Fate/After Zero (トライアルドーパント)
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Episode01

そんな訳で、作者はガチャへのロマンと、FGOでZeroコラボの復刻イベしている事と、アンケートに3票入っていると言う理由から、一つ書いてみることにしたFateの世界ですが、内訳として「Zero」が一票と「FGO」が二票と言う結果に悩み、最終的に「ZeroをベースにFGOの要素を混ぜる」と言う案に落ち着きました。

個人的にはゴーストパを作りたい所ではあるのですが……やはりガチャは悪い文明。

9/21 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/10/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


1994年。日本の地方都市である冬木市にて、四度目となる聖杯戦争の幕が上がろうとしていた。

 

聖杯戦争とは――7人の魔術師が霊長の守護者である英霊を、聖杯の力による補助を得る事で魔術世界における最上級の使い魔たる『サーヴァント』として召喚し、彼等が契約した7騎の英霊が覇権を競い合い、勝ち残った只一組にのみ、万能の願望器たる『聖杯』が勝利者の権利として与えられると言う、文字通りの戦争である。

 

そして、聖杯戦争にはこれまで、必ず『始まりの御三家』と呼ばれる「アインツベルン」、「遠坂」、「間桐」の魔術師が参加しており、この御三家の魔術師は聖杯戦争において、外部から聖杯戦争に参加する魔術師達に比べて、幾らかのアドバンテージを持っている。

 

そんな御三家の一つである間桐家の地下にて、一人の魔術師が第四次聖杯戦争に参加するべく、文字通り血反吐を吐きながら英霊召喚の呪文を唱えていた。

 

「素に銀と鉄。礎に意志と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ……」

 

魔術師の名は間桐雁夜。間桐家で魔術回路を持って生まれた次男坊であり、その才能は兄を上回っていたが、間桐家の支配者の人道をこれでもかと蹂躙する魔導師の生き様を否定し、普通の人間として生きるべく、かつて間桐家を出奔した男である。

 

そんな彼が、自身が心底忌み嫌う魔導師となったのは、一重に初恋の女性が産んだ二人の娘の内の一人が間桐家へ養子に出され、彼女が間桐家の支配者による蟲を用いた“調教”と言う名の凄惨な陵辱を受けていた事に他ならない。

 

雁夜を絶望に叩き落した間桐家の支配者の名は、間桐臓硯。500年の時を生きる魔術師であり、その肉体と思考回路はもはや人間のソレではない。

この怪物にとって、間桐家の女とは優秀な跡継ぎを生むための“胎盤”に過ぎず、その為に雁夜の思い人の娘は、幼くして臓硯の醜悪な野望の為の犠牲になってしまったのだ。

 

「――――告げる。何時の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ……」

 

本来、臓硯は今回の第四次聖杯戦争に参加するつもりは無かった。しかし、桜を地獄から助けるべく、雁夜は自分が第四次聖杯戦争に参加し、優勝することで手にした聖杯を臓硯に譲る代わりに桜を解放すると言う取引をした。

だが、間桐家を出た雁夜には、聖杯戦争に参加するだろう他の魔術師と違い、幼少期から行われる魔術師としての鍛錬を一切受けていない為、参加資格を得る為には邪道に手を染めるしか道は無かった。彼はその体に『刻印蟲』と呼ばれる蟲を埋め込み、それらが与える激痛と消耗による拷問に耐え、何とか急造の魔術師として令呪を得る事に成功した。

 

「されど汝は、その眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」

 

もっとも、刻印蟲はこの一年で雁夜の肉体を文字通り食い荒らし、もはや雁夜の命はおよそ一ヶ月程度しかない。それでも桜を助ける為ならばと、彼は残り少ない命の火を燃やしてサーヴァントの召喚に臨んでいた。

それは、一見すれば危険極まりない行為に思えるが、彼の心の中にある桜に対する贖罪と、その母親である遠坂葵に対する恋慕と、そして桜の父親である遠坂時臣に対する憎悪と、この地獄としか言いようのない間桐家の支配者である間桐臓覗に対する殺意が、モルヒネのように彼の半死半生の体から痛覚を麻痺させていた。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 

かくして、雁夜はサーヴァントの召喚に成功した。しかし、桜を助ける為に雁夜が命がけで召喚したサーヴァントは、触媒の持ち主である『湖の騎士』ではなかった。

 

「!? な、何だ!?」

 

まず、魔方陣から現われたのは巨大なイナゴの群れであり、その数は見る見る内に召喚場所である蟲蔵を覆い尽くしていった。

 

「MUUUUUUUUUUUUUU……」

 

「!?」

 

それから雁夜が目にしたのは、緑色でグロテスクな悪魔の如き姿をしたバッタの怪人であり、炎の様に赤い複眼が此方を睨んだかと思えば、怪人が手をかざした次の瞬間、雁夜の後ろにいた臓覗が弾け飛んだ。

 

「な……!?」

 

「ひひひ……無駄じゃ、無駄じゃ。そんな事をしてもワシは――」

 

「NNNNNN……RUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

如何なる理屈で臓覗の頭を吹っ飛ばしたのかは分からないが、それで500年を生きた人外を倒すことは出来ない。攻撃を仕掛けてきた怪人に対して、嘲笑しながら余裕を持って語りかける臓覗だったが、怪人が瞬時に銀色の鎧を身に纏い、その直後に発生した緑色の光を臓覗が無防備に受けた結果、その余裕はあっと言う間に崩れ去った。

 

「ガァアアアアアアアアアアアッ!?」

 

「!?」

 

突如悲鳴を上げてのたうち回る臓覗だが、何故先程まで何とも無かった臓覗がいきなりそうなったのか。明確に攻撃した訳でも無く、ただ緑色の光が放たれただけで、あの妖怪がどうしてここまで苦しんでいるのか、雁夜にはまるで分からなかった。

 

「NNNNNN……HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「か、雁夜ぁあああああああああッ!! 貴様、一体何を喚んだのじゃぁあああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「DRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ぎにゃぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

そして、緑色の怪人が銀色の亜人に変化し、更に禍々しい真紅に身を染めた魔人に変貌すると、今度は手をかざして臓覗を宙に浮かべ、右手から照射された妖しげな光線によって、臓覗の肉体が老人の姿からおどろおどろしい怪人の姿へと変わっていく。

頭部に光線が照射され、白目を剥いて泡を吹きながら絶叫する臓覗の声が聞こえなくなった後、召喚したサーヴァントの双眸が雁夜を捕らえた瞬間、雁夜は遂に意識を手放した。

 

 

○○○

 

 

昨夜のサーヴァント召喚から、再び意識を取り戻した時。俺は蟲蔵ではなく自室のベッドに横たわっていた。

 

「………」

 

アレは……俺が召喚したサーヴァントは一体何者なのか?

 

確か、臓覗が「お前に相応しい触媒を用意した」と言って用意したのは、『湖の騎士』ことランスロットにまつわる品だった筈だ。だが、アレはどう見ても、間違ってもサー・ランスロットなどではない。

麻痺して碌に動かない左半身を、何とかまだ動かせる右半身で引きずるように動かしながら起き上がろうとした時、ふと俺は肉体の異変に気付いた。

 

「……アレ? 左足が動く……? ……!! 両目でちゃんと見えてる……!?」

 

俺の肉体は一年に及ぶ臓覗の刻印蟲による肉体改造の副作用で左半身が麻痺し、左足はまともに動かすことが出来ず、左目も白濁として物を見る事が出来なくなっていた。

しかし、今の俺は一年前と同様に体を動かす事が出来、両目の視界も良好。思わず部屋で埃を被っていた姿見を使って久し振りに顔を確認すると、毛髪こそ白くなっているものの、ゾンビの様だった俺の顔は、一年前のそれに戻っていた。

 

「一体何が……、何が起こってるんだ?」

 

自分の体に起きた異変の正体を探るべく、勢いよく部屋を出た瞬間、ソレは扉の影からニュッと俺の前に現われた。

 

「おおお……大神官ぁ……。お目覚めになられましたかぁ……」

 

「ファッ!?」

 

ソレは巨大な人型のゾウリムシの様な姿になった臓覗だった。それを見た瞬間、俺はサーヴァントを召喚した後で見た光景が夢でも幻でも無かった事に気付き、それと同時に召喚したサーヴァントの事が心配になった。

