グラップラーソシルミ! (桐山将幸)
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プロローグ

息抜き作品です。
続くかも未定ですがよければお楽しみください。


 第七宇宙、北の銀河の辺境に存在する天の川銀河の中でも、あまり注目を受けることのない惑星、地球。

 その中でも、西の都と呼ばれる大都市……から離れること徒歩まる3日の位置に存在する田園地帯。

 ……この大宇宙ではど田舎の中のど田舎の中、その中でも更にど田舎といった地域に、この物語の主人公であるアエ・ソシルミの生家、アエ家はあった。

 

 しかし、その家にソシルミが住んでいたのは僅か5年程度のことである。

 それは何故だろうか、彼がいわゆる転生者、別世界からこの世界についての事前知識を得て生まれてきた人間であったからだろうか。

 ……違う。

 彼には転生者であるということよりも恐ろしい特徴があった、それは─────

 

 

 ───第20回天下一武道会会場───

 

 数多く存在する『世界で一番強い武道家を決める大会』……その中でも、もっとも高い権威があるとされているのが、この天下一武道会だ。

 石畳で作られた長方形のリングの上で戦い、勝利条件は『降参』『テンカウント』『場外』『相手が泣く』……。

 ……勝利条件はともかく、この危険さは、武道経験がまったくない人間でもなんとなく分かるのではないだろうか。

 何しろ、石畳であるから、投げ技を使わなくても倒れた際に頭を打ち付けたらそれだけで死の危険がある。

 申し訳程度に急所攻撃と殺害の禁止がルールに盛り込まれてはいるが、全身これ凶器とばかりに鍛え上げた武術家同士が、防具なしの素手で殴り合い投げ合うのだ。

 そのルールがどれだけ意味のあるものかは、はっきり言って怪しい。

 

 その危険極まりない天下一武道会の決勝戦、そのリング(武舞台と呼ばれる)の中央で二人の男が体面していた。

 ……いや、二人の男と一纏めにくくってしまうには、彼らの間に存在する『差』は大きすぎると言えるだろう。

 方やまだあどけない顔つきの、中学生になっているかも怪しい少年。

 方や鍛え上げられた筋肉を顕にした、色黒の中年男性である。

 

 ───だが、鍛え上げられた、という一点のみに注目するのなら、少年の側も対等か、それ以上と言えるだろう。

 少年の小さな身体の発達途上にある骨格には、これでもかと言わんばかりの筋肉が搭載され、その皮膚にはまだ生々しいキズがいくつも刻まれていた。

 

 「……幼いが、ずいぶんと鍛えられた身体だ、だが幼い頃からの激しすぎる鍛錬は身体に毒だぞ」

 

 「フン、そんなことを気にしていては強くはなれねえ、それに────」

 

 その瞬間、鈍く短い音が武舞台に響いた。

 聴きさえすれば多くの人間が即座にその正体に気付くだろう、腕など振り回した時に発生する類の風音だ。

 

 「キャァァァア!」

 「ッッッ~~~~~~~!!」

 

 武舞台の中央から鳴ったにも関わらず、観客にはまるで目の前でプロ野球選手がフルスイングをしたかのような轟音が叩きつけられ、いくつかの悲鳴が上がった。

 

 思わず目を閉じたアナウンサーが再び目を開けると、そこには空中で足を振り抜いた少年と、その足に手を……つまり、ガードした男の姿があった。

 

 「俺はそんなに、ヤワな身体してないんでな」

 

 「グッ……、なるほど、決勝まで来ただけのことはあるということか!」

 

 「ぜ、ぜんぜん見えませんでしたっ!アエ選手がチャパ王選手の背後をとっています!」

 

 男、チャパ王が払いのけるように腕を動かすと同時に少年……、アエ・ソシルミも飛び退き、二人は開戦当初から立ち位置を反対にする形で再び構えを取った。

 

 「ガキだからと舐めるようなことをしなかったのは褒めておいてやろう、もっとも、俺はお前をナメていたがな」

 

 「ふふ……確かに並の武道家なら今ので終わっていたな、その歳でそこまでの力を得たら驕るのも仕方があるまい」

 

 「そういうことじゃないんだが、……まあいいか」

 

 ソシルミはボリボリと頭を掻くと、また構えを戻し、チャパ王も構えを深くすることを持ってそれに応えた。

 

 「それとアナウンサー、俺のことはアエじゃなくてソシルミと呼んでくれ、これまで試合が短すぎて言う機会がなかったがな」

 

 「は、はい!」

 

 アナウンサーの返答を合図に、二人が衝突する。

 今度、攻撃を放ち出したのはチャパ王だ、その両手両足を用いた激しい連打に対して、ソシルミはパンチにはパンチ、キックにはキックを以って応えていく。

 

 「ずいぶんやるな、おっさん」

 

 「お前もなかなかのものじゃないか!」

 

 連続する風音と打撃音が鳴り響く武舞台の中央で、永遠に続くかのような打撃のぶつかり合い。

 それを見る武に精通した者…特に、男、チャパ王の縁者や、先程まで武舞台の二人としのぎを削っていたはずの数人はある重大な事実に気づいた。

 

 「きさま何のつもりだ小僧!!」

 

 「さあ、当ててみな?」

 

 「わしの構えを────!!」

 

 「な、何が起こっているのか、突然チャパ王が怒りだしました、とてつもない猛攻です!」

 

 ここまで明かされると、ついに一般客にも自体が飲み込めてきた。

 そう、ソシルミの動きと、チャパ王の動きが、『同じ』になりつつあるのだ。

 

 「くっ……」

 

 「ありがとな、粗方覚えさせてもらったぜ」

 

 チャパ王は自らと同じ武術をぶつけられ続けるプレッシャーに耐えかねたのか、ソシルミをはねつけながら飛び退いた。

 

