ロクでなし魔術講師と虚ろな魔術少女 (猫の翼)
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第一章 虚ろな少女と魔術学院
第一話


初めまして、猫の翼です。
ロクでなし魔法講師と禁忌教典を読んで、ぱっと思いついたアイデアなので、見切り発車もいいところです。ご都合主義になるかもですが、読んで貰えると幸いです。


 

「~~♪~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながら、鍋の中身をぐるぐるとかき混ぜるエプロン姿の少女が一人。鍋の中では白いシチューがコトコトと煮えていた。出来がよかったのか、上機嫌だ。

 

「ん、これでよし……」

 

 味見をして満足げに頷くと、火を止めて皿に盛り付ける。三人分用意して、食卓に並べる。食卓には既に若い男と妙齢の美女が腰掛けている。そこに少女が加わることで、いつもの食事風景が出来上がった。

 

「いただきます」

 

 言うが早いか男──グレン=レーダスは料理を貪り始める。その食いっぷりは見事なもので、料理を作る側の人間からすれば嬉しいものだろう。店で気前のいい店主なら、ただでおかわりを提供するであろう程の食いっぷりだ。

 一方の美女──セリカ=アルフォネアは料理に口をつけず、グレンを見ている。料理から一旦口を離したグレンは、口の中身を嚥下すると。セリカを見て言い放った。

 

「食わないなら、俺が貰うぞ」

 

 セリカの前に置かれた皿を身を乗り出してひょいと持ち上げ、自分の前に持っていくグレン。もはや清々しいまでのふてぶてしさだ。

 

「いやぁ、でもやっぱ、つくづく思うんだよ。働いたら負けだなって」

 

 何を思ったか唐突にそんなことを口走るグレン。思考が完全にダメ人間のそれである。

 

「お前が居なきゃ、俺は死んでた。お前が居てくれて本当によかったよ」

 

「ふ、そうか。死ねよ、穀潰し」

 

「あっはっは! セリカは厳しいなぁ! ……あ、おかわり」

 

 グレンの発言に、セリカは毒を吐いて答える。が、グレンはそれを笑い飛ばし、早くも食べ終わった一つ目の皿を少女へ突き出す。

 

「はい、今持ってきますね」

 

 それに微笑んで答える少女の名はレナ=エクセリアという。脱色したような薄い金の髪に、複雑な色の瞳を持つ可憐な少女だ。レナは、このセリカの屋敷に住むグレンと同じ居候。とある事件が原因でセリカに引き取られたのだ。グレンと違う点と言えば、家事をしっかりこなし、昼間はバイトをしてお金を稼ぎ、しっかりと家にお金を入れているところか。

 レナはグレンの皿を持って鍋まで移動する。嫌な顔一つしないのは、怒りの裏返しとかそう言ったものではなく、微笑ましいとかそういった風に考えているからだ。

 

「相変わらずレナの作るメシは美味いな。セリカのはちょっと塩味がきつい、俺はもっと薄味が好きだね」

 

「働きもしない居候の上に、ダメ出しとは恐れ入る」

 

 セリカもニコニコとしばらく笑っていたが──

 

「≪まあ・とにかく・爆ぜろ≫」

 

 ルーン語で奇妙な呪文を唱える。瞬間、紅蓮の衝撃が食卓を包み、とんでもない爆音が響いた。セリカが起動した魔術の爆風が食堂の備品を残骸へと変え、グレンは容赦なく吹き飛ばされる。

 

「ば、馬鹿野郎! お前、俺を殺す気か!?」

 

「殺す? 違うな。ゴミをかたす行為は掃除と言うんだぞ? グレン」

 

 そうやって、グレンはわめくがセリカはまったくもって動じない。こうなると、レナは蚊帳の外なので、大人しく遠くから傍観する。

 

「まったく、レナを見習え。まだ本来なら学校に通っている歳だというのに、昼間はバイトをしてお金を稼ぎ、空いてる時間は家事をして勉強もしているんだぞ?」

 

「ああ、お陰で俺は何もしないですんでる。ありがとな!」

 

 レナに向かってサムズアップするグレン。実にいい笑顔である。これにはセリカも呆れるしかない。

 

「はぁ……なぁ、グレン。いい加減仕事を探さないか? お前が前の仕事を辞めてから早一年、毎日食って寝てを繰り返すだけ。昔のよしみで面倒を見てやってる私に、少しは申し訳ないとか思わないのか?」

 

「嫌だね、俺は仕事はしない。それに、俺とお前の仲じゃないか。水くさいことはなしだぜ?」

 

「≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を……」

 

 さすがにキレたのか何やら据わった目でとんでもない魔術の詠唱を始めるセリカ。それは確か【イクスティンクション・レイ】の詠唱ではなかったか。

 ビビったグレンが黒こげの壁を背にして裏返った声で悲鳴を上げる。その姿を見てセリカは、やれやれといった具合に起動しかけていた魔術を解除した。

 

「はぁ……まあ、いい。仕事は私が斡旋してやる。アルザーノ帝国魔術学院での非常勤講師だ」

 

「魔術学院の非常勤講師?」

 

「急な人事でな。加えて、私たち教授陣は近々開催される帝国総合魔術学会の準備で生徒に構っている余裕はない。というわけで、一ヶ月間、給与も特別に正式な講師並に出るように計らおう。お前の働き次第では、正式な講師に格上げも考えてやる。どうだ? 悪くない話だろ?」

 

「……無理だな」

 

 今までのふざけた調子はどこへやら。グレンは神妙な顔でそれを断った。言うまでもなく、破格の条件だ。ここまで優遇された措置を受けられる職場など他にはないと言える。

 

「無理? なぜだ?」

 

「俺には誰かを教える資格なんてないのさ」

 

 どこか、寂しさを感じさせる様子で窓の外を見るグレン。

 

「そりゃ、資格ないよな。だって、お前、教師免許持ってないし」

 

「やめてよね、人がせっかく渋く決めてるのに現実を突きつけるの」

 

 セリカの冷静な突っ込みに子供のように口を尖らせるグレン。

 

「ま、資格うんぬんに関しては安心しろ。学園内での私の地位と権限でどうとでもなる。お前が実績を出せば、裏技で免許発行するのも難しくない」

 

 なにかとんでもない事を聞いた気がする。職権乱用はよくない。ダメ、絶対。

 

「ちなみに、お前に拒否権はない」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ≫」

 

 セリカが早口で呪文を唱えた刹那、グレンの横を光の奔流が通り抜ける。光が通った場所は、滑らかな抉られた痕が残るのみ。物理ではあり得ない、魔術による破壊、【イクスティンクション・レイ】の破壊痕である。

 

「こうなる」

 

 口をぱくぱくと金魚のように動かして硬直するグレンにセリカは澄ました顔でそう告げる。

 

「どうだ? やるか、やらないか」

 

「謹んでお受けさせていただきますぅぅぅぅ

!?」

 

 命の危機を感じてか、敬語になりつつ講師になることを承諾するグレン。さすがにここで断れるほど図太くなかったらしい。

 

「そうか、それは何よりだ……ああ、そうだ、レナ。お前もアルザーノ帝国魔術学院に編入しないか?」

 

「ふぇ?」

 

 突然白羽の矢が立ったレナは目を白黒させる。

 

「いやな、お前も本来は学校に通っている歳だろう? むしろ、今までがおかしかったわけだ。どうせだ、編入も私がどうにかできるわけだし、通ってみないか?」

 

「え、えと……私はセリカさんに魔術のことは教えて貰いましたし、今更、学校に通っても……」

 

「まあそう言うな。勉強するだけが学校ではないしな」

 

「そうなのですか……?」

 

「ああ、だから通ってみないか? 別に強制はしないが」

 

「俺との扱いの差に抗議する」

 

「黙れ、グレン。分解されたいか?」

 

 据わった目つきで睨み付ける。蒼白な顔を横にをブンブンと振るグレン。

 

「で、どうだ?」

 

「そう、ですね……それなら、通ってみたいです。学校と言うものに、興味はありますし」

 

「決まりだな。ああ、バイトはしなくていいぞ。学校に通うんだから、時間もないだろうし」

 

「でも、居候ですし、その位は……」

 

「グレンのようになれとは言わないけどな? もう少し遠慮をなくせ。私は金には困ってないし」

 

「わかりました……ありがとう御座います、セリカさん」

 

 かくして、私はアルザーノ帝国魔術学院に編入、グレンさんは非常勤講師として働くことになりました。一ヶ月限定の非常勤講師。グレンさんがちゃんと働くのか疑問な所ですが。




ボチボチ更新したいと思ってます


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第二話

更新ペースは激しく変動します。
なにとぞお許し下さい。
主人公のキャラ設定とか、どこで出せばいいかな……


 アルザーノ帝国魔術学院。アルザーノ帝国南部の都市フィジテに存在する魔術師育成専門の学校である。日々の研鑽、努力こそが力となるのが魔術であり、それを理解しているのがこの学院の生徒や教師だ。つまるところ、遅刻などもってのほかであり、そうなるにはやむにやまれぬ事情がある場合である。

 さて、その学院の廊下、詳しく言えば二年次生二組の教室の前。レナはそこで佇んでいた。理由は至極真っ当で、編入してきた初日なのだから教師から紹介があるはずである。でなければ、教室で浮いてしまってしょうがない。だがしかし、来ないのだ、その教師が。教師が来なければ教室に入ることも出来ない。よって、廊下に居ることになっているのだ。

 と、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「げ、レナお前……よりにもよって二組に編入なのか」

 

「あ、グレンさん。どうしたんですか、こんな遅刻し……て……」

 

 声の主はグレンであり、レナは遅刻してきたグレンに理由を問おうとした。そして、グレンの姿を観察して驚愕する。すり傷や痣がある上に全身ずぶ濡れである。自分が家を出るときには既に出発していたグレンが遅刻していたのにも驚きだが、それ以上に何があったのかがとても気になるところだ。

 

「気にするな。それよか、教室入るぞ」

 

「え、ちょっ、ま、待って下さい」

 

 当のグレンはどこ吹く風、平然と教室のドアを開けて中へ入る。レナは慌てて後を追うしかない。

 

「悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

 そんなことを言いながら、教室に入ったグレンに一斉に視線が殺到する。

 

「やっと来たわね! ちょっと貴方ね、この学院の講師としての自覚が───あ、あ、あああ──貴方は──ッ!?」

 

「…………違います、人違いです」

 

 銀髪の少女がガタリと立ち上がり、グレンを見て目を見開く。グレンはそれを華麗にスルーすると教卓へ向かった。銀髪の少女が更に何かを言おうとするが、それより先にグレンが黒板に自分の名前を書き始めた。

 

「えー、グレン=レーダスです。本日から約一ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けをさせていただくつもりです。短い間ですがこれから一生懸命頑張っていきま……」

 

 と、こそで視線が自分よりも隣の少女に向かっているのに気付く。大遅刻してきた講師と、それに付いてきた少女。後者の方は説明もされていないだろうから、注目が行くのは無理もなかった。

 

「あー、こっちは編入生だ。よっと……」

 

 グレンは自分の名前の横に、『レナ=エクセリア』と書き加える。グレンは、自分に目配せをしてきているレナに手をひらひらさせて、自己紹介を促す。

 

「えと……レナ=エクセリアです。アルザーノ帝国魔術学院に編入して、今日からこのクラスに配属されました。よろしくお願いします」

 

 そう言って、ペコリと頭を下げる。だが、クラス中は、編入生と聞いた辺りからざわつき始めていた。

 それもそうだ。そもそも、アルザーノ帝国魔術学院とは難しい入試でも有名なのだ。志望する人数も多く、倍率も高いため、入学出来るのはほんの一握りである。そのアルザーノ帝国魔術学院に編入ともなれば、編入試験はより難しくなっている。現に、今まで別の魔術学院から編入を希望する生徒は確かにいたが、そのほぼ全員が編入試験に弾かれ、編入することは叶わなかった。つまり、編入そのものが稀有であり、編入してきたからには編入試験に合格したに他ならず、それは確かな力を持っていることの証明でもある。

 

「席は……まあ、適当に空いてる席があるだろ。そこに座れ」

 

 グレンがそう言うと、レナは教室を見渡して丁度一つ空いてる席を見つける。そこは、先ほどグレンを見て驚愕していた銀髪の少女の隣だった。

 私が席に着かないことには授業も始められない訳で、ひとまずそこへ腰を落ち着けた。

 

「よろしくお願いします」

 

「あ、うん、よろしく……」

 

 隣の席であるし、銀髪の少女に小声で挨拶をすると、やはり小声で挨拶が帰ってきた。悪い人ではないようなので、少し安心した。

 

「さて……一限目は魔術基礎理論IIだったな……あふ」

 

 あくびを噛み殺しつつ、やる気のない気怠げな様子でグレンがチョークを持った。すると、先ほどまでのざわつきはどこへやら、生徒たちはグレンの挙動一つ一つに注意を向けた。

 レナは職員室に居たので知らないが、朝のホームルームでセリカがグレンのことを『なかなか優秀な奴』と評していたのだ。大遅刻をしてきたとはいえ、第七階梯(セプテンデ)に至った大陸屈指の大魔術師であるセリカが言ったのだ、評価するのは自分たちであるとは言え、期待しないわけがないのだ。

 そして、グレンが黒板に書いた文字を見て、皆、硬直することとなった。

 

 『自習』

 

 でかでかと書かれた二文字に、生徒たちは困惑を隠せない。なんとか、その二文字に込められた意味を察しようとするのだが、無駄に終わる。当たり前だ。短い二文字に込められた意味などなく、それはそのままの意味だからだ。

 

「えー、本日の一限目の授業は自習にしまーす」

 

 さも当然、とばかりにグレンは宣言した。

 

「………眠いから」

 

 ボソリ、と理由を漏らして。

 もはや唖然とするしかない生徒たち。目の前で起こっていることが理解を超えていた。

 グレンはそんなことお構いなしに教卓に突っ伏した。これが当たり前、と言わんばかりの態度で。十秒もしないうちに、いびきが聞こえ始めた。

 そんな中、混乱から一人抜け出した生徒、隣に座る銀髪の少女がすくりと立ち上がる。手には分厚い教科書を装備して。

 

「ちょおっと待てぇええええ──ッ!?」

 

 掛け声と共に突貫していく姿が勇猛果敢な戦士のようであった。

 

 

 

*******************

 

 

 

「うわー、ロッド見ろよ、あの講師を……」

 

「あぁ、スゲェな……目が死んでる……」

 

「あんなに生き生きとしてない人を見るのは初めてだ……」

 

 教室のありこちでひそひそと話し声が聞こえる。その対象はグレンさんだ。システィーナと言う名前らしい銀髪の少女(隣の隣のルミアと名乗る少女が教えてくれた)に、教科書による制裁を食らったグレンさん。その後、なんとか授業が始まったのですが、問題はその質でした。ひどかった。教科書の内容を適当に説明して、細かいところはあやふやにする。質問されても、「俺もわからん」とあしらう。まさに、ひどいと言うしかない授業です。いえ、もはや授業であるかもあやしいような……。

 

(グレンさん……)

 

 私は、少し心配でした。私は、グレンさんの過去を知っている。魔術のことが嫌いだということも知っています。だから、セリカさんがグレンさんを非常勤講師にすると言った時、驚いたのです。セリカさんも、グレンさんの暗い過去は知っているはずなのです。だから、仕事をさせるにしても魔術とは関わりのない仕事のがいいのでは、と思いました。ですが、私が口を出すわけにもいかず、こうなったのですが……グレンさんは真面目にやるつもりはないのは明らかなのです。グレンさんがその気になれば、もっと上手く教えられるのですから。

 

(先が思いやられます……)

 

 そうして、グレンさんの初めての授業は最悪の印象で終わったのでした。

 

 

 

********************

 

 

 

「まったくもう、なんなの!? あいつ!」

 

「あはは……まあまあ」

 

 グレンの授業の後、システィーナは苛立ちを乗せて、脱いだ洋服をロッカーに投げつけた。ルミアが曖昧に笑って宥めるが、効果はないようである。

 

「やる気なさ過ぎでしょ!? なんであんな奴がこの学院の講師なんてやってるの!?」

 

