Build Divers ASTRAY (バレルソン)
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STAGE01 『ゼット』じゃなくて『ゼータ』

 Zガンダムをゼットガンダムって呼ぶ子はここ最近見かけない気がする。

 


 ホモルーデンスという単語をご存知だろうか?

 あぁ、いや別にホモという単語で反応しないでもらいたい。そういう話ではない。

 はい、やめやめ! おしまい!

 

 

 ホモルーデンス。それはオランダのとある歴史家が提唱した人間観だ。和訳すると『遊ぶ人』という。

 『遊び』こそがヒトがヒトで居るための本質であり、文化を生み出す根源とするものだ。生物活動する上では必要のないものなのかも知れない。しかし、ヒトがヒトで居られたのはきっとその遊びが根幹にあったからだ。

 

 『遊び』は軽視されるべきものではない。

 故に――

 

「俺はヒトである為の活動をしに行く」

「小難しい事言って日誌サボる気か貴様は」

 

 むんず、と長々と講釈垂れていた少年(バカ)は背後の眼鏡の少年に頭を掴まれた。

 

「は、離せェシノハラァ。俺はヒトでありたい、ヒトでありたいんだ!」

「ヒトでありたいならまず義務を果たせよ、イズミ」

 

 不本意ながら。実に不本意ながら。

 日直だった今日という日を呪いたかった。そんな少年の名はイズミ・カナタ。……その名前から女みたいだとよく言われる。しかし怒りのあまり言った奴をぶん殴る程の度胸は特にない、黒髪のやや癖ッ毛のある少年である。

 不承不承頭に掛けられた拘束から解放され、教室の隅の席でいそいそとカナタは日誌を書き殴り始める。

 それを見て呆れながら眼鏡を掛けた短い髪の少年、シノハラ・シュウゴはカナタは掴んでいたカナタの頭から手を離した後黒板を掃除し始めぼやく。

 

「またGBNか。好きだな全く」

 

「お前もいーかげん始めたろィ」

 

「断る。誰がやるか」

 

「ったく堅いなァ」

 

「お前がちゃらんぽらんなだけだろう」

 

「いやお前が堅いんだって。文武両道の欲張りスペックめ。お前ならなんか凄いガンプラ作りそうな気がするし、リソースをそっちに割いてくれたっていいじゃないか」

 

「随分と買ってくれるな。だが生憎俺はガンダムを知らん」

 

 カナタは「別に知らんでも良いのに。お前がロボゲーそこそこやってんの知ってんだぞ。アーマード・コアとかフロントミッションとか」とボヤきながら日誌を書き終え、スマホを取り出して弄り出した。

 

「それは中坊の頃の話だ。結局GBNって何なんだ。何がお前を駆り立てるんだ」

 

 シュウゴの問いにカナタはスマホを弄りながら答える。

 

「正式名称はガンプラバトル・ネクサスオンライン。自分の作ったガンダムシリーズのプラモデル……ガンプラがヴァーチャル・リアリティの空を飛び、地を駆け、そして戦う。模型バカ共が夢見た世界が詰まっているのさ。元々VRのオンのネトゲでな。自身のアバターをその世界に投げ込み、ガンプラを駆って戦うゲームだ。まぁ他にも作り込みが凄いもんで戦う以外にもコレクション要素とか探索要素も腐るほどある。何なら一度ログインしてみろよ。仮登録でも一応出来るし」

 

「……いや、別にいい。訊いてみただけだ。やるとは一言も言ってない」

 

「ケッ」

 

 カナタは心底つまらなさそうに毒づいてから、スマホの画面に目をやった。情報収集と暇潰しにやっているSNSのタイムラインに『最近GBNにチーターが湧き過ぎじゃねえか?』そんな呟きが流れている。

 その呟きにタッチするとその呟きには幾つかリプライが表示される。

 

 

 

 ダイハチ:最近GBNにチーター湧き過ぎじゃねえか? ランキングが悪い方向に荒れ始めてる

 

 九九留守:ガンプラの出来+PSが反映されなくなってきてるし、真面目にやってる奴が損をしてる感。

 

 ジェミナス:俺が贔屓にしてるファイターがPSも覚束ない初心者にボコられてたは……

 

 嘘鋭敏:UNEIは早く修正して、どうぞ。

 

 へびのしっぽ:何時の世もオンゲーを荒らすのはチーターだよな。むかっ腹立つわ……

 

 

 

 GBNというこの世の遊びを変えたゲームの流行の裏に影の部分も確かに存在している。特に目立つのはチーター、通称マスダイバーと呼ばれる人種の増加である。

 カナタとしてもシュウゴを誘えどもチーターにはなって欲しくはない。まぁそもそも変にプライドがあってクソ真面目な男であるシュウゴがチートに手を染めるようなことなど想像も出来ないが。

 

 まぁだから心置きなく誘える訳だ。

 知人がチーターになるのは忍びない話でもある訳で。

 

 スマホを仕舞い、何も書かれていない日誌に向き合う。チート云々よりも先にまずはこの面倒なものを片付けることが先決だ。筆箱から取り出したシャーペンを取り出して、書き殴り始めた。

 

◆◆◆

 

 前々からGBNなるものには些かながら興味を持っていたのは口惜しいながらも事実だ。

 日直としての役割を終えると、一目散に去って行くカナタを見送りながら、シュウゴは鞄から機械造りの板を取り出した。

 ダイバーギアだ。GBNにアクセスするには必需品とも言える端末だが、既に用意はしていた。

 

 カナタと一緒にやりたいのではない。ただあのカナタらを夢中にさせるものがどれだけの魔力を持っているのか。それをただ知りたかっただけだ。ついでにメカに乗れたらいいなとか……

――いやそこまで興味はない。興味はない、本当だ。

 

「……少しはやってみるか」

 

 たまには息抜きも必要だ。

 ……なけなしのプライドを保とうとする堅物(シュウゴ)はそそくさと高校から出て行く。

 帰り道から反対の方向の街中を少し歩く。5分ほど歩いた所で駅があるので、これまた自宅の最寄りとは反対方向の電車に乗り、数駅を跨ぐ。そして駅を降り、広場に出るとそこには白く、緑色の光を全身に走らせた巨人が立っていた。

 カナタから聞いている。その巨人の名前は確かユニコーンガンダムと。

 

 ただのオブジェクトに過ぎないというのに、何故こうにまで圧倒されるのか。

 20メートルを超えるその巨大さにシュウゴは言葉を喪った。圧倒されていると、ユニコーンガンダムの背後に建っている大型模型店THE GUNDAM BASEの外壁に付けられたモニターがCMを流していることに気付いた。

 

『ガンプラバトル・ネクサスオンライン! 対戦相手は世界中のファイターたち! 多彩なミッション! 広大なマップ! フォースを結成して仲間と遊ぶのも良し! 一人最強のファイターを目指すのも良し! さぁ、戦いと冒険の扉を今開こう! ガンプラバトル・ネクサスオンライン! 君は、生き延びることが出来るか……!』

 

 気付けばもう、CMのナレーションが語るようにその扉に手を付けて今にも押し開こうとしている真っ最中だった。

 ……別にファイターになると決めちゃいない。そう自分に言い聞かせながらシュウゴはTHE GUNDAM BASEの自動ドアの向こうへと歩を進めた。

 

 

 店に入ると、おびただしい数のガンプラの箱が棚に積まれていた。シュウゴ自身ガンダムの知識はまるでなく、辛うじて父親がDVDで見ていた初代を断片的に見ていただけだ。ゆえにまるで自分の言語が通用しない異国のように思えた。

 

「アールエックスのきゅうじゅうさんブイガンダム? いや違うな、ギリシャ文字のニューか?」

 

 そして気付けば本来の目的から逸れてガンプラの箱と睨めっこを始めていた。νガンダムなる箱を見て、初めてアムロがあの知らない人間は居ないであろう初代ガンダムとは別のガンダムに乗っていた事を知った。

 

「……こっちは何だ? ゼットガンダム?」

 

「何かお探しですか?」

 

 HGUCゼータガンダム(本人は知る由もないが)の箱を手に取っていると誰かが話しかけて来た。我に返り顔を上げるとどうやら店員のようで半袖のシャツのエプロンをかけた栗色のショートカットの女性だ。エプロンには緑色の球体状のキャラクターがプリントされている。

 見覚えのあるキャラクターではあるが名前が思い出せなかった。

 

――ハルだっけ?

 

「あ、あぁ。別に何か探していた訳じゃないんです。ガンプラバトル・ネクサスオンラインというものをやってみたいなと思って」

 

「へぇ、そうなんですか? じゃぁもうガンプラも作ってたり?」

 

「いえまだ」

 

「そっか。じゃぁ――レンタルはいかが?」

 

「――レンタル?」

 

 店員のお姉さんに案内された先はレンタルコーナー。棚には何体ものプラモデルが展示されており、その名の通り借りることが出来るのだという。

 

「ガンプラを持って居なかったり、どのガンプラを使えば良いのか迷っている人や色んなガンプラを試したい人のためにウチでは貸出してるんですよー!」

 

 棚には名も知らないものばかりが展示されており、2本角や、1本角、果ては一つ目のものまであった。十数体ほど展示されたレンタル作品を一通り見る。

 ……そうだ。これにしよう。そう思い立って先ほど箱で見たあの機体を、店員からの許可を得て手に取った。何というか、ふくらはぎのフォルムが好みだった。店員のお姉さんは選んだそれを見てから少し考え込んでから口を開いた。

 

「えーっと、確かゼットガンダム(※ゼータです)ね」

 

「へぇゼットガンダム(※ゼータです)。これ良いですね」

 

 ガンダムというのは2本ツノだけではない。その事実にカルチャーショックめいたものを覚えた。ガンダムというものは思ったより種類があるらしい。

 それからそのガンプラを片手にGBN用の大型筐体が立ち並ぶコーナーに案内され、言われるがままに筐体のシートに腰を掛け、VRゴーグルめいた機械を頭に付けた。そしてダイバーギアを筐体にセットし借りたゼットガンダム(※ゼータです)をその上に置く。

 

 ダイバーギアなる三角の装置はガンプラのスキャニングやデータの管理を行うことも出来る優れものでこれが無ければ始まらない。

 システム起動音声を聞きながら、自分の意識が蒼い電子の海に沈んでいくのを感じた。

 

◆◆◆

 

 そこには無数のアバターがいた。軍服のようなものを着た男女や、エキゴーシュトリックな服装を着た人々も居れば、果ては人ですらないヘンテコな生き物が闊歩している。

 

「――皆、これのプレイヤーなのか? それともNPC?」

 

 紺色のジーンズと白いタートルネックに黒いフライトジャケットを羽織った服装だ。本人は知らないがZガンダムに登場した反連邦の社会ネットワーク・カラバの衣装だ。

 

「よう、そこの兄ちゃん。ここらじゃ見ない顔だな」

 

 当てもなく広場を彷徨いているとお上りさんのように思われたか声をかけられた。

 金髪の無精髭、ノースリーブ。3つずつ付けられたピアスと明らかにチャラいその男にシュウゴは少し引いた。人間見た目8割とよく言ったものである。

 

「何かお探しかな? 何だって用意するぜ? おトクなパーツか? レアな報酬か? それとも……」

 

 こう言う手合いはこの世界にも居るのか。怪しさ満点の男のセールストークを聞きながらシュウゴはそのままスルーしてやり過ごそうとした矢先、

 

「いてててててェッ!」

 

 男は何者かに思いっきり耳を引っ張られた。

 

「ヤス? まーた初心者相手に変な商売しているわね?」

 

 耳引っ張った者の言葉は女口調なものの、ガタイのいい男だった。片目が隠れそうなくらいの長さの紫髪で、上が半開きで上半身の肉体を晒したぴっちりスーツにジャケットを羽織っている。口調含めてエキセントリックな男としか言いようがない。

 

「ヒェッ!?」

 

 ヤスという男はあからさまににびびって顔を真っ青にしており、力関係は容易に理解出来た。

 それにやはり彼はパーツを初心者に売り付けたりする事をやっていたようで、咎める人間がちゃんといる事にシュウゴは胸を撫で下ろす。

 紫髪の男はヤスの耳を顔の近くまで寄せドスの効いた低い声で訊く。

 

「約束してくれるわよね? もう初心者相手に変な商売はしないって」

 

「しますしますしますから!だから許してェッ!」

 

 完全にビビり切ったヤスという男は紫髪の男が耳から手を離すや否や謝罪というより命乞いに近い言葉を撒き散らしながら一目散に飛び出し逃げた。

 紫髪の男はやれやれと手をヒラヒラさせながらヤスが居なくなるや否やシュウゴの方を向く。

 

「さて、見たところアナタ達、初めて?」

 

「えぇ。ところで貴方は?」

 

「お姉さんはマギー。アナタ達みたいな初心者プレイヤーにGBNを楽しんでもらえるようナビゲーターを買って出てるぅ、ただのお節介よっ」

 

 お兄さん、は禁句だ。そう直感的に思った。

 マギーはウィンクしつつ、立体画面データを形成しそれをシュウゴに飛ばし。受け取ってから初めて、自分のこの世界での名前を口にした。

 

「僕は――ゴーシュです。察しの通り初心者です」

 

 受け取った名刺代わりのプロフィールデータを読むとどうやらワールドランキング23位の実力を持っているらしいことが分かった。

 GBNのプレイ人口がどれほどのものか。そしてどれほどの腕前のものが居るのか知らないのであまり実感が湧かないが、世界中にプレイヤーが居るということを考慮すると、彼女(?)は間違いなく凄い。

 少なくともあのヤスなる人物よりは信用出来るのは明白だ。

 

「GBNへようこそ。案内してあげるわ」

 

 故に。彼女(?)の厚意に甘えることにした。

 

「ここが! バトルはミッションを受注できるミッションカウンターよー。最初からミッションやフリーバトルが受けられるけれど、まずはチュートリアルバトルをお勧めするわ。操作に慣れる意味でもね」

 

 壁は白く、ガラスが貼られた広場の中心に巨大な柱状の装置が配置されている。それを囲むように配置しているカウンターに受付嬢が立っており事務的にガイダンスを口にしていた。

シュウゴ……改めゴーシュの眼前に立体画面が出現し選択画面が表示される。

 

「アタシもギャラリーモードでナビゲートしてあげるから気楽に選んでみて?」

 

マギーのお勧め通りチュートリアルバトルを選ぶと。

 

「さぁ次は格納庫に行って、機体のチェックをしましょう?」

 

「格納庫は何処へ?」

 

「直ぐ近く、よ」

 

 マギーが立体画面を出現させて操作をすると空間が歪み、吸い取られるように剥がれていく。すると先ほどのミッションカウンターから一転して市街地の中、次は公園、と場所が次々と変わって行き、最終的には格納庫に変わった。

 

「――ッ!」

 

 格納庫の左右にデッキが配置されており、その片隅に借りたガンプラが立っていた。――通常の144倍のスケールで。

 まさしく鉄の巨人というべきだろう。あれが自分に向かって歩けば立ちどころに踏み潰されてしまうことだろう。

 その光景に圧倒されて、ゴーシュの脚が2歩3歩下がった。

 

――成程、(カナタ)らが熱中する訳だ。

 

「あーら、初々しい反応ね。ここで機体のチェックをするのぉぉ。機体や武装の確認とかね。確認が終わったら、お待ちかねのアレが待ってるわ。ア・レ♡」

 

 お待ちかねのアレとは一体何なのか。意味が分からないままゴーシュはお待ちかねのアレを体験する事となる。

 

 

 乗せられたレンタル機のコックピットの中でゴーシュは自分に起こっている事の実感を頭が受け入れるので精いっぱいだった。

 考えてもみろ。自分の十何倍もの大きさのロボットの操縦をバーチャルリアリティーとはいえ今この瞬間やろうとしているのだ。

 

 普通じゃ有り得ない事を今この瞬間やろうとしている訳だ。きっとガンダムを知る人間ならば自分より驚きも感動も大きいに違いない。

 

「――ッ」

 

 ここはガンダム行きますと言うべきなのか。それともまた別のものなのか。何をどう言えば良いのか分からず、カタパルトに接続された機体が投射されるまで口に出ることは無かった。

 

◆◆◆

 

 マギーは言った。ガンプラバトルで強くなるにはいくつかの要素がある、と。ガンプラ造りの腕。高い操作技術。知恵と勇気。そして最後は愛。なのだと。

 

――何故そこで愛ッ!?

 

 バトルフィールドの境界までオート巡行モードでZガンダムを飛ばしながら愛ってなんだ? と必死に自問自答してみるも答えは出ず。

 森の上で機体を暫く飛ばしていると、光のドームが覆っている空間が目視で確認できた。アレがバトルフィールドの境界というものらしい。それを突っ切ると、【MISSION START】とシステム音声が流れ、センサーが敵機を感知した。

 

『向こうに居るリーオーNPDが今回の敵よー。あれを倒すとミッションクリア!』

 

 マギーからの通信を聞きながらゴーシュは、操縦桿を確かめるように握り直し、眼前に飛来する1機の鉄の巨人――リーオーNPDを睨んだ。チュートリアルモードなので機体は堕ちないというが、ここまでの臨場感を出されれば真剣にもなるというもの。

 

 敵は片手に大きなライフルを持っている。騎士甲冑を思わせる灰の装甲に頭部を覆うヘルメット。見るからに量産機っぽいそれは大型のライフルをこちらに向けていた。

 

「来るのかッ」

 

 ライフルが火を噴くや否や、ゴーシュはZガンダムを横にスライドさせるように避けた。こちらにもあちら側と比べて小さいが同じくライフルを持っている。立ち回り次第なら撃ち落とせる筈だ。

 こちとらロボゲーを多少は嗜んでいる。セオリーというものは理解しているつもりだ。ライフルの銃口をリーオーNPDに向ける。

 

「喰らえッ」

 

 引き金を引くと桜色のビームが銃口から射出され、リーオーNPDの肩を掠めた。これではダメージにはなっていない。リーオーNPDの肩部装甲は少し焦げ付いた程度だ。

 倒すにはボディか頭部に直撃させるほかないだろう。ロボットのコックピットは基本的にそこだ。

 

 撃ち続けても、一向に当たらない。こちらの狙いが甘いのとZガンダムの俊敏性が自分の操縦に追いつけていないのだ。例えるならハードの出来にソフトが持て余している感覚に近い。

 

『機体に振り回されているわ! 落ち着いて!』

 

――分かっている! そのようなことくらい!

 

 気付けば狙いに集中し過ぎて、回避がおざなりになっていた。

 大型ライフルの弾丸がコックピットに直撃を受け、姿勢を崩したZガンダムが森に墜落する。接地する寸前にバックパックのバーニアが作動し辛うじて体勢を立て直し、木々をなぎ倒しつつ着地するも、上空からビームサーベルを引き抜いたリーオーNPDが襲い掛かって来る。

 

「――接近戦?」

 

 ビームライフルを棄て、サイドアーマーからビームサーベルを引き抜く。そして大きくサーベルを振りかぶったリーオーNPD目掛けて突進。切っ先をボディに突きつけた。そして抉るように斬り上げる。

 

 ボディから頭部まで上方に焼き切られたリーオーNPDはZガンダムのもとから離れ地上に叩き付けられ、爆発四散。データの塵になって消え失せた。

【MISSION COMPLETE】

 システムが戦いの終わりを告げ、緊張の糸が切れたゴーシュは全身から力が抜けた。

 

『エークセレーント! やるじゃないゴーシュ!』

 

 ギャラリーモードで観戦していたマギーが通信回線を開いてモニター越しにサムズアップしている。それにゴーシュは苦笑しつつ架空の青空を見上げた。

 

「……凄いな。この世界は」

 

 カナタが推して来る気持ちも何となく理解が出来た。元々ロボゲーを嗜んでいた身。今は慣れないが、きっと慣れれば自在に機体を動かし楽しめるに違いない。――しかし。

 

その時ゴーシュは完全に安心しきっていた。

この世界を蝕むナニカがそこに居ることに気付かず……

 

【CAUTION】

 

「――えっ」

 

 何もない空から突然。鉄の塊が落ちて来た。

 




 イズミとシノハラ。
 元ネタはお察しください。

 リハビリがてら久々に書いたので色々至らない点は多いと思いますがどうか、よろしくお願いします……


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STAGE02 その名はアストレイ

ストックがそこそこあるので推敲次第投入します。


『乱入!? そんな、フリーバトルの強制発動だなんて初級者向けのチュートリアルにそんなプログラムなんて!』

 

 マギーの驚く声がコックピットに聴こえてくる。イレギュラーなのだろうこの事象に対し、眼前に居る落下物を一瞥する。

 これは一体何なのか。その疑問に答えてくれそうなマギーの声が徐々に遠くなっていく。マギーに通信回線を合せてみてもウンともスンとも言わず、ゴーシュは舌打ちする。

 

「バグ!?」

 

『よう、ルーキー。早速で悪いが――お前をぶっ殺してダイバーポイント貰うぜ』

 

 落下物の小隊はZガンダムと同じく鉄の巨人。赤色のずんぐりむっくりとしたフォルムにカエルを思わせる頭部。外見はZガンダムとは大きくかけ離れてはいたも、あれもまたガンプラであることは直感的に気付いた。

 そして彼から発せられる敵意にも。装甲からドス黒いオーラを放ち、嗤うようにそのツインアイを光らせる。

 

「ダイバーポイントとやらが何だか知らんが貴様にくれてやる道理など……ッ!」

 

 ダイバーポイントはプレイヤー同士の戦闘で勝利した側が徴収できるポイントのことだ。ある程度手に入れたら様々な特典が貰えるとのことだ。そんなものをこちらのチュートリアルの邪魔をした挙句ぶっ殺す宣言をかますようなマナーの悪いプレイヤーにくれてやる道理は欠片も無い。

 頭に血が上っており、リタイアという選択肢は既に消え失せていた。

 

『お前に選択権なんざ無えんだよッ!!』

 

 乱入者機の手に持っていたサブマシンガンが火を噴いた。咄嗟にシールドを構え、バックステップで距離を取り、弾がバラけるまで距離を取る。

 

『初心者如きが半端な気持ちでGBNに入って来てんじゃねぇ! ガンプラの世界によォ!』

 

 所謂初心者狩りというものか。ゴーシュは忌々し気に乱入者機のカエル頭を見る。彼はサブマシンガンを撃ちながらこちらに接近を掛けている。

 あのずんぐりむっくりとした巨体で迫られるのはある種の恐怖を感じる。

 サイドステップで小刻みに左右に動きながら、距離を保った状態で後退を行い、被弾を極力減らす。昔やっていたゲームのテクニックだ。このまま時間を稼げれば弾はいずれ切れるはずだ。

 

『変な動きしやがって……! だが残念だったな! こちとら弾ァ無限なんだよッ!』

 

 しかし敵プレイヤーの言葉通りサブマシンガンの弾が切れる様子は無かった。故にZガンダムの装甲は徐々に損傷率を上げていく。

 

「――こいつ、チーターかッ」

 

『何も知らねえんだな情弱!』

 

 その暴言に苛立ちが増す。在ってはならないが、オンラインゲームにはチーターが付き物だ。そんなものはもう覚悟の上だ。

 とはいえ、ロボットの巨大感をこの身で感じ、それを動かせる。

 その事実に圧倒され、喜ばしく思っていた身とすればその言動と愚行は許しがたいものがある。

 

「どの口が言うッ!」

 

 サブマシンガンの弾丸をシールドで弾きつつ、回収したビームライフルで撃ち返す。しかしそのビームは悉く弾かれ、乱入者の装甲は焦げ付きもしなかった。

 

『そぉら、墜ちろッ!』

 

 ライフルにすら傷一つつかないのでは、、あとはサーベルで斬りつけるしかない。しかしその肝心のサーベルの有効射程に入る前にサブマシンガンで蜂の巣にされるのは火を見るよりも明らかだ。

 単純なPSでも、性能でも劣っている現状、ゴーシュを待っているのは敗北しかない。

 Zガンダムの頭部が度重なるダメージに耐え切れず吹き飛び、コックピットのメインカメラを司るモニターがノイズとなって死ぬ。

 

 スラスターがオーバーヒートし、着地。突進してくる乱入者が無限のサブマシンガンをばら撒き突っ込んでくる。ゴーシュの瞳に絶望の陰に染まる。

 このままでは殺られる――

 

 目を、閉じようとしたその次の瞬間

 

 

 ナニカが乱入者とゴーシュのZの間を割り込むように横切った。

 

『何っ』

「!?」

 

 双方動きを止めて第三者の方を向く。そこにはまた別の鉄の巨人が立っていた。

 黒と赤を基調とした陣羽織を思わせる重厚な装甲、V字のアンテナを持つ頭部。例えるなら兎のカタチに切った林檎を連想させる。

 ――これも、ガンダムなのか。

 見える得物は、腰に下げられた日本刀と、手には長細い――それは剣というにはあまりにも造りが大雑把で、分厚く、剣のカタチをした鉄塊(ソードメイス)というに相応しかった。

 

 第三者はゆらりと振り向き、乱入者の方を向き、言葉を発した。

 

『その辺にしておけよ。マスダイバー』

 

 敵意を感じたか、乱入者は無限サブマシンガンの銃口を第三者に向け、何かに思い出したのか頭部を少し上に持ち上げた。

 

『てめぇ……ソードマンか!』

 

 第三者ことソードマンは肯定も否定もせず乱入者を見つめていた。

 

『……知ってるぜ、お前確かPKしまくってるGBN始まっての凶悪な人斬りなんだってな? 害悪プレーヤーがイキりやがって!』

 

 ソードマンなる男はどうやら余程迷惑行為をしている危険人物らしい。GBNの民度は一体どうなっているのだろう。とゴーシュは少し不安になった。

 というか、害悪プレイヤーってヒトのこと言えるのかそれは。ゴーシュが口端を引き攣らせる。チート使っている人間がPKをやっているプレイヤーを詰るというあまりにも団栗の背比べのような構図に変な笑いが出そうだ。

 ことの成り行きを見守ろうと、少し離れる。乱入者もソードマンもそれを咎めも止めもしなかったのが幸いした。

 

『――おい』

 

『あぁ?』

 

『俺と戦えよ。チートの力は凄いんだろう? 俺なんざ瞬殺できるんじゃないのか?』

 

『言われなくてもやってやる。……くたばれ!』

 

()だ』

 

 先に動いたのは乱入者だった。サブマシンガンの弾をまき散らし、一方のソードマンは手にしたソードメイスの刀身を盾にしつつ、背中のスラスターを点火させた。

 ばらける弾丸を大雑把な動きで滑るように蛇行し避けつつ、僅かに飛んでくる弾丸をソードメイスで防ぐ。

 

『チョコマカと!』

 

 弾数が無限にあろうと当たりさえしなければ関係ない。言うだけならシンプルだ。それを実行できるかどうかはまた別の話だが。完全にゼロ距離まで詰め寄った次の瞬間勢いよくソードメイスで殴りつけた。

 火花が散り、ガィン! と鉄と鉄がぶつかり弾ける音が森林に響き渡る。

 

『グシオンの装甲を止められると思うな! アストレイモドキ!』

 

 その一撃を貰ってもなお、凹みもしなかった。乱入者の機体の名前はグシオンというらしい。そしてソードマンの機体はアストレイ……?

 訊き慣れない名前にゴーシュはやや置いてけぼりで首を傾げた。

 前者は悪魔の一人だ。ソロモン72柱の一つと記憶している。

 後者は英語で道に迷って、道を踏み外してを意味している。ぶっちゃけ意訳すると《外道》、《邪道》。好意的に意訳するなら我が道を行く者ということか。

 

『ブレイクデカールで高めたのは弾数だけじゃぁない! 堅牢なグシオンに更なる防御力を与え――無敵なんだよッ! こいつは!』

 

『ケッ、そいつァどうかな?』

 

 しかし、こともなげにソードメイスをグシオンの装甲に叩き付け続ける。グシオンはその分厚い装甲から圧倒的な強度を誇るが、その鈍重さゆえに高出力のスラスターで補っているように見える。Zと張り合えるほどのスピードを持っていたのはその点が大きいだろう。

 

 しかしながら接近戦での細やかな動きは苦手なようだ。高出力ゆえの弊害だろうか。

 度重なる暴力的な打撃は携行していたサブマシンガンを叩き落とし、グシオンの胸部に装備された計4門の爆砕砲が火を噴いた。

 

 ソードマンの舌打ちらしきものが聴こえたと同時に爆発音でかき消された。

 

 ――直撃!?

 

 否、正しくはソードメイスの刀身に命中したのだ。手ぶらになった本体(ソードマン機)は既に後方に大きくバックステップしており、手から離れ盾となったソードメイスは爆風に流されくるくると回転して持ち主の手元に戻った。

 

 爆煙が立ち込め、そこから突っ切るようにグシオンが背負っていたハンマーを引き抜き、それを力一杯に振るった。

 ハンマーの4隅にはブースターが付いているようでただのハンマーではない。加速した打撃が地に振り下ろされ、地面に巨大なクレーターを作り上げる。そこで起きた衝撃波でソードマンはその身を吹っ飛ばされた。

 

『何度もそうひょいひょい避けやがって!』

 

 苛立つ乱入者に、ソードマンは接地するより先に姿勢制御を行い綺麗に着地。

 再び直進で迫るグシオンにソードメイスを投げ付けた。

 

『何ッ!』

 

 予想外の攻撃に手からハンマーが離れる。その隙をソードマンは逃さなかった。

 フリーハンドになったところで腰に提げられた刀を無造作に引き抜き、切っ先をグシオンに向け、腰を落とし棟から切っ先に添えた指を走らせる。

 そして――地面を抉るように、蹴る。

 

 

 蹴る音がした時には既にグシオンのすぐ眼前にまでソードマン機が迫っていた。

 電光石火。その四字熟語がゴーシュの脳裏に過る。その体躯に見合わぬスラスター出力は驚異的だ。

 

 

 どんなに硬い装甲であれ、衝撃を与え続ければ劣化する。

 今回の場合、それもあるがグシオンが取った至近距離での砲撃という判断ミスが墓穴を掘ったことに他ならない。至近距離での爆発物は自身をも巻き込む危険性を孕んでいる。

 結果的に射線をソードメイスで阻害され、挙句至近距離で爆発を起こした為完全な自傷ダメージだ。

 

 遊びは終わりだ。

 そう言わんばかりに刀の切っ先をグシオンの装甲に突き付けた。

 それを、三連続。

 ほぼ同じ部位を狙い打ち、三段目で深々とその刀身が刺さっていた。

 

『ば……ばかな……』

 

『いくら強靭な装甲だろうと他に比べて脆い箇所があり同一の箇所を殴られ打ち抜かれればたとえナノラミネートアーマーだろうと耐えられねェ。俺の勝ちだ』

 

『う……そだ……こんなこと』

 

 腹部がコックピットだったらしく、刀が深々と突き刺さったグシオンは現実を受け入れ切れないような声を上げながら、その重厚な装甲を横たえそのまま電子の破片とその姿を変え、消滅した。

 

「…………」

 

 完封勝ちだった。刀を鞘に収めたソードマンの機体は、ゆらりとこちらを向く。

 次はこっちか。

 思わず身構えた矢先、上空に向かって勢いよく跳躍した。

 

「……!」

 

 頭の無いZガンダムの真上を通り越して飛んでいく。その光景を見てゴーシュはただただ呆然とせずにはいられなかった。

 ソードマンなる男は何故、自分を斬らなかったのか。

 噂に違うその行動が解せなかった。

 

 ◆◆◆

 

「遅かったようね」

 

 時すでに遅しということか。

 倒れた無数の森林と巨大なクレーター、そして人間の何十倍もある巨大な足跡が辺り一面にあった。まるで巨人と巨人が争い合ったような光景。先程までソードマンと呼ばれる男操る機体と不正改造を行ったチーター、マスダイバーが争った跡だ。

 

 そこに紫がかった忍者装束を身に纏い、黒く長い髪を斜め線の入った0の形をした髪留めで纏めた少女がそこに足を踏み入れる。

 

『ソードマンの監視を続けろ。アレを放置しておくと面倒なことになる』

 

 Sound onlyの通信を聴きながら祭りの後を見渡す忍者装束の少女は「分かっているわ」と遇らうように返した。

 声の主の命令は絶対だ。

 

『……しかし、あの機体何処かで――』

 

 言葉が終わるのを待たず通信を切る。既に命令は受諾した、これ以上彼の無駄話に付き合う気にはなれなかった。

 

「ソードマン、確かに噂通りなら危険極まりないわね……でも」

 

 あのソードメイスと刀を得物にしたアストレイタイプ。ソードマンと呼ばれるそれは()()()()()()()()()()()()。そんな確信が彼女にはあった。

 



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STAGE03 仮面と素顔と仮面

 マスダイバーなるものは前々から存在し、問題視されているらしい。

 あの事件から1週間後、再びログインしたシュウゴ改めゴーシュは、GBN内のカフェでマギーからそんな説明を受けていた。元々今回狩られた黒いグシオンの乗り手は初心者狩りで有名な悪質プレイヤーだったらしい。

 それをソードマンが始末してくれたということだ。

 

「ソードマンって男はアタシも知っているわ。確かにPK紛いのことまでしているって噂もあるけれど……」

 

「けれど……なんです?」

 

 マギーはあまり納得がいかないのか、下唇に指を当てて少し考え込んでから続けた。

 

「アタシ自身、彼とはそこそこ面識はあるのよ。彼が何もない人に襲い掛かる真似はしない。案内人のアタシが保証するわ。ちなみにそんな噂が出始めたのは最近、それもマスダイバーが問題視されて少ししてからそんな噂が出ていたのよ」

 

 となると逆恨みか。

 もしも本物のPKなら満身創痍のZなど恰好の獲物だったはずだ。それを露骨にスルーし厄介な赤グシオンだけを始末したとなるとマギーの言っていることは嘘ではないようだ。

 

「散々なデビューになったわね……」

 

 心底申し訳なさそうにマギーの瞳に陰が差す。しかしマギーの責任では決してない。そもそもそんなチートに手を染め挙句仕様外のチュートリアル中の妨害をかましてきた奴の責任だ。

 別にマギーが謝ることではないだろう。

 

「それにしても運営は何をやってるんです?」

 

「それはアタシにも分からないわね……一応通報自体はしているのだけれどもどう対応してるのかは発表していないし」

 

「…………」

 

 運営の対処能力に難があるのか。それともこのチート問題の根が深いのか。まぁなんであれ、マスダイバー自体倒せない相手では無いので今度は負けないようにするだけだ。

 

「現状自己防衛必須という訳ですか。ただアレを放置しておくのは個人的に許しがたいものもありますし、折角面白いものをやる機会を得られたんだ。このまま居なくなるのは勿体ない、ああ実に勿体ないですとも。自己防衛能力、培ってみせますよ。……でもまずは」

 

「まずは?」

 

「自分のガンプラを組まないと。前に乗ってたやつは借り物でしたから」

 

「アーラ。ってことはこれからガンプラデビューってとこね!」

 

 マギーは嬉しそうに言う。ガイドとして碌にガンプラに触れた事の無い人間が新しく門戸を叩くという行為そのものが嬉しく思えたのだろうか。これまで以上のテンションでガンプラについて話し始めるマギーにゴーシュは圧倒されながら真剣に耳を傾けた。

 

 ◆◆◆

 

「あの子、意外とダメージが小さくて安心したわ。ね? ソードマンさん?」

 

「止してくれ。そんなかっこいい渾名の響きだけは嫌いじゃないが基本的に何処ぞの赤い通り魔と一緒の扱いじゃねェか。マギーの姐御」

 

 既に盗み聞きされていることに気付いていたマギーは物陰から黒髪の紺色の作務衣姿で頭にバンダナを、そして口元には無精髭を蓄えた青年が現れる。一見くたびれた職人のように見えるそれは、癖っ毛の頭を掻きながら苦笑いでそう言った。

 

「……多分あのグシオン使いはまた現れる可能性があるわよ。あの子、以前から迷惑行為で何度かアカウント停止されてたらしいけどその度にアカウントを作り直しててそれも分からないように細工をしてるらしいのよ。多分アタシでも見分けられる自信は無いわ」

 

 そこそこ長い期間ガイドをやっているマギーも別に運営ほどの権限も監視能力も持っていない。あちらもマヌケではない、ありとあらゆる化け方でマギーの目を躱しにくるはずだ。

 

「……いたちごっこか」

 

 ソードマンは「はァ」とため息をついた。この先延々と相手が飽きるまで殴り続けなければならないのか。

 気の遠くなるような話に鳩尾が痛んだ。

 

「ゲームの性質上、こういうのはついて回るものとは言え、少しばかりやり切れないわね……でも、貴方が割り込んできて助かったわ。通信がバグで切れちゃってて……」

 

「やっぱりバグが起こっていたのか。そういうバグが起こるからマスダイバーは放置できねェんだよなぁ。単純に強くなるだけなら別にいい。でもゲームシステムを破壊し、最悪GBNがイかれる可能性があるなら見過ごせない。こちとら居場所を奪われるのは腹の立つ話だっての」

 

「その逆恨みでおかしな噂を流されるなんてそれは……」

 

 理不尽だし本末転倒じゃないか。と言いたいのだろう。大方ソードマンが斬ったマスダイバーを通じてそんな噂がまかり通ったのだろう。GBNを守る行為が逆に後ろ指さされるのは間違っている。それがマギーの本心だった。

 しかし残念ながらブレイクデカールの使用率は上がっており、初心者の間ではあまり抵抗なく乱用されているのだ。

 

「平気だ。別に気にしちゃァいないよ姐御」

 

 ソードマンは笑ってカフェから出ていく。それをマギーはただただ見送る事しか出来ずにいた。

 

 ◆◆◆

 

 東京都縁尾(へりお)町。

 都内としてはこじんまりとした街は土地代が比較的安く、バス、電車の本数が充実した交通機関の存在や(無駄に)歴史ある商店街もあって住みやすい街と専らの評判である。

 

 縁尾駅から徒歩10分ほどの住宅街の中に古びた万屋が存在する。現地の住人曰く『万屋というよりがらくた屋』と呼ばれるそれは開店から40年近く経っているという。店名は古鉄《こがね》や。

 

 全国に展開しているリサイクルショップが跳梁跋扈するこのご時世40年も続けられる事自体が奇跡とも言えよう。しかしながらその知名度の低さもあって意外なものが眠っている。例えば1980年当時に生産された再販前の1/144ガンダムとか、BB戦士スターウイニングガンダムPPクリア版とか。

 

 それを近隣住民のフジサワ・アヤは知っていた。

 

 半ドンの学校帰り、今時珍しい横開きの戸を開くと、微かな(かび)の匂いが鼻をつく。

 

 アヤは慣れたように暖簾を潜り、戸を占めると奥のレジカウンターで机に体重を預け頬杖付いて死んだ目で座っている少年が居た。アヤの入店に気付くや否や死んだ目に生気が戻り「よう」とやる気なく会釈した。

 

「イズミ君、今日は一人なんだ」

 

「おう。ここの主のばーさんは友達とカラオケに行って俺は一人暇そうに店番だ。バイトくらい雇えっての」

 

「ふふっ。真面目にしないとまた怒られるよ」

 

「それは困る。正座して十数分ガミガミ言われるなんて真っ平だ。冗談じゃァない」

 

 アヤの指摘にカナタは慌てて、姿勢を正して「いらっしゃいませお客様」と妙にかしこまった態度を見せ、アヤはたまらず笑いを堪えて口を抑えた。それが面白くないのかカナタは口をへの字に曲げた。

 

「で、何をお探しで?」

 

「あぁうん、ちょっとね」

 

「……何探してんだか知らんが、大逸れたものは無ェぞ。でも最初期の1/144ガンダムはあるぞ」

 

「それはいらない」

 

「俺が生まれた時からずっと売れ残ってるからぜコイツ」

 

 棚に置かれた色あせたパッケージ見ながらカナタはボヤく。確かにアヤ自身がこの店に初めて訪れた時からあのパッケージの姿はあった。しかしながら買おうにもプレ値を店主が掛けている上にそこまでのコレクターが近隣に居ないことが災いしてずっと埃を被っている。入荷して倉庫に品出しを忘れたままガンプラブームを生き延び、売れ残りずっとこの有様だ。

 

「ここで売るよりヤフオクに出したら多分早く売れるわねこれ……」

 

「なー。でもこのまま半世紀売れ残るってのも面白そうだしなァ……変な意味で」

 

 どちらにせよ、その辺は店主であるカナタの祖母が決めることだ。孫や客如きが決められるものではないだろう。

 取り敢えず最終的に50年売れ残るか否かで多分50周年に出てくるであろうアニバーサリーHGガンダムを賭けることにした。カナタは売れる方。アヤは多分売れない方で。

 

「ま、その前にこの店が潰れてなきゃいいけど」

 

「そんな縁起でもないこと言う」

 

 お互い苦笑いしていると、この店でよく見る3人組の男子小学生がぞろぞろと入って来てその内一人が声を上げた。

 

「おっさん、新しいパック入ってる?」

 

「おっさんじゃない高校生のお兄さんだろォ? あぁ、デュエマの奴だろ入ってる入ってる。ちょっと待ってろ」

 

 次々と店内のカードパック引換券と小遣いを手に取りレジに差し出してくる子供たちに対し、カウンター内側の引き出しから無造作に新しいカードパックを取り出して会計を済ませていく。

 会計を終えて子供たちがパックの中身に一喜一憂している風景を横目に、カナタは椅子に凭れる。アヤは「お疲れ様」と言ってから商品棚から引っ張り出したBB戦士のパッケージを手に取り、カウンターに置いた。

 

「これ、お願い出来る?」

 

「お前ほんと好きだなぁ、SD系。……1404円ね」

 

 アヤはカナタの呟きに首を横に振りつつ、財布から1404円ちょうどをカルトンに置く。どちらかと言えば確かにBB戦士やSDガンダムが好きな部類だ。よくここで買う時はジャンクパーツと改造の素体になるBB戦士を買っていた記憶がある。

 カナタの指摘は正しかった――けれども何故か頭の何処かが否定していた。

 

「そこまでじゃないよ」

「嘘つけェ。だったらリアルタイプも買ってくれよ。今1980年当時の初版1/144ガンダ」

「それはいらない」

「ちくしょう」

 

 即答で拒否され血の涙を流さん勢いでカナタはがっくりと項垂れ、誰が思い通りになるものかとアヤはわざとらしくそっぽを向いた。……それに実際問題要らない。

 40年物のものなど正直買っても持て余すだけだ。

 初版の貴重性こそ多少なり理解してはいるのでパーツ取りに迂闊に出来たものじゃないし、そもそも当時300円だったものが店主がプレ値付けたせいで10000円だ。通常の300倍の値段がするようなものを買う義理はない。そんなお金があるならBB戦士を大量買いしているというものだ。自分はアレを買う程のコレクターではない。

 

「そもそも私が買ったら自滅じゃない」

「ん、それもそうだな。……チッ駄目かぁ」

「本音出てるわよ」

 

 無意味かつ中身のない漫才を繰り広げるのは嫌いじゃない。生来アヤは友人は多くない。下手したら最低限の会話しかせず、一人そそくさとGBNをやりにゲームセンターとか模型店に行っている日まである。それが楽なのは事実だ。まぁ気付けばボッチと呼ばれる人種の箱に放り込まれていたが。

 けれども気を許せる友人はゼロという訳じゃない。彼がその内に入るかどうかは分からないし、彼からしたら店員と客という関係としか思っていないのかもしれない。

 

 少なくともアヤ本人にとっては――

 

 気付いたら眼前のカウンターに木皿と乗せられた煎餅が顔を出していた。何事かと少しアヤは目を丸くしてからカナタが片隅に置いてたものを引っ張り出した事に気付いた。

 

「食うか」

「良いの?」

「良いから差し出してるの」

「じゃ、いただきます」

「あ、食ったらアレ(1/144ガンダム)買って貰うからね」

「じゃぁ食べない」

「冗談だ冗談」

 

 からかったりからかい返したり。

 ()()()()()()()()のでここでの一幕は少しばかり気の休まる所だ。煎餅を一口かじる。パキリ、と音を立てて口の中に醤油の味が拡がる。ふと、カナタの方を横目に見ると何を考えているのか、子供たちが屯しているテーブルの方を見ていた。どうやら携帯ゲーム機で対戦をしているようだ。

 元々は買い取りの際に使うスペースらしいが、買い取りがない時は専ら子供たちのプレイスペースとして扱われている。

 カードゲームをやったり、ゲームの対戦をやったりとか。割と昔はそこそこ客の出入りがあったらしいが、時代の流れか今では同じ面々ばかりだ。当然と割り切るべきか、悲しいと嘆くべきか。

 

 

「なんだよー! 全然勝てねえ! なんでHP減らねえんだ……」

 

 一人が声を上げて力なく机に突っ伏した。何事かと、思ったアヤとカナタは3人組の声に耳を傾けた。

 

「お前まだツール使ってねえの。親に買って貰えよー」

 

 チートを使ったのであろう対戦相手の一人がやや小馬鹿にするように返す。なるほどチートの力で圧殺した訳か。

 

「ったく何時の時代も変わんないなぁ……チート使ってる奴が好き放題してマトモに対戦が出来ないの」

 

 カナタはうんざりしたように後頭部を掻いて脱力し、台に頬杖付く。何か嫌な思い出でもあったのか気になり、そんな彼に声をかけてみる。

 

「昔って?」

 

「小学生の頃さ、ポケモンとか対戦出来る奴流行ってたろ。それで改造ツール使ってる奴が対戦で暴れ回ってまともにプレイしている奴を一方的にノシてそのコミュニティーのヒーローになるってのあったんだよ。いやぁ酷かった。対戦クソつまんなかったもの」

 

「……」

 

 アヤの胸の奥の何処かがズキリ、と痛んだ。

 暫くして子供たちが店を去り、再び2人だけになった時アヤはポツリと言葉を紡いだ。

 

「ねえ。もし、間違いだって分かっていても。その間違いをしなくちゃいけないとしたら。イズミ君なら、どうする?」

 

 急にどうしたと言わんばかりにカナタはポカンとする。当然だ。

 ――私は一体何を言おうとしているの

 自分でもよく分からない発言に今のは聞かなかったことにして貰おうと制そうとした矢先カナタは唸った。

 

「んー。どんな事情か、によるけれど。そうしなくちゃ駄目だって事情と理由があるのならやるかも知れないしやらないかも知れない」

 

 どっちだ。と心の中で突っ込んだ。しかしカナタは困ったような笑顔で続けた。

 

「俺はお前じゃないからな。そしてお前は俺じゃない。でも、正しさが必ずしも人を救うとは限らないし正道こそが全てじゃない。俺だって正しさを行使してえらい目に遭ったことがあるし」

 

 ヒトの古傷を抉ってしまったか地雷を踏んでしまったか。アヤは自分の言葉に後悔を抱く。しかし当のカナタ本人は怒っても悲しんでもいなかった。まるで――受け入れているか、諦めているかのように見える。口から出かけた謝罪の一言は喉奥でつっかえた。

 

「絶対にそうしなくちゃいけないって言うなら俺は止めないかもなァ。でも俺も絶対にそれを止めるって理由があるなら泥沼だけど。何をしようとしてるのか分からない以上なァ……別に教えてくれる訳じゃないんだろ?」

 

 冗談めかして笑うカナタだが、彼の指摘通りその『間違い』なるものが何なのかアヤは語るつもりはない。縦に頷くと「そうかい」と困ったように微笑んだ。

 

「巧くやんな。殺しと盗み以外は」

 

 カナタは手をヒラヒラさせながら、木皿に残った煎餅に一枚手を伸ばす。

 

 話したら、どうなっていたのだろう?

 ふとそんな考えが脳裏を過る。いや、話した所で何になるというのだろうか。彼には関係のないことなのだから。

 アヤは最後に残った一枚を齧った。

 



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STAGE04 その世界に、空は無かった。

 シュウゴはガンプラというものを初めて組んだ。

 ネットによると、初心者には初代、AGE-1やストライクがお勧めなのだという。MGやRG、PGには手を出すのは危険だとも。

 個人的には形状がシンプルなガンダムMk-Ⅱなる機体が気に入ったのでそちらに手に取ることにした。

 

 Mk-Ⅱや店員に押されて買った強化パーツらしきものが入った袋片手に、カナタたちに悟られないように人目を気にして帰る様はさぞかし不審者か何かに見えていたことだろう。

 

 無事帰宅し、()()()ちまちまと作り始めてから数日の時間を要した。上手い人間は何時間も掛らないらしいのだが生憎こちらは素人だ。加えてシュウゴの場合その素人以上に確保出来る時間が大幅に少ない。ガンダムMk-Ⅱとフライングアーマーをくみ上げた時点でシュウゴはグロッキーになっていた。

 

 

「待っていたわぁ、ゴーシュ。アナタのガンプラ、組めたかしら?」

 

 あれからマギーに基礎知識を教えてもらってから、一週間ぶりのログインだ。彼は広場のど真ん中に居た。

 

「えぇ。お陰様で」

 

 ゴーシュはマギーのもとに駆け、頷いてから彼の傍に険者を思わせる青い衣装の少年と、同じくも少し趣が違った緑の冒険者風衣装に帽子と眼鏡を掛けた少年。そして白いワンピースを着た小柄な少女。3人のダイバーの姿に気付いた。

 

「彼らは?」

 

「アナタと大体同じタイミングで始めた新米ダイバーズよ」

 

「マギーさんから話を聞いてます。俺はリクです」

「ユッキーです!」

「……サラ……」

 

 青い少年と緑の少年、そして白い少女が次々と名乗る。名乗られた以上こちらも名乗ろうと、ゴーシュは口を開く。

 

 

「マギーさんに色々聞いているか。俺はゴーシュだ。よろしく」

 

 この中のリーダーに相当するらしいリクがゴーシュが差し出した手を握った。そんな光景を見ていたマギーは少し考え込む仕草をしてから口を開いた。

 

「んー、ってことは早速4人で何かミッションでもやってみる?」

 

「……俺は良いですけど3人はいいのか?」

 

 突然の提案に面食らったゴーシュはリクらに訊いてみると、迷うことなくリクたちは一寸の迷いも無く頷いた。

 

「勿論です! こうして一緒にミッションをする仲間が増えるのは俺たちも嬉しいですから!」

 

 残る2人も異論はないらしく笑顔で応える。

 即答で受け入れたリクの良い子っぷりに眩しさを覚えながらマギーが紹介する初心者ミッションの準備に4人は入った。

 

 ◆◆◆

 

 今回のミッションは、探索ミッションと殲滅ミッションを兼ねるちょっとしたRPGのダンジョン形式だ。全部で2つのフロアがあり、それを全て突破すればクリア。という内容だ。

 これに挑むのは3機のモビルスーツ。

 リクが操るガンダム・ダブルオーダイバー、ユッキーのジムⅢ・ビームマスター。そしてゴーシュのガンダムMk-Ⅱだ。

 

 既に改造機を組んでいる2人に対しゴーシュの機体は素組み同然だ。スタート地点が違うことに初心者同士の隔たりめいたものを覚えた。

 とはいえ、今のゴーシュ否、シュウゴにはリクやユッキーみたいな改造機を作るスキルは無いので無理しても致し方ないとは言える。

 尚、サラは登録ガンプラが無い為リクのダブルオーダイバーに同乗する形となる。

 

 リクのガンダムダブルオーダイバーは青と白を基調にしたガンダムタイプ。ウイングバインダー付きの通常スラスターに取り付けられた両肩部のとんがりコーン型スラスター(GNドライブというらしい)以外はシンプルと言える形状だ。武器は銃剣型兵装GNソードⅡ1本と下半身リアアーマーに搭載されたビームサーベル2本。

 どちらかと言えば近距離寄りの機体だ。

 

 ユッキーのジムⅢ・ビームマスターは機体カラーはオレンジがメイン。転じて外見だけでも武器庫と言える装備の充実ぶりだ。それでいてバランスも整っている。肩部のミサイルランチャーに手元のビームライフル。両腰にはバインダー型のビーム放射装置を2門搭載。他にも武器を仕込んでいる風だ。

 

 最後にゴーシュのガンダムMk-Ⅱ。エゥーゴカラーなので黒いボディに白い四肢というカラーリングだ。装備はほぼ素組みなので原型機とまるっきり同じ。装備は手持ちのビームライフル、バックパックにビームサーベル2本をマウント。下半身のリアアーマーにハイパーバズーカを装備後は頭部にバルカンポッドシステムを搭載。

 

 リクが近距離、ゴーシュが中距離、ユッキーが遠距離とすればバランスは良くはなるだろう。

 

 

 早速ミッション開始だ。開始のスイッチを入れるや否や、3機は薄暗い空間に転送された。左右には朽ち果てたビルが立ち並び、平均18メートルのモビルスーツが横3列に並べる程の広さで、地下都市と形容するにはあまりにも広い空間であった。天井は金属板で覆われている。その世界に――空は無かった。

 何かの騒乱で滅んだのだろうか。かつて人の営みがあったのだろう朽ち果てた街を4人は機体のモニター越しに見渡す。

 

『……皆。まずは次のフロアへの道を探そう』

 

 リクの意向通り、ガンダムタイプ2機ツインアイとジムⅢ・ビームマスターのゴーグル型のカメラが点灯し、バックパックのバーニアに青白い火を噴かせ、機体を飛ばす。

 その片手間にゴーシュはセンサーに目をやった。

 

「――NPC機が居る。それも2機……こっちを待ち構えているらしい――ッ後ろにも1機!」

 

 リクのダブルオーダイバーは即座に肩部のGNドライブを前後違う方向に向けて機体を強制ターンさせ、腰に納刀したGNソードⅡを手に取り、構える。

 そしてそのままのガンダムMk-ⅡとジムⅢビームマスターは其々得物を構えて、敵機が待ち構えているビルの陰目掛けてビームライフルを発砲した。

 

 2筋の光芒が左右のビルを崩すと、隠れていたリーオーNPDが飛び出して来た。1機は道路上に。もう一機は崩れ行くビルの上にジャンプし、それからバーニアを吹かせ小ジャンプしながらこちらに距離を詰めて来る。

 

「俺は上をやる。ユッキーは下の奴を討ってくれ!」

『了解!』

 

 ガンダムMk-Ⅱは跳び、ビルの上に乗る。ずしり、と音を立て軽く足元が沈む。18メートルもある鉄の巨人がビルの上に乗ること自体がおかしいか。ゴーシュの頬に嫌な汗が伝う。

 小ジャンプしてビルの上を跳び進むリーオーNPDにビームライフルを発砲した。

 しかしこまめにジャンプするせいで照準が定まらず、返しのマシンガンの弾丸が飛んで来る。

 

「チッ……」

 

 シールドで防ぎ弾丸が止んだ瞬間、防御を止め機体を小ジャンプを繰り返してビルからビルに飛び移る。そして、ビームライフルを連射する。しかし小刻みにジャンプして動くリーオーNPDには効果が薄く辛うじて左腕部を焼き切ることは出来た。

 

「いたずらに連射して当たるものじゃないか。……カートリッジ」

 

 ビームライフルに装填されたカートリッジを排除。既にあのカートリッジに残されたエネルギーは残り少なかった。こういう時慌てれば碌なことが起こらない。余裕のあるうちにタクティカルリロードを行いいつでも連射出来るように準備をしておく。

 一方で道路上ではジムⅢ・ビームマスターとリーオーNPDが撃ちあっている光景が見られた。真正面からの撃ち合いならばジムⅢ・ビームマスターの方が上だが、リーオーNPDはこまめにビルの陰に隠れて砲撃を躱す。

 

 地形を活かして立ち回っている。後方でダブルオーダイバーがビームサーベルを持ったリーオーNPDと斬り合っていた。

 

 援護はあてには出来ない。一人で何とかしなければならないようだ。ビルとビルを飛び回りつつ、一定の距離を保ちマシンガンを放つリーオーNPDを憎らしく思いながら、Mk-Ⅱの左腕に装備されたシールド裏に取り付けられたシールドランチャーの存在を思い出した。そして僅かに沈む足元のビルを見ながらゴーシュは深呼吸した。

 

 ――よく狙えよ。一番脆そうなビルにアイツを乗せるんだ。

 

 ビームライフルを撃ち、それを躱すリーオーNPDはビルからビルに飛び移り続ける。目的のビルに乗るようにその動きを制限し逃げ道を奪う。

 そして――

 

「シールドランチャー!」

 

 リーオーNPDが狙いのビルに着地する寸前にシールドランチャーを発砲した。

 計画通り、とゴーシュはほくそ笑む。

 ミサイルが一番脆いビルに炸裂すると同時にリーオーNPDがそのビルに着地した。

 

 ぐらり、と足場が揺らぐ。そして――轟音を立ててビルが倒壊した。

 チャンスは一瞬。落ちた粉塵を巻き上げ倒壊するそれの向かいのビル上に立ったガンダムMk-Ⅱは容赦なく残りのシールドランチャーを撃ち、煙を爆風で強引に吹っ飛ばす。そして泣きっ面に蜂の如くビームライフルでリーオーNPDのコックピットをぶち抜いた。

 

「精度が甘い。ビームライフルの出来が悪いか。それとも俺の腕が悪いのか。……どっちもか」

 

 瓦礫を見下ろしながらゴーシュは呟き、奥歯を噛み締める。事実、自機の造りの甘さが性能に現れていた。

 

 

 

 一方、ジムⅢ・ビームマスターが対応していたリーオーNPDは遮蔽物に隠れながら撃ち合いを演じていた。

 総火力はユッキー側の方が上なものの、身軽さはリーオーNPDの方が上だ。しかもNPCとしての操縦精度の高さは過去に行ったチュートリアルの比ではない。悪戯に撃ち続ければ敵一機のために弾切れを起こす事になるだろう。

 

 

 こういう状況こそマシンガンとか連射火器が活きるのだろうが、生憎今はそれを持ち合わせてはいない。

 リーオーNPDは広い路上を蛇がうねるような動きでFCSを欺き続ける。

 が、突如その背後でビルが倒壊した。

 

「……ゴーシュさん!?」

 

 ゴーシュ操るMk-Ⅱのシールドランチャーが崩したのだ。崩したビルの上にはゴーシュが対応していた方のリーオーNPDが体勢を崩している。

 

 このチャンスを逃す手はない。

 ユッキーが対応しているリーオーNPDも予想外の倒壊で生まれた瓦礫にぶつかって、その脚を止めている。

 好機、とビームライフルの銃口を向けた。チャンスは一瞬。

 

「これで!」

 

 放たれた一条の光芒は狙い通り胸部のコックピットを貫いた。弱点である部位を撃ち抜かれ、膝を地に付け頽れる。

 ――倒せた……?

 最初こそ実感はなかった。しかし沈黙し、鉄塊と化したそれを茫然と観ていると、やや遅れて実感が徐々に湧いてきた。

 

 やったんだ。僕が

 

「……やった」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 味方機から大きく離れた場所でリクのダブルオーダイバーはGNソードⅡを抜刀し、単身リーオーNPDと接近戦を行なっていた。

 互いの斬撃と斬撃がぶつかり合い、突風が溜まった砂埃を巻き上げ、火花が薄暗い空間を照らす。

 

 リーオーNPDの反応は的確だ。チュートリアルの比では無い。横に振ればそれを防ぎ、突きを放てばそれを避ける。

 そして鍔迫り合いに入れば蹴り剥がされてしまう。

 CPUレベルの高いリーオーNPDに蹴り剥がされたダブルオーダイバーは地を踏みしめてブレーキをかけた。

 

「……だったらっ!」

 

 手数を増やして避けづらくすればいい。その結論に至ったリクは即座に操縦桿を操作した。

 リアアーマーにマウントされたビームサーベルを引き抜き投げつける。

 

 投げられたサーベルは回転しながら目標目掛けて飛来するも難なくそれは弾かれ、明後日の方向に飛んでいく。

 しかし、間髪入れずにもう一本のサーベルを引き抜いたダブルオーダイバーがリーオーNPDのすぐそばにまで肉薄していた。

 

「うぉおおおおおおおおッ!」

 

 雄叫びと共に気合を入れ直し、まずは一撃。GNソードⅡを振るい、敢えてサーベルで防がせる。次は二撃。ビームサーベルをコックピット目掛けて突きを打ち込んだ。

 確かな手応えを感じた。光の刃で胸部を貫かれたリーオーNPDは糸の切れた人形のように崩れ落ち、手元にある得物のビームサーベルは光を失った。

 

「皆はっ……!」

 

 刺さったサーベルを引き抜きリアアーマーに格納したダブルオーダイバーは咄嗟に後方に方向転換した。戦闘が続いているならば助けに行くという切り替えはとうに出来ている。しかしリクの後ろにいたサラが()()()()()()()()()口を開いた。

 

「安心して。大丈夫だよ……!」

 

 サラの言う通り。杞憂だったらしい。

 

 眼前には崩れ落ちたビルと鉄屑にされたリーオーNPD2機を背に歩くジムⅢビームマスターとガンダムMk-Ⅱの姿があった。

 

「……良かった。リクも無事みたいだ」

 

 ユッキーがホッと胸をなで下ろす。今回のCPUは少数精鋭的なもののようだ。敵機の反応はいまのところは無い。ゴーシュはセンサーを一目確認してから機体を未だ脚を踏み入れていない方向に向けた。

 

「敵機反応は無し……2Fに繋がる所を探そう」

 

 

 

 地下都市に機体を走らせ、暫くすると街が終わり広場が待っていた。その奥にはモビルスーツの身長でも余裕で入るぐらいのゲートが聳え立っている。

 その縁にはMSが操作できるサイズのコンソールが配置されていた。それにゴーシュは機体を近付け、操作する。18mもする鉄の巨人が端末をカチャカチャ操作するという構図は中々シュールな光景に見える。

 辛うじてシステムは生きているようだ。コンソールの画面が煌々と輝き、スピーカーから機械的な音声を放った。

 

 《暗証番号4ケタを打ち込んで下さい ヒント:グリプス戦役開始》

 

「……グリプス戦役?」

 

 グリプス戦役とはなんだ。ゴーシュは既に少し混乱していた。4桁の番号を打ち込めばいいので大体6561通りの番号を打ち込めばいずれ当たる。

 ――気が遠くなりそうだ。

 ゴーシュが知っているガンダムの戦争と言えばCMとかでちょくちょく聞かされる一年戦争くらいだ。

 

『……分からないんですか?』

 

「……ぅ」

 

 後ろでみていたユッキーが訊く。ゴーシュの顔は滝のような汗が流れていた。しかし強がったゴーシュのMk-Ⅱはユッキーの方を向いて身振り手振りでわたわたし始めた。

 

「わわわわわ分からなくてもももももも問題はないぞ!? 6561通り数字を打ち込めばいずれ当たるぞ!?」

 

 完全に無茶である。そんなことをすれば制限時間ぶっちぎってタイムオーバーだ。一応タイトではないが制限時間は設けられているので悠長には出来ない。ユッキーは苦笑いしてから口を開いた。

 

『正解は0087。グリプス戦争は初代の続編である機動戦士Zガンダムで起こった地球連邦軍内がティターンズとエゥーゴに分かれ、終盤にはジオン残党のアクシズって勢力が割り込んだ三つ巴の戦争だね……っと』

 

 ユッキーのジムⅢ・ビームマスターが割り込んでコンソールに0・0・8・7と打ち込むと重く閉じたゲートはこびり付いた埃をパラパラと落としながら音を立てて開かれた。

 

 扉の向こうはMSが数機入るエレベーターとなっていた。ダブルオーダイバーとジムⅢ・ビームマスターが入り、ガンダムMk-Ⅱは開いたゲートの前で棒立ちで居た。不審に思ったリクがゴーシュに声をかける。

 

『どうしたんですか?』

 

「…………いや。自分は些か情けなくなって来たと思ってな」

 

 同じ初心者ながらも差というものを見せつけられている気がした。遅れてガンダムMk-Ⅱがエレベーターに乗ると、操作を待たずに扉が閉じ、降下し始めた。

 おーーーーーーん。とエレベーターの駆動音だけが耳朶を打つ。閉所で脅威と言えるものが無い空間に置かれて先ほどの問題で負った精神的ダメージが薄まって行く。意識が駆動音に溶け込んでしまいそうな錯覚に陥りそうだった。

 そんな空間で3人とも無言で2Fに至るのを待ち続けた。

 

 ついに止まると、サラが沈黙を破った。

 

『むこうに、なにかがいる』

 

 彼女が言っていることは本当かどうかは分からないが、警戒するに越したことは無いだろう。開かれるゲートを前にして3機は構えを取る。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか――

 

 

 待っていたのは――

 

『トールギス? でも黒い』

 

 本来ならば白いはずのトールギスが漆黒に塗装されて、2Fの中心に立っていた。その事実にユッキーが疑問符を浮かべる。

 2Fは何もないただっ広い殺風景な空間が広がっており、そこにポツリと居る黒いトールギスが目立って見える。

 

 ――なんだ、コイツ。

 

 得も言われぬ『圧』を感じ、鳥肌が立つ。……息苦しい。

 トールギスなるMSをゴーシュは知らない。デザインだけならリーオーNPDに似ている程度の感想しか浮かばない。

 しかしこの圧力から感じ取れるものが一つだけある。

 

 ――コイツは只者じゃない!