 「おおーっと、ソシルミ選手不敵な宣言!チャパ王の技を覚えてしまったようです!」

 

 「ちぃっ!!」

 

 アナウンサーに説明されたことで再認識した現状に怒り狂ったチャパ王が再びソシルミに襲いかかる。

 だが……。

 

 「ま、武術のデキは他の選手に比べりゃバツグンだが……こんなものか」

 

 急激に速度を上げたソシルミの足払いをまともに受け───

 

 「ほいっ!」

 

 そのまま、宙に浮いた形を逆立ちでのキックで更に弾き飛ばされた。

 人が人を飛ばしたとはとても思えない長さの滞空時間の末、観客まで静まり返った静寂の中、落下音が響き……

 

 「場外!チャパ王選手場外です!前回優勝者が意外な新人に敗れ去りました!優勝者は13歳の少年、アエ・ソシルミ選手です!!」

 

 アナウンサーの宣言とともに、本来大歓声が上がるはずの観客席からは散発的な拍手とどよどよと釈然としない雰囲気が流れ出す。

 当然だ、前回優勝者が無名の新人、それも少年にあっさりと破れたのだから……。

 

 「実力伯仲とは言い切れない試合内容でしたが、新進気鋭の選手に往年の優勝者が敗れるのもまた大武道大会の醍醐味!天下一武道会の名にふさわしい激しい戦いでした!」

 

 少々強引気味だが、なんとか上手くまとめたスピーチとともに、観客のどよめきは収まり、それは予定通りの歓声に変わった。

 

 「ソシルミ選手、こちらが優勝賞金の50万ゼニーです」

 

 「ありがとう、旅費の足しにさせてもらう」

 

 「旅費……と言いますと、どこかへ旅行に?」

 

 「ああ、天下一武道会で優勝したとはいえ、この星にはまだまだ強い武道家や面白い武術が残っているはずだからな」

 

 「なるほど!皆様、これからも更に力を蓄えるこの新しいチャンピオンに、今一度惜しみない拍手をお願いします!」

 

 再び浴びせられる大歓声の中、ソシルミは静かに天下一武道会会場を去っていくのであった……。

 

 

 

 

 

 オッス、オラソシルミ。

 先程ご紹介に預かった通り、13歳の武道家だ。

 前世は日本で大学生をやっていたが……、いやぁ、若者のガンはヤバいとは聞いていたがまさか自分が体験することになるとは思いもしなかった。

 

 別に病弱だったとか、酷い生活習慣をしていたとかは無かったんだが、こればっかりは運とめぐり合わせと言うしかない。

 前世の家族に未練がないわけじゃないが、すっぱりと諦めることにしたんだ、今の人生も楽しいし……これからもっと楽しくなるからな!

 

 そう、俺が生まれ変わったこの世界はドラゴンボールの世界で、しかも俺の今の身体がとてつもない武術の才能を秘めている。

 生まれた直後から首が座っていた俺は、生後一月もしない内に単独直立二足歩行を達成、二ヶ月後には家のどこにでもよじ登って移動でき、三ヶ月目には離乳食を飛び越して肉を食えるようになった。

 

 ……うん、一ヶ月目には健康すぎる我が子に喜んでいた両親も、二ヶ月、三ヶ月目になるにつれその笑顔が引きつり、俺を遠巻きに眺めるようになった。

 それでも親の情と体面がある以上、すぐ養育放棄をするようなことはせずメシと寝床を提供し続けてくれた……が。

 

 「ソシルミよ、アエの家はもうお前を置いておくことができなくなった、すまないがこれからはなんとか一人で暮らしてくれ」

 

 5歳の誕生日から数日後、突然そんな宣言を受けた俺は、やむなく家から出て放浪の暮らしをすることになった。

 一体何が悪かったんだろうか、村外れにあった岩を転がして崖から叩き落とし川の流れを変えてしまったことか、近隣の山河を駆け巡り魚や獣を狩りまくっていたことか、それとも村にやってきた盗賊をどこぞの配管工の如く次々と踏みつけ全滅させたことか。

 ……全部か。

 ともかく、若干五歳にして俺は孤独で自由な放浪者としてこの地球上をさまよい始めたのだ、。

 

 まあ、村を追い出されたのは俺にとって一つの転機とも言えた。

 アエ家に居た頃からここがドラゴンボール世界だと分かっていた俺は、やっぱりZ戦士達に混ざって地球、ひいては宇宙の運命を巡る戦いに参戦の運命を巡る戦いに参戦したいと思っていたからだ。

 

 最強の戦いが行われている世界に、それを知った男が、しかも素晴らしい才能を持って生まれてきたんだ、そう思うのはある意味当然ではないだろうか。

 もちろん、それでも平和に暮らしたい、黙ってその戦いを見守って救われるだけの人生を送りたいと思うヤツも居るだろうし、それもまた普通のことだが……俺はごめんだ!