 セリカが無理矢理空いた枠に突っ込んだ、とは言えないレナである。席が近いと言うこともあって、システィーナとルミアはレナと行動を共にしていた。既にうち解けて、友達と言える関係になっている。ここまでうち解けられるのは、レナの力と言うよりはルミアとシスティーナの人柄だろう。

 ここは更衣室、次の授業が錬金術実験の授業であるため、皆、着替えているのだ。錬金術は様々な触媒や魔術器具を扱うこととなるのだが、その際、衣服が汚れたり、臭いが移ることがしばしばある。よって、錬金術実験の場合、生徒達は実験用のフード付きローブに着替えることになっているのだが……ここで、レナに問題が発生した。

 レナが纏っている制服は、ルミアやシスティーナが着ているものとは違う。正確に言えば、肌が殆ど露出しないように作り替えられ、更にローブを上から着ている。これには、とある事情が絡んでいるのだが、着替えの際には脱がなければならないのを失念していた。

 どうしようかと考えている所で、ルミアの胸を鷲摑みにしていたシスティーナが、着替えようとしないレナに気付く。

 

「? 着替えないの?」

 

「あ、えっと……」

 

 着替えたいのは山々なのだが、そうできないのである。なんとか切り抜けようと思考を巡らせていると、突如、更衣室のドアが乱雑に開かれた。

 

「あー、面倒臭ぇ! 別に着替える必要なんかねーだろ、セリカの奴め……ん?」

 

 ドアから一番近かったシスティーナと男──グレンの目が合う。硬直する女子生徒たち、まず間違いなくグレンはリンチである。

 硬直していた生徒の一人が、ゆらりと動いた。それを皮切りに、次々と動き出す生徒たち。さながら、幽鬼のようである。

 

「やーれやれ。これが最近帝都で流行の青少年向け小説でよくあるラッキースケベってやつか? はは、まさか身をもって体験することになるとは思わなかったが──あー、待て、落ち着け。俺はこんなお約束展開にもの申したいことがあってな。まあ、聞いてくれよ。末期の水代わりに」

 

 少女達の動きが止まる。死刑囚も最後に言い残すことは許されるのだ。

 

「その手の主人公って馬鹿だよな? こんなイベント、発生させた時点でボコられるのは確定なのに、どうして目を背けたり手を引っ込めたりしようとするんだってな。だって、割に合わねーだろ? 女の裸をちらっと見るのとボコられるのなんて」

 

 そう言ってグレンはその場に腕を組み、堂々と仁王立ちする。

 

「だから、俺は──この光景を目に焼きつけるッ!」

 

「「「「この──ヘンタイ────ッ!」」」」

 

 末期の水代わりが最低の口上だったのも加わってか、少女達の容赦ない制裁がグレンに殺到した。

 この日の錬金術実験は、講師が人事不省となったために中止。図らずも、レナは問題を切り抜けたのである。

 ちなみに、この凄惨たる校内暴力事件は、後に『男の欲望に忠実な勇者が居た』と学院内の男子の間で有名になるのだが、それは別のお話。

 




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第三話

連日の投稿だけど、明日からは平日。こんな風にはいかないだろうなぁ……
ともかく、第三話お楽しみ下さい


 

 今日も今日とてグレンの授業は適当だ。むしろ、日に日に酷くなってきていた。最初から適当で投げやりだったが、一応授業らしきものはしていた。要点を説明し黒板に書いていた。が、それが教科書を書き写すだけになり、ちぎった教科書のページを貼り付けるようになり、果ては黒板に教科書そのものを打ち付けるようにまでなった。

 そして、そこがシスティーナの我慢の限界だったようだ。

 

「いい加減にして下さいッ!」

 

 バンッと机を叩きながら、システィーナが立ち上がる。

 

「む? だから、お望み通りいい加減にやってるだろ?」

 

「子供みたいな屁理屈こねないで!」

 

 つかつかと教壇に立つグレンに歩みよっっていくシスティーナ。後ろからでは見えないが、その瞳は怒りに燃えていることだろう。

 いつものように、システィーナの小言が始まりグレンが適当に流すものだと誰もが思い、皆、見向きもしない。

 だが、その日は違った。

 

「痛ぇ!?」

 

 グレンが放った、言葉がシスティーナをいつも以上に怒らせたらしい。システィーナが左手の手袋をグレンの顔面に叩きつけていた。

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

 凛、とした仕草でグレンに指を突きつける。しん、としていた教室に戸惑いを含んだざわめきが広まっていく。

 

「シ、システィ! だめ! 早くグレン先生に謝って、手袋を拾って!」

 

 左手は、心臓に近く魔術を強く振るえる、言わば魔術師の命だ。その左手にはめている手袋を投げつける行為は、決闘の申し込みを意味する。システィーナがグレンに要求するのは、真面目に授業をすることだ。だが、当然グレンにもシスティーナに何かしらを要求する権利がある。決闘とは、そう言うものだ。

 

「やーれやれ。こんなカビの生えた古臭い儀礼を吹っかけてくる骨董品がいまだに生き残ってるなんてな……いいぜ? その決闘、受けてやるよ」

 

 グレンが口の端を吊り上げて言う。これで、決闘は成立したことになり、その結果に起こることに何人たりとも文句をつけられない。

 レナは、迷っていた。この決闘を止めるべきではないかと。システィーナの言いたいことは分かる。グレンの適当ぶりはさすがに目に付くものがあったし、いくら言っても改善しないのは事実だった。だが──。

 

「ただし、お前みたいなガキに怪我させんのは気が引ける。この決闘は【ショック・ボルト】以外の魔術は全面禁止な?」

 

「ルールの決定権は受諾側にあります。是非もありません」

 

「んで、俺が勝ったら……そうだな──お前、俺の女になれ」

 

「──ッ!?」

 

 その要求にシスティーナが肩をふるわせた。システィーナを宥めようとしていたルミアも目に見えて青ざめる。

 このような要求がされる可能性があることはシスティーナとて解っていたはずだ。だが、いざその言葉を前にして、負けてしまった時のことを考えて、弱気が表に出てしまったのだろう。

 

「わ、わかりました。受けて立ちます」

 

 精一杯の虚勢も僅かに震えていたが、気丈にも睨み返す。そんなシスティーナを見て、グレンが突然笑い出す。

 

「だははははッ! 冗談だよ、冗談! ガキにゃ興味ねーから、そんな泣きそうな顔すんなよ。俺の要求は俺に対する説教禁止、だ。安心したろ?」

 

「ば、……馬鹿にして!?」

 

 自分がからかわれていたと気づいて、顔を真っ赤にしてグレンに食ってかかる。一方でルミアは安心したように、ほっと息を吐いていた。

 

「ほら、さっさと中庭行くぞ?」

 

「ま、待ちなさいよッ! もう、貴方だけは絶対許さないんだから!」

 

 先ほどよりも怒りを強くさせて、システィーナはグレンを追った。

 

 

「ほら、どうした? かかってこないのか?」

 

「……くっ!」

 

 中庭に移動した二人は、正面に向き合っている。こんなイベントを見逃す訳がなく、クラス全員が中庭に集結し、ちょっとした舞台のようだ。

 魔術師の決闘では、常に後の手を取ることが定石となる。なぜなら、攻性呪文(アサルト・スペル)に対する対抗呪文(カウンター・スペル)がいくらでも存在するからであり、一度防げば反撃のチャンスとなるからだ。

 だが、今回の決闘はその対抗呪文が存在しない。よって、詠唱の速度こそがものを言うこととなるわけなのだが、グレンはどういうわけか、先手を譲ると言っている。

 

「ッ──≪雷精の紫電よ≫──!」

 

 システィーナが動いた。完璧な一節詠唱。完成された呪文が、迸る紫電となりグレンへと一直線に進む。

 

「ぎゃあああああ──っ!?」

 

 そして、呆気なく倒れ伏した。静寂。完全な静寂だった。誰も、何も言えなかった。

 あまりに、あまりに呆気なさすぎた。

 いまだかつて、ここまで呆気ない決闘もなかったのではないだろうか。そう思わせるほどの呆気なさだった。

 

「ひ……卑怯な……」

 

 呪文のダメージから回復して、ふらふらと立ち上がるグレン。

 

「こっちはまだ準備できてないというのに、不意討ちで先に仕掛けてくるとは……お前、それでも誇り高き魔術師か!?」

 

「えっ」

 

「まぁいい。この決闘は三本勝負だからな。一本ぐらいくれてやる。いいハンデだろ?」

 

「三本勝負? そんなルール……」

 

「さぁ行くぞ! いざ尋常に勝負だ!」

 

 そんなこんなで始まった決闘の続きは、だらだらと続くこととなった。三本勝負から五本勝負、五本勝負から七本勝負とどんどんグレンが本数を増やしたからだ。結局、四十七本勝負だと言い張ったところで、グレンが再起不能となった。

 大の字で痙攣するグレンとそれを見下ろすシスティーナ。もはや呆れしかないという風に、システィーナが深いため息をついた。

 

「三節詠唱ばっかりでしたけど、ひょっとして先生って【ショック・ボルト】の一節詠唱ができないんですか?」

 

「ふ、ふはは、な、なんのことだか、わわわ私にはサッパーリ!? そもそも呪文を省略するなんて邪道だよね! 先人が練り上げた美しい呪文に対する冒涜だよね! いや、別にできないから言ってるわけじゃなくて!」

 

「できないんだ……」

 

 システィーナが頭痛を抑えるようにこめかみを押さえる。

 

「とにかく、決闘は私の勝ちです! 私の要求通り、先生は真面目に──」

 

「は? なんとことでしたっけ?」

 

「え?」

 

 予想もしてない答えにシスティーナが硬直する。

 

「俺達、なんか約束とかしましたっけ? 覚えてないなぁ~? 誰かさんのせいでいっぱい電撃に撃たれたからかなー?」

 

 予想外すぎた。レナだけは、なんとなーくこうなることが分かっていたので、人知れずやれやれとため息をついた。

 

「貴方……まさか魔術師同士で交わした約束を反故にするって言うんですか!?」

 

「だって、俺、魔術師じゃねーし」

 

「な……」

 

 システィーナはもはや絶句するしかない。ここまでぬけぬけと言われては、返す言葉も浮かばないのである。

 

「魔術師じゃねー奴に魔術師同士のルール持ってこられてもなー、ボク、困っちゃう」

 

「貴方、一体、何を……!?」

 

 最後まで声を出せないほどにわなないているシスティーナを余所に、グレンが立ち上がる。

 

「とにかく今日の所は超ぎりぎり紙一重で引き分けということで勘弁しておいてやる! だが、次はないぞ! さらばだ! ふははははははは──ッ! ぐはっ!」

 

 【ショック・ボルト】のダメージが抜けきってないのか、何度も転びながら、しかし高笑いをしながら走り去っていくグレン。

 場に残されたのは、しらけきった観客だけだった。

 

 

 

**********************

 

 

 

 決闘から三日が経った。結局、グレンの態度は改善されることはなく、生徒達は自習をするようになった。グレンもそれを咎めるでも無く、暗黙の了解となっていた。

 そして、事件が起こった。

 リンという少女がグレンに質問に行き、グレンはというと、やはり適当な対応をしていた。そこにシスティーナが入り込み、もはや小言を言うでも無く、軽く嫌みの用なことを言って去ろうとした。それだけならば、よかった。

 システィーナの「偉大なる魔術の深奥に至りましょう?」と言う、リンに向けた発言。なぜか、グレンがそれに反応したのだ。

 

「魔術って……そんなに偉大で崇高なもんかね?」

 

 そう、誰に言うでも無くぼそりとこぼした。システィーナはそれを聞き流せなかった。

 

「ふん。何を言うかと思えば。偉大で崇高なものに決まっているでしょう? もっとも、貴方のような人には理解できないでしょうけど」

 

 鼻で笑い、刺々しく切り捨てる。侮蔑と嘲笑を織り交ぜた物言いは、人をイラつかせるのに充分な響きを持っていた。が、相手はグレン。この怠惰な男は、それを適当に流して終わると誰もが思っていた。

 

「何が偉大で崇高なんだ?」

 

 だがしかし、なぜだかグレンが食い下がった。

 

「……え?」

 

 想定外の反応にシスティーナも戸惑う。

 

「魔術ってのは何が偉大で崇高なんだ? そこを聞いている」

 

「そ、それは……」

 

 魔術は偉大で崇高。周りがそう言うものだから、そういうものかと認知していたのは認めざるを得なかった。だが、それだけではない。

 

「魔術はこの世界の真理を追究する学問よ」

 

「……ほう?」

 

 この世界を支配する法則、そういったものを解き明かし、自分と世界の存在意義を見つけて、より高次元の存在へ至る道を探す手段。だからこそ、魔術は偉大で崇高なのだ──と。そう返答したシスティーナはまさに会心の返答だと、そう思った。だからこそ──

 

「……何の役に立つんだ? それ」

 

 だからこそ、グレンの返答は不意討ちであった。

 

「より高次元の存在ってなんだよ? 神様か? 世界の秘密を解き明かした所で、それが何の役に立つんだ?」

 

「……それは」

 

 即答できない。

 

「そもそも、魔術って人にどんな恩恵をもたらすんだ? 例えば、医術は人を救うよな? 冶金術は人に鉄をもたらし、農耕技術がなけりゃ人は飢え死にするはめになる。建築術のおかげで人は快適に暮らせる。この世界で『術』と名付けられた物は大体人の役に立つ。けど、魔術だけは人の役に立ってないと思うのは俺の気のせいか?」

 

 即答できない。

 

「なんの役にも立たないなら、実際、ただの趣味だろ。苦にならない徒労、他者に還元できない自己満足。魔術ってのは要するに単なる娯楽の一種ってわけだ。違うか?」

 

 即答、できない。

 次々と放たれるグレンの言葉に、何一つとして即答はおろか、まともな返答すらできない。なぜなら、それらは事実でありシスティーナ自身もどこかでそう感じていたからだった。

 

「悪かった、嘘だよ。魔術は立派に人の役に立ってるさ」

 

「……え?」

 

 突然の掌返しに、二人を見守っていた生徒全員が目を丸くした。

 

「あぁ、魔術は凄ぇ役に立つさ……人殺しにな」

 

 クラスのどこかで、ひゅっと誰かが息をのむのが聞こえた。だが、それがクラス中の心境をの代表となっていた。

 

「実際、魔術ほど人殺しに優れた魔術はないんだぜ? 剣術が一人殺してる間に魔術は何十人も殺せる。戦術で統率された一個師団を魔導士の一個小隊は戦術ごと丸焼きだ。ほら、立派に役に立つだろ?」

 

「ふざけないでッ!」

 

 魔術を外道におとしめられたシスティーナが声を上げる。

 

「魔術はそんなんじゃない! 魔術は──」

 

「この国の現状を見ろ。大魔導帝国なんて呼ばれてんは、それはどういう意味だ? 帝国宮廷魔導士団なんていう物騒な連中に、莫大な国家予算が注ぎ込まれてる理由は?」

 

 やめて──

 

「お前の大好きな決闘にルールができたのはなんのためだ? 手習う汎用の初等呪文の多くが攻性系の魔術だった意味はなんだ?」

 

 やめて──

 

「お前らの大好きな魔術が、二百年前の『魔導大戦』、四十年前の『捧神戦争』で一体、何をやらかした? 近年、この帝国で外道魔術師達が魔術を使って起こす凶悪犯罪の年間件数と、そのおぞましい内容を知ってるか?」

 

 やめて──ッ!

 

「ほら、見ろ。今も昔も魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ。なぜかって? 魔術が人を殺すことで進化・発展してきたロクでもない技術だからだ!」

 

 もう、やめて──ッ!!

