持った精鋭達には急造のチームでは力で優っていても搦め手に非常に弱かった。それでも持ち堪えるに留まれたのはサーヴァントという規格外の存在がいたからだろう。

 

戦いは均衡、されど決め手には欠ける相手は堅牢な守りを崩す事は叶わなかった。

 

それでも終着は必ずやってくる。長かった様な短かった様な、そんな時間感覚の薄れる張り詰めた戦いに最初に根を上げたのは意外にも茶渡泰虎であった。

 

 

「ぐっ………!!」

 

「ヤストラ!?」

 

 

歯を食いしばりながらも最早力の入らない脚は膝から砕ける様に倒れ込む。本来の彼ならば有り得ない余りにも早いダウン。その要因は絶対のルールが彼を縛っていたからだった。

 

 

「……そうか、これが……サーヴァントの…感覚……か」

 

そんな言葉を後に茶渡泰虎はうつ伏せで倒れ伏した。

 

イレギュラーとして召喚された茶渡泰虎。しかしその身体はサーヴァントの枠組みに捕らえられている。

 

マスターという依り代無き現界は彼が本日三発目の【巨人の一撃(エル・ディレクト)】を発動した時点で魔力切れによる限界を迎える事となった。

 

 

「ヤストラ!後もう少しだって言うのに…」

 

 

イリヤスフィールは顔を歪ませる。ここまで泰虎はイリヤの盾となってくれていた。そのお陰でイリヤは存分に実力を発揮できたのだ。彼女の魔術の才はこの上ない程高い。現状、アインツベルンにおいて彼女を超える才覚を生み出すことは不可能な程だ。しかし彼女の力はこの10年の大半を“マスター”としての成長に割かれ、“魔術師”としての力はまだまだ発展途上と言えた。

 

 

要するに彼女はまだ実戦経験が乏しかった。戦いの中での攻守のバランスを、自らに届きうる刃の捌き方を、生き残る渇望が足りてはいなかったのだった。

 

 

「お嬢さま!私達の後ろに!!」

 

「……守る」

 

従者の二人がイリヤと敵を遮る様に立つ。すでにその純白な従者服は真っ赤な血が滲み額から流れては片目の視界を奪っていた。満身創痍、この二人もただ主人に対する忠義でのみ意識を保っている様なものだった。

 

眼前には未だ7名程の兵士が立ち塞がる。見れば一度泰虎が吹き飛ばしたはずの者たちが復活している。

 

(…手加減したのかしら、そう言えばあった時も逃げている最中だったわね。……戦いたくないなんてサーヴァントとして失格だわ)

 

 

この戦いを煽ったのは自分だ。

 

 

しかしこの目の前の大男に、自分のわがままを受け入れ逃げればいいものを律儀に守ろうとした者に対して、複雑な感情を向かずにはいられなかった。

 

 

独善だと吐き捨てる自分がいた。

 

 

優しすぎると憐れむ自分がいた。

 

 

そしてその姿に、守り抜こうという底抜けを善人としての在り方に当てられた自分がいた。

 

 

「………イリヤ!!!!!」

 

聞いたことの無いリーゼリットの叫び声がイリヤの意識を呼び覚ます。

 

「……えっ」

 

鮮血が視界を埋め尽くした。ドサリという音と共に目の前に倒れ込む者がいた。

 

 

「セラ!!!」

 

見れば彼女の下腹部を槍が貫いている。血は止まることなく白い大理石の敷石を紅く染め上げていく。

 

「……よかった、お嬢さままでは…届かなかった……様ですね……グッ!?」

 

「…バカ!!私のミスよ!そんな大怪我、…私まだセラから回復魔術習ってないんだから!!」

 

セラに駆け寄るがイリヤスフィールに出来ることは殆ど無い。

 

視界が歪む。頬に流れる暖かい感触にようやく自分が涙を流しているのだと認識した。

 

 

「…だめ!イリヤ逃げて!!」

 

いつのまにか後方に潜んでいた者がイリヤへと殺到する。得物は長い直剣。ブレることのないその切っ先は真っ直ぐにイリヤの胸に迫る。彼女の薄い胸では何の抵抗もなく貫かれてしまうだろう。

 

もはやその距離は瞬きのうちに埋められるだろう。突発的な出来事にイリヤは固まってしまう。…ただ己の従者を強く抱き寄せる事しか出来なかった。

 

「…たすけて、ヤストラ!!」

 

心の底から助けを求めたのはいつぶりだっただろうか。少なくともこの10年はあり得ないだろう。喉が裂けるほど叫んだところで、血が滲むほど暴れたとてこの白磁の城から連れ出してくれる者は居なかったのだ。

 

あらゆる痛みがイリヤを変えた。誰の助けも借りない強き者であろうとした。事実、彼女は強くなった。魔術師としての非道さを、アインツベルンの寵児としての責任感を、イリヤスフィールとしての憎悪を手に入れた彼女は正しく聖杯を求める者となった。

 

それでもこの瞬間に彼女は確信する。

 

(……全然成長なんて出来てないじゃない。私は…ただ立ち止まっていただけなんだ…)

 

過去に囚われた復讐者、己が力で運命に抗わなかった臆病者、井の中の蛙、歩みを止めた事実を他の言葉で誤魔化してきただけだったのだとイリヤスフィールは走馬灯の様に感じていた。

 

(これは適応できなかった私への罰なのかもね…)

 

そんな諦めがイリヤの中に充満していた。

 

 

 

「……まだ終わっちゃいない」

 

 

いつのまにか少女の前には大きな壁がそびえ立っていた。

 

 

「ヤス…トラ……?」

 

 

「……まだ立つのか」

 

これまで無表情だった敵のホムンクルス達がその姿に驚愕を染まっていた。

 

「……【巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)】コレが本来の俺の腕だ」

 

 

鎧を纏った右腕には凶相の模様が描かれたカイトシールド。泰虎の体の大半を覆い尽くす頑強な盾は直剣を突き立てたにも関わらず欠片も刺さる様子は無い。

 

「…守るという約束だった。ならば立ち上がるのに理由は十分だろう」

 

 

マスターなきその身は既に現界を保つ魔力すら残っていない筈だ。だが目の前の男はそれでもイリヤの盾とならんと淀みなく立ち塞がっている。

 

泰虎の鎧の右手に光が宿る。一度見た彼の宝具解放だ。

 

「下がっていろ、今度は威力が違うからな」

 

「ヤストラ……!」

 

深く腰を落とし、右腕を引き絞る。まるで大砲の弾を装填するかのような鈍重で迫力なモーションに誰もが体を動かすことができなかった。

 

「…いくぞ、コレが正真正銘最後の一撃だ」

 

「まって!それ以上は……っ!!」

 

音が割れた。突風と呼ぶには余りにも巨大な風の壁が全身を強く打つ。

 

イリヤの声はかき消された。だが彼女はそれ以上足掻こうとはしなかった。

 

彼女の前にあるものがこれ以上は無粋だと伝えてくる。

 

大きく、強い背中だった。覚悟を決めた者の背中だった。

 

 

(…お願い!勝ってヤストラ!!)

 

せめてものエールを心で叫ぶ。逆転の一手はこれをもって他に無いだろう。

 

 

「……任せておけ」

 

契約(パス)を通していないにも関わらず茶渡はニヤリと口角上げてみせる。

 

(…っ!こんな事で安心してしまうなんて……魔術師として失格ね…)

 

だが心地良い暖かみが胸の中に芽生えたのは錯覚では無いだろう。忘れたはずの心、捨てたはずの感情をイリヤは確かに感じていた。

 

(…ああ、私はヤストラを信じているんだ)

 

 

誰もが声を出す事の叶わない中で確かに泰虎の叫びが城内に響き渡ったのだった。

 

 

「……巨人の一撃(エル・ディレクト)!!」

 

収束した極光が辺り一面を揺るがし、あらゆるものを捲り上げる。大地は揺らぎ爆音と共に光の中へと溶けていった。

 

 

ただその中で少女だけがその行く先をまぶたを閉じる事なく見届けていた。

 

 

 

 

「………結果は以下の通りでございます。茶渡泰虎は霊基が不安定な為必要な施術の後、封印拘束を行いました。こちらからの一方的な従属契約も問題なく行えるものと確信しております」

 

 

抑揚もなくつらつらと報告事項を読み上げたホムンクルスはユーブスタクハイトに礼をすると退出する。今回の実験結果を聞いたユーブスタクハイトはその皺だらけの顔の溝をより深いものにしていた。

 

 

「…魔力供給がなくとも宝具三回に三時間以上の現界時間、バーサーカーにあるまじき明確な自我、そしてその能力は我らが大望する第三魔法に類する奇跡……で、あるか。望まずの偶然とは言え天命と言っても過言では無いな。……マスターとの仲も良好……か。」

 

現在イリヤスフィールは施術後の茶渡泰虎の側を離れないという。まだ目を覚まさない彼に時折語りかけている様子も報告されているという。

 

 

「規格外ではある。…だが我らの定めた計画は大きく修正せねばなるまい。バーサーカーとしての運用は…難しいであろうな」

 

 

当初の計画は強大な戦力に凶化によるブーストで規格外の暴力の化身を生み出すものだった。それを御する為に特製の魔術回路と令呪を用意したのだ。

 

だが今回召喚されたサーヴァントは規格外とはいえ、客観的な評価は平均的なサーヴァント程度でしか無い。

 

 

凶化ランク 【−】

 

 

ある意味規格外と言える程の最低ランクでの凶化スキルはパラメーターに対して殆ど影響を与えていない。…知名度による補正など言わずもがなである。

 