 

 男と生まれたからには、誰でも一度は地上最強の男を目指す。

 この言葉をお題目に掲げた作品じゃあ、『しかし、多くの人間がどこかで挫折する』と言われていたが……。

 いつかその日が来るまで、戦い続けてやろうじゃないか、俺は最強になってやる。

 

 ……とか言いつつ、主人公の悟空達がたどる道筋を壊してしまうのも惜しいし怖いから、なかなか鶴、亀仙人なんかの武道家を尋ねることは出来ていないんだが。

 そこ、チキンとか言うな、これは最強のライバルであり最強への挑戦の切符となる戦士たちの将来のためなのだ、決して心を読まれるのが怖いとか、鶴仙人の容赦無さが怖いとか、アクマイト光線が恐ろしいとかじゃあないんだ。

 これから先の戦いに備えて力を蓄えられるアドバンテージを捨ててしまうことと、もしかしたらまだ生きているかもしれない孫悟飯との対戦の機会が失われるのは惜しいところだが、まあ仕方ないだろう。

 

 そんなわけで、この俺はこの8年、ひたっすらに戦い、野山を駆け巡り、弱きを助けず強きをくじく日々を送ってきたわけだ、正直ちょっと無頼の日々には飽きてきた感もある。

 当初は楽しかった武道家との戦いも、こちらがどんどん強くなっていくせいでつまらなくなってきている。

 (ちょうどさっきのチャパ王との戦いのように、技だけ味わってみてはそれが終わったらすぐ倒してしまうような戦いばかりで、戦闘の楽しみというものがまったくない)

 

 だがそんな日々も折返しは過ぎた、……次の第21回天下一武道会にやっと悟空、クリリン、そして亀仙人扮するジャッキー・チュンが出場する。

 俺の力を存分に振るい、試せる絶好のチャンスと、幼い頃からのヒーローとの再開が今から楽しみだ!

 

 

 

 

 ────そして、第21回天下一武道会当日、俺は驚愕の光景を目撃することになった。

 

 ちらちらと惑星ポポルに居るカエルの糞の色を視界に入れつつ楽勝で予選を突破した俺の前にはずらりと武術家達が並んだ。

 (バクテリアンは俺がぶっ飛ばした、汚い臭いといっても、各地を巡って様々な武術家や生物と戦った俺には問題にならない)

 インド風の青年、翼竜?の獣人、ワイルドさの漂う青年、中華風の道着を着たかつらの老人、そして亀仙流の道着を着込んだ少年二人、しっぽが生えた知らない少女。

 

 ………しっぽが生えた少女?

 

 誰このおっさん。

 もとい、誰この女。

 

 あまりの不自然さに怪訝な視線を向けていると、あちらも何やら驚いたような視線を返してきた。

 

 「……アエ・ソシルミ……エア味噌汁?」

 

 一人で何やらぶつくさと呟いている怪しげな少女。

 その隣にいる、跳ねた髪の少年が問いかけた。

 

 「どうしたんだ?ねえちゃん」

 

 

 ─────────「ねえちゃん」?

 



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第一試合!そして二人の邂逅……

 一体あの女は何者だ?

 自分を棚に上げるようだが、本来存在しないはずの人物に対して俺は疑問を隠せなかった。

 ……悟空とあの女(孫紅流(ほんりゅう)というらしい)がスタッフに食事を用意されているのを尻目に、うっかり飯付きなのを忘れて持ち込んだおじやとバナナをかっこみながらでは格好つかないが。

 

 ともかく、俺は武道家でここは天下一武道会の会場だ、まずは試合のことを考えよう。

 

 まず、俺とヤツの二人が本戦に出場するにあたり、必然的に本来出るはずだった選手の内二人が予選のうちに敗れ去ることになった。

 具体的にはバクテリアン(臭い大男)とランファン(ナムに色仕掛けをする美女)が、それぞれ俺とヤツに差し替わっている。

 つまり、第一試合で俺はクリリンと戦わなくてはならないのだ。

 

 俺も武道家として戦闘経験や格闘技術の獲得に向け励む傍ら、かなりの重量のある荷物を背負って徒歩で旅をしたり、洞窟に潜む大量のコウモリと格闘したり、様々な障害物のある荒れた崖から飛び降りたりといった特訓により、普通の人間を超えた部分の力を鍛える訓練も欠かさずに行っってきた。

 その効果は決して彼らが行った亀仙流の修練に劣るものではない……はずだ。

 

 

 アナウンサーと管長による一通りの挨拶が終わり、第一試合が始まった。

 悟空とヤツがクリリンを激励しているが、……二人とも、どことなく勝てることを期待していないような雰囲気がある。

 おそらく、俺の力を見抜いているか、警戒しているのだろう。

 

 武舞台で向かい合う俺とクリリン、12歳の子供であることを差し引いてもかなりの小兵なクリリンと、190センチほどの身長を持つ俺とではそれこそ大人と子供ほどの差がある。

 俺の筋肉モリモリといったガタイもあって観客席からはクリリンを心配する声が上がっているが、こっちも正直言ってもかなり戦いにくい身長差だ。

 

 「こちらのクリリン選手はなんと若干13歳の出場者!そしてこちらの18歳の青年アエ・ソシルミ選手は前大会の優勝者です!」

 

 俺が前大会で優勝したことを知らされたことで、俺に対しては値踏みするような強い眼差し、クリリンに対しては不安と同情の視線が向けられる。

 ……悟空とともに壁を乗り出したヤツは俺を信じられないと言った顔で見ているが、あえて視線は向けず無視しておく。

 

 「うえ……、オレ勝てるかなぁ……」

 

 クリリンも慄いているが、これはおそらく俺の力を見てのことではなく、ただ単に前回優勝者の肩書にビビっているだけだろう。

 

 「クリリンさん!頑張って!」

 

 「オラも応援してるからなー!」

 

 身を乗り出した悟空とヤツが追加の激励を浴びせると、ようやくその怯えは収まったようで、戦意をたたえた顔つきをしている。

 

 「よ、よし!紅流さんも応援してくれてるんだ!頑張らないと……!」

 

 ……まさかコイツ、いや、うーん?