 

今回の聖杯戦争にあたって俺は、臓覗の指示で『狂戦士【バーサーカー】』のクラスのサーヴァントを召喚している。バーサーカーは総じて「狂化」と言うスキルによってステータス補正がもたらされるのだが、デメリットとしてマスターの魔力を馬鹿食いする上に理性を失ってしまうのだ。

 

「まさか……桜ちゃんッ!?」

 

召喚した直後に臓覗に襲いかかり、見た目だけは普通の老人だった臓覗を完全なる化物に変えてしまった事を考えると、意識を失っている間に桜ちゃんにその魔の手が及んでいるのではないかと思い至った俺は、桜ちゃんの安否を確かめるべく屋敷中を探し回った。

 

そして、自分の兄である鵺野の部屋を開けた時、部屋に転がっていたのは大量の酒の瓶でも、酔いつぶれた兄でも無かった。

 

「ガルルルルルルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

虎だ。それも仔牛並のサイズを誇る巨大な虎が、鎖に繋がれる形で鵺野の部屋に居座っていた。

 

「な、な、な……!」

 

「おお、起きたか。我がマスター『大神官カリヤ』よ」

 

「おはよう、雁夜おじさん」

 

「!? お、おはよう……桜ちゃん。あと、バーサーカー?」

 

「うむ。確かにこの度はバーサーカーのクラスで召喚に応じている。取り敢えず、私の事は『創世王シャドームーン』と呼ぶがいい」

 

呼びかけられて思わず振り返ると、血眼になって探していたサーヴァントである銀色の亜人が、桜ちゃんと手を繋いで歩いていた。色々と言いたい事と聞きたいことが山ほどあるが、取り敢えず俺の中にある一番聞きたい事から聞くことにした。

 

「こ、コイツは臓覗なんだよな? 何でこうなったんだ?」

 

「その三度の飯より昆虫姦が大好きな変態ジジイは、我がスキル『改造手術』によって『大怪人ゾォルケン』に生まれ変わったのだ」

 

「……は? 改造手術!?」

 

「仕方なかろう。何せ醜悪なジジイの劣悪な趣味によって、美少女とイケメンが蟲に犯されていたのだからなッ!! お前達を助ける為に改造手術を行ってしまうのも道理であろうッ!!」

 

「助ける為に改造手術をするってどう言う事だ!?」

 

「召喚の際のお前の望みはこの子の救済と、ソイツ等への復讐だろう? その為の手段が改造手術だったと言うだけの話だ。何も間違ってはいない」

 

バーサーカーの言葉に、俺は開いた口が塞がらなかった。500年の時を生きた妖怪魔術師を改造すると言うぶっ飛んだ思考と行動力は確かにバーサーカーと言えるだろうが、何か自分が想像していた事とはまるで違った方向に狂っていたのだから無理はないと思う。

 

しかし、俺は此処である事に気付いた。先程、このサーヴァントは「イケメンと美少女を助ける為に“改造手術を行った”」と言っていなかったかと。

 

「……チョット待て、もしかしてその改造手術って……」

 

「うむ。お前とこの子の体は既に私のスキルによって改造(なお)っている!」

 

「何か言葉がおかしくないか!?」

 

「何もおかしい所は無い。これでお前達は完全にこの変態ジジイの呪縛から解き放たれたのだぞ? その結果として、例え『大神官』に生まれ変わったとしても、そこは誤差の範囲内というヤツだろう?」

 

「大神官!? 大神官って何だ!?」

 

「大神官は大神官以外の何者でも無い! それ以上でもそれ以下でもない! 分かったか!」

 

「分かるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

意志の疎通が出来ている様で出来ていないバーサーカーに俺はキレた。もっとも、彼がこんな風になっているのは、ある意味で俺と臓覗の所為でもあるらしい。

 

元々、このサーヴァントは生前に自身の心の闇から生まれたとされる、思考回路と行動力がおかしい忠実な怪人を複数従えていたらしいのだが、それが今回の召喚の際に彼から分離・独立していた怪人達の意志や思考回路が、バーサーカーの狂化スキルと一緒に付与・還元される形となってしまったのだとか。

 

「ちなみにその場合は高確率でライダーかエクストラクラスのどれかになっていただろうな。アヴェンジャーとか。もっとも、お前がどのクラスで私を呼び出そうと、『改造手術』のスキルは失われないので安心して欲しい」

 

「……そ、それじゃあ、兄貴の部屋の虎は?」

 

「シベリアトラだ。猫科最強最大の生物にして、全長4.7メートル、体重490キロを誇る同種の中でも最大級の代物だ。言ってみれば地球最強の獣だな」

 

「そうじゃなくて、なんで虎がこの家にいるんだって話だ!」

 

「私がシベリアから持ってきたに決まっているだろう。間も無くあのシベリアトラを元にしたミュータントが生まれる」

 

「はあ!?」

 

「ちなみに部屋の主のアル中だが、その息子が桜をいじめるので『貴様ら親子をワカメ怪人に改造して、大怪人ゾォルケンの餌にするぞ!!』と軽く脅してやったら、こっちが申し訳なくなる程の命乞いをした後で、いつの間にか屋敷から逃げ出していたぞ。何故だろうな?」

 

俺はますます混乱した。虎を元にしたミュータントと言うのもよく分からないが、間桐家では誰も逆らう事が出来ない臓覗を容易く改造したサーヴァントの脅しは、ハッキリ言って洒落にならない。

絶大な力を持つ者の脅迫は、相手にとって確定した未来であると言う事を、臓覗の所行によって間桐家の人間ならば誰もが心の奥底でその事を理解しているからだ。

 

もっとも、鵺野親子を脅した本人は、「悪い事するとナマハゲが来るぞ」位の気持ちだったのか、鵺野親子が逃げ出した理由が本気で分かっていないようで首をかしげている。

 

「まあ、そういう訳で虎をアル中の部屋に拘束してある訳だが……」

 

「お、おい! 危ないぞ!」

 

「大丈夫だ。そろそろ……ほら見ろ、虎は立派な繭を作っている」

 

「何でだぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「決まっているだろう。幼虫が成虫になる様に、虎がサナギになったのだ」

 

「虫かぁあああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

やけに部屋が静かだと思っていたら、先程俺を襲おうとした悪魔の様な面をした凶暴な虎が、何故かモスラの如く巨大な繭を作っていた。すると、間も無くしてチーンと言う音が繭から聞こえてきた。

 

「おっ、鳴ったな。成虫になったようだ」

 

「電子レンジかぁああああああああああああああああああああッ!!」

 

想定外の事態の連続に、俺の精神はもはや色んな意味でついて行けない。しかし、バーサーカーが作りだしたミュータントがどんな生物かを見極めなければ、安心して眠ることは出来ない。

そうこうする内に繭に大きな亀裂が走り、一体どんな恐ろしい生物が出るのかと身構える雁夜だったが、中から出てきたのは俺が想像する様なグロテスクな怪物ではなかった。それどころか――。

 

「ム~ガ~」

 

繭の中から出てきたのは、全体的にぬいぐるみの様な見た目をした、二頭身の虎の様なゆるキャラ的生物だった。

 

「カワイイ……ねえ、バーサーカー。なでなでしていい?」

 

「ああ、存分に撫で回すが良い」

 

「うん……」

 

「ムガ? ガムム。ゴロゴロ……」

 

「……はは、確かに可愛いな」

 

中から出てきたのが想像していた様な怪物では無かった事に、俺は心底ホッとした。虎の様な謎生物は、元となった虎と違って性格も大人しい上に人懐っこいのか、桜ちゃんに頭を撫でられて目を細めながらゴロゴロと喉を鳴らしている。

 

これなら別に問題はないか……と思ったのも束の間、現実は俺の安堵を嘲笑うかのように、想定外の形で俺の精神に攻撃を仕掛けてきた。

 

「ガムガム」

 

「ムーガ」

 

「ガムムムム」

 

「ム~ガ、ム~~~~ガ」

 

「……えぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

 

何故か、一匹の虎が作った繭の中からゾロゾロと出てくる大量の謎生物。別に怖くはないし、桜ちゃんも心なしか喜んでいるようなのだが、コレだけ大量にいると別の意味で大変である。

 

