鋼鉄の魂 (雑草弁士)
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作品資料
バトルメック資料


以前に、物語に登場するバトルメック他について、纏めた方が良いとのご意見を頂きましたので、こちらに置かせていただきます。なお、これらの説明文に関しましては、Arcadia様での読者である雷帝様のご厚意により、使用しても良いと仰っていただきましたので、若干の加筆などを加えて使用させていただきました。



・バトルメック

全高十数メートルの巨大ロボット。

整列結晶鋼の装甲板に身を包み、核融合炉を動力源とする。

製造には高度な技術力が必要とされ、科学技術や文明が衰退した3025年代前後においては一部の遺された自動工場や特別な研究機関などを除き、再生産は難しい。

そのパイロットはメック戦士と呼ばれ、貴重なバトルメックを一族で保有していることから、エリートとして様々な社会的優遇措置を受けている。

なお、戦闘他の理由でバトルメックを失ったメック戦士の末路は悲惨である。

彼らは「失機者」と呼ばれ、エリート階級として受けていた様々な特権も失い、軽蔑されて生きることになる。

失機者たちは、何らかの方法でバトルメックを手に入れ、メック戦士の座を取り戻すことに執着する様になるのが大半である。

 

・マローダー

代表的な75tメック。

主人公キースが敵から奪還し、新たな自分の乗機とした機体でもある。

粒子ビーム砲と中口径レーザーを両手に各1門、計2門有する他、オートキャノンを搭載した砲撃型の機体。

直立したカニのような少々人型と異なる異形を持つメックだが優秀な機体。

通信機能が充実しており、中隊指揮に向くと言う裏設定がある。

 

・サンダーボルト

強力な65tメックで、現時点でのマテュー少尉の乗機でもある。

その最大の特徴はこの重量限界まで張られた装甲で、マローダーを上回る重装甲メック。

武装は大口径レーザー、15連長距離ミサイルの他、中口径レーザーを三門、二連短距離ミサイルにマシンガンと遠近双方に活躍出来る武装を持つ。

遠近で武装を使い分ければ過熱もしづらく、初心者でも安心して使える機体。味方にいれば頼もしいが、敵にいると絶望的な壁となる事も。

 

・ウォーハンマー

エリーザ軍曹の乗機。

重武装の70tメック。

とにかく武装に偏っており、粒子ビーム砲に中口径レーザー、小口径レーザー、マシンガンを各2門搭載、更に6連短距離ミサイルまで搭載している。

粒子ビーム砲を除く武装は胴体に装備されており、この胴装備武器の一斉発射はブレストファイアーと呼称される。

腕部は粒子ビーム砲と一体化し、棍棒のようになっており、マローダーと同じく手を持たない機体でもある。

最大の欠点は装甲が薄めな事。

 

・フェニックスホーク

45tの中量級メックの傑作機。

このクラスとしては最高クラスの装甲と機動力を持ち、武装としても大口径レーザーを1門、中口径レーザーとマシンガンを各二門保有する。

欠点としては熱が溜まりやすい事。追加で放熱器を装備していない為、ジャンプして全武器を発射した場合、一気に射撃や移動力にマイナス修正が来てしまう。

また、装甲が厚めと言ってもあくまでこのクラスとしては、である事と、腕に全武装が集中している為に比較的破壊されやすい腕が破壊されると全武装を失ってしまう点も欠点と言えるかもしれない。

が、間違いなくこのクラスとしては最高クラスのメックの一つ。

ただし、その分改装を考えたりする弄り甲斐は薄い。

 

・ライフルマン

アンドリュー軍曹の乗機。

支援砲撃型の60tメック。

とにかく装甲が薄い。

何せ、45tのフェニックスホークより薄い。

そのリソースを武装に突っ込んでおり、オートキャノン、大口径レーザー砲、中口径レーザーを各二門搭載している。

しかし、追加放熱器をこちらも一切搭載していない為、走行しながら全武器を発射するといきなりエンジン停止の危機に陥る為、全火器の同時発射は余程でない限り避けるのが無難。

頭部に大型レーダーを搭載しており、対空戦闘能力に長けた機体という設定がある。

してみるとこの機体、他のメックを戦車とするなら対空戦車として開発されたものなのかもしれない。

 

・グリフィン

主人公キースの初期乗機であり、現在は予備機になっている55tメック。

粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルを搭載した遠距離支援メック。

機動力もフェニックスホークには劣るものの優秀で、装甲もこのクラスとしては薄くはない。

欠点としては武装がどちらも近接戦闘では命中に修正が入って命中しにくくなる点。

作りたての一般的なメック戦士ではその修正は極めて厳しい。

 

・シャドウホーク

55tの中量級メック。

その最大の特徴は何と言ってもその中途半端さ。

何せ、ジャンプも一般的な同クラス機の半分で、火力もしょぼいものが多い。

最大の熱が発生するように行動しても、一切過熱しない為、別名初心者向けメックとも言う。

武装として中口径のオートキャノン、5連短距離ミサイル、中口径レーザー、2連短距離ミサイルを持つ。

 

・クルセイダー

ミサイルの塊とも言うべき65tメック。

15連長距離ミサイルと6連短距離ミサイル、中口径レーザーとマシンガンを各2門搭載する。

遠近両方に力を発揮するメックなのだが……如何せん弾薬の搭載量が少ない。

この為、戦闘が長引いた場合、遠距離火力が尽きる可能性が高く、折角視界を取れる高地を押さえたのに、降りてこないといけなくなったりする。

 

・ウルバリーン

55tの中量級メック。

遠距離火力が火力としてはイマイチ頼りない中口径のオートキャノン一門である為、グリフィンを遠距離支援機、こちらを近接戦闘機と見る向きが多い。

6連短距離ミサイルと中口径レーザーを武装として保有し、特徴として中口径レーザー砲を頭部の回転砲座に持つ為、背後にも撃てる、らしい。

 

・オリオン

強力無比な75tメック。

サンダーボルトをも上回る重装甲を持つ。

これまでに上げてきた機体のオートキャノンを上回る大口径のオートキャノンを保有し、他に15連長距離ミサイルに4連短距離ミサイル、中口径レーザー2門を有する。

欠点としては実弾兵器が主力の機体いずれにも言える事だが継続戦闘能力に欠ける事。

この為、キースのような最前線に自身も出て戦いながら指揮を執るようなタイプの場合、長時間前線にいる事が困難になる為相性が悪いとも言える。

 

・エンフォーサー

恒星連邦特製メックである50tメック。

継承王家各国にはそれぞれの領地でしか作っていないメック(他の領地に生産可能な工場のない機体)が存在する。

エンフォーサーはその一つ。

このクラスとしては機動力に欠けていると言わざるをえない機体で、歩行・走行時の速度は重量級メックと同程度でしかなく、僅かにジャンプジェットを搭載している分だけ森林地帯などでの移動が楽と言える。

だがオリオンと同じ大口径オートキャノンと大口径レーザー、小口径レーザーを有し、また大口径オートキャノン/レーザーはいずれも最低射程を有さない為に遠近両方で戦闘可能な機体。また、装甲もこのクラスとしては厚めでフェニックスホークを上回る。

特殊なメック戦士の脱出機構を持ち、コクピットがそのまま小型航空機として安全圏へ離脱する、というものになっている。

 

・アーチャー

70t級のバトルメック。

サンダーボルトと同等の装甲を持つ支援機である。

その特徴は両肩に搭載された2門の20連長距離ミサイルにある。

この他には4門の中口径レーザーのみ、と遠方火力は完全にミサイルに頼っている。

長距離ミサイルはバトルメックの武器としては射程が長く、この機体に後方に陣取られるとミサイルの土砂降りが降って来る事になるので厄介極まりない。

しかし、粒子ビーム砲以上に最低射程が厳しい兵装でもあるのでこの機体相手の場合はむしろ積極的に内懐に飛ぶ込むべきだろう。

接近してしまえば、前に2門、後方に2門搭載された中口径レーザーのみが主武装となるのだから。

とはいえ、70tの重量が生む格闘戦の破壊力を忘れたら痛い目を見る事になるだろうが。

 

・ドラゴン

連邦のエンフォーサー同様、ドラコ連合の特製メック。

この為、基本ドラコ連合側にしか出てこない。

ジャンプジェットこそ装備していないがなかなか高機動。

武装は中口径オートキャノン、10連長距離ミサイルランチャーに中口径レーザー2門と決定打に欠ける印象。

重量は60t。

 

・ワスプ

20tの軽量級メックを代表する、非常に大量に生産された(そして3025年代でもいまだ生産されているらしい)偵察用バトルメック。

6基のジャンプジェットを有し、フェニックスホークと同等の機動力を持つ。

反面、武装は中口径レーザー1門と2連短距離ミサイルが1門と貧弱で、装甲も薄いの一言。

同じ軽メックが相手ならばともかく、中量級以上のメック相手には戦闘では役に立たないと言って良いだろう。

 

・スティンガー

ワスプ同様20tメックを代表する機種で、これも大量に生産され、かつ3025年代でもいまだ生産が続いているらしい軽量級偵察用バトルメック。

その能力はワスプとほとんど同等で、高い機動性を持つジャンプ可能な機体。

フェニックスホーク開発のベース機になったと言う話もあるが、逆にフェニックスホークの開発年代がスティンガーより前になっている資料もあるらしく、バトルテック世界の設定を行った米国においても混乱が見られる。

武装は中口径レーザー1門とマシンガン2門と、極めて貧弱で、装甲も極めて薄い。

また、操縦席が非常に狭いと言う設定もあり、長時間乗り続けると疲労で様々な判定にペナルティが来るほどらしい。

 

・ローカスト

20tのバトルメックで、首の無いダチョウの様な姿をした異形の機体。

その移動力は速いの一言。

ただしジャンプジェットを装備しておらず、わずかな地形の高低などの変化で、その自慢の機動力は削がれてしまう、平地用メック。

火力はともかく、装甲厚は同クラスのワスプ、スティンガーよりはかなりマシである。

武装は中口径レーザー1門にマシンガン2門。

 

・ジャベリン

このクラスでは強烈な破壊力を持つ、30tの高機動バトルメック。

機動力はワスプ、スティンガーと遜色なく、接近されると2門の6連短距離ミサイルが猛威を振るう。

ただし装甲が薄いのは仕方ないと言える。

 

・ヴァルキリー

これも恒星連邦特製メックである、30tのメック。

第2中隊を率いるヒューバート大尉が、フリーの傭兵時代に用いていた機種。

機動力はより重いグリフィンやウルバリーン並だが、ジャンプも可能だし、まあ優秀な部類に入る。

装甲はこのクラスにしては厚い方だが、それでもやはり軽量級でしかないため、耐久性は乏しい。

搭載火器は10連長距離ミサイルと中口径レーザーをそれぞれ1門と、少な目に纏められている。

 

・ジェンナー

35tの軽量級バトルメック。

ローカストに若干劣る走行移動力と、グリフィンやウルバリーンと同等のジャンプ移動力を持つ。

装甲は薄いが、武装は4連短距離ミサイル1門、中口径レーザー4門とこのクラスでは過剰なほどである。

 

・オストスカウト

35tの軽量級バトルメック。

ローカストと同等の走行移動力と、最高レベルのジャンプ移動力を持った、非常に優秀な偵察機。

ただし装甲と火力は頼りなく、武装は中口径レーザー1門きりである。

強力なセンサーを搭載しているという裏設定があり、隠れている車輛やバトルメックなどを発見することすらも可能。

 

・パンサー

35tの軽量級バトルメックで、ドラコ連合の特製メック。

機動力はエンフォーサーとまったく同じで、同クラスでは最低レベルである。

ジャンプジェットがあるのが救いか。

しかし攻撃力は高く、4連短距離ミサイルと粒子ビーム砲を各々1門装備。

装甲も同クラス最高を誇り、軽支援メックとして運用されると、なかなかうざったい機体。

 

・アサッシン

40tの中量級バトルメック。

傑作機フェニックスホークを超える機動力を持つが、そのしわ寄せは武器と装甲に来ており、下手な軽量級メック程度になっている。

武装は5連長距離ミサイル1門、2連短距離ミサイル1門、中口径レーザー1門。

 

・シカダ

40tの中量級バトルメックだが、はっきり言ってしまって、「重いローカスト」でしかない。

装甲もローカストと同程度で、薄い以外の言いようが無い。

武装は中口径レーザー2門と小口径レーザー1門。

 

・クリント

フェニックスホークと同等の機動性を誇る、40tのバトルメック。

装甲は薄く軽量級並で、使い道に困るメック。

武装は中口径オートキャノン1門に中口径レーザー2門。

裏設定(レベル3ルール)では、高い精度の射撃管制システムを積んでおり、射撃の命中率に高いボーナスがあるらしい。

しかし反面、月々の維持費が+1000Cビルされてしまうと言う話もある。

 

・ウィットワース

機動性が低い、40tメック。

これだけ聞くと使えない様に思われるが、そんなことはない。

装甲もフェニックスホーク程度はあり、なおかつ優秀な遠距離攻撃武器を持つので、支援メックに徹すれば充分に使えるのだ。

搭載火器は、10連長距離ミサイルが2門、中口径レーザーが3門である。

 

・ハンチバック

かなり強力な、50tのバトルメック。

装甲もこのクラスでは厚く、格上であるウォーハンマーと同程度はある。

武装も強力で、最大口径のオートキャノン1門と、中口径レーザー2門、小口径レーザー1門を持つ。

ただしこれらの武器は、射程距離が短く、合わせて機体自体の足も遅いため、このメックが前線に辿り着いた時には、戦闘の片が既に付いた後だったと言う事も。

 

・デルヴィッシュ

グリフィンやウルバリーンと同等の機動力と、ライフルマンと同クラスの薄い装甲を持つ、55tの中量級バトルメック。

別名「貧者のアーチャー」であり、支援に力を発揮するメック。

武装は10連長距離ミサイル2門、中口径レーザー2門、2連短距離ミサイル2門。

 

・オストロック

オストソルの兄弟機とも言える、60tメック。

装甲はこのクラスでは若干薄めだが、まだ充分なレベル。

火力も放熱能力も高く、熱管理はやり易い。

武装は大口径レーザー2門、中口径レーザー2門、4連短距離ミサイル1門である。

 

・オストソル

オストロックの兄弟機とも言える、60tメック。

この機体の装甲も、このクラスでは若干薄めだが、まだ充分なレベル。

火力も放熱能力も高く、熱管理はやり易い。

武装は大口径レーザー2門、中口径レーザー4門(内2門背面)である。

 

・カタパルト

65tメックで、ウォーハンマーと同等の装甲と若干のジャンプ能力を持つ。

運用法はクルセイダーに近いが、欠点もクルセイダーに近く、主兵装の長距離ミサイルの弾薬が少ない。

搭載火器は、15連長距離ミサイルが2門、中口径レーザーが4門である。

 

・ヴィクター

80tの強襲級バトルメック。

この大重量機としては珍しく、ジャンプジェットを搭載しており、若干のジャンプ移動力を持つ。

この機体を特徴付けるのは、右腕に搭載された最大口径のオートキャノンであり、右手が無い機種である。

この他にこの機体には、4連短距離ミサイル1門、中口径レーザー2門が搭載されている。

 

・バトルマスター

85tの強襲級バトルメック。

このメックで何よりも心強いのは、その圧倒的な装甲であり、敵からすればサンダーボルトをも凌ぐ絶望的な壁にしか見えないだろう。

武装は粒子ビーム砲1門、6連短距離ミサイル1門、中口径レーザー6門(内2門背面)で、明らかに近距離でこそ威力を発揮するメックである。

 

・サイクロプス

90tの強襲メック。

強襲級とは言えども、装甲は格下のウォーハンマーと同程度しか無く、本来突っ込んで行く仕様のバトルメックではない。

では何のためのメックかと言うと、連隊指揮用の指揮官機なのである。

この機体に搭載されているコンピュータは戦闘指揮用として非常に強力である。

武装は10連長距離ミサイル1門、最大口径オートキャノン1門、4連短距離ミサイル1門、中口径レーザー2門となっている。

 

・マッキー

史上はじめてのバトルメックで、重量は100t。

ただし色々不合理な造りや、低い技術で造られたパーツなどを使用しているため、重量に相応しい戦闘能力を持っているとは言えない。

この様な機種をプリミティブメックと呼び、初期に造られていた原始的バトルメックの1種である。

しかし重量から来る格闘能力は、さすが100tメックと言えるだけの物を持っている。

武装は粒子ビーム砲1門、大口径オートキャノン1門、中口径レーザー2門。

マッキーには試作機があり、その武装は多少異なっている。

試作機の武装は粒子ビーム砲1門、大口径レーザー1門、4連短距離ミサイル1門。

 

・エクスターミネーター

主人公キースの父親、ウォルト・ハワード大尉が愛用していた65tバトルメック。

機動性がこの重量の機体にしては異常なほど高く、55t級のグリフィンやウルバリーンと同等であり、150mのジャンプ能力も備えている。

ただしそのしわ寄せは装甲や武装などに来ており、火力も防御力も重量に比して若干物足りなく、放熱能力も低め。

しかしあくまでそれは「重量に比して」というだけであり、装甲は70t級ウォーハンマー以上、武装も10連長距離ミサイル1門、中口径レーザー4門、小口径レーザー1門、マシンガン1門と、高機動メックとして見た場合は充分な物を備えている。

ちなみに通信能力が高く、マローダーやフェニックスホークと並んで、中隊規模の部隊指揮に向いていると言う設定がある。

 

・ゼウス

ライラ共和国の特製メック。

80tと特製メックの中では最も重い。

15連長距離ミサイルに中口径オートキャノン、大口径レーザーに中口径レーザーを2門装備するが、技術衰退で完成形ではないらしく、後の技術復興時には中口径オートキャノンを粒子ビーム砲に換装した機体が登場している。

 

・ヴィンディケイター

リャオ家の特製メックで45t。

重量は45tと特製メック中最軽量で、機動性もこのクラスとしてはとても低い。

反面、装甲はこのクラス最大まで張られており、武装も粒子ビーム砲に5連長距離ミサイル、中口径レーザー砲に小口径レーザー砲を搭載しており、国力では五王国最弱のカペラ大連合国では主力を張らねばならない故だと思われる。

 

・スパイダー

30tの軽量級偵察バトルメック。

オストスカウトと同等の非常識な機動力を持ち、火力もこのクラスからすればそこそこ。

名前は「蜘蛛」であるが、蝶の様に舞い、蜂の様に刺す戦術がとれる。

 

・コマンドウ

ライラ共和国の特製メック。

特製メック最軽量の25t。

その重量から分かるように軽量メックに属し(日本版最軽量メックは20t)、機動性はそれなりに高いのだがジャンプジェットを搭載していないのが辛い所か?

6連短距離ミサイルと4連短距離ミサイルを有し、一撃の破壊力はある。

単独で行動していると、センサーに発見され難い特殊能力があるらしい。

 

・ヘルメスⅡ

40tの自由世界同盟マーリック家の特製メック

こちらもコマンドゥ同様、ジャンプジェットを搭載していないので若干機動性に劣る

中口径オートキャノンと中口径レーザーを持つ他、火炎放射器を持つ

尚、火炎放射器は使い方次第ではとっても怖く、特に戦車にとっては致命的な武器となりかねない

強力な通信システムを持ち、遺失技術の「ガーディアンECM」などを貫いて通信が可能だったり、オストスカウトなどのセンサーに引っ掛からずに通信を行えたりすると言う設定。

 

・アーバンメック

極めて低い機動力と、このクラスにしてはやや厚めな装甲を持つ、どうにも扱いに困る30tの軽量級メック。

一応最低限レベルのジャンプ移動力を持っているのが救いで、優位地形の確保はなんとかできなくもない。

一応火力は、大口径オートキャノン1門と小口径レーザー1門と、機体の重量にしてみれば充分な物を持っている。

おそらく都市防衛用戦力として整備された、市街戦に特化した機種。

普通のメックよりも、随分と背が低いらしい。

 

・ファイアスターター

35tの軽量級バトルメックで、ワスプやスティンガー、フェニックスホークと同等の機動力を持つ。

装甲はこのクラスからすれば並……つまりは重量に似つかわしく、薄いと言う事。

火器は中口径レーザー2門、マシンガン2門、そして機体名に相応しく火炎放射器が4門(内1門背面)も搭載されている。

追加放熱器が無いので、全開発射は莫大な加熱をもたらす。

 

・バルカン

40tの中量級メックで、フェニックスホークと同等の機動力を持つ。

だが装甲は軽メック並で、いかにも頼りない。

武装は小口径オートキャノン、中口径レーザー、火炎放射器、マシンガンと、このクラスにしては若干頼りない感じを受ける。

火炎放射器を搭載した高機動メックであるため、対車両用としては活躍が見込めるだろうか。

だが火炎放射器を搭載した、もっとお手軽なメックが他にも存在しているため、あまり出番は無いかも知れない。

 

・ブラックジャック

45tの中量級バトルメック。

装甲厚はこのクラスとしては充分なだけあるが、機動力が重量級メック並に低い。

ジャンプジェットを搭載しているのが、救いか。

これにより、優位地形を確保して支援機として働く事ならできそうである。

だが残念ながら、遠距離火器が力不足。

搭載火器は、小口径オートキャノン2門、中口径レーザー4門。

小口径オートキャノンは射程は長いのだが、威力的にいかにも頼りないのだ。

 

・ハチェットマン

45tの中量級メックではあるが、重量級程度の機動力しかない。

そのくせ装甲はこのクラスからすると、妙に頼りない。

日本版メックウォリアーRPGやテクニカルリードアウト3025(未訳)のデータには載っていないが、イラストではハチェットを装備している。

現在の米国版のデータでは、ハチェットを装備していないタイプはHCT-3T型とされている様で、通常型のHCT-3Fは追加放熱器3基を削除してハチェットを標準装備している模様。

火器は大口径オートキャノンと中口径レーザー2門。

量産性が物凄いらしく、数で勝負する機体。

また頭部が丸ごと脱出用小型機になるらしく、メック戦士や貴重な頭部部品を安全に脱出させられる。

であるため、機体を失ったメック戦士が戻ってきたら、新たなハチェットマンを与えて再出撃させられる。

 

・センチュリオン

50tの中量級バトルメック。

重量級並の機動力しかない上に、ジャンプ移動力を持たない。

代わりと言ってはなんだが、装甲はある程度厚い。

搭載火器は、大口径オートキャノンと10連長距離ミサイル、中口径レーザー2門(内1門背面)。

追加放熱器を持たないが、さほど大量に熱を発生する機体では無いので、全力走行して全開射撃でもしなければ大丈夫であろう。

ちなみに気圏戦闘機にもセンチュリオンと言う機種があるため、混同しないように注意。

 

・トレビュシェット

50tの中量級メックだが、装甲は45tのフェニックスホークより薄い。

60tライフルマンと同じと言えばわかってもらえるだろうか。

機動力はそこそこあるのだが、ジャンプ移動力を持たない。

武装から言って支援メックであるが、弾薬が少ないのが残念なところ。

15連長距離ミサイルを2門、中口径レーザーを3門装備している。

 

・スコーピオン

55tの中量級で、四脚型と言う珍しいバトルメック。

四脚型なので、腕の代わりに前脚がついている。

装甲はこのクラスからすると薄いが、機動力はそこそこのレベル。

ただしジャンプ移動力は無い。

武装は粒子ビーム砲が1門と、6連短距離ミサイルが一門と言う様に、威力がある物を少な目に搭載している。

 

・クイックドロウ

60tの重量を持つ重量級メック……のはずなのだが、装甲が45tフェニックスホーク並に薄い。

なおかつ、55tウルバリーンやグリフィンと同等の機動性を持っており、ジャンプ移動力まで兼ね備えている。

火力は10連長距離ミサイル、4連短距離ミサイル、中口径レーザー4門(内2門背面)と、60tと言う重量から見ると若干物足りないか、そこそこと見るか、難しいところ。

運用法は、中量級メックと同様の使い方をするしか無いだろう。

 

・ジャガーメック

ライフルマンの改良型であるらしい、65tの重量級メック。

ただし火力は減衰、装甲は更に薄くなり、運用は更に難しくなっており、困った物である。

火器は小口径オートキャノン2門、中口径オートキャノン2門、中口径レーザー2門。

実弾兵器が増えた分、弾薬爆発の危険も増えた。

困った物である。

ただし単機ではなく、他の機種の護衛機と組み合わせて使うと化ける……と言う噂も聞く。

 

・グラスホッパー

70tの、空飛ぶ重量級メック。

装甲は65tサンダーボルトや70tアーチャーと同じだけ積んでおり、極めて打たれ強い。

放熱器も大量に搭載しており、熱管理も容易。

ただし遠距離火力が無いわけでは無いが、乏しい。

武装は5連長距離ミサイル1門、大口径レーザー1門、中口径レーザー4門と、比較的中~近距離向けのメックである。

 

・オウサム

装甲の化け物と言える、80t強襲メック。

その装甲は、85tバトルマスターよりも強靭である。

武装は粒子ビーム砲3門、小口径レーザー1門と見た目すっきり、実態は大火力でまとめられている。

放熱能力も高く、粒子ビーム砲を乱射しながら前進してくるその姿に、敵兵たちは「Awesome!Awesome!(恐ろしい!恐ろしい!)」と叫んだらしい。

ただし足が絶望的に遅いため、他機種と隊を組ませずに、可能であればこの機体だけで1個小隊を形成すべき。

 

・チャージャー

80tの強襲メックであるのに、中量級並の機動力を確保した野心作メック。

しかし装甲もまた中量級~薄い重量級レベルであり、あまつさえ火器は小口径レーザー5門のみと、強襲級にしてはあまりに寂しい。

格闘戦に力を発揮する、と言うよりは格闘戦にしか使えない。

それなのにレーザーの内2門が腕に取り付けられており、パンチ時にはそのレーザーが使えなくなる。

何か色々と間違っているとしか思えないメックである。

 

・ゴリアテ

80tの強襲型。

これも55tスコーピオン同様に、四脚メックである。

バトルマスターに匹敵する装甲厚を持ち、優秀な長距離火力を保持している。

だが近接火力に欠け、強襲メックと言うよりは支援機的な運用が適している。

装備は粒子ビーム砲1門、10連長距離ミサイル2門、そして申し訳程度の近接火力としてマシンガンが2門搭載されている。

 

・ストーカー

85tの強襲メック。

やや火力偏重ぎみに見える機体だが、充分な装甲と放熱能力を保持している、優秀なメックである。

ただし足はオウサム並に遅い、と言うよりも強襲型ならばこれが普通であろう。

火器は10連長距離ミサイル2門、大口径レーザー2門、中口径レーザー4門、6連短距離ミサイル2門と圧倒的。

だが左右胴体や左右腕にまで弾薬を積んでいるため、ちょっとしたミスやちょっとした事故で爆散しかねない恐ろしさがある。

 

・95tバンシー

ちょっとばかり問題のある設計ではないのかと言いたくなる、95tの強襲型バトルメック。

機動性が並の重量級レベルを保っており、更に装甲も80tオウサムと同等である。

ここまでならば特に良さそうであるが、問題は搭載火器にある。

95tの重量を持っているのに、粒子ビーム砲1門、中口径オートキャノン1門、小口径レーザー1門……これで終わりである。

これであるならば、機動力を削って武装を充実させた方が、堅実な設計であっただろう。

なまじ強力なエンジンを搭載したがために、強襲型の最大の特徴である火力を殺すことになってしまったメックである。

まあ、80tチャージャーよりかはマシであるかもしれないが。

 

・アトラス

強力無比な、最大重量の強襲型100tメックがこの機種である。

まあマッキーも100tではあったが、あれとは比べ物にならない。

髑髏の様な形状の頭部は、見る者に威圧感を与える。

装甲厚も85tバトルマスターの1.3倍を誇り、強靭なことこの上ない。

機動力が低いのは当たり前だが、この装甲の前ではそんな事は気にならない。

その武装も強力で、最大口径オートキャノン1門、20連長距離ミサイル1門、中口径レーザー4門(内2門背面)、6連短距離ミサイル1門を持つ。

おまけに裏設定で、深宇宙通信アンテナが装備されており、宇宙船と単独で通信が可能であったりする。

もう一つ付け加えて言うとすれば、排気口がひどく臭いらしい。

 

・マーキュリー

20tの軽量級偵察メック。

能力的には20tローカストの親戚にしか見えない。

機動力も装甲厚も、ほぼ同じなのである。

武装は小口径レーザー2門、中口径レーザー2門と、このクラスでは充分。

 

・ソーン

20tの軽量級バトルメック。

偵察機ではあるが、このクラスでは充分な破壊力を持ち、装甲も20tローカスト並と軽量級にしてはマシな部類。

ただし代償としてなのか、ジャンプ移動力を持たず、飛ばないスティンガーやワスプと言ったイメージがある。

火器は中口径レーザー2門と、5連長距離ミサイル1門。

 

・マングース

25tの軽量級偵察機。

機動力は20tローカスト並、装甲はその1~2段格上、火力はこのクラスにしては充実と言うなかなかのメック。

ただしジャンプ移動力は無いし、所詮は軽量級ではあるのだが。

火力は中口径レーザー3門に小口径レーザー。

 

・ヘルメス

30tの偵察用軽量級バトルメック。

機動力は20tローカストを超え、ジャンプ移動力こそ無いが平地用の偵察機としては最良だろう。

武装は中口径レーザー2門に火炎放射器と、このクラスではそこそこ。

 

・ハッサー

30tの軽量級メック。

30tヘルメスとまったく同等の機動力を持つ。

そしてあろうことか、大口径レーザーを1門のみ装備している。

運用としては、圧倒的機動力で大口径レーザーによる先制の一撃を行い、「運が良ければ」逃げ去ると言う物だろう。

何故「運が良ければ」なのかと言うと、紙装甲だからである。

もし一撃でもくらえば、撃墜は必至だ。

 

・ヘルメスⅢ

40tの中量級バトルメック。

素の能力的にはヘルメスⅡとほぼ変わらない。

ただし武装は大きく違い、大口径レーザー2門となっている。

また追加放熱器を1基装備している。

特殊能力があるかどうかは不明。

ヘルメスⅡのバリエーションであると書かれている資料もある。

 

・センチネル

40tの中量級メック。

装甲はこのクラスにしては薄いが、機動力は偵察機並にある。

火器は、小口径レーザー1門、2連短距離ミサイル1門、中口径オートキャノン1門と、やや破壊力に欠ける。

 

・ワイバーン

45tの中量級メックで、武装などから見るに万能型を目指した物と見受けられる。

機動力はジャンプジェットを装備してはいるものの、重量級メック程度。

ただし装甲はこのクラスからすれば厚め。

武装は小口径レーザー2門、大口径レーザー1門、10連長距離ミサイル1門、6連短距離ミサイル1門と、遠近両方に対応できる。

 

・クラブ

50tの汎用型中量級バトルメック。

ジャンプ移動力は持っていないが、機動性はそこそこ。

装甲もこのクラスの機体としては充分。

火力も小口径レーザー1門、中口径レーザー1門、大口径レーザー2門と充実。

その火力を活かすための放熱能力も、充分に持っている。

 

・キンタロー

55tの主戦機タイプ中量級メック。

ジャンプ能力こそ持たないが、そこそこの機動性を持つ。

装甲はなんと70tウォーハンマーよりも厚い。

武装は中口径レーザー2門、5連長距離ミサイル1門、6連短距離ミサイル3門と、明らかに近距離を意識した装備になっている。

ただし追加放熱器を1基も持たないため、運用には注意と慣れが必要。

 

・チャンピオン

60tの重量級バトルメック。

ただし装甲は45tフェニックスホーク並に薄い。

機動力は60tドラゴンと同等。

搭載火器は、小口径レーザー2門、中口径レーザー2門、6連短距離ミサイル1門、大口径オートキャノン1門。

追加放熱器が無い機体であるため、少々運用に慣れが必要かと思われる。

 

・グランドドラゴン

60tの重量級バトルメックで、60tドラゴンの改良機らしい。

中口径オートキャノンとその弾薬を撤去し、中口径レーザー1門、粒子ビーム砲1門、追加放熱器2基に換装している。

これにより、攻撃力と継戦能力が向上した。

 

・ランスロット

60tの重量級メック。

機動力は並の重量級、装甲厚は55tウルバリーンや55tグリフィン、55tシャドウホークと同等。

ただし操縦席の入っている頭部の装甲は、何と言うか致命的に薄い。

60tライフルマンほどでは無いにせよ。

武装は中口径レーザー1門、大口径レーザー2門、粒子ビーム砲1門と、かなり強力。

放熱能力も高いが、一斉射撃を行うと、それでも放熱しきれないほどの熱を発する。

 

・ボンバディアー

65tの重量級支援メック。

機動力は並、装甲は厚く、一応申し訳程度の近接火力も保持。

ただし弾薬が致命的に少ない。

どれだけ少ないかと言うと、70tアーチャーの半分。

更に言えば追加放熱器も無いために、放熱に問題がある。

おまけに弾薬があちこちにあり、あまつさえ腕にも弾薬があるため、爆散し易い機体と言える。

武装は20連長距離ミサイル2門、4連短距離ミサイル1門、マシンガン1門。

 

・ギロチン

70tの重量級主戦機。

機動力は普通の重量級メック+α。

+αの部分は、この機体が何を考えたかジャンプジェットを積んでいるからである。

装甲は65tクルセイダーとどっこいどっこい。

装備は中口径レーザー4門、大口径レーザー1門、6連短距離ミサイル1門。

更に大量の追加放熱器を載せているため、過熱の心配はあまり無い。

 

・ブラックナイト

75tの重量級バトルメック。

ほとんど遊びの無い設計のメックである。

機動力は合格点、装甲は充分、放熱能力も高いと突っ込みどころが無い優秀過ぎる機体。

武装は小口径レーザー1門、中口径レーザー4門、大口径レーザー2門、粒子ビーム砲1門と、全てエネルギー兵器でまとめられている。

おまけに通信システムが優秀なので、中隊指揮に向いていると言う裏設定まである。

あまりに優秀すぎて面白みがない上にバランスブレイカーであるため、日本版ルールブックからは除かれたのではないか、とまで言われているほどである。

 

・フラッシュマン

往年の戦隊ヒーロー……ではなく、75tの重量級主戦機。

充分並の機動力、超重装甲、莫大な放熱能力、エネルギー兵器のみ装備と、かなり強いメックである。

装備は中口径レーザー5門(内1門背面)、大口径レーザー2門、火炎放射器1門。

乱戦の中に飛び込んでいくタイプのバトルメックだ。

 

・サグ

80t強襲メック。

充分な機動力、分厚い装甲、そこそこ高い火力と高い放熱能力を併せ持つ、強力なバトルメック。

武装は粒子ビーム砲2門に、4連短距離ミサイル2門。

少し装備が地味な気もするが、実際充分だろう。

 

・クロケット

85tの強襲型バトルメック。

装甲は同クラスの85tバトルマスターが目じゃないくらいに厚い。

機動力は80tオウサムや85tストーカーと同程度。

ただし何を考えたのか、ジャンプジェットを3基搭載している。

武装は小口径レーザー2門、大口径レーザー2門、6連短距離ミサイル2門、大口径オートキャノン1門となっており、若干放熱能力に余裕が無い。

 

・ハイランダー

90tの強襲メック。

この機体も前述の85tクロケット同様に、何を考えたのか3基のジャンプジェットを搭載している。

装甲は限界ぎりぎりまで積んでおり、容易には撃ち抜けない。

装備している火器は、中口径レーザー2門、20連長距離ミサイル1門、6連短距離ミサイル1門、大口径オートキャノン1門。

放熱能力は、やや低めである。

 

・キングクラブ

100tアトラスに並ぶ、100tの強襲型メック。

この機体を特徴づけているのは、両腕に装備された最大口径のオートキャノン2門である。

他に大口径レーザー1門や15連長距離ミサイル1門などもあるが、オマケに過ぎない。

両手から撃たれる2発の最大口径オートキャノンの砲弾は、(当たり所にもよるが)どの様なメックでも一撃必倒である。

ちなみに機動力は100tアトラスと同等、装甲は85tバトルマスターと100tアトラスの間ぐらいか。

 

・(オマケ)マックス

グループSNEが「バトルテックがよくわかる本」に掲載した、100tのサンプル機体。

当然ながら強襲型メックである。

ほとんど遊び無しに突き詰めて設計されているため、極めて強力無比。

100tアトラスと同等の装甲に同等の機動性を持つ。

あげくに全武装をエネルギー兵器で統一しているので、ランニングコストも安い上に継戦能力も阿呆の様に高い。

その武装だが、粒子ビーム砲2門、大口径レーザー1門、中口径レーザー5門、小口径レーザー6門と圧倒的火力。

あえて欠点を探すと言うなら、あら捜しの類になってしまうが、エネルギー兵器を無効化されると無力化されてしまう点だろうか。

 

 

・K(クリタ家)型

ここから少し形状が異なる。

K型と呼称されるのはドラコ連合クリタ王家によって改装された機体のシリーズである。

基本、各王家の頭文字を取って呼称される。

恒星連邦はダヴィオン王家である為、D型。

ライラ共和国はシュタイナー家なのでS型。

以下、自由世界同盟盟主マーリック家の場合はM型。

カペラのリャオ家ならL型。

そして、ドラコ連合はクリタ家に統治されている為、当然K型である。

それらはどんな機体なのだろうか?

 

・K型フェニックスホーク

ジャンプジェットとマシンガン、その弾薬を取っ払い、その代わりに更なる装甲と小口径レーザー砲の増設、放熱能力の増加である。

機動性を落としてでも、落としづらく落しやすい機体にした、とも言える。

 

・K型ウルバリーン

オートキャノンを大口径レーザー、中口径レーザー、小口径レーザーへと換装。そしてやっぱりジャンプジェットは取り外し。

 

・K型シャドウホーク

オートキャノンを粒子ビーム砲に換装。

K型なのに、ジャンプジェットは搭載したままである。

 

・K型ワスプ

2連短距離ミサイルとその弾薬を取り外し、装甲を若干強化、マシンガン1門とその弾薬を搭載、K型のくせにジャンプジェットは搭載したままである。

 

・K型アーチャー

装甲を若干削り(それでもまだかなりの重装甲)、武装を全て変更。

15連長距離ミサイル2基と、大口径レーザー2門を搭載し、更に放熱器を2つ追加して若干熱が溜まりにくくなっている。

元からジャンプジェットは載せていない。

 

・K型スパイダー

中口径レーザー1門とジャンプジェット2基を取り外し、マシンガン2門とその弾薬を搭載している。

ジャンプジェット2基を取り外したとは言えど、元々の機動力が非常識であるため、まだフェニックスホーク並のジャンプ移動力を保持している。

マシンガンを搭載したのは、おそらくは対歩兵用としての運用を見込んだためであろう。

 

・K型トレビュシェット

武装を全て撤去し、粒子ビーム砲1門、2連短距離ミサイル1門、中口径オートキャノン1門と放熱器1基に換装している。

支援メック的な改造が施されている。

 

・K型クルセイダー

15連長距離ミサイル2門とマシンガン2門を、10連長距離ミサイル2門と追加放熱器6基に換装。

瞬間の火力は低くなったが、継戦能力は向上した。

 

 

・D(ダヴィオン家)型

先に述べた通りに、恒星連邦ダヴィオン王家仕様のバトルメックである。

標準型と異なり、一部の機体を除き合理的な改装を施されている場合が多い。

ごく稀に、ダヴィオン家仕様であるのにD型でない機体もある。

 

・D型ワスプ

2連短距離ミサイルとその弾薬を取り外し、小口径レーザー2門と火炎放射器に換装。

おそらくは、対戦車、対車両用の改装であろう。

 

・D型スパイダー

中口径レーザーの内1門を火炎放射器に換装している。

おそらくはこれも、対戦車用の改装かと思われる。

 

・D型フェニックスホーク(書き換え・移動)

マシンガンと弾薬を外し、追加の放熱器を搭載している。

これによって熱管理が僅かながら楽になっている。

ただし、対歩兵戦闘などではマシンガンは優秀な武装である為、単純に火力が下がっただけでなく歩兵に対して脆弱になっているとも言える。

 

・D型シャドウホーク

装甲を軽量級並まで削り、中口径レーザー1門、2連短距離ミサイル1門、追加放熱器2基を追加。

当たらなければ良い、と言う考えなのかもしれないが、機動力は全く改善されていないため、びしばし命中弾が来る。

少々、いやかなり運用しづらい、恒星連邦の機体としては例外的なメックだ。

 

・D型ライフルマン

中口径オートキャノン2門とその弾薬、中口径レーザー2門を撤去し、粒子ビーム砲2門と追加放熱器5基に換装。

この改造により、支援機としての性能が向上した。

ただし発熱も増したため、「熱い、薄い、弾薬少ない」のうち、改善されたのは「弾薬少ない」だけとも言える。

また中口径オートキャノンを撤去したため、対空性能は若干目減りしている。

 

・D型クルセイダー

6連短距離ミサイル2門、マシンガン2門、およびそれらの弾薬を、4連短距離ミサイルおよびその弾薬、追加放熱器4基に換装。

支援メックとして堅実な改造であるが、弾薬が少ないのは改善されていない。

 

・D型ウォーハンマー

6連短距離ミサイル、マシンガンを撤去し、装甲と追加放熱器2基を増設。

これにより、ウォーハンマーの魅力であった近距離での破壊力は、残念ながら並のメック程度に落ちた。

しかし静止射撃であれば粒子ビーム砲2門を発熱の心配なしに遠慮なく撃ちまくれると言うのは魅力である。

 

・K型ウォーハンマー

ダヴィオン家なのに、何故かK型。

マシンガン2門とその弾薬を撤去、追加放熱器2基に換装した機体。

近接火力は若干落ちたが、静止射撃であれば2門の粒子ビーム砲を遠慮なしに撃ちまくれる。

 

・D型マローダー

中口径オートキャノンを大口径レーザーに換装、追加放熱器を4基追加。

爆発物が無くなったため、安心して乗れる様になった。

 

・D型バトルマスター

6連短距離ミサイルと背面の中口径レーザー2門を撤去、追加放熱器6基を追加し、ただでさえ厚い装甲を更に強化した。

近接攻撃力は目減りしたが、生残性は向上。

 

 

・S(シュタイナー家)型

先に述べた通りに、ライラ共和国主席シュタイナー家仕様のバトルメックである。

お国柄か、機体を主戦機的に改造するのが多い。

ごく稀に、シュタイナー家仕様であるのにS型でない機体もある。

 

・S型ローカスト

装甲をスティンガーやワスプと同レベルに軽量化し、マシンガンを撤去して2連短距離ミサイル2門と換装。

近距離火力を強化した機体だが、ただでさえ薄い装甲が更に薄くなっている。

 

・S型ウィットワース

10連長距離ミサイル2門とその弾薬を、6連短距離ミサイル2門とその弾薬および追加放熱器4基に換装。

近距離での主戦機タイプに改造されている。

 

・S型トレビュシェット

15連長距離ミサイル2門とその弾薬を、6連短距離ミサイル2門とその弾薬および追加放熱器8基に換装。

しかし装甲厚が原型機そのままのため、主戦機的運用は少々厳しいか。

 

・S型グリフィン

武装を全て撤去し、中口径レーザー2門、大口径レーザー1門、5連長距離ミサイル1門と、追加放熱器4基に換装。

若干の遠距離支援能力を残したまま、主戦機に改造している。

 

・S型サンダーボルト

大口径レーザー1門、15連長距離ミサイル1門、2連短距離ミサイル1門、マシンガン2門を撤去し、粒子ビーム砲1門、火炎放射器1門、6連短距離ミサイル1門、追加放熱器6基と換装。

長距離火力が若干目減りしたが、近距離ではより一層の破壊力を示す様になった。

また左腕から弾薬が無くなったのも、総合的耐久力の増加に貢献している。

 

・S型アーチャー

20連長距離ミサイル2門を、15連長距離ミサイル2門と4連短距離ミサイル2門に換装。

支援能力を若干目減りさせたかわりに、近距離射程での戦闘能力を向上させている。

 

・S型ヴィクター

若干装甲を軽量化し、4連短距離ミサイルを6連短距離ミサイルに換装。

装甲が薄くなったが、それでもまだそこそこの防御力は保持している。

そして近接火力が一段と強化された。

ただし放熱能力は強化されていないため、そこが不安点でもある。

 

・S型バトルマスター

粒子ビーム砲、マシンガン2門、6連短距離ミサイル、背面の中口径レーザー2門を撤去し、5連長距離ミサイル1門、15連長距離ミサイル1門、2連短距離ミサイル2門に換装。

更に追加放熱器2基を増設している。

S型には珍しく遠距離火力を強化する形になっているが、弾薬の数が増えたために爆散の危険も増えている。

 

・S型バンシー

非常に強力なバトルメック。

エンジンを軽い物に換装し、機動力を低くする代わりに機体容量に余裕を作っている。

更に中口径オートキャノンを撤去し、小口径レーザー1門、中口径レーザー4門、粒子ビーム砲1門、6連短距離ミサイル1門、大口径オートキャノン1門を追加。

その上で5基の追加放熱器を増設している。

この改造により、真っ当な強襲メックに生まれ変わった。

更に言えば、通信や索敵機能が極めて強力であり、指揮官機に向くらしい。

ちなみにこれの更にバリエーションにSC型と言う物が存在し、なんとサイクロプスに勝るとも劣らない戦術指揮管制能力を持つらしいが、武装が減らされているとの話である。

 

・L型センチュリオン

L型なのに、何故かシュタイナー家仕様。

Lはリャオ家のLではなく、ライラ共和国のLである可能性も存在する。

大口径オートキャノンを撤去、装甲を2.5t増量し、小口径レーザー1門と大口径レーザー1門を追加。

火力は若干減退したが、このクラス最高レベルの装甲厚は、近接戦向きではあるだろう。

 

 

・M型

先に述べた通りに、自由世界同盟盟主マーリック家仕様のバトルメックである。

特に改造方針に、これと言った特色が無いが、時々よくわからない改造を施している。

 

・M型ローカスト

装甲を限界近くまで切り詰め、マシンガンを撤去して5連長距離ミサイル2門と換装。

軽支援メック化を図った物と思われるが、あまりにも紙装甲すぎる。

 

・M型ファイアスターター

装甲を2t増量し、小口径レーザー2門を追加して、真っ当な偵察機に生まれ変わった。

ただし代償として、この機体の命とも言える火炎放射器を全て撤去している。

もはやこの機種名は、相応しく無いのではないだろうか。

 

・M型ウルバリーン

中口径オートキャノンを撤去し、装甲を1t増量、中口径レーザー1門、大口径レーザー1門、追加放熱器2基を付け加えた機体。

ちなみに裏設定で、ウルバリーンのジャンプジェットには欠陥があることになっている。

だがこのM型ではその欠陥は改善されているとの事だ。

 

・M型オストロック

中口径レーザー2門と4連短距離ミサイル1門を、ジャンプジェット5基と換装。

一応これで優位地形を確保して支援機としての働きがし易くなった……と見て良いだろうか?

少々浪漫改造が過ぎると言う意見も。

 

・M型マローダー

粒子ビーム砲2門を、大口径レーザー2門と追加放熱器4基に換装。

遠距離攻撃力の減衰と引き替えに、熱管理はやり易くなった。

だが脇腹の弱点はそのままである。

 

・M型バンシー

中口径オートキャノンを粒子ビーム砲と中口径レーザー2門に換装。

面白みの無い改造だが、若干原型機のパンチ力不足を補えただろうか。

 

 

・L型

先に述べた通りに、カペラ大連邦国首相リャオ家仕様のバトルメックである。

改造方針は、基本的に防戦が主となるカペラ大連邦国の事情に沿った物である……と思いたいのだが。

かなりの割合で、とんでもない浪漫改造が施されている。

 

・L型ワスプ

本来の武装を全廃して、4連短距離ミサイル1門に換装している。

最大ダメージもダメージの安定性も、更に言えば継戦能力も低くなっている。

3025年世界ではエネルギー兵器を妨害する術は遺失技術だけなので、ちょっと何をしたいのかわからない改造だ。

 

・L型アーバンメック

装甲を軽量化、大口径オートキャノンを撤去して最大口径オートキャノンに換装。

破壊力は上がったが、遠距離兵装が無くなっており、ますます都市部以外では使えなくなった。

また装甲も減らされており、運用がますます難しくなった。

 

・L型オストロック

4連短距離ミサイルとその弾薬を撤去、5連長距離ミサイルとその弾薬に換装。

支援機としての能力が僅かに向上した。

 

・L型クルセイダー

15連長距離ミサイル2門を10連長距離ミサイル2門に、6連短距離ミサイル2門を4連短距離ミサイル2門に換装し、追加放熱器2基とジャンプジェット4基を追加。

破壊力は減ったが、優位地形を確保し易くなった。

だが噂では、これは「真上からの飛び降り」攻撃のためにジャンプジェットを追加したのだとも言う。

だとするならば、浪漫改造でしか無い事になる。

 

・L型ウォーハンマー

マシンガン2門を撤去、火炎放射器2門に換装。

ウォーハンマーの火力であれば、火炎放射器に頼らずとも車両如き一撃だと思うのだが……。

過熱が酷くなっただけではないか、と心配になる。

 

・L型マローダー

左腕の粒子ビーム砲を大口径レーザーに換装、追加放熱器を2基追加。

熱管理はやり易くなったが、脇腹の弱点はそのままである。

 

・L型チャージャー

装甲を軽量級並に軽量化し、武装を全廃、中口径レーザー2門と大口径レーザー1門に換装した。

……はっきり言って、重い軽量級メックと言う感じの、わけがわからない存在になっている。



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気圏戦闘機・LAM・その他資料

同じく、物語に登場する気圏戦闘機、LAM機、降下船、航宙艦その他用語集です。


・気圏戦闘機

気圏戦闘機は空飛ぶメックとでも言うべき存在で、戦闘機ながらメックと同じ装甲板に核融合炉を搭載しており、宇宙でも飛行可能。

この為、気圏戦闘機乗りもまたメック戦士同様の扱いを受ける。

 

・ライトニング戦闘機

50tの気圏戦闘機。

武装として最大口径のオートキャノン(AC20)を搭載しているのが特徴。

他に中口径レーザー4門(内1門後方)を装備している。

つまり全体的に射程が短い武器を搭載した近接戦闘を得意とする機体。

 

・トランスグレッサー戦闘機

75tの気圏戦闘機。

大口径レーザーを3門、中口径レーザーを4門(内1門後方)を搭載した機体。

 

・シロネ戦闘機

敵(ドラコ連合)側に登場する事が多い気圏戦闘機。

65tの重量を持つ機体で、武装は大口径レーザーと20連長距離ミサイル、他に中口径レーザーを2門を持ち、後方に4連短距離ミサイルを持つ無難な機体である。

 

・スレイヤー戦闘機

同じく敵側の戦力として登場する事の多い、80tの気圏戦闘機。

武装は大口径オートキャノン1門と、中口径レーザー6門(内1門後方)を持つ。

 

・チペワ戦闘機

90tの気圏戦闘機。

かなりの重戦闘機なのだが、その割に妙に装甲が薄い。

その分武装は豊富で、15連長距離ミサイル2門、大口径レーザー4門、中口径レーザー2門、6連短距離ミサイル1門、そして後方に小口径レーザー2門を装備している。

 

・セイドリッツ戦闘機

非常に高い運動性と、蜂の一刺しの様な攻撃力を持つ20t気圏戦闘機。

紙の様な装甲だが、代わりに攻撃力は高く、大口径レーザー1門を機首に装備している。

 

・セイバー戦闘機

各国でライセンス生産されている、ドラコ連合の25t気圏戦闘機。

驚異的な運動性能を誇る。

装甲は薄いが、火力はこのクラスとしては並で、中口径レーザーを3門装備している。

 

・スラッシュ戦闘機

25tセイバーを超える運動性能を持つ、25t気圏戦闘機。

ただし代わりに紙装甲である。

火器は中口径レーザーを3門装備。

 

・チーター戦闘機

25tスラッシュに並ぶ運動性を持つ、同じく25tの気圏戦闘機。

紙装甲なのも同じだが、若干だけ厚い。

ただし武装は中口径レーザー2門、小口径レーザー1門と、若干火力が弱い。

 

・センチュリオン戦闘機

恒星連邦が開発した、30tの最初期型気圏戦闘機。

かなり高い運動性能を持ち、中口径レーザーを3門装備している。

バトルメックの50tセンチュリオンと混同しない様に。

 

・スパローホーク戦闘機

高い運動性能の、30tの気圏戦闘機。

その分火力と装甲は貧弱だが、それでも中口径レーザー2門と小口径レーザー2門を装備。

全部当たれば、そこそこ痛いダメージにはなる。

 

・ショラガー戦闘機

35tの軽量級気圏戦闘機。

30tスパローホークと同等の運動性能を持つ。

装甲は薄く、火力も貧弱である。

それでも4連短距離ミサイル1門と、中口径レーザー2門を装備している。

 

・サムライ戦闘機

50tの、極端な設計の気圏戦闘機。

装甲は並で、運動性能はそこそこ。

火力は馬鹿みたいにあり、中口径レーザー6門(内1門後方)、小口径レーザー4門(内1門後方)を装備。

遠距離火力は持たないが、近接戦ではかなりの威力を発揮する。

 

・コルセア戦闘機

50tの、堅実な設計の気圏戦闘機。

装甲はこのクラスでは比較的厚い。

武装は大口径レーザー2門、中口径レーザー2門、小口径レーザー4門(内2門後方)を装備している。

 

・トランジット戦闘機

50tの気圏戦闘機。

同じく50tのライトニングと並んで、最大口径のオートキャノンを装備している。

他の火器は、中口径レーザーを4門装備。

 

・ヘルキャット戦闘機

重い機体だけあって、かなりの火力を誇る60tの気圏戦闘機。

その分運動性は並程度。

大口径レーザー3門、中口径レーザー5門(内1門後方)を装備。

 

・スティングレイ戦闘機

強力な60tの気圏戦闘機。

かなりの重戦闘機で、装甲も厚く、火力も高い。

武装は粒子ビーム砲1門、大口径レーザー2門、中口径レーザー2門と、遠近両方で戦える機体である。

 

・ルシファー戦闘機

65tの重気圏戦闘機。

運動性は低いが、大量の火器を搭載している。

武装は20連長距離ミサイル1門、大口径レーザー2門、小口径レーザー4門、そして後方に中口径レーザー1門を装備している。

 

・イーグル戦闘機

75tの気圏戦闘機。

かなりの重戦闘機ではあるのだが、それでも並程度の運動性能を持つ。

装甲も厚く、火力も高い。

装備している火器は、大口径レーザー3門、中口径レーザー4門(内1門後方)。

自由世界同盟の最初期機体。

 

・スツーカ戦闘機

最重量級の、100tの気圏戦闘機。

装甲も馬鹿みたいに厚く、運動性は低い。

だが火力は相応であり、大口径レーザー4門、中口径レーザー3門(内2門後方)、20連長距離ミサイル1門、4連短距離ミサイル1門を持つ。

 

・リーヴァー戦闘機

最重量級100t気圏戦闘機。

超重装甲で、運動性は低いの一言。

比較的近接火力が高く、装備は最大口径オートキャノン1門、6連短距離ミサイル4門、10連長距離ミサイル1門と実体弾兵器で揃えられている。

 

・サンダーバード戦闘機

最重量級100tの気圏戦闘機。

装甲は重量に比して薄めだが、それでもまだまだ重装甲の部類。

運動性能は低い。

火力は相応に高く、大口径レーザー3門、20連長距離ミサイル2門、中口径レーザー5門(内2門後方)を装備している。

ライラ共和国の気圏戦闘機だが、何故かどの継承国家でも普及率が高い。

 

 

・LAM(Land-Air-battleMech)

バトルメックと気圏戦闘機の中間、と言うよりは気圏戦闘機に変形できるバトルメックと言うべきか。

変形機構に重量を取られるため、同クラスのバトルメックや同クラスの気圏戦闘機よりは総合的戦闘力では弱くなりがち。

気圏戦闘機に変形した際も、爆装はできない。

パイロットたるメック戦士も、バトルメック操縦能力と気圏戦闘機操縦能力の両者を要求されるため、普通に成長させると理想のキャラクターの完成まではかなり遠くなるという欠点も。

ただしバトルメックと気圏戦闘機の中間形態であるエアメック形態は、異常なまでの機動力を誇るため、味方にライフルマンがいないと敵対したくない相手である。

 

・フェニックスホークLAM

中量級の傑作機、フェニックスホークをLAM化した機体。

重量は僅かに重くなって50tだが、変形機構に重量を取られるため、もっと軽い機体と互角程度。

バトルメック形態でまともに戦えば、普通のフェニックスホークの方が強いと思われる。

また気圏戦闘機形態でまともに戦うと、同重量のライトニング戦闘機に圧倒されるだろう。

ただしエアメック形態を使うと、強い、とまでは言わないが反則的にいやらしい敵に早変わりする。

機動力は通常のフェニックスホークよりもやや低い。

武装は原型機と同じく大口径レーザー1門、中口径レーザー2門、マシンガン2門だが、装備位置は異なる。

 

・スティンガーLAM

軽量級傑作偵察メックであるスティンガーを、LAM化した機体。

30tの重量を持ってはいるが、変形機構に重量を取られるため、実力はもっと軽量の機体考えた方が良い。

装甲は元々のスティンガーよりも若干ではあるが厚い。

また武装は中口径レーザー3門と、原型機よりもやや高い火力を持つ。

 

・ワスプLAM

軽量級傑作偵察メックであるワスプを、LAM化した機体。

これも30tだが、変形機構の重量があるため、もっと軽量の機体と互角である。

装甲は元々のワスプより、若干厚い。

武装は中口径レーザー1門、2連短距離ミサイル1門と、原型機と同等である。

ただし装備位置は異なる。

 

 

・降下船

後述する航宙艦が搭載する、惑星間距離を移動するための補助宇宙船。

「降下船」と言う名前は、はるか宇宙の彼方のジャンプポイントより、惑星に「降下」するための宇宙船であるが故……だと思う。

小型から中型の高機動宇宙船で、数日から数週間をかけて惑星間の距離を移動することが可能であり、大量の貨物や人員を乗せて宇宙を征く。

大きく分けて球形や卵型をした非航空機型の船と、航空機型をした船の2種類に分けられる。

基本的に、ジャンプポイントと言う惑星から遠く離れた宙域から動かない航宙艦と、惑星とを結ぶ旅をするための宇宙船であるため、大抵は大気圏内へ降りる事が可能。

ただし稀に、大気圏内飛行能力を持たない宇宙空間専用の降下船も存在する。

 

・レパード級降下船

航空機型をした、バトルメック1個小隊を輸送するための軍用降下船。

バトルメック4機と、気圏戦闘機2機を搭載することが可能。

この降下船が設計された当時、技術力の当時の限界により降下船に使える大きな装甲板が平面でしか製作できなかったため、この降下船の外観は直線的であり、悪く言えば箱っぽいとの事。

 

・レパードCV級降下船

航空機型をした、気圏戦闘機1個中隊を輸送するための空母型軍用降下船。

気圏戦闘機6機を搭載することが可能。

兄弟であるレパード級よりも後に設計されたため、技術の進歩により曲面的な外観をしている。

メンテナンスが容易で、若干ステルス性にも優れている……らしい。

 

・コンフェダラート級降下船

長球型(卵型)をした、バトルメック1個小隊を輸送するための軍用降下船。

レパード級とは違い、航空機型のリフティングボディ形状はしていない。

バトルメックを4機と気圏戦闘機2機と言う組み合わせでも、あるいは気圏戦闘機を載せずにバトルメック6機と言う組み合わせでも運用可能。

火力も装甲厚も高いので、長時間戦場に留まりメック部隊を支援できる。

 

・アキレス級降下船

航空機型をしているものの、大気圏飛行能力を欠いている例外的な軍用降下船。

主に他の降下船や気圏戦闘機との戦闘を主眼に開発された船種である。

宇宙空間ではこの船は素晴らしい機動性を持ち、重量級や大半の中量級の気圏戦闘機よりも速いとの事である。

ただし全力で推進機を動かした場合、エンジンが非常に激しく振動し、長時間その状態を保った場合は実体弾兵器の給弾不良を引き起こすほどである。

搭載能力は、気圏戦闘機2機と小型宇宙船2隻を載せる事ができる。

 

・ガゼル級降下船

航空機型をした、1個装甲中隊(戦車中隊)を輸送するための軍用降下船。

戦車15輛を搭載可能であるが、武装が貧弱で、気圏戦闘機に狙われたら危ない。

また貨物格納庫を無理に拡張したため、乗員用居住設備が犠牲となり、かなり窮屈な居住環境しか持たない、との設定がある。

ただし、その輸送力はかなりの物がある。

 

・ユニオン級降下船

球型をした、もっともポピュラーと言われる非航空機型の軍用降下船。

バトルメック1個中隊を運ぶための船であり、12機のバトルメックに2機の気圏戦闘機と言った、完全編制のバトルメック中隊を運ぶ事ができる。

部隊に気圏戦闘機が無いバトルメック中隊も多く、その場合気圏戦闘機格納庫は、倉庫として使われる場合が多い。

 

・コンドル級降下船

航空機型をした、歩兵大隊輸送用の軍用降下船。

336人の兵員と、20輛の軽車輛を輸送することが可能。

武装は貧弱で鈍重だが、居住設備や医療設備、積載能力は充実している。

乗組員しか知らない秘密の倉庫などもあり、色々と使える船である。

 

・フォートレス級降下船

長球型をした、強力な軍用降下船。

歩兵部隊130名、バトルメック12機、戦車12輛を運ぶ事が可能で、しかもロングトムⅢ間接砲まで搭載している。

現状主人公キースが、自分直卒の第1中隊を載せている船でもある。

裏設定で、故障が多いと言う事になっているが、主人公は郎党であるサイモン老の高い技術でそれをカバーしている。

 

・トライアンフ級降下船

航空機型では最大の軍用降下船。

1個装甲大隊(戦車大隊)を輸送可能である。

しかも車輛ベイがあまりに広大な物だから、バトルメックや気圏戦闘機なども、運ぶだけなら何の問題もない。

居住性も比較的良いので、乗員や戦車搭乗員にとってはありがたい。

ただし装甲、武装が貧弱であるため、運用は非常に注意を要する。

 

・オーバーロード級降下船

長球型をした、ある意味軍用降下船の極致。

バトルメック1個大隊36機、気圏戦闘機1個中隊6機、整備兵などの後方支援部隊、歩兵1個大隊を丸ごと輸送する、空飛ぶ基地。

これが3隻もあれば、1個連隊を運用できる。

 

・ヴェンジェンス級降下船

航空機型をしている、空母タイプの軍用降下船。

この船のおそろしいところは、気圏戦闘機を40機も搭載できるところである。

おまけに小型飛行機も3機搭載できる。

ただし武装、装甲ともにサイズから言って軽装である。

 

・ミュール級降下船

長球型をした、民間用降下船。

おそろしい事に、8500t近い貨物を輸送可能。

デザインが単純で、整備性や保守性が非常に高いため、人気の船種である。

民間用にしては妙に武装が充実しているのも特徴の1つであり、傭兵部隊の中にはユニオン級代わりにこのミュール級を使用している部隊もあるとか言う話である。

この巨大な船の内部には、水耕菜園すら存在しているらしい。

 

・エクスカリバー級降下船

長球型をした、巨大な軍用降下船。

バトルメック1個中隊、2個装甲大隊(戦車大隊)、1個歩兵大隊を同時に敵前まで運ぶ事ができる、とんでもない搭載力を持っている。

ただしちょっとした問題があり、この船のバトルメック格納庫は単純にバトルメックを輸送するためだけの物で、バトルメックを軌道から直接降下させる事ができない上に、バトルメックの修理設備すら持っていない。

ちなみに、後述のコロッサス級の後継として設計されたらしい。

 

・コロッサス級降下船

傭兵部隊スノード・イレギュラーズが発掘したことでよく知られる、強力な軍用降下船。

バトルメック1個大隊36機、重戦車72輌、12個歩兵小隊を輸送可能な、莫大とも言える搭載能力を持つ。

その上にアローⅣミサイルシステムやガウスライフルと言った、3025年当時では失われた技術の兵器を搭載しているため攻撃力は絶大で、装甲も分厚い。

ただし余りに製造にかかる費用が高価すぎたそうで、半分程度の価格のエクスカリバー級に取って代わられたらしい。

 

 

・航宙艦

超空間を使い、光の速さを超えて恒星間旅行をするための宇宙船。

光の速さを超えると言っても、厳密には超空間をつかって恒星系Aの1点から恒星系Bの1点まで空間を飛び越える、と言う物であり、よく知られる言葉で言えば某宇宙戦艦の「ワープ」が近いであろう。

バトルテック世界では、「ジャンプ」と言う言葉を使っている。

ジャンプが可能な場所は、星系を独楽に例えるとその軸の頂点部分にあり、ジャンプポイントと呼ばれている。

ジャンプポイントは天の北極方面のゼニス点、天の南極方面のナディール点の2ヶ所あり、基本的に航宙艦はそこから動かない。

ジャンプポイントから星系内の惑星に降下するには、前述の降下船を用いることがほとんどである。

超空間ジャンプのためのエネルギー補充には、恒星の放射しているエネルギーを受け止めてチャージする、傘の様な「帆」が用いられる。

なお、帆の直径は、だいたい1km程度。

 

・スカウト級航宙艦

最小サイズの航宙艦。

降下船を1隻だけドッキングさせて、他の星系へジャンプする事が可能。

ジャンプ帆の直径は890m。

降下船の他に、1隻のシャトルもしくは1機の気圏戦闘機を収容可能なベイがある。

ちなみに恐ろしい事に、この艦は重力デッキを持っていない。

乗員の健康のため、この艦は常にGを伴う加速を必要とするのである。

つまり1方向に加速して移動したら、向きを180度変えてまた元の方向へ加速することを繰り返さねばならないのだ。

ぶっちゃけ不経済である。

しかしこの艦は様々な理由により外部からの探知が難しいため、偵察用や奇襲用としては向いているとされる。

 

・マーチャント級航宙艦

2番目に小さな航宙艦。

降下船を2隻ドッキングさせて運ぶ事が可能。

ジャンプ帆の直径は950m。

降下船の他に、小型船を2隻搭載することができる上、更に200tの貨物を収容できる貨物ベイを、3つ持っている。

居住性や使い勝手が良い艦であるものの、交換部品が不足しているらしく、ジャンプのためのエネルギーチャージなど艦の運用に余計な時間がかかる元になっている。

 

・インベーダー級航宙艦

極めて一般的な航宙艦。

降下船を3隻ドッキングさせて運ぶ事が可能。

ジャンプ帆の直径は1024mであるが、2kmとしている資料もある。

おそらくは1024mが正解だと思われる。

降下船以外に、小型船を2隻搭載可能。

水耕農園のプラントを内部に持っており、艦の乗員のために新鮮な食物と酸素を供給している。

重力デッキも広いが、居住性などはマーチャント級に劣るらしい。

 

・スターロード級航宙艦

珍しい航宙艦で、降下船を6隻もドッキングさせて運ぶ事が可能。

また小型船も4隻運用できる。

ジャンプ帆の直径は1140m。

降下船とのドッキング用ハードポイントには、電磁石アンカーが設けられており、降下船とのドッキングを容易にしている。

維持費用は高価であるらしい。

しかしドッキング用電磁石アンカーは、10000tまでの降下船を牽引できることから、損傷降下船のレスキュー用に各継承国家は、いくつかスターロード級を確保していると伝えられる。

 

・モノリス級航宙艦

珍しい航宙艦で、降下船を9隻もドッキングさせて運ぶ事が可能な、おそらく最大の航宙艦。

小型船も6隻まで載せられる。

ジャンプ帆の直径は1270m。

この艦には、巨大な予備部品の倉庫が搭載されていると言う。

 

 

・その他用語

その他の用語に関する解説をここに掲載する。

 

・コムスター

星間通信施設を管理・維持を行う組織。

元々は戦争に伴う技術衰退を憂いたジェローム・ブレイクによって「このままじゃやべえ!」と各国に働きかけて通信施設を中立組織が管理するものとした組織。各国も通信が出来なくなるのはやばいと気付いていた為それを受け入れた。

しかし、三代目が初代の熱狂的なファンだった事から彼の遺した言葉などを聖典としてしまった為に急速に組織は変質。

現在ではブレイクの理想は失われ、儀式化した手順によって設備を動かす宗教団体となってしまっている。

各王家やメック家系の次男や三男を受け入れる事で穏然たる権力を持つ他、設備の守備として独自の武力も持つ上、その中には星間連盟時代の高度な技術を維持し続けている装備も多数存在する。

カルト団体としての面があり、一部の過激な派閥も存在する。グレイデス軍団の惑星ヘルムでの星間連盟時代の図書館発見の際にはその情報を抹殺するべく彼らに無法者の汚名を着せた他、恒星連邦首都の大学へのリャオ家を装った偽装襲撃やグレイソン・デス・カーライルの暗殺未遂も後には実行している。



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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その1

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。結成時から、第4期編制表までを今回掲載しました。第5期から先はその2以降に載せようと思います。


傭兵メック小隊『鋼鉄の魂(Soul Of The Steel:略称SOTS)』

結成時編成表:3025年07月03日・『エピソード-001』時点

 

メック部隊:

  メック戦士キース・ハワード中尉:55tグリフィン(小隊長)

  メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:55tウルバリーン

  メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム軍曹:60tライフルマン

  メック戦士エリーザ・ファーバー軍曹:70tウォーハンマー

 

偵察・整備兵分隊:

  整備兵サイモン・グリーンウッド曹長:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス伍長:ホーエンハイム軍曹郎党

  整備兵キャスリン・バークレー伍長:ファーバー軍曹郎党:軍医

 

砲兵隊:

 スナイパー砲車輛1輛

 (整備兵のサイモン・グリーンウッド曹長が、砲兵と運転手として一時的に異動)

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号:

  船長(欠員)

  副長(欠員)

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名(欠員)

 

 

 

 

傭兵メック小隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第1期編制表:3025年07月10日・『エピソード-002』時点

 

メック部隊:

  メック戦士キース・ハワード中尉:55tグリフィン(小隊長)

  メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:55tウルバリーン

  メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム軍曹:60tライフルマン

  メック戦士エリーザ・ファーバー軍曹:70tウォーハンマー

 

気圏戦闘機隊:

  航空兵マイク・ドーアティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

 

偵察・整備兵分隊:

  整備兵サイモン・グリーンウッド曹長:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス伍長:ホーエンハイム軍曹郎党

  整備兵キャスリン・バークレー伍長:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ジェレミー・ゲイル伍長:ドーアティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵パメラ・ポネット伍長:キャラハン少尉郎党:航空機関士、コンピュータ技師

 

砲兵隊:

 スナイパー砲車輛1輛

 (整備兵のサイモン・グリーンウッド曹長が、砲兵と運転手として一時的に異動)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号:

  船長カイル・カークランド少尉

  副長イングヴェ・ルーセンベリ准尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名

 

航宙艦:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(中尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(少尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(伍長待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(伍長待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 

 

 

傭兵メック小隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第2期編制表:3025年08月04日・『エピソード-004』時点

 

メック部隊:

  メック戦士キース・ハワード中尉:55tグリフィン(小隊長)

  メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:55tウルバリーン

  メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム軍曹:60tライフルマン

  メック戦士エリーザ・ファーバー軍曹:70tウォーハンマー

 

気圏戦闘機隊:

  航空兵マイク・ドーアティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

 

偵察・整備兵分隊:

  整備兵サイモン・グリーンウッド曹長:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス伍長:ホーエンハイム軍曹郎党

  整備兵キャスリン・バークレー伍長:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ジェレミー・ゲイル伍長:ドーアティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵パメラ・ポネット伍長:キャラハン少尉郎党:航空機関士、コンピュータ技師

 

砲兵隊:

 スナイパー砲車輛1輛

 (整備兵のサイモン・グリーンウッド曹長が、砲兵と運転手として一時的に異動)

 

歩兵部隊:

  第1歩兵分隊:エリオット・グラハム軍曹(分隊長)

         テリー・アボット伍長

         ロタール・エルンスト上等兵

         ヴィクトル・デュヴェリエ一等兵

         ラナ・ゴドルフィン一等兵:衛生兵

         ジェームズ・パーシング一等兵

         ジャスティン・コールマン二等兵:運転手

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号:

  船長カイル・カークランド少尉

  副長イングヴェ・ルーセンベリ准尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名

 

航宙艦:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(中尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(少尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(伍長待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(伍長待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 

 

 

傭兵メック小隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第3期編制表:3025年10月01日・『エピソード-019』時点

 

メック部隊:

  メック戦士キース・ハワード中尉:75tマローダー(小隊長)

  メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:55tウルバリーン

  メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム軍曹:60tライフルマン

  メック戦士エリーザ・ファーバー軍曹:70tウォーハンマー

 

気圏戦闘機隊:

  航空兵マイク・ドーアティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

 

偵察・整備兵分隊:

  整備兵サイモン・グリーンウッド曹長:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス伍長:ホーエンハイム軍曹郎党

  整備兵キャスリン・バークレー伍長:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ジェレミー・ゲイル伍長:ドーアティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵パメラ・ポネット伍長:キャラハン少尉郎党:航空機関士、コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク伍長:チェスティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵フランツ・ボルツマン伍長:ゲルステンビュッテル少尉郎党:航空機関士

  その他助整兵30名(臨時雇い)

 

砲兵隊:

 スナイパー砲車輛1輛

 (整備兵のサイモン・グリーンウッド曹長が、砲兵と運転手として一時的に異動)

 

歩兵部隊:

  第1歩兵小隊:エリオット・グラハム少尉待遇軍曹(小隊長)

         ロタール・エルンスト上等兵

         ラナ・ゴドルフィン一等兵:衛生兵

         ジャスティン・コールマン一等兵:運転手

         その他歩兵24名(臨時雇い)

  第2歩兵小隊:テリー・アボット伍長(小隊長)

         ヴィクトル・デュヴェリエ一等兵

         ジェームズ・パーシング一等兵

         その他歩兵25名(臨時雇い)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号:

  船長カイル・カークランド少尉

  副長イングヴェ・ルーセンベリ准尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号:

  船長アリー・イブン・ハーリド少尉

  副長マンフレート・グートハイル准尉

  航法士見習いレオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー曹長

  航法士見習いマシュー・マクレーン曹長

  航法士見習いエルゼ・ディーボルト曹長

  航法士見習いエレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ曹長

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ伍長

  機関士ライナス・ゲイル伍長

  機関士見習いフォルカス・ロウントゥリー上等兵

  機関士見習いアデル・ドラモンド上等兵

  機関士見習いオティーリエ・ハイゼンベルク上等兵

  機関士見習いメイベル・ゴールドバーグ上等兵

  その他船員2名

 

航宙艦:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(中尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(少尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(伍長待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(伍長待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

予備降下船:

  フォートレス級ディファイアント号

  ユニオン級エンデバー号

 

予備メック他:

  75tオリオン×1

  65tサンダーボルト×1

  65tクルセイダー×1

  60tライフルマン×2

  55tウルバリーン×1

  55tグリフィン×3

  45tフェニックスホーク×1

  45tD型フェニックスホーク×3

  40tクリント×1

 

  60tマンティコア戦車×4

  50tヴァデット哨戒戦車×4

  35tハンター戦車×4

 

追記:

  提携傭兵メック小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』(経営統合済み)

   メック部隊:

     メック戦士アーリン・デヴィッドソン中尉:45tフェニックスホーク(小隊長)

     メック戦士リシャール・ジェレ少尉:45tフェニックスホーク

     メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:40tウィットワース

     メック戦士ヴェラ・クルーグハルト伍長:45tD型フェニックスホーク

 

   整備兵分隊:

     整備兵クレール・オリオール曹長:デヴィッドソン中尉郎党:メック戦士予備

     整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル伍長:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

     整備兵ボールドウィン・アクロイド伍長:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

     整備兵アン・ニールセン伍長:クルーグハルト伍長郎党:コンピュータ技師

     その他助整兵30名(臨時雇い)

 

 

  協力傭兵メック小隊『機兵狩人小隊』

   メック部隊:

     メック戦士アルバート・イェーガー中尉:65tサンダーボルト

     メック戦士サラ・グリソム少尉:45tD型フェニックスホーク

     メック戦士ギリアム・ヴィンセント伍長:50tエンフォーサー

     メック戦士アマデオ・ファルケンハイン伍長:55tシャドウホーク

 

   偵察・整備兵分隊:

     偵察兵エルンスト・デルブリュック曹長

     整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー中尉郎党

     その他整備兵3名

     その他助整兵30名(臨時雇い)

 

   歩兵部隊:

     その他歩兵56名(臨時雇い)

 

   降下船部隊:

    レパード級ヴァリアント号:

     船長ヴォルフ・カウフマン少尉

     副長オーレリア・レヴィン准尉

     その他機関士2名

     その他船員5名

 

 

 

 

傭兵メック中隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第4期編制表:3026年01月07日・『エピソード-031』時点

 

メック部隊:

 指揮小隊:

  メック戦士キース・ハワード大尉:75tマローダー(小隊長)

  メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:65tサンダーボルト

  メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム軍曹:60tライフルマン

  メック戦士エリーザ・ファーバー軍曹:70tウォーハンマー

 火力小隊:

  メック戦士ヒューバート・イーガン中尉:75tオリオン(小隊長)

  メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:55tウルバリーン

  メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー

  メック戦士カーリン・オングストローム伍長:55tグリフィン

 偵察小隊:

  メック戦士アーリン・デヴィッドソン中尉:45tフェニックスホーク(小隊長)

  メック戦士リシャール・ジェレ少尉:45tフェニックスホーク

  メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:55tグリフィン

  メック戦士ヴェラ・クルーグハルト伍長:45tD型フェニックスホーク

 

気圏戦闘機隊:

  航空兵マイク・ドーアティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

 

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

 

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード少尉:75tトランスグレッサー戦闘機

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー戦闘機

 

偵察・整備兵分隊:

  整備兵サイモン・グリーンウッド曹長:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  整備兵キャスリン・バークレー伍長:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ラモン・ロペス伍長(18):ホーエンハイム軍曹付き:コンピュータ技師

  整備兵モードリン・デッカー伍長(17):ドゥンケル少尉付き:運転手

 

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト伍長:イーガン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー伍長:ツィルヒャー少尉付き:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ伍長:エルンスト軍曹付き:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル伍長:オングストローム伍長付き:衛生兵

 

  整備兵クレール・オリオール曹長:デヴィッドソン中尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル伍長:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド伍長:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン伍長:クルーグハルト伍長郎党:コンピュータ技師

 

  整備兵ジェレミー・ゲイル伍長:ドーアティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵パメラ・ポネット伍長:キャラハン少尉郎党:航空機関士、コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク伍長:チェスティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵フランツ・ボルツマン伍長:ゲルステンビュッテル少尉郎党:航空機関士

 

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト伍長:ヤーデルード少尉付き:航空機関士

  整備兵ヤニク・ルール伍長:ブリーゼマイスター少尉付き:航空機関士、運転手

 

  その他助整兵130名

 

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス伍長:ホーエンハイム軍曹郎党

 

砲兵隊:

 スナイパー砲車輛1輛

 (整備兵のサイモン・グリーンウッド曹長が、砲兵と運転手として一時的に異動)

 フォートレス級降下船・ロングトムⅢ間接砲

 (整備兵のボールドウィン・アクロイド伍長が、砲兵として一時的に異動)

 

歩兵部隊:

  第1歩兵小隊:エリオット・グラハム少尉(小隊長)

         ラナ・ゴドルフィン上等兵:衛生兵

         その他歩兵26名

  第2歩兵小隊:テリー・アボット軍曹(小隊長)

         ジャスティン・コールマン一等兵:運転手

         その他歩兵26名

  第3歩兵小隊:ヴィクトル・デュヴェリエ伍長(小隊長)

         その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:ジェームズ・パーシング上等兵(小隊長)

         その他歩兵27名

 

機甲部隊:

  第1戦車中隊:

    第1戦車小隊:

      イスマエル・ミラン軍曹(中隊長):マンティコア戦車×4

      その他戦車兵15名

    第2戦車小隊:

      ベンジャミン・フォーブス軍曹(小隊長):ハンター戦車×4

      その他戦車兵11名

    第3戦車小隊:

      レオポルト・ブルッフ軍曹(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4

      その他戦車兵7名

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号:

  船長カイル・カークランド少尉

  副長イングヴェ・ルーセンベリ准尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号:

  船長アリー・イブン・ハーリド少尉

  副長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー准尉

  機関士フォルカス・ロウントゥリー伍長

  機関士アデル・ドラモンド伍長

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト少尉

  副長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ准尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ伍長

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク伍長

  その他船員10名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル少尉

  副長マシュー・マクレーン准尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ伍長

  機関士ライナス・ゲイル伍長

  その他船員38名

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン博士(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(少尉待遇)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

航宙艦:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(中尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(少尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(伍長待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(伍長待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級航宙艦イントレピッド号(暫定契約中)

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(中尉待遇)

  副長ヘルマン・アギラー(少尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(伍長待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(伍長待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

予備メック他:

  70tアーチャー×2

  60tライフルマン×2

  60tオストソル×1

  55tウルバリーン×1

  55tグリフィン×1

  55tシャドウホーク×2

  50tエンフォーサー×3

  50tハンチバック

  45tフェニックスホーク×2

  45tD型フェニックスホーク×3

  45tヴィンディケイター×1

  40tクリント×1

  40tウィットワース×2

  35tオストスカウト×1

  30tヴァルキリー

 

追記:

   歩兵部隊:

 

   降下船部隊:

    レパード級ヴァリアント号:

     船長ヴォルフ・カウフマン少尉

     副長オーレリア・レヴィン准尉

     その他機関士2名

     その他船員5名



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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その2

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。第5期および第6期の編制までを掲載しました。第7期から先はその3以降に掲載します。


傭兵メック中隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第5期編制表:3026年02月18日・『エピソード-035』時点

 

メック部隊:

 指揮小隊:

  メック戦士キース・ハワード大尉:55tグリフィン(中隊長)

  メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:65tサンダーボルト

  メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム軍曹:60tライフルマン

  メック戦士エリーザ・ファーバー軍曹:70tウォーハンマー

 火力小隊:

  メック戦士ヒューバート・イーガン中尉:75tオリオン(小隊長)

  メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

  メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

  メック戦士カーリン・オングストローム軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 偵察小隊:

  メック戦士アーリン・デヴィッドソン中尉:45tフェニックスホーク(小隊長)

  メック戦士リシャール・ジェレ少尉:45tフェニックスホーク

  メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:55tグリフィン

  メック戦士ヴェラ・クルーグハルト軍曹:45tD型フェニックスホーク

 

気圏戦闘機隊:

  航空兵マイク・ドーアティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

 

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(予備機貸与)

 

偵察・整備兵分隊:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド少尉:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ラモン・ロペス伍長(18):ホーエンハイム軍曹付き:コンピュータ技師

  整備兵モードリン・デッカー伍長(17):ドゥンケル少尉付き:運転手

 

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト伍長:イーガン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー伍長:ツィルヒャー少尉付き:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ伍長:エルンスト軍曹付き:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル伍長:オングストローム伍長付き:衛生兵

 

  整備兵クレール・オリオール曹長:デヴィッドソン中尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル伍長:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド伍長:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン伍長:クルーグハルト伍長郎党:コンピュータ技師

 

  整備兵ジェレミー・ゲイル軍曹:ドーアティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵パメラ・ポネット軍曹:キャラハン少尉郎党:航空機関士、コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク伍長:チェスティ少尉郎党:航空機関士

  整備兵フランツ・ボルツマン伍長:ゲルステンビュッテル少尉郎党:航空機関士

 

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト伍長:ヤーデルード少尉付き:航空機関士

  整備兵ヤニク・ルール伍長:ブリーゼマイスター少尉付き:航空機関士、運転手

 

  その他助整兵130名

 

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス軍曹:ホーエンハイム軍曹郎党

 

砲兵隊:

 スナイパー砲車輛1輛

 (整備兵のサイモン・グリーンウッド曹長が、砲兵と運転手として一時的に異動)

 フォートレス級降下船・ロングトムⅢ間接砲

 (整備兵のボールドウィン・アクロイド伍長が、砲兵として一時的に異動)

 

機甲部隊:

第1戦車中隊:

  第1戦車小隊:

   イスマエル・ミラン中尉待遇少尉(中隊長):マンティコア戦車×4

   その他戦車兵15名

  第2戦車小隊:

   ベンジャミン・フォーブス少尉(小隊長):ハンター戦車×4

   その他戦車兵11名

  第3戦車小隊:

   レオポルト・ブルッフ少尉(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4

   その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 歩兵中隊:

  第1歩兵小隊:エリオット・グラハム中尉(中隊長)

         ラナ・ゴドルフィン伍長:衛生兵

         その他歩兵26名

  第2歩兵小隊:テリー・アボット少尉(小隊長)

         ジャスティン・コールマン伍長:運転手

         その他歩兵26名

  第3歩兵小隊:ヴィクトル・デュヴェリエ軍曹(小隊長)

         その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:ジェームズ・パーシング軍曹待遇伍長(小隊長)

         その他歩兵27名

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン博士(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(少尉待遇)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号:

  船長カイル・カークランド少尉

  副長イングヴェ・ルーセンベリ准尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号:

  船長アリー・イブン・ハーリド少尉

  副長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー准尉

  機関士フォルカス・ロウントゥリー伍長

  機関士アデル・ドラモンド伍長

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト少尉

  副長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ准尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ伍長

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク伍長

  その他船員10名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル少尉

  副長マシュー・マクレーン准尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ伍長

  機関士ライナス・ゲイル伍長

  その他船員38名

 

航宙艦:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(中尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(少尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(伍長待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(伍長待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級航宙艦イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(中尉待遇)

  副長ヘルマン・アギラー(少尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(伍長待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(伍長待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

その他:

  ジープ(非武装車)×3

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×3

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×1

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH×1

  スキマー×3

 

予備メック他:

  70tアーチャー×2

  60tライフルマン×2

  60tオストソル×1

  55tウルバリーン×1

  55tグリフィン×1

  55tシャドウホーク×2

  50tエンフォーサー×3

  50tハンチバック

  45tフェニックスホーク×2

  45tD型フェニックスホーク×3

  45tヴィンディケイター×1

  40tクリント×1

  40tウィットワース×2

  35tオストスカウト×1

  30tヴァルキリー

 

 

 

 

傭兵メック大隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第6期編制表:3026年04月14日・『エピソード-039』時点

 

メック部隊:

 第1中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士キース・ハワード少佐:75tマローダー(大隊長)

   メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:65tサンダーボルト

   メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム曹長:60tライフルマン

   メック戦士エリーザ・ファーバー曹長:70tウォーハンマー

 

  火力小隊:

   メック戦士ケネス・ゴードン中尉:55tウルバリーン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ジョシュア・ブレナン少尉:50tハンチバック(予備機貸与)

   メック戦士ドロテア・レーディン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

   メック戦士マイケル・ニューマン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士アーリン・デヴィッドソン中尉:45tフェニックスホーク(小隊長)

   メック戦士リシャール・ジェレ少尉:45tフェニックスホーク

   メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:55tグリフィン

   メック戦士ヴェラ・クルーグハルト軍曹:45tD型フェニックスホーク

 

 第2中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ヒューバート・イーガン大尉:75tオリオン(中隊長)

   メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

   メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

   メック戦士カーリン・オングストローム軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

  火力小隊(『機兵狩人小隊』):

   メック戦士サラ・グリソム少尉:45tD型フェニックスホーク(小隊長代理)

   メック戦士ギリアム・ヴィンセント軍曹:50tエンフォーサー

   メック戦士アマデオ・ファルケンハイン軍曹:55tシャドウホーク

 

  訓練生部隊:

   メック戦士イヴリン・イェーガー軍曹:65tサンダーボルト

   メック戦士エドウィン・ダーリング伍長:40tウィットワース(予備機貸与)

   メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長:40tウィットワース(予備機貸与)

 

気圏戦闘機隊:

  航空兵マイク・ドーアティ中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

 

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(予備機貸与)

 

偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック曹長(暫定小隊長)

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス軍曹:ホーエンハイム軍曹郎党

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

 

整備兵小隊:

 第1中隊指揮小隊:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド少尉:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ラモン・ロペス伍長:ホーエンハイム軍曹付き:コンピュータ技師

  整備兵モードリン・デッカー伍長:ドゥンケル少尉付き:運転手

 第1中隊火力小隊:

  整備兵4名:第1中隊火力小隊メック戦士

 第1中隊偵察小隊:

  整備兵クレール・オリオール曹長:デヴィッドソン中尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル伍長:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド伍長:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン伍長:クルーグハルト伍長郎党:コンピュータ技師

 

 第2中隊指揮小隊:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト伍長:イーガン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー伍長:ツィルヒャー少尉付き:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ伍長:エルンスト軍曹付き:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル伍長:オングストローム伍長付き:衛生兵

 第2中隊火力小隊(『機兵狩人小隊』):

  その他整備兵3名:各メック戦士付き

 

 訓練生部隊:

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー訓練生郎党:コンピュータ技師

  その他整備兵2名

 気圏戦闘機隊:

  整備兵ジェレミー・ゲイル軍曹:ドーアティ少尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット軍曹:キャラハン少尉郎党:コンピュータ技師、尋問官

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク伍長:チェスティ少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵フランツ・ボルツマン伍長:ゲルステンビュッテル少尉郎党:尋問官兼任

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト伍長:ヤーデルード少尉付き:交渉官

  整備兵ヤニク・ルール伍長:ブリーゼマイスター少尉付き:運転手兼

 助整兵:

  助整兵210名

 

砲兵隊:

 スナイパー砲車輛1輛

 (整備兵のサイモン・グリーンウッド少尉が、砲兵と運転手として一時的に異動)

 フォートレス級降下船・ロングトムⅢ間接砲

 (整備兵のボールドウィン・アクロイド伍長が、砲兵として一時的に異動)

 

機甲部隊:

第1戦車中隊:

  第1戦車小隊:

   イスマエル・ミラン中尉待遇少尉(中隊長):マンティコア戦車×4

   その他戦車兵15名

  第2戦車小隊:

   ベンジャミン・フォーブス少尉(小隊長):ハンター戦車×4

   その他戦車兵11名

  第3戦車小隊:

   レオポルト・ブルッフ少尉(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4

   その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 第1歩兵中隊:

  第1歩兵小隊:

   エリオット・グラハム中尉(中隊長、歩兵部隊長)

   ラナ・ゴドルフィン伍長:軍医

   その他歩兵26名

  第2歩兵小隊:

   テリー・アボット少尉(小隊長)

   ジャスティン・コールマン伍長:運転手

   その他歩兵26名

  第3歩兵小隊:

   ヴィクトル・デュヴェリエ軍曹(小隊長)

   その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:

   ジェームズ・パーシング軍曹待遇伍長(小隊長)

   その他歩兵27名

 第2歩兵中隊(臨時雇い):

  第5歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

  第6歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

  第7歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

  第8歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

 

惑星学者:

  学者ミン・ハオサン(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(少尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(軍曹待遇)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド少尉

  副長イングヴェ・ルーセンベリ准尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン少尉

  副長オーレリア・レヴィン准尉

  その他機関士2名

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド少尉

  副長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー准尉

  機関士アデル・ドラモンド伍長

  機関士フォルカス・ロウントゥリー伍長

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト少尉

  副長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ准尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ伍長

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク伍長

  その他船員10名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル少尉

  副長マシュー・マクレーン准尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ伍長

  機関士ライナス・ゲイル伍長

  その他船員38名

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号:

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(中尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(少尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(伍長待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(伍長待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(中尉待遇)

  副長ヘルマン・アギラー(少尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(伍長待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(伍長待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

その他:

  ジープ(非武装車)×3

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×3

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×1

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH×1

  スキマー×3

 

予備メック他:

  60tライフルマン×2

  60tオストソル×1

  55tグリフィン×1

  55tシャドウホーク×2

  50tエンフォーサー×3

  45tフェニックスホーク×2

  45tD型フェニックスホーク×3

  45tヴィンディケイター×1

  40tクリント×1

  40tウィットワース×2

  35tオストスカウト×1

  30tヴァルキリー



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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その3

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。第7期および第8期の編制までを掲載しました。第9期から先はその4以降に掲載します。


傭兵メック大隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第7期編制表:3026年06月02日・『エピソード-051』時点

第1中隊:

メック部隊:

 第1中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士キース・ハワード少佐:75tマローダー(大隊長)

   メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:65tサンダーボルト

   メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム曹長:60tライフルマン

   メック戦士エリーザ・ファーバー曹長:70tウォーハンマー

 

  火力小隊:

   メック戦士ケネス・ゴードン中尉:55tウルバリーン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ジョシュア・ブレナン少尉:50tハンチバック(予備機貸与)

   メック戦士ドロテア・レーディン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

   メック戦士マイケル・ニューマン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士アーリン・デヴィッドソン中尉:45tフェニックスホーク(小隊長)

   メック戦士リシャール・ジェレ少尉:45tフェニックスホーク

   メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:55tグリフィン

   メック戦士ヴェラ・クルーグハルト軍曹:45tD型フェニックスホーク

 

 第2中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ヒューバート・イーガン大尉:75tオリオン(中隊長)

   メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

   メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

   メック戦士カーリン・オングストローム軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士エドウィン・ダーリング伍長:40tウィットワース(予備機貸与)

 

  火力小隊(『機兵狩人小隊』):

   メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:45tD型フェニックスホーク(小隊長代理)

   メック戦士ギリアム・ヴィンセント軍曹:50tエンフォーサー

   メック戦士アマデオ・ファルケンハイン軍曹:55tシャドウホーク

   メック戦士イヴリン・イェーガー軍曹:65tサンダーボルト

   メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長:40tウィットワース(予備機貸与)

 

気圏戦闘機隊:

  航空兵マイク・ドーアティ中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

 

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(予備機貸与)

 

偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック曹長(暫定小隊長)

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス軍曹:ホーエンハイム軍曹郎党

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

 

整備兵小隊:

 第1中隊指揮小隊:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド少尉:ハワード中尉郎党:運転手、間接砲撃手

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ラモン・ロペス伍長:ホーエンハイム軍曹付き:コンピュータ技師

  整備兵モードリン・デッカー伍長:ドゥンケル少尉付き:運転手

 第1中隊火力小隊:

  整備兵4名:第1中隊火力小隊メック戦士

 第1中隊偵察小隊:

  整備兵クレール・オリオール曹長:デヴィッドソン中尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル伍長:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド伍長:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン伍長:クルーグハルト伍長郎党:コンピュータ技師

 

 第2中隊指揮小隊:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト伍長:イーガン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー伍長:ツィルヒャー少尉付き:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ伍長:エルンスト軍曹付き:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル伍長:オングストローム伍長付き:衛生兵

  その他整備兵1名:ダーリング伍長付き

 第2中隊火力小隊(『機兵狩人小隊』):

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー訓練生郎党:コンピューター技師

  その他整備兵1名:ブルンスマイアー伍長

  その他整備兵3名:各メック戦士付き

 

 気圏戦闘機隊:

  整備兵ジェレミー・ゲイル軍曹:ドーアティ少尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット軍曹:キャラハン少尉郎党:コンピュータ技師、尋問官

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク伍長:チェスティ少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵フランツ・ボルツマン伍長:ゲルステンビュッテル少尉郎党:尋問官兼任

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト伍長:ヤーデルード少尉付き:交渉官

  整備兵ヤニク・ルール伍長:ブリーゼマイスター少尉付き:運転手兼

 助整兵:

  その他助整兵210名(臨時雇い含む)

 

機甲部隊:

 第1戦車中隊:

  第1戦車小隊:

   イスマエル・ミラン中尉待遇少尉(中隊長):マンティコア戦車×4

   その他戦車兵15名

  第2戦車小隊:

   ベンジャミン・フォーブス少尉(小隊長):ハンター戦車×4

   その他戦車兵11名

  第3戦車小隊:

   レオポルト・ブルッフ少尉(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4

   その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 第1歩兵中隊:

  第1歩兵小隊:

   エリオット・グラハム中尉(中隊長、歩兵部隊長)

   ラナ・ゴドルフィン伍長:軍医

   その他歩兵26名

  第2歩兵小隊:

   テリー・アボット少尉(小隊長)

   ジャスティン・コールマン伍長:運転手

   その他歩兵26名

  第3歩兵小隊:

   ヴィクトル・デュヴェリエ軍曹(小隊長)

   その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:

   ジェームズ・パーシング軍曹待遇伍長(小隊長)

   その他歩兵27名

 第2歩兵中隊(臨時雇い):

  第5歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

  第6歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

  第7歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

  第8歩兵小隊(臨時雇い):

   その他歩兵28名(臨時雇い):

 

惑星学者:

  学者ミン・ハオサン(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(少尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(軍曹待遇)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド少尉

  副長イングヴェ・ルーセンベリ准尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー伍長

  機関士メアリー・オールビー伍長

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン少尉

  副長オーレリア・レヴィン准尉

  その他機関士2名

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド少尉

  副長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー准尉

  機関士アデル・ドラモンド伍長

  機関士フォルカス・ロウントゥリー伍長

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト少尉

  副長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ准尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ伍長

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク伍長

  その他船員10名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル少尉

  副長マシュー・マクレーン准尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ伍長

  機関士ライナス・ゲイル伍長

  その他船員38名

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号:

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(中尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(少尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(伍長待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(伍長待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(中尉待遇)

  副長ヘルマン・アギラー(少尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(伍長待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(伍長待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

その他:

  ジープ(非武装車)×3

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×3

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×1

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH×1

  スキマー×3

 

予備メック他:

  60tライフルマン×2

  60tオストソル×1

  55tグリフィン×1

  55tシャドウホーク×2

  50tエンフォーサー×3

  45tフェニックスホーク×2

  45tD型フェニックスホーク×3

  45tヴィンディケイター×1

  40tクリント×1

  40tウィットワース×2

  35tオストスカウト×1

  30tヴァルキリー

 

 

 

 

 

 

傭兵メック大隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第8期編制表:3026年06月27日・『エピソード-053』時点

メック部隊:

 第1中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士キース・ハワード少佐:75tマローダー(大隊長)

   メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:65tサンダーボルト

   メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム曹長:60tライフルマン

   メック戦士エリーザ・ファーバー曹長:70tウォーハンマー

 

  火力小隊:

   メック戦士ケネス・ゴードン中尉:55tウルバリーン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ジョシュア・ブレナン少尉:50tハンチバック(予備機貸与)

   メック戦士ドロテア・レーディン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

   メック戦士マイケル・ニューマン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士ジーン・ファーニバル中尉:55tグリフィン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

   メック戦士エドウィン・ダーリング伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第2中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ヒューバート・イーガン大尉:75tオリオン(中隊長)

   メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

   メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

   メック戦士カーリン・オングストローム軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

  火力小隊(『機兵狩人小隊』):

   メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:45tD型フェニックスホーク(小隊長代理)

   メック戦士ギリアム・ヴィンセント軍曹:50tエンフォーサー

   メック戦士アマデオ・ファルケンハイン軍曹:55tシャドウホーク

   メック戦士イヴリン・イェーガー軍曹:65tサンダーボルト

 

  偵察小隊:

   メック戦士アラン・ボーマン中尉:45tフェニックスホーク(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士エリーザベト・メリン少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士アロルド・エリクソン軍曹:45tD型フェニックスホーク

   メック戦士レノーレ・シュトックバウアー伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第3中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士アーリン・デヴィッドソン大尉:85tバトルマスター(小隊長)

   メック戦士リシャール・ジェレ少尉:70tウォーハンマー

   メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:65tクルセイダー

   メック戦士ヴェラ・クルーグハルト軍曹:65tサンダーボルト

 

  火力小隊(対空小隊):

   メック戦士ジェラルド・ハルフォード中尉:55tシャドウホーク(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ハーマン・カムデン少尉:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士アナ・アルフォンソ伍長:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士メアリー・キャンベル伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士アルマ・キルヒホフ中尉:45tフェニックスホーク(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ルートヴィヒ・フローベルガー少尉:45tヴィンディケイター(予備機貸与)

   メック戦士マキシーン・ウィンターズ伍長:45t型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士アドルファス・マコーマック伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

気圏戦闘機隊:

 気圏戦闘機A(アロー)中隊:

  航空兵マイク・ドーアティ中尉:50tライトニング戦闘機(中隊長)

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵フョードル・グリゴリエヴィチ・グルボコフスキー少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵バウマン・アヒレス少尉:50tライトニング戦闘機

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊:

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(中隊長、予備機貸与)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵オーギュスト・セゼール少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵キアーラ・コッポラ少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵アンジェル・デュピュイトラン少尉:60tスティングレイ戦闘機

 

偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック曹長(暫定小隊長)

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス軍曹:ホーエンハイム軍曹郎党

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ヘルムート・ゲーベンバウアー伍長

  偵察兵フィリップ・エルランジェ伍長

  偵察兵タチヤーナ・ステパノヴナ・マナエンコワ伍長

  偵察兵ソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ伍長

 

整備中隊:

 第1中隊指揮小隊担当:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉:ハワード中尉郎党:整備中隊長、運転手、間接砲撃手

  整備兵モードリン・デッカー伍長:ドゥンケル少尉付き:運転手

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:ファーバー軍曹郎党:軍医

  整備兵ラモン・ロペス伍長:ホーエンハイム軍曹付き:コンピュータ技師

 第1中隊火力小隊担当:

  整備兵リュカ・ダゲール伍長:ゴードン中尉付

  整備兵ルシンダ・プレスコット:伍長ブレナン少尉付

  整備兵ジュディス・ゴールドバーグ伍長:レーディン軍曹付

  整備兵カルロッタ・サラサーテ伍長:ニューマン軍曹付

 第1中隊偵察小隊担当:

  整備兵クレマン・ジャール伍長:ファーニバル中尉郎党

  整備兵アドルフ・ペーデル伍長:ブーニン少尉郎党

  整備兵ゲイリー・ランバート伍長:ダーリング伍長付

  整備兵ダニエラ・ポルティージョ伍長:ブルンスマイアー伍長付

 

 第2中隊指揮小隊担当:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト伍長:イーガン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー伍長:ツィルヒャー少尉付き:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ伍長:エルンスト軍曹付き:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル伍長:オングストローム伍長付き:衛生兵

 第2中隊火力小隊(『機兵狩人小隊』)担当:

  整備兵ギルバート・ケイン軍曹:グリソム中尉待遇少尉郎党

  整備兵アルトゥール・フョードロヴィチ・ドラガノフ軍曹:ヴィンセント軍曹郎党

  整備兵アレクセイ・ヤコヴレヴィチ・チェホエフ軍曹:ファルケンハイン軍曹郎党

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー訓練生郎党:コンピューター技師

 第2中隊偵察小隊担当:

  整備兵ハルトムート・キルステン伍長:ボーマン中尉郎党

  整備兵ジョーゼフ・エイドリアン伍長:メリン少尉付

  整備兵ヨーゼフ・ノイエンドルフ伍長:エリクソン軍曹郎党

  整備兵アメーリア・ステッラ伍長:シュトックバウアー伍長付

 

 第3中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレール・オリオール曹長:デヴィッドソン中尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル伍長:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド伍長:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン伍長:クルーグハルト伍長郎党:コンピュータ技師

 第3中隊火力小隊(対空小隊)担当:

  整備兵キティ・アトキンズ伍長:ハルフォード中尉郎党

  整備兵ゾフィーア・エルレンマイアー伍長:カムデン少尉付

  整備兵ジークリンデ・ガイスラー伍長:アルフォンソ伍長付

  整備兵アレクセイ・ヴィクトロヴィチ・イワノフ伍長:キャンベル伍長付

 第3中隊偵察小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・ヴァルテンブルグ伍長:アルマ・キルヒホフ中尉郎党

  整備兵ジョーセフ・キャムデン伍長:フローベルガー少尉付

  整備兵ウラディミル・セルゲエヴィチ・ブゾフ伍長・ウィンターズ伍長付

  整備兵アリエル・シャトーブリアン伍長:マコーマック伍長付

 

 気圏戦闘機隊A中隊担当:

  整備兵ジェレミー・ゲイル軍曹:ドーアティ少尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット軍曹:キャラハン少尉郎党:コンピュータ技師、尋問官

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク伍長:チェスティ少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵フランツ・ボルツマン伍長:ゲルステンビュッテル少尉郎党:尋問官兼任

  整備兵バーンハード・アストン伍長:グルボコフスキー少尉郎党

  整備兵ローレンツ・ブルンスマイアー伍長アヒレス少尉郎党

 

 気圏戦闘機隊B中隊担当:

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト伍長:ヤーデルード少尉付き:交渉官

  整備兵ヤニク・ルール伍長:ブリーゼマイスター少尉付き:運転手兼

  整備兵アドルファス・ジェラルディーン伍長:セゼール少尉郎党

  整備兵ニコラ・ヤッキア伍長:クラコフスキー少尉郎党

  整備兵モルガン・エベール伍長:コッポラ少尉郎党

  整備兵バーナード・ウォルシュ伍長:デュピュイトラン少尉郎党

 

 助整兵:

  その他助整兵310名(臨時雇い含む)

 

注)整備兵の担当は流動的な物である。

  例えれば緊急時には気圏戦闘機隊担当中で技能がある者がメック修理に駆り出されたりもある。

  また戦車の修理は、特に担当を決めずにメック、気圏戦闘機担当の者が持ち回りで行っている。

 

 

機甲部隊:

 第1戦車中隊:

  第1戦車小隊:

   イスマエル・ミラン大尉待遇中尉(中隊長):マンティコア戦車×4

   その他戦車兵15名

  第2戦車小隊:

   ベンジャミン・フォーブス中尉(小隊長):ハンター戦車×4

   その他戦車兵11名

  第3戦車小隊:

   レオポルト・ブルッフ中尉(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4

   その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 第1歩兵中隊:

  第1歩兵小隊:

   エリオット・グラハム大尉(中隊長、歩兵部隊長)

   ラナ・ゴドルフィン軍曹:軍医

   その他歩兵26名

  第2歩兵小隊:

   テリー・アボット中尉(小隊長)

   その他歩兵27名

  第3歩兵小隊:

   ヴィクトル・デュヴェリエ少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:

   ジェームズ・パーシング少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

 第2歩兵中隊(全員臨時雇い):

  第5歩兵小隊:

   その他歩兵28名:

  第6歩兵小隊:

   その他歩兵28名:

  第7歩兵小隊:

   その他歩兵28名:

  第8歩兵小隊:

   その他歩兵28名:

 

大隊副官:

  ジャスティン・コールマン少尉:運転手

 

教育担当官:

  ヴァーリア・グーテンベルク少尉:教員

 

武器担当官:

  ペーター・アーベントロート軍曹

 

惑星学者:

  学者ミン・ハオサン(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(少尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(軍曹待遇)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド中尉

  副長イライダ・アダーモヴナ・アドロワ少尉

  機関士メアリー・オールビー軍曹

  機関士ヨアヒム・ブリーゼマイスター軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン中尉

  副長セルマ・ルンヴィク少尉

  機関士グレッグ・アボット軍曹

  機関士ケヴィン・ギブソン軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級スペードフィッシュ号

  船長イングヴェ・ルーセンベリ中尉

  副長ナタリア・サンチェス少尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー軍曹

  機関士ゼルダ・ウルフスタン軍曹

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド中尉

  副長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー少尉

  機関士アデル・ドラモンド軍曹

  機関士フォルカス・ロウントゥリー軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト中尉

  副長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ少尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ軍曹

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級レパルス号

  船長オーレリア・レヴィン中尉

  副長ダーナ・フィリップス少尉

  機関士メアリー・ホーキンズ軍曹

  機関士ヘルカ・パータロ軍曹

  その他船員10名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル中尉

  副長マシュー・マクレーン少尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ軍曹

  機関士ライナス・ゲイル軍曹

  その他船員38名

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号:

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(大尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(中尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(軍曹待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(大尉待遇)

  副長ヘルマン・アギラー(中尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(軍曹待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級ズーコフ号

  艦長ヨハン・グートシュタイン(大尉待遇)

  副長ハーバート・チャーチル(中尉待遇)

  機関士ヒューゴー・リンゼイ(軍曹待遇)

  機関士ヴィリバルト・アクス(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

その他:

  ジープ(非武装車)×3

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×7

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×1

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH×1

  スキマー×3

 

予備メック他:

  60tオストソル×1

  55tグリフィン×1

 50tエンフォーサー×3

  45tフェニックスホーク×2

  45tD型フェニックスホーク×2

 40tクリント×1

  40tウィットワース×2

  30tヴァルキリー



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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その4

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。第9期および第10期の編制までを掲載しました。第11期から先はその5以降に掲載します。


傭兵メック大隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第9期編制表:3026年07月31日・『エピソード-055』時点

メック部隊:

 第1中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士キース・ハワード中佐:75tマローダー(大隊長)

   メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:65tサンダーボルト

   メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム曹長:60tライフルマン

   メック戦士エリーザ・ファーバー曹長:70tウォーハンマー

 

  火力小隊『機兵狩人小隊』:

   メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:45tD型フェニックスホーク(小隊長代理)

   メック戦士ギリアム・ヴィンセント軍曹:50tエンフォーサー

   メック戦士アマデオ・ファルケンハイン軍曹:55tシャドウホーク

   メック戦士イヴリン・イェーガー軍曹:65tサンダーボルト

 

  偵察小隊:

   メック戦士ジーン・ファーニバル中尉:55tグリフィン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

   メック戦士エドウィン・ダーリング伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第2中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ヒューバート・イーガン大尉:75tオリオン

   メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

   メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

   メック戦士カーリン・オングストローム軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

  火力小隊:

   メック戦士アーデルハイト・エルマン中尉:60tオストソル(予備機貸与)

   メック戦士ワンダ・エアハルト少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士ニコロ・フォルミーキ伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ジョディー・ラングトン軍曹:45tD型フェニックスホーク

 

  偵察小隊:

   メック戦士アラン・ボーマン中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エリーザベト・メリン少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士アロルド・エリクソン軍曹:45tD型フェニックスホーク

   メック戦士レノーレ・シュトックバウアー伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第3中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士アーリン・デヴィッドソン大尉:85tバトルマスター

   メック戦士リシャール・ジェレ少尉:70tウォーハンマー

   メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:65tクルセイダー

   メック戦士ヴェラ・クルーグハルト軍曹:65tサンダーボルト

 

  火力小隊(対空小隊):

   メック戦士ジェラルド・ハルフォード中尉:55tシャドウホーク(予備機貸与)

   メック戦士ハーマン・カムデン少尉:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士アナ・アルフォンソ伍長:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士メアリー・キャンベル伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士アルマ・キルヒホフ中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ルートヴィヒ・フローベルガー少尉:45tヴィンディケイター(予備機貸与)

   メック戦士マキシーン・ウィンターズ伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士アドルファス・マコーマック伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第4中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ケネス・ゴードン大尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

   メック戦士ジョシュア・ブレナン少尉:50tハンチバック(予備機貸与)

   メック戦士ドロテア・レーディン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

   メック戦士マイケル・ニューマン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

 

  火力小隊:

   メック戦士アルベルト・エルツベルガー中尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士アレックス・キャンベル少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エステル・オーベリ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士アーシュラ・グレー伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士ルイーサ・フェルナンデス中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ルートヴィヒ・ゲルステンビュッテル少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士シャルロッタ・メルベリ伍長:45tフェニックスホーク

   メック戦士ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ伍長:45tフェニックスホーク

 

 訓練生部隊:

   メック戦士ジャクリーン・ジェンキンソン訓練生:40tウィットワース(予備機貸与)

   メック戦士ゲルダ・ブライトクロイツ訓練生:40tウィットワース(予備機貸与)

   メック戦士モーリス・キャンピアン訓練生:40tクリント(予備機貸与)

   メック戦士ブリジット・セスナ訓練生:30tヴァルキリー(予備機貸与)

 

気圏戦闘機隊:

 気圏戦闘機A(アロー)中隊:

  航空兵マイク・ドーアティ中尉:50tライトニング戦闘機(中隊長)

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵フョードル・グリゴリエヴィチ・グルボコフスキー少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵バウマン・アヒレス少尉:50tライトニング戦闘機

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊:

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード中尉:75tトランスグレッサー戦闘機(中隊長、予備機貸与)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー(予備機貸与)

  航空兵オーギュスト・セゼール少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵キアーラ・コッポラ少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵アンジェル・デュピュイトラン少尉:60tスティングレイ戦闘機

 

偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック曹長(暫定小隊長、尋問官)

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス軍曹:ホーエンハイム曹長郎党

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ヘルムート・ゲーベンバウアー伍長

  偵察兵フィリップ・エルランジェ伍長

  偵察兵タチヤーナ・ステパノヴナ・マナエンコワ伍長

  偵察兵ソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ伍長

 

整備中隊:

 第1中隊指揮小隊担当:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉:ハワード中佐郎党:整備中隊長、運転手、間接砲撃手

  整備兵モードリン・デッカー軍曹:マテュー・ドゥンケル少尉付き:運転手

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:エリーザ・ファーバー曹長郎党:軍医

  整備兵ラモン・ロペス軍曹:ホーエンハイム軍曹付:コンピュータ技師

 第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』担当:

  整備兵ギルバート・ケイン軍曹:グリソム中尉待遇少尉郎党

  整備兵アルトゥール・フョードロヴィチ・ドラガノフ軍曹:ヴィンセント軍曹郎党

  整備兵アレクセイ・ヤコヴレヴィチ・チェホエフ軍曹:ファルケンハイン軍曹郎党

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー軍曹郎党:領地管理者

 第1中隊偵察小隊担当:

  整備兵クレマン・ジャール伍長:ファーニバル中尉郎党

  整備兵アドルフ・ペーデル伍長:ブーニン少尉郎党

  整備兵ゲイリー・ランバート伍長:ダーリング伍長付

  整備兵ダニエラ・ポルティージョ伍長:ブルンスマイアー伍長付

 

 第2中隊指揮小隊担当:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト少尉:イーガン大尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー軍曹:ツィルヒャー少尉付:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ軍曹:エルンスト軍曹付:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル軍曹:オングストローム軍曹付:衛生兵

 第2中隊火力小隊担当:

  整備兵レギニータ・セゴビア伍長:エルマン中尉付

  整備兵ジョーハンナ・ケアリー伍長:エアハルト少尉付

  整備兵ニール・カーネギー伍長:フォルミーキ伍長付

  整備兵ニコラス・ジェファーソン伍長:ラングトン軍曹郎党

 第2中隊偵察小隊担当:

  整備兵ハルトムート・キルステン伍長:ボーマン中尉郎党

  整備兵ジョーゼフ・エイドリアン伍長:メリン少尉付

  整備兵ヨーゼフ・ノイエンドルフ伍長:エリクソン軍曹郎党

  整備兵アメーリア・ステッラ伍長:シュトックバウアー伍長付

 

 第3中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレール・オリオール少尉:デヴィッドソン大尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル軍曹:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド軍曹:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン軍曹:クルーグハルト軍曹郎党:コンピュータ技師

 第3中隊火力小隊(対空小隊)担当:

  整備兵キティ・アトキンズ伍長:ハルフォード中尉郎党

  整備兵ゾフィーア・エルレンマイアー伍長:カムデン少尉付

  整備兵ジークリンデ・ガイスラー伍長:アルフォンソ伍長付

  整備兵アレクセイ・ヴィクトロヴィチ・イワノフ伍長:キャンベル伍長付

 第3中隊偵察小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・ヴァルテンブルグ伍長:キルヒホフ中尉郎党

  整備兵ジョーセフ・キャムデン伍長:フローベルガー少尉付

  整備兵ウラディミル・セルゲエヴィチ・ブゾフ伍長:ウィンターズ伍長付

  整備兵アリエル・シャトーブリアン伍長:マコーマック伍長付

 

 第4中隊指揮小隊担当:

  整備兵リュカ・ダゲール伍長:ゴードン大尉付

  整備兵ルシンダ・プレスコット伍長:ブレナン少尉付

  整備兵ジュディス・ゴールドバーグ伍長:レーディン軍曹付

  整備兵カルロッタ・サラサーテ伍長:ニューマン軍曹付

 第4中隊火力小隊担当:

  整備兵オズワルド・ナイト伍長:エルツベルガー中尉付

  整備兵アリョーナ・イワノヴナ・アヴェリナ伍長:キャンベル少尉付

  整備兵シャルロッタ・マンダール伍長:オーベリ伍長付

  整備兵エイダ・キャラハン伍長:グレー伍長付

 第4中隊偵察小隊担当:

  整備兵レイフ・マッカラー伍長:フェルナンデス中尉付

  整備兵ラッセル・リスター伍長:ゲルステンビュッテル少尉付

  整備兵ヘンリー・キング伍長:メルベリ伍長郎党

  整備兵キーラ・アキモヴナ・グロトワ伍長:ゴリバフ伍長郎党

 訓練生部隊担当:

  整備兵ドム・マキオン伍長:ジェンキンソン訓練生付

  整備兵アーネスト・フォード伍長:ブライトクロイツ訓練生付

  整備兵アール・リリーホワイト伍長:キャンピアン訓練生付

  整備兵ルイーズ・キャンベル伍長:セスナ訓練生付

 

 気圏戦闘機A(アロー)中隊担当:

  整備兵ジェレミー・ゲイル少尉:ドーアティ少尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット軍曹:キャラハン少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク軍曹:チェスティ少尉郎党

  整備兵フランツ・ボルツマン軍曹:ゲルステンビュッテル少尉郎党

  整備兵バーンハード・アストン伍長:グルボコフスキー少尉郎党

  整備兵ローレンツ・ブルンスマイアー伍長:アヒレス少尉郎党

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊担当:

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト軍曹:ヤーデルード中尉付

  整備兵ヤニク・ルール軍曹:ブリーゼマイスター少尉付:運転手

  整備兵アドルファス・ジェラルディーン伍長:セゼール少尉郎党

  整備兵ニコラ・ヤッキア伍長:クラコフスキー少尉郎党

  整備兵モルガン・エベール伍長:コッポラ少尉郎党

  整備兵バーナード・ウォルシュ伍長:デュピュイトラン少尉郎党

 

 助整兵:

  その他助整兵390名(臨時雇い含む)

 

注)整備兵の担当は流動的な物である。

  例えば緊急時には気圏戦闘機隊担当中で有技能者がメック修理に駆り出される。

  また戦車の修理は、特に担当を決めず、他担当の者が持ち回りで行っている。

 

 

機甲部隊:

 第1戦車中隊:

  第1戦車小隊:

   イスマエル・ミラン大尉待遇中尉(中隊長):マンティコア戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵15名

  第2戦車小隊

   ベンジャミン・フォーブス中尉(小隊長):ハンター戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵11名

  第3戦車小隊

   レオポルト・ブルッフ中尉(小隊長): ヴァデット哨戒戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 第1歩兵中隊:

  第1歩兵小隊:

   エリオット・グラハム大尉(中隊長、歩兵部隊長)

   その他歩兵27名

  第2歩兵小隊:

   ラナ・ゴドルフィン少尉(小隊長、軍医)

   その他歩兵27名

  第3歩兵小隊:

   ヴィクトル・デュヴェリエ少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:

   ジェームズ・パーシング少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

 第2歩兵中隊(指揮官を除き臨時雇い):

  第5歩兵小隊:

   テリー・アボット大尉待遇中尉(中隊長)

   その他歩兵27名

  第6歩兵小隊:

   その他歩兵28名

  第7歩兵小隊:

   その他歩兵28名

  第8歩兵小隊:

   その他歩兵28名

 

 

大隊副官:

  ジャスティン・コールマン少尉:運転手

 

教育担当官:

  ヴァーリア・グーテンベルク少尉:教員

 

武器担当官:

  ペーター・アーベントロート軍曹

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン:学者(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(中尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(軍曹待遇)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド中尉

  副長イライダ・アダーモヴナ・アドロワ少尉

  機関士メアリー・オールビー軍曹

  機関士ヨアヒム・ブリーゼマイスター軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン中尉

  副長セルマ・ルンヴィク少尉

  機関士グレッグ・アボット軍曹

  機関士ケヴィン・ギブソン軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級スペードフィッシュ号

  船長イングヴェ・ルーセンベリ中尉

  副長ナタリア・サンチェス少尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー軍曹

  機関士ゼルダ・ウルフスタン軍曹

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド中尉

  副長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー少尉

  機関士アデル・ドラモンド軍曹

  機関士フォルカス・ロウントゥリー軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト中尉

  副長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ少尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ軍曹

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級レパルス号

  船長オーレリア・レヴィン中尉

  副長ダーナ・フィリップス少尉

  機関士メアリー・ホーキンズ軍曹

  機関士ヘルカ・パータロ軍曹

  その他船員10名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル中尉

  副長マシュー・マクレーン少尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ軍曹

  機関士ライナス・ゲイル軍曹

  その他船員38名

 

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(大尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(中尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(軍曹待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(大尉待遇)

  副長ヘルマン・アギラー(中尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(軍曹待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級ズーコフ号

  艦長ヨハン・グートシュタイン(大尉待遇)

  副長ハーバート・チャーチル(中尉待遇)

  機関士ヒューゴー・リンゼイ(軍曹待遇)

  機関士ヴィリバルト・アクス(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

その他:

  スナイパー砲車輛×1

  ジープ(非武装車)×4

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×7

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×1

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH(非武装)×1

  機動病院車MASH(武装有)×1

  スキマー×7

 

 

 

 

 

 

傭兵メック大隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第10期編制表:3027年03月10日・『エピソード-071』時点

メック部隊:

 第1中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士キース・ハワード中佐:95tS型バンシー(大隊長)

   メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:100tアトラス

   メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム曹長:80tオウサム

   メック戦士エリーザ・ファーバー曹長:85tストーカー

 

  火力小隊『機兵狩人小隊』:

   メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:75tマローダー(小隊長代理)

   メック戦士ギリアム・ヴィンセント軍曹:50tエンフォーサー

   メック戦士アマデオ・ファルケンハイン軍曹:55tシャドウホーク

   メック戦士イヴリン・イェーガー軍曹:65tサンダーボルト

 

  偵察小隊:

   メック戦士ジーン・ファーニバル中尉:55tグリフィン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

   メック戦士エドウィン・ダーリング伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第2中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ヒューバート・イーガン大尉:75tオリオン

   メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

   メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

   メック戦士カーリン・オングストローム軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

  火力小隊:

   メック戦士アーデルハイト・エルマン中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

   メック戦士ワンダ・エアハルト少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士ニコロ・フォルミーキ伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ジョディー・ラングトン軍曹:45tD型フェニックスホーク

 

  偵察小隊:

   メック戦士アラン・ボーマン中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エリーザベト・メリン少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士アロルド・エリクソン軍曹:45tD型フェニックスホーク

   メック戦士レノーレ・シュトックバウアー伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第3中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士アーリン・デヴィッドソン大尉:85tバトルマスター

   メック戦士リシャール・ジェレ少尉:70tウォーハンマー

   メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:65tクルセイダー

   メック戦士ヴェラ・クルーグハルト軍曹:65tサンダーボルト

 

  火力小隊(対空小隊):

   メック戦士ジェラルド・ハルフォード中尉:55tシャドウホーク(予備機貸与)

   メック戦士ハーマン・カムデン少尉:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士アナ・アルフォンソ伍長:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士メアリー・キャンベル伍長:60tライフルマン(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士アルマ・キルヒホフ中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ルートヴィヒ・フローベルガー少尉:45tヴィンディケイター(予備機貸与)

   メック戦士マキシーン・ウィンターズ伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士アドルファス・マコーマック伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第4中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ケネス・ゴードン大尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

   メック戦士ジョシュア・ブレナン少尉:50tハンチバック(予備機貸与)

   メック戦士ドロテア・レーディン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

   メック戦士マイケル・ニューマン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

 

  火力小隊:

   メック戦士アルベルト・エルツベルガー中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

   メック戦士アレックス・キャンベル少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士エステル・オーベリ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士アーシュラ・グレー伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士ルイーサ・フェルナンデス中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ルートヴィヒ・ゲルステンビュッテル少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士シャルロッタ・メルベリ伍長:45tフェニックスホーク

   メック戦士ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ伍長:45tフェニックスホーク

 

 訓練生部隊:

   メック戦士ジャクリーン・ジェンキンソン訓練生:40tウィットワース(予備機貸与)

   メック戦士ゲルダ・ブライトクロイツ訓練生:40tウィットワース(予備機貸与)

   メック戦士モーリス・キャンピアン訓練生:40tクリント(予備機貸与)

   メック戦士ブリジット・セスナ訓練生:30tヴァルキリー(予備機貸与)

 

気圏戦闘機隊:

 気圏戦闘機A(アロー)中隊:

  航空兵マイク・ドーアティ中尉:50tライトニング戦闘機(中隊長)

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵フョードル・グリゴリエヴィチ・グルボコフスキー少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵バウマン・アヒレス少尉:50tライトニング戦闘機

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊:

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード中尉:75tトランスグレッサー戦闘機(中隊長、予備機貸与)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー(予備機貸与)

  航空兵オーギュスト・セゼール少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵キアーラ・コッポラ少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵アンジェル・デュピュイトラン少尉:60tスティングレイ戦闘機

 

偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック曹長(暫定小隊長、尋問官)

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス軍曹:ホーエンハイム曹長郎党

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ヘルムート・ゲーベンバウアー伍長

  偵察兵フィリップ・エルランジェ伍長

  偵察兵タチヤーナ・ステパノヴナ・マナエンコワ伍長

  偵察兵ソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ伍長

 

整備中隊:

 第1中隊指揮小隊担当:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉:ハワード中佐郎党:整備中隊長、運転手、間接砲撃手

  整備兵モードリン・デッカー軍曹:マテュー・ドゥンケル少尉付き:運転手

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:エリーザ・ファーバー曹長郎党:軍医

  整備兵ラモン・ロペス軍曹:ホーエンハイム軍曹付:コンピュータ技師

 第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』担当:

  整備兵ギルバート・ケイン軍曹:グリソム中尉待遇少尉郎党

  整備兵アルトゥール・フョードロヴィチ・ドラガノフ軍曹:ヴィンセント軍曹郎党

  整備兵アレクセイ・ヤコヴレヴィチ・チェホエフ軍曹:ファルケンハイン軍曹郎党

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー軍曹郎党:領地管理者

 第1中隊偵察小隊担当:

  整備兵クレマン・ジャール伍長:ファーニバル中尉郎党

  整備兵アドルフ・ペーデル伍長:ブーニン少尉郎党

  整備兵ゲイリー・ランバート伍長:ダーリング伍長付

  整備兵ダニエラ・ポルティージョ伍長:ブルンスマイアー伍長付

 

 第2中隊指揮小隊担当:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト少尉:イーガン大尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー軍曹:ツィルヒャー少尉付:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ軍曹:エルンスト軍曹付:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル軍曹:オングストローム軍曹付:衛生兵

 第2中隊火力小隊担当:

  整備兵レギニータ・セゴビア伍長:エルマン中尉付

  整備兵ジョーハンナ・ケアリー伍長:エアハルト少尉付

  整備兵ニール・カーネギー伍長:フォルミーキ伍長付

  整備兵ニコラス・ジェファーソン伍長:ラングトン軍曹郎党

 第2中隊偵察小隊担当:

  整備兵ハルトムート・キルステン伍長:ボーマン中尉郎党

  整備兵ジョーゼフ・エイドリアン伍長:メリン少尉付

  整備兵ヨーゼフ・ノイエンドルフ伍長:エリクソン軍曹郎党

  整備兵アメーリア・ステッラ伍長:シュトックバウアー伍長付

 

 第3中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレール・オリオール少尉:デヴィッドソン大尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル軍曹:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド軍曹:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン軍曹:クルーグハルト軍曹郎党:コンピュータ技師

 第3中隊火力小隊(対空小隊)担当:

  整備兵キティ・アトキンズ伍長:ハルフォード中尉郎党

  整備兵ゾフィーア・エルレンマイアー伍長:カムデン少尉付

  整備兵ジークリンデ・ガイスラー伍長:アルフォンソ伍長付

  整備兵アレクセイ・ヴィクトロヴィチ・イワノフ伍長:キャンベル伍長付

 第3中隊偵察小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・ヴァルテンブルグ伍長:キルヒホフ中尉郎党

  整備兵ジョーセフ・キャムデン伍長:フローベルガー少尉付

  整備兵ウラディミル・セルゲエヴィチ・ブゾフ伍長:ウィンターズ伍長付

  整備兵アリエル・シャトーブリアン伍長:マコーマック伍長付

 

 第4中隊指揮小隊担当:

  整備兵リュカ・ダゲール伍長:ゴードン大尉付

  整備兵ルシンダ・プレスコット伍長:ブレナン少尉付

  整備兵ジュディス・ゴールドバーグ伍長:レーディン軍曹付

  整備兵カルロッタ・サラサーテ伍長:ニューマン軍曹付

 第4中隊火力小隊担当:

  整備兵オズワルド・ナイト伍長:エルツベルガー中尉付

  整備兵アリョーナ・イワノヴナ・アヴェリナ伍長:キャンベル少尉付

  整備兵シャルロッタ・マンダール伍長:オーベリ伍長付

  整備兵エイダ・キャラハン伍長:グレー伍長付

 第4中隊偵察小隊担当:

  整備兵レイフ・マッカラー伍長:フェルナンデス中尉付

  整備兵ラッセル・リスター伍長:ゲルステンビュッテル少尉付

  整備兵ヘンリー・キング伍長:メルベリ伍長郎党

  整備兵キーラ・アキモヴナ・グロトワ伍長:ゴリバフ伍長郎党

 訓練生部隊担当:

  整備兵ドム・マキオン伍長:ジェンキンソン訓練生付

  整備兵アーネスト・フォード伍長:ブライトクロイツ訓練生付

  整備兵アール・リリーホワイト伍長:キャンピアン訓練生付

  整備兵ルイーズ・キャンベル伍長:セスナ訓練生付

 

 気圏戦闘機A(アロー)中隊担当:

  整備兵ジェレミー・ゲイル少尉:ドーアティ少尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット軍曹:キャラハン少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク軍曹:チェスティ少尉郎党

  整備兵フランツ・ボルツマン軍曹:ゲルステンビュッテル少尉郎党

  整備兵バーンハード・アストン伍長:グルボコフスキー少尉郎党

  整備兵ローレンツ・ブルンスマイアー伍長:アヒレス少尉郎党

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊担当:

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト軍曹:ヤーデルード中尉付

  整備兵ヤニク・ルール軍曹:ブリーゼマイスター少尉付:運転手

  整備兵アドルファス・ジェラルディーン伍長:セゼール少尉郎党

  整備兵ニコラ・ヤッキア伍長:クラコフスキー少尉郎党

  整備兵モルガン・エベール伍長:コッポラ少尉郎党

  整備兵バーナード・ウォルシュ伍長:デュピュイトラン少尉郎党

 

 助整兵:

  その他助整兵390名(臨時雇い含む)

 

注)整備兵の担当は流動的な物である。

  例えば緊急時には気圏戦闘機隊担当中で有技能者がメック修理に駆り出される。

  また戦車の修理は、特に担当を決めず、他担当の者が持ち回りで行っている。

 

 

機甲部隊:

 第1戦車中隊:

  第1戦車小隊:

   イスマエル・ミラン大尉待遇中尉(中隊長):マンティコア戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵15名

  第2戦車小隊

   ベンジャミン・フォーブス中尉(小隊長):ハンター戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵11名

  第3戦車小隊

   レオポルト・ブルッフ中尉(小隊長): ヴァデット哨戒戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 第1歩兵中隊:

  第1歩兵小隊:

   エリオット・グラハム大尉(中隊長、歩兵部隊長)

   その他歩兵27名

  第2歩兵小隊:

   ラナ・ゴドルフィン少尉(小隊長、軍医)

   その他歩兵27名

  第3歩兵小隊:

   ヴィクトル・デュヴェリエ少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:

   ジェームズ・パーシング少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

 第2歩兵中隊(指揮官を除き臨時雇い):

  第5歩兵小隊:

   テリー・アボット大尉待遇中尉(中隊長)

   その他歩兵27名

  第6歩兵小隊:

   その他歩兵28名

  第7歩兵小隊:

   その他歩兵28名

  第8歩兵小隊:

   その他歩兵28名

 

 

大隊副官:

  ジャスティン・コールマン少尉:運転手

 

教育担当官:

  ヴァーリア・グーテンベルク少尉:教員

 

武器担当官:

  ペーター・アーベントロート軍曹

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン:学者(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(中尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(軍曹待遇)

 

総務課員:

  シュゼット・アンペール(一等兵待遇)

  シャルロッタ・ミルヴェーデン(一等兵待遇)

 

MRB派遣管理人:

  ウォーレン・ジャーマン

 

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド中尉

  副長イライダ・アダーモヴナ・アドロワ少尉

  機関士メアリー・オールビー軍曹

  機関士ヨアヒム・ブリーゼマイスター軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン中尉

  副長セルマ・ルンヴィク少尉

  機関士グレッグ・アボット軍曹

  機関士ケヴィン・ギブソン軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級スペードフィッシュ号

  船長イングヴェ・ルーセンベリ中尉

  副長ナタリア・サンチェス少尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー軍曹

  機関士ゼルダ・ウルフスタン軍曹

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド中尉

  副長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー少尉

  機関士アデル・ドラモンド軍曹

  機関士フォルカス・ロウントゥリー軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト中尉

  副長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ少尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ軍曹

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級レパルス号

  船長オーレリア・レヴィン中尉

  副長ダーナ・フィリップス少尉

  機関士メアリー・ホーキンズ軍曹

  機関士ヘルカ・パータロ軍曹

  その他船員10名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル中尉

  副長マシュー・マクレーン少尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ軍曹

  機関士ライナス・ゲイル軍曹

  その他船員38名

 

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(大尉待遇)

  副長クヌート・オールソン(中尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(軍曹待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(大尉待遇)

  副長ヘルマン・アギラー(中尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(軍曹待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級ズーコフ号

  艦長ヨハン・グートシュタイン(大尉待遇)

  副長ハーバート・チャーチル(中尉待遇)

  機関士ヒューゴー・リンゼイ(軍曹待遇)

  機関士ヴィリバルト・アクス(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

その他:

  スナイパー砲車輛×1

  ジープ(非武装車)×4

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×7

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×1

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH(非武装)×1

  機動病院車MASH(武装有)×1

  スキマー×7




第9期から第10期まで、半年以上空いてますが、これでも遅い方なんですよねー。でもTRPGで遊んでると、もっと早い単位でコロコロ部隊のメックが変わったり。


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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その5

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。第11期の編制を掲載しました。第12期以降はその6から先に掲載します。


傭兵メック大隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第11期編制表:3027年09月16日・『エピソード-077』時点

メック部隊:

 第1中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士キース・ハワード中佐:95tS型バンシー(大隊長)

   メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉:100tアトラス

   メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム曹長:80tオウサム

   メック戦士エリーザ・ファーバー曹長:85tストーカー

 

  火力小隊『機兵狩人小隊』:

   メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:75tD型マローダー(小隊長代理)

   メック戦士ギリアム・ヴィンセント軍曹:70tウォーハンマー

   メック戦士アマデオ・ファルケンハイン軍曹:65tクルセイダー

   メック戦士イヴリン・イェーガー軍曹:65tサンダーボルト

 

  偵察小隊:

   メック戦士ジーン・ファーニバル中尉:55tグリフィン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

   メック戦士エドウィン・ダーリング伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第2中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ヒューバート・イーガン大尉:85tバトルマスター

   メック戦士グレーティア・ツィルヒャー少尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

   メック戦士ロタール・エルンスト軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

   メック戦士カーリン・オングストローム軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

  火力小隊:

   メック戦士アーデルハイト・エルマン中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

   メック戦士ワンダ・エアハルト少尉:75tオリオン(予備機貸与)

   メック戦士ニコロ・フォルミーキ伍長:65tクルセイダー(予備機貸与)

   メック戦士ジョディー・ラングトン軍曹:50tエンフォーサー

 

  偵察小隊:

   メック戦士アラン・ボーマン中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士エリーザベト・メリン少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士アロルド・エリクソン軍曹:45tD型フェニックスホーク

   メック戦士レノーレ・シュトックバウアー伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第3中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士アーリン・デヴィッドソン大尉:85tバトルマスター

   メック戦士リシャール・ジェレ少尉:70tウォーハンマー

   メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹:65tクルセイダー

   メック戦士ヴェラ・クルーグハルト軍曹:65tサンダーボルト

 

  火力小隊(対空小隊):

   メック戦士ジェラルド・ハルフォード中尉:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士ハーマン・カムデン少尉:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士アナ・アルフォンソ伍長:60tライフルマン(予備機貸与)

   メック戦士メアリー・キャンベル伍長:60tライフルマン(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士アルマ・キルヒホフ中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ルートヴィヒ・フローベルガー少尉:45tヴィンディケイター(予備機貸与)

   メック戦士マキシーン・ウィンターズ伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士アドルファス・マコーマック伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

 第4中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士ケネス・ゴードン大尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

   メック戦士ジョシュア・ブレナン少尉:75tD型マローダー(予備機貸与)

   メック戦士ドロテア・レーディン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

   メック戦士マイケル・ニューマン軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

 

  火力小隊:

   メック戦士アルベルト・エルツベルガー中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

   メック戦士アレックス・キャンベル少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士エステル・オーベリ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

   メック戦士アーシュラ・グレー伍長:70tウォーハンマー(予備機貸与)

 

  偵察小隊:

   メック戦士ルイーサ・フェルナンデス中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ルートヴィヒ・ゲルステンビュッテル少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

   メック戦士シャルロッタ・メルベリ伍長:45tフェニックスホーク

   メック戦士ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ伍長:45tフェニックスホーク

 

 訓練中隊:

   メック戦士オスカー・ノールズ少尉:55tシャドウホーク(予備機貸与)

   メック戦士ロジャー・マッコイ少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

   メック戦士ジョーダン・アディントン少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士テリー・オルコット少尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士イルヴァ・セルベル少尉:55tグリフィン

   メック戦士カーラ・カタラーニ少尉:65tサンダーボルト

 

 訓練生部隊:

   メック戦士ジャクリーン・ジェンキンソン訓練生:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ゲルダ・ブライトクロイツ訓練生:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士モーリス・キャンピアン訓練生:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ブリジット・セスナ訓練生:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

 

気圏戦闘機隊:

 気圏戦闘機A(アロー)中隊:

  航空兵マイク・ドーアティ中尉:50tライトニング戦闘機(中隊長)

  航空兵ジョアナ・キャラハン少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵フョードル・グリゴリエヴィチ・グルボコフスキー少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵バウマン・アヒレス少尉:50tライトニング戦闘機

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊:

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード中尉:75tトランスグレッサー戦闘機(中隊長、予備機貸与)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター少尉:75tトランスグレッサー(予備機貸与)

  航空兵オーギュスト・セゼール少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵キアーラ・コッポラ少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵アンジェル・デュピュイトラン少尉:60tスティングレイ戦闘機

 

偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック曹長(暫定小隊長、尋問官)

  偵察兵ネイサン・ノーランド軍曹:ドゥンケル少尉郎党

  偵察兵アイラ・ジェンキンス軍曹:ホーエンハイム曹長郎党

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ伍長:フェレット偵察ヘリコプター(貸与)

  偵察兵ヘルムート・ゲーベンバウアー伍長

  偵察兵フィリップ・エルランジェ伍長

  偵察兵タチヤーナ・ステパノヴナ・マナエンコワ伍長

  偵察兵ソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ伍長

 

整備中隊:

 第1中隊指揮小隊担当:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉:ハワード中佐郎党:整備中隊長、運転手、間接砲撃手

  整備兵モードリン・デッカー軍曹:ドゥンケル少尉付き:運転手

  整備兵ラモン・ロペス軍曹:ホーエンハイム曹長付:コンピュータ技師

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:ファーバー曹長郎党:軍医

 第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』担当:

  整備兵ギルバート・ケイン軍曹:グリソム中尉待遇少尉郎党

  整備兵アルトゥール・フョードロヴィチ・ドラガノフ軍曹:ヴィンセント軍曹郎党

  整備兵アレクセイ・ヤコヴレヴィチ・チェホエフ軍曹:ファルケンハイン軍曹郎党

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー軍曹郎党:領地管理者

 第1中隊偵察小隊担当:

  整備兵クレマン・ジャール伍長:ファーニバル中尉郎党

  整備兵アドルフ・ペーデル伍長:ブーニン少尉郎党

  整備兵ゲイリー・ランバート伍長:ダーリング伍長付

  整備兵ダニエラ・ポルティージョ伍長:ブルンスマイアー伍長付

 

 第2中隊指揮小隊担当:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト少尉:イーガン大尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー軍曹:ツィルヒャー少尉付:運転手

  整備兵フィリップ・ジョーンズ軍曹:エルンスト軍曹付:運転手

  整備兵キム・バスカヴィル軍曹:オングストローム軍曹付:衛生兵

 第2中隊火力小隊担当:

  整備兵レギニータ・セゴビア伍長:エルマン中尉付

  整備兵ジョーハンナ・ケアリー伍長:エアハルト少尉付

  整備兵ニール・カーネギー伍長:フォルミーキ伍長付

  整備兵ニコラス・ジェファーソン伍長:ラングトン軍曹郎党

 第2中隊偵察小隊担当:

  整備兵ハルトムート・キルステン伍長:ボーマン中尉郎党

  整備兵ジョーゼフ・エイドリアン伍長:メリン少尉付

  整備兵ヨーゼフ・ノイエンドルフ伍長:エリクソン軍曹郎党

  整備兵アメーリア・ステッラ伍長:シュトックバウアー伍長付

 

 第3中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレール・オリオール少尉:デヴィッドソン大尉郎党:メック戦士予備

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル軍曹:ジェレ少尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ボールドウィン・アクロイド軍曹:アーベントロート軍曹郎党:間接砲撃手

  整備兵アン・ニールセン軍曹:クルーグハルト軍曹郎党:コンピュータ技師

 第3中隊火力小隊(対空小隊)担当:

  整備兵キティ・アトキンズ伍長:ハルフォード中尉郎党

  整備兵ゾフィーア・エルレンマイアー伍長:カムデン少尉付

  整備兵ジークリンデ・ガイスラー伍長:アルフォンソ伍長付

  整備兵アレクセイ・ヴィクトロヴィチ・イワノフ伍長:キャンベル伍長付

 第3中隊偵察小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・ヴァルテンブルグ伍長:キルヒホフ中尉郎党

  整備兵ジョーセフ・キャムデン伍長:フローベルガー少尉付

  整備兵ウラディミル・セルゲエヴィチ・ブゾフ伍長:ウィンターズ伍長付

  整備兵アリエル・シャトーブリアン伍長:マコーマック伍長付

 

 第4中隊指揮小隊担当:

  整備兵リュカ・ダゲール伍長:ゴードン大尉付

  整備兵ルシンダ・プレスコット伍長:ブレナン少尉付

  整備兵ジュディス・ゴールドバーグ伍長:レーディン軍曹付

  整備兵カルロッタ・サラサーテ伍長:ニューマン軍曹付

 第4中隊火力小隊担当:

  整備兵オズワルド・ナイト伍長:エルツベルガー中尉付

  整備兵アリョーナ・イワノヴナ・アヴェリナ伍長:キャンベル少尉付

  整備兵シャルロッタ・マンダール伍長:オーベリ伍長付

  整備兵エイダ・キャラハン伍長:グレー伍長付

 第4中隊偵察小隊担当:

  整備兵レイフ・マッカラー伍長:フェルナンデス中尉付

  整備兵ラッセル・リスター伍長:ゲルステンビュッテル少尉付

  整備兵ヘンリー・キング伍長:メルベリ伍長郎党

  整備兵キーラ・アキモヴナ・グロトワ伍長:ゴリバフ伍長郎党

 訓練中隊担当:

  整備兵サミュエル・ニーン伍長:ノールズ少尉付

  整備兵スコット・キッシンジャー伍長:マッコイ少尉付

  整備兵スチュアート・アンドルーズ伍長:アディントン少尉付

  整備兵アマリア・フォルト伍長:オルコット少尉付

  整備兵カミーユ・アフリア軍曹:セルベル少尉郎党

  整備兵クロエ・ドゥリヴォー軍曹:カタラーニ少尉郎党

 訓練生部隊担当:

  整備兵ドム・マキオン伍長:ジェンキンソン訓練生付

  整備兵アーネスト・フォード伍長:ブライトクロイツ訓練生付

  整備兵アール・リリーホワイト伍長:キャンピアン訓練生付

  整備兵ルイーズ・キャンベル伍長:セスナ訓練生付

 

 気圏戦闘機A(アロー)中隊担当:

  整備兵ジェレミー・ゲイル少尉:ドーアティ中尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット軍曹:キャラハン少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク軍曹:チェスティ少尉郎党

  整備兵フランツ・ボルツマン軍曹:ゲルステンビュッテル少尉郎党

  整備兵バーンハード・アストン伍長:グルボコフスキー少尉郎党

  整備兵ローレンツ・ブルンスマイアー伍長:アヒレス少尉郎党

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊担当:

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト軍曹:ヤーデルード中尉付

  整備兵ヤニク・ルール軍曹:ブリーゼマイスター少尉付:運転手

  整備兵アドルファス・ジェラルディーン伍長:セゼール少尉郎党

  整備兵ニコラ・ヤッキア伍長:クラコフスキー少尉郎党

  整備兵モルガン・エベール伍長:コッポラ少尉郎党

  整備兵バーナード・ウォルシュ伍長:デュピュイトラン少尉郎党

 

 助整兵:

  その他助整兵108名

 

注)整備兵の担当は流動的な物である。

  例えば緊急時には気圏戦闘機隊担当中で有技能者がメック修理に駆り出される。

  また戦車の修理は、特に担当を決めず、他担当の者が持ち回りで行っている。

 

 

機甲部隊:

 第1戦車中隊:

  第1戦車小隊:

   イスマエル・ミラン大尉待遇中尉(中隊長):マンティコア戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵15名

  第2戦車小隊

   ベンジャミン・フォーブス中尉(小隊長):ハンター戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵11名

  第3戦車小隊

   レオポルト・ブルッフ中尉(小隊長): ヴァデット哨戒戦車×4輛(車輛貸与)

   その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 第1歩兵中隊:

  第1歩兵小隊:

   エリオット・グラハム大尉(中隊長、歩兵部隊長)

   その他歩兵27名

  第2歩兵小隊:

   ラナ・ゴドルフィン少尉(小隊長、軍医)

   その他歩兵27名

  第3歩兵小隊:

   ヴィクトル・デュヴェリエ少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

  第4歩兵小隊:

   ジェームズ・パーシング少尉(小隊長)

   その他歩兵27名

 第2歩兵中隊(臨時雇いを惑星撤退により解雇したため、現状指揮官のみ):

  第5歩兵小隊:

   テリー・アボット大尉待遇中尉(中隊長)

   欠員27名

  第6歩兵小隊:

   欠員28名

  第7歩兵小隊:

   欠員28名

  第8歩兵小隊:

   欠員28名

 

 

大隊副官:

  ジャスティン・コールマン少尉:運転手

 

教育担当官:

  ヴァーリア・グーテンベルク少尉:教員

 

武器担当官:

  ペーター・アーベントロート軍曹

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン:学者(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(中尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(軍曹待遇)

 

総務課員:

  シュゼット・アンペール(一等兵待遇)

  シャルロッタ・ミルヴェーデン(一等兵待遇)

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド中尉

  副長イライダ・アダーモヴナ・アドロワ少尉

  機関士メアリー・オールビー軍曹

  機関士ヨアヒム・ブリーゼマイスター軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン中尉

  副長カタリーナ・サベードラ少尉

  機関士グレッグ・アボット軍曹

  機関士ジュード・エインズワース軍曹

  その他船員5名(一部は助整兵と兼務)

 

 レパード級スペードフィッシュ号

  船長イングヴェ・ルーセンベリ中尉

  副長ナタリア・サンチェス少尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー軍曹

  機関士ゼルダ・ウルフスタン軍曹

  その他船員5名

 

 レパードCV級アーコン号

  船長セルマ・ルンヴィク中尉

  副長アナスタシヤ・アドリアノヴナ・オヴシャンニコワ少尉

  機関士ケヴィン・ギブソン軍曹

  機関士ブラッドリー・チャップマン軍曹

  その他船員5名(一部は助整兵と兼務)

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド中尉

  副長ガス・マッキンタイア少尉

  機関士アデル・ドラモンド軍曹

  機関士グレン・リリエンソール軍曹

  その他船員10名(一部は助整兵と兼務)

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト中尉

  副長アンジェラ・キャンベル少尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ軍曹

  機関士ヘルガ・ギーゼン軍曹

  その他船員10名(一部は助整兵と兼務)

 

 ユニオン級レパルス号

  船長オーレリア・レヴィン中尉

  副長ダーナ・フィリップス少尉

  機関士メアリー・ホーキンズ軍曹

  機関士ヘルカ・パータロ軍曹

  その他船員10名

 

 トライアンフ級トリンキュロー号

  船長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ中尉

  副長イーノック・セッションズ少尉

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク軍曹

  機関士ロイド・フリーマントル軍曹

  その他船員11名(一部は助整兵と兼務)

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル中尉

  副長ガイ・オサリヴァン少尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ軍曹

  機関士ヴァージル・ジョーセフ軍曹

  その他船員38名(一部は助整兵と兼務)

 

 オーバーロード級フィアレス号

  船長マシュー・マクレーン中尉

  副長ヤナ・ヴィタリエヴナ・ココーシノワ少尉

  機関士ライナス・ゲイル軍曹

  機関士カーティス・オリヴァー軍曹

  その他船員39名(一部は助整兵と兼務)

 

 オーバーロード級サンダーチャイルド号

  船長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー中尉

  副長イーサン・クラックソン少尉

  機関士フォルカス・ロウントゥリー軍曹

  機関士アリサ・ワレリエヴナ・チェルニャンスカヤ軍曹

  その他船員39名(一部は助整兵と兼務)

 

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(大尉待遇)

  副長アリョーナ・ウラディミロヴナ・ブルラコワ(中尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(軍曹待遇)

  機関士イリーナ・エゴロヴナ・アルジャンニコワ(軍曹待遇)

  その他船員14名(一部は助整兵と兼務)

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級ネビュラ号

  艦長ヘルマン・アギラー(大尉待遇)

  副長ドナルド・カートリッジ(中尉待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(軍曹待遇)

  機関士リュドミラ・ウラディスラヴナ・アルスカヤ(軍曹待遇)

  その他船員14名(一部は助整兵と兼務)

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級パーシュアー号

  艦長クヌート・オールソン(大尉待遇)

  副長ツェツィーリヤ・ルスラノヴナ・コルガノワ(中尉待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(軍曹待遇)

  機関士アンガス・ソールズベリー(軍曹待遇)

  その他船員14名(一部は助整兵と兼務)

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(大尉待遇)

  副長ダグラス・リンドグレーン(中尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(軍曹待遇)

  機関士マーヴィン・ニューランズ(軍曹待遇)

  その他船員18名(一部は助整兵と兼務)

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級ズーコフ号

  艦長ヨハン・グートシュタイン(大尉待遇)

  副長ハーバート・チャーチル(中尉待遇)

  機関士ヒューゴー・リンゼイ(軍曹待遇)

  機関士ヴィリバルト・アクス(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

予備機:

  85tバトルマスター×1

  80tヴィクター×1

  75tD型マローダー×2

  70tアーチャー×2

  65tカタパルト×1

  55tシャドウホーク×3

  55tウルバリーン×2

  55tグリフィン×4

  50tハンチバック×1

  50tエンフォーサー×1

  50tフェニックスホークLAM×8

  45tフェニックスホーク×1

  45tD型フェニックスホーク×2

  40tウィットワース×3

  40tクリント×1

  35tオストスカウト×1

  30tヴァルキリー×1

  30tスパイダー×1

 

  100tスツーカ戦闘機×6

  30tスパローホーク戦闘機×6

 

  95tピューマ突撃戦車×16

  80tライノ重戦車×28

  95t機動ロングトム砲×1

 

その他:

  スナイパー砲車輛×1

  ジープ(非武装車)×4

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×7

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×3

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH(非武装)×1

  機動病院車MASH(武装有)×1

  スキマー×7

  パックラット長距離パトロールヴィークル×4

  大型輸送車×2




辺境の星系「パールク」にて、お宝発掘直後の編制表ですねー。我ながら、予備メックや予備気圏戦闘機、予備戦車その他の機材の山が物凄く凄い……。


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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その6

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。第12期の編制を掲載しました。第13期以降はその7から先に掲載します。


傭兵メック連隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第12期編制表:3028年01月10日・『エピソード-081』時点

 

メック部隊:

 A大隊:

  第1中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士キース・ハワード大佐:95tS型バンシー(連隊長)

    メック戦士マテュー・ドゥンケル大尉待遇中尉:100tアトラス

    メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム准尉:80tオウサム

    メック戦士エリーザ・ファーバー准尉:85tストーカー

 

   火力小隊『機兵狩人小隊』:

    メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:75tD型マローダー(小隊長代理)

    メック戦士ギリアム・ヴィンセント曹長:70tウォーハンマー

    メック戦士アマデオ・ファルケンハイン曹長:65tクルセイダー

    メック戦士イヴリン・イェーガー曹長:65tサンダーボルト

 

  偵察小隊:

    メック戦士ルートヴィヒ・フローベルガー中尉:55tグリフィン(小隊長、予備機貸与)

    メック戦士ノア・ゴールトン少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

    メック戦士ラヴィニア・アディンセル軍曹:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士ベガ・ハミルトン軍曹:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第2中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ケネス・ゴードン大尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士フィル・カヴァナー少尉:70tD型ウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ドロテア・レーディン曹長:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士マイケル・ニューマン曹長:70tアーチャー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アルベルト・エルツベルガー中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ラルフ・ゲイソン少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士エステル・オーベリ軍曹:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士アーシュラ・グレー軍曹:70tウォーハンマー(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士ルイーサ・フェルナンデス中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士ロビン・フライディ少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士シャルロッタ・メルベリ軍曹:45tフェニックスホーク

    メック戦士ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ軍曹:45tフェニックスホーク

 

  第3中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ジーン・ファーニバル大尉:85tバトルマスター(予備機貸与)

    メック戦士デイナ・ダイムラー少尉:80tヴィクター(予備機貸与)

    メック戦士エドウィン・ダーリング軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士ロジャー・マッコイ中尉待遇少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士ヒューゴー・キルナー少尉:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士アリチェ・フィオレンティーニ伍長:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士アリスン・セシル伍長:55tウルバリーン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士イルヴァ・セルベル中尉待遇少尉:55tグリフィン

    メック戦士セシリア・キッシンジャー少尉:55tウルバリーン

    メック戦士ベルナータ・エルテナハ・ヴァレリ伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士マルティナ・ヘースティングス伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

 B大隊:

  第4中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ヒューバート・イーガン少佐:85tバトルマスター

    メック戦士ロタール・エルンスト少尉:65tクルセイダー

    メック戦士カーリン・オングストローム少尉:55tグリフィン

    メック戦士ティアナ・シェーンベルク軍曹:65tサンダーボルト(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アーデルハイト・エルマン中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ワンダ・エアハルト少尉:75tオリオン(予備機貸与)

    メック戦士ニコロ・フォルミーキ軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士ジョディー・ラングトン曹長:50tエンフォーサー

 

   偵察小隊:

    メック戦士エリーザベト・メリン中尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士カイル・アイアランド少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士アロルド・エリクソン曹長:45tD型フェニックスホーク

    メック戦士ソフィア・マイエル軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第5中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士グレーティア・ツィルヒャー大尉待遇中尉:75tD型マローダー

    メック戦士レイモンド・アダムズ少尉:65tカタパルト(予備機貸与)

    メック戦士ジェリー・モンゴメリ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

    メック戦士アニタ・ピットマン伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士カーラ・カタラーニ中尉待遇少尉:65tサンダーボルト

    メック戦士マイヤ・エフィモヴナ・エフレモワ少尉:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士ゲイリー・タンストール軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士ミュリエル・シャリエ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    ジョーダン・アディントン中尉待遇少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士レジナルド・ガーン少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ヘイデン・ラッセルズ伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士イザドラ・フルード伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第6中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ジョシュア・ブレナン大尉待遇中尉:75tD型マローダー(予備機貸与)

    メック戦士マーティー・アクロイド少尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アンヘラ・ノリエガ伍長:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士グレタ・ラレテイ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士ルートヴィヒ・ゲルステンビュッテル中尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士カルディナ・リベラ少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士ローランド・ジェームズ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士ヴァーリア・ゲーリケ軍曹:50tハンチバック(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン中尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ウェンディ・バニング少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士エーリアル・ファリントン伍長:30tスパイダー(予備機貸与)

    メック戦士デーヴィッド・ケーリー伍長:30tスパイダー(予備機貸与)

 

 C大隊:

  第7中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士アーリン・デヴィッドソン少佐:85tバトルマスター

    メック戦士ヴェラ・クルーグハルト少尉:65tサンダーボルト

    メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート曹長:65tクルセイダー

    メック戦士トラヴィス・キーツ軍曹:70tウォーハンマー(予備機貸与)

 

   火力小隊(対空小隊):

    メック戦士ジェラルド・ハルフォード中尉:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士ハーマン・カムデン少尉:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士アナ・アルフォンソ軍曹:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士メアリー・キャンベル軍曹:60tライフルマン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士アルマ・キルヒホフ中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士トビー・ケネット少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士マキシーン・ウィンターズ軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士アドルファス・マコーマック軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第8中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士リシャール・ジェレ大尉待遇中尉:75tD型マローダー

    メック戦士ブランカ・モリエンテス少尉:70tD型ウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アイザック・ケント伍長:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アリスン・マクニール伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士オスカー・ノールズ中尉待遇少尉:55tシャドウホーク(予備機貸与)

    メック戦士レベッカ・バッセル少尉:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士エルトン・オハラ伍長:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士テレザ・マッツィーニ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士テリー・オルコット中尉待遇少尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士クロジンデ・ギュンマー少尉:40tウィットワース(予備機貸与)

    メック戦士ユーイン・フロレンス伍長:40tウィットワース(予備機貸与)

    メック戦士チャールズ・アーロン伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第9中隊(偵察中隊):

   指揮小隊:

    メック戦士アラン・ボーマン大尉待遇中尉:65tエクスターミネーター(予備機貸与)

    メック戦士ジュリア・アビントン少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士レノーレ・シュトックバウアー軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ディーン・オコンネル伍長:55tグリフィン(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アレックス・キャンベル中尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士バルバラ・フィオラヴァンティ少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    欠員:55tウルバリーン(予備機配備)

    欠員:55tグリフィン(予備機配備)

 

   偵察小隊:

    欠員:40t5T型バルカン(予備機配備)

    欠員:35tオストスカウト(予備機配備)

    欠員:35tファイアスターター(予備機配備)

    欠員:20tD型ワスプ(予備機配備)

 

  訓練中隊(第10中隊):

    欠員:50tカメレオン練習機(予備機配備)

    欠員:50tカメレオン練習機(予備機配備)

    欠員:50tカメレオン練習機(予備機配備)

    欠員:50tカメレオン練習機(予備機配備)

 

 降下猟兵隊:

  第1小隊:

   メック戦士ジャクリーン・ジェンキンソン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ゲルダ・ブライトクロイツ伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士モーリス・キャンピアン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ブリジット・セスナ伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

 

  第2小隊:

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

 

  第3小隊:

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

 

気圏戦闘機隊:

 気圏戦闘機A(アロー)中隊:

  航空兵マイク・ドーアティ大尉:50tライトニング戦闘機(気圏戦闘機隊隊長)

  航空兵ジョアナ・キャラハン中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵フョードル・グリゴリエヴィチ・グルボコフスキー少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵バウマン・アヒレス少尉:50tライトニング戦闘機

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊:

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード大尉:75tトランスグレッサー戦闘機(中隊長)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター中尉:75tトランスグレッサー

  航空兵オーギュスト・セゼール少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵キアーラ・コッポラ少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵アンジェル・デュピュイトラン少尉:60tスティングレイ戦闘機

 

 気圏戦闘機C(カバラ)中隊:

  航空兵クライヴ・クレランド中尉待遇少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵タマーラ・ワレリエヴナ・ベコワ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵バート・ランドルフ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ブレンドン・ラムゼイ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵カルヴィン・ミラー少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵エルサ・ミュルダール少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

 

気圏戦闘機D(ダート)中隊:

  航空兵カール・オーウェン中尉待遇少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ゲルトルート・ブレヒト少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ロブ・ギャロウェイ少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵クラーラ・フィオラヴァンティ少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ハリソン・カーク少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ナタリー・ウォルステンホルム少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

 

 気圏戦闘機E(エッジ)中隊:

  航空兵アンディ・ウェイド中尉待遇少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ウーテ・ブリーゼマイスター少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵イアン・カー少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ローマン・レアード少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  欠員:25tセイバー戦闘機(予備機配備)

  欠員:25tセイバー戦闘機(予備機配備)

 

偵察兵小隊:

 第1偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック少尉待遇曹長:暫定小隊長、尋問官

  偵察兵フィリップ・エルランジェ軍曹

  偵察兵デューク・マクラレン伍長

  偵察兵ダスティン・マッケイン伍長

  偵察兵ベアトリーチェ・フィチーノ伍長

  偵察兵テレーゼ・レ・アーレルスマイヤー伍長

  偵察兵カルラ・ディアス伍長

 

 第2偵察兵分隊:

  偵察兵ネイサン・ノーランド曹長:ドゥンケル大尉待遇中尉郎党:分隊長

  偵察兵ヘルムート・ゲーベンバウアー軍曹

  偵察兵エグバート・ソーヤー伍長

  偵察兵アルヴァン・アボット伍長

  偵察兵ヴェロニカ・クラルヴァイン伍長

  偵察兵ジャクリーン・ゴールトン伍長

  偵察兵マイア・ボリソヴナ・ゴリュノワ伍長

 

 第3偵察兵分隊:

  偵察兵アイラ・ジェンキンス曹長:ホーエンハイム准尉郎党:分隊長

  偵察兵タチヤーナ・ステパノヴナ・マナエンコワ軍曹

  偵察兵カレン・デッカー伍長

  偵察兵レイチェル・ポズウェル伍長

  偵察兵テッド・マロニー伍長

  偵察兵マイルズ・キャッシュマン伍長

  偵察兵モーガン・ブレークリー伍長

 

 第4偵察兵分隊:

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ軍曹:フェレット偵察ヘリコプター(貸与):分隊長、ヘリパイロット

  偵察兵ナイジェル・コフィ伍長

  偵察兵パーシー・ファーリー伍長

  偵察兵フィランダー・カニングハム伍長

  偵察兵カミーラ・ミルヴェーデン伍長

  偵察兵ウーテ・アッヒェンバッハ伍長

  偵察兵ベティーナ・クロフツ伍長

 

 第5偵察兵分隊:

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ軍曹:フェレット偵察ヘリコプター(貸与):分隊長、ヘリパイロット

  偵察兵ソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ軍曹

  偵察兵メリッサ・アトキンズ伍長

  偵察兵イザベル・ソレル伍長

  偵察兵クィンシー・ベアード伍長

  偵察兵ロードリック・グルベンキアン伍長

  偵察兵ルーパート・デヴォニッシュ伍長

 

整備中隊:

 第1中隊指揮小隊担当:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド大尉:ハワード大佐郎党:整備中隊長、運転手、間接砲撃手

  整備兵モードリン・デッカー曹長:ドゥンケル大尉待遇中尉付き:運転手

  整備兵ラモン・ロペス曹長:ホーエンハイム准尉付:コンピュータ技師

  整備兵キャスリン・バークレー軍曹:ファーバー准尉郎党:軍医

 第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』担当:

  整備兵ギルバート・ケイン曹長:グリソム中尉待遇少尉郎党

  整備兵アルトゥール・フョードロヴィチ・ドラガノフ軍曹:ヴィンセント曹長郎党

  整備兵アレクセイ・ヤコヴレヴィチ・チェホエフ軍曹:ファルケンハイン曹長郎党

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー曹長郎党:領地管理者

 第1中隊偵察小隊担当:

  整備兵ジョーセフ・キャムデン軍曹:フローベルガー中尉付

  整備兵ジャック・ラティマー伍長:ゴールトン少尉郎党

  整備兵アメリア・ホイル伍長:アディンセル軍曹付

  整備兵パメラ・デュラン伍長:ハミルトン軍曹付

 

 第2中隊指揮小隊担当:

  整備兵リュカ・ダゲール軍曹:ゴードン大尉付

  整備兵ジャック・パッテン伍長:カヴァナー少尉郎党

  整備兵ジュディス・ゴールドバーグ軍曹:レーディン曹長付

  整備兵カルロッタ・サラサーテ軍曹:ニューマン曹長付

 第2中隊火力小隊担当:

  整備兵オズワルド・ナイト軍曹:エルツベルガー中尉付

  整備兵キム・ジェイコブズ伍長:ゲイソン少尉郎党

  整備兵シャルロッタ・マンダール軍曹:オーベリ軍曹付

  整備兵エイダ・キャラハン軍曹:グレー軍曹付

 第2中隊偵察小隊担当:

  整備兵レイフ・マッカラー軍曹:フェルナンデス中尉付

  整備兵シェリー・ランドー伍長:フライディ少尉郎党

  整備兵ヘンリー・キング伍長:メルベリ軍曹郎党

  整備兵キーラ・アキモヴナ・グロトワ伍長:ゴリバフ軍曹郎党

 

 第3中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレマン・ジャール軍曹:ファーニバル大尉郎党

  整備兵イライジャ・ケンジット伍長:ダイムラー少尉郎党

  整備兵ゲイリー・ランバート軍曹:ダーリング軍曹付

  整備兵ダニエラ・ポルティージョ軍曹:ブルンスマイアー軍曹付

 第3中隊火力小隊担当:

  整備兵スコット・キッシンジャー軍曹:マッコイ中尉待遇少尉付

  整備兵ドルー・ダリモア伍長:キルナー少尉郎党

  整備兵プリシラ・アビントン伍長:フィオレンティーニ伍長付

  整備兵カレン・オルホフ伍長:セシル伍長付

 第3中隊偵察小隊担当:

  整備兵カミーユ・アフリア曹長:セルベル中尉待遇少尉郎党

  整備兵セルマ・リーランド伍長:キッシンジャー少尉郎党

  整備兵オリガ・ロマノブナ・ベヴゼンコ伍長:ヴァレリ伍長付

  整備兵ドミニク・デュプレ伍長:ヘースティングス伍長付

 

 第4中隊指揮小隊担当:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト中尉:イーガン少佐郎党:コンピュータ技師

  整備兵フィリップ・ジョーンズ曹長:エルンスト少尉付

  整備兵キム・バスカヴィル曹長:オングストローム少尉付:衛生兵

  整備兵ローレル・ケアリー伍長:シェーンベルク軍曹付

 第4中隊火力小隊担当:

  整備兵レギニータ・セゴビア軍曹:エルマン中尉付

  整備兵ジョーハンナ・ケアリー軍曹:エアハルト少尉付

  整備兵ニール・カーネギー軍曹:フォルミーキ軍曹付

  整備兵ニコラス・ジェファーソン軍曹:ラングトン曹長郎党

 第4中隊偵察小隊担当:

  整備兵ジョーゼフ・エイドリアン軍曹:メリン中尉付

  整備兵リーラ・アクトン伍長:アイアランド少尉郎党

  整備兵ヨーゼフ・ノイエンドルフ軍曹:エリクソン曹長郎党

  整備兵サラ・マコーレー伍長:ソフィア・マイエル軍曹付

 

 第5中隊指揮小隊担当:

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー曹長:ツィルヒャー大尉待遇中尉付:運転手

  整備兵ケント・アドキンズ伍長:アダムズ少尉郎党

  整備兵レスター・ジョージ伍長:モンゴメリ伍長付

  整備兵エリノル・ブフマイヤー伍長:ピットマン伍長付

 第5中隊火力小隊担当:

  整備兵クロエ・ドゥリヴォー曹長:カタラーニ中尉待遇少尉郎党

  整備兵アーネ・ニーベリ伍長:エフレモワ少尉郎党

  整備兵エドワード・オバーン伍長:タンストール軍曹付

  整備兵エリア・ドゥリヴォー伍長:シャリエ伍長付

 第5中隊偵察小隊担当:

  整備兵スチュアート・アンドルーズ軍曹:アディントン中尉待遇少尉付

  整備兵ランドル・ガスコイン伍長:ガーン少尉郎党

  整備兵ロバート・バグウェル伍長:ラッセルズ伍長付

  整備兵エリザベッタ・アゴスティネッリ伍長:フルード伍長付

 

 第6中隊指揮小隊担当:

  整備兵ルシンダ・プレスコット軍曹:ブレナン大尉待遇中尉付

  整備兵レズリー・ギボン伍長:アクロイド少尉郎党

  整備兵アンナ・コクトー伍長:ノリエガ伍長付

  整備兵アーデルハイト・ハウアー伍長:ラレテイ伍長付

 第6中隊火力小隊担当:

  整備兵ラッセル・リスター軍曹:ゲルステンビュッテル中尉付

  整備兵カートゥヤ・ハルトネン伍長:リベラ少尉郎党

  整備兵デレク・リプトン伍長:ジェームズ伍長付

  整備兵オデット・ドゥリヴォー伍長:ゲーリケ軍曹付

 第6中隊偵察小隊担当:

  整備兵アドルフ・ペーデル軍曹:ブーニン中尉郎党

  整備兵ヘルミ・ヨーネン伍長:バニング少尉郎党

  整備兵イルマ・ゼノーニ伍長:ファリントン伍長付

  整備兵ミック・ブラックウェル伍長:ケーリー伍長付

 

 第7中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレール・オリオール中尉:デヴィッドソン少佐郎党:メック戦士予備

  整備兵アン・ニールセン曹長:クルーグハルト少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ボールドウィン・アクロイド軍曹:アーベントロート曹長郎党:間接砲撃手

  整備兵ジョン・ハマートン伍長:キーツ軍曹付

 第7中隊火力小隊担当:

  整備兵キティ・アトキンズ軍曹:ハルフォード中尉郎党

  整備兵ゾフィーア・エルレンマイアー軍曹:カムデン少尉付

  整備兵ジークリンデ・ガイスラー軍曹:アナ・アルフォンソ軍曹付

  整備兵アレクセイ・ヴィクトロヴィチ・イワノフ曹長:キャンベル軍曹付

 第7中隊偵察小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・ヴァルテンブルグ軍曹:キルヒホフ中尉郎党

  整備兵ケイリー・リンドバーグ伍長:ケネット少尉郎党

  整備兵ウラディミル・セルゲエヴィチ・ブゾフ軍曹:ウィンターズ軍曹付

  整備兵アリエル・シャトーブリアン軍曹:マコーマック軍曹付

 

 第8中隊指揮小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル曹長:ジェレ大尉待遇中尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ヤスミーネ・ファーベルク伍長:モリエンテス少尉郎党

  整備兵ヘンリー・ノーラン伍長:ケント伍長付

  整備兵カティーナ・ギデンス伍長:マクニール伍長付

 第8中隊火力小隊担当:

  整備兵サミュエル・ニーン軍曹:ノールズ中尉待遇少尉付

  整備兵シャロン・ファーニバル伍長:バッセル少尉郎党

  整備兵アルフ・ユニアック伍長:オハラ伍長付

  整備兵ゼノビア・ジンデル伍長:マッツィーニ伍長付

 第8中隊偵察小隊担当:

  整備兵アマリア・フォルト軍曹:オルコット中尉待遇少尉付

  整備兵ノーマ・メイスフィールド伍長:ギュンマー少尉郎党

  整備兵オーエン・ダンリーヴィー伍長:フロレンス伍長付

  整備兵トム・ニーン伍長:アーロン伍長付

 

 第9中隊(偵察中隊)指揮小隊担当:

  整備兵ハルトムート・キルステン軍曹:ボーマン大尉待遇中尉郎党

  整備兵エイミー・バッセル伍長:アビントン少尉郎党

  整備兵アメーリア・ステッラ軍曹:シュトックバウアー軍曹付

  整備兵ジェイク・レイランド伍長:オコンネル伍長付

 第9中隊(偵察中隊)火力小隊担当:

  整備兵アリョーナ・イワノヴナ・アヴェリナ軍曹:キャンベル中尉付

  整備兵ジェシー・フォースター伍長:フィオラヴァンティ少尉郎党

  整備兵ローレンス・バラクロフ伍長:担当メック戦士無し

  整備兵ジェイコブ・イーグル伍長:担当メック戦士無し

 第9中隊(偵察中隊)偵察小隊担当:

  整備兵ロリ・リクセト・シェルヴェン伍長:担当メック戦士無し

  整備兵アーラ・ザハーロヴナ・ブラギンスカヤ伍長:担当メック戦士無し

  整備兵リー・リア伍長:担当メック戦士無し

  整備兵マーク・アーロン伍長:担当メック戦士無し

 

 訓練中隊(第10中隊)担当:

  整備兵ウルズラ・アルトマイヤー伍長:担当メック戦士無し

  整備兵ダニエル・デーンズ伍長:担当メック戦士無し

  整備兵欠員

  整備兵欠員

 

 降下猟兵隊担当:

  整備兵ドム・マキオン軍曹:ジェンキンソン伍長付

  整備兵アーネスト・フォード軍曹:ブライトクロイツ伍長付

  整備兵アール・リリーホワイト軍曹:キャンピアン伍長付

  整備兵ルイーズ・キャンベル軍曹:セスナ伍長付

  整備兵マルセラ・ララインサル伍長:担当メック戦士無し

  整備兵イーモン・ゴーラム伍長:担当メック戦士無し

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

 

 気圏戦闘機A(アロー)中隊担当:

  整備兵ジェレミー・ゲイル中尉:ドーアティ大尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット曹長:キャラハン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク曹長:チェスティ中尉郎党

  整備兵フランツ・ボルツマン曹長:ゲルステンビュッテル中尉郎党

  整備兵バーンハード・アストン軍曹:グルボコフスキー少尉郎党

  整備兵ローレンツ・ブルンスマイアー軍曹:アヒレス少尉郎党

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊担当:

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト曹長:ヤーデルード大尉付

  整備兵ヤニク・ルール曹長:ブリーゼマイスター中尉付:運転手

  整備兵アドルファス・ジェラルディーン軍曹:セゼール少尉郎党

  整備兵ニコラ・ヤッキア軍曹:クラコフスキー少尉郎党

  整備兵モルガン・エベール軍曹:コッポラ少尉郎党

  整備兵バーナード・ウォルシュ軍曹:デュピュイトラン少尉郎党

 

 気圏戦闘機C(カバラ)中隊担当:

  整備兵ジョール・リーヴィス伍長:クレランド中尉待遇少尉付

  整備兵アデラ・ケアード伍長:ベコワ少尉付

  整備兵ライナス・アクトン伍長:ランドルフ少尉付

  整備兵モーリス・ロット伍長:ラムゼイ少尉付

  整備兵サイラス・リーコック伍長:ミラー少尉付

  整備兵エミリア・キャクストン伍長:ミュルダール少尉付

 

 気圏戦闘機D(ダート)中隊担当:

  整備兵ダン・ケイフォード伍長:オーウェン中尉待遇少尉付

  整備兵アデリン・ジュール伍長:ブレヒト少尉付

  整備兵ダレル・オブライアン伍長:ギャロウェイ少尉付

  整備兵オクタビア・ラミレス伍長:フィオラヴァンティ少尉付

  整備兵エディ・ノースロップ伍長:カーク少尉付

  整備兵ルイーズ・ホール伍長:ナタリー・ウォルステンホルム少尉付

 

 気圏戦闘機E(エッジ)中隊担当:

  整備兵シミオン・バグリー伍長:ウェイド中尉待遇少尉付

  整備兵マーガレット・プレストン伍長:ブリーゼマイスター少尉付

  整備兵ハリー・フィー伍長:カー少尉付

  整備兵ジョニー・パッカー伍長:レアード少尉付

  整備兵欠員

  整備兵欠員

 

 機甲部隊戦車A大隊大隊本部管理中隊担当:

  整備兵アイナ・シーグバーン伍長

  整備兵マックス・ゴルボーン伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第1戦車中隊担当:

  整備兵ヴァンダ・アルムホルト伍長

  整備兵バリー・クラム伍長

  整備兵アリアンナ・ルカレッリ伍長

  整備兵エヴァン・ダレイニー伍長

  整備兵ジュリアナ・ゴールドバーグ伍長

  整備兵デイミアン・カマーフォード伍長

  整備兵アメリー・ジラルディエール伍長

  整備兵ルーカス・サージェント伍長

  整備兵サリナ・アグワーヨ伍長

  整備兵レナード・ベアリング伍長

  整備兵ビルギッタ・オルソン伍長

  整備兵リオン・クェンビー伍長

  整備兵クリステル・デスタン伍長

  整備兵シリル・カールトン伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第2戦車中隊担当:

  整備兵ベイジル・アンダーウッド伍長

  整備兵ベネデッタ・グリエルミ伍長

  整備兵アルフ・エース伍長

  整備兵アニカ・ミルヴェーデン伍長

  整備兵レックス・ピカリング伍長

  整備兵ステラ・ホイットマン伍長

  整備兵ジュリアン・エイヴリング伍長

  整備兵ゼノビア・ヨーク伍長

  整備兵ジェフ・サーヴィス伍長

  整備兵アデラ・マロリー伍長

  整備兵ダグラス・ベンフィールド伍長

  整備兵アリーセ・ミルデンブルク伍長

  整備兵ドナルド・ドックリル伍長

  整備兵アメーリア・サーデ伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第3戦車中隊担当:

  整備兵ボビー・ソウル伍長

  整備兵エメ・セルネ伍長

  整備兵デニス・ウーリー伍長

  整備兵ヘーゼル・バーン伍長

  整備兵ジェイラス・ブライトン伍長

  整備兵ジュリエッタ・デルマー伍長

  整備兵ギル・バッド伍長

  整備兵エヴァ・ナウマン伍長

  整備兵マーヴィン・ベタニー伍長

  整備兵ヴィットーリア・ピエリ伍長

  整備兵ユーイン・アーチャー伍長

  整備兵アガサ・ジンデル伍長

  整備兵マヌエル・リンメル伍長

  整備兵エリヴィラ・ロジオノヴナ・ブィチコワ伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第4戦車中隊担当:

  整備兵ジャレッド・フェルトン伍長

  整備兵ビルギット・メリン伍長

  整備兵イライジャ・ベイツ伍長

  整備兵ヴァーリア・アッヒェンバッハ伍長

  整備兵デール・ホーキンズ伍長

  整備兵モルガン・デュシャン伍長

  整備兵ロイド・ラブキン伍長

  整備兵ノエル・アンデルソン伍長

  整備兵ザカライア・オブライアン伍長

  整備兵ヴェラ・エンツェンベルガー伍長

  整備兵ディーン・サクソン伍長

  整備兵アレクサンドラ・ボリソヴナ・アブラメンコワ伍長

 

 助整兵:

  その他助整兵101名(常時雇用)

  その他助整兵0名(臨時雇用)

 

注)整備兵の担当は流動的な物である。

  例えば緊急時には気圏戦闘機隊担当中で有技能者がメック修理に駆り出される。

 

 

機甲部隊:

 戦車A大隊:

  大隊本部管理中隊:

   イスマエル・ミラン少佐待遇大尉(大隊長):ピューマ突撃戦車2輛(車輛貸与)

   その他戦車兵13名

 

  第1戦車中隊:

   中隊本部:

    ベンジャミン・フォーブス大尉(中隊長):ピューマ突撃戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵13名

   第1戦車小隊:

    ルーサー・テスター中尉待遇少尉(小隊長):ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

   第2戦車小隊:

    ドン・クラックソン中尉待遇少尉(23): ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

   第3戦車小隊:

    キーラ・アキモヴナ・チェルニャンスカヤ中尉待遇少尉(小隊長):ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

 

  第2戦車中隊:

   中隊本部:

    レオポルト・ブルッフ大尉(中隊長):ライノ重戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵11名

   第4戦車小隊:

    レスター・フィンリー中尉待遇少尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第5戦車小隊:

    ジャッキー・ビショップ中尉待遇少尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第6戦車小隊:

    カーラ・チャッフィ中尉待遇少尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵5名

    欠員18名

 

  第3戦車中隊:

   中隊本部:

    ジェシカ・ダウエル大尉待遇中尉(中隊長):ライノ重戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵5名

    欠員6名

   第7戦車小隊:

    ハロルド・マッカーティ中尉待遇少尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵5名

    欠員18名

   第8戦車小隊:

    ザカリー・エアトン中尉待遇少尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵5名

    欠員18名

   第9戦車小隊:

    カタリナ・マルティ中尉待遇少尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵5名

    欠員18名

 

  第4戦車中隊:

   第10戦車小隊:

    ジラ・ターナー大尉待遇中尉(中隊長):マンティコア戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵3名

    欠員12名

   第11戦車小隊:

    マシュー・バーギン中尉待遇少尉(小隊長):ハンター戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵2名

    欠員9名

   第12戦車小隊:

    フリーデリケ・ディール中尉待遇少尉(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵1名

    欠員6名

 

歩兵部隊:

 歩兵A大隊:

  第1歩兵中隊:

   第1歩兵小隊:

    エリオット・グラハム少佐(大隊長)

    その他歩兵27名

   第2歩兵小隊:

    コリン・ドリスコル少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第3歩兵小隊:

    ヒュー・アーン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第4歩兵小隊:

    ヴァリマ・ハットネン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第2歩兵中隊:

   第5歩兵小隊:

    ラナ・ゴドルフィン大尉待遇中尉(中隊長、軍医)

    その他歩兵27名

   第6歩兵小隊:

    ヴィンス・バジョット少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第7歩兵小隊:

    アイヴァン・ハガード少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第8歩兵小隊:

    エリカ・アレンビー少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第3歩兵中隊:

   第9歩兵小隊:

    メルタ・リンドストローム中尉待遇少尉(中隊長)

    その他歩兵27名

   第10歩兵小隊:

    ゲイブリエル・ダービーシャー少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第11歩兵小隊:

    ドルフ・ルース少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第12歩兵小隊:

    マリー・ミュルダール少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

 

 歩兵B大隊:

  第4歩兵中隊:

   第13歩兵小隊:

    テリー・アボット少佐待遇大尉(大隊長)

    その他歩兵27名

   第14歩兵小隊:

    テレンス・ハックマン少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第15歩兵小隊:

    ジョーダン・コフーン少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第16歩兵小隊:

    トラヴィス・ランバート少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

 

  第5歩兵中隊:

   第17歩兵小隊:

    ジェームズ・パーシング大尉待遇中尉(中隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第18歩兵小隊:

    ケント・ラム少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第19歩兵小隊:

    ジョッシュ・ギールグッド少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第20歩兵小隊:

    マルカ・イーゴレヴナ・ゴルプコワ少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

 

  第6歩兵中隊:

   第21歩兵小隊:

    フレディ・ソーンダイク中尉待遇少尉(中隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第22歩兵小隊:

    イーノック・ケイン少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第23歩兵小隊:

    ダーレン・ウィアー少尉待遇軍曹(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第24歩兵小隊:

    アルビナ・ララサバル少尉待遇軍曹(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

 

  独立歩兵中隊(ジャンプ歩兵):

   第25歩兵小隊:

    ヴィクトル・デュヴェリエ大尉待遇中尉(中隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第26歩兵小隊:

    デイヴ・カリー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第27歩兵小隊:

    ドム・ブラッドショー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第28歩兵小隊:

    ルーク・ハリス少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第29歩兵小隊:

    マルコム・バナマン少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第30歩兵小隊:

    シャロン・マクスウィーニー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

 

連隊副官:

  ジャスティン・コールマン大尉待遇中尉:運転手

 

大隊副官:

  ケネス・ペンフォード少尉:メック第2大隊付

  ジラ・アスター少尉:メック第3大隊付

  ハンフリー・ガザード少尉:戦車大隊付

  カイル・ローレンソン少尉:歩兵A大隊付

  ジョージー・レスモリア少尉:歩兵B大隊付

 

教育担当官:

  ヴァーリア・グーテンベルク中尉:教員

  エディス・ディラック少尉:教員

  チェリー・アクロイド少尉:教員

  チャド・タリス少尉:教員

  クリフォード・ドリューウェット少尉:教員

  ロニー・アチソン少尉:教員

  テア・シャルンホルスト少尉:教員

 

武器担当官:

  ペーター・アーベントロート曹長

  レズリー・パーキンソン軍曹

  デレク・ダニエル軍曹

  ベン・テューダー軍曹

  リンジー・ディンブルビー軍曹

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン博士:学者(中尉待遇)

  エリク・リプソン博士:学者(少尉待遇)

  リーアム・ボロー博士:学者(少尉待遇)

  アイザック・オフリー博士:学者(少尉待遇)

  エルザ・マリア・ゲルシュター博士:学者(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(大尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(曹長待遇)

 

総務課員:

  シュゼット・アンペール(伍長待遇)

  シャルロッタ・ミルヴェーデン(伍長待遇)

  クリスティアナ・エアトン(一等兵待遇)

  ジークリンデ・ブロックマイアー(一等兵待遇)

  ベアトリス・カヴァルカンティ(一等兵待遇)

  ティルダ・カルッカリ(一等兵待遇)

 

医師(専任):

  ブラッドフォード・アッカースン医師(軍曹待遇)

  クリフトン・エングルフィールド医師(軍曹待遇)

  オーガスタス・ジョンストーン医師(軍曹待遇)

  ダスティン・ヘイソーンスウェイト医師(軍曹待遇)

  マーティン・イースターブルック医師(軍曹待遇)

  スティーヴィー・キャターモール医師(軍曹待遇)

  ウィンストン・マーティンソン医師(軍曹待遇)

  ダルシー・アボット医師(軍曹待遇)

  エミリア・フィオリルロ医師(軍曹待遇)

  クレア・ダーニャ医師(軍曹待遇)

  エレン・ミュルダール医師(軍曹待遇)

  オルガ・フルニエ医師(軍曹待遇)

 

コンピュータ技師(専任):

  ウェスリー・アッシュベリー:技師(軍曹待遇)

  ダンカン・フィッツパトリック:技師(軍曹待遇)

  フェイビアン・ロングハースト:技師(軍曹待遇)

  アルフィー・エドマンドソン:技師(軍曹待遇)

  グラントリー・カヴァーディル:技師(軍曹待遇)

  ブラッドリー・スタンスフィールド:技師(軍曹待遇)

  デズモンド・オールディントン:技師(軍曹待遇)

  エルヴィラ・イングラム:技師(軍曹待遇)

  テレーズ・ヴェルレーヌ:技師(軍曹待遇)

  ミケラ・ジネッティ:技師(軍曹待遇)

  ビアンカ・スルバラン:技師(軍曹待遇)

  スヴェトラーナ・ボリソヴナ・アダミーシナ:技師(軍曹待遇)

 

恒星連邦傭兵関係局・連絡士官:

  リアム・オールドリッチ大尉(メック戦能力有)

 

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド中尉

  副長イライダ・アダーモヴナ・アドロワ少尉

  機関士メアリー・オールビー軍曹

  機関士ヨアヒム・ブリーゼマイスター軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン中尉

  副長カタリーナ・サベードラ少尉

  機関士グレッグ・アボット軍曹

  機関士ジュード・エインズワース軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級スペードフィッシュ号

  船長イングヴェ・ルーセンベリ中尉

  副長ナタリア・サンチェス少尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー軍曹

  機関士ゼルダ・ウルフスタン軍曹

  その他船員5名

 

 レパードCV級アーコン号

  船長セルマ・ルンヴィク中尉

  副長アナスタシヤ・アドリアノヴナ・オヴシャンニコワ少尉

  機関士ケヴィン・ギブソン軍曹

  機関士ブラッドリー・チャップマン軍曹

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド中尉

  副長ガス・マッキンタイア少尉

  機関士アデル・ドラモンド軍曹

  機関士グレン・リリエンソール軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト中尉

  副長アンジェラ・キャンベル少尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ軍曹

  機関士ヘルガ・ギーゼン軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級レパルス号

  船長オーレリア・レヴィン中尉

  副長フランチェスカ・マルティ少尉

  機関士メアリー・ホーキンズ軍曹

  機関士ヴァルブルガ・クナープ軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級ミンドロ号

  船長ダーナ・フィリップス中尉

  副長デズモンド・フォレスター少尉

  機関士ヘルカ・パータロ軍曹

  機関士コンラッド・パーソンズ軍曹

  その他船員10名

 

 トライアンフ級トリンキュロー号

  船長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ中尉

  副長イーノック・セッションズ少尉

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク軍曹

  機関士ロイド・フリーマントル軍曹

  その他船員11名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル中尉

  副長ガイ・オサリヴァン少尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ軍曹

  機関士ヴァージル・ジョーセフ軍曹

  その他船員38名

 

 オーバーロード級フィアレス号

  船長マシュー・マクレーン中尉

  副長ヤナ・ヴィタリエヴナ・ココーシノワ少尉

  機関士ライナス・ゲイル軍曹

  機関士カーティス・オリヴァー軍曹

  その他船員39名

 

 オーバーロード級サンダーチャイルド号

  船長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー中尉

  副長イーサン・クラックソン少尉

  機関士フォルカス・ロウントゥリー軍曹

  機関士アリサ・ワレリエヴナ・チェルニャンスカヤ軍曹

  その他船員39名

 

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(大尉待遇)

  副長アリョーナ・ウラディミロヴナ・ブルラコワ(中尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(軍曹待遇)

  機関士イリーナ・エゴロヴナ・アルジャンニコワ(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級ネビュラ号

  艦長ヘルマン・アギラー(大尉待遇)

  副長ドナルド・カートリッジ(中尉待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(軍曹待遇)

  機関士リュドミラ・ウラディスラヴナ・アルスカヤ(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級パーシュアー号

  艦長クヌート・オールソン(大尉待遇)

  副長ツェツィーリヤ・ルスラノヴナ・コルガノワ(中尉待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(軍曹待遇)

  機関士アンガス・ソールズベリー(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(大尉待遇)

  副長ダグラス・リンドグレーン(中尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(軍曹待遇)

  機関士マーヴィン・ニューランズ(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級ズーコフ号

  艦長ヨハン・グートシュタイン(大尉待遇)

  副長ハーバート・チャーチル(中尉待遇)

  機関士ヒューゴー・リンゼイ(軍曹待遇)

  機関士ヴィリバルト・アクス(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

予備機:

  45tヴィンディケイター×3

  40tクリント×1

  40tウィットワース×2

  30tヴァルキリー×1

  30tF型ヴァルキリー×1

  20tスティンガー×2

 

  60tヘルキャット戦闘機×2

 

  95t機動ロングトム砲×1

 

その他:

  スナイパー砲車輛×1

  ジープ(非武装車)×4

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×7

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×3

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH(非武装)×1

  機動病院車MASH(武装有)×1

  スキマー×35

  パックラット長距離パトロールヴィークル×4

  大型輸送車×2




辺境の星系「パールク」で発見したお宝を、恒星連邦に引き渡した報酬の一部を受け取っているため、更に戦力が増大してます。また、歩兵とか戦車兵増やしましたので、かなりの数に。ただ、今までの精兵を分割して薄く広くのばしたため、一時的に総合的な戦闘力は下がってます。


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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その7

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。第13期の編制を掲載しました。第14期以降はその8から先に掲載します。


混成傭兵連隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第13期編制表:3028年03月29日・『エピソード-086』時点

 

メック部隊:

 A大隊:

  第1中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士キース・ハワード大佐:95tS型バンシー(連隊長)

    メック戦士マテュー・ドゥンケル大尉:100tアトラス

    メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム准尉:80tオウサム

    メック戦士エリーザ・ファーバー准尉:85tストーカー

 

   火力小隊『機兵狩人小隊』:

    メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:75tD型マローダー(小隊長代理)

    メック戦士ギリアム・ヴィンセント曹長:70tウォーハンマー

    メック戦士アマデオ・ファルケンハイン曹長:65tクルセイダー

    メック戦士イヴリン・イェーガー曹長:65tサンダーボルト

 

  偵察小隊:

    メック戦士ルートヴィヒ・フローベルガー中尉:55tグリフィン(小隊長、予備機貸与)

    メック戦士ノア・ゴールトン少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

    メック戦士ラヴィニア・アディンセル軍曹:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士ベガ・ハミルトン軍曹:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第2中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ケネス・ゴードン大尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士フィル・カヴァナー少尉:70tD型ウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ドロテア・レーディン曹長:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士マイケル・ニューマン曹長:70tアーチャー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アルベルト・エルツベルガー中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ラルフ・ゲイソン少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士エステル・オーベリ軍曹:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士アーシュラ・グレー軍曹:70tウォーハンマー(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士ルイーサ・フェルナンデス中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士ロビン・フライディ少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士シャルロッタ・メルベリ軍曹:45tフェニックスホーク

    メック戦士ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ軍曹:45tフェニックスホーク

 

  第3中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ジーン・ファーニバル大尉:85tバトルマスター(予備機貸与)

    メック戦士デイナ・ダイムラー少尉:80tヴィクター(予備機貸与)

    メック戦士エドウィン・ダーリング軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士ロジャー・マッコイ中尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士ヒューゴー・キルナー少尉:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士アリチェ・フィオレンティーニ伍長:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士アリスン・セシル伍長:55tウルバリーン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士イルヴァ・セルベル中尉:55tグリフィン

    メック戦士セシリア・キッシンジャー少尉:55tウルバリーン

    メック戦士ベルナータ・エルテナハ・ヴァレリ伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士マルティナ・ヘースティングス伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

 B大隊:

  第4中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ヒューバート・イーガン少佐:85tバトルマスター

    メック戦士ロタール・エルンスト少尉:65tクルセイダー

    メック戦士カーリン・オングストローム少尉:55tグリフィン

    メック戦士ティアナ・シェーンベルク軍曹:65tサンダーボルト(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アーデルハイト・エルマン中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ワンダ・エアハルト少尉:75tオリオン(予備機貸与)

    メック戦士ニコロ・フォルミーキ軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士ジョディー・ラングトン曹長:50tエンフォーサー

 

   偵察小隊:

    メック戦士エリーザベト・メリン中尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士カイル・アイアランド少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士アロルド・エリクソン曹長:45tD型フェニックスホーク

    メック戦士ソフィア・マイエル軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第5中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士グレーティア・ツィルヒャー大尉:75tD型マローダー

    メック戦士レイモンド・アダムズ少尉:65tカタパルト(予備機貸与)

    メック戦士ジェリー・モンゴメリ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

    メック戦士アニタ・ピットマン伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士カーラ・カタラーニ中尉待遇少尉:65tサンダーボルト

    メック戦士マイヤ・エフィモヴナ・エフレモワ少尉:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士ゲイリー・タンストール軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士ミュリエル・シャリエ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    ジョーダン・アディントン中尉待遇少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士レジナルド・ガーン少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ヘイデン・ラッセルズ伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士イザドラ・フルード伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第6中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ジョシュア・ブレナン大尉待遇中尉:75tD型マローダー(予備機貸与)

    メック戦士マーティー・アクロイド少尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アンヘラ・ノリエガ伍長:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士グレタ・ラレテイ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士ルートヴィヒ・ゲルステンビュッテル中尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士カルディナ・リベラ少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士ローランド・ジェームズ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士ヴァーリア・ゲーリケ軍曹:50tハンチバック(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン中尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ウェンディ・バニング少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士エーリアル・ファリントン伍長:30tスパイダー(予備機貸与)

    メック戦士デーヴィッド・ケーリー伍長:30tスパイダー(予備機貸与)

 

 C大隊:

  第7中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士アーリン・デヴィッドソン少佐:85tバトルマスター

    メック戦士ヴェラ・クルーグハルト少尉:65tサンダーボルト

    メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート曹長:65tクルセイダー

    メック戦士トラヴィス・キーツ軍曹:70tウォーハンマー(予備機貸与)

 

   火力小隊(対空小隊):

    メック戦士ジェラルド・ハルフォード中尉:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士ハーマン・カムデン少尉:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士アナ・アルフォンソ軍曹:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士メアリー・キャンベル軍曹:60tライフルマン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士アルマ・キルヒホフ中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士トビー・ケネット少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士マキシーン・ウィンターズ軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士アドルファス・マコーマック軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第8中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士リシャール・ジェレ大尉:75tD型マローダー

    メック戦士ブランカ・モリエンテス少尉:70tD型ウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アイザック・ケント伍長:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アリスン・マクニール伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士オスカー・ノールズ中尉:55tシャドウホーク(予備機貸与)

    メック戦士レベッカ・バッセル少尉:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士エルトン・オハラ伍長:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士テレザ・マッツィーニ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士テリー・オルコット中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士クロジンデ・ギュンマー少尉:40tウィットワース(予備機貸与)

    メック戦士ユーイン・フロレンス伍長:40tウィットワース(予備機貸与)

    メック戦士チャールズ・アーロン伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第9中隊(偵察中隊):

   指揮小隊:

    メック戦士アラン・ボーマン大尉:65tエクスターミネーター(予備機貸与)

    メック戦士ジュリア・アビントン少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士レノーレ・シュトックバウアー軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ディーン・オコンネル伍長:55tグリフィン(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アレックス・キャンベル中尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士バルバラ・フィオラヴァンティ少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    欠員:55tウルバリーン(予備機配備)

    欠員:55tグリフィン(予備機配備)

 

   偵察小隊(偵察/対歩兵・対車輛小隊):

    欠員:40t5T型バルカン(予備機配備)

    欠員:35tオストスカウト(予備機配備)

    欠員:35tファイアスターター(予備機配備)

    欠員:20tD型ワスプ(予備機配備)

 

  訓練中隊(第10中隊):

    メック戦士アーシュラ・リーコック訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

    メック戦士ルーシャン・パートランド訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

    メック戦士グレン・ヤングハズバンド訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

    メック戦士アリシア・ディーコン訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

 

 降下猟兵隊:

  第1小隊:

   メック戦士ジャクリーン・ジェンキンソン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ゲルダ・ブライトクロイツ伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士モーリス・キャンピアン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ブリジット・セスナ伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

 

  第2小隊:

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

 

  第3小隊:

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

   欠員:50tフェニックスホークLAM(予備機配備)

 

気圏戦闘機隊:

 気圏戦闘機A(アロー)中隊:

  航空兵マイク・ドーアティ大尉:50tライトニング戦闘機(気圏戦闘機隊隊長)

  航空兵ジョアナ・キャラハン中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵フョードル・グリゴリエヴィチ・グルボコフスキー少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵バウマン・アヒレス少尉:50tライトニング戦闘機

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊:

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード大尉:75tトランスグレッサー戦闘機(中隊長)

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター中尉:75tトランスグレッサー

  航空兵オーギュスト・セゼール少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵キアーラ・コッポラ少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵アンジェル・デュピュイトラン少尉:60tスティングレイ戦闘機

 

 気圏戦闘機C(カバラ)中隊:

  航空兵クライヴ・クレランド中尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵タマーラ・ワレリエヴナ・ベコワ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵バート・ランドルフ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ブレンドン・ラムゼイ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵カルヴィン・ミラー少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵エルサ・ミュルダール少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

 

気圏戦闘機D(ダート)中隊:

  航空兵カール・オーウェン中尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ゲルトルート・ブレヒト少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ロブ・ギャロウェイ少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵クラーラ・フィオラヴァンティ少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ハリソン・カーク少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ナタリー・ウォルステンホルム少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

 

 気圏戦闘機E(エッジ)中隊:

  航空兵アンディ・ウェイド中尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ウーテ・ブリーゼマイスター少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵イアン・カー少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ローマン・レアード少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  欠員:25tセイバー戦闘機(予備機配備)

  欠員:25tセイバー戦闘機(予備機配備)

 

偵察兵小隊:

 第1偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック少尉待遇曹長:暫定小隊長、尋問官

  偵察兵フィリップ・エルランジェ軍曹

  偵察兵デューク・マクラレン伍長

  偵察兵ダスティン・マッケイン伍長

  偵察兵ベアトリーチェ・フィチーノ伍長

  偵察兵テレーゼ・レ・アーレルスマイヤー伍長

  偵察兵カルラ・ディアス伍長

 

 第2偵察兵分隊:

  偵察兵ネイサン・ノーランド曹長:ドゥンケル大尉郎党:分隊長

  偵察兵ヘルムート・ゲーベンバウアー軍曹

  偵察兵エグバート・ソーヤー伍長

  偵察兵アルヴァン・アボット伍長

  偵察兵ヴェロニカ・クラルヴァイン伍長

  偵察兵ジャクリーン・ゴールトン伍長

  偵察兵マイア・ボリソヴナ・ゴリュノワ伍長

 

 第3偵察兵分隊:

  偵察兵アイラ・ジェンキンス曹長:ホーエンハイム准尉郎党:分隊長

  偵察兵タチヤーナ・ステパノヴナ・マナエンコワ軍曹

  偵察兵カレン・デッカー伍長

  偵察兵レイチェル・ポズウェル伍長

  偵察兵テッド・マロニー伍長

  偵察兵マイルズ・キャッシュマン伍長

  偵察兵モーガン・ブレークリー伍長

 

 第4偵察兵分隊:

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ軍曹:フェレット偵察ヘリコプター(貸与):分隊長、ヘリパイロット

  偵察兵ナイジェル・コフィ伍長

  偵察兵パーシー・ファーリー伍長

  偵察兵フィランダー・カニングハム伍長

  偵察兵カミーラ・ミルヴェーデン伍長

  偵察兵ウーテ・アッヒェンバッハ伍長

  偵察兵ベティーナ・クロフツ伍長

 

 第5偵察兵分隊:

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ軍曹:フェレット偵察ヘリコプター(貸与):分隊長、ヘリパイロット

  偵察兵ソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ軍曹

  偵察兵メリッサ・アトキンズ伍長

  偵察兵イザベル・ソレル伍長

  偵察兵クィンシー・ベアード伍長

  偵察兵ロードリック・グルベンキアン伍長

  偵察兵ルーパート・デヴォニッシュ伍長

 

整備中隊:

 第1中隊指揮小隊担当:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド大尉:ハワード大佐郎党:整備中隊長、運転手、間接砲撃手

  整備兵モードリン・デッカー曹長:ドゥンケル大尉待遇中尉付き:運転手

  整備兵ラモン・ロペス曹長:ホーエンハイム准尉付:コンピュータ技師

  整備兵キャスリン・バークレー曹長:ファーバー准尉郎党:軍医

 第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』担当:

  整備兵ギルバート・ケイン曹長:グリソム中尉待遇少尉郎党

  整備兵アルトゥール・フョードロヴィチ・ドラガノフ軍曹:ヴィンセント曹長郎党

  整備兵アレクセイ・ヤコヴレヴィチ・チェホエフ軍曹:ファルケンハイン曹長郎党

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー曹長郎党:領地管理者

 第1中隊偵察小隊担当:

  整備兵ジョーセフ・キャムデン軍曹:フローベルガー中尉付

  整備兵ジャック・ラティマー伍長:ゴールトン少尉郎党

  整備兵アメリア・ホイル伍長:アディンセル軍曹付

  整備兵パメラ・デュラン伍長:ハミルトン軍曹付

 

 第2中隊指揮小隊担当:

  整備兵リュカ・ダゲール軍曹:ゴードン大尉付

  整備兵ジャック・パッテン伍長:カヴァナー少尉郎党

  整備兵ジュディス・ゴールドバーグ軍曹:レーディン曹長付

  整備兵カルロッタ・サラサーテ軍曹:ニューマン曹長付

 第2中隊火力小隊担当:

  整備兵オズワルド・ナイト軍曹:エルツベルガー中尉付

  整備兵キム・ジェイコブズ伍長:ゲイソン少尉郎党

  整備兵シャルロッタ・マンダール軍曹:オーベリ軍曹付

  整備兵エイダ・キャラハン軍曹:グレー軍曹付

 第2中隊偵察小隊担当:

  整備兵レイフ・マッカラー軍曹:フェルナンデス中尉付

  整備兵シェリー・ランドー伍長:フライディ少尉郎党

  整備兵ヘンリー・キング伍長:メルベリ軍曹郎党

  整備兵キーラ・アキモヴナ・グロトワ伍長:ゴリバフ軍曹郎党

 

 第3中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレマン・ジャール軍曹:ファーニバル大尉郎党

  整備兵イライジャ・ケンジット伍長:ダイムラー少尉郎党

  整備兵ゲイリー・ランバート軍曹:ダーリング軍曹付

  整備兵ダニエラ・ポルティージョ軍曹:ブルンスマイアー軍曹付

 第3中隊火力小隊担当:

  整備兵スコット・キッシンジャー軍曹:マッコイ中尉付

  整備兵ドルー・ダリモア伍長:キルナー少尉郎党

  整備兵プリシラ・アビントン伍長:フィオレンティーニ伍長付

  整備兵カレン・オルホフ伍長:セシル伍長付

 第3中隊偵察小隊担当:

  整備兵カミーユ・アフリア曹長:セルベル中尉郎党

  整備兵セルマ・リーランド伍長:キッシンジャー少尉郎党

  整備兵オリガ・ロマノブナ・ベヴゼンコ伍長:ヴァレリ伍長付

  整備兵ドミニク・デュプレ伍長:ヘースティングス伍長付

 

 第4中隊指揮小隊担当:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト中尉:イーガン少佐郎党:コンピュータ技師

  整備兵フィリップ・ジョーンズ曹長:エルンスト少尉付

  整備兵キム・バスカヴィル曹長:オングストローム少尉付:軍医

  整備兵ローレル・ケアリー伍長:シェーンベルク軍曹付

 第4中隊火力小隊担当:

  整備兵レギニータ・セゴビア軍曹:エルマン中尉付

  整備兵ジョーハンナ・ケアリー軍曹:エアハルト少尉付

  整備兵ニール・カーネギー軍曹:フォルミーキ軍曹付

  整備兵ニコラス・ジェファーソン軍曹:ラングトン曹長郎党

 第4中隊偵察小隊担当:

  整備兵ジョーゼフ・エイドリアン軍曹:メリン中尉付

  整備兵リーラ・アクトン伍長:アイアランド少尉郎党

  整備兵ヨーゼフ・ノイエンドルフ軍曹:エリクソン曹長郎党

  整備兵サラ・マコーレー伍長:ソフィア・マイエル軍曹付

 

 第5中隊指揮小隊担当:

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー曹長:ツィルヒャー大尉付:運転手

  整備兵ケント・アドキンズ伍長:アダムズ少尉郎党

  整備兵レスター・ジョージ伍長:モンゴメリ伍長付

  整備兵エリノル・ブフマイヤー伍長:ピットマン伍長付

 第5中隊火力小隊担当:

  整備兵クロエ・ドゥリヴォー曹長:カタラーニ中尉郎党

  整備兵アーネ・ニーベリ伍長:エフレモワ少尉郎党

  整備兵エドワード・オバーン伍長:タンストール軍曹付

  整備兵エリア・ドゥリヴォー伍長:シャリエ伍長付

 第5中隊偵察小隊担当:

  整備兵スチュアート・アンドルーズ軍曹:アディントン中尉付

  整備兵ランドル・ガスコイン伍長:ガーン少尉郎党

  整備兵ロバート・バグウェル伍長:ラッセルズ伍長付

  整備兵エリザベッタ・アゴスティネッリ伍長:フルード伍長付

 

 第6中隊指揮小隊担当:

  整備兵ルシンダ・プレスコット軍曹:ブレナン大尉付

  整備兵レズリー・ギボン伍長:アクロイド少尉郎党

  整備兵アンナ・コクトー伍長:ノリエガ伍長付

  整備兵アーデルハイト・ハウアー伍長:ラレテイ伍長付

 第6中隊火力小隊担当:

  整備兵ラッセル・リスター軍曹:ゲルステンビュッテル中尉付

  整備兵カートゥヤ・ハルトネン伍長:リベラ少尉郎党

  整備兵デレク・リプトン伍長:ジェームズ伍長付

  整備兵オデット・ドゥリヴォー伍長:ゲーリケ軍曹付

 第6中隊偵察小隊担当:

  整備兵アドルフ・ペーデル軍曹:ブーニン中尉郎党

  整備兵ヘルミ・ヨーネン伍長:バニング少尉郎党

  整備兵イルマ・ゼノーニ伍長:ファリントン伍長付

  整備兵ミック・ブラックウェル伍長:ケーリー伍長付

 

 第7中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレール・オリオール中尉:デヴィッドソン少佐郎党:メック戦士予備

  整備兵アン・ニールセン曹長:クルーグハルト少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ボールドウィン・アクロイド軍曹:アーベントロート曹長郎党:間接砲撃手

  整備兵ジョン・ハマートン伍長:キーツ軍曹付

 第7中隊火力小隊担当:

  整備兵キティ・アトキンズ軍曹:ハルフォード中尉郎党

  整備兵ゾフィーア・エルレンマイアー軍曹:カムデン少尉付

  整備兵ジークリンデ・ガイスラー軍曹:アナ・アルフォンソ軍曹付

  整備兵アレクセイ・ヴィクトロヴィチ・イワノフ曹長:キャンベル軍曹付

 第7中隊偵察小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・ヴァルテンブルグ軍曹:キルヒホフ中尉郎党

  整備兵ケイリー・リンドバーグ伍長:ケネット少尉郎党

  整備兵ウラディミル・セルゲエヴィチ・ブゾフ軍曹:ウィンターズ軍曹付

  整備兵アリエル・シャトーブリアン軍曹:マコーマック軍曹付

 

 第8中隊指揮小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル曹長:ジェレ大尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ヤスミーネ・ファーベルク伍長:モリエンテス少尉郎党

  整備兵ヘンリー・ノーラン伍長:ケント伍長付

  整備兵カティーナ・ギデンス伍長:マクニール伍長付

 第8中隊火力小隊担当:

  整備兵サミュエル・ニーン軍曹:ノールズ中尉付

  整備兵シャロン・ファーニバル伍長:バッセル少尉郎党

  整備兵アルフ・ユニアック伍長:オハラ伍長付

  整備兵ゼノビア・ジンデル伍長:マッツィーニ伍長付

 第8中隊偵察小隊担当:

  整備兵アマリア・フォルト軍曹:オルコット中尉付

  整備兵ノーマ・メイスフィールド伍長:ギュンマー少尉郎党

  整備兵オーエン・ダンリーヴィー伍長:フロレンス伍長付

  整備兵トム・ニーン伍長:アーロン伍長付

 

 第9中隊(偵察中隊)指揮小隊担当:

  整備兵ハルトムート・キルステン軍曹:ボーマン大尉待遇中尉郎党

  整備兵エイミー・バッセル伍長:アビントン少尉郎党

  整備兵アメーリア・ステッラ軍曹:シュトックバウアー軍曹付

  整備兵ジェイク・レイランド伍長:オコンネル伍長付

 第9中隊火力小隊担当:

  整備兵アリョーナ・イワノヴナ・アヴェリナ軍曹:キャンベル中尉付

  整備兵ジェシー・フォースター伍長:フィオラヴァンティ少尉郎党

  整備兵ローレンス・バラクロフ伍長:担当メック戦士無し

  整備兵ジェイコブ・イーグル伍長:担当メック戦士無し

 第9中隊偵察小隊(偵察/対歩兵・対車輛小隊)担当:

  整備兵ロリ・リクセト・シェルヴェン伍長:担当メック戦士無し

  整備兵アーラ・ザハーロヴナ・ブラギンスカヤ伍長:担当メック戦士無し

  整備兵リー・リア伍長:担当メック戦士無し

  整備兵マーク・アーロン伍長:担当メック戦士無し

 

 訓練中隊(第10中隊)担当:

  整備兵ウルズラ・アルトマイヤー伍長:担当メック戦士無し

  整備兵ダニエル・デーンズ伍長:担当メック戦士無し

  整備兵欠員

  整備兵欠員

 

 降下猟兵隊担当:

  整備兵ドム・マキオン軍曹:ジェンキンソン伍長付

  整備兵アーネスト・フォード軍曹:ブライトクロイツ伍長付

  整備兵アール・リリーホワイト軍曹:キャンピアン伍長付

  整備兵ルイーズ・キャンベル軍曹:セスナ伍長付

  整備兵マルセラ・ララインサル伍長:担当メック戦士無し

  整備兵イーモン・ゴーラム伍長:担当メック戦士無し

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

  整備兵欠員

 

 気圏戦闘機A(アロー)中隊担当:

  整備兵ジェレミー・ゲイル中尉:ドーアティ大尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット曹長:キャラハン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク曹長:チェスティ中尉郎党

  整備兵フランツ・ボルツマン曹長:ゲルステンビュッテル中尉郎党

  整備兵バーンハード・アストン軍曹:グルボコフスキー少尉郎党

  整備兵ローレンツ・ブルンスマイアー軍曹:アヒレス少尉郎党

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊担当:

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト曹長:ヤーデルード大尉付

  整備兵ヤニク・ルール曹長:ブリーゼマイスター中尉付:運転手

  整備兵アドルファス・ジェラルディーン軍曹:セゼール少尉郎党

  整備兵ニコラ・ヤッキア軍曹:クラコフスキー少尉郎党

  整備兵モルガン・エベール軍曹:コッポラ少尉郎党

  整備兵バーナード・ウォルシュ軍曹:デュピュイトラン少尉郎党

 

 気圏戦闘機C(カバラ)中隊担当:

  整備兵ジョール・リーヴィス伍長:クレランド中尉付

  整備兵アデラ・ケアード伍長:ベコワ少尉付

  整備兵ライナス・アクトン伍長:ランドルフ少尉付

  整備兵モーリス・ロット伍長:ラムゼイ少尉付

  整備兵サイラス・リーコック伍長:ミラー少尉付

  整備兵エミリア・キャクストン伍長:ミュルダール少尉付

 

 気圏戦闘機D(ダート)中隊担当:

  整備兵ダン・ケイフォード伍長:オーウェン中尉付

  整備兵アデリン・ジュール伍長:ブレヒト少尉付

  整備兵ダレル・オブライアン伍長:ギャロウェイ少尉付

  整備兵オクタビア・ラミレス伍長:フィオラヴァンティ少尉付

  整備兵エディ・ノースロップ伍長:カーク少尉付

  整備兵ルイーズ・ホール伍長:ナタリー・ウォルステンホルム少尉付

 

 気圏戦闘機E(エッジ)中隊担当:

  整備兵シミオン・バグリー伍長:ウェイド中尉付

  整備兵マーガレット・プレストン伍長:ブリーゼマイスター少尉付

  整備兵ハリー・フィー伍長:カー少尉付

  整備兵ジョニー・パッカー伍長:レアード少尉付

  整備兵欠員

  整備兵欠員

 

 機甲部隊戦車A大隊大隊本部管理中隊担当:

  整備兵アイナ・シーグバーン伍長

  整備兵マックス・ゴルボーン伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第1戦車中隊担当:

  整備兵ヴァンダ・アルムホルト伍長

  整備兵バリー・クラム伍長

  整備兵アリアンナ・ルカレッリ伍長

  整備兵エヴァン・ダレイニー伍長

  整備兵ジュリアナ・ゴールドバーグ伍長

  整備兵デイミアン・カマーフォード伍長

  整備兵アメリー・ジラルディエール伍長

  整備兵ルーカス・サージェント伍長

  整備兵サリナ・アグワーヨ伍長

  整備兵レナード・ベアリング伍長

  整備兵ビルギッタ・オルソン伍長

  整備兵リオン・クェンビー伍長

  整備兵クリステル・デスタン伍長

  整備兵シリル・カールトン伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第2戦車中隊担当:

  整備兵ベイジル・アンダーウッド伍長

  整備兵ベネデッタ・グリエルミ伍長

  整備兵アルフ・エース伍長

  整備兵アニカ・ミルヴェーデン伍長

  整備兵レックス・ピカリング伍長

  整備兵ステラ・ホイットマン伍長

  整備兵ジュリアン・エイヴリング伍長

  整備兵ゼノビア・ヨーク伍長

  整備兵ジェフ・サーヴィス伍長

  整備兵アデラ・マロリー伍長

  整備兵ダグラス・ベンフィールド伍長

  整備兵アリーセ・ミルデンブルク伍長

  整備兵ドナルド・ドックリル伍長

  整備兵アメーリア・サーデ伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第3戦車中隊担当:

  整備兵ボビー・ソウル伍長

  整備兵エメ・セルネ伍長

  整備兵デニス・ウーリー伍長

  整備兵ヘーゼル・バーン伍長

  整備兵ジェイラス・ブライトン伍長

  整備兵ジュリエッタ・デルマー伍長

  整備兵ギル・バッド伍長

  整備兵エヴァ・ナウマン伍長

  整備兵マーヴィン・ベタニー伍長

  整備兵ヴィットーリア・ピエリ伍長

  整備兵ユーイン・アーチャー伍長

  整備兵アガサ・ジンデル伍長

  整備兵マヌエル・リンメル伍長

  整備兵エリヴィラ・ロジオノヴナ・ブィチコワ伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第4戦車中隊担当:

  整備兵ジャレッド・フェルトン伍長

  整備兵ビルギット・メリン伍長

  整備兵イライジャ・ベイツ伍長

  整備兵ヴァーリア・アッヒェンバッハ伍長

  整備兵デール・ホーキンズ伍長

  整備兵モルガン・デュシャン伍長

  整備兵ロイド・ラブキン伍長

  整備兵ノエル・アンデルソン伍長

  整備兵ザカライア・オブライアン伍長

  整備兵ヴェラ・エンツェンベルガー伍長

  整備兵ディーン・サクソン伍長

  整備兵アレクサンドラ・ボリソヴナ・アブラメンコワ伍長

 

 助整兵:

  その他助整兵222名(常時雇用)

  その他助整兵0名(臨時雇用)

 

注)整備兵の担当は流動的な物である。

  例えば緊急時には気圏戦闘機隊担当中で有技能者がメック修理に駆り出される。

 

 

機甲部隊:

 戦車A大隊:

  大隊本部管理中隊:

   イスマエル・ミラン少佐(大隊長):ピューマ突撃戦車2輛(車輛貸与)

   その他戦車兵13名

 

  第1戦車中隊:

   中隊本部:

    ベンジャミン・フォーブス大尉(中隊長):ピューマ突撃戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵13名

   第1戦車小隊:

    ルーサー・テスター中尉(小隊長):ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

   第2戦車小隊:

    ドン・クラックソン中尉(23): ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

   第3戦車小隊:

    キーラ・アキモヴナ・チェルニャンスカヤ中尉(小隊長):ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

 

  第2戦車中隊:

   中隊本部:

    レオポルト・ブルッフ大尉(中隊長):ライノ重戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵11名

   第4戦車小隊:

    レスター・フィンリー中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第5戦車小隊:

    ジャッキー・ビショップ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第6戦車小隊:

    カーラ・チャッフィ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

 

  第3戦車中隊:

   中隊本部:

    ジェシカ・ダウエル大尉(中隊長):ライノ重戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵11名

   第7戦車小隊:

    ハロルド・マッカーティ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第8戦車小隊:

    ザカリー・エアトン中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第9戦車小隊:

    カタリナ・マルティ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵17名

    欠員6名

 

  第4戦車中隊:

   第10戦車小隊:

    ジラ・ターナー大尉(中隊長):マンティコア戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵3名

    欠員12名

   第11戦車小隊:

    マシュー・バーギン中尉(小隊長):ハンター戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵2名

    欠員9名

   第12戦車小隊:

    フリーデリケ・ディール中尉(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵1名

    欠員6名

 

歩兵部隊:

 歩兵A大隊:

  第1歩兵中隊:

   第1歩兵小隊:

    エリオット・グラハム少佐(大隊長、歩兵部隊総長)

    その他歩兵27名

   第2歩兵小隊:

    コリン・ドリスコル少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第3歩兵小隊:

    ヒュー・アーン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第4歩兵小隊:

    ヴァリマ・ハットネン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第2歩兵中隊:

   第5歩兵小隊:

    ラナ・ゴドルフィン大尉(中隊長、軍医)

    その他歩兵27名

   第6歩兵小隊:

    ヴィンス・バジョット少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第7歩兵小隊:

    アイヴァン・ハガード少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第8歩兵小隊:

    エリカ・アレンビー少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第3歩兵中隊:

   第9歩兵小隊:

    メルタ・リンドストローム中尉(中隊長)

    その他歩兵27名

   第10歩兵小隊:

    ゲイブリエル・ダービーシャー少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第11歩兵小隊:

    ドルフ・ルース少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第12歩兵小隊:

    マリー・ミュルダール少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

 

 歩兵B大隊:

  第4歩兵中隊:

   第13歩兵小隊:

    テリー・アボット少佐(大隊長)

    その他歩兵27名

   第14歩兵小隊:

    テレンス・ハックマン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第15歩兵小隊:

    ジョーダン・コフーン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第16歩兵小隊:

    トラヴィス・ランバート少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第5歩兵中隊:

   第17歩兵小隊:

    ジェームズ・パーシング大尉(中隊長)

    その他歩兵20名

    欠員7名

   第18歩兵小隊:

    ケント・ラム少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第19歩兵小隊:

    ジョッシュ・ギールグッド少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第20歩兵小隊:

    マルカ・イーゴレヴナ・ゴルプコワ少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

 

  第6歩兵中隊:

   第21歩兵小隊:

    フレディ・ソーンダイク中尉待遇少尉(中隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第22歩兵小隊:

    イーノック・ケイン少尉(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第23歩兵小隊:

    ダーレン・ウィアー少尉待遇軍曹(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

   第24歩兵小隊:

    アルビナ・ララサバル少尉待遇軍曹(小隊長)

    その他歩兵6名

    欠員21名

 

  独立歩兵中隊(ジャンプ歩兵):

   第25歩兵小隊:

    ヴィクトル・デュヴェリエ大尉(中隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第26歩兵小隊:

    デイヴ・カリー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第27歩兵小隊:

    ドム・ブラッドショー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第28歩兵小隊:

    ルーク・ハリス少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第29歩兵小隊:

    マルコム・バナマン少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第30歩兵小隊:

    シャロン・マクスウィーニー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

 

連隊副官:

  ジャスティン・コールマン大尉:運転手

 

大隊副官:

  ケネス・ペンフォード少尉:メック第2大隊付

  ジラ・アスター少尉:メック第3大隊付

  ハンフリー・ガザード少尉:戦車大隊付

  カイル・ローレンソン少尉:歩兵A大隊付

  ジョージー・レスモリア少尉:歩兵B大隊付

 

教育担当官:

  ヴァーリア・グーテンベルク中尉:教員

  エディス・ディラック少尉:教員

  チェリー・アクロイド少尉:教員

  チャド・タリス少尉:教員

  クリフォード・ドリューウェット少尉:教員

  ロニー・アチソン少尉:教員

  テア・シャルンホルスト少尉:教員

 

武器担当官:

  ペーター・アーベントロート曹長

  レズリー・パーキンソン軍曹

  デレク・ダニエル軍曹

  ベン・テューダー軍曹

  リンジー・ディンブルビー軍曹

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン博士:学者(中尉待遇)

  エリク・リプソン博士:学者(少尉待遇)

  リーアム・ボロー博士:学者(少尉待遇)

  アイザック・オフリー博士:学者(少尉待遇)

  エルザ・マリア・ゲルシュター博士:学者(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(大尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(曹長待遇)

 

総務課員:

  シュゼット・アンペール(伍長待遇)

  シャルロッタ・ミルヴェーデン(伍長待遇)

  クリスティアナ・エアトン(一等兵待遇)

  ジークリンデ・ブロックマイアー(一等兵待遇)

  ベアトリス・カヴァルカンティ(一等兵待遇)

  ティルダ・カルッカリ(一等兵待遇)

 

医師(専任):

  ブラッドフォード・アッカースン医師(軍曹待遇)

  クリフトン・エングルフィールド医師(軍曹待遇)

  オーガスタス・ジョンストーン医師(軍曹待遇)

  ダスティン・ヘイソーンスウェイト医師(軍曹待遇)

  マーティン・イースターブルック医師(軍曹待遇)

  スティーヴィー・キャターモール医師(軍曹待遇)

  ウィンストン・マーティンソン医師(軍曹待遇)

  ダルシー・アボット医師(軍曹待遇)

  エミリア・フィオリルロ医師(軍曹待遇)

  クレア・ダーニャ医師(軍曹待遇)

  エレン・ミュルダール医師(軍曹待遇)

  オルガ・フルニエ医師(軍曹待遇)

 

コンピュータ技師(専任):

  ウェスリー・アッシュベリー:技師(軍曹待遇)

  ダンカン・フィッツパトリック:技師(軍曹待遇)

  フェイビアン・ロングハースト:技師(軍曹待遇)

  アルフィー・エドマンドソン:技師(軍曹待遇)

  グラントリー・カヴァーディル:技師(軍曹待遇)

  ブラッドリー・スタンスフィールド:技師(軍曹待遇)

  デズモンド・オールディントン:技師(軍曹待遇)

  エルヴィラ・イングラム:技師(軍曹待遇)

  テレーズ・ヴェルレーヌ:技師(軍曹待遇)

  ミケラ・ジネッティ:技師(軍曹待遇)

  ビアンカ・スルバラン:技師(軍曹待遇)

  スヴェトラーナ・ボリソヴナ・アダミーシナ:技師(軍曹待遇)

 

恒星連邦傭兵関係局・連絡士官:

  リアム・オールドリッチ大尉(メック戦能力有)

 

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド中尉

  副長イライダ・アダーモヴナ・アドロワ少尉

  機関士メアリー・オールビー軍曹

  機関士ヨアヒム・ブリーゼマイスター軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン中尉

  副長カタリーナ・サベードラ少尉

  機関士グレッグ・アボット軍曹

  機関士ジュード・エインズワース軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級スペードフィッシュ号

  船長イングヴェ・ルーセンベリ中尉

  副長ナタリア・サンチェス少尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー軍曹

  機関士ゼルダ・ウルフスタン軍曹

  その他船員5名

 

 レパードCV級アーコン号

  船長セルマ・ルンヴィク中尉

  副長アナスタシヤ・アドリアノヴナ・オヴシャンニコワ少尉

  機関士ケヴィン・ギブソン軍曹

  機関士ブラッドリー・チャップマン軍曹

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド中尉

  副長ガス・マッキンタイア少尉

  機関士アデル・ドラモンド軍曹

  機関士グレン・リリエンソール軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト中尉

  副長アンジェラ・キャンベル少尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ軍曹

  機関士ヘルガ・ギーゼン軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級レパルス号

  船長オーレリア・レヴィン中尉

  副長フランチェスカ・マルティ少尉

  機関士メアリー・ホーキンズ軍曹

  機関士ヴァルブルガ・クナープ軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級ミンドロ号

  船長ダーナ・フィリップス中尉

  副長デズモンド・フォレスター少尉

  機関士ヘルカ・パータロ軍曹

  機関士コンラッド・パーソンズ軍曹

  その他船員10名

 

 トライアンフ級トリンキュロー号

  船長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ中尉

  副長イーノック・セッションズ少尉

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク軍曹

  機関士ロイド・フリーマントル軍曹

  その他船員11名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル中尉

  副長ガイ・オサリヴァン少尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ軍曹

  機関士ヴァージル・ジョーセフ軍曹

  その他船員38名

 

 オーバーロード級フィアレス号

  船長マシュー・マクレーン中尉

  副長ヤナ・ヴィタリエヴナ・ココーシノワ少尉

  機関士ライナス・ゲイル軍曹

  機関士カーティス・オリヴァー軍曹

  その他船員39名

 

 オーバーロード級サンダーチャイルド号

  船長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー中尉

  副長イーサン・クラックソン少尉

  機関士フォルカス・ロウントゥリー軍曹

  機関士アリサ・ワレリエヴナ・チェルニャンスカヤ軍曹

  その他船員39名

 

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(大尉待遇)

  副長アリョーナ・ウラディミロヴナ・ブルラコワ(中尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(軍曹待遇)

  機関士イリーナ・エゴロヴナ・アルジャンニコワ(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級ネビュラ号

  艦長ヘルマン・アギラー(大尉待遇)

  副長ドナルド・カートリッジ(中尉待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(軍曹待遇)

  機関士リュドミラ・ウラディスラヴナ・アルスカヤ(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級パーシュアー号

  艦長クヌート・オールソン(大尉待遇)

  副長ツェツィーリヤ・ルスラノヴナ・コルガノワ(中尉待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(軍曹待遇)

  機関士アンガス・ソールズベリー(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(大尉待遇)

  副長ダグラス・リンドグレーン(中尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(軍曹待遇)

  機関士マーヴィン・ニューランズ(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級ズーコフ号

  艦長ヨハン・グートシュタイン(大尉待遇)

  副長ハーバート・チャーチル(中尉待遇)

  機関士ヒューゴー・リンゼイ(軍曹待遇)

  機関士ヴィリバルト・アクス(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

予備機:

  60tライフルマン×1

  55tグリフィン×2

  55tウルバリーン×2

  55tシャドウホーク×3

  45tフェニックスホーク×1

  45tヴィンディケイター×3

  40tクリント×1

  40tウィットワース×2

  30tヴァルキリー×1

  30tF型ヴァルキリー×1

  20tスティンガー×2

 

  60tヘルキャット戦闘機×2

 

  95t機動ロングトム砲×1

 

その他:

  スナイパー砲車輛×1

  ジープ(非武装車)×4

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×7

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×3

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH(非武装)×1

  機動病院車MASH(武装有)×1

  スキマー×35

  パックラット長距離パトロールヴィークル×4

  大型輸送車×2




主人公が授爵して、自分の領地に旅立つ直前の編制ですね。この後、足りない人員とか色々領地の方やガラテアで募集することになります。


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傭兵部隊『鋼鉄の魂(SOTS)』編制表 その8

「鋼鉄の魂」の主人公率いる傭兵メック部隊『SOTS』の編制表です。第14期の編制を掲載しました。第15期以降はその9から先に掲載します。


混成傭兵連隊『鋼鉄の魂(略称SOTS)』

第14期編制表:3028年06月15日・『エピソード-089』時点

 

メック部隊:

 連隊指揮中隊:

  指揮小隊:

   メック戦士キース・ハワード大佐:95tS型バンシー(連隊長)

   メック戦士マテュー・ドゥンケル大尉:100tアトラス

   メック戦士アンドリュー・ホーエンハイム准尉:80tオウサム

   メック戦士エリーザ・ファーバー准尉:85tストーカー

 

  火力小隊『機兵狩人小隊』:

   メック戦士サラ・グリソム中尉待遇少尉:75tD型マローダー(小隊長代理)

   メック戦士ギリアム・ヴィンセント曹長:70tウォーハンマー

   メック戦士アマデオ・ファルケンハイン曹長:65tクルセイダー

   メック戦士イヴリン・イェーガー曹長:65tサンダーボルト

 

  偵察小隊:

   メック戦士ルートヴィヒ・フローベルガー中尉:55tグリフィン(小隊長、予備機貸与)

   メック戦士ノア・ゴールトン少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

   メック戦士ラヴィニア・アディンセル軍曹:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

   メック戦士ベガ・ハミルトン軍曹:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

 A大隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ジーン・ファーニバル少佐:85tバトルマスター(予備機貸与)

    メック戦士デイナ・ダイムラー少尉:80tヴィクター(予備機貸与)

    メック戦士エドウィン・ダーリング軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士エルフリーデ・ブルンスマイアー軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士ロジャー・マッコイ中尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士ヒューゴー・キルナー少尉:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士アリチェ・フィオレンティーニ伍長:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士アリスン・セシル伍長:55tウルバリーン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士イルヴァ・セルベル中尉:55tグリフィン

    メック戦士セシリア・キッシンジャー少尉:55tウルバリーン

    メック戦士ベルナータ・エルテナハ・ヴァレリ伍長:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士マルティナ・ヘースティングス伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第2中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ケネス・ゴードン大尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士フィル・カヴァナー少尉:70tD型ウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ドロテア・レーディン曹長:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士マイケル・ニューマン曹長:70tアーチャー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アルベルト・エルツベルガー中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ラルフ・ゲイソン少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士エステル・オーベリ軍曹:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士アーシュラ・グレー軍曹:70tウォーハンマー(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士ルイーサ・フェルナンデス中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士ロビン・フライディ少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士シャルロッタ・メルベリ軍曹:45tフェニックスホーク

    メック戦士ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ軍曹:45tフェニックスホーク

 

  第3中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ジェラルド・ハルフォード大尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士リア・エンツェンベルガー少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士アニカ・マイエル軍曹:55tウルバリーン

    メック戦士ジョイス・ダルトン軍曹:55tグリフィン

 

   火力小隊:

    メック戦士デリック・ゴールズワージー中尉待遇少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ケヴィン・ハードキャッスル少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士チェリー・エアトン軍曹:50tハンチバック

    メック戦士グレタ・ノイマン軍曹:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士アルジャノン・ハドルストン中尉待遇少尉:30tスパイダー(予備機貸与)

    メック戦士ベリンダ・ボルヒャルト少尉:35tオストスカウト(予備機貸与)

    メック戦士リーヴァイ・チャットウィン軍曹:30tスパイダー

    メック戦士サーラ・ヤーデルード軍曹:30tスパイダー(予備機貸与)

 

 B大隊:

  第4中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ヒューバート・イーガン少佐:85tバトルマスター

    メック戦士ロタール・エルンスト少尉:65tクルセイダー

    メック戦士カーリン・オングストローム少尉:55tグリフィン

    メック戦士ティアナ・シェーンベルク軍曹:65tサンダーボルト(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アーデルハイト・エルマン中尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士ワンダ・エアハルト少尉:75tオリオン(予備機貸与)

    メック戦士ニコロ・フォルミーキ軍曹:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士ジョディー・ラングトン曹長:50tエンフォーサー

 

   偵察小隊:

    メック戦士エリーザベト・メリン中尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士カイル・アイアランド少尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士アロルド・エリクソン曹長:45tD型フェニックスホーク

    メック戦士ソフィア・マイエル軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第5中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士グレーティア・ツィルヒャー大尉:75tD型マローダー

    メック戦士レイモンド・アダムズ少尉:65tカタパルト(予備機貸与)

    メック戦士ジェリー・モンゴメリ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

    メック戦士アニタ・ピットマン伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士カーラ・カタラーニ中尉:65tサンダーボルト

    メック戦士マイヤ・エフィモヴナ・エフレモワ少尉:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士ゲイリー・タンストール軍曹:70tアーチャー(予備機貸与)

    メック戦士ミュリエル・シャリエ伍長:60tライフルマン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    ジョーダン・アディントン中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士レジナルド・ガーン少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ヘイデン・ラッセルズ伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士イザドラ・フルード伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第6中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士ジョシュア・ブレナン大尉:75tD型マローダー(予備機貸与)

    メック戦士マーティー・アクロイド少尉:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アンヘラ・ノリエガ伍長:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士グレタ・ラレテイ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士ルートヴィヒ・ゲルステンビュッテル中尉:65tサンダーボルト(予備機貸与)

    メック戦士カルディナ・リベラ少尉:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士ローランド・ジェームズ伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

    メック戦士ヴァーリア・ゲーリケ軍曹:50tハンチバック(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン中尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ウェンディ・バニング少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士エーリアル・ファリントン伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

    メック戦士デーヴィッド・ケーリー伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

 C大隊:

  第7中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士アーリン・デヴィッドソン少佐:85tバトルマスター

    メック戦士ヴェラ・クルーグハルト少尉:65tサンダーボルト

    メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート曹長:65tクルセイダー

    メック戦士トラヴィス・キーツ軍曹:70tウォーハンマー(予備機貸与)

 

   火力小隊(対空小隊):

    メック戦士ハーマン・カムデン中尉:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士アナ・アルフォンソ軍曹:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士メアリー・キャンベル軍曹:60tライフルマン(予備機貸与)

    メック戦士マーカス・バートウィッスル軍曹:60tライフルマン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士アルマ・キルヒホフ中尉:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士トビー・ケネット少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士マキシーン・ウィンターズ軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士アドルファス・マコーマック軍曹:45tフェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第8中隊:

   指揮小隊:

    メック戦士リシャール・ジェレ大尉:75tD型マローダー

    メック戦士ブランカ・モリエンテス少尉:70tD型ウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アイザック・ケント伍長:70tウォーハンマー(予備機貸与)

    メック戦士アリスン・マクニール伍長:50tエンフォーサー(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士オスカー・ノールズ中尉:55tシャドウホーク(予備機貸与)

    メック戦士レベッカ・バッセル少尉:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士エルトン・オハラ伍長:65tクルセイダー(予備機貸与)

    メック戦士テレザ・マッツィーニ伍長:55tシャドウホーク(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士テリー・オルコット中尉:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

    メック戦士クロジンデ・ギュンマー少尉:40tウィットワース(予備機貸与)

    メック戦士ユーイン・フロレンス伍長:40tウィットワース(予備機貸与)

    メック戦士チャールズ・アーロン伍長:45tD型フェニックスホーク(予備機貸与)

 

  第9中隊(偵察中隊):

   指揮小隊:

    メック戦士アラン・ボーマン大尉:65tエクスターミネーター(予備機貸与)

    メック戦士ジュリア・アビントン少尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士レノーレ・シュトックバウアー軍曹:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ディーン・オコンネル伍長:55tグリフィン(予備機貸与)

 

   火力小隊:

    メック戦士アレックス・キャンベル中尉:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士バルバラ・フィオラヴァンティ少尉:55tグリフィン(予備機貸与)

    メック戦士ホセフィーナ・モラティーノス軍曹:55tウルバリーン(予備機貸与)

    メック戦士エディー・ブロードベント伍長:55tグリフィン(予備機貸与)

 

   偵察小隊:

    メック戦士アレグザンドラ・エンダース中尉待遇少尉:40tクリント(予備機貸与)

    メック戦士ヴィリヤ・ユルヤナ軍曹:40tウィットワース(予備機貸与)

    メック戦士ドミニク・アルカデルト軍曹:40tウィットワース(予備機配備)

    メック戦士マリアン・ブラウニング伍長:30tヴァルキリー(予備機配備)

 

 歩兵随伴支援独立小隊(対歩兵・対車輛小隊):

  メック戦士アーシュラ・リーコック伍長:40t5T型バルカン(予備機貸与)

  メック戦士ルーシャン・パートランド伍長:35tファイアスターター(予備機貸与)

  メック戦士グレン・ヤングハズバンド伍長:30tF型ヴァルキリー(予備機貸与)

  メック戦士アリシア・ディーコン伍長:20tD型ワスプ(予備機貸与)

 

 訓練中隊(第10中隊):

  訓練第1小隊(バトルメック教習小隊):

   メック戦士エルマー・フォーブズ訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

   メック戦士バイロン・ウェイド訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

   メック戦士アメリー・ダヤン訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

   メック戦士ウーテ・オイゲン訓練生:50tカメレオン練習機(予備機貸与)

 

  訓練第2小隊(LAM教習小隊):

   メック戦士ナターリヤ・セルゲエヴナ・ブイコワ訓練生:30tワスプLAM(予備機貸与)

   メック戦士マーティー・リリーホワイト訓練生:30tスティンガーLAM(予備機貸与)

   メック戦士アリス・オールドリッチ訓練生:30tスティンガーLAM(予備機貸与)

   メック戦士カミラ・ブルーメンタール訓練生:30tスティンガーLAM(予備機貸与)

 

 降下猟兵隊:

  第1小隊:

   メック戦士バート・アトリー大尉待遇中尉:50tフェニックスホークLAM

   メック戦士クリフ・キングスコート軍曹:50tフェニックスホークLAM

   メック戦士モーリス・キャンピアン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士アンブローズ・ハインドマン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

 

  第2小隊:

   メック戦士クライド・ガーディナー中尉待遇少尉:50tフェニックスホークLAM

   メック戦士ジャクリーン・ジェンキンソン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ゲルダ・ブライトクロイツ伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士ヒルダ・ゴドウィン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

 

  第3小隊:

   メック戦士コンスタント・コウバーン中尉待遇少尉:50tフェニックスホークLAM

   メック戦士ブリジット・セスナ伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士キティ・キャラハン伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

   メック戦士アリチェ・ペトリス伍長:50tフェニックスホークLAM(予備機貸与)

 

気圏戦闘機隊:

 気圏戦闘機A(アロー)中隊:

  航空兵マイク・ドーアティ大尉:50tライトニング戦闘機(気圏戦闘機隊隊長)

  航空兵ジョアナ・キャラハン中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵ミケーレ・チェスティ中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル中尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵フョードル・グリゴリエヴィチ・グルボコフスキー少尉:50tライトニング戦闘機

  航空兵バウマン・アヒレス少尉:50tライトニング戦闘機

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊:

  航空兵ヘルガ・ヤーデルード大尉:75tトランスグレッサー戦闘機

  航空兵アードリアン・ブリーゼマイスター中尉:75tトランスグレッサー

  航空兵オーギュスト・セゼール少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵キアーラ・コッポラ少尉:60tスティングレイ戦闘機

  航空兵アンジェル・デュピュイトラン少尉:60tスティングレイ戦闘機

 

 気圏戦闘機C(カバラ)中隊:

  航空兵クライヴ・クレランド中尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵タマーラ・ワレリエヴナ・ベコワ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵バート・ランドルフ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ブレンドン・ラムゼイ少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵カルヴィン・ミラー少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

  航空兵エルサ・ミュルダール少尉:100tスツーカ戦闘機(予備機貸与)

 

 気圏戦闘機D(ダート)中隊:

  航空兵カール・オーウェン中尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ゲルトルート・ブレヒト少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ロブ・ギャロウェイ少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵クラーラ・フィオラヴァンティ少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ハリソン・カーク少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ナタリー・ウォルステンホルム少尉:30tスパローホーク戦闘機(予備機貸与)

 

 気圏戦闘機E(エッジ)中隊:

  航空兵アンディ・ウェイド中尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ウーテ・ブリーゼマイスター少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵イアン・カー少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ローマン・レアード少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵ハドリー・シャーウッド少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

  航空兵グレーティア・エルツベルガー少尉:25tセイバー戦闘機(予備機貸与)

 

 気圏戦闘機F(フィアー)小隊:

  航空兵グレイアム・グラインディー少尉:60tヘルキャット戦闘機(予備機貸与)

  航空兵エルシー・ハーバート少尉:60tヘルキャット戦闘機(予備機貸与)

 

偵察兵小隊:

 第1偵察兵分隊:

  偵察兵エルンスト・デルブリュック少尉待遇曹長:暫定小隊長、尋問官

  偵察兵フィリップ・エルランジェ軍曹

  偵察兵デューク・マクラレン伍長

  偵察兵ダスティン・マッケイン伍長

  偵察兵ベアトリーチェ・フィチーノ伍長

  偵察兵テレーゼ・レ・アーレルスマイヤー伍長

  偵察兵カルラ・ディアス伍長

 

 第2偵察兵分隊:

  偵察兵ネイサン・ノーランド曹長:ドゥンケル大尉郎党:分隊長

  偵察兵ヘルムート・ゲーベンバウアー軍曹

  偵察兵エグバート・ソーヤー伍長

  偵察兵アルヴァン・アボット伍長

  偵察兵ヴェロニカ・クラルヴァイン伍長

  偵察兵ジャクリーン・ゴールトン伍長

  偵察兵マイア・ボリソヴナ・ゴリュノワ伍長

 

 第3偵察兵分隊:

  偵察兵アイラ・ジェンキンス曹長:ホーエンハイム准尉郎党:分隊長

  偵察兵タチヤーナ・ステパノヴナ・マナエンコワ軍曹

  偵察兵カレン・デッカー伍長

  偵察兵レイチェル・ポズウェル伍長

  偵察兵テッド・マロニー伍長

  偵察兵マイルズ・キャッシュマン伍長

  偵察兵モーガン・ブレークリー伍長

 

 第4偵察兵分隊:

  偵察兵アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ軍曹:フェレット偵察ヘリコプター(貸与):分隊長、ヘリパイロット

  偵察兵ナイジェル・コフィ伍長

  偵察兵パーシー・ファーリー伍長

  偵察兵フィランダー・カニングハム伍長

  偵察兵カミーラ・ミルヴェーデン伍長

  偵察兵ウーテ・アッヒェンバッハ伍長

  偵察兵ベティーナ・クロフツ伍長

 

 第5偵察兵分隊:

  偵察兵ベネデッタ・フラッツォーニ軍曹:フェレット偵察ヘリコプター(貸与):分隊長、ヘリパイロット

  偵察兵ソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ軍曹

  偵察兵メリッサ・アトキンズ伍長

  偵察兵イザベル・ソレル伍長

  偵察兵クィンシー・ベアード伍長

  偵察兵ロードリック・グルベンキアン伍長

  偵察兵ルーパート・デヴォニッシュ伍長

 

整備中隊:

 連隊指揮中隊指揮小隊担当:

  上級整備兵サイモン・グリーンウッド大尉:ハワード大佐郎党:整備中隊長、運転手、間接砲撃手

  整備兵モードリン・デッカー曹長:ドゥンケル大尉待遇中尉付き:運転手

  整備兵ラモン・ロペス曹長:ホーエンハイム准尉付:コンピュータ技師

  整備兵キャスリン・バークレー曹長:ファーバー准尉郎党:軍医

 連隊指揮中隊火力小隊『機兵狩人小隊』担当:

  整備兵ギルバート・ケイン曹長:グリソム中尉待遇少尉郎党

  整備兵アルトゥール・フョードロヴィチ・ドラガノフ軍曹:ヴィンセント曹長郎党

  整備兵アレクセイ・ヤコヴレヴィチ・チェホエフ軍曹:ファルケンハイン曹長郎党

  整備兵ヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長:イェーガー曹長郎党:領地管理者

 連隊指揮中隊偵察小隊担当:

  整備兵ジョーセフ・キャムデン軍曹:フローベルガー中尉付

  整備兵ジャック・ラティマー伍長:ゴールトン少尉郎党

  整備兵アメリア・ホイル伍長:アディンセル軍曹付

  整備兵パメラ・デュラン伍長:ハミルトン軍曹付

 

 第1中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレマン・ジャール軍曹:ファーニバル大尉郎党

  整備兵イライジャ・ケンジット伍長:ダイムラー少尉郎党

  整備兵ゲイリー・ランバート軍曹:ダーリング軍曹付

  整備兵ダニエラ・ポルティージョ軍曹:ブルンスマイアー軍曹付

 第1中隊火力小隊担当:

  整備兵スコット・キッシンジャー軍曹:マッコイ中尉付

  整備兵ドルー・ダリモア伍長:キルナー少尉郎党

  整備兵プリシラ・アビントン伍長:フィオレンティーニ伍長付

  整備兵カレン・オルホフ伍長:セシル伍長付

 第1中隊偵察小隊担当:

  整備兵カミーユ・アフリア曹長:セルベル中尉郎党

  整備兵セルマ・リーランド伍長:キッシンジャー少尉郎党

  整備兵オリガ・ロマノブナ・ベヴゼンコ伍長:ヴァレリ伍長付

  整備兵ドミニク・デュプレ伍長:ヘースティングス伍長付

 

 第2中隊指揮小隊担当:

  整備兵リュカ・ダゲール軍曹:ゴードン大尉付

  整備兵ジャック・パッテン伍長:カヴァナー少尉郎党

  整備兵ジュディス・ゴールドバーグ軍曹:レーディン曹長付

  整備兵カルロッタ・サラサーテ軍曹:ニューマン曹長付

 第2中隊火力小隊担当:

  整備兵オズワルド・ナイト軍曹:エルツベルガー中尉付

  整備兵キム・ジェイコブズ伍長:ゲイソン少尉郎党

  整備兵シャルロッタ・マンダール軍曹:オーベリ軍曹付

  整備兵エイダ・キャラハン軍曹:グレー軍曹付

 第2中隊偵察小隊担当:

  整備兵レイフ・マッカラー軍曹:フェルナンデス中尉付

  整備兵シェリー・ランドー伍長:フライディ少尉郎党

  整備兵ヘンリー・キング伍長:メルベリ軍曹郎党

  整備兵キーラ・アキモヴナ・グロトワ伍長:ゴリバフ軍曹郎党

 

 第3中隊指揮小隊担当:

  整備兵キティ・アトキンズ軍曹:ハルフォード大尉郎党

  整備兵チェスター・ウォリス伍長:エンツェンベルガー少尉郎党

  整備兵エルドレッド・コープランド伍長:マイエル軍曹郎党

  整備兵ソニア・サモラ伍長:ダルトン軍曹郎党

 第3中隊火力小隊担当:

  整備兵エルザ・フィアッコーニ伍長:ゴールズワージー中尉待遇少尉郎党

  整備兵アドリアナ・セガーラ伍長:ハードキャッスル少尉郎党

  整備兵ビルギット・メリン伍長:エアトン軍曹郎党

  整備兵マーク・アーロン伍長:ノイマン軍曹付

 第3中隊偵察小隊担当:

  整備兵クラレンス・マクブライン軍曹:ハドルストン中尉待遇少尉郎党

  整備兵ブレント・ギャルブレイス伍長:ボルヒャルト少尉郎党

  整備兵リビー・リドゲート伍長:チャットウィン軍曹郎党

  整備兵アーラ・ザハーロヴナ・ブラギンスカヤ伍長:ヤーデルード軍曹付

 

 第4中隊指揮小隊担当:

  整備兵ニクラウス・エーベルハルト中尉:イーガン少佐郎党:コンピュータ技師

  整備兵フィリップ・ジョーンズ曹長:エルンスト少尉付

  整備兵キム・バスカヴィル曹長:オングストローム少尉付:軍医

  整備兵ローレル・ケアリー伍長:シェーンベルク軍曹付

 第4中隊火力小隊担当:

  整備兵レギニータ・セゴビア軍曹:エルマン中尉付

  整備兵ジョーハンナ・ケアリー軍曹:エアハルト少尉付

  整備兵ニール・カーネギー軍曹:フォルミーキ軍曹付

  整備兵ニコラス・ジェファーソン軍曹:ラングトン曹長郎党

 第4中隊偵察小隊担当:

  整備兵ジョーゼフ・エイドリアン軍曹:メリン中尉付

  整備兵リーラ・アクトン伍長:アイアランド少尉郎党

  整備兵ヨーゼフ・ノイエンドルフ軍曹:エリクソン曹長郎党

  整備兵サラ・マコーレー伍長:ソフィア・マイエル軍曹付

 

 第5中隊指揮小隊担当:

  整備兵ケーテ・ダンゲルマイヤー曹長:ツィルヒャー大尉付:運転手

  整備兵ケント・アドキンズ伍長:アダムズ少尉郎党

  整備兵レスター・ジョージ伍長:モンゴメリ伍長付

  整備兵エリノル・ブフマイヤー伍長:ピットマン伍長付

 第5中隊火力小隊担当:

  整備兵クロエ・ドゥリヴォー曹長:カタラーニ中尉郎党

  整備兵アーネ・ニーベリ伍長:エフレモワ少尉郎党

  整備兵エドワード・オバーン伍長:タンストール軍曹付

  整備兵エリア・ドゥリヴォー伍長:シャリエ伍長付

 第5中隊偵察小隊担当:

  整備兵スチュアート・アンドルーズ軍曹:アディントン中尉付

  整備兵ランドル・ガスコイン伍長:ガーン少尉郎党

  整備兵ロバート・バグウェル伍長:ラッセルズ伍長付

  整備兵エリザベッタ・アゴスティネッリ伍長:フルード伍長付

 

 第6中隊指揮小隊担当:

  整備兵ルシンダ・プレスコット軍曹:ブレナン大尉付

  整備兵レズリー・ギボン伍長:アクロイド少尉郎党

  整備兵アンナ・コクトー伍長:ノリエガ伍長付

  整備兵アーデルハイト・ハウアー伍長:ラレテイ伍長付

 第6中隊火力小隊担当:

  整備兵ラッセル・リスター軍曹:ゲルステンビュッテル中尉付

  整備兵カートゥヤ・ハルトネン伍長:リベラ少尉郎党

  整備兵デレク・リプトン伍長:ジェームズ伍長付

  整備兵オデット・ドゥリヴォー伍長:ゲーリケ軍曹付

 第6中隊偵察小隊担当:

  整備兵アドルフ・ペーデル軍曹:ブーニン中尉郎党

  整備兵ヘルミ・ヨーネン伍長:バニング少尉郎党

  整備兵イルマ・ゼノーニ伍長:ファリントン伍長付

  整備兵ミック・ブラックウェル伍長:ケーリー伍長付

 

 第7中隊指揮小隊担当:

  整備兵クレール・オリオール中尉:デヴィッドソン少佐郎党:メック戦士予備

  整備兵アン・ニールセン曹長:クルーグハルト少尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ボールドウィン・アクロイド軍曹:アーベントロート曹長郎党:間接砲撃手

  整備兵ジョン・ハマートン伍長:キーツ軍曹付

 第7中隊火力小隊担当:

  整備兵ゾフィーア・エルレンマイアー軍曹:カムデン中尉付

  整備兵ジークリンデ・ガイスラー軍曹:アナ・アルフォンソ軍曹付

  整備兵アレクセイ・ヴィクトロヴィチ・イワノフ曹長:キャンベル軍曹付

  整備兵ロリ・リクセト・シェルヴェン伍長:バートウィッスル軍曹付

 第7中隊偵察小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・ヴァルテンブルグ軍曹:キルヒホフ中尉郎党

  整備兵ケイリー・リンドバーグ伍長:ケネット少尉郎党

  整備兵ウラディミル・セルゲエヴィチ・ブゾフ軍曹:ウィンターズ軍曹付

  整備兵アリエル・シャトーブリアン軍曹:マコーマック軍曹付

 

 第8中隊指揮小隊担当:

  整備兵マクシミリアン・オイレンシュピーゲル曹長:ジェレ大尉郎党:メック戦士予備

  整備兵ヤスミーネ・ファーベルク伍長:モリエンテス少尉郎党

  整備兵ヘンリー・ノーラン伍長:ケント伍長付

  整備兵カティーナ・ギデンス伍長:マクニール伍長付

 第8中隊火力小隊担当:

  整備兵サミュエル・ニーン軍曹:ノールズ中尉付

  整備兵シャロン・ファーニバル伍長:バッセル少尉郎党

  整備兵アルフ・ユニアック伍長:オハラ伍長付

  整備兵ゼノビア・ジンデル伍長:マッツィーニ伍長付

 第8中隊偵察小隊担当:

  整備兵アマリア・フォルト軍曹:オルコット中尉付

  整備兵ノーマ・メイスフィールド伍長:ギュンマー少尉郎党

  整備兵オーエン・ダンリーヴィー伍長:フロレンス伍長付

  整備兵トム・ニーン伍長:アーロン伍長付

 

 第9中隊(偵察中隊)指揮小隊担当:

  整備兵ハルトムート・キルステン軍曹:ボーマン大尉待遇中尉郎党

  整備兵エイミー・バッセル伍長:アビントン少尉郎党

  整備兵アメーリア・ステッラ軍曹:シュトックバウアー軍曹付

  整備兵ジェイク・レイランド伍長:オコンネル伍長付

 第9中隊火力小隊担当:

  整備兵アリョーナ・イワノヴナ・アヴェリナ軍曹:キャンベル中尉付

  整備兵ジェシー・フォースター伍長:フィオラヴァンティ少尉郎党

  整備兵リー・リア伍長:モラティーノス軍曹付

  整備兵ディック・バウスフィールド伍長:ブロードベント伍長付

 第9中隊偵察小隊(偵察/対歩兵・対車輛小隊)担当:

  整備兵イーディス・ランチェスター軍曹:エンダース中尉待遇少尉郎党

  整備兵アラン・スケフィントン軍曹:ユルヤナ軍曹付

  整備兵ビル・アディ軍曹:アルカデルト軍曹付

  整備兵エルヴィラ・アラモヴナ・ボチャルニコワ伍長:ブラウニング伍長付

 

 歩兵随伴支援独立小隊(対歩兵・対車輛小隊)担当:

  整備兵ローレンス・バラクロフ伍長:リーコック伍長付

  整備兵ジェイコブ・イーグル伍長:パートランド伍長付

  整備兵エスメラルダ・サラサーテ伍長:ディーコン伍長付

  整備兵ビアンカ・カートライト伍長:ヤングハズバンド伍長付

 

 訓練中隊(第10中隊)第1小隊(バトルメック教習小隊)担当:

  整備兵ウルズラ・アルトマイヤー伍長:フォーブズ訓練生付

  整備兵エドワード・バートレット伍長:ウェイド訓練生付

  整備兵エルシー・キャボット伍長:ダヤン訓練生付

  整備兵イライアス・リンドグレーン伍長:オイゲン訓練生付

 訓練中隊(第10中隊)第2小隊(LAM教習小隊)担当:

  整備兵ダニエル・デーンズ伍長:ブイコワ訓練生付

  整備兵アネッテ・ナウマン伍長:リリーホワイト訓練生付

  整備兵グラツィエッラ・ゴルディジャーニ伍長:オールドリッチ訓練生付

  整備兵ギディオン・クリーヴランド伍長:ブルーメンタール訓練生付

 

 降下猟兵隊第1小隊担当:

  整備兵エレナ・フィチーニ軍曹:アトリー大尉待遇中尉郎党

  整備兵マルグレット・マイエル伍長:キングスコート軍曹郎党

  整備兵アール・リリーホワイト軍曹:キャンピアン伍長付

  整備兵マルセラ・ララインサル伍長:ハインドマン伍長付

 降下猟兵隊第2小隊担当:

  整備兵エレン・ヴォールファート軍曹:ガーディナー中尉待遇少尉郎党

  整備兵ドム・マキオン軍曹:ジェンキンソン伍長付

  整備兵アーネスト・フォード軍曹:ブライトクロイツ伍長付

  整備兵イーモン・ゴーラム伍長:ゴドウィン伍長付

 降下猟兵隊第2小隊担当:

  整備兵エグバート・エクルストン軍曹:コウバーン中尉待遇少尉郎党

  整備兵ルイーズ・キャンベル軍曹:セスナ伍長付

  整備兵オルガ・グリューネヴァルト伍長:キャラハン伍長付

  整備兵エルトン・センツベリー伍長:ペトリス伍長付

 

 予備メック管理担当:

  整備兵アール・デイヴィソン伍長:担当メック戦士無し

  整備兵ティルダ・オクサネン伍長:担当メック戦士無し

 

 気圏戦闘機A(アロー)中隊担当:

  整備兵ジェレミー・ゲイル中尉:ドーアティ大尉郎党:運転手

  整備兵パメラ・ポネット曹長:キャラハン中尉郎党:コンピュータ技師

  整備兵ディートリヒ・ブランデンブルク曹長:チェスティ中尉郎党

  整備兵フランツ・ボルツマン曹長:ゲルステンビュッテル中尉郎党

  整備兵バーンハード・アストン軍曹:グルボコフスキー少尉郎党

  整備兵ローレンツ・ブルンスマイアー軍曹:アヒレス少尉郎党

 

 気圏戦闘機B(ビートル)中隊担当:

  整備兵ウルズラ・アルブレヒト曹長:ヤーデルード大尉付

  整備兵ヤニク・ルール曹長:ブリーゼマイスター中尉付:運転手

  整備兵アドルファス・ジェラルディーン軍曹:セゼール少尉郎党

  整備兵ニコラ・ヤッキア軍曹:クラコフスキー少尉郎党

  整備兵モルガン・エベール軍曹:コッポラ少尉郎党

  整備兵バーナード・ウォルシュ軍曹:デュピュイトラン少尉郎党

 

 気圏戦闘機C(カバラ)中隊担当:

  整備兵ジョール・リーヴィス伍長:クレランド中尉付

  整備兵アデラ・ケアード伍長:ベコワ少尉付

  整備兵ライナス・アクトン伍長:ランドルフ少尉付

  整備兵モーリス・ロット伍長:ラムゼイ少尉付

  整備兵サイラス・リーコック伍長:ミラー少尉付

  整備兵エミリア・キャクストン伍長:ミュルダール少尉付

 

 気圏戦闘機D(ダート)中隊担当:

  整備兵ダン・ケイフォード伍長:オーウェン中尉付

  整備兵アデリン・ジュール伍長:ブレヒト少尉付

  整備兵ダレル・オブライアン伍長:ギャロウェイ少尉付

  整備兵オクタビア・ラミレス伍長:フィオラヴァンティ少尉付

  整備兵エディ・ノースロップ伍長:カーク少尉付

  整備兵ルイーズ・ホール伍長:ナタリー・ウォルステンホルム少尉付

 

 気圏戦闘機E(エッジ)中隊担当:

  整備兵シミオン・バグリー伍長:ウェイド中尉付

  整備兵マーガレット・プレストン伍長:ブリーゼマイスター少尉付

  整備兵ハリー・フィー伍長:カー少尉付

  整備兵ジョニー・パッカー伍長:レアード少尉付

  整備兵エセルバート・アリングハム伍長:シャーウッド少尉付

  整備兵ロリーナ・リットン伍長:エルツベルガー少尉付

 

 気圏戦闘機F(フィアー)小隊担当:

  整備兵フランク・コーリー伍長:グラインディー少尉付

  整備兵カルディナ・ベラスコ伍長:ハーバート少尉付

 

 機甲部隊戦車A大隊大隊本部管理中隊担当:

  整備兵アイナ・シーグバーン伍長

  整備兵マックス・ゴルボーン伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第1戦車中隊担当:

  整備兵ヴァンダ・アルムホルト伍長

  整備兵バリー・クラム伍長

  整備兵アリアンナ・ルカレッリ伍長

  整備兵エヴァン・ダレイニー伍長

  整備兵ジュリアナ・ゴールドバーグ伍長

  整備兵デイミアン・カマーフォード伍長

  整備兵アメリー・ジラルディエール伍長

  整備兵ルーカス・サージェント伍長

  整備兵サリナ・アグワーヨ伍長

  整備兵レナード・ベアリング伍長

  整備兵ビルギッタ・オルソン伍長

  整備兵リオン・クェンビー伍長

  整備兵クリステル・デスタン伍長

  整備兵シリル・カールトン伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第2戦車中隊担当:

  整備兵ベイジル・アンダーウッド伍長

  整備兵ベネデッタ・グリエルミ伍長

  整備兵アルフ・エース伍長

  整備兵アニカ・ミルヴェーデン伍長

  整備兵レックス・ピカリング伍長

  整備兵ステラ・ホイットマン伍長

  整備兵ジュリアン・エイヴリング伍長

  整備兵ゼノビア・ヨーク伍長

  整備兵ジェフ・サーヴィス伍長

  整備兵アデラ・マロリー伍長

  整備兵ダグラス・ベンフィールド伍長

  整備兵アリーセ・ミルデンブルク伍長

  整備兵ドナルド・ドックリル伍長

  整備兵アメーリア・サーデ伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第3戦車中隊担当:

  整備兵ボビー・ソウル伍長

  整備兵エメ・セルネ伍長

  整備兵デニス・ウーリー伍長

  整備兵ヘーゼル・バーン伍長

  整備兵ジェイラス・ブライトン伍長

  整備兵ジュリエッタ・デルマー伍長

  整備兵ギル・バッド伍長

  整備兵エヴァ・ナウマン伍長

  整備兵マーヴィン・ベタニー伍長

  整備兵ヴィットーリア・ピエリ伍長

  整備兵ユーイン・アーチャー伍長

  整備兵アガサ・ジンデル伍長

  整備兵マヌエル・リンメル伍長

  整備兵エリヴィラ・ロジオノヴナ・ブィチコワ伍長

 

 機甲部隊戦車A大隊第4戦車中隊担当:

  整備兵ジャレッド・フェルトン伍長

  整備兵ビルギット・メリン伍長

  整備兵イライジャ・ベイツ伍長

  整備兵ヴァーリア・アッヒェンバッハ伍長

  整備兵デール・ホーキンズ伍長

  整備兵モルガン・デュシャン伍長

  整備兵ロイド・ラブキン伍長

  整備兵ノエル・アンデルソン伍長

  整備兵ザカライア・オブライアン伍長

  整備兵ヴェラ・エンツェンベルガー伍長

  整備兵ディーン・サクソン伍長

  整備兵アレクサンドラ・ボリソヴナ・アブラメンコワ伍長

 

 助整兵:

  その他助整兵446名(常時雇用)

  その他助整兵1419名(臨時雇用)

 

注)整備兵の担当は流動的な物である。

  例えば緊急時には気圏戦闘機隊担当中で有技能者がメック修理に駆り出される。

 

 

機甲部隊:

 戦車A大隊:

  大隊本部管理中隊:

   イスマエル・ミラン少佐(大隊長):ピューマ突撃戦車2輛(車輛貸与)

   その他戦車兵13名

 

  第1戦車中隊:

   中隊本部:

    ベンジャミン・フォーブス大尉(中隊長):ピューマ突撃戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵13名

   第1戦車小隊:

    ルーサー・テスター中尉(小隊長):ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

   第2戦車小隊:

    ドン・クラックソン中尉(23): ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

   第3戦車小隊:

    キーラ・アキモヴナ・チェルニャンスカヤ中尉(小隊長):ピューマ突撃戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵27名

 

  第2戦車中隊:

   中隊本部:

    レオポルト・ブルッフ大尉(中隊長):ライノ重戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵11名

   第4戦車小隊:

    レスター・フィンリー中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第5戦車小隊:

    ジャッキー・ビショップ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第6戦車小隊:

    カーラ・チャッフィ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

 

  第3戦車中隊:

   中隊本部:

    ジェシカ・ダウエル大尉(中隊長):ライノ重戦車2輛(車輛貸与)

    その他戦車兵11名

   第7戦車小隊:

    ハロルド・マッカーティ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第8戦車小隊:

    ザカリー・エアトン中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

   第9戦車小隊:

    カタリナ・マルティ中尉(小隊長):ライノ重戦車4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵23名

 

  第4戦車中隊:

   第10戦車小隊:

    ジラ・ターナー大尉(中隊長):マンティコア戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵15名

   第11戦車小隊:

    マシュー・バーギン中尉(小隊長):ハンター戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵11名

   第12戦車小隊:

    フリーデリケ・ディール中尉(小隊長):ヴァデット哨戒戦車×4輛(車輛貸与)

    その他戦車兵7名

 

歩兵部隊:

 歩兵A大隊:

  第1歩兵中隊:

   第1歩兵小隊:

    エリオット・グラハム少佐(大隊長、歩兵部隊総長)

    その他歩兵27名

   第2歩兵小隊:

    コリン・ドリスコル少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第3歩兵小隊:

    ヒュー・アーン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第4歩兵小隊:

    ヴァリマ・ハットネン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第2歩兵中隊:

   第5歩兵小隊:

    ラナ・ゴドルフィン大尉(中隊長、軍医)

    その他歩兵27名

   第6歩兵小隊:

    ヴィンス・バジョット少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第7歩兵小隊:

    アイヴァン・ハガード少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第8歩兵小隊:

    エリカ・アレンビー少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第3歩兵中隊:

   第9歩兵小隊:

    メルタ・リンドストローム中尉(中隊長)

    その他歩兵27名

   第10歩兵小隊:

    ゲイブリエル・ダービーシャー少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第11歩兵小隊:

    ドルフ・ルース少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第12歩兵小隊:

    マリー・ミュルダール少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

 歩兵B大隊:

  第4歩兵中隊:

   第13歩兵小隊:

    テリー・アボット少佐(大隊長)

    その他歩兵27名

   第14歩兵小隊:

    テレンス・ハックマン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第15歩兵小隊:

    ジョーダン・コフーン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第16歩兵小隊:

    トラヴィス・ランバート少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第5歩兵中隊:

   第17歩兵小隊:

    ジェームズ・パーシング大尉(中隊長)

    その他歩兵27名

   第18歩兵小隊:

    ケント・ラム少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第19歩兵小隊:

    ジョッシュ・ギールグッド少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第20歩兵小隊:

    マルカ・イーゴレヴナ・ゴルプコワ少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  第6歩兵中隊:

   第21歩兵小隊:

    フレディ・ソーンダイク中尉待遇少尉(中隊長)

    その他歩兵27名

   第22歩兵小隊:

    イーノック・ケイン少尉(小隊長)

    その他歩兵27名

   第23歩兵小隊:

    ダーレン・ウィアー少尉待遇軍曹(小隊長)

    その他歩兵27名

   第24歩兵小隊:

    アルビナ・ララサバル少尉待遇軍曹(小隊長)

    その他歩兵27名

 

  独立歩兵中隊(ジャンプ歩兵):

   第25歩兵小隊:

    ヴィクトル・デュヴェリエ大尉(中隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第26歩兵小隊:

    デイヴ・カリー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第27歩兵小隊:

    ドム・ブラッドショー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第28歩兵小隊:

    ルーク・ハリス少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第29歩兵小隊:

    マルコム・バナマン少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

   第30歩兵小隊:

    シャロン・マクスウィーニー少尉(小隊長)

    その他ジャンプ歩兵20名

 

連隊副官:

  ジャスティン・コールマン大尉:運転手

 

大隊副官:

  アメーリア・トゥリーナ少尉:メックA大隊付

  ケネス・ペンフォード少尉:メックB大隊付

  ジラ・アスター少尉:メックC大隊付

  アンドルー・イングルビー少尉:気圏戦闘機隊付

  ハンフリー・ガザード少尉:戦車大隊付

  カイル・ローレンソン少尉:歩兵A大隊付

  ジョージー・レスモリア少尉:歩兵B大隊付

 

教育担当官:

  ヴァーリア・グーテンベルク中尉:教員

  エディス・ディラック少尉:教員

  チェリー・アクロイド少尉:教員

  チャド・タリス少尉:教員

  クリフォード・ドリューウェット少尉:教員

  ロニー・アチソン少尉:教員

  テア・シャルンホルスト少尉:教員

 

武器担当官:

  ペーター・アーベントロート曹長

  レズリー・パーキンソン軍曹

  デレク・ダニエル軍曹

  ベン・テューダー軍曹

  リンジー・ディンブルビー軍曹

 

惑星学者:

  ミン・ハオサン博士:学者(中尉待遇)

  エリク・リプソン博士:学者(少尉待遇)

  リーアム・ボロー博士:学者(少尉待遇)

  アイザック・オフリー博士:学者(少尉待遇)

  エルザ・マリア・ゲルシュター博士:学者(少尉待遇)

 

自由執事:

  ライナー・ファーベルク(大尉待遇)

 

総務課長:

  ケイト・チェンバレン=イェーガー(曹長待遇)

 

総務課員:

  シュゼット・アンペール(伍長待遇)

  シャルロッタ・ミルヴェーデン(伍長待遇)

  クリスティアナ・エアトン(一等兵待遇)

  ジークリンデ・ブロックマイアー(一等兵待遇)

  ベアトリス・カヴァルカンティ(一等兵待遇)

  ティルダ・カルッカリ(一等兵待遇)

 

医師(専任):

  ブラッドフォード・アッカースン医師(軍曹待遇)

  クリフトン・エングルフィールド医師(軍曹待遇)

  オーガスタス・ジョンストーン医師(軍曹待遇)

  ダスティン・ヘイソーンスウェイト医師(軍曹待遇)

  マーティン・イースターブルック医師(軍曹待遇)

  スティーヴィー・キャターモール医師(軍曹待遇)

  ウィンストン・マーティンソン医師(軍曹待遇)

  ダルシー・アボット医師(軍曹待遇)

  エミリア・フィオリルロ医師(軍曹待遇)

  クレア・ダーニャ医師(軍曹待遇)

  エレン・ミュルダール医師(軍曹待遇)

  オルガ・フルニエ医師(軍曹待遇)

 

コンピュータ技師(専任):

  ウェスリー・アッシュベリー:技師(軍曹待遇)

  ダンカン・フィッツパトリック:技師(軍曹待遇)

  フェイビアン・ロングハースト:技師(軍曹待遇)

  アルフィー・エドマンドソン:技師(軍曹待遇)

  グラントリー・カヴァーディル:技師(軍曹待遇)

  ブラッドリー・スタンスフィールド:技師(軍曹待遇)

  デズモンド・オールディントン:技師(軍曹待遇)

  エルヴィラ・イングラム:技師(軍曹待遇)

  テレーズ・ヴェルレーヌ:技師(軍曹待遇)

  ミケラ・ジネッティ:技師(軍曹待遇)

  ビアンカ・スルバラン:技師(軍曹待遇)

  スヴェトラーナ・ボリソヴナ・アダミーシナ:技師(軍曹待遇)

 

恒星連邦傭兵関係局・連絡士官:

  リアム・オールドリッチ大尉(メック戦能力有)

 

 

降下船部隊:

 レパード級ヴァリアント号

  船長カイル・カークランド中尉

  副長イライダ・アダーモヴナ・アドロワ少尉

  機関士メアリー・オールビー軍曹

  機関士ヨアヒム・ブリーゼマイスター軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級ゴダード号

  船長ヴォルフ・カウフマン中尉

  副長カタリーナ・サベードラ少尉

  機関士グレッグ・アボット軍曹

  機関士ジュード・エインズワース軍曹

  その他船員5名

 

 レパード級スペードフィッシュ号

  船長イングヴェ・ルーセンベリ中尉

  副長ナタリア・サンチェス少尉

  機関士ナイジェル・グローヴァー軍曹

  機関士ゼルダ・ウルフスタン軍曹

  その他船員5名

 

 レパードCV級アーコン号

  船長セルマ・ルンヴィク中尉

  副長アナスタシヤ・アドリアノヴナ・オヴシャンニコワ少尉

  機関士ケヴィン・ギブソン軍曹

  機関士ブラッドリー・チャップマン軍曹

  その他船員5名

 

 ユニオン級ゾディアック号

  船長アリー・イブン・ハーリド中尉

  副長ガス・マッキンタイア少尉

  機関士アデル・ドラモンド軍曹

  機関士グレン・リリエンソール軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級エンデバー号

  船長エルゼ・ディーボルト中尉

  副長アンジェラ・キャンベル少尉

  機関士メイベル・ゴールドバーグ軍曹

  機関士ヘルガ・ギーゼン軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級レパルス号

  船長オーレリア・レヴィン中尉

  副長フランチェスカ・マルティ少尉

  機関士メアリー・ホーキンズ軍曹

  機関士ヴァルブルガ・クナープ軍曹

  その他船員10名

 

 ユニオン級ミンドロ号

  船長ダーナ・フィリップス中尉

  副長デズモンド・フォレスター少尉

  機関士ヘルカ・パータロ軍曹

  機関士コンラッド・パーソンズ軍曹

  その他船員10名

 

 トライアンフ級トリンキュロー号

  船長エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ中尉

  副長イーノック・セッションズ少尉

  機関士オティーリエ・ハイゼンベルク軍曹

  機関士ロイド・フリーマントル軍曹

  その他船員11名

 

 フォートレス級ディファイアント号

  船長マンフレート・グートハイル中尉

  副長ガイ・オサリヴァン少尉

  機関士ユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ軍曹

  機関士ヴァージル・ジョーセフ軍曹

  その他船員38名

 

 オーバーロード級フィアレス号

  船長マシュー・マクレーン中尉

  副長ヤナ・ヴィタリエヴナ・ココーシノワ少尉

  機関士ライナス・ゲイル軍曹

  機関士カーティス・オリヴァー軍曹

  その他船員39名

 

 オーバーロード級サンダーチャイルド号

  船長レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー中尉

  副長イーサン・クラックソン少尉

  機関士フォルカス・ロウントゥリー軍曹

  機関士アリサ・ワレリエヴナ・チェルニャンスカヤ軍曹

  その他船員39名

 

 

航宙艦部隊:

 マーチャント級クレメント号

  艦長アーダルベルト・ディックハウト(大尉待遇)

  副長アリョーナ・ウラディミロヴナ・ブルラコワ(中尉待遇)

  機関士ヴォルフラム・フォン・ハルトマン(軍曹待遇)

  機関士イリーナ・エゴロヴナ・アルジャンニコワ(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級ネビュラ号

  艦長ヘルマン・アギラー(大尉待遇)

  副長ドナルド・カートリッジ(中尉待遇)

  機関士キリル・ヨシフォヴィチ・ドラガノフ(軍曹待遇)

  機関士リュドミラ・ウラディスラヴナ・アルスカヤ(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 マーチャント級パーシュアー号

  艦長クヌート・オールソン(大尉待遇)

  副長ツェツィーリヤ・ルスラノヴナ・コルガノワ(中尉待遇)

  機関士ビクトル・リンドヴァル(軍曹待遇)

  機関士アンガス・ソールズベリー(軍曹待遇)

  その他船員14名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級イントレピッド号

  艦長イクセル・ノートクヴィスト(大尉待遇)

  副長ダグラス・リンドグレーン(中尉待遇)

  機関士アキーム・ウラディスラヴィチ・ゴンチャロフ(軍曹待遇)

  機関士マーヴィン・ニューランズ(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

 インベーダー級ズーコフ号

  艦長ヨハン・グートシュタイン(大尉待遇)

  副長ハーバート・チャーチル(中尉待遇)

  機関士ヒューゴー・リンゼイ(軍曹待遇)

  機関士ヴィリバルト・アクス(軍曹待遇)

  その他船員18名

  その他搭載小型船操縦士2名

 

予備機:

  55tウルバリーン×1

  55tシャドウホーク×1

  45tヴィンディケイター×3

  20tスティンガー×2

 

その他:

  スナイパー砲車輛×1

  95t機動ロングトム砲×1

  ジープ(非武装車)×4

  ジープ(武装車・SRM2×1)×1

  軽トラック(非武装車)×1

  軽トラック(武装車・MG×2)×7

  軽トラック(武装車・SRM2×1)×2

  スィフトウィンド偵察車輛×1

  指揮車輛×3

  装輪型APC(装甲兵員輸送車)×16

  フェレット偵察ヘリコプター×2

  機動病院車MASH(非武装)×1

  機動病院車MASH(武装有)×1

  スキマー×35

  パックラット長距離パトロールヴィークル×4

  大型輸送車×2




 タワスⅣで人員を募集し、部隊を再編制した時点の編制表ですね。


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プロローグ
『プロローグ-1 転生』


 その晩、彼は妙に眼が冴えて眠ることができなかった。彼はため息をつくと、蛍光灯の紐を引っ張る。スイッチが入り、蛍光灯が灯った。彼は時計を見る。

 

「……なんだ、もう2時じゃないか。」

 

 勿論夜中の2時のことである。彼はもう一度ため息をついた。

 ふと彼は、大事なことを思い出した。寝る前に飲む様に医者から言われている薬を、まだ飲んでいなかったのだ。その薬を飲み忘れた晩は、いつもなかなか眠りにつくことができないのである。

 その薬は、抗うつ剤だった。彼はしばらく以前からうつ病を患っており、自殺を考えた事も何度かあるほどだ。そして彼は、今は仕事も辞めて治療に専念していたのである。

 彼はベッドから立ち上がると、部屋を出てキッチンへ向かう。そしてキッチンの灯りをつけ、コップに水を汲むと、テーブルの上に置いてある薬袋から医師に処方された薬を取り出した。

 いや、取り出そうとした。

 

「……!?」

 

 彼は突然胸を押さえて床にうずくまる。コップが床にひっくり返り、水がまき散らされた。だが彼にはそれを気にしている余裕はない。

 胸が刺し込むような痛みに襲われていた。その苦しさは、今まで彼が感じた事のない物だった。意識が遠くなる。彼は恐怖に襲われる。

 

(……や、やばい!何かわからないけど、これは……まずい!?い、意識が……。)

 

 灯りがついているのに、目の前が暗くなる。以前自殺を考えたことがあるからと言って、死ぬのが怖くないわけはない。彼は必死に這いずり、電話に辿り着こうとする。救急車を呼ぶつもりなのだ。だがわずか2mちょっとのその距離が、遠くて遠くて仕方が無かった。

 そしてついに、彼は力尽きる。

 

(な……なんてこった。こんなのって……。こんなのって無いよなあ……。ああ、痛い。苦しい。ああ……。)

 

 そして彼は、人知れず死んだ。

 

 

 

 そして彼は目覚めた。

 

(……ん!?ど、どこだここは!?)