 

 ゴーシュのゲーマーとしての勘が警鐘を鳴らす。

 リクとユッキーたちが先んじて室内に入るとトールギスの頭部のゴーグル型のカメラが紅く鋭く光った。

 

「拙い!」

 

 ゴーシュが叫ぶと同時に黒いトールギスが動いていた――否。リクのダブルオーダイバーのすぐそばにまで肉迫していた。

 

『なっ――』

 

『避けて!』

 

 ユッキーの叫びに応じるように、ダブルオーダイバーは肩部のGNドライヴから粒子を噴射させて上体を逸らす。そして次の瞬間すぐ横を黒いトールギスのビームサーベルが奔っていた。

 紙一重の回避に、ゴーシュは極度の緊張に襲われながらガンダムMk-Ⅱのスラスターを吹かせ接近をかけつつビームライフルを連射する。

 

 トールギスは全弾を躱し、味方機で最速と思われるダブルオーダイバーの速度とは比にならない機動力でこのフロアを縦横無尽に飛び回り始めた。こうなったら最早精度の甘いビームライフルは頼りにならないのは明白だった。

 

 ビームライフルを棄てリアアーマーのハイパーバズーカをセットし、ユッキーのジムⅢ・ビームマスターは肩部に搭載されたミサイルランチャー発射の準備をする。そして、ガンダムMk-Ⅱが大きくジャンプすると同時にミサイルが発射された。

 飛び回るトールギスを追ってミサイルが飛び、トールギスは殺人的な加速度で振り切りにかかる。

 一方でジャンプしたガンダムMk-Ⅱは落下速度をスラスターで抑えゆっくりと降下しつつ照準を、ミサイルから逃げ回るトールギスに合せずに速度に合せて予測照準を合わせた。

 

「行けぃ!」

 

 バズーカの弾丸が放たれ少し離れた所で弾が破裂、無数の金属がトールギス目掛けて飛び散った。

 

 予測も狙いも完璧。が

 命中率は高くても威力が心もとない。金属はトールギスの装甲に軽くめり込んだだけで飛行に支障はまるでなかった。

 

「チィッ! 散弾では――ッ」

 

 マトモにライフルを当てなければ意味がないというのか。スピードも装甲も兼ね備えた相手にどう勝てばいいのか。一頻り散弾を撃ってからMk-Ⅱを着地させゴーシュは思考する。

 しかしトールギスも待ってはくれない。ミサイルを振り切ってから肩部に固定していた大型ライフル(ドーバーガン)でガンダムMk-Ⅱを狙い撃つ。

 

「えぇいッ!!」

 

 ビームの奔流が空間を照らし、着弾した金属の床が紅い熱を帯びる。小ジャンプを繰り返しそれらを避けるものの、今反撃に出てもあのビームの餌食になるのが目に見えていた。

 ユッキーとリクの機体がそれぞれの得物でビームを撃つが、圧倒的な機動力で虚しく空を切るばかり。

 そして偶然一番近くにいたダブルオーダイバーを見るや否やシールドの裏面からビームサーベルを抜き放ち、手に持っていた得物GNソードⅡを弾き飛ばした。

 

『しまッ――まだッ! こっのおおおおおおおッ!』

 

 無理矢理崩れた機体の姿勢をGNドライヴとスラスターの噴射で取り戻し、ヒット&アウェイで離脱しようとするトールギスの装甲を掴んだ。

 あまりにも無茶ながらも、今のトールギスを倒すには一番効果的な方法でもあった。振り切ろうとバレルロールするものの、噛みつかん勢いで逃がさない。

 

 ダブルオーダイバーの重量も加わったトールギスは最早先ほどまでの殺人的な機動力は見る影もなかった。

 今ならば、完全にトールギスの機動力を落とす事は叶うかもしれない。見た限りトールギスの機動力はバックパックの2基のブースターから来ていると思われる。であればそれを破壊してしまえば勝機はある。

 

 ゴーシュはシールドを棄て身軽になった機体を再びジャンプさせ、正面から押さえつけられているダブルオーダイバーを振り落とそうと必死になっているトールギスの背中目掛けて、頭部に装備されたバルカンポッドシステムを起動させた。

 

 幾ら装甲が堅牢だろうと、スラスターの中に弾丸が一発でも入ればひとたまりもない筈だ。狙い通り、片方のブースターに命中。引火してバランスを崩し煙を上げひょろひょろとした軌道で落下し始めた。

 

 トールギスの重装甲の重さに衰えた飛行能力が耐えられなくなっているのだ。

 

「――今だッ!!」

 

 ゴーシュが叫ぶ。

 誰に? それは勿論――ユッキーだ。

 ジムⅢ・ビームマスターはビームとミサイルの残弾を全弾撃ち尽くす勢いで撃ち出し遅くなったトールギスにありったけ叩き込んだ。

 

 最初はビームで脚を撃ち抜かれ、更にバランスが崩れた所をミサイルの群れが爆発。

 黒い装甲が焼け、煤だらけになった機体が爆風を突っ切って姿を見せた。やはりしぶとい。ミサイルを以てしてもまだ原型をとどめている。

 

 ならばやる事は一つ。

 ビームサーベルを引き抜いたガンダムMk-Ⅱとダブルオーダイバーが飛び、トールギスの前に位置取り――真正面からトールギスの装甲を斬り裂いた。

 

 《MISSION COMPLETE》

 

 爆発四散。あの異常なまでの加速を見せていたトールギスは電子に消えた。

 

「よしッ!」

「「やったぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 勝利条件も達成し、ゴーシュは握りこぶしを作りガッツポーズを小さく取る。リクとユッキーも同様、歓喜の声を上げた。

 それにサラは微笑みながらその姿をみていた。

 

 ◆◆◆

 

「ふむ……報酬はパーツか。あの黒い奴の背中にあった大型ブースターっぽいな」

 

 総合受付前に帰還した4人は貰ったアイテムを確認する。貰えたものはパーツのデータでトールギスのものに似たブースターだった。

 GBNにおいて、ミッションは成功すると報酬が貰える。貰える物はアバターのカスタマイズに使えるアクセサリーやガンプラのパーツデータなどなど。このパーツデータは模型店に持ち込むと射出成型機で実物のものにしてくれるので、今後も積極的にミッションを攻略してパーツを増やし自機を強化して行く形になるだろう。

 

「うーん、ちょっと使い辛そうだけどね……」

 

 ユッキーの指摘通り、あの殺人的な加速を制御するには相応の操作技術が要りそうだ。

 しかし作り方によっては可能性を広げるものだろう。

 

 ――カナタの奴ならコイツをどうするんだろうな……

 

 きっと自分の使いやすいように改造してしまうのだろう。

 ゴーシュ改めシュウゴはカナタとは小学生からの付き合いだ。カナタは昔からガラクタ弄りが好きで、ガラクタを別のガラクタに作り変えていた。小学生高学年になってからガンプラの製作にこれまでのガラクタ弄りを活かして新しい機体を作っていた。同じく模型製作が好き()()()兄の背中を追って――

 

「とはいえ素組みしか出来ん俺には改造なぞまだ無理か……」

 

 今はガンダムMk-Ⅱの完成度を高め納得できるまでの性能にまで高めることが先決だ。ゴーシュは開いていたアイテムウィンドウを消し3人に向き直り頭を下げた。

 

「ユッキーとリク、それとサラ。ガンダムも分からん初心者に付き合ってくれて……ありがとう」

 

「そんなかしこまらなくても! 俺たちはもう仲間ですよ。ガンダムを知っているとかそんなことは関係ない。それにこれから知って行けばいいんですよ」

 

 厭味一つなく言い放つリクの姿にゴーシュは穏やかな笑みで「またいつか。一緒に戦おう」そう言い残してログアウト。消滅した。

 

 ◆◆◆

 

 長いプレイだった。

 筐体のシートから立ち大きく伸びをする。血が全身を巡り心地よい。セッティングされたガンダムMk-Ⅱとダイバーギアを手に取る。

 

 ――今日の帰りは模型誌とか入門用の書籍でも買って帰ろうか。

 

 外の窓を見るともう暗くなっていた。早く帰らなければ勉学にも支障が出る危険がある。

 同じく筐体から顔を出す二人の少年に見覚えしか無かったが、彼らに声を掛ける体力も勇気も無くその背中を見送った。

 

 世間とは、案外狭いモノである。

 

 

 シュウゴの自宅はこの模型店から少し離れている。

 近所が過疎っている訳ではない。寧ろ近所にもそこそこの模型店が存在するので、わざわざここに来る理由は普通ならないのだ。

 そう、()()()()

 

 電車に乗って、学校付近の駅をそのまま通り過ぎ13分程乗った先にシュウゴの自宅の最寄り駅がある。

 駅から徒歩8分。住宅街の一角に他より少し大きな2階建ての一軒家が建っている。そこがシュウゴの家だった。

 

 そこからまず玄関に入らず、周囲に人の目がないことを確認してから庭の陰に手に持った雑誌やパーツの入ったビニール袋を隠すように置く。それから玄関のドアを開けた。

 

「……ただいま」

 

「シュウゴさん。今日中間試験の成績発表だったでしょう? ちゃんと1位取った?」

 

 開口一番、シュウゴの帰宅に気付いてリビングから玄関に出て来た母親の言葉がそれだった。シュウゴは無造作に通知表を鞄から取り出して母親に渡して、言葉を返さず2階に上がり自分の部屋に入った。

 勉強机。ベッド、参考書やらお堅い本ばかりの本棚、エアコン、クローゼット。

 

 ()()()()()一つない部屋だった。

 

「ご飯ですよ!」

 

 既に夕食は出来ていたらしい。部屋着に着替えた直後に呼び出され、シュウゴは顔色一つ変えずにリビングへ降りた。父親は出張で今日は帰って来ない。母親と二人だけだ。

 テーブルにつき、夕食にありつくと母親は誇らしげに口を開いた。

 

「ちゃんと1位取ってて安心したわ。今日のお昼、ヤマダさんに教育が行き届いているって言われたのよ? ヤマダさんのお子さん、最近ゲームに熱中していてこのままではヒキコモリになるんじゃないかって心配なんですって。しかも戦争ゲームだって言うじゃないの、怖いわねぇ……シュウゴさんはそんなものに手を出さないで勉学にスポーツに一生懸命で真っ当な子に育ったわ。今じゃ見ないって言われたのよ。それで私はアドバイスしてあげたの、そんなもの壊してしまいなさいって。代わりにお勉強道具を買い与えてあげれば絶対にちゃんと育つって」

 

 耳障りな自慢話が耳から耳にすり抜けて行く。

 きっと1時間前の自分を母が見たら怒り狂うのは目に見えていた。故に庭に隠したものはどうしても見せられたものではなかった。

 

「これからもちゃんとバカな事しないで勉強して真っ当なオトナになるのよ?」

 

 最後に吐いた母親のその言葉が何処か空虚に聴こえた。

 

 こんな環境で我ながらそこまで歪まなかったものだと自分の人生を振り返ってシュウゴは自嘲気味に思う。最早無菌室に閉じ込められたようなものだ。父はそんな環境をなんとも思わず仕事人間で碌に家に戻ろうとしないし干渉もしない。

 そんな夫と息子をブランド品のように見せびらかすのがシュウゴの母という人間だ。

 

 カナタという碌でも無い(ともだち)と、ゲームという存在を教え与えてくれた叔父が風穴を開けてくれなければ今の自分は居なかった。

 

 それゆえに――

 

 心中で両親を唾棄する内なる顔をシュウゴは持っていた。

 




 小ジャンプはレイヴンの基本テクだからね、仕方ないね(レ)


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STAGE05 ジャンクを漁る

シバ「おい、GPデュエルしろよ」

 冗談は置いておいて、大変お待たせしました。
 ストックはあったんですけど、話の捻じ込みで実質新規で話書いていました。


 にしてもいつの間にかビルドダイバーズが完結していたでござる……


 今日は秋葉原に訪れた。

 単純に何かしらの目的があった訳ではない。単純にガンプラに使えそうなパーツがあるんじゃないかとかかなりふわっとした目的でここに来た。

 秋葉原特有の混沌とした街並みを歩き、道行く人々とすれ違う。

 この中にどれだけのGBNプレイヤーが、ガンプラビルダーがいるのだろうか。

 道行く人を誘う怪しげなキャッチを素通りしつつイズミ・カナタは独り、そんな事を考える。

 

 けれどもお互い話しかけることも、そして確かめる為のキッカケもないからただすれ違うだけだ。

 まぁ、ただすれ違った人間相手にGBNしてますかーなんて事を突拍子もなく聞ける人間の方が稀だろうが。

 

「いらっしゃいませ」

 

 適当なジャンクショップに入り、店員の挨拶を背に無造作に雑にジャンク品が詰め込まれた箱を物色。良さげなものを見つけたりして新しいガンプラのパーツや得物の作成のヒントを見つける。

 勿論なんの収穫もないまま家に帰る事も多々あるが、単純に物色するという行為の楽しさもあったので、時間を無駄にしたと反省すれど後悔は特にない。

 

 今日もカナタはジャンクを漁る。

 

「カナタ君。カナタ君? おーい」

 箱の中は玉石混交。一見無関係に見える代物がパーツになる時がある。例えば人が身に付けるアクセサリーもそうだ。他には文房具やら雑貨、機械の部品すら使う。

 数多くのジャンク品やガンプラの余りパーツを削って取り付けてを繰り返して完成にこぎ着ける。

 

 最初こそ醜悪なシロモノが出来上がるが回数を重ねる事に形状は洗練されていく。

 プラ板を1から100まで削り倒すのも勿論乙なものであるので、その辺は自由だともいう。

 

「ありがとうございましたー」

 

 一通り見てから店員のやる気のない声を背にジャンクショップを出ると見覚えのある顔と出くわした。

 

「フジサワさん?」

 

「イズミ君?」

 

 どうしたものかと反応に困ったカナタは顔を引きつらせて「よっ」と会釈し、アヤもつられ軽く手を上げ会釈する。

 

「……なんだァ、フジサワさんもジャンク漁りか?」

 

「別に目的は無いよ。単に散歩に来ただけ。まさかイズミ君に会うとは思わなかったけど」

 

「世の中ってここまで狭かったかよ……」

 

 この膨大な店舗数のある秋葉原でばったり出くわす事なんてそうそうないだろうに。まぁなんかの縁だという事で。

 

「んー、なんなら一緒に廻るか?」

 

「うん。いいよ」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

 割と冗談で言ったつもりだった。やんわりと拒否されると思っていた。

 意外な返答に驚愕のあまり目を見開き疑問符を浮かべるような言葉を吐く。アヤもその行動の意図は当然分からず首をかしげ、妙な間が空いた。

 ラジオなら放送事故待った無しである。

 

「断るものかと思ってたんですが」

 

「断る理由も特にないし……」

 

「せやな」

 

 言われてみればそうである。

 別に嫌われているわけではないらしいのだ。一応。仮に嫌われてるならとうに嫌いな奴が高確率でいるあの店に訪れやしない。

 

「どこ行くの?」

 

「わり、考えてない」

 

 女の子を連れて無骨なジャンク屋巡りなんてするほどカナタも腐っちゃいない。

 街中を歩きながら、藁にもすがる思いで丁度良さそうな所を探し回っているとアヤが口を開いた。

 

「別に気を使わなくていいよ。それにお互い考えてないみたいだし一緒に考えよう」

 

 

 

 

 結局、スマホのマップを駆使してお互いチェックした模型店やらゲームセンターを渡り歩いたりパーツを買ったりするハメになった。

 

  積まれたガンプラの箱を物色する為に店内を歩き回っていると、展示されたディスプレーに目が入った。周囲には軽い人だかりが出来ており、何事かと思ってアヤ共々画面を覗きこんでみると、肩に2枚ずつ計4枚のブレードウイングを持つガンダムAGE-Ⅱを思わせるガンダムが、次々とNPDリーオーを撃墜して行く様子が映っていた。

 浅めの黒と白を基調にしたカラーリングで、空を飛び回り手に持ったライフル型兵装《ハイパードッズライフルマグナム》で無造作に狙い撃ち、NPDリーオーの装甲に風穴を開けて行く。

 

 背後を取ったと言わんばかりに対戦相手操るモビルスーツが、ビームサーベルを振り上げて迫る。が、振り向きざまに左腕のブレード付きシールド《シグルシールド》でそれを両断。

 呆気なく襲撃者は墜落していった。

 

 勿論これだけでは終わりでは無い。襲撃者の仲間らしきモビルスーツが取り囲み、多勢に無勢を絵にかいたような光景を創り上げていく。

 中には如何にも手強そうなガンダムタイプが混ざっており、GNドライヴを積んだ個体すらもいる。

 

 これだけの相手をたった一人で相手どるという狂気的な光景だが、この画面を見る者たちもカナタも知っている。

 こいつを――ガンダムAGE-Ⅱマグナム止めるにはまだ足りない。

 

 4枚羽がAGE-Ⅱマグナムから離れ、次々と取り囲んで来たモビルスーツを斬り裂き、戦況が混乱を始める。そのどさくさに紛れて、行動を開始。手始めに羽の餌食にならずに済んだガンダムタイプのモビルスーツをシールドバッシュで打ち抜く。

 そして人型形態から戦闘機形態《フェニックスモード》へと変形。驚異的な加速力で包囲から離脱。一度は慣れてUターンした後機首に搭載されたハイパードッズライフルマグナムで混乱した戦況を突っ切りながら無造作に数機ビームの餌食にして、炎の塊となって地に落ちていく。

 

 粗方ビットのように縦横無尽に飛び回る羽に切り裂かれ、難を逃れた機体はドッズライフル特有の螺旋状に回転したビームが、装甲を抉り貫く。

 出力が他の機体とは一線を画していた。

 操縦技術も然り。この戦闘で一発も貰っていない。

 

「――クジョウ・キョウヤ」

 

 これを見ていた誰かが呟いた。GBNプレイヤーでその名を知らない者はいない。カナタもアヤもその名前を知って板。

 クジョウ・キョウヤとはGBN現チャンピオン。

 第14回ガンプラフォースバトルトーナメント優勝フォース、AVALONのリーダーだ。

 

 昨年のGBNの個人勝率獲得撃墜ポイントナンバーワン。ワールドチャンピオンシップトーナメント個人戦優勝。使用機体はガンダムAGE-Ⅱマグナム……

 他の追随を許さぬ技量を持つカリスマダイバーだ。

 

「ほんっとバケモンだなこの人」

 

 カナタは溢す。

 あの路傍の石の如く撃墜されたモビルスーツたちの乗り手も多少の腕前を持っていた。戦いは数だよとどっかの誰かさんは言っていたがアレはあの男は嘘にしてしまう。

 

「そうだね……私も勝てる自信がないな……」

 

 というか勝てる自信のあるダイバーが居るなら教えて欲しい所だ。名乗り出てどしどし挑戦して欲しい。それだけ自信のある得物(ガンプラ)でチャンピオンとやり合う姿を是非見てみたい。

 ついでにソイツともやり合ってみたいと息巻く己がカナタの内にあった。

 

 

「にしても、フジサワさんもリアルタイプも買うんだな」

 

 アヤの手元には積まれた3つのガンプラの箱があった。うち2つは彼女らしくSDタイプだが1体だけリアルタイプのものだ。HGユニコーンガンダム。SDオンリーの人間だと思っていたので少し意外に見えた。

 

「イズミ君の所だとSDばかり買ってたからね。でもたまには私だってリアルタイプと組む時はあるよ。そういうイズミ君はパーツばっかりだね。箱はストライクだけ……」

 

「今日は別に本体要るって訳じゃなかったし、どっちかというと得物というか追加装備とかバックパックが作りたかったから今日はこんだけ」

 

 ストライクに対応するバックパックが作ってみたかった。というのは、元々カナタが初めて作ったガンプラがストライクだったという事が大きい。箱を物色していた所でHGストライクガンダムの旧キットを見かけて何だか懐かしい気分になったので少し初心に還ってみようと思った。

 

「そう言えばさフジサワさん、初めて作ったリアルタイプのガンプラってなんだ?」

 

「ん? わたしは確か……」

 

 下唇に人差し指を当てて少し考え込む。数秒程度の短い思考の果てに口を開いた。

 

「HGF91」

 

「意外。ストライクから入ったものだと思ってた。俺はストライクから入ったよ。兄貴に教えられてな。初心者にオススメだし色々入ってるからって」

 

「えっお兄さん、居たの?」

 

「そういや、話したことなかったな」

 

 そもそも他人に兄の――ナユタの話を自分からするというのも我ながら珍しいモノだ。けれども少しだけ、今は昔の話がしたかった。

 

「俺にガンプラ教えたのは兄貴なんだ。ジャンクパーツを使って新しく組むなんて芸当を教えたのも」

 

 ナユタが居なければ今のカナタは居ないと言っても過言では無い。GBNで遊んでいたりもしないだろう。ナユタにとってそれだけ兄の存在は大きかった。

 

「今は元気なの?」

 

「どうだろうなァ……」

 

 どうだろうって自分の家族のことじゃないのか。アヤは不可解に思ったのか首を傾げる。

 けれどももうカナタには知る方法はもうないのだ。あの世のことなんてこの世の人間には知る由も無いのだから。

 

「ガンプラは滅茶苦茶強かったよ。GBNが始まる前、アストレイ素体にした奴を昔のガンプラゲーで動かしまくって千切っては投げ千切っては投げの大活躍って奴だったよ……」

 

 きっとGBNに居たら相当の脅威になっていたに違いない。かのクジョウ・キョウヤとの試合も見られただろうにと思うと少しばかりの寂寥感がカナタを襲う。

 けれども覆水盆に返らず。人は――時間を支配できやしないのだ。GBNが始まる前の数年前、ナユタが大会帰りに両親共々交通事故でこの世を去る前のあの頃にはもう。

 

「ごめん。身内の自慢話なんざ聴かせて」

 

「ううん。訊いたの私だから」

 

 今は今と受け入れて生きていくしかないのだ。

 一応、過去には多少の踏ん切りは付いたと、そう思いたいから。

 

 

 

 

 模型店やらジャンクショップを回り切った時にはもう陽は沈みかけていて外灯が薄暗い道を照らしていた。秋葉原のごった煮した街中でいつも通り世間話をしたりガンプラの改造について色々話してみたり。時には黙々と目的のパーツを漁ったり。

 

「もう夜か。長い事物色してたな」

 

 カナタは店の自動ドアから出た所で自分の髪をくしゃっとする。模型店に入った時はまだ昼真っただ中だったはずなのに。

 これ以上の長居は帰ると怒られそうなので今日はここまでだ。

 ここで解散だ、と言おうとして向き直ったところでアヤの方が先に口を開いた。

 

「カナタ君」

 

「どした?」

 

「いつかまた一緒にジャンク屋回ろうよ。カナタ君が良かったら……だけど」

 

「おう。お互い時間が合えばだけど、またな。でも今日はシメーだ。これ以上長居してたらばーさんにドヤされる」

 

 予定こそ狂ったものの、何やかんやで楽しかった。また一緒に廻れるのならそれは願ってもないことだ。けれども今回、イレギュラーなこともあったのでグダついていたのも事実で、いずれまた一緒に廻る日が来るなら前もって移動ルートの把握もしておかなければとカナタは思う。

 この秋葉原は別にパーツ漁りだけが能じゃない。GBNの前身であるGPDの小規模な大会も行っているのだ。

 

 そしてカナタは背を向けじゃぁなと手を上げる。それにアヤも応えるように手を振ってお互い帰途についた。

 




 アキバズトリップ2ってゲームをやった後に秋葉原行くと再現度の高さに驚いたものです。
 龍が如くとか428とか実在の街をベースにしたゲームをやった後にロケ地巡りするのは結構楽しいのでお勧めです。


 それはそうと私が初めて作ったガンプラは奴らみたいにHGですらなく肘すら動かないストライクでした(隙あらば自分語り)。
 100、HG、60、BB戦士も全部ストライクから組んでいるし子供の頃の自分の思考回路がよくわからないです……
 運命終了から暫くのブランクがあってから、00のゲームのおまけにあったエクシアを組んで可動範囲に「HGですらないのに肘まで動くのこいつ!?」ってぶったまげた思い出。



 次回はまた本題に戻ってマスダイバー狩り回。


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STAGE06 それ以上でもそれ以下でもない

 金髪の仮面の男には気を付けろってばあちゃんの友人の妹の娘の夫のマ→マ↑ン↓が言ってた。


「よっ。元気か坊主」

 

 古鉄やに一人の男が見知ったような顔で訪ねて来た

 その男はややウェーブの掛った髪をしており、無精髭を生やしており、その身にベージュのズボンに首元を緩めたネクタイを巻いたワイシャツの上に白衣を纏っていた。

 少し眠たげな表情なのは単に生来のものだろう。

 

「カドマツさんいらっしゃい。ま、ボチボチやってます」

 

 カナタはいつものようにレジカウンターの傍に置かれた椅子に座って、週刊少年ジャンプをパラパラと読んでいた。カドマツは店内に他の人が居ないことを確認してから口を開いた。

 

「早速本題に入るがマスダイバーの目撃件数が増えつつある。情けない話だが俺たちGBNサーバーのエンジニアでもマスダイバーの足取りは碌に掴めちゃいない」

 

「……そう言えばマスダイバーってログでデータの異常とか分からないモンなんですかね。幾らなんでも運営の対処が後手に回り過ぎている」

 

 マスダイバーが姿を見せたのは半年くらい前からだ。もしかしたらそれより前に水面下で存在していた可能性も否めない。それなのに運営は目立った対応の一つもしていない。このままではGBNそのものに異常を来たす可能性もある。

 

「それは依然つかめて居ない。事実としてあのグシオンの搭乗者のログからは異常は一切検知されていなかった。証拠がない以上罰する事は不可能だからな……ったくよく考えてやがるよ。あのチートツール開発した奴、絶対性格が悪いね。断言するよ。しかも中途半端に無敵じゃねえし」

 

 カドマツは参ったように頭をわしゃと掻く。

 このカドマツなる男。かつてGBNの創設期のメンバーの一人だった男だ。今はGBNサーバーの現役エンジニアをやっている。

 数年前に「世の中の遊びが変わるぞ!」と声高らかに語っていたのをカナタは今でも鮮明に覚えている。

 

「マスダイバーも一度倒したら再度チート発動する確率は抜群に低くなる、しかし直接倒すしかないってのが面倒なもんだな……」

 

 チートで法外に強化されたマシンを真正面から排除するには相応の技術が必要だ。ただでさえ1機でも面倒なのに30機、300機、3000機とゴキブリのように湧かれては、想像するだけ背筋が凍りそうだ。

 バグが大量発生してたちまちGBNそのものが確実に終わる。

 

「まぁなんであれ真正面から斬り倒します。俺に出来るのはそれだけですし、それになんかチャンプも動いてるって話だし?」

 

「おっ、耳が早いな。そう、あのGBN界最強の男――クジョウ・キョウヤが独自に調査に動いてるんだってよ」

 

「確かにあの人ならマスダイバーを狩るのは容易だろうが……もっと戦力が欲しいっすね。こっちはマスダイバーが出てから調査してから処理にあたるから後手後手に回り切っている。ならば数を増やさないと増加数に追いつかない」

 

「とは言ってもコンスタントにマスダイバーに遭遇して処理出来る奴なんてそうそう居ないし、態々バグ状態の中チート持ちとやり合おうって奴も居ないだろう。それに増えたら増えたで誰かがバカやらかして気に入らないダイバーを寄ってたかって叩く魔女狩りってのも起こりかねない。別の意味でGBNが終わっちまうぞ」

 

「……大元突き止めるまで待つしかないってか」

 

 ジャンプをカウンターの上に放り投げ、カナタは力なく椅子に凭れた。

 マスダイバーのログに異常が検知されないという隠ぺい能力に、異常なまでの機体性能。使用者が口を割らないこともあって、詳細は未だ不明。このままGBNの異常が大きくなって滅んでいくのを待つしかないのか。

 

 ――否、断じて否

 

「カドマツさん。……今回ここに来たのはそれを言うだけじゃないですよね?」

 

 カナタは笑みを浮かべて問いかける。笑うとは原来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為が原点であると何処ぞの漫画で見た事がある。今カナタが浮かべているのはそういった攻撃的なものを大いに含んでいた。

 

「あぁ。今回見つけたマスダイバーと思しきヤツはフォースぐるみでチートを使ってやがる。少しばかり手こずるぞこいつは」

 

 フォースというのは所謂ソシャゲで言うコミュニティーのようなものだ。複数のダイバーが集まり、その専用のミッションの受注も可能である。

 因みに一人でも一応フォースを名乗れる。――ワンマンアーミー、たった一人の軍隊にもなれるのだ。

 で、今回の場合はチートを複数人で同時使用しているというかなり悪質なタイプだ。

 

「何人?」

 

「3人だ。使用機はジェガンタイプ。一応俺の同期が追跡をかけているが……どうする?」

 

「……追います。でもその前に――」

 

 カドマツの問いにカナタは姿勢を正して頷いてから――眼下のカウンターにちょんちょんと指さした。カドマツ「あーなるほどね、大体分かった」と呟いてから続けた。

 

「店番だろ? しかしお前んとこのばーさん本当にアグレッシブだな……またゲートボールかカラオケか?」

 

 カドマツは呆れ交じりにカナタを横目で見ながら問うとしれっとした顔で答えた。

 

「いえ、今日は少年に混ざって草野球っす」

 

「お前のばーさん何モンだよ……」

 

 信じられないものを聞いたように額に手を当てる。

 これくらいの年齢になったら昼間にワイドショーでも見ているものだと思っていた。カラオケやゲートボールなら多少理解は出来るが子供に混じって草野球とはどういう事なのか。

 

 いかにもよぼよぼな婆さんが機敏に打って走って守って投げる姿を想像すると現実離れした光景がカドマツの脳裏に映った。

 

「バケモンです」

 

 何故かその返事に納得してしまった。

 

 

 ◆◆◆

 

 ――ターゲットは連戦ミッションで乱入をかけてくる。

 

 連戦ミッションとは移動しながら順番に敵を倒していくミッションだ。幾つもあるステージを連続して攻略する為、ダメージと弾薬消費は最低限に抑える意識をする必要がある。

 面倒だが、その分貰える報酬は良いものとなっている。

 

 チートを使えば当然途中からの乱入も出来るだろう。しかし乱入は本来許されていない行為だ。これを放置するわけにはいかない。

 既に被害者は複数現れており、突然現れた3人組に妨害ミッション遂行を滅茶苦茶にされてしまい、心折られたプレイヤーも居るという。

 

 胸くそ悪い相手だ、とカドマツは唾棄した。

 それはカナタだって一緒だ。

 GBNの楽しさを知り始めたプレイヤーをチートで故意に心を折るような行為は許しがたいものがある。

 

 

 店番の時間は終わった。

 カドマツも既に店から出ており、一人自室に戻ったカナタは勉強机に置かれたガンプラを見やった。重装甲を身に纏う、ガンダムアストレイタイプの改造機――手には得物のソードメイス。左腰には日本刀型ブレードを携えている。

 

 それを無造作に手に取り、GBNのアクセス手段であるダイバーギアと専用端末のセットを引っ張り出してから端末にギアをセット。その上にアストレイタイプのガンプラを乗せる。

 そしてヘッドセットを兼ねるゴーグル型デバイスと、操縦桿型のコントローラー2つ両手で握り締めた。

 

「よっし。やるか」

 

 ログインすると、カナタ改めカタナは取り敢えず要らない面倒を減らすために先ずは変装をすることにする。

 今のところソードマンとして知られているのは乗機のアストレイタイプであってアバターは一応知られていない。

 

 ではこの現状でするべきことは自機に偽装工作を行うことだ。アバターも少し変装を付け、後々の面倒を減らす。前者は既に用意してはいる。

 後者はGBNで直ぐに出来る。

 今回は眼鏡をかけ、洋服としてスーツを着る。そして髪の色はブラウンにする。これで多少は別人に見える筈だ。

 準備をしてから、丁度良く受付で連戦ミッションを受注しようとしている4人組に声をかけてみた。

 

「どうも。そこの4人方。今から連戦ミッションですか? 俺ちょっと初心者なんで一緒に戦って貰えません?」

 

「あ、仮面の人の次はサラリーマンっぽい人だ」

 

 正しくは5人だったらしい。

 冒険者風衣装の少年2人と西洋の騎士を思わせる鎧とマントを纏い目元に仮面を付けた男。そして青みの掛った白髪で純白のワンピースの少女に抱えられたピンク色の猫耳を生やした球体《ハロ》。

 猫耳ハロにサラリーマンと評されて、カナタは変装の効果を実感した。特に他の人間にも警戒めいた色は見受けられない。

 

 ――それにしてもこの仮面の男何処か見覚えがあるような……

 

 妙な既視感を覚えながらも5人は快諾してくれた。

 

「勿論ですよ! 一緒に戦ってくれる人が居ると心強いです!」

 

 青い冒険者風衣装の少年が言うと相方であろう緑の冒険者風衣装で頭に帽子と眼鏡をかけた少年も同意するように頷く。仮面の男は特に異論を言わず微笑んでおり、少女と猫耳ハロはよく分かっていないのか目を丸くしていた。

 

「そう、ありがとう。俺はカタナだ。宜しく」

 

 青い服の少年はリク、緑の服はユッキー、少女はサラ、猫耳ハロはモモカと名乗り、最後の仮面の男は――

 

「僕はキョウヤ、宜しく」

 

「……あっ」

 

 何となく察してしまった。カドマツが言っていた、チャンプが独自に調査をしていると。そのために変装をしているのだろう。

 そのために仮面を被って変装をしているつもりなのだろうが……大丈夫なのかコレ?

 一抹の不安が過り、口元を引き攣らせる。

 こんな時どんな顔をすればいいのだろうか。笑えば良いのか、悲しめば良いのか。

 

「この人はチャンピオンに憧れてGBNを始めたんですよ!」

 

 リクはそうフォローしてくれてはいるものの、バレバレだ。やっぱり不安と心強さが同居したナニカがカタナの胃の中でぐるぐるとのたうちまわっていた。

 

 ◆◆◆

 

 ミッション開始エリアまで行くにはまず機体で飛んで行かなければならない。

 カタナ操るオルタナティブは視覚ジャミング装置で偽装を施してあり、他者からはガンダムバルバトス第六形態にソードメイスと刀を取り付けたアレンジ機にしか見えないだろう。

 

 機体特性と比較的一致しているのでこの人選となった。

 勿論このジャミングは一定のダメージを負うと化けの皮が剥がれて正体がバレてしまうので被弾は避けることは必須だ。

 

『カタナさんはガンダムバルバトス第六形態にソードメイスを装備させてるんですね!』

 

 何一つ疑いの色も見せず言うユッキーにカタナは「ま、まぁな。俺の好きな得物だからなー」と返す。

 嘘は言っていない。事実、ソードメイスの鉄塊であり剣でもあるこの得物をいたく気に入っていた。ぶん回して叩く。それだけのシンプル極まりない鉄塊に等しい得物は如何なる頑丈な装甲であれども強度を奪う。盾にもなるしリーチもある。

 

 ちょっと重いのが玉に瑕。けれどもそんなデメリットがデメリットに感じない。

 長々と講釈垂れてみたが一言で言えば「ソードメイスは最高だ」

 

「あぁ。ソードメイス……アレはイイものだぞォ。ユッキー君もソードメイス使ってみなァい?」

 

「僕の機体、射撃主体なんで遠慮しておきます……」

 

「えー」

 

 情けない声を上げて布教は即終了。リクは既にキョウヤと取り込み中で布教する間すら与えられなかった。

 某チャンプを彷彿とさせる男キョウヤが操る機体はガンダムAGE-2・ダークハウンド……のように見えるナニカだった。よく見ると胴体のカラーリングが違うし肩部のウイングの形状も違うように見える。4枚羽が原型機のAGE-2ノーマルそのままだ。

 リクとの会話を聴く限り「AGE-2をベースに改造した」ものらしいのだが、既にクジョウ・キョウヤが水面下で動いているという情報を聞いているカタナには変な笑いが込み上がった。

 

 ――()()()()()()()……よなァ。

 

 物も言いようである。

 

 ◆◆◆

 

 

『もう直ぐ戦闘領域(バトルフィールド)だよ』

 

 廃墟と化した東京の空を4機は飛行していた。ユッキーの言葉通りここが今回の戦いの舞台となる。

 青空一つ無き曇天。

 

 雨が降りそうで降らない光景は現実だったら恐らく湿気で息苦しさを感じていただろう。

 目下には見慣れた光景が広がっていた。遠方には煤だらけの東京タワーも見える。

 

 廃墟と化した見慣れた光景は少しばかり面白さを覚えたと同時に少しばかり複雑な気分でもあった。もし――見慣れた景色が何かしら惨劇に侵食されたらこんな風になるのだろうか。

 嫌な想像をしたと、カタナは溜息を吐く。

 そもそも今考えるべきことじゃない。

 

 ふと我に帰るとセンサーが警告音を流して眼下の道路に3点マークしていた。

 

「センサーに感。――多分地中に3機隠れている。多分他にもそこそこ居るぞこいつァ」

 

 恐らくこの東京は敵の巣だ。

 意識外からの攻撃も警戒しなければならないだろう。

 

『僕が囮になってちょっかいを出す。奴らが顔を出したら皆で叩いてくれ』

 

 返事を待たずしてキョウヤはダークハウンドを降下させ、センサーに反応のあった道路にランス型兵装ドッズランサーに取り付けられた兵装ドッズガンで弾丸をばら撒き、粉塵を巻き起こす。その中から生物的な単眼の黄色い鬼を思わせる異形の巨人が姿を現した。

 

 デスアーミーだ。

 単騎では大したものではないが、数だけは多く物量の暴力で攻め立てる厄介な機体だ。地中から這い出たそれは金棒型の武器を銃のように持ち、その先端から黄色い閃光――ビームライフルを放った。

 

 それを読んでいたかのように無造作にダークハウンドのようなナニカは戦闘機形態ストライダーモードへと変形し、ハイパーブーストを発動。並々ならぬ推力でその場から離脱。

 茫然とするその隙を狙って、追うようにリクのダブルオーダイバー、ジムⅢビームマスター、擬装バルバトス第六形態が降下。

 

 ダブルオーダイバーは携行していたビームライフルで、滞空しながら狙撃。ジムⅢビームマスターはオリジナルの複合兵装《チェンジリングライフル》の通常バレルをバルカンバレルに切り替え、ビームマシンガンを発射。

 そして最後に擬装バルバトス第六形態がソードメイスを横薙ぎでデスアーミーのどでっぱらに炸裂。勢いよく廃墟のビルに叩き付けた。

 

「はィッ次ィ!」

 

 キョウヤは既に他のデスアーミーの燻り出しに入っており、次々と湧いてくる。

 デスアーミー、1機見たら30機居ると思え。

 

 それを裏付けるように湧き出るデスアーミーとその派生機を前にカタナは深呼吸をした。――焦るな、落ち着け。今はマスダイバーのことは考えるな。

 

【視覚ジャミングユニット……外ヅラだけは完璧だが、機体性能は化ける前のままだし数発だけでも貰えばジャミングも(ほつ)れる。だから極力被弾はするなよ】

 

 ログイン前に言われたカドマツの忠告を脳裏で反芻する。

 カタナにアウターパーツという選択肢は最初からなかった。というと、そもそも重装甲の擬装前の機体にそれ以上の負荷を掛けると重量過多で戦闘に支障が出る恐れがあった。

 それにアウターパーツだって相応の被弾をすれば化けの皮が剥がれるのは一緒なのだ。

 故に高難易度ミッションの報酬の一つである視覚ジャミングユニットを組み込むのが適切と判断した。

 

 無論、このジャミングユニットも手放しで褒められるものではなく、カドマツの忠告通り強度はアウターパーツ以下だ。

 実体武器主体にはほぼ関係のない話だがエネルギーの消費も激しい。

 

「簡単に言ってくれるよな……!」

 

 デスアーミーの金棒型ビームライフルの弾をソードメイスの刀身で弾きながら、道路の上を滑るようなホバー走行で接近を掛ける。

 

 そして射程距離に入った所で縦にその得物を振り下ろした。

 轟音、そして爆音。

 煙と火の粉を浴びながら擬装バルバトス第六形態はゆらりと振り下ろした得物を持ち上げ、次の獲物をその緑に鋭く光る双眸で睨み付ける。

 

 その様はどちらが鬼か分かりはしなかった。

 次にビルの上から飛び降りながらビームライフルを放つデスアーミーが襲いかかる。それをうねる様な軌道で後退しつつ、ソードメイスを投げ付けた。

 ガィン、と金属と金属が弾け合う音を立てて着地失敗、道路を転げたデスアーミーを擬装バルバトス第六形態は飛び上がり落下の勢いで踏み潰した。

 

 今回のNPCはAI精度こそ良くないが数だけはいる。極力被弾を避けるという目標を果たすにはあまりにもハードなゲームだった。

 

 別のガンプラを出せば良かったか

 否、別のガンプラだと使い勝手が変わるので別の問題が発生する。ゲームシステムを逸脱したマスダイバーに勝利するという最終条件も満たさなければならないのだ。であれば一番使い慣れた機体の方が確実だ。

 

 ――他の味方機はどうしている?

 

 カタナは安全を確認してから他の場所で戦闘を行なっている味方機を探す。

 すると曇天の下、ビルより高い空で巨大なウイングを生やした飛行型デスアーミーことデスバーディが風を切り裂き飛び回っていた。

 

 それを追うようにダブルオーダイバーがバックパックに背負った対艦刀で一刀両断にし、同じくダークハウンドは変形し、尋常ならざる細やかな動きで追い縋るデスバーディを撹乱。背後に回り込みドッズガンで蜂の巣にする。

 地上ではジムⅢビームマスターがチェンジリングライフルで並び立つデスアーミーを薙ぎ払うような掃射で撃破していく。

 

「――タイマン特化じゃ、この手のミッションで向かないか」

 

 デスアーミーを大量に狩る味方(ジムⅢビームマスター)の姿に若干悔しい思いをしつつ、カタナは身近に居る敵をソードメイスを時に鈍器とし、時に投げつける飛び道具とし、時として盾にして防ぎ、無造作にスクラップへと変えていく。

 

『あの人……武器を使いこなしている』

 

 最早鉄塊と言っても差し支えないその得物一本で次々となぎ倒すその姿に何を思ったのかリクの感嘆の声が聴こえてくる。

 そんなに賞賛されるとむず痒くなるし、尚の事ソードメイスを布教したくなる。

 ユッキー相手に失敗した現状どう切り出そうか。

 

――ハァイリクゥ! ソードメイスって使ってる?

 

――うん、馴れ馴れしいわ。

 

 などと考えていると遠方からのビームを擬装バルバトス第六形態の装甲を掠め、ジャミングが(ほつ)れた。余計なことを考えて本来の目的を忘れかけていた己の馬鹿さ加減に呆れそうになった。

 

「ったく馬鹿じゃねェの……」

 

 先程の自分自身に向けて吐き捨てつつ、センサーを一瞥する。

 それはそうと先程の射撃で位置は掴めた。後は近寄るだけだ。元の心の持ちに戻ったカタナは、機体のレバーを引き、機体を跳躍させた。

 

 

 ◆◆◆

 

 ガンダムカフェだった廃墟があった。隣にはAKB48カフェ&ショップだったテナント。そしてその近くに広がる広場や駅。

 秋葉原駅電気街口前交通広場。見慣れた光景が廃墟として眼前に広がっていた。

 

 広場には先ほどまで暴れていたダブルオーダイバー、ジムⅢビームマスター、ダークハウンドらしきもの、そして擬装バルバトス第六形態が並び立ってオート修理状態に入っている。

 

 ここはインターミッションエリアだ。ちょっとした小休憩が行える安全地帯である。

 PHASE3を完遂し、一息ついた操縦者4名は自分の愛機の修理を待ちながら削げた集中力が補てんされるまで妙に作り込まれた街を観察したり雑談をしたりしていた。

 下の広場でモモカとサラが追いかけっこをしている姿が見える。

 

「こうやって戦闘中は修理されるんだ……」

 

 ジムⅢビームマスターの姿を見て感慨に耽るユッキーに「まぁ応急処置だけどね」とキョウヤが付け加える。彼の言う通り応急処置では大掛かりな修理は不可能で、仮に片腕をバッサリと欠損した場合その腕は失敗リタイア成功含めミッション終了まで戻らない。

 

「それにしてもユッキーの新武器、良かったね! ビームとガトリングの切り替え、巧く行ってたし」

 

「ありがとう! 苦労して作った甲斐があったよ! リッ君のも良かったじゃない!」

 

「……うん。まぁね」

 

 お互いの新武器を讃え合いながらも少し歯切れの悪い返事をするリクの姿にカタナは少し気掛かりに思いながらも飽くまで無関心を装い、カタナは少し離れて再び視界を秋葉原駅周辺に向けた。

 

「――何を、考えているんだい?」

 

 キョウヤは何かに気付いたか声を掛け、カタナは少し鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてから口を尖らせ、小声で口を開いた。

 

「べっ、別に何も。つーかチャンプだって何を考えているんですか。バレバレっすよ」

 

「あ、あははは……ひ、人違いだよ。僕はチャンピオンに憧れた、ただの新人ダイバーさ。君も何処ぞのマスダイバー斬りに似ているような気がするが?」

 

「うははは……とんだ大型新人も居たもんですな。あの人はアストレイを使ってて俺はバルバトス、別人です別人」

 

「……ここはお互い、詮索しないようにしようか」

 

「……ですね」

 

 仮面の男と紳士服の男の間に妙な空気が流れ、すぐ近くにはモモカハロがユッキーの顔面に体当たりして追いかけっこが始まるというシュールな光景が繰り広げられていた。

 

 そんな中何を思ったのか、リクはこの場から離れていく。

 その姿にキョウヤは妙な空気を払って踵を返した。

 

「ん? キョウヤさん、何処へ?」

 

「彼と話をしてくるのさ。今の彼を放っておけなくてね」

 

「貴方らしいや……」

 

 だからこそクジョウ・キョウヤはチャンピオン足りえるのだ。それだけの実力と度量を持ち合わせている。しかし当の本人は本人じゃないと必死で否定しているが

 

「僕は別人だよ。チャンピオンとは。僕はただのチャンピオンに憧れた男、それ以上でもそれ以下でもないさ」

 

 振り返りモロバレな訂正しつつ、リクを追うキョウヤにカタナは苦笑いした。

 



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STAGE07 鈍色の風/黄金の風

 インターミッションエリアから出た時には既にリクの表情は晴れていた。キョウヤがどんな話をしたかはカタナには知る由もない。けれどもこうして晴れ晴れとGBNを楽しんでいるその姿が少し眩しく思えた。

 

 さて、本題に入ろう。

 インターミッション明けのこのフェイズにはウォルターガンダム、そしてラスボスとしてデビルガンダムが控えている。

 初心者用に低性能に落としているとはいえ、油断は禁物だ。そして()()()()()()()()()()としては――頃合いだ。

 

 モモカとサラは地上で観戦に入っており、その前には4機のモビルスーツが並び立ち、敵の出現を待つ。そして――

 

「来た……っ」

 

 カタナの声と同時に雷門の前に巨大な鉄の塊のようなものが落ちた。

 砂煙を巻き上げ、収まった所には3本の細長い脚で立つ肥大化した胴体と触手状の2本腕、それに付いた円盤状のユニットとそこから更に伸びる触手とクローアーム。

 その姿は文句なしのゲテモノと言えるその名も――

 

 ウォルターガンダム。

 馬に蹴られて地獄に落ちたガンダムがそこに居た。

 

 頭部のフェイスアーマーが動き、生物的な牙を晒す。

 最早機動兵器ではなく生物兵器とも言えようそれに警戒、咄嗟に4機は得物を構えた。

 

 

 が、

 

 ウォルターガンダムは突如先ほどの威圧感と禍々しさが嘘のように轟音を立てて崩れ落ちた。

 

『あれがこのフェイズの相手なのに……どうして』

 

 倒すべき相手が居なくなった。その事実に困惑するユッキーの声が通信越しで聴こえてくる。リクも同様どうすればいいのか分からずGNソードⅡライフルモードの銃口を下げあぐねている。

 

 しかし――キョウヤとカタナは違った。

 倒すべき敵が今この瞬間、眼前に居る。

 

 崩れ落ち、電子片となって消失していくウォルターガンダムの後ろには3機のジェガンが並び立っている。中心に要るのは黒いジェガンだ。ガンダムUCのエコーズ仕様に一見見えるがただのジェガンにゴーグル型強化センサーが付いているだけの別物だ。その左右には紫色のジェガンが並び立っており、そのいずれにも共通するものがあった。

 

 G()B()N()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『来たか』

『4機か、まぁ大したことないか』

『さっさと片付けよう。面倒は嫌いだ』

 

 ジェガン3機の操縦者の声が聴こえる。恐らく彼らが件の乱入事件の犯人か。擬装バルバトス第六形態はソードメイスを握り直し、いつでも戦闘に入れるように構えを取る。

 

『注意して、リク君、ユッキー君。彼らはマスダイバーだ』

 

『マスダイバー……?』

 

 当然、知らないリクが疑問符を浮かべる。

 無知は罪とは誰かは言ったが、こればかりは寧ろ知らない方がいい。厨二じみた物言いだがこれはGBNの闇だ。

 

『不正にガンプラデータを改ざんし、機体性能をシステムの範疇から外れたものにしている連中だ。まだ数は少ないけれど、初心者や下位ランカーを中心に増え始めている……出現からGBN内に色んなバグが見られるようになった。君たちも何か心当たりはないかい?』

 

 これだけならまだ別に良い(不正操作なので良くないが)。これの最大の問題点はバグだ。

 

『……そう言えば』

 

 何か心当たりがあるのか、リクが声を上げる。彼も何かしらのバグに遭遇しているようだ。

 カタナが知る、既に確認されているバグと言えば規定ダメージを越えたNPC機体が突然復活、ゾンビ状態になったという報告をカドマツから聞いた事がある。

 他にも設定された天候が突然豹変、竜巻が発生したり、ステージレベルが設定にそぐわないものに突如豹変したりしたという。

 他にも空間に穴が空く《クラック》なるものが発生しているという。

 

 リーダー格であろう中心に立つ黒いジェガンはバイザー型センサーを鋭く光らせ、通信を送って来た。

 

『オイ、お前たち。このミッションは俺たちがクリアしとくから、君たちはご苦労さん』

 

『はぁ?』

 

 小馬鹿にしたようなその男の声にユッキーがお前何言ってんだと言わんばかりに不満の声を上げる。当然だ、これまでの4人での頑張りはなんだったのか。突然チートで乱入をかましてきた奴に帰れと言われた挙句横取りされるなど冗談では無い。

 

『連戦ミッションなんて途中めんどくさいでしょう? ランクポイントを稼ぐには最後の美味しい所だけをいただくのが効率的ってオハナシ』

 

「チッ」

 

 取り巻きの紫色のジェガンの女搭乗者が小馬鹿にするような声色で言い、カタナは露骨に――というか相手に聴こえるように舌打ちした。

 

『何その舌打ち』

 

 反抗的な態度に逆上したか女の苛立った声が返ってくる。しかし構うものか。カタナは苛立ちのあまり言葉を連ねた。

 

「真面目にプレイしている奴がチート野郎に水差されちゃぁ、舌打ちの一つや二つしたくもなる。ふざけるんじゃないよ」

 

『ハッ、お前らの意見なぞハナから聞いていない、そろそろしてリタイアしてしまいな!』

 

 リーダー格が一蹴し、黒いジェガンがバイザー型センサーを持ち上げゴーグル型カメラを露わにし、手始めに一番近くにいたリクのダブルオーダイバーに接近する。

 直線的な動きだ。それでいて既に得物を構えている相手にその立ち回りは迂闊過ぎる。

 

 ダブルオーダイバーは即座にGNソードⅡでビームライフルを発射。

 が、その弾丸はいともたやすく弾かれた。

 

『気を付けて! 装甲の耐久値も高くなっている!』

 

 キョウヤの言う通り、黒いジェガンの装甲には傷一つ付いていなかった。腕部に仕込まれたビームサーベルを発生させて、それで突きを放つ。

 刹那、擬装バルバトス第六形態が割り込み、ソードメイスでその突きを防いだ。

 

「連戦ミッションに挑んだダイバーたちが次々と謎の異常な性能を持つモビルスーツの乱入でリタイア、失敗している事件が起こっていた。……それはてめェらか」

 

『それの何が悪いんだ?』

 

 あくまでも開き直るような態度を貫くマスダイバー。これは幾ら言葉を尽くしても意味はないだろう。そもそもアレは常習犯だ、であれば躊躇ってやる道理もない。

 

『不正に手に入れたデータで力を得るだなんて、そんなの卑怯だッ!!』

 

 吠えるリク。彼にも彼らには許しがたいものがあるのだろう。

 ユッキーとキョウヤも僚機の攻撃を躱し続けており、カタナはリクに通信を送った。

 

「リク。ユッキーの援護に入ってくれ。この黒いのは――俺がやる」

 

『大丈夫なんですか?』

 

「この手のあしらい方は慣れている。キョウヤも多分――ほれ」

 

 カタナが示した先には僚機のジェガンの攻撃を軽々と避けながら、ダークハウンドらしきものが背後に回り込んでいる姿だった。

 技量差は最早雲泥の差だった。チート依存の戦い方ではあのチャンピオンを出し抜くことなど到底叶いやしない。

 

 次に左膝関節のジョイント目掛けてドッズランサーを突き刺し、追撃のドッズガンをありったけ叩き込んだ。高い防御力を持っていたとしてもここまでやられれば限界は来る。左足を破壊され、バランスを崩したジェガンは前のめりに転げ落ちた。

 

 そこに何かを掴んだかリクは「こいつはお願いします、気を付けて!」と言い残してユッキーの援護に回った。その姿にカタナの口の端が持ち上がる。

 さぁお仕置きの時間だ。

 

「あいよ。お願いされたッ!」」

 

 ひとまず長い鍔迫り合いから脱する為に黒いジェガンを蹴り剥がした所で、すかさず地表のアスファルトを抉るように蹴る。初動、加速、得物の構え。全てにおいて完璧な状態で蹴り飛ばされ体勢を立て直したジェガンに肉迫し、勢いよくソードメイスで斬りかかる。

 

 普通のモビルスーツなら貰えばひとたまりもない一撃だ。が、しかし。

 黒いジェガンは避けずに腕一つで受け止めた。

 

 そうだ――相手はもう普通じゃない。

 

『渾身の一撃のつもりだったか? 残念だったな、無駄だ。無駄無駄ァッ。俺にはな、お前みたいな糞真面目にやる奴が滑稽に見えるぜ!』

 

 ジェガンの操縦者は嘲るように吐き捨てる。

 不正をやっておいて自身を正当化する為に他者を嘲る。その行為に尚の事カタナの心が冷めていく。

 

「じゃあなんでお前そこにいんだ」

 

『さてはお前、苦労の果ての結果にこそ価値があると勘違いしているクチか? 失せな、老害。年寄りの時代は終わったんだよ』

 

 鼻から笑いが出た。

 怒りの沸点はそこじゃない。的外れな男の指摘にカタナは鼻で笑った。

 黒いジェガンは片腕でソードメイスを受け止めた状態で、空いた腕でビームサーベルを振るい、後退するも擬装した装甲を掠めた。

 

 このダメージでついにジャミングが完全にほつれ切った。

 装甲にテレビの砂嵐のようなノイズが走り、ガンダムバルバトス第六形態だったそれはそのシルエットを消す。そして黒と赤と基調とした陣羽織型のアーマーを纏うアストレイタイプが姿をあらわした。

 

『ソードマンかよ!』

 

 その名も――ガンダムアストレイ・オルタナティブ。

 

 代替品、二者一択の名を冠する王道から逸れた者(アストレイ)だ。

 

 それを見た黒いジェガンを操る男の声に怯えが混じる。それなりに自分の名は売れているようで、反応からして擬装して正解だったようだ。初心者と勘違いしてホイホイ現れてきたのが運の尽きだ。

 全力で叩き潰す。

 そう決意したカタナは力強く操縦桿を握りしめた。

 

『だが、そんなヘナチョコな一撃でやられるかよ!』

 

 虚勢混じりの威勢と共に左腰にマウントしたハンドグレネードを引き抜き投げつける。――が、無造作にグレネードを腰から引き抜いた日本刀型近接ブレード《千子村正》で切り捨てられ後方で爆ぜた。

 

 後ろからの強烈な逆光でアストレイ・オルタナティブの姿が黒く染まり、千子村正を納刀し再びソードメイス一本に戻りながらゆらりと幽鬼の如く前に歩み出る。

 

「そうか――じゃァ()()()()()()()()良いんだな?」

 

『何……』

 

 ジェガンの操縦者が困惑の声を上げている間に、カタナは口の端を持ち上げながら操縦席でコンソールを操作する。画面には2択の選択肢が表示されていた。

 

 《CAST-OFF READY?》

【GO】

【NO】

 

 【GO】をタッチすると機体に変化が生じた。陣羽織型の装甲の各部が浮き上がり、カタナは小さく呟いた。

 

ジンバージャケット(追加装甲)――解除(キャスト・オフ)

 

 声に応えるように浮き上がった装甲はジェガン目掛けて弾け飛んだ。勢いよく飛ばされた装甲はそれそのものが凶悪な兵器と化す、装甲のパーツをぶつけられたジェガンは大きく怯み、操縦者が気付いた時には拘束具から解き放たれたアストレイ・オルタナティブが接近。ソードメイスを振るう1秒前だった。

 一閃、ジェガンを殴り飛ばす。

 ビルにその身を叩きつけられたジェガンは咄嗟に立ち上がろうとするものの、オルタナティブの掌から射出されたワイヤーでその片腕を掴まれ、引き寄せられ再びソードメイスで一閃。曇天に向かって再び吹っ飛ばす。

 

『なんだコイツ! 速いッ!?』

 

 先程の陣羽織型の装甲を纏っていた状態でもそれなりに速かったが今のパージした状態ではそれ以上のスピードを持っている。

 外見は通常のアストレイのプロトタイプシリーズをベースにしたもので、白を基調とした装甲に黒い剥き出しのフレームを持つ。陣羽織型の追加装甲《ジンバージャケット》を解放し、得物こそソードメイスと千子村正と変わりはないが、防御力を犠牲に圧倒的機動力を獲得した。

 

 助走を付けて、地面を蹴り飛ばす。

 大きく跳躍したオルタナティブはトドメにジェガンをソードメイスを振り下ろし、地面に叩き付ける。

 

『ごふぅあッ』

 

 大きくクレーターを作って道路の上で磔になるジェガンを見下ろしながら、スラスターをカットした。

 

「――こいつでシメーだ……!」

 

 重力に従い、オルタナティブが自由落下を始める。この落下の勢いに乗せたソードメイスの一撃を受ければ幾ら強固な装甲だろうがお陀仏だ。

 

「クソッ! リタイアだ! なんでリタイア出来ねえんだよッ!!!」

 

 リタイアしようとしても何故か出来ないらしい相手の声を耳にしながら、ソードメイスを逆手持ちに切り替え、落下の勢いに任せて先端をコックピットに――

 

 

 突き立てられなかった。

 

「何っ!?」

 

 落下中、センサーが反応すると同時に横から何か黒い鳥のようなものが邪魔をした。咄嗟にソードメイスの刀身で防ぎ、ダメージこそ免れたが攻撃は完全に無効化されてしまった。落下の軌道は先ほどの攻撃で逸れ、やむなく道路上に着地。

 その横槍を入れた鳥を見据えた。

 

「黒い……鳥?」

 

 赤と黒のボディと赤色の入った翼。金色の爪。

 モビルアーマーかこいつは。ビーム砲を撃ちながら再び体当たりを仕掛けてくるそれをいなしながら、舌打ちした。

 

「まァだ居たってのか……!」

 

 ソードメイスを地面に突き刺し腰にロックしていた千子村正を外し、手に持つ。

 いつでも抜刀できるように黒い鳥を睨みつける。幸いあちらはマスダイバー特有の黒いオーラのようなものはなく、普通に戦えば勝てるのが分かり内心ほっと胸を撫で下ろす。

 とはいえマスダイバーに加担する割には力を使っていないのが少し意外だ。

 再び体当たりを仕掛けようとするそのタイミングで斬り捨てればこの鳥は排除できるはずだ。構えを取り、意識があの黒い鳥に集中した刹那。

 

 

 

 

 その時――音を立てて空が割れた。

 

 何の比喩でもなくその言葉の通りだ。割れた空には得体のしれない空間だけがあり、そこから機械仕掛けの触手が伸びた。

 その大きさはモビルスーツと同じ、場合によってはそれ以上のものでその特徴的なものにキョウヤとカタナには心当たりがあった。

 

「『デビル……ガンダム』」

 

 触手は東京の街に突き刺さり、ひときわ大きな穴からはぬらりと巨大なガンダムの頭が姿を見せる。そのガンダムの顔は顔であって顔にあらず。頭頂部からは脊椎のようなものが伸び、ガンダムタイプの上半身があった。

 

『……なんか、ヤバそうな雰囲気。撤退した方がよくね?』

 

 リクとユッキーが対峙していたジェガンの搭乗者が言うも、ソードメイスで一頻り殴り倒されたリーダー格が叫んだ。

 

『クソッ! さっきからやってるが撤退出来ねえ!』

 

 バグの影響でエラーが出ているのだろう。で、あれば一度撃墜されなければこの場から出ることは不可能だ。

 地面から生えるように現れた触手の先端にもガンダムの生首が現れる。ガンダムヘッドと呼ばれる子機だ。おびただしい数のそれが東京の地面から生えるように現れていく。

 

 一番ダメージのないジェガンはシールドランチャーや得物のショットランサーでガンダムヘッドを撃つも、ダメージらしきものはなく射出されたショットランサーの先端はガンダムらしからぬクラッシャーを展開したその口でかみ砕かれた。

 駄目だ。これでは勝てない。そう悟ったそのジェガンは一目散に逃げようと背を向けると、ガンダムヘッドは口から黄色いビームを撃ち出し逃げるジェガンを焼き払った。

 

『あっ、待って。私は……ッ あああぁぁっぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!』

 

 次に片足を破壊されて道路の上で転がっているジェガンだ。こちらは別個体のガンダムヘッドにそのクラッシャーで四肢を噛み千切られ、コックピットをかみ砕かれ爆散。

 これが仮想空間でなければ相当グロテスクな光景だっただろう。下手したら中身もかみ砕かれ圧死、死体もミンチより酷いことになっていたに違いない。

 ふらりと立ち上がったリーダー格のジェガンもまた――

 

『おい、助けてくれ。ソードマン!』

 

 縋るように助けを請うジェガンに、カタナは頭を掻く。あそこまで悪行かましておいて助けてくれると思っていると本気で思っているなら厚顔無恥も甚だしいものだ。

 あの突然現れたデビルガンダムは初心者レベルで湧くような強さでは無い。恐らくバグの影響で上級者向けの難易度のエネミーデータが出現してしまったもの。要は身から出た錆だ。

 あの黒いモビルアーマーが助けに来るんじゃないかと思ったが、いつの間にかセンサーから消え去っている。どうやら連中は見捨てられたようだ。

 

「チート使って妨害行為やら好き放題して、自分でこの事態(バグ)招いておいてあっつかましい奴だなぁ……リタイア出来ないってんなら撃墜されてデスルーラされろ。そっちの方が手っ取り早い。これに懲りたらチートなんざ使うんじゃねーぞコラ」

 

 ガンダムヘッドの群れが口を開き、口内のビーム砲をむき出しにする。ジェガンとオルタナティブ諸共消し飛ばすつもりなのだろう。咄嗟に跳び避けたオルタナティブを他所にジェガンはビームに焼かれ、僅かな破片を残して消し飛んだ。

 

「ったく野郎……!」

 

 乱入者が全滅し、リク、ユッキー、キョウヤ、カタナの機体が集まり、眼前に聳え立つデビルガンダムという名の巨体を見上げる。

 彼我の体格差は圧倒的だ。子猿が像に挑んでいるようなもので、今の手持ちの火器で沈められる程の火力はいずれの機体も持ち合わせていない。これがもし、石破天驚拳やらトランザムライザー級のトンデモ火力があれば別だが。

 

 ない物ねだりしても時間の無駄だ。こうなればチマチマダメージを与えていくしかないか。

 カタナは思考しながら、このデビル包囲網の隙をセンサーで必死に探し回る。

 駄目だ、単騎では困難だ。

 バグの原因が切除された現状、リタイアも出来る。とはいえ――何だか癪だ。ここまでやってきて置いて逃げるのは腹が立つ。

 

『皆離れて。こいつは僕が何とかする』

 

 キョウヤのダークハウンドらしきものが3人の前に出る。確かにチャンピオンの腕前なら勝てるだろう。とはいえこのデビルガンダムはまがりなりにも協力を前提にしたミッションのボスキャラだ。単騎で勝利するのは相当骨が要るのは目に見えていた。

 

『そんなの無茶だよ!』

『オレも戦います! ここまで一緒に戦って来た仲間じゃないですか!』

 

 ユッキーとリクが口々に名乗り出、最後にカタナも同じく機体を前に出す。

 乗りかかった船という奴だ。

 

「俺も一緒に行く。幾らあんたでもアイツ相手じゃ相当時間が掛かるでしょうキョウヤさん。確かにあんた程の腕前こそないけれども弾除けくらいにはなります」

 

 

 

 

『……有難う。皆』

 

 さて、引き続きこの4機で戦うことになったものの、いかにしてあの化け物に勝利するかが問題だ。

 チャンピオンが居るだけでも相当なアドバンテージだとはいえ、ガンダムヘッドの群れが邪魔で中々攻撃が出来ないのが現状。

 右向けばガンダムヘッド、左向けばガンダムヘッド、前向けばデビルガンダムとガンダムヘッドという地獄絵図。数えるのがバカらしくなるような数のガンダムヘッドがビームを放ち、即座に4機は散開、回避行動に出た。

 

 噛みつきにかかるガンダムヘッドを千子村正で両断しながら、どこから攻略したものかと思考しているとモニターがモモカを抱えたサラの姿を映した。

 

「ッ!!」

 

 大量発生するガンダムヘッドからこの広大な街中を逃げ回っている。ビルとビルの間を駆け、外に出たら最後、無数のガンダムヘッドが口を開け鎌首を擡げて待っていた。

 獲物を見つけたと言わんばかりにそのツインアイを禍々しく光らせる。

 

「――拙いッ!!」

 

 慌てて庇いに出ようとしたが、別方向のガンダムヘッドが放つビームが行く手を阻み、カタナは苛立つ。このままでは――やられる。

 サラは即座に踵を返して逃げ出すが、人間の脚でガンダムヘッドのビームから逃げるのは絶望的だ。このままモモカごとサラが消し飛ぶのを待つしかない。

 カタナが歯噛みし、庇いに行く余裕も距離も無いリクとユッキーが叫ぶ。そして――

 

 

 唯一ダークハウンドだけが割り入った。

 

 サラを庇う形で着地し、防御姿勢も取れないままおびただしい数のビームをその身に受ける。黒いボディがビームに焼かれ、崩れ落ちていく。装甲が割れ落ちていく。

 あれだけのビームを受ければひとたまりもない。が、キョウヤのダークハウンドの崩壊は途中で止まった。

 

 巻き起こる爆煙を払い、炎の中立ち上がる一つの陰。

 その機体をカタナは、リクは、ユッキーは知っていた。ガンダム型の頭部、明るめの黒と白を基調とした装甲。ブレードの付いた4枚の肩部ウイング。その姿はまさしく――

 

 ガンダムAGE-Ⅱマグナム

 

 チャンピオン、クジョウ・キョウヤ操る愛機だった。

 

『怪我はないか二人とも! 早く安全な所へ!』

 

 キョウヤは何とか一難を免れたサラとモモカに逃げることを促しつつ、機体の体勢を立て直す。

 

『やれやれ……折角のアウターパーツが壊れてしまった。……ダイバーを直接狙うなど言語道断ッ!! その悪しき機体、僕が討ち取るッ!!!』

 

 圧倒的な数のガンダムヘッドと自身より何倍ものサイズのあるデビルガンダムを前にしても威風堂々と立ち向かうその姿。まさしくチャンピオンの出せるものだ。その光景を前にリクとユッキーもまた確信する。彼はチャンピオン『クジョウ・キョウヤ』だと。

 

 肩部のブレードの付いたウイング型ファンネル《Fファンネル》を外し己が剣として、飛翔。迎撃しようとガンダムヘッドがビームを放つと、それを最低限の動きで回避、手に持ったFファンネルで弾き返し、ガンダムヘッドに返して破壊していく。

 

 

 強い。

 

 カタナ自身にもビームを弾くという発想はあってもここまでの成功率はない。リクたちにもあの絶望的な弾幕の中で平然としている彼の姿に目を奪われていた。

 今のキョウヤ操るAGE-2マグナムは一切の被弾もなく、デビルガンダムへ有効射程まで接近し、Fファンネルでデビルガンダムの下半身の巨大な頭を支える触手を斬り裂き、バランスを崩させた。

 

 そして、Fファンネルを全て手元に集めて合体。それを天目掛けて射出した。

 雲が――裂けた。Fファンネルは曇天を突き破り跡には黄金の光の刃を残す。溢れんばかりの陽光が降り注ぎAGE-Ⅱマグナムの装甲を神々しく照らし出す。

 

 この技を知っている。チャンピオンが必殺技を撃とうとしているのだ。それを察したリクとユッキーは邪魔をしようとするデビルガンダムの肩部から生えた腕から射出された爪をGNソードⅡライフルモードとチェンジリングライフルで撃ち、迎撃。

 別方面で襲い掛かるガンダムヘッドの残党はカタナが千子村正で通り抜けざまに斬り捨てた。

 オルタナティブが通り過ぎた跡にはガンダムヘッドの長首が斬られ、倒れていく。

 

 これでお膳立ては出来た。

 AGE-Ⅱマグナムの手には天空に伸びた黄金色の剣が出来上がっている。刀身はデビルガンダムの全身を真っ二つに斬り裂けるほどに大きく、長い。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 叫びと共に振り下ろされたそれは雲を裂き、デビルガンダムの装甲をいとも簡単に切り裂き、焼き切った。

 EXカリバー。かのアーサー王が持っていたとされる聖剣エクスカリバーの名を借りた必殺の一撃はありとあらゆる装甲を斬り裂き焼き尽くす。

 それが――クジョウ・キョウヤの必殺技であった。

 

 雲が祓われた蒼穹の下、大地に立つその機体に王者の風が吹いた。

 

 

 ◆◆◆

 

 このままさっさと退散しようと思った。

 これ以上悪評のある人間と一緒に居るのは初心者であるリクとユッキーにとっては得じゃない。それを無視して自ら関わろうとしているマギーたちのような例外はあれど二人は関わる事は望んじゃいないのだ。

 

 だというのに――

 

「済まなかった。騙すような真似をして。この通りだ」

 

 受付エリアに帰還するや否やキョウヤと一緒にいつもの衣装に戻って謝らされていた。

 いや確かに、自分が初心者と偽って初心者に混ざってあれこれしていたのは確かに良くはないしキョウヤの言うことは尤もではある。

 とはいえ、リクたちは一つも怒ってはおらず謝るキョウヤとカタナに少し困り気味であった。「何故謝るのか」と言わんばかりの困り様だ。

 

「最近、下位ランカー向けのミッションにマスダイバーたちによる乱入事件が起きていると聞いてね。その調査に出ていたんだ。彼も同じくマスダイバーを倒し続けていて偶然一緒になってね。この姿だと少し目立ち過ぎるからね、少し変装をしたのさ」

 

 チャンピオンとなるとそのアバターは広く知れ渡ることになる。いくらチート持ちでも態々チャンピオンの前に現れる間抜けもそうそう居ない。加えて初心者用ミッションにチャンピオンという構図はあまりにも不自然に思われる。

 その為の変装であり、アウターパーツなのだ。今のキョウヤは黒い外套を着た金髪の青年だ。

 

「仮面の人でも充分目立ってたけどね……」

「あぁっはは……」

 

 ユッキーのツッコミにリクが苦笑いする。流石にあの変装では無理があるというものだ。ダークハウンドに機体を化けさせてもあの卓越した操作技術を誤魔化せてはいない。

 

「でも結果的に君たちを危険な目に遭わせてしまった」

 

「気にしないでください! チャンピオンのバトル、間近で見られたし!」

「凄かったです!」

 

 ユッキーもリクも全く気にしていない様子で、喜色満面の笑みで返す。良い子で良かったとカタナはホッとした。

 

「見て貰った通り、マスダイバーたちの影響でこのゲーム内でバグが生まれ始めている。僕はそれを何とかしたい。カタナ君、彼もまた同じ思いだ。GBNの世界を守りたいんだ。また何かあったら協力してもらえるかな?」

 

「「はい!!!」」

 

 ほぼ即答だった。チャンピオンの影響力、恐るべし。

 キョウヤの言ったバグは今後とも増えていく見通しだ。これを放置してはGBN存亡の危機となる。それをチャンピオンとして看過できないのだろう。

 カタナもいちユーザーとしてこのGBNの世界を壊させたくはない。だからひたすらマスダイバーを斬り続けている。

 

「オレもGBNの世界が大好きです! いつか――貴方と戦いたい! 戦えるようになれますか!」

 

「……待ってるよ」

 

「はい!」

 

 正しく強くなろうとするリクに期待が湧く。いつかこの少年が強くなり、チャンピオンに肉迫するほどの強さを得られたとしたら。それはきっと戦い甲斐のある相手になるに違いない。

 そんな強い相手と斬り合えるようになれるのならこんなに嬉しいことはないのだ。

 

 カタナはさりげなく少し離れ、楽しみだと思いつつ退散しようとした矢先リクに呼び止められた。

 

「カタナさんも凄かったです! オレもいつか、カタナさんみたいに巧く剣を使えるようになりたいです!」

 

 リクのワクワクした表情にどうしたものかと思い後頭部を掻く。こうやって真正面から憧れられるのは初めてなのもあって反応に困る。

 

 こんな時どういう顔をすればいいのだろう? えっ笑えばいいの?

