この星空の下で (ミハイル)
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この星空の下で

星空。

 

太陽が沈み、月が顔を出す時に現れる美しい夜という名の闇。

その中に小さく光り輝くいくつもの光の粒。

一つ一つだと微細でしかないそれは、百、千と集まり、筆舌に尽くし難い程の夜空を彩る。

 

 

彼女、アナスタシアもそれに魅せられた少女だった。

 

 

広大な宇宙に広がる無限の星々。

暗い夜を照らしてくれる暖かくて優しい光。

 

幼い時、家族と共に天体観測をしたときの事をまるで昨日のことのように覚えている。

北海道にいた時、ロシアにいた時、どちらにいた時も星の光は鮮やかで美しかった。

 

 

昔から星が大好きで、星空に向かって手を伸ばしていたのを時折思い出す。

無邪気だった故か、あの頃は星が欲しくて仕方なかった。

手を伸ばせば届くんじゃないか、あるいはいつか落ちてくるんじゃないかとじっと見つめたこともある。

 

しかし星々は決して手に入らない。

手を伸ばしても届かないし、ボールのように落ちてくるのを拾うことも不可能だ。

何故見えるのに触れられないのか、何故上にあるのに落ちないのか不思議でしょうがなかった。

 

 

そのせいだろうか、いつしか彼女の夢は、あの星々のようになることになっていた。

 

いつも空の上にあって暗い闇を照らす穏やかで優しい光。

あの日見た満天の星のように輝いて、みんなの心を照らしたい。

 

それが子供の頃からの、彼女の密かな夢であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番組の収録を終え、彼女は事務所が保有している女子寮への帰路についていた。

 

 

アイドルとは言え、年少者である彼女が深夜まで働くことはない。

現在の時刻は夜八時ごろ。まだ秋口とは言えこの時間にはもう空は暗くなってしまう。

 

とは言っても収録先のビルから女子寮まではそう遠くはない。

それにここは彼女がいた北海道の街ではなく東京だ。

あたりには店やビル、電灯から電気の明かりが満ち、そう暗いというわけでもなかった。

 

 

ふと、天を仰ぎ空を眺めてみた。

空にあるはずの星々は、全くと言っていいほど目に見えなかった。

 

それもそのはず、都会の街には人工の光が跋扈している。

 

それも彼女が今いるところは田畑が広がる田舎でも星が見える高台でもない。

東京の、それもビルやコンビニが立ち並ぶ非常に現代的な街なのだ。

矮小極まりない星芒を目視するなどほぼほぼ不可能と言って良い。

 

もちろん彼女もそんなことはわかっている。

何も田舎から都会にやってきたばかりの世間知らずというわけでもない。

彼女とて東京の事務所でもう長くアイドルをやっているのだ。

 

それも、彼女は何も無名のアイドルというわけではなかった。

プロダクションでプロデューサーや仲間たちと出会い日々努力した。

その結果アナスタシアはテレビや雑誌で引っ張りだこの人気アイドルになるまで成長していた。

 

 

それでも時々不安に思ってしまう。

私は、かつて目指したあの星々のようになれているのだろうかと。

 

都会の空に星は見えない。

LEDの光と周りの喧騒が、暖かな星彩を遮ってしまう。

自分が放つ光は、果たして人々の心に届いているのだろうか……。

 

 

あまり色々と考えていてもしょうがない。

そう思い立ち、おもむろに上げていた首をおろし、再び歩き始めた。

 

 

 

それでも、まるで連鎖するように寂しさが増していく。

なんだか夜の闇が自分を覆い尽くしてしまいそうで、少し怖かった。

 

 

 

 

最後に星空を見たのはいつだっただろう。

 

北海道にいる父母は、ロシアにいる祖父母は元気にしているだろうか。

 

久しぶりに家族に会いたい。北海道に、ロシアに帰りたい。

 

 

 

 

 

無機質な街は機械の光で照らされとても明るい。

しかし彼女の心には、照らしきれない暗い靄がかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がりの事務所。