 

 そこは天も地もない、薄暗くてよくわからない薄明の空間だった。ただ天も地もないとは言っても、何故かどちらが下かはわかる。身体が宙に浮いているのだが、何故か重力は感じている様だ。

 そして突然、何処からか声が聞こえてきた。

 

『……汝、次なる人生の器を創造せよ。』

(次なる人生の器っ!?)

 

 彼は叫んだつもりだったが、声は出なかった。そして彼の目の前に、RPGのステータス画面の様な物が浮かび上がる。彼は驚いた。その画面の内容を、彼は以前に見た事があったからだ。

 

(こ、これは……。これはメックウォリアーRPGのキャラクターシートじゃないかよ!だ、だけどこいつは?)

 

 そう、そのステータス画面は、テーブルトークRPGと呼ばれる遊戯に使用される、キャラクターの能力を記録するためのキャラクターシートにそっくりだった。ちなみにメックウォリアーRPGと言うのはそのテーブルトークRPGの1種で、アメリカから輸入されたゲームの1つだ。プレイヤーは、バトルメックと呼ばれる巨大ロボットを操って戦うパイロット、メック戦士を演じて遊ぶことになる。

 ちなみにバトルメックを操って戦う部分だけをゲーム化した、バトルテックというボードゲームも存在する。ゲームに出てくるバトルメックが、日本のアニメに出てくるロボットのデザインを無断使用したとかで、色々問題になった曰く付きのゲームだ。なお、日本版が発売されたときにはバトルメックのデザインを、日本のメカデザイナーが再デザインしていたりもする。再デザインされたそのバトルメックは、中々格好良かった。

 そのキャラクターシートの脇に、更に色々な表が浮かび上がる。能力値の表、技能の一覧表、特殊な生得能力の表などなど、キャラクターを作成するのに必須のデータ群だ。

 彼はどうやら「次なる人生の器」とやら、つまり次の人生の肉体を、このキャラクター作成ルールに従って創造せねばならないらしい。だがこのキャラクターシートを用いるという事は、次なる人生とやらはメックウォリアーの世界観、バトルテック世界であるという事だ。

 

(じょ、冗談だろ?バトルテックの世界観って言ったら、年がら年中戦争ばかりじゃないかよ……。い、生き残るためには何とかして、できるだけ強いキャラクターを作らないと。

 ……!?)

 

 彼は目を見開いた。信じがたい物を見たからである。キャラクターシートの作成点が、とんでもない数値になっていたからだ。ちなみに作成点とは、キャラクターを作成するのに必要なポイントのことである。この作成点を消費して、能力値や技能、特殊な能力などを「購入」していくのだ。

 だがその作成点は……。

 

(……2,690点。え!?にせんろっぴゃくきゅうじゅってん!?う、嘘だろ!?普通は150点じゃなかったか!?それに既に経験点が3,000点入ってるぞ!?)

 

 そう、神の助けか、それとも戦乱の世界に送り込むことに対する憐れみか、キャラクターを作成するための作成点は、とんでもないインフレを起こしていたのである。おまけにゲームを始めてからでないと手に入らないはずの経験点まで、そこそこ大量に入っている。だが彼はじきに、別のことにも気づいた。

 

(……ふむ。既に一部の生得能力なんかが修得済みになってるな。これは消去できないのかな?……消去できないか。そうか……。

 これは……。「メック戦士養成校パック」と「宿敵」か。ううむ。)

 

 この「メック戦士養成校パック」というのは、言わば技能の安売りセットである。本来作成点を110点使用しなければ修得できない数の技能を、わずか75点の作成点で修得できるのである。ただし、欠点もある。キャラクター作成時にはこのセットで修得した技能は、作成点ではこれ以上上昇させられないのだ。

 これだけ莫大な作成点を貰っているならば、作成時から主力となる技能に大量に作成点を注ぎ込んで、かなりの高レベルにすることも可能だったはずだ。だが「メック戦士養成校パック」が既に選択されてしまっている以上、それに含まれている主力となる技能――バトルメックの操縦技能や、バトルメックによる攻撃の技能など――は、初心者としてはちょっとは良い、と言った程度にしかならないのだ。経験点を貰っている以上は、キャラクター作成後にそれを消費して技能をレベルアップさせることも可能なのだろうが、限度はある。

 そしてもう1つの「宿敵」が問題なのだ。この能力を選ぶと、作成点に15点のボーナスが付く。だが代わりに、そのキャラクターには不倶戴天の敵がいることになる。あらかじめこの生得能力が選ばれているという事は、次なる人生とやらにおいて障害となる敵、それも強敵が存在しているという事だろう。

 彼は一気に憂鬱になる。

 だが彼は、気力を振り絞って平常心を取り戻した。いつまでも鬱々としていても話は進まない。それに、この何処だかわからない空間に、いつまでもいられるとは限らないのだ。キャラクターの作成に、時間制限は無いかもしれない。しかし、あるかもしれないのだ。

 彼は急いで、しかし慎重に、能力値や技能、生得能力を修得していった。やがて計ったかのように、作成点はきっちり0点になった。まるで最初から計画されていたかの様だ。いや、彼をこの何だかわからない空間に呼び込んだ者は、最初からそうなることがわかっていたのかも知れなかった。そしてキャラクターを作成し終えると、次は経験点を消費して技能をレベルアップする。これはすぐに終了した。

 そして彼がキャラクター……次なる人生の器とやらを作り終えた瞬間、彼の意識は再び遠くなっていった。

 

 

 

 次に彼が目覚めたのは、なんと宇宙空間であった。と言っても、生身で宇宙に浮いていたわけではない。彼はユニオン級降下船と呼ばれる巨大な宇宙船に乗って、とある惑星への旅路の途上だったのだ。それは中心領域と呼ばれる、地球を中心とした広大な宇宙の領域で使われる標準時間において、3014年の4月3日、彼……キース・ハワードの5歳の誕生日の朝のことであった。

 彼には今までキース少年として生きてきた5年間の記憶や実感が、きちんと存在した。このユニオン級降下船ゾディアック号に同乗している父や母のことも、ちゃんと両親だと認識できる。彼はそのことを神だか何だかわからない物に感謝した。前世の記憶と意識が目覚めたことで、両親たちとギクシャクするなど、悪夢である。そうならなかったのは、本当に幸いであった。

 

 

 

(これがバトルメック……。でかいな、流石に。いや、「前」にも見た事はあるんだけどな。こうして「自分」が「覚醒」してからあらためて見ると、感慨もひとしおだな。)

 

 彼、キースはゾディアック号のメック格納庫にやって来ていた。ここには彼の両親が所属する大隊規模の傭兵部隊、『鋼の勇者隊(Brave Man Corps Of the Steel:略称BMCOS)』のバトルメックが格納されており、数多くの整備兵たちがその整備に当たっている。キースはその作業の邪魔にならない様に、離れた場所からそれを眺めていた。

 キースが見ているのは、65tの重量級バトルメック、エクスターミネーターである。彼の父親の機体であるこのバトルメックは、重量級という分類に見合わぬ非常に高い機動力と、そこそこ充分に厚い装甲、そして遠距離と近距離のどちらにも対応できる武装を備えた、優れたメックだ。

 と、キースは彼の後ろから誰かがやって来る気配を感じ、振り返った。

 

「おや、驚かそうと思ったんだがな。失敗したなあ。ははは。」

「あいかわらず、坊ちゃんは鋭いですなあ。」

「……父さん。それにサイモン。」

 

 そこにいたのは、キースの父親ウォルト・ハワードと、その郎党の整備士であるサイモン・グリーンウッドだった。

 ウォルトは、代々続く由緒正しい着弾観測員の家柄で、『BMCOS』の第3中隊中隊長だ。なお、バトルメックによる直接戦闘能力よりも着弾観測員としての技量の方が頼りにされている男だったりする。着弾観測員とは、間接砲撃を戦場の現場で指示し、着弾の様子を確認する隊員のことである。砲兵による間接砲撃には、この着弾観測員の技量が非常に重要となる。砲兵か着弾観測員か、どちらかの技量が不足していれば、大砲による間接砲撃は味方撃ちをすることにもなりかねないのだ。

 一方のサイモンは、もうすぐ50歳になろうかと言う年齢の整備兵兼砲兵だ。整備士としての技量も、間接砲撃手としての腕前も、中心領域に並ぶ者はないとまでウォルトは褒めていた。整備兵としてのサイモンの手腕ならば、NAIS……恒星連邦が誇るニューアバロン科学大学からスカウトが来てもおかしくないそうだ。もっとも彼が凄い人材であると言う事実は、知る人ぞ知ると言ったところであり、同じ『BMCOS』の部隊の中でも知っている人は少ないらしい。

 ウォルトとサイモンは笑って言葉を続ける。

 

「キース、5歳の誕生日おめでとう。」

「坊ちゃん、おめでとうございます。」

「ありがとう、父さん。ありがとう、サイモン。」

「で、だ。誕生日プレゼントなんだが……。一応、品物として渡すものは別に用意してるんだが、それとは別にだ。父さんといっしょに、父さんのデスサイズに乗ってみるか?」

 

 デスサイズとは、ウォルトのエクスターミネーターに名付けられた機体の固有名である。キースは目を輝かせる。キースの今までの記憶によれば、彼はバトルメックに乗るどころか触ってもいけないと禁じられていたのだ。

 

「いいの!?父さん!」

「たまにはな。……いつかはお前に、あのデスサイズを任せることになるんだ。『BMCOS』の第3中隊中隊長の座と共に、な。まあ、今はそんな先の話はいいか。ほら、こっちへ来い。」

 

 ウォルトは先に立って、エクスターミネーターの方へ歩いて行く。キースはちょこちょこと小走りにその後をついて行った。キースは内心で呟く。

 

(なんか、精神が肉体に引っ張られてるのかな。幼くなったみたいだ。こんなにバトルメックに乗れることが嬉しいなんて、な。……そう言えば、うつ病の症状がまったく出てないな。治った?それとも生まれ変わったせいで精神がリセットでもされた?……わかんないな。

 だけど……あの薄明の空間で設定した能力がほとんど発揮されてない。何か、プロテクトでもかかってるみたいだ。……たぶん成長していけば、それに従ってプロテクトが外れていって、あの能力値や技能レベルになるんだろうな、きっと。……一応作成点使って修得した「第六感」は、きちんと働いてるみたいだから、全部が全部プロテクトかかってるわけじゃ無さそうだけどな。)

 

 キースはウォルトに追いつく。ウォルトは微笑みながら、彼を抱き上げてタラップに足をかけた。キースの眼前に、エクスターミネーターの操縦席が見えてきた。



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『プロローグ-2 幼少期』

 キースは7歳になっていた。彼は今、傭兵部隊『BMCOS』と共に、惑星ニューアヴァロンへとやって来ていた。この時代、傭兵部隊の家族が傭兵部隊と行動を共にすることは当たり前なのである。彼の身体は、7歳とは思えないほど大柄であった。まあ、それでもまだまだ子供であるのだが。

 今、キースは大きなお屋敷へとやって来ていた。父親であるウォルトと、母親であるニコラに連れられて来たのだ。傭兵大隊『BMCOS』の第3中隊中隊長であるウォルトは、バトルメックの操縦者たるメック戦士としては例外的に、非常に顔の広い人物であった。彼はそれを活かして、所属する部隊のために色々と恒星連邦上層部などへの働きかけを行っていたのである。そして今日この屋敷に来たのは、この屋敷の主ベネット・バートンという人物に家族を会わせるという名目で、仕事の話をしに来たのだ。

 応接間に通されてさほど待たないうちに、ベネット氏は顔を見せた。

 

「やあウォルト!元気そうだね!」

「ベネットさんも、お変わりなく。」

 

 ウォルトとベネット氏はにこやかに挨拶すると、握手をする。ベネット氏は、ニコラとキースの方に顔を向けた。

 

「奥方も、相変わらずお美しいですな。それにそちらのお子さんは初めてだね?こんにちは、坊や。」

「こんにちは、ベネットさん。」

「こんにちは、ベネットさん。僕はキースと言います。よろしくお願いします。」

「ははは、よろしく。」

 

 一通りの挨拶が終わると、ウォルトとベネット氏は色々と難しい話を始めた。キースは黙ったまま、その話を聞いている。しばらくして、ふとベネット氏が不思議そうな顔になった。

 

「……キース君は、おとなしいね?退屈じゃあないかね?」

「いえ、お気づかいなくお願いします。僕は大丈夫です。それに父さ……父の跡継ぎとして、こう言う場にも慣れておかないといけないって、そう思って、いえ思いまして。」

「ほう……。凄いねウォルト、君の跡継ぎは。」

「いや、もう少しわがままを言ってくれても良いと思うのですがね。ちょっと良い子すぎるところがありまして。」

 

 ウォルトは苦笑する。ニコラもキースを挟んだ反対側で、似たような表情を作る。ベネット氏は微笑むと、キースに向かって口を開いた。

 

「キース君。もしよかったら、うちの子と遊んであげてくれないかね。いや、何と言うか……少し引っ込み思案でね。友達がいないのだよ。ちょっとわがままな所もあるのだが……。そういう所を直させないと、とも思うしね。」

「……はい、わかりました。父さん母さん、いいかな?」

「ああ、行っておいで。」

「行ってらっしゃい。」

 

 ベネット氏はハンドベルを鳴らす。執事がすぐにやって来た。

 

「ああ、ロベール。この子をジョナスのところに案内してやってくれ。ジョナスと遊んでくれるそうだ。」

「はい。ええと……。」

「キースです。」

「はい。ではキース様、こちらへいらしてください。」

 

 キースは執事のロベールに連れられて、子供部屋へ案内される。執事はドアをノックした。

 

「ジョナス様、いらっしゃいますか?お客人のお子さんがいらしてます。お父上から、ご一緒に遊ぶようとのことでございます。」

「………………どうぞ。」

 

 ロベールの台詞からしばらく待ってから、か細い蚊の鳴くような返事があった。キースは思う。

 

(……こりゃ、もしかしたら大変かも知れないぞ。)

 

 ロベールがドアを開ける。中にいたのは先ほど出した声と印象が変わらない、今にも消えてしまいそうな細身の少年だった。

 キースは声をかける。

 

「こんにちは、僕はキース・ハワード。君のお父さんの知人の、メック戦士ウォルト・ハワード大尉の息子なんだ。君は?」

「……。」

 

 少年はうつむいてしまう。ロベールが口を挟もうとした。

 

「キース様、この方は……。」

「……。」

 

 キースはロベールに向かって、首を鋭く左右に振った。ロベールは言葉に詰まる。キースは屈み込んで、うつむいている少年と視線を合わせようとする。キースは7歳にしては身体がかなり大きかった。3~4歳は少なくとも鯖を読んでいる様にも思われる。その彼が屈み込むと、灰色熊か何かの子供が丸まっている様な印象を受けた。

 少年はなおも沈黙する。キースはじっと待った。やがて少年は根負けしたのか、小さく口を開く。

 

「……ジョナス。ジョナス・バートン。」

「よろしく!ジョナス!」

 

 キースはにっこりと微笑んだ。その傍らで、ロベールが驚いたような、感心したような顔をしていた。

 

 

 

 キースと少年……ジョナスは、チェスで対局していた。このチェス盤と駒は、キースが持ち歩いていた、携帯用の物である。ジョナスの部屋には遊び道具の類がほとんど無かった。唯一ジョナスの遊具と言えるものは、スケッチブックと色鉛筆のセットぐらいである。あとは勉強のための教科書やら参考書やらは豊富であった。

 黒のポーンが敵陣に斬り込み、ナイトにプロモーションして白のキングを追い詰めた。キースは呟く。

 

「チェックメイト。」

「…………強い、ね。」

「まあ……。練習してるからね。戦術的思考の訓練にもなるし。将来は強いメック戦士にならなくちゃ、いけないからね。」

「…………そっかあ。僕は……このままなら良くてコムスター送り、かな。」

 

 儚げに笑うジョナスに、キースは一瞬笑みがこわばりそうになった。コムスターと言うのは、中心領域のまさに中心、地球を根城にしている結社である。元は星間通信ネットワークの組織であり、今まで3度に渡る継承権戦争で荒廃し科学技術の衰退したこの世界において、超光速通信技術をはじめとする高度な科学技術を自分たちだけで秘匿して維持している集団だ。彼らは中心領域の星系間の超光速通信を一手に握っており、彼ら無くして星間文明の維持はできないだろう。ちなみに彼らは独自の紙幣、C(コムスター)ビルさえも発行しているほどの権力を持っている。

 もっとも彼ら自身も、この衰退し荒廃した世界で、科学技術を「信仰」する、異様な宗教的組織と成り果ててしまっているのだ。そしてコムスターは、中世の宗教組織がそうであったように、この中心領域の王族貴族メック戦士階級から、僧侶になる人材を登用している。家や財産、バトルメックを継げない次男3男次女3女と言った、継承順位の低い者たちの行き場所となっているのだ。

 そしてキースの笑みがこわばりそうになった理由は、もう1つある。コムスターは実は世界征服をたくらんでいるのだ……それも本気で。

 このバトルテック世界は、星間連盟が崩壊した後に、5つの王家が相争い、いわゆる継承権戦争という戦いを引き起こした。どの王家も、自分たちこそが星間連盟の後継者に相応しい、と言っている。そして引き起こされた戦争により、文明は荒廃し後退し衰退し、今では中心領域の大半の星で、20世紀程度の技術文明しか維持できていないのである。そう、バトルメック、気圏戦闘機、降下船や航宙艦と言った宇宙船などは、既にオーバーテクノロジーなのだ。いや、ロストテクノロジー、遺失技術と言った方が良いだろう。

 そしてコムスターは……少なくともそのトップに近しい者は、高度な科学技術を秘匿し、更に中心領域の科学文明が衰退したときを見計らい、人類の救済者として歴史上に姿を現すつもりなのである。そのとき、彼らの持つ遺失技術に人類はひれ伏すしか無いであろう。

 キースには前世の記憶により、バトルテック世界の誰も知らないような情報を多数保有している。たとえば将来、3022年に恒星連邦ダヴィオン家と、ライラ共和国シュタイナー家は秘密協定を結ぶ、などの情報がある。このことは、今現在3016年現在では誰も思いつきもしないし、キースが話したとしても誰も相手にもしないだろう。コムスターに関する情報も、その類だ。3067年にコムスターの一派である『ワード・オブ・ブレイク(WOB)』が、凄惨なテロ活動を繰り広げることなども、夢物語としか思われないだろう。

 まあそんなわけで、キースはジョナスの台詞にあやうく顔をこわばらせるところだったのだ。

 

「……そっかあ。でも、コムスターで僧侶になっても、まあ悪いことばかりじゃないよ。きっと。」

「…………うん。」

 

 キースはおもむろに立ち上がった。と、そのときである。彼の服の袖が、机の上に置かれた教科書や参考書の山に引っ掛かったのだ。ばらばらと本が床にばらまかれる。

 

「あ、しまった!……ん!?」

「あ……。」

 

 床にばらまかれた本が、ちょうど開いた状態になっている。そのページを見たキースは、今度こそ顔をこわばらせた。

 

『死ね。』

『卑しい生まれのクソ虫。』

『犬畜生。』

 

 そこには大量の悪口雑言が、目立つ色のマーカーで乱雑に書き込まれていた。悪口雑言は、何のひねりも無い単純な物ばかりだ。おそらくは子供の書いたものだろう。ジョナスの持ち物に書かれているということは、これはジョナスの書いたものであるわけがない。

 

「これは……。」

「……。」

 

 ふとキースは、ジョナスが袖口を押さえているのに気付く。まるで袖の中身を見せたくないかの様だ。キースは直感する。

 間違いない。ジョナスは誰かから、いじめや虐待を受けている。

 突然ジョナスが走り出す。ばん、と子供部屋のドアを開けて、キースから逃走する。キースは後を追った。だがジョナスに取っては勝手知ったる自分の家だ。キースの能力がどれだけ高かろうと、逃げることに不自由はしない。

 

「くそ、撒かれた。……ん?」

 

 その時、キースの「第六感」に引っ掛かる物があった。これはあの薄明の空間にて修得した、生得能力の1つであり、勘が鋭くなる便利な能力である。彼はその勘に従って、廊下を走った。やがて彼は、裏庭に辿り着く。が、そこで彼は物陰に身を隠した。

 そこではジョナスが、3人のもう少し年かさの少年少女たちに取り囲まれていた。

 

「あ……。あ……。か、帰ってきてたんで、すか、姉さん兄さん……。」

「あー!?誰が兄さんだよ!マリオさまって呼べよ!」

「俺はマイルズさま、だ!さま付けを忘れんな!」

「私はアデライドさまよ!まったく犬畜生はしょうがないわね。卑しい生まれだけはあるわ。お仕置きが必要なようね!マリオ!マイルズ!押さえつけなさい!」

 

 ジョナスは抵抗もせずに押さえつけられる。アデライドと名乗った女の子が、棒切れを振り上げてジョナスを打とうとする。

 キースは全力で走り出した。

 

ガンッ!

 

「な、なによアンタ!なんのつもりよ!」

「……。」

 

 キースはアデライドの棒切れを、頭で受けた。裂傷が走り、血が派手に吹き出す。だが出血が派手なだけで、ダメージはそれほどではない。キースは流れる血をぬぐいもせずに、ぎろりとマリオ、マイルズと言う悪ガキどもを睨めつける。悪ガキどもは、ひっと息を飲むとジョナスから手を放し、後ずさった。ジョナスは呆然としたまま、立ち尽くしている。

 キースは再びアデライドへ顔を向ける。その表情は悪鬼羅刹の様だ。アデライドは腰が引けている。彼女は手に持った木の棒で、何度もキースを打った。だがどの一撃も腰が入っていない。大したダメージにはなっていないのだ。

 

「ひ……。な、なによ、なんなのよアンタ!この……!」

「何をしているっ!!」

 

 そのとき、大音響の叫び声が全員の耳を打った。そこにはベネット氏とウォルト、ニコラ夫妻が立っていた。アデライドは声がした瞬間、反射的に棒切れを捨てていた。彼女は下手な言い訳を試みる。

 

「こ、これはジョナスが……。そう、ジョナスがやったのよ!突然その子に襲い掛かって!そうよね、マリオ、マイルズ!」

「あ、ああそうです父さん!」

「ジョナスがやったんだ!」

 

 キースは冷静な声でそれを否定する。

 

「僕はそこの彼女、アデライドとか言いましたか?彼女が何もしていないジョナスをそこの棒で打とうとしていたので、割って入って代わりに僕が打たれただけです。

 そこのマリオ、マイルズと言われている子たちは、その間ジョナスを押さえつけていました。」

「で、でたらめを言わないで!」

「そうだ、そうだ!」

「お前もジョナスの仲間なんだろ!」

 

 彼らの主張では、ジョナスがキースを襲ったということになっている。にもかかわらず、キースがジョナスの仲間だと言う。論理が破たんしていることに気付いていない。

 しばし黙って聞いていたベネット氏は、沈痛な表情でジョナスに尋ねる。

 

「ジョナス、何があったんだい?正直に話しておくれ?」

「…………。」

 

 アデライド、マリオ、マイルズは、わかってるんだろうな、とでも言いたげな様子でジョナスを威圧している。ジョナスは口を開こうとした。

 

「あ……僕……。」

「ジョナス。」

 

 そのとき、キースが割って入る。彼のところにニコラが来て、傷の手当てをしようとした。だがキースはそれを手で制する。

 

「ジョナス。その袖口をまくって見せてくれ。」

「「「「!?」」」」

 

 ジョナスだけでなく、アデライド、マリオ、マイルズもぎょっとする。

 

「や、やめろ!」

「そうだ、そんなこと今関係ないだろ!」

「やめなさい犬……ジョナス!」

 

 だがキースはジョナスに向かい合う。頭から派手に血を流したままで。

 

「ジョナス……。たしかに君が彼らに気を遣っていることは何となくわかるよ。だけどもうダメだ。彼らを切り捨てるんだ。」

「……キース。」

「痛みが伴うかもしれない。だけど彼らは信用にも信頼にも値しない。切り捨てるべきときが来たんだ。」

 

 真摯なキースの血まみれの視線に、ジョナスは覚悟を決めたかの様に頷いた。ジョナスは袖口をまくり上げる。

 そこにはライターを押し当てたような痕、何かで打たれた赤黒い痕、生々しい傷跡などが所せましと並んでいた。周囲の者たちの口からはうめき声が上がる。更にジョナスは上着とインナーもまくり上げる。あらわになった背中には、同じような無数の傷があった。顔など一見してダメージが残るような場所を狙わないのがいやらしい。

 キースは血まみれのままベネット氏に語る。

 

「ジョナスはあきらかに日常的にこういう扱いを受けてきたと思います。内に閉じこもるのも当然です。わがままだったのは、ジョナスじゃなくそっちの子供たちでしょうし、その嘘のせいでジョナスが誤解されたこともあったんでしょう。」

 

 するとアデライド、マリオ、マイルズが、慌てた口調で一斉にしゃべり始めた。

 

「な、なによ!悪いのはその犬畜生とその母親の売女じゃないの!妾の息子のくせに、あたしたちと姉弟だなんて認められるわけないじゃない!そんなやつ、どうしようが勝手でしょう!?」

「そ、そうだそうだ!そんな卑しい生まれの奴が弟だなんて認めてたまるか!死ね!死んじゃえ!」

「そうだ、そいつが皆悪いんだブギャッ!」

 

 マイルズが吹き飛ぶ。ベネット氏が鉄拳を振るったのだ。アデライドとマリオは信じられないという顔をして呆然としている。ベネット氏はその2人にも鉄拳を見舞った。形ばかりとは言えど彼も現役メック戦士だ。その体力は高い。その容赦ない一撃は、子供たちを吹き飛ばした。

 

「グキュウウッ!」

「ヒギャァッ!」

「……何という馬鹿者なんだ!……いや、子供たちのことが何もわかっていなかった私が、一番馬鹿か?」

 

 肩を落とすベネット氏に、キースは声をかける。

 

「……子供である僕がいう事じゃないんですが、子供ってけっこう狡猾です。こういう事態を隠す事って、悪魔みたいに上手いんですよ。」

「キース……。そろそろニコラの治療を受けなさい。それと父親である私も、本当にお前が7歳なのか自信が無くなってくるね。」

「そうね、でも頭もいいし優しいし、いい子よ?はいキース、ちょっと染みるわよ……って、これ縫わないとだめじゃないの。ゾディアック号に戻ったら、処置室いらっしゃい。次はジョナス君、貴方よ?」

 

 ニコラは子供たちを落ち着かせるように、微笑みながら言う。彼女は傭兵部隊『BMCOS』所属の医務官をやっているのだ。キースの傷に暫定的な手当てをした後、彼女はジョナスの身体の傷跡を調べ始める。

 ベネット氏は、地面に倒れ伏して動けない3人の子供を使用人に運ばせる。彼らはしばらく謹慎することになる。ベネット氏は、ニコラに身を任せているジョナスに尋ねた。

 

「お前の母さんが亡くなったとき、私がお前を無理に実家に連れて来たのは間違いだったか?」

「…………いえ、あのときは嬉しく思いました。でも……あの人たちと仲良くは、もうできません。この家を出て暮らした方がいいと思います。」

「そうか……。たまに会いに行くことはかまわんな?」

 

 頷くジョナスに、ベネット氏は苦く微笑んだ。と、ジョナスが変な顔をした。ベネット氏は尋ねる。

 

「どうしたね?ジョナス。」

「…………いえ。何かとんでもないことを聞いた気が……。ねえキース、君、今いくつ?さっき7歳って聞こえたんだけど、間違いだよね。」

「いや?僕はまだこの間4月頭で7歳になったばかりだよ。背は異様に伸びたけどね。」

 

 ベネット氏とジョナスは目を見開いた。

 

「じょ、ジョナスよりも5つも年下!?」

「…………。」

 

 彼らはしばらく硬直していたと言う。

 

 

 

 そして7年後のことである。キースは復興相成ったメック戦士養成校『ロビンソン戦闘士官学校』に就学中であった。彼とジョナスはあれ以来手紙を出し合い、時には顔を合わせる親友になっていた。実家から離れて暮らす様になってからのジョナスは性格も明るく変わり、眠っていた才能が目覚めたのか政治に対し強力な能力を発揮するようになっている。また戦闘における指揮能力、戦術能力も高く、彼自身が行う戦闘行為そのものではあまり活躍できないが、指揮官型の戦士として部下を率いることには非常に長けている人物になった。

 

「何々、ジョナスからの手紙か……。父が身体を壊したので、僕が後を継ぐことになった。何か僕にできることがあれば、いつでも言ってくれ。7年前の恩義は、未だに1日たりとも忘れたことはない。……か。んー、なんて返事を書いたものかな。おめでとうの言葉は入れた方がいいかな。しかしお父上が身体を壊した結果だしなあ。先に気遣う言葉を入れた方がいいかもな。」

 

 そう、ジョナスは父ベネット・バートンに代わり、家伝のバトルメック他の財産を受け継ぎ、貴族の地位を継承したのである。彼には正妻の子である兄姉たちがいたはずだったのであるが、3年前に正妻諸共に事故死していた。そのため唯一残されたジョナスが、バートン家を継ぐことになったのだ。バートン家は代々恒星連邦政府高官の地位を占めており、ダヴィオン家にすら多少は顔が効く存在である。

 ジョナスの家督相続を知った時、キースはこう思った。

 

(そうか……。これが生得能力で得た「親友」の能力か。ジョナスが「親友」だったとは……。)

 

 生得能力の「親友」とは、高い地位にいる親しい知人がおり、そのため色々と便宜を図ってもらったり情報を教えてもらったりできるという能力である。彼はキャラクター作成の際に、作成ポイントを費やして「親友」を修得していたのだ。

 キースはさらに考えを続ける。

 

(ま、だからと言って、大事な本物の親友だもんな。ゲーム上の無味乾燥な、機械的なNPCの親友じゃあない。あまり無理をかけるのもなー。)

 

 手紙を畳みつつ、彼はそれを仕舞い込んで、今日の訓練メニューを確認するために学生寮の掲示板まで出向いていった。



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『プロローグ-3 咆哮』

 その朝、キースは何やら苛立ちを覚えていた。場所は名門メック戦士養成校『ロビンソン戦闘士官学校』の、学生寮の自室、寝台の上である。同室のヒューバート・イーガンは、今は出かけているためキース1人だ。キースは3年半前、12歳の8月にここ『ロビンソン戦闘士官学校』に入学した。12歳での士官学校入学は非常に珍しい。

 だがしかし、キースはあの薄明の空間でキャラクターシート上に設定した、その高い能力値の知性度を使って、通信制の学校で飛び級を繰り返し、12歳の6月には一般大学の卒業資格を得ていた。そのため、学業面では士官学校入学にまったく問題は無かった。

 ちなみに傭兵部隊と共に星から星へと渡り歩いている部隊員の家族の子供は、普通の学校には行けないのは当然である。それ故、部隊付きの教育担当官や部隊に所属する戦士達、科学者達から基礎教育を受けるのが普通だ。しかしキースは前世の記憶があることと、極めて高い知性度を誇ることもあって、非常に早く基礎教育課程を終わらせている。部隊の教育担当官が驚いたほどだ。そしてそれ故に、彼は通信制の学校で学んでいたのである。

 そして入学申し込みに必要な、恒星連邦貴族の推薦状も、あちらこちらにコネを持つ彼の父親、ウォルトが手を回してくれた。名門である『ロビンソン戦闘士官学校』の復興、再開を聞いて――この名門士官学校は、恒星連邦の敵国ドラコ連合に惑星ロビンソンが一時奪われていた際に、破壊されていた――愛息キースに、そこでメック戦士教育を受けさせようと考えたのはウォルト本人であるから、当たり前ではあったが。全ての条件をクリアして、試験も充分に優秀な成績でこなし、キースは『ロビンソン戦闘士官学校』に入学した。そして在学中、立派に秀才と言える成績を叩き出したのである。

 入学してから3年半後の今、3025年の1月、キースは15歳の少年としてここにいた。幼い頃から3~4歳は鯖を読んでいる様に思われるほど身体が大きかった彼だが、今やその身長は2mを超えて筋肉ムキムキになっており、顔も30歳以上に見られるほど老けていた。だが彼は未だ15歳である。この年の4月には16歳になるが。その彼は、最初にも述べたが、何とも言いしれない苛立ちを覚えていたのである。

 

(……くそ、どうしたって言うんだ。)

 

 キースは内心で毒づく。彼は自分の乗機である、グリフィンの様子でも見に行こうかと考えた。

 55tの中量級バトルメックであるグリフィンは、長距離戦闘を得意とする、高機動タイプの支援メックである。敵を近寄らせさえしなければ、重量級の敵ともしぶとく戦える、優秀な機体である。数少ない欠点は、近距離用の兵装が無く、なおかつ機体や武装の稼働時に発生する熱が溜まりやすいメックだという事だろうか。

 このグリフィンは、父ウォルトがキースの『ロビンソン戦闘士官学校』入学に際して託してくれた、本来はウォルトの予備のメックである。キースは機嫌が悪い時は、いつもこのグリフィンと共にいた。やはり少年だけあって、巨大ロボットに対する浪漫が彼の胸にはあった。まあ中身は前世の影響もあって、いい歳したオッサンでもあると言えるのだが。それはともかく、彼は苛ついたときでもバトルメックの傍にいれば、なんとなく気分が良くなるのである。

 その時ふとキースは、苛立ちの原因に思い当たる。彼がこの世界に転生してくる前に、あの薄明の空間で今の自分のキャラクターシートを作成したときのことだ。

 

(……あのキャラクターシートには、既に「メック戦士養成校パック」と「宿敵」の生得能力が書き込まれていた。消そうとしても消せなかった。そして俺はこのメック戦士養成校『ロビンソン戦闘士官学校』に、滞りなく入学することができた。不自然なほどに、滞りなく……。俺はそれを「キャラクターシートに書いてあった通り、予定調和だな」って思った。

 予定調和、か。メック戦士養成校入学が予定調和であるならば……。「宿敵」の出現も予定調和的に発生するんじゃあないのか?俺はそれを恐れているのか?)

 

 キースの能力は、6月にメック戦士養成校の卒業を控えて、既にかつて作成したキャラクターシートの能力にほとんど遜色ない力量になっている。となれば、いつ「宿敵」が出現してもおかしくない状況なのだ。

 

「……やっぱり、グリフィンの様子を見に行こう。」

 

 キースはあえて口に出して言う。そうすることで、気持ちを落ち着かせたのだ。ところが彼は、出鼻をくじかれる。

 

『A-2-048、キース・ハワード候補生!A-2-048、キース・ハワード候補生!面会者が来ている!ただちに本棟GF、面会室まで出頭せよ!繰り返す……。』

 

 館内放送が、キースを呼び出す。ちなみにGFとはグランド・フロア、日本語では地上1階にあたる。彼は寝転がっていた寝台から飛び起きると、大至急走らずに、しかし競歩と言えるほどの速足で、面会室まで急いだ。

 

 

 

 キースは面会室の扉をノックして、大声で申告する。

 

「A-2-048、キース・ハワード候補生、入ります!」

「うむ。」

 

 面会室の中から聞こえた返答に、キースは扉を開ける。彼は入室すると、びしっと直立不動の体勢を取った。中にいた教官が、声をかけてくる。

 

「楽にしていい。」

「はっ!」

「ではマクファーソンさん、私は退室しますので、話が終わったらインターホンでお声をかけてください。」

「はい、わかりました。」

 

 教官は退室していく。残されたのはキースと来客のみだ。その来客に、キースは見覚えがあった。彼の親友、ジョナス・バートンの執事である、ロベール・マクファーソンである。ロベールはジョナスの祖父の代から、3代に渡ってバートン家に仕えていた。

 

「……ロベールさん、お久しぶりですね。いったいどうしたんです?ジョナスは元気ですか?」

「キース様、しばらくお会いしないうちに、すっかりご立派になられましたな。ジョナス様は壮健です。ですが……。いえ、ここから先はジョナス様のビデオレターを見ていただいた方がよろしいでしょう。」

「ビデオレター?」

「コムスターの通信基地を使ったメッセージで送ることも考えたのですが、内容が多い上に重要な届け物の類もございましたので、私が直接お届けした方が良いと判断いたしました。ビデオレターを見て、疑問点があったら私が補足するよう申し付かっております。」

 

 ロベールは、面会室に設置されている映像再生用の装置に、映像記録媒体のカセットを入れる。ジョナスからのビデオレターが再生開始された。

 

『やあ、キース。久しぶり。突然だけれど、落ち着いて聞いてくれ。君にとって、悪い知らせを届けなければならない。……我が家の、と言うよりは僕が個人で作り上げた情報網に、とんでもない情報が引っかかったんだ。』

 

 映像の中の親友は、キースに重苦しい表情で語り掛ける。キースは思わず背筋が伸びた。ごくり、と唾を飲む音が聞こえる。……キース自身が無意識に唾を飲んだ音だった。

 

『キース。君の所属する傭兵大隊『BMCOS』……『鋼の勇者隊』は、全滅した。軍隊用語で言う40%の損耗じゃあない。一般的なイメージで言う、完全な全滅だよ。戦闘員も非戦闘員も、丸ごとまとめて虐殺されたんだ。』

「!?」

 

 映像のジョナスは苦々しそうに言葉を紡ぐ。

 キースは自分の周囲の世界が、ぐらりと傾いだのを感じた。彼がこのバトルテック世界に生まれ変わってこの方、彼は傭兵部隊『BMCOS』を我が家として、その部隊員たちを家族として生きてきた。その我が家も、家族も、もうこの世には存在しないと言うのだ。

 傭兵部隊である以上、ある程度の損害は付き物だ。場合によっては経営が破たんし、部隊解散ということになることもあるだろう。だから、ある程度の覚悟は彼もできていた。もしかしたら、帰る先の部隊がいつか無くなるかもしれない、と言う覚悟だ。だがそれが現実になったとき、彼は予想以上のショックを受けている自分に気が付いた。いや、覚悟していたよりも、なお酷い事態ではある。非戦闘員までまとめて虐殺されてしまうなど、あまりにも酷過ぎる。

 ジョナスの言葉が響いて、キースは一瞬自失していたことに気付く。傍らに立っているロベールは、無念そうな表情を浮かべていた。

 

『僕が集められた情報では、事情はこうなっていたらしい。傭兵大隊『BMCOS』は、1年前にドラコ連合から恒星連邦が奪った惑星、ドラコ境界域の惑星タンクレディⅡにて防衛任務を受託していた。これはたぶん、君も知っていただろうね。だけどつい最近のことだ。タンクレディⅡには、あの悪名高いドラコ連合の正規軍、『第8光の剣連隊』が攻めてきていたんだ。

 無論、大隊規模の部隊で連隊規模の敵を支え切れるわけがない。この任務は、別の傭兵部隊いくつかと共同で受けていたんだ。その総数は充分に連隊規模に達していて、惑星を守るには充分なはずだったんだ。』

「……まさか。」

 

 キースは思わずつぶやく。映像の中の親友が、そのつぶやきに応えるわけもないのに。

 

『だけど……。問題が起きた。『BMCOS』含む恒星連邦軍も、ドラコ連合軍も、双方ともに損害が大きくなってきたんで、あくまで一時的な休戦協定を結んで、負傷者や擱座したバトルメックに戦車なんかの回収と、負傷者の手当てや損傷機の修理などを行っていたんだ。ああ、あとは身代金を払って、捕虜になったメック戦士や航空兵、バトルメックや気圏戦闘機を返還してもらったりもあったね。……いや、これは問題じゃない。今の時代、どんな戦場でも当たり前に行われてることだ。

 だけどまさか……。まさか、『BMCOS』と肩を並べて戦っていた傭兵部隊『アルヘナ光輝隊』が、突然の裏切りを働くとは、誰も想像しなかった。』

「馬鹿な!休戦協定中に攻撃的軍事作戦行動!?その上裏切りだって!?」

 

 キースは思わず叫んだ。ビデオメールのジョナスは続ける。

 

『その傭兵大隊『アルヘナ光輝隊』なんだけどね。どうにもわからないんだ……。裏切る前までと言うか、タンクレディⅡ防衛部隊に着任する前までの戦いぶりも、それまでの恒星連邦に対する忠節ぶりも、立派なものだったんだ。それがなんで突然こんなことを仕出かしたのか。

 それでね、『アルヘナ光輝隊』司令官トマス・スターリングは、ドラコ連合に仕える特殊部隊……失機者を集めて訓練した部隊らしいんだけどね。それを休戦期間中にこっそり呼び込んだんだ。』

 

 失機者とは、バトルメックや気圏戦闘機を戦闘や他の原因で失った者のことを言う。

 バトルメックの操縦者であるメック戦士、気圏戦闘機の操縦者である航空兵は、3025年代のこの世界において非常に高い地位を得ている。これはバトルメックや気圏戦闘機が遺失技術の固まりで、圧倒的な戦闘力を誇るが再生産が極めて難しいことに由来する。今現在でも稼働しているバトルメックおよび気圏戦闘機の工場や、過去に生産された品を収めている星間連盟時代の貯蔵庫などはまれに存在してはいるが、それでもバトルメック、気圏戦闘機は希少な品なのだ。そしてそれを受け継ぐメック戦士や航空兵は、エリート階級なのである。当然、彼らには様々な名誉や特典、時に高い地位などが与えられる。

 だがその地位も名誉も特典も、うつろいやすい物だ。何故ならばバトルメックや気圏戦闘機は、文字通りの戦闘機械だからだ。戦えば、当然ながら破壊される。貴重品であるバトルメックなどを失った戦士は、それまでの名誉も地位も失い、他人から後ろ指を刺され、迫害される。そう言った辛い生活を送った者たちは、バトルメックなどを何とかして手に入れ、いったん失った地位を再度取り戻すことに執着するようになる。そして、その目的のためならどんな事でも、たとえ泥水を啜る様な真似すら平然と行うようになるのだ。

 

『その特殊部隊は、『BMCOS』の基地に潜入、破壊工作を行い、それと同時に『アルヘナ光輝隊』のバトルメック部隊が『BMCOS』に奇襲攻撃をかけたんだ。特殊部隊と『アルヘナ光輝隊』は『BMCOS』の戦闘員、非戦闘員問わず皆殺しにして、バトルメック、気圏戦闘機、降下船、戦車等々あらいざらい奪ったらしい。』

「奪われた中には、キース様のお父上、ウォルト様のエクスターミネーターもあったそうです。」

 

 ロベールの補足に、キースは歯噛みする。幼き日に、あのエクスターミネーター、機体名デスサイズの操縦席に乗せてもらったことは今でも鮮明に覚えている。彼は口惜しかった。

 

「父さんのデスサイズも……。」

『だけど『BMCOS』で、たった1人だけ生き残った者がいる。偵察兵のライナー・ファーベルクという人物だ。その彼が、片腕片脚を失って、それでも残されたもう1つの傭兵メック大隊『チェックメイト騎士団』に逃げ込んで通報したんだ。それで『アルヘナ光輝隊』の裏切りが早期に明らかになった。

 おかげで『チェックメイト騎士団』と地元の惑星軍が、必死で遅滞戦闘を繰り広げて時間稼ぎに成功。恒星連邦は星系外から大規模な援軍を送り込むことができた。タンクレディⅡは守られて、『アルヘナ光輝隊』は『第8光の剣連隊』と共にドラコ連合の領域へと脱出していった。』

 

 ギリッ!

 

 歯ぎしりの音が響いた。キースの口から洩れた音である。ジョナスの話は続いていた。

 

『……余計なお世話かとも思ったけど、キースのお父上の予備メック、グリフィンを君に継承させる手続きは、僕の方で手を回しておいた。ロベールに書類を持たせておいたから、それにサインするだけで良い。

 あと、君が『BMCOS』のメック戦士やその一族で最後の生き残りだから、君が形式上『BMCOS』の全ての権利を持っていることになる。『BMCOS』の今回の仕事で貰うはずだった報酬……裏切りによるものとは言え、戦いの途中で負けちゃったんだから、かなり目減りしてるけど、それを君に支払う様に工作しておいた。ダヴィオンHビルじゃなく、Cビルにしておいたよ。

 あと『BMCOS』のバトルメックや気圏戦闘機、降下船など奪われた物の明細と、本来の所有権を証明する書類。それもロベールに持たせておいた。もし『BMCOS』の装備品を取り戻すことができたなら、それの正当な所有者の証明になる。』

 

 ジョナスは一区切り置いた。

 

『キース、君がこれからどんな道を辿るか、それは僕にはわからない。だけど、僕は最後まで君の味方だ。それだけは信じていてほしい。じゃあ、また今度。元気で、とは言えないかもしれないけど、無事に会える日を願ってる。』

「ジョナス……ありがとう。」

 

 相手に聞こえないことを承知の上で、キースは言葉に出して言った。そして彼はロベールにも頭を下げる。

 

「ロベールさんも、わざわざ来ていただいて、ありがとうございました。ジョナスには、本当にありがとう、と伝えてください。グリフィンの件も、何とお礼を言っていいか……。これで俺、いえ私は失機者にならずに済みます。」

「いえ、8年前……もう9年近くなりますか、そのときの恩義をジョナス様はまだまだ返しきれていない、と仰っておられます。たとえ今回のことを含めても、です。ですので、できることがあるならば、何でも仰ってくださいとのことです。」

「いや、もう逆にこちらの方が恩を受けていますよ。ジョナスには、こちらからもできる事があるなら、可能な限り恩返しすると伝えてください。」

 

 キースは沈痛な表情であったが、それでも無理矢理笑顔を浮かべてロベールに向かい言葉を紡ぐ。やがて書類の受け渡しやサインなどの雑務が終わり、ロベールは帰って行った。

 その後、キースは必死に訓練や学習に打ち込んだ。その様子は鬼気迫るものがあったと、学生寮の同室であるヒューバート・イーガンは語ったものである。キースは身を焼くような怒りに苛まれていたのだ。そしてそれを訓練に打ち込むことで、多少でも晴らしていたのだ。

 

(くそ……。これが「宿敵」かッ!『アルヘナ光輝隊』司令官トマス・スターリング!よくも父さんや母さん、それに郎党の皆や仲間達も!裏切りの末に非戦闘員まで皆殺しだと!?冗談じゃないぞ!いつか必ず償わせてやる、その命をもって!)

 

 キースは心の中で吼えた。

 

 

 

 この年、第3次継承権戦争が終了する。しかし大規模な戦いは数を減らしたものの、小規模な小競り合いはいまだ多い。キースの個人的な戦いも、そのうちの1つに数えられるのだろう。彼の復讐の狼煙は、今上がったのである。



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『プロローグ-4 旅立ち』

 3025年6月、キースはメック戦士養成校『ロビンソン戦闘士官学校』を優秀な成績で卒業した。だが彼は何処のメック部隊にも入らなかった。何処かのメック部隊に入る伝手は、親友のジョナスの部隊しか無かったからである。本来であればそれでも良かったのだが、ジョナスの部隊は現在後方惑星の守備に就いている。それでは駄目なのだ。彼にはやらねばならない事がある。そう、『アルヘナ光輝隊』司令官トマス・スターリングとその一党への復讐だ。

 だが実際に復讐をする前に、キースには会っておきたい人物がいた。そのため、彼はアンティータムという恒星連邦の南十字星境界域に存在する、いわゆる後方惑星にやってきたのである。会いたい人物がこの惑星で入院生活をしていたのだ。

 キースは商用降下船にて惑星アンティータムの首都トールヒルにやって来ると、宇宙港から乗合バスで中央病院まで向かう。あらかじめ、向かう先に連絡は入れてあった。トールヒル中央病院に到着すると、彼は入院患者の病棟へ向かう。行き先は複数の患者が入る、6人部屋だった。他の入院患者には眠っている者もいる。キースはそう言った者たちを起こさないように、そっと部屋に入った。

 目的の人物は、窓際のベッドに横たわっていた。キースはその人物に話しかける。

 

「こんにちは、ひさしぶりだな。調子はどうだい、軍曹。」

「軍曹はよしてください、キース坊ちゃん。もう引退した身です。この手と足じゃ……。」

 

 その人物、元『BMCOS』の偵察兵ライナー・ファーベルクは、苦笑しつつ左腕を上げた。その左腕は、上腕部で断ち切られ、金属フレームの光る義手になっていた。見ると、彼の右脚も太腿から金属フレームの義足になっている。そう、彼が『BMCOS』唯一の生存者の偵察兵であったのだ。腕と脚を失っただけでなく、その大怪我のせいで身体を壊し、入院しての療養が必要になったのだ。

 ライナーは悲しそうに続ける。

 

「この手と足じゃ、偵察兵としては死んだも同じですから、ね。」

「そうか……。動力付きの人工義肢なんて、手に入らないか、手に入っても馬鹿高いからなあ……。」

「あ、キース坊ちゃんなんて言って失礼しましたね。もう士官学校出たんでしたよね。だったらキース少尉様だ。」

「あ、いや。俺も部隊に入ったわけじゃないから、少尉になる資格は持ってても、まだ少尉じゃあないよ。……『BMCOS』が健在だったら、今頃新任少尉だったんだけど、な。」

 

 2人は一気に暗くなる。だがどうにか気を取り直し、再び会話を始めた。

 

「ライナー、言いづらい事かもしれないが、どうか教えてくれないか。もし知っていたら、で良いんだが、父さんと母さんの……最期を。」

「……わかりました。ただ、お母上の方は私はわかりません。申し訳ありません。ですが、お父上の方は……ウォルト・ハワード大尉の方は知っています。」

「!」

 

 キースは目を見開いた。ライナーはひとつひとつ、思い出す様に語る。

 

「ハワード大尉の着弾観測員としての技量は、あのタンクレディⅡの防衛戦で……本当に頼りになる物でした。大尉の誘導に従って撃てば、目標地点へ必ず着弾したもんです。砲兵の方も腕が並じゃありませんでしたがね。なんせ、あのサイモンさんの仕込みでしたから、砲兵は。

 だけど、あの休戦時間のときに……。敵の特殊部隊が基地に潜入してきたんです。大隊長のマルティム・グース少佐が、メック戦士の中で真っ先に殺されました。メック戦士の中でって言うのは、メック戦士以外の歩兵や非戦闘員のコックなんかが、それより先に殺されてたんですよ。敵は殺したそいつらの服を奪って変装してたんです。

 グース少佐が真っ先に殺されたことで、指揮系統は寸断されました。第2中隊中隊長のモリス・パーシー大尉も次に狙われて殺されて、ハワード大尉が最後に残った高級士官でした。ハワード大尉も無論狙われました。おそらく情報が漏れてたんでしょう。的確に指揮官を真っ先に狙ってたんですから。でもハワード大尉への最初の襲撃は、私が防いだんです。コックに化けて食事を運んできた様に見せた刺客を射殺して、ね。」

 

 そこまで言ったところで、ライナーの目が厳しさを増す。

 

「でも、『アルヘナ光輝隊』のやつらが裏切って攻撃をかけてきたんです。ハワード大尉はメックに急いで乗ろうとしました。その時、見慣れない助手整備兵がいまして、私からはちょうど撃てない角度でして……。その助整兵は、やっぱり敵の変装でした。ハワード大尉は撃たれて、乗り込みかけたメックから落下したんです。

 ハワード大尉の最後の命令は、『チェックメイト騎士団』と恒星連邦に『アルヘナ光輝隊』の裏切りと、自分たちの壊滅を伝えろ、と言うものでした。傷の具合から、もう助からないのはわかってました。ハワード大尉は、手榴弾を1個置いていけ、と言って……。そして襲い来る敵の特殊部隊員の何人かを道連れにして、私を逃がすために自爆したんです。

 すいませんでした。私は結局ハワード大尉を助けることが……できなかったッ!」

「……自分を責めちゃだめだ。ライナーはよくやったよ。腕や脚を失ってまで、君が通報してくれなかったら、タンクレディⅡは敵の手に落ちていた。君があの惑星を守ったと言っても、過言じゃあない。

 それに……。責めるべき奴は他にいるさ。ライナーの代わりに、俺がそいつらに必ずいつか、思い知らせてやる。」

 

 ライナーは泣いていた。その肩を叩きながら、キースは諭す様に言葉を紡ぐ。

 と、そのときである。何か荷物をどさっと床に落とす音が聞こえた。

 

「ぼ、坊ちゃん?もしかしてキース坊ちゃんですか?うわあ、昔から大きい子でしたけど、なんてまあ立派な体格になったもんですなあ。うわ、わしよりも頭一つでかい。わしも身長には自信があったんですがの。」

「あ、サイモンさん!」

「サイモン爺さん!?」

 

 そこに居たのは、かつてキースの父、ウォルト・ハワードの郎党として整備兵兼間接砲撃手をやっていた、サイモン・グリーンウッド老人であった。彼は老齢になったため、傭兵部隊『BMCOS』を引退、家督を息子に譲って楽隠居し、今では後方の惑星で悠々自適の生活を送っているはずだった。その後方の惑星と言うのが、この惑星アンティータムだったのである。ライナーが療養先にこの惑星を選んだのも、後方の比較的安全な惑星という以外に、同じ部隊に所属していた知り合いがいるからであった。

 キースとサイモン老は、旧交をあたためる。キースが『ロビンソン戦闘士官学校』に入学して以来4年間、時折写真などは送っていたものの、直接会う事は無かったのだ。まあ、旧交をあたためると言っても、ほとんどサイモン老が喋り、キースはそれに相槌を打ったり、士官学校でのことを尋ねられて答えたりするばかりだったが。

 そこへライナーが口を挟む。

 

「サイモンさん、あんたにはキース坊ちゃんが来ることは言ってあったろ?なんであんなに驚いたんだい?」

「いや、わしの記憶にある坊ちゃんは12歳の頃の坊ちゃんでしたからなあ。あの頃はまだ、わしよりも小さかったし。それでも並の子供よりもずっとずっと大きかったですがの。」

「ははは、ちょっと大きくなり過ぎた気もするけどな。おかげで『ロビンソン戦闘士官学校』の授業で、学校の備品のスティンガーに乗る時なんか、身体がつっかえて大変だったぞ。」

 

 キースの身長は、いまや2mを超える。体つきも筋肉ムキムキのマッチョマンだ。メック戦士と言うより、ボディビルダーとでも言った方が似合う。しかも恐ろしいことに、未だ成長期が終わっていないのだ。もう少し身長が伸びたら、20tクラスの軽量級メックには……特に操縦席が狭いことで知られるスティンガーには、おそらく身体がつっかえて乗ることはできなくなるだろう。彼はしみじみと思う。

 

(俺の乗機が、55tのグリフィンで良かった。本当に良かった。父さん、グリフィンを予備機にしておいてくれて、本当にありがとう。)

「……坊ちゃん?」

「あ、ああ何だいサイモン爺さん?」

 

 怪訝そうな顔のサイモン老に、キースは気を取り直して要件を尋ねる。サイモン老は、急に真面目な顔になると、ずばり斬り込んで来た。

 

「……坊ちゃん、これからどうするおつもりかの?『ロビンソン戦闘士官学校』を良い成績で出たと言うことであらば、ジョナス殿の推薦でもあらば何処か恒星連邦正規軍のメック部隊に入ることも、難しくはあれども不可能ではありますまい。それとも何処か傭兵部隊にでも入るおつもりですかの?」

「サイモン爺さん……。俺は……。俺は何処かのメック部隊に入るつもりは、今のところ無い。」

 

 固い口調で、キースは返事を返す。

 

「ジョナスが、恒星連邦の諜報部員が調べた情報を、こっそり流してくれたんだ。『アルヘナ光輝隊』の面々は今、ドラコ連合の正規軍に分散して編入されているらしい。恒星連邦とドラコ連合の境界付近にある、ゲイルダン軍管区って場所にいる部隊にだ。だがそれがどの部隊なのかは、はっきりしていない。ジョナスが触れられる情報ではそこまで見られないのか、はたまた恒星連邦の諜報部でも調べがついていないのかはわからないが。」

「坊ちゃん……。」

「だから俺は、何処かの部隊に入って、その部隊の配備先に縛られるわけにはいかないんだ。俺はとりあえずフリーの傭兵として活動したいと思っている。できるならば恒星連邦がスポンサーとなっている、奴らが襲ってきそうなドラコ境界域の惑星での任務か、はたまた逆に奴らが守っていそうなゲイルダン軍管区の惑星に襲撃をかける任務を選びたい。

 そう……。俺は、元『アルヘナ光輝隊』の奴らや、そいつらに引き入れられたドラコ連合の特殊部隊、それに元『アルヘナ光輝隊』司令官のトマス・スターリング!そいつらを叩き潰して、可能ならば父さんのエクスターミネーター、デスサイズを取り戻したいんだよ!」

 

 最後の方は、キースは吼える様に激白していた。そこで今まで黙って聞いていた、寝台上のライナーが口を開く。

 

「坊ちゃん、だがフリーの傭兵ってのは大変ですよ?よほど運が良くなけりゃ、メックの維持もできなくなる可能性も大きいんです。仇を討ちたい気持ちは痛いほどわかるんですがね。

 ここは運を天に任せるくらいの気持ちで、ドラコ境界域に駐屯してる傭兵部隊に入隊志願してみたらどうですか?ドラコ境界域にいれば、奴らが襲撃してくる可能性もゼロじゃあないでしょう?」

「無論、それも考えたさ。でも、もう少し確実性が欲しい。奴らに関する情報がもう少し集まるまでは、何処かのメック部隊に縛られるのは避けたいんだ。」

 

 キースの意志が固いのを理解したのか、ライナーはため息をついた。そこへサイモン老が言葉を発する。

 

「……坊ちゃん。お願いがあります。」

「え?何だいサイモン爺さん?」

「わしも坊ちゃんに付いて行かせてください。」

 

 サイモン老の言葉に、キースは驚く。サイモン老は、既に引退した身だ。それが現役復帰すると言うのである。キースはサイモン老を止めようとする。

 

「サイモン爺さん、無茶はだめだ。サイモン爺さんは隠居の身だろう?降下船の離着陸や大気圏突入時のGはきつい。サイモン爺さんの歳では身体に毒だ。」

「なに、わしはこれでも身体を随分鍛えております。大丈夫ですわな。それに隠居の身だなどと言ってはおれません。主家の跡取りである坊ちゃんの一大事ですからの。

 それに……。わしの一族は皆、この年寄りよりも先に逝ってしまいました。後を任せたはずの跡取り息子も、その家族も、孫もみんな奴らに殺されてしまいましたわい。奴らを討ちたいのは、坊ちゃんだけではないんです。

 それに幸いわしは整備兵。坊ちゃんのグリフィンの面倒を見ることもできます。ちょっと己惚れてもいいなら、腕もそんじょそこらの若僧には負けません。わしがグリフィンを見れば、メックの維持も少しは楽になるでしょう。間接的にわしの手でウォルト様やニコラ様、息子フォルカス、その嫁のエリノル、孫のマシューやエイミー、他にも部隊の仲間達の仇も討てると言うものですわ。」

 

 その台詞で、キースはサイモン老もまた仇持ちの身だという事を思い出した。今までその事に気付かなかったことを、キースは恥じる。

 

「すまない、サイモン爺さん。サイモン爺さんも、仇を討ちたかったんだよな。なのに俺は……。」

「ストップです、坊ちゃん。で、どうです?わしを連れてってくれますかな?」

「……わかった。一緒に行こう、サイモン爺さん。そして奴らを必ず追い詰めて討ち取ってやるんだ。」

「本当は私も行きたいところなんですがね。この身体じゃあ手助けになるどころか足手まといです。……皆の仇、かならず討ってください。吉報、待ってます。」

 

 ライナーが頭を下げる。キースとサイモン老は力強く頷いた。

 

 

 

 サイモン老が惑星を出る法的手続きを終えた頃、キースとサイモン老は商用降下船にキースのグリフィンを貨物扱いで積み込み、惑星アンティータムを出立した。ライナーも特別に病院の外出許可を貰って、見送りにやって来てくれた。

 2人の行く先は、『傭兵たちの星』の別名で知られる、ライラ共和国の惑星ガラテアである。そこにはコムスターが開設した、MRB(Mercenary Review Board)と言う、傭兵と雇用主との間の仲介組織が存在するのだ。無論、手数料は取られるが。彼らはそこで、恒星連邦がスポンサーになっている、ドラコ境界域もしくはゲイルダン軍管区における作戦の仕事を探すつもりなのだ。

 降下船が凄まじい噴射炎を吐いて、ゆっくりと宇宙港を離床して行く。キースとサイモン老の長い旅が、今始まったのだ。




以上でプロローグは終了です。


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Soul Of The Steel
『エピソード-001 小隊結成』


いよいよ本編の開始です。主人公の活躍が、今始まります。


 ここは『傭兵たちの星』惑星ガラテアの、首都ガラテアシティ。宇宙港ガラポートを北部に持つ都市でもある。3025年7月、キースとサイモン老は、この都市にあるコムスターのオフィスにやって来ていた。本当は傭兵に対し仕事を斡旋するMRBのオフィスに先に行こうかとも思っていたのだが、もしかしたら自分たち宛てに誰かからメッセージが来ている可能性があったのだ。

 サイモン老は、恒星連邦とライラ共和国の2国の政府高官に対し、非常に強力なコネクションをいくつも持っている。そう言った権力者たちに、自分たちの復讐相手に対する情報収集を依頼していたのだ。もっとも、けっこうな賄賂が必要になったのだが。だがキースは親友ジョナスの政治工作により、傭兵部隊『BMCOS』の遺産を受け継いでいたため、かなり懐に余裕があったので、一寸財布に痛かったのは確かだが、賄賂を賄うことができた。

 果たして、コムスターオフィスで侍僧が操作する端末を覗き込んでいたサイモン老が、キースに声をかける。

 

「坊ちゃん、わしの伝手から連絡が来てました。……送り主の名前を出すのは、余人のいるここじゃあちょっと。」

「わかった、サイモン爺さん。だったら何処がいいかな。ホテルの部屋でいいか。」

 

 2人は自分たちが宿泊している安宿へと戻る。そこに取っている部屋で、サイモン老は口を開いた。

 

「さて、これが送られてきたメッセージのプリントアウトですわ。ダヴィオン情報部の、かなり上の方にいる、ジョナサン・フォード伯爵が送ってくれた情報です。裏切った『アルヘナ光輝隊』についての補足情報ですな。」

「……続けてくれ。」

「はい。『アルヘナ光輝隊』は、タンクレディⅡに赴任する直前に、1人のメック戦士を新たに雇用してます。それでそのメック戦士なんですが……。名前はコンラート・エルレンマイヤー。ですがそれは偽名で、本名は……おそらく、の但し書き付きですが、ハリー・ヤマシタ。ドラコ連合のスパイだったらしいんですな。」

 

 ドラコ連合のスパイが、タンクレディⅡに送り込まれる傭兵部隊に潜入していた。そしてその部隊は戦場で裏切りを働いた。何か関係があるのは間違いないだろう。

 

「なるほど、他には?」

「いえ、これだけですな。ただ、当人の静止画像がメッセージに添付されて送られてきました。こちらがそのハードコピーです。」

「……こいつが。言わばこいつも仇の1人だってことか。……サイモン爺さん、酒場に行ってみよう。」

「坊ちゃんはまだ、飲酒年齢に達してなかったんでは?」

 

 まあ、とてもそうは見えないが。キースは身長2mを超え、筋肉ムキムキのマッチョマンで、30歳以上に見える老け顔だ。実年齢は16歳でしかないのであるが。

 

「そうじゃないよ、わかってるんだろう?メック戦士の集まるような酒場に行って、噂話を集めるんだ。ここは噂に聞く『傭兵たちの星』だ。あちこちから、傭兵たちが集まっている。雲をつかむような話だが、もしかしたら雲を掴めるかもしれん。」

「そうですな。では行ってみますかの。」

 

 

 

 フランツの酒場と言う名のその店では、メック戦士たちが軍歌をがなり立て、陽気に、あるいは陰気に酒を飲んでいた。キースはサイモン老と共に、この店のカウンターに座る。だがとりあえず、彼はサイモン老に任せることにする。理由は、彼は情報収集の経験が無かったからである。サイモン老は一度隠居する前の、傭兵部隊『BMCOS』での現役時代において、少なからずその手の経験があった。

 

「バーテンさんや、わしにはお勧めの酒を一杯、坊ちゃんにはトマトジュースをたのむわ。」

 

 サイモン老は酒代には多めの金額をカウンターに置く。初老のバーテンダーは、キースの顔を見ると怪訝そうな顔をしたが、注文通りの品を出す。サイモン老はバーテンダーと世間話をしながら、ある程度打ち解けたところで話を切り出した。

 

「……ところでな、バーテンのおいちゃん。この写真の男について、何か知らんかの?」

「む?……私は知らんが。だが多少で良ければ、知ってるやつを知ってる。」

「ほほう?」

「ほら、あっちの奥まった所にあるテーブルで飲んだり食ったりしてる4人組。あいつらも、この男によく似た男の写真を持って来て、似たようなこと聞いてたな。何も知らんと言うと、がっかりしてたが。

 あんたらが情報交換してやれば、あいつらも喜ぶんじゃないかね?」

 

 サイモン老とキースはバーテンダーに礼を言うと奥のテーブルへ向かう。そしてそのテーブルにいる、陰気に飲んだり、やけ気味に食ったりしている男1人、女3人の組み合わせに声をかけた。

 

「あー、ちょっといいですかの?」

「……なんだよ、うるせーな。」

「ちょっとアンドリュー!すいません、今こいつ虫の居所が悪くて……。アンドリュー!あんた飲み過ぎよ!

 あー、で、何でしょうか、お爺さん。」

 

 サイモン老は、懐から写真を取り出す。

 

「あんたらが、この男についてなんか調べとるって聞いたもんでな。お互いの情報を交換でもせんか、と思って来たんだけどものう。」

「……!アイラ!キャスリン!アンドリュー!この写真!」

「え?あ、ああっ!?」

「こ、こいつ間違いない!」

「あ?なんだってんだよ……。」

「アンドリュー!あんた水でも飲んで、少し酔いを醒ましなさいな!ほら!」

 

 その4人組は、大騒ぎになった。サイモン老は気長に彼らが落ち着くのを待っている。その一方で、キースは呆然と彼らの様子を眺めていた。

 やがて彼らも落ち着いて話ができる状態になる。

 

「さ、先ほどはどうも見苦しい所をお見せしまして……。」

「あ、す、すまねえ……。で、あんたらこのリカルド……メック戦士リカルド・アゴスティについて何を知ってるんだ!?」

「アンドリュー!あんた先走り過ぎ!まずは挨拶と自己紹介からよ!」

「あ、す、すまねえ……。お、俺はメック戦士アンドリュー・ホーエンハイム。こっちは俺の郎党の偵察兵、アイラ・ジェンキンスだ。」

「あたしはメック戦士エリーザ・ファーバー。こちらが郎党の整備兵で医者の、キャスリン・バークレーです。」

 

 キースとサイモン老は顔を見合わせて頷くと、キースが前に出て挨拶をする。

 

「……俺はメック戦士キース・ハワード。着弾観測員もやってる。こちらは俺の郎党で、サイモン・グリーンウッド。俺が信頼する凄腕の整備兵にして、凄腕の砲兵だ。」

「え!?サイモン・グリーンウッド!?あの知る人ぞ知る!?伝説の整備兵!?砲兵もやってるって言うからには間違いない!?」

 

 そう言ったのは、偵察兵と紹介されたアイラと言う少女だった。まあ少女と言っても、もう酒が飲める年齢なのだが。キースはしみじみと考える。

 

(……そうか。恒星連邦と、ここライラ共和国じゃあ、飲酒年齢が違うんだったな。)

「え?アイラ、知ってるの?」

「私が知ってて、なんで整備兵のあんたが知らないのよキャスリン!?」

「い、いえ私はどちらかと言えば、看護兵上がりの医者だから……。整備の勉強もしてるけど、そっちはそれほどの腕じゃないし。」

「あんたら、いい加減にしなさい。話を本題に戻していいかしら。」

 

 どうやら、今喋ったエリーザという女性メック戦士が、この一行のまとめ役らしい。どうやら気苦労が多そうだ。彼女の台詞に、キースとサイモン老は頷く。

 

「こちらの事情から話をするわね。この写真の男、リカルド・アゴスティは、卑劣な裏切り者なのよ。ライラ共和国に雇われてたとき、こいつが内部の警備情報を敵に洩らしたために、あたしたちの傭兵中隊は駐屯してた基地を特殊部隊に爆破されたの。そのことは戦闘後に明らかになったんだけどね。

 そしてそのことがばれる前の戦闘で、そいつのフェニックスホークが、マーカス中隊長のアーチャーを背中から撃って……。アーチャーは弾薬に火が回って爆散して、指揮系統が潰されたあたしたちは潰走した。逃げきれずに、部隊の大半がやられちゃったけどね。残ったのはあたしのウォーハンマーとアンドリューのライフルマンだけ。立ち直れなくなった『アーロン突撃中隊』は、部隊解散。

 あたしとアンドリューは、それでも我慢できなくって、リカルドの馬鹿を追いかけてるってわけ。やつを殺して、マーカス・アーロン隊長他戦場で討たれたメック戦士達、それに爆破された基地にいたあたしたちの家族の仇を取るんだって……。」

「すまん、ちょっと良いか?」

 

 そう言って割り込んできたのは、隣のテーブルにいた青年だった。その表情は厳しい。

 

「……なんですか?貴方は?」

「い、いやすまない。聞くともなしに聞こえてしまったんだ。ただその話が、あまりにも俺たちの事情に似ていたんでな。」

「似ていた?」

「ああ、そっくりだ。裏切り者の手引きで基地が爆破される下りも、裏切り者のフェニックスホークに味方の隊長が背中から撃たれるところも、まったく同じだったんだ。こっちは4年前の話だがな。

 ……ああ、失礼。俺はネイサン・ノーランド、偵察兵だ。そっちのテーブルで潰れてるのが、俺の主のメック戦士、マテュー・ドゥンケルだ。」

 

 青年は頭を下げながら自己紹介する。そして4人組――キースたちを入れれば6人になる――のテーブルの上に置かれている写真にちらりと目を遣った。その目が、鷹の目の様になる。

 

「……やっぱりアヒム・デーメルか。」

「な!?リカルド・アゴスティじゃないのか!?」

「俺たちの部隊を潰したときは、アヒム・デーメルと名乗っていた。あ……いかん、起きてくださいマテューさま!手がかりらしきものに出会えましたよ!」

「あ?うん?な、なんだって!?」

 

 マテューというメック戦士の青年も、なんとか目を覚ます。そして彼らは互いに身の上を話し合った。

 

「なんて奴だ……。こうなると、他にも同じ目にあった奴がいそうだな。」

「けど、そうなるとリカルドもアヒムも、本名じゃない可能性が高いわね。」

 

 アンドリューとエリーザが眉を顰めながら言う。そこへキースが再度話に加わった。

 

「その通りだ。今のところわかってる最新の偽名はコンラート・エルレンマイヤー。で、だ。本名は、確定情報じゃあないんだが、ハリー・ヤマシタと言うらしい。……ドラコ連合のスパイらしいんだよ。」

「「「「「「な、なんだってーーー!!!」」」」」」

 

 キースとサイモン老は、自分たちの事情と分かっている情報を洗いざらい話した。

 

「……と、言うわけだ。ヤマシタの奴は元『アルヘナ光輝隊』になんらかの工作を行って裏切らせた可能性が高い。ただ、もしかしたらこれがスパイとしての最後の仕事かもな。完全な想像だが。」

「なんでだ?」

「ああ、なるほどな。あんたらの伝手で調べられるほど奴がスパイだってことが知れ渡ったなら、スパイとしての価値は無くなるわけか。となると、スパイから別の職業に転身してるかもな。たとえば、メック部隊の指揮官とか。あるいは今までの経験を活かして、現場に出なくても済む、スパイたちの元締めとか。」

 

 偵察兵ネイサンが、キースの推察を補足する。それを聞き、同じ偵察兵のアイラが悔しそうに言った。

 

「じゃあどうしたら奴を補足できるのよ。下手をすればもうドラコ連合の領域から出てこない可能性もあるわけじゃないの。」

「……元『アルヘナ光輝隊』のメンバーは、今はドラコ連合のゲイルダン軍管区にいるんだったわね。なら奴もそこにいるかも……。それに賭けるしかないわね。」

 

 エリーザが、何かを覚悟したかの様に言葉を紡いだ。アンドリューが彼女に尋ねる。

 

「どうするつもりだ?」

「あたしたちがガラテアに来たのは情報集めの意味が大きかったけど、仕事探しの意味もあったでしょ?メックの維持費も大変なんだから、そろそろ仕事をしないといけなかったし。だからゲイルダン軍管区に対する襲撃任務か、あるいはそこと隣接している恒星連邦のドラコ境界域での防衛任務かを受けるのよ。そうすれば、運が良ければ奴と出会えるわ。

 ねえ、貴方たちも一口かまない?特にキースとサイモンさんは、奴だけが仇じゃないんだから、あたしたちの助けがあれば楽になるはずでしょ?あたしたちも、貴方の助けがあれば事が楽になるって、この勘がピピっと言ってるのよ!」

 

 キースとサイモン老は顔を見合わせた。キースはできるならば、部隊に縛られないで活動をする予定だった。傭兵部隊に縛られてしまっては、自分の望む戦場に行き難くなるからであり、はては仇と出会うことが難しくなるからだ。だが逆に、彼1人であっては仇と出会った際に、勝つことは難しいだろう。その点、アンドリューやエリーザたちであれば、目的の大部分は重なることになる。1人では勝てない相手にも、なんとか勝利することが叶うかもしれない。彼らは頷く。

 

「よし、一緒にやろう!」

「あ、私も一緒にやらせてくれ!」

 

 キースの返事に被せるように、青年メック戦士マテューも慌てて言う。彼は更に言葉を付け加えた。

 

「あ、それと私の知り合いの航空兵……気圏戦闘機パイロットが2名、仕事が見つからなくて腐ってたんだ。彼らにも声をかけてみよう。航空部隊を備えた航空小隊なら、仕事は見つけやすいはずだ。」

「それはいいな。ところで降下船の航法士が2名、なんとか見つからないかな?いや、こちらの伝手で中古だが、充分に現役のレパード級降下船が手に入ることになっているんだ。その他に必要な機関士2名は、なんとかサイモン爺さんのおかげで捕まえたんだがね。」

 

 キースはにやりと笑って言う。彼は傭兵大隊『BMCOS』の資産を、親友ジョナスの伝手で受け継ぐことに成功している。その資産の大半は、『アルヘナ光輝隊』の裏切りの際に失われてしまったのだが、既に金を払い終えて届くのを待っていた、注文済みの資産が幾つか星系外に残されていたのだ。小隊規模の部隊を運ぶレパード級降下船と、スナイパー間接砲1門、それに幾ばくかの分析装置類やジープなどと、バトルメックの補修部品である。それが届く先をキースとサイモン老は、惑星タンクレディⅡから惑星ガラテアに変更してもらったのだ。

 マテューは首を捻って言った。

 

「うーん、引退した航空兵が、なんとか捕まるかもしれない。さっき言った航空兵の繋がりで、そいつらの師匠にお願いできるかも。……いや、「かも」じゃなくて、なんとかしてみよう。」

「あ、そうだ!『アーロン突撃中隊』と専属契約をしてたマーチャント級航宙艦!アーダルベルト艦長たちも『アーロン突撃中隊』の壊滅と解散には、がっかりしてたって言うか、怒ってたからさ!だから上手くすれば手伝ってもらえるかもしれないぜ!?話の持っていき様ではさ!」

 

 アンドリューが叫ぶ様に……と言うか、叫んだ。そして彼は話を続ける。

 

「んじゃあ、このメック戦士4人と、今話に出てた航空兵2名で1個メック小隊になるわけだな!んじゃあ隊長を決めないとな!」

「なによ、あんたがやるって言うんじゃないでしょうね。駄目よ?あんたもあたし同様、指揮官教育は受けてないでしょうが。」

「お、俺がやるなんて言ってないだろ!?えーと、キース、マテュー、あんたらはどうだ?」

 

 エリーザの言葉に、アンドリューは引き攣った顔になりつつ、キースとマテューの方に顔を向けた。キースとマテューは顔を見合わせる。

 

「一応俺は恒星連邦の『ロビンソン戦闘士官学校』を、この6月に出たばかりだが……。」

「私も恒星連邦の『サハラ士官学校』を6月に……。ああ、でもキースの方がいいだろうね、隊長は。私は士官学校でも、指揮官よりは参謀役に向いてるって言われてたから。

 それに見た目、一番年上っぽいしね、キースが。」

 

 マテューの言葉を聞いた瞬間、キースは崩れ落ちる。うずくまったその姿は、熊か牛が丸まってるみたいであった。急に落ち込んだキースに、マテューは慌てる。他の皆も、頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「な、何か悪いこと言ったかね、私?き、キース?」

「あー、皆さん……。」

 

 そこへサイモン老が口を挟んだ。

 

「坊ちゃんは、こう見えてもまだ16歳なんですな、これが本当に。」

「「「「「「え……ええ~~~っ!?」」」」」」

「嘘だろ!?」

「30過ぎにしか見えない!」

「じょ、冗談ですよね!?」

「あー、坊ちゃん、内心で老け顔を気にしてるから、あまり触れないでやってくれませんかのう?」

 

 周囲の皆は絶句する。これがキース率いる傭兵小隊『鋼鉄の魂(Soul Of The Steel:略称SOTS)』の始まりだった。




主人公は、なんとかかんとか協力者を得て、メック小隊を編制しました。彼が小隊長です。今後どうなっていくのでしょうか。ご期待ください!


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『エピソード-002 初任務開始』

 2mを超える筋骨隆々たる体躯の人物が、数名のやや小柄な――大抵の人類は、彼の前では小柄な部類に入ってしまうのだが――男女の前で挨拶していた。

 

「俺が傭兵小隊『SOTS』の隊長、キース・ハワード中尉だ。これからよろしく頼む。できるならば、長い付き合いにしたいと思うし、そうなるよう努力するつもりだ。諸君らも、同様に努力して欲しい。」

「……つまりは、戦死するな、って事ですな。了解です。」

 

 キースに応えたのは、レパード級降下船ヴァリアント号船長に就任した初老の男、カイル・カークランド少尉だ。かつては歴戦の航空兵であり、気圏戦闘機を甥に譲り渡して引退後は、悠々自適に暮らしていた。だが最近はその暮らしが退屈になり、また戦場に出たいと思うようになっていたらしい。

 ちなみに現役時代は少尉よりも階級は高かったのだが、今回隊長のキースが中尉――小隊長は普通中尉である――であるため、それより下の階級に就くことをあっさりと承知してくれた。この事情は、隣に並んでいる副長のイングヴェ・ルーセンベリ准尉も同じである。なお船長は少尉の階級であるが、降下船に乗船中はキャプテン……大尉と同じ発音で呼ばれることになる。

 

「あ、そういう意味だったのか。」

「こら!聞こえるわよ!静かにしてなさいマイク!」

 

 この2人は、気圏戦闘機のパイロットたる航空兵、マイク・ドーアティ少尉とジョアナ・キャラハン少尉である。彼らはカイル船長やイングヴェ副長の弟子にあたるらしい。その後ろには、彼と彼女の郎党である整備兵……航空機関士の、ジェレミー・ゲイル伍長とパメラ・ポネット伍長が、やれやれと言う表情で自分たちの主人を眺め遣っていた。

 この他にも本当なら、降下船専属の機関士であるナイジェル・グローヴァー伍長やメアリー・オールビー伍長がいるのだが、その2人はここにはいない。彼らは昨日のうちにキースに挨拶を済ませ、今日は既にヴァリアント号のチェック作業に入っているのだ。今日これから、カイル船長たちにヴァリアント号を飛ばしてもらい、本格的出発の前に多少船に慣れてもらわねばならないのである。

 

「済まないな、カイル船長、イングヴェ副長。本当はもっと長く船に慣れるための時間を取りたかったんだが……。恒星連邦との契約では、目的地までの行き帰り分の推進剤は支給してくれるとあったんだが、なにぶん新しい船員たちが船に慣れるための練習用の推進剤まで出せ、とは言えない。だから自前で推進剤を買ったんだが、資金があまり無くてな……。そんなに大量には買えなかったんだ、推進剤。」

「気にせんでください隊長。この型の船は、一応現役の航空兵時代に経験があります。本職の航法士が負傷で船を操れませんでな、気圏戦闘機のパイロットであった私が緊急と言うことでレパード級降下船を扱ったことがあったんですよ。」

「その時の助手も私でしてね。ですからレパード級の扱いは、一応わかってますよ。」

「そう言ってくれると、気持ちが楽になるよ。さて……。」

 

 キースは船長、副長の方から、今度は2人の航空兵の方へ向き直る。

 

「マイク少尉、ジョアナ少尉、それからジェレミー伍長、パメラ伍長。4人はこれからシミュレーターでの演習とその補佐に就いてもらう。マイク少尉とジョアナ少尉の腕前や連携がどれくらいの物か、実感しておかなければならないからな。これも推進剤や演習場の関係で実機演習ができんので、シミュレーターで済まないが。……そのシミュレーターも、1時間いくらとかでの借り物なんだがな。

 なおそのシミュレーターでの演習には、地上戦闘のステージでは本小隊のメック部隊も参加する。」

「地上戦闘のバトルメック支援以外にも、ステージがあるんすか?隊長。」

「ああ、マイク少尉。敵気圏戦闘機隊がうじゃうじゃ湧いて出る中での、味方降下船の地上降下を支援するステージもある。……もっとも、敵はコンピューターのプログラムで動いてるだけだから、本物のパイロットが乗った敵機には遠く及ばない。慣れたつもりになって、油断はしないようにな。」

「うげ……。」

「マイク!まったく……。マイクがすいません、隊長。」

 

 緊張感の無い航空兵に、キースは苦笑する。だが、硬くなってガチガチになるよりはいいか、とも思う。実際、その後のシミュレーター演習では2人はそれなりの技量と連携を示した。バトルメックとの連携も、即席にしては良い方であったと思われる。

 その日から数えて2日後、彼らはレパード級降下船ヴァリアント号で惑星ガラテアを離れ、ジャンプポイントへと向かった。

 

 

 

 そして6日後、彼らはジャンプポイントに到着、マーチャント級航宙艦クレメント号とドッキングし、目的の星系まで運んでもらった。超空間によるジャンプはほんの一瞬で完了する。さすがに惑星ガラテアと今回の目的の惑星は遠すぎるため、何度かジャンプを繰り返さねばならなかったが、途中の星系に設置されている航宙艦再充電のための補給ステーションのおかげで、それほど航宙に時間はかからなかった。

 キースはクレメント号の艦長であるアーダルベルト・ディックハウト達と、任務前の挨拶をしていた。

 

「アーダルベルト艦長、クヌート副長、長距離の旅、ありがとう。我々はこれから惑星カサイに降下します。」

「語尾が「します」になっとるよ。君が隊長なのだから、もっと偉そうにしないといかんよ。……我々はここのジャンプポイントで待ってるからな。必ず帰ってくるんだよ。」

「気を付けるよ、ありがとう艦長。我々の任務は略奪物資の奪還だからね。敵本隊が味方の本隊とやりあってる間に、こっそりと敵の基地に忍び寄って防衛している少数部隊を排除し、略奪された物資を運んでとっとと逃げ出すだけの任務だよ。カサイは味方の惑星だし、制空権を取られたという話は聞かないからね。降下は問題ないだろう。

 ……まあ、油断だけはしないつもりだが、ね。では行ってくるよ、艦長。」

 

 そう言うとキースは、部隊員たちが待機している第1降下待機室に向かう。そこから彼らはクレメント号に接続されている降下船ヴァリアント号に移乗し、惑星カサイへ向けて数日間の旅路に入るのだ。

 

 

 

 ヴァリアント号の船室で、キースは部隊員たちと共にブリーフィングを行っていた。

 

「……という事で、今回の作戦は敵の小規模な後方基地に対する強襲降下作戦だ。各々のバトルメックを降下殻に収納し、大気圏外から目標地点へ直接突入する。既に皆のメックは降下殻の着装が完了している。大気圏突入時、制動ジェットの燃料を、無駄に使うんじゃないぞ。自分の命がかかってるからな。ただしケチり過ぎて、速度を充分に落とさずに地表に突っ込むことの無いように。

 そして、そこで重要なのが、マイク少尉とジョアナ少尉の気圏戦闘機隊だ。大気圏突入直前のバトルメックはまったくの無防備だ。俺たちの命は君らと君らのライトニング戦闘機にかかっている。頼んだぞ。」

「「はい!」」

 

 ライフルマンに乗るアンドリュー軍曹が、小さな声で呟く。

 

「……キースは、いやキース隊長は、さすがに指揮官教育しっかり受けてきただけあるなあ。年齢のこと言われてがっくりと崩れ落ちた奴と同一人物だって、とても思えねえ。」

「こらこら、聞こえるよ。今はブリーフィング中だよ。」

 

 ウルバリーンを駆る副隊長、マテュー少尉がこれも小声で窘めた。ウォーハンマーのエリーザ軍曹も、うんうんと頷いている。果たしてどちらの台詞に頷いたのかは、さだかではない。まあ、彼女は真面目だからマテュー少尉の言葉に頷いたのだと思うが。

 キースは続ける。

 

「強襲降下後、メック部隊は基地を制圧し、敵に奪われた希少な物資を奪還する。

 ヴァリアント号は、バトルメック射出後わずかに遅れて突入軌道を取り、メック部隊から50km離れた地点へ着陸する。ここにはレパード級降下船が着陸可能な地形が存在するのは、事前情報でわかっているから安心してくれ。ヴァリアント号は、偵察・整備兵分隊を下船させた後、メック部隊の支援を終わらせた気圏戦闘機隊を回収し、味方の基地へ撤退。そこで気圏戦闘機隊と共に俺たちの帰りを待ってもらう。

 偵察・整備兵分隊は車輛で移動、メック部隊と合流してもらうことになる。メック部隊は奪還した物資の輸送で移動力が著しく低下するはずなので、メック部隊の撤退路の先行偵察を行ってもらうことになるだろう。メック部隊が味方の勢力圏までたどり着けば、任務は完了だ。質問はあるか?」

「ヴァリアント号は、奪還物資の輸送には使わないんですか?」

 

 エリーザ軍曹が質問を発した。キースはちょっとだけ情けなさそうな顔になるが、それは一瞬だけですぐに元の顔に戻る。

 

「バトルメックと気圏戦闘機については、装甲版と弾薬の補充は無償で行ってくれるし、その他の部品が損傷した場合でも、正規の値段で正規軍の備蓄部品を売ってくれるそうだ。その他の装備に関しても、たとえばジープやスナイパー砲搭載の車輛が損傷した場合、代替品を支給してくれることになっている。だが……。

 だが降下船は、戦闘に参加させて損傷した場合、何の補償もされないんだ。だから万が一の事を考えると、さっさと撤退させなくてはならない。」

「納得です……。」

 

 誰も異議を唱えなかった。降下船は馬鹿高いのだ。傭兵大隊『BMCOS』の遺産と言う形でなければ、絶対に手に入らなかっただろう。万が一失われたりしたら、今回の仕事が大赤字、などと言う言葉で表せる物ではない。

 世知辛かった。

 

「あー、奪われた物資って、何なんすか?」

「すまんがそれは、「need to know」だ。本当は俺にも教えてくれないはずだったのだが、持ち帰る物資を間違えては話にならんと説得した。だが部隊員たちにも教えるなと厳命されている。

 奪われた物資コンテナがもし開けられていたりしたら、俺の判断で持ち帰る物を選ぶことになっている。」

 

 マイク少尉の言葉に、キースが答えた。答えになっていない様だが、これは仕方ない事だろう。

 

(けど、高い技術を持つサイモン爺さんに見られたら、わかっちまう事なんだがな。遺失技術を使ったバトルメックのパーツなんだから。長射程型粒子ビーム砲とか、長射程型大口径レーザーとか、ガウスライフルだとか、高性能放熱器だとか、XLエンジンだとか……。そこまで秘密にする事かとも思うんだがな。っていうか、そういう物見つけたんなら、さっさとNAISに送って、研究資料にしてもらえよ。

 ……物資コンテナが、開けられてないことを祈ろう。)

 

 内心で愚痴るキースだった。彼はブリーフィングを続ける。

 

「さて、他に質問はあるかね?」

「「「「「……。」」」」」

「……無いようだな。では作戦開始まで残り48時間だ。ゆっくり休養を取って、作戦に備えてくれ。解散!」

 

 部隊員たちは三々五々、散って行く。キースはしばらくそれを眺めていた。そしておもむろに彼は、この部屋にいたもう1人の人物の方を振り向く。その人物は、今まで一言も声を発しなかった。何と言うか、非常に影の薄い人物である。

 

「……こんなものです。ウォーレンさん。」

「なるほど、大したものです。発足したばかりの小隊とは、とてもとても思えませんね。」

 

 この人物は、ウォーレン・ジャーマン。コムスターの仲介で受けた任務を、その部隊がきちんと果たすかどうかを確認する管理人として派遣された人物である。ただし彼自身はコムスターの一員ではなく、深い関わりも持たない、単なる下請けである。コムスターも、いちいち1個小隊規模の新設小隊に、わざわざ自分の組織から管理人を派遣するほど人手は余っていない。

 

「では私は船室に戻らせていただきますよ。」

「ええ、了解です。ああ、貴方は作戦中どうなされますか?戦闘部隊に随伴するのですか?貴方の護衛を専属で出せるほど、人は多くないのですが。」

「いえ、私はこの降下船で、あなた方の帰りを待たせていただきます。無理に付いて行って、足手まといになっては本末転倒ですので、ね。ではまた後ほど。」

 

 ウォーレン氏はゆったりとした歩調で去って行った。キースも、自分の船室へともどろうとする。と、その途中でサイモン老が立っていた。彼は口を開く。

 

「坊ちゃん、ご苦労さまです。」

「やれやれ、偉そうな口調も疲れるよ、サイモン爺さん。けど、ご苦労様はまだ早いよ。明後日の今頃には、降下殻に詰め込まれたメックに乗って、大気圏突入だ。それに……その直後、生まれて初めてのメック戦闘だ。」

「そうでしたな。坊ちゃんの初陣ですな。」

 

 キースは、深くため息を吐く。

 

「頭では負ける気はしないんだ。実力さえ出せれば。はっきり言って自慢だけど、『ロビンソン戦闘士官学校』で、教官機を単独で撃墜判定取ったのも、同期生たちを指揮して複数の教官機に勝ったのも、同期の中で俺ぐらいだ。変な言い方になるが、姑息な戦法では誰にも負ける気はしないんだよ。……いつも通りの実力さえ出せれば、な。

 だけど初めての実戦だ。泡食って慌てたりしないか、パニックに陥らないか、ついそんな事を考えちまう。困ったもんだ。自分一人だけのことならば、簡単に吹っ切れもするんだろうけど、仲間達の命まで背負ってるんだから……。いや、嘘だな。自分が死ぬのもやっぱり怖い。はは。」

 

 苦笑しつつ、キースは愚痴という形で疲れや苦悩を吐き出す。サイモン老は、それを優しい顔で見ていた。

 

「なあサイモン爺さん。父さんも部下の命を預かってたりして苦悩したのかな。自分が死んだりするのは怖くなかったのかな。父さんの最期は聞いたけど、俺にはあんな壮絶なことはできそうにないよ。ライナーを逃がすために、敵の特殊部隊員を巻き添えにして自爆するなんて。」

「ウォルト様も、怖がりでしたのう。弱いところも、ありもうした。……坊ちゃんも、ウォルト様によく似てらっしゃる。いざという時は、勇気を振り絞れるところなど、そっくりです。7歳の頃、ジョナス様を守るため、身を持ってかばったそうじゃないですか、のう?」

 

 キースのおっさん臭い顔から、ふっと笑みがこぼれる。サイモンも笑う。

 

「サイモン爺さんに、あのギャラックスから付いて来てもらって、良かったよ。本当に。こんな話できるのは、今じゃサイモン爺さんくらいだからなあ。ああ、あとジョナスもそうか。でもジョナスにここに来てもらうわけにもいかないからな。ははは。

 ……サイモン爺さん。偵察・整備兵分隊を頼んだぞ。まっとうに戦力になるのは、偵察兵のネイサン軍曹とアイラ伍長だけだ。頼りになるのは、サイモン爺さんの指揮能力と戦術知識だ。けっして無理はさせるんじゃないぞ。」

「お任せ下さい、坊ちゃん。わしの全身全霊を振り絞って見せましょうぞ。」

「ああ、あとサイモン爺さんも、無理はするんじゃないぞ?頼むから。

 さて、この任務……。成功させるぞ。絶対黒字で。」

 

 キースの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。サイモン老も、右手を握り親指を立ててサムズアップして見せる。降下船は、惑星カサイに向けてまっしぐらに進んでいった。




さて、次回いよいよ初任務です。少尉すっ飛ばしていきなり中尉で隊長になった主人公。その隊長っぷりはどんなものでしょうか。


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『エピソード-003 初陣』

 ヴァリアント号のバトルメック格納庫では、4機のバトルメックが既に降下殻に収められていた。キースはその内の1機、グリフィンに乗り込んでいる。彼は他の機体に通信を入れた。

 

「これより惑星カサイ、敵制圧地域後方の小規模基地への強襲降下作戦を開始する。全員準備はいいか?メック部隊2番機?」

『はい、こちら2番機マテュー少尉。準備完了、ウルバリーンの調子も良好です。はじめてこのメックに乗って以来、これほど調子が良かったことは無いですよ。』

「3番機、どうか?」

『おう、じゃない、はい!3番機アンドリュー軍曹、サイモンさんの腕は凄いな……ですね!ライフルマンが今までで最高の調子だ!』

「君とエリーザ軍曹は、既に実戦経験があるからな。期待している。ただ降下殻での突入訓練は数少ないらしいから、そこは注意してくれ。4番機?」

『はい、4番機エリーザ軍曹です!ウォーハンマーも万全です!降下については大丈夫です!あたしもアンドリューも、回数は少ないけど訓練成績自体は良かったですから!』

 

 メック部隊の確認を終えたキースは、次に気圏戦闘機隊に連絡を入れる。

 

「気圏戦闘機隊1番機、メックが大気圏に降りるまでの護衛と、地上に降りた後の支援、頼んだぞ。」

『こちらライトニング1番機、マイク少尉。まかせといて下さいっす!』

「気圏戦闘機隊2番機、マイク少尉が無理しない様にしっかり手綱を取ってくれ。頼むぞ。」

『こちらライトニング2番機、ジョアナ少尉。任せてください。』

『ちょ、それはひどいっす……。』

 

 最後にキースは、偵察・整備兵分隊に声をかけた。

 

「偵察・整備兵分隊サイモン曹長。そちらの指揮は頼んだぞ。地上で会おう。」

『了解です、坊……隊長。誰にも無理無茶はさせませんわい。』

「ネイサン軍曹、アイラ伍長。実際にまともな戦闘力を持っているのは君ら2人だけだ。他の皆を守ってやってくれ。」

『『了解!』』

「キャスリン伍長、君が負傷したら、治療する者がいなくなる。万が一にも怪我することの無いように。」

『了解です。負傷者が出たらそのときは任せておいてください。』

「ジェレミー伍長、君は2台目の車輛を頼んだ。運転は慎重にな。1台目のサイモン曹長の運転についていけない様だったら、彼にきちんと申告して手加減してもらってくれ。」

『は、はい!きっちり付いて行かせてもらいます、大丈夫です!』

「パメラ伍長、君の出番は基地制圧後だ。基地のコンピュータから情報を取るのは、君にしかできない。それまではあまり前に出るんじゃないぞ。」

『了解!ご心配ありがとうございます!』

 

 全員に声を掛け終えたキースは、ブリッジに最後の連絡を入れる。

 

「カイル船長、イングヴェ副長、では行ってくる。射出、よろしく頼む。」

『大丈夫、任せておいてください。……?あー隊長、ウォーレンさんが何かおっしゃりたいそうで。』

「そうか、ウォーレンさんを出してくれ。ウォーレンさん、何か?」

『いえ、大したことではありません。無事でお戻りになることを期待しております。契約で定められた時間をオーバーしないよう、気を付けてください。』

「わかりました、お気づかいありがとうございます。」

 

 キースは苦笑しつつ言った。

 

「じゃ、船長。地上の、味方基地で会おう。ウォーレンさん、また後ほど。」

『はい、また後ほど。』

『了解です。副長、バトルメックと気圏戦闘機の射出準備!』

『了解、カウントダウン開始します。隊長、行ってらっしゃい!』

 

 レパード級降下船ヴァリアント号の側面に付いたメック用のハッチと気圏戦闘機用のハッチが展開する。射出準備は完全に整った。イングヴェ副長の声が通信機より響く。

 

『60秒前……30……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』

 

 激しいGと共に、降下殻に包まれたバトルメックは大気圏へ向けて射出された。気圏戦闘機隊がそれと同時に発進し、万が一に備えた直衛に就く。これまで敵気圏戦闘機は出て来ていないから、制空権は事前の情報通り、味方が取ったままなのだろう。ただし通信封鎖しているため、確認はできなかったが。味方の恒星連邦軍と通信できるようになるのは、作戦が終了してからだ。

 機外の映像がブラックアウトする。一応他のセンサーで、機体の姿勢情報や高度情報、目標地点との相対位置情報は伝達されるが、周囲が真っ暗なまま大気の乱流で降下殻が大きく揺らされるのは、やはり恐怖だ。Gもきつい。だがキースは頑健な肉体の耐久力と意志力で、それに耐える。ただの2mムキムキ筋肉男ではないのだ。

 

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、降下殻パージ!」

 

 キースのグリフィンが、降下殻を分離してその本体を現す。今回の戦場に合わせて砂漠迷彩に塗装されたその機体は、降下用制動ジェットを噴かして速度を殺す。カメラは既に回復しており、同じように降下殻を脱ぎ捨てて制動ジェットを噴かす仲間の機体が判別できた。その上空を、気圏戦闘機隊の50tライトニング戦闘機2機が飛翔している。眼下に、規模が大きく無い敵の基地と、慌てて出撃してくる2輛の戦闘車両に4機のバトルメックが見えた。

 キースは仲間の機体に連絡を入れる。

 

「無線封鎖解除!敵機確認!目標スコーピオン戦車2輛、20tワスプ1機、20tスティンガー1機、35tパンサー1機、35tジェンナー1機!おそらくは軽量級で構成された偵察小隊と思われる!メックの総重量はこちらが遥かに上だが、基地には砲台が1つあるし、地雷が敷設してある可能性がある!注意せよ!」

『『『了解!』』』

「気圏戦闘機隊、砲台を叩けるか!?砲台の構成は……大口径レーザー1門と中口径レーザー2~3門と見える!対空攻撃に有利なオートキャノンは搭載されていない!」

『まかせといて下さいっす!』

『了解です!』

 

 各自のメックは制動ジェットを噴かして、各々の機体が得意とする位置に着陸する。キースのグリフィンとアンドリューのライフルマンは後衛に、マテューのウルバリーンとエリーザのウォーハンマーは前衛に。直後、彼らの機体は制動ジェットをパージして身軽になる。

 

「エリーザ!突入しろ!マテューはその後ろに付け!アンドリュー、そこから2時の方角にある岩場で部分遮蔽を取って、支援射撃に徹しろ!」

『了解!突貫します!』

『背中は任せなさい!』

『大口径レーザーは2本一緒に撃っちゃだめだ、大口径レーザーは……。』

 

 アンドリューは、自分自身に何か言い聞かせている。キース自身のグリフィンは、10時方向に存在していた別の岩場の上にジャンプジェットで登った。ジャンプジェットに取り込まれた大気が加熱、加圧され、強烈に噴き出した。55tの大重量が、宙を舞う。ここからなら、戦場の全てが見下ろせるため、死角はほとんど無くなる。

 案の定、ウォーハンマーのかなり前方で、対メック地雷……震動爆弾が爆発する。振動爆弾とは、メックの発生する重量による振動を感知して爆発する爆弾だ。基本的に、目標とするバトルメックの重量に対して、どの重量のメックが通ったときに爆発するか設定できる。重すぎるメックが通った時は、その遥か手前で爆発してしまうことになり、この様に意味がなくなるのだ。この距離で爆発したからには、どうやら地雷の設定は50t近辺のメックが目標らしい。

 

「マテュー!地雷の設定は50t近辺の模様だ!55tのウルバリーンではちょうど引っ掛かる!ウォーハンマーの後ろから離れないか、離れざるを得ないときはジャンプ移動しろ!」

『了解っ!この、沈め!』

『落ちなさい!』

 

 マテューとエリーザは、ジェンナーに集中砲火をかけている。ジェンナーはその機動力でウォーハンマーの後ろに回り込もうとしているが、その動きはキースに読まれていた。

 

「マテュー!ジェンナーがウォーハンマーの後ろに回るのを阻止しろ!格闘距離に持ちこめ!エリーザは目標変更、うかつに近寄ってきたワスプを……いや待て!おそらく地雷に誘い込む罠だ!エリーザはスティンガーを!アンドリューはワスプ!」

 

 キースのグリフィンが粒子ビームを放ち、ジェンナーの右脚を撃ち抜く。そこにマテューのウルバリーンがキックを見舞った。ジェンナーはウォーハンマーの眼前で右脚を折り砕かれ、倒れ伏す。慌ててジェンナーのメック戦士は、降伏の信号弾を打ち上げた。

 ワスプとスティンガーは、中距離から中口径レーザーを連射していた。だが一方のワスプが、軽率さを装ってウォーハンマーに近寄ってくる。やはりそちらには、ウォーハンマーの様な重量級に対応した地雷が敷設してあるのだろう。

 しかしそのワスプをアンドリューのライフルマンが撃つ。2門の中口径オートキャノンと、1門の大口径レーザーが火を吹いた。そのうち大口径レーザーとオートキャノンが命中する。ライフルマンは部分遮蔽を取って、静止射撃をしている。この状況で彼の射撃技量ならば、この位の芸当は朝飯前だった。ワスプは頭に大口径レーザーの直撃をくらい、その部位を消し飛ばされる。パイロットは奇跡的に緊急脱出した様だった。

 さて、ワスプの片割れのスティンガーだが、こちらは比較的運が良かったらしい。遠距離に陣取ったパンサーの粒子ビーム砲による援護に助けられ、ウォーハンマーの集中砲火を浴びつつも未だ一発の命中もない。逆にスティンガー側からの命中打も無かったが。

 一方、砲台は2機のライトニング戦闘機による空襲を受けていた。ライトニング戦闘機の機首に装備された最大口径のオートキャノンが、2発とも見事命中する。砲台はあっさりと沈黙した。ライトニング戦闘機は、他の目標を叩くべく旋回に移る。

 

「……あのパンサー、邪魔だな。先に片付けるべきだな。」

 

 パンサーは大半の位置から部分遮蔽になる位置を占めて、支援射撃に徹している。大半の場所が撃ち下ろしになって丸見えなはずのキースの位置からも、例外的に部分遮蔽になっている場所だ。その上距離は遠射程である。だがキースは、あえて狙撃に挑戦する。岩場から上半身だけを出しているパンサーを、注意深く狙った。パンサーも、キースのグリフィンを狙う。そしてパンサーとグリフィンの粒子ビームが互いに交錯する。パンサーの射撃は、グリフィンの左胴正面に命中した。0.5t以上の整列結晶鋼の装甲板が、溶融して弾け飛ぶ。

 だがキースの射撃も、パンサーに命中した。それも頭部に、だ。装甲を貫通した粒子ビームが、パンサーの操縦席をメック戦士ごと焼き尽くす。パンサーは崩れ落ちた。

 同時に2輛のスコーピオン戦車が、マテューのウルバリーンに撃たれ、蹴られて双方炎上する。あれでは乗員に生存者はおるまい。戦車はバトルメックに比べ、非常に脆いのだ。ここでスティンガーが、降伏の信号弾を打ち上げる。一般回線から、スティンガーのメック戦士の声が聞こえた。

 

『降伏する!撃つな!降伏する!』

「降伏を受け入れる。機体から降りろ。」

 

 キースは粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルランチャーを、もはや守ってくれる物が無くなった基地へと向ける。仲間の小隊の機体も、同じく武器を向けた。やがて基地からも、降伏の通信が入ってきた。

 

 

 

『隊長、コンテナを見つけました。幸い、開けられてないみたいですのう。それと、兵員輸送車がありましたで、接収して捕虜の移送に使いますな。それの運転はジェレミー伍長が、捕虜の監視はネイサン軍曹とパメラ伍長がしますでの。』

「そちらは任せるよ。頼んだ、サイモン曹長。」

 

 サイモン老から、連絡が入る。サイモン老率いる偵察・整備兵分隊は先ほど合流してきて、制圧完了した基地内の捜索を行っていたのだ。捕虜というのは、生き残った敵メック戦士3人のことだ。彼らを連れ帰れば、捕虜交換の際に身代金が取れる。これはバトルメックにも言えることで、今回はパンサー、ジェンナー、ワスプ、スティンガーを鹵獲した。これらの機体も、持ち帰ることができれば、身代金を貰っての返還対象になる。

 これらの戦利品を担いで持ち帰るための網を、メック部隊員たちは今用意しているところだ。奪われた物資のコンテナも、その網に入れて持ち帰ることになる。

 やがてキースたちは、メック戦士以外の捕虜を解放すると基地施設を破壊し、その場を立ち去った。気圏戦闘機隊は既にヴァリアント号に帰投し、ヴァリアント号は味方基地に向けて飛び立った後である。

 

『楽勝だったな!誰の機体もたいしたダメージ受けてないし!』

『アンドリュー、まだ油断はできないわ。帰り着いたわけじゃないのよ。』

『そうだよ、敵襲があるかも知れないから、気を付けるに越したことはないよ。』

 

 もう全て終わったつもりで楽観的なアンドリューを、エリーザとマテューが窘める。アンドリューは反論した。

 

『だ、だけどさ!悪いメックの後に良いメックを投入することはタブーじゃんか!今更襲撃をかけてくることは……。』

「だが哨戒部隊などとの偶発的遭遇もあり得る。それに奪還物資が、敵にとってこの上ない大事な物である場合などは、そのタブーを犯しても襲撃を仕掛けてくることはあり得なくはないよ。悲観的になり過ぎることは無いが、かと言って油断してはいけない。」

『むう、た、確かに……。』

 

 キースの説明に、アンドリューは唸る。キースは重量物を輸送しているため、通常の半分以下の速度でしか移動できないメック部隊に、ゆっくりと併走している兵員輸送車にも通信を入れる。

 

「ネイサン軍曹、もし遭遇や襲撃があったら、そちらはさっさと戦域外に離脱してくれよ。」

『わかってます、隊長。こっちは任せてください。』

 

 キースには、嫌な予感がしていた。こういう予感は、外れたことはあまり無い。案の定、先行して偵察していたアイラ伍長から緊急通信が入る。

 

『隊長!敵の哨戒部隊を発見しました!このままだと、1時間以内に遭遇します!』

「落ち着くんだ、アイラ伍長。敵の編成は?それと敵の装備は完全か?」

『あ、も、申し訳ありません。敵は30tジャベリン1機、45tK型フェニックスホーク1機、55tデルヴィッシュ1機、60tドラゴン1機の1個小隊です。ジャベリンとフェニックスホークにはそれぞれ右胴と頭に若干の損傷が認められますが、動きに妙な所は見受けられません。』

 

 今まで黙って聞いていたアンドリューが、進言してきた。その声が少し緊張している。

 

『荷物を抱えていては戦えないぜ。隊長、進路をずらして、やり過ごすことはできないか?』

『それこそ荷物を持ったままじゃ、センサーの有効半径から逃げられないわよ。かならず発見されるわ。だからと言って、荷物を捨てるわけにはいかないわよ。鹵獲品のメックはともかくとして、目的の奪還物資は。』

 

 エリーザが反論する。キースは少し考えると、アイラと本隊の間を走行しているサイモン老とキャスリン伍長の組に連絡を取る。

 

「サイモン曹長、この先の……本隊から2km先の地形を教えてくれ。一応上から地図は渡されているが、実際に現場を見た人間の意見が聞きたい。あと、曹長たちは全速力でそこから離れるんだ。そしてそこから40km離れた、地図上のX-65-536地点に陣取るんだ。曹長の運転技術なら、あと1時間かからず、そこまで行けるだろう?」

 

 

 

 ドラコ連合の識別マークを機体に描いた、砂漠なのに森林迷彩の4機のバトルメックが行進していた。岩と砂ばかりの地形が続く。と、何かに感付いたのか、そのバトルメックたちがいきなり隊列を整えた。

 

『さすがに気付かれたか……。』

『メックというのは、待ち伏せに向かないからね。放熱がセンサーに反応し易いし。戦車なんかだったら、IR偽装網などで隠れて不意討ちとかできるんだけど。あるいは我々の腕前がもっと良ければ、機能を一時的に制限して発熱を抑えられたかもね。』

『まあ仕方ないわよ。こっちも体勢整えるわよ。』

「それに相手は既にこっちの罠にはまっているとも。サイモン曹長、次は今の地点からNNWに240mの地点に照準して撃ってくれ。風向はWで5単位の強さだ。頼んだ。俺はグリフィンに戻る。」

 

 岩山陰の遮蔽位置から、ウルバリーンがジャンプジェットを噴かして飛び出してくる。更にウォーハンマーとライフルマンも、走行移動で物陰から走り出てきた。運んでいたはずの荷物は、何処かに降ろしてきている。

 ライフルマンは、周囲を見渡せるような高地を押さえるべく移動する。ウォーハンマーとウルバリーンは、本来後衛の位置にいるべきはずのデルヴィッシュに向けて全力で移動。直後、何やら空気を斬り裂く音がした。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 ジャベリンとK型フェニックスホークのいる位置に、スナイパー砲の砲弾が降り注ぐ。K型フェニックスホークに砲弾は直撃し、その余波が隣にいたジャベリンを巻き込んだ。無論、これは敵に見つからないようにグリフィンから降りたキースが肉眼で着弾観測を行い、サイモン老に撃ってもらったスナイパー砲による間接砲撃である。キースは敵の動きをその巧みな戦術眼と第六感により読み取って、そこを指定して間接砲撃を撃たせたのだ。

 そのキースは、今は山の陰に隠したグリフィンに乗り込んでいる最中だ。火力的には、スナイパー砲1門とグリフィン1機では、グリフィンの方が若干大きいだろう。だがキースの狙いは、基本的に対抗不能なスナイパー砲による間接射撃を敵に警戒させ、そのことで敵の動きを制御することにあった。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 再度スナイパー砲の攻撃が着弾した。今度当たったのはデルヴィッシュとドラゴンだ。この2機は、有効な遠距離攻撃兵装を備えており、だからこそ戦場が見渡せてなおかつ部分遮蔽の取れる高台を共に目指して移動していたのだ。それ故にその動きを読まれ、なおかつ併走する形になっていたが故に、双方共に着弾に巻き込まれていた。直撃を受けたのは装甲の薄いデルヴィッシュで、右脚の装甲に大ダメージを負っている。一方のドラゴンは、余波を受けただけであり、まだまだ健在だ。

 だがドラゴンに乗っている小隊指揮官のメック戦士は、恐れを抱いていた。移動するバトルメックに、射撃から着弾までが長くかかる間接砲撃を命中させるのは、おそるべき技量の他に相手の動きを正確に読む戦術眼が必要になる。そして敵がその戦術眼を持っていることが確かである証拠に、彼の部隊は先ほどから相手に後の先を取られっぱなしであった。

 

『熱が出るほど撃つな、熱が出るほど撃つなっ!』

 

 アンドリューのライフルマンから、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門が発射され、正確にジャベリンの右胴と左胴とに着弾する。同時にジャベリンが撃った2門の6連短距離ミサイルの片方が、マテューのウルバリーンの胴中央にまぐれ当たりした。だがその直後、ジャベリンは短距離ミサイルの弾倉に火が回り、大爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。

 今、ジャベリンの鼬の最後っ屁をくらったマテューのウルバリーンだが、エリーザのウォーハンマーと共にデルヴィッシュを追い詰めており、その蹴りがデルヴィッシュの片脚を折り取った。デルヴィッシュはゆっくりと地面に倒れ伏す。だがその最後の蹴りが、ウルバリーンの右脚装甲を抉り取っていた。マテューはこれ以上の格闘戦は危険だと、近くにいたドラゴンの格闘距離に入るのを諦めて、少し離れて6連短距離ミサイルと中口径レーザーによる近距離射撃に切り替えた。

 一方K型フェニックスホークは、そのセンサーでもう1機メックが隠れている――というかその機体は、キースが乗り込んで起動したばかりだったのだが――のに気付き、山を回り込んでそれがグリフィンである事に気付く。K型フェニックスホークのメック戦士は、遠距離支援機であるグリフィンに対抗する定石として、接近戦を挑んだ。数条のレーザー光が走り、1門の小口径レーザーと1門の中口径レーザーがグリフィンの胴中央をとらえた。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 だがその行動も、キースは読んでいた。K型フェニックスホークはスナイパー砲の直撃を受ける。あろうことかグリフィンもその砲撃の余波をくらっているが、グリフィンは装甲が厚く、たいした被害にはなっていない。キースは、自機を囮にして、敵を罠にかけたのだ。

 先ほどから連続して右脚に着弾を受けたK型フェニックスホークは、次に右脚に喰らえば危険だというレベルになっている。と、キースはグリフィンのジャンプジェットに火を入れ、機体を跳躍させた。K型フェニックスホークは、距離を取らせてはグリフィンに対する勝ち目が無くなる、と追いすがった。

 だが動きの読み合いはキースの圧倒的勝利に終わる。グリフィンはK型フェニックスホークが移動した場所の、すぐ真後ろに着地したのだ。K型フェニックスホークは機体をひねり、できる限りの攻撃を送り込むが、それは全て外れる。そしてキースはグリフィンの強靭な両腕を振り上げた。

 

「済まな……いや、謝るのは偽善っぽいな。」

 

 グリフィンの両腕がK型フェニックスホークの頭を叩き潰した。敵メック戦士の血しぶきが舞う。脱出する間もなく、操縦席が潰されたのだ。キースは首を振ると、グリフィンを再度ジャンプさせ、味方の援護に向かった。

 

 

 

 結局ドラゴンは、左胴に搭載していた10連長距離ミサイルの弾薬に、キース機の粒子ビーム砲の着弾を受けて爆散した。メック戦士は脱出したが、機体が失われた以上彼は失機者となるだろう。戦利品にはK型フェニックスホークとデルヴィッシュが加わる。機体の重量的には、持ち運び用の網を使えばなんとか持ち帰れるが、奪還物資のコンテナを計算に入れるとメックで運べる重量ぎりぎりであり、移動速度は更に遅くなることが目に見えていた。

 結局彼らがドラコ連合の占領している地域から、恒星連邦の支配下にある領域まで戻って来たのは、かなり時間が経過してからになった。一応契約で定められた時間内には帰還できたものの、カイル船長やイングヴェ副長、気圏戦闘機隊の2人からは心配をかけたことで文句を言われたりもした。ウォーレン氏は特になにも言わなかったが、戦利品の山を見て、なるほど、と言った風情であった。

 

 

 

 今回の報酬は基本の任務達成の報酬以外に、戦闘が2回あったため、その危険手当と戦闘勝利によるボーナスも2回分ずつある。損害は、そこそこ叩かれたメックもあったが、なんとか装甲板のみの損傷で済み、弾薬を消耗しただけであった。これは契約により、恒星連邦より支給される。

 更に戦利品としてスティンガー、ワスプ、パンサー、ジェンナー、K型フェニックスホーク、デルヴィッシュの6機、破壊したのがスコーピオン戦車2輛とジャベリン、ドラゴンの2機と大量であった。戦利品は全て恒星連邦が接収するが、それに対するボーナスが鹵獲機の価格の1/10、また破壊した車輛や機体の1/100の価格に相当するボーナスがそれぞれ支払われた。ただし、支払いは全てダヴィオン家の発行するダヴィオンHビルである。

 Hビルと言うのは、5つある継承王家が各々で発酵している紙幣だ。例えばダヴィオンHビルはダヴィオン家が支配する恒星連邦内では十全な価値を持つが、他のライラ共和国、自由世界同盟、カペラ大連邦国、ドラコ連合などでは価値はあまり保障されない代物だ。コムスターが発行しているCビルは、何処の国でも完全な価値を持っているため、傭兵部隊はそれによる報酬支払いを好むが、それが叶えられることは、一部の例外を除きほとんどないと言えよう。

 何はともあれ、キース率いる傭兵小隊『SOTS』は最初の任務を無事成功裏に終わらせることができた。惑星カサイには一般市民は住んでいないため、彼らは1回のジャンプで行ける近場の惑星へ移動し、そこで打ち上げと初勝利の祝宴を開いたのであった。

 

「「「「「「かんぱーい!」」」」」」

 

 一同がグラスをぶつけ合う。皆、笑顔だ。

 

「まあ今回もリカルド……じゃなく、ハリー・ヤマシタの奴は見つからなかったけど、なんとか損害も無く任務達成できたし、まあまあよかったわよね。」

 

 エリーザがにこやかに言う。マテューは頷いた。

 

「そうだね。……ただ私は今回、課題が浮き彫りになった。格闘戦に頼ってばかりじゃなく、射撃の腕を磨かないと。」

「う゛……。あたしももうちょっとで命中しないって事が多かったなあ。圧倒的な火力を誇るウォーハンマーだってのに、もう少しだけでいいから射撃の腕、上げないと。」

 

 先ほどとは打って変わって、エリーザが沈む。そこへアンドリューが話題を変えようと、キースに話を振った。

 

「しっかし隊長は凄かったよな。隊長の砲撃指示した地点に、敵が吸い込まれる様に移動するんだからよ!」

「あー、う、うちは代々由緒正しい着弾観測員の家柄なんだ。父さ……父もああ言った芸は身に付けてたよ。うん。」

「いや、砲撃の指示はウォルト様よりも正確でしたですのう。ウォルト様よりも着弾観測員の才能は、高いかもしれませんで。」

 

 サイモン老の手放しの賞賛に、キースは飲んでもいないのに顔を赤くする。それを見て、周囲の者は笑い声を上げた。マイク、ジョアナ、ジェレミー、パメラ、カイル船長、イングヴェ副長などの後から仲間入りした組は、その様子に目を丸くする。

 マイクが唖然とした様子で言葉を紡ぐ。

 

「隊長って、なんか思ってたのと違うっすよね……。プライベートでは、あんなもんなんっすか?」

「ん?ああ。そうだぜ?なんせ、まだ若いからなー。見た目は老け顔だけど。」

「……幾つなんすか?」

「んー。俺たちよりも年下だとは言っとく。」

 

 アンドリューの返答に、マイクは唖然とした様子で、グラスに手を伸ばしてそれを呷る。そして噎せた。

 

「ぶっ!な、なんだこれ、ジュースっす!酒じゃないっす!」

「仕方ないわな。ここはライラ共和国でなく、恒星連邦なんだからよう。飲酒可能な年齢は、惑星にもよるけど21歳からでの。まあわしらは問題ないども、飲んじゃいけない連中さしおいてわしらだけ飲むのも、申し訳ないだわさ。」

 

 サイモン老が訳知り顔でうんうん頷く。ジョアナもマイクを宥めた。

 

「ま、諦めなさいな。飲みたければ、船に戻ってからにしましょ。」

「くそ、ガラテアまで戻ってから宴会しようって提案すりゃよかったっすよ……。」

「諦めなさい。マテューさんも21歳だそうだけど、我慢してるんだし。それにそれより年下の面々だって、ライラ共和国じゃ平気で飲んでたのに、こっちじゃ飲めないんだから。」

「うがー!」

 

 マイクの叫びに、周囲の者たちは笑い声を上げる。キースはそんな彼らを見て、何とはなしに懐かしさを覚える。それは傭兵大隊『BMCOS』にいた頃の思い出と重なったのだ。彼はその事に思い至り、ふと顔を伏せる。そして仇討ちの決意を強くした。

 だがキースは、とりあえずその思いを脇に置いておく。今は、今だけはただ仲間と笑い合っていよう、それが彼らや、そして喪われた者たちへの礼儀だ、と思ったからである。




初任務は、滞りなく終了いたしました。隊の皆のチームワークも問題なく、仲も良いようです。さて、次の仕事はいったい何処でどうなるのでしょうか。


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『エピソード-004 歩兵分隊』

 3025年の8月初頭、キース率いる傭兵小隊『SOTS』は惑星ガラテアの首都ガラテアシティへと戻って来ていた。新しい仕事を探すためである。仕事の条件は、恒星連邦がスポンサーであること、そして恒星連邦ドラコ境界域における任務か、もしくはドラコ連合ゲイルダン軍管区への攻撃任務であることだ。キースたちの小隊の中核メンバーにおける大部分が、ドラコ連合に所属しているハリー・ヤマシタという人物か、もしくはその関係者を仇として狙っているのである。

 無論キース自身も、その1人だ。彼と彼の郎党であるサイモン老は、元『アルヘナ光輝隊』の部隊員及びその司令官であったトマス・スターリングを、仇として狙っている。だがハリー・ヤマシタが、『アルヘナ光輝隊』が恒星連邦を裏切った事に何らかの関係を持っているらしいのだ。ハリー・ヤマシタは、ドラコ連合のスパイであるらしいことがわかっている。そしてそのスパイには、『アルヘナ光輝隊』になんらかの工作を行って裏切らせ、キースの父ウォルト・ハワードが所属していた傭兵大隊『BMCOS』を戦闘員、非戦闘員の区別なく虐殺させた疑いがかかっているのだ。

 それはともかくとして、仕事は案外あっさりと見つかった。恒星連邦ドラコ境界域の惑星ドリステラⅢへの、2ヶ月の駐屯だ。このような中途半端な時期に、中途半端な期間の駐屯任務があると言うのには、理由がある。同じ恒星連邦ドラコ境界域にある惑星マーダックに、ドラコ連合の惑星イラーズンに駐留していた傭兵大隊『タキザワ傭兵武士団』が襲撃をかけてきたのだ。その規模は1個増強大隊、おおよそ1個大隊プラス1個中隊だ。ちなみにどこぞの部隊の様に、1個中隊でも大隊より大きいからと言って、連隊を名乗るような恥ずかしい真似はしていない。

 このときマーダックには部隊の再配置の都合上、一時的に1個中隊の戦力しか置かれていなかった。今回の襲撃は、その情報を知った上で行われたに違いない。恒星連邦はこの攻勢に対し、周辺の宙域から援軍をかき集めた。元々ドリステラⅢに駐屯していた傭兵部隊『グレート・ターヒル中隊』も、援軍に駆り出された部隊の1つだ。だが今度はドリステラⅢの防衛に穴が開く。それで泥縄的ではあるが、さほど信頼を置かれていない部隊でもかき集めれば何とか使えるだろうと、小隊規模の独立傭兵部隊を3個小隊=1個中隊規模集めて、留守番としてドリステラⅢに送り込もうと言うのだ。

 

「つまりは、まだまだ信頼されていない部隊だ、と言うわけだよな。まあ、それは仕方がないけど。この間、初任務をこなしたばかりだからなあ……。」

「そうだね。まあでも、信頼されていない部隊にしては随分と条件がいい契約だと思うよ。なんせ、行き帰りの推進剤は支給、もし任務中に戦闘があった場合は消耗した装甲板と弾薬は支給。その上、装甲板以上の損傷を受けた場合は、正規軍の備蓄している修理部品を正規の値段で売ってくれるんだから。割増価格じゃなしに。」

 

 キースの言葉に応えたのは、この傭兵隊の副隊長をやっているマテュー少尉だ。今彼らは、宇宙港ガラポートに停泊しているレパード級降下船ヴァリアント号の食堂を兼ねた会議室におり、来客を待っていた。やがてブリッジからインターホンで連絡が来る。

 

『お客が来ましたよ、隊長。』

「ありがとう副長。船長にも都合がつくなら面接官として参加してくれる様に頼んでおいたんだが、どうなったかな?」

『船長はちょうど仕事を終わらせて、そちらの部屋に向かったところです。』

「ありがとう。じゃあ。」

 

 キースはインターホンを切る。マテュー少尉が顔を引き締めた。

 

「さて、それではここからお仕事モードですね。」

「ああ、そうしよう少尉。」

 

 2人の気配が変わる。なれなれしい雰囲気が消え、キースは若干偉そうな口調に、マテュー少尉は丁寧な口調になった。やがてカイル船長と、偵察・整備兵分隊を統率するサイモン老が入室してきた。

 

「船長、サイモン曹長、こちらに座ってくれ。」

「ああ。隊長、ここでいいかね?」

「わかりもうした、隊長。」

 

 椅子に腰かけると、カイル船長が質問をする。

 

「隊長、今日は何人くるのかね?」

「全部で7人だが、まとめて7人全員を雇うかどうか決める面接だからな。」

「歩兵1個分隊ですな。こちらが履歴書で?ああ、健康診断と身体検査の結果も付属してますな。」

 

 サイモン老が14通の書類を手に取り、めくりながら読む。キースは頷いた。

 

「ああ。だから実際に質疑応答するのは、リーダーの分隊長とだけになるな。……前に所属していた傭兵部隊が破産して解散し、次の部隊を探しているところらしい。」

「けれど要求が少しずうずうしいですね。実際に雇われるときに、装備品を整えたいので支度金が欲しいそうです。」

 

 マテュー少尉が、少し眉を顰めつつ言う。キースはにやりと笑ってそれに応えた。

 

「もし気に食わん人物であるなら、雇わんだけだ。確かに地上にいる間、バトルメックや気圏戦闘機、降下船の警備をしてくれる歩兵は必要としているが、信用できん人物はかえって毒だからな。」

「ですな。お、来たようですぞ。」

 

 カイル船長が言うとほぼ同時に、部屋の自動ドアが開いた。先頭に立って客人を案内してきたのは、偵察兵のアイラ伍長だ。

 

「失礼します。お客人をお連れしました。」

「ありがとう伍長。では下がっていい。」

「はい。」

 

 アイラ伍長が部屋の外へ出て行く。そこに残されたのは、7人の男女だった。彼らは服装は統一されて――おそらくは以前の部隊の制服――おり、全員がきっちり整列して直立不動の状態である。一番端に立っている中年男性を除いては、皆若い、と言うかまだ幼い感じを受ける少年まで1名混じっている。

 その中年男性が、1歩前に進み出て名乗りを上げる。敬礼はしない。歩兵が敬礼するという事は、その相手の戦死を意味する、とキースは何処かで聞いたことがあった気がした。

 

「自分がこの分隊の分隊長、エリオット・グラハムであります!前の部隊での最終階級は軍曹でした!」

「ご苦労軍曹、楽にしてくれていい。俺がこの傭兵部隊『SOTS』の隊長、キース・ハワード中尉だ。隣にいるのが順に、副隊長のマテュー・ドゥンケル少尉、このレパード級降下船ヴァリアント号の船長カイル・カークランド少尉、そして俺の郎党でもあり偵察・整備兵分隊のトップをやっている整備兵サイモン・グリーンウッド曹長だ。」

「はっ!総員、休め!」

 

 エリオット軍曹――今はまだ入隊が決まっていないから階級は無いのだが――の掛け声に合わせ、直立不動だった6名が少し足を開いて立ち、少しだけ緊張を解く。キースはちょっとだけ困る。

 

(あー、座ってくれていいって言うつもりだったんだけどな。言える雰囲気じゃあなくなっちゃったよ。)

 

 キースは、彼らの顔を順に眺めた。

 

「ふむ。テリー・アボット伍長、ロタール・エルンスト上等兵、ヴィクトル・デュヴェリエ一等兵、ラナ・ゴドルフィン一等兵、ジェームズ・パーシング一等兵、ジャスティン・コールマン二等兵……で良かったかな?」

「「「「「「!!」」」」」」

 

 全員の顔が驚きで彩られる。だがエリオット軍曹が睨むと、一瞬で平静な顔色に戻った。ちょっとだけ額に汗している者も何人かいたが。

 

(へえ……。訓練が行き届いてるなあ。)

「全員の名前を、覚えておいてくださったのですね。」

「まあ、な。これから命を預けることになるかもしれん相手だ。提出された履歴書ぐらいはしっかり読むとも。」

 

 ここでマテューが口を挟む。彼はわざと嫌味な口調を使う。

 

「しかし、入隊に際し支度金が欲しいと言う要求はどうかと思うね。」

「……はっ!申し訳ありません!」

 

 エリオット軍曹は、生真面目な態度を崩そうとしない。だが彼はその事に関する説明もしなかった。言いわけになってしまう、との思いがあるのだろうか。

 

(そう考えてる節もあるか。生真面目そうな人物だし。……ん?)

「あ、え、ええと……。」

 

 後ろに並んでいる兵士たちのうちの、まだ幼さの抜けない少年が口を挟もうとして、詰まる。エリオット軍曹がその少年を怒鳴った。

 

「ジャスティン二等兵!きさま上官同士の話に口を挟むとは何事かっ!!後で腕立て300回だ!!」

「も、申し訳あ……。」

「ああ、待て軍曹。」

「は……。」

 

 キースは笑って言った。

 

「今はまだ、俺は君たちの上官じゃあない。また、そうなるとも決まっていない。君たちを雇うにしろそうでないにしろ、今が言いたいことを言える最後のチャンスかもしれんぞ?」

 

 それはその通りだ。彼らを雇った場合、キースは正式に彼らの上官と言う立場になる。二等兵が中尉という雲の上の存在に、まともに話をできるわけがない。そして雇わなかった場合は、それでおしまいだ。ジャスティン二等兵はだが、それでも迷っている様だった。キースは、あと一押ししてやった。

 

「……命令だ、話せジャスティン・コールマン二等兵。」

 

 先ほどの台詞と矛盾するが、キースはあえて「命令」した。ジャスティン二等兵は、堰を切ったかの様に話し始める。

 

「は、はいっ!ぐ、軍曹は、軍曹殿は悪くありません!悪いのは前の部隊の、『ベクルックス軽機団』のクソ部隊長なんですっ!ぶ、部隊が破産して解散するときに、あのジェイク大尉の豚野郎は、部隊の金を、財産を、かき集めてとんずらしやがったんです!お、俺たちの個人の金で買ったはずだったライフル銃や防弾チョッキまで勝手に売り払いやがって!給料も3ヶ月分未払いのままで!

 それで、それで……。今日明日の飯にもみんな困ってるんです。軍曹殿は、自分個人の貯金まで切り崩して、皆の面倒を見てくれて……。でもその金もほとんど尽きて……。だから軍曹殿は無理な話だと思っても、支度金が欲しいって……。

 ちくしょう、俺たちが1個分隊にまで減っちまったのも、ジェイクの野郎の無茶な命令のせいだってのに。自分のメックが逃げるために、歩兵部隊をサンダーボルトに突っ込ませたんだ。アキーム少尉もシャルルの奴も、あいつのせいで……。偵察小隊のソニア中尉も、火力小隊のアルトゥール中尉も、勇敢に戦って死んだのに、あいつと指揮小隊だけとっとと逃げやがって……。それなのに奴は部隊の金と自分のクルセイダーだけ持って……。ちくしょう、ちくしょう……。」

 

 ジャスティン二等兵は泣いていた。他の兵士たちも、目が潤んでいる。エリオット軍曹は唇を噛みしめて黙っていた。

 キースはサイモン老、カイル船長、マテュー少尉に順に目を遣る。カイル船長は頷き、マテュー少尉は仕方ないと言った風情で苦笑、サイモン老は以心伝心というべきか既に電卓を叩きはじめている。サイモン老は小さな声で言った。

 

「あー、坊……隊長。1人あたりレーザーライフルと軍用パワーパック、軍用自動拳銃に予備カートリッジ、高速振動剣にパワーパック、防弾チョッキって所ですかな?」

「あと月給1ヶ月分相当の前金を支給してやれないか?」

「え……と。まあ、大丈夫でしょ。全部でメックの装甲1.5t弱ぐらいの出費ですかのう。装甲兵員輸送車は、彼らで無いとしても既に歩兵を雇うこと前提で予算を組んでましたから、今のやりとりには関係ないですがの。

 ……お互い泣き落としには弱いですの。」

「無理に言わせて、泣かせたのはこっちだ。仕方あるまい。……それに、人格的には信頼が置けそうだしな。」

 

 キースはエリオット軍曹に向き直る。

 

「……軍曹。」

「はっ!」

「君たち全員を雇おう。この場で契約書を書いてもらい、今日中に今の宿を引き払ってこのヴァリアント号の空き船室に移って来てくれ。装備品は全部こちらで支給する。それと支度金だが、全員で1750Cビルだ。

 契約書を書いたら、さっそく行動を開始してもらうぞ。サイモン曹長、彼らの身体検査の書類を見て、防弾チョッキのサイズを調べて発注してくれ。それと武器類の発注もだ。」

 

 エリオット軍曹は一瞬目を丸くするが、すぐに直立不動の体勢を取る。彼は朗々たる声で言った。

 

「ありがとうございます!」

「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」

 

 6名の歩兵たちが唱和する。その顔は喜色に溢れている。マテュー少尉がにこやかに微笑みながら言った。

 

「やれやれ、メック戦士たちに冷却パイロットスーツを購入するのが、随分と先になりますね。まあ、でも良い人材を得られたようですから、そちらの方がいいですな。」

「まあ俺は、身体に合う冷却パイロットスーツが発掘されないだろうけどな。」

「違いないですね。」

 

 キースの身長は2mを軽く突破し、身体つきも筋肉ムキムキのマッチョマンだ。星間連盟時代に、彼の様な体格のメック戦士が多かったはずがない。冷却パイロットスーツどころか冷却チョッキすら望めないキースは、今のところTシャツにトランクスという格好でメックに乗っていた。なおこの部隊に、冷却パイロットスーツや冷却チョッキなどの高級品を所有しているブルジョアはいない。

 まあそれはともかくとして、キースは再度インターホンを使いアイラ伍長を呼んで、契約書の書類を7通持って来てもらう。歩兵たちは規律正しく、しかし嬉しそうにそれにサインして行った。

 

 

 

 そして3日後、レパード級降下船ヴァリアント号は宇宙港ガラポートから発進し、惑星ガラテアを離れた。行き先は、ドリステラ星系の第3惑星、ドリステラⅢである。その旅程において、エリオット軍曹たち7名が、キースが16歳であることを知って驚いたりしたのは、余談である。




新しい、頼りがいのある仲間がまた増えました。優秀な歩兵、1個分隊です。彼らは今後、どんな活躍をしてくれるのでしょうか。


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『エピソード-005 思い出深き船』

 傭兵小隊『SOTS』の降下船、レパード級ヴァリアント号は、惑星ドリステラⅢの首都ドリステルより南に30km離れたところにある、ドリステラⅢ駐屯軍基地付属宇宙港の滑走路に着陸した。兵員待機室で、アンドリュー軍曹がぼやく様に言葉を発する。

 

「……な~んにも無い星だな。」

「星全体で200万人弱しか人口のない、農業惑星ですからね。一応他の工業惑星から、大型のコンバインやトラクターを輸入して大規模農業が盛んと言えば盛んなのですが。」

 

 資料をめくりながら応えたのは、この部隊の副隊長マテュー少尉だ。今はお仕事モードなので、言葉遣いが丁寧である。その言葉にエリーザ軍曹が目を丸くした。

 

「コンバイン?トラクター?農作業用ロボットの類は?」

「ああ。この星では直したり管理できる技術者が、極めて少なくてな。存在しないと言っても良い。星間連盟時代にはかなり大量に持ち込まれたらしくて、動かなくなったソレがあちこちの畑に点在してるとの事だ。まあ、もう修理もできない残骸なんだが。」

 

 隊長であるキースが、エリーザ軍曹の疑問に答える。こちらもお仕事モードなので、偉そうに聞こえる口調になる様、わざとそうしている。整備兵にして腕の良い医師のキャスリン伍長が、不思議そうに言った。

 

「……なんで、そんな辺ぴな農業惑星に、1個中隊も部隊を駐屯させるんですか?」

「惑星自体に価値があるわけじゃない。軍事的に重要な場所に、この惑星があるんだ。ここはドラコ境界域の首都であるロビンソンまで近いし、他の重要な惑星にも近い。ここをドラコ連合、クリタ家に奪われでもしたら、敵にとって重要な橋頭堡となる。それは断じて許されん。

 だからもしもここが襲われた際に、増援が間に合うまで持ちこたえられる様に、1個中隊を随時駐屯しておくはずだった。だが今回ここよりもう少し重要な惑星マーダックが攻撃を受けたのでな。ここを守っていた部隊を援軍として引き抜いた。それ故に、俺たちに出番が回ってきたんだ。」

「「「「「なるほど……。」」」」」

 

 キースの説明に、キャスリンと、それ以外の数名が納得の言葉を返した。皆、内心では不思議だったらしい。ふとキースは、歩兵分隊分隊長エリオット軍曹の方へ顔を向けた。

 

「エリオット軍曹、兵たちに気分の悪くなった者は?」

「は!全員降下船での降下には慣れております!」

 

 見ると、新兵のジャスティン二等兵の顔色がちょっとだけ蒼い。だが頑張って我慢している様なので、キースは気付かないフリをした。彼は次にMRBから派遣された任務管理人、ウォーレン氏を見遣る。ウォーレン氏は先頃の初任務に引き続き、この小隊担当の管理人となっていた。

 

「ウォーレンさんは大丈夫ですか?」

「私も慣れておりますからな。大丈夫ですよ。」

 

 そこでインターホンが鳴る。ブリッジの船長からだ。

 

『隊長、着陸完了した。いつでも下船できるよ。基地から迎えのマイクロバスを出してくれるそうだ。』

「ありがとう船長。では諸君、行こうか。偵察・整備兵分隊はジープ、軽トラック、スナイパー砲車輛を、歩兵分隊は装甲兵員輸送車を船から降ろすように。バトルメック、気圏戦闘機を降ろすのは、整備兵たちが基地の整備施設を確認後にする。」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 キース達は、即座に下船準備に取り掛かった。

 

 

 

 降下船から降りると、既にマイクロバスがやって来ていた。運転手が、キース達に挨拶する。

 

「長旅ご苦労さまです。自分はエルンスト・デルブリュック曹長であります。傭兵小隊『鋼鉄の魂』の皆様方ですね?」

「ご苦労、曹長。俺が『SOTS』の隊長、キース・ハワード中尉だ。ここにいる以外の面々は今、車輛を降ろしているが、何処に持っていかせれば良いか?」

「は、ではこのマイクロバスの後についてこさせる様にしてください。ああ、降下船の船長以下船員の方は、また後で案内を出します。」

「了解した。皆は先に乗車していてくれ。」

 

 キースは通信機で、偵察・整備兵分隊と歩兵分隊に連絡を入れた後、最後にマイクロバスに乗り込んだ。マイクロバスは何処か壊れているんじゃないかと思うほどの酷いエンジン音を立てて、しかしそれ以外の震動は少なく滑らかに発車した。

 

 

 

「ようこそドリステラⅢ駐屯軍基地へ。待っていたよ、『SOTS』の諸君。自分が『機兵狩人小隊』の隊長、メック戦士アルバート・イェーガー中尉だ。サンダーボルトに乗ってる。」

「よろしくお願いします、イェーガー隊長。自分が『SOTS』隊長のキース・ハワード中尉です。グリフィン乗りです。」

「ああ、いやファーストネームでかまわんよ。と言うか、堅苦しいのは勘弁だ。階級も同格だし、君、俺、で行かんか?」

「……了解です、アルバート中尉。ただ俺は随分年下なので、そちらを呼ぶ際は「あなた」で勘弁してください。」

 

 苦笑しつつ言うキースに、アルバート中尉は笑って言った。

 

「了解だ。いや、若いってのは本当だったんだな。書類で送られてきた写真を見たときは、年齢欄の記載ミスかと思ったよ。ははは。」

「……老け顔なのは気にしてるんです、勘弁してください。」

「では、ここにいる面々だけでも、お互いの隊員を紹介しておこうか。いや、自己紹介でいいな。」

 

 アルバート中尉がそう言うと、彼の後ろに並んでいた者たちが順番に名乗り始めた。

 

「……メック戦士サラ・グリソム少尉です。」

「え?それだけ?せ、せめて乗機くらい言わないと少尉!D型フェニックスホークだって!あ、お、俺、いえ自分はメック戦士ギリアム・ヴィンセント伍長です!エンフォーサーを使ってますっ!」

「メック戦士アマデオ・ファルケンハイン伍長です。乗機はシャドウホークです。2ヶ月の間ですが、よろしくお願いします。」

「整備兵のヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長です。アルバート・イェーガー中尉の郎党ですので。そちらの整備兵の方々は、先に整備棟に?では後ほどそちらにもご挨拶させていただきますわね。」

 

 今度は『SOTS』部隊員の番だ。

 

「メック戦士マテュー・ドゥンケル少尉です。標準型のウルバリーンを使っています。よろしくお願いします。」

「同じくメック戦士、アンドリュー・ホーエンハイム軍曹。乗ってるのは熱くて薄くて弾薬が少ないとか色々言われてるけど、使い方を間違えなければ強力なライフルマンだ!」

「……気にしてるのがバレバレよアンドリュー。あたしはメック戦士エリーザ・ファーバー軍曹です。ウォーハンマーを使ってます。」

「俺は航空兵のマイク・ドーアティ少尉っす!乗機のライトニング戦闘機は、恒星連邦でならよく見るから知ってるっすね?よろしく頼むっす!」

「もう少し丁寧に……。私は航空兵ジョアナ・キャラハン少尉です。乗機はこのバカと同じライトニングです。」

「ちょ!バカは無いだろっ!?」

 

 そんな中、双方の部隊員でない者たちも互いに挨拶を交わしていた。

 

「やあ、ウォーレンじゃないか。」

「パオロか、久しぶりだな。そちらの小隊の受け持ちかね?」

「ああ。そちらの受け持ちの小隊も、有望そうじゃないか。」

「うむ。ああ、隊長。こちらは私の同僚です。向こう様の任務管理人に指名されたみたいです。」

「そうですか、よろしくお願いします。」

 

 キースはパオロと呼ばれた人物に挨拶をする。どうやらウォーレン氏同様、パオロ氏もMRB、ひいてはコムスターから派遣されてきた任務の管理人らしい。とは言っても、ウォーレン氏の同僚ということはコムスター本体の人間ではなく、下請けなのだろう。

 ここでアルバート中尉が再度口を開く。

 

「ところで……。生臭い話で申し訳ないのだが、指揮権の話をしなければならないんだ。」

「ああ、それは大事な話ですね。ですが契約書には、指揮は『機兵狩人小隊』隊長が一時的に大尉待遇となって総指揮を取る、となっていましたが。」

「ああ。だが緊急時における現場の判断とかは、きちんと認めるつもりだ。それと各小隊の個々への指揮は任せるつもりさ。君らのことはまだよく知らんからね。無理を強いてもどうにもならんだろ?」

「……助かります。」

 

 ここでアルバート中尉はにやりと笑う。

 

「だからと言って、責任をおっ被せたりはしないから、安心してくれよ?責任を取るのが大人の仕事ってもんだ。な、若者。」

「……重ね重ね、助かります。」

 

 キースは頭が下がる思いだった。

 

 

 

 3日後、キースは駐留軍基地内にある練兵場の広場に立っていた。彼の前には51名の人間が、30名と21名に分かれて整列している。彼らはドリステラⅢの住人で、助手整備兵、いわゆる助整兵の募集に応募してきた者と、歩兵の募集に志願してきた者たちだ。どちらもが、キース達の小隊がこの惑星上に駐屯している2ヶ月の間だけの臨時雇いである。

 だが場合によっては、才覚を示すことにより正規雇用される可能性も無くも無い。中にはそれを期待している者たちも、そこそこの数混じっている。この惑星は、若者たちにはあまり魅力的では無いのだ。それに給料も、この惑星の他の仕事よりかは良い。だからこの職場は、けっこうな人気があった。この51名は、熾烈な就職戦線を潜り抜けてきた、選ばれた者たちでもあったりしたりするのだ。

 キースはその彼らを前に、訓示をしていたのである。

 

「……という事だ。歩兵部隊に志願してきた者も、助整兵に志願してきた者も、できる限り貪欲になって欲しい。助整兵になるという事は、科学技術を学ぶ良い機会であるし、歩兵としての技術を上位者から学び取ることも、この平和とは言えない時代には、無駄にはならないだろう。それ故に……。」

 

 キースの話はそれほど長くはなかった。たとえどんなに話の中身が良くとも、あまり長く続けていては退屈されるだけである事を、彼は前世の記憶と『ロビンソン戦闘士官学校』での経験から知っていた。ましてや彼は話の中身に自信はさほど無い。ならば、それらしい事をちょっと言ったら、さっさと切り上げる方が配下になる者たちからは喜ばれると言うものだ。

 彼は後を整備兵のリーダーであるサイモン老と、歩兵の長であるエリオット軍曹に任せ、基地の指令室へ向かった。彼は本当であれば鍛錬のためにトレーニングルームへ向かいたかったところなのだが、アルバート中尉から通信で呼び出しを受けたのである。

 指令室の発令所に着くと、アルバート中尉がさっそく話しかけて来る。

 

「やあキース中尉、困ったことになったよ。」

「何が起きたんですか?」

「惑星軍から連絡があったんだけどね。惑星軍の大型レーダー施設と、衛星との通信設備が一時に故障したそうだ。」

 

 キースは目を見張る。

 

「それじゃ、軌道上の監視体制が……。」

「そう言うこと。しばらくできなくなった、と言ってきたんだ。だが……。両方一度に、となると……。まさかとは思うんだけどね……。」

「……気圏戦闘機を飛ばしましょう。2機だけでも、無いよりましです。」

 

 アルバート中尉は頷いた。キースは早速マイク少尉とジョアナ少尉に連絡を入れる。彼らはすぐに機体の準備をする、と言って格納庫に飛んで行った。ちなみに、今惑星駐留軍である彼らの元にあるのは、キースの『SOTS』小隊にあるライトニング戦闘機2機だけだ。アルバート中尉の小隊には、気圏戦闘機は無かったのである。

 キースとアルバート中尉が懸念しているのは、これが何者か……つまりはドラコ連合の破壊工作であった場合のことである。もしもそうならば、次に来るのは軌道上の監視が無いのを見計らっての、敵戦力の降下だ。

 

「まずいですね……。残り1個小隊がまだ揃っていないのに……。」

「今日明日にも到着するはずなんだがねえ……。」

「……惑星軍のレーダー施設や衛星管理の基地に、我々の整備兵を送れませんか?我々の整備兵の、一番腕が低いものですら、この惑星の技術者よりはましな腕を持っています。」

 

 だがアルバート中尉は首を横に振る。

 

「それをしたいのは山々なんだけどな。我々の契約先はMRB仲介で恒星連邦本体だ。で、惑星軍はドリステラ公爵ザヴィエ・カルノー殿の管轄なんだよな。契約関係が複雑になってて、互いの人材のやりとりが書類上とかの関係で、著しく困難なんだ。」

「ああ……。そうでしたね……。」

 

 キースもそれは既に痛感していたことだった。彼が歩兵を惑星軍から借りずに、自前の資金を割いてまで臨時雇いの新兵を集めた理由がそれだったからである。惑星軍の熟練した歩兵が1個小隊でも借りられるならば、新兵など集めていない。だがそれは、お役所仕事という巨大な壁の前に挫折せざるを得なかった。それが故に、臨時雇いの歩兵を集めて訓練する羽目になっていたのだ。

 キースは気を取り直す。

 

「CAP(戦闘空中哨戒)の計画を練りましょう。2機で全てをカバーするのは無理です。ですから我々の基地上空の軌道要素を中心にして……。」

「うん、それは仕方ない。だからこう……。」

「いえ、そこは……。」

「なるほど、だったら……。」

 

 キースとアルバート中尉は、即興でCAPの計画を立てた。そしてマイク少尉とジョアナ少尉のライトニング戦闘機が、その計画に従って轟音と共に飛び立って行く。アルバート中尉が、ぽつりと言った。

 

「……取り越し苦労で終わってくれないかなあ。」

「無理でしょう。」

 

 キースは難しい顔で応えた。

 

 

 

 やがてしばらく後、ウォーレン氏とパオロ氏が指令室へ駈け込んで来た頃に、ジョアナ少尉から連絡が入った。キース達は指令室の発令所でそれを受ける。

 

『降下軌道を取っている降下船を2隻発見しました。片方はレパード級もしくはレパードCV級、もう片方はユニオン級です。』

 

 発令所に緊張が走る。アルバート中尉の方を、キースは見た。アルバート中尉は頷く。任せる、と言う意味だ。ジョアナ少尉はキースの隊である。アルバート中尉は、最初の約束を違えるつもりは無い様だ。

 

「通信を試みてくれ。所属を問いただして停船命令を出すんだ。ただし粒子ビーム砲や長距離ミサイルの射程外からな。降下船2隻に気圏戦闘機1機や2機で立ち向かうのは無茶だ。マイク少尉もすぐに向かわせるが、できる限り交戦は避ける様に。」

『了解。』

 

 ジョアナ少尉が決まり文句を並べたてた通信を、2隻の降下船に送る。

 

『そこの2隻の降下船に告ぐ。こちら恒星連邦軍ドリステラⅢ駐留軍所属機。ただちに所属を明らかにして、停船しなさい。』

『こちら恒星連邦軍所属、レパード級降下船リライアント号。そちらの基地に、お客さんを……傭兵小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』を届けるところだぜ。可愛い声のお嬢さん?

 ああ、それとこの連れのユニオン級は、更に追加の増援を載せた、傭兵相手の運送屋の船ニューアーク号だそうだ。ジャンプポイントでちょうど一緒になったんで、ここまで一緒に来たんだ。ちゃんと確認も取れてるぜ?なんかこの惑星、狙われそうだって話で、更に追加で1個中隊送り込んだんだそうだ。』

 

 ジョアナ少尉機に中継された通信で、発令所にオペレータ達の安堵の声が広がった。そのとき、ライトニング号から送られてきたカメラ映像――発令所側の機材の関係で静止画だが――が発令所のスクリーンに映し出される。

 その映像を見た瞬間、キースは通信機のマイクに向かい叫んだ。

 

「ジョアナ少尉!そいつは敵だ!180度回頭して離脱しろ!」

『は、はいっ!』

「ど、どうしたんだキース中尉?」

 

 キースはアルバート中尉の問いに応えようとした。だが次の瞬間、ジョアナ少尉の悲鳴のような声が通信機から響く。

 

『ああっ!れ、レパード級が!』

「ジョアナ少尉!正確に報告しろ!」

『し、失礼しました!ユニオン級ニューアーク号がレパード級リライアント号に突然発砲しました!リライアント号は小破し、今全力で離脱を試みています!当機は現在離脱軌道を……。あっ!ニューアーク号から気圏戦闘機が2機、発進しました!65tのシロネ戦闘機です!こっちを追撃してきます!』

『ジョアナ!今行くから持ちこたえろ!』

『マイク!』

 

 ギリリッ!

 

 歯ぎしりの音が響く。無論、キースの立てた音だ。アルバート中尉はキースに尋ねる。

 

「何故、あの降下船ニューアーク号が敵だと分かったんだい?」

「……あれはニューアーク号じゃ、ありません。あれはドラコ連合に、クリタ家に寝返った傭兵部隊『アルヘナ光輝隊』に奪われた、俺の元所属していた傭兵大隊『BMCOS』の降下船、ゾディアック号です!

 一目見ればわかります!あれは俺の家だった船です!俺の家です!!ちくしょう!!」

 

 キースの顔は、憤怒で青黒く染まっていた。アルバート中尉も、その場にいた誰も、彼にかける言葉が無かった。




任地に着いて幾ばくかもしないうちに、敵襲です。一足先に任地に来ていた仲間たちとともに、主人公は奮戦することになるでしょう。次回をご期待ください。


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『エピソード-006 救出』

 今、キースはドリステラⅢ駐屯軍基地の整備棟にやって来ていた。そこには2機の50t級気圏戦闘機、ライトニングが格納されていた。その機体は酷く叩かれ、大きなダメージを負っている。だが、それでもこの電光の名を持つ2羽の鋼の猛禽は、その主を守り通したのだ。

 

「なあジェレミー、パメラ、これ直るよな?」

「大丈夫よね……?」

 

 マイク少尉とジョアナ少尉が、不安そうに尋ねる。だがジェレミー伍長とパメラ伍長の口は重い。その態度に、マイク少尉は絶句し、ジョアナ少尉は悲しそうな声を上げる。

 

「そんな……。」

「あ、いえ直るとは思います。思いますが……。僕らの腕じゃあ……。」

「た、たぶんメーカー修理になると思います。私たちの腕とここの設備じゃあ……。悔しいですけど。」

 

 ポカ!ポカ!

 

「「あ痛!」」

「何馬鹿なこといっとるんだ。この程度でよう。」

 

 サイモン老がジェレミー伍長とパメラ伍長の頭をどついた。

 

「だ、だけどこれだけ損傷したら……。」

「普通ならメーカー送りに……。」

「ああ、大丈夫だ。お前たちの腕前が悪いとは言わんが、サイモン曹長の技術とは悪いが比べものにならん。サイモン曹長が直ると言ったなら、必ず直る。」

「「あ!隊長!」」

 

 キースはサイモン老の隣に立つ。マイク少尉とジョアナ少尉は唖然としている。ジェレミー伍長とパメラ伍長は驚きの声を上げた。

 

「ええっ!?サイモン分隊長って、バトルメックが専門じゃあなかったんですか!?」

「他に砲術も学んでるのに!?」

「……サイモン曹長は、車両、電子機器、大砲、バトルメック、気圏戦闘機、降下船、航宙艦、機械と名が付く物なら何でも来いのハードウェアの達人だ。」

「坊……隊長、照れてしまいます。その辺にしといてくれませんかのう?それにわしにも弱点はありますな。ソフトウェアに関しては、そこのパメラ嬢ちゃん……おっと、伍長ほども知識は無いですのう。」

 

 サイモン老は、ちっとも照れくさくなさそうに、むしろ自慢げな様子で言う。だが彼も、少しだけ首を傾げた。

 

「けどなあ……。部品さえ届けばなんとでもなるが……。まあライトニングは恒星連邦でよく使われてる機体だからの。すぐ、とまでは言わんが、じきに部品は手に入るさね。」

「ああ、やっぱりすぐには直らないんっすね。」

「贅沢言わないの、マイク。さっきまでと比べたら天国と地獄よ。メーカーにまで持ってかなくても直るんだから、時間は大きく違ってくるわ。」

 

 マイク少尉とジョアナ少尉も、元気になったとは言い難いが少しは持ち直した様だ。そしてキースが彼らに声をかける。

 

「しかし良くやってくれた。敵のシロネ戦闘機を2機とも撃墜してくれたからな。ユニオン級に搭載できる気圏戦闘機は通常2機まで。もしバトルメック格納庫を潰して貨物として積載していたとしても、そうなれば今度はバトルメックの数が減ってくる。まあ、そこまでする奴はまずいないはずだ。

 だから敵にはもう気圏戦闘機は無いはずだ。これは大きい。惑星軍の衛星管理基地の設備が復旧すれば、こちらは超高空からの監視が行えるようになり、敵にはそれをどうこうする能力は無い。その上あちらの高空からの目も、まず心配いらないわけだ。君たちのおかげで俺たちは勝利に大きく近づいたと言える。」

「「隊長……。」」

 

 マイク少尉もジョアナ少尉も、何やら感動しているらしい。そのときキースの懐で、通信機が音を立てた。

 

「ん?ああ、アルバート中尉からの呼び出しの様だ。もう行かねばならん。

 ……サイモン曹長?どうした?」

「いや、応急修理して飛ばす様にはできるんですけどのう。地面を歩くバトルメックと違って、飛んでるうちに万が一不具合が起きたら命が危ないですからの。やはり応急修理はやめた方がいいですかのう……?」

「そう、だな。なんとか部品を手に入れる算段は付けるから、部品が届くまで待ってくれ。ではな。」

 

 キースはそそくさと、その場を立ち去った。

 

 

 

 指令室の発令所に入ったキースは、アルバート中尉が難しい顔をしているのに気付いた。

 

「キース中尉、ただいま参りました。」

「……ん、お、おう。来たか。……キース中尉、君はもう大丈夫か?」

「……正直、はらわたは煮えくり返っています。ですが、だからと言って暴走などしたら部下が死にます。自分も死にます。だから、落ち着きました、いえ、無理にでも心を落ち着けました。」

 

 アルバート中尉は、一瞬痛ましいものを見る様な目をしたが、即座に表情から同情の色を消す。

 

「そうか。なら大丈夫だな。

 ところでつい先ほどだが、墜落したと思われたレパード級降下船リライアント号から連絡が入ったんだよ。『デヴィッドソン装甲巨人隊』以下乗船していた人員18人は、全員が無事……とまでは言えないが生きているってことだ。バトルメックも損傷はなし。ただし船長、砲撃手2名、そして悪いことに船医が大怪我だとさ。」

「船医が……。衛生兵や看護兵は?応急手当ができる人間は?」

「悪いことに、居ないそうだよ。医療知識のある人間が動けない状態だからな。動かせるかどうかすら判断できないらしい。だから医療の技術がある人間を、そこまで連れていかねばならん。万が一、敵と遭遇する可能性も考えれば、メック部隊を随伴させなければならんが……。

 ……すまんが、行ってくれないか?うちの小隊は敵がいる以上、ここから動かせないんだ。」

 

 にやりと笑みを浮かべて、キースは応える。

 

「あなたの隊を動かすわけにはいかないでしょう。あなたが総指揮官なんですから。それに幸いにして、うちの隊には医者がいますからね。

 ……ところで。格納庫で埃を被ってるフェレット偵察ヘリコプターを見たんですが、貸してもらえませんか?先行偵察および万が一の際に緊急に患者を搬送するために。この基地に置いてあるってことは、惑星軍の装備じゃなく、元々の駐屯軍の装備なのでしょう?」

「あれはパイロットが居なくて、放りっぱなしになってた代物だよ?貸せと言われれば貸すけれど、整備も満足にしてないで動くのかい?それにパイロットは?」

「パイロットはマイク少尉とジョアナ少尉が、今手が空いてますからね。それに整備なんですが……。

 すいません、うちの偵察・整備兵分隊長が暇つぶしと助整兵たちの訓練を兼ねて、勝手に弄り回してまして。俺が気付いたときにはもういつでも完全に飛べる状態でした。」

 

 一瞬唖然としたアルバート中尉だったが、苦笑して頷いた。

 

 

 

 そしてキース麾下のバトルメック小隊『SOTS』は、今まさに道なき道を進んでいた。サイモン老操るスナイパー砲車輛と、ジェレミー伍長運転の軽トラック、それにジープと装甲兵員輸送車も一緒について来ている。ジープと装甲兵員輸送車は歩兵小隊――臨時雇いの歩兵たちを合わせて、今は分隊から小隊規模になっていた――のテリー伍長とジャスティン二等兵が運転している。装甲兵員輸送車を運転しているジャスティン二等兵にはその方面の才能があるらしく、ジェレミー伍長よりもよっぽど上手く運転していた。車輛がこれだけ多く付いて来ているのは、バトルメックに乗るだろうメック戦士4名を除いても、14人もの人数を運ばねばならないからである。

 ちなみにエリオット軍曹も付いて来たがったが、彼には臨時雇いとは言えど大事な部下である歩兵たちの訓練を見てもらわねばならなかった。それ故、涙を飲んで諦めたと言う事情がある。

 先行するのはマテュー少尉のウルバリーンとエリーザ軍曹のウォーハンマーのツートップ。その後に車輛群を挟んで、アンドリュー軍曹のライフルマン。殿にキースのグリフィンが付いていた。

 そのとき、先行して偵察していたフェレット偵察ヘリコプターのマイク少尉とジョアナ少尉から連絡が入る。

 

『隊長!レパード級リライアント号発見!敵バトルメック2個小隊に襲撃されています!リライアント号からは『デヴィッドソン装甲巨人隊』と思われる中量級バトルメック小隊が出て戦ってますが、このままでは勝ち目はありません!』

「ジョアナ少尉、敵陣容を報告せよ。こちらはすぐに急行する。それと現場に近寄り過ぎて撃墜されるな。

 サイモン曹長、スナイパー砲車輛はこの位置で停止。こちらからの砲撃指示を待て。」

『了解!』

『了解!敵陣容は、ドラゴン1、ライフルマン1、ウルバリーン1、シャドウホーク1、K型フェニックスホーク1、通常型フェニックスホーク1、ジェンナー1、ジャベリン1です!』

 

 キースは自分の指揮下にある全バトルメックに命令を下す。

 

「全機全力走行!1分1秒でも早く、たどり着け!味方を死なせるな!」

『『『了解!』』』

 

 傭兵小隊『SOTS』のバトルメックは、全力疾走を始めた。

 

 

 

 最初に戦場に着いたのは、マテュー少尉のウルバリーンとキースのグリフィンだった。エリーザ軍曹のウォーハンマーと、アンドリュー軍曹のライフルマンはどうしても機動力という点では先の2機に及ばない。

 

「……と言う位置だ。頼んだぞサイモン曹長。……ほう、いい位置にいるな。」

 

 キースは走行状態から歩行状態に移行すると、グリフィン右手の粒子ビーム砲を照準する。狙うのは丘向こうのライフルマンだ。そのライフルマンはキース機の位置から見て、部分遮蔽状態になっていた。だがあえて、キースは丘の稜線をガイド代わりに使い、ライフルマンの上半身を狙い撃つ。

 粒子ビームが走った。

 次の瞬間、ライフルマンの頭部は消し飛んでいた。マテュー少尉からの賞賛の通信が入る。

 

『凄い射撃技量ですね。私もあやかりたい物です。』

 

 そう言いつつ、マテュー少尉はオートキャノンを乱射しながらウルバリーンを敵陣に突入させる。そしてK型フェニックスホークに隣接すると、6連短距離ミサイルと中口径レーザーを撃ち、更にキックを放つ。オートキャノンは盛大に外れたが、6連短距離ミサイルは6発中5発が敵の左脚に命中し、中口径レーザーもその部位に命中した。その傷ついた脚にキックが命中した瞬間、敵機の左脚は根本から吹き飛んでいた。

 

「充分やるじゃないか。」

『いや、まぐれです、まぐれ。いえ本当に。』

 

 改めて見ると、既に『デヴィッドソン装甲巨人隊』のバトルメックのうち2機、クリントとウィットワースは地に這わされている。通常型とD型の2機のフェニックスホークが、決死の覚悟で最後の戦いを挑もうとしていたところだった。隊長機らしい通常型フェニックスホークから、キースのグリフィンとマテュー少尉のウルバリーンへ、一般回線で通信が入る。まだ相手は基地に一度も来ていないため、秘匿通信の回線登録がなされていないのだから、当たり前と言えば当たり前だが。まあIFFは恒星連邦軍であることを示しているから、敵だと誤解はしないしされない。

 

『助かったわ。特に今のK型フェニックスホーク、脱出した部下を、リシャールを殺そうとしてたのよ。ありがとう。』

『そうだったんですか?脱出したメック戦士を殺そうとは……許せませんね。』

「話は後だ。まだ敵は多いぞ。」

 

 そう、まだ敵はドラゴン、ウルバリーン、シャドウホーク、通常型フェニックスホーク、ジェンナー、ジャベリンの6機が残っている。こちらの数は4機だ。まだ敵の方が有利である。

 

「……マテュー、敵のウルバリーンとシャドウホークを抑えろ。ただし格闘戦は避けろ。『デヴィッドソン装甲巨人隊』の2機、そちらは相当傷ついている。下がって大口径レーザーでの支援射撃に専念してくれるかね?」

『そんなに長くは持ちませんよ。』

『了解よ。ヴェラ、あなたも下がって。』

『は、はい……。』

 

 マテュー少尉機が、全開射撃をしながら戦場を走り抜ける。その射撃はわずかに中口径オートキャノンだけが命中したが、敵をひるませる効果はあった様だ。敵のウルバリーンとシャドウホークは動きを止められる。ジェンナーとジャベリン、通常型フェニックスホークの3機が、味方側の傷ついたフェニックスホーク2機に止めを刺そうとマテュー機を迂回して走り寄った。

 キースは呟く。

 

「甘い。」

 

 グリフィンの粒子ビームがジャベリンを、10連長距離ミサイルがジェンナーを叩く。ジャベリンは右胴に大穴を開けられて、6連短距離ミサイル発射筒を破壊された。一方でジェンナーは右腕の中口径レーザーのうち1基を吹き飛ばされる。キース機は発熱により、操縦席が真昼の砂漠にでもいるかの様に暑くなった。Tシャツとトランクスが、キースの身体に汗でへばりつく。

 『デヴィッドソン装甲巨人隊』の傷ついた2機のフェニックスホークは、ゆっくりと後退しながら大口径レーザーを敵のフェニックスホークへ撃つ。隊長機と思しき通常型フェニックスホークの射撃は当たったが、一番装甲の厚い胴体真ん中に当たる。だが敵のフェニックスホークも、それまでそれなりのダメージを負っていたのか、180mの最大ジャンプで後退した。ジャベリンとジェンナーも、自機に可能な最大ジャンプで後退する。

 

「マテュー少尉、もう少しだけ耐えられるか?」

『ちょっとまずいです。内部構造へのダメージはまだ無いですが、装甲板がかなり傷んできました。』

「わかった、交代するぞ。」

 

 キースはグリフィンを全力ジャンプで前進させる。熱が溜まっているため、それを放熱せねばならないので射撃は無しだ。マテュー少尉のウルバリーンは右手のオートキャノンを撃ちながら、これも全力ジャンプで後退する。2機の位置が入れ替わった。キースはマテュー少尉機との交戦で大きく傷ついた敵ウルバリーンの下半身に、グリフィンの蹴りを入れさせる。敵ウルバリーンとシャドウホークも蹴りを入れて来るが、今回は敵味方共に蹴りが外れた。キースは卓抜した操縦技量で転倒を回避する。敵ウルバリーンも転倒を回避したが、シャドウホークは無様に転倒した。

 

「……!マテュー少尉!K型フェニックスホークだ!まだ奴はやる気だ!」

 

 キースの叫びに、マテュー少尉は反射的にオートキャノンと6連短距離ミサイル、中口径レーザーを、先ほど脚を吹き飛ばして無力化したと思い込んだK型フェニックスホークへと撃ち込んだ。左腕で機体を起こし、味方の通常型フェニックスホークめがけて右腕装備の大口径レーザーを撃ったK型フェニックスホークであったが、その射撃は外れた。そこに6連短距離ミサイルが降り注ぐ。オートキャノンと中口径レーザーは残念ながら外れたが、短距離ミサイルは6発中5発がその左腕へと命中し、既に装甲が削れていたその腕を崩壊させた。これでこのK型フェニックスホークが使える武装は、右腕で機体を起こしたとしても胴中央の小口径レーザー1門であり、近接射程に入らなければ全く攻撃力は無いも同然だ。今度こそこの機体は無力化された。

 そこへ2条の粒子ビームと、2射の中口径オートキャノン、1本の大口径レーザーの光条が降り注ぐ。キースのグリフィンを2機がかりで叩こうとしていた敵のウルバリーンとシャドウホークに、それぞれ1本の粒子ビーム、2発のオートキャノンが命中した。敵が動揺を見せる。エリーザ軍曹のウォーハンマーと、アンドリュー軍曹のライフルマンが到着したのだ。駄目押しに、遠距離から時々しか当たらない支援射撃を行っていたドラゴンに、スナイパー砲の砲弾が命中した。

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 ドラゴンはたまらず籠っていた高地を捨て、逃げに入った。重量差は既に逆転している。ウルバリーン、シャドウホーク、通常型フェニックスホーク、ジェンナー、ジャベリンは戦意を喪失して最大ジャンプで逃げ出した。キース達は追い撃ちに各々の武装を一連射だけする。シャドウホークの右胴と左胴に何発か背後から命中し、中口径オートキャノンと5連長距離ミサイル発射筒を吹き飛ばしたものの、それで敵には逃げられてしまった。だが今回は、敵を殲滅するのが目的ではない。

 キースは戦闘の片が付くまで遠ざけていた車輛群を呼び寄せる無線連絡を行うと、『デヴィッドソン装甲巨人隊』の通常型フェニックスホークに一般回線で通信を入れた。

 

「仲間達は全員無事かね?」

『ええ、おかげさま。私は小隊長のアーリン・デヴィッドソンよ。階級は中尉。』

「こちらは傭兵小隊『SOTS』のキース・ハワード中尉だ。よろしく頼む。医者を連れてきた。と言っても、うちの部隊の隊員なのだがね。

 ……と、忘れるところだったな。」

 

 グリフィンが、K型フェニックスホークに歩み寄る。そしてその粒子ビーム砲を、頭に突き付けた。キースは外部スピーカーで降伏勧告を行う。

 

「お前の仲間どもは逃げた。大人しく降伏しろ。」

 

 K型フェニックスホークの頭部装甲が開いた。両手を上げて、メック戦士が出て来る。

 

「……わかった!降伏するから撃つな!アレス条約に則った扱いを!」

『脱出したメック戦士を殺そうとしたくせに、勝手なこと言うわね。』

「あ、あれは命令されてやったんだ!俺の意志じゃないんだ!」

 

 K型フェニックスホークのメック戦士は、アーリン中尉のフェニックスホークに向かい、必死に命乞いをする。キースはこの男に言った。

 

「お前には、聞きたい事が山ほどある。その返答次第では……。」

「……わかった、何が聞きたい?」

「それは基地に帰ってからだ。お前を恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地まで連行する。」

「今更抵抗はしない。何処へでも連れてってくれ。」

 

 男はふて腐れた様に言った。

 

 

 

 大怪我をしたレパード級降下船リライアント号の船長以下船員たちは、結局緊急処置をされた上でフェレット偵察ヘリコプターで、設備の整った医療施設のある基地まで運ばれた。鹵獲したバトルメック及び擱座した『デヴィッドソン装甲巨人隊』のバトルメックは、キースたちの機体で駐屯軍基地まで運ばれた。

 リライアント号については、修理が可能かどうか調べ、不可能ならば使える部品を回収するために、後日整備兵が送り込まれる予定だ。ただし降下船付きの整備兵の見立てでは、一応短い距離を飛べるようにするのは、難しいが不可能ではない、とのことである。短い距離でも飛べれば、駐屯軍基地まで動かせるし、そうすればもっと詳しい調査が可能だと思われた。

 だが不可解なのは、敵の思惑である。リライアント号を襲ったのは、孤立したこちら側の戦力の一部を、各個撃破しようと言う物であろう。だが残り1個小隊が、まったく姿を現していないのだ。これがゾディアック号の守備に就いているのならば、まだわかる。だがそうでなかった場合は……。確保した捕虜の尋問は、重要な任務になりそうである。




来援予定の味方戦力は、これで全て惑星上に揃いました。ただ、やってきたアーリン中尉の小隊は半壊してますが……。でもなんとか、死者は出ませんでした。
さて、敵の思惑はいったい何でしょうか。次回をお楽しみに。


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『エピソード-007 降下船問題』

『お前の名前と階級、所属は?何処の部隊だ?』

『俺はアキトモ・タナカ軍曹、第4アン・ティン軍団C大隊第3中隊所属だ。バレンチナから遠征してきた。』

『何故この惑星に遠征を?』

『それは知らされていない……。』

 

 ドリステラⅢ駐屯軍基地では、捕虜の尋問が行われていた。尋問官は、エルンスト・デルブリュック曹長……以前キース達がこの惑星に到着した時、迎えのマイクロバスを運転していた男である。ちなみにキースの部下の整備兵、パメラ伍長も尋問に付き添い、その調書を取っていた。パメラ伍長は尋問技術の初歩を学んでおり、補助と勉強の目的で付き添っていたのだ。

 キースとアルバート中尉は、尋問室の隣の部屋――マジックミラーと盗聴器で、尋問室の中の様子がわかる――で尋問室の様子を伺っていた。キースは小さく呟く。

 

「なかなか、しぶとい……。」

「そうだな。けれど時間の問題だよ。エルンスト曹長は尋問のエキスパートだ。」

 

 アルバート中尉の言う通り、アキトモ軍曹は少しずつ態度を変えて行った。

 

『……遠征目的は知らされていないが、整備兵などの技術者、偵察兵、それにバトルメックを持ってないメック戦士養成校出身者の、メック戦士階級の家の3男やら4男やらが数多く、すし詰め状態で乗せられて来たのが気になった。』

『ほう?つまりはメックを継承させてもらえなかった、バトルメック操縦能力を持つ者たちと言うことだな。』

『ああ、その通りだ。』

 

 嫌な予感を覚えたキースは、思わずその懸念を口にする。それはバトルメックや気圏戦闘機、戦車や降下船まで奪われた傭兵大隊『BMCOS』の悪夢が蘇ったからだ。

 

「メックを持たないメック操縦者たちと、偵察兵に整備兵を大量に……。まさか、奴らは我々のバトルメックをそいつらに与えるつもりでは無いでしょうね。」

「いや、それはどうかな……。いやまさか……。」

「しかしやつらがこの惑星に連れて来た大量のメック操縦者にサポートの整備兵、偵察兵。この惑星でバトルメックが手に入るとでも言わんばかりじゃないですか。」

「うん。だが我々のバトルメックが狙いというよりは、この編成……。なんか遺跡発掘隊とでも言いたい編成だね。」

「!!」

 

 尋問室の中では、新たな展開になっていた。

 

『ところでアキトモ・タナカ軍曹。お前はハリー・ヤマシタ、トマス・スターリングのどちらかを知っているかね?』

『……両方知っている。』

 

 アキトモ軍曹が、嫌そうに顰められる。どうやらその人物が嫌いな様だ。

 

『そのハリー・ヤマシタは、最近……つい半年前に新設されたD大隊の大隊長に就任した男だ。嫌な奴さ。そのうちD大隊を拡張して、第13アン・ティン軍団を創設するって噂もある。だが俺は奴がそんな栄光ある地位に相応しい人物だとは思えないね。

 そしてトマス・スターリングはそのハリー・ヤマシタと随分親しい人間だ。元々は外部の傭兵部隊の長をやってた人間が抜擢されて、これも半年前に俺が所属するC大隊の大隊長になったんだ。そんな下賤な輩が気に入る物かよ。……と、あんたらも傭兵部隊だったな。すまん。』

『いや、かまわんさ。』

『……あんたらは、傭兵部隊でもトマス・スターリングとは随分違うな。今、C大隊とD大隊の半分がところは、奴の子飼いか、ハリー・ヤマシタの子飼いが入ってる。脱出したメック戦士を殺せと命じた火力小隊の小隊長も、ハリー・ヤマシタの腹心の1人さ。

 元からC大隊にいた連中は、半分がD大隊に移籍させられた上で場合によっては降格させられて、スターリングかヤマシタの手下の、更にその部下に組み入れられた。C大隊に残った者たちも同じような状況だ。だから今C大隊とD大隊の半数ほどは、面従腹背の奴らが多いよ。それどころか、クリタ家のやり方に疑問を持ってるやつも出て来てる。』

 

 アルバート中尉は、手元の計器に目を落とす。

 

「ふむ、嘘発見器に反応は無いね。本気でトマス・スターリングとハリー・ヤマシタを嫌ってる様だ。」

「すいません、俺たちの私事であるのに尋問内容に組み入れてもらってしまって。」

「かまわんさ。」

 

 尋問室の中では、エルンスト曹長が新たな質問をしていた。ある意味これが最も大事な質問だ。

 

『で、降下船ゾディアック号は今どこにあるのかな?教えてくれないか?』

『……ッ!?なんでその船名を!?ニューアーク号と名乗っていたはずだ!』

『おっと、質問してるのはこっちだ。』

『……そうか、スパイかなんかが居るんだな。正直、自分の命は惜しいから、話したいのは山々なんだが、今上官になってる奴らとその取り巻きの、スターリングやヤマシタの手下どもはどうでもいいが、苦楽を共にした下っ端仲間や降格させられた元上官なんかが、あの船には乗ってるんだ。着陸場所を教えるわけにはいかない……。処刑されても、だ。』

『衛星管理システムが復旧すれば、すぐに見つかるぞ?そうなればどうせその情報は秘匿しても意味のない物になる。ここで点数を稼いでおいて、情状酌量の余地を残しておいた方がいいと思うが。脱出したメック戦士を殺そうとしたのは、いかに命令で未遂とは言え、ちょっとまずい。』

『いや!なんと言われてもそれだけはできない!積極的に裏切りたいやつもあの船にはいるが、絶対に裏切れない者も同じ船にいるんだ!』

『……。』

 

 

 

 尋問が終了し、キースとアルバート中尉は司令室にやってきた。指令室ではなく司令室、司令官の部屋のことであり、今現在はアルバート中尉が使用している。アルバート中尉はため息をついた。

 

「ゾディアック号の位置は、分からないか。エルンスト曹長はああ言ったけども、惑星軍の衛星管理基地のシステム復旧は、この星の技術者の力量じゃあかなり先になりそうだって報告が入ってる。

 君の小隊の偵察兵はどうだった?逃げた敵メックの足跡を追ったんだろう?」

「それが駄目でした。途中で河川があって、その中を歩いていった様です。フェレット偵察ヘリコプターを飛ばしたんですが、河川から上陸した地点は見つからなかった、と言うより判別できなかった模様です。ボートかホバークラフトでもあれば、地上側からじっくりと偵察できたんですが。

 気圏戦闘機の部品は手配できませんか。ライトニング戦闘機が直れば、超高高度からの偵察で、ユニオン級降下船のようなデカブツなら発見が可能かと。」

「いや、発注はしてるんだ発注は。次か、次の次の補給船には載って来ると思う……んだけどねえ。その補給船がいつ来るか、ちょっとわからん状態なんだ。こんなことなら、最初にライトニングの部品も買っておけばよかったなあ。装甲板と弾薬だけなら、恒星連邦も沢山備蓄を用意してくれてたんだけどねえ。

 それに『デヴィッドソン装甲巨人隊』のバトルメックの修理も頭が痛いなあ。特にウィットワースとクリントは、それぞれ片脚を折られて駆動装置をいくつかやられてるし。フェニックスホーク2機も、致命的損傷こそ無いもののマイアマーをやられてるから……。『デヴィッドソン装甲巨人隊』が持ってきた修理部品じゃあ、フェニックスホークどちらか1機を完動状態に持っていくのが関の山だよ、はぁ……。」

 

 キースは考え込む。と、そのとき基地の外から轟音が聞こえてきた。キースとアルバート中尉は窓に駆け寄る。駐屯基地付属の小さな宇宙港の滑走路に、1隻のズタボロのレパード級降下船が、滑空はできないほど船体が痛んでいるので、推進剤を大量に使うがやむなく垂直着陸する所だった。

 

「おお、リライアント号か。回収に成功したんだね。」

「サイモン曹長の手腕があれば、短時間飛べるくらいに応急修理するのは不可能ではありません。それにうちのレパード級ヴァリアント号を操船しているカイル船長の技量があれば、半壊状態の船であろうと、なんとかここまで持ってくることも……。サイモン爺さんか……。もしかしたら……。

 すいません、今大事な時期だとはわかってますが、サイモン曹長を少し整備の仕事から外してかまいませんか?」

「いかにサイモン曹長が達人とは言え、部品が無ければ腕の振るいようが無いからね。かまわないよ。装甲板の修理と弾薬の補充程度しか、今はできる事がないんだ。それなら、他の整備兵でも簡単にできる。

 でも、何をするつもりだい?」

「実は……。」

 

 アルバート中尉は、キースの考えに承認を与えた。キースは即座にサイモン老を連れて、この星のコムスター施設へと出向いていった。

 やがて数日後、この惑星の保有貴族である、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーから直々に依頼があり、雑多な手続きをすっ飛ばして駐屯軍の整備兵を、惑星軍の故障したレーダー基地と、これも惑星軍の故障した衛星管理基地に派遣することが決まった。これはサイモン老が恒星連邦政府の高官に送った、コムスターによる超光速通信メッセージの結果である。サイモン老は、恒星連邦政府の上層部に複数のコネクションを保有しているのだ。ちなみにライラ共和国の上層部にもコネクションを持っているが、今は関係ない。

 サイモン老とキースは恒星連邦政府の高官に頼み、恒星連邦政府からの指示という形でドリステラ公爵に対し、「惑星軍が駐屯軍に助けを求めるように命令を出せ」と言うメッセージを出してもらったのである。

 そしてドリステラ公爵のお墨付きをもらった駐屯軍は、整備兵を惑星軍の2つの基地に派遣した。サイモン老が衛星管理基地、アルバート中尉の郎党であるヴァランティーヌ曹長がレーダー基地に派遣された。

 

 

 

 戻って来たサイモン老と、ヴァランティーヌ曹長を、アルバート中尉、アーリン中尉、そしてキースが迎える。整備兵2人にはそれぞれ、ネイサン軍曹とエルンスト曹長が付き従っている。アルバート中尉はヴァランティーヌ曹長に片手を上げて見せた。

 

「よう、どうだった?」

「あぶないところでしたわ。潜り込んでいたスパイに、もう少しで射殺されるところでしたの。エルンスト曹長がいなければ、今頃は……。それと、ちゃんとレーダーシステムの破壊工作は証拠も見つけて、機能修復しておきましたわ。」

「こっちも同じでしたのう。ネイサン軍曹が、高速振動剣で襲い掛かって来たスパイを、同じく高速振動剣で首をはねたんですわ。衛星との通信は、既に復旧しております。今、猛烈な勢いでリライアント号不時着地点を中心に、周辺の地上写真を撮影しまくっておりますわい。」

 

 キースは肝が冷える。襲われる可能性を承知の上でサイモン老を派遣し、護衛にネイサン軍曹を付けてやったのだが、それでも万が一サイモン老が喪われていたらと思うと、ぞっとした。だが、彼は責任ある立場だ。無理矢理動揺を抑え込むと、笑顔でネイサン軍曹に礼を言う。

 

「ネイサン軍曹、サイモン曹長を守ってくれてありがとう。」

「はい。ですがスパイを生かして捕らえることができませんでしたよ。達人とまでは言いませんけど、けっこうな腕前でしたし、こっちもそれほど強いわけじゃありませんから。」

「それは仕方ないなあ。無理に相手を捕らえようとして、こちらが死んじゃあたまらんよ。」

 

 ネイサン軍曹の言葉に、アルバート中尉が慰めるような調子で応えた。エルンスト曹長が頷く。

 

「そうですな。スパイ網の調査は惑星軍に任せておきましょう。それよりこちら側として大事なのは、降下船ゾディアック号の位置です。」

 

 その言葉に、その場の全員が頷く。アーリン中尉がアルバート中尉に質問をした。

 

「見つけたら、具体的にどうするつもりなのかしら?」

「うん、放って置くわけには絶対にいかないからなあ。かと言って、直接当たってもユニオン級の火力には負けるし……。」

「メック部隊とレパード級降下船を囮にして、迷彩服で偽装した歩兵を降下船内に突入させるのは……やっぱり難しいですかね。」

 

 そう言ったのは、エルンスト曹長だ。彼はアルバート中尉麾下の『機兵狩人小隊』が集めた歩兵に対する、訓練教官の役割も受け持っていた。キースは驚いた。

 

「同じことを考えてたんだな、曹長。ユニオン級に限った話じゃないが、降下船を陥落させるのは、内部に侵入するしか無いと俺も思う。ただ、確かに問題は大きいな。」

「ええ、確かに。我々にとってレパード級降下船は虎の子です。それを囮に使うとなると、失敗したときのリスクが大きすぎる。それとメック戦士はメックに誇りを持ってますからなあ。それを囮に使うのは、感情が許さないかもしれません。」

「……うちの『SOTS』小隊に限って言えば、それは我慢してくれると思う。ただ……。」

 

 キースは口ごもる。アルバート中尉はにやりと笑う。

 

「うちの『機兵狩人小隊』も、その辺は大丈夫だぞ?3人とも若いが、それだけに柔軟だ。」

「こっちの小隊も、そこは気にしないでいいわ。先日そちらから助けられたばかりだし。ただうちは今稼働メックが2機しかなくて、1機は装甲こそ張り替えたけど中身は傷んでるのよね。」

 

 アーリン中尉もアルバート中尉に追随する。ただキースの顔色は、まだ優れない。

 

「他にも問題はあります。歩兵たちに多大な負担をかけることもそうです。それにもう1つ……。仮に作戦が成功したとして、ゾディアック号を手に入れたとします。ただ、それで儲けることになるのは、うちの小隊だけという事になりかねないんです。」

「へ?」

「ああ、それ気にしてたんだ。」

 

 アーリン中尉は頭にクエスチョンマークを浮かべるが、アルバート中尉は思い当たることがあった様だ。

 

「ああ、あのユニオン級降下船ゾディアック号は、昨年の年末から今年の始めにかけての時期に、不法な手段でキース中尉の元の部隊から奪われた物なんだそうだよ。で、キース中尉がその部隊のメック戦士階級の、唯一の生き残りなんだよね。つまりはキース中尉に、あのユニオン級を相続する権利が正式にあるんだよ。」

「???」

「あー、まだわかんないか。あのユニオン級を奪還するとだね、キース中尉の物だから恒星連邦はアレを接収するわけにはいかないんだ。となると、恒星連邦はアレを奪還したことによる報奨金やなんかは出さない可能性が極めて高い。場合によっては戦闘一時金すら出ないかもね。その辺は、契約書なんかの文面をよ~く読んで、専門家やMRBの管理人のヒトにも聞いてみないといけないけどね。

 だからと言って、アレを放っておくわけには絶対にいかない。この惑星を守ると言う契約上、戦わないという選択肢は無いも同然だし。それ以前に、あれを放っておくと敵の拠点や補給源として使われるからね。あれを放置するということは、敵の戦闘力や勝率を上げるってことになる。」

 

 アーリン中尉は、がーん、と言った風情でのけぞる。キースは申し訳なさそうに言った。

 

「その分の、戦闘報奨金とかの分を、俺の部隊で補填できれば良いんですが……。そこまでうちの小隊は資金潤沢じゃないんで……。」

「そうですのう……。出せても普通に敵メックを1~2機ぐらい鹵獲した金額程度ですのう。ふう。しかもそれをやると、うちの経営は一気に赤字転落です。」

 

 電卓を叩きながら、サイモン老がぼそぼそと言う。心なしか、その肩が落ちている。アーリン中尉は俯いた。そしてその肩がぷるぷると震えだす。今にも怒鳴り出すんじゃないか、と、周囲の皆の腰が引ける。

 と、アーリン中尉はがばっと顔を上げた。そしてキースの両肩にその両手を置く。キースの身長は2mを軽く超えているので、小柄なアーリン中尉はまるで万歳をしているかの様だ。彼女は大声を上げた。

 

「キース中尉!」

「はい!?」

「ウチの部隊、丸ごと抱え込む気、ない!?」

「!?」

 

 キースは、わけがわからないよ、と言う顔をする。ちなみにアルバート中尉は、ああその手があったか、と手をぽんと叩く。アーリン中尉は言葉を続けた。

 

「うちの小隊、お金無いのよ。自前の降下船を持ってないから、移動の際にいちいち雇用先や他から借りなきゃならないのよね。それに航宙艦もないし。だから赤字スレスレのカツカツなのよ。降下船借りるのに片道6万Cビル、航宙艦で運んでもらうのに1ジャンプで降下船1隻につき5万Cビル、ちょっと遠い星系に行くならジャンプ2回3回はあたりまえ。

 なのに今回は、借りた降下船は騙されて後ろから例のユニオン級に撃たれるし、墜落現場には2個小隊が攻めて来て虎の子のメック2機も脚折られちゃって、部品ないから修理の目処立ってないし、部品代は泣くほど高いし。メックが直らないと、稼ごうにも稼げないし。って言うかこれで壊されたレパード級リライアント号の修理代とかまで請求されたらもう泣くわよ!?泣いちゃうわよ!?人目も憚らず!!」

「は、はあ……。」

「あー、それは大丈夫だと思うぞ。リライアント号が後ろから撃たれたとき、騙されたのはお前さん方じゃなくてリライアント号の船長たちだからな。キース中尉のとこのライトニング戦闘機との交信記録はきちんと取ってあるから、証拠として使えるし。」

「ほんと!?よかったー……って、問題はぜんぜん解決してないのよ!今のままでも充分赤字なの!」

 

 アーリン中尉は、叫ぶ。キースは、最初の印象と随分違う人だなと、場違いなことを思う。

 

「でもね、君がうちの小隊を丸ごと抱え込んでくれれば、問題はかなり減るのよ!ゾディアック号だったわよね、あのユニオン級!あのユニオン級と今あるレパード級ヴァリアント号だっけ?全部で4個小隊載せられるわけでしょ。うちの部隊とキース君のとこの部隊、2個小隊載せてもまだ余る!しかもキース君ところは航宙艦もマーチャント級があるって言ってたわよね!」

「は、はあ。今は駐屯任務中ですので小銭稼ぎに商用降下船とか運ぶ旅に出てますが。」

「素敵!それって駐屯任務中にも別口でお金が入って来るってことじゃない!……正直、私ってメック戦士や指揮官としてはともかく、商売人としては赤点が付くと思うのよね。自分で部隊経営までやらなきゃならない、独立傭兵部隊のトップとしては失格じゃないかって……。

 だから下請けでも吸収合併でもいいから、お願い!キース君のところで面倒見てちょうだい!」

 

 キースは慌てる。アルバート中尉は後ろを向いて肩を震わせている。たぶん笑っているのだろう。

 

「ま、待ってください。まだゾディアック号を取り戻したわけでは無いんですよ?獲らぬ狸の皮算用です……。」

「だったら狸を獲ってみせるだけよ!待ってなさい狸!今猟師が大口径レーザー持って狩りに行くから!」

「そちらやこちらの部隊員たちに相談も無しで、いいんですか?」

「こっちは文句は言わせないわ!いつも私が赤字スレスレの帳簿に苦労してるの、見てただけなんだから!」

 

 がっくりと肩を落とし、キースは観念する。

 

「……うちの部隊員に相談してみます。アルバート中尉の方は、どうしますか?」

「うちは余裕があるからね。なあヴァランティーヌ曹長。私の郎党である彼女が、うちの隊の財布をきっちり握ってるんだよ。」

「はい、こういうアクシデントに備えて、資金の備蓄はしっかりしていますわ。それにうちの部隊はまだ戦闘に参加していませんから、戦闘報奨金や危険手当はありませんが、その分メックの保全も十全ですし、修理用予備部品も各機充分に揃えてありますの。」

「という事だよ。君は心配しないでゾディアック号を取り戻すことに専念しなさい。……って、私も作戦に参加するから人ごとじゃないな。ははは。」

 

 その後、両小隊の隊員たちを交えた話し合いの結果、今回の2ヶ月間の駐屯契約が終了するまでは、MRBを介しての恒星連邦との契約が絡んできて事がややこしくなるため、それまでは傭兵小隊『SOTS』と傭兵小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』は提携関係を結ぶことに留め、2ヶ月間の契約が満了後、『SOTS』が『デヴィッドソン装甲巨人隊』を吸収合併することで話がついた。ただし大前提として、ユニオン級降下船ゾディアック号の奪還作戦が成功することが条件となっている。ゾディアック号がなければ『SOTS』側に部隊を拡張する余裕は無く、また作戦が失敗したとなれば『デヴィッドソン装甲巨人隊』は更なる経済的危機に見舞われて、部隊維持すら困難になることは目に見えていたからだ。

 

 

 

 そして3日後、衛星写真の解析が終了し、ユニオン級降下船ゾディアック号の着陸地点が判明したとの連絡が、惑星軍から送られてきた。いよいよ作戦開始である。




アーリン中尉たち『デヴィッドソン装甲巨人隊』、経済危機!だいぴんち!!さあ、主人公達の出番だ!
いや、主人公達の財布にも、そんなにいっぱい余裕は無いんですけれどね。でも、この場合彼らを受け入れた方が利益は大きいでしょうね。降下船を敵から取り戻せることが、大前提ですが。


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『エピソード-008 我が家奪還戦』

 恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地では、3隻のレパード級降下船が発進準備をしていた。そのうちの1隻、リライアント号は正直見た目でわかるほどに痛めつけられている。ただサイモン老の応急修理により、惑星上を短距離――ユニオン級降下船ゾディアック号の着陸地点近傍まで――往復で飛ぶくらいの事は可能になっていた。

 そのリライアント号だが、未だに船長は入院中である。そのため軽傷であり既に退院した副長が操船を担当し、キースの隊から派遣された航空兵のマイク少尉とジョアナ少尉がその補佐に就くことになっていた。ちなみにこの船自体は戦闘には参加せず、ゾディアック号近場まで『デヴィッドソン装甲巨人隊』のフェニックスホーク2機と、今回の作戦の要である歩兵部隊――『機兵狩人小隊』が1個歩兵小隊、キースの『SOTS』が1個歩兵小隊――を運ぶだけである。

 そしてその歩兵部隊は、この3日の間に大急ぎで用意された、草原用迷彩服を着用している。ちなみに、どこら辺にゾディアック号が着陸しているかが判然としなかったため、この際だから色々な柄の迷彩服を一括で揃えていた。そのため、金額はちょっとだけ安く上がった。

 この歩兵部隊には通常の歩兵の他に、志願したサイモン老ら整備兵の一部と偵察兵たちが加わっている。サイモン老はかつてゾディアック号に長年乗組んでいたことがあったため、道案内兼特殊工作要員だ。またもう1人、整備兵の中からコンピュータの操作に長けたパメラ伍長も付いて来ている。彼女の役割は基本的に、ゾディアック号を取り戻した後の話だ。機密情報などを消去されたりしないうちにコンピュータの情報を奪ったり、消されない様にロック、あるいは消されたファイルの復元などを担当する。彼ら戦闘能力が無い整備兵たちの護衛役として、3人の偵察兵ネイサン軍曹、アイラ伍長、そして『機兵狩人小隊』からエルンスト曹長が付いて来ている。

 やがて3隻の発進準備が整う。レパード級降下船ゴダード号に搭載されたサンダーボルトに乗っているアルバート中尉が、全部隊に号令をかけた。

 

『全降下船、発進せよ!目標はユニオン級ゾディアック号より南に5km地点!全降下船は低空侵入した後、そこでいったんメックと歩兵を降ろし、リライアント号はそこで待機!ゴダード号とヴァリアント号は、メック部隊と歩兵部隊が進発した後にゾディアック号へと向かい、一撃離脱を繰り返す!メック部隊はそのまま前進し、ゾディアック号前に展開!囮攻撃を行う!バトルメックが出てきたならば、乱戦に持ち込め!

 歩兵部隊の諸君!今回の主役は君たちだ!我々戦場の王者バトルメックをさしおいて、ヒーローになるチャンスだぞ!ボーナスもはずむ、期待しておけ!歩兵部隊は通信封鎖してゾディアック号に接近、バトルメック降船ハッチが開いて降りてくるのを待ち、そこから突入せよ!後の指示は各歩兵部隊指揮官に従え!』

 

 キースは自分の乗機、グリフィンの操縦席でアルバート中尉の話を聞いていた。ユニオン級の攻撃力は凄まじい。また乗っている人員の数も多いだろう。歩兵部隊、メック部隊に被害が出ないだろうか、と彼は不安になる。だが彼は頭を振って、無理矢理に気を取り直す。彼は自分麾下のメック小隊に通信を繋いだ。

 

「傭兵小隊『SOTS』の皆、いよいよ第一歩だ!あの船を使っている連中の中に、恨み重なるハリー・ヤマシタやトマス・スターリングに連なる者たちがいる!叩き潰して貸した分をいくらかなりと返してもらおう!」

『こちらアンドリュー軍曹、了解!狙い目は前回逃がしたドラゴンだな!?あれがどうやら火力小隊の隊長機っぽかったし、ハリー・ヤマシタの腹心が乗ってるんだよな!』

『エリーザ軍曹、了解!アンドリュー?上級指揮官はみんな、ヤマシタやスターリングの手下だって話だったわよ?』

『マテュー少尉、了解!そうですよ。別にあのドラゴンばかりにこだわる必要はありません、よりどりみどりです。それと基本は我々は囮ですからね。歩兵部隊がユニオン級を制圧してから、奴らを逃がさない様にするのがいいでしょう。それまでは、せいぜい派手っぽく戦うフリだけして、目立ってやるんです。最初は時間稼ぎだと言う事を、忘れないでください?』

 

 アンドリュー軍曹は不敵に笑う。

 

『けどよ、倒せるもんなら倒しちまってもいいんじゃね?』

「残念だが、うかつに早目に倒してしまうと、ユニオン級が飛んで逃げる可能性がある。」

『あ……。そっか……。』

 

 キースの言葉に、アンドリュー軍曹は残念そうになった。キースはそんな彼に、再度発破をかける。

 

「だがゾディアック号を制圧した後なら、やり放題だ。奴らと我々では、若干だが腕前の平均値はこちらの方が上と見た。特にあのドラゴン、後方から静止射撃していたのに、ほとんど命中弾が無かったことからみて、カモだ。おそらくコネだけで上に行ったやつの典型に違いない。

 恨みを晴らすだけじゃなく、ぼろ儲けするチャンスだぞ?傭兵大隊『BMCOS』ではドラゴンは無かったからな。ウォーレンさんに契約の詳細について確認したところ、『BMCOS』のじゃない機体に関しては、鹵獲や撃破した場合報奨金が出るそうだ。」

『そ、そっか!ああ、なんかやる気が出て来たぜ!』

『元『BMCOS』の機体だったとしても、そうなったら隊長の所有物になるのよ?つまり、うちの部隊の機体も同然!』

『おお!ますますやる気が!』

 

 アンドリュー軍曹は元気になった。そしてカイル船長から通信が来る。

 

『隊長、うちの船の番が来た。離陸するよ。』

「わかった。今回は危険だからな、気を付けてくれ船長。」

『なに、こういう感覚が懐かしくて現役復帰したんだからね、私も副長のイングヴェも。大丈夫、船には傷一つ付けさせてたまるものかね。鈍重な地上のユニオン級なんかにね。』

「おいおい、あれは俺の家だったんだがな。」

『おっと失礼。では行くよ。』

 

 強烈な加速度が、身体にかかる。レパード級降下船ヴァリアント号は、凄まじい速度で基地付属宇宙港の滑走路を飛び出して行った。

 

 

 

 目的地までは、あっという間だった。彼らはバトルメックと歩兵を降ろし、ユニオン級降下船ゾディアック号めがけて出発した。歩兵部隊はここから作戦完了もしくは失敗した時まで通信封鎖を行い、見つかる可能性をできる限り小さくする。

 やがて彼らの機体のカメラに、巨大なユニオン級降下船が映った。キースにとっては、非常に感慨深いものがあると同時に、抑えきれない腹立ちが襲ってくる。と、アルバート中尉からの通信が入った。ちなみにアーリン中尉にもこの通話は繋がっている。

 

『キース中尉……。大丈夫だ、かならず成功するさ。必ず君の家は取り戻せるともさ。

 と言うか、成功しないと我々に後が無くなりかねないんだけどねえ。』

「ええ、確かに……。敵が連れ込んだ大量のメック戦士というか、その候補者。それに整備兵に偵察兵。我々のメックが狙いでなければ……。冷静に考えれば、我々のメックを狙うよりも良い方法なんていくらでもあるからその確率は低いんですよね。で、そうであるならば、次の可能性は……。」

『うん、確証は無いんだけどね。』

『それっていったい何の話なのかしら?』

『「あ。」』

 

 アーリン中尉は捕虜尋問の時にいなかった。だから情報の共有ができていなかったのだ。キースもアルバート中尉もすっかり忘れていたのだ。もっともその時点では、アーリン中尉は自分の小隊のクリントとウィットワースの損傷のことで、頭がいっぱい仕事いっぱいだったと言うこともあるのだが。

 アルバート中尉は、慌ててアーリン中尉に捕虜から得た情報のことを伝える。アーリン中尉が首を傾げる様子が、キースのグリフィンの通信用モニター画面に小さく映る。

 

『ってことは、もしかしたらこの惑星には……。』

「漁るに足る、何がしかの物が隠されている可能性が高い、ってことですよ。確証はない上に単なる憶測でしかないんですが。」

『だけどねえ……。最悪の事態に備えて、先手先手と手を打っておかないと、手遅れになったら大変だし。っと言ってる間に、出て来たよ。』

 

 アルバート中尉の言葉通り、ゾディアック号のメック用ハッチが展開して傾斜路になり、そこから4機のバトルメックが出撃してきた。それと同時に、ユニオン級の丸い船体の各所に付いている砲門が、キース達の方に向けて動き出した。

 

『4機?残りのバトルメックは、2機キース中尉の隊が鹵獲したから、最大10機のはずだ……。確認されている機体だけでも、あと2機存在するはず。何故出てこない?……くそ、キース中尉!アーリン中尉!作戦は予定通りだが、終わったらキース中尉の小隊を残して、私とアーリン中尉の隊は駐屯軍基地に急いで戻るぞ!万一だが、行き違いで基地を攻撃されていたら、たまったもんじゃない!』

『「了解!」』

 

 焦った声のアルバート中尉に、キースとアーリン中尉は返答を返す。そしてそのまま戦闘が開始された。キースは麾下の部隊に命令を下す。

 

「全機、走行移動による機動防御!更に熱が溜まらない程度に撃て!目標は敵フェニックスホーク!」

 

 見ると、一番まともな状態の敵機は、通常型のフェニックスホークであった。外観から判断するに、少なくとも装甲は完全である。逆に酷い状態なのがシャドウホークだ。以前の攻撃で吹き飛ばした5連長距離ミサイル発射筒は無くなったままであり、一応中口径オートキャノンは修理されているが、装甲はあちこち欠落して修理途中のまま出撃してきたのが分かる。

 ジェンナー、ジャベリンはシャドウホークよりはまだましだが、それでもジェンナーの中口径レーザー砲は1門が吹き飛ばされたままで、ジャベリンの右胴には真新しい装甲板が付けられているけれど、6連短距離ミサイル発射筒は駄目になったままであった。

 アンドリュー軍曹のライフルマンが、全力で走行して敵シャドウホークの中口径オートキャノンの着弾を避けつつ、大口径レーザー1本だけを敵フェニックスホークに撃つ。敵フェニックスホークはライフルマンの射撃を間一髪180mジャンプで避けると、アルバート中尉のサンダーボルトの方へ飛び去る。どうやらアルバート中尉が総指揮官だと見破った様だ。ゾディアック号の粒子ビーム砲と20連長距離ミサイル発射筒数基も、サンダーボルトへ集中砲火するが、全力走行している上に遠距離にいるその機体には命中しない。

 アルバート中尉の隊の副隊長をやっている、サラ少尉のD型フェニックスホークが、180mジャンプで敵フェニックスホークの前に割り込んで、右腕の中口径レーザーを照射した。だが相互に高機動しているため、そのレーザーは当たらなかった。同じくアルバート中尉の隊の、ギリアム伍長のエンフォーサー、アマデオ伍長のシャドウホークが、寄って来たジャベリンを迎え撃つ。ジャベリンは左胴の6連短距離ミサイルを発射、それは見事にアマデオ伍長のシャドウホークに4本の命中弾を与えた。だがお返しとばかりにそのシャドウホークから左脚を蹴られて、動きが急に鈍くなってしまう。どうやら腰の接続パーツを完全ではないにせよ壊された様だ。アマデオ伍長の声が聞こえる。

 

『あ!やり過ぎたか?』

『いや、その程度ならかまわん。だが時間稼ぎだからな、次は他の敵を狙ってくれよ?』

 

 アルバート中尉の注意が聞こえた。アーリン中尉の隊のアーリン中尉機フェニックスホークと、ヴェラ伍長機D型フェニックスホークは、高機動力を活かしてユニオン級の中口径レーザーと大口径レーザーの束を躱し、それぞれの機体に装備されている大口径レーザーでの反撃を行っている。だが距離が遠いためか、命中はしなかった。いやヴェラ伍長はともかく、アーリン中尉はわざと外したのだが。苦戦を演じて、歩兵部隊が船内に侵入するまでの時間を稼ぐためだ。

 次の瞬間、大空に爆音が響いた。ユニオン級の砲門が、今までバトルメックに向けられていた物も全て空へ向けられる。

 

『ひゃっほー!!』

『そうだ、これだよこれ!ああ、久しいなこの感覚は!』

 

 レパード級降下船ゴダード号船長ヴォルフ・カウフマン少尉と、レパード級降下船ヴァリアント号船長カイル少尉の声が通信機から響く。どうやら2人とも、戦争に酔っている様だ。飛び交う弾幕の中を、2隻のレパード級が飛翔する。

 

『うわ……。気圏戦闘機じゃないんですから……。』

 

 マテュー少尉のあきれた声が聞こえた。彼はウルバリーンを150mジャンプさせつつ、中口径レーザーを、わざと当たらない様に乱射している。それを見つつ、キースも粒子ビーム砲をシャドウホークの足元の岩肌にぶち当てた。見た目だけは派手な戦闘が続く。

 と、突然ユニオン級ゾディアック号からの火線が半分に減った。そして幾ばくかも経たないうちに、完全に沈黙する。敵バトルメックの動きが挙動不審になった。そしてアルバート中尉機、アーリン中尉機、キース機の各隊長機に、歩兵部隊からの通信が入る。

 

『坊ちゃん!……ゴホン、隊長!やりました!わしらの家は、取り戻しました!アルバート中尉も、アーリン中尉も、もう手加減する必要ありませんですわい!すぐにこちらからも、援護射撃開始しますでの!』

「サイモンじ……曹長、やったな!各自、もう手加減なしでいいぞ!全力で叩け!」

『『『了解!』』』

 

 マテュー少尉が、温存していた6連短距離ミサイルと中口径オートキャノン、それに使いべりしないからと無駄射ちしていた中口径レーザーを、本気で敵シャドウホークめがけて撃った。全弾見事に命中し、敵シャドウホークは衝撃で倒れ伏す。マテュー少尉のウルバリーンはそればかりではなく、転倒した相手を蹴り飛ばした。その一撃は敵機の左脚を折り砕く。シャドウホークは降伏信号の信号弾を打ち上げた。

それを横目に見ながらキースは、粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルで敵フェニックスホークを狙う。高機動で回避しようとした敵機だったが、粒子ビームが胴中央に、6発のミサイルが左胴と頭とに分散して当たった。そこへアマデオ伍長のシャドウホークが、2連短距離ミサイル発射筒と中口径レーザーを撃つ。中口径レーザーは右胴に命中し、短距離ミサイルはなんと1本が再度頭に当たった。一度に多数の打撃を受けたことで、敵のフェニックスホークはバランスを崩して転倒する。そしてそのまま動かなくなった。どうやらメック戦士が気絶した様だ。

 そしてエリーザ軍曹のウォーハンマーの粒子ビーム砲2門が火を吹く。適正距離で放たれた2条の粒子ビームは、ジェンナーの左脚を吹き飛ばし、胴中央の装甲板を蒸発させる。ジェンナーは倒れて動けなくなった。頭部ハッチが開き、メック戦士が大きく両手を上げて降伏の意図を示す。無線が壊れたらしい。

 残されたのは、腰にダメージを負ったジャベリンのみだ。機動力が減少し、逃げるに逃げられないジャベリンは、降伏信号の信号弾を打ち上げて一般回線で叫んだ。

 

『降伏だ!降伏する!ちくしょう、だから無理だと言ったんだ、あの素人隊長め!ヤマシタの腰巾着め!』

「降伏を受け入れる。メックから降りろ。……歩兵隊エリオット軍曹、聞こえるか?人数をよこしてくれ。バトルメック4機を鹵獲した。メック戦士を捕虜にする。」

『了解。今から2個分隊を、そちらへ送ります。』

「ああ、それからエリオット軍曹……。ゾディアック号制圧で、こちらの損害は?」

『犠牲者はおりません。ただし負傷者は7名、うち1名が重傷。軍医、キャスリン伍長には連絡済みであります。』

 

 キースは大きくため息を吐いた。

 

「そうか……。軍曹、ご苦労だった。」

『は!ありがとうございます!』

 

 ここでアルバート中尉から連絡が入る。

 

『キース中尉、あとはここの事を任せていいかい?私とアーリン中尉は急いで基地に戻る。ここには戦力が少なすぎた。万が一があるかもしれないからね。』

「了解です、アルバート中尉。まかせてください。」

 

 見ると、レパード級降下船ヴァリアント号、ゴダード号は既に着陸しており、その隣にリライアント号がおっかなびっくり着陸するところであった。アルバート中尉の『機兵狩人小隊』、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、急いでそちらにメックを走らせている。やがて両小隊のバトルメックを載せたゴダード号、リライアント号は垂直離陸すると、推進器を噴かしてドリステラⅢ駐屯軍基地の方角へ、文字通りすっ飛んで行った。

 キースはヴァリアント号ブリッジに通信を入れる。

 

「カイル船長、あなたかイングヴェ副長のどちらかがゾディアック号に移乗して、操船をお願いしたいのだが。」

『わかったよ、今から副長がそちらに……。』

『ま、待ってください船長!私だって航空機型のレパード級の方が好きなんですよっ!?』

『むむ、じゃあ、じゃんけんだ。じゃーんけーん……。』

『ぽい!……ああーーーっ!!負けたーーーっ!』

『と言うわけで、副長がそちらの船に行くよ。』

「……早くしたまえ。」

 

 頭痛がした様な気がして頭を押さえたキースは、めげずに次の処理をする。

 

「バトルメック隊各員、それぞれ手近な鹵獲機をかついで、ユニオン級ゾディアック号に運び込むんだ。俺は周辺警戒してるから、残り1機は誰かが2回運んでくれ。」

『『『了解!』』』

(うん、これでこそ部隊ってもんだよな。)

『しっかし、撃破機がなくて4機とも鹵獲できたっつーのは快挙だよな。儲け、儲け。マテュー少尉、ライフルマンの腕にそのジャベリン乗っけてよ。』

『ちょっと、急ぎなさい。アルバート中尉たちが急いで基地に帰った理由、わかってるでしょ?あ、マテュー少尉、こっちにもお願いします。』

『ウルバリーンは1機しかないんだから、そんなに急かさないでくださいよ。』

(……うん、これでこそ、うちの部隊なんだよな。はあ……。)

 

 どうやら小隊のほとんどが、戦闘終了で気が抜けているらしい。キースは気合を入れ直すことにした。

 

「メック部隊!全員、謹聴!!」

『『『はいっ!?』』』

「いくらなんでも気を抜き過ぎだ!俺が周辺警戒してる意味ぐらいわかるだろう!想定敵戦力の残りが、いつ戻ってくるやも知れないんだぞ!」

『『『申し訳ありません!』』』

「……いや、わかってくれれば良い。ネイサン軍曹、アイラ伍長。ヴァリアント号からジープを降ろしてくれ。君ら2人には申し訳ないが、ゾディアック号を基地に回航した後で、敵戦力が戻ってくる可能性があるので、しばらくここでの監視を頼みたい。」

 

 通信機で通信内容を苦笑して聞いていたネイサン軍曹とアイラ伍長は、グリフィンに向かい敬礼する。

 

『『了解!』』

「頼んだぞ。撤収時期は、追って知らせる。ただし万一敵戦力に発見されたら、即座に撤退、撤収する様に。」

 

 そうこうしている内に、ゾディアック号の発進準備が整った。先にレパード級であるヴァリアント号を帰らせ、ゾディアック号に乗り込んだキースは思う。

 

(ああ……。ほとんど変わってないな。いや、今は郷愁にかられている場合じゃない。)

 

 

キースは自分の顔をパチン!と両手で挟む様に叩く。そこへサイモン老がやって来た。

 

「隊長、どうしましたかの?」

「ああ、いや。郷愁にかられている場合じゃないって、気合いを入れ直してたんだ。はは。」

「そうですか……。まあ、仕方が無いんではないですかのう。隊長……坊ちゃんは4年半ぶりですし。」

「ん……。だけど今の俺は隊長だしね。」

「気を張り過ぎても、いけないもんですよ。」

「そうか……。そうだね、サイモン爺さん。」

 

 そしてゾディアック号は発進した。

 

 

 

 幸いなことに、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地襲撃は、可能性だけで終わった。敵は基地戦力が全力出撃しているという、この絶好の機会を見逃したのである。その理由はわからないだけに不気味であったが、とりあえずキース達は一息つくことができた。

 その他にも、良い事があった。ゾディアック号に、莫大な数の資材が積まれていたのである。その最たる物は、メック部品や気圏戦闘機部品だ。無論これらのほとんどは恒星連邦へ接収される。バトルメックや気圏戦闘機、ゾディアック号そのものと異なり、これらの資材は元『BMCOS』の物であったかどうかを判断するための材料が無いに等しいのだ。それでも元『BMCOS』の物であったと判断された少数の物は、キースの手に残された。

 そしてこれらの資材を得た報酬として、現金ではなく資材の一部を渡してもらえる事になったのも、良いことだろう。バトルメックや気圏戦闘機の部品は、資金だけあっても確実に手に入る物では無いのである。キースたちはそれらの資材の中から、フェニックスホーク、ウルバリーンの部品を優先して受け取っていった。

 もう1つ、今回ほとんど無傷で鹵獲できた標準型フェニックスホークが、元『BMCOS』の物であったことが判明した。これに乗っていたメック戦士は、『BMCOS』隊員を戦闘員、非戦闘員問わず虐殺した、あの特殊部隊員であったのだ。キースはこのフェニックスホークを、アーリン中尉の部下であるメック戦士リシャール・ジェレ少尉に貸与することを決定した。彼の本来の乗機は40tのクリントという高機動メックであり、操縦性はフェニックスホークに近い。フェニックスホークに乗せるには、うってつけの人材であった。更に彼らは得たフェニックスホーク用の資材を用い、同じくアーリン中尉の部下、メック戦士ヴェラ・クルーグハルト伍長のD型フェニックスホークを完全修理した。

 これでアーリン中尉の小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』で実動していないのは、メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹の40tバトルメック、ウィットワースだけになった。これについてはサイモン老がフェニックスホーク用の大腿駆動装置と足駆動装置を流用して、応急修理中である。40tメックに45tメックの部品を無理矢理取り付けるのだから、相当な無理があるのだが、サイモン老は鼻歌交じりで作業をこなしていた。

 だが好事魔多しとも言う。第4アン・ティン軍団C大隊第3中隊の残存戦力及び多数のメック戦士候補者と整備兵、偵察兵たちの行方は、一向に判明しなかった。そんな時である。ゾディアック号の司令室の開かない金庫を開けようと奮闘していたアイラ伍長が、基地の指令室に駆けこんで来たのは……。




歩兵戦力の有効活用で、ユニオン級降下船ゾディアック号は奪還できました。ですが、もしかしたらですが、まだまだ厄介毎の種は残っている様で……。


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『エピソード-009 交渉』

 アルバート中尉とアーリン中尉、そしてキースは、ドリステラⅢ駐屯軍基地の司令室で幹部会議を開いていた。キースが発言する。

 

「アイラ伍長が開けることに成功した金庫の中にあった書類がこれです。まず最初に、ドリステラⅢの詳細マップ。印が5つ付いていますが……いずれも人跡未踏の辺地です。少なくとも表向きの記録に残されている限りでは。ただし……次の書類の内容を信じるとすれば、人跡未踏というのは間違いである様です。」

「やっぱりそうかい?」

 

 アルバート中尉の問いに、キースは書類を差し出す。アルバート中尉はそれを見て唸る。

 

「ううむ……。」

「どうしたんですか?」

「いや、アーリン中尉、読めないんだよ。キース中尉、これは暗号文かい?」

「いえ、古語です。星間連盟以前の、1,000年以上前の地球の言語で書かれています。これは最近作られた書類ではなく、古文書の写しの様ですね。ただし書かれたのは星間連盟期ですから、既に連盟共通語に切り替わっていた時期ですし、暗号のつもりもあったんでしょう。

 あれ?翻訳文を一緒に付けておいたはずですが……。」

 

 アルバート中尉は書類を急いで捲る。後半に、その翻訳文が添付されていた。

 

「アイラ伍長は、これを読めたのかい?」

「いえ、一番上の地図でもしやと思って、急いで俺の所へ持ってきたそうです。」

「じゃあ読んだのは……。」

「俺です。」

 

 こめかみを揉みながら、アルバート中尉は疲れたように言う。

 

「よく読めるねえ、こんな物。」

「ちょっとした趣味でして、2000年前後のことには詳しいんですよ。」

「ちょっと私にも見せて下さ……。うわ、ちんぷんかんぷん。」

 

 アーリン中尉に尊敬の視線で見られ、キースは居心地の悪さを味わった。キースが2000年前後の時代について詳しいのは勉強の結果でも、趣味でもなんでもない。前世で生きていた時代がその頃だっただけだ。しかも書類が書かれた言語は、なんと日本語である。おまけに東北弁。

 アルバート中尉はおもむろに言葉を紡ぐ。

 

「この翻訳文を読む限り、この惑星には星間連盟期のバトルメック倉庫があった様だね。1つ1つはそれほど大規模な物ではない……と言うよりむしろ小規模な物だけど、数が5ヶ所もある。」

「ええ。しかもかなり妙な代物を置いてあったらしいです。と言うよりも、この片田舎の惑星の、更に奥地を使って、人目につかない場所で色々と実験してた様なんです。そして実験が終わった機体を倉庫に収めておいた……。倉庫の中身は、NAISに送るべき代物ですね、おそらく。」

 

 NAISとはニューアバロン科学大学の略称である。そこでは日夜多数の優秀な科学者、技術者によって研究が進められている。そしてそこでは、星間連盟時代の失われた技術を再現、再発見しようとの試みも行われているのだ。

 アルバート中尉は眉を顰めて言った。

 

「……この書類が、やつらの手の中にあったという事は、だ。」

「……やつら、星間連盟期の進んだ手の込んだトラップにかかって全滅してくれないかしらね。」

「そう言うオチは非常に好むところではありますが、それに頼るわけにも行かないでしょう。」

 

 アーリン中尉が肩を竦めて言った冗談に、キースは同じく肩を竦めて返した。キースはふと思い出したことを口にする。

 

「そう言えば……。あの取り戻したフェニックスホークに乗っていた男、奴らの偵察小隊隊長、この件について何か知らなかったんですか?」

「ああ、あのフェニックスホーク。うちのリシャールに貸してくれた、あれを使ってた奴のことね。」

「尋問したんだが、奴らの指揮小隊と火力小隊の残りが何処へいったのかは、頑として口を割らないんだよ。拷問するわけにもいかんし……。いや君から聞いた、奴がやったことを考えれば、拷問しても許されるとは思うんだけど、ちょっと抵抗があってねえ。」

「……いえ、それで正しいと思います。奴らが外道だからと言って、こちらが外道になる必要はありません。」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、しかしキースはアルバート中尉の判断を肯定する。彼は話題を戻した。

 

「……で、この地図の話になるのですが。十中八九、奴らの行った先はこの地図の……仮に第1ポイントと名付けた、ここから一番近い印のところでしょう。」

「気圏戦闘機が飛べればなあ……。高高度偵察に飛ばすのに……。」

「ライトニング戦闘機2機は、修理部品が明後日届くのよね?」

 

 そう、損傷したライトニング戦闘機の部品がようやく届くのだ。修理にかかる時間はサイモン老の卓抜した技術をもってしても、2機あわせて2940分=49時間だ。1日8時間働いたとして6日と少し、6時間残業を続けて1日14時間働いた場合で3日半になる計算である。明後日に間違いなく問題なく部品が届いたと仮定して、1機だけならば3日後か4日後には復帰できるだろう。2機が完全に揃うのは6日後頃だ。

 首を傾げたアルバート中尉は、キースに尋ねる。

 

「マイク少尉かジョアナ少尉のどちらの機体を優先する予定なんだい?」

「マイク少尉機です。彼の方が空戦能力は高いですから。それとジョアナ少尉は能力的にその他の場面で使える人材なので。」

「しばらくフェレット偵察ヘリコプターに乗ってもらうしか無いわね。ただ、フェレットだと機体が脆弱だから、前には出せないわよね。」

 

 アルバート中尉は、むう、と一声唸ると何やら決意した表情になる。

 

「よし!現場にはメックと車輛で直接行くしかないな!第1ポイントなら、それで多少強行軍にはなるが、片道2~3日で行けるはずだ。その他のポイントにはレパード級を使わなければならんだろうが、今は先日の作戦で使ったばかりで推進剤が心許ない。まずはメックと車輛で行こう。

 ただ、この惑星上に存在する星間連盟期の遺跡となると、所有権は惑星公にある。ちょっと惑星公、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノー閣下のところまで、出かけて来よう。ドラコ連合のやつらが星間連盟期のメック倉庫を狙ってますってご注進して、遺跡の発掘許可を貰ってくる。……上手く話を持っていけば、発掘の報酬が恒星連邦との契約とは別口で、何かもらえるかも知れない。

 私が帰ってきたら……。そうだな、ここの守りに1個小隊残して、2個小隊で行ってもらおう。敵が発掘中ならそこを強襲、いなかったら自分たちで発掘、既に発掘されて敵が撤退してった後なら追跡してもらう。」

「ここに残る小隊は……って決まってるわね。総指揮官であるアルバート大尉待遇中尉がいなくなるわけには行かないもの。」

「ああ。けど、うちの偵察兵エルンスト曹長を貸し出すから、人材面は大丈夫だろう。ただ、サイモン曹長だけ残してくれないかい?明後日からライトニング戦闘機の修理に専念して欲しいんだよ。」

 

 その言葉に、キースはちょっとだけ悩む。だがライトニング戦闘機2機の復帰は急務だ。彼は承諾する。

 

「わかりました。第1ポイントには、他の人材で行きましょう。」

「ありがとう。それじゃ、キース中尉かアーリン中尉、どちらか一緒にカルノー閣下のところまで付いて来てくれないかな。」

「え゛……。ちょ、ちょっと私はお偉いさんとの交渉には向いてないですし……。」

「……わかりました、アーリン中尉は基地の留守をお願いします。俺はお貴族様相手も少しは慣れてますから。」

 

 目に見えてほっとするアーリン中尉に苦笑しながら、キースはアルバート中尉に向き直る。

 

「アルバート中尉、すぐに惑星公の屋敷に連絡を。アポイントメントをまず取らないと、門前払いされかねません。」

「そうだね。」

 

 執務机の上に設置してある、電話の受話器を取って、アルバート中尉は外線に繋ぐ。彼はドリステラ公爵、ザヴィエ・カルノーの邸宅に電話をかけた。

 

「急なお電話、失礼いたします。私は恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍司令、アルバート・イェーガー大尉待遇中尉と申します。そちらは公爵閣下のお屋敷でございますか?はい。惑星防衛のことで少々重大事が発生いたしましたので、公爵閣下に直接お会いしてご相談したいと存じます。つきましては、至急お約束を取り付けていただきたいのです。はい。

 ……。……。」

 

 どうやら、しばらく待たされているらしい。だがさほど時を置かず、またアルバート中尉は喋り出す。

 

「……。はい。おお、本当でございますか?ありがとうございます!では至急、そちらへ赴きます。ではこれにて失礼いたします。……さて、キース中尉。急いで車の準備をしてくれるか?」

「うちのジープを出します。運転手は……。これもうちの、ジャスティン・コールマン二等兵を出しましょう。うちで2番目のドライバーです。」

「……1番は?」

「サイモン曹長です。スピーダーのレースに出ても、アマチュアのレースなら軽く優勝、プロのレースでもいいとこまで行ける腕前ですよ。」

 

 妙な顔になるアルバート中尉。あの老整備兵が、プロのスピーダーレーサーにも勝る超級ドライバーだなどとは、思ってもいなかった顔だ。彼は気をとりなおして、再度尋ねる。

 

「そのジャスティン二等兵は、どれぐらいの腕前なんだい?」

「まだ並に毛の生えた程度ですが、運転に才能があるらしくて、車の挙動の端々にその片鱗が見られます。」

 

 キースはそう言いつつ、今度は自分で電話機の受話器を取り、内線電話で歩兵部隊のエリオット軍曹にかける。

 

「ああ、軍曹。訓練中すまん。ちょっと今すぐ出かけなければならないので、ジャスティン二等兵を運転手に借りたいんだが。そうか、じゃあジャスティン二等兵にはジープを置いてある車輛格納庫の前で落ち合おうと話しておいてくれ。なるべく急ぐよう伝えてくれると嬉しい。ああ、では。

 手配できました。アーリン中尉、留守を頼みました。」

「まかせておいて。サイモン曹長のおかげで、ウィットワースも応急修理だけど復帰したし、基地の守りは万全にしてみせるわ!」

「いや……。我々がいない間、私の『機兵狩人小隊』の残り3名と、キースの『SOTS』の残り3名、それに整備兵や偵察兵、歩兵たちや助整兵、それに基地全般の管理、全てを見てもらわなければいけないんだけど。それに帰って来たら即第1ポイントへの出撃になるから、その出撃の準備もやってもらわなければならないんだがね。私の代理ということで、書類の関係とかも含めて全部。

 出撃はバトルメックが『SOTS』全機、『デヴィッドソン装甲巨人隊』全機、この基地にいまいる偵察兵全員、サイモン曹長を除いた『SOTS』『デヴィッドソン装甲巨人隊』所属整備兵全員、『SOTS』所属歩兵部隊全員。メック戦士以外が搭乗する車輛の手配も済ませておいてもらわないと。ああ、フェレット偵察ヘリコプターも出さないといけないから、航空兵ジョアナ少尉も出てもらうことになるねえ」

 

 アルバート中尉の台詞に、アーリン中尉は固まる。だがアルバート中尉は、今までこれらの事をこなした上で普通のメック小隊長としての仕事もやっていたのだ。キースもそれらを手伝って、書類仕事は随分こなした上で自分の小隊の面倒も見ている。その上で2人とも、バトルメックに乗るために身体を鈍らせないようトレーニングや、シミュレーター訓練の時間もひねり出しているのだ。アーリン中尉はまだまだ甘い。

 キースは、例の書類を司令室の金庫にしまいながら言う。

 

「アーリン中尉、ですが惑星公爵閣下とのお話合いの方が、ずっと大変なんですよ?では行ってきます。アルバート中尉、急ぎましょう。」

「ああ。急ごうか。公爵閣下を待たせるわけにはいかないからね。」

「わかってるわよ……。頑張ってね……。はあぁ~。」

 

 消沈しているアーリン中尉を残し、キースとアルバート中尉は早足で司令室を出ていった。

 

 

 

 キースとアルバート中尉は、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーと向かい合って、ソファに座っていた。無論、勧められたから座ったのであり、公爵閣下の前で勝手にさっさと座るような不作法はしない。ちなみに運転手として連れて来たジャスティン二等兵はこの場にいるわけもなく、ジープの運転席で、忠犬の様に待っている。身分も階級も低い彼に、貴族の屋敷に入って休めとか、公爵閣下と相対して応接間のソファに座れとか、いったい何の拷問だという話である。第一彼は、アルバート中尉――大尉待遇であり、現在のドリステラⅢ駐屯軍司令官でもある――という偉いさんの運転手を命じられただけで、緊張してかなり精神的に消耗していたのだ。まあ光栄にも思ってもいた様ではあるが。

 

「……すると何かのう、大尉。」

 

 ザヴィエ公爵は、アルバート大尉待遇中尉のことを、あえて大尉と呼んだ。牽制のパンチである。

 

「クリタのやつらがこの惑星にやって来たのは、その星間連盟期の遺跡の場所が書かれた古文書を発見し、それを盗みに来た、そういう事かの。」

「はっ!ただいま捕虜を再尋問しておりますが、間違いないでしょう。先に我が方の降下船を攻撃したのは、侵略目的と思わせてこちらを亀のように防御を固めさせ、動きが取れないようにする目的もあったかと。

 しかし我々は機先を制し、敵の本拠地となっておりましたユニオン級降下船を奪取に成功し、この情報を入手いたしました。」

 

 アルバート中尉は、自分たちの行動には落ち度が無く、さらに成果も上げているのだとアピールする。ザヴィエ公爵は唸る。

 

「ううむ、忌々しき事態であるな。わしも、星間連盟期のバトルメック倉庫の重要さは痛いほど理解しておる。なにせ今はバトルメックを孫に譲り半分隠居の身と言えど、わしとてこれでも1個連隊を率いて恒星連邦のため、戦った男じゃ。

 で、どうするかのう。惑星軍にはバトルメック部隊は数少ない。というよりも、ほとんど無い。1個分隊規模、軽量級のワスプとスティンガーが1機ずつあるだけじゃ。あとは戦車部隊ならそこそこあるが……。孫の部隊は恒星連邦政府の命で、重要惑星の防備に就いておるでのう……。」

 

 再びザヴィエ公爵のターン。公爵はあえて自虐的に言う事で、「自分たちがやります」と言う言葉をアルバート中尉から出させようと目論んでいる。アルバート中尉側も、自分たちでやることは異論はないが、できることなら惑星政府=ザヴィエ公爵からの依頼という形を取りたい。

 だが時間が無い。既にドラコ連合クリタ家のバトルメック部隊が、大勢の整備兵や偵察兵とメック戦士候補を連れて、おそらくは発掘を既に開始しているのだ。キースはアルバート中尉にアイコンタクトを送る。アルバート中尉もやむなしと、まぶただけで頷きを返す。

 キースは割り込んだ。

 

「発言をお許しください、閣下。」

「ハワード中尉!下官が上官の話に割り込むな!」

「まあまあ、良いではないか、のう大尉。で、中尉。何かの?」

 

 アルバートがキースを叱責したのは演技だ。この2人、ここ1ヶ月ばかりの短い間に、阿吽の呼吸ができていた。

 

「ありがとうございます閣下。私が解読いたしましたその古文書によりますれば、この惑星は星間連盟期でも研究中の最先端バトルメックを実験することに使われていた模様でございます。そしてこの惑星のバトルメック倉庫は、実験終了あるいは実験途中の最先端バトルメックを保管していたのです。」

 

 キースは、あえて自分が古文書を解読したことをアピールすることにより、自分を高く見せて売り込みをかけようとする若手士官を演じた。まあ若手士官と言っても、若いのは実年齢だけであり、顔は30過ぎに見える老け顔で、更に中身は前世から数えれば○○歳である。だがこの公爵には駐屯軍の主要メンバー、それもメック戦士ともなればその個人情報も知られているはずであり、彼が16歳であることはわかっているはずだ。要は、キースは手柄を焦る若者を演じたことで、公爵に侮られよう、油断をさせよう、そう考えたのである。

 キースは言葉を続ける。

 

「その実験機を入手し、恒星連邦政府、ダヴィオン王家に献上なされば、きっと王家からの覚えもめでたくなりましょう。おそらくはNAIS……ニューアバロン科学大学との繋がりもできますれば……。」

「なるほどのう。中尉、そち頭が回るのう。で、じゃ。何が欲しい?」

「遺跡発掘の許可と、それに際しご援助を。既に敵は発掘に取り掛かっていると思われますれば、それとの戦闘も避けられませぬ。」

「ずばりと言うのう……。ほっほっほ。

 よかろう。この発掘に関し、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍にフリーハンドを与える!ドリステラⅢ惑星政府と、惑星公爵ザヴィエ・カルノーの名においてじゃ!そして惑星上の移動手段においても援助を与えよう。なに、うぬらが降下船の推進剤で困っておることは聞き及び済みじゃて。更には発掘品の入手においても、我が名において褒賞を与える!入手方法は問わぬ。遺跡より発掘しようが、クリタの盗人どもから奪い返そうが、の。」

 

 つまりは戦闘によって敵から発掘メックを奪い返した場合、本来であればそれはドリステラ公爵の私物であるが故、ちょっとお礼を言われて終わりになってしまっても仕方がない。しかし公爵はそれを曲げて、報奨金を出そうと言ってくれている。また発掘に関してもボーナスを支給しようと言っているのだ。はっきり言って、満額回答に近い。

 

「ありがとうございます!」

「何、若いもんへの援助じゃよ。気張れよ、若人よ。」

「はっ!」

 

 アルバート中尉は、表面だけ苦い顔をして見せる。さて話がついた今、一分一秒たりとて無駄にはしていられない。キースとアルバート中尉は、恭しく頭を下げてからその場を辞去する。と、去り際にザヴィエ公爵は、ぽつりと言った。

 

「ではの。バレロン伯ベネット・バートン卿のせがれにも、よろしくの。」

「!!」

「では行くがよかろうて、ほっほっほ。」

 

 キースはザヴィエ公爵に深々と頭を下げた。そしてアルバート中尉と共に、その場を立ち去った。キースは、ふう、とため息を吐きつつ呟く。

 

「また君に助けられたか……。ジョナス……。」

「どういうことだい?キース中尉。」

「公爵閣下は、あえて手加減してくれた、ということですよ。俺たちの演技なんか、全部見破ってたんです。その上で、発掘と戦闘に対する援助をしてくれたんですよ。もっとも……それに甘えて次回2匹目の泥鰌を狙うような真似をすれば、手痛いしっぺ返しが待ってるでしょうけどね。」

 

 ザヴィエ公爵は、キースがバレロン伯爵ベネット・バートンの息子、ジョナス・バートンの知己であることを知っていたのであろう。厳密には、ベネットはジョナスに家督を既に譲っているのであるが。

 それ故に、キースに手助けすることはジョナスへの貸しにもなり得る。その上で駐屯軍にも恩を売りつけた。ザヴィエ公爵、流石の古狸であった。

 

 

 

 キースとアルバート中尉が基地に帰った時には、出撃準備は全て整っていた。実機や物資の準備だけでなく、書類のたぐいの処理も全て終わっていた。ただしアーリン中尉は少々目がうつろだったが。キースとアーリン中尉は、即座にバトルメックに乗り込む。そしてアルバート中尉たちが見送る中、キースの『SOTS』、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』は出撃していった。




今回は戦闘前の色々な準備です。いや、本当は戦う前に色々あるものなんですよね。TVのアニメやなんかだと、週1で、あるいはそれ以上の頻度で気軽に戦ってますが。色々準備ってものは、やっぱり必要なんです。
さて、次回は他人の庭に入り込んで、そこに埋まってるお宝を勝手に掘り出して持って行こうと言う厚かましいやつらを退治します。主人公たちは、盗人を上手く叩き潰せるでしょうか。


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『エピソード-010 遺失技術』

 日が暮れた草原と言う名の荒れ地を、8機のバトルメックと10台の車両が進んでいた。先頭に立つのは70t級の重量級バトルメック、ウォーハンマーである。エリーザ軍曹が操るこの機体には、サーチライトが搭載されていた。それ故、一番先頭を任されている。

 やがて先行して偵察活動を行っていたジョアナ少尉のフェレット偵察ヘリコプターが、着陸して一行を待っているのが見えてくる。あそこが本日の野営場所なのだ。

 

『やれやれ、ようやく野営か。さすがに疲れたぜぇ……。』

 

 一行の最後尾を歩いていた60t級ライフルマンのメック戦士、アンドリュー軍曹がぼやく。彼らはここに至るまで、かなりの強行軍を強いられてきたのだ。ウォーハンマーのエリーザ軍曹が、突っ込みをいれた。

 

『ぼやかないの。あんたとあたしは、最初の立哨なんだから、まだ休めないわよ。交代で食事を摂ったら、またメックに戻らないと。』

『うげぇ……。』

『何不満そうな声出してるのよ。あたしとあんたは、一番楽なんだからね?途中で起こされることもなしに、終わったら朝まで眠れるんだから。

 キース中尉、マテュー少尉にヴィルフリート軍曹は、一番きっつい深夜ど真ん中の立哨だし、アーリン中尉、リシャール少尉、ヴェラ伍長は最後朝までの番だから、立哨が終わって朝ごはん食べたらそのまんま出発なんだから。』

 

 アンドリュー軍曹は、疲れた口調で抗弁しかける。

 

『ああ、わかってはいるんだけどよ……。ああ、わかったから何も言うな。』

『じゃ、先に夕食を摂ってらっしゃい。』

『アンドリュー軍曹、お先に夕飯を喫食させていただきますっ!』

 

 彼らのやりとりを聞きながら、キースは操縦席に常備しているガウンを羽織って自分の乗機55tグリフィンから降りる。彼はいつもTシャツとトランクスだけでメックに乗り込んでいるので、ガウンは必須装備だ。そして彼は戦闘糧食のパックを駆け寄って来た歩兵から受け取り、てきぱきと開け始めた。水との化学反応で発熱するレーションヒーターも付属してはいるが、彼はそれを使わない。と言うより、メック戦士がメックと共に野営をする場合、滅多に使わない。それよりも良い熱源が、近場に存在するからだ。

 彼はグリフィンの脚部にある放熱器の隙間に、水を注いだコッヘルを突っ込み、沸騰するのを待ってそれにレトルトパックを放り込む。糧食が温まるのを待つ間、粉末のコーヒーを用意し、これもグリフィンの放熱器で沸騰させた熱湯で溶く。ふと見ると、歩兵たちや整備兵たち、偵察兵たちはレトルトパックをレーションヒーターで温めている。レーションヒーターでは温まり切らない場合もあるのだが、彼らはさすがにメック戦士にメックの放熱器を使わせてくれとは頼まない。これはメック戦士だけの特権と言えるのだ。

 そんな中、頼んで来る剛の者が存在した……かと思ったら、それはフェレット偵察ヘリコプターを使っているジョアナ少尉であった。

 

「隊長、すいませんがバトルメックの放熱器で、お湯を沸かさせてもらえませんか?」

「……ああ、かまわない。グリフィンの、もう片脚の放熱器を使ってくれ。ただし、コッヘルやヤカンを取り出し忘れるなよ?整備兵が怒るからな。」

 

 ジョアナ少尉は、元々メック戦士と同格の地位である気圏戦闘機パイロットだ。身分が違う歩兵や偵察兵、整備兵たちとは異なり、多少無礼な頼み事をされたとしてもそうは問題ではない。もっとも前世における生活習慣の記憶を持つキースには、身分差という物はいまいちピンと来なかったが。少なくとも、メック整備をしてくれる整備兵たちぐらいには、メックの放熱器を使わせてやってもいいのではないかと思ってもいる。整備兵はメック戦士にとって命綱であることだし。

 ただキースには、この身分制度を自分で破壊しようと言う気は無い。というか、うっかりそんな事をすれば社会からはじき出されてしまいかねない怖さがある。それに、身分が下の者に上の者があまり親切にし過ぎると、逆に相手が恐縮したり、最悪の場合には侮られて戦闘中などに指示や命令を聞かなくなったりする危険がある。適度な距離感と言う物は、社会背景で変わってくる物だった。

 そうこうしている内に、レトルトパッケージは温まった。キースは携帯用食器に糧食を盛り付ける。メインはビーフステーキで、それにメキシカンライス、ピーナツバター付きクラッカー、粉末ジュース、ビーフジャーキー、おまけにキャラメルが付いてくる。勿論のことだが、温めたのはステーキとメキシカンライスだけである。ステーキは、ステーキと言うよりもハムっぽい感じであった。メキシカンライスの味も濃い。

 

(まあ、戦闘糧食ってのはこんなもんだ。サバイバル訓練でカエルや虫を食べたときよりはずっとましだよな……。)

 

 キースは糧食を口の中にかき込み、粉末ジュースとコーヒーで流し込む。わずかしか時間は経過していない。普通ならあまり良い癖とは言い難いが、緊急発進に備えての早飯は、いつの間にか習慣として彼に根付いていた。歩兵が用意してくれた天幕で、彼は寝袋に潜り込むと、瞬時に寝入ってしまう。これも軍人の心得の一つであった。

 

 

 

 深夜にメックでの立哨を交代し、3時間ほど見張り番をしたら、また元の天幕に戻り寝入る。そして朝が暗いうちに起き出し、再び戦闘糧食で朝飯を喫食し、歩兵たちが設営した簡易トイレで用便を済ませる。

 

(……トイレットペーパーが存在する時代に生まれ変わったのは、幸せだよなー。サバイバル訓練では木の葉なんかを使ったもんだが……。毎回アレや、ワラや縄で尻を拭くこと考えたら、文化レベルが中世のファンタジー世界なんかに生まれ変わらずに済んで、こればかりは助かったよな。)

 

 微妙な感慨を覚えたキースであった。

 その後キースは盗聴や傍受の可能性の低い高精度指向性アンテナの通信機を使って、ドリステラⅢ駐屯軍基地に定時連絡を入れる。

 

(今度、指揮車輛も購入を検討しないとなー。いちいち屋外にアンテナ設置してたら面倒だし。歩兵にも、余計な手間をかけさせちまうことになるしさ。スィフトウィンド偵察車輛の方が、安くつくかな?通信能力はピカいちだしな、あの車輛は。ただ頑丈さや、いざという時の応戦能力考えるとなあ……。)

 

 キースは考えを切り上げると、グリフィンに乗り込み出発を指示した。歩兵たちがてきぱきと、野営地の撤収を始める。フェレット偵察ヘリコプターへの燃料補給は、2台付いて来ている燃料補給車――これはキースの部隊『SOTS』やアーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』の装備ではなく、駐屯軍基地にあらかじめ備え付けられていた装備である――によって完了していた。フェレット偵察ヘリコプターと偵察兵たちのジープを先行偵察に出し、残りの本隊は通常速度での進軍を行う。

 

(さて、マップ上ではそろそろ目標地点だよな。)

『キース中尉……。そろそろ……。』

「ああ、わかっていますアーリン中尉。全員気を引き締めろ!これより我が隊は無線封鎖に入る!おそらくドラコ連合軍は、現場にいるはずだ!全員注意して進め!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 しばらくの間、無言で彼らは進む。やがて山岳に入り、渓谷の間に入った。そこでジョアナ少尉のフェレット偵察ヘリコプターが戻ってくる。フェレットより発光信号が発せられた。

 

(敵バトルメックを超遠距離にて確認、発見される恐れがあるので帰還した、敵メック総数は12機、機種は遠すぎて判別不能……か。12機となると、確実に発掘品が混じっているかあ……。)

 

 キースはメックのハンドサインで車輛部隊に停止を命じ、メック部隊だけで前進する。やがて偵察兵たちのジープも戻って来て、これも発光信号で報告した。

 

(敵バトルメックを確認、機種はスティンガー5、ワスプ2、ドラゴン1、ウルバリーン1、及び改造機と見られる軽量級メックがジェンナー1、スティンガー1、ワスプ1……。ドラゴンとウルバリーンは「古い」機体、その他は「新品同様」……。

 古い機体、という事は使い込まれた機体と言う事だろ……。その他の機体は新品同様という事は、メック倉庫から持ち出した機体と言うことだろうけどなあ……。どういう事だ?敵の指揮小隊はどこに行ったんだ?)

