劇毒を以て毒を殺す。 (シーボーギウム)
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生まれながらの殺人鬼(ナチュラルキラー)

自分で書いててSAN値削られる感じの描写があるから気を付けてくれ!!




タルタロス。

その一室。

 

「はじめまして、古忌 開介(ふるき かいすけ)君」

『…………どちら様?』

「まぁ、どこかの組織の偉い人、とでも思ってくれれば構わない」

『ふーん………で、なんの用?』

 

窓ガラスを隔てた所で、身体中を拘束された黒髪黒目の少年、古忌と、スーツを着こなした中年の男が対峙していた。

少年は、値踏みする様な目で男を見る。

 

「君は今14歳だったね?本来その歳なら、犯罪を犯してもタルタロスに収監される事はない。しかし君は異例の即収監だった」

『まぁ、妥当じゃないすか』

「あぁ、君はそれ程の罪を背負った。だがね、私よりも更に上の立場の人間は、君の戦闘能力に一目置いているんだ」

『はぁ、で、何?』

ここ(・・)を出たくないか?」

『………へぇ』

 

ニタリと、少年は笑う。

男が続ける。

 

「もちろん、条件はある。だがタルタロスを出る事が出来ると思えば軽い物でしか『要するに、そのお偉いさんは俺を()として使いたいと』………察しが良いな…………」

『いいよ、条件次第じゃ駒になってやる』

 

男が条件を告げる。

その日ある怪物が世に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年、古忌は、組織(・・)から与えられた家にいた。

 

「んー、スッキリした」

 

古忌が自室のベッドから起き上がると、残されたベッドには一糸まとわぬ女性が気絶していた。

古忌は女性を見て下卑た笑みを浮かべる。

そのまま女性を放置してシャワーを浴び、再び部屋に戻った所で、

 

「何で放置するのよ!!」

「危な!グーパンはやめろよ!!」

 

毛布で身を隠す涙目の女性が古忌の顔面に向かって右ストレートを放つ。

すんでの所で避ける古忌だが、女性が何度も拳を放ってきたためにやがて腹部にクリーンヒットした。

 

「く、おおぉぉ!!」

「ふん!自業自得よ!!」

 

女性はそのままシャワー室に向かう。

するとリビングにいた少女が笑いながら少年に話しかけた。

 

「あっはは、またやったの古ちゃん」

「うーん、結構痛いし、次からは面白がって放置すんのはやめとくか」

「前もそう言ってたよね?」

「あ、バレた?」

 

どうやら、先程まで苦しんでいたのは演技らしく、少女に声をかけられてからケロッとした様子になった古忌は、ソファに座る少女の隣に座った。

反省したような様子は無く、その表情は楽しげだ。

 

「ツーちゃんも懲りないねぇ、古ちゃんみたいなクズの何が良いのやら………」

「単純にテクだろ」

「あー、ツーちゃん性欲大魔神だか「聞こえてるっつーの!!」あいたっ!!」

 

シャワーを終えて出てきたのであろう女性、月菜は好き勝手言いまくる少女、稲山 (いなやま)つたえの脳天に拳を落とす。

ついでで古忌にも放ったが軽々と避けていた。

それが更に月菜を怒らせたようだ。

月菜は隣に稲山がいる事も忘れて声を張り上げる。

 

「ねぇ!開介!!何でいつもいつもシた後に放置すんのよ!!?やめてって言ってるじゃない!!」

「ごっめーん☆」

「あ、んたねぇ………!!!」

 

古忌はふざけた様子を崩さず、恐らく世界一心の籠っていない謝罪を述べた。

月菜は怒りのあまりに震えている。

 

「これ以上ふざけるなら養ってあげないわよ」

「この家の収入ほぼ俺なんだけど?」

「ご、ご飯作ったげないわよ」

「デリバリーって便利だよねぇ」

「よ、夜の相手」

「適当にそこらから女の子引っか「うわぁぁぁ!!」」

 

月菜は泣きながら古忌をポカポカと叩く。

対照的に古忌はケラケラと笑っていた。

この光景はこの家ではかなりの頻度で見られるものだった。

 