 

 ガタリと、椅子と床がこすれる音がした。

 レナが、立ち上がっていた。

 

「グレンさん……!」

 

「──っ」

 

 グレンが、思わず声を失った。その瞳が、あまりにも悲痛で悲しみに揺れていたから。

 それに、追撃をかけるかのように──

 ぱぁん、と。乾いた音が響く。

 システィーナが、グレンの頬を叩いたのだ。

 

「いっ……てめっ!?」

 

 そして、やはり言葉を失う。

 

「違う……もの……魔術は、そんなんじゃ……ない……」

 

 泣いていた。目元に涙が浮かび、なおも溢れ出す涙が重力に逆らえず、少女の頬を伝い、床に落ちる。

 

「なんで……そんなに……ひどいこと、ばかり…………大嫌い、貴方なんか」

 

 そう言い捨てて、教室を飛び出すシスティーナ。残ったのは、沈黙のみ。

 

「──ちっ」

 

 グレンはガリガリと頭をかきながら舌打ちをする。

 

「あー、なんかやる気でねーから、本日の授業は自習にするわ」

 

 ため息をつき、そのまま教室を出て行った。

 結局、この日グレンが教室に戻ることはなかった。

 

 

 

**********************

 

 

 

 放課後、私は公園のベンチに座り込んでいました。気分が沈んでいて、どうしようもなかったのです。

 グレンさんが、魔術を嫌悪していたのは知っていました。だけど、それでも……グレンさんには、あんなことを言って欲しくなかった。

 単に私の我が儘、なのでしょう。でも、グレンさんの過去を知っていても、そう思ってしまったのです。おかしな話です。私が、そんなことを思うなんて、どうかしてしまったのでしょう。

 そもそも、なぜそう思ったのか解らないのですから。

 夕暮れの赤が濃くなった空を見上げて、放課後学院を出てからかなりの時間が経ったことを、ぼんやりと考えて……そろそろ帰らなければ、夕食の準備が間に合わなくなってしまうことに気づきました。

 家に帰れば、グレンさんと顔を合わせなければなりません。少し、不安になりながらも私は、そっとベンチから立ち上がって家への道を歩き始めました。

 

 それから、グレンさんとルミアが一緒に歩いているのを目撃したのは、約十分後でした。何やら話しているようで、声をかけようにもそう言う雰囲気ではありませんでした。

 そのまま、追跡をすることになってしまって十数分。十字路のところでルミアが離脱していきました。どうやら、家の近くの場所まで来たようなのです。

 少し立ち止まって話をして、ルミアと別れたグレンさんは空に浮かぶ幻の城を眺めていました。

 

「グレンさん……」

 

「ん? ああ、レナか……」

 

 後ろからそっと話しかけると、こちらを少し見て、また空見上げます。

 

「……『考えないといけない』、か……」

 

「グレンさん……?」

 

 何かを呟くグレンさんは、私のことなど忘れているようで。私の小さく呟いた声は、燃え上がる空に消えていきました。

 




楽しんで貰えたら嬉しいです。
どうぞ、お気に入りや感想、評価もお待ちしてますよ?


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第四話

やっと投稿できました……

書く時間見つけるのにも一苦労です


 次の日。一限目の授業前の出来事だった。

 

「おい、白猫」

 

 授業の予鈴が鳴る前、なぜか既に教室に来ていたグレンが、外を見てぼーっとしているシスティーナに声をかけていた。

 

「おい、聞いてんのか、白猫。返事しろ」

 

「し、白猫? 白猫って私のこと……? な、何よ、それ!?」

 

「うるさい、話を聞け。昨日のことでお前に一言、言いたいことがある」

 

「な、何よ!? 昨日の続き!?」

 

 怒りで冷静さを欠いたシスティーナがグレンに食ってかかる。

 

「そこまでして私を論破したいの!? 魔術が下らないものだって決めつけたいの!? だったら私は──」

 

 そこまで言ったところで、グレンが被せるように言った。

 

「……昨日はすまんかった」

 

 その言葉に、システィーナが硬直する。

 

「まぁ、その、なんだ……大事なものは人それぞれ……だよな? 俺は魔術が大嫌いだが……その、お前のことをどうこう言うのは、筋が違うっつーか、やり過ぎっつーか、大人げねえっつーか、その……まぁ、ええと、結局、なんだ、あれだ……悪かった」

 

 そう言って、気まずそうなしかめっ面で、わずかに頭を下げた。

 

「…………はぁ?」

 

 理解が追いついていないシいえばーナは、戸惑いの声を上げた。グレンはといえば、用件は終わった、と言わんばかりに背を向けて去って行く。

 システィーナが露骨な敵意を含んだ目線で睨めつけたが、黒板に寄りかかって腕を組み、目を閉じているグレンにはまるで届いていないらしい。

 予鈴が鳴る。

 どうせそのまま寝てるんだろ、というクラス中の思惑を裏切って、グレンは教壇に立った。

 

「じゃ、授業を始める」

 

 クラス中が、……は? という顔をした。

 

「さて……と。これが呪文学の教科書……だったけ?」

 

 グレンが教科書を適当にペラペラと流し読みしていく。

 

「……そぉい!」

 

 読むごとに苦い顔になっていったグレンは、窓を開けて教科書を投げ捨てた。

 このグレンの奇行に、皆、教科書を開いて自習を始めようとして──

 

「さて、授業を始める前にお前らに一言言っておくことがある」

 

 再び教壇に立ったグレンの言葉に注意をグレンに戻した。そして、一呼吸置いて──

 

「お前らって本当に馬鹿だよな」

 

 とんでもない暴言を吐いた。またしても、……は? という表情になったクラス全員を放置してグレンは続ける。

 

「昨日までの十一日間、お前らの授業態度見ててわかったよ。お前らって魔術のこと、なぁ~んにもわかっちゃねーんだな。わかってたら呪文の共通語を教えろなんて間抜けな質問出てくるわけないし、魔術の勉強と称して魔術式の書き取りなんつーアホな真似するわけないし」

 

 並べられた暴言の数々に、イラつきが蔓延する。

 

「【ショック・ボルト】程度の一節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね」

 

 誰かが放ったその言葉に教室が静まりかえり、ちらほらと侮蔑を含んだ笑いが聞こえてきた。

 

「ま、正直、それを言われると耳が痛い。俺は男に生まれたわりに魔力操作の感覚と略式詠唱のセンスが致命的になくてね。が、誰だか知らんが、【ショック・ボルト】『程度』とか言った奴。残念ながらお前やっぱ馬鹿だわ。ははっ、自分で証明してやんの」

 

 ピリついた雰囲気が、教室に広がる。

 

「まぁ、いい。じゃ、今日はその件の【ショック・ボルト】の呪文について話そうか。お前らのレベルならこれでちょうど良いだろ」

 

「今さら、【ショック・ボルト】なんて初等呪文を説明されても……」

 

「やれやれ、僕達は【ショック・ボルト】なんてとっくに究めてるんですが?」

 

 グレンの放った言葉に反抗するように、そういった言葉が教室の色々なところから上がった。しかし──

 

 ──一時間後。

 

 生徒達は圧倒されていた。

 結論から言えば、生徒達は呪文について何も理解していなかった。グレンが言う『馬鹿』という侮蔑を否定できないと自覚してしまった。

 言わずもがな、【ショック・ボルト】は初等呪文であり、魔術の基礎の基礎だ。だが、その【ショック・ボルト】一つ取っても、自分たちにはまったく理解できてないことがあり、見えていない部分があったのだ。他の講師が、こういうものだと説明を放棄したところすら、グレンはしっかりと説明して見せた。

 

「……ま、【ショック・ボルト】の術式と呪文に関しちゃ、こんな所か? 何か質問は?」

 

 手は上がらない。圧倒されているのもあるが、それ以上に質問の余地がなかった。

 

「俺が話したことが理解できるなら、略式詠唱って代物がどれだけ危険なものか少しは分かったはずだ。魔力操作のセンスさえあれば実践は難しくないが……詠唱事故の危険性は理解しとけ。軽々しく簡単なんて口にすんな。舐めてると、いつか事故って死ぬぞ」

 

 そして、グレンは真摯な瞳を向けた。

 

「そして、説明した通りだが……魔力効率という点において、一節詠唱は三節詠唱には絶対に勝てない。だから、無駄のない魔術講師を考えるなら三節がベストだ。だから、俺は三節をお前らに強く勧める。いや、別に俺が一節詠唱できないから言ってるんじゃないぞ? 本当だぞ? べ、別に悔しくなんかないんだからね……!」

 

(いや、あんたのそのキャラは何なんだ……)

 

 唐突にツンデレキャラを始めたグレンに、生徒達の心中が完全に一致した。

 

「ぐあ、時間過ぎてたのかよ……やれやれ、超過労働分の給料は申請すればもらえるのかねぇ? まぁ、いいや。今日は終わり。じゃーな」

 

 グレンは懐から懐中時計を取り出して、時間を見ると、ぶつぶつと愚痴りながら教室を出て行く。

 グレンが教室を出ると、クラス中の生徒達は何かに取り憑かれたかのように一斉に板書を取り始めた。

 

「なんてこと……やられたわ」

 

 掌で顔を覆いながらシスティーナが呟く。

 

「そうだね……私も驚いちゃった」

 

「うん、本当に」

 

「でも、なんで突然ちゃんと授業する気になったのかしら……? 昨日はあんなこと言ってたのに……って、あれ?」

 

 自分の両サイド、即ちレナとルミアの表情が自分とは微妙に違うのに気づく。

 

「ルミア、どうしてそんなに嬉しそうなの? レナはレナで得意気だし」

 

「えへへ、なんでもないよー?」

 

「そんなことないです、よ?」

 

「むぅ……まぁ、それはそれとして──」

 

「ふぎゅ」

 

 納得していない、という顔をしていたシスティーナが、レナの顔に手を伸ばして、鼻を摘まむ。

 

「敬語はなし、って言ったでしょ? 同級生なんだし、堅苦しいじゃない」

 

「そ、そうは言っても……これでも、マシな方なのですよ……?」

 

「まあまあ、システィ。一緒に居れば、そのうち敬語もなくなるんじゃないかな?」

 

 摘ままれた鼻をさすりながら、返事をしたレナ。ルミアがなだめたこともあって、システィーナはとりあえず納得したようだった。

 

 

**********************

 

 

 

 グレンの授業は学校中で噂となった。今までが今までだったために、その授業の質の高さはより際だって見えたのだろう。十日も経てば、席は満員、生徒や若い講師すらも立って見学するようになっていった。

 そんなある日の放課後、私は廊下を一人歩いていました。グレンさんに手伝いを頼まれ、少し遅くなってしまったのです。外は夕焼けがフィジテの街を照らし上げ、美しい情景の浮かび上がっていました。そのどこか幻想的ですらある景色を見つめながら、私は一人考えていました。

 

(なんで……最近グレンさんは楽しそうなんだろう……)

 

 グレンさんは魔術を心底憎み、魔術に絶望していたはずで、この間のシスティーナに放った言葉もそれを裏付けている。

 だというのに、なぜ?

 最近のグレンさんは生き生きとしていて、その理由が私には解らないのです。憎いものを教えて楽しいはずがありません。なのに、学校で時折見せる、あの穏やかな笑みは……まるで、魔術を楽しんでいるようで。

 私には、解らないのです。

 

(私は、まだ……)

 

 首を振って、考えるのをやめました。頭をよぎった不安を誤魔化すように、夕焼けから目を離し、少しだけ足早にその場を後にしたのでした。

 

 

 

**********************

 

 

 

 同じく、夕焼けが差し込む図書室。そこではシスティーナとルミアが難しい顔をしていた。授業の内容を復習していたのだが、どうやら解らない部分があったようだった。

 

「ここ、どうしてこうなるのかしら……ルミア、先生、授業で言ってた?」

 

「ううん、そこは言ってなかったと思う。どうしよっか?」

 

「うぐぐ……嫌だけど、先生に聞きに行くしか……嫌だけど!」

 

「あはは……二回も言わなくても……」

 

「でも、あの人──」

 

「あれ? システィーナにルミア?」

 

 突然、ドアが開く音がしてもはや聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「レ、レナ? なんでここに?」

 

「ちょっと用があって……それより、システィーナ達はどうしたのです?」

 

「今日の復習だよ。でも、ちょっと解らない所があって、それをグレン先生に質問に行こうかなって話してたの」

 

「どこですか?」

 

 それを聞くと、こちらへ寄ってきて机に広げられた教科書やノートをを覗き込む。

 

「ここなんだけど……」

 

 ルミアが指をさすと、しばらく見た後に「うん……」と呟きをもらした。

 

「そこはね……ここの魔術式にこっちのルーン語を入れて、で前の授業で習ったこの方法を使うと……」

 

 手慣れたように、すらすらと説明をし始める。確かに、言われた通りにすると解らなかった箇所が理解できた。

 システィーナとルミアは、驚きを隠せなかった。確かに、レナが優秀なのは知っていた。この学院にやってきてからも、そういう面は確かに垣間見れた。しかし解らない所、それも先生に質問に行こうとした箇所をこうもあっさりと説明されると、驚愕するほかなかった。

 

「それで、こうすると──完成、です」

 

 そう言って、鞄から取り出した自分のノートに二人が解らなかった所を書き出した。

 

「すごい……! レナすごいよ!」

 

 ルミアがこちらを見て目を輝かせる。

 

「そ、そうかな……?」

 

 ノートに書き出された説明は、グレンの板書を思わせるほどに解りやすかった。

 

(でも、これって……)

 

 それを見て、システィーナはある思考に辿り着いた。

 

「……ねえ、レナ、貴方……もしかして、グレン先生が前に説明した【ショック・ボルト】の授業、最初からわかってたの……?」

 

 レナの説明を見て、そう思ったのだ。今のところは、【ショック・ボルト】の授業の本当の内容、その根幹を理解していなければできない説明だったからだ。確かに、授業の内容をその時に理解したという可能性はある。だが、なんとなくそうではない気がしたのだ。彼女には──レナには、私達の見えていないものが見えている。グレンに見えて、私達には見えていないものが見えているように感じたのだ。

 

「……ううん、そんなことないで──あっ、えっと、ないよ? たまたまわかっただけだよ」

 

 敬語だったのを途中で慌てて修正しつつ、あくまで偶然だと言った。正直、納得できないシスティーナだが、本人がそう言う以上、これ以上追求はできない。

 

「そっか。……さて、そろそろ帰りましょうか」

 

 そう言うと、教科書やノートを自分の鞄に仕舞いはじめる。ルミアも同じように机の上を片して、三人揃って図書館を出た。

 最近、三人は途中まで道が同じということもあって、一緒に帰っているのだ。今日は、レナが手伝いを頼まれたので、システィーナ達には先に帰っていいと伝えたのだが、結局、いつもと変わらない下校風景となった。

 図書館に本を返しに来たことをすっかり忘れていたレナが途中でそれに気づいて、三人で笑い合った。夕焼けは、少女達を優しく包んでいて、しかしどこか虚ろであった。




次回でやっと1巻の本編(?)的な所にさしかかれるかなぁ?
何はともあれ、感想や評価お待ちしてます

追記:少し編集しました


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第五話

今回はちょっと量が多めになります。
つい筆が乗ってしまった……


 アルザーノ帝国魔術学院は静まりかえっていた。それもそのはず、今日の学園にはほとんど人がいない。教授、講師達は全員が帝国総合魔術学会へ参加しているからである。

 そんな中、二年次二組の教室だけが生徒で賑わっていた。前任の講師が突然居なくなった為に、授業のできなかった数日分、その授業がこの休み中に行われるからである。

 だが──

 

「……遅い!」

 

 現在時刻十時五十五分。授業の開始時間からかれこれ二十五分が経過していた。

 教壇には誰も立っていない。グレンが来ていないわけで、早い話が遅刻である。

 

「おかしいなぁ……私が出るときにはもう起きてたのですけど……」

 

 レナが呟く。家を出るとき、グレンはもう起きていたはずである。部屋に呼びかけると、やる気はなさげだったが返事が帰ってきたのは記憶に新しい。

 

「なら、なんで遅刻してるのよ……まさか休校日と勘違いして二度寝してるんじゃないでしょうね?」

 

「あ、あはは……グレン先生でも流石にそれはないよ……ないよね?」

 

 グレンを信頼しているルミアでも完全に否定できなかった。

 連絡を入れようかと、レナがポケットから半分に割れた宝石の魔導器を取り出そうとしたところで、教室の扉が乱雑に開かれる。

 

「あ、先生ったら、何考えてるんですか!? また遅刻ですよ!? もう……え?」

 

 システィーナが振り向きながらグレンにいつもの小言を言おうとして、固まる。そこにはグレンはいなかった。居たのは、チンピラ風の男とダークコートの男の二人組だった。

 