 

 キースは、例の印が付けられた惑星マップの写しを取り出して確認する。第1ポイントは以前ゾディアック号が着陸していた地点からさほど遠くはない。しかし次に近い第2ポイントは、ちょっと遠い。できるならば降下船で飛んでいきたい距離だ。

 

(だが降下船の推進剤にも限りがある。それに大型レーダーは当時使用不能にされていたが、あちこちの惑星軍基地にある小型のレーダー施設は動いていた。それらによる検知範囲はせまいとは言え、あまり降下船で飛び回ると発見される恐れがあった……。それを嫌ったんじゃないか?

 まてよ?敵の指揮小隊は、かなり以前から姿が見えなかった。まさかその時から移動を開始していたのか?第2ポイントまでメックの歩行で?)

 

 キースは頭の中で、敵降下船が着陸してから今までの時間と、第2ポイントまでの距離とメックの平均的移動速度をざっと暗算してみる。

 

(もしそうなると、今頃は第2ポイントへの道のりの3/4まで踏破していることに。……ま、まずいかも。これは急がなきゃならんかも。第2ポイントまで盗られてたら、えらいこっちゃ。)

 キースはメックのハンドサインでメック部隊に移動速度アップを命じる。更に彼らは接敵に備え、フォーメーションを整えた。キースのグリフィン、アンドリュー軍曹のライフルマン、ヴィルフリート軍曹のウィットワースが後衛、マテュー少尉のウルバリーンとエリーザ軍曹のウォーハンマーが前衛、アーリン中尉とリシャール少尉のフェニックスホーク、ヴェラ伍長のD型フェニックスホークが遊撃だ。

 やがて遠くにバトルメックが動いているのが見えた。ドラゴンとウルバリーンがいちばんこちら側に近い位置で、その向こうでぴょんぴょんジャンプジェットで跳躍して、おそらく機体に慣れるための完熟訓練を行っているのがスティンガーとワスプだ。おそらくはスティンガーとワスプも新品同様という事は発掘メックなのだろうが、ほぼ間違いなく発掘品だと思われる改造メックは岩陰にでも隠れているのか姿が見えない。

 キースは命令を下した。

 

「攻撃開始!目標はウルバリーンおよび敵指揮官機と見ゆるドラゴン!攻撃力に乏しいスティンガーとワスプは、脇や背後に回られない限り無視していい!ただし改造機が出てきたら、どんな能力を持っているかわからんから早目に叩き潰す必要がある!その場合、目標変更して集中攻撃だ!

 ウルバリーンはアーリン中尉たちでお願いします!こちらの小隊は遠距離攻撃力に優れているので、ドラゴンを狙います!」

『了解!聞いたわね、皆!わたしたちはウルバリーン相手よ!』

『『『了解!』』』

 

 アーリン中尉麾下の『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、ウィットワースを残し、高機動力を活かしてウルバリーンに突撃していく。一方キース指揮下の『SOTS』の面々も、行動を開始した。

 

『俺たちはドラゴン相手か、了解!』

『了解!ドラゴンを狙いつつ前進します!』

『了解!逃がさないように側面へ回り込みます!』

 

 アンドリュー軍曹のライフルマンが、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門を発射する。エリーザ軍曹も、両腕の粒子ビーム砲を一斉発射しながら走行移動でドラゴンに近づく。マテュー少尉のウルバリーンは中口径オートキャノンを撃ちながら、その高い機動力でドラゴンの側面へ回り込み、退路を断とうとする。キースもグリフィンの粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルを一斉発射した。

 敵指揮官機らしきドラゴンはキースたちの機体を発見すると、後退しつつ中口径オートキャノンと10連長距離ミサイルをマテュー少尉のウルバリーンめがけて発射する。だが一向にその射撃は当たらない。逆にキースたちの射撃はその8割以上が命中する。外れたのはわずかに、ウォーハンマーの粒子ビーム砲が片方だけだ。ドラゴンは火だるまになった。だが着弾箇所はばらけてしまい、致命傷は与えられていない。ドラゴンはバランスを崩しかけたが奇跡的に持ち直し、必死に後退をはかる。

 その時、敵陣の更に後方からレーザーの光条と粒子ビームのエネルギー束が発せられる。狙われたのは、マテュー少尉のウルバリーンだ。全力移動していた彼の機体には、幸い命中はしなかった。だがその射撃により、彼はドラゴンを逃がさないための機動を断念せざるを得ない。彼は叫ぶ。

 

『馬鹿な!粒子ビーム砲と中口径オートキャノンの有効射程はほぼ同じはず!なんでこちらの攻撃が届かない場所から撃って来て、相手の攻撃が届く!?しかも若干射程が短い大口径レーザーまで!』

(長射程型粒子ビーム砲に、長射程型大口径レーザーか!発掘メックの真骨頂かよ!)

 

 キースは唇を噛む。そうこうしている内に、スティンガーとワスプの群れがドラゴンの前に出てきた。だが問題は更にその後ろから、信じがたい長距離ジャンプで現れたジェンナーの改造機である。明らかにジャンプジェットを増設しているその機体は、更に武装も換装しているのが見て取れた。目立つのは胴体の左右に1基ずつ計2基装備された6連短距離ミサイル発射筒であるが、こっそりとそこはかとなくマシンガンも2門搭載されている。火力は軽量級としてはかなりの物である。ラッキーヒットがあれば、重量級の機体ですら討ち取れるかもしれない。おそらくこの機体にも、なんらかの遺失技術が投入されているのだろう。

 先の指示に従い、敵のウルバリーンを攻撃していた『デヴィッドソン装甲巨人隊』の3機のフェニックスホークが、そのジェンナー改造機に目標変更して大口径レーザーの攻撃を集中する。エリーザ軍曹のウォーハンマーも機体の上半身を捻り、左腕で粒子ビーム砲を放った。それらの攻撃のうち、半数が命中弾となる。だが命中したはずのアーリン中尉機の大口径レーザーと、エリーザ軍曹の粒子ビーム砲の一撃は、ジェンナー改造機が発生させた妙なエネルギーフィールドに阻まれ、その軌道を曲げられてしまい、ジェンナー改造機には傷一つ与えられなかった。

 

(エネルギー偏向フィールド発生装置だと!……やってくれる。あの機体が盾になって、その間に長射程型大口径レーザーと長射程型粒子ビーム砲で滅多打ち、と言うつもりか。だけど、そうはさせない!)

 

 キースは新たな指示を叫ぶ。

 

「方針変更だ!ジェンナー改造機にはエネルギー兵器は効果がない!格闘距離に持ち込むのもあの武装では危険だ!『デヴィッドソン装甲巨人隊』のフェニックスホーク3機はその高機動力で敵最後衛の2機、スティンガーの改造機とワスプの改造機を無力化してください!ジェンナー改造機には、ヴィルフリート軍曹と俺の機体で長距離ミサイルの雨を降らす!軍曹、頼めるか!?」

『……了解ッ!』

 

 ヴィルフリート軍曹は、直属の上官ではないキースからの指示に一瞬戸惑った。だがそれが命令では無く頼みという形を取っていたこと、アーリン中尉がその指示に異議を唱えなかったこと、それにキースは部隊吸収合併後には直接の上司になることなどを考え、なによりも彼の声に含まれていた言いしれない威厳に従って、了解の返事を返した。

 キースは続けて指示を飛ばす。

 

「アーリン中尉!敵の遺失技術粒子ビーム砲は最低射程がありません!接敵しても油断はしないでください!アンドリュー軍曹、オートキャノンでジェンナー改造機を!マテュー少尉、エリーザ軍曹は指揮官機ドラゴンを逃がすな!」

『『『『了解!』』』』

 

 ジェンナー改造機は自分の傍らを走り抜けるマテュー少尉のウルバリーンを狙い、全開射撃を敢行。2門あるうちの片方の6連短距離ミサイルだけを命中させる。それは見事にマテュー少尉機の頭部に命中した。キースはそのミサイルの射線が異様な動きを見せるのを見て、内心歯噛みする。

 

(くそ、板○サーカスじゃあるまいし!あれも遺失技術の恩恵か……。そうか!アルテミスⅣFCSか!?)

『うわっ!!』

「マテュー少尉!損害を報告!」

『は、はい!生命維持装置が吹き飛びました!ですがそれ以上の問題はありません!』

 

 しかしマテュー少尉の声音には、ウルバリーンの頭部にダメージを受けたことによる負傷の苦痛が、如実に表れていた。キースのグリフィン、ヴィルフリート軍曹のウィットワースが並んで長距離ミサイルを発射する。更にアンドリュー軍曹のライフルマンが中口径オートキャノン2門を撃つ。

 

『くそ!マテュー少尉の仇だ!』

『い、いや私はまだ死んでないんだがね。』

 

 アンドリュー軍曹に対するマテュー少尉の突っ込みと同時に、ジェンナー改造機がボコボコに叩かれる。ジェンナー改造機は左脚を吹き飛ばされて転倒した。キースは再度指示を飛ばす。

 

「ジェンナー改造機にはこれ以上かまうな!大きく迂回すれば短距離ミサイルは恐れるに足らない!

 ……!?エリーザ軍曹、足を止めるな!そのスティンガーは危険だ!」

『は、はい!?』

 

 キースの目には、手に持った中口径レーザーでエリーザ軍曹のウォーハンマーを狙う1機のスティンガーの姿が捉えられていた。いや、それは中口径レーザーであっただろうか。通常のスティンガーが持つ中口径レーザーは、オミクロン3000中口径レーザーである。しかしそのスティンガーの手にあるものは、明らかに違う形をしている。そしてその中口径レーザーが火を……吹かなかった。キースは自分の予想が当たった事を知る。

 

「エリーザ軍曹、耐ショック!」

『え!?はいっ!』

 

 次の瞬間、エリーザ軍曹機に多数のミサイルが着弾する。そのミサイルは空から降って来たのだ。ちなみに運悪くウォーハンマーの周囲にいたスティンガーやワスプにも、ミサイルは着弾していた。運が悪かったワスプ1機は、短距離ミサイルの弾薬に直撃をくらって爆散する。キースはグリフィンの粒子ビーム砲で例のスティンガーを狙った。しかしそのスティンガーは180mジャンプでグリフィンから遠射程となる場所を飛び回り、キースの技量を持ってしてもなかなか命中弾を送り込むことができない。キースは叫んだ。

 

「アンドリュー軍曹!大口径レーザー1門であのスティンガーを狙い続けろ!他の目標を狙う際でも、必ず大口径レーザー1本はアレを撃ち続けるんだ!」

『え!?』

「あれは着弾観測機だ!しかも星間連盟期の着弾観測用のシステムを用いている!目標補足ギア、というやつだ!アレを破壊することが叶わなくてもいい、常にジャンプ機動を強いて、奴に着弾観測をさせるな!」

『りょ、了解!』

 

 キースの小隊である『SOTS』メンバーは、間接砲撃の恐ろしさをよく知っている。キースが着弾観測員を、サイモン老が間接砲撃手を務めた戦いにおいて猛威を振るったそれを、彼らが恐れないわけが無いのだ。

 アンドリュー軍曹に着弾観測機の相手を任せたキースは、自身はマテュー少尉機を後ろから狙おうとしている敵のウルバリーンを狙撃した。粒子ビーム砲は遠距離であったにもかかわらず相手の背中から命中し、どうやら何かの損害を与えた様である。その機体は動きが急に鈍くなった。キースがサブモニターの熱映像画面を見遣ると、その敵ウルバリーンは機体の温度が急激に上昇している。どうやら核融合炉の外殻を破壊したらしい。そしてしばらくすると、ウルバリーンは熱が溜まり過ぎて融合炉が自動的にシャットダウンしてしまった。

 しかしまた敵を1機片付けたとは言え、こちらの優位が絶対的になったわけではない。何故ならば、敵の着弾観測機は、そこそこの技量の持ち主である様だったからだ。今度はマテュー少尉のウルバリーンが間接砲撃の餌食になる。ただしその着弾観測機の乗り手は、味方撃ちも気にしない様だった。またもスティンガー1機とワスプ1機が巻き込まれ、爆散する。

 

「マテュー少尉!損害は!」

『右胴にダメージ集中しました!ここに次喰らったら持ちません!』

「く、マテュー少尉!下がれ!」

 

 あの着弾観測機が生きている以上、じり貧だ。敵の指揮官機ドラゴンは、スティンガーやワスプを捨て駒にしつつ、じりじりと後退している。エリーザ軍曹のウォーハンマー、ヴィルフリート軍曹のウィットワースがしばしば命中弾を与えてこそいるが、どうにもダメージが散ってしまって致命打を与えられないでいる。

 

(くそ、味方にも間接砲があれば!サイモン爺さんがいてくれれば!あるいは敵のアローⅣ誘導ミサイルがなんとかなりさえすれば!)

 

 キースが苛立ちを噛みしめた、その時である。

 

『いいぃやっほおおおぉぉぉ!!』

『ま、マイク!?あんた何処にいるのよ!!』

『よおジョアナ!俺のライトニングが直ったんで、試運転がてら今からそっちに支援しに行く途中だったんだけどよ!アルバート中尉の命令で!そしたら大物がかかったんだぜ!』

 

 無線に向かい、キースは叫んだ。

 

「マイク少尉!状況報告!」

『は、はいっ!さっきの話の通り、アルバート中尉の命令で、そちらを支援に行く途中だったんすけど、そこで変なメックを見かけまして……。そっちの方角に向けて、背中に背負ったでっかいミサイル発射筒からミサイル撃ってたんす。IFFも味方の反応出してなかったですし、こりゃアレだなと思いまして、オートキャノンで撃ったんすよ。そしたら頭に当たって吹き飛びまして。』

 

 キースは続けざまに叫ぶ。

 

「よくやってくれた少尉!」

『は……え?あ、俺、もしかしてお手柄?』

『キース中尉!こっちもやったわよ!スティンガーの改造機と、ワスプの改造機、2機とも脚を蹴り折ってやったわ!損害は多少装甲が削れただけ!』

「お見事です、アーリン中尉!皆、一息に揉みつぶすぞ!」

 

 キースの檄に応え、全員の士気が上がった。とうとうアンドリュー軍曹の大口径レーザーの一撃が、着弾観測をしていたスティンガーを撃墜する。『デヴィッドソン装甲巨人隊』の3機のフェニックスホークがドラゴンの退路を塞ぐ。エリーザ軍曹のウォーハンマーがそのドラゴンに接近して、砲を撃つ構えを取る。

 次の瞬間である。ドラゴンはまだ戦闘能力があると言うのに、降伏の信号弾を打ち上げた。通信機の一般回線からも、悲鳴のような声が響いて来た。

 

『降伏する!降伏する!ぶ、部下たちにも降伏させるから、わしの命だけは助けてくれ!』

「……降伏を認める。部下たちに降伏命令を出したら、メックから降りろ。」

 

 戦いは、あっけなく終わった。

 

 

 

 キースは歩兵たちに組み上げさせた高精度指向性アンテナの通信機で、駐屯軍基地と連絡を取っていた。

 

「……と言うわけです。ここには敵の指揮小隊はおりませんでした。おそらくはこの惑星に着陸直後から、第2ポイントへと向かっていたのではないかと思われます。」

『まいったね、それは。』

「はい……。それで、ここの倉庫は敵の探し残しが無いか調べようと最初は考えていたのですが、それを中止して即座に帰還しようと思います。そして部隊の各メックの修理を急ぎ、降下船ゾディアック号とヴァリアント号、ゴダード号をもって第2ポイントへ急ごうと思います。」

 

 そのキースの提案を、アルバート中尉はしかし却下する。

 

『いや、倉庫の調査は重要だ。探し残しは無いとは思うが、やっておいてくれないかね?時間短縮には、別の手を使うから。』

「……それは、もしや?」

『うん。つい昨日の昼ごろ、公爵閣下から推進剤が山と届いたんでね。今から第1ポイントに降下船を飛ばすよ。だから降下船が着くまでは倉庫の調査と、破壊した発掘メックの回収……一応遺失技術が使われてる可能性も考えて、完全破壊しちゃった残骸も持って帰ってほしいね。メックの修理も装甲板の換装とか簡単な物なら、基地までの移動中にやっちゃっておいてね。

 それで、メックが全機完全になり次第、レパード級ヴァリアント号とゴダード号で第2ポイントに急行してもらいたいんだ。これなら、当初案よりは3日ほど早く事が運べる。上手くすれば、敵の指揮小隊が発掘メックを掘り出す前に、そうでなくとも機種転換訓練を終えて使いこなせる前に、第2ポイントへ到着できる。

 今は巧遅よりも拙速を貴ぶ時だよ。』

 

 キースは思わず無線の相手も見えないのに頷いてしまった。

 連絡が終わると、アーリン中尉がキースの方へ歩いて来る。メックから降りたばかりなので、彼女もガウン姿だ。この惑星の駐屯軍には、冷却パイロットスーツや冷却チョッキなどと言う高級品を持っているメック戦士はいない。彼女はキースに問いかける。

 

「ねえキース中尉。あなた随分敵の装備品に詳しかったわね。星間連盟期の装備品なんて、今じゃNAISの学者ぐらいじゃなきゃ知りもしないはずなのに。」

「ええ、以前そういった文献を読んだことがありまして。」

「へー、文献?」

 

 平然とした表情の裏で、キースはしみじみと考える。

 

(ええ、前世でリプレイ本なんかで紹介された装備と、有志が翻訳したレベル2装備までなら読んだことありますとも。中心領域のだけじゃなく、氏族の装備も。)

 

 そんなキースの内心には気付かず、アーリン中尉は尊敬の眼差しを彼に送る。キースはなんとはなしに居心地が悪かったが、にやりと笑ってアーリン中尉をごまかした。

 

「さて、偵察兵と整備兵に第1ポイントのメック倉庫に、探し残しが無いか確認させなくては。それと鹵獲もしくは破壊した敵メックを回収しないと。歩兵にも手伝ってもらわないといけませんね。星間連盟期の物品は、破片でも大事な資料になり得ますから。」

「そうね。じゃあ私たちも手伝わなきゃね。」

「お願いします。」

 

 キースとアーリン中尉は、各々自分のバトルメックへと向かい歩いていった。




トイレットペーパーが無い中世ファンタジー世界には、生まれ変わりたくないですよねー。いや、幾多の転生ものや神様転生ものだと、躊躇なく中世ファンタジー世界に逝ってしまいますが。日常生活の様々な困難とか、大丈夫なんでしょうか。現代人が適応できそうなのって、20世紀初頭が限界じゃないかなーと。


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『エピソード-011 出撃準備』

「エリオット軍曹、呼び出しておいてこんな格好で、すまんな。」

「はい隊長。いいえ、そのようなことはありません。お気にしないで下さい。」

 

 基地にある自分の執務室に、エリオット軍曹を呼び出したキースは、作業用の油まみれの菜っ葉服を着用していた。彼はつい先ほどまで、他のメック整備技能を持つメック戦士たちと共に、整備兵に混じって傷ついたバトルメックの装甲板を換装し、弾薬を補充していたのだ。

 彼らはこの惑星に残された星間連盟期バトルメック倉庫の位置を記した地図に書かれている、2番目に近い倉庫、つまり第2発掘ポイントへの出撃準備として、先の戦いで傷ついたバトルメックの修理を、全力で行っていたのである。流石に降下船で運ばれている短時間の間には、それらの修理は終わっていなかった。

 もっとも、サイモン老を始めとした優秀な整備兵が多い彼らの部隊では、彼ら基礎を学んだ程度のメック戦士が手伝えるのは、せいぜいその程度までだ。それ以上の難易度の高い修理は、彼ら程度の腕前では下手をすると逆に壊してしまいかねない。それ故に彼らメック戦士たちは、装甲板の換装と弾薬補充が終わった時点でお役御免となったのである。作戦に備えて彼らを休ませないといけない、と言うのも理由の1つだ。

 ちなみに、先の戦いで鹵獲したバトルメックのうち、発掘されたメックに関してはドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーより報奨金が支払われていた。通常の仕様のスティンガーなどに関してはそれなりに、遺失技術を用いられている機体に関しては阿呆の様な金額が、部隊に引き渡されている。

 また発掘メックではないドラゴンとウルバリーンについてであるが、ドラゴンは恒星連邦が接収し、通常の手続きの元に機体鹵獲の報奨金が支払われることになった。だがウルバリーンに関しては、機体の製造番号などを調べたところ、この機体は『BMCOS』から奪われた機体である事が判明。キースの手に渡ることになった。少し壊し過ぎた、とキースが内心で愚痴ったのは秘密である。

 それはともかくキースは、油汚れのついた作業用手袋を脱ぐと、執務机の引き出しから1通の書面を取り出してエリオット軍曹に渡した。

 

「軍曹、辞令だ。本日ただいまを持って、貴様を少尉待遇に任ずる。……驚いた様だな。」

「はっ!しかしよろしいのでしょうか、自分は士官教育を受けておりませんが……。」

「だから少尉への任官ではなく、少尉「待遇」だ。歩兵小隊を任せられる人材が、今のところエリオット軍曹しかいない。かと言って、軍曹のままでは小隊以上を率いるのに不都合だ。貴様には我が『SOTS』所属の歩兵小隊だけでなく、アルバート中尉の『機兵狩人小隊』所属の歩兵小隊も指揮してもらわねばならない事態が度々増えるものと予想される。」

 

 実際の話、その兆候は表れている。『機兵狩人小隊』所属歩兵小隊は、同部隊の偵察兵であるエルンスト曹長が教官任務を務めていたが、彼の本業はあくまで偵察兵である。歩兵の運用は畑違いであり、かつ自分の任務で忙しいこともあり、最近はそちらの歩兵小隊もエリオット軍曹が面倒を見ていたりするのだ。

 

「納得してくれたか?」

「はっ!了解であります。」

「それとエリオット軍曹。将来的に、本当に少尉あるいはその上の階級に任官することも考えておいてくれ。これが恒星連邦の法規で定められた士官任用試験の問題集だ。なに、軍曹の経験ならば、ちょっと勉強すれば問題なく合格できるだろう。」

 

 キースは分厚い冊子をエリオット軍曹に渡す。エリオット軍曹の目が瞬き、動揺していることを伝えてくる。だがエリオット軍曹は、尊敬する上官であるキースに逆らう様な真似は、断じてしない。

 

「はっ!了解であります。誠心誠意、努力させていただく所存であります。」

「うむ、期待している。では下がっていい。」

「はっ!失礼します!」

 

 キースはエリオット軍曹を送り出すと、首をコキコキと鳴らす。さすがに生まれ変わる前に、あの薄明の空間でキャラクター設定した超人的な能力値をもってしても、このところの作業は厳しかったのだ。

 

(俺でこの状態っつーことは、アーリン中尉、リシャール少尉も慣れない作業で疲れ切ってるだろうなあ。マテュー少尉は、ウルバリーンの頭部に被弾した影響で負傷したから作業免除して……。と言うか、無理に作業に加わろうとしてたのを強引に病室に放り込んで、アンドリュー軍曹とエリーザ軍曹を見張りに付けたけど。

 他にもサイモン爺さんを筆頭にした整備兵の面々も、かなり疲れてるだろうなあ。)

 

 キースはPXに内線電話をかけてノンアルコールの飲物や栄養ドリンク、欠片が辺りに散らばらない様な食べ物など、差し入れの品を用意させる。食べ物は甘い物中心だ。そして自らそれを取りに行った。

 

 

 

 キースが大量の荷物を軽々と両肩に担いで廊下を歩いていると、途中にある休憩所でアーリン中尉、リシャール少尉がやはりへばっているのを見つけた。彼らの傍らには、ヴィルフリート軍曹、ヴェラ伍長が心配そうな様子で見守っている。キースは声をかけた。

 

「アーリン中尉、それに『デヴィッドソン装甲巨人隊』の諸君。大丈夫……じゃ、なさそうだな。」

「あ~……。キース中尉は元気そうね~。」

「そうでもないですよ……。って、本気で駄目そうですね……。我々は担当作業が終了したのですから、部屋に帰って眠った方がいいですよ。整備兵たちが残りの作業を終わらせ次第、我々と偵察兵3名はレパード級ヴァリアント号とゴダード号で、整備兵や歩兵に先駆けて出撃するんですから。」

「ん~……。わかってるけど、顔が汚れて立ち上がる力が出ないのよ~……。」

 

 ア○パンマンかい、と内心で突っ込みを入れるキース。彼は荷物の中から栄養ドリンクを2本取り出すと、同じくへばっているリシャール少尉に渡した。

 

「リシャール少尉、これ。君とアーリン中尉の分だ。この銘柄は、俺も愛飲してるがけっこう効くぞ?」

「あ。ありがとうございます。遠慮なくいただきます。……うわ!ほんとに効く感じがするコレ!」

 

 次にキースは、ヴィルフリート軍曹とヴェラ伍長の方へ向き直る。

 

「ヴィルフリート軍曹、ヴェラ伍長、今はまだ整備兵たちは他の機体の面倒を見てるが、それが終わったらすぐ最後の作業、マテュー少尉のウルバリーンのマイアマー交換に生命維持装置修理に取り掛かるはずだ。それが終わったら、すぐに出撃になる。あと4時間弱の予定だから、2人を無理にでもベッドに放り込んでくれ。」

「了解です、キース中尉。ヴェラ、お前は中尉を頼む。俺は少尉に肩を貸す。行きましょう少尉。」

「は、はい!アーリン中尉!がんばって起きてください!お部屋行って一眠りしましょ!」

「じゃ、俺は行くから。」

 

 

 

 次にキースがやって来たのは、バトルメックの整備棟だった。数多くの助整兵が走り回り、整備兵たちの怒鳴り声が聞こえる。キースは作業場の片隅に設けられた休憩所に、両肩に担いだ大荷物を持っていく。そこでは3人の助整兵がへばって潰れていた。

 

「あー……。」

「……ん?あっ!ちゅ、中尉殿!し、失礼いたしましたっ!お、おいお前ら、敬礼だ敬礼!」

「あ、あわわ!」

「け、敬礼ッ!!」

「あー、楽にして良い。」

 

 キースは一瞬、そのままでいいと言おうとしたのだが、思い直して偉そうな表現にする。軍人の規律や威厳と言う物は、組織の中ではけっこう大事なのだ。昔のアニメの偉い人は、「男子の面子、軍の権威、それが傷つけられても勝利すればよろしい。」と言ったものだが、それを大事にしない軍隊は思ったよりも脆い物であり、ひいては勝利が覚束なくなるのだ。戦争と言う非常の事態に、元は普通の人間である兵士を立ち向かわせるためには、そう言った物も大事なのである。

 キースは荷物を降ろす。

 

「これは日頃頑張っている貴様らへの差し入れだ。公平に分配するように。間違ってもバトルメックのパーツの中に、菓子の屑など紛れ込ませるなよ?休憩所で飲み食いしろ。」

「「「はっ!了解でありますっ!」」」

「うむ、ご苦労。では俺は行く。バトルメックや気圏戦闘機のことは頼んだぞ。」

 

 キースは踵を返して立ち去る。彼の背後から、はーっ、と言う息を吐く音が3つ聞こえた。

 

(俺はそんなに怖いだろうか……。)

 

 人知れず落ち込むキースであった。

 

 

 

 彼は最後に、基地の病室へと向かった。だが彼は、途中で看護兵に拿捕されて文句を言われる。

 

「中尉さん!いくら偉い人でも、そんな汚れた格好で医療施設エリアに入って欲しくありませんね!」

「あ、ああ悪かった……。ええと確か、キャロライン・アトキンソン兵長?」

 

 兵士の命を握っている医官や看護兵、衛生兵には、彼らの分野においては上官の権威もたまにしか通用しない。まあ時と場合によっては、緊急時には通用することも無くも無いのだが……。

 

「あら、ご存じだったんですか?」

「まあ仕事柄、人の顔を覚えられない様ではな。と、済まなかったな。出直す……。いや、出撃が予定されているから、今日明日はもう来ないだろうな。ではな、兵長。」

 

 キースはそそくさと撤退せんとする。と、廊下の向こうから、彼の目的の人物たちが歩いてくるのが見えた。

 

「あれ?隊長じゃないか。」

「もう作業は終わったんですか?あたしのウォーハンマーは?」

「隊長、どうなさったんですか?」

「いや、どうなさったも何も、君の様子を聞きに来たんだがね。マテュー少尉。それと君のウォーハンマーはもう万全だ、エリーザ軍曹。」

 

 マテュー少尉は頭を掻く。それをアンドリュー軍曹とエリーザ軍曹がにやにやしながら見遣る。

 

「いえ、怪我自体はキャスリン伍長の応急手当が良かったため、たいしたことは無かったんですがね。検査で酷い目に遭わされましたよ。」

「少尉さん!怪我をなめちゃいけませんよ!だいたい……。」

「うわ、アトキンソン兵長!わかった、わかったから勘弁してくれ!」

 

 やはりマテュー少尉もこの看護兵のおばさんには弱いらしい。

 

「いいですか!無茶はいけませんからね!」

 

 看護兵は、のっしのっしと去って行く。キースたちは苦笑しつつ、医療施設エリアを後にした。キースは歩きながら口を開く。

 

「まあ何事も無い様でよかった。あと4時間弱……いや、3時間強で再出撃だからな。それまでゆっくり、とは行かんが可能な限り休息を取ってくれ。」

「隊長はどーすんだよ。」

「俺も休む。流石に疲れた。」

「ならいいんだけど。隊長は働き過ぎです!あたしたちより忙しいのはわかるけど、このドリステラⅢに来てから休日を取ってないでしょ!」

 

 エリーザ軍曹の責める様な視線に、キースはあさっての方角を向く。だが口では彼女の言葉に応えていた。

 

「わかった、わかった。ただ、休みが取れる状況じゃないからな……。」

「だから次の出撃で敵を叩き潰したら、少し休み取って首都のドリステルにでも遊びにいってよ!」

「上が休まねーと、下の者も休み取りづれーんだよな。」

「そうか、そう言う面もあったか……。わかった。前向きに検討しよう。」

 

 何処ぞの政治家みたいな玉虫色の返答に、眉を顰めるエリーザ軍曹だった。マテュー少尉が、やれやれ、と言う顔をする。アンドリュー軍曹は苦笑しつつ、そんな様子を眺めた。

 だがキースは表面はともかく、内心では少々困っていたりする。

 

(あのドラゴンに乗っていた敵の火力小隊長、サブロウ・カトウ中尉だったよな。アルバート中尉のとこのエルンスト曹長がとりあえず軽く尋問した結果、嫌なこと言ってたんだよなあ。自分たちが発掘完了したら、迎えの部隊が空き降下船持ってやってくるはずだって。

 そう言えば、そうなんだよなあ。ゾディアック号は奪い返したけど、もし奪い返さなくてもユニオン級に乗せられるバトルメックは12機。気圏戦闘機ベイを倉庫に使って貨物扱いにしても14機が限界。っていうか、最初はシロネ戦闘機が2機載ってたんだから、満杯だったハズ。満杯の降下船で、どうやって戦利品を持ち帰るつもりだったんだよって話。

 迎えの部隊、かあ……。こりゃ困った。この戦いが終わっても、まだ油断はできないって事だよなー。休日を取るなんて、俺、アルバート中尉、アーリン中尉の3人はとてもできねーぞ。)

 

 今は3025年9月2日。この年の10月前半で、キースたちの契約は切れる。そうなれば本来の駐屯軍である、マーダックに援軍に行っている部隊が戻ってくるか、別の部隊が派遣されてくるのだ。それにバトンタッチして、キースたちはこの惑星から撤収することになる。そうなれば、いくらでも休暇は取れるだろう。

 

(だけど……。できるならばバトンタッチする前に来てほしい気持ちもある。というか、そちらの気持ちの方が強い。迎えの部隊とやらは、トマス・スターリングやハリー・ヤマシタの部隊の可能性が高いからな。小隊の仲間のためにも、ハリー・ヤマシタに遭遇できる機会を失いたくないし、トマス・スターリングはバトンタッチした部隊なんかじゃなく、俺の手で討ちたい。)

 

 思わず歯ぎしりをしそうになって、キースはぎりぎりでそれを抑える。仲間たちが傍らを歩いているのに、歯ぎしりの音を聞かれて心配をかけたりしたくない。キースは内心の苛立ちを噛み潰しつつ、仲間たちと連れだってメック戦士宿舎に向かって歩いて行った。

 

 

 

 そして3時間が過ぎた。キースは軽く睡眠を取り、すっきりした頭で目覚める。そこへちょうど時間でも測っていたかの様に、キースの携帯通信機が呼び出し音を立てた。

 

「こちらキース・ハワード中尉。」

『ああ、キース中尉。俺だ。ゆっくり眠れたかい?』

「アルバート中尉、何か問題ですか?」

 

 キースは一瞬、何か作戦前に事故でも起きたかと勘繰る。だがそれは外れた。

 

『いや、単なるモーニングコールだ。他の面々にもこれから通話を入れることにしてる。それと……。例のドラゴン乗り、サブロウ・カトウ中尉を尋問した結果、敵の陣容がわかった。発掘メックが敵の手にある可能性もあるから、あくまで参考程度に聞いてくれ。

 まずは中隊長機が75tマローダー、そして指揮小隊の他の機体だが、K型クルセイダー、K型シャドウホーク、そしてD型フェニックスホークだ。』

「クリタ家なのに、ドラコ連合なのにD型フェニックスホークですか!?もしやそれは……。」

『ああ。元『BMCOS』の物である可能性が高いな。』

 

 D型フェニックスホークとは、恒星連邦の継承王家であるダヴィオン家仕様のフェニックスホークだ。普通ドラコ連合では、クリタ家仕様のK型フェニックスホークを使用している。

 

「わかりました。ですが鹵獲できれば幸いですが、完全破壊することになってもやむを得ません。マローダーにK型クルセイダー、K型シャドウホーク、そしてD型フェニックスホーク、どれも強敵です。更に場合によっては遺失技術メックがその布陣に加わるんです。」

『そうだな。こちらは君のグリフィンに、君の小隊のウォーハンマー、ライフルマン、ウルバリーン。アーリン中尉のところのフェニックスホーク3機にウィットワース。240t対415tだから、まず負けることは無いだろうが……。遺失技術メックは、一発で状況をひっくり返しかねん。充分注意してくれよ?

 じゃあ私は他にモーニングコールをかけるよ。ではな。』

「はい、では。」

 

 キースは急いでXXXサイズのパジャマを寝台の上に脱ぎ捨てると、Tシャツとトランクス、それにブーツだけの姿になり、ガウンを羽織る。そろそろ時間のはずだ。と、さほど時を置かずして、館内放送が彼らを呼び出した。

 

『『SOTS』小隊及び『デヴィッドソン装甲巨人隊』小隊のメック戦士は、バトルメック搭乗準備にて直ちにバトルメック整備棟へ集合せよ!繰り返す、『SOTS』小隊及び『デヴィッドソン装甲巨人隊』小隊のメック戦士は、バトルメック搭乗準備にて直ちにバトルメック整備棟へ集合せよ!』

 

 これは修理完了した彼らのバトルメックを、レパード級降下船ヴァリアント号とゴダード号に搭載するための呼び出しだ。更に引き続き、館内放送が作戦参加人員に呼び出しをかける。

 

『各部隊の偵察兵、及び『SOTS』小隊所属歩兵、『SOTS』小隊及び『デヴィッドソン装甲巨人隊』小隊所属の整備兵は、完全装備にて車輛格納庫前に集合、作戦参加車輛を受領の上、指揮官の指示に従いレパード級降下船ヴァリアント……。』

 

 キースは既に準備が整っていたので、そのまま自室を飛び出す。おそらくは敵の指揮小隊は、既に第2の発掘ポイントに到達していると見るべきだろう。そうでなくとも、最悪の事態を考えて行動しなければならない。最悪の事態とは、既に敵の手に遺失技術メックが渡っており、しかもそれが機種転換訓練が最小限で済む様な乗りやすい機体である場合のことだ。

 

(だが敵の指揮小隊を潰せば、敵の迎えの部隊が来るまでは余裕ができる。敵の迎えの部隊は、少なくとも補給ステーションからの連絡ではナディール点にはやって来ていない。ゼニス点にもおそらくは来ていないと思われる。

 ……けどこの星系は、ジャンプポイントから惑星までの時間が4日しか必要ないんだよなあ。ジャンプしてきた航宙艦を補給ステーションのセンサーが察知して、惑星上に連絡をくれたとして……。4日しか余裕がないんだよな。しかも前回惑星上のレーダーなんかの設備を潰してくれたスパイ網、まだ全容は明らかになってない……。敵の迎えがやってくるのとタイミングを合わせて補給ステーションとの深宇宙通信施設を潰されたら……。逆に考えりゃいいのか。通信施設やレーダー設備やらが動かなくなったら、敵が来る前兆だってことだ。

 考えるの、終わり!まずは敵の指揮小隊を潰す!全てはそれからだ!)

 

 キースはバトルメック整備棟に走る。彼の後ろから、仲間たちの走る足音が響いてきた。




またまた戦闘準備で1話使ってしまいました。と言いますか、そうなっちゃうんですよね、この手の小説だと(笑)。主人公も、一応〈補修・整備=メック/2〉の技能を持ってるので修理とか手伝いましたが……。まあ、お手伝い程度しかできないんですけどね。本職の面々が凄すぎるこの部隊だと。
でも、ほんとのTRPGで作ったばかりのキャラだと、本職もこの程度の技量しかないので、この程度の技能でしっかりと全部、修理や整備やらないとならないんですよね……。大変だ、そりゃ。


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『エピソード-012 敵発掘部隊の最後』

 レーダーに引っ掛からない低空を、2隻のレパード級降下船ヴァリアント号とゴダード号が、超高速で飛翔する。ヴァリアント号のブリッジでは、本来この船の副長であるイングヴェ・ルーセンベリ准尉が奇声を上げていた。

 

『きゃっほおおおぉぉぉ!』

『……イングヴェ准尉!……師匠!もう少し静かに!メックベイの隊長たちにも回線繋がってるんですから。』

(……いい歳なんだから、もうちょっと落ち着いてもよさそうな物なんだがなあ。と言うか普段は落ち着いてる立派な初老の紳士なのに。)

 

 まだ自分のライトニング戦闘機が直っていないがために、本来副長がいるべき席でこの船の操舵を手伝っている、航空兵のジョアナ少尉がぼやく声に、キースは100%賛同していた。イングヴェ副長は、カイル・カークランド船長とのじゃんけんに今回は勝利し、ヴァリアント号の操舵の権利をもぎ取ったのである。カイル船長は、後からゆっくり来るユニオン級降下船ゾディアック号の操舵を任されていた。ゾディアック号は歩兵部隊や整備兵たちを運び、更には帰りに発掘品を載せて運ぶ予定になっているため、その任務の重さはバトルメック部隊及びマイク少尉のライトニング戦闘機を運ぶレパード級2隻に、決して劣る物ではない。

 そう、重要さは決して劣る物ではないのだが……。カイル船長もイングヴェ副長も、元が気圏戦闘機のパイロットである。その上に、平穏な隠居生活に飽きて現役復帰したという、ある意味物騒な輩だ。大気圏内では鈍重な、ユニオン級の操舵は彼らにとって面白い物ではないらしい。カイル船長は、じゃんけんに負けた事を非常に悔やんでいた。

 やがて2隻のレパード級降下船は、平坦な草原に見事な腕前で着陸する。2隻はしばらくここで戦闘終了を待つのだ。敵が降下船とか非常識に強力な存在でない限り、味方の降下船を危険にさらす真似はできないのである。

 そして2隻のメックベイハッチが開き、そこからバトルメックが姿を現す。ヴァリアント号からは、55tの傑作支援メックたるグリフィンを先頭に、同じく55tの主戦機ウルバリーン、60t級で高い対空能力を持つ支援機ライフルマン、最後にこの小隊いやドリステラⅢ駐屯軍で現状最重量級の70tウォーハンマーが、次々降りて来る。一方ゴダード号からは、45tのザ・ベストデザインとまで呼ばれるほど完成度の高い機体フェニックスホークが2機、同じフェニックスホークのバリエーションの1つたるD型――ダヴィオン家型――が1機、最後に40tと中量級メック中最軽量であるが優秀な支援能力を持つウィットワースが1機降りて来た。

 更にヴァリアント号からは、1台のスナイパー砲搭載車輛がのろのろと降りてきた。これはサイモン老の愛車である。サイモン老は整備兵であるが同時に砲兵でもあり、今回はゾディアック号に乗って後から来る他の整備兵とはわかれて、メック部隊に随伴してきたのだ。そして1台のジープが続けて降りてくる。これはエルンスト曹長を暫定リーダーとした、ネイサン軍曹、アイラ伍長の偵察兵組だ。この他にもこの船には、マイク少尉の気圏戦闘機たるライトニングが搭載されているが、これは戦闘直前になったら発進する予定である。

 キースは全員に向けて通信回線を開く。

 

「これより第2ポイントへ向けて進発する。サイモン曹長は、地図上のX-29831ポイントで静止し、間接砲撃の準備を整えてこちらからの連絡を待っていてもらう。マイク少尉は会敵予想時刻の5分前にヴァリアント号を発進し、X-01059ポイント目指して飛んでくれ。エルンスト曹長以下偵察兵のチームは、X-01059ポイントへの先行偵察を行ってもらう。出発後は会敵時まで無線封鎖するので、これが最後の通信になる。何か質問はないか?」

『『『『『『……。』』』』』』

「無いようだな。よろしいですね、アーリン中尉?」

『ええ、キース中尉。』

「では全機発進!無線封鎖!」

 

 先頭にエリーザ軍曹のウォーハンマーとマテュー少尉のウルバリーン、中衛にアーリン中尉とリシャール少尉のフェニックスホーク2機、およびヴェラ伍長のD型フェニックスホーク、後方にアンドリュー軍曹のライフルマンとヴィルフリート軍曹のウィットワース、最後尾に殿としてキースのグリフィン及びサイモン老のスナイパー砲搭載車輛と言う陣形で、一行は進んで行く。エルンスト曹長たち偵察兵組は、ジープの快速を活かして先行する形だ。ジープはすぐにメック部隊の視界から消える。

 しばらく進んだところで、サイモン老のスナイパー砲搭載車輛が脇道にずれた。車輛から発光信号が送られる。

 

(キース中尉、ご武運をお祈りしております、か。サイモン爺さん、頼りにしてるぞ?)

 

 キースはグリフィンのハンドサインで、発光信号に応える。やがてスナイパー砲搭載車輛は見えなくなった。彼らは更に先へと進む。そして偵察兵組のジープが戻って来た。ジープからはサーチライトで発光信号が送られる。

 

(……情報にあったマローダー以下、敵指揮小隊機4機を発見。事前情報通りの構成。ただし、事前情報にないフェニックスホークの改造機と見ゆる3機の新品同様のバトルメックを確認す。現在おそらく慣熟訓練中。3機の概要は、大砲を右手に持った機体が1、両手に1門ずつ計2門の大口径レーザーらしき武装の機体が1、最後に左手に粒子ビーム砲らしき武装と右手に長剣を構えた機体が1。長剣の機体のみ熟練者が乗っていると思しき機動を見せる。代わりに、指揮小隊のD型フェニックスホークの動きが拙いことから見て、D型の操縦者であった者が発掘メックに移乗した模様……。

 なに?右手に長剣?まさか……バトルメック用高速振動剣かッ!?)

 

 キースは前世において、テーブルトークRPGメックウォリアーのリプレイ集に掲載されていた、強力な格闘武器を思い出す。

 

(冗談じゃない!ゲームじゃあ、ハチェットやソード、棍棒による攻撃だって通常の命中表を使ったってのに、あの高速振動剣はパンチ命中表を使うんだぞ!?頭に当たる可能性が高いじゃあないか!……フェニックスホークがベース機だからなあ。機動力で完全に負けてるはずだ。なんとか隣接されない様にしたいが……。

 おっと、偵察兵たちに隠れているように合図を出さないと。)

 

 グリフィンのハンドサインでエルンスト曹長たちに合図を出すと、キースは部隊を前進させた。そして遠距離映像で、敵バトルメックらしき影が見え始める。地形は小さな湖があり、その周囲に丘陵や森林が点在している。

 

(バトルテックのマップみたいな地形だな……。勿論細かいところは違うが。……気付かれたか。)

 

 敵バトルメックが、一斉に動き出すのが見えた。K型シャドウホークとK型クルセイダーは、丘陵の陰に隠れて部分遮蔽状態を取ろうとしている。マローダーは中央に陣取り、こちらを狙っていた。D型フェニックスホークは囮にでもなろうと言うのか、全力走行で前進して来る。

 問題の3機の発掘メックらしき機体は、各々が別個の動きをしていた。まず大砲を右手に構えた機体だが、K型クルセイダーと並んでこちらからは部分遮蔽となる位置取りをしている。次に両手にそれぞれ大口径レーザーを構えた機体は、中央の湖を大きく迂回してこちらへ走ってくる。最後に長剣と粒子ビーム砲を構えた機体だが、いきなり180mのフルジャンプを行い、左手の粒子ビーム砲を本来なら届くわけもない距離で、唐突に射撃した。

 

「……無線封鎖解除!フェニックスホーク改造機と見ゆる3機を、発掘メックと仮定する!長剣を持った敵に接敵されるな!あれはおそらくバトルメック用高速振動剣、破壊的な威力を持つ格闘武器だ!搭載している粒子ビーム砲は、長射程型タイプ!最低射程は持っていないから、近接距離に立つことでの有利さは無い!」

『『『『『『了解!』』』』』』

「サイモン曹長!TM358-GK276地点にぶち込んでくれ!風向はNNW、風力は3単位!」

『了解ですわい、隊長!』

 

 キースのグリフィンは、高速振動剣を持った敵に接敵されないような移動で、敵陣に接近しつつ森林に分け入る。そして部分遮蔽状態を取ったK型クルセイダーに向けて、粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルを放った。同時にK型クルセイダーからは2基の10連長距離ミサイル発射筒が火を吹き、キース機を狙う。だが森に入ったキース機には命中せず、逆にグリフィンの粒子ビームと10本中6本の長距離ミサイルが、K型クルセイダーの上半身に命中した。そのうち粒子ビーム束と1本のミサイルがK型クルセイダーの頭にあたる。K型クルセイダーはしばし、まごついた様な動きをしていたが、やがて部分遮蔽の位置を捨てて前進してきた。どうやらセンサーが破壊されたか何かした様で、射撃が不可能になった様だ。

 キースは周囲の状況を確認する。マテュー少尉のウルバリーンがK型シャドウホークが隠れている丘陵上にジャンプジェットをひと噴きさせて登り、全開射撃と共に相手の頭めがけてキックを見舞っていた。K型シャドウホークは頭を蹴飛ばされ、メック戦士が脱出する。だがそのマテュー少尉機めがけてマローダーが両手の粒子ビーム砲を発射、2射ともに敵ながら見事という腕前で命中させた。たまらずマテュー少尉機は丘陵陰に隠れる。

 アンドリュー軍曹のライフルマンは、エリーザ軍曹のウォーハンマーを後方で援護している。そのエリーザ軍曹機だが、フェニックスホーク改造機の1機、両手に大口径レーザーを構えた機体に近距離まで接近されていた。キースは眉を顰める。彼の計算では、あのフェニックスホークはまだウォーハンマーからは遠くの位置にいるはずであったのだ。更に例の高速振動剣持ちも、キースの予測位置からわずかに外れた位置にいる。まるで、普通のフェニックスホークよりも長距離を移動できる性能でも持っているかの様だ。

 キースは、はたと気づいた。

 

「エリーザ軍曹!そちらの発掘フェニックスホークはMASC、人工筋肉加速信号回路付きの機体だ!機動力は並じゃないぞ!そして高速振動剣持ち、あれはトリプルストレングス・マイアマー、三重機能強化型人工筋肉を使っている!絶対に隣接されるな!」

『は、はい!?』

「わかりやすく言えば、ただでさえ強力な高速振動剣のダメージが、2倍になる人工筋肉だ!」

『わ、わかりました!』

 

 キースはサイモン老に連絡する。敵の移動力が高すぎたために、敵の移動予想地点にズレが生じたのだ。このままではスナイパー砲の砲弾は命中しない。

 

「サイモン曹長!先ほどの位置からEに120m地点を狙い撃て!その次はそこからNEに180m!」

 

 そしてキースが見遣ると、敵のD型フェニックスホークがアーリン中尉麾下の3機のフェニックスホークに袋叩きにされていた。だがそれを狙っている者がいる。

 

「アーリン中尉!リシャール少尉!ヴェラ伍長!W方向へ最大ジャンプで避けろ!」

『りょ、了解!』

『わかりました!』

『え?あ!』

 

 タイミングの遅れたヴェラ伍長機が、餌食になった。彼女の機体は右肩に直撃弾を喰らい、その腕は根本から吹き飛ばされる。彼女のD型フェニックスホークは、その攻撃力の7割を失ってしまった。

 

『きゃああぁぁっ!!』

『伍長!』

『ヴェラ伍長!』

(く、あの距離で届く上にあの威力……。あの大砲はガウスライフルだったか!)

『くそ、捉えた!』

 

 ヴィルフリート軍曹のウィットワースが、今しがたヴェラ伍長のD型フェニックスホークを撃ち抜いてくれた敵に、長距離ミサイルの雨を降らせる。その相手は、山陰に半身を隠したあの大砲持ちの発掘フェニックスホークだった。その上半身に、次々と長距離ミサイルが着弾する。ヴィルフリート軍曹の腕前は、かなりの物だった。大砲持ちは、これはたまらないとばかりに丘陵地帯を捨てて出てくる。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 そして第1射目の、スナイパー砲の砲弾が着弾する。高速振動剣持ちに、至近弾となった。だがあれが通常型フェニックスホークと同じ機動性であれば直撃していたはずなのだ。キースは自分の判断の甘さを悔やむ。もう少し早く、あの機体が高速振動剣だけでなく、三重機能強化型人工筋肉を積んでいることに気付ければ良かったのだ。高速振動剣持ちは、長射程型粒子ビーム砲を当たれば儲けものと撃ち放ち、ついでに自機に溜まる熱量を稼ぐ。三重機能強化型人工筋肉は、機体に高い熱量が溜まっていなければ起動しないのである。

 そこへ心強い味方の声が聞こえる。

 

『いいいやあっほおおおぉぉぉ!!』

「マイク少尉か!右手に馬鹿でかい大砲持ちの敵機を頼む!」

『了解っす!!』

 

 ライトニング戦闘機は急加速して戦場に突入すると、機首にある最大口径オートキャノン及び各部に搭載されている中口径レーザーを乱射する。その射撃は過たず大砲持ちの機体を乱打する。ことに最大口径オートキャノンの馬鹿でかい砲弾は、右腕の付け根に命中し、上腕駆動装置と、大砲……ガウスライフルの弾倉を破壊した。砲弾が傷口から周囲に散らばる。ガウスライフルは弾倉に着弾しても、爆発はしない。砲弾が使い物にならなくなって撃てなくなるだけである。代わりにガウスライフル本体が破壊されると、爆発し放電により大ダメージを受けると言う笑えない欠点もあるが。

 大砲持ちの機体にはあとは小口径レーザーと格闘しか攻撃方法が無い。それはキース機に向かい、全力で突進してきた。突撃をするつもりだ。だがキースはそれを読んでいる。彼はグリフィンをジャンプさせると、相手の真後ろに回り込んだ。敵機は機体を捻り、無事な左腕でパンチを放ってくる。キースはグリフィンの両腕を振り上げた。それはクロスカウンターとなり、お互いの頭部に命中する。衝撃でキースは身体のそこかしこに打撲を負った。だが相手よりは随分とましであったろう。相手の機体は頭部を破壊されて、装甲の隙間からメック戦士の無残な姿が見える。キースは何度目かになる重苦しい思いを噛みしめた。

 そしてキースは再度機体をフルにジャンプさせる。ジャンプジェットに取り込まれた大気が、高温に加熱されて噴出し、グリフィンの機体を高々と舞い上げる。今しがたまでグリフィンの機体があった場所を、2条の粒子ビームと中口径オートキャノンの砲弾が抉った。マローダーからの射撃である。マローダーは撃ちすぎて熱くなった機体を冷やすため、湖の中へと進入していく。

 丘陵を挟んで反対側では、マテューのウルバリーンがK型クルセイダーを沈めたところだった。K型クルセイダーはセンサー系統をやられており、一切の射撃が不可能だ。それに重量級故の機動力の無さで、格闘距離に持ち込めないでいる。K型クルセイダーは案山子も同然であり、マテュー少尉機が放った中口径オートキャノンの弾が、既に9割がた削れている頭部を吹き飛ばして決着を付けたのだ。

 キースは叫ぶ。

 

「マテュー少尉!エリーザ軍曹のフォローに回れ!高速振動剣持ちに追い詰められている!」

『了解!』

「アーリン中尉!そちらの隊で長射程型大口径レーザーの両手持ちをお願いします!D型は放っておいてかまいません!」

『わかったわ!』

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 そしてスナイパー砲の2射目が着弾した。今度こそ、砲弾は高速振動剣持ちに叩きつけられる。だがフェニックスホークとは思えないほど装甲が厚いその機体は、その打撃に持ちこたえた。

 ついにウォーハンマーを、その凶刃が捉える。

 

『きゃあっ!!』

『エリーザ!ちくしょう、これでも喰らえ!』

 

 最も装甲が厚いウォーハンマーの胴体中央を、まるでバターの様に高速振動剣が斬り裂く。アンドリュー軍曹は昔からの同僚の危機に、ついタブーを忘れてライフルマンに全開射撃を行わせた。その射撃は、おおよそ6~7割ほどが命中する。しかしダメージは機体の全身に散り、致命傷は無い。頭部に命中した中口径オートキャノン1門が、かろうじて有効的なダメージと言えるだろうか。

 一方、ウォーハンマーのダメージは酷いものだった。核融合炉の鎧装が大きく斬り裂かれ、異常な発熱を機体にもたらしていたのである。これではろくな射撃もできない。下手に射撃を行えば莫大な熱が溜まり、核融合炉が強制的にシャットダウンするか、下手をすれば弾薬が爆発する危険すらある。

 だがエリーザ軍曹には、まだ幸運が残っていた様だ。

 

『……あら?』

 

 高速振動剣持ちの方が先に、核融合炉がシャットダウンしていたのだ。三重機能強化型人工筋肉の発動には、大量の熱量が必要である。その熱量を溜め込んで動いていたために、機体が強制的にシャットダウンしたのだ。これははっきり言って、メック戦士が機体に慣れていないのが原因である。三重機能強化型人工筋肉と高速振動剣の組み合わせの強力さに浮かれ、必要以上に熱を溜め込んだのだ。エリーザ軍曹は、今の状態でも撃てるほどの熱量しか発しない武器で、高速振動剣持ちの頭部を狙い撃ちする。

 

『これでも……くらいなさいっ!!』

 

 小口径レーザー2門とマシンガン1門が敵の頭部に命中し、その部位を完全に破壊する。それとほぼ同時にアーリン中尉麾下の小隊が、人工筋肉加速信号回路付きの長射程型大口径レーザー2本持ちの機体の左脚を折り取る。敵は人工筋肉加速信号回路のもたらす高速性に酔いしれて、連続でその機能を使用したため、両脚の駆動装置が機能停止して機動力を奪われたのだ。これもメック戦士が機体に慣熟していなかったが故の失敗である。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 そしてスナイパー砲の3射目が着弾した。なんだかんだ言って今まで残っていたD型フェニックスホークは、スナイパー砲の直撃を右脚に受けて、右脚を吹き飛ばされる。キースは機動性能が不安定で、動きの予測しづらい相手では無く、確実に挙動を予測できる敵を狙ったのだ。

 

「エリーザ軍曹、損害報告を。」

『え、エンジンに重いのを一発喰らって、熱が出てます……。たぶん3重の鎧装の2重までやられたかと。』

「……大損害だな。エリーザ軍曹はマテュー少尉といっしょに、後方に下がっていてくれ。」

 

 キースはグリフィンを、水浴びしているマローダーの方へ歩ませた。彼は一般回線で降伏勧告を行う。

 

「お前の部下は全て片付けた。大人しく降伏しろ。」

『だ、黙れ!こうなったら、私だけでも徹底抗戦してやる!せっかくメック戦士の座を取り戻したのに!おのれ、おのれええぇぇっ!』

 

 マローダーはキースのグリフィン目がけ、粒子ビーム2本と中口径オートキャノンを撃ちまくった。キースは急速後退しながら指示を下す。

 

「アーリン中尉!少し手伝ってください!アンドリュー軍曹!熱が溜まらない程度に撃て!」

 

 そしてキース自身も粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルを射撃した。アーリン中尉の撃った大口径レーザーと、アンドリュー軍曹の放った中口径オートキャノン2門に大口径レーザー1門が、マローダーの水上に出ている上半身に次々と着弾する。そしてキースの撃ち放った長距離ミサイルがマローダーの頭に命中し、生命維持装置を破壊する。マローダーは着弾の衝撃でぐらりと傾くと、水中に倒れ込んだ。

 

『『『『『「あ。」』』』』』

 

 マローダーは、水中で起き上がろうともがいている。だが起き上がるのに失敗し、しばらくじたばたしていたが、急に動きを停止してしまった。アンドリュー軍曹がぽつりと言葉を漏らす。

 

『な、何が起きたんだ?』

「頭部にずいぶんダメージを受けていた様に見受けられるが……。」

『もしかして、生命維持装置が壊れたんじゃないの?』

 

 キースの言葉により、アーリン中尉が正解を導き出した。バトルメックの生命維持装置が破壊されると、操縦席の気密が破れてしまうのだ。その状態で、水中に転倒したのだから、当然操縦席に水が流れ込んで来る。つまりは溺れてしまうわけだ。

 

『ほ、捕虜を取るんなら、早く助けないとまずくないかしら?ほら、敵の中隊長なんでしょ?重要な情報を多く持ってるかも。』

「そう、だな。ちょっとグリフィンで引き上げます。」

 

 アーリン中尉の台詞に、キースも情報源に死なれては困るとばかりにグリフィンを湖に飛び込ませる。そしてマローダーを担ぎ上げ、水上へと引っ張り上げた。

 結論から言うと、マローダーのメック戦士を助けるのは間に合わなかった。既に心肺停止状態であり、応急処置も功を奏さなかったのである。高い医療技術を持つキャスリン伍長が、ユニオン級降下船ゾディアック号で到着した時には、もう手遅れであったのだ。こうして情報源には、誰の手も届かないあの世と言う逃げ場所へ逃げられてしまったのである。

 

 

 

 その後、キースたち……正確にはキースたちの隊の偵察兵や整備兵たちが、第2ポイントの発掘現場を徹底調査した。そこでは改造を施されていない「生の」フェニックスホークが2機発見されたが、遺失技術を使ったバトルメックは例の3機以外は見つからなかった。発見された機体も、再稼働させるには熟練の整備兵による入念な整備が必要であるとの結果が出た。

 整備兵と言えば、敵の指揮小隊が連れて来ていた多数の整備兵が、遺跡の倉庫の中に立て籠もっているのが発見された。若干名の偵察兵やメック戦士候補も一緒である。彼らは、彼らの中隊長が既に倒されていることを知ると、あっさりと降伏した。だがエルンスト曹長の尋問によっても、結局は何も知らないことが判明しただけであった。

 鹵獲したバトルメックについてだが、やはりD型フェニックスホークは元『BMCOS』の物であった。だがそれだけではなく、敵中隊長が搭乗していたマローダーも、元『BMCOS』第2中隊中隊長機であったことが判明する。キースは今後マローダーを乗機とすることを決定。更にウォーハンマーが直るまで……サイモン老によれば部品さえ手に入れば確実に直せるそうなので、事実上部品が来るまでの間、エリーザ軍曹にこれまでの自機、グリフィンを貸与することにした。

 操縦席の修理が成ったマローダーを見つつ、キースは呟く。

 

「……一気に予備メックが増えたな。」

「修理待ちなのがウルバリーンとD型フェニックスホーク、貸し出しているのがグリフィンと通常型フェニックスホーク、ですのう。あと本来は予備機ではない機体が、ウォーハンマーとクリントが部品待ちですかの。」

 

 サイモン老の応えに、キースは眉根を寄せる。予備メックは確かに増えた。しかし修理部品などの数が足りない。フェニックスホーク系とウルバリーン系の部品は、そこそこストックがあった。だが通常型フェニックスホークを貸し出した相手であるリシャール少尉の本来のメック、40tクリント、そして今回エンジンの鎧装と胴中央部の機体中枢を大きくやられた70tウォーハンマー、これらの修理部品はなかなか揃わない。付け加えて言えば、ヴェラ伍長のD型フェニックスホークも右腕を吹き飛ばされており、修理に部品ストックを多数消費してしまう。

 おもむろに、キースは考えを述べる。

 

「契約では、メックが損傷した場合、装甲板は支給してくれることになっているし、その他の修理部品については正規軍の備蓄を正規の値段で売ってくれることになっていたな。だがウォーハンマーはともかく、クリントは恒星連邦では数が少ない。故に備蓄部品もあまり無く、近場の星系には存在しないと返答が返って来ている。それだけじゃない。ウィットワースも不具合が出てこないから忘れがちだが、正規部品ではないパーツで補修しているだけの応急修理品だ。

 ウィットワースについてなんだが、部品を星系外の業者に繋ぎを取って購入しようと思う。そしてクリントなんだが……。今リシャール少尉に貸与している標準型フェニックスホークを、正式にリシャール少尉の物にして、代わりにクリントをこちらで引き取ろうと思う。クリントはあくまで予備メックとして、最低限動かせる様に、間に合わせの部品で応急修理できないか?」

 

 クリントとウィットワースは、正確に言えば『SOTS』の機体ではない。だがその機体が所属している『デヴィッドソン装甲巨人隊』とは現時点で提携関係を結んでいるし、将来的に吸収合併する約束もできている。しかも今現在ですら、2つの小隊の経営は統合している。キースたちがそれらの機体の面倒を見るのは当然と言えば当然であった。

 サイモン老は頷く。電卓を叩きながら、彼は思案する。

 

「クリントは代わりになるフェニックスホークがありましたでのう。だから無理に応急修理しなかったんですわ。最低限の応急修理で良いなら、いつでも可能ですな。」

「アルバート中尉に相談したんだが、一度カイル船長とヴァリアント号を星系外に出す。カイル船長には、ゾディアック号の船長、副長に相応しい人材に心当たりがあるそうだからな。それを部品の買い付けと一緒にスカウトしてきてもらうつもりだ。ちょうどマーチャント級航宙艦クレメント号も、小銭稼ぎから3日後に戻ってくるはずなんだ。それにヴァリアント号を運んでもらおう。あと、同時にリライアント号も完全修理のために恒星連邦に返却しなければならない。クレメント号にはリライアント号もゼロG乾ドックのある星系まで運んでもらわないとな。

 イングヴェ副長には、カイル船長がスカウトに成功して戻ってくるまで約3週間、ゾディアック号の船長代理を頼む。」

「また嫌がりそうですなあ。」

 

 キースは踵を返して、バトルメック整備棟から出て行く。サイモン老がその後を追う。

 

「……で、だ。偵察・整備兵分隊分隊長として聞いて欲しい事がある。これは歩兵小隊隊長エリオット軍曹にも後から話す予定だが、それ以外の者にはまだ秘密にしておいてくれ。」

「!……了解しました。」

「敵の今回の発掘部隊を迎えに近い内、空荷の降下船を含んだ部隊がやって来る可能性が高い。この情報は、こちらで発表するまで部下には洩らさない様に。我々はその敵を迎え撃たねばならない。損害が出る可能性が高いので、予備のバトルメックをいつでも代替機として使える様にしておいて欲しい。無論のこと、本来の機体のうちで今現在不稼働の物もだ。ヴェラ伍長のD型フェニックスホークが、まず最優先だな。サイモン曹長は基地にてそれらの指揮を取ってくれ。

 その他の偵察・整備兵分隊は歩兵部隊と共にメック部隊に随伴し、残された第3、第4、第5の各発掘ポイントを調べて回る。敵が現れる前に調査、発掘を終えたい。」

「わかりました。わしに任せてください。腕が鳴りますのう。ヴェラ伍長機は、綺麗に右腕が吹き飛んだんで、逆に繋ぎやすいですわ。発掘隊の出発までに、たぶん間に合いますわい。ではわしは、整備棟に戻って修理計画を立てますで、これにて。」

 

 キースはサイモン老を見送ると、自分はアルバート中尉、アーリン中尉と発掘計画の詳細を詰めるために、本部棟に向かって歩いていった。




と言うわけで、主人公メカが新しくなりました。主人公メカの世代交代は、お約束ですよね!それと同時に、敵戦力はとりあえず殲滅できました。ひとまず安心です。ですが、おかわりの戦力がまだやって来る可能性は高いです。
さて、次回をお楽しみに。


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『エピソード-013 発掘ポイント』

 3025年9月5日、キースたち傭兵小隊『SOTS』とアーリン中尉麾下の傭兵小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、ユニオン級降下船ゾディアック号で第3発掘ポイントへ向かっていた。今回は気圏戦闘機ベイも倉庫として用いる予定であるため、2機のライトニング戦闘機は載せて来ていない。もし発掘品が大量で運びきれないときには、基地に連絡してレパード級降下船ゴダード号を呼ぶ手筈になっている。

 

「う~~~……。あたしのウォーハンマー……。」

「だからそんなに気落ちすんなって。隊長からグリフィン貸してもらえたろ?」

「それにサイモン曹長は、部品が着き次第完全に直してくれるって、請け合ってくれたでしょう?」

 

 エリーザ軍曹の大事な相棒、70t重量級バトルメックのウォーハンマーは、前回の戦闘で胴体に大ダメージをくらい、いまだ使用には心許ない状態であったのだ。まあ手持ちの部品で、直せる部分は直したのだが。アンドリュー軍曹とマテュー少尉は、苦笑しながらエリーザ軍曹を宥めている。キースもまた、その様子を見ながら苦笑いしていた。

 と、そこへアーリン中尉以下『デヴィッドソン装甲巨人隊』の面々がやって来る。アーリン中尉がキースに手を上げて挨拶した。キースもまた、手を上げて返す。そんな中、リシャール少尉がキースに頭を下げて来た。

 

「キース中尉、この度は本当にありがとうございました。実のところ、クリントでは偵察任務ならばともかくとして、戦闘任務には少々心許ないと思うようになって来ていたんです。貸与していただいていたフェニックスホークをクリントと交換してくださると言う話は、渡りに船だったんです。」

「それならば良かった。愛着のあるメックを無理に取り上げた様な形になったのではないか、と恐れていたんだが。」

「愛着が無いとは言い難いですが、クリントは部品調達も難しかったですし、『デヴィッドソン装甲巨人隊』では一番持て余す機体でもあったんです。」

 

 リシャール少尉の顔色は明るい。無理をしている様子ではなさそうだ。キースは内心安堵した。ここで、ブリッジでゾディアック号を操船しているイングヴェ船長代理からインターホンを通じて連絡が入る。

 

『まもなく第3発掘ポイントです、隊長。』

「ありがとう船長代理、偵察兵、整備兵、歩兵たちにも伝えてくれるか?」

『わかりました。……はやくカイル船長、帰ってきませんかねえ。ああ、レパード級に戻りたい……。』

 

 イングヴェ船長代理は、元々レパード級降下船ヴァリアント号の副長だ。そのヴァリアント号と船長であるカイル少尉は、今現在恒星連邦に備蓄がない種類のメック部品の買い付けと、ユニオン級降下船ゾディアック号の船長、副長をスカウトするためにこの星系外に出ている。

 キースは笑ってイングヴェ船長代理の言葉に応えた。

 

「ははは。あと3週間の辛抱だ、船長代理。それじゃあ、他の面々への連絡、頼んだぞ。」

『はい……。』

 

 ゾディアック号は、ゆっくりと渓谷の間に垂直降下していく。この渓谷の奥に、目的の星間連盟期のバトルメック倉庫があるのだ。キースはその場の全員に向けて、言葉を発する。

 

「では諸君、着陸完了次第、我々はバトルメックを起動して下船する。今回は戦闘は無いはずだが、相手はなにぶん星間連盟期の手つかずのバトルメック倉庫だ。充分注意するように。」

「「「「「「了解!」」」」」」

「ではアーリン中尉、そちらの小隊はお任せします。」

「了解。……ねえ、キース中尉?」

 

 アーリン中尉は怪訝そうな顔になる。その様子を見て、キースは何か問題でもあるのかと思った。

 

「どうかしましたか?アーリン中尉。」

「前から思ってたんだけど貴方、本当に16歳?その威厳は、ただ事じゃないわよ?」

「ほっといて下さい。」

 

 キースは肩を落として落ち込んだ。アンドリュー軍曹が、彼の内心を代弁する。

 

「キース隊長は、老け顔なの気にしてるんですから、そっとしといてあげてくださいよ、アーリン中尉。」

「あんたもズバっと言うわよね。」

 

 アンドリュー軍曹に突っ込むエリーザ軍曹。キースの気持ちはしばらくの間、晴れる事は無かった。

 その後彼らは、爆薬で人工地震を起こしてその震動が伝播する波形を観測し、地下のバトルメック倉庫を見つけた。そして偵察兵と整備兵たちが協力して倉庫を暴いて行く。ここには3機のバトルメックと、幾ばくかのメック部品が眠っていた。3機のバトルメック中、2機が遺失技術を用いて建造された実験機であり、1機は通常のバトルメックである。遺失技術を用いられた機体は、1機が60tライフルマンをベースとしたウルトラオートキャノンの実験機であり、1機が55tシャドウホークを基礎にした小口径~大口径のパルスレーザー及び軽量型の火炎放射器の実験機だった。ちなみにノーマルのバトルメックは、60tライフルマンであった。

 キース達はバトルメック倉庫から自分たちのメックで発掘メック他を運び出し、ゾディアック号に積み込んで帰還の途につく。ちなみにキースはまだちょっと不機嫌だったりした。無論公の場で、それを表に出すようなことはしないが。

 

 

 

 3025年9月7日、キースたち『SOTS』と『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、今度は第4発掘ポイントにやって来ていた。ここは深い森の中で、降下船ゾディアック号が降りられる場所が近くに無い。やむなく彼らはゾディアック号を少々離れた場所に着陸させ、バトルメックおよび徒歩で目的地を目指していた。何故徒歩かと言うと、この森は少々険しくて、車輛が入れる様な場所ではなかったのである。歩兵たちの徒歩での移動にあわせ、速度を調節しているので、かなり進軍速度は遅い。

 キースのマローダーに、エリオット少尉待遇軍曹から通信が入る。

 

『隊長!申し訳ありませんが全部隊停止をお願い申し上げます!』

「全部隊停止!どうしたエリオット軍曹。」

『歩兵が1名、毒蛇に噛まれました。医務官キャスリン伍長の話では、通常の救急箱ではなく、マローダーに積んでいただいている野外手術キットを使い、傷口を切開する必要があるとのことです。』

「了解した。今からマローダーをしゃがませるので、腰にある収納区画から取り出して使う様に。それと手当てが終わったら、その兵は1個班つけてやって、降下船に帰還させろ。」

『はっ!』

 

 キースはマローダーをしゃがみ込ませる。ふとキースは妙な事に気付いた。

 

(ありゃ?この惑星は原生生命は植物だけで、その割合は40%だったよ……な?つまり毒蛇は、外の惑星から持ち込まれた物だってこと、か。うーん、しかしそのうち専任の惑星学者が必要になるかもなあ。キャラクターの能力値としての知性度は最高に設定したけど、知識自体は浅薄な物だからな。毒蛇がいるってそう言う知識を持った人間がいてくれれば、あらかじめ色々用意してきたんだけどなあ。)

 

 やがて治療が終わり、その兵に人数をつけてやって降下船に帰らせると、キース達は再度出発した。その後は何事もなく、目標地点へと到達する。

 

「全部隊停止。エリオット軍曹、エルンスト曹長とネイサン軍曹の指示に従って、3か所に爆薬を仕掛けてくれ。くれぐれも爆発物の取り扱いには注意するように。」

『了解!』

 

 そして爆薬により人工地震が発生する。震動が伝播する波形を観測して、おおよその地下施設の位置を割り出した彼らは、入口と思しき場所に向かう。そこは崖の様になった場所で、崩れた土砂に施設の入り口は埋まっていた。キースは命令を下す。

 

「マテュー少尉、エリーザ軍曹。ウルバリーンとグリフィンで、メック用円匙を使って土砂を除けてくれ。」

 

 円匙とは、スコップの事である。ウルバリーンとグリフィンは、巨大なスコップを背中から降ろし、その両手に持った。マテュー少尉とエリーザ軍曹の返答が響く。

 

『『了解!』』

『隊長、砲撃で土砂を吹き飛ばすんじゃ駄目なのか?いや、土木作業してたら暗くなっちまうぜ?それとも今日はここで野営すんのか?』

 

 アンドリュー軍曹は不思議そうに言う。キースは答える。

 

「ああ、今日はここで野営しようと思う。砲撃は、できれば避けたい。星間連盟期の施設だからな。下手な真似をしたら、防御設備が動き出したりする可能性もある。」

『なるほど。』

(それに戦闘任務じゃないから、砲弾使ったりしても補給は出ないんだよなあ。粒子ビーム砲とかなら安上がりだけど、万が一こちらの落ち度で防衛装置と交戦するようなことになったら……。侵略者や略奪者相手の戦闘じゃないから、戦闘手当てとか出るかどうかも怪しい。

 ……世知辛え。)

 

 結局その日はそこで野営し、本格的な探索は次の日に行われた。危険なトラップもあったが、幸いにして優秀な偵察兵や整備兵たちの技により、回避することができた。

 この第4発掘ポイントの倉庫に収められていたのは、第1発掘ポイントと同じ様な軽メックが5機、残骸状態の中量級メックが1機、及び多少のメック部品であった。無事な5機のうち3機が遺失技術を用いた機体であり、残り2機が通常のバトルメックである。遺失技術メックは、20tワスプの改造機が2連誘導短距離ミサイル発射筒の実験機、30tジャベリンの改造機がナーク・ミサイルビーコンの実験機、20tスティンガーの改造機がガーディアンECMとビーグル・アクティブプローブの実験機であるらしかった。残り2機の通常型バトルメックは、20tローカストが1機、20tスティンガーが1機となっていた。

 ちなみに残骸状態の中量級バトルメックに関しても、倉庫に設置されていたコンピュータから情報が拾えた。これはパメラ伍長の手柄である。この機体はCASE、多孔式弾薬保管装置の実験機であった模様で、元は40tクリントだった機体にCASEを載せ、弾薬を実際に爆発させてみた結果がこうであったらしい。この機体に搭載されていたCASEは、不完全な代物であった様だ。だがこの残骸は、脚部が無事であった。後にキースはこの残骸について交渉し、このクリントの残骸の右脚を買い取ることに成功する。これにより、部隊の予備メックであったクリントが、完全修復可能となったのだ。

 こうしてキース達は、そこそこの成果を得て第4発掘ポイントを後にした。

 

 

 

 3025年9月11日、キース達はとうとう資料にあった最後のバトルメック倉庫である、第5発掘ポイントへとやって来た。実際の倉庫がどこなのかは、爆薬を使って人工地震を起こすまでもなく、あっさりと判明した。草原のど真ん中に、ぽっかりと陥没した大穴が開いていたのである。

 

『うわ……。空から見てもあっさりわかったけど、この壊れようは何かしらね。』

「アーリン中尉、壊れ方から見て、おそらくは天然の地震による被害ではないかと。」

『なるほど。でも、この壊れ様じゃあ……。まともな物は残ってないかもしれないわね。』

「とりあえず、偵察兵と整備兵を送り込みましょう。」

 

 残念がるアーリン中尉に、決めつけるのは早いとキースは、まずやることをやろうと提案した。そう長い事待たずに、結果は出た。凄腕のコンピュータ技師であるパメラ伍長から、連絡が来る。

 

『隊長!キース隊長!大変です!』

「パメラ伍長、きちんと報告しろ。大変、だけではどうする事もできん。」

『は、はい!って言いますか、戦闘準備を整えてくださいっ!』

 

 キースはその言葉を聞くや、即座に決断を下す。

 

「全部隊、戦闘準備!グリフィンとライフルマン、ウィットワースを中心に円陣を組んで周辺警戒に当たれ!パメラ伍長!?」

『この倉庫のシステム、まだ生きてます!隊長たちのメックを敵機と誤認して、動かせる戦力を出そうとしてます!この第5ポイントで実験されていたのは、主に自動制御装置と、あと1つ何かまだ判らない物を実験してた様です!

 自動制御のバトルメックが、今出撃します!』

「……!!パメラ伍長、そこから遠隔で自動制御装置を止められないか?」

『駄目です!完全に自律して、こちらのコンピュータとは接続を切ってます!』

 

 キースたちのバトルメックから少し離れた場所の地面が揺れ動き、土砂が崩れ落ちる音がする。そちらを見ると、3か所の地面にぽっかり穴が開いており、そこの地下から高速でエレベーターが上がって来る。エレベーターに乗った代物を見たキースは叫んだ。

 

「奴が飛ぶ前に叩き潰せ!全機、一斉射撃!」

『『『『『『了解!』』』』』』

『……って、飛ぶ!?』

『ジャンプのことでしょ?撃つわよ!って何よあれは!』

 

 そこにあったのは、気圏戦闘機の胴体から脚を生やし、腕を生やした様な代物であった。それが3機存在する。キースはマローダーの粒子ビーム砲2門と、オートキャノン1門を一斉発射した。ワンテンポ遅れて、仲間達も撃ちまくる。キースの射撃は、そのうちの1機に着弾し、その左腕を破壊した。だが次の瞬間、その異形の機体は胴体からジェット流を噴き出すと宙に浮かんだ。そしてホバリングしつつ加速すると、超高速で低空飛行を始めたのである。アンドリュー軍曹があきれた様な声で叫ぶ。

 

『隊長!ありゃ、何だ!?』

「あれはLand-Air-battleMech、LAM機だ!聞いたことないか!?フェニックスホークLAMだ!」

『私は学校で習ったわ!主に降下拠点の占拠任務や、偵察に用いられる高機動の可変バトルメックね!?』

 

 アーリン中尉が大口径レーザーを撃ちながら叫ぶ。キースは内心で愚痴った。

 

(くそ、出撃時点からエアメック形態ってのは、どんな冗談だよ!?しかも本来なら遺失技術メックよりも珍しいレベル3の代物のはずだろ!?それが遺失技術の自動制御装置を搭載してるだ!?)

 

 キースの隊に比して、若干射撃技量で劣る『デヴィッドソン装甲巨人隊』の面々は、高速で浮遊飛行するエアメック3機に命中弾を送り込むことができていない。いや、『SOTS』小隊のメンバーも、エアメック相手には命中させるのは困難な様だ。幸いなことにエアメックからの攻撃も、散発的にしか当たっていないが。飛行状態からの攻撃は、そこそこ難しいのである。

 そんな中、気を吐いているのがアンドリュー軍曹のライフルマンだ。彼のライフルマンにはD2J照準/索敵システムが搭載されており、飛行する目標に対しての射撃性能が高い。そして2基搭載されている中口径オートキャノンは、もとより対空性能が高い兵器として知られている。

 キースとマテュー少尉もまた、自機に搭載された中口径オートキャノン主体の攻撃に切り替える。やがて1機のフェニックスホークLAMが、翼を破壊されて墜落した。大地に落ちたその機体は、凄まじい土煙を上げて地面を滑って行く。そしてそのまま動かなくなった。

 

『ようし!1機撃墜!俺のライフルマンは天下一品だぜ!』

「その調子で、もう1匹頼むぞアンドリュー軍曹!」

 

 キースはアンドリュー軍曹を称賛、激励しつつ、粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノンを発射する。彼の射撃技量は小隊の仲間たちから見ても一段上である。粒子ビームとオートキャノンの砲弾が、エアメックの片脚をもぎ取った。その同じ敵機に、マテュー少尉の撃ったオートキャノンの砲弾と、アンドリュー軍曹の撃った砲弾とが命中する。その機体も翼を破壊され、墜落した。敵機はあと1機だ。

 だが運命は悪戯である。アンドリュー軍曹の悲痛な叫びが響き渡る。

 

『うわっ!オートキャノンの弾が、もう無えっ!!』

 

 その彼のライフルマンめがけ、最後に残ったフェニックスホークLAMは集中砲火を見舞う。なんと運が悪いことに、全弾が命中した。弾着が集中せずに分散したのが、不幸中の幸いだろうか。エアメックは、蝶の様に舞い、蜂の様に刺す行動を繰り返し、キースたちの機体の装甲を削っていった。一応キースは命中弾を数発与えているのだが、まだなんとかフェニックスホークLAMは持ちこたえている。

 アーリン中尉が叫んだ。

 

『ああもう!鬱陶しいのよ!落ちなさい!!……え?』

 

 アーリン中尉の射撃が、見事に右翼を撃ち抜く。キースが先ほど中口径オートキャノンで叩いて、装甲が弱っていた部分だ。最後のフェニックスホークLAMは、きりもみしつつ墜落し、草原に派手な跡を残してかなりの長距離を滑って行った。しばらく待ってみたが、どうやら動く様子は無い。アーリン中尉がキースに謝る。

 

『ごめんなさい、なんか美味しい所だけ貰ったみたいで……。』

「何故謝るんです?誰が撃墜しようと、勝利は全員の物です。それにこの場合、協同撃墜というやつでしょう。……それより問題が。」

『え?問題って?』

 

 暗い口調で、キースは説明する。

 

「いえ……。今回あのLAM機のせいで、かなりの損害でしたから……。」

『あ、でも装甲板や弾薬は契約で支給されるはずで……。今回やられたのは装甲板だけで……。』

「いえ、今回の相手はクリタ家のような侵略者でも、海賊のような略奪者でもありません。正規の戦闘任務と認められるかどうか……。認められなかったら、装甲板も弾薬も支給されませんし、戦闘報酬さえ支払われない可能性も……。

 恒星連邦ではなく、惑星公からの遺失技術機体回収のボーナスはちゃんと出ると思いますが、あれだけ壊したら遺失技術部品が無事に残っているかどうか……。」

 

 過熱して暑いはずのフェニックスホークの操縦席の中で、アーリン中尉は凍り付く。キースは慰める様な口調で言った。

 

「装甲板は、うちの小隊に備蓄があります。支給されなかったら、それを取り崩して提携部隊であるそちらにもお分けしますよ。弾薬も、使ったのはうちの小隊が装備してる中口径オートキャノンの砲弾と、グリフィンやウィットワースの10連長距離ミサイルですから。どちらの弾薬も、備蓄が一応あります。ウィットワースのミサイルは、支給されなかったらこれもお分けします。」

『ありがとうキース中尉!あー、なんか泣けてきたわ……。以前だったらもう手も足も出なくなって赤字転落するところよ……。』

(いや、支給や支払いが無かったら、うちも備蓄の許容範囲ってだけで赤字には違いないんですがね。……ここの倉庫に、まだ良い物が残ってるといいんだけどなあ。)

 

 そのとき、キースのマローダーに通信が入る。

 

『隊長!ここの倉庫、えらい代物です!』

「ネイサン軍曹、落ち着いて報告したまえ。」

『すみません。興奮しました。えー、ここの倉庫には、バトルメックの維持管理が自動で行える設備があるんです。もっとも作業速度は物凄く凄い程に遅いんですが、そのかわり確実に機体を直して調律してくれます。それが稼働してたんで、さっき出撃して行った機体も万全の状態で動いてたわけですな。』

 

 キースは納得する。確かにそれはえらい代物だ。

 

『でもって、今整備兵連中が総出でその設備に張り付いてます。』

「で、どうだ?その設備は移設できそうか?こんな人里離れすぎた場所にあっても、無意味とまでは言わないが、意味は薄い。」

『サイモン曹長がいれば、すぐに分かったんでしょうが……。ちょいと今ここにいる連中じゃ……。』

「曹長には、他に重要な仕事が山積みになっているんだ。無理を言うな。」

『ですよねえ……。このまま調べさせてみます……。っと、また何かあったみたいです。少し待っててください。』

 

 しばらくキースは待った。さほど時間をかけずにネイサン軍曹の声が戻って来る。

 

『隊長、正体不明のバトルメックを発見しました。さきほどのバトルメック自動整備施設の中に入ってたそうです。型は不明、まったくの新型……いや、星間連盟期の代物だから新型と言うのは変ですな。』

「軍曹、パメラ伍長に聞いてくれ。先ほどのLAM機……さっきの敵機の事だが、それが出て来たエレベーターを動かせるか、とな。フェニックスホークやウルバリーン、グリフィンなどの手を使えるメックを下に降ろして、その型式不明機を搬出する。」

『了解しました。』

 

 すぐにエレベーターが動かせることがわかり、エリーザ軍曹のグリフィンと、マテュー少尉のウルバリーンが地下に降りて行く。やがてそのバトルメックが地上に搬出された。キースはそれを一目見て、ほう、と溜息を吐く。

 

「どうやら赤字は免れそうだな。」

『キース中尉、どうしたの?』

「いやアーリン中尉、このバトルメックを惑星公に納めれば、かなりの謝礼金が貰えそうです。きっとたいした代物ですよ、これは。まあ、実験機でしょうから実用性は薄いでしょうけれどね。」

 

 その後、彼らはこのバトルメックを持ち帰った。ちなみにフェニックスホークLAMの残骸も、部品の一片に至るまで歩兵の手を借りて拾い集め、持ち帰っている。幸いにして遺失技術部品である自動制御装置は壊れていなかった。それはともかくとして、持ち帰った型式不明機は、サイモン老が一目で正体を見破ってくれた。

 

「これはLAM機ですな!シャドウホークLAMの流れをくむ機体ですのう!」

「シャドウホークLAMは、開発に失敗したってどこかで聞いた気がするが……。」

「よくご存じですなあ隊長。ですから、基本的な構造から手が入ってますな。おかげで外見ではシャドウホーク系の機体だとはわからん様になっておるんですのう。」

「それって、もうシャドウホークとは言えないんじゃ……。」

「言えませんの。だから、流れをくんでるだけなんですのう、これが。」

 

 ちょっと詐欺の様な気がしたキースだった。ともあれこれで、敵から入手した資料にあった星間連盟期の遺跡発掘は、すべて完了した。第5発掘ポイントには、まだバトルメックの自動整備施設も残ってはいるが、今のところその設備をどこかに移設することはできない。可能ならば首都ドリステルの近くか、あるいは駐屯軍基地の近くにでも移すことが望ましいのであるが。もっとも、そこに備蓄されていた資材を全て回収して来たので、自動整備施設だけあっても意味は無い。とりあえず、サイモン老の手が空き次第、レパード級降下船ゴダード号で現場に連れて行き、その整備施設を移設できるかどうか確認してもらう予定である。

 

 

 

 3025年9月13日、その夜キースはアルバート中尉、アーリン中尉と、これからのことについて話をしていた。

 

「……そうですか、援軍申し込みは却下されましたか。」

「ああ。今日着いた不定期便の軍用降下船が、恒星連邦の返事を持って来たのさ。不確定な情報だけで、今まさに侵略を受けているマーダックを差し置いて、この惑星に増援を送るわけにはいかないそうだよ。」

「軍用降下船が、わざわざメッセージを?」

 

 アーリン中尉が意外そうな声を出す。その気持ちは、キースにもわからなくもない。増援を送るわけでもないのに、こんな辺ぴな田舎惑星に軍用の降下船を送り込む理由がない。

 いや、1つ理由があったことをキースは思い出す。

 

「遺失技術メックおよび部品、ですか。」

「あたり。ザヴィエ・カルノー公爵閣下が手配してたらしいよ。NAISに今回発掘された遺失技術バトルメックを輸送するために、できるだけ大量のバトルメックを輸送できる降下船を送れ、ってな。それでなんとオーバーロード級を1隻送ってきた。」

「わざわざオーバーロード級を空荷で送ってきたの?」

「いや、不幸中の幸いと言おうか……。キース中尉のところのウォーハンマーとマローダー、あれの予備部品や補修部品注文してたろ?それを持って来てくれたらしい。これでウォーハンマーは復旧できるよね。それにうちの小隊でも、サンダーボルトのとかエンフォーサーのとかD型フェニックスホークのとかシャドウホークのとか、予備部品注文してたんだよね。

 他には色々他の惑星で生産された機械類とか。コンバインとかトラクター、ディーゼル機関車なんかだね。そう言った物を、この際だから満載してきたらしい。」

 

 オーバーロード級と言う、ある意味で軍用の極致とも言える降下船が、農作業用や輸送用の民生機器などを運んで来たことを知り、アーリン中尉はがくっと脱力する。キースも多少脱力する物を感じなくも無かったが、気合いを入れ直す。

 

「話を戻しましょう。敵のスパイ網がもしこの情報を掴んでいれば、もう遺失技術メックは手に入らないと悟ってこの惑星へやって来ない可能性もあります。ですが既に招かれざる客が、あちらの星を進発していれば……。航宙の間にHPGによる超光速通信で情報を受け取ることはできないのですから、この惑星で発掘を続けているはずの発掘部隊を……正確にはその戦利品を受け取りに来る可能性もあります。」

「安心はできない、ってわけね。」

「万全の準備を整えて待ち構えましょう。気圏戦闘機によるCAPの体勢を整えて。」

「そうだな。任期が切れる10月前半までその体勢を続ければ、何処からも文句は出ないだろ。」

 

 キースの中では、余計な被害を出さないために敵に来て欲しくない気持ちと、仇を討つためにも敵に来て欲しい気持ちとがせめぎ合っていた。彼はそんな矛盾する気持ちを、胸の奥に押し込める。今は「もしも」に備えることが何よりも重要なのだ。それ以外のことは、「可能であれば」でしかない。

 胸の中の嵐と戦っているキースを、アルバート中尉がわずかに隠せなかった同情の視線で見つめていた。




さて今回は、色々無茶な物を出してしまいました。一応SNEのリプレイに出て来たり、個人HPで翻訳されてたりした物でなんとかしたんですがね。自動制御フェニックスホークLAMは、やり過ぎだったかなあ(笑)。
それと、主人公たちにプラスの方向では無い、マイナスの方向のご都合主義で、援軍は却下してしまいました。主人公達には頑張ってもらいましょう。


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『エピソード-014 生身戦闘』

 十数枚の書類をよく読み、キースはそれにサインをする。そして彼はそれを眼前の、曹長の襟章を着けた係員に手渡した。

 

「ご苦労、曹長。受け取りの書類はこれで全部だな?」

「はい中尉。その通りであります。」

「では荷は持って帰る。船の船倉から運び出すが、問題は無いな?」

「はい、ありません。」

「そうか、ありがとう。コールマン二等兵!運搬用トレーラートラックの準備をしろ!」

「はっ!了解であります!」

 

 ジャスティン・コールマン二等兵が直立不動で応え、退室して行く。係員の曹長は、キースに話しかけた。

 

「彼は歩兵ですね。敬礼をしない。」

「ああ。歩兵の本来の任務以外にも、色々やってくれるので、つい頼ってしまう。……手柄もいくつか立てていることだし、近いうちに一等兵に昇進させてやろうと思っているんだ。」

「なるほど、息子さんの様に思ってらっしゃるのですな。」

 

 キースは思わずがっくりと来そうになるのを、精神力で堪えた。

 

(息子はないだろう、息子は。俺はまだ16歳だ。中身は前世から数えて○○歳だが……。そりゃ、弟みたいには思ってるけどさ。)

 

 ここはドリステラⅢの首都ドリステル、その東に隣接して建てられたドリステラⅢ最大規模の宇宙港ドリスポートのロビーである。まあ最大規模とは言っても、たかが知れているサイズであるし、それにこの惑星には他の宇宙港は、駐屯軍基地に付属している小規模な物しか存在しない。キースがここに何をしに来たかと言うと、ここに着陸しているオーバーロード級降下船ケーニッヒ号から、アルバート中尉の名代として積荷のバトルメック部品を受け取りに来たのである。

 キースは係員の曹長に別れを告げると、宇宙港の駐車場に駐車している大型トレーラートラックのトラクター(けん引車)の所へ向かう。トラクターは既にアイドリングを開始していた。その周囲では、キースのメック小隊『SOTS』に所属する歩兵小隊のうち、半数の2個分隊が警備をしている。トラクターの傍らでは2輛の装甲兵員輸送車が、これもアイドリングをしていた。

 キースはトラクターの助手席に乗り込むと、ジャスティン二等兵に向かって言う。

 

「ジャスティン二等兵、オーバーロード級の方へ車を出してくれ。……あんまり速度、出すなよ?」

「はいっ!」

 

 トラクターはケーニッヒ号の傍で一端停車。そこでキースが、駆け寄ってきた降下船側係員の伍長の差し出す割り符に、自分の持つ割り符を合わせて見せる。割り符はぴったりと噛み合い、ピピッと合格の電子音声を立てた。バトルメック部品という重要軍需物資の受け渡しである。慎重になって悪い事はなかった。

 

(……しかし、電子割り符ねえ。指紋照合とか網膜血管照合とか、そう言った機械は無いのかね。……あっても貴重品なんだろうなあ。大抵の惑星は、20世紀あたりの技術レベルだし。バトルメックの保安装置も、暗号式だしなあ。)

「中尉、行きます。」

「む?うむ、やってくれジャスティン二等兵。」

 

 トラクターはケーニッヒ号の船倉に直接乗り入れると、係員の誘導に従って6連のトレーラー(被けん引車、コンテナ部分)に接続作業を開始する。キースはそこで一度車を降りて、6つのコンテナ内に次々と入り、検品を行う。確かに間違いの無い部品が届いていた。

 

(間違いなし。これでウォーハンマーが直せる。エリーザ軍曹が喜ぶだろうな。……今、貸しているグリフィンも、良いメックなんだがなあ。)

 

 キースはトラクターの助手席に戻り、発車を指示する。ジャスティン二等兵はそれに応えてトレーラートラックを発車させた。

 

 

 

 ドリステルの中心街区をかすめる様に建設されている産業道路を抜け、キースたちの6連トレーラートラックは恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地に向かい、荒野を走っていた。それを守る様に、前後に装甲兵員輸送車が走っている。周囲は農地が広がっており、緑が目に優しい。しばらく走ると、やがて畑も無くなり、荒野になった。

 キースは定時連絡を基地に入れる。

 

「こちらキース中尉。メック部品などの荷物を受け取って、今帰途についている。あと1時間もすれば基地に到着できるだろう。」

『了解です、キース中尉。お帰りをお待ちしてお……ザ、ザー……ピー、ガガガ……。』

「あれ?故障でしょうか中尉。」

 

 だがそのとき、キースの背中に冷や汗が流れる。キースの「第六感」と卓抜した戦術能力は、何者かの待ち伏せを察知したのだ。

 彼は前後を走っている装甲兵員輸送車に通信を入れようとして、それも通じないのを確認すると、トレーラートラックの窓から身を乗り出して、大声で叫んで注意を引いた。そして彼はハンドサインで前後の車輛に指示を送る。

 

『通信妨害あり。襲撃の可能性大。各分隊長に個別の指揮は任せる。』

 

 その時、キースの身近に銃撃が着弾する。彼は車窓の中に身を引っ込めて叫ぶ。

 

「狙撃手だ!ジャスティン二等兵、可能な限り速度を上げろ!」

「……了解ッ!」

 

 トレーラートラックが、猛然と速度を上げた。コンテナ部分に、ライフル銃による着弾の火花が走る。前方を走っていた装甲兵員輸送車が、狙撃手の方向へ砲塔のターレットを回し、マシンガンで射撃する。ただし狙撃手が見つからないために、めくら撃ちの威嚇射撃にしかならない。そこへ4台のジープがIR偽装網を跳ね除けて出現する。一見非武装車だが、キースの目はそれの乗員の肩に、短距離ミサイルランチャーが乗せられているのを確認した。

 前方を走っている装甲兵員輸送車のタイヤに、短距離ミサイルがぶち当たる。装甲兵員輸送車はなんとかトレーラートラックの邪魔にならない様に、道の脇に停車した。1個分隊の歩兵たちが降りてきてジープに向けてライフル射撃を開始する。しかしジープもキースたちのトレーラートラックも、かなりの速度で突っ走っていた。標的も、護衛目標も、あっと言う間にライフルの射程距離から脱してしまう。歩兵たちは地団太を踏んだ。

 キースはドアミラーに顔を近づける。すると、後ろを走っていた装甲兵員輸送車もまた、タイヤに一撃を喰らって動けなくなっているのが見える。だが相討ちの形で、その砲塔のマシンガンがジープの1台を破壊していた。装甲兵員輸送車から飛び降りた1個分隊の歩兵たちが、ジープの乗員を制圧しているのがドアミラーに映る。だがまだジープは3台いる。

 

「くそっ!」

 

 ジャスティン二等兵が、運転しながら車窓を開け、軍用自動拳銃を射撃する。キースも助手席側の車窓から、自分の拳銃を構えた。

 

(く、自分の生身でやり合うなんて、『ロビンソン戦闘士官学校』の授業以来だぞ!)

 

 ジープが物凄い勢いで突っ込んで来る。その後部座席からは、短距離ミサイルランチャーを構えた男がトレーラートラックのトラクター部分のタイヤを狙っている。キースは慎重に狙い、後部座席の男を撃つ。

 

 バン!バン!バン!

 

 3点バースト射撃が短距離ミサイルランチャーを構えた男を撃ち倒した。間違いなく頭に当たっている。キースは次に、ジープの運転手に狙いをつける。と、ジャスティン二等兵が叫んだ。

 

「中尉殿!何かに掴まってください!この車をぶつけます!」

「!」

 

 キースが車内にある手すりに掴まると同時に、ガン、ガリガリと言う衝撃が響いて来た。トレーラートラックが大きく揺れる。キースの側からは見えないが、ジープの様な軽い車輛がこの様な大型トレーラートラックの体当たりを受けては、ひとたまりもあるまい。ジャスティン二等兵が謝る。

 

「申し訳ありません、中尉。やつがミサイルを撃とうとしてたので。俺、いえ自分の拳銃の腕じゃ、命中しそうになかったんです。」

「いや、良い判断だった、二等兵。敵は?」

「健在です。一度後方に脱落しましたが、追いすがって来ます。」

「……この大型車にぶつけられて無事とは、かなり運転の腕前が良いな。」

 

 再び車窓の外に向かい拳銃を構えながら、キースは嘆息する。その時、短距離ミサイルランチャーの射手を失った車がトレーラートラックの前に出て、その運転手が身体を捻って拳銃をこちらの運転席に向けて撃った。だが流石に軍用トレーラートラックのトラクターだ。フロントガラスは防弾仕様になっている。と、別のジープが入れ替わりにトレーラートラックの前に出て、後席の射手が短距離ミサイルランチャーを構えた。キースは車窓から身を乗り出して拳銃を撃つが、当たらない。

 

「中尉!掴まってください!」

「わかった!」

 

 ジャスティン二等兵がトレーラートラックを急加速させて衝突させる。ゴン、という揺れと共に、前のジープはバランスを崩し、短距離ミサイルランチャーの射手はあさっての方向にミサイルを無駄撃ちした。

 だがキースの方も、このままではまずい事に気付いている。今のところ、短距離ミサイルランチャーの射手を片付けられたのは1台。残り2台は残弾がどれくらいあるかは知らないが、まだ短距離ミサイルランチャーを使える状態にある。敵がこちらを全て片付けるのを諦め、6連のトレーラーのうち後方の幾つかだけでも、と考えたなら、それを防ぐ手段は無いに等しい。運転席からでは死角が多く、前の方の1つか2つのコンテナを守るだけで精一杯なのだ。

 キースは決断する。彼はトレーラートラックの助手席側のドアを開け、外に出ようとした。ジャスティン二等兵が驚く。

 

「中尉!何を!?」

「トレーラーの上に登って、そこから奴らを銃撃する。この物資を、コンテナ1つ分でも失うわけにはいかん!『SOTS』だけじゃない、駐屯軍全部の命綱なんだ!」

「中尉!中尉!?」

 

 トラクターの外壁を伝い、トレーラーとの連結部分に出たキースは、そこから非常用のはしごをよじ登る。そして第1コンテナの上に立ったキースは、再度拳銃を抜き放った。

 

「アメリカのアクション映画じゃあるまいし……。バトルテックやメックウォリアーって、こんなんだっけ?」

 

 知らず、口から愚痴が漏れる。彼が懸念した通り、敵は運転席への攻撃を諦め、後方のコンテナとの連結器を狙っているらしい。キースはコンテナの上を後方へと走り、第2コンテナの上へと跳躍し、そのまま短距離ミサイルランチャーの射手を銃撃する。見事に射撃は命中し、その敵はジープから落下した。

 そしてキースはコンテナの縁の陰へ身を隠す。そこへ着弾の火花がいくつもはじけた。射手を失ったジープの運転手2名が、拳銃で射撃してくるのだ。だがやはり運転との両立は難しいのか、命中率は悪い。キースは再び身を乗り出して銃撃を繰り返す。

 しかし、キースは舌打ちをした。

 

「ちっ……。こいつでカンバンだ!」

 

 拳銃の交換弾倉が、今取り換えた物で最後になったのである。キースは最後の短距離ミサイルランチャー持ちが乗ったジープを探した。そいつは後方から2番目のコンテナと、3番目のコンテナの連結器付近にいる。おそらくそこの連結器を破壊するつもりだ。キースはコンテナの上を、トレーラートラックの後方に向けて全力で走った。その後を、拳銃弾の着弾の火花がついてくる。キースは叫んだ。

 

「間に合えーーーッ!!」

 

 彼は短距離ミサイルランチャー持ちの男めがけ、拳銃を連射する。だがぎりぎりで当たらない。しかし至近弾に驚いたのか、射手の男は一瞬戸惑う。しかしすぐに我を取り戻すと、短距離ミサイルランチャーを再度構えた。そしてキースの残弾が尽きる。

 

「しまった!」

 

 キースの頭を、慙愧の念が走り抜けた。

 次の瞬間、短距離ミサイルランチャーの男はジープと共に火球と化していた。キースはあっけにとられる。

 

「は……?」

『……キース中尉、ご無事で?』

 

 その声は、アルバート中尉の部隊である『機兵狩人小隊』の副隊長、サラ・グリソム少尉の物だった。上空から、整列結晶鋼を纏った45tの巨人兵器、D型フェニックスホークが地響きを立てて降り立つ。ジープを破壊したのは、この機体の大口径レーザーであったのだ。

 そしてそれに遅れること数秒、見覚えのある標準型のフェニックスホークが傍らに着地する。これはアーリン中尉の機体だ。

 

『大丈夫?キース中尉。無線連絡が妨害されてるってわかってから、アルバート中尉が実機演習中だった私たちに、緊急出動命令を出したのよ。フェニックスホーク4機で。』

 

 見遣ると、逃げようとした残りのジープ2台の前に、これも見覚えのある標準型フェニックスホークとD型フェニックスホークが着陸した。これはリシャール少尉の機体と、ヴェラ伍長の機体である。巨大な大口径レーザーを突き付けられたジープの運転手2人は、両手を上げて怯えていた。

 アーリン中尉が続ける。

 

『他の機体は、フェニックスホークの足に付いてこられないし、緊急事態に備えて基地を守る必要があるから来なかったわ。』

「……助かりましたよ、アーリン中尉、サラ少尉、リシャール少尉、ヴェラ伍長。」

 

 溜息を吐きつつ、キースは内心で独り言ちる。

 

(そうだよな。これでこそバトルテック、これでこそメックウォリアーだよな。あ……。今になって震えが来た。えっと、肉体の緊張のエネルギーを解放するために震えが来る、んだったかな?理屈としては。何かの小説で読んだ覚えが……。)

 

 再度大きく溜息を吐き、キースはトレーラートラックのコンテナ上に立ち上がった。

 

 

 

「大活躍だったらしいな。だが無茶はいかんよ。」

「……申し訳ありません。」

 

 ここはドリステラⅢ駐屯軍基地の司令室。アルバート中尉の前で、キースはその巨体を小さく縮こまらせていた。

 

「メック戦士はバトルメックでの戦いを主にするため、どうしても生身での戦闘力には欠けてしまうところがあるんだよねえ。まあ、かのナターシャ・ケレンスキーみたいな例外もいるにはいるが。まあ、だから生身での無茶は、決して褒められたことじゃあない。あの物資は失うわけにはいかないのは確かだけどさ、君はもっと失うわけにはいかないんだ。

 ……だけど、まあ良く物資を守ってくれた。ありがとう。そして良く無事に戻ってくれた。」

「……はっ!」

「ところで、あの襲撃をかけてきたやつらだけど、当初は金目当ての一介の犯罪者を装っていたけどね……。エルンスト曹長の手にかかれば、簡単とまではいかなかったけど、白状したよ。

 やっぱりドラコ連合のスパイ組織の一端だったよ。普段は補給物資を積んだ降下船は、この基地の付属宇宙港に降りるから手出しできなかったけど、今回は首都ドリステルの宇宙港、ドリスポートに降りたからね。駐屯軍を弱体化させるいい機会だってんで、襲ってきたらしいよ。ついでに、メック部品はいい金になるからね。活動資金にもなるって一石二鳥を企んだらしい。」

 

 その言葉に、キースは頷く。短距離ミサイルランチャーなどという、本体も弾頭も馬鹿高い代物を、そうそう下手な犯罪組織程度が用意できるわけが無いのである。キースは尋ねる。

 

「……で、やつらは発掘メックがNAISへ送られることを掴んでましたか?もしくはそのことをクリタ家の、ドラコ連合の領域へと情報を送っていましたか?……いや、実行部隊の下っ端がそんなことを知るわけが無い、ですね。」

「うん。ただ、何名が捕まえることができたからねえ。こいつらを惑星軍に引き渡して、今進められているドラコ連合のスパイ網摘発に役立ててもらえる……んじゃないかな?ははは。惑星軍からも引き渡し要請が来てるんだよね。」

「うちには組織的な捜査能力は無いですからね。さっさと引き渡しましょう。まさか惑星軍そのものがスパイ網に絡め取られてるわけは無いでしょうし。」

 

 頷くアルバート中尉。キースはその後2~3件の用事を話し合ってから、司令室を退室した。

 

 

 

 キースは自分の執務室に、エリオット少尉待遇軍曹とジャスティン二等兵を呼び出した。ちなみに用事の内容は、エリオット軍曹には先に話して了解を貰っている。やがて扉をノックする音が響く。

 

「どうぞ。」

「エリオット・グラハム少尉待遇軍曹、およびジャスティン・コールマン二等兵、お呼びにより出頭いたしました!」

 

 やって来た2人は、キースの前に直立不動で立つ。キースはエリオット軍曹にまず話しかけた。

 

「軍曹、貴様は今日はこっち側だ。俺のとなりに立ちたまえ。」

「はっ!」

 

 エリオット軍曹がキースの隣に立つ。2人の上官に見つめられる格好になったジャスティン二等兵は、少々おどおどした様子を見せたが、エリオット軍曹に睨みつけられると、びしっと背筋を伸ばした。キースは彼に話しかける。

 

「ジャスティン二等兵、随分俺のことを高く評価してくれたらしいな。聞いたぞ?PXで歩兵仲間にあのトレーラートラックの上での俺の武勇伝を、かなり脚色して話してたそうじゃないか。」

「はっ!も、申し訳あ……。」

「いや、責めているわけじゃない。そう怯えるな。俺からすれば、貴様の行動も格好良かったがな。とっさの判断で、敵のジープに車体をぶつけるあの度胸と技術は、なかなかの物だ。」

 

 ジャスティン二等兵の顔色は、蒼くなったり赤くなったり忙しい。キースはそこでにやりと笑い、机の引き出しから1通の書類と襟章を取り出す。

 

「と言うわけでな。今日は貴様に、これまでの忠勤の分も含めて褒美をやろうと思う。受け取れ。」

「はっ!……こ、これは!」

「辞令と、新しい襟章……階級章だ。本日ただいまより、貴様を一等兵に任ずる。今後とも励めよ。」

 

 ジャスティン二等兵、もとい一等兵は、感動して言葉も無い様だ。エリオット軍曹が怒鳴る。

 

「ジャスティン一等兵!」

「は、はいっ!あ、ありがとうございます!今後とも決死の覚悟で頑張ります!」

「うん。ただし決死の覚悟はいいんだが、本当に死んだりするなよ?」

「はっ!」

 

 キースはエリオット軍曹と目を合わせる。エリオット軍曹の顔は無表情だったが、その目は笑っていた。キースは、自身の目も笑っているだろうことを感じていた。




バトルテックのTRPGルール、メックウォリアーRPGでは、生身の戦闘は致命的です。でも、一度ぐらいはやらないわけにもいかないので……(笑)。ですので主人公には、映画を参考に派手に活躍してもらいました。


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『エピソード-015 引き抜き工作』

 標準時間では3025年の9月19日と、秋を思わせる日付だが、ここドリステラⅢではこれから夏真っ盛りの時期であった。しかも公転周期は110.44日と、標準時間の1/3年に少し足りないほどである。この惑星では、季節はあっという間に過ぎていくのだ。この日キースは、久しぶりに75tマローダーではなく55tグリフィンに搭乗し、惑星首都ドリステル近郊にやって来ていた。と言うのも、マローダーの腕は直接粒子ビーム砲になっているために両手が無く、ユニオン級降下船ゾディアック号にぎっしりと詰め込まれた「とある物品」を荷降ろしするのに不都合があったからである。

 同じくキースの予備メック、45tのD型フェニックスホークに乗り込んだエリーザ軍曹が、レパード級降下船ゴダード号から降りながら愚痴を言う。

 

『バトルメックを荷積み荷降ろしに使うのは、それが戦利品とかじゃあないと、いまひとつ納得できないわね……。それにあたしのウォーハンマー、せっかく直ったのに使えないんだもの。』

『本音は後半だろ。いいからさっさと降りろよ。自分のメックが使えないのは、俺も一緒だぜ?それに、この「荷物」も戦利品みてーなもんじゃねーかよ。』

 

 これもキースの予備メックである、55tウルバリーンに乗り込んだアンドリュー軍曹が、エリーザ軍曹に突っ込む。いつもと突っ込み役が交代しているのに、キースは違和感を覚えたりしていた。ちなみにアンドリュー軍曹の本来のバトルメックは60tのライフルマン、エリーザ軍曹の本来の機体は彼女が言っていた通り、70tのウォーハンマーだ。だが2人とも操縦の腕前は確かで、慣れていない機体だとはとても思えない。

 キースのメック小隊『SOTS』の副隊長マテュー少尉が、これは彼本来の乗機である55tウルバリーンの機上から2人を宥める。

 

『まあまあ、言い合いをしてる暇があったら、さっさと作業を終わらせましょう。建設予定地にはもう重機とメックが入って、作業をしているそうです。』

『『へーい。』』

「……それにわざわざバトルメックを使っている理由は、いざという時に戦闘ができるからだぞ。ドラコ連合のスパイ網の洗い出しは、どうもあまり上手く進んでいないと言う話だからな。万が一戦車かなにかで襲撃を受けたら、たまったもんじゃない。メックは無いと思うがな。」

 

 キースの台詞に、全員の目が厳しくなる。エリーザ軍曹は、ぱん!と自分の両手で自分の頬を挟む様に叩き、気合いを入れ直した。アンドリュー軍曹も、ごくりと唾を飲み込んだ。マテュー少尉はその様子に頷く。キースは先頭に立ち、ユニオン級ゾディアック号の球体状の船体に向けて、機体を歩ませた。

 

 

 

 巨大な「荷物」を持ったキースたちのバトルメックが、工事現場に入る。そこでは大型のパワーショベルやクレーンなどの重機に混ざって、20tスティンガー5機、20tワスプ1機、45tフェニックスホーク2機が、メック用の巨大な円匙(スコップ)、鶴嘴(ツルハシ)を持って土木工事をしていた。更に20tのローカストと、60tのライフルマンが、立哨として周辺警戒をしている。

 これらのメックの大半は、キースたちがこの惑星に隠されていたバトルメック倉庫から発掘した物である。発掘メックのうち、遺失技術が使われていた物はNAIS――ニューアヴァロン科学大学――に送られたが、それ以外の機体はこの惑星に残されたのだ。わずかにスティンガー1機とワスプ1機のみは、惑星軍に元からあった機体である。それらは見た目からして使い込まれており、新品同様の発掘品とは異なっていた。

 アンドリュー軍曹が、ぽつりと漏らす。

 

『昔からメックに乗ってるにしては、他のスティンガーと動きが変わらねーな。他のスティンガーは、最低限の訓練を受けただけの新人なんだろ?』

『乗り換えたんでしょ?あっちのフェニックスホーク2機は、良い動きしてるわよ?』

『ああ、なるほど。もっと強い機体が手に入ったんなら、ベテランを軽量級に乗せたままにはしておかねーか。』

 

 エリーザ軍曹の台詞に、納得するアンドリュー軍曹である。だがその隊内通信に、割り込んでくる声があった。

 

『ところがの、ワスプやスティンガーにあまりに慣れ過ぎておってのう。フェニックスホークではやってはいかんと、あれだけ口を酸っぱくして言ってやったのに、全力ジャンプした上で全開射撃をしよるんじゃわい。』

『ああ、そりゃまずいな。マイアマーが熱でダレて動きが鈍くなるし、センサーも感度が悪くなって射撃の命中率が……。って、今の誰だよ?』

「公爵閣下!」

『『『ええっ!?』』』

 

 キースの言葉に、隊員たちは皆一斉に驚く。キースは隊員たちに命令を下した。

 

「荷物を降ろし、工事現場作業指揮所に向かい、敬礼!」

 

 キースのグリフィンは、持っていた大荷物を足元に降ろし、機体と搭乗者本人の両方で見事な敬礼を決める。マテュー少尉、アンドリュー軍曹、エリーザ軍曹もまた、ワンテンポ遅れはしたもののそれに倣い、見事な敬礼を行った。

 工事の視察に来ていたドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーは、鷹揚に言葉を発する。

 

『ああ、よいよい。楽にせい。と言うか、その荷を早く所定の位置まで運ぶがよかろうて。先日ぶりじゃのう、若人よ。また後で話そうて。のう。』

「はっ!お気にかけていただき、光栄です!では作業に戻らせていただきます!」

 

 キースはグリフィンに荷を拾わせ、移動を再開した。隊員たちも、慌ててその後に続く。アンドリュー軍曹は、秘匿通信で愚痴を吐いた。

 

『驚いたぜ……。なんで公爵閣下サマがこんなところにいるんだよ……。』

『それだけこの工事が重要だと言うことだろ、いえ、でしょう。』

 

 マテュー少尉も、お仕事モードの化けの皮がはがれて一瞬フランクな口調になる。そう、彼の言う通り、この工事は非常に重要なものであった。この工事現場は惑星軍のドリステラ基地の一角であり、工事の目的は例の第5発掘ポイントで発見されたバトルメック自動整備施設の移設である。キースたちのバトルメックが運んでいるのは、その自動整備施設のパーツの一部であったのだ。あの後、ウォーハンマーと予備メックであるクリントの修復を終わらせて時間のできたサイモン老が、発掘現場に行って確認したところ、自動整備施設の移設が充分に可能だとの結論が出たのである。

 無論、それには非常に高度な知識が必要になる。最高クラスの技術者であるサイモン老と、コンピュータ技師として極めて優秀なパメラ伍長は、公爵閣下の要請により工事の基礎計画を任され、自動整備施設の移設最終段階には一時的に出向する約束をさせられていた。先日貸した分を返せ、と言うわけである。もっとも只というわけではなく、駐屯軍に対してはけっこうな額の報酬の支払いが為される予定である。Win-Winの取引と言うわけだ。

 そしてキースたち駐屯軍は、自動整備施設のパーツを発掘現場からこの工事現場まで輸送する仕事を、恒星連邦政府を介して命令された。その命令の大元は、ここに来ていることからして明らかに、ドリステラ公爵から出た物であることは間違い無かったが。

 

『あと何回往復すりゃいいんだ?』

『5回か6回ね。』

 

 アンドリュー軍曹とエリーザ軍曹が、ほんのわずかばかりの疲労を滲ませて言う。やはり慣れないメックは疲れるのだろうか。マテュー少尉はいつも乗っている機体であるが故に、まだまだ元気だ。

 

『戦闘出撃扱いで報酬が出るんですから、元気出してやりましょう!』

『へ~い。』

『は~い。』

 

 どうにも緊張感が持続しない2人である。キースはグリフィンの操縦席で、こっそり溜息を吐いた。

 

 

 

 そして今、キースは惑星公爵ザヴィエ・カルノーと1対1で対面し、お茶を飲んでいる。彼は荷運びの仕事を全て終わらせた後、グリフィンをレパード級ゴダード号に戻して公爵に挨拶に来たら、近場にある別邸に誘われ、お茶に付き合わされたのである。ちなみに部下はマテュー少尉ですら、一緒に来てくれなかった。

 ザヴィエ公爵は、お茶の香りを楽しみながら言葉を紡ぐ。

 

「ふむ……。この茶葉はの、この惑星で作られたものでのう……。この惑星の短い季節のサイクルの中で、満足な味と香りを出すのにえらく長い間苦労を重ねた、と記録に残っておるわ。どうかの?味は。」

「は。自分には大変美味しく思われます。」

「ほっほっほ。下手に難しい言葉を使わずに、平易かつ失礼のない言葉を用いるか。慎重じゃのう。」

「は……。」

 

 下手に緊張しても意味はない。キースは開き直って自然体でお茶を楽しむ。無論、失礼にはならない様に、だ。ザヴィエ公爵は、キースの肩から力が抜けたのに気付いた様で、唇の端がわずかに上がった。ザヴィエ公爵は、おもむろに本題を切り出す。

 

「バレロン伯爵のせがれ、いや今はあれがバレロン伯爵であったな。元気かの?」

「はい。先日手紙を貰い、返事の中で閣下に大変お世話になった事をしたためました。手紙の中で彼は、日々職務に邁進していると書かれておりました。」

「うむ、孫からもバレロン伯爵の部隊は規律正しく士気も高い、かの人物は傑物である、と手紙に書かれておったよ。」

 

 キースは親友であるバレロン伯爵ジョナス・バートンが評価されて嬉しく感じると共に、この眼前の老人の魂胆がわからず困惑する。もっともその困惑を、表情には出さなかったが。キースはちょっとだけ先手を打ち、牽制しておこうと考える。

 

「自分は彼に大変世話になっております。彼を傷つけるもの全てから、彼を守らねば、と考えている次第であります。残念ながら、逆に彼に守られているばかりの立場でありますが……。」

「今のところ、バレロン伯爵には敵と言えるような者はおらんの。ただし表の政界には、の。」

「どういう、意味、でしょう?」

 

 思わず、キースの言葉が揺れる。ザヴィエ公爵は、眉を顰めつつ言った。

 

「バレロン伯爵に袖にされたご婦人方がいらっしゃるのだよ。伯に誘いをかけて、の。まったくふしだらな。しかもそれを根に持って、伯の悪い噂を自分の飼っている若いツバメを使い表の政界で流そうなどと。まあ、それを信じた馬鹿はおらんと孫も手紙で書いてきておる。しかし……。

 しかしバレロン伯爵も一時のことと割り切って、一夜のお付き合いでもすれば良さそうなものを……。きれいごとだけでは済まないことも、裏の政界ではあるのにのう。」

「それは……彼にはできません。できない、でしょう。」

 

 テーブルの下で拳を握りしめ、キースは思い出す。彼の親友、ジョナス・バートンの身体に刻まれた、幼い頃に異母兄姉から受けた虐待の痕を。それは未だに消えていないはずだ。彼の身体からも、そして心からも。キースの手により虐待から救われ、立ち直ったとは言っても、幼い日々のその傷跡は完全に消えることは無いだろう。ジョナスが一夜のお付き合いを断ったのは、間違いなくその傷跡を見られることを嫌ったためだ。

 ザヴィエ公爵は怪訝そうな顔つきになる。

 

「むむ、だがの。きたないことも裏の政治の世界では必要になるのじゃ。お主は若いが故、知らぬであろうし、知りたくもないであろうがの。」

「はい、いいえそうではありません。彼……バレロン伯爵には、いざとなればきたないことをする覚悟も充分備わっています。ですがそれとは事情が違うのです。個人のプライバシーに関わることなので話す事は断じてできかねます。ですが、きれいきたないの問題ではないのです。」

「……深い事情がありそうじゃの。聞かなかったことに、した方が良いかの?」

「お願いいたします。」

「そうか……。」

 

 ザヴィエ公爵はわずかな間だけ沈痛な表情になるが、一瞬後にやりと笑うとキースに向かい、言い放った。

 

「お主の様な人材、孫の傍に欲しいのう。」

「お戯れを……。」

「いいや、真面目な話じゃよ。わしの孫に仕えてくれると嬉しいのじゃがのう。」

 

 ザヴィエ公爵の顔は笑っている。だがその目は笑っていなかった。だがキースは謝絶する。

 

「申し訳ありませんが、その儀だけはお許しください。」

「理由を聞いてもいいかの?」

「いくつか理由はありますが、最大の物は、自分が仇持つ身であるという事です。その仇を討ち取るまでは、何かに縛られるわけには参りません。それに仮に仇を討てたとしても……。」

 

 苦笑しつつザヴィエ公爵が言葉を被せる。

 

「……お主の行くところは、バレロン伯爵のところ、か。」

「彼の傍に自分の居場所があるとは限りませんが、それでも今の自分があるのは彼のおかげなのです。もし彼が困っているとしたら、今度は自分が彼を助ける番です。彼が平穏であるならば、自分は彼の平穏を守るため動きましょう。」

「むう、惜しいのう。……?……そうか、そうじゃの。ほっほっほ。」

 

 突然のザヴィエ公爵の笑いに、キースは一瞬驚く。その驚きの表情を見て、ザヴィエ公爵は再びにやりと笑う。

 

「……公爵閣下、何をお笑いでしょうか?」

「いや、の。将を得んとすればまず馬を射よ、という言葉を思い出してのう。」

「閣下、まさか!」

 

 キースはザヴィエ公爵の言っている馬が、ジョナスのことだと瞬間的に察した。キースの頭に血が上りかけるが、彼は瞬時に自制する。ザヴィエ公爵は苦笑した。

 

「いやいや、そうではない。わしは単に孫に対し、バレロン伯爵をなんとしても物にしろ、と命じるつもりなだけじゃよ。」

「か、閣下?バレロン伯爵は自分が知る限り、まっとうな性癖の持ち主ですが。」

「……?……おお、そうか。安心せい、孫は歴とした女じゃ。しかも身内の身びいきなしで言うが、けっこうな美形じゃぞ?ちょいとばかり胸は残念じゃが。しかも性格も良い。バレロン伯爵が何やら問題を抱えていようと、支えてやれるはずじゃわい。2人が良い仲になって結婚でもすることになれば、お主も半自動的にやって来てくれる、と言う物じゃて。

 まあ問題は……。バレロン伯爵は伯爵家ではあるが家格は高く、わしの様な田舎公爵と縁続きになるのを嫌がるかもしれんと言うことか、のう。なに、全てはわしの孫次第じゃ。」

 

 キースは開いた口が塞がらなかった。その間抜け面を見て、ザヴィエ公爵はまた笑った。

 

 

 

 キースはゴダード号に戻って来てから、ずっと口を利かなかった。それを見て、仲間たちは口々に言う。

 

「あー、やっぱ誰か付いて行った方が良かったんじゃね?具体的に言うと、マテュー少尉とかマテュー少尉とかマテュー少尉とか。」

「待ってください。私の礼儀作法は付け焼刃です。付いて行ったら、足を引っ張る結果になってました。

 それに偉い人の前に出るなんて、ぞっとしないですし。」

「ソレが本音でしょ。あたし?あたしは見ての通りガサツだし。」

「わかってる。」

「ええ、わかってます。」

「ふふふ、月のある夜ばかりだと思わないでね。」

「いえ、ドリステラⅢの月は2つありますから、両方ともが出てない日はそうそう無いんですが。」

 

 キースは彼らの言葉を聞きながら、今日の会話を反芻していた。やがてゴダード号が発進する。ほんのわずかな時間で、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地が見えて来た。




やっぱり主人公程の能力の持ち主は、家臣として欲しがる人、大勢いますよねー。ま、下手に何処かの家臣になるわけにはいかないんですが、主人公の立場としては。


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『エピソード-016 降下船来れり』

 レパード級降下船ヴァリアント号が、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地付属宇宙港の滑走路に、見事な着陸を決める。カイル・カークランド船長の腕前は、あいかわらず健在な様だ。カイル船長は、ユニオン級降下船ゾディアック号の船長と副長の要員をスカウトするためと、恒星連邦では手に入り難いバトルメックの部品を購入するために、ヴァリアント号と共に星系外へ出ていたのだ。ただし人員のスカウトという面では、カイル船長の活動は予定以上の成果を出していた。

 着陸したヴァリアント号がタキシングして、屋外駐機場の定位置にやって来る。既に送迎用のマイクロバスで迎えに出ていたキースは、ヴァリアント号から出迎えるべき人たちが降りて来るのを待っていた。やがてヴァリアント号の人間用ハッチが開き、16人の男女が降りて来た。先頭に立っていた壮年の男性が、キースの姿を認め、敬礼する。残りの人員も、それに習った。

 

「お出迎えありがとうございます。傭兵小隊『鋼鉄の魂』隊長、キース・ハワード中尉であられますか?私、いえ自分アリー・イブン・ハーリド少尉以下12名、着任を許可願います。」

「同じく航空兵ミケーレ・チェスティ少尉以下2名、着任を許可願います!」

「同じく航空兵コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉以下2名。着任許可願います。」

 

 本来船長と副長だけ雇うはずであった降下船の要員が、総勢16人と随分増えていた。しかも全く予定外の航空兵2人が、この中に含まれている。だがキースはあらかじめ、航宙艦からの通信で4日前にそれを知っていたので、今更驚かない。彼は敬礼を返すと、口を開いた。

 

「貴官らの着任を許可する。ようこそ、ドリステラⅢへ。アリー・イブン・ハーリド船長、マンフレート・グートハイル副長。君たちに任せるユニオン級降下船は、あちらにあるアレだ。ゾディアック号と言う。機関士のユーリー・アキモヴィチ・コルバソフ伍長、ライナス・ゲイル伍長もよろしく頼むぞ。

 そして航法士見習いのレオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー曹長、マシュー・マクレーン曹長、エルゼ・ディーボルト曹長、エレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ曹長。機関士見習いのフォルカス・ロウントゥリー上等兵、アデル・ドラモンド上等兵、オティーリエ・ハイゼンベルク上等兵、メイベル・ゴールドバーグ上等兵。貴官らも良く上官を補佐し、頑張って働いて欲しい。

 ミケーレ・チェスティ少尉、コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉。我々は今、1機でも多くの気圏戦闘機を必要としている。その際に、貴官らの様な優秀な気圏戦闘機パイロットを確保できたのは、まさしく僥倖と言える。今後の活躍に期待する。それは無論、2人の整備兵であるディートリヒ・ブランデンブルク伍長とフランツ・ボルツマン伍長にも言える。2人の郎党である君たちに今更言うまでもないことであるが、よく2人を助けて尽力して欲しい。」

 

 彼らがわずかだけ騒めく。アリー船長が、彼らの気持ちを代表してキースに言った。

 

「全員の顔と名前を、覚えていてくださったんですな。」

「ああ。全員の履歴書は、4日前に航宙艦クレメント号のアーダルベルト・ディックハウト艦長より、深宇宙通信施設を介してデータ通信で受け取っている。4日もあれば、全員分の履歴書を丸暗記するのはそう難しくない。

 では諸君、これからマイクロバスに乗り、まずは基地本部棟まで行く。そこでこの……。」

 

 と、ここでキースの斜め後ろに控えていたネイサン軍曹が前に出る。

 

「このネイサン・ノーランド軍曹が基地内を案内してくれる。できるだけ早く建物の配置を覚えてくれ。ではマイクロバスへ搭乗してくれたまえ。」

 

 彼らの後方では、ふたたびヴァリアント号がタキシングして、格納庫へと向かっている。彼らはマイクロバスに乗り込み、基地の本部棟まで向かった。ちなみに運転手は、いつものジャスティン一等兵であった。

 

 

 

 駐屯軍基地本部棟にあるキースの執務室で、軍隊特有のあまり美味とは言えないコーヒーを飲みながら、キースはレパード級ヴァリアント号のカイル船長、イングヴェ副長と話をしていた。

 

「最初は驚いたよ。本来ならば船長と副長の2人だけだと思っていたからな。アーダルベルト艦長から通信で教えられたときには、何事かと思った。いきなり16人だからな。ははは。」

「いや、私もこんなことになるとはね。最初は、ある商用降下船2隻の副長を引き抜くだけのつもりだったんだよ。ちょうど船長と折り合いが悪くなってたらしくて、どこか新しい就職先が無いかって話を、以前から聞いていたからね。アリー船長とマンフレート副長は。ただ、彼らを慕っていた航法士見習いや機関士、機関士見習いが、いっしょにごっそりとその商用降下船を抜けて来たのには、私も驚いたけどね。あはは。薄給でかまわないから、彼らと一緒に行かせてくれって言われては、断れなくてねえ。」

「あー、相当その商用降下船での扱い、悪かったんですかね?船長?」

 

 イングヴェ副長の言葉に、カイル船長は頷く。

 

「馬車馬どころか、奴隷の様に働かされていたらしいね、どちらの船でも。当時副長だったアリー船長は公然と船長に反論し、マンフレート副長は控え目に文句を言ったという違いこそあれ、同じように船員たちをかばったそうだ。それで各々の船の船長たちと言い争いになって、関係が悪くなったらしい。」

「……だが、傭兵部隊での軍用降下船の船員なんて、商用降下船の乗組員よりもキツいぞ?それこそ馬車馬の様に働いてもらわねばならないかも知れない。」

「だがキース隊長は、仕事した分ボーナスもはずんでくれるだろう?隊員たちへの労りも忘れない。部下を奴隷扱いなど、せんだろう?」

 

 キースは頷く。前世の記憶によって、21世紀の日本人の感覚を持つキースには、他者を捨て駒や奴隷の様に扱うということに対し、感情的に忌避感がある。この31世紀バトルテック世界の世界観は、この世界で生まれ直し、この世界で育ってきた彼の中にも根付いてはいるから、他所での非道にまでわざわざ出向いて行って口出ししたりはしない。だが自分の手の届く場所では、彼は力の無い者を踏みにじるような真似はしないしさせない。彼が対メック戦闘に歩兵部隊を駆り出さないのも、その様な理由による。彼らはゲームの駒ではないのだ。卓上ゲームであるバトルテックの歩兵の様に、ポコポコ死なれたら非常に心が痛い。

 ちなみに彼のその様な様子を見て、周囲の人間は彼の行動を、メック戦士としてのノブレス・オブリージュ――高貴なる義務――をわきまえているが故の行いだと誤解していたりする。根底の部分では違うのだが、結果的には同じことであるので、まあ構わないだろう。

 キースは残り4人の人材について聞く。

 

「ミケーレ少尉、コルネリア少尉と、その郎党のディートリヒ伍長、フランツ伍長は、どういう経緯で?」

「いや、アリー船長たちを上手くスカウトできたんで、私のおごりで酒場に行ったんだよ。そうしたらそこで暗く飲んでるミケーレ少尉とコルネリア少尉に出会ってね。聞けば彼らがいた傭兵部隊が、彼らの気圏戦闘機がメーカー修理に送られている間に壊滅して部隊解散に追い込まれたんだそうな。不幸中の幸い、機体の修理は終わっていて、修理代も振り込み済みだったそうだ。あとは機体が戻って来るのが間に合っていれば、部隊壊滅が避けられたかもしれない、と悔やんでいてねえ……。

 で、私はその時酒が入っていて気が大きくなっていてね……。元航空兵として、気圏戦闘機乗りの心得について一席ぶってしまったんだ。自分たちがいれば負けなかったかもしれないなどとは思い上がりだ、とか色々ね。」

 

 それを聞いたイングヴェ副長は、あちゃー、と言う感じで顔に右手を当てている。ひきつった笑いを顔に浮かべ、カイル船長は続けた。

 

「で、それでも今後の展望が無いと落ち込む彼らに、私にまかせておけと啖呵を切ってしまったんだ。その時私の頭には、レパード級ヴァリアント号と、ユニオン級ゾディアック号で気圏戦闘機は合計4機搭載可能だと言う事実だけがあってね。あと2機搭載する余裕があると……。それで、私が隊長を説得するから、うちの部隊に来い、と……。

 勝手をして、申し訳ない!」

 

 がば、と頭を下げるカイル船長に、キースは厳しい口調で言う。

 

「結果的には気圏戦闘機が増加して助かったとは言えど、貴官が俺の当初の命令、ゾディアック号船長と副長のスカウトの範疇を超えた行為をしたのは事実だ。それでもゾディアック号機関員やその見習い、航法士見習いまでなら目を瞑ることもできただろう。しかし航空兵2名については、明らかに俺の職分を冒している。新規隊員の雇用は俺の権限、しかも戦闘部隊の隊員ともなればな。」

「うむ……。私も覚悟はしているよ、隊長。」

「譴責処分と、3ヶ月の30%減俸程度が妥当だな。それで……。」

「それだけで良いのかね!」

 

 カイル船長は驚きの表情を浮かべる。更にキースは続けた。

 

「それで任務を100%以上達成したことで、ボーナスを出さねばならないな。ええと……。」

 

 キースは電卓を叩く。

 

「ざっと減俸分と相殺、だな。」

「甘いですねえ隊長。ま、その甘さが良いところなのですが。」

 

 イングヴェ副長が、こみ上げる笑いを噛み殺しつつ言った。キースもにやりと笑って返す。カイル船長は、目を丸くしたが、やがてくすくすと笑いだす。キースはそんなカイル船長に、真面目くさった顔で言う。

 

「カイル・カークランド船長、貴官は今、譴責処分を受けている最中なのだがね。笑うとは何事かね。」

「は、失礼いたしました隊長。ですが……。」

「ま、そうだな。俺としてもこれ以上何か言う気は無いからな。ははは。ただ、どうせならメックの無いメック戦士候補者も何名か連れて来てくれれば良かったな。そうすれば予備のバトルメックを貸与して戦力増強した上で、船長の給料を大幅に減らせたんだが。ははは。」

 

 キースの笑えない冗談に、ちょっと引き攣り笑いになるカイル船長とイングヴェ副長だった。

 

 

 

 基地本部棟の指令室発令所にて、キースはアルバート中尉、アーリン中尉とCAP(戦闘空中哨戒)の計画を練っていた。ちなみに以前からある2機のライトニング戦闘機を駆るマイク少尉とジョアナ少尉は、旧来の計画に従ってCAPに出撃していた。アーリン中尉がおもむろに言葉を発する。

 

「しかし気圏戦闘機が4機に増えたのは助かるわね。哨戒の範囲が一気に広がるじゃない。」

「確かにそうだがねえ。それでもまだまだ、惑星全域をカバーするには足りないよ。」

 

 アルバート中尉は溜息を吐く。溜息を吐くと幸せが逃げると言うが、そうであれば彼の幸せはダース単位で逃げ出しているかもしれない。と、ここでグロス単位で幸せが逃げ出していそうな人物が声を上げる。無論、キースのことだ。溜息の数は、彼が群を抜いて多い。

 

「とりあえず、計画を練ってしまいましょう。ミケーレ少尉とコルネリア少尉は、今のところやることが無い状況です。早目に任務を宛がう方が、彼らとしても気が楽でしょう。」

「そうだね。じゃあこっちの……。」

 

 アルバート中尉が、CAP計画について何か言いかけたときである。発令所に詰めていたオペレーターが声を上げた。

 

「ライトニング戦闘機1番機、マイク少尉機より入電!緊急事態だそうです!」

「内容は!」

「所属不明の降下船群を発見!IFFも恒星連邦所属船の信号ではありません!現在所属と目的を問い質し、停船を命じたそうです!ライトニング戦闘機2番機、ジョアナ少尉機もそちらへ急速接近中です!」

 

 とっさのアルバート中尉の声に、答えるオペレーター。アルバート中尉はキースにアイコンタクトを送る。キースは頷いて館内放送機器に飛びつき、指示を出した。流石の阿吽の呼吸である。

 

「エマージェンシー!エマージェンシー!全部隊、総員戦闘配置につけ!繰り返す、総員戦闘配置につけ!ミケーレ・チェスティ少尉、コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉両名は緊急発進せよ!目標ポイントは追ってオペレーターより通達する!繰り返す、ミケーレ少尉、コルネリア少尉両名は緊急発進!」

「オペレーター!ミケーレ少尉のライトニング戦闘機3番機、コルネリア少尉のライトニング4番機に、目標の降下船群の位置を送りなさい!」

 

 アーリン中尉もオペレーターに指示を出す。そしてキースは、自分でマイク少尉機との通信に出た。

 

「ライトニング戦闘機1番機、こちら駐屯軍指令室!目標の降下船群の陣容を報告せよ!」

『こちら1番機っす!目標は……あっ!確実に敵っす!今、気圏戦闘機隊が発進しました!

 敵降下船は3隻!ユニオン級が2隻に、自分が知らないタイプの船が1隻!映像を送ります!なお気圏戦闘機は65tのシロネ戦闘機が2機!75tのトランスグレッサー戦闘機が2機!すいません、逃げ回ってますから、増援の手配よろしくお願いっす!』

「今、2番機が間もなくそちらに、3、4番機もじきに到着する!ただし粘れそうにないなら、かまわんから逃げろ!」

 

 キースの台詞が終わると共に、発令所のスクリーンに降下船群の静止画像が大写しになる。アルバート中尉とアーリン中尉も、ユニオン級以外の最後の1隻はわからない様だ。だがキースは最後の1隻の船種を知っていた。『ロビンソン戦闘士官学校』で習った知識にあった事も確かだが、傭兵大隊『BMCOS』でも1隻そのタイプの降下船を使用していたのだ。

 

「あの船はフォートレス級ですね。火力も装甲も強力ですが、最大の特徴はロングトムⅢ間接砲を装備している点です。それに加え、1個中隊のバトルメック、1個中隊の機甲部隊、1個中隊の歩兵部隊という諸兵科連合部隊を搭載できる搭載力も驚異です。ただ気圏戦闘機の運用能力が無いのは救いですが。

 ……待てよ?オペレーター、データバンクに登録している元『BMCOS』の降下船群のデータと比較してくれ。」

「はい!……ええと。……一致しました!ユニオン級の1隻は元『BMCOS』第2中隊所属エンデバー号!フォートレス級は元『BMCOS』第1中隊所属のディファイアント号です!最後の1隻は情報ありません!」

(やはり、か。となると、たぶんおそらくは……。トマス・スターリングかハリー・ヤマシタのどちらかが居る可能性が極めて高い、よな。しかし……情報にあった、発掘部隊の迎えの船だとして、本当に空の船が入ってるのかな?万一メックを満載してたら……。)

 

 考えに沈むキースだった。アーリン中尉はアルバート中尉に尋ねる。

 

「至近距離までレーダーに引っ掛からなかったのは、どういうわけかしら?」

「高度なジャミングだろうね。今回は惑星軍基地に対する破壊工作もなかった様だし。以前にしてやられていたから、惑星軍でも警戒を密にしてたらしいんだ。だから手出ししようにも、できなかったんだろうね。

 ただ、そうなると……。高度なジャミング技術から予想されるのは、高度な技術者の存在だなあ。」

 

 アルバート中尉の言葉が終わった後、しばらく時間だけが経過する。戦いははるか大気圏外で行われており、メック部隊には手の出しようが無い。キースは祈るような気持ちで、じっと待つ。

 やがて気圏戦闘機隊から、報告が連続して届いた。

 

『こちらライトニング戦闘機2番機!敵シロネ戦闘機を撃墜!』

『こちらライトニング戦闘機1番機!敵機撃墜っす!相手はシロネ戦闘機!ただこちらも被害が多く、離脱許可が欲しいっす!』

『こちらライトニング戦闘機3番機!戦域到着直後、出会い頭にトランスグレッサー戦闘機を撃退しました!敵機は降下船に戻って行きます!ただこちらも相討ちで機体ダメージが多く、離脱許可を!』

『こちらライトニング戦闘機4番機!トランスグレッサー戦闘機を撃退!ですが当機もダメージを負い、これ以上の戦闘は困難!』

「全機離脱しろ!その状態で降下船3隻の相手は無理を通り越して無茶、無謀というものだ!」

 

 キースの叫びで、ライトニング戦闘機の群れは戦域から次々に離脱して行った。キースはアルバート中尉に報告する。

 

「敵気圏戦闘機の撃墜もしくは撃退には成功しましたが、敵の降下の阻止は不可能です。惑星軍の大型レーダー基地に連絡し、敵の降下ポイントを確定させてください。」

「うん、それはやるけれど、敵のジャミング能力は高い様だからねえ。難しいかもしれない。」

「ううむ……。」

 

 アルバート中尉は、惑星軍への連絡用に最近設置された、直通の電話に向かう。これはザヴィエ・カルノー公爵の直接のお声掛かりが無ければ、今でも設置されていなかったはずの物だ。惑星政府はお役所仕事の悪い面が出ており、相互の人員の遣り取りなども手続きが煩雑で難しいのである。本来であれば駐屯軍と惑星軍は、相互に連絡士官を置いて協力体制を敷いていてもおかしくないはずなのだが。

 唸るキースに向かい、アーリン中尉が話しかける。

 

「けど、気圏戦闘機隊の被害が大きいわね。」

「ですが今回は以前と違い、ライトニング戦闘機用に多少の部品ストックがあります。また、ジョアナ少尉の2番機は損害軽微で、すぐにでも偵察や哨戒活動に出せます。……カイル船長の独断に、感謝ですね。2機しか気圏戦闘機が無かったらと思うと、ぞっとしますよ。」

「新しい2機が、同じライトニング戦闘機だっていうのも幸運だったわね。部品の共有ができるもの。」

 

 確かにそれは幸いだった。これで全機がばらばらの種類の機体だったりしたら、目も当てられない。キースは今後の方針を相談する。

 

「とりあえず気圏戦闘機が戻ってきたら、損傷の軽度な機体から優先して修理しましょう。修復完了次第、敵降下船降下予想地点上空の高高度偵察に出すと言う事で。」

「そうね。それが妥当だと思うわ。」

「ただいま。惑星軍には連絡つけたよ。ただやっぱり難しそうだなあ。ジャミング云々以前に、惑星軍のレーダー技術者の能力が低い……。」

 

 嘆息して、キースは物思いに沈む。

 

(流石に田舎の農業惑星だけはあるのか……。たしか大学も無いし、識字率が39.8%……。文字を知ってるってだけで、エリートだもんなあ。一般の農家なんか、よくコンバインやトラクターを使えるな。マニュアルも読めないんだろ?

 うちの助整兵やら歩兵やらに志願してきた連中は、エリート階級ってことか。文字が読めないやつは居なかったからなあ……。)

 

 アーリン中尉はアルバート中尉に報告を行う。

 

「さっきキース中尉と相談してたんだけど、気圏戦闘機が戻ってきたら、損傷の軽度な機体から順に修理して、敵降下船の降りた地点上空の高高度偵察に出そうって……。でも、惑星軍のレーダーで場所がわからなかったらどうしようかしら。」

「うん、それは……。」

 

 アルバート中尉が何か言いかけた瞬間、惑星軍からの直通電話が鳴る。彼は即座にその電話を取った。

 

「こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地指令室!……!!了解です!ご助力に感謝します!では!」

 

 電話を切ったアルバート中尉が、血相を変えてアーリン中尉とキースに言った。

 

「まだ戦闘配置は解除してないね!?」

「……はい!全員バトルメックへの搭乗準備、整っております!」

「我々もバトルメックへ急ぐぞ!敵降下船のうち2隻が、こちらに強襲降下してくる!1隻はジャミングで何処に行ったかわからないが、2隻はレーダーに映ったらしい!オペレーター!メック戦士たちに搭乗を指示!」

 

 言うやアルバート中尉は、バトルメックの格納庫へ駆け出す。キースとアーリン中尉もまた、彼と並んで走り出した。キースは叫ぶ。

 

「気圏戦闘機は損傷の大きい1、3、4番機は近隣の惑星軍基地に退避させましょう!ただ2番機も、推進剤が足りないはずです!一撃させたら同じく離脱させます!」

「ああ!それで構わない!しかし……何故2隻はジャミングを外した!?」

「本命は、おそらく姿の見えない1隻でしょう!何処に降りたかは気圏戦闘機の記録映像を解析して割り出すしかありません!ですが、まずはこちらに来る2隻です!」

「あなたたち、よく、走りながら、そこまで、喋れる、わね!」

 

 アーリン中尉の言葉に、キースとアルバート中尉は、異口同音に返す。

 

「鍛え方が違います。」

「鍛え方が違うからね。」

「どういう、鍛え方、よ、まったく。」

 

 3人は、全力で走った。




ついに新たな敵がやって来ました。しかも堂々と主人公たちの基地に強襲を仕掛けて来ます。自信があるのか、それとも……。
次回、さあ戦いだあ!!


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『エピソード-017 父の機体』

 敵の降下船が降りて来るまでには、まだ若干余裕があった。キースは自機マローダーの操縦席から、ユニオン級降下船ゾディアック号へと通信回線を繋ぐ。

 

「アリー船長、マンフレート副長、新しい船へ慣れるための慣熟訓練の時間もやれずに実戦になってしまい、済まない。」

『いえ、中尉のせいではありません。何、ざっとですが船の調子は見せていただきました。あとは実戦で慣れるといたしましょう。』

『ええ、そうですとも。傭兵部隊の降下船副長になると決まったときから、覚悟はしていましたからね。』

「そう言ってくれると気が楽になるよ。その船の指揮は任せた。頼むぞ。以上。」

 

 次にキースは、回線をヴァリアント号とライトニング戦闘機2番機に繋いだ。

 

「カイル船長、イングヴェ副長、ジョアナ少尉、間もなく敵降下船のうち2隻が降りて来る。ヴァリアント号はゴダード号のヴォルフ船長たちと協力して、引っ掻き回すだけ引っ掻き回してくれ。無茶をするな、とは言っても無駄だろうから、せいぜい楽しく無茶をしてくれ。

 ジョアナ少尉、君はライトニング戦闘機の推進剤が足りていないはずだ。適当な敵に一撃かましたら、あとは一目散に逃げろ。俺の命令があるから、敵前逃亡にはならん。」

『了解だよ隊長。せいぜい楽しく無茶をするとしよう。ゴダード号のヴォルフ船長もアルバート中尉からたぶん同じことを言われているだろうね。』

『了解です隊長。なに、球型・長球型の降下船は地上では鈍重です。そこまで言われるほど無茶でもないでしょう。』

『了解です隊長。申し訳ありませんが、一撃したら離脱させてもらいます。推進剤が補給できていれば良かったのですが……。』

「気にするな、ジョアナ少尉。敵の気圏戦闘機を減らしてくれただけでも充分以上の働きだ。カイル船長、イングヴェ副長、死に急ぎさえしなければ、好きなだけ無茶してくれ。以上。」

 

 その次にキースが回線を繋いだのは、歩兵部隊である。

 

「エリオット軍曹、歩兵部隊の調子はどうだ?」

『はっ!新兵どもが多少浮ついている様ですが、少なくとも浮き足立ってはおりません!』

「そうか。まあメックに突っ込ませる気は毛頭ない。だから新兵どもが暴走しない様、手綱をしっかり取ってくれ。……いざという時には、隠れて2隻の降下船に近づいてもらい、突入してもらうかもしれん。いや、おそらく今回もその戦法を取ることになるだろう。無理を強いてすまんが、頼む。基本的に、突入のタイミングは軍曹に任せる。

 ただしフォートレス級には1個中隊規模の歩兵部隊が乗組んでいる可能性がある。降りて来たのが長球型のフォートレス級だったら、その船への突入は諦めるんだ。いいな?」

『了解!部隊を2つに分けて準備をし、長球型以外の降下船であった場合にのみ、突入を敢行いたします!』

「うむ。以上だ。」

 

 キースは続いて、麾下のバトルメック部隊に回線を繋いだ。

 

「諸君、あと少しで敵の降下船が降りて来る。恨み重なるハリー・ヤマシタあるいはトマス・スターリングがいる可能性がある。もしいなくとも、『BMCOS』の降下船エンデバー号やディファイアント号に乗ってきた以上、それに関わりのある奴らだ。……皆、勝つぞ!」

『了解だ!まかせとけ隊長!俺のライフルマンで、ギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやるぜ!』

『隊長、こっちも了解。それとアンドリュー、落ち着いて。あまり撃ちすぎると、いざという時にオートキャノンの弾が切れるわよ。』

『了解です隊長。目にものを見せてやりましょう。』

「ああ。皆、その意気だ。以上。」

 

 大方の相手に話し終えたキースは、秘匿回線を使ってサイモン老のスナイパー砲車輛に通信を繋ぐ。サイモン老のスナイパー砲車輛は、直接の戦闘に巻き込まれることを避け、既に基地の敷地を離れていた。スナイパー砲の射程をもってすれば、その距離からでも充分援護が可能なのである。

 おもむろにキースは、普段公の場では使わない呼び名でサイモン老を呼んだ。

 

「……サイモン爺さん。」

『ほ、なんですかのう坊ちゃん。』

 

 サイモン老の方も、最近は滅多に使わなくなった呼び方でキースを呼ぶ。キースは震える声でサイモン老に問うた。いや、サイモン老にではなく、自分自身に問うたのかも知れない。

 

「トマス・スターリングは、今回の敵の中にいるだろうか?」

『……わかりませんのう。ただ、もしいなくとも今回の敵を叩けば、きっとあやつにも打撃になることでしょうの。』

「そうか……。そうだな。済まなかった、サイモン曹長。」

『いえ、わしは別にたいしたことは全然しておりませんですの、隊長。』

「以上だ。」

 

 ここで、アルバート大尉待遇中尉のサンダーボルトから通信が入る。アーリン中尉のフェニックスホークにも回線は繋がっている模様だ。

 

『キース中尉。アーリン中尉。ただいま基地の対空監視網が最大望遠で敵降下船を捕捉した。基地の砲台の射程に入り次第、射撃を開始する予定だ。バトルメック部隊もそれにタイミングを合わせて対空射撃を行うが、弾切れの恐れがある実弾兵器は控えてくれ。おそらくは敵もバトルメックを出してくるだろうからな。』

「了解です。」

『こちらも了解。……ねえアルバート中尉、キース中尉。なんで敵は軌道上から降下殻でバトルメックを降下させなかったのかしら。』

「おそらくは、こちらの気圏戦闘機を1機も落とせなかったことが響いていたのでしょう。降下中のバトルメックは、気圏戦闘機のいい餌食ですからね。バトルメックを射出した後に、こちらの気圏戦闘機が戦域に復帰する可能性を恐れたのではないかと。

 しかし……気圏戦闘機に変形可能なLAM機が敵に無かったのは幸いでした。」

『確かにそうだね。さて、もうじきだぞ。』

 

 もう既に、上空に2つの船影が見えていた。片方は西瓜の様な球型、もう片方は卵の様な長球型をしている。キースはアルバート中尉とアーリン中尉に注意を促した。

 

「フォートレス級が来ました!強敵です、気を付けてください!歩兵部隊を乗せている可能性が高いので、あれにこちらの歩兵を突入させるのは危険です!」

『となると、姿の見えない残り1隻はユニオン級か。たしかフォートレス級はロングトムⅢ間接砲を搭載しているんだったね?まずいな……。こちらのバトルメックにはめったに当たらないだろうが、基地の砲台や本部棟などを狙われては……。』

『あっ!?ユニオン級から何か落ち、いえ降りてくるわ!』

 

 ユニオン級の、バトルメック用ハッチが開いていた。そしてそこから8機のバトルメックが降下してくる。いずれもジャンプジェットを装備した機種であるらしく、降下速度は時折ランダムに遅くなる。まあ、ジャンプジェット装備機でなくば、この高度の降下船から飛び降りたりはできないのだが。

 キースはマローダーのセンサーで各々のメックをロックオンし、まだ超遠距離のそれらのメックを機種判別していった。と、その目が見開かれる。キースは今ロックオンしているバトルメックを、マローダーのスクリーンで可能な限り拡大して映す。キースの口から呪詛の言葉が漏れた。

 

「おのれ……。ただでは済まさないぞ……。」

『え?キース中尉?』

『どうしたね!?』

 

 キースはアルバート中尉、アーリン中尉の言葉には応えず、マローダーの粒子砲になっている両手をその降下してくるバトルメックの方へと伸ばした。今にも撃ちそうな構えである。アルバート中尉が、キースを制止せんと声を上げた。

 

『待て、キース中尉!今撃っても有効射程外だ!機体の過熱を招いて敵に有利になるだけだぞ!』

『キース中尉、どうしたのよ!?』

「……申し訳ありません。取り乱しました。」

 

 キースの声は、既に平静に戻っている。だがその表情は、憤怒に染まっていた。

 

「あれは、あのデスサイズ、いえエクスターミネーターは、自分の父のバトルメックです。父の死の原因になった者たちが、それをのうのうと使っているのを見て、思わず我を忘れてしまいました。」

『……そうか。ではあれが君のお父上の仇かもしれないのか。』

「いえ、仇であるトマス・スターリングは自分自身のもっと重い強襲メック、80tのヴィクターを所有していたと言う話ですから、あれは違うでしょう。ですが、実行犯の一味であることは間違いないです。」

 

 アーリン中尉は言葉もない。アルバート中尉は、硬い声音で尋ねる。

 

『キース・ハワード中尉。大丈夫、だな?』

「はい、もう大丈夫です。信じてください。」

『うん。じゃあ射撃準備だな。先ほどの降下部隊は地上に降りた。そのままこちらに向けて進軍して、降下船の着陸ポイントを占拠しようと言うのだろうね。こちらとしても、上空の降下船ではなくあちらのバトルメックを狙わざるを得ないし。

 ……よし、ではお祭りを始めようかね。』

 

 アルバート中尉の声は、いつもの調子に戻っていた。キースも可能な限り普通の声になる様に自制して言う。

 

「了解です。じゃあちょっと一発、相手の度胆を抜いてやりますか。」

『キース中尉?本当に大丈夫ね?』

「はい。もう落ち着きました。落ち着かなければ自分や戦友が死ぬことになります。俺はそれに耐えられるほど強い人間ではありませんから。だから心を落ち着ける技術は、持っているつもりです。」

『流石ね。頼りにしてるわよ。』

「お互い様ですよ。」

 

 キースはアーリン中尉との話を終えて、隊内通信で部下たちと話す。

 

「皆、まずは降りて来たやつらを叩くことになる。ここから届かせる自信はあるか?」

『俺は大丈夫だぜ。』

『あたしもたぶん当たると思います。ただ確実とは言えないから、粒子ビーム砲だけにしておきますね。』

『私は厳しいですね。遠距離射程で、敵が全力移動してますから……。いや、あのパンサーなら動きは多少鈍いですから、上手くすれば……。』

 

 部下たちの言葉に頷くと、キースはアルバート中尉に発砲許可を求める。

 

「アルバート中尉、うちの者たちはこの距離であてる自信がある様です。撃ってよろしいでしょうか?」

『いいだろう。砲台も発砲開始させるから、君らも好きなようにやってくれ。』

『相変わらず、凄い腕前ね。うちの面々じゃ、私も含めてあたりそうにないわ。』

「ありがとうございます。では……。聞いたな諸君!撃ち方開始!サイモン曹長、スナイパー砲をBASE-E03776にぶち込め!その次はそこからEWに720m地点!今の風向はWより2単位の風力!」

 

 基地に2基ある砲台に装備された粒子ビーム砲が火を吹く。それと同時に、キースのマローダーが粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノンを、アンドリュー軍曹のライフルマンが中口径オートキャノン2門を、エリーザ軍曹のウォーハンマーが粒子ビーム砲2門を、マテュー少尉のウルバリーンが中口径オートキャノンを、それぞれ遠距離射程ぎりぎりの距離にいる敵機めがけて撃ち放った。

 狙われたのは、高い遠距離攻撃力を持つ55tグリフィンと35tパンサーの2機だ。砲台の攻撃は外れたが、キースたちの攻撃はそのほとんどが命中する。パンサーには中口径オートキャノンが3発と粒子ビーム砲が1発命中し、左脚を吹き飛ばした。敵のグリフィンには粒子ビーム砲2発と中口径オートキャノン1発が命中し、胴中央にダメージが集中、融合炉の鎧装を2層ばかり破壊する。融合炉からの異常発熱により、元から過熱しやすいグリフィンは、その攻撃力のほとんどを奪われた。

 これに驚いた敵機は、メック部隊を避けて砲台を破壊しようと大きく迂回し、左右に分かれる。このため、敵機は一時的にキースたちの有効射程から出た。パンサーはその場に置き去りだ。グリフィンは移動力には障害が無いため後退して、熱の発生が少ない長距離ミサイルを花火の様に打ち上げている。

 キースたちから見て右に行ったのが65tエクスターミネーター、40tアサッシン、40tバルカン。左の砲台へ向かったのが、45tフェニックスホーク、45tD型フェニックスホーク、40tクリントだ。右の隊は各個の機動性がばらばらであるため、適度に分散している。左の隊は機動力が揃っているため、一塊になって移動していた。

 

(計算通りだ。)

 

 キースたちは、再度射程に入って来たアサッシンに向けて射撃を行う。今回もほとんどの攻撃が命中し、やや全身にダメージが散ったものの、胴中央を食い破られたアサッシンはジャイロを破壊され、その場に立ち往生した。だがエクスターミネーターとバルカンは砲台に攻撃を命中させる。砲塔の旋回機能をやられた砲台は向きを固定されてしまい、降下船への攻撃が不可能になる。

 一方敵のフェニックスホーク、D型フェニックスホーク、クリントの3機は、走行移動からジャンプ移動に変えて砲台に近づき、各々レーザーやオートキャノンを撃ち放った。ジャンプ移動に変えたのは、地面がフェロクリートで舗装された舗道になっているためだ。こういう所では全速での走行移動を行うと、スリップして転倒しかねない。ジャンプ移動であれば細かい機動性も確保できる。こちらの砲台も、砲塔の旋回機能を奪われてしまった。しかしそこへスナイパー砲の攻撃が降り注ぐ。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 敵のD型フェニックスホークに砲弾は命中し、敵フェニックスホーク、敵クリントの2機がその余波に巻き込まれた。

 

『キース中尉、どう動く?』

「1隊が右手の敵、1隊が左手の敵に向かい、最後の1隊がここで支援射撃および降下船への牽制を行うのが良いかと。左手の敵に向かうのは、高機動メックで構成されたアーリン中尉の部隊が適任です。右の敵には……申し訳ないのですが、アルバート中尉の隊にお任せした方が良さそうです。」

『了解だよ。君の敵を貰ってしまうことになるが……。詫びと言ってはなんだが、こっちは忙しくなってしまうから、レパード級降下船ゴダード号の投入時期の判断は、君に任せたいね。』

『了解よ、キース中尉。あっちは任せておいて。』

 

 アルバート中尉の『機兵狩人小隊』、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、各々の敵に向けて歩行移動あるいはジャンプ移動で近づいて行く。キースの小隊『SOTS』は、降りて来た降下船に対して射撃を行い牽制する。だが敵の手にあるフォートレス級とユニオン級は、その厚い装甲に物を言わせて強引に降下してくる。そればかりではなく、その高い火力でこちらを攻撃してくる様子もある。遠射程なのでなかなか命中弾は無いが、それでも心臓に悪い。キースは叫んだ。

 

「アリー船長!カイル船長!ヴォルフ船長!出番だ!

 サイモン曹長!次は前地点からNに330m!」

『了解です、中尉。』

『待ちかねたよ!』

『いっちょ、ぶちかますかね!』

 

 味方のユニオン級ゾディアック号が中口径オートキャノン、20連長距離ミサイル、粒子ビーム砲、大口径レーザーを撃ちながら浮遊しつつ接近してきた。そして敵降下船の弾幕の中を、2隻のレパード級降下船が高速で飛翔する。敵船2隻は、レパード級2隻に狙いを付けねばならず、しかも相手が高速であるために命中弾を与えられないでいる。敵の砲手は、さほどの腕前では無い様だ。残念ながら味方降下船の砲手も、それほどの腕前では無いのだが。

 そしてついにフォートレス級が着陸し、そのハッチを開いて傾斜路を作る。ユニオン級もまた、着陸してメック用ハッチを開いた。ユニオン級のハッチからは65tクルセイダーと50tハンチバック、40tシカダ、それに20tローカストが出現する。一方フォートレス級からはマンティコア戦車4輛、ハンター戦車4輛、ヴァデット哨戒戦車4輛、それに4個小隊……つまり1個中隊の歩兵が飛び出してきた。キースはつい、内心の思いを口走る。

 

「フォートレス級には、あとメック1個中隊を載せる余裕があるはず!それを出さないと言う事は、あれが荷積み用の空船か!?」

 

 クルセイダーは少しだけ前進すると、先ほどから全然戦力になっていないグリフィンと並んで静止、両腕の15連長距離ミサイルを発射する。ハンチバックはできるだけ距離を詰めようと、舗道にもかかわらず全力疾走。ローカストとシカダも、全速でこちらに向かって来た。戦車の群れは20連長距離ミサイル発射筒や粒子ビーム砲、中口径オートキャノンを撃ちまくりながら前進してくる。歩兵は何の策もなしに、ライフル銃を乱射しながら突撃してきた。

 と、クルセイダーに向けて空中から襲い掛かる影があった。直前まで付近の空中で待機していた、ジョアナ少尉のライトニング戦闘機2番機である。

 

『落ちなさい!』

 

 クルセイダーは突然の伏兵に驚き、15連長距離ミサイルと中口径レーザーで応戦する。しかし命中弾は、中口径レーザー1本のみ。逆にジョアナ少尉機の全開射撃は全て命中した。胴中央に最大口径のオートキャノン、右胴と左脚に中口径レーザーの直撃をくらったクルセイダーは、それでも耐えていたが、頭部に2発命中した中口径レーザーがとどめとなり、たまらず機体が転倒する。クルセイダーはそのまま動きだすことは無かった。メック戦士が気絶したのであろう。

 ジョアナ少尉はキースに通信を入れる。

 

『すいません、推進剤が無いので離脱します!』

「わかった、あとは任せろ。サイモン曹長、次の射撃目標はNNEに60mずらしてくれ!」

 

 ジョアナ少尉機は全速で戦域を離脱していく。見ると、アルバート中尉の『機兵狩人小隊』は今しがたスナイパー砲の直撃をくらったバルカンを降伏させ、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』はこれもまたスナイパー砲の支援によりフェニックスホーク、D型フェニックスホーク、クリントの片脚を蹴り折っていたところだった。

 キースは部下たちに命令を発する。

 

「マテュー少尉とエリーザ軍曹の2人で、ハンチバックを仕留めてくれ!俺とアンドリュー軍曹はシカダとローカストを接近前に叩く!」

『『『了解!』』』

 

 その時、戦いが始まる前にアルバート中尉が恐れていたことが起きる。フォートレス級のロングトムⅢ間接砲が動き出したのだ。砲身は、基地の本部棟を狙っている。射線が通っているので、着弾観測員は必ずしも必要ないのだ。

 と、ここでキースのマローダーに通信が入った。エリオット軍曹からだ。

 

『隊長!1隊をユニオン級に突入させました!そちらの指揮はテリー伍長が取っています!』

「そうか、軍曹。頼んだぞ。」

『はっ!それと上申させていただきます!フォートレス級に対する突入許可を!フォートレス級に乗組んでいた歩兵は、おそらく全て出撃した物と思われます!』

「……よし、軍曹!頼む!全体を占拠できれば良いが、せめてロングトムⅢだけでも止めてくれ!」

『はっ!了解です!ではこれより自分が、フォートレス級への突入指揮を取ります!』

 

 その時、フォートレス級のロングトムⅢが火を吹く。キースは歯噛みした。そのキース機に向かい、シカダが一直線に全力で走行してきた。体当たりをするつもりだ。キースはマローダーの両手の粒子ビーム砲を同時に発射した。それはシカダに命中、シカダの両腕を消し飛ばす。シカダはその衝撃で、キースのマローダーの眼前でひっくり返った。キースはマローダーの右脚を上げて、シカダの胴体を踏み潰す。シカダは右胴を踏み潰されて中口径レーザーの1基を失い、メック戦士は緊急脱出した。その隣では、アンドリュー軍曹のライフルマンがローカストのマシンガン弾薬に直撃弾を与え、ローカストを消し飛ばしたところだ。

 見ると、敵のハンチバックもまたエリーザ軍曹のウォーハンマーとマテュー少尉のウルバリーンに囲まれてパンチの連打を喰らっており、今しがた頭部をウォーハンマーの直接粒子砲の砲身になっている右腕で叩き潰されたところだった。それまでにウォーハンマーとウルバリーンには少なからず命中弾を送り込んでいた模様だが、この2人を倒すには至らなかったらしい。ちなみにメック戦士はぎりぎりで緊急脱出していた。

 敵のバトルメックは、大半がその戦闘力を失うか破壊された。しかし未だ指揮官機であるエクスターミネーター……キースの父親のバトルメックであったデスサイズは健在であり、戦車部隊と歩兵部隊は無傷である。と、ここでエクスターミネーターが最大ジャンプで後退し、後ろを向いてユニオン級降下船の方へ駆け出した。どうやら逃げるつもりの様だ。

 

「逃がしてたまるか!……!?」

 

 しかし追撃しようとしたキースの前を塞ぐように、歩兵と戦車部隊が展開する。ことに歩兵は、バンザイを叫んでまっしぐらに突撃してくる。

 

「歩兵や戦車を捨て駒に、自分だけ逃げるつもりか!アーリン中尉、機体のダメージは!?」

『いくらか喰らったけど、まだ充分いけるわ!』

「すいませんが、フェニックスホークの機動力で敵指揮官を追い詰めてください!俺は見ての通りですので!」

『了解!……キース中尉、歩兵だからと言って、手加減しては駄目よ?わたしには経験があるけど、対メック歩兵を侮ってはだめ。』

「わかっています。手加減はしません。」

 

 キースはそう言うと、バンザイ突撃をしてくる歩兵に中口径レーザーを2発と粒子ビーム砲1発を撃ち込む。フェロクリート舗装の地面がはじけ飛び、歩兵1個小隊が消し飛んだ。だが残り3個小隊は、変わらずバンザイを叫んで突っ込んでくる。戦車は、ある程度離れた場所から砲撃に専念していた。歩兵部隊に比べ、戦車部隊の士気は低い様だ。しかも腕前も低い様で、命中弾はごくたまにしか無い。キースのマローダーは、ほとんど無傷だった。その僅かな傷も、歩兵にやられた物だ。

 アンドリュー軍曹のライフルマンが、大口径レーザー1本と中口径レーザー2本を歩兵に向かい放つ。また歩兵1個小隊が消滅した。後には焼け焦げた死体が残る。

 

『……あんま、いい気分じゃないよな。コレ。』

「いい気分じゃないのは俺も同じだ。だがバンザイ突撃をしてくるドラコ歩兵を止めるのは、不可能だ。……消し飛ばすしかない。サイモン曹長、新たにBASE-N04370にぶち込んでくれ。」

 

 キースは戦車部隊の動きを読んで、それに対する間接砲撃を指示すると、再度粒子ビームと中口径レーザーを放った。また歩兵が1個小隊焼き尽くされる。そこへ追い撃ちの大口径レーザーと中口径レーザー、マシンガンによる攻撃があり、最後の歩兵小隊はバンザイを叫んで吹き飛ばされた。アルバート中尉の攻撃だ。アルバート中尉は『機兵狩人小隊』を率いて中央に戻って来ると、キースに向かって総指揮官として命じる。

 

『キース中尉、総指揮官としての命令だ。エクスターミネーターを追え。ここの戦車部隊は俺たちが引き受ける。』

「……ありがとうございます!」

 

 キースはマローダーを前進させる。それを阻む様に戦車部隊が動くが、アンドリュー軍曹のライフルマン、マテュー少尉のウルバリーン、エリーザ軍曹のウォーハンマーによる支援射撃と、『機兵狩人小隊』による全面攻撃により、戦車部隊は後退せざるを得ない。

 と、フォートレス級の放ったロングトムⅢの砲弾が着弾する。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 基地の本部棟を狙ったそれは、だが大きく目標を外れて練兵場グラウンドのど真ん中に大穴をあけた。フォートレス級のロングトムⅢは照準を修正し、第2射を撃ち放つ。味方のユニオン級ゾディアック号と、レパード級ヴァリアント号、ゴダード号がフォートレス級に攻撃を集中するが、フォートレス級はその分厚い装甲で耐え抜く。

 敵戦力を壊滅できたとしても、ロングトムⅢ間接砲により本部棟や整備棟を破壊されてしまえば、ここの基地は基地機能を失ってしまう。そうなれば良く言って引き分け、普通の評価では惜敗と言ったところだった。

 

(エリオット軍曹!はやくロングトムⅢを黙らせてくれ!……しまった!)

 

 エクスターミネーター、キースの父の機体であった個体名デスサイズという65t級バトルメックは、150mの最大ジャンプを繰り返し、今まさにユニオン級のメックベイに辿り着こうとしていた。『デヴィッドソン装甲巨人隊』の3機のフェニックスホークがそれを阻もうとしているが、相手はジャンプジェット搭載機。行く手を阻んでも、ジャンプでそれを飛び越えてしまう。常に最大距離のジャンプをしているため、攻撃もなかなか命中しない。キースは心の中で叫ぶ。

 

(間に合わない!)

 

 だが次の瞬間、エクスターミネーターの眼前で、ユニオン級のメックベイ扉が閉まった。気付けば、ユニオン級からの砲撃は完全に止んでいる。エクスターミネーターは何やらじたばたしていたが、やがて外部スピーカーを使ってがなり始めた。

 

『こら!わしがまだ乗っておらんぞ!開けろ!開けるのだ!』

 

 そしてキース機に通信が繋がる。

 

『こちらテリー・アボット伍長。ユニオン級降下船、エンデバー号の制圧に成功しました。負傷者はおりますが、重傷者、死者はおりません。』

「よくやってくれた、伍長!」

『隊長、報告いたします!エリオット軍曹以下1個半小隊42名!ただ今フォートレス級降下船ディファイアント号を制圧完了!死者はおりませんが、軽傷者が5名であります!』

「軍曹もよくやってくれた!」

『いえ……。最後に1発、ロングトムⅢを撃たせてしまいました。あれが着弾する場所によっては、大変なことになります。』

「それは今気にしても仕方ない。敵の部隊長を討って、片を付けるぞ!」

 

 キースはエクスターミネーターに向けて、2門の粒子砲と中口径オートキャノンを構える。キースの耳には、かつての父親の声が聞こえていた。

 

『……いつかはお前に、あのデスサイズを任せることになるんだ。『BMCOS』の第3中隊中隊長の座と共に、な。』

(父さん……。ごめんな、デスサイズをぶち壊すことになる。『BMCOS』も、もう無い。でも、仇はかならず取る!いつか必ず!)

 

 心の中に走る痛みを堪えて、キースは引き金を引く。2条の粒子ビームと、中口径オートキャノンの砲弾が、エクスターミネーターを……思い出の機体、デスサイズを打ち据えた。それは過たず敵機の胴中央に背中から突き刺さり、10連長距離ミサイルの弾薬に見事着弾。弾薬に火が回り、デスサイズは大爆発を起こして四散する。敵の部隊長は脱出装置により脱出した。キースはマローダーをその部隊長に歩み寄らせ、まだ熱い右腕の粒子ビーム砲砲口を突き付ける。彼は言った。

 

「降伏しろ。アレス条約に則った扱いはしてやる。貴様がアレス条約に則った行いをしていれば、だがな。」

「こ、降伏する!命だけは助けてくれ!」

「……1つ教えておいてやろう。俺は傭兵大隊『BMCOS』の生き残りだ。部隊壊滅時に部隊を離れていたんで、難を逃れたんだ。そしてお前が今の今まで乗っていたバトルメックは、俺の父親の物だった。」

「ひっ!?」

 

 キースの考えが間違っていなければ、この男は『BMCOS』の隊員を戦闘員、非戦闘員の区別なく虐殺した特殊部隊員のうちでも、高い地位にいた人物のはずだ。当然非合法活動に従事していた無法者であり、アレス条約の保護を受けるに値しない人物であった。

 

「色々と、教えてもらう事がある。」

「わ、わかった!何でも話す!ハリー・ヤマシタのことか!?トマス・スターリングのことか!?なんでも話す!」

 

 キースは外部スピーカーと一般回線を使って、周囲全体に通信を送った。

 

「ドラコ連合の諸君!君たちの部隊長は降伏した!これ以上の抗戦は無意味である!降伏したまえ!繰り返す!君たちの部隊長は……。」

 

 やがて戦車の上部ハッチが次々に開き、戦車兵たちが両手を上げて降車してくる。遠くから散発的に10連長距離ミサイルを撃っていた傷ついたグリフィンも、降伏信号を打ち上げてメック戦士が降りて来た。

 そして最後に撃たれたロングトムⅢ間接砲の砲弾が、基地本部棟玄関前に着弾して駐車場に大穴をあけたのを幕引きに、この戦闘は終わったのであった。




敵を撃滅しましたが、主人公は自分の父親のバトルメックを自分でぶち壊してしまう事になりました。彼の心中は、おそらく……。
しかし勝ちは勝ちです。辛くても悲しくても、仲間を失ったりするよりかはマシでしょうね。


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『エピソード-018 敵の居場所』

 キース、アルバート中尉、アーリン中尉の3名は、尋問室の隣室で尋問の様子を窺っていた。キースがこの部屋に来るのは、アキトモ・タナカ軍曹と名乗る人物の尋問時以来である。

 隣の尋問室では、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地への攻撃をかけてきた部隊の部隊長に対し、尋問が行われている。尋問官は、エルンスト曹長だ。パメラ伍長も一緒になって調書を取っている。

 

『お前の名前と階級、それに所属部隊名をまずは教えてもらおうか。』

『マーカス・ギボンズ大尉、だ、第4アン・ティン軍団D大隊第4中隊の指揮官、だ。』

『大隊で第4中隊?』

『現在D大隊は、だ、第13アン・ティン軍団として再編するために規模拡張中だ。今の規模は5個中隊と2個小隊になっている。わ、わしらがバレンチナを出て来てから随分経つから、今ではもう少し増強されているのではないかと思う。』

 

 男の様子は始終おどおどして、卑屈になっている。問われたことにも全て正直に話しているらしく、嘘発見器には反応が無い。

 

「……今のところ、素直に喋ってるわね。」

「生き延びるためには、それ以外方法が無いだろうからね。調査に協力的になったことで、司法取引みたいな形で自らの命を贖うしか無いだろうさ。

 もっとも、それで非合法活動が全部が全部チャラにはならんだろう。」

「……。」

 

 アーリン中尉とアルバート中尉の言葉を聞きながら、キースはじっと隣室の様子を窺う。

 

『マーカス・ギボンズとは、ドラコ連合っぽくない名前だな?』

『……わ、わしはドラコ人ではない。元は恒星連邦の士官だった。だったんだ……。恒星連邦政府の命令で、自殺的任務を与えられて失機するまではな。

 ハンス国王の前の代、イアン・ダヴィオンは「国王であるまえに戦士である」と言われた脳筋だった……。軍事的勝利のため、陰では無茶もそうとうやったのだ。そしてダヴィオン王家のせいでメック戦士としての全てを失ったわしは、ドラコ連合に、クリタ家に雇われる様になった、と言うわけだよ。自分のメックを手に入れるためにな。』

 

 マーカス大尉の口調は、自分の恨みつらみを語るうちに、徐々に滑らかになっていく。その目には、憎悪の色が溢れた。エルンスト曹長は続けて問う。

 

『……で、ハリー・ヤマシタの指揮下に入る様になったってわけかね?』

『そうだ。ヤマシタは敵に対しては手段を選ばない悪魔的な人物であったが、自分直属の部下に対してはそう悪い人物でもなかった。恩着せがましいことは良く言うし、無茶な命令も下すがね。

 奴を好いているわけではないが、奴が非合法な手練手管でライラ共和国や恒星連邦からメックを鹵獲したおかげで、そのメックを与えられた奴も多い。だから直属の部下は、奴に従っておるよ。唾棄すべき品性の持ち主であろうとも、な。』

『人の事を言えた義理でもないだろう?『BMCOS』の件では、お前さん方は休戦期間中に休戦破りをやって、戦闘員だけじゃなしに非戦闘員まで巻き添えにして皆殺しにしたそうじゃないか。』

『非戦闘員まで皆殺し、と言うのはよくやらされたからな。何も感じなくなっておったよ。以前にも、メック戦士が出撃している間に基地に潜入し、基地の人員すべてを爆殺すると言った任務も幾度かあった。』

 

 マジックミラーの裏側で、キースは拳を握りしめる。その肩に、掌が置かれた。アルバート中尉の物だ。キースは息を吐くと、アルバート中尉に軽く会釈をする。

 

『全ては命令だった、って言いたいのかね?まあ、続きを聞くとしよう。』

『……ヤマシタは、そう言う時に一番危険な任務を自ら行っていた。敵中に工作員として入り込み、我々特殊部隊員を呼び込む、と言ったものもそうだ。敵部隊に潜り込み、戦場で肝心かなめの時に裏切ると言うのも。

 ……いや、裏切りと言う言葉はあたらないな。最初から敵なんだから。だがその一見勇敢にも見える行為は、自分でもっとも危険な任務を負うことで、責任を果たすってためじゃない。単に敵を騙し、単にスリルを味わう……そう言う行為が好きだからだ。』

『ハリー・ヤマシタの性格はわかった。トマス・スターリングと『アルヘナ光輝隊』が奴に乗せられて恒星連邦を裏切った理由はわかるかね。』

『又聞きでしかないが、かまわないかね?』

 

 頷くエルンスト曹長。マーカス大尉は、その事について話し始める。キースはごくりと唾を飲み込んだ。

 

『トマス・スターリングの『アルヘナ光輝隊』は、恒星連邦が派遣した連絡武官の将校に、色々と寄生されて不正により甘い汁を吸われていたらしいな。鹵獲したバトルメックの報奨金を横から何割かかすめ取られたり、『アルヘナ光輝隊』に渡るはずの補給物資を勝手に横領されて横流しされたり。

 証拠を掴んで訴えて出たらしいが、上の方で握りつぶされて、くだんの連絡将校は処罰されずに潮時だと見て異動していったらしい。だが代わりに来た連絡将校も、同じことをやったそうだ。

 なんと『アルヘナ光輝隊』は、甘い汁を吸うための良いカモだと言う伝統が、上の方の部署内にできてたと言う話も聞く。生かさぬ様に、殺さぬ様にってな。……恒星連邦の官僚組織は、わしらどころじゃなく闇が深いぞ。』

『そんな事が、他所や監査役にばれなかったってのか?』

『監査役にも鼻薬が効かされてたんだそうだ。証拠を掴んで訴え出られたときには流石に慌てたらしいが……。今では訴え出たと言う記録自体が抹消されている、らしい。何やら訴え出たことに対する陰湿な報復さえもあったらしいよ。

 そんな事が続けば、忠誠心とてすり減るさ。そこへヤマシタの奴がすり寄ったんだ。ドラコ連合の正規軍に入れてやるって。ドラコ連合では、信頼できる最上級の傭兵部隊よりも、もっとも信頼されない正規軍の方が優遇されるからな。『アルヘナ光輝隊』の中には反対する者もいた様だが、そいつらについては家族を人質に取った。そしてそういう奴らは今では、厳重な監視下に置かれるか、人知れず消されるか、あるいは激戦区に送られて……。』

 

 マーカス大尉は、掌を一度握って、ぱっと開いた。つまりはそう言う者たちは激戦区に送られてドカン!と言うわけである。

 

『……で、裏切りの際に第1の目標に選ばれたのが『鋼の勇者隊』……傭兵大隊『BMCOS』だ。自分たちが苦しんでいるのに、偉いさんに取り入って上手く立ち回って、潤沢な補給や鹵獲品に対するある程度の権利と言う正規軍にも準ずる扱いを受けている裕福な部隊ってのが気に入らなかったんだろう。

 ま、『チェックメイト騎士団』の方が相手としては楽だって意見もあったらしいがね。妬みと僻みの方が大きかった様だ。だが実際に潜入して破壊工作を行ったわしら特殊部隊の面々の被害は、おかげでかなり大きくなったがね。』

 

 キースは隣の部屋で、ぶるぶると身体を震わせていた。『BMCOS』は妬みと僻みで目標に選ばれたのだと言う。許せることではなかった。思わずマジックミラーを叩き割って乱入したくなる。彼を押しとどめていたのは、鋼の如き自制心と、肩に置かれたアルバート中尉の掌だった。

 尋問室の中では、エルンスト曹長が最後の質問をしている。

 

『さて、とりあえず質問はこれで最後だ。ハリー・ヤマシタとトマス・スターリングの居所と目的だ。』

『スターリングの奴は第4アン・ティン軍団C大隊大隊長に納まって、とりあえずの目的は今以上の出世だろうさ。いるのは惑星バレンチナだ……の、ハズだ。だがヤマシタは今、この惑星にいる。

 わしの乗って来た降下船エンデバー号の金庫に、古文書の写しが入っておるがね。その古文書にはこの惑星に存在する、バトルメック製作施設の位置が書かれておった、らしい。わしには読めないがね。金庫のナンバーはGTT-337-BYO-4だ。ヤマシタはそこへ向かったよ。あらいざらいそこの設備他を持って帰るつもりらしい。部隊も1個中隊連れていった。部隊の編成表は、同じ金庫に入っている。』

 

 マジックミラーの裏側で、キースたちは驚愕する。アルバート中尉が眉を顰めて言った。

 

「まさか、あれだけの物を発掘した他に、まだ存在したのか!?」

「しかもバトルメックの生産工場……じゃなくて、製作施設?なんか微妙にニュアンスが違うわね。」

「確かに……。ですが、バトルメックを造れるとしたら、えらい発見です。」

 

 アーリン中尉の言葉に応えるキース。マジックミラーの向こう側でも、エルンスト曹長が驚愕していた。

 

『バトルメックの生産工場だと!?』

『いや、違う。製作施設、だ。あくまで製作……少量の試作品などを造ったり、改造が関の山だ。あとは以前にこの惑星にやって来たはずの、メック倉庫発掘部隊の回収と発掘品の回収も任務のうちだったが……。その発掘部隊は壊滅、発掘品はすべてあんたらが接収したらしい、と現地スパイ網から連絡があったからな。だからわしらの部隊でこの基地を襲撃したんだ。あわよくば、発掘品を奪い返せ、と命じられてな。

 ……戦車部隊や歩兵部隊の使い捨ても、内々で命じられておったよ。荷を積むスペースを空けねばならんからな。』

『そのスパイ網についても訊きたいところだが、長くなったからまた後にするとしよう。』

『なんでも訊いてくれ。なんでも話すとも。……わしには、誇りなどないからな。』

 

 吐き捨てる様に、マーカス大尉は言い捨てた。

 

 

 

 キースは一人、自分の執務室にてユニオン級降下船エンデバー号の司令室金庫から持ち出してきた古文書――日本語の東北弁――の、連盟共通語への翻訳作業を行っていた。だが集中力が続かない。苛立つ気持ちが、作業の邪魔をしていた。他の面々は、整備の作業が可能な者は先の戦いでメックや気圏戦闘機に負った損傷を、総出で修理している。整備の作業ができない者は、ハリー・ヤマシタとの戦いに向けて休みを取っていた。ただしアルバート中尉だけは指令室に詰めている。

 おもむろに立ち上がると、キースは窓を開ける。この惑星の短い夏の夜風が、彼の頬を撫でた。もっとも夏に限らず、この惑星の季節は全て短いのだが。彼の視線は、エクスターミネーター……彼の父親の機体であるデスサイズが、彼の手によって爆散した現場の方角へ向く。

 

(あのとき、砲撃しないでデスサイズの足を蹴り折っていれば……。そうでなくても、あれだけ意気地のない男だとわかっていたなら降伏勧告を先にしていれば……。デスサイズを取り戻せていたかも知れない……。)

 

 それが後知恵だと言う事は、重々キースには分かっていた。それにあのとき、キースの仲間たち『SOTS』の残りと、アルバート中尉の『機兵狩人小隊』は、戦車部隊とやりあっていた。戦意も低く技量も拙いとは言え、中口径オートキャノンが4門、20連長距離ミサイル発射筒が4門、粒子ビーム砲が4門、6連短距離ミサイル発射筒が4門、10連長距離ミサイル発射筒が4門、そして中口径レーザーが4門と、総数にしてこれだけの火器が味方に向けられていたのだ。

 これだけの砲火が向けられていれば、何発かのまぐれ当たりは充分にあり得る、いや実際にあった。致命打こそなかったものの、味方のバトルメックは各々かなり装甲板を削られていた。あのときは、一刻も早く戦闘を終わらせる必要があったのだ。そのためには、悠長にやっている余裕はない。あの時は、後ろから撃つのが最善だったのだ。

 その時、ドアをノックする音が執務室に響く。キースは応えた。

 

「どうぞ。」

「失礼します。」

 

 入って来たのは、『機兵狩人小隊』の副隊長であるサラ・グリソム少尉であった。作業ツナギを着用しているが、何処と無しにビシッとした印象を受ける。

 

「キース中尉のマローダーは、装甲板の修理と弾薬の補充を終えました。ウォーハンマー、ライフルマン、ウルバリーンも同じく。『機兵狩人小隊』『デヴィッドソン装甲巨人隊』のメックは、もうすぐ完了です。

 4機の気圏戦闘機についても、予備部品はほとんど無くなりましたが修理完了まであと1時間と少しです。鹵獲した中にあった、元『BMCOS』のバトルメック、戦車、気圏戦闘機については、修理部品と時間、および恒星連邦へ届け出る書類などの関係で、今回の修理はとりあえず見送りたいとサイモン曹長からの伝言です。」

 

 淡々とした口調で伝えるサラ少尉に、キースは内心で圧迫感を感じる。彼はできる限り平常な声音で、彼女に伝えるべきことを伝えた。

 

「そうか、ありがとうサラ少尉。こちらの翻訳作業は、まだ半ばと言ったところだ。完了したら、すぐにアルバート中尉に連絡を入れる。」

「了解。失礼します。」

 

 踵を返すサラ少尉。だが彼女は、ふと足を止める。そして振り向かずに、呟く様に言った。

 

「……アルバート中尉は、かつて裏切りにあって、そしてその裏切り者と決着をつけた経験をお持ちです。ですので……。」

 

 彼女は言葉を探している様に、多少詰まった。だがすぐに話し出す。

 

「ですのでアルバート中尉に、キース中尉のお気持ちが100%わかるとは言えませんが、幾ばくかなりはおわかりになっていると思えます。以上です。では。」

 

 今度こそサラ少尉は出て行った。キースはしばし立ち尽くしていたが、やがて両掌で自分の顔をパン!と叩いて気合を入れると、執務机に向かって翻訳作業を精力的に続けた。その効率は、先ほどまでとは比べものにならなかった。

 

 

 

「……と、言うわけで、この翻訳文と添付した惑星詳細マップによれば、この惑星の北極圏近くにあるこの島、ベルゲングリューン島にバトルメックの製作施設が存在することになっています。降下船の着陸可能な地点は何か所かありますが、問題の遺跡のすぐ傍らにはおそらく敵のユニオン級が着陸していると思われます。敵の規模は1個中隊。気圏戦闘機はシロネ戦闘機が2機ありましたが、いずれもこちらのライトニング戦闘機に撃墜されています。」

 

 古文書の写しの翻訳が終了し、キースはアルバート中尉にそれを報告していた。その場には、今までバトルメックの修理作業を手伝っていたアーリン中尉も、ツナギ姿のまま立っている。ちなみにアーリン中尉の顔はかなり眠そうだが、必死で眠気を噛み殺している様だ。

 アルバート中尉は難しい顔で、地図のコピーを検討する。

 

「相手の規模からして、可能な限りの戦力を注ぎ込む全力出撃をしたいが……。他の敵は来てないから、この基地に戦力を残しておく必要は考えないことにしよう。敵の陣容は……こっちの書類か。

 ええと、指揮小隊が75tオリオン1、65tサンダーボルト1、55tK型シャドウホーク2、65tシロネ戦闘機2……と、このシロネ戦闘機は考えなくて良かったんだな。

 火力小隊が60tライフルマン2、55tシャドウホーク1、55tK型ウルバリーン1。この火力小隊に気圏戦闘機隊をぶつけるのは危険だな。ライフルマンが2機もいる上に、シャドウホークの中口径オートキャノンも対空能力は高い。

 偵察小隊が、45tD型フェニックスホーク1、55tグリフィン1、55tK型ウルバリーン1、45tフェニックスホーク1……。D型フェニックスホークは、まず間違いなく奪われた『BMCOS』の機体だろうな。」

「はい。ですが間違っても手加減なんかしないでください。完全破壊してしまっても、諦めはつきます。それより味方の方が大事です。」

 

 頷きつつも、キースは言う。彼は惑星政府の気象予報部から取り寄せた気象データをアルバート中尉とアーリン中尉に配った。

 

「ベルゲングリューン島は北極圏近くにあるとは言っても、今は北半球は夏真っ盛りです。気温データはメックの再調整が不要なことを示しています。」

「凄いわね。キース中尉、惑星学者でも務まるんじゃないの?」

「流石にそこまでは行きませんよ。約束通り『デヴィッドソン装甲巨人隊』と合併して部隊規模拡大したら、自前の専属惑星学者を雇わないと。アーリン中尉も、今からだれか心当たりが無いか、伝手を辿ってみてください。俺も自分の伝手で探してみますから。もし両方見つかっても、それはそれで構いません。惑星学者はチームで雇用した方が心強いですから。

 ……っと、そうじゃない。遺跡のポイントがXポイント、我々の着陸地点はA、B、CのうちAかBが良いと思われます。移動に使用する降下船ですが、今回はゾディアック号、ヴァリアント号、ゴダード号の勢揃いで行きましょう。ライトニング戦闘機1番機と2番機及び『SOTS』バトルメック部隊にスナイパー砲車輛はヴァリアント号、3番機と4番機及び『デヴィッドソン装甲巨人隊』バトルメック部隊はゴダード号、『機兵狩人小隊』と3個歩兵小隊のうち2個小隊をゾディアック号へ、それぞれ載せましょう。歩兵部隊には先の戦いで若干の負傷者が出てますから、1個小隊減らして再編成します。

 レパード級2隻で先行して『SOTS』と『デヴィッドソン装甲巨人隊』を降ろし、着陸ポイント地点を警戒。そこへユニオン級ゾディアック号を降ろして3個小隊が揃ったら歩兵小隊と共にXポイントへ進発します。」

 

 アルバート中尉は地図を眺めていたが、頷いて言う。

 

「Bポイントにしよう。Bポイントの方が若干遠い上に、間に丘陵があって迂回する必要がある。しかしスナイパー砲をこの丘陵陰に置けば、距離的には充分届くし、相手からは完全に死角になる。」

「そうね、私も賛成だわ。そちらの方がAポイントよりも平地が広いから、着陸が楽でしょう。ゾディアック号の船員は、船長副長含め、まだまだ船に慣れていないでしょう?」

「ではBポイントと言う事で。」

 

 ふとアーリン中尉は、眠い目をこすりながらキースに尋ねる。

 

「フォートレス級ディファイアント号と、ユニオン級エンデバー号はどうするの?」

「まだ使えません。船長や航法士、機関士はゾディアック号副長や航法士見習い、機関士見習いたちを昇格させればいいでしょうが、動かすだけならともかくまともに戦闘させようとすると船員が圧倒的に足りません。それに権利関係の書類手続きも、資産継承の処理が終わったばかりで恒星連邦政府への船籍再登録とかがまだ……。今船を動かすと、未登録船での戦闘行為ということで、良くて罰金ですね。

 勿論、緊急事態にて鹵獲品を用いた場合の条項とか、いくらでも抜け道はあるんですが、船員が足りない状況で、無理を通して戦闘させる必要も余裕もありません。」

「大量の捕虜にも頭が痛いよ。船員だけで2隻合わせて50人余、これに各メック戦士や戦車乗員、ユニオン級エンデバー号に搭載されてた損傷した気圏戦闘機のパイロット……。基地に付属の収容施設許容量をオーバーしそうだ。MRBから派遣された管理人のパオロ氏は、MRBが恒星連邦政府と交渉したから、契約に従って近いうちに鹵獲バトルメック共々引き取りに来てくれるそうなんだけどね。きっとドラコ側に、馬鹿高い身代金を吹っ掛けるんだろうなあ。一部のメック戦士などを除いて……。」

 

 一部のメック戦士とは、無論のこと元『BMCOS』の機体に乗っていた者たちのことだ。彼らには、『BMCOS』を互いの協定に従って決められた休戦時間中に強襲した、失機者を集めて訓練した特殊部隊員の疑いがかかっている。いや、疑いどころかほぼ間違いは無いだろう。ただ、彼らも命は惜しいため、正規の軍事行動の結果捕縛された「普通の捕虜」のふりをしている。尋問官であるエルンスト曹長は今後しばらく大忙しだ。

 

「ふ~ん……。ところで作戦開始は連盟標準時間で明朝、と言うか0時過ぎたから今朝のマルゴーマルマル(05:00)で良かったかしら?あと4時間50分しか無い……。もう休んだ方良いわよね。っていうかこの惑星、惑星時間で1日が25時間だから、少しずつ連盟標準時間からズレちゃうのよね。」

「そうだね。じゃあ、そろそろ皆休もう。あー君、後は任せる。何か起きたら遠慮なしに起こす様に。」

 

 アルバート中尉は夜番のオペレーターに後を任せると、キースたちの先頭に立って歩き始める。行く先は宿舎の自室ではなく、本部棟の宿直室だったりするのが何とはなしに悲しい。宿直室はここ1ヶ月半近く、アルバート中尉の巣となっていた。宿舎の彼の部屋は、半分空き部屋である。キースもまた、今日はそこで寝るべく移動を開始。アーリン中尉は非常に眠かったが、それでも野郎どもと雑魚寝するわけにもいかず、ここから宿舎まで走ることになる。

 

 

 

 そして朝である。連盟標準時間で午前5時ちょうど、3隻の降下船が轟音と共に基地を飛び立った。レパード級ヴァリアント号とゴダード号の2隻は滑走路から高速で、ユニオン級ゾディアック号は離着床からゆっくりとした速度でと言う違いこそあれ、それはかなりの迫力ある光景であった。




いよいよ敵の本隊の居所がわかりました。敵はこの惑星で1~2を争うお宝の片方(もう片方は自動整備施設)であるバトルメック制作施設を、発掘して持って行くつもりです。主人公たちはそれを阻止できるのでしょうか。


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『エピソード-019 仇討ち』

 轟音とともに、西瓜か何かの様な球体型をしたユニオン級降下船ゾディアック号が、苔が一面に生えた大地に降りてくる。着陸地点の周りには、傭兵小隊『SOTS』所属のバトルメック部隊と、傭兵小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』所属のバトルメックが展開し、周辺警戒をしていた。

 やがて着陸したゾディアック号がメックベイの格納庫を開き、傾斜路を作る。そこから、傭兵小隊『機兵狩人小隊』所属のバトルメックが隊長機サンダーボルトを先頭にして、ゆっくりと降りてきた。その後を追うかの様にして、歩兵を乗せた装甲兵員輸送車4台1個小隊分が降りてくる。計画段階より、歩兵が1個小隊分少ない。

 キースのマローダーが、アルバート中尉のサンダーボルトとアーリン中尉のフェニックスホークに通信回線を繋ぐ。キースはアルバート中尉に挨拶と報告をする。

 

「ご苦労様です。今のところ、問題はありません。」

『ご苦労さん。……しかし出発直前に、連れて行く歩兵を1個小隊にしようと言われた時は正直愕然としたよ。「その」可能性を失念していたなんて、俺もまだまだだなあ。』

「いえ、俺も朝目覚めるまで気づきませんでした。俺たちが出撃している間に、駐屯軍基地にハリー・ヤマシタが爆弾を持った破壊工作員を送り込まないとは限らない、と。

 この惑星のドラコ連合スパイ網は、田舎の農業惑星と言う言葉から想像したよりも、ずっと強力です。あるいは本気でこの惑星を、橋頭堡として確保するつもりかも知れませんね。そしてマーカス・ギボンズ大尉が基地襲撃を失敗した事が、そのスパイ網からハリー・ヤマシタに伝わっていないなどと言うのは、楽観的に過ぎるでしょう。

 正直なところ、もっと歩兵部隊を増強しておくべきでした。そうすれば、こちらに連れて来る歩兵と、基地に残す歩兵、どちらも余裕を持てたでしょうに。ですが結局はこちらに1個小隊、基地に1個半小隊と、どちらも心許ない状況です。それでもエリオット軍曹とテリー伍長を連れてこられればその指揮能力から、敵の降下船への突入も任せることが可能だったんでしょうが……。」

 

 エリオット軍曹とテリー伍長は、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地の守りを固めさせるため、基地に置いてこざるを得なかったのだ。今こちらの歩兵小隊を指揮しているのは、一時的に軍曹待遇を与えたヴィクトル・デュヴェリエ一等兵である。その他は全て、この惑星ドリステラⅢにて雇用された二等兵と言う頼りない有様だ。これでは敵降下船への突入など、危なくてさせられない。

 ここでアーリン中尉が話に加わる。

 

『過ぎたことをいつまで言っていても仕方が無いわ。それより全部隊が揃ったんだから、全軍を進発させましょう。』

「そうですね。ではアルバート大尉待遇中尉、号令をお願いします。」

『う、うむ。では回線を隊内通信に切り替えて、と。

 諸君!敵、ドラコ連合は性懲りも無くこの惑星の星間連盟期の遺跡を狙って来た!敵の戦力は強大だが、こちらには気圏戦闘機4機の支援がある!我々は勝てる!我々は勝つ!全部隊出撃せよ!』

 

 隊内無線より、轟々と戦士たちの士気の高まりが響いてくる。そして彼らは、アルバート中尉のサンダーボルトを先頭にして進軍を始めた。レパード級降下船2隻が気圏戦闘機ハッチを開き、ライトニング戦闘機を2機ずつ射出する。ライトニング戦闘機群は、推進剤を極力使用しない低速巡航モードにて飛行を開始した。

 と、キースのマローダーに『SOTS』最初期メンバーであるアンドリュー軍曹、エリーザ軍曹、マテュー少尉から回線接続要求が来る。キースは念のために他への回線を一時切断してから、その通信を受けた。

 アンドリュー軍曹が、怒りの込められた声で言葉を発する。

 

『なあ隊長。これから行く先に、リカルド・アゴスティ……ハリー・ヤマシタの奴がいるんだよな。なんとかして、奴の首は俺たちが取りたいもんだぜ。』

『アンドリュー、落ち着きなさい。隊長もアルバート中尉も、あたしたちの事情は知ってるんだから、可能な限りあたしたちに機会はくれるわ。でも第1に優先すべきは全員の勝利よ。それがハリー・ヤマシタの敗北であり、あたしたちが本懐を遂げる瞬間でもあるんだから。』

『そうですね、いや、そうだな。だができるならば、自分たちの手で奴を討ちたいと言うのも本音だな。その気持ちは抑えられそうにないな。』

 

 アンドリュー軍曹を、エリーザ軍曹が窘める。が、いつも冷静なマテュー少尉も過剰な闘志を抑えられていない。しかも、お仕事モードの化けの皮が剥がれており、フランクな口調になっている。キースは少し考えてから、口を開いた。

 

「そうだよな。できるだけ機会を作る様にするともさ。けど奴には俺も恨みがあるからなあ。うかうかしてると、俺が奴の首をもらってしまうことになるけどな。」

 

 キースは多少道化が入った台詞を使った。こちらもお仕事モード抜きで、いつもの偉そうな口調はあえて使わない。

 

「奴の乗機は45tフェニックスホークじゃない。75tのオリオンだ。超重装甲で、ひたすら頑丈なんだよな。一致協力しないと、倒すのは一苦労だぞ?」

『……わかってらい、キース。俺の機体はライフルマン、長距離支援がお仕事だ。それを忘れやしないさ。』

 

 アンドリュー軍曹が、サブモニターの中で頷いた。その画像が、今度はエリーザ軍曹に変わる。

 

『そうね、それにも他にも強敵は大勢いるわ。順に倒せる相手から倒していかなきゃね。』

『ああ、わかってる。まずは勝つことを最優先にしないとな。その上で奴の首を狙うとしよう。……さて、ではお喋りはこの辺にしておきましょうか。』

 

 マテュー少尉も、再びお仕事モードの仮面を被り直す。キースも偉そうな口調になった。

 

「では先をいそぐとしよう。俺たちの存在は、知られていないとは思わん方がいい。全員充分注意する様に。」

 

 

 

 『機兵狩人小隊』、『デヴィッドソン装甲巨人隊』、そして『SOTS』の3個小隊は、フォーメーションを組んで荒野を進んでいた。

 まず一番先頭グループが、アルバート中尉の65tサンダーボルト、ギリアム伍長の50tエンフォーサー、アマデオ伍長の55tシャドウホーク、エリーザ軍曹の70tウォーハンマー、マテュー少尉の55tウルバリーン。

 次に中衛兼遊撃が、アーリン中尉の45tフェニックスホーク、リシャール少尉の同じく45tフェニックスホーク、ヴェラ伍長の45tD型フェニックスホーク、サラ少尉の同じく45tD型フェニックスホーク。

 後衛にキースの75tマローダー、アンドリュー軍曹の60tライフルマン、ヴィルフリート軍曹の40tウィットワース、そして4台の装甲兵員輸送車と、偵察兵や整備兵の乗ったジープが4台である。サイモン老のスナイパー砲車輛は、既に別の場所で配置に着いていた。

 と、ここでキースが隊内通信の回線を開いた。ちょうど河川の脇を通っている最中である。

 

「……アルバート中尉、アーリン中尉、わかりますか?」

『え?何のこと?』

 

 アーリン中尉は分からなかった様だ。だがアルバート中尉は深く頷く。

 

『うん……。いるね。』

「サイモン曹長に指示を出します。」

『うん、任せるよ。』

『……!!まさか待ち伏せ!?』

 

 2人の会話で、アーリン中尉も気が付いた様だ。ヴィルフリート軍曹とヴェラ伍長が注意を促す。

 

『向こうの岩場などは隠れるのに都合がよさそうです。無論、機体からの排熱をなんとかしてごまかす必要がありますが。』

『あと河の中に2機、いや3機はいますね。』

 

 ちなみにキースの隊である『SOTS』は、全員が待ち伏せの可能性に気付いていたと見えて、機体に身構えさせようとしていた。だがキースがそれを止める。

 

「まて、気付いてないフリをしろ。このまま進んで、罠にかかったフリをしてやるんだ。その方が、サイモン曹長による第1撃が効果的だ。

 サイモン曹長、BX-4520ポイント、BX-5315ポイント、BX-5314ポイント、BX-5313ポイントに連続して砲弾を叩き込め。風向はSWで風力は1単位。」

『了解ですわ、隊長。ぴったり叩き込んでやりますでのう。』

 

 キースの指示が終わると、アルバート中尉が全員に向けて話す。

 

『いいかね?では前進だ。気付いてないフリをするんだ。ただし、いつでも行動に移れる様に準備は怠らないこと。装甲兵員輸送車とジープは戦いが始まったら、全速で後退。いいね?』

 

 そして全部隊が無造作を装って前進する。そして河辺に近づいた時、空気を斬り裂く音が響いた。

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 先ほどヴィルフリート軍曹が言っていた岩場の陰に、スナイパー砲の砲弾が着弾した。そしてそこかしこから、敵機が一斉に立ち上がる。それは全部で14機存在した。河の中に隠れていた3機を除いて、IR偽装網を纏っている。

 ちなみに岩場の陰に隠れていて砲弾の直撃を受けたのがK型ウルバリーン、砲弾の余波を受けたのがその左右にいた2機目のK型ウルバリーンにフェニックスホークであった。やや遠くの別の岩場陰から立ち上がったオリオンが、苛立たしげに外部スピーカーで叫ぶ。

 

『ええい、何故気付いた!?』

 

 何故もくそも、ある程度深く戦術を学べば、ここが待ち伏せに都合の良い場所だなどと言うのは当たり前にわかる。そんなことをわざわざ言ってやるほど、暇な人間は味方側にはいない。

 だがキースの目は、本来敵の編成には含まれていない2機に向いていた。それはなんと言うか、脚の生えた箱、と言った外観をしている。その箱型の胴体には識別のつもりか、大きくペンキでそれぞれ1、2と書かれていた。キースの口から呆れを含んだ呟きが漏れる。

 

「……マッキー。機体のペイントからして、マッキー1号にマッキー2号、と言ったところか?」

『キース中尉、あの機体知っているの!?わたしは士官学校でも習ったことないんだけど!』

『私も知らん機体だな。』

 

 アーリン中尉、アルバート中尉の台詞に、キースはマローダーの粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノンを撃ちつつ答えた。

 

「士官学校では、バトルメックの構造学や機種判別法の講義ではなく、戦史学で習ったはずですよ。2439年に初号機が地球帝国政府の元で開発された、文字通り最初のバトルメック、マッキーです。

 まっとうに動いてるのが運用されているなんて知りませんでしたから、多分ここから発掘された代物でしょうね。100tの重量の割に武装はたいしたことありません。ただその重量から来る格闘能力は桁外れです。重装甲のサンダーボルトでも、格闘戦は回避した方が無難でしょう。

 ああ、あと操縦席のガラスが外からだと中が見えない様になってるらしくて、まるで誰も乗って無い様に見えるそうです。混乱しないでくださいね。」

『『へえ……。』』

(まあ、大半はバトルテックのシナリオ集、BLACKWIDOWからの知識なんだけどな。)

 

 キースの攻撃は、岩場の陰で部分遮蔽状態になっていた敵のサンダーボルト、K型シャドウホーク2機に次々命中する。K型シャドウホーク2機への攻撃はそれぞれ左胴、胴中央にあたった。だがサンダーボルトへの攻撃は、なんと粒子ビーム砲がその頭部を貫く。サンダーボルトは頭部を吹き飛ばされて、擱座してしまった。

 更に4機のライトニング戦闘機が、トレール――縦一線隊形――を組んでK型ウルバリーン2機とフェニックスホークの集団に向かい、各々機体前面に3門ずつ搭載している中口径レーザーで地上掃射を行う。1機につき3門なので、計12門の中口径レーザーによる地上掃射は、K型ウルバリーンに重いダメージを与え、フェニックスホークの両腕を奪った。

 これでフェニックスホークには攻撃力が無くなってしまった。だが同時に、K型ウルバリーンとフェニックスホークも反撃を試みていた。先頭を飛んでいたマイク少尉機に1発、2番手を飛んでいたジョアナ少尉機に1発、中口径レーザーが命中する。マイク少尉は叫んだ。

 

『やりやがったなああぁぁ!?』

『マイク!熱くならない!』

 

 ジョアナ少尉が諌める。相手の方が大きなダメージを負っているのだから、まあ彼女の言い分の方が正しいだろう。ちなみに巨大なダメージによる衝撃で、K型ウルバリーン2機とフェニックスホークは転倒してしまった。

 アンドリュー軍曹と、ヴィルフリート軍曹は、自機にマッキー1号を攻撃させていた。ライフルマンから放たれる中口径オートキャノン2発と、大口径レーザー1発がマッキー1号を撃ち据える。そしてウィットワースからの2門の10連長距離ミサイルが、マッキー1号に降り注いだ。マッキー1号は衝撃で転倒する。

 だが転倒する前にマッキー1号と、相方のマッキー2号は左右の腕に装備されている粒子ビーム砲と大口径オートキャノンを発砲していた。射撃の腕はそう良くない。しかし合計4発のうち1発、粒子ビーム砲だけが命中し、ライフルマンの右腕の装甲を0.5t強ばかり削り取った。マッキー2号は格闘距離に踏み込もうと、前進してくる。アンドリュー軍曹、ヴィルフリート軍曹は、自機を後退させて隣接距離に踏み込まれるまでの時間を稼いだ。

 一方、前衛を構成していたアルバート中尉、ギリアム伍長、アマデオ伍長、エリーザ軍曹、マテュー少尉は、敵の総大将であるオリオンと、それを直衛するシャドウホーク、D型フェニックスホークの方へ突進していた。その足を止めるべく、河面から立ち上がったグリフィンとライフルマン2機が猛然と射撃を敢行する。だが味方前衛は全力移動しており、なかなか命中しない。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 その時、河面にスナイパー砲の砲弾が着弾する。それはグリフィンに直撃し、ライフルマン2機に余波を浴びせた。ライフルマン2機は、各々右胴と左胴にダメージを負っただけで済んだが、グリフィンは頭部に直撃を受けた。水地にいると、上半身に命中弾が集中するのである。操縦席が破壊され、メック戦士の肉体が血煙になった。

 オリオンを操る敵の総大将、おそらくハリー・ヤマシタであろう人物は、悪夢を見る思いであったろう。駐屯軍のバトルメック部隊を待ち伏せして叩き潰す予定が、相手に先手を取られて自陣営をボロボロにされて既に2機が擱座し、更に相手にはたいしたダメージは無いのだ。バトルメックのスピーカーから、くぐもった叫びが漏れる。

 

『うぐおおうあああぁぁぁあああっ!』

 

 そしてオリオンは大口径のオートキャノン、4連短距離ミサイル発射筒、2門の中口径レーザーを、アルバート中尉のサンダーボルトめがけて一斉発射する。随伴のD型フェニックスホークとシャドウホークも、サンダーボルトに向けて火力を集中した。火だるまになるアルバート中尉機。だがその分厚い重装甲は、集中砲火を耐えきってみせた。

 直後お返しとばかりにサンダーボルト、エンフォーザー、シャドウホーク、ウォーハンマー、ウルバリーンから敵のシャドウホークめがけて砲撃が集中する。敵のシャドウホークは一瞬で装甲板を剥がされて、更に左腰とジャイロに一撃を受けて転倒してしまった。挙句に転倒した際に再び剥き出しになったジャイロを強打し、ジャイロが完全に破壊されて二度と立ち上がれなくなってしまう。

 同時に、遊撃に就いていた駐屯軍のフェニックスホーク4機が、その右手に装備した大口径レーザー合計4門で敵のD型フェニックスホークを狙う。敵のD型は、左脚を根元から吹き飛ばされて倒れ伏す。

 アンドリュー軍曹とヴィルフリート軍曹は、後退しつつ距離を稼いで、マッキー2号を散々に叩いていた。マッキーの操縦者は2名とも腕が良くないらしい。どうやら新人メック戦士の様だ。1号は先ほど転倒状態から立ち上がろうとして再び転倒し、パイロットが気絶でもしたのかそのまま動かなくなった。2号もまた、ライフルマンとウィットワースの集中砲火による衝撃で転倒してしまう。そのとき、アンドリュー軍曹機にキースからの通信が入った。

 

「アンドリュー軍曹!マッキーの相手はもういい!こっちの相手が終わったら、俺が代わる!軍曹は前線組を支援できる位置にいけ!」

 

 アンドリュー軍曹はこれを聞き、敵の総大将であるオリオンの方へとライフルマンを駆け出させた。

 

『サンキュー、隊長。待っていやがれ、リカルドじゃねえ、ハリー・ヤマシタ……。』

 

 敵のK型ウルバリーン2機は、転んだままの仲間のフェニックスホークを放っておいて自分たちだけ立ち上がると、再び攻撃体勢に入ったライトニング戦闘機の群れを迎撃する。だが高速で飛行する気圏戦闘機には、なかなか攻撃があたらない。

 逆にライトニング戦闘機の攻撃は……特に先頭の2機の攻撃は、確実にK型ウルバリーンを捉える。マイク少尉機とジョアナ少尉機の、2つの最大口径オートキャノンがK型ウルバリーン各々の胴体中央に命中した。2機は融合炉の鎧装をやられて、エンジンから異常発熱が始まる。

 ヤマシタに対する忠誠心どころか、彼を嫌っていたこの2機のメック戦士たちは、もはやこれまでと降伏信号を打ち上げて機体を停止させた。マイク少尉はこれを見て、喜びの声を上げる。

 

『ひゃっほおおぉぉ!!やったぜジョアナぁ!』

『恥ずかしいから、わたしの名前を一般回線で大声で叫ぶんじゃないっ!!』

 

 そしてジョアナ少尉に怒られるのだった。

 その頃キースは、部分遮蔽を捨てずに遠距離射程にも関わらず自機を狙ってくるK型シャドウホーク2機を相手に、単機で射撃戦を行っていた。多少過熱するのは覚悟の上で、彼は粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門を射撃する。オートキャノンはK型シャドウホークの一方の胴中央にあたるが、粒子ビーム砲は双方の頭部を捉える。

 部分遮蔽状態は機体の半分が隠れるため攻撃が命中し難いが、キースほどの腕の持ち主であれば逆に部分遮蔽であることを利用して敵機の頭部を狙うこともそう困難な話ではない。K型シャドウホークの1機はセンサーを破壊され、もう1機は操縦席を吹き飛ばされる直前に緊急脱出する。センサーを破壊された機体の主も、ヤマシタに対する忠誠心など持ってはいない。それ故に、すぐさま降伏信号を打ち上げて機体を停止、メックを降りてきた。

 キースはそれを見ると、先ほどの言葉の通りにマッキーの方へと機体を向けた。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 そして河面に再びスナイパー砲の砲弾が降り注ぐ。ライフルマンの1機が、スナイパー砲に頭を吹き飛ばされ、もう1機も頭に余波を受け、メック戦士が気絶してしまう。だがそれで話は終わらず、もう1発スナイパー砲の砲弾が降って来た。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 それが残り1機のライフルマンにとって、とどめとなった。

 

 

 

 キースたちは今、必死で逃げているオリオンを追って、機体を疾走させていた。降伏したり脱出したりした敵メック戦士たちを捕虜にするのは、歩兵たちとアルバート中尉以下ギリアム伍長、アマデオ伍長、ヴィルフリート軍曹に任せてある。

 

『待ちやがれ、リカルド・アゴスティ!いやさハリー・ヤマシタ!』

 

 アンドリュー軍曹の声が響く。味方のフェニックスホーク4機がオリオンの足を止めるべく、先回りをしようとしていた。あと少しでオリオンの行く手を阻むことが叶う、そう思った時である。

 キースの叫びが響いた。

 

「アーリン中尉!リシャール少尉!サラ少尉!ヴェラ伍長!W方向に全力でジャンプして避けろ!」

『くっ!了解!』

『は、はいっ!』

『!!』

『きゃ!了解!』

 

 以前似た様な事があった時とは異なり、ヴェラ伍長も今度は即座に動くことができた。そして4機が最大180mジャンプで飛び退ったところに、粒子ビーム砲と20連長距離ミサイルの雨が降り注いだ。それを放ったのは、ユニオン級降下船であった。ユニオン級降下船は、オリオンの眼前に強引に緊急着陸する。ここは降下船の着陸には向いていない場所であるのに、おそるべき腕前の船長だ。

 オリオンの外部スピーカーから、笑い声が響く。

 

『ははははは!まだ俺には運が残っているようだ!発掘品の中でも重要物は、この船に既に積み込んである!中隊を2つも壊滅させられたのは痛いが、貴様らにもそのしっぺ返しを受けてもらう!』

『ハリー・ヤマシタ!貴様やはり!』

 

 マテュー少尉の激昂した声に答え、ヤマシタは心底嬉しそうに言う。

 

『貴様らの基地は、今頃吹き飛んでいる手筈になっている!ははははは!お前らの原隊の基地の様にな!もっとも、お前らの原隊がどこだったかなぞ、心当たりが多すぎてわからんが……。俺をリカルド・アゴスティと昔の偽名で呼んだからには、そうなのだろう!?ははははは!』

 

 オリオンは、ユニオン級降下船の傾斜路を駆け上りながら、狂った様に笑い声を上げる。キースは機体の足を止め、マローダーの粒子ビーム砲で射撃を始めた。だがそのビームは、ハッチの陰に身を隠したオリオンには当たらない。いつもであれば、部分遮蔽になった敵機にも楽々と命中弾を与えていたキースであるのだが、ここ一番で運に見放されたのだろうか。

 だがキースがそのとき考えていたのは、別のことだった。

 

(あの船はユニオン級……。ゾディアック号と基本構造は同じはず……。ならば、あそこを狙えば!)