 

 必死にあれこれ考えた結果、少し苦笑いで振り向いてみた。

 

「買いかぶんな。お前さんにもお前さんの戦い方ってのがあるはずなんだから。無理に真似せず、自分のスタイルを見つけな。それに知らないのか? 俺は人斬りソードマンだぜ?」

 

 自分で自分を傷付けるような言葉がいつの間にか口から出ていた。

 正直ソードマンなるあだ名も敵意が籠っていて好きでは無いし名乗りたくも無かった。それを自分から名乗ろうとしているのは多少参っていたのかもしれない。

 

「噂では聴いてます。でも違うんですよね」

 

「……っ」

 

 リクの返しに言葉に詰まった。その言葉には疑念は一つもなく確信の籠った言葉が尚の事カタナを怯ませる。

 

「少なくともオレはそう思います。噂が本当ならチャンピオンと一緒に戦ったりはしない。オレたちと一緒に戦ったりはしない。そうでしょう?」

 

「……気のせいだ。もしかしたら演技かもよ?」

 

 あまりの持ち上げように気恥ずかしくなる。寧ろ怯えられる方がマシなまである。しかしキョウヤがカリスマ特有の笑みで後ろから容赦なくトドメを刺して来た。

 

「それにしては手が込み過ぎているけどね。照れ隠しで壁を作り過ぎだよ、全く」

 

「…………」

 

 ブルータスもといクジョウ・キョウヤ、お前もか。

 フリーズしたカタナは心の中で恨み言を言いつつ、ログアウトポイントを見つけるや否やそこ目掛けてダッシュを始めた。

――えぇい! ずけずけと人の中に入りおってからに! これ以上こんなとこに居られるかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!

 

「あっ、逃げた」

 

 後ろからユッキーの辛辣なツッコミをものともせず走る走る走る。

 その様にサラが曇り一つない澄んだ瞳で更なる追い打ちをかけた。

 

「照れ屋さん?」

 

「うるせえええええええええええええええええええええッ!!!」

 

 

「お前がうるせえよ!」

 

 通りすがりのパトリック・コーラサワー似のダイバーのツッコミを受けながらカタナはログアウトした。




 名称:ガンダムアストレイ・オルタナティブ
 型式番号:MBF-P02ALT
 身長:17.7m
 概要:イズミ・カナタが制作したガンプラ。ベースは型式の通りレッドフレームであり、それを無数のジャンク品及びパーツを使って製作している。そのため、オリジナル以上の機動力と跳躍力を獲得している。
 特筆すべきは素体の形状こそ大きな差異は無いが追加装甲の装着が容易なようハードポイントが幾つか設けられている点。
 ジンバージャケットと呼ばれる追加装甲を纏い、アストレイらしからぬ防御力を獲得。索敵性能も向上している。
 他にも様々な機能が隠されているようだが……


 武装
1《イーゲルシュテルン》
:言わずと知れた頭部バルカン。使用機会がまるでない現時点では未使用武器。
2《ソードメイス》
:メインウェポン。元々アストレイの武器ではなく、斬るというより殴る用途の剣であり強度もある為シールド代わりとしても機能する。
3《千子村正》
:日本刀型近接ブレード。早い話がガーベラストレート。
4《ワイヤーランチャー》
:掌に仕込まれたワイヤーを射出する機能。遠方の相手を捕縛しこちらの距離に引き寄せることが出来る。更には相手を拘束し必殺仕事人紛いの事も可能。
5《???》
:???
6《???》
:???

 


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STAGE08 アルバイト、始めました

「アルバイト? ばーさん正気か?」

 

 ある日、カナタは学校が終わり帰宅すると、自宅の古鉄やの戸に貼り紙がされていた。

 アルバイト募集中。元々古鉄やで働いている人間は碌におらず、強いて言えばカナタと店主の祖母だけだ。

 

 アルバイト募集の貼り紙に驚愕している間に先ほどの独り言が聴こえていたのか心底面白くなさそうな顔持ちの祖母が戸を開けて現れた。

 

「お前さん、あたしが運動しに行ってる最中にずっと家に籠るつもりかい? あんたこそ正気かい」

「がきんちょに混じって草野球やらサッカーするアグレッシブなばーさんに正気を疑われたくねぇ。でも、アテはあるのか? そもそも雇えるほどの売り上げはあるとは到底……」

 

「それはあんたが考えることじゃない。今はあたしの店だからね」

「そりゃそうだけど……」

 

 いつのまにか自分の知らないところで話が進んでいるのが、何だか面白くなかった。

 状況をうまく飲み込めずにいるカナタは取り敢えずそのアルバイトを店内で待つ事にし、じっと閉められた戸を見つめ待ち続ける。

 

「あ、来た」

 

 戸の白濁としたガラス部分に黒い人影が映る。サイドテールらしき頭のシルエットからして女の人か?

 しかしその見憶えのあるシルエットに顔をしかめた。シルエットはまじまじとその貼り紙を見てから戸がゆっくりと引き開かれそのシルエットの正体が明らかになる。開かれて行くにつれカナタの表情が徐々に引き攣って行った。

 

「あの、アルバイト募集の貼り紙を見て来ましたフジサワ……」

 

「知ってる。入って」

 

 無意識に口からそっけない声を出していた。

 フジサワ・アヤ。どうやら彼女もガンプラビルダーらしくパーツ取りの為にちょくちょくこの店に訪れている。今回は客として、ではないらしい。

 

「じゃぁ、面接頼んだよ」

 

「へ? なんで俺が」

 

 祖母にポンと肩を置かれてカナタは眼を丸くした。そういうのは店主がやる事じゃないのか。それを孫に丸投げとはどういう事だ。

 

「第一次面接ってやっちゃ」

 

「そんな厳重な……バイトに対してやることかよ」

 

 バイトは面接大体1回だろうにと心の中で愚痴りつつ、ある時は買い取りとかでの相談場、ある時は子供が屯するテーブルに着かせた。今回は面接会場だ。

 祖母はいつの間にか裏に消えており、1対1となっている。カナタはアヤの向かいに座り、一つ溜息を吐いた。

 相当緊張しているのか肩が持ち上がっており、目も泳ぎに泳いでいる。見知った顔なのにそこまで緊張するのかと猶更面白くない気持ちになりながら口を開く。

 

「にしてもまさか、真っ先にお前さんが食い付くとは思いもしなかったよ。まぁ人となりはそこそこ知っているつもりだし気楽に気楽に」

 

「は、はい」

 

「俺の面接なんざたかが知れているんだからそんなガチガチにならんでも……にしても何でよりにもよってウチなんだ。そこがちょっと気になる」

 

「えっと……あの……わたしの家周辺あまりアルバイト出来る所が少なくて。それでそこそこの距離でーってなるとここが立地的に丁度良かったから……」

 

 しどろもどろな物言いに大丈夫なのだろうかと心配になる。いやまぁそこまでこの仕事は忙しくはないし、どちらかと言えば盗みはしない信用のおける人間の方が重視される。加えて彼女の場合盗みをするというにはあまりにも仕込みが長すぎる。ついでにこの古びた店に見合ぬ監視カメラもきっちり付けていたりする。

 しかしながら祖母がどう見るかが問題である。

 

「まぁ、知らん店よりは敷居が低くいし、こちらとしても知らん奴が来るよりは割と楽だわ。にしてもばーちゃんが未知数でなぁ。何を考えているんだか……」

 

「そんなに?」

 

「お前さんだって知ってるだろ? うちのばーさんがその辺のばーさんじゃないって事」

 

「確かに」

 

 互いに神妙な顔持ちで頷き合い、お互い裏の出入口を見る。そこには祖母の姿は無く恐らく2階に上がっているのだろう。

 

「取り敢えず何曜日に出られるか分かるか? その辺教えて」

 

 戻って来ることが期待出来ない現状取り敢えずバイトに必要な日数やら今後どれくらい働く予定なのかを訊いてみる。別に志望動機なぞ訊くほどのものでもない。

 近くにあったし敷居が低かった。それだけでカナタには充分だった。

 

 一頻り訊き、彼女の話をメモしてからパタンとメモ帳を畳んだ。

 

「ここまで訊いといて悪いけど、多分一旦帰って貰う形になると思う。こんな店でも形式上履歴書が要るだろうしさ」

 

 脱力気味に立ち上がり、裏に入る。しかし祖母の姿は――

 

「ばーさん何それ」

 

 裏の階段から降りて来ていた。手には盆を持っている。

 

「茶菓子」

 

「お、おう?」

 

 それでいいのか。2段階形式の面接を構えたと思ったら今度は茶菓子。堅苦しいのか緩いのかどっちつかずなちぐはぐさにカナタは目を丸くする。

 盆に乗っているのは麦茶と塩味のポテチだった。

 

「どうだった」

 

「どうだったっていつも通り。結構緊張してるっぽいけど。取り敢えず出られる曜日はこの通りメモに書いておいた。自宅からだとバイト出来るとこ殆ど無くて、幸い近めのここでバイトを募集をしていたって感じ。接客苦手そうな感じだけど、別に警戒するような奴じゃないし俺としてば別に構わないと思う」

 

「相当入れ込んでいるようだねェ」

 

「友人と思っているつもりだから多少の贔屓は許してくれよ。てか補正が入るような俺をなんで面接官にって――おーい無視かばーさん……」

 

 言うだけ言って表に出てアヤに茶菓子を出している。その有様を裏から見ていたカナタはこめかみを指先で叩いてから表に出た。

 アヤの顔を見ると意外そうに、その差し出されたお茶とポテチに目を丸くしていた。当然だ、面接が終わったと思ったらポテチと麦茶が出るなんて誰が予想するか。

 

「お、お構いなく」

 

「まぁ食いな。別に取って食おうって訳じゃァない。ガッチガチだねェ……」

 

 祖母の意外とラフな物言いと茶菓子で徐々に緊張が解れたのか、湯呑の冷たい麦茶をようやく一口。カナタは少し離れた所でそんな彼女と祖母の姿を見ていた。

 

「あんたの顔は覚えているよ。毎回ちっこいの(BB戦士)買いに来るから覚えちった。働きたいんだって? 知った顔な分、やりやすいってモンさね」

 

 同じようなこと言ってる。と言いたげにアヤが祖母とカナタを交互に見て、カナタは「やめてこっちみないで」と口を3の字にしてからしゃくる。

 

「まぁ、ゆっくりしていきな。盗みや殺しと壊しをせん限りクビにゃせんよ」

 

「良いんですか?」

 

 アヤの質問にカナタの祖母は頷いて返し、自分で出した皿の上のポテチを一口頬張った。アヤも同じくその皿からポテチを摘まみ一口。

 

「華々しさもない所に態々働きに来ようとしてくれている娘を無碍に扱えるものかい。履歴書出してくれればソイツでお終いさね。うちのアレ(カナタ)も高く買っているようだし、アレの目を信じるよ」

 

「?」

 

 高く買っていると言われアヤがカナタを見る。ちょっと驚いている風だ。

 ――ばーさん何を余計なことを

 彼女の視線にカナタは誤魔化すように「俺は知らないからね!」と目を逸らす。変に思われたらどうするんだと抗議の視線を祖母に向けるが祖母は全く悪びれもしなかった。

 

 ――今後仕事中気まずくなったら恨んでやるぅぅぅ

 

 ◆◆◆

 

「……で、物売りにきたのが来たら保留。判断は店主というか、ばーさんがやるから。もし俺もばーさんも不在の場合は客の情報を控えておいてくれ。これがその受付票な。ここに必要な客の情報を書くとこがあるからそれを訊いてからばーさんに引き継ぎ。ばーさんが居る時にまた出直して貰うって感じだ」

 

 数日後の昼下がり。

 あっさりと採用されたアヤはカナタからレジの操作方法と売却に来た客の対処の仕方を説明を受けていた。

 そこには気まずさは無く、アルバイト始める前のいつも通りの変わり映えしない空気のやり取りだ。

 

 アヤがアルバイトをしようと考えたのは突発的なものに等しかった。

 特別金に困っている訳でも無く、近くにバイト出来る所が無かったのも実を言うと嘘だ。それを証拠に近所のファミマがアルバイト募集の貼り紙をしている。

 

 のんびりとした空間が好きだったのが大きいだろう。気だるげにジャンプを読んでいるカナタとカードパックに一喜一憂したり屯する小学生たちを見守ったり、暇な時に売り場に出している商品にまつわるしょうもない無駄話に花を咲かせたり。

 でもそれは自分が客であるという大義名分が無いと憚られる所がある。冷やかしでここに来て居座って、カナタが良い顔をするはずがない。

 

 ここに居るのに大義名分というものが欲しかった。

 

 だからこのアルバイト募集の貼り紙を見た瞬間、衝動的に臨んでしまった。いざ挑んでみたはいいが、こっぱずかしくなった挙句緊張で固まってしまった。

 けれども店主であるカナタの祖母曰く、自身を高く買っていると言われた時は信じられなかった。本人はそっぽを向いていたのでもしかしたらカナタの祖母の冗談だったのかもしれないが。

 

 本当にこれで良かったのだろうか。という疑問はある。

 流れで採用されてしまい、募集もそれでお仕舞いとなりこれ以上新しくアルバイトが来ることは当面なくなった。

 これで良かったのか。ただ自分の衝動的なものでアルバイトの枠を潰してしまったようなものだというのに。

 

 そんな卑屈になる自分が居るけれども、今ここで逃げてもそれはそれで迷惑なことだと咎める自分自身も同居している。

 もう引き下がれないなら迷惑にならないくらいにはならなければと、カナタの説明に耳を傾ける。

 

「やる気満々なのは嬉しいけど、そんな肩肘張らんでも。そこまでお堅い仕事でもないんだからさ。のんびりやろうや」

 

 そう、カナタが笑顔で言ってくれて少し気が休まった。

 



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STAGE09 そうなんだよ、遭難だよ。

 ペリシア編、前篇です(震え声)。


 基本的にガンプラを組むのは深夜だ。早めに寝て、深夜中に起きて外に隠したガンプラの箱と製作キットを家に持ち込み組み上げるのが日課になっている。

 あれからというもの、ガンダムMk-Ⅱを一度分解して組み直した。

 

 ゲート跡の処理や簡単な塗り直しとスミ入れを施す。

 これで少しはマシになるだろうかと思いながら初心者特有の不器用な手つきで深夜の時間帯を縫って作業を進めていく。

 

「……ふぅ」

 

 四肢の再構築がひと段落した所で、時計を見ると6時を回っている。窓もやや明るみ始めておりそろそろ潮時だろう。

 今日は土曜日とはいえ深追いは禁物だ。特に母に見つかれば何をされるか分かったものではない。

 

 

 かの初心者狩り事件から数週間ほど経った。

 自分は僅かでも進歩しただろうか?

 作業を終え、机に一旦置いたガンダムMk-Ⅱを見てシュウゴはふと思う。

 

 結果的にどう動けるのかは実際に動かして見なければ分からない。いつものように図書館で自習しに行くふりをして模型店にでも行ってみることにしよう。

 

 

 今抱えているこの感情を「楽しみ」と言うにはあまりにもその3文字はあまりにも物足りないものだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 朝は母に都合のいい存在を演じて昼は外に出て好きにする。休日そんな行動パターンが最近出来上がりつつある。いつものように離れた街の模型店でログインすると、受付広場でリクたちに偶然出くわした。どうやらリクたちはある場所に向かおうとしていたようだ。

 

「ゴーシュさん、お久しぶりです」

 

「あぁ……お前たちか。久しぶりだ」

 

 リク、ユッキー、サラと見知った面々の中に見ない顔が1人。ピンクの長い髪をたなびかせ獣の耳、としっぽを生やした少女型ダイバーの姿があった。

 

「えっとこの人は?」

 

 ピンク色の髪の少女が訊くと、リクが彼女の方を向いて応えた。

 

「ゴーシュさん。オレたちと同じぐらいに始めたダイバーだよ」

 

「ふーん……」

 

 見ない顔が見知った顔で友人とやり取りしているのであまり状況を掴めていないのだろう。リクのちょっと後ろからまじまじとゴーシュの顔を見てくる。その辺の免疫の無さもあって少し居たたまれなさを感じていると、ようやく少女は凝視を止めた。

 どうやら、自分が凝視していることに気付いたらしい。気を取り直した少女は佇まいを直して名を名乗った。

 

「あ、わたしモモk……じゃなくてモモです!」

 

「……ん。改めて、俺はゴーシュです」

 

 自己紹介を終えた所で、ユッキーが思い出したように切り出す。

 

「あ、そうだ。ゴーシュさんも一緒にペリシアエリアに行きませんか?」

 

「……ペリシア?」

 

 初めて聞く地名だ。某色鉛筆とは多分関係ないだろう。そもそもGBNの地理に疎いので要領を得ず、ゴーシュは首を傾げるとユッキーが懇切丁寧に教えてくれた。

 

「世界中のガンプラが見られる所なんです。製作者から直接話も訊けるしもしかしたらこれからのガンプラ作りのヒントになるかも……」

 

 他人の機体を参考にして今後のMk-Ⅱの強化に繋げられるなら願っても無いことだ。雑誌の作例を見るのも良いが、GBN内で公開されている方が自身に合った作例を見つけ出すのもまた違った発見というものがあるかもしれない。

 

「それは興味深い。皆が良いなら是非連れて行ってくれ」

 

 

 彼らに誘われるがままに出発。

 そしてそのままペリシアでガンプラ作りの極意を作り手たちから教わる――

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

「――所で何キロ歩いたんだ……俺たちは」

 

 不毛の地をひたすら徒歩で進んでいた。見渡す限り砂、砂、砂、砂、砂。オアシスの一つすら見当たらない。

 

 当初はモビルスーツに乗ってひとっ飛びと思っていたし、事実出発時点ではモビルスーツの自動飛行で移動していたのだ。だというのに――どうしてこんな徒歩で砂漠を歩いているのだろう。

 

「……中立地帯だから戦闘は禁じられているし一定のランクが無いと機体の呼び出しすらも出来ないし……」

 

 リクがぼやきながら駄目元で試しにダブルオーダイバーをコールするとエラーが出るだけ。

 エリア管理者が設定したシステム上、ここでのモビルスーツ使用はプロテクトが掛っていて不可能だ。

 

「何でなの? 地図だとこんなに近いのに……」

 

 歩行距離にうんざりしたモモが何気なくマップを展開する。見た所、人差し指と親指を伸ばしてちょっと余る程度の、彼女の言う通り距離は大した事が無いように()()()。しかし隣で一緒に見ていたサラが口を開いた。

 

「これ、何?」

 

 サラが地図に指し示したのはアイコンだった。モモはそれをタッチすると地図のステータスが確認出来た。どうやらこの図面は収縮させたもののようだ。その度合いは――

 

「いち、じゅー、ひゃく、せん、まん……ひゃ、100まんんんんんんんん!?」

 

 本来の距離を100万分の1に縮小したものをこれまで見て来たのだ。モモは0の数を数え終えて絶叫した。それを聴いたリクとゴーシュが次々と後ろから問題の地図を覗きこむ。

 地図に於ける1㎝が10㎞。とどのつまり伸ばした人差し指と親指の間の距離が10㎝とちょっとで――

 

 10×10+10α。

 

 最低100㎞オーバーを歩かないと目的地にたどり着けない計算となる。

 このペリシアエリアの地形を考えたヤツは相当性格が悪いに違いない。リアルなら余裕で死んでいる。というかこんな所に自分たちを案内した責任者は誰だ。誰なんだ。

 

「こんなの歩いて行ける距離じゃないよ……」

「どうするのよぉ……」

 

 リクとモモが口々に不満の声を上げ、一番ペリシアのことを知っているであろう、前で歩いている責任者のユッキーに問い詰める。――と、ゆっくりと彼は振り返った。

 その目はやや半泣きに見えた。

 

「ど……どうしよう」

 

 返って来た言葉はまさかの匙のぶん投げだった。

 

「まさかのノープラン!?!?」

 

 引率者にあるまじき発言にゴーシュは思わず突っ込み、現状に眩暈がした。

 元よりバーチャルリアリティーで肉体的疲労こそないが、精神的疲労は誤魔化しようがない。100キロに渡る距離をどうして歩けようか。

 モビルスーツに乗っていれば余裕で渡れる距離だろうが、管理者が下位ランカーはモビルスーツに乗れないというふざけた設定をしたお陰でそれすら叶わない。

 

「……か、帰った方が良いんじゃないか……ログアウトポイントはこの辺にないぞ」

 

 ログアウトポイント以外での強制ログアウトはペナルティが課せられる。下手に歩いて帰れない所まで来てしまうと強制ログアウトをせざるを得なくなってしまう。そうなる前に引き返した方が賢明だ。ゴーシュがそう提案した矢先だった――

 

 サラが何かに気付いたのか後ろを向いて口を開いた。

 

「? 何か来る?」

 

 僅かにエンジンの音がした。目を凝らすと、何か豆粒のようなものが砂を巻き上げている。

 車か。この砂漠を車で渡ろうとしているダイバーがいるのか。

 

 渡りに船――ならぬ車だ。これに飛びつかない理由はない。

 虚ろな目になっていたリクとモモの瞳に再び生気が戻り、その方向に向けて手を大きく振り、声を上げた。

 

「おーーーーーーーーい!」

「助けてくださーーーい! っていうか乗せてくださーい!」

 

 その豆粒が大きくなるにつれてそれが車ではないことに気付いた。……バイクだ。これでは乗れないではないか。とリクとモモが落胆したところ、それに乗っている人間が見知った顔なのに気付き、「「あ」」と短い声を上げた。

 

「カタナさん!!」

 

「おう、リクじゃねェか。なんでお前ら徒歩でそこに居んだ。まさかペリシアに徒歩で行くのか? 何の罰ゲームだよ……正気の沙汰じゃァない……」

 

 カタナがバイクを5人の前で停車させゴーグルを上げ「よっ」と会釈しつつ吐いた何気ない一言が、ユッキーにドスドスと刺さって行く。ユッキーが片隅で膝を抱えてシクシク泣いているのを他所にカタナは「参ったな……」と呟いた。

 このカタナなる男はどうやらリクの知り合いらしい。ゴーシュは大人しく事の成り行きを見守る。リクが一通りいきさつを説明し終えると、あからさまに困った顔になった。

 

「こうなるならジープなりホバートラックなりに用意すりゃァよかったな。お前ら今日は帰ろうぜ。歩いても1日余裕で持ってかれるし。まだエリア外までは幸い近いから一人ずつ後ろ乗せて送ってやっから……」

 

 カタナはエリア外を指さしてそう提案した。

 確かにカタナの言う通り、今ならまだ引き返せるだろう。それにバイクに乗せてもらえるなら直ぐに戻れるはずだ。とはいえ――

 

「……何してるの、こんなところで」

 

 今しがた新たに誰かが乗ったジープがやってきて近くに停車。声を掛けてくれたお陰で、引き返す必要が消え失せかけていた。

 ジープに乗っているのは黒掛った紫色の忍者装束を身に纏った吊り目気味の少女だった。口元は口当てで隠れており、長い髪は斜め線の入った0の形状をした髪留めで一つに纏められている。

 

「遭難です」

 

 彼女の質問にゴーシュが真顔で答えると「ふーん、そう」と少女は流し――

 

「なんだー」

 

 と、カタナが余計な付け加えをした直後、クナイが飛来。そのままカタナの額に突き刺さった。

 クナイの直撃を貰い、白目剥いて敢え無く倒れたカタナを前に少女が「昼の砂漠にしては肌寒いわね」と白々しく呟き、ジープのアクセルを踏んだ。

 

「ちょっと待ってください!!」

「乗せてくださーい!!」

 

 この広大な砂漠の中、リクとモモの必死の叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

「砂漠を歩いてペリシアに行こうとした……? 呆れる……ペリシアまで何キロあると思ってるの?」

 

 有り得ねえよ。と言わんばかりに運転中事情を訊いた少女が後部座席に乗せて貰った面々に問い詰める。カタナと同様正気を疑われ、言い出しっぺのユッキーが更に凹む。

 バイクでジープと並走しているカタナは苦笑いしていた。

 

「よく……地図を見てなくて」

「わたし達、初心者なんです……」

 

 リクとモモの釈明に少女は更に呆れ果てたか、溜息を吐いてから続けた。

 

「言っとくけど、この砂漠地帯はガンプラに乗っても横断が難しいの。防砂仕様に仕上げておかないと、ガンプラの関節部分や精密機器に砂が入って最悪動けなくなるわ」

 

「詳しいんですね」

 

 助手席に座ったゴーシュが言うと「まぁ、そこそこね」と返って来る。どうやらこの忍者装束の少女はそこそここのGBNをやり込んでいるクチらしい。

 

「ありがとうございます。えっと……」

 

 モモが言葉に詰まる。名前を呼ぼうとしているようだった。

 そうだ、今ジープに乗せてくれている忍者装束の少女のネームをまだ知らないのだ。

 

「アヤメ」

 

 そっけない返答だった。

 中々辛辣で冷たい印象をゴーシュには受けた。しかし、何やかんや言ってジープに乗せてくれる辺り悪い人間ではないのだろう。

 リクは彼女の態度に怯むことなく礼を口にした。

 

「助かりました、アヤメさん。ありがとうございます」

 

「良いのよ。運賃はしっかりと貰うから」

 

 ――訂正しよう。中々がめつい所があった。美味しい話には裏があるとはこのことか。

 ゴーシュは慌ててGBN内の仮想通貨を確認する。まだ初心者なので所持金はたかが知れている。5000ビルドコインで足りるだろうかと目が泳ぎに泳ぎ、他4人は「えーっ」と驚きの声を上げた。

 

「……冗談よ」

 

 ――訂正しよう。意外と冗談もイケる口らしい。

 所持金を確認していたゴーシュは脱力、シートに凭れて安堵した。

 

 

◆◆◆

 

 ジープに乗ってもそこそこ時間が掛かった事実を前にすると、このまま歩いていたら確かに1日じゃ足りなかっただろうと思える。

 ペリシアの街は中東をイメージした街並みとなっており、その広場には幾つものモビルスーツが並び立っていた。なお、ゴーシュは名前は一切知らないので未知の巨人が並び立っているように見えた。

 

 

 あの羽の生えたヤツ2体は一体何なのか。アレもガンダムなのか。片や血の涙を流しているように見える。

 中には戦闘機タイプのものも見かけられる。

 

 ユッキー曰く、このペリシアはガンプラビルダーの聖地と呼ばれる場所であり、世界中のビルダーたちが自分の作った機体を展示しているのだという。彼らがここに集まる理由は、ガンプラ制作技術を高めるためだ。互いの作品を見せ合い、技術を盗み合い、情報交換したりして自身が納得のいくものの完成を目指しているのだという。

 

「ガンプラを見せ合うならリアルでやった方が良いんじゃないの……?」

 

 広場の中、展示品を見て回りながら、ペリシアに至る距離にうんざりしたモモが指摘する。確かにそっちのほうが手軽に見えはする。但し、交流できる範囲が圧倒的に狭まるが。

 カタナは近くに展示されている同じ形状でいて色が違う2機の頭頂部の長いガンダムタイプを見上げながら「んなこたァないぞ」と返した。

 

「リアルでのやり取りだと近郊の人間だったり相手が限られたりするからな。態々外国のオタコンに飛んでまで見せに行ける奴なんて限られている。……で、GBNの美味しい所ってのは気軽に海の向こうにある人間とコミュニケーションを取ることが出来るって事だ。特にこのペリシアではその目的の為だけに集まっている人間が多数いることで、その土壌が既に出来上がっているっていう点が聖地と呼ばれる所以だな。見るもよし、技術を盗むのもよしってこった。まぁこの地形というか砂漠入ってからの距離はどうかと思うけど。……あのーすんません! このジェミナス01と02作った人居ますかー! ちょっとお話訊きたいんですがー!」

 

 言い終えたカタナは、2機のガンダムタイプに何か思うところがあったのか製作者の所まで走って行く。彼も一端のビルダーか、こういった出来の良いモノに飛びつかずには居られないようだ。ゴーシュもまた、興味のある機体を幾つか見つけて候補をメモする。

 

「僕、この場所をリッ君に見せたいと思ってたんだ。最近、ガンプラ作り頑張ってるから……まぁ、僕も見に行きたかったっていうのもあるんだけどね」

 

 ようやく気を取り直せたユッキーがリクに言う。今日の本当の目的はリクの為だったようだ。リクも自身の機体を強化させるために試行錯誤をしているようだ。

 気を抜けばすぐに距離を開けられてしまうのは目に見えていた。

 

「……あれ? いない」

 

「どうしたの?」

 

 サラが周囲をきょろきょろしている。何事かと思ったモモが問いかけると、ある人間が居ないことに気が付いた。――アヤメがいない。

 カタナは現在進行形で2機のガンダムタイプの足元で製作者と色々談笑している姿が見えるが、アヤメらしき姿はどこにもない。一体何処へ行ったのか。多分まだペリシアには居るのだろうけれども。

 

 それから一頻り探してはみたものの、アヤメの姿はなかった。

 

 

◆◆◆

 

 世界各地の人間が集まっているだけあって展示されているものは多種多様だった。

 見れば見るほどゴーシュは自身の未熟さというものを思い知って行く。プラを削ることでバランスをよくしたり装甲内部にLEDを仕込んで煌びやかに仕立て上げたものもある。

 中には最早戦闘が出来ない程に破損した機体が膝をついており、その装甲一面には色とりどりの花が咲き誇っている明らかに戦闘を前提としていないものまである。

 リクたち曰く、これはガンダム00のEDであった奴らしい。

 

「ねぇ、あのガンプラは何?」

 

 モモが要領のいかない表情で大破したダブルオーを見た後、次に視界に入ったものも不思議に思ったらしく指さした。それはゴーシュでも知っている、初代ガンダムだ。

 

「これって最初期に発売された1/100ガンダムだね」

 

 恐らくこの面々の中では一番詳しいのであろうユッキーが説明を入れる。因みに同じく詳しいであろうカタナは現在ジェミナス製作者と未だに話し込んでおり、現在この場には居ない。

 最初期というだけあって、プロポーションもやや歪に見える。それでいて可動域らしきものが見られなかった。

 

「こんなんじゃマトモにバトル出来ないんじゃない……? あの花の付いたダブル王? って奴も凄いボロボロだったし」

 

 モモの抱いた感想と同じ物をゴーシュは持っていた。可動域が無いのでは照準も合わないし、まともな試合にはならない。瞬く間に撃墜されてしまうこと請け合いだ。

 だとしても、敢えてこの時代にそれをつくる事に何かしらの意味があるのではないのかとも同時に考えてしまう。懐古か、それとも――裏があるのか。

 

 

 

「嘆かわしいねぇ。この作品のすばらしさが分からないとは」

 

 誰かの嘆く声が聴こえた。誰だ、と一同振り返ると褐色の青年が背後に立っていた。白く長い髪が褐色肌なのもあって映えており、頭にはモモ同様の獣の耳を生やしている。

 中性的な佇まいで一見すると女性に見えてしまいそうだ。

 

「僕には分かるよ。このガンプラはバトルをするために作られたものではないこと。そして、これを制作したビルダーがこのガンプラにどれほどの愛を込めているのかを!」

 

――何故そこで愛?

 訳が分からず、ゴーシュは「愛?」とやや間抜けな声が喉の奥から出て来た。

 

「そうさ、愛さ」

 

 嬉々として高らかに。その語る様はまるで舞台役者のように見えた。

 

「古いキットを最小限の改装に留め、そのままの姿で限りなく美しく仕上げるという思想と拘りッ! これを愛と言わずしてなんだと言うんだい!?」

 

 訳が分からないモモは「はぁ……」と目に見えて呆気に取られており、サラは終始無言で何を考えているのかさっぱりで、リクはやや引き気味だった。ゴーシュも必死にこの青年の言葉を理解しようと旧キットのガンダムを観察する。

 しかしユッキーは違った。食い気味に真正面から青年の主張に応えていた。

 

「つまり! 古いキットの味を活かしているっていう事ですね!」

 

「その通り! あのガンプラの魅力は古いキットの味を損なうことなく磨き上げていることだ。古いモノも新しいモノも、それぞれの良さがガンプラにはある。バトルで勝つことだけが目的じゃない。自分の理想を体現していく。それもまたガンプラの、その気持ちを共有できるGBNの魅力なのさ」

 

 GBNの台頭で忘れていたが本来模型というものはバトルをするためにあるものではない。自身の理想を体現させるためにあったのだ。その点では本来の目的に回帰しているのだ、あの古いガンダムは。

 納得のいく答えを見つけたゴーシュは肩の力を抜いて、笑みがこぼれた。

 

「あのガンプラ、あったかい」

 

 古いガンダムを見上げ、サラは溢す。彼女の感性は分からないが、ゴーシュにもあの古いガンダムには並々ならぬ意志と過去に対する想い出のようなものを感じていた。

 

「あぁあの! 良かったら僕らのガンプラ見てもらえませんか!?」

「……よければ俺のも見てもらえませんか?」

 

 ユッキーが名乗り出る。

 ゴーシュもまた便乗するように挙手した。この際だ、今の自分の立ち位置をはっきりとさせておく必要があった。

 

「いいよ。君たちの愛の尺度測ってみよう」

 

 青年は挑戦的な笑みを浮かべながらも快諾してくれた。

 

◆◆◆

 

「成程。ジムⅢとダブルオーの場合こうしよう、こう創ろうという思想と理想を感じる。愛があるね。しかし、その理想を体現させるには制作技術が足りていない。少し背伸びをし過ぎかな。Mk-Ⅱの彼の場合少し違って、背伸びこそしていないけれども少し作りに迷いがある。逆に理想をはっきりさせる必要がある。原作の再現をしたいのか、それとも単純に強い機体を目指したいのか、美を追求したいのか、新たな機体を生み出したいのか――だね」

 

 案外ズバズバとモノを言うタイプだったようだ。

 機体情報を閲覧した褐色の青年の言葉に凹むリクとユッキー。ゴーシュは深刻な表情で自機のステータスを見直した。

 迷いを振り切れば、次の段階に進めるのであれば、今抱えているゴーシュの理想――それはもう決まっている。

 

「んー何か偉そうに言っちゃってくれてますけど、そこまで言うんだからあなたの作ったガンプラはさぞかしお上手なんでしょうねぇ!」

 

 そんな中凹むユッキーとリクを見て見て居られなかったか、モモが青年に噛みつくように訊いた。

 おいおい失礼な、とリクとユッキーが止めに掛かろうとしてもモモの勢いに気圧されてしまい、言葉に詰まる。最後まで言わせてしまい、青年を怒らせてしまっていないか、恐る恐る二人は青年の顔を見る――

 

 表情は怒りのようなものが一つも見受けられなかった。それどころか自信ありげにすら見えた。

 

「見てみるかい?」

 

 

 

 青年が見せてくれたものは意外にもファンシーなものだった。

 熊のような可愛らしい生物が大中小、庭で駆けまわっているように、遊んでいるように飾られている。

 

「プチッガイだ……」

 

 リクが呟く。

 ゴーシュは最初こそ何か恐ろしいものでも見せられるんじゃないかと身構えていたものの、ファンシーなものだったせいで全身から力が抜けていた。

 女性陣のモモとサラにはかなり刺さったのか、目を輝かせてプチッガイたちをみていた。しかし、モモは暫くしてから疑問符を浮かべた。

 

「でも……これの何処が凄いの?」

 

「分からないのかい? このプチッガイに込められた私の愛が」

 

 拍子抜けしたこととギャップもあってかあまり凄いようには見えない、というのがモモの本音だろうか。

 しかし、青年の作品はよく見ると細部の作りまでしっかりしており、太鼓を叩くプチッガイや円陣を組んで回っているポーズが躍動感のようなものを生み出している。

 

「プチッガイはパーツが少ないから簡単に作れるんだけど、だからこそ逆に個性を出しにくい。でもこの作品のプチッガイは細かな表情や仕草まではっきりと個性が出ている。本当にこの世界で生きているみたいだ!」

 

 ユッキーほど細かい感想はゴーシュには浮かばなかったが、プチッガイ一つ一つを丁寧に作っているお陰でその一つに何かしらの物語めいたものを感じることが容易に出来た。

 時々目にする絵画の片隅に描かれた部分に想像を働かせられる、あの感覚に少し似ている。

 

「この子たち本当に幸せそう」

 

 サラは花が咲いたような笑顔で、青年の作品を見ていた。その感想にはゴーシュも素直に頷けた。

 しばらくプチッガイたちの鑑賞を楽しんでいた所で誰かの声がこの広場に木霊した。

 

 

「おーい! みんな! 今さっき耳にしたんだけど、シャフリヤールが新作のガンプラを発表するってよ!」

 

 その声は瞬く間に人だかりが生まれ、雑多な声で溢れかえった。

 

「シャフリヤールが?」

「この街に来てんの?」

「マジかよ……!」

 

 

 

「誰だ。そのシャフトアールなる人物は」

 

 知らない名前で湧かれているので首を傾げたゴーシュが疑問の声を上げた。同じくリクとモモ、サラも知らない様子でユッキーが仲間の様子に目を丸くした。

 

「シャフリヤールですよゴーシュさん。……シャフリヤールって人はGBNでも1,2を争う程のガンプラビルダーだよ。これを見て」

 

 ユッキーはホログラム型ディスプレイを操作し写真を見せた。そこには騎士甲冑のガンダムが馬に乗り、ドラゴンを思わせる異形のマシンと戦いを繰り広げている。その写真越しから鬼気迫るものを感じた。

 成程、1、2を争うというのは伊達じゃないらしい。ユッキーは興奮のあまりテンション高めの早口で説明を始める。

 

「これは去年のGBNビルダーズコンテストでの優勝作品! これを造ったのがシャフリヤールさんなんだ」

 

 確かにそれだけの人間が現れればこの街が沸くのも納得の行く話だ。それにその某氏の作品がこの眼で見られるというのは嬉しい誤算だ。そこから何かを得られるかもしれない。

 

「こんなのを作れる人がここに来ているというのか……」

 

 ゴーシュが感想を溢すと、水を得た魚のようにユッキーは活き活きと説明を続けた。

 

「まさにレジェンド級でしょ!? シャフリヤールさんのリアルは世界的なプロモデラー説が出ていて――」

「――大したことはないね」

 

 その話を青年が間に割り入り遮った。何の恐れもなくさらっと言い放つその姿に5人が呆気に取られた。何を根拠に言っているのだろうか。余程シャフリヤールなる人物が嫌いなのだろうかと、ゴーシュは少し身構えた。

 

「まだまだ……愛が足りないよ」

 

 遠い目で、すべてを悟っているように青年は言う。その様には想像できるような憎しみや嫉妬のようなものは何故か感じられなかった。

 




Q:「愛が足りないよ」
A:「10年早いんだよ!」
A:「何故そこで愛ッ!?」

 愛ネタは置いといて(コスモスとギャバン主題歌ネタやろうと思ったけど歌詞なので危ないし)、本編の解説を。

 アヤメもカタナもお互いの正体は知りません。
 要するにアヤメ側からしたら邪魔者ですし、カタナ側からすればアヤメの立ち位置は敵でしかありません。……とどのつまりリアル世界では友達だけど、GBNでは互いの目的を邪魔する仇敵というおかしな状況になっている訳です。
 あらやだコワイ!(ゲス顔)


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STAGE10 熱砂の救出戦・前篇

 ペリシア回・中篇


 シャフリヤールなる人物の影響力がどれほどのものなのか。

 それは広場に集まった人だかりが物語っていた。シャフリヤールの告知によるとペリシア中心の広場で新作の発表をするとのことで、それを聴きつけたダイバーたちが我先にと集まっているようだ。

 

 ゴーシュもまた、あのユッキーが見せたあの作品を実際に……と言うと些かこの仮想空間では語弊があるが、見られると言われれば期待せずには居られないというものだ。

 

 

 しかし――ゴーシュには解せない点が幾つかあった。

 ユッキー曰く、そのシャフリヤールなる人物は滅多に人前に現れないとのことで、何故今になって顔を出そうと考えたのかということだ。

 

――心境の変化か?

 

 真相は本人のみぞ知る。

 

「来たぞ! シャフリヤールさんだぁ!」

 

 人だかりの中の男が叫ぶ。

 アラブ人風の衣装を身に纏った褐色肌で口元に髭を蓄えた小太りな男と、その隣で犬歯の目立つ低身長の男が、従者のように振る舞い、騒ぎ立てていた。

 

「ペリシアに集うビルダーの皆さん! 括目です! ただいまより、レジェンドビルダー・シャフリヤール様の最新作をお披露します!」

 

 従者の声に広場に集まったダイバーの視線が集中する。皆があのユッキーの見せた画像のようなものを期待しているに違いない。無論、ゴーシュもその一人だ。

 とはいえ、尚の事疑念が増した。

 目立ちたがり屋ならとっくに顔を出しているだろう、と思わずにはいられない。これまでユッキーの言っていた話とはまるで噛み合わない。

 

「これがシャフリヤール様の最ッ新ッ作ッ!!」

 

 従者の合図と共に巨大な垂れ幕に隠れたモビルスーツが現れた。

 サイズは通常のモビルスーツよりやや大きい。そしてその垂れ幕が落ち、まるで狸のような体型をした紫色のモビルスーツが姿を現した。背中には仏像の背中によくあるような円形――金色の光背が付いており、そこにミサイルポッドが取ってつけたように固定されている。

 

 嗚呼、なんというアンバランス。

 嗚呼、なんという――不自然さ。

 

「作品タイトルは! 武装の多様性に垣間見る『善悪の彼岸』」

 

 従者の言っている『善悪の彼岸』というのはドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの著書だ。

 成程、光背に兵器を取り付けるという罰当たりさという側面に於いてはある種間違ってはいないだろう。とはいえあの優勝作品とは作風が違い過ぎる。

 当然、あのユッキーが見せた過去作品とまるでイメージの違うものにギャラリーたちはどよめく。

 

「お、おう……」

「ザムドラーグ?」

「な、なんといっていいか……」

「ただ武器を付けただけのような……」

「馬鹿! シャフリヤールの作品だぞ! 寧ろ前衛芸術だと捉えるべきだ」

「なるほど……前衛芸術か」

「流石シャフリヤール様だ! ガンプラを芸術の域まで高めるなんて!」

「芸術ってお前……」

 

 ザムドラーグという機体らしい。

 素人的な、あまりにも素人的なカスタマイズが施されているが、一応調べてみた所光背とミサイルは本来無いもののようだ。

 光背はまぁいいとして、ミサイルがこの作品にはあまりにもノイズとなっている。そこにシュールレアリスムを感じるべきなのか。そして原型機に対する攻撃的な側面がそこにあるというべきなのか。

 

――事実なるものは存在しない。あるものは解釈だけ。

 従者に対抗してこのニーチェの一節を借りるならこの機体の価値は自分たちのように勝手に解釈して前衛芸術と騒ぐものたちが決めるのだ。もし仮に製作者本人がそこまで考えて居なくても、かのシャフリヤールというネームバリューで乱雑な作品を出せば、何か考えがあるに違いないと受け手は解釈する。そして肥大化されたものが恰も事実のように振る舞われる。

 思想思考も認識されなければ存在しないのと同じなのだ。

 

 ゴーシュは解釈した。

 色々考えてみたがなんか面白くない哲学ごっこだ、と。ザムドラーグなる機体を知らないからそう思えるのかも知れないが。

 

 

 一方で近くで見ていたカタナが「ブキヤのネオ・グランゾンのパーツでも流用したんじゃねェよなオイ……」と謎のボヤきをかましていた。――ブキヤってなんだ。ネオ・グランゾンってなんだ。

 リクもしかめっ面でザムドラーグを見上げていた。ユッキーとモモ、サラは要領を得ず、首を傾げている。

 

「シャフリヤール様の製作技術を学びたければ、街の外に集まって下さい! 勿論自分たちの作ったガンプラデータも忘れずに! そこでビルダーとしての技術を高めようじゃありませんか!」

 

 従者の言葉に乗せられギャラリーの各々がやる気を出す中、唯一無表情でザムドラーグを見上げていたサラが口を開けた。

 

「……この子、凄く重たそうにしている。……嫌がってる」

 

「何を言うんだキミは!?」

 

 近くにいたダイバーが不可解な感想に声を上げた。確かにサラの感想は電波と捉えられるだろう。しかし、サラの言う通りあの重装甲で乱雑にミサイルポッドと光背を付ければ重量過多で機動力が著しく損なわれる。ブースター出力で無理矢理相殺すれば違って来るだろうが、それらしきものは見当たらない。

 リクもまた同じ気持ちだったのか続く。

 

「何か……違う。オレ、芸術ってのはよくわからないけれど、さっき会った人が言ってた。ガンプラにはその人の作った「こうしよう」「こう創ろう」という思想と理想を体現するものなんだって。出来の良い悪いじゃなくて……あのガンプラから何も感じない……いや、何をしたいのか……分からない。単純な力の追求も感じられないし、ザムドラーグに対する何かの拘りのようなものも分からない。あの人の言葉を借りるなら愛が足りないような……」

 

 

「君ィ、いきなりなんです? シャフリヤール様の作品にケチを付ける気ですか?」

 

 従者がにこやかな顔のまま、何処か苛立っているような声色でサラずけずけと近づいた。それにリクが前に立ちはだかり、従者の接近を阻んで両手を上げた。

 

「待ってください! そのつもりじゃ……」

 

 最悪の場合逆上して暴力沙汰も警戒する必要がありそうだ。ゴーシュはいつでも介入出来るように腹を括る。あの先ほどプチッガイを見せてくれた青年も遠目で見ており、明らかに険しい顔をしている。ネカマの可能性が何処かにあるとはいえ、か弱い少女型ダイバーににじり寄る小太りなおっさん型ダイバーという構図はどうみても後者が悪役だ。

 それに愛がなんたるかは知らないが、この男がシャフリヤールであるかはその間に検索した画像データで裏を取ってみた。芸風が違い過ぎる。なりすましの可能性も浮かびつつあった。

 

「す、すいません……」

「彼、初心者なんです」

 

 近くにいたユッキーが謝り、モモが人の事は言えないようなフォローを入れるものの、従者を落ち着かせるには足りなかった。

 

「君はシャフリヤール様のことが何も分かっていない。……そうだ! 君たちにガンプラ造りのノウハウを教えてあげよう! さ、こっちに来なさい」

 

 従者が思いついたようにリクの腕を掴む。本人の意志は無関係のようだ。

 あまりにも大人気ない行為に周囲がどよめく。本当にノウハウを教えてくれるのだろうかと。

 

「あぁちょっと!」

 

 悪い流れだ。このまま連れていかれて恫喝、及び脅迫、最悪PKすらも有り得る。この先に起こり得る可能性が見えて来た所で、モモがリクの片腕を掴んで止めに入り、ゴーシュが介入するべく脚を踏み出した刹那。

 

「天下のビルダー様のご教授が貰えるのォ? なんか楽しそうだからァ俺も混ぜてくださいよォ……俺もピチピチの初心者なんでェ、センセに手取足取り教えて貰いたいなァ」

 

 カタナがスパナ片手に割り入り、ぶりっ子みたいな喋り方でベタベタな死語を吐きながら従者の肩を横から掴んだ。その顔は笑顔というにはあまりにも歪んでいた。

 このままカタナを同行させたら従者とシャフリヤールの方がナニカサレそうだ。具体的には手に持ったスパナで手取り(物理)足取り(物理)。

 人体改造されるシャフリヤールと従者というあまりにもグロテスクで見たくもない光景が脳裏を掠め、カタナの方を止めたくなった矢先、見覚えのある忍者装束の少女が――アヤメが中東風の建物から飛び降り、リクを引っ張る従者の前に立ちはだかった。

 

「その辺にしておきなさい。あの機体は()()()()()()()()()()()()()()()()わ」

 

 はっきりと、アヤメはザムドラーグを指さして言い切った。

 そこに迷いの欠片も無い。普通の顔に戻ったカタナは「やっぱし?」と呟く。

 

「な、なにを言うんだいきなり! あの作品はシャフリヤール様が創った……正真正銘」

 

 従者が反駁するもその声には自信らしきものが目に見えて失われていた。それを証拠に目が泳いでおり、声も尻すぼみになっていく。アヤメの主張に更なる説得力を与えるだけだ。

 

「ならあの機体を動かして。この街に居る手練れのビルダーたちに見せれば機体の動きで本物かどうか分かる筈。この重量過多もいいところの機体でどういうマニューバを見せるのか。さぁ――動かしてみせなさいッ!」

 

 ここで動かせれば、本物。動かせなければ偽者。実にシンプルでいて攻撃的な質問だ。

 しかし彼らは何もせず黙り込むだけだった。そこから出せる結論は最早言うまでもない。

 

「…………出来ないの? なら貴方は偽者ね。このダイバーを無理矢理連れて口封じでもしたかったのかもしれないけれど、思い通りにはさせないわ。今すぐこの街から出て行きなさい!」

 

 チェックメイト。

 アヤメの冷たい目に耐えられず視線を逸らすシャフリヤールと従者。もう既に決着はついていた。周囲のギャラリーたちも疑念の目を向けており、完全に反撃の手段を喪った2名は、一目散に逃げ出した。

 

 

◆◆◆

 

「何をしているの私は……」

 

 今のこの感情をどう言い表したものか。強いて言うなら自己嫌悪というべきか。アヤメは人気のない裏道に入り壁に凭れて自嘲を込めて呟いた。

 監視対象であり、敵でもある彼らを庇う義理は特にない。対して()()()()()()()()()()()()()。つまり敵に塩を送っただけなのだ。

 

《アヤメさん、さっきはありがとう》

《僕からもお礼を言わせてください》

《わたしも!》

《先ほどはありがとうございます。ご迷惑をおかけしました》

 

 事件後に自身のもとに駆け付けたリク、ユッキー、モモ、ゴーシュの感謝の声がリフレインし、それを振り切るように大きく溜息を吐く。

 先程の記憶ごと口から追い出すように。

 

 リクなる人物は既にマスダイバーを偶然及び周囲からの助けもあったとはいえ数名撃破している。加えてカタナという男はソードマンだという事実は先の対デビルガンダム戦で判明している。

 危険人物になり得る人物と危険人物そのものが手を組もうとしている。脅威が増える可能性を考えるとこれは放置してはならないものだ。

 

 けれども、それでも身体が動いてしまった。何故割り切れない。何故放置しなかった。

 自己嫌悪で、この身が砂漠に沈みそうな所で通信が入った。

 

「――はい」

 

 応答すると立体モニターが出現し、SOUND ONLYとだけ書かれた画像が表示された。()()()からだ。

 

《余計なことをしてくれたな。()からクレームが入ったぞ》

 

「しかし、彼らは監視対象に危害を加えようと――」

 

 その反論は反論になっていない。そんなことは分かっている。あのまま暴力沙汰とかいざこざが起きてくれれば目標達成は近かっただろう。どっちにしろ利敵行為にしかなっていない。しかし()()()そこを指摘することはなかった。

 

《どんな理由であれ、客は客だ。アフターケアはしっかりとな》

 

 ()()()の言葉に呼応するかのように、自称シャフリヤールとその従者が裏道に入り込みアヤメの前にニタリと口端を上げた。

 

 

◆◆◆

 

「そろそろ帰るか……もう時間だ」

 

 偽シャフリヤールのお陰で少しばかり冷や水を掛けられたような気分だったが、他のビルダーと初めてガンプラに触れた時の話を聞いたり、次にすべきことを教えて貰って持ち直した。

 カタナとアヤメはあれから完全に姿を消しており、行方は知れない。彼らは一体何処で何をしているのだろうか。

 

 気掛かりに思いながらもリクたちと共に一度ペリシアのゲートの傍にあるログアウトポイントに向かう。

 行きはよいよい帰りは怖い。ログアウトポイントがないという悲劇が起こらなくて良かった、と安堵しながら。……徐々に近づいて行く噴射音に誰もが皆気にも留めていなかった。

 

 頭上から何かが被さって影が生まれる。どうしたものかと一同が顔を上げる。

 するとゴウッと噴射音が耳朶を滅多打ちにし、足元の砂が舞い上がった。

 

「何事だッ!!」

 

 剛風に乗せられ舞い上がる砂に目を庇いつつ、空を見上げると紫の巨体が飛んでいた。あの偽シャフリヤールのザムドラーグだ。

 

「こんな場所で発進だなんて……!」

 

 リクが毒づく砂でも巻き上げて仕返しの嫌がらせがしたかったのか、それともここでPKかましに来るつもりなのか。しかし彼らの真意は別にあったようだ。

 

「リク――あれ!」

 

 サラが指さした先にはザムドラーグの右掌だった。その上には誰かが倒れている。

 縄で捕縛されており、身動きが取れていないようだ。

 

「アヤメさん……!」

 

 リクがその名を呼ぶ。成程、アヤメに正体を暴露された逆恨みという訳か。彼女を連れだして何をしようと言うのだ。ゴーシュは舌打ちする。追撃をかけるか。いや無理だ。

 ここは中立地帯故にプロテクトが掛けられている。今のゴーシュやリクには戦闘はおろか機体を呼び出すことすら不可能だ。そもそも防砂措置が施されていないので仮に呼び出せても戦闘は困難という有様だ。

 

「君たち。よかったら僕の機体を貸そうか? 丁度この街に展示しようと持ってきた作品がいくつかあるんだ。僕のランクなら機体を呼び出せる」

 

 その時――思わぬ助け舟が差し出された。リクたちの批評をしたあの長い髪の青年だ。ゲート前に立っていた彼はマイペースに歩み寄る。

 

「あれを? 良いんですか……?」

 

 何故知り合っても間もない人間にガンプラを貸そうと思ったのか。不可解さに少し疑念を抱いていると青年は意味ありげに微笑みながら「さて、気紛れだとでも言っておくよ」と言い二つの機体を砂上にコールした。

 

 一つは――戦艦のような形をしたもの。

 もう一つは――風向きから背を向け、膝を付きコックピットハッチを開けた状態で手を伸ばしたガンダムMk-Ⅱだ。手にはロングライフルとシールドを携えており、万全の状態だ。しかもサブフライトシステムのフライングアーマーその傍で鎮座している。

 青年はゴーシュのもとに歩み寄り、Mk-Ⅱを見上げながら口を開いた。

 

「君はこのMk-Ⅱに乗るといい。幸い同じ機体を持ってきておいて良かったよ。それに使い慣れた機体の方が良いだろうからね」

 

「ありがとうございます……!」

 

 至れり尽くせりにも程があるというものだ。青年に促されるように、Mk-Ⅱの手を伝い、飛び込むようにシートに座り操縦桿を握りしめた。

 そして間髪入れずコックピットハッチを閉じつつ、立ち上がる。このあまりにも簡単な動作だけでも自身が創ったMk-Ⅱとは大違いに思えた。上手く言い表せないが、動きが滑らかだ。

 自転車の錆びつき弛んだチェーンを、新品のチェーンに取り換えたぐらいに違う。

 

「本当にこれはMk-Ⅱなのか? まるで別物じゃないか……」

 

 モモとサラを掌に載せフライングアーマーに乗ると、少し重量で僅かに高度が落ちるが直ぐに元の高度に持ち直す。

 既にリクとユッキーがあの非人型の戦艦めいたものに乗っており、浮上を開始していた。

 

「――距離を置いて追う素振りをする!」

 

 ゴーシュの発言にリクは意味が分からず返す。

 

《何を!?》

 

「ここじゃ戦闘行為はプロテクトが掛って出来ない。そこから外す!」

 

 重量過多の速度では下手に追って追いつき戦闘が出来ないという状態は避けたい。そんなことになればまず格闘戦。パワー差で押し負けるのは自明の理だ。

 一度相手を泳がせ、隙を見つけそこにつけ込む。それが人質救出に繋がるハズだ。

 

 そこそこ距離を取った所で、ゴーシュとリクたちは機体のアクセルを踏んだ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 やや岩肌の見える起伏のある地点に至った所で既にエリアのプロテクトの影響から外れていた。

 Mk-Ⅱとリクとユッキー操る戦艦――プトレマイオス岩陰に隠し、一度機体から降りて、指向性カメラ付き双眼鏡という地味にとんでもないシロモノで遠くを覗くと、岩にアヤメを縛り付ける偽シャフリヤールとその従者の姿が見られた。

 

「クソッ、シャフリヤールの名ァ騙り、ビルダーたちの改造設計図コピる俺らの計画が台無しだぜ」

 

――随分とペラペラ喋るな……

 

 技術を盗むのはいいとして、なりすましした時点でその行為の正当性は損なわれている。偽シャフリヤールの暴露っぷりに呆れながら、ゴーシュは双眼鏡から目を離してモモとサラに向いて口を開いた。

 

「俺たちが襲撃を掛ければ敵はモビルスーツを投入するはずだ。あの善悪の彼岸とかいう大層なお題目掲げたヤツを。そうすればがら空きだ、モモたちにはドンパチやっている隙に彼女を救出して欲しい」

 

「りょーかーい!」

 

 モモがわざとらしく敬礼をする。そんな彼女に苦笑いしつつ、同じく双眼鏡で様子をみていたリクが小さく声を出した。

 

「助けに来る訳が無い。何の得にもならないことなんて……アヤメさんは偽者のシャフリヤールにそう言ってる。ゴーシュさん……人を、知り合った人を助けるのに一体どんな理由が要るって言うんですか」

 

「俺に訊くな。俺はそこまで善人ではない。……強いて言うならあのまま放置しておくのは目覚めが悪い。自分の良心が痛む、それだけでも助ける理由にはなる。自分の傷を最小限にするには助けるのが一番、ただそれだけだと答えれば、日の浅い人間を救う理由にはなるというものだ」

 

「そういう……ものですか?」

 

「俺は、な」

 

 ゴーシュはリクの問いかけに笑みで誤魔化し、Mk-Ⅱに再び搭乗した。




 この世に完全なるリアリティなんて存在しない。現実と呼ばれるモノの多くはフィクションで成り立っている。目で見た物も、脳が現実と感じた『現実』でしかないってどっかの蛇のおじさんが言ってた。
 


・指向性マイク付き双眼鏡
 某メタルギアでお世話になった超アイテム。長距離だろうが平然と音を拾えるという冷静に考えなくても凄いやつ。
 本作のGBNではレンズに映った空間をから切り取った音声データを参照し拾うという理屈で音を拾えている。


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STAGE11 熱砂の救出戦・後篇

「なっ――」

 

 フライングアーマーに乗ったガンダムMk-Ⅱが岩陰から躍り出た。プトレマイオスがそれに続いて現れる。既に下手人の偽シャフリヤールはギョッとした顔を一瞬した後、即座にあの善悪の彼岸・ザムドラーグをコールし、行く手を阻んだ。

 ここまでは想定通り。しかもご丁寧に従者もあの機体に乗っており人質周辺はがら空きだ。

 恐らくあの機体の性質的に一人では武装及び機能を回し切れないないのだろう。一方プトレマイオスは副座式で、リクが火器管制、ユッキーが操縦と役割を分ける形で乗っている。ザムドラーグに似た形式だ。

 

――計画通り。

 

 ゴーシュはほくそ笑みながら、ロングライフルの銃口をザムドラーグに向けた。

 

『ガキ共――ッ』

『お仕置きしてやるぜ……!』

 

 従者と偽シャフリヤールが吠え、光背に搭載されたミサイルが次々と射出される。

 このミサイルの量なら迎撃した方が確実かそれとも。ミサイルのターゲットはMk-Ⅱだ。ゴーシュはフライングアーマーのスラスター出力を全開にさせた。

 

 両翼が風を斬り裂き、鳥のように自在に舞う。

 ザムドラーグが撃ち出したミサイルの精度も低く、フライングアーマーの機動力について行けていない。完全に振り切った所でロングライフルの照準を合わせた。

 

「――そんな機動力で撃ってくださいって言ってるようなものだ……そんな重量過多で積載可能量を上げずに!」

 

 一度、フライングアーマーから飛び降り、姿勢制御のスラスターを吹かしながら機体の移動にブレーキを掛ける。

 そして照準合わさった瞬間、トリガーを引いた。

 

 一条の光芒がザムドラーグの装甲を焼く。しかし――

 

『効くものか! ザムドラーグの装甲は伊達じゃねぇッ!』

 

 彼らの言う通りザムドラーグの装甲は尋常ではなかった。着弾点の赤熱した装甲は直ぐに冷えており、装甲がちょっと焦げているだけだ。撃ち終えたMk-Ⅱは重力に従って落下し、真下を飛行していたフライングアーマーに着地した。

 伊達や酔狂でこんな装甲はしていないということか。しかし――ガンプラの出来が機体性能を左右する。いくらザムドラーグでも作り手が雑ならば途端に紙装甲になるのは自明の理というものだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という疑問がゴーシュの脳裏を過る。

 まるで完成された料理に、料理も知らない人間が後先考えずテキトーなアレンジを加えて不味くしたようなものではないか。

 

『いけッ』

 

 リクの声と共にプトレマイオスから無数のミサイルを射出し、ザムドラーグは即座に離脱をかけるが重量過多で損なった機動力では振り切ることは不可能に等しかった。その上プトレマイオスの放つミサイルのホーミング性能は善悪の彼岸ミサイルとは目に見えて違っている。

 背を向け距離を取るべくスラスターを吹かせるが、素人が陸上選手に追いつかれるかの如くあっという間に距離を縮められ、着弾。爆発でザムドラーグが制御を失い爆風に流されていた。

 

 144分の1のスケールで組んで生まれた僅かな隙でも実寸大に拡大されればその隙は大きなものとなる。そのミスを偽シャフリヤールは犯していた。

 

「一発が駄目なら――」

 

 二発、三発と叩き込めばいい話だ。別に装甲に傷一つついていない訳では無い。ロングライフルを一度叩き込んだ着弾点と同じ場所を執拗に狙い撃った。

 

「同一の着弾点を焼き――貫通させる」

 

『な、なんだコイツ! 同じ所を何発もッ!?』

『しかも、誤差が殆どない!』

 

 驚愕する偽シャフリヤールと従者を他所にゴーシュは淡々とトリガーを引く。狙い撃つ時は一切のノイズを耳に入れない。ただひたすら目標を撃ち貫くことだけを考えていた。優秀なFCSがゴーシュの狙いを支えている。自分の創ったMk-Ⅱでは同じことは出来ないことだ。

 

『えぇい鬱陶しい! 靴底にはりついたガムかこいつは! ミサイルが邪魔だッ! おい、奥の手使うぞ!』

 

 悪態をつく偽シャフリヤールは、光背のミサイルポッドをパージしようやく少しは身軽になったザムドラーグを飛翔。ガンダムMk-Ⅱとプトレマイオスに突進を掛ける。

 無論、両者とも軽々と躱す。

 

――奥の手?