「ふわぁ~~。もふもふだぁ~~~」

 

「はっはっは。桜が嬉しそうで何よりだ。さあ、皆の者! 朝飯の時間だ!!」

 

「はい」

 

「「「「「「「「「「ム~ガ~!!」」」」」」」」」」

 

「………」

 

「おお……、大神官様ぁ、お気を確かにぃ……」

 

何時の間にかエプロンを着けているバーサーカーに、元気よく答える桜ちゃんと謎生物の大群。想定外の事態の連続によって疲労困憊となり、それどころでは無い俺。

そんな俺に甲斐甲斐しく世話を焼くのは、改造手術によってバーサーカーの忠実な僕と化した大怪人ゾォルケンだけなのは皮肉としか言い様がなかった。

 

 

○○○

 

 

元気よく朝ご飯を食べて、元気よくバーサ-カーことシャドームーンと謎生物(ムガトラと言うらしい)達と遊んだ桜ちゃんは、昼ご飯を食べた後でムガトラ達と一緒にスヤスヤとお昼寝していた。

この間に、シャドームーンと情報交換を行い、今後の方針を決めようと思った俺は、シャドームーンを自室に招いた。

 

「さて、これで漸く話が出来る訳だが……」

 

「うむ、桜には到底聞かせられない内容の話だからな。まず、大神官よ。お前の体内で魔術回路の役割をしていた刻印蟲は、お前が眠っている間に全て改造し、無害な疑似生体魔術回路と化している。ちなみに桜の方は、体内の淫蟲を摘出した後に再生させると言う改造を行った。おっと、桜の名誉の為に何を再生させたかは聞くなよ?」

 

「……ああ、分かった。それと、ジジイは今どうなってるんだ?」

 

「あの時、お前の後ろにいた変態ジジイは分身で、本体が別の場所にある事はこのマイティアイで確認していた。そこで俺はまず本体を『その時、不思議なことが起こった』といった感じで自分の手元に引きずり出し、それを核にして改造手術を施したのだ。つまり、殺されれば普通に死ぬ」

 

「なるほど。でも、そうなると後は臓覗を殺せば、俺が聖杯戦争に参加する理由は無くなるんだが……」

 

「しかし、聖杯戦争に不参加。或いは勝ち残らなかった場合、俺から生命エネルギーを供給されているお前は間違いなく近いうちに死ぬから、結局桜が悲しむ事になるぞ?」

 

「……え?」

 

「体は一通り治したが、削られた寿命までは元に戻っていないからな。そして、サーヴァントである私は大神官から魔力を供給されなければ現界出来ないが、逆に言えば少しでも魔力を貰えば私は現界できる。

そこで私は『エナジーコントロール』のスキルによって自然エネルギーを取り込み、それに大神官から供給される微量の魔力を足す形で現界しているのだが、それと同時に私は自然エネルギーを生命エネルギーに変えてお前に与えているのだ。そして、この循環が切れた場合、お前が遠坂葵とか言う人妻を娶り、桜と凜とか言う娘からお父さんと呼ばれる夢を実現させる事は不可能だろう」

 

「……えッ!?」

 

俺は肛門から魂が出てくるほど仰天した! 何故なら自分の秘中の秘と言える願望を、昨日召喚したばかりのサーヴァントにあっさりと暴露されたからだ!

 

「理由は簡単だ。大神官であるお前が私の生前の歴史を見ることが出来る様に、私もまたお前の歴史を見る事が出来るのだ」

 

「そ、そそそ、そう……なのか……」

 

「そして、遠坂時臣とか言う恋敵に関してだが、少なくともお前が憎しみのままに時臣を殺す展開は非常に不味い。妻が夫を殺した相手に憎しみを抱くのは明白だからな。

幸いな事に時臣が聖杯戦争の参加者ならば、我々と相手を除いて他に5組も居るのだから、その5組のどれかに時臣を殺して貰った後にソイツを我々が殺す『敵討ち』の形に持ち込めば、未亡人となった葵を慰める感じで上手いこと寝取る事も可能だろう」

 

「………」

 

思いの外、シャドームーンは俺に協力的だった。しかも、具体的に人妻である葵さんをモノにする算段を考えていて、本当にコイツがバーサーカーなのか疑いたくなる。

 

「なあ、シャドームーン。何でそんなに俺に協力的なんだ?」

 

「生前は私もお前の様に、醜悪な大人の欲望に利用される幼女を助けた事があってな。だからお前の願いが決して他人事の様には思えなかったのだ。そこで私は召喚されそうになっていた黒い鎧を着たロボなすびを後ろから突き刺し、焼きなすにしてからお前の召喚に応じたのだ」

 

「………」

 

そのロボなすびって、もしかしてサー・ランスロットか? 

 

まあ、サー・ランスロットがバーサーカーとして召喚されていたら、俺も桜ちゃんもこんな風にはならなかっただろうから、ある意味助かったと言えるだろう。

 

「まあ、個人的には寝取りは気にくわないのだが、聖杯戦争では多かれ少なかれ死人が出るのは必然だからな。葵とやらが未亡人になる可能性もゼロではあるまいよ。そして、お前としては時臣には可能な限り苦しんで貰いたいと言うのが本心なのだろう?」

 

「ま、まあな……」

 

「そこでだ。私に良い考えがある」

 

シャドームーンの邪悪な笑み(多分)を浮かべながら、自信満々に右手の親指を立てるその姿に、俺は何故か猛烈な不安を覚えていた。

 

 

○○○

 

 

アーチャーとアサシンが遠坂邸で戦闘とも言えぬ一方的な戦闘を行い、アーチャーのマスターである遠坂時臣が一息ついた直後、遠坂邸の結界を破って大量の蟲が津波の様に押し寄せる悪夢のような光景が時臣の眼前に広がり、その首謀者は時臣の全く知らない姿で時臣を睨んでいた。

 

「間桐臓覗!? その姿は……いや、何故此処に!?」

 

「フォッフォッフォ……何、儂も此度の聖杯戦争に参加させて貰うのじゃよ」

 

笑いながら遠坂邸を襲撃する目的を語る臓覗だが、その右手に令呪は無いし、それ以外の体の何処にも令呪らしきモノは見当たらない。

つまり、サーヴァントのマスターではなく、今回の聖杯戦争に参加する間桐雁夜の協力者として参戦すると言う事だろうが、間桐の当主自らが敵陣に単身で飛び込むとは如何なる作戦なのか? その理由を考える時臣の体に緊張が走った。

 

「しかし、お主には感謝しても感謝しきれぬわ。お主の娘は間桐の胎盤として、実に優れた才能の持ち主じゃったからのぉ……」

 

「? 間桐の胎盤?」

 

「何じゃ、知らなかったのか? 儂が桜をお主から引き取ったのはな、桜に間桐の跡継ぎを産ませ、優れた間桐の魔術師を作る為だったんじゃよ。桜を儂の可愛い蟲達に犯させ、その体を改造する事でのぉ!」

 

「な……ッ!」

 

「桜が間桐の家に来た最初の三日は助けを求めて泣き叫んでおったが、四日目にもなれば大層大人しくなりおったわ。この間なんぞ、朝から半日以上頭の先からつま先まで蟲共に犯されておったのじゃが、ずっと意識を保っておった。まあ、心が壊れようとも体が無事なら儂はそれで良いのじゃがなぁ」

 

「臓覗……ッ!!」

 

「くかかかか。人を顧みぬ魔導の世界にドップリ浸かったお主も、流石に自分の娘は可愛いか? しかし、もう何もかも手遅れじゃ。まあ、安易に儂のような化物を信用したお主が間抜けだったと言う話じゃな。

所で……儂も何も手札が無い状態で此処に来た訳では無い。こうした局面の為にとっておいた、秘蔵の品を使うとしよう」

 

時臣を心底馬鹿にした様な笑顔で、臓覗はどこからともなく男性器の様な形をした、オゾマシイ見た目の蟲を取り出し、それを時臣に対してこれ見よがしに見せつけた。

 

「この淫蟲はなぁ、桜の純潔を最初に奪った蟲なのじゃ。一年に渡って桜のエキスを吸い続けたこの淫蟲には、桜の極上の魔力が宿っておるのよ。んふぅううううううううううう!!」

 