 

 ユニオン級がゆっくりと浮上を開始する。そして傾斜路になっていたハッチがゆっくりと閉じていく。だがそのハッチは、途中で何かに引っ掛かったかの様に開いたまま閉じられなくなってしまった。ハッチの開閉装置に、粒子ビームが直撃していたのだ。キースの射撃は、これを狙っていたのである。

 キースは叫んだ。

 

「飛べ!マテュー少尉!」

『……了解っ!!』

 

 マテュー少尉のウルバリーンが最大ジャンプで跳躍し、ぎりぎりで飛び立ちつつあるユニオン級のハッチに飛び込んだ。無論のこと、ユニオン級からはそれを防ぐべく砲撃がいくつも放たれていたが、最大ジャンプを敢行したマテュー少尉機には命中しなかった。

 マテュー少尉とヤマシタの声が響く。

 

『おっと!こんな所でそんな大砲を撃って、降下船が壊れたらどうするつもりだ!?ええ、アヒム・デーメルことハリー・ヤマシタさん!』

『くっ!だが重量差からくる格闘能力の差は!』

『甘いね!拳の致命度は55t以上なら、どれもそう変わらないさ!』

 

 ユニオン級降下船は、高度を上げていく。そして何かがユニオン級のハッチから押し出され、落下した。

 75t級バトルメック、オリオンだった。

 

『やったわね、マテュー少尉!』

 

 エリーザ軍曹の嬉しげな叫びが響く。オリオンは100m近くを落下し、胸から地面に叩き付けられる。整列結晶鋼の装甲板がはじけ飛び、内部構造が露わになったオリオンは、融合炉にひどいダメージを受けている様だ。もうほとんど勝負はついている。

 だがヤマシタは往生際悪く、なおも抵抗する。味方のフェニックスホークたちは、キースたちに始末を任せるという意思表示なのか、遠巻きにして逃がさないようにしているだけだ。

 

『く、か、はは、ははは!』

『まだやろうってのか!?いいだろう、やってやろうじゃねえか!』

『待ってアンドリュー、あたしにも出番をちょうだい。』

 

 エリーザ軍曹のウォーハンマーが前に出て、直接粒子ビーム砲になった両手を戦鎚のごとく振り下ろした。ヤマシタも、オリオンの両手でパンチを送り込む。次の瞬間、ウォーハンマーの頭部がはじけ飛んだ。エリーザ軍曹は、かろうじて緊急脱出に成功する。

 

『エリーザ!』

 

 アンドリュー軍曹の悲痛な声が響く。だがキースは彼を宥める様に言った。

 

「大丈夫だ、エリーザ軍曹は緊急脱出に成功している。それに……ハリー・ヤマシタは脱出していない。」

『何っ!?』

 

 見ると、オリオンの頭部もまた、ウォーハンマーの粒子ビーム砲砲身によって叩き潰されており、そこには血煙が舞っていた。メック戦士……ハリー・ヤマシタの成れの果てである。彼らのメックの足元から、エリーザ軍曹の肉声が聞こえた。

 

「あはははは!やった!やったわ!父さん、母さん、マーカス隊長、ゲイル中尉、イレーネ中尉、フレデリカ、バージル、アシュトン、ガス、エドマンド、コニー、バーバラ……。仇は取ったわ!あははは……。

 う……く、うえ、うええぇぇええぇぇん!うああぁぁぁああぁぁん!」

 

 エリーザ軍曹は、感極まって泣き出してしまう。アンドリュー軍曹も、キースのマローダーの通信用サブモニターの中で、涙ぐんでいた。そこへユニオン級降下船が降りて来る。無論、開閉装置が壊れたハッチは開いたままだ。だがユニオン級からの攻撃は無い。マテュー少尉からの通信回線が、キースのマローダーとアンドリュー軍曹のライフルマンに繋がる。

 

『ユニオン級降下船コバヤシ・マル号を降伏させました。中でミサイルとオートキャノンを撃つぞ、と言ったら諦めてくれましてね。で……。奴は?』

「無駄な足掻きをしたので、エリーザ軍曹が叩き潰したよ。間違いなく、地獄へ落ちただろう。」

『そうですか……。ついに……。すいません、隊長にとってはまだ終わったわけじゃないのに……。』

 

 キースが通信用サブモニターを見ると、マテュー少尉も涙ぐんでいた。キースはエリーザ軍曹にも聞こえるように、外部スピーカーも繋いで言葉を紡ぐ。

 

「いいさ。かまわんよ。で、これからどうするんだ?」

『どうって……。』

「ひっく……。えぐ……。えっ?何の話?……ひくっ。」

『ちょ、ちょっと待てキース!ここまで恩義を受けておいて、こっちの仇討が終わったらハイ、サヨナラなんて真似はできねえよっ!』

 

 アンドリュー軍曹が叫ぶ。彼の台詞で、マテュー少尉もエリーザ軍曹も、何の話か理解した様だ。

 

「ちょ、ちょっと隊長!あたしたちをお払い箱にするつもりじゃあないでしょうね!いやよ!あたしたちは、隊長の仇討が終わるまで、いえ終わっても、隊長について行くからね!」

『そうだ!エリーザ軍曹の言う通り!キース、そんな事を考えていたのかっ!?』

『絶対俺は、俺たちは、『SOTS』……『鋼鉄の魂』を辞めねえからなっ!』

 

 キースは笑って言った。

 

「だと思ったよ。これからも、よろしく頼む。」

「……心臓に悪い事言わないでよキース隊長。よろしくね。」

『まったくですよ。本当に心臓に悪い。よろしくお願いしますよ、本当に。』

『悪趣味だぜ、キース……隊長。今後ともよろしくな。』

 

 ここで、遠巻きに見ていたアーリン中尉が話しかけて来る。

 

『キース中尉。奴が口走っていた、基地への破壊工作のことだけど……。』

「アルバート中尉にも話をしないといけませんね。それとユニオン級ゾディアック号の回線を経由して基地まで連絡してみましょう。俺はユニオン級に繋ぎますから、アルバート中尉への説明お願いできますか?」

『わかったわ。そっちの方、さっそくお願いできるかしら。』

「はい。」

 

 キースはまず、ゾディアック号に連絡を付け、ゾディアック号の通信回線を利用して基地までの通信回線を自分のマローダーとの間に構築した。キースは基地の通信室を呼び出す。返信はすぐにあった。

 

『こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地。キース中尉、ご苦労さまです。』

「よかった、無事だったか。指令室に繋いでくれ。」

『了解。少々お待ちを。』

 

 少しの間があって、指令室のオペレーターが通信に出る。

 

『こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地指令室発令所。』

「こちら作戦行動中のメック戦士キース・ハワード中尉だ。基地への破壊工作があるとの情報を、現場にて掴んだ。基地の指揮を任せていたエリオット・グラハム少尉待遇軍曹はいるか?」

『グラハム少尉待遇軍曹は、ただ今基地を厳戒態勢に置き、自身は現場で指揮を取っています。お繋ぎしますか?』

「厳戒態勢?頼む。」

『了解。少々お待ちください。』

 

 また少しだけ間があり、やっとエリオット軍曹が通信に出た。

 

『こちらエリオット・グラハム少尉待遇軍曹。任務ご苦労様です、キース中尉。』

「キースだ。厳戒態勢とはどういうことだ?こちらは現場にて、基地への破壊工作の情報を掴んだのだが。」

『はっ!監視カメラの監視が及ばない場所を中心に、隊員を警らさせておいたのですが、複数個所より基地内に潜入しようとしている不審な輩を発見。捕縛しようとして抵抗したため、全員やむなく射殺することになりました。

 その者たちの遺体を調べたところ、高性能爆薬と基地の弾薬庫の図面や基地の動力区画の図面他を所持しておりましたため、基地を厳戒態勢に置き、テロに対する防衛体制を敷いておる次第であります!』

「そうか、よくやってくれた軍曹。とりあえず我々が戻るまで現状の態勢を維持する様に。解除するかどうかは、アルバート大尉待遇中尉と検討の上、決定する。以上だ。」

 

 キースは通信を切ると、アルバート中尉、アーリン中尉との間に回線を繋ぐ。

 

『おお、基地の様子はどうだったんだい、キース中尉。』

『大丈夫だった?まさか……。』

「エリオット軍曹が防いでくれました。どうやら手引きをする者は基地内にいなかった様です。おかげで基地への工作員侵入は防ぐことができました。

 ただし、基地内の情報は洩れていますね。破壊工作員の死体が、高性能爆薬と基地の弾薬庫、動力区画などの図面などを所持していたらしいです。いつから情報が洩れていたのかはわかりません。俺たちがこの惑星に赴任するより以前からかも知れませんね。ドラコ連合のスパイ網は、侮れません。

 今、基地はエリオット軍曹の判断で厳戒態勢が敷かれています。」

『そうか。エリオット軍曹には感謝だな。』

 

 キースはおもむろに言う。

 

「……それでは帰還するとしましょう。ただ、ここの発掘調査も行わなければなりませんし、鹵獲したユニオン級コバヤシ・マルも基地に回航しなければなりませんし……。部隊を分散しましょう。

 ウォーハンマーがやられた我々『SOTS』と、サンダーボルトの損傷が大きい『機兵狩人小隊』がレパード級2隻で基地に帰還。特にアルバート中尉は基地の方で色々仕事もありますし。そして歩兵部隊とユニオン級ゾディアック号の副長や機関士見習いたちで、倒した敵メックを積み込んだ鹵獲降下船コバヤシ・マル号を基地まで回航しましょう。捕虜も一緒に連れて。

 偵察兵と整備兵たちはここに残して発掘調査を行わせるとして、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』にその面倒をお願いしましょう。発掘調査の指揮もアーリン中尉にお願いしたいです。発掘調査が完了したら、発掘品などの戦利品をゾディアック号に詰め込んで、帰還してきてください。」

『俺がやることが無くて、楽だなあ。ははは。その方針でかまわないと思うよ。アーリン中尉はどうかな?』

『わたしもそれが一番まっとうな選択肢だと思う。じゃあ、その方針で。』

『しかしまた捕虜が1隻分増えたか……。どうしようかねえ。プレハブで収容所を増築するしか無いか。コバヤシ・マル号が基地に着くまでの間に、助整兵たちに命じてプレハブを建てさせよう。』

 

 2人の賛同を得られたため、彼らはその方向で帰途につく準備を始める。まず歩兵部隊が捕虜にしたメック戦士やコバヤシ・マル号の船員たちを船室に拘束し、見張りに立つ。ゾディアック号のマンフレート副長とマシュー航法士見習い、ライナス機関士とアデル機関士見習いがやって来て、コバヤシ・マル号の機能を掌握。

 一方で手が使えるメック――フェニックスホークやシャドウホーク、ウルバリーンなど――のメック戦士たちは、倒したバトルメックと、頭部が破壊されたウォーハンマーの回収にあたる。その間に、サイモン老とジェレミー伍長、パメラ伍長ら、艦船の整備能力を持つ者たちが、キースが破壊したコバヤシ・マル号のメックベイハッチの開閉装置を応急修理した。

 ジェレミー伍長とパメラ伍長はサイモン老の教えを受け、艦船整備に関してはいっぱしの腕前に成長している。しかもジェレミー伍長は、艦船に関してだけならばサイモン老に並ぶ技量と知識を手に入れていた。

 最後に万が一の周辺警戒にあたっていた気圏戦闘機4機を2隻のレパード級に収容し、ゾディアック号とアーリン中尉たち『デヴィッドソン装甲巨人隊』、偵察兵たちと整備兵たちを残して、レパード級ヴァリアント号、同級ゴダード号、ユニオン級コバヤシ・マル号は駐屯軍の基地めざして発進していった。




はてさて、仇の一方と言うか、部隊の仲間たちにとっての仇である、ハリー・ヤマシタはなんとか倒す事ができました。ですが主人公にとっての本当の仇は、まだピンピンしてます。ただしハリー・ヤマシタが死んだ事によって、そいつにも幾ばくかの影響は出るんですがね。


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『エピソード-020 さらば戦友、また会う日まで』

 ここは恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地の、キースの執務室である。時間は連盟標準時間で3025年10月6日の早朝。今キースの眼前には、彼の忠実な部下であるエリオット・グラハム少尉待遇軍曹が、直立不動で立ち尽くしていた。キースは厳しい表情で執務机に向かい、書類の束を捲っている。と、彼は突如破顔一笑する。

 

「……よくやった。おめでとうエリオット軍曹、いや少尉。」

「それでは……。」

「ああ……。先日受けてもらった、恒星連邦の法規で定められた士官任用試験だが、貴様……いや貴官は見事に合格だ。本当におめでとう。」

「はっ!ありがとうございます!」

 

 キースは執務机の引き出しから、一通の書類と小さな金属片を取り出す。

 

「これが辞令だ。本日ただ今より、貴官を少尉に任ずる。これが新しい襟章……階級章だ。」

「はっ!謹んでお受けいたします!」

 

 エリオット少尉は、新しい階級章を誇らしげに身に付けて、相も変わらず直立不動で立っている。キースはその様子を、うんうんと頷きながら見ていたが、やがて別の話をエリオット少尉に振った。

 

「ところで少尉。君の直属の部下たちだが、各々昇進させようかと思うんだがな。ああ、ジャスティン一等兵は先日昇進したばかりだから、もう少し待ってもらうとしてだ。

 テリー・アボット伍長は軍曹に、ヴィクトル・デュヴェリエ一等兵は伍長に、ラナ・ゴドルフィン一等兵とジェームズ・パーシング一等兵は上等兵に、それぞれ昇進させたい。どうかな?」

「はっ!自分はそれでよろしいかと存じます!……ですが、今名前の上がらなかった、ロタール・エルンスト上等兵は、現在の階級に据え置きでしょうか?」

「それなんだが……。先日基地のバトルメック用シミュレーターの記録を確認してみたんだが……。ロタール上等兵の使用記録があってな。これが中々な物なんだ、うん。」

「は?」

 

 キースは腕組みをして、難しい顔をしてみせる。

 

「ちょっと実機に……予備メックの1機に乗せてみようかと思ってな……。その結果次第では、彼をメック戦士に取り立てるやもしれん。その場合、軍曹に任ずる。」

「それは……。奴にとっては素晴らしいことですな。奴は常々、メック戦士への憧れを口にしておりました。」

「と言っても、シミュレーターと実機では違う部分も多々あるからな。あっさり不合格になるかもしれん。その場合でも、まあ伍長だな。」

 

 執務机から立ち上がり、キースは窓際へ歩み寄る。

 

「その他にも、助整兵の中に使えそうな人材がいるんだが……。肝心要の士官がいない。マテュー少尉かリシャール少尉を異動させようかとも思ったが、マテュー少尉は俺の、リシャール少尉はアーリン中尉の補佐に必要な人材だ。そう簡単に動かすわけにもいかん。

 カイル船長がスカウトを成功してくれれば良いのだが……。」

「メック部隊を拡張されるのですか?」

「ああ。もうすぐこの駐屯任務の契約がいったん切れる。そうなると、アルバート中尉の小隊が欠けることになるからな。」

 

 キースはつい先日のこと……ハリー・ヤマシタを倒した次の日のことを思い出していた。

 

 

 

 3025年9月29日、MRBの管理人であるウォーレン・ジャーマン氏とパオロ・アブルッツィ氏、ヴァルト・カルッピネン氏の3名が、キース、アルバート中尉、アーリン中尉の3名と相談したいことがある、と面談を申し込んできた。一体全体何事だ、とキースたちは怪訝に思ったものの、面談を承諾する。駐屯軍基地の会議室で、キースたちはMRBの管理人3名と向き合うこととなった。

 3人の管理人を代表して、『機兵狩人小隊』担当のパオロ氏が口を開く。

 

「この度は、わざわざ申し訳ありません。少々緊急のご用件でしたものですから。実は少々お願いの儀がございまして。実は今回の駐屯任務なのですが、2ヶ月間と言う事になっておりましたが……。『SOTS』及び『デヴィッドソン装甲巨人隊』には今回の駐屯任務終了後、引き続き3ヶ月間この惑星への駐屯契約を結んでいただきたいのです。

 実は惑星マーダックでの戦闘が激化しましてね。そのしわ寄せが、もろにこの惑星の防衛体制に来たんですな。本来であればマーダックから戻ってくる予定であった『グレート・ターヒル中隊』が、戻ってこられる状態では無くなったんです。」

「……私には決定権は無いわね。今回の駐屯任務終了時点をもって、『デヴィッドソン装甲巨人隊』はキース中尉の傭兵メック部隊『鋼鉄の魂』……『SOTS』に、吸収合併されることで話がついてるのはご存じでしょう?既に経営も統合されてて、もう事実上私たちは『SOTS』の一員なのよ。」

「ですが形式上では、まだ2つの隊は別々の傭兵部隊です。それにキース中尉でしたら、アーリン中尉にご相談ぐらいはなさるでしょう。ですから、最初からこの場にお呼びしておいた方が良かろうと思いまして。」

 

 アーリン中尉を呼んだ理由を、パオロ氏が説明する。ここでキースがパオロ氏に質問を投げかけた。

 

「……何故アルバート中尉の『機兵狩人小隊』が話に出ないのですか?」

「それなんだけどね、キース中尉。」

 

 答えたのはMRB側の人間ではなく、アルバート中尉本人だった。

 

「俺たちの部隊は、既に次の契約が決まってるんだよ。この惑星に来る前から、予定がきっちり詰まってたんだよね。」

「当初はそれをどうにか変えられないかやっては見たんです。ですがMRBの方から、契約を安易にひっくり返す前例は、できる限り作りたくない、と言われては……。所詮わたしたちは下請けですからね。」

「……そう言うわけ、ですか。」

 

 キースは納得する。ここでアーリン中尉が突っ込みを入れた。

 

「と言うことは、しばらくは2個小隊でこの惑星を守るわけね?」

「いや、2個小隊だけと言うわけでも無いですね。俺は今、この間取り戻した元『BMCOS』の戦車を使って、機甲部隊の編成をしようと考えてたところなんです。戦車はバトルメックの適性が低い人間でも、扱い易い。無論正面戦力として扱うつもりはないです。長距離火器を使用した支援戦力として期待してるんですよ。

 ……と言うか、仕事を受けること前提で話が進んでますね。まあ最終決定は部隊の幹部会議にかけてからになりますが、この仕事を受けることに問題は無いと思います。」

「でも戦車兵が使い物になるようになるまでは、相応の時間が必要でしょう?」

「ええ。ですので、バトルメック部隊の拡張も視野に入れてます。うちは取り戻した元『BMCOS』の機体で、予備バトルメックは豊富ですからね。もっとも修理しないと使えない物が多いですが……。

 と、話がずれましたね。」

 

 話を少々強引に戻したキースは、パオロ氏に向かって言う。

 

「先ほども言った通り、部隊の幹部会議にかけないと確約はできませんが、俺個人としてはこのお話、お受けしても宜しいかと存じます。」

「そうですか!いや、ありがとうございます!」

「アルバート中尉は当初の契約通り、10月11日にこの惑星を撤退ですか……。寂しくなりますね。」

「そうだね。そこでキース中尉に頼みがあるんだけどね……。」

「何ですか?」

 

 頷くアルバート中尉。

 

「うん、うちの小隊で雇用した歩兵と助整兵、そのまま継続してキース中尉のところで雇用してくれないかな。特に歩兵たちは、この惑星から出ていって一旗揚げたいらしいから。キース中尉のところにはフォートレス級があるから、1個中隊までは歩兵を連れていけるだろう?」

「わかりました。その件はまかせてください。」

 

 

 

 と、キースは我に返る。けっこう長い間、考え事をしていた様だ。エリオット少尉が直立不動のまま立ち尽くしている。

 

「ああ、すまん少尉。ちょっと考え事をしてしまった。で、だ。ロタール上等兵をこれから実機でテストしようと思う。それが終了した後で、君の直属歩兵の面々には君からこれらの辞令と新しい襟章を渡してやってくれ。ロタール上等兵は合格したら俺から、不合格だったら君から渡す事にしよう。」

「はっ!」

「では俺はバトルメック格納庫に移動する。ロタール上等兵にはこちらからも連絡するが、少尉からも言ってやってくれ。では下がってよろしい。」

「はっ!では失礼いたします!」

 

 キースはエリオット少尉が出て行った後、ロタール上等兵ともう1人の助整兵に呼び出しをかけると、サイモン老に連絡をして整備兵にテスト用のバトルメックの準備をさせた。彼は内心で考える。

 

(ロタール上等兵と、このカーリン・オングストローム二等兵という助整兵が合格してくれると良いんだけどな……。それにしても、士官が欲しいよ。『ロビンソン戦闘士官学校』の恩師に手紙を書いて、自分のメックを持っていなくとも良いという条件で紹介を頼んだけど、卒業者が出るのは来年の6月だからなあ。

 惑星学者のスカウトに行ったカイル船長とイングヴェ副長にも、メック戦士もしくはメックを受け継げなかったメック戦士家系のメック戦士養成校出身者を探してくれる様頼んだんだけど……。あと、気圏戦闘機も奪い返したトランスグレッサー戦闘機が2機、浮いてるんだよなあ。機体のない航空兵のスカウトも頼んだものの、成功するかどうか、わかんないよな。

 他にも、航宙艦クレメント号のアーダルベルト艦長やクヌート副長の伝手で、マーチャント級の航宙艦もう1隻と専属契約を結べないかあちこちに打診してもらっているけど……。頼むから上手く行ってくれないかな。)

 

 書類の束を整えて、彼はバトルメック格納庫へと向かった。

 

 

 

 日がかわった10月7日、キースは自機75tマローダーに搭乗して、駐屯軍基地の演習場にいた。そこではバトルメックの実機搭乗テストに合格して昇進、異動したロタール軍曹と、同じく合格して昇進、異動したカーリン伍長が、実機に慣れるための訓練を受けていたのである。彼らに貸与された機体はロタール軍曹が65tクルセイダー、カーリン伍長が55tグリフィンだ。ちなみにキースの意向で自分の乗機を65tサンダーボルトと交換したマテュー少尉や、同じく乗機を55tグリフィンに交換したヴィルフリート軍曹も、一緒に機種転換訓練を受けている。キースはその訓練を監督していたのだ。

 更にその演習場では、新たに雇用した戦車兵たちが自分たちに宛がわれた戦車を用い、猛訓練を行っている。キースはそちらの監督も同時に行っていたが、流石に手が回らず、アーリン中尉とリシャール少尉に手伝ってもらっていた。

 

「どうです?アーリン中尉、リシャール少尉。」

『まだまだ使い物にならないわね。小隊長としてスカウトしてきた、元惑星軍予備役だった3名の少尉待遇軍曹が乗ってる戦車は、さすがにそこそこの命中精度を出してるんだけど……。他の車輛はまったく駄目。』

『ですね。それに各小隊長の車輛も、砲撃はなんとかなってるんですが、運転手は素人同然です。戦車の操縦自体は、他の車輛と変わらず上手いとは言えません。この練度ですと、下手をすると戦場で擱座する車輛を大量生産することにもなりかねませんね。』

「まだまだ訓練が必要か……。」

 

 溜息を吐くキース。と、アーリン中尉は今度はキース側の状態を聞いてきた。

 

『キース中尉の方は、どんな具合かしら?』

「マテュー少尉とヴィルフリート軍曹は、基本的には問題は無いです。強いて言えば、マテュー少尉がウルバリーンと比べてジャンプもできず機動力が無くなった機体に戸惑っていることと、ヴィルフリート軍曹がウィットワースに比べ発熱の厳しくなったグリフィンの熱管理に心もち苦心している程度でしょうかね。

 ロタール軍曹とカーリン伍長は……。何と言うか、信じがたいですね。初めて乗った実機を、手足の様にとまではいきませんが、乗りこなしています。今までシミュレーター訓練だけしかしていないとは思えませんよ。ただロタール軍曹は歩兵として実際の命がけの戦闘に出たことがあるので心配ないと思うんですが、カーリン伍長は今まで戦闘とは関係ないところにいた助整兵でしたから……。いざ実戦となった時に、どれだけ動けるかわかりません。それが不安ですね。

 まあ……実戦での実力はともかく、基礎的な能力は非常に優秀です。これで士官ができれば2人ほど入ってくれれば、火力小隊を結成できます。アーリン中尉の隊は、合併、再編成後は偵察小隊になってもらいますから、そうなればまっとうな1個中隊が編成できますね。……士官さえいれば。」

『士官、かぁ……。』

 

 アーリン中尉は溜息を吐く。最悪の場合、マテュー少尉やリシャール少尉を新設の火力小隊に回せば、信頼のおける立派な火力小隊ができあがるだろう。ただしその場合、頼りになる戦力を引き抜かれた指揮小隊と偵察小隊はかなりの戦力ダウンになる。更に頼りになる補佐役を失うキースとアーリン中尉の負担も、かなりの物になるだろう。総合的に見て、若干ながらそちらの戦力ダウンの方が痛いと判断されたのだ。

 頭を振りながら、キースは言葉を発する。

 

「どちらにせよ、カイル船長とイングヴェ副長がスカウトから帰ってくるのは、あと2週間先です。それまではロタール軍曹を指揮小隊に、カーリン伍長を偵察小隊に一時的に編入して、双方5機編成の増強2個小隊体勢でいきます。信頼できる士官が見つからない場合は、その体勢を続けることになるでしょう。」

『アルバート中尉の隊が抜けるのは、やっぱり痛かったわよねぇ……。戦力的にも人材的にも、感情的にも。』

「今日を含めて、あと5日ですか……。」

 

 この惑星の短い夏が過ぎ、秋模様からもう冬の気配が訪れつつある空を見上げ、キースは呟いた。

 

 

 

 そして4日が瞬く間に過ぎた。明日はアルバート中尉たちがレパード級降下船ゴダード号で、この惑星を離れる日だ。『SOTS』『デヴィッドソン装甲巨人隊』の面々は『機兵狩人小隊』のために、ささやかながら送別の宴を開いた。

 キースは、『機兵狩人小隊』の面々と話をすべく、宴会会場を歩き回る。そして彼は、探していた人物のうちの1人を見つけた。

 

「エルンスト曹長。」

「おや、キース中尉。アルバート中尉なら、今しがたあちらに……。」

「いや、そちらにも後で挨拶に行くが、今は曹長を探していたんだ。」

「ほう?」

「これまで色々と、ありがとう。うちの連中が仇を討てたのも、曹長のおかげだ。」

 

 心からの礼を言うキースに、エルンスト曹長は照れくさそうに鼻の頭を掻いた。

 

「いえ、私はたいしたことはしていませんよ。」

「いやいや、曹長の尋問技術が無かったら、今頃どうなっていたことか。万が一ハリー・ヤマシタを逃がしていたらと思うと……。本当にありがとう。」

「それでしたら、素直にお気持ちを受け取っておきましょう。どういたしまして。」

 

 エルンスト曹長の元を離れたキースが次に会ったのは、整備兵のヴァランティーヌ曹長だった。

 

「ヴァランティーヌ曹長、ここにいたのか。君にもお礼を言っておかなければならないと思ってな。」

「あらキース中尉でしたの。いえいえ、私の方こそ、お礼を申し上げなければならないと思っておりましたのよ?キース中尉の郎党のサイモン曹長、あの方には本当にお世話になりましたの。幾つもの秘伝を、惜しげも無くお教えいただいて、本当に頭が下がる思いでしたわ。」

「ああ……。なるほど……。サイモン爺さん……サイモン曹長は、後継ぎを全て亡くしているからな。自分の技術が断絶して失伝してしまうよりは良いと、整備兵たちに積極的に広めているそうなんだ。」

 

 遠い目になって重い話をするキースに、どう返答して良いかわからなくなるヴァランティーヌ曹長。だが気を取り直して、キースに頼み事をする。

 

「キース中尉、サイモン曹長にこのマイクロフィルムをお渡ししていただけませんか?」

「これは?」

「私の家系の、バトルメック整備の秘伝書の写しですの。技術を教えていただくだけなんて、整備兵としての沽券にかかわりますわ。お返しにこれをお渡しすると、お伝えくださいまし。その内容を誰かに伝えようが、死蔵しようが、かまいませんと。」

 

 思わずキースは目を見開く。整備兵の家系にとって、一子相伝の秘伝がどれだけ大切な物かは、傭兵メック部隊で育ってきた彼にはよくわかっていた。一瞬返却しようかと思ったキースだったが、ヴァランティーヌ曹長の目を見てそれをやめる。キースは言った。

 

「ありがとう曹長。サイモン曹長には間違いなく渡しておくとも。でも何故直接渡さずに、俺を介して?」

「ちょっとした意地ですわ。サイモン曹長には天狗の鼻をへし折られて、随分とやりこめられましたから。」

「そ、そうか……。すまんな。」

「いいえ、かまいませんわ。」

 

 ヴァランティーヌ曹長の傍を離れたキースが、次に立ち寄ったのはメック戦士ギリアム伍長と、同じくメック戦士アマデオ伍長が盛大に食っているテーブルだった。キースが近づくと、2人は朗らかな笑顔で敬礼をしてくる。キースは答礼をした。

 

「ご苦労、楽にしてくれ。君たちとはあまり接点が無かったが、それでも戦場で色々と助けられたからな。礼を言っておかねば、と思ってな。ありがとう。」

「いえいえ、こちらこそキース中尉たちにはお世話になりましたから!気圏戦闘機の支援とか、キース中尉やアンドリュー軍曹の神業みたいな射撃とか!」

「そうですね。それにサイモン曹長との間接砲撃の連携も、素晴らしかったです。あれが無ければ最後の待ち伏せしていた敵には勝てたかどうか……。」

「そこまで褒められると、照れくさいな。ははは。うちのアンドリュー軍曹やエリーザ軍曹とは仲良くやってくれてたらしいじゃないか。そちらについても礼を言わせてもらうよ。」

 

 キースはそれだけ言うと、早々にその場を離れる。楽しくやっている様だし、上官である自分がその場にいては空気が重くなるのでは、と気を遣ったからだ。次にキースはレパード級降下船ゴダード号のヴォルフ船長と、オーレリア副長を見つけたが、彼らはかなり出来上がっており、他の降下船船長や副長に絡んでいる状態であった。この状態では話はできまいと、キースは彼らとの別れの挨拶は明朝出発間際に回すことにする。

 そして彼は、ある意味難敵であるサラ少尉に遭遇した。

 

「やあ、サラ少尉。楽しんでいるかね?」

「はい。」

「そうか、それならば良かった。今、『機兵狩人小隊』の人たちにお礼を言っていたんだ。」

「……。」

「サラ少尉にも、色々と助けてもらったからな。あのメック部品搬送の時の事件とか。他にも色々と、俺が苦しんでいるときに声をかけてくれただろう。感謝している。」

「……。」

「え……と。」

 

 サラ少尉は鉄面皮を崩さず、黙然としている。キースは言葉に詰まる。だがそのとき、彼はサラ少尉の耳が赤くなっているのに気付いた。彼女は照れていたのである。

 

「少尉、君に武運があることを祈っている。次の任務も、頑張ってくれ。」

「……はい。」

 

 無難な台詞でその場を切り抜けるキースだった。下手に突っついては、彼女も困っただろう。

 最後にキースは、アルバート中尉のところへ向かった。アルバート中尉はアーリン中尉と談笑している。キースがそちらに近づいていくと、アルバート中尉は片手を上げて挨拶してきた。

 

「よう、キース中尉。見てたぞ。普通、挨拶回りするのは俺たちの側だと思うんだがね。律儀だなあ。」

「いえ、俺は年少者ですからね。年長者を立てるのは当然でしょう。」

「ごふっ!げぼっ!そ、そう言えばそうだったわ。」

 

 年少者の一言で、口に含んでいた飲み物を気管に吸い込み、噎せるアーリン中尉だった。キースが16歳だと言う事を知ってはいても、すっかり忘れていたらしい。

 キースはアルバート中尉に、礼を言う。

 

「アルバート中尉、本当にありがとうございました。」

「おいおい、俺は大したことはしてないよ。それよりも君に俺が助けられることの方が多かったと思うんだけどな。」

「いえ、敵が持っていた元『BMCOS』のバトルメックや降下船、気圏戦闘機や戦車など、奪還した物を俺がもらうことについて、一言も文句を言わずに認めてくださったでしょう。そちらの儲けは随分薄くなったはずです。にもかかわらず、我々には大変良くしていただいて……。」

 

 キースはアルバート中尉に心から感謝していた。アルバート中尉もそのことがわかったのか、深く頷いた。

 

「まあ、なんだ。どういたしまして、だな。ただ儲けって面では、そうでもないよ。ほとんどそちらの活躍で鹵獲した、敵の降下船コバヤシ・マル号。あれの報奨金は3つの小隊で割っても、莫大だったからなあ。それにうちの部隊は全部の戦闘において、装甲板と弾薬だけの損耗で済んだから、恒星連邦との契約で全部出費も賄えるんだよね。

 それにキース中尉が書類仕事他を手伝ってくれなかったら、小隊統率の経験しかない俺が中隊規模の部隊を管理するなんて不可能だったさ。キース中尉の立場だったら、全部俺にふっ被せて自分の小隊のことだけ考えていても、文句を言われる筋合いじゃあないのにさ。」

「そう言っていただけると、気が楽になります。」

「アルバート中尉もキース中尉も、お互い人間ができてるわよね。肩を並べて戦うこちらとしては、随分助かったわ。」

 

 アーリン中尉の言葉に、アルバート中尉はにやりと笑って応える。

 

「今後はキース中尉が部隊を率いることになるからな。アーリン中尉も、ちゃんと彼の事を手伝ってくれないとキース中尉が苦労することになるぞ。」

「わ、わかってるわよ。書類仕事でも整備の手伝いでも、なんでも来いよ!」

「よろしくお願いします、アーリン中尉。」

 

 そしてアルバート中尉は、キースとアーリン中尉に向かって言った。

 

「2人の隊と仕事ができて、本当に良かったよ。何かこちらからも礼をしたいが……。そうだな。」

 

 そう言ってアルバート中尉は、自分の服のポケットをごそごそと探る。と、そこから何やら1枚の紙片が落ちた。キースはその紙片を拾い上げる。

 

「落としましたよ、アルバート中尉。おや?」

「ああ、すまない。それは大事な写真なんだ。」

 

 キースはその写真をアルバート中尉に返す。その写真には、年端もいかない少女が写っていた。アルバート中尉はその写真を優しい目で見つめる。

 

「これは俺の娘の写真なんだよ。」

「ええっ!?アルバート中尉、既婚者だったんですかっ!?それも娘さんがいらっしゃる!?」

「アーリン中尉、そこまで驚くことじゃないでしょう。ですが、娘さんは部隊と共に暮らしてはいらっしゃらないんですね。」

 

 アルバート中尉は、笑って言った。

 

「いや、ね。君の家だったゾディアック号みたいにユニオン級ならばともかく、俺が暮らしてるのはレパード級のゴダード号だし。それに部隊に教育担当官もいないからね。だから後方の惑星に家を借りて、そこから普通の家の子供みたいに学校に通わせてるのさ。妻もそこにいる。

 ただ……。出稼ぎお父さんだからねえ……。妻や娘とはたまにしか会えないし……。手紙のやりとりは一応してるんだけど、子供に顔を忘れられそうなのが少し悲しいかな。はは、は。

 っと、あったあった。キース中尉には、これ。アーリン中尉には、これをあげよう。」

「「?」」

 

 キースの手に渡されたのは、1個の懐中時計であった。懐古趣味で、なかなか品が良い。連盟標準時を表示する物だった。ちなみにアーリン中尉は、1本の万年筆を貰ったようだ。

 

「どちらもそう高いもんじゃないけど、品質は良いよ。俺が初めての戦闘の報酬で買った物なんだ。」

「え!そ、それって大切な記念の品じゃないんですか!?」

「大事な物だとしたら、受け取れませんよ。」

「いや、いいんだ。君たちという、素晴らしい戦友に出会えた証の品だと思って、持っていてほしい。」

 

 キースはおもむろに自分の腕時計を外すと、アルバート中尉に渡した。

 

「ならば、交換といきましょう。これは特に思い入れとかがある品ではなくて申し訳ないんですが、耐水、耐ショックの上に、連盟標準時と予め設定しておいた複数惑星の時間とを、同時もしくは切り替え表示できる優れものです。後で設定方法の記載された説明書もお渡ししますよ。」

「あ、わ、わたしもこれを!私の関数電卓ですけど、時計機能や日々の占い機能なんかもついてて、とってもお得なんです!」

 

 アーリン中尉も、懐から可愛らしい蛍光色の飾りが付いた電卓を取り出して、アルバート中尉に渡した。アルバート中尉は苦笑して、2つの品を受け取る。

 

「君たちは律儀だねえ。ありがたく受け取らせてもらうよ。……ありがとう、戦友。」

「こちらこそ、戦友。」

「元気で、戦友。」

 

 

 

 連盟標準時にて、3025年10月11日の早朝まだ薄暗い時間帯、レパード級降下船ゴダード号は『機兵狩人小隊』と2人のMRBからの管理人パオロ・アブルッツィ氏およびヴァルト・カルッピネン氏を乗せて滑走路に出る。本来『デヴィッドソン装甲巨人隊』担当のヴァルト氏が乗っているのは、『デヴィッドソン装甲巨人隊』が『SOTS』と合併することで部隊毎の管理人が必要なくなったため、『機兵狩人小隊』に便乗して惑星ガラテアに帰還するためである。

 ちなみにこの様な薄暗い時間帯に出ることになったのは、この惑星の標準時間と、地球の時間帯に合わせてある連盟標準時との間にズレがあるためだ。その上この惑星の自転周期は25時間であり、ただでさえ少しづつズレて行くのである。

 

「……礼砲撃て!『機兵狩人小隊』に対し、敬礼!」

 

 キースの号令で、この惑星に残るバトルメック部隊が一斉に粒子ビーム砲やレーザー砲を上空に向けて発射し、ゴダード号に向けて敬礼を送る。ゴダード号は滑走路上を疾走し、ふわりと宙に浮きあがった。そしてそのまま轟音を立てて、はるか上空へと消えていった。

 しばらくそれを見送っていたキースであったが、やがて帰還命令を下す。

 

「各自バトルメックを格納庫に戻せ。その後、通常業務に復帰する。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 キースはマローダーに踵を返させ、歩み出させる。この日をもって、キースは大尉に昇進し、傭兵中隊『SOTS』部隊司令兼、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍司令官の座に就いた。




アルバート中尉たち『機兵狩人小隊』とは、一時これでお別れです。はたしてまた無事に会えるのか、それとも……。
そして主人公は、大尉昇進して『SOTS』も中隊に規模拡大しました。まあ、まだ欠員だらけなんですけどね。


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『エピソード-021 火力小隊始動』

 ここは恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地、司令室。紛らわしいが、指令室ではない。指令室はいわゆる基地の発令センターであり、司令室は司令官の執務室だ。かつてアルバート大尉待遇中尉の城であったこの部屋は、今ではキースの物となっている。キースは本日、この部屋でとある来客を待っていた。やがて部屋のドアがノックされる。

 

「大尉、マテュー少尉です。お客様をお連れしました。」

「入室を許可する。」

「失礼します。」

 

 マテュー少尉と客人2名が入室してくる。キースは客人のうち1人の顔を見ると、にやりと笑った。キースは言う。

 

「久しぶりだな、ヒューバート。そちらの応接セットのソファに座ってくれ。マテュー少尉、君は俺の隣にかけてくれ。」

「そうだな、キース。いや、大尉殿と呼ばなければならないかな?」

「いや、とりあえずは無礼講でかまわないだろうさ。『ロビンソン戦闘士官学校』では4年間学生寮の同室だったんだし。ただし、お前が俺の部隊に入ることを選択したなら、俺を立ててもらう意味を込めて、皆の前では敬語を使ってもらわにゃならんぞ?」

「わざわざここまで来たんだ。今さら拒否は無いだろ。」

 

 そう、彼はキースの『ロビンソン戦闘士官学校』時代の学生寮の同室、ヒューバート・イーガンであった。ヒューバートは自分の連れを紹介する。これはキースに対する物と言うより、その隣にいるマテュー少尉に対する紹介だ。

 

「こいつは俺の郎党の整備兵、ニクラウス・エーベルハルトだ。覚えてるか?」

「お久しぶりです、キース様。」

「ああ、覚えてるよ。何度か学校にまでヒューバートに面会に来たことあったもんな。」

「しかし、同期の中でもトップレベルの秀才だったとは思っていたけど、まさかこんなに短い間に大尉にまでなっちまうとはね。」

「部隊が急速に拡張したもんでね。それに合わせて新たな階級が必要になったのさ。」

 

 ここでヒューバートが、真面目な顔になる。

 

「ところで真面目な話、俺を雇ってくれるって話だけど……。俺は運が悪い男だぜ?本当にいいのか?」

「ヒューバート様……。」

 

 ニクラウス整備兵が、悲しげな顔になる。ヒューバートは、6月に『ロビンソン戦闘士官学校』を卒業後に新任少尉として、亡き自分の父親が所属していた傭兵中隊に帰還した。いや、そのはずだった。しかしその傭兵中隊は、ヒューバートが到着する前日に、放漫経営のため破産して解散。敗北の末とか、部隊壊滅による解散でないのが、逆に涙を誘う。

 その後彼は何処かの部隊に入ろうと努力を重ねてきた。しかし彼には伝手が無く、やむなく彼は自分のバトルメックを維持するために、フリーの傭兵として働いてきた。しかしながら、フリーの傭兵の厳しさは並では無い。報酬の割の悪い契約に、補給物資も惑星や星系間の移動手段も、自前で用意せねばならないことなどざらだ。そして彼のバトルメックである30tヴァルキリーは、戦闘中に手ひどいダメージを喰らい、現状不稼働となっていた。あげくにその際の任務は失敗扱いとなり、傭兵としての彼自身に対する評価も落ちていたのである。

 だがキースは、そんな彼に向かい優しく言う。

 

「運の良い悪いは、巡り合せだ。それにそんなことを言えば、俺だって帰るべき部隊を失った経歴の持ち主だぜ?知ってるだろ?」

「……すまん。そうだったな。」

「それにあのファーニバル教官の推薦書付きだ。こちらとしては、文句は無いさ。」

「あの「狂い獅子」のレオ、か。やれやれ、士官候補生時代はあの厳し過ぎる訓練で恨んでたってのに、頭が上がらなくなっちまったなあ。」

 

 苦笑しつつ、キースは諭す様に言った。

 

「レオ・ファーニバルの厳しさは、候補生を将来死なせないための優しさの裏返しだよ。」

「いや、実戦の厳しさを知った今ならばわかるさ。ただ、あの頃はなあ。ガキだったんだな。ほんの半年たらず前だってのに。」

「ファーニバル教官は、お前の苦境を知ってたよ。それで俺が来年度卒業生でも構わないから、士官を紹介して欲しいって手紙を書いたとき、お前のことを俺の部隊で雇うように言ってきたんだ。」

「教官……。ますます頭が上がらんな、こりゃ。」

「さて……。」

 

 キースはマテュー少尉に顔を向ける。マテュー少尉は頷くと立ち上がり、執務机から何通かの書類を持ってきた。

 

「ご苦労、少尉。これがお前の書類だな、ヒューバート。職務経歴書に、いちいち失敗した任務まで正直に書くのはお前らしいよ。しかも借金背負ってることまで。」

「後からバレでもしたら、大変だからな。なら、最初から隠さない方がいい。」

「違いない。お前のヴァルキリーは、融合炉鎧装を2層までやられ、ジャイロにも一発くらってるな。あげくに左脚が吹き飛んでる。操縦席も無くなってるな。機体を回収するのが大変だったろうに。」

「俺自身は脱出して、味方に拾ってもらった。ヴァルキリーはメックの身代金交渉の結果、戻されてきたんだ。ヴァルキリーの部品が恒星連邦以外では手に入りづらいから、他国では運用しづらいこと、それとかなり壊れてたことで、奪って使うよりも身代金と交換した方がいいってことで返還された。

 ただ恒星連邦から、メックの身代金として支払った額を請求されて、今までコツコツ稼いだ資金が全部吹っ飛んだ。その上で残金は借金になった。このままだとヴァルキリーを予備パーツとして売っ払って失機者になるか、首をくくるしか無かったよ。お前にここまでの旅費を出してもらわないと、ここドリステラⅢまで来れなかったからなあ。」

 

 深く頷くキース。彼は口を開く。

 

「これだけ壊れているのを直すのは、手間だと言うだけじゃなく部品代が馬鹿にならない。今俺たちの部隊も修理待ちの機体が多くてな。だからお前にはこの機体と交換と言う形で、別のメックを与えようと思うんだ。お前がヴァルキリーに拘りがあると言うなら、無理にとは言わないけどな。」

「……いや、望外の幸運だ。どんな機体だい?」

「75tの重量級バトルメック、オリオンだ。」

 

 絶句するヒューバート。ヴァルキリーは非力な軽量級だ。それを重量級の中でも最も重い、75t級と交換するなど聞いたことがない。しかもヴァルキリーはかなり壊れている不稼働メックだ。

 

「い、いいのか!?」

「お前には重要な役割を任せたいと思ってるんだよ。火力小隊の小隊長だ。実際のところ、お前の人間性や人格、心根は、4年間一緒に生活してきたことでよく知っている。俺の脇を固める役割に、これ以上相応しい人間はそうはいないさ。そして小隊の指揮官になってもらうからには、そうそう簡単に撃墜されてしまっては困る。できるだけ頑丈な機体を用意するのは当然だよな。」

「小隊長!?お、俺がか!?本気か!?」

「ああ、本気だ。受けてくれるかい?」

 

 ヒューバートは俯いてしばし考え込んでいたが、やがて顔を上げる。

 

「契約書をよこしてくれ。ニクラウスの分もだ。」

「マテュー少尉、頼む。」

「了解です、隊長。」

 

 マテュー少尉が2通の契約書を用意した。ヒューバートは丁寧に文面を読んで、おもむろにそれにサインをする。ニクラウス整備兵もまた、自分の主に倣った。そしてヒューバートとニクラウスはソファから立ち上がり、キースに向かい敬礼する。

 

「これからよろしくお願いします、大尉。」

「よろしくお願いいたします!」

「うむ、こちらこそ。我が傭兵中隊『鋼鉄の魂』は、貴官らを歓迎する。頼んだぞ、ヒューバート中尉、ニクラウス伍長。」

 

 答礼しつつ、キースは重々しく言った。

 

 

 

「そうですか。それは良かったですな。いや、こちらのスカウトは中々良い人材に巡りあえず、大変でしたよ。」

 

 そう言うのは、レパード級降下船ヴァリアント号のカイル・カークランド船長だ。その隣で、イングヴェ・ルーセンベリ副長もうんうんと頷いている。彼らはドリステラ星系外でのスカウト活動を終え、惑星ドリステラⅢに帰還してきたのだ。キースはスカウトの内容について尋ねる。

 

「応募自体は沢山来たんだろう?」

「それが応募者は酷いものでしてね。」

「そうそう、自分を大きく見せて高く売りつけようとする馬鹿な若僧とか、ちょっと聞き込みしたらばれる様な嘘をついて失機時の失態を糊塗しようとする失機者とか、自分では上手く隠しているつもりなんでしょうが隊長の年齢を聞いて侮って、上手く飾り物にして実権を握ろうとする野心を持つ輩とかが大勢来ましたよ。」

「面接で大半落としました。残ったのは航宙艦クレメント号からデータ通信で書類を送った3人だけです。メック戦士1名に航空兵2名ですな。ああ、それとは別に惑星学者が1名なんとか捕まりました。本人たちは隣室で待たせてあります。」

「それは……大変だったな。困難な仕事を頼んでしまってすまない。」

「「いえいえ。」」

 

 執務机の上から書類を取り上げたキースは、熟読して内容をしっかり覚えているそれに、再度目を通す。

 

「1人目はライラ共和国の惑星アークトゥルスにある、ガンダラージャ機兵学校の出身者。俺が言うのもなんだが、17歳とは若いな。名前はグレーティア・ツィルヒャー。ライラ防衛軍に所属するメック戦士一族ツィルヒャー家の4女。一応一族の予備メック戦士としてメック戦士養成校に通わされたものの、上に兄姉が6名もいる上に長男に後継ぎの子供ができたため、家伝のバトルメックを継ぐことはついに叶わなかった、か。」

「ええ。残る選択肢は政略結婚かコムスターの侍僧になることでしょう。」

「ですが彼女はそれを望まなかったわけですな。自分で自らの運命を切り開くことに賭け、卒業後は傭兵部隊『ディックハウト防衛団』にて戦車の砲手をやっていた模様です。いつか自分の手でバトルメックを鹵獲することに望みを賭けて。ですがその傭兵部隊でも、女性であることで侮られ認められず、結局除隊することになったらしいですな。」

 

 その書類を執務机の上に戻すと、キースは次の書類を手に取る。

 

「2人目もほとんど事情は同じだったな。ライラ防衛軍所属の気圏戦闘機パイロット一族、ブリーゼマイスター家の3男、アードリアン・ブリーゼマイスター、22歳。航空兵としての訓練は積んではいるものの、兄姉が4名もいたため、あくまで予備航空兵の扱いで部屋住み生活。長男に嫡男が産まれたために自分が気圏戦闘機を継ぐ可能性はほぼ無くなった。」

「それで無駄飯喰らいの身になるのも、コムスター送りになるのも望まなかった彼は、傭兵たちの星ガラテアにて通常型ジェット輸送機のパイロットとして生活していました。故郷の惑星を離れたのは、家族と顔を会わせるのが辛かったらしいですなあ。傭兵たちの星ガラテアを選んだのは、もしかして万一、という可能性に縋りたかったそうです。今回、その万一の可能性を掴んだわけですが。」

 

 更にキースは3通目の書類を取り上げる。

 

「3人目は、自分の気圏戦闘機を失った失機者だったか。18歳の女性で名前はヘルガ・ヤーデルード。家伝の30tスパローホークをドラコ連合との戦いで失ったんだったな。いきさつは書類には、単にドラコ連合のスレイヤー戦闘機の4機編隊と単機で戦い、撃ち落されたとしか書かれていなかったが?カイル船長やイングヴェ副長が、そんな無謀なだけのパイロットをわざわざ連れて来るはずもないと思うが……。」

「彼女は味方を撤退させるための捨て駒にされたんですよ。彼女自身は言いわけになると思ったらしく、書類にも書かなかったし、口も重かったですがね。船長の巧みな話術に、ついに口を割りました。」

「探偵を雇っての裏付け調査でも、同じ結果が出ましてな。少々予算オーバーしましたが、彼女の様な人材を得るためならば、かまわないでしょう。自殺的な命令でも味方のためなら躊躇わず実行する上に、失機者として辛い目に遭ったのにも関わらず人間が腐ってませんからな。」

「カイル船長とイングヴェ副長がそこまで言うのなら、間違いないだろうな。」

 

 最後の書類を手に取ると、キースはおもむろに言う。

 

「そして待望の惑星学者、ミン・ハオサン博士、43歳か……。カペラ大連邦国出身者だったな。」

「彼には政治的な頭はまったくありません。ですので、恒星連邦がカペラ大連邦国の敵国だとか言うことも、まったく気にしてないんですな。良い意味での、学者バカです。もっともそれでカペラ大連邦国の大学を追い出されて、国まで追われたんですが。」

「大学を首になり、国から出て行かなければならなくなったことで、家族とも縁を切られたそうです。ですから今の彼は天涯孤独ですな。もしも将来的にリャオ家と戦うことになったとしても、彼はかまわないそうです。」

(……って言うか、恒星連邦がライラ共和国との合併のためにライラ共和国と国境線を繋げる必要性から、リャオ家の領域であるカペラ大連邦国の領土を切り取ろうと宣戦布告するのが、将来起きる第4次継承権戦争勃発の契機なんだけどな。恒星連邦ダヴィオン家がカペラ大連邦国リャオ家と戦うのは、このまま行けば必至と言うわけだ。)

 

 内心でキースは「今後の歴史」について考えながら、全ての書類を執務机上に置いた。彼は机上のインターホンを使い、隣室に連絡を入れる。

 

「ネイサン軍曹か?隣室で待ってもらっているお客人4名を司令室に案内してくれ。」

『はい、了解です。今から向かいます。』

 

 そして司令室の扉がノックされる。

 

「ネイサン軍曹です。お客人を案内しました。」

「入室を許可する。入りたまえ。」

 

 キースは執務机から立ち上がって言った。カイル船長とイングヴェ副長は、キースの横に並んで立つ。

 

「「「「「失礼します。」」」」」

「よく来てくれた、諸君。俺が傭兵中隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令、キース・ハワード大尉だ。グレーティア・ツィルヒャー女史、アードリアン・ブリーゼマイスター氏、ヘルガ・ヤーデルード少尉、ミン・ハオサン博士、我が『SOTS』は、諸君らを歓迎する。」

 

 ネイサン軍曹と、残り4人のうち3人が敬礼をする。おそらく敬礼をしなかった中年の男性が、ハオサン博士なのだろう。ちなみに4人の客人――今の段階では――は、キースの巨体と老け顔に一瞬驚いた様だった。16歳という年齢だけを聞いていたのだろう。

 キースとカイル船長、イングヴェ副長は答礼をした。キースは頷いて言う。

 

「楽にしてくれ。」

「はっ!自分はグレーティア・ツィルヒャー、ガンダラージャ機兵学校の卒業生であります!」

「俺、いえ自分はアードリアン・ブリーゼマイスターです。従軍経験はありませんが、民間機による飛行時間は1600時間を超えております。また自分の家の気圏戦闘機であるチペワ戦闘機にて、合わせて100時間の飛行訓練を積んでおります。」

「自分はヘルガ・ヤーデルードです。以前の部隊での最終階級は少尉でした。」

「私はミン・ハオサンと言う。一応博士の肩書なども持ってはいるが、大学も国も追い出された根なし草でね。」

 

 キースは各自の顔を見ながら、おもむろに問う。

 

「こうしてこんな片田舎の惑星までやって来てくれたと言うことは、諸君らは我が隊に入隊してくれる意志はある、と言うことで良いのかな?」

「は、はい!」

「はい、それは勿論です。」

「はい。再起の機会を与えてくださり、ありがとうございます。」

「うん。働き口をくれるなら、是非にお願いしたいところだよ。」

 

 各々が、各々の口調で承諾の意思を表す。キースは1人1人に向けて言葉を発した。

 

「グレーティア・ツィルヒャー、君は士官学校を卒業しているため、少尉に任ずることとする。貸与するバトルメックは55tのウルバリーンだ。貴官は新設される火力小隊の副隊長となることが内定している。貴官のこれからの活躍に期待する。」

「は、はい!ありがとうございます!」

「アードリアン・ブリーゼマイスター、君を本日ただ今をもって少尉に任ずる。貸与する気圏戦闘機は75tトランスグレッサー戦闘機。貴官が実力を発揮できることを祈っている。」

「謹んで拝命します。ありがとうございます。」

「ヘルガ・ヤーデルード少尉、貴官は前部隊のときと同じ、少尉として迎えることにする。貸与する機体はアードリアン少尉と同じ75tのトランスグレッサー戦闘機だ。機体が同じ故に、ペアを組んでもらうことになる。実戦経験が豊富な君が、2機の編隊長を務めてもらうぞ。」

「はっ。了解しました。」

「ミン・ハオサン博士、貴方には階級は無いのだが、給与他の関係により少尉待遇と言うことでお迎えしたい。無論実戦部隊に対する命令権は無いし、指揮系統には組み込まれないのだが。それでかまわないかね?」

「うむ、捨扶持でも貰えるならば僥倖だと思っていたところだよ。それほど好待遇で迎えてくれるのならば、文句など無いとも。」

 

 その後キースは執務机から4通の書面……辞令と、3個の襟章……階級章を取り出して彼らに渡した。そしてキースは、ネイサン軍曹に向けて命令する。

 

「ネイサン軍曹、新任の少尉たちにこの基地を案内してやってくれ。彼らの宿舎の手配は既に済んでいる。こちらの書類に纏めてあるから、そちらの案内もしてやってくれ。」

「了解です、大尉。しかし大尉、そろそろ自由執事を雇用することを考えてはいかがですか?宿舎の手配などとか、細々としたことまでご自分で処理されるのは、部隊が小隊単位であった時ならばまだしも……。」

「考えてはいるんだ。だが自由執事とそれに関わる総務の人間は、部隊資産に直接関わる権限を持つことになるからな。絶対的に信頼できる人材でなくてはならない。そうそう見つかるものでもない。

 では下がってよろしい。」

「「「「「失礼します。」」」」」

 

 ネイサン軍曹と新任少尉たち、そしてハオサン博士は司令室から退出した。カイル船長とイングヴェ副長は、溜息を吐く。

 

「やれやれ、今度は自由執事探しですかな。」

「いや船長、それは我々が探すよりも大尉の伝手で探してもらった方が確実ですよ。」

「そうだな。サイモン曹長にも相談してみよう。サイモン曹長の人脈は凄いからな。」

 

 キースも溜息を吐くと、肩を竦めた。

 

 

 

 駐屯軍基地の演習場で、ヒューバート中尉操る75tオリオン、グレーティア少尉駆る55tウルバリーン、ロタール軍曹の乗機たる65tクルセイダー、カーリン伍長の55tグリフィンが、くるくると舞う様に隊列をめまぐるしく変えながら動いていた。キースは自機、75tマローダーの操縦席からそれを監督している。無線からヒューバート中尉の声が響いた。

 

『よし、いいぞ!その調子だ!だがまだ時々隊列変更が遅い時がある!いいか、お前たちの技量はかなり大したものだ。メック戦士養成校で正式な訓練を受けた俺やグレーティア少尉にすら劣らない。だが、小隊としての纏まりは話が別だ。チームで動くことについては、お前たちはまだまだだ!

 もっと精進するんだ。チームが有機的に結合して動くことができれば、総合的な戦力は足し算ではなく、掛け算になる。だが逆に足を引っ張り合えば、マイナスになることだってあるんだ。』

『は、はい!……そうか、歩兵の時と同じような物か。チームで動くことで弱点をカバーしあって……。』

 

 ロタール軍曹は、なんとなく飲み込んだ様だ。一方カーリン伍長は、理性では理解しても、皮膚感覚でわかってはいない様だ。

 

『はい、頭ではわかるんですが……。』

『なら、後は感覚で的確な行動をとれるようになるだけよ。あなたの機体はグリフィン、支援メックよ。私たちの背中はまかせたわよ。敵はそっちには通さないから、安心して落ち着いて行動してね。』

『は、はい!』

 

 グレーティア少尉の激励に、カーリン伍長は頷く。キースはその様子を見て、満足そうに笑った。彼は心の中で思う。

 

(火力小隊は、ヒューバートに任せておいて大丈夫だな。これでバトルメック部隊も中隊の定数を満たした。だがやはり、予備メックを全て満足に動かせるようにしておきたいよなあ。だけど全部の機体を直すには資金が足りないか……。それに信頼できるメック戦士が雇えないと、直しても意味ないしなあ。)

 

 考えているうちに、キースの思いは別な方向へ流れだす。

 

(……トマス・スターリングは今現在大隊指揮官だ。それと正面からぶつかることの可能な戦力を整えるのは、今のところ不可能だ。稼働メックの数、メック戦士の数、どちらも足りない。修理待ちの機体が修理できたと仮定して、それでも大隊規模には足りないし、メック戦士がいない。メック戦士を確保できたとしても、その中にハリー・ヤマシタの様な存在が混じっていたりしたら、たまったもんじゃないよな。トマス・スターリングに対抗するには、何か策を考えないと……。

 いや、気が早いよな。別にいますぐこの惑星ドリステラⅢに、トマス・スターリングの奴がやって来るわけでもあるまいし。)

『キース大尉!ちょっとこちらに来てもらえませんか?』

「ああ、なんでしょうアーリン中尉。」

 

 咄嗟に応えたキースの台詞に、アーリン中尉は眉を顰めた。彼女は通信回線を個人対個人に切り替えると、キースを注意する。

 

『キース大尉、また丁寧語になってますよ。今はもう、そちらが上官で司令官なんです。』

「ああ、すみませ、いや、すまなかったアーリン中尉。癖になっていた。気を付ける。」

『そうしてください。』

 

 そしてアーリン中尉は、通信回線を通常の隊内通信に切り替え直す。

 

『戦車隊なんですが、静止射撃は満足いく出来になってきました。また単純な運転技量は、ようやくそこそこの出来上がりですね。ですが行進間射撃はまだ上手くいきません。砲手の技量の問題ではなく、運転手との息が合っていない模様です。』

「やはり訓練あるのみ、だろうな。ただ最低限の目標は達成したと見て良いか?遠距離射程からの支援砲撃をしてもらいたいのだから、移動中に泥濘や障害物によりスタックして擱座することがないならば……。

 いや、満足はするべきでは無いな。彼ら戦車兵の生存率にも関わることだ。まあ褒めるところは褒めておいた方が良いだろうが。」

『ですね。』

 

 その時、ヒューバート中尉の声が再び響く。

 

『その調子だ!やればできるじゃないか!』

『はい!』

『はい、ありがとうございます!』

『では続けましょうか、ヒューバート隊長。』

 

 火力小隊の様子に、キースとアーリン中尉の頬が綻ぶ。

 

『良い人材が入ってくれて、よかったですね。』

「ああ、まったくだ。」

 

 火力小隊の結成により、キースの傭兵中隊『SOTS』は一応定数を満たした。だが未だ、宿敵トマス・スターリングと正面決戦をするには力不足である。トマス・スターリングのいる惑星バレンチナへ殴り込むことも不可能だ。恒星連邦政府との契約なしに軍事行動を行ったりすれば、こちらが法を犯すことになる。まあ、命令に無い他国領域への襲撃をやって、稼いでいる傭兵部隊も存在しないわけではないが。たとえばカペラ大連邦国リャオ家に仕えている『マッカロン装甲機兵団』とか。

 だがとりあえずキースは、今はそのことを脇に置いておくことにする。焦っても、どうにもならない。いつか来る機会のために、今は少しずつでも力を蓄えて、牙を研ぎ澄ましておく時なのだ。




最初から細かく読んでくれている人は気付いたかもしれませんが、今回登場したヒューバートは、プロローグにちょっとだけ名前が出てます。実は伏線だったんですねー。
いよいよ完全な中隊として、『SOTS』は再スタートを切りました。うーん、そろそろ部隊編成表、載せた方いいかなあ。でも、ちょっと初期試料が見つからない……。もう少し後になってから、部隊編成表は載せる事にしますねー。


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『エピソード-022 ゼニス点の影』

 3025年10月26日、駐屯契約の更新から1ヶ月近くが経とうとしていたこの日、キースはサイモン老と共に、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーに呼び出されていた。呼び出し先は、首都ドリステル近郊の惑星軍基地だ。キースはジープの車上で、サイモン老にこの呼び出しについて尋ねてみた。久しぶりに2人だけなので、口調は上官としての物ではない。

 

「サイモン爺さん、爺さんは今日の呼び出しについて何か聞いているかい?」

「いえ、特には聞いておりませんのう、坊ちゃん。けれど大方の予想はつきますわ。」

 

 サイモン老はハンドルを握りながら答える。サイモン老の方も、昔ながらの呼び方でキースを呼んでいた。

 

「奪還した元『BMCOS』のバトルメックや気圏戦闘機、戦車などの修理も、可能な物は終了しましたでのう。後は部品を買う金が乏しいですからの、一時修復凍結ですわ。」

「ああ。全資金を使い切る覚悟でやれば、どうにかなるかも知れないけど……。いつ資金が必要になるかもわからないからなあ。それをやるわけには行かないよ。乗るメック戦士もいないのに。」

「だもんで、暇ができましたでの。前々からの約束通りに、先日までパメラ嬢ちゃんと一緒に公爵閣下のところへ出向して、惑星軍基地に移設したバトルメック自動整備施設とバトルメック製作施設の最終調整に行ってきましたんですわ。」

 

 キースもそれは知っていた。そのためサイモン老とパメラ伍長は、しばらく恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地にいなかったのだ。その謝礼金としてザヴィエ公爵から入って来た資金で、部隊はかなり助かっている。

 

「その時に施設の設備の動作試験を兼ねて、ちょいと悪戯をやったんですわ。それの関係じゃないかと思いますがの。」

「サイモン爺さんの悪戯……?ちょ、ちょっとぞっとしないな。」

 

 キースの背中に冷たい汗が流れる。サイモン老の能力は、NAISの最先端技術者に匹敵するか、下手をすると凌駕している。本人にとってはちょっとした悪戯であっても、えらいことになっている可能性は無くも無い。だがサイモン老は安心させるように言う。

 

「何、惑星政府、惑星軍とわしら駐屯軍の両方にとって、悪いことじゃありませんわな。心配ないで……。おっと、もうすぐ到着しますでの、坊ちゃん。」

「うん、そうだな。ここからは、お仕事モードだ。ジープを駐車場に入れろ、サイモン曹長。」

「了解しましたわい、隊長。」

 

 キースは口調を変えた。サイモン老もキースの呼び方を変える。サイモン老操るジープは、非常に滑らかな挙動で惑星軍基地の駐車場へと入って行った。

 

 

 

 惑星軍基地に着いたキースたちは、迎えに出た士官に案内されて惑星軍基地の奥深くへ移動して行った。やがて到着したのは、惑星軍基地の指令室である。そこで待っている2人の人物を見て、キースとサイモン老は敬礼した。待っていた人物の片方は、答礼を返してくる。

 答礼を返して来た人物の方はこの惑星軍基地の司令官、アントナン・カレ中佐である。彼自身は適性を欠いているためメック戦士でこそないが、充分な指揮能力を持っていると言う話だ。戦車部隊を指揮していたこともあるらしい。更に彼の娘は立派に家伝のメックを駆って、ザヴィエ・カルノー公爵の孫娘のメック部隊にいるらしいとのことだ。

 答礼を返してこなかった人物は、言わずと知れたザヴィエ・カルノー公爵である。公爵は鷹揚に言葉を発した。

 

「ああ、楽にするがよい。よく来たの、キース・ハワード大尉。サイモン・グリーンウッド曹長も、先日は世話になったの。……そう言えば、大尉昇進の祝いを何もやっておらんかったのう。」

「はい。いいえ、お気づかいなくお願い申し上げます、公爵閣下。」

 

 ザヴィエ公爵は微笑むと、指令室のスクリーンに目を向ける。

 

「見るが良い。そこのグリーンウッド曹長の成果じゃ。なかなかの物じゃのう。」

「は。……これは?」

「グリーンウッド曹長が、移設したバトルメック製作施設の調子を見るために、造り上げた物だ。凄いものだな、大尉。設備の調子を見るためだけに、あれだけの物を造り出してしまう能力とは……。」

 

 答えたのは、アントナン中佐である。スクリーンには、演習場の様子が映し出されていた。そこでは4機の強襲メックと見ゆるバトルメックが、射撃訓練を行っている。その内の2機は、キースにも見覚えがあった。

 

「あれは、先日鹵獲したマッキー?しかし武装が追加されている?いや、それだけでは無いか……。装甲も強化されている様だし、胴体部に放熱器が多数追加されている。

 残りの2機は、外観からするとサイクロプスの改修機か?だが形が違い過ぎる……。それにサイクロプスを特徴づける、最大口径のオートキャノンが無い。」

「一目で理解するか……。やはり欲しい人材よのう、ほっほっほ。グリーンウッド曹長、発言を許す。キース大尉に、あの4機について説明してやるが良い。」

「はっ。了解であります。公爵閣下。」

 

 ザヴィエ公爵の許しを得て、サイモン老は話し始めた。

 

「隊長、あの4機なんですがの。バトルメック製作施設が移設後にちゃんと稼働するか確かめるためにやった、やっつけ仕事なんですわ。」

「やっつけ仕事?」

「まずはマッキー2機ですがの。あれは最古のバトルメックだけあって、不必要に重い装備を使っておったんですの。たとえば操縦席は、現代のバトルメックは3tの重量があるんですが、マッキーは5tもするんですわい。あと融合炉も、不相応に重いエンジンを載せておりますわい。」

(……うん、知ってる。あとは装甲板も古い規格の、重たさの割に防御力が弱い物だったんだよな。)

 

 キースが内心で呟いてる間にも、サイモン老の説明は続く。

 

「だもんで、操縦席の換装、装甲板の全面張り替え、エンジンとジャイロの交換を済ませたら、機体の容量に随分と余裕ができましての。そこに火器と放熱器を束にして載せてでっちあげたのが、あのマッキー改ですわ。」

「もう2機は?」

「マッキーから外した融合炉とジャイロが余っておりましたんでのう。そこにあのバトルメック製作施設の遺跡に遺棄されておった、90t級強襲メックの骨格がちょうど2機分ありましたでの。どうもサイクロプスの初期型だった様で……。ただ残念なことに、サイクロプスの最大の特徴とも言えるタクティコンB-2000戦闘コンピュータは外されておりましてのう。」

 

 タクティコンB-2000戦闘コンピュータは、戦闘指揮補佐用の非常に優秀なコンピュータだ。キースはそれについて、前世の記憶を辿る。

 

(たしかゲーム的には、イニシアティヴに+1のボーナスがあるんだよな。しかも通信装置がこのコンピュータに直結してて、連隊規模の指揮能力を提供する、だったか。……たしかに残念だな、B-2000コンピュータが無くなってたのは。)

「それでその骨格とマッキーから外したエンジン、ジャイロを使って、レーザー系の武装とマシンガンを束にして積み込んででっち上げたのが、あの機体ですわ。H2D-2G、ヘッジホッグと名付けましたがの。」

 

 その名前を聞き、キースの前世の記憶が再び刺激される。

 

「……待て、サイモン曹長。俺はどこかでヘッジホッグと言う名前のバトルメックを聞いたことがあるぞ?よほどマイナーな機体だったのか、ほとんど全く知られていないんだが。俺も詳細は知らん。」

「ありゃ?で、では何か別の名前を付けた方が良いですの。う~ん……。」

「……とりあえず、サイクロプス改、でいいだろう。何か良い名前を思い付いたら改めて、と言うことで。……で、やっつけ仕事と言うのは?」

 

 キースの言葉に、サイモン老は頭を掻きつつ答える。

 

「元々あの4機、バトルメック製作施設が移設後にちゃんと稼働するか確かめるためにだけ造った、と言いましたな?設計に徹底的に手を抜いたんですわ。とりあえず動けばいいってだけで。だから生産性は勿論のこと、整備性も低く、それが原因で稼働率もお世辞にも高いとは言えないんですわ。

 それでもマッキー改はまだ実際に動いてたメックを改造した物ですんで、まだましなんですがのう。ヘッジホッグ、じゃなかったサイクロプス改は、動いてるうちはいいんですが、いったん壊れるとわしじゃないと直せないと言うか……。バトルメック自動整備施設には、パメラ伍長が設計図を登録しておいたんで、あれなら時間をかければ直せるんですがの。」

「いや、それでも凄いと私は思うがね。充分に実戦に使えるバトルメック2機を、ほとんど残骸状態のパーツと予備部品から、短時日に組み上げてしまうその腕前は。」

「はい。いいえ中佐、凄いのは遺跡から回収したバトルメック製作施設ですわ。あれは大量生産こそ不可能ですがの、僅かな試作機や実験機を組み上げるだけならば充分な設備ですわ。それがあったればこそ、のスピード組み立てですのう。」

 

 アントナン中佐の賞賛に、サイモン老は謙遜して見せる。実際にサイモン老の技術は物凄いのだ。それがあってこそ、バトルメック製作施設を十全に使いこなせたのであろう。実際、惑星軍に所属していたり雇用されていたりする技術者連中では、その同じ施設を使って軽メックを造ることすらできない。まあメック設計の知識や技術が無いのだから、当然のことではあるが。

 ちなみにそのバトルメック製作施設や自動整備施設には残念ながら、当時の星間連盟でも最新技術であった、今現在では遺失技術となっているテクノロジーに関するデータは残っていなかった。わずかにバトルメック自動整備施設のコンピュータに、バトルメック自動制御装置のコマンド集のみが残存していただけである。この惑星にあった大半の遺失技術メックは、他の惑星で造られた物をそのまま持ち込んだか、遺失技術部品のみをこの惑星外から持ち込み、バトルメック製作施設で組み上げた物であろう。もっとも、バトルメックを自動で整備や補修できる施設、バトルメックを少数とは言え製作できる施設と言うだけで、今現在の時代的にはとんでもない代物ではあるのだが。

 

「ふむ……。バレロン伯ジョナス卿をシャロンが物にすることができれば、ハワード大尉も付いて来る。ハワード大尉を物にすることができれば、グリーンウッド曹長も付いて来る。これはお得じゃのう。やはりもっとシャロンを焚き付けねば……。」

「……。」

 

 ザヴィエ公爵の小さな呟きは、キースの耳にしっかりと届いていた。だがキースは失礼の無いよう、それを丁寧に無視して流す。と、ここでアントナン中佐が別な話を振る。

 

「ところで大尉、今日来てもらったのはこのバトルメックを見てもらう意味もあったのだが、他にも重要な要件があるのだ。無線や電話ではできれば話したくない要件が、な。」

「……この場所は、防諜は大丈夫でしょうか、中佐。」

「ああ、ここの「掃除」はしっかりしているし、オペレーターも皆信頼がおける者ばかりだ。」

 

 ここで言う「掃除」とは、盗聴器などの類の掃除である。ザヴィエ公爵も、真面目な顔になる。アントナン中佐は、おもむろに言った。

 

「ドラコ連合のスパイ網は、まるで台所の黒い害虫の様だ。潰しても潰しても湧いて来る。しかも捕まるのは、この惑星出身者だ。おそらくは莫大な資金を投下して、スパイを現地徴用して養成しているのだろう。」

「以前ご報告したはずですが、先月末の戦闘時に駐屯軍基地に破壊工作員が潜入を試みました。そいつらは監視カメラの監視が及ばない場所を選んで潜入しようとし、しかも基地の弾薬庫、基地の動力区画などの絵図面を、高性能爆薬と共に所有しておりました。……かなり以前より、情報が洩れていた模様です。」

「どうやら、明らかにこの惑星を狙っておるの。星間連盟期の遺跡がこの惑星にあったことなどは、余禄に過ぎん、か。ふむ……。」

 

 キースとアントナン中佐の会話に、ザヴィエ公爵が溜息を吐く。キースは頭を振りつつ言葉を発した。

 

「この惑星は、恒星連邦ドラコ境界域首都惑星ロビンソンにも近く、また他の重要惑星の多くにも1回のジャンプで到達できる位置にあります。マーダックにこそ若干及びませんが、戦略的価値は高いのです。施設、設備的には1個中隊を駐屯させるに足る程度しか用意されていませんが……。」

「それはわかっておるよ。だが惑星の人口は200万弱しかない、田舎の農業惑星じゃ。それほど大規模な軍隊は、経済的な理由で置くわけにはいかぬのじゃて。移民も募っておるのじゃが、そうそう増えてはくれぬよ。お主ら駐屯軍に渡した遺跡発掘の報奨金も、遺失技術に関連した発掘物を恒星連邦に納めることを前提に、恒星連邦政府より前借りした資金のうちから出ておる。まあ、残りの金は大型コンバインや大型トラクター、ディーゼル機関車などを買ったり、鉄道を新たに敷いて新規の開拓地を増やすために使わせてもらっておるがのう。ほっほっほ。……ふう。」

 

 ザヴィエ公爵は笑ってみせたが、最後に溜息を吐く。もっとも彼のことであるので、その溜息すら同情を買おうという演技で無いと言い切ることはできない。アントナン中佐が悔しそうに言う。

 

「せめて我々惑星軍と、駐屯軍がもっと有機的に連携して動くことができれば……。議会の馬鹿者どもめ、お役所仕事も大概にしろと言いたい。書類などの体裁が大事なのは理解できる。しかし緊急時の対応などをそれで制限されては、たまったものではない。公爵閣下の直接命令が無ければ、駐屯軍との間に直通電話を敷くことすら……。」

「中佐!」

 

 そのとき、オペレーターの1人が声を上げる。アントナン中佐は顔をそちらに向けた。

 

「どうした!?」

「深宇宙通信施設より緊急連絡です!読み上げます!ジャンプポイント、ナディール点補給ステーションの深探査レーダーに反応あり。ジャンプポイント、ゼニス点にインベーダー級航宙艦及びスカウト級航宙艦と思しきジャンプアウト反応。以上です!」

 

 アントナン中佐は目を見開く。ザヴィエ公爵は、キースに目を向けて言った。

 

「大尉、お主はどう思うかの?」

「通常の商用降下船を積んだ航宙艦や恒星連邦の艦であれば、補給ステーションのあるナディール点のジャンプポイントを使うはずです。しかし実際にジャンプアウトしたのはゼニス点……。しかも通商目的に使われることの多いマーチャント級ではなく、インベーダー級とスカウト級。おそらくは敵性国家の……ドラコ連合の艦であると思われます。」

「インベーダー級であれば、最大3隻の降下船を搭載しているはずだ。つまりスカウト級と合わせて最大4隻と言うわけだな。対宙監視網を総動員させよう。ジャンプポイントからこの惑星までは4日だったな。」

「駐屯軍でも、気圏戦闘機をCAP(戦闘空中哨戒)に出します。直通電話をお借りしてよろしいですか?」

「うむ。オペレーター!ハワード大尉を駐屯軍基地直通電話まで案内しろ!」

 

 オペレーターの1人がアントナン中佐の命令に従い、キースを直通電話のところまで連れて行く。キースは駐屯軍基地に電話をかけた。

 

『……こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地、司令官代理のアーリン・デヴィッドソン中尉です。』

「アーリン中尉、俺だ。キースだ。」

『キース大尉!?』

 

 電話の向こうでアーリン中尉が驚く。キースは手早く情報を伝えた。

 

「……と言うわけで、4日後には敵性国家のものと思しき降下船がやってくる可能性が、極めて高い。火力小隊のヒューバート中尉と相談して、俺が帰るまでにCAPの計画を練っていてくれ。以前の気圏戦闘機4機体制だったときよりも、余裕はあるはずだ。

 それと、例の物資はこの間届いたはずだな?」

『ええ、届いています。早速使うことになりそうですね。』

「なに、使うことを前提に購入した物だ。あとはフォートレス級ディファイアント号だな。」

『ボールドウィン伍長が今、頑張ってます。』

「頼んだぞ、今から帰る。」

 

 電話を切ると、キースはザヴィエ公爵とアントナン中佐に帰りの挨拶をする。

 

「公爵閣下、中佐、申し訳ありませんが緊急事態ですので、これでお暇したいと存じます。退出してよろしいでしょうか。」

「うむ、やむを得んだろう。本当はもっとゆるりと話をしたかったのじゃが。ではな。気張れよ、若人よ。」

「また会おう、ハワード大尉。誰か!ハワード大尉たちを車まで案内せよ!」

 

 キースとサイモン老はザヴィエ公爵とアントナン中佐に敬礼する。アントナン中佐は見事な敬礼で答礼し、ザヴィエ公爵は軽く手を上げて応えた。そしてキースたちは、やって来た若手士官に案内されて駐車場まで戻ってきた。即座に彼らはジープに乗り込み、発車させる。

 帰り道の途中、キースは眉を顰めながらサイモン老に言った。

 

「もしかすると、今日見せてもらったサイモン爺さんの作品の出番が、早々に来るかもしれないな。」

「そうですのう、坊ちゃん。ただ言った通り整備性や保守性が悪いので、致命的な損傷を喰らわねば良いのですがの。マイアマーをちょっとやられただけで、一般の整備兵には修理は難しくなってしまうでしょうなあ。装甲板まででしたら、交換はまだ容易ですがの。」

「俺は帰り着いたら、早速書類仕事だよ。たぶんザヴィエ公爵が上から手を回してくれるとは思うんだけど、惑星議会が後から文句を言えない様に、惑星軍との連携体制をきちんと整えておかなくちゃ。……アーリン中尉やヒューバートにも手伝ってもらわんと、間に合いそうにないな、こりゃ。」

 

 溜息を吐くキースに、サイモン老は小さく笑った。サイモン老はおもむろに言葉を発する。

 

「さて、そんでは……。基地までぶっ飛ばしますぞ!」

「……む。……シートベルト、良し。いいだろ、好きなだけ飛ばしてくれ。」

 

 こう言うときのサイモン老を制止しても無駄だと、幼い頃からの経験で思い知っているキースは、あっさりと許可を与える。サイモン老の運転技術ならば事故は起こさないだろう。同乗者は相当に恐い思いをするが。

 キースとサイモン老のジープは、荒野の道をすっ飛ばして駐屯軍基地へと帰っていった。




さて、色々サイモン老のカッ飛び振りが判明したところで、新たな敵影です。今度の敵は、何者でしょうか。そしてサイモン老の作品の活躍場所はあるのか!?
次回をご期待ください。


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『エピソード-023 雛鳥を逃がせ』

 恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地指令室のスクリーンには、惑星軍の大型レーダー基地から転送されてきた情報が映し出されていた。これを実現するために、キースたちは敵艦と思しき存在がこの星系の北辺宙域にあるジャンプポイント、ゼニス点に出現するよりもずっと以前から、努力を重ねて来たのである。キースも、アーリン中尉も、ヒューバート中尉も、いったい何枚の申請書類を書いたかわからない。だがその努力は、ぎりぎりで間に合ったのだ。

 ヒューバート中尉が、感慨深げに言葉を紡ぐ。

 

「この惑星に来て、惑星軍とのレーダー情報が共有化されてないって知ったときは、愕然としたもんだがなあ……。」

「縦割り行政の弊害なのよねえ。惑星軍自体の人員には、こちらに協力的な人が多いのが救いだけど……。その組織の上に乗っかってる議会がねえ……。はぁ……。」

 

 アーリン中尉も、溜息を吐く。キースが2人を宥めた。

 

「まあ、なんとか間に合ったんだから今は文句を言うまい。オペレーター、気圏戦闘機隊はどうなっている?」

「現在所属不明降下船群の予想軌道に向けて急行中です。接触まで、約15分。」

「収束赤外線装置による熱影感知によれば、相手はユニオン級と思われる船が3隻に、レパード級もしくはレパードCV級が1隻か。つまり相手は1個増強大隊。ジャミングなんかで姿を隠さないで来るってことは、彼我の戦力差を最初から知っていて、真正面から叩き潰すつもりでしょうかね、キース大尉?」

 

 ヒューバート中尉が疑問の形を取った確認を行う。キースは頷く。

 

「まず間違いなく、こちらの戦力は敵に筒抜けだろうな。それで真っ向から勝てると踏んだのだろう。俺たちの戦力は、演習場で散々姿を晒していたからな。ドラコ連合のスパイ網が、その情報を掴み損ねるわけがない。

 こちらのバトルメック戦力は、俺たち『SOTS』の1個中隊と、惑星軍所属のスティンガー5機、ワスプ1機、ローカスト1機、フェニックスホーク2機、ライフルマン1機……。それにサイモン曹長が組み上げたテスト機が4機の1個中隊強。ただし惑星軍メックの中で、戦力としてある程度あてにできるのは、フェニックスホーク2機のみだ。それ以外は、素人同然の腕前しか持たない新前だからな。そのことは、見る者が見れば機体の動きからわかる。」

「その惑星軍のバトルメック戦力は、首都ドリステル近郊の惑星軍基地に集中配備されてるんでしたよね?あとは戦車による機甲部隊が2個中隊、ただしこれは2輛ずつの1個分隊に分けられて、惑星各地に警備のため分散配備されてるから、緊急時の戦力としては数えがたい……。」

「今惑星軍のアントナン・カレ中佐が、緊急招集をかけているがな。全部は間に合わんだろう。それに戦車の車種は25tのスコーピオン戦車だ。正直重量が軽すぎる。バトルメック相手だと、かすり傷を負わせるのと引き換えに爆散しかねん。」

 

 アーリン中尉の呟きに、律儀に応えるキース。そのとき、50tのライトニング戦闘機に搭乗しているミケーレ少尉から通信が入った。ちなみに本来気圏戦闘機隊の最先任将校はマイク少尉もしくはジョアナ少尉であるのだが、彼らは自分が空戦の技量はともかく指揮をそれほど得手としていないことを理解しており、ミケーレ少尉に指揮権を委譲していた。

 

『こちらライトニング戦闘機3番機ミケーレ・チェスティ少尉!相手は交信を求める前に気圏戦闘機8機を発進させました。全機あつらえた様にシロネ戦闘機です。奴ら、やる気満々です!』

「所属不明降下船群を敵機と認定する。応戦せよ。ただし無理はするな、敵降下船および気圏戦闘機の数は多い。4隻と8機相手では、6機の気圏戦闘機では荷が重い。」

『了解!応戦します!』

 

 キースは応戦命令を出すと、惑星軍基地への直通電話を手に取る。

 

「こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地、司令官キース・ハワード大尉。所属不明降下船群を敵機と認定、味方気圏戦闘機が交戦に入りました。結果が出次第、報告いたします。」

『こちら惑星軍ドリステル本部基地、司令官アントナン・カレ中佐。大尉、気圏戦闘機から送られたカメラ映像を、こちらにも送ってくれるかね?関連する書類仕事はこちらで受け持とう。』

「了解です。映像が届き次第、転送します。では失礼します。……オペレーター!気圏戦闘機からの映像が届き次第解析に回すと共に、惑星軍基地へもデータ転送を!」

「了解しました。ただ今着信しています。……映像出ました!部隊マークが識別可能です!惑星軍にも転送開始します!」

 

 キース、アーリン中尉、ヒューバート中尉はしばし黙って待つ。そしてオペレーターの声が再び響いた。

 

「敵部隊マークは第4アン・ティン軍団の物です!敵はドラコ連合です!」

「やっぱりか。シロネ戦闘機ってとこで、ドラコ連合だろうとは思ったんだが。……キース大尉?」

「……いや、気にするなヒューバート中尉。第4アン・ティン軍団ならば、練度は若干だがこちらが上回っているはずだな。」

 

 キースの言葉を証明するかの様に、次々と戦果報告が入る。

 

『こちらライトニング戦闘機1番機!敵シロネ戦闘機を撃墜したっす!』

『こちらライトニング戦闘機2番機!敵シロネ戦闘機を撃墜!』

『こちらトランスグレッサー戦闘機1番機、敵シロネ戦闘機を2番機と共に協同撃墜しました。』

『こちらライトニング戦闘機4番機!3番機と共にシロネ戦闘機を撃墜!ただし当機もダメージを負いました!離脱許可を!』

 

 キースは即座にライトニング戦闘機4番機に離脱命令を下す。

 

「ライトニング4番機、離脱しろ!」

『了解です!あとは頼むわ皆!』

「1番機と2番機は凄いわね。単機で敵機を無傷で撃墜しているなんて。」

 

 アーリン中尉が感心した声を上げる。だがキースは難しい顔だ。

 

「だがこれでこちらは5機に数が減った。敵は4機の気圏戦闘機が残っている上に、降下船4隻は無傷だ。降下船の支援の下で戦っている敵機に対し、圧倒的に有利なのは確かに凄いが……。この調子で敵味方を互いにすり減らせば、敵の降下は阻止できん。」

『こちらライトニング3番機!大尉!敵降下船のうちユニオン級1隻が、バトルメックを射出開始しました!また残りのユニオン級2隻とレパード級……。レパードCV級ではありません、バトルメック用ハッチを確認しました!残りの3隻も、大気圏への降下を開始!』

『こちらライトニング戦闘機1番機!ちっくしょう、シロネ戦闘機が邪魔して、降下を阻止できねえっす!いえ、できませんっす!』

 

 一瞬考え込んだキースは、離脱中のライトニング戦闘機4番機に通信を入れる。

 

「ライトニング戦闘機4番機。離脱しながらで良い。遠距離の映像で良いから、降下中の敵バトルメックと敵降下船を観測できるか?」

『……やってみます!』

『こちらライトニング1番機!邪魔していたシロネ戦闘機を片付けたっすが、バトルメックを射出したユニオン級が頑張ってて、他を追撃できないっす!』

「オペレーター、パメラ伍長に作ってもらった例の軌道計算プログラムをコンピュータに走らせて、おおよその敵降下位置を割り出せないか試すんだ。」

「了解!」

 

 キースは惑星軍基地との直通電話の受話器を取る。

 

「こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地、司令官キース・ハワード大尉。中佐、残念ながら敵降下の阻止は失敗です。敵気圏戦闘機の半数以上を……。」

『こちらライトニング戦闘機2番機!シロネ戦闘機を撃墜!』

『こちらトランスグレッサー戦闘機2番機!敵機を1番機と協同撃墜!』

「失礼、敵気圏戦闘機の大半を撃ち落しましたが、敵の必死の守りによって降下船および射出されたバトルメックは降下してしまいました。」

 

 電話の向こうでアントナン中佐が難しい顔をしているのが、容易に想像できる。アントナン中佐はおもむろに言葉を発した。

 

『大尉、敵の目標降下地点は何処だと思うね?』

「いくつか考えられます。ですが俺、いえ私でしたら第一に狙うのはここ、駐屯軍基地です。最大の戦力を保持しているうちに、最大の敵戦力を叩きます。」

『そうだな。私でもそうするよ。ただ他の可能性を除去してしまうには、まだ早いな。』

 

 その言葉に、キースは頷く。

 

「ええ。他の最大の懸念としては、首都を狙った攻撃ですね。都市に対する攻撃はアレス条約違反ですが……。それで公爵閣下を人質にでも取られた場合、惑星軍と駐屯軍の関係にひびが入りかねません。」

『……公爵閣下の御身が第一の我々惑星軍と、公爵閣下を犠牲にしてでも惑星自体をクリタ家から護らねばならん駐屯軍の立場の違い、か。』

「それで万一、味方同士が相争う様な事態になっては馬鹿らしいにも程があります。」

 

 ここでオペレーターが叫ぶ。

 

「大尉!敵の降下予想地点は、惑星首都ドリステル付近の模様です!」

『こちらライトニング3番機!最後のシロネ戦闘機が降伏信号を打ち出しました!打ち出しましたが……。敵は既に惑星上に降下してしまいました。申し訳ありません。』

「中佐!敵降下予想地点は首都ドリステル周辺地域です!」

『君の懸念が当たったか……。む?少し待ってくれ。』

 

 アントナン中佐は、少し直通電話の前を離れた様だ。しばらくして、中佐が戻ってくる。

 

『地上のレーダー施設で確認した。敵はレパード級と思しき1隻を首都に向けた。残りの部隊は、もう間もなく「ここ」に降りてくる。』

「惑星軍の本部基地に……。公爵閣下の身柄を押さえる間、惑星軍を釘づけにするつもりでしょうか。いや、あわよくば惑星軍を先に撃滅……。いえ、その基地には戦略目標となり得る「施設」が2つもありましたね。敵はそれを確保するつもりですか。」

『……大尉、君に2つばかり頼みがある。1つは……。』

 

 キースはしばらく無言で電話を聞いていたが、やがて頷くと受話器を置いた。そして彼は硬い表情で命令を下す。

 

「アーリン中尉。偵察小隊はただちに首都ドリステル方面へ向けて出撃。目標はドリステル近郊の、惑星軍ドリステル本部基地だ。偵察小隊で最も遅いグリフィンの最大速度にあわせて進軍せよ。指揮小隊はレパード級降下船ヴァリアント号にて、同じく惑星軍ドリステル本部基地へ向け、メック他の搭載が終わり次第発進する。途中で偵察小隊を追い抜くことになるとは思うが……。こういう任務に使い勝手の良いレパード級がもう1隻あれば、使っていたんだがな。

 ヒューバート中尉、火力小隊には悪いが基地の留守番を頼む。」

「はっ!」

「はい。ですが大尉、留守を守るのは指揮小隊の方が良いのではないでしょうか?」

 

 ヒューバート中尉の疑問に、キースは硬い表情を崩さずに答える。

 

「君の隊にはメック戦闘が初めてのロタール軍曹と、戦闘自体が初めてのカーリン伍長がいる。初陣はもう少し万全の状況下でやらせてやりたい。

 今回の任務は味方の撤退支援だ。「敗走してくる」惑星軍を、この駐屯軍基地まで送り届けるのが主目的なんだ。敵の戦力は味方の数倍はあるはずだ。そのきつい状況で初陣は、流石に酷だろう?」

「納得しました、了解です。……って、「敗走」ですかっ!?」

「ああ、惑星軍のアントナン中佐は1個大隊の歴戦バトルメック部隊に、9割近くが素人同然で、しかも半数が20t級軽メックで構成された自軍バトルメック中隊が、勝てるとは……いや、まともに戦えるとも考えておられない。中佐は1個中隊だけ集結に間に合った戦車部隊で時間を稼ぎ、惑星軍の「未来の主力」を脱出させるおつもりなんだ。

 惑星軍のメックに乗っている新人メック戦士の多くは、俺から見てさえまだガキどもらしい。頼むから奴らを生かしてくれ、と言われたよ。」

 

 そこまで聞いたアーリン中尉は頷くと、キースに敬礼を送って通信設備に取り付いた。ちなみに降下船群が接近してきた時点で、既に全部隊は総員戦闘配置に就いている。

 

「偵察小隊!準備はできてるわね!?」

『こちらリシャール・ジェレ少尉!自分以下3名、いつでも出撃可能です!』

「わたしが格納庫に着き次第……。ううん、ヴィルフリート軍曹のグリフィンだけ先に発進させて!全速力で行くように伝えてちょうだい!目的地は惑星軍ドリステル基地!私たちもすぐに追いつくわよ!復唱不要!以上!」

『りょ、了解!』

 

 そしてアーリン中尉はキースに通信設備を明け渡し、軍服――『SOTS』には正規の軍服はまだ無いため、それっぽい服に階級章だけ付けた物――の襟元を緩めながら格納庫へ駆け出して行った。何故衣類を緩めるかと言うと、彼女をはじめ『SOTS』のメック戦士達は、冷却チョッキや冷却パイロットスーツと言う高級品は持っていないのである。そのため、熱のこもるバトルメックの操縦席に搭乗する際は、できる限りの薄着で乗り込むのだ。

 キースもまた、軍服の襟元を緩めながら通信設備に取り付く。

 

「指揮小隊!レパード級ヴァリアント号にメック搭載開始!俺もすぐ行く!復唱は不要だ!……ヴァリアント号カイル船長、イングヴェ副長!緊急発進準備!目的地は追って伝える!復唱不要!……サイモン曹長!偵察・整備兵分隊のうち、曹長と偵察兵2名だけでヴァリアント号に乗り込め!ジープを2台持っていくのを忘れるなよ!復唱は不要だ!……気圏戦闘機隊!いったん基地に帰還したら戦闘可能な機体は推進剤を補充し……。」

 

 各員への通達が終わると、そのままキースは格納庫へ向けて走り去ろうとした。その背にヒューバート中尉の声が届く。

 

「キース大尉!留守は任せてください!お客さんの受け入れ態勢は整えておきます!」

「頼んだぞ!」

 

 今度こそ、キースは格納庫へ向けて疾走した。

 

 

 

 レパード級降下船ヴァリアント号は、首都ドリステル近郊の渓谷の合間にこっそりと隠れる様に着陸した。そのメック用ハッチが開き、キースの75tマローダー、マテュー少尉の65tサンダーボルト、エリーザ軍曹の70tウォーハンマー、アンドリュー軍曹の60tライフルマンが次々と降りて来る。そしてサイモン老が運転するジープが1台と、アイラ伍長が運転するジープが1台が最後に降りて来た。サイモン老のジープには、ネイサン軍曹が同乗している。

 ヴァリアント号のブリッジに通信回線を繋ぐと、キースは言葉を発した。

 

「いいか船長、副長。来る時説明した様に、俺たち指揮小隊を待つ必要は無い。俺たちは惑星軍と共に歩いて帰るからな。船長たちは、サイモン曹長たちが連れて来る「お客さん」を乗せたら、わき目も振らず真っ直ぐに基地までぶっ飛ばすんだ。」

『了解したよ、隊長。「お客さん」の方は任せておいてくれたまえ。』

『同じく了解です、隊長。しかしそんな高貴な「お客さん」乗せるとなると、少し緊張しますね。』

「何、緊急事態だからな。それほど気にする必要は無い。頼んだぞ。」

 

 キースは次に、指揮小隊の面々に向かい声をかける。

 

「こっちの方の「お客さん」は、ちょっと大勢だ。だが「できるだけ多く」なんて言葉はいらん。あくまで「全員」を無事に駐屯軍基地まで送り届けるぞ!そのぐらいの気概で任務にあたれ!」

『了解です、隊長。機種転換してから初の戦いですからね。腕が鳴ります。』

『了解だぜ、隊長。マテュー少尉もエリーザも、背中は俺が守ってやるぜ!』

『了解、隊長。雛鳥どもを守ってやればいいのよね?』

 

 指揮小隊隊員たちの心強い台詞に、キースは力強く頷いた。彼は号令をかける。

 

「指揮小隊、前進!高高度偵察を行っているライトニング戦闘機3番機からの連絡では、「お客さん」には送り狼がついているそうだ。まずはそれを潰すぞ!」

『『『了解!』』』

 

 傭兵中隊『SOTS』指揮小隊は、全速で前進した。しばらく進んだところで、マローダーのセンサーが機影を捉える。その機体は、20tの軽バトルメック、ローカストであった。さらにその後ろから、同じく20tの軽メックであるスティンガー5機とワスプ、60tライフルマン、そしてサイモン老謹製の90tサイクロプス改2機と、100tマッキー改2機、その他多数の兵員輸送車輛群が続いている。そして少し離れて、45tのフェニックスホークが2機、必死になって後方に向け、大口径レーザーを射撃しているのが見て取れた。と、ローカストが戸惑った様に足を止める。惑星軍の無線周波数に合わせた回線から、怯えた声が響いてきた。

 

『そ、そんな……。回り込まれてたなんて……。』

「馬鹿野郎!!足を止めるな!!走り抜けろ!!」

『え?』

 

 キースはマローダーを走行させて、ローカストの脇を通り過ぎる。

 

「IFFの反応を良く見ろ!!そんなことでは、戦場で味方撃ちをやらかすぞ!」

『え、あ、み、味方機!?』

「走れといっただろうが!」

『は、はいっ!』

 

 ローカストは、泡を食って疾走を再開する。今のやり取りを聞いていたのか、続くスティンガー5機にワスプ、ライフルマン、サイクロプス改2機とマッキー改2機は、足を止めずに走り抜けた。その後を追う兵員輸送車群に鈴生りになった兵士や一般職員などは、どうやら味方のメックであるらしいと知り、喜び騒いで手を振っている。

 そしてマローダーの粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノンが火を噴いた。それは過たず、今まさにフェニックスホークにとどめを刺そうとしていたK型シャドウホークの胴中央に突き刺さる。追い撃ちの様に同じ目標を、アンドリュー軍曹のライフルマンのオートキャノン2門が撃ち据える。胴中央の装甲を全て剥がされてジャイロでも損傷したのだろう、K型シャドウホークはよたよたとしながら後退していった。

 もう1機、別のK型シャドウホークと、ウルバリーン、通常型シャドウホークが一斉にキースのマローダーを狙って砲撃する。だが距離が遠くて命中しない。しかしキースが再び撃ち放った粒子ビーム砲のビーム束と中口径オートキャノンの砲弾は、K型シャドウホークに命中する。更にアンドリュー軍曹のライフルマンの砲火だけでなく、マテュー少尉駆るサンダーボルトの15連長距離ミサイル発射筒と、エリーザ軍曹操るウォーハンマーの粒子ビーム砲が、次々と発射される。この遠射程だと言うのに、それらは的を外すことなく、ことごとく敵機に命中した。敵機はたまらず後退して行く。

 一息つくと、キースは酷くダメージを負った2機のフェニックスホークへ通信を入れた。

 

「こちらは恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍、傭兵中隊『SOTS』司令官キース・ハワード大尉。そちらの官職姓名を述べよ。」

『あ、ああ貴殿が。わ、私はドリステラⅢ惑星軍所属バトルメック部隊指揮官、ケヴィン・デッカー大尉待遇中尉です。』

『じ、自分は同じく惑星軍バトルメック部隊副指揮官、レオナルド・ロックハート中尉。た、助かりました。ありがとうございます。』

「……礼を言うには早い。おかわりが来るぞ。貴官たちは急いで逃げろ。雛鳥どもの面倒を見なければならんのだろう?」

 

 ケヴィン中尉は一瞬言葉に詰まるが、すぐに頷く。

 

『了解しました。私たちは、いえ自分たちは本部基地司令アントナン・カレ中佐より、貴殿の指揮下に入るよう正式な命令書付きの命令を受け取っております。』

 

 それを聞き、キースは目を見開く。アントナン中佐は、キースがこの件で後から惑星議会に難癖をつけられない様に、手を打ってくれたのだ。正式な命令書とやらがどこまで効力のある物かはわからねど、少なくともこの事態においてキースが指揮を取る上での法的根拠になってくれる。そして万一それが法的に無効とされた場合であっても、責任は命令書を発行したアントナン中佐にあり、キースには咎は無いことになるのだ。

 

『それと……中佐より、例のバトルメック自動整備施設と製作施設の起動キーを預かっております。これが無くば、あの施設は並の技術者では動かせないとのことでしたが……。』

「ああ、その辺は聞かされている。貴官はそれを敵の手に渡さぬためにも、なんとしても雛鳥たちを連れて、駐屯軍基地まで脱出するんだ。さあ、行け!」

『はっ!了解であります!行くぞレオナルド中尉!』

『了解!中佐、いつか必ず仇を……。』

 

 キースはその台詞に、今度こそ瞑目した。やはりアントナン中佐は亡くなったのだ。25tのスコーピオン戦車が1個中隊では、1個大隊のバトルメックに対し、あまりに力不足だ。そして戦車はバトルメックよりも極めて脆い。戦車兵の命は、対メック歩兵までとは言わないが、吹けば飛ぶ様に軽いのだ。

 

『隊長、また1個小隊来たぜ。更にその後方にも、まだ続いてくるみたいだ。』

『今度はライフルマンに……。嘘!?エンフォーサーが3機!?なんでダヴィオン家特有のメックが……。って、決まってるわね。』

『そうですね。第4アン・ティン軍団、ことにC大隊とオマケのD大隊は例のやつらが根を張ってるんです。何の不思議も無いですよ。』

 

 アンドリュー軍曹、エリーザ軍曹、マテュー少尉が口々に言う。キースはにやりと笑みを浮かべると、命令を下した。

 

「指揮小隊全メック!射撃開始!目標は先頭の敵ライフルマン!」

 

 マローダーから、ライフルマンから、ウォーハンマーから、サンダーボルトから集中砲火が敵のライフルマンに飛ぶ。第2ラウンドの幕は上がったのだ。




渋い脇役として前回登場したアントナン中佐、残念ながら退場いたしました。でも彼の残した影響は、今後延々と「良い方向で」続きます。
なんたって、「渋い脇役」ですから!


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『エピソード-024 籠城開始』

 傭兵中隊『SOTS』の指揮小隊は、敗走する惑星軍バトルメック部隊を護るために奮戦していた。アンドリュー軍曹が60tライフルマンの操縦席から吼える。

 

『ここから先は一歩も通さねえぜ!』

『落ちなさいってのよ!』

 

 エリーザ軍曹もまた、70tウォーハンマーを前面に出して胴体部装備火器の全てを用いて1機の45tK型フェニックスホークの装甲を丸裸にしていた。

 しかしアンドリュー軍曹機のオートキャノンの弾丸は既に切れ、彼はやむなく大口径レーザー主体の戦闘を行っている。そのため機体に熱が溜まり易く、2本大口径レーザーを撃った後はしばらく機体を放熱させねばならなくなった。だが敵機が仲間を狙うのを見過ごすわけにもいかず、彼はかなりの無理をしていた。またエリーザ軍曹のウォーハンマーも6連短距離ミサイルの残弾を撃ち尽くしており、その凄まじい攻撃力も減退している。その上に前面に出たため、幾ばくかの被弾を被ってもいた。

 マテュー少尉の操る65tサンダーボルトもまた、15連長距離ミサイルを使い果たし、今はエリーザ軍曹の盾となって攻撃の殆どを引き受けつつ、近距離戦闘を行っていた。今しがた、55tK型ウルバリーンの頭部を格闘にて破壊したところだ。ちなみにメック戦士は緊急脱出している。ただ攻撃の殆どを一手に引き受けているため、その分厚い装甲も、かなりやられていた。次に彼は、指揮小隊の脇腹を狙おうとする20tK型ワスプを狙う。

 

『鬱陶しいんですよ!いい加減あなたも落ちなさい!』

「マテュー少尉、そろそろ俺と位置交換だ。流石にそろそろつらいだろう。アンドリュー軍曹と並んで、大口径レーザー主体の攻撃に切り替えろ。」

 

 キースが75tマローダーを前に出す。彼の機体もオートキャノンの弾薬を使い切っている。今までに彼は、60tライフルマンと70tアーチャー2機に被害を与えて後退させ、55tグリフィン1機の頭部を撃ち抜いてセンサーを破壊し脱落させた上、55tシャドウホーク1機および50tエンフォーサー1機の脚部を折り取って転倒させていた。敵からすれば、悪夢でも見ているかの様だったろう。数倍の追撃部隊が、たった1個小隊にずたずたにされているのだから。

 

(しかし、このままではじり貧だよな……。惑星軍はもう随分距離を取ったと連絡があったから、なんとか隙を見て撤退しないと。)

 

 その時、脇から忍び寄ったK型ワスプの中口径レーザーの一撃が、マローダーの左胴に命中する。それは装甲の隙間から内部構造を一部破壊した。そこにはオートキャノンの弾倉が配置されている。

 

「……危なかったが、オートキャノンは既に撃ち尽くしているんだよ。残念だったな。しかし誉めてやろう。こいつが褒美だ。」

 

 キースが機体の左側面を晒したのは、オートキャノンの残弾が無くなっていたため、ラッキーヒットを恐れる必要が無かったからである。彼はK型ワスプに褒美として、マローダーのキックをくれてやった。K型ワスプは右脚を無残に折り取られると言うよりは蹴り潰され、右胴にも大きなダメージを負って倒れ込んだ。

 その時、キース機の周囲に20連長距離ミサイルの雨が降り注ぐ。ぎりぎりで命中しなかったが、あぶないところだ。はるか後方に後退した、アーチャー2機の仕業だった。長距離ミサイルの射程は、マローダーの主武器である粒子ビーム砲のそれを凌ぐ。キースは叫んだ。

 

「アンドリュー軍曹!マテュー少尉!エリーザ軍曹!俺が戦線を支えるから、離脱しろ!」

『隊長はどうするんだよ!』

『……いえ、私とエリーザ軍曹の機体は被弾が大きくなってきました。隊長の命令通りにしましょう。アンドリュー軍曹の機体も、過熱が酷い。今のまま居ても、足手まといになるだけです。』

『……くっ!仕方ないわね。』

 

 下がろうとするエリーザ軍曹のウォーハンマーに、55tの通常型ウルバリーンが追いすがる。それを粒子ビーム砲の2連射を命中させて左脚を吹き飛ばして阻止したキースは、単身自機を前に出す。砲火がキース機に集中するが、キースは機体を全力疾走させて木陰に飛び込み、命中弾のおおよそ3/4を回避することに成功する。一方、仲間の機体は離脱することに成功していた。

 だがフェニックスホークやK型ワスプなどの機動力に優れた機体が、キースのマローダーを包囲せんと移動してきた。なんとか退路を確保したいキースだったが、それは果たせず背後に回り込まれてしまう。機体の上半身を捻ってどうにか装甲の薄い背面から攻撃を受けることだけは避けたが、逃げ道を塞がれてしまった。

 

(不味いなあ。なんとかフェニックスホークを一撃で片付けられれば、逃げられないことも無いけど……。サイモン爺さんのスナイパー砲支援でもあればなあ。いや、泣き言は言ってられない。まずはフェニックスホークからだ!)

 

 キースは再び機体を走らせる。フェニックスホークの間合いに飛び込み、粒子ビーム砲1門と中口径レーザー2門を一斉に発射。全弾命中し、フェニックスホークが一瞬揺らぐが転倒はせず持ちこたえる。逆にフェニックスホークの攻撃もまた、マローダーに命中し、その装甲を削った。胴中央にこれ以上攻撃を受けると、かなりまずい。

 

(倒せなかったかっ!くそ、機体上半身を捻りたいところだが、他の機体も近づいてきている!今度はそいつらに背面を晒すことになる!く、命中弾が他の箇所に分散することを祈るしかない、か。脱出も、降伏もできないよな。やつらはおそらく、トマス・スターリングか故ハリー・ヤマシタに連なる者たちだ。あのエンフォーサーの存在が、それを物語っている。奴らが捕虜をどんな風に扱うか、分かったもんじゃないわな。

 それに、捕まるわけにも、死ぬわけにもいかんよな。俺には指揮官としての責任があるんだ。と言うか、こう言うどじを踏んだら、その責任を蔑ろにしたって言われても言い逃れはできないところだけどさ。)

 

 目の前のフェニックスホークとK型ワスプが各々の主武器を構えるのを見つめながら、キースは両腕の粒子ビーム砲を各々の敵機に1門ずつ向ける。機体は過熱し、2門を一度に撃つのはちょっとつらい。操縦席の中は、蒸し風呂の様だ。

 

『大尉!』

 

 その瞬間、大口径レーザー3門と粒子ビーム砲1門が、フェニックスホークとK型ワスプに降り注ぐ。K型ワスプは片脚を吹き飛ばされ転倒。フェニックスホークは胴中央に直撃を受けてエンジンに命中弾が出たらしく、熱映像画面で見ると急速に機体の熱量が高まって行く。敵のフェニックスホークは慌ててその場を後退して行った。

 

『キース大尉、無事ですか!?』

「アーリン中尉、間に合ってくれたか。ありがとう、助かった。」

『こんなに無茶をして!』

 

 その攻撃を放ったのは、アーリン中尉麾下の、2機の通常型フェニックスホークと1機のD型フェニックスホーク、そして1機のグリフィンだった。キースは苦笑して言う。

 

「すまん。返す言葉もない。っと!」

 

 キースはアーリン中尉機に忍び寄っていた通常型ウルバリーンに、粒子ビーム砲を撃ち込む。その一撃はウルバリーンの頭部を貫いて、メック戦士を緊急脱出に追い込んだ。

 

「アーリン中尉、大丈夫だな?」

『あー、もう!助けに来て助けられるって、なんか恥ずかしいわ!』

「そう言うな。お互い助け、助けられだ。さて、とっとと尻に帆をかけて逃げ出すとしよう。戦利品を持って帰る余裕が無いのが残念だな。」

 

 キースはそう言うと、機体に踵を返させ、全力で走らせはじめた。それを護る様に、偵察小隊のバトルメックがその周囲を取り囲む。敵機は擱座した味方機の回収を優先したのか、諦めて追いかけては来なかった。

 

 

 

 キースたちは、間もなく先に撤退した指揮小隊のメンバーと合流。仲間たちはキース機の惨状を見て、おおいに文句をぶちまける。もっとも、見た目は派手にやられているが、内部構造まで破壊された部位はわずかにK型ワスプのラッキーヒットを喰らった部分だけだ。しかしキースは抗弁しない。抗弁すると、数倍の言葉のフレンドリーファイアが返ってきそうだからである。

 

(ま、心配かけたんだから仕方ないよな。)

『聞いてる!?隊長!!』

『確かに俺たちはあれ以上戦うとヤバかったけどよ!隊長のマローダーがそこまでやられるんなら、俺だけでも残って後方支援してたぜ!?熱は溜まってても、装甲板は傷ついてなかったんだからよ!』

 

 エリーザ軍曹と、アンドリュー軍曹がなおも言い募る。キースは素直に謝罪した。

 

「ああ。済まなかった。」

『……でも、隊長は同じことがあったら、また同じことするんでしょうね。』

『『……。』』

 

 マテュー少尉の台詞に、エリーザ軍曹もアンドリュー軍曹も、押し黙った。キースはおもむろに言葉を紡ぐ。

 

「かもな。だけど、その時はもう少し上手くやるよ。二度とやらない、とは約束できんが。」

『……本当に上手くやってくれよ?』

『そこまでやられる様なことになっちゃ駄目だからね?』

『隊長には、マローダーよりもバトルマスターかなんか、もっと装甲が厚い機体が良いんじゃないですかね。まあバトルマスターなんて手に入りませんけど。』

「いや手に入らんだろう、本当に。」

 

 指揮小隊の様子を、アーリン中尉たち偵察小隊の面々は苦笑しつつ聞いていた。やがて彼らのはるか前方に、惑星軍の隊列の最後尾が見えてくる。どうやら動きがもっとも鈍いマッキー改及び定員をはるかにオーバーしている兵員輸送用の車輛やトラックが、移動速度の足を引っ張っているらしい。キースたちの機体が追いつけたのは、それが原因だった。

 

 

 

 そして彼らは駐屯軍基地へ帰り着く。帰ってきたときには、基地周辺に歩兵を展開させて、基地の様子を観測している者がいないか確認させた。理由は、ちょっとばかり敵のスパイに知られたくない情報があったからである。案の定、基地の様子を双眼鏡で眺めていた男が2人捕まえられた。

 捕まえられた彼らは、パメラ・ボネット伍長とフランツ・ボルツマン伍長により尋問され、当初は年齢の若い2人の尋問官を馬鹿にしていたものの、気付けば洗い浚い喋らされていたことに気付き愕然とする。やはり彼らはドラコ連合のスパイであった。しかしその中でも促成栽培された下っ端であり、大したことは全く知らされていない輩でもある。

 彼らは捕虜収容所ではなく、基地の地下に設置された独房に収監された。おそらくはスパイの扱いの常に従い、情報を徹底的に吐き出させた後で銃殺と言うことになるだろう。キースも仲間達に害を及ぼしそうな人物に情けをかけるほど、甘くはない。

 基地に帰ったキースたちを出迎えたのは、意外な人物であった。いや、その人物を連れて来ることを命じたキース自身には、意外でもなんでも無かったのだが。

 

「おお、大尉。無事でなによりじゃて。」

「はっ。閣下もご無事で安心いたしました。」

「いやの、アントナン中佐からの連絡で別邸に一時退避したところで、敵のレパード級降下船が首都の幹線道路に降り、そこから現れたバトルメック小隊がわしの本来の邸宅を取り囲んだ、と聞いたのじゃ。いや間一髪じゃったのう。

 そこへサイモン曹長がやってきての。駐屯軍基地への避難をお主が申し出た、と伝えてくれたんじゃわい。いや、サイモン曹長の運転は爽快で、愉快じゃったわ。あとはカイル船長だったかの?彼の者の操船も凄まじかったわい。」

 

 そう、基地の指令室で待っていたのは、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーその人であったのだ。キースについて来た惑星軍のケヴィン大尉待遇中尉とレオナルド中尉は、自分たちのご主君が、それもいつもはこうして真正面から会う事の絶対無い存在が目の前に立っているのを見て、敬礼をしたまま硬直している。

 ちなみにサイモン老がザヴィエ公爵の迎えに出たのは、駐屯軍の中で公爵との面識があった希少な人物だったからだ。そうでなくては、重要な間接砲撃手であるサイモン老を戦力から外すような真似はしない。

 キースはザヴィエ公爵に尋ねる。

 

「こちらに来られる際は何事もございませんでしたか?」

「いや、敵のレパード級が追撃してきよったがの。お主が付けてくれたライトニング気圏戦闘機2機とトランスグレッサー気圏戦闘機2機が追い払ってくれたわ。」

 

 ここでヒューバート中尉が口を挟む。

 

「閣下、ハワード大尉に報告するべき事がございますので、どうか発言をお許しください。」

「うむ、許す……。いや、そうではないな。ここではわしが客人なのだ。わしに許可を求めるまでもない。いつも通りにやってくれれば良い。そうでなくば、任務に差しさわりが出るであろう?」

「では遠慮なく。キース大尉、ライトニング戦闘機1番機と2番機、トランスグレッサー戦闘機の1番機と2番機より報告がありました。敵レパード級降下船を協同で撃墜、敵レパード級は惑星地図上の……。」

 

 ヒューバートの言葉が終わる前に、気を利かせたオペレーターが指令室のスクリーンに惑星マップを投影する。その1点、駐屯軍基地から南に数km離れた場所に、赤い点がつけられていた。

 

「ありがとう。この赤い点、D-33744ポイントに不時着した模様です。私の独断で歩兵1個小隊を付け、整備兵ジェレミー・ゲイル伍長と助整兵5名を向かわせました。気圏戦闘機4機は、低速巡航状態にてその場で上空待機してます。」

「貴官の判断は正しい。敵レパード級を押さえられる物ならば押さえてしまった方が良いからな。だが、敵レパード級は降伏していないのか?……保険をかけた方が良いな。」

 

 キースは通信設備に取り付くと、格納庫のアーリン中尉たちに連絡を入れた。

 

「アーリン中尉、もうひと働きしてもらいたいが、中尉と隊員の疲労は大丈夫か?」

『まだ大丈夫です。いつでも出撃できます。』

「そうか。今、不時着した敵レパード級を押さえるためにジェレミー・ゲイル伍長と歩兵1個小隊が向かっているんだが、降伏する様子が無いらしい。保険として偵察小隊にも出て欲しい。マップは今、そちらの機体に転送する。」

『了解。ただちに支援に向かいます。』

 

 通信を終えたキースは、オペレーターにマップを偵察小隊のバトルメックに転送するように命じると、再びヒューバート中尉に向き直った。

 

「これで全部か?」

「いえ、あとは降伏した最後のシロネ戦闘機なのですが、当基地の付属宇宙港滑走路に着陸させました。パイロットの航空兵は、捕虜としての正当な扱いを求めています。尋問しましたが、氏名生年月日、階級や認識番号などの情報以外は、条約で話す必要は無いとの一点張りでした。

 もう1つ、気圏戦闘機隊の現状なのですが、ライトニング戦闘機1番機2番機とトランスグレッサー戦闘機1番機2番機は損傷軽微、現在不時着して動く様子のない敵レパード級を監視しています。ライトニング戦闘機3番機は損傷なし。帰還して推進剤補給を受けています。ライトニング戦闘機4番機なのですが、1機で割を食ったようで、小破状態。ただし部隊に備蓄している部品で修理可能です。」

「わしからも報告がありますでの、隊長。」

 

 サイモン老が手を上げる。キースは頷いて見せた。サイモン老は話し始める。

 

「公爵閣下とお付きの方々4名は、無事に当基地へお迎えすることが叶いましたわ。ただ、ちょっとばかり気になる点が……。いえ、公爵閣下御一行のことではありませんがのう。

 公爵閣下の別邸に赴いた際、遠隔映像で、公爵閣下のお屋敷を包囲するバトルメックの姿を確認したんですがの。45tフェニックスホークを隊長機として、45tヴィンディケイター、40tウィットワース、35tオストスカウトからなる中軽量の偵察小隊タイプの部隊でしたわ。で、それらのメックに見覚えがあるんですわい。特にヴィンディケイター。

 あれは傭兵部隊『BMCOS』がカペラ境界域にてリャオ家と戦った際に、敵から奪取したメックですな。『BMCOS』はその戦いにおいて戦利品の自由裁量が認められており、頭部をやられてメック戦士も死亡、身代金との交換要求も無かったものですんで、『BMCOS』の予備メックになった機体ですわ。自分で修理した機体ですからのう、間違いないですわ。」

「ああ、予想はついていた。今回敵に、エンフォーサーが3機も混じっていたんだ。エンフォーサーは恒星連邦ダヴィオン家特有のバトルメックだ。第3次継承権戦争の戦乱の間に流出したりドラコ連合に鹵獲されたりした機体が無いとは言えないが、あんなに状態が良好な機体が改造もされずにそのまま運用されているとなると、ごく最近……。たとえば「去年年末から今年初頭にかけて」奪われた物である可能性が高い。つまり、今回の敵には、俺たちの仇の一味が含まれていると断定しても良いだろう。

 ……敵に80tの強襲メック、ヴィクターが含まれていれば、ほぼ確実なんだがな。」

 

 ヴィクターは、キースたちの仇であるトマス・スターリングの乗機である。少なくとも、傭兵部隊『アルヘナ光輝隊』時代はそうであった記録が残されており、キースは親友ジョナス・バートンを通じてその記録を入手している。

 と、そのときザヴィエ公爵の声が響く。彼は惑星軍のケヴィン大尉待遇中尉から報告を受けていたところだった。

 

「なんじゃと!……そうか、アントナン中佐が逝ったか。」

「はっ!敵指揮官機と思しき80t級ヴィクターのオートキャノンの直撃を受け、中佐の搭乗したスコーピオン戦車は爆散いたしました。あれでは残念ながら助かる可能性は……。しかし、勇敢な最期であられました。自分はそれを最後に本部基地を脱出しましたため、機甲部隊の残りがどうなったかは見ておりません。しかししばらく敵の追撃が無かったところから、おそらくは死兵となり最後の戦車1輛、最後の1兵に至るまで抵抗を続けたものと……。」

「むう……。」

 

 ザヴィエ公爵は、瞑目して天を向き、唸る。キースは少しだけ待ち、話が終わったと見てから割り込んだ。

 

「デッカー大尉待遇中尉、ロックハート中尉。できるだけ詳細に、敵のメック部隊陣容を知りたい。俺たちの部隊による戦闘データ、目撃情報と合わせ、貴官らの情報も統合して敵バトルメックの構成に関する情報を構築したいのだ。お願いできるか?」

「はい、了解です。それと……。」

「それと?」

「自分たちはアントナン・カレ司令の最後の命令により、貴殿の指揮下にあるのです。お願い、ではなく命令してください。」

 

 ケヴィン中尉は、生真面目に言った。隣にいるレオナルド中尉も、それに頷きを返す。キースは首肯した。

 

「わかった。では貴官らに命令する。敵襲撃時から本部基地陥落までの経緯と、敵陣容に関する情報を、可能な限り早く報告書に纏めて提出せよ。合わせて貴官らのバトルメックの戦闘データも提出を命じる。惑星軍関係者の宿舎や執務場所についての手配は……。ヒューバート中尉、頼めるか?」

「了解です、キース大尉。」

「うむ。このヒューバート中尉に聞いてくれ。では即刻取り掛かる様に。」

「「「はっ!では失礼します!」」」

 

 ヒューバート中尉と、ケヴィン中尉、レオナルド中尉は、キースとザヴィエ公爵に敬礼してから、細々したことを話し合いながら指令室を出て行く。キースは答礼を崩すと、サイモン老に命じた。

 

「サイモン曹長、即刻全バトルメック及び気圏戦闘機の修理を開始せよ。惑星軍の物も含めて、だ。必要ならば、『SOTS』所有の予備部品を提供しても構わん。その場合、使った部品の明細だけは作っておくように。ただし最優先すべきは高高度偵察に使用可能な気圏戦闘機群の修復、次が指揮小隊のバトルメックの復旧だ。自慢するわけではないが、指揮小隊はうちの最大戦力にして切り札だからな。」

「了解しましたわい、隊長。では失礼します。」

 

 サイモン老とキースは、互いに敬礼を交わす。そしてサイモン老は年齢に見合わない敏捷さで、整備棟の方へと駆け出して行った。一通りの指示を出し終えて、キースはザヴィエ公爵に向き直る。

 

「公爵閣下、むさくるしいところで申し訳ありませんが、貴賓室をただ今用意させております。もっとも、しばらく高貴なお方をお迎えしたことが無いので掃除が必要なため、しばし時間をいただかねばなりませんが。とりあえずの仮のお部屋として、司令室を提供いたします。」

「いや、それはいかん。司令室を取られては、司令官たるお主が不自由するじゃろう。それは軍事的にもいかん。仮住まいと言うならば、もっと粗末な部屋でかまわぬ。なに、わしは若い頃はメック部隊を率い、野営なども多数経験があるからの。くそ不味いコーヒーや戦闘糧食もな。具体的なことは、わしが連れて来た執事長のアロン……アロン・グローヴァーと話をしてくれい。それまでわしは、ここ指令室で待っておるわい。」

「……了解しました。できるだけ早急に仮のお部屋を用意いたします。貴賓室もできるだけ早く使える様にいたします故、しばしのご辛抱を。」

「ああ、わかったわい。それとな、大尉。」

 

 ザヴィエ公爵は眉を顰めつつ言った。キースも顔を引き締める。

 

「ゼニス点ジャンプポイントにインベーダー級とスカウト級が出現した時点で、恒星連邦政府にわしの名前で援軍要請をした。返答は可、ただし戦力を集めるまでしばし現有戦力で持ちこたえよ、とのことじゃ。拙速よりは巧遅を選ぶようじゃの。悠長なことじゃ。で、可能か?」

「こちらには、敵には無い気圏戦闘機の支援があります。また基地の砲台、および間接砲の支援、最近敷設した地雷原なども考え合わせれば……。予想される援軍到着は、星系間の移動と集結に2~3週間、直後この惑星へのジャンプをしたと仮定して、ジャンプポイントから惑星ドリステラⅢまで4日……。1ヶ月弱ですか。可能、ですね。

 問題はそれを支える兵站です。弾薬や装甲板は、恒星連邦との契約により消耗分は支給されることになっていますので、予想される消耗分の3倍量がこの基地に備蓄されております。いちいちMRBの管理人に書類を提出して許可をもらわねば、書類上は恒星連邦政府の資産であるその備蓄を受け取ることもできないのですが、それでも充分な量の備蓄がなされております。

 ただ……。装甲や弾薬以外の部品が、我が傭兵部隊『SOTS』の備蓄分しかないために、少々心許ないのが難点です。籠城戦で損傷を負った場合、できるだけ早め早めに基地内に戻し、内部構造まで至る傷を負わない様にするしか無いでしょう。あとは……予備メックからの共食い整備ですか。ですが同一機種からのパーツ取りならばともかく、他機種からの移植となればこれは所詮応急修理なので、できれば避けたいところです。」

「問題はあるが、なんとか可能か。よし、とりあえずわしの名前を出して惑星中に触れ回るが良い。惑星公爵ここにあり、とな。わしが健在である以上、形だけではあっても奴らはこの惑星を制圧した、とは言えん。実際に奴らが押さえているのは、惑星軍本部基地と首都ドリステル、そして宇宙港ドリスポートだけじゃ。各地の小規模な惑星軍基地やレーダー施設、衛星管理施設などの軍事施設すべてには、いまだ手が回っておらん。本部基地に集結中であった戦車部隊も、集結先をここに変更させようぞ。それと本部基地以外に置いてあった軍需物資もかき集めさせるわい。」

 

 キースはついつい思った。

 

(なんかこの老人、生き生きしてきたよ。カイル船長やイングヴェ副長も、普段は初老の紳士だけど戦争になると生き生きするし。やっぱり元メック部隊司令官て肩書は、だてじゃないのかね。)

「どうしたかの?」

「いえ、即刻手配いたします。」

 

 キースは指令室のオペレーターに命じたり、電話をかけたり、様々な手配を始める。そんな中ふと、惑星軍本部基地への直通電話がキースの目にとまった。

 

(アントナン中佐……。あなたを殺した敵は、どうやら俺の仇であるようです。少しばかり待っててくださいね。奴は俺が地獄へと叩き落します。)

 

 おもむろにキースは、惑星軍本部基地への直通の電話機を、モジュラージャックから外す。今までかなり役立ってくれたこの電話機も、惑星軍本部基地を取り戻すまではお役御免だ。それどころか、敵との回線となり得るこれは謀略のタネにも使われかねない。敵との交渉を行わねばならない場合には、国家間の条約で決められた手続きに従えば良いだけの話だ。

 キースは直通電話機の本体とコードをまとめると発令所の司令官卓に丁寧に置き、直通回線の停止を命じた。




主人公、獅子奮迅の大活躍。そして「渋い脇役」アントナン中佐の裏での働き。本来は様々な掣肘を受けるはずの『SOTS』ですが、中佐のおかげで自由に動き、惑星軍に命令を下す事ができます。影の殊勲賞ですねー、アントナン中佐。
惜しい人を亡くしました。いえ、ストーリー上の都合で死なせたのは私ですが。


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『エピソード-025 戦闘準備』

 恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地の演習場の様子が、同基地の指令室スクリーンに映し出されている。スクリーンの中では、惑星軍のスコーピオン戦車1個中隊強14輛と、駐屯軍のマンティコア戦車4輛、ハンター戦車4輛、ヴァデット哨戒戦車4輛が模擬線をしていた。惑星軍の戦車は、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーの命により、惑星軍本部基地目指して移動中だった車輛群がここ駐屯軍基地に集結してきた物である。

 最初は腕前で圧倒的に劣るためにボロ負けしていた駐屯軍機甲部隊であったが、この頃は勝てはしないまでもそこそこ良い勝負をする様になっている。また惑星軍の方も、今まで1個分隊2輛に分かれて惑星各地へ分散配置させられていたため、当初は連携に多少乱れがあったが、今では解消されている。

 ちなみに現場では、バトルメック部隊偵察小隊の小隊長アーリン・デヴィッドソン中尉と、同副長リシャール・ジェレ少尉が各々の乗機であるフェニックスホークに乗り込み監督している。

 指令室のスクリーンに映る演習の映像を眺めながら、キースは何度目かになる手元の報告書の確認を行っていた。この報告書は、惑星軍のバトルメック部隊指揮官ケヴィン・デッカー大尉待遇中尉と、同隊副指揮官レオナルド・ロックハート中尉が提出してきた物である。

 

(まず敵の1個中隊が降下殻にて惑星軍本部基地敷地内へ強襲降下。その後すぐさま基地の砲台を無力化。集結していた戦車隊10輛とフェニックスホーク2機がアントナン・カレ中佐直接指揮のもと緊急出撃。同時に残ったバトルメック部隊と歩兵その他の兵員、一般職員などに基地の放棄を命令、脱出させる。

 アントナン中佐は残った戦力で時間稼ぎを試みるも、基地練兵場や演習場などの開けた敷地を確保されてしまう。そしてその場所へ敵のユニオン級降下船中2隻が降下。各々バトルメック戦力を放出。この時点で中佐はフェニックスホーク2機に、脱出を指示。戦車部隊で最初に強襲降下してきた部隊の指揮官機に集中砲火を加える。

 フェニックスホーク2機は戦車部隊の援護射撃により、脱出に成功。しかし中佐が乗り込んだスコーピオン戦車は、敵指揮官機と見ゆる80t級の強襲メック、ヴィクターの最大口径オートキャノンの直撃を受け、爆散。それ以降の戦闘経緯については不明だが、その後しばらく追撃部隊が追いついてこなかったことから、戦車部隊の生き残りが死兵となり、最後まで奮戦した物と思われる……。)

 

 もう1通の報告書を手に取ったキースは、それを捲る。

 

(惑星軍本部基地を襲撃した敵の概要は、以下の通り。

 80tヴィクター1、70tアーチャー2、60tオストソル1、60tオストロック1、60tドラゴン1、60tライフルマン3、55t標準型ウルバリーン2、55tK型ウルバリーン1、55t標準型シャドウホーク5、55tK型シャドウホーク4、55tグリフィン2、50tエンフォーサー3、45t標準型フェニックスホーク2、45tK型フェニックスホーク1、35tパンサー1、35tジェンナー1、20tK型ワスプ5。総数36機、1個大隊。

 なおこれとは別個に、1個小隊が独立部隊として活動している模様。その概要は以下の通り。

 45t標準型フェニックスホーク1、45tヴィンディケイター1、40tウィットワース1、35tオストスカウト1……。)

 

 目を指令室スクリーンに戻しつつ、キースは物思いにふける。

 

(ライトニング戦闘機3番機による高高度偵察の結果からすれば、軌道上でバトルメックを射出したユニオン級も惑星軍本部基地に降下したみたいだよな。本部基地に着陸しているユニオン級らしき船影は3隻になっていたし。あと、独立小隊っぽい1個小隊はあいかわらず首都ドリステルに居座ってるのが衛星写真から解析できたな。偵察兵のネイサン軍曹の首都への潜入活動の結果からも、それは裏付けられている。独立小隊は、首都ドリステルのあちこちに散らばって、市民たちを威圧してる、か。……虐殺なんぞやらなけりゃ良いけど。

 しかしネイサン軍曹によると、敵には歩兵戦力はわずかしか無い模様だな。ネイサン軍曹も潜入のために丁寧に変装してったけど、首都の警備はザルだったって報告してたもんなあ。いや、歩兵戦力がわずかだからこそ、虐殺なんかやる可能性が高くなったかも。見せしめの意味合いも込めて。……頼むから、デモ行進なんかやらんでくれよ、首都の人たち。相手はクリタ家の配下で、しかもサイモン爺さんが独立小隊のメック全部に見覚えがあるって言ってたからには、乗ってるのはまず間違いなく、『BMCOS』を襲撃した特殊部隊あがりの無法者同然のやつらだ。)

「キース大尉。」

「む?ああ、ヒューバート中尉。何か?」

「この基地の周辺に展開し警備を行ってくれていた惑星軍歩兵部隊より連絡です。ドラコ連合のスパイの疑いが濃い人間2名発見しましたが、逃走されたそうです。相手はスキマーを使用していました。」

 

 内心で溜息を吐きつつ、それを表には出さずにキースは言葉を紡ぐ。

 

「スキマーなんてものを与えられていると言う事は、そこそこ上位もしくは腕利きの人間と言う事か。逃がしたのは惜しかったな。」

「同感です。」

「そろそろ予定では、惑星軍の支部に集積されていた軍需物資の第5便が届くはずだな。地雷原を抜けるルートをスパイに見られたくはない。輸送隊が基地に入る間、我が方の歩兵部隊と惑星軍歩兵部隊には警戒を密にしてもらおう。」

「了解、その様に伝えます。ところで……。」

 

 ここでヒューバート中尉が、キースの意見を求めた。

 

「ところで、敵は今頃何をやってるんでしょうね。俺としては即刻攻め寄せてくるかと思っていたんですが。」

「大方指揮小隊にやられた損傷機の修理に、かかりっきりになっているんだろう。以前にこの惑星に攻め寄せたハリー・ヤマシタに関する記録は読んだな?奴らはハリー・ヤマシタよりも慎重だと俺は感じている。修理が完了次第、戦力を分散させたりせずに、全戦力をもってここに攻め寄せて来るつもりだろうな。俺の読みでは、今首都を押さえている独立小隊すらも、その際にはこちらに投入してくるだろう。」

「激戦になりそうですね。」

 

 キースはにやりと笑う。

 

「だが、そうなればその時こそ、首都を解放するチャンスとも言える。惑星軍の歩兵戦力を、少しづつ小出しにして基地の外へ出し、首都周辺に伏兵させておきたい。首都からバトルメック戦力が無くなったときに、惑星軍自身の手で首都を解放してもらうんだ。そうなれば彼らの面目も立つ。」

「惑星軍本部基地はどうします?」

「あそこにはユニオン級が3隻も鎮座しているからなあ……。練兵場に1隻、演習場に2隻。……気圏戦闘機用に搭載する爆撃用の爆弾は、確か何セットかあるな。ふむ……。奴らが着陸している地点は、専用の離着床ではない、ただの地面だ。しかも地盤強化されているわけでもなかったな。横着しているのか、基地施設を使用したいがためか、宇宙港ドリスポートにユニオン級を移動させていない。バトルメックの整備はユニオン級でやっているらしく、衛星写真ではユニオン級に出入りするメックが確認できる……。」

 

 キースはしばし考えに沈む。そこへ轟音が響いて来た。オペレーターが、指令室のスクリーンを基地付属宇宙港の映像に切り替える。そこには、酷く傷ついたレパード級降下船が垂直着陸している様子が映っていた。

 

「あれが例の不時着したレパード級降下船、ハルナ号か。」

「既に元々の乗員は全て捕虜にして、捕虜収容施設にて収監しています。1名ずつ順番に尋問をしているところです。ジェレミー・ゲイル伍長の手により応急修理され、ヴァリアント号のイングヴェ副長によりこの基地に回航されました。」

「確か敵司令官がトマス・スターリング少佐であることや、部隊内には新旧の部隊員間に亀裂があり、旧来の隊員は新規の隊員およびスターリング少佐に対し隔意があることなどがわかったんだったな。と言うかそのことは、ハリー・ヤマシタの部下から尋問の結果得ていた情報の裏付けになった、と言うだけなんだが。

 しかし……。その亀裂に付け込みたくはあるが、どうしたものか。奴らが勝つ見込みが高い間は、おそらく亀裂は表面化すまい。」

 

 その台詞を聞いたヒューバート中尉は、一瞬吹き出しそうになる。キースは怪訝な顔をするが、自分の上官と言う立場を思い出し、叱責する。

 

「ヒューバート中尉。笑うとは何事だ。」

「し、失礼しました大尉。しかし大尉……。ご自分のなされたことを過小評価するのは、申し訳ありませんが不味い傾向だと小官は愚考するものであります。」

「俺が?」

 

 ヒューバート中尉は、キースに対し自分の考えを述べた。

 

「はい。大尉はわずか1個小隊を率い、2個中隊の敵バトルメック戦力を翻弄して大被害を与え、惑星軍バトルメック部隊を無傷に近い状態で救出しただけではなく、ご自分もその後偵察小隊の支援を受けたとは言え、見事に脱出を果されています。これだけ鮮やかな戦果を得ているのです。敵は屈辱的な大敗北を喫したと考えていてもおかしくはありません。

 で、あるならば……。おそらく敵の旧来の隊員の、新規の隊員およびスターリング少佐に対する不信感は、決定的な物になっているのではないでしょうか。この大被害を招いた追撃命令を出したのは、間違いなくスターリング少佐なのですから。」

 

 キースは目を丸くする。よくよく考えれば、その通りなのである。彼は呟く様に言った。

 

「なるほど……。納得行った。

 となると、スターリング少佐にはこれ以上迂闊な敗北、あるいは苦戦すらも許されないわけだな。しかも後ろ暗い謀略によらずして、真正面からの華々しい戦果を必要とする。であるならば、先ほどの推測に自信が持てると言う物だ。奴はかならず最大戦力をもって全力で攻撃を仕掛けてくる。しかも自分自身が出陣するのは間違いが無い。……ならば、奴の軍勢をせいぜい引っかき回してやるとしよう。奴の軍勢の不和を助長する意味でも。」

「天の時、地の利、人の和のうち、スターリング少佐には地の利も人の和も欠けています。いや、時間を稼げば援軍が来るという状況である以上、天の時すらも我々の味方でしょう。」

「確かに!」

 

 キースとヒューバート中尉は、にやりと笑い合った。

 

 

 

 司令室で、キースは書類仕事に精を出していた。惑星軍の輸送部隊が持ち込んだ軍需物資のうち、惑星軍のフェニックスホーク2機の修理に『SOTS』の備蓄から一時出してやった部品などを返してもらうための書類や、惑星軍機甲部隊と駐屯軍機甲部隊の戦車同士の模擬線に関する書類、まだまだ他にも沢山の書類があったのだ。アーリン中尉とヒューバート中尉もこの部屋で、各々が可能な書類の決裁に忙しく働いている。

 と、その時ドアをノックする音が響く。

 

「エリオット・グラハム少尉とアイラ・ジェンキンス伍長、入ります。」

「入室を許可する。入りたまえ。」

「「失礼します。」」

 

 駐屯軍の歩兵を統括するエリオット少尉と、偵察兵であるアイラ伍長だった。キースはいきなり2人に詫びる。

 

「すまなかったな、2人には嫌な仕事を任せてしまって。」

「はい!いいえ、ご命令とあらばこの程度のこと。」

「いえ、とんでもありません、大尉」

「では報告を聞こう。アーリン中尉、ヒューバート中尉も聞いてくれ。」

 

 エリオット少尉が、アイラ伍長を視線で促す。アイラ伍長も頷いて話し始めた。

 

「やはり惑星軍の歩兵部隊と一般職員の中に各々1名と2名、計3名のスパイが紛れ込んでいました。惑星軍の輸送部隊にはスパイはいないか、未だスリーパー状態であると思われます。一般職員のスパイは1人は外部に連絡を取ろうとしたところを押さえ、捕らえてあります。もう1人は、まだ泳がせていますが……。」

「歩兵部隊のスパイは、昼間スピーダーに乗ったスパイを血気にはやって銃撃したと見せかけてわざと外し、逃がした者です。おそらくは下っ端であると思われますが……。捕縛しようとしたところ、隠し持っていた銃で抵抗したので、やむなく射殺しました。」

 

 アーリン中尉が眉を顰める。ヒューバート中尉も苛立たしげだったが、溜息を一つ吐いて落ち着く。

 

「本当に潰しても潰しても湧いてくるわね。台所の黒い害虫みたいに。」

「……だがこの基地は、かなりクリーンに保たれているな。サイモン曹長が陣頭指揮を取って、定期的に盗聴器の掃除をしているし、エリオット少尉が表から、アイラ伍長が裏から監査してくれるおかげで致命的なことになる前に発見できてる。」

「……一般職員のスパイの1人は、まだ泳がせているんだな?」

 

 キースは人の悪い笑みを浮かべた。アイラ伍長は頷く。

 

「はい。泳がせて、接触先を調べようと……。何かお考えですか?」

「いや、よくある手だ。アーリン中尉、ちょっとパメラ伍長を呼んでくれ。掛け捨て保険の様な悪巧みをする。いや、保険と言うよりは宝くじかもな。当たったら美味しいし、外れても痛くない程度の。」

 

 そう、確かに良くある手だった。

 

 

 

 キースは駐屯軍基地の電算室に来ていた。指令室から主コンピュータにアクセスしても良かったのだが、キースの考えた策の1つはあくまでまだ素案でしか無かったので、それが可能かどうかをこっそり確かめるためにここにやって来たのである。ちなみにここにはサイモン老および、キースの部隊でコンピュータの第一人者と言ったらこの人と言うパメラ伍長が一緒に来ている。

 

「サイモン曹長、ユニオン級、爆装時のトランスグレッサー戦闘機及びライトニング戦闘機の諸元は入力したな?」

「はい隊長、完了しとりますわい。」

「ではパメラ伍長、シミュレーションを頼む。」

「了解!」

 

 3人は小さな画面を覗き込む。キースの眉が顰められた。サイモン老もよくわからない顔をしている。キースはパメラ伍長に質問した。

 

「パメラ伍長……。数字だらけでグラフィックが無いので、良くわからんのだが。」

「わしもコンピュータのハードはともかく、ソフトは専門外ですしのう……。」

「ああ、この数字がトランスグレッサー戦闘機1番機の精密射爆の精度、こちらが同2番機のデータです。で、これがライトニング戦闘機4番機の同じデータなんですが……。こちらが爆発力のエネルギー量で、こっちが爆発によるクレーターの直径と深さですね。」

 

 キースは頭の中で素早く計算する。

 

「……なんとなくわかった。つまりは75tのトランスグレッサー戦闘機ならなんとかなるが、50tのライトニング戦闘機では爆弾の搭載量の面から難しい、と言う事だな。2隻か……。1隻残るな。ライトニング戦闘機を2機投入するか?いや、それでは基地防衛に不安が残る。この案はボツか……?まあ、元々保険程度のつもりだったしな。保険に貴重な気圏戦闘機を使うことも無いか?」

「成功しさえすれば、敵戦力の漸減になるんですけどね。敵の士気も下がるでしょうし。」

「わしにはこの画面上の数字が理解できんですけどのう、ライトニング戦闘機を2機投入したとして、その代替戦力を用意できれば良いのではないですかの?」

 

 サイモン老の台詞に、キースは眉を顰めて言った。

 

「何処からその代替戦力を持ってくるかも問題だよ。」

「隊長は惑星軍バトルメック部隊は出さないおつもりだったんですな?」

 

 キースは頷く。

 

「フェニックスホークの2人には出てもらうつもりではいた。だが他の奴らはまだ13~14歳が大半だ。あまり矢面に立たせたくは無い。まあマッキー改の2人は一応16歳だが……。なんとか出せるとしたら、そのマッキー改の2人だろう。腕前も、新前の中ではまだ若干かろうじて微妙なところだが良い方だ。もしかしたら射撃でまぐれ当たりが出るやも知れない。

 後は……敵を威圧の意味で、後ろに突っ立たせておくだけのつもりでサイクロプス改が2機とライフルマン1機、かな。サイクロプス改ならば耐久力的に少しは安心だ。もし格闘に持ち込めれば戦力にすらなるやも知れん。ライフルマンも、当たらずとも射撃しまくれば、少しは誤魔化せるかもな。

 ただし残りは絶対に駄目だ。乗機がローカスト、スティンガー、ワスプでは死なせる様な物でしかない。今回の敵は、緊急脱出したからと言って見逃してくれるかどうかもわからん敵が混じっている。」

「ローカストは1機、ワスプも1機、スティンガーが5機の計7機、7名が完全に戦力外と言うことですな?」

「ああ。」

 

 サイモン老の問いかけに、頷くキース。彼には20t級メックに乗った子供を、弾除けに使うつもりは無かった。甘いかも知れないが、それで死なれるよりはましだと彼は考えていた。だがサイモン老は渋い顔をする。

 

「隊長……坊ちゃん。あの子供たちと、ちゃんと話したことありますかの?」

「……いや。話をしてみようと思ったことはあるんだが……。何か俺は怖がられているみたいでな。緊張のあまり、相手が硬直してしまうんだ。特にローカストのデクスター・ドハーティ伍長。だから話ができていない。」

 

 キースは、サイモン老があえて「坊ちゃん」という言葉を使ったのに気付いた。おそらく理屈ではなく、情の面での話なのだろう。情は、時と場合によっては無視しなければならない時もある。特に軍事などの面で、そう言った場面が顕著に表れることが多い。

 だがしかし、常にそれを無視できると言う物でもない。第一、人間は感情の生き物なのだ。情と言う物が実際に存在している以上、計算する事が困難だからと言って計算から排除してしまえば、必ず計算結果は狂ってくる物だ。

 サイモン老はにっこりと笑って言った。

 

「坊ちゃん、ちょいと物陰に隠れて、わしとあの子供らの話を聞いてみてくれませんかの?それと、ちょいとお耳を拝借。」

 

 キースはサイモン老から耳打ちされた言葉に、一瞬眉根を顰める。だが、とりあえずサイモン老の言う通り、物陰から話を聞いてみることにした。

 

 

 

 とは言っても、キースは身長2mを軽く超える巨体である。隠れる場所には非常に苦労した。結局彼は、自分の予備機であるグリフィンの操縦席に座り、サイモン曹長が持った隠しマイクから彼らの話を聞くことにする。

 やがて演習場で行われていた実機訓練から、惑星軍の12機のバトルメックが戻って来る。なお惑星軍で唯一戦力になると評された2機のフェニックスホークは、偵察小隊の3機のフェニックスホークと共に整備を受けているため、この棟には戻って来ない。いや、もっと正確に言えば、この棟には今現在乗り手がいなかったり壊れていたりする『SOTS』の予備機と共に、「戦力には成り得ない」と思われた惑星軍の若年メック戦士たちの機体が置かれていたのだ。当然こちらの棟に回される整備兵は少ない。

 12機のメックから、年若い……と言うよりも幼いと言った方が良い少年少女が降りて来る。マッキー改から降りて来た多少は年長の少年と少女が、年少の仲間達を励ました。キースは頭の中の名簿を手繰る。たしか少年がハビエル・アベラルド伍長、少女がワンダ・フェヒト伍長のはずだ。

 

『なにを落ち込んでるんだよ!落ち込んでる暇なんてないのはわかってるだろう?』

『そうよ。この駐屯軍の基地は、いつ奴らに襲われてもおかしくないんだから。元気だしなさい!射撃がぜんぜん当たらなかったぐらいで、何よ!』

『『『『『『……はい、先輩。』』』』』』

 

 だがその返事には、全然元気が無かった。そこへサイモン老が大きなポリ袋いっぱいに入った缶ジュースを持って近づく。

 

『よう、新任伍長ども。今日も頑張ったみたいだのう。ほれ、差し入れだわ。』

『あっ!せ、整備分隊長!け、敬礼!』

『『『『『『はい!』』』』』』

『あー、楽にしろや。ほれ、好きな銘柄のジュースを持ってけ。』

『『『『『『ありがとうございます!』』』』』』

 

 サイモン老はにこやかに笑いながら、PXから買ってきた缶ジュースを渡していく。キースは黙ってその様子を、グリフィンの操縦席から窺っていた。

 

『んで、話が聞こえちまったんだがのう。射撃が当たらないって?』

『あ……。はい。』

『わしは長いこと数多くのメック戦士を見て来たがの。乗り始めのころは、誰でも同じ様なもんだわい。落ち込むことなんぞないわ。』

『……でも!今、今上手くならないと!そうでないと駄目なんです!』

 

 今叫んだのは、ローカストのメック戦士デクスター・ドハーティ伍長だ。キースは意外に思う。彼はキースの前ではガチガチに固まってしまうため、てっきり気が小さいのだとばかり思っていたのだ。この様に叫ぶところなど、考えてもみなかった。

 

『そうでないと、中佐の仇を……。取れないん、です。』

『ふむ。』

『僕は……。メック戦士の家系の3男で、バトルメックを継ぐことなんてできないと思ってました。でも突然ローカストに乗れって言われて、有頂天になったんです。そして、メック戦士でない人たちを馬鹿にしてたと、思います。アントナン中佐も、メック戦士の家系に生まれながら、適性がなくてメック戦士になれなかったって聞いて……。表面上では敬ってたけど、心のどこかで馬鹿にしてたと、そう思います。

 でも、あのとき空からバトルメックの群れが降ってきた時に……。中佐が僕らを逃がしてくれて、自分はローカストよりも非力な戦車でバトルメックに立ち向かったんです。ロックハート中尉から聞かされました。勇敢な最期だったって……。僕は恥ずかしかったです。自分の実力じゃなしに、単に運でメック戦士になれたからって、こんな逃げるしかできなかった僕が、あんな戦車で、だから……。』

 

 段々と、デクスター伍長の語調と呂律がおかしくなってきた。どうやら半分泣いているらしい。サイモン老が持っている隠しマイクにも、子供らの泣き声の様な物が入り始める。

 

『だがら、ぼぐは……中佐のかだぎを……。う、うう……。』

 

 キースは理解した。このまま彼らを戦いから隔離しておけば、命はおそらくきっと無事だろう。だがその後も彼らは、まともに人生を送ることができるのだろうか。答えは否だ。何らかの形で戦いに貢献させてやらねば、彼らの心は救われないだろう。命だけ無事でも、それでは無意味とまでは言わないが、残酷すぎる。キースの耳に、サイモン老の耳打ちの内容が蘇る。

 

(坊ちゃんの予備グリフィンは完動状態ですし、ウルバリーンは修理完了した所で予算がなくなったので、予備部品こそありませんが完動状態ですわ。あと、アンドリュー軍曹機用に確保しとった予備部品を使い果たす覚悟になれば、ライフルマン2機も復帰できますのう。これで4機。

 あとは損傷機の通常型フェニックスホークからパーツ取りすれば、その機体はほとんどエンジンやジャイロと言った中枢部と骨組だけになりますがの、3機のD型フェニックスホークが修復できますわ。スティンガーやワスプに慣れてるやつらには、放熱能力の高いD型の方が良いですわ。これで合計7機。ちょうど坊ちゃんが言ってた、戦力外の数にぴったりですわい。)

 

 グリフィンの操縦席を開き、キースはタラップに出た。そして3段飛ばしで階段を駆け下り、整備棟の床に降り立つ。

 

「来ましたな、坊……隊長。」

「たいちょ、う?あ、た、大尉!?」

「け、敬礼っ!」

「「「「「「は、はいっ!」」」」」」

 

 キースはすかさず言葉を発する。

 

「休めっ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」

「貴様ら、何をしょぼくれた顔をしている!そんなことで大恩あるアントナン・カレ中佐の死に報いることができると思っているのかっ!!」

「「「「「「!!」」」」」」

 

 あえて挑発的になる様に、キースは言葉を選ぶ。まあ、彼の本意ではなかったが。

 

「そんなことでは、お前たちに未来を託して死んだ中佐は、無駄死にだったと言う事だな!中佐も草葉の陰で、涙にくれているだろうよ!……なんだ?その顔は。」

「無駄死にでは……。」

「聞こえん!もっと大きな声で!」

「無駄死にでは、ありません!!」

 

 叫んだのは、デクスター伍長だった。キースの前では硬直してろくに喋ることもできなかった子供が、だ。

 

「言ったな!ならばそれを証明して見せろ!他の者も似た様な顔だな!同じ意見か!?」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

「よし!ハビエル・アベラルド伍長!ワンダ・フェヒト伍長!クリスティーナ・ヴェーリン伍長!ロベルト・サンチェス伍長!ジャスパー・カートライト伍長!テオドール・アイヒベルガー伍長!イルヴァ・リンドホルム伍長!ヴィルジール・シャブリエ伍長!マックス・フェアフィールド伍長!ベネディクトゥス・ブライテンバッハ伍長!アリス・ジョアンヴィル伍長!そしてデクスター・ドハーティ伍長!」

「あ……。」

「ぜ、全員の名前を……知って……。」

 

 更にキースは、被せる様に言った。もちろん大声でだ。

 

「中佐の死を無駄死ににしないために、今何がお前たちに必要だ!?」

「え?」

「あ、ええと。」

「わからんか!ならば言ってやる!お前たちに足りない物は数多くあるが、その中でも今この時に必要な物、それは「力」だ!生き延びるための「力」が致命的に足りていない!中佐はお前たちを生き延びさせるためにその命を擲った!そのお前たちが簡単に死んでしまっては、中佐の死に報いるどころかそれを穢すことになる!わかるか!」

「「「「「「はい!」」」」」」

「声が小さい!聞こえん!」

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 全員が必死で叫んだ。絶叫と言っても良いくらいだ。おもむろに低い声でキースは語る。

 

「よし、ならば俺がお前たちに「力」をくれてやろう。ただし俺のしごきは並ではないぞ?」

「「「「「「はい!!」」」」」」

「時間も残りわずかだ。敵の来襲までは、そう時間は無い。だから中佐の御霊の手前、殺しはしないが死ぬ一歩手前まで絞ってやる。わかるな?」

「「「「「「はい!!」」」」」」

「総員、整列!本部棟バトルメックシミュレーター室へ向け、駆け足!……進め!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 キースは心の中で独り言ちる。

 

(レオ・ファーニバル……「狂い獅子」のレオ仕込みの教導法、ためさせてもらうとしましょうかね。まあ、壊れなきゃ並の新兵……。ゲーム的に言うと、射撃目標値6、操縦目標値6ぐらいまでは行ける、かな?行けるといいなあ。)

「隊長。」

「サイモン曹長。バトルメックの方は、サイモン曹長が言っていた方針で頼む。俺は子供たちを短時間でできるだけ使えるようにしてみる。アーリン中尉とヒューバート中尉には、申し訳ないが急を要する書類はシミュレーター室まで届けてくれる様に伝えてくれ。」

「了解ですわい、隊長。」

 

 キースはシミュレーター室まで走り出す。サイモン老は、それを優しい笑顔で見つめていた。




またアントナン中佐の影響が、ここにも出て来ました。若い、というより幼い少年少女メック戦士たちの心に、壮絶な傷と共に壮烈な勇敢さの印象を植え付けていましたねー。
それと主人公の悪癖です。相手を過小評価しないのはいいのですが、自分自身を過小に評価する癖があります。困ったもんです。


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『エピソード-026 いざ鎌倉』

 今日は3025年11月1日である。トマス・スターリング率いるドラコ連合第4アン・ティン軍団C大隊が惑星に降下してきてから、3日目であった。キースはドアの影で他から見えない様に栄養ドリンクの瓶をぐいっと呷ってから、駐屯軍基地本部棟のシミュレーター室に入って行く。そこでは13~16歳の子供たちが必死に仮想空間の中で、バトルメックの機体を操っていた。

 彼らがこの特訓を始めてから、2日が過ぎている。キースが仕事でいない間の監督を頼んだアンドリュー軍曹、エリーザ軍曹、ヴィルフリート軍曹、ヴェラ伍長が、教官卓から各シミュレーターに繋がる通信機にがなっていた。

 

「馬鹿野郎!ライフルマンの機体でいっぺんに両手の大口径レーザーを撃つな!ライフルマンの両手に大口径レーザーが付いているのは、いっぺんに撃つためじゃねえ!

 機体を捻ることと合わせて、機体の向き自体を変えなくとも広い範囲をその正面から側面の射界に収めて、最悪の場合でもオートキャノン1門と大口径レーザー1門をどの敵にも撃てるようにするためだ!両手の大口径レーザーをいちどに撃つのは、本当に最後の最後の手段だ!」

「全員の連携を考えなさい!ライフルマン3機とグリフィンを後ろに置いて、装甲の分厚いマッキー改とサイクロプス改で前線を構築、ウルバリーンとD型フェニックスホークは遊撃と言う様に、機体の特性を考えて動きなさい!」

「ああ、もう!何度言ったらわかるんです!D型が多少放熱性能が高いからって、長距離ジャンプして全開射撃しちゃ駄目です!熱が溜まってマイアマーがダレて、機体の機動力が落ちます!

 D型も通常型も、フェニックスホークの命は機動力です!貴方たちの腕前じゃあジャンプ直後には絶対に当たらないんですから、いっそのことジャンプする羽目になったら撃つのやめなさい!

 ウルバリーンは装甲の薄いD型フェニックスホークをかばう様に動いて!ウルバリーンは熱が溜まりにくい機体だから、逆にどんな場合でも当たり目があると思ったらがんがん撃っていきなさい!」

「グリフィンは熱が溜まり易い!だからいっぺんに全武器発射は控えろ!ただし味方が危地にある時はそうも言っていられん!その時は迷わず全武器を発射する臨機応変さも身につけろ!」

 

 エリーザ軍曹が全体的な指摘を、その他の面々が自分の乗機や良く知っている機体についてのアドバイスを受け持っている様だ。ちなみに子供たちは、ライフルマンのうち1機、サイクロプス改、マッキー改までは自分の本来の乗機だが、その他の子供たちは『SOTS』から貸し出される予定の機体を操って訓練している。キースは声を掛けた。

 

「やっている様だな。」

「あ、隊長。いや、しんどいわコレ。こいつら基本的な常識から叩き込まないと、ライフルマン乗りっつーか、支援機乗りとして役に立たねー。それでも多少はマシになって来た、かな?」

「隊長、ご苦労さま。全体的な連携はまだまだだけど、指揮には従って動ける様にはなってきたから、きちんと命令してやれば大丈夫ね。」

「た、大尉。ご苦労様です。この子たち、まだときどきフルにジャンプして全力で射撃する癖が抜けていません。出撃までには矯正しないと、と思ってウルバリーン以外のD型フェニックスホークを宛がわれる予定の子たちが全力ジャンプ後に全開で撃ったら、連帯責任で全員腕立て伏せ100回やらせてますけど……。」

「大尉。グリフィン乗りの小僧は、多少マシになってきました。ただ同じくジャンプ後に全開で撃つ悪い癖がついております。同じく100回の腕立て伏せで制裁を加えていますが……。」

 

 臨時教官たちの報告に、キースは難しい顔になる。ふと教官卓に表示されている画像を見ると、仮想空間でキックを外して転倒するマッキー改の姿があった。彼は各シミュレーター筐体への有線通信をオンにすると、全員に繋ぐ。

 

「シミュレーション一時停止!全員、傾聴!!いいか、お前たちの腕前ではキックを外したときの転倒が怖い!接近しての格闘時には、できるだけパンチ2発を使え!ただし相手の脚部装甲がダメージを受けているとき、両手装備の火器を使用したいときなど、どうしてもキックを使いたい時もある!そうした時のために、キックを外した際の機体バランスを保つコツを1つ教えてやろう!

 いいか、キックを外したり、相手から逆にキックを受けたりしたときは機体のバランスが崩れる!そうした時は、思い切っていったん操縦桿から手を放せ!そして自分の身体を可能なかぎり真っ直ぐに立てようとするんだ!そうすれば神経反応ヘルメットが働いて、自律的にバトルメックの機体を真っ直ぐに立て直してくれる!

 ただし、あくまでコレは初心者向けの話だと言う事を忘れるなよ!今はお前らは時間的に間に合わんからこの方法を勧めるが、将来的には操縦桿を小刻みに動かすことで機体バランスを保てる様になれ!……返事はどうした!!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

「ようし……。それと1つ話しておくことがある。いくら憎い敵でも、脱出した者や降伏した者を殺すなよ。もし敵が無法を働いたとしても、だ。

 仮に敵が無法を働いたとしても、お前たちが同じような人間になってしまっては、命を捨ててお前たちを救ってくださった中佐殿が無念に思うだろう。自分たちはそんな無法者を救うために命を捨てたのではない、とな。わかったか!わかったら返事をしろ!!」

『『『『『『……了解!!』』』』』』

「ようし、シミュレーション再開!」

 

 臨時の教官達が、ほう、と息を吐く。そんな彼らに、キースはおもむろに問う。

 

「単純な技量自体は多少上がってきている様に見えるが、どうだ?」

「そうね。あたしの目から見てですけど、初心者としては良いんじゃないですか?」

 

 エリーザ軍曹が一同を代表して答えた。キースは頷く。

 

「そうか……。だがそろそろ時間切れかもしれん。最新の衛星写真で、首都の各地に点在して配備されていた独立小隊が集結し、占領された惑星軍本部基地に移動中なのが確認された。ここを総攻撃する前兆と見るべきだろう。」

「「「「!!」」」」

「子供たちの乗る機体は、サイモン曹長の話では完璧に仕上がっているそうだ。適当なところで切り上げて休ませてやれ。それとお前たちも休憩を取っておくんだ。栄養ドリンクを持ってきたから、お前たちからと言う事にして渡してやれ。お前たちの分もあるからな。」

 

 アンドリュー軍曹は、にやりと笑って言う。

 

「俺のライフルマンの予備部品を回してやるんだから、活躍してもらわねーとな。」

「そうだな……。奴ら自身のためにも。」

 

 キースもにやりと笑って応えた。

 

 

 

 子供たちをひとしきり絞った後、色々な雑用を済ませたキースが指令室に戻って来ると、そこは喧噪に包まれていた。キースはそれに負けない大声を出す。

 

「報告を!ヒューバート中尉!」

「衛星写真の解析結果ですが、つい先ほど惑星軍本部基地の前に整列したバトルメック群を確認しました!」

「よし、トランスグレッサー戦闘機1番機と2番機、ライトニング戦闘機3番機と4番機の爆装、発進準備は整っているな?発進を急がせろ。首都近郊に伏兵させた惑星軍歩兵部隊はどうか?アーリン中尉!」

「準備は整っています!発見されていません!」

 

 ヒューバート中尉とアーリン中尉に頷きを返すと、キースはパメラ伍長とアイラ伍長、エリオット少尉に通信を入れる。

 

「パメラ伍長、コンピュータのデータバンクはどうか?」

『はい、例の地雷配置図情報にアクセスした形跡が、しっかり残っています。足跡を消したつもりなんでしょうが、裏ログにしっかり残存してますね。』

「そうか、ご苦労。アイラ伍長、例の一般職員スパイは?」

『先頃外部に向けて、圧縮データ通信を送信しました。それを傍受して解凍してみたところ、ばっちりです。用済みですし、拘束しますか?』

「戦闘開始と共に、やってくれ。エリオット少尉、駐屯軍歩兵部隊は重要区域の警備に就けたな?万一スリーパー状態のスパイが残っていて、破壊工作を行うとやばい。」

『はっ!ご指示の通りに、特に弾薬庫や動力区画の警備を重点的にしております!』

 

 その時、指令室のドアが開き、惑星公爵ザヴィエ・カルノーが入室してくる。キースは敬礼を送った。ザヴィエ公爵は、手を上げてそれに応える。

 

「大尉、忙しいところ、すまんのう。」

「はい、いいえ大丈夫です。しかして突然のご来訪、何かまずいことでもありましたでしょうか?」

「いや、そうではないわい。戦闘中、わしがここにいても良いかの?いや、大尉の指揮に口を挟むことはせん。惑星軍への指揮権も、全面的に委譲しておるしの。ただ……。自分の目で、見届けたいだけなのじゃよ。」

 

 キースは一瞬考えるが、すぐに首肯する。

 

「ではその間、この発令所司令席でご観戦ください。ここからならば、全ての情報が一目瞭然です。自分はバトルメックで出撃いたしますので、ご遠慮なさる必要はございません。」

「うむ。感謝するぞ、大尉。」

「はっ!」

 

 そしてキースは軍服の襟元を緩めつつ放送設備に移動し、スイッチを入れて言葉を発する。

 

「駐屯軍、惑星軍全メック戦士及び航空兵、戦車兵は自身に割り当てられた機体に搭乗準備!発進に備えよ!繰り返す、駐屯軍、惑星軍全メック戦士及び航空兵、戦車兵は自身に割り当てられた機体に搭乗準備!発進に備えよ!」

 

 キースは自身の上着をはだけながら、周囲のオペレーターたちに言い放った。

 

「あとの指示は、俺のマローダーから行う!俺たちは格納庫へ行くから、マローダーとの間に回線を空けておけ!行くぞアーリン中尉!ヒューバート中尉!」

 

 キースは格納庫へ向けて疾走する。その後を、アーリン中尉とヒューバート中尉が追った。

 

 

 

 マローダーの通信装置に、推進剤をほとんど消費しない低速巡航で上空待機しているライトニング戦闘機1番機と2番機からの報告が入る。

 

『こちらライトニング戦闘機1番機マイク少尉。隊長、北方に多数の機影を確認。招いてないお客さんがやって来た様っす。』

『ライトニング戦闘機2番機ジョアナ少尉です。敵機の数は……40機。隊長の予想通り、分進合撃とかしないで一塊になって来ました。』

「ご苦労、マイク少尉、ジョアナ少尉。スナイパー間接砲サイモン曹長、およびフォートレス級降下船、ロングトムⅢ間接砲ボールドウィン伍長、準備はどうか?」

『こちらは万全ですわい、隊長。基地周辺の風力もあらかじめ調査済みですからの。撃ち込むポイントを指示してくれるだけで、いつでも完璧ですわ。』

『はい、大尉。こちらも準備完了です。あらかじめ照準を完了している地点に砲弾を送り込むだけですので、自分の未熟な腕でも誤射はありません。』

 

 サイモン老と、ボールドウィン・アクロイド伍長が自信満々に請け負う。更にキースは、基地に2基ある砲台にも通信を送る。そこの指揮官代理はネイサン軍曹と、ジェレミー・ゲイル伍長だ。

 

「A砲台指揮官代理ネイサン軍曹、B砲台指揮官代理ジェレミー伍長、今回はそちらの射程に敵機が入ることは滅多にないと思うが、その際は頼んだぞ。」

『こちらネイサン軍曹。隊長、任せてください。』

『ジェレミー伍長です。隊長、お任せください。』

 

 ここでキースのマローダーに、秘匿通信が2本入った。発信元を確かめてみると、エリオット少尉とアイラ伍長だ。キースは双方に向けて回線を開く。

 

「アイラ伍長、ちょうどエリオット少尉と通信が重なったんだ。少し待っていてくれ。エリオット少尉、どうした?」

『はっ!キース大尉、ご報告します!やはり敵スパイのスリーパーがいたと見えて、破壊工作のために弾薬庫と動力区画、それに本部棟を狙ってまいりました。ですが何れも阻止、工作員は全員射殺いたしました。』

「ご苦労、エリオット少尉。だが、まだ警戒は続けておいてくれ。待たせたな、アイラ伍長。」

『はい、いいえそれ程でもありません。例の一般職員に成りすました敵スパイですが、敵の攻撃がはじまりそうなので、そわそわしています。攻撃前に、なんとか脱出したいと考えているのでしょう。少し予定を早めて拘束しますか?』

「……いや、できれば捕縛したいが逃げられてもそこまで惜しくは無い。そいつが送った情報の信ぴょう性の方が大事だからな。敵が罠にかかるか、罠が見破られていることが明らかになるまで様子を見ていてくれ。」

『了解です。』

 

 秘匿通信を終えたキースは、惑星軍と駐屯軍の機甲部隊に通信を繋ぐ。

 

「惑星軍ジョニー・カートライト大尉待遇中尉、貴官の部隊スコーピオン戦車14輛は、惑星軍の新人メック戦士たち12名の支援を中心に行ってくれ。ただし遠距離支援にとどめ、絶対に前に出ない様に。」

『了解です。アントナン・カレ司令が命を捨ててまでして逃がした雛鳥たちですからな。しっかり支援してみせますとも。』

「本当に前に出るなよ?駐屯軍イスマエル少尉待遇軍曹、ベンジャミン少尉待遇軍曹、レオポルト少尉待遇軍曹、貴様たちの部隊の戦車は俺たち駐屯軍メック部隊の支援だ。背中は任せたぞ。」

『了解。お任せあれ、大尉。』

『了解です、大尉。ハンター戦車の主武装は長距離ミサイル発射筒ですからな。かなり後ろからでも届きますよ。』

『了解、大尉。まだ雛どもの腕前には不安が残りますが、なんとかやらせてみます。』

 

 機甲部隊の戦車は、そこそこ頼りになりそうだと見て取ったキースは、指令室との回線を開いた。

 

「指令室、こちらキース・ハワード大尉。ライトニング戦闘機3番機と4番機、トランスグレッサー戦闘機1番機と2番機の様子はどうだ?」

『まだ報告ありません。いえ、今入電中です。回線をそちらにお回しします。』

『……こちらライトニング戦闘機3番機、爆撃隊臨時指揮官ミケーレ・チェスティ少尉です。爆撃任務、完了しました。敵ユニオン級3隻の着陸脚の足元に大穴を掘って、船体を斜めに傾けさせることに成功しました。敵ユニオン級は駐屯軍基地攻撃部隊を支援するために発進しようとしていた物と見えましたが、船体があれだけ傾いでいれば腕利きの船長でも発進は不可能でしょう。再度の発進は、反対側に同じくらいの穴を掘るなりなんなりして、船体の傾きを許容範囲に収めなければ、相当な腕前の船長でも不可能でしょう。少なくとも、自分には無理です。

 ですが当機をはじめ、ライトニング戦闘機4番機、トランスグレッサー戦闘機1番機2番機、全機が敵ユニオン級の対空砲火を受け、装甲がかなりやられています。致命的なところに喰らった機体はありませんが、戦闘参加は不可能です。』

「いや、良くやったミケーレ少尉。コルネリア少尉、ヘルガ少尉、アードリアン少尉にも良くやったと伝えてくれ。君たちは今後高度を上げ、高高度にて低速巡航に移り、高高度偵察に従事してくれ。」

『はっ!了解しました。』

 

 そしてキースは指令室に、もう1つの作戦の推移状況を尋ねる。

 

「指令室、惑星軍歩兵部隊の方は、どうなっている?」

『ただ今首都ドリステルの要所を占拠しているドラコ連合歩兵部隊と交戦中です。数が圧倒的に違うので、有利に戦闘を進めている模様です。』

「敵を追い詰めた際に、バンザイ突撃にだけは注意しろと伝えてやってくれ。そうなったドラコ歩兵は、脅威……いや、恐怖そのものだ。」

『了解しました。』

 

 次にキースは、駐屯軍および惑星軍双方のバトルメック部隊に通信回線を繋いだ。

 

「アーリン中尉、ヒューバート中尉、偵察小隊と火力小隊はどうだ?」

『こちらアーリン・デヴィッドソン中尉。偵察小隊は全員準備万端整ってます!』

『こちらヒューバート・イーガン中尉。こちらも戦闘準備OKです。ただ、メック戦が初めての2人に、ちょっとお言葉をかけていただけますか?』

「了解だ。」

 

 ヒューバート中尉の言葉に、キースは承諾の意を返す。

 

「ロタール軍曹、今日がお前のメック戦士としての初陣だな。なに、気負うことは無い。お前は既に戦闘を潜り抜けてきているのだ。それがちょっとばかり規模が大きくなっただけだ。ただ、ちょっとだけ注意しておくぞ?お前の乗るクルセイダーは、装甲こそ厚いもののミサイル弾薬庫の様な物だ。15連長距離ミサイル発射筒の弾薬を使い切るまでは、前には出るな。

 カーリン伍長、お前は戦闘自体が初めてだったな。まあ心配することは無いぞ。お前の周りには、心強い戦友がいる。皆、お前を守ってくれる。だからお前も皆を守るんだ。グリフィンは俺も使ったことがあるが、良いメックだ。敵に接近さえされなければ、格上の敵ともしぶとく戦い抜ける。そしてお前の仲間たちはお前に敵を近づけさせはしないだろう。いいな?仲間を信じろ。」

『了解です、大尉!ありがとうございます!』

『大尉……。了解っ!』

 

 いよいよキースは、惑星軍のメック部隊に声をかける。まずは指揮官と副指揮官の2機のフェニックスホークだ。

 

「ケヴィン大尉待遇中尉、レオナルド中尉、準備はいいか?」

『はい、ありがとうございます大尉。うちの雛鳥どもがご迷惑をおかけした様で……。』

『本当なら、我々がやらねばならなかったことですが……。』

「気にするな……と言っても難しいか。なら、せいぜい恩に着てくれ。その借りは、この戦場で返してくれると嬉しいんだがな。それと、雛鳥たちに君たちの頭を飛び越えて直接命令しなければならないこともあると思う。先に謝っておく。すまん。」

『了解です。気にしないでください。』

『了解。あの雛鳥たちを鍛えていただいたのです、そのぐらいのこと……。』

 

 指揮官機たちの次は、3機のD型フェニックスホークとウルバリーンである。

 

「イルヴァ伍長、ヴィルジール伍長、マックス伍長、テオドール伍長。貴様たちの仕事は何だ?」

『『『『遊撃です!』』』』

「そうだ、非常に臨機応変さを必要とするポジションだ。あるときは味方の盾になり、あるときは支援し、あるときは主力の代わりを務めることすらある。ケヴィン大尉待遇中尉とレオナルド中尉の指示を、聞き損ねるなよ。」

『『『『了解!』』』』

 

 その次は、マッキー改2機とサイクロプス改2機の試験機たちだ。

 

「ハビエル伍長、ワンダ伍長、クリスティーナ伍長、ロベルト伍長。貴様たちが乗る機体は何か?」

『『『『テスト機です!』』』』

「そうだ、テスト機だ。貴様たちの機体は強力ではあるが、いつ何時不具合が表面化するかわからん。そうなったらさっさと後退するんだ。味方の邪魔はするなよ。

 それとマッキー改の2人、マッキー改は右側の胴体に弾薬を積んでいる。あまりそちらを敵に向けるなよ。シミュレーターでも、何度そこに直撃をくらって機体が吹き飛んだかわからんだろう。それ以外の場所であれば、その重装甲はかなり頼りになるがな。覚えておけ。

 サイクロプス改の2人、サイクロプス改は接近戦を得手とするバトルメックだ。敵が地雷原を突破してきたら、前に立って戦うんだ。憶するな。できるな?それまでは大口径レーザーで支援に努めていろ。」

『『『『了解!』』』』

 

 そしてライフルマン3機とグリフィンの支援機組の番が来た。

 

「ジャスパー伍長、ベネディクトゥス伍長、アリス伍長、デクスター伍長。貴様らのメックに共通する弱点を言ってみろ。」

『『『『過熱しやすいことです!』』』』

「その通りだ。だからできる限り過熱は避けなければならん。が、そうも言っていられない場合も多々ある。だから過熱を恐れろ、しかし恐れすぎるな。いざという時は、仲間を救うために全力射撃も辞さない覚悟でいけ。

 それといったん過熱したら、放熱のためにしばらくは撃つな。今度は仲間を信じて撃たずに耐えるんだ。シミュレーターで散々やった呼吸だ、身に染みて覚えているな?できるな?」

『『『『はい!』』』』

 

 キースは頷くと、今度は惑星軍の若手メック戦士たち12人全員に向けて言う。

 

「いいか。貴様たちのメックは、半数が畏れ多くも公爵閣下から貸与された品であり、半数は俺たち傭兵部隊『鋼鉄の魂』……『SOTS』から貸し出された物だ。壊すな、とは言わん。だが最低限動く状態で公爵閣下にお返しし、俺たちに返却しろ。いいな。」

『『『『『『はいっ!』』』』』』

『……隊長、それじゃ全然わからねえってばよ。』

『そうよ?いえ、そうですよ?いい、あんたたち。隊長はね、あんたたちに「死ぬな」って言ってるのよ?』

『『『『『『……了解っ!!』』』』』』

 

 割り込んだアンドリュー軍曹とエリーザ軍曹が、キースの台詞の裏をネタばらしする。キースはごほん、と咳払いをする。キースはおもむろに指揮小隊だけの小隊内秘匿回線を繋ぐ。

 

「はずかしいから、言わんでくれないか。アンドリュー軍曹、エリーザ軍曹。」

『何言ってるのよ。こういう事は、きちんと言ってやらなきゃ駄目!』

『そうだそうだ。その通り。』

『隊長は照れ屋さんなんですよ。』

 

 キースは苦笑しつつ言葉を紡ぐ。

 

「……いよいよトマス・スターリングがやって来る。皆、すまんが力を貸してくれ。」

『あったりまえだろ!?ハリー・ヤマシタのときに、あれだけ世話になったんだ。今度は俺らの番だぜ!』

『そうよ、隊長。今さら変な遠慮しないの!』

『そうですとも。下手な遠慮していると、トマス・スターリングの首を私たちが貰ってしまうことになりますよ?』

「それは困るな。ははは。」

 

 キースは全体に通信を繋ぎ直した。彼は気迫を込めて言う。

 

「皆、多くは言わん。勝つぞ!」

『『『『『『おおーーーっ!!』』』』』』

 

 味方の士気が一斉に高まる。キースは叫んだ。

 

「サイモン曹長!ボールドウィン伍長!予定通り敵がイエローラインを超えたらロングトムⅢが指定ポイント1へ、レッドラインを超えたらスナイパー砲がBASE-ON-29831ポイントへ射撃開始だ!」

『了解ですわい!』

『了解!』

 

 そして敵が姿を見せる。地雷原のある場所を、警戒もせずに無造作に突き進んだ敵だったが、やがて先頭にいたウルバリーンとシャドウホークの足元で爆発が起きた。敵は何やら泡を食った様子である。一部の敵が慌てて後退しようとしたが、そこへスナイパー砲とロングトムⅢの砲弾が、連続して着弾する。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 後退しかけた敵の鼻先に間接砲撃が着弾し、若干の被害をその敵に与えた。更にその地点の周辺に、次々と砲弾が降ってくる。進むもならず、戻るもならずと言った状況に追い込まれた敵部隊は、最も重い80tのヴィクターを先頭にして遮二無二進んで来た。ヴィクターの重量が引き起こす重い震動に、数多くの地雷がヴィクターのかなり先で爆発する。だが幾ばくかの地雷はヴィクターの足元で爆発し、その脚に被害を与えていた。

 キースはアイラ伍長に通信を入れる。

 

「アイラ伍長、もういいぞ。もしまだ例のスパイが残っているなら、拘束してしまってくれ。敵は罠にかかった。」

 

 そう、敵のスパイが盗んだ地雷原の配置情報は、キースの命によりコンピュータのスペシャリストであるパメラ伍長が作成した、偽データであったのだ。保険どころか宝くじ程度にしか思っていなかったキースであったが、宝くじは見事に当たったのである。

 だがキースは、地雷原を強引に突破せんとするヴィクターに目を向ける。

 

「……思っていたよりも勇敢だな、トマス・スターリング。先頭に立って地雷原を突破せんとするとは。いや、士気を保つためにはそれしか無いと踏んだか?ふむ……。この距離では命中の目があるのは、指揮小隊だけだな。だが撃たない理由も無い。

 指揮小隊、目標は敵の二番手、70tアーチャー!射撃用意……撃て!」

 

 号令と共に、指揮小隊のバトルメックから長距離兵器の斉射が行われる。その攻撃はほとんど外れなしで目標のアーチャーに突き刺さる。目標となったアーチャーと、その次に位置するアーチャーも応射するが、これは指揮小隊にかすりもしない。ついにヴィクターが地雷原を突破した。だがその両脚はもはやボロボロである。後ろに続いていたバトルメックが、一斉に展開と射撃を開始した。

 

「各員機動回避!全部隊、撃ち方始め!」

 

 壮絶な火力の応酬が、今始まったのである。




いよいよ本番の戦いが始まりました。惑星軍の少年少女メック戦士たちは、上手く戦えるでしょうか。
そしていきなり罠にかかった敵総大将にして主人公の宿敵、トマス・スターリング。はたして主人公は、家族やかつての仲間たちの仇を討てるのか!?
次回、ご期待ください!


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『エピソード-027 天を仰ぐ』

 敵の重量級メックであるオストソルと、同じく重量級の敵オストロックが、並んで両腕の大口径レーザーを撃ち掛けてくる。だが大口径レーザーは長距離兵器の中では射程が短い方で、この距離ではなかなか命中しない。

 逆にアンドリュー軍曹の支援機ライフルマンが発射した中口径オートキャノン2門と大口径レーザーは、オストロックにあっさりと突き刺さった。全弾が胴体のど真ん中に命中し、その装甲板を著しく削る。技量が違い過ぎた。

 そこに後方の戦車による機甲部隊からの支援射撃が来た。搭載火器の射程ぎりぎりの遠距離から発射されたその攻撃は、滅多に当たらないが、全く当たらないと言う物でもない。

 1輛のハンター戦車から発射された20連長距離ミサイルがオストロックを叩きのめし、オストロックは胴体中央に搭載していた4連短距離ミサイルの弾薬に火が回って大爆発を起こす。メック戦士は脱出した模様だが、地面に降りるとぐったりと気を失った様子である。弾薬の爆発は、搭乗しているメック戦士に大きくダメージを与えるのだ。

 キースが叫ぶ様に言う。

 

「敵中央付近のライフルマン2機と通常型シャドウホーク2機を狙え!あれが敵の対空戦力だ!あれを潰して、気圏戦闘機を戦闘に参加させ易くする!端にも1機ライフルマンがいるが、あれは位置からして単なる支援戦力だ!地上掃射で狙わなければ応射の危険は無い!」

『『『『了解!』』』』

 

 キースのマローダーから、エリーザ軍曹のウォーハンマーから、マテュー少尉のサンダーボルトから、そして後方のマンティコア戦車とヴァデット哨戒戦車から、敵のライフルマンとシャドウホークに向けて長距離兵器の砲火が飛ぶ。

 ライフルマンの1機がサンダーボルトから撃たれた大口径レーザーに頭部を貫かれ、メック戦士が緊急脱出する。またもう1機のライフルマンは必死に応射するものの、逆に脆弱な脚部にマローダーの粒子砲と中口径オートキャノンを浴び、ついでの様に同じ個所にマンティコア戦車の10連長距離ミサイルが8本命中して右脚を吹き飛ばされ、倒れ込んだ。

 シャドウホーク2機は必死で5連長距離ミサイルと中口径オートキャノンで抗戦するが、いかんせん距離が遠い上に、指揮小隊の機体は戦場を右から左へと走行移動している。命中は覚束ない。

 そのシャドウホークには、エリーザ軍曹機からの粒子ビーム砲2発が命中。左胴装甲を撃ち抜かれたシャドウホークは、背負った中口径オートキャノンの基部を破壊されて対空射撃能力を著しく減退させた。

 それを見て取ったキースの指示が飛んだ。

 

「まだ何機か中口径オートキャノン装備機がいるが、ライフルマンを潰した以上かまうまい。マイク少尉!ジョアナ少尉!出番だ!

 サイモン曹長はBASE-ON-37760ポイント、BASE-ON-34120ポイント、BASE-ON25100ポイントに順番に撃ち込め!ボールドウィン伍長は指定ポイント5、2、2の順番で撃て!」

『いいいやあっほおお!!』

『よりどりみどりね!』

 

 マイク少尉機であるライトニング戦闘機1番機と、ジョアナ少尉機であるライトニング戦闘機2番機が、縦一線隊形を組んで敵が密集している地域に地上掃射をかける。2機6門の中口径レーザーが降り注ぎ、地雷地帯から抜けたばかりで展開が間に合わず、密集していた敵に次々と命中した。マイク少尉機とジョアナ少尉機にも敵弾が数発命中するが、たいした被害では無い。

 

『やりやがったな!?』

『マイク!抜けたら今度は反転してもう一度掃射よ!』

『わかってる、ジョアナ!』

 

 敵バトルメック部隊は、必死で散開しようとするが、連携がちぐはぐで動きが鈍い。キースはそれを見て取ると、戦場をざっと見渡した。

 

(アーリン中尉の偵察小隊は、フェニックスホーク2機とD型フェニックスホークがグリフィンの支援のもと、全力走行によるヒットアンドウェイを繰り返して敵の部隊を翻弄しているか。問題はないな、うん。

 ヒューバートの火力小隊は、前衛にヒューバートのオリオンとグレーティア少尉のウルバリーンが出て、後衛にロタール軍曹のクルセイダーとカーリン伍長のグリフィン。お、ヒューバート機が大口径オートキャノンであっち側にいたライフルマンの頭を飛ばした。さっすが、やるなあ。

 惑星軍の方は……。あ、まずい!)

 

 子供たちの乗るメックの動きを見て、キースは叫ぶ。

 

「クリスティーナ伍長!ロベルト伍長!突入は1テンポ遅らせろ!」

『は、はいっ!』

『りょ、了解!』

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 次の瞬間、スナイパー砲の砲弾がサイクロプス改の前にいたフェニックスホーク、パンサー、ジェンナー、K型ワスプに降り注ぐ。既にライトニング戦闘機2機の地上掃射でダメージを負っていた敵機群は、フェニックスホークが胴中央に直撃を受けてマシンガンの弾薬に引火し機体爆散、パンサーが右腕の粒子ビーム砲を失い、ジェンナーとK型ワスプはそれぞれ左脚と右脚を失って倒れ込んだ。

 

「味方の砲撃で機体がやられるなんて、馬鹿らしいぞ。着弾予定箇所と着弾時刻には注意をはらえ。」

『『あ、ありがとうございますっ!』』

 

 言いながらキースは、マローダーに右手の粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノン1門を発射させる。狙ったのは、岩場の陰で部分遮蔽を取ったばかりのヴィンディケイターだ。

 ヴィンディケイターからは粒子ビーム砲と5連長距離ミサイルが撃ち放たれる。しかし遠距離で最大限移動しているキース機には命中しない。逆にキース機の攻撃は双方とも命中し、その粒子ビームはヴィンディケイターの頭部を貫いてメック戦士を死亡させた。

 

 

 

 戦闘はなおも続いていた。マイク少尉とジョアナ少尉のライトニング戦闘機は幾度か地上掃射を繰り返し、敵陣に多大な被害を与えたものの、敵の応射で相応の被害を被ったために、今は砲撃の届かない上空で待機している。

 

「サイモン曹長、次はBASE-ON-88230ポイント、BASE-ON-00134に連続で叩き込んでくれ。たしかそれで弾切れだったな。ボールドウィン伍長は指定ポイント6、6、4へ続けざまに撃ち込め。」

 

 キースは間接砲撃の指示を出しつつ、戦場を見回す。味方機には倒された者はいまだいないが、火力小隊のウルバリーンと偵察小隊のD型フェニックスホークの両機が、装甲の損傷が大きくなってきたために後ろへと下がらせて、遠距離火器での支援に切り替えさせている。しかし両機とも遠距離攻撃が得意な機種と言うわけでは無いため、あまり頼りにはならないのが実情だ。

 ちなみに火力小隊のクルセイダーは、とっくに15連長距離ミサイルの残弾を使い果たし、ウルバリーンに代わり前に出て来ている。他の機体も弾薬を中心に消耗が激しい。

 惑星軍バトルメック部隊では、ライフルマン3機とグリフィンが思ったよりも気を吐いていた。前線の味方に守られて、静止射撃が可能であったことも理由の1つであろう。彼らは4機で1機の敵に攻撃を集中すると言う戦法を繰り返し、命中率こそあまり高く無いものの今までの合計で3機の敵機を行動不能にしていた。ただしライフルマンはオートキャノンの弾薬を使い果たし、そろそろ攻撃力が減退している。

 サイクロプス改とマッキー改の4機は、射撃戦闘ではなく格闘戦を挑み、その重量から来る格闘能力を遺憾なく発揮していた。しかしハビエル伍長のマッキー改とロベルト伍長のサイクロプス改はそれぞれ頭部にパンチの一撃をもらい、格闘戦が危うくなったために一歩下がっての近接射撃支援に回らせることにしたため、今までの様な破壊力は期待できなくなった。その重厚な装甲板も、かなり削れてきている。

 惑星軍で最も被害が大きいのが、遊撃担当のD型フェニックスホーク3機とウルバリーンだ。ことにウルバリーンはフェニックスホークの盾となって戦っていたため、機体のあちこちに穴が空き部品が垂れ下がっている。実弾兵器の弾薬を撃ち尽くしていたために爆散は免れたものの、これ以上は無理だとして、指揮官たちは遊撃担当たちを最後方まで下がらせることにした。

 ちなみに惑星軍指揮官機の標準型フェニックスホーク2機は、いまだ健在である。今も2機いたうちの生き残ったアーチャーに肉薄してその長距離ミサイルを封じつつ、その高機動力で翻弄していた。

 

(味方もそろそろ危ない機体が増えてきたな。指揮小隊はサンダーボルトとウォーハンマーがちょっと傷ついてるぐらいで全然まだまだ平気だけど、実弾兵器の弾薬が尽きつつある。と言うか、ライフルマンと俺の機体の中口径オートキャノンはもう弾切れだし。

 サイモン爺さんのスナイパー砲も弾切れだ。ロングトムⅢはあらかじめ照準しておいた指定ポイント以外に撃たせるのは、ボールドウィン伍長の腕前だと誤射が危険だし。機甲部隊もマンティコア戦車の粒子ビーム砲以外はそろそろ弾切れだよなー。

 だけど敵はそれ以上にズタズタだ。罠にかかったから序盤撃ち放題だったって言うのもあるけど、予想以上に脆い。連携も拙い、と言うより連携しようと思ってない感じだよな。個人技はさすがに大したものだけど。)

 

 敵の陣営を見遣るキース。その2/3以上が無力化もしくは撃破か撃墜され、生き残っている機体も間接砲と気圏戦闘機や戦車の支援を受けた味方機により、ほとんどの機体が重度の損傷を被っている。つい今しがたも、今まで生き残ったアーチャーが右脚を破壊され、地面に倒れ伏したところだ。

 そして残った機体には、K型……ドラコ連合特有の、クリタ家バージョンの物が多い。それらは戦闘自体に消極的だった様に、キースには思われた。

 

(これだけやれば、頃合いだろうな。K型と言う事は、おそらくは元から第4アン・ティン軍団にいた人員だろ。少なくとも士気は高くないはずだ。

 そして『SOTS』の大半はともかくとして、火力小隊の初陣の者たちや、惑星軍の子供たちの気力がそろそろ持たない。奴を……トマス・スターリングを倒して、決着をつける!)

 

 キースの視線の先には、左脚を引き摺りつつマッキー改に向け、最後の1発になった最大口径オートキャノンの砲弾を撃ち込むヴィクターの姿があった。ヴィクターはメック戦士の運が強いとでも言うのだろうか、序盤の攻撃時から前衛に出ていたにも関わらず、ダメージが前面の全身に散っており、今まで生き残っている。キースは、左腕で胴体をかばい最大口径オートキャノンの砲弾を受け止めたマッキー改に、指示を下す。

 

「ワンダ伍長、そのマッキー改はそろそろ限界だ。下がって粒子ビーム砲による支援射撃に切り替えろ。そいつの相手は俺がやる。」

『……了解!』

 

 マローダーの機体を前進させ、キースは機体左腕の粒子ビーム砲と両腕の中口径レーザーを、大きく傷ついたヴィクター目がけて撃つ。粒子ビームとレーザーの光条は、ヴィクターの胴体ど真ん中に吸い込まれる様に命中した。既に損傷を受けていたヴィクターの装甲は持ちこたえられずにはじけ飛び、エンジンの鎧装が2層まで破壊された。

 

(折れかけている脚に当たれば、話は早かったのにな。)

 

 そう思いつつ、キースは通常回線と外部スピーカーで降伏勧告を行う。内心では降伏勧告などしたくない気持ちもあったのだが、その気持ちをぐっと噛み殺し、キースは口を開いた。

 

「……勝負はついた。その機体ではもはや勝ち目はあるまい、降伏しろトマス・スターリング。正式な裁判を約束する。裏切りの件も、お前自身はともかくとして部下たちは命令に従っただけと言う事ならば、命ばかりは助かる可能性もあるだろう。ほんのわずかな可能性だがな。」

『何?ま、まさか貴様は……。いや……。まだだ!ここで終わってなるものか!』

 

 ヴィクターがジャンプジェットに火を入れ、後方に最大ジャンプを行いつつ中口径レーザー2門と4連短距離ミサイルを発射した。キースは自機を疾走させて、逃げるヴィクターに追いすがる。スターリングの執念か、全弾がマローダーの機体に命中し、中口径レーザー1本がその頭部にあたった。着弾の衝撃で、キース自身の肉体にダメージが加わる。だがキースの強靭な肉体には、その程度のダメージはかすり傷に等しい。

 ヴィクターは空中で向きを変えると後ろを向いて着陸した。胴体前面の装甲が失われている以上、背中を向けた方がまだましだ、と言うことなのだろうか。実際、ヴィクターの背中の装甲は、粒子ビーム砲に一撃は耐えられるほどに厚い。そしてボロボロのその機体は、左脚を引き摺りつつ、それでも全力で疾走する。

 マローダーの両腕に装備された粒子ビーム砲から、粒子ビームの束が発射された。2条の粒子ビームはそれぞれ、逃げるヴィクターの背面中央と頭部に命中する。後ろを向いていたため、スターリングは緊急脱出のタイミングが取れなかった。

 

『ここで終わるわけに……。』

 

 最期の言葉すらも中途半端に、トマス・スターリングの肉体は操縦席ごと粒子ビームによって焼散した。怒り、悲しみ、憎しみ、憐れみ、安堵、喜び、虚しさ、その他様々な雑多な感情が、爆発的にキースの胸に溢れる。だがキースはこの部隊の隊長であり、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍の現司令官だ。彼にはまだやることがある。

 

「トマス・スターリングは死んだ!降伏しろ!まだやると言うのならば、俺たちが相手になるぞ!」

 

 キースの言葉と共に、無傷とまでは言わないが未だ健在な指揮小隊のバトルメックが、前に歩み出る。しばし敵も味方も、1発も撃たずに睨みあった。やがて1機のひどく傷ついたK型ウルバリーンが、降伏の信号弾を打ち上げた。

 

『……降伏しよう。……黙れ!ハリー・ヤマシタの腰巾着どもに、トマス・スターリングの手下どもが!

 失礼した、自分は第4アン・ティン軍団C大隊第2中隊偵察小隊の元小隊長、ノボル・フジだ。奴ら、特にハリー・ヤマシタのせいで降格されて、今では一介のメック戦士に過ぎんがな。昔の部下どもや同僚は自分が説得しよう。どうか寛大な扱いをお願いする。』

「了解した。降伏を受け入れる。」

 

 そして次々に、K型の機体を中心に降伏の信号弾が打ち上げられる。全ての機体が降伏したわけではない。生き残りの中で最大重量のオストソル1機を先頭にして、ウルバリーン1機、シャドウホーク1機、エンフォーサー1機の計4機が、後ろを向いて逃走を開始する。

 キースたちはその機体に向けて粒子ビーム砲や大口径レーザーを放った。そのほとんどが命中するが、かろうじて致命的な箇所に命中するのは免れたらしく、その機体たちはヴィクターが地雷原に空けた隙間を通って逃げていった。マテュー少尉が隊内通信でキースに尋ねる。

 

『追撃しますか?』

「いや、俺たち指揮小隊はともかく、他はもうぎりぎりだ。特に惑星軍の雛鳥たちは、1.5倍強の格上の敵と戦ったんだから精神的疲労も限界だろう。ただし虚勢を張って、まだまだ戦えるように見せていろ。」

 

 言葉の後半は、火力小隊、偵察小隊、それに惑星軍メック部隊と後方の戦車たちに言ったものだ。配下の機体はその言葉に従い、まだまだ元気だと言うところを見せる様に屹立していた。

 その様子を見て諦めたのか、片脚を折られて転がっていたいくつもの敵機からも、降伏信号が打ち上がった。キースが警戒していたのは、脚を折られて転倒しただけの機体である。片手で機体の上体を支えれば、もう片方の腕と胴体装備の武装は撃つことが可能なのだ。それ故に無力化した様に見えても、警戒を怠るわけにはいかなかった。

 とりあえずキースは、気圏戦闘機隊のうちで推進剤が比較的多く残っているライトニング戦闘機3番機と4番機に連絡し、逃亡したメックに対する高高度よりの追跡を命じた。と、そこで基地の指令室より通信が入る。

 

『大尉、首都奪還作戦実施中の惑星軍歩兵部隊より連絡がありました。惑星軍歩兵部隊は首都の奪還に成功、味方の損害軽微、現在残敵を掃討中、とのことです。』

「……となると、応援が必要だな。逃げた敵部隊は占領中の惑星軍本部基地に撤退しつつある。惑星軍の本部基地は首都ドリステル近郊にあるからな。逃げた奴らがやけにならないとも限らん。……アーリン中尉!ヒューバート中尉!偵察小隊と火力小隊の現状について報告せよ!」

『はい、大尉!自分のフェニックスホークは無傷です。リシャール少尉の機体は若干装甲がやられています。ヴェラ伍長機のD型フェニックスホークはかなり装甲板が痛めつけられましたので、直後の作戦は不可能です。ヴィルフリート軍曹のグリフィンは無傷ですが、10連長距離ミサイル発射筒の残弾が心許ない状態です。』

『了解、大尉。俺のオリオンは装甲がけっこうやられましたけど、内部構造に及ぶ傷はありません。ただし弾薬が空っぽに近いです。グレーティア少尉のウルバリーンも装甲が限界ぎりぎりに近いですが、致命的なダメージはかろうじて無し。ロタール軍曹のクルセイダーは損傷軽微ですが、全ミサイルを撃ち尽くしました。カーリン伍長のグリフィンは10連長距離ミサイル残弾が半数程度、傷はありません。』

 

 少し考えてからキースは、とりあえずの案をひねり出す。

 

「よし、アーリン中尉。少し無理を頼みたい。リシャール少尉とヴィルフリート軍曹、および各々の機体を連れて、レパード級降下船ヴァリアント号で首都ドリステルに向かってくれ。

 そしてドリステル南端で、敵の占領下にある惑星軍本部基地の戦力とにらみ合いをして欲しい。交戦の必要は無い。ただ単に相手に手を出させず、こちらからも手を出さずに、にらみ合いを続けてくれ。

 機体の修理と補給が完了次第、火力小隊の4機を送る。そうしたらアーリン中尉以下偵察小隊の3人は入れ替わりで駐屯軍基地に帰還してくれ。」

『了解しました。要は敵戦力を首都に入れなければいいんですね?』

「その通りだ。任せたぞ。……レパード級降下船ヴァリアント号、カイル船長。発進準備をしてくれ。アーリン中尉たちを、首都まで送ってきて欲しい。その後火力小隊機の修理が完了したら、火力小隊を乗せてまた首都まで送り、偵察小隊の人員と機体を連れ帰ってくれ。」

 

 カイル船長が承諾の意を返す。

 

『了解だよ、隊長。さて、お乗りくださいなお嬢さん。快適な空の旅をお約束しよう。』

『あら、お嬢さんなんて呼ばれたのは久しぶりだわ。よろしくお願いしますね、船長。ではキース大尉、ヒューバート中尉、行ってきます。』

「気をつけてな。」

『頑張ってくださいよー。すぐ修理終わらせて、交代に行きますんで。』

 

 その後キースは駐屯軍基地から歩兵部隊を呼び、降伏したメック戦士たちを捕虜として連行させた。また鹵獲したバトルメックを運ばせ、破壊したバトルメックの散乱した部品を集めさせた。

 ちなみにその作業には、火力小隊は参加していない。彼らの機体は最優先で修理、整備と補給がなされた。明朝には彼らの機体は完璧となり、いったん戻って来たヴァリアント号により惑星首都ドリステルへと運ばれることになる予定だ。

 

 

 

 深夜、惑星時間で日付が変わる直前で、連盟標準時ではとっくに日付が変わっている時間のことである。キースは駐屯軍基地本部棟の屋上にやって来ていた。基地のそこかしこには警備用のサーチライトが灯されており、けっこう明るい。特にバトルメックや気圏戦闘機の整備棟からは、灯りと作業の音がいつまでも止まなかった。

 だが基地の外側、地雷原の手前あたりには光は届いていない。キースはそちらの方を見遣る。何も見えないが、そこはトマス・スターリングをキースが討ち取った場所であった。

 

(なんか……。あの瞬間は、色々な感情で気持ちが爆発しそうになったけど、今は変に落ち着いてるなあ。なんか、スポっと心の中から、何かが抜け落ちたみたいだ。虚脱状態ってのが近いかなあ。

 え?……もしかして前世のうつ病が再発でもしたか?いや、まて!それはまずいぞ!まだ色々と後始末も残ってるんだよ!逃げた1個小隊相当の敵も、発進不能状態にしてやったユニオン級降下船3隻も、まだ残ってる!駐屯契約も2ヶ月残ってるってば!いや、変に落ち着いてるってことは、うつ症状じゃないよきっと!って落ち着いてねえーーーッ!)

 

 内心の混乱を表に出さずにキースが立ち尽くしていると、後ろで人の気配がした。キースは振り返る。

 

「あ、気付かれちまった。」

「サイモン曹長の言う通り、隊長は勘が鋭いですね。」

「驚かそうなんて考える方が悪いのよ。」

 

 それはアンドリュー軍曹、マテュー少尉、エリーザ軍曹の3名だった。キースは苦笑してみせる。

 

「どうしたんだ?こんな時間に。」

「隊長……いや、キースこそどうしたんだよ、こんな時間にこんなところに来て。」

「なんか無茶苦茶な猛スピードで仕事して、仕事無くなったら他の人の仕事まで取り上げて自分でやって。しかも私にも手伝わせずに。その上、仕事無くなると整備班のところまで行って手伝おうとして、サイモン曹長に少し休めって追い返されたらしいじゃないか。

 休みも取らず、こんなところで何やってるんだい?」

「そ、そうだったかな?」

 

 確かにそうだった。まるでワーカホリックだ。エリーザ軍曹がおもむろに、ここに来た理由を説明する。

 

「サイモン曹長が心配して、あたしたちに頼んだのよ?自分は部隊のと惑星軍のと、バトルメックに気圏戦闘機の修理があるから様子を見に行ってあげられないって。」

「そうか……。サイモン爺さんが。」

「自分の他には、キースの気持ちを少しでもわかってやれるのは、俺たちだろうってサイモン曹長が、な。俺たちもよ、ハリー・ヤマシタのせいで家族とか仲間とか亡くしてるからな。……ほれ。」

 

 アンドリュー軍曹が、何かを放ってよこす。キースが思わず受け取ったそれは『SOTS』結成時に、ここにいる仲間たちで決めた部隊エンブレムを象った金属片だった。鎖が付いて、首飾り状になっている。

 

「これは?」

「サイモン曹長によると、エクスターミネーター……デスサイズの装甲板の破片を削り出した物だそうだよ。デスサイズ撃墜後、暇を見ては作っていたらしい。」

「デスサイズの……。」

 

 キースはそのエンブレムを、まじまじと見つめる。

 

「あたしたち、っていうか部隊のメック戦士や航空兵たちの分もあるのよ!そのうち部隊全員に行き渡らせたいって言ってた。まあ素材は別物だけどね。キースのそれは特製品!あたしたちのは鋳造品の量産品だけど、キースのは削り出しで作った唯一無二の代物!って聞いてないわね。」

「いや、聞いてるよ。ただ、何と言っていいのか……。」

「とりあえず、喜んでおけばいいんじゃないかい?」

 

 マテュー少尉の言葉に、キースは笑おうとした。しかし頬がひきつって上手く笑えない。その視界が曇った。思わず彼は上を向いた。涙が零れそうだったのだ。

 

(父さん、母さん、とりあえず一区切りついたよ。なんて言うか、こう……。ようやく俺も、この世界に足を降ろせたような、そんな気がする。ありがとう、さよなら。父さん、母さん。)

 

 上を向いて微動だにしないキースを、仲間達は何も言わずに見つめていた。




ようやくの事でと言いますか、けっこうあっさりと言いますか、さくっと、と言いますか、『宿敵』退場です。まあ、サモンジ小隊の『宿敵』も、小説版の第1巻で、さくっと退場しましたからね。それを参考にして、この程度であっさりと『宿敵』を討ち取ってしまいました。
でも、主人公の心理としては感無量と言いますか、物悲しい気分と言いますか、色々複雑なのです。ですが、ようやっと主人公はこの世界にきちんと降り立つ事ができたのです、まる。


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『エピソード-028 無法者』

(……仇討ちと「宿敵」関係に関しては一区切りついたけど、まだ仕事は終わりじゃないんだよな。)

 

 3025年11月4日、この日キースは惑星軍の各責任者と、惑星軍ドリステル本部基地の奪還について会議を開いていた。現時点でこの場にいる惑星軍のうちでは最上位者の、アルフォンス・フリーマン大尉が発言する。

 ちなみに彼は大尉であるが、大隊クラスの歩兵戦力を指揮下に収めている。だが佐官クラス以上の高級士官になるための教育を受けていないことで大尉以上には現状なれない。そのためもあってか、最上位者ではあっても他の部隊の責任者に対し遠慮がある様だ。

 

「惑星軍歩兵部隊は、駐屯軍が敵戦力の大半を引き付けてくださったおかげもありまして、無事惑星首都ドリステルを敵ドラコ連合の手より取り戻すことに成功いたしました。

 更に直後、メック小隊を派遣していただきまして、残敵の侵攻を防いでいただいたことに付きましては、まことにありがたく。まずはお礼申し上げます、ハワード大尉。」

「いえ、駐屯軍基地の防衛に際しましては、惑星軍バトルメック部隊および機甲部隊のご助力あっての結果です。首都奪回に関しましても、惑星軍歩兵部隊の輝かしい戦果でしょう。こちらこそお礼と、お祝いを申し上げます。フリーマン大尉。」

「ありがとうございます。」

 

 アルフォンス大尉は、型通りの挨拶の後に本題に入る。

 

「ところで惑星軍本部基地の奪還作戦についてですが……。」

「はい、敵には未だ1個小隊規模のバトルメック戦力が残存しています。むざむざ逃がしてしまったのは残念ですが、あの時点では表面上はともかく内実は、駐屯軍および惑星軍のバトルメック戦力も機甲部隊も継戦能力が限界に達しており、追撃をかけることは困難でした。

 本部基地奪還作戦におきましては、駐屯軍としては万が一を考えて、駐屯軍バトルメック部隊および機甲部隊の全力出撃を予定しております。ただこの基地が空になるのは問題ですので、駐屯軍歩兵部隊および惑星軍からお借りしているメック部隊のうち8機と、惑星軍機甲部隊は連れていかず、この基地に残したいと考えております。

 連れて行く惑星軍メック部隊には、再度こちらの予備バトルメックを貸し出す予定です。またいざと言うときには急遽1個小隊だけでも帰還できるように、首都ドリステルにレパード級降下船を配置しておく予定です。」

 

 基地に残す予定なのは、貸し出した予備メックの損傷が大きかった遊撃担当組と、マッキー改、サイクロプス改の試験機組だ。予備メック損傷組は流石に戦力足り得ないし、試験機組は機体を酷使したことで不具合が怖い。

 それにメック戦士の子供たちも、前回の戦いで貢献できたことで精神は落ち着いている。無理に戦力にならない者を戦場に引っ張り出す必要は無かった。

 惑星軍機甲部隊の戦車兵の長であるジョニー・カートライト大尉待遇中尉が手を上げて発言を求める。議長役を兼ねているキースは発言を許可した。

 

「発言を、カートライト大尉待遇中尉。」

「ありがとうございます。敵が1個小隊であるならば、いささか過剰戦力かと思われますが……。」

「いや、敵にはまだユニオン級3隻が残っている。ひどく斜めに傾いでいるため、砲撃管制室も斜めになっており、その状態で兵員がまともに砲撃ができるかは不明だ。だが万一ユニオン級から砲撃があった場合のことを考えれば、できる限りの戦力を連れて行きたい。」

 

 ここでキースは、アルフォンス大尉の方へ顔を向ける。

 

「作戦に参加予定の惑星軍歩兵部隊には、各施設の占拠だけでなく、いざという時のユニオン級への突入作戦も考慮に入れていただきたい。無論、メック部隊や機甲部隊の支援の下での話です。」

「了解しました。」

「なるほど、納得いたしました。申し訳ありません、浅慮でした。」

「いや、かまわない、カートライト大尉待遇中尉。それで作戦の実施時期だが……。」

 

 キースがそう言いかけたときだ。会議室の卓上に置かれた内線電話が鳴る。キースは受話器を取り上げた。

 

「こちら会議室、キース・ハワード大尉。……なに?わかった。情報収集を急げ。」

 

 キースは受話器を置くと、会議室の一同に向かい、語った。

 

「惑星首都ドリステル南端にて敵占拠下の惑星軍本部基地を監視中の火力小隊より緊急連絡が来ました。敵から降伏の軍使が来たそうです。ただ厄介なことに……。軍使の話では、降伏をよしとしない者達が夜闇に紛れて持てる限りの物資を持って本部基地を脱走、行方を晦ましました。その中には件のメック戦力も含まれているそうです。」

 

 会議室の一同は、騒然となった。

 

 

 

 惑星公爵、ザヴィエ・カルノーは映像通信回線を繋いだ指令室スクリーンの中で、キースの報告に難しい顔をした。ちなみにザヴィエ公爵は惑星首都奪還後、首都にある自らの邸宅に帰還している。

 

『むう、それは困ったの。バトルメック1個小隊と整備兵数名に歩兵が1個小隊弱とは言え、ゲリラ化されたら厄介じゃ。』

「申し訳ありません、閣下。あの時、無理をしてでも追撃しておけば……。」

『いや、大尉を責めておるわけでは無いわい。気にせんで良い。あの時はわしも指令室におったからのう。味方戦力が、見た目はともかく継戦能力に限界が来ておったことぐらい、わかっておる。あの時点で追撃を断念したのは、当然じゃよ。』

 

 捕虜からの尋問結果と、敵のユニオン級降下船に残されていたデータなどを纏めた書類を手に、キースは逃亡者たちの陣容をザヴィエ公爵に伝える。

 

「55tウルバリーンに搭乗しているメック戦士、ガストン・ゲージ大尉が首謀者です。元『アルヘナ光輝隊』のメンバーですね。そして追随した55tシャドウホークのメック戦士、テオドゥーロ・アダーニ少尉もまた、『アルヘナ光輝隊』のメンバーだった者です。彼らに従った整備兵たちは全員が、元々彼らの郎党か他の『アルヘナ光輝隊』メンバーの郎党だった模様です。

 更に60tオストソルに乗るメック戦士ソウイチロウ・タカギ少尉、50tエンフォーサーに乗るメック戦士ディン・ジタァオ軍曹、この2名は故ハリー・ヤマシタの配下で、元失機者の特殊部隊員と思われます。傭兵大隊『BMCOS』を正式な休戦時間中に攻撃し、非戦闘員まで纏めて殺害した疑いがかかっています。この2機のバトルメックも、骨格構造の製造番号の記録から『BMCOS』のバトルメックであったことが判明しております。

 一方で共に脱走したキヨシ・ハバ少尉率いる対メック歩兵小隊25名ですが、単に感情的に降伏することに反対していただけであった様です。自身には特に深い考えもなく、降伏論に傾くユニオン級3隻の船員たちに反発し、盲目的にバトルメック部隊に付き従った模様です。離反して残った3名の歩兵が証言いたしました。クリタ家至上主義にかぶれた、危険な連中です。」

『むう、いずれにせよ、追い詰められて何をするかわからぬ輩じゃということじゃな?厄介なことじゃのう。整備兵、歩兵1人1人までの名前や顔写真まで含めた情報を、送ってくれるかの?即刻指名手配するでの。』

「はっ、すぐにデータを送らせていただきます。オペレーター!」

「了解しました!」

 

 オペレーターたちがキースの手元にある書類と同じデータを首都の政庁と公爵邸に送信する。本当は惑星軍が行うべき作業なのだが、惑星軍本部基地は未だ取り戻されたばかりで機能回復しておらず、しかも色々荒らされており復旧の見通しが未だ立っていなかったのだ。それもあって惑星軍への命令権の、駐屯軍への委譲は、未だ解除されていない。

 ザヴィエ公爵は、眉根を寄せて愚痴を呟く。

 

『しかしのう……。こうなると、農業振興ばかりで教育をおろそかにしてきたツケが痛いわい。手配書を回しても、文面を読めない者が多いからのう。識字率が4割に届くか届かないかと言うところじゃて……。

 しかも文字が読める者は首都およびその近郊に集中しておる。たぶん端っこの方でも、村落1つに何人かは読める者がおるはずなんじゃがのう……。』

(……前にも思ったけど、よくコンバインやトラクターなんかの農作業機械を扱えるな。マニュアル、読めないんだろ?定期的な講習会でもやってるのかな?)

『いや、暗い話ばかりしていても仕方ないの。少しは明るい話もあるわい。恒星連邦に、一時首都と惑星軍本部基地を占拠されたが、駐屯軍と惑星軍の協力の下、ドラコ連合軍を罠にはめて壊滅させたと報告したんじゃがの。

 恒星連邦では今回の件を重く見て、しばらくの間この惑星の防備を厚くすることになったんだそうじゃ。で、援軍として用意していた大隊を、追加の駐屯軍として送り込んでくることになったそうじゃよ。約1ヶ月後じゃがの。

 けれどのう。こちらの戦力が戦車と新兵の1個中隊に、唯一まともなバトルメックが駐屯軍の1個中隊だけで、増強大隊規模の歴戦の敵を一蹴したと言ったら、かなり驚いた様子の返信が戻ってきよったわ。いや愉快、愉快。』

 

 苦笑しつつ、キースは言葉を紡ぐ。

 

「はい。いいえ、こちらは地雷原や間接砲の支援もありましたし……。それに一蹴とまで言われるほどでは……。こちらの継戦能力も限界に来ていましたし。

 ところで派遣される追加の駐屯軍が大隊と言う事は、司令官は少佐か中佐ですね?となると、我々は追加の駐屯軍が来てからの残りの契約期間1ヶ月は、その指揮下に置かれることになるのですね。」

『うむ、それについては申し訳ないが……。MRBを介しての貴傭兵部隊の、恒星連邦政府との契約の問題も絡んで来るのではっきりとしたことはわからんが、そうであった場合そうして貰えんか、大尉?窮屈かもしれんがの。』

「はっ、閣下。それは当然のことですから。ただ、場所はどういたしますか?大隊規模の戦力となると、この基地では……。今でさえ、惑星軍との同居で手狭になっていますが、惑星軍が本来の場所へ戻ったといたしましても、我々の部隊に加えて1個大隊となると、到底ここの設備では……。」

 

 その言葉に、ザヴィエ公爵は少しだけ困った様な顔になった。

 

『うむ。それだけではなく、駐屯軍予算のうちで惑星政府が出している分の予算も不足しよるの。この惑星の経済力では、恒星連邦に基本面倒を見てもらった上で、1個中隊強の駐屯軍をどうにかするので精一杯じゃ。

 ただ予算に関しては、恒星連邦政府の方でなんとかする、と言質は取っておるので、たぶん大丈夫じゃが……。問題は場所じゃの。』

「最悪、我々の部隊がこの基地を明け渡したとしても、1個大隊では手狭もいいところです。我々の部隊は本当に最悪の場合、惑星首都ドリステルにある宇宙港ドリスポートに降下船4隻を置き、降下船自体を施設代わりに使えますが。契約が終わるまでの1ヶ月間だけの話ですし。」

『その問題については、恒星連邦政府でもわかっておるはずなのじゃ。一応問い合わせてみるが、コムスターのHPG施設を介してのメッセージは早いが値段が高くての。かと言って商用降下船を通じての手紙のやりとりでは遅くてたまらんからの。

 その上、一時的にとは言え首都が制圧されておったため、この惑星への商用降下船は一時休止されてしもうた。大損害じゃ。いや、そうではなくて、やはりコムスターのHPG施設を使わねばならんと言うことじゃな。やれやれじゃ。』

 

 キースは内心で深く同意する。キースは以前、サイモン老の恒星連邦政府高官への伝手を使うため、HPG施設からメッセージを送ったことが2~3回あったのだ。

 

(できるだけ文面を削った、あの昔の電報みたいなメッセージであれだけ高いんだ。戦闘報告書みたいな莫大なデータ添付して送ったら、どれだけになることやら……。)

『さて、話を戻すが逃げた奴らの捜索じゃの。惑星政府と惑星軍でも鋭意捜索するが、駐屯軍でも可能な限りの手段は取ってほしいのじゃが。』

「それは当然です。駐屯軍は外敵からこの惑星を守るために駐屯しております。奴らはその外敵の残滓です。現在も偵察兵を派遣し、バトルメックの足跡などから逃走方面を特定せんとしております。

 また修理の完了した4機の気圏戦闘機を偵察に飛ばす準備も整っております。場所が判明次第、レパード級降下船にて火力小隊を派遣する準備も整っておりますれば。

 ですがそれ以上になりますと、この惑星に根を張らない我々傭兵部隊では難しくもあります。」

 

 そう、傭兵中隊『SOTS』所属の偵察兵、ネイサン軍曹とアイラ伍長は、この間部隊の予算で購入したばかりのスィフトウィンド偵察車輛を駆り、逃げたバトルメックの足跡を追跡していた。

 今のところ、惑星首都ドリステルの南にある惑星軍本部基地から出たその足跡は、首都ドリステルを大きく西側に迂回して、駐屯軍基地とは反対側の首都北方へ逃走したことがわかっている。問題は首都北方には森林地帯が存在することだ。そこに逃げ込まれては足取りを追うのがひどく難しくなる。

 

『うむ。幸いにして、と言うのも何じゃが……。縄張り意識ばかり強い議会の者どもも、一時期首都を占拠されておったのがよほど応えたのじゃろうて。おそらくは今ばかりのこととは思うが、協力的になっておるの。この際に駐屯軍と惑星軍の間における、様々な協力体制の前例を作ってしまうとしよう。』

「はっ。何よりもまず、情報の共有化が肝要かと存じます。」

『今までの様に、レーダー情報を送るだけで申請書類が山ほど必要な状態は、なんとしても改善せねばの。』

 

 キースとザヴィエ公爵は、人の悪い笑みを交わした。オペレーター嬢たちが冷や汗を流したのは言うまでもない。

 

 

 

 3025年11月6日、やはり彼の逃亡者たちは、首都北方にある森林地帯に逃げ込んだと思われた。キースは司令室で書類仕事をしながら、一人悩む。

 

(まいったな。火力小隊のうち2機はジャンプジェットを搭載していないから、森林戦は不向きだ。かと言って偵察小隊を派遣するのは機体総重量的に不利だしなー。奴らの機体のうち3機がジャンプジェット搭載機だし……。

 それ以前に、森林内にレパード級降下船が降りられる場所って無いだろ。森の外に機体を降ろして歩いて入らせるしか無いじゃないか。いっそのこと、ユニオン級を使って火力小隊と偵察小隊をいっぺんに送り込むか?

 だけどまだ、奴らの位置を特定できたわけじゃないし。まずは衛星写真の解析と、気圏戦闘機による高高度偵察だよな。ああ、あとネイサン軍曹とアイラ伍長はどうするべきかな。森林内の集落を訪問させて情報を集めさせるか。奴らがメック4機と兵員輸送車6台で持てる限りの物資を持っていったからって、いつまでも食糧が続くわけじゃなし。必ず物資をどこかから調達しようとするだろう。)

 

 とりあえずキースは気圏戦闘機による、北方の森林地帯における高高度からの偵察を命じることにする。彼は指令室まで内線電話をかけようとする。しかしそこでキースは凍り付いた。

 

(……森林はメックの移動力が著しく制限される。それに影響されないジャンプジェット装備の偵察小隊では重量比的に不利。俺が奴らの指揮官だとして、欲しい物はなんだ?食糧などの物資?いや、それでは結局は行き詰るだけだ。奴らが本当に欲しい物は……。

 奴らの航宙艦は補給ステーションの無いジャンプポイントであるゼニス点に来た。と言うことは、奴らの航宙艦は再充電のために、まだジャンプポイントにいる可能性がある?となると、まさか。まさかそのために、いや、そこまでするか?いやこの場合、最悪に備えた方が……。)

 

 いきなりキースは立ち上がると、指令室まで走り出した。やがて彼は指令室に辿り着く。キースの代理として指揮を取っていたアーリン中尉が、驚いた目でキースを見遣る。

 

「キース大尉、いったい……。」

「すまん、アーリン中尉。話は後だ。オペレーター!惑星公爵邸に回線を繋げ!」

 

 オペレーターは、慌てて公爵邸に通信を繋ぐ。やがてザヴィエ公爵が指令室スクリーンに映った。

 

「おくつろぎのところ、申し訳ありません公爵閣下。今はまだ確実性の低い話なのですが、件の逃亡している第4アン・ティン軍団C大隊の残党が、事件を起こす可能性がございます。奴らが逃げ込んだと思われる北方の森林地帯内部の主だった集落に、至急避難命令を出していただけないでしょうか。」

『……突然じゃのう、ハワード大尉。いったい……。いや、今少し待て大尉。何事じゃいったい、今わしは大事な通信を受けている最中じゃぞ……。』

 

 ザヴィエ公爵は、画面外の誰かから話しかけられた様で、しばらく画面から消える。戻って来たとき、公爵の顔は厳しく顰められていた。

 

『……遅かったわい。森林内部の3つの集落が、あ奴らに襲撃を受けた。確認に行った偵察隊によると、生き残りはおらん。3つの集落のうち最大の1つにのみ設置されておった電話を使い、あ奴らの犯行声明が送られてきたそうじゃ。

 曰く、「これはトマス・スターリング少佐とハリー・ヤマシタ中佐を殺したことへの報復」だそうじゃ。おのれ、恥知らずめ。無辜の民人を徒に害した上にその言いよう……。大尉!即刻あ奴らのそっ首叩き落し……。

 い、いや済まなんだな大尉。お主の指揮権に介入するつもりでは無かった。』

「はっ。いえ……。奴らが森林地帯に逃げ込んだと知った時点で思いつけなかったのは、自分の失策でした。おそらく奴らの目的は、スターリングやヤマシタの復讐などではありません。こちらを挑発して怒らせ、おびき寄せることこそ、奴らの狙いなのです。」

『なんじゃと?』

 

 アーリン中尉が息を飲む。キースはその時、おどろおどろしい鬼気を纏っていた。だが彼は拳を握りしめ大きく息を吐くと、一瞬で平静を取り戻す。ただしその眼光だけは剣呑な物を宿していたが。キースは自分の推測を語る。

 

「やつらの狙いはおそらく、こちらが最大の速度でなおかつ動かせる最大の戦力で、現地に向かうことです。それにはレパード級降下船ヴァリアント号を使い、指揮小隊を乗せるのが、一番最速の手段でしょう。

 そしてジャンプジェットを装備していない指揮小隊が森林の奥深く分け入った隙に、敵は降下船を狙って手に入れるつもりでしょう。そうやって、奴らはドラコ連合に帰るつもりなんです。」

『馬鹿な!そんなあやふやで綱渡りな作戦が……。いや、そうか。そんな作戦とも言えん作戦に頼りたくなるほど、奴らは追い詰められていると言うことか……。しかしそんな馬鹿な考えのために、わが民が殺戮されたというのか……。』

「無論、単なる推測です。ですが、実際に凶行は行われてしまいました。」

 

 ザヴィエ公爵は一言唸り声を上げると俯いて沈思する。そして再び顔を上げたとき、その瞳には怒りと共に、聡明な光が戻っていた。

 

『大尉、頼めるかの?』

「はい。ちょうどサイモン曹長が物のついでで応急修理した機体に、ちょうど良い物がございます。それが使えるでしょう。……あの無法者どもに、報いをくれてやりましょう。」

 

 キースは獰猛な笑みを浮かべた。




逃走した連中、やってはいけない事をやってしまいました。主人公や惑星公爵の怒りは頂点を突破しています。次回、無法者に報いが下ります。


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『エピソード-029 弔い』

 恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地付属宇宙港では、今1隻の降下船の発進準備が大急ぎで進められていた。その降下船はレパード級のヴァリアント号ではなく、フォートレス級のディファイアント号である。マローダーに搭乗して作業を監督していたキースが、サイモン老に尋ねる。

 

「サイモン曹長、ディファイアント号の調子はどうだ?フォートレス級は故障が多いと言うのが定説だからな。」

『ユーリー伍長とライナス伍長が日頃から手を入れて来たんで、そう酷いところは無かったですの。あとはわしとジェレミー伍長が手を貸しておるので、もう満足に動かないところは無くなっておりますわい。

 ジェレミー伍長の腕前は、艦船や気圏戦闘機に関してはわしに匹敵するぐらいに上がっておりますでのう。』

「サイモン曹長の愛弟子、と言うわけか。」

 

 おもむろにキースは、今フォートレス級の登場口に設けられている傾斜路を登って行く、1機のバトルメックを見遣る。彼はそのバトルメックに通信を入れた。

 

「ヴェラ伍長。今回は無理を言って、本来の乗機とは違う機体に乗ってもらうことになり、済まないな。しかも正規の部品が手元にないために、他機種の部品を流用した応急修理機だ。どこかしら機体の挙動など、変に感じるところは無いか?」

『あ、キース大尉。大丈夫です!サイモン曹長の腕前は流石に凄いですね。とても応急修理の機体だとは思えないです!まだ操縦自体は慣れませんが、それはまあ追々なんとかします、はい。』

「頼んだぞ。今回の作戦は、その機体に全てがかかっていると言っても良い。」

『了解です!』

 

 そしてキースは、ディファイアント号に駐屯軍の全歩兵部隊、全機甲部隊、全バトルメックを積み込み終わったのを確認してから、自機マローダーを積み込ませる。これは駐屯軍の全戦力だ。留守番を惑星軍が肩代わりしてくれなければ、この様な贅沢な出撃はできない。そうでなければ、おそらく最低でも指揮小隊は基地に残さざるを得なかっただろう。

 空には既に駐屯軍の気圏戦闘機である、ライトニング戦闘機4機とトランスグレッサー戦闘機2機が、周囲の大気自体を推進剤に用いることで機載の推進剤を節約する、低速巡航モードにて飛び回っていた。今回の敵、1個メック小隊および1個歩兵小隊に対しては明らかに過剰戦力であるが、万が一にも逃がすわけにはいかない以上、キースは多少のことには目を瞑り、大戦力を注ぎ込むことにしたのである。

 そう、今回の標的は第4アン・ティン軍団C大隊の残党であり、この惑星の無辜の住民を殺戮した無法者である。しかもここで逃がせば、またどんな事態を引き起こすか知れた物ではない。断じて逃がすわけにはいかなかった。

 

「マンフレート船長、準備は良いか?」

『はい少佐。いつでも発進できます。』

 

 ディファイアント号のマンフレート船長は、キースのことを少佐と1段階上の階級で呼ぶ。降下船に乗船中は、船長である「キャプテン」と大尉である「キャプテン」がごっちゃになる事を防ぐ意味での処置である。キースはマローダーの通信回線を全部隊に繋いだ。

 

「……この基地での攻防戦で逃がした敵が、この惑星の無辜の住民を惨殺した。我々駐屯軍は、傭兵部隊『SOTS』は、その顔に泥を塗られたも同然。だがそれよりも、殺された住民たちの無念と恐怖を思うと胸が痛む。我々は彼の無法者たちを何としても撃滅し、死者たちの無念の幾ばくかなりとも晴らさねばならん。

 いいか、今回は1人たりとて逃がすな。慈悲も憐れみも、今日だけは脇に置いておけ。1人逃がせばその1人が、また必ずや新たな犠牲者を生むだろう。全隊員、そのことを胸に刻んでおけ。我々はこれより、彼奴らに対する死神の鎌となる!ディファイアント号、発進せよ!」

 

 轟音が響く。フォートレス級降下船ディファイアント号は、下部より噴射炎を吐き出しつつ駐屯軍基地付属宇宙港の離着床を、ゆっくりと離れて行った。

 

 

 

 そしてディファイアント号は、惑星首都ドリステル北方に広がる森林地帯の前に着陸する。地盤などの関係で、ディファイアント号に限らず降下船が着陸できるのは、ここ周辺ではここだけだ。着陸場所の事前調査は、部隊所属の偵察兵であるネイサン軍曹とアイラ伍長が、あらかじめ完了させていた。

 

「全部隊、下船し展開を開始せよ。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 デファイアント号のハッチが展開し、乗下船用の傾斜路を形成する。まず最初にバトルメック部隊が下船し、降下船の周囲に展開した。それを追う様に機甲部隊が下船、森に対してバトルメック部隊の後方に位置する様に展開する。更に歩兵部隊が下船した。上空には気圏戦闘機隊が舞っているのが地上からも見える。キースは今回の秘密兵器に指示を出した。

 

「偵察小隊、ヴェラ伍長。頼んだ。」

『了解です!』

 

 ヴェラ伍長の操るバトルメックが突出して前進し、機体上部と短い両腕に装着されている各種センサーを動かし始める。そのバトルメックの名は、35t級オストスカウトと言った。この機体は極めて強力なセンサー群を搭載しており、ある程度近づけば隠蔽されている車輛やメックを発見することも不可能では無いのだ。

 

『……います。戦術マップ座標でG-339248、G-339236、G-339224、G-339212の各地点です。赤外反応が異常に低いところを見ると、IR偽装網を使用している模様です。兵員輸送車6輛は各地点に1~2輛ずつ分散しています。

 普通はあんなところに車輛が入れるはず無いんですが……。時間をかけて木々の隙間を縫って、強引に隠した様ですね。ただ、さすがに歩兵は見つかりません。』

「了解だ。指揮小隊ライフルマン、アンドリュー軍曹。偵察小隊グリフィン、ヴィルフリート軍曹。火力小隊クルセイダー、ロタール軍曹。火力小隊グリフィン、カーリン伍長。各々、G-428313、G-414236、G-515428、G-111224地点の高地を確保しろ。

 それ以外の各員は先に言った者たちが高地を確保したら号令を出すので、偵察小隊がG-339248、火力小隊がG-339236、マテュー少尉とエリーザ軍曹がG-339224に向けてエネルギー兵器で樹木をなぎ倒せ。俺はG-339212をやる。

 高地に移動した者と機甲部隊は、敵の姿があからさまになったら即座に各目標へ射撃を開始せよ。遠慮はするな、思い切りやれ。

 気圏戦闘機隊、奴らが逃げそうになったらその始末を頼む。俺が危惧しているのは、エンフォーサーの特殊な脱出システムだ。あれで逃げ出されると、地上部隊ではどうにもならん。飛距離はそれほど無いはずだから、追跡して追い詰めてくれ。

 歩兵部隊指揮官エリオット少尉。歩兵部隊の指揮は任せる。敵歩兵部隊の想定位置はメックの配置から推測するに、G-166188だ。バンザイ突撃には気を付けろよ。」

『『『『『『了解。』』』』』』

 

 そして各々のメックが高地を確保する。キースは号令を下した。

 

「3、2、1、撃て!」

 

 高地に移動しなかった偵察小隊、火力小隊、指揮小隊のバトルメックから、粒子ビーム砲やレーザーと言った、エネルギー兵器の光が放たれる。あっと言う間に森林がなぎ倒され林に、林がなぎ倒されて荒れ地に変わって行く。そればかりか倒木に火が付き、火災が発生した。

 炎の中から、必死で風上……森の外へと出ようとするバトルメックが4機、現れる。高地を確保した味方メックと、メック部隊の後ろに展開した機甲部隊から、一斉に砲火が放たれた。

 最初に倒れたのは、60tのオストソルである。ロタール軍曹のクルセイダーが降らせる15連長距離ミサイルの雨に打たれ、そのうちの2本のミサイルが装甲の隙間からジャイロに命中したのだ。

 オストソルは亀のごとくひっくり返ってじたばたともがくが、起き上がることはできない。やがて頭部装甲が開くと、メック戦士が機体から飛び降りた。だが脚をくじいた様で、その場で動けなくなってしまう。

 次に倒された敵は、55tシャドウホークだ。必死に中口径レーザーと2連短距離ミサイル、5連長距離ミサイルを撃ちまくるが、2機のグリフィンから撃ち込まれた粒子ビームに打ち据えられ、既に傷ついていて修理が不完全であった右脚が崩壊して転倒してしまう。

 だがそれでもこの機体のメック戦士は抵抗を諦めず、左腕で機体を支えては武器を撃ちまくった。そこにハンター戦車から送り込まれた20連長距離ミサイルが雨あられと降り注ぎ、この機体をめった打ちにする。やがて煙が晴れたとき、このシャドウホークの頭部は吹き飛んでいた。

 50tのエンフォーサーは、まだ運があった方だろう。この機体はいったん燃える森を脱出すると方向転換してジャンプジェットを噴かし、まだ燃えていない森の中に飛び込んだのだ。マンティコア戦車とヴァデット哨戒戦車の攻撃は、森に遮られて命中しない。

 しかしアンドリュー軍曹のライフルマンは、キースにすら並ぶ達人の域にまで昇華された射撃技量で、修理が終わっていなかったこの機体の右脚を折り取った。倒れ伏すエンフォーサー。

 それでもこの機体のメック戦士は、往生際悪く諦めていなかった。突然エンフォーサーの頭部がはじけ飛び、超小型の軽飛行機がロケット推進で打ち上げられた。ここに展開しているのが地上部隊だけであれば、彼は逃げ切れたであろう。

 だが大空には電光の名を持つ猛禽と、罪人の名を持つ鳳が舞っている。6機の気圏戦闘機が追いすがり、ロケット推進の軽飛行機を追い詰めて行くのが地上からも見えた。

 

「残るはこの機体だけだな。たしかガストン・ゲージ大尉だったか。サイモン曹長、念のためにディファイアント号のロングトムⅢを、G-555913、そして次にそこからNに150m、その次に更にそこからNNEに150mの地点に撃ち込んでくれ。」

 

 ドン!ドン!ドン!

 

 連続して、ディファイアント号のロングトムⅢ間接砲が火を吹いた。キースはマローダーの操縦席主スクリーンに映る、55tの中量級傑作メック、ウルバリーンを見遣る。おそらくこいつは、駐屯軍がフォートレス級で『SOTS』の全戦力を送り込んで来るなどとは想定していなかったのだろう。

 だが一度待ち伏せ場所に隠れてしまった以上、動けばその姿を晒すことになる。だからこいつらは、そのまま何の行動も起こさずに隠れ続けるしか無かったのだ。きっとガストン大尉は、一分一秒でも早く、キースたちが何処かへ行ってくれと願っていたはずだった。

 しかしキースたちの手には、なんとセンサーの塊とでも言えそうな偵察メック、オストスカウトがあったのである。皮肉なことに、それを持ち込んだのはガストン大尉たちの仲間である。なおかつそれは元々『BMCOS』のメックであったため、法的にもキースらがそれを用いることに、なんら障害は無かったのだ。

 キースはマローダーの粒子ビーム砲になった両腕を、ウルバリーンへ向ける。彼の両隣ではエリーザ軍曹のウォーハンマーと、マテュー少尉のサンダーボルトが、同様に武器をウルバリーンへ向けていた。

 ウルバリーンは突然ジャンプジェットに火を入れると、最大限のジャンプで燃える森の中へと戻った。そして燃えている炎を突っ切り、最大ジャンプを繰り返して北方へ、北方へと逃走して行く。キースは偵察小隊に指示を出した。

 

「アーリン中尉!奴をこのままの方向へ追い込んでくれ!ただし頭上注意だ!奴に隣接はしないように!」

『了解!』

 

 フェニックスホーク2機とオストスカウトがジャンプジェットを噴かし、逃げるウルバリーンを追いかける。ウルバリーンは、必死で逃走した。だがここで、天からの雷がウルバリーンに叩きつけられた。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 サイモン老の熟練の技による、ロングトムⅢ間接砲による砲撃が、ウルバリーンに直撃した。ウルバリーンは左腕を吹き飛ばされて失う。だがそれでも諦めずに、ウルバリーンは北に向けて最大ジャンプを敢行する。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!

 

 敵機の動きは、キースの読みからわずかのずれも無かった。ウルバリーンは今度は左脚を失い、倒れ込む。その周囲を、偵察小隊のバトルメックが取り囲んだ。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!

 

 ウルバリーンがまだ動いていたなら、おそらくその位置にいたであろう地点に、最後のロングトムⅢの砲弾が落着して火柱を上げる。キースは歩兵部隊に通信を入れた。

 

「こちらは終わった。エリオット少尉、バトルメックによる支援は必要か?」

『はっ!いいえ、こちらも終わりました。歩兵部隊19名は、バンザイ突撃を敢行してまいりましたため、やむなく全員を射殺いたしました。こちらの損害は、軽傷者1名。行動に支障はありません。

 整備兵は5名全員が歩兵部隊に随伴しておりましたが、これは捕虜にすることに成功しております。こ奴らによりますと、残りの歩兵6名は兵員輸送車の運転をしていた模様であります。』

「……そうか。となると、あの火の海の中か。」

 

 キースは前世におけるボードゲーム、バトルテックの追加ルールであるシティテックの記述を思い出す。

 

(たしか車輛や歩兵が火災の起きた場所を通過したりそこで移動を終了した場合、サイコロ2個で8以上の出目を出さないと、そのユニットはゲームから除去される、だったな。つまりは……そういうこと、か。奴らの自業自得とは言え、俺が焼き殺したも同じだからな……。楽には死ねなかったろうな……。

 いや!気に病んでいる場合じゃない!それにあいつらが、俺が殺した最初の人間でもなければ、最後の人間になる予定も無いんだ!)

 

 己を奮い立たせると、キースは内心の動揺を表に出さずにエリオット少尉に尋ねる。

 

「エリオット少尉、1個小隊程度の人員を遠出させる余裕はあるか?」

『はっ!大丈夫です!』

「そうか。なら準備だけはしていてくれ。気圏戦闘機隊がエンフォーサーのメック戦士を地面に降ろし次第、確保に行ってもらうからな。他の者たちは、脱出した敵メック戦士などを捕縛してくれ。」

『了解!』

 

 やがて気圏戦闘機隊からの連絡が来る。

 

『大尉、こちらライトニング戦闘機3番機、ミケーレ・チェスティ少尉。敵のエンフォーサーから脱出した軽飛行機は、H-333315地点にて地面に降りました。走って逃げ出そうとしたため、威嚇射撃を行ってこの場にとどめています。

 捕縛するため、歩兵部隊の派遣を要請します。』

「こちらキース大尉、了解した。ただちに派遣する。エリオット少尉、聞こえていたな?H-333315地点へ1個小隊を急行させてくれ。」

『了解です、大尉。』

 

 ふと気づくと、辺りには雪が降り始めていた。キースたちの攻撃により発生した森林火災は、鎮火しつつある。炭化した木々の向こうから、アーリン中尉たち偵察小隊のフェニックスホークが、ボロボロになったウルバリーンの機体や手足を担いで戻って来るのが見えた。

 

 

 

 3025年11月15日、『SOTS』の火力小隊を除いた士官たちは、礼装で惑星首都ドリステルまで出向いて来ていた。火力小隊の士官がいないのは、流石に駐屯軍基地の留守を守る者がいないのはまずいため、留守番しているからである。

 ちなみに『SOTS』にはまだ正式な軍服が無いため、礼装と言ってもそれらしく見える服でしかないのは言うまでも無い。なおその胸には、喪章が着けられている。

 首都の中央公園の広場に演壇が設けられ、この式典の参列者がその前にずらりと並ぶ。檀上には、惑星公爵ザヴィエ・カルノーの姿があった。ザヴィエ公爵が滔々と語る弔辞が、会場に設置されたスピーカーから流れてくる。

 

『……なる悪逆無道の侵略者の手によって斃れた全ての者に、哀悼の意を表するものである。そしてこの惑星、我らが故郷ドリステラⅢを守るためにその尊き生命を捧げた、勇敢な戦士たちに、このドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーは心からの感謝を捧げるとともに……。』

 

 そう、この式典は此度の第4アン・ティン軍団C大隊による惑星襲撃によって、命を落とした者たちの合同慰霊祭であった。今回の戦いにおける犠牲者は、惑星侵略という言葉から想像されるよりも驚くほど少なく済んだ。しかしだからと言って、死んだものが皆無と言うわけではない。

 ことにあのガストン・ゲージ大尉以下の無法者たちの手によって惨殺された3個集落の人間とその関係者たちにとっては、何の慰めにもならないだろう。キースの心には、その一件が棘の様に刺さって抜けなかった。

 

(しかし、あの無法者たちの心理を推測するのが遅れたせいで出た犠牲は、本当に痛恨だったなあ……。よく、「自分が上手くやっていれば救えたなどと言うのは、それこそ傲慢だ」とか言うけれど……。実際にそう言う事態になってしまえば、そう思ってしまうのは止められないし、そんな台詞で割り切れるもんじゃないよなあ……。)

 

 やがてザヴィエ公爵の弔辞も終わり、その号令によって全員が黙祷を捧げる。

 

『黙祷!』

 

 キースはしばし目を瞑る。彼が親しかった人は、幸いにも誰も亡くなってはいない。強いて言えば、惑星軍本部基地の司令官アントナン中佐……いや、今は2階級特進して准将であるが、知人と言えばその人ぐらいである。しかもあくまで仕事上の付き合いであり、世話にこそなったもののそこまで親しいわけでも無かった。

 ただ、ほんのわずかな付き合いではあったが、彼の人の生き方と伝え聞く最期は、キースの心に深く焼き付く物でもあった。キースはふと思う。

 

(ああ、そうか。あの人も俺にとって、「戦友」だったんだな。肩を並べて戦う機会こそ無かったけれど。)

 

 キースの後方から、2つの小さなしゃくり泣きが聞こえる。声からして、おそらく惑星軍メック部隊のデクスター・ドハーティ伍長とアリス・ジョアンヴィル伍長だろう。他の少年少女の惑星軍メック戦士たちも、たぶん間違いなく涙ぐんでいるはずだ。

 

(貴方から頼まれた2つのこと……。公爵閣下の保護ともう1つ、惑星軍メック部隊の若手メック戦士たちを死なせないことは、なんとか達成することができましたよ。どうか安らかに眠ってください、アントナン准将……。さようなら、戦友……。)




無辜の民草の命と言う、致命的な損害は出てしまいましたが、なんとか逃走した敵兵は全て倒し、あるいは捕らえる事ができました。その後は、弔いの時間です。
ここでまた、アントナン中佐⇒准将の登場です。……2階級特進は、日本軍くらいだって何処かで聞いた気がしたので、修正しようかと思いましたが、何処だったか思い出せないので、確証が持てませんでした。ですので、確証が持てるまで、アントナン中佐はアントナン准将のままです。おやすみなさい、アントナン准将。


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『エピソード-030 司令官引継ぎ』

「これが今回の分だな。」

 

 ヒューバート中尉が、司令室でキースに銀行振り込みの明細書を渡す。キースは複雑な顔でそれを受け取った。

 

「……無茶してないか?ヒューバート。この金額明細を見るに、今回の戦闘ボーナスとかをほとんど全額こっちによこしてるじゃないか。」

「渡してるのは戦闘ボーナスだけだ。普通の給料はちゃんと自分で使ってるさ。そうでないと、生活すらできないからな。それにこの『SOTS』は良心的だからな。メックの維持費なんかは全部部隊が出してくれてるだろ?修理費とか予備部品の代金までもさ。

 それだけじゃない。俺の借金まで部隊で立て替えてくれて、ある時払いの利息なしでいいって言われたときは、地獄から天国かと思ったんだぜ?」

 

 そう、ヒューバート中尉は借金持ちだ。以前フリーの傭兵だったときの最後の仕事で、彼が当時乗っていた30tメック、ヴァルキリーは敵に鹵獲されてしまい、恒星連邦による身代金交渉で返されてきたのだ。

 その身代金の代金を、ヒューバート中尉は恒星連邦から請求されていたのである。だがフリーの傭兵としてカツカツの暮らしをしていたヒューバート中尉では、当時の貯蓄をすべて吐き出しても払える額ではなく、その残金すべてが恒星連邦政府への借金になっていたのだ。

 キースはヒューバート中尉を傭兵部隊『SOTS』で雇用する際に、部隊の予備費を一部取り崩してその借金を立て替え払いした。これでヒューバート中尉は、借金を恒星連邦ではなく傭兵部隊『SOTS』に返せば良いことになる。しかも彼が言った通り、ある時払いの利息なしで、だ。地獄から天国、と言う表現は決して誇張ではない。

 キースはほがらかに笑う。

 

「ははは、お前をうちの部隊で雇えるのならば、安い買い物だと思っただけだよ。あのときうちの部隊は、切実に士官を欲していてな。お前ほどの士官を逃がすわけには、絶対にいかなかったんだよ。

 もっとも、士官含め信頼できる隊員を欲しているのは、今も同じなんだけどな。」

「予備メックが増えたもんな。メック戦士がいない今のままじゃ、維持費ばかりかかって稼ぎにならないからなあ。」

「贅沢な悩みなんだがな。」

「違いない、ははは。」

 

 笑うヒューバートに、キースは急にまじめな顔になって言う。

 

「ユニオン級降下船3隻を鹵獲した報奨金で、メックの補修部品を注文できた。商用降下船による通商が再開されれば、その部品もやって来る。そうなれば遠からず不稼働メックのうち6~7割が復帰できるんだよな。

 来年6月になればレオ・ファーニバル教官が推薦してくれた、メックを持たない『ロビンソン戦闘士官学校』卒業生が若干名参加してくれる見通しも立っているし……。」

「俺たちの後輩、か。ファーニバル教官の推薦なら、間違いは無いだろう。しかし後半年以上か……。長いな。」

「だけど焦って信頼できないメック戦士を雇うのは馬鹿らしいしなあ。それよりかは、手元で人材を育てた方がマシかもしれないな。歩兵部隊や助整兵、戦車兵の中に、メック戦士の素質がある者がまた出てくれないものかね。」

 

 現在火力小隊にいるロタール・エルンスト軍曹とカーリン・オングストローム伍長は、実際そうやって歩兵部隊と助整兵の中から発掘された人材である。だが彼らは何というのか、生まれつきの才能を持った人間でもあった。

 僅かなシミュレーター経験だけで才を開花させ、並程度とは言えどそれなりの腕前になるなど、普通は考えられない。それほどの才能を持つ者がそうそう湧いて出るはずも無かった。

 おもむろにキースは、執務机の中から書類を引っ張り出す。

 

「さて、お仕事と行くか。あと2週間もしないうちに、恒星連邦政府が手配した追加の戦力が、この惑星にやって来る。そうなれば、俺たちは首都にある宇宙港ドリスポートに4隻の降下船を移して、この基地を明け渡すことになる。

 基地司令も、やって来る大隊……『ハミルトン大鎚騎士団』の司令官、オスカー・ハミルトン少佐に引継ぎになるしな。」

「そうなるって、はっきりしたのか?」

「ああ。昨日公爵閣下から連絡があった。俺たちには申し訳ないけれど、契約期間の最後1ヶ月間は降下船を施設代わりに使うことにしてくれ、だそうだ。もっとも降下船を施設代わりに使うのは、やって来る部隊もいっしょなんだけどな。

 この基地は、大隊が駐屯するには狭いからなあ。基地付属宇宙港に降ろした降下船を、足りない分の基地施設代わりに使うんだとさ。

 さて、引継ぎのために書類をしっかり作っておかないとな。」

「ではお手伝いいたします。キース大尉。」

「ああ、頼んだ。ヒューバート中尉。」

 

 キースは猛然と書類に取り組みはじめる。ヒューバート中尉も、それを手伝って黙々と仕事に励んだ。

 

 

 

 キースはいつものジャスティン・コールマン一等兵を運転手にして、ジャンプポイントに設置されている補給ステーションとの通信を行うための、深宇宙通信施設に出向いていた。キースの感覚からすれば、この通信施設と駐屯軍基地の間に通信回線を繋げることぐらい簡単にできそうに思うのだが、この惑星の技術者レベルではなかなかそうは行かないらしい。

 ちなみに駐屯軍基地と惑星公爵邸宅間には映像通信の回線が敷かれているのだが、それが活用できる様になったのは、サイモン老が回線を発見して手入れしてからである。それまでは、その存在すら知られていなかったりした。

 まあその様なわけで、深宇宙通信施設をキースたちが利用しようと思うなら、こうやって出向いて来るのが一番手っ取り早いのだった。キースは心の中で、溜息を吐く。

 

(はぁ……。文明の衰退は著しいなあ……。このあいだ、この惑星の一般的なレベルの技術者が機械修理をやる場面を見る機会があったけど、「通信機器に雑音が混じったときは、ここをある角度で素手をもって、素早く叩きます。ただ、その叩く角度と速度は我が家の秘伝ですので、お教えするのはご勘弁ください。」って、大真面目に言ってたもんなあ。つまり本格的に壊れたら、修理や部品交換じゃなくて全取っ換えしかないってことだろう?

 うちで雇い入れた助整兵は、サイモン爺さんはじめ、『SOTS』の整備兵が必死になって教育したからマシだけど。うちの部隊が惑星から出る時ついて来たがってるけど、この惑星に残ったらエリート中のエリートになれるんじゃねーの?あの助整兵たち。

 と言うか、この間捕まえたスパイなんかは、コンピュータのデータを盗んだりできるんだよな、この惑星の出身なのに。クリタ家は凄い高度な教育を受けさせたんだなあ。いや、単に操作手順を丸暗記しただけだったりして……。)

「大尉、到着しました。」

「……ご苦労、ジャスティン一等兵。」

 

 キースはジープを降りると、深宇宙通信施設へと入って行く。ジャスティン一等兵が、忠実にその後に続いた。施設の警備員が声をかけて来る。

 

「ああ、駐屯軍の大尉さんかい。一応規則だから、身分証明書を提示してくれ。」

「ああ。これで良いか?」

「おう、すまんね。」

 

 警備員に身分証明書を見せてゲートを通ると、キースは奥の部屋へと進む。そこでは数多くの職員が、先祖代々伝えられた手順に従って各種機器を操作していた。キースは事務用カウンターから、その職員のうち1人に声をかける。

 

「傭兵部隊『SOTS』のキース・ハワード大尉だが、うちの航宙艦、マーチャント級クレメント号からの通信が来ている時分だと思って出向いて来たのだが……。」

「はい、少し待ってください。確認してみますので。……ああ、メッセージが1通来てますね。」

 

 メッセージと聞いて、キースは少し落胆する。マーチャント級航宙艦クレメント号のアーダルベルト・ディックハウト艦長には、『SOTS』に新たに加わった降下船を運ぶ必要性から、別の航宙艦とも専属契約を結べないかと、その伝手を使い方々に打診してもらっていたのだ。

 だがその打診が上手く行っていれば、契約を結べそうな航宙艦に関する多くの情報を、データ通信で送りつけて来るであろう。単なるメッセージと言う事は、上手く行かなかったのではないかと思っても不思議ではない。

 

「メッセージをプリントアウトしますね。0.5DHビルになります。」

「ああ、頼んだ。」

 

 DHビルとは、恒星連邦を支配する継承王家であるダヴィオン家の発行している通貨だ。恒星連邦内でなら普通に通用するが、恒星連邦の領域外ではその価値は保証されているとは言い難い。それはともかくとして、キースは封筒に入れられたメッセージのプリントアウトを受け取る。キースは封筒を開けて、それに目を通した。

 

『ゲンザイ、ユウボウナコウチュウカントコウショウチュウ。イマスコシ、ジカンヲイタダキタシ。アーダルベルト。』

(……「現在、有望な航宙艦と交渉中。今少し、時間を頂きたし。アーダルベルト。」か。……なるほど、まだ希望はあるか。)

 

 キースは事務用カウンターの上にある書類立てから、1枚のメッセージ送信用紙を取ると、それにメッセージを記入していく。

 

(ええと、「最悪で、連盟標準時の3026年1月までに間に合うならば、助かる。よろしくお願いする。キース。」と。送信先は、補給ステーションで充電中のマーチャント級航宙艦クレメント号……。うん、これでいいな。)

 

 手が空いている職員を呼ぶとキースは、メッセージ送信用紙を頼む。受信メッセージのプリントアウトと違い、送信は10DHビルかかった。けっこう高かった。

 

 

 

 轟音と共に、ミュール級降下船が駐屯軍基地付属宇宙港に降り立つ。この降下船は、ユニオン級降下船に比して1.5倍弱ほどの大きさを持つ、長球型の民間用降下船だ。この船種は主に、商用降下船として用いられることが多い。

 今回この降下船が運んできた荷は、基本的に軍用の物ばかりである。目玉商品は、キースたちが注文したバトルメックの修理部品や予備部品と、気圏戦闘機の予備部品だ。だがそれ以外にも、大量の軍需物資がこの降下船からは降ろされて行く。

 一方でキースたちは、自分たちの降下船であるレパード級ヴァリアント号、ユニオン級ゾディアック号、同級エンデバー号、フォートレス級ディファイアント号に、バトルメックの修理作業台などの大物の荷物を、基地の整備棟から運び出して積み込んでいた。まるで引っ越し作業の様だ。いや、「様だ」ではなく、実際に引っ越し作業なのだ。キースは本来は戦闘指揮に使われる指揮車輛を用い、そこから引っ越し作業を監督していた。

 

「予備メック及び不稼働メックはゾディアック号、エンデバー号、ディファイアント号にそれぞれ分けて積み込んだな?アーリン中尉。」

『ええ、今さっき不稼働メックのヴァルキリーをエンデバー号に積んだので最後です。実動しているバトルメック、気圏戦闘機と機甲部隊の戦車やその他の車輛はまだ積み込まないんでしたね?』

「ああ。それらは『ハミルトン大鎚騎士団』に基地を引き渡した後、発進直前に積み込む。気圏戦闘機は積み込まずに、宇宙港ドリスポートまで自力で飛んでもらうことになるだろう。基地引き渡しまでは、俺たちが主体となって惑星防衛の任にあたらなければならないからな。いつでも発進可能な状態を、それまでは保っておかねばならん。」

 

 ミュール級降下船から降ろされた荷の約1/3が、基地施設に搬入されずにそのままヴァリアント号、ゾディアック号、エンデバー号、ディファイアント号に積み込まれる。これらがキースたち『SOTS』が注文していた、バトルメックや気圏戦闘機の部品などの様だ。

 そして残り2/3は、あらかじめ『ハミルトン大鎚騎士団』のために用意された物資であるらしい。それらの荷は、基地の倉庫などに運び込まれて行く。ユニオン級エンデバー号の中で、船内の荷積み作業を監督していたアーリン中尉は、ちょっとした疑問についてキースに尋ねた。

 

『ところでキース大尉。私たちは『ハミルトン大鎚騎士団』司令官、オスカー・ハミルトン少佐の指揮下に入ることになるんですよね?』

「基本的にはそうなるな。ただ俺たちは『ハミルトン大鎚騎士団』到着後、1ヶ月もすればこの惑星から撤退する身だ。駐屯場所も駐屯軍基地と、首都の宇宙港ドリスポートとに分かれることになる。相手からすれば、使いづらい駒だろうな。

 だからと言ってまったく接触を取らないと言うわけにも行くまい。おそらくは、上っ面だけの付き合いになるんじゃないか、と思っているがね。新たな敵でも来ない限りは。」

『敵が来た場合は?』

 

 キースは不敵な笑みを浮かべる。

 

「その場合、ハミルトン少佐の人柄しだいだな。期限ぎりぎりまで良い様に俺たちを使おうと言う気なら、こちらもそれ相応の物を貰うことにしよう。具体的には補給物資とか報奨金とかを独占する形で。そういったことを可能にする手段も、サイモン曹長の伝手でいくつか存在する。

 無論きちんと協力して事にあたるならば、何の問題も無いがな。」

『後者だと良いんですけどね。』

「そうだな。さて、仕事を続けよう。……ジャスティン一等兵、その車の荷はエンデバー号に持って行け。」

 

 整備棟から大荷物を運び出してくるトレーラートラックに、キースは指示を出した。

 

 

 

 ここに来た時に持ち込んだ私物などを運び出し、若干殺風景になった司令室で、キースはサイモン老の報告を受けていた。

 

「……と言うわけで、伝手を辿って調べてもらったオスカー・ハミルトン少佐の人柄は、まあ善人とは言いませんがさりとて悪漢ではありませんのう。言ってしまえば、普通の人ですわい。

 多少美味しいところ取りをしたい気持ちもあるでしょうが、かと言って他者を虐げてまでとは思わん人物ですわ。恨みを買うのは嫌だ、と言ったところでしょうの。」

「む。そうなると、どう付き合って良いのか悩むところだな。」

「お互いを刺激せずに、とりあえずなあなあの付き合いでかまわんでしょうのう。こちらもあちらも、互いに恨みを買いたくないのは同じですわ。今回は互いにとってイレギュラーな事態ですしの。」

「イレギュラーな事態でなかったら、サイモン曹長に調査なんぞ頼んでいないけどな。」

 

 そう、今回の件は互いの部隊にとってイレギュラーな事態だ。『SOTS』にとっては、自分たちの駐屯契約が切れないうちに恒星連邦が新たな駐屯軍を送り込んで来たと言う形になる。

 まあ増援は基本的にありがたいのだが、急遽決まったこと過ぎて色々と彼方此方に混乱が見られる。また相手側からすれば、援軍に赴く予定がそのまま駐屯任務にすり替わったことになるのだ。

 

「まあ、こちら側は基地を明け渡して降下船住まいになるんですしの。それを当然と胸を張れるほど面の皮が分厚い御仁ではなさそうですわ。」

「向こうも半数は基地施設から溢れて、降下船住まいだけどな。貧乏くじを引いたと思うかも知れんな。ふう。」

 

 溜息を吐いて、キースは話題を変える。

 

「ところでサイモン曹長。自由執事及び総務人員の雇用と選任に関して意見を聞きたかったんだが。流石に部隊が大きくなってくると、自由執事や総務がいなければ困ることが多い。宿舎の割り当てまで俺が手配するのはどうかと思うと、しばらく前にネイサン軍曹に意見されてしまったよ。」

「自由執事ともなると、そこそこ充分な能力も必要ですが何よりも優先されるのは人格と人間性ですのう。」

「ああ。下手な者を選んで、部隊の財産を着服されたり横流しされたりしたら、たまらん。総務についても同じことだ。能力は欲しいが、それよりも信頼のおける人物であることが第一だ。まあ、まずは自由執事だな。誰か、いないか?」

 

 サイモン老は、しばし考える。そして彼は、ぽん!と手を打つとにっこりと笑った。

 

 

 

 3隻のユニオン級降下船が、駐屯軍基地付属宇宙港に着陸していた。これらのユニオン級は、『SOTS』の降下船ではない。これらは『ハミルトン大鎚騎士団』所属の降下船である。今、キースは基地司令室で、オスカー・ハミルトン少佐及びその配下である2名の大尉と対面していた。

 

「……お初にお目にかかります。自分が傭兵中隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』司令官兼、当基地の司令でもあるキース・ハワード大尉であります。」

「うむ、私が『ハミルトン大鎚騎士団』大隊長のオスカー・ハミルトン少佐だ。後ろの者たちは大隊の第2中隊中隊長パウエル・クーパー大尉と、第3中隊中隊長ウィルフレッド・フィッシャー大尉だ。」

「パウエル・クーパー大尉です。」

「ウィルフレッド・フィッシャー大尉です。」

「1ヶ月の間ですが、よろしくお願いします。」

 

 キースは無難に挨拶をし、右手を差し出した。ハミルトン少佐はその手を握る。彼はにこやかに微笑んだ。

 

「いや、我々が援軍に来るまでもなく、自分たちの中隊以外は素人の乗るメックと戦車部隊を率いて、ドラコ連合の増強1個大隊を一蹴したと聞いたときは驚いたが……。なるほど、実際に対面してみると、その凄さが感じられるな。」

「いえ、一蹴とまでは……。戦闘終結時には、こちらも継戦能力が切れかかっておりましたし。」

「いやいや、謙遜するな。君が率いた素人たちにも戦車部隊にも、犠牲者は出なかったと聞くぞ?」

 

 ふとキースが気付くと、ハミルトン少佐の額には汗が滲んでいる。後ろにいるクーパー大尉とフィッシャー大尉も、何やら笑いが強張っていた。どうやらキースに気圧されているらしい。

 

(……やっぱり俺は怖いのか?怖いよな、身長2mを超すムキムキの筋肉達磨だし。はぁ……。)

 

 心の中だけで溜息を吐くと、キースは軍服――正確には、そう見える衣類――のポケットから鍵束を取り出す。

 

「これがこの司令室及び司令官執務机の引き出しの鍵であります。お受け取り下さい。本日ただ今よりここが、少佐のお部屋になります。……着任を歓迎します。恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍新司令官、オスカー・ハミルトン少佐。」

「うむ、ありがとう。今までご苦労だった、キース・ハワード大尉。」

「はっ!ありがとうございます。引継ぎ書類は執務机の一番上の引き出しに全て収めてあります。ご確認ください。」

 

 ハミルトン少佐は、司令室の司令官執務机に着座すると、キースに向かって問う。

 

「これから何か予定はあるのかね?」

「はい。我々傭兵部隊『SOTS』は当基地を貴部隊に明け渡した後、速やかに惑星首都ドリステル宇宙港ドリスポートに降下船群を移動させ、今後はその降下船群を施設代わりにして活動することになっております。自分はこれからその移動の指揮を取ります。」

「そうか。仕事があるのでは、引き止めるのも何だな。ではまた会おう、ハワード大尉。」

「はっ!それでは失礼します。」

 

 キースは司令室を退出すると、まだ自分のマローダーを置いてある、基地バトルメック格納庫へと向かう。閉まる司令室のドアの向こうから、大きく息を吐く音と、呟きと言うにはやや大きな声が聞こえてきた。

 

「ぶはーーーっ!あ、あれで本当に16歳かよ……。なんて迫力だい。」

「舐められない様にプレッシャーかけようなんてしなくて、良かった……。」

(やっぱり俺って、怖いんだ……。とほほ……。ま、まあ舐められなくて良かったと思うことにしよう。)

 

 3025年12月3日、この日キースは恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍司令官職を離任した。




主人公は、駐屯軍の司令官職を後任に引き渡し、一時的にその下に入る事になりました。ですが彼の異様な迫力が功を奏し、無茶な事は押し付けられないで済みそうですね。
ところで主人公が探していた「自由執事」ですが、これは部隊の財産管理をする大事な人材です。下手な者に任せたら、横領が発生しかねないので、完全に信頼できる人物でなければなりません。サイモン老は、何やら人材の心当たりがあるようですが……。


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『エピソード-031 ドリステラⅢ撤退』

 惑星首都ドリステル宇宙港ドリスポートに停泊中の降下船、フォートレス級ディファイアント号の士官用船室を流用した執務室で、キースは1ヶ月後の惑星撤退に関わる書類を作成していた。その中には、できれば役に立って欲しくない「ドリスポート使用許可延長願い」等も含まれている。

 今現在、傭兵部隊『SOTS』が専属契約を結んでいる航宙艦は、マーチャント級クレメント号ただ1隻である。しかしマーチャント級航宙艦が1回の航宙で運べる降下船は2隻。『SOTS』が現在所有している降下船は4隻であるため、全ての降下船をマーチャント級航宙艦1隻で運ぶには、ピストン輸送が必要になるのだ。つまり2隻を運んで行ったクレメント号が戻って来るまで、残りの2隻は惑星上でじっと待っていなければならない。そのために「ドリスポート使用許可延長願い」が必要になるのである。

 その現状をなんとかするべく、航宙艦クレメント号のアーダルベルト・ディックハウト艦長とクヌート・オールソン副長は、自分たちの伝手を使って他の航宙艦を所有している艦長相手に、『SOTS』と専属契約を結んでくれる様に打診していたのだ。しかし今のところ状況は芳しくなく、専属契約を結ぶことに成功したという報告は来ていなかった。このままでは「ドリスポート使用許可延長願い」が本当に必要になってしまうだろう。

 キースは作成した書類を分類して幾つかに分けると、バインダーに挟んで仕舞い込む。彼は首をぐるぐると回した。

 

(一段落ついた、か。さて、いつもならシミュレーター室かトレーニングルームにでも行くんだが、シミュレーターは大半が駐屯軍基地備え付けの物だし、わずかなウチの部隊所有の筐体は分解して積み込んでるからなあ。トレーニング施設も船内に無いし。……外をランニングして、あとはスクワットと腕立て伏せ、腹筋運動、ダンベル運動なんかで誤魔化すか。)

 

 衣服を特大サイズのトレーニングウェアに着替えようとしたところで、室内のインターホンが鳴る。ブリッジからだ。彼はインターホンのスイッチを入れ、着信を受ける。

 

「こちら部隊司令室、キースだ。」

『こちらブリッジのマシュー・マクレーン副長です少佐。』

 

 船長のキャプテンと、大尉のキャプテンを区別するために、降下船に乗船中はキースは一時的に上の階級である少佐で呼ばれる。以前陸上施設で暮らしていた頃はこの慣習が適用されるのは、たまに降下船に乗ったときだけだった。

 だが駐屯軍基地を『ハミルトン大鎚騎士団』に明け渡して以来、部隊を収容する施設がこの惑星に足りないため、宇宙港に停泊させた降下船を施設代わりに使って、彼らは生活している。つまり四六時中乗船中なのだ。当然四六時中彼は少佐と呼ばれることになる。

 

「何かあったのか、副長?」

『少佐にお客様です。先ほど降りて来たミュール級の降下船に乗って来た様ですが。』

「わかった。案内は……。」

『あ、いいえ。ご案内はサイモン曹長が行うそうです。サイモン曹長のお知り合いの様でしたが。』

「そうか、通してくれ。」

 

 ブリッジとの通話を終えたキースは、来客について考える。

 

(……誰だろう。サイモン爺さんの知り合いと言う事は、頼んでおいた自由執事関連かな?)

 

 そこへ執務室の扉のブザーが鳴る。キースはインターホンの回線を繋ぐ。

 

「誰か?」

『サイモン曹長ですわ。お客さんをお連れしましたでのう。』

「入室を許可する、サイモン曹長。」

 

 扉を開けて、サイモン曹長が1人の人物を誘って入室してきた。その人物は、脚が不自由なのか右手で杖をついて歩いている。さらに左腕も妙にぶらぶらしている。どうやら右脚と左腕が義肢の様だ。キースはその人物を見て、思わず声を上げた。

 

「ライナー!ライナー・ファーベルク!」

「お久しぶりです。だいたい半年ぶりですかな、キース坊ちゃん。いえ、大尉殿。」

 

 それは傭兵大隊『BMCOS』に所属していた元偵察兵、ライナー・ファーベルクであった。彼はしみじみと言う。

 

「いや、仇討ちの成功、本当におめでとうございます。手紙を貰って、何度も読み返しましたよ。そして本当だと実感してからは、喜びの涙が溢れてきましてね……。」

「そうか……。ありがとう、ライナー。」

「しかし、あっと言う間でしたな。いや仇討ちの話ではなく、キース大尉がこれだけ大きな部隊を率いる様になるとは……。」

 

 ライナーは感心しきりと言った様子だ。キースは苦笑する。

 

「いや、『BMCOS』の遺産あったればこその話だよ。」

「それでも、それを取り戻したのはキース大尉の努力によるものですよ。運もあったでしょうが、キース大尉の意志がまず最初に無ければ、この部隊……『SOTS』でしたか。これは存在すらしていなかったのですからね。」

「そうですぞ、隊長。確かにハリー・ヤマシタやトマス・スターリングの奴がこの惑星に攻め寄せて来なければ、『BMCOS』の遺産を取り戻すことも叶いませんでしたでしょうがの。まず第一に、隊長が動いたのがきっかけで『SOTS』が生まれ、『SOTS』があったればこそ奴らを討てたんですわい。もし『SOTS』が無かったら、今頃奴らに良いようにやられておったかも知れませんのう。」

 

 ライナーとサイモン老の言葉に、キースは照れて苦笑を漏らす。そこへサイモン老が言葉を被せた。

 

「おっと、今回ライナーをわざわざ招聘した理由を忘れるところでしたわい。」

「招聘?ライナーを呼んだのはサイモン曹長だったのか。いったい何が目的で?」

「いや、ライナーは左腕と右脚を失って偵察兵としての活躍が見込めなくなりましたのは、隊長も知っての通りですがの。それでライナーは何か適当な仕事に就くため、簿記や経理の勉強をしておったんだそうですわ。今は2級の資格も取ったそうですわい。そして人間的にもわしらにとって、これ以上信頼できる人物はそうはおらんでしょう。」

 

 思わずキースは、目を見開く。サイモン老の考えが読めたからだ。

 

「なるほど、サイモン曹長。では彼を推薦すると言うわけだな?」

「はい。我が部隊の自由執事に、ライナー・ファーベルクを推薦したいと思う次第でありますわい。」

 

 顔をライナーに向けて、キースは真面目な表情で尋ねる。

 

「ライナー、わざわざ来てくれたと言う事は、うちの部隊の自由執事になってくれると考えてかまわないのか?」

「はい、願っても無い話です。第一線で働ける身体ではありませんが、この仕事であれば私でもキース大尉たちの助けになれる。元『BMCOS』第3中隊付き偵察兵であった私からすれば、この上ない再就職先です。」

「そうか……。ライナー、給与などの関係から、君の扱いは少尉待遇になる。もっとも実戦部隊への命令権は無いし、指揮系統にも組み込まれない。それでかまわないか?」

 

 ライナーは驚く。彼は『BMCOS』での最終階級は、軍曹だったのである。

 

「キース坊ちゃん、いえ大尉。少尉待遇など行き過ぎですよ。」

「いや、自由執事ともなれば、部隊の資産全体について責任を負ってもらうことになる。少尉待遇ですら、本当は足りないぐらいなんだ。

 ああ、サイモン曹長も正式に上級整備兵として、この仕事が一段落ついたら少尉昇進してもらわないとな。全バトルメック、全気圏戦闘機、全整備兵と全助整兵に責任を負う立場なんだから。まあライナーと違い正式な士官だから、士官任用試験は受けてもらわんといかんが。

 『SOTS』は急速に拡大し過ぎたせいで、人材がまだまだ足りない。自由執事の他にその手足となって働いてもらう総務の面々も必要だし、武器担当官もいないから他の役職の者が兼任しているザマだ。これで隊の者が何処かから嫁取り婿取りでもして家族でもできたら、その子供に対する教育を行う教育担当官も必要だ。

 と、話がずれたな。ある程度の権限と権威を君に持たせる必要性から、少尉待遇は最低ラインなんだ。受けてくれないか?」

「むむむ……。」

 

 一時は過剰な待遇だと固辞しようとしていたライナーだったが、キースの説明を聞いて唸る。やがて彼は頷いた。

 

「……お受けします。キース大尉。これからよろしくお願いします。」

「ありがとう、ライナー。本当に助かる。これで書類仕事が随分楽になる。ああ、それと隊の総務の人間なんだが、君の権限で選任して雇用してかまわない。信頼できる人間を選んでくれ。ライナーの執務室は早急に用意するから、そうしたら早速仕事を始めてくれ。」

「了解しました。まずは自分が寝泊まりする船室の手配が初仕事になりそうですな。ははは。」

 

 ライナー自由執事は笑った。それを見て、キースとサイモン老も笑みを浮かべる。この日を境に、キースの書類仕事は格段に楽になった。

 

 

 

 その日キースは喜びを隠しきれずに、時折にやにやと笑みを浮かべていた。アーリン中尉とヒューバート中尉が、怪訝な顔をする。

 

「どうしたんです?キース大尉。やたらご機嫌な様ですが。」

「深宇宙通信施設から帰って来てから、様子が変ですな……。」

「……む、そんなに変か。いかんな、気を付けないと。いや、な。この書類を見てくれ。深宇宙通信施設に、圧縮データ通信で届いていた物だ。」

 

 アーリン中尉とヒューバート中尉は、手渡されたその書類を読んで目を見張った。

 

「インベーダー級航宙艦イントレピッド号艦長イクセル・ノートクヴィスト艦長と暫定契約成立!?」

「凄い、やったじゃないか!なになに、元傭兵中隊『ヴィンセント軽装機団』の持ち船だったが、同傭兵中隊は壊滅により解散、それ以後は他の傭兵部隊などの降下船を運んだり、商用の不定期貨客船を運ぶことで生計を立てていた、か。」

「仲介と交渉を受け持ってくれたマーチャント級クレメント号のアーダルベルト艦長によると、我々がこの惑星を撤退する際は、俺の乗った降下船はイントレピッド号にドッキングして欲しいそうだ。イクセル艦長は、そこで俺個人を見定めてから、本契約を結ぶかどうか決めると言っているらしい。俺の責任は重大だな。」

 

 アーリン中尉とヒューバート中尉は、それを聞いても安心した表情だ。

 

「なら大丈夫ですよ。」

「ええ、自分もそう思います。キース大尉と会えば、きっとその人柄がわかってもらえます。」

「そう持ち上げないでくれ。増長しかねない。それに絶対に大丈夫とは言い切れないだろう?俺は若僧だぞ?」

 

 頭を掻きつつ、照れくさそうにキースは応える。アーリン中尉は苦笑し、ヒューバート中尉はやれやれと言った風情で、両者とも肩を竦めた。

 

「なんでこう自分に自信が無いのかしらね。」

「メック戦士養成校時代から、その優秀さとはうらはらに高慢さとは無縁だったんだが……。良いところでもあるが、欠点でもあるな。自分を過小評価すると言う意味で。」

「……まあ何はともあれ、だ。これで惑星から退去する際には、航宙艦によるピストン輸送をせずに済んだな。」

 

 強引に話題を変えるキースだった。

 

 

 

 年が明けた3026年1月7日、惑星公爵邸にてキースたちの送別会を兼ねた新年会が開かれた。キースをはじめとする『SOTS』の士官及びメック戦士や航空兵たちは、惑星公爵より全員が参加するよう要請――実際のところ命令――されている。キースは主だった人々に挨拶回りを終え、ようやく一息ついていたところだった。

 アンドリュー軍曹が、アイスティーを持って来てくれる。

 

「ご苦労さん、隊長。」

「ああ、ありがとう。やれやれ、これだけ人が多いと挨拶回りも大変だ。だが、だれかに任せるわけにもいかんからな。」

「そう言えば惑星軍の新前……。いや、戦いを潜り抜けたんだからいつまでも新前扱いは可哀想か。若僧、ガキども、う~ん。まあいいや、例の子供たちが隊長を探してたぜ?」

「ほう?じゃあちょっと行ってみるか。」

 

 アイスティーを飲み干し、キースは席を立つ。幸いにも、目的の人物たちはすぐに見つかった。

 

「あ……。大尉!敬礼!」

 

 惑星軍の若手メック戦士たちは、一斉に敬礼を送ってくる。キースは答礼をすると、できるだけ柔らかい口調で言った。

 

「楽にしろ。で、俺を探していたそうだな?ハビエル軍曹、ワンダ軍曹、クリスティーナ軍曹、ロベルト軍曹、ジャスパー軍曹、テオドール軍曹、イルヴァ軍曹、ヴィルジール軍曹、マックス軍曹、ベネディクトゥス軍曹、アリス軍曹、デクスター軍曹。

 ああ、言い忘れるところだった。遅くなって済まんな。昇進おめでとう。」

「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」

 

 そう、例の子供たちは戦闘を潜り抜けたこと、戦果をあげたこと、そして技量の向上を鑑みられて、全員1階級昇進していた。キースはふと思う。

 

(そうだ。火力小隊のカーリン・オングストローム伍長も、実力から言って伍長のままにしておくのは何だな。他にも歩兵部隊や機甲部隊に、昇進させたい奴らが何人かいる。この惑星から撤退したら、部隊の人員の階級を見直して昇進させるところはさせておこう。)

「あ、あの、大尉!……で、デクスター。お前が言いだしっぺなんだから、お前から言えよ。」

「あ、う、うん。わかった。大尉!その節は本当に、その、ご教導とご鞭撻、ありがとうございました!おかげさまで自分たちは、アントナン准将の仇討に、その、幾ばくかなりとも……。自分たちの勘違いや己惚れでなければ、少しだけでも貢献できたと思います。全ては大尉とその部下の方々のおかげです。本当に感謝しています。」

「……そうか。俺としては、俺自身のしたことは些細な物で、全てはお前たちの努力と覚悟があの結果を引き寄せたのだ、と思っているのだが。だがお前たちがそこまで言ってくれるのは、悪い気はしないな。」

 

 キースは惑星軍の若手メック戦士たちの姿に、思わず笑みがこぼれた。デクスター軍曹は続ける。

 

「大尉と部下の方々が教えて下さったことは、忘れません!いつかまたこの惑星においでになったときは、今以上に成長した姿をお見せしたいと思っています!」

「ああ。またいつか会えることを祈っている。それまで壮健でな、戦友たち。」

「せ、戦友……!はっ!ありがとうございます!」

「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」

 

 子供たちが揃って唱和し、再度敬礼をしてくる。キースもまた答礼を返す。そして惑星軍若手メック戦士たちは、去って行った。それをしばらく見つめていたキースだったが、後ろから近寄って来る気配に気付く。

 

「ほっほっほ。たいした人気じゃの、ハワード大尉。」

「これは閣下。先ほどは挨拶もそこそこに、ご無礼申し上げました。」

「なに、わしの方こそ他の客人の相手を優先せねばならず、お主も他に挨拶回りせねばならん相手も多かったのじゃろう?気にしてはおらぬよ。」

 

 そう、その気配はドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーその人であった。キースが敬礼を送ると、ザヴィエ公爵は片手を上げて応えた。

 

「しかし、早かったのう。お主がはじめてわしの前に現れたのは8月末じゃったから、もう4ヶ月と少しか。あのときお主は、血気にはやる若手士官を演じていたものじゃったが。あの頃に比べると、肩の力が程よく抜けたのう。お主はその様に、演技などせず自然体の方が交渉事も上手く行くと思うぞ。のう?」

「は、あのときは失礼いたしました。」

「良い良い、自分たちの部隊のため、駐屯軍全体のため、必死だったのはわかる故にの。それは転じて我が惑星のためじゃ。」

 

 ザヴィエ公爵は、楽しそうに笑った。キースは気になっていたことを聞いてみる。

 

「閣下、お孫様のご様子はいかがでございましょうや?」

「ふむ、お主が気になっておるのは、孫ではなしにバレロン伯爵ジョナス・バートン卿の方であろう?ほっほっほ。孫からの手紙では、バレロン伯爵は相も変わらず身持ちが固く、中々物にできんそうじゃ。

 孫のシャロンも、バレロン伯爵のことは憎からず思っていたそうなのじゃが、難しい物よのう……。それでも多少は話のできる間柄にはなった様じゃがの。」

「そうでありますか……。いえ、自分といたしましても、バレロン伯爵に個人的な友人ができることは歓迎するものでありますし、その関係が更に進むとしても何か言うことはございません。

 ですがバレロン伯爵の個人的な事情は、非常にデリケートな問題であると言う事を念頭に置いていただきたく存じます。」

「そうか。シャロンには気を付ける様に手紙で伝えておくとするかの。」

 

 キースは息を吐く。だがここでザヴィエ公爵は爆弾を落とした。

 

「じゃがの……。孫のシャロンではなしに、別の伝手からの情報での。例のバレロン伯爵に袖にされた女性が、何やら企んでおるかも知れんと言う情報を掴んだそうじゃ。」

「!!」

「確定情報ではない。ないのじゃが……。お主からもバレロン伯爵に気を付けるよう、伝えた方が良いかも知れぬて。ああ言った女性は、何をやらかすかわかった物ではないからの。」

 

 キースの背に、冷たい汗が流れる。彼はザヴィエ公爵に尋ねた。

 

「その女性の名前は……教えていただけませんでしょうか。」

「いや、最初から教えるつもりじゃったわい。少し勿体ぶり過ぎたの、すまぬ。サルバーン女伯爵、レイディ・ローレッタ・グリフィスじゃ。夫は以前いたが、今は死んでしまって居らぬ。その、なんと言うかの……。

 古臭い表現になるのじゃが、若いツバメを何匹も囲っておるそうじゃ。プライドが無闇に高く、美人ではあるのじゃが、わしの好みでは無いのう。政治的影響力もそこそこの物がある。真正面からではバレロン伯爵の声望には到底敵わんじゃろうが、さて……。」

 

 政治的暗闘では、キースの直接的力はあまり役に立たない。彼にできるとすればサイモン老の伝手を使い、有力者にジョナス・バートンを支援してもらうことぐらいか。彼は拳を握りしめる。

 

「む?脅かし過ぎたの。そこまで心配せんでもええじゃろうて。バレロン伯爵とて無防備ではあるまいに。お主から警告する程度で良かろうよ。」

「はっ。ありがとうございます。」

「やれやれ、このパーティーが終わり次第、コムスターのHPG施設に飛んで行きそうじゃの。お主ほどの人材にそこまで慕われるバレロン伯爵が、羨ましいわい。ほっほっほ。」

 

 ザヴィエ公爵は、笑い声を響かせながら去って行く。キースはパーティーが早く終わることを祈った。ザヴィエ公爵の言う通り、コムスターのHPG施設に飛んで行くつもりだったのだ。

 

 

 

 そしていよいよ、キースたちがこの惑星を離れる日がやってきた。惑星首都ドリステルの宇宙港ドリスポートより、4隻の降下船が発進して行く。1隻はレパード級降下船ヴァリアント号で、滑走路から颯爽と飛び立って行く。2隻はユニオン級ゾディアック号とエンデバー号で、これは離着床からゆっくりと上昇して行った。最後の1隻、フォートレス級ディファイアント号に、キースは指揮小隊の面々およびそのバトルメックと共に乗り込んでいた。

 キースは降下船の船窓から外を眺める。季節は夏真っ盛りだ。いや、少しばかり盛りを過ぎているかも知れない。この惑星の公転周期は短く、110.44日しかない。1年に3回強、季節が巡ることになる。

 

(これでこの惑星とも、お別れか……。5ヶ月しかいなかったんだが、なんか色々あり過ぎたなあ。惑星ガラテアに行ったら、次の仕事を探す前に部隊員の階級見直しが先かなあ。仕事に入っちゃったら、そういう事をゆっくりやってられないもんな。

 おや?あれは……。)

 

 キースの目に飛び込んで来たのは、惑星軍のバトルメック部隊と戦車部隊だった。それらは一斉に空へ向けて礼砲として、空砲やレーザー砲を撃ち上げる。そしてバトルメック部隊が敬礼をした。ローカストやライフルマンの敬礼は、機体の腕の構造上ちょっとばかり変だったが。キースは、彼らに見えないのを承知の上で答礼を返した。ディファイアント号はゆっくりと上昇して行く。傭兵中隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』は、惑星ドリステラⅢの駐屯任務を終えて、この惑星を撤退した。




ようやくの事で、ドリステラⅢ編、終了いたしました。長かったような短かったような。この時点で集まった彼らが、後々『SOTS』の中核となりますねー。
さて、頑張って続きをUPしないと……!!