 

 偽シャフリヤールが最後に言った言葉が気になり、シールドを構えながらザムドラーグを観察する。何か超兵器でも仕込んでいるのか。

 

『おい、早く奥の手を使え!』

『そ、それが……関節に砂が詰まってて装甲が開かなくなっちゃってて変形が……』

 

 しかし――何もしてこなかった。

 センサーのカメラをズームすると装甲の各部に砂がつもり、へばりついている。成程、防砂措置を施していなかったらしい。一方でガンダムMk-Ⅱやプトレマイオスはそれらの影響を全く受けておらずおのずと防砂措置が施されているのだということを察せられた。

 

「なにもしてこないのなら……!」

 

 ゴーシュは警戒を止め、フライングアーマーで飛び回りながらロングライフルで再び執拗に同じ個所を狙撃する。やがて限界が来たのか着弾地点が爆発を起こした。そして傷口に塩を塗るかのようにスラスターの噴射口も執拗に狙い撃つ。全弾命中を喰らい、制御不能に陥り黒煙を上げて徐々に高度を落としていくザムドラーグに、プトレマイオスは艦首に収納されたビーム砲を展開。そのままロングライフルの比では無い光芒を吐き出し、ザムドラーグの装甲を押した。

 

『バカなぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 押しだされ、砂漠に叩き込まれる。巨大な鉄塊が勢いよく落下したことで大きな砂煙が跳ね上がった。

 ここまで派手に砂漠に落ちれば最早再起不能だ。墜落の影響で関節や精密機器に砂が入りに入ってよくて固定砲台、最悪屑鉄だ。

 

 ゴーシュは勝利を確信し「やったか……!」と自然と口からフラグめいたものが出てしまった。

 

『ゴーシュさんそれは駄目!』

「ん……?」

 

 ユッキーの咎める言葉の意味が分からずきょとんとしていると、落下地点で跳ねた砂煙が突然吹き飛んだ。

 その中には砂で動けなくなったはずのザムドラーグが平然と立っている。あったハズの破損個所も何事もなかったかのように無い。

 

「――何っ」

 

 有り得ない。先ほどスラスターも破壊したはずだ。何故飛べる。

 有り得ない。先ほど防砂措置無しで砂にその身を突っ込んだはずだ。何故動ける。

 有り得ない。先ほどの破損個所は何故消えた。

 

 確かにこのゲームには修復スキルは存在するが、ここまでの速度ではないはずだ。

 

 あまりにもおかしな光景と共にザムドラーグの周辺の空間がドス黒く歪んでいた。この光景には見覚えがある。――チュートリアルで乱入をかましてきたあのグシオンだ。

 つまり――こいつはマスダイバーという事になるというのか。

 

 ザムドラーグは少し浮遊すると、頭部や四肢が引っ込み別の頭部が、四肢が現れる。

 それは変形というにはあまりにも様変わりしていた。別の言葉で表現するなら変身だ。あの顔がでかくて首が太くて脚が短くてちょっとずんぐりむっくりな感じする頑丈な体をしたあのシルエットがスマートな『ガンダム』になると誰が想像できるか。

 

「こいつ、変形マシンだったのか……!」

 

 衝撃的な光景にゴーシュは息を呑んだ。

 機体サイズはMk-Ⅱとどっこいだ。装甲値も恐らく低下しているように見える。しかしその代り――機動力は先ほどの鈍重さが嘘のように瞬時にプトレマイオスの目と鼻の先にまで肉迫していた。

 背中からは緑色の粒子をまき散らしており、リクのダブルオーダイバーと似た技術系統から生まれていることに気付くのは容易だった。

 

『まさかな……俺に奥の奥の手まで! 使わせるとはなァッ!!』

 

 光背が二つに分離し、ショーテル型のブレードとして両手に携えそれを力づくで振るった。

 ガン! とモノを斬り裂くというより殴打するような音がこの砂漠に響き渡り、殴られたプトレマイオスはバランスを崩す。この一撃で終わる訳が無い。一撃を与え離脱、一撃を与え離脱を繰り返すヒットアンドアウェイでプトレマイオスの装甲をじりじりと削り取って行く。そして蹴りを叩き込まれ勢いよく砂漠に叩き付けられた。

 

「ちぃっ」

 

 フライングアーマーのスピードを活かしてザムドラーグ改めザムドラーグガンダムの背後に回り込みガンダムMk-Ⅱはロングライフルで狙撃を掛ける。しかし有効打には至らず、振り向いてこちらに匹敵する速度で接近してきた。

 

「当たるかよッ」

 

 横薙ぎに振るわれたショーテルをフライングアーマーからの跳躍で躱し、ザムドラーグガンダムの頭上を越え、頭から砂漠に落下し始めながら、背後にバルカンポッドシステムとロングライフルの一斉射撃を浴びせた。

 

『えぇいしゃらくさーいッ!』

 

 一撃のビームが背部の装甲が焼け、バルカンポッドシステムは吐き出されるおびただしい数の弾丸と装甲がぶつかり合い火花が散る。

 このまま落下すれば危険だ。空中で姿勢制御を行い体勢を立て直し砂上に着地する。

 

 ボフッ、と砂が跳ね、小刻みに小ジャンプで移動を始めた。

 防砂措置だけではなく、接地圧の調整も行われているようだ。砂に脚が捕まったりせずにスムーズな移動が出来る。とはいえ、あのザムドラーグガンダムは自在に空中を飛行出来るらしく予断は許さないままだ。

 

『こいつ……ふざけやがってぇ!』

 

 落下の勢いと共に急降下するザムドラーグガンダムに、ゴーシュは舌打ちする。即座にシールドで斬撃を防ぐが一撃でシールドがぐにゃりとへし曲がった。これ以上シールドで防ぐのは危険だと判断したゴーシュはMk-Ⅱのシールドを投げ捨てさせ、返す刀でビームサーベルを抜き放ち第2撃を防いだ。

 

「あの二人、役目を果たしたか」

 

 そんな中モニターがあるものを捉えた。

 モモとサラがアヤメを連れ出して、戦闘区域から離れつつある。既にこちらのアヤメを救出するという当初の目的は達成された。で、あれば長居してやる必要もない。

 思わず表情が綻ぶ。――がその一瞬の気のゆるみが命とりだった。

 

『なぁにボサっとしてんだァ!』

 

 ザムドラーグガンダムの次の一撃が乱雑に振るわれ、隙だらけのMk-Ⅱが派手に吹っ飛んだ。

 

「しまった……!」

 

 勢いのまま砂上を転がり、手元からロングライフルとビームサーベルが衝撃で離れる。ほぼ丸腰になったMk-Ⅱにトドメの一撃とショーテルを振り上げる。

 このままでは――殺られる。

 

――リク、ユッキー、逃げ……!

 

 目を閉じる。恐らくこの状態で一撃を貰えばよくて中破、最悪大破だ。

 が――恐れていた衝撃はいつまで経っても来ることはなかった。何事だ、と顔を上げモニターを確認する。そこには一体のモビルスーツが庇うように立ち、携えた鉄塊のような大剣ことソードメイスでザムドラーグガンダムの一撃を防いでいた。

 

『――おっお前は……!』

 

『よォ……まさかシャフリヤールのパチモンだけではなく人攫いでマスダイバーでもあったたァ、随分ふてー野郎だな』

 

 ソードマン操るアストレイタイプのモビルスーツーーその名は既にマギーから聞き及んでいる。ガンダムアストレイ・オルタナティブだ。鍔迫り合いにこれ以上付き合う事も無く一度ザムドラーグガンダムを蹴り剥がす。そしてブーストで接近、反撃の隙すら与えずソードメイスで一閃。派手に砂丘にザムドラーグガンダムを殴り飛ばした。

 

 偽シャフリヤールとと従者の揉める声が聴こえて来た。

 

『まずいですよ! あいつ、あの噂のソードマンって奴じゃないですかァ!?』

『知った事か! 俺たちを散々虚仮にしてきた奴に報いをくれてやれずにあの人斬りから尻尾巻いて逃げろってのか!』

『勝てる訳ないっすよ!』

 

 その見上げた根性はもっと他の事に使えなかったのだろうか。ゴーシュはその隙にMk-Ⅱを起こし、ロングライフルを回収しているとセンサーがあるものを捉えた。

 ホバーバイクだ。それに乗っているのは、日差しと砂を防ぐためのローブを目深に被っている。操縦者は、通信を割り込ませ口を開いた。

 

『虚仮にされたのはこちらの方だよ。人の名を騙っておきながら。私の偽者が居ると聞いてペリシアにやってきたが、まさかマスダイバーだったとは』

 

『ま、まさかお前……本物のッ』

 

 偽シャフリヤールの震え混じりの声。先程まではイケイケだった様子からはまるで想像も出来ないような狼狽っぷりにゴーシュは察した。乱入者の正体を。

 フードを上げるとあの、リクたちのガンプラを見てくれた青年の顔が露わになった。つまり――ペリシアで話していた青年の正体はシャフリヤールだったとでもいうのか。

 

『自らのガンプラ制作技術を高めようとせず、不正なデータ改ざんによって強化するというその浅はかな思考――万死に値する……! セラヴィーッ!』

 

 青年は天に太陽目掛けて手を伸ばし、自身の機体をコールする。すると墜落したプトレマイオスの前に白と水色を基調としたマッシヴな鉄の巨人(モビルスーツ)がずしん、と天空から()()()()()

 リクのダブルオーダイバーやこのザムドラーグガンダムと同じような粒子を背中からまき散らしておりこれもまた同系統の機体のようだ。

 

『……あれは……GBNナンバーワンビルダーのシャフリヤールさんのモビルスーツだッ!』

 

 ユッキーの歓喜の声がコックピットのスピーカーから聴こえてくる。あの優勝作品やプチッガイを創ったのが同一人物であればその力は恐らく計り知れないのは目に見えている。

 オルタナティブはその隣でソードメイスを構えて立っており、グシオンとの戦闘を見ているゴーシュにとっては最早負ける気がしない光景が繰り広げられていた。

 

 人斬りの汚名持ちと実力者。あのマスダイバー相手にこの二人に負ける要素が見当たらない。

 

『セラヴィーガンダム・シェヘラザード。シャフリヤール――目標を壊滅させる』

 

『へん、寧ろシャフリヤールとソードマンを叩き潰してその名声貰うぜッ!』

 

 再び突撃をかけるザムドラーグガンダム。接近戦のエキスパートとどう見ても防御に長けて居そうな機体に対し真正面からの突進とは随分と悪手なように思えた。

 先に対応に移ったのはオルタナティブだ。

 

『いいぜ……来やがれぇッ!』

 

 吠えるソードマン操るオルタナティブがソードメイスでカウンター気味に一閃。片手のショーテルを跳ね飛ばし、次に空いた脇腹を殴りつけた。

 

『がぁぁ! パワーが違い過ぎる!』

 

 手慣れた剣捌きと、乱雑なショーテル捌き。どちらが有利かと言われれば、素人でも想像がつく。

 金属と金属がぶつかり合う音が絶え間なく鳴り響き、ザムドラーグガンダムの装甲の凹みや傷が目に見える勢いで増えていく。それと同時に古い傷や凹みも消えていく。

 再生速度と攻撃速度が拮抗している状態だ。

 

 右、左、右、左とリズミカルに殴り続け、ザムドラーグガンダムの反撃も悉く封じる。最早どちらが悪役か分かりはしない。

 

『クソッ――こんな奴の相手なんざしてられるかッ!!!』

 

 完全にやられるだけだと悟った偽シャフリヤールは強引に一方的なソードマンの太鼓の達人めいたコンボ祭りから脱し、機体のスラスターを全開に真シャフリヤールのシェヘラザードに飛び掛かる。

 

『トロそうな機体だ。お前には盾になって貰う!』

『――触れられるとでも? このシェヘラザードにッ!』

 

 偽シャフリヤールの物言いに飄々と返す真シャフリヤール。その言葉の意味はザムドラーグガンダムの腕がシェヘラザードの装甲に伸びた次の瞬間だった。

 シェヘラザードの中心から発せられる緑色の球状のバリアが行く手を阻んだ。

 

『GNフィールドだとぅ!?』

 

 バリアが触れる一切のもの弾き飛ばし、シェヘラザードのGNフィールドで押しだされたザムドラーグ ガンダムをオルタナティブがソードメイスで明後日の方向に殴り飛ばし、地面に砂を巻き上げ転がった。

 

 

『――では、トドメと行こう!』

 

 地上に墜落したプトレマイオスが真シャフリヤールの合図と共にユッキーの操作無しに浮上を始める。

 下部のコンテナ二つが排除され、前方後方に分離。排除されたコンテナは両腰のサイドアーマーと合体し、後方はリアアーマーと合体。最後に艦首はバックパックに装着された。

 

『これが――これこそがシャフリヤールのガンプラ――その真の姿だ』

 

 あのプトレマイオスなるものは元々シェヘラザードの装備の一部だったようだ。型破りな造りにゴーシュは言葉を失う。あのザムドラーグガンダムの変形といい、このシェヘラザードの合体機構といいこの世界は何でもありだとでもいうのか。

 

『くぅぅぅ……ッ! 色々くっつければいいってもんじゃねェぞッ!!』

 

 ヤケクソになった偽シャフリヤールは一振りのショーテルを携え機体をブーストさせる。もうザムドラーグガンダムの装甲はボロボロになっており、再生速度が追い付いていない。

 オルタナティブは片腕を地面に落ちたショーテルに伸ばし、ワイヤーを射出。引き寄せ手にしたそれを迫るザムドラーグガンダムに投げつけた。

 

『そうだな――お前の言う通りだ。それで重量過多でバランサーがイかれたり速度が滅茶苦茶遅くなったりしたら良くないもんな……得物、返しとくぜ』

 

 ショーテルの切っ先が深々と突き刺さり、大きく怯む。泣きっ面に蜂の如くタイミングを見つけ、ゴーシュは照準を終え、Mk-Ⅱにロングライフルを発砲させた。狙うは脚だ。

 狙い通り脚に命中した所で、更にバランスを崩し、動きが完全に停止する。

 この一連の行動の合間にシェヘラザードは砲撃準備を終えていた。バックパックと両腰のコンテナからビーム砲が露出し、チャージを終えており、合計4つの――色とりどりのビームがザムドラーグガンダムを呑み込んだ。

 

『……なっ――なんじゃぁぁぁぁぁこりゃぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 

 憐れ、ザムドラーグガンダムは乗り手の断末魔残して爆発四散。ザムドラーグガンダムの居た場所にはデータ片が微かに舞い、消えた。

 自業自得とはいえザムドラーグガンダムの乗り手が少しばかり――同情した。

 

 まさか人斬りに太鼓の達人をされた挙句、自身の得物で致命傷を負わされ、最大出力で塵にされるなど。

 再生力を越えなければならない理由はあるので仕方ないが。

 

 いつの間にか茜色に染まりつつある穏やかになった砂漠を、先の戦闘の疲れを取るべくコックピットハッチを開けてぼんやりと見渡した。

 ……このガンダムMk-Ⅱの操作感をある程度再現しつつ、自身が扱いやすいようにカスタマイズすることが出来たなら。それは一番の理想だ。

 ガンプラの出来だけではない。ゲーム上付与できるアビリティや天候の熟知も必要で、操作技術も必要だ。

 このうちどれも欠かしてはならない要素なのだ。それら3つを成り立たせ、両立させるのがプレイヤーの執念。言い換えれば愛、というものなのだろう。

 

「俺に愛はあるのだろうかな――」

 

 砂漠の上で聳え立つセラヴィーガンダムシェヘラザードを一瞥し、誰にも聞かれないぐらいの小さな声で呟いた。

 

 

◆◆◆

 

「……ひどい目に遭った」

 

 機体ごと消し炭にされ、夜のペリシアにリスポーンされた偽シャフリヤールと従者は裏通りで酷く脱力していた。あんな散々な目に遭わされた挙句チートも無力化されれば脱力くらいするというものだ。

 とはいえ、あのソードマンに気を付けろという警告はアヤメが既にしていたので頭に血が上った偽シャフリヤールの単純なミスだ。

 

 あのGBNを騒がせるソードマンの撃破とシャフリヤールの成り代わり。

 それらが出来れば自分たちの天下となっていたはず。だがこの戦いで完全に失敗してしまった。本物のシャフリヤールはこの偽者事件に相応の対応をするだろうことを思うと最早偽シャフリヤールに挽回の余地は残されていなかった。

 このまま細々とやるしかないのか――ふざけるな。

 

 どうせ地位を得るなら近道を取るのが人情だ。

 

「さて、不本意だろうがこれで契約は終了だ。()()()()()()()()()()()()()

 

 ――がそれすらも奪う者が、一人。

 ローブを纏い、フードを目深に被っている。その姿はあの真シャフリヤールのものではないと声色で分かった。この男はザムドラーグを寄越した男だ。偽シャフリヤールは泡を食ったように土下座をはじめる。

 

「待ってくれ! 俺にもう一度チャンスをくれ! この通り!」

 

「契約は『ブレイクデカール』消失までだ。戦闘で負けブレイクデカールが消滅した現状契約はもう終わっている。――どうしてもというなら追加料金を払うんだな」

 

 そんな金は――ない。それを知る偽シャフリヤールの表情が徐々に精神的苦痛に歪んでいく。

 あの男から完成度の高いザムドラーグをレンタルし、チートツールを購入した。その金額は下手なガンプラよりずっと高いのだ。

 

「それに、なまじブレイクデカール再び手に入れた所でどうしようって言うんだ? ソードマンやらシャフリヤールとやらにお礼参りでもするのか? ……すぐやられちまうのがオチだ。既に運営になりすましの罪で目ェ付けられてんのに態々足がつくリスクを冒して売ってやると思うか?」

 

 反論しようがなかった。

 ブレイクデカールの使用こそ履歴に残らないように細工がされているが、なりすまし行為そのものは証人が腐るほどいる。加えて強引なダイバーの誘拐行為。

 何かしらのペナルティは課せられるのは時間の問題だ。

 

「……約束は約束だ。ザムドラーグは返してもらうぜ」

 

 男は指をパチン、と鳴らすと不思議なことに偽シャフリヤールの登録機体データが――消えた。悔しさのあまり悪態をつく偽シャフリヤールを背に男は夜のペリシアに溶け込むように歩き去って行った。



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STAGE12 河童の怪

 2週間もお待たせして申し訳ございません

 今後も極力週間連載をする予定なのでどうかお付き合い下さいませ


 それは、GBN電脳仮想空間・ディメンションのシーサイドエリアから始まった。

 

青年型ダイバーは夜の埠頭で佇んでいた。灯りは疎らに配置された電灯が照らしてはいるものの、心もとない。加えて自分以外にダイバーの姿はない。

 この心細さは仮想空間にしては良く出来ている。風は凪いでおり、今日のシーサイドエリアはいたって穏やかなものだった。

 

 この広大かつ精密に出来たディメンションを旅する。それがこの青年型ダイバーの楽しみだ。

 GBNの世界は、最早ゲームのギミック程度にとどまるレベルを越えていた。ガンプラバトル以外の目的でGBNの世界に脚を踏み入れる者も存在しており、青年型ダイバーはその内の一人だ。

エリア別にある特産アイテムを収集することを目的としており、このシーサイドエリアでは特産アイテムが豊富との評判である。

 

 ばしゃぁ

 

 ふと、海から何かが浮上するような音が聴こえた。

 ダイバーのダイバーがディメンションの海から這い出たかと海を見るも、その姿は何もない。

 

 そこ知れぬ不気味さを覚えながら青年型ダイバーは再び海から背を向けると、また水音が聴こえた。おちょくっているのかと海を見ても相変わらず何もない。

気味が悪い

 さっさとこの埠頭から離れよう。思い立って海から背を向けたその時――

 

 

 何かが足を掴んだ。

 水気のあるぬるりとしたものが絡みついて離さない。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 状況を呑み込んだダイバーは悲鳴を上げながら海を離れるよう掴まれていない方の脚で地面を蹴った。しかし次に出る足は無い。空ぶった所でバランスを崩し転倒。

 抵抗する力が転倒で綻んだ途端掴んだ力が後ろに向かって行く。このままでは海に引きずり込まれる。必死に這い出ようと地に伏せ地面に爪を立てるが抵抗虚しく、爪痕残しながら海に近づいて行く。

 

 一体何なんだこれは。河童か、河童なのか。というか海に河童なんているのか。

 

 この埠頭に襲撃をかけてくるような奴が居るのか。そんなに治安が悪いという情報はダイバーは聞いていない。加えて相手を確認したくても引っ張る力が強すぎて抵抗するので精いっぱいだ。

 

――駄目だっ

 

 足が海に浸かり、地面の隅を掴んで辛うじて保つ。

 上半身と下半身、腕が千切れてしまいそうだ。徐々に地面を掴む手が指先だけになり――

 

 

 男は海に落ちた。

 

 

◆◆◆

 

「そういやフジサワさん、GBNやってるんだっけか」

 

「そうだけど……どうしたの?」

 

 相変わらず客足は少ないこの古鉄や。暇を持て余したカナタはスマホでネットサーフィンし、同じく暇を持て余しアルバイトに慣れて来たアヤは冷たい麦茶を啜る。

 そんな中でカナタが切り出した。

 

「シーサイドエリアで、河童が出るってよ」

 

「えっ、何それ」

 

 アヤが素っ頓狂な声で返した。

 ディメンションでオカルトな話ってあり得るのか。そもそも海に河童ってどういう事だ。そういうのは川に現れるものじゃないのかと言いたげに目を丸くする。その気持ちには同意しか浮かばない。

 

「エネミーじゃないの?」

 

「それだったら運営が事前に何かしらの告知はしているハズだ。それに明らかな不具合が出てるって話らしい」

 

「具体的に何を?」

 

「海に引きずり込まれてリスポーンしたダイバーのデータ、一部欠損。……尻子玉の代わりにデータを持って行かれるってことだ」

 

「け、欠損!!?」

 

 アヤがギョッとした顔をする。当然だ、このGBNに死という概念はないがデータの消失はこの世界に於ける死に等しいものだ。

 特に長い事プレイしていたダイバーならそのダメージは殊更大きいものとなる。

 

 考えてもみろ。これまで苦労して積み重ねて来たダイバーポイントや一品もののレアアイテムをロストさせられた時の絶望感を。

 SFC時代のドラクエで《おきのどくですがぼうけんのしょはきえてしまいました》に直面した時の全身から力が抜けるようなアレに等しい。

 俺の時間返してくれよォ! と言いたくなること請け合いだ。

 幸いオンゲーなのでバックアップやらサルベージやらの可能性がある分まだマシなのだろうが、もし仮にサルベージ出来なければ過去のデータに戻るにはオフゲー以上の膨大な時間を必要とする。特に、限定キャンペーンの景品に限っては取り戻すのは絶望的だ。

 

「中々シャレにならん噂だろ? つーかそもそも河童が河童っていう証拠もない。被害者がそう呼んでいて便宜上そう呼んでるだけでもしかしたらズゴックやゾノっつー可能性だってあるし」

 

「それはそれでシュールね……モビルスーツじゃなくて人を海に引きずり込むモビルスーツなんて」

 

 そんなシュールなシーンガンダムシリーズにあったか。と二人は考え込む。

 ……ぶっちゃけキル目的ならそれはクローで潰せば早いじゃないか。結局そんな結論に落ち着いてしまった。

 

「そういえば河童騒動云々とは全然関係ないけど、その昔カッパガンダムって機体いたよね……」

 

「お……お前詳しいな。どっちのカッパだか知らんが……」

 

 アヤの想定以上の知識量にカナタの口元が引き攣りそうになる。下手にガンダムの話をしたら知識量で圧殺されてしまいそうな気がした。どっちのカッパにしろマイナーもいいところだ。

 というかこの娘何歳だ。歳誤魔化しているんじゃないのか。どっちのカッパガンダムもGジェネにすら出ていないぞ。

 

「それはそうと運営が動くまでシーサイドエリアというか海際に近寄らない方が良いかもだ。データ食われるって話が本当か知らないが君子危うきに近寄らずって奴」

 

「心配してくれてありがとう。でもここ最近ログインしてないから心配ないよ」

 

「そか。ならいいや……」

 

 真偽は置いておいて、アヤが帰ったらカドマツに連絡して確認を取ってみよう。GBNサーバーのメンテナンスを行っているあの男であれば何かしら知っているはずだ。

 マスダイバーに関係する事件の可能性を思いしかめっ面になっていると、アヤが「どうしたの?」と顔を覗かせていた。

 

「なんでもない。俺もデータ食われたら怖いなって思ってさ。俺もログイン当面しねえわ」

 

 当然、これは嘘だ。

 店じまいしたら、GBNのシーサイドエリアにアクセスする気満々だった。それに気づく様子もなく、アヤは笑顔で「だね」と頷いた。

 

◆◆◆

 

 結論から言おう。噂は本当だった。

 シーサイドエリアでの犠牲者が不具合を怒り心頭でデータの欠損を運営に報告、運営内部でこの対応に色々揉めているらしい。ただでさえマスダイバーの調査で慌てふためいているのに泣きっ面に蜂という奴だ。

 

 夕暮れの埠頭に立ち、カナタ改めカタナは海面を見下ろした。……凪いだ海が僅かに揺れている。見えるのはそれだけだ。そこから人が引きずり込まれるなんて事が信じられない程に、静かだった。

 

「……この辺から河童が現れたってのか……カドマツさん」

 

「あぁ。というかここではカドマツじゃなくてロボ太と呼んでくれ。この世界でリアルネームはやめろ」

 

 カタナの隣にはSDガンダム外伝の看板、騎士ガンダムが神妙な顔で広大な海を前にしてしかめっ面で立っている。咎められたカタナは慌てて謝った。

 

「すんませんつい」

 

 うっかりGBNの世界でリアルネームで呼んでしまったことにカタナは謝罪する。カドマツがGBNにログインしてカナタと一緒にいること自体がそうそうないのだ。普段はリアルで交流しているがゆえの弊害である。

 カドマツ改めロボ太は「コホン」と咳払いしてから話を続けた。

 

「まぁいい。厳密には襲撃時のログデータが綺麗さっぱり欠損してて参照が出来ないので犠牲者の記憶に依存している、しかも天候は当時夜で周囲の状況も曖昧。肝心の記憶もあんまり信用ならないときた」

 

「なんだそりゃ。それ手がかり実質皆無じゃ……」

 

「一応全ログイン者のログを洗ってみたが、全員アリバイありだ。――となるとバグったNPDの仕業なんじゃないかと運営サイドは踏んでいる」

 

 バグったNPDが暴走してダイバーを狩り、データを喰らい始める。ある意味ホラーじみた話に腹の奥から変な笑いが込み上がって来た。ホラーとは別ベクトルで不気味だ。

 

「ただでさえマスダイバーの対応に追われているのに、別件でこんな詳細不明のバケモノが出てこられてはパッチ開発によるローラー作戦もクソもない。どういう病気か分からないんじゃワクチンも出しようがないしな」

 

「まず、接触してから生還ないと始まらないってワケか……」

 

「水陸MSか海底探査機使って(しらみ)潰しに、な」

 

 気が遠くなりそうな手段にカタナは眩暈を覚えた。

GBNの海は現実ほどでないにせよ広大だ。暇潰しに海底探査機でその海を彷徨うのはさぞや面白いことだろう。

……但し、データを喰らうという正体不明のバケモノを探すという恐怖と苦労のストレスフル仕様でさえなければ。ふざけやがって、こんなの砂漠の中でコンタクトレンズを探せというようなものじゃないか。

 

 しかしロボ太はそこまで深刻な顔はしていなかった。どちらかと言えばまだ余裕があると言った風だ。

 

「冗談だ。そこまで効率の悪い方法はしないさ。出来れば被害者の共通項を見つけてそこから餌を作れればそれでいいんだからな」

 

 それもそうだ。

 尻子玉もといデータ欠損こそ痛かったが被害に遭ったダイバーの記憶やSNSに投稿したスクリーンショットもある。まだ情報が全て奪われたわけじゃない。

 

 安堵していると、背後から軽い足音と人の気配がした。

 

「あれっ、剣の人」

 

「ん? ……おろっ、サラじゃねェか」

 

 振り向くと白いワンピースの青がかった白髪の少女が立っていた。サラだ。以前キョウヤと一緒にマスダイバーとやりあった時や、ペリシアの件で居合わせたダイバーだ。

 まさかこんな所でまた会うとは思いもしなかったので言葉に詰まっていると、ロボ太が「知り合いか?」と尋ねてきた。そこまで話しちゃいなかったので知り合いの知り合いみたいなポジションだ。

 

「――まぁ、一応」

 

 否定も肯定も出来ないので要領を得ない微妙な返事をしてみると、ロボ太は不思議そうに両者を見てから背を向けた。

 

「そうか。じゃぁ俺は俺でこの辺で調査してるわ。何かあったら連絡してくれ」

 

「了解」

 

 

◆◆◆

 

「偶然だな。もしかしてお前さんも旅ダイバーなのか?」

 

 潮風に晒されてパイプ部分が錆びついたベンチに腰掛け、カタナは切り出した。旅ダイバーというのはその字面のままに、ガンプラバトルを主な目的とせずにディメンション各地を飛び回る少し変わったダイバーだ。

 本来のゲーム目的と逸脱しているではないかと言われがちだが、ディメンションの完成され切ったグラフィックと広大さが新たな楽しみ方を創っているのでこれもまたGBNの遊び方というものだ。カタナとしては死合わないのは些か勿体ないように感じるが。

 

「旅……?」

 

 訊かれたサラはきょとん、としていた。

 

「してないのか?」

 

「旅してないよ」

 

「そか……」

 

 その割にはサラはガンプラを登録していない。そのため戦闘を目的としてここに来ていないのではないかとカタナは推測していた。見当違いだったのだろうか?

 話が途切れてしまったので次の話題に切り替えた。

 

「……で、リクたちは元気か」

 

「うん。皆頑張ってる。最近フォースも創ったよ」

 

「へェ、バリバリ邁進中じゃないか」

 

「嬉しそうだね」

 

「おン? そう見えるか?」

 

 そういうサラも嬉し気に微笑んでいる。その顔はその中学生ぐらいのアバターがするようなものではなく年齢不相応なものを感じた。まぁ――実年齢とアバターの外見年齢を別にする人間なんてゴマンと居るのだけれども。カタナ自身だって外見年齢は若干老けさせている。

 実際は高校生だが、ダイバーとしての姿だとよくて20代後半だ。

 

「うん、見えるよ。……戦いたい?」

 

「さぁ? どうだろう」

 

 まだまだリクやユッキーらの行く先は分からない。

 けれども、もし彼らがチャンピオンを――キョウヤを脅かす程の成長を遂げるのならサラの言う通り全身全霊出し惜しみナシで戦いたいのは本当だ。

 

「でも誰かに限った話じゃなくて限界まで叩き上げた得物(ガンプラ)とその腕で死合いたいんだ。G()B()N()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「始まる前?」

 

 きょとんとした顔でサラが問いかける。――そうか。カナタは思い出して弱く微笑んだ。GBNが世に出て前身のゲームが廃れてからもう久しいんだ。

 今じゃガンプラバトルは電脳空間で行うのが主流だが、かつては実機での戦闘が主流だった。

 

「GBNが始まる前、俺たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()。まァ今じゃ廃れたしもうやる事は無いかもしれないけれど」

 

「でも、大事な思い出だったんだね」

 

「……そりゃァ、アレ無くして今の俺はないもの。なら大事にしたくもなる」

 

 それは過ぎ去りし思い出。

 幾ら懐かしもうが、戻りはしないし懐古した所で無駄なものなのだろうけど、偶に思い出してやることはきっと罪じゃないはずだ。

 確かに苦い思い出も腐る程あったし多少の思い出補正もある。でもあの創り上げた得物(ガンプラ)を突きつけ合い、互いを全力全開で打ち合う瞬間の充足感は誤魔化しようのないもので忘れやしない。

 

「……最後までずっと一緒に居てあげてね、あの子と。最後まできっと一緒に戦ってくれるから」

 

「あの子?」

 

 それってどの子だ。リクか?と訊ねようと口を動かそうとした所で水を差すように着信音が鳴った。

 カドマツからだ。空中ディスプレイを操作して応答した。

 

『ん? 取り込み中だったか?』

 

「いえ、気にせんといて下さい」

 

『……少し離れた別エリアでまた事件が起こった。河童だ。現場は少し離れた海域からだ』

 

「河童……!?」

 

 その報告はシーサイドエリアだけの問題じゃ済まなくなってきていると言う事を意味していた。となればこの近辺を探しても意味がないじゃないか。

――どーすんだこれ……

 

『あぁ、海で漁をしていたダイバーが喰われたそうだ』

 

 これは大事になりそうだ。カタナは「ちょっとごめんな」とサラから離れつつ通信を続けた。

 

「これは大事を取ってGBN一旦閉鎖した方がいいんじゃないですか?」

 

 運営だけで調査を進めて時間をかけてでもその河童を駆除した方が建設的だ。現在進行形でダイバーを狙っているのだからそのダイバーを締め出してしまえばいい。何故それを運営はやらないのか。

 そんな疑問にロボ太は厄介げに応えた。

 

『それが出来れば苦労はしてないんだがな……このサーバーでは、ここしばらくGBNではプロビルダーによる大会を行っているんだ、スポンサーに万が一の時に備えて一時メンテナンスを提案したが、データを食べる奴なんざスポンサーが碌に信じちゃくれやしない。……しかもいつ終わるかも知らんし存在もはっきりしていない奴の為にスケジュールを変更なぞ出来るか、と突っぱねられたよ』

 

「最悪っすね……大会中に派手に妨害かまして選手のデータ食われんと分かんねェのか」

 

『まぁ再三警告した果てに強行した結果、最悪の事態になっても責められるのはGBNサイドだ。進言を呑む呑まないのどちらにしろ早急な対応が求められるだろうさ』

 

 出資者は無理難題をおっしゃるとはまさにこのことか。再三警告した結果貴重な選手のデータが消えてしまってもこちらに責任を擦り付けられれば堪ったものではない。

 とはいえ、あちらのスポンサーはそこそこ金を出してくれている所であちらの機嫌を損ねればカタナにとっても不都合だ。

 

「胸くそ悪いな……」

 

 口から無意識的に言葉が零れる。

 スポンサーに痛い目に遭って欲しい所だが、スポンサーが痛い目に遭えばこちらも痛い目に遭う。しかしこちらが無茶な要求に応えればあちらも更に無茶な要求を投げて来るであろうことは目に見えている。

 

『外れてもいいんだぜ? マスダイバー狩りもお前が自分で始めたことだ。止めるのもお前次第だ』

 

「そりゃそうですけど……頼んでいなくても結局GBNが消えるか否かの瀬戸際に追い込まれちゃ俺も困ります。最後まで乗りますよこの河童事件」

 

『……悪いな』

 

「別に謝ることじゃないです。俺が勝手に始めた事なんで、あんたの言う通り降りる時は勝手に降りてやりますよ」

 

 カタナやキョウヤをはじめとしたマスダイバーを狩る者たち。運営はこれを有用として利用している。

 運営は法だ。故に証拠が無ければ公には裁けない。これは運営能力の有無の話ではなく法としての在り方の問題だ。もちろんその気になれば怪しい人間を片っ端からしょっ引けば、いずれマスダイバーを根絶やしに出来るだろうが、その強硬さは反感を生んで余計な問題を生み出す。

 

 なら自らの意志でマスダイバーを狩るような人間に、裏で情報提供をすることでユーザーにマスダイバーを排除させようというのだ。直接的に運営が絡んでいないことを悟られさえしなければ穏便に時間稼ぎになる。その間に対策用のパッチを開発しようという腹積もりだ。

 小賢しいとは思う、けれどもそれしか穏便に済む方法が現状無いのであれば乗ってやろうではないか。

 

『取り敢えず……被害者の共通点を炙り出すしかないな。今回出た被害者の情報を集めてみる。坊主はそうだな……得物でも研いでいてくれ』

 

「あいよ。河童を三枚おろしに出来るくらいには研いでおきますよ」

 

 自分の居場所を守る為に戦う。……この理由はあまりにも利己的で、格好の良いものではない。けれどもそれ以上に理由なぞ必要は無かった。

 このゲームはそこまで高尚なものでもないし、そうなってもならないものだ。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もう充分なのだ。




 次回STAGE13『ギガ・フロート』
 タイトルでお察しください(白目)


 カッパガンダムというと、
 Gガンのモブとして出て来た文字通り河童のガンダムと、Z系列の一機であるκガンダムの2種類が存在します。
 
 いずれも大昔の雑誌企画出身のモビルスーツで、Gジェネでも出番がないような奴です。……それを平然と知っている女子高生とは一体(白目)


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STAGE13 ギガ・フロート前篇

大変、大変お待たせ致しました。
次話も残るは推敲なので少々お待ちを(´・ω・`)


 こうして水中戦に向けて本腰を入れて準備するのは初めてだ。

 河童が水中で活動する以上ちゃんとした装備を作り、対抗するのが道理というものだ。

 

 ここで改めて何のためにジャケットシステムを開発したのか。もう一度思い出す必要がある。

 

 ストライカーシステムやシルエットシステム、ウィザードシステムといったC.E.系列の換装システムとはまた異なる、第四の換装システム『アームズジャケットシステム』。これを活かさない手はない。

 

 

 ……という訳で。

 

 今日、カナタは秋葉原でジャンクを漁る事にした。

 

 水中戦に耐え得るように水中用スキルを整えておくのは当然として、実際に水中適性のある機体構築をしておくのも重要だ。

 ジャンク屋の無造作に放り込まれたジャンクを掻き漁りながら脳内で構想を組んでいく。ここで肝心なのが迷うことを極力しないこと。迷えば一日中ジャンク屋を彷徨う羽目になる。

 これが特に目的が無いなら別にいいのだが、今回は早めに完成させておきたい。

 

 使えるジャンクを掻き集めて籠にぶち込みカウンターに叩きつけるように購入。この手のガラクタは基本的に安上がりで学生にもとても優しいお値段だ。

 少し重い紙袋を持って雑多な街並みを歩く。人混みを掻き分けていると、シュウゴの姿があった。このような所に訪れるイメージは無かったので少し新鮮に感じ、思わず声をかけてしまった。

 

「よう、シュウゴじゃねェか」

 

「な、何だ。お前かっ」

 

 声を掛けられてようやく気付いたシュウゴはカナタを見るや否や「げっ」と言わんばかりの顔をした。余程見られたくなかったらしい。

 

「何だ、こんな所に何しに来たんだ」

 

 つっけんどんな質問にカナタは意趣返しと言わんばかりに気色悪い顔芸を始めた。

 

「デュフフ……拙者ァ、新しいフィギュアを買いに来たでござるよ……観賞用、保存用、実用と」

 

 気色悪い笑みを浮かべ、目を泳がせ考え得る限りのステレオタイプの気持ち悪いタイプのオタクを演じてみる。それを見たシュウゴは「気色悪いぞどうした」と切って捨てた。

 

「それに実用って何だ実用って。一体なにに使うつもりだ貴様は」

 

「知らね。つーかそもそも同じフィギュア3体も買うかい。それなら1体買ってから以降同じものは自前の部品で作らァ」

 

「……それも大概普通じゃないだろう……普通の人は作るって発想しないぞ」

 

「うるせぇ。単にジャンクパーツ買いに来ただけだっての」

 

 見せつけるように手に持った紙袋を持ち上げる。中には大量のジャンク品が詰め込まれていた。それを覗きこんだシュウゴは拍子抜けしたように肩を落とした。

 一体何を期待したのかこの男は、とカナタは若干拗ねた。

 

「何だ、エロフィギュアでも買いに来たんじゃないのか」

 

「違うわたーけ。そういうお前だってなんでこんな所に来てんだ。何だ、ヲタ趣味にでも目覚めたか?」

 

「んな訳あるか。単に散歩に来ただけだ」

 

 散歩で態々秋葉原に来るものなのか。シュウゴの家からはそこそこ離れているハズだ。疑問は尽きないが、シュウゴにもシュウゴの事情があるというものだ。これ以上弄るのは止めにしよう。冷静になって口を噤んでいた所でシュウゴが口を開いた。

 

「聞きたいことがある」

 

「ん? どした?」

 

「お前は一体何を目指してガンプラを創ってるんだ? 一体行き着く先は何なんだ?」

 

「あ?」

 

 態々秋葉原にまで出向いて説教でもするのかと眉間に思わず皺が寄る。この手の趣味に将来性など問うような奴が。大人とか大人とか大人とか。そんな姿を思い出してしまう。

 シュウゴはあまりその辺の干渉はしない記憶があったのだが。

 

「言葉が足りなかった。何を理想としてガンプラを作ろうとしているのか、という事だ」

 

「……何を理想として、か?」

 

 ガンプラを作るうえで理想――というよりコンセプトをはっきりとさせるのは大事なことだ。

色んな「やりたい事」を詰め込み過ぎて、その「やりたい事」同士が喧嘩しあって途中でモチベーションを萎えさせてしまったり、とっちらかったシロモノにしてしまうよりは、「やりたい事」を一つに絞って特化させた方が割とよく出来る。

 

「まぁ、そうだな……ゲームで使う奴も居れば使わない奴もいるし、人によっちゃァ原作再現をしたいって奴も居れば、何かオリジナルのモン出したいってのも居るし、はたまた別の世界のテクノロジーを合体させたいとかいうクロスオーバー脳も居るが、俺の場合はだなァ……」

 

 ちょっと、考え込む。

オルタナティブ自体幾度もの改修改造を重ねている。その度にもっと強く、負けないようと考えのもとで創り上げている。

 同時に独自のシステムであるアームズジャケットシステムを乗せたのは自分自身の酔狂もある。重装甲からパージ、高機動戦に持ち込むのは自分なりの浪漫というものだ。

 

「俺は俺の酔狂とそのゲームでの実用性両方を取りたいと思ってる。陳腐な物言いになるけれど要は強くてカッコいいようにしたいのさ。それとプラスで原典で理論上再現可能な程度に留めているって所かねぇ」

 

「成程、わからん」

 

「だろうな。俺も大概欲張りでとっ散らかってるし。なら何に満足できるかを突き詰める必要がある。それが分かれば兎に角突き詰めてみると良いかもだ。で、こんな質問をするって事はGBN始めたのか?」

 

 GBNじゃなくてもガンプラを作るだけでもいい。

 ただその両方に興味が無い人間がする質問ではないように思えた。こんなジャンクの街に現れるのであれば、何となく分かってはくる。

 

「いや、少しばかりお前がそこまで執着するゲームについて情報が欲しかっただけだ」

 

「ったく言うねぇ。まぁいいや。以前よか窮屈そうには見えないし悪かない傾向だ」

 

「窮屈?」

 

 カナタの放った言葉の意図が分からず、眉間に皺を寄せて疑問符を浮かべる。

 シュウゴという男は初めて見た時から面白味の無い男だった。何かに押さえつけられているようにも思えるほどに。

 彼と会ったのは小学生の頃からだ。どういう訳かずっと同じクラスだったのだから、感性の合う合わない勘定に含めても厭でも互いの顔を知るし、話もするようになった。

 何時の間にか腐れ縁と化しており、暇あればアホな話に時々混ざるようになりツッコミ役として動くようにもなった。

 

 そんな中彼の言動からそう言った抑圧されたものを感じ取ることは出来た。

 ゲームをしない性格のように見えたが、ゲームプレイヤーにしか知り得ない言葉を発したり、周囲の視線を気にしながら書店で模型誌を読んでいたりしていたのを見た事がある。

 それが自身に見つかってやたら焦っていたのは印象に残っている。それは尋常じゃない焦り様に逆にカナタが困惑してしまったほどに。

 

 

 授業参観でカナタはシュウゴの母親を見た瞬間得も言われぬ不快感というものを感じた。

 彼女は侮蔑するような視線をシュウゴ以外の者たちに向けていた。それが彼を苦しめている。それが彼を生き辛くさせているのは明白だった。

 

「いや、そんな風に見えた」

 

 シュウゴの質問をはぐらかした。こんな話をわざわざぶちまける必要もない。シュウゴは少し間を置いてから口を開いた。

 

「それは気の所為だ。心配は――要らん」

 

「そうかい。じゃあな……巧くやれよ」

 

 カナタは荷物を持ち直してそのまま会釈してシュウゴの横を通り過ぎる。これ以上問答しても何か意味がある訳でも無いし、シュウゴもそれを望んではいなかった。何の形であれ彼の窮屈さがマシになっているのであればお節介の甲斐があったというものだ。

 

◆◆◆

 

 

 出来上がったガンプラはどこまで動くのか。

 これは実際にGBNで動かしてみなければ分からない。完成した外装(ジャケット)を纏ったオルタナティブがGBNの世界の湖の前に立っていた。

 正式名称アストレイ・オルタナティブ・スケイルジャケット。

 

 言わずもがな水中戦に特化した形態だ。形状としてはブルーフレーム・スケイルシステムをベースに制作。バックパックに大型のスクリュー付きの潜航装置を装備。

 四肢の鱗状に構築されたアーマーは振動を起こす事で推力を生み出す。

 

 右腰には高周波ナイフこと《アーマーシュナイダー》、計2本。左腰には何時ものサムライブレードの千子村正。

 そして手には超音速魚雷を搭載したスーパーキャビテーティング魚雷発射専用銃。

 四肢に取り付けられた無数の鱗状のパーツで形成されたアーマーの内側に捕縛用のブーストアンカーが仕込まれている。

 

 

 そんな物々しいスケイルジャケットを前に、対峙するように球体に手足を生やしたような水色で丸いモビルスーツが立っていた。名はモモカプル。

 こちらは最初から水陸両用モビルスーツ《カプル》をベースに創られており、オルタナティブのような後付けではない。しかしそのカプルとは違い妙に可愛らしく作られていた。

 頭部のモノアイは2つのつぶらな瞳に変わっており、両手の鋼鉄をも切り裂きそうな銀色のアイアンネイルは丸くなって黄色く塗装されたコミカルな仕上がりだ。

 

 それにしても水色なのにモモカプル。

 ……というのは搭乗者の名前にちなんでいるのだから当然だ。搭乗者はあのペリシアに同行していたモモが搭乗している。

 

 

 どうしてこのような事になったのかというと、スケイルジャケットのテスト序でに、手合わせをすることになったのだ。リクとモモ、サラに出くわしたのは偶然で彼らもまたネイビーハロ目当てにここを訪れたらしい。

 因みにここでフリーバトルをすると勝者にネイビーハロが貰えるという。このネイビーハロは水中適性が上がり、機体の水中での反応速度が上がるという優れたオプションパーツだ。

 間に立ったリクは両者を交互に見てからスターターピストルの銃口を空高く翳した。

 

「えっと、今回はフリーバトルでDポイントの奪い合いは無しの模擬戦形式。二人とも、準備はいい?」

「二人とも頑張って!」

 

 リクの横で模擬戦の始まりを待つサラが応援している。

 カタナは気合いを入れ直すように深呼吸してから、機体の状態を確認してからいつでも動かせるように操縦桿を握りしめた。

 

『いつでもいいよ!』

「おう。やってみろやぁ! んじゃ、撃ってくれ」

 

 返答を受けたリクはスターターピストルの引き金を引くと、耳に残る程の大音量での破裂音が鳴り響いた。

 その音のデータを受けたモモカプルが真っ先に動き始めた。曲げた両腕を上げ、腹部のビーム砲口から黄色の閃光が放たれた。

 

『先手必勝! お腹ビィィィィィム!』

 

「なにぃッ!?」

 

『ネイビーハロは渡さないよっ!』

 

 初心者と聞いていたが、のっけから殺意の高い初動にカタナは両目を見開きギョッとする。このままではビームの餌食になってオルタナティブは黒焦げだ。

 即座に左腰の千子村正を引き抜き、そのビームを白刃で――裂いた。

 裂かれたビームはオルタナティブを避けるように左右に分かれ、森林を焼き払い爆発。

 

 一撃を免れたオルタナティブは魚雷発射専用銃と千子村正を携え、第二波に備える。先ほどのビームの出力は下手なビームライフルを大きく凌ぐ。これに当たる訳にはいかない。

 

『……び、ビームを斬った』

 

 驚愕の色を隠せないモモの声が聴こえる。ビームを斬るなんて芸当を想像出来なかったのだろう。

 それが普通の反応だ。現来ビームというものは本来シールドか、最悪装甲で受けるものなのだ。

 

『でも、まだまだッ!』

 

 再び腹部のビーム砲を放つべく構えを取る。その予備動作が出た瞬間、白刃を閃かせた。再び放たれた閃光は二つに分かれ、見当違いの場所で爆ぜた。

 真正面からのビームが無駄だと察したモモカプルの動きが変わり、じりじりと横へと足を動かし始める。

 

――駄目だ、これじゃぁいつも通りだ!

 

 カタナは自身の変わり映えしない防御方法に舌打ちし千子村正を鞘に納め、湖に向かってこちらも足を動かした。

 

『なら! 指ビィィィィィム!』

 

「指のビーム!?」

 

 次は両手を突き出し両の指先に小さな穴が開いている事に気が付いた。――これはビームの発射口だ!

 ランダムに放たれるビーム弾の雨の中、咄嗟に機体をジャンプさせて湖に飛び込ませた。大きな水飛沫を立ち上げ、機体は重量のままに底に沈んでいく。

 

 それを追うようにモモカプルも湖に飛び込んでいた。水中で加速し、逃げたこちらを肉迫していく。魚雷発射専用銃を構えて、迫るモモカプルに向け照準を合わせる。

 残弾数は6発。あまり無駄には使えない。

 

「行けっ」

 

 操縦桿のトリガーをカタナが引くと、それに合わせてオルタナティブが魚雷発射専用銃の引き金を引いた。2発の魚雷が湖の中を泳ぐ。

 モモカプルは2発の魚雷を腹ビームで全て撃ち落とした。

 

 水中ゆえに減衰しているとはいえミサイルを破壊するだけのパワーはあるらしい。

 

――残り4発。

 

 接近するモモカプルが振りかざすクローに即座にアーマーシュナイダーを抜刀して対抗、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 機体が水に捉われ過ぎて思うように動かせない。対するモモカプルは水中を自由自在に動けているように見えた。最初から水陸両用に創られたものと、無理矢理水中戦仕様にしたモビルスーツの差ということか。

 

『こっちの方が早いわね!』

 

「どうだろうなッ!」

 

 一旦蹴り剥がして、距離を取る。

 次にモモカプルは真正面から突撃を始めた。水中戦仕様のアドバンテージを理解したがゆえの行動だろう。両手のクローを突き立てるように接近をかけ、カタナは自機のオルタナティブにそのクローが接触する数秒前を待った。

 そしてその次の瞬間右半身のスケイルアーマーを振動させた。

 

『避けたッ!?』

 

 左方向にスライド移動するように攻撃を避けがら空きの背中目掛けて残り4発の魚雷発射専用銃の引き金を引いた。

 

――勝った。

 

 その時、勝利を確信した。確かな手ごたえと共に水に押さえつけられたような爆音と白い泡が噴き出す。

 

『やーらーれーたー!』

 

 モモの芝居がかった悲鳴と共にモモカプルが沈んでいく。

 全身から力を抜き、機体を浮上させようとした矢先――ふとセンサーを見た。

 

「――あれっ」

 

 沈んでいくモモカプルが一つ。そしてオルタナティブそのもの。最後に一つ。そのオルタナティブの背後に回り込もうとしている熱源反応がもう一つ。

 そんな馬鹿な、この戦闘では1対1のはずだ。

 

 なのに――これは

 

『モモ、キィィィィィック!!』

 

「え゛」

 

 背後を向く。そこには一回り小さいカプルをデフォルメ化させたような緑の丸いメカが背後に回り込んでいた。そしてライダーキックめいた姿勢で背中のスラスターを吹かせている。

 

「げぇっ!?」

 

 カナタは口をあんぐりと開けた。

 あのマシンにあんな仕掛けがあったと言うのか。そんな馬鹿なことがあるのか。

――マトリョーシカかよォ!

 

 想定外な展開にテンパったカタナは慌てて操縦桿をガチャガチャと動かすものの、モモカプルの中身の方が行動が速かった。

 

 げしっ。

 

 そんな気の抜けたキックの炸裂音が、カタナがこの戦闘で一番印象に残った炸裂音だった。

 

 

 

 

 

 結論から率直に言おう。……カタナは負けた。

 背中のスクリューを破壊され、挙句復帰したモモカプルに水中でボコボコにされた。あんまりだ。あまりにもあんまりだ。

 しかもあの4連魚雷の炸裂する寸前にモモカプルは減衰したビームを撃って魚雷を破壊しており、ダメージを最低限に抑えていたというのだ。あんまりだ。まさかの初心者にボコボコにされてしまった。

 ネイビーハロを奪われたカタナはここ暫く、木陰で膝を抱えていたという。

 一方勝ったモモはサラと手を合わせて喜び合っており、サラにあのハロをプレゼントしようという話を耳にした。

 

「サラにあげちゃうね!」

「いいの!?」

 

 サラが花が咲いたような笑顔を見せ、リクは片隅でシクシク泣いているカタナを横目に苦笑いする。

 

「元気カ? 元気カ?」

 

 ネイビーハロは「ねぇねぇどんな気持ち?」と言わんばかりに敗北者(カタナ)の周囲で飛び跳ねまわっていたという……

 

◆◆◆

 

 

 数日後、古鉄やにカドマツがその戸を潜り、カウンターでいつものようにぼんやりとしているカナタに「よっ」と会釈をした。彼がここに来るときは大体何かあるときだ。

 察したカナタは覇気のない瞳と姿勢を正した。

 

「元気か?」

 

「まぁそれなりに」

 

 カドマツは無造作に棚に置かれたSDガンダムのキットの箱を手に取り眺めながら口を開く。

 

「既に何名か犠牲者が出ている例の河童だが――犠牲者に共通項が浮かび上がった」

 

 河童事件の調査に進展があったようだ。この共通項が浮かび上がれば燻り出しが出来る可能性が出来たというもの。カナタは食い気味に返した。

 

「何です?」

 

「事件はいずれも夜に発生していたこと。そして犠牲者は数日前あるイベントに参加していた。――ハロハロ一本釣りにな」

 

「あーそれ、俺も参加し損ねたんですよね……色んなハロが貰えるって言う奴っすよね」

 

 ハロハロ一本釣りとは昨月、シーサイドエリアで開催されていたイベントだ。数多くのダイバーたちが、ある者は色とりどりのハロ欲しさに、ある者はハロの持つアビリティ欲しさにこぞって参加したものである。

 

「確か釣れるのがグリーンハロとかゴッドハロとか、ネイビーハロとかでしたっけ。機体にセットしたら性能が上がる奴で……」

 

 ネイビーハロという単語を口にした途端、初心者のモモに水中でボコボコにされた苦い思い出が甦る。スケイルジャケットが不完全だったというのもあるが、ツメの甘さはスケイルジャケットとは無関係であり半分カナタの落ち度だ。

 なお、このハロハロ一本釣りイベント自体は定員制でカナタは参加し損ねている。

 後日局所での戦闘の報酬で貰えるようにはなっており、先ほどの湖での戦闘もその一つだ。

 

「そう。それに犠牲者がいずれも参加していたということだ。それで特定のデータに反応しているらしく、ネイビーハロをいずれも共通して食われているそうだ」

 

「……ネイビーハロを?」

 

 それまたピンポイントなターゲットだ。カナタは要領を得ず冴えない返答をした。

 

「恐らく海に居ることと水中適性上昇アビリティに何かしらの因果関係があるんじゃないかと踏んでいる。坊主、アレ持ってるか?」

 

「えぇ……一応取りはしてるんですが……」

 

 あの惨事の後、カタナはモモにリベンジし、水中戦に持ち込まれる前に速攻でモモに逆襲し勝利を収めた。

ネイビーハロの力で水中適性を上げて、モモカプル戦での反省を活かしスケイルジャケットの改良も行っているので水中戦ではそこそこ戦えるようになったと自信を持てたというのに、結局は河童の恰好の餌だったという事実を前に徒労を感じた。

 

 ……しかしちょっとまって欲しい。

 逆に考えればこれは、河童を地上におびき寄せるチャンスにもなるということじゃないか? そう思い付くや否やカナタは口を開いた。

 

「じゃぁ、河童釣りかましましょうか」

 

「河童釣り……ね」

 

 意図を理解したカドマツが軽薄な笑みを浮かべる。この作戦が決行されるとき、河童の年貢の納め時だと、そう思いカナタはほくそ笑む。

 ……が、それと同時に嫌な予感が寒気という形で背筋を襲った。

 

 ダイバーギアのメール着信音が鳴り響いた。話が終わって会話が途切れていたのでカドマツに断ってからダイバーギアを立ち上げメールを確認すると心臓が掴まれるような感覚を覚えた。

 

『サラを見ませんでしたか? ログインはしているみたいだけど、メールしてもぜんぜん返事もなくて』

 

 嫌な予感は往々にして的中するものらしい。カナタは眩暈のようなものを感じた。



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STAGE14 ギガ・フロート 中篇

 世の中得てして良い事はろくに起こらない癖に最悪の事態は日常のように起こる。

 今回の場合、自分の知り合いが河童の餌食になるという懸念が現実となって起こってしまったという事だった。

 否定したく、他の可能性を考えもしたがそれ以外の可能性は考えられなかった。

 

 

 最初こそリクたちとGBNのこれまで行ったことのあるエリアを駆けまわり、サラを探し回ったもののどこにも彼女の姿は無く、敢え無く捜索は断念という運びとなった。

 リクたちもサラのリアルを知らなかったが故に確認する術もなかったのだ。

 

 

 完。

 

 

 なんてオチなわけがない。

 

 サラの件はこれまでの河童事件とは異なる点があった。

 というのは河童にやられた時点で強制ログアウトされていたのにも関わらずサラの場合常にログインされているという状態だった。

 

 しかしログインされたままだというのなら、運営権限で位置情報を特定すれば河童の居場所がお陰で明らかになる。

 この点では良いニュースとは言えるが、サラのこれまで積み重ねて来たデータが食われて台無しになっているであろう可能性を思うとあまり素直には喜べなかった。加えて運営権限による外部からの強制ログアウトも原因不明の失敗をしている――無事でいるとは到底思えない。

 

 そして――サラが連れ去られようとも、河童一本釣り作戦に決行には変わりはしなかった。

 

 

◆◆◆

 

 ギガ・フロート。

 カドマツ主導で発動したこの河童一本釣り作戦はそんな名前を持つエリアを拠点で行われる。その名の通り、メガ・フロートを発展させた人工島だ。その大きさはギガというだけあって全長数10kmに及び、浮体構造物として移動能力を持つまである。使い方次第ではちょっとした海上要塞だ。

 

 本作戦に於いてカタナだけではなく、カドマツが個人で募ったダイバーも参加している。島上には数機のモビルスーツが配備されている。その中にはダブルオーダイバーやモモカプル、ジムⅢビームマスターとガンダムMk-Ⅱの姿まであった。

 

 カドマツはこの集まりをこう呼んだ。

 

 『有志部隊』と。

 

 

「カタナさん。サラは無事なんでしょうか……」

 

「それは知らねえ。まだ強制ログアウトもされちゃいないからまだやられちゃいまい。それに一応、ゲームだしプレイヤーへの直接的ダメージは無いんだからそう気を揉むこたぁない」

 

 有志部隊の合流地点で気を揉むリクにカタナもまたこう口では言ってはいるものの、あまり楽観視は出来ていなかった。河童が何故サラをキルしていないのか。河童はサラを相手に一体何をしようというのか。

 一瞬悪趣味な想像をしてしまったのは内緒だ。触手プレイとか丸呑みとか――そんなものは想像しちゃいない。いいね?

 

「……いずれにせよ一度救出せんことには始まらんだろうよ。位置情報が掴めた現状そっから河童の根城も明らかになっているわけだし――」

 

 考えるのはその後でいい。

 かのサラ誘拐から既に1日程経過しているのだ。あまり期待しない方がダメージが小さくて済むというものだ。サラがいる海を無言で二人遠目で見渡しているとロボ太が有志部隊の面々の注目を集めるように声を上げた。

 

「皆! リアルでの事情もあっただろう。突然の勝手な呼び出しによく集まってくれた。――ありがとう」

 

 リク、ゴーシュ、モモ、ユッキー、そして屈強な髭面の漁師やら眼帯をした海賊、果ては軍服を纏ったフェレットと個性豊かな面々が集っている。

 これが有志部隊か。

 カタナが内心でその壮観さに舌を巻いていると肩を軽く叩かれた。話中に何だと思いつつ振り向くとそこには胸元をさらけ出しピッチピチのスーツの上に紅いジャケットを羽織った男――マギーがにこやかに会釈した。

 

「マギーさん……なんで」

 

「サラちゃんが河童に攫われたって言うじゃない。それを放っては置けないわよ」

 

「……すみません。心強いです」

 

 オネエでこんなぶっ飛んだ外見とキャラをしているが23位の実力者だ。

 マギー以外にもあの軍服を着たフェレット。記憶が正しければランキング2位のフォースのリーダーのロンメルだ。一体どういうツテでかき集めたのだろうか、あのカドマツという男は。開発者メンバーであるが故の人脈なのか。

 演説を続けるロボ太の方に向き直り再び演説に耳を傾けた。

 

「知っての通り、河童と呼ばれるNPDによって多くのダイバーが犠牲になっている。そして一人のダイバーも連れ去られている状態だ。……事態は一刻も争う。この作戦での目的は二つ。――一つは河童の撃破。もう一つは連れ去られたダイバーの救出だ。皆の力を貸してくれ」

 

 ロボ太の呼びかけに有志同盟の面々が頷き、思い思いの叫びをあげる。

 勿論、この招集に拒否は出来たハズだ。真偽はともかくリアルの事情という聖域を使えば強制出来はしない。そんな選択肢を蹴ってでもこの場に来た者たちの士気が低いハズがなかった。

 

 

 

 

「本来チャンピオンことクジョウ・キョウヤがこの場に出向く予定だったが別件で来られなくなった。その代理の戦術アドバイザーとして第七機甲師団のロンメルに来てもらう形となった」

「初めまして、私がロンメルだ。戦術アドバイザーとして出向く事となった。宜しく頼む」

 

 軍服を着たフェレット型のダイバーことロンメルがそう名乗り出る。一見その辺のマスコットキャラのようにしか見えないそれから発せられる渋い声はどうにもミスマッチなものに見える。

 ロンメルの合図とともにコンクリートの地面の上にホログラフ状の地形図が浮かび上がる。広大な海の上に浮かぶギガ・フロートの地形データが現れ、その上に複数の青いコマが配置される。それらが向いている方向には広大な海が広がっていた。

 そんな中に一つの赤いコマが現れる。ロンメルは何処からか教鞭を取り出し口を開いた。

 

「GBNを騒がせている例のアンノウン――便宜上河童と呼ぶが、奴の所在が明らかになった。……口惜しいことに何人ものダイバーを犠牲にして。そして今もなお一人のダイバーが奴に捕らわれているという状況だ。既に何度か告知はしているが、本作戦の目的は河童の撃破(デリート)とダイバーの救出だ」

 

 ロンメルはつま先立ちで短い手足を伸ばして、一つのコマに教鞭の先端を当てようとしているが微妙に届いていなかった。アバターが短足短腕である弊害がモロにでていた。

 あの姿でどうやってマシンのペダル踏んだり操縦桿とか持つんだ……

 こんな姿でもクジョウ・キョウヤに並ぶ実力者なのでちゃんとした調整はしているに違いはないのだろうけれども。

 ロンメルは無理に伸ばした短い四肢をぷるぷると震わせながら続けた。

 

「ぬ、ぬぅ……最初にネイビーハロを搭載させた機体を海中へ先行。交戦し即座にギガ・フロートまで後退。それまでのルートに機雷を仕掛けているが、くれぐれも当たるなよ。味方の識別信号出していれば追いかけては来ないが前方不注意で当たるのは防ぎようがないぞ。なお、この先行機に僚機を配置する」

 

 そう語ると先行する機体データと僚機データが出現した。その次の瞬間参加者たちがざわつき始めた。

 

「おいこいつ、ソードマンじゃねえのか」

「マジか。大丈夫なのかよ……」

「後ろから斬られるなんてごめんだぜ俺は」

「でも囮だってよ。いい気味だぜ」

「おい……聴こえてたらどうする」

 

 口々に不満不安の声が出て回る。忘れているだろうが、ソードマンの悪評は広がる一方だ。クジョウ・キョウヤやカドマツ、リクたち新人たちが特殊なだけで普通のダイバーの反応はこんなものだ。

 無論、アバターの顔は割れていないので言いたい放題言えるというものだ。

 モモが声をあげようとするもカタナは手で制した。

 

「心配無用。知ってるよ、俺の立ち位置なんざ」

 

 

◆◆◆

 

 ソードマンの監視。

 それがくノ一型ダイバー、アヤメに課せられた任務だ。

 

 今回の河童による事件はそこそこ前とある筋から聞き及んでは居たが、まさか徒党を組んで河童を潰しにかかるとは思いもしなかった。

 内部工作で潰しにかかろうにも、些か困難を極めるだろうし、データを喰らう暴走NPDを放置しておくことはアヤメとしても本意ではない。とはいえ、ソードマンを放置しておけば今後の障害となる。

 

 河童の餌にされてしまえば当面身動きが取れないように出来るかもしれないが、そうさせるにも骨が折れそうだ。何せこの作戦で罠を張ろうにも下手に動けば知将と呼ばれるロンメルに見破られる恐れがあるからだ。

 嫌な食い合わせだ――このまま監視だけでとどめた方が良いかもしれない。

 

 そう思った矢先、通信のコール音が鳴った。

 

 

 一度ブリーフィングの場から離れて、通信に応じるとSOUNDONLYのモニターが出現した。相変わらずその顔を見せない『彼』の態度にはもう慣れ切っている。アヤメは慣れたように口を開いた。

 

「……何の用?」

『予定が変わった。あのソードマンは俺がやる』

「何ですって」

『あのアストレイ――個人的に興味があってな』

 

 どういう風の吹き回しなのか。これまでの怨念返しでもしたいのか、それとも――彼の心境を推し量ることは出来ない。しようとも思わないが。

 

『引き続き監視をしていろ。点数稼ぎも必要だろう?』

 

 彼の物言いに些か癪に障り、「言いたいことはそれだけ?」とぶっきらぼうに返した。すると彼は「それだけだ」と少し笑いを含んだ声が返り通信を切断された。

 アヤメは溜息を吐いてから、表に出るとそこにはリクたちがいた。

 気付いた彼らは駆け寄って来る。

 

「アヤメさん! アヤメさんも有志部隊に居たんですね!」

 

 別にサラを助けるためにここに来たという訳ではない。かといってGBNの治安を守るためでもないが。むしろ、自分はその治安を壊し荒す側にいるのだ。

 

「えぇ」

 

 どう言葉を返したものか分からずアヤメは生返事しか言葉が出なかった。

 そもそも監視対象であり敵でもある彼らに必要以上に交流してどうしようというのだ。ペリシアでマスダイバーに絡まれた件で真っ直ぐに礼を言って来たリクたちに対して居心地が悪さを感じる。

 

――こうしてなれ合うのはこれで最後だ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、少し離れた所で騎士ガンダム型ダイバーと話しているカタナ(ソードマン)の姿を一瞥した。

 

「貴方たちには少し借りがあるわ――あの娘を必ず助け出しなさい」

 

 今は、ブレイクデカールとマスダイバーは無関係だ。

 カタナという存在を脳裏から無理矢理抹消しながらアヤメはリクたちの背中を押した。

 

「それにしてもサラちゃんも災難ね……」

 

 そんな中リクと一緒にいたマギーが溢す。確かに見知った顔がまさか突然現れたバグに等しい存在の餌食にされるとは思いもしなかった。

 

「それにここ最近GBNに不具合が多く起こっているのよねぇ……新人ダイバーたちも巻き込まれているって言うしあの河童も関係あるかもしれないわね」

 

 マギーはあのぶっ飛んだ言動と姿とは裏腹に顔が広く、情報通として知られている。

 GBNは元々広大なゲームであり、オープンワールド形式の宿命かバグは少なくはない。とはいえ運営の手腕もあってゲームに致命的な悪影響を及ぼした前例はほとんどなかった。

 しかしそれがここ最近になって頭角を現しつつある。

 

 自分がブレイクデカールを配布し始めたタイミングと妙に符号しているとはいえそれを考え、突き止める権利はアヤメにはない。すぐさまマギーの言葉を思考から追いやった。

 

◆◆◆

 

 埠頭にスケイルジャケットを纏ったオルタナティブが立っていた。

 そのコックピットから真下を見下ろすとすぐに波が白い飛沫を散らしながらコンクリートを打っているのが見える。一歩でも踏み出せばいつでも海中に降りられる状態だ。

 すぐ横にはモモカプルとダブルオーダイバーが並び立っている。

 

 少し離れた後方にはジムⅢビームマスターとガンダムMk-Ⅱ、アヤメ操るRX零丸なるSDタイプのユニコーンガンダムをベースに改造した機体、そしてマギー操るストライクフリーダムをデスサイズ風に改造した妙にアブノーマルさを放つガンダム・ラヴファントムを含めた数機のモビルスーツの姿があり、彼らは地上部隊としてオルタナティブがおびき寄せた河童を撃破する役目を持って待機をしている状態だ。

 

『作戦開始時刻は日本時刻で1800(ヒトハチマルマル)。残る時間は残り僅か、各員の健闘を祈る』

 

『作戦開始まで残り60秒……』

 

 ロンメルの激励に続いてカウントダウンをするロボ太の声が聴こえてくる。コックピットの中でカタナは深呼吸をしながら、波の音を聴いて待っているとプライベート回線で通信が入って来た。リクからだ。

 コックピットで好き放題に跳ねまわるネイビーハロを押しのけながら応答した。

 

『カタナさん』

 

「おン?」

 

『カタナさんはどうしてマスダイバーと戦えるんですか? あんなことを言われてどうして平気なんですか?』

 

 尤もな質問に腹の底から笑いが出そうになった。

 確かに河童に喰われればいいだの人斬りだの散々な言われようなのに心が折れずにここに居られるというのは、そこそこ太い神経をしていないと無理な話というものだ。

 

「まぁ、ある種開き直っている所はあるかもなァ。でもあんなチートぶん回す奴が我が物顔で暴れ散らされるのもムカつく話でこうして色々やってるって訳だ。……真似すんなよ、俺みたいに居場所無くなるから」

 

 ほぼ本心であると同時に精一杯の警告だった。

 マスダイバーを狩ることを目的としたフォースも少ないながら存在しているが、カタナが知っているとあるフォースの末路は碌なものでは無かった。

 逆恨みの報復も珍しくもない世界に初心者が飛び込む必要なぞないのだ。

 

「…………」

 

 リクが黙り込む。カタナもまたそれ以上言葉を紡がないままロボ太のカウントダウンを聴きながら海面を見下ろしていた。

 

『5、4、3、2、1、0……作戦開始ッ!』

 

 0とカウントされた瞬間にレバーを引く。

 オルタナティブが小さく前方にジャンプし、重力に従って海面に沈んだ。それを追うようにモモカプルとダブルオーダイバーが飛びこむ。

 

 浮かぶ泡と逆方向に沈んでいくオルタナティブはスケイルジャケットのバックパックに搭載されたタービンを回転させ前身を開始、目標地点まで前身を始めた。

 

 

『薄暗くて気味悪いわね……』

 

 海上から照らされる太陽光をもってしても薄暗く、モモカプルとオルタナティブがサーチライトを点灯させる。ある意味では開かれた世界だというのに何も見えず何処か息苦しさを覚える。

 たとえ、ライトで多少照らした所で焼石に水だ。加えて海中に深く潜れば潜るほど、比例するように息苦しさと暗さが深化していく。

 

 ある程度進むと丸い鉄の塊ふわふわと浮かんでいるのを機体のカメラが捉えた。てっぺんには緑色にぼんやりと光るランプがついており、その光景にモモが「うげっ」と声を出した。

 ロンメルが言っていた機雷だ。

 

『大丈夫だって、味方にはホーミングしないようになってるから……』

 

 宥めるリクにカタナが苦笑いする。実際問題浮かんでいる機雷群を見るとうんざりしてしまいそうだ。指で数えようなら速攻で投げ出しそうなほどに配置されたそれはこれだけで河童を粉砕出来るんじゃないかと思える。

 

「まぁ、こんなに滅茶苦茶配置されてるのを見たら()()なんて()()になるよなぁ……」

『…………』

『…………』

「あっ」

 

 駄洒落のつもりで言ったわけじゃない。けれども二人の反応で自分が駄洒落を吐いてしまっていることに気付いた。

――よせ、やめろ、そんな憐れむような目で俺を見るんじゃない。

 

 モニターに映るモモの目が「うわぁ……」と言わんばかりに完全にジト目で、リクの表情は引き攣っている。どこをどう見ても審議拒否と言わんばかりの様相を呈している。

――そんなつもりじゃなかったんだ。我ながらキレキレの駄洒落とちょっと思ってたけど狙ってはなかったんだ。

 そんな弁解もペリシアでの前科から一蹴されてしまうほどに貧弱で喉から出もしなかった。

 

『んー、なんかちょっと冷えるなぁ。今日冷房付けてたっけ……』

『お、オレはアリだと思いますよ……ハイ』

 

 モモの厭味が炸裂しリクのフォローになってないフォローが逆にナイフとなってカタナの心にぐっさりと突き刺さる。

 無防備の状態で容赦なく放たれる言葉のナイフは全てカタナに突き刺さった。

 

――ち、チクショウ

 

 メンタルをボコボコにされたカタナはコックピットの中で項垂れ眼からハイライトが消え失せていた。しばらくメンタルがやられ自動操縦で潜航していると、ノイズ混じりの音が何処かから聴こえてきた。

 機体のスピーカーから反応はない。どちらかと言えば――空気が語りかけているように思える。コックピットのハロを両手で捕まえ黙らせながら耳をすませる。

 

 タ………………テ

 

「リク、モモ、さっきなんか聴こえたか?」

 

 もしかしたら空耳じゃないのか。最近寝不足気味だから変な音を耳が拾っててもおかしくはないだろう。多分、おそらく、きっと。しかし――

 

『はい、何を言っているか分かりませんけど確かに何か言ってました』

『あのー、通信機に反応は無かったんですけど……空耳じゃなかったんだ』

 

 バグの影響か、それとも。

 近づけば近づくほどそのノイズ混じりの声が鮮明になっていき、カタナは全神経を研ぎ澄ませその声をかき集めるように拾う。

 どこかで聴いたことのあるような声。

 

 タ・ス・ケ・テ

 

あの娘(サラ)……なのか」

 

 無事だったとでも言うのか。こんな海中で。カタナが目を険しくさせ眼前のモニターを睨みつけるように見る。すると――

 鈍く、そして紅く光る二つのナニカをオルタナティブのツインアイが捉えていた。

 その光が河童の双眸であることに気が付くのには時間が掛からなかった。魚雷発射専用銃を構えた矢先――

 

「――ッ!!」

 

 前方から高速で迫る二つの長い触手めいたナニカ。即座に引き抜いたアーマーシュナイダーで切り払うと、背後のモモとリクの動揺が手に取るように分かった。

 

『な、なんなのよ……! アレ!』

「――河童だろうさ。離れてろ。こいつは俺が引き寄せる」

 

 二人より更に前に出て、襲い掛かる二つの触手を掃っているとその本体の黒い影がオルタナティブのサーチライトを避けるように動き、両腕を伸ばした。その様はまるでおかしな実を食べてゴム人間になった海賊のようだった。あれが河童なのか。

 感慨に耽る間もなく襲い掛かって来る腕にカタナは舌打ちする。

 

「チッ……!」

 

 スケイルジャケットの振動を利用したスライド移動で回避、返す刀で魚雷発射専用銃のトリガーを引く。

 魚雷の速度は河童の速度を大幅に上回り面白いように命中していく。カタナはガッツポーズ代わりに操縦桿を強く握った。

 

――よしっ……!