殆どがDランク程度、魔力に関しては数値が無く、耐久性だけは【EX】を保有している。

 

特質する点で言えばコスト安の対軍宝具であるが、それも全容を把握は仕切れていない為計画に組み込まない。

 

他の宝具を所有しているかは不明だが、仮にもバーサーカークラスでの召喚である為複数の所持は期待出来ない。

 

「盤石を取るならば再度儀式を行うが……不幸にも初遭遇時に壊れてしまったか…」

 

特定のサーヴァントの召喚にはその英霊のゆかりの品が必要になる。茶渡泰虎との戦いに置いてそれらは粉々に砕けてしまった。もはや再召喚は不可能、現状保有する戦力で聖杯戦争を勝ち抜かねばならない。

 

「後戻りは許されん…か。我らアインツベルンの命運をあの小娘一人に任せる事になるとはな…」

 

 

長きに渡る宿願がこんな形で頓挫すると誰が予想した。

 

 

四度にわたる屈辱は何のためだったのか。

 

 

上辺だけの感情しか持たないユーブスタクハイトの中で激しい憎悪が紅蓮となって内側から吹き上がる。

 

 

「我らは…私は……一体何のために聖杯を求めたのだ…。私には聖杯の成就は不可能なのか?……ならば…私は……」

 

 

この日、アインツベルンのホムンクルスの父にして聖杯の再現に妄執した人工知能はその機能を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

契約

申し訳ない…本当に申し訳ない。


「……ここは」

 

覚醒した茶渡泰虎は周囲の状況に驚きのあまり声をこぼす。

 

 

一面見渡す限りの闇がそこには広がっていた。

 

 

「どこだ、ここは…」

 

 

死後の世界ではないだろう。茶渡の知る“あの世”は青空の下にあった、…“断界”という線もあったがやはり茶渡の知るものとは違っていた。

 

前後左右、上下すら不明瞭で地面に立っているかすら分からない空間、視界を埋め尽くす斑らな黒は不規則な対流を繰り返しながらその紋様は張り裂けんばかり悲鳴を上がる人の顔の様だった。

 

そして全体に伝わる不気味な霊圧。死神でも滅却師でも虚でもない。感じたことの無い生温く、どこか冷え切ったそのプレッシャーに茶渡の身体は強張った。

 

 

「……そんなに緊張しなくてもいいのよ?私は貴方を歓迎します」

 

「…!?」

 

 

一瞬だった。茶渡は全力でその場を走り身体をひねり切り返す。理解が脳に及ぶより先に本能的な恐怖が身体を支配していた。

 

 

「………お前は、なんだ!」

 

うわずった声が喉にかかり、調子の狂った声が出てしまう。嫌な汗が頬を伝う。今まで感じた中で最も異質なプレッシャー、先程までの不気味な霊圧は目の前の人型が発しているのは確定的だ。明らかにその濃度が違う、強烈な霊圧は既に形を持ちはじめ周囲は蜃気楼のように空間が歪んでいる。

 

しかし相手は明らかに茶渡泰虎の霊圧知覚範囲にいた。ここまで凶悪な気配であればどうやっても気付くものだ。死神や破面では無いとはいえ茶渡の感知力はそう低いわけでは無い。……だがそれをすり抜けられた。

 

目の前の存在が埒外である事だけは理解できた。

 

既に巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)は発動させている。霊圧が右腕に収束し白いオーラを纏ったその鎧の手は既に臨戦態勢であった。

 

「…クスッ、はじめまして茶渡泰虎、理の外から招かれた異端の英雄さん?……私は…そうね、未だ生まれ落ちてはいないので名を持つというのもおかしいけれど“常世全ての悪(アンリマユ)”と名乗っておきましょう」

 

微笑むのは銀髪の女性、その整った顔立ちがはにかむ様は一枚の絵として芸術品と言えるだろう。緋色の目と白い肌、不気味な黒の衣装、容姿はアインツベルンで見たホムンクルスに似ている。……正確にいえばイリヤスフィールに似ているといった方がいい。

 

茶渡は警戒を緩めない、目の前の女性が放つ霊圧が不気味そのものであったからだ。明らかに人では無いだろう。だが茶渡には目の前の人型が何であるか皆目見当がつかなかった。

 

「こうして出会うのは初めてね。いいえ、サーヴァントでありながらこんな所にやって来るのは、やはり貴方が例外だからなのでしょうね」

 

 

「……アンリマユ、と言ったか。お前は一体何者なんだ!…いや、言葉を足そう、お前は一体何のために俺を呼んだ‼︎」

 

茶渡の霊能力は不可思議な繋がり(パス)がアンリマユとある事を知覚していた。ならば茶渡泰虎を呼び出したのは十中八九この化け物であろうと結論付けた。

 

「……!成る程、貴方にはわかるのですね。しかし残念ながら貴方を呼んだのは私ではありません。邪魔こそ入りましたがどうやら今回の戦争は私に運が回ってきたようですし、良しとしましょう」

 

 

「一体何の話しだ!質問に答えろ‼︎」

 

出来るならばこの場から一目散に逃げ出したい。しかしそれは不可能だろうと悟った茶渡は怯えを抑えアンリマユを睨みつける。少しでも情報を、突破口を見出すことしか手はなかった。

 

 

「聖杯戦争、万能の願望機を奪い合う争い。貴方は戦いに招待されたの、殺し合い最後の一人となりなさい。さすれば聖杯は貴方に福音をもたらすでしょう」

 

「願いを叶える、だと⁉︎…そんな馬鹿げた話があるか!そんな奇跡があるならば、世界は既に平和になっている筈だ‼︎」

 

アンリマユは何か思い出したようにクスクスと笑う。

 

「…ごめんなさいね、少し下らない事を思い出してしまったわ。貴方自身その奇跡の片鱗を味わっているのでしょう?知ったようで知らない世界への転移、サーヴァントという肉体、自身に満ちた魔力という力。これを奇跡と呼ばずして何というのかしら?」

 

「…ぐっ、それは!」

 

言い返す理屈は無い。だが不可思議な部分がいくつかある。…何か重大な隠し事があるような気がしてならなかった。

 

「……それならば、何故俺なんだ。悪いが俺は焦がれるような妄執に覚えはない。戦いに参加する理由は無い!」

 

「それは分からないわ。貴方が選ばれた理由も、誰が望んだのかもね。ただ貴方が戦いに臨む理由は存在するでしょう?」

 

「……なに?」

 

茶渡は眉をひそめる。この化け物が何を知っているというのか。

 

「貴方が守ると誓ったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯戦争に参加し……死亡するわ」

 

その時、アンリマユの口元が裂けるように釣り上がる。その急変した顔は悪魔と形容するに正しいものであった。

 

 

 

 

「……お嬢さま、こんな所に居られては風邪をひいてしまいますよ」

 

「イリヤ、最近ずっと、こんな感じ」

 

 

従者二人が心配する中、イリヤスフィールはジッととある培養器を見つめていた。緑色の溶液に浮かぶのは褐色の大男、彼女を救った英雄、茶渡泰虎であった。本来エーテルの体を持つサーヴァントはこの様な治癒装置に収納する必要はないのだが、彼の場合例外的に“肉体”を所持していた。ならば物理的な治癒も可能だろうと治癒の薬液で満たした培養槽に運び込まれたのだ。

 

 

「心配ないわ。でも私はこうしていたいの。彼には御礼を言わないといけないしね。……このまま放って置いたら彼、たちまち消えてしまいそうで不安なのよね」

 

 

まるで独り言の様に従者に顔を向けずイリヤスフィールは呟く。

 

 

「……………恋?」

 

「……お嬢さま、魔術師として…使い魔に…恋慕を抱くのは如何なもの…かと」

 

「ち、ちがうわよ‼︎そんなんじゃないってば‼︎リズも変な事言わないでよ!……セラ真に受けないで、そんな青い顔で見つめないでよ」

 

 

コチラを見つめる…ブレまくっている従者の瞳を無視しつつイリヤスフィールは溜息をつく。

 

 

「…これはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンとしてのプライドの問題、恩義を返す位には器は大きいつもりよ?」

 

 

イリヤスフィールのプライドは高い。個人としての資質もそうだが、アインツベルンという大家に生まれた責任感、魔術師としての自負も重なり合いかなり頑固に凝り固まっている。

 

 

「それだけ?イリヤ、それだけにしては、健気、世話焼き」

 

「…うっ⁈……別にいいじゃない!ただの気位よ」

 

 

目に見えて狼狽するイリヤスフィールはそっぽを向いて顔を隠す。よく見れば耳の辺りが紅くなっている。…気温のせいではないだろう。

 

 

「……まさかお嬢さま、茶渡泰虎を使って聖杯戦争に参加なされるおつもりですか」

 

 

いつのまにか復活したセラが問う。その言葉にイリヤスフィールは動かなくなった。

 

 

「…どうして?」

 

 

先程までの少女さは消え失せ、淡々とした魔術師然とするイリヤスフィールの姿がそこにはあった。

 

「それはこちらのセリフです!もはやアハトはその機能を停止しました。…アインツベルンの聖杯戦争への参加理由はほぼありません!……それなのに何故、自ら命を投げ出す様な真似を…」

 

アインツベルンの宿願“第三魔法(ヘブンズフィール)の成就”その急先鋒であるアハトは活動を停止した。よほどのことがない限り“再起動”は有り得ないだろう。この家にいるのは殆どがアハトによって生み出されたホムンクルスである為、主人を失った彼等は“現状維持”に目的をシフトし始めていた。