アナスタシアは彼女のプロデューサーと仕事の打ち合わせをしていた。

 

「それで、今日は四時から雑誌の撮影だな、時間が近づいたら車で移動するからよろしく。明日は……」

 

メモ帳をパラパラとめくりながら彼はアナスタシアに業務連絡をしていく。

アイドルのスケジュール管理もプロデューサーの仕事のうちだ。

アナスタシアもスマートフォンのメモ帳アプリを開いてこまめにメモしていた。

 

しばらくの間数日後までのスケジュールの連絡や仕事の伝達事項を連絡した。

と言っても堅苦しくはない。

基本的にプロデューサーがそういうのは苦手なためおしゃべりを交えながらの気楽なセッションが通例となっていた。

 

「良し、とりあえずこんなもんかな」

 

「ダー。わかりました。ありがとうございます」

 

必要な情報を手渡し彼はメモ帳をパタンと閉じた。

彼の言葉を聞いてアナスタシアもスマホの電源を落としポケットにしまった。

 

「とりあえずまだ少し時間があるから、それまでは休憩だな。ご飯でも食べに行くか」

 

そう誘うと彼女も笑みを浮かべ頷いた。

 

撮影の仕事までまだまだ時間的に余裕があった。

まだ昼食を取っていなかったため空腹だ。とりあえず軽くご飯を食べにいきたかった。

 

「あっそうだ。一つ聞きたいことがあるんだけど良いか?」

 

ふと彼女へ質問しなければならないことを思い出した。

彼女はきょとんとした顔で首を傾げる。

 

「アーニャ、お前今なんかほしいもんあるか?」

 

「欲しいもの……ですか?」

 

「ああ、もうすぐ誕生日だろ?プレゼントを用意したくてな」

 

 

アナスタシアの誕生日は九月十九日だ。

そして今日の日付は九月十二日。ちょうど誕生日の一週間前であった。

 

 

彼女のプロデューサーは適当でいい加減なところもあるが、アイドル達への気遣いは常に怠らなかった。

スケジュール管理や健康状態を気遣うのもそうだが、誕生日には必ずプレゼントを用意するよう心がけていた。

 

しかしプレゼントと言っても、三十路の独身男性に今時の女の子が欲しがる物などわからなかった。

それに彼女たちアイドルは収入を得ているのだから、自分である程度の物ならば買えてしまう。

適当に選択して、もうそれ持ってる、という事態は彼としても避けたいところであった。

 

 

「ん~特にはないですね」

 

「そっか。それなら俺も何か考えとこうかな」

 

しばし悩む素振りを見せたが、彼女は特に欲しいものは無いようだった。

だが答えてから少し経った後、彼女は再び口を開いた。

 

「ただ、プロデューサーにお願いならあります」

 

「お願い?良いぞ、言ってみてくれ」

 

「ズヴェズダ……星を、見に行きたいです。プロデューサーと、ミナミと三人で」

 

「ふむ、なるほどな」

 

彼女はそう答えた。

 

彼女は天体観測が趣味なのはプロデューサーも知っていた。

なにせプロフィールにもそう書いてあるし、そういう番組にも出演したことがある。

というかそういう番組があれば彼が積極的に彼女を出してもらえるようお願いしていた。

 

 

そんな彼女が天体観測に行きたいと願うのは極めて道理にかなっていた。

できれば叶えてやりたいところなのだが……

 

「ちょっと待っててくれ、アーニャちゃんと美波のスケジュールを確認してみるわ」

 

そう言って彼は再びメモ帳を開いた。

 

美波というのは彼女の同僚であり彼が同じく担当しているアイドル、新田美波のことだ。

こちらも人気のアイドルで、公私共にアナスタシアとは非常に仲が良い。

またラブライカというユニットも組んでおり二人での仕事も決して珍しくない。

 

しかし彼女もアナスタシアに勝るとも劣らない程の人気で仕事はいっぱいある。

ひょっとしたら仕事が埋まってしまっているかもしれない。

 