「あー、ここかー。いや、皆、勉強熱心ゴクローサマ! 頑張れ若人!」

 

 チンピラ風の男が声を上げ、クラスが困惑に包まれる。

 

「あ、君達の先生はね。今、ちょっと取り込んでるのさ。だから、オレ達代わりに来たっつーこと。ヨロシク!」

 

 あからさまな嘘だ。そもそも、学院の関係者でないことは格好から見ても明らかである。

 

「ちょっと……何者ですか、貴方達。ここはアルザーノ帝国魔術学院、部外者は立ち入り禁止です。そもそも、どうやって入ったんですか?」

 

「おいおい、質問は一つずつにしてくれよ? オレ、君達みたいに教養ないんだからさ!」

 

 正義感の強いシスティーナが立ち上がって、男を問いただすが、男は相変わらずヘラヘラと返答する。

 

「まずオレ達の正体はね、テロリストってやつ。要は女王陛下サマにケンカ売る怖ーいお兄さん達ってワケ」

 

「は?」

 

「で、ココに入った方法はー、あの弱っちいかわいそーな守衛サンをブッ殺して、結界もブッ壊して、お邪魔したってわけ。オーケー?」

 

 クラス中がざわつき始める。それもそうだ、突然やってきた男がそんなことを言えば、そうもなる。男はため息を付いて、指を黒板に向けると──

 

「≪ズドン≫」

 

 何やら奇妙な呪文を唱えた。すると、堅いものを穿つ音と共に黒板にコインほどの大きさの穴が空いている。

 教室中の人間が一斉に黒板を見て、そして冷や汗をかく。真っ先に思考が現実に追いついたシスティーナが呟きを漏らす。

 

「そんな……まさか……い、今の術は……【ライトニング・ピアス】!?」

 

 それは、軍用の攻性呪文(アサルトスペル)。早い話が人を殺すための呪文である。【ショック・ボルト】と同じ電撃の魔術であるが、その威力、射程共に桁違い。鉄板など容易く貫通し、フルプレートなぞ紙同然である。

 しかも、このチンピラ男はそれを一節どころか、更に短い略式詠唱をして見せた。魔術を少しでもかじった者ならわかる、恐ろしい技量だ。

 

「だーから言ったでしょ? テロリストだって。君達は人質です、大人しくしててねー? あ、抵抗する奴はブッ殺すからそのつもりで」

 

 逆らえる者は居ない。彼らは等しく学生であり、学生が使える魔術などたかが知れている。たとえこの教室中が束になってかかっても、皆殺しにされるのは目に見えている。

 そして、ようやくクラス中の思考が現実に追いついて──

 パニックとなる。

 

「う、うわぁあああああああああッ!?」

 

「きゃぁあああああああああああッ!?」

 

 教室中が狂乱の渦に呑み込まれ、正気を失いかけた瞬間。

 

「うるせぇ、黙れ、ガキ共。殺すぞ?」

 

 低い声。その凄まじい殺気、その恫喝に、教室が静まりかえた。

 

「おー、良い子、良い子。さてと……そんな良い子ちゃんの君達に聞きたいことがあるんだけどさー。ルミアちゃんって女の子いるかな-? いたら手を上げて-?」

 

 手を上げる者は居ない。ただ、困惑した何人かの生徒が呟きとともに、視線が動いてしまった。

 

「あー、なるほど。ここら辺にいるのかー。うーん、どの子かなぁ?」

 

 ずかずかと歩いてくるチンピラ。チンピラ男は、ルミアを通り過ぎるとその二つ後ろの小柄な女子生徒──リンの前で止まる。

 

「ルミアちゃんは君かなぁ?」

 

「ち……違います」

 

「じゃ、誰がルミアちゃんか知ってる?」

 

「し、知りません……」

 

「そっかー、それは残念。でもさー、オレ、嘘つきはきらいなのよね……?」

 

 元から気が弱いリンは、ますます萎縮してしまう。恐怖で涙が頬を伝って、地面に落ちていく。

 

「ホントに知らないんだよねぇ?」

 

 男が指をリンの額につけようとして──

 

「あ、貴方達、ルミアって子をどうする気なの?」

 

「ん?」

 

 システィーナが震える足を叱咤して立ち上がり、チンピラ男に問う。チンピラ男は面白そうに笑った。

 

「お前、ルミアちゃんを知ってるの? それともお前がルミアちゃんなの?」

 

「私の質問に答えなさい! 貴方達の目的は何!?」

 

「ウゼェよ、お前」

 

 一転、冷酷な顔になった男がシスティーナの頭に指を向ける。

 

「お前からにすっか」

 

「……え?」

 

 男の口が開かれかけたその時。

 

「私がルミアです」

 

 ガタリと音を立てて、ルミアが立ち上がった。

 

「うん、知ってた」

 

 そう言って、腕を下げるとルミアを見る。

 

「事前に調べるでしょ、フツーさ。いやー、でもルミアちゃんが出て来ちゃったから、ズドンッゲームできなくなっちゃったかぁ」

 

 男はくつくつと笑いながら言う。ルミアはそんな男に屈さずに睨み付けていた。

 

「遊びはそこまでにしておけ、ジン」

 

 ふいにダークコートの男が口を開いた。

 

「私はその娘をあの男の元へ送り届ける。お前は第二段階へ移れ。この教室の連中のことは任せたぞ」

 

「うぇー、面倒臭いなぁ。もう、いいんじゃない? どうせ束になってかかってきても返り討ちでしょ、こんは雑魚共。そもそも、すでに牙も抜かれちまってるじゃん?」

 

 教室を睥睨するチンピラ男。誰もがうつむいて震えることしかできない。

 

「手筈通りにやれ」

 

「へいへーい」

 

 面倒臭そうに言って、男が端の生徒から順に【スペルシール】をかけて【マジック・ロープ】で縛り上げ、更に【スリープ・サウンド】で眠らされていく。誰も抵抗せず無力化されていった。

 ルミアは、システィーナと幾つか言葉を交わした後、どこかに連れて行かれてしまった。

 

 

 そして、全員が眠らされたはずの教室。システィーナだけが、あのジンと呼ばれたチンピラ男に連れて行かれ、ドアが閉じたその時。

 レナがゆっくりと目を開けた。【ディスペル・フォース】を唱えて、手足を縛る【マジック・ロープ】を打ち消す。レナは元々魔術に対する耐性が強い。加えて、レナの纏っている制服には、魔術式を改変して効果を弱めた【トライ・レジスト】が付呪してあるのだ。なぜ弱めかと言えば、付呪を完全に無効化させないためだ。完全に無効化させてしまえば、相手は警戒することになる。あえてかかることで隙を生むためにも、弱めにしてあるのだ。

 そうして、数分にも満たない時間で【スペル・シール】は解除される。チンピラ男はレナが動けることに気づかないで出ていた訳だ。

 確かに、レナは一人の生徒だ。だが、彼女はただの生徒ではない。周到な魔術対策のされた制服だけ見ても、それは明らかだった。

 

「ふぅ……」

 

 立ち上がって、レナは思案する。

 グレンは間違いなく無事だ。それは間違いない。チンピラ男はグレンが死んだと言っていたが、相手が純然たる魔術師である以上、グレンに負けはない。

 ルミアはおそらくではあるが無事だろう。ダークコートの男、確かレイクと呼ばれていたか。その男が、送り届けると言っていた。しかも、生きた状態で連行したと言うことは、生きていなければいけない、という可能性が高いのだ。

 であれば、まずはシスティーナを連れ去ったジンと呼ばれていたチンピラ男を追うべきか。システィーナが何をされるかわかったものではない。嬲り殺しにされるかもしれないし、慰みものにされる可能性も高い。というか、多分そうするだろう。あの手の人種はそう言うことが好きなのだ。

 そっと教室のドアを開け、外の様子を覗う。ロックの魔術がかかっていたが、容易く解除できるものだった。

 廊下に人影はない。

 

(おそらく、どこかの教室に連れ込まれてる……)

 

 片っ端から調べていくのでは時間がかかりすぎる。

 

「≪五感に彼の御業を≫」

 

 白魔【ハイパー・センス】を唱えて、感覚を強化する。この魔術は術者と呪文の相性の良さが如実にでるタイプの魔術だ。相性がよければ、数キロ先のことまで手に取るようにわかるが、相性が悪ければ精々壁一枚挟んだ先のことが何となくわかるのが精々だ。

 レナはこの魔術との相性はそれなりにいい。この学院ていどの大きさなら、起こることすべてを把握するのは容易だ。

 

「……見つけた」

 

 魔術実験室、ここから少し離れた場所だ。床に倒されたシスティーナをジンが面白そうに見下しているのがはっきりとわかる。だが、ルミアは見つからなかった。隠蔽の魔術を使って、バレないようにしているのかも知れない。

 ひとまず、レナは音を立てないように魔術実験室の前まで向かった。

 

 

 

**********************

 

 

 

「ひゅーッ! 胸は謙虚だが肌は綺麗じゃん! うわ、やべ勃ってきた……」

 

 ジンはシスティーナの制服を引き裂いて、冷やかすようにそう言う。ジンは心底この状況を楽しんでいた。

 

(中々の上玉、しかも性格もオレの超ドストライク! これを逃す手はないってな!)

 

 屈辱を与えて、壊して、滅茶苦茶にしてやる。くつくつと笑って、そう考える。

 羞恥に顔を赤く染め、やめてと懇願するシスティーナに覆いかぶさる。

 

「ぎゃははははッ! ってなわけで、いっただきまーす!」

 

 その時だった。ジンの魔術師としての感覚か殺し屋としての感覚か、咄嗟にシスティーナから飛び退いた。

 瞬間──閃光がジンの頭があった空間を貫いた。

 

「ちぃ──ッ!?」

 

 すぐさま物陰に飛び込むジン。再び、ジンがいた空間を閃光が駆ける。

 

(なんだ!? 今のは間違いなく【ライトニング・ピアス】! どっから撃って来てやがる!? いや、そもそも誰が!?)

 

 見れば、実験室のドアに穴が空いている。どうやら、ドア越しに撃ってきているらしい。

 だが、今日のこの学院には教授はおろか、講師すら居ないはずだ。【ライトニング・ピアス】は軍用攻性呪文(アサルトスペル)。しかも、連射。そんな芸当をやってのける人間がこの学院に潜んでたとでも言うのか。

 

(しかも隙がねぇ……! 迂闊にここから出れば撃たれる!)

 

 こちらを誘うように閃光が逸れるが、それに乗れば間違いなく撃ち抜かれる。相手は間違いなく一流、それも実戦経験があるのは確実だ。

 ふと、閃光が止まる。訝しげに様子を覗うジンだが、目をむくことになった。

 バンッと、穴だらけになっていたドアを蹴破って人影が侵入してきたのだ。

 

「あーぁ……こんな派手に備品壊しちまって……」

 

 惨憺たる状況の室内を見渡して、侵入してきた男がぼやく。

 

「誰だテメェッ!?」

 

「先生!」

 

「ん?」

 

 状況が飲み込めておらず、ずっと固まっていたシスティーナが声を上げた。

 声をかけられ、そこでようやく気づいたとでもいうように、男──グレンがジンをを見る。続いてシスティーナを見て、もう一度ジンを見て言った。

 

「……いくらモテないからって、お前……これ、犯罪だぞ?」

 

「うるせぇ! 誰だってんだ、テメェ!!」

 

「この学院で講師をやってるグレン=レーダスだ。どうぞよろしく」

 

「グレン=レーダスだと? ま、まさか、キャレルがやられたってのか──ッ!?」

 

 ジンは驚きを隠せなかった。まず、キャレルが倒されたこと。そしてグレンが【ライトニング・ピアス】を連射出来たことだ。グレン=レーダスはたかが第三階梯(トレデ)の三流魔術師ではなかったのか。

 実際【ライトニング・ピアス】を放っていたのはグレンではないのだが、ジンにそれを知るすべはない。

 

「ク、ククク、だがオレの勝ちだ。死ねッ! ≪ズドン≫──ッ!!」

 

 確かにキャレルがやられたのは想定外。どんな手段を使ったのかはあずかり知らぬが、どちらにせよこれで終いだ。

 瞬時に起動された閃光が、グレンを貫き──

 

「……は?」

 

 黒魔【ライトニング・ピアス】は発動していない。電光が迸ることはない。

 

「くっ──≪ズドン≫ッ!」

 

 やはり、起動しない。不意にグレンが何かを手に持ちがら、口を開く。

 

「愚者のアルカナ・タロー、こいつは俺専用の魔導器だ。この絵柄に変換した魔術式を読み取ることで、俺はある魔術を起動できる」

 

「な、なんだと……?」

 

「それは俺を中心とした一定範囲内の魔術の完全封殺。残念だな。お前の詠唱がどんなに早かろうと、もう意味ねーよ」

「な、なんだそりゃ!? そんな滅茶苦茶な術、聞いたことねーぞ!?」

 

「そりゃあ、俺の固有魔術(オリジナル)だからな」

 

 ジンは驚愕した。固有魔術(オリジナル)、しかもデタラメすぎる効果の。これでは勝ち目がない。

 ふと視界の端に銀色が写った。見れば、床に倒れたままの少女がいるではないか。

 ニヤリと笑うと、ジンはシスティーナの髪を掴もうと手を伸ばして──

 伸ばしかけた左手にナイフが突き刺さった。

 

「なっ──」

 

 ナイフは、グレンのものではない。それよりも後方、教室の外から飛来していたからだ。

 その隙が見逃されるはずがない。すかさず動き出たグレンが、鋭い右ストレートをジンの顔面に見舞う。咄嗟に反撃したが、グレンには当たらない。攻撃に伸ばした腕を掴まれて、背負い投げの要領で投げ飛ばされた。

 

「がぁ──ッ!? ク、クソがぁああああ!!」

 

 起き上がったジンが飛びかかる。その目標は──

 

「……えっ!?」

 

 ──システィーナだ。

 先ほどは失敗したが、今回は違う。隙をつかれたグレンの反応は間に合わない。

 だが、そう上手くいく訳がなかった。

 

「──ッ!」

 

 金色の影が駆けた。

 鋭く息をのむ声とともに、今まさにシスティーナに到達しようとしていたジンの腹部を蹴り上げ、右の二の腕にナイフを突き立てる。

 

「ぐぼぁ──ッ!? ごふッ!?」

 

 大きく体勢を崩しながら後退したジンに、グレンの鋭いアッパーが刺さる。絶妙なコンビネーション。一人が体勢を崩し、もう一人がトドメをさす。熟達した経験がなければ、できない芸当である。よろよろと壁に寄りかかり、ジンはなんとか立ち上がる。

 

「システィーナ、大丈夫?」

 

 その間に、間一髪のところでジンを撃退させた金色の影──レナは膝をついて、システィーナの頬に労るように触れる。

 

「レナ……レナ……っ!」

 

 それに安心したのか、システィーナは縋るように泣き始めてしまう。本当は泣いている場合ではないのだが、こんな状態では仕方がない。それに、今はグレンが戦っている。それは安全が保障されているようなもので、だからレナはそっとシスティーナの髪を撫でた。

 

「くそ……くそ、くそっ! 何だってんだ! 魔術も使わないで、殴るだと!? 魔術師としてのプライドはねえのか!?」

 

 ジンが鼻血を噴き出しながら怒鳴り散らす。どうやら、グレンが魔術を使わないのがお気に召さないらしい。

 

「いや、だって、俺も魔術起動できないし」

 

「は?」

 

「俺を中心に展開するんだぞ? 俺も効果領域内に居るに来まってるだろ」

 

 さも当然と言い放たれた言葉に、ジンはもはや唖然とするしかない。

 

「ふ、ふざけんな! 魔術師が肉弾戦で雌雄を決するだと!? そんな舐めた話があるかっ!!」

 

「お前、そんなに魔術以外で倒されるの嫌なの? もう、しょーがねーな。じゃあ、今からお前に放つ一撃は【魔法の鉄拳 マジカル☆パンチ】っていう伝説の超魔術な? 今、開眼した」

 

「あ?」

 

 何言ってんだコイツ、のような顔をするジンに構わず、グレンが拳を構えて突進する。

 

「魔法の鉄拳──」

 

「う、うおお!?」

 

 咄嗟に両手で顔をガードするジン。

 