そして、手にした淫蟲をジュルジュルと音を立てて吸い込み、喉を鳴らして飲み込む臓覗。すると、その異形の体から無数の血管が浮き出し、その目は血に飢えた獣の様に血走っている。

 

「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 桜のピッチピチの処女魔力は最高じゃあああああああああああああ!! まるで身体の奥から若さが溢れ出すようじゃぁあああああああああああああああ!! んほぉおおおおおおおお堪らんのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「……令呪を以って命ずる」

 

「さあ、イクぞ小僧ッ!! お主が儂に与えた桜の才能の素晴らしさを、お主はその身を以って知る事になるのじゃぁああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「王の中の王。英雄王ギルガメッシュよ。その力を以って、敵を殲滅せよッ!!」

 

数分後、遠坂邸は先程のアサシンの戦いとは比べ物にならない程に破壊され、大挙していた蟲達もまたこの世から姿を消した。

 

それと同時に、人外となって500年の時を生きた魔術師は、今までに自分が他人にやってきた事を返される形で、その生涯の幕を閉じた。




キャラクタァ~紹介&解説

創世王シャドームーン
 バーサーカークラスで召還されたバッタ怪人。弱点はロリで原動力もロリ。バーサーカーとして召喚されたせいで、心の闇から生まれた「俺の中の俺」と言える存在の魂が「狂化」のスキルと共に付加・還元されてしまい、何か色々とバグってしまった。人格を統合してしまった『百貌のハサン』は、多分こんな感じになる……訳無いか。

間桐雁夜
 みんな大好き雁夜おじさん。シャドームーンによって何時の間にか改造手術を施されて大神官になるわ、心の内に秘めた欲望を看破されるわと、ツッコミ役兼苦労人ポジのマスター。ボドボドだった体は治ったけれど、どうしても人並みの寿命を得る必要があるので、聖杯戦争を続行する事に。

間桐桜
 バーサーカー陣営のキーパーソンと言えるロリ。生前のバーサーカーは悪党に利用されていた角の生えたロリにミュータントな虎と触れ合わせて精神的な治療を施した経験がある為、桜に対しても同じように対処しようとしていた。ちなみに、桜はミュータントな虎に関しては「生きたぬいぐるみ」位に考えている。

間桐臓覗
 大怪人に改造された挙げ句、脳改造を施された事で下僕に成り下がった変態妖怪ジジイ。ドジっ子スキルを持つ顎髭おじさんと戦わせられた結果、予定調和と言わんばかりにAUOにぬっ殺された。前書きにも書いたとおり、本来ならシンさんの即死技である『脊髄引っこ抜き』で死ぬ予定だった。
 念願の聖杯戦争に参加できて、彼はさぞ幸せな最期を遂げた事だろうが、チ○コ蟲を飲み込む様はとてもオゾマシイ絵面だったことは間違いない。変態ジジイのフ○ラ顔なんて、一体誰が得するって言うんだ。

ムガトラ
 シャドームーンが造り出したミュータント。生前に強力なトラの怪人を作り出すつもりが、何故か二頭身でプリチーな見た目をした謎生物が生まれ、保護したロリが大分可愛がっていたのを思い出し、この世界では桜の為に狙って造りだした。人語を解する高い知能を持ち、次第に語尾に「ムガ」とつけて人語を話す事も出来るようになる。
 元ネタは『ダイナマ伊藤!』に登場する「ムガトラ」。元ネタでは、通常種の他に「モコモコタイガー」、「ほろ酔いタイガー」、「大人タイガー」等、ポケモンのイーブィみたいに変種と言える個体が多数存在する。



創世王シャドームーン(仮称)

マスター:間桐雁夜
クラス:バーサーカー

ステータス
筋力:A
耐久:A
敏捷:B
魔力:なし
幸運:E
宝具:EX

ランク別スキル:狂化(EX)
 狂化と書いてリヨ化と読む。言葉による意思疎通は出来るし、基本的には温厚。但し、マスターに良かれと思って色々勝手に行動するし、ロリに手を出した瞬間ムッコロと化して襲いかかる。青髯の旦那は今すぐ自害した方が良いだろう。

固有スキル:改造手術(A+)
 人体理解や外科手術などの複合スキルで、あらゆる生物を意のままに改造する事が出来る。治療にも応用できるが、あくまで改造なので『治す』ではなく『改造す』になるのがネック。もっとも、桜の場合は変態ジジイに色々と改造されていたので、元に戻す改造で何とかなっている。

固有スキル:エナジーコントロール(EX)
 自然界のあらゆるエネルギーを意のままに操るスキル。このスキルによって雁夜おじさんの少ない魔力でもシャドームーンは十全に活動し、死にかけている雁夜おじさんを生き存えさせる事も出来る。そして、この能力にはまだ出来る事があって……。


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Episode02

取り敢えず、今回登場するキャラを見れば、作者がFGOで誰を当てようとしているのか分かるでしょう。響鬼パにしろ、ゴーストパにしろ、中の人的にも外せないんや……。

ちなみに作者は今回復帰するにあたって、製作スタッフや声優さん等への感謝の意を込めて、ゲームソフト一本分程度の課金はしている。ただ働きさせている様で悪いから。

9/21 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/10/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。



シャドームーンが考案した「私が信じて送り出した自慢の娘が変態ジジイに調教されて蟲責めからの苗床産卵エンドに向かっていたDVD作戦」と言う、頭の悪いエロビデオのタイトルみたいな名前の作戦が実行に移された翌日。

 

アーチャー陣営のサーヴァントが『英雄王ギルガメッシュ』だと言う事が分かり、更には時臣の令呪を一角消耗させたのは、戦果としては上々だと言える。

 

しかし、あの忌々しい妖怪が死んだ事で幾分か溜飲が下がったが、その所為で俺達の陣営は二つの大きな問題を抱えていた。

 

一つ目は、戦力が圧倒的に足りない事。昨日は積年の恨みから、大怪人と化した臓覗を時臣に差し向けて適当に苦戦しつつ殺される様に仕向けた訳だが、その所為で今戦えるのはサーヴァントであるシャドームーンだけ。アーチャー陣営がアサシン陣営と結託しているらしい事を考えると、圧倒的に此方が不利だ。

二つ目は、この間桐の屋敷の防衛手段。今までは臓覗がここの防衛を担っていたのだが、臓覗が死んでしまったが為に、この屋敷は魔術的な防衛能力を完全に失っていて無防備な状態にある。

 

つまり、今此処に攻め込まれたら、俺達は一たまりもないのだ。

 

魔術師としての修行を放棄し、邪法によって何とか急造の魔術師として参戦するつもりだった俺では、はっきり言ってどちらも解決する事は出来ない。その事をシャドームーンに告げると、ヤツはまたもや意味不明な事を口にした。

 

「問題ない。あーゆー、頭の良い奴は馬鹿だからな」

 

「? どう言う意味だ?」

 

「御三家と言う外来の魔術師よりも情報を多く持っている事と、優雅たれという魔術師としての矜恃。そして、下手に賢い所為で色々と考えすぎて迂闊に動かないだろうと言う事だ。例えば、『本当にアレで大怪人ゾォルケンは死んだのか?』……とかな」

 

「なるほど」

 

「そして、この隙に我々はレベルの高いサポートにバトルの助っ人を申請するのだ」

 

「サポート? 他の陣営と同盟を結ぶって事か?」

 

「それも考えてはいるが、今回は違う。手始めに、我々と共に戦う魂の同志をスカウトする」

 

「は? 魂の同志?」

 

「やはり、映画化された事のある位に有名な奴が良いな。それにこの戦争では西洋の英霊しか召喚されないらしいから、日本出身の者を呼び出すのが意表を突けて良いだろう。都合の良い事に英霊の召喚システムは間桐が担当していたから、他の陣営から何か言われても何とでも言える」

 

「……おい。何を考えているんだ?」

 

「まあ、何処かに隠れて待っていろ。今日中に何とかしてみせる」

 

そう言った後で桜ちゃん達に家を空ける事を告げると、シャドームーンはさっさと何処かに行ってしまった。仕方ないので、桜ちゃんやムガトラ達を連れて蟲が居なくなった旧蟲蔵に閉じこもっているのだが、シャドームーンは中々帰ってこない。

 

「色彩~♪」

 