 

そう懸念して新田美波のスケジュールを確認したのだが、悪い予感は的中するものだ。

 

「すまん、美波は大丈夫だがアーニャちゃんは九時まで仕事で、その次の日も朝早いから厳しそうだ」

 

「そうですか……」

 

アナスタシアは見て分かる程度には落ち込んでしまった。

だがやはり仕事に支障が出ることをさせるわけにはいかない。

九時に仕事が終わったとしても、車で移動して帰ってきたら明らかに日付は変わってしまう。

 

 

「わかりました、お仕事ならしょうがないですね?」

 

だがすぐに切り替えたようでこちらに微笑んだ。

 

「プレゼント、楽しみにしてます。でもプロデューサーから貰えるならアーニャはなんでも嬉しいですよ」

 

「そっか、悪いな。楽しみにしといてくれ」

 

そう彼女は笑ってこちらを気遣ってくれた。

だが彼女の笑顔には、どこか寂しさが隠れているような、プロデューサーはそう感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっぱいいアイデアって中々出てこねぇなぁ」

 

後日、昼休みのプロデューサーは会社に設置されている自動販売機の前に立っていた。

慣れた手付きで小銭を入れ、いつも買うブラックコーヒーのボタンを押す。

本当は苦いのは好きではないのだが、午後からの仕事を乗り越えるには効果てきめんだった。

 

「アーニャが喜びそうな誕生日プレゼントってなんだろ」

 

彼がここ数日頭を抱えていたのはこの件についてだ。

 

彼女の誕生日でなくとも、星を見に行くくらいなら美波とアーニャが空いている日に行けばいい。

しかしだからといって誕生日に何も用意しないのは彼の美徳に反していた。

 

見慣れたコーヒー缶を取り出し、プルタブを開けて苦い液体を口に含む。

 

「やっぱ苦いなこれ」

 

大人だと言うのに未だにブラックコーヒーを飲めない自分が少し情けなくなった。

 

とりあえずデスクに戻って仕事に入らなければ。

プレゼントは仕事の合間にでも考えておこう。

そうだ、あとで美波にアドバイスを貰うのも良いかもしれないな。

 

 

そう考えてコーヒー片手にその場を立ち去ろうとしたところ。

 

 

「あっ、プロデューサーさん。お疲れ様です」

 

 

唐突に後ろから聞き覚えのある声をかけられた。

 

「ん?おお美波か。おつかれさん」

 

噂をすればなんとやら、だろうか。

振り返るとそこには新田美波が立っていた。

神を後ろで一つに結んだいつもの姿だ。

 

「あれ?今日はオフじゃなかったか?」

 

「はい、でも大学もないし、せっかくだから自主トレでもしようかなって」

 

「ああそうか、まだ大学生は夏休みなんだっけか。くぅ~羨ましい!」

 

「そうは言ってもアイドルとサークルで結構忙しいですけどね」

 

そんな世間話をしながら彼女も自動販売機にお金を入れていた。

しばし悩んだ末スポーツドリンクを選び手に取る。

 

「やっぱりトレーニングの時はスポドリですよね」

 

そう言ってキャップを捻って飲み口に口付けた。

 

ただペットボトル飲料を飲む、それだけの動作なのに彼女がやると妙に色っぽく見える。

それもただ色っぽいだけではなく健全な色気というべきか。

思わず男性が見とれてしまうような、そんな一シーンだった

 

「スポドリの広告もありだな……」

 

「ん、どうかしましたか?」

 

「いやなんでも」

 

どうやら思っていたことが小声で漏れていたようだ。

美波は不思議そうな顔をしつつもペットボトルを閉めて手持ちのバッグに直した。

 

「そうだ、美波に聞きたいことがあったんだった」

 

「はい、なんですか?」

 

続けて彼はアナスタシアの誕生日プレゼントの件について話した。

 