 

 

「…違うわ。アインツベルンに無くても、個人の、イリヤスフィールとしての参加理由があるわ。…十二分にね」

 

 

冷たい眼差しがセラを見据える。セラは思わず息を飲むがイリヤスフィールはすぐにその瞳を引っ込める。

 

 

「私はこの聖杯戦争に勝ち抜くために生み出された。その為だけに調整されたこの身体ではそう長く生きられるものではないでしょう?なら、この命を本来の目的通りに使って何がいけないというの?」

 

 

垣間見える闇、幼子の姿からは到底有り得ない圧力が部屋全体へと伝わる。

 

 

「それは…ヘブンズフィールの完成は最早目的ではないと……?」

 

「ええ…セラ、リズ、私はね、ワガママなの。私がこの戦いを続ける理由は魔術師としての矜持とかアインツベルンのプライドとかもあるけど……一番は負けず嫌いなの」

 

 

悪戯っぽく笑ってみせた主人にセラは諦め気味の溜息をつく。長年支えてきた主人はこんな性格だったと思い返す。

 

何であろうと決めた事は曲げない、いや曲がらない。それこそがイリヤスフィールの真骨頂であると再認識した。

 

 

「イリヤ、いきいきしてる。楽しそう」

 

「はぁ…承知いたしました。我らはもとよりお嬢さまの従者、……最後までお供いたしますとも」

 

「ありがとう、セラ、リズ。……それじゃ、憚られたけど“契約”しちゃいましょうか!」

 

 

培養器に向けて手をかざすとイリヤスフィールの身体中に赤い紋様が浮かび上がる。特別に調整された彼女専用の令呪であり、参加者としての資格だ。

 

 

「本当は貴方が起きるまで待つつもりだったんだけど、気が変わったわ。……ヤストラ、貴方の力が必要よ!」

 

 

“ー告げる”

 

 

励起した魔力が風を起こす。

 

“汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に”

 

 

光を浴びた令呪、バチバチと雷光が所々で鳴り始める。培養器の中が泡立ち始め、茶渡泰虎の肉体が僅かに震え始める。

 

 

“聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ”

 

 

ガラスが砕け、溶液が流れ出る。ただ倒れ出た巨体は地面に伏す事なくギリギリの所で脚を出し耐える。

 

 

「………俺は…また戻ってきたのか……?」

 

 

自らの手を眺め、感覚を確かめるように動かす。朧げに辺りを見渡しイリヤスフィール達を認める。

 

 

「「………」」

 

 

互いに言葉はない。ただ見つめ合う。そこにあるのは信頼と希望のこもった眼差し。何も言わずに理解する。

 

 

「………」

 

 

茶渡は何も言わずイリヤスフィールに近寄る。彼女は目を背ける事なく彼を見続ける。

 

 

「…イリヤ、俺はどうしても叶えたい願いがある。…その為に俺と共に戦ってはくれないか」

 

 

まっすぐに見つめ返す瞳は茶渡の言葉が嘘偽りではない事を示している。大きな手を差し出す。分厚く、硬い屈強な手だ。その上に白く儚げな少女の手が触れる。

 

 

「当然よ、元より貴方以外と組むつもりは無いわ。そして貴方とでなければ意味がないの。…だからヤストラ、私に、私達で勝利を掴みましょう!」

 

「……ああ!」

 

 

こうして魔導の大家にして聖杯戦争始まりの御三家、アインツベルンは規格外のバーサーカー“茶渡泰虎”を召喚し、第五次聖杯戦争に挑むこととなる。

 

 

 

 




やっとスタートラインです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話休題#1 準備

始まる前に入れ忘れた要素を突っ込んだらこんな物が出来上がりました。

繋ぎと矛盾がない様にということで…

次からは冬木に移動します。


「……多いな」

 

茶渡泰虎は己の前に置かれた資料の山に思わず嘆きを吐露する。此処にあるのは主人(イリヤ)から渡された聖杯戦争に関する情報だ。規格外として召喚された茶渡泰虎は聖杯からのバックアップが不完全であった。特に其のシステムに関してはハナから抜け落ちている。

 

 

「…言い出したのは俺なんだが、いかんせん数が多いな」

 

 

不測の事態に備えて知識面でのサポートを願い出た所、言伝を受けたリーゼリットが運んで来てくれた。……力自慢の彼女が多少よろける程度には膨大な量の紙と本であった。

 

これでも外界との関わりを持たないアインツベルンの資料は少ないという。

 

 

「…ヤストラ、進んでいるかしら?もう長い間引きこもっているようだけれど」

 

 

うず高く積もった資料の先から聞き慣れた声が聞こえる。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの姿は残念ながら紙束に遮られて見えない。

 

 

「…ああ、主人(マスター)か。そうだな…基礎知識に関しては把握出来たと思っている」

 

「…本当にその呼び方で通すつもり?……まぁサーヴァントとしての自覚を持ってくれる事は有り難いけどね」

 

 

最近は自主的にイリヤスフィールを“マスター”と呼称している。サーヴァントらしい振る舞いをしようという茶渡なりの気遣いなのだが…本人からは不評だったりする。

 

 

「何か分からない処があれば教えるけど?」

 

「そうだなぁ、強いて言うならば知識を得る毎に自分の存在がどれだけ特殊で異端なのか…訳が分からなくなってくるな」

 

 

茶渡の召喚されたクラス“バーサーカー”は理性を封じられている代わりに大幅なステータス上昇を可能としている。しかし茶渡泰虎は例外的に理性を失わずこうして本を読む事も可能である。他に同例があるのかは分からないがこの冬木の聖杯戦争においては例外だろう。

 

バーサーカーのデメリットとしては他にも宝具やスキルの一部使用不可という制約があるが現在のところ茶渡泰虎にはその影響が見られない。“右腕”は言わずもがなまだ使っていない“左腕”に関しても問題なく使える様だった。

 

何よりサーヴァントとなった茶渡泰虎の身体能力は生来の肉体よりも強力になっている。本来英霊の型落ち(ダウングレード)として存在するサーヴァントだが、元となった英霊が戦闘力を持たない場合サーヴァントとなる事で強靭な肉体を手に入れ反対に強化されるという。

 

いくら戦う力があるとはいえ、一般人である茶渡泰虎はこのパターンに当てはまる様だ。

 

 

「そう、ならそろそろ戦術訓練の時間だから準備して頂戴?今日は弓兵相手の模擬戦よ」

 

「そうか、今出る」

 

 

アインツベルンはホムンクルスという人的資源(リソース)を多く持つ為この様な事が出来る。一般的な魔術師より余程腕の立つ者ばかりなので非常に有意義な訓練となっている。

 

「…………」

 

「…?どうしたのヤストラ、さっさと出てきてよ」

 

「…すまん身動きが取れない、助けてくれ」

 

「え、ダサっ…」

 

 

最近はかなり砕けた会話を取っている。……心を開いてくれているのだと茶渡は思いたかった。

 

 

 

「今日はこんなものね。……ヤストラ、そういえば貴方に渡すものがあったわ」

 

 

広間での訓練の終わり、唐突にイリヤスフィールが話題を持ち出した。

 

 

「どうした?」

 

「貴方、霊体化出来ないでしょう?それに関しては特に問題ではないのだけれど、…顔が割れるのは問題だと思うの」

 

 

茶渡泰虎の体は本来サーヴァントのエーテル由来ではなく生身の人間である。故に霊体化出来ず姿を消す事ができない。

 

 

「確かに…か、しかし戦いは基本的に夜なんだろう?人の目はあまり気にしなくて良いんじゃないか?」

 

「昼に戦う可能性だってあるわ。…それに貴方は対魔力も持っていないし、魔術師の攻撃を避ける方法が無いのよね」

 

 

現代魔術師の攻撃をものともしない対魔力スキルは基本三騎士クラスでないと獲得出来ない。クラススキルとは別に固有スキルとして所持している場合もあるが茶渡泰虎にそれは無い。

 

顔が割れ、名前が割れ、サーヴァントの枠組みとして強化されているとはいえ生身の肉体であるならば呪術的な牙は茶渡泰虎には十分届きうるという可能性であった。

 

 

「だから貴方には認識阻害の魔術礼装を着けてもらおうと思うのよ」

 

 

アインツベルンは錬金術の大家、こう言った礼装作りは得意とするらしい。イリヤスフィールは「流石にアトラス院程ではないけれど」と前置きを置いたが茶渡には“アトラス院”がなんなのか見当がつかなかった。

 

 

「成る程、…顔を隠すならやはり仮面か?」

 

「そうね、そっちの方が“作り易い”し簡単だわ」

 

 

仮面は“隠す、欺く”という概念を持つため認識阻害等の魔術礼装の製作に向いているという。

 

 

「…で、それっぽいものを城から集めて貰ったんだけど。リズーー?」

 

「いっぱいあった」

 

ガチャガチャ音を立てて袋を抱えた従者リーゼリットが運んで来てくれた。

 

更に後ろから敷き布を持ってきたセラが広場に布を広げ、そこに仮面や兜が並べられた。

 

 

「沢山あるな、と言っても殆どが西洋兜だが」

 

「リズ、装飾品から取ってこないでよ…後で戻しておいてね」

 

「…………………がんばる」

 

 

どうやら手当たり次第にとってきた様で、廊下にあった甲冑一式からも取ってきたらしい。

 

感情を読み取り辛いリーゼリットであるが今の発言からは心からの“メンドクサイ”という思いを読み取れた。

 

 

「これなんてどうかしら」

 

 