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『エピソード-032 救援任務』

 インベーダー級航宙艦イントレピッド号のブリッジで、キースはこの艦の艦長イクセル・ノートクヴィストと面談をしていた。イクセル艦長はキースの目を見て言う。

 

「キース・ハワード部隊司令。見せていただいた部隊の経営状況等々、非常に満足いく物だったと思う。気圏戦闘機を6機も保有し、予備バトルメックも未だ一部は稼働不能機もあるものの、充分に豊富だ。また恒星連邦からの評価も高まっているらしいね。部隊の状況に関しては、こちらからは何も言う事は無いよ。」

「ありがとう、ノートクヴィスト艦長。」

「だからそう言った面から言えば、貴部隊との専属契約を結ぶことに、問題は無いと思う。ただ、最後に君に聞いておきたいこと……いや、約束して欲しいことがある。」

 

 イクセル艦長は、その視線をキースの目からわずかにも外さない。最近出会うキースと初対面の人間は、キースがそう言う意図が無いのにも関わらず、勝手に気圧されていたりしたことが多かったため、キースにはその反応は新鮮に思えた。と同時に、ここが正念場だとキースは感じる。イクセル艦長は口を開いた。

 

「わしらイントレピッド号の乗員は、元々傭兵中隊『ヴィンセント軽装機団』に所属しておった。その司令官バーソロミュー・ヴィンセント中隊長とは、上手くやっていたと思う。『ヴィンセント軽装機団』隊員たちも、気のいい連中だった……。

 だが彼らはある戦場から、帰ってこんかったよ。メックと隊員の大半を失い、ボロボロになったユニオン級降下船がジャンプポイントに戻って来たときは、本当に心が痛かった。そして部隊解散が決まったと報せを受けたときは、胸にぽっかりと穴が空いた様な気になった物だ。」

「……。」

「その後もこの艦は、時々傭兵部隊を運ぶ仕事を引き受けた。だが、それらの部隊は無事に戻って来ることもあれば、そうでないこともあった。いい奴らだったときもあるし、嫌な奴らだったときも勿論ある。トラブルを起こされたことも1度や2度じゃあない。

 だがそいつらがジャンプポイントに戻って来なかったときは、そいつらがどんな連中だったかは別にして、いつも物悲しい気持ちにさせられた物だよ……。」

 

 そしてイクセル艦長は、キースに懇願する様な口調で言った。

 

「どうか約束してくれんか。口約束の空手形でも構わん。必ずジャンプポイントに帰ってくると。できるだけ多くの隊員を連れ帰ってくると。」

「……俺は味方の裏切りにより壊滅した、傭兵大隊『鋼の勇者隊』、略称『BMCOS』の出身者です。『BMCOS』は、俺がメック戦士養成校に就学中に壊滅し、その報せだけが俺の元に届いたんですよ。だから残される者の気持ちは、理解できるつもりです。

 俺の部隊は精兵です。真正面からの戦いでは、そうそう遅れを取ることは無いでしょう。そして俺は、二度と大事な仲間達を背中から撃たせるつもりは金輪際ありません。そちら方面も充分に気を付けています。

 約束しましょう、ノートクヴィスト艦長。俺は……俺たちは、必ずジャンプポイントに帰って来る。」

 

 世の中に、100%と言う事は無い。だがキースは、気休めであろうともイクセル艦長の気持ちを慮って約束した。イクセル艦長の目が和らぐ。

 

「ありがとう、ハワード部隊司令。わしのことは、イクセルでかまわんよ。それと丁寧語はいらんよ。これからよろしく頼む。」

「ありがとうイクセル艦長。俺の事もキースでかまわない。今後ともよろしくお願いする。」

 

 こうしてインベーダー級航宙艦イントレピッド号は、傭兵中隊『SOTS』と本契約を結ぶことになった。

 

 

 

 ここは傭兵たちの星、惑星ガラテアの宇宙港ガラポートに着陸したフォートレス級降下船ディファイアント号の、上級士官用船室を流用した部隊司令執務室である。ここで書類の束を手にしたキースの前に、メック戦士2名、整備兵1名、歩兵2名、戦車兵3名の計8名が整列していた。キースは手にした書類を捲って記されている情報を確認すると、机上に置いて口を開く。相手は歩兵のうち、少尉の階級章を付けた1名だ。

 

「エリオット・グラハム少尉。貴官を本日ただ今より、中尉に任ずる。合わせて、『SOTS』所属歩兵中隊指揮官に任命する。……まあ後半は実際のところ、現状を追認するだけなのだがな。これが辞令と新しい階級章だ。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

「うむ、今後とも一層の精進を期待する。」

 

 次にキースは、整備兵に視線を向ける。その整備兵は、かなり年配の老人であった。しかしその老人は、キースには及ばないがそこそこの体躯と鍛えられた体格をしていた。ぶっちゃけた話、サイモン老である。

 

「サイモン・グリーンウッド曹長。貴様は今回の士官任用試験に、見事な成績で合格した。おめでとう。これより貴官を少尉に任じ、『SOTS』の上級整備兵に任命する。……まあ、元々やってもらっていた仕事は、上級整備兵の物だったのだがな。なお貴官の偵察・整備兵分隊指揮官職は、そのまま継続となる。辞令と新しい階級章を受け取りたまえ。」

「はっ!謹んで拝命いたしますわい!」

「ああ、頼んだぞサイモン少尉。」

 

 そしてキースは残り1名の歩兵と3名の戦車兵に、次々に視線を向ける。

 

「テリー・アボット軍曹、イスマエル・ミラン軍曹、ベンジャミン・フォーブス軍曹、レオポルト・ブルッフ軍曹。貴様たちもまた、士官任用試験に合格した。ただしイスマエル軍曹、ベンジャミン軍曹、レオポルト軍曹の3名は、合格点ぎりぎりだったぞ?まあ、合格は合格だ、おめでとう。

 これより貴官らを少尉に任ずる。合わせてテリー少尉は歩兵中隊第2小隊小隊長に、イスマエル少尉は中尉待遇勤務として機甲部隊戦車中隊中隊長に、ベンジャミン少尉は同戦車中隊第2小隊小隊長に、レオポルト少尉は同戦車中隊第3小隊小隊長に、各々任命する。

 まあ今までやってもらっていた仕事と変わるところは無い。気負うこと無くやってくれ。これが辞令と階級章だ。」

「「「「はっ!謹んで拝命いたしますっ!」」」」

「うむ。今後一層励んでくれ。」

 

 最後にキースは、2名のメック戦士に顔を向けた。

 

「ヴェラ・クルーグハルト伍長、カーリン・オングストローム伍長。貴様たち2名は、上げた戦果、技量の向上その他を鑑みて、昇進に値すると認められた。故に本日ただ今をもって、貴様たちを軍曹に任ずる。これが辞令と階級章だ、受け取れ。

 今後とも一層の活躍を期待する。特にカーリン軍曹、一刻も早く部隊から貸与しているバトルメックを買い取って自分の物にできる様、頑張れ。また目覚ましい活躍を見せれば、部隊から買い取らずともメックを下げ渡される可能性もある。ただし、無理はせんようにな。」

「「はっ!謹んで拝命いたします!」」

 

 と、ここでキースはエリオット中尉とサイモン老に話を振る。これもまた、部下の昇進に関する話だ。

 

「エリオット中尉。貴官の部下であるヴィクトル・デュヴェリエ伍長、ジェームズ・パーシング上等兵、ラナ・ゴドルフィン上等兵、ジャスティン・コールマン一等兵なんだが……。各々昇進させたい。ヴィクトル伍長は軍曹にして第3歩兵小隊小隊長に、ジェームズ上等兵は伍長にして軍曹待遇勤務とし第4歩兵小隊小隊長に、ラナ上等兵とジャスティン一等兵は伍長にしたい。

 昇進が早すぎると思うかも知れんが、うちの部隊では能力がある者に階級を与えず遊ばせておくと言う様な贅沢はできん。階級に見合った仕事も増えるだろうが、我慢してもらってくれ。

 サイモン少尉も同じだ。貴官の配下の偵察・整備兵分隊……。いや、整備兵の人数が増えて来たから分隊と言うのも少々そぐわなくなって来ているんだが……。そろそろ偵察兵分隊と、整備兵小隊に分割の時期が来ているかも知れんな。ああ、いやそれは置いておくとして、だ。

 偵察・整備兵分隊からも何名か昇進させようと思う。偵察兵のアイラ・ジェンキンス伍長を軍曹に、整備兵のキャスリン・バークレー伍長、ジェレミー・ゲイル伍長、パメラ・ポネット伍長を各々軍曹に昇進させたい。

 彼らに対する昇進の通達と辞令、新しい階級章は、貴官らから頼みたい。」

「はっ!了解いたしました!」

「こちらも了解ですわい。しかし、偵察兵のネイサン軍曹は、階級据え置きですかの?」

 

 サイモン老の疑念に、キースは頷いて見せる。

 

「とりあえず暫定的にな。本人も了解済みだ。本人は自分には士官としての素養が無いと言っているし、任用試験を無理に受けさせても、正直合格できるかはわからんからな。優秀な戦士ではあるのだが。ともあれ、後々偵察兵分隊と整備兵小隊を分割する可能性があるから、その時には曹長か准尉になってもらって、偵察兵を率いてもらう。」

「了解ですわ、隊長。」

「では全員、下がってよろしい。」

 

 キースを除く全員が、部隊司令執務室を出て行く。おもむろにキースは独り言ちた。

 

「……昇進させ忘れてるのは、いないよな?惑星ドリステラⅢで雇った歩兵や戦車兵、助整兵も全員チェックしたし……。」

 

 キース自身を忘れていると言えば言えるだろう。傭兵部隊『SOTS』は充分に、混成大隊と言っていい規模になっている。普通の指揮官であれば、既に大隊を名乗って少佐か中佐の階級に自分自身を昇進させているものだ。大隊から1個中隊大きいだけで連隊を名乗っている某傭兵部隊もいるくらいなのだから、誰も文句は言わないだろう。だがキースはあくまで『SOTS』は増強中隊だとして、未だに大尉の階級にかじりついていた。

 

(あんまり階級が高くなると、自分が偉い人物だって勘違いしちゃいそうだしなー。)

 

 まあメック戦士を雇い入れて、敵から奪還したバトルメックを修理してあてがえば、誰がどう見ても大隊規模以上になってしまうので時間の問題なのだが。

 

 

 

 キースはいつものジャスティン・コールマン伍長を運転手に、次の仕事を探すためMRBのオフィスまでやって来ていた。サイモン老を運転手に呼ばなかったのは、彼はバトルメックの修理をするのに忙しいからである。

 

「大尉、到着しました。」

「ご苦労、ジャスティン伍長。」

 

 キースはジープから降りると、建物の中に入って行く。ジャスティン伍長は忠犬の如く後に付き従う。このMRBのオフィスには歴戦の傭兵たちが集っており、キースの姿を見て気圧されたりする者はゼロとまでは言わないが、そう多くも無かった。キースはジャスティン伍長と共に1つの空きブースに入って座ると、そこにある端末を起動させる。

 

(……ふむ。前にも思ったけど、流石に色々な仕事があるなあ。仇は討ったから優先すべき事項は特に無いけど、基本的に恒星連邦がスポンサーの仕事がいいよな。俺たちのコネはほとんどが恒星連邦筋だし。サイモン爺さんはライラ共和国政府にもコネを持ってるけど。これまで通り恒星連邦のために忠実に働いた方が、最終的には見返りも大きいしな。

 まかり間違っても、カペラ大連邦国や自由世界同盟、ドラコ連合は勘弁だ。そこしか仕事が無い場合は、思い切って長期休暇を取るのも選択肢の1つだが……。その必要も無さそうだ。恒星連邦がスポンサーの仕事は、けっこう来ている。)

 

 端末の画面に表示される多数の任務の一覧を眺めながら、キースは沈思する。

 

(ジョナスは大丈夫だろうか。女伯爵、レイディ・ローレッタ・グリフィス……。ドリステラⅢのコムスターHPG施設からメッセージを発信したけど……。返事には「今のところ心配ない。」とあったけどなあ。何やるかわからない女性なんだろ?論理的思考が通用しないのは、怖いっちゃ、怖いぞ。)

 

 万が一レイディ・ローレッタ・グリフィスが、傭兵でも雇ってジョナスを襲撃でもしたりしていないかと思い、キースはサルバーン女伯爵、レイディ・ローレッタ・グリフィスや、バレロン伯爵、ジョナス・バートンなどの名前で任務依頼の検索をかけて見る。幸いと言ってはなんだが、どの名前も検索にヒットしなかった。キースは息を吐く。直立不動で控えていたジャスティン伍長が、一瞬怪訝そうな顔になるが、すぐに彼はその表情を消した。キースはそれに気付かないふりをして、作業を続ける。

 

(まあ、考え過ぎで終わって良かった。さて、普通に仕事を探すとしようか。できれば戦利品の権利を、ある程度認めてもらえる方がありがたいよな。それを条件に入れて、うちの部隊の評価値で受けられる仕事を検索っと。おお、無法者相手の場合に戦利品の権利が得られるって条件の仕事が、一応出たぞ。前は1件も出なかったのに。

 これは……クリタ家領内への襲撃任務。想定敵戦力が大きすぎるな、うちの部隊向けじゃない。第一、相手が無法者かどうかの判断基準の条件が曖昧すぎて不安だ。

 カペラ境界域への駐屯任務……。って、これ駐屯先の惑星はモラビアンじゃん!これを受けたらマイケル・ハセク=ダヴィオン公の派閥に入った部隊と見なされてもおかしくないぞ。パス、パス!ジョナスはハンス・ダヴィオン派だってば!

 むう……。少し契約条件を緩めなきゃ、だめかな?戦利品の権利を諦めるとして……。装甲板と弾薬の消耗分を支給してくれる条件の仕事、あるいはその辺の条件を交渉可能な仕事……っと。うわ、一気に件数が増えた。)

 

 内心で溜息を吐いて、キースは大量の任務依頼を1件ずつ素早く確認して行く。急がないと、見ている間にもその依頼の幾つかが「任務受諾済み」に表示が変わって行くのだ。有利な仕事の取り合いは、熾烈な生存競争なのである。

 と、そのとき画面上に「緊急依頼」の赤い文字が躍る。キースは当初、それを受ける意志は無かった。緊急の依頼と言う事は、大至急出立せねばならない可能性が高い。彼としては、出立までに多少の余裕がある任務の方が良かった。

 だが一応、キースはその依頼の内容や条件を確認してみる。そしてキースは突如として立ち上がり、凍り付いた。ジャスティン伍長が、驚いて尋ねる。

 

「な、何かまずい事態でも!?大尉!」

「ああ、まずいかも知れん。……幸い装甲板と弾薬については損耗分を支給してくれることになっているな。ただし補填は任務完了時、か。この任務の特性上、やむを得んだろうが……。

 それと敵が無法者であった場合は、戦利品の自由裁量の権限が与えられる。ただしその場合は、戦利品全てが与えられる代わりに戦闘報酬や物資の補填は無し、か。自前の物資をかなり持っていった方が良いな。」

 

 キースはその緊急依頼を、素早く受諾の処置をする。そして任務内容や報酬他の条件を備え付けのプリンターでプリントアウトすると、それを持って踵を返す。

 

「ジャスティン伍長!ディファイアント号に戻るぞ!」

「了解っ!」

 

 キースの眼差しは、厳しく顰められていた。

 

 

 

 宇宙港ガラポートの降下船ディファイアント号に戻ると、キースは全メック戦士と全航空兵、その他の全士官を集め、幹部会議を開いた。受けた任務に付いて、通達するためである。キースが緊急依頼を受けたことを話すと、任務の報酬などの条件を記してある用紙を見ながら、アーリン中尉が疑問をぶつけて来た。

 

「キース大尉、確か予定では少し余裕を持って次の任務に出立したいと言っていませんでしたか?まあ確かに、かなり条件が良い依頼の様ですが……。」

「まあ、いいんじゃないですか?これだけ条件が良い任務は、そうは無いでしょう。装甲板や弾薬の補填が任務完了時ってことで、一時的な持ち出しはある程度必要でしょうけど。」

 

 ヒューバート中尉が、アーリン中尉を宥める様に言う。アーリン中尉も別に文句を言ったつもりは無かったので、すぐに頷く。キースはだが、難しい顔で口を開く。

 

「……任務内容を記してある方の用紙を見てくれ。」

「え゛!救援任務!?あ、し、失礼しました。でも救援任務ですか?危険な任務ですね。いえ、危険じゃない任務はあるわけは無いのはわかっていますが……。」

「いや、かまわない。救援任務は数ある任務の中で、ある意味でもっとも面倒臭い任務だからな。」

 

 アーリン中尉が驚きの声を上げたのも無理はない。救援任務は、まず間違いなく敵の優勢の状況下の中で、味方を救出しなければならないからだ。だが文面を読み進めていったアーリン中尉は、文章のある場所に視線を止めると目を見開く。

 

「惑星タンタールズⅣの守備部隊……『機兵狩人小隊』!?」

「あれ?その名前どこかで聞いた気がしますね?ご存じの部隊ですか?」

「ああ、良く知っている部隊だ。俺とアーリン中尉には縁深い部隊だよ。ドリステラⅢでヒューバート中尉やグレーティア少尉、ヘルガ少尉にアードリアン少尉が来る前に、一緒に駐屯していた小隊だ。当時小隊規模だった『SOTS』が、かなりお世話になったんだ。」

 

 怪訝そうなヒューバート中尉に、キースは簡単に説明する。『SOTS』の初期メンバーだった指揮小隊の者たちや、元『デヴィッドソン装甲巨人隊』メンバーだった偵察小隊の者、それに気圏戦闘機隊のライトニング戦闘機乗りたちが騒めく。火力小隊のうちでも、『機兵狩人小隊』を知っているロタール軍曹とカーリン軍曹は、少々不安そうだ。

 ヒューバート中尉は腑に落ちた様な顔をする。

 

「なるほど、それでこの任務を受けたわけですか。」

「任務の報酬条件が良かったのもあるがな。決して縁故だけで受けたつもりは無いが、この縁故が無ければ無視していたかも知れんのも確かだ。

 ちなみに敵の陣容は、おおよそ2個中隊。おそらくドラコ連合所属で、正規軍ではない模様だ。気圏戦闘機を最低で4機含んでいる。俺たちの任務は、味方の惑星守備軍の救出と、更なる味方増援が到着するまでの時間稼ぎだ。

 急遽戦力を派遣するために、自前で降下船と航宙艦を保有している星系間移動力に優れた部隊にのみ、任務依頼情報が開示された様だ。」

「隊長!だけど倒せるもんなら、敵を倒しちまってもかまわねーんだろ?」

 

 アンドリュー軍曹が、不敵な笑みを見せつつ言ってのける。キースもまた、不敵な笑みでそれに返答を返す。

 

「無論だ。まあ無理をする必要は無いが、できそうだと思ったら狙って見るのもいいだろう。」

「そうね、あたしたちにハリー・ヤマシタの始末を任せてくれた恩が、アルバート中尉にはあるものね。」

「そうですね。なんとか助けられると良いんですが。」

 

 エリーザ軍曹とマテュー少尉も、乗り気である様だ。マイク少尉が叫ぶ様に言う。

 

「敵の気圏戦闘機は、俺たちに任せておいてください!4機程度、俺たちの敵じゃないっす!」

「調子に乗らない!」

 

 ジョアナ少尉がマイク少尉に突っ込むが、さりとて反対している様子ではない。アーリン中尉がキースに顔を向けて頷く。

 

「行きましょう!」

「ヒューバート中尉もかまわないか?」

「無論です。キース大尉が世話になった人だって言うなら、『SOTS』全体の恩人ですよ。それに縁故だけで受けた任務じゃないって言ったでしょう?」

 

 ヒューバート中尉の答えを受けて、キースは各員に指示を出す。

 

「よし。ハオサン博士、軍医のキャスリン軍曹と打ち合わせて、現地の風土病などのワクチンを明日までに準備してください。ライナーは、部隊の予備費を取り崩して装甲板と弾薬を明日までに可能なだけかき集めてくれ。

 特に必要なのは消耗の多い中口径オートキャノンの弾薬と、ライトニング戦闘機で使用する最大口径オートキャノンの弾薬だ。手配が終わり次第、宇宙港ガラポートと当局に明朝早くの出港申請を。

 ヒューバート中尉、アーリン中尉。両名は俺といっしょに作戦会議に入ってもらう。マテュー少尉、リシャール少尉、グレーティア少尉も参加してくれ。」

「わかった、まかせておいてくれたまえ。」

「了解です。早速手配します。」

「「「「「了解!」」」」」

 

 呼ばれた全員が、それぞれ返事をする。キースはここで一泊置くと、サイモン老に向かって言った。

 

「サイモン少尉、メックの調整は任せた。それと、今現在の不稼働メックを現地に着くまでにできるだけ直しておいてくれ。いざという時は、メックを修理せずに乗り換えて戦うことも想定内だ。」

「了解ですわい。現地までは2週間と言ったところですかの?」

「そうだな。厳密には、惑星ガラテアからジャンプポイントまで7日、補給ステーションのある星系を辿って行けるから、ジャンプ自体にかかる時間はほぼ無視できる。タンタールズのジャンプポイントから惑星タンタールズⅣまで6日の13日だな。明朝出発の予定だから、今日から数えればちょうど2週間だ。」

 

 キースは自分で言ってから、その内容に対し大きく溜息を吐く。

 

「ふう……。2週間か……。間に合えば良いが。」

 

 敵はドラコ連合だけではない。星と星の間にある距離その物が、最大の強敵であった。




はてさて、ドリステラⅢでの駐屯任務が終了したと思ったら、突然あの頼れる仲間だった、『機兵狩人小隊』が大ピンチ!いったいどうなるでしょうか!


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『エピソード-033 備えあれば……』

 3026年2月2日、キースたち傭兵部隊『SOTS』の降下船群は惑星タンタールズⅣの近傍まで接近していた。この惑星は、恒星連邦のドラコ境界域X+方向に寄った位置に存在している。比較的近場には惑星タンクレディⅡや惑星カサイがあるが、だからと言ってさほど軍事的には重要な位置にも無く、ジャンプポイントに補給ステーションも無い価値の少ない惑星だ。人口は2,000万人強の人間が居住している。

 この惑星は、かつては工業惑星であったが、今は3度に渡る継承権戦争で荒廃し、見る影も無くなっている。しかし工業を縮小したために公害が減り、自然が回復しつつあるのはある意味で皮肉な話だろう。今ではこの惑星は、軽工業と農業の惑星となっているが、ときたま価値ある物品が発見されることもあり、品漁りに歴史学者を自称する遺跡掘りがやって来ることも時々ある。

 ただ、軍事的な要衝ではないとは言っても、橋頭堡として使えなくもない場所であり、そうでなくともドラコ連合に奪われると多少は痛い惑星でもあった。それ故、たった1個小隊であっても部隊を駐屯させていたのだ。そんな惑星に、2個中隊もの敵が攻めてくるとは誰も思っても見なかったのだが。

 

「ここまでは問題なく来れたな。」

 

 キースは乗機であるマローダー――現在降下殻に収容されており、降下準備は整っている――の操縦席で、誰に聞かせるともなく呟いた。この惑星には大型レーダー基地の類は存在していない。というか昔にはあったのだが、故障して直せる者も存在せずに放置されているざまだと言う。

 ジャンプしてくる航宙艦を発見するための深探査レーダー設備も、海軍基地に昔はあったそうだが今は壊れて使えない。ちなみにこの時代の海軍とは、海の上の軍隊のことではなく宇宙船の軍隊のことを指す。海の上の部隊は水軍とか水上部隊とか呼ばれている。

 閑話休題、まあ敵がそれらの施設を占拠していたとしても、問題なしに接近できると言う物だ。逆に敵からすれば、それらに悩まされずにこの惑星を襲撃できたと言う話でもあるが。

 

(深探査レーダー設備も対宙監視用大型レーダーも無いなら、あと注意すべきは衛星による監視網と気圏戦闘機によるCAP(戦闘空中哨戒)だよな。)

『キース少佐、こちらブリッジのマシュー副長。お客さんです。80tのスレイヤー戦闘機が1機。IFFの反応は敵です。曰く、「所属を明らかにして、停船せよ」だそうです。他にもあと3機こちらに向け急行していますが、それらの機種はまだ判別できません。』

「了解した。レパード級ヴァリアント号、ユニオン級ゾディアック号、同級エンデバー号に通達し、気圏戦闘機隊に対し発進と敵機の迎撃を命じる様に。それと全降下船は気圏戦闘機隊を砲撃で支援。」

『了解。……マイク少尉が張り切って、ジョアナ少尉に突っ込まれてますな。』

 

 苦笑しつつキースは、通信回線をサイモン老に繋ぐ。サイモン老は現在、地上における無線通信や放送電波を傍受し、できる限りの情報を集めようとしていた。

 

「サイモン少尉、何か有益な情報は拾えたか?」

『はい、隊長。敵の通信は暗号化されていて、復号は今のところ無理ですのう。ただし発信源は惑星守備部隊の拠点、マルボルク城ですわい。

 つまり城は敵の手に落ちており、惑星守備部隊は既に敗退したか、さもなくば城を守り切れないと見て脱出したことになりますの。なおマルボルク城の上は厚く雲がかかっており、直接の観測は不可能ですわい。

 ……ちょっと待ってくださいな、隊長。一般人向けの放送で、逃走したタンタールズ公爵ノーマン・ディーコン閣下と、実際に惑星政府の政治を主導しているルッジェーロ・ルケッティ議長の行方を、賞金付きで探しておりますな。そしてそれを連れて逃げたと見られる恒星連邦の傭兵たちの行方も……。』

「なるほど、となると想定Bだな。できれば想定Aで行きたかったが、流石に6倍の戦力差で気圏戦闘機4機付きではアルバート中尉も持ちこたえるのは無理だったか……。」

 

 ここで言っている想定Aは、『機兵狩人小隊』が持ちこたえてマルボルク城を保持できていた場合のことで、このときはマルボルク城に直接降下船を降下させ、共に追加の増援が来るまで籠城する予定であった。

 想定Bは今の様に『機兵狩人小隊』が拠点を脱出し、何処かに隠れ潜んでいた場合である。こうなっていたときは、あらかじめ入手しておいた惑星上の地図から割り出した降下ポイントをバトルメックによる強襲降下で確保し、そこに降下船を降ろして地上での活動拠点とし、惑星守備部隊を救出して合流することになっていた。

 ちなみに最悪の場合を意味する、想定Cと言うのも存在する。これは惑星守備部隊が完全敗北を喫していた場合のことであり、この場合は救援部隊である『SOTS』そのものが惑星守備隊の代わりとなり抗戦しつつ追加の増援を待つか、あるいは「悪いメックの後に、よいメックを投入する」のを避ける意味で撤退するかをキースの判断で決定することになっていた。

 と、ここでマンフレート船長かマシュー副長のどちらかが、船の通信システムを介して送ってくれた気圏戦闘機隊からの戦果報告が入る。

 

『こちらライトニング戦闘機1番機、マイク少尉っす!敵スレイヤー戦闘機を撃墜!』

『ライトニング戦闘機2番機、ジョアナ少尉機です!敵シロネ戦闘機を撃墜しました!』

『ライトニング戦闘機3番機、ミケーレ少尉。敵シロネ戦闘機をライトニング戦闘機4番機と共に協同撃墜。』

『トランスグレッサー戦闘機1番機、ヘルガ少尉。敵スレイヤー戦闘機をトランスグレッサー戦闘機2番機、アードリアン少尉機と共に協同撃墜!』

 

 キースは気圏戦闘機隊へ向かい、称賛の言葉と同時に指示を送る。

 

「気圏戦闘機隊、見事だ!想定敵戦力の気圏戦闘機は、これで全て撃墜したはずだ。敵の目は潰したも同然だ。これより指揮小隊は惑星上の予定ポイントBに強襲降下し、降下船の着陸地点を確保する。降下地点確保に成功後、全降下船はポイントBへ降下。ライトニング戦闘機1番機2番機は指揮小隊の、ライトニング戦闘機3番機4番機は降下船の降下を支援せよ。

 トランスグレッサー戦闘機1番機2番機は、軌道上で野暮用を済ませてから降りてくれ。目標は軌道上にある偵察衛星だ。元からある物も、敵が降下前にばら撒いた物もあるだろうが、かまわんから全部撃墜しろ。上の許可は取ってある。この際だから、敵の目になり得る物は徹底的に潰しておく。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 キースが指揮小隊バトルメックの射出を命じようとしたとき、それに先んじてブリッジより通信が入る。

 

『キース少佐、MRB管理人ウォーレン氏が作戦前のご挨拶を、と。』

「了解だ。代わってくれ。」

『……キース・ハワード大尉、いや乗船中ですから少佐とお呼びすべきですな?』

「……かえって混乱するなら、隊長でも部隊司令でもかまいませんよ。」

『はは、では隊長で。隊長、今回はちょっとばかり大変そうですな。』

 

 ウォーレン氏の声音はいつも通り飄々としていたが、キースはその中に隠しきれない緊張を感じ取っていた。いい加減この人との付き合いも長い。そう言うことがわかる様になって来て、おかしくは無いだろう。

 

「たしかに大変ですが、まだ最悪と言うには遠いでしょう。どうやら『機兵狩人小隊』は、なんとか逃げ延びている様ですし、惑星公爵や政治指導者も脱出させた模様です。合流までには手間がかかりそうですがね。」

『そうですな。では隊長、頑張ってください。地上で合流しましょう。』

「はい、地上で。ではまた後ほど。……指揮小隊、降下準備は!」

 

 キースの声に応え、指揮小隊のメンバーが通信回線にがなる声が聞こえる。

 

『こちらマテュー少尉!降下準備よろし!』

『こちらアンドリュー軍曹!いつでもオッケーだぜ、隊長!』

『こちらエリーザ軍曹!こちらも準備OKよ!』

「よし!ブリッジ……マンフレート船長、マシュー副長、指揮小隊バトルメックを射出せよ!」

 

 ブリッジからの返答が聞こえる。

 

『了解、少佐!副長!』

『了解!カウントダウン開始!60秒前!……30秒前!……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』

 

 そして指揮小隊のバトルメックは、大気圏上層部へと向けて射出される。ライトニング戦闘機1番機と2番機が、それに追随した。

 

 

 

 ここは人口密集地から離れた、山間の盆地である。キースたちの降下船4隻は、この盆地に着陸して周囲からその姿を隠していた。ちなみに万が一を考えて、念のために降下船の降下に先んじて指揮小隊を降下させたのだが、とりあえず周辺に敵影は無かった。

 サンダーボルト、ウルバリーン、クルセイダー、グリフィン、フェニックスホーク等々、手が使えるバトルメックが、周辺の木々を根元から引っこ抜いて脇に積み上げ、マローダー、ライフルマン、ウォーハンマー、オリオンと言った手が無い機体が木を抜いた後の地面を踏んづけて平らに固めて行く。彼らは今、ここに急造の滑走路を作成しているのだ。この後適当な面積と距離が確保できたら、この地面の上に鉄板を敷いて完成である。滑走路が出来上がれば、気圏戦闘機やレパード級降下船の運用が楽になるのだ。

 やがて地面を踏み固め終えたキースのマローダーが、フォートレス級降下船ディファイアント号のところへ戻って来る。そこには2台のスキマーに乗った、偵察兵のネイサン軍曹とアイラ軍曹がいた。キースは通信回線を開き、彼らに尋ねる。

 

「やはりスィフトウィンド偵察車輛や指揮車輛では、林道は通れないか?」

『はい、ちょっとばかり大きすぎますな。まあ目立つのはまずい任務ですんで、スキマーで行ってきますよ、隊長。』

『必ず『機兵狩人小隊』の手がかりを掴んできますね。手がかりを掴むか、あるいは接触できたなら、連絡します。』

 

 そう、キースは彼ら偵察兵を派遣して、『機兵狩人小隊』の居場所を探そうとしていたのだ。とりあえず偵察兵2人は、ここから南にあるバーデナルと言う街に向かうことになっている。

 

「頼んだぞ。向こうの居場所がわかったら、レパード級ヴァリアント号で偵察小隊を送る。そしてその間、陽動として指揮小隊と火力小隊で一番近い敵部隊に攻撃をかける予定だ。ただし敵に『機兵狩人小隊』の場所がばれる様なことは、なんとしても避けてくれ。」

『了解です。まかせてください。』

『では行ってまいります。』

 

 ネイサン軍曹が先にスキマーを発進させたが、アイラ軍曹がそれを追い抜いて車列の先頭に立つ。運転の技量はアイラ軍曹の方が高い様だ。キースはマローダーで彼らを見送りつつ、心の中で呟く。

 

(頼んだぞー。アルバート中尉たち、無事だといいんだけどなあ。さて、滑走路が完成したら、気圏戦闘機を偵察に飛ばさないとな。しかしこうなるんだったら、フェレット偵察ヘリコプターの搭乗員を早目に養成しておくんだったよ。気圏戦闘機より手軽に飛ばせるからなあ……。「後悔先に立たず」だよなあ。できれば「備えあれば憂いなし」の方を使いたかったなあ。はぁ……。)

 

 

 

 キース、アーリン中尉、ヒューバート中尉、マテュー少尉、リシャール少尉、グレーティア少尉の6名は、作戦会議を開いていた。

 

「……と言うわけで、『機兵狩人小隊』の位置が判明したならば支援に偵察小隊と歩兵1個小隊をレパード級ヴァリアント号にて送り込む。その間、敵の注意を惹く陽動を兼ねて、近場の敵部隊に指揮小隊と火力小隊で攻撃をかけるわけだが……。アーリン中尉、航空写真は?」

「はい。気圏戦闘機の高高度偵察の結果、近場の敵バトルメック戦力は2ヶ所ありますね。バーデナルの更に南にある大きめの街、ギュンドタウンを押さえている小隊と、こちらの海軍基地に居座っている小隊。

 航空写真の解析結果からは、前者がスティンガー、ワスプ、フェニックスホーク、ライフルマンの偵察小隊で、後者がハンチバック、ウルバリーン、ライフルマン、クルセイダーの火力小隊か指揮小隊的な編成ですね。ただし航空写真の解像度からは、機種自体は判別できますがそのバリエーションは判別できませんでした。もしかしたらK型が混じっている可能性も、おおいにあります。」

「で、どうします?陽動攻撃のお相手は。楽な方を取るならば、前者の偵察小隊ですが。」

 

 ヒューバート中尉の意見に、グレーティア少尉が頷く。

 

「敵の視線を集めるだけならば、無理に強い敵と当たることは無いと思います。」

「うむ……。だが、今回はあえて二兎を追ってみたいと思っているんだ。」

 

 キースの台詞に、アーリン中尉、マテュー少尉、リシャール少尉が苦笑する。だいたいこの答えを想像できていた様だ。意見を否定されたはずのヒューバート中尉すら、笑みを浮かべている。グレーティア少尉は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。キースは彼女にわかる様に説明する。

 

「この作戦は陽動攻撃であるからして、『機兵狩人小隊』から敵の目をそらし、こちらの存在に引き付けるのが最大の目的だ。もっとも、この降下船の着陸場所がばれるのは避けたいがな。であるならば、どちらに攻撃をかけても良いことになる。最悪、敵の撃破自体は失敗しても良い。攻撃を仕掛けたことが大事なのだから。

 で、だ。二兎を追うと言うのは、この海軍基地の設備だ。ここには降下船や気圏戦闘機に必要な推進剤のタンクが設置されている。可能ならばこれを手に入れたい。これは元々恒星連邦に所属するこの惑星の資産であるからして、我々が緊急避難的に接収して使用するにあたっての法的抜け道もたくさん用意できる。

 まあ、後々で使った推進剤の費用を支払う必要が出るかも知れんが。それにこれが敵の手にあると、敵がその気になれば自由に戦術的に降下船を使えると言うことでもある。

 ここの海軍基地を奪取して、ここを拠点の1つとして使える様になれば……。戦略上の選択肢も増えるしな。」

「他にも理由はあるんでしょう?キース大尉。」

 

 ヒューバート中尉が笑みを浮かべたまま言う。キースは重々しく頷いた。

 

「あとは偵察小隊らしき奴らが、街に陣取っていると言うことだ。都市への攻撃はアレス条約違反だからな。下手に都市に立て籠もられたりして、市街戦になりでもしたら敵味方双方にとってまずい事態になりかねん。普通の敵なら、こちらが近づけば街から出て来て対峙してくれるんだが、何せケンタレス大虐殺のドラコ連合だからなあ……。

 それに正規軍ではないらしい敵だから、その辺は部隊のモラルしだいだ。傭兵部隊であるならば、逆に傭兵同士の仁義と言った機微を理解する相手かもしれんが……。万が一、ドラコ連合の暗部に属する不正規部隊だったりしたら目もあてられん。」

 

 グレーティア少尉は納得した模様だった。

 

「了解しました。海軍基地ならば軍事施設ですから、もし戦いで破壊することになっても問題は無いわけですね。」

「まあ、あまり壊すと後から文句を言われるやも知れんがな。

 と言うわけで、だ。第1目標は敵戦力の誘引、第2目標が海軍基地施設の奪還だ。敵戦力の撃破はその手段でしかない。まあ、バトルメック数や重量比から言って撃破も容易だとは思うが。それと、推進剤タンクは可能であれば無傷で入手したいが、いざとなったら破壊も許可する。敵の手に残しておいて、使い放題されるよりかはマシだ。」

「「「「「了解!」」」」」

 

 とりあえずの方針は決まった。後は偵察兵たちからの連絡を待つだけだった。

 

 

 

 彼らが惑星タンタールズⅣに降下してから、5日が過ぎていた。彼らは時折気圏戦闘機を飛ばす以外は、できる限り隠れ潜んでいた。無論彼らが臨時の基地を設営した盆地周辺の山地には、迷彩服を着た歩兵たちが警戒線を張っている。その警戒線から連絡が入ったのは、連盟標準時で午前11時頃、惑星の現地時間ではとっぷりと日が暮れた頃合いであった。

 

「こちらデファイアント号、部隊司令室。キースだ。」

『こちら歩兵中隊中隊長、エリオット中尉であります。大尉、ネイサン軍曹とアイラ軍曹が客人を連れて帰還しました。客人はエルンスト・デルブリュック曹長であります。』

「エルンスト曹長だと!?そうか、接触に成功したんだな。こちらに通してくれ、失礼の無い様にな。待ちわびたお客様だ。」

『了解です。』

 

 キースはしばらく待つ。やがてインターホンが鳴り、客人の来訪を彼に知らせた。

 

「誰か?」

『ネイサン軍曹です、大尉。アイラ軍曹と、お客人も一緒です。』

「入室を許可する。」

 

 ドアが開き、ネイサン軍曹とアイラ軍曹、それにエルンスト曹長が入室してきた。彼らはキースに敬礼を送る。キースもまた、答礼を送った。

 

「「ただいま戻りました、大尉。」」

「おひさしぶりです、キース大尉。大尉になられたのですね。」

「楽にしてくれ。曹長、軍曹たち。……4ヶ月には少し足りないか、エルンスト曹長。まあ短いとは言わんが、それでもこんなに早く再会するとは思わなかったな。」

「確かに……。」

 

 エルンスト曹長は、ふっと自嘲気味に笑う。怪訝そうな顔をしたキースに、エルンスト曹長は今笑った理由を説明する。

 

「笑って済みません。これは自分を嗤ったんです……。自分の隊の危機に際し、情報収集のために隠れ潜んだ渓谷を出て来たと言うのに……。いつの間にか自分が尾行されていたことにも気付かなかったんですよ。変装はしていたんですが、何処で怪しいと思われたのやら。偵察兵の誇りが粉々ですよ。

 路地裏に入ったときに、襲い掛かってきたそいつの更に後ろから、ネイサン軍曹が高速振動剣でそいつの心臓を一突きにして助けてくれたんです。」

 

 ネイサン軍曹が変装したエルンスト曹長を助けられたと言う事は、ネイサン軍曹にもエルンスト曹長の変装はバレバレだったことになる。ネイサン軍曹は、エルンスト曹長を傷つけまいとしてか、沈黙を守ったままだった。

 ふとキースは、エルンスト曹長の顔に暗い影が差しているのに気付く。キースは当初、変装に失敗したことを悔いているのかと思ったが、彼の勘はそれだけではない事を教えていた。その勘は、何かもっと悪いことがあると告げている。その事について尋ねようとしたとき、先んじてエルンスト曹長が口を開いた。

 

「キース大尉、貴部隊には腕の良い医者がいましたな。」

 

 キースは、悪い予感が当たったのを知った。

 

 

 

 夜闇の中、レパード級降下船ヴァリアント号が急造滑走路を疾走し、星ひとつない曇り空へと飛翔する。ヴァリアント号には偵察小隊および歩兵1個小隊の他、道案内のエルンスト曹長、サイモン老の一番弟子とも言える才長けた整備兵ジェレミー・ゲイル軍曹と、医療のエキスパートであるキャスリン・バークレー軍曹が、先頃出物があったため財布に無理をして購入した機動病院車MASHと共に乗り込んでいた。キースはマローダーの操縦席で、溜息を吐く。

 

「はぁ……。「備えあれば憂いなし」の言葉を使いたいとは思ったが……。MASHの出番でその言葉を使いたくは無かったな。しかも本当に「憂いなし」で終われば良いんだが……。頼むから、間に合ってくれよ。」

 

 急造滑走路からは、ライトニング戦闘機3番機と4番機がヴァリアント号の護衛のため、次々と飛び立って行く。キースは両手で自分の顔をパン!と叩く様に挟んで気合を入れると、麾下の部隊に命を下した。

 

「眠いところ済まんが、これより敵占領下にある海軍基地に夜襲攻撃を行う!これは陽動作戦だ!派手にやるぞ!できれば推進剤タンクは無傷で手に入れたいが、あくまで可能ならば、だ!もし撤退しなければならない場合は、行きがけの駄賃とばかりに吹き飛ばしてしまえ!指揮小隊、火力小隊、ライトニング戦闘機1番機2番機、トランスグレッサー戦闘機1番機2番機、出撃!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 指揮小隊と火力小隊のバトルメックが、盆地の外輪山を乗り越えて外界へと歩み出す。ライトニング戦闘機2機とトランスグレッサー戦闘機2機が、低速巡航モードで上空を飛翔する。キースはマローダーを歩ませつつ、心の中で祈る。

 

(頼むから、間に合ってくれよ……。軍医、キャスリン軍曹!)

 

 キースたちのバトルメックは、闇の中に突進して行った。




主人公たちは、まず問題なく救援すべき惑星へとたどり着きました。ですが、そこで接触する事ができた『機兵狩人小隊』偵察兵、エルンスト曹長の言葉……。MASHの出番で、「備えあればなんとやら」とは、どういう事態か。待て次回!!


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『エピソード-034 戦友との再会』

 ここは惑星タンタールズⅣにおける海軍基地。時間は深夜であり、辺りには夜間監視用のサーチライトの光が投げ掛けられている。ここは今、ドラコ連合のバトルメック部隊に占拠されていた。だがそこへ、夜襲をかけた者たちがいる。キースたち、傭兵中隊『SOTS』の指揮小隊と火力小隊、そしてライトニング戦闘機の3番機と4番機を除いた気圏戦闘機隊である。指揮小隊のウォーハンマー頭上とライフルマンの両胸から、夜戦用のサーチライトの光が投射されてとても眩い。

 敵方のK型クルセイダーが2基の10連長距離ミサイル発射筒を斉射する。だがキースたちの機体は遠距離を走行移動している。そうそう当たる物ではない。と、ここでオートキャノンの遠距離射程にも入ったため、敵のライフルマンから中口径オートキャノンの砲弾が発射される。しかしこれも命中せず的を外した。

 一方で、キースたちも応射する。キースのマローダーから粒子ビーム砲と中口径オートキャノンが、アンドリュー軍曹のライフルマンから中口径オートキャノン2門が、マテュー少尉のサンダーボルトから15連長距離ミサイルが、エリーザ軍曹のウォーハンマーから粒子ビーム砲2門が、一斉に発射される。

 狙われたのは敵のライフルマンだ。その射撃は全てが命中し、敵機は火だるまになる。味方にとっては幸運だが、相手にとっては不幸なことに、1本の粒子ビーム砲が頭部に命中し、それを消し飛ばした。ライフルマンはひっくり返って動きを止める。

 キースの指示が飛ぶ。

 

「指揮小隊はハンチバックを狙え!奴の最大口径オートキャノンは脅威だ!火力小隊はK型ウルバリーンを!気圏戦闘機隊、K型クルセイダーを叩け!」

 

 近づいて来ていたハンチバックとK型ウルバリーンへ向けて、味方機の火器が向けられる。双方の砲火が交えられた。K型ウルバリーンは機動力が比較的高く、中距離まで近づいて来ていたこともあり、その右腕に装備されていた大口径レーザーが火力小隊ヒューバート中尉機オリオンの右腕へと命中する。しかしオリオンの装甲は厚く、その程度ではたいした損傷にならない。逆にK型ウルバリーンへも、火力小隊の集中砲火が次々と着弾した。衝撃でK型ウルバリーンが転倒する。

 一方ハンチバックは機動力が低いこともあり、未だかなり味方からの距離は遠かった。ハンチバックの最大口径オートキャノンは射程が短く、その他の武装も同じ程度かそれ未満の距離にしか届かない。遠距離攻撃力が無いことが、高い火力と強靭な装甲を持つハンチバックという機種の、唯一の泣き所であった。キース以下指揮小隊はその弱点を突き、遠射程より砲火を叩きつける。ハンチバックの厚い装甲があっと言う間に削り取られて行き、とうとう弾薬を収めた左胴の装甲に穴が開く。最大口径オートキャノンの弾薬に火が回り、ハンチバックは大爆発を起こした。

 そして気圏戦闘機隊が、K型クルセイダーに空中から襲い掛かる。ライトニング戦闘機1番機と2番機が全力での砲撃を見舞い、K型クルセイダーの胴体中央と右の胴体に最大口径のオートキャノンが命中する。この位置には、どちらもミサイルの弾薬が搭載されており、強靭な装甲を持つクルセイダーと言う機体の弱点でもあった。

 必死に中口径レーザーと6連短距離ミサイルで応射するK型クルセイダーであったが、気圏戦闘機の素早い動きに命中がままならない。そこへトランスグレッサー戦闘機1番機と2番機の攻撃が炸裂する。比較的全身に攻撃が散ったものの、それでも大口径レーザー2発が装甲を削られた胴体ど真ん中に命中。K型クルセイダーはジャイロを破壊され、着弾の衝撃で転倒して二度と起き上がれなくなった。

 

『やったぜ!楽勝っす!』

『また調子に乗って!』

 

 ライトニング戦闘機のマイク少尉とジョアナ少尉の掛け合いが、通信回線から響く。転倒したK型ウルバリーンはなんとか起き上るも、自分以外の味方メックが全て倒されていることを知り、しかも8機のバトルメックに取り囲まれていることを認識する。あまつさえ、上空には4機もの気圏戦闘機が滞空している。自分の機体の装甲板ももはや頼りなくなっていた。

 圧倒的な戦力差に、K型ウルバリーンのメック戦士は抵抗を諦めて降伏の信号弾を打ち上げた。最後のバトルメックが抵抗を諦めたことで、基地施設を占拠していた少数の歩兵戦力も、降伏してくる。一部の者は逃げ出したかも知れないが、この攻撃は元より陽動の意味が大きいのだ。敵に知られなければ、ある意味で困る。

 キースは臨時基地に向けて、マローダーより暗号化された通信を送った。

 

「こちらキース大尉、海軍基地の奪還に成功。フォートレス級降下船ディファイアント号と歩兵1個小隊および整備兵、助整兵を送ってくれ。なお返信は不要。そちらからの電波発信を傍受されて位置がばれる危険がある。繰り返す、こちらキース大尉……。」

 

 とりあえず、後は降下船がやって来るのを待つばかりだ。

 

 

 

 やがて、夜が明けた。海軍基地の離着床には、フォートレス級降下船ディファイアント号の雄姿がそびえ立っている。また滑走路脇には、ライトニング戦闘機2機と、トランスグレッサー戦闘機2機の、合計4機の気圏戦闘機が駐機されていた。

 基地周辺では、偵察兵ネイサン軍曹とアイラ軍曹および整備兵若干名の指導の下、助整兵たちが振動爆弾を埋めて、対メック地雷原を敷設している。その光景を基地の管制塔から眺めているキースに、声をかける者があった。

 

「とりあえず一段落つきましたね。通信回線の通信記録は?」

「ヒューバート中尉か。パメラ軍曹の話では、ちゃんとマルボルク城に緊急連絡が送信されていた。だから予定通り敵の目は、こちらに向けられているはずだろうな。そちらの方はどうなっている?」

「ちゃんと捕まっていた海軍基地の職員やこの惑星の海軍軍人とかは解放しました。今は順番に、ラナ・ゴドルフィン伍長の診察を受けてます。うちの部隊で、キャスリン軍曹以外で唯一の医師の有資格者ですからね。診察後にでも、責任者が挨拶に来ると思いますよ。」

 

 そのとき管制塔の通信装置から呼び出し音がする。キースはそれを受けた。

 

「こちら管制塔、キース・ハワード大尉。」

『こちらディファイアント号メックベイ、サイモン少尉ですわ。各バトルメックの整備完了。弾薬補充と、オリオンの右腕装甲板補修は終わりましたでの。あとは表に駐機してあるライトニング戦闘機の弾薬補充だけですわ。』

「ご苦労少尉、気圏戦闘機の方もよろしく頼む。」

 

 ヒューバート中尉が、頷いて言った。

 

「見たところ、地雷原も最低限の準備は整った様ですね。助整兵たちが第2地雷原の予定位置に移動している。第1地雷原は終わったってことですよね?となれば、いつ敵が押し寄せてもとりあえず対処可能なわけですね。」

「そうだな。今からトランスグレッサー戦闘機を高高度偵察に飛ばす予定だ。トランスグレッサー戦闘機はエネルギー兵器しか搭載していないので、弾薬補充が必要ないからな。搭乗員に休憩を取らせたら、すぐに飛ばせる。」

 

 と、ここで誰かが管制塔の管制室に入室してきた。キースとヒューバート中尉はそちらに目を遣ると、敬礼をする。入室してきた人物……女性も、すぐに答礼をした。キースは自分から名乗る。

 

「恒星連邦惑星守備隊第1次救援部隊指揮官、傭兵中隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令キース・ハワード大尉であります。こちらは部下のヒューバート・イーガン中尉です。」

「ヒューバート・イーガン中尉であります。」

「ご苦労、楽にしてくれ。私は当基地の司令官、ビアンカ・キルンベルガー中佐だ。と言ってもこの基地にはまともな戦力も無く、シャトル発着場以上の意味は無い閑職なのだがな。中佐の階級も、この基地司令に押し込まれた際に司令官としての体裁のために与えられたものに過ぎん。

 敵メック小隊に攻め込まれたときも、何の対処のしようもなく降伏に追い込まれたよ。」

 

 キースとヒューバート中尉は、とりあえず黙って聞く。と言うか、返事のしようが無かった。ビアンカ中佐は続ける。

 

「一応この場における最上位の階級ではあるが、私自身戦闘指揮には自信がなくてな。それにそちらとは指揮系統も本来異なる。だから、実際の戦いにおいてはそちらの自由にやってもらって構わない。戦いに必要ならば、基地の設備、資材なども自由に使ってもらってかまわない。責任は私が持とう。

 それと戦いにおいて、そちらから我々に要請があれば、よほど無茶なことでない限り……。いや、無茶なことであってもちゃんとした理由があれば認めよう。たとえば基地を放棄して脱出するとかな。」

「はっ。ありがとうございます。とりあえず、今のところ脱出は考慮しておりません。我々は現在、当基地を拠点として活用する事を考えておりますれば、現在基地周辺に振動爆弾による対バトルメック、対重車輛の地雷原を敷設しております。それと、可能であれば当基地に備蓄されている推進剤を……。」

「提供しよう。どうせ敵に基地を一時接収されていた時点で、無くなったと思っていた物だ。好きに使ってくれ。後日問題にならないように、正式な書類にして後ほど届けさせる。」

「ありがとうございます。」

 

 ビアンカ中佐は、話のわかる人である様だった。

 

 

 

 ここはディファイアント号の部隊司令室。キースは一時の仮眠から目覚めた。僅かな疲労感は残ってはいるが、頭はすっきりしている。キースたちは交代で仮眠を取り、敵の襲撃に備えていた。

 敵は捕虜の尋問の結果、傭兵部隊『ミズノ斬撃隊』および『ザーイド百鬼団』の2個中隊らしいことがわかった。ちなみに海軍基地を占拠していたのは、『ミズノ斬撃隊』の火力小隊であったそうだ。ただしその詳細な編成については、捕虜たちの口は堅かった。

 トランスグレッサー戦闘機による高高度偵察、および偵察兵による偵察の結果、敵は各地に小隊単位で分散させた戦力を集結させつつあることが判明している。戦力を集中させて、この海軍基地を攻撃するつもりであるらしかった。その証拠に、大きめの街であるギュンドタウンを押さえていた偵察小隊らしきメック部隊が街から離れ、海軍基地周辺に出没している。この小隊のみが本隊と離れ、挑発を兼ねた偵察行動を行っていた。

 おそらく目的は、威力偵察によりキースたちの部隊の情報を探ると共に、部隊集結が完了するまでキースたちを逃がさないことだろう。キースたちの部隊の情報は、先の夜襲の際にはそれほど多く流れなかった様だ。

 キースたちはこの偵察小隊に対して、あえて放置しておいた。敷設した地雷原の情報を調査されるならばともかく、この小隊はそこまで近寄ってはこなかった。地雷原がある事に気付いているかも怪しい。遠くから姿を現して挑発する程度である。であるならば、わざわざ味方の戦力を晒す必要も無い。既にばれているはずの戦力である気圏戦闘機により、この小隊を撃退することも考えられた。だがこの小隊の編成に対空射撃を得手とするライフルマンが含まれていることにより、余計な損害を出すこともないと却下された。

 

(さて、敵はどう攻めて来るかね。1ヶ所に戦力を集中してくるか、それとも包囲してじわじわ攻めるか……。1ヶ所に集中して来るなら間接砲が自由に使えるし、包囲してその網を縮めようとするなら地雷原に一斉に引っ掛かってもらえるんだけどな……。)

 

 キースの心に、言い知れない不安が満ちる。敵との戦闘に対しての不安ではない。

 

(……『機兵狩人小隊』。キャスリン軍曹は間に合っただろうか……。いや!人事は尽くしたんだ!後は天命を待つだけだ!あの時点で、やれることは全部……やった……はずだよな?他にできること、何か無かったかな?)

 

 そのとき、部屋の内線電話が鳴る。キースは受話器を取り上げた。

 

「こちら部隊司令室。」

『こちらブリッジ、マシュー副長です。少佐、ただ今通信が入りまして、レパード級ヴァリアント号と同級ゴダード号、まもなくこちらに到着の模様です。』

「ゴダード号も?……わかった、俺は滑走路に行く。ジャスティン伍長に連絡して、ジープ……いや、基地に付属のマイクロバスを出させてくれ。」

『了解です。』

 

 ゴダード号は、『機兵狩人小隊』所有のレパード級降下船である。損傷して現状飛べないと言う話であったのだが、軍医キャスリン・バークレー軍曹と共につけてやった、熟練整備兵ジェレミー・ゲイル軍曹が応急修理にでも成功したのであろう。キースは部屋を飛び出した。

 

 

 

 滑走路脇で、キースは2隻のレパード級降下船が順番に降りてくるのを見守っていた。片方はキースたちの部隊、『SOTS』所属のヴァリアント号だ。こちらは上空で旋回し、滞空状態を保っている。先にもう1隻を降ろすつもりなのだろう。

 もう1隻は、前述したゴダード号である。見た目でわかる程度に損傷を受けているが、滑走路に見事に着陸したその挙動に不安な点は見当たらない。整備兵ジェレミー軍曹の実力は、サイモン老の指導の結果もあり、驚くべきレベルにまで上がっていた。

 そしてゴダード号に続き、ヴァリアント号も地上に降りてくる。こちらも見事な技量で、まったく危なげなく滑走路に着陸した。ゴダード号が先に降りてきたのだが、人間用の乗降ハッチが開いたのはヴァリアント号が先であった。キースはジャスティン伍長に、マイクロバスをそちらに向かわせる様に命じる。

 

「ジャスティン伍長、ヴァリアント号の乗降ハッチに着けてくれ。」

「はいっ!」

 

 そしてヴァリアント号から、数名の人物が降りてくる。先頭に立つ人物と、その次の人物の顔に、キースは書類上で見覚えがあった。キースはマイクロバスを降りると、その人物たちに敬礼する。

 

「恒星連邦惑星守備隊第1次救援部隊指揮官、傭兵中隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令キース・ハワード大尉であります。タンタールズ公爵ノーマン・ディーコン閣下と、惑星政府首班ルッジェーロ・ルケッティ議長であらせられますね?」

「うむ、わたしが惑星公爵のノーマン・ディーコンだ。楽にするが良い、大尉。」

「そしてわたしが議長のルッジェーロだよ、大尉。」

 

 2人のお偉いさんは、柔らかい態度でキースに名乗った。周囲にいる人々は、お付きが数名、SPが数名と言ったところだろうか。更にその後ろから、アーリン中尉とリシャール少尉がヴァリアント号を降りてきた。2人はキースに敬礼をする。キースも答礼をした。アーリン中尉がキースに報告をする。

 

「ただいま戻りました!公爵閣下およびルケッティ議長をお迎えして参りました!」

「ご苦労だった、中尉。直りたまえ。」

「はっ!」

 

 キースが本当に聞きたいのは、そう言うことでは無かったのだが、公爵閣下と議長の前ではやむを得ない。キースはノーマン公爵とルッジェーロ議長、それに周囲の人々に向かい、言葉を紡ぐ。

 

「ここは軍事基地ゆえに粗末な車しかありませんが、どうかお乗りください。基地本部棟までお送りいたします。」

「うむ。ああ、いや大尉。……議長、良いな?」

「はい、閣下。仰せのままに。」

 

 ノーマン公爵は歯切れ悪く、しかしそれでもキースに命じる。

 

「ハワード大尉、その、だな。貴公の戦友が、ゴダード号で待っておる。行ってやるが良い。ああ、デヴィッドソン中尉も共に行ってやるがよいぞ。案内はリシャール少尉と、その運転手の兵に頼むでな。さ、早う行くが良い。」

「……はっ。了解いたしました。ではこれにて失礼いたします。ご無礼の段、平にご容赦ください。デヴィッドソン中尉、行くぞ。」

「了解しました。」

 

 アーリン中尉を従えて、キースは早足でゴダード号に向かう。ゴダード号の人間用乗降ハッチも既に開いていた。アーリン中尉が呟く様に問う。

 

「……驚かないのね?」

「……ゴダード号が現れた時点で、な。その時点で、覚悟はしていた。キャスリン軍曹が、手術直後の患者を動かす許可を出すわけがない。許可するとすれば、それは……。

 それに、アーリン中尉の眼が赤かった……。」

「そう……。」

 

 キースは乗降タラップを登り、船内へと入る。そこではサラ・グリソム少尉が待っていた。サラ少尉は敬礼をすると、冷静な口調で以前の通りに言葉少なに言う。

 

「乗船を歓迎します、大尉。アルバート中尉が待っています。」

「そうか……。案内してくれるか?」

「はい。こちらへ。」

 

 だがキースは、サラ少尉の眼も赤かったのに気付いていた。

 

「……ちくしょう、ちくしょう。」

「おい!」

「なんだよ!……あ!し、失礼しました!」

 

 通路の途中で、アマデオ・ファルケンハイン伍長とギリアム・ヴィンセント伍長が床に頽れて泣いていた。だがギリアム伍長がキースとサラ少尉、アーリン中尉に気付き、アマデオ伍長を肘で突いて彼にも気付かせる。2人は慌てて立ち上がると、敬礼をした。キース、アーリン中尉も答礼をする。直立不動の2人に向かい、キースは固い声で言った。

 

「2人とも……。よく頑張った。話はエルンスト曹長がこちらに来たときに聞いている。2人がどれだけ頑張ったか、どれだけよくやったか。」

「……だけどっ!だけどっ!」

「おい!失礼だぞ!」

「いや、かまわん。泣きたい時は、泣いていいんだ。けれど、その後でかならず立ち上がれ。無様でも、失礼でもかまわんからな。」

 

 キースの言葉に、2人は俯いて呟く。

 

「……厳しい人ですね。」

「うん、厳しいわ、この人……。はは。」

 

 2人を残して、キース、サラ少尉、アーリン中尉は歩き出す。そしてある船室へと3人は辿り着いた。サラ少尉が扉を開けると、キースとアーリン中尉に向かい言った。

 

「どうぞ。」

「失礼する。」

「失礼します。」

 

 そこは普通の船室だった。中には寝台があり、そこにアルバート・イェーガー中尉が横たわっている。寝台の脇に置かれた椅子には、彼の郎党であるヴァランティーヌ・ボヌフォワ曹長が見るからに憔悴し、萎れた様子で座っていた。ヴァランティーヌ曹長は、だがキースたちに気付くと立ち上がろうとする。キースはそれを制した。

 

「いや、座っていたまえ。」

「……申し訳ありません。」

 

 キースはアルバート中尉に向かって、直立不動の姿勢になる。そしてキースは、見事なまでの敬礼を決めた。小さな声で、彼は呟く。

 

「お久しぶりです、アルバート中尉。お疲れさまでした、戦友。ゆっくりとお休みくださぃ。」

 

 言葉の最後で、唇が震えて変な声になる。キースは唇を噛みしめて、敬礼を解く。そう、アルバート中尉はもはや二度と目覚めることは無い。その事実を眼前で自覚させられたことは、キースに想像以上の衝撃を与えていた。彼は胸中で呟く。

 

(……知り合いを、仲間を喪うのは、何度やっても慣れないな。だけど、慣れたくないもんだ。くそ、なんでこんなことに……。俺の行動って、本当に最善だったか?ほんとに最速だったか?どっかでもう少し、時間を削れなかったか?もう少し、もう少しだけどこかで……。ちくしょう!

 くそ、俺は指揮官だぞ!泣くのは誰もいない場所で1人になってからだ!嘆くのは全部仕事が終わってからだ!そうでないと、また仲間が死ぬ!)

 

 キースの後ろで、アーリン中尉が話し始める。

 

「キャスリン軍曹の話では、既に手遅れの状態だったそうです。それでもやれるだけのことはやって、あとは患者当人の体力と運に頼るしかないって……。でも、手術後に一度だけ意識を取り戻したのよ。それだけでも奇跡的だったって……。

 アルバート中尉はサラ少尉に今後のことについて指示を出すと、わたしに言ったんです。わたしと、キース中尉に頼みがあるって。アルバート中尉は、キース大尉が大尉になったことを知らなかったか、既に意識が混濁していたんだと思うわ。」

 

 アーリン中尉は、丁寧語と普通の語調が混ぜこぜになっていることに、自分で気が付いていない様だった。だがキースはそれを咎めない。アーリン中尉は話し続ける。

 

「アルバート中尉は、娘さんに失機者の不遇を味あわせたくないって言ってたわ。だから、できればで良いから自分のサンダーボルトを敵の手から取り戻して欲しいと言っておりました。その後は意識が混濁して、最後の最期まで娘さんと奥さんのことばかり……。そしてそのまま……。」

「そうか……。」

 

 アルバート中尉のサンダーボルトは、マルボルク城脱出時の奮戦の末、敵に鹵獲されていた。アルバート中尉を瀕死の重篤状態に追い込んだ負傷は、脱出時の事故によるものである。そのアルバート中尉をサラ少尉のD型フェニックスホークが救出し、脱出を果したのだ。だがD型フェニックスホークの手で運ばれたことが、アルバート中尉の命を縮めた可能性もあることを否定できないのが辛いところだ。

 無論、身代金を支払えばサンダーボルトを取り戻せる可能性はある。だが確実とは言えない。敵が傭兵部隊であると言う事は、戦利品であるサンダーボルトはおそらくは、ある程度の報奨金と引き替えに雇い主であるドラコ連合に接収されるであろう。そして接収したバトルメックを身代金と引き替えで返還するかどうかは、ドラコ連合の胸三寸しだいであるのだ。また身代金交渉が纏まらなければ、その場合も返還されることは無い。これまでの例で言えば、返還される可能性は高いだろう。だが重ねて言うが、確実ではないのだ。

 キースの頭脳は、忙しく回転し始めた。なんとかしてアルバート中尉の最期の願いを叶えてやりたい。だがキースは恒星連邦惑星守備隊第1次救援部隊指揮官であり、『SOTS』部隊司令でもあるのだ。彼にはその責任があり、それを放り出すことは絶対にできない。その責任と、アルバート中尉の願いを両立する方法はあるのだろうか。

 

「……アーリン中尉、サラ少尉。これから士官とメック戦士、航空兵を集めて、作戦会議を行う。アルバート中尉の願いを叶えられるか、確信は無い。だが素案はある。この素案を作戦にまとめ上げるため、力を貸して欲しい。」

「え……。了解!」

「了解。我々はアルバート中尉より、大尉の指揮下に入るよう命じられております。」

 

 椅子で萎れていたヴァランティーヌ曹長が、顔を上げる。その顔には、精気がわずかだけだが戻っていた。彼女は言葉を発する。

 

「大尉、わたくしも何かお力になれますかしら?」

「作戦しだいだな。よし、君も作戦会議に出席しろ。自由に発言してかまわん。」

 

 キースの瞳がぎらぎらと輝く。その場にいた者は、彼の気合に飲まれていた。




残念ながら、アルバート中尉は亡くなってしまいました。『機兵狩人小隊』も必死で脱出を計ったのですが……。と言いますか、ここを執筆するとき、ひたすら悩んだ事を覚えています。やっぱり生かして置くべきではなかったか、とか、いややっぱり初志貫徹して、とか。
そして、やはり初志貫徹を選びました……。でも、惜しいキャラクターでした。


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『エピソード-035 強襲降下作戦』

 タンタールズⅣ海軍基地の周辺で、蠢動する影があった。20t級のバトルメック、スティンガーとK型ワスプ、45t級のK型フェニックスホーク、そして60t級のライフルマンからなる偵察小隊編成のバトルメック小隊である。このメック小隊は、一昨日からこの海軍基地周辺に出没していた。今までは海軍基地を拠点としている惑星守備隊の救援部隊は、このメック小隊を無視していたのだが、この日初めてこれを迎え撃つために基地から出撃して来た。

 出撃して来たのは、キース率いる指揮小隊と、アーリン中尉率いる偵察小隊である。キースは各隊員に指示を下す。

 

「地雷原の抜け道Bを使って、地雷原の外へ出るぞ。地雷原に踏み込まない様に気を付けるんだ。それとスティンガーだけは逃がせ。わざと逃がしたと思われない様に、1~2発レーザーでも撃って、ぎりぎりで外してやれ。逆に逃がしてはいかんのがライフルマンだ。あれを逃がすと、気圏戦闘機が自由に動けない。サラ少尉たちの情報では、敵編成のライフルマンは2機。俺たちが1機既に潰しているから、あとはあの1機だけだ。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 キースたちの隊は、地雷原を不自然にじぐざぐに走行して敵小隊に迫る。これで敵小隊にも、地雷原の存在とそこを抜ける道の存在とがわかったことだろう。敵小隊は、急いで撤退しようとした。出撃してきた敵の編成他の情報がわかった以上、無駄に損害を被りたくないと言ったところだろうか。だがキースとアンドリュー軍曹の射撃技量は、尋常では無かった。既に敵は粒子ビーム砲と中口径オートキャノンの遠射程に入っていたのだ。

 

「アンドリュー軍曹、K型ワスプを!俺はK型フェニックスホークをやる!」

『了解っ!まかせろ隊長!』

 

 アンドリュー軍曹機のライフルマンが放った2発の中口径オートキャノンの砲弾は、見事にK型ワスプの左胴に集中して命中した。その部位の装甲を全て剥がされてマシンガンの弾薬に直撃をくらい、K型ワスプは爆散する。メック戦士は脱出したものの、弾薬爆発の際の負傷で気絶した模様だ。

 一方キースのマローダーが撃った粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門は、それぞれK型フェニックスホークの右胴、胴体真ん中、左胴に分散して当たる。普通のフェニックスホークよりも装甲の厚いK型フェニックスホークは、なんとか致命傷は避けられたものの、衝撃で転倒してしまった。

 敵方のライフルマンは、キースたちの方を向いて後退しつつ、当たらない中口径オートキャノンを撃ちまくっている。どうやら自分に注意を引き付けて、スティンガーだけでも逃がそうとしているかの様だ。おそらく情報を、なんとしても味方の元に届けるつもりだ。偵察小隊の鑑と言える。

 キースが偵察小隊に向けて叫んだ。

 

「アーリン中尉!そちらの小隊の機動力で、ライフルマンの後ろに回り込め!余裕があったらスティンガーの方に1発ほど無駄射ちを!」

『了解!』

 

 過熱のため動きが鈍ったキース機は、それでも粒子ビーム砲を1門だけ、起き上ったばかりのK型フェニックスホークへ撃ち込む。アンドリュー軍曹機のライフルマンもまた、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門を、敵の同型機へと発射。エリーザ軍曹のウォーハンマーとマテュー少尉のサンダーボルトも、各々距離的に届く武装を敵機に発射しつつ距離を詰める。更にアーリン中尉麾下の偵察小隊の高機動メックが、ライフルマンの退路を塞ぐ。敵のメック小隊には勝ち目はもはや無かったが、それでもスティンガーを逃がすため、最後まで戦い抜いた。

 

 

 

「さて、第1段階は終了だ。ヴァリアント号とゴダード号は、各々早速火力小隊と『機兵狩人小隊』、および2個歩兵小隊を乗せて臨時基地へ向かってくれ。その後の行動方針とタイムスケジュールは、打ち合わせの通りに。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 戦利品の回収を仲間達に任せると、キースは一足先に海軍基地へ戻って、管制塔管制室から指示を出し始めた。

 

「サイモン少尉、指揮小隊と偵察小隊のバトルメックが戻りしだい、今回のメック戦闘で受けた損傷の修理と弾薬補充に入ってくれ。」

『了解ですわ。ジェレミー軍曹はヴァリアント号、ヴァランティーヌ曹長はゴダード号について行かせますんで手伝ってもらえませんがの。メックの修理に関してならばキャスリン軍曹にも叩き込んでありますでのう。装甲板の換装はわしら2人が主にやって、弾薬補給は他の整備兵に任せたとして、ざっと……。長くても120分後には再出撃可能ですわい。既に戻ってる、隊長のマローダーから始めますでの。』

「充分だ、そちらは任せたぞ。……オペレーター、先発させた偵察兵3名、およびライトニング戦闘機4番機からの報告は?」

 

 キースは管制室のオペレーターに問う。問われたオペレーターは即座に返答した。

 

「はい、偵察兵3名からの報告は、未だありません。ライトニング戦闘機4番機、コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉機ですが、こちらへ向かう敵バトルメックの1群を確認、総数は15機。先ほど逃走したスティンガーは、おそらくこの部隊と合流するものと思われます。なおゲルステンビュッテル少尉機は現在帰還中、推進剤補充の準備を要請しています。」

「了解した、とコルネリア少尉機には伝える様に。滑走路脇に推進剤のタンクローリーを準備させて、いつでも補充できる様にさせろ。」

「了解です。各所に通達します。」

 

 そしてオペレーターがあちこちへの通達を終えた頃合いを見計らい、キースは再度質問する。

 

「敵バトルメック部隊のこちらへの到着予定時刻は?」

「現状のままの速度を維持したとして、今から8時間後の連盟標準時で09:00ちょうど頃、この惑星の当地域時間で夕刻の18:15頃です。」

「タイムスケジュール的にはほぼ計算通りだな。」

 

 その時、基地滑走路の方から轟音が響く。レパード級降下船、ゴダード号が発進したのだ。その外装には大きな傷跡が走っているものの、ここ海軍基地にあった資材を活用したことと、サイモン老、ジェレミー軍曹、パメラ軍曹の3名の艦船に関するエキスパートが一致協力したことにより、当面運用するには問題ないレベルに修復されていた。勿論のこと、後できちんとしたドックに入り、修理を受けなければならないのは当然なのだが。

 続いて、レパード級降下船ヴァリアント号もまた発進して行く。これだけ贅沢に降下船を輸送機代わりに使えるのは、推進剤の補給が潤沢であるからこそだ。今回の作戦も、推進剤が足りなければ実行不可能である。推進剤を快く提供してくれた海軍基地司令官ビアンカ・キルンベルガー中佐には、感謝することしきりであった。ともあれ、2隻のレパード級は山間部に設けられた臨時基地の方へと飛んで行った。

 しばらくキースは、オペレーターたちと黙々と作業に励んだ。と、ここでオペレーターの1人がキースを呼ぶ。

 

「ハワード大尉、外線電話が入っております。ジェンキンス軍曹からです。」

「アイラ軍曹から?こちらの卓に繋いでくれ。」

 

 キースは手近な卓の電話機に通話を繋いでもらうと、受話器を手に取る。

 

「こちらキース・ハワード大尉。アイラ軍曹か?」

『はい、こちらアイラ・ジェンキンス軍曹です。』

「無線通信機ではなく、惑星上の電話回線を使う、か。よく考えれば、通信傍受の可能性を考えれば理に適った手法だな。で、地下通路は使えそうか?」

 

 地下通路とは、今は敵の拠点になっているマルボルク城から延びる、万が一のための緊急脱出路として造られた地下トンネルのことである。かろうじてバトルメックが通れるだけの広さがあるが、『機兵狩人小隊』脱出時に爆破され、半ば埋まっているはずであった。

 ちなみにアルバート中尉が瀕死の傷を負ったのも、地下通路で脱出する羽目に陥ったからである。彼らは惑星公爵と惑星政府首班の議長をできるだけ安全に脱出させるため、レパード級ゴダード号を最初に囮として空荷で発進させて、敵気圏戦闘機とメック部隊の目を引き付けた。そして公爵と議長一行を城にあった兵員輸送車で先行させ、自分たちは殿として地下通路を通って脱出を図ったのだ。だが敵の偵察兵に地下通路の入り口を発見されてしまい、追って来た敵と地下通路内で戦闘になったのである。

 最後尾に立っていたアルバート中尉のサンダーボルトは、カタパルト、ドラゴン、K型ウルバリーンの3機を擱座させたが自機も大きく損傷し、やむなくアマデオ伍長のシャドウホークと位置を交代しようとした。だがそれは間に合わず、敵のマローダーからの粒子ビーム砲を頭部に受けることとなった。緊急脱出したアルバート中尉は地下通路の天井に叩きつけられたのである。

 そこをサラ少尉のD型フェニックスホークが拾い上げ、全力後退。アマデオ伍長のシャドウホークと、ギリアム伍長のエンフォーサーが必死で交戦しつつ後退して時間と距離を稼ぎ、偵察兵のエルンスト曹長と整備兵のヴァランティーヌ曹長があらかじめ仕掛けてあった爆薬を発見して起爆。地下通路は半ば埋まり、メックでの通り抜けは不可能となって『機兵狩人小隊』は逃げ延びることに成功したのだ。アルバート中尉と言う、尊い犠牲を払うことにはなったが。その後彼らは、何とか気圏戦闘機を振りきって不時着していたゴダード号と合流したのである。

 電話口の向こうで、アイラ伍長はキースの問いに答えた。

 

『はい、バトルメックや車両での通り抜けは不可能ですが、歩兵であれば通行可能です。ジャンプ歩兵であれば、もっと楽に通り抜けできたんですけどね。』

「少し、歩兵全員に与えるには高い装備なんでな。うちの経済状況ではまだジャンプ歩兵の維持は難しい。で?出口付近の警備はどうだ?」

『甘い、の一言ですね。地下通路に突入する際無茶をしたんでしょう。メック用の扉自体が破壊されていて、歩兵2名が歩哨に立っているだけです。私とネイサン軍曹の2人で無力化できます。歩兵戦力は少ない模様ですね。作戦直前に実行する予定ですが……?』

 

 少し考えて、キースは指示を下す。

 

「そうだな。作戦直前に実行し、目標周辺に歩兵部隊を進入させてくれ。」

『了解です。目標の位置はおそらく……?』

「ああ、事前の航空写真の解析結果からすれば、マルボルク城の離着床から動いてはいまい。それに、動かす理由も無い。相手が傭兵部隊だと判明した以上、目標を下手に危険にさらすことは経済的な理由から忌避するのは当然だ。では頼んだぞ。ネイサン軍曹とエルンスト曹長にも、よろしく言っておいてくれ。以上だ。」

『はい、では失礼します。』

 

 電話は切れた。キースは受話器を置きながら考える。今のところ状況は想定通りに推移している。後の不安は、敵バトルメック部隊のここ海軍基地への到着予定時刻がずれる可能性だ。特になんらかの原因で遅れられると、作戦にとってかなり痛い。

 

(だけど、その辺は信頼しても良いだろうな。なんせアルバート中尉を追い詰めて倒した奴らだ。偵察小隊の士気や練度から言っても、悪くないどころかなかなかの強敵だと思う。情報を持って帰らせるスティンガーを逃がすために、俺たち相手にあれだけ粘れるんだからなあ。若干早まる可能性はあっても、遅れることは考えなくて良いだろうさ。)

 

 そしてその予想は外れることは無かった。

 

 

 

 連盟標準時で、3026年2月11日午前8時50分、惑星タンタールズⅣの現地時間で夕方18時4分、キースたち傭兵中隊『SOTS』の指揮小隊と偵察小隊は、自分たちが敷設した地雷原のかなり手前に展開し、敵がやって来るのを待ち受けていた。キースは呟く。

 

「来たな、予定通りだ。予定時間の少し前に来ると言うのは、紳士だな。……ふむ?なるほど。」

 

 地雷原の向こう側に、敵のバトルメック部隊が姿を現す。キースはその数を数え、何やら納得の言葉を漏らした。アーリン中尉がその言葉を聞き、尋ねて来る。

 

『何が「なるほど」なんですか?キース大尉。』

「いや、な。あのとき逃げたスティンガーが戦列に加わり、しかも堂々と先頭に立って案内しているからな。勇敢だ、と思っただけだ。士気は高い物と見える。偵察小隊の仇討のつもりかな?まあ捕虜にしただけで死んではいないんだが。」

『確かに。最初の狙い目は?』

 

 その言葉に、キースはにやりと笑って答えた。

 

「奴らはうちの指揮小隊の腕前を知っているはずだからな。2番手にいるK型ウルバリーンが遠距離射程に入りしだい、撃たせてもらおう。撃たない方が不自然だし、撃っても逃げんだろう。アーリン中尉たちも、当たり目があると思ったらいつでも撃ってかまわんぞ。ただしフェニックスホークはあくまでヒットアンドウェイを心がけること。」

『了解です。』

 

 そうこう言っている間にも、敵部隊はできるだけ細い隊列を組み、道案内のスティンガーが歩いた後を正確に辿ってやって来る。それはキースたちがわざと教えた、地雷原の抜け道だった。普通ならばここでドカドカと間接砲撃を撃ち込むところだ。だがあえてキースはその手段を取らなかった。万一逃げ出されて降下船を呼ばれ、惑星を逃げ出されては困る。キースはここで相手を撃滅するつもりだったのだ。

 そしてキースは指揮小隊に射撃開始を命じる。

 

「指揮小隊、射撃準備。目標、敵2番手のK型ウルバリーン。用意……撃て!」

『『『了解!』』』

 

 キースのマローダーが、アンドリュー軍曹のライフルマンが、エリーザ軍曹のウォーハンマーが、マテュー少尉のサンダーボルトが、それぞれの長距離射程武器をもってK型ウルバリーンを狙い、射撃開始する。K型ウルバリーンは、一瞬で胴体真ん中の装甲板を突き破られてジャイロを破壊され、更に着弾の衝撃でその場で転倒してしまった。

 先頭に立って歩いていたスティンガーが、全力走行に移行して地雷原の抜け道を走り抜ける。どうやら懐に飛び込んで囮となり、味方の突入を助けるつもりらしい。その後に続いたのは、これもまたスティンガー2機、そしてK型フェニックスホーク2機にジェンナー、ジャベリンである。更にその後ろに、もう1機のK型ウルバリーンとK型シャドウホークが続く。

 だがここで、6機の気圏戦闘機による地上掃射が行われる。それは前衛に出て来た中軽量級ではなく、後方で固まって支援射撃の準備をしていたマローダー、ウォーハンマー、カタパルト、グリフィン、K型アーチャー2機に対して行われた。マローダー、ウォーハンマー、グリフィンと、味方側と同じ機体が3機も存在しているため、ちょっとややこしい。幸いなことにカラーリングが違うため、誤射は避けられそうである。

 気圏戦闘機隊は、6機が縦一線隊形を取って連続で地上掃射を行った。ライトニング戦闘機1機あたり3門の中口径レーザー、トランスグレッサー戦闘機1機あたり3門ずつの大口径レーザーと中口径レーザーが降り注ぐ。敵の各バトルメックは、必死に応射を行った。

 

『こちらライトニング戦闘機3番機、ミケーレ・チェスティ少尉!装甲が限界です、離脱許可を!』

『同じくライトニング戦闘機4番機、コルネリア・ゲルステンビュッテル少尉です!こちらも喰らいました!離脱許可願います!』

『トランスグレッサー戦闘機2番機、アードリアン・ブリーゼマイスター少尉です!自分もやられました、離脱許可を!』

「ライトニング戦闘機3番機、4番機!トランスグレッサー戦闘機2番機!離脱しろ!」

『『『了解!』』』

 

 敵の後衛にけっこうなダメージを与えたものの、味方気圏戦闘機の半数が戦力外になった。キースは思わず妙な考えを浮かべる。

 

(いちいち戦闘機名を叫ぶのは長くて、下手するといざという時に間に合わなくなるかも知れないな。何か適切なコードネームでも考えておこう。

 ……っと、もらった!)

 

 キースはマテュー少尉のサンダーボルトの背後に回り込もうとしたジェンナーとジャベリンに、マローダー両手の粒子ビーム砲を1発ずつ撃ち込む。ジェンナーは右脚に、ジャベリンは胴中央にダメージを受けて、共に動きを止める。ジェンナーは腰骨に重いダメージを受けて移動できなくなった様で、ジャベリンはジャイロを破壊されたらしい。だが各々の機体は、同時にマテュー少尉機に対し全開で射撃をしていた。幸いにも着弾は機体各所にばらけた様で、サンダーボルトは依然として健在である。

 そのマテュー少尉機は、K型フェニックスホークに対して胸に装備された中口径レーザー3基と2連短距離ミサイル発射筒を一斉に撃ち放ち、同時に両手でパンチを見舞っていた。K型フェニックスホークは射撃は各部にダメージが分散した様であったが、サンダーボルトの重い拳を2発まともに受けて、頭部が破壊されてしまう。メック戦士は無事に脱出した様だった。

 一方でエリーザ軍曹のウォーハンマーは、もう1機のK型フェニックスホークに胴装備武器の一斉射撃を浴びせていた。K型フェニックスホークは、45t級にしては分厚い装甲をあっさりと剥がされて、あまつさえ転倒してしまう。そこにウォーハンマーの蹴りが振るわれ、K型フェニックスホークは左脚が完全崩壊して立ち上がれなくなった。

 アーリン中尉麾下の偵察小隊は、グリフィンの援護のもと、2機のフェニックスホークと1機のD型フェニックスホークが、K型ウルバリーン、K型シャドウホーク、スティンガー3機を相手に翻弄している。ここでアンドリュー軍曹が叫んだ。

 

『隊長!例の「流星」が4つ!こっちに降りてくるぜ!もうぶっぱなしちまって、いいんじゃね!?』

「そうだな!サイモン少尉、ボールドウィン伍長、ロングトムⅢとスナイパー砲の出番だ!ロングトムⅢはBASE-OE-030060に、スナイパー砲はBASE-OE-030063に!風向と風力は事前の調査通り!機甲部隊、出番だ!戦車による支援砲撃を開始せよ!」

 

 その台詞とともに、海軍基地の敷地内から一斉に『SOTS』所属の戦車部隊が出現する。そして適切な位置取りを行うと、中口径オートキャノン、20連長距離ミサイル発射筒、10連長距離ミサイル発射筒、粒子ビーム砲などで一斉に援護射撃を開始した。敵のバトルメックは、慌てふためく。一切情報に無かった戦車12輛が、突然登場してキースたちのメックを支援し始めたのだ。泡を喰った1機のK型アーチャーが、2基の15連長距離ミサイル発射筒からミサイルを撃ち上げつつ、射撃を回避すべく横に移動する。と、その機体の足元で振動爆弾が爆発し、K型アーチャーは気圏戦闘機から受けた傷と合わせて左脚を吹き飛ばされ、地面に倒れ伏した。

 敵は流石にまずいと感じたのだろう。どうやら敵の指揮官は、一時撤退を決めたらしい。前衛に出て来ていたK型ウルバリーンとK型シャドウホーク、スティンガー3機が下がり、後方にいた支援メック部隊もまた後ずさる。無論それらの敵からの射撃は行われ、主に前線に立っているマテュー少尉のサンダーボルトとエリーザ軍曹のウォーハンマーに、時折命中弾が発生している。キースは熱くなった機体を冷却させるために粒子ビーム砲1門のみを撃ちながら、間接砲隊に命令した。

 

「サイモン少尉、ロングトムⅢを先ほどの地点からEに90m!その次はそこからNEに30mだ!ボールドウィン伍長はスナイパー砲を最終地点からEに60m、更にそこからEに30mへと順に撃ち込め!」

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

そして敵の真上に、先ほど指示した最初のスナイパー砲弾が落ちる。命中したのはもう1機残っていたK型アーチャーだ。K型アーチャーは弱っていた胴中央の装甲板を吹き飛ばされ、エンジンの鎧装を2層まで破壊される。エンジンの異常発熱をもたらすそのダメージは、放熱器の数が少ないアーチャー系の機体には致命的だ。もはや装甲が残っていない前面よりも背面を敵に向けた方がましだと言うつもりか、K型アーチャーは後ろを向いた。

 そして、そこには絶望が待っていた。

 

『お待たせしました、キース大尉!こいつらを逃がさなければいいんですね?』

「待っていたぞ、ヒューバート中尉。」

 

 地雷原の外側、海軍基地とは反対側に、4機のバトルメックが次々と着陸する。その機体には、制動ジェットが装着されていた。無論のこと、『SOTS』火力小隊のバトルメックたちである。火力小隊の機体は、制動ジェットをパージし、身軽になると敵部隊の背後から砲火を浴びせる。

 そう、彼ら火力小隊はユニオン級降下船ゾディアック号を用いて大気圏外へ出て、そこから敵陣の後ろに強襲降下したのである。作戦の初期案では、敵を逃がさないためにIR偽装網を使って地雷原の外側に伏兵しておく予定だったのだが、敵の能力しだいでは伏兵が見破られる、との意見が偵察小隊のリシャール少尉から出たのだ。そこで代替案として浮上したのが、この敵陣後方への強襲降下であった。ちなみにこんな無茶な案を出したのは、ヒューバート中尉自身である。敵が出現するタイミングが遅れていれば、敵がやって来る前に敵の眼前に降下しているという間抜けな事態になっていたかも知れない。

 キースはヒューバート中尉の部下に声をかける。

 

「ロタール軍曹、カーリン軍曹、2人はシミュレーターでしか強襲降下はやったことが無かったな。大丈夫か?」

『は、はい!だ、だい、大丈夫です!』

『おえっぷ……。いえ、無事、です!』

 

 あまり大丈夫そうでも無かったが、空元気も元気のうち、やせ我慢でもやってもらわねば困るのだ。ここは踏ん張ってもらおうと、キースはあえて騙されてやる。

 

「そうか、なら大丈夫だな!よし、サイモン少尉、ロングトムⅢを最終地点からSに60m、ボールドウィン伍長はスナイパー砲を最終地点からSに30mだ!」

 

 スナイパー砲の第2弾が着弾する。今度は敵指揮官機の1機、ウォーハンマーの頭上だった。敵のウォーハンマーは、左腕の粒子ビーム砲を折り取られる。そこにヒューバート機の大口径オートキャノンが背後より炸裂し、右胴に装備された6連短距離ミサイル発射筒を目茶目茶にした。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 そしてスナイパー砲の第3弾と共に、ようやくここでロングトムⅢの初弾が敵の真上に降り注いだ。これは前衛に出ていたK型ウルバリーン、K型シャドウホーク、スティンガー3機が集まっていた場所に着弾し、各々を吹き飛ばす。特に装甲の薄いスティンガー3機は、あっさりとその動きを止めていた。かろうじて形は残っているから、おそらく修復は可能であろう。だがこの戦闘中には動ける様には見えなかった。

 敵機を叩きのめしているのは間接砲だけではない。アンドリュー軍曹のライフルマン、エリーザ軍曹のウォーハンマー、マテュー少尉のサンダーボルトからの攻撃も、次から次へと命中している。キース自身の機体であるマローダーも、遠距離射程だと言うのに非常に高い命中率を誇っていた。

 それに加え、偵察小隊の4機のバトルメック、機甲部隊の戦車12輛、敵陣の後ろには4機の火力小隊機までおり、上空からは散発的にまだ無事な気圏戦闘機が攻撃を仕掛けてくる。あげくに敵機がいるのは、地雷原の只中に空いた狭い空間でしかない。敵機は次々に倒れ、あるいは行動不能になって行く。

 と、ここで敵のマローダーとウォーハンマーが降伏の信号弾を打ち上げた。その他の生き残っている敵のメックも、次々に降伏信号を打ち上げる。同時に一般回線と敵機の外部スピーカーから、マローダーに乗る敵指揮官の悔しげな声が聞こえた。

 

『降伏する……。これ以上やれば、必ず部下が死ぬからな……。これだけやってくれたんだ、逃がすつもりも無いのだろう?』

「降伏を認めよう。それと急いでこっちに来い。撃ってしまった間接砲の弾は、止めようがないからな。」

『わかった。おい!急いで移動するぞ!』

 

 降伏した敵バトルメックたちが、慌ててそそくさと場所を移動する。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 さっきまで敵バトルメックがいた場所に、スナイパー砲とロングトムⅢの砲弾が着弾して火柱を上げた。それを眺めながら、マローダーの敵指揮官が悄然として言葉を発する。

 

『……しかし各個撃破の千載一遇の機会だと思っていたのだがな。1個大隊規模の増援を送り込んでおきながら、わずか2個航空小隊でこの基地を奪い返したと聞いたときには、大戦力に溺れて戦力分散の愚を犯してくれたとばかり思っていたが……。流石にそう甘くはなかったか。

 こちらの雇い主であるクリタ家は傭兵に厳しいからな。作戦目的を達成せずにただ戻ったとあらば、もうどうしようも無くなるのは目に見えていたしな。ある程度の戦術的勝利でも得られれば言いわけ程度には、と思ったが……。だが結局は無謀な賭けだったか。』

 

 キースは「1個大隊規模の増援」と言う言葉を聞き、この敵指揮官が勘違いしていることに気付く。まあ普通、1隻がレパード級とは言え4隻の降下船を持って来て、中身が1個増強中隊だなどと言うことは思わないだろう。いや、厳密に言えば増強中隊と言うよりは混成大隊なのだが、キースが偉くなるのを嫌がり、増強中隊と言い張っているのだが。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 誰もいない場所に、再びスナイパー砲とロングトムⅢの砲弾が着弾する。味方歩兵部隊は今別任務に出払っているので、海軍基地の軍人たちが降伏した敵メック戦士たちを拘束していった。

 

 

 

 そして海軍基地での戦闘が終了して1時間もしないうちに、サラ少尉からマルボルク城の通信施設を使って連絡があった。曰く、敵のユニオン級降下船ハタカゼ号とシマカゼ号を制圧し、鹵獲されたアルバート中尉のサンダーボルトを取り戻したそうである。

 その方法はと言えば、こちらも軌道上からの強襲降下であった。『機兵狩人小隊』の3名のメック戦士は、ユニオン級降下船エンデバー号に乗り一度大気圏外へ出て、そこからマルボルク城の降下船離着床へと直接降下したのである。地上から城壁を破るよりは、確実に城内へ入ることができる手段であった。

 そして彼らが降下船および降下船から出撃した修理半ばの60tメック、ドラゴンの相手をして気を引いている間に、忍び寄った『SOTS』の歩兵部隊が2隻のユニオン級を制圧し、ドラゴンのメック戦士を観念させて降伏に追い込んだのである。

 通信に出たサラ少尉は、キースに礼を言う。

 

『お礼申し上げます。』

『サラ少尉!それじゃわかりませんて!ちゃんとエンデバー号や、俺たち、いえ自分たちの損傷したバトルメックの代わりや歩兵戦力まで貸してくれて、どうもありがとうございましたって言わなきゃ!』

 

 ギリアム伍長の言った通り、キースは彼らに『SOTS』の予備メックを一時貸与していた。しかもD型フェニックスホークの乗り手であるサラ少尉には同じくD型フェニックスホークを、エンフォーサーの使い手であるギリアム伍長には同型機たるエンフォーサーを、シャドウホークを駆るアマデオ伍長にはまったく同じシャドウホークを、と言った具合である。

 これらの機体を貸した理由は単純で、『機兵狩人小隊』の酷く損傷したバトルメックを修復する時間的余裕が無かったのと、キースが奪還した元『BMCOS』のバトルメックの中で修理完了していた機体に、彼らの乗機と同じ機体が存在していたからである。これがもし違う機体を貸していたとしたら、機種転換訓練を経ていない状態で乗らざるを得ないので、『機兵狩人小隊』のメック戦士たちの疲労は著しかっただろうし、満足に機体を扱えない可能性も高かった。しかし貸した機体がそれまで乗っていた機体と同じであったことで、彼らはその能力を十全に発揮することができたのである。

 ちなみに貸した機体は、さすがに無傷とは行かなかった。特に機動性の低いエンフォーサーが、いくつか直撃を受けており、装甲がかなりやられていた。だがキースが笑って許したため、エンフォーサーに乗っていたギリアム伍長はひどく恐縮した物だ。ちなみにキースからすれば、装甲板がやられただけなら契約によって恒星連邦から装甲板代が支給されるから、そこまで気にすることでは無いのだが。

 

 

 

 2日後、キース含む『SOTS』の面々は、『機兵狩人小隊』メンバーと共にマルボルク城に滞在していた。コムスターのHPG施設を介して送られてきたメッセージによれば、恒星連邦政府は、指揮官を喪い契約遂行能力を失った『機兵狩人小隊』との契約を、メッセージ到着時点で解除することが記されていた。

 ただし報酬は契約満了時点までの分支払われるし、戦闘報酬も全て支払われることが明記されていた。おそらくこれは、惑星政府首班であるルッジェーロ議長の何らかの上申や、ノーマン公爵による宮廷での友人などを介した工作が行われた結果であろう。

 ちなみにそのメッセージには、キースたちに対する指示も含まれていた。キースたち『SOTS』は、連盟標準時で3026年2月18日までこの惑星に滞在して惑星守備隊の代理を務め、その前日に惑星タンタールズⅣ到着予定の第2次救援部隊改め新規の駐屯部隊に駐屯任務を引き継ぐこと、となっていた。本日は連盟標準時で2月13日であるからして、既にジャンプポイントには新規の駐屯部隊がやって来ているはずである。

 今マルボルク城の司令室で、キースはサラ少尉と向き合っていた。彼の隣にはアーリン中尉が控えており、サラ少尉は彼の目の前で直立不動の姿勢を取っている。空気の読める男ヒューバート中尉は、自分だけがアルバート中尉と無関係だからと席を外していた。キースはサラ少尉に尋ねる。

 

「これからどうするつもりだね?連盟標準時で18日まで待ってくれれば、『SOTS』が専属契約している航宙艦で何処へなりと送るが……。」

「はい。ありがとうございます。惑星ペリディドまでお願いいたします。」

 

 惑星ペリディドは、恒星連邦の南十字星境界域に属する、いわゆる後方惑星だ。だがその惑星が何なのか、キースとアーリン中尉は説明を待った。サラ少尉は何も話さずにただ立ち尽くしている。アーリン中尉は思わず呟いた。

 

「……え?それだけ?」

「……あ。」

 

 サラ少尉は、自分が何の説明もしていなかったことにようやく気付いたらしい。今ここには、突っ込み役のギリアム伍長はいない。サラ少尉はうろたえる様に目を泳がせた。何とはなしに小動物の様で可愛らしい。まあ実はこの3名中で、一番年上であったりするのだが。

 

「そ、その惑星にはアルバート中尉の家があるのです。中尉のお骨と遺品をお返ししなければなりません。」

「なるほど。アルバート中尉がお亡くなりになった事は、伝わっているのか?誰かがコムスターのHPG施設か商用降下船にメッセージなり手紙なり託したのかな?」

「ヴァランティーヌ曹長がHPG施設に出向きました。」

「そうか……。彼女はアルバート中尉の郎党だし、それ以外にいないか。」

 

 ちなみにお骨は、火葬した後散骨するか、家族の家に安置されるのが普通である。土葬の習慣もあるし、この時代宇宙葬も多いが、アルバート中尉はこの件について遺言を残さなかったため、とりあえず輸送し易い火葬にしてその後の処置は家族の意見を聞くことになったのである。おそらくは散骨の場所に宇宙を選ぶ、宇宙葬を望まれるのではないか、と思われるが。

 キースは、頷く。

 

「うん、いいだろう。ついでだし、惑星ペリディドで隊員の短期の休暇を取ろう。」

「それは良いですね。隊員たち、まともに休暇を取ってませんでしたからね、最近。まあドリステラⅢでの駐屯任務は終わりの方は何事も無かったから、休暇みたいなものだって言う人もいましたけど。」

「本当は長期の休暇をやりたいところなんだが、あまり休んでいると部隊の予備費が尽きる。……ん?サラ少尉、どうした?」

 

 未だ挙動不審なサラ少尉に、キースはその態度の理由を尋ねる。サラ少尉はしばし悩んでいた様だが、思い切った様子で口を開いた。

 

「キース大尉とアーリン中尉にお願いです。私やヴァランティーヌ曹長と共に、アルバート中尉のご家族にお会いしてください。」

「「え?」」

 

 唐突な願いに、キースとアーリン中尉は固まる。サラ少尉は、自分頑張りました、と言う雰囲気を漂わせつつ、ただそのまま立っていた。




ちょっとこの回は、作戦に凝り過ぎた感がありますね。いえ、凝り過ぎたと言うよりは、無理があったなあ、と。劇的に見せるために、強襲降下作戦を選んだのです。選んだのですが……。敵を逃がさないためなら、何か他にも……方法が……。
まあ、でも。ノリと勢いで書いていた部分も多いですし……。ですがやはり、内容自体は改定せずに、旧作のまま出す事にいたしました。


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『エピソード-036 機兵狩人の名』

 惑星ペリディドは、自然と都市とが調和した風光明媚なところだった。今の日付は3026年3月1日、『SOTS』の4隻の降下船は、ペリディドの首都トリオムの宇宙港、トリオムポートに着陸していた。ちなみにここの首都は、珍しく惑星名とはかけ離れた都市名を持っている。

 なお、『SOTS』に同行している『機兵狩人小隊』所有降下船であるゴダード号は、この惑星上には着陸していない。ゴダード号は損傷を修理するために、この惑星がある星系に存在していたゼロG乾ドックへ入渠している。

 そのため、『機兵狩人小隊』の面々は自分たちのバトルメックと共に、『SOTS』所属のフォートレス級降下船ディファイアント号に同乗していた。

 いつものジャスティン・コールマン伍長が、宇宙港周辺の大手レンタカーチェーンの店舗よりレンタルしてきた14人乗りのミニバスを、船倉に直結しているメック・重車両用の傾斜路を使ってディファイアント号の内部に乗り入れて来た。彼は船倉内で待機していたキースたちに報告する。

 

「手配していた車輛を受領して参りました!レンタル期間は本日を含め、1週間であります!」

「ご苦労、ジャスティン伍長。アーリン中尉、サラ少尉たち、それにパオロさん、乗車を。」

「「「「「「はい!」」」」」」

「はい、ご苦労さまです。」

 

 最後に言葉を発したパオロと言う人物は、MRBより派遣された『機兵狩人小隊』担当の任務管理人、パオロ・アブルッツィ氏のことである。本来であれば『機兵狩人小隊』の任務が終了した以上、惑星ガラテアに帰還しているはずであるのだが、特に請われて共に惑星ペリディドへとやって来ていた。余談ではあるが、『SOTS』担当の任務管理人ウォーレン・ジャーマン氏もまた、一緒にこの惑星へとやって来ていたりする。

 彼らは次々にミニバスへ乗り込む。キースはジャスティン伍長に軽く謝罪する。

 

「すまんな、ジャスティン伍長。せっかくの休暇中に駆り出す真似をして。本当ならば俺の郎党であるサイモン少尉を運転手にする予定だったんだが、少尉は嬉々として休暇返上で、ゴダード号の修理の手伝いに行ってしまったもんでな。」

「いえ!わざわざ呼んでいただき、光栄であります!」

 

 ジャスティン伍長は、本気で光栄だと思っている様子だ。サイモン老が居ないのは、キースが言った通りに嬉々としてゴダード号の修理に行ってしまったためである。ただし修理の手伝いと言うよりは、おそらくは彼自身が修理の指揮を取ることになるであろう。

 更には彼の愛弟子とでも言うべきジェレミー・ゲイル軍曹と、コンピュータ及び艦船整備のエキスパートたるパメラ・ポメット軍曹、そして彼らやサイモン老の技術の幾ばくかなりとも修得せんとする数名の整備兵に、彼ら付きの助整兵たちまでもが付いていってしまった。

 たぶん間違いなくゴダード号の修理に関しては、人員を借りる必要なしに行われるであろう。いやゼロG乾ドックの作業員たちの方で、サイモン老に教えを請うことになるやも知れない。かなりの費用の節約になるはずだ。まあ設備の使用料や資材の購入費用は取られるだろうが。

 

「では発車いたします!ヴァランティーヌ曹長、ナビゲーションをお願いします!」

「わかりましたわ。まず中央幹線道路に入って南下してくださいませ。」

 

 キースたちを乗せたミニバスは、ゆっくりとデファイアント号の船倉を出て、しだいに速度を上げた。目的地は、アルバート中尉が家族のため、この惑星に借りている家である。

 ちなみに借家人名義はアルバート中尉本人ではなく、彼の妻になっているため、彼の戦死によって借家人変更などの手間がかかることは無い。財産もそのかなりの部分が妻と娘に生前贈与されており、故人が万一の場合にあらかじめ備えていたことが察せられる。

 ミニバスは幹線道路を南下し、首都郊外へと向かった。

 

 

 

 今キースたちは、やや小さ目の品が良い住宅の前に立っていた。もっとも前世が21世紀の日本人で、今世も降下船暮らしとメック戦士養成校の学生寮住まいだったキースからすれば、充分立派な家だと感じる。

 

「さて……、と。ヴァランティーヌ曹長。」

「はい。サラ少尉、申し訳ありませんがアルバートさまを……。」

「わかりました。」

 

 サラ少尉が、ヴァランティーヌ曹長が持っていたアルバート中尉の遺骨その他遺品の類を受け取る。ヴァランティーヌ曹長はドアの前に立つと、ドアホンの呼び出しボタンを押した。ドアホンからは、すぐに返事が戻ってくる。

 

『はい、イェーガーです。どちらさま?』

「わたくしです、奥様。ヴァランティーヌですわ。」

『あら!ヴァランティーヌさん!今、開けますね。』

 

 そしてドアが開く。そこには小柄で清楚な、どこか可愛らしい雰囲気を持つ女性が立っていた。ヴァランティーヌ曹長が挨拶をする。

 

「お久しぶりでございます、奥様。……この度は、わたくしどもの力不足でアルバートさまを……。」

「ううん、言わないでちょうだい。貴女たちが力を尽くさなかったわけが無いわ。……こちらの方たちは?MRBの管理人のパオロさんや、あの人の部隊の人たちが大半ですけど、お会いしたことが無い人も3人ほどいらっしゃるわね?」

「この方たちは、アルバートさまの最後の戦友ですわ。」

 

 キースとアーリン中尉は、1歩前に出て敬礼を送る。ジャスティン伍長も1歩前へ出るが、歩兵なので敬礼は送らない。

 

「自分はキース・ハワード大尉です。傭兵中隊『SOTS』部隊司令をしています。生前のアルバート・イェーガー中尉には、自分が中尉だった時分に色々と世話になりました。

 こちらは部下のアーリン・デヴィッドソン中尉です。彼女はサラ少尉、ヴァランティーヌ曹長と共に、イェーガー中尉の最期を看取りました。」

「アーリン・デヴィッドソン中尉です。傭兵中隊『SOTS』偵察小隊の小隊長です。同じくイェーガー中尉には、多分にお世話になりました。」

「自分はジャスティン・コールマン伍長であります!自分はただの運転手なので、お気づかい無く願います!」

 

 アルバート中尉の奥方の顔が、「最後」「生前」「最期」などの言葉に、ふっと曇る。戦死の知らせが届いてから2週間以上経つはずだが、やはりまだ辛いのだろう。だが奥方は、それでもにっこり微笑むと、自己紹介する。

 

「私はケイト・チェンバレン=イェーガーと申します、ハワード大尉、デヴィッドソン中尉、コールマン伍長。よろしければケイトと呼んでください。あの人のことも、他人行儀ではなくアルバートでけっこうですのよ?」

「了解……。いえ、はい、わかりました。ケイトさん、よろしくお願いします。こちらの事も、ファーストネームでかまいません。」

「私もアーリンでかまいません、ケイトさん。」

「はっ!自分も同様に願います!」

「あら、いけない。お客様をこんなところでお待たせしてしまって。中へお入りになって。今、お茶をお出しします。」

 

 キースとアーリン中尉、『機兵狩人小隊』の面々は、家の中に招き入れられる。狭くも無いが広くも無い応接間が、いっぱいになった。サラ少尉が、手に持っていた物をヴァランティーヌ曹長に手渡す。ヴァランティーヌ曹長はそれを更にケイトに手渡した。

 

「これがアルバートさまのお骨と、遺品ですわ……。」

「そう……。これがあの人の……。うっ……。く……。」

 

 お骨が収められた小さな金属容器を受け取り、悲しみがぶり返したのかケイトは、我慢しきれずに涙を零す。誰も口を開かない。静かな部屋の中に、小さな嗚咽だけが響いていた。サラ少尉が懐からハンカチを取り出し、ケイトに渡す。

 

「……ありがとうございます。よろしければ、あの人のお話を……。」

 

 その時、ドアホンの音が鳴る。そしてドアホンの親機から少女の声が聞こえた。

 

『ママ、ただいま。』

「あら、ちょうど良かったわ。……お待たせ、イヴリン。今開けるわ。」

 

 ケイトは玄関へと向かい、そして1人の小柄な少女を連れて戻ってきた。学校帰りらしく、少女は鞄を持っている。ケイトは彼女を紹介した。

 

「あの人の部隊の人たちはもう知っているでしょうけれど、キース大尉とアーリン中尉、ジャスティン伍長がいらっしゃるから、あらためて紹介いたしますわね。これが娘のイヴリンです。イヴリン、ご挨拶なさい。」

「……はじめまして、イヴリン・イェーガーです。メック戦士、アルバート・イェーガーの娘です。」

 

 少女イヴリンは、真っ直ぐにキースたちの方を見て力強く言った。キースは思わず内心で関心する。彼女はキースの迫力に怯えたり気圧されたりしていない。大物の素質を持っているやも知れなかった。いや、よく考えれば母親であるケイトも、キースに対し驚いたりした様子を見せなかった。遺伝なのかもしれない。

 キースとアーリン中尉は頷くと、自分たちも自己紹介する。ちなみにジャスティン伍長も、それに追随した。

 

「傭兵中隊『SOTS』部隊司令、メック戦士キース・ハワード大尉だ。よろしくな、お嬢さん。自分のことはキースでかまわない。」

「同じく『SOTS』偵察小隊小隊長、メック戦士アーリン・デヴィッドソン中尉よ。わたしのことはアーリンでいいわよ。」

「自分は『SOTS』所属歩兵中隊の歩兵下士官、ジャスティン・コールマン伍長であります!どうかお好きにお呼びください!」

「よろしくお願いします、キース大尉、アーリン中尉、ジャスティン伍長。私もお嬢さんではなしに、イヴリンと呼んでください。今日はパパ……父のことで?」

 

 キースはイヴリンの目に一瞬悲しみがよぎるのを見て、彼女が既に父の死を知らされていることを確信する。戦死の報せが届いて2週間も経っているのだ、当たり前のことではあるだろうが。

 

「ああ。今日は君のお父上のお骨と遺品をお返しに伺った。今しがた、ケイトさんにお渡ししたところだよ。」

「パ、父の……。」

「無理する事は無い、イヴリン。パパでかまわないよ。」

 

 キースは自分に可能な限り、優しく微笑んで言う。イヴリンは頷いて、お骨の入った金属容器を手に取る。

 

「これがパパの……。随分……ちっちゃくなっちゃった。」

 

 イヴリンは天井を見上げる。その目は涙ぐんでいた。おそらく涙を零すまいとしているのだろう。ケイトは優しく言う。

 

「……泣きたかったら、泣いてもかまわないのよ?」

「ううん。泣かない。もう、たくさん泣いたもの。それにいつまでも泣いてたら、きっとパパが困るもの。」

 

 イヴリンの言葉に、キースはかすかに微笑む。その後は、生前のアルバート中尉について色々と話しながらのお茶になった。キースは自分が知る限りのアルバート中尉の思い出を話したし、アーリン中尉はアルバート中尉のいまわの際の様子について事細かに話した。

 そしてMRB管理人のパオロ氏、サラ少尉やギリアム伍長、アマデオ伍長、エルンスト曹長にヴァランティーヌ曹長、更には整備兵たちに至るまでもが、アルバート中尉との思い出を自分に可能な範囲で語る。まあお約束としてサラ少尉の言葉が足りず、ギリアム伍長に突っ込まれていたりするのだが。キースはしみじみと思う。

 

(アルバート中尉は、本当に慕われていたんだなあ……。そう言えば、ゴダード号の修理のため来られなかったヴォルフ船長やオーレリア副長、ゴダード号機関士たちも来たがってたっけ。ゴダード号が壊れてなければって、悔しがってたなあ。)

「これがパパの遺品ね?ママ、2つ3つ、貰ってもいいかな?」

「ええ、いいわよ?」

 

 イヴリンは遺品の入った袋から品物を取り出して、テーブルの上に並べた。キースはその中の物品に見覚えがあるのに気付き、わずかに目を見開く。

 

「この腕時計、なんかアンティーク趣味のパパっぽく無いけど、多機能な上に頑丈そう。こっちの電卓も、パパっぽく無いかな、女の人が使う物みたい。」

「ああ、その関数電卓は、私がアルバート中尉と一緒に仕事をした記念にって、万年筆と交換したのよ。そっちの腕時計は、たしかキース大尉が同じくアルバート中尉の懐中時計と交換したんじゃなかったかしら?」

 

 アーリン中尉が説明する。イヴリンは、納得した模様だ。そこへヴァランティーヌ曹長が口を挟んだ。

 

「アルバートさまは、それらを大切に愛用なさっていらっしゃいましたわ。大事な戦友との記念の品だと……。特に腕時計の多機能ぶりには、たいそう助けられた模様でしたわ。電卓についていた占い機能には、時折閉口していた様でしたけれど……。いったいどんな占い結果が出たのかは、お教えいただけませんでしたけれど。」

「あう……。」

 

 アーリン中尉が凹む。やがてイヴリンは、3つの品を選んで残りを袋に仕舞う。1つは使い古した様に見受けられるアンティークっぽい十得ナイフ、1つはアーリン中尉からアルバート中尉に渡った関数電卓、最後は元キースの物だった腕時計である。キースはイヴリンに尋ねた。

 

「その時計と電卓は、お父上とそう長い間一緒にあった品物では無いが、いいのかね?」

「うん、じゃない。はい、キース大尉。私やママは、パパと違ってアンティーク趣味はあまり無いんです。なのでできるだけ実用品として使える物を、と思いまして。思い出の品としてだけ死蔵するのなら、それでもいいんでしょうけど、それではなんとなく……。その……。パパに申し訳なくて。

 それに、パパが大事に愛用してたって……。ちゃんとパパの匂いって言うか、想いって言うかは、宿ってる様に感じるので。」

「そうか……。」

 

 ふとキースは、自分の軍服の懐に手をやる。そこにはあの腕時計と交換した、アルバート中尉の物だった懐中時計が入っている。キースはそこにもアルバート中尉の想いが宿っている様に感じた。

 同時に彼は、自分の胸元も強く意識する。そこにはかつて自らの父、ウォルト・ハワード大尉の乗機であった65tバトルメックのエクスターミネーター、個体名デスサイズの装甲板から削り出した、『SOTS』の部隊エンブレムを象ったペンダントが下がっていた。キースはそこに、自分の父の想いが残っているような気持ちになる。

 

(死んだ人の居場所は墓の中やあの世じゃない、残された者の心の中だって言ったのは、誰だったかなあ。なんかの小説かドラマであった台詞かも知れない。……死んで生まれ変わった経験を持つ俺の言うことじゃないかも知れないけど、残された者にとっては真実かもなあ。)

 

 やがて思い出話も終わった頃合いに、サラ少尉が話を切り出した。バトルメックの継承に関する話である。

 

「サンダーボルトは修理完了です。いつでもお引渡し可能です。」

「ですが、まだこの子は12歳ですし……。」

「サラ少尉、また言葉が足りませんよ!」

「あ……。で、ですのでイヴリンさん成人を待ってメックを継承するということで……。」

 

 ところが、当のイヴリンがサラ少尉の言葉に異を唱える。

 

「まってください、サラ少尉!それでは遅すぎます!」

「「え?」」

 

 サラ少尉とケイトは思わず点目になる。イヴリンは更に言いつのった。

 

「うちは爵位も無いし、権威も無いわ。そう言う意味では逆にメック戦士としての責任も薄い一族だとは思う。けれど、成人までの間メック戦士の義務を果たせないとなると、必ず後ろ指を刺されることになるわ。」

「だ、だけどイヴリンあなた……。」

「そ、それでは16歳からと言うことでは……。」

「16歳からでも同じことだと思います、サラ少尉。4年もの間、イェーガー家のバトルメックが戦場に出られないって評判は、うちの家にとって致命的だわ。」

 

 そしてイヴリンは、今度は母親に向き直る。

 

「ママ、それにバトルメックを動態保存の状態で維持するには、大金が必要なのはわかってるでしょ?月平均、5,000Cビル、ダヴィオン家発行のお金に換算して5,500DHビル。パパがいくらお金を遺してくれたかわからないけれど、16歳までだと47ヶ月だから258,500DHビル。

 これは何事もなかった場合のことだから、動かさないで放置しておいた間に、何か具合が悪くなったり、万が一致命的な故障でも起きれば、更に莫大な修理費用がかかっちゃうのよ?静態保存ならそこまでお金かからないだろうけど、もしものこと考えると動かせる状態にしておく必要があるわ。だから静態保存って手は絶対取れないのよ?」

「あうあう……。」

「……イヴリン。」

 

 おもむろにキースは、イヴリンに話しかける。

 

「メック戦士養成校に入学するのはどうだ?君の年齢では難しいかもしれないが、前例が無いわけではない。それにすぐ合格できなくとも、1~2年ならば待てなくもないのでは?

 メック戦士養成校在学中はメック戦士の扱いの上、基本的に学費も要らんし給与も出る。学校によってはメックの面倒も無償で見てもらえる。そうでない学校でも、卒業後に費用を返還する契約を結べば良いだろう。」

「それも考えたわ、いえ考えました、キース大尉……。でも今年はもう願書や推薦書などの問題で受験資格が無いですから、最短で来年6月末……。16ヶ月で88,000DHビルは最低でもかかります。それで不合格になったらもう1年……。

 そこまでしても確実に合格できるとは限らない……。入学志願に必要な推薦書も書いてもらえる相手のあては無い……。そしてもし入試に何度か失敗したなら、最初に言った問題に突き当たっちゃいます。

 それに……。」

「それに?」

 

 イヴリンはその顔を、再びサラ少尉へ向ける。

 

「サラ少尉、サンダーボルト無しで『機兵狩人小隊』の維持は可能なんですか?」

「……!!」

「聞いた話では、部隊の持ち物だったレパード級降下船も、大きく壊れちゃったみたいですね。その修理費の払いで、『機兵狩人小隊』は今大変だと思います。そんな時に1機メックが欠けたら、受けられる仕事も受けられないんじゃないかな、と思うんです。」

「……。」

 

 サラ少尉は言葉に詰まる。だが、応えないことで『機兵狩人小隊』の内情は明らかだった。ギリアム伍長やアマデオ伍長も、顔が引き攣って焦りを満面に浮かべている。隊の財布を握っているヴァランティーヌ曹長もまた、何か言おうと口をぱくぱくさせているが、言葉が出ない。

 

「……私を入隊させて隊長にしろ、なんて馬鹿なことは言わない。でも、パパの部隊だった『機兵狩人小隊』が、私が子供だからって、戦えないからって、無くなっちゃうのは、絶対にイヤ!」

 

 イヴリンは立ち上がり、必死に涙を堪えて叫ぶ様に言った。だがその声は嗚咽の様に震えている。そこへ感情を押し殺した冷静な声が響いた。キースの声である。

 

「……なら君に何ができる?イヴリン。」

「え?」

 

 キースは冷静な、冷たいとさえ言える声音でイヴリンに問う。

 

「君にできることは、あるのか?と聞いている。」

「……ほとんど無いわ。けれど、最低限動かす程度のメック操縦ならできるわ。パパがたまに帰ってきたときとかに、動かし方を教わって、いない間も独習してたの。

 前回パパが帰ってきたときにサンダーボルトに乗せてもらったときは、歩かせるのとレーザーを撃つのまでは、なんとかできたの。」

「最低限動かせる程度で、戦場で役に立てるとでも?」

 

 キースの顔は、能面の様だ。だがその発する気配は、まるでそこに鬼でもいるかの如くである。キースの2mを超える巨体が、周囲の者からは更に大きく見える。ソファに座っていたケイトが、思わず娘をかばわんと中腰になった。だがアーリン中尉がケイトと視線を合わせ、首を小さく左右に振る。ケイトは自分でも理由がわからず、すとんとソファに腰を下ろしてしまう。

 キースは続けてイヴリンに問うた。

 

「技量だけの問題じゃない。君に覚悟はあるのか?戦場で人殺しになる覚悟が?戦場で殺されても文句を言わない覚悟が?そして何よりも、戦場で敵味方の死を背負って、それでも生きて行く覚悟、安易に死を選ばず、生命に意地汚いまでに執着し、生き足掻く覚悟が……君にあるのか、イヴリン?」

「……まだ無いわ。でも、必ず身に付けてみせる!!」

 

 イヴリンは、キースの発する圧力に負けずに言い返した。実際のところ、脚は生まれたての小鹿の様に震えている。しかしその両手は固く握りしめられており、強固な意志の存在を表していた。キースはにやりと笑う。

 

「吼えたな。ならその思い、通してみせろ。サラ少尉!ヴァランティーヌ曹長!」

「「はっ!」」

 

 サラ少尉とヴァランティーヌ曹長は、キースに対し思わず敬礼する。その2人に対し、キースは厳しい声で言った。

 

「今現在の『機兵狩人小隊』の経営状況はどうか!?我が『SOTS』は、場合によっては『機兵狩人小隊』に対して経済的支援を行う用意がある!」

「「!!」」

 

 キースが言っていたことは本当である。彼はサイモン老や自由執事のライナー、アーリン中尉、ヒューバート中尉らと語らって、指揮官を喪った上に降下船にも大打撃を受けた『機兵狩人小隊』に対し、どれだけの支援が可能か相談していたのだ。結果は優、良、可、不可の4段階評価で可……。なんとか相手しだいでは持ち直せる程度の支援が可能、と言うものであった。

 ただし持ち直すかどうかは、あくまで「相手しだい」である。現状の暫定指揮官であるサラ少尉は、指揮官としては優秀と言える。だがその能力は、戦闘指揮に偏っており、部隊経営においてはアルバート中尉の足元にも及ばない、と言うのがサイモン老とアーリン中尉の評価であった。それにはキースも同意見である。

 もう1つ、『機兵狩人小隊』を救う方法があるにはあった。ただしあくまでそれは、相手がその手段を望んでいなければ不可能である。強制的にその手段を取るのは、キースたちも望むところでは無かった。

 サラ少尉とヴァランティーヌ曹長は目を見合わせ、ヴァランティーヌ曹長が話し始める。

 

「現在、最後の戦闘にて鹵獲した敵ユニオン級降下船2隻の報奨金を『SOTS』側のご厚意で分配していただけましたおかげで、レパード級降下船ゴダード号の修理には今までの貯蓄と合わせてなんとか目処が付きましたわ。

 ただし予備費まで含めて貯蓄が全て尽きますので、早急に仕事を受けなければ隊員の給与、バトルメックの維持費の支払いにも事欠くことになりますわね。しかも3機のメックで仕事を受けられれば、の話ですわ。受けられたとしても、当分は自転車操業が続くはずですの。」

「そんな!じゃあやっぱり……。」

「静かにしていろ、イヴリン。まだ話は終わっていない。続きを。」

 

 キースが続きを促す。すると今度はサラ少尉が口を開いた。

 

「我々は考えました。……隊を残す方法を。」

「うむ。で?」

「はい。これは『機兵狩人小隊』の現メック戦士の総意です。『SOTS』……『鋼鉄の魂』にて我々の部隊を吸収合併していただけないでしょうか。我々の隊の通称として『機兵狩人』の名を残すことを条件に。」

 

 キースの耳に、アーリン中尉のかすかな呟きが届く。

 

「……やっぱりその結論になるわよね。」

「ふむ……。了解した。貴官らは、本日ただいまをもって、俺の部下だ。よろしく頼む。」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

 その場にいた『機兵狩人小隊』のメック戦士たちだけでなく、偵察兵エルンスト曹長、ヴァランティーヌ曹長を始めとする整備兵たちまでもが、一斉に敬礼をする。MRB管理人のパオロ氏が、溜息を吐いた。

 

「やれやれ、となると私はお役御免ですなあ。まあ、別の傭兵部隊の担当になるんでしょうが……。サラ少尉たち、今後は私の同僚のウォーレンと仲良くしてやってくださいな。」

「……はい。」

「え?あ?え?」

 

 イヴリンは、話の急展開についていけていない。キースはそんな彼女に問いを投げ掛ける。

 

「これで『機兵狩人小隊』の消滅は、うちの『SOTS』が無くならない限り避けられることになったわけだが……。まだ決意は変わらないかね?」

「え?あ……。は、はい!たしかに『機兵狩人』の名も小隊も残ることになったけど……。サンダーボルトを維持する上でのうちの経済危機は去ったわけじゃないし、私がメック戦士にならないとイェーガー家の評価や評判が地に落ちるのは違いないんだから!いえ、ですから!」

「そうか……。ケイトさん、お子さんを自分に預けてくれませんか?アルバート中尉の御霊の手前、殺す事はしませんから。せいぜい、その1歩手前まで絞るだけです。必ずや、お子さんを一流のメック戦士、一流の指揮官にして見せます。」

「え゛。」

 

 物騒なことを言うキースに、イヴリンの顔が一瞬引き攣る。アーリン中尉が半ば呆れた様に言った。

 

「キース大尉、そんな言い方じゃあ、安心できませんよ。ケイトさん、大尉は教官としても充分な能力の持ち主です。ちょっとどころじゃなくスパルタですけれどね。これまでも、半素人の少年少女メック戦士たちを、わずかな日数で一応戦えるまでにした実績があります。大尉の教えを受ければ、必ずや生き延びる能力を身につけることができるでしょう。ちょっとどころじゃなくスパルタですが。」

 

 アーリン中尉は、2度繰り返してスパルタであることを強調した。ケイトは少し考えると、キースに質問をする。

 

「キース大尉、それにお答えする前に、お聞きしたいことがあるのですが。大尉の部隊に、私ができる仕事はありますでしょうか?一応、簿記や経理の資格は2級まで持っておりますが。」

「……うちの部隊の自由執事を補佐する、総務担当が1名もおらず、困っているところでして。自由執事に相談してみないとわかりませんが、おそらく二つ返事でOKが貰えるものと思いますよ。ただ、一応履歴書や職務経歴書などは提出してください。」

「あら、よかったわ。ちょうどパートの仕事でも探そうかと思いまして、作っていたところでしたのよ。私が一緒に行けるなら、イヴリンのこともお願いいたしますわ。」

 

 キースはにこやかな笑みを浮かべてイヴリンに向き直る。

 

「……と言うわけだ、イヴリン。君を……いや、貴様を我が『SOTS』のメック戦士訓練生として受け入れる。階級は訓練生のうちは無し、最下級の兵の扱いだ。初陣を済ませたら、訓練生卒業として適切な階級をくれてやる。

 そうそう、学校は通信教育に切り替わるからな。普段は部隊の教育担当官から通信教育用教材を用いて授業を受けることになるぞ。最低でも、最終的にシニア・ハイスクール卒業資格は取ってもらうからな。可能であれば大学レベルまで学んでもらう。メックの操縦や砲術だけ学べばいいだなんて考えは、捨ててもらうぞ。ちゃんと社会に通用する学歴を身に付けてもらうからな。

 ああ、部隊の教育担当官か?今のところは人材がいなくてな。俺が兼任する。嬉しいだろう?」

「は、はいぃ……。」

 

 キースの表情は相変わらず、にこやかな笑みを浮かべたままだ。だがイヴリンの腰は退けている。先ほど鬼のような気配を出していたキースに啖呵を切ったときの勢いは何処にも無い。キースは一喝する。

 

「声が小さい!」

「は、はいっ!」

「聞こえん!!もっと大きな声で!!」

「はいっ!!」

 

 アーリン中尉とサラ少尉、おまけにジャスティン伍長は、思わず背筋が伸びる。彼女らと彼は、小さな声で呟く。

 

「……何か、私が卒業したメック戦士養成校の教官を思い出したわ。」

「……私もです。」

「……一瞬エリオット軍曹、いやエリオット中尉かと思った。」

 

 ふとキースは、テーブルの上に置かれているアルバート中尉のお骨を収めた金属容器に目を留める。

 

(アルバート中尉、何と言うか成り行きですが、娘さんのことは任せておいてください。俺が『ロビンソン戦闘士官学校』で教わったこと、学んだこと、全部余さず叩き込みますから。一通り終われば、きっと士官任用試験もあっさりパスできるぐらいにはなるでしょう。たぶん。おそらく。だといいなー。……まあ、そうすれば中尉程度に任じて、『機兵狩人小隊』を任せることも可能でしょう。

 だから、安心してゆっくり眠ってください、戦友。)

 

 そしてキースは、頭の中でイヴリンの訓練メニュー、教育カリキュラムを色々と考え始めた。




さて、Arcadia様で連載中に、相当物議をかもしたキャラ、イヴリン・イェーガーの登場です。イヴリン、どんな活躍をするのでしょうか。
そしてアルバート中尉、ゆっくりとお休みください……。


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『エピソード-037 訓練生頑張る』

 3026年3月10日、キースとイヴリン訓練生は、フォートレス級降下船ディファイアント号の空き船室1つを改造して造られたトレーニングルームで汗を流していた。ちなみにデファイアント号を含めた傭兵部隊『SOTS』所属降下船は、惑星バックスリーを後にし、ただ今ジャンプポイントへと移動している最中である。

 彼らは今、サイモン老が改造した特別製のルームランナーでランニングをやっていたのだが、キースはイヴリン訓練生の想像以上の持久力に瞠目していた。無論、キース自身や他の『SOTS』現役メック戦士たちからすれば、幼くて身体が出来上がっていないこともあり、全然比較にもならない。だが彼女は、それでも年齢からすればかなりの体力を持っていた。

 

(……もしや生得能力の「タフ」でも持ってるのか?どうもそれっぽいな。筋力とかは並の子供だし。体力というか持久力と言うか、生命力だけが突出して高いもんなあ。)

「はぁっ、はぁっ……。」

「イヴリン訓練生、限界か?」

「はい、いいえっ!まだ走れますっ!」

 

 キースはこっそりと苦笑する。彼はイヴリン訓練生が乗ったルームランナーを、リモコンで止めた。

 

「イヴリン訓練生、クールダウンのストレッチに入れ。命令だ。」

「……了解!」

 

 イヴリン訓練生は悔しそうにしつつ、命令に従ってストレッチを始めた。キースは自分自身は走り続けながら、イヴリン訓練生を諭す。

 

「貴様の年齢と練度で、俺のトレーニングに付いて来ようと言う方が間違いだ。身体を壊しては元も子もないぞ。……だがその根性は評価してやる。」

「はい!!ありがとうございます!!」

「うむ。根性論……精神論を馬鹿にする者も多いが、肉体を動かしている大元はその精神だと言う事を忘れてはならん。無論行き過ぎた精神論は害悪でしかないがな。

 精神論と科学的理論は車の両輪の様なものだ。どちらに傾き過ぎてもいかんし、どちらが欠けてもいかん。これはトレーニングのことだけではないぞ?」

「はいっ!!」

 

 と、そこへ1組の男女が現れる。キースがそちらへ視線をやると、その男女は敬礼をして来る。それはトレーニングウェア姿のアンドリュー軍曹と、その郎党の偵察兵アイラ軍曹だった。キースは走りつつ答礼を返しながら、考える。

 

(あー、アイラ軍曹をこの間の任務前に昇進させたけど、それ自体は順当な人事だったんだよなあ。けれど、主と郎党が同階級ってぇのは、下手すると気にするかもな。アンドリュー軍曹の方は気にしないだろうけど、アイラ軍曹の方が……。

 アンドリュー軍曹、曹長や准尉にでも昇進させるかあ?充分な実績は上げてきてるんだし。それとも任用試験を受けさせて、士官にでもしてみるかね?うーむ。

 ああ、同じことはエリーザ軍曹とキャスリン軍曹にも言えるのか。でもなあ、アンドリュー軍曹も、エリーザ軍曹も、士官の仕事は嫌がりそうなんだよなあ。能力的にじゃなく、性格的に士官には向いてないタイプっつーか……。)

 

 キースが人事問題で悩んでいると、アンドリュー軍曹が唐突に質問してきた。

 

「隊長、隊長の新しい弟子の調子はどうだい?」

「む?流石にまだまだと言ったところだ。だが、見どころは無いわけでも無い。」

「ほー。前の弟子どもも根性だけはあったしな。後々が楽しみだな。」

「目の前で褒めすぎるなよ?増長されても困る。」

 

 苦笑しつつキースはアンドリュー軍曹に釘を刺す。アンドリュー軍曹は、わかってると言いたげに手をぱたぱたと振った。

 

「で、隊長。まだ走るのか?俺とアイラもルームランナー使わせてもらいに来たんだけどよ。っつーか、2台しか無いのは問題だよな。サイモン少尉に頼んで、もっと数増やしてもらわねーと。歩兵たちや戦車兵たちなんか、遠慮して船倉や重車輛ベイを周回して走ってるぜ?」

「いや、今やめるつもりだった。しかし歩兵たちの身体を鈍らせるわけにもいかんが、112人分の設備を置く場所も無いしな。この間広告で見た、筋力トレーニング機器でも大量購入の検討でもするかね。」

「あの「マッスル・メック・ワーカーⅤ」とか言うやつか?何にでも「メック」の文字入れりゃいいってもんでも無いよなー。惑星バックスリーでの休暇のときにアイラと見に行った映画、あれも酷かった……。なんだよ、「愛と青春の旅とメック」って。」

 

 ルームランナーから降り、クールダウンのストレッチをしながら、キースはアンドリュー軍曹の愚痴を聞いて苦笑していた。その時ふと、イヴリン訓練生とアイラ軍曹の会話が耳に入る。

 

「あの……。よろしいでしょうか?」

「あら?何かしら?」

「その……。キース大尉には前にもお弟子さんが?」

「ああ、惑星ドリステラⅢでのことね?メックに乗ったばかりの13~16歳の子供たちを、ちょっと事情があって戦線に投入しなくちゃならなくなったのよ。で、2、3日の間だったけど、その子たち朝から晩までシミュレーター漬け。

 隊長と、『SOTS』のメック戦士達が交代で面倒見たのよ。まあ大体は隊長が教えてたんだけどね。だからアンドリュー様が言った様に、隊長の弟子って言っても間違いは無いわね。」

「はぁ……。」

 

 ストレッチをしながら、キースはおもむろに会話に割って入る。

 

「あいつらは時間が無かったからな。だからただ単純に技量だけを即席で叩き込んだ。貴様は時間がたっぷりあるからな。充分な時間をかけてじっくりと技術や知識、心構えなどを教え込んでやる。」

「は、はいっ!!」

「まずは基礎教養のお時間だな。今日は数学と生物・地学、それに連盟共通語と古典、社会科だ。先にシャワーを浴びて、汗を流して来い。」

「了解!!」

 

 イヴリン訓練生は大急ぎですっ飛んで行く。先日授業に遅刻して、正座させられた上でひたすら長時間の書き取りをやらされたのが、相当こたえたらしい。キースは自身も男性用シャワールームへと急いだ。あらかじめ授業の準備は出来ているから余裕はあるが、教育担当官が授業に遅刻しては示しがつかないのだ。

 

 

 

 キースは小テストの用紙を片手に、眉を顰める。目の前ではイヴリン訓練生が小さくなっていた。いや、元々年齢からしても小柄な方の彼女ゆえに、傍らにキースの巨体があればなおさら小さく見えると言うものだが。

 

「数学、物理他の自然科学は完璧だ。見事だと言おう。しかし、だ。社会科などの社会科学はかろうじて合格点、国語……連盟共通語を含む人文科学は図工、音楽、美術を除いて全滅とはどう言うことだ?」

「申し訳ありません……。」

「声が小さい!!」

「申し訳ありませんでした!!」

 

 キースは溜息を吐くと、イヴリンに言った。

 

「まあ、向き不向きもあるから、そこまできつくは言わん。だが、せめて連盟共通語だけはしっかり学べ。将来貴様が指揮官にならんとするならば、書類仕事は必ず付いてくるぞ。

 その書類が誤字脱字だらけだったとしたら、当局に提出すれば突き返されるし、部下に対する命令書の不備は部下の命に、ひいては貴様自身および部隊全体の存亡にすら関わる。」

「はい!!」

「今回間違えた部分については、重点的に宿題を出すこととする。次回の同科目の授業までに終わらせて提出するように。わからなければ、訊きに来い。」

「は、はい……。」

「声が小さい!!」

「はいっ!!」

 

 イヴリン訓練生は、必死に声を張り上げた。

 

 

 

 肉体トレーニングと、基礎教養に時間を取られているために、イヴリン訓練生のメック操縦訓練は、それほど長時間は行えない。それでもキースは、1日に1回は最低でも彼女をシミュレーターに乗せていた。ちなみにキースはこのためだけに、分解して積み込んであったシミュレーターを整備兵に組み立てさせた。置き場所は船倉の一部を占領している。

 キースはおもむろにイヴリン訓練生に言い渡す。

 

「本日のシミュレーター訓練は、標準型フェニックスホークに搭乗してもらう。何か聞きたいことはあるか?」

「はい、自分の乗機はサンダーボルトであり、これまでの訓練でもシミュレーターの設定はサンダーボルトだったはずなのですが、何故本日突然にフェニックスホークなのでしょうか?」

「理由は3つある。1つは貴様自身の問題だ。サンダーボルトは追加放熱器を多数搭載しており、熱管理が比較的容易な機体だ。しかしそれでも貴様は時折機体を過熱させている。

 それを矯正すべく、荒療治として極めて過熱し易く熱管理が難しいフェニックスホークに搭乗してもらおう、と考えたわけだ。熱管理が難しいフェニックスホークで訓練を積むことで、熱管理の大事さを身に染みてわかって貰おうと言う考えだ。

 2つ目は、部隊としての必要性からだ。サンダーボルトはジャンプジェットを搭載していない。だが森林戦などにおいてジャンプジェット搭載機が必須になる場面も、多々存在している。

 その様な場合、一時的にジャンプジェット搭載機に乗り換えてもらう可能性も大いにある。最大クラスのジャンプ能力を持つフェニックスホークで、ジャンプ移動に慣れてもらいたいと言う考えだ。

 3つ目は、万が一に備えてのことだ。サンダーボルトの装甲は強固とは言えど、決して無敵ではない。損傷の末に動けなくなることもあるだろう。その様な場合に、予備メックに搭乗してもらう事も無いとは言えん。

 それに備え、サンダーボルト以外の機体にも慣れてもらいたいと言う考えだ。ちなみにフェニックスホークの他、後日グリフィンの設定でもシミュレーターに乗ってもらう。主戦機サンダーボルト、支援機グリフィン、万能型フェニックスホークの3機種の経験があれば、まあ大丈夫だろう。

 理解したか?」

 

 イヴリン訓練生は、元気よく応える。

 

「はいっ!!」

「では搭乗せよ!俺も2番筐体で戦闘参加する!」

「了解!!」

 

 そしてシミュレーションが始まった。敵は45tフェニックスホークが1機、55tシャドウホークが2機、60tライフルマンが1機と言う編成だ。対する味方はと言えば、イヴリン訓練生の45tフェニックスホークが1機、55tシャドウホークが2機、キースの75tマローダーが1機である。

 キースは仮想空間内のイヴリン訓練生機に向けて通信を送る。

 

「まずは第1戦目は、俺からの指示はしない。好きな様に動いてみろ。ただし明らかに間違った行動をしたら怒鳴りつけるからな。」

『了解!!』

 

 イヴリン訓練生機が、いきなり長距離ジャンプを敢行した。これについては、先ほどジャンプに慣れろと言ったので、特に問題ではない。問題は次の行動だった。イヴリン訓練生機は、ジャンプに引き続いて全開射撃を敵機に見舞ったのである。ジャンプにより体勢が崩れている間の射撃は、かなりな熟練者でも命中させるのは困難だ。当然ながらイヴリン訓練生機からの射撃はその全てが外れる。

 キースは怒鳴った。

 

「馬鹿野郎!熱量計を見ろ!フェニックスホークは過熱し易い機体だと言ったはずだ!」

『ああっ!?しまった!!』

「大量の熱を発生する全力ジャンプ後に、莫大な過熱をもたらす全開射撃をする馬鹿がどこにいるか!しかもジャンプで体勢が崩れているときに射撃するとは、無駄弾以外の何者でもないぞ!」

『も、申し訳ありません!!』

 

 腕立て伏せ100回でも命じようか、と一瞬キースは考える。だが彼女は未だ12歳である。以前教えた惑星ドリステラⅢの若手メック戦士たちに比しても、まだ身体が出来上がっていない。無理をさせて肉体に故障でも抱えられてはまずいだろう。ならば何が懲罰として良いだろうか。キースは再び怒鳴る。

 

「終わったら、正座して連盟共通語の書き取り30分だ!同じ失敗をして見ろ!時間が増えると思え!」

『りょ、了解!!』

「さあ敵が攻撃してきたぞ?貴様の機体は熱が溜まっている。どうリカバリーする?考え付いたら、やって見せろ。」

 

 キースはイヴリン訓練生自身に考えさせる。いちいち指示をして命令に従わせても別にかまわないのだが、ここは自分で解決策を考え出して欲しかった。

 

『ここは……。だったら……。そう!』

「……ほう、考えたな。」

 

 イヴリン訓練生のフェニックスホークは、再びジャンプすると最も近場の水地、それもバトルメックの頭が隠れてしまう深さの場所へ飛び込んだ。

 

「……だが水底は滑るぞ。貴様の操縦技量で、転ばずに済むか?」

『あ、く、とと、と!』

 

 変な声が通信回線から聞こえた。なんとか水中での転倒は避けられた様である。キースはとりあえず、敵のフェニックスホークをマローダー右手の粒子ビーム砲と、中口径オートキャノンを使って撃った。

 一瞬撃たないで全てイヴリン訓練生に任せようかとも思ったが、この状況下で撃たないのは逆にシミュレーションの平等性を損なうと思ったのだ。そして敵のフェニックスホークが右腕を吹き飛ばされる。敵フェニックスホークは、攻撃力のほとんどを失ってしまった。

 

(やり過ぎたか?ちょっと楽にしてやり過ぎたかもなあ……。)

『てええぇぇい!!』

 

 イヴリン訓練生の叫び声が、通信回線から響く。イヴリン訓練生のフェニックスホークは水地を飛び出し、敵のライフルマンの真後ろに降り立つとマシンガンを乱射し、キックを見舞った。マシンガンは外れたものの、キックは見事に成功し、敵のライフルマンはバランスを崩して転倒した。

 

「……今のは一応だが合格点をくれてやろう。ジャンプ直後に発熱を伴わないマシンガンと格闘による攻撃を選んだからな。ただしジャンプ直後は体勢が崩れているから、攻撃の失敗率が高い。キックをもし外していたら、転倒していたかもしれんぞ。

 ジャンプ直後は攻撃を断念し、走行移動に移行してから射撃などを行うのも手だ。ただしフェニックスホークが過熱し易いことを忘れてはならんぞ。」

『はい!!全開射撃は可能な限り控えます!!』

「そうだ、それでいい。フェニックスホークの命は機動性だ。常に動き続け、敵弾を機動回避しろ。敵との射線の間に必要に応じて森などを挟んだり、あるいは自機を森や林に飛び込ませるのも良い。これはフェニックスホークに限らず、サンダーボルトでも同じことだから覚えておけ。」

『はい!!』

 

 その後シミュレーションは、終始イヴリン訓練生機とその僚機に有利に運んだ。キースも不自然でない程度には射撃したが、その必要も無かったかも知れない。もっとも所詮は敵機はプログラムに従って動いているだけの木偶だ。互角の戦力ならば負ける方がおかしいと言う物であった。

 ちなみに、正座して書き取り30分はちゃんとやった。イヴリン訓練生は、相当足がしびれた模様である。

 

 

 

 キースはデファイアント号の士官船室を流用した部隊司令室で、溜まっている書類を決裁しつつ、今日のシミュレーター訓練を思い返していた。

 

(イヴリン訓練生は、自分自身の操縦技量や射撃技量はどうやら並の上の新兵程度にはなってきたなあ。最初は酷かった物だけどなー。

 でも、イヴリン訓練生の真価はそこじゃない、な。基本的な戦術……。森や林の利用方法や、高速で移動することによる機動回避なんかを理解した後は、化けるのが早かった。いや個人としての能力は変わらないんだけど、僚機に対する指示を出し始めたら、部隊全体としての動きが変わったもんなあ。

 敵の動きを読む勘も鋭いし、指示は的確だ。つまりは……やっぱりイヴリン訓練生は、指揮官型ってことだよなあ。)

 

 書類の束を決済済みの箱に放り込み、次の書類の束を引っ張り出しながらキースは考える。

 

(よし、イヴリン訓練生の教育方針は、弱点を潰すことは勿論だが、それ以上に長所を伸ばすことに重点を置こう。生残性に直結する操縦技量をまず伸ばし、1分1秒でも長く敵中で指揮を取れる様に育てればOKだな!あと指揮や戦術に関する講義、座学を早目に予定を組んでおかないとな。

 初陣はいつ頃にしようか。あのドリステラⅢの子供らが、一番若いので13歳だったから、そのぐらいを目処にしとこうかな?ただ、あんまり早く士官にしちゃうのは、駄目だろうなあ。あの子の性格からすれば、変に増長したりはしないだろうとは思うんだけど……。でも士官にしないと指揮を取らせられないしなあ……。

 ……ん?)

 

 そのとき、キースは人の気配に気付く。どうやらドアの前で、行ったり来たりしている様だ。キースは書類の束をいったん仕舞い込むと椅子から立ち上がり、ドアの方へ歩いて行った。

 そしてキースはドアを開ける。

 

「あ……。」

「ん?なんだ、いたのかイヴリン訓練生。何か俺に用事か?」

 

 そこにいたのは、イヴリン訓練生だった。手にはノートや教科書、参考書と宿題のプリントが抱えられている。

 

「あ、そ、その。しゅ、宿題が……。」

「……それではわからん。はっきり言え!」

「しゅ、宿題の疑問点を訊きに参りました!!」

「そうか。では入れ。それと、次に来るときはもう少し早い時間に来い。本来なら貴様はもう寝る時間だろう。あまり夜更かしすると、明日の授業や訓練に差し支えるぞ?」

 

 キースは応接セットのソファとテーブルの方へ、イヴリン訓練生を誘った。

 

「で、何処がわからん?」

「も、申し訳ありません!何処がわからないか、わかりません!」

「……そうか。じゃあ1つづつ行くぞ。まずこの問1だが……。」

 

 その後キースは、なんとかイヴリン訓練生をさほど夜が更けないうちに帰すことに成功する。だがキース自身の書類決済の仕事は、けっこう夜遅くまでかかったのであった。




今回は話の焦点を、イヴリン訓練生にみっちりとあててストーリー作りました。新米メック戦士、いえまだ本物のメック戦士としてすら認められていない訓練生を、頑張って一人前に鍛え上げなければいけない……。
イヴリン訓練生もタイトル通り頑張ってますが、なんか主人公の方が頑張ってる様な気がしますね。


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『エピソード-038 新弟子たち』

 1人の男が焦った様子でそそくさと、フォートレス級降下船ディファイアント号の会議室を流用した面接会場を出て行く。キースは溜息を吐いた。

 

「はぁ……。また駄目だったか……。次は?」

「今の奴で最後ですよ……。はぁ……。」

 

 キースに答えたのは、ヒューバート中尉だ。この部屋には彼らの他に、アーリン中尉、サイモン老、レパード級降下船ヴァリアント号のカイル船長、自由執事のライナーが居た。だが彼らの顔は、一様に暗い。

 彼らは傭兵たちの星、惑星ガラテアに帰還してからこの方、新規隊員募集を惑星上のニュースネットワークに載せて、新たなメック戦士候補者を集めんとしていたのだ。だがそれは、決して上手く行っているとは言えなかった。

 キースは頭を振りつつ、疲れた様に言う。

 

「こんなに野心家が多いとはな。いや、俺が若僧だと言う事が、野心を掻き立てたか?ふう……。それでも、あと10日もしないうちに17歳にはなるんだがな。……いや、それでも若僧か。」

「けれど、甘いですな。少しでも坊ちゃ……キース大尉の実績を知っていれば、うまく飾り物にして部隊を乗っ取ろうなんて考えが通じる相手かどうか、わかりそうな物ですが。」

 

 ライナーが眉を顰めつつ言葉を発する。そう、さっきの男も最初は表面だけは取り繕い、内実は自信たっぷり野心たっぷりに舌先三寸の冴えを発揮しようとやって来たのだ。だが面接会場でキースの迫力に飲まれ、カイル船長とライナーの話術に本心をあっさり暴かれて、這う這うの体で逃げ出して行ったのである。

 しかもその男だけではない。今回応募してきたうちのおおよそ7割弱が、そんな輩であったのだ。

 カイル船長が、慰める様に言う。

 

「まあでもこれで、次からは多少マシな人材だけが来てくれるだろう。隊長の評判がこれで広まれば、下手な陰謀を企む馬鹿者も減るだろうね。前のときは、私とイングヴェ副長だけだったから、相手を見破ることはできても隊長の凄さを広めることは叶わなかったんだよね。」

「……俺は、そんなに凄いか?迫力とか、そう言った面で。」

「「「「「凄いです。」」」」」」

 

 キースは少々複雑な思いを抱えながら、手元の書類を眺めた。

 

「野心家、陰謀家の他は、人格的に問題だらけの奴らがほとんど、か。メック戦士階級に生まれながらバトルメックを持たないってことが、どれだけ精神を苛むかわかるな。失機者とか……。」

「まあ2名だけ、人格的にもまともな者もおりましたがの。今度は能力的に即戦力にはなりそうもないのが痛いですのう……。」

 

 サイモン老の言葉に、キースは書類を捲ってその2名の履歴書を引っ張り出す。

 

「両名とも14歳で、同郷……ライラ共和国の惑星アネンボ出身の幼馴染同士か。それぞれメック戦士家系の4男と3女。一族の予備メック戦士としてメック操縦訓練は受けたが、それだけ、だな。特筆すべき技術も無いし、単にメックを最低限動かせるだけか。実際にシミュレーターに乗せて、技量のほどを確認したんだな。

 それぞれの家の長男が嫡子をもうけたため、メックを継ぐ可能性がほぼ無くなったため、貯金をはたいて惑星ガラテアに赴き、何処かの傭兵部隊に予備メック戦士として入り込もうと考えた、か。なんと言うか……。」

「言っちゃ悪いとは思いますが、ちょっとばかり考えが甘い、わね。」

「確かに。ただ、このままだとこの2人、どんな末路を辿るか容易に想像がつくな。」

 

 アーリン中尉とヒューバート中尉が、少しばかり疲れた表情で言った。傭兵部隊『SOTS』には現時点で、彼らと似た境遇の者が2名ばかり存在している。火力小隊副隊長のグレーティア・ツィルヒャー少尉と、気圏戦闘機隊のアードリアン・ブリーゼマイスター少尉だ。だが彼らは、先の2名とは決定的に違う点があった。

 グレーティア少尉はいきなり予備メック戦士になろうなどと言う浮かれた気持ちは持たず、傭兵部隊『ディックハウト防衛団』にて戦車の砲手を務めていた。いつか自分の手でバトルメックを鹵獲しようと言う大それた望みこそ持っていたものの、ちゃんと生活の手段は考えていたのだ。

 まあ諸般の事情で『ディックハウト防衛団』を辞めることにこそなってしまったものの、そう言った努力あってこそ、『SOTS』の募集までまともに生きることができたのだ。そればかりではなく、彼女は能力的にもメック戦士養成校出身であり、充分な実力も備えていた。

 アードリアン少尉とて、話は同じである。彼はいつか気圏戦闘機のパイロットになりたいとの気持ちは捨てずにいたが、生きるための手段として、まっとうに通常型ジェット輸送機のパイロットとして経験を積むと同時に、生計をきちんと立てていたのだ。

 それらの下積みあってこそ、彼はいきなりトランスグレッサー戦闘機を任されても、まともに戦うことができたのである。

 カイル船長が、溜息を吐きつつ言った。

 

「ふうむ……。まあ、考えが甘いのはまだ子供だから仕方がないんではないかね?」

「だからと言って、採用したとしても今のままじゃ、どのメックも任せられないわ。腕が悪いから、フェニックスホーク系やライフルマン、グリフィン、ハンチバックみたいに運用が難しい機体はとてもじゃないけれど、使わせられない。アーチャーの様な強力な機体は、部隊の決定力になるから腕が悪い彼らには任せられない。

 シャドウホークが2機あるけれど、それは中口径オートキャノンを装備しているから、ライフルマン2機と組ませて対空用の小隊を編成する予定だから、これもちょっと役割的に荷が重いわね。ヴァルキリー、オストスカウト、クリントを彼らに任せたら、死んで来いと言ってるようなものだし……。

 特にオストスカウトは潰すわけにはいかない、大事な大事なウチの部隊の「目」なのよ。」

 

 アーリン中尉は眉を顰めて言った。本音では、優しい彼女はこの2名を採用して救ってやりたがっているのが、書類をちらちらと見遣ったり頭を抱えたりする態度からばればれである。だが口ではその彼女も、反対意見を述べざるを得ない。今現在『SOTS』は、1人でも多くのメック戦士を必要としている。だがその選抜は慎重にしなければ、他のメンバーの命にも関わりかねないのだ。

 ここでヒューバート中尉が考えを述べる。

 

「こいつら、訓練生として採用するのはどうです?徹底的に扱きまくれば、少しはマシになるでしょう。技量の向上を確認してから、貸与する機体を選べばいいんじゃないかな。」

「いや、待ってくださいヒューバート中尉。これだけ考えが甘い若い、というより幼い奴らが訓練生扱いを受け入れますかね?階級なしの最下位の兵扱いですよ?面接会場で会ったときは、ずいぶんまともな人格、人間性に見えましたが、それでもメック戦士以外を少々軽く見ているように思われましたが。

 最下位の兵扱いってことは、少尉待遇の私や少尉であるサイモンさん、大半の歩兵や助整兵にさえ、へりくだらなければなりません。イヴリン嬢ちゃんは納得の上で受け入れてますがね。ああそうだ、そのイヴリン嬢ちゃんにも、先輩だってことで敬意を払わないといけないんです。年下の少女にさえも。」

「むむむ……。」

 

 自由執事ライナーの言葉に、ヒューバート中尉は言葉に詰まる。だがカイル船長が助け舟を出した。

 

「受け入れないなら、受け入れさせてしまえばいいだけの話だよ。」

「ほう?何をする気だね、カイル船長?」

「いや、私がするわけじゃないんだがね。くっくっく。いや、こう言う方法はどうかね……。」

 

 キースの問いに、カイル船長が答える。周囲の人間はその説明の内容に、思わず引き攣って息を吐いた。

 

 

 

 面接の翌々日、キースたちは選考に残った2名のメック戦士候補者を、再度呼び出した。曰く、「貴君らを当部隊に迎えるか否かを最終決定するため、第2次試験を行う。ついては連盟標準時の3026年3月27日午前09時00分、前回面接試験を行ったフォートレス級降下船ディファイアント号まで来られたし。」と通達したのだ。

 例の2人は、勇んでやって来た。その彼らを出迎えたのは、いきなりキース当人と、ヒューバート中尉、アーリン中尉のトップ3である。

 

「ご苦労、エドウィン・ダーリング君、エルフリーデ・ブルンスマイアー君。面接のときにも言ったと思うが、俺が傭兵中隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード大尉だ。できるなら、長い付き合いにしたい物だな。後ろの2人は、火力小隊小隊長のヒューバート・イーガン中尉に、偵察小隊小隊長のアーリン・デヴィッドソン中尉だ。よろしく頼む。」

「はっ、はいっ!よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」

「うむ。ところで2次試験の内容なのだが、シミュレーターによる実技試験だ。前回の面接前に、少しだけ操作させてみたそうだな?なら場所はわかるな。来たまえ。」

 

 そう言うとキースたちは船倉の一角、シミュレーターを置いてあるところまでやって来る。そこでは3人の少年少女が待っていた。キースは彼らを紹介する。

 

「彼らは左から、ロタール・エルンスト軍曹、カーリン・オングストローム軍曹、イヴリン・イェーガー訓練生だ。ロタール軍曹とカーリン軍曹は5ヶ月前に、それぞれ歩兵と助整兵からメック部隊に異動になったばかりだ。」

 

 歩兵と助整兵という言葉を聞いて、エドウィンとエルフリーデの2名の顔に、わずかだが侮りが浮かぶ。それに気付かないふりをして、キースは紹介を続ける。

 

「イヴリン訓練生は、今月頭に当部隊の訓練生になったばかりでな。訓練生故に階級もない、最下級の兵の扱いだが、それに腐らず良く頑張っている。

 それで君たちの試験の内容だが、シミュレーターでこの3名と対戦してもらう。」

「「!?」」

「3名のうち1人にでも勝つことができたなら、それで合格だ。機体はフェニックスホークを使う。」

 

 それを聞き、エドウィンとエルフリーデの顔には笑みが浮かぶ。歩兵や助整兵出身の者など敵では無いと考えたのが、ありありとわかる。訓練生など問題外だとも思っているのだろう。

 

「どうだね?やれるかね?」

「勿論です!馬鹿にしないで下さい!」

「やって見せます!」

 

 内心で、キースはほくそ笑む。ヒューバート中尉とアーリン中尉も、エドウィンとエルフリーデに見えない角度で苦笑していた。

 

(ロタール軍曹もカーリン軍曹も、実戦を潜り抜けて来た猛者だぞ?それに万一予備機に乗る可能性を考えて、シミュレーターによるフェニックスホーク搭乗訓練はしっかりこなしている。そして……。)

 

 キースはイヴリン訓練生が緊張しているのに気付く。彼は小声でイヴリン訓練生に言った。

 

「大丈夫だ。あいつらは3月頭のお前と同じだぞ?今のお前が、1ヶ月近く前のお前に負けるとでも言うのか?」

「!……ありがとうございます、キース大尉。」

「うむ。圧倒的に勝って来い。」

 

 そしてシミュレーターによる模擬線が始まった。

 

 

 

 そしてエルフリーデ操る仮想空間内のフェニックスホークの胴中央を、イヴリン訓練生駆る機体が放った大口径レーザーが貫く。何度かレーザーの照射を受けていた装甲板はその一撃に耐えられず、あっさりと貫かれた。

 そしてそこに収められていたマシンガンの弾薬に直撃を受け、エルフリーデのフェニックスホークは爆散して果てた。まあ、あまりの過熱によりエンジン停止していた機体など、ただの的でしかなかったのである。

 その様子を、先にあっさり敗退していたエドウィンは、うつろな瞳で眺めていた。エルフリーデは、ふらふらとシミュレーターの筐体を降りてくる。キースはとどめの様に言い放った。

 

「今のままでは、使い物にならんな。」

「そ、そんな!」

「せっかくの……。せっかくのチャンスだったのに……。」

 

 泣き崩れるエルフリーデに、膝から崩れ落ちるエドウィン。その2人に、キースは諭す様に言った。

 

「君たちの過ちは幾つかあるが、その中でも最大の物は、相手を侮ったことだ。歩兵出身者だとか助整兵出身者だとか、そんなことは関係ない。メック戦士は、単に生まれの運が良くてメック戦士の家系に生まれてきただけに過ぎん。

 歩兵や助整兵の中にも、訓練を受ければメック戦士の家に生まれただけの者よりも強くなれる者はいる。いやそれ以前に、メックを降りたときに守ってくれる歩兵や、メックの修理をしてくれる整備兵、その助手をする助整兵に感謝もせず、侮る様な輩が、本当の意味で強くなれるものか。

 それに階級もない訓練生、しかも君たちよりも幼い娘だからと言って、問題外の存在だと思っていなかったか?甘ったれるな!この者は1ヶ月近く、訓練生として一生懸命学び、自らを鍛えてきた。正規のメック戦士になる日を夢見てな!それを、碌な腕前も持たん君たちが見下せるものか!そんな根性だから君たちはあれほどあっさり負けたのだ!」

「「……。」」

 

 エドウィンもエルフリーデも、激しく自省している様だ。キースは彼らに問う。

 

「それでも、メック戦士になりたいか?」

「……なりたい、です。」

「……はい。私も……。」

 

 キースは、更に問う。

 

「辛酸を舐め、泥水を啜ってでも、か?」

「……はい!」

「なって……みせます!」

 

 おもむろにキースは言う。

 

「そうか。ならば最後のチャンスをやろう。君たちを訓練生として採用しよう。ただしわかっているだろうが、階級なしの最下級の兵としての扱いだ。そこらの歩兵や助整兵よりも立場は低い。それどころか、このイヴリン・イェーガー訓練生のことすらも先輩として立てなければならん。そして訓練は非常に厳しく、それを乗り越えなければメック戦士にはなれん。

 それでもこの蜘蛛の糸よりもか細いチャンスに縋りつき、物にしてみせるか?それとも諦めて負け犬のごとく逃げ帰り、いつかまたチャンスが来るさとありもしない希望を夢見て現実から目を背けるか?2つに1つだ。選べ。」

「「訓練生になります!」」

「よく言った。これより貴様らを傭兵中隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』のメック戦士訓練生として受け入れる。早急に今の宿を引き払い、このディファイアント号の船室に移ってもらうぞ。」

 

 キースの言葉に、エドウィンとエルフリーデ、いやエドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生は、必死に応える。

 

「「はい!」」

「元気がないぞ!もっと大きな声で!!」

「「はい!!」」

 

 この様にして、エドウィン・ダーリング訓練生とエルフリーデ・ブルンスマイアー訓練生は『SOTS』の一員となったのだった。

 

 

 

「なんだよそりゃ、ははは。ちょっと酷くねえか?隊長。」

「まあ、世の中舐めてる子供にはいい薬かもしれないけど。」

 

 アンドリュー軍曹とエリーザ軍曹が、口々に言う。ここはディファイアント号の部隊司令室だ。彼らがいるのは、ちょっとした用事のため、キースがわざわざ呼んだからである。キースは2人の台詞に苦笑する。

 

「まあ、そう言わんでくれ。それに本当に酷いことは、これからだ。この1ヶ月でイヴリン訓練生の体力も随分上がって来たからな。もう少し回転を速めてもかまわんだろう。あの2人は、最初からそのペースに付き合わされるんだ。まあイヴリン訓練生よりも年長で身体も大きいから、体力的にはなんとかなってくれるだろう。」

「「うわ、ひっど。」」

「それで、だ。アンドリュー軍曹、エリーザ軍曹。2人を呼んだのは他でもない。エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生の教育を手伝って欲しいんだ。」

 

 アンドリュー軍曹とエリーザ軍曹は、目を丸くする。キースはそれに構わずに続けた。

 

「基礎教養は俺が担当する。あと軍事関係の座学も、イヴリン訓練生に教えるついでだから俺が一緒にやる。2人に頼みたいのは、アンドリュー軍曹はエドウィン訓練生の、エリーザ軍曹はエルフリーデ訓練生の、それぞれの肉体的トレーニングとメック戦闘の訓練だ。

 特に、指揮官教育を受けさせるイヴリン訓練生とは違い、単純な戦闘技量ではイヴリン訓練生以上になってもらわなければ困る。他の部分は、命令を間違わずに聞いて忠実に遂行できる能力があればいい。」

「なんとまあ……。俺も弟子を取ることになるのか。ま、いいぜ。引き受けた。」

「あたしもOKよ、隊長。」

 

 2人の返事に、キースは満足そうに頷く。と、キースの表情が曇る。アンドリュー軍曹とエリーザ軍曹は、怪訝に思った。

 

「どうしたのよ隊長。」

「腹でも痛くなったのか?」

「いや、な。エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生の初陣はどれぐらいになるか、と思ってな。あの2人は年齢も14歳だから、相応の実力がついたら即初陣でも良いんだが……。先輩であるイヴリン訓練生を差し置いて、と言うのは少しな。イヴリン訓練生の初陣は、13歳頃を考えていたんだ。来年2月末以降だな。だが下から押し上げられる形になってしまうので、もう少し早めないといかんか、と思ってなあ……。ううむ。

 ああ、ところで2人とも。」

「「?」」

 

 キースは唐突に話題を変える。

 

「2人は、士官になる気はないか?」

「無いッ!!」

「あ、あたしもちょっと少尉様は遠慮したいかなーって。」

 

 アンドリュー軍曹もエリーザ軍曹も、即答する。キースは予想できていたことであるので、さほど残念には思わなかった。そして彼は執務机の引き出しから、2通の書類を取り出してアンドリュー軍曹とエリーザ軍曹に放る。

 

「……なに?コレ。」

「なになに?げっ!?辞令!?」

「ああ、本日ただ今をもって、お前たちを曹長に任ずる。流石にそろそろ昇進してもらわんと、な。これが新しい階級章だ。本当は士官任用試験を受けて、少尉になってもらいたかったんだが。ああ、そのうち准尉にもなってもらうからな。まだ先の話だが。」

 

 アンドリュー曹長とエリーザ曹長は、引き攣った笑みを零す。アンドリュー曹長が口を開いた。

 

「そ、それよかよ。隊長が少佐になって部隊を大隊扱いにする方が先だろ!?」

「いや、まだ増強中隊だ。だから大尉で充分。」

「往生際、わるーーーい!!」

 

 エリーザ曹長の叫びに、キースはにやりと笑って返した。




今回部隊に加わったのは、また訓練生が2名です。世の中を舐めてる甘い子供が2名です。そして彼らはいきなり鼻っ柱を叩き折られました。これから彼らは、『SOTS』で大成できるんでしょうか。
そして昇進したくないのに昇進させられたアンドリュー曹長とエリーザ曹長。でも昇進してもらわないと、困るんですよねー主人公としても。昇進したくないのは、主人公も同じなのですが(笑)。


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『エピソード-039 戦力交換』

 3026年4月14日、キース・ハワード少佐率いる混成傭兵大隊『SOTS』は、ライラ共和国タマラー協定領トレル州の惑星ネイバーフッドに到着した。そう、「少佐」であり、混成「大隊」である。あれほど大尉の階級に固執して偉くなることを拒んでいたキースが、何故急に方針変更をしたのか。その理由を説明するには2週間少し前、3月の29日まで遡る。

 

 

 

 その日、キースはいつも通りにイヴリン訓練生と共にトレーニングを済ませた後、会議室にてイヴリン訓練生、エドウィン訓練生、エルフリーデ訓練生の3名に対して基礎教養の授業を行っていた。と、そこへ部屋備え付けのインターホンが鳴る。キースは授業を一時中断し、インターホンのスイッチを入れた。

 

「こちら会議室、キース・ハワード大尉。」

『こちらブリッジです。』

「どうした、マシュー副長?緊急事態か?」

『いえ、キース少佐にお客様が見えています。何やらお急ぎのご様子で……。』

 

 ちなみにキースの階級はこの時点で大尉であるが、船長である「キャプテン」と大尉である「キャプテン」を区別するために、降下船などに乗船中は大尉の方を1階級上の少佐と呼ぶ慣例になっていた。無論、今彼らはフォートレス級降下船ディファイアント号を宿舎代わりに使用しているため、常に乗船中なのである。

 

「お客?……わかった、手が空いていればジャスティン伍長あたり、そうでなければ適当な誰かをつけて、部隊司令室まで案内してもらってくれ。それとこのままハオサン博士に回線を繋いでくれ。俺の代理を頼むから。」

『了解。今、回線を繋ぎ換えます。』

『……はい、こちらミン・ハオサンです。』

「ハオサン博士、俺です。キース・ハワード大尉です。少々お願いが……。」

 

 キースは惑星学者であるハオサン博士に、現在行っている生物・地学の教師役の代理を頼む。ハオサン博士は快く承諾してくれた。キースは3名の訓練生たちに向き直る。

 

「急な来客があったので、俺は少々外す。代理に当部隊が誇る惑星学者、ミン・ハオサン博士が来てくれる。物腰が柔らかい方だが、それに甘えて失礼はするなよ?それとハオサン博士が来るまでは、問題集で自習していろ。わかったな?」

「「「了解!!」」」

 

 訓練生たちは起立すると、敬礼と共に大声で応える。キースも答礼をし、踵を返すと会議室を早足で出た。彼はそのまま、部隊司令室として使っている士官用船室まで急ぐ。

 そしてちょうど部隊司令室の前で、キースは来客の一団を案内しているエルンスト曹長と出くわした。どうやらジャスティン伍長は手が空いていなかったらしい。エルンスト曹長は、キースに敬礼する。キースも答礼した。

 

「キース大尉、お客様をご案内いたしました。」

「ご苦労、曹長。こちらがお客様……ロベールさん!?」

「お久しぶりですな、キース様。仇討のご成功、おめでとうございます。しかし、しばらく会わないうちに益々ご立派になられましたな。背も更に伸びられた様で。」

 

 そう、それはキースの親友であるジョナス・バートンの、忠実なる執事であるロベール・マクファーソンであった。ロベールは4人の男女を連れている。その男女は、青年から少年と言った年齢であり、その態度もきょろきょろと落ち着きが無い者からビシッと規律正しい者まで様々だ。ちなみに4人全員がキースの迫力に、額に汗を流している。

 

「どうもありがとうございます、ロベールさん。まあ何はともあれ、とりあえず入ってください。エルンスト曹長、お客様にお茶を持って来てくれるよう、厨房に託けてくれ。では下がって良い。」

「了解です、大尉。では失礼いたします。」

 

 キースは部隊司令室へと、ロベールを始めとする客人たちを迎え入れ、ソファを勧める。客人たちはロベールは礼儀正しくも悠然と、他の者は恐縮しつつソファに座る。キースもソファに座ると、話を切り出した。

 

「ロベールさん、この度の急なご来訪、いったい……?」

「まずはアポイントメントも取らず、失礼いたしましたことをお詫びします。キース様がガラテアに居る間に到着できたのは幸運でした。キース様、失礼を承知でお聞きしますが、次のお仕事は決まってらっしゃいますか?」

「いえ、まだ決まっていません。新しいメック戦士をまず雇用しようと思いまして、それが一段落ついてから仕事を探そうと考えていました。ただメック戦士の新規雇用は、上手く行きませんで、今日にでもMRBのオフィスに行こうと考えておりましたが。」

 

 キースの言葉に、ロベールは大きく安堵の息を吐いた。

 

「ああ……。幸運でしたな……。キース様、お願いがあります。どうか我々の依頼を、いえ正確に言えば恒星連邦からの依頼なのですが、それを受けていただけませんか?」

「……レイディ・ローレッタ・グリフィス関係の問題ですか?」

 

 キースの言葉に、ロベールは小さく頷く。

 

「やはりご存じでしたか。流石はウォルト様のご子息だけのことはある……。」

「詳しく話してください。」

「はい、実は……。」

 

 ロベールの話は、以下の様な物だった。サルバーン女伯爵、レイディ・ローレッタ・グリフィスは、ジョナス・バートンに対し敵愾心を抱いていた。まあ理由は知っての通り、逆恨みの様な物なのだが。そして彼女は一計を案じた。

 恒星連邦とライラ共和国は、秘密協定を結んでいる。このため、秘密裏……と言うには大っぴらなのだが、戦力交換や合同演習などがよく行われている。某「大隊から1個中隊だけ大きい自称連隊」も、戦力交換で恒星連邦からライラ共和国へ行ったと言う事情があったりする。レイディ・ローレッタ・グリフィスは、この戦力交換に目を付けたのだ。

 レイディ・ローレッタ・グリフィスは、優秀で信頼のおける部隊を戦力交換でライラ共和国へ派遣すべきだ、と運動を開始した。その運動は、恒星連邦政府の方針と合致していることもあり、成功する。

 そして次に彼女はその戦力交換の部隊に、事もあろうにジョナス・バートン率いる連隊が選ばれる様に裏工作したのである。これが成功してしまっては、最低でも数か月、最高で年単位の間、ジョナスは恒星連邦を離れなければならなくなってしまうのだ。そしてその間、レイディ・ローレッタ・グリフィスは政治工作のやり放題となる。

 無論ジョナス陣営でも黙っていたわけではない。完全な編成の1個連隊を送り込むのは、少々やり過ぎだと噂を流し、もっと小さな規模の部隊……つまりはジョナスの連隊以外が選ばれる様に話を持って行った。

 ここでレイディ・ローレッタ・グリフィスは自らの手駒を使い、恒星連邦宮廷内の意見を誘導。曰く、完全編成の連隊を送り込むのがやり過ぎならば、送り込むのに適した部隊を、本来送り込まれるはずだったジョナスが推薦しろ、と。同時に金に糸目を付けない贈賄攻勢に出た。

 レイディ・ローレッタ・グリフィスの意図は明白である。ジョナス自身を遠ざけることが叶わないのなら、ジョナス子飼いの部下をライラ共和国へ遠ざけ、少しでもジョナスの力を削ぐと共に、嫌がらせをしようと言うのだ。

 無論、ジョナスも受け身に回っているだけではない。こっそりとレイディ・ローレッタ・グリフィスの足元に、穴を掘る準備は整っている。ただし今回には間に合わない。できれば若干でいいので、時間稼ぎをしたいところだ。

 キースは頷いた。

 

「なるほど。それで俺の部隊に、ジョナス子飼いの部下の代わりに行ってもらいたい、と言うわけですか。」

「はい、ですが実はまだこのことはジョナス様はご存じでありません。私をはじめ、一部の部下たちの独断なのです。ジョナス様はキース様にご迷惑をかけることを極力避けたいでしょうから……。主の意にそぐわぬことをするのは忸怩たる物がありますが、しかし私どもは……。」

「ストップです、ロベールさん。ジョナスも水臭い……。こういう時に遠慮などされる方が寂しいものですよ、友としては。それに仕事先が恒星連邦からライラ共和国へ一時的に変わるだけです。それほど問題ではありませんよ。」

 

 ロベールは感極まり、キースの手を取って涙を流す。

 

「ありがとうございます、キース様。仕事の条件は、できる限り有利になるよう整えさせていただきます。それと……。私が連れて来たこの者たちなのですが。」

「そう言えば、この方たちは?」

「キース様は、傭兵部隊『SOTS』は増強中隊だと言って、大尉の階級のままだと聞きます。ですが今回の件、中隊規模では少々部隊が小さいと、レイディ・ローレッタ・グリフィスにそこを突かれる危険があります。

 そこで、この者たちをキース様の配下に加えて、部隊を大隊としていただきたいのです。充分に信用、信頼でき、実力もそこそこの者たちです。」

 

 キースは思わず唸る。だがロベールのいうことは、もっともだ。それに人材という希少資源は、キースたちが今最も欲していたものである。キースはロベールに向かい、おもむろに言葉を発した。

 

「彼らを紹介していただけますか?」

「はい、ではまず……。いえ、自己紹介の方がよろしいですな?」

「……で、では、自分から。」

 

 ロベール以外の中では、一番年長に見える青年が口を開く。彼らの中で、一番規律正しそうな人物だ。彼は当初キースの迫力に気後れしていた様だったが、思い切って話し出す。一度話し出すと度胸が据わったのか、その口からは滑らかに言葉が流れ出た。

 

「自分はケネス・ゴードンと言う者です。ゴードン家の3男で、予備メック戦士としてサハラ士官学校を卒業後、これまで部屋住み生活をしてまいりました。

 バレロン伯爵ジョナス・バートン卿には、我が家にご恩をかけていただいたことがございます。そのご恩をお返しするため、志願してまいりました。バレロン伯爵のご友人であらせられるハワード大尉にお仕えするのは、望むところであります。」

「……そうか、ありがとう。ジョナスのためにも、俺に力を貸してくれ。それと、呼び方はファーストネームでかまわない。」

「……はっ!了解いたしました。誠心誠意、キース大尉にご奉公いたします!」

 

 次に自己紹介をしたのは、同じく規律正しい行動を取っていた青年だ。年齢も2番手程度と見える。彼も最初は腰が引けていたのだが、ケネスの自己紹介の間に気を取り直したのか、堂々と話し出した。

 

「自分はジョシュア・ブレナンです。ブレナン家の4男で、家の予備メック戦士としてサハラ士官学校へ通いました。ケネス先輩の後輩にあたります。先輩同様に、部屋住み生活をしていたのですが、今回の件で志願させていただきました。

 バレロン伯爵ジョナス・バートン卿は、我が家にとっても恩人です。そのご友人であるハワード大尉のお力になれるのであれば、光栄です。」

「了解した。君も俺のことはキースでかまわん。一緒にジョナスのために頑張ろう。」

「了解!よろしくお願いします、キース大尉。」

 

 3番目は、2番手のジョシュアとさほど歳が変わらなく見える女性である。彼女は最初に自己紹介したケネスに、時折熱っぽい視線を送っていた。しかしケネスの方はどうやらその手のことには鈍いらしく、まったく気づかれていないのが哀れである。

 

「私はドロテア・レーディンです。ケネス・ゴードンの従妹で、レーディン家の2女の予備メック戦士でした。実戦経験は無いのですが、ケネスとのシミュレーション対戦では勝ち越しております。」

「ドロテアの言う事は嘘ではありません。自分は手加減無しで戦ったのですが、負け越しております。」

「そうか、優秀なメック戦士は1人でも多く必要なところだ。よろしく頼むぞ。君も俺のことはキースでかまわんぞ。」

「はい、キース大尉。よろしくお願いします。」

 

 最後は、1人だけまだ少年と言う外見であり、17~18に見えた。彼はきょろきょろと落ち着かない様子であったが、自分の自己紹介の番が来たことに気付き、慌てて口を開く。

 

「ま、マイケル・ニューマン、18歳です!ニューマン家の3男で、予備メック戦士でした!今回母……家長より、正式なメック戦士になるチャンスだって言われまして!あ、し、失礼しました!」

「くっくっく、いや構わん。腹の底に一物隠し持たれているよりも、よっぽど良い。腕前の程は?」

「は、はい!実戦経験はありませんし、大したことは無いと思います!」

「嘘はいけないわよ、坊や?」

 

 ドロテアが突っ込む。マイケルは焦った顔をした。

 

「キース大尉、このマイケル坊やは操縦はあまり上手くないですが、メック戦闘での射撃に天性の物を持っています。支援機に乗せれば、非常に役に立ちます。まあ接近されると危険ですけど。」

「ほう?ならば問題は無さそうだな。君も俺のことはファーストネームでかまわん。よろしく頼むぞ。」

「は、はいっ!キース大尉!」

 

 キースは少々考える。

 

(……今の部隊の小隊編成を変更するのは、あまり得策ではないな。となると彼ら4人で新小隊を編成した方が良いだろう。しかし、そうなると訓練生のメックを除いて、5個小隊か。

 2個中隊に編制するとして……。第1中隊は3個小隊の完全な編成で、第2中隊は指揮小隊か、もう1個小隊のどちらかが、メック3機の中途半端な形になるな。

 第2中隊の中隊長は……。新しく来た彼らの中から抜擢するのは、あまりにも博打が過ぎる。となると、アーリン中尉、ヒューバート、サラ中尉待遇少尉の中から選ぶことになるが……。

 サラ中尉待遇少尉が、まず候補から外れるな。彼女は、イヴリン訓練生が昇進して中尉になるのを待って隊長職を引き渡す、と言って中尉への昇進を断ったくらいだものな。それを大尉にするのは余計に断るだろう。となると……。)

「キース様?」

「ああ、済みませんロベールさん。さて、仕事の詳細な条件を教えてもらえますか?」

「はい、まずこの仕事は恒星連邦からMRBを介しての指名依頼となり、我々自身は恒星連邦政府に対し貴隊を推薦すると言う形になります。そして実質上の雇用主はライラ共和国政府となりますな。恒星連邦から貴隊を、ライラ共和国へとレンタルする様な形になります。そして実際の条件ですが……。」

 

 ロベールとキースは、この任務の契約条件などについて事細かに話し合った。更にキースは『SOTS』の幹部会議を招集し、新たな部隊編成について決定する。そしてその翌日、3月30日にMRBのオフィスにて、正式にこの任務に関する契約が結ばれた。その時点において、『SOTS』は混成大隊へと部隊規模を拡張――もともと混成大隊規模はあったとも言えるが――し、キースは少佐へと昇進していたのである。

 

 

 

 キースは降下船の船窓から、惑星ネイバーフッドのオーバーゼアー城に付属している離着床と滑走路を眺める。そこにはキースたちのフォートレス級降下船ディファイアント号、ユニオン級降下船ゾディアック号、エンデバー号、レパード級降下船ヴァリアント号、ゴダード号の5隻の他、2隻のユニオン級降下船が着陸していた。そのためこの施設は、ちょっとばかり手狭になっている。

 まあだがしかし、この2隻は早ければ明日、遅くても3日以内にこの惑星から発進するはずである。キースたちの部隊『SOTS』はこの惑星の駐屯任務を、現在駐屯している傭兵大隊『エフシュコフ剛腕隊』から引き継ぐことになっているのだ。そしてこの2隻のユニオン級は、その『エフシュコフ剛腕隊』の所属降下船なのである。ちなみにユニオン級2隻と言うことからわかる通り、『エフシュコフ剛腕隊』は大隊とは言っても正確には2個中隊でしか無いが。

 現在この惑星には、ドラコ連合が橋頭堡を築き、この惑星の人類可住域の30%を支配下に置いている。『エフシュコフ剛腕隊』は、その敵と継続的に戦いを繰り広げた結果、後方での補充と休養、再編成が必要になり、一時惑星を撤退することになったのだ。その代わりとして『SOTS』は、今から6ヶ月の間この惑星に駐屯し、敵と戦うことになったのである。

 そのとき、キースに話しかける者があった。

 

「キース少佐、もうすぐ迎えのバスがこちらへ着くそうです。」

「ご苦労、ヒューバート大尉。」

「……なんか、慣れませんな。半年前に少尉すっ飛ばして中尉になったばかりだと言うのに、もう大尉なんですから。」

「それを言うな。俺だって『SOTS』結成当時に少尉すっ飛ばして中尉になって、その後3ヶ月で大尉、その半年後には少佐だぞ。……本当はもうしばらく増強中隊ってことで大尉のままのはずだったんだが。まあ、やむを得まい。」

 

 そう、第2中隊の中隊長には、現在ヒューバート大尉が就任していた。最初彼は、アーリン中尉の方が先任だからと第2中隊中隊長の座を譲ろうとしたのだが、アーリン中尉は中隊規模の部隊を指揮する自信が無いとして、それを断った。

 そしてヒューバート大尉は、かつての火力小隊をそのまま第2中隊の指揮小隊とし、『機兵狩人小隊』を火力小隊として従えて第2中隊を編成したのである。キース直卒の第1中隊から火力小隊が抜けた形になるが、そこにキースは新参の4人を据え、新たな火力小隊を結成した。

 ちなみに第1中隊の、新たな火力小隊の編成は次の通りである。隊長にケネス・ゴードン中尉、バトルメックは55tウルバリーンを貸与。副隊長にジョシュア・ブレナン少尉、貸与された機体は50tハンチバックである。平の隊員にドロテア・レーディン軍曹とマイケル・ニューマン軍曹、機体は2人とも70tアーチャーを貸与されている。

 キースとヒューバート大尉は、しみじみと船窓の外を眺める。そこへアーリン中尉がやって来た。

 

「何をやってるんですか、2人とも。キース少佐を呼びに来たはずのヒューバート大尉まで一緒になって。もう迎えのバス、来ちゃいますよ。」

「おお、いかん。キース少佐、行きましょう。」

「そうだったな。いかんいかん。ご苦労、アーリン中尉。急ごう。」

 

 3人は、駆け足でディファイアント号の乗降ハッチまで急いだ。

 

 

 

 オーバーゼアー城の司令執務室で、キースは傭兵大隊『エフシュコフ剛腕隊』の部隊司令兼、惑星ネイバーフッド守備隊司令官、ヴィクトール・ワディモヴィチ・エフシュコフ少佐と対面した。

 

「お初にお目にかかります。自分が傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令、キース・ハワード少佐です。見ての通りの若僧ですが、どうぞお見知りおき下さい。」

「み、見ての通り?あ、いや申し訳ない。わしが傭兵大隊『エフシュコフ剛腕隊』の部隊司令で、これまでの惑星守備隊司令官、ヴィクトール・ワディモヴィチ・エフシュコフ少佐だ。これから半年間、この惑星のことを頼むぞ。まあ、わしらの部隊がまたここに戻って来れるかわからんが……。

 着任を歓迎する、惑星守備隊新司令官、キース・ハワード少佐。」

「ありがとうございます。」

 

 キースとヴィクトール少佐は、固く握手を交わす。その手が離れると、ヴィクトール少佐は少し肩を落として言った。

 

「やれやれ、本当は自分の手でこの惑星からクリタ家の奴らを追い出したかったのだがな。さっきも言った通り、またこの惑星に戻ってこられるかどうか、わからんからな……。随分長いことこの惑星にいたもんでな、わしも部隊の者も愛着がわいておるのだが……。

 まあビジネスだ、仕方あるまいて。」

「お気持ちがわかるとは言えません。ですが慮ることぐらいは、できるつもりです、エフシュコフ少佐。」

「ありがとうハワード少佐。さて、わしは部隊の撤退準備があるからな。もう行くよ。互いを詳しく知る機会が無いのが残念だ。見ただけで貴官の凄さの欠片なりと伝わって来るからな。そんな凄腕と話してみたかったんだが……。

 では失礼する、ハワード少佐。」

 

 互いに敬礼を交わすと、ヴィクトール少佐は司令執務室を名残惜しげに見回し、そして部屋を出て行った。キースは少し感傷的な気持ちになり、彼を見送ったが、すぐに気分を切り替えて執務机に座る。そして書類棚や引き出しから引継ぎ書類を取り出して確認を始めた。

 こうしてキースたち『SOTS』の、ライラ共和国惑星ネイバーフッドでの6ヶ月間の戦いが始まったのである。




とうとう主人公、昇進してしまいました。今まで往生際が悪かったのですが、親友のためとあらば仕方ありません。部隊も大隊として、再編成されました。
そして活躍の場所も、今までの恒星連邦からライラ共和国へと移動します。これからしばらくは、ライラ共和国での行動となりますね。


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『エピソード-040 姿なき敵船』

 ここは惑星ネイバーフッドにおける惑星守備隊が駐屯するオーバーゼアー城、その指令室発令所である。ここでは何人ものオペレーターが、忙しく働いている。そんな中、一段高い位置に設えられた司令席で、惑星守備隊司令官であり混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令でもあるキースは、部下からの報告を聞いていた。

 報告の内容は、気圏戦闘機による高高度偵察の結果判明した、小隊規模の敵部隊の迎撃に出向いた第1中隊火力小隊からの戦闘結果である。キースはその報告を、あからさまに不機嫌そうな難しい顔で聞いていた。報告している火力小隊小隊長のケネス中尉もまた、難しい顔をしている。

 

「……と言うわけで、敵戦車部隊の撃滅に成功いたしました。鹵獲した戦車も持ち帰っております。ですが……。」

「貴官もそう思うか。敵が繰り出してくるのが戦車や歩兵のみで、バトルメックが出て来ていない、と。」

「はい……。副隊長のジョシュア少尉も同意見であります。ドロテア軍曹とマイケル軍曹は、単純に毎回の勝利を喜んでおりますが、それが微笑ましくも、歯がゆくもありまして……。」

「それは仕方あるまい。士官としての教育を受けたわけでも、実戦経験が豊富なわけでも無いのだからな。しかし、実戦経験が無いに等しい貴官らの小隊に実戦経験を積ませる目的で、第1中隊の火力小隊しか出していなかったのは、こうなると幸いだったかも知れんな。」

 

 このキースの台詞に、ケネス中尉は頷く。

 

「敵の目的は、新たに駐屯することになった我々に対する、挑発を兼ねた威力偵察でしょう。ですが第1中隊の火力小隊の編成しか、敵には具体的な情報がもれていないことになります。

 更にこれはおまけではありますが、私ども第1中隊火力小隊も、実戦経験を積むことができております。最初のうちはぎこちなかった互いの連携も、ある程度は物になっております。」

「うむ。だが……。歩兵や戦車を使い捨てにしての威力偵察か……。」

 

 不快そうに、キースは呟く。ケネス中尉も同じく不快そうだ。

 

「バトルメックに乗るメック戦士が先陣を切って戦わないで、どうすると言うのでしょう。メック戦士が様々な特権を持つのは、戦いにおいて率先して前に立つ義務があるからではありませんか。

 ……確かに戦術的に有効なのはわかります。もし戦車10輛の犠牲で、1機のバトルメックを行動不能にできるのであれば、と言う誘惑にかられるのも、わからないでもありません。敵の情報を得るためだけにコストが安い歩兵を使い捨てにするのも、理屈の上からは理解できます。

 しかしそれをやってしまっては、メック戦士としての資格が疑われることになると、奴らは気付かないのでしょうか?メック戦士が自らの命を的にせずに、その責務を弱者に押し付けて、自らは美味しいところだけを盗み取ろうなどと……。恥知らずにもほどがあります。」

「……憤懣遣る方ないのは良くわかる。俺も奴らのやり口には腹立たしさを感じる。だが少し落ち着け。歩兵や戦車を弱者と侮る愚を犯しているぞ?

 歩兵の持つレーザー銃や短距離ミサイルランチャー、インフェルノ焼夷弾などは、バトルメックに対しても脅威となり得る。そして戦車はダメージコントロール的に脆いとは言え、その装備している武器はバトルメックの物と同じだけ致命的な威力を持つ。」

「……!!し、失礼いたしました!我が身の未熟を恥じるばかりであります!」

「いや、そこまで恐縮しなくとも良い。わかってもらえた様だしな。反省は必要だが、過度のそれは毒にもなるぞ。」

 

 そしてキースは2通の書類を引っ張り出す。彼はその両者に書かれたデータを比較して見た。

 

「やはり多い、な。」

「は?」

「今までに貴官らの小隊が破壊、もしくは鹵獲した戦車の数と、前惑星守備隊の『エフシュコフ剛腕隊』が残して行った敵の情報を比較した結果だ。」

 

 そう言ってキースは、2通の書類をケネス中尉の前に差し出す。それを受け取ったケネス中尉は、目を見張った。

 

「これは……!」

「そうだ。今回の貴官らの小隊の勝利で、破壊もしくは鹵獲した敵戦車の数が、元々敵が持っていたはずの戦車の数を超えてしまった。明らかに敵は何処からか戦力供給を受けている。おそらくはこちらのエアカバーを掻い潜って、降下船を降ろしたのだろうな。

 所詮こちらの気圏戦闘機は6機に過ぎん。無いよりマシ程度の対宙監視網しか敷けん。しかも敵の地上の動きを監視するのにも使っているからな。ますますエアカバーがザル同然にもなると言う物だ。」

「し、しかし惑星軍の対宙監視レーダー基地からは何も……。」

 

 ケネス中尉は驚きを露わにする。キースは苦笑して言った。

 

「この星系には、ゼニス点のジャンプポイントに補給ステーションが1つあるが、そこには深探査レーダーは無い。地上の海軍基地にも無い。だから反対側のジャンプポイントであるナディール点に敵航宙艦が出現しても、わかりはしないんだ。そして通常のレーダーをジャミングすることは、決して不可能ではない。もっとも……。」

「もっとも?」

「いや、まだ想像に過ぎん。確証ができてからにしよう。では下がって良い。」

「はっ!それでは失礼いたします!」

 

 敬礼をするケネス中尉に、キースも答礼する。ケネス中尉は指令室の発令所を出て行った。キースは心の中だけで呟く。

 

(それに、こんなオペレーターたちが居る中で話せる内容でもないしなあ……。このオペレーターたちはこの惑星の人間であって、うちの部隊が連れてきたわけじゃないから、気心が知れてないし。さて、でも早目に手を打っておかないとな。敵戦力がどれだけ膨れ上がるか、わかったもんじゃない。

 さて、そろそろイヴリン訓練生の座学の時間か。指揮官教育があるから、イヴリン訓練生だけ座学の時間が多いんだよな。ヒューバートかアーリン中尉を呼んで、ここの監督の代わりを頼まないと。ああ、ヒューバートは今第2中隊の連携を図るための図上演習中か。ならアーリン中尉だな。)

 

 キースは司令席の卓上に設置された通信設備を使って、アーリン中尉を呼び出した。

 

 

 

 イヴリン訓練生が、キースに向かい敬礼をする。キースもまた、答礼をした。

 

「本日の教導、ありがとうございました!」

「うむ。しっかりと復習しておくように。ああそれと、オーバーゼアー城のバトルメックシミュレーターが使える様になったからと言って、疲労を残す様ではいかんな。」

「えっ……。」

 

 キースは笑って言った。だがその目は笑っていない。

 

「デファイアント号には2台しかシミュレーターが無かったからな。訓練生3人の他に、正規のメック戦士たちも使いたがって、シミュレーターでの自習に使える時間が短かったのはわかる。

 だからシミュレーターの筐体の数が多いこの城に来て、好きなだけ……とまではいかんか。まあ、かなり自由にシミュレーターを使える様になったので、喜んでたくさんシミュレーターに乗っているのも、わかる。

 だがな、授業や座学に支障が出るほど乗るのは、あまり勧められんな。今日の戦闘指揮の座学中、ときどき目が死んでいたぞ。

 ……俺の本音を少し話してやろう。貴様の本領は、単なるメック戦士ではなく、指揮官適性にあると俺は見ている。無論、メック戦闘の技量が高いに越したことはない。だが、だからと言って座学を蔑ろにする様ではな。」

「も……申し訳ありません!!今後、注意いたします!!」

「うむ、いい返事だ。だが、言ったからには実践して見せろ。体調管理ができん様ではいかんぞ。次に座学や基礎教養の授業中に目が死んでいるのを見つけたら、容赦なく罰を与えるから、そう思え。そうなったら、正規の訓練時間以外にシミュレーターに乗るのも禁じなければならなくなるぞ。

 警告はこの1度だけだ。次からは即、罰する。わかったな。」

 

 そう言ってキースは、イヴリン訓練生の頭にぽん、と掌を置いてわしゃわしゃと撫で、手を放した。イヴリン訓練生は顔を赤くして、叫ぶ様に応える。

 

「りょ、了解!!ご指摘、ありがとうございます!」

「うむ?……ああ、わかれば良い。では解散!」

「はっ!失礼いたします!」

 

 イヴリン訓練生は、そそくさと立ち去る。その様子を見て、キースは内心独り言ちる。

 

(……撫でたのは、まずかったかな?子ども扱いしたかと思われたかも知れないなあ。そんな意図は無かったんだけど……。いや、内心で無意識に子ども扱いした可能性も無くも無いのか?注意しないとな。

 さて、と。次はネイサン軍曹とパメラ軍曹と例の件について相談しないとな。結構忙しいなあ。……イヴリン訓練生にあんなこと言っておいて、俺自身が休みちゃんと取れてるか?体力的に余裕があるからと言って、いざという時に体幹に溜まってた疲労が表面化でもしたら、まずいよなー。少佐になったことだし、手伝ってくれる副官でも置くかね。……副官の人材を探さにゃならんのかよ、一時的には逆に仕事が増えちまうな。どうするかねー。)

 

 ちなみによく誤解されるのだが、副官と副長は意味が違う。副長はNo.2だが、副官は軍事的な事物を扱う秘書的な役割の軍人を指す。つまりキースは、「秘書でも置くかね」と考えたことになるわけだ。まあそれはともかくとして、キースはいったん指令室に出向くと小会議室を1つ押さえ、そこに偵察兵ネイサン軍曹と、整備兵パメラ軍曹を呼び出した。

 

 

 

「……と言うわけだ。できる限り隠密裏に事を運びたい。可能か?」

「自分は大丈夫ですな。変装は得意とするところです。ただ問題は、肝心のパメラ軍曹ですが……。」

「私もなんとか大丈夫かと。ただ、変装の出来栄えをネイサン軍曹に見てもらった方がいいとは思います。」

 

 キースの質問に、ネイサン軍曹とパメラ軍曹が答える。キースは頷いた。

 

「ならば頼みたい。おそらく俺の予想は間違っていないだろう。間違っていて欲しいがね。もしも予想が当たっていたなら、これまでどれだけの敵降下船の敵地への降下を見過ごして来たやら怖くなる。」

「残念ながら、キース少佐の予想は当たっていると自分も思いますよ。」

「私もそう思います。ああも簡単に戦車を使い捨てにできるとなると、相当潤沢に補給を受けたんじゃないかと考えられますから。つまり降下船が降りて来たのは1回やそこらじゃ無いんじゃないかと……。

 その降下船が全て揃って、高度なジャミングを行えていたと考える方が変です。それにザルなCAP(戦闘空中哨戒)であっても、1回も引っかからないのは、やはり変です。」

 

 揃って溜息を吐く3人。キースは頭を振りつつ言った。

 

「本当なら、筋を通して真正面から調べさせてもらうのが正しいやり方なんだが、今回は時間が無い。正確に言えば、どれだけ時間があるのかわからん。そして敵の戦力増強を黙って見ているわけにはいかん。

 正式な手順を通して、書類審査などにかかる時間すら惜しい。そして正式に申し込めば、それが相手の顔を潰す結果になりかねない。……誰にもばれない様に、こっそりと隠密裏に頼む。」

「了解です。ご心配なく、パメラ軍曹はちゃんと目的の場所まで届けて、そして連れ帰ります。」

「こちらも了解です。細工は流々仕上げを御覧じろ、ですね。」

 

 ネイサン軍曹とパメラ軍曹は、悪い顔をして笑う。キースも苦笑しつつ、頷いた。

 

 

 

 そして3日後、キースはオーバーゼアー城の小会議室にてイヴリン訓練生、エドウィン訓練生、エルフリーデ訓練生の3名に基礎教養の授業を行っていた。科目は連盟共通語である。最近はイヴリン訓練生も、この苦手科目を克服せんと必死に頑張った甲斐あって、なんとか合格点を取れる様になって来ていた。

 そのとき、突然インターホンから電子音が鳴り響く。キースは急ぎ、インターホンのスイッチを入れた。そして彼はインターホンに向けて言葉を発する。

 

「こちら第2小会議室、キース・ハワード少佐。」

『こちら指令室、ヒューバート大尉です。キース少佐、例の「裏データ」に敵ドラコ連合の物と思われる降下船位置が表示されました。今現在、全気圏戦闘機をそちらに急行させています。』

「了解だ。ヒューバート大尉、そこはオペレーターに任せて、第1、第2メック中隊及び歩兵中隊の全力出撃の準備を。俺も直接格納庫へ向かう。ああ、忘れるところだった。気圏戦闘機隊と俺のマローダー間に、城の通信設備を介して通信回線を構築する様オペレーターたちに命じておいてくれ。」

『了解しました。』

 

 キースは驚き慌てる訓練生たちの方を向き、言い放った。

 

「緊急出撃だ。貴様たちは自習していろ。戻ったら、きちんと自習していたか確認のため、小テストしてやる。では行ってくる。」

「ご無事のお戻りをお待ちしています!」

 

 そう言ったのは、イヴリン訓練生である。彼女は敬礼をキースに送る。エドウィン訓練生と、エルフリーデ訓練生もまた、それに倣う。キースは答礼し、そして衣類の襟元を緩めながら格納庫へと走り出した。

 

 

 

 Tシャツとトランクスだけになったキースは、マローダーの操縦席に飛び込んで、マローダーを起動する。そしてすかさず彼は指令室との通信回線を開き、司令室のシステムを介して気圏戦闘機隊との通信回線を構築した。気圏戦闘機隊からの報告が、次々に入って来る。

 

『こちらアロー1、敵ユニオン級は必死に抗戦してるっす!ただ気圏戦闘機は載せてないみたいっす!』

『こちらアロー3より全機へ、アロー1を先頭にトレール(縦一線隊形)を組んで1ヶ所を集中攻撃!』

『『『『『了解!』』』』』

 

 アローと言うのは、いちいち気圏戦闘機名を叫ぶのが時間の無駄になるため、最近決められたコードネームだ。アロー1からアロー4がライトニング戦闘機1番機から4番機、ビートル1とビートル2がトランスグレッサー戦闘機1番機と2番機である。

 

『こちらアロー3、当機とアロー4、ビートル2が敵ユニオン級の攻撃を受け損傷!離脱許可を求めます!なお敵ユニオン級は強引に降下を試みています!ですがあの角度では、ドラコ連合制圧地域には降りられないものと思われます!』

「アロー3、アロー4、ビートル2は離脱し、遠距離からの観測にうつれ。アロー1、アロー2、ビートル1は敵ユニオン級に攻撃を続行し、できるかぎり予定地点A、B、Cのいずれかに降りる様に誘導しろ。指令室、「裏データ」を参照し、敵の予測降下位置を割り出せ。判明したなら、こちらにデータ転送しろ。」

 

 そしてキースは、マローダーを格納庫の外へと歩き出させた。

 

 

 

 今、キースたち『SOTS』のメック部隊全機――訓練生除く――は、IR偽装網で姿を隠し、敵ユニオン級降下船が降りて来るのを待っていた。「裏データ」から割り出された敵降下地点は、さすがにキースたちの予定通りにはいかず、予定B地点から南西に20km離れた場所だった。ちなみに予定B地点は、オーバーゼアー城から真北に25km地点である。

 アーリン中尉が感慨深げに言った。

 

『けど、惑星軍の対宙監視レーダー基地、やっぱり細工されていたのね。』

「ああ、そうであって欲しく無かったんだがな。ネイサン軍曹とパメラ軍曹が変装してレーダー基地に潜り込んで、パメラ軍曹が細工を発見した。そしてその細工の上から更に細工をしたんだ。」

『いったいどの様な細工であったのでありますか?』

 

 ケネス中尉が、キースに問いかける。キースは頭を振りながら答えた。

 

「敵降下船の出している信号を受信したら、レーダーからその降下船の影を消す様にしてあったのが1つ。そしてこちらの気圏戦闘機の位置情報を地上のドラコ連合軍に送るのが1つ。

 惑星軍の対宙監視大型レーダーは、敵の目として利用されていたのさ。地上のドラコ連合軍は、高指向性の通信で降下船にこちらの気圏戦闘機の位置情報を送り、CAPの隙間を掻い潜らせたんだ。

 だからこちらはこちらで、消したはずの敵降下船のレーダー映像をオーバーゼアー城に送る様な細工と、味方の気圏戦闘機の位置情報を書き換える細工を施したんだ。パメラ軍曹によれば、単にコンピュータのプログラムによる細工であって、こちらからの遠隔操作でいつでも元々の敵が施した細工ごと破棄できるらしい。こちらの足跡は残さずに、敵の足跡だけは残してな。専門的な説明はちんぷんかんぷんだったが。

 ……だが、この様な細工が為されていると言うことは、だ。」

『ドラコ連合の工作員が、そんな深いところまで潜り込んでいるってことですね。』

「ああ、その通りだ。」

 

 ヒューバート大尉の言葉を、キースは肯定する。ちなみに指令室のオペレーターたちには、「裏データ」をどうやって入手したかは説明していない。コンピュータや通信機器の表面的な扱いのみしか知らないオペレーターたちは、どこからどうやって持ってきた情報なのか、わかっていないのだ。

 ケネス中尉は絶句した。

 

『なんと……。』

「ケネス中尉、呆けている場合じゃないぞ。なんとかしてドラコ連合のスパイ網の尻尾を掴んで、惑星政府に警告せねばならん。だからこそ、1回限りの様な手を使って、敵降下船を撃沈せずにこちらに追い込んだんだ。

 なんとしても船長クラスの人間を捕虜にせねばならん。船長クラスの人間であれば、スパイ網から情報を受け取る以上、なにがしかの情報は持っている可能性が高いからな。」

『りょ、了解であります!』

 

 言っている間にも、やがて空の彼方からこちらへ向けて降りてくる、西瓜の様な球体の影が見えた。それに纏わりつく様にして、味方の気圏戦闘機の影が見える。球体の影……敵のユニオン級降下船は、ふらふらと頼りない飛び方をしていた。どうやら、かなりの損傷を被っているらしい。

 

「各員、招待したお客がやって来たぞ。せいぜい歓迎してさしあげるとしよう。……アロー1、アロー2、ビートル1、そろそろ推進剤がやばいだろう。もういいから、オーバーゼアー城に帰還せよ。」

『『『了解!』』』

 

 敵ユニオン級降下船は、気圏戦闘機が離れて行くのを待っていたかの様に、大地にその船体を降ろして行く。だがあとわずかで着陸すると言うその時、突然推進器の1つが小爆発を起こした。敵ユニオン級降下船は、斜めに傾いで地面に落着する。キースは叫んだ。

 

「全機、IR偽装網排除!敵ユニオン級降下船を包囲下に置け!歩兵部隊は突入準備!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 キースたち『SOTS』のバトルメックはIR偽装網を引きちぎりつつ立ち上がり、時折あちこちから煙を噴き上げる敵ユニオン級降下船を包囲した。と、その時ユニオン級降下船の上部ハッチ……気圏戦闘機ベイのハッチが開く。キースたちは武装をそちらへ向ける。

 だがそのハッチから出て来たのは気圏戦闘機ではなく、どうやら上級船員と思しき制服を着用した人間であった。そしてその人間は、鉄筋とシーツで作られた、赤いS字が描かれた白旗を大きく振り回した。この赤いS字が描かれた白旗は、アレス条約で定められた万国共通の標準降伏旗である。キースは外部スピーカーを使い、その人間に呼びかけた。

 

「降伏を認める。ハッチを開き、下船せよ。」

「下部ハッチが、壊れて開かないんだ!降りられない!脱出用の機材も壊れて動かない!なんとかしてくれ!」

「……今、こちらの城からフェレット偵察ヘリコプターで整備兵を呼ぶ。その者たちがハッチを外部から解放できればよし、できなければフェレット偵察ヘリコプターで数名ずつ運ぶしかないな。それまで待てるか?」

「できるだけ急いでくれ!重傷者が出ているんだ!」

「わかった。軍医も一緒に呼ぶ。」

 

 キースはオーバーゼアー城に連絡し、フェレット偵察ヘリコプター2機を呼び寄せた。以前の教訓に従い、既に搭乗員を養成していたのである。無論のこと、整備兵であるサイモン老、ジェレミー軍曹、そして軍医キャスリン軍曹もそれに乗り、やって来ていた。

 キャスリン軍曹の診察の結果、重傷者2名はこのままでは命が危ないとのことで、フェレット偵察ヘリコプターのうち1機を使い、機動病院車MASHが待っているオーバーゼアー城へと運ばれていった。そしてサイモン老とジェレミー軍曹の働きにより、敵ユニオン級降下船の人間用ハッチの1つを解放することに成功、乗員たちを救助することができた。もっとも彼らは、そのまま捕虜となるのであるが。

 最初に降伏旗を振っていた上級船員らしき男が、キースのマローダーに向かい口を開く。

 

「船員の命を助けてくれて礼を言う。」

「捕虜の人権は、条約で認められているからな。ただし、所属や氏名、認識番号などきちんと申告してもらうぞ。それと、若干の尋問も覚悟してもらおうか。まあ無茶なことはするつもりは無いが。」

「わかっているさ。それでも礼を言わせてもらう。船員の命を預かる船長としては……。船長、か。ここまで壊れてしまっては、もう駄目かもな、とほほ……。」

 

 キースは内心で少々驚く。この威厳の無い男が、船長だと言うのだ。何と言うか、それらしい雰囲気が全く無い。

 

「船長?貴官がこの降下船の船長なのか?」

「ああ、そうだ。ユニオン級降下船アタゴ号船長、ヨシロウ・ハヤシ中尉だ。らしさが無いのは自分でもわかってる。先代から船を受け継いだばかりだからな。」

「……そうか。聞かせてもらいたいことが、色々ある。」

「はは、お手柔らかに……。」

 

 こうしてキースは、敵降下船の船長を捕虜にすると言う、目的の第1段階を達した。だがこのらしくない船長が、必要な情報を持っているのか、持っているとして話させることができるのか、それは今のところまったくの不明であった。




今度の敵は、今のところ戦車や歩兵ばかりを使ってメック部隊にぶつけております。ちょっとばかり「?」と思いますが、小説内でも触れられていますが徴発を兼ねた威力偵察なのですよねー。
そして不幸中の幸い的に、今まで第1中隊の火力小隊しか戦闘に出してなかったため、味方の戦力はばれていない事になります。


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『エピソード-041 敵スパイ網』

 エルンスト・デルブリュック曹長、パメラ・ポネット軍曹、そしてフランツ・ボルツマン伍長が、オーバーゼアー城の司令執務室でキースに向かい、捕虜の尋問結果を報告していた。彼らは一様に高い尋問技術を持ち、手分けをして前回得た数多くの捕虜を尋問していたのである。エルンスト曹長が、一同を代表して話す。

 

「ユニオン級降下船アタゴ号船長、ヨシロウ・ハヤシ中尉の尋問が終了しました。本人は黙っていようとした模様ですが、なんとか口を割らせることに成功しましたよ。やはり惑星上のドラコ連合軍から、こちらの気圏戦闘機のいないはずの軌道を指示されて降下しようとしたそうです。

 また、惑星上の対宙監視大型レーダーは黙らせる工夫がしてあると言い含められていたのも言質が取れています。他にも細々した情報もありますが、それについてはこの報告書に纏めてあります。」

「よくやってくれた。これで惑星政府に堂々と敵スパイ網、敵工作員について警告することができる。」

 

 大きく頷いてキースは、笑みを顔に浮かべる。エルンスト曹長は、小さく左右に顔を振って言った。

 

「いえいえ、ハヤシ中尉の尋問を担当したのはパメラ軍曹ですからな。尋問技術では、既に私を超えていますな……。男子3日会わざれば刮目して見よと言いますが、正しくその通り。」

「あのー、私女です。男子じゃありません。」

「ははは、申し訳ない。」

 

 パメラ軍曹の抗議に、エルンスト曹長は笑って謝罪する。その様子を笑って見ていたキースだったが、少し考え込んだ表情になった。エルンスト曹長が、怪訝に思ったのか質問する。

 

「どうなされました?」

「ああ……。いや、な。この情報を何処に報告した物か、と思ってな。普通に考えれば、こちらとの交渉チャンネルのある惑星政府そのものなんだが、それをやると惑星軍の顔を潰すのではないか、と思ったんだ。

 かと言って、こっそり惑星軍に通報しようにも、惑星軍とはレーダー情報などのデータリンクこそできているが、直接の対話チャンネルは無い。いちど惑星政府にこちらから話を上げて、そこから惑星軍に話を下ろしてもらうと言う手順を通さねばならないんだ。

 前任の『エフシュコフ剛腕隊』は、資料ではその辺は部隊の隊員同士でできた人脈を使って解決していた模様なのだがな。この惑星に来て日が浅い俺たちでは、その手段は取りたくても取れん。やはり惑星政府に正直に言うしかないか?」

 

 と、そこへ司令執務室のドアホンが鳴った。キースは卓上の端末を操作して通話状態にする。

 

「誰か?」

「サイモン少尉ですわ。鹵獲した降下船アタゴ号についてご報告に上がりましたでのう。」

「入室を許可する。」

 

 サイモン老が司令執務室へ入って来る。彼はその両手に持った書類束を司令席の卓上に置くと、にやりと笑って言った。

 

「ユニオン級降下船アタゴ号の応急修理に成功しましたわい。隊長のご命令があり次第、誰か降下船の副長あたりの手を借りて城に回航できますでのう。いや、今回はぶち壊れ方が酷くて、なかなか大変でしたが、一応飛べると言うことで「破壊」ではなく「鹵獲」と見てもらえますの。破壊は価格の1/100、鹵獲は1/10のボーナスですんで、大きく違いますからのう。大儲けですわ。

 それと、載せられていたバトルメックですが、70tウォーハンマー1機、70tK型アーチャー1機、60tドラゴン2機、65tK型クルセイダー2機、55tK型ウルバリーン2機、45tK型フェニックスホーク2機、20tK型ワスプ1機、20tスティンガー1機の1個中隊。それに加え大量の物資が詰め込まれていましたわい。これが敵の手に渡っていたらと思うと、いささかぞっとしませんのう。」

「敵の増援と補給を阻止できたのは幸いだったな。早速城に回航させてくれ。そうだ、エルンスト曹長、敵の補給の話になって思い出した。捕虜のハヤシ中尉は、敵の補給状況について何か知らなかったか?」

 

 キースの問いに、エルンスト曹長は肩を竦めて言う。

 

「彼が知っていたのは、彼自身が船長見習い時代に、アタゴ号が前回行った敵への補給についてだけでしたな。我々がこの惑星に来る前の話ですがね。そのときは、ドラコ連合でも送れるメック戦力に余裕が無かったため、戦車をメックベイに詰め込んで来たそうですが。」

「敵のバトルメックが、さほど増えていなければ良いんだがな。しかし、本当にどうした物かな……。できれば惑星軍の顔は潰したくないが、早急に敵スパイ網の存在について警告せねばならん。」

「何の話ですかの?隊長。」

「ああ、いや何でも……。いや、サイモン少尉なら幹部扱いだからかまわんか。実はな……。」

 

 できるだけ事情を簡単に噛み砕いて、キースはサイモン老に説明する。サイモン老は少し首を傾げて考えていたが、ふと顔を上げた。

 

「ライナーに相談してみては、いかがですかのう?」

「ライナー?今の彼は自由執事だぞ?」

「だからこそ、ですわ。ライナーはこの惑星に来てから、色々とあちこちに顔つなぎをして、コネを作るのに一生懸命になっておりましたでのう。自由執事としての仕事に役立つやも知れないと思ってのことでしょう。

 わしも恒星連邦とライラ共和国に色々伝手は持っておりますがの、国家の政府に関わる要職への伝手がほとんどで、ライナーの様に地域密着型のコネは持っておりませんですわ。」

 

 その台詞に、キースは目を見張る。自由執事ライナーのコネを上手く使えれば、惑星政府を通さずに、惑星軍に情報を流せるかもしれない。キースは早速ライナーに連絡を取った。

 

 

 

 連盟標準時では次の日、惑星時間ではまだ当日の午後に、キースはライナー及び運転手のジャスティン伍長と共に、惑星ネイバーフッドの首都ディスプレイスにやって来ていた。ちなみにこの惑星ネイバーフッドの自転周期は48.8時間であり、ほぼ連盟標準時の2日にあたる。基本的に軍人や政府筋の人間は連盟標準時を使っているのだが、一般人、それもこの惑星の人口の6割を占める農業に従事している人間は、惑星時を使用することが多い。

 とあるカフェの、密談に向いた奥まったボックス席で、キースとライナーは惑星軍の軍服を着た、何と言うか服に着られている感じの人物と向かい合っていた。その人物は、本来は普通の服が似合いそうな、しかし普通の服を着たら一般大衆にとけ込んでしまい、所在すらわからなくなりそうな感じの人物である。

 ちなみに運転手のジャスティン伍長は、1人離れてカウンター席でコーヒーを飲んでいる。彼は階級も低く、あまり秘密の話に接させるわけにもいかないからだ。

 ライナーが件の人物をキースに、キースを件の人物にそれぞれ紹介する。

 

「キース少佐、こちらが惑星軍情報部のヴィタリー・ウラディミロヴィチ・グルィビン少佐です。グルィビン少佐、こちらはライラ共和国惑星守備隊司令官、キース・ハワード少佐です。」

「自分はキース・ハワード少佐です。グルィビン少佐、よろしくお願いします。」

「これはご丁寧に。私は惑星ネイバーフッド惑星軍陸軍情報部の、ヴィタリー・ウラディミロヴィチ・グルィビン少佐です。こちらこそよろしくお願いいたします、ハワード少佐。」

 

 この人物に対し、腹芸は通用しないどころか危険だと見て取ったキースは、単刀直入に行くことにする。彼はいきなり本題に入った。

 

「本日この様な場を設けさせていただきましたのは、理由があります。……ドラコ連合の間諜もしくは工作員が、惑星軍内部に潜んでいる可能性があるのです。先日捕らえた敵降下船の船長を尋問した結果、惑星軍の対宙監視大型レーダーを、黙らせる工夫がしてあると言う情報が得られました。こちらがその尋問の調書と、録音のコピーです。

 さらにこれは推測でしかありませんが、大型レーダー施設から我が部隊の気圏戦闘機の哨戒軌道の情報が、ドラコ連合軍に漏れた可能性もあります。推測の根拠はありますが、今はまだ確証が掴めている段階では無いので、それはご勘弁下さい。」

「……いきなりですな。ですがそれは大変な話ですな。この話を私に持って来て、惑星政府に直接報告しないのは、惑星軍の面子を慮って下さったからですな?しかし……不用心ですな。私がドラコ連合のスパイ網の一翼を成す人間だったら、どうなさるおつもりだったのです?」

「先ほど惑星軍統合参謀本部のルッジェーロ・カンパネッラ少佐にお会いして同じ情報をお渡ししております。そしてこれから海軍情報部エイブラハム・チェンバレン少佐にも同じ用件でお会いする予定でして。

 3人のうち誰かがスパイであって、この情報を握りつぶそうとしても、他の方が動いてくださればこちらの目的は達せられます。そして握りつぶそうと動いた人物が、スパイであると言う目星がつけられるわけですね。

 そして万一お会いした方がスパイであって、こちらの抹殺を企んだ場合……。」

 

 キースの隣に控えていたライナーの手の中に、魔法の様に拳銃が現れる。グルィビン少佐の顔が一瞬、ほんのわずかな間だけピクリと動いた。ライナーは左腕こそ義手だが、右手は自由に動くのである。

 ライナーは引き金を無造作に引く。すると銃口に小さな炎が灯る。拳銃型のライターだった。グルィビン少佐は、おもむろに懐から紙巻き煙草を取り出すと、その炎で火をつけた。彼は言う。

 

「こいつはどうも。いや、この煙草は安くて美味いんですよ。1本いかがですかな?」

「いえ、自分はご存じの通りまだ若僧なので。」

「おっと、そう言えばそうでしたな。いや、その威容からはとても17歳とは思えませんよ。」

 

 無論、キースはグルィビン少佐に年齢を告げたことなど無い。腹芸は危険だと考えたはずなのだが、まあこの程度のジャブの応酬ならばかまわないだろう。

 

「では確かにこの調書と録音のコピーはお預かりしました。実を申しますと、こちらでも情報漏れは気にはしていたのです。ですがこれで、レーダー基地の整備に関わる人間が怪しいことがわかりましたからね。早急に動くことにいたしましょう。

 さっそく仕事に戻りたいので、申し訳ありませんがこれで失礼いたします。ファーベルクさん、今日のことは1つ借りておきましょう。いつかお返しできる機会があればよろしいのですが。」

「はい、今日はわざわざありがとうございました。」

「グルィビン少佐、あまりお気になさらないでください。借りだと思ってくださるのでしたら、『SOTS』全体に対して返してくださると嬉しいですね。ではまたお会いしましょう。」

 

 グルィビン少佐は、すっと席を立つと目にもとまらぬ早業で伝票を取り上げ、足早にレジへと去って行く。キースとライナーは苦笑した。

 

「やれやれ、せめてジャスティン伍長のコーヒー代くらいは俺が払うとしようか。部隊で一番高い金額を貰ってるんだから。」

「でもキース少佐は自分の儲けを部隊のために注ぎ込んでますよね?部隊の予算で買うべき物をご自分のお金で買ったり。」

「あー、まあな。それでもまだ、俺個人じゃ使い切れん金額が残るんだ。大丈夫だろう。」

「いや、将来のご結婚のために貯金しておくなり、しておくべきかと私は思いますがね。」

「……結婚なら、ライナーの方が先だろう?」

 

 キースたちもまた、席を立つ。ジャスティン伍長がそれに気付いて、カウンター席を立った。彼らにはもう1件、先ほどグルィビン少佐に言った通りの用事が残っている。レジでジャスティン伍長の分のコーヒー代を支払うと、キースたちは次の約束の場所へと向かった。

 

 

 

 仮想空間の中で、サンダーボルト1機とウィットワース2機が一斉に長距離ミサイルを発射する。イヴリン訓練生の声が響いた。

 

『ウィットワース2機は歩行移動で後退!相手との距離を稼いで!サンダーボルトで前進して防壁になるわ!』

『『了解!』』

 

 エドウィン訓練生、エルフリーデ訓練生がそれに応える。ウィットワース2機は、ゆっくりとした動きで後方に退避し、サンダーボルトは全力で走行して前に出た。キースは褒めるべきところは褒めておこうと言う考えで、その判断を称賛する。

 

「基本通りで面白みは無いが、だからこそ破綻し難く有効な手段だ。基本を大事にするのは、いついかなる場合でも大事だ。正直、俺でもこのフォーメーションを正面から崩すのは難しいな。なら……。ふむ、ちょっとした奇策を見せてやろう。」

 

 プログラムで動いているフェニックスホーク2機を従えたキースのグリフィンが、いきなり全力で疾走する。その間、まったく射撃はしない。

 

『え?』

 

 イヴリン訓練生の怪訝そうな声が聞こえる。キースの腕ならば、たとえ疾走して零距離であっても、粒子ビーム砲を命中させるぐらいはそう難しくないはずだからだ。だがキース機はまったく射撃しない。

 次の瞬間、キース機のグリフィンは右肩からサンダーボルトに衝突していた。イヴリン訓練生操るサンダーボルトは、胴中央から右胴にかけての装甲板を大きく削り取られ、無様に転倒する。キース駆るグリフィンもまた、衝突により多少の損傷を受けたが未だ立っていた。

 キースの声が響く。

 

「これが最後の最後、本当に最後の手段、突撃だ。相手に信じがたいダメージを与えるが、代わりに自機にも大きなダメージを受ける。貴様たち自身がこの攻撃方法を取る必要は無いが、敵がこの方法を用いる可能性だけは頭に入れておけ。

 疾走してきた敵メックや敵車輛が、まったく射撃を行う気配を見せなかったら要注意だ。その場合の対処は、その敵機に攻撃を集中して転倒させてしまえ。わかったか?」

『は、はいっ!!』

『『はいっ!!』』

 

 キースの説明はまだ続いていた。

 

「それとこの攻撃方法を取る馬鹿は滅多にいないと思うが、一応見せてやる。」

『え?』

 

 キース機のグリフィンは、ジャンプジェットに火を入れて高々とジャンプすると、そのままエドウィン訓練生のウィットワースの上に飛び降りた。ウィットワースは頭部にドロップキックを浴びて、その部位を消し飛ばされる。

 

『わああぁぁ!?』

「突撃の変形だが、ジャンプして相手の真上から飛び降りることで、バトルメック最大の弱点である頭に攻撃を集中させやすくする。ただし命中させるのは至難の業だ。やって来る奴はまずいないと思うし、やってもまず命中せん。そして命中しなかったら、勢い余ってメックはすっ転ぶ。

 貴様たちも、絶対にやるなよ?もしやったら、懲罰として拳骨をくれてやる。今見せてやったのは、あくまで悪い例だ。見せてやらなくても、勝手に思いついて実行しかねないからな。だからあらかじめ見せてやって、やらない様に心がけさせる方が良いと考えた。

 どうせ敵の頭を狙うなら、次に見せる方法こそが本命だ。」

 

 そう言うとキースは、もう1機のウィットワース、エルフリーデ訓練生機に走り寄ると、両手で攻撃を見舞う。左拳はウィットワースの右胴にぶち当たったが、右手に握られた粒子ビーム砲の砲身は、見事にウィットワースの頭部を捉えた。

 

『きゃああ!!』

「こうやってパンチで相手の頭を狙った方が、よっぽど良い。ただしパンチで使う腕に装備してある武器はわずかな間だが使えなくなるから、そこは注意しろ。

 なお、どんな強固なバトルメックでも、55t以上のメックのパンチ2発を頭に貰えば、あっさりと沈む。ただし格闘距離では、敵の方もパンチを返してくる可能性を考えておけ。」

『了解っ!こうですね!?』

 

 いつの間にか起き上って近寄って来ていたイヴリン訓練生のサンダーボルトが、パンチ2発を放ってくる。キースはにやりと笑った。パンチの1発は、張り出したグリフィンの右肩が防ぐ。その代償として、グリフィンの右腕は吹き飛んでしまった。グリフィンの右肩は、先ほどの突撃の反動で大きく傷ついていたのだ。

 そしてもう1発のパンチがグリフィンの頭に命中する。キースの乗ったシミュレーターの筐体が大きく揺れた。

 

「いいぞ!こちらの背後を取ったのも良い!背後を取れば、たとえ機体の上半身を捻っても、片腕で一発のパンチしか打てない上に、キックは絶対に出せないからな!後は場合によって、キックとパンチのどちらを選択するかも考えておけ!

 さて、奇策を見せてやると言う目的は充分果たした。あとは真っ当にやるとするか!」

 

 グリフィンが再度ジャンプジェットに点火する。150mの距離を飛び越え、キース機はサンダーボルトから大きく距離を取った。イヴリン訓練生はシミュレーター上とは言え、キースを撃墜する機会に発奮したのか、必死に追いすがろうとした。

 だがそれを、プログラム制御のフェニックスホーク2機が阻む。無論、キースの指示だ。イヴリン訓練生はやむなくサンダーボルトの上体を捻り、フェニックスホーク2機とグリフィンに機体の左側面を向けた。胴体ど真ん中と機体の右側は、先ほどのキース機の突撃でボロボロになっていたためである。

 キースのグリフィンから、10連長距離ミサイルが発射される。それはサンダーボルトではなく、エルフリーデ訓練生のウィットワースに命中した。エルフリーデ訓練生は叫ぶ。

 

『きゃあああ!!』

「イヴリン訓練生!指示を出さんか!エルフリーデ訓練生!叫んでいないで回避行動を取るなり撃ち返すなりしろ!」

『は、はいっ!!エルフリーデ訓練生、走行で前進してキース少佐機を長距離ミサイルの近距離射程に入れて、撃って!』

『りょ、了解!』

 

 イヴリン訓練生は、プログラム仕掛けのフェニックスホーク2機のうち、1機の脚を蹴り折ったところだ。ウィットワースからのミサイルが、キース機の周辺に着弾する。だが命中弾は無い。キースはにやりと笑った。

 

 

 

 結局のところ、このシミュレーター訓練で、訓練生たちはキースを撃墜することは叶わなかった。キース機が右腕を飛ばされたのとて、突撃その他の実演をしたための自爆に近い。

 キースが本気で対処するなら、遠射程から粒子ビーム砲なり長距離ミサイルなりで大人げなく狙い撃ちにしてしまえば、訓練生たちにはどうしようも無くなる。まあ、それでは訓練にも教育にもならないので、あえて中距離以内に踏み込んだのだが。

 

「惜しかったな。だが各々充分に成長が見られる。今後ともこの調子で励む様に。」

「「「はいっ!!ありがとうございます!!」」」

「真っ先に撃墜されたエドウィン訓練生、あれは運が悪かったんだ。飛び降り攻撃がまともに当たるなど、可能性は低い。実演した俺も驚いているぐらいだ。だからそこまで落ち込むな。ただし、並の馬鹿ならやらんだろうが、超級の馬鹿ならもしかしてやるかもしれん。警戒だけは怠るな。」

「は、はいっ!!」

 

 おもむろにキースは、時計を確認する。

 

「さて、そろそろ俺は時間切れだ。もう少し相手をしてやりたくはあるが……。」

「なら俺たちが代わりに相手をしてやるよ、隊長。今日はチーム戦の訓練だっつーから、お任せしたんだけどよ。今までエドウィンの鍛錬に使ってた時間が空いちまって、手持無沙汰になっちまってたんだ。」

「同じくあたしも。エルフリーデの鍛錬に使ってた時間がぽっかり空いたら、何やっていいかわかんなくなっちゃった。」

 

 突然やって来たのは、アンドリュー曹長とエリーザ曹長である。訓練生たちは、彼らに敬礼をした。彼らも訓練生たちに答礼を返す。

 キースは彼らの台詞を聞き、にっこり微笑んだ。ただし、目は笑っていない。

 

「やはり貴様ら、士官任用試験を受けてみてはどうか?能力的には充分合格を狙えるぞ?ぜひ士官になって、俺の仕事を手伝ってくれると嬉しいのだがな。ヒマな時間など、一切合財無くなって、充実した毎日を送れるぞ?」

「ぶるぶるぶるっ!!堪忍してくれよ隊長っ!」

「調子に乗って、悪かったから!」

「ふう……。まあ、なら後の訓練生たちの面倒、見てもらうとしよう。アンドリュー曹長がシミュレーターに乗り込んで直接の訓練生たちの相手、エリーザ曹長が指揮卓から全体の監修でいいだろう。

 イヴリン訓練生!エドウィン訓練生!エルフリーデ訓練生!アンドリュー、エリーザ両曹長より本日の残り時間、指導を受けろ!俺は仕事があるので、本日はこれでおさらばするが、後から両曹長より報告を受けるから、無様な真似をすればきっちり俺に伝わると思え!」

「「「了解!!」」」

 

 訓練生たちは一斉にキースに敬礼をする。キースも答礼を行い、踵を返した。

 

「あ……。」

「ん?」

 

 イヴリン訓練生が、何やら言いかけた。キースは足を止める。

 

「何か?イヴリン訓練生。」

「い、いえ!何でもありません!」

「……そうか。ではまた明日だな。まあ宿題がわからないときは、訊きに来ても良いが。その場合は早目に来い。ではな。」

「はいっ!」

 

 今度こそキースは、シミュレーター室を出て行った。彼は歩きながら、考え込む。

 

(……エリーザ曹長が、最後チェシャ猫の様な笑いを浮かべていたのが気になるなあ。まあ置いとこう。物凄く気になるけど、気にしたら負けだと言う予感がひしひしとする。

 さて、エリオット中尉とアイラ軍曹の報告を聞かないとな。司令執務室に戻らなくっちゃ。その報告しだいでは……大掃除だな。)

 

 キースの表情は、いつしか厳しく顰められていた。

 

 

 

 キースが司令執務室に戻ってさほど時を置かず、歩兵中隊中隊長のエリオット中尉と偵察兵のアイラ軍曹が、キースにある報告をするためにやって来る。キースは彼らを司令執務室に迎え入れた。

 

「……入室を許可する。」

「「失礼します。」」

 

 アイラ軍曹がキースに敬礼をする。エリオット中尉は歩兵なので、敬礼をしない。キースは早速彼らに質問した。

 

「で、どんな具合だ?この城に「草」はいるか?」

「はっ!前任の部隊『エフシュコフ剛腕隊』の薫陶がかなりよろしかった様で、どの者たちも惑星政府への忠誠は厚く、なおかつ駐屯している惑星守備隊の人員に対しても友好的であります。

 まあタマラー協定領は独立運動が盛んな場所柄なので、ライラ共和国その物に対する忠誠度はわからないところもあるのですが。しかし、表からそれとわかる敵の「草」は見つかりません。」

「色々聞き込んでみたんですが、はっきりと怪しいと言える者はいません。オーバーゼアー城には敵スパイは潜入できなかったか、最初から諦めたのか、またはいざという時まで普通の城勤めを装って敵本隊との接触も完全に断った「スリーパー」なのでしょう。仮に「スリーパー」が居るとしまして、よほど決定的な状況にならない限り本性は現さないでしょう。」

「なら不安は残るが、当面は大丈夫と見て良いわけだな。面倒な仕事を頼んで済まんが、これからも定期的な監査を頼んだぞ。特に新たな者たちを雇い入れた際が要注意だな。助整兵は不足気味だから、どうしても雇わねばならない。

 警備をする歩兵もこの城の規模では、1個中隊では足りない。1個中隊でも信頼できる歩兵がいるのは幸いではあるがな。臨時雇いを入れる予定もある。その中に毒水が混じる可能性は常に存在する。」

 

 キースの台詞に、2人は頷く。キースは難しい顔で続けた。

 

「なおかつ前任者同様、我々『SOTS』もこの惑星の社会に可能な限り密着して行かねばなるまい。基本は半年だが、半年で済むかどうかはわからんのだ。やはり楽な任務は無い、ということだな。

 休暇の際に首都ディスプレイスなどに出かけた際に、うっかり飲み屋などで内部情報を漏らさぬよう訓示しよう。まあどれだけ効果があるかはわからないが。いつまでも部隊編成などが漏れぬとは期待しない方が良いな。だがせめて、力量の程はしばらく隠し通すとしよう。

 同時に、敵戦力の把握もできれば良いのだがな。『エフシュコフ剛腕隊』ののこしてくれたデータは、残念ながら敵戦力が増強されてしまった以上、あまり役には立たない。惑星軍の陸海軍の情報部の力量に期待できるかな?まあ、どちらかと言えば防諜のための組織である様だしな。期待をかけすぎるのも酷か。」

 

 そう言うとキースは、窓際に近寄って外を眺めた。司令執務室の窓からは、城内の建築物のおおよそが見て取れる。その中でも比較的遠くに見える滑走路からは、修理なったライトニング気圏戦闘機3番機、アロー3が偵察に発進して行くところであった。

 

(今のところ、対処療法的に動くしか無いのか。一気に片を付けるのは困難だし、危険でもあるしな。)

 

 キースの内心の様に、アロー3が上昇して行く空は曇り空であった。




ドラコ連合クリタ家のスパイ網構築技術は、並大抵のものじゃ無いですねー。まあ、他の継承王家も負けてはいないハズなんですが……。強敵です。


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『エピソード-042 惑星政府からの依頼』

 敵降下船を鹵獲してから、1週間が経った。ドラコ連合軍の戦車と歩兵の混成部隊による『SOTS』に対する威力偵察も、ここしばらくは行われていない。忙しいのは、CAP(戦闘空中哨戒)やドラコ連合占領下地域に対する高高度偵察などに駆り出されている気圏戦闘機隊ぐらいである。

 気圏戦闘機隊はこの1週間のうちに、ドラコ連合軍に補給をしに来たと思われるユニオン級降下船を1隻、ジャンプポイントに追い返している。無理をすれば撃沈することも不可能ではなかったと思われるが、キースが無理をさせなかったのだ。

 そう言えば、忙しい人物がもう1人ばかり存在していた。言わずと知れた、キースその人である。彼はライラ共和国惑星ネイバーフッド守備隊司令官としての仕事、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令としての仕事、そして訓練生たちの教育担当官と訓練教官としての仕事を抱えていたのだ。

 だが彼はその恐ろしいタフさで、平気な顔でこれらの仕事をこなしていたりする。まあもちろん、本人の能力だけではない。ヒューバート大尉やアーリン中尉、サラ中尉待遇少尉、マテュー少尉、その他諸々の士官が書類仕事を手伝っているし、アンドリュー曹長とエリーザ曹長が訓練生たちの訓練を手伝ってくれるからこそ、彼はこの激務をこなしていけるのだ。

 そのキースは今、司令執務室で電話口に向かい、忙しく話しつつ右手でメモを取っていた。

 

「……なるほど、そのお嬢さんを保護するのですね。はい。はあ、ですがその親御さんが仰られる通り、ドラコ連合に拉致された可能性があるとすれば、戦闘が発生する可能性が……。はい、はい。その場合はそういう事でお願いします。了解しました。至急、適切な者を選び派遣いたします。はい。

 ……は?もう1件ですか?はい、はあ……。」

 

 しばらく電話で話した後、キースは電話を切ると溜息を吐いた。書類整理を手伝っていたアーリン中尉とマテュー少尉が怪訝そうな顔で、口々にキースに訊ねる。

 

「いったいどうしたんですか?そんな疲れた顔をして。」

「何処からの電話だったんです?」

「いや、惑星政府のトゥール・メランダー首相からだ。前任の『エフシュコフ剛腕隊』部隊司令エフシュコフ少佐も、こうやって色々頼まれていたんだろうな。2件ほど、頼み事をされた。いずれも戦闘任務に準ずる報酬を支払っていただけるそうだ。

 つまり1件ごとに1個メック小隊あたり50,000Cビル相当のSHビルだ。今のレートで45,500SHビルだな。ただ1件あたり可能ならば最大で、1個メック小隊相当の戦力までしか動かさないで欲しい、とも言われたな。

 まあ、断るわけにもいかんだろう。どちらもドラコ連合がらみらしい仕事だし、そうでなくとも惑星政府との関係を考えるとな。」

 

 再び溜息を吐くキースを前に、アーリン中尉とマテュー少尉は目を丸くした。ちなみにSHビルとは、ライラ共和国の継承王家であるシュタイナー家が発行している紙幣である。恒星連邦のDHビルに比して若干価値が高い。ただしライラ共和国以外での価値が保証され難いのは、同様だ。アーリン中尉が訊ねる。

 

「いったいどんな依頼を受けたんですか?」

「1件目は、行方不明事件だそうだ。惑星政府の要人スティーグ・ブラックバーン国防大臣の娘でラヴィニア・ブラックバーン、15歳。ブラックバーン氏はラヴィニア嬢がドラコ連合のスパイ組織に攫われたに違いないと言っているそうだ。

 ただし彼は何でもドラコ連合のせいにするらしくてな。まあ、本当にドラコ連合のスパイの仕業だったらえらいことだし、そうでなくともラヴィニア嬢が行方不明なのは間違いのないことだ。惑星首都ディスプレイスの警察と協力して事に当たって欲しいそうだ。アイラ軍曹とネイサン軍曹を任に当たらせようと思う。」

「それは急いで見つけてあげないといけませんね。まだ15の娘さんでしょう?さぞかし心細いことでしょう。」

 

 マテュー少尉の言に、キースは頷く。そしてキースは話を続けた。

 

「もう1件は、惑星軍の対宙監視レーダー基地に技術者を派遣して欲しいと言ってきたよ。例のドラコ連合の降下船の影を消したり、うちの気圏戦闘機の軌道情報をドラコ連合に流したりする細工の形跡を、『SOTS』の技術者に調べてもらいたいそうだ。

 コンピュータに細工されたらしいことまではわかったらしいんだが、惑星軍の技術者ではそれ以上のことはできなかったらしい。うちに凄腕のコンピュータ技師がいることを知って、話を持ちかけて来たんだ。できるなら、データの流れを辿ってデータの送り先、つまりドラコ連合のスパイの居場所を見つけて欲しいと言ってきた。」

「ああ、パメラ軍曹が細工してあったところの上に細工を重ねたって、あれですね?」

「うむ。ある意味渡りに船だな。パメラ軍曹当人と、エルンスト曹長を派遣したい。運転手兼護衛に、ジャスティン伍長もつけてやるかな。」

「それがいいですね。はい、書類確認できましたよ。サインするだけにしてあります。」

 

 アーリン中尉から書類を受け取りつつ、キースは溜息を吐いてしみじみと言葉を紡ぐ。

 

「しかし、こういう仕事が舞い込んで来るとなると、偵察兵不足が痛いな。一応フェレット偵察ヘリコプターの搭乗員2人、ベネデッタ・フラッツォーニ伍長とアレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長も偵察兵なんだが、あくまでヘリ要員だから偵察兵としての能力はエルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹の3名にはまったく及ばない。

 やはりうちの弱点は人材不足だな。能力的には綺羅星のごとくだが、数が足りん。」

 

 おもむろに右手と左手で2つの書類に別々にサインをし、あっという間に書類を完成させたキースは、アイラ軍曹、ネイサン軍曹、エルンスト曹長、パメラ軍曹、ジャスティン伍長をそれぞれ呼び出すべく、指令室に内線電話で連絡する。

 

「指令室か?ああヒューバート大尉、俺だ。キース少佐だ。今から読み上げる者を、司令執務室まで呼び出してくれ。まず偵察兵のアイラ軍曹、ネイサン軍曹、エルンスト曹長。次に整備兵のパメラ軍曹。最後に歩兵部隊からジャスティン伍長だ。ああ、頼んだぞ。

 ……どうした?」

 

 キースが受話器を置き、周囲を見回すと、アーリン中尉とマテュー少尉が目を丸くしていた。

 

「……いえ、両手で別々の書類を書いてるのを見て、驚いたのよ……。いえ、驚いたんですよ。」

「……珍しい特技を持ってますね、隊長。」

 

 珍獣を見るような目で見られ、キースは多少落ち込んだ。

 

 

 

 ここはオーバーゼアー城の第1小会議室。ここで行われていた数学の授業が終わり、訓練生たち3名が椅子から立ち上がって直立不動の体勢になる。イヴリン訓練生が、号令を発した。

 

「敬礼!本日のご教導、ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

 

 イヴリン訓練生、エドウィン訓練生、エルフリーデ訓練生は、一斉に敬礼を決める。キースもきっちり答礼を決めた。

 ちなみにイヴリン訓練生は、数学や物理・化学、生物・地学などの自然科学分野に限っては、2つ年長のエドウィン訓練生やエルフリーデ訓練生よりも成績が良い。しかも以前は非常に苦手としていた連盟共通語など人文科学系分野についても、そこそこの点数を取れる様になって来ていた。

 キースは満足げに3人の顔を見渡す。と、ここで卓上の内線電話が鳴る。キースは急いで受話器を取った。

 

「こちら第1小会議室、キース・ハワード少佐。」

『こちら指令室です。キース少佐に外線電話が入っております。ネイサン軍曹からです。』

「軍曹から?こちらに回線を繋いでくれ。」

『はい、了解です。』

 

 すぐに回線が繋がれ、ネイサン軍曹の声が受話器から響いて来る。

 

『キース少佐ですか?今おひとりで?』

「こちらキース少佐。いや、今訓練生たちと一緒にいる。」

『……キース少佐、申し訳ないんですが、訓練生の坊やや嬢ちゃんたちには、と言うか今の段階では余人には聞かせたくない話なんで。部屋を出してもらえませんか?』

 

 思わずキースは眉根を寄せるが、訓練生たちに命令を下す。

 

「一同、解散!以後は速やかに衣服を着替え、シミュレーター室へ迎え!アンドリュー曹長とエリーザ曹長が待っている!復唱!」

「「「はっ!解散後、衣類を着替え、シミュレーター室へ向かいます!」」」

「よし、急げよ!」

 

 訓練生たちは会議室を出ると、宿舎の自分の部屋まで着替えのため急いだ。それを尻目に、キースは再び受話器へ話す。

 

「これで俺1人だ。」

『例の国防大臣の娘ラヴィニア嬢なんですがね、手掛かりを調べるためと言って、アイラ軍曹がラヴィニア嬢の部屋を捜索したんです。そしたら出るわ出るわ。色々な国防上の情報の写しが。

 どうやら小遣い稼ぎに、国防大臣が家に持ち帰った書類の写しや、口からポロっと漏らしたりした話を特定の人物に売っていた様なんですな。薬物に手を出していた形跡もあります。国防大臣は真っ青になって卒倒し、救急車で運ばれました。

 で、売り先の人物……薬物の売人でもあるらしい人物を、警察と協同で追ったんですが、どうやら本当にドラコ側の人間っぽいです。ラヴィニア嬢を連れて逃げ出しましたよ、ドラコ連合の制圧地域へ。今、アイラ軍曹がスキマーで追ってます。

 私はカーチェイスは足手まといなんで、何の情報が漏れたか調査してたんですがね。うちのメック部隊の編制が、一番最近漏れた情報に入ってまして。それがドラコ連合軍にまで届いているか、はたまた今逃げている奴が未だ持ってるかはわかりません。ああ、そうそう。例のレーダー基地のコンピュータのパスワードなんかもかなり前に漏れてましたな。』

「……届いてると見ていいだろうな。奴らが威力偵察をやらなくなった。」

『やれやれ、困ったもんですな。では引き続き調査に戻ります。これで失礼します。』

 

 ネイサン軍曹は苦り切った声で言い、電話を切った。キースもその頭脳を必死で回転させる。

 

(こちらの編成が漏れたと言う事は、メック部隊の数が中途半端な2個中隊でしかないことがばれた、と言うことだ。戦車部隊や歩兵部隊の編成はばれたとは言われなかったが……。漏れている可能性は否定できん。

 いやそれよりも、今現在の戦力でなんとかなると思い、この城に攻め寄せて来る可能性もある、か?)

 

 キースは考えながら、指令室へと向かった。

 

 

 

 指令室へ着いたキースは、気圏戦闘機隊からの報告を受ける。

 

『こちらアロー4、今のところ異常ありません。』

「敵がこちらに攻めよせて来る可能性もある、注意してくれ。」

『アロー4、了解。』

『こちらアロー1、宇宙は静かなもんっす。この間追い返してから、敵降下船は来なくなりましたね。』

「了解だ、アロー1。そろそろアロー2と交代しろ。」

『アロー1、了解っす。』

 

 そこへオペレーターがキースに向かい、声をかけた。

 

「キース少佐、エルンスト曹長より外線電話が入っております。そちらの卓にお繋ぎします。」

「了解だ。」

 

 キースは卓上の電話機の受話器を取った。エルンスト曹長の声が、キースの耳に届く。

 

『こちらエルンスト曹長。』

「エルンスト曹長、キース少佐だ。」

『キース少佐、バトルメック部隊1個小隊の出撃を要請します。敵機はスティンガー、K型ワスプ、ローカスト、K型フェニックスホークの偵察小隊編成。』

「少し待て、エルンスト曹長。……アーリン中尉、聞こえるか?第1中隊偵察小隊の出撃準備を至急頼む。どうやらエルンスト曹長がピンチらしい。」

『こちらアーリン中尉、了解!』

 

 卓上にある別の通信機器を使って、偵察小隊の出撃準備を指示したキースは、再度エルンスト曹長との電話に戻る。

 

「エルンスト曹長、何があった。」

『パメラ伍長が調べたデータの送り先がとある農業生産物の加工工場……マルティン野菜加工場だと判明したんで、パメラ軍曹とジャスティン伍長をレーダー基地に残してそこへ潜入調査をしたんですがね。いつの間にかそこが改築されていて、敵偵察小隊のメックが隠してあったんです。

 どうやら何処ぞに奇襲攻撃を行う準備をしていた様ですな。偽装された砲台もありまたが、それの動力の破壊には成功しました。しかしそこで潜入がばれた模様で、今ある部屋に隠れ潜んでいます。そこで電話回線を見つけたんで、通信機を使って電波傍受されるよりはと思って、それを使ってご報告を。』

「了解した。今から偵察小隊を送る。」

『ありがとうございます。っと、誰か来ました。それでは。』

 

 電話は切れた。キースはマルティン野菜加工場の位置をオペレーターに確認させると、アーリン中尉に出撃命令を下す。

 

「アーリン中尉、今そちらのメックに目標の位置を送信する。行ける最大の速度ですっ飛んで行ってくれ。敵はスティンガー、K型ワスプ、ローカスト、K型フェニックスホーク。他にメック以外の敵がいないとも限らん。充分注意してくれ。」

『了解!』

 

 キースは万が一に備え、他のバトルメックや戦車の準備もさせておくことにする。彼は全館に対する放送機器のスイッチを入れ、放送を行う。

 

「訓練生を除く全メック部隊、および機甲部隊、歩兵中隊に告ぐ。メック部隊と機甲部隊は出撃準備態勢、ただしあくまで現時点では準備態勢だ。歩兵中隊はマニュアルの項目MN-23に従い城内の警戒を密にせよ。繰り返す……。」

 

 放送を終えたキースは、自分もマローダーに搭乗しておこうと衣服の襟首を緩め始める。そこへアイラ軍曹からの通信が入った。

 

「キース少佐、アイラ軍曹からの緊急通信です。」

「こちらの卓に回線を回せ!……アイラ軍曹か?キース少佐だ。」

『隊長、今敵のエアカーを奪い、逃走中です!ラヴィニアお嬢さんと敵のスパイと思われる薬物売人は確保しました!暴れるので拘束しています!ですが敵バトルメック小隊に追跡されています!

 敵メックの内訳は、ジェンナー2、K型ウルバリーン1、ドラゴン1です!それとすいません、敵領域内にスキマーを乗り捨てざるを得ませんでした!』

「今火力小隊を送る!それまで持ちこたえろ!スキマーのことはどうでもいいから、逃げ延びろよ!」

『ありがとうございます!これにて通信を終わります!』

 

 キースは第2中隊の火力小隊にアンドリュー曹長を加えて、レパード級ヴァリアント号で送ることを決めた。彼はその旨を通信回線を開き、通達する。

 

「アンドリュー曹長と第2中隊火力小隊、アイラ軍曹が今敵メック小隊に追われている。ちょっと行って颯爽と助け出して来るんだ。」

『アイラが!?サンキュー隊長、俺を行かせてくれるんだな!』

「サラ中尉待遇少尉の指揮に、ちゃんと従うんだぞ。頼んだ、サラ中尉待遇少尉。移動にはヴァリアント号を使え。急いでくれ。」

『了解!』

『了解。』

 

 しばし後、城の滑走路からヴァリアント号が轟音と共に発進して行った。キースは内心で思う。

 

(……敵がこちらの編成を知った以上、こちらに攻めよせて来る可能性も無いとは言えない。ましてや今しがた、2個小隊が発進したばかりだ。こちらのメック戦力は1個中隊に過ぎん。)

 

 キースはメック搭乗に備えて上着をはだけつつ、オペレーターたちに言った。

 

「俺はマローダーに向かう。今後の指揮はマローダーより行うので、城の通信回線を介してマローダーと各部隊の間に通信網を構築しろ。指令室は頼んだぞ。」

 

 キースは全力で、格納庫へと疾走した。

 

 

 

 やがてマローダーの操縦席で待機しているキースの元へ、地上に対する高高度偵察を行っていたアロー4からの通信が入る。それはキースが想定した通りの内容であった。

 

『こちらアロー4、増強2個中隊30機のバトルメックが、重戦車8輛を引き連れてオーバーゼアー城へ向かっています。』

「了解だ、アロー4。高高度からの監視を続けてくれ。アロー2、アロー3、ビートル1、ビートル2は帰還して、戦闘に備えて推進剤の補給を受けろ。アロー1、そちらはどうか?」

『こちらアロー1、マイク少尉!補給も終わってますし、休憩もしっかり取りました!いつでも戦闘参加できるっす!』

「頼もしいな。頼んだぞ。」

 

 キースは麾下の小隊に対し、準備状況を確認する。まずはヒューバート大尉の隊からだ。

 

「ヒューバート大尉、第2中隊指揮小隊は?それと火力小隊を引き抜いて使ってしまい、すまんな。」

『出撃準備は整っております。任せてください。それと、理由はわかってます。気にしないでください。』

 

 ヒューバート大尉が言う「理由」とは、第1中隊の火力小隊が今まで歩兵や戦車相手のみで対メック戦の経験が無いこと、それとアイラ軍曹の件があって彼女の主人であるアンドリュー曹長を向かわせたかったため、定数から1機足りない第2中隊火力小隊を選んだことである。次にキースは、第1中隊火力小隊に通信を入れる。

 

「ケネス中尉、そちらの小隊は対メック戦闘は初めてだ。バトルメックは戦車と違い、ダメージコントロール能力が高い。極めて打たれ強いから、注意しろ。」

『了解であります。ご心配していただき、ありがとうございます。我が小隊の面々も、シミュレーターなどで重々承知しておりますので、大丈夫です。』

「そうか。頼んだぞ。」

 

 そしてキースは、自身の第1中隊指揮小隊に通信回線を繋いだ。

 

「マテュー少尉、エリーザ曹長。今日はアンドリュー曹長がいないからな。背中には注意してくれ。」

『了解です。ですがまあ、隊長がいらっしゃるので、そこまで心配することでは無いでしょう。』

『同感ですね。アンドリューが居ないのはちょっと火力的に厳しいけど、まあなんとかなるでしょ。あたしも今日は後方から支援を中心にしますんで。』

「済まんな。」

 

 キースはその他にも、砲兵隊や機甲部隊に次々に声をかけていった。やがて準備が全て整った頃合いに、敵が姿を見せた。キースは指示を下す。

 

「バトルメック部隊、機甲部隊、出撃!敵部隊がやって来るES方向へ向けて展開せよ!気圏戦闘機隊、補給が終わった機体から順に発進し、空中待機!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 キースは攻め寄せる敵部隊を睨みつける。単純なバトルメックの数では3倍近い差があったが、こちらには地雷原と間接砲が存在する。むざむざ敗北するつもりは、キースには無かった。




さて、『SOTS』の編制が敵に漏れました。まず間違いないです。つまり、『SOTS』の戦力が予想外に低い事がバレたわけですね。でも主人公はほとんど人類限界のメック戦闘能力を持っております。
はたして!!