「ムガ~ムガ~♪」

 

ムガトラと歌う桜ちゃんに癒されつつ、何時まで此処に隠れていなければならないのだと思いつつシャドームーンを信じて待ち続けると、シャドームーンが蟲蔵の扉を開けて堂々と帰ってきた。

 

「帰ったぞ、大神官よ!」

 

「遅いぞ! 一体何をやって……」

 

「辛気臭い所ですねぇ。何だか無性に呪いたくなる臭いがプンプンするんですが」

 

「せやなぁ。臭くて臭くて、今にも鼻が曲がってしまいそうやわぁ」

 

「おお、美味し、美味し! どぉなつ美味し! 何と言う至福! 何と言う甘美! これこそ正に禁断たる魔性の甘味! ああ、穴まで美味し、どぉ! なっ! つッ!」

 

「!?」

 

蟲蔵に入ってきたのはシャドームーンだけではなかった。シャドームーンの後ろについてくる形で、狐の様な耳と尻尾を生やした一人の美女と、頭に二本の角を生やした二人の美少女が蟲蔵に入ってくる。そして、角を生やした少女の片割れは何故か一心不乱にミ○ドのドーナツをむさぼっている。

 

「大神官よ! 強力な助っ人を連れてきたぞ!」

 

「……待て待て、チョット待て。お前は一体をしてきたんだ?」

 

「聖地巡礼して、ガチャ回してきた」

 

「は?」

 

「冗談だ。私は日本の英雄……具体的には宮本武蔵や土方歳三と言った有名所を、我がスキル『エナジーコントロール』の応用で復活させようとしたのだが、どうしても上手くいかなくてな。そこで視点を変えて、妖怪の類にコレを試してみた所、彼女達を現代に蘇らせる事に成功したのだ」

 

「……つまり、サーヴァントとは違うのか?」

 

「うむ。私から生命エネルギーを与えられる形で復活している訳だから、サーヴァントの様に聖杯を介して召喚された存在ではない。つまりはクラスが固定されていないし、令呪と言う首輪も無い訳だ」

 

「!! だ、大丈夫なのか!?」

 

「まあ、生命エネルギーの供給を止めれば消滅するから、一応の首輪は有る。今回は取り敢えず『玉藻の前』、『酒呑童子』、『茨木童子』の三人を連れてきたぞ」

 

「!? とんだ大物連れてきたな!? しかし、本当に大丈夫なんだろうな!?」

 

「大丈夫だ。これも生前に培った交渉術の賜物よ」

 

ぶっちゃけた話、シャドームーンは交渉と言える程の事はしていない。

 

手始めに酒呑童子を復活させた際には、手土産として用意した日本酒『おのれ越後屋』を振る舞い、二人で酒盛りに興じていたのだが、どう言う訳か気づいた時には茨木童子が酒呑童子の傍に座って一緒に酒を呑んでいた。どうやら、酒呑童子と一緒に復活したらしい。

伝説に名高い鬼がマッチョメンではなく、やけにエロいロリとポンコツ臭のするロリだった事に驚きながらも、適当に酔いが回った所で今回の聖杯戦争への助勢を提案したのだが……。

 

「お断りやわぁ。うちらは好き勝手して生きる鬼なんどすえ?」

 

「まあ、今の現世は面白そうじゃが、確かに面倒じゃのう」

 

「……敵の一人に『英雄王ギルガメッシュ』と言う英霊がいるのだが、ソイツはどうも宝を山ほど蓄える宝具を持っているらしくてな。きっとギルガメッシュは神代の宝を唸るほど持っているのだろうなぁ。仮にそれが気に入らなくとも、それを然るべき相手に売り払えば、きっと好きな物を何でも買えるだろうなぁ……」

 

「「………」」

 

彼女達としてもせっかく現世に蘇った以上、自分達が生きた時代とは違う現代を楽しみたいという欲はあった。しかし、ここで断って現世を楽しめなくなると言うのは名残惜しいものの、彼女達は人間ではなく鬼と言う、此処とは別の次元の存在である。例え生殺与奪を握られようとも“自分”と言うものをねじ曲げる事は絶対に無い。

 

しかし、自分達を復活させた剛胆さと命知らずな所は少なからず気に入っており、生殺与奪権をちらつかせず、協力する事によって与えられる報酬の話を持ってきた事で地味に好感度が上がり、最終的に彼女達は協力する事による見返りと十分な食い扶持を引き換えに、シャドームーンの仲間になったのだ。

 

「いいのか? それってつまり、完全に利害関係で仲間になったって事だろう? 何かあったら裏切るんじゃ……」

 

「大丈夫だ……と言っても、安心は出来ないだろうから、ちゃんと証拠を見せよう。茨木童子よ! コイツは前金だッ!!」

 

「む? なんじゃコレは? 『えくれあ』? 何じゃ! さっき貰った『しゅうくりいむ』に、『ちょこれいと』がかかっているだけではないか! 美味い物に美味い物を併せればもっと美味いだろうと言う、人間の浅い考えが見え透いておるのう。そう簡単に美味い物が作れるなら苦労など……うまぁああああああああああいッ!! ちょこれいとがかすたぁどくりぃむをッ! かすたぁどくりぃむがちょこれいとを引き立てるッ!! コイツは凄ェはぁもにぃいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」

 

「ほら見ろ。お菓子をあげれば妖怪なんてイチコロだ」

 

「妖が皆、茨木と同じやと思われるんは心外なんやけどなぁ……」

 

「………」

 

雁夜に対してドヤ顔をかますシャドームーンに、お菓子を食べたリアクションで劇画調の顔に変貌する茨木童子。そんな茨木童子をみて保護者の様な顔を見せる酒呑童子に、食い物で簡単に釣られる様を見せられて余計に心配になる雁夜。

 

あまりにもカオスだが、雁夜は何とか自分を奮い立たせ、残されたもう一人の事について聞くことにした。

 

「……いや、待て。彼女の方は分かったが、それなら玉藻の前の方はどうなんだ?」

 

「彼女が我々に協力するかどうかは、大神官の魂の輝きにかかっている」

 

「えッ!?」

 

「さあ、どうだ玉藻の前よ! この大神官の魂の輝きはッ! 私が言うのも何だが、中々のイケメンだと思うのだがッ!?」

 

「……う~ん、そうですねぇ。悪くは無いんですが、良くも無いと言いますか……ぶっちゃけ普通って言うか±0って感じですね」

 

「普通!? ±0!? もう一度良く見てみろ! 幼女を助けるため、文字通り命を削って戦いに臨むこの男の魂を! コレをイケメンと言わずして、何がイケメンなのだ!」

 

「確かにニチアサヒーロータイムの主役の様なイケメンの輝きが見えますが、それと同じ位に昼ドラのサブキャラみたいなドロドロとした澱みも見えるんですよねぇ。例えるなら『ハリー・ポッター』のスネイプ先生と言いますか、“もしもハリーがリリーにクリソツな女の子だったら、スネイプ先生はこんな感じになるんじゃね?”みたいな?」

 

「確かにッ!!」

 

「おい」

 

「とは言え、私としては充分に人間として許容範囲内ですね。ええ。例え、初恋の人が人妻になっても未だに未練タラタラで、ストーカーになる一歩手前の、寝取られ気取りな失恋チェリーのロリコンヤローだとしても、仕える分にはタマモ的にモーマンタイです」

 

「おいッ!」

 

「もっとも、私は貴方の方に興味があるんですけどね。余計な物が混ざっている様ですが、男性の持つイケメンな魂と、少年の持つピュアな魂が混ざり合ったまま、折れる事も曲がる事も無く成長したと言いましょうか……」

 

「ほう。私としては特に思い当たる節はないのだが」

 

「では、一つ質問をしましょう。昔々ある所に、気が狂うほど男に恋をした女がいました。傍目から見ても恐ろしいほどに男にのめり込む女の姿を恐れた男は、逃げるように女の前から去って行きました。しかし、恋の虜となった女は執拗なまでに男を追いかけ回し、最後には男を自らの手で殺した上に、自身も死んでしまいました。この話を聞いて、どう思いますか?」

 

「……そうだな。人によって愛の形はそれぞれ違う。それこそ、気が狂うほど愛する様な者もいるだろう。しかし、この話の一番の問題は、男に気が狂うほど惚れる価値が無かった事だと俺は思う。