 

 かくして、改めてルール説明がなされると、いよいよ試合が始まることを確信した観客が静まり、それを見計らったようにアナウンサーが口を開く。

 

 「第一試合はじめッッ!!」

 

 

 その声と太鼓、銅鑼の音を前に俺とクリリンは臨戦態勢に入る。

 クリリンは軽く腕を広げた自然体の構え、俺は左を前にした半身で、左手を胴体の前に、右手を顎の横に置いた構え─────刃牙の構えだ。

 その瞬間、また横から驚愕の気配がするが、実力を知らない相手との戦いの中でよそ見をするほど俺は能天気な男じゃない。

 

 「………………」

 

 「………ごくり」

 

 「両者静かに睨み合っております!じっくりと相手の実力を測っているのでしょうか!」

 

 アナウンサーの言葉を合図に、クリリンが飛び出してきた。

 俺がチャパ王に放った初激よりも数段早い速度、流石は亀仙流だ────だが!

 

 「フンッ!!」

 

 飛び上がってのパンチが顔面に届く直前、ガードの左腕で払いのける。

 身体が浮き上がっている状態での衝撃に体勢を崩したクリリンは軽い悲鳴を上げるが、それでもすぐ手足を丸めて体勢を立て直しにかかった。

 

 ────だが、この隙を逃す俺ではない、上体を下げ掌底を叩き込み、そのままクリリンを前方へと弾き飛ばす!

 

 「うわぁっ!」

 

 まだ舞空術を持たないクリリンは、狭い武舞台をあっという間に飛び越し、場外の壁に激突した。

 

 「ク、クリリン選手場外!一瞬の出来事で間近に見ていた私にも何があったのかわかりません!とにかく、ソシルミ選手の勝利です!」

 

 (マイったなぁ、これで亀仙流の実力を測っておきたかったんだが、興奮のあまり場外にしてしまった)

 

 これは本当だ。

 最初の一合はあちらにこちらの実力を見せつけつつ二人の身体を温めるための準備運動くらいのつもりだったんだが……。

 クリリンがあまりに凄まじい力(旅の中でボコり倒してきた武道家基準)を持っているのが分かると、対抗心と楽しさが勝ってしまい、うっかり全力で叩き込んでしまった。

 

 「クリリン選手が凄まじい勢いでこちらに飛びかかってきたのを払い除け、更にもう一撃で武舞台からはじき出した、ハッキリ言ってアイツはチャパ王より強かったぜ」

 

 「な……なるほど……!相変わらずの凄まじいパワーとスピードで第一試合を突破したのはソシルミ選手です!!」

 

 その素早い体勢の立て直しを支える判断=戦闘思考の速度に、また俺は頭の中で亀仙流の凄まじさを実感していた。

 よく僅かな時間だけで13歳の少年をここまで鍛え上げたものだ、単なる訓練メニューの効果だけではあるまい、さすがは亀仙人、武天老師と呼ばれ、多くの偉大な師匠に師事したはずの弟子たちに頼られ続けるだけのことはある。

 

 しかし、俺が得た一勝の代償は大きくなるかもしれん、早くもダメージから回復して起き上がったクリリンは消沈し、自信を失ってしまっているようだ。

 

 このままではマズい、クリリンは主戦力としては頼りにならないが、立派なZ戦士の一員であり、戦力以外の面でもドラゴンボール世界のキーパーソンの一人だ、

 それが最初の勝利を得るはずの場で負けてやる気を失ったら、予選での勝利があるとはいえ将来に落とす影は大きいだろう。

 ここは……!

 

 

 「うぅ、負けちゃった……」

 

 「その様子だと大丈夫そうだな、ずいぶん強くぶっ飛ばしたつもりだったんだが、すごい鍛え方だ」

 

 武舞台脇をトボトボと歩くクリリンに声をかける、大して『いい勝負だったね!(爽やかな笑み)作戦』だ!

 

 「あ、アエ選手!いえ、そんな……ボクはあなたにたった一撃で……」

 

 「いや、お前は大したもんだ、俺が初優勝した大会にお前が居たら優勝できていたかどうか分からん」

 

 「そんなことはないですよ、アエ選手はボクより力もあるし技もすごいじゃないですか」

 

 「何しろ当時、俺はお前と同じ13歳だ、俺と比べるならあと5年は修行することだ……そうなったら、きっとお前は今の俺より強い武道家になってるだろうな」

 

 「本当ですか!?」

 

 よし、少し自信を取り戻してきたみたいだ。

 

 「本当だとも、もちろんその頃には俺は更に強い武道家になっているし────お前のような奴が居るのがわかった以上、更に激しい鍛錬を積む、23の俺には23のお前じゃ敵わんかもしれんぞ」

 

 「……ごくり」

 

 更に強くなった俺の姿を想像して息を飲むクリリン、だがこの世界じゃ今の俺なんかと比べてちゃどうしようもないような敵がわんさか出てくるんだぜ。

 

 「次の天下一武道会で会おう……と言っても、まだ俺は試合があるから、しばらくここに居るがな」

 

 「は…はい、次はがんばります!」

 

 

 (……よし、これくらいで十分だろう)

 

 「わざわざクリリンさんを元気づけたりして、罪滅ぼしのつもりですか?」

 

 「……なんのことだ?」

 

 控室で次の試合に備え炭酸抜きコーラをガブ飲みし、梅干しをかじる俺に、100センチと少しのロリが話しかけてきた。

 ヤツだ。

 

 「とぼける必要はありません、気を遣うくらいなら何もしなければいいのに」

 

 「何のことかは分からないが、俺にだって強い戦士と戦う権利くらいあるだろう」

 

 「まるでサイヤ人のようなことを言いますね、地球人のくせに」

 

 「───ッッ!!」

 

 戦闘民族サイヤ人、ドラゴンボールの主人公である孫悟空の種族だ。

 彼らの特徴は人間を遥かに超えた身体能力と特殊能力、戦いのために老いすら先延ばしにする生態、そして何より未だに全容が知れない特殊な変身能力の数々。

 心身ともに戦闘に特化した彼らは、宇宙最強と謳われた一族にも伝承という形で傷跡を残すほどで────。

 