イリヤスフィールが手に取ったのも西洋兜の一種であった。しかしアンティークとは違い、使い込まれた様な傷跡が所々にあり無骨な雰囲気を醸し出していた。

 

「これ、昔居た魔術師が鎧に魂を定着させようとした儀式で使った品らしいわよ。血の刻印みたいなのがあるけど洗えば綺麗になるし、儀式に使うだけあって素材としてもそれなりだわ」

 

小さな手でカンカンと叩きながら耐久性を確かめている。

 

「……いや、それは…大丈夫……なのか?」

 

「ヤストラって潔癖だったの?」

 

「いや、そうでは無いが……これはやめておこう!」

 

 

聞いた事がある様な無いような、とにかく茶渡は少しだけ怖かった。…主に版権的な意味で。

 

するとリーゼリットもイリヤスフィールを真似て仮面を一つ取り近寄ってきた。

 

 

「これ、つよそう」

 

 

渡されたのは白いホッケーマスクだった。

 

 

「………ないな」

 

薄汚れたこのマスクがなぜアインツベルンにあるのか甚だ疑問だが、魔術とは奇妙な世界だと茶渡は再認識した。

 

「ヤストラはこだわりが強いわね…正直姿形に関しては問題じゃないからサッサと選んで欲しいのだけど」

 

「……いや、大事だ」

 

 

版権はしっかりと配慮しなければならない。下手をすれば本人達を呼び出してしまうことすらこの世界では起こりゆるのだから。

 

 

「もう、……そういえばセラはどれがいいと思う?」

 

「………(わたくし)ですか?…………こういうもので宜しいかと」

 

ぞんざいに拾い上げたモノを茶渡に渡す。…茶渡は思わず目を丸くした。

 

「どうしたの?なにか固まっている様だけれど……うっわぁ、セラ、これ流石に悪趣味じゃないかしら?」

 

 

茶渡の腕を覗きこんだイリヤスフィールはセラのセンスを疑う様にジトッとした目で見つめた。

 

 

「いえ、お似合いですよ?」

 

白々しくそう宣うセラ。若干の嫌がらせである事は明白だった。

 

「もう!真面目にやってよね!…ヤストラ、やっぱりこの兜に…」

 

「……いや、これでいい」

 

 

瞬間場の空気が止まった。

 

 

「えっ?……いやいやそんな邪悪な髑髏みたいな仮面のどこがいいのよ⁉︎」

 

珍しく少し微笑んでいる茶渡を見てイリヤスフィールは酷く狼狽する。

 

「これで良いんだ、いや、俺はこれを使わせてもらう!」

 

 

そう言って佐渡は仮面を顔に押し当てる。サイズぴったりに収まったその姿でイリヤスフィール達を見つめる。

 

 

「どうだ、似合うか?」

 

 

褐色の大男はその双眸を白い骸の仮面に納めていた。異様に数の多い剥き出しの歯は獣性と邪悪の化身であり、その仮面の右半分は紅の紋様が幾重にも走っている。鋭い眼のスリットはまるで生者を嘲笑う悪魔の様にさえ見えた。

 

茶渡泰虎はそんな仮面に一番の親友の面影を見たのだった。また共に戦える、そんな気さえしてしまうほどにこの仮面は良く出来ていた。

 

殺し合いと言われている聖杯戦争。そこに立ち向かう自身を支えてくれる様な気がしたのだった。

 

 

「ヤストラ……」

 

 

イリヤスフィールと目が合う。彼女は仕方こちらを見つめながら口を開いた。

 

 

 

「怖い!!!」

 

 

 

その後一悶着起こしながらも茶渡泰虎は希望通りの仮面で礼装を作る事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冬木

中々戦わないですね、この話


聖杯戦争決戦の地 冬木市

 

山と海に囲まれたこの地はその名前に反して極端な寒気が訪れる事は少なく快適な気候から地方都市として発展してきた。

 

古い家屋を多く残し大邸宅が数多く建ち並ぶ“深山町”、反対に成長発展著しく高層ビルが次々と建つ“新都”の2つから成るこの市を遠方の小高い丘から眺める2つの影があった。

 

一通りの訓練を終え、アインツベルン陣営は拠点を冬木の地に移した。共は最低限、遊びに来たわけでは無い。信頼の置けるセラ、リーゼリットの二人程度をメンバーにやって来たのだった。

 

 

「どう?ヤストラ、あなたの知る日本と差異はあるかしら?」

 

 

傍の小さな影が茶渡に問う。視線を落とせば防寒服をしっかり着込んだイリヤスフィールが目に入った。セラが気合を入れてコーディネートした為非常に愛らしい人形の様な佇まいがそこにはあった。

 

 

「無いな、冬木市自体は分からないが、建ち並ぶ建造物、文化、目に入る動植物に関しては何の違いも無かった。……ここまで来ると本当に俺は何処からやってきたのか更に謎が深まってくる」

 

 

溜息をつきながら茶渡は腕を組む。ゴツめの黒いレザージャケットがガサゴソと音を立てる。対する茶渡泰虎の様相ははっきりと言ってギャングに近い。褐色のゴツい男が分厚い皮のジャケットを羽織っただけで威圧感がとんでもない。此方はリズの強烈な推しに負けてしまった結果だ。終始真顔ではあったがどことなく満足そうな雰囲気に茶渡が折れてしまったのだった。…似合っているかどうかで言えばこの上なく似合っているのも原因ではある。

 

 

「私達の人類史に限りなく近い並行世界、でも“死神”や“虚”と言った独自の神秘を持つ以上“根本が異なる”。専門分野ではないけれど面白いわ」

 

 

薄く笑みをこぼし、白い吐息が漏れる。そしてその息が空に溶けるより先にイリヤスフィールはクルリと背を向ける。

 

 

「行きましょう、未だ全てのサーヴァントが揃わないと言っても戦いは待ってはくれないわ。こうして呑気に歩き回るのはこれが最後だと思いなさい」

 

冬木に赴く際、茶渡泰虎はイリヤスフィールに事前の冬木市の探索を申し出た。霊体化できないサーヴァントを連れて歩くのは目立つ事この上ないが茶渡の心境を汲んだイリヤスフィールはそれを承諾したのだった。

 

しかしそれでも往来の多い市街地ではなく人影少ない郊外を歩いているのは二人の外見のギャップが激しいのをセラに咎められた為だった。なんせ優れた容姿のイリヤスフィールと巨躯の茶渡の組み合わせでは嫌が応にも目立ってしまう。

 

「そうだな、これ以上探し回っても何かを得られる訳ではなさそうだ。……聖杯戦争、か。こんな平和な街で苛烈な殺し合いが行われているなど誰が信じるのか…」

 

「あら、今更ナーバスになってどうするのよ?…神秘は秘匿されるもの、“何が起ころうとも”無辜の民が真実を知る事は無いわ。全て教会によって隠蔽される……“真実は闇にいまし、全て世は事もなし”知らなくていい事なんて沢山あるのよ、この世界は」

 

残酷な世界だ、と茶渡泰虎は心の中で溜息をつく。しかしこれがこの世界の在り方であると言う以上、部外者である彼は口には出さない。無論彼の中の正義感が異議を唱えている。だがその闘争が無意味である事など火を見るより明らかだった。昔であれば容赦なく暴れたかもしれない、しかし今の彼はある種の妥協が心の中に芽生えていた。

 

大人になるというのはこういう事なのだと心の中で言い聞かせた。この世界に留まった理由はもっと目先の問題なのだから。

 

 

「そういうものなのか、この世界は…」

 

思わず口にしてしまった言葉に茶渡は慌ててイリヤスフィールを見る。彼女は少し恥ずかしそうな笑顔をこちらに向けていた。

 

 

 

 

「イリ……ヤ…⁉︎」

 

 

しかし声をかけることを中断し、茶渡泰虎は新都の方向に素早く睨みを利かせた。

 

 

(何か来る!気を付けろ‼︎)

 

「………‼︎」

 

 

念話により注意を促す。不可思議な霊圧…魔力の起こりを感じ取った茶渡はイリヤを背にして壁の様に立ち塞がった。

 

訓練においても感じたことのない重厚なプレッシャー。明らかに人ではない。…近いものでいえば死神…その中でも隊長格に位置する者に近いだろうと認識した。

 

 

(…私の魔力探索には引っかかってないわ、あなたの感知力は桁違いね!)

 

 

戦いに備え対魔術に関する訓練の際、茶渡泰虎は自身の特異な感知能力を発見していた。魔術の行使、即ち魔力が発生するあらゆる場面においてその察知能力がずば抜けて高い事を発見したのだっだ。

 

正確に言えば魔力を回す際に発生する霊圧は“茶渡泰虎の独自の知覚”であるという事だった。

 

 

『目に見えないものは、感じることのできないものは存在しないのと等しい』

 

 

霊能力という魔術世界において“超能力”に分類される様な力を持つ茶渡泰虎は独自の視点で世界を見つめ、それが他者から理解を得る事は無い。

 

霊長の長たる英霊が揃い踏みするこの戦場において唯一のアドバンテージといっても良い発見だった。

 

概念そのものが存在しない以上その分野においては必然疎かとなる。

彼のいた世界では強い霊力を持つ者はその力を隠す術を習得する。しかしこの世界においてそれは無い。ならばその者の気配、殺気は手に取るように理解出来た。

 

 

…そして今感じる霊圧は世界で感じた何者よりも強い。コレが、サーヴァント。茶渡泰虎と同等、いや、それ以上の実力者の気配だと認識した。

 

 

(直接姿が見えないという事は隠密の技や術に長けた者、…アサシンかキャスターかしら?)