「すでないでぇ……!」

「ハイハイ捨てない捨てない」

 

月菜は本来かなり"出来る女"なのだが、古忌の前だとこうなるのだ。

しばらくして、月菜が落ち着いた所で、古忌の携帯に着信が入った。

 

「はい」

『古忌君、私だ。仕事が入った』

「あっそう、じゃいつも通りお願いします」

『了解した』

後始末(・・・)、お願いしますね」

『勿論だ』

 

電話を切り、ポケットにしまう。

古忌の顔には、狂気が張り付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのヒーローにとって、全ては手段、あるいは道具でしかなかった。

そうとしか認識せず、彼女は罪のない人を見捨て、自らの相棒(サイドキック)すら殺めた。

まぁ、それが彼女を苦しめる要因になったのだが、

 

 

 

 

 

 

 

「ゆぶ、じでぇ………」

「いやーお姉さんすんません!別に謝罪が欲しい訳じゃないんすわ!!」

「だら、どぼじで………」

「お姉さんをボコってる理由?仕事兼趣味だよ」

 

古忌は凄惨な笑みを浮かべる。

その()ヒーローは全身がズタボロで、美しかった顔は血と涙と鼻水に塗れ、腫れ上がり、見る影も無かった。

 

「ねー古ちゃん、いつまでその人の足の感覚無くしてればいいの?疲れたよー」

「ん?つたえ、もうちょい待ってくんね?もうちょっとだけ楽しませてくれよ」

「えーやだ!疲れた!やめまーす!帰りまーす!!」

 

 

 

 

「い゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?!?!??!?!」

 

「あぁ、うるせぇなぁ」

 

それに足は無かった。

膝から下が古忌によって切断されていた。

つたえが個性で一時的に遮断されていた痛覚が復活したのだ。

故に激痛。

 

「ゆ゛、ぶじでぇ………!だじゅげ、れぇ…………!」

「うーん、うるせぇし、舌抜くか」

 

古忌は嗤う。

楽しそうに、傍らにあった工具箱からペンチを取り出した。

 

「ひっ!やめ゛っ!やっ!」

「だぁめ☆」

 

「々+・^→<・〆々=!!?!!?!?!」

 

それは声にならない悲鳴を上げる。

古忌はちぎられた舌をペンチで挟んだままプラプラと揺らしている。

 

「やべ、失敗した。うるささ変わんねぇ上に何言ってるかわかんなくなるだけじゃん」

 

言いながら、古忌の顔には三日月の様に引き裂かれた笑みが張り付いたままだ。

数分間、それが苦しむ様子を眺めてから、そばに寄つ。

それには既に悲鳴を上げる気力すら残っていないようだった。

 

「ぅ………ぁ………」

「壊れちゃったかぁ、仕方ない」

 

足を上げ、頭部を一撃で(・・・)踏み砕く。

まるで空き缶を潰すかのように容易く。

そこにあるのは、最早ただの肉塊だった。

古忌は靴に着いた肉を払いながら、自分の下半身に取り付けているアイテムを服越しに見た。

 

「ふむ、しかしつたえの作ったアイテム便利だな。後で御褒美あげようか」

 

血塗れのスーツ姿で、古忌は部屋を出る。

鼻歌交じりの少年は、今日の晩御飯の事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血塗れの古忌がビルから出ると、1台の車が停められていた。

古忌は何事も無かったように車に乗り込み、先に乗っていた男に話しかけた。

 

「報酬は金と、女の子3人で」

「承った」

「それで?いつもは電話なのに何故わざわざ?」

「もう1つ仕事が入った」

「うへーマジかよ………内容は?」

 

説明を聞く中で、古忌は顔を顰める。

彼にとって最も面倒な仕事が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程古忌と別れた稲山つたえは、凄まじい速度で高速道路を爆走していた。

とはいえ、車に乗っている訳ではない。

彼女が作り出したエンジン付きのローラブレードによるものだ。

 