 ────それ故に、現在(原作開始時)には宇宙の帝王フリーザに惑星ごと葬り去られ、僅かな生き残りを除き全滅している。

 

 いや、滅ぶ滅ばないではない、おかしいのだ、この星には数人しか「サイヤ人」などという種族名を持つものは居ないはずだ。

 (あらゆる知識を持つ『ズノー様』のような人物が地球に居れば別だが……案外居そうなのが恐ろしいところだな)

 そして、誰も知らないはずの知識を、使って、わざわざひけらかすように同意を求める者など居るはずがない。

 

 「まあ、いいです。貴方が余計なことをするようなら、私が倒しますから」

 

 ずいぶん物騒な事を言う女だが……こいつから感じる圧は本物だ、。

 そして、コイツが何者かも、概ね理解できた。

 

 「クリリンのことが心配なら、お前がもうちょっと励ましてやれ、ちょっと煽ててやりゃあ効果てきめんだろうぜ」

 

 「……クリリンさんを馬鹿にしないでください、それに、言われなくたって励まします」

 

 いや、クリリンが単純なヤツと言いたい訳じゃないんだが……、本当に気付いてないなら、俺が言う話でもないか。

 

 「まあいい、お前もずいぶん鍛え込んで来たんだろう?せっかくの天下一武道会なんだ、続きは武舞台でやろうぜ」

 

 「……師匠に勝てるつもりで居るんですね」

 

 「さあな、やってみなきゃ分からん」

 

 そうだ、クリリンですらあのレベルの亀仙流、存分に楽しませて貰おうじゃないか。




続いちゃいました。


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”もう一人”の実力はいかに!第二、第三、第四試合!

資料として何度も原作を読み返すうちに、自分の勝ち上がりが記録されるトーナメント表をウキウキした顔で見てるクリリンの顔に罪悪感が湧き上がってきました、B-BS-Cnbです。


 第二試合のヤムチャVSジャッキー・チュン(亀仙人)の戦いは、概ね原作通りに進んだ(はずだ、詳しい試合内容なんて覚えていられない)。

 

 亀仙人演ずるジャッキーは、ヤムチャの実戦で鍛え上げられた能力を褒めつつもその実一方的に翻弄した挙げ句、手で仰いだだけの風で武舞台からはじき出してしまった。

 一撃で仕留めてしまったという点を除けば、俺がクリリンにしたこととそう変わらんな、そこの手加減と余裕が持てないのが俺の青さだろうが。

 

 まあ、ヤムチャが敗北するのは確定事項だったし、ヤムチャは敗北でへこたれたりするタチでもない。

 彼は問題なく、更に強くなっていくはずだ。

 

 さて、ジャッキーの身体能力はあからさまにクリリンを上回っている。

 だが正直言ってヤムチャとジャッキーの間には心技体、あらゆる指標で天と地ほどの差があるのも事実、この試合でジャッキーの身体能力を測ることはできないようだ。

 

 ……試合を観戦しながらも、俺の注目は次の試合へと移っていた。

 

 

 第三試合はナム対孫紅流だ。

 ナムは渇水の村を救うため、水の購入資金を稼ぎに天下一武道会に挑戦しに来たインド風の青年だ。

 その強さは常人のレベルを遥かに超えていて残像拳を見切るほどの視力も持っているが、原作では悟空に後を引くほどのダメージを与えることもなく敗れ去っており、正面戦闘で亀仙流に迫るほどの力はないと思われる。

 だが、それでもその武術は本物だ、少しでもヤツの底を見せてくれればいいのだが……。

 

 「第3試合はじめっ!!」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「う……! よ、よろしくお願いします……」

 

 ヤツに向き合うナムはかなり複雑な表情をしている、そりゃあ、自分が優勝して村を救わないといけない時に、対戦相手として現れたのがまだあどけない(しかも、歳より若く見える)女の子ときたら、そりゃあビビるし困る。

 だが、そんな心配は無用だ。

 

 「その心配は無用です、私もそれなりに鍛えてありますから」

 

 でないとここには立っていません、と付け加えたヤツを前に、ようやくナムは踏ん切りを付けたようだ。

 

 「……わかりました、全力で行かせてもらいます!」

 

 そう叫ぶやいなやナムはすばやくヤツを蹴りつける。

 亀仙流のような怪物じみた鍛え方ではないが、足腰の強さと確かな腕前を感じさせる鋭い蹴りだ。

 狙いは足だ、110cm程度の小兵相手なのだから胴体を狙えばいいだろうに、戦う覚悟はあっても傷つける覚悟までは持てなかったのか?

 いや、それとも単に俺とクリリンの試合を見て、同じ道着を着る彼女のその実力を警戒しているのか。

 

 「ッッ!!」

 

 ナムの蹴りを飛び上がって回避したヤツは、そのまま頭突きを叩き込んだ。

 ………頭突き!?

 

 「がっ!?」

 

 余りの速度に面食らったナムはモロにそれをくらい、後方に思いっきり倒れ込んだ。

 いや、有効でないわけではないだろうが……。

 

 「おおっと!孫紅流選手、攻撃を飛び上がって避けたままの勢いで頭突きです!ナム選手これは痛い!」

 

 そりゃあ、小さい身体とはいえ、飛び上がっての頭突きというのは全体重を込めた質量弾にほかならない、ナムの命が心配だ。

 (もちろん人体で最も大切な部位である頭部と頚椎を武器にするも同然で、危険な技にもなりうるが……、亀仙流でサイヤ人であるヤツにとってそれは問題にならないだろう)

 

 「おおっと、ダウンです!ワーン!ツー!……」

 

 いや、もうムリだろう、これが天下一武道会ではなく、近代的な大会ならテクニカルノックアウトだ(もっとも、超人たちの能力と耐久力を正確に判断してストップを入れられるレフェリーが居たのなら、だが)。