 

(距離にして1kmもない…この速度ならばすぐにでもこの場にやってくる‼︎)

 

 

茶渡はジャケットの裏から素早く仮面を取り出し、被る。対魔力を持たない茶渡が敵に呪術的攻撃を受けない為に渡された一種の魔術礼装だ。仮面のデザインは茶渡の意向で骸を模した形をしている。白の地で左半分に赤い紋様が刻まれてた。

 

(淀みなく此方に向かってくる。…まだ此方側の動きには気づいていない様だ。なら……!)

 

茶渡は少し朽ちかけた木製の電柱に手を伸ばす。視線は決して晒さず、手の感覚のみで強く握り込む。

 

 

「おおおおおおっっ!!!」

 

 

雄叫びと共に電柱がミシミシと音を立ててへし折れる。まるで割り箸が曲がるかの如く、その腕力で支柱から切り離すと風を切る様に振り回し始めた。

 

(イリヤ!離れていろ‼︎まずはこれで牽制する‼︎)

 

 

敵の素性は未だ分からない。だが、わざわざ接近を許すつもりはない。辛うじて霊圧が居場所を教えてくれる。ならば今はがむしゃらに振り回して注意を晒すのも戦術だろう。

 

“バーサーカー”という非理性的な行動に対する“当たり前の理由”を隠れ蓑に敵を炙り出す事を目標に据えた。

 

 

 

突如、視線の先に居たはずの霊圧が背後から解き放たれた。

 

 

 

「へぇ…、狂戦士しちゃエラく察しがいいじゃねーか。まさか俺の“ルーン”がこんなにも容易く見破ら……おぶぅうううう!?!?!!?」

 

「……む、あたったか?」

 

 

反射的に振り抜いた電柱は確かな手応えを茶渡に与え、青いナニカがブロック塀に突っ込んで行くのを視線の先に認めた。

 

 

「…え、だれ⁉︎」

 

 

あまりにも突然の出来事にイリヤスフィールは素っ頓狂な声を上げる。

 

 

「「………」」

 

 

ガラガラと崩れるコンクリートの山を二人はただ呆然と見つめるしかなかった。

 

 

“オモシれぇ‼︎まさか俺が不意打ちを食らうとはねぇ!!!”

 

 

瓦礫の山が弾け飛び、中から音速の如く“青”が飛び出した。

 

 

「…チッ!」

 

瞬きの内に紅い刃が茶渡の眼前へと迫る。辛うじて反応した茶渡は電柱を手放し、その巨体に似つかわしくない柔軟な身のこなしで紙一重に避け切った。

 

交差する瞬間、獣の如く歯をむき出しにして笑う男の姿が瞳に焼き付いた。

 

反射的に体を捻りカウンターを打ち込むべく構えたが、敵は既にその全身を全て視界に収められる距離にまで離れ立っていた。

 

 

「反応は上々、スピードを補って余りある反射速度だ。見るからにパワー型だと見ていたんだが…これがなかなかぁ……“色々と”定型から外れてるじゃねーか、なあ?…お前、本当に狂戦士(バーサーカー)か?」

 

 

「………!」

 

 

洗練された青い戦闘服、携えるは怪しく輝く朱色の魔槍。獣性を醸すオーラを纏った偉丈夫が闇の中で立ちはだかった。

 

茶渡は青い男との射線を切る様にイリヤスフィールの前に立つ。

 

「……気を付けてバーサーカー。あの敏捷性、技量、何よりあの得物からして三騎士の一角、槍兵(ランサー)で確定ね。…まさか魔術まで使えるとは思わなかったけど…」

 

いつのまにか呼び方が変わっている、彼女もまたスイッチが入っていた。

 

キッとランサーを睨み付けるイリヤスフィールだったが当の本人はそれを無視する様に茶渡へと視線を向ける。

 

 

「ご名答様。俺こそが今宵の聖杯戦争にて召喚に応じたサーヴァント、クラスは槍兵(ランサー)。真名を知りたきゃ…分かるよな?」

 

 

槍先を茶渡の顔に向ける。距離が離れているというのに其の刃は今にも彼の心臓を穿つ様な迫力を纏っていた。

 

「…………」

 

「今更黙った処でバレバレだぜ?お前、バーサーカーにしてはえらく理性的じゃねーか。ホラ、得物を出せよ。話さねーってんなら後は武を競うだけだ。違うか?」

 

茶渡は少しだけ視線を外し、イリヤスフィールを伺う。アイコンタクトを受けた彼女は決意を固めた様に目を見開いた。

 

 

「…バーサーカー、安心しなさい。貴方は私のサーヴァント、それが負けるはず無いじゃない!私達の初戦、華々しく白星を挙げるわよ!……やっちゃえ!バーサーカー‼︎」

 

 

それを合図に茶渡泰虎は霊圧を解き放つ。サーヴァントとして強化された彼の霊力は大気を揺らし、風を巻き起こす。

 

 

無言で突き出した右腕が光を纏い、其の中から漆黒の鎧を纏った腕が解き放たれた。その肩からは白く眩い霊子が噴出し、その輝きは天を穿つ様に登り詰める。

 

「なんだ、こりゃ…魔力じゃねぇな。…だがとやかく考えるよりは一発当たりゃなんか分かんだろ!さっきは貰っちまったが次はこっちの番だ‼︎」

 

予備動作無しの瞬間的加速により先程以上スピードでランサーが突撃する。それはまるで青い流星。音を置き去りにするかの如く疾走が茶渡へと迫る。

 

 

「…悪いが負けてやるつもりは一切ない!」

 

 

膨大な霊子を纏った拳をその洗礼されたフォームで振り抜く。小規模の嵐と変わらない暴風を纏った閃光が打ち出された。

 

 

ランサーが突き出した紅い槍と霊子の大塊がぶつかり合う。常人ではあり得ない力の衝突が余波を生み、辺り一帯を光が包む。

 

 

茶渡泰虎が歴史に刻まれた英雄達と矛を交える戦いがここに切って落とされた。

 

 

 

 

 

 




プロットが変に消えてしまったので次回はチョットかかりそうです。御免なさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶死の魔槍

今年もよろしくお願いします。筆は遅いですが頑張っていきます。


ガギィン‼︎ ゴガン‼︎

 

まるで重い金属同士がぶつかり合う様な鈍い暗闇に木霊する。突風が草木をざわめかせ、衝撃が地面を揺らし続ける。天変地異と疑う程のエネルギーの衝突がたった二人によって引き起こされているなど誰も考えはしないだろう。

 

…これこそが英霊、霊長の長にして世界に死後召し上がられたるまでに至った強者の実力である。

 

 

「うおりゃァアア‼︎」

 

 

ランサーの低姿勢からの突進。踏み込みは地面の舗装をめくり上がらせ、彼の躯体は音を置き去りに加速を続ける。一歩踏み込む毎に速さを増しながら突き出された魔槍はその破壊力を増していく。

 

 

「ハアアアアッ‼︎」

 

 

茶渡泰虎はその神速の槍撃を最低限の動きで反応し、躱す。決して正面から受けることは出来ないと判断すると右腕のカイトシールドを這わせ槍先が逸れるように角度を変えて応戦する。

 

一撃でも貰えば致命のそれ、襲いかかる紅い牙の蓮撃を集中を切らすこと無く捌いていく。

 

 

「ハッ!面白れぇ‼︎丁寧に弾いてくれるじゃねーか。緩急もフェイントも見てから反応されるとは思わなかったぜ!」

 

 

嬉しそうにどう猛な笑顔を見せるランサー。闘いに快楽を得んと、再び槍を低く据え猛獣の如く構える。

 

「パワー寄りかと思えばなかなかに技巧派だ、俺の間合いでそこまでやり合える奴はお前が初めてだよ。だがなぁ戦士と呼ぶにはいささか覇気ってもんが感じられねえ。さっきの剥き出しの殺気は何処に行ったよ?」

 

 

「………」

 

 

茶渡泰虎は沈黙を貫く。何が元で致命の一撃に成るか分からない。余計な情報を与えるわけにはいかない。

 

 

(…突っかかっても来ねぇか。殆ど狂化されてねーのか?狂ってもなお技のキレを失わないってだけでも驚きだが、奴の場合は“もっと根源的な狂い”だろうな。…技量も理性も失わぬ狂戦士か)

 

 

ランサーが最も本領を発揮するのは敵陣での偵察である。白兵戦での優秀さ、一撃離脱を可能とする生き残る事に特化したスキル群、本気の戦いを望む本人は渋っているが継続戦力としてこれ以上ない程の優秀さを誇っている。

 

藪をつついて敵の手札を知る事において右に出る者がいないと言って良い。

 

 

(つまんねぇ仕事ばかりかと思いきや面白い奴もいるじゃねーか。こうなったら是が非でもその腑、暴かせてもらう!)