『そこの子止まりなさい!!』

「えーなんでー?」

『危ないだろう!!』

 

彼女を追うのはターボヒーロー インゲニウムだ。

彼はかなり速度を出しているのだが、つたえとの距離は全く縮まっていなかった。

 

「んーたるい」

 

言いながら、つたえは跳躍すると、そのまま高速道路の外へ飛び降りた。

インゲニウムが焦った様子で外を見ると、つたえは何事も無かったかのようにそのまま走り去っていった。

 

『何だったんだあの子………』

 

インゲニウムの疑問は車のエンジン音に呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校。

その会議室にて、ヒーロー達が集まっていた。

ヒーロー達の目線は、ある少年に関しての情報が纏められたスクリーンへと向いている。

 

「彼の名は古忌 開介。2年前の"東京駅前無差別猟奇殺人事件"の犯人さ。ここにいる以上、知らない人はいないね」

 

ネズミのような犬のような曖昧な姿の生物の言葉に、ヒーロー達が頷く。

東京駅前無差別猟奇殺人事件。

死者27名、重傷者53名、軽傷者467名を出した大事件だ。

死者に関しては、顔すら分からぬ程グチャグチャにされた者までいた程だ。

この中には、当時事件の解決に関わった者もいる。

 

「事前に通達した通り、彼がうちに来る事になったのさ」

「質問よろしいでしょうか………?」

 

手を挙げたのは18禁ヒーロー ミッドナイト。

古忌を捕まえるのに一役買ったヒーローでもある。

ネズミが許可すると、ミッドナイトは話し始めた。

 

「未だに、動揺しているのですけど、何故彼が釈放されているんですか………?タルタロスに送られたんじゃ………」

「君の質問は最もだね…………これは、ある組織が関与しているのさ」

「ある組織?」

 

ネズミの口から出た"組織"という言葉に、何人かが反応した。

検討のついていない者は、ネズミへ説明を求める。

 

「その組織は、例えそれが悪だろうと善だろうと、有用なら(・・・・)利用する、というのが方針なのさ」

「有用だからとあの殺人鬼を世に放ったんですか!!?」

「ミッドナイト君、気持ちは分かるが、落ち着こう」

「でもっ………!!」

 

ミッドナイトは知っているのだ、あの場にどれ程の惨状が広がっていたかを。

故にこそ、許せなかった。

ただ有用というだけで釈放されて良い人間ではなかったはずなのだ。

 

「組織の目的は死柄木 弔の殺害。組織が言うには、目的が果たされるまで、彼は雄英に所属する事になるのさ」

 

ヒーロー達の表情が驚愕に染まる。

その目的が、捕縛ではなく、殺害だったからだ。

 

「確かに死柄木弔は犯罪者ですが………流石に殺害は………」

「すまない、私に組織の決定に逆らうだけの力は無いんだ」

「………っ!」

 

ネズミ、根津は、この雄英の校長だ。

当然、相応の権力も持っている。

その校長ですら逆らえないという事実に、ヒーロー達はまたも驚愕した。

 

「だからこそ、せめて取れる対策は取っておきたいのさ」

「具体的に、対策と言うと?」

「彼が生徒達に与えうる悪影響を、如何にして減らすか、が目先の問題さ。生まれながらの殺人鬼(ナチュラルキラー)とまで言われた彼だ。対策しなければ、どんな事態に陥るか分かったものじゃないからね」

 

会議は続く。

その日、ヒーロー達の表情が優れる事は無かった。



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機械仕掛けの少女(プエッラ・エクス・マキナ)

厨二感全開でお送りしております。
用語に関しては次回の話で


 その少女は天才だった。

 ずば抜けた頭脳に、凄まじい発想力。あらゆる物が他とは一線を画す少女は、神童と持て囃された。

 

 少女が狂ったのは、10歳になった時だった。

 

 少女は嬉々として、母親を自分が作ったアイテムの実験と称して惨殺した。それを発見した父親も、ついでにと殺したのだ。

 その後、少女は行方をくらました。

 