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『エピソード-043 悪い後味』

 混成傭兵大隊『SOTS』のバトルメック11機が、地雷原の手前に展開する。敵ドラコ連合軍のバトルメック部隊は、80tのデモリッシャー戦車を横一線に並べて前進してくる。デモリッシャー戦車を使い潰して、地雷原に道を開くつもりだ。

 地雷原のあるおおまかな位置は、今までの『エフシュコフ剛腕隊』との戦いでわかっているのだろう。しかしこの布陣、戦車を弾除け程度にしか考えていないのが良くわかる。

 キースは不敵な笑みを浮かべて口を開く。

 

「……だが、そうはさせんよ。スナイパー砲0番、1番、2番、各々照準済みポイントA-0、A-1、A-2に対し射撃せよ。そして直後、照準済みポイントB-0、B-1、B-2へ各々続けざまに叩き込め。その次はC-0、C-1、C-2だ。

 フォートレス級デファイアント号ロングトムⅢ、サイモン少尉。CSL-ES-596300ポイント、CSL-ES-596901ポイント、CSL-ES-595903ポイントに連続で撃ち込んでくれ。風向はNWに3単位。」

『『『了解!』』』

『了解ですわ、お任せあれ。』

 

 スナイパー砲が3門に増えているが、うち1番砲と2番砲はこの城に備え付けの物である。射撃している砲手もこの城の砲手であり、『SOTS』が連れて来た人員ではない。残念ながら彼らは若干腕が悪く、あらかじめ照準済みである場所以外に命中させることは困難だ。しかしこのオーバーゼアー城の周囲は、それこそあらかじめ照準済みである地点がかなりの多数に上る。

 そして1輛のデモリッシャー戦車の真下で、振動爆弾が爆発する。ドラコ連合軍のバトルメック部隊は、動揺して一瞬だけ動きを止めた。キースは心の中で呟く。

 

(地雷原が以前のままの位置のわけないだろ?自前で持ってきた振動爆弾を使って、以前より少し地雷原を広げているんだよね。惑星政府に届けなくても対メック地雷原の配置の変更程度は、惑星守備隊司令官の権限で可能なんだよ。)

 

 ドラコ連合軍のメックとデモリッシャー戦車群の驚きは一瞬だけで、どうせ戦車を使い潰すのは当たり前とばかりに前進して来た。デモリッシャー戦車の前方で、そして至近距離で、あるいは真下で振動爆弾が爆発する。ついに1輛がキャタピラを切断され、擱座する。そしてもう1輛もまたキャタピラを破壊されて動きを止めた。

 

『そろそろデモリッシャー戦車、限界ですかね。』

「そうあって欲しい物だ、ヒューバート大尉。あれは最大口径のオートキャノン2門を搭載しているからな。まったく勿体ない使い方をしてくれて、嬉しいよ。

 スナイパー砲0番、1番、2番。各々E-0、E-1、E-2に射撃。その後続けて各々G-0、G-1、G-2に撃て。ディファイアント号ロングトムⅢ、CSL-ES-593701に射撃後、CSL-ES-592671に射撃だ。」

『『『了解!』』』

『了解ですわ。』

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 そうして、スナイパー砲の第1射が着弾する。それはデモリッシャー戦車の後方に続いて来た、60tライフルマン2機と75tマローダーに直撃し、その周囲に密集していたメックにも損害を与えた。

 そして敵がようやく長射程武器の射程圏内に入る。まだ遠射程であるが、キースたち第1中隊指揮小隊の面々ならば命中を与えることは容易だ。キースは叫ぶ様に命令を下す。

 

「第1中隊指揮小隊、射撃用意!目標は俺が後方の、他は前方のライフルマン!3、2、1、撃て!!」

『『了解!』』

 

 キースのマローダーが粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノンを、マテュー少尉のサンダーボルトが15連長距離ミサイルを、エリーザ曹長のウォーハンマーが両腕の粒子ビーム砲を、それぞれライフルマン2機に撃ち込む。

 後方のライフルマンは当たり所が悪く、先ほどのスナイパー砲で削られていた胴体の前面装甲をあっさりと撃ち抜かれ、中口径オートキャノンの弾薬に引火して爆散した。メック戦士はかろうじて脱出したのが見える。

 一方前方のライフルマンは、比較的全身に命中弾が散ったものの、それでも左脚を吹き飛ばされてその場に倒れ伏す。それを見て取ったキースが、気圏戦闘機隊に命令を下した。

 

「アロー1、2、3、ビートル1、2、出番が来たぞ!ライフルマンは潰したから、敵が密集しているところに地上掃射を叩き込んでやれ!目標選定は任せる!」

『アロー3、了解!各機、アロー1を先頭にトレール(縦一線)隊形で地上掃射!目標は敵マローダーからグラスホッパーにかけて!』

『『『『了解!!』』』』

 

 戦いに先だって高高度偵察を行っていたため、推進剤が多少心許ないアロー4のライトニング戦闘機4番機を上空に残し、他の機体が一斉に敵バトルメックが密集している場所に地上掃射を行った。

 次々に地上のバトルメックがエネルギー兵器の命中を受け、ダメージを負って行く。特に軽量級の機体は、嵐の様な地上掃射に耐えきれず、爆散するものや擱座するものが続出した。また軽量級だけでなく、重量級である75tのマローダーも打ちどころが悪かったのか、片脚を吹き飛ばされて動けなくなっていた。

 だが敵バトルメックもただやられていたわけではない。必死の応射がライトニング戦闘機3機とトランスグレッサー戦闘機2機に襲いかかる。ライトニング戦闘機1番機と2番機は無事に済んだが、ライトニング戦闘機3番機とトランスグレッサー戦闘機1番機、2番機はかなりのダメージを負ったのが見えた。キースは離脱指示を叫ぶ。

 

「アロー3、ビートル1、2、離脱しろ!」

『了解、アロー3離脱します!後の気圏戦闘機隊指揮は、アロー1に移譲します!』

『了解、ビートル1、離脱します。』

『了解、ビートル2、離脱しますっ!』

『こちらアロー1、了解!指揮権移譲、受けたっす!』

「以後気圏戦闘機隊は地上掃射を行わず、弱った獲物を狩る様にしてくれ。」

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 そしてスナイパー砲の2射目が着弾する。3発各々の砲弾が3機のK型アーチャーに見事に着弾し、その分厚い装甲板の破片を撒き散らした。そしてとうとう全てのデモリッシャー戦車が擱座する。だがここで、敵バトルメックからも長射程兵器の命中が見込める距離になったと見えて、砲撃が始まった。

 70tK型アーチャー4機から15連長距離ミサイルが、65tK型クルセイダー2機と60tドラゴン2機、55tグリフィン2機から10連長距離ミサイルが、70tグラスホッパーとK型シャドウホーク2機から5連長距離ミサイルが、一斉に撃ち上げられる。キースは叫ぶ。

 

「各機、機動回避開始!第2中隊指揮小隊、第1中隊火力小隊、機甲部隊、砲撃開始!目標はK型アーチャー!特にスナイパー砲の直撃を受けた機体を狙い撃ちにしろ!第1中隊指揮小隊はスナイパー砲を受けなかったK型アーチャーを狙え!」

 

 敵が狙い撃ったのは、比較的狙いやすい場所に位置していた第2中隊の指揮小隊と、第1中隊の火力小隊、それにマテュー少尉のサンダーボルトであった。長距離ミサイルの乱舞が次々に着弾し、半数は地面を抉り、半数はバトルメックの装甲を削る。

 同時に『SOTS』側からの応射が放たれる。K型アーチャー4機は、火だるまになった。1機は左胴の装甲を突き破られて弾薬に直撃を喰らい、爆散。1機は片脚と片腕を吹き飛ばされて転倒する。1機は着弾の衝撃で操縦を誤り、これも転倒した。最後の1機は、キースたちから狙われた機体であったが、最も運が悪く、頭部に粒子ビーム砲の直撃を受けてメック戦士が死亡してしまう。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 そしてスナイパー砲の3射目とともに、ロングトムⅢ間接砲の第1射目が着弾する。3基のスナイパー砲は65tK型クルセイダー、55tK型ウルバリーン、45tK型フェニックスホークをそれぞれ打ち据え、ロングトムⅢは50tハンチバックの至近弾となった。それらの砲撃の余波に巻き込まれた機体も数多い。キースは内心で舌打ちする。

 

(ロングトムⅢの着弾がずれた。砲手の問題じゃなく、俺の指示した地点が悪かったんだよな、これは。指示した地点にはちゃんと着弾してるし。敵の動きを読み切れなかったなあ。さすがに撃ってから着弾までに50秒の時間差があると、敵の動きを読み切るのにも限界があるしなあ。

 それにデモリッシャー戦車を横一列に並べて地雷処理をやられたのも影響してるし。けっこう広い範囲の地雷を処理されちゃったから、敵がかなり自由に動けるんだよな。

 となると、ロングトムⅢの着弾は、これから先どんどんずれが大きくなるぞ。今回は敵をダメージ圏内に収められたけど……。)

 

 キースは大声で指示を叫びつつ、自機に砲撃させる。

 

「気圏戦闘機隊!敵指揮官機と見ゆるグラスホッパーを狙え!敵の指揮系統を潰すんだ!メック部隊は第1中隊機が向かって右の、第2中隊機が向かって左のK型クルセイダーを潰せ!俺は転んだだけのK型アーチャーにとどめを刺す!機甲部隊、そろそろ命中が狙える距離だ!近い敵から好き放題に撃て!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 敵は擱座したデモリッシャー戦車を置き去りに、今度は70tのウォーハンマーを先頭にして地雷原を突破にかかる。グラスホッパーも70tの重量があるのだが、動きからキースが判断した様に指揮官機らしいため、先頭には立たない様だ。ウォーハンマーの前方や左右、時折足元で振動爆弾が爆発する。

 そのウォーハンマーには機甲部隊の戦車から、中口径オートキャノン、粒子ビーム砲、10連と20連の長距離ミサイルによる集中砲火が向けられた。機甲部隊の戦車兵たちの射撃技量はさほどでは無いが、これだけ撃てばそこそこの命中弾は出る。ウォーハンマーはたまらず粒子ビーム砲を撃ちながら後退せざるをえなかった。

 ウォーハンマーの脚部は、地雷原により大きくダメージを被っている。これ以上前に立てば脚が折れる可能性があった。

 敵のウォーハンマーの放った粒子ビームを躱しながら、キースのマローダーは粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノンを、転倒から起き上がったばかりのK型アーチャーに見舞う。

 K型アーチャーは、鼬の最後っ屁とばかりに15連長距離ミサイル2門と大口径レーザー2門を撃ち返して来た。そのうち大口径レーザー1門が、キース機の頭部にまぐれ当たりをする。だがマローダーの頭部装甲は、なんとかキースを守り通した。着弾の衝撃でダメージを負う物の、キースはまだまだ元気である。一方K型アーチャーはと言えば、右脚を吹き飛ばされて再び転倒してしまった。

 ここでライトニング戦闘機3機が、敵の指揮官機であるらしいグラスホッパーに攻撃を仕掛ける。合計3門の最大口径オートキャノンが火を吹き、グラスホッパーの右腕、右の胴体、胴体の真ん中にそれぞれ命中する。グラスホッパーは、相当に泡を喰った様だ。一応応射するが、アロー4の機体に若干のかすり傷をつけた程度に終わる。

 これで敵の指揮官は、オーバーゼアー城の攻略を断念した模様だ。率いて来たバトルメックの約半数が地に這わされ、戦車は全て擱座している。敵バトルメックは、一斉に退却して行った。キースたちは長距離兵器を用い、撤退して行く敵バトルメックに追い打ちをかける。

 本音を言えば追撃したいところであったが、動けなくなったデモリッシャー戦車は文字通り動けないだけであり、砲火力は未だ生きている。その射程内に入れば、脅威の破壊力を誇る最大口径オートキャノンの嵐に見舞われる可能性が高かった。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 敵がいなくなった場所へ、スナイパー砲とロングトムⅢ間接砲の砲弾が落ちる。あくまで敵が向かってくることを想定した位置に向けて射撃したためだ。スナイパー砲の弾もロングトムⅢの弾も飛びぬけて高いわけではないが、正直勿体なかった。

 マテュー少尉のサンダーボルトが放った15連長距離ミサイルが、逃げるドラゴンの背面にばらばらと命中し、右腕を吹き飛ばしたのを最後にして、敵は射程外へ出てしまう。キースはマローダーの外部スピーカーと通常回線とを使い、動けなくなったがまだ生きている敵に降伏を勧告する。

 

「お前たちの指揮官は撤退した。お前たち自身にも、もはや勝機はあるまい。降伏しろ。アレス条約に則った扱いを約束する。」

『……ドラコ連合、第25ラサルハグ連隊B大隊、第2中隊中隊長ヤイーシュ・ワーフィル・ウサーマ大尉だ。降伏しよう。欲しければ俺の首をやっても良い。だから部下たちには寛大な扱いをお願いする。』

「……アレス条約に則った扱いをすると言っているだろうに。貴殿の首などいらんよ。それと、しばらくそこを動くなよ。既に撃ってしまった間接砲の砲弾が落ちて来るからな。」

 

 キースは少し不思議に思う。部下のために自分の首を差し出そうとする人物が上の方にいるのに、その人物が所属する軍隊が歩兵や戦車を平気で使い捨てにしている。それともメック戦士と戦車兵や歩兵は違う、と言うことなのだろうか。

 ヤイーシュ大尉が説得でもしたのか、次から次へ敵メックから降伏の信号弾が打ち上がる。それを見て、デモリッシャー戦車からも同じく降伏信号弾が打ち上がった。だが誰一人としてメックや戦車から降りてくる者はいない。まだ間接砲の砲弾が、全て落ちて来たわけでは無いからだ。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 間接砲の砲弾が落ちて来る。敵メックや敵戦車の中の者たちにとってはかなり恐ろしかっただろう。だが一番恐ろしかったのは、既に脱出していたメック戦士たちだったはずだ。彼らには装甲板の守りは無く、衝撃波の余波に晒されただけで、絶命必至だからだ。やがて全ての砲弾が落着し、オーバーゼアー城から出動した歩兵たちが、メック戦士や戦車兵たちを捕虜に取っていった。

 

 

 

「そうか、アイラ軍曹は無事か。」

『おう、隊長に俺の活躍を見せたかったぜ!』

「アンドリュー曹長と、『機兵狩人小隊』の面々は無事だな?」

『はい、全員無事です。メックも致命的損傷はありません。』

「ならば良かった。」

 

 今キースは、オーバーゼアー城の指令室の設備を使い、レパード級降下船ヴァリアント号と通信を行っていた。より正確に言うならば、それに乗り込んでいたアンドリュー曹長とサラ中尉待遇少尉からの報告を受けていたのだ。キースはもう2名の「お客」について聞く。

 

「ラヴィニア嬢と、スパイと見られる薬物の売人はどうだ?」

『お嬢さんの方はちょっと無事とは言い難いぜ。たぶん薬の禁断症状だと思うんだけどよ。ちょっとまともな状態とは言い難いんだわ、これが。医療は専門外だからまったくの勘だけど、かなり強い薬を使ってたんじゃねーかな。

 なまじ見た目が美少女だけに、ちょいと何て言っていいのか……。正直、怖い。今は自傷行為をさせないために拘束してる。

 売人の男は、こいつはこいつで何か駄目っぽい。別に尋問とかは後回しにするって言ってるのに、なんかベラベラ訊きもしないこと喋りまくってる。だから本当かどうかは全然わからんし、言ってる事も支離滅裂で纏まりが無い。

 ……って言うか、もしかしてこいつも自分の売り物の薬に手ぇ出したんじゃねーのか?たぶんお嬢さんに売ったやつよりはソフトな代物だと思うけどよ。尋問より先に、診察が必要かも知れねー。』

 

 キースは頭痛を覚えた。だがそのラヴィニア嬢と売人の男のせいで、惑星守備隊の情報がドラコ連合に洩れたのは、ほぼ間違いの無いことである。

 

「……そうか。とりあえず、早目に戻って来い。」

『あ、戦利品を船に乗せるから、俺たちは歩いて帰ることになるぜ?』

「そうか、それがあったな。まあ、できるだけ早くでかまわん。」

 

 とりあえずキースは、可能な限り戦力を纏めておきたかった。今の様にばらばらになったままで、万一各個撃破などされたりしてはとてもではないが、たまった物では無い。無論、敵戦力はかなり痛めつけたので、その心配は低いのだが、絶対と言う事はないのだ。

 

 

 

 一方で、アーリン中尉たちからもしばし後に連絡が入った。

 

『キース少佐、敵戦力を全機倒し、ローカストを破壊、残り3機を鹵獲しました。エルンスト曹長も無事です。彼は敵が残した書類を漁っています。こちらには、重度の損傷を被ったメックはありません。全機、軽傷です。ただ、敵の徒歩の戦力は全員逃がしてしまいました。』

「それは仕方が無い、アーリン中尉。そちらには味方の歩兵戦力がいないのだからな。メック戦士は全員降伏させたのだろう?」

『4名全員を降伏させました。ローカストのメック戦士は、今にも死にそうな顔になっていますが……。』

「それも仕方あるまい……。戦えば必ずと言って良いほど、メックの破壊は起きる事象だ。こちらでも、何機か敵のバトルメックを爆散させている。」

 

 キースは思わず敵に同情しかけている自らに気付く。キース自身、父親ウォルト・ハワードが予備機のグリフィンを『ロビンソン戦闘士官学校』入学に際して持たせてくれなかったら、今頃は失機者になっていた身分であるのだ。

 

(だけど敵さんも、同情なんて欲しくないだろな。かと言って、同情しちまうのは仕方ないよなあ。人間、感情をそこまで自由自在にコントロールできるもんじゃなし。できるとすれば、同情を表に出さないことぐらいだよな。でも、それもけっこう難しいけどな。)

『とりあえず、エルンスト曹長の作業が終わりしだい、パメラ軍曹、ジャスティン伍長とも合流して帰還します。』

「うむ、そうしてくれ。しかしそこにいた小隊が、何処に奇襲攻撃をかけようとしていたのが程度はわかると良いのだが。エルンスト曹長の調査しだいだな。では帰還を待っている。」

 

 通信を終えると、キースは考えに沈んだ。

 

(さて、惑星政府から依頼を受けた1件目は、完全に達成だよな。しかもドラコ連合軍との戦闘もあったから、正規の戦闘行動と認められれば……いや、まず認められないなんてことは無いんだけど。

 まあ、認められれば、今回の惑星政府から出る報酬とは別に、基本戦闘報酬が入る上、鹵獲や破壊したメックの数によってのボーナスも、戦闘勝利によるボーナスも入るな。スキマー1台分の損失を補って余りあるどころじゃない。……ただし、後味は悪い事件だよな。まだ子供と言ってよい少女が薬漬けになってて、しかもその父親はまず失脚が確実だ。その前途に光明は見えないし……。

 2件目は、一応達成はできたし、報酬も入るだろうけど……。ドラコ連合のスパイ網を探ると言う意味では失敗に近い……よな。メック戦士4人を捕らえたって言っても、徒歩の人間には逃げられちゃったし……。

 メック戦士4人は何処かへの奇襲作戦のためにスパイ網の拠点の1つを基地代わりに使っていただけだろうし、スパイ網そのものについて知識を持っているとは思えないもんな。まあ、敵の奇襲攻撃を事前に防いだと言うことだし、正規の戦闘と認められるだろうから、これも報酬面では大儲けだけどなー。

 ……エルンスト曹長が漁っている書類とやらに、何か重要な手がかりがあれば良いんだけどな。)

 

 キースは指令室発令所を見回す。ケネス中尉が手持無沙汰の様な雰囲気で、それでも真面目な顔を崩さずに、夜番オペレーターたちの様子を見守っていた。

 まあ夜番とは言っても、この惑星の1日は48.8時間である。連盟標準時とは大きくずれが生じる。連盟標準時で夜だからと言っても、外は全然明るかったりするし、また逆に昼間も真っ暗だったりする。ただし惑星時に身体を慣らしてしまうのも色々と体調などの面で問題が出てきたりする。軍人や政府筋の人間、他の惑星と行き来する人間は連盟標準時を使って生活していた。

 それはともかく、キースはケネス中尉に声をかける。

 

「ケネス中尉。俺は司令執務室で書類仕事がある。この場の監督を任せていいか?」

「はっ!了解であります!」

「……ケネス中尉、もう少し口調が柔らかくても良いぞ?それではまるで兵卒だ。中尉は士官なのだから、階級や職分に相応しい口調があると思うのだが……。」

「はっ!了解……いたしました!!……申し訳ありません、鋭意努力いたします。」

「……いや、無理を言うつもりは無かった。慣れそうにないなら、忘れてくれ。ではここを頼むぞ。」

 

 キースは指令室を出て、司令執務室へ向かう。その足取りは重い。

 

(うーん、どうしたんだ?もしかして疲れてるのか?いや戦闘をしたんだ。疲れてないわけじゃない。だけど疲れによるものとは、ちょっと違うなあ。

 ……ああ、そうか。例のラヴィニア嬢のことが気にかかってるのか。薬物はなあ……。まずいよなあ……。いや、俺に責任のあることじゃないけどさ。でもなあ……。

 いかん。あまりの後味の悪さに、落ち込んでるぞ。何か美味い物でも食べて、元気出すかね。それともちょっとばかりトレーニングでもして汗流すか?……ん?)

 

 そのときキースの目に、司令執務室の前を行ったり来たりする少女の姿が留まった。その手には、ノートやらプリントやら参考書やら筆記用具やらが握られている。言わずと知れたイヴリン訓練生だった。キースは声をかける。

 

「何をやっている?イヴリン訓練生。」

「きゃ!あ、き、キース少佐!あの、その……。」

「……イヴリン訓練生!!物事ははっきりと喋れと言ったはずだ!!」

「はいっ!!宿題の疑問点を訊きにお伺いしたのですが!!途中で少佐が本日実戦を行われたことを思い出しまして!!それで、お疲れでご迷惑かと思い、宿舎の自室に戻ろうとしたところであります!!」

 

 思わずキースの顔に、笑みが浮かぶ。

 

「……いいだろう。最近は貴様も随分勉強している様だしな。教え甲斐が出て来たと思っていたところだ。最初の頃の様に、どこがわからないかわからない、などと言うことも無くなってきたからな。入室を許可する、イヴリン訓練生。

 ……どうした、早く入れ。あまり遅くなると、明日に差し支えるぞ。」

「は、はいっ!!」

 

 その後キースは、イヴリン訓練生に懇切丁寧に宿題を教える。そのために書類仕事を始める時間が遅くなり、夜なべ仕事になってしまった。だがそれでも何故か彼の機嫌は良くなり、かえって仕事の効率も上がったらしかった。




まだそこまで意識してはいないけれど、イヴリン訓練生との時間は主人公にとっても癒しになってます。家族的と言うか妹的な感じで。


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『エピソード-044 闖入者』

 ヒューバート大尉の機嫌が良い。彼はこの間のボーナスで、ついに部隊への借金を完済したのだ。しかも借金を支払った残金で、かなりの貯金もできている。

 

「いや、他人の不幸を喜ぶ趣味は無いんだが……。こうやって借金を綺麗にできると、助かったとしか言えないし、嬉しさがこみあげるのは止められんよ。うん、後ろめたさも多少あるけどな。」

「まあ俺たち傭兵は、ある意味で他人の不幸が飯の種だからなあ。その辺は割り切るしかあるまいさ。」

「ま、そうだな。」

 

 自分自身に言い聞かせるようなキースの言葉に、ヒューバート大尉は頷いた。今彼らは、惑星ネイバーフッドはオーバーゼアー城の司令執務室にて、激務の合間にぽっかり空いた時間で駄弁っていた。まあ根を詰め過ぎると、何事も上手く行かなくなる物だ。

 ちなみに今は休憩中だと言うことで、彼ら2人の口調は上司と部下の物では無く、4年間のメック戦士養成校就学期間を共に寮の同室で過ごした、友人同士の物になっている。

 キースは笑いながら、ヒューバート大尉に言う。

 

「ヒューバートは、これでしばらくアーリン中尉に頭が上がらないわけだ。仕事上でならともかく、個人対個人としてはな。」

「確かに。第2中隊の中隊長になるのを譲ってもらった恩があるからなあ……。彼女は、小隊規模までならともかく、中隊規模の指揮には自信がないって言って第2中隊中隊長への就任を断ってたが……。ありゃ方便だよなあ。」

「ああ。部隊の「経営」ならともかく、部隊の「運用」に関しては、アーリン中尉の技量や知識は充分だ。下手すれば、お前も凌ぐよ。たぶん彼女はお前さんの事情を鑑みて、報酬が多大なメック中隊中隊長の座を譲ったんだろうなあ。

 次に第3中隊を新設する際には、今度こそアーリン中尉に大尉に昇進してもらい、中隊長になってもらわにゃ困る。まあ先に、第2中隊の偵察小隊を新設せにゃならんけどなあ。

 レオ・ファーニバル教官が送り出してくれる約束になってる、俺たちの後輩がやって来るのは、最速でも6月半ばだ。士官が足りないし、平のメック戦士も足りないし……。」

 

 キースは執務机にだらーっとのびる。他の部隊員には見せられない姿だ。いや、『SOTS』が小隊規模であった頃からの最初期メンバーにならば、見せても構わないかも知れないが。少なくともそれ以外の部隊員たちに見られたら、最低でもぎょっとされるだろう。

 ヒューバート大尉は苦笑する。

 

「ははは。そう言えばキース、例の訓練生たちはどうなんだ?噂を聞く限りでは随分腕前も上がってきたみたいじゃないか。第2中隊の偵察小隊要員としては使えないのか?」

「考えてはいるんだよ。ただなあ……。

 第1に、小隊長にする士官がいない。イヴリン訓練生は、下手すると戦術能力や指揮能力は新任少尉に匹敵するんだけど、あの娘は火力小隊である『機兵狩人小隊』の補充にすることが、サラ中尉待遇少尉との約束で決まってるからなあ。それにまだ12歳だし初陣には早いかな。

 あと、数学や物理、化学、生物、地学と言った自然科学分野では、驚くべきことにシニア・ハイスクールのレベルまで行ってるけど、その他の社会科学分野や人文科学分野は歳相応でしかない。いきなり士官待遇にするのは無茶というもんだろ。

 第2に、あいつらの初陣と任官の時期をどうするか、まだ悩んでるんだよな。今言った通り、イヴリン訓練生はまだ早いんじゃないか、と思ってる。で、だ。エドウィン訓練生にエルフリーデ訓練生は、イヴリン訓練生の後輩だからな。下手に先に初陣させるのもちょっとなあ。

 奴らがイヴリン訓練生よりも圧倒的に実力があるなら、奴らの初陣を先にしてもいいんだが、今のところ戦術能力や指揮能力も含めた総合力で、イヴリン訓練生がトップだし。単純な戦闘技量は、並んで来たんだが、やはり総合力ではな。

 エドウィン訓練生もエルフリーデ訓練生も、そのことはしっかり自覚してるし。」

「……イヴリン訓練生の初陣と正規メック戦士への任官、早めてもいいんじゃないか?そうすりゃ偵察小隊はともかく、火力小隊が定数を満たす。それにイヴリン訓練生が初陣を済ませれば、他の2名の訓練生も初陣させて正規メック戦士にするのに問題無くなるんじゃ?後は1人か2人、士官さえいれば偵察小隊も編成できるし。」

 

 ヒューバート大尉は、キースの悩みを切って落とした。キースは目を丸くする。

 

「だが……。」

「まあ、気持ちはわかるさ。まだあの娘は幼いよな。でも、数こそ少ないが例が無いわけじゃあない。……悲しいことだがな。

 メック戦士を失ったメック戦士家系の人間にゃ、本来逃げ道なんて無いのさ。老若男女問わず、バトルメックの操縦席に座らにゃならん。そうしなけりゃあ、全てを失う。

 あの娘は、お前さんが一時退避先を作ってくれたおかげで、本来受けられなかった高度なメック戦士教育を受けられてる。そして才能を開花させつつある。」

「……。」

 

 キースは押し黙る。ヒューバート大尉は、悲しげな瞳で小さく笑った。

 

「お前さん、あの訓練生どもが正規メック戦士になったとしても、基礎教養の教育とメック訓練をやめるつもりは無いんだろ?」

「ああ、それは勿論だとも。あいつらには、最低限シニア・ハイスクール卒業資格、可能ならば大学卒業資格を取らせるつもりなんだ。それにメック訓練の方も、まだまだ鍛え足りないし教えていないことが沢山あるんだよ。」

「だったら後は、あいつらを実戦に出せるか否かの判断だけだな。その辺、どうなんだ?」

 

 少し考えた後に、キースは言った。

 

「いや……。まだ実戦には出せない。少なくとも来週から予定している実機訓練で、ある程度の実機での勘を身に付けさせるまでは。シミュレーターでの動きが実機でも即座に可能なんて、希望的観測に縋るわけにはいかないよ。

 ただ……イヴリン訓練生の初陣時期を早める可能性については、サラ中尉待遇少尉やケイト総務課長とも、前向きな方向性で話し合うつもりだ。だが正直……。あんな若いうちに、人殺しに慣れさせたくは無い気もするんだけどな。……贅沢、か?」

「ああ、贅沢だ。」

 

 ヒューバート大尉は、悲しげな笑顔のまま言った。が、すぐに無理矢理と言った風情で、満面の笑顔を作ると言葉を紡ぐ。

 

「……ここはライラ共和国だよな。つまり飲酒が認められる年齢は低いわけだ。たしかアルコール分15%以下の酒なら、16歳から飲めるはずだよな。お前さん17歳だろ?よし!今度飲もう!」

「……付き合うとするか。」

「よし!そうと決まれば仕事に戻ろう!時間ひねりだして、飲むぞ!」

 

 ちょうどその時、インターホンが鳴る。アーリン中尉が入室許可を求めて来たのだ。

 

『アーリン中尉です、入室許可願います。』

「入室を許可する。入りたまえ。」

 

 ドアが開くと、アーリン中尉は大型の台車に山の様な書類を載せて入って来る。その重さに、彼女は閉口している様だった。

 

「んしょ!はぁ~、台車に載せてさえ重いって、どういうことよ……。キース少佐、先日の戦闘および惑星政府からの依頼に関わる書類、それとバトルメックおよび気圏戦闘機、戦車等々の損傷、消耗関係でライラ共和国に請求できる装甲板と弾薬に関わる書類、あとは、えーと、えーと。まあとにかく、先日の一件に関連した書類全部持ってきました。」

「こ、これ全部!?自由執事さんや整備兵小隊長のサイモンさんに回せる分、回したのか!?」

「全部回した残りがコレです、ヒューバート大尉。前回は3ヶ所でばらばらに戦闘した上、1ヶ所はそこそこ大きな戦いだったので、必要書類が増えたんです。しかも惑星政府の依頼と、正規の戦闘行動が重なったために、惑星政府とライラ共和国の当局の両方に書類を出さないといけなくなったんです。

 ただ、この中に私やヒューバート大尉で決済できる書類も入ってます。サラ中尉待遇少尉やケネス中尉には既に回せる物は回してありますので。ただし提出期限には余裕がありますので、少しづつやればいいかも知れませんが……。」

 

 キースは、思わず笑った。

 

「くっくっく……。提出期限が先だと言っても、その間に何かあればまた書類の山がやって来るのは間違いない。となれば、余裕がある今のうちに可能な限り終わらせておくに越したことは無いという物だな。やれやれ、飲み会はしばらくお預けの様だな、ヒューバート大尉。」

「そうですね……。まあ頑張るとしましょう、キース少佐。」

「え?飲み会ですか?」

「ああ、ヒューバート大尉の発案でな。ここはライラ共和国だから、俺も軽い酒なら飲んでもいいんだ。だがそれよりもまず、この書類の山を片付けないとな。」

 

 おもむろにキースは、猛スピードで書類を検め始める。ヒューバート大尉もまた、それに追随し、必死に書類を読み進めてサインしていく。アーリン中尉は一瞬呆けた顔になった。

 

「……そう言えば、17歳だったわね。ついつい忘れちゃうわ。かなり年下だってのは、一応頭にはあるんだけど……。」

 

 アーリン中尉も気を取り直して、書類に取り組み始める。書類の山は、見る見るうちに……とまではいかないものの、それなりの速度で減っていった。

 

 

 

 やがてキースは、1通の書類に行き当たる。それは先の戦いで捕虜にした、ドラコ連合軍のヤイーシュ・ワーフィル・ウサーマ大尉の取り調べ調書だった。キースはそれを一読する。

 

(……ヤイーシュ大尉は、流石としか言いようが無い、か。あれだけの覚悟を持った人物だからなー。氏名、生年月日、階級、認識番号以外の情報は頑として話さなかった、か。)

 

 そしてキースは次の書類や、その次の書類、そして続く一連の書類に連続して目を通して行く。それはその他の捕虜になったドラコ軍メック戦士や戦車兵たちの取り調べ調書である。

 

(……ヤイーシュ大尉の直属の部下は、流石なもんだよな。ヤイーシュ大尉と同様、ほとんど喋っていないじゃないか。ただ、ヤイーシュ大尉の上に立つ大隊長と、その腰巾着であるらしい第3中隊中隊長に対する不満があるみたいだね。だがその名前などを洩らしたりはしない、か。洩らしてくれてもいいのになあ。まあ、既に知ってるけど。

 前に鹵獲した降下船アタゴ号に載せられてた当の第3中隊の指揮官、ヴァレール・セスブロン・ヴィズール大尉が吐いたんだよね。自分の直属の上官は、第25ラサルハグ連隊B大隊大隊長ジョー・タカハタ少佐だって。まあ流石に断片的な情報しか吐かなかったけどね。

 ヤイーシュ大尉直属でないメック戦士や、戦車兵たちからもその裏付け情報は取れてるな。タカハタ少佐はアレス条約は守るお方だが、その範囲内でできる限りのことをやるお方でもある、か。なるほど、戦車兵や歩兵を使い捨てにするのはアレス条約違反ではない、か。後はアレス条約の拡大解釈も、タカハタ少佐はお得意みたいだな。

 現地の麻薬組織を使うのも、そうなのかな?麻薬はアレス条約以前に、大方の惑星の法律で製造・販売どころか所持も違法なんだけどな。スパイ活動の指揮を取ってるのはタカハタ少佐なのかな?それともスパイ組織とタカハタ少佐の部隊は別系統で、協力し合ってるだけ?今はまだわからないなー。

 いかん、麻薬のこと考えたら、ラヴィニア嬢のこと思い出して腹立ってきた。落ち着け、落ち着け。よし、落ち着いた。)

 

 ヤイーシュ大尉直属以外のメック戦士や戦車兵たちによると、タカハタ少佐の機体こそが、あの時逃げ切った70tグラスホッパーだと言う。

 

(なんと……。逃がすんじゃなかった。最大限優先して攻撃をかけるべきだったか。ああ、でもタカハタ少佐を捕らえたかわりにヤイーシュ大尉を逃がしてたりしたら、なんか敵が強化されそうな気がするのは気のせいか?

 まあそれに、相手は近接戦が得意のグラスホッパーのくせに、自陣の奥に引っ込んで前に出て来なかったからな。あの場合、後回しになるのは仕方ないか。

 あー、いや。タカハタ少佐は戦術面では、せっかくのデモリッシャー戦車を捨て駒にしたりとか、あまり評価できる存在ではない。だけど、陰謀や謀略に関してはどうかわからない。

 スパイ網がタカハタ少佐の指揮下にあるのか、そうでないのかは未だわかってないんだ。少なくとも最低限、協力関係にあるのは間違いないだろ。やっぱり逃がしたのは惜しかったな。)

 

 キースはこの件について考えるのを一時中断し、別の書類へと意識を向ける。処理すべき書類は、まだまだ大量に残っているのであった。

 

 

 

「……というわけで、ライフルマンはD2J照準/索敵システムによって飛行目標に対し非常に高い射撃命中率を誇る。貴様たちが気圏戦闘機隊と連携を取っていた場合、最も注意をはらうべきバトルメックだ。また単純に支援機としても高い能力を持っており……。」

 

 訓練生たちを相手に、キースは今日も軍事知識の座学を教え込んでいた。今日教えているのは、有名なバトルメックの機種とその特徴である。ちなみに書類仕事は、一応なんとか一段落つくところまで終わらせてある。

 エルフリーデ訓練生が、右手を上げた。どうやら質問があるらしい。

 

「はい!質問です!」

「うむ。許可する、エルフリーデ訓練生。」

「はっ!少佐はライフルマンが支援機として高い能力を持つと仰られました。確かに中口径オートキャノン、大口径レーザーを2門ずつ装備しており、更には万一近寄られた際の中口径レーザーも2門装備しており、その火力は絶大です。ですが……。追加放熱器を1つも持っておらず、その火力を活かせないのではないでしょうか。」

 

 キースは質問に答えようとして、以前にもこの質問を受けたことを思い出す。彼は話をイヴリン訓練生に振った。

 

「イヴリン訓練生、お前も以前ライフルマンについて教えたとき、同じ質問をしてきたな。ちゃんと覚えているかテストしてやる。今のエルフリーデ訓練生の質問に、答えてみろ。」

「はっ!ライフルマンの両腕に1門ずつ装備されている大口径レーザーは、一度に両方射撃するための物ではありません。機体の上体を捻ることと合わせて、歩行して機体の向きを変える必要なしに、どの方向にいる敵でも最低限中口径オートキャノン1門と大口径レーザー1門は撃てる様にするために、両手に1門ずつ付いているのです。

 両方の大口径レーザーを同時に撃つ可能性を最初から除外すれば、追加放熱器の無いこの機体でも十全な運用が可能となります。」

「その通りだ。機体の向きを変えようと足を踏み変えれば、機体の震動でどうしても射撃の命中率は落ちる。機体の上体を捻るだけでどの方向の敵でも撃てるならば、その心配も無用となる。

 ライフルマンの特徴を絶大な火力だと認識している者は多いが、実はそうではない。極めて広く取れる射界と、その射撃命中率こそがライフルマンを特徴づける物である。理解できたか?エルフリーデ訓練生。」

「はいっ!」

 

 キースは満足げに頷く。そして彼は次の機体解説に移る。

 

「では次に解説するのは、お前たちもシミュレーターでよく敵機として遭遇したことのあるシャドウホークだ。このバトルメックは、全ての能力にほどほどに優れており、なおかつ排熱に不安がない優れた機体だ。パンチ力に不足していると言うやつも多いがな。

 だがある程度以上技量が優れたメック戦士に運用されたこの機体は、突然化けるぞ。オートキャノンの近接射程ぎりぎり、中口径レーザーと2連短距離ミサイルの中距離射程ぎりぎり、5連長距離ミサイルの最低射程をわずかに割り込んだ距離と言える、約180mの距離。この距離での全弾発射を喰らうと、びっくりするほど痛い。

 ……ん?」

 

 そのとき突然、内線電話が鳴った。キースは一瞬眉を顰めるが、その受話器を取る。

 

「こちら第2小会議室。キース・ハワード少佐だ。」

『講義中失礼します、キース少佐。こちら指令室、ヒューバート大尉です。』

「ヒューバート大尉、何があった?」

 

 ヒューバート大尉の声は、緊迫感に溢れていた。キースは彼を問い質す。

 

『所属不明の降下船が惑星に降下しました。至急指令室へお戻りください。こちらの気圏戦闘機が修理中で、アロー1とアロー2のライトニング戦闘機2機しか飛んでいない隙を突かれた形です。』

「!!……了解した。そちらへ戻るまでに、情報を少しでも整理しておいてくれ。」

『了解です。』

 

 受話器を置くと、キースは訓練生たちに向かい、言葉を発する。

 

「俺は指令室へ戻らねばならん。イヴリン訓練生、貴様に以前教えたところまでで良い。エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生に有名なバトルメックとその主なバリエーションについて教えてやれ。」

「はっ!!了解しました!!」

「では俺は行く。今日やるはずだったところは、後日続きをやるが、一応自習しておけ。ではな。」

「敬礼!!ありがとうございました!!」

「「ありがとうございました!!」」

 

 訓練生たちが、イヴリン訓練生の号令で一斉に敬礼する。キースも答礼を返すと、踵を返して小会議室を出て、指令室まで急いだ。

 

 

 

 指令室にキースが辿り着いたとき、そこはかなりの騒ぎになっていた。ヒューバート大尉とアーリン中尉が、キースを見つけて走り寄ってくる。ケネス中尉とサラ中尉待遇少尉も、一拍子遅れて走って来た。ヒューバート大尉がキースを呼ぶ。

 

「キース少佐!」

「報告を!」

「はい!アロー2を高高度偵察に飛ばしました。所属不明降下船は、レパード級1隻とユニオン級1隻です。受信されたID信号は商用降下船の物でしたので、まったく警戒していませんでした。ですが念のためにアロー1を近くまで飛ばしたところ……。」

「商用降下船どころか、軍用のレパード級とユニオン級だったわけだな。」

 

 ヒューバート大尉は頷く。彼は首を傾げながら言葉を発した。

 

「その時点で、危険だったのでアロー1は帰還させました。部隊マークなどは残念ながら確認できませんでした。ただドラコ連合の船かと言うと、少し疑問が……。ドラコ連合制圧地域内に降りていないんです。」

「もしや……。いや、今は下手な推測は危険だな。今修理完了している戦力は!」

「第1中隊の指揮小隊は完全に修理完了しています。また第1中隊偵察小隊も、あと1時間で修理完了です。気圏戦闘機隊も、あと1時間で全機飛べる様になるそうです。機甲部隊の戦車は全車輛行けます。」

 

 アーリン中尉の報告に頷き、キースは少々考え込む。そこへオペレーターの1人が声をかけてきた。

 

「キース少佐!アロー2のジョアナ少尉から入電です!」

「回線を繋げ!……ジョアナ少尉、報告を!」

『こちらアロー2、レパード級降下船からバトルメック1個小隊が発進。ユニオン級からもバトルメック1個小隊発進しました。航空写真をデータ転送します。』

「送られてきた航空写真を解析し、バトルメックの機種判別を急げ!」

 

 ヒューバート大尉が、オペレーターたちに指示を飛ばした。キースは別のオペレーターに質問を発する。

 

「ユニオン級とレパード級の着陸地点の地質概略図はどこかに無いか!?」

「え!?あ、少々お待ちください!」

「あの辺りは、確か硬い岩盤のはずだよ。農地開拓のための地質調査結果が、惑星政府の資料に残っていたよ。」

 

 そう言ったのは、いつの間にかやって来ていた惑星学者のミン・ハオサン博士だった。アーリン中尉が驚く。

 

「ハオサン博士、何時の間に!」

「いや、最初からいたんだが。オペレーターに、惑星政府の持つこの惑星の資料を集めてもらうために来てたんだがね。そしたら突然大騒ぎになって……。」

「いや助かりました、ハオサン博士。……となると、爆撃で穴を掘って降下船を傾ける戦術は使えんな。ふむ……。よし、レパード級降下船ヴァリアント号とゴダード号で第1中隊の指揮小隊と偵察小隊、それに2個歩兵小隊を送り込む。修理が完了する1時間後に発進だ。同時に気圏戦闘機隊を全力出撃させる。

 船舶のIDを偽造して降下して来たんだ、敵性存在であることは間違いない。叩いておかなければ、我々としてはまずいだろうしな。」

 

 ケネス中尉が不思議そうに尋ねる。

 

「フォートレス級ディファイアント号は使わないのでありますか?」

「今回は速度重視だ。ただでさえ修理で1時間の遅れを出してしまうんだ。長球型降下船であるディファイアント号でのんびり飛んで行っては、敵が目的を達成してしまうやも知れん。だからレパード級で一気に飛んで行く。」

「了解です。連れて行く歩兵小隊は?」

 

 訊ねるヒューバート大尉に、キースはにやりと笑って言った。

 

「エリオット中尉率いる第1歩兵小隊と、テリー少尉率いる第2歩兵小隊だ。この2つの小隊は、降下船突入作戦の経験も多い。我々のメック部隊は敵メック部隊を相手にするが、我々を降ろした後のレパード級2隻と気圏戦闘機6機には、囮として敵降下船の目を引き付けてもらう。その間に、敵の降下船2隻に迷彩服を着せた歩兵部隊を突入させる。

 ……以前、良くやった手だ。降下船が陥落すれば、メック部隊の士気も落ちるだろうよ。」

 

 アーリン中尉は、ぽん、と右拳を左掌に落とす。またサラ中尉待遇少尉も、何やら頷いている。彼女たちはエリオット中尉率いる歩兵部隊たちが何度か降下船を陥としているところを見ているのだ。その信頼感は、半端ではない。

 一方ヒューバート大尉とケネス中尉は、エリオット中尉の歩兵部隊の力量を知らない。ヒューバート中尉は引き攣った笑顔で、キースとアーリン中尉の顔を見ている。ケネス中尉も困惑している様子だ。その2人に、キースは「大丈夫だ」と言う様に頷いてやる。2人も、完全に納得はしていないのだろうが、頷きを返した。

 キースはおもむろに口を開く。

 

「何処の誰だか知らんが、余計な真似をされる前に叩き潰すぞ。ただでさえクリタ家の連中に面倒事を引き起こされているんだ。これ以上面倒を増やされてたまるか。」

「「「「了解!」」」」

 

 不敵な笑みを浮かべ、キースは頷いた。




色々と部隊の日常風景を描写していたら、そこに無粋な闖入者が。はてさて、この闖入者は、いったいぜんたい何者なのか!
……まあ、みんな想像が付くとは思いますけどね(笑)。


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『エピソード-045 海賊と人質』

 オーバーゼアー城の滑走路から、轟音と共にレパード級降下船2隻が飛び立って行く。1隻はヴァリアント号で、『SOTS』バトルメック部隊第1中隊の指揮小隊と第1歩兵小隊が、もう1隻はゴダード号で、バトルメック部隊第1中隊の偵察小隊と第2歩兵小隊、それにサイモン老のスナイパー砲車輛が、それぞれ載せられている。そしてそれらのレパード級降下船に付き従う様に、5機の気圏戦闘機が飛翔していた。

 ヴァリアント号メックベイに搭載されたマローダーの操縦席で、キースは実は焦っていた。

 

(うわあ。まずいかも知れないなあ……。偵察小隊と気圏戦闘機の装甲板張り替えを優先して1時間待ったけど、指揮小隊だけでも先に進発して、時間稼ぎをするべきだったかも知れないなあ。奴らが蛮王の軍勢の類でありそうなことは可能性が高かったんだから、無法を働く可能性が大なんだし。)

 

 蛮王とは、中心領域を外れた辺境に位置する惑星群を統治する小国の王や山賊、海賊などを総称した言葉である。特に中心領域をY+方面に外れた領域に多く存在し、文字通りの小国の王と言った存在から、単なる悪党たちの集まりの親分に過ぎない者まで様々である。

 そして大半は、その支配している惑星が資源に乏しいことから中心領域の惑星を襲撃し、水などの資源を奪って行く。ちなみに水関係の施設に手出しすることはアレス条約で禁じられており、それを犯した者は無法者として扱われる。当然蛮王たちのほとんどは無法者であり、捕虜などになろうものならばまともな扱いは受けないどころか、命や人権の保障は無い。

 

(いや、だが奴らの編成は85tバトルマスター1、70tウォーハンマー1、65tサンダーボルト1、65tクルセイダー1、55tグリフィン1、45tフェニックスホーク3のガチでマジな編成だ。

 最大限の安全策を取って間違いじゃない……はずだ。だが、焦るよなあ。前も惑星ドリステラⅢで無法者を逃がして、えらい後悔をする羽目に陥ったじゃないか……。

 仮に奴らが無法な輩だと仮定して、一番近場の目標になりそうな物は……。地図で確認すると、この水浄化施設を兼ねたダムであるザットダムか、もしくはこの比較的大きな街、ニアーバイタウンかな。)

 

 キースは考えを纏めると、マローダーの通信回線をヴァリアント号のそれを介して、敵を高高度より監視しているライトニング戦闘機、アロー2に繋ぐ。

 

「アロー2、ジョアナ少尉。敵バトルメック部隊の動きは、どうなっている?」

『こちらアロー2、敵はユニオン級から兵員輸送車と見られる軽トラック4台を降ろした後、それと共に西へ向かって移動を開始しました。移動速度は65km/hです。』

「わかった。そのまま監視を続ける様に。ただし推進剤は可能な限り節約しろ。」

『了解!』

 

 マローダー操縦席のスクリーンに表示させたマップを見ながら、キースは内心で独り言ちる。

 

(西と言うことは……。目標はザットダムか。それ以外に目標になりそうな物は無い。となるとやっぱり蛮王の類か。目的は水か?それとも水浄化施設の部品か?両方ってのがありそうだな。だけど……奴らのダム到着の方が早い。くそっ!ダムの職員とか、殺されないといいんだけど……。)

 

 キースは、できるだけ早くヴァリアント号、ゴダード号が目標地点に到着することを祈った。

 

 

 

 ザットダムと敵降下船着陸地点の中間に降りたヴァリアント号とゴダード号から、メック部隊、歩兵部隊と装甲兵員輸送車、スナイパー砲車輛を降ろしたキースは、敵降下船着陸地点へ向けて歩兵部隊を、ザットダムへ向けてメック部隊とスナイパー砲車輛を進発させた。

 なお、2隻のレパード級降下船と上空待機している気圏戦闘機には、歩兵部隊指揮官であるエリオット中尉の要請に従って敵降下船に対する囮作戦を決行する様にあらかじめ命令している。ヴァリアント号のカイル船長とイングヴェ副長、ゴダード号のヴォルフ船長とオーレリア副長は、久しぶりの戦闘任務だとばかりに張り切っていた。

 キースは、はやる気持ちを抑えつつ、慎重に先を急ぐ。

 

(今さら焦ったところで、どうにもならない。だったら最初の方針通り、これ以上は余計な真似はさせずに、徹底的に叩き潰すだけだ。あと、動揺した姿は部隊員には見せるなよ、俺。できるだけ頼りがいがある隊長を演じないと。まあ第1中隊指揮小隊の面々やヒューバートには、情けないところもバレてるけどさ。)

 

 そこにライトニング戦闘機2番機からの報告が届く。

 

『こちらアロー2、敵メック部隊がザットダムを離れます。後方には行きよりも多い車輛群が続いている様です。大型の……6連タンクローリーですね。それが何台も連なってます。それとメックも動きが鈍いですね。何やら背負っているらしいです。

 このままだと、隊長たちとの接敵は15分後ですね。』

「ご苦労、アロー2。敵は水浄化施設の部品と、浄化済みの水を大量に持って帰るつもりだな。アロー2はそのまま敵降下船の攻略作戦に参加してくれ。」

『アロー2、了解。』

 

 キースは隊内通信の回線を開くと、大きな声で言い放つ。

 

「敵は水浄化施設に手を出した!奴らは無法者だ、遠慮は欠片もいらん!叩き潰すぞ!サイモン少尉、スナイパー砲車輛はここから南に移動してQ-P25001ポイントに陣取ってくれ!メック部隊はこのまま前進!」

『了解ですわ!』

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 混成傭兵大隊『SOTS』バトルメック部隊第1中隊の指揮小隊と偵察小隊は、可能な限りの速度で前進していった。

 

 

 

 やがて長距離ミサイルすらも届かない彼方に、敵のバトルメックが見えて来る。敵からもこちらのメック部隊は見えているはずだ。キースは敵のバトルマスター、サンダーボルト、ウォーハンマー、フェニックスホーク3機が全力で前進してくるものと考え、予想位置にスナイパー砲を撃ち込むべくサイモン老に指示を送ろうとした。だが敵は、機体の背中に背負っていた荷物の入った網を落とすと、予想外の行動に出る。

 

「……ウォーハンマーはともかく、バトルマスターとサンダーボルトまで物陰に入る、だって?丘陵を盾にして、こちらを一方的に撃つつもりか。なんてチキンな真似を……。フェニックスホークはこちらへ向かって来るな。囮要員か?」

『隊長、それならそれでかまわんだろ。丘を盾にしたぐらいで、俺たちから逃げられるって考えが甘いって、思い知ってもらおうぜ!』

『そうよねー。あれだけ機体が丘の稜線から出てたら、あたしでも命中させられるわよ。』

『私もなんとか、あてられそうですね。まあ向こうからすれば相手が悪かったってことで。』

 

 第1中隊指揮小隊の面々の頼もしい言葉に、キースの頬がわずかに緩む。彼は命令を下した。

 

「わかった!では奴らに思い知らせてやろう!サイモン少尉、戦術マップ上の、Q-R454522ポイントにスナイパー砲を撃ち込んでくれ!その次はQ-R56235ポイント、その次にQ-R66353ポイントに頼む!風向はWSWに風力は2単位!

 アーリン中尉、向かって来るフェニックスホーク3機の相手を頼む!ヴィルフリート軍曹機は、第1中隊偵察小隊機の支援に集中してくれ!

 アンドリュー曹長、クルセイダーを狙撃しろ!エリーザ曹長は同じ機体の誼でウォーハンマーの相手をしてやれ!マテュー少尉も同一機種の縁を大事にしてサンダーボルトをやってしまえ!俺はバトルマスターの相手をする!部分的な遮蔽状態が、場合によっては全身を晒しているより恐ろしいことを知ってもらおうじゃないか!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 敵は遠距離射程では命中が覚束ないと見てか、ほとんど撃って来ない。わずかに敵のグリフィンが粒子ビーム砲を撃つが、それは味方の誰を狙ったのかわからないほどに大きく的を外す。

 それを見遣りつつ、キースはマローダー両手の粒子ビーム砲2門と、1門の中口径オートキャノンを、敵バトルマスターに向けて撃ち放った。それは吸い込まれるように丘向こうの敵機に命中し、そのうちの粒子ビーム砲1門がバトルマスターの頭部にぶちあたる。

 バトルマスターは一瞬動きを止め、そしてゆっくりと機体を頽れさせて行った。メック戦士が脱出した様には見えない。この遠距離ではわかり難いが、おそらくは操縦席をメック戦士ごと焼かれたのだろう。

 キースが一瞬止めていた息を吐いて周囲の様子を見てみると、彼の仲間達も敵メックを徹底的に叩いていた。

 まずアンドリュー曹長だが、彼のライフルマンが放った2門の中口径オートキャノン砲弾と、1門の大口径レーザーは、敵クルセイダーの上半身に集中して命中していた。しかもそのうち中口径オートキャノン2門は敵機の頭部に命中し、クルセイダーは慌てて隠れ場所から出て来ることになる。

 次にエリーザ曹長の攻撃だ。エリーザ曹長のウォーハンマーが撃った2条の粒子ビームによる射撃は、過たず敵ウォーハンマーに命中する。そしてそのうちの1発は、敵機の頭部に命中した。

 そのウォーハンマーは一瞬硬直したが、すぐに機体を遮蔽物の影から出して前進してくる。しかし、一発も撃つことは無い。どうやらセンサー系がいかれたらしい。絶大な火力を誇るウォーハンマーとは言え、これではもはやどうしようもない。

 そしてマテュー少尉の射撃は、大口径レーザーの一撃こそ外したものの、15連長距離ミサイルはもろに物陰に身を隠した敵サンダーボルトの上から降り注いだ。そしてばらばらと12発のミサイルが命中し、内10発が敵サンダーボルトの頭部にあたった。次の瞬間、サンダーボルトの頭部は命中の衝撃で吹き飛ばされてしまい、首なしになった機体はそのまま動きを止めた。

 

『皆、凄い腕前ですね……。』

 

 アーリン中尉の呆れた様な呟きが、通信回線から聞こえる。だがそのアーリン中尉も、巧みな機動で敵の3機のフェニックスホークをあしらっている。確かに射撃の腕前自体は第1中隊指揮小隊の面々に及ばないが、その戦術判断を含めた総合的な技量は、充分に一流を超えていた。

 アーリン中尉が敵の注意を引き付けている間に、彼女の部下であるリシャール少尉、ヴェラ軍曹、ヴィルフリート軍曹の3人のメックは、敵のフェニックスホークを痛めつけていた。3人は、基本的に射撃を敵のどれか1機に集中している。

 基本に忠実だが、それだけに効果的だ。狙われた1機のフェニックスホークは、右腕を破壊されてしまう。これでこの機体は戦闘力の半分以上を喪失してしまった。

 ここでキースは、敵の機体についている紋章に気が付く。

 

「こいつらは……。ビュート・ホールド海賊団!?レッドジャック・ライアンの手の者か!」

 

 レッドジャック・ライアンとは、数ある蛮王の中でもかなり悪辣で、どうにも手のつけられない人物である。その本拠地はライラ共和国の領域をY+方向に越えた辺境にある、水の乏しい孤立した惑星、ビュート・ホールドだ。レッドジャック・ライアンはそこを根城に、ライラ共和国やドラコ連合の惑星に対して海賊行為を働いている。

 ここで敵のクルセイダーが両腕を振り上げて、そこに装備されている2門の15連長距離ミサイルを一斉に発射した。敵のグリフィンもまた、粒子ビーム砲を撃ち込んで来る。狙われたのは、敵のウォーハンマーにとどめを刺さんと前進した、マテュー少尉のサンダーボルトだ。

 グリフィンの粒子ビーム砲は外れるが、クルセイダーの15連長距離ミサイルは、2門で合計30本のミサイルの内15本が命中する。しかしサンダーボルトの厚い装甲は大して傷ついていない。マテュー少尉はお返しに、クルセイダー目がけて15連長距離ミサイルと大口径レーザーを放った。それは全て命中し、クルセイダーは大ダメージを受ける。

 キースのマローダーは、アンドリュー曹長のライフルマンと並んで、機体の下半身を遮蔽物に隠した敵グリフィンを共に狙った。マローダーからの粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノン1門、ライフルマンからの中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門が、全てグリフィンの上半身に命中する。

 敵にとっては幸いなことに、頭部には命中しなかった。だがある意味で不幸なことに、敵グリフィンは右腕を吹き飛ばされてしまう。これで敵グリフィンに残された武装は10連長距離ミサイルのみだ。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 だがその最後に残されたはずの武器も、次の瞬間空から降って来たスナイパー砲の砲弾に破壊されてしまう。グリフィンに残された攻撃方法は、格闘戦のみだ。グリフィンはそれを敢行するためにとうとう遮蔽物になる丘陵陰を捨てて、ジャンプジェットを使って150mの長距離ジャンプを行い、前に出てきた。

 エリーザ曹長はアーリン中尉たちの援護を行うべく、敵フェニックスホークの1機に駆け寄って胴装備武器の一斉発射を行う。と同時に、そのフェニックスホークに向けて駄目押しのキックを放った。フェニックスホークは左脚を粉砕され、大地に倒れ伏す。

 アンドリュー曹長が、怪訝そうな響きの声で言葉を発する。

 

『こいつら、あんなにチキンな真似したくせに、一向に降伏とかしねーよな。』

『こいつらは無法者ですからね。捕まればどうなるか、わかっているんでしょう。まず9分通り銃殺刑でしょうよ。』

 

 マテュー少尉が、サンダーボルトの左拳でウォーハンマーの頭部を叩き潰しつつ、アンドリュー曹長の疑問に答える。ちなみにウォーハンマーからも反撃のキックを喰らったが、サンダーボルトはその装甲の厚さを見せつけるかのごとく、一向に平気である。

 これが本来のサンダーボルトやバトルマスターの運用法だ。その分厚い装甲で敵の攻撃を耐え、高い火力で敵を圧倒するのである。最初に敵がやった様な、遮蔽物の陰に隠れる様なやり方は、その持ち味を殺している様な物である。

 ヴェラ軍曹のD型フェニックスホークと、リシャール少尉のフェニックスホークが、一斉にパンチを敵のフェニックスホーク目がけて放つ。その全てが命中し、2発が敵の頭部にあたって消し飛ばす。残った片腕のフェニックスホークは、ヴィルフリート軍曹のグリフィンが放った粒子ビーム砲に左脚を破壊されて派手に転倒した。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 またも敵のグリフィンに、執拗にスナイパー砲の砲弾が命中する。もはやこのグリフィンは満身創痍だ。そこへアンドリュー曹長のライフルマンからの狙撃があたり、敵のグリフィンは左脚を吹き飛ばされて地面に転がった。

 ただ1機残った敵のクルセイダーは、とうとう後ろを向いて逃げに入る。だがキースのマローダーの射撃からは逃げ切れなかった。背面のど真ん中に粒子ビーム砲の直撃を受け、なおかつ頭部に中口径オートキャノンの砲弾を浴びたクルセイダーは、そこが既に傷ついていたこともあり、頭部を消し飛ばされて動きを止めた。

 キースは敵バトルメックのはるか後ろで静止していた車輛群へと、マローダーを歩み寄らせる。と、車輛群から拡声器でがなる声が聞こえた。

 

『て、てめえ!こっちにはまだ人質がいるんだぞ!ダムや水浄化施設の職員だ!こいつらを殺されたくなかったら……。』

 

 キースは最後まで聞かずに、マローダーの粒子ビーム砲を撃ち込む。それは拡声器でがなっていた男の乗った、兵員輸送用のトラックの直前に着弾し、クレーターを作る。

 

『ひいっ!?て、てめえ!人質を殺……。』

「降伏しろ。さもなくば人質ごと殺す。」

『な、何いっ!?』

 

 キースは感情を交えない声で、マローダーの外部スピーカーを使い、冷然と言い放った。

 

「どうせお前たちビュート・ホールド海賊団のことだ。人質に使ったあとは奴隷として売りさばくか、自分たちが楽しむために殺してしまうんだろう。なら今楽にしてやっても同じことだ。

 お前たちが選べる選択肢は2つ。今ここで俺に殺されるか、降伏して9割ほどの確率で銃殺刑になるかだ。前者を選べば確実に死ぬが、後者を選べば裁判で1割は助かるかもしれんぞ。」

『な、なに言ってやがる、はったりも……。』

 

 キースは再びマローダーに粒子ビームを撃たせた。先ほどよりも近い場所に着弾し、兵員輸送用トラックはひっくり返る。

 

『わあああぁぁぁ!!』

「俺が聞きたいのは、今すぐ死ぬか、降伏するかだ。10秒待ってやる。10、9、8……。」

『待て、待てええぇぇ!!』

 

 キースは待たない。

 

「7、6、5……。」

『わかった!わかったから待……。』

「4、3、2……。」

 

 兵員輸送用トラックに乗っていた男は、半泣きで叫んだ。

 

『降伏する!降伏するから撃つなああぁぁ!!』

「……了解した。だが妙な真似をしてみろ。すぐに殺してやる。」

 

 そう言うと、キースは外部スピーカーを切った。隊内通信の回線で、仲間達の声が飛び込んで来る。

 

『いや、凄いな隊長。一瞬俺もびびっちまうところだったぜ。』

『あたしもー。確かにああいう手合いには、人質の命が惜しくなさそうなふりをするのが一番なんだけどねー。』

『ええっ!?そ、そんな裏があったんですか!?わ、わたし本当に信じちゃいましたよっ!』

『ヴェラ軍曹……。うちの隊長は甘い人ですから、そんなわけは無いでしょう。』

『そ、そうですよね。一瞬自分も信じそうになりましたけど、そんなわけ無いですよね!』

『いや、自分はいざとなれば本当に撃つつもりだったのではないか、と思いますが。無論、人質を助けられれば最善ですが、心を鬼にして次善の策を取る必要もあるでしょう。』

『はいはい、キース少佐の追及はその辺にしておきなさい、貴方たち。今大事なのは結果として上手く行ったってことなんだから。』

 

 キースは、最後のアーリン中尉に内心で感謝する。そのときマローダーの通信回線に、レパード級降下船ヴァリアント号からの通信が入った。

 

『キース隊長、作戦成功です!敵降下船2隻を制圧しました!このことを知らしめれば、敵の士気もがた落ちになるでしょう!』

「ちょっと遅かったな、イングヴェ副長。こっちはもう始末がついたぞ。捕虜を拘束しなければならんから、歩兵の半分、1個小隊をこっちによこしてくれないか?」

『うわ、流石ですねえ。わかりました、エリオット中尉と相談して、第1か第2か、どっちかの歩兵小隊をすぐに送りますよ。でもこっちにも捕虜が大勢いるんで、忙しいですね。』

「頼んだ。ではまた後でな。」

 

 そしてキースたちは第2歩兵小隊が来るまで、ビュート・ホールド海賊団の人員や人質が乗ったままの車輛群を監視し続けた。巨大なバトルメックで威圧され続けたため、海賊団も人質も、生きた心地がしなかっただろう。

 

 

 

 その晩キースは、遅くまで司令執務室で書類仕事に取り組んでいた。だが今一つ効率が乗らない。彼は溜息を吐いた。

 

「はぁ……。まいったなあ……。って言うか、なんかちょっとばかり、まいってる。」

 

 よくわからない台詞を吐いて、キースは執務机の上に突っ伏す。少々の間、彼はそのまま動かなかったが、やがて再起動すると再び書類に取り組み始める。だがやはり、効率は悪いままだった。

 そこへインターホンの鳴る音が響く。誰か来室者の様だ。キースはインターホンのスイッチを入れた。

 

「誰か?」

『マテュー少尉です。それと連れが数名いますが。』

「入室を許可する。入りたまえ。」

 

 そしてマテュー少尉とアンドリュー曹長、エリーザ曹長、そして最後にちょっとおどおどしながらイヴリン訓練生が入って来た。キースは厳しい顔になる。彼はイヴリン訓練生に向かい、きつい口調で言葉を発した。

 

「イヴリン訓練生、貴様は今日は既に就寝していなければならない時間ではないのか?」

「はっ!申し訳……。」

「隊長、怒るのはわかりますが、少しだけ話を聞いてもらえませんか。」

「む……。」

 

 マテュー少尉の言葉に、キースはいったん矛を収める。次に口を開いたのは、マテュー少尉ではなくエリーザ曹長だった。

 

「隊長……。この娘はね、なんか城に帰還してきた隊長を偶然廊下で見て、なんか様子が変だったからって心配して司令執務室の前をうろうろしてたの。」

「そこを俺たちが見つけて捕まえて、司令執務室に連れ込んだわけなんだがよ。」

 

 アンドリュー曹長が話を続ける。キースは深く自省した。訓練生にまで見破られるほど憔悴していたつもりは無かったのだが、それもどうやら怪しかったらしい。だがキースは少佐であり、部隊司令であり、惑星守備隊司令官であり、おまけに教育担当官である。ここはやせ我慢をするときだと、彼は判断した。

 

「……そうか。だが貴様に心配されるまでも……。」

「隊長、最後まで話を聞いてください。」

 

 だがマテュー少尉の言葉に、キースは黙り込む。マテュー少尉の言葉には、それほどの力がこもっていた。マテュー少尉は言葉を続ける。

 

「隊長は、イヴリン訓練生を指揮官に育てようとしているのでしょう?だったら良い機会です。指揮官の厳しさを教えるためには。隊長自身が良い教材になれます。」

「俺が?」

「はい。イヴリン訓練生、隊長の様子がおかしいのはだね……。」

「おい、ちょっと待て。」

 

 キースは慌てて止めようとする。だがマテュー少尉は止まらない。彼は今日あった出来事を、細大漏らさず話してしまった。キースが人質もろとも海賊団の人間を撃とうとしたことまでも、だ。

 

「あのときは偵察小隊隊員たちの手前、うちの甘い隊長が撃つわけない、みたいなことを言ってしまいましたが……。本当は奴らが降伏しなかったら、撃つつもりだったのでしょう?人質もろともに。」

「え……?」

「……。」

 

 イヴリン訓練生は、目を見開く。キースは黙して語らない。だがその沈黙が、答えを如実に表していた。マテュー少尉は続ける。

 

「そうすれば、隊長が本気だと言うことが伝わって、残りの人質は無事に救出できる可能性が高かったですからね。イヴリン訓練生、君が指揮官になったなら、いつかはぶつかる問題でもあるはずだ。命の取り捨て選択という問題は、ね。

 何もいますぐ結論を出す必要はない。だが頭の片隅には必ず置いておくことだ。そして君が指揮官になったとき、君なりの結論を持っておきたまえ。他ならぬ自分自身のために。」

「隊長。生き残った人質たちは隊長のこと怖がってたけどよ。でも俺たちは、隊長の決断を支持するぜ?たとえそれが……。」

「たとえ切り捨てられるのが、あたしたちになった時でもね。隊長が考え抜いて出した結論だもの。」

 

 アンドリュー曹長とエリーザ曹長が、話を引き取る。キースは小さく笑った。そのごつい体格からは想像もつかない、儚げな笑みだった。当人は笑ったことにも気づいていないのだが。イヴリン訓練生は、その笑みに目が吸い寄せられて離せなくなる。

 

「……。」

「お前たちを切り捨てるときなんて、来て欲しくないな。そうならんように、頑張るしかないな。」

 

 そしてキースの笑みが晴れ晴れとした物に変わる。

 

「さて、せっかく来たんだ。書類整理でも……。」

 

 キースが「手伝って行かんか?」と口に出す直前、インターホンが再び鳴る。毒気を抜かれたキースがインターホンのスイッチを入れた。ちなみにアンドリュー曹長とエリーザ曹長が安堵の息を吐いたのは言うまでもない。

 

「あー、誰か?」

『ヒューバート大尉です。アーリン中尉も一緒です。』

「む、入室を許可する。」

 

 そしてヒューバート大尉とアーリン中尉が部屋に入って来る。彼らはキースの小隊員がいるのを見て、苦笑する。

 

「いや、帰還したキース少佐の様子が変だったので、アーリン中尉から話を聞いて来てみたんですが、一歩遅かった様ですな。」

「そうですね。せっかく気晴らしにでもなれば、とコレを用意して来たんですが……。」

 

 ヒューバート大尉とアーリン中尉は、ポリ袋に詰め込まれた何本もの酒瓶とつまみを持ち上げて見せる。酒はキースが飲んでも問題ないアルコール15%以下の物が大部分だが、一部に強烈な代物も混じっている様だ。袋いっぱいの酒瓶を見て、アンドリュー曹長とエリーザ曹長が喜色をあらわにする。

 

「お!いい銘柄じゃないですか、ヒューバート大尉!」

「こっちも美味しそう!隊長、コップある!?」

「あー、一応茶を飲むための物が応接セットに備え付けてあるが……。」

 

 うっかりキースが言ったとたん、アンドリュー曹長が応接セットの方へダッシュする。そして、あれよあれよと言う間に酒盛りが始まってしまった。

 

 

 

 そして酒盛りはいつの間にか終わりを告げていた。無事で済んだのは、茶しか飲まなかったイヴリン訓練生に、ザルであったキース当人だけである。残りは皆、司令執務室の床に横になって潰れていた。キースは溜息を吐く。

 

「ふう……。やれやれ、駄目な大人の見本だな。」

 

 そう言いつつ、キースは嬉しそうだった。イヴリン訓練生が、小さく欠伸をする。キースは慌てた。もう彼女は寝る時間をとっくに過ぎている。

 

「しまった……。イヴリン訓練生、送って行くから、もう今日は帰るんだ。」

「は、はい!!……ふわぁふ。!!し、失礼しました!!」

「いや、やむを得んことだろう。さ、行くか。……と、その前に。」

 

 キースは寝転がっている酔っ払いに、仮眠用の毛布をかけて回る。戻って来ると、イヴリン訓練生はすっかり眠り込んでいた。

 

(やれやれ。まあこれは俺も悪いし、しかたないなあ。さて、行くとするか。)

 

 キースは器用にイヴリン訓練生を背負うと、司令執務室を後にした。




今回、主人公は心を鬼にして人質ごと海賊を撃つ決意を、こっそり固めていました。ですが、それはチキンな海賊のおかげで表面化しませんでしたが。けれど仲間達には、すっかり見抜かれていた模様です。
で、今回倒した敵のバトルメックは、海賊の物ですので接収できます。大儲けなのですが、そのかわり戦闘一時金とか報酬とかが、一切出ません。ま、それを差し引いても大儲けなのですが。


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『エピソード-046 日々是鍛錬』

 オーバーゼアー城の城門前に、4機のバトルメックが集まっていた。とは言っても、出撃ではない。先頭に立っていたキースのマローダーから、その全員に向けて通信が入れられる。

 

「これより貴様らお待ちかねの、実機訓練に入る。嬉しいだろう?」

『『『はい!!』』』

「よし、良い返事だ。ただしシミュレーターと実機では、実際にかかるGや衝撃の大きさなど、随分違う点もある。また、事故が起きる危険も比べものにならん。そのことを常に念頭に置いておけ。事故には充分に注意しろ。

 バトルメックを傷つけるのは勿論、貴様ら自身の身体にかかっている経費も既に相当な物になっている。バトルメックを壊したり、貴様らが死んだりすれば、それは部隊にとって極めて大きな経済的損失となる。万が一の際でも自分が死ぬだけだ、などと軽く考えるなよ?

 それではレッスン開始だ。まずは城の周りを、俺が良いと言うまで周回マラソンだ。ただ走るだけ、などと舐めるなよ?俺が先頭に立って、テンポを変えたり左右に機体を振ったりして走行するから、貴様らはその通りに機体を制御してみせろ。機体の制御が無意識にできる様になるのが目標だ。

 では付いて来い!」

『『『了解!!』』』

 

 キースはマローダーをいきなり全速で走行させる。その後をイヴリン訓練生のサンダーボルトが、そしてエドウィン訓練生のウィットワースが、エルフリーデ訓練生の同じくウィットワースが、必死で追走した。キースはいきなり大声で歌い始める。

 

「速い~、速いぞローカスト~♪地平の果てまで走ってく~♪あっと言う間に……。

 こら、貴様らも歌わんか!言ったろう、機体の制御が無意識にできるのが目標だと。歌いながらでも機体を楽に制御できるようになれ。ただしくれぐれも事故は起こすな。」

『は、はい!速い~、速いぞローカスト~♪』

『『地平の果てまで走ってく~♪』』

 

 マローダーは、ダンスの様に機体を左右に蛇行させ、あるいはゆっくり歩き、突然ダッシュする。しかも通信回線から響くキースの歌声に合ったリズムで動いていたかと思うと、いきなりそのリズムからずれた動作をして見せたりもした。まるで曲芸の様である。

 訓練生たちは、必死でその動きに付いて行った。時々歌声が途切れたり操縦をミスしたりすると、キースから容赦なく叱責が飛ぶ。訓練生たちの気力体力は、ごりごりと削られて行った。

 

 

 

 やがて城の周囲を何十周かした時点で、キースはマローダーを停止させた。後ろから、いかにもよたよたと、サンダーボルトと2機のウィットワースが追いついて来る。訓練生たちのメックも、所定の位置に停止した。

 キースはマローダーの操縦席にある小さな通信用モニターで、各訓練生の様子を確認した。全員満面に汗を流し、かなりへばっている模様だ。よく見ると、肩で息をしている。キースはその様子に対し、苦笑しつつ思う。

 

(まだまだだなー。このぐらいでへばっていたら、メックで長距離行軍とかはできんぞー。……スティンガーがあれば、それで長距離行軍訓練とか組むんだがなあ。あれはきついぞー。なんせ操縦席が異様に狭いからな、スティンガーは。)

 

 特にキースは体格が馬鹿らしいほど大きかったため、メック戦士養成校の備品であったスティンガーに押し込まれての長距離行軍訓練では、かなり厳しい目にあった。あの当時からまた身長が伸びたため、もはや今のキースの体格では、スティンガーに乗るのは困難であろう。

 

(あと、カメレオン練習機があればなあ……。実機演習にはあれがあると物凄く楽なんだが。ま、それは考えないことにしよう。それとメックによる長距離行軍訓練も、今のところ見合わせだな。ドラコ連合軍がこの惑星に巣食ってる現状じゃ、下手すると訓練中に即初陣なんてことになりかねん。

 ……お。)

 

 突如響いた轟音に、キースは物思いから立ち戻る。彼が轟音の方を見遣ると、今まさにオーバーゼアー城の離着床から部隊のユニオン級降下船ゾディアック号が、はるか宇宙目指して飛び立って行くところであった。

 ゾディアック号は、6日かけてこの惑星ネイバーフッドが属する星系のジャンプポイントの1つゼニス点に向かい、そこでマーチャント級航宙艦クレメント号とランデブー、ドッキングする。そして一度惑星ガラテアに向かい、そこで新規の部隊員を募集し、それが終わりしだい今度は恒星連邦の惑星ロビンソンに向かう。

 惑星ロビンソンではキースの恩師、レオ・ファーニバル教官が手配してくれたメック持ちでない『ロビンソン戦闘士官学校』卒業者を乗せ、そしてこの惑星ネイバーフッドに戻って来る予定なのだ。

 ちなみに惑星ガラテアで募集する新規の部隊員は、メック戦士だけではない。できるならば気圏戦闘機を持った航空兵も、6名を上限に雇用するように指示されているし、最も重要なのは4名の降下船副長の務まる航法士を新規採用することであった。そう、4名の降下船副長である。

 キースたちが先の戦いで鹵獲したビュート・ホールド海賊団の2隻の降下船、ユニオン級レパルス号とレパード級スペードフィッシュ号は、同じく鹵獲した敵のバトルメック8機と共に、混成傭兵大隊『SOTS』が接収していた。

 この降下船の船長に、今までレパード級降下船ゴダード号副長であったオーレリア・レヴィン准尉および同級ヴァリアント号副長であったイングヴェ・ルーセンベリ准尉が、各々少尉に昇進して就任することになったのである。それ故、合計4隻の降下船副長が、新たに必要となったのだ。

 キースは感慨深げに息を吐く。

 

(ふう……。降下船が増えたなあ。またアーダルベルト艦長や、今度はイクセル艦長にも頼んで、また新たな航宙艦と契約できないか打診してもらわないと。ああ、でもそれらの維持費を稼ぎ出すためにも、メック部隊を更に拡張しないとなあ。少なくとも、第3メック中隊が編成できるぐらいには。)

 

 この降下船やバトルメックの『SOTS』による接収が実現したのは、今回の契約条件が『SOTS』に対して非常に有利であったことがその理由である。この契約を結ぶ際、契約条件が可能なかぎり『SOTS』に有利になるように、キースの親友ジョナス・バートン伯爵の忠実な執事であるロベール・マクファーソンを始めとしたジョナスの派閥の人間が、色々と骨を折ってくれたのだ。

 この契約によると、通常の戦闘における戦利品はライラ共和国が接収し、それに応じた報酬をSHビル――ライラ共和国の継承王家、シュタイナー家が発行している通貨――で支払うことになっていた。

 しかし敵が無法者であった場合は話が異なる。敵が無法者であった場合は、身代金などと引き替えにしてバトルメックや捕虜が返還される可能性が、極めて低い。そのため危険手当と言う意味で、無法者との戦闘ではより一層、雇用された傭兵部隊すなわち『SOTS』に対し、有利な条件になる様になっていた。

 敵が無法者であった場合、戦闘一時金などが支払われない。その代わりに戦利品は、全て『SOTS』が接収することが認められていたのである。

 

(……前回の戦闘で鹵獲したバトルメックをウチの部隊で接収できたのは大儲けだけど、すぐに完全修理するには現金が足りないなあ。『SOTS』の現金のかなりの部分が、恒星連邦のDHビルだから、ここライラ共和国じゃあ両替しないといけないしなあ。

 と言うか、両替手数料が10%は痛すぎる。Cビルは、いざというときのために残しておかないといけないし。前々回までの戦いの報奨金として貰ったSHビルは、既に大半が給与やボーナスと、既に持ってるメックの補修部品や予備部品に化けたしなあ。

 まあ、まだ無理に修理する必要はないか。今の段階だと、メック戦士のいないバトルメックが多すぎるし。それより今は訓練生たちだ。)

 

 キースは意識を訓練生たちの方へと戻す。

 

「そろそろ息も整ってきた様だな。なら次はエネルギー兵器による実機での射撃訓練に移るぞ。なお模擬弾の手配が間に合わなかったので、実弾兵器による射撃訓練はまた後日だ。それと何度も口を酸っぱくして言うが、事故には注意しろ。

 ことに今度扱うのは、実際にメックにもダメージを与えることの可能な、歴とした本物の武器だからな。間違っても味方メックや城の城壁に砲身を向けるなよ?

 さて、城の裏手に仮設の射撃場を準備してあるから、そこまでメックによる駆け足で移動するぞ。さあ付いて来い!」

『『『了解!!』』』

 

 訓練生たちの元気の良い返事に満足したキースは、再び大声で歌い始める。

 

「波の向こうに~♪スティンガーLAMの頭が見える~♪林の陰にはワスプLAMの~♪……歌わんか!!」

『な、波の向こうに~♪』

『スティンガーLAMの~♪』

『頭が見える~♪』

 

 キースの朗々とした歌声、訓練生たちのやや苦しげな歌声と共に、彼らのメックは城の裏手まで駆けていった。

 

 

 

 城の本部棟のシャワールームがちょうど一杯だったので、キースは宿舎のシャワールームまで出向いて汗を流していた。流石に放熱器が多いマローダーの操縦席であっても、やはり冷却チョッキか冷却パイロットスーツが無いと大量に汗をかく。もっともキースの巨体に合う冷却チョッキや冷却パイロットスーツが発掘されたという噂は、まったく聞かないが。

 なにはともあれ、キースはシャワーを最大にして全身を洗い流していた。と、そこへ隣のシャワーの個室から声が聞こえてくる。

 

「うわちゃ!いってー、染みるー。あー、メック座席の固定ベルトの跡が、痣になってやがる。実機はやっぱり、シミュレーターとはGが違うなー。けど、キース少佐って厳しいと言うかなんつーか……。サドじゃねーのかね。」

「あー、エドウィン訓練生。貴様は上半身裸でメックの座席に座っていたが、Tシャツぐらいは着た方が良いぞ。汗をわずかなりとも吸ってくれるし、貴様が今痛い目を見た固定ベルトの締め付けによる跡も、Tシャツの生地を挟めば多少は楽になる。」

「え゛っ!?うわっ!少佐がぼげぼごぼっ!?」

 

 どうやら隣の個室に入っていたエドウィン訓練生は、驚いた拍子に顔面に真正面からシャワーを浴びたらしかった。キースは苦笑する。

 

「えほっ、げほっ、しょ、少佐!いつからそこにいらっしゃったんですか!?」

「貴様より先にいたが。」

「そ、そんな……。」

 

 どうやら陰口を聞かれたことで、エドウィン訓練生は絶望しているようだ。キースは今度は、声にだして笑う。

 

「くっくっく……。しかし、サドとは言ってくれるな。これでも俺がメック戦士養成校のとき受けた訓練よりかは、随分優しくしているのだがな。」

「ええっ!?あれで!?」

「貴様たちはまだまだ成長期で、身体が出来上がっていない。下手なトレーニングを課すと、成長を阻害したりするからな。それに今の段階で身体に無理を強いると、後々一生ものの故障が残ったりもする。」

 

 もっともキースはメック戦士養成校就学中に、随分と身体が大きくなっていたため、キースの恩師レオ・ファーニバル教官はさほど、と言うかまったく手加減してくれなかったのではあるが。しかしその強烈な教導を受けてもキースの肉体は成長を止めず、ついには操縦席の狭いスティンガーへの搭乗が困難なぐらいになってしまった。キースは再度苦笑する。

 

「まあ何にせよ、あれ以上優しくしてやるつもりは全くない。貴様たちが訓練不足で死ねば、以前も言った通り貴様らの訓練にかけて消費したわが部隊の資産は、まったくの無駄になる。それ以上に、戦場で貴様たちが死ねば、貴様たちの戦友も巻き添えで死ぬかもしれんのだ。戦場でバトルメックが1機欠けるというのは、それだけ意味合いが大きいことを肝に命じておけ。」

「は、はいっ!!」

 

 キースはシャワーを止めて、ざっとタオルで身体を拭き、そのタオルを腰に巻いて個室を出る。隣の個室からも、エドウィン訓練生が出て来た。たしかにメック操縦席シートの固定ベルトの跡が、痛々しい。エドウィン訓練生が、目を見張る。

 

「うわ……。少佐、すごい筋肉ですね。いったいどんな鍛錬をしたら、そうなるんですか?」

「むう、俺の場合は先天的な体質が大きいな。ただ、筋力トレーニングとプロテインは欠かさなかったが。」

「そうか、筋力トレーニングとプロテインか……。」

 

 エドウィン訓練生の台詞に、キースは眉を顰める。

 

「あー、先ほども言ったが、身体ができあがらないうちに無茶なトレーニングをすると、身長が伸びなくなる危険があるぞ。筋力トレーニングをやるのをとめたりしないが、ほどほどにしておけ。特にスクワット系や、ウェイトを使ったジャンプを伴うトレーニング法、瞬間的な負荷が大きい運動は避けろ。」

「そ、そうですか……。了解しました……。」

「ただ、無茶じゃない範囲の筋力トレーニングならかまわん。と言うか、奨励する。まあ、ほどほどにしっかり頑張るんだな。ただし基礎教養の授業や軍事知識の座学、メック操縦訓練に支障が出るようなら、禁止するからな。」

「はっ!!了解です!!」

 

 キースはシャワー室を出てさっさと着替えると、宿舎から出て本部棟に向かった。

 

 

 

 司令執務室で大量の書類の山に埋もれて、キースは仕事を小休止してグリーン・ティーを啜っていた。無論、書類に茶を零す真似はしない。そこへ、机上のインターホンが鳴る。キースはそのスイッチを入れた。

 

「誰か?」

『アンドリュー曹長だ、隊長。エリーザも一緒だぜ。』

「入室を許可する。入れ。」

 

 アンドリュー曹長とエリーザ曹長が、入室して来る。彼らは入ってくるなり、口々に言った。

 

「隊長、エドウィンに何か言ったか?なんかやたら張り切って、筋力トレーニングに励んでるんだけどよ。俺としては、表面の筋肉だけじゃなしにインナーマッスルも鍛えさせたいんだけどな。」

「エルフリーデもエドウィンに感化されたのか、妙に筋力トレーニングについて質問してくるのよ。隊長、なんか良い本ないかしら。あたしもそこまで詳しいわけじゃないから。」

 

 一瞬唖然としたキースであったが、なんとか再起動を果す。

 

「あー、まずはエドウィン訓練生の件からだな。特に何かを言ったわけじゃないんだが、筋トレに興味を示していたので、無理ない範囲で頑張れとは言ったが……。ちょっとまってろ。」

 

 キースはそう言うと、レポート用箋を取り出して2枚切り取る。そして左右の手で1本ずつペンを持って、2枚の紙にばばばっ!と高速で何かを書きつけていった。そして彼はその紙をアンドリュー曹長に手渡す。

 

「一応、インナーマッスルとアウターマッスル両方を効率よく鍛えられるメニューを書き出してみた。あとは適量のプロテインを摂取すればいいが、オーバートレーニングやプロテインの摂取し過ぎに注意するよう、厳重に注意してやってくれ。」

「お、おう……。な、なんだ、今の?両手で紙に書きこんでたよな?」

「ああ、せっかく両手利きなんだから、上手く活用できないかと思って小さい頃から練習していたんだが。近年、ようやく効果が出て来てな。」

「隊長の小さい頃ってのが、既に思い浮かばねーんだが……。ま、サンキュ。このメニューは貰ってくわ。」

 

 キースは次にエリーザ曹長に向き直る。

 

「そっちはエルフリーデ訓練生の話だったな。筋トレの本、だったか?たしか何冊か持ってたが、今はデファイアント号の俺の船室のクローゼットに押し込んである。明日までに持ってくるから、また取りに来てくれ。」

「う、うん……。ねえ隊長、もう1回さっきのやつ見せて!両手で別々の文字を書くやつ!」

「……そこまで珍しいかね。」

 

 キースはレポート用箋をまた2枚切り取ると、再度ペンを両手に持った。ここでちょっと悪戯心が湧いたキースは、文字では無く眼前の2人の似顔絵、それもかなりデフォルメされた物を両手で同時に別々に描いてみた。眼前の2人は唖然と、というか呆然とする。

 

「……凄ぇ。」

「うん、凄いわね……。」

「……そこまでのことか?」

 

 2人は目一杯頷いた。

 

 

 

 2日後の朝、キースはイヴリン訓練生と共に、オーバーゼアー城の外壁内周をランニングしていた。一日が48.8時間のこの惑星では、連盟標準時で生活していると、一日中真昼の日や、逆に一日中深夜の日もある。

 この日は明るい日だったので、キースは外でのランニングをしていた。いや、キース1人のことであれば暗い日でもかまわないのだが、キースがランニングするときはまず必ずと言っていいほどイヴリン訓練生も付いて来るので、暗い日には彼は、例のサイモン老謹製の改造ルームランナーでランニングすることにしていた。

 真っ暗な中を12歳の少女に走らせるのは、彼自身が付いているとは言えども流石に何かまずい気がするのだ。

 ランニングが終了し、キースはイヴリン訓練生と共にストレッチでクールダウンをする。キースはストレッチをしながらイヴリン訓練生に訊ねた。

 

「ずいぶん体力がついたな。だがオーバートレーニングになってはいないか?俺は流して走った程度だが、貴様にとっては随分きつかったのではないか?」

「はい!いいえ、最初の頃はきつかったのは確かですが、今はもう大丈夫です!」

「そうか?ふうむ。本当に随分体力がついたな。予想以上だ。これならもう少し訓練を厳しくしても大丈夫かな?バトルメックでの城外ランニングの周回数を、増やすとするか……。」

「え゛……。」

 

 キースの笑えない冗談に、イヴリン訓練生は硬直する。だがすぐに復活し、彼女はキースに質問をしてきた。

 

「最近エルフリーデ訓練生やエドウィン訓練生が、筋力トレーニングに励んでいるみたいなんですが、私もやった方がいいんでしょうか。」

「ふむ、最低限の物はやっておいた方がいいかもしれんが、貴様は今のメニュー以上にやるとオーバートレーニングになりかねないからな。今の鍛錬メニューで充分だろうよ。あとは身体が充分に成長してからだな。」

「はい……。」

 

 イヴリン訓練生は、少々残念そうだった。もしかすると、自分もやって見たかったのかも知れない。キースは直球で訊いてみた。

 

「……やって見たかったのか?」

「はい。と言いますか、キース少佐が凄い筋肉なので……。」

「それで興味を持った、か?ううむ、俺のこの筋肉は、あくまで鍛錬の「結果」であって、別に筋肉ムキムキになることが「目的」だったわけでは無いのだがな。」

「そうだったんですか!?」

 

 驚きの声を上げるイヴリン訓練生に、キースは頷いて見せた。

 

「目的はあくまで、長時間のメック戦闘に耐え抜く体力と、衝撃やGでも揺らぐことの無い体幹を支える筋力を得ることだ。ただ、その方面に肉体的素養があったのか、ここまでの身体にこそなったがな。」

「はあ……。ならキース少佐は、特に筋肉がお好きなわけでは無いんですね。」

「ああ。だが、何故そう言う考えになるのか不思議なのだが……。さて、基礎教養の授業に遅れないうちに、シャワーを浴びて来い。」

「はいっ!!」

 

 イヴリン訓練生は、本部棟のシャワー室へと駆けていった。キースもまた、男性用のシャワー室へと急ぐ。その途中、キースはふと思った。

 

(……イヴリン訓練生、俺に感化されたってことか?筋力トレーニングに興味示したってのは。まあ、オーバートレーニングを阻止できたんだから、良しとしておこう。それにしても、筋肉ムキムキのイヴリン訓練生は、ちょっと想像し難いなあ……。

 一応しばらくの間、下手にオーバートレーニングにならない様に、注意して見ておくかね。)

 

 心の中で、自分に頷くキースであった。




今回は、主人公たち……ことに訓練生たちを中心にした、鍛錬の風景を描写いたしました。訓練生たちは、色々とまだまだ甘いのです。ですが、これからどんどん絞られて、いつか一人前のメック戦士へと……成長するといいですねえ(笑)。
それと、イヴリン訓練生ですが……。あきらかに主人公を意識してます。今後どう転ぶか……。


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『エピソード-047 第11海軍基地攻防戦』

 連盟標準時3026年5月13日、この日キースはオーバーゼアー城の司令執務室にて、エルンスト曹長からの報告を受けていた。何の報告かと言うと、以前スパイ網の拠点にて偵察小隊編成の敵メック部隊を壊滅させた際に、敵が残して行った書類の精査結果についてであった。

 

「いやはや、大変でした。この書類ですが、周到な暗号化が施されていまして。解読に随分と時間を取られてしまいましたよ。パメラ軍曹にも協力を仰いで、城の主コンピュータ時間を借りてようやっと解読に成功しました。」

「すると、内容はかなり重要な物だったのか?」

「はい。この惑星も当然のことながら、昔は星間連盟の支配下にありました。それ故に、星間連盟時代の遺跡がこの惑星にあっても、なんらおかしくは無いわけですね。で、簡単に言うと、それがあったわけです。敵偵察小隊は、この遺跡を奪うための奇襲攻撃をかける準備をしていたんです。」

 

 エルンスト曹長は、暗号化されていたと言う書類の解析結果をキースに手渡す。キースはそれを一読する。

 

「なるほど、たしかに星間連盟期の遺跡らしいが……。どういう物かは書かれていないな?規模もそれほど大きくは無い様だ。場所は……現在の第11海軍基地の真下、か。海軍基地とは言っても、シャトル発着場でしか無く、碌な防備も無い……。偵察小隊が1個小隊で、充分に奪える物だったろうな。

 なるほど、この基地の離着床と滑走路は、元々遺跡の一部だったんだな。だが遺されていたのが離着床と滑走路だけだと考えられていたのが、まだ地下があったと言うわけか。となると、この遺跡も元々は宇宙船関係の物である可能性が高いのかもな。」

「ただ、規模が大きくなくとも、これだけの暗号化がかけられていた代物です。相当重要な物が隠されているのは間違いないかと。」

「確かにな。この件は、すぐに惑星政府に報告しよう。対処は惑星政府の反応次第だ。遺跡の所有権は、基本的には惑星公もしくは、その直下にあることに形式上なっている惑星政府の物だからな。」

 

 そう言うキースの表情は優れない。エルンスト曹長は怪訝な顔をする。

 

「いったいどうしたんですか、キース少佐。あまりご機嫌がよろしくない様子ですが。」

「いや、俺はこの書類ができれば敵のスパイ活動その物を洗い出す手がかりになってくれることも、期待していたんだ。無論、敵偵察小隊の作戦目的がわかることも期待はしていたが、それによってスパイ組織の活動の糸口なりとも掴めれば、と思っていたんだが……。」

「なるほど、そうでしたな……。この書類の内容では、敵のスパイ組織の糸口は掴めませんな。……ところで、奴らはこの情報を、何処から手に入れたのでしょうな。」

 

 キースは少し考えてから、口を開いた。

 

「それも惑星政府の反応しだいかも知れんな。惑星政府がまったくこの遺跡について知らなければ、惑星外に遺されていた古文書などからの情報かも知れん。知っていたなら、惑星政府の内側から漏れた情報であるやも知れんな。後者なら、惑星政府の内懐にスパイが潜り込んでいる傍証になるかもな。」

「ほほう、確かにそうですな。さて、では私はこの辺で失礼をさせていただきたく思いますが。」

「うむ、下がってよろしい。」

 

 エルンスト曹長は敬礼をする。キースも答礼を返した。エルンスト曹長は踵を返し、そのまま司令執務室を出て行く。キースは机上の電話機を取り、外線電話をかけた。電話した先は、首相官邸である。なお、電話で遺跡関係の話をするつもりはない。単に向こうに出向くためのアポイントメントを取りつけるために電話をかけただけであった。

 

 

 

 そしてキースは今、首相官邸までやって来ていた。運転手はいつものジャスティン伍長である。もっともジャスティン伍長はジープの運転席で、じっとキースの帰りを待っているのだが。さすがにキースのお供とは言え、惑星政府首班である首相などと言う偉いさんとは、差し向かいで会いたくは無いだろう。

 トゥール・メランダー首相は、キースと1対1で首相官邸の中の小さな応接室に入った。応接室と言うよりは、尋問室とでも言いたいぐらいの狭い部屋である。ただし、調度の類は豪華な物であった。メランダー首相はにこやかな笑みを崩さずに言う。

 

「すまんな、ハワード少佐。こんな部屋に通してしまって。ただ、今のところ100%確実に盗聴器などの掃除ができている部屋がここだけなのだよ。他の部屋でも90%以上は確かだと思われるのだが、なにぶん敵ドラコ連合のスパイの技術は、我々のそれを超越している模様なのでな。」

「いえ、自分もあまり広い部屋は落ち着きませんので。」

「ならば良かったが……。まあそれよりも、だ。何やら重要な案件があると言う話だったが?電話で話すのは危険なことなのかね?」

 

 おもむろにキースは、首を左右に振る。

 

「危険、とまでは申しません。今回の件は、敵スパイが拠点から逃走する際に、始末し損ねて残して行った書類の暗号を解読し、得られた情報による物です。ですので、敵にもこの情報がこちら側の手に渡ったことは、充分に推察できるでしょう。ですので、この件自体はそれほど秘密にする意味はありません。」

「ふむ……。何か考えがありそうだね?で、その情報とは何かね?」

「惑星軍の第11海軍基地の真下の地中に、星間連盟時代の遺跡が存在している、との情報です。規模は大きく無く、どのような遺跡であるかの種別も判明しておりませんが、ドラコ連合軍はこの遺跡を押さえるために1個メック小隊による奇襲攻撃を計画しておりました。

 幸いにも事前にそのメック小隊は壊滅させることができましたが……。」

 

 メランダー首相は表情に驚きの色を浮かべる。キースはメランダー首相を問い質す。

 

「首相、貴方が今驚かれたのは、そんなところに星間連盟時代の遺跡があったからですか?それとも秘密にしていた遺跡のことをドラコ連合が知っていたからですか?」

「ハワード少佐、それは穿ち過ぎな見方だよ。私はそこに星間連盟時代の遺跡があることなど、まったく知らなかった。この惑星の星間連盟時代の遺跡は、すべて調査済みで大したものは無いはずだったのだが……。しかし敵はどうやってその情報を知り得たのだろう。」

「それは流石に、わかりかねます。この惑星外に、古文書でも残存していたのやも知れません。……首相、惑星政府としてはこの遺跡の処置を、どうなされますか?」

 

 キースの言葉に、メランダー首相は頷く。

 

「うむ。ハワード少佐、この惑星の技術者たちではおそらく手が出せん代物だろうと思われる。君の部隊に調査依頼を出したいのだが、かまわんかね?無論、戦闘任務扱いで報酬を出そう。」

「了解いたしました。ついてはその調査において、少しお願いしたいことがあるのですが……。」

「何かね?」

 

 キースはざっと自分の考えを話す。メランダー首相は少しの間眉を寄せて考えていたが、やがて確固たる口調で言った。

 

「わかった。やってみよう。なるほど、それで電話ではなく、わざわざ来てくれたのか。」

「ありがとうございます。」

「いや、これは本来こちら側の問題である側面が大きいからね。上手く行ってくれると助かるのだが。」

 

 メランダー首相はにやりと悪党っぽく笑った。キースもにやりと人の悪い笑みを返す。2人は固く握手を交わした。

 

 

 

 マローダーの操縦席で、キースはライトニング戦闘機4番機からの報告を受けていた。ちなみに通信回線は、レパード級降下船ヴァリアント号の通信装置とオーバーゼアー城の通信設備を介して構築してある。

 

『こちらアロー4。キース少佐、オーバーゼアー城に2個小隊の戦車による機甲部隊と、それに追随して兵員輸送車と見られる車輛が多数向かっています。』

「予想通りだな。タカハタ少佐の性格から、戦車と歩兵を足止めにするのではないかと思っていた。戦車に重戦車は含まれているか?」

『いえ、重戦車は含まれていません。ただしこちらは高高度のため、個別の車種の判別は難しいです。航空写真は撮影して城の指令室に送りましたので、解析が終わりしだい判明するとは思います。』

 

 と、ここでライトニング戦闘機3番機からの報告が、キースのマローダーに入る。

 

『こちらアロー3!キース少佐の予測通りです!1個中隊強のバトルメックが、第11海軍基地に向かって進攻中です!』

「こちらも予想通りか。しかもおおよその時間まで的中とはな。ただ戦力はいささか大きかった様だが。……ヒューバート大尉!聞こえるか!」

『こちらオーバーゼアー城、ヒューバート大尉です。』

 

 キースはヒューバート大尉に指示を下す。

 

「そちらに足止め目的と思われる戦車部隊と歩兵部隊が向かっている。第2中隊は発進準備できているな?」

『ええ、既に全員メックに搭乗済みです。機甲部隊の戦車も全車輛準備整ってます。』

「城の手前で待ち構えて迎撃してくれ。細かいところは任せる。ただ、歩兵には注意してくれ。対メック歩兵を侮ると、痛い目を見るからな。」

『わかってます。任せてください。対メック歩兵の怖さはわかってます。』

 

 ヒューバート大尉は、しっかりと請け合う。この会話でわかる通り、キースたちの第1中隊は今オーバーゼアー城にはいなかった。ではどこにいるかと言うと、キースたちは第11海軍基地に出向き、既に発掘調査を開始していたのである。

 偵察兵であるエルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹が、整備兵たちの支援を受けつつ現在地下施設を探索中であった。その間メック部隊は、海軍基地のシャトル格納庫内に機体を隠して敵が来るのを待ち構えていたのである。

 何故キースが敵が来る時間を予測していたのかと言うと、それには次のようなわけがある。キースは首相と会談した際に、発掘調査開始の日付を本来の実施日時よりも後にずらして周囲の者に伝える様に頼んだのだ。また同時に、発掘にメック戦力を付けて出すことは伏せておくようにも頼んだ。もし惑星政府内にドラコ連合スパイ網の手が伸びているとしたら、そして元国防大臣スティーグ・ブラックバーン氏の線以外にスパイがいるとしたら、敵にはこの間違った情報が伝わるはずなのである。

 わざわざメック1個小隊を用意してまで確保したがった遺跡である。それが発掘されるとあらば、相手は遺跡を奪取しに来るとキースは考えたのだ。そして敵が情報入手後に可能な限り急いで行動した場合に備えて、こちらも可能な限り早く第11海軍基地にメック戦力を配置した。

 先日入手したばかりのスペードフィッシュ号を含めた、『SOTS』所有の3隻のレパード級降下船を全て投入しての、バトルメック1個中隊とスナイパー砲車輛1台の戦力輸送である。もっとも、敵はそこまで急がずに行動したため、多少待ちぼうけになったのは仕方のないところだが。

 

(時間は公表された時間の3時間前か……。こちらの発掘隊が到着するより前にこの遺跡を押さえておこうとしたんだろう。ここまでは予想通りだけど、敵戦力が1個中隊強だと言うのが予想以上だったなあ。おそらく動かせる戦力の限界に近い数のはずだよな。

 ここまで思い切ることができる人物だとは……。見誤ったかな?いや、前回の大敗で思いつめていたのかも知れない。万が一に備え、こちらも1個中隊を出しておいて良かったよ。)

 

 もしかしたら、スパイがいなかったり、タカハタ少佐まで情報が伝わらないかもしれなかったが、それならそれで良かった。その場合は、普通に発掘調査を終わらせるだけである。だがしかし、敵はやって来た。やはり惑星政府内には、まだドラコ連合のスパイに通じている――本人が自覚しているしていないに関わらず――者が存在しているのだ。

 やがて敵のバトルメック部隊が姿を現した。キースたち『SOTS』メック部隊第1中隊も海軍基地の南側に展開し、敵を待ち受ける。敵はこちらが既に、バトルメック戦力を目標の海軍基地に送り込んでいたことに、動揺する様子を見せていた。だがそれでも戦意は失わず、前進してくる。キースはスナイパー砲車輛のサイモン老に砲撃指示を下した。

 

「サイモン少尉!スナイパー砲をBA-S-14058ポイントに撃ち込め!その次はそこからNEに150m地点!更にその次は120mNWにずれた地点だ!風向と風力は、Wより3単位!」

『了解ですわい!』

「指揮小隊は先頭のウォーハンマーに攻撃を集中しろ!まずはあれを脱落させるぞ!」

『『『了解!』』』

 

 指揮小隊のバトルメックはキースの指示に従い、その長射程火器をもって敵のウォーハンマーに火力を集中した。キースのマローダーより粒子ビーム砲2門、中口径オートキャノンが1門放たれる。アンドリュー曹長のライフルマンからは中口径オートキャノン2門が発射された。大口径レーザーは、まだ届かない距離である。エリーザ曹長のウォーハンマーからは粒子ビーム砲が2門、マテュー少尉のサンダーボルトより15連長距離ミサイル1門が、各々射撃された。

 いきなり遠距離射程ぎりぎりで集中砲火を浴びた敵のウォーハンマーは、唯一かろうじて届く粒子ビーム砲での応射を試みるが、命中は覚束ない。逆にキースの指揮小隊からの砲火は、その全てが吸い込まれる様に命中した。その攻撃のうち、粒子ビーム砲2発と中口径オートキャノン1発が胴中央に集中し、敵のウォーハンマーはジャイロを破壊されて転倒してしまう。これでこの機体は戦力外になった。

 キースは続けざまに命令を下す。

 

「敵が遠いうちに、できるだけ数を減らすぞ!次の目標は向かって右のK型クルセイダーだ!……撃て!!」

 

 そのK型クルセイダーもまた、指揮小隊の集中砲火を浴びる。K型クルセイダーは2基の10連長距離ミサイル発射筒で応射を試みた。かろうじて、マテュー少尉のサンダーボルト右腕に4発だけ、長距離ミサイルが命中する。だがそれと引き替えにして、K型クルセイダーの右脚は火力の集中により折り取られてしまう。K型クルセイダーは派手に転倒した。

 味方の尊い犠牲の下、向かって左に位置するもう1機のK型クルセイダーおよび2機のグリフィンは、丘陵地帯を盾にした絶好の射撃位置を奪うことに成功する。またK型ウルバリーン、K型シャドウホーク2機、ハンチバック、K型フェニックスホーク2機は全力で前進してきた。キースは偵察小隊機と火力小隊機を投入する。

 

「アーリン中尉、偵察小隊でK型フェニックスホーク2機とK型ウルバリーンを抑えてくれ。ケネス中尉、そちらはK型シャドウホーク2機を、味方のアーチャーの支援下で叩いてくれ。マテュー少尉は全力で前進し、敵のハンチバックを潰してしまうんだ。残りの指揮小隊機は、俺がK型クルセイダー、アンドリュー曹長機が右のグリフィン、エリーザ曹長機はマテュー少尉機の陰に隠れつつ前進して左のグリフィンを撃て。」

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 ここでスナイパー砲の第1射が着弾する。巻き込まれたのは、K型フェニックスホーク2機である。そのK型フェニックスホークに、偵察小隊の通常型フェニックスホーク2機、D型フェニックスホーク1機、グリフィン1機から火力が集中する。K型フェニックスホークも応戦する。

 機動力が高い機体同士だけあって、命中率はさほど高くないが、それでも両者の装甲は少しずつ削れて行った。なお敵のK型ウルバリーンは、いまだ戦場の中心からは離れた場所を走っている。

 一方火力小隊もまた、K型シャドウホークめがけて2機のアーチャーが20連長距離ミサイルの雨を降らせる。味方のハンチバックとウルバリーンは、まだ戦線に到着していない。だが20連長距離ミサイル合計4門の破壊力は凄まじく、K型シャドウホークはかなり大きなダメージを喰らっていた。

 指揮小隊のメックは、マテュー少尉のサンダーボルトとエリーザ軍曹のウォーハンマーを前衛にして、基本的に敵の後衛を潰す行動に出ていた。アンドリュー曹長のライフルマンが、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門を撃ち放つ。その砲撃は、丘陵を盾にしたグリフィンの頭部を見事に捉え、吹き飛ばしていた。メック戦士はなんとか緊急脱出に成功した様だった。

 エリーザ―軍曹のウォーハンマーは粒子ビーム砲2門でもう1機のグリフィンを攻撃し、その右腕を吹き飛ばしてしまう。キースのマローダーも、粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門を過熱覚悟で射撃、うち1門の粒子ビーム砲がK型クルセイダーの頭部を貫いてメック戦士を死亡させた。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 スナイパー砲の第2射が着弾する。今度砲撃を受けたのは、K型シャドウホーク2機だ。先ほどのアーチャーからのミサイル攻撃と合わせ、かなりのダメージを被っている。ここで、粒子ビーム砲も届かない最後尾から指揮を取っていたグラスホッパーから、なんらかの指示があったと見えて、全敵機が牽制の射撃を放ちながら、一斉に後退を始める。キースは通信回線に向けて叫んだ。

 

「追い撃ちの遠距離射撃は行え、だが追撃は避けろ。敵が逃げると言うなら逃がしてやれ。ただし遠距離射撃で倒せそうな相手は潰してしまえよ。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 エリーザ曹長のウォーハンマーとマテュー少尉のサンダーボルトが、攻撃が届く火器の斉射を敵のハンチバックに浴びせる。ハンチバックは後退しつつ最大口径オートキャノンの一撃をサンダーボルトへ撃って命中させるが、サンダーボルトの分厚い装甲はそれに耐えきる。逆にハンチバック側は一瞬で装甲をずたずたにされ、左脚を折られてしまった。

 キースのマローダーとアンドリュー曹長のライフルマンは、それぞれアーリン中尉の偵察小隊とケネス中尉の火力小隊を支援している。その射撃に外れはまったく無い。恐ろしいまでの命中精度であった。

 アーリン中尉の偵察小隊も、K型フェニックスホークの1機を、ケネス中尉の火力小隊も、K型シャドウホークの1機を行動不能にしている。ここで残りの敵は、後ろを向くと全力疾走で逃走した。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 敵が未だ抗戦していたとの想定下で撃たれたスナイパー砲の砲弾が、誰もいない場所に着弾する。第11海軍基地の攻防戦は、終わりを告げた。なお、オーバーゼアー城方面も、足止め部隊の機甲部隊と歩兵部隊を壊滅させ、撤退に追い込んだと後に報告があった。

 

 

 

「……そうですか。上の人間には逃げられましたか、残念です。」

『だが、惑星政府内はこれでかなり綺麗にすることができたよ。』

 

 今キースは、オーバーゼアー城の司令執務室で、メランダー首相と電話で話していた。そう、今回の件ではもう1つ仕込みがあったのだ。惑星政府内に存在している可能性が高かったスパイを通じ、偽情報を流すというよくある手段の他、その情報が流れる経路を確認してスパイを洗い出し、摘発するという目的があったのである。

 ただ、官憲が捕らえることに成功したのは実際に情報収集を行っていた下っ端ばかりであり、スパイ網の上位に位置する者は下っ端が捕らえられている間にドラコ領域への逃亡を完了していた。

 

『しかし、遺跡に隠されていた物がまさか深探査レーダーと収束赤外線装置他の対宙監視レーダー設備一式だったとはね。ドラコ連合が焦って押さえようとするわけだね。』

「ええ。このシステムが稼働状態になれば、この星系の星系保安システムは1段階も2段階も強力になります。今までの様に、隠密裏に降下船を送り込むことなど不可能になるでしょう。それと星間連盟期の施設としては量が少ないですが、幾ばくかの物資も発見されております。」

『うむ、物資自体はこの惑星では役に立たん原料状態だが、他の星系に売り払えばかなりの儲けになるね。君たちに支払う報酬も、そこそこの額が出せそうだよ。』

 

 深探査レーダーとは、星間連盟時代後期に開発された試験型の装置であり、航宙艦のジャンプポイントへの出現をあらかじめ察知できる。また収束赤外線装置は、ジャンプポイントに到着した艦船の「熱影」を検出することが可能であり、既に到着している艦船しか判別できないものの、より高い精度の解析結果を与えてくれる物である。この惑星ネイバーフッドを守る上で、より一層の力になることは間違いない。

 メランダー首相はいったん言葉を切ると、おもむろに話し始める。

 

『ところでライラ共和国から君たちの部隊宛てに通達が来ているらしいよ。内容はこちらでは知ることはできんが、共和国政府の友人からの話では、「防戦ばかりではなく、攻勢に出よ」と言うことらしいね。まあ、拠点の1つも奪還すれば文句は言ってこんだろうとは思うが。この通達の正式な書類は、すぐにそちらに届くはずだ。』

「お知らせいただき、ありがとうございます。早速検討いたします。」

『うむ、ではこの辺で失礼するよ。今回の報酬は、できるだけ早く支払う様にする。ではな。』

 

 電話は切れた。キースは少々思い悩む。

 

(うちの部隊って、防衛戦が主で攻勢の任務はあまり無かったよな。指揮小隊の面々は大丈夫だと思うけど。まあ、やらなけりゃ経験ができるわけも無し。……正式な書類が届いたら、部隊内での意思統一をしておかなきゃな。何処を攻めるかとか、攻め取ったあとの維持の方法とか。書類が来たらすぐに士官を集めて会議をしよう。

 と、その前に訓練生たちの座学の時間だな。今日は戦史とそれに関連した戦術の講義か。場所は第1小会議室だったな。)

 

 キースはてきぱきと講義に使う資料を集めると立ち上がり、司令執務室を後にした。




とりあえず、海軍基地の情報を使って、敵スパイ組織の情報網をお掃除しました。残して置いて、偽情報を流したりするのに使った方がいい、と言う話も聞きますが、首相たちの精神衛生のためにはソレは厳しかったのです。


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『エピソード-048 守勢から攻勢へ』

 オーバーゼアー城の第1大会議室では、『SOTS』の士官による会議が開かれており、様々な意見が交わされていた。議題は、バトルメックの修理が完了しだい敵に対し攻勢に出る上で、何処の敵拠点を攻撃するか、である。議長役である、惑星守備隊司令官兼混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令キースが要点をまとめた。

 

「……つまり意見をまとめてみると、攻撃目標となり得る敵拠点は3つあるわけだな。気圏戦闘機で撮影した航空写真で判明している敵の前進基地1ヶ所、仮にAポイントとしよう。これと、それより後方にある前線基地、これをBポイントとする。最後にドラコ連合軍が現時点の根拠地として利用している城、インターリアー城だな。敵の本丸だ。これをCポイントとする。」

 

 ここで機甲部隊戦車中隊の指揮官、イスマエル中尉待遇少尉が立ち上がり発言する。

 

「自分はCポイント、インターリアー城の攻略を進言するものです。今現在敵の戦力は低下し、絶好の機会と言えます。」

「待ってくれないか。」

 

 イスマエル中尉待遇少尉に待ったをかけたのは、ヒューバート大尉だった。彼は手元の資料を指し示しながら言う。

 

「城を攻略するとなると、生半可な戦力では不安だ。元々この城は、ドラコ連合軍来襲前にはライラ共和国側の施設だったんだ。その当時の情報を見てみると、このオーバーゼアー城に劣らない防御設備が存在している。スナイパー砲2門、北東、北西、南東、南西の4ヶ所に設置された砲台、それに地雷原だ。その上に、これらが更に増強されていないとは限らない。

 必然的に全力出撃となる。その間に敵が戦力を2つに分けてオーバーゼアー城を攻撃したら危険だ。それに敵の戦力が低下しているとは言え、最低でもまだ前回逃げ延びた戦車1個小隊、バトルメック8機はあるんだ。更に捕虜にした戦車兵を尋問した結果、バトルメック戦力についてはよくわからなかったが、戦車に関しては前回出て来なかった戦力がまだあるらしい。

 それに城を落としたとして、城以外に配置されている戦力がゲリラ化する可能性が高いのも厄介だ。」

「なるほど……。では大尉はどこを攻略すべきだと考えておられるのですか?」

「多少消極的すぎると言われるかも知れないが、ここAポイントの前進基地だ。理由は2つほどある。まずここに前進基地があることによって、敵はこちらの軍事行動を掣肘できる。以前から目障りだと思っていたんだ。ドラコ領域内に進攻するためには、この前進基地が邪魔になる。できれば早いうちに潰しておきたい。

 2つ目は、ここの戦力が戦車1個小隊という小規模だと言うことだ。と言うか、小規模な戦力しか置けない程度の規模しかない。その気になれば1個メック小隊で充分に潰せるだろう。逆に言えば、その程度の戦力でこちらを掣肘できる様な絶妙な位置に、前進基地を造られたのは痛恨なんだが。前任の部隊を悪く言いたくはないが、愚痴も出ようと言う物だな。

 ……それはともかくとして、機甲部隊から支援のための1個戦車小隊、歩兵中隊から1個歩兵小隊出して貰えれば、更に確実にここを潰せる。他の戦力は丸々予備戦力にできる。

 ただ懸念があるとすれば……。」

 

 ヒューバート大尉が眉根を寄せる。レパード級ヴァリアント号のカイル船長がその先を引き取った。

 

「懸念と言うのは、政治的な問題かね?ライラ共和国政府からの通達文には、できるだけ早い時期に攻勢に出ろとあった。たかが前進基地を潰した程度で、攻勢と見てくれるかどうか、と言うことかね?」

「その通りです。」

「もう1つ問題が。その後方に前線基地が控えています。」

 

 メック部隊第2中隊火力小隊『機兵狩人小隊』の暫定小隊長、サラ中尉待遇少尉が付け加える様に言った。だが彼女はそれだけで黙ってしまう。彼女は時々言葉が足りない。確かにある程度の知識がある者ならば、これだけの台詞で充分理解できるかも知れないが、誤解を生む可能性もある。ちょっと慌てて、アーリン中尉が付け加えた。

 

「あ、えっと。Bポイントの前線基地が控えているから、Aポイントの前進基地程度はいつでも別の場所に再建できる、ってことかしら。」

「はい。」

「たしかにそれは厄介ね。いっそのこと、Bポイントの前線基地を叩くのはどうかしら。ここには現在メック1個小隊と戦車2個小隊および砲台1基が配備されているみたいだけど。そこを叩いてそこに1個メック小隊でも駐留させれば近くにある街、エクステリアーもこちらの領域に取り込めるわよ。」

 

 アーリン中尉の意見に、歩兵部隊を率いるエリオット中尉が異を唱える。

 

「いえ、それではAポイントの戦力がフリーになります。小規模の戦力とは言え、無視して良い物かと思いますが。後方で下手に動き回られてはいささか……。」

「あちらを立てればこちらが立たず……。いっそのこと、A、B両ポイントを一緒に潰しちゃえればいいのに。」

「そうだな……。」

 

 やけくそ気味なアーリン中尉の台詞だったが、それに同意する声が上がった。よりによって、キースの声だった。アーリン中尉は驚く。

 

「キース少佐、本気ですか!?」

「貴官が最初に言ったんだろう?アーリン中尉。」

 

 キースはにやりと笑う。

 

「Aポイントは、落とした後に占拠する必要性は全く無い。ならば徹底的に破壊してしまえば良いだけだ。Aポイントに、気圏戦闘機6機による爆撃を敢行すればどうだ?跡形も無く、吹き飛ばしてしまえると思うぞ?ここには偵察兵による先行偵察を行っておけるなら、なおさら良いな。ああ、爆撃後に歩兵を乗り込ませるのも忘れてはいけないな。

 Bポイントに対する攻撃は、後々占拠することも考えれば、バトルメック部隊でやった方がいい。事前の偵察はこちらも偵察兵で行うことになるだろうな。おそらく存在するだろう地雷原は、本隊に随行するスナイパー砲車輛で吹き飛ばして道を切り拓けばいい。」

「「「「「「うわ、力押し……。」」」」」」

「たしかに芸は無いが、基本に忠実だろう?本隊として投入する戦力は、第1中隊あたりかな。第2中隊はオーバーゼアー城の守りを固めて欲しいしな。万が一、迂回してきた敵の襲撃に備えてな。敵戦力を殲滅後には、歩兵部隊を乗り込ませて残存兵力の掃討および降伏者の捕縛をさせることになるな。なにか意見はあるか?反対意見でもかまわんぞ。と言うか、それを期待する。問題点はあらかじめ洗い出せる物なら洗い出しておきたいからな。」

 

 キースの台詞に、挙手する者がいる。マテュー少尉だ。

 

「Bポイントの前線基地を落とした後のことも考えておく必要があると思います。まずは落とす事が肝要かとは思いますが、その後そこに配置する戦力はどういたしますか?」

「第1中隊の火力小隊か偵察小隊に、戦車を1個小隊、歩兵を1個小隊と考えていたんだが……。」

「ならばその任務、自分たちにお任せ下さい!」

 

 そう言って、第1中隊火力小隊小隊長のケネス中尉が直立不動になる。火力小隊副隊長のジョシュア少尉も、それに追随した。

 

「偵察小隊は他にも仕事が多いでしょう。拠点防衛ならば火力小隊が適任かと存じます。」

「ああ、うむ。では火力小隊に……。そうだな、レオポルト少尉のヴァデット哨戒戦車小隊と、ジェームズ伍長の第4歩兵小隊を付けて……。」

「いや、第1歩兵中隊の面々は精兵ですわい。と言いますか、精兵すぎてこの任務には勿体ないですのう。第1から第4歩兵小隊の第1歩兵中隊よりかは、第5から第8歩兵小隊までの第2歩兵中隊、この惑星で臨時雇いした歩兵たちの中から、1個小隊ではなく2個小隊連れていかせたらどうでしょうかのう。」

 

 サイモン老が意見を出す。と言うか、いつの間にかA、Bポイント両方を同時攻略する方向性で話が進んでいる。キースは内心で反省する。

 

(俺は叩き台のつもりで意見を言ったんだがな……。事後処理などで若干の修正は加わったけど、基本的に俺の意見がそのまま通ってるよ。もっと皆に考えさせないと駄目だよな。俺がいつでも正しいわけじゃないんだし、間違えたときの反動が怖いよ。

 指揮官がうかつに意見を言うと、それがそのまま決定になっちゃう可能性は、いつでも存在するんだ。注意しないと。って、今さら注意したって今回は間に合わないじゃん。まずいかも……。)

 

 と、ここでヒューバート大尉が発言する。

 

「少し疑問に思うことがあります。何も完全に同時攻撃をかける必要は無いのではありませんか?気圏戦闘機隊がAポイント爆撃後、オーバーゼアー城にいったん引き替えし、推進剤を補給の上でBポイントに向かえば、Bポイントを攻撃する第1中隊は気圏戦闘機隊の支援の下で戦うことが可能です。航空兵たちにはかなり激務を強いることになりますが……。

 これならばBポイントを攻めているときに、敵本陣が援軍を出しても対処可能でしょう。スナイパー砲で地雷処理している間に、敵本陣へ緊急連絡が発せられれば、こちらの攻撃に対処するために援軍が派遣されると思われます。ですが気圏戦闘機隊がいれば敵援軍が来たとしても、万全の態勢で迎え撃つことが可能です。」

(おお!いいぞヒューバート!そう言う意見を待ってたんだ!)

 

 キースはヒューバート大尉に頷きを返すと、気圏戦闘機パイロットである航空兵たちの方へ向き直る。彼はおもむろに口を開いた。

 

「航空兵諸君、頼めるか?」

「大丈夫っす!ちょっとぐらい厳しい任務の方が、遣り甲斐がありますよ!」

「またあんたは調子に乗って!あ!い、いえ文句を言ったわけじゃないです!その程度でしたら無理じゃありません!」

 

 アロー1のマイク少尉とアロー2のジョアナ少尉が、口々に言う。アロー3のミケーレ少尉、アロー4のコルネリア少尉、ビートル1のヘルガ少尉、ビートル2のアードリアン少尉も、各々少し考えて頷きを返して来る。

 ここで第2中隊指揮小隊の副隊長、グレーティア少尉が挙手する。

 

「オーバーゼアー城の守りは、機甲部隊の戦車を城に置いてくだされば、あとはバトルメック1個小隊があればなんとかなると思います。城備え付けのスナイパー砲2門と、フォートレス級降下船ディファイアント号のロングトムⅢ間接砲があれば、万が一のときに味方が帰ってくるまで持ちこたえるには充分かと。メック部隊第2中隊から、指揮小隊もしくは火力小隊『機兵狩人小隊』を、Bポイント前線基地の攻略に割り振るべきかと。」

「であれば、それは我々の仕事です。」

 

 サラ中尉待遇少尉が言葉少なに言う。確かに現在の『機兵狩人小隊』の編成は、45tD型フェニックスホーク、50tエンフォーサー、55tシャドウホークの3機編成で、防衛戦に向くとは言えないだろう。ちなみに指揮小隊のメックは75tオリオン、55tウルバリーン、65tクルセイダー、55tグリフィンである。どちらを城に残すべきかは明らかだった。キースはサラ中尉待遇少尉に向かい、頷く。

 

「うむ。では『機兵狩人小隊』にはBポイント攻略隊に参加してもらおう。」

「了解。」

「ふむ……。さて、他に意見のある者はいないか?」

 

 第1中隊偵察小隊の副隊長、リシャール少尉が手を挙げた。彼は慎重に考えながら発言する。

 

「Aポイントの前進基地爆撃と、Bポイントの前線基地攻略の時間をずらすと言うことでしたが、Aポイントが爆撃されて緊急連絡が行われれば、Bポイントから援軍が出されませんか?そうなると、Aポイントの前進基地跡地を押さえている歩兵部隊が危険です。その場合は気圏戦闘機の最出撃が間に合わなくとも、足止めを兼ねてBポイントへ攻撃を開始すべきではないでしょうか。」

「ふむ……。となると、こうなるか。Aポイント前進基地攻略部隊は気圏戦闘機による爆撃隊と、爆撃後に生存者などの捕縛を行う歩兵第2中隊。Bポイント攻略部隊はメック部隊第1中隊および『機兵狩人小隊』に、スナイパー砲車輛と基地制圧後に残存戦力の掃討などを行う歩兵第1中隊。オーバーゼアー城の防衛にメック部隊第2中隊指揮小隊と機甲部隊。

 作戦予定日は今現在修理中のバトルメックが修理完了する、連盟標準時にて2日後。作戦フローチャートは以下の通り。

 まず当日連盟標準時で05:00に偵察兵3名がA、B、両ポイントへ進発。事前の偵察を行う。その報告を受けた後、同日18:00時に爆撃隊を除いた全部隊進発。各部隊が配置に着くのは、Aポイントの歩兵部隊が20:00時頃、Bポイント攻撃部隊が21:00時頃だな。当日は1日中夜の日だったな。夜襲ではあるが、第1段階の爆撃以外は奇襲にはならんな。

 Bポイント攻撃隊が配置に着くと同時に、オーバーゼアー城から気圏戦闘機による爆撃隊が発進。Aポイント到着しだい爆撃開始する。おおよそ21:15頃か。Bポイントから援軍が出る様であればすぐさま、そうでなければ気圏戦闘機の補給と再出撃を待ってスナイパー砲による地雷処理を開始。地雷原に穴が開きしだいメック部隊が突入し、戦闘開始。この戦力差なら、敵本陣からの援軍があっても、それが到着する前にBポイント前線基地を陥落させられるだろうし、そうでなくても味方の気圏戦闘機が到着するまで粘れば形勢はこちらが有利だ。

 だがもし敵がBポイントの前線基地を見捨てて、大きく迂回してオーバーゼアー城を攻撃せんとした場合だが、その場合は作戦を放棄してオーバーゼアー城に全速力で帰還、襲撃してきた敵を討つ。

 とまあ、こんなところだろう。無論タイトな作戦は望むところではない。特にBポイントへの攻撃開始時刻は、状況によって左右されるだろうな。その辺は俺を含めた各現場の指揮官の判断だ。何か他に意見のある者は?」

「「「「「「……。」」」」」」

「無い様だな。ではひとまずこれで閉会としよう。整備兵小隊指揮官のサイモン少尉は、作戦開始前までに全メック、全気圏戦闘機を万全にしておいてくれ。では解散!」

 

 士官一同はキースに敬礼をする。キースも答礼を返す。そして彼らは三々五々、解散して行った。

 

 

 

 キースはイヴリン訓練生に対し、指揮官としての心得を説いていた。イヴリン訓練生は、指揮官候補として他の訓練生よりも座学の時間が長い。今も彼女は、キースとマンツーマンで指導を受けていたところだった。

 

「いいか?指揮官が動揺していたら、部下にもその動揺は伝染する。できるだけ冷静さを保てる様にしろ。そして動揺しているときでも、それは内心に止めておき、表には出さない様に自分を律するんだ。まあ、一朝一夕には難しいだろうが、心の片隅にでも置いておけ。」

「はい!!……キース少佐も、動揺したりすることはあるんですか?」

「ん?……この場だから言うが、俺でも動揺することや、激昂することも多々あった。すぐに我を取り戻したとは言え、怒りを表に出してしまったのは今でも失敗だったと思っている。

 幸いにも、当時……『SOTS』が小隊規模だったときなんだがな。そのとき部下だったのは、気心が特に知れている現第1中隊指揮小隊の面々だけだったからな。俺が怒った理由もちゃんと知っていた。それで致命的なことにはならなかったんだ。後は当時指揮官だった、アルバート中尉……一時的に大尉待遇だったが、そのおかげだな、すぐ我を取り戻せたのは。」

 

 イヴリン訓練生は、目を見開く。

 

「……パパ。」

「そうだ、貴様のお父上だ。彼のお人のおかげをもって、今の俺があるのは間違いのないところだ。彼のお人からは、学ぶことが数多くあった……。」

 

 キースはわずかな間、瞑目する。そして目を開くと、彼はにやりと笑った。

 

「いいか、貴様がどんな指揮官になるかはわからん。だが冷徹でも、人情家でも、頭脳派でも、武闘派でもかまわんから、部下に信頼される指揮官になれ。部下に好かれなくともかまわんから、部下の信頼は勝ち取ってみせろ。

 まあ、そんなことを言っている俺自身、できているかどうか自信は無いがな。言っている事も、俺の教官の受け売りに過ぎん。だが俺の短い指揮官生活でも、教官の言っていたことは真実だとわかる。部下あってこその指揮官だ。部下との信頼関係があればこそ、部隊は貴様の意志の通りに動くだろう。恐怖で縛ったり、軍律だけに頼っている様では、いずれ限界が来るぞ。」

「はいっ!!」

「いい返事だ。」

 

 頷いて、キースは心の中で考える。

 

(そのうち、軍事関係の座学以外の基礎教養は、誰か教育担当官を雇わにゃならんなあ。と言うか、早急に。誰か伝手を持ってないかなあ。ハオサン博士の伝手はどうだろう?あ、駄目か。ハオサン博士はカペラ大連邦国を追い出されて来たお人だった。伝手があっても、カペラ大連邦国だ。俺やサイモン爺さんの伝手は、政治家かお貴族様がほとんどだし……。)

「……?」

「む?……ああ、すまん。すこし考え事をしていた。そうだな、後は……。有能な怠け者になれ。」

「は、はい!?」

 

 よくある言葉を引用したキースに、イヴリン訓練生は目を白黒させる。「有能な」はわかるが「怠け者」がわからなかったのだろう。キースは説明する。

 

「大昔の地球に伝わっていたとされる言葉の1節だ。有能であるが故に、物事をきちんと判断することができる。怠け者であるが故に、有用な他人を上手く用いて仕事を任せられる。だから指揮官に向く、とな。他にも、自分の部隊がどうすれば楽に勝てるかを考えるからだ、とも言われてもいる。」

「はい!!……ですがキース少佐、有能な働き者ではいけないのでしょうか?」

「有能な働き者は、働き者であるが故に他者に仕事を任せ切ることができない……だそうだ。だが働き者故に自分で色々働くから、部下を率いるよりは司令官を補佐する参謀の方が向いていると言われるな。」

 

 イヴリン訓練生は、変な顔をした。キースは怪訝に思う。

 

「……どうした?」

「はい!……いえ、キース少佐は働き者の様に思えましたので。」

「む、そうか?これでも任せられる仕事はできる限り他に任せているのだが……。確かに権限の委譲は少し下手かも知れんなあ。」

 

 その言葉に、イヴリン訓練生は慌てた。

 

「も、勿論良い意味で、です!」

「いや、かまわん。そうだな、もう少し怠けられる様に努力するか。まずは副官と、基礎教養を教える教育担当官を探さないといけないな。」

「えっ……。教育担当官、ですか?」

 

 イヴリン訓練生は、自分で意識しているかどうかは定かでないが、少々残念そうな顔になる。キースは続けた。

 

「ああ。基礎教養を教えるのは、俺は実のところ専門ではないしな。まあ軍事関係の座学は引き続き俺が担当するが。それに人材はすぐに見つかるものでもないから、まだ先の話だ。」

「そ、そうですか!」

 

 今度は一転して元気になるイヴリン訓練生のことを、キースは多少不思議に思う。しかしまあ、悪い気はしなかった。キースは指揮官教育の続きに入る。

 

「では続きと行くか。テキストの102ページを開け。」

「はいっ!!」

(イヴリン訓練生の初陣のことも考えにゃ、いかんなあ。ヒューバートからも言われたし。実機訓練も、最初こそ粗が目立ったけど、シミュレーター訓練をみっちりやっていたせいだろうか、慣れるのも早かったしな。イヴリン訓練生の後にはエドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生が詰まってることだしなあ……。)

 

 キースは多少の悩みを抱えながら、かつて自分がレオ・ファーニバル教官から教わったことをイヴリン訓練生に教え込んで行った。

 

 

 

 昼なお暗い惑星ネイバーフッド……。と言うか、この惑星の自転周期は48.8時間であるため、連盟標準時で生活していると、惑星時とかなりのずれが生じる。連盟標準時では18:00であるのだが、辺りは真っ暗闇で、空には暗雲が立ち込めており、星明りや月明かりも無い。ちなみにこの惑星の月は、地球の物よりもかなり小さな物が2つ存在している。

 キースは命令を下す。

 

「ただ今より作戦を開始する!Aポイントの残敵掃討部隊、Bポイントの攻略部隊、出動せよ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 闇の中、『SOTS』メック部隊第1中隊と、第2中隊火力小隊『機兵狩人小隊』が進発した。ウォーハンマーとライフルマンは、サーチライトを消灯している。メック部隊は操縦席の主スクリーン映像を赤外線映像にし、歩兵部隊の装甲兵員輸送車も運転手が希少な暗視ゴーグルを使用していた。無論、スナイパー砲車輛を運転しているサイモン老も、暗視ゴーグルを使っている。バトルメックの様な重量物は見つかりやすいとは言え、わざわざその存在を喧伝することは無いのだ。

 キースたちの部隊は、闇の中を目的地に向けて進んで行った。




雇い主であるライラ共和国からの命令で、『SOTS』は攻勢に出る事になりました。色々会議を重ねた結果、主人公の思惑を外れて、主人公の示した意見がほぼそのまま通ってしまいましたね。ちょっと危険ですねー。


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『エピソード-049 誤算と誤算』

 暗い闇の中に、計器や映像スクリーン、小型ディスプレイの明かりだけが灯っている。ここはマローダーの操縦席だ。キースは操縦席の小型ディスプレイに表示されている時刻表示を見る。連盟標準時で、21:05だった。気圏戦闘機隊は今頃オーバーゼアー城の滑走路から、連続して飛び立っている頃合いだろう。事実先ほど21:00ちょうど頃にオーバーゼアー城の指令室から、気圏戦闘機隊発進開始の通信を受け取ったばかりだ。

 もっともキースは通信を受け取っただけで、返信はしていない。何故なら彼と彼率いるメック部隊、スナイパー砲車輛、歩兵部隊は、今現在無線の発信を封鎖しているからだ。ここは彼らがこれから襲撃をかけようとしている敵の前線基地にほど近い、丘陵陰の死角である。彼らはここで、戦闘開始のタイミングを待っていたのである。

 予定では21:15頃に、ここに存在するのとは別のもっと小規模な前進基地に対し、味方の気圏戦闘機隊が爆撃を開始するはずである。それに対する敵前線基地の反応で、キースたちも行動を決めなければならない。キースは1人、考えに沈む。

 

(俺たちの目標であるBポイント前線基地が、Aポイント前進基地への爆撃に対する反応として救援部隊を出す様ならば、その救援部隊を足止めする形で戦闘を開始しなくてはならない。

 救援部隊が出ないならば、いったんオーバーゼアー城に戻った気圏戦闘機隊が、推進剤を補給して急行してきてくれるのを待って、戦闘開始すればいい。

 ……なんか変だな。何か忘れてる気がする。何か可能性を見過ごしてないか?敵が突飛な行動を取る可能性とか。だが、どんな突飛な行動を取る?)

 

 ヂリリリリリリン!ヂリリリリリリン!ヂリリリリリリン!

 

 突然闇の中に、ベルの音が鳴る。考え込んでいたキースは、慌てて手元の受話器を取った。これは無線封鎖時の頼れる味方、有線野戦電話である。キースはマローダーの操縦席ハッチを半開きにし、そこからこの野戦電話のケーブルを外へと垂らし、外部にいる偵察兵との連絡に使っていたのだ。

 

「こちらキース少佐。」

『こちらはネイサン軍曹です。隊長、敵に動きがあります。』

「何!?」

 

 キースは小型ディスプレイの時間表示を確認する。それは21:10を示していた。爆撃の開始予定時刻には、まだわずかだが間がある。

 

「ネイサン軍曹、報告を。」

『敵基地から、バトルメック1個小隊4機、戦車2個小隊8輛が出て来まして、今基地の前に整列してます。』

「出撃準備か?」

 

 キースはこの基地から進発した戦力が、オーバーゼアー城に対する攻撃を仕掛ける予定なのではないかと思った。ちょうどこちらの攻撃予定時刻と、相手が攻撃に出発する時間とが重なったのではないか、と考えたのである。

 

(まさかそんな偶然が重なるとは……。こちらの攻撃に反応して、チャンスだと見た相手が味方を見捨て、即興の作戦でオーバーゼアー城攻撃に向かう可能性は考えていたんだが……。いくらなんでも、向こうのオーバーゼアー城夜襲と、こちらの前線基地攻略とがちょうど重なるとは思わなかったが……。いや、そうと決まったわけじゃあない。もっと詳しく報告を聞かないと。)

 

 思わずキースは、受話器を強く握りしめる。そんなキースの様子に気付かず――気づけと言う方が無茶だが――ネイサン軍曹は報告を続ける。

 

『いえ、出撃にしては変です。まるで引っ越しの準備みたいです。戦車は山の様に荷物を車体の上に括り付けてますし、メックは戦利品を運ぶ時の網を背中に担いでます。網はぱんぱんに膨れ上がってますな。

 メックの種類はK型ウルバリーン、K型シャドウホーク、グリフィン、K型フェニックスホークです。グリフィンには右腕がありませんな。修理が完全じゃない様です。あの状態で出撃させるのは、変な気がしますな。』

(右腕がないグリフィンを持ちだす?車体の上やメックの背中に山の様な荷物?引っ越しと言うよりは夜逃げみたいだ。……夜逃げ!?)

『あ、移動を開始しました。地雷原を抜けようとしているんでしょうな、ジグザグに移動してます。方向は基地の南側ですな。はて、あの方向にあったのは……。』

 

 キースは舌打ちをして、言葉を吐き捨てる。

 

「その方角はCポイント……インターリアー城だ。ネイサン軍曹、今から攻撃を仕掛ける。巻き込まれない様に退避してくれ。あと、電話線を放り出して行くから、それの回収も頼む。」

『……!了解しました!』

 

 キースは受話器からケーブルを引き抜くと、半開きのハッチから外へと放り出す。そしてハッチを完全に閉じると彼は麾下の部隊へと通信回線を開いた。

 

「無線封鎖解除!バトルメック部隊はこれより敵前線基地を脱出しようとしている敵バトルメック及び戦車隊に攻撃をかける!敵の目的は戦力の集中にある!そのためにここの基地を放棄して脱出するつもりだ!

 歩兵第1中隊は待機!万一の可能性だが、敵は基地をこちらに利用されないために爆破する可能性がある!けっして基地施設には近づくなよ!サイモン少尉はいつでもスナイパー砲を撃てるようにしておけ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

(くっそ、失念していた可能性はコレか!敵が夜闇に乗じて「逃げる」可能性を忘れてたかよ!バカか俺はっ!前回の戦闘で敵に与えたダメージを、逃げられる程度まで応急処置する時間から言っても、この惑星時間において夜闇を利用できる日時から言っても、今夜がちょうどだったじゃないか!

 敵はおそらく、インターリアー城に可能な限りの戦力を集めて籠城するつもりだろう。くそっ、俺そこまで敵にダメージ与えてたか?……うん、与えてたな。籠城するってことは、今後救援戦力が、何処かから来る可能性が高いってことだ。例の深探査レーダー設備、早いとこ稼働状態に持ってってもらわんと。うちの整備兵をシステムの組み上げや調整などに出すことも考慮に入れておこう。

 何はともあれ、いま夜逃げしてる敵を倒してしまえば、敵戦力は大きく減退する。だが逃がしてしまえば、敵は時間をかけて完全修理して、強くなって俺たちの前に立ち塞がる。……逃がしてたまるか!)

 

 マローダーが重い機械音を立てて立ち上がる。その周囲では、第1中隊及び『機兵狩人小隊』のバトルメックが同じく立ち上がりつつある。キースは檄を飛ばした。

 

「全バトルメック、発進!敵を1機でも多く叩き潰せ!」

 

 キースのマローダーが、全力で疾走を開始する。キースは偵察小隊と『機兵狩人小隊』に通信を送った。

 

「アーリン中尉!サラ中尉待遇少尉!貴官らのところのフェニックスホーク合計4機を、まとめて先行させてくれ!敵を足止めするんだ!ただし地雷原に引っ掛かるなよ!敵が基地から充分離れたところで仕掛けるんだ!」

『『了解!!』』

 

 アーリン中尉とリシャール少尉の標準型フェニックスホーク2機と、サラ中尉待遇少尉とヴェラ軍曹のD型フェニックスホーク2機が、疾風の如き速度でキースのマローダーを追い抜いて行く。キースは更に言葉を発する。

 

「ケネス中尉!ヴィルフリート軍曹!アマデオ伍長!貴官らの機体も、機動力は高い!先行してアーリン中尉たちの支援をするんだ!」

『『『了解!!』』』

 

 ケネス中尉のウルバリーン、ヴィルフリート軍曹のグリフィン、アマデオ伍長のシャドウホークが、全速力で闇の中に消えて行く。そしてキースは自機の両脇を走っている、2機の心強い味方に通信を入れた。

 

「アンドリュー曹長!エリーザ曹長!もう我々の存在を隠すことに意味はない!サーチライトを使ってくれ!」

『『了解、隊長!』』

 

 ライフルマンの胸から、ウォーハンマーの頭上から、サーチライトの光が溢れて闇を裂く。キースたちの機体はその光に助けられ、道を急いだ。やがて前方に、戦闘による閃光が見えて来た。先行したアーリン中尉たちが戦っているのだ。アーリン中尉の声が、通信回線から入ってくる。

 

『キース少佐、申し訳ありません!右腕の無いグリフィンおよび機甲部隊の戦車が、身を捨てて仲間を逃がしました!3機の敵機は背負っていた荷物を捨てて全力で逃走してしまいました!』

「……いや、それならばやむを得まい。右腕の無い敵グリフィンは、どうなった?」

『ケネス中尉が格闘戦で仕留めました。メック戦士は脱出した模様です。』

 

 報告の通りならば、残っているのは大荷物を背負った戦車部隊だけだと言うことだ。

 

「戦車は自分では載せた荷を捨てられまい。その状態では敵に勝ち目は無いだろう。降伏勧告は?」

『はい、降伏勧告はしたのですが、未だ戦意旺盛でして。』

「そうか、ならば叩くしかあるまい。」

 

 キースは残り6輛となっているストライカー軽戦車に、マローダー両腕の粒子ビーム砲を向けた。大量の荷物で動きの鈍い敵戦車を全て破壊もしくは行動不能にするのは、そう時間がかからなかった。

 そしてキースが脱出したメック戦士や、動けなくなった戦車に乗っている戦車兵を捕虜にするために、歩兵部隊を呼び寄せたときである。後方で、轟音と共に火柱が上がった。キースは溜息を吐くと独り言ちる。

 

「ふう……。やはり基地施設に時限爆弾を仕掛けていたか。だが、基地には兵員の他にも人員が居たはずだが……。既に脱出したのか?まさか自爆に巻き込まれたんじゃないよな。」

 

 キースは頭を振った。ちなみに結論から言うと、基地の人員らはちゃんと脱出していたらしい。右腕の無い敵グリフィンのメック戦士が、後に証言したのだ。それによると、戦車とメックが脱出するとほぼ同時に、車輛の類が無かったため徒歩で近場の街であるエクステリアーに向かったそうである。

 人数もさほど多く無く、整備兵2名に助整兵が10名の12名だとのことであった。基地のオペレーターなど一般的な職務は、助整兵が代行して行っていたらしい。一応キースは、その人員を捕らえるために歩兵1個小隊を派遣して後を追わせた。

 

 

 

 敵前進基地の爆撃作戦は、成功裏に終わっていた。敵の前進基地は、跡形も無く吹き飛ばされている。一応生き残りが数名いたので、捕らえて尋問した結果、この前進基地には撤退命令は出されていなかった様だった。キースはオーバーゼアー城に帰還後そのことを知り、思わず呟く。

 

「なるほど、俺たちの目をひきつけておいて、その隙に他の部隊を撤退させるための囮……。つまり捨て駒というわけだな。コンドル戦車1個小隊4輛を捨て駒か。相変わらずタカハタ少佐は戦車に価値を見出していないらしい。」

「しかし、こちらとしても敵があちこちの拠点を捨てて……と言いますか爆破して、戦力を1ヶ所に集めたにしてもです。本来逃がすはずだった貴重なバトルメックを1機と、それらが運んでいたメック部品他の様々な貴重な物資を我々に奪われる結果になったんです。敵としても、これは誤算と言うものでは?」

 

 慰める様に言うヒューバート大尉に、キースは苦笑しつつ応える。

 

「誤算と言うならば、我々の側もだ。1機のバトルメックと多数の物資を奪ったとは言え、3機のバトルメックを逃がしてしまったんだ。敵の思考を読み切れなかったばかりにな。グリフィン1機を鹵獲し、メック戦士を捕虜にできたのは、あくまで偶然に過ぎない。本来ならば、4機のメック全てを片付けられていたはずなんだがな。

 MRB管理人のウォーレンさんに聞いてみたところ、一応今回の戦闘は勝利の扱いにはしてもらえるそうだが……。正直な話、痛み分けがいいところだと思う。」

「敵は今、籠城の準備をしているらしく、周辺の街や村から食糧を始めとした物資をかき集めている様ですね。KHビル払いで。」

 

 KHビルとは、ドラコ連合の継承王家であるクリタ家が独自で発行している通貨である。恒星連邦はダヴィオン家発行のDHビルや、ライラ共和国シュタイナー家発行のSHビル、それに中心領域の共通通貨であるコムスター発行のCビルと比べても、その価値は若干低い。

 しかもこの惑星は元々ライラ共和国の領有惑星であり、使用されている通貨はSHビルが基本だ。この惑星でKHビル払いと言うのは21世紀の地球に例えて言えば、ヨーロッパで買い物をした際に、ユーロ札ではなく日本円を出した様な物だと言えば近い感覚だろうか。ただしライラ共和国でのKHビルは、ヨーロッパ諸国での日本円ほども価値が保証されていない。一応両替商などで両替は効くとは言え、手数料などで更に目減りもする。

 キースは溜息を吐く。

 

「はぁ……。正直まいったよ。インターリアー城の周囲にある拠点は、全て爆破されてしまった。敵城を包囲しないといかんのだが、兵站線が長く伸びすぎる。惑星軍と協力して、近場に物資集積所を造るところから始めないと……。」

「降下船を使うのは駄目でしょうか?」

「地盤が強化されている場所じゃないと、少し不安だ。以前使った、気圏戦闘機の爆撃で大穴を掘って降下船を傾ける戦術……。あれは必ずしも気圏戦闘機じゃなくてもいいんだ。高性能の爆薬を抱えた歩兵による人間爆弾とかな。数はそれなりに要るだろうが。」

 

 ヒューバート大尉は、人間爆弾という言葉に絶句する。キースはそれを見て、苦笑した。

 

「まあ、あくまで例えだ。そこまでのことは、流石にやらんだろう。ただ、爆撃以外にも降下船の足元に穴を掘る方法はある、と言いたかったんだ。」

「まあ、それならば……わかります。あんまりわかりたく無い例えでしたが。」

「とりあえず、オーバーゼアー城には歩兵たちを置いて、バトルメック部隊と機甲部隊でインターリアー城を囲もう。それと同時に、惑星政府に整備兵……ジェレミー軍曹あたりを貸し出して、発掘した深探査レーダーと収束赤外線装置の組み立てと調律を指揮させよう。敵が籠城するってことは、援軍が来るあてがあるってことだからな。対宙監視網の強化を、なんとしても急いでもらわねばならん。」

 

 ヒューバート大尉は頷く。キースは今後の対応を決めるために、惑星政府首班であるメランダー首相に電話をかけるべく、受話器を取った。

 

 

 

 そして今、キースはマローダーに乗ってインターリアー城を囲む軍勢の中にいた。今ここには『SOTS』全てのバトルメック部隊と機甲部隊が揃っていた。それと惑星軍からも、わずかだが戦車部隊が出ている。この惑星の惑星軍には、バトルメックは存在していない。

 

「なかなか立派な城だな。オーバーゼアー城にも劣らない。」

『隊長、内部に直接軌道上から強襲降下したら駄目なのか?』

「城の中庭は、北東、北西、南東、南西にある砲台から十字砲火を受ける場所だ。まず砲台を無力化してからでないと、中に直接降下する気にはなれんな。」

 

 ライフルマンから通信回線で届くアンドリュー曹長の問いに答えつつ、キースは内心でその方法の成功率を計算してみる。降下する戦力に指揮小隊が入っていれば成功する確率は高い。だが同時に、犠牲も大きくなる可能性が高かった。

 

「もうちょっとばかり、損耗率が低くないと実行できんな。」

『え、なに、隊長?』

「いや独り言だ。」

 

 ウォーハンマーのエリーザ曹長をいなしつつ、キースは主スクリーンの一部へインターリアー城の情報を表示させる。それはこの城がライラ共和国の設備であった際の情報であった。キースは内心で思う。

 

(やれやれ、訓練生たちへは自習を申しわたしてあるし、ハオサン博士にも時々様子を見てくれる様に頼んではあるんだけど……。城を囲んでいる間は流石にオーバーゼアー城に戻って授業や講義をするわけにもいかんからなあ。訓練もシミュレーターの自主訓練だけだし、実機訓練させてやりたいなあ。

 さて、城の防御設備は、地雷原が多少広くなっているな。幸いにして、部隊の稼働機で最大重量だった俺のマローダーとヒューバートのオリオンが近寄ったらかなり先で爆発したんで、それが明らかになったけど。スナイパー砲の数は増量されていない。時々撃ってくるけど、今のところ全部躱すことに成功してる。……バトルメックと戦車は出撃してきていない。修理中だろうか?)

 

 敵のバトルメック及び戦車は、今のところ出撃してきてはいなかった。こちらが地雷原の外側で囲んでいるだけだと言うのもあるのだろうが、キースにはそれが不気味に感じられて仕方が無い。

 

(地雷原を抜けるために、スナイパー砲で抜け道を作るか……。ただ敵の間接砲の存在がやっかいだよな。スナイパー砲に弾薬を供給しながらたくさん撃って、できるだけ広く地雷原に道を作らないと。次の惑星軍との作戦会議で提案しておこう。

 しかし、何か悪い予感が消えないな。見落としてることは無いか?)

 

 キースはインターリアー城がライラ共和国の手にあった時代の情報を精査しながら、不安に苛まれていた。




Arcadia様に連載していた時期には、この辺のエピソードで「主人公が守りから攻めになったとたん、読みが甘くなった。」と言われてしまいました。わたしとしては、主人公も完璧ではない、と言う事を表現したかったのですが、その描き方が甘かった様です。


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『エピソード-050 根拠地奇襲』

 今、キースはインターリアー城を囲む包囲網の一角に設えられた仮設指揮所で、インターリアー城の図面や航空写真を見ながら考えていた。

 

(敵には今、降下船はいない。それは以前からの偵察で明らかになっている。ここへ敵を送って来た降下船は、物資輸送かなにかの目的でトンボ返りしたらしいからな。

 さて、今敵陣の地雷原に、エリーザ曹長を着弾観測員にしてサイモン爺さんが砲手になって、スナイパー砲を撃ち込んでいるけど……。地雷処理は順調だけど、何か気になるんだよなあ。敵バトルメックと敵戦車が出てこない。

 敵スナイパー砲も、かなり前から撃ってこなくなった。命中しないから、運用を諦めたとも考え難いが……。俺が何か見逃してると言われてる様なもんだよなあ。何だ?俺は何を見逃してる?)

 

 深呼吸をすると、キースはプレハブ仕立ての仮設指揮所の窓に歩み寄り、インターリアー城を見遣った。インターリアー城は一見オーバーゼアー城に似ており、ただの城と言うよりは城塞と言った雰囲気を醸し出している。いや、この城は正しく城塞なのだが。

 インターリアー城の上空を、万が一のときのために手配した、爆装した味方の気圏戦闘機6機が、編隊を組んで低速巡航モードで飛翔していた。それを眺めながら、キースは思う。

 

(城か……。城攻めで思い出すのは、惑星タンタールズⅣのマルボルク城だよなあ……。そこからの脱出時に、アルバート中尉が瀕死の重傷を負って、結局助からなかったんだ。アルバート中尉は地下道を通って……。地下道?)

 

 キースはインターリアー城の図面のところに駆け戻ると、その図面を子細に検める。

 

(……インターリアー城は構造的に不自然な点がある。特に内部の建物の配置が変だ。何処となく似ているのは、あのマルボルク城だ。まさかインターリアー城にも外部脱出用の地下道があるのか?バトルメックと戦車が出てこないのは、脱出準備をしている?いやまさか、もう脱出したかも?

 しばらくスナイパー間接砲を撃ってこないと言うことは、間接砲撃の技能者がいなくなったってことだろ?この局面で城を捨てたとして、いったいどうする?

 ……とりあえずは、だ。)

 

 やおら立ち上がったキースは、エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹の偵察兵3名を呼び出した。

 

 

 

 一時的にスナイパー砲による砲撃が中断したインターリアー城前で、3ヶ所で同時に高性能爆薬が爆発し、微弱な人工地震が発生する。爆薬を仕掛けたのは、エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹の3名だ。その波形を観測した結果を、整備兵であるパメラ軍曹が解析した。彼女は言う。

 

「……ありますね。地下に北東へと長く延びた人工的な構造物が存在します。大きさから言って、バトルメックが余裕を持って通れるぐらいですね。」

「出口はわかるか?」

「いえ、残念ですが解析できた構造は、この近辺の地下だけです。けっこう遠くまで延びてますから、先がどこに通じてるかはわかりかねます。」

 

 パメラ軍曹の言葉に、キースは考え込む。

 

(奴らが城を捨てたとして、どこへ行く?どこか辺地にでも籠ってゲリラ化するか?援軍が来るまでなんとしても生き延びるために……。

 まて、援軍が来るとしたら、俺ならば城を捨てないでなんとか保持する方法を考えるよな。どこかで考え違いをしてる可能性があるぞ?奴らがドラコ連合本国と連絡を取れるとしたら、コムスターのHPG施設使ってだよなあ。自分で出向くわけにいかないから、一般人に偽装したスパイでも使ってメッセージ送信と受け取りでもやったかな?

 ドラコ連合側で、この惑星に固執する必要があるか?辺境ぎりぎりで、戦略的にそれほど美味しいわけでもない。某エニウェアみたくメック工場が隠されてるわけでもなさそうだ。あとはもう面子的な問題しか無いけど、面子だけでこの惑星に固執するほどドラコ連合に余裕あるか?無いよな?

 もしかしてタカハタ少佐、見捨てられたか?それでヤケになった?援軍が来ないと決めつけるのもまずいけれど、この想像が当たってたら……。)

 

 キースは、ぽつりと呟く。

 

「まずい……か?」

「え?」

 

 その呟きが聞こえたのか、パメラ軍曹が訊き返す。

 

「ん?ああ、いや……。特になんでもなく……はない、か。」

「何かご心配ごとですか?」

「ああ。ちょっとな。……うむ、やらんで後悔するよりはマシだな。すまん、失礼する。」

 

 キースは踵を返し、そのまま仮設指揮所の隣に停車してあるスィフトウィンド偵察車輛へと向かう。この車輛には、強力な通信システムが装備されており、ここからでも楽にオーバーゼアー城へ連絡が取れるのだ。キースはスィフトウィンド偵察車輛に乗り込むと、通信システムを起動する。

 

「こちらキース・ハワード少佐、こちらキース・ハワード少佐。オーバーゼアー城指令室、応答せよ。」

『こちらオーバーゼアー城指令室、エリオット・グラハム中尉。キース少佐、いかがなされましたか?』

「エリオット中尉、俺はこれより惑星軍戦車部隊の了解が取れしだい、メック部隊のうち第1中隊を率いて一時そちらへ帰還しようと思う。そして、だ。エリオット中尉、貴官に俺がそちらへ帰還するまでの全権を、改めて委ねたい。万が一、オーバーゼアー城が襲撃を受けた場合、貴官が取り得るあらゆる手段をもって城を守れ。」

 

 エリオット中尉は、即座に承諾の意を返す。

 

『はっ!了解であります!しかし……。こちらが襲撃を受ける兆候でもあるのですか?』

「こちらのインターリアー城は、下手をするともはや、もぬけの殻になっている可能性が出て来たんだ。その戦力が、もしそちらに向かえばまずいことになる。」

『わかりました。万が一の際には、あらゆる手段を講じて城を守ります。』

「頼んだぞ。以上だ。」

 

 通信を閉じてスィフトウィンド偵察車輛を降りると、キースは惑星軍の士官と連絡を取るために仮設指揮所へと入って行った。

 

 

 

 キースはマローダーの操縦席から、ヒューバート大尉のオリオンへと通信回線を繋いだ。おもむろに彼は口を開く。

 

「ヒューバート大尉、インターリアー城の方は頼んだぞ。もしかしたら俺の推測は大外れで、まだ城内に敵メック部隊がいるかも知れんのだ。ただし敵が脱出していたら、他の拠点同様に下手をするとこの城も爆破される可能性もある。うかつに踏み込むなよ?」

『了解です、キース少佐。地雷原の掃除が終わっても、とりあえず遠巻きにしてますよ。しかし地下の抜け穴とは……。』

「城とはそう言うものらしいからな。それほど珍しい代物でも無い様だぞ。では。」

 

 マローダーに一歩目を踏み出させながら、キースは言う。混成傭兵大隊『SOTS』メック部隊第1中隊のバトルメックが、マローダーの後に続いた。と、アンドリュー曹長が通信回線を繋いでキースに質問をぶつけてくる。

 

『隊長、どうしてオーバーゼアー城が狙われる可能性があるなんて、思ったんだ?』

「ん?いや、な。敵の指揮官タカハタ少佐の気持ちになって考えてみたんだがな。敵手である俺に対する最大の嫌がらせ、俺自身が最も嫌がることは何だろうか、と考えてみただけだ。

 そして俺たちがインターリアー城を囲んでいる間に包囲網の外へ脱出することが叶うなら、できることが1つある。俺たちの根拠地であるオーバーゼアー城の破壊だ。占拠なぞする必要は無い。徹底的に壊してしまえば、それだけで俺に対する意趣返しができる。

 無論、確証は無い。そのまま逃げてしまうことも充分あり得るからな。だがわずかでも可能性があるのならば、オーバーゼアー城を放って置くわけにはいかん。」

『だけど隊長、オーバーゼアー城の周りにある地雷原は、どう突破するつもりなのかしら。』

 

 今度はエリーザ曹長が訊ねてきた。キースはマローダーを走行移動に移行させつつ答える。

 

「地雷を突破する方法は、いくつかあるな。手っ取り早いのは、奴らのメックの中で最大重量のグラスホッパーを前に押し立てて前進する方法だ。ざっと計算してみたが、軽中量級用に重量設定をしてある地雷の場所ばかりを通れば、あまりダメージを負わずに地雷原を突破できる可能性も無くも無い。逆に最大限のダメージを喰らって、両脚を破壊される可能性もあるんだがな。」

『他の方法って?』

「俺たちがインターリアー城でやった様に、スナイパー砲だ。やつらはある時からスナイパー砲を撃たなくなった。俺は最初、その時点で脱出したのではないかと考えた。だがスナイパー砲を基地施設から取り外して、持って行ったとしたらどうだ?奴らは地雷原を破壊する効率的な道具を持参していることになる。

 無論、確証は無い。第一、敵がオーバーゼアー城を攻めると言うこと自体が推測に推測を重ねた結果でしかないのだからな。ただ俺だったら、城を逃げ出すときには、スナイパー砲は持っていくだろうな。」

 

 エリーザ曹長は笑った。

 

『あはは、流石に考え過ぎだと思うんだけどなあ。』

「考え過ぎならば、その方が良い。百倍も千倍も良い。」

『……。』

 

 キースの真剣な声音に、エリーザ曹長は黙る。その後彼らは、ほとんど無言で道を急いだ。マローダーの最高速度、64.8km/hで、キースは先陣を切る。『SOTS』第1中隊のバトルメックが、それに追随する。やがて彼らは、オーバーゼアー城とインターリアー城の中間地点までやって来た。

 と、そこでマローダーの通信装置に回線接続要求が来る。キースは回線を接続して叫ぶ様に言葉を発する。

 

「こちらキース・ハワード少佐!」

『こちらカイル・カークランド船長!隊長、今どこかね!』

「カイル船長!?今はちょうどオーバーゼアー城とインターリアー城の中間地点だ!」

 

 カイル船長は、まくし立てる様に事情を話す。

 

『隊長の予想が当たったんだよ!敵のメック部隊がオーバーゼアー城を攻めて来た!2門のスナイパー砲で、今頃は城の地雷原は吹き飛ばされてる最中だよ!

 今、私のヴァリアント号とヴォルフ船長のゴダード号、イングヴェ副ちょ、じゃない、もう船長だ……そのスペードフィッシュ号3隻のレパード級で、隊長たちを迎えに来たんだよ!近場に着陸するんで、目印に真上に粒子ビーム砲でも撃ってくれんかね!』

「わかった!エリーザ曹長!ウォーハンマーも粒子ビーム砲を撃て!」

『了解っ!!』

 

 キースのマローダーと、エリーザ曹長のウォーハンマーが、真上に向けて何度か粒子ビーム砲を撃ち上げる。すぐにカイル船長から通信が来る。

 

『見えた!今すぐ行くから、そこで待っていてくれ!』

「わかった!全メック、停止せよ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 やがて3隻のレパード級降下船が、キースたちの眼前に垂直着陸するや、メックベイのハッチを開いた。キースら指揮小隊がヴァリアント号に、ケネス中尉の火力小隊がゴダード号に、アーリン中尉の偵察小隊がスペードフィッシュ号にそれぞれ乗り込む。と、ここでアンドリュー曹長が、誰に訊ねるともなく疑問を洩らす。

 

『あー、そう言やうちの部隊には今、降下船が7隻、星系外に出てるゾディアック号除いても6隻あるんだよな。その降下船担ぎ出せば、敵メックに勝てるんじゃねえの?降下船を危険に晒すのは資金的な問題でまずいって言ったってよ、緊急事態じゃあ仕方ねえんじゃね?』

『いや、それはあまり得策じゃないですね。』

 

 答えたのはマテュー少尉だ。彼は説明を続ける。

 

『元々うちの部隊の降下船は、操船は一流の人材をスカウトして揃えてますが、砲手・火器管制は素人の船員を鍛えてました。だから元からあまり射撃が上手くないんですが、先日ユニオン級レパルス号とレパード級スペードフィッシュ号を海賊から手に入れましたよね。それで、その船に他の船から船員を割り振ったんです。

 足りなくなった人材は、新人をこの惑星から雇い入れて充足しました。だからなおさら射撃の腕は平均して新兵の下程度に落ちてるんですよ。

 はっきり言って、命中しないんですよ。1発も。最初の1発を撃つまでは、はったり程度の意味合いはあるでしょうが、それ以上の意味は無いですね。しかも1発撃てば化けの皮が剥がれます。』

『ありゃ……。そりゃ酷えな。』

『機体は固定したかね?では発進するぞ!』

 

 カイル船長の言葉が、指揮小隊各機の操縦席に響く。そしてレパード級ヴァリアント号は、普段めったにやらない垂直上昇で一気に発進した。ゴダード号、スペードフィッシュ号も後に続く。3隻のレパード級降下船は、超高速でオーバーゼアー城へと帰還の途についた。

 キースはヴァリアント号の通信システムを介し、マローダーの通信回線をオーバーゼアー城の指令室に繋ぐ。彼は指揮を取っているエリオット中尉を呼んだ。

 

「エリオット中尉、こちらキース少佐だ。今、カイル船長と合流して帰還中だ。」

『こちらエリオット中尉です。申し訳ありません。自分の命令で、訓練生たちをメックに乗せて時間稼ぎをさせております。』

 

 一瞬、キースの表情が強張る。だが、それも誰にも言ってはいなかったが、キースの想定内ではあった。キースはエリオット中尉を宥める。

 

「いや、気にすることはない。そうしなければ、城が守れなかったのだろう。貴官には俺が戻るまで、全権を委任している。その権限内の事項だ。繰り返しになるが、気にするな。」

『はっ!ありがとうございます!』

「それで訓練生たちの様子はどうだ?」

 

 エリオット中尉は、キースの質問に答える。

 

『たいした物です。特にサンダーボルトに乗ったイヴリン・イェーガー訓練生は、その指揮ぶりも個人としての戦闘能力も、かなりの物です。ですが多勢に無勢で……。今のままではそう遠からず撃墜されるでしょう。一刻も早いお戻りをお願いいたします。』

「到着まで、あと分単位だ。それぐらいは保つか?」

『わかりません、微妙なところです。』

「わかった。こちらからは以上だ。」

 

 キースは今度はカイル船長と通話する。

 

「カイル船長、少し頼みがある。」

『なんだね、隊長。今必死でかっ飛ばしているところなのだがね。』

「着陸寸前に、当たらなくてもいいから敵機に向けて4、5発ぶっ放してくれないか?1回限りのはったりでいいんだ。」

 

 キースの頼みに、カイル船長は一瞬考え込むかの様に黙る。だがすぐに彼は応えてきた。

 

『わかった、まかせたまえ。』

「助かる、船長。」

『それよりしっかり何かに掴まっていたまえ。少々荒っぽく行くからね。』

 

 そしてキースたちの身体を、物凄い横Gが襲う。アンドリュー曹長が愚痴を漏らした。

 

『でえーっ!船長いったい何やってんだい!荒っぽいってレベルかよ!』

『荒っぽいってレベルだよ。ちなみに今しがた、敵メックの頭上すれすれを掠めて飛んでみただけなんだがね。』

『うっわ、とんでもねえ。』

『着陸するよ、揺れるからしっかり何かに掴まりたまえ!』

 

 再度Gと衝撃が、今度は縦方向に襲った。だがキースの頑健な身体は、それにあっさりと耐え抜く。そしてメックベイのハッチが開いた。キースはマローダーの固定を解くと、機体を急発進させた。

 

「……!」

 

 そこには、彼が鍛えている訓練生たちのバトルメックが立っていた。全ての機体が満身創痍で、しかしそれでもなお戦おうとしている。ミサイルを撃ち尽くした2機のウィットワースを庇おうと、サンダーボルトが壁となってK型ウルバリーンの前に立ちはだかっていた。

 サンダーボルトの左胴から3条のレーザー光が迸り、K型ウルバリーンに命中した。同時に2連短距離ミサイル発射筒が火を吹き、しかしこれは外れる。K型ウルバリーンは6連短距離ミサイルをサンダーボルトめがけて撃ち放つ。それはサンダーボルトの左腕に命中し、根本から腕を吹き飛ばした。イヴリン訓練生の悲鳴が聞こえる。

 

『きゃああっ!?ま、まだまだ!』

「いや、良く頑張った。後は任せておけ。」

 

 キースのマローダーからの粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門が、K型ウルバリーンを打ち据える。胴体真ん中の装甲板を全て破壊され、ジャイロを破壊されたK型ウルバリーンは無様に転倒する。イヴリン訓練生が叫んだ。

 

『キース少佐!』

「もう大丈夫だ、下がっていろ。」

 

 よく見れば、K型シャドウホークが頭部を潰されて擱座している。おそらくはイヴリン訓練生のサンダーボルトによる戦果であろう。他にもK型クルセイダーが機体のあちこちに長距離ミサイルによる物と見られる損傷を受けている。これはウィットワースの2人、エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生が頑張ったものと思われる。

 だがそれと引き替えに、イヴリン訓練生のサンダーボルトは全身の装甲板を剥がされて左腕を吹き飛ばされ、右胴の15連長距離ミサイル発射筒が破壊されている。ウィットワース2機は後方からの支援射撃に集中していたのか、そこまで酷くは無いが、それでもエドウィン訓練生機は頭部にダメージを負い、エルフリーデ訓練生機は全身の装甲板を均等に剥がされていた。自機の頭部に攻撃を受けたエドウィン訓練生当人も、おそらくは負傷していることだろう。

 キースは獰猛な笑みを浮かべて外部スピーカーと一般回線で言い放つ。

 

「俺たちの愛弟子を、可愛がってくれた様だな。礼をしなければならんな!」

 

 そしてキースは、やや後方に位置しているグラスホッパーに照準を合わせる。相変わらず前には出て来ていないが、それでも今回は攻撃が届く距離だ。隣にアンドリュー曹長のライフルマンもやって来て、同じくグラスホッパーに狙いを定めた。

 

『隊長、今日はあいつ、弾の届くところまで出て来てるんだな。』

「ああ、ありがたいことだ。感謝して撃たせてもらおう。」

 

 キースのマローダーと、アンドリュー曹長のライフルマンは、敵指揮官機に過熱覚悟の集中砲火を浴びせる。そのグラスホッパーは、分厚い装甲をあっと言う間に半分近く削り飛ばされた。だがグラスホッパーは、これまでとは違う行動に出る。他のメックをそのままの位置に留め、全力で前に出て来たのだ。キースは過熱により蒸し風呂状態になったマローダーの操縦席で、考える。

 

(どうやら本当にヤケになっている様だな。)

『隊長、すみませんがあの敵、貰ってもかまいませんか?』

『あたしたちにも、出番ちょうだい?』

「ああ、かまわん。俺とアンドリュー曹長は機体に溜まった熱を放熱してるから、後は頼んだ。」

 

 彼らのメックベイの出口がレパード級ヴァリアント号の反対側だったため、船体を大きく回り込んでこなければならなかったマテュー少尉機とエリーザ曹長機がようやく位置に着いた。見ると、火力小隊や偵察小隊の機体も射撃位置に着いた様だ。キースは檄を飛ばす。

 

「俺たちの留守を狙って来たコソ泥どもに、教訓をくれてやれ!第1中隊、射撃開始!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 エリーザ曹長のウォーハンマーが、胴装備武器の一斉発射でグラスホッパーの装甲板を更に削り取る。偵察小隊の集中砲火がK型フェニックスホークを追い詰める。火力小隊の狙いはK型クルセイダーだ。そしてマテュー少尉のサンダーボルトが、最前線に出てグラスホッパーに近接火力を集中した上で、パンチ2発を放った。グラスホッパーは頭部にパンチを1発喰らうが、必死に応射してくる。だがサンダーボルトの厚い装甲は、その程度では貫くことができない。

 ここで驚いたことに、グラスホッパーを除いた敵バトルメック残り4機が、一斉に逃亡を図った。グラスホッパーの動きに動揺が見られないところから、タカハタ少佐が離脱命令でも出したのだろうか。機動力の高い偵察小隊のバトルメックが後を追おうとするが、その前にグラスホッパーが立ち塞がり、味方を逃がそうとする。

 

(タカハタ少佐らしくない……。いや、逆にタカハタ少佐らしいのか?歩兵や戦車兵とは違って、メック戦士は大事に温存したりしてたもんな。だが逃がすと色々と後から面倒だ。後ろからで悪いが撃たせてもらおう。)

 

 キースは、そろそろ放熱の終わった頃合いのアンドリュー曹長に向かい、一言叫ぶ。

 

「撃て、アンドリュー曹長!」

『了解!俺はK型フェニックスホークな。隊長は?』

「俺はK型クルセイダーだ!」

 

 アンドリュー曹長のライフルマンから、射程距離ぎりぎりのK型フェニックスホークに向けて、再度過熱覚悟の全開射撃が見舞われる。キースのマローダーからもK型クルセイダーの背中めがけて届く武装全てが撃ち放たれた。

 K型フェニックスホークは、背面から装甲を貫かれてエンジンに致命打を浴び、大爆発を起こす。K型クルセイダーも、背後からの一撃にジャイロを破壊されて転倒した。だが元から後方にいたドラゴン2機は、なんとか戦場からの離脱に成功する。キースは内心で舌打ちをした。彼は1機残ったグラスホッパーに向かい、外部スピーカーと一般回線で降伏勧告を行う。

 

「降伏しろ、ジョー・タカハタ少佐。もはや勝機はあるまい。その機体ももはや限界だろう。」

『否……。降伏はせん……。わしはこれでも、クリタ家に仕える身だ……。此度は武運拙く、主家の顔に泥、を塗って、しまう羽目に、なった、が……。せめて敵手たる、貴官に、最後に痛手を、与えて、逝かんとした、が……。そ、それも、叶わなんだ、か……。』

 

 段々と苦しげな様子になるタカハタ少佐の声に、キースは思い当たることがあった。

 

「タカハタ少佐、まさか貴官、陰腹を!?」

『く、くくく。もはやメックを、動かす力、すらも、残って、おらぬわ……。もはや、これまで、よ。だが、降伏、は、せん!』

「……タカハタ少佐、介錯つかまつる。」

『……感謝、する。』

 

 グラスホッパーは、亀の這う様な速度でキースのマローダーに向けて歩いて来る。キースはマローダーの両腕を振り上げ、グラスホッパーの頭部に向けて振り下ろした。タカハタ少佐の血煙が舞い、グラスホッパーの頭部は完全に叩き潰される。キースは、心の中で思う。

 

(歩兵や戦車兵を使い捨てにしたり、色々となんか間違ってる人物だとは思っていたけど……。タカハタ少佐なりの信念と言うか、クリタ家への忠義と言うか、そう言うのはあったんだなあ。色々と思い違いしていたよ。今回のオーバーゼアー城襲撃にしても、ヤケになったあげくの報復行為だと思ってたもんなあ。)

『キース少佐、こちら指令室。インターリアー城のヒューバート大尉から通信が入っております。そちらのマローダーにお繋ぎしますか?』

「繋いでくれ。」

 

 通信回線がオーバーゼアー城の通信システムを介して繋がると、向こうに置いてあったスィフトウィンド偵察車輛を使用した、ヒューバート大尉の声が飛び込んで来た。

 

『こちらヒューバート大尉、キース少佐、応答願います。』

「こちらキース少佐。どうした、ヒューバート大尉?」

『キース少佐の思った通りでした。インターリアー城の動力区画と弾薬庫が爆発を起こしました。城壁は一部が壊れた程度で、外に展開していた我々の部隊には影響はありませんでしたが、城内の施設は全て吹き飛んでいます。ここはもう使えませんね。』

 

 キースは思わず溜息を吐いた。これで旧ドラコ連合制圧区域内に、拠点として使える施設は無くなってしまった。タカハタ少佐は、こちらに痛手を与えていないとでも思っていた様だが、あちら側に部隊の一部なりとも置けないことは充分に痛い。

 そのとき、マローダーの後ろから声がした。

 

『キース少佐……。』

「イヴリン訓練生か。エドウィン訓練生に、エルフリーデ訓練生も。貴様たち、よく生き残った。よく生き残ってくれた。しかもよく城を守り通した。……頑張ったな、貴様たち。」

『は、はいっ!』

『ありがとうございます!』

『ありがとうござ、痛ててて……。』

 

 最後のはエドウィン訓練生だ。やはり頭に命中弾を喰らったため、負傷しているらしい。キースは息を吐いた。

 

(ふう……。まあ、なんとか訓練生たちが無事だったから、とりあえず喜んでおくか。ああ、そうだ。動けなくなっているだけの敵メックがあったな。それをどうにかしないとな。)

 

 キースは降伏勧告を行うために、敵メックにマローダーを歩み寄らせた。こうして敵の戦力はほぼ壊滅した。残るは今回戦闘に参加しなかった戦車が10輛足らずと、逃げ延びたバトルメック、ドラゴン2機である。いずれはこれらの掃討も考えなくてはならない。だがとりあえず、事態は一段落ついたのであった。




はてさて、なんとか敵の主力を壊滅させ、一部は逃がしてしまったものの、一段落つけることができました。しかし主人公、今回はちょっと冴えません。色々と思い違いが重なってます。
前にも書いた気がしますが、これは主人公も無謬ではない事を示す描写だったのですが、ちょっとやり過ぎたかもしれませんね。あと、ストーリー中の時期もまずかったかも。
なんにせよ、この主人公は超強力ではありますが無謬ではありません。無敵でも無いです。あくまでその凄まじい力量は、人間的なレベルの範疇に収まっております。
……なんか凄まじく幸運ではありますけれどね。


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『エピソード-051 訓練生卒業』

 司令執務室で、キースは1人考えに没頭している。今、彼は1つの悩みを抱えていた。

 

(……「初陣を済ませたら、訓練生卒業として適切な階級をくれてやる」って約束したんだよな。約束を破るわけにはいけない。

 だけど、適切な階級ってどの辺りだろ?二等兵や一等兵、上等兵とかの一兵卒は無いよな。あれだけの能力だし。んじゃあ伍長?軍曹?曹長?准尉?まさか少尉以上の尉官は無いな。

 うーん、単純な能力的には新任少尉に匹敵するんだよなあ、あの娘は。けど軍事知識の座学も基礎教養も中途半端だから、今すぐ士官任用試験受けさせて合格するわけない。それに早く偉くさせすぎると、悪い影響が出るかもしれないしなあ。

 となると下士官待遇が適切かなあ。)

 

 そう、先日なし崩しに初陣を迎えてしまった訓練生たち、特にイヴリン訓練生に正式な階級を与える件について、どの階級を与えるか、それで悩んでいたのである。

 

(でも、正式にメック戦士として任官させたら、あの娘は『機兵狩人小隊』にメックごと配属になるんだよなあ。下士官にするとして、今『機兵狩人小隊』にいるのはサラ中尉待遇少尉、ギリアム伍長、アマデオ伍長……。

 いきなり軍曹にしてあの小隊に送り込んだら、先輩であるギリアム伍長とアマデオ伍長の顔が潰れないかな?いや、かつての隊長の娘さんで、サラ中尉待遇少尉が「将来彼女が中尉になったら小隊長を譲る」って公言して、中尉への昇進を拒んでるから、案外すんなり受け入れるかな?)

 

 ここでキースは、『機兵狩人小隊』について、あることに気付く。それはギリアム伍長とアマデオ伍長の階級についてだ。

 

(待て待て、なんでギリアム伍長とアマデオ伍長が伍長なんだ?ええと、2人のファイルは……。ああ、やっぱりだ。既に軍曹になるに充分な実績も実力もあるぞ。実績の半分以上が『SOTS』との合併前だったんで目立ってなかったんだ。

 合併前だからと言って、それが一切評価されないなんてのは、あんまりだろ。だいたいウチが『機兵狩人小隊』を吸収合併したんだから、合併前の『機兵狩人小隊』に対する貢献もウチへの物として扱うべきだよな。

 よし!2人を軍曹に昇進させよう!それとついでだ、この際昇進に相応しいやつは昇進させよう。あと、メック戦士じゃない士官が1人欲しいな。いいかげん、副官が欲しい。)

 

 だがふとキースは、最初の目的を思い出す。そう、訓練生たちの階級である。

 

(ギリアム伍長とアマデオ伍長の両伍長を軍曹に昇進させるとして、そうなるとイヴリン訓練生の階級は伍長から曹長までのどれにするかだよな。准尉はやりすぎだから考えないとして……。曹長もいきなり偉すぎだよなあ。

 伍長にした場合……。後の小隊長になる相手に対し、どう接して良いかわからなくならないか?かと言って、2人より偉くするのはやはり問題がある。

 先にギリアム伍長とアマデオ伍長の2人を軍曹にして、その後でイヴリン訓練生を軍曹にすればどうだ?2人の方が先任だから、若干だが上官扱いになる。だが同階級だから感覚的にはそれほどでもないだろう。2人には、イヴリン訓練生は後輩だから、先達として色々教えてやる様に、と言っておけば……。この線で行くか。

 エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生は、あまり迷わずに伍長でいいだろう。とりあえず第2中隊の指揮小隊と火力小隊を一時的にメック5機の増強小隊にして、そこに配属させておこう。そして第2中隊の偵察小隊が発足したら、偵察小隊員と言うことで。)

 

 とりあえずの方針が決まったところで、キースは全部隊員の人事書類を取り出す。昇進させるべき者たちのリストアップが目的だった。

 

 

 

 部隊員の人事問題以外にも、キースにはやるべきことがあった。それは姿を消した、敵バトルメック2機と、戦車9輛の捜索である。とは言っても、基本的にメック戦士であるキース自身がやることは少ない。単に偵察兵たちを、旧ドラコ連合制圧区域へと送り出すだけである。

 

「エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹、頼んだぞ。」

「了解です。なんとか手がかりを掴んで来るとしますよ。」

「任せておいて下さい。流石にすぐにとは確約できませんが、なんとかしましょう。」

「とりあえず、旧ドラコ連合制圧区域方面に逃走したらしいのは判明しています。ですから、そこから先の足取りが問題なんですよね。まあ、現地住民たちの惑星政府への感情も悪くはないですから、協力的になってくれると思います。」

 

 アイラ軍曹が言った通り、旧ドラコ連合制圧区域の住民の、惑星政府への感情は悪くない。ドラコ連合軍がばらまいたKHビルを、本来この惑星で流通している通貨であるSHビルに、格安の手数料で両替するなどの救済措置を取ったことも、影響していると見られる。まあ、あからさまな人気取りの政策ではあるが。

 ただしあくまでこれは、この惑星の旧ドラコ連合制圧区域住民への、時期と地域限定の救済措置である。他所からKHビルを持ち込んで、他の両替商や銀行との差額を利用して儲けようとする不心得者は、既に何人も摘発されていた。まあそう言った者たちの大半が、モグリの両替商や金貸しだったりするのだが。

 まあそれはともかく、3人の偵察兵は各々スキマーに乗って出立して行った。

 

 

 

 キースはメック部隊の各中隊及び小隊指揮官、気圏戦闘機隊指揮官らを司令執務室へ呼び出した。目的は、彼らの部下のうち昇進させるべき者について、意見を聞くためである。

 キースは彼らの意見にしばし耳を傾けると、第1中隊火力小隊指揮官ケネス中尉に向かい、口を開く。

 

「ふむ、となると第1中隊の火力小隊員は、まだ昇進させるべきでは無い、か。」

「はっ!ドロテア、マイケルの両軍曹は既に軍曹でありますし、これ以上の昇進は未だ時期尚早かと存じます!」

「ふむ、なるほど。彼らを今昇進させて、更なる職責を課すべきでは無いな。わかった。」

 

 次にキースは偵察小隊長、アーリン中尉に顔を向ける。

 

「そして第1中隊偵察小隊もまた、昇進させるべきでない、と。先日昇進させたばかりであるヴェラ軍曹はともかく、ヴィルフリート軍曹を昇進させたくない理由は何だ?彼は俺の考えでは、曹長あたりに昇進させようと考えていたのだが。」

「はい。これはヴィルフリート軍曹が昇進を拒んでいることによります。彼は今の自分の階級でも過分な物だと感じています。私としては能力的には充分やっていけるはずだと思うのですが……。」

「む、そこまで固く固辞されては無理に昇進させるのも何だな。むう……。わかった、昇進は見送ろう。ただ内々に、士官任用試験を受けてみてはどうかと尋ねておいてくれるか?ヴィルフリート軍曹だけでなく、ヴェラ軍曹にもだ。」

 

 アーリン中尉は、難しい顔で頷いた。

 

「了解しました。ただヴェラ軍曹はともかく、ヴィルフリート軍曹は性格的に難しいかと思いますが……。」

「一応聞くだけで良い。頼んだぞ。」

 

 キースは視線をアーリン中尉から、ヒューバート大尉とサラ中尉待遇少尉の方へ向ける。

 

「第2中隊の方は、火力小隊『機兵狩人小隊』のギリアム伍長とアマデオ伍長について、軍曹に昇進させることに異存は無いんだな?ただしロタール軍曹とカーリン軍曹については違う意見がある、と。カーリン軍曹については先日昇進させたばかりだからわかるが……。」

「いえ、ロタール軍曹とカーリン軍曹については、単なる昇進よりもその適性から言って、士官任用試験を受けさせてはどうかと考えたしだいです。まだ本人たちには言っておりませんが。」

 

 ヒューバートの言葉に、キースは頷く。ちなみにサラ中尉待遇少尉は、黙ったままであるが、何となく同意している様な雰囲気がわかる。

 

「なるほど、理解した。ならばその方針で、彼らに話を通しておいてくれ。さて、ミケーレ少尉。」

 

 おもむろにキースは、現状気圏戦闘機隊を率いているミケーレ少尉に話を振る。

 

「当初俺は、貴官を中尉に昇進させようと考えていたのだが、それを固辞してマイク少尉を推薦するのには、理由があるのかね?」

「はい、私の入隊当時であればともかくとして、今現在の部隊指揮能力はマイク少尉の方が圧倒しております。また単純な操縦技量でもマイク少尉が圧倒しており、戦場における生残性は遥かに彼が高いです。現に先日の戦闘において、私が彼に戦闘指揮権を移譲して戦域離脱する場面がありました。

 正直な話、自分はさほど戦闘指揮が得手と言うわけではありません。できるならば、私の気圏戦闘機隊暫定隊長の任を解いていただき、一介の航空兵の扱いに戻していただきたいのです。そしてマイク少尉を中尉に昇進させて、正式に気圏戦闘機隊の指揮を任せるべきです。多少お調子者のところはありますが、ジョアナ少尉がいればその辺は大丈夫でしょう。」

「……わかった、貴官の望み通りにしよう。だがミケーレ少尉、貴官のおかげで今まで随分と助かったことは確かだ。それは心の中に留め置いて欲しい。」

「はっ!ありがとうございます!」

 

 キースは内心独り言ちる。

 

(メック部隊と気圏戦闘機隊は、一応片が付いたか……。結局今回昇進させるのは、ギリアム伍長とアマデオ伍長、それにマイク少尉の3名か。さて、他の部隊についても各々の指揮官と相談しないとな。)

 

 キースは部下たちに退出を命じると、メック部隊や気圏戦闘機隊以外の人事関係書類を捲りはじめた。

 

 

 

 キースが練兵場に顔を出すと、歩兵部隊を率いているエリオット中尉が驚いた顔をした。彼は泡を喰った口調で言う。

 

「こんなところにまで、おいで頂かなくとも、御用があればこちらから出向きましたものを……。」

「いや歩兵部隊の練兵の様子を、一度きちんと見ておきたかったのもある。ところでエリオット中尉、歩兵部隊で昇進させるに足る者は、どれだけいる?」

「は、はい……。二等兵の歩兵たちの中で、一等兵あるいは上等兵に昇進させたい者が3割ほどおります。特に各分隊の分隊長をやっている者や、各班の班長を務めている者は、昇進させて他の兵との区別をつけておきたく思います。」

「ふむ。現在伍長以上の者たちの中には?」

 

 キースの言葉に、エリオット中尉は難しい顔をする。

 

「伍長以上の者たちは、少し前に昇進したばかりですので……。昇進させたい者もいることはいるのですが、少し早すぎるかと……。」

「むむむ、そうか……。普通の昇進ではなしに、士官任用試験を受けさせて合格できそうな者はいるか?エリオット中尉の見立てで良い。」

「士官任用ですか。まずは第3歩兵小隊を任せているヴィクトル軍曹なら確実ですな。第4歩兵小隊を指揮しているジェームズ軍曹待遇伍長は……残念ながら難しいですな。小隊を指揮する上で、もう少し階級を上げたいのは山々なのですが。

 あとは……最近、色々と勉強しているらしいジャスティン伍長ですかな。頑張れば、と言うところですが、合格の可能性は充分にあります。

 ……何かお考えで?」

 

 エリオット中尉の問いに、キースは一瞬考え込むが、素直に答える。

 

「エリオット中尉には悪いが、1人ばかり俺の副官として引き抜かせてもらいたくてな。メック戦士ではない士官を欲していたんだ。歩兵上がりであるならば、護衛としても頼もしいしな。勿論士官任用後と言うことになるが……。

 そうか、ジャスティン伍長か……。」

「なるほど、副官ですか。キース少佐も既に大隊長ですからな。副官は必要でしょう。ではジャスティン伍長の尻を叩いて来ますか。今のままでは合格の可能性は充分あるとは言え、確実ではありませんからな。」

「済まんな、歩兵部隊としても貴重な人材だろうに。」

「お気になさらず。敬愛するキース少佐の副官になることが叶えば、奴も喜ぶでありましょう。」

 

 キースはその他2、3の事柄についてエリオット中尉と話した後、練兵場を離れた。どうやら待望の副官は、なんとかなりそうである。しかも気心が知れている人物だ。新しく雇う人材を、副官という重要な役割に充てずに済みそうなのは、幸運である。まあ、ジャスティン伍長が士官任用試験に合格してくれることが大前提なのだが。

 

 

 

 そしてキースは、整備棟へとやって来た。彼は一番手前に置いてある1機のサンダーボルトを見遣る。その機体は、イヴリン訓練生の愛機であった。そのサンダーボルトは、吹き飛んだ左腕の再接続作業を行っている途中である。

 サンダーボルトの修理の指揮を取っているのは、驚くべきことにイヴリン訓練生の郎党たるヴァランティーヌ曹長でもサイモン老でもなければ、サイモン老の愛弟子たるジェレミー軍曹でもない。なんとそれは、軍医キャスリン軍曹であった。

 

(ああ、そう言えば彼女は軍医であると同時に、一応は整備兵でもあったなあ。最近上がってきた書類によれば、彼女もサイモン爺さんの薫陶を受けて、バトルメックに関しては相当な腕前になってるってことだったっけ。)

「キース少佐、どうかしましたかの?こんなところまで。」

「ああ、サイモン少尉。貴官に会いに来たんだ。ちょっとばかり近くまで来る用事があったんでな。そのついでで、相談したいことがあってな。

 来月半ばにも、事が上手く運べばメック戦士の大幅増員が成る。だがそれを支える整備兵が足りなくなりそうだ。そこでだ、最初期に雇った助整兵のうちで、整備兵に昇格させてもかまわない知識と技量を持った者をリストアップして欲しい。サイモン少尉のことだ、しっかり教育はやってるんだろう?」

 

 キースの問いに、サイモン老は少し首を傾げる。

 

「適格者は、あまり多くはありませんのう。無論教育はしっかりやっておりますわい。ただ、最初期に雇った者となるとドリステラⅢ出身者になるますのう……。あそこには大学はありませんでしたでの。せいぜいがシニア・ハイスクール卒業程度の学歴の者が最高ですわ。

 そんな中から可能な限り高い素養を持つ者を選びだし、なんとか並ちょっと上の整備兵として育て上げたのがラモン伍長、モードリン伍長、ケーテ伍長、フィリップ伍長、キム伍長、ウルズラ伍長、ヤニク伍長の7名ですのう。そしてこの間、イヴリン訓練生以外の訓練生が加わったときに2名、第1中隊の火力小隊が加わったときに4名、それぞれのメック戦士付き専属整備兵として助整兵から昇格させて配しましたでの。その連中でも、なんとか並の技量ですわ。整備兵昇格後も、教育は厳しく続けておりますがの。

 あとの者は、数人目を付けておる者がいないわけでは無いですがのう……。正直、もう少し時間が欲しいところですわ。ちなみにドリステラⅢ以外で雇った者にも見込みのある者は何名かおりますが、そいつらも整備兵に昇格させるのは時期尚早ですわい。」

「むむ……、そうか。となると何処で技術者を雇い入れるか、改めて考えなければならんな。あとは、新規雇用するメック戦士が郎党の整備兵を連れて来てくれることを祈るしかないか……。だがメックを持たない者でもかまわない、と言う条件で来てもらうことにしてあるからな。メックを持たない者が、整備兵を連れて来ることは期待するべきではないな。」

「ですのう。申し訳ありませんが、もう少し時間が欲しいですわ。」

「わかった。こうなったら腰を据えて、じっくり人材を育て上げてくれ。」

 

 内心でキースは溜息を吐く。

 

(はあ……。なんとかしないといかんなあ。あと、ここの駐屯任務が終わるまでに、航宙艦ももう1隻専属契約できるといいんだけどな。それと教育担当官かあ。本当にそろそろ、なんとかせんといかん。教育担当官と即戦力の整備兵は、星系外に人材を求めた方がいいな、うん。ゾディアック号が戻って来たら、今度はエンデバー号あたりにスカウト旅行に出てもらうか?)

 

 人材不足の脅威は、しばらくは去りそうになかった。

 

 

 

「これが辞令と新しい襟章……階級章だ、受け取れ。これからもよろしく頼むぞ、ギリアム軍曹、アマデオ軍曹。」

「「はっ!!」」

「それともうすぐ貴様たちの『機兵狩人小隊』に、新しいメンバーが加わることになる。階級は貴様らと同じく軍曹になる予定だが、貴様らが僅かとは言え先達なのだ。先達として後進をきちんと教え導く様に。」

 

 キースは司令執務室で、『機兵狩人小隊』の下士官2人に辞令と新しい階級章を手渡していた。軍曹に昇進した2人は、何やら緊張していた模様だったが、キースの台詞を聞くと驚いた顔をする。

 

「き、キース少佐!」

「もしかしてそれは……。」

「もしかしなくても、イヴリン訓練生のことだ。初陣を済ませたら訓練生卒業として、階級をやると約束していたのでな。先日、なし崩しにとは言えど初陣を済ませてしまったのだ。きちんとした階級をやって、正規のメック戦士として任官させることにした。

 実を言えば、本当はもっと後を考えていたのだが……。しかも、とんでもなく厳しい初陣になってしまった様だしな。更に実力的にも、予期していたより高くなっていたからな。軍曹の階級をやることにした。」

「「はあ……。」」

 

 ギリアム軍曹とアマデオ軍曹2人の反応に、キースは苦笑する。彼は付け加える様に言った。

 

「更に第2中隊の各小隊には、イヴリン訓練生同様に初陣を果した訓練生2名が1名ずつ、伍長として一時的に配属されるはずだ。彼らは第2中隊の偵察小隊要員なのだが、まだ偵察小隊の指揮官にする士官がおらんのでな。とりあえず指揮小隊と、火力小隊である『機兵狩人小隊』を一時的に増強小隊5機編成にする。貴様らの隊にはエルフリーデ訓練生が行く予定だ。イヴリン訓練生と共に、後輩として可愛がってやれ。いいな?」

「「はっ!」」

「それでは下がってよろしい。」

「「はっ!失礼します!」」

 

 ギリアム軍曹とアマデオ軍曹は、キースに対し敬礼する。キースもまた答礼し、退室する2人を見送った。彼らが退室すると、キースは内線電話をかける。電話先は隣室のアンドリュー曹長だ。

 

「こちらキース少佐。アンドリュー曹長か?」

『こちらアンドリュー曹長。隊長、終わったのか?』

「ああ、こちらは終わった。待たせておいた訓練生を、こちらへよこしてくれ。」

『了解、隊長。』

 

 待つことわずかで、インターホンが鳴った。キースはインターホンのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『エリーザ曹長です、隊長。アンドリューと訓練生が一緒よ。』

「そうか、入室を許可する。」

 

 ドアが開き、エリーザ曹長、アンドリュー軍曹、そしてイヴリン訓練生、エルフリーデ訓練生、エドウィン訓練生が入室して来る。彼らは揃って敬礼をした。キースも答礼すると口を開く。

 

「楽にしろ。」

「「「「「了解!」」」」」

 

 入室して来た全員が、休めの姿勢を取って身体から力を抜く。だが訓練生たちは、アンドリュー曹長とエリーザ曹長ほどには力を抜けないでいる。キースは微笑を浮かべた。彼はおもむろに言葉を発する。

 

「さて、貴様ら訓練生は先日こちらが意図しない状況で、ついに初陣を迎えてしまったわけだが……。」

「「「……。」」」

 

 訓練生たちは、緊張した表情を浮かべる。キースはにやりと笑い、言葉を続けた。

 

「よくやった。貴様らの頑張りでこのオーバーゼアー城は守られた。俺たち第1中隊の帰還まで、よく保たせた。……よく頑張った。」

「は、はい!ありがとうございます!!」

「「ありがとうございます!!」」

 

 にやり笑いを崩さずに、キースは釘を刺す。

 

「しかし同時に、未だ貴様らが未熟であるのも事実。この成果に驕ることなく、今後とも一層精進せよ。いいな?」

「「「了解!!」」」

「まあ、だが貴様らが素晴らしい結果を出したのも事実。そこで、だ。貴様らに祝いと褒美を兼ねてプレゼントをやろうと思う。」

「!」

 

 イヴリン訓練生が目を見開く。彼女には予想が付いた様だ。キースは彼女に頷く。

 

「初陣を果したら、やると約束していたからな……。まあ変則的ではあったが、初陣には違いない。イヴリン・イェーガー訓練生!貴様を本日ただ今より、軍曹に任ずる!……この辞令と階級章を受け取れ。今日この日、この時をもって、貴様は正規のメック戦士だ。ただしだからと言って基礎教養や座学、日々の訓練が無くなるわけでは無いぞ。その上に様々な任務まで加わる。その責任は、訓練生の比では無い。覚悟して、これを受け取れ。」

「……はっ!了解いたしました!」

 

 辞令と階級章を受け取り、イヴリン訓練生……否、イヴリン軍曹は、その貰ったばかりの階級章を襟に着ける。そして彼女は、胸を張ってその場に立つ。

 キースは続けてエルフリーデ訓練生とエドウィン訓練生に対して言う。

 

「エルフリーデ訓練生!貴様を本日ただ今より伍長に任じ、正規のメック戦士とする!同じくエドウィン訓練生!貴様を本日ただ今より伍長に任じ、正規のメック戦士とする!両名、この辞令と階級章を受け取れ。ただし貴様らも、今までと同じく基礎教養や座学、日々の訓練が無くなったりはせんからな。そこを履き違えるなよ?」

「はっ!了解であります!」

「了解いたしました!」

 

 2人も辞令と階級章を受け取り、早速その階級章を襟に着ける。キースはイヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長の顔を順番に眺めると、頷いて時計を確認した。

 

「む、そろそろシミュレーター訓練の時間だな。よし、今日は貴様らの任官祝いを兼ねて、3on3で絞ってやろう。アンドリュー曹長、エリーザ曹長、手伝え。」

「「了解!」」

「「「!!」」」

 

 新任軍曹1名と新任伍長2名の顔が、引き攣り笑いになる。3人掛かりで1人を相手にしても勝てないのに、3対3ではもはやどうしようも無い。キースは慈愛すら感じられるような笑顔で問う。だが目だけは笑っていない。

 

「嬉しいだろう?」

「「「はいっ!!」」」

 

 イヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長の3名は、条件反射で肯定の返事を叫ぶ。キースは頷いて言った。

 

「よし、貴様たちはアンドリュー、エリーザ両曹長と共にシミュレーター室へ急げ。俺も野暮用を済ませたらすぐ向かう。

 アンドリュー曹長、エリーザ曹長、俺が行くまでに新任どものウォーミングアップを済ませておけ。内容は任せる。」

「「了解、隊長!」」

「では全員、下がってよろしい。」

 

 その場の全員が、キースに向かい敬礼する。キースもまた、答礼を返す。そして新任下士官たちは、アンドリュー曹長とエリーザ曹長に連れられて、シミュレーター室へと向かった。キースはその後姿を見送りつつ、顔にこそ出さないが感慨に浸っていた。

 

(イヴリン「軍曹」か……。こんなに早く正規のメック戦士にすることになるとは思わなかったよなあ……。だけど今後も、きちんと教育していかないとな。死なせるわけには……いかない。

 それだけじゃない、あの娘のためにも、他の隊員たちのためにも、俺自身のためにも、この部隊をきちんと維持していかなくちゃあな。万が一にも『BMCOS』の様なことにはさせられないし、破産して空中分解なんて以ての外だ。)

 

 キースは、自分の顔を両掌で挟む様に叩いた。ぱん!と景気のいい音がする。気合の入ったキースは、先ほど言っていた野暮用……イヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長の配属書類書きを始めた。




『ついに』というか、『もう』というか、訓練生たちが正式任官してしまいました。イヴリン訓練生が軍曹、エドウィン訓練生とエルフリーデ訓練生が伍長です。いやあ、時のたつのは早いもんですねえ。え?違う?
そしてジャスティン伍長にいきなりの試練。士官任用試験を受けて合格すれば栄光ある主人公の副官任務に就く事が叶いますが……。さて、どうなる!


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『エピソード-052 部隊再編』

 連盟標準時の3026年6月15日正午過ぎ、轟音と共にオーバーゼアー城付属の離着床に、1隻のユニオン級降下船が着陸する。この船……ゾディアック号は、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』……略称『SOTS』の新規隊員を募集するために、星系外への1ヶ月半のスカウト旅行に出かけていたのだ。

 着陸した降下船に、冷却剤――未精製の、安物の水――を満載した冷却トラックや、推進剤のタンクローリーが群がって行く。キースはオーバーゼアー城司令執務室の窓からその様子を見て、感慨に耽る。

 

(アリー船長とレオニード副長がジャンプポイントから送って来たデータ通信だと、今回のスカウト旅行は大成功だったって話だが……。まあ、本気で大成功だよな。メック戦士12名、航空兵6名、整備兵20名、偵察兵4名、武器担当官1名、教育担当官1名……。

 その内メック戦士6名は、メックを持たないロビンソン戦闘士官学校卒業の俺たちの後輩。更にもう1名のメック戦士が、これまたレオ・ファーニバル教官の推薦の、メックを嫡男である弟に譲り渡して、自分はメック無しになった俺たちの1期先輩……。先輩を部下として使う事になるのかぁ……。)

 

 キースは溜息を吐く。

 

(後のメック戦士や航空兵は、4名がメックを継げなかった2男やら3女やら、長女でも女だったって事で差別されてメックを継げなかったり、傍系の出で本家嫡男が成人したからメックを譲り渡した人物だったり、か。でもって、残りのメック戦士1名と航空兵6名が問題だよなあ……。)

 

 そう、その残り7名が問題であった。その7名はいずれもメックもしくは気圏戦闘機を所有している。所有しているのだが……、全機がブチ壊れているのだった。ブチ壊れたメックや気圏戦闘機を、我が部隊の技術者ならば完全修理可能であるとの売り文句で、ゾディアック号のアリー船長やレオニード副長は、彼らのスカウトに成功したのである。

 キースの隣で、収支報告に来ていた自由執事のライナー・ファーベルクも溜息を吐く。彼は机上に電卓を置き、動く右手でそのボタンを叩いて言った。

 

「やはりこれは……。航宙艦を商用降下船運送業に出すだけじゃなしに、ユニオン級降下船をもう1隻ぐらいは不定期貨客船として、商用航宙に出さなきゃやってられませんな。中破から大破状態のメック1機に気圏戦闘機6機の修理となりますと……。」

「それは次回だな。とりあえず明日に商用航宙出立予定のレパルス号を送り出してから検討する。一緒にエンデバー号も再度のスカウト旅行に送り出さないといけないから、余裕が無い。レパルス号とエンデバー号がそれぞれ戻って来てからだな、商用航宙に駆り出す船を増やすのは。

 しかし……。うちの貯金は、大半がDHビルだからなあ。ライラ共和国内部で使うために両替すると、10%手数料による目減りは痛すぎる。Cビルは本当にいざと言う時のために大事に取っておきたいしな。SHビルの残りは……。ジャスティン少尉?」

「はっ!」

 

 先日、士官任用試験に合格して少尉に昇進し、大隊副官に異動したジャスティン・コールマン少尉が書類を差し出す。キースはそれに目を通し、肩を落とす。

 

「余裕がまったく無いとは言わないが……。少しばかり厳しいな。若干のDHビル両替も、已む無しかも知れん。」

 

 先ほどから話に出ているDHビル、SHビル、Cビルとは、以前にも述べた事があるがそれぞれ恒星連邦ダヴィオン家発行の通貨、ライラ共和国シュタイナー家発行の通貨、そしてこの世界……中心領域の超光速通信を牛耳っている宗教組織コムスターが発行している通貨である。相対的価値はSHビルが最も高いが、通貨の信用度自体はCビルが一番上である。

 キースは首を振りつつ言った。

 

「まあ幸いなことに、バトルメックは45tのD型フェニックスホーク、気圏戦闘機のうち2機は50tのライトニング戦闘機だ。一応部隊の備蓄部品でなんとかなる可能性も高い。現物をサイモン中尉が見てみないと、最終判断はできないがな。

 問題は残り4機の気圏戦闘機だ。全機揃って60tのスティングレイ戦闘機だからなあ。うちの部隊には部品が一切無い。注文しないと手に入らん。」

「レパルス号が、商用航宙でどれだけ稼いで来てくれるか、ですなあ……。さて、では私はそろそろ仕事に戻りますので。退出してよろしいでしょうか、隊長。」

「ああ、ご苦労ライナー。退出を許可する。」

 

 ライナーは敬礼をする。キースも答礼を返す。ジャスティン少尉は、歩兵であったときの敬礼をしないと言う癖が抜けず、やや遅れて答礼を返した。ライナーは小脇に挟んでいた杖を右手に持つと、それを突きつつ司令執務室を後にする。

 やがておもむろに、キースは口を開く。

 

「……さて、ジャスティン少尉。我々も新隊員を迎えに出るとしようか。ヒューバート大尉、アーリン中尉、ケネス中尉、サラ中尉待遇少尉、それに気圏戦闘機隊のマイク中尉に連絡を入れてくれ、ジャスティン少尉。新隊員の出迎えに付き合うように、とな。」

「了解であります!」

「……あー、ジャスティン少尉。貴官は既に少尉なんだ。もう少し口調をそれらしく改めたまえ。それではまるで兵卒だぞ?」

「は、はいっ!了解……です!」

 

 キースは、前にも誰かにこんな事言ったなあ、と思いながら、内線電話をあちこちにかけるジャスティン少尉を眺めた。

 

 

 

 そして場所は、再び司令執務室に戻る。今この部屋にいるのは、キースの他に第2中隊中隊長ヒューバート・イーガン大尉と大隊副官のジャスティン少尉、そして今回のスカウトで雇用されたばかりのメック戦士、ジーン・ファーニバル女史である。キースはジャスティン少尉に向かって言った。

 

「あー、すまんがジャスティン少尉。少々外してくれるか?」

「はっ、了解です。では指令室にて待機しています。御用がお済み次第ご連絡下さい。」

「すまんな。」

 

 ジャスティン少尉はぎこちなく敬礼して来る。キース、ヒューバート大尉、ジーン女史は、答礼をする。ジャスティン少尉は退室して行った。

 部屋の空気が、多少柔らかくなる。ヒューバート大尉が苦笑しつつ言った。

 

「しっかし……。ジーン先輩がレオ・ファーニバル教官の推薦で、うち『SOTS』に入って来るとは思いませんでしたよ。有名人でしたからね、教官と同じ姓だって事もあって。」

「俺もびっくりしましたよ。ジャンプポイントから送られて来た圧縮データ通信に、ジーン先輩の書類と教官の推薦書が含まれてた時は。思わず飲んでた茶を吹きましたよ。」

 

 キースも、笑顔で語る。ジーン女史もまた、苦笑して口を開く。

 

「私も後輩の世話になるとは、ついぞ思っていなかったな。だが正直、本当に困っていた所だったんだ。家の本来の後継ぎである弟が18になったので、家伝のワスプを弟に譲り渡し、お家騒動の原因にならない様に家を出たまでは良かったんだがな……。

 実際、展望も何も無い状況でな。メックを降りた自分が、ここまで役立たずだったとは思っても見なかったよ。正直、家を普通に出るのではなしに、コムスターにでも入信するべきでは無かったかとさえ思ったな。」

「「はは、ははは……。」」

 

 キースもヒューバート大尉も、この台詞には乾いた笑いを上げた。だがすぐにキースは真面目な顔になる。

 

「ところで先輩。先輩には俺直属の第1中隊で、偵察小隊を率いてもらいたいと思っているんですが、かまいませんか?」

「おや?たしか先ほど紹介をされたアーリン・デヴィッドソン中尉が、第1中隊の偵察小隊長じゃなかったかな?」

「いえ、今回予想以上にメック戦士の大量増員が叶いましたからね。第3中隊を新設するつもりなんですよ。アーリン中尉には、大尉昇進してもらってその中隊長になってもらう予定なんです。」

「ふむ……。」

 

 ジーン女史は少し考え込む。だがすぐに、にやりと不敵な笑いを見せる。

 

「いいだろう。1期下で、稀に見る秀才と評判だったキース・ハワード候補生の成長した姿、その指揮ぶりを、直下で見せてもらうとしようか。」

「ははは、お手柔らかに……。」

「大変だな、キース。」

 

 ヒューバート大尉は、お気楽に言う。それを睨み付けるキースに向かい、ジーン女史は真面目な顔になって言葉を発した。

 

「……キース少佐。これからよろしくお願いします。ヒューバート大尉も。」

「……うむ。正式な任官は、後ほど全員を再度集めて行うが……。ジーン・ファーニバル中尉、こちらこそよろしく頼むぞ。」

「よろしく頼む、ジーン・ファーニバル中尉。」

 

 キースとヒューバート大尉もまた、真面目な顔と口調でそれに応えた。

 

 

 

 キースが第3小会議室に入室した時、そこでは喧々諤々の議論が交わされていた。思わず彼は唖然とするが、すぐになるほど、と思う。

 

「えーっと、となるとこの歩兵から上がって来たばかりの娘、アナ・アルフォンソ伍長は第3中隊でもらっていいわけね?」

「メック戦ではないにせよ、実戦経験者は貴重だろうからな。第2中隊の偵察小隊には、もう1人の歩兵出身者、レノーレ・シュトックバウアー伍長を貰うから大丈夫だ。」

 

 そこではアーリン中尉とヒューバート大尉が、今回の新規入隊者から自分の中隊の隊員を選び出すので大忙しだったのである。自分の部隊の隊員を選ぶと言うのは、確かに大事な事だ。議論が活発になってもおかしく無い。

 ちなみに、今台詞に上がった2名は今回の新規入隊者では無い。惑星ネイバーフッドで募集した歩兵の中に、メック戦士としての適性が高い者が2名ばかり見つかったのである。訓練成績も上々、実機に乗せてみた所かなりの技量を示したため、急遽伍長に任じてメック戦士に取り立てたのである。

 とは言っても、2人はメック戦士とまったく関係の無い人間では無い。実はアナ伍長は失機者の家系の人間であり、親から厳しすぎるメック搭乗訓練――と言っても何処からか手に入れて来たボロボロのシミュレーターによる物だけだが――を受けて来ていた。もっともその親に反発して家を出てしまっていたのだが。そんな彼女だが、歩兵として入った傭兵部隊でメック戦士として取り立てられるとは、運命とはわからない物である。

 そしてレノーレ伍長は某メック戦士家系の傍系の人間で、シミュレーター訓練はしっかりと、そして実機にも1回だけだが搭乗経験があった。ただし傍系の人間であるために、いかに才能があっても認められる事は無く、本当に万一の際のために訓練を受けさせられただけであった。『SOTS』で拾い上げられたのは、彼女にとって幸運以外の何物でも無かっただろう。

 

「……っと。じゃあこんな物かな。第2中隊の偵察小隊は、隊長にアラン・ボーマン氏、副隊長にエリーザベト・メリン女史、平隊員にアロルド・エリクソン氏とレノーレ・シュトックバウアー伍長。」

「第3中隊の火力小隊は隊長がジェラルド・ハルフォード氏、副隊長がハーマン・カムデン氏、平隊員がアナ・アルフォンソ伍長、メアリー・キャンベル女史。

 偵察小隊は小隊長にアルマ・キルヒホフ女史、副隊長ルートヴィヒ・フローベルガー氏、マキシーン・ウィンターズ女史とアドルファス・マコーマック氏が平隊員ね。

 残ったヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン氏は?」

「ああ、彼は……。」

 

 キースはそこに割り込む。

 

「ああ、彼ならば俺の第1中隊偵察小隊に、副隊長として貰う予定だ。」

「「キース少佐!」」

「……そこまで驚くか?俺はちゃんとインターホン鳴らしたし、「どうぞ」って返事ももらったぞ?」

 

 アーリン中尉もヒューバート大尉も、あれ?と言う顔をする。

 

「……そう言えば、なんか生返事をした記憶も。」

「と、ところで少佐。何か御用ですか?」

「いや、第2第3中隊のメンバーは諸君らに選抜を任せたが、結果がどうなったか、と思ってな。」

「それなら丁度今、結論が出た所です。」

 

 アーリン中尉の言葉に、キースは机上の編成表を見る。

 

「ふむ……。人員配置は問題無いんだが……。第3中隊の偵察小隊だが、貸与する全機をフェニックスホークで固めるのはどうかな。機動性が無い機体だが、1機は45tのヴィンディケイターにした方がいいと思うぞ。

 高速打撃部隊であれば全機フェニックスホークで構わないんだが、偵察小隊は小隊単体で活動する事も多いからな。1機は支援型メックを入れて置いた方が、安心は安心だ。小隊全体の生残性もその方が高まるだろう。」

「……なるほど、了解です。ならば副隊長のフローベルガー氏にヴィンディケイターを貸与しましょう。まだ実際の腕前は見てないけれど、メック戦士養成校教官の推薦書では、メックでの射撃技量が高いそうだから。」

 

 ここでヒューバート大尉が、人事書類の束を見遣りつつ言う。

 

「しかしうちの部隊の士官、俺たちの母校出身者ばかり多くなったなあ。なんか学閥っぽいな。」

「まあそれは仕方ないでしょう。わたしもうちの母校、フィルトヴェルト軍士官学校は、卒業生の大半が恒星連邦装甲軍の辺境部隊に入隊するもの。わたしみたいな例外は数少ないから、恩師に卒業生の紹介を頼んでも、まず無駄なのよ。」

「あと、当初予想してたより女性の新入隊員が多いなあ。」

 

 そのヒューバート大尉の疑問に答えたのは、キースだった。

 

「それも仕方あるまいよ。メックを持っていなくとも構わない、と言う条件で人員を集めたからにはな。一族の予備メック戦士であっても、万が一の際にメックが回って来るのはやはり男性の方が優先される。だから、メックにあぶれるのも、自分の家のメックを諦めて外に出るのも、女性の割合が高くなるのは当然の結果だからなあ……。」

「なるほど……。」

「まあ、わたしが独立小隊を率いていた時も、わたしが女だからって舐められる事も多かったわね……。やっぱり軍隊は男性社会の側面が大きいですからね。」

 

 アーリン中尉が少しすねた様に言う。キースとヒューバート大尉は、慰める様に言った。

 

「アーリン中尉の実力は、俺がよく知っている。」

「ああ。中尉の能力は、俺より優秀かも知れんからな。」

 

 アーリン中尉は、くすくすと笑った。どうやら冗談半分だった様だ。キースとヒューバート大尉は、ほっと息を吐いた。

 

 

 

 日付が変わって、翌日である。ちなみに惑星ネイバーフッドの1日は連盟標準時の2日ちょっとにあたる48.8時間であるため、丸一日明るい日があるかと思えば、丸一日真っ暗闇の日もある。今日は丸一日暗い日だ。この惑星の一般人の様に惑星時間で生活していればともかく、連盟標準時で生活している惑星守備隊からすれば、ちょっと調子が狂う。

 それはともかく、キースは司令執務室にメック戦士と航空兵の一部を呼び出していた。理由は彼らの昇進の通達や、任官の通達である。副官のジャスティン少尉が、書類と襟章……階級章をキースに手渡してくれた。キースは大きな声で、はっきりと告げる。

 

「アーリン中尉、本日ただ今をもって貴官を大尉とし、第3中隊中隊長に任ずる。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

「これが辞令と新しい階級章だ。それと同時に、以前から内示していた通り、貴官の小隊をそのまま第3中隊の指揮小隊とする。このため、貴官の小隊のバトルメックを交換する事になる。この場が解散しだい、即座に機種転換訓練に入ってくれ。」

「了解!」

 

 キースはアーリン大尉が襟の階級章を付け替えるのを見届けると、次に航空兵ヘルガ・ヤーデルード少尉に向き直る。

 

「ヘルガ少尉、貴官を中尉とし、新たに分割された気圏戦闘機隊第2中隊、『ビートル中隊』の指揮官に任ずる。これが辞令と新しい階級章だ。」

「謹んで拝命いたします。」

 

 気圏戦闘機隊は、今までもライトニング戦闘機のアロー、トランスグレッサー戦闘機のビートルに分かれていたと言えば言える。だが今回、気圏戦闘機隊の大幅増員が成った事により、ライトニング戦闘機6機の『アロー中隊』、それ以外の機種6機による重戦闘機中隊『ビートル中隊』に正式に分割する事になったのだ。

 最初は以前気圏戦闘機隊の指揮を執っていたミケーレ・チェスティ少尉を中尉昇進させて2つ目の中隊を任せる意見もあった。だが他ならぬミケーレ少尉自身が、昇進および機体の交換を固辞した事により、ヘルガ中尉にお鉢が回って来たのだった。

 キースは次に、その場に一塊になって屹立している新入隊員たちの方へ顔を向ける。まずは第1中隊の偵察小隊予定者からだ。

 

「ジーン・ファーニバル、今日この時より君を中尉とし、第1中隊偵察小隊小隊長に任ずる!これが辞令と階級章だ。受け取りたまえ。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

「ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン、ただ今より君を少尉とし、第1中隊偵察小隊副隊長に任ずる!辞令と階級章を受け取りたまえ。」

「了解しました!謹んで拝命いたします!」

 

 次は第2中隊の偵察小隊である。キースはガチガチに硬くなっている後輩たちに、声をかける。

 

「アラン・ボーマン、君を中尉とし、第2中隊偵察小隊小隊長に任ずる!辞令と階級章を受け取る様に。」

「は、はい!せんぱ、いえ少佐!謹んで拝命します!」

「うむ。プライベート以外では、先輩とは呼ばん様に。では……エリーザベト・メリン、君を少尉とし、第2中隊偵察小隊副隊長に任ずる!これが辞令と階級章だ。」

「ありがとうございます!謹んで拝命します!」

 

 そして第3中隊の火力小隊と偵察小隊である。こちらの者たちも、ガチガチに緊張しているのが見て取れる。

 

「ジェラルド・ハルフォード、君を中尉とし、第3中隊火力小隊小隊長に任ずる!辞令と階級章を。」

「はっ!謹んで、拝命いたします!」

「ハーマン・カムデン、君を少尉とし、第3中隊火力小隊副隊長に任ずる!この辞令と階級章を受け取りたまえ。」

「了解!謹んで拝命します!」

 

 火力小隊が終わったので、次が偵察小隊だ。

 

「アルマ・キルヒホフ、君を中尉とし、第3中隊偵察小隊小隊長に任ずる!これが辞令と階級章だ。」

「はい!謹んで拝命いたします!」

「ルートヴィヒ・フローベルガー、君を少尉とし、第3中隊偵察小隊副隊長に任ずる!辞令と階級章がこれだ。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

 

 メック戦士たちが一通り終わったので、次に控えている航空兵たちの番が来た。彼らは流石に新前であるキースの後輩たちとは違い、幾ばくかなりの余裕を見せていた。ただし、キースの迫力に若干腰砕けになっている者もいる。

 

「オーギュスト・セゼール、君を少尉とし、気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員とする。辞令と階級章を受け取りたまえ。」

「了解です。謹んで拝命します。」

「ユーリー・ヴィクトロヴィチ・クラコフスキー、君を少尉とする。これより気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員として頑張ってくれたまえ。これが辞令と階級章だ。」

「は、はい。了解です、拝命いたします。」

「キアーラ・コッポラ、君を少尉とし、気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員とする。今後ともよろしく頼むぞ。辞令と階級章を。」

「はいっ!謹んで拝命しますっ!」

「アンジェル・デュピュイトラン、ただ今より君を少尉とする。気圏戦闘機隊第2中隊『ビートル中隊』隊員として頑張る様に。辞令と階級章だ。」

「お任せ下さい。謹んで拝命いたします。」

 

 まあ、この航空兵たちはそこそこ頼りになりそうな人材だった。ただし、彼らの乗機は一様に故障機、損傷機であり、修理が済むまでは戦力化はできないのだが。

 キースはその場の新入隊員全員に向かって語り掛ける。

 

「……混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』にようこそ諸君。貴官らは本日ただ今をもって、俺の部下だ。多くは言わん。俺の背中は貴官らに任せたぞ。貴官らの背中は、俺が護る。……よろしく頼むぞ。」

「「「「「「了解!!」」」」」」

「同じことは、アーリン大尉とヘルガ中尉にも言える。これまでと同じく、いや、これまで以上によろしく頼んだぞ。」

「了解しました!」

「了解です。」

 

 キースは満足げに頷くと、口を開く。

 

「では各員、平常業務に戻れ!機種転換訓練が必要な者、及び機体を貸与される者は訓練に入る様に!では解散!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 その場の全員が敬礼をする。キースとジャスティン少尉は答礼を行った。キースとジャスティン少尉を残し、他の全員が司令執務室から退出して行く。キースは息を吐いた。

 

「はあ~~~っ。ようやく最初の組が終わったか。小休止したら、次の組を呼ぶとしよう。」

「了解です、少佐殿。……コーヒーを淹れます。」

「菓子も出そう。甘い物がいいな。」

 

 そう、新入隊員はまだまだいるのである。さすがに助整兵や歩兵の1人1人にまで、キース自ら辞令と階級章を手渡してやったりするのは不可能だ。だが士官や幹部クラス、メック戦士、航空兵、整備兵などにはそう言ったことをやってやろうと思っている。まあ部隊規模が更に拡大すれば、それも出来なくなって来るのだろうが。

 それはともかくとして、キースは次の新入隊員たちを司令執務室へと呼び出す前に、若干の休憩を取る。ちなみにジャスティン少尉の淹れたコーヒーは、軍隊の常識に反してなかなかの美味だった。

 

 

 

 今日も今日とて、キースは城の第1小会議室を占領して、イヴリン・イェーガー軍曹ら部隊の年少メック戦士たちに対し、基礎教養の授業を行っていた。

 

「……数学は単に基礎教養と言うだけでは無い。軍事上も、極めて大事な学問だ。敵を攻撃した際の効果、戦果、それに自軍の被害など、極めて冷徹な数字の下に表わされる。事前の戦術、戦略シミュレーション……模擬演習なども、数学の結果成立している。

 まあ、以前知り合いから聞いた話なのだが……。何処かの水軍……当時は地球しか世界が無かった頃だから、水上の軍隊も海軍と呼んでいた頃の話だがな。そこでは作戦前の模擬演習において、撃沈と結果が出た物を、「我が軍の軍艦がこんなに簡単に沈むなど馬鹿げている」とか言って、こともあろうに「これは中破と見なす」などとシミュレーションの結果を曲げたそうだが……。馬鹿な話だ。惨敗したそうだよ。

 ……っと、余談が過ぎたな。そろそろ時間だ。だが今日は終わる前に、紹介しておく人物がいる。」

「「「?」」」

 

 イヴリン軍曹、エドウィン・ダーリング伍長、エルフリーデ・ブルンスマイアー伍長の3名は怪訝そうな顔になる。だがイヴリン軍曹だけは、すぐに事情を察した様だ。ほんの僅かだが、彼女の表情が残念そうな物に変わる。しかし彼女はすぐに表情を引き締めた。

 それを見て取ったキースは、一寸だけ自分でもよくわからない感慨を覚える。だが彼はすぐに我に返ると、壁に据え付けてあるインターホンに歩み寄り、スイッチを入れた。

 

「少尉、そこにいるかね?」

『はっ。10分前に到着しておりました。』

「そうか、待たせて済まなかったな。入りたまえ。」

『了解です。』

 

 そして1人の長身の中年女性が、会議室に入室して来る。そこそこの美人ではあるが、それ以上に理知的な雰囲気を纏った眼鏡の人物だ。ちなみにそれが伊達眼鏡であることを、キースは知っている。

 生徒たちに向かい、キースは大きな声で彼女を紹介した。

 

「この者は、ヴァーリア・グーテンベルク少尉……。この度、我が部隊の教育担当官として着任した。俺は基礎教養については専門では無いのでな。それ故に彼女が来てくれた。今後、貴様たちの基礎教養における教官になってくれる。敬意を払って授業を受ける様に。では少尉……。」

「はっ……。ただいまご紹介に預かった、ヴァーリア・グーテンベルク少尉だ。あらかじめ言っておくが、自分が女だからと言って甘く見てもらっては困る。自分が受け持つのは基礎教養だが、厳しくいくつもりなので覚悟しておく様に。……返事は!」

「「「了解!!」」」

 

 生徒たちは、背筋を伸ばし大声で応える。キースとヴァーリア少尉は満足げに頷く。キースは生徒たちに向かい、命令する。

 

「よし、1名ずつ自己紹介を。少尉は既にお前たちの顔も名前も知ってはいるが、一応の礼儀だからな。イヴリン軍曹からだ。」

「はっ!自分はイヴリン・イェーガー軍曹であります!第2中隊火力小隊『機兵狩人小隊』に所属しております!少尉殿、よろしくご教導ご鞭撻のほどを!」

「じ、自分はエドウィン・ダーリング伍長であります!本日つい先ほど、第1中隊偵察小隊に異動いたしました!」

「自分はエルフリーデ・ブルンスマイアー伍長であります!エドウィン伍長同様に、先ほど第1中隊偵察小隊に異動いたしました!」

 

 ヴァーリア少尉は頷く。キースは生徒たちに言った。

 

「さて、この小会議室はあと1時間確保してある。少尉、この者たちと親睦を深めておきたまえ。貴官のやり方で、な。

 貴様たち、基礎教養はヴァーリア少尉にバトンタッチするが、軍事関係の座学やシミュレーター訓練、実機訓練の教官は変わらずに俺が務める。貴様たちの成績については少尉から報告を受けるから、もし万一手抜きでもしてみろ、訓練が倍増すると思っておけ。

 それでは俺は司令執務室に戻る。」

「一同、敬礼!」

 

 ヴァーリア少尉の掛け声に、イヴリン軍曹、エドウィン伍長、エルフリーデ伍長がびしっと敬礼をする。無論ヴァーリア少尉も敬礼をしている。キースは答礼を返すと、退室した。

 ちなみに後で報告を受けたところによると、その後の1時間でヴァーリア少尉は、生徒たちがどこまで基礎教養を理解しているか測るために、小テストの山を彼らにプレゼントしたそうだ。彼女の厳しさに、当初美人の女教師が来たと鼻の下を伸ばしていたエドウィン伍長は、夢も希望も打ち砕かれたらしかった。

 

 

 

 イヴリン軍曹たちを教育担当官ヴァーリア少尉に任せたキースは、司令執務室で歩兵部隊指揮官のエリオット・グラハム大尉、機甲部隊戦車中隊中隊長イスマエル・ミラン大尉待遇中尉、整備中隊中隊長サイモン大尉待遇中尉の3名を呼び出し、今回新規採用した武器担当官ペーター・アーベントロート軍曹との顔合わせを行っていた。ちなみにエリオット大尉も、イスマエル中尉も、サイモン老も、この機会に各々職責に合った階級に昇進している。元歩兵部隊の大隊副官ジャスティン少尉は、元直属の上官だったエリオット大尉を前にして、ちょっとガチガチに緊張している。

 

「彼が今回新規採用された武器担当官、ペーター・アーベントロート軍曹だ。元いた隊では経験豊富な武器担当官だったそうだ。だがこの部隊では最初の内はわからない事が多いだろうから、特にサイモン大尉待遇中尉、色々と教えてやってくれ。

 ペーター軍曹。サイモン中尉はこの部隊の上級整備兵で、一応今まで武器担当官も兼任してきた。ただ彼の仕事は色々と多くてな……整備の仕事の他に、若い整備兵や助整兵の教育、戦闘任務においては砲兵としても働いている。正直、武器担当官としての仕事はあまり出来ていなかったんだ。だから歩兵部隊指揮官であるエリオット大尉や戦車部隊指揮官であるイスマエル中尉にも色々手伝ってもらっていた。

 ペーター軍曹、サイモン中尉から一刻も、いや一分一秒でも早く、仕事を奪えるぐらいに部隊に慣れて欲しい。サイモン中尉には他にも山の様な仕事が待っているんだ。」

「はっ!ご期待に沿える様、鋭意努力いたします!」

「こちらも了解ですわ。で……ペーター軍曹、だったかの?」

「はっ!自分はペーター・アーベントロート軍曹であります、サイモン中尉!原隊が壊滅による解散で路頭に迷っていた所を拾っていただき、『SOTS』にはこの上なく感謝しております!」

 

 ペーター軍曹は、生真面目に答える。その規律正しい様子は、エリオット大尉、イスマエル中尉らに好印象を与えた様だ。特に、同じく部隊解散で路頭に迷っていた所を『SOTS』に助けられたエリオット大尉には、かなりの共感を与えた模様だ。

 丁度その時、2隻のユニオン級降下船……エンデバー号とレパルス号がオーバーゼアー城の離着床から飛び立って行くのが、司令執務室の窓から見えた。エンデバー号は、更なる人員確保のためのスカウト旅行に、レパルス号は資金稼ぎのために不定期貨客船としての商用航宙に出るのである。

 キースは内心で思った。

 

(うーん……。ついでに60tスティングレイ戦闘機の部品、買って来てくれる様に頼んだけど……。4機分だからなあ……。高く付くよなあ……。このままじゃあ、10%の手数料による目減りを覚悟してDHビルの貯金をSHビルに両替しなきゃならなくなるぞ。

 ……レパルス号の商用航宙で、どれだけ稼げるかで決まるな。)

「あー、今度のスカウト便はエンデバー号でしたのう。」

「以前とは違い、『SOTS』の名も知れ渡る様になって来ている。キース少佐の令名と共にな。以前の様に、まともな奴が来ないと言う様な事態は、確実に避けられるだろう。今回も大丈夫だった様だしな。」

 

 サイモン老の言葉に、エリオット大尉が応える。心の内で頷きつつ、キースは話を戻そうと口を開いた。

 

「あー、今はまずペーター軍曹の事だ。3人とも、ペーター軍曹に早速仕事を教えてやってくれ。」

「了解ですわ。」

「自分も了解いたしました。」

「了解であります。」

「では下がってよろしい。後は頼んだ。」

 

 歩兵であるエリオット大尉以外の面々は、各々敬礼をする。キースとジャスティン少尉が答礼をすると、4人は退室していった。キースは再度窓の外、降下船離着床の方に目を遣る。ジャスティン少尉が言葉を発した。

 

「……少佐。レパルス号が儲けてくれるといいですね。」

「流石に気付くか。いや、たぶんサイモン中尉も言葉や態度に出さないだけで気付いてたんだろうけどな。」

「自分も、少佐のお手伝いをして書類仕事をする様になりましたから……。」

「ああ。破産する様な事は確実に無いんだが、レパルス号が儲けてくれないと、ライラ共和国で使えるSHビルが尽きる。契約満了時に報酬の残金が入って来るはずだから、帳簿上は余裕があるんだが……。その報酬の残金を担保にした約束手形の発行は絶対に避けたい。

 あとは貯金のDHビルをSHビルに両替すれば、まだまだ余裕はある。が、できれば避けたい事態なんだけどな。……なんで契約先の国家を変える傭兵がいるんだろうな。前の雇い主からの報酬による貯金が、両替手数料で目減りするじゃないか。」

 

 第3中隊指揮小隊のバトルメックになった元海賊のメックの修理費、及び新規雇用したメック戦士や航空兵たちの持ち込みメック、持ち込み気圏戦闘機の部品代は、微妙なボディーブローとして『SOTS』の経営に対し、効果を発揮してきていた。




『SOTS』は大幅増員が叶い、ようやく第3中隊が編制可能になりました。これでメック部隊は1個大隊規模になります。
でも、現金のストックががが。経済危機、と言うほどでは無いのですが。でもボディーブローの様に、徐々に効いてきてます。これも1つのピンチ!


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『エピソード-053 武士よさらば』

 この日、キースはいつも通り司令執務室で書類に向かっていた。ヒューバート大尉とアーリン大尉も、書類仕事を手伝っている。ヒューバート大尉が呟く様に言った。

 

「ふ……む。一時期と比べ、書類仕事が減ったなあ。」

「戦闘任務がありませんからね。逃げたドラゴン2機と、車種不明の戦車が、えーっと、10輛弱でしたね。それが何処に逃げたか、まださっぱり判明しませんからねえ。」

 

 第3大隊の訓練経費の書類を確認しつつ、アーリン大尉が答える。第3中隊は指揮小隊がバトルメックを全機乗り換え、火力小隊と偵察小隊が全員機体貸与なので、ここ毎日機種転換訓練や、そうでなくとも貸与された機体に慣れるための訓練に勤しんでいる。

 まあ、第3中隊だけではなしに、第1中隊と第2中隊も偵察小隊が新規編制なので、実機演習が必要なのである。その上で、各隊の連携訓練なども行っているから、オーバーゼアー城の演習場は使用の予定がみっちりと詰まっているのだ。

 おかげでキースは、イヴリン軍曹らの若手メック戦士の教育のために、演習場の空き時間を確保するのに苦労していたりもする。

 と、ここで司令執務机上の内線電話機がインターホンモードで鳴る。キースは手を伸ばし、スイッチを入れた。

 

「誰か?」

『大隊副官、ジャスティン少尉です。』

「了解した、入室を許可する。」

 

 扉を開けて、ジャスティン少尉が入って来た。その手には、書類束が抱えられている。彼は書類を机上に置くと、今なお少々ぎこちなかったが敬礼をする。キース、ヒューバート大尉、アーリン大尉は答礼をした。

 ジャスティン少尉は報告を行う。

 

「深宇宙通信施設より届いた、インベーダー級航宙艦イントレピッド号、及び同級ズーコフ号からの圧縮データ通信のプリントアウトをお持ちしました。」

「イントレピッド号はわかるが、ズーコフ号?」

「はっ。それはプリントアウトをご覧になっていただければ……。」

 

 キースは机上に置かれた書類を手に取り、読み進める。

 

「……ほう!イントレピッド号イクセル艦長からの報告だ!以前から交渉を頼んでいた件についてだよ。インベーダー級航宙艦ズーコフ号と交渉を重ね、ついにズーコフ号ヨハン・グートシュタイン艦長が『SOTS』との専属契約に応じてくれたそうだ。今現在ズーコフ号は、イントレピッド号と共にジャンプポイントに来ている様だな。

 こちらの書類は……。ズーコフ号の乗員名簿と同艦のこれまでの履歴だな。ふむ……。やっぱり今まで所属していた傭兵部隊『ジェンキンス殲撃隊』が、戦闘による損害で立ち直れなくなって解散した事によって、根無し草になった航宙艦か。

 他人の不幸を喜ぶわけでは無いが、そうでも無ければ別の傭兵部隊と契約などしてくれんだろうしなあ。」

「これで『SOTS』の全降下船を一度に運べますね。」

 

 アーリン大尉の言葉に、キースは頷く。

 

「うむ。ズーコフ号のグートシュタイン艦長は、早速うちのエンデバー号とレパルス号を運ぶ事を申し出てくれている。エンデバー号のスカウト旅行とレパルス号の商用航宙が終わり次第、惑星ネイバーフッド上に帰還するその降下船に乗って、一度惑星に降りて来るそうだ。一応俺と話をしておきたいらしい。……あと1ヶ月後、だな。」

「じゃあ本来その2隻を運ぶはずだった航宙艦イントレピッド号は……。」

「別便の商用降下船を運ぶ小銭稼ぎに出せますね。」

「ああ、その通りだ。最終的には儲けが増える事になる。ただしズーコフ号が加わる事により、艦の維持費や契約金、乗員の給与など一時的な出費は逆に増える。……一時的な事だから、俺の貯金を取り崩して部隊に予備費として貸し付けるかな。」

 

 キースの台詞に、ヒューバート大尉とアーリン大尉は引き攣る。彼らは泡を食った様に言った。

 

「ちょ、キース少佐!『SOTS』そこまで困ってたんですか!?」

「予備費はまだ沢山あるって聞いてたんですけど!?」

「あー、いや。貯金はまだ沢山ある。大丈夫だ、破産なんぞしないから。ただ、貯金の大半が恒星連邦のDHビルだってだけでな。部隊のDHビルの貯金を取り崩すよりかは、俺個人のSHビルの貯金を一時的に出す方がいいかな、と思っただけだ。10%も両替手数料で取られるのは、痛すぎるからな。」

 

 キースの台詞に、ヒューバート大尉とアーリン大尉は安堵の息を吐く。

 

「脅かさないでくださいよ……。でも、SHビルの運転資金が心もとないのは、そうなんですね?」

「恒星連邦からライラ共和国へ来た事で、まさかこんな落とし穴があるとは……。通貨が違いますもんね。今までの部隊の貯金が、そのままじゃ使えないんですもんね。」

(はやく合併して、連邦=共和国にならないかなあ。ああ、でもそうなると氏族の侵攻も……。ほんとバトルテック世界は厳しいよ。)

 

 キースは苦り切った表情で深宇宙通信用のメッセージ用紙を2枚取り出す。そして彼は、右手でイントレピッド号宛、左手でズーコフ号宛のメッセージを同時に書き付けてジャスティン少尉に手渡した。

 

「ジャスティン少尉、このメッセージを深宇宙通信施設まで届けさせて、航宙艦まで送信させてくれ。」

「了解です、少佐。」

 

 ジャスティン少尉は敬礼をする。キース、ヒューバート大尉、アーリン大尉もまた答礼をした。ジャスティン少尉は司令執務室を退出すると、指令室へ向かい歩き出す。

 ヒューバート大尉が、苦笑しつつ口を開いた。

 

「さて、お仕事再開といきますか。なんとかレパルス号が帰還して、商用航宙の儲けをもたらしてくれるまで乗り切らないと!」

「逃げたドラゴン2機と戦車、見つからないかしらね。戦闘任務があれば、半月後の月末払いで戦闘手当と機体の鹵獲や撃破による褒賞金が入るんだけど。」

 

 アーリン大尉が愚痴まじりに笑えない冗談を言う。いや、半分は本気かも知れない。キースも苦笑しつつ、冗談まじりに返す。

 

「それで万一メックに損害が出たら、本末転倒だぞ?装甲板と弾薬だけならば、契約により充当されるがな。」

 

 そして彼らは書類の処理に立ち戻る。やがてジャスティン少尉も戻って来て、彼らは4人がかりで事務仕事を片付けて行った。

 

 

 

 電話口に向かい、キースは相手を説得しようと必死になっていた。彼の傍らでは、副官のジャスティン少尉が直立不動で待機している。

 

「メランダー首相、どうかお願いします。パレードや戦勝祝賀会は、もうちょっとだけ待っていただけませんか。」

『うむ……。君の言い分も理解できるのだがね、少佐。だが、敵主力を駆逐した以上は、いつまでもやらないわけにもいかんのだ。』

「ですが、そう言った祝典をやってしまった後で、残党がなにか事を起こしでもしたら、惑星政府も惑星軍も、勿論我々惑星守備隊も面目が丸潰れになります。今現在我々の部隊の者が、逃亡した敵残党の行方を必死に追っております。小規模な野盗化した部隊であればともかく、バトルメックを擁するレベルの敵が未だ残っているのです。」

『むう……。』

 

 電話の向こうで、惑星政府首班トゥール・メランダー首相は困り切った様子だった。本来惑星守備隊の任務と言えるのは、逃亡した残敵の「始末」であり、その捜索自体はどちらかと言えば惑星軍の仕事である。だが惑星軍情報部などの情報組織は、今現在ドラコ連合が残していったスパイ網の影響で混乱が続いており、更にはそのスパイ網の摘発に全力を挙げているために余裕が無い状況だ。

 メランダー首相は、苦り切った口調で断を下した。

 

『わかった。もうしばらくパレードと戦勝祝賀パーティーは開催を延期しよう。だがなんとか今月末までだ、少佐。政治の世界では、体面も武器の1つであり、なおかつ守らねばならない生命線なのだよ。それ以上開催を延ばす事は、難しい。

 無理を言って済まんな、少佐。』

「いえ……。政治の世界が難しいのは理解できるつもりです。なんとかそれまでに、敵残党をどうにかできないか頑張ってみましょう。」

『頼んだ、少佐。ではこれで……。』

 

 電話は切れた。待機していたジャスティン少尉が、すかさずコーヒーを用意する。

 

「ああ、済まんなジャスティン少尉。」

「いえ……。しかし、戦勝パレードと戦勝祝賀パーティーですか?」

「うむ。勝った以上は、そう言った催しを行って大々的に戦勝を印象付けなければならんのは、理解できる……。できるが……。はぁ……。」

 

 キースは溜息を吐く。

 

「偵察兵が4名増員できたから、エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹らの応援として送り出してやったんだが……。何せ、偵察兵は偵察兵でも新兵……。見習いも同然だからなあ。素質は高そうなんだが。

 もしかしたら、逆効果だったかも知れん。先任たち3名の足手まといになってなければ良いんだがな。」

「……気休めですが、きっと大丈夫ですよ。なんとかなります。」

「だと良いな。」

 

 敵残党の所在を知るために、旧ドラコ連合勢力圏へと送り出した偵察兵からの連絡が入ったのは、キースがコーヒーを飲み終わったちょうどその頃合いだった。

 

 

 

 指令室にて、キースは偵察兵ネイサン軍曹からの連絡を受けていた。無線傍受を警戒して、惑星上の電話回線による報告である。ちなみに副官であるジャスティン少尉は、無言で付き従っている。

 

「……間違いなさそうなんだな?ネイサン軍曹。」

『はい、キース少佐。銃を持った兵士が、大型給水車3台を強奪……。本人たち曰く、「徴発」してそれに浄化済みの水を大量に積み込んで、山の向こう側に逃げた模様です。KHビルを大量に押し付けて行ったらしいですね。他の物資は持って行かなかったらしいですから、食糧燃料などはまだあるんでしょう。ですが、水の用意が足りなかった様ですな。

 あと、戦車のキャタピラ跡らしきもの、メックの足跡らしき物も、近場で発見しました。たぶん間違い無いでしょう。今、アイラ軍曹がタチヤーナ伍長、ソフィーヤ伍長の新人2人を勉強させるために一緒に連れて、確認に行きました。エルンスト曹長はヘルムート伍長、フィリップ伍長の同じく新人2人と共に、追加の聞き込みに回ってます。』

「わかった。こちらは送り込む部隊を編制して待つ。そちらが逃亡したメックを発見次第、編制した部隊を送り込む。アイラ軍曹からの知らせがあったら、すぐこちらに連絡してくれ。」

『了解です、キース少佐。連絡、終わります。』

 

 キースは受話器を置く。彼はヒューバート大尉とアーリン大尉を呼んだ。

 

「ヒューバート大尉!アーリン大尉!」

「はい、キース少佐!」

「はい、キース少佐!何事ですか!?」

 

 2人の顔を見廻して、キースは事情を説明する。

 

「ネイサン軍曹からの連絡があった。どうやら当たりらしい。敵残党の尻尾を掴んだぞ。もう少し詳しい情報が入り次第、1個中隊をレパード級3隻で送り出す。気圏戦闘機隊の、動ける機体もだ。そして万一に備えて、後詰の1個中隊をフォートレス級ディファイアント号で、もう1個中隊を送る。戦車部隊もだ。」

「過剰戦力じゃあないですか?」

 

 首を傾げるヒューバート大尉に、キースはしかし首を横に振る。

 

「過剰戦力だが、この惑星上には他に敵のメック戦力や戦車部隊は無い。だったら万一に備えて過剰なぐらいの戦力を送り込み、できる事ならば無血で降伏させたいと考えている。」

「なるほど。それならば逆に、全力出撃じゃあない理由は?」

「アーリン大尉の第3中隊は、全員が機種転換訓練中か、新たに貸与された機体に慣れるための訓練中だ。連携も十全じゃない。だから今回は留守番として、オーバーゼアー城に残す。」

「了解です。自分の隊の事ながら、正直まだ実戦は早そうなのよね。今回は残ります。

 となると、レパード級で先行して出撃するのは第1中隊ですか?」

 

 キースは今度も首を横に振る。

 

「いや、ヒューバート大尉の第2中隊にしようと思う。第2中隊の面々、特に偵察小隊の者たちに経験を積ませたいからな。幸い第2中隊の偵察小隊は、彼らも新規にメックを貸与されたのは変わらないんだが、実戦経験者のアロルド・エリクソン軍曹に、歩兵上がりのレノーレ・シュトックバウアー伍長が居るからな。隊の連携と言う面では、1歩先を行っている。だからまあ、万が一相手が降伏せずに、実戦になだれ込んでもなんとか大丈夫だろう。」

「気圏戦闘機も支援に就きますしね。了解しました、俺の第2中隊が先発し、敵を包囲下に置いて降伏勧告を行います。」

「うむ。だがジョー・タカハタ少佐の部下だからな。降伏をよしとせず、死を覚悟の上で徹底抗戦、玉砕を選ぶ可能性も捨てきれない。降伏させられれば最高の結果だが、決して降伏させる事に固執はしない様にな。もし駄目だったら、心を鬼にして叩き潰すんだ。

 では各中隊、出撃準備だ。アーリン大尉、第3中隊も万が一に備えてメックに搭乗だけはさせておいてくれ。」

「「了解!」」

 

 キースは指令室のオペレーターに命令を下した。

 

「オペレーター、俺のマローダー及びアーリン大尉のバトルマスターと、ここ指令室の間に回線を構築しておけ!俺、ヒューバート大尉、アーリン大尉はメック格納庫へ向かう!以下の指揮はメックより行う!

 それとネイサン軍曹から敵発見の報があり次第に出撃する!俺の出撃後は、城に残るアーリン大尉に指揮権を移譲する!

 ジャスティン少尉、第1、第2、第3メック中隊及び機甲部隊戦車中隊に、俺の名前で搭乗命令を通達しておけ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

「はっ!了解です!」

 

 指令室オペレーターたちとジャスティン少尉が、口々に了解の返事を返す。敬礼をしてくる彼らに答礼を返すと、キース、ヒューバート大尉、アーリン大尉は衣服の襟元を緩めながらメック格納庫へと向かった。

 

 

 

 フォートレス級ディファイアント号の推進機が立てる轟音が、メックベイにまで響いてくる。今キースは愛機75tマローダーの操縦席に座り、アイラ軍曹が探し当てた敵残党の隠れ潜む山中の盆地へと、ディファイアント号で向かっている途中であった。

 当初決めた通りに、ヒューバート大尉の第2中隊はレパード級3隻で、既に現地到着している頃合いである。また気圏戦闘機隊8機――内2機は、なんとか部隊備蓄部品で修復する事が出来た、新入りの50tライトニング戦闘機――が航空支援として第2中隊に随伴していた。

 

(こちらが到着するまで、あと30分か……。ヒューバートはちゃんと敵を包囲下に置けただろうか。……こちらは万が一のための後詰だ。敵が包囲を破って逃走に成功したりした場合を考えておけばいい。ヒューバートたちの技量なら、メック2機に戦車10輛弱ならば負ける事は無いだろう。)

『キース部隊司令、現地より入電です。マローダーにお繋ぎします。』

 

 ブリッジのマシュー副長が、現場からの通信をマローダーに中継してくれる。ちなみに乗船中は大尉以上の階級の者は、1階級上で呼ばれる事になっている。陸軍大尉のキャプテンと、船長のキャプテンを混同しないためだ。だがかえって紛らわしい事になりかねないため、キースは最近は階級では無く、役職で呼ばせていた。

 

『キース少佐、こちら現場のヒューバート大尉です。』

「どうした、ヒューバート大尉。」

『少佐が危惧した通りでした。ドラゴンを駆るメック戦士2名、キンジロー・ハナイ少尉とタクロー・ツダヤマ少尉の2名が、降伏を拒否して玉砕を選びました。……生きて虜囚の辱めを受けず、だそうです。タカハタ少佐に逃がされて生かされた命を、そう簡単に捨てても良いのか、と説得を試みたんですが……。タカハタ少佐にはあの世でお詫び申し上げる、の一点張りで……。

 戦闘は勝利しましたが……。』

 

 キースは溜息を吐いた。彼はヒューバート大尉に問う。

 

「こちらの損害は?」

『幸いな事に機体の損傷は、一番重度の物でも装甲が削れただけで済みました。……自分のオリオンなんですがね。それともう1つ幸いな事に、ヴァデット哨戒戦車の乗員にまではその信念?を押し付けることは無かった模様で、戦車9輛はドラゴン2機を倒した時点で降伏しました。ただ……。』

「ただ?」

 

 ヒューバート大尉は、吐き捨てる様に言った。

 

『敗北が決定的になった時点で、奴ら操縦席を開けて皆の前でハラキリをしましてね。クリタ家に仕える者の死にざまを見よ!って……。で、死にきれなくて苦しんでたんで、自分とグレーティア少尉の機体で、ドラゴンの操縦席を叩き潰して介錯してやりました。けれど、ハラキリを見て隊員が何人か、ちょっとばかりショックを受けてまして。』

「む……。タカハタ少佐も、陰腹を切ってたからな。……メック戦士は、直接人を殺した、と認識できる事はあまり無いしな。まともに人死にを眼前で見るのは、きつかろうな。あとで軍医キャスリン軍曹に、そいつらのカウンセリングを頼もう。」

『そうですね。同意します。』

 

 ちなみにキース自身は、何度か自機で敵を殺した事がある。しかもはっきりと自分で認識して、だ。対メック歩兵をレーザーや粒子ビームで焼き払った事もある。いや、生身で銃撃戦を行った事すらあるため、彼自身は嫌な言い方になるが、人殺しには慣れてしまっている。

 ヒューバート大尉も、第2中隊指揮小隊副隊長のグレーティア少尉も、フリーの傭兵時代や戦車兵時代に、歩兵と殺り合った経験を持つ。それ故、今更ハラキリを見た程度、それの介錯をした程度では、動じる事は無いだろう。

 

「もうすぐディファイアント号が現場に着く。詳細な報告は、その時受けるとしよう。今はヒューバート大尉は、隊員を気遣ってやれ。以上だ。」

『了解です。通信終わり。』

 

 回線を閉じると、キースは大きく息を吐いた。

 

 

 

 戦場の跡を、キースはマローダーを歩かせながら見回っていた。第2中隊の者たちは皆気丈に振る舞っていたが、それでも顔色が悪い者が何人か存在している。

 ヒューバート大尉もそう言った者に声を掛けて回った様だったが、キースはキースで調子が悪そうな者に声を掛けて行った。実際にメック戦士として、軍人として、ある意味で壁を乗り越えたキースの助言は、彼らにとって助けになった様である。

 そしてキースのマローダーは、第2中隊火力小隊『機兵狩人小隊』のサンダーボルトの前で停まる。彼は、そのサンダーボルト……イヴリン軍曹機に、個人回線を繋いだ。

 

「……イヴリン軍曹。」

『……は、はいっ!じ、自分は大丈夫です!』

「ほう?」

 

 イヴリン軍曹は、気丈に振る舞う。無理をしている様子はほとんど見られない。だが、ほとんどと言う事は、ほんのちょっとは無理が見受けられる、と言う事でもある。

 

『本当に大丈夫です!人死にを見るのは、自分の乗機で敵メック戦士を殺した経験は、ありますから!』

「……そうか。」

 

 それは事実である。イヴリン軍曹は、未だ訓練生であった時に、オーバーゼアー城に攻め寄せたタカハタ少佐部下のK型シャドウホークの頭部をメックのパンチで潰し、撃墜している。だがその際に、敵メック戦士は脱出していなかった。……悪いことに、シャドウホーク系のバトルメックの操縦席は、中から外も、外から中も良く見えるのである。イヴリン軍曹は敵機撃墜の際に、敵メック戦士の最期を見たのだ。

 

「イヴリン軍曹……。戦場での殺人を気に病む事は無い。その最終的責任は、指揮官である俺にあるのだからな。それを忘れるな。

 それともう1つ。人殺しに慣れてしまえば、獣と同じだ、などと言う言葉がよく言われているがな。だが、俺は思うのだ。慣れなければ、いつか潰れてしまう、とな。だから俺は命令する。慣れろ、とな。……部下に、仲間に、戦友に潰れられるよりは、よっぽど良い。」

『……。』

「それとだな。慣れることと、我慢することは違うぞ。我慢して、心を硬くすれば、一見強く見える。だが硬い物は脆い。時には自分自身の手綱を緩める事も大事だ。今は任務中だから何だが、オーバーゼアー城に帰還したら、たまには母親にでも思う存分甘えるといいだろう。……どうも貴様は強くあろうとする余り、自らを律し過ぎる気があるからな。」

『……了解!!』

「いい返事だ。ではまたな。」

 

 サンダーボルトが敬礼をする。キースはマローダーに答礼を行わせると、機体に踵を返させた。と、第1中隊指揮小隊のウォーハンマーがこちらを向いている。怪訝に思ったキースは、そのウォーハンマーに個人回線を繋いだ。

 

「……どうかしたのか?エリーザ曹長。」

『いやー、何でも無いんだけどね、隊長。うふふふふ……。』

「?……何かあるのなら、言ってくれた方がこちらとしても助かるんだが。」

 

 通信用の小型スクリーンの中で、エリーザ曹長はチェシャ猫の様な笑いを浮かべている。キースはよく分からなかったが、何か楽しい事でもあったのかも知れない。とりあえず彼は、機体をディファイアント号の方へ向けた。

 

 

 

 3026年6月27日、この日は惑星ネイバーフッドよりドラコ連合軍を駆逐した事を祝って、首都ディスプレイスでパレードが行われた。ドラコ連合軍撃破の立役者である惑星守備隊、混成傭兵大隊『SOTS』も、全メック、全戦車、全歩兵をパレードに参加させている。ちなみにどのメックも、どの戦車も、装甲兵員輸送車ですらも完全に整備され、ピカピカに磨き上げられていた。

 なお、いつもは政治にまったく興味を示さずに、全てをトゥール・メランダー首相に丸投げしている惑星公爵パーシヴァル・レイン閣下ですらも、政庁の建物に設えられた貴賓席からこのパレードを観覧している。『SOTS』の全メック、全兵員が敬礼を送る中、惑星公爵閣下は鷹揚に右手を振ってそれに応えた。

 そしてパレード終了後、首都ディスプレイスで一番のホテルを会場として、盛大な戦勝パーティーが開かれた。『SOTS』にも、できるかぎり多くのメック戦士、航空兵、上級士官が参加するように申し入れが来た。なお、本当は迎賓館でも使おうかと言う話も出たのだが、別に星系外から国賓クラスを招いたわけでも無いのでこの案はボツになった。

 長いばかりで面白みの無いメランダー首相の演説を兼ねた祝辞が終わり、彼の音頭で乾杯が行われる。その後は立食形式での宴となった。会場の片隅ではこの惑星の芸能人が、歌や芸を披露している。

 そんな中、キースは惑星政府や惑星軍の面々との挨拶や会話に忙しかった。今も僅か22歳の若き新国防大臣カーティス・ブラックバーン氏と、惑星防衛上の問題点などについて話をしていた所である。ヒューバート大尉とかマテュー少尉など特定のお相手がいない青年メック戦士たちは、この惑星の貴族階級の麗しき御令嬢たちから色々武勇伝をせがまれたりしている。ちなみにアンドリュー曹長などは、ドレス姿のアイラ軍曹を引き連れて来ているので、そう言うお誘いは無い。エリーザ曹長は、並み居る美形男性のお誘いを物ともせずに、食いに走っている。

 しかしキースの所に来るのは政治家、役人、軍人などばかりだったりする。まあ、そんな中でもキースと会話しに来るのは、惑星政府や惑星軍の中でも指折りの実力者ばかりだったが。と言うか、キースの外見がいかにも迫力ある2mを軽く超えた筋肉達磨なので、彼の真価を知っている人間、もしくは真価を見抜ける眼力の持ち主でなければ気圧されてしまい、彼の周りには寄って来ないのだ。

 

「カーティス、そろそろ……。」

「ああ、マリーカ。そうだね……。それではハワード少佐、私もそろそろ他に回らなければならない所があるので、これで……。」

「いえ、お気になさらず。有意義なお話ができて、大変ためになりました。それでは。」

 

 新国防大臣が離れて行くと、ようやくキースの周囲は落ち着いた。と言うか、人波の中にぽっかりと空白が出来ている。どうやらキースと顔つなぎをしようと言う剛の者は、そろそろ全員終わった様だ。

 キースは内心呟く。

 

(やれやれ、疲れた。オーバーゼアー城の留守番を買って出たアーリン大尉が羨ましい気もするな。っつーか、ズルいよなーアーリン大尉。

 いや、俺は大隊長、部隊司令なんだから、サボるわけにはいかないけどさ。お貴族様や政治家の相手はキビシい……。軍人相手は、まだ楽だけどさあ。……ん?)