 

 

獰猛な笑みと共に全身から闘気が噴き上がる。その姿は猟犬そのもの、血走った目で茶渡と捉える。

 

赤き刃閃が煌めく。砂埃が巻き上がり、それを両断する。最速を誇るランサーの槍の乱舞に対し茶渡泰虎は顔を強張らせながらも落ち着いて対応する。

 

 

「もっと暴れて見せろよ!テメェの本気はこんなもんか⁉︎」

 

 

神速と呼称してよい速度での攻防。素人から見れば何が起こっているのかすら理解出来ず、達人であっても知覚出来ない速度の攻防である事を理解し肝を冷やすだろう。

 

 

「……」

 

 

瞬間、茶渡の動きが止まる。

 

 

「……てめぇ、何のつもりだ‼︎」

 

 

ランサーは距離を取り様子を伺う。茶渡は首を鳴らし溜息をついた。

 

 

「やはり、か。…その台詞はこちらのものだ、ランサー」

 

 

槍先がかすり血の垂れた頬を親指で拭うと冷淡な目をランサーに向ける。

 

 

「………なに?」

 

「お前とて己の願いの為召喚に応じたのだろう?だというのに何故この戦いに時間を費やす。手加減している事が分からないとでも思っているのか?」

 

 

茶渡泰虎は幾度か矛を交える内、ランサーが明らかな手加減をしている事に気が付いた。ランサーの一挙手一投足は既知を超えた力と敏性を誇る。それは“本来ならば”茶渡泰虎の反射速度を持ってしても避けきれないものだろう。

 

 

「単調な行動パターン。敏性の割に搦め手は稚拙、猪突猛進と言ってもいい。槍を使った技にも冴えがない……一体何を企んでいる?」

 

 

茶渡の問いにランサーは少し睨みを効かせるが直ぐに溜息をつき構えを解いた。

 

 

「……ますますバーサーカーとは程遠いな。…悪りぃが“今の俺”は全力で戦う事をマスターから禁止されている。血の沸き立つ様な闘争を求めて召喚に応じたって言うのに殺生な事この上ないぜ」

 

「令呪でサーヴァントの力を制限するなんて貴方のマスターは何を考えているのかしら?」

 

 

イリヤスフィールが小首を傾げる。サーヴァントの自由を奪う力を持つのはマスターの証である令呪だ。だが本来の用途の真逆とも言える使い方を彼女は訝しんでいた。

 

 

「元より勝つつもりが無いのか?」

 

「さぁーな?あんなマスターだが今は俺の主人だ。何でもペラペラと喋ると思ってんのか?」

 

 

挑発する様な笑みを浮かべると片手で“知りたければかかってこいよ”と招き入れる。

 

 

「そうか、ならばこれ以上は問わない。その隙、突かせてもらう‼︎」

 

 

茶渡は霊力を放出する。この一撃で決着をつける為、霊子を右腕に集約させる。先程よりも何倍も高い霊力で叩き潰す事を決めたのだ。

 

しかし茶渡を中心に吹き出す風を受けてランサーの口角は釣り上がる。

 

 

「舐めたこと言ってくれるじゃねーか。いくら“全力”を封じられようと“本気”で戦えない訳じゃ無いんだぜ?……我が絶死の魔槍、受けてみるか‼︎」

 

 

構えた槍に魔力が灯る。それが鋭く対流し槍全体を覆う魔力の様からイリヤスフィールが大声を上げる。

 

 

「バーサーカー!あっちは宝具を発動させるつもりよ‼︎」

 

 

宝具、召喚された英霊が持つ存在証明ともいうべき必殺技。その在り方は英霊それぞれだと言うが、目の前のランサーの宝具は物理的な威力を持つ類であろう。

 

久方ぶりの命を削る戦い。喜びは無く、漠然とした不安が背後から迫る。いい大人になったと言うのにこんな決意すらまだ出来ないのかと己を叱咤する。…気が付けば視線が少しだけ己のマスターに向いている事に気が付いた。

 

 

「バーサーカー!誇りあるアインツベルンがこんな序盤で蹴つまずくなんて許されないわ‼︎さぁ!完璧なる勝利を私に捧げなさい‼︎」

 

 

その視線にイリヤスフィールも気づいたのか茶渡を鼓舞する。幼き躯体から懸命に発せられたエールは不思議と茶渡泰虎に勇気と力を与えた。

 

 

「…了解した。ランサー、悪いがその魔槍が俺に届くことはない。最初に脱落するのはお前だ‼︎」

 

「よく言った、バーサーカー!…その言葉そっくりそのまま返してやるよ‼︎手向けとして受け取れ!!」

 

巨人の(エル)…」

 

刺し穿つ(ゲイ)…」

 

 

両者の体が深く沈む。互いが互いを最大限の力を込めて迎え撃つ。ビリビリと張り詰めた空気が辺り一面に満たされた。

 

しかし、

 

 

「………獲った」

 

 

突如物陰から現れた人影がランサーに襲いかかる。振りかざすのは鈍い銀光を放つハルバード。見た目からして相当な重量を誇るその得物がランサーを袈裟斬りにせんと牙を剥いた。

 

 

「何者だ!」

 

 

完全な強襲にも関わらずランサーは槍を自在に操り、ハルバードを正面から受け止める。ランサーを中心に地面が割れ砕け散る。

 

 

「リズ!やっちゃいなさい‼︎」

 

 

イリヤスフィールの声に応えその力を更に強めるリーズリット。無表情ないつもの顔も今ばかりは強張り眉間にシワがよる。

 

 

「テメェ!謀ったな‼︎」

 

 

咆哮とも言うべき怒号を上げるランサー。ランサーは誇りを尊ぶ戦士である。神聖な決闘に横槍を入れられることを酷く嫌った。

 

 

「そうだ。忘れたか?これは戦争だ、俺たちの願いは勝利の先にある。悪いが真っ向から勝負する気はさらさら無い!」

 

 

勝たなければ意味が無い。聖杯の奥底で“真実”を知った以上、聖杯は必ず手に入れなければならない。己の為にも、イリヤスフィールの為にも。

 

巨人の右腕は振りかざされる。小さな竜巻の様に霊子の渦を纏った剛腕がランサーのガラ空きの腹部に迫った。

 

 

「させるカアアアア!」

 

「………ぐっ⁉︎力、上がった‼︎」

 

 

堰き止めていたハルバードをその腕力で弾き上げる。急激な力にリーズリット弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。更に勢いそのままに茶渡の拳を魔槍で受け止めた。

 

 

「いきなり力が上がった?……!バーサーカー気をつけて‼︎コイツ魔術も使えるわ‼︎」

 

 

ランサーの足元に刻まれた淡く光る古代文字。ルーンと呼ばれるそれは描くだけで魔術的効力を発揮する。今刻まれたルーン文字は筋力を上昇させる物。茶渡の腕力でのアドバンテージはかき消されてしまった。

 

 

「「ぐ、おおおおお!!」」

 

 

少しでも力を抜けば直ぐに決着が付くであろう力のぶつかり合いは拮抗という形で両者をその場で釘付けにした。

 

両者の足元が陥没する。力の波動が大気を唸らせる。目線を晒さず、至近距離のにらみ合いが続く。

 

 

しかし、瞬間、茶渡は笑みを浮かべた。

 

 

「てめぇ、何を企んでやがる!」

 

「終わりだランサー、まさか初戦で切り札を切らされるとは思わなかった。俺の全力がどこまで通じるか試させて貰う!」

 

 

霊力の上昇、他の者からすれば不気味な魔力が膨れ上がる。しかしそれが集結するのは右手ではなかった。

 

 

「左腕⁉︎今の今まで隠してやがったのか‼︎」

 

悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)

 

 

白を基調とした左腕は右腕と異なり盾は無く、スマートなフォルムをしている。

 

 

「なんだ、そりゃ…」

 

 

しかし吐き出す魔力は右腕を遥かに上回る。ただ鋭く、高密度に集積した霊力は右腕とは明らかに質が異なっていた。

 

 

「その腕…そっちが本命だったて訳か‼︎」

 

 

今までの右腕は守りの力、今牙を剥かんとする左腕が本来の攻撃の役割を果たしていることを理解したランサーは戦慄する。

 

今までの戦いにおいて手加減を強いられていたとはいえ、バーサーカーの実力は脅威を感じるものではなかった。

 

不可思議な魔力とバーサーカーの割に理性を残し場を弁えた判断が可能という点は面白かったがそれ以上の評価には値しなかった。少なくとも制限が無ければ負ける事は無いだろう、その程度の存在だった。

 

 

(だが、あれはマズイ!ありゃもっと根源に近いもんだ。触れたら並大抵の神秘じゃ消し飛ばされる‼︎)

 

 

近付いて理解した不可思議な魔力の起源。魔力回路を介さない純然たる生命力の塊。それは現代では失われた神代の神秘。己の生きた時代であっても上位に位置する奇跡であると理解できたからだ。

 

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 

ランサーは一転して離脱に方針を変える。【仕切り直し】はランサーをどんな逆境からの逃走を可能とする。バーサーカーの左腕の直撃だけは避けなければならないと直感で判断したのだった。

 

 

「させないわ!!」

 

 

イリヤスフィールの針金がランサーの足に絡みつき地面に縫い付ける。普段であれば何の抵抗もなく払い除けられる代物であっただろう。しかしこの状況では少しの間さえ稼げれば問題はない。

 

 

魔人の一撃(ラ・ムエルテ)‼︎」

 

「てめぇええええ!!!」

 

 

空間が歪曲する。雷光に似た霊力を放ちながら茶渡の拳はランサーの鳩尾に食い込む。音を置き去りにランサーの躯体は暗い夜空に紙のように吹き飛ばされる。ランサーが叩き付けられた家々は砂の様に砕け散る。しかし一向に減速する事なく次々と土煙を上げながら遠く彼方へと突き抜けていった。

 

 

「ヤストラー‼︎」

 

イリヤスフィールが走ってやってくる。小さな体が茶渡の身体に突撃する。

 

「勝った!勝ったわ‼︎この調子でどんどん倒していきましょう‼︎」

 

 

鈴のような声が響く。しかし当の本人はその姿をとらえる事なく、ただジッと土煙の先を見つめていた。

 