 

 水で籠った轟音と共に白い泡が河童を包む。これで沈んでくれれば囮なんてまどろっこしい真似をせずに済むというものだ。しかし世の中そんなに甘くは無かった。

 

 泡を突っ切り二つの腕がオルタナティブの両足を掴む。ぐい、と引っ張られるような感覚にカタナの背筋に嫌な汗が流れた。あのダイバーたちのように食われるのか。

 即座に片手に持ったアーマーシュナイダーを河童の腕に刺し、もう一本ももう片方の腕に突き刺した。

 

 河童の腕がオルタナティブの脚部から離れた所でリクとモモに通信を投げる。

 

「二人とも行け。完全に奴のヘイトはこっちに向いている。その先何か拙いモンが居たら深追いはせずに撤退。いいな!?」

 

『『了解!』』

 

 依然としてサラの現在位置は動いていない。となるとまだあの河童に喰われた訳ではないはずだ。戦闘海域を避けるようにして潜航を再開する2機を見送りカタナは口の端を持ち上げた。

 

「さァて……一本釣りじゃァコノヤロー!」

 

 伸びる腕を掃うには既にアーマーシュナイダーをロストしている都合上、千子村正と魚雷発射専用銃、そして機雷をやりくりせざるを得ない。加えて過剰にダメージを与えて巣に撤退させるのもアウト。勿論無傷で地上にあげようなら文句を言われるのはこっちだ。

 巧い具合に河童のヘイトを煽り、地上まで持ち上げる。

 要求量が多すぎるが、ここでヘマをすればリクとモモが被害を被るのは火を見るよりも明らかだ。

 

 オルタナティブは掌からアンカーを射出し、伸びて来た腕に絡みつかせる。それから河童から背を向け、スライド移動で触手を避けつつ来た道を戻るように進むと、河童が面白いようにこちらの後をついて来た。

 このネイビーハロを餌としているというのは本当のようだ。

 

 コックピットの中で何も知らず呑気にゴロゴロ転がるそれを横目に機体を泳がせる。

 

 ――まずい。背後を向けた途端あちらの動きが鋭くなっている。避けることこそできれどその一つ一つがギリギリだ。カタナは全神経を手から操縦桿に奔らせ、機体全体に行きわたらせる。

 感覚は拡がり一定の『空間』が出来る。その『空間』に入って来る異物に神経を尖らせる。伸びて来る異物をッ反射的に避けながら進んでいく。

 河童との接触から機雷群のある場所にまで行き着くまで1時間でも経っているように錯覚してしまうほどにその逃避行は長く感じられた。

 

 機雷を避けつつ前進し、それを追う河童が同じく機雷を避けようとすると機雷のランプが赤く光り始め追尾を開始そのまま接触して爆ぜた。それに呼応するように他の機雷たちも赤いランプを点滅させながら河童目掛けて特攻をかけ、連続的にくぐもった爆発音が海中に鳴り響く。

 が、その直撃をもってしても河童の追撃は終わらなかった。

 

「体力バカかよ……ッ!」

 

 勿論音をあげて退却なんてされれば囮失敗だ。一応狙い通りとはいえ少しぐらい痛そうにしてくれてもいいじゃないか。

 ギガ・フロートまで残り数キロと言った所で、残った魚雷発射専用銃の魚雷を申し訳程度にばら撒きながら浮上していく。完全に海上まで上がった時には既にディメンションの空は藍色に染まっていた。

 

 先に海上に出て埠頭に着地し即座に伸びたワイヤーを引き寄せる。すると背後で水柱が大きく立った。河童が浮上したのだ。

 べちゃりと水気の乗った肉が落ちる音と同時に僅かに金属が弾ける音もした。

 河童の全身像が少しばかり気になったが、ここで少しでも隙を見せればデータを喰われて終了だ。そのままワイヤーを外し振り返らず中心に向かって機体をホバーで走行させると、河童は這うようにそれを追いかける。

 

 所定位置までつくと、走行を停止。足を軸にするようにくるっと180度回り迫る河童を待った。そして――

 

 

 一斉に周囲から強力な照明光が発せられた。

 既に所定位置を取り囲むようにガンダムMk-ⅡやジムⅢビームマスター、ロンメル操る機体《グリモアレッドベレー》、ガンダムラヴファントムたちが並び立っている。

 

 錚々たる面々に囲まれ、照明の白い光に照らされた河童は咄嗟に光を嫌がるように目を腕で覆う。

 その姿は見るに堪えない悍ましいものだった。

 

「何だ……コイツはッ」

 

 怪獣、というには中途半端に人間的で。

 人間、言うにはあまりにも悍ましく怪獣的で。

 

 ダークグリーンの皮膚に、頭部には、白く海水で痛みに痛みきった髪の毛が胸元まで伸びている。顔には紅い瞳が。そして口元には白い歯が並んでおり長い舌が照明に照らされている。それだけじゃない。モビルスーツの装甲を着こむように身に纏っており、その様はアストレイ・オルタナティブのジャケットシステムを彷彿とさせた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 名状しがたき雄叫びがギガ・フロートに木霊し、カタナは得も言われぬ恐怖心に襲われた。DG細胞の産物? 羽根クジラ? ELS? そんな生易しいモノじゃない。

 まるで別ゲーじゃないか。

 バイオハザードじゃないんだぞ。ゴジラシリーズじゃないんだぞ。このゲームは。

 この悍ましい姿を見るにおそらく仕様外の敵だ、そうに違いない。でなければ一体どんなイベントに使うつもりだ。

 こんな、生々しい生物を一体何に。

 

『危険な任務ご苦労だった。後は我々に任せてネイビーハロをパージしてくれ』

 

 ロンメルの労いの言葉が何処か遠く聴こえる。辛うじて声を拾えていたカタナは「はい」と覇気無く返し、戦闘区域から離脱し、少し離れた埠頭でネイビーハロをオルタナティブのコックピットから追い出した。

 

 それにしてもあんなものと先ほどまで逃避行をしていたというのか。

 あれは一体何なんだ。河童などという生易しいものじゃないのには間違いない。

 リクたちは無事なんだろうか。

 

 脱力して、遠目で河童と有志部隊の戦闘を観ているとプライベート回線での通信が入った。こんな時に一体誰だ、と不機嫌げに「はい」と言って応答すると画面がSOUNDONLYと表示され声だけがスピーカーから発せられた。

 

『よう、噂のソードマン。河童に追い回されて大変だったようじゃねぇか』

「誰だ……お前」

 

 重く、そして機械的な足音がし、即座にその方向を見るとそこにはガンダムタイプと思われるモビルスーツが立っていた。機体の形状からしてアストレイタイプ……それもロードアストレイをベースにしているように見える。白いアーマーに紅いフレームを覗かせており、右半身を覆うようなマントのような形状のアーマーを纏っている。

 一言で言うなら異形。

 

 左右非対称の禍々しいシルエットに本能が叫んだ。

――コイツは……ヤバい。

 

 固唾を呑み、オルタナティブは千子村正を引き抜き構える。

 モビルスーツを照らすにはあまりにも弱い人間用の照明に照らされたアストレイ同士が、互いに(プレッシャー)を放つ。

 

『俺か? そうだな……無銘(ノーネイム)とでも名乗っておこうか』

 

「要は名乗るかボケナスってことか」

 

『理解が早くて助かるぜ。じゃぁ次に俺が取る行動も分かるな? ちょっと遊ぼうぜ……人斬り(ソードマン)……!』

 

 背中からレフトアームで取り出したビームサーベル発振装置から緑色の刃が生み出され、オルタナティブが構える白刃を照らし反射させる。ノーネイムは構えを取っていなかったが、今この瞬間斬りかかればカウンターを叩き込まれる確信めいたものがあった。

 見かけは棒立ちだが、アレはフェイクだ。

 

 代替品と無銘。

 

 二つのアストレイが睨み合い――全く同じタイミングで地面を抉るように蹴った。




 あーあ、出遭ってしまった(他人事)
 アストレイvsアストレイの行方は、河童との戦いの行方は、サラの無事は。謎が謎を呼ぶ河童篇、いよいよ佳境へ。


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STAGE15 ギガ・フロート 後篇

大変お待たせしました。
遅ればせながらあけましておめでとうございます!


 スピードはノーネイムのが上だった。

 事実スケイルジャケットは陸上ではデッドウェイトでしかなく、ジンバージャケットの方が速く動ける。

 加えてノーネイムの反応速度はその辺の改造機とは比較にならない程に速かった。

 

 頭を吹っ飛ばさんと横一文字に振るわれるサーベルに、カタナは咄嗟に機体の身を低くさせて回避。カウンター気味に千子村正を振るうとノーネイムは空高く跳躍した。

 

「何ッ!?」

 

『遅え……ッ!』

 

 空振った白刃に、ノーネイムの姿が映る。頭上を通り抜けオルタナティブの背後に着地し再びビールサーベルを振るう。

 その様はまるで嘲笑っているように見えて、少しばかり苛立ちながら振り向きざまに得物を振るい、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

 

 

『トロいな……GBNの奴らはこんなぬるま湯に浸かっているってのか?』

 

「ほざけ……バックパック、脚部スケイルジャケット——キャスト・オフ」

 

 出力(パワー)は互角。なら機体を軽くすればマトモな勝負に持ち込めるはずだ。そう確信したカタナは無造作に立体映像型のコンソールを操作し機体のデッドウェイトになる部分を排除。

 ずしりと音を立ててアーマーの一部が地面に落ちた。

 

『装甲を棄てたか』

「地上でのマジの勝負を水中装備でやるほどバカじゃない――!」

 

 機体のパワーを一気に上げ、ビームサーベルを押し飛ばす。ビームサーベルが宙を舞い、得物を喪ったノーネイム相手にオルタナティブの緑色のツインアイが鋭く光る。

 

「悪いが――戴くぜッ!」

『オイオイ……得物がコイツだけじゃないぜ?』

 

 男の嘲笑と共にノーネイムのマント型装甲に隠れたライトアームが装甲の外に出る。籠手の付いたアームの先から光の刃が形成される。それは誰がどう見てもビームサーベルと呼ばれるソレだった。

 

 ――仕込み武器ッ!

 

 殺気を事前に察知したカタナは追撃を中断させて、上体を逸らす。すると縦に振り下ろされた一閃がコックピットのすぐそばを掠めた。

 

『チッ――勘は良いみたいだな』

 

 男の苛立たし気な声にカタナは「ヘッ」と悪びれず笑う。突然襲ってきておいて苛々されるとは心外だ。自分を無銘(ノーネイム)と名乗り襲い掛かってきておいて。

 しかしながら動きはその辺のマスダイバーとは比較にならない程のものだった。

 

 この男は一体何がしたい?

 単に戦いたいだけなら何もこんなタイミングで喧嘩を売る必要性はない。陸上で構えていた討伐チームの中にソードマンを私怨で叩き潰そうという思考を持っていた人間が混ざっていたと考えるのが自然なのか。

 

 とはいえ本人にどう問い詰めた所で答えてくれないのは先ほどの言動からして分かり切っている。

 で、あれば戦闘記録をカドマツに突きつけて正体を暴いて貰うだけだ。

 

 

 振るわれる籠手から発せられるビーム刃の軌道を読み、躱しながら反撃の糸口を探す。敵側の動きに隙らしきものは中々出してくれない。スピードも限界値ギリギリまで引き出しており、躱すので精いっぱいだ。

 千子村正で斬撃を防ぎ機体が徐々に後退していく。このままずるずる引き下がれば海にボチャンだ。

 

 片手間に機体のブーストのチャージを始め針の穴に糸を通すように突きを放つ。すると、読み通り無銘は横に機体を逸らし反撃が空ぶった。と、同時にチャージが終わった。

 

「ブーストッ!」

 

『何ッ!?』

 

 そのまま回避した無銘にフルブーストで突っ込み、機体と機体が重々しい金属音を立てて衝突。そのまま押された無銘の機体は倉庫にその背中を強かに叩きつけられた。無論叩き付けた側の衝撃も尋常ではなく振動でオルタナティブのコックピットは前後に派手に揺れ、視界が一瞬チカチカした。

 

『てめっ……滅茶苦茶しやがる……!』

 

 無銘の言う通り無茶をしたものだ。

 機体を後退させ、千子村正を構え直す。瓦礫を掃い立ち上がる無銘目掛けて突きの体勢をするオルタナティブに無銘から『クククッ』と愉し気な笑い声が聴こえて来た。

 

『思ったよりはマシみたいだな。正義の味方ごっこをやってこれただけある』

 

 オルタナティブから機体の加速が乗った刺突が放たれ、咄嗟に無銘は籠手のビーム刃で防ぐ。閃光が奔り暗闇に染まった埠頭を白く染める。

 無銘は力強く刃を振るい、オルタナティブの持つ得物を弾き飛ばした。

 

「しまった!」

 

『貰ったッ!』

 

 白刃が宙を舞う。月光に晒されその光を跳ね返し眩い光を放つ。主な得物を喪ったオルタナティブの敗北、と無銘は確信していた。事実、無銘は既に次の行動に映っておりオルタナティブの装甲はビームで焼き切られるのは自明の理であった。

 

『得物は無くなった。あんのはワイヤーとイーゲルシュテルンだけだろう? 終わりだ!』

 

 勝利を確信した無銘の声――だがカタナの表情は敗北を前にした人間のする顔ではなかった。

 

「おい、何勘違いしてんだ――」

 

『ん?』

 

「得物はならまだある」

 

 一撃。

 無銘がカタナの放った言葉を理解した時には既に一撃が叩き込まれていた。無銘の機体は大きくよろけ、眼前のオルタナティブは右掌を突き出していた。

 

『な……に』

 

()()にな」

 

 拳。

 オルタナティブには、千子村正のロストなど何の問題ではなかった。それは何故か?

 答えは簡単だ。

 

 己が身もまた、得物なのだから。

 

『コイツ……!』

 

 無銘は機体を無理矢理スラスターで体勢を立て直し、マント型のアーマーをパージした。否、これはパージなどではない。分離した数機ものパーツが無銘の周辺を飛び交い、右腕に集約。ロングバレルの形状を成した。

 初見ではあるが、次に何をしてくるかはおのずと分かる。

 

 ――砲撃!

 

「チッ!」

 

 着弾地点が足元で目くらましなのは直ぐに察した。衝撃波と爆煙に見舞われたオルタナティブは一瞬動きが鈍る。次に奴は何をしてくるか。――奴は勝負をかけて来る。

 

 そんな確信があった。こんなタイミングでここまで心躍る相手と死合えたのは幸か不幸か。

 しかしこのようなふざけたタイミングに喧嘩を売りに来たせいで微妙にノリ切れなかったのは不幸と言えよう。近づく殺気を感じたカタナはレバーを前に勢いよく押した。

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャン、と黒と白の鉄塊が落ちた。

 それが人の何倍もある機械仕掛けの右腕なのは見て分かる。断面は赤熱しており斬られて間もないようだ。

 そこから少し上に視界を移すとバチバチと紫電があちこちに奔っている。機械仕掛けの腕を断った緑色の刃は異形の巨人の左手に収められており、最初にロストした得物を回収したものだろうか。刃は黒と白の巨人のすぐそばにまで迫った状態で止まっており、じりじりとその装甲を焼いていた。

 

『何を……した』

 

 男が問いかける。

 

「――雷霆掌。いわゆる必殺技だ」

 

 迸る紫電は異形の巨人に当てられた、黒と白の巨人の左掌から発せられていた。

 

「スケイルジャケットの腕部は特定の振動を発することでメーザー砲などをある程度防ぐことが出来る。元々推進機関なモンだからそうそうポンポンと使えたモノじゃないし当然ビームなぞ受けたら機能しなくなるが――ビームに焼き切られるまでには1秒のタイムラグ程度なら発生させられるカラクリだ」

 

『ライトアームを犠牲にその技をこちらに叩き付け、デバフを発生って訳か。ったく()()()()()()技なのが腹が立つぜ、紛い物の世界には紛い物がいるって事かよ。どこまでも安っぽい……!』

 

「……?」

 

 オルタナティブに蹴り飛ばされた無銘はそう吐き捨てながら、レフトアームのビームサーベルを握り直す。光電球を受けた時点で機体の各システムが機能低下を起こしているにも関わらず戦闘続行可能なのはその性能の高さから来るものなのだろうか。しかしそのビームサーベルの出力はさきほどと比べて弱弱しかった。

 オルタナティブのレフトアームもまたぶらりと垂れ下がっており、紫電を放っており、戦闘開始のように振るうことは難しいように見えた。

 

 

「まだやるか……」

 

『チッ、餅は餅屋ってことか。この世界思ったより重さを感じられねえ』

 

「……負け惜しみか」

 

 先程まで大きくなった熱意は一体どこへやら。カタナの胸の内にある熱気は急激に冷めていった。後腐れのある死合なぞ面白くない。

 冷や水を浴びせられた気分だ。

 

『いい気なものだぜ。こんな見てくれだけはご立派な偽物の世界で、正義の味方ごっこをしてよ……楽しいか?』

 

「その機体……その物言い……GPD世代か」

 

 何となく剣を交わしてこの無銘が何なのかはおぼろげながら見えてきた。「こんな見てくれだけはご立派な偽物の世界」という物言い。

 そしてマニューバから発せられる圧。この感覚はよく覚えている。GPD(かつて)の記憶。

 

『……案外勘がいいじゃねえか。まぁ、そう言う事だ。こんなクソみてぇな世界守る価値あるかって話だ。おっと、時間のようだ。――じゃぁな』

 

 言うだけ言って機体を反転させて飛翔。このギガ・フロートから離れようとしている。オルタナティブの状態は十全とは言えないがスラスターの状態はほぼ万全なので追うことは容易なはずだ。

 千子村正を拾い上げてブースト。同じく地面を押し蹴り空高く飛び上り、逃げる無銘に追いすがる。彼我の距離は徐々に縮まって行く。

 

 このままいけば捕縛も容易だ。

 

 そう、()()()()()()()

 

「――ッ」

 

 世の中そこまで甘くはなかったようだ。暗闇を斬り裂き、鳥のカタチをしたナニカがオルタナティブの前を横切った。

 

 ――あの時のモビルアーマー!

 

 ジェガンを使ったマスダイバーにトドメを刺そうとした矢先に現れたあのモビルアーマーが再びオルタナティブの行く手を阻んだ。

 夜なお陰で目視では捉え辛いそれは、千子村正の一閃を面白いように避けじりじりとオルタナティブの装甲をクローで削って行く。

 

 モビルアーマーの動きに翻弄されている内に逃げる無銘の後ろ姿が小さくなる。その姿に苛立ちが募っていくばかりだ。何なんだこの黒い鳥は。

 マスダイバーを守って今度は得体のしれない懐古厨まがいの援護。

 

 こいつも一体何なんだ。

 ブーストを止め、ギガフロートの地表に徐々に降下しつつも黒い鳥の攻撃を千子村正で受け流していく。火花を散らせながら高度を落としていく。このまま着地するより先にあの黒い鳥を仕留めなければこいつにも逃げられてしまうに違いなかった。

 

 単純なヒットアンドアウェイだ。オルタナティブの装甲を削るように突撃をかけて弾かれても深追いはせずに退避しこちらの反撃を的確にに封じて行く。

 加えて闇に溶けるようなカラーリングのおかげで目視での確認は困難な上、センサーは既にジャミングをかけられて死んでいる。

 と、なれば視覚の次に頼れる語感は何なのか。それは、『聴覚』だ。

 機体に積まれた指向性マイクの出力を熱源を頼りにサーチし、その位置を探る。風を切る翼とスラスターの音。

 

 さほど遠い位置にはいない。撹乱するようにランダムな軌道を繰り返し、ジリジリとその距離を詰めて行くのが分かった。

 

 黒い鳥が隙をついたと言わんばかりに最接近をかけた、次の瞬間。

 オルタナティブのツインアイが鋭く光った。

 

「見えたっ!」

 

 斬。

 黒い鳥のクローが、オルタナティブのコックピットを裂くより先に白刃が横一文字に半円を描くように閃いた。

 音も無く白刃は黒い鳥の装甲を通り抜け、そのままオルタナティブの真横を通り過ぎる。

 そして——

 

 

 

 爆発四散。

 見間違えようのない光景がオルタナティブの背後で起こった。

 

「……逃げられたか」

 

 既に無銘の姿は影も形も無かった。地上に着地して千子村正を腰の鞘に収めた矢先機体が片膝をついた。

 と、共に各システムも次々とダウンし始めた。

 

「おいおい……エンストかよ」

 

 無茶をし過ぎた弊害だろう。レバーをガチャガチャと動かしても機体はうんともすんとも言わない。

 元々水中戦仕様ではない機体を無理に水中戦仕様にしあまつさえドッグファイト。上陸した所で明らかに素のオルタナティブより性能が上のアストレイと相討ちに近いことをした後に、高速で動くモビルアーマーの攻撃を受けまくれば、いくら鍛え上げた機体でも限界をきたすのは当然だった。

 

『カタナ! どうしたの!? こんな機体をボロボロにして!』

 

 マギーのラヴファントムが動かなくなったオルタナティブを見つけ、機体を接近させてくる。それを横目にカタナはただ茫然と彼の去った跡を見上げていた。

 

『この跡、明らかに戦闘があったわね? まさか――』

 

「あぁ。そのまさかだ。襲われたよ。――得体のしれないアストレイ使いに」

 

『アストレイ? そんな、有志部隊にアストレイを使っていた人なんてここ(ギガ・フロート)にはアナタしか……』

 

 マギーの言葉であの無銘が外部からの横槍だということがはっきりとしてきた。となると、あの河童事件の黒幕の可能性もおぼろげながら浮かぶ。

 あのある時はマスダイバーを援護し、ある時は無銘の離脱を幇助した黒い鳥といい、点と点が線で繋がって行くように感じた。

 

「――あの河童事件、マスダイバーと関係があるかもしれない」

 

『何ですって……!』

 

 マギーの険の混じった声が聴こえる。

 

「勘、だけどさ」

 

 カタナは直近の戦闘記録(コンバットレコード)を確認するべく空中に呼び出したホログラフのコンソールを叩き、再生を試みる。これさえ運営に突きつければ一気に真相にまで辿り着ける。

 そんな確信があった。

 

 戦闘記録の動画の再生ボタンを無造作に押す。

 

【再生】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

【再生】

 

【データが破損しています】

 

 

 

「なっ……」

 

 しかし、そんな希望も容易く打ち砕かれた。

 アフターフォローは万全ということか。マスダイバーがゲームシステムに干渉出来るものであることを考えればこれも別に不思議な事ではない。――とはいえ実際にこんな現実に直面すれば気力も削げるというものだ。

 

――これではいたちごっこだ。

 

「……マギーの姐御」

 

 データ修復を頼んでもあまり期待出来そうにはない。どうしようもないものは一度置いておいて、マギーのラヴファントムの方を向き直る。

 

『何?』

 

「河童の方は、どうなった?」

 

『それは――』

 

 マギーの口から語られる河童討伐のいきさつを聴きながらカタナは【データが破損しています】と表示されたコンソールを力なく削除(タスクキル)した。

 

 

◆◆◆

 

 事は数十分前に遡る。

 

 ソードマンによる囮作戦が功を奏し、ギガ・フロート中心部の広場に十数機のモビルスーツに囲まれる形で河童は周囲をきょろきょろと見回していた。

 

 知り合いのよしみ――というと少しばかり口が悪いか。このまま放置するのも座りが悪いので参加したこの河童討伐作戦。

 河童の噂はよく聴いていた。海周辺に現れては、ダイバーたちを食う危険な生物。と。

 

 

 しかしながらこのような気色悪い生物だとは思いもしなかった。

 中途半端に人のカタチを真似たシルエット。ダークグリーンの皮膚に、頭部には白く海水で痛みに痛みきった髪の毛が胸元まで伸びている。顔には紅い瞳。

 そして口元には白い歯が並んでおり長い舌が照明に照らされている。それだけじゃない。モビルスーツの装甲を着こむように身に纏っている。

 

『……エヴァンゲリオンの出来損ないかよ』

『どこがエヴァだよ何でもかんでもエヴァと照らし合わせてんじゃねえよ』

 

 と、囲んでいたある者がぼやく。こんな反応をはじめとして誰もが知っている素振りはしなかった。詳しいはずのユッキーもまた、同じく。

 

『DG細胞? いや、こんな形状の奴なんて見たことがない。外伝のものでもない。一体こいつは何者なんだ……』

 

「分からない奴なのか?」

 

『こいつは初めて見ます。ガンダムだって漫画小説ゲームと様々なメディアで幅広く展開していて僕の知らないモビルスーツが居たっておかしくないですけど……こんな奴が出てくる作品なんて想像も出来ませんよ……!』

 

 悔し気なユッキーの声を他所にゴーシュはお世辞にもガンダムの知識があるとは言えないのであの河童にはどういうリアクションをすればいいのか分からなかったので無反応を貫くしかなかったが、内心留めている感想を敢えて述べるなら――

――こんな生々しい化け物が居ていいのか?

 

 というところだ。よくよく見ると、身体の節々にカセットを半刺しにしたゲーム画面のようなノイズが現れては消えている所をMk-Ⅱのモニターが捉える。

 被害者の様子からしてバグの産物と捉えるのが自然だろう。とはいえバグだからと言ってこのような生々しい怪物に成り得るものなのかと言われれば怪しい所だ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

 

 ノイズやありとあらゆるSE(効果音)が綯い交ぜになった不愉快な音で吠え、各々がライフルなどの引き金に指をかけ始める。

 いつ誰に飛び掛かるか分からない現状、誰もがピリついていた。

 

『各員、一斉射撃ッ!』

 

 ロンメルの号令が出るや否や一斉に射撃武器の引き金を討伐部隊は引いた。ライフルから吐き出されるビームの耳障りな音、アサルトライフルやサブマシンガンの発砲音や空薬莢が地面に落ちる音。グレネードが破裂する音。

 そんなありとあらゆる音に晒されながら、ゴーシュは自身のガンダムMk-Ⅱにビームライフルを発砲させる。

 

 傍から見ればヤケクソととられるであろう弾幕。誰もが皆、あの河童はすぐに片付けたいという意志――否恐怖を感じた。

 考えても見ろ、下手に接触してデータを消し飛ばされでもしたら堪ったものではない。

 

 爆炎が上がり、河童の姿が隠れてしまう。既に悪手としか言えない初手にロンメルのグリモアレッドベレーは既に次の行動に入っていた。

 

『うわッ!』

 

 爆炎を突っ切り河童は尋常ならざる速度で討伐部隊の味方機――夜間仕様に紺色に染めたジム・スナイパーに飛び掛かった。その様は草食動物に飛び掛かる肉食動物に思えた。

 スナイパーライフルを蹴り壊し、マウントをかけた所で装甲を引きちぎり、頭を引きちぎり、抵抗しようと伸ばされたジムスナイパーの腕を掴み、力が籠められる。

 

 ギシギシと金属が軋む音を立て、次第にスパークを始め金属が音をあげたかぐしゃりと潰れてしまう。この光景に味方は迂闊な横槍は入れられなかった。下手に射撃すれば巻き添えだ。

 とはいえ――このまま放置していればジムスナイパーは限界だ。コックピットハッチを強引こじ開けコックピットが露わになる。このままではダイバーが喰われてお陀仏だ。

 

 反撃を先読みしていたロンメルのグリモアレッドベレーが河童にいち早く接近し、アサルトライフルを発砲する。

 弾数を絞った正確な射撃は全弾河童の装甲の無い部分に命中し、着弾部位には血の代わりにジャンクデータを吐き出した。

 

『これ以上はやらせんよ――!』

 

 執拗かつ正確な攻撃に身に着けたモビルスーツの装甲が意味を成しておらず、耐えかねた河童は大破したジムスナイパーを投げ捨てて、広大なギガ・フロートの地を駆ける。追撃に放たれる味方の射撃を掻い潜る。トカゲもかくやの俊敏さは一撃の着弾も許さない。

 

『大丈夫かね!』

「な、なんとか!」

 

 大破したジムスナイパーの搭乗者の無事を確認したロンメルはホッと胸を撫で下ろす。なんとかダイバー自身のダメージは抑えられたようだ。とはいえモビルスーツの破損は甚大。戦闘不能と同義のそれをロンメルが率いるフォース・第七機甲師団のザクⅠとドムが助け起こしそそくさと戦闘領域の外へと運んでいく。

 

 

 一方で逃げ続ける河童に対し、ユッキーのジムⅢビームマスターが肩部の大型ミサイルランチャーを発射した。このまま直に当てるのは至難の業、であれば爆風によるダメージを狙う。それがユッキーの狙いだった。

 しかし河童の機動力と旋回性能はミサイルの追尾性能を大幅に上回っており、辛うじて一発のミサイルの爆風がその身を押した。

 

『うおおっ!』

 

 爆風に流された先には第七機甲師団のグフが待ち構えて、全速力で走っていた。

 迫るグフがヒートサーベルを片手に斬りかかり、河童は慌ててその振り下ろされた高熱の刃を受け止めた河童の手は徐々に白い煙を上げて行く。ヒートサーベルの熱で焼けているのだ。

 グフを蹴り剥がし、受け止めたままのヒートサーベルを投げ捨てる。

 

 そんな中で、ユニコーンガンダムを二頭身にし忍者風にアレンジしたモビルスーツ・RX零丸とゴーシュのガンダムMk-Ⅱが河童の左右から挟み込む形で迫っていた。

 

 

 前者は忍者刀を逆手持ちにし、後者はビームサーベルを抜き放ち接近をかける。

 射撃武器が当たらないなら接近戦で確実に仕留める方が早いと判断してのことだった。

 

 河童は即座に驚異の俊敏性で空高くジャンプするが、咄嗟にガンダムMk-Ⅱは握っていたビームライフルの銃口を夜空に上げた。

 零丸も通常のMSが出すのは困難な機動力で跳躍した河童の背後に回り込み、手元の得物の白刃を月光に晒す。

 

「そこだッ!」

 

 ビームライフルの引き金を引く。五体満足だし有人だがさながらジオングヘッドを撃ち抜くガンダムの気分だ。――これでも多少は勉強したつもりだ。この程度の知識ならあるというもの。

 下方からビーム、背後からは忍者刀。

 

 四面楚歌たる状態になすすべもなくビームでその身を貫かれ、零丸はその身を3つに増やし、各々手に持った得物を閃かせる。

 

『変位抜刀・アヤメ斬り』

 

 3体の零丸が通り過ぎ、遅れて白刃が閃いた残滓が河童の装甲が、皮膚がズタボロに裂く。

 

「■■■■■ッッ!!!」

 

 肉を焼かれ、裂かれた河童は地面に叩き付けられるように落ち、悲鳴を上げる。そのまま続いて逃亡を始めようとした矢先、天空から高出力のビームが地面に落雷。垂れ流した状態で鞭のようにしならせて河童に追いすがる。

 マギーのラヴファントムが空中から腹部のビーム砲こと・カリドゥス複相ビーム砲を発射し河童の逃げ道を奪いながら、両腰に装備されたクスィフィアス3レールガン2門とバックパックの2連装リニアガン2門を器用に撃つ。その弾丸は河童の逃げ道を奪っているようで――

 

 センサーに注力すると、マギーが誘い込んでいる位置にはいくつもの大型C4爆弾が地面や周囲の倉庫の外壁に張り付けられていた。ロンメルらが事前に用意したトラップフィールドだ。

 

『――今よッ!!』

 

 マギーの合図と共にそれらは――炸裂した。

 次々と奏でられる爆発音と倉庫が崩れ去る音。爆炎が薄暗いこの戦場を紅蓮に染め上げる。そしてクレーンにも仕組まれたC4爆弾も炸裂し、吊り下げられていた長大な鉄骨が追い打ちにと河童のもとへと落下し、耳を覆いたくなるような轟音が河童の中心から発せられた。

 

 

 

「まだ――生きているのか!」

 

 しかし、あれだけの爆発を受けて、圧倒的質量による一撃を加えてもなお河童は消滅していなかった。ジャンクデータを洪水のように傷口から溢れださせながらも鉄骨や瓦礫を掃う。脇腹には一本の鉄骨が突き刺さっており人間の常識で考えるなら致命傷もいいところだ。それでもなお海に逃げようと必死にその身を引き摺らせる。

 

「なら――ッ!」

 

 ゴーシュは舌打ちしながら、ガンダムMk-Ⅱのレフトアームに装着されたシールドの起動スイッチを入れる。今のMk-Ⅱは一味違う。

 ジムⅢビームマスターとグリモアレッドベレー、そしてラヴファントムが後方に並び立ち各々射撃武器を構える。同じく有志部隊のモビルスーツ群が駆けつけ射撃武器のセッティングをし、一斉射撃準備に入る。

 

『ゴーシュさん! 援護します!』

『イっちゃいなさい!』

 

 ユッキーとマギーの声。頼もしい援護だ。それを背にゴーシュはコックピット内で小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「シールドブースター――点火っ」

 

 それは後付けの装備だった。

 元々ガンダムMk-Ⅱを素組みで制作したということと、元々時間も環境も不足しているゴーシュにもっとも適したものは機体を補強する強化パーツだった。

 下手な可変モビルスーツ以上の加速で突撃するMk-Ⅱ。

 

 とはいえ旋回性能は劣悪で直線的な機動しか出来ないのがタマにキズか。だが河童の逃亡を防げるなら今この瞬間最大の切り札と言っても過言ではないのだ。

 加速の乗ったビームサーベルを袈裟懸けに振るった。

 

「墜ちろよぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

 肩から腰にまで深々とビームで裂かれた跡。そして、身体の節々にはビームや実弾で射貫かれた跡が残っていた。シールドブースター先端の向きを強引に上に向けMk-Ⅱは上昇。

 追い打ちに次々叩き込まれる弾丸に河童の身体から吐き出されるジャンクデータの量が増えていくのをゴーシュは空高くから見ていた。

 

――死んだか。

 

 脚を射貫かれ、崩れ落ちるそれを。

 幾つものモビルスーツの射撃に晒され、データが崩壊していく。吐き出せるジャンクデータが尽き、外側の皮膚が、着込んだ装甲が――消えていく。

 

 まるで生物を殺しているように錯覚した。どちらかと言えばこれは害虫や害獣駆除に等しいことだというのに、その生々しい苦悶と最期の断末魔が――ゴーシュには忘れられなかった。

 それは形容するなら――少女の悲鳴に聴こえたのだから。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 先のノイズ混じりの叫びとは妙にクリアに聴こえた――ような気がした。

 

 

 

 シールドブースターで無理矢理かけた負荷は大きなものだった。Mk-Ⅱの腕関節は先ほどの無理な加速と方向転換でスパークしている。電装系が逝かれたか。

 バックパックのスラスターを使ってゆっくりと着地した時には左腕はぶらりと垂れ下がっていた。素組みではこれが限界らしい。

 

『やったわね、ゴーシュ! ユッキー!』

 

 キャピキャピと女子めいた動きで労うマギーに苦笑いしながら、河童の消えた跡をちらりと見る。そこには既に生物が居た痕跡はなく、先ほどの衝撃で上がった炎だけだった。

 

「河童はやったのか? 死んだのか?」

 

 現実味のない光景にゴーシュは思わず呟くと、ロンメルが応えた。

 

『あぁ。先ほど完全消滅を確認した。この戦い――我々の勝利だ』

 

「――そう、ですか」

 

 肩の力を抜いた瞬間、全身が重く思えた。

 ゴーシュ操るMk-Ⅱはコックピットにカスタマイズを施しておらず立ったままの操縦となる。それもあってか力なく尻餅をつき、折った膝に腕を置いた。

 今は何も考えたくは無かった。あの河童なる存在についても、家のことも、Mk-Ⅱのことも、何もかも。

 

『ゴーシュさん』

 

「あ?」

 

 ユッキーに声を掛けられて、気の抜けた炭酸のような生返事が口というより喉から出る。

 今はそっとしておいてほしい。けれども、流石に友人の声を邪険に掃うのも気が引けるので耳を傾けた。

 

『アヤメさん、何処に行っちゃったんでしょう?』

 

「……確かに」

 

 気付けばアヤメ操る零丸の姿は何処にもなかった。それにまだリクたちが戻って来ていないのだ。サラの無事もまだ耳にしていない。

 まだ事件は終わっていないが、これ以上考える体力もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「武装装甲八鳥を落とすなんて……」

 

 ソードマン操るオルタナティブが、ノーネイムの離脱の援護のためにけしかけた零丸の支援機、武装装甲八鳥が一閃で破壊された事実は既にアヤメの目と耳が捉えていた。

 【SIGNAL LOST】と表示されたセンサーを横目に、必殺技の代償と無茶な機動で機能停止したオルタナティブの姿とその傍に立つラヴファントムの姿を遠くの倉庫の上から見る。

 

 武装装甲八鳥の機動力は下手なモビルスーツが追い切れないほどのもののはずだというのに、一刀両断で切り伏せてしまった。

 

「なんなのあの男は――」

 

 マスダイバーとの度重なる戦いが彼を異常に強くしてしまったのか。あの男操るアストレイ同士の戦闘は動きこそ少なかったが、互いに何度も破壊し足りない程の圧を放っていた。

 

『余計な真似をしてくれたものだな』

 

 いつもの【SOUNDONLY】の表示と共に通信が入る。あの男からだ。

 

「貴方が後れを取るからよ」

 

『――餅は餅屋だった。それだけだ』

 

 意味不明な発言に一瞬アヤメは首を傾げかけたが、要するにGBNの空気感を熟知していたソードマンが有利だったということをあの男は言いたいのだろうか。要するに負け惜しみである。とはいえ、ほぼ互角と言えるその戦いはどちらが勝ってもおかしくはなかったのは事実。

 あの男の言う通りGBNの空気感を理解した瞬間、この勝負はひっくり返ることだろう。

 

 アヤメは知っている。あの男のガンプラ作製技術を。

 GBNのダイバーにガンプラを貸し与えるレンタルをやっており、レンタル品を実際に見てみたところその完成度は目を見張るものがあった。

 負け惜しみが許されるだけの力を――この男は持っている。

 

『今日は色々あったが今後方針には変わりはない。ブレイクデカールをばら撒き、(クライアント)の護衛を行う。それだけだ』

 

 言うだけ言って一方的に切られた。あの男なのでいつものことだ。どちらにせよ、ソードマンは明確に倒さなければならない敵だと、今この瞬間はっきりとした。武装装甲八鳥の仇というと陳腐だが、ファイターとしての怒りか闘志か。その両方が湧きたっているのは確かだ。

 

――次はこうはいかない。……ソードマン

 

 最後に一瞥したのち、ふと海を見る。

 リクやモモがサラを助けに海に潜ったはずだ。サラは――無事なのだろうか。

 

 

 あの得体のしれない怪物に見知った顔が襲われたという悍ましさと、自分のやっていることと何かしらの繋がりがあるのではないかという予感がアヤメの胸の奥を締め付けた。

 やめろ。

 考えるな。

 その先は――地獄だ。

 

 自分の内のナニカがそう叫ぶ。

 

「不愉快だわ……」

 

 と吐き捨てる。今やっていることが許されなかろうが、かつてあったものを取り戻すにはそうするしかないのだと。そのためには悪にもなる――と。あの日誓ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらリク! サラは――河童に襲われたダイバーは無事です! これよりギガ・フロートに連れて帰ります!』

 

 それでもなお、知った顔が無事でいることを喜ぶのは罪ではないはずだ。リクの声で肩の重さが少し和らいだ気がした。




次回、『過去の残滓』

事後報告やら、GPDやら色々。些かノスタルジックな回になりそうです。


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STAGE16 過去の残滓

打って変わって現実世界のお話


 フジサワ・アヤは高校の授業を終え、一直線に古鉄やに足先を向ける。

 今日は別にバイトのシフトが組まれていた訳ではない。

 何となく。帰途にたまたま古鉄やがあっただけだ。

 

 まだ5時だというのに外が薄暗いのは、曇りだからか。朝見た天気予報通りならもうすぐ雨だ。

 陰鬱とした空気を掻き分け縁尾町を歩き、たどり着いた古鉄やの戸をあけ放ち暖簾を潜ると奥の会計カウンターに突っ伏し目を閉じたカナタが目に映った。

 台の上には工具やらパーツやらが置いており、一際目立つのはHGCEストライクガンダムだった。背中には見たことのないバックパックを背負っている。

 

「……寝てる」

 

 防犯は大丈夫なんだろうかと思わずにはいられない。ここは起こしてやるべきなのだろうが、ここまで無防備を晒した状態のカナタを見るのは珍しかった。

 

「おーい」

 

 ちょっと声をかけてみても全く反応せず寝息をたてている。これは店主の祖母にばれたら説教ものだろう。

 ここは起こしてやるべきだろうが、祖母の姿はどこにもなく今はちょっと観察してみたかった。

 ちょっと指先を頰に向けて伸ばす。

 

 ——意外とぷにぷにしてる。

 

「えい」

 

 つついても起きない。どれだけ寝不足だったのだろうか。普段のカナタの言動から想像がつかない柔らかさに少し意外さを感じ、徐々にエスカレートしてつつき続けた。

 

「寝顔はかわいいのに。えい、えいっ」

 

 普段物言いがやや乱雑で口が悪いのが玉に瑕。あとちょっと目付きもよくない。でもこんな一面もあるとは少しばかり収穫というべきか。寝ている間にスマホで撮ってしまおうか、などと邪念が鎌首をもたげていた矢先

 

 

 

 

 

「おーい。人のツラで遊ぶなーフジサワ君」

 

「あっごめん」

 

 流石に物事には限度があるというものだ。

 目を開いたカナタが顔を上げて不満気にじとー、とアヤを見ていた。

 

「今日シフトじゃねえだろう」

 

「うん。ちょっと寄ってみただけ。これは?」

 

「手遊び」

 

 パーツをカウンターの隅に退け、ストライクを真ん中に置く。

 バックパックは灰色を基調としており、両サイドに大型ブースターが付いていた。その形はまるで手甲のようだ。見た所近距離戦仕様だろう。それも突進力を極限まで上げた――

 

「……俺そんなに居ないけど、まぁゆっくりしてけ」

 

「出掛けるの?」

 

「そろそろな。それまで寝てた」

 

 

 ならそのまま寝かせておくべきだった。自身の間の悪さと察しの悪さ(気付けというのも無理な話だが)に後悔して、目を逸らしストライクの方を見ていた。

 カナタがどんな顔をしているのかは分からない。少なくとも笑ってはいまい。

 

「……ッ!?」

 

 突然、コードネームはヒイロ・ユイが店内で流れ始めアヤは肩を跳ね上げた。音のした元はカウンターにガンプラのパーツと一緒に置かれたスマホからだ。

 

「そろそろ起きる予定だった」

 

 カナタはスマホのアラームを切り、無造作にパーツを箱の中に仕舞う。仕舞い終えた丁度のタイミングで玄関の戸が開け放たれた。

 

「――ちょっとお早いご到着っすね、ナナセさん」

 

 

 

 

 

 STAGE16 過の残滓

 

 

 

 

 

「取り込み中だったかい?」

 

「うんにゃ。ただまぁある意味運が良かったかもしんないっす」

 

 アヤが起こしてくれなければ完全に時間まで寝たままだった。その点ではやってきた彼にとっては運がよかっただろう。彼からすれば待つか起こすかの手間が省けたというものだ。……アヤにその手間が降りかかったわけだが。

 

「ある意味?」

 

「いやこっちの話」

 

 アヤは突然やってきたナナセなる人物に視線を移す。そこそこ高い身長で、黒いフレームの眼鏡をかけ、生まれつきだろうか少し眠たそうな顔をしている。髪が少しぼさぼさであまり身だしなみに気を配っていないタイプなのだろう。白いワイシャツに黒いチノパンが輪をかけてそれを物語っていた。

 

「この人は?」

 

 少し話に置いて行かれそうな気がしてきたのでカナタに問い掛けると、「あぁちょっと上がって下さい。自分ちょっと身支度します」と言ってから答えた。

 

「ナナセ・コウイチ。……昔GPDやってたんだけどその時に知り合った兄貴の友達……だった」

 

 ――だった。

 パーツ漁りに行った時、兄が元気かと問えばどうだろうなとはぐらかし、過去形で話すカナタの物言いにアヤは徐々に全貌が見え始めていた。

 カナタの兄は既にこの世に居ないのか――もしかしたら家庭内の事情で会えなくなっているだけという可能性もあろうが、どっちにしろロクな話でもないし、これ以上突っ込もうとは思えなかった。

 

 悲しい思い出はできるだけ思い出さない方が良いのだ。アヤがコウイチに向き直るとその肩を僅かに跳ね上げた。

 

「は、はじめまして。よ、よろしく」

 

「私、フジサワ・アヤです。よろしくお願いします」

 

 女子慣れしていないのか少しぎこちない挨拶をするコウイチにカナタは「相ッ変わらず耐性無いっすねぇ……」と笑いつつ、あのストライクのガンプラを持ち運び用のホルダーに入れ、ウエストポーチに放り込んだ。

 

「どうする? 一緒に行くか?」

 

「行くって何処に?」

 

 支度を手早く済ませたカナタに突然言われて、アヤはきょとんとした。それにカナタは小さく笑って答える。

 

「ゲーセン。……別にいいっすよねナナセさん」

 

「あ、あぁ。フジサワさんが良いなら……」

 

 コウイチも別に嫌がっている訳では無い様子だ。……若干キョドっているが。

 アヤとしては元々無理に来ただけなのだが、乗りかかった船だ。アヤは「うん。じゃぁわたしも行く」と頷いた。

 

◆◆◆

 

 縁尾町を歩き15分ほど。商店街に入ると、左右に展開されている商店は悉くシャッターで閉ざされていた。古びた貼り紙が湿気の籠った風に晒されぱたぱたと音を立てる。

 辛うじて八百屋やらボロボロの書店やらが散在しているが、いつ潰れても納得できそうなくらいに寂れていた。

 昨今不景気の煽りやらショッピングモールという名の怪物が跳梁跋扈し、商店街の需要が落ちている。若者に昔以上の選択肢は与えられている現状この街から出ることを選び、跡取りと人手を喪った所で店を畳むことを余儀なくされている。

 

 遠からず残っている店たちも消えていくのだろう。

 アヤには時代の波には逆らえないと考えるドライな自分と、時代の波に消えていくことに寂寥感を覚える感傷的な自分が同居していた。

 

 そして――カナタの言うゲーセンもまた、時代の波に消えようとしていた。

 

 

 

 

 

 長らく改築されていないのだろうか。少し薄汚れたそこは大手のゲーセン、例えるならクラブセガのような華やかさは無かった。おそらく個人経営のゲームセンターだ。

 ガラスの押し扉を開くと、UFOキャッチャーやら、アーケードゲームのBGMが聴こえて来た。

 

 古いバージョンのマリオカートやら、連邦VSジオンが稼働している。現行稼働のアーケードも散在しているが、古い方が大きくウェイトを占めている。

 高齢の客がちらほらと見られたが、若い客の姿は殆ど見られなかった。

 

 カナタとコウイチの後ろを歩き奥に進むと、所せましと並べられた筐体の列から一転して広めの空間に行き着いた。そこには見覚えのある大型の筐体が置かれていた。

 

――GPデュエルの筐体だ。

 

 かつてビルドファイターズが現実になったと一世を風靡したそれだが、ダメージレベル設定の無さの弊害やGBNの登場もあって今となっては碌に遊ばれていない。アヤも一時期遊んだ記憶があるが、敗北すればほぼ創り直しになるそのシビアさもあって少しばかり敬遠していた思い出だ。

 

「おや、カナタかい。まさか本当にくるなんてなぁ」

 

 カウンターに立っていた白髪交じりの還暦の男が3人を見つけるや否や声を掛けて来た。カナタは「ども」と会釈をする。

 

「今日最終日だから、最後にってさ」

 

「そうかい。まぁ、いつも通り古いモンしかやっとらんが……」

 

 店主はGPD筐体に目をやった。相当使い古されているのか本来白いハズの筐体が少し黒ずんでいる。

 

「もうコイツもメーカー保証が終わって久しいからな。だましだまし使って来たがそろそろ限界も近い。それに遊ぶ奴もおらんなった」

 

 GPデュエル――ガンプラを実際に動かしてバトルを行うシミュレーター。GBNを開発指揮した企業と同じ企業が作っていたゲームだ。それゆえ、基本操作も一緒だ。

 当初は自分の創ったガンプラが実際に動くことに人々はこぞってプレイした。

 ビルドファイターズやプラモ狂四郎が現実になったと言われていたものだ。

 

 長らくそれは、世界を代表する遊びとして大流行しリアル第二次ガンプラブームだなんて呼ばれていた。

 

 が、盛者必衰とはこのことか。始まったものには必ず終わりというものがある。

 

 機体のダメージが実際に反映されてしまうという不満は徐々に蓄積していた。ビルドファイターズのようにダメージを調節するなんて器用な芸当は当然出来ず、特に幼い子供たちからすればガンプラの一つ一つが高価なもので、ゲームそのものの敷居は高かった。

 

「まぁ、ここで遊んでたんは背のでかいやつばっかだったからなぁ。酷いモンだった、倒した機体を取り上げるクソったれもいたもんだからな」

 

 大人は悪知恵というものがよく働いた。特にGPDのバランスを崩壊させるチートを行ったり、直接プレイヤーに危害を与えるマナーの悪いプレイヤーもいたのだ。

 一時期それが社会問題として取り上げられ、ビルダーたちは世間に白眼視されたこともある。

 

 

 しばらくしてからGBNの発表がGPDにトドメを刺してしまった。

 企業はそうそうに治安の悪化したGPDを切り捨てた。元々社会問題となっていたものを企業イメージ的に野放しにはしたくなかった、というのが本音だろう。

 

 加えて機体のダメージがフィードバックされる事やゲーム的な拡張性の限界もあって、開発会社ならびに出資企業はGBN開発に移行したと、開発者は語る。

 実寸大になった自作のモビルスーツを動かしたり眼前で見たりすることが出来、それでいて戦闘ダメージがフィードバックされないGBNはGPDに不満を持っていたプレイヤーからすれば夢のようなものに見えた。

 

 当時、VRブームが巻き起こっていたのも相まって、GPDプレイヤーは次々とGBNに流れ、時代に乗れなかった者たちは引退を余儀なくされた。

 

 

 大手のゲームセンターがGPDの取り扱いをやめ始めたのは今から3年ほど前だ。最初こそGBNの登場から緩やかにイベント展開も縮小していたが今となっては会社自体メーカー保証も打ち切られてしまった。

 

 

 

 コウイチは眼を伏せる。彼もGPDを遊んでいたのだろう。見た感じ大学生くらいに見えるので丁度ドストライクな世代のはずだ。アヤもそこそこ世代に掠っているクチだ。

 カナタもまた……

 

「まぁ、後釜のGBNでもチートやらPK粘着、暴言、嫌がらせやらやってる奴が居るから、何の解決にはなっちゃいないんですがね……」

 

 カナタは呆れかえったように肩を軽く竦めて言う。別のものにしようがやる人間が人間である以上悪意からは逃れられない。

 それはアヤもよく知っている。その悪意は()()()()でツールを作り、ばら撒き嘲笑っているのだ。

 

「とはいえコイツには思い出ができ過ぎた……それも事実だ」

 

 コウイチが色あせた筐体に触れ一人ごちる。不器用にもほどがあるゲームだがこれがなければあの二人がこうして過去を懐かしむことはなかったのだ。

 思い出というのは得てしてそういうものだ。故にいずれは供養してやらねばならない。思い出が呪いと亡霊となる前に。

 

 

 

 突如、風が流れ込んだ。

 入り口から3人程の男たちがぞろぞろと雑談しながら入って来た。手元を見るとクリアケースを提げている。外から見える中身にはガンプラが入っていた。

 

「どうやらお前さんたちだけじゃないらしいな。ったく酔狂なモンだ」

 

 店主は少し照れくさげだ。名前は知らないがあの大人3人組にもそれぞれ思い出を持っているのだろう。カナタが彼らに挨拶に行き、軽い話をする。

 そんな中、コウイチはおもむろに鞄の中から小さなケースを取り出す。ケースの中にはガルバルディβが入っていた。話し終えたカナタもウエストポーチから変なバックパックを搭載したストライクガンダムを取り出した。

 

 こんなことになろうなら零丸でも持って来るべきだったか。

 後悔先に立たずとはこのことか。やってきた3人組もまたガンプラバトルの準備を始めており、どうしたものかと思っていると――

 

「フジサワさん」

 

「ん?」

 

 カナタに声を掛けられ、咄嗟に顔を上げると白いプラスチックの塊が飛んで来て反射的にキャッチした。

 

「こんなこともあろうかと。持ってきてないだろ? ……いやァ一度は言ってみたかった」

 

 自分の発言に痺れているカナタ(あほ)を他所に、手元を見るとSDサイズのガンダムF91が納まっていた。最初に作った機体がF91だったと言っていたのを覚えてくれていたのだろうか。

 

「……これ、いいの?」

 

「1人居ないと3on2でちょっと困るんだけどな」

 

 カナタは少し拗ねたような物言いで返した。しかし万が一撃墜されれば修復不能になる可能性だってあるのだ。それでもこれを貸すというのか。

 GPDを前にして尻込みしているとカナタは続けた。

 

「壊しても俺が直す。気にするこたァない。参戦してくれっつーのも元々俺のわがままだしさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コウイチとカナタ、アヤがGPD筐体の前に並び立つ。

 筐体にガンプラを乗せ、始動準備に入る。

 コウイチはガルバルディβを。

 カナタはストライクガンダムに謎のバックパックを搭載したものを。

 アヤはガンダムF91のSDタイプを。

 

 

 

 

 相対する大人三人組は

 パーフェクトガンダム

 トルネードガンダム

 そして――ザンスパイン

 

 対戦相手の機体のチョイスにカナタとコウイチは白目を剥かずにはいられなかった。パーフェクトガンダムはまだ大昔にキット化されているからまだしも、残り2機はキット化されたなんて話は聞かない、となると一から作ったということなのか。上がるテンションと共に溢れ出た言葉はただひとつ。それは——

 

「「なぁにこれぇ」」




ザンスパインにトルネードガンダム。知ってる人は知っている。知らない人は知らないそんな機体です。
勿論、次回で知らない人向けの解説も加えていきますので……
HGでのキット化はされてないし、する奴もろくに居なかったのでカナタが白眼を剥いたという訳です

次回『トライバトル』



ここだけの話、F9ノ1とか出したかったのですが、もしかしたら出るかもしれない2期で出番があるかもしれないので今回は借り物のBB戦士にしました


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STAGE17 トライバトル

アストレイ系Vtuberが出たと聞いて初投稿です。
サブタイはBFTより。格闘機、Z系、SDのトリオでお送り致します。


ではでは大変お待たせしました!


 GPD筐体の発進台にガンプラたちを乗せると、液晶画面にプラネットコーティング付着率が表示。滞り無く上昇していた。

 

 しかし相対するチームが持つ機体を見て、カナタとコウイチは唖然とした。

 1つはパーフェクトガンダム。まぁこれはいい。昔にキット化されているのだから。とはいえプロポーションも改善されており旧キットとは比べ物にならない出来栄えだ。

 

 尤も問題は残り2つ。

 トルネードガンダムとザンスパインだ。こいつらはキットにすらなっていない。

 恐らくは一から作ったか既存のガンプラを大幅に改造したものだ。

 パッと見だけでも相当な作り込みで、高性能は約束されたも同然。

 

 

 

 ガンプラを動かすために必要なプラネットコーティング付着が終わったところでガンプラが動き始めた。

 

「俺はジャンク・ストライカーで行く」

 

 ふわりと浮遊したジャンクストライクはゆっくりと前進。戦闘領域にその身を投げ入れた。

 プラスチックから鉄の塊へ。

 プラネットコーティングの力で力を得た鉄の巨人はフェイズシフト装甲をアクティブにし、灰色の装甲をトリコロールカラーに変質させた。

 手には高エネルギービームライフルを携え、降り立った基地を歩く。同じく出撃したガルバルディβとSDF91がすぐ横に、地面と埃を巻き上げ着地した。

 

 恐らく既にあちらも展開は済んでいるはず。

 

「皆、気を付けて」

 

 コウイチの声に言わずもがなと言わんばかりに、ジャンクストライクとSDF91はゆっくりと前進する。

 

「……来た!」

 

 センサーに感あり。上空に1機。

 ザンスパインが超高速で突撃をかけて来る。ミノフスキードライブを搭載しているお陰か。

 

「速いッ!」

 

 アヤが叫ぶ。カナタは舌打ちしながら高エネルギービームライフルの銃口をザンスパインに向けた。画面越しのスコープから照準を合わせている中、空を切り裂き前進するザンスパインが――忽然として消えた。

 

「消えた……! いや!」

 

 カナタ操るジャンクストライクは咄嗟に照準をやめて横方向に頭部を向ける。そこには更に加速したザンスパインが迫っている。

 その様は獲物を見つけた猛禽類のようにカナタには見えた。

 

 そしてバックパックとリアアーマーからYの字に赤い炎が噴き出した。その炎は翼のような形を作り……

 

「光の翼だ! 皆散開するんだ!」

 

 眼に見えた危険信号だった。今ここで迂闊に接近すればあの光の翼に焼かれかねない。悟った3人は咄嗟に蜘蛛の子を散らすように散開した。

 

 ザンスパイン。……型式番号はZMT-S37S

 宇宙世紀153年ザンスカール帝国が裏工作でV2を保有する敵対勢力であるリガ・ミリティアから技術を盗用。ミノフスキードライブをV2は2基搭載に対して、こちらはYの字に展開していることから察せられるだろうが3基搭載しており、出力はオリジナル以上に高い。

 加えてサイコミュも搭載しており、カタログスペックだけなら素のV2を凌ぐ。ツインアイがザンスカール帝国側のモビルスーツらしく猫目となっており、その紫色のボディが妖しく光の翼を照り返していた。

 

 血のように赤い翼を広げたその禍々しい姿は猛禽類のようにも蝶のようにも見える。

 Yの字に光を放つそれはバレルロールを始め、扇風機のフィンの如く円状の残光を左右の逃げ道を塞ごうとしていた。

 

 迫る先はジャンクストライク。先に謎の機体から潰そうという魂胆か。カナタは咄嗟にコンソールを操作しジャンクブースターのリミッターを一時的に切った。

 

「ジャンクブースター点火ッ――間に合えッ!」

 

 バックパックの1対のブースターが点火そのまま真上に上昇しバレルロールしながら迫るザンスパインの突撃を紙一重で回避。下で回転するザンスパインを見下ろしながら、高エネルギービームライフルを構えた矢先だった。

 

「ッ!?」

 

 背後から迫るナニカを感じた。

 即座に左に機体をスライドさせるように動かすとビームの奔流がすぐ横を通り過ぎた。

 

「っぶね……」

 

 ビームの飛んできた方向を見るとそこには基地外の荒地をホバーで走行するパーフェクトガンダムがそこにいた。先ほどのビームはショルダーキャノンだ。

 

 パーフェクトガンダム。型式番号PF-78-1。数多く存在するファースト・ガンダムの重装タイプの一つだ。

 各部に追加装甲を取り付けているお陰で、シルエットはガンダムと比べて肥大化している。右肩部にはショルダーキャノン、ライトアームには2連ビームガンを装備。レフトアームにはシールドを装備、裏側に機雷とビームサーベルを仕込んでいる。

 相当の重装備なので回避性能は低下しているものの、全身武器庫でかつ防御力も向上しているせいでプラマイゼロ……むしろプラスだ。

 

 近寄るならそれ相応の対価を求められる危険なモビルスーツだ。

 

 下方で飛ぶザンスパインがバレルロールを止め、光の翼を仕舞い旋回、空中で隙の出来たジャンクストライクにビームライフルを向ける。

 

「チィッ!」

 

 前門のザンスパイン、後門のパーフェクトガンダム。同時に対応するのは困難を極める。

 今置かれた状況にカナタは舌打ちしていると、横殴りにSDF91がザンスパインを蹴り飛ばした。

 

「イズミ君! ザンスパインはわたしが! 100年以降の機体なら――ッ!」

 

 体格の面で劣れども、SDサイズは的が小さく小回りが利く。スピードも勝るとも劣らなければ、切り札を持っている。ザンスパインと対等にやり合える機体としては持って来いだ。

 そしてパーフェクトガンダムは、突進力で勝るジャンクストライクでケリをつける。

 

 だが――まだ敵はいる。

 

 紺色のボディのガンダムタイプ――トルネードガンダムだ。パーフェクトガンダムを追い越す形で飛行するそれはビームサーベルを抜き放つ。

 ザンスパインやパーフェクトガンダムと比べて棘こそないが、汎用性の高さとアームに仕込まれたガトリングガンに腹部メガ粒子砲、2本のビームサーベル、携行しているビームライフル。とソツのない武装ラインナップだ。

 

 ――こいつもこいつで近寄れば死か……!