「マジカル☆パンチァアアアアンチッ!」

 

 勢いよく振り上げられた右足が、ジンの無防備な側頭部にクリティカルヒットする。

 

「ぎゃぁあああああああ──っ!!」

 

 勢いよく床を転がり、壁に激突する。とてつもなく痛そうであった。

 

「説明しよう。【魔法の鉄拳 マジカル☆パンチ】は、なんかよくわからない魔法的な力で、パンチの二倍と言われるキックに匹敵する威力が出る、なんかもう凄い魔法のパンチなのだ」

 

「パンチ……じゃなくて実際、キックだった……だろ……」

 

「ふっ、そこがなんとなくマジカル」

 

「クソがぁ……このオレが……こんな、ふざけた奴に……ッ! がは……」

 

 ジンの意識が完全に闇に飲まれる。

 ちょっと悲惨だなぁ、と他人事のように考えるレナだった。

 




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第六話

すこし遅くなってしまいました。申し訳ない。
補足になりますが、前話に登場させた【ハイパー・センス】はオリジナル魔術になります。
これからは、オリジナル魔術が登場したら後書きに説明を設けようかなと考えてます。

それと一つ変更点が。第四話なのですが、内容を変更した部分があります。変更と言っても、別に読まなくてもこれからの話を読むのに支障を来す程ではありませんが、読んでもらった方が分かりやすいと(作者が勝手に)思ってます。
もしよければ、読んでください。


「レナから大まかな話は聞いてるが……改めて状況を整理するぞ」

 

 気絶したジンを無力化し、システィーナの拘束を解いたグレンとレナはこれから取るべき行動を思案してした。

 

「まず、教室の奴らだ。無力化されちゃ居るが、特に危害は加えられてないんだな? で、ルミアが連れてかれた訳だが、こっちはどうなってる?」

 

「ルミアはどこに居るか解らなかったです。【ハイパー・センス】を使っても場所が特定できないかったので、隠蔽の魔術で隠されてるのかと」

 

「そうか……なら、学院中探し回るしかないな」

 

 隠蔽の魔術を見破る魔術もあるのだが、効果範囲が限られている。ある程度近くに行かなければならないのは変わらないのだ。

 

「です。けれど、あの男……もう一人のテロリストが、今までの人達より格下とは考えづらいです。障害になるのは間違いありません。それにそもそも、敵が何人かわからないです」

 

「だよなぁ。俺の固有魔術(オリジナル)も見破られてる可能性が高ぇ。そう簡単には行かなそうだな」

 

 放置されてるシスティーナを後目に、二人は作戦を練っていく。

 

「出くわしたらどうしましょうか?」

 

「その場合は片を付けるしかない。っていうか、校内を探し回ってたら絶対遭遇するだろうしな」

 

 そこで突然、金属を打ち鳴らしたかのような音が響く。何事かと警戒したのはシスティーナだけで、2人は落ち着き払っていた。グレンはポケットから、半分に割れた宝石を取り出すと何やら話し始める。相手はどうやらセリカのようだ。

 

「……ねぇ、レナ。貴方とグレン先生って……」

 

「ごめん、なさい……でもどうか、聞かないで欲しい。……わかってた、私なんかが人と関わるなんて……」

 

「レナ……」

 

 システィーナは何も言えなかった。伏せられたその瞳は確かに光を灯していた。けれどその奥に、人が感情という感情を全て削ぎ落として、なおその先にある虚無。それを感じてしまったのだ。

 重苦しい沈黙が何分続いたか。グレンが通話を終えた。

 

「とにかく、じっとしてても拉致があかねぇ。教室に現れた男と、後はこの学院内に居たと考えられる裏切り者。敵はこの二人だと仮定して動く」

 

「そうですね……警戒しつつ、ルミアを探し出しましょう」

 

「さっきも言ったが、動き回れば敵との遭遇は必至だ。無力化が一番なんだが、それができるような生易しい相手じゃなさそうだしな」

 

「はい。その時は……殺します」

 

 ぞくり、と。悪寒が背中を駆ける。

 殺す、と簡単に言ってのけたレナに、システィーナは少なからず恐怖した。わずか二十日と少しの間、編入してきて出会った不器用で優しかった少女は一体何者なのか。綺麗だった瞳は、今はまるで人形のように無機質に見えた。

 対するグレンも、冷徹な瞳をしていた。どこか、悲痛な覚悟を滲ませながら。

 

「くは、くははははは……」

 

 その時、乾いた笑い声が響いた。

 

「殺す、か。そうか、お前ら……そーいうことか。けっけっけ、教師と生徒の皮被った、こっち側の人間なんだな……クハハ……」

 

 【スリープ・サウンド】の効き目が甘かったのか、目を覚ましたジンが嘲笑を上げる。『こっち側の人間』。即ち、命を略奪して生きる人間ということか。その言葉に、システィーナが反抗する。

 

「先生と貴方達を一緒にしないで! 先生は、なんのためらいもなくゴミみたいに人を殺せる貴方達とは違う!」

 

「お前がそいつの何を知ってるんだ? そいつは最近やって来たばかりの非常勤講師なんだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「──違うよ」

 

 システィーナは言葉につまった。だが、それに被せるように、後ろから声が飛んだ。

 

「グレンさんは違う。貴方達とは別」

 

 レナの瞳がまっすぐにジンを貫いていた。その瞳には光が戻っていた。

 その時だった。突然、周囲の空間がねじ曲がったかのように、揺らめく。

 

「──っ!?」

 

 そして、その揺らめきから何かが姿を現す。

 二本の足に、二本の腕。それらが体からスラリと伸びている。それは人の姿。ただし、骨だが。つまりは骸骨だ。

 骸骨は立ち所に増え続ける。僅かな間に既に十数体にまで上っていた。

 

「やっとお出ましだぁ! ナイス! レイクの兄貴!」

 

 ジンの歓声を聞き流し、何とか状況の打破を考えるが、それよりも先に大量の骸骨が3人を取り囲む。

 

「ちっ、こいつは──」

 

「ボーン・ゴーレム……! それも竜の牙製の……!」

 

 召喚【コール・ファミリア】。ちょっとした使い魔を呼ぶのに使われるのが一般的な召喚魔術の基本。だが、これは──

 

「なんだこのふざけた数の多重起動(マルチ・タスク)は!? 人間業じゃねーぞ!?」

 

 遠隔連続召喚(リモート・シリアル・サモン)、しかもこの数だ。グレンの言う通り、とても人間業とは思えない。

 召喚されるボーンゴーレムはなおも増える。そのうちの一体が、システィーナに切りかかった。

 

「きゃ──!?」

 

「──ッ!」

 

 その剣をレナがどこからか取り出したナイフで弾く。

 

「ふ──ッ!」

 

 すかさず、グレンの拳が放たれる。鋭い踏み込みからの一撃はボーンゴーレムの無防備な顔面に直撃し──

 

「ちっ、硬ぇ!?」

 

 大きくのけぞったが、それだけだ。ダメージらしいダメージは与えられていない。それもそうだ。竜の牙を素材とするゴーレムには物理的な干渉に対する強い耐性がある。おまけに、攻性呪文の基本三属である炎熱、冷気、電撃すらも通用しないのである。

 

「≪その剣に光在れ≫」

 

 ボーンゴーレムの攻撃をナイフ一本で対処しているレナが、【ウエポン・エンチャント】を唱え、グレンの拳に魔力を付呪する。

 

「だぁ──ッ!」

 

 攻撃の隙間を縫って放たれた拳が今後こそボーンゴーレムを粉砕する。

 だが、多勢に無勢。このままでは数で押し切られて終わりだ。

 

「≪大いなる風よ≫──ッ!」

 

 いつの間にか立ち上がったシスティーナが黒魔【ゲイル・ブロウ】を唱えて、実験室の入り口までの道を開いた。

 

「ナイスだ! 走れ白猫!」

 

 これらを対処するには、この狭い教室から抜け出すのが先決だ。システィーナが開けた穴を見逃す手はない。システィーナとグレンが走り出したのを確認すると、レナは正面のボーンゴーレムの攻撃を弾き、その胴体に蹴りを叩き込む。少女のものとは思えぬ揚力のそれは、ボーンゴーレム数体の体勢をまとめて崩した。

 

「レナ!」

 

 出口への道のりを瞬く間に駆け抜け、なんとか窮地を脱した。だが、休んではいられない。追ってくる前に少しでも距離を取らねば。

 三人は廊下を走り出す。

 

「先生、どこに逃げればいいの!?」

 

「さあな!?」

 

 その時、廊下に悲鳴が響き渡った。

 

「ま、待て!? 何でオレまで!? ぁあああああああああ──ッ!?」

 

 柔らかいものに刃物を突き刺す音。それに呼応するかの如く発せられる悲鳴。それはまるで狂想曲だ。

 

「振り向いちゃだめ」

 

 隣を走るレナが冷たい声でシスティーナを諭す。

 反射的にレナと目を合わせ、その瞳が再び無機質なものに変わっているのを見て、思わず息をのむ。

 

「来たぞ」

 

 グレンの声に振り向けば、ジンを始末したゴーレム達が廊下へぞろぞろと姿を現していた。

 

 

 それからどれほどの時間が経ったか。数分だとも思えるし、数時間のようにも思えた。

 グレンの拳闘、レナのナイフと体術で何体かのゴーレムを粉砕しつつ逃げ回った。だが、やはり多勢に無勢だ。限界は来る。

 

「先生、ここ……!」

 

「あぁ、行き止まりだな」

 

 正面からはしつこく追い続けてくるゴーレムの群れ。迎え撃つには明らかに数が多すぎる。

 

「白猫、お前は先に奥まで行って……即興で呪文を改変しろ」

 

「えっ!?」

 

 突然の言葉に、システィーナは面食らう。

 

「改変するのはお得意の【ゲイル・ブロウ】だ。威力を落として広範囲に、そして持続時間を長くするように改変しろ。なるべく三節以内で、完成したら俺に合図しろ。後は俺がなんとかしてやる」

 

「そ、そんなこと私にできるかどうか……」

 

「大丈夫だ、お前は生意気だが、確かに優秀だ。生意気だがな」

 

「生意気を強調しないでください!」

 

 グレンとのやり取りで、いくらか落ち着いたシスティーナは覚悟を決める。

 

「わかりました。やってみます!」

 

「よし行け! 話は聞いてたな?」

 

「はい」

 

 グレンはレナに合図すると、二人は踵を返した。グレンは拳を、レナはナイフを構える。

 迫り来るボーンゴーレムの群れ。ご丁寧に大きなものだけでなく小さなものまで用意されていて、大きなものの隙間を埋めるようにして迫る姿はまさに壁である。

 

「行くぞ!」

 

「──っ!」

 

 グレンの声を合図に、グレンとレナは疾走する。先行したレナが剣を弾き、グレンがその隙をついてゴーレムの顔面を粉砕する。だが、それが許されるのは初手のみ。時間を稼ぐためにはヒット&アウェイはしてられない。

 小さなゴーレムの頭部をナイフを振り下ろして突き刺す。上からの剣を取り出したもう一本のナイフで受け流し、足を掬うように蹴りを放つ。体勢を崩しているうちに、突き刺していた右のナイフを抉るように動かして小さいゴーレムの頭部を完全に破壊、左のナイフで大きいゴーレムの首を搔っ切る。

 躱せる刃は躱し、受けれる刃は受ける。どうしようもない刃は身を捻ってダメージを最小限に。ここから先に行かせるわけにはいかない。少しでも時間を稼ぐ必要がある。

 

「グレンさん!」

 

 右手のナイフをグレンを切り付けようとしていたゴーレムめがけて投擲する。寸分違わず首の関節部に命中したナイフはゴーレムの首を落とすのに十分な威力を発揮した。

 

「すまん、助かった! ──ふ!」

 

 言いながら、骸骨を砕いていく。それでも、じわじわと後退せざるを得ない。この量の前では、致命傷を避けるだけでも少しずつ後退していかねばならない。

 そのまま数分戦ったところで。

 

「先生、できた!」

 

 システィーナが呪文を改変し終わった。

 

「何節詠唱だ!?」

 

「三節です!」

 

「よし! 俺の合図に合わせて唱えろ! 奴らめがけてぶちかませ!」

 

 拳で目の前の一体を砕くと、グレンが走り出す。それと同時、レナも目の前のゴーレムの首を掻っ攫うとともに走り出す。

 

「今だ、やれ!」

 

 グレンの指示が飛び、システィーナの詠唱が始まる。

 

「≪拒み阻めよ・嵐の風よ・──」

 

 呪文が完成する直前、グレンとレナがシスティーナの脇を通り抜ける。

 

「その下肢に安らぎを≫──ッ!」

 

 瞬間、爆発的な風が吹き荒れる。それは一時的な突風ではなく、一律の方向性を持った嵐の

壁だ。

 

「だ、だめ……完全には足止めできない……ごめんなさい、先生……ッ!」

 

 だが、その暴風はゴーレムの歩みを止めるにはあたわず。しかし、その歩みは劇的に遅くなった。

 

「いいや、上出来だ。助かる」

 

 そう言って、グレンが立ち上がる。

 

「グレンさん、やっぱり私が……!」

 

「今、お前は俺の生徒だ。大人しくしてな」

 

「……はい……」

 

 何か焦るようなレナの声をグレンはあしらいながら、小さな結晶のようなものを左手で握り込む。ぱん、と左拳に右掌を合わせて目を閉じる。

 

「≪我は神を斬獲せし者・──」

 

 詠唱が、始まる。

 

「≪我は始原の祖と終を知る者・──」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、魔力を高め意識を集中しながら呪文を唱えていく。

 

「≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ円は乖離すべし・いざ森羅の万象は須くここに散滅せよ・──」

 

 システィーナが目を見開き、レナが心配そうな表情で見守る中、グレンがシスティーナの前に躍り出る。

 

「──遙かな虚無の果てに≫──ッ!」

 

 呪文に応じて展開していた魔方陣の数が更に増え、複雑な模様を描き出しながら、前方に拡大拡散する。

 

「ええい! ぶッ飛べ、有象無象! 黒魔改【イクスティンクション・レイ】──ッ!」

 

 突き出された左掌、そこから展開していた魔方陣の中心、白く太い光が撃ち出される。光は群れていたボーンゴーレム、それどころか壁や天井すらも全て呑み込んでいく。

 そして、何も残らない。光に呑まれたもの全てが霧散していた。跡形もなく、一切の例外なく。

 壁がなくなり、外の景色が見える。天井もなくなり、上の階の天井が見える。まるで、建物を巨大な円柱状にぶち抜いたかのような光景だ。

 

「い、いささかオーバーキルだが、俺にゃこれしかねーんだよな……ご、ほ……っ!」

 

「グレンさん!」

 

 崩れ落ちそうになったグレンを、近くにいたレナが支える。

 

「≪天使の施しあれ≫」

 

 レナがすぐさま【ライフ・アップ】を唱えて傷を癒す。まるでこうなることがわかっていたかのような対処の素早さと冷静さである。

 

「はぁ……はぁ……今すぐ、ここを離れるぞ。どっかに身を隠して……」

 

 グレンの言葉が途中で止まり、苦虫をかみつぶしたような顔になる。

 

「んな呑気なこと許してくれるほど、甘くないよなぁ……くそ」

 

 かつり、かつり、と足音が響く。

 廊下の向こう側、曲がり角から人影が現れる。

 

「【イクスティンクション・レイ】まで使えるとはな。少々見くびっていたようだ」

 

 人影──ダークコートの男はゆっくりとこちらへ歩いてくる。その背に、光る五本の剣を侍らせて。

 

「グレン=レーダス。前調査では第三階梯(トレデ)にしか過ぎない三流魔術師だと聞いていた……そして、レナ=エクセリア。こちらも優秀ではあるものの、一介の生徒に過ぎないとのことだったが……」

 

 グレンとレナをじろりと見る。

 

「まさか二人も脱落させられるとは、誤算だな」

 

 男──レイクとの距離はそう遠くない。こうなっては、全員で逃げることはできない。

 

「システィーナ、グレンさんを連れて逃げて」

 

「え……っ!?」

 

「このままじゃやられる。その前に早く!」

 

「で、でもレナが──」

 

「早く!」

 

 躊躇するシスティーナに、レナは鋭く叫ぶ。迷っている場合ではない。先方が仕掛けてこない今しか、逃げるチャンスはないのだから。

 

「──っ!」

 

 その声でようやくシスティーナが動き出す。グレンを連れて、先ほど破壊された廊下の右手。即ち外に飛び降りる。

 

「ふん。逃げたか」

 

「ふぅ──」

 

 レナはナイフを両手に逆手持ちにして、構える。

 

「一人で相手取るつもりか。舐められたものだな」

 

「あなたはここで排除する。先へは行かせない」

 

 無機質な瞳がレイクを射抜く。

 

「……そうか。ならばやってみるがいい──行くぞ」

 

 レイクが剣を動かし、レナがナイフを投擲する。

 

 戦いの火蓋が切って落とされた。

 




次回、レナの秘密が明かされます(予定)
楽しみにしてて下さい!