 ナムはそのままあっけなくテンカウントを取られ、アナウンサーの勝利宣言が終わっても目を開けないまま救護班に運ばれていく。

 その高い跳躍力も、不殺でありながら相手を10日は目覚めない眠りに追いやる、某虐殺王大喜びの必殺技『天空×字拳』も披露されずじまい、あっけない終わりだった。

 

 ……通っていくナムの身体を見たが、脳がどうなってるかは分からないものの、命に別状があるような挙動は見えない。

 どうやら、ヤツが敵選手殺害によって失格となることはないようだ。

 

 ヤツの師匠であるジャッキーをちらりと見ると、滝のような汗を流している。

 弟子に加減を教えるのを忘れたことへの自責か、あるいは悟空が敗れれば自らあの恐ろしい弟子と戦わねばならぬことへの焦りか……。

 ……おそらく両方だろうが亀仙人のことだ、後者がメインな気がしてならない。

 

 

 「俺はクリリンをあそこまで痛めつけはしなかったぞ?」

 

 「う、うるさいですね、少し焦ってしまったんです、まさか軽く飛んだだけの頭突きにあそこまで威力があるとは……」

 

 いや、サイヤ人が何をカマトトぶっているんだ。

 

 「……なんですか」

 

 「いやぁ、なんでもないさ」

 

 ジト目の追求をニヤリと笑って受け流してやる。

 

 「まあいいだろう、次はギラン対悟空だ、自慢の弟が『予定通り』の勝利を掴む様を見に行くといい」

 

 「……言われなくとも見に行きますよ」

 

 そう言うと、ヤツはちょっとヒいてるクリリンを連れて悟空たちの試合を観戦しに行った。

 

 

 第4試合、悟空対ギラン。

 ギランはグルグルガムという頑丈な体液(?)をブレス技のように吐き出して、敵に巻きつけ拘束する能力を持った翼竜の獣人だ。

 

 空を飛ぶという天下一武道会にふさわしくない特徴と相まって、強力な選手だ……が。

 それはあくまで常人~達人の領域でバチバチやりあってるときの話だ、その領域を踏み越えてしまった悟空の前では単にギミックで観客を喜ばせるだけの弱者にすぎない。

 

 実際、試合運びもそのようになった。

 ギランは2つの能力を披露して悟空を(試合形式上)追い詰めるも、しっぽを生やして危機を突破(無茶苦茶な話だが、サイヤ人は特別なことがなければしっぽは生え直すものらしい)し、グルグルガムをあっけなく千切った悟空を前にあっさり降参してしまった。

 

 

 少々締まらない勝利だったがそれでも悟空の一回戦突破だ。

 第1試合では俺にやられたもののとてつもない速度の踏み込みを見せたクリリン、第3試合ではナムを圧倒した孫紅流、第4試合ではギランを圧倒した孫悟空、この3人が同じ道着を着ていることに注目したアナウンサーがインタビューを行い、三人が亀仙流であることが明かされる一幕もあった。

 

 クリリンとヤツが悟空に駆け寄り勝利を祝っている、まあクリリンはともかくヤツは実力的にも出来レースなのがわかりきっていた試合でそう大喜びは出来ていないようだが。

 

 「さて、次は俺と亀……ゴホン、ジャッキー・チュンの試合だな……、実に楽しみだ」

 

 「……本当にやるつもりなんですか?」

 

 「ああ、勝てるかは分からんが、挑まないつもりもない」

 

 「そういうとでは無いのは分かっているでしょう?……ですが、止めても無駄ですね」

 

 ヤツは険しい顔でこちらを睨みながらも、引き下がる気配を見せた。

 

 「ソシルミ選手!」

 

 にらみ合いもそこそこにして、武舞台前で待機しようとしたところに、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 

 「なんだクリリン選手」

 

 「ボクはもう選手じゃ……いえ!あの……頑張ってください!」

 

 「ありがとう、言われなくたって頑張るが、受け取っておこう」

 

 「あと、ちょっとですね……」

 

 クリリンは俺の手を引いて、物陰に向かうと、耳を貸すように要求してきた。

 内緒話か?

 

 「ボソボソ(あの…ソシルミ選手、紅流さんとどういう関係なんですか?)」

 

 「ボソボソ(武道家同士だからな、いろいろあるんだ)」

 

 本当はもっと深い事情があるのだが、まあ今はこれで十分だろう。

 

 「ボソボソ(ライバル心ってやつですか……、本当にそれ以上はないんです?)」

 

 「ボソボソ(お前が何を心配してるのかは分かっている、そういうことはないから安心しろ)」

 

 そう言うと、クリリンはたまらず顔を赤らめ声を上げた。

 

 「なっ!?」

 

 『それでは第5試合を始めます、アエ・ソシルミ選手、ジャッキー・チュン選手、ご登場くださーい!』

 

 「おっと、応援はしてやる、……頑張れよ!」

 

 いやぁ、しかしヤツも隅に置けん、まあ、男所帯の道場から移動して同年代の少女の同門ができたのだから、少しは色気付くのが自然か。

 クリリンがここで『頑張った』としても、(あるかもわからない)アニオリの彼女(名前忘れた)と18号との関係がなくなる程度で戦力的にはほぼ影響はない……はずだ。

 むしろサイヤ人の子供が増えるなら大幅な戦力上昇だ(将来のライバルも増える)、応援するべきだろう。

 

 

 「お二人の登場です、亀仙人のお弟子さんを破った前大会優勝者ソシルミ選手と、正体不明の圧倒的な強さを誇るご老人、チュン選手の戦いは一体どのようなものになるのでしょうか!」

 

 「ほめるのは良いがちゃんとわしらにはインタビューしてくれんのか?」

 