 2年後、とある研究所で発見された12歳の少女は、自らが作成したアイテムで、無機質な顔で、孤児らしき子供達が強化ガラスを隔てた部屋で惨殺されていくのを見ていた。

 その時彼女の顔を見た者達は口を揃えてこう言った。

 

 まるで機械のようだ、と。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 カタカタと、照明が消された部屋にキーボードを叩く音が響く。ブルーライトカットの眼鏡をかけたつたえは、自身が作り出したサポートアイテムのプログラミングをしていた。つたえの集中力は凄まじいもので、幾つかの例外を除き彼女の意識をこちらに向けることは出来ない程だ。

 すると、その例外の1つが起こった。

 プルルルルルル、と電子音が彼女の携帯から発せられた。何の変哲もない着信音だが、知り合いの着信音にはお気に入りのアーティストの曲を入れている彼女にとって、それは知り合い以外の存在からの電話という事になる。そして、知り合い以外からの電話は1種類に限られる。

 

「どーもおじさん。お仕事?」

『その通りだ』

「古ちゃんじゃダメなの?私いまプログラミング中なんだけど」

『古忌君では間に合わん。君達がいるのが東京で、今回のターゲットは鹿児島にいる』

「まーたそういうやつかぁ………ねぇ、現地の処刑人(・・・)は何やってんの?」

 

 作業を中断したつたえは、処刑人(自分達の同僚)は何をしているのか、と至極真っ当な質問を男に投げかけた。数瞬して、男が返答した。

 

『例の如く、2年前の事件(・・・・・・)で死んだ者の担当区域だ』

「うへぇ………ねぇおじさん。大概その2年前の事件で死んでない?古ちゃんと私とツーちゃん以外の処刑人って今何人生き残ってんの?」

『悪いが、それは言えない』

「ふーん、言えない程度には少ないってことね」

 

 つたえは処刑人になったばかりの頃、俺が新人だった頃は1つの県に2〜3人はいたぞ、という古忌の言葉を思い出していた。しかしつたえはそれに対する興味をすぐに捨て去った。調べて、知った所でメリットは皆無だからだ。

 

「お仕事の内容は?」

『とある(ヴィラン)集団の掃討だ。(ヴィラン)連合に影響された愚か者、取るに足らない雑魚だよ』

「掃討ね、じゃああれ(・・)が使えそうかな?」

 

 つたえがパソコンのキーボードを叩くと、何かの操作画面に切り替わった。するとコントローラーを傍らから取り出し、その何かの操作を始めた。別の方法でそれを見ていた男はそれの正体を呟いた。

 

『ドローンか』

「うん、輸送用のね。中の兵器が殺害用」

『そうか………まぁいい、ナビゲートはいるか?』

「場所のデータ送ってくれればこっちで片付けるよー」

『了解した。すぐに送ろう』

 

 送られてきたデータをドローンに入力し、その場所へ向けて飛ばす。やがてその真上に到着すると、ドローンに備え付けられていた箱の下部が開いた。しかし、中には何も入っていない。

 

『………どういう事だ?』

「見てれば分かるよー」

 

 つたえはコントローラーを元の場所に仕舞うと、再びキーボードで何かを入力していく。

 すると、

 

『ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!??!!?』

 

 そこにいた者達が、耳障りな悲鳴を上げる。男は困惑した様子でそれを見ていた。なぜなら人間が段々と、何かに削られていっているからだ。困惑する男につたえは得意気に説明を始めた。

 

「対人用超極細型細胞切除装置。簡単に言えばナノマシンだね。まぁ殺人用だから私はナノウイルスなんて呼んでるけどね」

 

 まぁまだ調整しきれてなくて、近くで使うと自分も巻き込まれるんだけど、とつたえは加える。

『ナノマシン……またオーバーテクノロジーな物を………』

「いやーそうでもないよ?私が使ってるのと同レベルの設備さえ渡してあげれば、今の技術レベルなら結構な人数が完成させれると思うけど」

『………本当か?』

「うん」

 