 

 ふとキースが目を遣ると、そこにはイヴリン軍曹が所在なさげに突っ立っていた。軍服――『SOTS』にはまだ正式な制服が無いので、それっぽい礼服に階級章などを付けた物――に着られている感じが、何とも愛らしい。キースは彼女に近寄って声を掛けた。

 

「どうした?イヴリン軍曹。お母上は一緒に来たはずだったな?ケイト総務課長はどうした?」

「は、はい!母は……。母の唯一の欠点と言いますか、それが出て……。」

 

 その眼でイヴリン軍曹の視線を追ったキースは、ソファにもたれて軍医キャスリン軍曹に介抱されているケイト総務課長を発見する。

 

「母はお酒に、物凄く弱いんです……。今回も、制止する間も無く乾杯の一杯で……。ですけど、酔うと記憶が消えるので自分ではその事を……。下品な酔い方はしないのが救いと言いますか、その……。」

「……あー、了解した。しかし、となると困ったな。貴様を指揮官として鍛える都合上、こう言った政治色の強いパーティーには極力参加させたかったのだが。貴様が年少のうちは、ケイト総務課長に同伴してもらうつもりだったのだが、これでは……。」

「政治色、ですか?」

 

 イヴリン軍曹は、怪訝そうな表情になった。キースは説明する。

 

「うむ。傭兵部隊の指揮官……。いや、指揮官に限らず高級士官は、政治についても明るくならなければならない。部隊を守るためにな。特に我が『SOTS』の様な独立系傭兵部隊では、その傾向が顕著だ。政治家や貴族と上手く付き合っていかなければ、部隊を維持していくのは難しい。

 ……もっとも、それだけに注意していれば良いと言う物でも無いがな。下手に嫉妬や僻みを買う事になれば、一時の繁栄も足元から崩れ去りかねない。そう言う情報をいち早く掴むためにも、こう言う場は便利なんだ。他にも情報源は必要だがな。

 貴様には、まだそこまで要求はせん。だが、雰囲気だけでも慣れさせて、こう言う場に対し臆する事の無い様になって欲しいと考えていたんだ。だが……。」

 

 キースはイヴリン軍曹の保護者の方へ視線を向ける。彼は小さく溜息を吐いた。

 

「だが、貴様のお母上がこうまでパーティー向けでないとは、思っても見なかったな。はてさて、どうした物か……。」

「隊長が責任もって面倒見てやったらいいんじゃないかな?」

「!」

 

 イヴリン軍曹は、突然後ろから聞こえて来た声に驚く。だがキースは既にその人物の気配に気づいていたので、動じない。彼は溜息を吐く。

 

「はぁ……。エリーザ曹長、そう言うわけにも行くまい。俺は先ほどまでの様に、こう言う場では色々な人物と話をする必要があるからな。その間、イヴリン軍曹を放っておく事になる。」

「あー、なるほど。駄目かあ。理由が真っ当なだけに、反対もできないわね。……なら、あたしが出席できる時は、あたしが面倒見ようか?ねえ隊長。」

「む。ならば頼めるか?」

「オッケー、オッケー。任せといてよ。イヴリン軍曹も、いいわね?」

「は、はいっ!」

 

 キースは、ふと何か知らないが大失敗を犯した様な不安に襲われる。エリーザ曹長は、チェシャ猫の様な笑顔を浮かべていた。キースはエリーザ曹長に釘を刺しておこうと口を開く。彼女がイヴリン軍曹に、妙な事を吹き込まない様に。

 

「あー、エリーザ曹……。」

「おお、ハワード少佐!こんな所にいたのかね、探したぞ!」

 

 だがその台詞は、大きな声に遮られた。誰あろう、惑星政府首班トゥール・メランダー首相である。

 

「首相!」

「今回のドラコ連合軍撃破の立役者、ヒーローがこんな所で何をやっているのかね?公爵閣下にも君を紹介したいのだよ。一緒に来てくれないかね?」

「はっ、了解いたしました。……あー、エリーザ曹長、イヴリン軍曹、俺は行かねばならん。」

「「はっ!いってらっしゃいませ!」」

 

 エリーザ曹長とイヴリン軍曹は、共に敬礼をする。キースは答礼を返すと、メランダー首相の後に付いて歩きだした。ふと首だけで振り返って見ると、エリーザ曹長がイヴリン軍曹に何やら耳打ちし、イヴリン軍曹が真っ赤になっている。キースは何やらひしひしとした不安を感じざるを得なかった。




ドラコ連合の残存兵力は、なんとか始末できました。しかし彼らは部隊員の心に、キッツイ一撃をくれていった模様で。

で、「人殺しに慣れてしまえば獣と同じ」とか言う言葉があちこちの物語でよく聞かれますが、慣れないと潰れてしまうかもしれない場合だって、あると思うのです。
兵隊とかは、人殺しに慣れないと駄目な気がします。仲間や大事な人に潰れられるよりは、元の姿や性格を色濃く残したままの獣になってくれた方が、極論ですが良い気がするのですよ。無論、一般社会では違う事言いますよ、わたしも。


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『エピソード-054 新たな訓練生たち』

 オーバーゼアー城司令執務室にて書類と格闘しつつ、キースは息を吐いた。今この部屋には現在、大隊副官のジャスティン少尉、自由執事のライナー、書類整理の手伝いに来たアーリン大尉とヒューバート大尉がいる。

 

「ふう、月末払いの戦闘報酬のおかげで、なんとかDHビル貯金のSHビルへの両替は避けられそうだな。」

「そうですな、隊長。あとはレパルス号が商用航宙から戻って来た時にどれだけ儲けているかですが……。事故とか起こらない事を祈るしか無いですな。」

「ライナーさん、その事故って降下船の事故の事?それとも商品相場の急落事故の事かしら?」

「両方ですな。」

 

 ライナーとアーリン大尉が軽口を叩き合う。それを尻目に、キースはジャスティン少尉から渡された部隊の人事書類を捲った。

 

「うーむ、この間やむを得ない事情で辞めた、臨時雇いの歩兵の補充の人員と、整備兵の増加に伴って増員した助整兵たちの書類がこれか。」

「こちらが履歴書、こちらが身体検査と運動能力テストの書類です。助整兵については、学力テストの結果もこちらに。」

「ふむ……。最年少の者は、14歳か……。書類を読む限りでは、入隊時に課した試験には合格しているとあるが……。僅か14歳で、傭兵部隊に志願してくるとはな。」

 

 12歳でロビンソン戦闘士官学校に志願した、キースに言われたくは無いかも知れない。まあキースには、メック戦士の家の後継ぎであったと言う事情があるのだが。

 キースは書類を読み進める。履歴書には、彼らが一様に戦災孤児であり、公立の孤児院で育った事が書かれていた。入隊の志望動機には、一日でも早く自活して自立したい、そのために可能な限り給与の高いこの職を選んだ、とあった。更には、可能であれば臨時雇いではなしに正式に入隊し、将来的にこの惑星を出たいとも書いてある。

 

「うちの部隊は、世間一般の傭兵隊から見ると普通の給料しか払っておらんのだがなあ……。」

「それでもここの様な片田舎の農業惑星の標準からすれば、各段に高い給料なんですよ。まあ、命を的にする職業ですからなあ……。高いとは言っても、命に見合う程かと言われると、ちょっと首を捻りますな。

 まあ、昔は私もその額で満足してましたが……。」

「自由執事として兵隊に給料を払う側に回ってみると、少々見方が変わって来たかな?ライナー。」

「下手に高い給料を払う余裕はありませんが、さりとて彼らの命に安い値段を付けざるを得ないのは、少々胸が痛みますね。」

 

 話が変な方に進みそうだったので、キースは方向を修正する。

 

「ところでこの14歳の少年少女たちだが……。中々の素質を持っているな。運動能力テストの結果が、年齢の割に飛びぬけているじゃないか。体力などはまだまだだが、それを補う反応速度や、耐G能力が抜きん出ている。

 ……あー、いや。この4人が特別なだけか。同じ孤児院で育った別の志願者は、普通かまたは年齢相応の能力しか持っていない。入隊の選抜試験に落ちた者も多い、か。ふむ、どう思う?アーリン大尉、ヒューバート大尉。」

「はい、ちょっと書類見せてもらいますね。……確かにこの4人は、大人顔負けの能力を持ってますね。」

「……こいつら、歩兵や助整兵より向いてるモノがあるんじゃないですかね。キース少佐?」

 

 ヒューバート大尉が、人事書類を見ながら考えつつ言った。アーリン大尉も頷く。その2人に、キースは同意の言葉を発した。

 

「貴官らもそう思うか。俺もそう考えていたんだ。……この彼ら4人に、少し追加の試験を課してみたいと思うのだが。その結果次第では……。」

「……上手く行けば、メック戦士の訓練生が増えますね。書類にも、できれば部隊に正式に入って、惑星を出たいって書いてありますし、文句は出ないでしょう。」

「予備バトルメックを遊ばせておくのは、勿体ないわね。ヴァルキリー、クリント、2機のウィットワースを訓練用として使えれば……。」

 

 こうして、歩兵または助整兵志願者であった4名の少年少女の運命は、大きく変わったのだった。

 

 

 

「……3014年初頭、自由世界同盟において総帥ヤノス・マーリックの弟であるアントン・マーリック大公が反乱を起こした。当時カペラ大連邦国リャオ家に仕えていた傭兵部隊『ウルフ竜機兵団』は、リャオ家から秘密裏に了解を取ってアントン・マーリック大公に仕える契約を結んだ。リャオ家にとっては当時敵であったヤノス・マーリックの対抗馬出現は、歓迎できる事態であったと言う事だな。

 そして『ウルフ竜機兵団』はヤノス側に付いた勢力に対し、連戦連勝を重ねて行った。だが3014年暮れから3015年半ばにかけて、アントンの正規軍は敗北を繰り返し……。」

 

 ここはオーバーゼアー城の第1中会議室である。キースはここで、イヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長らに対する戦史の講義を行っていた。何故小会議室を使わずに、中会議室を使うのかと言うと、生徒の数が増えていたからである。

 まず、先頃歩兵からメック戦士に異動したアナ・アルフォンソ伍長とレノーレ・シュトックバウアー伍長。彼女らは、失機者の家系であったりメック戦士家系の傍系であったりしたため、メックを操縦する訓練についてはある程度厳しく施されていた。だが彼女らは、実技はともかくとして、知識面ではまったくと言って良いほど欠けている。それ故彼女らは、自分に欠けている物を補うべく、キースが弟子たちに行っている講義に参加させてもらっていたのである。

 次に、ロタール・エルンスト軍曹にカーリン・オングストローム軍曹だ。彼らは正規のメック戦士家系の出身ではない。それ故に、彼らも知識面では怪しい物があった。だがある時彼らは、直属の上官であるヒューバート大尉から、士官任用試験を受けてみてはどうかと勧められる。今のままでは合格は覚束ないと思った彼らもまた、知識を身に着けるべくキースの講義に参加を希望したのだ。

 その他にも数名、自分に知識が欠けており、なおかつそれを必要だと考えたメック戦士や航空兵他の兵員が、キースの講義に参加する様になっていた。そして、それだけではない。この度新たに訓練生となった、4人の少年少女が加わっていたのだ。

 キースは問いを投げかける。

 

「ジャクリーン・ジェンキンソン訓練生!ゲルダ・ブライトクロイツ訓練生!モーリス・キャンピアン訓練生!ブリジット・セスナ訓練生!予習はしてきたな!?『ウルフ竜機兵団』指揮官ジェイム・ウルフ大佐は、身勝手なアントン・マーリックに弟ヨシュア・ウルフ大尉を殺害され、復讐としてアントンの本拠地ニュー・デロスを攻撃した!

 ここでウルフ大佐が主力攻撃部隊に選んだ中隊の名を言ってみろ!4人の中で、わかった者は挙手しろ!」

「は、はい!!」

「よし、モーリス訓練生!」

「それはケレンスキー独立中隊『ブラック・ウィドウ中隊』です!!」

 

 キースは満足げに頷く。

 

「そうだ。彼の悪名高い、しかして最強とも最凶とも最悪とまですら呼ばれる、恐るべき中隊だ。では……。イヴリン軍曹!貴様の後輩たちに、『ブラック・ウィドウ中隊』がニュー・デロス攻撃の際に採った、その作戦行動について教えてやれ!」

「了解!!『ブラック・ウィドウ中隊』は大規模な森林火災の真っ只中を、指揮下のバトルメックを率いて突っ切りました!この極めて危険な行為により、アントン・マーリック主力防衛部隊は炎と濃い煙のため、『ブラック・ウィドウ中隊』を探知する事が不可能でした!

 そしてアントン・マーリックの総司令部に忍び寄った『ブラック・ウィドウ中隊』は、深夜に総司令部を奇襲したのであります!」

「その通りだ。ちなみに付け加えて言えば、ケレンスキー独立中隊が『ブラック・ウィドウ中隊』と呼ばれる様になったのは、その戦いでの活躍が広まってからだな。さて、アントン・マーリックはケレンスキー独立中隊の不意打ちを受けての混乱のさなか、『ウルフ竜機兵団』によって討たれたわけだが……。」

 

 キースの講義はなおも続いた。

 

 

 

 コンピューターによる映像の仮想空間内を、45tのフェニックスホーク1機、D型フェニックスホーク2機が疾駆する。それを操るはイヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長の3名だ。

 一方で、ぎくしゃくと頼りない動きを見せる40tウィットワース2機、40tクリント1機、30tヴァルキリー1機が、それを迎え撃とうと機動する。乗り手はジャクリーン訓練生、ゲルダ訓練生、モーリス訓練生、ブリジット訓練生の4名であった。

 ここはオーバーゼアー城のシミュレーター室。キースは教官卓から監督している。彼は各シミュレーター筐体へと繋がる通信機で、比較的穏やかな様子で語り掛けた。

 

「重量比は135t対150tだ。訓練生どもの方が1機多いし、重い。だからと言って、負けたりするなよ、イヴリン軍曹たち。これだけ練度に差があるのに負けたら、拳骨をくれてやるぞ?

 ただしこれは訓練生どもに対する教育の意味もある事を忘れるな。必勝パターンにハメて楽に勝つのではなく、奴らにも色々戦術を考えさせて試させろ。上手い戦術を使ったら、褒めてやれ。ハメて勝ったら、それはそれで懲罰ものだぞ。

 訓練生ども。相手は実戦を潜り抜けて来た猛者3名だ。胸を借りるつもりでやれ。負けてもあたりまえだ、気にするな。……ただし負け癖、諦め癖はつけるなよ?いざと言う時に諦め癖がついている奴は、粘らずにあっさり負けて死ぬからな。諦めずに、徹底的に粘って見せろ。」

『『『『『『『了解!!』』』』』』』

 

 弟子たちや訓練生たちの返答を聞きながら、キースはこっそりと笑みを浮かべる。まあコレはお約束で、訓練生に教えさせる事でイヴリン軍曹、エルフリーデ伍長、エドウィン伍長に復習させようと言う試みだったりするのだ。

 そして戦況は、一進一退を繰り返した。と言うか、イヴリン軍曹がきちんと考えてエルフリーデ伍長とエドウィン伍長を指揮し、一進一退になる様に戦況をコントロールしているのである。キースは、弟子の成長に頷いた。

 と、なかなか当たらない射撃に焦れたクリントのモーリス訓練生が、いきなりジャンプジェットを噴かして空中に舞い上がった。そしてエドウィン伍長のD型フェニックスホークの上に飛び降り攻撃をかける。キースは通信機に怒鳴ろうとした。だが一瞬前に、エドウィン伍長の怒鳴り声が響く。

 

『馬鹿野郎!!』

 

 そしてエドウィン伍長のD型フェニックスホークは、過熱覚悟の全力射撃をクリントに見舞いつつ、高機動性を活かしてその場から退避する。モーリス訓練生のクリントは飛び降り攻撃を外され、地面に激突して転がった上に、大口径レーザー1門と中口径レーザー2門の砲撃を浴びて右脚を吹き飛ばされた。

 

『超級の馬鹿か、お前は!ジャンプジェットでの飛び降り攻撃は、やっちゃいけない事ランキングの上位に入るんだぞ!?攻撃が当たる事の方が珍しいし、外れれば確実に機体がすっ転ぶ!よりによってキース少佐の前でソレをやるなんて、俺は知らないぞ!?』

「エドウィン伍長の言った通りだ。モーリス訓練生、後で拳骨をくれてやる。覚悟しておけ。」

『は、はいぃ……。』

『「声が小さい!!」』

『はいっ!!……とほほ。』

 

 落ち込んだモーリス訓練生のメックは、そのまま仮想空間内の大地に寝転がったままだった。まあ、片脚が無いのだから、立ち上がる事はできないのだが。ここでエルフリーデ伍長も怒鳴る。

 

『モーリス訓練生!!クリントの武器は胴と右腕に付いてるのよ!?最初にキース少佐が言ったでしょう、諦め癖をつけるなって!メックの左手で機体の上体を起こして、右手武器と胴装備武器を撃ちなさい!!最後まで諦めずに戦いなさい!!』

『ひ、は、はいっ!!』

 

 ここでイヴリン軍曹から、訓練生たちにアドバイスが入る。

 

『他の3人も、モーリス訓練生の機体がほとんど移動できない事を注意して、その射界に私たちの機体を引き寄せるなり、あえて心を鬼にしてモーリス訓練生機を囮にして私たちを撃つなり、色々考えなさい!だからと言って、そうあっさり私たちも引っ掛かってはあげないけれどね。』

『『『はいっ!!』』』

(イヴリン軍曹も、エルフリーデ伍長も、エドウィン伍長も、皆きちんと成長してるな。うんうん。)

 

 結局このシミュレーターによる模擬戦は、モーリス訓練生機の自爆と言っても良い失敗を切っ掛けにして、イヴリン軍曹たちの側に天秤が大きく傾いた。そして模擬戦が終わるまで、その傾きは戻る事は無かったのである。キースの拳骨を脳天にくらったモーリス訓練生は、その痛さのあまり言葉も無かった。

 

 

 

 キースは、副官のジャスティン少尉が持ってきた書類を前にして、眉を顰めていた。まるで頭痛でも堪えるかの様な表情である。その書類とは、深宇宙通信施設より届いた、インベーダー級航宙艦ズーコフ号を介して送られてきた、ユニオン級降下船エンデバー号からの圧縮データ通信の内容をプリントアウトした物だ。

 

「少佐、コーヒーです。」

「ああ、助かるジャスティン少尉。……少尉、上級整備兵のサイモン大尉待遇中尉を呼んでくれないか。ああ、あとアーリン大尉、ヒューバート大尉、ケネス中尉もだ。指令室はその間、サラ中尉待遇少尉か、ジーン中尉に任せる様に伝えてくれ。」

「了解です。」

 

 ジャスティン少尉は、司令執務机の脇に設置されている自分の執務机に戻ると、机上の内線電話でバトルメック整備棟へ電話をかけ始めた。キースはそれを横目に、書類を再度確認し、溜息を吐いた。

 やがてサイモン老、アーリン大尉、ヒューバート大尉、ケネス中尉がやって来た様で、キースの執務机上の内線電話がインターホンモードで鳴った。

 

「誰か?」

『隊長、サイモン中尉まいりました。アーリン大尉、ヒューバート大尉、ケネス中尉も一緒ですのう。』

「そうか、入室を許可する。入ってくれ。」

 

 4人が司令執務室へ入って来て敬礼をする。キースとジャスティン少尉も答礼を返す。しかし入って来た4人はキースの表情を見て、何か厄介事が起こったかと互いの顔を見合わせた。キースはおもむろに口を開く。

 

「忙しいところ、わざわざ来てもらって、悪いな。まずはこの書類を見てくれ。」

「これは……。星系外へ新規隊員のスカウトに出張ってた、エンデバー号からの報告書ですね?ほう……。今回もおおよそ成功と言えるんじゃ無いですかね。メック戦士多数に、整備兵も何名か……。

 ……ぶっ!?」

 

 書類を斜めに読んでいたヒューバート大尉が、突然吹き出した。アーリン大尉がその手から書類を受け取り、これも斜め読みして、目を見開く。キースは疲れた口調で言った。

 

「……そうなんだ。エンデバー号のエルゼ船長とエレーナ副長は、新隊員のスカウトにゾディアック号のアリー船長やレオニード副長と、同じ手を使ったんだよ。壊れたメックをうちの部隊で直してやるって。いや、それが悪いとは言わないし、やっちゃいかんとも言ってなかったからな。仕方ない事だ。」

「それで結局、今回の新隊員のうち3名がメック持ちと言うわけですか。……壊れてるやつを。メック持ちってのは嬉しいんだけど……。」

 

 アーリン大尉も、憂鬱な口調で言う。キースは続けた。

 

「それでも新隊員が加入することは喜ばしい。喜ばしいんだが……。なんとか避けられたと思ったDHビル貯金のSHビル両替、再度現実味を帯びて来たな。サイモン中尉。」

「なんでしょうかのう、隊長。」

「新たに加入してくれた整備兵、今エンデバー号に乗っている人物が、その壊れたメック3機の様子を調べて損傷度合いや故障状況を書面に書き起こしてくれた物が、今ここにある。これを見て、そのメック3機が現状ストックしてある部品で修復、再稼働できるか検討して欲しい。」

 

 サイモン老は、キースの手から書類の束を受け取る。ざっと確認して、サイモン老は言った。

 

「3機ともフェニックスホークなんですな。2機が通常型、1機がD型。D型ってことは、もともと恒星連邦で働いてた人物なんですかのう?で、どれ……。ふむ、ふむ……。ああ、こりゃ酷いわい。」

「そんなに、か?」

「はいな。この人物、整備など実技の技量はともかく、書面の書き方がなっちゃいませんでの。わかりづらいったらもう……。こっちに到着したら、徹底的に教育せんといかんですわ。」

 

 聞いていた周囲の者たちは皆、がくっとずっこける。サイモン老は続けた。

 

「ですが、なんとかおおまかな所は判りもうした。実物を見ないと断言はできませんがの。この書類に書かれている通りの損傷や故障であるならば、備蓄部品で完動状態に持って行けると思いますわ。あと6日か7日ですわな?ジャンプポイントからこっちの城に着陸するまでは。」

「そ、そうか!助かるサイモン中尉!」

「おっと、隊長。安心するのは実機を見てからですわ。備蓄部品で足りない可能性も、まだあるんですからのう。

 それとようやく60tスティングレイ戦闘機4機の部品も届くわけですしのう。整備兵もメックを調べて修理をする者、スティングレイ戦闘機にかかりっきりになる者、色々手分けせんといかんですわい。整備中隊は、エンデバー号とレパルス号が戻り次第作業を開始できる様に、今から大車輪で行動せねばいかんですのう。」

 

 キースはそれを聞き、頷く。

 

「そうか……。整備中隊にはいつもいつも世話をかけて、済まないな。感謝している。」

「ではわしは1週間後の修羅場に向けて、準備に入りますでの。退出してよろしいでしょうかの?」

「了解だ。わざわざ忙しい所を、ご苦労だったサイモン中尉。」

「はっ!」

 

 サイモン老は敬礼をし、キース達は答礼をする。そしてサイモン老は急ぎ足で整備棟へと戻って行った。キースは残った面々に向かい、話を再開する。

 

「さて、ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス中尉。こちらはこちらで大事な話だ。1月たらず前に部隊編成を変更して第3中隊を編制したばかりだが、今回の新規隊員増員を受けて第4中隊を編制したいと考えている。以後はこれ以上の部隊拡張は、今は考えていない。今回の隊員募集の成功で、部隊の予備バトルメックがほぼ全機稼働状態になる事が理由の1つだ。」

「なるほど、それは当然のお考えですね。で、第4中隊の編制ですか……。いっそのこと、もう機甲部隊の戦車やら歩兵やら加えたら、混成連隊名乗ってもいい頃合いじゃないですか?階級も大佐にして。」

「いや、まだ増強大隊だ。だから少佐で充分。」

「「あいかわらずですね……。」」

 

 ヒューバート大尉もアーリン大尉も苦笑する。キースは相変わらず偉くなる事を拒んでいた。本人は、あまり偉くなり過ぎると自分の事を凄い人物だと誤解しかねない、と言っているのだが。

 そしてキースはケネス中尉へと向き直る。

 

「それで、だ。その第4中隊の指揮を貴官に委ねたい、ケネス・ゴードン中尉。無論昇進してもらい、大尉になってもらう事になるが。」

「は、はい!いやしかし、他にも人材が多くいると思うのでありますが?自分はその職分に対し、未だ不相応、力不足かと存じますが!」

「いや、戦歴から言っても第4中隊を任せられるのは貴官をもって他にいない。サラ中尉待遇少尉を昇進させようかとも考えた事はあるのだが、彼女は貴官とは比べ物にならんほど強く、昇進を固辞している。それを翻意させるのは難しい。

 今第1中隊の偵察小隊を率いているジーン中尉も考えたのだが、彼女はつい1ヶ月足らず前に入隊したばかりだ。能力的にはともかく、未だ部隊その物にも馴染んでいるとは言い難い。入隊してから出撃は1回あるが、その時も戦闘は無かった事だしな。彼女はこれまでに実戦経験が無いわけでは無いが、うちの部隊では戦闘を経験していない。それをいきなり中隊長にするのは、流石にな……。」

 

 アーリン大尉、ヒューバート大尉がケネス中尉を励ます。

 

「大丈夫よ、ケネス中尉。あなたなら充分に新設の中隊を率いる事ができるわ。」

「ああ、君は自分の実力を過小評価する気があるが、そこまで卑下する物では無いぞ。」

「はっ。ありがとうございます。……了解いたしました!その任、謹んでお受けいたします!」

 

 ここでヒューバート大尉が、キースに向かって言った。

 

「となると、第1中隊の火力小隊が抜ける事になるんですが……。その穴を新規隊員で埋めるおつもりですか?」

「うむ、そう考えていたのだが……。」

「それはどうかと思いますね。第1中隊は、『SOTS』でも顔になる中隊です。可能な限りの最精鋭で固めるべきですよ。第2中隊の火力小隊、『機兵狩人小隊』を第1中隊に移籍しましょう。」

 

 キースは目を丸くする。

 

「それでは第2中隊が困らないか?」

「困らないとは言いません。ですが、看板である第1中隊が弱体化する方が、『SOTS』全体としては余計に困ります。」

「わたしもその意見に賛成ですね。」

「はっ!自分もその方が良いかと愚考いたします!」

 

 アーリン大尉、ケネス中尉もヒューバート大尉に賛同する。キースは唸った。

 

「うむむ……。なるほど、部隊全体の事を考えると、その方が良いか。わかった。ではケネス中尉、貴官の昇進と第4中隊中隊長への異動は、実際に人員が到着する1週間後になる。その際は、貴官の小隊……現第1中隊の火力小隊を、そのまま第4中隊の指揮小隊にする事になる。

 ヒューバート大尉とケネス中尉は、それぞれ第2中隊火力小隊と第4中隊の火力、偵察小隊の人員を新入隊員から選抜し、予備機から各々の新隊員に貸与するバトルメックを選んでくれ。」

「はっ!了解です!」

「了解であります!」

 

 ヒューバート大尉とケネス中尉が、各々返答を返す。キースはケネス中尉に言った。

 

「それとケネス中尉……。以前は、慣れないなら忘れてくれと言ったが……。中隊長ともなると、部下たち全員の手前もある。やはりその兵卒の様な口調は、可能な限り改めて、もう少し柔らかい口調を使うよう心掛けてくれ。」

「はっ!鋭意努力いたします……いえ、努力します。」

「済まんが、そうしてくれ。ではヒューバート大尉とケネス中尉は、時間が空き次第に隊員の選抜に入る様に。」

「了解でありま……了解です。」

「こちらも了解です。ケネス中尉、何時なら時間は空いてるかい?」

 

 ヒューバート大尉とケネス中尉は、互いの空き時間の調整に入った。ジャスティン少尉が気を利かせ、ヒューバート大尉とケネス中尉に渡すために新入隊員の名簿をコピー機にかけ始める。キースは新入隊員の履歴書を検めながら、士官資格のある新入隊員の中でどの3名を中尉として任命するか、考え始めた。

 

 

 

 3026年の7月16日、ユニオン級降下船エンデバー号とレパルス号が、1ヶ月の航宙から帰還する。離着床に着陸する2隻の降下船を、キースはオーバーゼアー城の城外演習場で、自分の乗機であるマローダーより見ていた。彼は今、第1中隊指揮小隊の面々と共に演習場にて、イヴリン軍曹、エドウィン伍長、エルフリーデ伍長に実機訓練を付けてやっていたのである。

 ちなみに新たな訓練生4人は、実機には未だ乗った事が無い。厳密に言えば彼らは、メック戦士としての適正を見るために実機に触れた事はあるのだが、それ以後はシミュレーター訓練ばかりで実機への搭乗許可は与えられていない。ただし今回の実機訓練を見学するため、大隊副官のジャスティン少尉に引率されて、演習場の脇に設営されている指揮所にやって来てはいる。

 

「ほう?とうとうエンデバー号とレパルス号が帰って来たな。」

『次に不定期貨客船として商用航宙に出るのは、ゾディアック号とエンデバー号でしたか?』

『たっぷり稼いで来てくれるといいんだけどな。』

 

 マテュー少尉とアンドリュー曹長が、しみじみと言う。アンドリュー曹長の言った事には、キースも大いに賛成だった。

 キースは指揮所の訓練生たちへと通信回線を繋ぐ。

 

「訓練生部隊暫定隊長、ジャクリーン・ジェンキンソン訓練生!」

『はい!!ジャクリーン訓練生です!!』

「これで今回の実機演習は終了だ。後で見学により貴様らがどんな事を学べたか、書面にて提出してもらうからな?報告書の書き方の訓練だと考えれば良い。締め切りは明後日の座学の時間だ。間に合わずに未提出、などと言う事の無い様に。」

『了解!!』

 

 訓練生部隊の暫定隊長であるジャクリーン訓練生が、はっきりとした声で返答を返す。ちなみに今回の訓練生たちは、週替わりの持ち回りで暫定隊長を交代している。これは適性を見る意味もあるが、各自に色々な事を勉強させるためもある。

 キースは訓練生たちを引率しているジャスティン少尉に話し掛ける。

 

「ジャスティン少尉、ヒューバート大尉とアーリン大尉に連絡を頼む。エンデバー号に乗って来た新入隊員たち、レパルス号に乗って来た航宙艦ズーコフ号ヨハン・グートシュタイン艦長の出迎えに行かなければならんからな。俺も急いでシャワーで汗を流したら合流するから、ヒューバート大尉とアーリン大尉には先に行ってもらってくれ。ジャスティン少尉は、後から俺をジープで送ってくれ。」

『了解です、少佐。』

 

 そして、マローダーを振り向かせると、キースは隊内回線で叫ぶように言った。

 

「各員、これにて実機演習を終了する!各自、機体をバトルメック整備棟に戻し、速やかに整備中隊へ引き渡す事!では移動開始!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 キースは先頭に立って、マローダーを歩かせ始める。バトルメックの隊列が、城外演習場から城門めざして歩行状態で移動して行く。やがてオーバーゼアー城の城門が、ゆっくりとその巨大な門扉を開くのが見えて来た。




ついに旧訓練生たちも、新しい訓練生を絞る立場になりました。……早。
しかし、感慨深い物がありますねー。あんなにどうしようも無かったのに。頑張れば、人間やればできる物なんですねー。これぞご都合主義。


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『エピソード-055 昇進ノススメ』

「うむ……。戦歴は書類で読ませてもらったが、直接に会うとその凄さが伝わってくるな。今にも後ろを向いて、裸足で逃げ出してしまいそうだよ。はっはっは。」

 

 オーバーゼアー城司令執務室の応接セットのソファに座り、キースに向かってそう言ったのは、インベーダー級航宙艦ズーコフ号の、ヨハン・グートシュタイン艦長である。ヨハン艦長は、自分が専属契約を結んだ傭兵部隊の部隊司令と直接会談すべく、惑星ネイバーフッドに降下するユニオン級降下船レパルス号に同乗して、オーバーゼアー城までやって来たのである。

 キースは彼に応える。

 

「ご冗談を、グートシュタイン艦長。」

「いや、正直な所だよ。ところで丁寧語はいらんし、ファーストネームでかまわんよ。と言うか、立場上敬語を使わねばならんのは、私の方の様な気がするのだがね。」

「む、了解した、ヨハン艦長。だがそちらも敬語はいらんよ。そちらと比べれば、俺はほんの若造に過ぎんのだからな。」

 

 ヨハン艦長はくすくすと笑った。

 

「いや、そうかね。ではありがたく、ため口を利かせてもらうとしようかな。ところで、だな。キース少佐。イントレピッド号のイクセル艦長から、この部隊が良い部隊だと聞かされてはいたのだがね。契約を躊躇して先月半ばまで遅くなったのには1つだけ理由があるのだよ。」

「む。聞かせてもらえるかな、艦長。」

「ああ。それはだね。キース少佐が少佐である、と言う事が理由だよ。キース少佐は何故、もっと上の階級に昇進しないのかね?私がイクセル艦長から最初に勧誘された時、部隊規模は大隊規模だったそうだがね。

 しかし戦車部隊や歩兵部隊、降下船の数を考えれば、連隊として強弁することも不可能では無かったと思うがね。ましてや今は、私の艦が運んだエンデバー号で連れて来た、新規参入のメック戦士たちを加えたならば、メック部隊だけでも1個大隊と1個中隊だろう。その規模で連隊を名乗って、大佐になっている傭兵隊長も、私は聞いた事があるよ?この部隊はそれに加えて戦車や歩兵までかなりの数だ。」

「むう……。」

 

 キースは唸った。だが彼はヨハン艦長の問いに、なんとか答えを口に出す。

 

「いや、な。同じ傭兵部隊かは分からんが、1個大隊プラス1個中隊で連隊を名乗ってる部隊の話を聞いたのが原因の1つなんだよ。それを聞いた時に、なんだそりゃ、と思った物だからな。無駄に自分や自分の部隊を偉大に見せようとすると、逆に馬鹿にされる結果になるからな。

 それと後は……。自分をあまり高い階級に置くと、自分が偉い人物だと勘違いしてしまいそうだからな。自戒を込めて、あまり階級を高くしたくないと思っているんだよ。」

「なるほど……。そう言う理由ならば、理解できるとも。けれど、それが行き過ぎてはいかんとも私は思うよ。キース少佐はこの部隊『鋼鉄の魂』の顔なんだ。それが不自然に低い階級だったら、逆に侮られる可能性もあるんだよ?」

 

 その言葉に、キースは目を見開く。

 

「!!……なるほど、そう言う可能性もあったか。」

「うん。侮られるのは相手を油断させると言う面で、悪い事ばかりじゃないけれどね。だけど契約交渉とか、他にも交渉事とかの面では、侮られるのは悪い面の方が大きいのでは無いかと思うのだよ。

 ……どうかな。部隊を連隊扱いにしたり大佐になったりと言うのはやり過ぎでも、階級を1階級上げて中佐に昇進すると言うのはどうかね?それならば、部隊の格から言ってもおかしく無い階級では無いだろうか?」

「うむ……。傾聴に値する意見だ。今すぐ決心はつかんが、検討することを約束しよう。中佐か……。だが自分が偉いのではなく、職責が重いから中佐なのだと言う事を肝に命じておかねば、勘違いしてしまいそうだな。注意せねばならん。」

「その気持ちがあれば、大丈夫じゃないかね?キース少佐。」

 

 ヨハン艦長は優しく頷いた。

 

 

 

 さて、翌日の午前中である。と言ってもこの惑星ネイバーフッドでは1日が連盟標準時での2日にあたるため、丸1日真っ暗な日と丸1日明るい日が交互にやってくるのだ。そのため、この日は午前中だと言うのに屋外は真っ暗闇である。そんな中、オーバーゼアー城の司令執務室ではケネス中尉の大尉昇進と中隊長任命、そして新入隊員たちの任官が行われていた。

 そして今、この部屋にいる最後のメック戦士の任官が行われる。先に任官が済んでいる者たちや、昇進して第4中隊中隊長となったケネス大尉の視線が、キースとその者へ注がれていた。

 

「……メック戦士ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ、君を伍長とし、第4中隊偵察小隊隊員に任じる。……貴様には期待している。我が部隊と、貴様自身のために頑張って欲しい。辞令と階級章を受け取る様に。」

「はっ!喜んで拝命させていただきます!損壊していてもう駄目かと思っていた自分のメックを修理していただけるのです!この御恩は必ずや働きにて返させていただきます!」

「うむ……。混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』によく来てくれた、諸君。貴官ら、貴様らは今日この日、この時をもって俺たちの同胞となる!同胞を守るため、互いに力の限りを尽くして欲しい。俺たち先任も、貴官ら、貴様らを守るために力の限りを尽くそう。」

 

 キースは全員に向かい、言葉を発する。その場の全員が、キースに敬礼をした。キースと副官のジャスティン少尉もまた、答礼を返す。キースは言葉を続けた。

 

「では各自は平常業務に戻れ!バトルメックが修理中の者は修理をしている整備兵と、メックの調整についての相談を行うように!機体を貸与される者は城外演習場を確保しているので、一刻も早く機体に慣れる様に訓練に入る事!では解散!」

「「「「「「はっ!了解!」」」」」」

 

 再度キースに敬礼をし、メック戦士たちは三々五々、司令執務室を退出していく。再び答礼をしつつそれを見送ったキースは、ジャスティン少尉に話し掛ける。

 

「さて、次は整備兵が6名だったな。数も少ないし、引き続きやってしまうか。」

「はっ。では早速ここに呼びます。」

「ああ、頼む。」

 

 ジャスティン少尉が内線電話を掛ける。新入隊員の整備兵たちがやって来るのを待つ間、キースはユニオン級降下船エンデバー号のエルゼ・ディーボルト船長との話を思い出していた。

 

 

 

「……そうか。今回の隊員募集で、応募者に経歴の怪しい者はこれだけだったんだな、エルゼ船長?」

「ええ。勿論合格なんかさせなかったけどね?場合によっては始末する事も考えていたけれど……。でも、うちの部隊に入り込もうとするスパイの類じゃなかったみたいね。探偵まで雇って調べさせたけれど。」

「それは良かった……。ふう……。」

 

 キースは安堵の溜息を吐く。エルゼ船長は、怪訝そうな顔になる。

 

「けれど、うちの部隊にスパイなんか潜入させて、いいことあるのかしらね?探偵相手に、貴重なCビル貯金から支払った甲斐があったかしら?」

「いや、うちの部隊の戦歴を考えれば無いとは言えない。恒星連邦のドラコ境界域で第4アン・ティン軍団相手に連戦連勝。部隊規模を急速に拡張させて、戦力交換でライラ共和国に来たかと思えば第25ラサルハグ連隊のB大隊を壊滅させたと来た。目を付けられていないとは言えないさ。」

「そんなもんかしらね……。」

 

 キースはこの場では言わなかったが、先にスカウト旅行に行ってきて隊員を大量雇用してきたユニオン級ゾディアック号のアリー・イブン・ハーリド船長は、隊員募集をかけた際に、スパイの疑いが濃い応募者を1名見つけていた。探偵の調査でドラコ連合との接触が確認されたため、極秘裏に始末したと報告を受けている。

 ちなみにこの時もCビルの貯金を取り崩している。こう言った仕事に使われるような腕利きの探偵などは、各王家発行のHビルは受け取らない事も多いのだ。

 

(ハリー・ヤマシタの様な破壊工作員タイプじゃないかも知れないけれど、獅子身中の虫は潰しておくに限るよな。)

 

 マチュー少尉や、アンドリュー曹長、エリーザ曹長の元居た部隊の様に、部隊は戦場で壊滅、後方基地は爆弾で吹き飛んで非戦闘員の後方人員まで皆殺し、などと言う事態は御免被ると言う物だ。二度と彼らにそんな事態を味あわせたくはない。それにキースの原隊である『BMCOS』の様に戦場で裏切りに遭って部隊全滅などと言うのは、なおさら御免だ。

 

「まあ、うちの部隊がスパイに狙われる可能性は無いとは言えないって事だな。」

「なら気を付けないとね。今後の雇用も。」

「しばらくは、これほどの大規模増員をする予定はまあ無いが、助整兵や歩兵は行った先の惑星で、臨時雇いで雇用せざるを得ないからな。その中に毒が混じらない様に、注意しなければいかんな。」

 

 キースは話を締めくくった。

 

 

 

 と、物思いから我に返ったキースの前で、司令執務机上の内線電話がインターホンモードで鳴る。どうやら新規雇い6名の整備兵がやって来たらしい。キースは内線電話機のスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『整備中隊中隊長サイモン大尉待遇中尉ですわ。新入隊員の整備兵6名を連れてまいりましたでのう。』

「入室を許可する。入ってくれ。」

 

 サイモン老に率いられた6名の整備兵たちが、司令執務室に入って来る。が、入ってくるやいなや、彼らはキースの威容に打たれて驚き、慌てて背筋を伸ばす。敬礼を送って来る彼らにジャスティン少尉と共に答礼を返したキースは、できるだけ柔らかく、しかし威厳のある口調で語り掛ける。

 

「楽にしてくれたまえ。」

「「「「「「はっ!」」」」」」

「混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード少佐だ。時間も押している。早速始めるとしようか。ジャスティン少尉……。」

「はっ。これを……。」

 

 ジャスティン少尉から、彼らに渡す辞令と階級章を受け取ると、キースはサイモン老が連れて来た者たちに話し掛けた。

 

「君たちは、これより我が部隊の一員として働いてもらう事になる。事に整備兵は不足気味だ。ここに6名もの技術者が我が部隊に参加してくれたのは、非常に喜ばしい事である。

 レギニータ・セゴビア以下6名!1歩前へ!」

「はっ!」

「レギニータ・セゴビア、これより君を伍長とし……。」

 

 次々にキースは、整備兵たちを任官させて辞令と階級章を手渡して行った。

 

 

 

 ヒューバート大尉とアーリン大尉、ケネス大尉が口々に言う。

 

「それはヨハン艦長の言う通りですよ。」

「キース少佐は、もう1階級ぐらいは昇進すべきですよね。」

「自分も……。いえ、私もそう愚考します。」

 

 彼らにコーヒーを淹れているジャスティン少尉は無言だが、彼らに賛成している様な感じを受ける。キースは思わす唸り声を上げた。

 

「むむむ……。しかし昇進時期を何時にするかが難しい。順当に行くなら、『SOTS』が惑星ネイバーフッド撤退後、次の仕事に就く前に、と言う所なのだが……。」

「別にそんな先の話にする必要は無いんじゃないかしら。」

 

 アーリン大尉が小首を傾げながら言った。なかなか様になっている姿なのだが、キースは何か追いつめられる様な物を感じる。更にはヒューバート大尉も、アーリン大尉に同調した。

 

「そうですよ。ドラコ連合軍をこの惑星から撃滅し、残党を討ってから約1ヶ月弱。その功績を考慮したのも併せ、『SOTS』の兵員の階級を色々見直して昇進させたじゃないですか。その最後の仕上げとして、今の時点でキース少佐ご自身の昇進を行えば良いのでは?」

「コーヒーをどうぞ、ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス大尉。」

「おっ、ありがとうジャスティン少尉。」

「ありがとう。ジャスティン少尉のコーヒーは、美味しいのよね。」

「ありがとうジャスティン少尉。そうですね、何かしら用を作って司令執務室に来たくなります。」

 

 他の所、例えば指令室などに設置してあるコーヒーメーカーで作ったコーヒーは、軍隊の伝統そのままに泥水コーヒーである。キースも、大尉3人が来る前に淹れてもらっていたコーヒーを飲み干す。ジャスティン少尉が、それを見て言った。

 

「少佐、お代わりはいかがですか?」

「あ、いや今のところは充分だ。ありがとう。さて、本来の用件に戻ろう。」

「少佐の昇進の件ですか?」

「いやアーリン大尉、そうではなしに。訓練成果の報告の件だ。第2から第4中隊の機種転換訓練の成果に関する報告だったな。」

 

 そう、本来3人の大尉がこの司令執務室に来たのは、各々新入隊員が加わった事により編成が新しくなった3個中隊の、機種転換訓練に関する話だった。新入隊員が加わった第2~第4中隊であったが、新入隊員がかつて乗った事がある機体と、『SOTS』で貸与された機体とは異なる場合が多い。それ故に、新たな機体を乗りこなすための訓練が必須なのである。

 

「では俺の第2中隊から……。偵察小隊は、1ヶ月の猛訓練で形になっています。スティンガーにしか乗ったことの無い者がフェニックスホークを貸与され、機体を過熱させる事も以前はありましたが……。今はその癖もすっかり矯正されています。

 火力小隊はまだ昨日予備機を貸与されたばかりなので苦労はしていますが、皆才能を感じさせてくれますね。ただ1人機体持ち込みのジョディー・ラングトン軍曹は、まだ機体の修理が終わっておりませんので、ちょっと分かりませんが。」

「次はわたしの第3中隊ですね。こちらは全員が1ヶ月の時間があったので、機種転換訓練は全て完了しています。既に中隊としての連携訓練や、小隊毎の訓練を行っていますが、今のところ問題は見受けられません。」

「最後は私の第4中隊ですか。と言っても、第4中隊は昨日結成され、編制されたばかりですので、まだまだ論外です。ただ個々人の熱意は高いですし、才能を感じさせてもくれます。機体持ち込みのシャルロッタ・メルベリ伍長、ザハール・ヴィタリエヴィチ・ゴリバフ伍長は機体の修理が終わっておりませんがため、まだその腕前の程は判然といたしません。」

 

 ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス大尉が次々に自分の中隊の現状について報告する。キースは心の中で思う。

 

(ふむ、となると現状で頼りにできるのは、俺の第1中隊の他はアーリン大尉の第3中隊か。あとは第2、第4中隊の指揮小隊が、いざと言う時にはそれ単体で出撃させられるな。……む?)

 

 その時、司令執務机の上の内線電話が、インターホンモードで鳴る。キースはそのスイッチを入れた。

 

「誰か?」

『サイモン中尉ですわ。損傷機のバトルメック、及び4機のスティングレイ戦闘機についてお話に上がりましたでのう。あと一緒にライナーもおりますがの。ライナーはその修理関係の収支についての報告と言いますか、相談だそうですわな。』

「入室を許可する。入ってくれ。」

 

 サイモン老が書類の束を左脇に抱えて入室し、右手で敬礼して来る。自由執事のライナーも、杖を突きながら入室してくるとその杖を左脇に挟み、右手を空けると敬礼をして来た。その場にいる全員……キース、ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス大尉、ジャスティン少尉が答礼をする。

 

「隊長、幸いな事に新入隊員が持ち込んだメック……。フェニックスホーク3機は、部隊の備蓄部品で修復可能ですわ。早速修理開始しておりますでの。それとスティングレイ戦闘機4機も、買い付けた部品で直し始めてますでのう。

 ただ……。フェニックスホーク用部品のストックが、少々心もとなくなっておりますわ。」

「その件について、私から提案と言いますか、ご相談があります、キース少佐。フェニックスホーク用予備部品の買い付けを、惑星ネイバーフッド撤退まで待っていただけませんか?そうすれば、ライラ共和国から今回の契約報酬の残金が入金されます。そうすればある程度財布に余裕が持てます。

 あとできましたら、アーリン大尉には申し訳ないのですが、バトルマスター用予備部品の買い付けを同じ理由でその時まで待っていただきたいのです。」

「サンダーボルトやウォーハンマー、クルセイダーは以前からうちの部隊にもありましたからのう。それ用にいくらか部品の備蓄がありましたが……。バトルマスターは、海賊から接収した僅かな部品だけしかありませんでしたからの。」

 

 サイモン老、ライナーの言葉に、キースとアーリン大尉は難しい顔になる。いやアーリン大尉は、どちらかと言えば情け無さそうな顔かも知れない。キースは断を下した。

 

「已むを得んな。アーリン大尉、万が一戦闘になった時は、自機の損傷には充分注意してくれ。装甲や弾薬だけの損耗で済むなら、契約によりライラ共和国から補填されるし、それが通じない相手……無法者相手でも、装甲板や弾薬のストックならば比較的多くあるから。

 ……まあ、注意したって損害を受ける事は、まま有るんだけどな。だからそこまでは気にしないでいいが、心の何処かに留め置いてくれ。」

「了解です……。はぁ……。」

「DHビルで支払いできればなあ。」

 

 ヒューバート大尉が肩を落として言う。部隊の資産と言う点では、DHビルまで加えれば充分な額があるのだ。だがそれをここライラ共和国で使うには、SHビルかCビルに両替しなければならない。手数料はどの銀行、どの両替商でもおおよそ一律に10%程だ。ぶっちゃけ金銭的にかなり痛い。

 ここでキースは、ちょっとばかり別の話題に切り替える。

 

「ところでライナー。部隊が拡張した事だし、ライナーの少尉待遇の扱いを、そろそろ中尉待遇にしたいと考えているんだが。前にもライナーの入隊時に言った気がするが、本来ならば少尉待遇でもまだ足りないんだよ。いや中尉待遇でも足りないかも知れない。自由執事としてライナーに管理してもらっている、うちの部隊の資産規模から言えば。」

「む、そろそろ言われるんじゃないかとは覚悟していましたが……。」

 

 ライナーは眉を顰める。彼は、あまり偉くなるのは自分に不相応ではないか、と考えているのだ。キースはライナーを言い諭す。

 

「頼むよ、ライナー。それに昇進するのは君だけじゃない。」

「?」

「キース少佐も、中佐に昇進するんだよ。昇進時期はまだ結論が出ていないがね。」

 

 ヒューバート大尉が笑いながら言った。キースも苦笑しつつ、インベーダー級航宙艦ズーコフ号のヨハン艦長から言われたことを、ざっと説明する。ライナーとサイモン老は頷いた。

 サイモン老が感慨深げに言葉を発する。

 

「たしかにそうですのう。実を言うとわしも前々から、地位を高くし過ぎるのはどうかと思うけれど、さりとて不相応に低い地位に居続けるのはどうかと思っておったんですがの。言いだす機会が無かったですからのう。」

「キース少佐が中佐に昇進していただければ、確かに色々と楽になる事もありますな。わかりました、私も覚悟を決めましょう。中尉待遇への昇進、お受けしますよ。」

 

 ライナーが真面目な顔で、昇進を了承する。キースも覚悟を決めた。

 

「よし、では俺も近日中に昇進処置を取ろう。ライナー、ジャスティン少尉、自由執事と大隊副官として、内外にその旨の通知を頼む。」

「「了解!!」」

「さて、あとは具体的な時期だけだな。」

 

 そして翌日の内に、キースは中佐に昇進する事になった。だがその事を内外に通知したところ、急遽3026年の7月末日に、オーバーゼアー城にてキースの昇進パーティーを開く事になる。惑星ネイバーフッド政府首班、トゥール・メランダー首相もわざわざスケジュールを空けて来訪するとの事であった。

 と言うか、パーティーを開くはめになったのは、メランダー首相の差し金であったのだが。パーティー開催資金も幾ばくか援助してくれると言う話である。おそらくは、キースの持つライラ共和国中枢への伝手……厳密に言えば、キースの郎党であるサイモン老の伝手なのだが、それに何かしら期待する物があるのだろう。それがためにメランダー首相は、キースとしっかりとしたパイプを作っておきたいのであろうと推測された。

 ちなみに7月20日には、ユニオン級降下船ゾディアック号と同級エンデバー号が、部隊の運転資金を稼ぐために商用航宙に出発する。ゾディアック号のアリー・イブン・ハーリド船長やレオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー副長、それに同船に同乗してインベーダー級航宙艦ズーコフ号に帰るヨハン・グートシュタイン艦長らは、政治家たちの来るパーティーに参加せずに済んで、一安心と言った顔だった。エンデバー号のエルゼ・ディーボルト船長やエレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ副長らは、逆にパーティーに参加できない事を愚痴っていたが。

 

 

 

 ゾディアック号とエンデバー号が商用航宙に出発して11日目、今日はオーバーゼアー城の中庭にて、ガーデンパーティーが開かれていた。無論、キースの昇進祝いのパーティーなのだが、惑星ネイバーフッドの政財界の重鎮やその取り巻きが、ぞろぞろと多数出席していたため、まるで政治家のパーティーの様相を呈していた。

 キースは短めで切れの良い開式挨拶を行って出席者から好評を博していたが、後に続くメランダー首相以下来賓の祝辞がえらく長かったため、ちょっと台無しになった気もしないでもない。そしてキースは来賓挨拶が終わると共に、メランダー首相に拿捕されていた。

 

「いや、昇進おめでとうハワード中佐。」

「はっ。ありがとうございます、首相。」

「うむうむ。実際の所、あれだけ鮮やかにドラコ連合軍、クリタ家のやつらを打ち破ったのだ。部隊の規模からしても、少佐と言う階級は控えめに過ぎると思っておったのだよ。」

「いえ、これも惑星軍の皆様方や惑星政府の有形無形のお力添え、それに前惑星守備隊の『エフシュコフ剛腕隊』の努力も忘れてはいけません。それがあったればこその成果です。」

「謙虚だな、中佐は。ははは。」

 

 キースとメランダー首相は、2~3の他愛ない話題の会話を交わす。そうしてからおもむろに、メランダー首相は本題に入った。

 

「ところでだな、ハワード中佐……。幸いにも我が惑星は、この惑星全土をクリタ家から取り返す事ができた。だが戦禍の残滓により、惑星の民は困窮しておる。」

(あー、それはそうだよな。メックウォリアーRPGでも、領地内で戦闘行為があった場合、領地の収入がガタ落ちになるルールがあったもんなあ。……1個大隊クラスの部隊2つがぶつかったんだもんな。経済的にかなりの損失が見込まれるだろ。)

「不幸中の幸いと言ってはなんだが……。主力産業とは言えん軽工業に若干の打撃はあったものの、この惑星の収入の大部分を占める農産物に関しては、農地に被害は無く戦いが終わった。」

 

 キースは内心で頷く。此度の敵であったジョー・タカハタ少佐はアレス条約を一応とは言え守る人物であった。アレス条約によれば、如何なる理由があろうとも民間目標に対する攻撃を行ってはならない事になっている。そして農業施設は、この民間目標であるとしっかり明記されているのだ。

 

「だが……。一時的とは言え、30%を敵の支配下に置かれていた事は確かだ。そのため他星系との交易に悪影響が出ている。他星系へ輸出していたはずの農産物……穀物が主だが、輸送船が来なくて多数倉庫で眠っている状況なのだよ。このままでは古くなり、値が下がる一方なのだ。」

(そう言えば、ゾディアック号とエンデバー号、この惑星からは商品として穀物を始めとする農産物を大量に買い付けて行ったっけ。詰め込めるだけ詰め込んで。……農業惑星なのに、農産物の冷蔵技術も未熟なんだよなあ、ここの惑星。)

「共和国が、航宙艦さえこの星系に寄越してくれるなら……。」

 

 そこまで聞けば、メランダー首相が何を望んでいるのか誰だって理解できる。キースは口を開いた。

 

「わかりました。我々の伝手で、ライラ共和国政府に働きかけてみましょう。できるだけ早く、できるだけ多くの航宙艦と商用降下船を、この星系に送り込んでくれる様に。」

「おお!本当かね!?ありがとう、本当にありがとうハワード中佐!!」

「いえ、お礼は共和国政府への働きかけが上手く行ってからで結構ですよ、メランダー首相。」

「……本当に貴官は謙虚だな、中佐。だが、この礼は必ずや何らかの形で返させてもらうよ。」

 

 助力をすると言う言質は与えたが、謝礼を貰うと言う言質は取った。と言うか、互いに言質を与えあう事を前提に話をしていた様な物だ。その後、若干の世間話をした後、メランダー首相はキースの傍を離れて行った。だがキースはそれで解放されたわけでは無い。他にもキースと話をしたがっているお偉いさんは、まだいるのである。流石にキースの迫力に物怖じしている者も少なく無いが。

 やがて話が一段落ついて、キースは一時解放された。彼はサイモン老を探す。先ほどメランダー首相と約束した事を、サイモン老に頼んでおかなければならない。果たして、サイモン老はすぐに見つかった。

 

「ああ、サイモン中尉。楽しんでいる所を悪いが、少し話がある。」

「はい、何でしょうかの、隊長?」

「実は……。」

 

 キースは先ほどのメランダー首相との会話を、要点だけサイモン老に話す。サイモン老は考え込む。

 

「うーむ、となるとヨアヒム・ブリーゼマイスター侯爵がいいですかのう……。いやエレン・ヴォールファート女伯爵の方が……。アルベルト・エルツベルガー公爵ならば確実ですが、あのお方は少々偉過ぎますからのう、この程度の事で借りを作るのが怖いですの。」

「……相変わらず、凄い人脈だな。恒星連邦だけじゃなしに、ライラ共和国内部にもそれだけ伝手があるんだから。」

「坊ちゃ……隊長とて、恒星連邦だけなら既に偉く人脈を持っておるでは無いですかの。」

「ははは。」

 

 キースは苦笑する。と、そこへ突然声がかかった。まあキースは誰かが近づいて来るのは感じ取っていたので、驚きはしなかったのだが。

 

「隊長!」

「エリーザ曹長、どうした?」

「この娘が用があるみたいよ。それとサイモン中尉との話が終わったんなら、ちょっと中尉を借りてもいいかな?」

「あ?うむ、サイモン中尉が良いならかまわないが。」

 

 キースがそう言うや、エリーザ曹長はサイモン老を引っ張っていってしまう。

 

「ほ!?ちょ、ちょっと待ってくれんかの?いったい何の用だわいな?」

「いいから、いいから!」

「……何だったんだ、一体。」

 

 キースは、ぽつりと言葉を漏らした。そこへ再度声がかかる。それはキースの愛弟子だった。

 

「キース中佐!よ、よろしければ、お飲み物をどうぞ!」

「む?イヴリン軍曹か。ありがとう、頂こう。……うむ、美味いな。」

「え、エリーザ曹長がキース中佐は偉い人たちとのお話で、喉がかわいてるだろうと……。それで、何か飲み物を選んで持って行ってあげなさいと……。」

「そうか、貴様が選んだのか?中々良いセンスをしているな。うむ、美味い。」

 

 イヴリン軍曹は、頬を紅く染めて嬉しそうにしている。キースは、後でエリーザ曹長にも礼を言っておこうかと考えた。まあ、この場で口に出してイヴリン軍曹の喜びに水を差すつもりは無いが。

 

(小さくてもレディだしなー。目の前で他の女褒めたりするのはタブーだって、どっかで読んだか聞いたかした覚えがある。)

 

 その後、再度キースはお偉いさんの群れに捕まったりするのであるが、とりあえず一時は気が休まる時間を過ごせたのである。

 

 

 

 3026年8月1日、キースはオーバーゼアー城指令室の主スクリーンで、修復なった4機の60tスティングレイ戦闘機が、飛行試験を兼ねた訓練飛行をしているのを見ていた。航空兵たちの操縦技量はそこそこであると言えたが、アロー1~4番機、ビートル1~2番機の歴戦の熟練パイロットたちと比べると、その差は歴然としていた。

 

「ううむ、もっと訓練が必要だな。それと機体が壊れていた間のブランクも大きい様だ。」

「そうっすね。いかに重戦闘機っつっても、何度も攻撃を受けたらやっぱり墜ちますからね。もっと鍛えなきゃ、駄目っす。最低でも、ヘルガ中尉たちに追随できる程度に。」

 

 キースの隣でそれを見ていたのは、気圏戦闘機隊A中隊中隊長、ライトニング戦闘機1番機、アロー1を操る航空兵、マイク中尉だ。彼の言葉を分析すると、ビートル3~6番機のスティングレイ戦闘機の乗り手たる航空兵たちの能力は、ビートル1~2番機のトランスグレッサー戦闘機を駆るヘルガ中尉、アードリアン少尉に全く付いて行けないレベルでしか無いと言う事になる。

 

「マイク中尉、アロー5とアロー6はどうだ?」

「あいつらも筋は悪く無い、と思うんすけどねえ……。同じく徹底的に練度不足っす。それでもビートル3からビートル6に比べれば、実機が直るのが早かったし、一度実戦にも出てるっすからマシはマシっす。でもやっぱり鍛えないと駄目っすね。お……。」

 

 2人がスクリーンを見ていると、別の2機の気圏戦闘機、ビートル1番機とビートル2番機のトランスグレッサー戦闘機が現れた。そして慌てた様に散開して逃げるビートル3番機から6番機の4機の後ろに、ぴたりとつく事を繰り返す。おそらくスティングレイ戦闘機4機の操縦席では、演習モードによる被撃墜信号が出た事だろう。

 

「あー、見事っすね。ヘルガ中尉とアードリアン少尉は。俺やジョアナでも油断すると危ないレベルっす。ミケーレ少尉やコルネリア少尉と、ほぼ同等の腕前っすねえ。」

「キース中佐。」

「ジャスティン少尉か、何か?」

 

 その時、指令室の副官席に座っていたジャスティン少尉が声を掛けて来た。キースはそちらに顔を向けて用件を問う。

 

「はっ。ただ今、外線電話が入りまして……。歴史学者のジョエル・ボールドウィンと名乗る人物ですが、中佐にお会いするためのアポイントメントを取りたいと言っております。」

「歴史学者?」

「はい……。」

 

 キースは一瞬考え込む。

 

(歴史学者って言ったら、この時代のソレは本物の学者と言うよりも、遺物を星間連盟期とかの遺跡から発掘して、それを売っ払う事で生計を立ててる奴らだよなあ……。言わば山師だよなあ……。怪しさ大爆発なんだが……。)

「どうなされますか、中佐?」

「うむ……。俺の予定はどうなっている?近いうちに空いている時間はあるか?」

 

 ジャスティン少尉は、手帳を手繰る。

 

「はい、明日の午後に「学生たち」への戦術理論の講義を終えた後、2時間空いております。」

「そうか……。トレーニングか、筐体が空いていたらシミュレーター訓練でもしようかと考えていたんだったな。」

「では断りますか?」

 

 キースは一瞬だけ考えて言った。

 

「いや、会おう。」

「「「「「「え゛!?」」」」」」

 

 話を聞いていた、その場のオペレーターたちまで含めた全員が、驚きの声を上げた。実際キースにとっては気まぐれでしか無かったのだが、この会談が後に大きな意味を持って来るのだった。




さて、主人公はとうとう中佐に昇進いたしました。これで少しは舐められなくなるでしょうね。
え?
最初からなめてかかる奴なんて、迫力的に、いない?
そんな事ないです。まともに会った事なければ、迫力なんて伝わりませんから。肩書と言うのは大事なんです。

で、最後に突然連絡を取って来た歴史学者。はたして何者なのか!!


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『エピソード-056 古文書の謎』

 来客を司令執務室の応接セットへ誘うと、キースはその来客に向かい口を開いた。

 

「いやお待たせして申し訳ありません、ボールドウィンさん。」

「いえいえ、とんでもない。」

 

 そう、来客とは突然キースに面会を申し込んで来た、歴史学者ジョエル・ボールドウィンである。この時代、歴史学者とは普通の学者を指す言葉ではなく、一般に星間連盟時代の遺跡を発掘し、発掘した高度文明の産物をあちこちに売り払って生計を立てている者たちの事であった。

 キースはボールドウィン氏をソファにかけさせ、自分も腰かけると単刀直入に用件に入る。

 

「で、本日はこの一介の傭兵部隊の指揮官である自分に、いったい何の御用でしょうか?」

「……実は、私がこれまで蒐集してきた古文書一式を、買っていただきたく思いましてな。」

「古文書ですか?」

「とは言いましても、それは星間連盟期かその近辺の物でこそありますが、その内容は詩歌などを始めとしました文学に属する文献でありましてな。」

 

 眉を顰めつつ、キースはボールドウィン氏に問う。

 

「何故その様な物を自分の部隊に?いくらなんでも傭兵部隊と詩歌では、畑違いも過ぎると言う物でしょう。」

「いえ、これを売り込みに来たのは貴部隊にではなく、ハワード中佐個人にです。」

「それならばなおの事です。自分に詩歌を愛好する趣味はありません。」

「ですが、中佐にはそれを価値ある物に変える術を持っておられます。」

 

 自信満々に言うボールドウィン氏。キースはとりあえず話を全部聞いてみようと考える。まあ、半分はこの会見が無駄だった様な気もして来ていたのだが。

 

「ハワード中佐は、私が聞き及んだところによると、恒星連邦中枢へ通じる伝手を持っておられますな。」

「!?……まあ、それなりには。」

「そして貴部隊は、恒星連邦から戦力交換でライラ共和国に来てはおりますが、将来的には恒星連邦へ帰還なさる。帰還なされる際にその古文書を持ち帰り、恒星連邦の王室、ダヴィオン家に献上なさればいかがかと思いましてな。」

 

 恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンが、個人的な趣味として詩歌への深い愛好を示している事は、周知の事実である。有名なホールステッド・ステーション事件は、ドラコ連合クリタ家の鼻先から貴重な書物を奪うため、ハンス・ダヴィオンが自ら行った襲撃作戦である。その書物には貴重な技術文書も多く含まれてはいたが、内容の大半は文学、経済学、心理学などであったと言われている。

 なるほど、ボールドウィン氏の話は一見筋が通っている。だがキースは、どうも胡散臭さを感じてしまう。とりあえずキースは、不機嫌そうに黙り込む演技をする。ボールドウィン氏は焦った様子を見せる。

 

「私がその古文書を発掘いたしたところ、内容や作者はこれまで知られていない物でしてな!希少価値は高いかと思われます!」

「それは碌に売れなかった詩人の作品であったと言う事にはなりはしませんか?下手をすると、素人作家の同人作品であった可能性すら。これが著名作家や著名詩人の同人時代の作品であったとか言う話であらばともかくとして……。」

「あ、あうう……。」

「……何か隠してらっしゃいますね?」

「む……。うぐ……。」

 

 キースはにっこりと笑った。ボールドウィン氏は引き攣った笑顔を返して来る。キースは笑顔を崩さない。だがその眼は笑っていなかった。ボールドウィン氏は肩を落とす。

 ボールドウィン氏が渋々ながら話したところによると、この惑星のとある遺跡――星間連盟時代もしくは第1次継承権戦争時代の物と思われる――から、大量の詩歌や小説の書かれた古文書を発見したのは本当であったらしい。なお発掘したのは、キース達『SOTS』がこの惑星に来るよりもずっと前だ。だが同時期に、それとは別の遺跡から、別の星間連盟期の遺跡があると思われる惑星の情報を発見したのだそうだ。彼はそれを発掘しに行きたいらしい。しかしそのための資金が足りなかった。

 

「それで自分に、その古文書を売りつけようと考えた、と。なんと、まあ……。」

「で、ですが詩歌の書かれた古文書をダヴィオン王家に献上すればと考えたのは、嘘ではありません!」

「嘘では無いでしょうが、だからと言ってハンス・ダヴィオン国王は無目的に無差別に蒐集しているわけではありませんよ?それに惑星上の遺跡の所有権は、この惑星の場合は基本的に惑星公爵と惑星政府にあるんですが。そこからの発掘物を勝手に売っても良い物ですか?

 ……発掘したい遺跡のあるらしい惑星は、ドラコ連合領域内のラサルハグ軍管区、惑星カーチバッハでしたね。」

 

 キースは顎に右手をやり、考え込む。

 

(惑星カーチバッハは、後のラサルハグ自由共和国、つまりは氏族が攻め込んでくる領域だ。……惑星ジ・エッジと同じく。惑星ジ・エッジはメックウォリアーRPGのリプレイ本で、惑星エニウェアのメック工場と同型の工場が隠されていた惑星の1つだ。

 上手くすれば、惑星エニウェアの物と同型工場とまでは行かずとも、ケレンスキー将軍の帰還に備えてメック倉庫なりなんなり隠してある可能性は無きにしもあらず、だな。)

「そ、それは大丈夫です!きちんと惑星政府から許可を受けての発掘です!発掘された貴重品の6割を惑星政府に納めた上で、残りの物を受け取ったのです!

 お願いです、どうか古文書を買っていただけませんか!歴史的資料としての価値は、少なからずあると思うのです!惑星カーチバッハまでの渡航費用と、発掘費用が賄えればいいのです!不定期貨客船の運賃に装備の輸送費用2,000Cビルと、現地での発掘にかかる費用が3,000Cビルも見込めれば!いえ、総額で4,000Cビルでも構いませんのです!」

 

 じろりとボールドウィン氏を睨み付けて、キースは彼を黙らせると、おもむろに言った。

 

「……10,000DHビルです。それでその古文書を買い取りましょう。これだけあれば、CビルやKHビルに両替したとしても、充分余裕が出るでしょう。これは私個人の貯蓄であり、部隊の金ではありません。」

「は?」

「その代わりに……。現地で発掘した物の権利を一部認めてもらいます。いえ、物品が欲しいわけではありません。星間連盟期の技術資料を発掘した場合に、そのコピーを当部隊に対し、一切合切余すところなく譲渡していただきたい。繰り返しになりますが、コピーで結構です。原本を貴方がどう始末なされようが構いません。売り捌こうが、どうしようが。ですが、その内容は全てコピーして引き渡していただく。

 引き渡しの方法は、船便で送ってください。その時点での当部隊の所在地が判らない場合は、傭兵たちの星ガラテアの、当部隊の借りている貸金庫を介して取引を行います。決してコムスターのHPG通信などは使わない様に。……かまいませんね?」

 

 ボールドウィン氏は、慌てて頷く。

 

「は、はいっ!」

「契約書を作りましょう。万が一違反した場合の罰則は、厳しく付けますよ?」

「はい、わかりました!もし技術資料などを発見したら、必ずやその写しをお届けします!」

 

 キース達は細々した契約条件を話し合った。そしてボールドウィン氏は契約書にサインをする。

 

(ボールドウィン氏か……。そう言や整備中隊に、整備兵のボールドウィン・アクロイド軍曹がいたな。混同しないようにしないとな。……これだけ部隊の人数が増えると、名前や姓がかぶるのも珍しく無くなってくるなあ。)

「あ、サイン終わりました。」

「では現金は、古文書の現物と引き替えにお渡しします。何時現物は持ってこられますか?」

「は。貸金庫に収めてありますので、2~3日中にはお届けに上がります。」

「了解です。」

 

 その日は、キースとボールドウィン氏はこれで別れた。だが明後日にボールドウィン氏が古文書を持って再度現れた時、その古文書の量にキースはあきれ返るのだった。古文書は少なく見積もっても、スチール本棚に3つ程度は余裕で有ったのである。とりあえずキースはそれを司令執務室の片隅に置いておく事にした。

 

 

 

 3026年8月10日、司令執務室でコムスター配信のニュース・ネットを見ながら、キースはボールドウィン氏から買った古文書を1冊引っ張り出して弄んでいた。ちょうどぽっかりと空いた時間があったのだが、何かするには中途半端な時間だったのだ。トレーニングするにも微妙であるし、シミュレーター訓練をするには筐体の使用予定が埋まっていたのである。

 

(恒星連邦ドラコ境界域及びカペラ境界域において、ガラハド作戦開始、か。ガラハド作戦か……。10個メック連隊と、100個歩兵・装甲車両連隊の参加する総合防衛演習なんだけど……。)

 

 ニュース・ネットのプリントアウトをファイルに仕舞い込み、キースは古文書を広げた。

 

(なんだこりゃ?アスキーアートか?この本はアスキーアートを集めた物じゃないか。詩歌じゃないし、文学でもなんでもないじゃんか。しっかし、下手なアスキーアートだな。動物っぽいのは理解できるけど、何の動物かはわからんなこりゃ。ああ、下に書いてある。「a raccoon dog」か……。タヌキじゃん。そうは見えないって。

 こっちは「a hairy caterpillar」……毛虫か。これはなんだ?「a kokeshi doll」……コケシ。アスキーアートにしても分からないってばよ。)

 

 ここでキースは、ふと変な事に気付く。

 

(なんかこのアスキーアート、どうも出来が良く無いと思ったら変な字を無理に使ってやがるよ。ここにある「TA」とか……。「TA」……「た」?タヌキのアスキーアートで「た」?あはは、まさか「た」を抜けって意味じゃないよなあ。)

 

 キースは、そのアスキーアートから「TA」の文字を抜いて見た。

 

「ま、そうだよな。」

 

 そのアスキーアートから「TA」を抜いてみた所、まったく意味の無い文字の羅列になっただけだった。キースは馬鹿なことをした、と苦笑する。

 だがどうせやりかけた事だ、次に彼は毛虫のアスキーアートから「KE」(け)を無視して見た。更にコケシのアスキーアートから「KO」(こ)を消す。栓抜きから「SEN」(せん)や「1,000」(千)を抜く。ミミズから「MI」(み)を見ない。小鳥から「KO」(こ)を取る。

 何枚ものアスキーアートを、そうやって意味の無い文字の羅列に変換していった時である。キースはふと、その出来上がった文字の羅列の最初の文字だけを、順番に読んで見た。

 

(コ・ノ・ブ・ン・ショ・ウ・ヲ・ハッ・ケ・ン・シ・タ・モ・ノ・ニ・ツ・グ……「この文章を発見した者に告ぐ」!?)

 

 キースはしばし呆然とする。

 

「こ、こんな馬鹿な暗号があるのか……?これ作ったのは日本人……ドラコ人だよな、絶対。文章が日本語だし。タヌキ暗号と、アクロスティック暗号の組み合わせかよ。」

 

 アクロスティック暗号とは、文章の先頭の文字だけを連ねて読むと意味が通じる様になると言う簡単な暗号である。それはともかく、キースは先頭の文字の次は、2番目の文字を連ねて読んで見る。やはり意味は通じた。更に彼は3番目の文字、4番目の文字と続けて読んでいく。

 

(……これはドラコ人が作った物らしいけど、クリタ家に対し批判的な人物が作ったっぽいなあ。「いつの日かクリタ家を打倒する力にならん事を祈って、この発見を暗号化して遺す」だってさ。時期的には、第1次継承権戦争が始まった直後あたりらしいなあ。ドラコ連合からライラ共和国のタマラー協定領まで逃げて来たのかな?

 ええと、「バルバラ・ガイセの詩集」全10巻、「カナコ・カナザワの和歌集」全5巻、「ザカリー・アッカースン著作集」全20巻の内容に、別の暗号化を施して隠してあるのか。どれどれ……。うん、全部あるな。コンピューターのエキスパート、パメラ軍曹に頼んで、解読してもらうかね。)

 

 机上の内線電話に、キースは手を伸ばす。整備兵パメラ・ポネット軍曹を呼び出して、古文書の精査と暗号解読を依頼するのだ。キースがほんの気まぐれで購入した古文書は、下手をすると偉い代物である可能性が出て来たのである。

 

 

 

 3026年8月20日、ユニオン級降下船、ゾディアック号と同級エンデバー号が、1ヶ月の商用航宙から帰還した。このうちゾディアック号は、3日後には同級レパルス号と共に再度1ヶ月の商用航宙に出立する。そのため、大至急船体の整備と貨物の積み降ろし、推進剤の補充などが行われた。

 ゾディアック号とエンデバー号から、大量の機械類……大型コンバイン、大型トラクター、農薬散布用のヘリコプターや軽飛行機など、各種農作業機器が運び出されて行く。珍しい所では、ディーゼル機関車や貨車、客車などもある。だが農業用ロボットや林業用メックなどは、整備できる技術者の数が極端に少ないため、1体も含まれてはいない。

 レパルス号にはこちらはこちらで多数のトレーラーが、多数のコンテナを積み込んで行く。その積み荷は、穀物を始めとした農産物だ。ゾディアック号にも荷降ろしが完了次第、同様に農産物が積み込まれる予定である。

 実のところ、キースがサイモン老の伝手を使い、ライラ共和国に航宙艦と商用降下船多数の派遣を依頼したために、この惑星から他の工業惑星や鉱業惑星への食糧輸出はかつての好調を取り戻していた。それがために、『SOTS』の降下船を商用航宙に出すにあたって、商品として農産物を積み込むのは正直な話、利益的にあまり美味しく無い。しかしこの惑星には、他に輸出する物が無いので、空荷で降下船を飛ばすよりは多少はマシであった。

 

「ふむ……。順調だな。」

「ですなあ。ですが今度の商用航宙は、前回ほど儲かるかはわかりませんな。」

「しかし、軍用降下船を商用に使うのは何か物悲しい気がするわね。もう慣れたけど。」

「傭兵隊が戦うばかりでやっていけるなんてのは、幻想よね。」

 

 貨物の積み降ろし作業を眺めているキースの横には、ゾディアック号のアリー船長、エンデバー号のエルゼ船長、レパルス号のオーレリア船長が立っていた。無論大隊副官のジャスティン少尉も、ほぼ常にキースに影の様に付き従っている。

 キースは溜息を吐いて言った。

 

「ふぅ……。アリー船長、エルゼ船長、オーレリア船長。この駐屯任務中での不定期貨客船としての商用航宙は、次の便で終了だ。次の航宙は1ヶ月間、8月23日から9月23日までだ。10月14日には惑星ネイバーフッドを撤退するのでな。次に戻ってきてからは、1ヶ月無いので商用航宙は行わない。」

「10月は商用航宙無しで、資金繰りは大丈夫ですかな?」

 

 アリー船長が少々心配そうに言う。キースはくっくっと笑うと、安心させるように言葉を掛ける。

 

「うむ、大丈夫だ。駐屯任務が終了次第、ライラ共和国政府より契約金の残金が入金される。ぶっちゃけた話、かなり莫大な金額がな。それが入り次第、アーリン大尉のバトルマスターと、部隊のフェニックスホーク16機のための予備部品を確保に走らねばならんが。

 それに万が一の事があっても、いざとなればDHビルを10%の手数料覚悟で両替するから、首が回らなくなる恐れは無いとも。」

「DHビル貯金は、取り崩したく無いわね。」

「10%手数料は高いわよね。」

「敵対国間の通貨の両替手数料が高いのはわかりますが、恒星連邦とライラ共和国の様に友好的な国の間での両替手数料まで一律10%なのは、腹立たしいですな。」

 

 船長3名は、口々に通貨の交換レートに不満を漏らす。キースは苦笑した。

 

「しかし、そろそろCビルも欲しい所だな。うちは契約によって契約王家の備蓄から交換部品を正規の値段で売ってもらっているから、恒星連邦ではDH払い、ライラ共和国ではSHビル払いで部品が手に入ったが……。ライラ共和国ではエンフォーサーやヴァルキリー、ヴィンディケイター等の部品備蓄が無い。そう言った機体は、民間の業者から部品を買うしかないんだが……。

 他の業者では、Cビル払いでなければ部品を売ってくれない所も多いからな。今のところはそれらの機体は、部隊の備蓄部品に余裕があるから良いが。」

 

 普通、中心領域の継承王家5大国家では、自分の王家が発行した通貨でしか傭兵部隊に報酬を支払わないことが殆どだ。Cビルで支払えば、その報酬はどこの王家の領域に行っても過不足なく使う事ができる。だが各王家のHビルで支払えば、その報酬はその王家の領域でしか満足に使えなくなるのだ。結果として、傭兵部隊は契約した王家の領域に縛り付けられる傾向にある。

 『SOTS』が何度となく直面したSHビル不足も、これに類する問題である。『SOTS』は決して仕える国家を恒星連邦からライラ共和国に変えたわけでは無い。戦力交換でライラ共和国に来ただけであるのだ。だがこのために、今まで稼ぎ貯めたDHビルの貯金が直接に使えなくなり、乏しいSHビルの現金で遣り繰りしなくてはならなくなったのだ。

 ちなみにキースは、恒星連邦に帰還したらSHビルを最低限だけ残して、10%の手数料を払ってでもCビルに両替しようかとも考えている。基本的に彼は今回の様な例外事項が起こらなければ、恒星連邦の領域から出るつもりは無いのだ。

 キースはしばらくの間、降下船の貨物積み降ろしを監督していたが、ジャスティン少尉から「学生たち」への講義の時間が迫っている事を伝えられ、各船長たちに後を任せてその場を後にするのだった。

 

 

 

 オーバーゼアー城第1中会議室で、キースは最近増えた「学生たち」に、バトルメックの機種についての講義を行っていた。今回は、各王家の特製メックについてである。

 

「次はドラコ連合、クリタ家特有のバトルメック、ドラゴン及びグランドドラゴン、そしてパンサーについてだ。まず60tのドラゴンからだな。これは原型機が2754年にロールアウトしている、名実ともにクリタ家の特製メックだ。このクラスにしては充分な装甲と、このクラスにしては圧倒的な機動力を持つ。まあ、ジャンプしないシャドウホークと同等の機動性を持つと言えば分かるか?武装は10連長距離ミサイル、中口径オートキャノン、全面と背面に1門ずつ計2門の中口径レーザーを装備している。

 このメックは、背面の装甲がかなり厚い。しかも後ろにも火器を装備している。後ろを取ったからと言って、油断はできんぞ。

 グランドドラゴンは、このドラゴンの発展機だ。つい先頃の3025年に初めて実戦参加した事が確認されたばかりの新しい機体だ……との事だ。あまり詳しい事は分かっておらんが、中口径オートキャノンを撤去して粒子ビーム砲を装備、前面胴体右側に中口径レーザーを1門増設し、追加放熱器を加えた……らしい。」

 

 キースはOHPに映し出されたドラゴンの映像をマーカーで指しながら、黒板代わりのホワイトボードに説明内容を板書して行く。「学生たち」は、急いでノートに要点を書きこんで行った。

 

「パンサーは少々趣が違う。この35tの機体のロールアウトは2739年なのだが、別にクリタ家専用ではなかったらしい。だが今現在、パンサーを製造できるメック工場はクリタ家の領域にしか無いため、クリタ家専用の様になっている物と思われる。

 パンサーの装甲はこのクラスでは厚い方だが、それでも決して重厚では無い。だが軽メック同士であれば充分だろうな。火力も近距離用に4連短距離ミサイル、長距離用に粒子ビーム砲を装備している。機動性は低いが、ジャンプ移動が可能なので軽量級の支援メックとして使われると少々面倒だな。

 ……次はリャオ家特有のバトルメックだが。そうだな、誰かリャオ家の標準型ヴィンディケイターについて説明してみろ!分かる者は挙手せよ!」

 

 ぱらぱらと手が挙がる。キースは1人のメック戦士を指名した。

 

「タッチの差で貴様が早かったな、ロタール軍曹。貴様が答えろ。」

「はっ!たしか2826年にリャオ家により独自開発された45tバトルメックです!堅牢な装甲を持ち、機動性は低い物のジャンプ能力も持っております!主兵装は右手の粒子ビーム砲で、他に5連長距離ミサイル、中口径レーザー、小口径レーザーを装備しております!」

「「たしか」は、いらん馬鹿者!だが概ねその通りだ。防衛戦が主となるカペラ大連邦国では非常に頼りになるバトルメックだな。なおうちの部隊にも、標準型が1機だけだが保有されている。ちなみにこの機種にはバリエーションがあってな。『Avenging Angel』と呼ばれるタイプだが、装甲を減らして機動性をウルバリーンかグリフィン並に高めた機体だ。これは予備機もしくは訓練機として用いられる事が多い。」

 

 ふとキースは、ちょっとの差で指名されなかったイヴリン軍曹を一瞬だけ見遣る。彼女は答える自信があったのだろう、少々つまらなそうな顔をしていた。まあ、まだ幼いと言う事だろう。

 その時、屋外から轟音が響いて来る。キースや「学生たち」が目を向けると、オーバーゼアー城の離着床からユニオン級降下船ゾディアック号とレパルス号の2隻が、その推進機から激しい炎を噴いて上昇して行く所だった。

 キースは小さく頷く。

 

「そうか、出発は今日だったな。さて、そろそろ時間だな。本日の講義はこれまでとする。次回は有名な気圏戦闘機とそのバリエーションについて、だ。今日の復習と次回の予習を忘れない様に。イヴリン軍曹!」

「はっ!!起立!!敬礼!!本日のご教導、ありがとうございました!!」

「「「「「「本日のご教導、ありがとうございました!!」」」」」」

 

 敬礼をしてくる一同に答礼を返し、キースは使った資料などを纏めて退室する。彼の後ろで、何名か……おそらくは階級無しの訓練生たちが、OHPなどの機器を片付け、ホワイトボードを掃除している気配がした。

 

 

 

 規則正しい重い足音と、軽い足音が響く。重い足音はキースの、軽い足音はイヴリン軍曹の物だ。彼らは今、朝早くからオーバーゼアー城の外壁内周をランニングしていた。やがて終点と決めていた、本部棟前まで彼らは辿り着く。彼らはクールダウンのストレッチを行う。と、キースが口を開いた。

 

「しかし本当に、随分体力が付いたな、イヴリン軍曹。もはや単純な持久力だけで言うならば、歴戦のメックウォリアーにも負けん物があるぞ?」

「え、あ、ありがとうございます!」

(いやホント、たぶん「タフ」の生得能力があるんだと思うけどさ。本当に成長早いよなあ。いや背は伸びてないけど。能力的な面で。後は知識面とか、戦術学とかだよなあ。必要なのは。)

 

 その時、本部棟からトレーニングウェア姿のアンドリュー曹長とアイラ軍曹にエドウィン伍長、エリーザ曹長とエルフリーデ伍長の5人が現れる。どうやら彼らも外壁内周のランニングをするために出て来たらしかった。エリーザ曹長がチェシャ猫笑いをしながら訊いて来る。

 

「あら隊長?今上がり?」

「ああ。今城壁の内側を適当に流して周回してきたところだ。」

「何周してきたんだ?」

 

 アンドリュー軍曹に、キースは答える。

 

「む、ざっと5周かな。」

「「「「「ぶっ!?」」」」」

 

 5人が吹いた。キースはイヴリン軍曹と顔を見合わせる。

 

「……そんなに驚かれる事か?」

「どうでしょうか。」

「長ぇよ隊長!!いや、それよかイヴリン軍曹にもその距離走らせたのかよ!?」

 

 咆哮するアンドリュー曹長。だがキースもイヴリンも、きょとんとしている。

 

「む、だがイヴリン軍曹に合わせた速度で走ったしなあ。」

「じ、自分もオーバートレーニングにはなってないと思います。体調も良いですし。」

「今までほんの少しずつ距離を伸ばして来たからな。水分やミネラル補給もちゃんとやってるぞ?」

 

 キースとイヴリン軍曹は、腰の後ろに下げたドリンクのポリ製ポットを見せる。走りながら飲めるように、ストローが付いているタイプだ。アンドリュー曹長は頭を抱える。

 

「いや、そう言う問題じゃねえって……。いやちょっと無理すりゃ、俺もそれぐらいは走れるけどよ。流してその距離って、なんだよその体力……。」

「あー、も、目標は遠いなフリーデ……。」

「エド、あ、諦めたら駄目よ……。」

 

 エドウィン伍長とエルフリーデ伍長も、うつろな瞳で話し合っている。キースは彼らに声を掛けた。

 

「あー、俺たちはもう行く。エドウィン伍長、エルフリーデ伍長、これから走るのは構わんが、午前にある基礎教養の授業には遅れない様にな。」

「は、はい!!」

「分かってます!!……教育担当官グーテンベルク少尉の怖さは、既に身に染みました。」

 

 と、キースはエリーザ曹長がイヴリン軍曹に何やら耳打ちしているのを見た。イヴリン軍曹の顔が紅潮する。キースは怪訝に思ったが、とりあえず彼女らに声を掛けた。

 

「エリーザ曹長、そろそろイヴリン軍曹を放してやってくれんか?基礎教養の授業の前に、俺が戦闘指揮概論を教える予定になっているんだ。」

「あ、はーい了解。じゃ、がんばってね、イヴリン軍曹。」

「は、はい!お気遣いありがとうございます!」

 

 5人が敬礼をしてくる。キースとイヴリン軍曹は答礼を返し、本部棟のシャワールームへ急いだ。

 

 

 

「……と言うわけで、暗号文の解読は遅々として進んでいません。ですが、1つの座標は読み取れました。その座標の事で第3中隊指揮小隊のヴィルフリート軍曹に助力を頼んだのですが、星間連盟座標である事がはっきりいたしました。これにより、解法が間違っていないとの確信が持てましたので、今後は解読速度が上がる物と思われます。」

 

 コンピューターの専門家であるパメラ・ポネット軍曹が、司令執務室にてキースに例の古文書の、暗号解読の中間報告を行っていた。キースはパメラ軍曹に訊ねる。

 

「星間連盟座標?そう言えばヴィルフリート軍曹は、航宙艦関連技術を習得しているんだったな。中心領域のどの辺だ?」

「中心領域内部ではありません。ほんのわずかですが、現在の領域の外側です。恒星連邦ドラコ境界域をX+方向にわずかに外れたところを指していると思われます。」

「ほう?そこに恒星はあるのだろう?」

 

 パメラ軍曹は首を縦に振る。

 

「はい、パールクというG0Ⅴ型の恒星があるのが判っています。」

 

 キースは少々考え込む。だがやがて顔を上げた。

 

「そこに何があるにしても、恒星連邦ドラコ境界域X+方面であるならば、この部隊が恒星連邦に帰還してからだな。それまでに解読を進めていてくれれば良い。」

「はい。では退出してよろしいでしょうか。」

「うむ。」

 

 パメラ軍曹は敬礼をし、キースは答礼を返す。司令執務室を退室して行くパメラ軍曹を見送りながら、キースは今聞いた事について考えを巡らせていた。

 

(恒星連邦ドラコ境界域X+方面と言う事は、中心領域マップを広げて、かなり右の方だよなー。ちょうど外世界同盟から見て、すぐ右下の辺りだろ。一体何がそこに……。ま、今考えても仕方ないか。解読も完了してないし、第一恒星連邦に帰ってからじゃないとな。ここはライラ共和国はトレル州、あまりに遠すぎる。中心領域マップだと真ん中の上の方だもんな。)

 

 現在駐屯中の任地を放り出して中心領域を半ば横断するわけにもいかない。キースは疼く好奇心を噛み殺し、日常業務に戻った。




なんと、買い取った古文書には秘密の暗号が!(お約束)
はたして暗号が示す先には、何が隠されているのだろうか。
そして平然と、一流メック戦士でも躊躇する距離を流して走る、年端もいかない美少女イヴリン!!(マテ
いやそこは関係なかったね。


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『エピソード-057 次なる戦場へ』

 巨大な球体状の降下船を背景に、2名の人物がキースの前に立って敬礼を送って来る。ユニオン級降下船ゾディアック号と同級レパルス号の船長、アリー・イブン・ハーリド中尉とオーレリア・レヴィン中尉だ。キースも彼らに答礼を返す。両船長は、キースに帰還の挨拶をした。

 

「ユニオン級ゾディアック号!」

「同じくレパルス号!」

「「1ヶ月の商用航宙より、ただいま『SOTS』本隊に帰還いたしました!」」

 

 キースは頷く。

 

「ご苦労だった、アリー船長、オーレリア船長。収支報告は、インベーダー級航宙艦ズーコフ号のヨハン艦長が、深宇宙通信施設を介してデータ通信で送ってくれた。貴官らのおかげで、健全な部隊経営ができる。心より感謝する。」

「……やれやれ、これであと何事も無ければ、10月14日まではこの船は飛ばないってわけですな。」

「ま、それもあと1ヶ月無いのよね。今日が……9月23日だったかしら?」

 

 そう、オーレリア船長の言う通りに、あとちょうど3週間で『SOTS』は惑星ネイバーフッドを撤退するのである。そろそろその準備などを開始した方が良い時期であった。キースはふっと小さく笑う。

 

「まあ、そうだな。そろそろ少しずつメックの予備部品や修理作業台などを降下船に積み込み始めた方が良いな。……まだ半年足らずしか居なかったんだがな。何か色々苦労したせいか、すっかり自分のホームの様な気になってしまった。」

「ではまた荷積み作業の監督が待っておりますな。」

「まあ、まだ3週間もあるんだし、そこまで急がなくてもいいわよ。」

 

 船長2人の会話を聞きつつ、キースは他の惑星からの商品を荷降ろしする2隻のユニオン級降下船を眺めていた。

 

 

 

 オーバーゼアー城の司令執務室でキースは、1通の通信文を眺めていた。これはコムスターのHPG通信で、ライラ共和国首都惑星ターカッドから送られてきた物である。

 

(……「チュウトンニンムカンリョウシダイ、キンリンワクセイへノキュウエンニンム、カノウセイタカシ。ソノツモリデ、ジュンビサレタシ。」か、ふむ。駐屯任務完了しだい、近隣惑星への救援任務、可能性高し。そのつもりで、準備されたし。……とはねえ?やれやれ、恒星連邦へ帰るのは、もっと先になりそうだな、こりゃ。)

 

 キースはおもむろに部隊編成表を取り出す。

 

(……救援任務となると、場合によってはメックでの強襲降下をしなくちゃならないけどな。だけどなあ……。第1中隊は技量の程から言って、充分間違いなしに降りられる。第2、第3中隊も練度は上がって来てるから、そう心配は無い。万が一降下に失敗しても、目標地点からずれた場所に降下してしまう程度で済むだろう。……オーバーゼアー城のシミュレーターが使えるうちに、みっちり大気圏への強襲降下を練習させとこう。

 問題は第4中隊か。指揮小隊は全く問題ないが、火力、偵察の両小隊は未だ技量が不安だな。第4中隊は、レパード級で降ろそう。……となると、この惑星を出る時からレパード級に載せておいた方がいいよな。第4中隊は各小隊毎にレパード級3隻に分乗だ。

 第1中隊は、フォートレス級ディファイアント号、第2中隊はユニオン級ゾディアック号、第3中隊は同級エンデバー号、訓練生部隊はメックだけユニオン級レパルス号に載せて、訓練生たち本人はディファイアント号に乗せて旅の間もみっちり教育と訓練しないと。)

 

 そしてキースは、傍らで仕事をしているジャスティン少尉に声を掛ける。

 

「ジャスティン少尉、城外演習場及び城内シミュレーター設備の、今後の使用予定を見せてくれ。」

「はっ。了解です、少々お待ちください。」

 

 ジャスティン少尉はすぐさま要求された書類を集めて、司令執務机まで持ってくる。キースはそれを精読し、少し考えた後で言う。

 

「あと2週間そこらで我々はこの惑星を撤退することになる。だがその直後に急な任務が入る可能性があるらしい。今後の城外演習場とシミュレーターの使用予定を押さえてくれ。

 城外演習場はできる限り第4中隊の訓練に使う。第2、第3中隊の面々にはシミュレーター室を占領させて、強襲降下の模擬演習をみっちりとやらせる事にする。……第1中隊が訓練不足になるか。第1中隊は、数は少ないが降下船に乗せてあるシミュレーターを交代で使わせよう。今は第2から第4中隊の練度を上げる事が大事だ。

 それと推進剤の手配を。気圏戦闘機隊の訓練密度を上げる。アロー中隊はさほど心配は無いが、ビートル中隊が未だ不安だ。徹底的な模擬空戦を繰り返し行わせる。」

「はっ。即刻手配します。」

「それと……。ああ、いやいい。今言った事を即刻頼む。こっちは自分でやる。」

 

 キースは内線電話機に手を伸ばし、指令室へ電話を掛けた。すぐに相手が出る。

 

『はい、こちら指令室。』

「こちら司令執務室、キース中佐。アーリン大尉か。ヒューバート大尉とケネス大尉、マイク中尉にヘルガ中尉を呼び出して、一緒にこっちまで来てくれ。今後の訓練計画について話がある。その間、指令室は他の士官に任せてくれ。」

『了解です。館内放送で皆を呼び出したら、すぐに向かいます。』

「頼んだ。」

 

 そして各メック部隊中隊長、気圏戦闘機隊中隊長を呼び出す館内放送が鳴り響き、しばらくした後で机上の内線電話機がインターホンモードで鳴った。

 

「誰か?」

『アーリン大尉です。ヒューバート大尉、ケネス大尉、マイク中尉、ヘルガ中尉も一緒です。』

「待っていた、入室を許可する。」

 

 アーリン大尉たちが入室し、敬礼をよこして来る。キースとジャスティン少尉も答礼を返した。キースは早速、本題に入る。

 

「ライラ共和国首都惑星ターカッドよりHPG通信によるメッセージが来た。まだ可能性の段階だが、この駐屯任務が終了しだいに『SOTS』には近隣星系への救援任務が割り振られるらしい。可能性とは言っても、ごく高い模様だがな。

 そこでそれに備え、第2、第3中隊の面々にはシミュレーターで大気圏への強襲降下訓練を時間の許す限り、何度も行って欲しい。シミュレーター室はジャスティン少尉に押さえてもらっている。……少尉?」

「はっ。問題無くシミュレーター設備の空き時間を押さえました。」

「了解です。第2中隊は惑星への強襲降下訓練を行います。」

「同じく了解です。第3中隊はシミュレーターにて、強襲降下の訓練を行います。」

 

 ケネス大尉がキースに質問を投げかける。

 

「第4中隊は未だ練度が低く、大気圏への強襲降下は不安が残りますが……。」

「うむ、第4中隊はレパード級3隻で降下してもらうつもりだ。だから第4中隊には降下の訓練ではなしに、通常の実機訓練を徹底的に行って欲しい。これもジャスティン少尉が、城外演習場を押さえてくれている。後ほど訓練計画を提出してくれ。

 ああ、第4中隊はだから本来予定していたユニオン級レパルス号ではなしに、レパード級3隻に乗ってもらう事になるからな。この惑星からの撤退準備をそろそろ開始していると思うが、各自の荷物はレパード級3隻に積む様に通達してくれ。どの小隊がどのレパード級を使うかの選択は貴官に任せる。」

「はっ!了解です!」

 

 次にキースは、マイク中尉とヘルガ中尉に向き直った。

 

「マイク中尉、ヘルガ中尉。気圏戦闘機隊の調子はどうか?特にアロー5とアロー6、ビートル3からビートル6の事を聞きたいんだが。」

「アロー5のフョードル少尉も、アロー6のバウマン少尉も、今のところ何とか俺たち先任の機動にくらいついて来れる程度っす。だけど、何とか、でしか無いっすね。ミケーレ少尉のアロー3、コルネリア少尉のアロー4と各々ペアを組ませて、フォローしてもらう事を考えてるっす。」

「オーギュスト、ユーリー、キアーラ、アンジェル各少尉は、並より多少マシな技量です。ですが逆に言えばその程度でしかありません。変則的な3機編隊を組み、自分とアードリアン少尉を各々の編隊長として、彼らをカバーする事を提案します。」

 

 キースは頷く。そして彼は、マイク中尉とヘルガ中尉に命じる。

 

「その方針でやってもらって構わない。それと今ジャスティン少尉が、追加の推進剤を手配してくれている。たっぷり使って構わないから、模擬空戦を何度も繰り返して、少しでも彼らの技量を上げる様にしてくれ。後ほど訓練計画を提出する様に。」

「「了解!!」」

「では諸君、行動に移ってくれ。では解散!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

 一同は敬礼をする。キースとジャスティン少尉は答礼をした。そして彼らは、早速行動に移ったのである。

 

 

 

 キース達第1中隊の面々は、城外演習場にて実機による連携訓練を行っていた。城外演習場は、第4中隊に優先的に使わせる事が決まっていたが、さすがにずっと機体に乗りっぱなしと言うわけでも無い。だいたい、精鋭である第1中隊も腕を鈍らせないための定期的な訓練は必要であるのだ。それ故に演習場の空き時間を利用して、第1中隊も実機訓練を行っていた。

 偵察小隊のD型フェニックスホークの動きが遅れた。キースの怒声が響く。

 

「偵察小隊!エドウィン伍長の動きが鈍いぞ!」

『了解!エドウィン伍長、貴様何をやっているか!』

『も、申し訳ありません!!』

 

 偵察小隊は、第1中隊の内で最も練度が低い。特に訓練生から昇格してさほどの時が経っていないエドウィン伍長とエルフリーデ伍長は、命令通りに動くことは出来ても、命令無しに指揮官の意図を読んで動く事は、未だ不得手だ。小隊長のジーン中尉も、少々苦労している。だがしかし、単純な技量その物であれば彼らもなかなかの物になって来ていた。

 その時、大空を12機の気圏戦闘機が舞う。A中隊アローとB中隊ビートルに分かれて、模擬空戦をやっているのだ。アローは3個の2機編隊に、ビートルは2個の3機編隊に分かれて丁々発止の戦いを繰り広げる。ただし、やはりビートル側は技量で劣るため、不利な様だ。

 キースは第1中隊全機に回線を繋ぎ、通信を入れた。

 

「……本日の訓練はこれで終了とする。だが火力小隊『機兵狩人小隊』のイヴリン軍曹はディファイアント号の、偵察小隊のエドウィン伍長、エルフリーデ伍長はゾディアック号のバトルメックシミュレーターを用い、大気圏への強襲降下訓練を積んで置く様に。」

『『『『『『了解!!』』』』』』

「ではメックを整備棟に戻す。各員速やかに整備兵に機体を引き渡すように。」

 

 キースはマローダーの機体を城門に向けて歩かせる。と、城門が開いて第4中隊のバトルメックが歩み出て来た。先頭に立っていたウルバリーンがキース機に向かい、敬礼を行う。残りの機体も、それに倣った。キース以下、第1中隊の機体も答礼を返す。

 

『訓練お疲れ様でした、キース中佐!』

「うむ、貴官もこれからだろう。ご苦労、ケネス大尉。では俺は戻る、頑張ってくれ。」

『はっ!ではこれにて失礼します!』

 

 ケネス大尉のウルバリーンと、それに続いて第4中隊のバトルメックが、城外演習場に向けて進んで行く。キースは入れ替わりで城内に乗機を歩み入らせた。

 

 

 

 ここはオーバーゼアー城の司令執務室。惑星撤退に備え、ここの荷物も少しづつ運び出され、フォートレス級ディファイアント号へと移されている。そんな中、キースはそこそこ大量の書類に取り組んでいた。ライラ共和国からのHPG通信メッセージを受け取ってから、訓練スケジュールを詰めたために、訓練関係の書類が増えたのである。

 そんな中、内線電話が鳴る。副官ジャスティン少尉が受話器を取った。

 

「こちら司令執務室。……了解。キース中佐、外線電話が入っております。トゥール・メランダー首相からです。お繋ぎしますか?」

「む、こちらの卓に繋いでもらってくれ。」

「はっ。……了解が取れた。こちらに外線を繋いでくれ。」

 

 程なく電話が繋がり、呼び出し音が鳴る。キースは受話器を取った。

 

「お待たせしました。こちらキース・ハワード中佐です。」

『おお、ハワード中佐。いつぞやぶりだね。この前は、航宙艦と商用降下船の派遣の件で、ずいぶん手間をかけさせてしまったね。』

「いえ、この惑星のためになる事ですので。」

『はっはっは、そう言ってくれるとありがたいよ。』

 

 メランダー首相は上機嫌だ。それはそうだろう、農産物の星系外への輸出が好調なおかげで惑星の経済が上手く回る様になり、一般庶民の暮らしも上向きなのだ。それは巡り巡って、惑星政府や首相の懐を潤す結果にもなる。首相も結局の話、先祖代々から頭首が首相を務める家系であり、貴族階級なのだ。惑星政府の財布と首相の財産の境目は、ぶっちゃけ曖昧である。その他にも彼は個人で、農産物の星系外への輸出を請け負う商社を持っている事でもあるし。

 ここでメランダー首相は本題に入る。

 

『ところで、ハワード中佐に借りを返しておかねばならんと思っておったのだが、中々良い機会が無くてなあ。だがつい最近、丁度良さそうな話が舞い込んで来たのだよ。私の星系外の友人がな、破産して解散した傭兵部隊の装備一式を、安く買い叩……ごほん、おほん、まあリーズナブルな値段で入手できたそうなのだ。で、その装備品の中から、メックや戦車以外の物ならば安価に譲ってくれると言うのだよ。何やら希少な品もあるらしくてな。その仲介をすると言う事で、どうかね?借りを返す事にはなるかね?』

「ほう?それは興味深いお話ですね。希少な品と言うのは何でしょうか?」

『うむ、目録には色々あるが……。メック修理用の機材はそのままその友人が所有しておきたいそうで、目録には載っておらんが、他にも色々あるよ。たとえば……。』

 

 メランダー首相は電話口で目録を読み上げる。メランダー首相の言葉のある所で、キースの眼が光った。

 

「MASH?機動病院車があるのですか?」

『む?おお、そう書いてあるね。ええと、完動品、程度上、核融合エンジンタイプ、手術台数7、武装取り外し済み、とある。価格は……。』

 

 MASHは既にキースの部隊では1台保有しているが、部隊を分割して戦う場合など、2か所にMASHを置けると言うのは非常に安心できる。それに軍医であるキャスリン軍曹が教育した結果、今部隊には彼女の他にキム・バスカヴィル軍曹など、高い医療技術の持ち主が複数名存在する。

 キースは頭の中で、現状自由に使える資金を計算する。先月に2隻の降下船が商用航宙から帰還しているため、一応余裕は充分だ。

 

「その機動病院車、うちの部隊で購入しましょう。その価格であれば、充分購入可能です。貸しとは思っておりませんでしたが、充分に返していただいた事になりますよ。」

『おお、そうかね!やれ、これで肩の荷が降りたよ。……中佐の部隊がここの惑星を撤退するまで、そう日が無いからね。借りを作ったまま行かれてしまうのでは無いかと思っておったんだ。近日中に秘書をそちらに向かわせるよ。契約書を作ろう。』

「お願いいたします。」

『では今回はこの辺で失礼するよ。ではな、ハワード中佐。』

「はっ。メランダー首相。」

 

 電話は切れた。キースは考える。

 

(1台目はキャスリン軍曹に任せるとして、2台目はどうするかな。やっぱりキム軍曹あたりの専属とするか。小口径レーザーを取り外している非武装車だと言う事だが、MASHならば問題はあるまい。)

 

 キースはジャスティン少尉に、自由執事ライナーを呼ぶように伝えた。部隊の財布を預かるライナーには、今回ちょっと余計な買い物をした事を話しておかなければならない。まあ買った物がMASHだから、怒られはしないだろう。たぶん、きっと。

 

 

 

 司令執務室に各メック中隊の中隊長と気圏戦闘機隊の各中隊長、整備中隊中隊長に機甲部隊戦車中隊中隊長、歩兵中隊中隊長、偵察兵分隊暫定隊長、自由執事など部隊の幹部+αを集め、キースはおもむろに口を開いた。

 

「ライラ共和国首都惑星ターカッドより、正式な通達が船便で送られて来た。これによると、我が『SOTS』との契約を更に半年更新、延長し、今度は近隣惑星のソリッドⅢに味方増援部隊として救援に向かって欲しい、との事だ。敵を撃退できたなら、残りの期間は惑星守備隊としてソリッドⅢに駐屯する事になる。

 ただし、この惑星を空けるわけにもいかん。予定通りに後任の『エフシュコフ剛腕隊』が惑星に到着したら任を引継ぎ、この惑星を出立する。なおライラ共和国と恒星連邦の間での調整と話し合いはちゃんとついているとの事だ。恒星連邦への帰還は、半年かそれ以上先になる、と言う事だな。

 現在ソリッドⅢに駐屯している味方部隊は傭兵大隊『アリオト金剛軍団』だが、現状1個中隊ほどに討ち減らされているらしい。しかしなんとか籠城して、持ちこたえているとの事だ。敵は『第25ラサルハグ連隊C大隊』……。増強大隊で、1個大隊と1個半中隊の戦力を持っているらしい。」

「『エフシュコフ剛腕隊』ですか?戻って来るんですね。」

 

 第2中隊中隊長、ヒューバート大尉が感慨深げに言う。キースは頷いた。

 

「ああ。後方での休養、補充と再編成を終えて戻って来る。と言うか、もうこの星系のジャンプポイントにはとっくに到着して、現在こちらに向けて降下中だ。2、3日中には降りて来る。……オーバーゼアー城の離着床はうちの降下船で満杯だから、うちの降下船が発進するまでは民間の宇宙港に降りてもらう事になるな。」

「半年の契約延長と言う事ですが、契約終了時に支払われるはずの契約報酬の残金はどうなりますか?」

「それは大丈夫だ。この惑星ネイバーフッド撤退時に、いったんきちんと支払われる。予定通り、バトルマスターやフェニックスホークの予備部品も注文できるから、上手くすればちょうどソリッドⅢ到着からさほど間を置かずに、向こうの惑星に部品が着く事になるな。……それまでに惑星の制宙権、制空権を取っておかねばならないと言う事でもあるが。」

 

 自由執事ライナーの質問に、キースは答える。付け加えられた言葉に、上級整備兵であり整備中隊中隊長であるサイモン老も、安堵の様子を見せた。補充部品の充実は、大事な案件であるからだ。ここで気圏戦闘機隊の最先任である、マイク中尉が質問を投げかける。

 

「隊長、制宙権、制空権は完全に敵に取られてるんすか?」

「残念ながら、な。確認されているのはシロネ戦闘機4、スレイヤー戦闘機6だそうだ。敵の降下船はユニオン級が5隻だそうだから、おそらくはこの10機以外いないと思われるが……。『アリオト金剛軍団』からの報告では、保有していた気圏戦闘機5機が倍の敵に果敢に立ち向かったが、4機が撃墜され、1機が降伏して敵の捕虜になったとの事だ。」

「ボロボロっすね。敵機は1機も欠けてないんすね?」

「そうらしい。気圏戦闘機隊の新入りたちは大丈夫か?」

 

 マイク中尉は少しばかり考えたが、顔を上げて頷く。

 

「腕前のほどは、最近の扱きで上がってるっす。ちゃんと先任たちの機動にも付いてこれるようになってるっすよ。後はベテラン連中がどれだけフォローしてやれるかですが、A中隊……アロー中隊は新入りの数が少ないからまず大丈夫っす。B中隊は……ヘルガ中尉?」

「ビートル……B中隊は新入りの数が多いのですが、今のところの例外的3機編隊2組による運用を続ければ、自分とアードリアン少尉共々なんとかフォローしてやれる自信はあります。」

「了解した。予定通りメック部隊が強襲降下する前に、可能であれば敵の全気圏戦闘機を排除しておきたい。マイク中尉、ヘルガ中尉、頼んだぞ。」

「「了解!!」」

 

 その後キースは、『アリオト金剛軍団』の報告をもとに、各員と検討を行った。だがしかし航宙には時間がかかるため、惑星ソリッドⅢに到着するのは約半月後である。今のところは大まかな戦いの方針を決めるぐらいしかできなかった。

 

 

 

 民間宇宙港ファーポートに、2隻のユニオン級降下船が着陸していた。半年前、この惑星を離れた『エフシュコフ剛腕隊』の所有降下船である。キースはジープで、『エフシュコフ剛腕隊』に対する挨拶に出向いていた。運転手は無論、副官のジャスティン少尉である。

 キースは宇宙港の建物にある喫茶店で、『エフシュコフ剛腕隊』部隊司令ヴィクトール・ワディモヴィチ・エフシュコフ少佐を待っていた。やがて半年前にわずかだけ見覚えのある、ヴィクトール少佐ともう1名の姿が喫茶店に入って来るのが見えた。キースとジャスティン少尉は立ち上がる。ヴィクトール少佐ともう1名は、キースたちに敬礼を送る。キースたちも答礼を返した。

 ヴィクトール少佐は口を開く。

 

「久しい、ああいや、お久しぶりですな、ハワード中佐。昇進なさったのでしたな。」

「ああ、エフシュコフ少佐、久しぶりだ。貴官も壮健そうで何よりだ。……以前、敬語で話していた人物に、逆に敬語を向けられると何やらこそばゆいな。こちらが敬語を使わないのも、気がひける。」

「いや、こう言う事はきちんとしておかんといけませんからな。ああ、こちらはうちの次席指揮官、第2中隊中隊長のザカライア・ファイアストン大尉です。」

「ザカライア・ファイアストン大尉です。お見知りおきください。」

 

 ザカライア大尉は生真面目そうな顔で挨拶する。キースも挨拶と、ジャスティン少尉の紹介をした。

 

「短い間だが、よろしくお願いする、ファイアストン大尉。こちらは大隊副官のジャスティン・コールマン少尉。」

「ジャスティン・コールマン少尉です!よろしくお願いします!」

「よろしくの、コールマン少尉。」

 

 ヴィクトール少佐は、にこやかにジャスティン少尉に笑いかける。キースはジャスティン少尉に、用件を話す様に促した。

 

「ジャスティン少尉、そろそろ頼む。」

「はっ!エフシュコフ少佐、ファイアストン大尉、これからの事をご説明申し上げます。」

「うむ。」

「了解だ。」

 

 ジャスティン少尉は内ポケットから手帳を取り出して、読み上げる。

 

「明日の朝08:00時、『SOTS』のユニオン級降下船ゾディアック号、同級エンデバー号、同級レパルス号が先んじて発進いたしますので、空いたオーバーゼアー城付属の離着床に、『エフシュコフ剛腕隊』のユニオン級降下船モンタナ号、同級テネシー号を移動願います。

 その後、惑星守備隊の指揮権を『SOTS』部隊司令ハワード中佐より『エフシュコフ剛腕隊』部隊司令エフシュコフ少佐に移譲。12:00時、残りの『SOTS』全降下船が発進。『SOTS』は惑星ネイバーフッドを撤退いたします。

 なおその日の夕刻18:00時より『エフシュコフ剛腕隊』の歓迎パーティーが、トゥール・メランダー首相主催で首都ディスプレイスのマグニフィシェント・ホテル第1ホールで行われます。士官級メック戦士は可能な限り出席が望ましいとの事です。」

「パーティーか……。正直苦手なんですが……。」

「そうもいくまい、ザカライア大尉。クリタ家の奴らと戦っておった間はパーティーどころでは無かったがの、今後は惑星政府とのこう言う付き合いもずっと増えるであろうよ。」

 

 ヴィクトール少佐の言葉に、ザカライア大尉は苦虫を噛み潰した様な顔になる。キースは同情心を覚えるが、実の所他人ごとでは無いのだった。まあキース自身は、ある程度割り切ってもいるのだが。

 

 

 

 そして翌日、キースは司令執務室でヴィクトール少佐と対面していた。

 

「……半年前とは、立場が逆になったな。」

「そうですな。自分としては、自身の手でクリタ家の奴らをこの星から追い出せなかったのが残念でもあり、奴らを撃滅してくださった事がありがたくもあり……。正直複雑ですなあ。」

「いや、エフシュコフ少佐と『エフシュコフ剛腕隊』の薫陶が行き届いていたおかげで、ドラコ連合のスパイがこのオーバーゼアー城に入り込む隙が無かった。それ無くばこの成果は無かったとも。」

 

 ヴィクトール少佐は笑う。

 

「ははは。そう言っていただけると、やはり嬉しい物ですなあ。」

「さて……。そろそろ時間だ。着任を歓迎する、惑星守備隊新司令官、ヴィクトール・ワディモヴィチ・エフシュコフ少佐。」

「ありがとうございます、『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐。」

 

 2人は、半年前の様に固く握手を交わした。

 

「執務机の鍵や引継ぎ書類は、執務机の一番上の引き出しの中だ。……貴官とその部隊に武運のあらん事を。」

「自分もハワード中佐と『SOTS』の武運を祈っております。」

 

 そして2人は互いに敬礼を交わす。ヴィクトール少佐はそのまま執務机に着き、キースは扉を開けるとそのまま降下船ディファイアント号へ向かった。今ここに、キースと『SOTS』の惑星ネイバーフッドにおける戦いは終わった。

 次なる舞台は、惑星ソリッドⅢ……惑星ネイバーフッドよりもドラコ連合の領域に近い、かつての工業惑星であり、継承権戦争における破壊からの復興途上に、再度ドラコ連合クリタ家の軍勢に襲われた惑星であった。




これにて、惑星ネイバーフッド、著者渾身のオリジナル星系のオリジナル惑星上での戦いは終了いたしました。主人公たちは、次なる星での戦いに身を投じます。
その星の名は……。
惑星ソリッドⅢ!!著者渾身のオリジナル星系のオリジナル惑星です!(爆)……主人公、頑張ります。よろしく応援のほどを。


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『エピソード-058 ソリッドⅢ降下』

 ソリッドというG5Ⅳ型の恒星を廻る星系の、天の北極方向に存在するジャンプポイントたるゼニス点に、今3隻の航宙艦がジャンプアウトして来た。1隻目はマーチャント級航宙艦クレメント号、2隻目はインベーダー級航宙艦イントレピッド号、3隻目が同級ズーコフ号である。この3隻は、キース率いる混成傭兵大隊『SOTS』と専属契約を交わしている航宙艦だ。事実上、『SOTS』所属艦と言って良いだろう。

 イントレピッド号にはユニオン級降下船が3隻、ズーコフ号にはレパード級降下船が3隻、そしてクレメント号にはフォートレス級降下船1隻がドッキングし、この星系に運ばれて来ていた。しばらく時間が経過した後、各降下船は各々の航宙艦からドッキングアウトし、この星系の人類居住惑星であるソリッドⅢへと降下を開始する。ジャンプポイントからソリッドⅢへの行程は、おおよそ連盟標準時で6日間であった。

 そして降下開始後4日が経過した頃、その降下船のうち1隻であるフォートレス級ディファイアント号では、キースとアンドリュー曹長、エリーザ曹長の3名が、この船に2台しかないシミュレーターで弟子たちを絞っていた。ちなみに訓練生たちも見学を命じられ、脇に控えている。訓練生たちの面倒を見るのは、マテュー少尉が買って出てくれた。

 キースの怒鳴り声が響く。

 

「馬鹿野郎、惑星の大気圏上層の乱流を甘く見るな!そんなことでは目標地点への降下は不可能だぞ!」

『はいっ!!申し訳ありません!!』

 

 イヴリン軍曹が、叫ぶように返事をする。キースは眉を顰めつつ言った。

 

「これではもはや、目標地点への降下は不可能だ。今回の模擬演習では離れた地点に、せめて無事に降下して見せろ。む、誤差は450kmほどにもなるか……。」

『了解!!』

「あえて厳しい事を言うが、本番でこの様な事になったら、頼れるのは自分だけだぞ。迎えを出す余裕がこちらにあるとは限らんし、貴様の現在位置が判るかどうかすらも不明だからな。」

『はいっ!!』

 

 続けてキースは、イヴリン軍曹に指示を出す。

 

「イヴリン軍曹、地上に着陸するところまでやったら、エドウィン伍長とアンドリュー曹長の組と交代だ。シミュレーターは2台しか無いからな。他の者がやっている間、今回の何が悪かったのか検討しておけ。」

『はいっ!!』

 

 キースは自身の乗ったシミュレーター筐体で、見本として見事な腕前を見せて惑星への降下を成功させた。そして彼はシミュレーターの筐体を降りる。と、ここで壁のインターホンが大きな音を立てて鳴った。ブリッジからの通信だ。エリーザ曹長が、インターホンのスイッチを入れる。

 

「はい、こちら船倉のシミュレーター置き場。エリーザ・ファーバー曹長です。」

『エリーザ曹長、こちらブリッジのマシュー副長。キース部隊司令はいらっしゃるかな?』

「今替わります。」

 

 エリーザ曹長に頷いて、キースは壁のインターホンに歩み寄る。

 

「キースだ。」

『部隊司令、ジャンプポイントの補給ステーションにいる我々の航宙艦イントレピッド号からデータ通信が入りました。惑星ソリッドⅢの地上にある深宇宙通信施設から通信が入ったそうなので、それを転送してきたそうです。データ先頭に、あらかじめ決められた符丁が付けられていますので、まず間違いなく『アリオト金剛軍団』よりの通信だと思われます。』

「『アリオト金剛軍団』は籠城中だったはずだが……。本当に友軍からの通信だろうな?」

 

 マシュー副長ではなく、マンフレート船長がキースの疑念に答えた。

 

『友軍、つまり我々が来援する予定期日に合わせて偵察兵を単独で脱出させ、深宇宙通信施設に送り込んだ様ですな。符丁の事もありますし、一応辻褄は合っておりますが……。』

「……なんでわざわざウチの降下船にじゃなく、ジャンプポイントの航宙艦経由で通信送ってきたんだろうな。」

「深宇宙通信アンテナは基本的に高指向性だから、相手の位置がわかってないと照準が合わないはずですよ。距離が近ければ、無指向性アンテナでも低速通信なら届くはずですけどね。……だったかな?」

 

 アンドリュー曹長の疑問に、マテュー少尉が答える。それを横目に見ながら、キースはインターホンに向かって言葉を発した。

 

「今からブリッジに上がる。データ通信の内容をプリントアウトしておいてくれ。」

『了解です。マシュー副長、頼むよ。』

『はい。では通信終わります。』

 

 インターホンから、接続を切るブツンと言う音が聞こえる。キースは振り向いた。

 

「マテュー少尉、アンドリュー曹長、エリーザ曹長、俺はブリッジに上がる。後は頼めるか?」

「了解です、隊長。」

「まかせとけよ。」

「了解よ、隊長。いってらっしゃい。」

 

 そしてマテュー少尉の号令で、その場の全員がキースに敬礼をする。

 

「隊長に敬礼!」

「「「「「「敬礼!」」」」」」

「うむ、ではな。」

 

 キースは答礼をしてその場を辞し、ブリッジへ上がった。

 

 

 

 キースは結局、その地上からの情報を信頼性が高い物と判断した。と言うより、そう判断して行動せざるを得ない状況であった。『アリオト金剛軍団』の継戦能力はほぼ限界を迎えており、なおかつ『アリオト金剛軍団』が籠城しているアル・カサス城には、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下が逃げ込んでいると言うのだ。そして情報には、アル・カサス城を包囲している敵の大まかな布陣やメック構成なども含まれていた。

 これが敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』が送って来た偽情報であるのならば、その意図はおそらく『SOTS』の降下位置をその情報によりコントロールし、自軍にとって有利な場所に降下させる事であろう。

 だが送られて来た情報を信じなかったとしよう。その場合、普通に降下地点を確保してそこに降下船を降下させ、その後アル・カサス城へ進軍する事になる。その場合、情報が真実であったら下手をすれば時間がかかり過ぎてアル・カサス城は陥落し、惑星公爵は捕虜となるか、あるいは『アリオト金剛軍団』の降下船で惑星脱出する事になるだろう。そうすればこの惑星は敵の物になってしまう。キース達『SOTS』の責任問題にもなりかねない。それは避けたいところだった。

 そして今、『SOTS』の降下船群は惑星ソリッドⅢの軌道上に到達していた。キースは自機である75tの重量級メック、マローダーの操縦席で、考えに沈んでいる。それは軌道到達1日前に行われた作戦会議で、彼が隊員たちに語った事の繰り返しであった。

 

(序盤の軌道上における気圏戦闘機による戦いが重要だな。ここで敵気圏戦闘機を圧倒できれば、地上に降下しても推進剤が無くなるまでは、気圏戦闘機の傘の下で戦う事ができる。そうすれば、もし不利な地点に降下させられても優位を保てる。であれば比較的安心してプランAの賭けに出られるな。

 プランAの賭けは、通信による情報が真実であったと仮定して行動して、アル・カサス城を攻めている敵の総指揮官近傍に強襲降下する手だ。そして電撃的に敵司令部を叩いて、敵全軍を一時アル・カサス城から撤退させてしまおうと言う物。……上手く撤退してくれるかなあ。

 気圏戦闘機が辛勝であったなら、余裕が無くなるよなー。その場合は難しいところだけど……。この場合もプランAで賭けに出ざるを得ないだろうなあ。当初の降下予定地点を強襲降下で占拠してから降下船を降下させ、第4中隊と戦車部隊を降ろして隊列を整えて進軍なんてしてられない。アル・カサス城が陥落したら、どうにもならないんだ。

 もし惜敗以下だったなら、メックによる強襲降下はできないなあ。敵気圏戦闘機を掻い潜って、降下船で地上に降下せねばならないし。降下ポイントはプランBの、敵拠点やアル・カサス城から離れた比較的安全な地点にせざるを得ないよな。アル・カサス城が持ちこたえてくれる事を願って、ゆっくり長距離を進軍するしか無いかあ……。)

『キース部隊司令!こちらブリッジのマシュー副長!敵気圏戦闘機2機が接近中!更に後続として8機が接近中です!』

「ありがとうマシュー副長。ユニオン級降下船ゾディアック号、同級エンデバー号、同級レパルス号、レパード級降下船ヴァリアント号、同級ゴダード号、同級スペードフィッシュ号に通達。気圏戦闘機隊の発進と敵機の迎撃を、俺の名で命じる様に。

 降下船群は、砲撃で味方気圏戦闘機を支援せよ。それと気圏戦闘機隊と俺のマローダー間に、通信回線を構築してくれ。」

『了解!』

 

 そしてキースはしばし待つ。宇宙空間での戦いは、気圏戦闘機の独擅場なのだ。ここではマイク中尉やヘルガ中尉に一切を任せるしか無い。やがて戦果報告が上がって来る。

 

『こちらアロー1、マイク中尉っす!スレイヤー戦闘機を撃墜したっす!』

『アロー2、ジョアナ少尉!スレイヤー戦闘機1機撃墜!』

『こちらアロー3、ミケーレ少尉です!敵シロネ戦闘機をアロー5と共同撃墜!』

『あ、アロー6、バウマン少尉機!敵スレイヤー戦闘機をアロー4と共同撃墜しました!』

 

 戦果報告はまだ続く。

 

『ビートル1、ヘルガ少尉機。敵スレイヤー戦闘機をビートル3、ビートル4と共同撃墜。ビートル3が損傷、被害は軽微。』

『ビートル2のアードリアン少尉です!敵シロネ戦闘機をビートル5、ビートル6と共同撃墜!ビートル6が若干損傷、帰還させる許可を!』

「ビートル6は降下船に帰還せよ!」

 

 キースはすかさず命を下す。そして更に報告が入る。

 

『こちらレパード級スペードフィッシュ号イングヴェ船長!いやっほおおぉぉ!シロネ戦闘機1機撃墜!』

『こちらレパード級ヴァリアント号カイル船長だ!負けんよ!シロネ戦闘機を撃墜だ!』

『び、ビートル3のオーギュスト少尉!もう一発食らいました!り、離脱許可を!』

「ビートル3、ただちに離脱!降下船へ戻れ!」

 

 これで残る敵気圏戦闘機は、スレイヤー戦闘機が2機だ。だがそれも間もなく撃墜される。

 

『アロー4、コルネリア少尉。スレイヤー戦闘機をアロー6と共同撃墜。アロー6が被弾、帰還させたく思います。』

「アロー6、帰還せよ!」

『アロー1、マイク中尉っす!最後のスレイヤー戦闘機をアロー2と共同撃墜したっす!ただ、俺とジョアナは火消し役として飛び回ってたんで、推進剤に余裕ないっす。以後の気圏戦闘機隊の指揮をビートル1、ヘルガ中尉に移譲して、アロー1、2は帰還したいっす隊長!』

「了解だ、アロー1、アロー2、降下船に戻れ!」

 

 キースはヘルガ中尉に命じる。

 

「ビートル1、ヘルガ中尉。気圏戦闘機隊は第1、第2、第3メック中隊の降下を支援。降下後は推進剤に余裕のある間だけ、メック部隊を支援して地上攻撃を行ってくれ。」

『ビートル1、了解。』

 

 気圏戦闘機隊は、アロー6、ビートル3、ビートル6が被弾による帰還で脱落、アロー1とアロー2が推進剤切れで脱落した。しかしまだ、アローが3機、ビートルが4機の計7機残っている。航空支援戦力として使うには、充分だった。キースは決断する。

 

「降下地点はプランAの通りで最終決定だ!第1、第2、第3中隊は敵第1中隊近傍の予定地点A、B、Cにそれぞれ強襲降下、第4中隊を乗せたレパード級3隻は予定地点Dに降下し、フォートレス級ディファイアント号とユニオン級3隻の降下地点を押さえろ!

 第1から第3中隊の各小隊長は隊員の降下準備を確認し、直属の中隊長に報告せよ!その後第2、第3中隊中隊長は俺に降下の可否を報告!第1中隊指揮小隊、降下準備は!」

『こちらマテュー少尉、降下準備よろし!』

『こちらはアンドリュー曹長、いつでも降下オッケーだ、隊長!』

『こちらエリーザ曹長、あたしも準備OK!』

 

 第1中隊の指揮小隊は準備万端整っている。その報告から僅かに間を置いて、第1中隊の火力、偵察両小隊小隊長より報告が入った。

 

『こちらサラ中尉待遇少尉。火力小隊『機兵狩人小隊』降下準備よろし。』

『こちらジーン中尉。偵察小隊、降下準備よし!』

 

 更に船の通信設備を介して、ユニオン級ゾディアック号と同級エンデバー号より、第2中隊と第3中隊からの報告が来る。

 

『こちらヒューバート大尉。第2中隊降下準備よし。』

『こちらアーリン大尉。第3中隊も降下準備よろし。』

「よし……。ゾディアック号アリー船長、エンデバー号エルゼ船長!第2、第3中隊の射出を任せる!ブリッジ、マンフレート船長!マシュー副長!第1中隊の射出は任せた!」

 

 一斉に各船長、副長らの応答が聞こえる。

 

『『『『了解!部隊司令!』』』』

『副長、射出のカウントダウン開始だ!』

『了解!カウントダウン開始します!60秒前!……30秒前!……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』

 

 次々に、降下殻に包まれた『SOTS』のバトルメックが、大気圏上層部に向けて射出される。気圏戦闘機隊がその後に続いて、大気圏突入を開始した。更にその後をレパード級3隻が追う。フォートレス級ディファイアント号と、ユニオン級3隻は、その更に後をゆっくりと大気圏に突入して行った。

 

 

 

 キースのマローダーは、機体に取り付けられた制動ジェットを噴かして目標地点へ着陸するや、制動ジェットをパージして身軽になる。彼の機体から600m弱の距離に、敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』の第1中隊が集結しているのが見えた。敵はキース達の強襲降下に慌てふためき、長距離ミサイルを打ち上げて来るが1発も命中弾は無い。

 敵は1個大隊プラス1個半中隊の増強大隊であったが、そのうち1個半中隊を別の拠点に置き、1個大隊でアル・カサス城を包囲していたのである。そしてその1個大隊だが、アル・カサス城の間接砲の照準を散らす目的もあり、1個中隊ごとに分散して東、西、北の3方向から城を攻めていたのだ。ちなみに敵の第1中隊は東に位置している。

 キースは機体のセンサーで、『SOTS』第1中隊が全機無事に降下完了している事を確認すると、大声で叫ぶ。

 

「各中隊!降下の成否や如何に!?」

『第2中隊、全員無事です!』

『第3中隊も全員無事降下完了!』

 

 2つの意味で、キースは安堵した。1つは降下に失敗した者が出なかった事、もう1つは敵の配置が情報通りであった事だ。これでジャンプポイントから惑星ソリッドⅢへの移動中に受け取った情報が、敵のミスディレクションである可能性はまず無くなった。

 そして『SOTS』第1から第3中隊は、敵第1中隊を……敵の総指揮官を今現在、半包囲の状態に置いているのである。あえて完全包囲下に置かなかったのは、敵に逃げ道を用意してやる事で、心理的に逃走し易くしてやる意図がある。

 キースは再度叫んだ。

 

「第1、第2、第3中隊前進!訓練通りにフォーメーションを組みつつ、包囲の輪を縮めろ!」

 

 そう言いつつ、キースは機体を前進させる。それを追い抜いて、マテュー少尉のサンダーボルトとエリーザ曹長のウォーハンマーが前に出る。キース機の横には、アンドリュー曹長のライフルマンが並んだ。キースは直下の指揮小隊に、命令を下す。

 

「この距離で当たり目があるのは俺たちぐらいだろう。第1中隊指揮小隊、目標敵指揮官機と見ゆるマローダー!射撃開始!」

 

 そしてキースのマローダーから、粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノン1門が同時に発射される。アンドリュー曹長のライフルマンからも、中口径オートキャノンの砲弾が2発撃ち放たれた。エリーザ曹長のウォーハンマーは、両腕の粒子ビーム砲を発砲する。マテュー少尉のサンダーボルトは、15連長距離ミサイル発射筒から盛大にミサイルを打ち上げた。

 敵の無意味に森林迷彩で塗られたマローダーと、その周囲の同じく森林迷彩のウォーハンマーにドラゴン2機が、長距離兵器を射撃して来る。狙いは先頭で走っているマテュー少尉のサンダーボルトだろう。だが遠すぎる事と、マテュー少尉が機体を全力で走らせている事もあり、1発も命中弾は無い。

 逆に、『SOTS』側の射撃は、その全弾が敵マローダーに命中した。そのうち致命的だったのは、頭部に中ったキース機の撃った中口径オートキャノンと、マテュー少尉機の撃った長距離ミサイルのうち2本、左脇腹に中ったエリーザ曹長機の撃った粒子ビーム砲1発と、マテュー少尉機の撃った長距離ミサイルのうち10本だろう。

 頭部に中った攻撃は、衝撃でメック戦士を負傷させ、左脇腹に中った攻撃は、装甲を食い破って中に収められていた中口径オートキャノンの弾薬に引火した。爆炎が吹き上がる。メック戦士……『第25ラサルハグ連隊C大隊』大隊長と思しき人物は、かろうじて吹き飛ぶ寸前の機体から脱出した。だが彼は、頭から地面に落着する。その首が明後日の方角を向き、彼はぴくりとも動かなくなった。

 マテュー少尉が小さく言葉を漏らす。

 

『……やり過ぎましたかね。退却命令を出す人物がいなくなりましたよ。徹底抗戦されるかも知れませんね。』

「事故はいつも起こり得るものだ。それより次はあのウォーハンマーを狙え!こうなったら、徹底的に叩いて潰走させるぞ!」

 

 キースの檄に、気を取り直した第1中隊指揮小隊は砲火を敵のウォーハンマーに集中させる。その機体は、片足が折り取られて地面に崩れ落ちた。更にキースは叫んだ。

 

「『機兵狩人小隊』!!敵の火力小隊のK型アーチャーを狙え!2機いるから、どちらか片方に攻撃を集中させろよ!どちらを狙うかは、任せる!」

『『『『了解!!』』』』

「偵察小隊!敵偵察小隊のグリフィンを狙え!敵は混乱して、隊列を乱している!後方に下がられる前に潰してしまえ!」

『『『『了解!!』』』』

 

 見ると、第2中隊も第3中隊も、そろそろ良い距離まで接近しており、砲火を撃ち放っている。特に凄腕の各指揮小隊は、既に1機ずつ敵メックを倒している。敵の応射で若干のダメージを受けた機体もいる様だが、それらの損傷も軽度だ。

 キースは気圏戦闘機隊を投入すべきか考えた。だが気圏戦闘機隊の残存推進剤量には不安がある。その戦力は、ここぞと言う時に投入する様にしたい。と、その気圏戦闘機隊ヘルガ中尉から報告が入る。

 

『こちらビートル1、敵の第2、第3中隊がそちらに向かっています。城攻めを中断し、敵第1中隊を救援に向かっている物と思われます。敵第3中隊が先に到着します。』

「了解だヘルガ中尉。いったん合流せずに、中隊毎にばらばらに来るか。各個撃破の危険よりも、時間を取ったのか。

 こちらは……。いや、今残敵が包囲をわざと開けていた場所から逃走を図っている。追い撃ちはするが、とりあえず逃がしてやるとしよう。

 全機に告ぐ!逃げる敵の背に、追い撃ちの一撃を与えたら陣形を再編する!」

 

 『SOTS』のメックが、逃げる敵第1中隊の残存兵力を撃つ。また1機のK型ウルバリーンが擱座したが、残りはなんとか逃げていった。

 ここで第4中隊から報告が入る。

 

『こちらケネス大尉。第4中隊は指定D地点に、レパード級3隻により降下完了しました。現在『SOTS』の降下船を降下させるため、D地点周辺を確保しております。』

「ケネス大尉、フォートレス級ディファイアント号が降下完了したら、それに載っている戦車部隊と交代して第4中隊はこちらと合流する様に。」

『了解です。』

 

 そう言っている間にも第1、第2、第3中隊は、城の北側から回り込んで来る敵第3中隊を迎え撃つ態勢を整える。城の西側に配置されていた敵第2中隊は、未だ到着まで若干の時間がかかる物と思われる。敵第3中隊が全速力で向かって来るのが見えた。だが既に自分たちの味方が敗退しているのを見て取るや、敵は動きを止める。双方の距離は未だ遠い。

 

「来るか?いや……。こちらから行く!各機、前進!攻撃再開だ!気圏戦闘機隊は敵中央指揮小隊らしきやつらの、K型アーチャー2機を潰せ!第1中隊指揮小隊、敵中隊指揮官機と見ゆるサンダーボルトを狙うぞ!」

 

 若干の損傷機があるとは言え、こちらは敵の3倍の戦力である。ましてや敵にも損傷機は多数見て取れる。おそらくは城攻めでダメージを負ったのだろう。今のうちにできるだけ敵を叩き、戦果を拡大すべきであった。

 

 

 

 敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』の第3中隊が、必死になって逃げていく。『SOTS』は一応追い撃ちとして、長距離兵器で砲撃を加えているが、確実な命中が見込めるのは第1中隊指揮小隊ぐらいだ。同中隊の火力小隊である『機兵狩人小隊』に、第2、第3中隊の指揮小隊まではなんとか時おり命中弾を与えているが、残りの面々は流石に遠距離で全力走行している敵には命中の目が無い。

 敵の指揮官機であるサンダーボルトが、最後方で殿を務めていたが、それまで散々にキース達から狙われて、自慢の装甲もあらかた剥がされている。その機体で持ちこたえようと言う方が間違いだ。ついに右腕と左脚を吹き飛ばされて、大地に倒れ伏す。

 ここで城中より、焦げ茶色の塗装を施された、『アリオト金剛軍団』の部隊エンブレムを付けた1個中隊弱のバトルメックが出撃して来た。だが少しばかりタイミングが遅い。そしてそれと時を同じくして、『SOTS』の第4中隊も、左手にある丘の稜線を越えて来るのが見える。

 推進剤が足りなくなり、離脱して高高度に退避した気圏戦闘機隊のヘルガ中尉から、報告が来た。

 

『敵第2中隊はそちらへの移動を中止し、撤退を開始。おそらく目的地は、敵占拠下にある『サンタンジェロ城』と思われます。』

「了解だ、ヘルガ中尉。」

 

 キースは隊内回線だけでなく、一般回線も繋ぐと、『SOTS』全機に向けて命令を下す。一般回線も繋いだのは、『アリオト金剛軍団』にも聞かせるためだ。

 

「撃ち方止め!脚が折れただけで、戦闘能力を残している敵に充分注意せよ!ヒューバート大尉、取り残された敵に対し降伏勧告を。フォートレス級ディファイアント号マンフレート船長、歩兵中隊をこちらに寄越してくれ。捕虜を取る。」

『了解、キース中佐。』

『了解です、部隊司令。』

 

 キースは『アリオト金剛軍団』の焦げ茶色のマローダーに、ゆっくりと自機を歩み寄らせた。同型機ではあるが、キース機は他の『SOTS』機同様、今回の作戦では砂漠迷彩にしている。塗装の違いもあってか、その雰囲気は随分と違う。キースは一般回線を使って相手のマローダーに話し掛ける。

 

「自分はライラ共和国より派遣された救援部隊の部隊司令、キース・ハワード中佐。貴官は『アリオト金剛軍団』指揮官で間違い無いか?」

『間違いありません。傭兵大隊『アリオト金剛軍団』第2中隊中隊長、クリフ・ペイジ大尉です。現状、小官が『アリオト金剛軍団』の指揮を暫定的に執っております。』

 

 そう、彼クリフ・ペイジ大尉は暫定的ではあるが、『アリオト金剛軍団』の指揮官だ。だが暫定的と言う事は、本来の指揮官ではない事になる。実際、彼の階級は大尉だ。大隊指揮官は少佐から中佐である。では本来の指揮官はどうしたのかと言うと、その答えも『SOTS』が惑星ソリッドⅢへの旅路の途中で受け取ったデータ通信に記されていた。

 沈痛な声音で、キースはクリフ大尉に話し掛ける。

 

「そうか……。ダライアス・ノードリー少佐の件は残念だった。」

『いえ、機体がかろうじて修理可能な状況で残っただけでも……。オートキャノン、長距離ミサイル、短距離ミサイルをいずれも殆ど撃ち尽くしていた事が、幸いしました。弾薬が爆発して、原型が残ったのは奇跡的です。少佐のご家族を、失機者にしなくて済みますからね。』

 

 そう、本来の『アリオト金剛軍団』指揮官ダライアス・ノードリー少佐は、この惑星をめぐる戦いが始まった直後、戦死していた。ダライアス少佐の駆る90t級強襲メックたるサイクロプスは、乱戦に巻き込まれて獅子奮迅、八面六臂の活躍をしたあげく、集中砲火を浴びて弾薬爆発した。その結果、乗っていたダライアス少佐は致命傷を受け、死亡したのである。『アリオト金剛軍団』がここまで追い詰められたのも、指揮官喪失に原因が無いとは言えない。

 クリフ大尉は話を続ける。

 

『まだ先の話ですが、この惑星を守り通して我が部隊が惑星撤退の暁には、小官が少佐のご家族にご遺骨と、可能であれば修理なった状態のメックをお届けします。お子様がおられませんので、御妹様に大隊長の地位を引き継いでいただかなければなりませんからね。ただ、部隊が維持できれば、ですが……。』

「難しいのかね?」

『残念ながら、わからない、と言うのが現状です。ですが経済的に危険な状況には違いありません。少なくとも、今回の契約が満了できなければ……。契約金が満額支払われなければ、碌な結果は待っていないでしょうね。』

 

 『アリオト金剛軍団』は、1個大隊が稼働メック1個中隊弱になるまで撃ち減らされている。第3中隊などは、5機ものメックが完全破壊されて失われ、残りのメックもメック戦士ごと鹵獲されてしまった。第1中隊も2機が敵に鹵獲され、残りも損傷を負ってメック戦士も負傷者ばかりだ。これでは仮にメックを修理できたとしても、運用する事ができない。

 唯一万全に近い第2中隊だが、これは運が良かったからに過ぎない。しかもそれでも1機のメック、よりによって火力小隊小隊長機のサンダーボルトが大きな損傷を受けて、メック戦士も負傷中であった。

 これほどまでに大被害を受けた以上、部隊を復旧させるのに必要な費用は莫大な物であろう。また契約条件にもよるが、鹵獲されたメック及び捕虜にされたメック戦士の身代金の支払いが、雇い主ではなく部隊に課せられたりすれば、もう身動きが取れなくなること間違いない。

 キースはクリフ大尉に向かい、言葉をかける。

 

「まあ、とりあえず捕虜を取り終えたら鹵獲メックを城内に運び入れよう。味方の捕虜や鹵獲されたメックよりも敵の捕虜、鹵獲したメックが多ければ、等価交換の様な形で身代金も支払わんでも良いかも知れん。まあその辺は交渉しだいだろうが。」

『はい、ありがとうございます。』

 

 クリフ大尉は、通信用の小スクリーンの中で、キースに向かい頭を下げた。

 

 

 

 アル・カサス城の司令執務室にて、キースとクリフ大尉が向かい合っていた。無論、キースの副官ジャスティン少尉も脇に控えている。クリフ大尉がキースに向かって口を開いた。

 

「ハワード中佐、アル・カサス城及び惑星ソリッドⅢ惑星守備隊の指揮権を、お願いいたします。」

「了解した。指揮権移譲を受ける。」

「ありがとうございます、惑星ソリッドⅢ惑星守備隊新司令官、キース・ハワード中佐。今後、我が『アリオト金剛軍団』も、契約期限の切れる3026年12月28日まで、ハワード中佐の指揮下に入らせていただきます。」

 

 キースは口元だけで笑うと、クリフ大尉に向かって言う。

 

「ペイジ大尉、大変だとは思うが、可能な限りこき使うからそう思っていてくれ。そうしなければ契約上も体面上も、戦闘報酬をそちらに分配してやれないからな。貴部隊の復興費用を稼ぐ意味もある。そう考えて、頑張ってくれ。

 代わりと言っては何だが、うちの部隊の整備兵に、そちらの機体の修理を手伝わせよう。うちの整備兵は優秀だぞ?何せNAIS級の人材がそのトップを張っている。貴部隊の整備兵にも、うちの整備兵から盗める技術は盗み取る様に、言ってやってくれ。」

「了解です。お任せ下さいハワード中佐。我が『アリオト金剛軍団』のためでもあるのです。全力で任に当たらせていただきます。それと整備兵の件、ありがとうございます。凄いですね、NAIS級の人材とは……。

 あ、それとハワード中佐。」

 

 クリフ大尉は付け加える様に言う。キースは何事かと片眉を上げた。

 

「このアル・カサス城に脱出して参られました惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下が、指揮権限の委譲が終了しだいハワード中佐に面会を希望しておられます。」

「!!……了解だ。急いで貴賓室へ向かおう。」

 

 結構大事なことだった。キースはクリフ大尉、ジャスティン少尉を従えて、急ぎアル・カサス城の貴賓室へと向かったのである。




『SOTS』の強襲降下による救援がかろうじて間に合い、『アリオト金剛軍団』と惑星ソリッドⅢ、そして惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下の首は、それこそ首の皮一枚で助かりました。でも、これから大変です。そう、これからが大変なのです。


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『エピソード-059 惑星公爵と遺跡都市』

 痩身の若い……行っていても30を1つ2つ過ぎた程度だろうか、その様な風体の学者風と言うか書生にしか見えない男性がやつれた笑顔で、敬礼するキースたちを迎えた。周囲にはいかにも執事然とした初老の人物や、強面のSPたちが立っている。そこから察するに、この書生の様な若い男性が、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下と言う可能性が高い。そう言えば、着ている衣服も目立たないが良い物だ。

 その男性が疲れた調子で、それでも可能な限り普通に聞こえる様に言葉を発する。

 

「楽にしてくれていいよ。貴官が救援部隊の司令官、キース・ハワード中佐かい?ああいや、もう指揮権移譲を受けたんだったね。惑星守備隊新司令官、来援を感謝するよ。私がターカッドから、惑星公爵などと言う不相応な地位を頂いている、オスニエル・クウォークだ。」

「公爵閣下、不相応などと……。その様なお言葉、公言は差し控えください。」

「事実だよ、ウィリアム……。」

 

 オスニエル公爵は、諫言する執事らしき人物に向かって言った。キースはこの惑星に『SOTS』が救援に差し向けられる事が分かってから、この惑星の事を急ぎ調べた事がある。その情報の中に、このオスニエル公爵の事も入っていた。オスニエル公爵は先代公爵の3男であり、本来は公爵位を継ぐ人間では無かったのだ。しかしある時、先代公爵と嫡男、2男が事故に巻き込まれて同時に死亡し、彼に公爵位が回って来たのである。

 ちなみに彼は気圏戦闘機パイロットの家系で、かつ気圏戦闘機大隊の隊長の家柄でもある。なお、家の気圏戦闘機と隊長の座は、彼の妹が継いでいる。

 

「私は本当は、のんきに三流学者をやっていたかったんだがね……。妹に後継ぎが出来て、あの娘が気圏戦闘機から降りる日が来るまでは、仕方ないさ。」

「オスニエルさま……。」

「皆だって、武勲や功績から言って、ミシュリーヌの方が公爵に相応しいと噂してるのを、私が知らないとでも思っていたかい?ミシュリーヌを公爵に頂いて、惑星は代官に任せればいい、そうじゃないかい?……いや、所詮繰り言だ。流してくれるとありがたい。」

「……。」

 

 そしてオスニエル公爵は、あらためてキースに向き直る。キースはウィリアム執事の諫言で中断されていた挨拶を再開した。

 

「自分は、この度惑星ソリッドⅢの惑星守備隊新司令官に就任いたしました、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』……略称『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐です公爵閣下。この者は、大隊副官のジャスティン・コールマン少尉です。」

「ジャスティン・コールマン少尉であります!」

「改めて言うけど、楽にしてくれていいよ。コールマン少尉も。さて、ハワード中佐……。そこにいる『アリオト金剛軍団』のペイジ大尉には、もう話したんだけどね……。君に知らせておかなければならない事がある。」

 

 オスニエル公爵は、厳しい顔つきになった。さっきから何だかんだ言っていたが、その迫力から見ると、やはり公爵と言うのは伊達では無い。

 

「この惑星には、ヘスペラスⅡほどまでと残念ながらいかないが、それでも決して小さいとは言い難い規模の、封印されたバトルメック倉庫がある。」

「「!?」」

 

 キースは何とか驚きを顔に出さずに済んだ。しかしジャスティン少尉はそうは行かず、あからさまに驚愕を面に表わす。

 

「それは……。秘中の秘、では無いのですか?」

「うん、そうだよ。我が公爵家の、秘中の秘だ。しかし、ね……それをクリタ家の奴らが知っているとあれば、そうも言っていられない。」

「なんですって?」

 

 沈痛な表情を作りながら、オスニエル公爵は語る。

 

「まず、間違いなく今回の奴らの惑星ソリッドⅢ襲撃の目的は、その倉庫だろうさ。どこからその情報を入手したのやら。公爵家の者から漏れたはずは無いからね、惑星外に古文書なり伝承なり残っていたのかも……。

 奴らは、惑星に降下してきたときに、真っ先にここより東にある遺跡の廃墟都市を制圧した。そこにこそ、その封印バトルメック倉庫の入り口があるんだよ。そこに倉庫がある事は極秘だったからね、家臣団の殆どにも教えていないほどの。それ故に、そこには極わずかな兵……選ばれた、特別な兵士でこそあったが、それしか兵力を置いていなかったんだ。」

「それは……。間違いなく、知っていたのでしょうな。そこにメック倉庫がある事を。」

「奴らがメック倉庫の封印を解除できるかどうか分からない。だが、解除できるかも知れない。クリタ家の技術者たちが倉庫の封印を解除する前に、なんとかして都市の遺跡を取り戻して欲しい。」

 

 『アリオト金剛軍団』のクリフ大尉が、説明を付け加える。

 

「当部隊の偵察兵が確認いたしましたところ、敵は遺跡都市に1個中隊――敵第4中隊と思われます――を置いて、防衛に当たらせている模様です。その編制は後ほど、こちらが知りうる限りの敵メック部隊編制と共にお知らせします。」

「うむ、頼む。」

「はっ!」

 

 そしてキースはオスニエル公爵に向かい、口を開く。

 

「公爵閣下、一刻も早くその遺跡都市を奪還せんがため、即刻メック部隊及び気圏戦闘機隊の修復を急がせます。修理が完了しだいに、遺跡都市の奪還作戦を発動いたしましょう。」

「そうか……。頼むよ、ハワード中佐。」

 

 オスニエル公爵は、頷いて言った。

 

 

 

 今キースはアル・カサス城司令執務室にて、『アリオト金剛軍団』の偵察兵が掴んだり、実際に『アリオト金剛軍団』が戦って得たりした情報について、クリフ大尉から報告を受けていた。もちろん同時に、『SOTS』の気圏戦闘機が行った高高度偵察の結果や、『SOTS』の偵察兵からの情報なども、副官のジャスティン少尉のもとに集積されてキースに報告されている。

 

「……なるほど。敵は現状、メック部隊1個中隊を遺跡都市に置いて、残りの部隊を北東にあるサンタンジェロ城に置いている、か。」

「我が『SOTS』の攻撃により、1個中隊近い数が破壊もしくは鹵獲されたため、サンタンジェロ城には概算で、1個大隊弱のバトルメック戦力がいる事になります。」

「単純に数では、我が『SOTS』に加えて『アリオト金剛軍団』の第2メック中隊、惑星軍の戦車1個中隊弱があるから、圧倒してはいるが……。城攻めとなると、可能ならば3倍の数が欲しいんだがな。ここアル・カサス城から真北にある惑星首都、ソリッド・シティも敵の制圧下にあるんだったな?」

 

 キースの疑問に、クリフ大尉が答える。

 

「ええ。当時敵は遺跡都市に一個中隊置き、『アリオト金剛軍団』に対し1個大隊で相対し、大胆にも奪ったばかりの根拠地サンタンジェロ城を空にして、残った半個中隊を首都に差し向けたのです。迎え撃った惑星軍戦車部隊2個中隊と歩兵部隊3個中隊は惨敗し、その一部が公爵閣下を護衛して、ここアル・カサス城へ逃げ延びたわけですね。

 その後、敵は歩兵1個中隊を首都に置き、メック部隊はサンタンジェロ城に帰還しました。」

「現状において惑星軍の戦力は?」

「戦車部隊がヴァデット哨戒戦車8輛、コンドル戦車3輛の1個中隊弱、歩兵部隊がライフル装備機械化歩兵1個中隊、マシンガン装備機械化歩兵が2個小隊、レーザー装備機械化歩兵が1個小隊です。」

 

 少し考え、キースは口を開く。

 

「士気の問題もある。首都をあまり長いこと敵の手に渡しておきたくは無いな。『SOTS』の機甲部隊……戦車中隊を出すから、惑星軍が主力になって首都を奪還してもらおう。いや、『SOTS』からは歩兵部隊も支援に出させよう。」

「サンタンジェロ城から敵がメック戦力を出したなら、どう対処なされるのですか?」

「その際は、メック部隊のうち損傷を負っていないメックだけで、東の遺跡都市を目指す「ふり」だけして見せる。遅かれ早かれその報はやつらに届くだろう。そうすれば、奴らは出したメック部隊を戻して遺跡都市に向かわせねばならん。

 奴らにとっては、首都よりも大事な目標であるらしいからな、その遺跡都市は。」

 

 クリフ大尉は頷いた。

 

「了解しました。」

「……貴隊のメックのうち、メック戦士が負傷していない機体で、稼働不能なほど損傷している機体は無いんだったな?」

「はい、しかし弾薬が尽きていたので、継戦能力は限界に達していました。今回『SOTS』からお貸しいただいた弾薬のおかげで、なんとかなりましたが……。」

「気にしなくていい。いずれ返してもらうからな。となると、後当面はうちのメックとうちの気圏戦闘機の修理がなんとかなれば、本格的に遺跡都市攻略作戦を開始できるな。

 ……ちょっと、整備棟を見て来るか。」

 

 キースの言葉に、クリフ大尉は驚く。

 

「わざわざ部隊司令が整備棟に赴きなさるんですか!?報告が聞きたければ相手を呼びつけるべきでは……。」

「ペイジ大尉、中佐は合理的なんです。普段、平時であれば上級整備兵を呼び出したりもします。中佐自身が忙しくて動けない場合も、ですね。ですが、相手が持ち場を離れられないほど忙しい時には、こちらから出向く事も珍しくありません。今は整備兵の時間を1秒たりとも無駄にさせるわけには行きませんからね。」

 

 ジャスティン少尉の台詞に、あんぐりと口を開けるクリフ大尉。キースは卓上の内線電話機を留守電モードにすると、彼に訊ねる。

 

「ペイジ大尉は、ここで待っているかね?……まあ、部隊ごとのやり方は、それこそ部隊それぞれで違う。あまりうちのやり方に染まらない方が良いかも知れん。」

「あ、いえ!ご一緒させていただきます!」

「了解だ。一緒に来たまえ。」

 

 ジャスティン少尉、クリフ大尉を従えて、キースは司令執務室の扉を出る。彼は扉の外のメッセージボードに「外出中・整備棟」と書き付けて、その場を立ち去った。

 

 

 

 整備等へやって来たキースは、サイモン老を探す。果たしてサイモン老は、すぐに見つかる。彼は1人の整備兵に対し、叱りつけるでもなく、懇々と粘り強く、教え諭す様に説教をしていた。

 キースはクリフ大尉に目を遣る。

 

「見覚えが無いな……。と言う事は、あれは『アリオト金剛軍団』の整備兵では?」

「え?は、はい。私の郎党の、専属整備兵です……。」

「あー。そうか、すまんな。あのサイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉……俺の郎党で、うちの部隊の上級整備兵なんだが。少し待つとしようか。サイモン中尉は、整備に関しては絶対に間違った事は言わん。そちら方面に関しては、神様みたいなもんだからな。」

「えっ!?上級整備兵と言う事は……。以前おっしゃっておられた、NAIS級人材ですか!?」

「うむ。」

 

 やがてサイモン老は『アリオト金剛軍団』の整備兵を解放すると、キースに気付いた。彼は敬礼をする。キース、ジャスティン少尉、クリフ大尉も答礼を行う。サイモン老はキースたちの方へ歩いて来た。

 

「ぼっ……隊長!どうしましたかの、こんな場所まで?」

「各メック及び気圏戦闘機の修理状況を聞きに来たんだ。」

「そうですかの。了解ですわ。それでは、まずはメックから……。」

 

 サイモン老は、各メック、各気圏戦闘機の損傷の度合いと修復状況を解りやすく説明して行く。キースは頷いた。

 

「なるほど、となると現時点でメック戦士が負傷のため動けないメックは置いておくとして、それ以外のメック、気圏戦闘機による全力出撃が可能になるのは、6日後なんだな?」

「はい。『アリオト金剛軍団』の第2中隊火力小隊小隊長機であるサンダーボルト、これがちょっと厄介でしてな。ですがメック戦士であるフランクリン・チャイルズ中尉が、軍医キャスリン軍曹の見立てでは4日後には退院できるそうですからのう。なんとか乗機も直さねばならんと、頑張っておるところですわ。」

「そうか。……ところで、先ほどの整備兵を説教していたのは?」

 

 それを訊かれたサイモン老は、溜息を吐く。

 

「ふぅ……。まあ、仕方ないんですがのう。あの整備兵は、愛用しておったレンチが折れて、もう駄目だと凹んでしまっておったんですわ。レンチなんて、ナンバーが合えばどれでも同じなんですがのう……。

 当人は、そのレンチが何やら神秘的な力が宿っていると信じている様でしての。そのレンチならば、どんな修理も上手く行く、そのレンチで無くば、どんな簡単な修理も不可能だと……。」

「あー、そうか……。はぁ……。」

 

 キースも思わず溜息を吐く。彼は内心で思った。

 

(そっか……。サイモン爺さんの様な卓越した技術者が身近にいるんで、すっかり忘れてたや……。この時代の技術者って、そんなもんだっけなあ……。)

「そんで、わしが他の普通のレンチで『アリオト金剛軍団』のマローダーの問題個所を修理して、動作確認できちんと動作するところを見せてやったんですがのう。今度はそのレンチが以前のレンチを超越した神秘の力を秘めていると思い込みましてな。なんとか譲ってくれと……。

 レンチセットは譲ってやりましたがの、奴のレンチが折れて無くなってるのは確かなんですし。ですが機械が直るのはレンチではなく、奴の技量によればこそだ、と言い諭しておったんですわい。」

「そ、それはもしや、私のマローダーの事かね!?」

 

 泡を食った様子で、サイモン老に訊ねるクリフ大尉。サイモン老は頷いて言った。

 

「クリフ・ペイジ大尉でしたな?大尉のマローダー、右腕の粒子ビーム砲が発射不能だったのは直ってますわい。それと右脚の放熱器2基、調子が悪かったのは接続の不具合でしたでのう。きちんと接続したから、もう大丈夫ですわ。それと頭部装甲、装甲板再成型のミスで弱ってましたんで、新しい装甲板に付け替えておきましたでの。」

(あー……。不完全修理って奴か。うちの部隊では、まず起きないからなあ。サイモン爺さんがいるから。)

「た、試してみて良いかね!?」

「どうぞどうぞ。」

 

 クリフ大尉は、慌てた様子でキースに許可を求める。

 

「ちゅ、中佐!ハワード中佐!自分のマローダーの具合を試してみて、よろしいでしょうか!?」

「行ってきたまえ、ペイジ大尉。終わったら、司令執務室に戻ってきてくれよ?先に俺とジャスティン少尉は戻っているから。」

「は、はいっ!!」

 

 クリフ大尉は衣服の襟元を緩めながら、自分のマローダーの方へすっ飛んで行った。『アリオト金剛軍団』にも、冷却チョッキや冷却パイロットスーツを持っているブルジョアは存在しない。ちなみに捕虜にした『第25ラサルハグ連隊C大隊』のメック戦士たちは、流石にドラコ連合軍の正規軍だけあって、全員が冷却パイロットスーツを着用していた。キースらはちょっとだけ殺意が湧いたらしい。

 何はともあれキースとジャスティン少尉は、背後で動き始めた焦げ茶色のマローダーを尻目に、司令執務室へと帰って行った。

 

 

 

 今、キース達はアル・カサス城の指令室で、惑星軍が主力となっている首都解放部隊からの報告を待っていた。と、そこへ別口の報告が入る。オペレーターの1人が、キースに向かって言った。

 

「ハワード中佐、サンタンジェロ城を監視中のノーランド軍曹以下3名より定時連絡です。」

「司令席に回線を回せ。……ネイサン軍曹か?」

『はい、隊長。現在サンタンジェロ城には動きはありませんな。』

 

 キースは内心、安堵する。彼はネイサン軍曹に向け、命じる。

 

「そうか、監視を続けてくれ。ただし発見されたなら、機材を放棄しても良いからとっとと逃げろよ?」

『了解です。以上、交信終わり。』

 

 通信回線を閉じると、キースは椅子の背もたれに寄りかかる。キースの巨体を受け止めて、背もたれがギリギリと悲鳴を上げた。キースは内心慌てて自分の重心の位置をずらす。

 と、そこへヒューバート大尉が声を掛けて来る。

 

「首都を押さえている歩兵部隊からは、サンタンジェロ城には連絡が行ってないんでしょうか?」

「そんなはずはあるまい。こちらの首都解放部隊は、姿を隠したりしてないんだ。堂々と進軍している。……まあ、市街戦を避けるためなんだがな。」

「相手がアレス条約を守る相手なら、出戦に応じるか、あるいは市街戦を避けて撤退するわね。首都に立て籠もられたらどうしますか?」

 

 アーリン大尉の言葉に、キースは答えた。

 

「その時は、戦車部隊で首都を包囲下に置いて、歩兵で掃討戦を行うしかない。メックや戦車だと、民間目標を避けて軍事目標だけを攻撃するのは、不可能に近いからな。だが戦力に大差があるから、よほど無様をしなければなんとかなるだろう。その辺は、『SOTS』のエリオット大尉がいるからな。心配はしていないんだ。」

「万一敵がメックを隠し持っていたら?」

「その時は、一目散に逃げろと伝えてある。だがそれについても、さほど心配していないんだ。『アリオト金剛軍団』の偵察兵の技量は確かだ。あの重囲を抜けて深宇宙通信施設まで出向き、うちの航宙艦までデータ通信を届けるぐらいだからな。その目を掻い潜ってメックを隠し持つことは難しいだろう。」

 

 ヒューバート大尉が冗談半分に言う。

 

「偵察兵不足の『SOTS』に引き抜きたいぐらいですね。うちは能力的には極めて高いですが、残念ながら数が少ないですからねえ。」

「そ、それはご勘弁願います!」

「安心したまえペイジ大尉。ヒューバート大尉、ペイジ大尉の前で冗談が過ぎるぞ。」

「失礼した、ペイジ大尉。無論冗談だ、ご寛恕願いたい。」

 

 クリフ大尉は安堵の息を吐き、ヒューバート大尉は彼に見えない角度でにやりと笑う。おそらくは半分は冗談であろうが、半分は本気だったのではないだろうか。

 その時、オペレーターが叫ぶ様に言った。

 

「ハワード中佐!首都攻略中のエリオット大尉から連絡が入って……。」

「司令席に回線を回せ!」

「りょ、了解!」

 

 司令卓備え付けの通信設備より、エリオット大尉の声が聞こえて来る。

 

『キース中佐、首都を占拠しておりました敵歩兵部隊は、現在首都を放棄して撤退中です。こちらが攻撃態勢に入るより前に、です。惑星軍戦車部隊指揮官は追撃をかけたがっておりますが……。』

「いや、それは許可できんと、そう伝えるんだ。俺は惑星公爵閣下より、惑星軍に対する命令権も預かっている。万一追い詰め過ぎて、バンザイ突撃などで惑星軍にとって貴重な戦車を失っては、目も当てられん。ドラコ歩兵を甘く見るな。首都を無血で解放できただけで、満足しておくんだ。

 ああ、それと敵の置き土産には注意を払う様に。ブービートラップなぞに引っ掛かっては、たまらん。それと撤退する敵歩兵部隊を、そちらに随伴させていたフェレット偵察ヘリコプター、アレクセイ伍長に追跡させて、行先を突き止めさせてくれ。ただし攻撃を受けそうであれば、さっさと逃げ帰る様に伝えておく様に。」

『了解です。これより首都ソリッド・シティに部隊を展開いたします。交信終わり。』

 

 エリオット大尉との交信を終えたキースは、オペレーターに命令を下す。

 

「サンタンジェロ城を監視中のネイサン軍曹に回線を繋げ。」

「了解です!少しお待ちください。……繋がりました、司令席に回線を回します。」

「ネイサン軍曹。聞こえるか?」

 

 ネイサン軍曹の声が、司令卓の通信設備から響く。

 

『こちらネイサン軍曹です。隊長、何かありましたか?先ほど定時連絡をしたばかりだと言うのに。』

「済まんな。そちらのサンタンジェロ城には未だ動きは無いか?」

『まったくありませんな。静かなもんです。ああいや、メックを修理したりしている音は、集音機で拾えてますけどね。』

 

 敵の拠点となっているサンタンジェロ城には、まったく動きが無いと言う。キースは呟く様に言葉を紡ぐ。

 

「そうか……。まったく動きが無いと言う事は、本気で首都は諦めたか?監視は継続してくれ。」

『了解です。』

「頼んだ。交信終わり。」

 

 ケネス大尉がキースに質問して来る。

 

「敵の目的は、戦力の保全と回復でしょうか?あえて首都ソリッド・シティを放棄してまで戦闘を避けたと言う事は。損傷機も一生懸命に修理している様ですし。」

「決めつけるのは危険だが、その可能性が高いと俺も思う。ただ……。」

 

 キースはここで声を低める。遺跡都市のバトルメック倉庫の事は、中隊長クラスの部隊幹部や大隊副官の様な要職にある者にこそ開示する許可は貰っているが、それ以外に対しては未だ秘密なのだ。

 

「ただ例のモノの調査と発掘に必要な時間を稼ぎたいと言う可能性も、除外するわけにはいかんがな。その時間稼ぎに使うために、戦力を保全したいのだろう……。」

「「「「!!」」」」

 

 ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス大尉、そしてクリフ大尉が表情を厳しくする。キースは声のボリュームを元の大きさに戻して、彼らに向かい言った。

 

「何にせよ、こちらの方針は変わらない。連盟標準時で明後日、3026年11月2日に再度の反攻作戦を開始する。」

「「「「了解!!」」」」

「ペイジ大尉、貴官の中隊の火力小隊小隊長、フランクリン・チャイルズ中尉の負傷はどうか?」

 

 クリフ大尉は力強く頷いて答える。

 

「はっ!おかげ様をもちまして、作戦への参加は可能であります!」

「うむ。病み上がりだ、あまり無理はさせない様に気を付けてやってくれ。」

「はっ!了解です!」

 

 その後、しばらくして首都に敵勢力が残っていない事が判明した。またフェレット偵察ヘリコプターで追跡させた敵歩兵部隊は、サンタンジェロ城の方角へ向かった事が確認される。まあ、途中でフェレット偵察ヘリコプターの燃料が怪しくなったので、首都ソリッド・シティへと帰還させたのだが。

 

 

 

 こうして首都ソリッド・シティの解放は成った。ただし首都には惑星軍の戦車部隊と歩兵部隊だけを置いて、『SOTS』の戦車中隊と歩兵中隊はアル・カサス城へ帰還させる。惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下は、早速首都の邸宅に帰還し、テレビ演説を行って市民を慰撫した。テレビ演説を見つつ、キースは溜息交じりに口を開く。

 

「ふうむ……。立派な公爵閣下だと思うのだがね。」

「自分もそう思いますが……。何分、武勲が無いのが内外から問題視されている様でして。」

 

 クリフ大尉も眉を顰めつつ、言葉を発した。それに応える形で、再度キースが言う。

 

「ご自分で三流学者と言っておられたが……この方の書かれた、星間連盟時代の植物学や農学を研究した学術論文は、かなりの評価を得ているんだがなあ。その論文により、とある惑星では飢えから救われた者も多い。下手な武勲よりも、よほど価値がある。

 それになあ……。領地を統治し、運営し、経営する能力は、武勲とは関係ないんだがな。妹様を公爵に押したところで、妹様やその代官が、この方ほどに上手く惑星を治めていけるかどうか。今回は運悪くドラコ連合の侵略に遭ったが……。

 ま、俺が言ったところで、仕方ないか。」

 

 キースは口元に小さく苦笑を浮かべる。彼は頭を振りつつ、テレビ演説が終わったスクリーンのスイッチを切る。

 

「さて、それでは作戦会議だ。各員、言いたい事を言って構わない。俺は貴官らの知恵を必要としている。荒唐無稽なアイディアとて構わんから、遠慮なしに発言しろ。」

 

 キースの台詞に、その場にいた『SOTS』士官たちと、クリフ大尉を始めとする『アリオト金剛軍団』の士官たちが、一斉に頷きを返した。




いよいよ逆襲開始です。手始めに、惑星首都を奪回しました。そして……。
この惑星には、なんとバトルメックの倉庫が!!敵はそれを狙って攻勢を!!
『SOTS』、『アリオト金剛軍団』を従えて、戦いに挑む!

でもまずは、作戦会議~。


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『エピソード-060 狙いは敵主力』

 3026年11月1日、キースはいつも通り副官のジャスティン少尉を従えて、アル・カサス城の整備棟で、修理なったバトルメックや気圏戦闘機の威容を眺めていた。と、キースはサイモン老が近づいて来るのに気付く。彼はサイモン老に声を掛けた。

 

「見事だ、サイモン中尉。『SOTS』の機体だけでなく、『アリオト金剛軍団』第2中隊の機体も万全だ。」

「わしだけの力ではありませんですわい。ジェレミー少尉もニクラウス少尉もクレール少尉も、皆配下の整備兵を上手く使い指揮して、『アリオト金剛軍団』の整備兵たちとも協力して、良く働いてくれましたでのう。」

「そうか、良くやってくれたな、ジェレミー少尉。」

「はっ!ありがとうございます!」

 

 サイモン老の斜め後ろに控えていた、サイモン老の愛弟子とも言える整備兵、ジェレミー・ゲイル少尉が嬉しそうに礼を言う。キースは頷くと、再びサイモン老に話し掛ける。

 

「これで明日、敵拠点Bへの攻撃作戦が決行できる。サイモン中尉は、間接砲撃手として付いて来てもらう事になるが、大丈夫か?」

 

 敵拠点Bとは、例の遺跡都市の事である。幹部扱いの大尉待遇中尉であり、整備中隊中隊長でもあるサイモン老には、遺跡都市にメック倉庫がある事を話してあるのだ。だがここには他にも普通の整備兵が多々いるので、わざとぼかして言っているのである。サイモン老はキースに答えた。

 

「わしがいない間は、ジェレミー少尉に後の事は任せておきますでの。『アリオト金剛軍団』の不稼働メックは、今のところメック戦士が全員負傷中だもんで、無理に直してもあんま意味は無いですからのう。のんびりやってくれて、かまわんでの、ジェレミー少尉。」

「はっ!お任せください!」

「流石だな。頼んだぞジェレミー少尉。」

「はいっ!」

 

 サイモン老とキースの言葉に、元気よく応えるジェレミー少尉。キースは頷きながら、整備兵たちに言った。

 

「では俺は行く。何かあったら司令執務室まで頼む。」

「はっ。了解ですわ、隊長。」

 

 サイモン老とジェレミー少尉は敬礼を送って来る。答礼を返し、キースとジャスティン少尉は司令執務室へ戻るために踵を返した。

 

 

 

 翌日の早朝、キースたち『SOTS』の第1、第2、第3中隊はアル・カサス城の城門を出た。ベネデッタ・フラッツォーニ伍長のフェレット偵察ヘリコプターが先行偵察を行うために飛翔する。更に、サイモン老の乗るスナイパー砲搭載車両、ジャスティン少尉が操る指揮車両、軍医キャスリン軍曹が使用する機動病院車MASH、歩兵2個小隊が搭乗した装甲兵員輸送車8台、2台の燃料補給車が随伴した。

 ちなみに指揮車両が来たのは、その強力な通信システムでアル・カサス城との連絡を確保するためであり、別にジャスティン少尉が指揮をするわけではない。『SOTS』のバトルメック36機は、その威容を誇示するかの様に、堂々と東の遺跡都市へと向かい、歩みを進める。なお降下船を移動に使わなかったのは、アル・カサス城に備蓄されていた推進剤の量が心許なかったためだ。

 キースは心の中だけで考えた。

 

(都市の廃墟だから、都市戦闘になるよなあ。既に民間目標じゃないんだから、相手は立て籠もって戦闘をするだろ、たぶん。話では、星間連盟時代の要塞化された都市だって話だからなー。一応オスニエル公爵閣下から、都市のマップは貰ってるけど……。

 脆弱建造物、軽構造建造物、重構造建造物、強化建造物いずれも存在してるよなあ。一応皆に注意はしておいたけど……。強化建造物以外にはメックで登るな。登っても、できるだけ早く降りろ。道路では絶対に走るな。ジャンプ移動力を持つメックはジャンプを多用しろ。都市戦闘では歩兵にいつもの倍の注意を払え。……厄介だよなあ、都市戦闘は。)

 

 キースの眼前のスクリーンには、乾ききった荒野が広がっているのが映っていた。キースはマローダーを進ませ続ける。

 

(できれば第4中隊ではなく、俺たち『SOTS』第1か第2、第3中隊のどれかが『アリオト金剛軍団』第2中隊と行ければ良かったんだけれど……。そうも行かなかったからなあ。敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』は、第1、第2、第3中隊の編成を知っているからなー。俺たちが表立って出ていかなけりゃ、不審に思うに違いないだろ。……ケネス大尉とペイジ大尉を信頼するしかないんだよなー。

 あの2人は、生真面目同士で気が合うのが幸いだあね。……生真面目同士ってのは、下手したら反発し合ってどうしようも無くなるけど、気が合って良かったよな。あっちのチームの指揮をどちらが執るかでちょっと揉めたけど……。お互いに相手を尊重し合って、遠慮し合ったんだよなあ。はぁ……。結局は図上演習でやり合って、勝利したケネス大尉が指揮を執ることになったけどさあ。)

 

 とりあえずキースはその辺りで考えるのを止め、操縦と行軍に集中した。

 

 

 

 そうして昼食時の休憩を除いて、ほぼ丸1日行軍したキースたちは、本日の野営予定地に到着した。辺りは暗くなりつつある。キースはマローダーから指揮車両の通信設備を介して、アル・カサス城に連絡を入れた。

 

「こちらキース・ハワード中佐。アル・カサス城指令室、応答せよ。」

『こちらアル・カサス城指令室、テリー・アボット大尉待遇中尉です。』

「テリー中尉、こちらは今のところ問題ない。予定通りに野営地に到着したところだ。城と、ケネス大尉のチームはどうなっている?」

 

 キースの問いに、テリー中尉は答える。

 

『アル・カサス城は平穏無事です。ですが、城に残っている戦力が機甲部隊の戦車中隊と、気圏戦闘機隊のうち偵察に出ていない機体だけだと言うのが、少々心細いですね。それに気圏戦闘機隊は事が始まれば、出撃してしまうのですし……。

 ケネス大尉のチームは、予定通りの行程を消化してこちらも野営に入った所だそうです。』

「了解だ。偵察兵たちや、偵察に出た気圏戦闘機アロー5、アロー6からの高高度偵察の結果はどうなっている?」

『敵拠点Aサンタンジェロ城を見張っているネイサン軍曹からの報告では、サンタンジェロ城からバトルメック1個大隊弱が発進した模様です。正確な機種と数は、今からデータ通信でそちらに送信します。なおそちらを高高度より偵察しているアロー5からの報告では、そのメック大隊はどうやらキース中佐のチームを迎え撃ち、妨害する意図がある様です。第1、第2、第3中隊とかち合う様な方向へ移動していますね。

 敵拠点Bの都市の廃墟を偵察したアロー6からの報告によりますと、敵拠点Bに駐留しているメック中隊には動きが無い模様です。』

「わかった。敵の動きは予想通りだな。まあ予想から外れていたら、それなりの対処をするだけなんだが。……それでは城の事は頼んだぞ、テリー中尉。以上、交信終わり。」

 

 キースはアル・カサス城との通信を終えると、隊内回線に切り替えて一同に通達した。

 

「野営の準備は済んでいる様だな。メック部隊、立哨の順番は第1中隊、第3中隊、第2中隊の3直だ。最初の立哨の第1中隊は、偵察小隊、火力小隊、指揮小隊の順序で夕飯を喫食し、終了後即座にメックに戻り立哨を開始せよ。歩兵部隊はエリオット大尉に任せる。」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 各隊員からの返答が返って来る。ちなみに立哨の順番についてだが、当初キースは自分の第1中隊が真ん中の真夜中の立哨を担当しようとした。だが第2中隊中隊長のヒューバート大尉、第3中隊中隊長のアーリン大尉から反対されて、その意見を引っ込めたのである。ちなみに反対理由は、最大戦力である第1中隊は、最も楽な最初の立哨を行い、確実に身体を休めておくべきだ、と言う物である。そう言われては、キースも反論はできなかった。

 やがて喫食の順番が来て、味が妙に濃い戦闘糧食で腹を満たしたキースは、さっさとマローダーの操縦席に戻る。アンドリュー曹長とエリーザ曹長も機体に戻ったのだろう、ライフルマンとウォーハンマーからサーチライトの光が投げかけられていた。偵察小隊の副隊長、ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン少尉の35tメック、オストスカウトがその強力なセンサーを全開にして、周囲を見張っている。

 ふとその時、隊内回線から誰かの愚痴が聞こえてくる。

 

『ほへ~。丸1日行軍したってのに、その後すぐに立哨かよ……。あー、早く交代の時間になんねーかね。』

『聞こえてっぞ、エドウィン伍長。』

『げぇっ、師匠、いやアンドリュー曹長!?あ、え、通信回線のスイッチ入ってた!?』

 

 苦笑混じりのアンドリュー曹長の声が、マローダー操縦席のスピーカーから響く。

 

『隊内回線のスイッチで良かったな。これが一般回線や外部スピーカーだったら、隊長やジーン中尉から怒られるだけじゃ済まねえぞ?』

『まあ今回も怒るは怒るんだがな。エドウィン伍長、立哨が終わったら寝る前に腕立て伏せ200回だ。この間貴様は誕生日を迎えただろう?そろそろ肉体的懲罰を課してもかまわんだろう。』

『は、はいっ!!小隊長、申し訳ありませんでした!!』

『言っとくけどよ、エドウィン。最初の立哨は、いちばん楽なんだからな?終わったら、朝まできっちり眠れるんだしよ。第3中隊なんか、いちばんきつい真夜中の立哨なんだぜ?……ま、俺もブーブー言ってた時期はあったけどな。』

 

 アンドリュー曹長の台詞に苦笑して、キースはそこに割り込む。

 

「あー、無駄口はその辺にしておけ。やはりバトルメックでの長距離行軍訓練は、やっておくべきだったな。エドウィン伍長、今回はジーン中尉が先に制裁を決定したからこれ以上は言わん。だが、今後注意しろ。」

『ちゅ、中佐!!了解!!』

 

 そんなグダグダな情景を挟んだが、やがて何事も無く1直目の立哨は終わる。キースはガウンを身に纏ってマローダーから降りると、歩兵たちが用意してくれていた天幕に入り、寝袋に潜り込むとあっと言う間に眠ってしまった。

 

 

 

 やがて朝が来る。目覚ましの音にキースは一瞬で覚醒し、さっと起き出すと朝食の準備に入った。歩兵たちから戦闘糧食のパックを受け取った彼は、マローダーの傍らまで行くと、片脚の放熱器に水を入れたコッヘルとヤカンを突っ込む。お湯はすぐに沸いた。彼は戦闘糧食のレトルトパックをコッヘルに突っ込み、ヤカンのお湯でコーヒーを、沸かして無い水で粉末ジュースを作る。

 ふとキースが周囲を見遣ると、天幕の脇で彼と同じくガウン姿のイヴリン軍曹が、戦闘糧食に付属のレーションヒーターを使って、レトルトパックを温めようとしている所だった。彼はイヴリン軍曹に声を掛ける。

 

「イヴリン軍曹、サンダーボルトの放熱器は使わないのか?」

「あ、えっ!?あ、キース中佐!お、おはようございます!!」

「うむ、おはよう。」

 

 敬礼をしてくるイヴリン軍曹に答礼を返しながら、キースは改めて訊く。

 

「サンダーボルトの脚の放熱器が、調子でも悪いのか?」

「えっ、いえ絶好調です!」

「なら、こうやって放熱器でお湯を沸かした方が早いし、確実にレトルトが温まるぞ。メック戦士だけの特権だな。ああいや、戦車兵も戦車に放熱器を搭載している車種があるから、彼らも可能か。」

 

 そこへイヴリン軍曹の同僚たる、火力小隊『機兵狩人小隊』のギリアム軍曹とアマデオ軍曹がやって来る。彼らはイヴリン軍曹がレーションヒーターを使いかけていたのを見て、頭を掻いた。そして彼らはキースに敬礼する。

 

「「おはようございます、キース中佐。」」

「うむ、おはよう。……貴様らはもしかして、イヴリン軍曹に放熱器を使ってお湯を沸かすやり方を、教えに来たのか?」

「は、はあ。うっかり昨夜のうちに教えておくのを失念いたしまして。」

「それで今朝は急いで来たんですよ。」

 

 キースは温まったレトルトパックをコッヘルから取り出して携帯用食器に盛り付け、早速食べ始める。

 

「何にせよ、3人とも食事を急げ。今日中に会敵する予定だからな。」

「「「了解!!」」」

「ああ、それとイヴリン軍曹。コッヘルやヤカンは放熱器に置き忘れるなよ。俺は以前メック戦士養成校で、長距離行軍の訓練中にそれをやらかして、教官から散々に叱責された。その上養成校付の整備兵からも叱られて、俺の機体担当の整備兵と助整兵全員に奢るはめになった。注意しておけ。」

「はい!!ありがとうございます!!」

 

 3人はキースに敬礼をして、その場を立ち去る。キースも彼らに答礼をすると、朝食の続きに戻った。

 

 

 

 そしてその日の昼過ぎである。キースはアル・カサス城からの通信を、指揮車両を介して受け取っていた。

 

「……なるほど。ビートル6の最終報告では、高高度偵察の結果、1時間以内に当方とサンタンジェロ城から出た敵部隊が会敵するんだな?」

『はい。敵メックの陣容は、航空写真の解析結果から変化はない物と思われます。』

「了解した。適当な所で陣を張って待ち構える。幸いにして、この先に程よく開けた場所があるんだ。ではまた戦闘後に。」

『了解。交信終わり。』

 

 通信を終えたキースは、隊内回線を開くと指揮下の全部隊に通達する。

 

「スナイパー砲車両、指揮車両、MASH、装甲兵員輸送車、燃料補給車はここで停止せよ。指揮車両ジャスティン少尉、先行偵察を行っているフェレット偵察ヘリコプターからの連絡は?」

『はっ!先ほど定時連絡を終えた後は、未だ何も。』

「そうか。何か言って来たら、すぐこちらに回線を回す様に。メック部隊、これより5分ほど東に全力移動した場所、XA-283地点に、開けた場所がある。戦場にはもってこいだ。これよりメック部隊はXA-283地点に部隊展開し、そこで敵を待ち受ける。」

 

 キースの言葉に、各々の隊から了解の返答が来る。

 

『第2中隊ヒューバート大尉、了解!』

『火力小隊『機兵狩人小隊』サラ中尉待遇少尉、了解。』

『偵察小隊ジーン中尉、了解。』

『第3中隊アーリン大尉、了解です!』

「よし!ではメック部隊、全速前進!」

 

 『SOTS』の第1、第2、第3中隊機は、全速で東へとひた走る。やがて周囲が開けた地形へと変わった。その地形の中央には、あまり綺麗な水ではないものの、若干の水場が存在している。キース直卒の第1中隊を中央に置いて、第2中隊は右に、第3中隊は左に展開を開始した。キースは第1中隊偵察小隊小隊長、ジーン中尉に通信回線を繋ぐ。

 

「ジーン中尉、そちらの副長のヤコフ少尉に、オストスカウトのセンサーに集中する様に伝えてくれ。敵影を察知したら、すぐに知らせる様に。」

『了解。キース中佐のマローダーとの間に、直通回線を開かせます。』

「助かる。」

 

 そして15分が経過した頃、後方の指揮車両よりキースのマローダーに通信が入った。

 

『こちら指揮車両、ジャスティン少尉です。フェレット偵察ヘリコプター、ベネデッタ伍長より報告です。回線を回します。』

『……こちらフェレット偵察ヘリコプター、ベネデッタ伍長!敵メック部隊を遠距離にて確認しました!敵も当方を発見した模様で、こちらへ向かって来ます!』

「ベネデッタ伍長、XA-262地点に指揮車両他が待機している。XA-283地点のメック部隊上空をフライパスして、そちらへ退避する様に。」

『了解!!』

 

 その通信があって間もなく、ヤコフ少尉から報告が入る。

 

『こちら偵察小隊ヤコフ少尉。フェレット偵察ヘリコプターの反応を確認。こちらへ向かって全速で飛んでいます。その後方に、敵メック部隊と思われる反応を確認。64.8km/hでこちらへ移動中。』

「了解だ、ヤコフ少尉。そのまま監視を続けてくれ。貴官のオストスカウトは、無理に攻撃に参加せずとも良い。それよりは、味方にセンサー情報を不足無く送る事に集中するんだ。貴官とそのメックは、我が部隊全体の「眼」である事を常に念頭に置いておけ。」

『了解!』

 

 やがてフェレット偵察ヘリコプターが、上空を後方に向かい飛び過ぎる。そして再度、ヤコフ少尉からの報告があった。

 

『もう間もなく、敵が前方丘陵陰から姿を現します!20秒前……10、9、8……。』

「全メック部隊、機会射撃用意!前衛は前進を開始せよ!サイモン中尉、XA-283-55にスナイパー砲発射!風向と風力はWSWに2単位!」

『こちらサイモン中尉、了解!』

『……3、2、1、0!』

「撃て!」

 

 キースの命令により、敵の先頭に立っていたK型ウルバリーン3機、K型フェニックスホーク4機が1個大隊の遠距離武器による集中砲火を浴びる。その射撃の6割は外れたが、残り4割……主に第1中隊の指揮小隊、火力小隊『機兵狩人小隊』、そして第2、第3中隊の指揮小隊による攻撃だったが、それは見事に命中した。K型ウルバリーンのうち2機、K型フェニックスホークのうち2機が、片脚を折り取られるなり、胴中央の装甲を貫かれてジャイロを破壊されるなり、あるいは頭部に命中弾を受けてメック戦士が脱出するなりして、動けなくなる。

 無論敵も応射してきたが、距離がややあって自分自身が走行していた事と、目標になった『SOTS』側の前衛が全力移動していた事で命中は殆ど覚束ない。ごくわずかに、マテュー少尉のサンダーボルトが胴体に大口径レーザーを1発受けたが、それだけである。

 ここで敵の通常型アーチャー2機とパンサーが、キースたちに対し丘陵を使い部分遮蔽になる位置取りを行う。普通であれば、これは極めて有効な戦術である……はずだった。

 

『甘いんだよ!隊長、ちょうど撃ち頃の距離にいてくれてるぜ!?』

「ああ、遠慮なく撃たせてもらおうか。アンドリュー曹長。それとだ、サイモン中尉、XA-283-48に1発頼む。」

『サイモン中尉、了解ですわ!』

 

 アーチャー2機とパンサーからの射撃が、第3中隊中隊長機のバトルマスターに降り注ぐ。だがアーリン大尉の愛機となったその機体は、強靭無比の装甲でそれを耐え抜いた。そしてそのアーチャー2機に、キース機から粒子ビーム砲2門、アンドリュー曹長機から中口径オートキャノン2門に大口径レーザー1門が発射された。それらは吸い込まれる様にアーチャー2機の頭部に命中し、装甲を突き破る。片方のアーチャーは緊急脱出に成功したが、もう片方はメック戦士が操縦席ごと焼かれた模様だ。

 僚機が2機とも倒されたのを見たパンサーのメック戦士は、かえってこの状態が危険だと理解したのだろう、ジャンプジェットを噴かして丘陵の陰を捨てて前に出て来た。

 

『凄い技量ですね、キース中佐。』

 

 偵察小隊のジーン中尉が、そう言いながらグリフィンの粒子ビーム砲で敵のグリフィンの左脚を吹き飛ばして仕留める。彼女自身、最高レベルには流石にほど遠いが、充分に高い腕前である。

 

「そうかね?……サイモン中尉、XA-283-37、その次はXA-283-26にぶち込んでくれ!」

『サイモン中尉、了解ですわい!』

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 ここでスナイパー砲の1射目が着弾する。後方に陣取って長距離ミサイルを打ち上げていた、敵のクルセイダーが餌食になる。その隣にいた同じく敵のクルセイダーと通常型フェニックスホークが、見事に巻き添えになった。

 そして味方のバトルマスター、オリオン、ウォーハンマー2機、サンダーボルト3機、ウルバリーン、シャドウホーク3機が敵陣深くに斬り込んで行く。さすがに接近戦になると、敵からの命中弾も多い。しかし敵のダメージはそれ以上である。敵のK型や通常型のフェニックスホークなど、高機動のメックが味方の後衛を叩こうと突入してくるが、それは味方側のフェニックスホークの群れに遮られた。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 再度スナイパー砲が着弾する。今度は敵後方で狙撃していた、敵のライフルマン2機を大きく巻き込む形で着弾した。

 

 

 

 敵部隊は、散々に叩かれて敗走した。おおよそ1/3近くは、メックを倒したであろうか。そして今、戦利品の網を担いだマローダーを歩かせながら、キースは遺跡都市に向かった部隊からの報告を聞いていた。ちなみにこの通信は、マローダーから指揮車両を介し、相手部隊に付いていかせたスィフトウィンド偵察車輛を経由して、相手部隊の指揮官であるケネス大尉のウルバリーンに回線を繋いでいる。

 このケネス大尉を指揮官とする部隊は、『SOTS』の第4中隊と『アリオト金剛軍団』の第2中隊からなる2個メック中隊である。更にキースは、これに第1歩兵中隊第3小隊と第4小隊を付けて遺跡都市へと送ってやっていた。無論、歩兵は可能な限り対メック戦闘には担ぎ出さないと言う前提である。この部隊は、キースたち『SOTS』の第1、第2、第3中隊がアル・カサス城を出る前夜に、夜闇に紛れてIR偽装網を被り、こっそりと進発していた。

 そして次の日の朝に、キース達『SOTS』第1、第2、第3中隊が堂々と姿を見せて出発し、敵主力部隊が遺跡都市を奪還されるのを防ごうと攻めかかって来るのを、今か今かと待ち構えていたのである。第1、第2、第3中隊の目的は、遺跡都市の奪還ではなく、敵主力の誘因と撃破にあったのだ。第4中隊と『アリオト金剛軍団』第2中隊が、遺跡都市を奪還するのを阻止されないために。

 キースはケネス大尉に問いかける。

 

「……で、隊員は全員無事なんだな?第4中隊も、『アリオト金剛軍団』も。」

『はっ。機体脱出に追い込まれた者も、軽度の負傷で済んでおります。しかしながら……。』

「ああ、隊員が無事ならば良い。失機したわけでも無いんだ。メックの損傷はそこまで気にするな、ケネス大尉。勝ちはしたんだろう?」

『はい……。』

 

 そう、ケネス大尉たち第4中隊と『アリオト金剛軍団』第2中隊は、見事勝利して遺跡都市を奪還した。したのだが、バトルメックの大半が損傷を負い、『SOTS』第4中隊のうち5機、『アリオト金剛軍団』第2中隊のうち4機のメックが、脚を折られるなり頭部を潰されるなりして行動不能状態にされていた。ケネス大尉はその損害の責任を感じ、落ち込んでいたのである。

 

「勝ったんだろう?戦略目標である敵拠点Bも奪還に成功した。これ以上望むのは贅沢と言う物だ。大丈夫だ、フェニックスホークでなければ部品はストックがたくさんある。フェニックスホークであっても、部品補充の当てはある。だから心配するな。

 今そちらに、損傷の少なかった第2中隊を向かわせている。第2中隊が着いたら、それと入れ替わりで損傷機と戦利品、捕虜を連れてアル・カサス城に帰還してくれ。」

『了解です。第2中隊の到着を待ち、交代でアル・カサス城に帰還いたします。』

「うむ、そうしてくれ。交信終わり。」

 

 通信を切ったとたん、キースは神経反応ヘルメットに覆われた頭を抱えた。この状態でも、マローダーをきちんと操縦しているのだから、凄い技量だと言える。彼は内心で呟く。

 

(フェニックスホーク2機とD型フェニックスホーク、エンフォーサーが脚を折られて、もう1機フェニックスホークが頭を潰されて操縦席を破壊されてるって……?エンフォーサーはまだ大丈夫だけど、フェニックスホーク系は部品が足りないぞ?頭潰された奴は、操縦席の予備があったはずだから、すぐに復帰できるけど……。脚折られたやつはなあ……。

 脚折られて、脚周りの駆動装置とか破壊されてないなんて事は無いだろうなあ。足駆動装置ならともかく、大腿駆動装置や下腿駆動装置はストック無いぞ?損傷機同士の共食い整備で、復帰できるのは何機かなあ。注文した部品、届くのは何時になるか判らないんだよなあ。ケネス大尉を元気づけるために、先ほどはああ言ったけど。)

 

 キースはこの件について内々で相談するため、サイモン老のスナイパー砲車輛に個人回線を繋いだ。

 

 

 

 2日後の朝、キース達はアル・カサス城に到着する。更にその日の夕刻には、第4中隊と『アリオト金剛軍団』第2中隊がアル・カサス城に辿り着いた。『アリオト金剛軍団』第2中隊中隊長クリフ・ペイジ大尉は、半壊した『アリオト金剛軍団』を立ち直らせるため、わずかでも資金が欲しいこの時期に、メックを4機も行動不能になるまで損傷させられてしまった事で、大変落ち込んでいた。

 だが幸いと言っては何だが、『アリオト金剛軍団』がぎりぎり最低限保有していたフェニックスホーク用の予備部品と、『SOTS』で確保していたハンチバック用部品、ウルバリーン用部品を等価交換する事により、今回の損傷機体が何とか修理が可能であることが判明する。キースはクリフ大尉と交渉し、お互いに部品を融通し合う事で今回のピンチを乗り越えた。

 

「やれやれ、今回は何とかなったけど……。一刻も早くライラ共和国が部品を送ってくれる様に催促しないといけないな。」

「契約では、戦闘での弾薬、装甲板の損耗は補填してくれて、その他の部品購入も共和国の備蓄を正規の値段で売ってくれるんですよね。」

「嬉しいことに、SHビル払いでな。Cビル払いでないことは助かるんだが……。エンフォーサーの部品は、共和国に備蓄が無いから民間の業者が揃えたやつをCビル払いで買わないといけない。……エンフォーサー、ヴァルキリー、ヴィンディケイターの3機種は、なるべく壊さない様に戦わないとな。弾薬や装甲板だけでなんとかなる様に。」

 

 ジャスティン少尉に応えながら、キースは戦闘報告書を両手で別々に書き上げる。もうこの特技を出しても誰も驚かなくなったのが、少し寂しいキースだった。

 その時、司令執務室の各執務机上の内線電話が鳴る。ジャスティン少尉が電話を取った。

 

「こちら司令執務室。……はい、はい。了解です。キース中佐、サイモン中尉からお電話です。」

「回してくれ。……こちら司令執務室、キース・ハワード中佐。」

『隊長、第3中隊機の装甲張り替えと弾薬補給、完了いたしましたわい。』

 

 キースはサイモン老に応える。

 

「そうか、待っていたんだ。これで第2中隊をアル・カサス城に戻して整備を受けさせられる。」

『引き続き、こちらは先の戦いでの損傷機修理に移りますでの。』

「頼んだ。」

『了解ですわ。では後ほど、口頭では無くきちんと報告書をお届けに上がりますわ。ではこれで。』

 

 今後、遺跡都市へは1週間ごとのローテーションで、第2から第4までの各中隊が駐留することになる。キースは、それと同時に第1歩兵中隊の第2から第4までの歩兵小隊を、交代で向こうに置く事にしようと考えた。

 

(うーん、あとはバトルメックの修理作業台を1基持っていかせよう。遺跡都市に、簡易的な基地機能を持たせないと。運ぶのに、アル・カサス城にある重量物輸送車両借りないといけないかな。向こうまではのんびり行って2日、強行軍で1日半だが、重量物輸送車両を連れて行くんだから2日だな。

 アル・カサス城に推進剤の備蓄があればなあ……。惑星の水処理施設から、融通してもらえないかな、SHビル払いで。推進剤があれば、重量物輸送車両とか使わずに降下船を物資輸送に使うんだけれど。)

 

 推進剤が欲しくとも、湧いて出る物でもない。とりあえずキースは、メックによる歩行と車輛群で第3中隊を遺跡都市へと送り込む事を決めた。第3中隊が向こうに辿り着くのに2日、第2中隊が入れ替わりで戻って来るのにも2日だ。そうしたらその3日後には第4中隊を第3中隊と交代するために派遣しなければならない。2か所の拠点を同時に守るのは、けっこう大変だった。




バトルメックによる長距離行軍訓練は、新兵の教育時に、ぜひやっておくべきだと思います。ただ主人公の部隊には、何故か20tスティンガーが無く、カメレオン練習機も無い上に時間も無かったので、やっておりません。
主人公自身は、士官学校でやったんですけれどね。


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『エピソード-061 捕虜交換』

 アル・カサス城の指令室で、キースは遺跡都市にメック部隊第3中隊と歩兵中隊第3小隊の手で設営された、簡易的な仮設前進基地と交信を行っていた。司令席の卓上に設置されている通信設備から、アーリン大尉の声が聞こえて来る。

 

『まったく、危ないところでした。ヴィクトル少尉の第3歩兵小隊がいなかったらと思うと、血の気がひきますよ。』

「ヴィクトル少尉と第3歩兵小隊には、ボーナスを出さないといけないな。」

『多めに出してあげるように、わたしからもお願いしますね。』

 

 キースとアーリン大尉が何の話をしているかと言うと、仮設遺跡基地が完成したところで、その基地に行われかけた破壊工作についての話である。仮設遺跡基地は、遺跡都市に遺されていたドーム状の重構造建造物を利用して、そこに修理作業台を1基持ち込んで、バトルメック修理施設としての機能を持たせた物だ。ドームの頂上にはアル・カサス城の方角を向いた高指向性アンテナが設置され、アル・カサス城との通信が可能となっていた。他にも、駐留する人員が短期間生活できる様に、様々に手が加えられている。

 そんなせっかく造った仮設遺跡基地であるが、ドラコ連合軍の破壊工作員、おそらくは敵側の偵察兵と思われる人員によって、危うく破壊されてしまう所であった。遺跡都市は、かつては現役の都市であったが故に、地下の下水道跡が張り巡らされている。敵工作員は、そこを通ってドームの直下に爆弾を仕掛けようとしたのだ。

 しかしここで、歩兵部隊有数の戦術センスの持ち主であるヴィクトル・デュヴェリエ少尉は、地下からの奇襲があり得ると判断した。彼はアーリン大尉と相談し、思い切って地上の警備はメック部隊の立哨に任せ、彼の歩兵小隊は地下の下水道跡を警戒する事にしたのだ。結果、敵の工作員は爆弾を仕掛ける前に発見され、歩兵のレーザー銃の前に斃れたのである。

 

『工作員の持ってた爆弾が爆発してたら、せっかくの基地が機能を失うだけじゃなしに、メックや整備兵にも被害が出るところでした。特に整備兵を万一殺されでもしたら……。』

「歩兵がもっと増員できればいいんだがな。第2歩兵中隊は、惑星ネイバーフッドを離れる際に解散してしまったからなあ。恒常的に雇用している1個中隊は精鋭だが、数が足りない……。コンドル級降下船でもあれば……。あれは歩兵しか乗せられないが、1個歩兵大隊を乗せられる。

 いや、無い物ねだりをしても仕方がないな。再度この惑星で、臨時雇いの歩兵を募集してみるとしよう。ただ、スパイがその中に混じらないように注意をする必要はあるが。」

『そうですね。ところで、わたしの第3中隊と交代でこちらを出た第2中隊は、道程の半ばぐらいまでは行ったはずですね。』

 

 アーリン大尉の第3中隊が遺跡都市に到着し、仮設基地の設営を始めると共に、それまで遺跡都市を守備していたヒューバート大尉率いる第2中隊は、交代でアル・カサス城への帰還の途についていた。

 

「ああ、それについては野営の時に連絡が来た。明日の昼には到着するはずだ。」

『無事に着くと良いんですが。仮設とは言え基地施設ができたのは、わたしたちが資材を持って着いてからですから……。碌な設備も無い所で1週間は疲れたでしょうし。』

「ああ。戻って来たら、ゆっくり休養してもらうさ。」

 

 だがキース達は、第2中隊が帰って来るとほぼ同時に、ある意味厄介な知らせが飛び込んで来るのを知る由も無かった。その知らせは、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下よりやって来たのだ。

 

 

 

 アル・カサス城の司令執務室で、キースは、内心複雑な想いを抱きつつ、オスニエル公爵からの直々の電話に応えた。

 

「一時休戦及び、捕虜メック戦士や航空兵、鹵獲メックや気圏戦闘機の身代金との交換ですか……。」

『ああ。昨日、条約で定められた正式な休戦旗を掲げた使者がやって来てね。正直この休戦交渉、蹴ってやろうかとも一瞬考えなかったかと言えば嘘になってしまうが……。必死でこの惑星のために戦ってくれた、『アリオト金剛軍団』のメック戦士や航空兵たちを見捨てる事はできないからね。』

 

 それを言われると、キースとしても弱い。『アリオト金剛軍団』は、現在キースの指揮下に入っている。言わばキースの部下も同然なのだ。見捨てるわけには絶対に行かなかった。

 

『幸い、と言って良いのか……。君たちが鹵獲したメックや捕虜にしたメック戦士の数が、『アリオト金剛軍団』から鹵獲されたり捕虜にされたりした数よりもずっと多かったからね。差し引きでかなり莫大な額が、こちらに入る事になる。まあ、共和国が持っていくんだけれどさ。それでも相手の部隊の軍資金をかなり削る事ができるよ。

 ああ、申し訳ないけれど、戻されてきたメックやメック戦士、航空兵や気圏戦闘機を『アリオト金剛軍団』に返す際には、規定上最低限の諸費用は支払ってもらわねばならないんだよ。『アリオト金剛軍団』の戦闘報酬から天引きと言う形で、機体や人員はすぐにでも返せると言うか、そのまま持って帰ってもらって構わないけどね。』

「その程度で済んで、良かったと思うべきでしょうね、『アリオト金剛軍団』にして見れば。本来ならば下手をすれば、敵に支払った身代金全額を共和国から要求される可能性すらあったわけですから。今回は、鹵獲したメックと鹵獲されたメックや気圏戦闘機、捕虜にした人員と捕虜にされた人員の交換と言う形で、費用がかからずに機材や人員を取り戻せましたから。」

『そう言ってもらえると、ちょっと気が楽になるね。』

 

 キースがこう言う話を惑星公爵としているのは、惑星公爵が惑星政府の上に立つ、惑星ソリッドⅢの支配者であるのと同時に、ライラ共和国その物における貴族であるがためだ。このオスニエル公爵は非常に真面目で、惑星における政務も、ライラ共和国全体に対する義務も、なおざりにせずに一生懸命こなしている。

 それが故この惑星では、惑星公爵自身がライラ共和国との窓口を務めていた。無論、共和国よりある程度の自由裁量権も、オスニエル公爵は与えられている。最低限の規定さえ守れば、『アリオト金剛軍団』に若干の配慮をする程度の事は権限の範囲内である。

 ちなみにこれが、ライラ共和国首都惑星ターカッドあたりの官僚と、超光速のHPG通信か何かで連絡を取って事務処理をした場合、『アリオト金剛軍団』にとってひどい結果になりかねない。たとえば、敵と味方の鹵獲メックを交換するのではなく、相手からは鹵獲機全機分の身代金を取り、こちらからも鹵獲された機体全機分の身代金を払う。形式にこだわるお役所仕事らしいやり方だ。

 この場合、最終的にライラ共和国に入る金額は同じである。事務処理が多少面倒なだけで。だがしかし、この場合は相手に支払った身代金の額を、『アリオト金剛軍団』が請求されてもおかしくないのだ。そうなれば、今でさえ危うい『アリオト金剛軍団』の経営は行き詰まり、下手をすれば部隊解散に追い込まれかねない。

 オスニエル公爵がライラ共和国との窓口を務めていた事は、『アリオト金剛軍団』にとって非常に幸いであった。そしてそれは、『アリオト金剛軍団』を指揮下に置いているキース、ひいては『SOTS』にとっても幸いと言えるだろう。

 惑星公爵はキースに向かって、惑星公爵としてではなくライラ共和国貴族として命令を発する。

 

『惑星守備隊司令官キース・ハワード中佐に命じる。現時点3026年11月11日より、本日を含め2週間、11月24日までの敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』との休戦命令を発行する。並びに、敵からの鹵獲バトルメック、及び捕虜を連れて、3026年11月13日正午までに、惑星首都ソリッド・シティ、アル・カサス城、サンタンジェロ城のちょうど中間にあるブロード平原へ赴け。

 現地にて、惑星軍機械化歩兵部隊と合流し、敵との捕虜、鹵獲バトルメック、鹵獲気圏戦闘機の交換、及び身代金の受け取りを行ってもらう。ああ、死亡した敵の遺体の引き渡しも一緒に行ってくれ。受け取った身代金は、惑星軍機械化歩兵部隊が首都まで運ぶ。何か質問は?』

「はい、いいえございません閣下。命令、了解いたしました。『SOTS』『アリオト金剛軍団』は、鹵獲バトルメック及び捕虜を、3026年11月13日正午までにブロード平原まで護送いたします。」

『頼んだよ、ハワード中佐。以上だ。』

 

 電話は切れた。キースは副官のジャスティン少尉に向け、指示を出す。

 

「ジャスティン少尉、捕虜交換が決まった。歩兵中隊の第1、第2小隊に捕虜移送の準備をさせる様に連絡してくれ。それと霊安室に保管してある、敵『第25ラサルハグ連隊C大隊』大隊長タケシ・ユウキ少佐とメック戦士カースィム・ターヒル・マジード少尉の遺体を運ぶ準備も、手配を頼む。捕虜交換の際に、一緒に引き渡す。」

「了解です。」

 

 ちなみに『第25ラサルハグ連隊C大隊』大隊長のタケシ・ユウキ少佐の方は、遺体は首が折れているだけで綺麗だが、カースィム・ターヒル・マジード少尉の方は粒子ビームでメックの操縦席を焼かれたため、かなり無残な状態になっている。ちなみに両名の氏名階級は、捕虜にしたメック戦士たちを尋問した結果、判明していた。

 キースは先ほど置いたばかりの受話器を取り上げると、指令室と整備棟に内線電話をかけた。内容は、鹵獲バトルメックの移送準備の命令と、それに随伴して現場に赴く味方バトルメックの修理状況の確認である。予定では、『SOTS』の第1中隊、第2中隊、それに『アリオト金剛軍団』の第2中隊の3個中隊を連れて行くつもりであった。

 

 

 

 キース率いる『SOTS』第1、第2中隊、及び『アリオト金剛軍団』第2中隊は、重量物輸送車輛数台、装甲兵員輸送車数台を率いて、鹵獲機体や捕虜を交換する予定地点たるブロード平原までやって来ていた。なお、鹵獲機体の数が多く重量物輸送車輛に載せきれないため、バトルメックの多くが戦利品用の網を用いて鹵獲機体を担いでいた。第1中隊偵察小隊のヤコフ少尉が、キースに報告する。

 

『キース中佐、北より装甲兵員輸送車と思われる反応が8台、ランドクルーザーか何か民間用車両と思われる反応が1台、64.8km/hで接近中です。IFFの反応はライラ共和国所属を示しておりますが故、惑星軍の車両かと思われます。あと15分ほどで、こちらに合流するでしょう。

 それと、北東よりバトルメック18機、重量物輸送車輛12輛、兵員輸送車と思われる軽トラックが6台、32.4km/hで接近中です。IFFの反応から、ドラコ連合軍所属機です。こちらはあと30分で、到着する物と思われます。』

 

 ヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン少尉の乗機は、センサーの塊とも言える偵察メック、35tのオストスカウトだ。周囲の地形さえ適合していれば、この機体のセンサーは18kmを超える知覚範囲を誇っている。

 キースはヤコフ少尉に返答を返す。

 

「うむ、了解だ。……と、そう言っている間に、連絡が来た様だ。以上、交信終わり。」

 

 マローダーの通信装置に、外部からの接続要求が来る。相手は惑星軍の回線を使用していた。キースは通信回線を開く。

 

「こちら惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令キース・ハワード中佐。」

『こちらは惑星公爵オスニエル・クウォーク家臣、ロードリック・マクギニス。今回のドラコ連合軍との捕虜、鹵獲機材の交換への立ち合い、及び身代金の受け取りについて任されている。ハワード中佐、今日はよろしく頼むよ。』

「了解です、マクギニス殿。公爵閣下から聞かされております。こちらこそ、よろしくお願いします。」

『うむ。では後ほど現地にて。』

 

 そして15分後、惑星軍の装甲兵員輸送車に守られたランドクルーザー型の車両が到着する。更にその15分後、鹵獲メックと見ゆる物体を積載した重量物輸送車輛を守る様にして、未だ損傷の直っていないドラコ連合軍『第25ラサルハグ連隊C大隊』のバトルメックが姿を現した。先頭に立っていた65tの重量級メック、サンダーボルトが一般回線と外部スピーカーを使い、名乗りを上げる。

 

『自分は『第25ラサルハグ連隊C大隊』司令官代理、マジード・ワーディウ・ディヤー大尉!此度の休戦及び捕虜交換、鹵獲メック返還に応じていただき、感謝する!』

「……自分はライラ共和国惑星ソリッドⅢ守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令キース・ハワード中佐。そしてこちらが……。」

『惑星公爵オスニエル・クウォーク家臣、ロードリック・マクギニスだ。今回は惑星政府ではなく、ライラ共和国側の代表である惑星公爵の代理人として来ている。それでは早速始めようではないか、ドラコ連合軍マジード・ワーディウ・ディヤー大尉。』

『了解した。』

 

 双方のメックが、重量物輸送車輛から、あるいは自分の機体の背中から、双方の軍勢の中間点より自軍から見て右側の地点に、大荷物を降ろす。また双方の歩兵が、護送してきた捕虜を同地点で解放する。それぞれのメックや歩兵が下がると、随伴してきた整備兵や偵察兵、軍医などが、捕虜たちや返還されたメックを調べて行く。発信機や盗聴器、爆発物などが無い事を確認しているのだ。

 両軍の中央では、ロードリック氏が身代金を相手から受け取っている。無論、身代金を収めた幾つものアタッシュケースは、これもまた丁寧に調べられていた。あらかじめの取り決め通りの金額が、間違いなくCビルで入っている事を確認したのだろう、ロードリック氏はキースのマローダーに向かい、頷いて見せた。

 一方で、返還されたバトルメックや気圏戦闘機を調べていたサイモン老からの報告は、あまり芳しい結果だとは言えなかった。

 

『隊長、返還された機材を調べてみましたがの。特に変な細工はされておりませんでしたわ。ただ……。』

「ただ?」

『ざっと見ただけですがのう。部品がけっこう抜かれておりますわい。条約違反では無いですし、貧乏な傭兵部隊では鹵獲したメックの部品をこっそり抜く事は、よくやりますがの。そう言った場合は、目こぼしされる事もままあるんですがのう……。

 補給が潤沢な正規軍がこれをやると言うのは、しかも返還する機体でそれをやるのは、マナー違反ではありますの。決して条約違反ではありませんがのう……。』

 

 キースは溜息を吐く。

 

「ふぅ……。やり返してやりたいのは山々だが、残念ながらうちではやるわけにはいかん選択肢だな。鹵獲したメックは、相手が無法者や不正規部隊の類で無い限りは、雇い主であるライラ共和国が接収する物だ。今回とて、実機そのものはアル・カサス城にあったが、書類上は共和国が接収していたんだ。部品1つたりとて、手を付けるわけにはいかん。政治的に突っ込まれる危険は、減らしておくに越した事は無い。

 相手の場合は正規軍だからな。やってやれない事は無い。ある意味で敵は、敵国ドラコ連合の名代だ。鹵獲機を接収する権利を持つのは奴ら自身だ。だからその気になれば部品の幾つかを持って行っても、合法的に接収したと強弁できる。極端な話、身代金を受け取って相手に……我々に返却するのは、それがメックとして成立する最小限のパーツを残してあれば良い。」

『ですのう……。』

「マナー違反なのは確かだし、正直せこいとは思う。……『アリオト金剛軍団』の動きを取れなくするには、有効な手段だがな。」

 

 眉を顰めてキースは、マローダーの映像スクリーンに映し出された敵のサンダーボルトを睨む。その傷ついたサンダーボルトは、片脚を折られた60tのライフルマンを網に包むと、同じく60tのドラゴンの背中に括り付けてやっていた。

 

 

 

 アル・カサス城に帰還したキースたちは、取り戻した『アリオト金剛軍団』のバトルメックと気圏戦闘機の調査を開始した。その結果判明したのは、外観から判断した以上にメックの中身が荒らされていた事である。不幸中の幸いと言っては何だが、50tの気圏戦闘機、コルセア戦闘機は部品を抜かれてはいなかった。

 

「隊長、部品をひどく抜かれていた機種は、敵に同一機種がある物ばかりですのう。奴ら、単に新品同様の備蓄部品を消耗するのを嫌って、鹵獲機から部品を抜いたんじゃないですかの?」

「まさか、こちらに対する嫌がらせとか、こちらの戦力を回復させない事を狙っての事では無しに、単なる貧乏性だって言うのかい、サイモン爺さん?」

「いや、その理由もあったにはあったと思いますわい。ただ、貧乏性だと言う理由も大きいんではないかと思いますわな。」

 

 報告のために司令執務室に出向いて来てくれたサイモン老の言葉に、キースは溜息しか出なかった。キースは机上にある他の報告書を手に取る。

 

「……で、捕虜交換で戻って来たメック戦士たちと航空兵は、一様に若干の衰弱が見られる、と。聞き取り調査では、特に捕虜虐待とか受けていたわけじゃないらしいけどさ、それでも捕虜生活は辛かった様だなあ。とりあえず入院させて経過を見る、か。メックがすぐに直る見込みが無いから、とりあえず心身を休めてもらうしか無いよな。

 後は……。帰って来てもメックが無い者たち、かあ……。『アリオト金剛軍団』第3中隊の偵察小隊全員と、火力小隊のうち1人……。全員メックを完全破壊されて、失機者か……。『アリオト金剛軍団』暫定指揮官のペイジ大尉は、とりあえず彼らを放り出すつもりは無いみたいで、部隊の予備メック戦士になってもらうと言っていたんだけどさ……。」

「現役メック戦士の頃と比べれば、やはり待遇は落ちるでしょうのう。それに周囲との兼ね合いからも、低い扱いにしないわけにもいかんですわい。それでも……。」

「まだ、ましな方……かあ。『アリオト金剛軍団』が、もしも新たにメックを手に入れれば、メック戦士に復帰できる可能性はあるわけだからなあ。『アリオト金剛軍団』がちゃんと残れば、だけど……。」

 

 これまでの戦いによる戦闘報酬や敵メック鹵獲の褒賞金で、それが支払われる月末には『アリオト金剛軍団』の財政も、やや上向きになると予想されていた。だが今回戻って来たメックが大量に部品を抜かれていた事で、その予想は大幅な下方修正を強いられている。

 キースは沈痛な表情で言う。

 

「気のいい奴らだから、なんとか救ってやりたいんだけど……。『SOTS』にも、彼らの損害を全部肩代わりしてやれるほどの余裕なんて無いもんな。DHビル貯金を全額SHビルかCビルに両替してすら、難しいし。中途半端に支援するんじゃ、意味が無いよ。彼らが潰れて、支援として投資した金が完全に無駄になるだけだ。

 それに、冷たい様だけどそこまで面倒を見る義理も、彼らには無いからなあ。かつての『機兵狩人小隊』とはワケが違うし、部隊規模も違うよ。それになんと言っても、俺は『SOTS』の事を第1に考えないといけないからね。」

「……そうですな、坊ちゃん。坊ちゃんの双肩には、この部隊の皆の生活が、いや、命そのものが懸かってますからのう。ですが、愚痴ぐらいは吐いてくれて構わんですわい。今ここには、わしと坊ちゃんしかおらんですからの。」

「……ありがとう、サイモン爺さん。だが、経験則から言ってそろそろ……。」

 

 その時、卓上の内線電話がインターホンモードで鳴った。キースとサイモン老は顔を見合わせて苦笑する。キースは電話機のスイッチを押す。

 

「誰か?」

『大隊副官、ジャスティン少尉です。キース中佐の決済を必要とする書類を取りに行ってまいりました。』

「入室を許可する。……さて、サイモン中尉。お仕事モードだ。」

「了解ですわ、隊長。」

 

 キースはあえて不敵な笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。

 

「やはり『アリオト金剛軍団』には、これまでの方針通り、できるだけ戦闘の機会を作ってやって戦闘報酬を稼いでもらい、自助努力で何とかしてもらうしか無いな。」

「ですのう。」

「キース中佐、ただいま戻りました。」

 

 ジャスティン少尉が、台車に段ボール箱いっぱいの書類を載せて入室して来た。

 

 

 

 アル・カサス城の指令室で、キースは仮設遺跡基地と交信を行っていた。今、仮設遺跡基地には、『SOTS』のメック部隊第4中隊が、歩兵中隊第4小隊と共に駐留している。1週間後には、第2中隊に加えて第2歩兵小隊が、交代で仮設遺跡基地に行く事になっている。

 

「ふむ、異常は無いか。だが油断はしないでくれよ、ケネス大尉。休戦期間中とて、敵がいなくなるわけでは無いんだ。」

『了解です。わかっておりますとも。』

 

 ケネス大尉の言葉に、キースは頷く。ケネス大尉の「わかっている」と言う言葉に嘘は無い。ケネス大尉は元々キースの親友である、恒星連邦のジョナス・バートン伯爵の伝手で『SOTS』に入隊してきた人物だ。キースの事情はジョナスの執事、ロベール・マクファーソンより聞かされているのだ。

 そう、キースが以前所属していた傭兵部隊『鋼の勇者隊』、略称『BMCOS』は、ドラコ連合が正式な休戦期間中に休戦破りをやって奇襲攻撃をかけた事と、傭兵部隊『アルヘナ光輝隊』の裏切りと言う2つの出来事により、全滅したのである。キースは、もう2度と仲間をその様な事で喪うつもりは無かった。いかに正式な休戦中だからと言って、彼は警戒を緩めるつもりは全く無かった。

 

『それでは自分は警戒指揮に戻ります。』

「ご苦労、よろしく頼む。交信終わり。」

 

 ケネス大尉との通信回線を閉じたキースは、傍らのジャスティン少尉に目を向ける。ジャスティン少尉は委細承知とばかりに、懐から予定表を書き付けた手帳を取り出そうとした。と、ここでオペレーターがキースに声を掛ける。

 

「ハワード中佐、歩兵中隊のグラハム大尉と偵察兵分隊のジェンキンス軍曹が、中佐にご報告があるとの事で面会を求めています。」

「む、エリオット大尉とアイラ軍曹が?了解した。……今から司令執務室で会おうと伝えてくれ。それと……ヒューバート大尉に指令室を頼む、と伝えるんだ。ジャスティン少尉、行くぞ。」

「了解。」

「了解です。」

 

 オペレーターたちのうち、手すきの者が敬礼を送ってくる。それに答礼を返し、キースとジャスティン少尉は司令執務室へ急いだ。彼らが司令執務室に着いた時、エリオット大尉とアイラ軍曹は、既に部屋の前で待っていた。彼らは敬礼を送って来る。それに答礼を返したキースは、彼らに声を掛ける。

 

「待たせて悪かった。入室を許可する、入ってくれ。」

「「はっ!」」

 

 司令執務室に入ると、キースは司令執務机に着座する。ジャスティン少尉もまた、脇にある自分の執務机に着いた。キースはエリオット大尉とアイラ軍曹に言う。

 

「ではエリオット大尉から順に報告を頼む。」

「はっ!この半月と少しばかりの間、出撃の無い時はこの城の人員を監査してまいりましたが、こちらの調査では怪しい動きをしている者はおりませんでした。」

「同じく、私も内側から裏側からの監査を続けていましたが、城の内部の人間で外部との怪しい接触を持った者はいませんでした。」

 

 キースは深く頷く。

 

「……そうか。今のところ、この城は防諜的にはクリーンだと見ていいのかな?」

「同意します。」

「同じくですね。」

「ならば一安心だな。だが、油断は禁物だ。これまで俺たちが相対したドラコ連合軍は、スパイを巧みに使って来た。『第25ラサルハグ連隊C大隊』が同様でないとは言えない。2人には味方を疑う嫌な仕事をやらせていると、内心忸怩たる思いがあるが……。」

 

 エリオット大尉とアイラ軍曹は、何でも無い事の様に応える。

 

「はい、いいえ、我が『SOTS』のため必要であると理解しておりますから。」

「私もです。ドラコ連合のスパイや工作員の恐ろしさは、よく知っていますからね。」

「そうか……、2人には感謝している。ところで2人は知っているはずだが、休戦期間が始まった頃、我が『SOTS』は臨時雇いの第2歩兵中隊隊員の募集広告を出した。我が部隊、このアル・カサス城に、敵がスパイを送り込むのに絶好の機会だ。更に負担が増える事になるが、なんとか頑張って欲しい。

 それと2人にだけ任せておくには、我が部隊は大きくなり過ぎた。2人が人格的、能力的に信頼できる人物を推薦して欲しい。そして今後は内部監査に、その者たちの力も借りる様にして欲しい。」

 

 キースの言葉に、エリオット大尉とアイラ軍曹は考え込む。やがて彼らは口を開いた。

 

「……テリー・アボット大尉待遇中尉、ですな。彼女は人格的にも能力的にも充分に信頼できます。」

「裏からの監査には……。そうですね、ヘリパイロットをしているベネデッタ・フラッツォーニ伍長が良いかと思います。彼女はヘリパイロットとして雇用されましたが、立派な偵察兵です。その技量も最近上がって来ています。ただ、隊長から直接その任務を命令された方が良いかと。私が推薦した事は、言ってもらって構いませんから。」

 

 キースは2人の言葉に頷いた。

 

「そうか、では後ほどその2人を呼ぶとしよう。他に報告は無いか?」

「「はい。」」

「では通常任務に戻る様に。退出してよろしい。」

「「はっ!」」

 

 エリオット大尉とアイラ軍曹は、敬礼をすると退出する。キースとジャスティン少尉は、答礼をしてそれを見送った。キースはジャスティン少尉に向かって問いかける。

 

「さて、ジャスティン少尉。今日、俺の時間を少し空けられるか?先ほど名前の出た、テリー中尉とベネデッタ伍長を呼んで、少し面談せねばならん。流石にこの仕事は、きちんと理解して自覚した上でやってもらわねばならんからな。」

「了解です。でしたら……。難しいですが、15:00時よりなんとか1時間、空けましょう。」

「15:00時か。了解した。その2人に、15:00時に司令執務室へ来る様に連絡を頼む。」

「了解です。」

 

 キースは誰にともなく頷いた。彼は『SOTS』を守らなければならない……表の敵からも、裏の敵からも、である。敵は前にいるだけだとは限らない。背後から脾腹を狙っている者がいないとは、誰にも言い切れないのである。

 

(背後の敵、かあ。仮想敵は、『SOTS』がライラ共和国へ戦力交換で来る事によって陰謀を潰された女伯爵、レイディ・ローレッタ・グリフィスだよなあ。あとはジョナスがハンス・ダヴィオン派だって事から、マイケル・ハセク=ダヴィオン派の人間、ハセク家の派閥も潜在的な敵だよな。まあ俺たちがライラ共和国にいる間は大丈夫……か?

 いや、安心して油断するべきじゃないな。常にアンテナを張り巡らせておかないと……。)

 

 内心の考えを面に出すことなく、キースはジャスティン少尉が取り纏めてくれた書類を手に取り、チェックを始めた。




今度はバトルテックと言いますか、メックウォリアーではエッセンスとして欠かす事のできない捕虜交換ですねー。捕虜になったメック戦士や航空兵、バトルメック、気圏戦闘機を、身代金と交換で返してもらったり、あるいは返したり……。
敵戦力が回復するのは嫌だけれど、味方が帰って来るのは嬉しいし、仲間を見捨てるのは嫌だし。とても大事な仕事です、捕虜交換。


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『エピソード-062 深夜の緊急出撃』

 未だ休戦期間が明けぬ3026年11月17日、キースは自分やサイモン老の得意とする間接砲撃に関しての講義を、自分の「学生たち」に対して行っていた。

 

「……つまり間接砲撃は、本来敵の地雷原を吹き飛ばしたり、敵の防御陣地を破壊したりするのが普通の使い方だ。よく俺とサイモン中尉がやっている、「移動するバトルメックの動きを読んでそれに命中させる」のは、正直なところ邪道だからできなくとも構わん。敵と味方の動きを正確に読み、発射から着弾までのタイムラグをも計算に入れて命中させるなど、熟練の技量の砲兵と着弾観測員でなければ誤射が怖い。万一味方に当てたりしたら、たまった物ではないからな。

 ……ただ、機動兵器であるバトルメック等に命中させるやり方で、比較的だが邪道では無い使い方もある。幾つかあるが、それが解る者や思いつく者は、挙手しろ。」

 

 ばらばらと手が挙がる。キースは一番挙手が早かったイヴリン軍曹を指名した。

 

「よし、イヴリン軍曹。答えてみろ。」

「はいっ!自分が考え至ったのは、野戦において敵……主に支援メックなどが優位地形などを確保した場合であります。この場合、その優位地形である地点に間接砲撃を行う事により、敵支援機を早期に叩き、あるいは敵に優位地形を放棄させます。またその優位地形から敵がいなくなっていても、その地点への砲撃を継続する事により、敵が優位地形を再度奪取する事を阻止できます。」

「うむ、その通りだ。これは敵が確保した優位地形を、1つの防御陣地に見立てて砲撃を行う物だな。つまりは「敵防御陣地への砲撃」の変形だ。ふむ、これは先日の『第25ラサルハグ連隊C大隊』との戦いでやった間接砲の使い方だ。よく覚えていたな。」

 

 褒められて嬉しそうなイヴリン軍曹に、ニヤリと笑いかけてから、キースは続ける。

 

「さて、今イヴリン軍曹が一例を挙げたが、他の方法を思いつく者はいるか?……カーリン軍曹か。よし、答えろ。」

「はっ!自分が覚えているのは、惑星ドリステラⅢにおける駐屯軍基地防衛戦です。あの時は地雷原との併用で、敵メック部隊を誘導し、移動を制限し、間接砲撃で叩いていた様に思われます。また敵を地雷原へ追い込むため、敵の退路を断つ形で砲撃を行っておりました。言い換えれば、間接砲撃を敵の動きを誘導するために用いていた様に思われます。」

「あれは貴様にとって、初陣だったな。印象深いのも頷けるか。そうだ、籠城戦などでの間接砲の役割が、それだ。地雷原を始めとした防御施設で敵の動きを制御し、間接砲撃を命中させる。いや、命中させなくとも、間接砲撃自体を敵の動きを制御するための道具として使えば良い。

 これは城を始めとした防御陣地の周囲を、あらかじめ多数の地点を照準設定しているからできる芸当だな。比較的未熟な砲手でも、あらかじめ時間をかけて照準設定しておけば容易に目標地点へ命中させられる。

 ついでだ。逆に間接砲と地雷原で守られた城や基地を攻める場合の定石も教えてやろう。まずは味方にも間接砲がある事が望ましい。これで敵の地雷原を切り拓く。そして充分に広い区域が確保できたなら、次に注意すべきはあえて優位地形を確保しない事と、動きを止めない事だ。先ほど言った通り、城や基地の周辺はあらかじめ照準設定済みだと考えて良い。動きを止めて自機の火器を撃っていたら、敵の間接砲撃が降って来るぞ。うちの部隊の様に航空戦力が充実しているならば、気圏戦闘機を爆装させて敵間接砲を爆撃させるのも手ではある。」

 

 おもむろにキースは、「学生たち」全員の顔を見渡す。実戦経験のある任官済みのメック戦士たちは、なるほど、と言う顔をしていた。だがジャクリーン・ジェンキンソン、ゲルダ・ブライトクロイツ、モーリス・キャンピアン、ブリジット・セスナの各訓練生は、実戦経験が無い故に今一つ理解が及んでいない様だ。

 

(これは仕方がないだろうなあ。だけどそれでも、教えて置くのと教えてないのとでは、実際にその事態に直面した時に、大きく違いが出るもんな。)

 

 キースは引き続き、実例を交えながら間接砲撃について解説して行った。

 

 

 

 アル・カサス城の司令執務室にて、数枚の書類を前にしてキースは少々困っていた。なおジャスティン少尉は、自分の席で書類の山に埋もれている。キースは呟く。

 

「ううむ、『アリオト金剛軍団』第1中隊各小隊から、城外演習場の使用願いが上がって来ているな。だがアル・カサス城の演習場は、『SOTS』も使いたいんだがな。だが、『SOTS』ばかりを贔屓するわけにもいかんか。しかも申請理由が、入院中のブランクを実機演習で取り戻したい、とあらば……。却下はできんな。

 仕方ない、『SOTS』の面々にはシミュレーター訓練で我慢してもらうとしよう。だが今度は、訓練生たちのシミュレーター訓練に支障が出る、か。いやこの場合は、敵が目の前にいるんだ。実戦部隊を優先だ。訓練生たちには代わりに図上演習をやらせて、戦術眼を磨かせるとしよう。」

「『アリオト金剛軍団』の第1中隊の面々、バトルメックの調子が以前とは比べ物にならないほど良くなってる事に、驚くんじゃないかしら。」

 

 そう言ったのは、仮設遺跡基地からアル・カサス城に帰還してきたばかりのアーリン大尉だ。彼女は仮設遺跡基地にいる間の報告書を提出しに来たついでに、書類仕事を手伝っていたのである。ちなみに仮設遺跡基地には、今現在ケネス大尉率いる第4中隊が、ジェームズ・パーシング少尉の第4歩兵小隊と共に駐留していた。

 キースは苦笑しながらアーリン大尉に応える。

 

「たしかにな。サイモン中尉によれば『アリオト金剛軍団』第1中隊のメックは、部品を抜かれたフェニックスホーク2機と、元から部品が足りなくて修理不能だったサイクロプス1機を除いて、完全に修復が成ったそうだ。損傷する前からあった不具合まで全部直した上でな。ついでと言うのは何だが、コルセア戦闘機も損傷や故障を完全修理して復帰している。……ぶっちゃけた話、『アリオト金剛軍団』の整備兵たちではなく、サイモン中尉主導で修理したらしいな。

 だがこれで、『アリオト金剛軍団』の予備部品は底をついてしまった。月末に入るはずの戦闘報酬の多く……隊員に支払う給与を除いた全額を物納の形にして、ライラ共和国に部品を発注したそうだが……。だが発注できた部品は、結局のところそれほど多く無いらしい。『SOTS』と同居している間に、部品が届いてくれればいいんだがな。」

「ああ、サイモン中尉やジェレミー少尉の手を借りられますからね。修理の失敗で部品を無駄にする事は無いでしょうね。」

「サイモン中尉の話では、『アリオト金剛軍団』の整備兵たちも以前より格段に技量が上がっているし、意識改革も進んでいるそうなのだが……。それでも、修理に失敗しない、とはまだまだ言えないレベルだそうだからな。」

 

 『アリオト金剛軍団』第1中隊のフェニックスホーク2機と、第3中隊の完全破壊を免れた全機、計9機のメックは、『第25ラサルハグ連隊C大隊』に鹵獲されていた間に部品取り用として扱われ、生半可なことでは復旧できなくなっていた。また、元から希少な強襲メックである、『アリオト金剛軍団』大隊長機たる90tのサイクロプスは、貴重品であるが故に部品が品薄かつ高価であって手に入らず、大破状態からの復旧が覚束ない状況である。

 アーリン大尉は溜息を吐いて言った。

 

「はぁ……。『アリオト金剛軍団』暫定指揮官のクリフ・ペイジ大尉もジレンマでしょうね。前大隊長の妹にメックと大隊長の座を受け継がせる以上、サイクロプスの修復をサイモン中尉たちの力を借りられるうちに済ませたいでしょうに。でも部品がなかなか手に入らないし、今必要なのはメック戦士がいるメックの修復だもの。優先すべきは、おそらくウォーハンマー、サンダーボルト、アーチャー2機あたりかしら。」

「ああ。その4機と、加えてクルセイダーを復帰させるべく、今回は部品を注文したらしいな。だが、本当にそれでぎりぎりらしい。しかも予備部品にまでは手が回っていない。修理で全部使い切ってしまうらしい。」

 

 キースは『アリオト金剛軍団』第1中隊からの演習場使用許可願いに承認のサインを入れつつ言う。そして彼は他からの演習場使用許可願いに、却下理由とシミュレーター訓練を当面行う様にとの申し送りを書き付けて、差し戻し書類のボックスへ放り込んだ。彼は頭を振る。

 

「うちから部品を貸し付けるわけにもいかん。部隊経営が統合されているわけでもなし、本当の意味で貸しになってしまう。弾薬は、ライラ共和国との契約で補填されるから、遠慮も躊躇もなしに貸したが……。部品は返してもらえるあても無しに貸す事はできん。」

「『アリオト金剛軍団』は、本当であれば恵まれてる方の部隊なんですけれどねえ……。降下船もユニオン級3隻を持ってますし、専属の航宙艦も持ってるのに。ユニオン級を商用航宙に出したり、航宙艦を商用降下船を運ばせたりして小金を稼ぐ手は?」

「敵が目の前にいる以上、それはできんよ。うちも現時点ではやっていないだろう?もし敗北したならば、致命傷を負う前に降下船で撤退し、航宙艦で星系を出ていかねばならん。金稼ぎに使っていて、いざと言う時に降下船や航宙艦が無い、などと言う危険は冒せないんだ。」

「ですよねえ……。」

 

 アーリン大尉も、分かっていて言ったのだろう。今現在の戦力比で、そう簡単に負けるとはキースもアーリン大尉も思っていない。ただし敵が増援を送ってこないならば、だ。この惑星には戦略目標となり得るバトルメックの倉庫が存在する。規模はヘスペラスⅡの物に全く及ばない様だが、それでもライラ共和国にとっては貴重な補給源だ。ドラコ連合を支配するクリタ家が、そう簡単に諦めるだろうかと言うと、疑問符がつく。

 だからこそキースたちは、貴重な推進剤をなんとかやりくりして、気圏戦闘機によるCAP……戦闘空中哨戒を行っている。12機の気圏戦闘機を保有する『SOTS』でさえ、ザル同然のエアカバーしか敷けないが、無いよりはましである。この惑星には、惑星首都の隣の宇宙港に通常の対宙監視レーダーこそあったが深探査レーダーは無く、またその通常の対宙監視レーダーも惑星首都を一時占領されていた影響で、現状満足に動いていないのだ。

 ちなみにオスニエル公爵もこの事を憂慮しており、この惑星の小さな海に隣接する水工場から作り出される推進剤を、優先的に惑星守備隊に回してくれる約束をしてくれた。これにより、将来的には推進剤の不足は改善すると見られている。あくまで将来的には、であるが。

 その後キースたちは、粛々と書類仕事に精を出す。『アリオト金剛軍団』にはやはり、できるだけ戦場を用意してやって稼ぎ場を与えた上で、自助努力を期待するしか無いらしかった。

 

 

 

 仮設遺跡基地への駐留部隊は、あれからヒューバート大尉の第2中隊と、ラナ・ゴドルフィン少尉の第2歩兵小隊に交代している。キースは今、指令室の司令席に着いて、城の通信施設を通じてヒューバート大尉と交信を行っていた。

 

「ヒューバート大尉、あと2日で25日だ。」

『休戦期間の期日切れですね。』

「ああ。もし奴らが休戦破りをするとしたら、直前が怪しい。充分警戒してくれ。それに奴らが休戦破りをやらないとしても、休戦明け直後のタイミングで奇襲攻撃を仕掛ける事は、充分にあり得る。

 こちらも緊急出撃の準備は整えて置くので、万一の際は粘るだけ粘ってくれ。まあ、ネイサン軍曹の班とエルンスト曹長の班、それに『アリオト金剛軍団』の偵察兵たちが交代でサンタンジェロ城を見張っているんで、まず間違いなく発見されて奇襲にはならないと思うがね。」

 

 ヒューバート大尉がおそらく失笑しているのが、キースには容易に想像がついた。ヒューバート大尉は一拍置いて言葉を発する。

 

『了解です。任せてください、そう簡単にこの遺跡都市は渡しませんよ。』

「ああ。いや、できるなら出撃した敵をアル・カサス城から出撃した我々と、貴官の部隊で挟み撃ちにして撃滅したいところだがな。」

『……それもいいですね。可能なら試みてみましょうか。』

 

 キースはにやりと笑う。おそらくヒューバート大尉の脳裏にも、キースがにやりと笑った姿が浮かんでいるだろう。それぐらいには、2人の付き合いは長い。

 

「まあ、あくまで可能なら、な。」

『ですね。ではそろそろ自分はメックに戻ります。』

「了解だ。交信終わり。」

 

 キースは通信回線を閉じる。ふと彼は思いついて、オペレーターに命令を下した。

 

「オペレーター、城内の練兵場の様子を主スクリーンに映せ。」

「はい、了解です。」

「……ふむ、やっているな。」

 

 指令室の主スクリーンに映し出されたのは、先日雇用されたばかりである臨時雇いの第2歩兵中隊、つまり第5から第8までの4個歩兵小隊の姿である。第2歩兵中隊の指揮を執っているのは、テリー・アボット大尉待遇中尉であった。キースはエリオット大尉、アイラ軍曹、ベネデッタ伍長、そしてテリー中尉から報告を受けた内容を思い出す。

 

(……第2歩兵中隊の兵員募集に際し、やはりドラコ連合のスパイが計3名入り込もうとしていた、か。あの4人のおかげで入り込まれる前に発見し、捕縛する事ができた……。コンピューターのエキスパートであるパメラ軍曹は、尋問技術のエキスパートでもあるからなあ。あっさり自白させて情報を引き出せるだけ引き出して、その後銃殺したけど……。

 引き出した情報を惑星政府に流して、スパイ組織について捜査してもらっているけれど、その後どうなったかな。ライナーはこの惑星にも、コネを作ろうとしているだろうから、今度訊いてみよう。)

 

 主スクリーンに映る練兵の様子は、非常に厳しい。とは言え、第1歩兵中隊の面々ならば鼻歌混じりにこなしてしまう程度の訓練でもある。

 

「やはりまだまだ雇ったばかり、と言う事だな。練度が低すぎる。」

「確かに……。」

 

 思わず相槌を打ったのは、元歩兵であった経験を持つ、大隊副官のジャスティン少尉である。彼はキースのボディーガードと言う側面も持っており、今も書類仕事の合間に鍛錬を欠かしてはいない。その彼から見れば、第2歩兵中隊の新兵どもは頼りにならないことこの上なし、と言うところであろう。

 キースは苦笑して言った。

 

「まあ、そんな新兵でも使い道を考えるのが俺の役目だ。せっかく雇ったんだ、臨時雇いとは言えど給料分は働いてもらわんとな。」

「はっ!」

「さて、オペレーター。アーリン大尉を呼び出してくれ。指令室の事を頼まねばならん。俺は司令執務室で書類仕事がある。」

「了解です。……繋がりました。司令席に回線を回します。」

 

 オペレーターは即座に命令に従う。キースは司令席の卓上に設えられた通信設備の回線を開いた。

 

 

 

 連盟標準時にて3026年11月24日の深夜23:55時、この惑星の標準時と連盟標準時のズレはさほど大きく無く、既に外は真っ暗闇である。だがキースはあえて昼間のうちに仮眠を取り、この時間に指令室に詰めていた。『第25ラサルハグ連隊C大隊』が、休戦明けと同時に何かしら事を起こすのではないか、そんな予感がしていたのである。

 時間は刻々と過ぎていく。そして11月25日00:00時になった。だが何事も起こらない……、そう思った次の瞬間である。オペレーターの1人が叫ぶ様に言った。

 

「ハワード中佐!偵察兵ノーランド軍曹より緊急連絡です!」

「やはり来たか!回線を司令席へ回せ!」

「了解です!」

 

 キースは司令席の通信設備を立ち上げる。すぐにネイサン軍曹の声が響いた。

 

『隊長!どんぴしゃです!奴ら、休戦明けと同時に動き出しました。IR偽装網をかぶったメックが次々にサンタンジェロ城の城門を出て行きます。しばらくしたら、私は後を追いますんで……。ん?』

「……ネイサン軍曹、どうした?」

『少々待ってください隊長……。』

 

 キースはしばし待った。やがてネイサン軍曹の声が、再び聞こえて来た。

 

『隊長、先のIR偽装網をかぶったメック1個大隊は、遺跡都市方向へと進軍して行きます。で、もう1組……。こちらは堂々と姿をさらしてます。規模は1個中隊弱、進軍方向は首都方面です。』

「堂々と出て来た方は、明らかに囮だな。だが放って置くわけにもいかん、か。」

『ですね。隊長、囮の方はフィリップ伍長に後を追わせます。私はIR偽装網をかぶった方を追いますんで。通信機材はここに放棄します、すいません。』

「かまうな。貴様の判断は正しい。では後は頼んだ。」

『了解です、交信終わり。』

 

 通信は切れた。キースはオペレーターに叫ぶ。

 

「全メック戦士と航空兵、上級整備兵サイモン中尉、大隊副官ジャスティン少尉、偵察兵ソフィーヤ伍長、および第1、第3歩兵小隊と……第5、第6、第7、第8歩兵小隊に緊急招集をかけろ!全員、機体やスナイパー砲車輛、指揮車輛、スィフトウィンド偵察車輌、各歩兵小隊割り当ての兵員輸送車の所に行かせるんだ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

「それと仮設遺跡基地に呼び出しをかけろ!回線は俺のマローダーに繋げ!俺はマローダーへ行く!」

「了解です!」

 

 キースは衣服の襟元を緩めつつ、城のメック格納庫へと疾走した。

 

 

 

 そして今、キースはマローダーの操縦席にいた。アル・カサス城の通信施設を介して、仮設遺跡基地との回線は繋がっている。キースは通信相手を呼んだ。

 

「ヒューバート大尉。寝ているところ済まんな。」

『いえ、昼間仮眠を取って今は起きてました。やっぱり動きましたか。』

「ああ。IR偽装網をかぶって、1個大隊がそちらに移動中だ。おまけに首都方面にも、1個中隊弱がこちらは囮のつもりか、堂々と出張って来ている。……ヒューバート大尉、前に言ってたことを試してみるとしよう。」

 

 ヒューバート大尉は即座に応える。

 

『了解です。では第2中隊は、これより緊急出撃します。』

「頼んだ。そちらは多少のんびりとサンタンジェロ城方面へ向けて移動してくれ。距離が近くなれば、敵の後をつけているネイサン軍曹と通信可能になるだろう。そうすれば逃がすことは無い。

 こちらもこれより緊急出撃する。会敵予定地点は、サンタンジェロ城と遺跡都市の中間点よりやや遺跡都市側の、XA-447地点だ。できるならばこちらが会敵した後で、そちらが敵の後背を突く形にしたい。だがそちらが先に会敵した場合、敵は1個大隊規模だ。のらりくらりと時間稼ぎをして、こちらの到着を待て。」

『了解。無理はしませんよ。ではまた後ほど。交信終わり。』

 

 ヒューバート大尉との通信回線を閉じると、キースは麾下の全部隊に対し、回線を繋いだ。

 

「……諸君!敵が行動を開始した!狙いは遺跡都市に我々が設営した仮設基地だ!敵1個大隊がIR偽装網で身を隠し、隠密行動を取っているつもりになっている!しかしその後を我々の偵察兵が追尾している!敵は裸の王様だ!我々は仮設遺跡基地に駐留している第2中隊と、こちらから進発する第1、第3、第4中隊で敵を挟撃する!スナイパー砲車輛、指揮車輛、第1、第5、第6歩兵小隊は随伴せよ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 そしてキースは『アリオト金剛軍団』の面々に声を掛ける。

 

「『アリオト金剛軍団』の諸君、君達には首都方面へ進軍している敵の別働隊への対処を命じる。囮のつもりか、こちらは堂々と姿をさらして移動している。こちらにも我が部隊の偵察兵、フィリップ・エルランジェ伍長が付いているから、距離が近くなれば交信可能となるはずだ。規模は1個中隊弱。ペイジ大尉、君達だけで相手を壊滅させて欲しい。できるな?」

『無論です!』

「そうか、頼もしいな。戦闘には参加させんが、遠距離通信手段としてソフィーヤ・セミョーノヴナ・クロチコワ伍長のスィフトウィンド偵察車輌を随伴させる。会敵予定地点が近くなったら、適当な所で待機させてくれ。それと降伏させた相手を捕虜にするのに歩兵が必要だろう。第3、第7、第8歩兵小隊を随伴させるから、これもスィフトウィンド偵察車輌と同じ場所に待機させて、事が終わったら呼び出してくれ。」

『はっ!お気遣いありがとうございます!』

 

 おそらくクリフ大尉には、キースの思惑が分かっているのだろう。キースはあえて『SOTS』の部隊をそちら側の戦闘に参加させない事で、敵メックの鹵獲や撃破に伴う戦闘ボーナスを、全て『アリオト金剛軍団』に与えようと意図しているのだ。

 キースは引き続き、気圏戦闘機隊へと命を下す。

 

「『SOTS』所属の気圏戦闘機隊。こちらの指揮車輛から城に連絡が入り次第、貴官らにはこちら目指して発進してもらう。地上攻撃支援だ、できるな?」

『『『『『『了解!』』』』』』

「『アリオト金剛軍団』所属コルセア戦闘機のボリス・ヤロスラヴォヴィチ・ゴルトフ少尉、貴官の役目も地上攻撃支援だ。だが支援するのは『アリオト金剛軍団』だ。ソフィーヤ伍長のスィフトウィンド偵察車輌から連絡が入り次第、ペイジ大尉たちを助けに飛び出してもらうぞ。」

『了解です!』

 

 航空兵たちの返事を聞き、キースは頷く。彼は出撃命令を下した。

 

「『SOTS』、『アリオト金剛軍団』、出撃せよ!!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 バトルメックの群れが、格納庫の扉を抜け、城門をくぐる。そして彼らは二手に分かれ、闇の中へと進軍して行った。




『SOTS』『アリオト金剛軍団』、共に現時点で可能な限りの修理を完了し、いざ出撃です。勝利の女神は、微笑んでくれるでしょうか。特に『アリオト金剛軍団』とかに。


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『エピソード-063 遺跡都市攻略隊との戦い』

 道程の途中で1回仮眠と食事のための休憩を挟んで、キースたち『SOTS』第1、第3、第4中隊とそれに随伴する車輛群は行軍を続けていた。キースは外部スピーカーを繋ぎ、指揮車輛のジャスティン少尉に問いかける。何故外部スピーカーを使うかと言うと、無線封鎖しているからだ。もっと用心するのであれば、メックのハンドサインで済ませるところなのだが、掌が無いマローダーではあまり複雑なハンドサインは送れない。

 

「ジャスティン少尉、指揮車輛の通信装置であれば、そろそろネイサン軍曹が発信しているであろう、敵の居場所の報告を受信できないか?」

『はい、いいえ先ほどから試みてはいるのですが……。車載タイプや野戦用据え置きタイプであればともかく、スキマーのネイサン軍曹が持っている手持ちタイプの小型通信機の出力では、ノイズに紛れてしまい拾う事はできません。』

「そうか……。拾えたら、報告してくれ。」

 

 同じく外部スピーカーで返してくるジャスティン少尉の返答に、キースは眉を顰めながら応える。彼は自分を慰める様に、内心で呟いた。

 

(……何にせよ、敵にオストスカウトが無くて良かったよな。もし奴らがオストスカウトを持っていたら、ネイサン軍曹が発見されてしまっただろうからなー。)

 

 キースたちは出せる最大限の速度、64.8km/hでバトルメックを走行させる。これは大半の重量級メックの、普通の状態での最高速度だ。中量級のグリフィンやウルバリーン、シャドウホークであれば86.4km/h、フェニックスホークであれば97.2km/hまで出すことができる。またキースら第1中隊指揮小隊の操縦技量をもってすれば、動きの鈍い重量級メックでも全力疾走状態に置くことにより、86.4km/hでの移動が可能だ。

 しかし機体を全力疾走の状態に置いて確実にコントロール可能な腕前を持つのは、第1中隊指揮小隊ぐらいであり、他の大半の重量級や強襲メックはそれに付いてこられない。正確にはアーリン大尉など、どうにかこうにか可能な技量の者もいることはいるが、流石に安定して全力疾走を維持できるとは言い難い。それ故に、部隊として出せる最大の速度が64.8km/hなのである。

 だが遺跡都市を目指している敵の主力部隊は、その存在を隠蔽しているつもりであるため、より一層動きが鈍い。まず間違いなく追い付く事ができるはずと、キースは予想していた。そしてその予想は、外れることは無かった。指揮車輛のジャスティン少尉が外部スピーカーで叫ぶ。

 

『キース中佐!ネイサン軍曹よりの報告を受信しました!『敵集団現在地XA-445地点、SSE方向へ21.6km/hで移動中。』との事です!』

「進行方向を11時方向に変更!」

 

 キースも外部スピーカーで指示を下した。彼は考えを纏める。

 

(予定していたXA-447地点より手前の、XA-446地点で会敵になりそうだな。となればそろそろこの辺で、スナイパー砲車輛、指揮車輛、歩兵たちの兵員輸送車は待機させておくべきだろうなあ。)

 

 そしてキースは再度外部スピーカーで命令を叫ぶ。

 

「車輛群はここで停止!指示を待て!メック部隊はそのまま前進を続けろ!第1中隊偵察小隊ヤコフ少尉、索敵に集中せよ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 その後しばらく、無言での進軍が続く。だがヤコフ少尉の声が、彼のオストスカウトの外部スピーカーから響いて来た。

 

『……発見しました!目標XA-446地点!IR偽装網のおかげで、動いてさえいなければこの機体でも見つけるのは難しかったでしょうが、のろのろとは言え動いていますからね。なんとか発見できました。

 それと……。センサーのレンジぎりぎりに、『SOTS』第2中隊のバトルメックが引っ掛かりました!こちらの部隊の会敵後、10分以内に現地到着する模様です。』

 

 更にキースのマローダーの通信回線に、ネイサン軍曹の声が飛び込んで来る。

 

『敵集団現在地XA-446地点、SSE方向へ21.6km/hで移動中。』

 

 ネイサン軍曹は送信を最低限に切り上げて、通信を終える。傍受され、発見される可能性をわずかでも減らすためだ。ここでキースは決断する。

 

「もういい頃合いだ、無線封鎖解除!指揮車輛ジャスティン少尉、アル・カサス城に『SOTS』気圏戦闘機隊の出撃命令を出せ!目標地点はマップ上のXA-446地点!」

『こちらジャスティン少尉、了解!』

 

 そしてキースは、第2中隊の中隊長機であるオリオンとの間に通信回線のリンクが成立している事を確認すると、声を張り上げる。マローダーの通信装置でも、この距離まで近づけば充分に通信が可能なのだ。

 

「第2中隊ヒューバート大尉、聞こえるか!?」

『こちらヒューバート大尉、感度良好です。』

「移動速度を少しばかり上げてくれ。敵の移動速度が予定よりちょっとばかり遅かった。今のままでは、挟撃ではなく逐次投入になる。戦場はXA-446地点だ。」

『了解です。第2中隊、XA-446地点へ急ぎます。』

 

 キースは続けて、現場で偵察中のネイサン軍曹に通信を送る。

 

「ネイサン軍曹!こちらでも敵集団を確認した!現場を離脱し、XA-434地点の味方車輛群と合流してくれ!」

『こちらネイサン軍曹です、了解しました。』

 

 にやりと獰猛な笑みを浮かべつつ、キースはマローダーを走らせた。

 

 

 

 やがて緑色をしたIR偽装網をかぶったメックの隊列が、キースたちの視界に入って来る。キースらはメックを走らせながら、既に隊列を整えていた。万全、否、鉄壁の構えである。敵は泡を食ってIR偽装網を脱ぎ捨て始めた。

 前衛にバトルマスター、ウォーハンマー、サンダーボルト、ウルバリーン、ハンチバック等を置き、中衛にグリフィン、シャドウホーク、エンフォーサー、ヴィンディケイターを並べる。マローダー、アーチャー、クルセイダー、ライフルマンは後衛で、フェニックスホークとD型フェニックスホークは遊撃だ。ちなみにオストスカウトは、後衛の更に後ろでセンサー担当として、キースのマローダーに情報を送っている。

 キースはサイモン老のスナイパー砲車輛に回線を繋ぐ。

 

「サイモン中尉。XA-446-56に一撃頼む。風向はW、風力は3単位。その次はそこよりNに150mの位置に砲撃だ。

 さて、気圏戦闘機隊がやって来る前に、敵のライフルマン2機を潰しておくぞ?第1中隊指揮小隊は向かって右の、それ以外で当たり目がありそうだと思った者は左のライフルマンを狙え。次点の目標はドラゴン3機だ。中口径オートキャノン搭載機を真っ先に潰して、気圏戦闘機の安全度を上げておく。ライフルマンを狙っても当たりそうにない奴は、ドラゴンのどれかを狙え。では射撃用意……撃て!!」

 

 2機の敵ライフルマンは、一瞬でずたずたになって腕や脚を失い、大地に倒れ伏す。それでも必死で応射したが、前衛に立つバトルマスターやサンダーボルトと言う分厚い壁には、いかほどの事も無かった。

 一方の敵ドラゴン3機は、散発的な攻撃を受けただけだったが、運悪く1機が損傷が直り切っていなかった左脚に直撃を受けてその脚が崩壊し、これも大地に倒れる。優秀な遠距離兵装を持つドラゴンからの応射は、後衛にいるキース機を狙って来た。おそらくはこれまでの戦闘で、キースが指揮官だと目星を付けていたのだろう。しかし距離がありすぎたのと、キース機の機動回避によって、命中弾は無かった。

 他の敵機は必死で陣形を立て直そうとするついでに、散発的に攻撃を仕掛けて来た。だがほとんどまぐれ当たり的に、アマデオ軍曹のシャドウホークが左腕に、敵のK型シャドウホークの粒子ビーム砲を浴びた他は、ダメージらしいダメージは無かった。

 キースは自分の機体を近場にある小高い丘に登らせようか、と一瞬考える。だが彼はその考えをすぐ放棄した。高地に登る事には、ここら辺一帯すべてに対して射線が通る、と言う意味がある。そして着弾観測をするには、目標地点に対して射線が通っている必要があるのだ。着弾観測員としてのキースにしてみれば、是非とも登りたいところである。

 だがしかし、今回長距離兵器を持つメックがキース機を狙って来た。明らかに、キース機を指揮官機と認識しての行為だ。他にも狙いやすいメックはたくさんあると言うのに、キース機をわざわざ狙って来たからには、間違いはないだろう。敵にアーチャーやK型アーチャー、クルセイダー、K型クルセイダーなどの、長射程を誇る長距離ミサイル発射筒を備えたメックが数多く残っている状況で丘陵に登れば、目立ってしまい集中砲火を受けるだろう。

 ふとキースは、敵K型アーチャーの1機がうかつにも、自機やアンドリュー曹長機から見て部分遮蔽になる位置にいる事に気付く。敵は以前の戦いでの惨状にこりて、可能な限りこちらの機体から部分遮蔽にならない位置取りをしていた。だが今、敵K型アーチャーはうっかりと、よりにもよって一番射撃技量が高い2人から部分遮蔽になる位置にいたのだ。

 

「アンドリュー曹長、左のK型アーチャーだ。ありがたく頂こう。」

『おう、隊長!』

「サイモン中尉、次はさっきの位置からS方向に90m地点に砲撃を頼む。他の者は生き残ったドラゴン2機を優先して、叩きやすい敵を叩け。だがあまり欲張るな。相手の後ろから第2中隊が襲い掛かるまでは、慎重に行け。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 キースとアンドリュー曹長の機体から発した射線が、敵K型アーチャーの上半身を滅多打ちにする。敵K型アーチャーは、キースの粒子ビーム砲に頭部を貫かれ、メック戦士を焼かれて動きを止めた。だが鼬の最後っ屁か、その敵K型アーチャーの放った15連長距離ミサイルがキースのマローダーに降り注ぐ。9本のミサイルがマローダーの右腕と左腕に命中し、装甲板を0.5tと少しばかり削った。

 ほぼ同時に、前衛の更に一番前に立っていた、アーリン大尉のバトルマスターとマテュー少尉のサンダーボルトが、各々敵のドラゴン2機にレーザーを放ちながら格闘戦を挑む。先ほどの交戦で傷ついていた敵ドラゴン2機は、1機が右胴の装甲を突き破られ、中口径オートキャノンの弾薬に引火して爆散、もう1機がバトルマスターに左脚を蹴り潰されて地面に倒れた。相手の反撃は、バトルマスターとサンダーボルトの絶望的なほどに厚い装甲に阻まれて、なんら効果を上げていない。

 遊撃に回っていたフェニックスホーク達が、前に出て来た敵ジェンナー3機を袋叩きにして爆散あるいは行動不能にさせる。ジーン中尉のグリフィンが、敵パンサーの脚を撃ち抜いて転倒させる。アーチャー2機とクルセイダーが、粒子ビーム砲の届かない位置から敵のウォーハンマー2機に長距離ミサイルの雨を降らせる。いずれも味方の損害は軽微だ。

 ここでキース機の通信回線に、軽いお調子者だが信頼できる仲間の声が入る。

 

『隊長!来たっすよ!『SOTS』気圏戦闘機隊、アロー中隊6機、ビートル中隊6機、ただいま参上っす!』

「待っていたぞ、マイク中尉!目障りなライフルマンを始め、中口径オートキャノン装備機は潰してある!アロー中隊は各個にその最大口径オートキャノンで、弱った獲物を狩ってくれ!ビートル中隊は地上掃射!目標は任せる!」

『了解っす!アロー中隊ブレイク!各個に敵を狩れ!ビートル中隊はトレールを組んで、敵陣後衛に地上掃射を繰り返せ!