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第七話

投稿が遅れてしまいました……
やはり戦闘描写は難しいですね。頭の中のビジョンを文章にするのは難易度が高い……

今回はオリジナル魔術が登場するので、後書きに説明入れてます。ついでにレナが使うナイフについても説明入れておきますね。


 ナイフを投擲する。飛来する五本の剣、その隙間を縫うように両手の指の間に挟んだ六本のナイフが駆ける。その軌道は精密かつ精確。

 しかし、弾かれる。五本の剣、その三本が動き、奔らせた剣線がナイフを捌いていく。残る二本はレナの元へ飛来し、振るわれる刃をステップで余裕を持って躱す。

 

(あの剣、恐らく三本が自動で動いてる……)

 

 今はレイクが腕を動かしている。が、先ほどは手は一切動いておらず、また反応していなかったようにも見えた。自動剣の迎撃を確信していたからか、それとも単純に反応が間に合わなかっただけか。

 ナイフを全て弾いた三本の剣が、こちらに向かってくる。新たなナイフを両手に持って、挟むようにして切り付けてきた二本の剣の間を推し通る。残る三本が咄嗟に迎撃態勢に入るが、この程度なら躱しきれる。例えこの剣が達人の技を記憶しているのだとしても、記憶に貶めたことで技は死んでいると言っていいのだから。

 体に受けそうになった攻撃だけをナイフでいなすと、防御が薄くなったレイクに突貫する。

 

「──ッ!?」

 

 レナの揚力の前に離れていた距離は一瞬で縮まり、ナイフがレイクを襲う。が、ナイフはダークコートを切り裂くにとどまった。

 

「貴様──ッ!」

 

 追撃をしようとしたところで、背後から剣がへ迫ってくる。さすがに五本全てを躱して攻撃することはできない。浅く切り裂かれるのは無視して、致命傷になりそうな攻撃をナイフで逸らし、躱していく。

 剣が主の元へ帰っていく、がレナも無事ではない。ローブはずたぼろになって、掠めた刃が肌を切り裂いている。レナはもはや用をなさなくなったローブを脱ぎ捨てて、身軽な格好となる。この学院に来て、初めてローブを脱いだ。所々が切り裂かれ、血が滲んでいる。両腕は包帯で完全に包まれていて、だがその両腕も所々が切られ、流れた血が包帯を紅く染めている。

 見れば、お互いに退いたことによって、再び距離ができていた。レイクは油断なく構えながら、こちらに目を向けていた。

 

「あの剣戟を突破するか……貴様、何者だ?」

 

「レナ=エクセリア。ここの生徒」

 

「ただの生徒ではあるまい。その思い切った行動力、それを実現する力量。かなりの場数を踏んでいる人間の芸当だ」

 

 その言葉に、レナは無言をもって返答とする。そして、ぼそりと。本当に小さく「人間……」と呟いた。

 

「まあいい、仕切り直しと行こう──っ!」

 

 再び五本剣が飛来する。それと同時、レナはナイフを投擲する。ただし、先ほどよりも多く、より精密に。一本を弾けば、弾いた穴をもう一本が抜けるように。腰から抜き出した六本、更に腿から取り出した投擲用のピックが六本。計十二本の刃がレイクの剣と交錯する。

 先ほどと同じように、三本が反応してナイフを弾こうとするが本数が足りない。弾けば空いた穴を別のナイフが抜けていく。自動剣の迎撃を免れたナイフとピックがレイクに殺到する。

 

「ちっ」

 

 だが、レイクはこれを余裕で躱す。その動きは素早く、そして最小限だ。レイクという男は、恐らく凄まじい腕の剣の使い手なのだろう。

 刃を躱し、再び剣を操ろうとして──そして、そこで気づく。レナの姿が、そこにないことに。

 それは剣士故の直感と言うべきか。

 認識するより先に、レイクの体が前へよろめくように動いていた。

 そして、衝撃。

 左肩を切り裂かれる感覚と共に痛みが駆ける。

 

(なに……!?)

 

 レナが背後からナイフで切り付けたのだ。完全に不意を突く一撃。意識の外からの攻撃だった。

 ナイフはレイクの咄嗟の行動で切っ先が掠めただけ、しかしその威力は──肩を骨もろともバターのように切り裂いた。

 

「ぐっ……ちぃっ!」

 

 レイクは手を振ると剣をレナに向ける。五本の剣が宙にいるレナに殺到し、その体を切り刻まんとする。だが──

 

「──ッ!!」

 

 レナはそれに構わず、再びナイフをレイクに投げつける。

 

「ぐぅ……!」

 

 既に体勢を崩していたレイクにナイフを躱す手段はない。ナイフは寸分違わず、レイクの脇腹に突き刺さる。しかし、五本の剣による攻撃を無視したレナにもはや生き残る道はない。少女の肉体は切り刻まれ、肉片と化す──はずであった。

 

(な──っ!?)

 

 それは、刹那の出来事であった。

 刃が少女の体に触れる、その直前。その姿が体が掻き消えた。刃は虚しく空を切る。

 そして、それと同時。

 

「ごはっ!?」

 

 掻っ捌くように脇腹のナイフが引き抜かれる。他ならぬ、レナの手によって。

 それは瞬間移動。転移としかとれない動きであった。

 

「──ッ!」

 

 身動きが取れないレイクに、レナは回し蹴りを叩き込む。ボーンゴーレムすらも退けて見せたその威力は、人間一人を吹き飛ばすには充分すぎる威力だった。更に、ナイフをレイクに向けて三度投擲する。

 

「がっ……っ!」

 

 だが、レイクも凄まじかった。その体捌きをもって、空中で体勢を立て直すと、投擲されたナイフを手動剣をもって弾かんとする。そして──

 

 

 

**********************

 

 

 

 少女は、虚ろだった。

 少女には人の『心』がわからなかった。真意はわからず、ただ表面上に浮かんだ感情だけは読み取ることができた。

 それしか、できなかった。

 表面の感情に隠された、その人間の本当の想い。それを、少女は認知できなかった。

 『心』を理解できず、『心』を持たぬ人間は、果たして人間と言えるのか。それは、もはや人間ではない。

 

 『人形』だ。

 

 当たり前だった。なぜなら、少女は人形として造られたのだから。

 

 ………。

 

 そう、私は『人形』。戦闘人形の──

 

 

 

**********************

 

 

 

 ──剣が抉られた。

 揶揄ではない。まさしく、抉られた。投擲されたナイフは剣は間違いなく捉えた。ナイフは弾かれるはずだった。

 だが、剣が抉り取られた。まるで、その部分だけ最初からなかったかの如く、まるでその空間ごと消失したかの如く。ナイフに触れようとした部分が抉り取られたのだ。

 

「はぁ──ッ!」

 

 そして少女が現れる。投擲した、今まさに剣を抉ったナイフを左手に掴み、右のナイフを腰だめに構えながら。

 躱そうとして、レイクは膝をつく。先ほどの傷が響いたのだ。身動きが取れないレイクになす術はない。

 そう、レイク自身には。

 少女の前に、剣が立ちはだかる。レイクの魔導器、自動剣だ。だが、先ほどと同じだ。少女の刃はその剣をも容易く切り裂く。

 一本目。横凪に切り裂かんとするも、左手に持つナイフで真っ二つに。

 二本目。一本目が開けた隙につけ込むが如き、鋭い突き。だが、腰だめから放たれた右手の刃が剣を縦に裂いていく。

 しかし、だがしかし。それは剣に記録された達人のなせる技か。

 

「か、は──ッ!?」

 

 裂かれた刃の片側が、少女の腹に突き刺さる。

 そして、三本目。直接触れれば消滅することを認識したか、少女に突き刺さった刃をより深くその体を貫通させるかのように、打ち込む。

 勢いを殺せず、少女は派手に吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、廊下を滑っていく。

 血が、流れていく。突き刺さった剣を伝って、血が流れる。その傷は、命を奪うには充分過ぎる。このままでは、すぐにでも意識がなくなり、そのまま永遠の眠りにつくことになるだろう。

 そして、激しい痛みが繋ぎ止める意識は周囲の揺らめきを認知した。現れたのは、六体のボーンゴーレム。見れば、遠くでレイクが傷を手で押さえながら何か呪文を唱えていた。つまり、これはレイクが召喚した使い魔だ。ナイフは地面に叩きつけられた時に手放してしまった。武器はなく、死に至る傷を負っている。万事休すだ。

 それでも、少女はよろよろと立ち上がる。それだけでも、大したものだろう。

 だが、立ち上がったところで、少女に武器はない。ナイフは全て使い切り、手に握る武器は何もない。

 だが、忘れてはならない。少女は魔術を使えるのだと。だらりと腕をたらし、少女は呟くように詠唱を始める。

 

「≪流れ(いずる)は我が鮮血・灼熱が如き痛みは呪いとなりて・──」

 

 ボーンゴーレムが動き出す、目標は目の前の小さき命だ。

 

「≪躰に剣を突き立て我は嗤う・──」

 

 ゴーレムが迫る。詠唱は止まらない。

 

「≪狂おしき衝動は刃を以てここに顕現す・──」

 

 致命の刃が、振りかぶられる。

 

「≪内なる虚無・剣の虚構と成りて≫──ッ!」

 

 計六本の刃が振り下ろされると同時、呪文が完成し魔術が起動する。

 全六節、それにより紡がれた魔術は──

 ──ボーンゴーレムの動きを止めた。いや、違う。その全身を、刃で貫いた。少女のたらされた腕、そこから生えた何枚もの刃が六体のボーンゴーレムを貫いていた。

 はらり、と。

 切り刻まれた包帯が床に落ちる。それを合図にしたかのように、少女が両腕を振り、真っ直ぐに立つ。ボーンゴーレムが残骸となって崩れ落ちた。

 少女の両腕には、傷が刻まれていた。一つや二つではない。数え切れない傷が幾重にも刻み込まれていた。間違いなく、鋭い刃物で切り裂いたであろう傷、刃はそこから生えていた。

 固有魔術(オリジナル)猛る騎士の咆吼(ハウル・オブ・ペイン)】。刻まれた傷痕を触媒として、彼女の魔術特性(パーソナリティ)である虚無を刃の形として振るう。虚無とは、それ即ち決して満たされぬ巨大な箱のようなもの。その虚無が刃となったのならば、切り裂いた空間を虚無が駆けるのと同義。つまり、どんなものであれ、それが物質であろうとなかろうと、ありとあらゆるものを切断する。それがこの固有魔術の力だった。

 少女はレイクを瞳に写す。光を灯さず、ただ入るものを反射するだけの瞳。それはまさしく人形のものだった。

 

 

 

**********************

 

 

 

 【Project:Perfect Doll】。天の知恵研究会が行った、儀式が一つ。その目的は、まだ生まれる前の子供に魔術的措置を施して、強化された人間を作り出す。そして、洗脳によって死を恐れず、命令に忠実な戦闘人形を作り出すこと。

 だが、魔術的措置に耐えられる者は少なく、また耐えられたとしても狙った通りの力が発揮さなかったり、何かしらの欠陥を抱えたりと、成功することはなかった。

 そう、一人を除いて。

 一人の少女は、魔術的措置を耐え抜き、狙った通りの力を持って生まれた。欠陥もなく、それは完全な成功例だった。

 魔術特性を弄くられ、魔術への適性が引き上げられたその少女は、洗脳によって完全な人形と化した。

 少女は命令されるがままに戦った。儀式によって与えられた力は、幼い少女に恐ろしいまでの力の行使を可能にした。

 命令されれば、何をされても抵抗しなかった。全身を剣で切り裂かれようと、慰みものにされようと、命令ならばそれに従った。

 そしてあるとき、少女のいた施設が襲撃を受けた。時間を稼げ、と命令された少女は森の中で襲撃してきた魔術師と戦った。だが、相手は魔術を封殺する不可解な魔術を使用し、奇襲。その体術を以て少女を沈黙させた。

 その少女の髪は魔術的措置の強い影響か、脱色したかのような、かすれた薄い金色をしていた。

 

 

 

**********************

 

 

 

 腹の傷からは血が流れ続け、剣を伝ってぽたりぽたりと地面に垂れていく。だか、少女はそれに構うことなく、レイクを見つめる。

 

「目標を補足。攻撃範囲内と断定、攻撃行動に移ります」

 

 そう、呟いて。少女は地を蹴った。一瞬で加速し、凄まじい速度でレイクに肉薄する。

 レイクは咄嗟に大きく後ろへ下がり、自動剣が少女を迎え撃つ。だが、少女の腕から生える刃は虚無の刃。左手が無造作に振るわれ、剣は次の瞬間には無惨にも切り裂かれた。

 

「だが──ッ!」

 

 そうなることはレイクにもわかっている。残った最後の一本。手動剣をその隙に背後に回し、突き立てる。背中は完全に無防備で、剣が──

 ──やはり、切り刻まれる。

 背中から衣服を突き破り剣山のように刃が現れ、刀を切り刻んだ。

 全ての武器を使い切ったレイクに、もはや抵抗する手段は残っておらず──

 ──その胸に、レナの刃が突き刺さった。

 

「見事だ……」

 

 レイクは、自らを仕留めた者へ静かに賞賛を送った。だが、その無機質な瞳にはただ血を吐く自分だけが写っている。

 

「……ふん、意思のない目だ」

 

「……」

 

 少女は何も答えない。

 

「そうか……なるほどな。その髪、その瞳、まさしく『人形』だ」

 

 そして、何かを納得したかのように呟く。

 

「帝国宮廷魔導師団には連れ去られた『人形』がいる。淡い金色の髪に、光を灯さぬ無機質な瞳。天の知恵研究会の儀式より生まれし、戦闘人形。被験体番号193番、識別名『アクター』」

 

「…………」

 

 少女は無言でレイクの胸から刃を引き抜いた。レイクは崩れるように地面に倒れた。息はしていない、死に絶えていた。

 

「……けほ……」

 

 そして、忘れていたかのように、少女は血を吐いた。そしてそのまま、まるで糸が切られた操り人形のように、崩れ落ちた。

 




レナの固有魔術
【猛る騎士の咆吼(ハウル・オブ・ペイン)】
 全身に刻まれた傷痕を触媒として、レナの魔術特性である『虚無』を刃として振るう。切った空間を虚無に置換するため、ありとあらゆるものを切断する絶対の刃。
詠唱は「≪流れ出は我が鮮血・灼熱が如き痛みは呪いとなりて・躰に剣を突き立て我は嗤う・狂おしき衝動は刃を以てここに顕現す・内なる虚無・剣の虚構と成りて≫」

レナのナイフ
こちらはレナの魔導器。柄に複雑な魔術式が何重にも刻み込まれていて、彼女自身の血を触媒とすることでとある二種類の魔術を発動できる。
一つ目の効果はナイフの刃の周囲を虚無として扱うと言うもの。今話でレイクの剣や肩を容易く切り裂いたのはそのため。【猛る騎士の咆吼】をナイフの刃に付与しているようなもの。
二つ目の効果は瞬間移動の発動及びアンカー。今話でレナが見せた瞬間移動は、一度自らの体を虚無へと移動させて再び違う座標に体を現すというもの。ただし、先述の通り、虚無とは決して満たされぬ巨大な箱のようなものであり、一度体をそこに飛ばせば再び現実に戻れる保障は使用者のレナにもない。そこで、このナイフが現実に帰還するアンカーとしての役割を果たしている。つまり、ナイフがある場所への擬似的な瞬間移動。

こんな所ですかね。レナの身体能力については、魔術的な措置で強化されていたということです。

長ったらしい後書きになってしまいましたが、読んで下さい!
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第八話

今回はエピローグ的な会なので、文字数が少なめです。ご了承下さい。
次回から二巻の内容になります。主人公らしく、レナを目立たせたいと思います。


 人間とは、何を以てしては人間とされるのか。

 人間と人形の違いは何なのだろうか。

 それが生きていれば人間なのだろうか?