 

「……悪いがしぶとさには定評があってな」

 

 

立ち上る煙の中からランサーが不敵な笑みを浮かべながらヨロヨロと現れた。

 

全身がズタズタに傷つき、常人ならば出血だけでもすぐ様倒れてしまいそうな程だ。

 

 

「う…そ、アレはヤストラの全力全霊の一撃だったはずよ⁉︎何で貴方が立ってられるのよ!」

 

青ざめた顔は目の前のものが信じられないと首を振る。絶対の自信を持っていた一撃を生き延びた存在を認めたくはなかったのだった。

 

「間際に魔術を使われたようだ。予め用意していたんだろうな」

 

「……チッ、これでもAランク宝具を防ぎきる程度の強度は準備していたんだがね」

 

息を切らしながら使い捨てた石を投げ捨てる。その石にはルーンが刻まれていた。

 

「だけど貴方はもう立っているだけでも限界のはず!ヤ、…バーサーカー!トドメを刺しなさい‼︎」

 

「………」

 

 

しかしイリヤスフィールの号令に茶渡は答えない。立ち尽くしたまま動こうとはしなかった。

 

 

「どうしたのバーサーカー!……⁉︎その腕!」

 

 

先程必殺を放った左腕、茶渡の巨体でイリヤスフィールから隠されていたその腕は痛々しい切り裂き傷と共に鮮血に染まっていた。

 

 

「へへ、悪りぃな。思わず“全力”を出しちまったぜ。……ゴホッ!」

 

 

血を吐きながらランサーは槍を杖代わりに必死に立ち続ける。ガタガタと膝が震えながらも今にも倒れそうな己を支える。

 

「霊基を、歪める覚悟でやったってのに、このザマとは情け無ねぇ」

 

 

令呪により拘束に抗う事がどれほど危険な事か、そのリスクを負ってもなお直撃を避ける事にした決断力と覚悟に目の前の男がどれほどの修羅場を掻い潜って来たのかを見せつけられたような気がした。

 

 

「だけどまだ“右腕”が残っているわ!バーサーカー決めなさい!」

 

 

茶渡は無言で相槌を打つと右腕だけで構える。潤沢な魔力を持つイリヤスフィールをマスターとしていようとも宝具を放った直後では茶渡自身の体には殆ど魔力が残っていなかった。立っているだけでも辛い状況だがこのちゃんを逃すわけにはいかない。

 

ユックリと、しかし確実な歩みでランサーに近づく。ランサーは構えようとするが彼にはもうアクションを起こすだけの余力は残っていなかった。

 

 

 

 

“戻ってこい、ランサー”

 

 

「…気が効くじゃねぇか。あばよ、次は全力で獲りに行かせて貰う」

 

 

そんな言葉を最後にランサーの姿は闇に溶けていった。

 

 

「…逃げたか、チャンスだったんだかな」

 

 

静かにだがくやしさを醸す言葉が漏れた。

 

 

「残念だけど令呪を使わせただけでも価値はあったわ。これでランサーのマスターの残り令呪は一画、慎重にならざるを得ない筈よ」

 

 

全ての令呪を使い果たせばその者はマスター権限を失う。切り札温存、ランサーの回復に時間を取られるだろう。

 

 

「帰りましょう。悪いけどそこで伸びてるリズを起こしてくれる?祝勝会とは行かないけれどセラが料理を用意してくれてるわ。…次の戦いに備えて英気を養いましょう」

 

「ああ、次こそ勝ってみせるさ」

 

 

バーサーカー陣営、アインツベルンは初戦を切り抜けた。この戦いはまだまだ始まったばかりである事を二人は胸に刻みながら帰路につくのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冬木の亡霊

またしても大遅刻。…言い訳しません。テストで忙しかったとかバイトが大変だったとかバイオの新作をやり込んでいたとかそんな理由です。


「早く呼び出さないと死んじゃうよ、おにーちゃん」

 

「……えっ」

 

 

少年はその言葉に思わず振り返る。鈴のような幼い声、しかしそこには尋常ならざる殺意が込められていた。

 

しかし振り返れどその少女の姿は見当たらない。夜の闇と住宅地を照らす街灯の灯りが遠くまで続くだけであった。

 

 

「……疲れてるのかな、俺」

 

 

“衛宮士郎”は、そう自分に言い聞かせると今の出来事を記憶の端に追いやり、再び日常へと歩みを進めるのだった。

 

この時の彼はまだ、聖杯戦争という言葉すら知りはしないのである。

 

 

「あれが件の少年か?」

 

「そうよ、そしてあの子が最後のマスターになるでしょうね」

 

 

寒空の下、仮面の下から衛宮士郎を目で追う。特別何か力を感じるわけではない。魔術師と同様の奇妙な霊圧を僅かに感じるが、ホムンクルスの様な既に完成した魔術師と比べるとまだまだ稚拙である様に思えた。

 

 

「それはマスターのカンか?俺にはあの少年に特別何かがある様には思えないのだが…」

 

「あるわ、あれは曲がりなりにもキリツグの子。それだけであの子は私の前に立ちはだかる事は必至よ。……その時は容赦なく蹴散らしなさい」

 

 

プレッシャーを感じる程の張り付いた笑顔。日頃の無邪気な様子は一切ない。これが自らの父、衛宮切嗣とその家族に対する感情の具現であることを理解した。

 

 

「…そうか、マスターの意向には従おう。あの少年がこの戦争を自らの足で進むと言うならば全霊で迎え撃つさ。……ところで今日はどうするんだ?挨拶のためだけにわざわざ出向いた訳か?」

 

 

「今日は新都の辺りを回りましょう。廃工場とか多いし、戦うのに適した場所は幾らでもあるわ」

 

 

特に計画性はないらしい。襲われたなら迎え撃つだけという強者の風格はやはり自己に対する絶対の自信からであろう。茶渡泰虎を信じているというならば光栄この上ないのだが…。

 

 

「まいったな…」

 

 

絶大の信頼を寄せられているならば、この大柄の躯体が見せかけでは無い事を証明しなければならない。前回の戦いはほとんど勝ち星を挙げられなかった。天上に浮かぶ満月を捉えながら軽い自戒に浸っていた。

 

霊長の臨界に立つ者達、英霊と呼ばれた一騎当千の強者との戦いに際して己は何処まで食らいつく事が出来るのか。…ランサーは明らかに手を抜いていた。手の内もバレている以上次は無いかもしれない。

 

 

「…何か武器がいる。張り合う為のなにかが…」

 

 

武具でも戦術でも何でも良い、幸いこの拳はサーヴァントに効く。ならば答えまでの道程を支える屋台骨があればいい。ただこの拳を届かせる手段を…

 

 

「なに……あれ…」

 

 

自分の世界から呼び戻したのは他ならぬイリヤスフィールの声であった。見れば珍しく少女は固まり唖然としている。

 

 

「……む、どうした」

 

 

ゆっくりと彼女が指差す先を見る。街灯があるとはいえ暗い道の先に嫌に()()()()()()()()()()()はいた。

 

 

「子供?なんでこんな真夜中に?……でもあれって…」

 

「………なるほど、こちらに来て初めて見るな」

 

 

暗闇ではしゃぐ子供たち、数にして20人弱。皆小学生と思われる程に幼い。しかし、問題はこの夜中に子供が集団で遊んでいる事でも、騒いでいるというのに誰も大人が駆けつけないことでも無い。

 

 

「イリヤ、あの子達は霊だ。死して現世を彷徨う成仏出来ない死者達だ」

 

「私の知ってる霊とは違う…。低級霊はもっと曖昧ではっきりとした姿なんて持たないわ…。しかもあの姿って……ウッ⁉︎」

 

 

吐き気を覚えたイリヤは思わず口を押さえる。残虐な場面を多く見たであろう彼女でさえ震える惨状がそこにはあった。

 

元気よくはしゃぐ子供たち。しかし彼らの全てが()()()()()()()()()()()()()()()()

 

死者は時折、その死の原因となった傷を抱えたまま霊になるという。車に跳ねられた子供が血を流したまま事故現場に立ってたという話を親友の黒崎一護が話していた。

 

しかしあれらは決して事故とは思えない悍ましいものであった。

 

ある者は人為的に腹部を切り裂かれ内蔵を肌に縫い付けられている。ある者は全身に釘でも刺されたのだろうか血だるまとしか形容できない。ある者は頭部を斜めに切断され、自身の背中に貼り付けられたりしている。

 

もはや人と形容する事も憚れるような邪悪で異形な子供達がそこに居た。

 

悪趣味な絵画が動き出したと言われた方がどれほど納得がいっただろうか。

 

 

「…道楽として殺されたのだろうか。死後の魂魄に刻みつけられる程の陰惨な悪事を平然と行う者がいるということか…」

 

 

怒りよりも先にそんな事を平然と行える人間がいる事に絶望した。人の悪意という物には一通り触れてきたつもりだった。しかしそれはほんの上澄みであった。

 

(…嫌な奴を思い出す。だが奴よりもさらに悍ましい)

 

初めて戦った悪霊のことを思い出す。母を殺し、その息子を誑かし小鳥に魂を封じ込めて弄んだあの強盗よりも今の惨状を生み出した者を恐ろしいと感じてしまった。

 

 

「…あり得ないわ、なり得ない。こんなの殺すどころか死の間際まで弄ぶことに快楽を覚えた変態の所業よ!…ねぇ、ヤストラ?貴方にはこんなものがいつも見えていたの?」

 

 