アナスタシアが美波と自分で天体観測に行きたがっていたこと。

当日はスケジュール的に厳しいこと。

よって他のプレゼントで良いものがないか探していること。

 

「そうですか……アーニャちゃんがそんなことを……」

 

話し終わったあと、彼女はそうつぶやいた。

しばらく考えるような素振りを見せ、彼女は口を開いた。

 

「実は、アーニャちゃんとこの前家族の話をしたんです」

 

「家族?」

 

「はい。アーニャちゃん、アイドルになってから一人で生活してるから家族に会いたいって」

 

「なるほど。確かに十五歳の女の子が一人暮らしじゃ、寂しくなるわな」

 

アイドルになる前、アナスタシアは北海道で生まれロシアで育ち、その後再び北海道で暮らしていた。

プロデューサーは彼女と北海道で出会いスカウトして東京に来てもらっている。

 

しかし家族は北海道のまま、正確には両親は北海道、祖父母はロシアにいたままだ。

つまり彼女は高校生にして既に一人で生活しているのである。

 

もちろん完全に一人暮らしをしているわけではない。

彼女は事務所が保有する女子寮で生活しているし、他のアイドルたちも大勢いる。

食事も分担して作ったり、食堂で食べたりと生活面のサポートに問題は無い。

 

だがそれと、家族に会えない寂しさというのはまた別問題のはずだ。

 

「あとアーニャちゃんはこうも言ってました。家族みんなで星を見たいって」

 

「そうか、そういうことか……」

 

プロデューサーは納得した。

何故彼女が星を見に行きたいと言っていたのか。

 

 

「だから俺達と一緒に行きたかったんだな……」

 

 

きっと彼女は、家族と同じくらい大事な人達と星を見たかったのだろう。

誕生日という大事な日に。家族に会えない寂しさを紛らわせるために。

 

 

「プロデューサーさん、なんとかなりませんか?」

 

「しかしそうは言っても仕事は仕事だからなぁ……。後日予定が空く日には行けるんだが」

 

美波も頭を下げて頼んでくるが、こればっかりはそう簡単には決められない。

もちろんプロデューサーとて行かせたい気持ちは痛いほどわかる。

というより今の話を聞いて心が動かないほど彼も薄情ではなかった。

 

しかし今から仕事をキャンセルするわけにもいかなかった。

下手すれば信用を失って今後の仕事にも響いてしまう。

また夜遅くに仕事終わりの少女を連れ回すのは、健康的にも社会的にもよろしくない。

 

「さて、どうしたもんか……」

 

アナスタシアの事情を知った以上、適当にプレゼントして終わりというのはあまりに酷というものだ。

しかし彼女に見合うだけのプレゼントというものが、プロデューサーにはどうしても思いつかなかった。

 

それは美波も同じようで、目をつぶってじっくりと考えていた。

そのまましばしのときが流れた後、美波が声を上げた。

 

「そうだ、プロデューサーさん。以前テレビで見かけたんですけど」

 

そう言って彼女はスマートフォンをバッグから取り出した。

電源を入れて、何かを指で入力しているようだ。

 

「えっと、そうそうこれ!これなんてどうですか?」

 

そう言って彼女はプロデューサーの隣に立って画面を見せてきた。

開かれていたのは某有名ネットショッピングのアプリだった。

そして画面いっぱいにとある商品が掲載されていた。

 

「これは……なるほど!これだったら良いかもしれないな!」

 

「はい、きっとアーニャちゃんも喜んでくれると思います」

 

「さっすが美波、ありがとう!」

 

「それで、プロデューサーさん。もう一個提案があるんですけど!」

 

そう言って二人はアナスタシアの誕生日の計画を立て始めた。

自動販売機の前で熱く話し合っていたため、周囲から不思議そうな視線を送られていたことに彼らは気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば今日はアナスタシアさんのお誕生日でしたよね?」

 

「ダー、そうですね」

 

「いや~おめでとうございます!」

 

九月十九日。

アナスタシアは仕事でラジオ番組の収録を行っていた。

 