惚れられた男がしっかりと女の思いを受け止めてやったならば。もしも、女の愛が異常だからと放り出したりせず、男が真摯に色々と手を尽くしたならば。少なくとも最悪の事態は避けられたと思う。それは確かに相当な負担には違いないだろう。そして、男には負担を背負う覚悟が無かった。だからこそ、最悪が悲劇という形で起こってしまった……と俺は思う」

 

「「「おぉ~~~~ッ!」」」

 

「良いですねぇ~。やはり私の目に狂いはありませんでした。間違いなく、貴方は人を魅了し、夢中にさせる魂の持ち主です。生前の活躍はご存じ有りませんが、多くの人が貴方の生き様に魅せられたのではありませんか?」

 

「……さてな。それで仲間になって、くれるかな?」

 

「いいとも~~!」

 

「………」

 

かくして、シャドームーンのお陰で屋敷の警備は大幅に強化されたが、雁夜は何かこう敗北感というか、何と言うか……。兎に角、何か釈然としなかった。

 

 

●●●

 

 

時代と場所を超えて英雄達が激突する聖杯戦争の幕が上がり、人気の無い冬木市の港湾区画にある倉庫街にて3騎の英霊が集結していた。

 

ランサーのディルムッド・オディナ。

 

セイバーのアルトリア・ペンドラゴン。

 

ライダーのイスカンダル。

 

初めはセイバーとランサーの一騎打ちだったのだが、何を思ったのか彼等の『決闘』と言うべき戦いにライダーが乱入し、自軍に勧誘するという暴挙に出た。

 

「貴様らを歴戦の勇者と見込んで提案がある。その武、その技、一つ余の覇道の為に振るう気はないか? さすれば! 貴様らを余の軍勢の一人として迎え、共に世を征服する快悦を分かち合う所存であるッ!!」

 

もっとも、サーヴァントたる彼等がそんな簡単に軍門に降るなら苦労はしない。セイバーとランサーは即座にライダーの勧誘を断り、結果としてライダーが自分の真名を暴露しただけに終わった……と思いきや、そこは征服王と名高いイスカンダル。転んでもただでは起きなかった。

 

「おいこら! 他にもおるだろうが!! 闇に紛れて覗き見しておる連中はッ!! 聖杯に招かれし英霊共ッ! 今、此処に集うがいい!! 尚も顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れいッ!!」

 

「………」

 

さて、どうしたモノか。取り敢えず、参戦しているサーヴァント及びマスターのデータは、ある程度まで収集する事が出来ている。

特にセイバーのラインが遠く離れた場所からマスターの狙撃を目論んでいるらしい男と繋がっている事から、セイバーの後ろに侍る美女は囮だと言う事。そして、ランサーのラインが何故か二股に分かれている事は、貴重な情報アドバンテージになるだろう。

 

また、マスターである雁夜は魔術師を嫌っている為、他の魔術師の様に「魔術師の誇り」などと言うモノは持ち合わせていない。かく言う私も「英霊としての誇り」なんぞよりも桜の方が大事なので、こちら側の情報を取られる位なら、このまま撤退しても思う所は何も無い。

 

だが、マスターにとって最重要ターゲットと言える遠坂時臣が召喚したアーチャーが、ライダーの怒号に応える形で戦場に現われたとなれば話は変わる。

 

『大神官よ。ギルガメッシュが現われたが……どうする? 出るか?』

 

『……ああ。ギルガメッシュを倒してくれ』

 

『了解した。このシャドームーンの力、とくと見るが良い』

 

雁夜のオーダーを受けた事で大量の蝗を操り、戦場へと急行する。そして、彼等が大量の蝗に戸惑っている隙に、不意打ち気味に先手を打う。

 

「シャドーフラッシュ!!」

 

周囲は緑色の閃光に包まれ、彼等の視界が封じられている隙に地面に降り立つと、4体のサーヴァントを視界に収めながら、黄金の鎧を纏う英霊に狙いを定めた。

 

 

○○○

 

 

突如襲来した大量の蝗と、眩いばかりの緑色の光が収まった時、戦場に銀色の亜人が特徴的な足音を立てながらゆっくりと歩いていた。

 

「私はバーサーカーのクラスで召喚された、創世王シャドームーンだ。英雄王ギルガメッシュよ。私は貴様を待っていた」

 

「ほう……地を這う虫けらにしては見る目があるではないか」

 

アーチャーの正体が英雄王ギルガメッシュであると容易く看破した得体の知れない怪人に、各陣営のマスターとサーヴァントは大いに驚いていた。しかもこの怪人、自身のクラスをバーサーカーと名乗っている割にはやけに理性的である。

 

「バビロニアの英雄王か! 道理でなぁ。しかし、創世王なんて英雄は聞いた事もない。おい、坊主。あの創世王とか言うヤツは、サーヴァントとしちゃどの程度のモンだ?」

 

「いや、それが……」

 

――ゴルゴムサーヴァント。ランキング実装及び、イベントランキング上位報酬の限定星6鯖という外道の極み。ちなみに、第二再臨でもセイントグラフが進化するぞ――

 

「……ステータスが見えなくなって、代わりに訳の分からない説明が見える。てゆーか……」

 

――だいおうサーヴァント。どこだろうと馬で乗り付けるガハハおじさん。あふれでるカリスマは大企業の社長のごとし。体力・知性・人望がカンストしている――

 

――びだんしサーヴァント。流し目とホクロのエロさだけでやっていけるのに、宝具も地味に強いよくできたサーヴァント。なのに恵まれないのは上司運がないからか――

 

――アルトリアサーヴァント。一般に最もよく認知されたサーヴァント。真面目な性格でマスターに忠実で、気難しいところもあるがご飯をたくさん与えればよく懐く忠犬――

 

――きんいろサーヴァント。この世のすべてをほしいままにする我様サーヴァント。ものすごく態度がでかく懐かせるのは至難の技だが、偉そうなだけあって有能だぞ――

 

「……お前や他のサーヴァントのステータスも皆おかしくなってる」

 

「ふむ。それが奴のスキル、或いは宝具と言う訳か……それにしたって、あんま参考にならん話だなぁ」

 

「五月蠅いな! それなら他のマスターだってきっと同じ様なもんだよ!」

 

事実、ウェイバーの言っている事は正しかった。シャドームーンの先制攻撃によって、マスター達は軒並みサーヴァントのステータスを確認する事が出来なくなっており、戦場から離れた場所に居るセイバーのマスターや、ランサーのマスターにもその影響が現われていた。

 

ちなみにセイバーのマスターである衛宮切嗣が、遠くから戦場を観察するアサシンをスコープ越しに見て見ると……。

 

――あんさつサーヴァント。器用貧乏とはこのサーヴァントのためにある言葉だと言われている。百人による脳内会議はもうたいへん――

 

……となっていたりする。余り意味は無いが。

 

「もしや、先日時臣の小屋に侵入した虫けらは貴様の差し金か?」

 

「その通りだ。アレは随分と聖杯戦争に参加したがっていたのでな。私が望みを叶えてやったのだ」

 

「つまり貴様のせいで、この我があのような虫けらの駆除に駆り出された訳か……その不敬、死を以て償って貰うがいいッ!!」

 

「サタンサーベルッ!!」

 

憤怒の表情で背後に宝具を展開し、黄金の波紋から二本の槍を射出するアーチャーに対して、バーサーカーは真紅の刃を備えた細身の刀身を持つ一本の剣を手元に召喚する。

 

次の瞬間、周囲に甲高い金属音が鳴り響き、旋風が吹き荒れたと思えば、アーチャーが渋い顔でバーサーカーを睨み、バーサーカーはそんなアーチャーを無言で見つめ返している。

 

「な……!」

 

「馬鹿な……」

 

「ふむ。狂化して理性を無くしているにしては、エラく芸達者な奴よのぉ。……いや、そもそも本当にアイツはバーサーカーか?」

 

「何だ? 何が起こったんだ?」

 

「バーサーカーの奴が手にしておる剣。恐らくはアレがヤツの宝具だろうが、それでアーチャーが撃ち込んだ剣と槍を打ち払い、軌道を反らして上に逃がしたのよ」

 

「……はぁ!?」

 