 

 腹部を狙えば速攻で腹部のメガ粒子に蜂の巣にされるのは目に見えている。

 

 コウイチ操るガルバルディβがそのトルネードガンダムの行く手を阻み、肩部アーマーから抜き放ったビームサーベルで鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「それ以上は行かせないよ……!」

 

「――ナナセさん!?」

 

「君はあのパーフェクトガンダムをやるんだ! その機体の突進力なら――!」

 

「……了解ッ!」

 

 トルネードはコウイチに任せたカナタは機体を着地させ、前方へ前進するパーフェクトガンダムを見据えた。引き続きショルダーキャノンを構えており、いつでも撃てる体勢にある。

 機体のスラスターに火を入れようとした矢先、その砲口が火を噴いた。

 

「こいつ、実弾も撃てるのかッ!?」

 

 今度飛んできたのは実体弾だ。弾はすぐ後ろの地面に着弾し、爆風が機体の背後を襲った。機体が前のめりによろける。直撃を貰えばいくらフェイズシフト装甲だろうとダメージは免れない。

 

 次に取るべき行動は決まっていた。

 

 

 高エネルギービームライフルをリアアーマーにマウントすると、バックパックの追加ブースターがスライドし、ストライクの両アームに取り付く。肘に相当する部位に噴射口が付いており、それを点火。

 

「ブーストッ!!」

 

 殺人的な加速で遠方で射撃するパーフェクトガンダムに迫る。アームのブーストはある程度加速がかかった所でカットし、そのまま慣性を利用して前進。

 慣性にその身を任せて地上を走る、走る、走る。

 

「行かせるか!」

 

 パーフェクトガンダムの操縦者(ビルダー)が吠え、ライトアームの2連ビームガンを発砲する。

 出力は高く、掠りでもすればかのビームマグナムを掠めたギラ・ズールのようになるのは確実だ。そんな中でジャンクストライクは()()()()()()()

 

 次の瞬間、敵操縦者(ビルダー)の表情が驚愕に染まった。

 連続で放たれる2つの光芒たちは遠く離れた荒野で虚しく空中で減衰、消滅していく。何故ならば一つたりとてジャンクストライクには命中していないのだから。

 

 ジグザグに動いて行くそれは傍から見れば気持ち悪いと言わざるを得なかった。慣性を無視した無茶なマニューバは相手の常識を逸脱していたのだ。予測もままならず、ランダムに動くそれは気持ち悪いと言わずして何と言う。ビームマシンガンや常軌を逸脱した運動性能でもあればダメージを与えられるだろうが、生憎パーフェクトガンダムはそれを持たなかった。

 

「打ち抜くッ!」

 

 接近し切った所でその自慢の拳を振り上げる。勢いの乗り切ったパンチは流石のフルアーマーでもただでは済むまい。対してパーフェクトガンダムもビームサーベルを引き抜き、コックピット目掛けて突きを放つ。

 

 ――ッ!

 

 その動きに気付いたカナタは即座にレバーを横に動かした。

 ジャンクストライクの上体が――逸れる。ビームの刃はストライクの脇腹を焼き、軌道が逸れたストライクの拳がパーフェクトガンダムの肩を横から炸裂させた。

 

 ゴウッ、と音を立て吹っ飛ぶパーフェクトガンダムの巨体と、姿勢制御が出来ず派手に転ぶストライク。

 流石にあの一発を貰えばタダでは済むまい。カナタは機体のコンディションを確認しつつ起こしていると、思わず目を見開いた。

 

「……反応装甲(リアクティブ・アーマー)!」

 

 粉塵が巻き上がり、様子はしばらく見えなかった光景。時間と共に晴れて行くと中には1体のモビルスーツが立っていた。――RX-78ガンダム。

 おそらく装甲に爆薬を仕込んで衝撃を緩和、わざと派手に吹っ飛ぶことでダメージを相殺させた。

 

「まだだッ!」

 

 もう一発叩き込めば勝ちだ。ジャンクストライカーのブーストを再び点火させ――られなかった。

 

――オーバーヒート……!

 

 ジャンクストライカーは赤熱していた。ブースターは焼け黒い煙を出している。一方で敵のガンダムのライトアームに装備されたビームガンは保持しておりいつでも射撃が出来る状態だ。

 

 お互い十全とは言えない状態で使えない装備を棄てていく。ストライクは両アームのジャンクストライカーを脱ぎ捨て、ガンダムもまたビームガンだけ残してパーフェクトのパーツを全て破棄。

 高エネルギービームライフルと二連ビームガンを向け合いそのまま睨み合った。

 

「ハッ! 楽しいなぁ、ジャンクストライク!」

 

 男は笑う。それを見たカナタもまた、口の端を持ち上げた。

 

「クククッ……久々だよこうして面白くやれンのはパーフェクトさんよ!」

 

 互いに機体のフレームは悲鳴を上げ予断を許さない状況だというのに逃げるという選択肢はなかった。カナタにとってはマスダイバー抜きで自分と互角以上にやり合える人間と後腐れなく戦える事実が嬉しくて仕方が無かった。あの無銘との戦いで得られなかったものだ。

 

 再びストライクとガンダムが砂煙を巻き上げ、機体を走らせビームを撃ちあう。ある時は岩を盾にし、ある時はスラスターで砂煙を派手に巻き上げる。

 

「チッ、攻撃用のエネルギーが……!」

 

 高エネルギービームライフルの引き金を引くと、カチリと渇いた音が鳴り響くだけ。――ビームを吐き出すハズの銃口は沈黙していた。

 高エネルギービームライフルを投げ捨て、腰の両サイドアーマーから高周波ナイフ《アーマーシュナイダー》を2本とも引き抜く。

 

 一方でガンダムもまた、弾切れのビームガンを棄て、シールドに仕込まれたビームサーベルを引き抜き、シールドも棄てて最低限の装備で構えた。

 それから――数秒の睨み合いが始まった。

 先に動こうが動かなかろうが勝つ方が勝つのだ。しかし心情的には互いに相手の出方を見ておきたかった。先に動いたのは――両方だった。

 

 地面を抉るように蹴り抜き、走る。

 

 リーチはガンダムのビームサーベルの方が上だ。とはいえ、そんなことカナタは重々承知の上であった。

 コックピット目掛けて放たれた突きを前にストライクは上半身を逸らす。勿論この強引なマニューバは機体のバランスを崩すが、ここでスラスターを使って転倒を防ぎ、隙だらけのガンダムの横側からアーマーシュナイダーの先端を――

 

「遅いなッ!」

 

「何ッ!?」

 

 突き出したそのレフトアームが宙を舞い――地面に落下した。

 あのガンダムは一瞬であの隙をリカバリーしてカウンターを叩き込んだというのだ。とはいえ、ライトアームが持ったアーマーシュナイダーは生きている。それをガンダムのサーベルを持つライトアームに突き刺した。

 

 夥しい火花を散らしながらその刃をめり込ませ機能停止しビームサーベルを落とした所を逃さず、ストライクは突き立てたアーマーシュナイダーを手放しそのまま相手にパンチを叩き込む。

 

 負けじとライトアームをロストしたガンダムが返しのパンチを放つ。受けたストライクは大きくよろめき再びバーニアを吹かせて勢いの乗ったパンチを叩き込む。

 最早武器はバルカンしかない。互いにバルカンをまき散らし、拳を叩き込む。

 

 互いに機体をぶつけ、ブレードアンテナの破損度外視で頭突きを放つ。

 

「決着を付けようか」

 

 ガンダムの操縦者(ビルダー)はそう言って、ガンダムにライトアームに刺さったアーマーシュナイダーを引き抜かせる、カナタ操るストライクもまた、地面に落ちたビームサーベルを拾う。もうエネルギーは残りわずか、フェイズシフト装甲を維持するくらいならビームサーベルの維持にそのエネルギーを回した方がいいだろう、とカナタは無造作にフェイズシフト装甲をディアクティブモードに切り替え、ストライクの鮮やかな青と赤の装甲は鈍い灰色に染まった。

 得物のリーチこそビームサーベルの方が上だが、アーマーシュナイダーの有効射程にまで詰められればビームサーベルも役に立たなくなってしまう。

 

 

 次の一撃こそが勝敗を決するのは明白だった。

 二人の操縦者は固唾を呑み、操縦桿を引いた。

 

 

 ◆◆◆

 

 ガルバルディβとトルネードガンダムの戦闘はビームサーベル同士の鍔迫り合いから始まり、互いに距離を取ってから中距離を主体にして繰り広げられた。

 飛行能力ではトルネードガンダムの方に利があり蒼穹を自在に舞う一方で、ガルバルディβは周囲の建造物を盾に隙を見てはビームライフルで応戦していた。

 

 爆撃する要領で腕部のガトリングガンをばら撒き、倉庫の天井やコンクリートに穴を開ける。

 

 飛行力にモノを言わせたそのマニューバは確かに脅威だ。しかしコウイチにはこの手の相手は多少の心得はあった。トルネードガンダムの空爆をしのぎながら、マップの確認をしていく。

 基地内には火薬庫など爆発物が転がっている。となれば、これをどうするのかはコウイチの中で答えは出ていた。まずはその火薬庫にトルネードガンダムの火線を誘導し、そのまま――

 

 爆発、炎上。

 狙い通り火薬庫は派手に大爆発を起こし、連鎖的に基地の施設が爆発を起こし、地を砕き、建物を倒す。屋根、瓦礫、格納されたモビルスーツのパーツが爆風で舞い上がる。

 たとえモビルスーツの装甲だろうとこの爆心地に立つガルバルディβは無事には済まされない。が――この巻き添えでのダメージは覚悟の上だ。

 

 こうなることを織り込み済みだったコウイチはシールド防御でダメージを最低限に抑え、完全に爆発をしのいだ所でそのまま爆煙の中に身を投じた。

 

「爆煙に紛れたのかっ!?」

 

 このような状態では上空からの爆撃は弾の無駄だ。爆煙はトルネードガンダムの居る上空にまで上り、操縦者(ビルダー)は歯噛みした。

 これでは討てないではないか。しかしこのまま爆煙が晴れるまで待つことが出来るのか。相手操縦者は味方の様子を見た次の瞬間、決断した。

 

「――突っ込む!」

 

 このまま待てば味方が討たれる。遠方の荒野を見ると互いに装備をパージしたストライクとガンダムが互角の殴り合いを繰り広げ、空ではSDF91がその小柄な体躯でザンスパインをかく乱している。

 このままガルバルディβと悠長に撃ちあっていればいずれジリ貧になる。そう判断した。

 

「――来た」

 

 それに対し、向こう側のコウイチは誰にも気づかれないようにほくそ笑んだ。

 トルネードの操縦者がとった選択はミスだ。仮にあの状況で撃ち合いでカナタが敗北してもあれだけ武器を奪われたパーフェクトガンダムが出来ることはたかが知れている。加えて距離もそこそこあるので追いつくのにも時間が掛かる。

 アヤのSDF91もまた、ノーダメージでザンスパインの攻撃を回避しており、そうそう墜ちる様子はない。

 

 それで慌てたのだろうが、それで爆煙の中に突っ込む行為は飛んで火にいる夏の虫だ。

 モビルスーツが立てる独特の音を探し、ビームライフルのトリガーを引く。

 

 だがしかし、トルネードも間抜けではなかった。

 爆煙を切り裂き飛び交う2つのビームは片方はガルバルディβの左肩部を僅かに掠め、もう片方はトルネードの左肩部を貫いた。そして次にトルネードは返す刀で接近、回し蹴りを放つ!

 

「墜ちろぉ!」

 

 蹴りを叩き込まれ、大きくよろめいたガルバルディβに腹部の拡散メガ粒子砲を放つ。これを受けてしまえば終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 そう、終わりなのだ。

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「ビームコーティングだと!?」

 

「GPDには必須スキルだよ……! 散弾なんて使うから――!」

 

 装甲のあちこちをメガ粒子で焼かれ、周囲の爆発で煤にまみれたガルバルディβがビームサーベルを抜き放ち、コックピットを貫く。

 ここで相手がビームライフルを撃てども、一撃で墜ちる心配は無かった。無論、一発でも貰えばビームコーティングが融解する程度には脆いが、一撃を叩き込むチャンスを得るのには充分過ぎた。

 

「馬鹿な……」

 

 トルネードが地面に膝を突き沈黙する。聴こえるのはビームサーベルが消える音と、基地が焼ける音――そして離れた場所から聴こえる銃声だけだった。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 緊張の糸が切れて、息も絶え絶えになる。

 この極限の緊張感と、駆け引き。これがGPDだという実感を思い出させる。けれども、最早祭りのあと。この実感を味わう事は恐らくもう無いのだろう。

 

 

 焼ける基地の中、ガルバルディβは沈黙したトルネードを背に歩く。彼の行く先は――

 

 

 ◆◆◆

 

 アヤが操る(駄洒落ではない)SDF91はザンスパインの猛攻を潜り抜けていた。

 

「この機体を傷付けるわけには――っ」

 

 カナタに借りた機体を。

 壊れても直すとは言っても、自分から壊して良い理由にはならないのだ。ザンスパインとのビームライフル同士の撃ち合いは泥試合と化していた。

 

「そんなやる気のない射撃に当たらないわよ……!」

 

 完全に対戦相手に見抜かれている。対戦相手の紅一点の女が突いてくる。

 とはいえ、回避に重点を置いているお陰でザンスパインの射撃は全て躱し切れている。SDの的の小ささもあるが、元々追従性の高さもあった。

 元々10年以上前の古いキットをベースにしているが脆いパーツを補強し、可動部を増やしている。その上元のパッケージにはなかった機構機能を織り込んでいる。最早いちから作ったに等しいそれはアヤの要求する操縦に完全について行けていた。

 

 それにしてもこの操作感――GBNに比べて重い。機体のせいじゃない。ゲームが違うからか。

 実際にガンプラが動いているから伝わる感覚も違う。GBNの雛型となったゲームだが、何か根本的な所で違う気がした。

 

「鬼ごっこもこの辺にするわよ――お嬢さん。行きなさい、ティンクルビット!」

 

 しゃらん、と鈴の音がアヤの耳朶を打った。

 惑わされるな。音に、ビットの動きに。

 

 耳障りな鈴の音を意識からシャットアウトし、両肩部から全部で4基射出されるビットの動きを捉えた。ザンスパイン本体からも当然射撃は飛んでくる。

 合計5方向から飛んでくるそれを見切るのは困難を極める。

 

 このままでは被弾どころか、蜂の巣だ。

 

 ――駄目だ、このままじゃ

 

 覚悟を決めなければならないか。

 逃げの戦いで勝てるような相手ではないのは分かっている。

 とはいえ、躊躇いが踏み込みを浅くさせる。

 

 これでは子供の間合ですらない。

 

 SDF91のスピードなら懐に飛び込んでビームサーベルを叩き込めるハズなのに。ヴェスバーという高火力兵装も持っているというのに。

 5方から飛び交うビームは徐々に激しさを増していく。

 

「――ッ!」

 

 左腰にマウントされたビームサーベルを1本抜刀し、持ったその手首を回転させる。サーベルの軌跡が円を描きバリアのカタチを成す。左右から襲い来るビームをシャットアウトし、今を凌ぐ。

 その時――

 

「なーに躊躇ってんだ」

 

 隣で操縦しているカナタが言った。どうやら戦いながら戦況を確認していたようでこちらの戦闘も確認していたらしい。否定できない事実を指摘しているもののしかしながらその声どこか優し気だった。

 

「さっき言ったろ? 壊れたら直すって。だから――見せてくれ、フジサワさんの戦いを」

「よそ見している場合かぁッ!」

「うぉぶねぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

 対戦相手のパーフェクトガンダムと戦闘している。カナタの操るストライクは各部に傷跡が見られ、ボロボロだ。それでもカナタは先ほどの穏やかな声が嘘のように楽しそうな声をしていた。同じくコウイチもまた緊張下にいながらもどこか楽しそうだった。

 トルネードガンダムを戦術で打ち破っているのであろう声が聴こえる。

 

「――行こう、F91」

 

 「行って来い」、カナタがそう言ったような気がした。

 ビームサーベルでの防御を切り上げ、入れ替わりに右サイドアーマーからビームシールド発生装置を取り出し、ティンクルビットの密集した所を狙って、投げた。

 

 自棄になったか。ザンスパインの搭乗者(ビルダー)は疑うも、手元から離れた所でビームシールドを低出力で展開しSDF91が持つビームライフルの銃口をその投げられたビームシールドに向けた瞬間、アヤの目論見を察した。

 

「ビームコンフューズッ!」

 

 高出力のビームシールドならばビームライフル程度、シャットアウトは容易だが低出力で受けると弾丸は貫通、四散してしまう。その減衰四散した弾丸をアヤは利用した。

 元々ビットはスラスターと小型ジェネレーターやバッテリー、伝達装置であるサイコミュの兼ね合いもあって頑丈に作られていない。

 

 ――つまるところ攻撃が当たりさえすればビットは墜ちる。

 

 それが喩え減衰、拡散したビームであろうとも。

 ビームのシャワーはたちまち飛び回るティンクルビットを焼き、火の玉にした。

 

「小賢しい真似を!」

 

 流星となって墜ちていくビットを前にザンスパインはビームライフルの銃口をSDF91に向け直し、同じくこちらもビームライフルを向ける。条件はほぼ同じ、敵には光の翼というアドバンテージがあるが小うるさいビットはもう既に全て落とした。

 同時に惹かれた引き金は、互いに一条の光芒を吐き出させ、その光と光は衝突する。

 

 空気を焼きながら対消滅すると、両者は衝撃波にその機体を流されコントロールを失う。アヤは即座にレバーを動かすものの吹っ飛んだ機体が体勢を取り戻すには時間が掛かった。

 前方のザンスパインは間もなくして復帰してビームライフルの引き金に再び指をかけている。

 

「墜ちなさいッ!」

「まだ――」

 

「させるかよッ!」

 

 その時、SDF91の前に灰色の戦闘機が割り込んだ。――否、これは戦闘機などではない。この機影は初めて見るが同時に見覚えもあった。

 

「ジャンク……ストライカー」

 

 初めて見るけども見覚えもある。それは矛盾するような物言いだが、事実として装備された状態こそ見た事はあれど、こうして自律稼働するジャンクストライカーは初めて見るのだから。

 ジャンクストライカーはバックパック部分を中心にして両サイドにジャンクナックルを装備していた。ナックルにビームが着弾するタイミングを見計らってSDF91の眼前を横切り、防ぎ切ったのだ。

 

 着弾した部分は対ビーム処理――ガンダムSEED的に言えばラミネート装甲を施していたため黒く焦げている程度でダメージは軽微。

 

――本体は一体何処に。

 

 ふと、ストライクとガンダムの戦闘のあった場所を見るとそこには大破した両機が向き合ったまま沈黙していた。相討ち――アヤの脳裏にそんな言葉が過った。

 

「イズミ君、どうして!」

 

「ストライクはもう動かないが、生憎まだジャンクストライカーのドラグーンは生きていてよ……!」

 

 ドラグーンシステム。平たく言えばファンネルのようなものだ。

 遠隔操作されたジャンクストライカーは縦横無尽に空を飛び回り、ザンスパインに突撃を繰り返す。更に基地からもビームが飛んでくる。コウイチの中破したガルバルディβがライフルを撃っているのだ。

 

「光の翼ッ!!」

 

 しかし、このままやられて終わる相手でもなかった。

 展開された紅い光の翼は忽ち、ジャンクストライカーのスラスターを焼き落とし、地上のガルバルディβは上空からビームライフルで吹き飛ばした。

 

「これが最後にしてやれることだ……!」

 

 黒煙を上げて落ちていくジャンクストライカー。しかし、次の瞬間両サイドにあるナックルを射出した。射出されたそれはそのまま真っ直ぐザンスパインに飛んで行き、そのまま直撃した。

 

 

「しまッ――!」

 

 墜落していくジャンクストライカーを他所に大きくその身をよろめかせるザンスパイン。――勝機が見えたアヤはコンソールを操作しSPウェポンを起動させる。

 このSDF91には切り札があった。それは最大稼働による限界性能の突破だ。

 SDF91の両肩部装甲から3枚ずつフィンが展開され尋常ならざる熱を放つ。そして次に機体を動かした時にはすでにザンスパインの眼前にまで迫っていた。

 

 だが、ザンスパインは即座に背中を向けて光の翼を展開。SDF91は咄嗟に後退することで翼に焼かれるのを防いだが、超高速でその距離を離した。

 通常のモビルスーツでは追いつけない。しかしこのカナタが創り上げたSDF91ならば追いつく、そんな確信がアヤにはあった。

 

 機体のスラスターを吹かせると、これまでの機動が嘘のように動いた。最大稼働の副産物である質量を持った残像を作り出しながら飛び回るザンスパインに追いすがる。

 

「なんて速さ!?」

 

 背後で追うそれに驚愕したザンスパインの操縦者(ビルダー)は歯噛みしつつ機体の速度を落としバレルロールさせる。円形に光の環を発生させて、接近するSDF91を焼き払う腹だ。

 そんな目論見はとうにアヤは気付いていた。急ブレーキしビームライフルを棄て、バックパック両サイドに1門ずつセットされた可変速ビーム・ライフル、ヴェスバーの左側を手に取り、敵の背中目掛けて発砲した。

 

 ビーム弾は通常のビームライフルを凌ぐ弾速を持つ。回転している状態で防御することは不可能だった。

 直撃を受けたザンスパインは光の翼の片翼を散らし、黒い煙を上げて落ちていく。

 

 トドメを刺さんと接近するSDF91に即座に生きている光の翼を外し、手に持ったそれをビームサーベルのように振るった。

 

「しまッ――!」

 

 掠っても小柄なSDタイプには致命傷だ。レフトアームをヴェスバーごと吹っ飛ばされる。

 互いに墜落していくそれをアヤは茫然としていた。このままでは追撃しようにも光の翼で焼かれてしまうSDの体格では掠っても直撃レベルのダメージを受け得るだろう。

 

 

 ふと、隣のカナタとコウイチを見る。

 

 信じている。そう言わんばかりの目をしていた。

 アヤの中で何かが吹っ切れた。躊躇っている場合じゃない。

 

 ライトアームに持っていたビームサーベルを起動させ、光の翼を持ったアーム目掛けて投げつけた。投擲武器自体はGBNで使い慣れているのも、最大稼働で一連の挙動が高速化されているのもあって見事に突き刺さり、脅威だった反撃の手を封じる。

 そして最後に残ったヴェスバーを展開させ、ザンスパインのコックピットに突きつけ――

 

「わたしの――いや、わたし達の勝ちよっ!」

 

 銃口から勢いよく吐き出されたビームがザンスパインの上半身を吹き飛ばした。次の瞬間隣のカナタがサムズアップした。

 




前書きで斗和キセキ氏の話しておきながら今回の話でアストレイが出ない不具合


現実世界でのカナタの機体はストライクなんや……現実世界でアストレイオルタ使ったら即バレやし……(震え声)
現実とネットで顔を使い分けているタイプなんです……


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STAGE18 Good Bye Yesterday

 お ま た せ

 Gガン観ていたお陰で筆がちょっと捗りました。
 ……1クール目が重すぎるッピ!


 地方の大会で世話になったゲーセンの閉店ということもあって久々に集まらないかとコウイチから突然呼びかけてきたのがそもそものキッカケだった。

 カナタはその時偶然暇だったので応えたが、コウイチの別の仲間は呼んでも仕事やら勉学やらで来られなかったようだ。……今更、終わったものの思い出話に付き合ってはいられないのが本音なのだろう。

 

 

 GPDが終わり暫くゲームをしてからゲーセンを出たころには既に日が暮れていた。

 ドアを開けて、差し掛かる夕暮れに目を細める。

「シバさん、来ませんでしたね」

 

 ふと、その名前を溢した。すると後追いで外に出たコウイチは苦笑いした。

 

「分かっていたさ。あいつはこんな事に付き合う筈がないって」

 

 案の定というべきか。

 そんな事だろうとは思っていたが。

 

 シバさん。カナタが言ったその名は、コウイチが誘ったかつての仲間の名前だった。

 シバ・ツカサ。

 ……数年前GPDがまだ下火になっていなかった頃の話だ。シバという男は最もナナセ・コウイチと親しく、共に戦ったガンプラビルダーだった。当時こそ卓越した技量で暴れ回っていたが、彼はGBNの登場からGPDの終焉を悟り、自ら突然と姿を消した。カナタも彼と交友はあるがここ数年近く顔を見ていない。

 

 唯一知ることができた近況は一応、電話には応えられるぐらいには生きているということくらい。コウイチ曰く誘う電話したら突っぱねられたという。「しみったれたモンはごめんだ」とそう短い言葉で切り捨てて。

 

「イズミ君。シバさんってどんな人だったの?」

 

 蚊帳の外だったアヤが問う。この場に来たからには知る権利はあるはずだ。そう思ったカナタは口を開いた。

 

「んー、まぁ……平たく言うとアレだ……兄貴の――不倶戴天の敵(ライバル)

 

 

 

 

 STAGE18 Good Bye Yesterday

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 数年前、コウイチが高校生、カナタが小、中学生だった頃のことだ。

 同じガンプラ好きが集まって部活動とまでは言わなかったがプレハブ小屋を拠点として、ガンプラを作りGPDで戦わせていた。幼い当時のカナタは兄の後ろを付いて行ってプレハブ小屋を訪れていた。

 

 小屋に入るとまず塗料とプラスチックの臭いが鼻を突いた。

 臭いのする方向には自分より年上のガンプラビルダーたちがあーではないこーではないとガンプラを弄っている姿が日常のように繰り広げられている。制作難易度の高いマスターグレードを平然とくみ上げ、比較的簡単なハイグレードのクオリティを異次元の域のまで上げていくその姿はまるで彼らが宇宙人か超能力者のように見えた。

 

 そんな彼らに殴り込みを掛けたのが兄だった。

 兄はシバという男に対抗意識を燃やしていたのを覚えている。

 

「兄ちゃん。なんであのプレハブ小屋のシバって人に凄いキレてるの?」

「キレてないよ我が弟よ。僕はね、あのプレハブ小屋でアストレイを一番巧く使えるのは俺だって証明したいんだ。……ポン刀(ガーベラストレート)振り回している彼を完膚なきまで叩きのめしたいんだ」

「え、えぇ……?」

 

 カナタはそんなぶつかり合うアストレイ同士のファイトを見てきた。壊して壊され、マシン同士がぶつかり合い、互いの得物をぶつけ合うその姿にカナタは圧倒された。

 自分もこんな風に出来るのだろうか。

 

 

 互いに笑みを浮かべてGPDで争い合うシバと兄の姿を見て自分もこんな風に笑えるのだろうか。だなんて、自宅に飾ったガンプラたちが動くのを脳裏に思い浮かべながら思った。

 

 

 

 

 元々GPDをする同級生はそれほどいなかった。……というのはこのゲームの性質上コストがどうしてもかかるという事実に他ならない。折角手塩にかけて作り上げたガンプラをジャンクにされるのを嫌がる人間がいた。直そうにも新しいパーツを調達するのにお金がかかる。ならばバトルなんてしない、と。

 コストを抑える為の技術もあるがそれを知るにはカナタたちの世代はまだ――幼過ぎた。

 だからGPDの世界に飛び込んだカナタが相対するのは自動的にシバや兄、コウイチたちプレハブ小屋のビルダーぐらいで、彼らに戦闘技術やコストを抑えた制作技術とかを教えて貰ったりしていた。

 

 それは代えがたい思い出だったと胸を張って言える。こうして先人たちに教えてもらわなければ今こうしてGBNをやってはいないだろう。

 

 

 シバと兄はそこまで仲が悪いというわけではなかったが、お互いアストレイを扱うということでどっちが一番強いかを譲る気は一切なかった。片方が強いと自分を語ればもう片方がふざけるな、俺が強いんだと言う。

 それを続け、GPDでは互いに勝率50%という様相を呈していた。延々と丁々発止を繰り広げ互いを壊し合い、ついには対決は100回目にまで至った。

 

 そんな中、GPDの町内大会である話が上がった。

 

 お互い世界大会にまで上がってケリを付けないか、と。

 自分が一番アストレイを巧く使えることを世界に証明するべくシバと兄という二人の修羅(バカ)は次々と日本中の強豪を叩きのめし、シバはコウイチと、兄は当時の相方と世界にまで上り詰めた。アメリカで開催された世界大会にその舞台を移しても尚もアストレイ使い2名のチームは世界中のビルダーを切り伏せ、海外のアストレイ使いは眼中にないと無造作に斬り伏せ――ついにシバと兄のチームが。日本同士のチームが衝突するにまで至った。

 101回目の真剣勝負。ついにどちらかが一番巧くアストレイを使えるという証明がついに――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、カナタは風邪をひいており古鉄やを経営する祖母預かりで日本から世界大会の様子を見て、兄と共にアメリカに飛び立った母と父――家族の帰りを待っていた。

 風邪でふらつく身体をひきずりながらダイニングの冷蔵庫を物色していた矢先、茶の間から物をしたたかに落とした音が鳴り響いた。何事だろう、とカナタが茶の間に入ると足元に受話器を落とし茫然と立ち尽くした祖母の姿があった。

 

 ふと、点けっぱなしのテレビを見るとそこには地獄絵図が拡がっていた。

 最早車としての原型をとどめていない車が黒煙を上げ、泣き啜る外国人、割れたショーガラス、折れた電柱に潰された車。

 

 

 《米国○○市街にて無差別テロ 邦人6名重体》

 

 そんなテロップが流れていたことは覚えている。

 祖母の様子から6人の中に自分の家族がいたことを理解するには少し時間を要した。

 

 

 程なくして重体の邦人は誰も助からなかったということが公にされた。

 

 結果的にシバのチームは不戦勝となった。

 しかし、シバの心は満たされることはなく抜け殻のようになりシバとコウイチのチームは世界大会総合8位という結果に終わることとなった。下手すれば自分以上にショックを受けていたのではないかと思ってしまうほどだ。

 

 50勝50敗。それが、兄とシバの戦いはあれからずっと止まったままだ。

 

 ◆◆◆

 

 コウイチと別れ、カナタとアヤは夕暮れの街並みを歩く。壊れたストライクとSDF91はカナタの手元にあり、それを見ていたカナタは何処か嬉し気だった。それがアヤには不可解に思えた。

 

「……どうしたの?」

 

「なんかさ。楽しかったんだよ。GPDが。ずっとやってなかったからさ……昔のこと、色々思い出したって言うか」

 

 GBDで遊んでいたからこその言葉だった。アヤが知らない思い出をカナタは持っている。いつもは目付きが悪く、気怠げな印象があるが今この瞬間年相応の笑みを浮かべていた。

 どんな、思い出だったのだろう?

 

 こんな笑顔、見た事がなかった。そんな顔をさせるGPDとシバ、コウイチ、カナタの兄は一体何なのだろうか。正直羨ましかった。自分じゃきっとカナタをこんな表情には出来ないだろうから。

 

これ(SDF91)、直すの手伝ってもいいかな?」

 

 不意に口から出てしまった言葉を抑え込もうとしてももう遅かった。吐き出された言葉は隣で壊れたガンプラを握るカナタの耳に届く。カナタは鳩が豆鉄砲を食ったような顔でアヤの顔を見つめていた。目をぱちくりさせ数秒の沈黙からようやく反応が出た。

 

「……や、そんな無理すんなっての。俺が貸したんだから」

 

 毒を食らわば皿まで――そう先人は言った。既に引き返せない所まで来ていると本能が悟ったか、遠慮するカナタにアヤは食らい付いた。

 

「違うよ。これはわたしの我儘だから。……もっと知りたいの、イズミ君のこと」

 

 カナタの顔が今度は鳩がスラッグ弾をぶち込まれたようになった。

 わたしは一体何を言っているんだ。自分で言ってて後悔しそうだ。君の事が知りたいとか一昔前の漫画の台詞か何かか。ドン引きされるんじゃないのかこれは。

 頭の中がぐちゃぐちゃになったアヤの眼が泳ぎ始めた所で返事が出た。

 

「…………知っても面白くねェんだがなー。分かった、負い目抜きでそうしたいなら一緒に直すか。――でも今日は遅いし一旦解散な」

 

「ん。ありがと」

 

「礼を言うのはこっちの方だ。ロートルの思い出話に付き合ってくれて――ありがとう」

 

 ちょっとこそばゆかった。

 なんだか居たたまれなくなってお互い、視線を逸らし真っ直ぐ自分の家に向かって歩き続け、次に出た言葉が「また明日」だった。

 

 

 ◆◆◆

 

「帰ってきたか。坊主」

 

「――カドマツさん」

 

 古鉄やの暖簾をくぐると店内でカドマツが買い取りようデスクの椅子に座って待っていた。カドマツがここに来るときは決まって何かがある。カナタは神妙な顔で要件を訊くために空いた椅子に腰かけた。

 

「河童事件の件で報告があってな」

 

「後処理終わったんすか」

 

 あの河童事件の後、カドマツとはしばらくの間音信不通となっていた。後処理に相当追われていたらしく、ギガフロート周辺やサラが拐われた海域は封鎖状態にあった。あれからしばらく経ったがついにひと段落ついたようだ。

 

「あの河童、跡地や破片を何度か調べたがジャンクデータとジャンクデータで繋がり合った余剰データ集合体で解析、再現しようにも元が複雑で滅茶苦茶だから出来なかった。下手にやろうならサーバーやメモリを破損させてしまうおまけ付きだ。しかもこいつ……自身で分裂、増殖を繰り返している」

 

「プラナリアか最近のゴジラですか。ヤシオリ作戦でもやれって言うんすか」

 

「ゴジラか。違いないな、事実凍結した瞬間動きを止めた、下手に消去しようなら増殖してしまうからな」

 

「うげぇ……」

 

 心底、実に心底気色悪い事実を目の当たりにして目眩を覚えた。

 要するにあの河童は正式なデータではなかったということだ。断末魔が人間的なもので生物的なフォルム、それでいてまるで上着のようにモビルスーツを纏ったそのおかしな姿である理由がなんとなく分かった気がした。あのカドマツの表情はいつも以上に真剣で、相当の事態なのだとカナタは無言で読み取った。

 

「それと――あのサラってダイバーが閉じ込められた場所なんだが……無数のジャンクデータが散らばっている酷いありさまだった。一部データ欠損もされていて今や一部海域は閉鎖状態だ。あんまり考えたくはないがアレがマスダイバー発生によるもので、何処かに破片が残っているのだとしたら河童事件は――」

 

「――まだ、終わっていない」

 

 噛み締めるように、カドマツの言葉にカナタが付け足した。

 その可能性に背筋が凍るような感覚を覚えた。あの悍ましい化け物がまだあのGBNに潜んでいる可能性がある、もしくは新たに発生しうるということだ。このままマスダイバーを野放しには出来ない。カナタは固唾を呑み、掌に爪が食い込みそうなほどに拳を強く固めた。これ以上、連日の被害者やサラのようなダイバーを増やさせるわけにはいかない。

 そして――

 

「俺が交戦したあのアストレイタイプの件……どうでした」

 

 まだ謎だらけだ。戦闘ログすらも破壊して逃亡したのアストレイタイプとそれの撤退の幇助をした黒い鳥のようなモビルアーマー。連中のこともまだ分かっていない。しかしカドマツは黙して首を横に振った。

 

「駄目だ。あれもあれでログが無かったし復旧も出来なかった。あのエリアに坊主以外のアストレイタイプが侵入したログは一切なければMAのログもなかった」

 

「……アフターケアは完璧って事か」

 

「そう言う事だ。どうやら相手は俺たちの思っている以上に力のある愉快犯だろうな」

 

 愉快犯? と一瞬カナタの脳裏に疑問符が浮かぶが、実際問題あのマスダイバーの性質を考えると納得のいくものだった。

 事実、マスダイバーの大半は初心者や元々腕に自信のない人間ばかりだ。加えてチートとはいえ上級者が倒せる程度の力しかなく、まるでゲームバランスが破綻しかけているゲームに挑まされているようなものだ。単純にGBNを破綻させたいならさっさと上級者とかに無差別にばら撒けばいいのだ。

 それをしないということと、もし――もしも、だ。

 あれだけの隠ぺい工作をしたあの無銘とMAがもし、黒幕だとしてもGBNに怨嗟の声を出しておいてこのような悠長なことをするのだろうか。まるでゆっくりと首を絞められているような感覚を覚えた。

 

 既に――こうした憎むべきGBNがあたふたしているという事実が出来た時点で最低限の目的は達成している。後は偽者の世界が自壊して消えていくのをにやけ顔で待つだけ。

 ゴチャゴチャと奔走して後手に回り切っている自分たちを嘲笑っているに違いない。

 

 そう思えばあの性格が悪いというカドマツの評もあながち間違ってはいないのだろう。……飽くまで想像の域にしかないが。

 

 

「挙句マスダイバーの増加の勢いも止まらない状態だ。最近確認されたのはこいつだ」

 

 カドマツはデバイスを差し出し、それを受け取ったカナタはデバイスを操作して画面に表示されたものを一瞥して呟いた。

 

「今度のターゲットはこのダイバー……」

 

 ダイバーネームはステア。

 所属フォースはアークエンジェルス。主な使用機体はガイアガンダム。

 

「メッセージログを見るに明日のフォースフェスに出るらしい。……行けるか」

 

 愚問だ、とカナタは間髪入れずに縦に頷いた。

 

 

 

 

「マスダイバーなら放置は出来ない。それは分かっていますから」

 

 あまり残された時間はない。そんな焦りが胸の内で渦巻いていた。




10行で大体分かる18話(大嘘)

カナタ「バイトしたいな」
カドマツ「良い仕事紹介したげようか?」
カナタ「わーい!やるやる!」
カドマツ「よし、コイツは前金だ」
カナタ「イェーイ!」
カドマツ「このリストだ」
カナタ「何が?」
カドマツ「やれ」
カナタ「何を!?」
カドマツ「(マスダイバーを)殺れ」





 それはそうとソードマンが通り魔の如く武力介入してくる殺し屋みたいになってきましたね……(棒読み)


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STAGE19 いるべき場所は

 ビルドダイバーズ新作が出るし、某ビデオパスにビルド系が再度見放題になったし、クロスレイズの発売日が発表されたし、現行ハードでモノアイガンダムズが遊べるようになるらしいので初投稿です。


 【またかよ】ソードマン、再びダイバーを数名襲撃【害悪ダイバー】

 

 広大なネットの海の中、そんなスレッドが立てられていた。

 内容はタイトルの通り、突如現れたソードマンがダイバーを襲撃。一方的に蹂躙したという話だ。

 

 この手の話はよくGBNにいるとよく見るもので、これまで口頭でもちょくちょく話は聞いている。どうも非公式で懸賞金もかけられているらしく、相当恨みを持たれているようだ。

 親に内緒で手に入れた端末で掲示板を見ていたシュウゴは思わず真顔になった。

 

 

 6 名無しのMS乗り 20XX/7/28 22:14:31 

 

 いい加減こいつBANしろよ運営

 

 8 名無しのMS乗り 20XX/7/28 22:15:51 

 ま た か よ

 マジでアストレイ乗りに風評被害入るからやめてくれよ……(絶望)

 あいつチーターなのに5000万ジンバブエドル賭ける

 

 10 名無しのMS乗り 20XX/7/28 22:16:11 

 >>5

 チーターだったら問答無用で消えてくれるからありがたいわ。運営BANはよ

 

 17 名無しのMS乗り 20XX/7/28 22:18:36

 出現パターンから察するに学生だとは思うが、それ以外分からんのよな。ダイバー姿の情報もほとんどないし。

 特定班なにやってんの

 

 25 名無しのMS乗り 20XX/7/28 22:25:17

 ランカーのロブが自警団募ってるらしいし俺も参加しようかな

 

 

 

 最近のスレッドですらこの有様だ。ソードマンで検索をかけてスレッドを探すと似たようなものが1年ほど前から見られた。

 観ていてあまり気分のいいものではない。真偽がどうあれ他者の悪評というものは容易く広まるもので、ダイバーとしての姿を見せないのもうなずけるというものだ。

 シュウゴは端末を仕舞い、ダイバーズギアに手を取った。

 

 

 

 

 

 STAGE19 いるべき所は

 

◆◆◆

 

 ログインしたシュウゴ改めゴーシュはふと、一度Mk-Ⅱから離れて何かを作ってみようと考えた。

 というのは、Mk-Ⅱで得た反省はこれまでの戦闘である程度固まって来たからだ。加えてしばらくの間、ビルドコインを払ってGBN内で劇場版FGやらZを見、叔父の家に入り浸りセガサターンで遊び倒したのもある。

 カミーユ・ビダンという男の所業にドン引きと同時に少しばかり感情移入しつつ、セガサターンのガンダム外伝を遊び、PS2のガンダム戦記やエゥーゴvsティターンズを遊んだりして知識を少しずつ溜め込んだ。

 

 既に完成していたMk-Ⅱに手を入れるにしても出来上がったものを分解して塗装しようにも時間が必要だった。一度カッチリと固定されたパーツを取り外すには細心の注意を払わなければならず、相応の時間が必要だった。となれば一から作り直した方が早い。

 

 

 例の模型店で取り敢えず良いなと思ったキットを選び、資料とハウツー本片手に、パーツの一つ一つをくみ上げていく。

 一つの部位を作るパーツを事前に集めて、塗りたくない箇所にマスキングを掛け塗装をしていく。これもこれでそれなりに時間のかかる作業だがあの模型店には預かりサービスもあり、日をまたぐ時は渇いていないパーツを預けて明日に持ち越すということにした。

 

 そんなこんなで作っているのがZガンダムだ。

 本来はトリコロールカラーだが、各パーツが白く染まっており、紫色のラインが全身に走っている。それはZガンダム3号機とほぼ差異のないものだった。

 

 格納庫に聳え立つゼータの調子をコンソールを叩き確認していると、それを見かけたリクが零した。

 

「これがゴーシュさんの新しい機体なんですね……」

 

「ン、ゼータだ。まだ未完成だが、完成も近い」

 

 塗装はやや手こずっている。特に通常の3号機は初期検証型と異なり、マスキングが巧く出来ないと確実に滅茶苦茶になってしまう複雑なカラーリングをしている。何故初心者の分際でこのような高難易度のことをしているのか、それは周囲のそこそこ高い技術から起因する。

 制作技術は遅れを取っているしその他諸々の要因もあって中々時間が取れないのが現実だ。あの女(母親)の目から外れるには些か骨が折れるのだ。意外と。

 

 短く、濃密に。

 そうでもしなければ永遠に自分は土俵に立てないのだ。実験台で幾つものガンプラを犠牲にしつつ、本命のゼータを少しでも完成へと近づけていく。

 

 とはいえど、組み立てている間はゴーシュは、否シュウゴは充実していた。

 たまに騒がしくなるが模型店の組み立てコーナーで一つの得物(モビルスーツ)を創り上げていくこの誰にも邪魔されない自分だけの世界に酔いしれるその瞬間を。

 その時、雑音が聴こえようがシュウゴにはどうでもよく、流れた言葉が右から左にすり抜けていった。

 

 

 

 

「そろそろ行くよ二人とも」

 

 ユッキーに呼び掛けられゴーシュは3号機のデータが表示されたコンソールを埃でも払うように削除した。

 

「あぁ。フォースフェスだったか」

 

 どうも今回は期間限定フォースフェスが開催されるのでビルドダイバーズとして、リクとユッキーらと共にそれに参加しようというのだ。

 リクたちがフォースを結成したという話は少し前から聞いていた。

 その時シュウゴ自身も誘われはしたが時間の都合が付かないし居てもしょうがないだろうという理由を付けて断った。……つもりだったが、いつのまにか仮メンバーとしてぶち込まれていた。

 実際問題あのゲームはどういう形であれフォースの一員であるほうが色々都合が効くので一応入っておきなよという形だ。

 ボッチには中々厳しい仕様である。

 

 都合が効く要素の最たるものがフォースフェスなるミニゲームや、フォース同士の戦闘である。フォースに属していなければ出来ないというGBNの仕様だ。そこでしか手に入らない資材もあるので入って損はないのだ。

 それをマギーに聞かされたリクたちがほぼ強引にゴーシュを引き入れたという形だ。

 いや、引き入れられたゴーシュ側としては欲しい資材を手に入れるチャンスを得られたのでありがたいのだが。

 

 勿論フォースメンバーとしての役割は期待するなと断りは入れておいた。努力は惜しまないがあまり期待はしないで欲しい、と。

 

 それはそうとして、ビルドダイバーズのメンバーはリク、ユッキー、モモ、KO-1というエルフと魔導士を足して2で割ったような青年ダイバー。そしていつのまにかあの偽シャフリに喧嘩を売ったくノ一型ダイバーのアヤメの姿もあった。

 アヤメはどうも渋々といった風で、ゴーシュは少しばかり同情した。

 

「いい資材が手に入るんだし、前向きに行こう」

「資材には困ってないわ」

「……そうか」

 

 出発前に励まそうとしたものの、つっけんどんに返されゴーシュはしょんぼりした。

 

 

◆◆◆

 

「べアッガイフェスにようこそ!」

 

 高高度の上空に浮かぶ島々。中心には一際大きな島があり、広場にはべアッガイというファンシーなモビルスーツの模様が地形に作られていた。奥地には大きな山があり山頂には緑色の粒子に囲まれた地球が浮かんでいた。

 

「こんなファンシーなアッガイがいるのか……」

 

 アッガイは知っているがべアッガイという派生は知らなかったゴーシュは眼を丸くしながらフライングアーマーに乗ったMk-Ⅱを操作し、出入口の港に着陸する。同じくダブルオーが並んで着陸した。

 その姿を横目にゴーシュは口を開いた。

 

「それにしても改造したのかリク。ダブルオーダイバーを」

 

 見慣れない姿だった。脆い部分を補強するようにアーマーが増設されており、なによりも両肩部に装備した実体剣がゴーシュの眼に止まった。これまではこんな大剣2刀はなかったはずだ。

 

「はい。ダブルオーダイバーエース、これが俺のガンプラです」

 

「凄いな、君は」

 

 それは皮肉無しの賞賛だった。

 元々改造の出来る人間はゴーシュにとっては未知の存在だった。それは今でも同じだ。ソードマン操るアストレイオルタナティブも、ユッキーのジムⅢも、零丸も。

 

「そんなことは……楽しみにしてますよ、ゴーシュさんのゼータ」

 

「……そうあまり期待はするな」

 

 そんなこんなで着陸したビルドダイバーズの面々は機体から降り島の中を歩いた。

 周囲を見渡すとガンダムシリーズをイメージしたモニュメントやコスプレをしたダイバーの姿、そしてNPDべアッガイの群れが練り歩いている姿もあり、その様相はテーマパークのそれだった。

 フェスというだけあってにぎやかなもので、いつの間にかリクたちはアトラクションに興じ始めていた。

 

 それをただ、ゴーシュは遠巻きに見ていた。

 こうしていると殊更に思うのだ。彼らは心底楽しんでいる傍ら、自分は「今から逃げる」ためにここでガンプラの世界に身を投じているということを。

 ゴーシュは撮影コーナーでべアッガイの被り物をしている彼らを横目に、買ったソフトクリームを舐めた。今こうして一人でぼんやりとしている自分の姿は、ここでアトラクションに興じている彼らにはどう見えるのだろう?

 つまらなそうに見えるのだろうか、それとも自分たちと何も変わらないように見えるのか。

 

 

「貴方は行かないの?」

 

 様子のおかしいことに気が付いたのか、同じく付き合い悪く一人になってビルドダイバーズの面々を遠巻きに見ていたアヤメが問いかけるとゴーシュは苦笑いで答えた。

 

「いや、リアルのことで少しばかり考え事をしていてな……」

 

 リアルのことを訊くのはネットゲームでは推奨されていない。そういったマナーが暗黙の了解として存在している。そのためアヤメはそれ以上追及することはなかった。

 

「そう……」

 

「まぁ、それに俺は外様なんでな、もとよりあいつらと日程がそうそう合うもんでもない。実質いないのと一緒だ」

 

「外様……ね。私も似たようなものね、ここにいるべきじゃないもの」

 

 アヤメも思う事があるのか、外様という言葉に含みのあるような言葉で反芻する。ゴーシュは少しばかり要領を得なかった。一体どんな負い目があるというのだろうか。

 

「なんだい? 二人して老け込んでいるのかい?」

 

 そんな中、またまた馴染めない男が1人。最近ビルドダイバーズ入りしたばかりだというKO-1……コーイチもまた遠巻きでアトラクションに興じる若者たちを遠巻きに見ていた。そんな彼を仲間でも見つけたかのような目でゴーシュは……

 

「ふむ……先人曰く類は友を呼ぶ。やはりボッチ共は引かれ合うものか。ついに3人になってしまった」

「いや、()()()()と一緒にしないでくれるかしら」

 

「え゛っ゛」

 

 ゴーシュの発言にしれっとコーイチを巻き添えにしつつ冷ややかなツッコミを入れるアヤメ。そして巻き添え事故を喰らってポカンと口を開けるコーイチであった。

 だが第三者からすればコーイチもアヤメもゴーシュも差はほとんどないわけで……

 

「「「「溶け込もうとしない人がいる……ッ!」」」」

 

 リクたち4人に目を付けられるのは時間の問題だった。4人とも色とりどりのべアッガイの被り物をしてその目を光らせ、手をわななかせている。いずれも「ベアベア……ベアベア……」と最早ゾンビか屍人か何かだ。

 このまま大人しく抵抗しなければナニカサレルのは明白。

 

「ぅ……」

 

 一歩、後ずさり。流石に溶け込む溶け込まない以前にこのべアッガイの被り物だけは勘弁してほしかった。考えても見ろ、17歳の可愛げのない野郎がそんなファンシーなものを被ればそれはもうギャグだ。

 一生もののトラウマ(大袈裟)を背負う羽目になる。

 

「こっ、断る! 流石にその被り物だけは勘弁してくれッ…………ハッ!? コーイチ氏ッ!?」

 

 気付けば隣のコーイチはとっくにライトグリーンのべアッガイの被り物をしていた。ぼっち一名は既に屈していた。口があんぐりと開いた。即堕ち2コマとはこういうことを言うのかと感心しながら。

 

「二人とも、郷に入れば郷に従えって先人の言葉もあることだし……」

 

 そう、コーイチは表情を引き攣らせた状態で冷酷にもそうのたまった。

 だからって納得しろというのは別の話だ。アヤメもゴーシュもそう思っていた。流石にこの年齢でそれを被るのはきついものがある。その上仮にも両者ともクールキャラ(のつもり)で通そうとしている手前上なおのことだ。

 

 しかしながらそんなぼっち2名の事情なぞ慮ってくれる4人じゃなかった。

 ゴーシュはげっそりするような悪寒にその身を震わせる。

――じょ、冗談じゃ……

 後ずさりしているといつの間にか壁に突き当たり既に退路は断たれていた。眼前には変わらず目を光らせてその両手をわななかせている。

 

――あっ、死んだ。

 

 そう諦めた瞬間、4人の怪人べアッガイがアヤメとゴーシュに飛び掛かった。

 

「「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッ!!!!!!!!!」」

 

 

◆◆◆◆

 

 それからというもの、青いべアッガイの被り物をさせられたゴーシュは死んだ魚のような目で、次のアトラクションへ走るリクたちを追っていた。

 

「遊園地なぞ中学生の学外活動以来だ……」

 

「き、貴重な体験が出来たね」

 

 ゴーシュもコーイチも絶叫マシンを連続5回(べアッガイコースター、ラフレシアバンジーetc)乗せられたものだから完全にダウンしていた。

 VRは落下によるGも巧く再現していて、中学時代の思い出したくもない思い出が見事にリフレインした。

 

「やはり俺は絶叫マシンが駄目らしい……数年したら恐怖の度合いも変わってるだろうと思ったら何ら耐性も出来ちゃいなかった」

 

 一方で紫色のべアッガイの被り物をしたアヤメは涼しい顔をしており、次も余裕そうだ。というか寧ろこの3人の中で一番ノリノリな説もゴーシュの脳内で浮上していた。

 なんやかんやで素直じゃないのだろう、彼女は。

 

「あの――」

 

 弱った身体を引き摺りながら園内を歩いていると、ふと声を掛けられた。知らない女の声だ。

 力なく声のした方を向くと、二つ結びの黒髪と、飴色の髪の少女二人がデジカメ片手に立っていた。

 

「すみません、よかったらフォトってもらえませんか」

 

 

「……」

「あいや……僕は……その……いや……なんていうか……」

 

 ゴーシュは精神が破壊されたような虚ろな目で2人を怯えさせ、コーイチに至っては女性に全く耐性が無いからかキョドっている。この2名のアバターの完成度もそこそこ高く、普通に美少女の部類なのでキョドっても致し方ないが……だからっていくら何でもキョドり過ぎではないか。

 ゴーシュからすれば女アバターは全員ネカマだというスレた心構えをしていたお陰で何も思わなかった。

 アヤメもぶっちゃけ男だと思っている。しかし、対応出来るほどいまは心の余裕が8bitすら残ってもいなかった。今ここに居るのは生ける屍(ゴーシュ)彼女いない歴=年齢(コーイチ)しかおらず、まともなのはアヤメだけであった。

 

「貸して」

 

 デジカメを2人から受け取り、造作も無く写真に2人を納める。

 

「「ありがとうございます!!」」

「いいえ」

 

 撮り終えてデジカメを返していると、アヤメたちが脚を止めていることに気付いたリクらが駆け寄ってきた。

 

「コーイチさん! 次のアトラクションなんだけど」

 

 まだ乗るのかこの若者は。ゴーシュは何の絶望も希望も失ったように何処か宙を見て「大きな星が点いたり消えたりしているな……」と真昼の時間帯でうわ言のように呟き、コーイチは「まだ乗るのかい……?」とリクらの体力にげっそりしていた。

 そんな中で黒髪の方がリクたちをまじまじと見てから思い出したように「あ!」と声を上げた。

 

「キミってもしかしてこの前フォース戦でロンメル隊を撃破したフォースの……!」

 

 ロンメル隊。あの河童を倒す時に指揮っていたフェレットが率いる部隊だ。それを少し前にリクらビルドダイバーズは撃破したのだ。……まぁその時のロンメル隊は厳密にはフルメンバーではなく新人だけで固められた手加減込みの状態だったので、完全に超えたというのには些か語弊はあるのだけれども。

 それでもロンメル隊――第七機甲師団のネームバリューはGBNプレイヤーで知らない者はいない程に有名でかつ実力派の部隊だ。なんであれ新興のフォースが彼らに勝利するのは異例だ。

 

「あの時の中継映像見てたよ!」

「うん! 凄くカッコよかった!」

 

 口々に感想を言う少女二名に対し、リクとユッキーはデレデレしており、モモは「またそれか……」とボヤいていた。もうあの試合からそこそこ日は経っている。それまでに口を開けば第七機甲師団との試合の話や質問ばかりだったのでモモは少しばかりうんざりしていた。

 で……その有名な試合にリアルの事情で欠場していたのがゴーシュである。

 

 

◆◆◆

 

 あのリクたちに話しかけてきた少女たちもまた、フォースを組んでいた。

 名前はアークエンジェルス。構成員は全員女性型ダイバーで、ガンダムSEEDにまつわるモビルスーツを操るのだという。

 

 まだ宇宙世紀の半分も手を出していないゴーシュにはよくわからない話であり、黙って売店で買ったフルーツパフェに載ったキウイを一切れ頬張った。味は見事なまでにキウイそのものの味がした。

 ……このGBNにも味覚というものが存在する。元々ダイエット用の道具としてユーザーの味覚を騙して空腹を紛れさせるものをGBN開発は流用、導入したらしい。飽くまで味覚を騙すだけなので腹は膨れない点は留意しておきたい。

 

 ……で、話を戻すが、アークエンジェルスの黒髪の方はカナリというらしい。で、飴色の方はステアとかなんとか。

 彼女たち曰く、イベントミッションに参加しに来たらしい。イベントミッションでは成功させたフォースには限定アイテムやらパーツやらが貰えるようになっている。

 

 

 今回のイベント内容は「BeargguyQuest」サブタイトルは~失われしBの伝説~だとか。ユッキーには思い当たるものがあるらしく「なんてマイナーなネタを……」とボヤいていた。

 

 これがどんなクエストなのかというと、べアッガイ島という一つの浮遊島にある宝箱を探し出し、お宝を手に入れよう。というもの。

 非戦闘クエストなので戦闘が苦手なダイバーも安心……らしい。景品は特製武者凱(ムシャッガイ)。そんな話を聞きつけたのはアークエンジェルスやビルドダイバーズだけではなかった。

 

◆◆◆

 

『べアッガイクエストにようこそ! それでは簡単にルールを説明させていただきます。このべアッガイランドの色んな所にヒント入り宝箱が隠されています! 宝箱のヒントを頼りにべアッガイ像を探してください! そのべアッガイ像にもう一つのヒントの宝箱が隠されています! 参加者のみなさん! お宝目指して頑張ってくださいね!』

 

 フェス会場空域に浮かぶ無数の島たちの片隅にあるべアッガイランド上、何機ものモビルスーツやモビルアーマーが並んでいた。ここにいるのはいずれもべアッガイクエスト参加者だ。その中に混ざる形でビルドダイバーズの面々も待機している。

 べアッガイ像に付けられたスピーカーから出てくるライト層に向けたような女性ボイスの説明を黙って聴くことに集中していたモモだったが、思わぬ雑音が彼女の耳朶を打った。

 

「よーし、がーんばるぞー」

 

 気だるげでそれでいて聞き覚えのある声が参加者たちの中からした。その声を辿るとそこには羽の生えたモビルスーツ、ウイングガンダムが立っていた。

 

「……まさか、そのウイングガンダムってカタナさん」

 

 ユッキーが訊くとそのウイングガンダムは縦に頷いた。

 

「あぁ。今回貰える景品は分解すれば有用な資材になると踏んで俺も参加した。一応フォースは作ってるしな」

 

 1人だけだけどな、と小さくこぼしたのは聞かなかったことにしておこう。この男もぼっちだってことは黙っておこう。

 しかし武者凱を分解するというあまりにもあんまりな物言いに黙ってはおけない者がいた。

 

「武者凱を分解するとかなんてことしようとしてるんですか!」

 

 責め立てるような口調で食ってかかるモモにカタナは口を尖らせた。

 

「資材を分解して何が悪いんだ」

 

「悪いッ!絶対に悪いッ!ていうか、一体何に使おうっていうんですか⁉︎ あんな可愛い仔をなんで分解なんてしようと思うんですかッ!」

 

「そらァ、新しいモビルスーツの素材だ。武者頑駄無とか」

 

「ひどーい!」

 

 事も無げに切り返すカタナにモモは激怒した。

 この邪智暴虐のダイバーに武者凱を渡すわけにはいかない。あの湖の時のようにボコボコにしてやると決意した。あそこで手に入れたネイビーハロも河童事件の際に釣り餌にしたという話だし、この男は人の心を持っていないに違いない。

 今回の宝探しは小さい頃に埋めたガラクタを探し回る遊びをやった思い出もモモにはあったので今回も一方的に勝利出来ると確信していた。それにこちらには7人(ガンプラを持たないサラ含む)仲間がいるのだ。アヤメのRX-零丸も軽くカタナのウイングガンダムを睨みつけており女性陣を敵に回してしまっていた。

 

「よぉし! こんな奴に武者凱は渡せないわ! 皆、やるよ!」

 

「ちょっ待てや! 1対6機のモビルスーツたァ卑怯過ぎやしないか!」

 

 ダブルオーダイバーエース、

 ジムⅢビームマスター、

 モモカプル、

 コーイチ操るガルバルディタイプのカスタム型『ガルバルディ・リベイク』

 RX-零丸

 ガンダムMk-Ⅱ(フライングアーマー搭乗)

 

 モモが呼びかけた皆の機体は機動力も高そうなものばかりであり、カタナをげんなりさせるには充分過ぎるメンツであった。

 こういった宝探しはマシンの機動力はもちろんのこと索敵性能も重視される。事実として参加者の中には索敵用レドームを搭載したものやスターゲイザーそのものがスタートラインにいる。だが、カタナを叩きのめすことに目を向けているモモは知らない。ライバルには索敵機まで持ち込むガチ勢までいるなんてことを……

 

「こんちわ~」

 

 あの先ほど接触したあのアークエンジェルスの2人組もそこにいた。カナリ操る可変モビルスーツ・ムラサメとステア操る犬型のモビルアーマー形態のガイアガンダム。

 フォースとダイバーの名前に従って使用機体もガンダムSEED DESTINY出典のマシンだ。モモもやたらガンダムに詳しいユッキーからある程度話は聞いているので知っている。

 

「その声、さっきの」

 

 リクの反応にムラサメが「やっほ」と手を振り、ガイアは頭を軽く振っている。

 

「負けないからね」

「わたし達、前もやったからヒントの位置覚えてるし!」

 

 カナリの一言は別に良いとしてステアの一言にはモモからしたら引っ掛かるものがあった。前もやった……つまり強くてニューゲームという奴じゃないか。答えも知っているということじゃないか。その事実はモモを焦らせるには充分だった。

 戦いは数だよとユッキーは時々言うけれども、絶対嘘だ。

 

 たかだかその辺の素人数人弱ごときでは武勇に優れ、戦い方を知っている呂布には勝てんのだ。

 モモの全身に汗が噴き出す。まさかのポッと出のコンビに自分たちも、ド畜生(カタナ)も負けるのか。いやいやいやそんな馬鹿な。

 勝てるんじゃないかという自信が急速に萎えていくモモには、一方でリクが「俺たちだってやりますからね!」とアークエンジェルス相手に闘志を燃やしてくれていることだけが少しばかりの慰めだった。

 




ゴーシュ「ガンプラを作る時はな、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」

 おふざけはさて置いて、既に20話作成済みなので少々お待ちを

 次回Build Dives ASTRAY 
 STAGE20 夜の始まり


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STAGE20 夜の始まり

 まだリライズの情報が出てないので何とも言えませんが、主人公リクじゃなさそうな気がするのです……
 下手したら別世界線の話か、BFTみたいにそこそこ未来の話もありそうな予感


「それではぁ! べアッガイクエストォ! レディぃぃぃぃ……ゴォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 これまでの女性的なアナウンスから一転してナイスミドルの低い男性ボイスに変わったアナウンス用べアッガイ像から放たれるや否や、ウイングガンダムは飛翔した。

 

「ターゲット確認。……それにしても」

 

 行く先行く先で出くわすリクたちビルドダイバーズ。彼らは身体は子供頭脳は大人な名探偵か何かなんだろうか。あまりにもあんまりなエンカウント率にカタナは溜息を吐きながらモニターに映るガイアガンダムを見下ろした。

 

――まぁ、こんな所で使わんわな……

 

 マスダイバーが力を発動するのは大体戦闘でだ。

 アークエンジェルスにフォース戦で殴り込んだ方がいいのか。しかし、それは中々リスキーな手段であった。特にカタナは単騎で活動しているので、1対多となれば単純に不利というもの。

 戦いは数だよとガンダムのオタクたちは言うがきっとその通りだ。それにソロ活動しているフォースは何かと浮き易い。下手に荒せば今後の活動に支障が出かねない。ここで襲いかかる手もあろうが、一応この目でちゃんとマスダイバーであることを確認するまでは下手に手を打ちたくはない。

 

「さてと……」

 

 武者凱も開発並びに改造資材として有用なのは事実。今日は偵察という形で済ませよう。そう思った矢先――

 誰かに、見られている気がした。VRをやっていると五感とはまた別のナニカが冴え渡る時がある。勿論リアルでは機能しないのだけれども、こうしたヴァーチャル・リアリティの世界だと何か異物感めいたものが肌を刺す。

 

「……エピオン」

 

 地上に参加者の一機であるガンダムエピオンが森林の中でこちらを見上げていた。手には本来エピオンが装備していないバスターライフルを携行している。

 もちろん、何もしてこないがこちらを凝視しているのがどうにも気持ちが悪かった。距離が離れても違和感のようなものは拭えなかった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 ダブルオーダイバーとRX-零丸。そしてフライングアーマーに搭乗したガンダムMk-Ⅱは空中を飛びながら地上を右左と見下ろしていた。

 このべアッガイランド、思いの外広大かつ山や木々が空からの目を欺いている。これは少しばかりハードになりそうだとゴーシュは唸った。

 

「どうする? 既にユッキーやコーイチ、モモも別行動で地上に降りたようだが、俺たちも地上に降りるか?」

 

「迷っている暇は無いわ、行くわよッ」

 

「――あ、おいッ!」

 

 零丸が速度を上げて先行する。それに置いて行かれたゴーシュとリクの機体は互いに顔を見合わせた。

 

「欲しいんですかね、あのぬいぐるみ」

「……まぁ欲しいんだろうな。あのくノ一」

 

 無愛想ながらも案外可愛いものが好きらしい。実はこのフェスでプチッガイを隠れて抱きしめていたりしているので可愛いもの好きなのには違いない。

 加えて資材にするとのたまったカタナを軽く睨みつけていたので譲れないものがあるのだろう。

 

「……よし、行くか!」

「あっ、待ってくださいゴーシュさん!」

 

 加速するMk-Ⅱとそれを追うダブルオーダイバー。しばらく森林の上を飛行しているとようやく森林を抜け湖畔にまで辿り着いた。湖の中心部には岩を持ち上げているべアッガイの銅像が中心に配置されている。

 まるで先を見越したようなアヤメの動きにゴーシュは口を開いた。

 

「もしかして知っているのか。答えを」

 

「実は2年前にも、同じようなイベントミッションがあったの」

 

「……ソロでフォースを組んでいたのか」

 

「…………行くわよっ」

 

 カタナのようなソロで構築されたフォースも一応存在していることは知っている。まあ、フォース戦で圧倒的に物量面での不利を強いられるので自分からやるような奴はそうそういないが。

 しかし、アヤメは妙に間を置いてから答えになっていない返事で返し、銅像の台に取り付けられた『V』と刻まれたパネルにターゲットロックした。するとパネルからホログラフィック映像が生成された。

 映像には赤いべアッガイが嬉しそうに両手を上げていた。

 

『ボーナスヒントですっ! アニメ機動戦士ガンダム第15話「ククルス・ドアンの島」でガンダムが投げ飛ばしたモビルスーツ、その頭のカタチをした場所にお宝がありますよ!』

 

 ククルス・ドアン。初めて聞く名前にゴーシュは困惑した。

 あれ、もしかして劇場版でオミットされたのか。テレビ版限定のキャラクターなのか。焦るゴーシュ、知ってそうなリクもすぐには答えが出ず「えっと……」と考えている中で即答で答えを出した者が1人――アヤメだった。

 

「ザクⅡよ。作中でアムロ=レイはもう戦いをしなくても良いと、ククルス=ドアンのザクを海に投げ込むの」

 

 そんなエピソードがあったのか。テレビ版も見なければと感心していると既にアヤメの零丸がそのザクの頭がある方へ飛び去っていた。もう既にゴールは目前。

 アヤメの情報アドが既に勝負を決していた。

 

 

◆◆◆

 

 その一方カタナのウイングガンダムは――

 

「お、おのれ……」

 

 よろりと草木をかき分けながら歩を進めていた。宝箱を見つけると、ヒントを教えてくれるのは承知の上でいくつもの宝箱を見つけ、開いてきた。

 しかし開けるとビックリ、実はハズレ! などという凄惨なオチが2連続。3度目の正直かと思ったら出て来たヒント用宝箱の中からやたら難解なクイズを提示されるなど足止めを喰らってきた。

 

 ストライクガンダムの型式番号は序の口、FGに登場するコアファイターの開発企業名を答えろだの、シグー・ディープアームズが採用していないビーム兵器制御方式を答えろだの、ガンプラ女子の心がメッタメタに折れること必至な問題の雨嵐。

 このべアッガイクエストの難易度を考えたヤツは一体誰なんだと呪詛を全身から噴出させながら湖畔に辿り着いた。

 

 そこにはアークエンジェルスの2機が先を越されたダブルオーダイバーたちを追っている姿があった。

 

「――まさか」

 

 既にビルドダイバーズのメンバーに答えを知っている人間が混ざっていたということなのか。でなければヒントの位置を知っているアークエンジェルスの先を越すのは不可解だ。

 機体の速度を上げ、彼女らを追った。

 

 

 

「――ッ」

 

 その先に待つのが、思いもよらぬ修羅場だということも露も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 一言で言い表すなら『一触即発』という言葉が相応しいだろう。

 地面に叩き付けられて倒れたMA形態のガイアガンダムと傍に寄るムラサメの姿がウイングのモニターに映っていた。

 

「いい加減にして!! 非戦闘型のイベントミッションで攻撃なんてマナー違反でしょう?」

 

 アヤメの叱責にカナリが「ごめんなさいっ!」と謝罪し、ステアのガイアを「ステア! あんた何してんの!?」と問い詰めていた。

 大まかな流れとしてはゴールを前にしたリクたちビルドダイバーズをステアのガイアが攻撃。妨害を行ったためにアヤメの零丸が反撃に出た――ということだ。

 

 事実としてこうしたイベントミッションで攻撃による妨害はルール違反ではないので横取りするために妨害行為を行うプレイヤーもそこそこ存在している――が、基本的にはマナー違反であると暗黙の了解が成されており、そうすることで戦闘が苦手なダイバーもある程度平等な条件で立てるようになっている、という訳だ。

 ただ、今回の場合は戦闘が苦手なダイバーが得意なダイバーに攻撃を仕掛けてあっさり返り討ちに遭っているという構図だが。

 

「それでもッ! あたしはフォースの役に立ちたい……ッ! どんなことをしてもッ!」

 

 崩れた姿勢をもとに戻しながら立ち上がるガイア。しかし、そのガイアを中心に空間が僅かに歪み、紫色の靄を関節部分から僅かに噴き出させていた。

 

――コイツ! 起動する気かッ!