 「あ…はい!ええと……では、ジャッキー・チュン選手はどこからお出でになられたのでしょう」

 

 「秘密じゃ!」

 

 ジャッキーのあまりに理不尽な振る舞いを前に、アナウンサーはタラリと汗を流して、こちらに向き直った。

 

 「……………………ソシルミ選手はどこから?」

 

 「西の都の近くの村だが、故郷は追い出されてしまったのでもうないも同然だな」

 

 自業自得といえば自業自得、理不尽と言えば理不尽といったセンだ。

 

 「で、ではいかにしてそのような強さを身につけられたので?」

 

 「ほとんど生まれつきだと思っているが、特にやったことというと、各地を回って様々な武道家と試合して技術を吸収してきた、あとは崖から飛び降りたりモンスターと戦ったり……結構な無茶もやったな」

 

 「が…崖!それはすさまじい!!なるほど、ソシルミ選手の強さは素晴らしい才能ととてつもない努力にあったわけですね!!」

 

 観客はフカシだと思って笑う者と、俺ならあるいはと思ったのか、息を呑むもの、そして単にマイクパフォーマンスに興奮しているものに別れた。

 そしてヤツはまたジト目だ、崖から飛び降りるのは確かにむちゃくちゃだが、鍛錬としては良かったんだぜ、大きな崖を使えば継戦能力の訓練にもなる……9歳くらいの頃にやったときはあやうく死にかけたが。

 

 ……ジャッキーは俺のインタビューを聞き入っている、どうやら、これが目的だったみたいだな。

 亀仙人は心が読めたはずだが、何かの条件があるのか俺の心は分からなかったようだ。

 

 

 「では、第5試合を始めます」

 

 「よろしくな、アエ選手」

 

 「ソシルミでお願いします、ジャッキーさん」

 

 和やかに挨拶を交わす俺たちだが、お互いの実力を、お互い『底が知れない』という形で知っている二人だ、武舞台はすでに凄まじい緊迫感に包まれている。

 

 「では第5試合、はじめっ!!」




タイトルにあるのに地の文だけで片付けられたヤムチャとギラン、哀れ。


リハビリ作なので毎日投稿縛り。
いやぁ原作あると執筆早いなあ!
ということで、オリ展開とかに入ったら投稿ペース崩れるかも、そこまで行くかも分からないけど。


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ジャッキーVSソシルミ!

明日投稿するとかエタるとか言いつつ結局かなり待たせてしまいましたが、ブロリー映画の記念ということで投稿します。


 (こやつ……、紅流と同じで心の内が読めん)

 

 亀仙人は悩んでいた、この圧倒的な強さの若者『アエ・ソシルミ』の存在に、その強さに。

 

 このような若さで、凄まじい実力を持った武道家が現れるのは、老武術家である自分にとってもちろん喜ばしいことだ。

 ……しかし、自らや、そのライバルである鶴仙人の門弟でもないのに、自分の弟子をあっさりと破れるような武道家の存在は、数百年の武術キャリアの中でも珍しいことであるのも事実だった。

 

 確かに、『亀仙流でも鶴仙流でもない武道家』と一口に言っても、レベルは様々だ。

 本当の一般人のスポーツマンと同程度の力しか持たない武道家も居れば、一般人には姿が消えたように見えるほどの速度で移動する敵でも、問題なくその目と腕で捉えられるような武道家もいる。

 だが、『人を超える』というのはただごとではない、狂気的なレベルの鍛錬を継続して行い続けなければ、人間を超えることはできないのだ。

 その手段で強くなれるという確信が無ければ行おうとはとても思えないし、強くなれるという確信があっても尚、耐えられるとは限らないだろう。

 

 ほとんど鍛えないままでも一般人の限界レベルに達することができるような人間でも、この限界どころか、優れた道場で修行した武道家であれば問題なく突破できるような壁も超えられず(超えず)に、一般人相手にその力を振るうのみに終わってしまうこともある。

 そんな中、圧倒的な才能を持ちながらもそれに甘んじず、さらなる力を求めて鍛錬を続けたこのソシルミという男は、亀仙人にとって少々、いや、かなり異様な人間に見えた。

 

 武舞台の中央で、向かい合ったまま亀仙人───ジャッキー・チュンが口を開いた

 

 「ソシルミとやら、どうしてそこまで自分の身体を鍛え上げた?」

 

 「どうして……ですか」

 

 その言葉を聞いて、ソシルミは楽しげな笑いを見せる。

 頬は釣り上がり、表情筋がするどいシワを作った。

 

 「より強い相手と戦うには、強くなるしかないからです」

 

 ───それに、強くならないのは勿体ないしつまらないでしょう?

 ソシルミはそう付け加え、また笑った。

 

 (道を求める心……というわけではなさそうじゃの)

 

 そして、功名心や不純な欲望のための道具として強さを求める者たちとも違う、もっと純粋で、無邪気で……。

 そして、凍りつくように冷たく、それでいてマグマよりも熱い根源的な感情だ。

 

 「お主はただ、その力をめいっぱい使って楽しみたいのじゃな?」

 

 「おっしゃる通りです」

 

 亀仙人さま。

 誰にも聞こえない大きさで、口だけを動かして小さくつぶやくと同時にソシルミが駆け出した。

 

 

 亀仙人の身長は160台の中程。

 リーチ、位置取りでは俺が勝ることになるが、常人を超えた領域での戦いでは、そのような『些細な』要素はよほど土壇場でなければ影響してこないはずだ。

 

 何にしろ、出し惜しみは出来ない────

 

 「両選手、そろそろ戦いを始めていただきた────」

 

 ────全力で叩き込む!!