番組は、有名DJのラジオパーソナリティがゲストと一緒に話すというものだ。

今日はゲストでアナスタシアが出演することになっていた。

 

「いや~僕もアナスタシアさんの歌は気に入ってまして。まさか誕生日に来て頂けるなんて光栄です!」

 

「スパスィーバ!ありがとうございます!」

 

「いえいえこちらこそです。新曲のたくさん!もすごく良かったですよ」

 

 

このトークに入る前に、楽曲の紹介ということでラジオ番組らしく彼女の新曲を披露していた。

 

だが彼は律儀な性格で、ゲストアーティストの曲は一通り耳に通しておくのだという。

それで彼女の歌を気に入ったと評価しており、アナスタシアも非常に喜んでいた。

 

 

「そう言えば、アナスタシアさんは誕生日にもう何かされましたか?」

 

「ん~?特にはしてないですね。でも、事務所のみんながプレゼントたくさんくれました」

 

「なるほど!ご家族からお電話とかありませんでした?」

 

 

家族。

その単語を聞いた瞬間、アナスタシアの胸が少しだけうずいた。

忘れていた、いや忘れようとしていた寂しさが顔を覗かせる。

 

「ニェット、ありませんでした」

 

「そうですか。いや~僕なんてもう三十越してるのに、誕生日には未だに実家から電話きますから」

 

まぁ無かったらそれはそれで寂しいですけどね。

 

彼はそう笑いながらそう付け加えた。

 

 

彼女もそれに合わせて笑い返す。

寂しくない、と自分に言い聞かせるように。

苦しくない、と自分を慰めるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、少し涼しくなってきましたね」

 

 

時刻は夜の九時を回ったところ。

ラジオ番組の収録も無事終え、彼女はビルの入口前に立っていた。

 

夏の暑かった時期はどこへやら。

あたりはすっかり暗くなり、薄着だと肌寒く感じる人もいるだろう。

もっとも彼女は北国育ち。これくらいでちょうど涼しいくらいだったが。

 

 

「プロデューサーは……まだ来てないみたいですね」

 

夜遅くなることもあり、プロデューサーが車で迎えに来てくれることになっていた。

女子寮からそう遠くないし歩きで大丈夫と言っているのだが彼も過保護なためそこは譲らなかった。

 

だが彼は時間は必ず守るタイプの人間だ。今日みたいな日は大体五分前には来ていることが多い。

随分と珍しかった。他の仕事が押しているのだろうか。

 

何かメッセージが来ているかもとスマートフォンを確認しようとしたその時。

ちょうどビルの前に黒い車が現れた。間違いない、プロデューサーだ。

そう思って近寄ろうとすると、車から意外な人物が飛び出してきた。

 

 

「アーニャちゃん!お仕事お疲れ様!」

 

「ミナミ?」

 

予想外の出来事にアナスタシアは目を丸くした。

 

「あっ、遅くなったけどお誕生日おめでとう!」

 

そう言って美波はアナスタシアの手を両手で握った。

 

「どうしてミナミがここに?」

 

「実はアーニャちゃんにお誕生日プレゼントを用意してきたの!」

 

そう言うと彼女はプロデューサーの車へとアナスタシアを誘導した。

 

「おうアーニャ。お仕事お疲れ様。ちょっと遅くなってすまんな」

 

「フショー フパリャートゥキェ。大丈夫です、それでプレゼントって?」

 

「それは事務所についてからのお楽しみだな!」

 

「事務所ですか?」

 

「うん、私達二人で用意したの!」

 

いつもどおり彼の車の後部座席に二人で座る。

運転席にはスーツ姿のプロデューサーが腰掛けていた。

 

「星空は今度時間がある時にゆっくりと見に行こうな」

 

そう言って彼は車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ちょっと用意してくるからここで待っててくれ」

 

「すぐ終わるから心配しないでね」

 

そう言って新田美波とプロデューサーは事務所の一室に入っていった。

アナスタシアは部屋の手前で待機しておくよう言われたのである。

 