サーヴァントとの契約は時折変わった形でマスターとの繋がりを発揮する。ポピュラーなものではそのサーヴァントの在り方を夢で見るのだとか。

 

…イリヤの場合は茶渡泰虎の持つ霊視の力を共有してしまったらしい。

 

 

「こんな事は殆ど無い。俺だってこんなものを見るのは初めてだ。……ああ、初めてだとも。人はここまで残酷になれるものなのか」

 

「…貴方なら、あの子達に、何かあげられないのかしら?」

 

 

気高い少女は吐き気を抑えながら問う。積極的に人助けをする様な彼女では無い。冷酷な魔術師として自覚ある彼女でさえ戸惑う程の邪悪がそこにあるというだけの話だ。

 

 

「………済まない」

 

 

死神の力があればもしかしたら救えたのかもしれない。イリヤ曰く凡百な魂は時間と共に崩壊し思念体が残ると言うが、それはイリヤの知る霊の話。

 

あのクッキリと映る、茶渡泰虎の知る霊に近いあの子供達が同じ過程を進むのかどうかは分からない。最悪の場合【虚】という悪霊を生み出してしまうかもしれない。

 

 

「この拳ならば、…終わらせる事は出来る。だが、その前に知らねばならないだろう。何故あの子達だけが見えるのか。小さな異常だが、俺たちに関わる事かも知れない」

 

 

現に今の今まで浮遊霊の一体も見る事はなかった。空座町は霊の集まりやすい土地であった。だが他の土地で霊を見なかったわけでは無い。しかし召喚されたこの世界では全く見えなかった事、彼の知る霊力の概念自体が無いと聞いた時点で、世界の在り方が違うのだと理解したつもりであった。

 

 

「…ふふ、貴方は優しいね。本当は見放さないんでしょ?」

 

 

プッと破顔した彼女はやれやれと流し目でこちらを見つめる。

 

 

「……すまない」

 

「いいわよ、別に。今日は特に予定なんてなかったし。…それにあんな物見た後じゃセラの食事が不味くなるわ」

 

「十分マスターもお人好しだ。本来なら戦争に関係のない出来事に首を突っ込むなんて暇は無いというのに」

 

「ならさっさと終わらせましょう?これで他の陣営の情報でも手に入れば御の字よ」

 

「そうだな」

 

 

決意を固めた二人は子供達に近づく。子供達が襲ってくるとも限らない。茶渡泰虎は無言で巨人の右腕を発動させるとイリヤスフィールの前を歩いた。

 

子供達は無邪気に何をして遊ぼうかなど朗らかな声を出している。それだけを聞けばただ微笑ましい。こちらが見えていると思ってもいないのだろう。

 

もはや声をかけるには十分な距離。少しだけ息を飲むと茶渡泰虎は口を開く。

 

 

「その子供達に手を出すな‼︎」

 

「……!?」

 

 

突然の咆哮に茶渡泰虎は翻りイリヤスフィールを抱え離脱する。瞬間、彼の立っていた場所が衝撃に震えた。

 

 

「魔術⁉︎嘘でしょ、まさかあの子達は罠だったっていうの!?」

 

 

十分な距離を置いてイリヤを解放する。彼女も瞬時に魔術による使い魔を作り出し迎撃の態勢を取った。

 

 

「どうしたの先生!!あの人たちはボクたちがみえるの!?」

 

「彼奴らは敵だ!皆出来るだけ離れていなさい!!」

 

 

子供達が騒ぎながら蜘蛛の子を散らすように距離を取って様子を伺っている。

 

土煙が晴れ、敵の全容が露わとなる。其の者は子供達と違い高い背丈であり特にこれといった容姿に欠損は見られなかった。

 

 

「サーヴァント?いや、この霊圧は……!」

 

「……ついに私たちの姿を捉える者が現れたか。更には神秘を知る者ときた。…不愉快極まりない!私の死後の安息を奪わせはせぬぞ!!」

 

 

ジャラジャラと鎖の音が響く。それは男に巻きついた無数の鎖の音。左腕以外の全身に巻きついたそれはだらしなく地面を擦り音を立てる。隙間から見えるのは血管の浮き上がった頬と睨みつける青い瞳。唯一動く左腕をこちらに向けて指を立てている。脚は大地に付いておらず半透明に宙に浮いていた。

 

乱れた金髪と食いしばる歯から凄まじい敵意を向けられている事は明白だった。

 

 

「…貴方がこの霊達のリーダーかしら。他の個体と違って戦う力があるようだけど。……貴方達何者?」

 

「黙れ!問答の余地など無い!!即刻立ち去らねば貴様らの躯体に風穴をくれてやる!!──吹き荒れろ、(Bowie,)我が魂(mei anima nea)‼︎」

 

 

男の周りに凄まじい速度で風が回転する(スフィア)が現れた。それが四つ。辺りの木の葉を巻き込み刹那のうちに斬り刻む。先程放たれた物と同じであった。

 

 

「へぇ…魔術回路も無しにそこまでやってのけるなんで正直驚きだわ。でもね、魔術師としてその術じゃあ良いとこ二流よ。……超一流の私には傷一つだって付けられやしないんだから」

 

 

イリヤスフィールの周りを飛ぶのは4体の針金で編まれたツバメの形をしたゴーレム。個々が魔力を自動生成し攻撃を行う。自動制御されたこのゴーレムは主人(イリヤスフィール)とは別に攻撃を繰り出す。最も彼女が得意とする技だ。

 

 

「……その傲慢さ、死後の貴様らを呪うがいい!………待て、…その髪、…その瞳、………まさか、…ア、アインツベルン!?ならばそこの男は……サーヴァント!?」

 

 

男は狼狽し、自身の心臓を強く握った。小刻みに震える様はまるでトラウマを思い出しているかのようだ。

 

 

「…ん?聖杯戦争も私達も知っているのかしら?……外界と関わりのない私達にとって知己と呼べる人間なんて殆ど居ないハズだわ」

 

 

アインツベルンは閉ざされた魔導。積極的に外と関わりを持つことなどあり得ない。だが目の前の男はアインツベルンのホムンクルスの特徴を知っていた。ならばアインツベルンが外に出る理由など聖杯戦争以外に限られることも知っているようだ。茶渡泰虎をサーヴァントと見抜いたのはこの辺りであった。

 

 

「………私のプライドを砕き、……私の魔術師の道を断ち、……私の愛する者を殺し、…我が魂を縛り上げてなお!まだ飽き足らぬと!……死後に得たささやかな安息さえも、奪うのか!アインツベルンンンンン!!!」

 

 

男の絶叫と共に突風が吹き荒れる。スフィアが巨大化し、砂を巻き上げ辺りを薙ぎ払う。

 

 

「な、なに⁉︎どうしたのよコイツ!ヤストラ!何か分からないの!?」

 

「…………まさか」

 

 

イリヤスフィールが困惑の目を向けたが茶渡泰虎も呆然と立ち尽くしていた。

 

 

「惨たらしく死ぬがいい!!我が痛み、我が慟哭、この(スフィア)に注ぎ込む!!──削れ(si decalvetur)!!」

 

 

四つの小さな嵐がイリヤスフィールに殺到する。イリヤスフィールは少し手前に魔術で障壁を張りそれらを受け止めようとする。

 

 

「…駄目だイリヤ!それは()()()()()()!!」

 

「…えっ?」

 

 

強固に張られた筈の魔力の壁から音も無く風球が突き抜ける。それは陽炎のように干渉する事なくイリヤの障壁を破り眼前へと迫り来る。

 

 

「危ない!!」

 

 

着弾と共に風の刃が吹き荒れる。地面を切り裂き、コンクリートを剥き出しにする。

 

 

「チョット、もう少し早く動きなさいよ。本気で危なかったじゃないの!」

 

「……すまん。驚きのあまり固まってしまっていた」

 

 

しかしそれは中心地以外の話。大きなカイトシールドに阻まれ茶渡泰虎とイリヤスフィールはほとんど無傷のままであった。

 

 

「……バカ…な。バカなバカなバカなバカな!!何故それを防ぎ切れる⁉︎何故それが魔術でないと知っている⁉︎()()()()()()()()()()!!…ふざけるな!お前は一体何者だ!!!」

 

 

絶叫と共に男は頭を掻き毟る。慟哭とも言うべき叫び声と共に錯乱する。

 

 

「……それは魔術じゃない。魔力ではなく()()()()()()()()、まさかこの世界で鬼道の類を目にする事になるとはな、驚きだ」

 

「キドウ?…なんだ、それは」

 

「この世界には本来存在しない技術の筈だ。それを生み出し、操るお前は余程優れた才能を持った人間だった…いや、魔術師だったのか?」

 

「忌々しいサーヴァント風情が!……だが確証は得た。()()()()()()()()!ならばコレならどうだ!!」

 

 

男の詠唱の後、先程の倍以上の風球が現れる。それはイリヤスフィール達を隙間無く取り囲む。

 

 

「風刃の全方位弾幕だ!貴様の盾であってもコレは防ぎきれまい!!さあ、お前は主人を守れるのかなぁ?」

 

「…貴様」

 

 

男は高らかに笑う。勝利を確信した嘲笑であった。

 

 

「ヤストラ…」

 

 

背中に触れた彼女の手の感覚は僅かに震えていた。

 

「折角だ、殺す者の名を知らぬのも可哀想だ。お前達を殺す悪霊の名を刻んで逝け!ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、…第四次聖杯戦争にてアインツベルンに恥辱の限りを尽くされ死んだ復讐者の名だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分この人設定的にはドラえもん並みに便利ですよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。