 

 「憤ッッ!!!!」

 

 「かぁっ!!」

 

 飛び込み気味での全力のパンチ、クリリンと同じ戦法になるが、俺は付け入られるような隙は作らない!

 だが、俺が全力で放ったパンチにも関わらず、目の前のこの老人は両手をクロスさせて抑え込んだ。

 

 (な、なんて威力のパンチ……、パワーもそうじゃが、それを活かす技術も凄まじいレベルじゃ!)

 

 「おーっと!先に仕掛けたのはソシルミ選手だ!私にも伝わってくるようなすさまじい威力のパンチです!!」

 

 一瞬だけ時間が静止したような感覚に襲われていたが、俺も亀仙人も本当に静止していたようだ、アナウンサーの叫びにようやく我に帰る。

 

 「はは、は!人間を全力でぶっ叩いたのは本当に久しぶりです!!」

 

 今度は亀仙人が俺に次々と突きを放つ。

 

 「加減してやったのか。お前さん、気性にしては優しいの」

 

 入りも出も洗練された鋭い突きを、これまで築き上げてきたあらゆる力を駆使して捌いていく。

 だが、亀仙人はまだあらゆる意味で全力を出していないだろう────

 

 「誰も戦ってくれなくなるのはイヤですからっ─────ね!!」

 

 ────それが何だと言うんだ!相手が隠して隠している分も引きずり出して、喰らい尽くすだけだ!

 

 「ジャッキー・チュン選手すさまじい猛攻です!ソシルミ選手、武舞台の端に追いやられましたっ!」

 

 「どうした、お前の楽しみはこんなもんかの?」

 

 ああ、こんなもんじゃないとも。

 防戦をやめ、防御に集中。一切の神経を上半身から追いやり、鍛え上げた筋肉と骨格にすべてを託す。

 その意識は─────

 

 「邪ッッ!!!」

 

 思い切り全体で一回り。

 半回転時点の最も高まった運動エネルギーを敵に叩きつける!

 

 「あ~~っと!この技は!」

 

 胴回し回転蹴りだ!!

 

 「ガッ─────」

 

 回転した視界が元に戻った時、俺を追い詰めていたジャッキーの姿はその場になく、頭部と手から血を吹き出して唸る亀仙人の姿があった。

 

 

 「ジャッキー・チュン選手!突然の動きに対応できず、思い切り技を食らってしまったーっ!!」

 

 ガード諸共頭をカチ割られたジャッキーを前に、観客は口々に興奮と恐怖を叫ぶ。

 

 「……酷い怪我ですね、棄権しますか?」

 

 「ばかを言うな、年寄りと思って……要らぬお世話じゃい」

 

 臨戦態勢を保ったままニヤけて冗談を言うソシルミを、亀仙人はフランクな口調を残しながらもはっきり突っぱねた。

 

 「でしょうね、ではどうしますか?」

 

 「これでも長生きしとるんじゃ、血を止める技の一つやふたつある」

 

 そう言うと、ピタリと血が止まり、亀仙人は再び構えを取った。

 

 「では、いくぞよ」

 

 「ハッッ!!」

 

 再び両者の拳が交わりだす。

 しかし、今度はソシルミもまた攻撃を行いながらの応酬である。

 

 「これは!先程にもましてすさまじい戦いです!激しく攻めるジャッキー・チュン選手を前にソシルミ選手、一歩も引きません!」

 

 その威力と速度を例えるならば、両者、据え付け式の機関銃を至近距離で撃ち合っているようなものだ。

 これほどの威力であれば、『弾丸』たる手足が見えなくともわかる。まさにド迫力の戦闘に観客は唖然とするか、あるいは興奮するか、その2つの反応を見せた。

 

 「ひゃー!ソシルミって兄ちゃんもジャッキーのじっちゃんもすっげえな!」

 

 「ボク……あんな人と戦ったのか……」

 

 パワー、技術、立ち回り、その全てが常人が達する事のできるレベルを遥かに超えている。

 特に技術と立ち回りに関して言えば、この戦いを演ずる二人を明確に上回ると言える者は、地球上では天界に関わる者か、鶴亀両仙人の師匠、すでにこの世に居ない武泰斗くらいのものであろう。

 

 「(パワーではワシを遥かに上回っておるな……!)」

 

 撃ち合いのさなか、ジャッキーが拳の暴風に隠れる程度の小声で呟いた。

 それに呼応し、ソシルミも小声で返す。

 

 「(技術と経験では及びませんがねッッ!!)」

 

 「(なぜ、これだけの才能を持ちながら更に力を求めた?……いや、それだけではない)」

 

 「(……?)」

 

 「(なぜ、これだけ力を持ちながら、更に技までも求めたのじゃ)」

 

 拳の応酬が、止まった。

 

 「………………それは話せません」

 

 「まるで紅流のようなことを言うのう」

 

 「彼女もですか」

 

 ソシルミがとぼけた拍子で返した。

 

 「両選手、突然何やら話こみだしました!紅流選手が関わっているようですが……」

 

 「おっと、これ以上はまずいの……まあええ、二人のことは二人で話すがいいわい」

 

 そう言うとジャッキーは武舞台から一息に飛び降りた。

 

 「かめ……ジャッキー選手、どうして!」

 

 動揺したソシルミが叫ぶように呼びかける。

 

 「なあに、ワシがこのままやるよりも、お主に任せた方がいいと思っての」

 

 「何をです?」

 

 「おや、お主は知っとるんじゃないか?」

 

 ソシルミはそれ以上何も語らなかった。

 困惑の中、アナウンサーが試合終了を宣言し、戦いは終わりを告げる。

 

 第21回天下一武道会、残りニ試合。




いやぁ、よかったですね、ブロリー(すっとぼけ)

この話は続くかどうかわかりませんが、とりあえず生存報告代わりということで。


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