 

そう言われると入りたくなるのが人の性というものだ。

思わずドアノブに手を伸ばし……やはり手を離した。

好奇心もあったが、二人の邪魔はやはりしたくなかった。

 

しかし当事者を外で待たせるプレゼントとは一体なんだろうか。

普通のプレゼントなら手渡すだけで良いはず。

二人のことだからきっと良いものなのだろうが興味は尽きなかった。

 

色々と思索にふけっていると、ゆっくりとドアが開いた。

ドアを開けたのは新田美波。その奥は電気をつけておらず真っ暗だ。

 

 

「おまたせ!もう入っていいよ!」

 

そう言って彼女は再び手を取って部屋に誘った。

部屋の中は真っ暗で電灯も付いていない。それどころかカーテンすら閉めているようだ。

少々不安定だが、美波が引っ張ってくれるのと慣れた部屋であるため心配ではなかった。

 

 

 

「はい、ここに座ってね」

 

そう言われたので、アナスタシアは部屋のソファーにおもむろに腰掛けた。

その隣に新田美波も座った。力を抜いてふぅと漏らした声が可愛らしい。

 

「それじゃプロデューサーさん。よろしくおねがいします」

 

彼女はソファーの対面に声をかけた。

部屋が暗くてよくわからなかったが、向こう側にプロデューサーが座っているようだ。

何やら球体のようなものがあるようだが詳しくは見て取れなかった。

 

「了解!」

 

そう言うと、彼はソファーの間にあるデスクの上の何かを触った。

こちらも暗くてよく見えないが、どうやらテーブルに何か置いてあるようだ。

 

「それじゃアーニャ、しっかり天井を見とくんだぞ?」

 

「天井……ですか?」

 

不思議だったが、言われるままに首を上に向けた。

 

「よし行くぞ?せーのっ!」

 

彼はそう言った瞬間。

アナスタシアは目を見開いた。

部屋の中に光が広がったのである。

 

ただしそれはいつもの電灯ではなかった。

天井という空には、美しい満天の星が映し出されていた。

 

 

「クラシーヴィ……キレイ……」

 

感嘆の声が思わず漏れてしまう。

 

見慣れた白い天井一面に広がる星空。

何千何万の光の粒が集まり美しい光を彩る。

中央にある天の川などまるで本当の夜空のようだった。

 

「ね、びっくりしたでしょ?やっぱり綺麗だよね」

 

「買ってきたかいがあったな。まさかここまでしっかりしてるとはなぁ」

 

美波とプロデューサーも空を見上げて星々に見入っている。

 

「これ……プラネタリウムですか?」

 

「そうそう、見に行けないなら事務所で見てしまえば良いってな」

 

テーブルの上に置いてあった球体。

 

それはいわゆる家庭用プラネタリウムと呼ばれるものだった。

その名の通り、家でプラネタリウムが楽しめる商品である。

 

 

「美波が提案してくれたんだ。いや~妙案だったなぁ」

 

「ミナミが?」

 

「ほら、アーニャちゃん言ってたでしょ?家族と星を見に行きたいって」

 

「まぁ今日は見に行けなったけど、いつか暇な時に連れてってやるからな」

 

「スパスィーバ、ありがとうございます。でもこのプラネタリウムもとっても綺麗ですね」

 

「どういたしまして、大金はたいて勝ったかいがあったよ」

 

「もう、そんな事言ったらムードが台無しですよ?」

 

「ははは、悪い悪い」

 

「ダー。もしかして、ケイヒ、ですか?」

 

「違う違う!ちゃんとポケットマネー!ポケットマネーだから!」

 

星空を眺めつつもそんな話に花が咲いていた。

いつのまにかすっかりアナスタシアも笑顔になっていた。

 

「ま、アーニャが元気になってくれたなら何よりだ」

 

そう言うと彼はふぅと息を吐いてソファーに寄りかかった。

そのまま再び天井を眺め、人差し指で一点を指し示した。

 