 それが生きていなければ人形なのだろうか?

 心の有無だろうか?

 では、心がない命令に忠実な生きたヒトガタは果たしてどちらか。

 では、心がある自らの意思で動く生きていないヒトガタは果たしてどちらか。

 人形か、はたまた人間か。

 何を以てそれを定めるのか。その答えはどこにあるのか。

 少女は、心がない命令に忠実な生きたヒトガタだった。今は、心がない自らの意思で動く生きたヒトガタだ。

 自分で考え、答えを出し、自分で動く。けれど、意思はあれど心はない。感じられるのは表面上、相手が浮かべる表情のみ。隠された真意はわからない。

 それでも少女は前に進むしかない。まわりは進んでいく。自らの役割とするべきことを少女なりに考えて進むしかない。

 時間は待ってくれない。

 

 ……そう、時間は待ってくれないのだ。誰の目にも等しく、同じだけ進む時計の針。それは冷酷な宣告であり、見るたびに現実を突きつけられる。チクタクと秒針が進む音。それはまるで悪魔の嗤い声のようで。心のわからぬ私を嗤っているのか、それとも──

 

 

 

**********************

 

 

 

 目が覚めれば、いつもの天井が見えた。体を起こそうとして、鋭い痛みに息を呑む。

 

「目が覚めたか」

 

 ベッドの横に置かれた椅子、そこにセリカが座っていた。

 

「セリカさん……?」

 

「まだ傷が塞がってない。無理に動こうとするな」

 

 傷。そうだった、学院を襲ったテロリスト、天の知恵研究会と戦って……

 

「危篤状態で見つかったんだ、暫くは安静にな」

 

 あの後、システィーナが危篤状態の私を発見したらしい。【ライフ・アプ】をひたすらに私にかけ続けて、システィーナ自身もマナ欠乏症になってしまった。その後、私は病院に搬送されセリカさんが引き取ったとのことだ。

 

「それにしても……力を使ったな……」

 

「ごめんなさい……」

 

「いや、責めているわけではないんだ。そうしなければならなかったのはわかっている。むしろ、力を使わせなければならない状況にさせてしまった私が謝る方だ」

 

「そんな……! セリカさんが謝ることなんてなにも……」

 

 事件の全容はわからない。けれど、あの状況ではいくらセリカでもどうしようもあるまい。学校の転院陣も破壊されていたのは間違いないのだから。

 

「病院での検査の結果、見るか?」

 

 どこからともなく、セリカが一枚の紙を取り出す。

 

「大丈夫、だったんですか……?」

 

 その言葉の意味を瞬時に理解したセリカは大丈夫だ、と続ける。

 

「お前の状態を知ってる医者が診た。秘密はバレてないさ」

 

 差し出された紙を受け取り、見る。

 

「……はぁ」

 

 予想通りの結果に、ため息をつく。そこに書かれた数字の通り、悪化しているのは間違いない。

 

「……前回は確か一ヶ月ぐらい前でしたよね?」

 

「ああ。今までよりも格段に悪化してる。一回でここまで進むと考えると……」

 

 その先を濁すセリカ。なんともセリカらしくない。

 

「……わかってます。でも、私は大丈夫ですよ、セリカさん」

 

 悲しませまいと笑って見せる。

 

「大丈夫です。まだ、時間はあるんですから」

 

 そう言って時計を見る。針は無情に、冷酷に進んでいく。

 そうだ、まだ時間はある。皆と過ごすのに充分な時間が。私という物語が終わるのは、まだ先だ。

 




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時間を見つけて早く執筆しないと……


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第二章 波乱の魔術競技祭
第九話


更新が遅れて申し訳ない。
いやー、一巻目が終わったーって油断してたらあっという間に時間が経ってたよね、うん

そんなわけで、タグにもあるように亀のような更新速度ですが、よろしくお願いします。


 それは、ある日の昼下がりのこと。手持ち無沙汰になったレナは中庭を散歩していた。春と夏の間の今の時期は、乾燥した空気に強くなってきている日差しが暖かく、食後と言うこともあって眠気を誘うには充分だった。

 

「ふぁ……」

 

 欠伸を噛み殺しつつ、広い中庭を歩く。ベンチに座ればそのまま眠ってしまいそうで、ひとまず教室に戻ろうと思ったとき。

 

「ふぶっ!?」

 

 何かが顔に直撃した。咄嗟のことの上に、ぼーっとしていたレナは女子にあるまじき声を出して、バランスを崩してしまう。

 結構、痛かった。勢いよく尻もちをついたのだから当たり前だが。ひとまず今もなお視界を覆っている物体を剥がそうと手を伸ばす。もふっとした感触がして──

 

(もふ……?)

 

 疑問に思いつつ、そのまま引き剥がして視界に入ったのは──

 

「みゃぁ」

 

 真っ黒な一匹の仔猫だった。

 

 

 

**********************

 

 

 

「おーっし、午後の授業始めんぞー……って、何やってんだ、お前ら」

 

 授業をするために教室に入ったグレンは教室の一点、レナの席の辺りに固まっている面々を見て怪訝そうな声を上げる。魔術学院の生徒達はグレンと違って真面目であり、授業の予鈴がなれば授業の準備をして講師の到着を待っているのが普通だ。事実、今までもグレンが教室に着けば全員着席していた。

 それがどういう風の吹き回しか、いつもは小言を行ってくるシスティーナですら、今日はその集団に混じっているらしい。

 

「あ、先生」

 

 近づいたことで、ようやく気がついたらしいルミアがグレンを見て声を上げる。

 

「もう授業始まってるぞー──は?」

 

 グレンが背伸びをして生徒達の壁の中を覗き込んだ。そして予想外の光景に素っ頓狂な声を上げる。

 生徒達の中心に居たのはレナと一匹の黒猫だ。まだ小さく、一歳にもなっていないのがうかがえる。その猫がレナの腕の中で丸まって寝ている。

 

「……ルミア、どうしたんだ? この猫」

 

「それが……」

 

 グレンは一番近くに居たルミアに説明を求めた。だが、ルミアは詳しいことはわからないらしい。ただ、レナのローブの中から出てきたことしか知らないと言った。

 ちなみに、当の本人であるレナは寝ていた。机に突っ伏して、机の上に組まれた腕の隙間に黒猫がすっぽりと収まっている。

 

「ふむ……おい、起きろ」

 

 すやすやと寝息を立てているレナの頭にチョップをいれる。が、熟睡しているレナは起きない。

 

「……おーきーろー」

 

 少し強めになったチョップが再び頭にいれられるが、やはり起きない。よほど熟睡しているらしい。

 

「はぁ、やーれやれ……ていっ!」

 

「ひゃぁっ!?」

 

 三度目は拳骨だった。それも割と力の込められた。ごつんと言う鈍い音と共に頭に当たった拳の痛みに、堪らずレナが飛び起きる。

 

「な、何? 何が……!?」

 

 頭を両手で押さえつつ、キョロキョロと周囲を見渡すレナ。テンパってるレナと言うのも珍しい。

 

「目が覚めたか?」

 

 そして、自分を見下ろすグレンを二、三秒見た後、頭を押さえたまま涙目で非難がましい視線を向ける。

 

「酷いです、殴って起こすなんて」

 

「起きなかったお前が悪い。それよか、その猫はなんだ? 拾ってきたのか?」

 

 そのグレンの質問でレナは机の上でなおも眠っている猫を見る。割と激しい動きがあったというのに、眠ったままとは中々に肝が据わっている。

 

「え、あ……そうです。お昼休み、中庭を散歩してたらこの子が顔に突撃してきて」

 

「顔に突撃……?」

 

「はい、顔に突撃です」

 

 両手で顔に何かが貼り付くようなジェスチャーをするレナ。どうやら、顔に飛びついてきたらしい。

 

「それで、そのまま連れて帰ってきたと……どうすんだ?」

 

 学校での動物の飼育は禁じられては居ないが、それは実験用に育てるためであって、愛でるための動物を飼育することを許してくれるとは限らないのである。レナも同じことを考えたようで、少し考え込む。

 

「……この子を私の使い魔とする、じゃダメでしょうか?」

 

 確かに、学院に使い魔を禁止するような規則はない。使い魔は魔術師にとっては普通のもので、それを禁止するようなことは生徒の成長の妨げになるからだ。

 

「ま、確かにそれなら問題ないか……きっちり世話しろよ?」

 

「はい……!」

 

 珍しく嬉しそうに微笑んで、返事をするレナにグレンは肩をすくめると教壇へ歩いていく。

 

「お前ら、授業始めんぞー。席に着けー」

 

 その声に固まっていた生徒達が自分の席に戻っていく。レナはいまだに寝ている黒猫をそっと撫でて、また微笑むのだった。

 

 

 さて、授業が終わって放課後。レナ、システィーナ、ルミアのいつもの三人組は、日課になった図書室での予習復習を終え、三人で駄弁り始める。

 

「レナ、その子の名前、どうするの?」

 

「うん、なにか考えないと……」

 

 システィーナの質問に答えるレナはいい名前が思いつかないようで、少し困ったような顔をした。最早先月の出来事となった、学院襲撃事件の後からレナは少し変わった。何というか、接しやすくなったのだ。見せる表情も少し豊かになって、何を考えているのかわかりやすくなった。ただ、システィーナには、それがどこか焦っているようにも感じられる。事件の時、危篤状態だったレナを見つけて手当てした時に見た傷だらけの腕を見てしまったからだろうか? それとも、ルミアの正体を知って今までの関係で居られるように、と自分が焦っているからそう見えるだけだろうか?

 

「黒いから、クロ?」

 

「うーん、少し安直すぎるかも」

 

 一人考えるシスティーナをよそに、レナとルミアは黒猫の名前を話し合っている。

 

「ミィはどうかな? そうやって啼くからだけど……」

 

「ミィ……あ、それにちょっと足して、ミィナとか……」

 

「うん、素敵だと思う! ね、システィ」

 

 ルミネが同意を求めるが、考え事をしているシスティーナには届かない。と、黒猫改めミィナがぼーっと虚空を眺めるシスティーナの顔に飛びつく。

 

「ふぶっ!?」

 

 変な声を上げて軽いパニック状態になるシスティーナ。端から見ると中々にシュールな光景である。昼の自分はこんな感じだったのかと思うレナだ。

 

「ちょっ、こら!?」

 

 何とか引き剥がしたが、ミィナはめげずにシスティーナの顔を舐める。何というか、ミィナに遊ばれてる感じがする。いいようにされているのが何となく気に食わないシスティーナは顎の下を撫でる。気持ちよさそうに目を細めるミィナを見て、思わずシスティーナも顔を綻ばした。

 

「懐かれてるね、システィ」

 

「そうかしら?」

 

「うん、懐かれてる」

 

 撫でるのをやめると、もっと構えと言わんばかりに顎を乗せてくる。かわいい。

 

「あ、そう言えば明日は魔術競技祭の種目決めだったよね?」

 

 ミィナと戯れていたシスティーナが、ルミアの言葉を受けて少し渋い顔をする。

 

「そうだけど……決まる気がしないのよね。先生が好きにしろって言ってくれたのはいいんだけど、皆、気乗りしてないみたいだし」

 

「魔術競技祭……?」

 

「ああ、レナは知らないのね。魔術競技祭って言うのは──」

 

 首をかしげるレナにシスティーナが魔術競技祭の説明をしていく。何でも年に三回、生徒達の魔術技術の競い合いで、様々な競技で競い合う祭典、らしい。

 

「後、女王陛下も来賓なさるわ。だけど、ね……」

 

 はぁ、とため息を付く。

 

「さっきも言ったように、皆気乗りしてないの。昔は楽しいお祭りだったらしいんだけど、最近じゃ勝つのが最優先で、成績上位者だけで出場させるのよ……だから、皆、萎縮しちゃって」

 

 グレンが好きにしろと言ったため、クラスの出場者は話し合いで決めることになっている。担任のグレンが判断を下してないので、全員が参加することもできるのだが……当然、負けるとわかってるものに出たくはないだろう。

 

「そっか……」

 

 なんとかならないものかと考えていると、ふと、廊下からドタドタと何かが走る音がした。その音は扉の前で止まると、扉が勢いよく開かれる。

 

「ぜぇ、はぁ……ここに居たか」

 

 グレンだった。荒く息をついて開けた扉に手をついて息も絶え絶えといった様子である。

 

「な、何してるんですか先生……」

 

「いや、急がねぇと、はぁ、帰っちまうかと、ぜぇ、思ってな……明日って、種目決めだよな?」

 

「え、ええ、そうですけど……」

 

「よし、それが聞きたかった。ふぅ」

 

 そう言いながら、額の汗をピッと払うグレン。スポーツをしてきた爽やかさをだろうとしているのだろうが、この上なくキモかった。

 

「それにしても、三人仲良く復習か? ご苦労なこって」

 

 グレンが机に広げられた教科書やノートを見て言う。

 

「えへへ、復習しないと付いていけなくて……」

 

「ほーん……まあ、レナが一緒なら大丈夫だろ」

 

 そんなことを言ってのけるグレン。確かに、レナは優秀だし説明も丁寧だ。実際、その教える上手さはグレンに匹敵するのではないかと思う。

 

(あれ? そう言えば先生とレナってどういう関係なのかしら……)

 

 

 考えてみれば、レナがグレンのことを先生と呼んでいる所を見たことがない。先月の事件の時もグレンとレナは初めてとは思えない連携を披露していた。レナ自体も異常な力を持っていた。あのダークコートの男を倒したのはレナである。

 

(というか、先生も何者って話ではあるわよね……)

 

 事件の時に披露していた固有魔術(オリジナル)。授業でもグレン自身が言っていた用に、固有魔術(オリジナル)を作ること自体は難しくないのだ。その固有魔術(オリジナル)で如何に汎用魔術を超えるかが問題なのだが……グレンの使った固有魔術(オリジナル)は魔術の常識を壊すような代物。魔術自体の発動を無効化するなど、どのような術式を使えばよいのか検討もつかない。

 

「あ、グレンさん。今日の晩ご飯、何がいいですか?」

 

「んー、そうだなぁ……」

 

(そうよね、今日の晩ご飯──は?)