剣一本で弾丸の様な速度で飛来する剣と槍を自身から反らす離れ業に、剣についてはど素人のウェイバーは元より、剣について心得のあるランサーとセイバーも驚愕していた。

そもそも、バーサーカーは「技で戦うサーヴァント」ではない。狂化によって強化された身体能力に任せた「力で戦うサーヴァント」である。そのバーサーカーが「技を使っている」となれば、先程名乗ったクラスが嘘なのではないかと思うのもまた必然と言えた。

 

「どうした? 英雄王の力とは、この程度のモノなのか?」

 

「ッ!! 奢るなよ……雑種風情がッッ!!!」

 

憤怒に表情を歪めたアーチャーによって、雨霰と降り注ぐ宝剣と宝槍を前にして、バーサーカーは一歩も引くことは無い。

 

「ムンッ!!」

 

「チィッ!! その汚らわしい手で、我が宝物に触れるとは……そこまで死に急ぐかッ!」

 

そして、新しく判明するバーサーカーの更なる能力。掴み取ったアーチャーの宝具を使い、二刀流でアーチャーの攻撃を捌き続けていた。

流石に、全ての宝剣や宝槍の軌道を反らすことは叶わず、捌ききれない分は斬り捨てられて爆発を起こしているが、全身に銀色の強固な鎧を纏っているバーサーカーは、爆発を全く意に介していない。

 

「どうやら、英雄王は宝具の数が自慢らしいが、その悉くが捌かれておるなぁ。しかも、創世王は相手の宝具を自分の武器として使えると見える。しかし、あの創世王とか言うヤツがどんな英雄なのか全く見当がつかん。坊主もアレが誰なのか心当たりはないか?」

 

「……パッと思いつくのは居るには居るケド、それは有り得ない。仮にそうだとしたら、それは英霊なんかじゃない! そんなの呼び出せる筈がない!」

 

アーチャーがひたすらに攻撃し、バーサーカーがひたすらに防御する。その光景を目の当たりにしながら、バーサーカーの正体を探ろうとするライダー主従だが、ウェイバーは自身の仮説を否定する。聖杯戦争のルール上、ソレはありえないからだ。

 

そして、千日手と言える状況に業を煮やしたのか、バーサーカーが持つ長剣の刀身から、赤い光で出来た刃が放たれると、それはアーチャーの足場を両断した。

 

「……痴れ者が! 天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるかッ! その不敬、万死に値する! そこな虫ケラよ……もはや、肉片一つ残さぬぞッ!!」

 

「そうだな。但し、お前がだ。英雄王……!」

 

バーサーカーの持つ長剣に電流が流れた瞬間、バーサーカーが空に軌道を反らしていたアーチャーの宝具の数々が、バーサーカーの振り下ろしに合せて、アーチャーに向かって殺到した。

 

 

●●●

 

 

先日の遠坂邸で行われた戦闘データを元にギルガメッシュの攻撃に対応し、更にはサタンサーベルの無重力ビームを用いた、相手の宝具を利用してのカウンターを仕掛けた訳だが、そこは英雄王と名高いギルガメッシュ。無数の宝剣と宝槍によって、先程とは比較にならないほどの爆発が起こるが、その黄金の鎧には傷一つ付いていなかった。

 

「味な真似を……我の宝物で、我を殺せると思ったか……!」

 

「……ククク、成る程な。英雄王ギルガメッシュ。貴様、“生前よりも弱くなっている”のではないか?」

 

「何……?」

 

「貴様の本来の力は、この程度ではあるまい。サーヴァントと言う型にはまったが為に実力を十全に発揮できず、更には他ならぬマスターが貴様の足枷になっていると見える。大方、『強いサーヴァントを呼べば聖杯戦争に勝てる』と思った、身の程知らずでつまらん魔術師に召喚されてしまったと言った所か?」

 

事実、英雄王ギルガメシュはサーヴァントと言う型に嵌めたとしても、魔術師が簡単に制御しきれるような存在ではない。それでも遠坂時臣が英雄王の召喚に踏み切ったのは、一重に魔術師としての自負心。即ち、「自分ならば英雄王を制御できる」と思い込んでいたからに他ならない。

それはつまり、時臣の魔術師としてのプライドは相当に高いと言う事の証左であるが、それに加えて魔術師は基本的にサーヴァントを使い魔と考えている上に、令呪と言う絶対命令権の存在から、サーヴァントを自分より格下の存在だと思っている節がある。

 

そんな格付け大好き人間が、圧倒的に格下だと判断している急造の魔術師が召喚したサーヴァントにこれでもかとコケにされれば、上手いこと我を忘れてプッツンし、令呪を無駄に消耗する可能性は高い筈。

大怪人ゾォルケンが遠坂邸を襲撃した際、時臣は既に令呪を一画使っている為、時臣の令呪は残り二画。英霊を確実に制御するには令呪が二画必要な事を考えれば、此処で一画使ってしまえば、ギルガメッシュが時臣の制御を離れ、あわよくばマスターを裏切る展開も充分に有り得る。

 

「おのれ! おのれ! おのれ! 虫の分際で……この我を愚弄するかッ!!」

 

しかし、その前にギルガメッシュの方がプッツンしていた。黄金の波紋から何やら鍵の様な形状の剣らしきモノを取り出し、更なる宝具の登場を予感してサタンサーベルを握りしめるが、その時ギルガメッシュの動きが不自然に止まった。

 

「……貴様ごときの諌言で、王たる我の怒りを鎮めろと? これまた大きく出たものよな、時臣……」

 

どうやら、時臣は令呪を使ったらしい。アーチャーの真名がバレている事を考えれば、このまま徹底抗戦も充分に考えられたが、此処にいる5騎のサーヴァント(遠くにはアサシンも居るから6騎だが)が潰し合ったとして、この場に現われていないキャスターに疲弊した所を襲われ、漁夫の利を狙われる事を恐れた……と言った所か。

もっとも、会話の節々からアーチャー陣営はマスターとサーヴァントの信頼関係がかなり悪そうだと推測できる。まあ、原因を作ったのは私だが。

 

「……命拾いをしたな、虫ケラ。雑種共、次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは、真の英雄のみで良い」

 

そう言い残すと、ギルガメッシュは霊体化して戦場を後にした。何はともあれ、これで時臣に令呪を二画使わせる事に成功した。マスターとの仲の悪さを考えるなら、上手くすればアーチャー陣営は勝手に自滅してくれるだろう。

 

「さて……お前達はどうする? やるか?」

 

「……ふむ、創世王よ。お主は余と共に世界を征服するつもりはないか?」

 

「世界など生前に征服した。ある意味でな」

 

「ほう! ますます面白い!」

 

「……フッ!」

 

ライダー達に対して大量の蝗をけしかけ、それに紛れるようにその場を後にする。

 

しかし、支配権を得ることで回収する事に成功したギルガメッシュの宝具だが、これで酒呑と茨木は満足してくれるだろうか? 何と言うか、妙に成金臭くて逆に手土産程度の価値さえ見いだしてくれない様な気もする。

 

やはり、あの黄金の波紋の中に侵入し、お宝を根こそぎ頂く方法を考えるべきかと思いながら、俺は周辺を軽くパトロールしてから屋敷に戻った。すると……。

 

「ははは……俺のバーサーカーから、尻尾を巻いて逃げやがった。時臣、貴様の吠え面を見たかったぜ、はははははははは……」

 

「フンッ!!」

 

「あだぁあッ!?」

 

「……はっ!? すみません。唐突なガチャ自慢にイラッときて、咄嗟に自己防衛本能が働いてしまいました。てへぺろ♪」

 

「べ、別に自慢した訳じゃ……」

 

「まあ、どうせこの世界線だけの話ですから、星6なんて引いた所で何にもならないんですけどね。イキって自慢した所で恥かくだけですし?」

 

「………」

 

先程の戦闘を見てハイになっていたらしい雁夜と、割とあざとい笑顔でメタい事をのたまう玉藻が、何故か漫才の様なやり取りをしていた。

 

 

○○○

 

 

ライダーの介入によって、ランサー陣営との戦いに決着は付かず、セイバーの呪いを解く事無く撤退を余儀なくされたものの、今夜の戦いで得られた情報は僕達にとっても非常に価値のあるものだった。

 

遠坂が英雄王ギルガメッシュをアーチャーとして召喚したのは予想外だったが、間桐が召喚したバーサーカーの戦闘力を考えるならば、両陣営をぶつける事が出来れば、あわよくば両陣営の共倒れ。どちらか勝ったとしても、決して無傷では済まない筈なので、そこで漁夫の利を狙えば良い。

 

しかし、あのバーサーカーと名乗るサーヴァントは一体何者なのか?