 つたえの言葉に、男は頭を抱えた。捕縛当時、ビルボードチャートにて26位と47位という高順位を誇る2人のヒーローを、まるで紙屑の様に引き裂いた、彼女が女王の玩具(クィンズ・トイ)と称した3つのサポートアイテムがある。詳細は省くが、それ等は個性と言われても不思議でない程の性能を誇る物だった。聞いた限りでは、今回彼女が作り出したナノウイルスですら、強力過ぎる為に組織から使用が禁止されているそれらよりも弱い(・・・・・)のだから笑えない。

 

「後片付けはよろしくねー」

『了解した。それと、もう1つ仕事があるんだが………』

「……切るねー」

『1週間後から雄英n』

 

 ブツッ、と電話を強引に切断する。つたえは切断直前に聞こえた「雄英」という言葉に気分を沈める。

 

「はぁ、何で私まで………てか私まだ14なんだけど………」

 

 仕事だからという理由で回避出来ない面倒事に、つたえは深いため息をつく。ふと携帯を見ると、メールが届いていた。

 

『書類等は後日送る』

「はぁぁぁぁあ……………」

 

 再びため息をついてから、つたえはアイテムのプログラミングを再開する。キーボードを叩く音のペースが、心なしか先程よりも遅かった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 私は、よく夢を見る。夢の中の登場人物は2人だけ、私と古ちゃん、いや古忌開介だ。

 内容は単純、私と彼が初めて会った時の映像だ。2人のヒーローが息絶え、死体となって転がっている研究所から始まる。

 

「んー、お前が稲山つたえかな?」

「………」

「沈黙は肯定。んじゃあまぁ………」

 

 そう、ここまでは良い。ここまでの私は、彼の一挙一動を見逃さないよう集中し、どう殺すのが最適か、最速かを考えていた。その余裕があった(・・・・・・・・)

 彼の次の言葉が、私と彼の圧倒的な実力差をひっくり返したのだ。

 

殺す

 

 これだ。これがダメなのだ。当時の私はこの言葉を彼から贈られた瞬間、原形も残さずグチャグチャになる確かなヴィジョンが見えた、見えてしまった。

 為す術もなく、彼が振るうナイフが私の首に吸い込まれていく様を見る。

 

 豆腐のように首が切断され、私は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?!?」

 

 目を覚ます。私はいつも、殺された時点で目を覚ますのだ。

 

「………気持ち悪い」

 

 私は先程まで見ていた悪夢のせいで汗だくになっていた。シャワーを浴びようとベッドから出てリビングへの扉を開ける。するとそこにはツーちゃんがいた。

 

「おはよう……」

「おはよう、また悪夢?」

「うん……」

「よく正気でいられるわね」

 

 私の悪夢の内容を知るツーちゃんが言う。確かに、普通の人間ならば知り合いに殺される夢を見続けたりすれば、おかしくなっても不思議ではない。私が正気な理由は、一重に、夢の中の彼が古忌開介ではない、という確信があるからだ。

 

「まぁ古ちゃんじゃないって分かってればどうにでもなるよ」

「古ちゃんじゃないって、開介なんでしょ?貴女を殺すの」

「ううん、古ちゃんじゃない。古ちゃんにしては殺され方が呆気なさすぎる(・・・・・・・)から」

「呆気ない?」

「あの古ちゃんだよ?一撃で殺される訳ないじゃん」

「あぁ、確かに……」

 

 納得した様子のツーちゃんに、シャワーを浴びてくると一言伝え、浴室に向かう。鏡に映る自分を見て、ふとアイデアが浮かんだ。

 

「肉体改造………」

 

 肉体の一部分を機械化する。本来なら倫理観から許されないアイデアだが、技術者と被験者が同じならば問題は無いだろう。

 

「後でやってみるか」

 

 湯船に浮かぶ泡の如く、アイデアが浮かんでは消えていく。どれが最善か、それを考える私の顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

P.S.あの後肉体改造実験を行った結果両足を骨折。実験で足に入れた装置のおかげで治りは早くなるが絶対安静を言い渡された。古ちゃんに爆笑され、ツーちゃんにものっそい怒られた。

 



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