 

 ウイングのスラスターを全開にして両サイドの間に割って入り即座にバスターライフルの銃口を向け引き金を引く――しかし全てがもう遅かった。

 放たれた荷電粒子は並のモビルスーツなら消し飛ぶものだ。今回は巻き添えも考慮して低出力モードだが、それでも直撃を貰えば無事では済まないシロモノだ。

 ガイアは直撃を貰い、咄嗟に防御に入ったムラサメが爆風に流される。

 

「ウイングガンダム――何なのこの人ッ!?」

 

 突然現れてバスターライフルを撃つなんてまともな人間のやることじゃない。そう言いたげにカナリは毒づきながら咄嗟にステアのいた位置を機体の姿勢制御をしながら確認した。立ち上る爆煙で姿が見えない。機体が無事かどうかすらも分からない。

 ウイングはバスターライフルの銃口は降ろさず構えたままだ。

 リクが問いかける。

 

「どうして……撃ったんですか」

 

「こいつはマスダイバーだ」

 

「えっ」

 

 爆煙が――晴れる。

 そこにはMS形態のガイアガンダムがビームサーベルを構えて立っていた。しかもおまけに機体から禍々しいオーラを放っていた。

 本来ならばHGガイアガンダムは差し替え変形だ。となれば単純に完全変形が出来るように改造するか、『変形』スキルをスロットにセットさせておかなければならない。これまでのステアのガイアの行動から見るにそう言ったものもなく最初からずっとMA形態で変形が出来ない状態だったと思われる。

 となれば、チートで強制的に後付けをしたということなのか。

 

「なん……で……どうしてお姉さんがマスダイバーにッ」

 

 ショックを受けているリクを他所に、ガイアガンダムがスラスターで一気にウイングの真正面にまで詰め寄った。スピードも尋常では無いほどにある。

 振るわれたビームサーベルを後退することで回避し、再びバスターライフルの発砲準備に入った。

 

「ステア! あんたどうしてッ!」

 

「足手纏いになりたくないの……! あたし……弱いからフォースの皆に迷惑ばかりかけて……この前もあたしのせいでフォースランク落としちゃって……! このままじゃいつか皆に見放されちゃう……ッ!」

 

 溜め込んだものが爆発したかのようにステアはまくし立てる。過去のことは詳細まで知る訳も無いが相当堪えるような出来事があったようだ。

 けれどもこのままこいつを放置しておくのは危険だ。事実としてこのディメンションに揺らぎが生じていた。あの河童のような歪みをまた生み出してしまう。それにステア自身に降りかかる誹りを思えばなおのこと。

 

「あたしは強くなるッ! ブレイクデカールを使ってでもッ!」

 

「――ターゲット・ロックオン!」

 

 照準が完全に定まって引き金を引こうとした矢先だった。横殴りにダブルオーダイバーがウイングに飛び掛かった。

 

「何ッ!?」

 

 ガツン、と鉄と鉄がぶつかり合う鈍い音が鳴り響く。発砲されたバスターライフルはガイアから派手に逸れ、近辺にあった山を抉り飛ばした。

 

「何故邪魔を!!」

 

 苛立ったカタナは叫んだ。しかしリクは引き下がらない。押し倒されたウイングは即座にダブルオーダイバーを蹴り剥がして、バーニアを駆使してダウン状態から即座に復帰した。

 

「このまま撃っても何も!」

「アレを放置しろって言うのか?」

「言ってませんよ! でも今ここで撃墜したってお姉さんの辛い思いが吹き飛ぶことなんてないッ!!」

「カウンセリングなら後にしてくれッ! 時間が無いッ!」

「後って、いつだって言うんですかッ! 出遭ったばかりの俺たちがこうして話が出来るのは今この瞬間しかないでしょッ! ここで問答無用で倒してしまったらそれっきりでしょう! そんな状態でどうしろって言うんですか!」

 

 お互い引き下がらずダブルオーダイバーエースとウイングが睨み合う。そんな中でゴーシュのMk-Ⅱがステアのガイアの傍に見知らぬモビルスーツがいることに気付いていたのかそちらの方を向いていた。

 そして男の低い声がそのモビルスーツから放たれた。

 

「そうだ。ブレイクデカールはそのためにある。強くなるためにな。初心者を救うためのツールが迫害されるのは間違っているんだよ」

 

――その減らず口を叩くのは誰だッ!!

 

 苛立ちが爆発しそうな所をなんとか抑えながら、カタナは声の主の姿を目にした。

 

「……エピオンだと」

 

 あのイベントミッション開始時にこちらを凝視していたバスターライフルを持ったガンダムエピオンがそこにいた。なるほど、最初からマークされていたということらしい。

 あのエピオンが黒幕からの差し金だとすれば状況は色々と変わって来る。……が、ここでどう収拾を付ければいいのか分からない問題をカタナは目の当たりにしていた。

 しかし――

 Mk-Ⅱがウイングとダブルオーダイバーエースの前に立ち、ビームライフルをそのエピオンに向けた。そしてリクとカタナの機体を横目で一瞥してから言葉を紡いだ。

 

「あの赤いガンダムはエピオンって言うのか。……お前ら二人とも冷静になれ、ここで同士討ちした所で本当にどうしようもあるまい。違うか? カタナもマスダイバーを倒しに来たというのであれば戦うべき相手を間違えている。リクもだ、ここで仮にカタナの羽付きと戦って同士討ちをして勝ったとしてもあのマスダイバーを――ステアを止められるのか」

 

 それはどうしようもなく、正論だった。

 まるでシュウゴに諭されているような気分で居心地が非常に悪く、カタナは大きく溜息を吐いた。

 

「苛立っていた。すまんかった」

 

 とはいえ、反発しようという気にはなれなかった。ここでリクと殴り合えば自分の目的が達せられないのは知っている。で、あれば誰とやり合うべきなのか――カタナはエピオンにその視線の矛先を変えた。

 

「……で、何者だ。エピオンのパイロット」

「何者? 俺は善意の協力者という奴だ。……ステア、あのウイングの乗り手はソードマンだ、ヤツはこのイベントミッションでお前を突然攻撃してきた。つまるところヤツはこのイベントミッションで油断している所を叩き落として楽しんでいるんだよ。だが、ここでヤツを叩きのめせばお前はヒーローだ。お宝も手に入りいいことづくめという奴だ」

 

 まるで悪魔のささやきだ、とゴーシュに頭を冷やされたカタナは思った。

 あのエピオンのパイロットの言う通りそこからの見返り(リターン)も多少はあるだろうが、代償が大きすぎる。ここで暴れれば誰も知りませんでは済まないだろう。下手すればGBNに居られなくなるだろう。

 ネットゲームの悪意というのは自分たちが思っているよりずっと根深いものなのだ。即倒してしまえばステアがマスダイバーであることを知る人間はある程度最小限に納まるはず――。

 

「何をガタガタと。邪魔をするというのなら巻き添えを食うぞ、エピオンのパイロット」

 

 弾数の少ないバスターライフルを構えながら威嚇するものの、エピオンは物怖じしている様子は無かった。加えて既にソードマンであることがバレているというのであれば今機体に付けている擬装ホログラフィックも意味がない。機体の電力消費量も馬鹿にはならないのでコンソールを操作して解除した。

 

 ウイングガンダムの装甲が瞬時に書き換わる。――いや、擬装が解けたというべきだろう。現れたのはガンダムアストレイ・オルタナティブ《メテオジャケット》。

 ウイング型スラスターが装備された追加装甲が特徴的な新装備(ジャケット)だ。

 

「おおう怖い怖い……流石は噂のソードマンだ。この怖いヤツを倒すぞステア」

「……うん!」

 

 ガンダムMk-Ⅱ、ダブルオーダイバーエース、アストレイオルタナティブ《メテオジャケット》が並び立つ。

 対するはガイアガンダム、ガンダムエピオン。2機ともマスダイバー特有の禍々しいオーラを発していた。

 

 

 

 

 

 

 STAGE20 の始まり




 ステア「嫌だぁ……あたし……負けたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 完全に悪い大人にそそのかされる女の子が出来上がってしまった。そしてエピオンにバスターライフルとか言う実にエレガントじゃない所業。
 ちなみにプロット書いている時はリクがシンの立ち位置で、ソードマンがキラ状態の泥沼バトル案も一瞬だけ考えたのですが、そこまで至るにはゴーシュをどうにかしないといけなかったのもありますし、そもそもステア置いてけぼりやんけって思って没りました。
 そもそも元ネタだと互いにシンもキラもまともな面識がある状態じゃない一方で、リクもカタナもそこそこ面識があってどうしても同じ構図にはなり得ないですし……

 結局カタナがやろうとしたことはGBNを救ってもステアを救うことにはならないし、リクがやろうとしたことはGBNを救うにはあまりにも無茶かつ悠長で。
 某機動警察漫画で「みんなでしあわせになろうよ」とどこぞの隊長が怪しい笑みで言っていましたが果たしてみんなでしあわせになるオチがつくのか。ステア視点の話とかソードマンに対する印象とかの話になる予定。


 次回、Build Divers ASTRAY
 STAGE21 その名は『ゼータ』


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STAGE21 その名は『ゼータ』

 21話にゼータを出したかったんだ……


「あぁ……」

 

 少女の喉奥から掠れた声が漏れ出る。

 眼前には圧倒的な暴力が悠然と立っていた。蒼色のフレームを剥き出しにしたガンダムが拳銃型の得物をコックピット目掛けて突きつけている。

 少女を乗せた黒き金属の猟犬……ガイアガンダムMA形態は黒煙を上げミシと音を立てて立ち上がろうとする。しかし蒼いフレームのモビルスーツは無常にも脚で踏み抜いた。

 

「きゃぁっ!」

 

 あまりの衝撃にコックピットは揺れ、機体は勢いよく地面に叩きつけられた。復帰はパワー差が大きすぎて不可能だということはレバーを滅茶苦茶に動かしても機体がびくとも動かないという事実が物語っていた。

 

 どうしてこんなことになったのか。少女――ステアは先に起こった出来事を脳裏でリフレインさせる。

 

 

 

 事の発端はフォース同士による団体戦をいつもの仲間たちと一緒にいざ挑んだことだった。物腰柔らかな少年型ダイバーがたった一人の軍隊(ワンマン・フォース)として挑んできた。

 その時行ったフォース戦のルールは『拠点防衛型で護衛対象の建造物を守り抜くこと』

 蒼いフレームのモビルスーツはその護衛対象を壊す為に現れた。彼から建造物を守ること。それが少女の役割だった。が……

 最早勝負というにはあまりにも一方的な蹂躙であった。

 

 戦闘開始。

 蒼いフレームのモビルスーツは真っ先に前衛部隊に突撃。その俊敏な動きでこちらの迎撃行為を手玉に取った。四方八方のビーム砲を避け、的確に携行したリボルバーを前衛チームに打ち込んでいく。もちろん、黙ってやられるような迎撃部隊ではない。

 連携で徐々に追い詰めているのが手に取るように分かった。連携力はこのアークエンジェルスのウリの一つなのだ。

 

 

 ……ステアは最後方の護衛地点付近で見ていた。

 自分の役割はここを守り切ること。自分の撃墜はチームの敗北と同義。あの蒼いフレームのモビルスーツがいつ来てもいいようにガイアのバックパックに搭載されたビーム砲のトリガーを、ステアはコックピットで強く握りしめていた。

 そして――

 

 

「……ッ!」

 

 前衛が前に出過ぎている。味方機が蒼いフレームのモビルスーツを追うあまり前方に出過ぎていた。それにステアが気付いた時には既に彼のツインアイがこちらを鋭く捉えていた。

 

――こっちを、視ている。

 

 そして皆は蒼いフレームのモビルスーツを落とそうと必死に攻撃をしている。が――その一瞬の隙を縫って最大出力のブーストで護衛対象に向かって飛び出した。

 彼の狙いは防衛を手薄にさせること。それに気づいた仲間たちが追いかけるが、蒼いフレームのモビルスーツの機動力は尋常ではなかった。針に糸を通すように精密で、杭を打つように鋭く力強く迫るそれをステアは気圧された。

 

 慌ててビーム砲と装備していたビームライフルを撃つが、悉く最低限の動きで躱し、距離を詰めていく。そして携行していたリボルバーで立て続けに鉛玉を叩き込まれた。

 ()()()()()ガイアにはヴァリアブルフェイズシフト装甲を搭載しているのである程度の実体弾はシャットアウト可能だ。が、ステアのガイアはその域には達していなかった。フェイズシフト装甲はある一定の完成度か、専用のスキルをセットしなければ機能しない。

 

 つまるところステアのガイアに特殊装甲は存在しないに等しいものだった。

 一発目は装甲に傷が入り、同じ個所に叩き込まれた2発目で凹み、3発目でいいところにダメージが入ったのか、爆発を起こした。

 

「この――ッ」

 

 ガイアにはまだ武器がある。翼のように装備された1対のビームブレイド『グリフォン2』だ。通常なら姿勢制御スラスターが付いた実体剣だが、必要であればその刀身にビームを纏わせることができるものだ。崩れた姿勢で無理矢理スラスターを吹かせることで蒼いフレームのモビルスーツに接近。

 このまますれ違いざまに装甲を断つんだ。そう、ステアは勝利を確信した。

 

 これで――アークエンジェルスのランクが落ちるのを防げる。

 

 

 

 蒼いモビルスーツとの戦い以前に何度も何度も自分のフォースは負けを重ねてきた。

 最初こそ自分が単純に失敗しただけだ、今日は運が悪かっただけだとステアは思っていたが、次第に根本的に自分がいるせいでこんな苦汁を飲まされているのではないかと思うようになってきた。

 事実、戦力制のバトルでも自分ばかりが狙われている。最初こそ半信半疑だったけれども時間が経ち、経験を積めば積むほどそれが現実だということを突きつけられていく。

 

 あのガイアを狙えばアークエンジェルスには必ず勝てる、と。 いつしかフォース戦をやるたびにこんな言葉を聞くようになった。そしてその言葉はその通りだった。……ステア自身ガンプラ造りはあまり得意ではなかったという自覚はあった。

 自分の所為でフォースが負けている。自分が足を引っ張っている。自分の所為でアークエンジェルスは負けている。そんな思いが日に日に増していく。

 そしてある日、名前を知らないダイバーにこんな言葉を投げつけられた。

 『素組みなんておたく、ガンプラに向いてないよ。そんなんでガンプラに触らないで貰いたいね。ガンプラ女子とか囃し立てられて良い気になんなよな』

 嘲笑と侮蔑が綯い交ぜになった言葉。明らかに悪意しかないその言葉を笑い飛ばせるほどステアは強くなかった。

 

 わたしはここにいちゃいけないんだろうか。

 思うように戦えず打ちのめされながらステアは思う。アークエンジェルスの皆と一緒にいることは楽しい。リアルのことなんて忘れていつまでもそんな日々が続くと良いな、なんて。

 でも現実というのは残酷で、ステアの想いは虚しく仲間たちの脚を引っ張り続けていた。

 

 どうにか腕前を上げようと色んな方法や手段を試してみても、巧く行かない。

 そして追い打ちをかけるように後から入ってきた人に次々と追い越されて行く。あのビルドダイバーズだってそうだ。

 同じようにステアを軽々と追い越していく。

 

 

 でもようやくこの戦いで悪循環から出られる。あいつを倒してわたしは大丈夫だってことを皆に伝えるんだ。もうスランプなんかじゃない、わたしは強くなったんだって。

 そしてビームブレイドの刀身が当たる寸前――

 

「――えっ」

 

 蒼いモビルスーツは緑のツインアイを鋭く光らせたかと思うとその姿を一瞬にしてかき消した。

 

――消えたッ!?

 

 慌ててモニターを見回すと、2時の方向に蒼いモビルスーツが悠然と立っていた。

 そうだ、消えたんじゃない――スライドしたんだ。

 肩部のスラスターが無理矢理蒼いモビルスーツを横に滑るように移動させ、グリフォンの刃渡りから外れたのだ。そして通り過ぎるガイアの背後に回った蒼いモビルスーツはそのまま、コックピットにアーマーシュナイダーを投げつけた。

 

 スラスターに直撃を貰ったガイアは噴射口が爆発を起こしてバランスを失い、地面を転がるように倒れ込んだ。そして即座に起き上がろうとまだ生きているスラスターを吹かせようとした矢先、機体を踏みつけられた。

 見上げると蒼いモビルスーツがリボルバーをコックピットに突きつけていた。

 

「ぁ……」

 

 全く無駄のない動きになすすべもなかった。赤子の手をひねるようで最早試合にすらもなっていない。

 結局反撃の手立ても全て奪われた所で両手がまるで自分のものじゃないかのようにぶらりと重力に従った。

 

 

 

 

 

 駄目な奴はどう頑張っても駄目だ。と、他人を見下したがる人はよく言うけれどもそいつの言うことは本当は正しかったんじゃないか、なんてふと思う。

 だってわたし自身がそうなんだから。ビルドダイバーズの彼らのようには出来やしない。

 アークエンジェルスのフォースランクが落ちたという自動送信の通知を見てステアは壁にもたれて崩れ落ちた。

 

 きっとこのままでは見捨てられるのも時間の問題だ。

 ここまでの連敗はほとんど自分が不甲斐ないばかりに起きたのだから。皆そんな奴がいるチームが好きなはずがない。

 RPGだって使えない味方は使える味方を入れ替えるのがセオリーなのだから。

 

「随分とやられたねェ」

 

 ふと、掛けられたまるで冷やかすような声。苛立ってステアは顔を上げ、うるさい一人にしてくれ。と、キッと睨みつけた。

 ……すると声の主である男はおどけて両手を上げた。

 

「おぉう、怖い怖い」

 

「誰?」

 

 悪びれず男はこちらに歩み寄る。黒髪をオールバックにし、スーツの上にベストを羽織ったマジシャン風の男は妖しい笑みを浮かべながら答えた。

 

「ファンの一人だよ」

 

 シルクハット片手に一礼をした所でステアは困惑しながら「あ、ありがとう……」と一応礼を言った。煽っておいていけしゃあしゃあとファンを名乗るのは大概だが、今のステアにはそこまで気が回らなかった。

 

「ここ最近調子が悪そうじゃないか」

 

 否定はできなかった。けれども実力不足とは言わない辺りそこまで非情ではないのだろう。僅かに安心感のようなものが芽生えた。

 

「にしても巧く行かないモンだねぇ……君が頑張っているのは分かるんだが」

 

「え……?」

 

「必死にやっているのは見ていて分かるんだよ。しっかし世の中不公平だよねェ……強くなりたい、って君のように頑張っている人が巧くいかないのにテキトーにやっているヤツが巧く行くってんだから」

 

「何が……言いたいの」

 

 また煽るのか。先ほどの安心感は何だったのか、転じて少し険の混じった声が喉奥から出る。

 

「このままじゃぁ、君はアークエンジェルスから見捨てられるだろうなってことさ」

 

「…………ッ」

 

 心の中を見透かしたような物言いだった。けれども、第三者から見てもそうだというのならカナリや他の皆もきっとそう思っているに違いない。なにせ一番被害を受けているのは他でも無いアークエンジェルスの仲間たちなのだ。

 

「認めたくはないが世の中結果が全てだ。そして今君がどう抗おうとも結果は変わらない。チームが頭打ちならその対策を考えるだろう? 俺もあまり言いたくはないが君を排除しようと考えるのは自然なことさ」

 

 じゃぁどうすればいいって言うんだ。

 噛み締める奥歯が、握りしめられた拳が痛い。

 

「このままじゃ、ね? だが俺はそれを望まない。君もそれを望まない――そうだろう?」

 

 男は懐からナニカを取り出す。掌に乗っているものは黒く、小さなサイコロのような物体だった。何処か場違いさすら覚える異様さを放つソレにステアは首を傾げた。

 

「これは?」

 

「君を救う『力』だ。具体的に言えばブレイクデカールと言えば分かるかな?」

 

「……ッ」

 

 ステアは息を呑んだ。ブレイクデカールの存在はステアも知っている。

 事実上のチートツールだ。運営が何故か対応しない正体不明のものが今、眼前にある。まるで何もかもを呑み込むような黒に一瞬魅入られるが我に返った。

 果たしてこんなものを手にしていいのか。差し出された物体を前にステアは動きを止めた。

 逡巡を読み取ったか男は口を開いた。

 

「何、気にすることはない。コイツは運営連中には捉えられない。使っても罪にはなりやしないんだ――使ったもん勝ち、という奴さ。……それに君がここで躊躇えばアークエンジェルスは更に敗退し君の居場所はどんどんなくなって行く。最終的にはどうなるか……言うまでもないだろう?」

 

 アークエンジェルスのお荷物として排斥されて消える。受け取らなければ遅かれ早かれそうなるのは目に見えている。

 ステアに与えられた選択肢はブレイクデカールを受け取る。それだけが残されていた。

 

 

――それがたとえ間違いだと分かっていたとしても……わたしは皆の所にいたかったんだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 アストレイ。

 それは、王道から外れた者を意味するモビルスーツ。その系譜として造り出されたのがオルタナティブである。

 

 アストレイは軽量化のため発泡金属を用いて製造されている。そのため機動力は随一だが、一撃でも貰えば致命傷になりかねないというデメリットを抱えていた。

 それゆえ、本機の防御力を上げるには出力の高いバーニアを仕込んだ追加装甲が適当だとカタナは判断した。

 

 それがジャケットシステムだ。

 GAT-X105ストライクのハードポイントシステムによる多種多様な状況に対応出来るシステムを、追加装甲という形で再現した。

 

 安定性に優れたジンバージャケット。水中戦に優れたスケイルジャケットを経て、今度はメテオジャケットだ。

 

 流星を意味するその追加装甲はオルタナティブの背に機械仕掛けの翼を与え、両肩部にイーゲルシュテルンより大きな口径のドラム式バルカン《マシンキャノン》が取り付けられている。

 そしてライトアームにはバスターライフルを、レフトアームにはシールドを携行していた。

 

 

 

 

 

 

 

 現在メテオジャケットが装備している主武装のバスターライフルの残弾は現状1.6発。

 最大出力が1発。低出力が2発という計算だ。

 

 これだけでエピオンを撃退しつつガイアを撃墜するには、まず足りない。

 となればシールドに仕込んだ千子村正と背負ったソードメイスが必要になるのは目に見えている。

 その上邪魔なエピオンを蹴散らさないとおそらくステアのガイアを落とすことは困難だろう。エピオンはビームソードを抜き放ち、緑色の光の刃を形成する。掠りでもすれば瞬く間に装甲が焼き切られるであろうと思うと、カタナは緊張感で身震いした。

 

「マスダイバーが2機……来るぞッ!」

 

 ゴーシュの声でハッとカタナは我に返った。エピオンのビームソードは通常と比較にならないほどに刀身が伸び、撃距離はそのままで縦に振り下ろされた。

 即座に横に跳び退くようにカタナ、ゴーシュ、アヤメ、リクは散開した。

 

 飛び退き、機体が地面に横たわる前にオルタナティブのスラスターが火を噴く。そして地面すれすれを飛行し、エピオンの周囲を廻るように機体を走らせた。

 

「常時バルジ斬り……! ふざけた真似をッ」

 

 なんて迷惑な。振り下ろされた刃はべアッガイランドの地表を抉り、このまま暴れればビームソード一本で島が壊滅しかねないそれを、カタナは睨んだ。

 更にレフトアームに携えたバスターライフルをオルタナティブに向けて、臨海寸前のエネルギーが銃口から漏れ出る。

 

「来る……ッ」

 

 予測通り黄金の光の奔流が地を抉りながらこちらに迫って来た。当たれば死。

 掠ってもビームマグナムを掠めたギラ・ズールのように爆発する可能性は大なので死。

 

 装甲が脆いアストレイなら猶更だ。

 少しオーバー気味にかわしながら、バックパックのウイングスラスターの出力を全開にした。いくらロングレンジだろうが、距離を詰めてしまえば一緒だ。

 加えてゼロ距離でバスターライフルを直撃させられればいくら、チートで法外な強化をしようがコックピットを消し飛ばすことが出来る。

 

 

 ブレイクデカール使用者には弱点が幾つかある。

 その一つが――『乗り手が無敵になるわけではない』ということだ。一発でもコックピットを貫けばパイロット不在で機体は強制退場だ。

 もしくはソードメイスなりで外部からの衝撃を叩き込んでパイロットをスタンさせるという選択肢もある。

 いわゆる「機体はそのまま、パイロットには死んで貰う」理論だ。

 

 セオリーとしてはエピオンを先に叩き落とすのがセオリーというものだ。しかし、カタナの瞳には何故かステアのガイアが映っていた。

 このまま騒ぎを起こし続けていれば無関係な参加者が出てくるのは時間の問題だ。そうなれば面倒なことになる。

 

 エピオンに向かって機体を飛ばし、寸前の所でエピオンの真横をすり抜けた。

 

「何ッ」

「お前は後で遊んでやるッ!」

 

 そして一直線にエピオンの後ろにいるガイアに向かって翔ける。

 メテオジャケットの直進速度はこれまでのジャケットの中では最も速い。フレームが悲鳴を上げるか上げないかギリギリの所で加速を続け、ついにガイアの目と鼻の先にまで詰め寄った。

 

 そしてバスターライフルの銃口をコックピットに向け、無造作にトリガーを引いた。

 

「きゃぁっ――」

 

 ガイアの黒い装甲が荷電粒子の奔流に呑み込まれる。

 これで墜ちたはずだ。確かな手ごたえを感じたカタナは荷電粒子の奔流が消えるのを待つ。――が。

 

「墜ちて……いない……ッ」

 

 あの一撃を貰っておきながらガイアは平然と立っていた。装甲はほのかに赤熱していたが徐々に元の黒に戻って行く。対ビーム装甲をアビリティとして引き出したのだろう。

 返す刀で無事だったガイアはビームサーベルを縦に振るった。

 

 両断された爆発するバスターライフルを破棄しながら、イーゲルシュテルンとマシンキャノンの弾丸を同時にまき散らしながら後退した。

 そしてバックパックに背負ったソードメイスを抜刀し、再び距離を詰める。

 

 バルカンの雨を受けていたガイアがサーベルで迎え打つより先に横薙ぎに振るった。

 強烈な金属が衝突し合う音と共に機体が吹っ飛んでいく。そしてオルタナティブは機体をややかがめてから地面を押し蹴った。

 ガイアが着地するより先にソードメイスで殴り、吹っ飛ばし、再びソードメイスで殴る。

 

 立て続けに直撃を貰ったガイアの装甲は目に見えるくらいに装甲を凹ませていた。

 

「速い……ッ!」

 

 反撃の間も与えないオルタナティブの機動力に唖然とするステアに対し、カタナはいたって冷静だった。ここでガイアを黙らせればいい。彼女がチーターの誹りを受けるのを防げれば後はどうにでもなるというもの。

 

「事情は知らんが――ここでッ!」

 

 ソードメイスの切っ先が鈍く輝く。ステアの表情が恐怖に染まっているのが手を取るように分かった。

 今、俺は突然現れて襲い掛かる外道をやっている。側から見ればそれは正義の味方のやることじゃないのは分かっている。正義の味方が女の子を恐怖と絶望で染める真似はすまい。

 

 限界まで引いた刀身、あとはそのまま押し貫くのみだ。オルタナティブがガイアに最後の一撃を浴びせる前にアラートが鳴り響いた。

 

「――ッ!」

 

 3時の方向から熱源反応。即座に姿勢を無理やり正してガイアを蹴り飛ばした。そして3時の方向にメインカメラを映すとそこには――あの散々邪魔をしてきた黒い鳥の形をしたモビルアーマーが小型のビーム砲を発しながら接近を掛けて来ていた。

 

――こういう時に現れやがンのやめろや!

 

 マスダイバーの影あらば現れるそれを歯噛みしながらソードメイスを盾にしてビームも突進も防ぐ。しかしその隙にガイアはオルタナティブから逃げるように、リクのダブルオーダイバーに向かって転進をしていた。

 あの黒い鳥はおそらくマスダイバーの護衛をしているのだろう。そして例外として無銘を援護するような動きから察するにある程度の点と点が線でつながった気がした。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「ったくあのソードマンの援護をするってのか? Mk-Ⅱのガキ!」

 

「貴様が俺の敵だから俺は貴様の邪魔をしている!」

 

 エピオンが素通りしたオルタナティブを追おうスラスターを噴射しようとした所でフライングアーマーから飛び降りたMk-Ⅱがエピオンに跳びまわし蹴りを叩き込んだ。

 大きく怯んだ相手の傷口に塩を塗るようにもう一発、スラスターの勢いを乗せた蹴りを放ち、完全に復帰を封じてからビームライフルを撃つ。

 

 が――マスダイバーでもあるエピオンの装甲には決定打にはならなかった。

 装甲が少しだけ焼け付いただけだ。機体を寝かせたままスラスターを吹かせ、上半身を起こしバスターライフルの銃口がMk-Ⅱに向いた。

 

「!?」

 

 対応が速い。荷電粒子の奔流から離れるように退散して、空中で飛び回るフライングアーマーに飛び乗る。するとエピオンはバスターライフルを照射状態のままで薙ぎ払うように銃身を動かした。

 出力がオルタナティブのメテオジャケットとは比にならない。地上から放たれたそれは雲を斬り裂き、空を焼く。

 

「なんだコイツッ!? まるで戦略兵器じゃないか……!」

 

 モビルスーツ1機だけであれほどの威力のものを何発も撃ち続ける。そんなインチキじみた行為にゴーシュは絶句した。しかしあちらの狙いはあのふざけた出力依存な分救われていた。

 あれで熟練した腕前であれば間違いなく速攻で叩き落とされていることだろう。

 

 フライングアーマーに乗って逃げ回りながら、反撃の手立てを考える。

 今持っている兵装はバルカンポッドにビームサーベル、ビームライフル。シールドランチャーだ。これだけでどうにか決めなければならない。

 上空からビームライフルを連続で当てるものの、決定打にはならず最早かわすまでもないと判断したエピオンがひたすら弄ぶそうにバスターライフルを乱射していた。

 

「無駄無駄ァ! そんな豆鉄砲でこのガンダムを落とせる訳がないだろッ!!」

 

 ダブルオーダイバーエースもGNソードⅡでビームを撃つものの、ダメージになっていない。近づこうにもあの滅茶苦茶に撃って来る荷電粒子の奔流を掻い潜るのはあまりにもリスキーだった。

 

「さぁて、次にここでウロチョロ飛び回るカトンボを叩き落としてやろうかねぇ!」

 

 バスターライフルを投げ捨てたエピオンは機体を折り畳ませ、戦闘機の姿へと変えた。

――コイツも変形マシンか!

 バード形態になったエピオンは殺人的な加速でMk-Ⅱの目の前を横切った。

 

 衝撃波がMk-Ⅱを襲い、土台になっていたフライングアーマーが派手に揺れる。危うく転落しかけるもどうにか姿勢制御で持ち直していると、エピオンが再びUターンしてこちらに迫っていた。

 

「直撃コース……ならッ!」

 

 相対速度も相まってあと数秒で体当たりを叩き込まれるだろう。ゴーシュは操縦桿を強く握りしめた。

 落ち着け、ここで焦ればコースを読まれて直撃。悠長にしても直撃だ。

 

 タイミングは一瞬――

 

「見えたッ!」

 

 寸前の所で機体を跳躍させた。飛び上ったMk-Ⅱとフライングアーマーの間にバード形態のエピオンが割り込む。この瞬間あの機体は隙だらけだ。

 エピオンの装甲を掴み、乗り移った所でビームライフルをゼロ距離で連射を掛ける。

 

「ゼロ距離なら――墜ちろぉッ!!」

 

 既に逃げ場は奪った。装甲を掴まれている影響で変形もままならない。後は墜ちるまでビームを浴びせるだけだ。ライフルの弾が切れたら次はビームサーベルだ。

 ビームライフルを投げ捨て、サーベルを何度も何度も突き立てる。

 

「潰れろ……ッ!」

 

「潰せるのかよ……このエピオンをッ!」

 

 ここまで連続で叩き込まれれば、装甲も音をあげるのは明白だった。一心不乱にダメージを与えた箇所が小爆発を起こし、それに乗じて機体を乱暴に動かされて振り落とされたMk-Ⅱは即座にフライングアーマーに着地した。確かな手ごたえ。黒煙を吐きながらゆらゆらと飛行するエピオンにゴーシュは勝利を確信した。

 

「やったか……!」

 

「やったか? なァにを勘違いしているんだ」

 

 その時、ゴーシュは自分の目を疑った。

 何故ならば人型に戻ったエピオンの装甲が目に見える勢いで再生していっている。まるで細胞分裂のように残った装甲が増殖再生していっている。

 

「なんだ……これは」

 

 機械というより最早生物だ。テレビ番組でよくある細胞の動きを早送りで再生しているイメージそのもののような光景が今この瞬間目の前で繰り広げられていた。

 

「アルティメット細胞。コイツは再生速度は尋常じゃなくてねェ。お前がいくら攻撃しようが無ぅ駄だ無駄!」

 

「アルティメット細胞!? それってNPD専用のスキルじゃ!?」

 

 リクが「ありえない」と言いたげに声を上げる。

 確かにゲームではNPC限定の強力なスキルが存在するというのはよくあることだ。それをプレイヤーの知恵と勇気で乗り切るのが本来のありかた。が――今あのマスダイバーは知恵もありながらNPCと同じスペックも持っているという始末だ。

 

「ブレイクデカールならそれが出来る! 出来るんだよッ!」

 

「ただのチートじゃないか!」

 

 両肩部にマウントされたGNダイバーソードを抜刀して斬りかかるダブルオーダイバーエース。しかしエピオンはレフトアームのシールドに装備された鞭ヒートロッドを振るった。真っ直ぐに伸びるそれをかわすことなどリクには造作もないことだった。

 しかし――それが真っ直ぐではなく枝のように分れるなら別の話だが。

 

「ヒートロッドが!?」

 

 伸びたヒートロッドはまるで木の枝や血管のように幾重にも分かれた。初撃こそ回避したが枝分かれしたそれを避けるにはあまりにもイレギュラーが過ぎた。

 

「うわっ!?」

 

 上体を逸らして直撃は免れた。

 一撃を掠めたダブルオーダイバーエースは大きくよろめき、それをMk-Ⅱは受け止めた。

 

「大丈夫かッ」

「ゴーシュさん!?」

「あのエピオンとかいモビルスーツは俺がなんとかする。それより先にあのステアって娘を止めるんだ!」

「でも!」

「無理なら無理で時間稼ぎにはなってやる。だから――」

 

 先へ行け。

 今のゴーシュのMk-Ⅱでは無理なのは承知。けれども誰かがやらなければ事態は動かないのだ。ステアを止めに向かうダブルオーダイバーエースを横目にMk-Ⅱはビームサーベルを構えた。

 

「おうおう、無謀なことするなァ」

 

 エピオンは嘲笑うようにバード形態に変形し再び突進をかける。

 またカウンターを掛けるか――いや、もう同じ手は通用しないだろう。エピオンのマニューバは打って変わってジャンプを恐れた動きになっていた。

 GBNの腕前はいまいちでもゲームセンスはあるようだ。

 

 ガンダムエピオンのバード形態の先端はモビルスーツの脚部だ。脚なんて飾りだとどこぞの技師は言うがあんなの嘘っぱちだ。脚部はモビルスーツの生命線の一つ。ゆえに頑丈に出来ているのもあって威力も充分。

 殺人的なスピードで叩き込まれる飛び蹴りに等しいをそれを、シールド防御で防いだら一撃でそのシールドが砕け散り、機体がフライングアーマーの上から放り出された。

 

「くっ土台がっ!?」

 

 気付けば真下には地面が無く、蒼い海が広がっていた。

 べアッガイランドからいつの間にか外れていたらしい。これでは着地もできなければ自由な行動もできない。移動用のモードに切り替えればなんとか陸上に戻れるだろうが、それでは途中でエピオンに撃墜されるのがオチだ。

 

 四方八方から体当たりを受け、Mk-Ⅱの装甲が悲鳴を上げる。終いには一番損傷が激しかったレフトアームが外れて宙を舞い、海の藻屑と化した。

 コックピット内は各部の異常を報せるアラートが絶え間なく鳴り続いていた。もうMk-Ⅱは限界か。ゴーシュはコンソールを操作し、あるものに賭けた。

 

「――大見得切っておいて情けない!」

 

 自嘲を込めてゴーシュは吐き捨てる。一頻りMk-Ⅱを痛めつけたエピオンがモビルスーツ形態に戻り、何も持っていないライトアームを構えた。その手は緑色に光って唸りを上げている。

 

――こいつ! 何を!

 

 手だけが発光する現象にゴーシュは嫌な予感を覚えた。

 

「終わりだ、シャイニング・フィンガァ!」

 

 光り輝く右手。触れればただでは済まないことは何となく察しがついた。コックピット目掛けて突き出されるそれをゴーシュは即座にバーニアをカットして自由落下に入った。コックピットをぶち抜かれるよりメインカメラを潰された方が100倍マシだ。

 

「ほーん、自由落下で機体の高度を落としてコックピットの直撃を防いだか。が、もうゲームオーバーだな」

 

「……くっ」

 

 シャイニングフィンガーと言う名のレフトアームはMk-Ⅱのコックピットを貫く代わりに頭部を掴んでいた。コックピットのメインカメラはその影響で殆どが見えない。そして間もなくして「ぐしゃり」と金属が潰れ、爆ぜる音が聴こえた。

 

「じゃあな。雑魚」

 

 ゴーシュは舌打ちしながら男の嘲笑を受けながら機体の状況を確認する。

 頭部(メインカメラ)、レフトアーム、ロスト。Mk-Ⅱは今、ラストシューティング直前のRX-78みたいな状態で頭部から黒煙を上げて墜落している。

 まだスラスターは死んでいないが上昇した所で勝負にならない。メインカメラが死んでいるので回避運動も満足に取れないまま今度こそ叩き落とされる。俺は何処ぞの天パなんかとは違うんだ。

 俺の負けだ。あのグシオンの時のように俺はなすすべもなく敗れたのだ。俺のいるべき場所はここじゃないと世界に拒絶されているような気分だった。

 そうだ。ここにいたってあの女から逃げ出すことは出来ないんだ。こうしてこの世界にいてもあの女を思い出すんでは結局意味がない。俺は結局あの女の手の届かない、「ここじゃないどこか」を探していた。でも今のGBNはまだ「ここじゃないどこか」じゃない。拒絶されているような錯覚はきっとそのためだ。

 

――だが、このまま大人しくやられてやるのもきっと違うだろう。

 

 ゴーシュは海面に向かって落ちていくMk-Ⅱのスラスターを使い落下速度を落としながらコックピットから這うように出ると、太陽が半分水平線上から隠れているのが見えた。

 彼方の水平線上にぽつりと一つの影がゴーシュの瞳に映る。

 

「……来たか」

 

 撃墜される前、コンソールを弄っていたのはあれを呼び出すためだ。

 距離が縮むとそれが白の戦闘機であるのがはっきりと分かった。白い戦闘機はゴーシュのすぐそばに現れる。未完成とはいえ一応動く程度の調整はしたつもりだ。Mk-Ⅱの時より巧く戦える自信はある。

 ゴーシュは白い戦闘機に手を伸ばした。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 Mk-Ⅱを撃墜したエピオンは次の獲物を見定めていた。

 あの零丸は依頼主の指示の通りにソードマンの妨害を行っている。であれば次に仕留めるべきはあのダブルオーダイバーエースとやらだろう。

 

 ガイアと鍔迫り合いをしながら何やら問答している。

 今の内にビームソードで両断してしまえば後はソードマンを仕留めるだけ。勝利が見えた瞬間ほど快感なものはない。男はニタリと笑うとビームソードのエネルギーを放出する。

 

「そぉら、墜ちろ蒼いの!」

 

 再び巨大化したサーベルを乱雑に振り下ろそうとした矢先だった。

 エピオンの背後が爆ぜた。

 

「何ッ!?」

 

 ビーム放出を取りやめて背後を向くとそこには白い戦闘機が上部に装備しているメガ粒子砲を連射していた。立て続けに同じ個所ばかりを狙って来るその正確さと執拗さに男は苛立った。

 

「この白いのは一体!?」

 

 ビームソードを振るうものの寸前の所で避けられる。先ほど撃墜したMk-Ⅱとはまるで鋭さの違うマニューバだった。斬撃を避けた所で白い戦闘機が変形し、ヒトガタへと変える。

 

「ガンダム……だとッ」

 

 純白の装甲に走る紫色のライン。緑色のツインアイに4本のブレードアンテナ。エピオンと同じ変形マシンでガンダムだとでもいうのか。男は息を呑み眼前の新ガンダムを観察していると、変形した白いガンダムは装備していたメガ粒子砲――否、ビームライフルを手に取り銃口からサーベルを形成した。

 

【行くぞ……ゼータ!】

 

 コックピット越しから奔った声は聞き覚えのあるものだ。――さきほどMk-Ⅱに乗って叩き落とされたあのガキの声。まさか機体をもう一つ持っていたというのか。

 驚愕のあまり動きを止めた男の隙をゼータという名のモビルスーツは逃さなかった。両手で構えたビームライフルの先端から発振されるビーム刃をエピオンの胸部装甲目掛けて振り下ろした。

 

「墜ちろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 

 

 

 STAGE21 そのは『ゼータ』




 元々ゴーシュの後継機はZプラスにしようと思ってたんですが、それをやるとどこかで出番とかで泣く羽目になる予感がして没に。
 だからって通常のゼータだとあまり面白くないので案としてはボンボン版種運命とか書いていた高山氏のガンダムALIVEのゼータか、ホワイトゼータか悩んだとかなんとか(所要時間3日)
 ただ、ALIVEのゼータは刀を持っていてアストレイオルタナティブとの差別化出来ないしそもそも分かってくれる人いるのかって問題で結局ホワイトゼータに。いや、あのALIVEゼータ好きなんですけどねぇ……




 ゴーシュ搭乗機の白いゼータについて解説しようと思います。

 出典は『ガンダム新体験 ‐0087‐ グリーンダイバーズ』(2001年8月10日)
 ゴーシュが乗っているのはそこで登場したZガンダム3号機がモデルとなっております。
 
 グリーンダイバーズというのはプラネタリウム形式の映像作品で、タイトルの通り宇宙世紀0087年が舞台になっている作品で、作品の性質上円盤での視聴が不可能なものとなっております。
 しかしWikipedia先生によると2013年を最後に上映されていないとか……いやむしろ12年もよく保ったね(白眼)

 搭乗者はCV古谷徹のカラバのパイロット。天パのAさん本人か影武者かは不明。
 最近ならGジェネとかで時々駆り出されたりする。そういう時は大体露骨に天パのAさんが乗っていたりするのでそういうことなんだろう。多分、おそらく、きっと。


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STAGE22 ブレイク・ザ・ワールド

「墜ちろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 斜めに振り下ろされたロングビームサーベルは綺麗にヒットした。肩から斬り込まれたそれは完全に斬り抜けるより先に斜めに傾けたVの字になるように反転させた。

 可能な限りダメージ範囲を増やすためだ。

 

 

 斬った装甲は抉れ赤熱している。

 エピオンは即座に巨大ビームソードを振るうが読んでいたゴーシュはゼータを背後に回り込ませ、背中目掛けて押し蹴った。前のめりによろけると錆びたブリキ人形のように振り向き後ろのゼータを睨みつけた。

 

「……やってくれたなぁ?」

 

――浅かったか。

 

 踏み込みが足りずゴーシュは舌打ちするも、ゼータが期待以上の動きをしてくれたことで多少は溜飲が下がる思いだった。

 そもそもMk-Ⅱは初心者の時に作ったために、後付けの技術ではリカバリ不能だった部品などから出た反省点をダイレクトにフィードバックさせたのがこのゼータだ。このままなら押し勝てる確信があった。

 

 確かに機体の数値的なスペックは完全には覆ってはいない。しかしMk-Ⅱの時より少なくとも差は縮まっている。

 どんなに凄いマシンだろうが結局は使う者の『知恵と勇気』なのだから。

 

 

◆◆◆

 

 ガイアはその覚束ない操縦で、オルタナティブとダブルオーダイバーエースの2機を互角に相手取っていた。

 何せ、2機の連携は巧くはない。元々チームでもなんでもないし、助けるという最終目的は同じなのに手段がまるで違う両者の相性がいいはずが無かった。

 言うなれば「空腹を満たす」という目的に対し、惣菜コーナーで全部買い揃えてそのまま食べるのと、材料だけ買って家で料理してそれを食べる者の差だ。過程はまるで違う。

 

 片やステアを救うために問答無用で戦う力を奪う者、片やステアを救うために説得する者。

 

 挙句黒い鳥がステアを守るように立ち回るお陰で最早泥試合の様相を呈している。

 

――ならばッ

 

 こんなこともあろうかと……カタナは一つ対策を講じていた。

 リアルのGPDで使用したジャンクストライカーのドラグーンの技術をフィードバックさせて完成させた成果を今見せる時が来た。

 黒い鳥の攻撃を得物で軽く受け流している隙にカタナはコンソールを叩く。

 

「メテオジャケット・排除(パージ)、自律型AIモードアクティブ――フォーメーション……B.I.R.D.」

 

 コードを実行すると、オルタナティブの装甲に装着されたメテオジャケットの各部が浮き上がり、廃熱による白い煙が溢れ出る。

 そして――ジャケットがバラバラに弾けた――と思いきや、ジャケットを失ったオルタナティブのすぐ目の前にパージされたパーツが集合しそれはやがてバックパックは翼となり、シールドは嘴となる。

 

 そこに――機械仕掛けの鳥が誕生した。

 

「メテオジャケット・バード――行けェッ!!」

 

 カタナの声に応え、メテオジャケットは黒い鳥目掛けて飛翔した。原理はジャスティスガンダムのファトゥムと同じだ。機体下部にマシンキャノンが顔を出し、弾丸をまき散らしながら突貫する。新たな敵に困惑してか、黒い鳥の動きが一瞬鈍るものの、それは一瞬だけの出来事だった。次の瞬間にはもう空戦(ドッグファイト)を始めていた。

 さぞ黒い鳥の乗り手は苦虫を100匹ほど噛み潰していることだろう。これまでの妨害で蓄積された恨みと溜飲が下がる思いだった。

 

「さァ、仕切り直しだ」

 

 ソードメイスを構えて再びガイアに飛び掛かる。メテオジャケット抜きでもまだ戦える。再び2対1の展開に持ち込むが、リクがガイアを止めようと必死だったお陰でうまく介入が出来ない。

 一撃を入れても、当たりは浅く決定打にはならなかった。

 

 おそらくリクを排除した方が早く事が済む――

 

――俺は一体何を考えているッ

 

 一瞬良からぬ発想がカタナの脳裏をよぎった。だが、このまま泥仕合を繰り広げるよりはまとめて倒した方が早いのは事実だ。互いにやろうとしていることが正反対な現状、互いの行動が打ち消し合っている。

 そんな中でカナリが叫んだ。

 

「ステア!! どうしてこんなことをッ! ここで皆を倒したって何もッ!」

 

 何もならない。戦闘ミッションでもないし仮にこの初級者向けのエリアでダイバーを倒しても雀の涙程度のデスペナルティを与えるだけ。カタナやビルドダイバーズにとっては痛手でもなんでもない。

 ただの徒労だというのに。チートを使われたという誹りを受けるだけなのに。ステアは首を横に振った。

 

「……足手纏いになんてなりたくない……あたし、フォースの皆に迷惑ばかりかけて、この前もたった一人のフォースにあたしが弱っちいせいで負けて……あたしのせいでフォースランク落として……このままじゃ皆から見放されちゃう! だからあたしは勝たなくちゃいけない! 皆倒してしまえるくらいに! だから見てて欲しいの! あたしはこんなにも――強くなったことを!」

 

「でも、これは……! 違う!」

 

 リクは乱雑に振るわれるビームサーベルを注視しながらレバーを動かす。今は集中しているからいいが、一瞬でも途切れればそのままダブルオーダイバーエースごと真っ二つだ。

 サーベルを紙一重で躱していると、横殴りにオルタナティブがソードメイスで一閃。ガイアを殴り飛ばす。

 

 頭部に装備された2門の20㎜CIWSが火を噴く。それをオルタナティブがソードメイスの刀身で防御していると、ダブルオーダイバーエースが得物をマウントしガイアの背後を回り込み羽交い絞めにする。

 

「貴女だって分かっているはずだ! こんなことをしても誰も喜びやしない!!」

 

 チーターという後ろ指を指されるだけだ。それもフォースを巻き添えにしてしまうリスクもあることはリクもカタナも知っている。

 マスダイバーは運営に野放しにされた厄介なチーターだ。それゆえにユーザーからのヘイト値も依然として高まっている。

 

「こんな力を使えば絶対に後悔する! それを――!」

 

「出来る子に――説教なんてッ!」

 

 ステアの悲鳴じみた返しに応えるようにガイアの装甲から湧き出る紫色のオーラの力が文字通り()()した。

 余波を受けたダブルオーダイバーエースは派手に地面に叩き付けられ、オルタナティブもまたソードメイスを盾にしながらバーニアを吹かし、衝撃波を相殺して今居る位置を維持させた。

 

――力が強まっている

 

 それは素人目で見ても明らかだった。これまで戦って来た相手とはくらべものにならないパワーだ。使い手の腕前が辛うじてパワーバランスを保っているようなもので、乗り手がステアじゃなくてあの無銘だったら間違いなく敗北している。

 嫌な予感が肌という肌を突き刺す。気持ちの悪い汗が背中を伝い、操縦桿を握る手元はびっしょりだ。

 大体悪い予感に限って的中するもので、空を見上げれば暗雲が吸い込まれるような蒼い空をも呑み込み、凪いだ風が牙を剥く。気温も24度だったものが18度と30度を行ったり来たりを始め、計器が狂い始める。

 そんなおかしな状況に気が付いた他のダイバーたちがこの場に近づいて来ていた。

 

「オイオイ、何が起こっちゃってんの!? 乱闘が起こってる挙句バグか? 冗談じゃねえぞ」

 

 ふらふらと戦闘区域にべアッガイクエストの参加者ダイバーが操るモビルスーツたちが入って来る。

 流石に長引き過ぎた。このままでは大混乱は免れない。

 ままならなさにカタナは舌打ちしながら迷い込んだ搭乗者に叩き付けるようにオープン回線で声をマイクに叩き込んだ。

 

「おい止せ! こっちに来んな!」

「あ? どういうことだ、ってテメェまさか人斬り(ソードマン)! なんでこんなとこに⁉︎」

「巻き添えを食うぞッ!」

 

 言った矢先に何もない草原から竜巻が巻き起こる。それが一つや二つなどではない。手で指折り数えるのもバカバカしくなるくらいの竜巻たちがベアッガイランドの木々をなぎ倒し、湖の水を巻き上げている。

 そして虚空には亀裂を生み、モザイクと0と1と数字列が散らばり――まるで世界の終わりでも見ているようだった。

 

「り、離脱出来ない⁉︎ 呑まれるッ、ウワーッ!」

 

 竜巻に呑まれたダイバーたちの断末魔にカタナが「クソッ、言わんこっちゃないッ!」と毒づきながら竜巻の進路から退避した。

 ステアのアレは単純なチートではない、この力は意図的に世界を壊しに掛っている。それはステアの意志というより、システムの意志だ。顔の知れぬ無銘のニヤケ顔が脳裏をよぎってカタナは舌打ちした。

――ふざけやがって……!

 

 苛立っているとカタナが舌打ちしているところで受信通知がモニターに表示された。

 

「なんですかカドマツさん! 今それどころじゃ……!」

 

 カドマツからの通信に半ギレ気味に応えると彼の慌てたような早口が叩き込まれた。

 

「坊主、今どうなっている? このエリア全域に異常が発生している。アトラクションの異常な挙動、オブジェクトの崩壊、エネミーデータの氾濫。これまでのマスダイバーが起こした異常を遥かに上回っているぞこいつぁ! それだけじゃない、隣接しているエリアも微弱ながらバグが発生していやがる! どんどん悪化しているぞ!」

 

「そこまでか……!」

 

 カドマツが提示したエリアの状況は、暴走したジェットコースターで目を回したダイバーたちや、暴れ狂うNPDリーオーに怯えるダイバーたちの姿。

異常としか言えないこの光景にカタナは言葉を失った。今起きているのは夢や幻、まやかしでもなく現実、目に見える勢いで崩壊が始まっているのだ。

 

「今緊急メンテという名目で無関係なダイバーを全員強制ログアウトさせこのエリアをなんとか隔離させる!」

 

「すんません……じゃあ後はマスダイバーを排除するだけってことか……!」

 

 これで懸念要因はいくつか減ったことでカタナは胸を撫で下ろす反面、焦りが増した。マスダイバーの力が増しているということは事態の深刻化を意味しているのだから穏やかではいられないのは当然というものだ。

 そんな中で地面を抉りながら移動する竜巻はオーラの爆発でスタン状態で身動きが取れないダブルオーダイバーエースにゆっくりと向かっていた。このままでは直撃コースだ。その上機体はダウンしていると来た。復帰してからの離脱を待っていては間に合わない。

 しかしそんな状況下でリクは慌てた素振りよりも先に憤りを露わにした。

 

「どうして……仲間を信じられないんですか……説教も何も、仲間を裏切っているのはお姉さんの方だ! GBNを始めたのはただ勝つ為なんですか!?」

「それは――」

「違うでしょう!? 仲間と一緒にこの世界を、ガンプラを楽しみたいからこの世界に来たんでしょう!? それを今壊そうとしているんだ! お姉さんが欲しかったのは、本当にそんな力なんですか!」

「でも――それでも――勝たなきゃ」

 

 違う。ステアも既に気付いている。

 しかしもう引っ込みが付かないほどに事態は悪化していた。他のダイバーを巻き込みバグそのものがゲーム全体を呑み込み始めている。ここまで状況を悪くしておいて手ぶらで終わらせるのは釣り合いが取れないと言うものだ。

 

――クソッタレ

 

 そう、カタナの胸の内が叫んでいた。

 このままでは竜巻にリクもやられる。オルタナティブは咄嗟にダブルオーダイバーエースを掴み、竜巻の進路から外れた所を狙って投げ飛ばした。

 機体重量は長物を4本持っているだけあってアストレイが片腕であの機体を投げ飛ばすにはかなり負担がかかりレフトアームの関節がミシミシと悲鳴を上げた。

 

――パワードレッドじゃないんだぞこの機体は!

 

 パワーシリンダーでも仕込んでおけば軽々と投げ飛ばせただろうに。心の中で毒づきながら、地面を転がるダブルオーダイバーエースを一瞥してから、ガイアに向き直る。ここで決着を付ける。

 オルタナティブは打突を放つ構えを取ってからブーストさせた。

 得物を持ったライトアームはまだ余裕で動く。問題のレフトアームも少し反応が悪くなっただけでまだ動く。

 なら、たかがレフトアームの神経の一本や二本くれてやる。

 

「駄目だカタナさん!」

 

 背後で制止の声がするも、オルタナティブは止まらなかった。操るカタナもまた、止める気は無かった。ガイアはビームサーベルとグリフォンを展開し、迎え撃つが初手放たれたビームサーベルを持った腕をソードメイスで斬り上げるように跳ね飛ばし、擦れ違いざまに背中のグリフォンの実体剣部分を根元から叩き折る。

 一連の攻撃が嘘のように通ったことでこれまでの乱暴な動きが嘘のように、動揺めいたものがカタナに伝わった。

 

「いや……ッ」

 

 動きが鈍った。

 殴り飛ばされたガイアはまるで糸の切れた人形のように真上に吹っ飛ぶ。このまま堕ちていく所で追撃を叩き込めば撃墜出来るだろう。しかし、先ほどの動揺がカタナを躊躇わせる。

――躊躇うな!

 自分に言い聞かせるようにそのままソードメイスを振り下ろした。

 

「何ッ」

 

 が、その振り下ろされた鈍色の太刀はガイアの装甲に届くことはなかった。太刀筋がガイアの装甲表面ギリギリと通り抜け、そのまま地上に落下していくのをただただ見ているしか出来なかった。吹っ飛んだガイアが――地表に落ちていく。

 機体が地面に激突するより先に――何かが駆けつけ、受け止めた。

 

「え……」

 

 カナリのムラサメだった。

 

「ステアのバカ」

 

 開口一番に叱責。いや、叱責というのにはあまりにも悲しみと自責が勝っていた。「ぇ」とステアの戸惑いの入り混じったか細い声が、オルタナティブのコックピットのスピーカーから聴こえてくる。

 喉から絞り出すようにカナリは続けた。

 

「――見捨てる訳ないじゃんか……バカ。信じろよ……今までずっと一緒にやってきた仲間……仲間じゃんか。そしてこれからも――ずっと」

 

 絶対に見放すものか。と言外に込められた思いは、ステアの胸に届いたのだろうか。

 ステアの嗚咽と共に放たれた「ごめん……なさい」という言葉を耳にしたカタナはオルタナティブのソードメイスの切っ先を地に下げた。

 

 果たしてここでとどめを刺さなかったのは吉と出たのか、それとも。

 しかし抵抗を止めたステアはこのまま力をディアクティブにするのは明白だった。もう勝負はついたのだ。

 心の何処かでしこりを残したまま、曇天を見上げるとメテオジャケットが親機であるオルタナティブのもとへと向かっていた。黒い鳥は――墜ちた形跡はない。逃げたらしい。

 

 不完全燃焼感こそあれど、訳の分からない人斬りに一方的にボコられて終わるよりはずっとマシだろう結末を前にカタナは虚脱感めいたものを一瞬覚えたが、その次の瞬間には虚脱感は消え失せていた。

――俺は何か忘れている。

 そうだ、あのエピオンが残っている。さっきまでゴーシュが交戦していたような――

 

「あれ……?」

 

 カタナがエピオンの位置を確認するために機体を索敵モードに切り替えていると違和感を訴える声がした。

 

「どうしたのステア」

「ブレイクデカールが止められない……どうして」

 

 呼吸が、止まった。

 止められない。そのたった6文字の言葉がカタナに絶望の海に沈めた。

 

 

 

 ガイアが――推進剤無しにふわりと浮き上がる。

 そして関節の限界を無視して四方八方に動き、金属が破壊されるような音がべアッガイランドに響き渡る。

 子供が無理矢理ガンプラを弄ったような光景が眼前で繰り広げられていた。

 

「機体から降りなさい!」

 

 静観していた零丸のアヤメが焦燥を浮かべた声色でまくし立てる。想定外の事態にパニックになったステアに、アヤメの声は聞こえない。

 

「ムラサメのパイロット! ガイアのコックピットからパイロットを引き摺り出しなさい! 早く!」

 

 血でも一緒に吐いてしまうんじゃないかと思う程の声に気圧されながらカナリはムラサメを上昇させてガイアのコックピットハッチを引きちぎり、ステアをアームに乗せた。

 しかしパイロットを失ってなおも不気味に動き続けるガイアに、カタナは息を呑む。

 

 いつ破裂するかわからないような張り詰めた空気にトドメを刺さんがばかりの哄笑が降って来た。

 

「フフフフフフフヒヒヒヒヒヒ……アハハハハハハハハ……! おそい、のろい、とろい、悠長なんだよォ!! バグはこのゲームの侵食を開始した、もー手遅れだ。さぁてここで出ますは最終兵器デs――ゴフォ!?」

 

 哄笑を台無しにするような最後に吐き出された蛙が潰れたような声と一緒に赤い塊が空から落ちた。

 上空で交戦していたホワイトゼータがエピオンを、アームから射出されたグレネードランチャーの爆風で叩き落としたのだ。

 

「ゼェェタァァ……! 人が喋っている所を――」

「悪いな。が、大体は理解した。あの抜け殻(ガイア)を破壊すればいいんだろう?」

 

 全く悪びれないその声はゴーシュのものだった。戦闘中にゼータに乗り換えたらしい。……無茶苦茶だ。

 ドン引きするカタナを他所にゼータは空から降下しながらビームライフルの雨を降らせる――ただ一点、エピオンのコックピットだけを狙って。その狙いは見ていたカタナもリクもアヤメも目を丸くさせるほどの精度を誇っていた。

 

「ばッ、バカな! なんでそう狙いが!?」

「この機体はシャフリヤール氏の監修と友人のアドバイスをもとに創り出された俺のゼータだ。その辺に転がっているチーターなぞに後れを取る訳にはいかないんだよ!」

「何なんだお前は――お前は一体何なんだッ!」

「その辺の一般ダイバーだッ! いくら強靭な装甲だろうと他に比べて脆い箇所があり同一の箇所を撃ち貫かれればただでは済むまい。ここで堕ちろ!」

 

 ゼロコンマの世界で狂いの無い射撃を再生能力が発動するより先に何発も命中し、胸部装甲が黒く焦げ付いて行く。法外に強化された装甲と再生能力を上回る命中精度が装甲を抉り焼き尽くす。

 このまま貫かれるのを恐れ、慌てて照準の外に逃げ出したエピオンは無人のガイアを盾にするように回り込んだ。

 

 

――これがあのゴーシュの機体なのか。

 まるで見違えるような機体性能にカタナもリクも目を疑った。造りが違うとここまで差が出てしまうものなのか。ゴーシュ自身元々ゲームセンスはあったが、ガンプラのセンスは当初皆無に等しかった。それなのに今は目に見える勢いで上達をしてマスダイバーと互角以上に張り合っている。

 

 オルタナティブ、零丸、ダブルオーダイバーエース、ムラサメ、そしてゼータが並び立ち、眼前のガイア()()()()()を見上げた。

 ごきり、と音がした。徐々に本来の17.80mの装甲が肥大化し、3倍近く大きくなったと思いきや内側から突き破るようにナニカが出た――

 身近に例えるなら虫の羽化だ。

 

 そして羽化して出て来たもの――それは

 

「GFAS-X1……デストロイ」

 

 アヤメの口から零れ出るようにでた型式番号とコードネーム。

 『破壊』の名を冠する3倍近くの大きさを誇る人型モビルアーマーがカタナたちを見下ろしていた。

 

 

 

 STAGE22 ブレイク・ザ・ワールド




 このホワイトゼータ、どうも精密射撃に特化した調整を加えておりEWのヒイロめいた射撃を連続で叩き込める能力を持っているとかナントカ。でもヒイロの場合機体がフレームごと破損してるし、妨害アリかつ反動の大きい一発を撃ってるのでやっぱあいつ人間じゃねえ(白目)
 エピオンシステムも作動してないので、そら一方的に撃たれる訳です。ゴーシュの狙撃は靴底に張り付いたガムみたいにしつこい(偽シャフリ談)ですから。

 さてさて次回は多分書いていた時にかまいたちの夜2をやっているとしか思えないメタメタ気持ち悪い登場の仕方をしてしまったデストロイ戦。
 それが終われば事後処理とカナタサイドのリアルを書いて行こうと思います。最近アヤさん成分足りてないし……(迫真)


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STAGE23 Limit Over

 デストロイ&エピオン回


 ガイアがデストロイに変態してからというもの、エピオンの乗り手は勝利を確信したか通常モードのビームソードの切っ先をオルタナティブらに向けてゲラゲラ笑い始めた。

 

「アヒャヒャヒャヒャヒャァッハァ! 踏み潰してやるよォ、このデストロイでなァ!」

 

 デストロイのサイズは馬鹿でかいバックパック抜きで計算すると身長38.07m。平均19mのモビルスーツの倍はある。……アニメの作画だとそれ以上あるような気はしないでもないがそんなことはどうだっていい。今現実にいるのは倍近くいるバケモノなのだ。もう腹は括っている。

 デストロイはその両アームを持ち上げ指先を、見上げるモビルスーツたちに向ける。その指先は砲口となっており、次に何をしてくるか分からない5人ではなかった。

 

 デストロイの情報を事前に知っていたカタナやアヤメ、カナリ、リクは言わずもがな、ゴーシュもまた察知していた。

 【5連装スプリットビームガン】 両手で10門も存在するそれは、まさしくビームのカーテンのように空を光に染める。

 

 ビームとビームの隙間をかいくぐるように散開したオルタナティブは、真っ先にデストロイを睨んだ。

 あの機体の破壊力はよく知っている。しかしこのまま悠長に攻略していれば本当にベアッガイランドはおろかこのエリアが完全に崩壊してしまうだろう。

 事実バグの侵食は更に勢いを増し、空間が歪みべアッガイランドの半分はデータの藻屑と消えている。最早予断を許さない状況だ。

 

「無事か坊主!」

 

 カドマツからプライベート通信が入った。やはりこの異変を察知したのだろう。焦りが手に取るように分かる。その事実がまた、現状の緊急事態の現実味を強くする。

 

「えぇなんとか!」

 

「このエリアが本格的に崩壊を始めている。最悪このエリアの消滅だけで抑えるが……もう時間がないぞ。無理そうなら全員を強制ログアウトさせる!」

 

 そうすればバグの影響にやられてしまうことなく1エリアの消滅だけで済むというものだ。しかし――ステアの叫びを聞いてしまった。知ってしまった。

 ここで逃げればおそらく彼女はもう後戻りはできなくなる。あの様子では開き直るなんて器用な真似はきっとできやしない。

 

「崩壊までどれくらい!」

 

「11分だ! それまでにあのデカブツの破壊をして止めるしかない。10分でお前たちを強制的にログアウトをかける! ……運営は隔離に人員を割きお前たちに対処をさせる……そう判断した」

 

 つまるところ、丸投げだ。カドマツの苦々し気な声色に同調するようにカタナは舌打ちした。

 彼らにも当然人員も限られている。加えてGBNの運営自体人手不足が酷いとBBSなどでも噂されている。規模と人員の比率が合っていない――と。

 

「ふざけやがってクソッタレェッ……!」

 

 無茶な注文だが、そうでもしなければ大惨事だ。通信を切るや否やカタナは悪態をついた。

 それに相手も無敵という訳ではない。デストロイの圧倒的火力は目を見張るものがあるが、接近戦に極めて弱い。事実、原典における敵対機のデスティニーをはじめとする高機動型モビルスーツに接近戦に持ち込まれなすすべもなく無力化されていることからそれは明白だ。

 しかし––

 

「オイオイ、俺を忘れてんのか? 人斬りィ」

「お前はもう邪魔をするなッ!」

 

 エピオンが割り込みオルタナティブのいく先を阻んだ。そう、敵は一人じゃない。だとしてもそれでもカタナは止まらない。どっちにしろ叩く対象であるのには違いないし、順番が多少変わろうが今はもう何の問題も無かった。ステアはこの場にもういない。残るのは元凶とこの世界を乱す物の怪だけだ。

 ソードメイスによる一閃をビームソードで受け鍔迫り合いを繰り広げ押し合うが、パワーはエピオンの方が上なのは当然だ。まともに押し合わず、敢えて力を抜いて受け流す。

 

「何故だ! この俺が人斬りに弄ばれている⁉︎ 俺はあらゆるゲームをやって来たんだぞ! MMOもFPSもッ!」

「お前の事情なんて知るかッ!!」

 

 勢い余って、エピオンが目の前を素通りしている隙にオルタナティブはソードメイスを振り上げ、そのまま出力全開で振り下ろした。

 

「馬鹿な……」

 

 地上にまたまた叩き落とされ、地面に磔にされたエピオンの男は空に浮かぶオルタナティブを呆然と見ていた。

 衝撃で内装がスタンを起こしたのか、起き上がるその姿は硬く、覚束なかった。正攻法での復帰は不可能と悟ったエピオンは無理矢理スラスターを全開にし離脱を始めるや否や別方向から緑色の閃光がいくつかエピオン目掛けて飛来した。

 

ジェット機もどき(ムラサメ)が! 邪魔をするな!」

 

 ギロリとエピオンのツインアイが閃光の出元を捉え睨みつける。そこにはムラサメがビームライフルの銃口をエピオンに向けていた。

 

「あんたは許さない……ステアを……ステアのガイアをこんな風にして……絶対に許さない!」

 

 カナリの怒気の篭った声がステアを収納したムラサメのスピーカーから発せられ、同時にビームが何発も放出される。

 外れたビームはエピオンのそばの地面に刺さり、命中したビームは着実に装甲を焦がした。

 

「こんの小娘が!」

 

 逆上したエピオンがビームソードの発振装置の先端を向ける。

 このエピオンのビームソードの射程はまるで何処かの伝説巨人だ。このまま発生されればカナリのムラサメが消し炭にされる未来が見えたカタナは咄嗟に間に割り込み、ソードメイスを盾にした。

 

「何だとォ!?」

 

 伸びていくビームソードに押されるオルタナティブだが、このままではエリア外に押しやられるのは時間の問題だ。が、無策で飛び込むほどカタナも愚かではない。ソードメイスの刀身を僅かに傾けて無理やり先端からすり抜け、ビームソードの刀身のすぐ横に位置取った。

 結果的にビームの伸びる先からムラサメは退避し、そのまま上空に逃げた。

 あとはビームを受け止めているオルタナティブだけだ。

 

「ケハハハッ! このエピオンのソードに無骨なナマクラで止められるかよ!」

 

「やるかよッ!!」

 

 横薙ぎに押してくるそれをソードメイスで受けるにしても限界があった。

 前提条件として出力だけならマスダイバーの方が圧倒的に高い。

 

 挙句左側にビームソードが迫っているお陰で損傷したレフトアームがソードメイスを持ったままさらに悲鳴を上げて紫電を散らす。

 機体の位置がジリジリと地面を抉るように動いていく。

 

 限界だ。しかしこちらの手数を奴は見誤っている。こちらには――メテオジャケット・バードがいるのだ。

 

 

 横殴りにバードジャケットがマシンキャノンをまき散らし、エピオンの装甲に弾が弾ける。火花が派手に散り、咄嗟に防御姿勢に移ろうと機体の動きが揺らいだ瞬間をカタナは見逃さなかった。そう、あのエピオンは致命的なミスをした。マシンキャノンに耐えうる耐久力を持ちながらそちらを過剰に警戒した結果、本来続けなければならないオルタナティブへの圧殺が疎かになり、据えるべき腰と上半身を揺らがせた。故に生まれる一瞬の弱み。

 

「ここだ――ッ」

 

 ビームソードの刀身の上でソードメイスを滑らせながらオルタナティブはフルブーストで跳ねるビームの飛沫を浴びながら距離を詰める。

 ここでビームソードを切り再発振して迎撃するのがベターな選択だが、相手はそれをしなかった。

 

 ビームソードならびにビームサーベルというものはその刀身を任意で発生させることが出来るのが強みだ。必要あれば鍔迫り合いの途中でOFFにして相手の不意をつくという芸当が出来る。0083のアナベル・ガトー操る試作2号機が旧ソロモンのコンペイトウ宙域で試作1号機相手にやったことが分かりやすい例だろう。

 それをやらずにデタラメな出力をいたずらに振り回しているだけならば、攻撃を読むことなど容易いというものだ。

 他にも付け入る弱点がある。エピオンシステム――事実上の未来予測システムを使えていないということだ。

 

 

 エピオンシステム並びにゼロシステムはリアルタイムで変遷する戦況から最良の戦術を弾きだす。そのために送られてくる大量のデータを捌かなくてはならない。

 流石に原典のように発狂したり、制御不能レベルの情報量でないにせよある程度『慣れ』が必要になってくる。その上提示される予測も全て正しいとは限らないので、取捨選択が必要になる。よって扱いきれるダイバーはある程度限られる……ということだ。

 使いやすいようにリミットをかけることは出来るが、それではウナギのたれのないウナギのようなものだ。ウナギの脂だけでは物足りない。

 

 オルタナティブはライトアームで、サイドアーマーに帯刀した千子村正を閃かせた。

 斬。

 逆手持ちで真上に振るわれた一撃はエピオンのレフトアームを軽々と分断した。ヒートロッドの付いたそのアームが本体から離れ、ずしりと音を立てて地面を転がる。

 これだけで満足していれば、いずれ吹っ飛ばしたそのレフトアームもUG細胞で復活するのは目に見えている。で、あれば連続で叩き込むだけだ。100回殴って復活するなら101回殴ればいいだけのこと。10秒で回復するなら9.99秒までに破壊すればいい。

 

「ふざけやがって……最後に()()となるのは――この俺だァ!」

「上等ッ!」

 

 斬り飛ばすや否やオルタナティブは跳躍した。機体と機体の頭頂部が向かい合い、そしてエピオンの背後に着地した。振り向きざまにビームソードを振るって迎撃しようにももう遅い。

 ライトアームの肘から先を千子村正で斬りおとし、両腕を失った所でソードメイスを連続で叩き込む。

 再生前に何度も何度も攻撃を叩き込み、装甲が再生するより先に金属疲労を起こし、凹みと傷が増えていく。そして原型をとどめなくなったエピオンが膝をついた。

 

「ここで寝てろォ!」

 

 そして千子村正を地面に突き刺し、両腕で持ったソードメイスをそのまま縦に振り下ろした。

 

「ばっ……馬鹿な……デタラメに……強え……」

 

 流石にエピオンの強靭な装甲とUG細胞の再生力を持ってしても、ここまでやられれば再生以前の問題だった。完膚無きにまで破壊され、物言わぬ鉄屑と化したそれはポリゴン片となってそのまま消滅した。

 

――次は!