 

大量の蝗を操る能力と高い身体能力に加え、マスターが持つサーヴァントのステータスを認識する能力に干渉するという絡め手まで備えている上に、明らかにバーサーカーらしくない言動と振る舞いを見せた挙げ句、クラスがセイバーだと言われても疑いようのないレベルの剣技まで備えている。

 

正直な話、これら全てに該当する英雄は全く思い当たらないのだが、蝗の群れを操る能力と言う一点に絞れば、僕にもパッと思いつく存在が一つだけあった。

 

その名は、アバドン。

 

それは、かの『ヨハネの黙示録』に登場する奈落の王であり、ヘブライ語で「破壊の場」「滅ぼす者」「奈落の底」を意味し、ギリシア語では「破壊者」を意味するアポリオンと呼ばれていて、これは蝗害が神格化されたものだと考えられている。

一般的には悪魔としてのイメージが強く、サタンやサマエルと同一視される事もあるが、キリスト教などでは堕天使の一人としてルシファーと同一視される事もあり、『ヨハネの黙示録』では5番目の天使がラッパを吹く時に、蝗の群れを率いて現われる「馬に似て金の冠を被り、翼とサソリの尾を持つ」天使だともされている。

 

しかし、蝗害が神格化したとされる存在を、果たしてサーヴァントとして呼び出す事が可能なのか? 

 

そもそも、「自然現象が神格化された存在」と言うのは、英霊ではなく神霊と言うべき存在である。だが、第三次聖杯戦争でアインツベルンが呼び出したサーヴァントの事を考えると、神霊の類いを英霊として呼び出す事が出来ないと言い切れない部分は確かにある。

何より、間桐はサーヴァントと令呪のシステムを考案した実績から、英霊召喚に関しては御三家の中で最も強い家系だ。出来たとしてもおかしくはない。

 

しかし、仮に上手く呼び出せたとしても、それは急造の魔術師に制御できるような代物ではない。だが、もしも神霊を意図的に呼び出し、それを完全に制御下に置いているとするならば……。

 

「間桐雁夜か……取るに足らない相手だと思っていたが、どうやら違ったらしい」

 

先日の間桐家当主による遠坂邸襲撃に、力の底の見えないバーサーカーの登場。この予測のつかない展開の中心人物の事を考えながら、切嗣はゆっくりと紫煙を吐き出した。

 

 

○○○

 

 

一方、セイバー陣営のみならず、他の陣営からも注目されているバーサーカー陣営は、人知れず更なる動きを見せていた。

 

「大神官よ。我々の新しい同志、清姫だ」

 

「え? 清姫って……『安珍と清姫伝説』の?」

 

「うむ。玉藻のツテでスカウトしてみたのだが、対戦相手にいけ好かない嘘つき野郎が居ると言ったら快く引き受けてくれたぞ」

 

「嘘つきは許しません。許しません。許しません。許しません。許しません。許しません。ゆるしません。ゆるしません。ゆるしません。ゆるしません。ゆるしません。ユルしません。ユるしマセン。ユルしませン。ゆルシませン。ユルシマせん。ユルシマセン……」

 

「………」

 

完全にイッちゃった目をしながら、同じ台詞をひたすらにブツブツと呟いている、頭に二本の角が生えている下半身が蛇の少女を見て、彼女が狂った精神構造を持っている存在なのだと、雁夜は一目で嫌でも理解させられた。

 

「この調子でもっと同志を増やして、他の陣営を殲滅しよう。大神官が聖杯戦争の勝者となる日はもはや目前だ」

 

「そ、そうだな………」

 

「では、今日も勉強を始めるとしよう。今日はビデオセミナーだ」

 

「………」

 

『勝利のカギは、宝具チェイン!』

 

「……宝具チェインって何だ?」

 

「オーバーチャージが最大500%まで増える。見た限りセイバー陣営とランサー陣営は主従関係に隙がありそうだから、上手いこと二人をパーティーに入れれば、アーチャー対策は万全だ。多分」

 

「………」

 

シャドームーンの意味不明な説明を聞きながら、その内雁夜は考えるのを止めた。




キャラクタァ~紹介&解説

創世王シャドームーン
 バーサーカーなのに、『マンガで分かるFGO』の「マンガで分かるライダー」みたいになっている。普段は変な方向に狂っているが、戦闘は真面目に行うので、それが他の陣営を余計に混乱させる原因になっているが、その事に本人はおろかマスターである雁夜おじさんも気付いていない。

間桐雁夜
 シャドームーンの活躍により、他の陣営から色々勘違いされつつあるが、その実態は変なところでリヨ化しているシャドームーンに振り回される苦労人。屋敷が百鬼夜行の根城と化してきた気がするが、元々妖怪の根城みたいな場所だったので「もう、どうにでもな~れ♪」って感じになってきている。

玉藻の前
 亡霊怪人その1。復活の経緯としては、砕け散った殺生石の一つを探しだして復活させた結果キャス狐を引き当てた……と言った感じ。見た目はキャス狐と同じだがリヨ化……もといシャドームーンの影響を少なからず受けているのか、ボケとツッコミの半々と言ったキャラと化した。台詞を考えるのが難しいキャラでもある。

酒呑童子
 亡霊怪人その2。亡霊怪人の中でも結構危険な思考回路を持っているが、一応食い扶持を貰っている分の義理はちゃんと果たすつもりでいる。ちなみにアル中のワカメが間桐家に残していった酒は、全て彼女のお腹の中に収まっている。コイツも玉藻に負けず劣らず台詞を考えるのが難しい。

茨木童子
 亡霊怪人その3。生前にはお目にかかれなかった西洋の甘いお菓子に興味津々で、間桐家の面々との相性も悪くはない。基本的にポンコツなので、ネタキャラとして非常に動かしやすいのが特徴。ちなみに、作者は今年のFGOの水着イベントで、水着を着てランサーになったコイツを引いた。

清姫
 亡霊怪人その4。玉藻のメル友と言う事でスカウトされる。玉藻としては「シャドームーンなら大丈夫」と思っているが、当の清姫は嘘つきの臭いがプンプンするアーチャー&アサシン陣営に興味津々。なお、彼女の下半身は『マンガで分かるFGO』の清姫と同様に、完全にヘビのそれになっている。



亡霊怪人
 所謂、再生怪人。能力的には『NARUTO』の穢土転生(口寄せ契約解除後)に近く、更には「亡霊怪人として復活できるのは“人ならざる姿をした者”のみ」に限定されている。亡霊怪人はシャドームーンから供給される生命エネルギーによって実体化している為、攻略には本体狙いが一番手っ取り早い。
 今回は日本の妖怪や怪物と化した元人間が亡霊怪人として再生されているが、その気になればフランケンシュタインやアステリオスと言った海外の面々も亡霊怪人として復活させる事ができる。

宝具:サタンサーベル(A)
 シャドームーンが保有する魔剣。ストーリー的には、セイバーの保有する聖剣エクスカリバーと対になる宝具と言えるかも知れない。瞬間火力では流石にエクスカリバーに劣るが、無重力ビーム等の絡め手を持ち、切れ味も抜群。『滅びのシンボル』は伊達では無い。

スキル:武装奪取(B)
 相手の武器を奪取して自分の武器として使えるスキル。但し、奪取した武器が意志を持っている場合、スキルによる制御を振り切って反逆される恐れがある。エルキドゥをバトルホッパーとするなら、ギルガメッシュ戦でそう言う展開もアリになる……のだろうか?



取り敢えず、コレにてFateの世界はお終い。

仮に続きを書くとするなら、この後キャスター討伐戦でイバラギン達が大暴れしたり、シャドームーンが切嗣のランサー抹殺作戦を台無しにしてセイバーとランサーに揺さぶりを掛けたり、ランサーが黄色い槍をへし折って「貴方に……忠誠を、誓ぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」と言ったりすると思います。


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