「ほらアーニャ。あの星がアーニャだとするだろ?」

 

「シトー?アーニャは星座じゃないですよ?」

 

「そこはたとえ話ってやつだよ。まぁちょっと聞いてくれ」

 

思わず天然な返しをされてプロデューサーのほうが驚いてしまっていた。

だがゴホンと咳払いして話を続ける。

 

「星は一つ一つだとちっちゃな光だ。寂しく感じるときもあるかもしれない」

 

彼は続けて、その周囲にある星たちを指さした。

 

「でも決して一つじゃない。周りには俺や美波、他のアイドルたちみたいに一緒に輝いてる仲間がいる」

 

プラネタリウムでも夜空でも、星が一つだったら寂しいものだ。

だが周囲に多くの光が集まることで、それは見る者を感動させる星の大海となる。

たとえ雲に隠れても、陽の光で見えなくなっても、確かにそこにあるのだ。

 

「それに家族だって大丈夫だ。ほらこっちの方」

 

今度はアナスタシアの星から随分離れたところを指した。

 

「たとえ近くにいなくても、遠い場所で、空の下で大切な人とは繋がってるもんなんだよ」

 

アナスタシアとその家族。

離れた場所に住んでいてそう簡単には会えないかもしれない。

しかし彼らは皆同じ空の下で暮らしている。決して隔絶されているわけではないのだ。

 

 

「繋がってる……家族と……」

 

「そうだよアーニャちゃん。寂しいかもしれないけどご両親もきっと見ててくれるから」

 

そう優しく美波が彼女に言葉をかけた。

 

 

「スパスィーバ、ミナミ、プロデューサー」

 

 

彼女は溢れ出る感情を抑えきれず、涙を流しそう言った。

 

「スパスィーババリショーエ。本当にありがとうございます」

 

もう彼女の胸に黒いもやもやは残っていなかった。

もちろん寂しい、という感情がないと言ったら嘘になる。

 

しかしそれ以上に、今周りにいる人達と一緒に輝ける事。

それに遠く離れていても家族と繋がっていることが嬉しくて仕方なかった。

 

 

「まぁ今度是非北海道とロシアにも行こうな。その時は立派なアイドルになったって言えるようにな」

 

「ダー。そのためにも、これからももっともっと頑張りたいです」

 

「そうだね。みんなで一緒に、あの星みたいになれるように頑張ろう!」

 

 

三人はそう言って美しい星空を見つめていた。

光り輝く人工の星たちは、まるで彼女たちの行先を明るく照らしてくれているようだった。




こんにちは。ミハイルです。お久しぶりです。
前回の投稿からはや半年。新生活やらグラブルやら色々と忙しくこうなってしまいました。
投稿すると言っていた話も全然書けていません。本当にごめんなさいm(_ _)m

まぁそれはさておき今日9/19はアーニャちゃんの誕生日です!!!

自分には小説を書くくらいしか出来ませんが、少しでもお祝いできたなら幸いです。
いつものように百合全開でも良かったのですが、今回はアーニャちゃんの誕生日ということで彼女にスポットを当てて執筆してみました。楽しんでいただけたでしょうか。

これからもアーニャPの皆さんは担当頑張っていきましょう!
またこの小説を読んでアナスタシアに興味を持っていただけたとあらばそれに勝る喜びはありません。
これからもアナスタシアをよろしくおねがいします!


また私事ではありますが、シンデレラ6thドーム公演、メットライフドーム両日とナゴヤドームday1参戦決定しました!
初のライブで緊張しますがとっても楽しみです!特にメットライフドームday2はラブライカの二人が揃うので非常に楽しみです!

またそれに伴いまして、Twitterの方でアナスタシアP&新田美波Pの打ち上げを企画しております。正直プロデューサーであればどなたでも大歓迎なので是非ご検討ください。
→https://twipla.jp/events/338686

それではまたどこかで出会いましょう!それではダズヴィダーニャ!


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