 

 何気なく流そうとしたその言葉にシスティーナの思考は硬直し、そして動転する。

 

「ちょ、ちょっと待って! どういうことですか先生!?」

 

「ん? 何がだ?」

 

「晩ご飯って……まさか一緒に住んでるんですか!?」

 

「そうだけど?」

 

 当然のように返されて言葉を失うシスティーナ。ルミアも困った顔をしている。

 

「あ、あはは……それはよくないような?」

 

「???」

 

 ルミアの言葉に頭に『?』マークを浮かべるグレン。レナですら同じように『?』を浮かべている始末だ。

 

 

 そして──

 

「すまんな、粗茶だが──」

 

「あ、い、いえ! お構いなく!」

 

 セリカがそう言って対面に座る。そう、セリカが。

 場所はアルフォネア邸。あの後、何を勘違いしたのかレナが『二人も食べに来る?』と言い出し、なし崩し的にお邪魔することになったのだが……連れて来られたのはアルフォネア邸。一緒に住んでいるとは言っていたが、なにも二人だけで住んでいるわけではなかった。勝手な勘違いをした自分が恥ずかしいシスティーナとルミアである。

 

「しかし、グレン。お前、女子生徒を家に連れ込むか、ロリコンめ」

 

「違うっつーの。こいつらは晩飯食いに来ただけだからな?」

 

「そういう口実か」

 

「違うって言ってますよねぇ!? あ、まてよ? これが学校にバレて無職になれば、またヒモ生活に戻れ……」

 

「……≪まあ・とにかく・爆ぜ──」

 

「ちょ、おまっ!? こいつらごと吹き飛ばす気か!?」

 

 なにやらコントじみたやりとりをするグレンとセリカ。親しい間柄なのが傍目から見ても明らかだ。

 

「先生とアルフォネア教授ってどんな関係なんですか?」

 

 そのやり取りを見て、ルミアが質問する。

 

「ん? ああ、こいつは私の子供で──」

 

「いや、違うから。断じて母親では、ない。まあ、なんだ、腐れ縁ってやつかね」

 

「おいおい、反抗期か? 昔は純粋で可愛かったのにな……夜中のトイレが怖くて行けなくて、そのまま──」

 

「だぁぁ!? 何言っちゃってるの、セリカさぁぁん!?」

 

「ほら、できましたよ」

 

 やはりコントのようなやり取りに発展しかけたところで、レナが料理を持って来た。平然とと配膳していくのに、このような状況に対する慣れを感じる。ひょっとして普段からこんな感じなのだろうか。

 

「今夜はシチューです。冷めないうちに食べましょう」

 

 配膳を終えてレナが椅子に座る。それを確認すると、グレンとセリカとレナが手を合わせる。ルミアとシスティーナもそれに倣う。

 

「いただきます」

 

 三人が同時に言い、少し遅れてルミアとシスティーナが続く。言うが早いか、グレンが料理に口をつける。学院でもそうだが、いわゆる痩せの大食いと言われる人種のグレンはよく食べる。ガツガツと食べる姿は見てて、一種の清々しさを与えられる。 

 グレンの食べっぷりに食欲を刺激されたルミアとシスティーナもシチューを掬って口に運ぶ。

 

「美味しい!」

 

「ほんとね。すごく美味しい……」

 

 そう言って目を見張る二人。プロが作ったと言われても信じられる。

 

「よかった。セリカさんとグレンさん以外に作ったことなかったから、心配だったんだけど……」

 

 そう言って笑うレナ。この完成度で心配と言うことは、本当に二人以外には誰にも作ったことがないのだろう。

 

「おかわり」

 

「はい、今、持ってきますね」

 

「早っ!?」

 

 早くも皿のシチューを平らげたグレンがレナにおかわりを要求した。早食い大会でもしてるのかというスピードだ。

 

「え? 先生っていっつもこんな速さなの?」

 

「うん、大体こんな感じ」

 

「お前らはおかわりいいのか? 全部食っちまうぞ?」

 

「あ、ちょっ、待って下さい、先生!」

 

 フィジテの夜は更けて行く。この日、アルフォネア邸は普段より一層賑やかであった。

 




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第十話

大変長らくお待たせしました……
受験勉強が切羽詰まってて、書く時間が取れず……
そして受験終了したのはいいものの、今度はスマホが壊れてデータが飛ぶわで……機種変したらしたでキーボード違って上手く扱えないとか色々とありましたが、ええ。言い訳ですね。ごめんなさい!

物語を終わらせるつもりはないので、更新続けます。
どうか楽しんでいって下さいませ



「よーし、それじゃあ種目決めるぞー」

 

翌日の放課後、教室でグレンが教壇に立っている。無論、授業ではない。魔術競技祭の種目決めだ。先日、好きにしろと言っていたくせに、今日になって競技は俺が決めると言い出したのである。

 

「まあ、決めるというか、もう決めてるんだけどな。これを見ろ!」

 

そう言うと、黒板にプリントをばぁんっ! とやけに勢いよく貼り付けた。

 

「先生、見えません」

 

「あ?」

 

グレンが貼り付けたプリントは、小さかった。個人が近くで見る分にはなんの問題もないだろうが、それを黒板に貼り付けても小さすぎる。

 

「……」

 

グレンが無言でプリントを教壇に置く。そして、

 

「よーし、それじゃあ種目決めるぞー」

 

(無かったことにした!?)

 

クラス一同、心の中で同じ突っ込みをした。そんなことは御構いなしと、続けていく。

 

「いいか、俺が指揮を執るからには勝ちに行くぞ? 遊びナシの本気の編成でな」

 

そう言って、今度はプリントを手招きして呼んだルミアに渡した。

 

「悪いが、このプリントを黒板に写してくれ」

 

「はい、わかりました、先生」

 

ルミアが黒板にプリントを写していく中、グレンは再び生徒に真剣な眼差しを向ける。

 

「これは昨日の夜に練りに練った編成だ、これ以上ない最強の、な。いいか? 何度も言うが、遊びはナシだ」

 

そうしている間に、ルミアがプリントの内容を書き終えた。そこに書かれた、競技とその下の出場生徒を見て……生徒達の間にざわめきが広がる。なにせ、クラスの誰一人として欠けていない。競技数の関係上、何人かは複数の競技に参加することになってはいるが、一つも参加しない生徒が居ないのだ。遊びはなしと言いながら、実に非効率的。他クラスは成績上位者のみを使い回すと言うのに、どういう思惑なのか。

 

「さて、何か質問あるか?」

 

グレンがそう言うと、次々に生徒たちが手を挙げる。なぜ自分がその競技に選ばれたのか理解できてないのだろう。

その生徒たちの質問を、グレンはサクサク捌いていく。どれも、一応の筋は通っているようである。

 

「他に質問は……ないな? よし、じゃあこれでいくぞ?」

 

手を挙げる生徒が居ないことを確認すると、グレンがそう宣言する。

 

(くくく……ちと卑怯な編成だが、これなら勝てる可能性がある! ほんとは、白猫とレナを全種目使い回せたら、優勝はほぼ確定なんだろうが、それはさすがに反則だろうしな)

 

内心ほくそ笑むグレン。グレンからすれば、これが全力の編成だ。人数的な問題で使い回しが止む無しなところでは、当然ながらシスティーナとレナのような成績上位者を使い回す。が、それ以外では他の生徒たちで穴を埋めるしかない。全員を使って、とことん効率を優先したのが、この編成だ。

 

「やれやれ……先生、いい加減にしてくださいませんかね?」

 

はぁ、と呆れたようなため息を吐きつつギブイルが立ち上がる。

 

「本当に勝つ気があるんですか? そんなんじゃ、他クラスには対抗できませんよ」

 

「む……?」

 

「遊びナシの編成って、遊びしかないじゃないですか。他の全クラスが成績上位者だけで全種目固めてるんです、毎年の恒例じゃないですか」

 

「…………え?」

 

ギブイルの発言にピシリと硬直するグレン。昨日の夜に考えに考えたこの構成だが、成績上位者だけで固めていいというなら、話は変わってくる。とにかく生意気で生意気だが優秀なシスティーナに、まず間違いなく学年で最優のレナを使えば勝ちはほぼ確定するまであるのだ、とにかく勝つことが目的のグレンとしては願ったり叶ったりである。

 

(全競技で使い回していいんだ、毎年の恒例なんだ? ほーん、ふーん……なるほどねぇ?)

 

優勝で賞金が貰えなければ死活問題のグレンは、一瞬で編成を頭に浮かべる。

 

「うむ……そうだな、そういうことなら……」

 

グレンがギブイルの言葉に首肯し、新たな編成を黒板に書こうとしたその時。

 

「このままで、いいと思う」

 

決して大きくはないが、通る声が教室に響いた。その声の主は……

 

「皆、活躍できるようになってる。グレンさんが考えてくれた構成は、一人一人の得意分野からの応用で対応できるように編成されてる」

 

レナである。今まで、自発的に発言をしたことがなかったレナに、クラス一同は少し驚き声に集中する。

 

「グレンさんは、これが最強の編成だって言った。なら、やることは一つだよ。皆で戦って、皆で勝つ。私は、そうしたい」

 

頭に黒猫が乗っかっているせいでいまいち締まらないが、その発言にクラスメイト達のボルテージは上昇していく。

確かに……とか、そうだよな……とか。普段静かなレナの発言だからこそ、クラスメイトの心を動かしたのかもしれない。

 

「やろうぜ、皆!」

 

誰が言ったか、そんな号令を皮切りに。

やろう、やってみよう、と波のようにクラス中に広がっていく。

 

「……やれやれ、そうかい。まぁ、いい。それがクラスの総意だというなら、好きにすればいいさ」

 

ギブイルは至極あっさりと身を引いて、流れは完全に全員が使われている編成で勝つ方になる。

この流れにグレンはというと。

 

(ちょ、おい、わかってる!? 俺の餓死がかかってるってわかってんのか、コンチクショウーー!?)

 

もう、とにかくパニックであった。だがそれと同時に、レナが自分の想いを発言をしたことへの喜びだか嬉しさだかも胸の内に広がって、なんとも形容し難い顔になっていた。

そんなグレンを尻目に、生徒達は盛り上がっていくのだった。




今回は短めになりました。ブランクもあるので、文書の劣化感が否めない……
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第十一話

大変長らくお待たせしました。
いくら更新遅いといっても限度がある……というのはさすがの私も自覚するところではありまして。
ここからは少なくとも月一で投稿します。
ストーリーの大体の線は考えてあるので、不能ではない…はず


「どわぁああ!?」

 

どしゃっと派手な音とともに人影が落下した。綺麗に顔面から地面に激突して、痙攣する姿は側から見て憐れですらあった。その人影が呻きながら仰向けになると、視界を遮るように少女がしゃがみ込んだ。

 

「大丈夫?カッシュくん」

 

「あ、ああ……」

 

顔を覗いているのは、クラスメイトのレナである。突然アルザーノ帝国魔術学院に編入してきた少女。最初は表情が乏しく、まるで何を考えて分からない上に、よそよそしい。彼女の美貌も相まってなんとも近づき難かった。かくいうカッシュ自身もその1人で、話しかけることにも抵抗があった。

しかし、一度話してしまえばなんてことはなかった。よそよそしくはあっても、話しかければしっかりと聞いてくれるし、返事もしてくれる。ただ不器用なだけと気付くのに時間はかからなかった。最近では表情も豊かになり、今では完全にクラスに溶け込んでいる。

 

「はい」

 

仰向けのまましばらくぼーっとしていたカッシュに、レナは手を差し出す。

 

「ああ、悪い」

 

差し出された手を取って立ち上がる。大きな怪我はしてないようだ。

 

「ん、大丈夫そうだね。それじゃ、もう一回」

 

表情を変えずに平然とそう言い放つレナに、カッシュは引きつった笑みを浮かべる。

2人が居るのは、アルザーノ帝国魔術学院の校舎裏に広がる広大な森林だ。魔術資源が豊富なこの森林は、教授や教員が研究材料の調達にも利用する。そんな場所になぜ居るのかと言うと、魔術競技祭の練習のためだ。2人が選ばれたのは、魔術競技祭の目玉の競技でもある「スプリンツ」。決闘戦とも並ぶ毎年の恒例競技であり、スタートからゴールにたどり着くだけのシンプルな競技だ。ただし、そのコースが難解で、森林を抜け、草原を走り、崖を登り、更に川を渡ってゴールとなる。この競技の難しいところは、そのコースだけではない。競技中、他クラスの魔術による妨害を可としていることもこの競技の難しさに拍車をかけている。先行すれば後方のクラスに妨害され、かと言って下がり過ぎれば首位は狙えない。最後の最後まで勝負が見えないのがこの競技である。

カッシュがスプリンツに選ばれたのはその体力が大きな要因だ。当然、魔術によるブーストをかけて臨むのだが、いかんせん素の体力が無ければ話にならない。カッシュは身体能力で見れば学年の中でもトップクラスであり、魔術の成績も悪くない。この競技にはうってつけの人選だ。

とは言え、やはり学年の成績上位者はカッシュほどの身体能力は無いにせよ、皆無という訳ではなく、魔術でもってしてその差を容易く埋めてくる訳で……加えてこの競技、ペアで挑むのだが2人がゴールしなければ意味がない。つまり、1人だけが先行してゴールしても2人目がゴールしなければ意味がない。レナ単独であればわけないのだが、2人となると話は別である。勝つためには戦略が必要となる。

そんなわけで、レナが立てた戦略を実行するために、こうして特訓をしているのだ。レナが見た目に反してスパルタなので、カッシュが死にかけているのはお察しである。「こういうのは感覚だから……実際に自分の身体に覚えさせるしか無い」とはレナの言葉で、カッシュはボロボロになりながら繰り返し練習をしているのだ。

 

「あ、居た居た。探したわよ」

 

「システィーナ? それにルミアも……どうしたの?」

 

みゃぁ、と忘れるなとばかりにミィナが鳴いてレナの頭の上にぴょんと飛び乗る。こうした行動はいつもの事なので、レナも特に動じず会話を続ける。

 

「そろそろ帰る時間だから、一緒に帰ろうと思ったの。どうかな?」

 

「もうそんな時間……?」

 

「うん、もう夕方だよ」

 

周りをよく見てみれば、木に遮れているが確かに夕暮れの光が差し込んでいた。見上げた空はオレンジ色に染まっていて、まるで燃えるようである。

 

「うーん……それじゃあ、今日はここまでにしておこうか」

 

その言葉に立っていたカッシュが再び地面に倒れ込む。

 

「あー……疲れた……」

 

「お疲れ様、カッシュくん。よかったらどうぞ」

 

空を見上げるカッシュに、ルミアが持ってきたタオルと水を差し出す。

 

「ああ、サンキュ……」

 

「どう? 上手くいってる?」

 

「まあ、ぼちぼち……?」

 

実際のところ、カッシュには上手くなっている実感がない。特訓を始めてもう3日になる。放課後という限られた時間の特訓だが、いかんせん進歩が実感できていなかった。レナが立てた戦略は突飛なもので、カッシュに求められる技も一筋縄ではいかないものだとは思ってはいたが……。

 

(残り数日で何とかなるのか……?)

 

カッシュの懸念に答える者はなく、もやもやとした気持ちだけが残るのだった。

 

 

 

**********************

 

 

 

「レナ、特訓の方は大丈夫なの?」

 

身支度を整えて、カッシュと別れた帰り道。隣を歩くレナにルミアが質問する。

 

「? 大丈夫って?」

 

「上手くいってるのかなって。カッシュくん、あんまり実感できてなさそうだったから」

 

「ん、そう言うことなら大丈夫」

 

ルミアの質問に傾げた首を元に戻してコクリと頷く。

 

「明日か明後日か、そのぐらいには化ける。センスがいい」

 

そう断言するレナ。レナの教え方が上手いのは身をもって知っている2人はレナがそう言うのならそうなのだろうと納得するしかなかった。

翌日、レナの言う通りカッシュは見違えるほど上達した。怪我をすることがなくなり、地面に倒れこむこともなくなったのだ。

 

「おぉ……昨日までのが嘘みたいだ……」

 

当のカッシュ本人もその違いに驚きを隠せない。体力の消耗も最小限で済んでいる。

 

「うん、これなら作戦も上手くいきそう。さすがだね」

 

「レナのおかげだよ。しかし、なんで急に……」

 

「カッシュくんは気づいてなかったけど、失敗する回数は段々減ってたよ。こう言うのは感覚だから、一回コツを掴めればすぐ」

 

そう言って、軽く跳躍すると片手で近くの枝を掴み、くるりと回転するように枝の上に移動した。

 

「スプリンツで私たちが勝つには、森林地帯が一番の鍵。だから、何としてもここだけは競技までになんとかしたかった」

 

「あんな作戦、普通思いつかないと思うんだけど……」

 

「普通にやっても勝てるかは分からないし……確実に勝つには、これが一番」

 

カッシュは簡単に言い放つレナを見る。確かに、作戦としては突飛だが上手くいけばぶっちぎりで一番を取れる作戦だろう。作戦の要はレナだが、その実力が学年でトップであろうことはクラス中が知るところで、だからこそ成功するだろうと思う。

しかし、だからこそ不思議だ。いや、正確に言うなら違和感がある。彼女は間違いなく優秀で、ここまで優秀なのであれば有名になるはずだ。しかし、レナ・エクセリアという名前は知り合うまで聞いたことすらなかった。そもそも、編入してきたと言っても前までどこに居たのかすら聞いていないし、どうもまとう雰囲気が普通ではない気がしてならない。なら本人に聞けばいい話なのだが……どうも踏み込めないような、そんな気がするのだった。

まあ、考えたところで仕方ないか、と思考を打ち切る。

 

「よーし、みんなにいいとこ見せようぜ」

 

「うん、がんばろう」

 

二人はうなずき合って、笑った

 




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