 

 エピオンの乗り手がこの世界の崩壊の原因ではないのは一目瞭然だった。

 倒したという感慨を抱くより先に破壊行動を続けるデストロイにターゲットを変え、千子村正を納刀しメテオジャケットを再びオルタナティブと合体させた。

 

 

 デストロイの両腕が切り離され、それぞれが意志を持っているかのように飛び回り始めている。さながらロケットパンチだ。……【シュトゥルムファウスト】。嵐の拳骨の名を冠するそのロケットパンチは5本の巨大な指先からビームを薙ぐように放つ。

 零丸は茫然と射程外から静観しており、一方でゼータとダブルオーダイバーエースは徹底抗戦の構えで飛び交うビームを避け続けていた。

 

「上着付きのアストレイ!? カタナさん!?」

 

 戦域に入って来たことに気付いたリクがその名を呼ぶ。

 だが会話している間にも四方八方から高出力のビームが飛んでくる。一撃でも貰えば即死確定だ。

 ソードメイスの刀身でなんとかしのぎつつ、一度飛び回る巨腕が正面に来るように位置取った。

 残り時間は5分。あのエピオンを倒すのに思いの外時間を食ってしまった。猶予はあまり残されていない。

 

「どうする。こいつにはビームが通用しない。グレネードもどうも効かない。……サイコガンダムよりタチが悪いぞ」

 

 証拠にとゼータがビームライフルを試しに撃つと、命中するより先に飛来してきた腕に阻まれて四散する。……あれは陽電子リフレクターだ。リクはデストロイの特性を既に知っているのかいたって冷静だった。

 

「近距離兵装で討つしかないです。例えばGNソードとかエクスカリバーとか。それでならバリアごと――」

 

「……知らない武器だ。ゼータには積んでいない。……お呼びじゃないということか」

 

 フェイズシフト装甲や、ナノラミネートアーマーなどこの世界には幾つもの防御アビリティが存在する。それらは特定の武器からダメージを減衰させたりはたまた完全シャットアウトさせてしまう。今回デストロイが持っているのはトランスフェイズシフト装甲と陽電子リフレクター。

 このGBNにおいて前者は実体武器全般を減衰、またはダメージゼロに抑えてしまう。

 後者はビームによる射撃武器をシャットアウトさせてしまう。

 

 一見すれば無敵に見える本機だが弱点もある。

防御アビリティ効果を無視出来る特殊武器と、高濃縮されたビーム兵器――つまりビームサーベルだ。

 

「ゴーシュ、あの腕を落とせるか」

 

「……随分無茶な注文だな。ビームのバリアを持っているんだぞ。それにこちとらナンタラソードもエクスカリバーとやらも持っちゃいない」

 

「だが――防げない箇所がある。俺たちにも共通して言えることだが機構上どうしても脆くなる箇所がある。お前の狙撃なら確実に出来るハズだ」

 

「……成程。そういうことか」

 

 たったそれだけで把握したのかゴーシュ淡々とデストロイの腕に視線を向けた。そして――

 ゼータが再びオルタナティブを一瞥した。

 

「ん? どうした」

 

「いや、なんでもない」

 

 一瞬の沈黙から暴れ狂うデストロイの腕に向かってゼータを戦闘機形態――ウェイブライダーへと変形させて、ビームライフルを腕目掛けて撃ち、ヘイトを自らに向けさせ始めた。

 そして残されたオルタナティブとダブルオーダイバーエースの2機は向かい合った。

 

「カタナさん。オレ――」

「それ以上言うな。何が正解だったのかとか、ンなもん結果論の後出しじゃんけんだ。――フェアじゃねェし、アレを見せられた以上……な」

 

 結果的にリクがステアの説得に入りその間にデストロイに変態する時間を与えてしまった。とはいえ、このまま問答無用でステアを落とせば、ステアは心を閉ざす。

 大局的に見ればカタナのやったことは正解だろうが、結果アークエンジェルスが泣く羽目になる。

 人間理屈だけで生きられるなら苦労はしないのだ。

 

 「あなたのやっていることは間違いです」「はいそうですね私が間違ってしました」とそう機械的に納得するのなら元から彼女がマスダイバーになんてなりはしない。

 更なる歪んだ力を渇望し、結果的に元の木阿弥になれば徒労に終わるのだ。何もかもが。

 

「もう時間が無い。お前のGNソードでならトランスフェイズシフト装甲を貫通出来る。俺の千子村正も同様に。そして強力な衝撃にも弱い――まだ勝機は残っている」

 

「やりましょう、カタナさん。オレたちでこのバグを――」

 

「ブッ壊すのか」

 

 ダブルオーダイバーエースは両肩部のGNダイバーソードを抜刀し、オルタナティブは下段の構えでソードメイスを持った。

 すると、こちらの敵意を察知したかデストロイは胸部の大口径ビーム砲から光を放った。1580mm複列位相エネルギー砲【スーパースキュラ】

 あれの直撃を受ければ最後。コックピット周りは跡形もなく消し飛ぶこと間違い無しだ。しかも胸部に3門もあるので左右の回避は厳禁、上昇して回避するや否やデストロイの『口』にあたる部分から高エネルギー反応。200mmエネルギー砲【ツォーンmk2】の発射準備に入っている。

 大盤振る舞いもいいところだ。デタラメな出力で撃たれたそれはオルタナティブに向けられていた。こちらもスーパースキュラほどでないにせよ、下手なモビルスーツは消し飛ぶシロモノだ。かわしきれない。機体を左右上下に移動しても致命傷は免れない。ゆえに……カタナは()()()()()()

 

「カタナさんっ!」

 

 当然、直撃。ビームをもろに浴びている光景がリクの視界で繰り広げられていた。が――

 その実ソードメイスを盾に防いでいた。強度を極限まで上げたその得物はビームをせき止め切っていたがコックピット内ではアラートが喧しく鳴っていた。

 

【レフトアームステータス:異常】

【機体温度上昇中】

 

「ガタガタうるせぇ……こんなもんじゃないだろ……オルタナティブ……!」

 

 警告メッセージを跳ね除け、カタナはコンソールに手を伸ばす。最早猶予はない、加えてこのデストロイの火力を鑑みれば最早間に合う気がしない。時計をちらりと見ると既に残った時間は3分だった。それがカタナを焦らせ、画面を叩く指の動きを早めた。

 

「各部リミッター解除――オーバードライブ」

 

紅龍ノ頭(ドライグヘッド)解放】

 

 淡々としたメッセージとは裏腹にオルタナティブの装甲には変化が起きていた。

 頭部のV字のブレードアンテナからビームが放出され、フレーム部分が紅に輝き、グリーンに光っていたハズのツインアイが紅色に書き換わる。そしてレフトアームが限界を迎え、ショート。ぶらりと垂れ下がり鉄屑と化すと同時にビームも収まった。

 

 そして、残ったライトアームでソードメイスを持ちそのままウイングバインダーからこれまで以上の青白い火を噴かせた。

 ツインアイの紅い残光を放ちながら高速で突撃し、そのまま再射しようとしていたデストロイの口にソードメイスを突き刺した。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! しゃらァッ!!!」

 

 そして力任せに掻っ捌いた。血と肉片代わりに機械片が飛び散る。

 

 一方でダブルオーダイバーエースは下から、GNダイバーソードでデストロイの足回りを切り刻む。その切れ味はデストロイの足回りにダメージを与えるには充分過ぎるものだった。そして一頻りダメージを与えた所でリクはオルタナティブの変化に気付いた。

 

「トランザム……? いや、違う――これは一体」

 

「奥の手だ」

 

 と、カタナは短く答えた。

 

 

 

 STAGE23 Limit Over

 

 

 

 

 デストロイの頭部を破壊したオルタナティブはソードメイスを背中にマウントしてから千子村正を引き抜き、スーパースキュラに射角を合せないように距離を取り、同じく距離を取り得物を構え直したダブルオーダイバーエースと隣りに浮遊していた。

 そして――

 

 両者共に胸部のコックピット目掛けて突貫をかける。迎撃しようと射角を調整しながらスーパースキュラの発射装置から光が出るがもう遅い。

 トランスフェイズシフト装甲を貫通し叩き込まれた千子村正、そしてGNダイバーソード。更に追い打ちをかけるようにダブルオーダイバーエースは両腰にマウントしていたスーパーGNソードⅡを突き刺した。

 

――残り時間、10秒。

 

「壊れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 千子村正の刃を上に返し、機体を上昇させる。

 その刃はデストロイの装甲を大きく裂き、逆にダブルオーダイバーエースはスーパーGNソードⅡを地上目掛けて裂く。

 更に遠方から一筋のビームが何発もデストロイの装甲を焼いた。

 

「――ゼータ!?」

 

 既にあの巨大な腕を撃墜したゼータがビームライフルで狙撃をかけ、2機が作った傷口を狙い撃ちにして再生を防いでいる。その執拗かつ的確な狙撃はデストロイの抵抗を完全に封じ込めていた。

 あの短時間でかつビーム兵器だけであのロケットパンチを叩き落としたのか。機動力と狙撃能力が合わさった結果いともたやすく撃墜を決めてしまうその力にカタナは舌を巻いた。

 

――マジかよ……

 

 機体の脳とも言えるコックピットは既に潰されている。そしてそれを支える機体も大きく破損しており最早存在を保持することは難しい状態だ。

 巨躯はぐらりと緩慢に膝をつき、次に漆黒の装甲は爆発、炎上した。

 

 病原体は破壊した。もうこれで終わったんだ。

 

 気付けば既に残り時間は突破している。

 しかし、間に合ったのには間違いない。事実、目に見える勢いで進んでいた世界の崩壊は止まっている。カドマツの声が通信機のスピーカー越しに聴こえるものの、緊張の糸が切れてしまったお陰で異国の言葉のように聴こえる。カタナは放心状態でコックピットシートに凭れ、オルタナティブも――

 

【オーバーヒート、オーバーヒート、オーバーヒート、各部機能停止、緊急冷却モードに移行します】

 

 アラート音をかき鳴らしながら機能停止の旨を伝えるや否や、アラートはパタリと止み、メインシステムの機能を停止させ――墜ちた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

『余計なことをしてくれたな』

 

 通信を投げた途端に《あの男》の責め立てるような言葉がアヤメの耳朶を打った。だがしかし、そんなことは些末な問題だ。ブレイクデカールがあのような力を持っていたということを一つも聞かされていなかった事の方がアヤメにとっては一番の問題だった。

 ガイアガンダムからデストロイへの変態、崩壊するべアッガイランド。どれをとっても常軌を逸したものだ。

 アヤメは零丸のコックピットから見える半壊したべアッガイランドを一瞥してから続けた。

 

「そんなことはどうだっていいわ。あの力、これまでになかったハズよね」

 

『あぁ、アレか……ブレイクデカールの強化が進んで少しばかりテストをしたのさ。結局あの傭兵のエピオンとはくらべものにならねェ程の力を発揮してくれた』

 

 そうか、あれもあの男の思惑通りだったのか。

 が、アヤメの中で少しばかり腑に落ちるものと腑に落ちないものが半々に生まれた。これが思惑通りだというのならこのGBNを崩壊寸前にまで追い込むのも狙いのうちに入っている……そういうことか。

 

「貴方の狙いは何なの」

 

『お前が知る必要は無い。()()を取り戻したければ余計な詮索も余計な行動もせずにブレイクデカールを配り、クライアントを護ることだ』

 

 あしらわれた。おそらくこれ以上詮索しても同じ答えだ。

 

「ならあの判断も――パイロットを外に出した判断もクライアントを護ることにあたるわね」

 

「チッ……言ってろ」

 

 捨て台詞と共に一方的に通信を切られ、アヤメはため息交じりにコックピットの壁に凭れた。

 ブレイクデカールがただのチートツールじゃないことは薄々気付いていた。そこから目を背け続けた結果がこれだ。とはいえど、ここで止まれば一体何のためにあの男と()()したのか分からなくなる。

 黙ってこのまま前に進み続けろ、疑問は挟むな。

 膝をきつく抱え、掴んだ自分の腕に指が深く食い込んだ。

 

「イズミ君」

 

 イズミ君なら、イズミ君だったらどうするんだろう? こんなわたしを怒るのかな。

 縋るようにアヤメの脳裏に、気だるげにマガジンを読む青年の姿が浮かぶ。けれどもアヤメの――否、アヤの中のカナタが自分が求めているような答えを出してはくれなかった。




 アヤさんもストレスで病んできたし、カタナも大人の事情に振り回され始めて参りました。
 
 殺伐とするGBNと、当然ろくでもない現実世界。
 本当は殺伐とした今から、皆は逃げたかったからGBNに行ったのに今やどっこいの状態です。
 いや――もう最初からGBNとリアルの境目なんてなかったのかも知れません……

 
 オルタナティブの真の力ですが、弱点は見ての通り機体の熱量上昇で稼働時間が極端に短くなる点につきます。どこの壊れた刃か革命機だか。
 機体の熱暴走と安全性を引き換えに、機体の限界以上の力を発揮するという諸刃の剣。
 よってそうそう使うことはありません。機能停止後冷却モードに入るので長時間身動き取れなくなった所で反撃も出来ませんし……


 今回はメテオジャケット装備でリミット解除を発動したので、
 正式名称は「ガンダムアストレイ・オルタナティブ・メテオジャケット・オーバードライブ」
 うん、長いや(直球)


 次回STAGE24『此処じゃない処かへ』




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STAGE24 ここじゃない何処かへ

 おはようこんにちはこんばんわバレルソンです。

 アースリィガンダムのシステムでチクショウ被っちまったと嘆いている真っ最中ですが平常運転でお送りいたします。
 どうにかして差別化しないとなぁ……

 やっぱ追加装甲とか皆考えるよねぇ……


――ひどくやられたな

 

 騎士ガンダムの姿をしたカドマツは修復作業を行っている作業ロボット・カレルやハロを一瞥しながらぼやいた。デストロイ一機が暴れただけでここまで破壊されるとは思いもしなかった。

 マスダイバーも力を蓄えればここまでできるのだと脅されているような気分だ。

 

 まったくこのようなイタチごっこをいつまで繰り返せばいいのか。

 そして――カナタにいつまでこんな終わりの見えない地獄を押し付けなければならないのか。

 

「だが、ソードマンが率先してマスダイバーを狩っているお陰で首の皮一枚で繋ぎ止められているのも事実だ」

 

 背後で誰かの声がした。振り向けばそこにはリ・ガズィを潜水型(ダイバー)にアレンジしたSDガンダム、ガンダイバーが立っていた。その右肩部にはGBNのデカールが施されており、カドマツには一瞬でその男が何者なのか理解した。

 

「カツラギ主任……」

 

 GBN運営の最高責任者――カツラギはそのまま言葉を紡いだ。

 

「我々は動けんのだ。ログが残らない以上、罰する事は出来ん」

 

 疑わしきは罰せず。マスダイバーの行動がログにならない以上、罰することは出来ない。疑わしきを罰するつもりで下手に動けば運営が糾弾されGBNが終わる。

 ゆえに、警察(運営)民間(ユーザー)による私刑に頼らざるを得ない。冷静に考えなくてもふざけた状況だ。それを是として良いわけがない。

 そんなカドマツの心情を読み取ったのかカツラギは言った。

 

「我々に出来ることと言えばログの修復の他にない……それに大きく動けるほどの証拠、人員、予算。何もかもが足りていない」

 

「出資者は無理難題をおっしゃるとはこのことか……」

 

 下手に運営が証拠のない存在を肯定し、ユーザーに注意喚起をするのも当然ありえない選択肢だ。曖昧な定義で犯人探しを始められようものなら魔女狩りが起こる。そうすればGBNが別の方面で終わる。

 そしてこれまでのマスダイバーと目されたユーザーは黙して力については語らず、証拠もないが故に拘束も出来ないので根本からの根絶にまでは程遠い。

 

「あのステアというユーザーからは情報はとれているか?」

 

「…………」

 

 カツラギの問いにカドマツは沈黙した。彼女はあの事件からログインこそしているが、あまりこちらには協力的ではないようだ。それに加え、カナリが庇い立てしているのもあって深入りが出来ずにいる。

 カナリ曰く、ステアは相当参っているから気持ちの整理が終わるまで時間をくれ、と。

 

「そうか……」

 

 カツラギの落胆した声が風にかき消される。

 このべアッガイランドをはじめとしたエリアは現状閉鎖されている、また次々とマスダイバーが現れようなら最終的に消えるのはこのGBNそのものだろう。

 

 GBNが消えるのが早いのか、マスダイバーが消えるのが早いのか。

 終わりゆく空を見上げながら、カドマツは一人思うのだった。

 

◆◆◆◆

 

 

 

 カーン、カーン、カーン。

 バットが球を打つ音がバッティングセンターのフィールド内で大きく響く。

 

 車と同じ速度で飛んでくる白い球がフルスイングされたバットで反対方向に勢いよく飛んでいく。そしてフェンスに当たり、地面に落ちていく。ホームラン用の的には一向に当たる様子は無かった。当たればあらかじめ用意された景品が選べてもらえたりするのだ。

 最初から当たることなぞあまり期待しちゃいないが、狙えるのなら狙ってみたいと思うのは人情だ。

 

「おい」

 

「あぁ?」

 

 隣のボックスから発せられるシュウゴの声にカナタはぶっきらぼうに返した。

 ……ここ最近むしゃくしゃすることが多くて気分転換にと、今日は半ドンなのでバッティングセンターに行ったらシュウゴが先にバッターボックスでバットをブンブン振っていた。カナタは声を掛けることもなく、隣のボックスに入り一心不乱にバットを振り、車と同じ速度で飛んでくる白い球をひたすら打ち返しているとシュウゴもそれに気づいたようだ。

 

「最近変わったな」

 

 唐突な切り出しにカナタは調子が狂い、振ったバットが見事に空振り白球が後ろのフェンスにぶつかった。今の玉はど真ん中だったのに、と若干恨めし気な声色で返した。

 

「何がだよ」

 

「お前自身がだ。何かに苛立っているというか――何があったかは知らんが」

 

「無えよ、何も……」

 

「フッ……そうか」

 

 次にカナタが力一杯に振るったバットは今度はボールに命中し、真上に空高くボールが舞う。

 飛距離は無い。ただただ真上に飛んでいるだけのフライだ。試合だったらピッチャーかキャッチャーに捕られてアウトだ。

 質問していいのは質問される覚悟がある人間だけだ――なんて言わないが意趣返しのようにカナタはシュウゴに問いかけた。

 

「そういうお前も変わったな」

 

「何がだ」

 

「ツラがかなりマシになった。何があったかは知らんが」

 

「無いさ、何も」

 

「あぁそう。期末で成績トップから転落したのと何か関係があるのかと思ったが見当違いだったか」

 

 隠し事をしているのはお互いさまらしい。含み笑いがついた返答を雑にあしらいながらもう一発ボールを当てた。低めのライナー、今度はヒットくらいか。

 隠し事とは言ってもカナタもシュウゴもそれを悪とは欠片も思ってはいなかった。誰だって脛に傷の一つや二つ持っている。本人が話したくなければこれ以上深入りしようとは思わなかった。

 それが正しいかどうかは別として、それが双方なりの気づかいのつもりだ。

 短いやりとりから二人は一心不乱にバットを振るい白球を撃ち返し続ける。しばらく繰り返した末にホームランの的に先に当てたのはシュウゴだった。

 

「よしきた」

 

「マジかよ……」

 

「フッ、これが文武両道だ。トップから転落しようが俺は強いぞ?」

 

「煽ったなこのインテリクソ眼鏡め」

 

「フッ……上がって来い、ここまでな」

 

「上等だコノヤロー!」

 

 どや顔で眼鏡をクイッと上げるシュウゴにカナタは中指を立てる。的はボールが命中したことでセンサーが作動しファンファーレを鳴らしていた。

 この状態でスタッフに声をかければ景品がもらえる。早足でボックスから出ていくシュウゴを見送ってから再び、飛んでくる白球を見据え力一杯に打ち返した。

 

 

 が――ボールは的のスレスレの壁に命中しポトリと地面に落ちた。

 

 

 

◆◆◆

 

 古鉄やにアヤがやって来る頻度がここ最近増えたのは気の所為じゃないはずだ。

 こうして学校の寄り道がてらバッティングセンターでかっ飛ばしてから帰ったら彼女がいるなんて現状を前にしてカナタは思う。

 カウンターの上でおそらく祖母が出したのだろうお茶を呷り待っていた。

 

「おかえり」

 

「おうもう来てたのか……」

 

 カナタは無造作に荷物を裏手に放り込む。今日は彼女のシフトが入っていることを思いだしながら、応接テーブルの椅子をカウンターの近くまで引き摺ってからそのまま腰掛けた。

 アヤは微笑みながらそんなカナタの姿を見てからもう一口お茶を呷る。

 

「今日は遅かったね」

 

「あぁ、ちょっとばかりバッティングセンター行ってた」

 

「バッティング……」

 

 意外だったのか彼女は眼を丸くしていた。

――俺は一体何だと思われてるんだ……

 ガンプラ一辺倒とかそんな風に思っていたのだろうか。どうも声に出ていたのか、アヤは困り顔で答えた。

 

「ジャンク屋さん行ってると思ってた。だってイズミ君そういうジャンク漁り好きそうだと思ってたから」

 

「あー……否定出来ねえ」

 

 あまりにも真っ当な返しにカナタは背もたれに全体重を預けて脱力した。言われてみれば暇あればジャンクショップに足を運んでいる自覚がある。行動パターンすら把握されている気がして何だか落ち着かないが、今回ばかりはアヤの予測を上回ることが出来た。

 そんな些細な優越感に浸っていると、アヤは続けた。

 

「時間もあるし展示用のガンプラ、作ろうよ」

 

「そうだな……っと」

 

 カナタはゆらりと席から立ち上がって、裏手に積まれたガンプラ箱の山を引っ張り出した。

 古鉄やにガンプラを展示しようと提案したのはアヤだ。古鉄やには未開封の箱が腐るほどあり、このままでは需要と供給のバランスが崩れて箱の山が出来かねない、どうせ作らないならここで作って展示した方がガンプラにとって幸せだと彼女は考えた。

 加えてカナタの私物としてパーツ取りとして複数買って結局使わなかった部品もかなりある。

 

 さすがにこんなところでMGディープストライカーなんてバケモノを組もうとは思わないがHG程度なら余裕で組み立てられる。

 

 

 作業台代わりに応接用テーブルに工具箱と箱をどんと置く。

 アヤも続いて作業台の椅子に居場所を移し、HGUCブルー1号機の箱を無造作に開けていく。カナタも同様に、HGUCイフリート改の開封を始めた。

 ランナーからの切り離しを始めた所で、カナタは向かい側で作業をしているアヤを見る。

 

 彼女もランナーからの切り離しを進めており、そこからパーツ別に塗装をするつもりなのだろう。ランナーからの切り離しはこの手の作業では一番多く繰り返すことになるものだが、ここでミスれば大変なことになる。

 それゆえアヤの表情は真剣そのものだ。あらかじめ余裕を持った状態で切り離してから、細かい修正や切り離しをやっていく。

 

 そんな表情をぼーっとカナタは見ていた。

 この娘もガンプラが好きなのだろう。作り始めたなら最後まで面倒を見るという気概を感じる。こうしてちゃんと向き合ってくれる人間がいるのであれば元の持ち主から売り払われ作られないままこのオンボロの店で埃を被ってきた意味もあったというもの。

 GPDで中破させたSDF91も結局ちゃんと綺麗に直してくれた。

 

「どうしたの? そんなじーっと見てて」

 

 気付かれたらしく、きょとんとした顔持ちで顔を上げたアヤは問う。

 さすがに凝視されれば良い気もしない。「なんでもない」と返してからカナタは作業を続けた。

 彼女の異様なまでの知識量で返事に窮する時もたまにあるが、そんな性分は嫌いじゃない。この娘と一緒にここで過ごしているのが楽しみになってきている自分がいる。

 

 以前GPDをやった後結局F91の修復に付き合わせてしまった。けれども、一生懸命に修復に臨む姿を見てこの娘にならこれからもガンプラを預けたっていい。

 ああ、多分おれはこの娘が――

 

「好きなんだろうな」

 

 その時、思っていた事が口に出てしまったことに気付いたカナタは咄嗟に口を噤んだ。が――覆水盆に返らずとはこのことか、アヤの耳に入り作業する手が止まりきょとんとした顔持ちになった。

 

――やべっ

 

 どう取り繕うべきなんだァこれェ!

 耳が熱くなり、次に出すべき言葉が分からずあたふたしているとアヤが先に言葉を発した。

 

 先手を取られた。このままでは自身の迂闊な発言でおかしなことになる。この瞬間ひたすら自分自身の迂闊さを呪いに呪った。

 迂闊さが爆発している――ッ

 

「ガンプラ? うん、わたしは好きだな」

 

――あれっ

 

 案外あっさりとしていて想定以上に当たり障りのない回答が返ってきたおかげでカナタは心底ホッとした。ついでに花が咲いたような満面の笑顔付きだ。

 そういうところだぞ。なんて心でぼやきながらカナタは再びイフリート改に手を付ける。

 

 

 これでいい。気付かれなきゃ安いものだ。

 そもそも従業員に手を出すバカがいるか。自制と自戒を込めてランナーに余裕を持ってニッパーで断つ。

 このままだけでも充分だ。これ以上踏み込むのは烏滸がましいことだ。神妙な心持になった途端、アヤが逆に声をかけてきた。

 

「イズミ君も好きだよね、ガンプラ。ストライクもあの子(SDF91)もとても丁寧に作られてたから」

 

 そう見えているのか。

 自分では当たり前のことをやっていても他人からすればそれは奇異に見える。逆も然りだ。相手にとって当たり前にやっていることが自分にとっては奇異に見えるのと同じだ。

 だからこそ、そう見えてくれているのは少しばかり照れ臭かった。そこまではいい。が、問題は次の発言だった。

 

「イズミ君のそういうところ、わたしは好きだな」

 

「あ……?」

 

 ちょっと待てや。

 沈静化したと思ったらそう来るのか。もしやさっきのアレで悟られていたとでもいうのか。そんな馬鹿な。

 顔を上げて口があんぐり開いた状態で脳内で慌てふためく思考を纏めようと必死に右往左往していると、アヤも何故かあたふたし始めた

 

「ほ、ほら! リアルのガンプラ仲間そんなにわたしいないから!」

 

「そ、そうなのか」

 

「どっちかというとそっちはGBNの方に寄ってるって言うか……」

 

 カッパガンダムなんて知っている現役女子高生など数えるほどしかいないだろうから割としょうがない所はある。ガンプラ女子と囃し立てられている時代になってもその辺は解決していないままだ。

 というか野郎であるカナタも大概だが。

 

「そうか、ぼっちなのか……可哀想に……」

「ち、違うって! そーれーにー、イズミ君だって友達と一緒にいる姿全然見ないけどなー?」

 

「…………」

「…………」

 

 お互い惨めになってきた。

 実際問題お互いが言っているほどぼっちではないにせよ、重度のオタク気質が災いしてメインの活動がGBNに寄ってしまっているのは事実だった。

 

「や、やめるか。これ以上は虚しい」

「引き分けってことでやめにしましょう……」

 

 虚しい押し問答を中断し再び黙々と作業に戻る。

 多くは望まない。けれどもこんな他愛のない日々がずっと続けばいい。通常モードのBD-1の頭部を作っているアヤの姿を見ながらカナタはそう思った。

 

 

 ヤスリでプラスチックが削れる音はこんな静かな店にはよく響いた。リズミカルに疾る音はノイズになるどころか自分自身のスイッチを入れる指にもなる。ガンプラをただひたすら作る自分を引き出すためのスイッチだ。

 お互い簡単な塗装を終え、乾燥に入った所でアヤは切り出した。

 

「……ねぇ、イズミ君」

 

「ん?」

 

「来週縁尾町の神社周辺で祭りあるのって知ってるよね」

 

「おん」

 

「予定があったら、ごめん……もし空いてたらいっしょに行こうよ」

 

「……おう……え?」

 

 無造作に、反射でyesと答えてしまい我に返ったカナタは手に持っていた紙ヤスリをポロリと落とした。一方でアヤも同様に我に返ったカナタの反応が要領を得ずポカンとしていた。

 

「え?」

 

「「えっ」」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 あのゼータの初陣からというもの、ゴーシュはひたすら書き殴ったノートを片手にGBNのフィールド中をフライトした。

 航行距離を測るのも馬鹿らしくなってきた所で、バレルロールや飛び回りながら変形、そのまま攻撃行動に入るなど耐久実験を始める。とはいえ高速戦闘中に無理矢理変形しようならフレームが悲鳴を上げてドカンだ。

 まだおれはゼータを使いこなしてもいなければ完成もさせていない。

 

 集中力がいい加減切れ始めた所で一度地上に降りようとした矢先、木陰に黒い4足歩行のモビルスーツが隠れているのが見えた。伏兵か――

 時々こうしてただ戦う為だけに不意を突いて襲い掛かる不届きもののようなダイバーがいる。

 

 まさかこんな寂れたエリアにもいるとは。

 どうせその類に違いないと別のルートに進路を変えようとした矢先、黒いモビルスーツの上に人が乗っていることに気付いた。それも身に覚えのあるもので――

 

 

 

「ステアか」

 

「誰!?」

 

「俺だ」

 

 ウェイブライダーがMA形態のガイア付近に着陸するや否や、警戒しにかかるものの白いウェイブライダーであることに気付くとすぐさまそれを解いた。そしてきょとんとした顔で機体から降りるゴーシュを見た。

 

「あれ、なんでここにいるの分かったの……」

 

「え?」

 

「えっ」

 

 かみ合わない会話にゴーシュは首を傾げ、今置かれている状況が自分の思ったものと違うことに気付いたかステアもまた首を傾げた。

 

「俺は適当に空を飛んでいただけだ、それをたまたま――ん? 失礼、電話だ」

 

 要領を得ない状況に混乱しているにもかかわらず空気を読まない着信音に心底ゴーシュはうんざりしながらPDAを起動すると通知にリクからのものであることを示す写真が表示された。

 

「俺だ」

 

『ゴーシュさん、こんにちは。今日ステアさんとか見ませんでした?』 

 

「ステアがどうかしたのか」

 

『アークエンジェルスの皆さんがステアがいないって……ログインしているのは確かだけど位置情報を完全にシャットアウトしていて居場所がわからないって』

 

 このまま俺の近くにいると言えばすぐに解決だろう。ゴーシュは位置情報をonにしているのでフレンドであるリクには筒抜けだ。ステアの表情がみるみる強張って行くのを見てゴーシュは溜息を吐いた。

 

「……いや、俺は見ていないな」

 

『そうですか……』

 

「見つけたら連絡する。ではまた」

 

『はい、それじゃ』

 

 それで通話を切ってしまうとステアはゴーシュの行動に納得がいかなかったようであった。当然だ、嘘をついてでも彼女の居場所を話さなかったのだから。

 本来ならば居場所を伝えるのが筋というものだ。それを今ゴーシュは捻じ曲げている。

 

「別に助けて欲しいとか、連れ戻して欲しいとか、遭難したとか、そういうのじゃないんだろ?」

 

「……うん」

 

 今ステアが置かれている状況に何処か見覚えがある。ちょっと前の自分自身だ。

 彼女もまた、同じように探している――

 

 

 

 STAGE24 ここじゃない処かへ

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

「これからどうしたいんだ。皆から離れて」

 

「わからない」

 

 何もかもがわからなくなって家出をした、というのが正確なのだろう。首を必死に横へ振る彼女が弱弱しくゴーシュの瞳に映る。

 ふきすさぶ風と小さくなったステアがこの寂れたエリアの寂寥感をひどくさせる。

 

「結局あたしにはここしかないんだって……思ったけど、もうあそこには――アークエンジェルスにはあたしの居場所はない。べアッガイランドもあんなにして……」

 

「……それは――」

 

 そう思っているのはお前だけなんじゃないのかという言葉が喉から出かける。そうじゃなきゃビルドダイバーズに頼んでまで人捜しなんてするわけがないのだ。

 けれども、自分の喋りでは逆に彼女を傷付けてしまう気がして口を噤んだ。

 

ここ(アークエンジェルス)じゃない何処かってどこにあるんだろうね。あたしみたいな下手っぴがどこに行ったっていっしょなのに」

 

 自嘲するような声にゴーシュは黙って聞いていた。否定も肯定もしない。

 否定したって彼女が救われるかと言われればNOだ。何度も否定され続けてきたのはアークエンジェルスの仲間たちが証明している。肯定など余程の詐欺師じゃなきゃ論外だ。

 

「俺もな、ここじゃない何処かを探してこのGBNに来たのさ」

 

「……見つかった?」

 

 ステアの問いにゴーシュは困り気味に返した。

 

「どうだろうな……」

 

 事実としてそこは本当にここじゃない何処かなのかどうかは未だに測り兼ねているところがある。けれども、ここじゃない何処かは一度くらい探してみる価値はきっとあるだろう。だから――

 

「探してみるか――」

 

「え?」

 

「ここじゃない何処かって奴を」

 

 一度探してみることにしよう、彼女にとっての行先を。

 そして、おれ(ゴーシュ)自身に決着をつけるために。

 




 運営、事実上の白旗宣言
 若干のラブコメ
 そしてステア、家出する

 の3本でお送りいたしました。


 次回STAGE25『彷徨


 はてさて今回改めて主役機の解説に入りましょう。


・ガンダムアストレイ・オルタナティブ(ベーシックフォーム)
 型式番号:MBF-P02ALT
 身長:17.7m
 装甲材質:発泡金属
 概要:イズミ・カナタが制作したガンプラ。装甲のカラーリングは黒と白、そしてフレームは赤色。ベースは型式の通りレッドフレームであり、それを無数のジャンク品及びパーツを使って製作している。そのため、オリジナル以上の機動力と跳躍力を獲得している。
 形状こそ大きな差異は無いが追加装甲の装着を容易にするようハードポイントが幾つか設けられている。
 本項目で紹介するのは何も装備していない【ベーシック】だ。

 装甲強度はオリジナルに毛が生えた程度なので掠り傷すら致命傷になる危険性を孕んでいる。但し機動力は折り紙付きであり、高機動かつ旋回性能も高く使い方によっては強力な形態になる。
 なおドラグーンシステムの応用でこの形態からジャケットを呼び出して装備も出来る。

 武装
1《イーゲルシュテルン》
:言わずと知れた頭部バルカン。けん制としても使うことが出来る貴重な飛び道具。
2《ソードメイス》
:メインウェポン。
 斬るというより殴る用途の剣であり、強度もある為シールド代わりとしても機能する。相手の装甲が強靭でもパイロットそのものにも微量ながらダメージが入るため、連続で当てれば気絶(スタン)させる事が出来る。
3《千子村正》
:日本刀型近接ブレード。早い話がガーベラストレート。
 切れ味は抜群で、ビームだろうがミサイルだろうがガンダリウムだろうがちゃんと命中すれば切り裂けるポテンシャルを持つ。但し扱いは難しく、切り裂くにはコツが要る。
4《ワイヤーランチャー》
:掌に仕込まれたワイヤーを射出する機能。遠方の相手を捕縛しこちらの距離に引き寄せることが出来る。更には相手を拘束し必殺仕事人紛いのことも可能。
5《光電球》
:掌の送電用プラグから放出されるエネルギーを掌に帯電、球体状に変質する現象。本来の用途として想定されていないのでアームに相当な負荷がかかる。
 ただしこれを命中させられれば敵機に重度のデバフを発生させられる。
6《紅龍ノ頭》
:早い話がリミッター解除。パイロットに尋常ではない負荷(ダメージ)を与える代わりにアストレイのカタログスペックを大幅に上回る性能を付与する。


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STAGE25 彷徨

 斗和キセキちゃんがリライズに出たので初投稿です。


 まずどこへ行こうか。

 大地を駆けるガイアと平行して飛ぶウェイブライダーはただ前を進んでいくだけ。このままでは無味乾燥な移動だけで終わりそうだ。

 

「適当なミッションでもやるか」

 

 そんな空気の中、まずゴーシュが真っ先に提案したものがそれこそ簡単に10分程度で終わるようなミッションだった。

 単にアイテムを探索したり、数機程度のNPDリーオーを破壊するなど。

 

 最初ステアも怪訝な顔でミッションに臨んだが、ゴーシュは何も言わずにただひたすら遂行していくだけなのでステアには彼の目的がまるでわからなかった。

 

 少しずつ遠くに進んでいく。

 下手くそな自分じゃ一人で行くことはないだろうエリアまで。

 気付けばとある沿岸の市街エリアにまでたどり着いていた。

 

 この街に来たのはいつぶりだろう。まだアークエンジェルスが勝っていた頃に一度冒険にと行った所だ。

 黒海沿岸を模した地形をしており、そこがディオキアだということにステアは間も無くして気付いた。

 

 しばらくGBNを飛び回ると流石にお互い疲れたので港に腰掛け一休みした。

 隣でゴーシュが仏頂面でコーヒーを呷っている。

 ステアはその横顔を見ながら、缶紅茶を一口呷った。口の中に広がる甘さが逆に今置かれてる状況の苦さを際立たせるだけだった。

 

 別にここじゃない何処か探しに何かしら男女のナニカがあるわけでもない。

 ただ偶然行く方向が同じだった。それだけの冷めた関係だ。

 

 最初こそナンパだと思ったし、捨て鉢気味に便乗したもののゴーシュという男から特にそれらしきものが見当たらなかった。本当に探しているのだろう。

 海を見渡す彼の視線が物語っていた。

 まるで水平線の向こう側に手を伸ばしているような目をしている。

 

「なんでキミもここじゃないどこかを探してるの。嫌なことでもあったの?」

 

 嫌なこと。

 ステアが真っ先に思い浮かぶのはリアルで何か嫌な目に遭っていたとか、自分みたいにマスダイバーになっていっぱい迷惑をかけた、とか。

 ゴーシュはぼんやりとした目で蒼い空を見上げポツリと言った。

 

「壊してしまいたかった」

 

「壊すって何を?」

 

「今置かれてる状況から、全部」

 

 

 だが、それだけでは満たされなかったか、もしくは結局壊せなかったのだろう。だから今こうして彷徨しているのだろう。

 

「壊すなんてことが出来たなら、とっくにこんなとこにいやしないが……」

 

 ぽつりろ溢したその一言が全てを物語っていた。

 

 ステアが目を伏せ、揺らめく海を見下ろす。ここから奥深くまで沈めば嘘になるだろうか。何もかもが嘘になるのだろうか。あたしがあそこにいて皆に迷惑をかけたって事実は嘘になって最初からいなかったようになれるだろうか。

 なんて一瞬危ない思考が過ぎるが、隣の無愛想な男が黙ってそれを放置するとは思えないので思考を他所に放り投げた。

 

「……あたしはもっと遠くに。ずっと遠くに行きたい。遠くへ、遠くへ。ここじゃない何処かに。行けばこれまでのことが嘘になるかもしれないから、皆あたしのこと忘れてしまえるだろうから」

 

「…………」

 

 ゴーシュは黙って聞いていた。同意もしない、否定もしない。

 それが逆に心地よかった。説教もされなければ、一緒に堕ちようとも言わない。

 

 ただ、偶然。

 同じ方向を歩いている。それだけ。

 

 自分の脳裏にへばりついた、碌でもない考えを振り払うようにステアは立ち上がった。

 

「街、回ろっ」

 

 ◆◆◆◆

 

 ゴーシュはSEEDについての知識は無きに等しいので知る由もなかったが、ディオキアを模したこのエリアは元ネタが元ネタなだけに、C.E.関連のパーツなどが取り揃えてあった。

 

 適当なパーツを見て回りながら街中を歩いていると、広場に人だかりができていた。

――今日何かイベントでもあったかここは。

 

 咄嗟に公式の告知をPDAで確認するものの、ディオキアでそれらしき情報は一切なかった。

 そもそもこのエリアはまともなイベントが開かれた試しがほとんどないのだ。強いて言うならミーア・キャンベルというキャラクター型のNPDによるライブをやったくらいで、それも1年ほど前の話だ。

 

 じゃあ一体なんなんだ。

 人混みを掻き分けると周りを囲う人々より一回り小柄な女性型のダイバーが立っていた。

 

「みんな、今日は集まってくれてありがと」

 

 人々に囲まれ、その中心で訴えるようなその振る舞いはまるでアイドルめいたものだった。

 ステアがふと溢す。「ネネコだ」と。ゴーシュはステアに問いかけた。

 

「誰だそれは」

 

「えっとね、最近アイドルダイバーとして活動中の人。ここ最近は色んなところを回ってるんだけど、まさかこんなとこにいるなんて……」

 

 どうやら珍しいらしい。太陽光を川のように流す艶やかで長い黒髪、ゴシックロリータ調の服装を纏い、前髪ぱっつん。あざといもここまで来れば一つの褒め言葉だ。

 ゴーシュは周囲のギャラリーからの押し合いへし合いに耐えながら彼女の紡ぐ言葉に耳を傾けた。

 

「今日皆さんに大事なお話があります。ソードマンって知ってますか? 昨日わたしはそのソードマンに突然襲われました。何もしていないのにも関わらず突然……」

 

 ソードマン。

 その単語を聞くや否やステアの表情が恐怖に染まった。余程トラウマになっているようでマスダイバーだったとはいえ可愛そうになってきた。

 それにしてもソードマンが突然何もしてないダイバーを襲撃したという話は些か不可解だった。

 が、ネネコが提示した戦闘データがその疑問を粉々に打ち砕いた。

 

『や、やめて……』

 

 彼女の恐慌混じりの声に対し嬲るようにジンバージャケットを纏ったアストレイオルタナティブがソードメイスを振り回す。

 そして一方的にネネコのモビルスーツを破壊していく。右、左、右、左と振るわれた連撃は破片を巻き上げ、画面にノイズが奔る。

 一方的な暴虐でゴーシュの眉間に皺が寄った。そして完全に再起不能寸前にまで追い込んだ後、オルタナティブがソードメイスの先端をネネコに突きつけ――言葉を発した。

 

『おたく、ガンプラ向いていないぜ。さっさとこの世界から出ていけよ。不愉快なんだよな、ガンプラ女子とか持て囃されてよ』

 

 その声はソードマンのものだった。

 ステアの息が詰まったのを隣を見ずともゴーシュには分かった。加えて過呼吸を起こしかけていることも。

 

──あまりこれ以上は長居はできないか。

 

 

「ネネコちゃんになんてことやりやがる!」

「イキリアストレイ野郎が……やっぱりあいつは潰しておくべきだったんだ!」

「ネネコちゃん俺を踏んでくれぇ!」

 

 雑多かつ聞き苦しい罵声怒声を聴きながらゴーシュはステアの腕を引っ張る。離れながらGBNの機能である集音声マイクとイヤホンを介してネネコの演説に耳を傾け続けた。

 

「みなさんにお願いがあります。わたしのような人を増やさないためにあのソードマンを──みんなで協力して倒して欲しいんです。あの人は──

 

 

 

 

 

 

 

 

                 マスダイバーなんです」

 

 

 

 

 

 

 その時、ゴーシュは自分の心臓が凍り付いたかのような感覚に苛まれた。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 しばらく歩けばネネコの声が聴こえない公園に辿り着いた。そこに人という人はなく……口悪く言えば過疎っていた。

 

 極悪非道のPKダイバー。

 過呼吸が収まったステアを横目にゴーシュはソードマンと遭遇した出来事を思い返す。グシオン戦、偽シャフリヤール戦、そしてデストロイ戦だ。

 

 いずれの戦闘もゲームシステムとしては()()()()()()になっている。リプレイ再生は出来ない。なるほど運営が対応出来ないわけだ。

 

 いずれにせよ自分が見た戦闘においては自ら狙うのはマスダイバーと目される存在のみだ。故に一番考えられるのはあのネネコという女がマスダイバーであるということに他ならない。

 加えて当然ながらソードマンからマスダイバーでありそうな判断材料は皆無。

 

 が──それを見極めるためには方法が幾つか存在する。

 

 一つはネネコを追うこと。

 もう一つはソードマンを追い、本格的に奴の目的をはっきりとさせること。

 

 現状もっともやりやすいのは前者だろう。そもそもソードマンが一体どこにいるのかもリクですら知らないのだ。

 だが──彼女をどうするべきなのか。

 誘った手前、弱った彼女を放置も出来ない。かといってこのまま連れて行くとまた過呼吸だ。

 

 

 ふと、ステアを見ると見た目だけでもかなり憔悴しているように見える。彼女は弱弱しく微笑んでみせた。

 

「あたしは大丈夫。でもちょっと休んでいいかな……疲れちゃった。確かめたいこと……あるんだよね」

 

 完全に見抜かれている。ゴーシュは困ったように頭を掻きながら肯定した。

 

「……あぁ。すぐに戻る」

 

 ……いい加減はっきりさせる必要がある。

 ここまで怯えさせたヤツの真実を。真に彼は人斬りなのか、それともマスダイバーにだけ仇を成す正義の味方とやらなのか――

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 ステアから一度離れてからというもの、ディオキアの街並みをコソコソと人目を忍んでネネコを追い続けていた。

 まるでストーカーだな、なんて自己嫌悪に現在進行形で陥っている。

 何も知らない人が見ればただの怪しい追っかけだ。

 

 しばらく追っていても当然怪しい要素は見当たらない。ただ単に沿岸都市の観光をしているようにしか見えない。まぁそう簡単に怪しいところを見つけられれば苦労もするまい。

 建物の壁にもたれるようにゴーシュは脱力した。

 

「──ソードマン、貴様は一体なんなんだ」

 

 いわゆるマスダイバーハンターの類なのか、それとも本当に人斬りなのか。

 前者の存在はここ最近フォース『アイン・ソフ・オウル』や『GBNガーディアンズ』が名を上げており、マスダイバーハンターという概念も少しずつではあるが浸透しつつある。

 もしソードマンがそちら側の人間ならどれだけいいことか。だが現状後者のGBNガーディアンズは少し前にソードマン討伐を標榜しておりその辺の期待は出来そうにない。

 

 

「──ッ」

 

 が、その時だった。

 

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 背後からの鼓膜が破れんばかりの胃轟音に、ゴーシュは耳を塞ぎながら反射で振り向く。そしてワンテンポ遅れて押し寄せて来た砂埃から両腕で目を庇いながら、細目で墜ちて来たモノを見据えた。

 徐々に煙が晴れ、周囲には逃げ惑うダイバーたち。

 

 そうだ、ここは戦闘禁止領域。本来ならばモビルスーツが侵入しこんなド派手に落下をかますことは不可能な筈だ。なれば──そんな芸当が出来るのはマスダイバーのみ。

 そして──

 

「……ガンダムアストレイ・オルタナティブ……だと!」

 

 信じがたい光景がゴーシュの眼前で繰り広げられていた。

 オルタナティブがソードメイスを片手に立ち、その装甲からは紫色の禍々しいオーラが放たれている。ネネコの言う通り、ソードマンはマスダイバーだったとでも言うのか。

 そのツインアイの先にあるものは──背後にいるネネコだ。

 

「お前はッ──」

 

 彼女の言う通り本当に人斬りだとでも言うのか。

 振り上げられたソードメイスを前にゴーシュは握り拳を固める。

 

 お前は、本当に。

 

 敵か味方か。

 今この瞬間、少なくとも――

 

――俺はお前を敵と思うことにする。

 

 ガィン! 

 と、鉄塊が弾ける音がした。

 振り下ろされたソードメイスを、突如現出したゼータがシールドで受け止めたのだ。それ故に一撃がネネコに命中することはなかった。

 

 が、シールドを装備していたレフトアームが悲鳴をあげていた。当然だ、あの馬鹿力を持つ機体の一撃をモロに貰ったのだ。無事ですまないのは当たり前だ。

 

「なんて馬鹿力だ……!」

 

 まともなインファイトは自殺行為と同義だ。背後に人がいなくなったことを確認してから、オルタナティブを蹴り飛ばし勢いのまま後方目指してスラスターを噴かせた。

 

 背中と地面が付くか付かないかのスレスレを飛び、距離が開いてからの着地。そしてビームライフルの銃口をオルタナティブに向けた。

 緊張感が両者の間で場の空気を震わせる。一触即発を絵にかいたような光景で、ゴーシュは口を開いた。

 

「貴様、マスダイバーだったのか」

 

「今更気付いたのか。遅れていやがんなァ」

 

「……ネネコとやらを襲ったのも貴様なのか」

 

「あぁ。そうだ、最高だったぜ。良い声出してくれた……」

 

 その声は正真正銘のソードマン。

 奴の哄笑にゴーシュは舌打ちした。俺たちと戦った男がこんなのだったのか。

 

 

「お前ふざけているのか……?」

 

 震えるように、絞り出すように。

 他人を馬鹿にしたような物言いが純粋に気に喰わなかった。

 

「ハッ、キレたか」

 

 自分でも不思議に思うくらいにビームライフルのトリガーをいつのまにか引いていた。

 奴が何者であるかは関係ない、不愉快さが奴を排除しようとしている。

 一条の光芒がオルタナティブに向かって迸る。そして目標のいた場所に至ったその時には彼の姿は掻き消えていた。

 

「消えたッ⁉︎」

 

 そして警報が鳴ったことに気付いた時にはゼータは宙を舞っていた。

 

「馬鹿な……!」

 

 速すぎる。

 まるで瞬間移動でもしたのかと疑うほどに。ディオキアの街並みの中で倒れたゼータは上空から落下の勢いでソードメイスを振り下ろそうとしていた。

 

「やられるッ!?」

 

 が、それは横殴りに現れた機影に阻まれた。

 眼前に広がるは、蒼。

 

「何だ……お前……!」

 

 振り下ろされた一撃は回し蹴りで弾かれ、オルタナティブが大きくよろける。

 介入したのは蒼い機体だった。手には刺突剣、まるで細身の騎士めいた出で立ちにゴーシュは目を丸くした。

 

――オルタナティブに似ている……

 

 この機体もアストレイなのか。倒れたゼータの前に立つ蒼を見ながら疑問符を浮かべる。

 剥き出しの色のついたフレームに、林檎を兎のように切ったアレを思い起こさせるV字のブレードアンテナ。着込んでいるオルタナティブに対し、こちらは細身で追加装甲を着こむようには見えなかった。

 

 見た感じおそらくは最初からそういう風に作られている――

 

「ようやく見つけたよ……ソードマン」

 

 それは、この戦場とは似つかわしくない穏やかな青年の声。

 こいつは、誰だ。

 一瞬最初にグシオンの襲撃を受けたあの日が脳裏でリフレインする。

 

 またアストレイとやらの系列機に救われるのか。俺は。

 奇妙な縁に呆れを抱きながら眼前の状況を掴んでいく。

 この機体から敵意は感じられない。敵意とは違う、いわゆる闘志に類推されるであろうものはソードマンの方に向いている。

 

「さぁ、僕と戦ってくれないか?」

 

 介入者の申し出にゴーシュは再び蚊帳の外に放り出されかけていた。

 が、まだ何も終わっちゃいない。ゴーシュは操縦桿を握りなおし、相対する二機のアストレイを睨みつけた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 古鉄やからイズミ家の墓地まではそこそこ距離がある。加えてやや高い位置にあるため長ったらしい坂道と階段を使わざるを得ないためあまり足しげく通えるような環境にはない。とはいえ縁尾町からあまり離れていない所はここしかないし、他を探そうならもっと遠くになってしまうので、えり好みが出来ないのが現状だ。

 

 そんな墓地にまで――

 

「掃除なぞに無理してついてくること無かったろ」

 

 カナタは重いバケツを下げ、揺らしながら背後にいるアヤを見やる。

 アヤも手元にお供え物を抱えており、重量こそないがそれなりに嵩張るものだ。

 

「無理なんかしてないよ。単に暇だった、それだけだから」

 

 文字にだけにしてしまえば素っ気ない一言だっただろう。けれどもその声色には険はなかった。

 並び立つ墓石の中、掃除道具突っ込んだバケツとお供え物を抱えて歩く。左側を見れば縁尾町の街並みが見えた。行くには斜面とか色々と不便だが、ここから見える街の見晴らしはとてもいい。

 そう思えることがせめてもの慰めだった。

 

「給料出ないからお前時間の浪費で人生収支赤字だぞ」

 

 正直言えば不安ではあった。最初こそ墓掃除に行くと言った時には「私も行っていいかな?」と言われた時はどうしたものかと思いもしたし、割と一人で行くのも若干心細いし地味に怖いのもあって二つ返事で許可したものの、この墓にまで至るのに数キロ自転車で走らされ、長い階段を上がらされる羽目になったのではっきり言って後悔しているんじゃないかとか情けない思考が脳裏を過った。

 

「もしかして……迷惑だった?」

 

 アヤはやや上目遣いで訊く。

 言い過ぎた、とカナタは後悔のあまり溜息を吐いた。

 

「いや、寧ろありがたい。こんなクソ遠いところまで歩かされて後悔してないかって……」

 

 何を臆病になっているのやら、と自分の言動を振り返って思う。

 シュウゴと接している時はもっと遠慮が無かったハズだ。女慣れしていないとはこういうことか。

 

「ううん、言ったよね……イズミ君のこと知りたいって。わたしの自己満足だから」

 

「――おう」

 

――なんでそう臆面もなくそういう事を言うんだこのバイトさんはさァ

 

 顔を合わせるのが辛くなって、縁尾町の街並みに視線を逃した。

 当然気のせいだ。モテない野郎はちょっと女の子に距離詰められたら勘違いするような生き物だ。それをカナタは知っている。

 同級生で勘違いした奴一名が特攻した結果そいつが彼氏持ちだったなんて流れを一度見ている。

 

「良いけどホントに期待すんなよ」

 

 故に妙に卑屈にならざるを得ないのだ。

 一つでも迂闊なことをすれば一生後悔する羽目になる。チキンと嘲笑われようが、臆病なくらいが丁度良いって何処かの軟弱者が言っていたのでそれに倣うことにしよう。

 

 

 

 辿り着いた先は確かにイズミ家の墓標だった。が、ひどく汚れており、灰色のハズの墓跡に土混ざりの水が渇いてへばりついていた。

 一目見るだけでも見栄えが悪いそれに「やっぱり」とカナタは溜息を吐いた。

 

 ……台風一過。

 

 そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 昨日と一昨日の夜は酷く大荒れだった。お陰で昨日の高校は臨時休校。で、折良く本日は土曜日だ。今の空は雲一つない快晴で、風も凪いでいる。

 

 

 台風は色んなものを運んでくる。

 もちろんその9割9分9厘――ゴミだ。撤去されなかったお供え物は悉く吹っ飛び、代わりにどこのものとも知れぬ枝やゴミが散乱する。

 こんなアクセスもしんどい上に掃除という苦行を強いられるのだから、学校が休みだと素直に喜べやしない。

 

 まずはゴミを掃いて暮石を洗うことから始めよう。

 カナタは気合を入れるために指をポキポキと鳴らしてからバケツに、近くの立水栓から水をありったけ叩き込んだ。

 

◆◆◆◆◆

 

 

 意外とお墓の掃除とか維持って大変なんだな、とアヤは枯葉やら枝やらどっかからか飛んできたのであろう砂利やらを塵取りに箒で無造作に掃いていく。

 

 アヤ自身特段身内に不幸はあまりなく平穏に暮らしてきた。いずれ自分もこうなるのか、それとも。

 少し不吉なことを考えかけて首を横に振って振り切る。

 今は考えないほうがいい。

 死んだら自分はどうなるのだろうなんて一生出ない疑問に価値なぞない。憂鬱になるだけだ。ただただ神経をすり減らすだけの行為に何の意味がある。

 

「よし終わり」

 

 周辺を掃き終え、塵取りの中身を墓地の片隅に配置されたゴミ捨て場に放り込む。

 その傍らカナタの居場所を見ると、彼は無言で暮石をスポンジで泥をそぎ落としていた。

 

 世の中には二つのものがある。

 それは取り戻せないものと、取り戻せるものだ。

 カナタの眼前にあるものは前者。

 死んだものは生き返ったりはしない。人間という生き物は何処かの鷹のようにしぶとくはないのだ。

 

 

「暇か。ところで怪談は好きか?」

 

「階段?」

 

「怪談、ホラーな方な」

 

 役目を終えて手持ち無沙汰になったアヤを見て察したのだろうカナタは切り出した。なんの怪談だと聞き返すとカナタは真顔で返した。

 

「この墓の主の、ホラーな話だ」

 

 

 STAGE25 彷徨

 

 

 イズミ・ナユタ。それがこの墓の主のひとりであり、カナタの兄の名前だ。

 カナタが投げ渡した端末を見ると蒼いアストレイとトロフィーを握ったナユタの写真が表示されていた。

 

「これは……」

「俺の兄だ」

 

 雰囲気こそまるで違うがたしかに面影はある。隣で誇らしげに映ってる少年はカナタだろう。

 そしてアヤにはそのナユタの持つ機体に見覚えがあった。どことなくオルタナティブに似ている。勿論その機体はジャケットを装備したものではなく、アストレイ特有の軽量性を維持した細身の装甲だ。

 けれども、そこから現れる癖のようなものは誤魔化しきれない。

 そして……

 

「機体名はMBF-P00F ガンダムアストレイ・ファンタズマ。今は現存しないはずの機体だ」

「現存しない?」

 

 何故そんなことをわざわざ言うんだろう。どうせ火葬した時に一緒に焼いてしまったのだろう。

 そんなことを考えていると、カナタは続けた。

 

「あの時、兄貴を殺したテロの後、発見された兄の遺体からガンプラは見つからなかった。盗まれたのか、木っ端微塵になったか定かじゃない。少なくとも見つかりはしなかった。だから現存しない、と。そう思ってた」

 

「思ってた?」

 

 過去形。この言葉の先に意味があると確信したその時、カナタは遠い目で眼前の墓標を見ていた所を、カナタは一転してまるで真剣そのものの顔持ちでアヤを見た。

 

「もし……もしも、だ。兄貴のガンプラがこの世界の何処かで誰かによって操られていたとしたら、どうする?」

 

「……まさか」

 

 考えたくない事態だ。何処の馬の骨ともしれない者に勝手にガンプラを使われる。それはビルダーとして屈辱とまではいわないが不安としか言いようがないものであった。

 それでは取り戻しようがないじゃないか。――日本国内ならまだしも、米国かそれとももっと離れた何処かだとすればもう……

 

「もしかしたら成りすましかもしれない。しかしあの頃の大会はGBN登場の話題に掻っ攫われロクに話題にはならなかった。そんな時期のファイターの姿を今更パクった所で何の意味があるッて話だ。こいつを見てくれ」

 

 カナタはアヤに投げ渡した端末を取り、アプリを切り替える。すると画面はプロビルダーによる大会の詳細データに切り替わった。

 あの河童事件と同時期に行われた大会だ。

 そしてその優勝者はナユタの持っているアストレイと瓜二つであった。

 

「どうして……」

 

 しかもそのダイバーとしてのアカウント名はNAYUTA。明らかに彼を意識しているであろう名前にアヤは絶句した。

 死んだはずが生きている? 

 そんなバカな話があるか、アニメじゃないんだぞ。

 それに死体があげられているにもかかわらずこんなこと有り得るはずがないんだ。

 

 ナユタの遺体はすでに火葬されて、今や骨のはずだ。

 

「生きているはずが、ないんだ……」

 

 カナタは溢す。そこに期待の一欠片もないどころか苛立ちが乗っていた。

 何故今になって現れる。何故わざわざ兄の名前を使う。

 

「何で今になって兄貴名乗って、GBNで暴れ回ってるんだ。何故だ……」

 

 何の因果だろう。

 自分の周りには3体のアストレイがいる。

 

 あの男のノーネイム

 人斬りのオルタナティブ

 そしてナユタのファンタズマ

 

 まるで無関係とは思えないようなめぐりあわせに、アヤは逃げるように視線を墓標から、遠くの街並みに移した。

 この世界の何処かに――ナユタを騙る者がいる。




 面倒が嫌いそうな名前の蒼いアストレイは何者なのか、そしてソードマンを倒すことが出来るのか。

 因みにファントムの頭文字はPだけど、ファンタズマは頭文字がF。
 あーもう紛らわしい……



 あとネネコの元ネタはビームサーベルで焼かれた水着(はだか)のお姉さんから。


 次回 STAGE26『の亡霊』


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