 いいいやああぁぁっほおおおぉぉぉ!!』

 

 マイク少尉のライトニング戦闘機が、敵に2機あるサンダーボルトのうち、損傷が目立つ方に最大口径オートキャノンの一撃を叩き込む。敵のサンダーボルトは応射するが、気圏戦闘機の速さに命中させられない。なんとマイク中尉機のその一撃は、敵サンダーボルトの頭に中り吹き飛ばした。敵メック戦士の脱出は確認できない。他のアロー中隊機も、各個に敵を撃ち崩している。

 そして敵後衛に固まっていた、アーチャーやK型アーチャー、クルセイダー、K型クルセイダー、グリフィン等支援を得意とするメックの群れに、ヘルガ中尉率いるビートル中隊が一直線に並んで地上掃射を行う。応射でビートル4、ビートル6が損傷した。だが相手はそれ以上に大ダメージを負っている。特にアーチャーは、片脚を折り取られてひっくり返った。

 

『こちらヘルガ中尉。ビートル4とビートル6が損傷。離脱させたく。』

「了解だ。ビートル4とビートル6、離脱しろ!以後は上空にて監視に移れ!」

『『了解!!』』

 

 キースの命令に従い、ビートル4とビートル6がいったん空域を離脱してから、はるか上昇してここの上空に戻って来る。と、ここでサイモン老の撃ったスナイパー砲の第1射が降り注いだ。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 この一撃は、今しがた地上掃射を受けた敵支援メックのど真ん中に落着する。敵のK型アーチャーとクルセイダーが1機ずつ、大地に倒れ伏した。K型アーチャーは胴の真ん中の装甲板を吹き飛ばされて、ジャイロを破壊された模様だ。一方クルセイダーは、右脚を根元から吹き飛ばされている。

 気圏戦闘機隊の参加で、戦力比は大きく『SOTS』側に傾いた。もはや逆転することは不可能だと踏んだのであろう、敵部隊……『第25ラサルハグ連隊C大隊』は、できる限り整然と後退を試みる。だがその後ろから、幾条もの火線が彼らに突き刺さった。最後尾にいた支援機たちが、その餌食になる。ある機体は弾薬に火が回り爆散、ある機体はジャイロに大ダメージを受けて転倒し立ち上がれなくなり、ある機体は両腕両脚を吹き飛ばされて達磨になった。

 

『パーティーには間に合いましたかね?キース中佐。』

「絶妙なタイミングで間に合ったぞ、ヒューバート大尉。」

 

 そう、ヒューバート大尉の第2中隊が参戦したのだ。キースは考える。

 

(乱戦気味になってきてるから、これから先はスナイパー砲を砲撃するのは危ないな。今撃ち終わった残り2発で終わりにしておこう。)

『キース中佐?』

「ヒューバート大尉、スナイパー砲の砲弾が落ちて来るから、あと20秒突入は待ってくれ。……撃たなければ、勝負をここで決められたかも知れんな。」

『いや、うちの第2中隊がいつ到着するか、正確なタイミングは分からなかったんです。おおよその時刻は分かっても。仕方ないでしょう。』

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 言っているうちに、2発目の砲弾が降り注いだ。それは味方の後退を支援するために高地に登っていた、敵ウォーハンマーに直撃する。その機体は、慌てて高地を降りて来た。そこへキースのマローダーとアンドリュー曹長のライフルマン、そしてエリーザ曹長のウォーハンマーからも砲撃が集中する。この機体は、全身の装甲板を綺麗に剥がされた。だが未だ立って動いている。

 キースは嘆息する。

 

「どこで読んだんだったかな……。メックは壊れるのは簡単だが、壊すのは難しい、って……。」

『言い得て妙ですね。でも、これで終わりです。』

 

 アーリン大尉のバトルマスターが、裸になった敵ウォーハンマーの脚を蹴り折った。反撃で胴装備武器の一斉発射を食らったが、さすがバトルマスターと言うところを見せて、耐えきった。だが戦闘開始時点から、彼女のバトルマスターとマテュー少尉のサンダーボルトは、『SOTS』が受ける被害のほとんどを肩代わりしている。そろそろさすがに装甲が危うかった。

 キースは叫ぶ様に指示を出す。

 

「アーリン大尉。マテュー少尉、下がれ!イヴリン軍曹、ヴェラ軍曹、2人と交代して前に立つんだ!できるな!?」

『『了解!!』』

『了解です、やれます!』

『自分もできます!』

 

 2人のサンダーボルトが、最前衛に立つ。そしてそのすぐ後ろに続いていたジョシュア少尉のハンチバックの最大口径オートキャノンが火を噴いた。敵K型ウルバリーンの1機が大地に沈む。もう1機の敵K型ウルバリーンも、エリーザ曹長とリシャール少尉の2機のウォーハンマーより胴装備武器の一斉発射を受けて、四肢をすべてもぎ取られ、地面に転がった。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 3射目のスナイパー砲砲弾が落着する。敵のK型シャドウホーク3機を綺麗に巻き込んで着弾したその砲撃は、敵の装甲板を容赦なく削り取った。一旦飛びぬけて旋回した、アロー各機とビートル残り4機の気圏戦闘機隊が戻って来る。敵バトルメックたちは、整然とした退却ではなく、とうとう算を乱して逃げに入った。その最後尾には敵指揮官機と見ゆるサンダーボルトが、味方を逃がすべく必死で応戦している。キースは、そのサンダーボルトに狙いを定めた。

 と、照準の中へ敵のグランドドラゴンが割り込んで来る。何やら揉めていた様だが、やがて敵のサンダーボルトは、グランドドラゴンに位置を譲り、背を向けて逃走に入った。敵グランドドラゴンはただ1機残り、脇を通り抜けようとする遊撃のフェニックスホークの群れに粒子ビーム砲や10連長距離ミサイルを放って牽制する。

 

(あー、死兵となって指揮官を逃がす気か……。だが、なんと言うか……位置取りが絶妙だな。あのグランドドラゴンを放っておいて敵を追いたいのは山々なんだけど、そう言うわけにも行かないなあ。貴重なグランドドラゴンを与えられるだけあって、技量も確かだよ。参ったね、これは。)

 

 キースは内心で愚痴る。だが彼はすぐに気を取り直し、気圏戦闘機隊に命じた。

 

「気圏戦闘機隊マイク中尉!逃走する敵を追撃しろ!ただし推進剤が危うい機体や敵の応射で打撃を受けた機体は即座に離脱させるんだ!」

『マイク中尉、了解っす!野郎ども、それにお嬢さん方!これより敵を追撃するっすよ!』

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 上空を気圏戦闘機が編隊を組んで飛び過ぎる。敵グランドドラゴンは、少しでもそれを妨害しようと、粒子ビーム砲と長距離ミサイル、中口径レーザーを必死に撃ち上げた。そのグランドドラゴンに、キースたち『SOTS』メック部隊の砲火が集中する。

 

「『SOTS』全機、目標グランドドラゴン!斉射開始!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 敵グランドドラゴンは火達磨になった。だがしかし乗り手の執念が乗り移ったか、そのグランドドラゴンはほぼ全ての装甲を引き剥がされ、内部構造にもいくらかのダメージを負いつつ、それでも立ち尽くして粒子ビームを発砲して来る。業を煮やしたエリーザ曹長のウォーハンマーが駆け寄って、その戦鎚の様な両腕で頭部を叩き潰した。メック戦士は脱出せず、機体は頽れる。

 キースは後方の指揮車輛に回線を繋ぐ。

 

「ジャスティン少尉、気圏戦闘機隊との回線を中継しろ。」

『了解!……繋がりました!』

「気圏戦闘機隊、マイク中尉。追撃の結果を報告せよ。」

 

 マイク中尉の悔し気な声が入電する。

 

『こちらマイク中尉。追い付いて追撃を加えて、2機ばかり擱座させたっすけど……。そこで推進剤が危なくなって、残りの敵機には逃げられたっす。最初に被弾して高高度よりの監視任務に移ったビートル4、ビートル6の報告では、奴らサンタンジェロ城に逃げ帰るみたいっすね。』

「ふむ、となると……。残敵の数は1個中隊規模か。……。」

『キース中佐!敵別働隊を攻撃していた『アリオト金剛軍団』より入電です!『当方、敵別働隊を撃滅。敵メックの半数を鹵獲し、当方の損害は軽微。残敵はサンタンジェロ城へ逃走中。』との事です!』

 

 ジャスティン少尉からの報告に、キースはしばし考える。そして彼は重要な決定を下す。

 

「マイク中尉。ビートル6のみを監視に残し、他の気圏戦闘機はアル・カサス城に帰還して推進剤の補給と、損傷機は修理を受けろ。そしてアロー中隊機は通常装備で、ビートル中隊機は爆装させて再出撃だ。目標はサンタンジェロ城。ただし陸上部隊の準備が整うまでは、対空砲火の届かない超高空で、推進剤を極力使わない低速巡航で待機。その時点でビートル6は帰還させ、修理と爆装の上、再度出撃し本隊と合流だ。」

『了解っす!……このままサンタンジェロ城を攻めるおつもりで?』

「うむ。敵戦力は低下している。この機を逃して敵メックが修理されてしまうと、敵は増援が来るまで籠城で持ちこたえるやも知れん。だが今ここで敵戦力を撃破してしまえれば、クリタ家も増援を送り込むのには躊躇するだろうよ。再度攻め込んで来るにしても、それは万全の準備を整えてからで、それには時間がかかる。

 ……ジャスティン少尉、アル・カサス城へ回線を中継してくれ。」

『はっ!了解です。』

 

 キースはアル・カサス城の指令室に、指揮車輛の通信装置を介して通信を繋ぐ。今アル・カサス城の指令室は、メック部隊や気圏戦闘機隊が全て出撃しているため、『SOTS』機甲部隊戦車中隊指揮官であるイスマエル・ミラン大尉待遇中尉が預かっている。

 

「イスマエル中尉、こちらキース・ハワード中佐。ミン・ハオサン博士の部屋に繋いでくれ。」

『こちらイスマエル中尉、了解しました。オペレーター、中佐からの回線をハオサン博士の部屋に繋ぐんだ。』

 

 わずかな時間の後、『SOTS』の誇る惑星学者、ミン・ハオサン博士が通信に出る。

 

『こちら、ミン・ハオサン。中佐、何か御用かね?』

「ハオサン博士、作戦上の事で至急お聞きしたい事がある。地下の構造が岩盤質の平地は、サンタンジェロ城近郊に何処か無いかね?降下船を降ろしたいのだが。」

『少し待っていてくれたまえ。……XC-236地点に1つ、XC-239地点に1つあるね。』

「……XC-236地点だと、敵の城からのスナイパー砲が届いてしまうな。XC-239地点ならば相手からは攻撃不能な上に、フォートレス級ディファイアント号のロングトムⅢがぎりぎり届く。そちらにしよう。ありがとう、ハオサン博士。では。」

『いやいや、かまわんとも。では無事でな、中佐。』

 

 キースは再び、指令室のイスマエル中尉に回線を戻す。

 

「指令室、イスマエル中尉。推進剤の確保は惑星公爵閣下がお約束くださっている。手持ちのなけなしの推進剤に手を付けることになるが、フォートレス級ディファイアント号をXC-239地点の平地まで発進させてくれ。バトルメックの整備拠点、および間接砲の砲台として使用する。装甲板と弾薬を、大量に積み込むのを忘れん様にしてくれ。整備兵と助整兵も乗せる様に。

 それと、貴官が指揮する機甲部隊戦車中隊も、それに同乗して来てもらうぞ?今回は『SOTS』の全力で当たる。無論、『アリオト金剛軍団』にも働いてもらう。」

『了解です。我々が出撃中、ここの指令室はいかがいたしましょうや?』

「レパード級ヴァリアント号のカイル船長に頼むとしよう。以上、交信終わり。」

 

 そしてキースは、指揮車輛のジャスティン少尉へもう2つばかり命令を出した。

 

「ジャスティン少尉、第1、第5、第6歩兵小隊に俺の命令を伝達してくれ。ここに来て、擱座させた敵バトルメックのメック戦士を捕虜に取ってもらう。その後、『SOTS』メック部隊は戦利品の回収をせずに放置してサンタンジェロ城に向かうので、第5歩兵小隊にはこの場の、第6歩兵小隊には少し離れた場所にて擱座している2機の敵バトルメックの警備をしてもらう。第1歩兵小隊は、捕虜をアル・カサス城まで護送してもらおう。ああ、指揮車輛とスナイパー砲車輛は、勿論メック部隊に随伴してもらうぞ。

 それと、『アリオト金剛軍団』残敵指揮官、クリフ・ペイジ大尉のマローダーに、向こうに随伴させたスィフトウィンド偵察車輌を介して回線を繋いでくれ。」

『はっ!了解です。少々お待ちください……。繋がりました。』

 

 マローダーの通信装置から、クリフ大尉の声が聞こえて来る。

 

『こちら『アリオト金剛軍団』暫定指揮官、クリフ・ペイジ大尉です。どうなさいましたか、ハワード中佐?』

「ペイジ大尉、『アリオト金剛軍団』は擱座した敵メックのメック戦士を捕虜にしたら、戦利品の回収を一時中止して最大速度でサンタンジェロ城に向かってくれ。現場に残す敵メックは、第7、第8歩兵小隊に警備をさせて、後々に回収しよう。第3歩兵小隊は捕虜をアル・カサス城まで護送させ、スィフトウィンド偵察車輌はメック部隊に随伴させる様に。

 それと、そうだな……。ボリス・ヤロスラヴォヴィチ・ゴルトフ少尉のコルセア戦闘機はいったんアル・カサス城に帰還させて、修理が必要なら修理と、推進剤を補給させてからサンタンジェロ城に差し向けてくれ。その後は『SOTS』気圏戦闘機隊と共に、低速巡航で高高度待機だ。」

『了解いたしました。しかし……このままサンタンジェロ城を攻めるのですか?』

 

 クリフ大尉の意外そうな声に、キースは苦笑しつつ言った。

 

「うむ。今が千載一遇の機会であると共に、今を逃しては後々面倒だからな。一応最低限の補給と、損傷が大きめの機体の修理は、XC-239地点に『SOTS』の降下船を呼び寄せて、そこで行う。貴官らとこちらの合流も、XC-239地点で行おう。」

『了解です。では移動準備にかかります。』

「頼んだ。交信終わり。」

 

 最後にキースは、ヒューバート大尉のオリオンに、回線を繋ぐ。

 

「ヒューバート大尉、貴官の第2中隊は、現時点で最もダメージが無い。先行して進発し、途中で気圏戦闘機隊が擱座させた2機の敵メックのメック戦士を降伏させてくれ。我々もすぐに追いつく。」

『了解です。ではお先に行かせてもらいます、キース中佐。』

 

 第2中隊は、急ぎサンタンジェロ城の方角へ走り出した。それを横目で見つつ、キースはそこら中に転倒しているか、あるいは擱座して動けなくなっている『第25ラサルハグ連隊C大隊』のバトルメックに、マローダーを歩み寄らせる。彼は敵に対し降伏勧告を行うため、外部スピーカーの回線と一般回線とを開いた。




戦闘では勝利しましたが、敵の指揮官機はグランドドラゴンのメック戦士が自身を捨てて、死兵となって逃がしてしまいました。
主人公たちは、この機会を逃さじと敵本陣を攻める事を決意。急ぎ、サンタンジェロ城へと向かいます。はたしてそこで待っているのは!


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『エピソード-064 城攻めの顛末』

 3ヶ所に仕掛けられた高性能爆薬により、人工の小地震が発生する。その波形を観測したデータを、整備兵でありコンピューターのエキスパートであるパメラ軍曹が解析、地中にある構造物の形状を調べ上げた。そしてその結果を、彼女はキースのマローダーに報告してくる。

 

『……この城には、地下道はありませんね。基本的にアル・カサス城と同じ構造です。巨大な地下室はありますけれど――おそらくは動力区画ですね――ですが、外部へつながる様な地下通路は確認できません。』

「了解した、ご苦労だったパメラ軍曹。

 ……サイモン中尉、次は前回の位置からE方向へ90mの位置に砲撃してくれ。風向と風力は若干変化して、WS方向から1単位だ。それが終わったら、その更に90mE方向へ一撃。そこまで済んだら弾切れになるはずだから、ディファイアント号へいったん戻ってスナイパー砲車輛に弾薬を補充して来てくれ。

 『SOTS』メック部隊、第1中隊はE方向へ移動開始。第2中隊はES方向へ同じく移動開始。第3中隊はWS方向へ移動開始。第4中隊はW方向へ移動開始せよ。『アリオト金剛軍団』、機甲部隊戦車中隊はそのまま動かない様に。」

 

 キースの指示に従い、メック部隊は重低音を奏でつつ移動する。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 そして数秒後、2ヶ所にスナイパー砲の砲弾が着弾した。これはサイモン老の撃った砲弾ではない。サンタンジェロ城の2門ある固定スナイパー砲台からの砲撃だ。だがそれはキースの絶妙な移動指示により、まったく見当はずれの場所に落着する。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 一方でサイモン老の撃った砲弾は、着実にサンタンジェロ城の地雷原を掃除して行く。熟練の着弾観測員であるキースと、最高の砲手であるサイモン老のコンビによる間接砲撃は、いささかのズレも無い。キースは考える。

 

(さあて、何時までもこうしているのも芸が無いよなー。相手の心理、戦術を推測して、着弾位置を予想してそこを避けているけど、いつかはまぐれ当たりが無いとは言えないからなー。敵の脱出路が無い事は先ほどわかったし、あと考えられるのは降下船による脱出かなあ……。

 降下船と言えば、それを使ってのアル・カサス城への強襲……は、それほど考えなくてもいいはずだよね。捕虜交換前に敵捕虜を尋問した結果、敵も推進剤には余裕無いはずだし。その貴重な推進剤を、下手したら浪費する危険は、今の状況じゃ冒せないだろう。降下船は、最後の手段である惑星撤退に使わないといけないだろうし。

 と言うか、さっさと惑星撤退を選んでくれれば、ありがたいんだけど。ここまでやられたんだから、その選択肢を選んでもいいと思うんだけどね。)

 

 キースは再度部隊に移動指示を下すと同時に、とある決断を下す。

 

「『SOTS』メック部隊、第1中隊はW方向へ移動開始。第2中隊はNW方向へ同じく移動開始。第3中隊はES方向へ移動開始。第4中隊は移動せず。『アリオト金剛軍団』はS方向へ移動開始。機甲部隊戦車中隊はES方向へ移動。

 気圏戦闘機隊ビートル中隊、出番だ。城内の固定スナイパー砲台を2手に分かれて爆撃してくれ。対空砲火が予想されるので、損傷機は速やかに戦域を離脱、砲火の届かない高高度まで上昇後に現場上空まで戻り、高高度よりの監視に戻る様に。」

 

 キースは気圏戦闘機隊B中隊……ビートル中隊に、爆装をさせて空中待機させていた。これは敵の間接砲を潰すために、爆撃を行わせる目的で用意していた物である。なお、被弾損傷していたビートル4とビートル6も、既に復帰していた。キースはこれの投入を決意したのだ。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 サンタンジェロ城のスナイパー砲砲弾が着弾する。だが着弾した場所にはやはりバトルメックはいない。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 サイモン老のスナイパー砲車輛より発射された砲弾が、地雷原を抉る。これでサイモン老の車輛は、弾切れだ。だが地雷原には、最低限とは言えど穴が開いた。更に上空より気圏戦闘機ビートル中隊が、ヘルガ中尉機、アードリアン少尉機を編隊長とする3機編制ずつの変則的な2個編隊を組み、サンタンジェロ城の城内へ急降下爆撃を敢行する。

 ヘルガ中尉とアードリアン少尉の射爆技術は極めて高い。他の4名は各々の編隊長ほど技量が高くは無いが、それでも充分な腕前を備えていた。城内より対空砲火が撃ち上がる。しかしそれにも臆せずに、ビートル中隊の気圏戦闘機は目的を果たして急上昇し、離脱した。

 

『こちらビートル中隊中隊長ヘルガ中尉。自分麾下の第1編隊は、目標Aを破壊。なれどビートル3、ビートル4が対空砲火により損傷。ビートル3、4は離脱させ、上空待機に移行。』

『こちらビートル中隊第2編隊長アードリアン少尉、同じく目標Bを爆撃により破壊!ビートル5が対空砲火により痛打を浴びました。上空待機よりはアル・カサス城に帰還させたく思います。』

「許可する。ビートル5はアル・カサス城に帰還せよ。飛べるな?」

『こちらビートル5、キアーラ少尉。戦闘参加は困難ですが、飛ぶだけならなんとか。当機はアル・カサス城へ帰還します!』

 

 キースは一瞬で考えを纏める。

 

(アーリン大尉のバトルマスターと、マテュー少尉のサンダーボルトは、あと1時間半もすれば装甲板の換装を終わらせてこちらに駆けつけてくれるよな。けど、敵のスナイパー砲も潰した事だし、それを待ってるよりも今の戦力で強行した方がいいな。サイモン爺さんのスナイパー砲車輛は、ディファイアント号へ弾薬補充のため全速力で走ってるところだろな。)

 

 サイモン老のスナイパー砲車輛に通信回線を繋ぎ、キースは命令変更を伝える。

 

「サイモン中尉!フォートレス級ディファイアント号に着いたら、スナイパー砲車輛への弾薬補充はしなくていい!そのままディファイアント号のロングトムⅢの指揮に入ってくれ!」

『……こちらサイモン中尉、了解ですわい!』

「うむ、サイモン中尉がロングトムⅢの指揮に就いたらすぐ連絡をくれ。ロングトムⅢの砲撃で、サンタンジェロ城の城門を吹き飛ばす。そして現在の戦力で城内に雪崩れ込み、早期決着を着ける!

 『SOTS』メック部隊、第1中隊はE方向へ移動。第2中隊はSW方向へ移動。第3中隊はN方向へ移動。第4中隊はNE方向へ移動せよ。『アリオト金剛軍団』はN方向へ移動だ。戦車中隊はNW方向へ移動せよ。敵のスナイパー砲は潰したが、まだ敵が撃った砲弾が全部落ちてきたわけじゃないからな。」

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 言っている内に、スナイパー砲の砲弾が落ちて来る。だがそれも無駄な位置に落着した。おそらくは後1回ぐらいは砲弾が降って来るはずである。キースは続けて指令を下す。

 

「『SOTS』メック部隊、第1中隊はSW方向へ移動。第2中隊はNE方向へ。第3中隊はE方向へ移動。第4中隊はSW方向へ。『アリオト金剛軍団』はSE方向へ移動。戦車中隊はSW方向へ移動。

 ……!?さすがに持たないと見て、出撃して来たか。む!?」

 

 サンタンジェロ城の城門が開いた。出て来たのは、傷ついたバトルメックが5機のみである。城門はそれだけを吐き出すと、すぐに閉じた。その構成は、65tサンダーボルトが1機、45tの通常型フェニックスホークが3機、同じく45tのK型フェニックスホークが1機である。サンダーボルトは、先に取り逃がした敵指揮官機……司令官代理マジード・ワーディウ・ディヤー大尉の物に間違いない。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 また無意味な位置に、最後のスナイパー砲弾が落ちる。それを尻目に5機の敵メックは、総勢で1個半大隊以上はある現状の味方戦力に対し、堂々と向き合って進んで来た。今現在アーリン大尉がバトルマスターの装甲張り替え中で不在なため、暫定的に第3中隊の指揮を執っている第3中隊火力小隊小隊長、ジェラルド・ハルフォード中尉が怪訝そうな声音で言う。

 

『……降伏の使者、でしょうか?』

『そんなわけ無いだろう。標準降伏旗も、標準休戦旗も持たない使者なんて、いるわけが無い。第一奴らはやる気だぞ?』

 

 ヒューバート大尉が答えた通り、5機の傷ついた敵メックは武器を構え、地雷原の穴を通ってキースたちの第1中隊の方へ走行して来た。狙いはただ1つ、キースのマローダーであるらしい。キースは命令を下す。

 

「第2、第3、第4中隊!左右から相手の側面を突け!機甲部隊戦車中隊、後方より支援を開始!『アリオト金剛軍団』第1、第2中隊は相手の後背に回り込め!弱い者苛めの様で気がひけるやもしれんが、相手がやる気なんだ、容赦はいらん!全部隊、奴らを叩き潰せ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

「『SOTS』第1中隊、一斉射撃用意……撃て!!」

 

 キースのマローダーの前に、エリーザ曹長のウォーハンマーとイヴリン軍曹のサンダーボルトが進み出る。『SOTS』第1中隊のバトルメックは、その全武装を解き放った。最初に大地に倒れ伏したのは、敵のK型フェニックスホークだった。その機体は高機動力に物を言わせ、最も早く第1中隊に接近していたが故に、最も早く痛打を浴びたのだ。

 だが敵K型フェニックスホークの撃った大口径レーザーの一撃は、キースのマローダーの左脚に命中する。そのわずかな戦果と引き替えにして、K型フェニックスホークは四肢を全て破壊されて地面に転がった。

 敵指揮官機サンダーボルトが、15連長距離ミサイル発射筒と大口径レーザーを撃ち放つ。キースは自機を機動回避させる。今までキースのマローダーがいた場所に、ミサイルの雨とレーザーの光条が降り注ぐ。通信回線からイヴリン軍曹の叫び声が聞こえた。

 

『なんでこっちを狙わないの!?』

「狙いは俺だけの様だな。だが、そうはいかんよ。」

 

 3機の通常型フェニックスホークは、全力でジャンプして可能な限り被弾を抑え、キースの近くに辿り着こうとしている。キースはそのうちの2機を、それぞれ両手の粒子ビーム砲で狙い打った。1機は傷ついたままだった左脚に直撃を受け、その脚を折り取られる。もう1機は右腕を吹き飛ばされて、攻撃力の7割を喪失した。

 だが3機目の敵フェニックスホークがキースの近くまで到達する。過熱も厭わずに、そのフェニックスホークは全力射撃を敢行した。ジャンプ直後のため態勢が崩れており、その射撃の大半が外れる。だが中口径レーザーが1本、先ほどダメージを受けた左脚に着弾した。

 そのフェニックスホークに、第1中隊偵察小隊の集中砲火が浴びせられる。敵のフェニックスホークは片脚を吹き飛ばされ、地面に転倒した。しかし左腕で機体を起こし、右腕装備武器を撃とうとする。そこにイヴリン軍曹機のキックが決まり、今度はその右腕を完全破壊され、その機体は無力化された。

 そして先ほどキースの射撃で右腕を飛ばされた敵フェニックスホークだが、火力小隊『機兵狩人小隊』の全力射を浴び、残った腕と両脚を失い、胴体にも大ダメージを受けてひっくり返った。

 アンドリュー曹長のライフルマン、エリーザ曹長のウォーハンマーは、敵の指揮官機であるサンダーボルトを徹底的に叩きのめしていた。だがそのサンダーボルトは歩みを止めようとしない。今もキースのマローダーめがけて、長距離ミサイルと大口径レーザーを放ちながら、少しでも近づこうと必死に走っている。

 だがその足も止まる時が来た。さんざんダメージを受けた右脚に、第2中隊中隊長機であるヒューバート大尉のオリオンから、大口径オートキャノンの一撃が送り込まれたのである。敵サンダーボルトは右脚を吹き飛ばされて、派手に転倒した。その周囲を、『SOTS』と『アリオト金剛軍団』のバトルメックが、十重二十重に取り囲む。

 キースはここで、降伏勧告を行う。彼は一般回線とスピーカーを用いて、敵指揮官機のサンダーボルトに向かい、言葉を発した。

 

「マジード・ワーディウ・ディヤー大尉……。もう貴官は充分やったはずだ、降伏しろ。アレス条約に基づいた扱いを約束する。」

『……ありがたい申し出だが、断る。もう少しお付き合いいただこうか。だが部下達は、全部終わった後で降伏しろと言い含めてある。奴らの事は、頼んでもいいだろうか?』

「そうか、了解した……。」

 

 キースはマローダーの両腕の粒子ビーム砲と、胴体上に搭載されている中口径オートキャノンを突きだす。マジード大尉もサンダーボルトの上半身を、機体の左腕で支えて起き上がらせる。そして両者はまるで申し合わせた様に、同時に射撃した。

 マジード大尉機が放った攻撃のうち、15連長距離ミサイルと2連短距離ミサイル、中口径レーザー3本は外れた。しかし執念の大口径レーザーが、キースの機体の頭部に突き刺さる。キースの身体を着弾の衝撃が襲い、彼は打撲傷を負う。だが彼にとっては、たいした負傷ではない。

 一方マジード大尉のサンダーボルトには、粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門全てが命中した。そしてその内、1本の粒子ビームがその頭部を貫く。マジード大尉は脱出を選ばなかった。その一撃は、操縦席ごとマジード大尉の身体を焼き尽くす。キースは溜息を吐いた。

 

「ふう……。む!?」

 

 その時、周囲に轟音が響き渡る。キースら『SOTS』と、『アリオト金剛軍団』の面々が見上げる中、サンタンジェロ城の城壁内より、5隻のユニオン級降下船が離床して発進して行くのが見えた。一瞬キースは、ユニオン級5隻がアル・カサス城方面へ向かうのではないかと考える。

 だがその可能性は低かった。敵に残された戦力は、1個中隊半あるか無いかだ。5隻ものユニオン級を動員する必要性は低い。それにアル・カサス城には『SOTS』の降下船のうちフォートレス級ディファイアント号を除く6隻、『アリオト金剛軍団』のユニオン級3隻が鎮座している。普通であれば5隻のユニオン級で立ち向かえはしない。……まあ、『SOTS』の降下船砲手たちは、一部を除き張子の虎なのだが。

 それに、見ればその5隻のユニオン級は、真っ直ぐに天頂方向目指して全力で上昇して行く。間違いなく、このまま軌道上にまで昇るつもりなのだろう。ここで、一般回線による通信が入る。同時に、外部の音を拾うマイクからは、敵機の外部スピーカーによる物と思われる、まったく同一の音声が入って来た。

 

『こちら『第25ラサルハグ連隊C大隊』第2中隊偵察小隊小隊長、ノボル・ハヤカワ中尉だ。当偵察小隊全員は、マジード・ワーディウ・ディヤー大尉の遺命により降伏する。』

「了解した。降伏を受け入れる。機体から降りて待機する様に。降りられない者、負傷者などは申告する様に。」

『了解した。深刻な負傷者はいないが、全員が軽傷を負っている。』

「こちらの城より、ヘリで軍医を呼ぶ。機体の傍で待つように。」

 

 キースはフォートレス級ディファイアント号に通信を入れ、アル・カサス城への通信回線の中継を命じる。それと同時にサイモン老に、もうロングトムⅢの出番は無さそうだが、万一に備えておく様にと申し送った。

 

 

 

 こうしてサンタンジェロ城の攻防戦は、キースらライラ共和国惑星守備隊の勝利に終わった。しかしキースの頭からは、何故マジード大尉が死を選んだのか、その疑問がこびりついて離れないでいる。マジード大尉は先日の戦いにおいては、グランドドラゴンのメック戦士の説得に応じて、生き延びるために離脱する事を選んだはずだ。その人物が、どうして降下船と共に惑星を撤退しようとしなかったのであろうか。

 

「……わからん。」

「キース中佐?何か……。」

「ああ、いや。なんでもない。」

 

 アル・カサス城の尋問室の隣室にて、キースはジャスティン少尉を連れて、捕虜の尋問の様子を窺っていた。この部屋からは、マジックミラーと隠しマイクにより、尋問室の中の様子がありありと分かるのだ。尋問室の中では、尋問間でもある優秀な偵察兵エルンスト曹長が、書記官代わりにこれも偵察兵のヘルムート伍長を連れ、尋問対象に色々と質問していた。ちなみに尋問されているのは、『第25ラサルハグ連隊C大隊』第2中隊偵察小隊小隊長、ノボル・ハヤカワ中尉だ。

 

『……つまり貴官は、この惑星に侵攻した目的は知らされていなかったのだな?』

『まあな。だが作戦初期に占拠したのが、星間連盟期の遺跡だと言う事で、おおまかな予想ぐらいはついたがね。だがはっきりとした事は、中隊指揮官以上の上級士官にしか知らされてはいなかったらしいよ。』

 

 ノボル中尉は、素直に尋問に答えている。エルンスト曹長は、あまりに素直過ぎるところに不審を感じたのか、そこを突っ込んだ。

 

『ハヤカワ中尉、やけに協力的だな?いや、こちらとしては有難いのだがね。』

『できるだけ早期に、ドラコ連合に帰還せねばならんからな。何とかして、捕虜交換なり身代金交換なりの第1陣に入れてもらいたいからな。マジード大尉から託された使命がある。』

『ほう?それを話してもらえるかね?』

 

 ノボル中尉は頷く。

 

『マジード大尉が最後まで……。最期まで敵に屈せず、勇敢に戦い抜き、名誉の戦死を遂げた事を当局およびご遺族に報告せねばならん。タキタの馬鹿者めが……。』

『タキタ?誰かね?』

『サブロー・タキタ中尉。第1中隊の火力小隊長だった男だ。第2中隊中隊長だったマジード大尉に反感を抱いていた。』

 

 ノボル中尉の言によると、サブロー・タキタ中尉は『SOTS』との最初の交戦においてタケシ・ユウキ少佐が戦死した際、マジード大尉の第2中隊が『SOTS』との交戦を断念して撤退した事に、ひどく憤慨していたらしい。そしてその後、マジード大尉が『第25ラサルハグ連隊C大隊』の指揮を執った後も、色々あら捜しをしていた様である。

 

『あの馬鹿者は、大隊長戦死直後にマジード大尉が貴君ら『SOTS』と交戦せずに撤退した事、そちらに遺跡を奪い返されたときの戦闘において潰走した事、更には先日の戦闘において死ぬまで戦わずに敗残兵を率いて帰って来た事の3件をもって、マジード大尉がその臆病さで敵に背を向け、敗北を引き寄せたのだと糾弾したのだ。そしてあろうことか、正式な手続きをもってそれを記録に残る様に告発した。』

『……それでどうなったのかね?』

『名誉を傷つけられたマジード大尉は、正々堂々の決闘をもってタキタを打倒し、首印を上げた。だが傷つけられた名誉は完全には回復せん。いや、記録に残る様に訴えて出られた上に、これほどまでに大敗北を喫した以上は、もはやマジード大尉に未来は無かろう。間違いなく腹を切らされるだけでなく、その不名誉は一族にまで及ぶ。メックを一族に継がせることすらも不可能になるであろうよ。

 この不名誉を雪ぐ道は、自ら腹を切るか、名誉の戦死を遂げて自分が臆病でないと周囲に示すしか無かったのだよ。そしてマジード大尉は、より自分の勇気を示せる方、圧倒的多数の敵に対し討ち死にする方を選んだのだ。

 当初は自分と偵察小隊も降下船で惑星を撤退する様にと言われた。だが自分たちはマジード大尉の最期を見届け、大尉が決して臆病で無かった事、最後の最期まで勇敢であった事の証人になる事を志願したのだ。だから自分たちは死ぬわけにはいかないし、可能な限り早期にドラコ連合へ帰還して大尉の最期を当局に伝え、大尉の一族の未来を繋がねばならぬのだ。』

 

 尋問室の隣室で、キースは天井を仰いだ。

 

(ドラコ連合……。クリタ家はこれだから……。前世が21世紀の日本人だからって、サムライの考える事は理解できん。いや、部分的にはわからない事もないけれど、共感はできん。くっそ、マジード大尉に同情しちゃったじゃないかよ。後味悪ぃ……。

 しかし……ドラコ連合に生まれなくて、ほんと良かったよ。なまじ微妙に日本文化が残ってるだけに、絶対微妙に適応できなくなる。いや、それどころじゃないよな。名誉とかに対する考え方が先鋭的過ぎて、まともに生きていけないよ……。)

「キース中佐?」

「いや……。何でもない。少々ハヤカワ中尉の発言に、思う所があっただけだ。」

 

 嫌な気分を噛み殺し、キースは隣室で行われている尋問の続きに注意を向けた。

 

 

 

 明けて3026年12月2日、キースは司令執務室にて書類の山に埋もれていた。無論の事、副官のジャスティン少尉も同様である。そこへ机上の内線電話機が、インターホンモードで鳴る。キースはそのスイッチを入れた。

 

「誰か?」

『『アリオト金剛軍団』暫定指揮官、クリフ・ペイジ大尉です。申請書類にサインを頂きたく、参りました。』

「入室を許可する。」

 

 クリフ大尉は扉を開けるや、ぎょっとした顔になる。書類の山に驚いたのだろう。が、彼はすぐに我を取り戻し、敬礼をして来る。キースとジャスティン少尉は答礼を返した。

 

「驚いたかね?だが混成増強大隊の上に、貴官らの大隊の書類まで上がって来るんだ。このぐらいは当然だよ。」

「は、はあ……。申し訳ありません、我が隊の事まで色々とご面倒を……。」

「いや、当然だと今しがた言っただろう。今は俺がこの惑星ソリッドⅢの惑星守備隊司令官なんだ。貴官らの部隊を指揮下に置いている以上、当たり前だ。まあ、今回は特に先の戦いの報告書の件があるからな。大規模な戦いが連続で発生した上に、追撃の都合でその処理を後回しにしたから、そのツケが一気に回って来たんだ。

 これでも、先月末までに最低限終わらせなければならなかった書類は、先月末日までにちゃんとやったんだぞ?『アリオト金剛軍団』にも戦闘報酬やメック鹵獲の褒賞金は、月末払いでちゃんと入っただろう?」

 

 キースはにやりと笑う。クリフ大尉は、苦笑した。

 

「はい。おかげさまで……。」

「それより、書類にサインを貰いに来たんだろう?急ぎの書類かね?」

「は、はい!そうでした!」

 

 クリフ大尉は手に持った書類をキースに手渡す。キースはそれを一読して、微笑んだ。

 

「良かったじゃないか。サイクロプスの部品の手配がついたとは。……ああ、いや。この書類が間に合わなければ、他所に流れてしまうのか。なるほど、急ぎだな。」

「はい、これがなんとかなれば、前『アリオト金剛軍団』部隊司令の御妹様にも面目が立ちます。」

「ふむ、ふむ。不備は無いな。」

 

 おもむろにキースは、惑星守備隊司令官として書類にサインをする。その書類をクリフ大尉に返却しながら、キースは問いかけた。

 

「ところで、他のバトルメックは直さずとも良いのかね?第1中隊のフェニックスホーク2機、第3中隊のグリフィンとフェニックスホークが1機ずつ、部品を抜かれたままで動けなくなっているはずだが。」

「とりあえず、部隊の主力となる重量級メックは修理できそうですからね。次の便で部品が来ますから。当面はそれで何とか仕事を受けてやって行きます。自転車操業が続きそうですが……。それでも前よりは随分とましになりました。」

「そうか。なら良いんだが。……サイクロプスの部品は、その書類だと今月下旬だな?ぎりぎり、かな……。」

 

 キースが言っているのは、サイクロプスの修理を『SOTS』の整備兵たちが手伝えるタイムリミットの事である。『アリオト金剛軍団』の惑星ソリッドⅢ撤退は、今月の28日に迫っていた。『アリオト金剛軍団』の整備兵たちも、多少は腕が上がってきてはいる。しかし『SOTS』整備兵と比べれば、まだまだ大人と子供ほどの差があった。

 クリフ大尉は難しい顔で頷く。

 

「はい、『SOTS』の整備兵の方々にお手伝いいただければ、これほど心強い事は無いのですが……。こればかりは、今月下旬の何時頃部品を積んだ船が来るか、ですので。」

「確かにな。だが、うちの整備兵……特にサイモン中尉が主導してやっている講習会には、そちらの整備兵も参加しているのだろう?」

「はっ!おかげ様で、こちらの整備兵の技量は以前とは比べ物になりません!」

「なら、『SOTS』の整備兵が手伝わずとも、どうにかなるかもな。」

「そうであれば、心強いのですが。」

 

 キースは笑って話を戻す。

 

「さて、急いでその書類を当局に提出しなければならんのだろう?さ、急げ。」

「はっ!そうでした、それではこれにて失礼いたします!」

「うむ、退出を許可する。」

 

 クリフ大尉は書類を小脇に挟み、敬礼をする。キースとジャスティン少尉もまた、答礼を返す。クリフ大尉は足早に去って行った。ジャスティン少尉が書類をチェックしながら言う。

 

「ペイジ大尉、以前より肩から力が抜けましたね。サイクロプスがなんとかなりそうなのが効いたんでしょうか。」

「だろうな。だが『アリオト金剛軍団』が持ち直すかどうかは彼よりも、俺たちは顔も知らん御妹様とやらに懸かっている。ペイジ大尉は能力的には傑物だと言えるが、性格的な問題で大隊指揮には向かんからなあ。似たような事は、『アリオト金剛軍団』第3中隊のテレンス・モグリッジ大尉にも言える。こちらは性格的にもそうだが、能力的にも大隊指揮は荷が重い。単純にメック戦士としては、ペイジ大尉よりも強いらしいんだがな。」

「なんとかなってくれると良いんですが……。」

「そうだな。」

 

 キースとジャスティン少尉は、自分たちの書類仕事に戻って行った。

 

 

 

 立て込んだ書類仕事が一段落し、キースはジャスティン少尉をたまには休ませようと、彼を宿舎の部屋に帰した。キースもまた、たまには宿直室を占領するのではなしに、宿舎の自室に帰ろうかと考える。と、彼は本部棟の出口に向かい歩いている途中で、廊下の脇の休憩スペースで互いに勉強を教え合っているイヴリン軍曹、エドウィン伍長、エルフリーデ伍長を見かけた。

 

「だからこの問題は、A点での位置エネルギーがB点での運動エネルギーに等しくなるから……。」

「シェイクスピアは1600年代地球のイングランドの劇作家、詩人で、イギリス・ルネサンス演劇を代表する……。」

「惑星タロンは一見惑星ニューシルティスに非常に近く見えるけれど、惑星ニューシルティスへも惑星ニューアヴァロンへも3度の最長距離ジャンプを必要とし……。」

 

 どうやらイヴリン軍曹が主に自然科学などの理数系を教え、エドウィン伍長が古典などの人文科学を、エルフリーデ伍長が社会科学に類する地理などをと言う様に、各々の得意科目を教え合っている様だ。ちなみにイヴリン軍曹は、連盟共通語は必死で努力した甲斐があって良い点数を取れる様になってきたが、古典などはやはり駄目である。

 と、彼らは小休止に入った様で、雑談に入る。立ち聞きもまずかろうと、キースはその場をこっそり立ち去ろうとした。

 

「……けど、なんであの敵の指揮官、あんな自殺的な行動をしたのかしらね。イヴリン軍曹は分かりますか?」

「うーん……。わからないけれど……。でも、似たような事例は見た事があるわ。貴方たちも、1つは覚えがあるはずよ。」

「え!?俺たちも!?」

 

 キースの足が止まる。

 

「惑星ネイバーフッドにいた頃の、訓練生として最初で最後の戦闘。あのとき、70tのグラスホッパーに乗っていた敵指揮官……。タカハタ少佐、だったかな?陰腹を切ってたでしょう?」

「カゲバラ……って何だ?フリーデ。」

「古典はあなたが得意でしょ、エド?陰腹よ、陰腹。」

「カゲバラ……陰腹!?様子がおかしいと思ったら、ハラキリしてたのか、あの敵の少佐!?」

 

 イヴリン軍曹は続ける。

 

「あと、タカハタ少佐の部下2人……。貴方たちは見ないで済んだけど……。敗色が濃厚になったとき、操縦席を開いてそこで私たちに見せつける様に、ハラキリをしたのよ。」

「「げ……。」」

 

 眉を顰め、イヴリン軍曹は言う。

 

「ドラコ連合の人たち……。どこか命を軽く見ている気がする……。」

「そう言うわけでも無いんだがな。」

「「「!?……キース中佐!!」」」

 

 キースはゆっくりとした足取りで、彼らの前に出た。

 

「聞くともなしに、聞こえてしまったんでな。俺にもはっきり理解できているわけでは無いが、ドラコ人は武士道精神を尊重し、誇りを何よりも重んじている……様だ。とは言え、その武士道精神も、原型からは随分と変質してかけ離れている部分もある様だが。

 そして彼らは、誇りを汚されることを忌避している。誇りを自分や他人の命よりも重い物としている様だな。命を軽く見ているわけじゃあない、彼らにとってそれより重い物があるだけなんだ。無論、そんなドラコ人ばかりでは無いが。良きにつけ悪しきにつけ、な。いや、今は逆に少ないタイプかも知れん。」

「「「……。」」」

「お前たちも、気を付けろよ。一部のドラコ人だけかも知れんが、その誇りを傷つけるような戦い方をしたりすれば、奴らはそれこそ自分たちの命よりも重い「誇り」と言う物にかけて、こちらの命を狙って来るぞ。そうなれば降伏させる事などできん。相手か自分か、どちらかが命を落とすまでの殺し合いになる。

 今回は、こちらが相手の誇りを傷つけたわけではないが、相手の陣営内で色々あった様だ。我々で近い物を挙げるとすれば、「メック戦士の誇り」などはどうだ?少しは理解できそうか?」

 

 エドウィン伍長が、少々不服そうに抗弁する。いや、しようとする。

 

「メック戦士の誇りは!メック戦士の誇りって言うのは!え、ええと……。あれとは……違うと……。」

「エドウィン伍長、「貴様の」メック戦士の誇りが何であるかは、今すぐでなくとも良い、そのうちで良いから、しっかりと想いにしておけ。エルフリーデ伍長も、イヴリン軍曹もだ。相手の想いに負けない様にな。ではな。」

 

 3人の返事を聞かずに、キースはその場を後にしようとする。そこへ背中から、イヴリン軍曹の問いが聞こえた。

 

「キース中佐の、メック戦士の誇りはどんな物なのでしょうか!」

「俺の、か……。一言で言えば……照れくさいが、仲間を守る事、だな。仲間を、親友を、同胞を、家族を、何があっても、誰の手からも、どんな事があっても、手を汚してでも守り抜く。その誓いこそが、俺の誇りだ。」

 

 キースは振り向かずに言う。なお彼は、「自分の誇り」だとは言ったが、「メック戦士の誇り」だとは言わなかった。21世紀の人間としての前世を持つ彼にとっては、メック戦士である事は必須の物でこそあったが、ある意味では手段に過ぎなかったからである。

 ちなみにキースは、死を選ばざるを得なかったマジード大尉に同情してはいたが、それに囚われてはいなかった。前世や『SOTS』結成前の彼であれば話は別だったかも知れない。だが、今の彼には仲間を守り抜く事が第一義であり、マジード大尉の事情は二の次であるからだ。メック戦士である事は、そのための手段に過ぎないが、そのために必須の物でもあった。

 キースは付け加える様に、呟く様に想いを口に上らせる。

 

「無論、貴様らも仲間であり、同胞であり、家族だ。……ふ、似合わん事を言ったな。では……。」

「キース中佐!自分も中佐をお守りします!守らせてください!」

 

 イヴリン軍曹が叫ぶ様に言った。エドウィン伍長とエルフリーデ伍長もそれに続く。

 

「お、俺、いや自分も!」

「自分もです!」

 

 どうやらキースは、そんなつもりも無いのに彼らに感銘を与えてしまっていた様だ。キースは振り返らないまま、応えた。

 

「ああ、俺の背中や脇腹は貴様らに守ってもらうとしよう。頼んだぞ。では俺は行く。」

 

 背後から、3人が敬礼している様な気配がした。キースは右手を挙げて略式でそれに応えると、本部棟の出口に向かってその場を歩み去った。




敵の指揮官は、自らの名誉を守るため、自決同然の突撃を行って亡くなりました。イヴリン軍曹らには、何かしら重苦しい想いをするだけの、何がしかを与えてしまった様です。


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『エピソード-065 『アリオト金剛軍団』との別れ』

 惑星ソリッドⅢに侵攻してきたドラコ連合軍『第25ラサルハグ連隊C大隊』が惑星を撤退してから、キースたち『SOTS』は3ヶ所の拠点に部隊を分散させなくてはならず、けっこう大変だった。

 1つ目の拠点は、言わずと知れたアル・カサス城で、惑星守備隊の本部基地となっている場所である。ここにはキース直卒の第1中隊と第1、第5歩兵小隊、それに機甲部隊戦車中隊が常駐し、第2、第3中隊も基本的にはここが本拠地だ。他に『アリオト金剛軍団』の面々もまたここに駐留している。

 2つ目の拠点は、遺跡都市に設営した、仮設遺跡基地である。仮設基地であるため設備が悪く、そのためここに常駐部隊はいない。第2中隊及び第2、第6歩兵小隊と、第3中隊及び第3、第7歩兵小隊が、1週間交代でここに派遣されて遺跡都市の防衛を受け持っている。

 3つ目の拠点は、『第25ラサルハグ連隊C大隊』に占拠されていたサンタンジェロ城だ。奪還したこの城に、『SOTS』は第4中隊と第4、第8歩兵小隊を置き、守らせていた。またこの城はこれまでドラコ連合軍に使用されていた事もあり、ブービートラップなどが無いか確認するために、『SOTS』から偵察兵の多くが派遣されている。しかし調査もそろそろ終わる頃合いであるし、偵察兵たちはそろそろアル・カサス城に戻される予定だ。

 『アリオト金剛軍団』にも手分けして手伝ってもらえれば話は楽なのだろうが、『アリオト金剛軍団』は今月の末にはライラ共和国との契約を満了し、惑星ソリッドⅢを撤退する予定だ。その準備と壊れたバトルメックの修理に、彼らは忙しい。無理に手伝ってもらうのも気がひけるし、近々いなくなる者を頼る体制にしてはその後が大変になるだけだろう。

 そんなある日、司令執務室のキースに外線電話が入る。相手は惑星公爵家の執事、ウィリアム・フロックハート氏だった。

 

「……そうですか、戦勝記念パレードとパーティーの日取りが決まりましたか。」

『はい、12月20日の昼間にパレードを行い、その同日夕刻より年末パーティーを兼ねて戦勝祝賀パーティーを開く事になりました。』

「となりますと、当日仮設遺跡基地に派遣中の第3中隊および第3、第7歩兵小隊、それと交代すべく移動中になるであろう第2中隊および第2、第6歩兵小隊はパレード参加不可能ですね。それらのメック戦士も、パーティーへの参加はできませんね。

 『SOTS』からはアル・カサス城常駐の第1中隊と機甲部隊戦車中隊、第1、第5歩兵小隊、サンタンジェロ城に常駐している第4中隊と第4、第8歩兵小隊を首都に送り、パレードに参加させましょう。

 『アリオト金剛軍団』はメックが動かない者を除いて、パレード参加可能です。パーティーにはメックが動かないメック戦士も参加可能ですね。」

 

 ウィリアム氏は電話口の向こうで追加の要望を出す。

 

『できますれば、気圏戦闘機隊もパレードの際に派手に飛ばしてはいただけませんかな。推進剤はこちらで用意いたしますので。惑星政府から、なるべく派手な祭典にしたい、と要望が上がって来ておりましてな。』

「重量物輸送車輛に載せて、メックと共に主要幹線道路を行進させるつもりだったのですが……。気圏戦闘機隊の指揮官と相談してみます。前向きに検討いたしますが、お返事は少々お待ちいただければ……。」

『わかりました。正式なタイムスケジュールは、後ほど書類にしてお届けいたしますので、今のお返事もその際にいただけますと……。』

「了解です。それまでに、お返事を用意しておきます。」

 

 その後2、3の用件を話し合い、キースは電話を切った。副官のジャスティン少尉が、コーヒーを淹れてくれる。

 

「ふう……。ありがとう、ジャスティン少尉。」

「いえ、どういたしまして。」

 

 と、ここで机上の内線電話機がインターホンモードで鳴った。キースはそのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『ユニオン級ゾディアック号船長、アリー・イブン・ハーリド中尉です。同級レパルス号船長オーレリア・レヴィン中尉もいます。』

「そうか、明日だったな。入室を許可する。」

 

 ジャスティン少尉が、アリー船長とオーレリア船長の分もコーヒーを淹れる。2人の船長が入室してきて、敬礼をした。キースとジャスティン少尉は答礼を返す。アリー船長とオーレリア船長が口を開いた。

 

「キース中佐、明日の商用航宙出発に際し、積み荷の詳細と航宙の予定表を持ってまいりました。」

「同じく、出発前に書類を持ってきましたよ、キース中佐。」

「ご苦労。見せてくれ。」

 

 キースは書類を受け取り、検め始める。

 

「鉄鋼、鉄道用レール、鋼線、ボルト、ナット、ネジなどの金属工業製品全般……。ほう?精密ベアリングが製造できるのか、この惑星は。」

「しかもその精度は非常に高い様で。近隣ではこの惑星の特産品ですな。ごく一部、残っている昔の工場が稼働している模様です。それが生きていて高値で輸出できているおかげで、継承権戦争の痛手からもある程度ですが復興できたらしいですな、この惑星は。」

「これらを他の工業惑星……。エンジンなり車輛なり軽飛行機なり造ってる惑星に運んで売り捌いて、そこからはコンバインとかトラクターとかディーゼル機関車とか農薬散布ヘリとかを買い付けて、今度は農業惑星へ行って売りつけて、そこの商社から農産物を買い取って惑星ソリッドⅢに戻って来る……。これでおおまかに1ヶ月ですわね。」

 

 オーレリア船長の頬が緩んでいる。どうやら試算ではけっこう儲かりそうだと踏んでいる様だ。だがとりあえず、キースは釘を刺す。

 

「事故には気を付けてくれよ。降下船事故だけじゃない、商品相場の急落事故に対してもだ。リスクの高い商品は避けて、地味に堅実に儲けられる物にしてくれ。む、なんか前にもどこかで似たような話をしたか聞いたかした覚えが……。」

「わ、わかってます。気を付けますわ。」

「委細承知ですな。大丈夫ですとも。」

 

 オーレリア船長はたどたどしく、アリー船長は自信満々に請け負う。キースは彼らに頷いて見せた。

 

「うむ、頼むぞアリー船長、オーレリア船長。貴官らの働きが、我々の財政状況に直結しているんだ。」

「はい、ではそろそろ我々は……。」

「そうね、明日の出発準備に戻らないと。」

「そうだな。おっと、せっかくジャスティン少尉がコーヒーを淹れてくれたんだ。飲んで行きたまえ。」

 

 船長2人はジャスティン少尉からコーヒーを受け取って、香りを楽しみながらそれを飲む。飲み終わった彼らはキースたちに敬礼をし、キースとジャスティン少尉は答礼をした。そしてアリー船長とオーレリア船長は司令執務室を出て行く。

 

「商用航宙でたくさん稼げるとありがたいが、今の状況はそれほど切羽詰まっていない。ほどほどの儲けでも良いから、無事に帰ってくる事を祈ろう。ところでジャスティン少尉、気圏戦闘機隊のマイク中尉とヘルガ中尉を呼んでくれるか?

 ああ、そうだ。『アリオト金剛軍団』のペイジ大尉と、コルセア戦闘機乗りのゴルトフ少尉も呼んでくれ。戦勝記念パレードの事で、打ち合わせをせねばならん。」

「了解です。少々お待ちください。」

 

 ジャスティン少尉はさっそく机上の内線電話の受話器を手に取り、指令室に電話をかけ始める。キースはやや冷めたコーヒーを啜りつつ、戦勝記念パレードとその後の戦勝祝賀パーティーについて考えていた。

 

 

 

 色とりどりのスモークの尾を引きながら、13機の気圏戦闘機が大空を翔る。内12機が『SOTS』所属のライトニング戦闘機、トランスグレッサー戦闘機、スティングレイ戦闘機であり、残り1機が『アリオト金剛軍団』所属のコルセア戦闘機であった。キースは地上からそれを見上げつつ、パレードの先頭に立ってマローダーをゆっくりと歩かせる。

 キースたちがパレードをしている首都の主要幹線道路の脇には、無数とも見える市民たちが小さな旗を振り、歓声を上げている。やがて惑星政府の政庁の建物が見えて来た。政庁の建造物の美麗に飾り付けられたバルコニーから、着飾った惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下が上品に手を振って来る。キース機及び麾下のバトルメックは、政庁前を通過する際に惑星公爵に対し、その巨大な鋼鉄の腕で敬礼を送った。

 そしてパレードが終了した後の連盟標準時で18:00時より、惑星公爵私邸にて年末パーティーを兼ねた戦勝祝賀パーティーが開かれる。

 

「……そして不届きなるドラコ連合の軍勢は、惑星守備隊の手により撃退された!この燦然たる成果をもたらしたのは、前線の軍人たち兵士たち1人1人、そしてそれを支えた後方の市民1人1人の努力と協調である!諸君らの功績と栄光を、わたし惑星公爵オスニエル・クウォークは永く心に刻み、けして忘れはしないだろう!諸君!今宵わたしと共に、この喜びを分かち合って……。」

 

 惑星公爵による開式の辞と言うよりも演説は、実際の所それほど長くもなく、しかして短すぎもせず、見事な物だった。あまり長ければ退屈してしまうし、短すぎれば威厳に関わる。そう言った点から見て、オスニエル公爵の話は極めて計算され尽した物であったと言えよう。

 ちなみにキースも来賓の1人、惑星守備隊司令官として祝辞を述べたが、とりあえず公爵閣下の演説より目立たない様にいくつか内容を削ったりもした。他の来賓、惑星政府の要人などは空気を読まず、長々と話をする者もいたりしたが、概ねは無難に話を終えた。

 パーティー本番が始まると、キースの周りには人の輪ができた。文字通りキースを中心にして、まるでドーナツか何かの様に一定距離を置いて、人々が輪になっている。ドラコ連合軍『第25ラサルハグ連隊C大隊』を見事撃破し撃退したヒーローと話をしようとやって来たものの、その醸し出す威圧感に飲まれて話し掛けられない人々だ。

 キースは困った。先に駐屯していた惑星ネイバーフッドでは、それでも彼の威圧感によるバリアーを貫いて、話しかけて来る剛の者が幾人もいたものだ。だがここ惑星ソリッドⅢでは、動物園の猛獣でも見る様に遠巻きにされて、話しかけてくる人がいない。だがだからと言って、立ち去ろうと言う者もいないのである。キースは内心で愚痴る。

 

(やれやれ、食べ物を取りに行くこともできんよなー、こりゃ。誰か適当な人物に、俺から話し掛けなきゃ駄目かなあ?)

 

 とりあえずキースは、テレビ放送で顔を見たことのあるアーヴァイン・アドコック軍務大臣に話し掛けてみようかと近寄った。キースを囲む人の輪は、キースが移動しただけそのまま位置をずらし、相変わらずキースを中心にした円環を形作っている。無論、アーヴァイン軍務大臣との距離は、彼が後ずさりしたために縮まっていない。キースは内心でぼやく。

 

(どないしろっちゅーんだ。)

 

 キースは自分の放つ迫力が強烈なことは、既に理解してはいる。だが、だからと言ってそれを自在にオン、オフできるわけではない。と言うかキースからすれば、この惑星ソリッドⅢの要人たちは根性が無さすぎる。惑星ネイバーフッドの要人たちの中には、キースが「使える」と見れば誼を通じるために、強靭な意志力で接触を図って来た者も多くいたと言うのに。

 と、ここでパンパン、と掌を叩く音がした。ざざっと人の輪が左右に分かれる。掌を叩いた人物が、柔らかい口調で言った。

 

「それでは此度のヒーローたるハワード中佐に失礼と言うものだよ?ハワード中佐、少し話がしたくてね。よろしいかな?」

「……無論ですとも、公爵閣下。」

 

 そう、それは惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下だった。キースは内心ほっと安堵した。

 

 

 

 オスニエル公爵に連れられて、キースは会談用の小部屋へとやって来た。執事のウィリアム氏が、こちらの部屋にも飲み物や料理を運ばせてくれている。オスニエル公爵は言った。

 

「まずは今回の輝かしい成果を祝して、乾杯と行こう。何を飲まれるかな?」

「は、ではスパークリング・ワインを……。」

「そうかね。では私も同じ物にしようかな。」

 

 キースは驚いた。惑星公爵閣下当人が、グラスにスパークリング・ワインを手ずから注いでいるのである。普通は執事か何かを呼んでやらせる物だが。

 

「こ、これは恐縮にございます。」

「何、元々は家を出て、市井の三流学者をやっていた身だし、後々にはその身分に戻りたいと思っているからね。これぐらいはやるさ。それにこの部屋には我々の他には誰もいないから、惑星公爵の威厳に傷が……とか騒ぐ者もいない。じゃあ乾杯しようかね。

 ……此度の勝利と、取り戻した民の平和に。」

「……此度の勝利と、民の安寧に。」

 

 2人はグラスを打ち合わせ、それを呷った。一息ついた後、オスニエル公爵は口を開く。

 

「先ほどは惑星政府の者が、失礼をしたね。まあ、ハワード中佐の迫力は凄いし、気持ちは分からないでもないんだけれど、もう少し何とかならない物かとも思ってしまうよ。あれでミシュリーヌ……妹を惑星公爵に推して、その代官に納まろうなどと言う考えを持つのは不相応だと思わないのかな。

 もし妹が気圏戦闘機を降りる前に公爵位を譲るはめになったとしても、もう少しちゃんと代官なりを任せられる人物を探すか育てるかしないと、兄として安心できないね。……と、こんな話をされても中佐は困るだけか。ははは。」

「は。あ、いえ……。」

「……本題に入ろう。単刀直入に話をするけどね、例の遺跡都市の事だよ。来月半ば、新年早々にも、ライラ共和国はターカッドから技術者やら偵察兵やら歴史学者やらを派遣してもらう事になった。封印されてる遺跡の、その封印を解除するためにね。」

「!!」

 

 キースの眉が顰められる。オスニエル公爵は続けた。

 

「その作業に、君の部隊からも人材を貸して欲しいんだ。君の所の技術者は、NAIS級の人材がいると聞いているよ。是非に助力が欲しい……。いや、公爵家でも、今までその遺跡を解放しようとしなかったわけでは無いんだよ。ただ、封印が堅すぎて手が出なかっただけでね。ターカッドの技術者でも、手が出るかどうかは怪しいと思っているんだ。

 無論、報酬は考える。遺跡……メック倉庫の中身次第になるから、確約はできないけれどね。いや、中身はちゃんと存在すると確信してるけれど、もしも遺失技術を扱ったメックとかばかりだったら、ターカッドの判断を仰がないと譲渡はできないんだ。もし倉庫の中身の一部なりとても譲渡できない場合、金銭で報酬を出すよ。」

「今までは惑星公爵家独自で調査を行って来たものと思われますが、今回共和国本体に……ターカッドに技術者の派遣を求めたのは?」

「クリタ家にメック倉庫の事が知られてしまった以上、こうなったら一刻も早く発掘してしまった方が良いからね。量が量、規模が規模だから、全部運び出すには全く至らないだろうけれど、仮に遺失技術のバトルメックなどがあった場合、それだけでもさっさとターカッドに送ってしまわないと。クリタ家に奪われるよりは、シュタイナー家への貸しにした方が、ずっとましさ。」

 

 キースは頷く。

 

「なるほど、納得いたしました。実際の発掘の際には、当方の部隊より技術者、偵察兵などを派遣いたしましょう。」

「本当かい!?いやあ、これで肩の荷が降りたよ。さ、さ、何でも好きな物食べてくれ、飲んでくれ。」

「は。では頂きます。……おお、大変美味しゅうございますな。」

「うん、うちの料理人は超一流だからねえ。家に戻って良かったと思った、数少ない事だよ。」

 

 その後、2、3の話をした後、キースとオスニエル公爵はパーティー会場へと戻った。キースは溜息を吐く。

 

「ふぅ……。さて困ったぞ。どう時間を潰したものか。」

 

 向こうを見遣ると、『アリオト金剛軍団』のクリフ・ペイジ大尉が麗しき御令嬢たちに囲まれていたりする。彼はなかなかの美形であり、人気者になっているらしい。御令嬢たちを失礼の無いようにあしらってはいる様だが、彼の顔は引き攣っていた。

 

「助けに行った方が、いいかな?」

「いいんじゃないかな。別に死ぬわけでもないでしょうし。」

 

 話し掛けて来たのは、エリーザ曹長である。彼女の脇には、イヴリン軍曹が所在なさげに立っていた。キースには以前、こう言うパーティーの席上では、エリーザ曹長がイヴリン軍曹を預かってくれるとの約束をした覚えがあった。

 

「ところで隊長。ちょっとイヴリン軍曹を預かって欲しいんだけど。ちょっとあたしは食べる物取ってくるから。」

「む。わかった。今日は偉いさんたちとの話も、できない様だしな。……今度、ライナーに頼んで正式に紹介してもらうか。そうすれば逃げたりできないだろう。」

「逃げる……ですか?」

 

 イヴリン軍曹が、怪訝そうな顔で問う。キースは苦笑しつつ答えた。

 

「ああ。俺は見た目が怖いからなあ。遠巻きにされて、こちらから話し掛けようとしても退かれてしまった。もう少し時間が経って、こちらと仲良くするメリットなりなんなりが分かれば、状況は変わると思うのだが。偉いさんとは情報収集の意味も含め、仲良くしておきたいんだがな。」

「前の惑星では、向こう側から色々と接触をとって来た様に思われますが。」

「どうもこの惑星では、そうもいかん模様だ。……軍務関係者ぐらいは来そうなものなのだがなあ。」

 

 キースは内心で思う。

 

(この程度の事で寄って来れない臆病者など、いらん!と切り捨ててしまえれば話は楽なんだけどなあ。そうもいかないのが、辛いところだよね。やはりライナーを通じて惑星の有力者と伝手を作っておこう。次は1月の新年パーティーだな。それまでに何とか……。

 ああ、でも惑星の有力者とオスニエル公爵閣下とは、関係が微妙そうだな。下手な相手と関係強化するわけにも行かないなあ。所詮は来年4月下旬までの事だしな。情報収集のためだけだったら、別の手段もあるだろ。これもライナーと相談しておこう。)

「無理にそう言う方々と関係を構築しなくても、良いのではないでしょうか。」

「む?」

 

 イヴリン軍曹の言葉に、キースはふと我に返った。イヴリン軍曹は続ける。

 

「キース中佐の真価を知らずに、その様な態度をとる人たちです。関係を繋いで得られる利益より、不利益の方が大きいかと自分は思います。」

「ふむ、そうかもな……。まあ、敵対関係に陥らない様にだけは、しておく必要はあるがな。背後に……内懐に敵を抱えては、動きが取れなくなり前面の敵に負けかねん。」

「も、申し訳ありません!出過ぎた事を言いました!」

「ああ、いや構わん。順当な、妥当な意見であるしな。それに俺は怒ったわけじゃない。気にするな。そうか……利益よりも不利益が多いか。そうかもな。……何か飲むか?」

「え……。」

 

 急に訊かれて、イヴリン軍曹は一瞬驚いた様に目を瞬かせる。だが彼女は慌てて言った。

 

「で、ではジンジャーエールを。」

「では、取りに行くとしよう。一緒に行くか?」

「はい!」

 

 キースはドリンクのコーナーに向かい、イヴリン軍曹を連れて歩き出す。視界の端に、エリーザ曹長が両手いっぱいの食べ物の皿を抱えたまま、にやりとチェシャ猫笑いを浮かべてこちらを眺めているのが見えた。

 

 

 

 パーティーの翌日、『SOTS』『アリオト金剛軍団』の整備兵たちは、わたわたと整備棟の中を駆けまわっていた。所用があって整備棟に顔を出したキースは、目を丸くする。と、そこへサイモン老が顔を出した。彼らは敬礼と答礼を交わし、会話を始める。

 

「隊長、どうなさいましたかの?」

「いや、注文したバトルマスターとフェニックスホークの予備部品の、最後の便が昨夜遅く届いたと聞いたんで、サイモン中尉に話を聞きに来たんだが。何の騒ぎだ?」

「ありゃ?隊長にお話は行ってませんでしたかの?それらの予備部品といっしょに、『アリオト金剛軍団』のサイクロプスの修理用部品が届いたんですわ。それで昨夜から部品が足りてるかどうか、部品が不良じゃないかの検品作業と、サイクロプスの修理準備で整備兵が皆で駆け回ってるんですわい。」

 

 それを聞き、キースは整備棟の奥に目を遣る。そこには半ばガラクタ同然になった90tの強襲メック、サイクロプスの哀れな姿があった。キースはサイモン老に訊ねる。

 

「『アリオト金剛軍団』がこの惑星を撤退する28日まで、あと1週間だが……。間に合うか?」

「右胴が完全破壊されてますんで、これはわしが自分でやり申す。その他中枢部まで損傷を受けている部分へのマイアマー移植もわしですな。エンジンの鎧装が2層まで壊れてますからの。これの修理はジェレミー少尉が。ジャイロはパメラ軍曹が。その他の細々としたところは、キャスリン軍曹に任せる予定ですわい。

 『SOTS』の腕利きが4人がかりですからのう。あっと言う間に、とまでは行きませんがの。期日までにはしっかり全部直してみせますわい。」

「……キャスリン軍曹は、軍医ではあるが整備兵でもあったんだったな。軍医として八面六臂の活躍をしてくれているんで、ついつい忘れがちになるが。」

 

 このサイモン老以外の整備兵3名は、サイモン老の薫陶を受けて非常に優秀な技術者となっている。特にジェレミー・ゲイル少尉は、他の者の様に尋問官を兼ねていたり軍医だったりしないため、純粋に技術者として最高峰の域に達している。

 この最高レベルの整備兵4人が力を合わせるのだ。まず間違いなく、『アリオト金剛軍団』大隊長機のサイクロプスは、完璧に仕上がるだろう。おそらくは壊される前よりも調子が良くなることは間違い無い。

 

「そうか……。では俺はペイジ大尉にその事を伝えるとしよう。きっと喜ぶだろうな。」

「ですのう。ではわしは、仕事に戻りますでの。」

「うむ、頑張ってくれ。」

 

 サイモン老とキースは、敬礼と答礼を交わしてその場は分かれた。2日後には機体修理が完了し動作試験に入ったと言う話を聞いて、流石のキースも驚いたが、4人がかりだと言う事を思い出して思わず失笑するにとどまった。ちなみにクリフ大尉は唖然として、しばらく声が出なかった模様である。

 

 

 

 そして3026年12月28日、『アリオト金剛軍団』が、惑星ソリッドⅢを撤退する日がついにやって来た。キースは司令執務室で、『アリオト金剛軍団』暫定指揮官であり第2中隊中隊長たるクリフ・ペイジ大尉、及び第3中隊中隊長であるテレンス・モグリッジ大尉と会談していた。

 

「ついに惑星撤退か。寂しくなるな。」

「はい。ですが『SOTS』のおかげで、『アリオト金剛軍団』はあれほどの打撃から、なんとか立ち直れそうなところまで持ってくることができました。前部隊司令、ダライアス・ノードリー大隊長の御妹様も、部隊司令を継ぐことに前向きだとの返事を貰っております。心より御礼申し上げます、ハワード中佐。」

「ですが、これから『アリオト金剛軍団』は試練の時を迎えます。乏しい部隊の予備費、未だ4機もある不稼働メック、予備部品の欠乏、定数を大きく割って失機者を多く出した第3中隊……。更に前部隊長の喪失……。これらの事情から鑑み、次以降の仕事は、多少条件が悪くとも受ける必要性があります。また今後は自転車操業が続く事になるでしょう。」

 

 暗い声で、テレンス大尉が言葉を紡ぐ。しかしクリフ大尉は明るい表情を崩さない。

 

「何、それでも最悪の時点と比べれば、文字通り天国と地獄だ。稼働メックは『SOTS』技術陣のお力を借りられた事で、今までに無く絶好調だ。うちの整備士たちもその技量は桁違いに上がっている。希望を捨てなければ、なんとでもなるさ、テレンス大尉。」

「そう、だな、クリフ大尉……。」

「これからの予定はどうなっているのかな?」

 

 キースの問いに、クリフ大尉は答える。

 

「惑星チャックチーⅢに、前大隊長の御一族が居住されています。まずはそこで1週間の短期休暇を取り、サイクロプスの引き渡しと御妹様の大隊長就任を行う予定です。本当はもっと長期休暇を取りたいのですが、部隊の予備費が尽きるので……。

 その後は仕事探しですね。MRB仲介が一番安心なのですが、あそこは一部例外を除いて前金なしの全額後払いが殆どですから。おそらくは伝手を頼って、シュタイナー家と直接に契約を結ぶ事になるでしょうね。前金を貰える代わりに、総額が低かったり手取りが少なかったりする仕事を。前金が無いと、隊員の給与も支払えなくなりますから。」

「そうか……。大変だろうが、頑張ってくれ。……そろそろ時間かな?」

「そうですね、降下船の離床準備もありますし。ではこれにて失礼いたします。ハワード中佐と『SOTS』には、本当にお世話になりました。」

 

 クリフ大尉とテレンス大尉が、敬礼を送って来る。キースはジャスティン少尉と共に答礼を返しつつ、口を開いた。

 

「貴官らに、武運のあらんことを。いつか、宇宙のどこかでまた肩を並べて戦えることを祈っている。元気で、戦友。」

「!!……こちらこそ、戦友。」

 

 クリフ大尉たちが司令執務室を出て行くや、キースはジャスティン少尉に頷く。ジャスティン少尉は内線電話の受話器を手に取り、指令室へと電話をかけた。

 

 

 

 キースはマローダーの操縦席で、息を吐いた。

 

「ふう、間に合ったな。」

 

 周囲には、今アル・カサス城にいるメック部隊第1中隊と、機甲部隊戦車中隊がいる。キースは号令を発した。

 

「礼砲撃て!『アリオト金剛軍団』に対し、敬礼!」

 

 エネルギー兵器、もしくは空砲による礼砲が、大空へ向けて打ち上げられる。そしてキースは自機マローダーに敬礼をさせると、自分も操縦席で敬礼を行う。メック部隊第1中隊のメックも、敬礼の姿勢を取る。戦車中隊の戦車ハッチからは、車長が身を乗り出して敬礼を行う。敬礼を送る先は、『アリオト金剛軍団』の3隻のユニオン級降下船だ。

 3隻のユニオン級降下船は、轟音と共にアル・カサス城の離着床を離床して行く。キースはふと、見えるはずもないのに、こちらに敬礼を送っているクリフ・ペイジ大尉の姿を見た気がした。




『アリオト金剛軍団』は、『SOTS』のおかげで当初の絶望的な状況から、随分と希望のもてる状況にまで持ち直して惑星撤退する事ができました。まあそれでも、完全に部隊が持ち直すかどうかは、前大隊長の御妹様の手腕によるのですが。
それであっても、全く希望が持てなかった最初よりは随分と良い状況です。90tサイクロプスも直りましたし。


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『エピソード-066 木+林=森?』

 3027年1月1日、惑星公爵私邸にて年始のパーティーが開催された。これには、『SOTS』の高級士官……中隊長以上のメック戦士たちや、気圏戦闘機隊の指揮を執っているマイク中尉が、招待と言う名の出席命令を受けていた。このため、今現在仮設遺跡基地に出向いている第3中隊中隊長アーリン大尉もまた、自分のメックを仮設遺跡基地に置いたまま、増槽を着けたフェレット偵察ヘリコプターでの送迎を受けて、惑星首都へとやって来ていた。

 そのアーリン大尉だが、この惑星の貴族階級のボンボンらのお誘いと言う襲撃をなんとかかんとか退けて、キースの元へと退避して来ていた。なおキースの元には、既にヒューバート大尉、ケネス大尉、マイク中尉らの青年士官らが、令嬢方のお誘いから逃げて来ている。キースの周りには、そう言った軽佻浮薄の輩はまるで壁があるかの様に近づいて来ない。

 ちなみにマイク中尉には既に恋人がいるし、ケネス大尉も自分では鈍感さ故に気付いていないが、部下のドロテア・レーディン軍曹よりアタックを受けている身だ。完全フリーなのはヒューバート大尉とアーリン大尉だけである。ああ、いやキースもまたフリーではあるのだが、彼にそう言った方面でお誘いをかけようとする強者は、このパーティー会場には存在しない。

 

「……相変わらず貴官ら、俺をむ……人除けに使うんだな。」

「今一瞬、「虫除け」って言いそうになったでしょう、キース中佐。」

「人を虫よばわりするのがまずいと思って言わなかったんだ。わざわざバラさんでくれんか、アーリン大尉。……まあ、貴官らが色々責任を取るはめになって、この惑星に残られでもしたら『SOTS』にとって大変な事態だからな。文句は言わんでおこう。

 ああ、だが嫁取りをして部隊に連れて来るのであれば、一向にかまわんぞ。」

 

 アーリン大尉が唇を尖らせる。

 

「むー、わたしは嫁なんか取りませんよー。」

「あ、いやヒューバート大尉に言ったつもりだったんだ。アーリン大尉なら婿取りだな。」

「どうせ嫁を取るなら、可能ならばメック戦士の嫁がいいですね。そうすれば、上手くすればイーガン家で2機のメックを保有しておける。万が一どちらかが失機しても、一族にメックが残っていれば安心感が違う。」

 

 軽い調子で重い事を言うヒューバート大尉に、アーリン大尉とマイク中尉は引く。一方ケネス大尉は、なるほどと頷いた。かつて自分の一族の予備メック戦士であった彼には、何かしら思う所があったのだろう。

 ヒューバート大尉は軽い口調で、重い話を続けた。

 

「ま、でもそろそろ嫁が欲しいのも事実ではありますね。と言うか、イーガン家にはメック戦士は当主である俺しかいませんし。俺が死んだら隠居した親父とお袋が困ります。子供儲けて育てて、後継ぎをしっかり作らないと……。親父はもうメック乗れる身体じゃないし、お袋は元からメック戦士じゃないからなあ。両親が弟妹を作ってくれてれば、もう少し安心できたんですが。」

「おいおい、そう簡単に死なせるつもりは無いんだがな。」

「だから、もしもの話ですよ。ですが、万一に備えておくことは必要です。」

 

 キースは軽い調子のヒューバート大尉の言葉に、真剣な物を感じ取る。だから彼も、冗談めかしてはいるが、心の奥底では真面目に応えた。

 

「部隊内でのナンパは注意してくれよ?それを止めるつもりは無いが、隊内での修羅場は御免だからな。だがしかし、部隊内で問題が片付いてくれるのならば、歓迎すべきでもあるな。幸い『SOTS』には女性隊員が多い。」

「はぁ~……。わたしもそろそろ旦那を探した方が良いのかしら……。ヒューバート大尉の言う様に、できることならばメック戦士で……。でも、それならなおさら、この惑星の男性に引っ掛かるわけにはいきませんね。」

 

 アーリン大尉が思い悩む。メック戦士にとって、嫁取り婿取りは決して綺麗事では無いのだった。一方メック戦士と事情がほぼ同じ、気圏戦闘機を駆る航空兵であるマイク中尉は、自分の恋人が同じく気圏戦闘機乗りである事に安堵する。と同時に彼は、人知れず半ば本気でプロポーズを考え始めたりしたのだった。

 と、ここで突然、キースに話し掛けて来るパーティーの客がいた。キースは内心驚く。だがその人物の顔を見て、ある意味納得した。

 

「……突然失礼いたします。惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』……『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐でいらっしゃいますか?」

「はい、その通りです。……そう言う貴方は、自分の記憶違いでなければ、惑星ソリッドⅢ陸軍情報2課長、デイモン・レイトン大佐では?」

「おお、自分の事を見知り置いていただけておりましたか。はじめまして、自分はデイモン・レイトン大佐です。先日の戦勝記念パーティーの際には仕事がありましたので、お会いできなかったのが残念でしてね。今日こそは、と意気込んでおりましたよ。」

 

 キースは軽く気圧される物を感じる。デイモン・レイトン大佐は、なかなかできる人物の様だ。だが同時に自分も相手に圧迫感を与えているのは間違い無い。デイモン大佐の額に光る汗が、その事を物語っている。

 このデイモン大佐は、自由執事ライナーに相談したところ、顔を繋ぐのに適した人物と言う事で教えられた相手だ。現惑星公爵の能力や功績を正しく評価し、それを担ぎ支える人物と言う点からも申し分ない。能力的にも人格的にも、傑物と言ってよかった。

 

「レイトン大佐、こちらは中佐でそちらは大佐でいらっしゃる……。丁寧語や敬語は必要ありませんよ。」

「いや、こちらはしがない情報武官です。実戦部隊の長でいらっしゃる貴官に敬意を表するのは当然ですとも。ははは。」

 

 デイモン大佐は笑う。しかしその眼は笑っていない。キースをしっかりと見定めようとしているかの様だ。キースもにやりと笑う。

 

「そうですか、ありがとうございます大佐。」

「いえいえ。……ところで、少々内密のお話をいたしたいのですが。」

「了解です。どちらで?」

「あちらに、公爵閣下からお部屋をお借りしています。」

 

 キースはヒューバート大尉たちに声をかける。

 

「俺はレイトン大佐と話があるので、ちょっと外すが……。大丈夫、か?」

「まあ、我々だけで固まっていれば、なんとか。」

「お早いお戻りを切実に、切実に!お待ちしてますね。」

「いってらっしゃい、キース中佐。」

「……なんかキース中佐がいなくなった瞬間に、どっと押し寄せてきそうなのは、気のせいっすかね?」

 

 デイモン大佐に付き従って、キースはホール脇の小部屋に入った。デイモン大佐はキースにソファを勧める。キースは頷いて、それに腰掛けた。デイモン大佐もその向かいに座る。

 

「……さて、来る1月15日、ライラ共和国首都惑星ターカッドより、遺跡都市……。いえ、はっきり言ってしまいましょう。メック倉庫発掘のために技術者、歴史学者、偵察兵等々が送り込まれて来ます。公爵閣下から伺ったお話では、そちらの部隊の技術者、偵察兵も派遣していただけるとの事でしたが……?」

「はい。我が部隊の技術者は、非常に優秀な人材です。必ずやお力になれると存じます。」

「そうですか、それは有難い。ですが、それに関し少々問題が起きまして……。」

「?」

 

 デイモン大佐は難しい顔で言った。

 

「ターカッドより来訪する予定の技術者たちの名簿が、流出した模様なのですよ。以前そちらの部隊へ潜入しようとしたスパイの情報を頂いた事がございましたな。」

「ああ!ええ、臨時雇いの歩兵を雇用しようとした時に、それに紛れ込もうとしたスパイ3名がおりました。それから引き出せた情報は、惑星政府経由で報告いたしましたが。」

「その情報を元に、敵のスパイ網を調査しておったのです。で、尻尾を捕まえかけたと言いますか、捕まえ損ねたと言いますか……。間一髪で逃走されましてな。ですがスパイどもの拠点に残っておりました情報を調査したところ、送信済み情報に、ターカッドから来訪する技術者の名簿が入っておったのです。」

 

 キースは眉を顰めた。デイモン大佐も、苦々しい顔をしている。

 

「技術者たちを何処かで襲撃して、それと入れ替わりで新たなスパイをこの惑星に潜入させようと言うのかとも考えましたが……。ターカッドはこの惑星よりも護りは堅いですからな。それならば直接にスパイをこの惑星に送り込む方が楽です。」

「となると……。ターカッドから送られて来る技術者は精鋭のはず。それに対するテロを計画しているのかもしれませんね。あるいは拉致して脅迫し、自陣営に取り込もうとでもしているのか……。優秀な技術者は貴重です。」

「いずれにせよ、厄介ですな。」

 

 いったん瞳を閉じ、キースは考えに沈む。そして目を開けた彼は、おもむろに言った。

 

「遺跡に送り込む我が方の偵察兵たち、及び遺跡都市に駐留させておく部隊に対テロの警戒を強化する様に命じましょう。駐留部隊の歩兵も、半数は雇用したばかりの新兵でしたが、発掘期間中はその全てを精兵である第1中隊に切り替えます。」

「惑星軍の歩兵部隊も遺跡都市に駐留させ……。いや、避けた方が良さそうですな。その部隊が敵スパイの汚染からクリーンであるとは断言しきれません。口惜しいですが、惑星軍内部にもスパイ網が根を張っている疑いが捨てきれないのです。特に歩兵部隊は、首都を取り戻した後に人員の損耗を回復させるため、急遽増員しましたから……。」

「難しいところですね。」

 

 キースの台詞に、デイモン大佐は頷く。デイモン大佐はソファから立ち上がった。キースもやや遅れて立ち上がる。

 

「対テロ警戒の強化、よろしくお願いします。お話ししに来た甲斐がありました、感謝します。」

「いえ、情報を与えていただき、こちらこそ感謝しております。メック倉庫発掘には、我が部隊の技術者も関わるのです。諸共にやられてしまったら、たまった物ではありませんからね。」

「なるほど、確かにそうですな。……さて、それでは自分はこれで失礼させていただきます。ドラコ連合クリタ家の好きにさせぬよう、互いに頑張りましょう。では。」

「はっ。では。」

 

 デイモン大佐とキースは会談をしていた小部屋を出ると、そこで別れる。キースはヒューバート大尉たちのいた方へと戻って行く。パーティー客は、いかにも自然な様子で彼の行く手から離れて行く。微妙に悲しくなったキースだった。

 

(俺はヤーさんか?……雰囲気は似たような物かも知れんか、やれやれ。)

「あ、キース中佐!助かりました!」

「よかった、戻って来てくれた!」

「おかえりなさい、キース中佐。」

「あー、助かったっす、キース中佐。」

 

 キースが来た事で、人だかりから解放された『SOTS』高級士官たちが、大喜びで彼を迎えてくれる。虫除け扱いであっても、歓迎してくれる仲間たちに、ちょっとだけキースは癒された。

 

 

 

 キースはいつもの司令執務室で、一時期よりは格段に少なくなった書類を処理していた。当面の敵も、指揮下に置いていた別の傭兵大隊『アリオト金剛軍団』もいなくなったため、書類仕事は随分と楽になったのである。と、そこで机上の内線電話機がインターホンモードで鳴る。キースはそのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『大隊副官、ジャスティン少尉です。キース中佐宛の船便の荷物を受け取って参りました。中身は複数の記録媒体と目録、それに手紙です。』

「む?入室を許可する。」

 

 ジャスティン少尉は荷物を載せた台車ごと入室してくると、敬礼してくる。キースは答礼して、口を開いた。

 

「ジャスティン少尉、荷の送り主は誰だ?」

「ジョエル・ボールドウィン……となっておりますが。」

「ジョエル・ボールドウィン……。おお、あの歴史学者か!」

 

 キースはジャスティン少尉より手紙と目録を受け取った。彼はまず手紙を開封する。

 

「……ふむ、惑星カーチバッハで発掘した遺跡は、かなりの当たりだったと。貴重なメック部品や気圏戦闘機の部品が大量に、そして1個航空小隊を含む1個中隊のバトルメックと気圏戦闘機が隠されていた、か。礼の言葉がくどいほど書き連ねてある。……むう、発掘した現品は、当地で売り払って金に換えた様だな。」

「カーチバッハ、ですか?」

「ドラコ連合の惑星だ。1個中隊程度なら、全体としては誤差と言えるが……。その1個中隊がこちらに来ない事を祈りたいな。ふむ、同時に技術資料も発掘されたが、それは隠匿してライラ共和国で正規軍に売り払うつもりだと書いてある。……本当にそうしてくれると、ありがたいな。契約通り、その技術資料全ての写しを送る、とある。」

 

 キースは次に目録の封筒を手に取る。彼は封筒を開けて、中の文書を読み、目を見開いた。

 

「!?」

「どうなさったんですか、キース中佐!」

「凄いぞ……。かなりの当たりどころじゃない、大当たりだ。」

 

 その目録には、フェニックスホーク、シャドウホーク、グリフィン、ウルバリーン他と言った、星間連盟期に原型機が開発された中量級バトルメック多種の整備マニュアルが、ずらりと載っていた。無論、ハチェットマンなど近代に開発された機種や、エンフォーサーやヴィンディケイターなど一部の継承国家でしか造られていない機種のマニュアルは入っていない。しかしそれでもこれは宝の山であった。

 キースは叫ぶ。

 

「サイモン中尉とパメラ軍曹を呼べ!この記録媒体を、すぐにバックアップを取らせるんだ!万が一失われでもしたら、えらい損失になる!」

「り、了解!」

 

 ジャスティン少尉は急いで内線電話機に飛び付いた。飛んできたサイモン老とパメラ軍曹も、この記録媒体の内容に驚き、大興奮になった事は言うまでも無い。

 

 

 

 3027年1月15日、キースは副官のジャスティン少尉、そしてサイモン老、ジェレミー少尉、パメラ軍曹など遺跡都市へ派遣する予定の整備兵や、同じく遺跡都市へ派遣予定の偵察兵であるエルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹を引き連れて、惑星首都の隣にある宇宙港ソリッドポートへとやって来ていた。目的は、ライラ共和国首都惑星ターカッドからの客人たちを出迎えるためである。

 ちなみにここには、惑星ソリッドⅢ陸軍情報2課長デイモン・レイトン大佐も、情報部の精鋭を連れて出迎えに来ている。やって来る客人たちとは無論のこと、遺跡都市にある封印されたメック倉庫の封印を解放するための、技術者や偵察兵、軍属の歴史学者たちだ。

 デイモン大佐が呟く。

 

「軍用のユニオン級降下船2隻で降りて来るらしいですが……。メックは積まずに来る様ですね。対宙監視レーダーによれば、もう間もなく降りて来るそうですが……。」

「ああ、見えましたね。」

 

 キースの台詞の通り、2つの西瓜の様に丸い影が上空に見える。それは下に向けて炎を吐きだし、その噴射でゆっくりと宇宙港の離着床へと降りて来た。非常に丁寧だが、軍用降下船には似つかわしく無い、とことんの安全運転ならぬ安全操船であった。

 やがて宇宙港の付属バスで、そのユニオン級の乗客が、宇宙港のターミナルへ向かってくる。そして入国審査などを経て、彼らはキースたちが待っている宇宙港の待合所へとやって来た。

 

「ようこそソリッドⅢへ。自分はあなた方の案内を任されております、惑星軍のデイモン・レイトン大佐です。」

「ありがとうレイトン大佐。私はターカッドより派遣されたこの一団の代表、工学博士の肩書を持っております、ウィルフレッド・カーニーです。こちらの方々は?」

「はっ、自分はライラ共和国惑星ソリッドⅢ守備隊司令官、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令キース・ハワード中佐です。この者たちは私の副官と、貴方たちのお手伝いをさせていただく当部隊所属の技術者及び偵察兵たちです。」

「そうでしたか。よろしくお願いしますよ、ハワード中佐と部下の方々。さて、デイモン大佐……。」

 

 ウィルフレッド博士とデイモン大佐は、何やら話し始める。だがキースはそれどころでは無かった。彼はウィルフレッド博士の後ろに控えている、1人の人物に目を引き寄せられる。

 

「……俺に何か用かね?ハワード中佐、だったか。」

「いえ……。雰囲気が徒者では無いと感じただけです。軍人の方ですか?」

「ふ、俺は一介の研究員に過ぎんよ。」

「……お名前を伺っても?」

 

 その黒髪黒目、モンゴロイド系の男は答えた。

 

「……キバヤシだ。ヒデオ・キバヤシ。」

「失礼しました、キバヤシ研究員。タマラー協定領のご出身ですかな?惑星コウベあたりの?」

「その様なものだ。」

 

 そしてキバヤシ研究員は黙りこくってそっぽを向く。キースもまた、自然さを装って他の方向へ目を向けた。だがその頭の中は、盛大に回転している。

 

(……なんでこの男がここにいる!いや、漫画絵風のイラストと、実際の人間の顔じゃ大違いじゃないか!だがその雰囲気が似すぎてる!……もしこの男が「あの男」だとしたら、何故ここに?そうか……。「あの男」は強力なメック戦士であると同時に、極めて優秀な研究者でもあったな……。)

「隊長?」

「キース中佐?」

「あ、ああサイモン中尉にジャスティン少尉。何か?」

「いえ、様子がおかしかった物でしたからの。」

 

 キースはとりあえず惚ける。

 

「いや、さっきのキバヤシ研究員だが、徒者ではないと感じたのでな。気のせいとは思えん。ちょっと注意が必要かもな。」

「……わかり申した。エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹にも伝えておきますわ。」

「自分も注意しておきます。」

「ああ、頼んだ。」

 

 ひとまず誤魔化して、キースは考えに耽る。

 

(この男が「あの男」だとして……。時期的には合うよな。となると、この世界は小説版ベースじゃなしにリプレイ版ベースって事になるなあ。小説版の描写で、「あの男」が生き延びているとは思えないからなー。

 ならばこの世界では、シャドウセイバーは無しでストームプリンセスがある事になるのか。まあシャドウセイバーは小説版のクライマックスでヤマタノオロチに突撃して爆散したんだから、どっちにせよ存在しないか。)

 

 ターカッドからの客人たちは、デイモン大佐に連れられて歩き始めている。よく観察すると、キバヤシ研究員の周囲の人物はキバヤシ研究員を護衛しているかにも見え、あるいは護送しているかにも見える。と、キースはターカッドからの客人たちのうち、もう1人にも何処となく見覚えがある事に気付いた。

 

(……あの歴史学者の情報部員まで一緒に来たかよ。ますます間違いなさそうだなあ。目的はこの男の監視、かな?……近いうちに、歴史学者の情報部員も名前を訊いておかないとなあ。うっかり聞いてないうちに名前を呼んじまったら、えらい事になりかねないよ。アルバート・ウィーナーだったな。……アルバートか。アルバート中尉と同じ名前か……。)

 

 キースは自分の部隊の者たちを引き連れて、ターカッドからの客人たちの後を歩く。アルバート中尉の事を思い出し、キースは少し感傷的な気分になった。

 

 

 

 その後、ターカッドから来た技術者たちと偵察兵、歴史学者は、その装備ごと大型のヘリコプター数機に分乗して遺跡都市へ向かった。サイモン老たち『SOTS』の整備兵と偵察兵もまた、そのヘリコプターに便乗して遺跡都市へと赴く。キースとジャスティン少尉のみが、サイモン老たちを首都まで送って来たミニバス――アル・カサス城に備え付けの物――で、アル・カサス城へと帰還するのである。

 だがとりあえず、この日はキースとジャスティン少尉は首都に宿泊する事になっていた。首都とアル・カサス城はけっこう距離があるため、ミニバスでは時間がかかり過ぎるのだ。今日そのまま首都を出たら、日が暮れてしまう。その様な理由で、キースたちは首都のビジネスホテルに泊まる事にしたのだ。

 キースはベッドに横になって、今日の事を考える。

 

(まいったね。まさか「あの男」や情報部員ウィーナーが出て来るとは。しかし、キバヤシ……ねえ?なんでキバヤシって偽名にしたんだろうな。キバヤシ、キバヤシ……。木林……。

 あ。)

 

 思わずキースは飛び起きる。あまりにその考えが間抜けすぎたからである。

 

「木に林を足したら、「森」じゃんかよ……。馬鹿か俺は。やっぱりあの男、モリ大佐か。」

 

 キースは脱力した。

 

(なんてこったい……。間抜けすぎる……。

 それはともかくとして、モリ大佐は今、ライラ共和国の研究員として働かされてるってわけだな。となると、やっぱり小説版じゃなしにリプレイ版の世界線か。……待てよ?キバヤシがモリ大佐だって事、本当にドラコ連合に……クリタ家にバレてないのか?整形手術とかしてないのに?

 今回ターカッドから来る技術者たちの名簿、スパイの手を通してドラコ連合に流れてるんだよな。ひょっとすると、ひょっとするぞ?)

 

 ベッドの傍らに備え付けてある机にキースは手を伸ばし、そこにある電話機を手に取った。そして彼は、アル・カサス城に電話を掛ける。万が一彼の想像が当たっていたら、それは即座にではないにせよ、大きな危険をはらんでいる事になるのだ。




ついに満を持して、稀代の悪役NPC、モリ大佐出現です!まあ、このお話では事が終わった後で、ライラ共和国の研究員にまで身を落としてるんですけどね。
でもたぶん、野望は捨ててない。


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『エピソード-067 大佐は危険物』

 キースとジャスティン少尉が首都ソリッド・シティからアル・カサス城に帰還した時、彼らの乗ったミニバスは何台もの大型6連トレーラートラックとすれ違った。それらのトレーラートラックは、移動方向からして首都へと向かっている様だった。キースは呟く。

 

「ああ、なるほど。レパルス号とゾディアック号が、商用航宙から帰還したな。」

「あ、そう言えば深宇宙通信施設より、マーチャント級航宙艦クレメント号からの帰還報告と今回の航宙の収支報告が到着していましたね。」

「5日後には、今度はエンデバー号とレパルス号で1ヶ月の商用航宙に出るんだ。商品の買い付けと積み込みに、今は大忙しだろうな。……おっと。」

 

 アル・カサス城の城門前まで来た時、帰還の申告を守衛所に入れる前だと言うのに、城門が開いた。その理由は簡単である。中からメック部隊第2中隊が出て来たのだ。彼らはこれから、仮設遺跡基地へと向かい、1週間の遺跡都市駐留に入るのである。

 と、先頭に立って歩いていたヒューバート大尉のオリオンが、キースの乗ったミニバスに気付いたのか敬礼をしてくる。キースもいったんミニバスを降りて、答礼を返した。続く第2中隊のメックもヒューバート大尉のオリオンに倣い、敬礼をしつつ通り過ぎて行った。

 第2中隊が遺跡都市へ向かった後、キースはミニバスに戻った。運転席のジャスティン少尉が、既に搭載されている通信機で城門の守衛所へ連絡を入れたらしい。城門は第2中隊が出て行ったまま閉じないでキースたちの入城を待っている。ミニバスは、アル・カサス城の城内へと乗り入れた。

 

 

 

 やがて、いつもの司令執務室まで戻って来たキースとジャスティン少尉は、行き帰りの行程も含めて丸3日ばかり放置せざるを得なかった書類と、ユニオン級ゾディアック号のアリー船長、同級レパルス号のオーレリア船長に迎えられた。まあ書類は溜まっていたとは言っても、以前の一時期よりはずっと少なかったが。

 アリー船長、オーレリア船長が今回の商用航宙について、キースに報告する。

 

「今回は幸い降下船の事故も、商品相場の急落事故も無く、地味ですがそこそこの儲けを上げられましたな。」

「同じくですね。今回は充分な黒字を上げられたわ。まあ、わたしはすぐにまた1ヶ月商用航宙に出るんだけど。今、金属工業製品を大量に買い付けてるところよ。」

「エンデバー号のエルゼ船長も、今は商品の買い付けに大忙しだろうな。なんにせよ……。」

 

 キースは手元の決算報告書を見ながら称賛する。

 

「よくやってくれた!この調子で順調に稼ぎ続けられれば、部隊の予備費も更に潤う事間違いなしだ。隊の皆にボーナスも出せると言う物だ。ライラ共和国に来たためにDHビルが使えなくなるとか色々苦労をかけたからな、ちゃんと報いねば申し訳が立たん。」

「いえいえ、これも隊のためですからな。」

「ボーナス出るんですか!?」

 

 2人の船長は対照的な反応を見せる。キースはそれに苦笑した。アリー船長とオーレリア船長は、笑みを浮かべて言った。

 

「さて、それでは部隊司令も書類仕事に戻らねばならんでしょうからな。この辺で退出してもよろしいでしょうか。」

「わたしも商品買い付けと荷積み作業の監督があるので、いかないとだめね。」

「うむ、退出を許可する。ご苦労、船長たち。」

 

 アリー船長とオーレリア船長の敬礼に答礼を返し、キースは司令執務室を出て行く2人を見送った。

 

 

 

 アル・カサス城の指令室にて、キースは遺跡都市へ派遣されたサイモン老からの通信を受けていた。なお、今指令室の主スクリーンには、轟音と共に離床していくユニオン級降下船エンデバー号と同級レパルス号の姿が映っている。この2隻は、これから1ヶ月半の商用航宙に出て、部隊の運営費用の足しにすべく小金を稼いで来るのだ。

 キースはオペレーターに命じ、響く轟音をカットさせる。

 

「オペレーター、通信中だ。主スクリーンの音声をカットしろ。」

「了解です。……カットしました。」

「うむ、通信終了後に戻して置くのを忘れん様にな。……サイモン中尉、待たせたな。」

『いえいえ、このぐらいはかまいませんですわい、隊長。』

 

 サイモン老が通信回線の向こうで笑っているのが、なんとなくキースには分かる。サイモン老は話を続けた。

 

『それで、ですがの。遺跡都市のメック倉庫入口と思われる場所に、案内されましたがのう。どうやらわしらが調べた結果、特別な回路を組み込んだ、カード状の「鍵」が必要である事が判り申した。それが無しで無理矢理に開けた場合、メック倉庫が自壊する可能性がありますのう。どれほどの規模で破壊されるかは、ちょっとまだ判然としませんがの。』

「その「鍵」とやらは見つかっていないのか?」

『デイモン・レイトン大佐によれば、公爵家にもそれらしい物は伝わっていない模様ですのう。仕方ないので、今現在パメラ嬢ちゃん……軍曹が、障りが無い程度にコンピューターをハッキングして、情報を取りましてな。

 その情報を元に、わしとジェレミー少尉、そしてキバヤシ研究員が3人がかりで「鍵」の等価回路のハードウェアを組んどるところですわ。カードサイズじゃなしに、弁当箱大ですがの。』

 

 キースは自分でも気付かずに、ふっと笑う。

 

「ほう、キバヤシ研究員が……。彼はどうかね?」

『人間的には、少々気に食わん男ですわな。何処かしら高慢でもありますし、お近づきにはなりたく無い人物ですわ。しかしながら……。その能力、才能は認めざるを得ませんの。技術者としては、超のつく一流ですのう。また、指揮官としての訓練もきっちり正式な物を受けておるようですわ。他人を使うのが、妙に上手いですわい。』

「そうか……。」

 

 キースはキバヤシ研究員……モリ大佐について考える。

 

(モリ大佐か……。俺の前世で、メックウォリアーRPGリプレイおよびその小説版、バトルテックノベルの独立愚連隊シリーズでの敵役として登場した人物だけども……。俺が生まれ変わったこの世界では、小説版ではなしにリプレイ版の様だよな。なんと言ってもモリ大佐、無事に生きてる上に、ライラ共和国の研究員やってるんだからなー。

 しかし厄介な人物だよなあ。きっと未だに野望を捨てちゃいないんだろうなー。だけども、今はまだ雌伏の時だろ。とりあえず今すぐこの惑星を舞台に何かやらかすって事は、考えなくてもいいだろな。それより考えなくちゃいけないのは……。)

 

 サイモン老の報告はまだ続いていた。

 

『キバヤシ研究員について、ちょっと気になる事があるんですがの。周囲にいる他の研究員……どうも研究員にしては、妙に知識が無い男たちなんですがの。それらが、キバヤシ研究員の一挙手一投足を見張っとるみたいなんですわ。』

(あー、さもありなん。おそらく共和国の情報部員かなんかだろ、ソレ。モリ大佐を見張ってるんだろなー。)

『いったい何者なんですかのう……。』

「あー、あくまで何の根拠もない想像だが、キバヤシ研究員がドラコ連合からの亡命技術者って線はどうだ?」

『ありそうですわな。』

 

 キースはここら辺で話題を変える。

 

「それはとりあえず置いておこう。もう1つ大事な事がある。メック倉庫発掘も大事だが、共和国から送られてきた技術者たち相手に対し、テロが行われる可能性が無きにしもあらず、と言ったところなのは覚えているだろう?」

『無論ですわい。』

 

 真剣な声音で、キースは続けた。

 

「エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹の3人に、貴官ら『SOTS』の整備兵を最大優先して守るように伝えてくれ。余裕があれば、他のライラ共和国からの技術者たちも守って欲しいが、あくまで余裕があればでかまわん。共和国からすれば技術者たちは至宝とも言える存在だ。しかし貴官らの方が、ぶっちゃけ大事だからな。

 なお第1歩兵中隊指揮官のエリオット大尉には、あらかじめ対テロの防衛体制を整える様に厳命してある。そちらに駐留中のメック部隊第2中隊、交代要員の第3中隊にも、同様の指示はしてある。」

『了解ですわ。』

「まあ、伝えたいことは以上だ。そちらからは何か無いか?」

『いえ、特には。メックや気圏戦闘機の状態も、キャスリン軍曹がいれば何とかしてくれますでの。』

「そうか、では以上だ。交信終わり。」

 

 キースは通信回線を切ると、オペレーターに言った。

 

「あー、オペレーター。もう主スクリーンの音声を戻していいぞ。」

「了解。音声戻します。」

 

 まあ、もうとっくにユニオン級降下船2隻は離床を終えて、静けさが戻って来ているのだが。主スクリーンには、残されたユニオン級ゾディアック号とフォートレス級ディファイアント号、滑走路脇のレパード級ヴァリアント号、同級ゴダード号、同級スペードフィッシュ号、そしてぽっかり空いた2つの離着床が映っているだけだった。

 

 

 

 数日後、仮設遺跡基地から通信が入った。通信をして来たのは、サイモン老である。緊急通信では無かったが、サイモン老は非常に慌てていた。司令執務室にて書類仕事をしていたキースは急遽呼び出され、副官のジャスティン少尉を従えて指令室に飛び込む。キースはオペレーターに命じた。

 

「司令席に回線を繋げ!……サイモン中尉、何があった?」

『やりましたわ、隊長!メック倉庫の入り口を開け、内部の管制をしている主コンピューターにパメラ軍曹がアクセス成功いたしましたわい!現在メック保存のため倉庫内部を満たしていた不活性ガスの排除を、主コンピューターを操作してパメラ軍曹が行っておりますでの!

 ちなみに惑星公爵閣下へのご報告は、レイトン大佐が行っておりますわい。それでわしは、隊長へのご報告を、と。』

「……そうか!!やったか!!」

 

 キースは思わず叫んだ。サイモン老は続ける。

 

『今は「代用鍵」の「弁当箱」が上手く働いておりますがの、正式なカード鍵と違っていつまで持つかわからんもんで、ジェレミー少尉、ネイサン軍曹の2人が指揮してメック倉庫自壊用の爆薬を取り外しておりますわい。未だ不活性ガスが抜けておらん場所での作業だもんで、軽環境用スーツと呼吸器やボンベが重いと、文句たらたらでしたがのう。』

「あー、充分に彼らを労ってやってくれ。」

『はい。それでパメラ軍曹が主コンピューターから取り出した情報をプリントアウトした物が、今手元にあるんですがのう。MASC装備のマーキュリー、ビーグル・アクティブプローブとCASE装備のマングース、エンドウスチールとフェロファイバー装甲装備のヘルメス等々……。遺失技術を用いたメックが、30~40機はある模様ですな。

 ただしあくまでコンピューターのデータ上の話ですがの。もしかしたら、実数を数えたら幾つか持ち出されていたとか、逆にもっと持ち込まれていたとか、あるやも知れませんがのう。あと、それらの交換部品。無論、遺失技術の部品ですな。XLエンジンやら、長射程型粒子ビーム砲やら……。それらが多数、倉庫内に収められておるようですわい。』

 

 思わず絶句するキースだった。サイモン老は更に続ける。

 

『通常技術のバトルメックは、もっと数多くある模様ですのう。それら用の部品群も。ヘスペラスⅡのメック倉庫には及ばないと言う話でしたし、事実及んでおらんのでしょう。しかし充分に大規模なメック倉庫ですわい。』

「……あー。キバヤシ研究員はどうしてる?」

『彼奴は冷静ですな。冷静にパメラ軍曹が主コンピューターから抜き出した資料を調べとりますわい。星間連盟時代の、技術資料の様ですがの。わしが見たところ、遺失技術に関する資料は少数で、普通のバトルメックに関する物が大半では無いかと思われますのう。』

「……それでも大した物だろう。」

『ですのう。先日送られてきた、中量級の整備マニュアルの山を見ておらなんだら、わしも大興奮しておったでしょうな。』

 

 キースは、ふと思った事を口に出した。

 

「……キバヤシ研究員以外の技術者たちは、どうした?代表者のウィルフレッド・カーニー博士とか?何か今まで聞いていると、キバヤシ研究員以外はうちの整備兵たちばかりが活躍している様だが?」

『あー、まあ……。役には立ってはくれもうしたがの、役には。だがせいぜいその程度ですわい。キバヤシの奴が来ておらねば、事実上わしらだけが働く事になっておったやも知れませんの。気に食わん男ではありますがのう。』

「……そうか。」

 

 サイモン老が、ここまで他人を悪く言うのも珍しい。ましてや相手は、彼が自分で認めるほどの技術者だ。モリ大佐とサイモン老は、どうやら相当に馬が合わない模様だった。

 

『まず不活性ガスの排除が終わりしだい、主コンピューターのデータと実機の数、部品群の備蓄状況をつき合わせて確認いたしますわ。その後で、遺失技術を用いたバトルメックから順に、再稼働整備を行う予定になっておりますわい。』

「わかった。以前惑星公爵閣下から電話で伺った話では、技術者たちが乗って来たユニオン級2隻を直接そちらの近くに降ろし、とりあえず遺失技術のバトルメックとその部品を積めるだけ積んで、ターカッドの研究施設に送るそうだが。」

『レイトン大佐より、同じ話は聞いておりますわい。ただ、資料通りの数があったとすれば、1回では運びきれませんの。』

「それはそうだろうが、おそらく後で追加の降下船を送って来るんだろう。」

 

 キースはサイモン老に、他の用件は無いか尋ねた。

 

「サイモン中尉、あとは何か無いか?不便な事があるとかでも良いぞ?」

『いえ、キバヤシの奴が気に障るぐらいですのう。』

「そ、そうか……。」

『まあ、以上ですな。ではまた後で、定時連絡しますわい。交信終わり。』

 

 仮設遺跡基地からの通信は切れた。キースは内心で物思う。

 

(……モリ大佐、サイモン爺さんに何やらかしたんだ。)

 

 その答えは、今のところ出そうになかった。

 

 

 

 さらに数日後の話である。司令執務室にて、キースは惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下からの直々の電話を受けていた。

 

『ハワード中佐、この度の技術者派遣、本当にご苦労だった。ありがたく思うよ。デイモン大佐の報告では、やはり共和国からの技術者たちは、まるっきり役に立たないと言う事も無かったようだが、さりとて彼らだけでは何ともならなかったらしいね。』

「は。いえ、1名凄腕が含まれていたとも聞いております。」

『ああ、キバヤシ研究員、だったかな?うん、それも聞いているけど、君らの部隊の技術者がいなければ、大変だっただろうとも聞いてるよ。』

 

 オスニエル公爵は、楽しげに続ける。

 

『しかしメック倉庫の中身は、中々凄かったらしいね。君たちに対する報酬も、期待してくれていいよ。とりあえず手付代わりと言っては何だけど、発掘された技術資料、遺失技術に関する物は除くけれど、それの複写を私の権限で許可しよう。もちろん、君たちに対する報酬をそれでお茶を濁すつもりは無いから、安心してくれていいよ。』

「よろしいのですか?重量級や強襲メックの整備マニュアルなどが発見されたと聞きますが。貴重な資料だと思いますが、それをこうも簡単にコピーさせていただいて、よろしいのでしょうか。」

『君たちが今後どこの継承国家に雇われるにしろ、それはまず間違いなくライラ共和国か恒星連邦のどちらか、だろう?思想的な物の調査はこれでも一応やっているからね。その2国以外に技術資料の内容が流れなければ、かまいはしないさ。』

「は……。」

 

 キースは心の内で思う。

 

(やっぱりこの惑星公爵閣下は、けっこうなやり手だよね。惜しいなあ。この方の妹にも代官になりそうな人物にも、この方の真似はできないよ、きっと。まあこの方自身が只の学者に戻る事を、切望とまではいかなくても希望されてらっしゃるしなあ。それにその方がこの方の能力を活かせるのかもね。)

『ああ、あとライラ共和国本国でも、君たちの事は高く評価しているらしいよ。何やら特別報酬も考慮されてるって話を、友人筋から仕入れたんだけどね。あと、何やら恒星連邦に返すのが惜しいとか言う話も聞こえて来るよ。ははは。』

「は。それは……。」

 

 キースは少々慌てた。彼は恒星連邦への帰還を望んでいる。多少ライラ共和国への派遣期間が長くなるぐらいは構わないが、帰れなくなるのは望むところでは無い。

 

『大丈夫だよ。無理を強いて、向こうとの関係にヒビを入れたくはないらしいからね。個人的には、返すのが惜しいとは私も思うけどさ。』

「……ありがとうございます。」

 

 ライラ共和国内部へのコネを、彼自身が持っていない事について、キースは今更ながら失敗したと思う。どうせ恒星連邦へ所属を戻すのだからと、彼はそちらの事はサイモン老に頼り切りでいたのだ。だがサイモン老は今、もうしばらくは遺跡都市に行きっぱなしだ。これではいざと言う時に、情報収集などを頼りたくとも頼れない。

 その後2、3の事柄を話した後、電話会談は終了した。その内容を反芻しつつ、今からでもライラ共和国内部にコネクションを作っておこうと、キースは考える。サイモン老がアル・カサス城に戻って来たら、第1に相談するべき事だった。

 

 

 

 3027年2月2日、仮設遺跡基地には現時点で第2中隊が駐留している。そして彼らとは別に、仮設遺跡基地には第1歩兵中隊が警備担当部隊として半常駐状態にあった。仮設遺跡基地は、現在遺跡都市の地下深くにある星間連盟期のバトルメック倉庫を発掘するための拠点になっており、そのために各種装備類が持ち込まれて様々に拡張されている。具体的には、崩れかかった建物を取り壊し、その跡地にプレハブ仕立ての仮宿舎を建てたり、発掘物を一時的に収めて置くための倉庫代わりの巨大天幕が建ててあったりした。

 一方、アル・カサス城とサンタンジェロ城はいつもと変わりない。サンタンジェロ城には第4中隊と第2歩兵中隊の第7、第8歩兵小隊が常駐している。そしてアル・カサス城には第1中隊と、第2中隊と交代で戻って来た第3中隊、それに第2歩兵中隊の第5、第6歩兵小隊、機甲部隊戦車中隊、気圏戦闘機隊全機が常駐していた。ただし気圏戦闘機隊は、CAP……戦闘空中哨戒に出ていて、いつも忙しい。

 このCAPは、ライラ共和国が寄越した技術者たちが到着した直後より、キースが特に命じて行わせた物だった。まあ普段でももっと頻度を少なくして、『SOTS』は気圏戦闘機を警戒に飛ばしてはいたのだが。しかし技術者たちが到着してからは……特にその中にモリ大佐がいると知ってからは、キースは本格的なCAPの計画を練って気圏戦闘機を飛ばし、数段厳重な警戒態勢を取っていた。

 そして今、キースは指令室の司令席にて、オペレーター陣を監督していた。と、副官席よりジャスティン少尉が声を上げる。

 

「キース中佐!惑星陸軍情報2課長デイモン・レイトン大佐からお電話が入っています!緊急だとの事ですが……。」

「司令席へ回せ!」

 

 キースは叫ぶ。すぐに司令席卓上の電話機が鳴った。キースは受話器を取る。

 

「こちら惑星守備隊司令官、キース・ハワード中佐です。」

『デイモン・レイトン大佐です。ハワード中佐、申し訳ありません。本来であらば秘匿性の高い、惑星軍と惑星守備隊との直通電話を使うべきであったのですが……。緊急性が高いと判断し、現場から直接に通常の電話回線を用いて連絡させていただきました。

 緊急事態です。さきほど宇宙港ソリッド・ポートから臨時便の降下船が飛び立ったのですが、それが惑星軍の対宙監視レーダーに映らなかったのです。故障ではありません、おそらくスパイの手による破壊工作です。これが意味する物は1つです。』

「!!……ジャスティン少尉、今地上に降りている『SOTS』の気圏戦闘機全機に、緊急発進の準備をさせろ!オペレーター、CAPに上がっている機体に対宙監視を強化させろ!敵が来る可能性が高い!アル・カサス城の全メック戦士に召集をかけメックに搭乗させろ!仮設遺跡基地の第2中隊およびサンタンジェロ城の第4中隊に緊急連絡、敵襲に備えろと伝えろ!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 キースはデイモン大佐との話に戻る。

 

「レイトン大佐、こちらで今の段階で打てる手は打ちました。」

『ありがとうございます。……どこを狙って来ると思われますかな?』

「敵の規模によるでしょう。少数精鋭で遺跡都市を狙う可能性もあれば、大軍をもってして本格的再侵攻の可能性もまだ残されています。」

『了解です。情報2課より陸軍に警告を発し、もしもに備え戦闘準備をさせます。ではこれにて。』

「はい、失礼します。」

 

 電話は切れた。キースはオペレーターたちに向かい、叫んだ。

 

「俺はマローダーへ向かう!指令室とマローダー間に回線を繋いでおけ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 キースは衣類の襟元を緩めつつ、疾走した。

 

 

 

 キースがマローダーの操縦席に着いて10分もしない内に、CAPに上がっていた気圏戦闘機B中隊、ビートル2のアードリアン・ブリーゼマイスター少尉からの連絡が中継されて来る。

 

『こちらビートル2、アードリアン少尉!所属不明のユニオン級降下船とレパード級……否!レパードCV級を発見!所属確認と停船を命じます!……いえ!その必要も無い様です!敵ユニオン級及びレパードCV級より気圏戦闘機隊の発進を確認!敵機総数は8機!救援を要請します!』

「こちらキース・ハワード中佐!ビートル5、キアーラ少尉!ビートル6、アンジェル少尉!軌道変更し、急ぎビートル2の救援に向かえ!アロー中隊全機、およびビートル1、3、4は緊急発進せよ!指令室、オペレーター!各機にビートル2の座標を送れ!」

『こちらビートル2!敵機は50tコルセア戦闘機8機!識別マーク、ありません!降下船2隻も同様に、識別マークまったくありません!確認できないのではなく、識別マークなしです!

 ……!!……この敵機、凄腕です!アロー5、6、ビートル3、4、5、6では太刀打ちできません!アロー5、6とビートル3から6には、降下船を牽制する様に伝えてください!』

 

 キースは唇を噛み締める。そして彼は、即座に命令を下した。

 

「アロー5、6!ビートル3、4、5、6!貴官らは敵降下船を牽制しろ!アロー1、2、3、4!ビートル1!急ぎアードリアン少尉を助けに向かうんだ!

 メック部隊第1中隊!指揮小隊はレパード級降下船ヴァリアント号、火力小隊は同級ゴダード号、偵察小隊は同級スペードフィッシュ号に乗り込んで、緊急発進に備えろ!おそらく敵の目的地は遺跡都市だ!アーリン大尉、すまんが予測が間違っていた時のためにアル・カサス城で留守番を頼む!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 75tの重量級の機体マローダーが、キースの操縦に従って格納庫を出て、滑走路脇のレパード級降下船ヴァリアント号目指して走り出す。その後を指揮小隊のバトルメックが追い、火力小隊、偵察小隊が更にその後を走る。キースのマローダーに、気圏戦闘機隊ビートル3のオーギュスト少尉からの通信が中継された。

 

『こちらビートル3!駄目です、敵コルセア戦闘機に邪魔されて、降下船を牽制どころか……。あっ!?敵ユニオン級降下船、バトルメックを降下殻で射出開始しました!!』

「無理はするな、ビートル3!」

『こちらアロー1、マイク中尉っす!敵コルセア戦闘機を1機撃墜っす!アードリアン少尉、気圏戦闘機隊指揮官の権限で離脱を命じるっす!』

『アロー2、ジョアナ少尉です!敵コルセア戦闘機1機を撃墜!ビートル3が危険です、支援に回ります!』

『ビートル2、アードリアン少尉!機体損傷、離脱します!』

 

 敵コルセア戦闘機は、かなりの強敵である様だった。歴戦の航空兵であるアードリアン少尉が、味方増援の到着までの間、単機で逃げ回らざるを得なかったとは言え、大ダメージを受けて離脱するはめになったのだ。だが撃墜されるよりはずっとずっとましだ。

 キースはレパード級ヴァリアント号のハッチに機体を乗り込ませ、固定処置を完了させると、叫ぶ様に命令を下す。

 

「レパード級ヴァリアント号カイル船長!同級ゴダード号ヴォルフ船長!同級スペードフィッシュ号イングヴェ船長!緊急発進だ!目的地は遺跡都市!可能な限り、すっ飛ばして行け!」

『了解だよ、まかせておきたまえ隊長。』

『こちらも了解だ、部隊司令。』

『了解ですよ、隊長。かっ飛ばしますよ!』

 

3隻のレパード級は、順番に滑走路にタキシングすると離陸して行く。キースはリアルタイムでもたらされる気圏戦闘機隊の報告を聞きながら、心の中だけで思う。

 

(相手はまず間違いなくドラコ連合のニンジャ部隊だ!機体や船体に識別マークが無いんだ、大方間違いないだろうさ。機体が一般的なコルセア戦闘機なのは、自分の所属を特定されないためだろう……。となると、メックの機種もK型やドラゴンなんかは避けてるだろうな。

 まず相手の目的は、モリ大佐だ。モリ大佐はC3コンピューターの技術をその頭の中に持ってる。それ以外でも、ドラコ連合の機密レベルの技術知識を抱えてるだろうさね。それがライラ共和国の中で研究員やってる状態は、クリタ家としてはなんとしても解消したいはずだよな。そのモリ大佐が、ターカッドからこんな辺地にまで出て来たんだ。奴らにとってはチャンスだろ。けど、奪還するよりも殺害を狙うだろうな、たぶん。

 モリ大佐がどうなろうと構わんけど、『SOTS』の仲間が巻き添えになられちゃ困るんだよ!たぶん奴らは、モリ大佐個人を狙ったと思われる可能性を少しでも減らすため、皆殺し戦術を取るだろうさ!ちっくしょう、間に合えー!!)

 

 キースの内心の叫びを乗せて、3隻のレパード級降下船は遺跡都市目指して飛翔した。




モリ大佐、サイモン爺さんに思いっきり嫌われてます。ソレはともかく。
モリ大佐は、その頭の中にドラコ連合の機密情報を山と抱えたまま、ライラ共和国の捕虜となり、そのまま研究員をさせられています。ドラコ連合としては、この状態はなんとしても解消したいはず……。モリ大佐を消しにくるでしょうねー。
というわけで、ニンジャ部隊です。がんばれ、主人公。


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『エピソード-068 ニンジャ!』

 レパード級降下船ヴァリアント号のエンジン音を背景に、キースのマローダーの操縦席にはアル・カサス城とヴァリアント号の通信設備を介し、気圏戦闘機隊からの報告が届いていた。

 

『アロー1、マイク中尉!敵コルセア戦闘機を撃墜っす!』

『アロー2、ジョアナ少尉です!敵コルセア戦闘機をビートル3と共同撃墜!』

『アロー3、ミケーレ少尉機!敵コルセア戦闘機をアロー4と共同撃墜!しかし当機も損傷を負いました!』

『こちらアロー1!アロー3、気圏戦闘機隊指揮官の権限を持って、離脱を命令するっす!おっと、アロー1、敵コルセア戦闘機を撃墜!』

『アロー3、了解!離脱します!』

 

 さしもの強敵ニンジャ部隊の気圏戦闘機とは言えど、『SOTS』の気圏戦闘機隊の古株相手には分が悪かった様だ。敵機は残り2機にまで撃ち減らされている。だがそれでも、これまでにアロー3、ビートル2、ビートル4、ビートル5が離脱を余儀なくされていた。内、アロー3とビートル2は歴戦の古株だ。

 

『アロー1、マイク中尉機っす!敵コルセア戦闘機を撃墜!アロー5、6、ビートル3、6!改めて命令っす!敵降下船を狙うっすよ!』

『こちらアロー4、コルネリア少尉!最後の敵コルセア戦闘機を撃墜しました!ですが相討ちで機体損傷!離脱許可を求めます!』

『アロー1、了解っす!アロー4は離脱、残りアロー2、ビートル1は敵降下船を!……!?報告するっす!敵レパードCV級、エンジンを噴かして離脱軌道に入ったっす!ユニオン級は、強引に降下軌道へ!これより気圏戦闘機隊はユニオン級を追撃するっす!』

「マイク中尉、深追いは避けろよ!」

『了解っす、隊長!』

 

 これまで必死で戦って来た気圏戦闘機隊だ。無事な機体でも、皆そろそろ推進剤がやばいはずである。と、ここでブリッジからイライダ副長の声が響く。彼女はスペードフィッシュ号船長に異動したイングヴェ中尉に代わり、ヴァリアント号副長となった人物だ。

 

『部隊司令、あともう少しで着きますよ。……ところで、なんでカイル船長やスペードフィッシュ号のイングヴェ船長は、部隊司令のこと隊長って呼ぶんですかね?』

「あー、『SOTS』でも一番古株の、かつて小隊規模だった頃から一緒の者たちは、俺の事を当時の呼び方のままで、隊長と呼ぶんだ。」

『なるほど。……っと、第2中隊から緊急通信です。現在降下してきた敵と戦闘中で、指揮小隊以外が旗色悪いらしいです。話をしてる余裕も無いみたいで、通信切れました。』

 

 キースの表情が引き締まる。第2中隊は、指揮小隊はニンジャ部隊相手でも十二分に渡り合えるだろう。しかし火力、偵察の両小隊はそうはいかない。キースは第1中隊の偵察小隊小隊長、ジーン中尉とスペードフィッシュ号ブリッジに通信回線を繋いだ。

 

「ジーン中尉、イングヴェ船長、無茶な頼みがある。スペードフィッシュ号で敵上空を突っ切って、その際に偵察小隊はジャンプジェットで飛び降りて強襲して欲しい。全機がジャンプジェットを搭載しているのは、偵察小隊のみだ。敵を倒せとは言わん、引っ掻き回して混乱させるだけで良い。

 敵を混乱させさえすれば、ヒューバート大尉の事だ。俺たちが近場に着陸して降下船から出撃するまでは、持たせてくれるだろう。」

『わたしは構いませんがね、隊長。ジーン中尉はどうでしょうか?』

『自分も了解です。』

「無理をさせて悪いな。」

 

 そしてブリッジのイライダ副長から連絡が来る。

 

『船長は、戦場の近場に強引に着陸かますそうです!出撃準備願います!』

「了解だ!偵察小隊は!?」

『こちらジーン中尉、今から飛び降ります。偵察小隊各員、強襲降下用意!10、9、8、7、6、5……。』

 

 そして凄まじい横方向のGと縦方向のGが交互にかかる。しかしキースの頑強な身体は、それにあっさりと耐えた。バトルメックの固定を解除し、開いたハッチからキースはマローダーを発進させた。隣のハッチからは、アンドリュー曹長のライフルマンが飛び出して来る。ヴァリアント号反対側のハッチからは、今頃エリーザ曹長のウォーハンマーとマテュー少尉のサンダーボルトが駆けだしている頃合いだろう。

 キースは叫ぶ様に命令を下す。

 

「第1中隊指揮小隊!全機全力疾走!火力小隊『機兵狩人小隊』も、可能な限り急げ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 第1中隊の指揮小隊は、本来の最高速度を超える猛速で、メックに全力疾走をさせた。そのスピードは、86.4km/hに届く。これはシャドウホーク、グリフィン、ウルバリーンなど比較的高機動のメックの走行速度と等しい。卓越した操縦技量を誇る、第1中隊指揮小隊の面々だからこそ可能な芸当だった。

 そしてやがてキースたちは戦場へと辿り着く。そのキースの目に映ったのは、格闘戦でヒューバート大尉のオリオンと敵の黒塗りのオウサムが、互いにパンチで相手の頭部を潰し合うところだった。キースは叫ぶ。

 

「ヒューバート!」

 

 だがヒューバート大尉は、かろうじて機体からの脱出に成功していた。擱座するオリオンの足元に降り立った彼は、必死に走って安全圏へと移動しようとしている。とりあえず安心したキースは、指揮下の各機に命令を下しつつ、周囲を確認した。

 

「指揮小隊、全力疾走解除!……!?く、ひどくやられたな。」

 

 見ると、第2中隊指揮小隊のウルバリーン、同偵察小隊のフェニックスホーク2機が、おそらく弾薬爆発したのであろう、四肢と頭部を周囲に四散させた残骸と化している。また、第2中隊火力小隊小隊長機のオストソルは、滅多撃ちにされてエンジンを破壊されたらしく、これも手足を周囲にばら撒いて爆散していた。恐るべきニンジャ部隊の実力である。

 だがそれと引き替えにしたのであろう、黒塗りの敵のフェニックスホーク2機が手足を折り取られ、地面に横たわっている。また何機かの敵が爆発したと見ゆる痕跡が、そこかしこにあった。1個中隊12機はあったはずの黒塗りの敵バトルメック数は、7機にまで減少していた。

 その残り7機の間を、先に降下していた第1中隊偵察小隊機が縦横に疾走し、ジャンプして攪乱している。さすがにその状態で敵に命中弾は与えられない様ではあるが。いや、隊長機のジーン中尉のグリフィンだけは、時折粒子ビームを命中させていた。流石の技量である。

 キースは攻撃命令を下す。それと同時に彼は、第2中隊の残存機体の中で、最も序列の高い火力小隊副隊長機、ワンダ・エアハルト少尉のエンフォーサーに通信を繋いだ。

 

「第1中隊指揮小隊!この黒スケどもを叩き潰すぞ!まず狙い頃なのは……。右近場にいるクルセイダーだ!」

『『『了解!』』』

「ワンダ少尉!損害報告を!」

『は!アーデルハイト中尉のオストソルが破壊、グレーティア少尉のウルバリーン、アラン中尉とレノーレ伍長のフェニックスホークの3機が爆散いたし、中隊長のオリオンが敵オウサムと相討ちになった他は、軽度の損傷があるだけです!敵は単機ずつ集中砲火により仕留める戦術を用いましたので!ですがメック戦士は全員が脱出を確認しております!』

 

 キースはクルセイダーに粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノン1門を送り込みつつ、内心一安心していた。メックが4機も完全破壊されたのは痛いが、一応貧弱だとは言え予備メックは4機存在する。メック戦士が無事ならば、それはそれで諦めもつく。第1中隊指揮小隊からの集中砲火を浴びた黒塗りのクルセイダーは、左胴の装甲を食い破られて15連長距離ミサイルの弾薬が誘爆、胴体を上下に分割される形で吹き飛んだ。

 

「……アンドリュー曹長!総大将っぽいストーカーを狙え!俺も奴を狙う!マテュー少尉とエリーザ曹長は、敵のウォーハンマーだ!……追い付いてきたな、『機兵狩人小隊』!そちらから近場にいるカタパルトを頼む!ジーン中尉、偵察小隊はそのまま敵陣を引っ掻き回せ!第2中隊は黒塗りシャドウホークに集中砲火を加えろ!」

 

 キースたち指揮小隊から見て、敵のストーカーとウォーハンマーは丘陵陰の部分遮蔽状態にあった。キースたちは丘の稜線をガイド代わりに用い、そこから姿を現している敵機の上半身を狙い撃った。

 アンドリュー曹長機の撃ち放った中口径オートキャノン2門が、ストーカーの頭部に連続して着弾し、それを吹き飛ばす。エリーザ曹長機の粒子ビーム砲が、敵の同型機たるウォーハンマーの頭にぶち当たり、その装甲を貫いてメック戦士を死亡させる。ほぼ同時に行われた敵の砲撃は、キースのマローダーを集中して狙った。キース機の機動回避により、その3割程度しか命中弾は無い。だがその攻撃は、キースのマローダー右脚に集中してぶち当たった。

 

「!!……放熱器を2基やられたか。あと1発でも右脚を撃たれたら、折れるな。」

『隊長!下がって指揮に集中してください!』

『マローダーの火力は惜しいけど、隊長が墜とされでもしたらまずいわよ!』

 

 マテュー少尉とエリーザ曹長が口々に叫ぶ。キースは頷いた。

 

「わかった。前線構築は頼むぞ。」

 

 キース機はゆっくりと後退する。その時、敵の黒塗りカタパルトとシャドウホークが、爆炎を噴き上げた。弾薬に直撃をくらったのであろう。

 

「……俺、下がる必要無かったかもな。」

 

 残る敵機は、黒塗りのサンダーボルトと黒塗りのアーチャーだ。が、そのサンダーボルトも、ジーン中尉のグリフィンが後ろから撃った粒子ビームに、頭を貫かれる。と、突然キースは叫ぶ。

 

「全フェニックスホーク、その機動力で敵アーチャーの動きを止めろ!奴は死ぬ気で任務を果たすつもりだ!仮設遺跡基地を守れ!」

 

 はたして敵のアーチャーは、突然に全力疾走を行った。前に回り込んだアロルド・エリクソン軍曹のD型フェニックスホークが、全力の86.4km/hの体当たりを受けて跳ね飛ばされ、右腕と右脚を失う。反動で自機も大きく損傷を受けながら、それでも敵アーチャーは全力疾走をやめない。

 

「くそ!第1中隊指揮小隊!全開射撃!なんとしても、やつを止めろ!」

 

 言うと同時に、キースは自機を全速で前に出させた。そして届く武器全てでの、過熱覚悟の全開射撃を行おうとする。片脚の放熱器2基を失っているキースの機体では、それは多大な負担になるが、他に方法が無かった。

 黒塗りのアーチャーは、射撃位置として適切な場所に着くと、動きを止めた。そしてその2基搭載されている20連長距離ミサイル発射筒を、遺跡基地のある1点に向けた。キースはそこにモリ大佐がいるであろう事を、直感的に悟る。

 

(スパイかなんかが、ビーコンでも仕込んだか!?くそ、中れっ!!)

 

 キースのマローダーが粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門を、アンドリュー曹長のライフルマンが中口径オートキャノン2門を、エリーザ曹長のウォーハンマーが粒子ビーム砲2門を、マテュー少尉のサンダーボルトが15連長距離ミサイル発射筒を、それぞれ撃ち放つ。他にも部隊のメック戦士たちが、当たり目があると思われる武器を集中砲火した。

 しかしこの距離で中る可能性が高いのは、第1中隊指揮小隊だけだ。それも、可能性が高いとは言っても敵が全力疾走して射程距離ぎりぎりの上、自分たちも走っているためになんとか五分五分程度だ。後の者は、せいぜいが5%前後の確率があるに過ぎない。キースは精神を集中させて、アーチャーの背中を狙う。

 

(墜ちろーーー!!)

 

 キースの射撃は、全弾が命中した。しかしその着弾は散り、敵機に致命傷は与えられない。指揮小隊の射撃の約半分が、確率通りに命中した。敵アーチャーは左腕を吹き飛ばされる。だがまだ黒塗りのその機体は立っていた。勝ち誇った様にも見えるその黒いバトルメックは、照準を遺跡基地に合わせて長距離ミサイルを射撃しようとする。距離的には長距離ミサイルの射程ぎりぎりだが、このメック戦士の技量ならば間違いなく命中させるだろう。

 

(駄目か……!頼む、外れてくれ!サイモン爺さんたち、せめて巻き込まれないでくれ!)

 

 そしてキース機の中口径オートキャノンにより装甲が剥げていた敵機背中左側に、長距離ミサイルが命中する。黒塗りのアーチャーは、弾薬に直撃をくらって大爆発を起こした。

 

『あ、え!?あ、中った!』

「……よくやった!イヴリン軍曹!」

 

 それはイヴリン軍曹のサンダーボルトが放った、15連長距離ミサイルの一撃であった。彼女は第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』中でも、最も技量が低い。この遠距離射程での命中率は、3%にも満たなかったであろう。しかし彼女はその低確率を突破し、見事敵アーチャーを撃墜してみせたのだ。

 キースは叫ぶ。

 

「よくやった!ボーナス物だぞ、期待しておけ!」

『え、あ、は、はい!!』

『隊長、イヴリン軍曹にはボーナスよりももっと良い物があるんじゃないかな?』

 

 エリーザ軍曹が、楽しげな様子で突っ込みを入れる。だがキースは聞いていない。キースは今しがた叫んだ直後、とんでもなく嫌な予感に襲われていたのだ。その予感は的中する。レパード級降下船ヴァリアント号を介して、マイク中尉からの通信がキース機に届いたのだ。

 

『隊長!マイク中尉っす!気圏戦闘機隊、推進剤と、特にアロー中隊機は弾薬切れっす!敵ユニオン級降下船が、強引に遺跡都市方面に降りて行ったっすよ!』

「!?……レパード級ヴァリアント号!同級ゴダード号!同級スペードフィッシュ号!申し訳ないが、もう一働きしてくれ!敵ユニオン級を牽制、可能であれば撃沈するんだ!」

『了解だよ、任せてくれたまえ隊長。』

『ふむ。やってやろうじゃないかね、部隊司令。』

『ちょっとばかり、やってやりましょう隊長。』

 

 3隻のレパード級降下船が発進する。既に空の彼方には、球体状のユニオン級降下船の影が見えていた。キースは檄を発する。

 

「『SOTS』全機!対空戦闘用意!叩き落とすぞ!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 キースは『SOTS』第1、第2中隊機の内で動ける機体を率い、敵ユニオン級の降りて来る方へメックを走らせた。ユニオン級はキースらの上を射撃しながら通り過ぎようとする。目的はやはり、モリ大佐のいる簡易遺跡基地中央部なのであろう。

 レパード級3隻が、粒子ビーム砲や20連長距離ミサイル発射筒より砲火を放ちながらユニオン級の周囲を飛び回った。まるで気圏戦闘機である。

 

『いいいやああぁぁっほおおおぉぉぉ!!』

『うむ、これだよ、これ!この感じこそ戦いだ!』

『ひゃっほーーー!!』

 

 レパード級3隻を操る初老の紳士方の叫びが聞こえて来る。とても紳士とは思えないが、普段は紳士なのである。背後から副長たちの悲鳴が聞こえて来るが、気にしてはいられない。キースは命を下す。

 

「各機、機動回避!目標、敵降下船下部エンジン部!撃て!!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 粒子ビーム砲が、中口径オートキャノンが、長距離ミサイルが、大口径レーザーが、各々発射されて敵降下船底部にぶち当たる。マイク中尉たちの健闘でずいぶんと装甲が弱っていたそこは、それでもしばらくの間持ちこたえた。キースたちのバトルメックにも、若干の命中弾が来る。

 しかしついに限界が訪れた。ユニオン級のエンジンの1つが火を吹き、緊急停止した。巨大なユニオン級がぐらりと傾き、地上へと降りて……いや、落ちて来る。敵のユニオン級降下船は、斜めになって地面に落着した。それでもそのユニオン級は、必死に武器を撃ち応戦する。だがその火線はこれまでの半数にも満たない。船体が斜めになっているためか、射撃の精度も極めて低かった。

 

(降伏する様子は無さそうだよな……。これがニンジャ部隊って言う物かよ。)

『隊長、どうします?』

 

 マテュー少尉の問いに、キースはマローダーの粒子ビーム砲になっている腕を掲げて答えた。

 

「やると言うんだから仕方ない。こちらも徹底的にやるしか無い。……いや、待て!全機一時撤退!急げ!」

『へ?』

『あ、え?』

「急げといったろうが!敵が自爆する可能性がある!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 キースたち『SOTS』第1、第2中隊機は全力でメックを下がらせた。空のレパード級3隻も、高高度へ上昇して距離を取る。そしてキースの予想通り、ユニオン級は大爆発を起こした。周囲に爆風が吹き荒れる。かろうじてキースたちはその影響外へ出る事に成功した。

 

(これがニンジャ部隊か……。恐ろしいもんだなあ。ぶっちゃけ、もう2度とこう言う手合いの相手は御免だよ。まあ、降下船を残して置いて、航行データから何処から来たのかとかバレるわけにいかないのもわかるけど……。

 メック戦の戦場からは充分離れてるから、脱出したヒューバートたちには影響は無いとは思うけどさ……。大丈夫だろうな?)

『うわぁ……。』

『な、何考えてるんだ……。』

 

 隊員たちは、貴重な降下船をあっさりと爆破した事に驚きあきれ、恐怖した。キースは簡易遺跡基地に通信を入れる。

 

「こちらキース・ハワード中佐。簡易遺跡基地、応答せよ。」

『こちら簡易遺跡基地、エリオット大尉。キース中佐、今アル・カサス城より自分の判断で、軍医キャスリン軍曹をフェレット偵察ヘリコプターで来させるように命じました。』

「誰か怪我人でも?いや、もう手は打ってあるんだな。なら、時系列順に出来事を報告してくれ。」

 

 エリオット大尉は報告を開始する。キースは静かにそれを聞く。

 

『はっ。メック部隊による襲撃と時を同じくして、数人の狙撃手が現れました。狙撃手の狙いは、研究員たちであった模様です。狙撃手の排除は我々第1歩兵中隊により、速やかに行われました。全員射殺し、捕虜はおりません。……ですが、その後に問題が。』

「……続きを。」

『狙撃手の排除に我々歩兵小隊が手を取られている間に、爆弾を持った工作員……。いえ、人間爆弾7名1個分隊が地下の下水道跡より潜入し、これも研究員を狙って突撃をかけてまいりました。エルンスト曹長、ネイサン軍曹、アイラ軍曹ら偵察兵3名により人間爆弾は射殺され、脅威は排除されたのですが……。1人の人間爆弾が自爆し、エルンスト曹長が重傷を負いました。

 幸い、第2歩兵小隊小隊長ラナ少尉は、キャスリン軍曹には及ばないものの医療のエキスパートです。応急処置に成功し、現状命には別状有りません。設備の整った場所に運びしだい手術の必要はある様ですが。キャスリン軍曹の意見も聞きたいところではありますが、ラナ少尉によれば後遺症も残らない物と思われるとの事です。』

 

 キースは大きく息を吐いた。

 

(あぶないところだった……。エルンスト曹長が死ななくてよかったよ、ほんと……。)

『キース中佐、どうされますか?』

「ああ。2個小隊を派遣してくれ。メックは倒したが、メック戦士が生きている機体がいくつかある。捕虜に取れるかどうかはわからないが……。ああ、第1歩兵小隊は避けてくれ。貴官にはそちらの指揮を頼みたいからな。」

『了解しました。第3、第4歩兵小隊を送ります。』

「以上だ。交信終わり。」

 

 その後、キースは擱座したバトルメック、破壊されたメックの散乱した部品、ユニオン級の残骸などの回収を麾下のバトルメック部隊に命じた。予想通り、敵メック戦士の捕虜は取れなかった。全員が服毒して自害していたのである。

 

 

 

 キースは簡易遺跡基地にて、ヒューバート大尉より事情の聞き取りと説教をしていた。ヒューバートは被撃墜時のダメージで、体中に包帯を巻いている。キースは懇々と言い諭した。

 

「……あの時点で、敵バトルメックのうちでも絶大な火力を持つ80tオウサムを何とかしておかねば、また被撃墜者が出る可能性が高かったのは理解できる。そのために一撃必殺の可能性を持つ格闘戦を選んだのもな。しかしだな、ヒューバート大尉。貴官は中隊指揮官だ。あえてその役割を部下に任せ、指揮を継続するべきでは無かったか?事実、相討ちの形で貴官は撃墜された。」

「はっ!軽率でありました!申し訳ありません!」

「反省している様だからな。これ以上は言わん。しかし始末書は書いてもらうぞ?」

「はっ!了解です!」

 

 キースは頷く。そして肩を落としている4名のメック戦士に顔を向ける。彼ら彼女らも、包帯だらけだ。

 

「さて……。アーデルハイト・エルマン中尉、アラン・ボーマン中尉、グレーティア・ツィルヒャー少尉、レノーレ・シュトックバウアー伍長。」

「はっ!自分の至らなさで貴重な機体を失い、まことに申し訳ありませんでした!」

「この償いは、いかようにも……!」

「あー、違う違う。そうではない。よく生きて戻ってくれた。これはヒューバート大尉にも言える事だ。本当に5人とも、よく生きて帰って来た。」

「「「「!?」」」」

 

 ヒューバート大尉以外の4名は、目を丸くして驚く。ヒューバート大尉だけは、頬を緩めていた。キースは続けて言う。

 

「機体を失った事は、確かに残念だ。だがあれは貸与した機体だからな。損したのは俺だ。貴官らや貴様が損したわけではない。だからそんなに気に病むな。それにヒューバート大尉の証言で、貴官らや貴様に被撃墜の責任が無かった事は理解している。俺が貴官らや貴様の実力を疑う事など無い。」

「は、はあ……。」

「いえ、しかし……。」

「ですが……。」

「え、えと……。」

 

 キースはにやりと笑う。

 

「今回の敵は、ぶっちゃけた話、正体不明だ。正式な戦闘と認められるかも怪しい。で、アル・カサス城にいるMRB管理人のウォーレン・ジャーマン氏に確認を取ったところ……。駄目だと言う話だ。戦闘報酬も弾薬も装甲板も支給されん。」

「「「「ええっ!?」」」」

「で、だ。契約ではこう言った相手との交戦の場合、鹵獲品は全て接収可能だ。フェニックスホーク2機、サンダーボルト1機、ウォーハンマー1機、オウサム1機、ストーカー1機の計6機。それと爆散した機体の残骸から回収したパーツ類。自爆したユニオン級の残骸から取って来た、なんとか形が残っていた物品類。全部うちで接収できる。

 強襲型の2機は部品取り寄せに苦労するが、その他の機体であらば修復して貴官らと貴様、計4名に新たに貸与するのに何ら問題は無い。フェニックスホークに乗っていたアラン中尉とレノーレ伍長は同一機種を貸与される事になるが、他の2名は機種転換訓練で苦労してもらう事になる。ま、そのぐらいは我慢してくれ。」

 

 キースの寛容さに、4人は思わず落涙する。キースはくすぐったい雰囲気に耐えきれず、退出命令を下した。

 

「あー、以上だ。退出してよろしい。……ゆっくり休んで、傷を癒す様に。」

「「「「了解!!ありがとうございます!!」」」」

 

 4人のメック戦士たちは、仮の司令室を退出して行く。キースはこの部屋に彼とヒューバート大尉だけになったのを確認すると、頭を抱えた。

 

「あー、どーすんだよ。商用航宙からエンデバー号とレパルス号が帰還するまで、まだ20日はあるんだぞ?気圏戦闘機隊も、メック部隊第1中隊も第2中隊も、大損害だよ。鹵獲機で収支それ自体はプラスだけどさあ……。メック完全修理したら、今ある現金がごっそり減っちまうよ。強襲型2機の修復を断念して先に回しても、充分痛い。先頃、部隊員にボーナス出したからなあ……。

 かと言って、ボーナス出さないなんてのは、あまりにもあんまりだろ。金がある時に出しておかないと、駄目だろ。あー、早く今回の契約終わらないかなあ。契約が終われば、後払いの契約金ががっぽり入って来る。」

「申し訳ないな、キース。俺が脱出するはめになってさ。」

「恨むぞー、ヒューバート。操縦席は高い。Cビルで20万もする。ライラ共和国の備蓄をSHビルで買えるから、18万2000SHビル……。それがヒューバートのオリオンと、あとサンダーボルトとウォーハンマーの3機。他にも細々した部品。

 フェニックスホーク2機は手足が無くなってるけど、あれは爆散したフェニックスホークの腕と脚を拾って来てあるから、なんとかなるが。ああ、でもアロルド軍曹のD型フェニックスホーク、右腕と右脚破壊されてるんだよなあ。散らばったのを拾って来たパーツと予備部品で、直ればいいんだが……。サイモン爺さんに聞いてみないと。

 そうだ、サイモン爺さんと弟子たちにも、アル・カサス城に帰って来てもらわないと。もうメック倉庫は開いたから、いいだろ別に。それとそのうちには、オウサムとストーカーもきちんと直さないと……。あれも頭飛ばしたから、操縦席を更に2機分……。しかも強襲型だから、制式部品がなかなか手に入らない……。あと気圏戦闘機隊……。青息吐息で帰還してきたそうだけど、損傷がかなり……。」

 

 キースはがっくりと凹む。ヒューバート大尉は、キースの人の良さに苦笑すると共に感謝する。オリオンはヒューバート大尉の個人所有機であり、他の傭兵部隊だと下手をすれば修理代を自分で払わねばならないのだ。

 キースは溜息を吐いて言葉を紡ぐ。

 

「ふぅ……。まあ死者が出なかっただけ、運が良かった。今回の敵は、並じゃ無かったからな。ヒューバート、いやヒューバート大尉。とりあえず一時的に俺と第1中隊が仮設遺跡基地に詰めるから、戦利品と損傷メックを担いでアル・カサス城に帰還してくれ。サイモン中尉は俺のところに残すが、弟子たちを連れて行くのを忘れずにな。

 あとは……。ユニオン級の自爆跡から拾って来た物品類。爆散したメックのばら撒いた部品のうちで、うちの部隊では使い道の無い物。うちの部隊からは無くなった機体……60tオストソルだが、それの予備部品のうち他機種に流用できない物。そう言った物を売れるだけ売り払ってしまおう。可能ならCビルで。

 まあ、それは俺がアル・カサス城に帰ってからだな。とりあえずは、当面アーリン大尉と相談してアル・カサス城の指揮を頼む。」

「は。了解です。」

「それと俺が戻るまでに始末書を仕上げて、副官のジャスティン少尉に預けておく事。」

「……は。了解です……。」

 

 最後にオチをつけるキースとヒューバート大尉だった。

 

 

 

 キースは仮設遺跡基地にいる間に、ライラ共和国から派遣されてきた技術者たちの様子を見に行ってみた。間近で戦闘が行われ、狙撃手や人間爆弾に狙われた事もあり、技術者の半数は少々調子を崩している模様である。だが半数は、平気な顔をしていた。

 

(あー、たぶん平気な顔してるのは、モリ大佐の監視役の人員だなー。研究者てぇのは、あくまで表向きなんだろ。その実態は、強面の情報部員てえ所、か。……ん?)

「ハワード中佐。」

「何でしょう、キバヤシ研究員。」

 

 モリ大佐は、不敵な笑みを浮かべてキースに相対した。

 

「単刀直入に言おう。貴官の郎党のサイモン中尉、俺に譲ってくれんか?駄目ならば、その弟子たちの1人なりとても良い。優秀な研究助手が欲しくてな。」

「お断りします。」

「ふ、一刀両断だな。」

 

 キースは笑顔を浮かべて言う。だがその眼は笑っていない。

 

「彼らは優秀な研究者ではありますが、それ以前に本質として整備兵なのですよ。研究助手としての生活には向かんでしょうな。それに……。はっきり言いますが、サイモン中尉は貴方を嫌っています。そして貴方の提案では、自分およびサイモン中尉、そして自分の部隊に利益が無い。」

「ふむ。だから弟子でも良いと言ったんだがな。それに利益ならば今はまだ無いかもしれんが、将来的には話は違って来る予定なのだが。何なら、サイモン中尉単独ではなしに貴官まるごとでも構わんよ。いや……俺にとっても、その方が良さそうかな?」

「あいにく自分は、近視眼的ビジョンの持ち主なのですよ。長期的利益も欲しいには欲しいですが、短期的な事物を乗り越えられなければ意味が無い。」

 

 モリ大佐は笑顔のままで言った。

 

「交渉決裂だな。残念だ。」

「自分としては、ほっとしていますがね。」

「……貴官には、今回の件で礼を言うべきかな?」

 

 モリ大佐の言葉に、キースは笑顔を崩さずに応える。

 

「ライラ共和国からの派遣技術者の皆さんを守るのは、惑星守備隊として当然ですからね。ですが礼を言っていただけるのであれば、受け取りましょう。礼儀ですからね。」

「では、「ありがとう」だな。ふっ。」

「いえ、「どういたしまして」ですね、キバヤシ研究員。」

 

 モリ大佐は踵を返すと、去って行く。キースは小さく息を吐いた。流石にモリ大佐は徒者では無い。相対していた短い時間で、キースは少々精神的に疲労していた。と、そこへ話し掛けて来る者がいる。まあキースは恒例の如く、近づいて来る気配を察知していたので驚きはしなかったのだが。

 

「あー、もしもし?」

「はい、何でしょうか。」

「モリさんと何かお話しで?」

 

 この程度の引っ掛けには、キースは動じない。

 

「モリ?キバヤシですよね?」

「ああ、そうです。キバヤシ、キバヤシ。いけないっすねえ。日系の人の名前は、紛らわしいです。」

「そうですか?……ところで貴方は?」

「あー、俺はアルバート・ウィーナーって言う歴史学者っす。今は共和国に雇われて、この惑星ソリッドⅢのメック倉庫発掘の手伝いに来たんす。よろしく、キース・ハワード中佐。」

 

 キースは遠い目になる。

 

「アルバート……。ああいや、すみません。自分の恩人にアルバート・イェーガーと言う人がいましたので、つい。」

「へえ、その人は?」

「今は故人です。」

「あ、そ、そうですか……。」

 

 キースは心の中で、アルバート中尉にダシにした事を深く深く詫びる。だがおかげで、相手の勢いは弱まった。キースは言葉を続ける。

 

「キバヤシさんからは、私の郎党の整備兵を研究助手として引き抜きたい、と頼まれただけですよ。無論、お断りしましたがね。」

「あー、そうですか……。」

「あとは皆さんを守った事で、お礼も言っていただきましたよ。別に当然の義務なのですがね。」

「あー、いえいえ。お礼を言うのは当然すね。俺からも、ありがとうございます。」

 

 キースは微笑んで応える。

 

「どういたしまして。……それでは自分は、メックのところへ戻らねばなりませんので。」

「あ、はい。忙しいところ、失礼したっすね。では。」

「はい、また今度。」

 

 キースは踵を返す。その時、後ろからの小さな小さな呟きを、キースの鋭敏な聴覚は捉えていた。

 

「……俺の勘も鈍ったっすかねえ?なんかありそうな気がしたんだけど……。」

 

 内心でキースは舌を出し、その場を立ち去った。




というわけで、モリ大佐を消しに来たニンジャ部隊との戦いでした。もの凄い大損害を被って、しかも戦闘報酬なし!
まあその分、戦利品の権利は全て認めてもらえますけれど。でも現金が足りなくなりそう。ぴんちです。
そしてさようならモリ大佐。ありがとう。おかげでストーリーのネタが稼げました。


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『エピソード-069 簡易遺跡基地撤収』

 簡易遺跡基地から送信されてきた、メック部隊第2中隊中隊長であるヒューバート大尉からの報告書を読みつつ、キースは息を吐いた。

 

「ふう……。メック倉庫から発掘された、遺失技術を用いたバトルメック中の24機と遺失技術パーツ類は、第1陣としてユニオン級2隻でターカッドに向けて送り出された、か。残るは今回積み切れなかった遺失技術パーツ類と、遺失技術バトルメック16機。これも降下船が来しだい、ターカッドへ送られる、と。

 膨大な数の通常型バトルメックと通常パーツ類はこの惑星の輸出産業として、徐々に星系外へ送り出される事になる、か。遺失技術メックの対価は、あえて取らずにターカッドへの貸しにする……。惑星公爵オスニエル閣下はやはり大胆な決断ができるお人だな。近視眼的な人物であらば、ここぞとばかりに何か共和国へせびっただろうに。

 おそらくは、いずれたっぷり貸した分の利子を取るおつもりなんだろう。」

「隊長、奴はどうしましたかの?」

 

 敵ニンジャ部隊から鹵獲したバトルメックや、損傷した部隊のメック、気圏戦闘機の修理状況を報告するため、司令執務室へ来ていたサイモン老が訊ねて来る。キースはサイモン老に不機嫌になられては困る事もあり、サイモン老にとっての吉報を口にした。

 

「キバヤシ研究員なら、遺失技術メック第1陣と共にターカッドへ帰ったよ。静態保存状態にあったバトルメックを動かせる様に再稼働整備するのは、ウィルフレッド・カーニー博士以下その他の研究員たちでも可能だからな。」

「そうですか!!いやあ目出度い!!二度と会う事の無いよう、祈りますの!!」

(……ほんとにモリ大佐、サイモン爺さんに何やったんだ。)

 

 サイモン老のあまりの喜び様に、キースは少々引いた。まあだが、キース自身も、モリ大佐にはあまり会いたくはなかったのだが。キースはこの話を打ち切り、本題へと戻す。

 

「あー、それでだ。部隊のメックと気圏戦闘機、それに鹵獲機の件なのだが。」

「おお、失礼しましたの。まずは部隊の中で、損傷が一番大きかったアロルド軍曹のD型フェニックスホークですがの、残骸の中から拾って来た部品と部隊の予備部品で綺麗に直っておりますの。ヒューバート大尉のオリオンも、新規購入したオリオン用操縦席と部隊の備蓄で完全に直っておりますわい。

 次は鹵獲機ですわな。アラン中尉とレノーレ伍長に貸与するために、腕と脚が無くなった達磨状態の鹵獲フェニックスホーク2機に、うちの部隊の爆散したフェニックスホークの、拾って来た腕と脚を取り付け申した。これ以上無いぐらいに、綺麗に直りましたでの。

 そしてオストソルを失ったアーデルハイト中尉のために70tウォーハンマーを、ウルバリーンを壊されたグレーティア少尉のために65tサンダーボルトを、それぞれ部隊の備蓄部品と購入した部品で修理いたしましたわい。既に全機、第2中隊に引き渡しておりますわ。」

「ほとんどが、部隊の備蓄部品で何とかなったのは喜ばしいな。オリオン、ウォーハンマー用の操縦席は新規購入だが……。メック倉庫にそれらの機種の部品が数多くあったんで、それを共和国の備蓄部品と同条件で購入できたのは、ありがたかった。共和国に注文すると、届くまでに時間が物凄くかかる。公爵閣下には感謝だな。」

 

 キースの表情は、だがしかし優れない。

 

「が……。部隊の備蓄部品を大量に今回の修理で使ってしまったため、サンダーボルト、ウォーハンマー、フェニックスホーク用部品群が心許ない。いざと言う時のために購入しないといかんのだが、現金が輪をかけて心許ない。ライナーが電卓を弾いて、引き攣ってたよ。

 サイモン中尉、流用が利かないオストソル用部品群、うちに無い機種のメック、たとえば爆散したカタパルトの手足の部品とか、あとはユニオン級の自爆跡から拾ってきた色々な物品群。売れる物は全部売り払える様に、分別して手入れしておいてくれたか?」

「それは今やっておる最中ですわ。しかし、オストソル用やカタパルト用部品でも流用が利く物は残しますでのう。あまり高く売れる物は、それほどは……。」

「そうか……。俺のマローダーも、右脚がひどくやられてたからな……。放熱器が2基ともやられたし。たぶん備蓄部品でなんとかなる範囲だと思うが……。操縦席とかジャイロとかよりは高くつかないと思うんだが……。」

 

 サイモン老が慰める様に言う。

 

「大丈夫ですわ。放熱器はさほど高価な部品ではありませんからの。あとは交換用マイアマーが多少と、装甲板だけで修理できましたわい。」

「いや、他にも気圏戦闘機があるからな。かなりの機体がボロボロだったそうだが……。」

「それも大丈夫でしたわい。危険なほど装甲をやられてはいましたが、逆に言えば装甲だけで済みましたからのう。長い時間単機で敵から逃げ回らざるを得なかったビートル2のトランスグレッサー戦闘機以外は、装甲板の換装だけで済み申す。」

「ビートル2、は?」

 

 キースの問いかけに、サイモン老の頬がぴくりと僅かに引き攣った。それを見逃さず、キースは溜息を吐く。

 

「はぁ……。遠慮なしに言ってくれ。」

「……備蓄部品では足りずに、部品発注が必要ですわ。」

「そうか……。」

 

 重い沈黙が満ちる。それに装甲板や交換用マイアマー……疑似筋繊維が安い物の様に言っているが、それはあくまで比較問題である。操縦席やジャイロなどと言う高額部品に比して安いと言うだけであり、装甲板などは1tにつき1万Cビルも必要だ。あげくに装甲板もマイアマーも、大量に必要な類の品である。

 

「……忘れるところだった。たしかこの辺に……。」

 

 キースは書類の束から、武器担当官ペーター・アーベントロート軍曹の報告書を取り出す。そこには交換用の予備弾薬が残り少なくなっている事が書かれていた。

 

「正規の戦闘行動と認められないってのは、辛いもんだなあ。いや、戦利品のおかげで総額的には儲けてるんだが。」

「あー、気圏戦闘機隊は、今回の戦いで最大口径オートキャノンの砲弾を完全に撃ち尽くしてますからのう。」

「他にも俺のマローダーとアンドリュー曹長のライフルマンが、中口径オートキャノンをほぼ弾切れになるまで撃った。実弾兵器を載せてるメックは、他にもまだ沢山ある。」

 

 正規の戦闘行動と認められるのであれば、契約によって損耗した装甲板や消耗した弾薬は、ライラ共和国側から支給される。だがこの前の戦いは、相手が正規部隊ではなかったどころか、何処の誰ともわからない相手との戦いであった。いやキースには、その正体はおおよそ検討は付いていたのだが。このため、前回の戦いは正規の作戦行動とは認められなかったのだ。

 なにはともあれ、前回の戦いにかかった費用は、すべて『SOTS』側の持ち出しとなっていたのだ。無論この様な事態に備え、『SOTS』では部品も装甲板も弾薬も、きちんと備蓄してはいる。してはいたのだが……。備蓄はそれほど大量にあるわけでは無い。何度も同じような事態が起きれば、足りなくなるのは目に見えている。

 

「とりあえずあと2回は全力戦闘が可能だ。そのぐらいの備蓄はなんとかある。最大口径オートキャノンの弾薬は、優先して買い集めていたからな。マローダーも中口径オートキャノンが撃てなくとも、さほど戦闘力は下がらん。現金が入るまで、中口径オートキャノンの弾薬は、全部ライフルマンとシャドウホーク用に取っておくとしよう。

 なに、あと1週間ちょっと何事も起こらなければ、現金が入る!エンデバー号とレパルス号が、商用航宙から戻って来る!現金が入ったら即座に予備部品と弾薬、装甲板の予備を共和国から購入すれば、届くのに更に2週間はかかるが部隊の備蓄も余裕ができる!計3週間の我慢だ!いや、この惑星のメック倉庫内の部品で使える物があれば、それを購入すればもっと早く済む可能性もある!」

「そうですの!最短1週間、最長でも3週間ですのう!」

「うむ!……あとは85tストーカーと80tオウサムだが。」

 

 キースの台詞に、サイモン老は再びテンションが落ちる。その2機種は、今のところ修理を行われずに、整備棟の片隅で放置されていた。

 一応その2機の修理に必要な部品のリストアップは終わっている。その必要部品も幸い、この惑星のメック倉庫から入手が叶う可能性が高い。メック倉庫の主コンピュータにあったデータでは、ストーカーもオウサムも少数ばかり倉庫に収められている模様だ。つまり、それ用の部品もある可能性が高い。

 だがコンピュータのデータにあった目録と、実機の数には若干の食い違いもあったため、油断はできない。遺失技術を使用したメック数はコンピュータのデータ上では36機であったが、実際には40機あった。多ければ問題は無いのだが、逆に少ないか存在しない可能性もある。遺失技術メックとそのパーツの調査を優先したため、通常技術メックやパーツの検品は後回しにされているのが現状だった。

 

「とりあえず、その2機の修復は現状見合わせておいてくれ。欠損している操縦席周りの部品は、値段が高い事もあるし。」

「ですなあ。了解ですわ。それでは、以上ですかの?」

「そうだな。それでは作業に戻ってくれ、サイモン中尉。」

「は。了解ですわい。」

 

 サイモン老とキースは、敬礼と答礼を交わす。退出するサイモン老を見送り、キースは1人思う。

 

(直したとして、誰に使わせるかも考えないといけないよな。さて、どうするか……。)

 

 キースの物思いは、副官のジャスティン少尉があちこちの部署から書類を取り纏めて受け取り、この部屋に戻って来るまで続いた。2機の強襲メックを誰に使わせるか、結局結論は出なかった。

 

 

 

 キースはオスニエル公爵に、惑星首都ソリッド・シティの隣にある宇宙港、ソリッドポートへと呼び出されていた。惑星公爵曰く、レパード級降下船1隻を空荷で伴ってくる様に、との仰せである。同時に整備兵も、できるならば優秀な者を連れて来る様に、とも言われていた。キースは当然ながらサイモン老と副官ジャスティン少尉を連れて、レパード級降下船ヴァリアント号でソリッドポートへと赴いた。

 ヴァリアント号がソリッドポートに到着したとき、その離着床には2隻のユニオン級降下船が着陸していた。多数の冷却車輛や推進剤の補給車輛が、その周囲に群がっている。キースは宇宙港の施設に向かうべく、ヴァリアント号から積んで来たジープを降ろさせようとした。と、ここでヴァリアント号ブリッジから、船室のキースにインターホンで連絡が入った。

 

『隊長、こちらカイル船長。宇宙港管理官より、しばしそのままヴァリアント号乗降ハッチ付近で待つように、だそうだよ。ジープを降ろすと言ったが、必要ないと言われた。何やら迎えが来るらしい。』

「迎え?……了解した。乗降ハッチから出た場所で、待機するとしよう。」

『そうしてくれたまえ。以上。』

「……サイモン中尉、ジャスティン少尉、行くぞ。」

 

 自分でステアリングを握る機会を逸したサイモン老とジャスティン少尉は、少々残念そうであった。ちなみに彼らは先ほどまで、どちらがドライバーをするかで、じゃんけんをしていたのだが。

 キースたちは乗降ハッチから伸ばされたタラップを降りる。彼らはそこでしばし待った。やがて、馬鹿でかくて黒い高級車が彼らの前に停まる。どうやら惑星政府か何かの公用車の様だ。そしてそれから4人の人物が降りて来る。2人は、キースほどでは無いがサイモン老程度にはがっしりした身体つきの、おそらくは誰か要人のSPであろう人物だ。1人は見るからに執事然とした人物……惑星公爵の執事、ウィリアム・フロックハート氏であった。そしてそれから分かる通り、当然最後の1人は言わずと知れた人物である。

 キースたち3人は、急ぎ敬礼をした。

 

「ああ、楽にしてくれて良いよ。」

 

 その人物……惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下は、落ち着いた声で言う。キースたちは敬礼を解いた。サイモン老はともかく、ジャスティン少尉は流石に緊張している。キースは口を開いた。

 

「お呼びにより、参上いたしました、閣下。」

「うん、よく来てくれたね。ささ、乗ってくれ。目的の場所に案内するから。」

 

 キースたちは、促されるままオスニエル公爵に続き、車に乗り込む。よく見ると、車に小さなライラ共和国の旗が立っていた。それからすると、これは惑星政府の公用車ではなしに、公爵がライラ共和国貴族として行動する際の公用車なのだろう。公用車は静かに発進した。

 オスニエル公爵は、キースに向かい言葉を発する。

 

「今日会いに来たのは、惑星政府の上に立つ惑星公爵としてではなしに、ライラ共和国側のこの惑星における代表として来たんだよ。君たち混成傭兵大隊『SOTS』に、共和国からボーナスが出たんだ。」

「はっ。ありがとうございます。ですが……ボーナス、ですか?」

「うん。見たら驚くよ、保証する。」

 

 そう言っている間にも、公用車は離着床に着陸していたユニオン級の一方へと向かう。そして公用車は、そのままメック用ハッチから船内に乗り入れた。公用車が停まると、オスニエル公爵はフットワーク軽くさっさと降りた。SPたちが急ぎ降りてその両脇を固める。ウィリアム執事に促され、キースたちも公用車を降りて公爵を追った。

 ユニオン級の船内には、大量の食料品のコンテナが幾重にも重ねて詰め込まれていた。オスニエル公爵は語る。

 

「自分たちの降下船を商用として使ってる、君らの真似をしてみたんだけどね。せっかくこの惑星に来るのに、軍用降下船だからって言って、荷物を積まないなんて勿体ない。まあ……この惑星は、食糧自給率低いからねー。帰りには遺失技術メックを積んで行くけれどね。

 ああ、あとは人も運んでもらったよ。ライラ共和国正規軍から、惑星軍へ予備メック戦士を整備兵ともども移籍してもらったんだ。予備メック戦士12名、整備兵12名。彼らにメック倉庫から出たメックの一部を宛がって、惑星軍メック中隊を新設するのさ。そしてメック倉庫を守らせる。技量はまだまだだけど、士気は高いよ。「これで新たに家を興せる!」ってさ。

 今の様に、君たち惑星守備隊を分散させて各拠点を守ってもらうのは、どうにも君たちに負担が大きいからさ。少しは惑星政府としても働かないと。今の私は共和国貴族としての肩書で動いてるけど、元々惑星公爵でもあるからねえ。そっちの事を考えないわけにも行かないんだよね。」

「はっ。ご苦労様です。我々の負担まで考えていただき、ありがとうございます。」

「何、君らが全力を発揮できる態勢を整えるのは、共和国側の仕事だよ。私は共和国貴族としての立場もあるし。……あー、共和国としての利害と惑星の利害が万一ぶつかったら、私はどうしたもんだろうねえ、はっはっは。」

 

 全然笑いごとじゃない事を口走りつつ、惑星公爵はメックベイの1つに辿り着く。そこには全高10数メートルの巨大な人型の影、バトルメックが鎮座していた。キースはそれを見て、呟く。

 

「これは……。BNC-3E、バンシー……?いや、左胴のインペレーターA中口径オートキャノンが無い。代わりにインペレーターB大口径オートキャノンが。右肩にハープーン6連短距離ミサイルが装備されているし、右胴のマグナ・ヘルスター粒子ビーム砲の下に、マグナMk.Ⅰ小口径レーザーが追加されている。右腕にはマグナMk.Ⅱ中口径レーザーが2連で装備されているし、左腕がそのままウォーハンマーのごとくドーナル粒子ビーム砲と化している。放熱器も増量されている様だ。」

「ははは。さすがだね、ハワード中佐。更に背面にも2連のマグナMk.Ⅱ中口径レーザーがあるよ。ここからじゃ見えないけどね。……BNC-3S、S型バンシーだそうだよ」

「!!」

 

 キースは驚きを顔に出す。仲間内で無い場所でこれは、けっこう珍しい事だ。その様子に、オスニエル公爵は鷹揚に頷いた。

 

「これが共和国からのボーナスだそうだよ。……やっぱり驚いたね。」

「はっ。正直驚きました……。この様な数少ないと言う言葉ではとても表現できない希少機体を……。」

「ま、何かしら思惑があるんだろうけど、貴官は気にする事は無いさ。くれるって言うんだから、貰って好きなように使えばいい。それこそ好き勝手に、好き放題に。これの開発計画には、ダヴィオン家から派遣された科学者も参画してたって噂だし、貴官がこれを恒星連邦に持ちかえれば、ある意味里帰りだね。」

 

 キースはS型バンシーを見上げ、溜息を吐く。オスニエル公爵は、しかし残念そうに言った。

 

「しかし、まいったね。これでは私が貴部隊の遺跡都市奪回、メック倉庫解放への助力に対して、褒賞もしくは謝礼として準備していた品のインパクトが薄れてしまったよ。しかもまだ用意は終わってないんだ。もう少し待っていてくれるかな?」

「……はっ。了解です。」

「うん、きっと満足してくれる物を用意するから、楽しみに待ってて欲しいね。さて、とりあえずこれの予備部品とかは、そっちの緑のコンテナ5つに入ってるそうだから。S型バンシー共々、君らのレパード級に運ばせよう。いや、自分でやるかね?」

 

 キースは即座に頷いた。

 

「はい、是非乗って見たく思います。」

「わかったよ。じゃ、早速乗って見るといい。メックの神経ヘルメットの暗号は、このメモにあるから。後で変更しておくのを忘れないようにね。あとそのメモは燃やすか何かしてね。火はウィリアムが持ってるから。」

 

 公爵閣下は、手書きのメモを手渡して来る。キースはメモを何度か読み返して記憶すると、ウィリアム執事が差し出したライターの火でそれを灰にする。そしてキースはオスニエル公爵に敬礼すると、メック乗降用のタラップを登って行った。

 

 

 

 2月も下旬に入った頃、商用航宙に出ていた『SOTS』所属降下船であるエンデバー号とレパルス号が、無事惑星ソリッドⅢに帰還。それにより部隊の経済状況は、順調に回復の途上にあった。そんなさなか、3027年2月26日のことである。遺跡都市のメック倉庫より最後の遺失技術メックおよびパーツが運び出され、遺跡都市の脇に着陸したライラ共和国所属のユニオン級降下船2隻に分けて積み込まれた。キースはその様子を、自分のマローダーから眺めている。

 彼と彼の乗機がいるのは、同じく遺跡都市脇に着陸したフォートレス級降下船ディファイアント号の、メック乗降用傾斜路をメックの足で1歩外に出た場所である。何故ディファイアント号がここ遺跡都市に来ているかと言うと、それは簡易遺跡基地の撤収のためであった。

 『SOTS』は、けっこう長い間ここに簡易とは言えど基地を設営していたため、メック用修理作業台などの大物を始めとして、様々な備品が遺跡都市に運び込まれていた。それをアル・カサス城に一気に全部持って帰るために、わざわざディファイアント号を持ってきたのである。

 

『いいメックばかりですね。』

「マテュー少尉のサンダーボルトも、いい機体じゃないか。」

『ああいえ、そう言う意味じゃなしにですよ。マローダーにクルセイダーにウォーハンマー2機が指揮小隊。アーチャー2機にグラスホッパー、ギロチンが火力小隊。グリフィン2機にウルバリーン、シャドウホークが偵察小隊ですか。ざっと見たところ、動きからして腕前の程は……。』

「それを言っちゃあいけない。」

 

 マテュー少尉のサンダーボルトから、隊内通信回線で声が入って来る。サンダーボルトの頭部が向いている方向では、今マテュー少尉が述べた機体12機が、ここに恒久的基地を建設するために土木工事を行っていた。このメックたちは、ライラ共和国正規軍より予備メック戦士他の人員を移籍されて新設された、惑星軍メック中隊である。今後、この遺跡都市……正確にはそこに隠されているメック倉庫は、基本的に彼らが防衛の任に当たることになっている。

 無論、ライラ共和国より派遣された惑星守備隊は、ここが襲撃されたときに遊んでいていいわけではない。彼ら惑星軍メック中隊が必死の遅滞戦闘を繰り広げている間に、救援部隊として飛んで来なければならないのだ。だがここに惑星軍メック中隊が駐屯していると言う事は、平時はそこに惑星守備隊の戦力を張り付けておかなくて済むと言う事である。

 

『これでアル・カサス城には第1中隊と第3中隊、サンタンジェロ城には第2中隊と第4中隊を置く事になるわけですね。不便な簡易遺跡基地じゃなしに、ちゃんとした城に入っていられるのは、いい事です。』

「今まで、第2中隊と第3中隊にばかり迷惑をかけていたからな。基本的に指揮中隊である第1中隊は、本部であるアル・カサス城を動くわけにはいかなかったし、設備の整っていない所に比較的未熟な第4中隊を置くのは少しばかり怖かったとは言え。

 だが先頃の襲撃時に、万一第4中隊がここにいたらと思うと、背筋が寒くなるよ。第2か第3中隊でなければ、あの敵には時間稼ぎもできなかっただろう。」

『……第4中隊より、更に未熟な彼ら惑星軍メック中隊では、より一層時間稼ぎすらも不可能では?』

 

 キースは苦笑した。モリ大佐がターカッドに帰還した以上、あれほどのレベルの敵が来ることはまず無いと言って良い。だがそれを話すわけにもいかず、キースは少しばかり困った。

 

「あー……。さすがにあのレベルの敵を、そうドカドカ送り込んでくるわけにも行くまい。一度撃破した以上、まず大丈夫だろうさ。……何処所属のどんな部隊かは分からなかったが。と言うか、たぶん、あくまでもたぶんだが、ドラコの不正規部隊ではないかと思うんだがな。」

『来ないと良いんですが……。』

 

 と、そこへぎくしゃくとした未熟な動きで、惑星軍のオリーブドラブのマローダーが歩いて来る。そのマローダーは、どうにかこうにかキースたちに向かい敬礼をした。キースとマテュー少尉も、こちらは極めて滑らかに答礼を返す。惑星軍のマローダーからキースのマローダーに、通信回線の接続要求が来る。キースは回線を繋いだ。

 

『じ、自分は惑星陸軍メック部隊第1中隊中隊長、フィランダー・レイク大尉です。貴官らはライラ共和国惑星守備隊の方々ですか?』

「自分はライラ共和国惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐。隣のサンダーボルトは、自分の隊のマテュー・ドゥンケル少尉だ。」

『ちゅ、中佐!し、失礼しました!』

 

 フィランダー大尉は、慌てる。キースはそれを宥めた。

 

「ああ、気にしなくて良い。それより、何用かね?」

『はっ!こ、ここ遺跡都市基地改め、カーディフ基地の守備任務の引継ぎをしたいと思っておったのですが、ここに駐留している最高責任者は大尉だと聞いておりましたので……。』

「ああ、自分が来たのは最後だからだ。普段は大尉クラスの人間がいたのだが、今日は特別だ。……マテュー少尉、こちらの積み込みは全て終わったのだな?」

 

 マテュー少尉は肯定する。

 

『はっ。簡易遺跡基地の撤収は完了しております。あとは引継ぎを済ませて、アル・カサス城へ戻るだけです。』

「そうか、では……。着任を歓迎する、カーディフ基地新司令官、フィランダー・レイク大尉。これからは、ここは貴官が護る事になる。いざと言う時は自分たちもすぐに駆けつけるから、大船に乗った気で気楽にやると良い。必要書類だけは旧基地施設の隊長室にあるし、そこは既に惑星軍歩兵に引き渡してある。もし万一不備があったら、アル・カサス城へ連絡をくれるとありがたい。では武運を祈る。」

『了解!ありがとうございます、キース・ハワード中佐!こちらも『SOTS』の御武運をお祈りしております!』

 

 フィランダー大尉のマローダーと、キースたちのメックは敬礼と答礼を交わし、キースたちはディファイアント号ハッチの中へと機体を進ませる。と、ここで轟音……降下船のエンジン噴射音が響き渡った。貴重品を積み込んだ2隻のユニオン級が、離陸してこの星を離れて行くのである。

 

「……これで惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下は、ターカッドにでかい貸しが作れたわけだ。そう言う判断ができる以上、徒者では無い証拠だ。なのに周囲の人間のほとんど……。惑星政府の人間のほとんどは、閣下の事を武勲が無いからと言って惑星公爵にふさわしくないなどと考えている。一応血筋に敬意は払っている様だが……。

 まあ、所詮俺たちはこの惑星にとって客人に過ぎん。だから口を出す事でもないのだが……。だが、何か腹立たしいな。閣下自身は地位には執着しておられんし、学者生活に戻りたいとも願っておられる様だが……。」

『惑星政府の要人は、妹様を惑星公爵位に推して自分が代官に座りたい、と考えているんでしょうね。』

「まあな。だが、あの公爵閣下のことだ。代官の選出は慎重に、かつ狡猾におやりなされるだろうさ。あの様な根性無しどもに権力を持たせてみろ、大変な事になる。それを看過なされる方では無いさ。そうしてから、妹様に地位をお譲りなされるだろう。……つまり俺の心配は、意味を持たん事になるな。ははは。」

 

 やがてディファイアント号のメックベイのハッチが閉じる。キースたちは発進に備え、メックを固定する作業に入った。こうして簡易遺跡基地は撤収を完了した。この後『SOTS』は、基本的に2つの城のみを護る事になるのである。惑星撤退まで、残り2ヶ月を残す日の事であった。




そろそろこの惑星での任期も、残り少なくなってきました。ですが、心配事はまだ尽きない様で。


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『エピソード-070 髑髏の顔のメック』

 指令室の主スクリーンで、上昇して行く『SOTS』所属ユニオン級降下船ゾディアック号、および同級エンデバー号を見ながら、キースは感慨に耽った。

 

(うーん、ユニオン級の各船長……アリー船長、エルゼ船長、オーレリア船長には頭が上がらないなあ。彼らが商用航宙で頑張ってくれるからこそ、うちの部隊は予備メックや予備部品を切り売りしないで済んでる。いや、それを言うならば航宙艦のアーダルベルト艦長、イクセル艦長、ヨハン艦長も同じ事か。彼らも商用降下船を運んで小金を稼いでくれたり、商用航宙に出たうちのユニオン級を運んでくれている。)

 

 ゾディアック号とエンデバー号は、これから1ヶ月半の商用航宙に出る。いつもは1ヶ月単位なのに今回1ヶ月半なのは、約2ヶ月後の3027年4月26日に、『SOTS』はこの惑星ソリッドⅢを撤退するからである。キース自身は今回の商用航宙は1ヶ月で切り上げて、残り1ヶ月は撤退準備期間にしようと言ったのだが、ゾディアック号のアリー船長とエンデバー号のエルゼ船長は、できる限り長い期間を稼ぎに使い、部隊の予備費を充実させる事を提案したのだ。

 

(彼らの稼いでくれた資金のおかげで、ストーカーとオウサムも予備部品は少ないけれど、一応ちゃんと満足に動く様に修理はできた。S型バンシーを含めて、遊ばせて置くのは勿体なさすぎるなあ。これらの機体は一様に足が遅い……。部隊のあちらこちらに分散して配備するよりかは、全部の機体を1個小隊に纏めるべきだよな。

 となると……。元々貴重な希少な強襲型バトルメックだし、腕の悪い者たちには任せられないなあ。となると各中隊の指揮小隊クラスが最低ラインだよな?その中でも一番技量的に高いって言ったら……。俺たち第1中隊指揮小隊、かあ?)

 

 ここでアーリン大尉が指令室に入って来る。彼女はキースに敬礼する。キースも彼女に答礼を返した。

 

「そろそろ交代の時間ですよね、キース中佐?」

「む?もうそんな時間か。では後は頼んだ、アーリン大尉。ジャスティン少尉、司令執務室へ行って、書類仕事だ。」

「了解です。」

 

 司令席をアーリン大尉に明け渡し、キースは指令室を出る。ジャスティン少尉がその後に付き従った。キースは歩きながら、第1中隊指揮小隊の編成表を思い浮かべる。

 

(第1中隊指揮小隊を強襲メック小隊にするならば、指揮官である俺が墜とされ難くなると言う利点もあるよなあ。だけども誰にどの機体を与えるか……。

 80tオウサム……。これは文句なしにアンドリュー曹長で決まりだろ。アンドリュー曹長のライフルマンは、今まで部隊の対空射撃の要だった。だけど実のところ、隊の航空戦力が充実してきた後は、対空攻撃要員としての意味合いは薄くなってるし。その上に第3中隊火力小隊が「対空小隊」として発足した今、俺とほぼ同格の射撃技量を持つアンドリュー曹長をライフルマンに乗せておくのは、オウサムがある以上もったいないよね。ライフルマンも悪い機体じゃ無いけどさ……。

 85tストーカー……。俺とアンドリュー曹長以外だよね。アンドリュー曹長は能力的にオウサムとの相性が良すぎるし。俺は部隊を指揮する必要があるから、S型バンシーか今のままマローダーに乗り続けだし。となると……。機体の運用法からして、エリーザ曹長かな?ストーカーは遠近両方に対応できる火器を装備してるし、近距離火力はウォーハンマーを首ひとつ上回ってる。)

 

 キースは色々考えながら、司令執務室へと向かった。ジャスティン少尉が忠実に後に付き従う。やがて司令執務室の扉が、廊下の向こうに見えて来た。

 

 

 

 今日もキースは、イヴリン軍曹と共にアル・カサス城の城壁内側を周回でランニングしていた。アル・カサス城は惑星ネイバーフッドのオーバーゼアー城よりも規模がかなり大きいため、周回数は少な目だ。やがて彼らはランニングを終え、クールダウンのストレッチに入る。

 ここでキースは、イヴリン軍曹に問いかける。

 

「イヴリン軍曹、エルンスト曹長の様子はどうだ?」

「え?は、はい!経過は順調で、来月には現場復帰できそうだとの事です!……何故エルンスト曹長の事を?」

「いや、貴様を含めて『機兵狩人小隊』の面々は、よく見舞いに行っていると聞いたのでな。俺も郎党のサイモン中尉を助けてもらった事だし、見舞いに行きたいのだが……。いざ行こうとすると、何かしら用事が入って予定が潰れてしまう。結局見舞いに行けたのは、怪我した直後の1回ぐらいだな。」

 

 イヴリン軍曹を含む、第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』は、元々独立傭兵小隊であった。エルンスト曹長はその当時から『機兵狩人小隊』に、偵察兵として所属していた人物である。『機兵狩人小隊』が『SOTS』の一部となってからは、彼は『SOTS』のため誠心誠意尽くしてくれた。

 現在エルンスト曹長は、ニンジャ部隊が簡易遺跡基地を襲撃した際に、同時攻撃してきた人間爆弾の自爆に巻き込まれて負傷し、入院中である。『機兵狩人小隊』の面々は、昔からの仲間である彼を心配し、よく見舞いに行っていたのだ。

 

「もしかして、エルンスト曹長に桃缶を差し入れしたのはキース中佐ですか?」

「む?ああ、確かに持って行ったが……。本当は缶詰ではなしに普通の果物を持って行きたかったんだがな。この惑星では青果物は高級品で、馬鹿みたいに高い。食料自給率が低いからな。それで恐縮されてもと思ってな。星系外からの輸入品の缶詰の方が安価なんだ。……食べたかったのか?」

「あ、いえ!曹長から御相伴にあずかりましたから!美味しかったです!」

「そうか。」

 

 キースは朗らかな笑みを浮かべる。いつものニヤリ笑いとは違い、歳相応の笑いだった。普段30歳を超えている様にしか見えない彼だが、今は妙に若く見える。いや実は本当に若く、今現在17歳、あと1ヶ月ちょっとで18歳になるのだが。イヴリン軍曹はそれを見て、少々どぎまぎする。

 と、キースはある事に気付いた。

 

「そう言えば、貴様はつい先日が誕生日だったな。13歳になったか。」

「はい!『機兵狩人小隊』の皆に、祝ってもらいました!」

「そうか……。連盟標準時で2月27日だったな。俺がちょうど、色々忙しくしていた時期だったか。しまったな……。」

「?」

 

 イヴリン軍曹は怪訝そうな顔になる。キースが「しまった」と言った意味が分からなかったのだ。キースはイヴリン軍曹に言う。

 

「シャワーを浴びて着替えたら、司令執務室まで来い。ちょっとばかり用事がある。」

「はっ!了解です!」

「では解散!」

「はっ!」

 

 イヴリン軍曹とキースは、敬礼と答礼を交わし、各々シャワー室まで急いだ。

 

 

 

 キースは司令執務室で、イヴリン軍曹を待っていた。今ここには副官のジャスティン少尉も、出かけていていない。やがて机上の内線電話が、インターホンモードで鳴った。キースはそのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『イヴリン軍曹です。』

「入室を許可する。入れ。」

 

 イヴリン軍曹が入室して来て、敬礼する。キースは答礼を返すや、ごそごそと机の引き出しを漁り始めた。

 

「?」

「む、あったあった。イヴリン軍曹、これを受け取れ。」

「は、はい!」

 

 キースが差し出す箱を、イヴリン軍曹は受け取る。キースはにやりと笑うと言った。

 

「開けて見ろ。」

「はっ!……これは銃!?」

「普通の銃じゃない、音波麻痺銃だ。相手を殺傷せずに気絶させる事が可能だ。俺から大事な弟子への誕生日プレゼントだ。護身用に、メックに乗るときは持っておけ。まあ、それが役に立つ日など来ない方が良いのだが。だがいつかそれが貴様の身を守ってくれるやも知れん。保険だ、保険。

 ……本当は当日に渡すつもりで選んで置いたのだが。遅れてすまんな。ああ、そうだ。確実に命中させるためには拳銃の扱いに慣れる必要があるからな。射撃訓練を、訓練カリキュラムに組み込んでおくぞ?」

「は、はいっ!ありがとうございます、大切にします!」

 

 キースは実は、殺傷能力のある銃器か、高速振動剣でも贈ろうかと考えていた。イヴリン軍曹は、既に敵を殺す覚悟も身に着いていることだし、その方が音波麻痺銃よりも確実に敵を無力化できるはずだからだ。重量的にも、通常の拳銃には音波麻痺銃よりも軽い物もある。だが何とはなしに、まだ早いと言う気になったのだ。

 

(……殺傷能力のある銃器は、14歳の誕生日に贈るとしようかね。と言うか、生身戦闘なんて本当はさせたか無いんだけどなあ。でも、万一に備えておかないで、後悔するはめにはなりたく無いよね、うん。)

 

 キースは音波麻痺銃を収めた箱を嬉しそうに抱きしめるイヴリン軍曹を、柔らかい微笑みで見つめていた。

 

 

 

 3027年3月5日、キースはこの日サイモン老とジャスティン少尉を連れて、レパード級降下船ヴァリアント号に乗って、遺跡都市はカーディフ基地まで出向いて来ていた。理由は、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下からの呼び出しである。それによると、ようやくの事で遺跡都市奪還およびメック倉庫解放に対する、褒賞を兼ねた謝礼を譲渡する用意ができた、との話だった。

 惑星軍メック部隊が必死になって造った滑走路に着陸したレパード級の、そのタラップを降りながらサイモン老がキースに訊ねる。

 

「いったい何を寄越してくれるんでしょうのう。これまでの話からして、倉庫内のバトルメックを譲渡してくれるんだとは思うんですがの。レパード級で来いと言っておりましたしのう。」

「さすがに俺にもわからんな。ただS型バンシーのときに、インパクトが薄れてしまったと残念がっていたからな。そこまで非常識な物では無いのではないか?」

「80tのゴリアテとかはどうでしょうのう。あれはそこそこインパクトがありますぞ?」

「いや、ゴリアテは充分非常識だろう。四脚メックだぞ。」

 

 と、そこへ送迎用と思しきミニバスがやって来る。ミニバスはキースらの手前で停まった。その扉が開き、運転手が降りて来る。運転手は敬礼をした。キースたちは答礼を返す。

 

「自分は惑星陸軍メック部隊第1中隊整備兵小隊、バーナビー・マクフィー軍曹であります!本日は『SOTS』の皆様方のご案内を申し付かって参りました!」

「ご苦労軍曹。自分はライラ共和国惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令キース・ハワード中佐。こちらの者たちは、『SOTS』上級整備兵サイモン・グリーンウッド中尉と大隊副官ジャスティン・コールマン少尉だ。」

「はっ!ではこの車輛にお乗りください!メック倉庫までご案内いたします!」

 

 キースたちが乗り込んだミニバスは、滑らかに発車すると遺跡都市の奥へと走った。やがてある場所まで来ると、元交差点であっただろう場所のど真ん中で、ミニバスは停車する。運転手のバーナビー軍曹は、車載の通信機でどこかと話している。

 と、突然地面そのものが地下へと沈み始めた。ジャスティン少尉は目を丸くする。だがサイモン老は動じていない。キースはサイモン老に訊ねてみる。

 

「ここの地面がエレベーターになってる事、知っていたな?」

「はい。人間用の、主コンピュータ室に繋がる出入り口は別の場所でしたがの。メック倉庫本体へと出入りするのであらば、メック用のこのエレベーターを使った方が早いですわな。」

「なるほどな。」

 

 やがてエレベーターは地下深くまで降りて停止する。ミニバスはヘッドライトを点灯すると、再度走り出した。周囲には、10数メートルの身長を持つ巨人機械バトルメックが、見える範囲だけで1個大隊以上鎮座している。見たところ、この辺にあるのは右側がスティンガー、左側がワスプである様だ。ジャスティン少尉が溜息を吐く。

 

「はぁ……。凄い数ですね。」

「20tの軽メックとは言え、これだけ数があると壮観だな。」

「ですのう……。」

「この辺のメックは売り先が既に決まっておりまして、比較的早期に再稼働整備が終わっております。これを出荷するために、滑走路や離着床を真っ先に造りました。」

 

 運転手バーナビー軍曹が説明してくれる。やがてある位置まで来ると、再度ミニバスは停まり、そこから別のエレベーターで更に地下へ降りて行く。降りきったところで、ジャスティン少尉が呟く。

 

「この辺は何も無いですね。」

「まあのう。この辺には、遺失技術を使用したメックが置かれていたんじゃの。だから真っ先に再稼働整備されて、真っ先に運び出されたわけじゃわい。」

 

 サイモン老の言葉に、キースとジャスティン少尉は頷く。だがサイモン老は怪訝そうな顔をする。

 

「はて?遺失技術メック以外で、この辺にあったメックと言えば……?」

 

 やがてミニバスのライトの灯りに、数人の人の姿が浮かび上がる。ミニバスが停まると、キースたちは急ぎ降車して敬礼を送った。相手の内、1名が答礼を返して来る。残りのうち1名が言葉を発した。その人物こそ、惑星公爵オスニエル・クウォーク閣下である。

 

「ああ、楽にしてくれて良いよ、ハワード中佐。」

「はっ!」

「こちらは知っているね?ライラ共和国からいらした、ウィルフレッド・カーニー博士。それとそちらが惑星陸軍メック部隊第1中隊中隊長、フィランダー・レイク大尉。」

 

 その他の紹介されなかった人物は、執事のウィリアム・フロックハート氏及び、いつぞや見たSPだ。フィランダー大尉は額に汗を流して緊張している。今現在はお貴族様オーラが全開状態の惑星公爵と、常に尋常でない迫力を放っているキースと言う2人の前だから、已む無い事であろう。

 オスニエル公爵は、キースに向かい言葉を紡ぐ。

 

「さてさて、ウィルフレッド博士の尽力によって、君たち『SOTS』に進呈する代物の再稼働整備がようやっと終わったよ。」

「そうですか。ありがとうございます、カーニー博士。」

「いや、私の力などそこにいらっしゃるサイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉の実力に比べれば、微々たる物ですよ。キバヤシ君にも敵わない。工学博士を名乗っておるのが、恥ずかしくなりましたよ、ははは……。はぁ……。」

 

 キースはウィルフレッド博士を慰める言葉が出なかった。前に宇宙港で会った時よりも、随分と老け込んだ様にすら見える。オスニエル公爵も、気まずい雰囲気を感じたのか話を強引に戻した。

 

「まあ、それはともかく。こちらにある隔壁の向こうに、その代物は置いてあるんだけどね。来てくれたまえ。」

 

 公爵閣下は率先して先頭に立って歩く。キースたちはその後を追った。オスニエル公爵は、隔壁を回り込んだ位置で振り返った。公爵閣下は執事に声を掛ける。

 

「ウィリアム、頼むよ。」

「はっ。」

 

 ウィリアム執事が何かしら手元のリモコンで操作すると、天井のライトが点灯した。フィランダー大尉の感嘆の吐息が漏れ聞こえる。サイモン老とジャスティン少尉も息を飲む。キースの口から、思わず声が漏れた。

 

「なんと……。たしかにインパクトはありますね。これは凄い……。いや、これはまずいのではありませんか?いくらなんでも……。価格にして、ざっと967万Cビル……。シャドウホークだったら2機買えます……。スティンガーだったら6機分です。しかも実力差はシャドウホークとスティンガーがそれだけいようが、どれだけいようが絶対に勝てませんよ。」

「おや?気に入らなかったかい?」

「そうではありません、これでは貰い過ぎだと言っているのです。このAS7-D、アトラスは!」

 

 そこにあったのは、髑髏の顔を持つ重量感溢れる、おそるべきバトルメックであった。その重量は、なんとバトルメックとしては最大の100t。おまけに深宇宙通信アンテナまで装備されていたりするのだ。オスニエル公爵は、笑顔を崩さず言葉を発する。

 

「グリーンウッド大尉待遇中尉がやってくれた事は、それだけの価値があったんだよ。キバヤシ研究員の助力もそこそこ大きかった様だけどね。キバヤシ研究員を送り込んで来た共和国には、既に借りは返したどころか十二分に貸しまで作っている。

 でもグリーンウッド大尉待遇中尉と彼が所属する『SOTS』には、まだ充分返し終えてないからね。ここで一気に返して置こうと思っただけさ。グリーンウッド大尉待遇中尉のおかげで、無事メック倉庫が開けられたから、それで惑星の復興費用が賄える。発掘したメックの輸出産業でね。」

「下手に手を出していれば、メック倉庫は爆弾の爆発で地下深く埋もれてしまい、掘り出せなくなってしまっていたでしょうな。いやもし掘り出せても、保存状況が劣悪な状態になるために、満足な性能を発揮できる状況であるかは不明。掘り出す費用で、売却価格が完全に食われてしまう事も有り得たでしょうな。」

 

 ウィルフレッド博士が肩を落としながら言う。どうやら劣等感に苛まれている様だ。だがそれでサイモン老やモリ大佐を逆恨みしないだけ、人間が出来ているのかもしれない。

 惑星公爵は、噛んで含める様に言った。

 

「サイモン・グリーンウッド大尉待遇中尉、貴官はこの惑星の救い主だよ。ああいや、過大な表現でも何でもない事実だ。この惑星は、どうにかこうにか青息吐息で、継承権戦争の痛手から復興するための費用を捻り出していたんだ。だがそんな矢先、クリタ家の奴らに惑星が攻撃され、一時は首都までも奪われてしまった。

 おかげで生き返りかけていた産業は、大打撃だ。奴らが民間目標を攻撃しなかったとかは問題じゃあないんだ。奴らに奪われたと言う事実だけで、ピンチだったんだ。契約を交わしていた荷物、工業製品が出荷できなくなって違約金を取られる事になるからね。輸送用の降下船も来ないし。

 このままでは、この惑星の民は食べていけなくなるところだった。それを何とかするための資金を、惑星政府と惑星公爵家は、バトルメックの輸出で得ることが叶った。降下船も来るようになった。貴官に勲章でも贈りたいところだけど、欲しくも無いだろう?だから、メック倉庫の中で一番価値がありそうな、遺失技術メックじゃないメックを貴隊に贈るよ。

 それでも貰い過ぎだって言うんであれば、ちょっとだけ貴官と貴官の主人、2人の伝手を使って手を回して欲しい事がある。それで全部清算って事でどうかな?」

 

 サイモン老は、キースに顔を向ける。キースは頷いた。と言うか、彼は頷くしか選択肢が無かった。流石にここまで言われて断ったら、失礼になると言う物だ。サイモン老はオスニエル公爵に問いかける。

 

「発言をお許し下さい、閣下。閣下はわし、いや自分に何をお望みですかの?」

「貴官はライラ共和国中枢に、色々伝手があるね。で、貴官の主人であるハワード中佐も、その紹介で共和国に伝手を作りつつある。かかる工作費用はこちらで面倒を見るから、妹ミシュリーヌが公爵位を継承した際に惑星へ置く代官を、共和国政府が惑星ソリッドⅢ政府に紹介、と言う押し付けをする形を取って欲しいんだよ。その工作を、2人がかりでやってはくれないかね。

 代官として目を付けてる人物は既にいるし、そちらへ話を通すのは自分でやるからさ。」

「そこまで事態は窮迫していたのですか?その様な気配は無かったと思っておりましたが……。」

 

 キースの問いかけに、オスニエル公爵は苦笑して答えた。

 

「窮迫してる、と言うほどの事でも無い。けれどバトルメックの輸出産業が金になるのを見て、甘い汁を吸いたい輩がこっそり蠢動を始めている。そう言う輩が自分たちの伝手を使って共和国に働きかけてるんだよ。ミシュリーヌこそが惑星公爵の地位にふさわしいってね。そしてそう言った連中の全員が全員、事が成った暁には仲間たちを出し抜いて、自分こそが代官になろうって言う腹なのさ。」

「どちらかと言えば、代官の選定に口を挟むよりも、その工作に対処する工作を行った方が良いのでは?」

「いや、そちらは既に裏で動いてる。だからまあ、今の時点で惑星公爵を降りる事は無いつもりだけど、万が一には備えないといけないよ。万が一今の時点でミシュリーヌに公爵位を譲ったら、自分こそが代官の地位に就いて実質的権力を握ろうとする者が相争って、惑星政府が麻痺しかねない。そんな真似はさせちゃいけない。そう言う奴らを粛正する準備もしているけれど、万が一、億が一に備えておかなけりゃいけない。」

 

 惑星公爵は、苦々しい笑いを浮かべた。

 

「ミシュリーヌは、軍人であって政治家じゃないからね。いつかは妹に地位を譲るつもりだけど、今の大変な時期にそれをやるわけにはいかないよ。ミシュリーヌも惑星の市民も、不幸になるだけだ。もう少し厄介事を片付けてからじゃないと、あの娘に重荷を背負わせるだけだ。

 幸い惑星軍は味方だからね。デイモン大佐は知ってるね?彼も私の仲間さ。」

「なるほど、それで惑星陸軍メック部隊のフィランダー・レイク大尉がいらっしゃるのですね。」

「惑星軍の中でもメック部隊は、新設ではあるけれどもメック戦士12名、一大勢力さ。」

 

 キースはオスニエル公爵を安心させるように頷くと、承諾の意を返す。

 

「わかりました、自分とサイモン中尉は伝手を使って共和国政府に働きかけをします。」

「そうか、助かるよ。さて、これで遠慮は無くなったよね?アトラス、持ってってくれたまえ。」

 

 そう言えば、最初はその話だった。キースは頷いて言う。

 

「ありがたく、頂戴させていただきます。」

「うん。いや、肩の荷が1つ降りたよ。」

 

 100tメック、アトラスの髑髏顔が、キースたちを見下ろしている。キースは頭の中で、どの伝手の人物が一番頼りになるかを考え始めた。

 

 

 

 アトラスと幾多の部品をアル・カサス城に持ち帰った後、キースは部隊のバトルメックの編成を本格的に考慮し始めた。まず彼は、第1中隊の指揮小隊を司令執務室へ呼ぶ。マテュー少尉、アンドリュー曹長、エリーザ曹長は入室して来ると敬礼をして来た。キースも答礼を返す。

 キースは早速本題に入る。

 

「あー、お前たち。お前たちが今のメックに愛着を抱いてるのは知っている。だが、部隊全体の都合から言って、やはりもっと強力な機体が手に入った以上、乗り換えてもらわねばならんと言う結論に達した。」

「「でぇっ!?」」

「あー、了解です隊長。」

 

 悲鳴を上げたのは、アンドリュー曹長とエリーザ曹長、あっさり承諾したのはマテュー少尉だ。まあマテュー少尉は以前にも機体を乗り換えている経験があるから、あっさりした物だ。キースはアンドリュー曹長とエリーザ曹長に、機体交換の必要性を説く。

 

「アンドリュー曹長、お前がライフルマンに並々ならぬ思い入れがあるのは理解している。エリーザ曹長も、ウォーハンマーをとても大事にしているのもな。だがうちの小隊は第1中隊の要であり、第1中隊は全部隊の要だ。被撃墜は絶対に避けねばならない。聞き分けてくれんか?」

 

 アンドリュー曹長は、しばし唸っていたが、やがて頷く。

 

「わかった隊長。んじゃ、俺は格納庫の端に置いてあったオウサムか?」

「ほう?よく分かったな。」

「て言うか、それしか無いだろ。エリーザもマテュー少尉も、ちょっとオウサムとは合わねえだろうからな。」

 

 次にキースは、エリーザ曹長に顔を向ける。エリーザ曹長は未だに悩んでいたが、最終的に首を縦に振った。

 

「わかったわ、隊長。あたしはどれ?さっき搬入されたアトラス?それともこの間共和国からのボーナスで貰ったって言ってたS型バンシー?」

「どちらも違う。直したばかりのストーカーを使ってもらいたい。」

「んー、まあ了解。」

 

 次にキースはマテュー少尉に声を掛けた。

 

「マテュー少尉には、アトラスを頼みたい。」

「隊長が100tメックじゃなくて、良いんですか?」

「ああ。アトラスは運用法がサンダーボルトと近いからな。それにS型バンシーは通信と探知能力が充実している。だから指揮に向くんだ。俺がS型バンシーを貰う。」

「ではアトラス、遠慮なしにいただきます。排気口が臭いそうですが。」

 

 ここでアンドリュー曹長が問いを投げかけて来る。

 

「よう、隊長。俺の、いや俺のだったライフルマンは、どうなるんだ?あと今まで指揮小隊のメックだった他の機体も。」

「ライフルマンは、第3中隊の火力小隊のシャドウホーク1機と差し替えで、ジェラルド・ハルフォード中尉かメアリー・キャンベル伍長の機体と交換しようと考えている。第3中隊火力小隊は、対航空戦力用の対空小隊として働いてもらう事を期待しているからな。

 サンダーボルトは、第4中隊指揮小隊のケネス・ゴードン大尉機のウルバリーンと差し替えだな。中隊長機が55tと言うのは、少々不安だったんだ。これが中軽量級を集めた偵察中隊だったならまだしも。

 ウォーハンマーは第4中隊火力小隊の小隊長アルベルト・エルツベルガー中尉に貸与しようと思う。そしてアルベルト中尉の乗っていたエンフォーサーを、副隊長アレックス・キャンベル少尉のフェニックスホークと差し替える。第4中隊の火力小隊は、総火力が今一つ微妙だったからな。」

「隊長のマローダーは?」

 

 エリーザ曹長の台詞に、キースは頷いて答えた。

 

「第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』小隊長のサラ・グリソム中尉待遇少尉の機体が、D型フェニックスホークなんだ。いかにも耐久力的にちょっと問題なんでな。あれは彼女の個人所有機なんで、ちゃんと聞いてからになるが、できればマローダーと交換と言う形にしたいな。」

「となると、シャドウホーク1機、ウルバリーン1機、フェニックスホーク1機、D型フェニックスホーク1機が余剰機体になりますね。今の訓練生が卒業したら、彼らに宛がいますか?」

「その判断は、また後日だな。何にせよ、部隊全体で俺たちも含め、9名のメック戦士が機種転換訓練することになる。一時的に戦闘力が下がるが、これは一種賭けだな。今の平和なうちに大手術を済ませておいて、後々に備えるとしよう。」

 

 このキースの決断により、しばらくの間『SOTS』は機種転換訓練で、てんやわんやになるのだった。だがこれで、部隊としての戦闘力は格段に向上することになる。一気に機種転換訓練を済ませてしまうと言うキースの判断が、吉と出るか凶と出るかそれはまだ分からない。だがまあ、この状況でなら決して間違いとは言えないだろう。キースたち『SOTS』は、着実に前へ進んでいた。




とうとうあのバトルメックが、『SOTS』に配備されてしまいました。100tアトラス!!
でも主人公機じゃないです(笑)。
主人公には、前回もらった機体をあてがいます。何故って、指揮管制能力が妙に強力だから。
これで『SOTS』は、更に精強になってしまいました。どうしよう。


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『エピソード-071 背後の敵たち』

 3027年3月9日、キースたちはアル・カサス城の城外演習場で機種転換訓練を行っていた。機種転換訓練を行っているのは、キース、マテュー・ドゥンケル少尉、アンドリュー・ホーエンハイム曹長、エリーザ・ファーバー曹長の第1中隊指揮小隊の面々と、第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』小隊長代理のサラ・グリソム中尉待遇少尉、第3中隊火力小隊のメアリー・キャンベル伍長である。

 彼らの乗るメックは、第1中隊指揮小隊が各々マローダーからS型バンシー、サンダーボルトからアトラス、ライフルマンからオウサム、ウォーハンマーからストーカーに、サラ少尉がD型フェニックスホークからマローダーに、メアリー伍長がシャドウホークからライフルマンに変更されていた。なおサラ少尉とメアリー伍長は単純に機種転換訓練ではなく、この後各自の小隊の面々との新たな連携方法についても訓練予定である。

 ちなみに今頃、サンタンジェロ城においても第4中隊中隊長のケネス・ゴードン大尉と、火力小隊のアルベルト・エルツベルガー中尉、アレックス・キャンベル少尉が機種転換訓練を行っているはずである。彼らも以前自分が搭乗していた機体よりも重い機体に乗り換えて、戦力アップを図っていたのだ。

 機体の乗り換えについては、アンドリュー曹長やエリーザ曹長が少々気乗りしない様子であり、若干の説得を必要とした。しかし最終的には機体交換の必要性を理解し、同意するに至る。またサラ少尉も、困惑と躊躇、遠慮をにじませてはいたが、要請を断る事はなかった。

 この機種転換訓練を行っている中ではメアリー伍長が最も苦労している。これまでの乗機に近い運用のできる第1中隊指揮小隊の面々に比して、これまでの乗機に比べ性質の大きく変わった機種を与えられたが故の苦労であった。

 

『……しまった!また機体が過熱を!』

 

 今の叫びは、メアリー伍長である。彼女はシャドウホークと言う過熱の心配がまったく無い機種から、一転してライフルマンと言う最も過熱が激しい部類の機体に乗り換えたのである。ただし、これは第3中隊火力小隊が、対空小隊として編制されている以上仕方のない事だ。対空性能に優れたライフルマンを、その小隊で集中的に運用する事で、圧倒的な対空戦闘能力を持たせる腹積もりなのである。

 

『……。』

 

 一方、一切無駄口を叩かずに黙々と訓練に勤しむ者もいる。その人物は、サラ少尉だ。彼女は機動力重視の万能型D型フェニックスホークから、火力重視の支援メックたるマローダーに機体を交換した。その運用方法は、180度違うと言って良い。だが火力小隊『機兵狩人小隊』の編制から言えば、他はサンダーボルト、シャドウホーク、エンフォーサーと言う物であり、これに支援専門の機体を加えて置く事は、そう悪い判断でも無いだろう。

 

『あー、メアリー伍長。ライフルマンは、大口径レーザー2門を一度に撃っちゃ駄目だぜ?ましてや中口径レーザーまで一緒に撃つなんて、言語道断。中口径レーザーは、あくまで近寄られた時の保険だ。

 大口径レーザーが両手に1門ずつ装備されてるのはだな。ほれ、その状態から機体上半身を捻ってみろや。』

『あ、はい!』

『ほれ、足を踏みかえて機体の向きを変えなくとも、どの方向にある標的にも、最低限片腕についてる中口径オートキャノン1門と大口径レーザー1門は撃てるだろ?足踏みかえると、機体の制御に気を取られたり、機体の振動なりで、どうしても射撃精度が落ちるからな。1歩も動かずにどの方向でも撃てる、それがライフルマンだ。』

 

 アンドリュー曹長は、メアリー伍長にライフルマンの正しい使い方を説明してやっている。自分の直弟子ではないので、注意する口調も柔らかい。一方キースは、マローダーの扱い方をサラ少尉にレクチャーしようかと考えていたのだが、サラ少尉はその必要性を見せなかった。

 

「ううむ、サラ少尉は機体の動かし方が慎重だな。」

『……あの動き、戦場での隊長の動きをコピーしてるわよね。どの標的にも、決して機体の左側は向けてない。下手な移動をして、包囲状態に置かれる危険は冒さない。左脇腹にある、中口径オートキャノンの弾倉への被弾を、徹底的に避けてるわよね。』

『かと思うと、その問題のオートキャノンの砲弾を使い切ったら、おもむろに前に出ますね。そうなってからなら、包囲下に置かれる事も必要ならば躊躇してないです。』

 

 エリーザ曹長とマテュー少尉が、サラ少尉のマローダーの扱いを批評する。概して高評価だ。キースもサラ少尉の機体の扱いに、感嘆する。

 

「今までD型フェニックスホークに乗っていた時の癖は、出ていない様だな。性格が慎重なのだろうな。」

 

 そう言いつつキースは自機S型バンシーに、大口径オートキャノンの模擬弾と粒子ビーム砲2門を撃たせる。それは見事に火器の最大射程ぎりぎりにある標的に突き刺さり吹き飛ばした。そしてキースは機体に溜まった熱の排熱が済むと、近場にある別の標的に駆け寄り、6連短距離ミサイルの模擬弾、中口径レーザー2門、小口径レーザー2門を発射し、なおかつキックを見舞う。また同時に背後の標的にも、背面の中口径レーザー2門を撃ち放った。それらは全て命中し、標的を粉砕。だが彼の自己評価は辛い。

 

「遠距離への砲撃は、今までマローダーで慣れていた事もあり充分だ。だがしかし、近距離に近づかれた際の対応は、まだまだだな。後、背後の標的に対して背面レーザーを撃ってみたが、これなら機体を捻って、パンチ1発送り込むのでも良かった気がするな。全武装の全開射撃もあくまで念のために確認しておきたかったが、弾薬爆発の危険があるからな。やりたくともやれん。」

『熱い~。全弾発射は弾薬爆発の危険があるから絶対に避けろって話だから、やらなかったけど……。それでも近距離で使用可能な武器全部の一斉発射を試してみたら、エンジン-シャットダウン予告の警告サインが出るんだもん~。しかもマイアマーが熱ダレして、排熱するまで1歩も動けなくなるし~。』

「……エリーザ曹長、大口径レーザー2門は近距離でも使用可能だと言うだけで、近距離用武器じゃないぞ?まあ、一か八かの賭け時には、使う必要もあるだろうが……。それを使わずともストーカーの近接攻撃力は、ウォーハンマーのそれを上回るんだ。無理はするな。」

『了解~。あくまで訓練だし、試して置く必要があると思ったから、やっただけよ~。熱い~。』

 

 キースは、部隊の者たちに冷却パイロットスーツを買うように奨励しようかと考える。特にマテュー少尉、アンドリュー曹長、エリーザ曹長など古参中の古参は、充分に余裕で冷却パイロットスーツが買えるだけの金が貯まっているはずだ。だが彼らはキースに遠慮してか、冷却パイロットスーツを買わないでいる。

 キースはその巨体が故に、身体に合うサイズの冷却パイロットスーツが発掘されないのだ。それ故に、彼はメックに乗る時、Tシャツにトランクスで乗り込んでいる。冷却パイロットスーツは、星間連盟期に作られた貴重品、と言うか希少品だ。サイズもそう種類があるわけは無い。ましてや群を抜く巨体の、キースの身体に合うサイズの冷却パイロットスーツが発見される可能性は、極めて低かった。

 それはともかくとして、マテュー少尉のアトラスが20連長距離ミサイルの模擬弾を撃ち放ちながら、走行移動で機体を前進させて行く。それを援護する様な形で、アンドリュー曹長のオウサムが走行移動で前進しながら、粒子ビーム砲を3門撃って2門撃ち、また3門撃っては2門撃つ、の繰り返しを行っている。恐るべきことに、その粒子ビームの砲火は1発たりとも標的を外さない。

 マテュー少尉が少々気落ちした声で言う。

 

『アンドリュー曹長、申し訳ないがもう少し手加減してくれませんかね。連携訓練なのは分かってますし、有効な戦術なのもその通りなのですが、私が撃つ標的が近寄る前に無くなってしまうんです。私の訓練にならないんですよ。』

『あー、でも今度は俺の訓練にならなくなるしなあ。んじゃ俺が隊長と交代するか?』

『いえ、隊長でも同じ事になるでしょうね……。』

 

 キースはその光景に、溜息を吐く。

 

(はぁ……。標的の強度じゃあ、バトルメックの壊れ難さを表現するには至らないからなー。本番ならマテュー少尉にもちゃんと出番が来ると思うけどさ。いや、オウサムの圧倒的破壊力からすれば、出番来ないかもなあ……。

 実際の戦場じゃ、攻めのパターンでは俺とアンドリュー曹長機の支援のもと、突貫するマテュー少尉機を盾にしてエリーザ曹長機が突入するんだもんな。長距離兵器を撃ちながら。守りのパターンでも、全員の長距離兵器による先制の一撃の後、アトラスとストーカーが立ち塞がって近距離兵装で叩いてる間に、オウサムとS型バンシーが中~遠距離から乱打する……。

 逆に俺がこの小隊を敵にするとしたら……。被害は免れんなあ。サンダーボルトやバトルマスターで足止めして、アーチャー他で長距離ミサイルの雨でも降らすしか思いつかん。あとはスナイパー砲やロングトムⅢの使い方が鍵になるよな。)

 

 更にキースは考える。

 

(間接砲撃に対処することも考慮しないとな。うちの小隊は全機足が遅い。ある意味で動きを読みやすいと言う事だ。気圏戦闘機隊のうち射撃戦闘が苦手な者を選んで、常時爆装させて置いて、間接砲を発見しだいに爆撃させるか?ちょっと訓練が終わったら、考えておこう。)

 

 やがて第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』の残りの面々と、第3中隊火力小隊の残りの面々が、自分たちのメックと共に城外演習場へと出て来る。これから、先に演習場へ出て機種転換訓練をやっていたサラ少尉やメアリー伍長との連携訓練を行うのだ。機体に敬礼をさせる彼らに、自分もメックと自分自身の両方で答礼を返し、キースは第1中隊指揮小隊と共に城内へと戻って行った。

 

 

 

 数日後、第1中隊指揮小隊に限った話ではあるが、機種転換訓練は一段落ついた。ちなみに機種転換組の他の面々だが、未だ訓練中だ。サラ少尉は、ぱっと見では充分にマローダーを乗りこなしていたが、自分では満足がいっていないのか今も自主的に訓練を続けている。メアリー伍長はシャドウホークに慣れ過ぎていたせいもあってか、未だにときどき機体を過熱させており、同じ小隊のライフルマン乗りであるハーマン・カムデン少尉やアナ・アルフォンソ伍長から特訓を受けていた。

 そんなある時、キースに外部から電話が入った。惑星軍との直通電話である。ちょうどキースはそのとき、指令室でオペレーターたちを監督していた。オペレーターの1人が電話を取り次ぐ。

 

「キース中佐、惑星軍からの直通電話が入っております。」

「む?了解だ。今そちらへ行く。」

 

 惑星軍との直通電話は、機密保持などを考慮してなのだろう、司令席や司令執務室などに回線を回せない。直通電話を設置してある指令室片隅のブースへ、キースが自分で向かうしか無いのだ。

 

「こちらライラ共和国惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐。」

『こちらは惑星陸軍情報2課長、デイモン・レイトン大佐です。』

「レイトン大佐でしたか、緊急事態でしょうか?」

 

 デイモン大佐は肯定する。

 

『はい。実は5日前より、ドラコ連合スパイ網の摘発作戦を隠密裏に行っていたのですが、追い詰めたはずの内通者が、軽メック小隊を逃走の時間稼ぎに繰り出して来たのです。現在ストライカー軽戦車1個小隊と歩兵2個小隊が抵抗しておりますが、持ちそうにありません。至急、惑星守備隊メック1個小隊の出動を要請します。戦闘報酬は規定通りで。』

 

 戦闘報酬が規定通りだと言う事は、相手が正規の部隊であった場合には戦闘報酬と鹵獲、撃破ボーナスを、不正規の部隊や無法者であった場合は戦利品の権利を認めると言う物だ。キースは即答する。

 

「了解です。敵陣容をお教え願えますか?」

『20tスティンガー1機、20tワスプ1機、30tジャベリン1機、35tファイアスターター1機です。』

「なるほど、それでは下手に重いメックを繰り出して逃げに徹せられた場合、難しいですね。第3中隊偵察小隊を送りましょう。レパード級で急行させて、上空からジャンプジェットで強襲させます。敵の位置座標をお教え願います。」

『はい、座標は……。』

 

 キースは直通電話の受話器を置くと、司令席に駆け戻り卓上の通信設備を起動する。彼は第3中隊偵察小隊とレパード級降下船ゴダード号乗員に呼び出しを掛けた。

 

「第3中隊偵察小隊!緊急発進だ!敵は20tスティンガー、20tワスプ、30tジャベリン、35tファイアスターターの4機編制1個軽メック小隊!現在惑星軍の戦車1個小隊および歩兵2個小隊と交戦中だ!レパード級降下船ゴダード号を使ってXT-343地点へ急行、戦場上空よりジャンプジェットによる強襲攻撃を敢行せよ!

 レパード級降下船ゴダード号ヴォルフ船長以下乗員!聞いた通り、緊急発進だ!第3中隊偵察小隊が搭乗後、XT-343地点まで送ってもらう!

 繰り返す!第3中隊偵察小隊!緊急発進……。」

 

 キースが現在このアル・カサス城にいる第1、第3両中隊の偵察小隊のうち、第3中隊の偵察小隊を選んだのは、そのメックの編制による。第1中隊の偵察小隊には戦闘能力の低い35tオストスカウトが含まれており、戦闘能力よりは純粋に偵察能力に重きを置いていた。そのため今回の様な戦闘任務主体の作戦には、第3中隊の偵察小隊の方が向いていたのだ。

 幾ばくもなく、指令室主スクリーンには城の滑走路から轟音と共に飛び立つ、レパード級降下船ゴダード号が映し出された。そして司令席の通信設備からはゴダード号のヴォルフ船長の声が聞こえて来る。

 

『こちらレパード級降下船ゴダード号ブリッジ。アル・カサス城指令室へ、現在順調に飛行中。』

「こちらアル・カサス城指令室、キース・ハワード中佐。なるべく急いでくれ船長。惑星軍の歩兵や戦車が戦闘中だそうだが、持ちそうにないらしい。1分1秒でも早く第3中隊偵察小隊を現場に届けてくれ。」

『了解だよ、部隊司令。任せてくれたまえ。すっ飛ばして行く。交信終わり。』

 

 キースはしばらくそのまま待っていた。主スクリーンは惑星軍の対空レーダー基地からのレーダー情報に切り替わっている。それに映し出されたレパード級降下船ゴダード号の反応が、高速で目標地点へと向かっていた。やがて再びゴダード号からの連絡が入る。

 

『こちらレパード級降下船ゴダード号ブリッジ、船長のヴォルフだ。今しがた第3中隊偵察小隊を投下した。その後は上空待機して戦闘終了を待っているのだが……。いや強いね、うちの偵察小隊は。だが……。

 残念ながら、敵メック、たぶんファイアスターターによる物だと思うがね。惑星軍が大損害を受けておるよ。』

「……こちらアル・カサス城指令室、部隊司令キース中佐。ファイアスターターが敵にいる以上、それは予想済みだ。いくらかでも救えたならば、それで満足しなければならんだろう。」

『うむ……。戦闘終了の様だ。偵察小隊からの通信回線を中継するよ。』

 

 そして第3中隊偵察小隊小隊長、アルマ・キルヒホフ中尉の沈んだ声が、司令席の通信設備から流れ出す。

 

『こちら第3中隊偵察小隊小隊長、アルマ・キルヒホフ中尉です。敵メック全機を倒し、メック戦士全員を降伏させました。ですが、惑星軍が……。』

「こちらキース中佐だ。……よくやった。よく頑張ったな。数はそう多く無いだろうが、救えた者もあったのだろう?」

『は、はい。』

「ならば、まずはそれを誇れ。誰が認めなくとも、俺が認めてやる。貴官らはよくやった。気にするな、とは言わん。犠牲を気にしないのは無理な話だからな。だが救えた者は確かにいるんだ。」

 

 キースはアルマ中尉以下、第3中隊偵察小隊の面々について思う。

 

(たぶん、歩兵部隊が火炎放射器で焼かれた、その凄惨な遺体を目の当たりにしたんじゃないかな。彼らは生身の人間を殺した事なんて無かっただろうから、そう言う事に抵抗力が無かっただろうに……。城に帰還してきたら、軍医キャスリン軍曹にカウンセリングを頼まないとな。)

 

 世の中には、歩兵をメックで踏み潰す事をお気に入りにしているメック戦士もいる。キースは仲間たちにそこまで行って欲しくは無い。だが潰れてしまわないために、もう少しは図太くなって欲しいとも思っている。

 

「とりあえずは、戦利品は持って帰ってこい。だが捕虜は惑星軍に引き渡せ。惑星軍は詳細は機密事項だが、重要な捜査中だったんだ。その捕虜どもは重要参考人、あるいは被疑者だ。」

『はっ!了解しました!』

「よし、早目に戻って来い。交信終わり。」

 

 キースは通信回線を閉じた。

 

 

 

 さらに数日経過した後、キースはデイモン大佐からの電話による報告を、惑星軍との直通電話で受けていた。

 

『はてさて、例の内通者に雇われていた軽メック小隊ですがね。「自分たちは惑星政府の要人に個人的に雇われただけの用心棒だ。自分たちも騙されただけだ。」と強弁しておりましてな。』

「なるほど……。スパイ組織とは何ら関係が無いと?」

『はい。残念ながら、何も情報を持っておりませんでな。押収した書類も、つい先日に正規に雇われた傭兵である事を示す証拠にしかなりませんでしたよ。……素行の悪い、札付き傭兵ではありましたがな。惑星軍との戦闘ですらも、金払いの良い雇用主の命令ならば躊躇わないほどの。

 ですが残念ながら、ぎりぎりかろうじて無法者とまでは行きません。いや、陰では何をやっているのか分かった物では無いんですがね。』

 

 忌々しそうなデイモン大佐の言葉に、キースも溜息を吐きたくなる。

 

「それで内通者は、まんまと?」

『ええ、追跡調査を行ったのですが、偽造した身分で民間のミュール級商用貨客降下船に乗って、惑星をさっさと逃げ出してしまいました。ただ、相手にも不測の事態であったらしく、惑星内の財産は隠し財産なども含め、ほとんど差し押さえる事ができましたがね。』

「今回の惑星軍の人的被害からすると、慰めにはなりませんな。」

『まったくです。』

 

 デイモン大佐は、申し訳なさそうに続ける。

 

『様々な事情を考慮した結果、今回の戦闘は正規の戦闘と認められる事になりそうです。やつらのメックは、共和国預かりとなりますな。そちらには正規の戦闘報酬とバトルメックの鹵獲ボーナスと言う事で。

 正直、やつらからメックを没収してそちらに進呈したいぐらいなのですがね。ただ、やつらは惑星軍と戦闘を行った実行犯なので、刑事訴追されると共に民事でも訴えられます。明らかにこの惑星の法に違反しておりますが故に。

 部隊はおろか、メックを維持できなくなるぐらい搾り取ってやりますよ。罰金も賠償金も。その上で投獄してやりますとも。可能ならば終身刑で。』

「……なるほど。やつらには「快適な」「別荘暮らし」が待っているわけですね。」

『そう言う事ですな。』

 

 そう言ってから、デイモン大佐はおもむろに言葉を続ける。

 

『これで終わるつもりはありません。ドラコ連合スパイ網の摘発は、第2次作戦を近日中に予定しております。その際、軍事的衝突が発生した場合は、是非にお力添えを願います。』

「無論です。我々惑星守備隊にとっては、当然の任務ですからね。」

『ありがとうございます。今回は、これにて失礼します。ではまた後日。』

「はい。では。……はぁ~。」

 

 電話が切れた後、キースは大きな溜息を吐いた。どうやらドラコ連合スパイ網の摘発作戦は、不首尾に終わった様だ。一応のダメージは敵にも与えたものの、今回の作戦で捕らえようとしていた大物にはぎりぎりかろうじて手が届かなかったらしい。

 ふとキースは思う。

 

(もしかして、オスニエル公爵閣下は焦ってらっしゃるのかな?妹様、ミシュリーヌ様と仰ってたっけ?その方にできるだけ綺麗な状態で、この惑星と惑星公爵の地位を渡したくて?となると、万一とか言ってらしたが、下手をするとオスニエル公爵閣下の惑星公爵としての地位は、思ったより危ないのかな?

 いや、それは憶測に過ぎないよなあ。大丈夫って言ってたんだしー。それに俺が第1に考えなきゃあならないのは、『SOTS』の事だよね。『SOTS』の惑星撤退までには、もうあと1ヶ月と半分無いんだし。安全に任期を終える事を考えなきゃあ……。でも、ちょっとばかり公爵閣下には情が移ったと言うか、感情移入しちゃったしなあ……。)

 

 キースはサイモン老、自由執事ライナーなどの腹心に、ちょっとばかり相談してみようと決心した。

 

 

 

 ここはいつもの司令執務室。ここでキースは、仕事中の負傷で入院していた偵察兵、エルンスト・デルブリュック曹長から復帰の報告を受けていた。

 

「退院と職場復帰、おめでとうエルンスト曹長。貴様がいない間、偵察兵分隊はけっこう大変だったらしいぞ。」

「まあ『SOTS』の偵察兵は、能力的には素晴らしいですが数がおりませんからな。私程度でも、1人欠ければやはり大騒ぎでしょう。」

「謙遜するな。貴様は貴様自身が「暫定」を外すことを固辞しているとは言え、偵察兵分隊の分隊長なんだ。……復帰祝いと言う事で、「暫定分隊長」から「暫定」を外すつもりは無いか?」

 

 エルンスト曹長は慌てた様子を装って、頭を大きく左右に振る。

 

「いやいやいや、それはご勘弁下さい。ネイサン軍曹がもう少し昇進したら、さっさとこの地位を明け渡すつもりなんですから。」

「むう、なんでうちの人間はこうなんだろうな。」

「いや、トップにおられるお方ご自身が、御自分の昇進をさんざん厭っていらっしゃいましたからな。それを見習ったのでは?」

「……それを言うか。俺は結局、ちゃんと昇進したぞ?」

 

 キースとエルンスト曹長は、顔を見合わせて失笑した。そしてキースは、急に真面目な顔になってエルンスト曹長に命じる。

 

「エルンスト曹長。偵察兵分隊を自由に使っていい。この惑星の要人で、オスニエル公爵を追い落とそうとしている人物について調べてくれ。複数名いる模様だ。公爵閣下からすれば、余計なお世話かも知れんが……。放って置くと、寝覚めが悪い。

 ……偵察兵を、もっと増員しなければならんな。駐屯任務となると、惑星の政治と関わらずにはいられん。だが、今いる連中が偵察兵の指揮官クラスとして使える様にならんと、ただ増やしても意味が薄い……。貴様やネイサン軍曹、アイラ軍曹クラスの人材が、切実に欲しいな。」

「はっ。了解です。」

「頼んだ。」

 

 エルンスト曹長とキースは、敬礼と答礼を交わす。そしてエルンスト曹長は司令執務室を退室して行った。キースはひとり考えに耽る。

 

(シュタイナー家の情報部にいるトマ・ドーファン女史から買った情報では、オスニエル公爵の地位は盤石とは言い難いんだよね。あのデュラン公フレデリック・シュタイナーが軍事的な武勲の無いオスニエル閣下を嫌っていて、軽くではあるけど閣下を引き下ろす工作を後押ししてるってんだから。

 幸いなのは、フレデリック・シュタイナーにとってはオスニエル閣下が小物に見えている事だよなあ。嫌っているとは言っても、せいぜい気に食わんと言った程度らしいし。そこまで気にしてない吹けば飛ぶような存在を、わざわざ労力使ってまで退けようとは思わないだろ。

 デュラン公フレデリック・シュタイナー……。たしか、「流血を好み、空威張りばかりをし、軍事的勝利以外の選択肢など考慮できないし、考慮しようともしない」だったかな。それじゃあオスニエル閣下の能力や功績なんか、毛ほども評価しないだろ。ましてや惑星公爵になる以前の、学者としての功績なんか。

 今オスニエル閣下を惑星公爵位から降ろしてみろよ。大変なことになるよ?まず間違いなく惑星政府は場外乱闘の渦になって、機能は麻痺しちまうよ?そうなったらせっかくのメック倉庫も、またクリタ家に狙われちゃうかもよ?逆にドラコ連合に軍事的勝利を献上しちゃう事になりかねないってのにさ……。)

 

 しかも、その時点ではまず間違いなく『SOTS』はこの惑星にはいないのだ。今の内に何かしら手を打っておかなければ、キースにできることは無い。せっかく護った惑星が、内輪もめのあおりで失われるなど、馬鹿らしいにもほどがあると言う物だ。

 

(オスニエル閣下は政敵を粛正する準備もしているって言ってたけどさ。それを早めないと、まずくないか?このままじゃあ俺とサイモン爺さんが頼まれた、次期惑星公爵ミシュリーヌ様の代官を、オスニエル閣下の息がかかった人物にする工作が、本当に役に立っちゃうぞ?そしてその工作が役に立っても、欲深どもはなんとかして実権を握ろうと動くだろさ。そしたら惑星政府麻痺状態は目に見えてる。

 なんとか「この人物が次期惑星公爵閣下の代官なんだ」と周囲に認められるだけの時間を稼がないと駄目だよな。その代官候補が押しも押されもせぬ状況になってからじゃないと、オスニエル公爵閣下は安心して引退できないだろ。本音では、只の学者に戻りたがってるんだろうけどさ。)

 

 キースは自分にできる事、あと1ヶ月強の状況で打てる手を考える。可能そうな方法は、決して多く無かった。




ちょっと主人公には、不得手な領域の戦いに挑む事になりそうですね。ですが、味方が大勢いるので、なんとかなりそうな気も。
がんばれ主人公。君の活躍次第で、この惑星の未来が決まるぞ。


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『エピソード-072 政争とスパイ網摘発作戦』

 大型の6連タンクローリーが、幾つも並んでアル・カサス城内に入城してくる。これは降下船の推進剤を積んだタンクローリーだ。それらはアル・カサス城の半地下に設置してある推進剤タンクをたっぷりと満たして行く。

 

「最近ちょっとばかり推進剤使ったからなあ。」

「これで現状ある降下船の推進剤タンク、更にはしばらくしたら商用航宙から帰って来るゾディアック号、エンデバー号の推進剤タンクも満タンにできる量の備蓄ができます。」

 

 キースと自由執事ライナー・ファーベルクは、現場でその様子を眺めていた。しばらく沈黙が続く。と、ライナーがおもむろに口を開いた。その音量は極めて小声である。

 

「外務大臣アーチボルド・レッドグレイヴ、労働大臣アンヘラ・スリナッチ、農林大臣カティーナ・オライリー、運輸大臣リッカルド・アゴスティーニ……。こちらの伝手でも確認が取れました。エルンスト曹長より報告のあった、この4名が惑星公爵オスニエル閣下を引きずり降ろして、妹様ミシュリーヌ嬢を新たな惑星公爵に就けようと目論む者たちに、間違いないですよ。

 その後、自分がミシュリーヌ嬢の代官の座に座ろうとしている事もですね。」

「リッカルド・アゴスティーニか……。最初にその名前を聞いた時は、ぎょっとしたもんだ。あのハリー・ヤマシタの偽名の1つ、リカルド・アゴスティとよく似ている名前だったからなあ。……エルンスト曹長ら偵察兵たちと、ライナーの伝手の両方で同じ結果が出た以上は、まず間違いないだろう。」

 

 キースの返事も、小声だった。彼は続けて問う。

 

「……で?その外務大臣レッドグレイヴかな?あるいは運輸大臣アゴスティーニか?」

「レッドグレイヴですね、星系外と伝手を持っているのも、それを使って惑星公爵交代の運動を仕掛けているのも。ただしその運動の旗振り役が彼だと言う証拠はありません。噂、あるいは証拠として使えない情報だけです。まず間違い無いんですがね。

 まあ、さすがに外務大臣だけありますよ、星系外への顔の広さと外面の良さは。もっともオスニエル公爵閣下の反撃で、惑星政府の重要な仕事からは干されましたがね。今は先祖代々外務大臣家で貯め込んだ私財を注ぎ込んで、惑星公爵交代の運動を頑張って続けてる様ですよ。他の3者は、資金面で彼を支えてる模様ですね。」

「ううむ……。」

 

 唸り声を上げて、キースは考え込む。数秒後、彼は顔を上げた。

 

「公爵閣下が考えておられんとも思わないが……。農林大臣のオライリーは切り崩せないか?この惑星はかつての工業惑星であり、主力産業は鉄鋼や一部ベアリングなどの金属工業製品だ。今はそれにバトルメック輸出も加わるが、これは莫大な利益こそ生んでいるがそのうち枯渇するだろう。

 ま、それは置いておくとして、この惑星で農林業は極めて小規模だ。農林大臣が大臣なのも、先祖代々農林大臣の家系だからに過ぎない。経済基盤も4者の中でいちばん小さいのではないか?充分な見返りを用意できれば……。」

「それはどうでしょうか。オライリー女史は経済基盤が小さい上に、この惑星ではこの先も利益が見込めない仕事に就いています。高級品目の栽培などで、ブランド志向で利益を上げようと頑張った様ですが、まあ結果は……。だからこそいっその事、とばかりに乾坤一擲の賭けに出たんでしょう。農林大臣から惑星公爵代官への転身に成功すれば、一発大逆転ですからな。

 それだけの覚悟を持って賭けに出たんです。生半可な見返りでは寝返らないでしょう。」

「む……。駄目か……。1人寝返れば、そこから相手陣営をばらばらにするなり、残り3人の致命傷になり得る証拠を掴んだりできそうな物なのだが……。

 だがしかし、惑星公爵が交代となれば、妹様ミシュリーヌ嬢は最前線で気圏戦闘機大隊の指揮に専念せねばならん以上、代官が必須なのは誰の目にも明らかだ。となれば、今は日和見をしている連中も、我も我もと手を上げるのは目に見えている。そうなれば惑星政府は上を下への大騒ぎで、麻痺状態になるだろうな。

 ふぅ……。」

 

 溜息を吐くキースに、ライナーは慰めるような口調で言う。

 

「まあ、そうでしょうが……。サイモンさんや、キース中佐までもがライラ共和国の偉いさんに頼み込んだんでしょう?もし代官を選ぶ時は、クレイグ・チップチェイス氏をミシュリーヌ嬢に推薦してくれって。

 チップチェイス氏は惑星シードリングの元行政官として、実績のある方ですからね。領土を門閥貴族傍系の領主が自分で直接管理する様になる前までは、かなりの辣腕を振るったそうで。……ぶっちゃけた話、惑星シードリングではチップチェイス氏に戻ってきて欲しいと言う声も。」

「だがここ惑星ソリッドⅢでは、彼は無名だ。そしてもし惑星公爵オスニエル閣下が引退なされてしまえば、その後ろ盾は共和国が推薦したと言う肩書だけになる。果たしてそれで欲に転んだ奴らを黙らせることが可能かどうか……。もう少しだけでも、オスニエル公爵閣下にはその地位にいてもらう必要が、やはりあるんだよ。一介の学者に戻りたがっている、あの方ご自身には申し訳ないがな。」

「ですか……。ですけど我々に可能なのは、せいぜいが「敵」の情報を掴んで、それを何処かの誰かなりにご注進することしかできませんよ。」

「……だなあ。となると、どうやって情報を入手するかも問題だが、誰にご注進するかも問題だな。」

 

 と、突然ライナーの懐の携帯通信機が呼び出し音を立てる。これは偵察兵が使用する様な大出力タイプではなく、せいぜいアル・カサス城内で通話できる程度の小型軽量の品で、急な呼び出しに備えてキースも持って歩いている。ライナーは右手に持っていた杖を左脇に挟むと、ちょいちょいと小器用に懐から通信機を取り出した。

 

「こちら自由執事ライナー・ファーベルク。何か……む、了解した。すぐ戻る。」

「何か問題か?」

「いえ、コネのある惑星政府要人……。財務大臣タチヤーナ・レオニドヴナ・バラノフスカヤ女史から電話が来ましてね。受けた者は、私が戻りしだい折り返し電話すると伝えたそうなので。では私は戻ります。」

「そうか、では俺も戻る。」

 

 ライナーとキースは、いつも通りに敬礼と答礼を交わすと、その場で別れた。キースは司令執務室へ戻る途中ふと、財務大臣について考える。

 

(タチヤーナ・レオニドヴナ・バラノフスカヤ財務大臣?顔はテレビで知っているけれども……。年末パーティーにも、年始パーティーにも、パーティー会場には居なかったよな。ライナーがコネを結んだ人物だし、例の4人にも含まれていないからには、どちらかと言えば「味方」側の人物かな?……期待はしないでおこう。友好的中立であれば御の字だあね。)

 

 頭の中でとりあえずの結論を出したキースは、そのまま司令執務室に向かった。

 

 

 

 そしてキースは翌日、タチヤーナ財務大臣と首都ソリッド・シティの一流レストランで昼食を共にしていた。無論キースだけでなく、ライナーも共にいたが。ちなみにキースたちを首都までフェレット偵察ヘリコプターで送って来たヘリパイロットの偵察兵、アレクセイ・ワディモヴィチ・ザソホフ伍長は同席を辞退している。今頃はファーストフードの店か何処かで、気軽なランチを満喫している事だろう。

 

「……アレクセイ伍長は偵察兵としては、まだまだですな。こう言う場にこそ同道して、お偉方との接触や交渉の経験を積むべきですのに。」

「まあ、まだ若いんですもの、仕方の無いことですわ?」

 

 ライナーの台詞に、タチヤーナ財務大臣が応える。キースは心の中で思った。

 

(いや、俺もまだ若いんですけど。あと1週間ちょっとで18になるばかりなんだけどな。まあ中身は前世含めれば○○歳だけどさ。って言うか、昨日の段階ではこの人と会う事になるなんて、思っても見なかったよ。あ、これ美味ぇ。)

「ハワード中佐は、ここのお料理はお好きかしら?」

「いつも軍の士官食堂か、そこと同じ厨房で作られた料理を執務室に配達してもらっておりますからね。もしくは野営にて戦闘糧食なものですから。この様な高級料理、胃がびっくりしそうですよ。いや美味です、気に入りましたよ。」

 

 タチヤーナ財務大臣は、にっこりと微笑んだ。だがその額が汗ばんでいる。やはりキースに若干気圧されているのだ。彼女からすれば、熊か猛牛でも眼前にいる様な物だろう。だが言葉や態度にはそれを毛筋ほども表さず、普通に応対している。たいした物だった。

 一方キースもまた、タチヤーナ財務大臣に対して若干の畏怖を抱いている。見た目はまだ30代半ばと言った彼女だが、既に老練と言った雰囲気を身に着けていた。うかつな対応は危険だ、とキースは思う。

 と、その矢先にタチヤーナ財務大臣の方から斬り込んで来た。

 

「食後にこんな話をするのは無粋ではあるのだけれど……。少しばかり悪巧みに協力してくださらないかしら。」

「内容によりますね。」

「その内容ですけれど、そちらが今困っている案件と、繋がっているんですのよ。」

 

 キースはタチヤーナ財務大臣を促す。このレストランは、防諜の面でも心配の無い超一流店だ。ここでの話が外へ漏れる心配は、全くと言って良いほど無かった。

 

「お話ししていただけますかな?バラノフスカヤ財務大臣殿。」

「そうね、何から話そうかしら。……私には敵がおりますのよ。いえ、正しくは私の身内に敵がおりますの。その敵の名は、アンヘラ・スリナッチ労働大臣と申しますのよ。」

「!!……ほほう、面白そうなお話しですね。」

 

 タチヤーナ財務大臣は、小さく笑みを浮かべると話を続ける。

 

「私のお付き合いしている男性は、ダドリー・スリナッチと申しまして……。アンヘラ労働大臣の甥で、子供のいないアンヘラ労働大臣の後継者ですの。ですが、もうアンヘラは老齢だと言うのに、当主の座にしがみ付いて権力を手放さないんですのよ。……老害ですわ。公私共に、除かねばならない敵ですの。」

「……続きを。」

「私は惑星公爵閣下の敵でも味方でもありませんの。私の器は小さく、我がバラノフスキー家と少数の味方の事だけで、精一杯ですのよ。ですので、惑星公爵閣下が御妹様に地位をお譲りになられようがどうしようが、構わないはずでしたわ。

 けれど、御妹様の代官が誰になるかは大問題ですわね。今の段階で公爵閣下が御隠退なされては、まずい事態だと言うのは理解できますのよ。我こそが御妹様の代官に、と手を上げる者が百出して、惑星政府の統治機能は麻痺、いえ悪くすれば壊滅状態になるでしょう。」

 

 ここでタチヤーナ財務大臣は、キースの眼を真正面から見つめる。

 

「それを許すわけにはまいりませんわ。アンヘラ労働大臣をはじめ、リッカルド・アゴスティーニ運輸大臣、カティーナ・オライリー農林大臣を除き、アーチボルド・レッドグレイヴ外務大臣の動きを封じなければなりませんわ。」

「動きを封じる?レッドグレイヴ外務大臣は除かないのですか?」

「あの男は保身の天才ですわ。生半可な事では止めを刺せませんのよ。けれど動きを封じて、その間にあの男がどう動こうと、手遅れにしてしまうことは可能でしょう。」

 

 キースもにやりと悪い笑顔を浮かべ、タチヤーナ財務大臣を見つめた。

 

「なるほど。で、手段は?」

「彼奴らには弱点がありますわ。カティーナ・オライリー農林大臣……。私は財務大臣ですのよ?お金の流れを追う事は、十八番ですの。ただ、私は直接の手段に乏しいんですのよ。それで私と、惑星軍との間を仲立ちしてくださらないかしら?」

「……何故よそ者たる惑星守備隊の我々に、その様な事を?貴方こそ、惑星軍とはお身内でしょうに。」

 

 キースにそう問われたタチヤーナ財務大臣は、苦笑する。

 

「軍の皆さま方とは、私仲が悪いんですの。軍は富の再生産に繋がらない消費するだけの存在ですし、私は私で、軍の予算を表から裏から色々削って、有望そうな産業に投資するのに腐心しておりましたので……。

 無論、軍が無ければ持てる財貨を守る事ができないのは、今の時代当然ですし、その必要性も痛い程理解しておりますわ。でも、財布に痛いのは私としては職務上辛いんですのよ?」

 

 キースはライナーの方を向く。ライナーも頷いた。ライナーはタチヤーナ財務大臣に向かい、口を開く。

 

「財務大臣殿、ご予定に空きがある時日をお教え願えませんかな?我々も参加の上、軍の方とお話をする機会を設けましょう。」

 

 キース、ライナー、タチヤーナ財務大臣はにやりと悪い笑顔を交わした。

 

 

 

 3027年4月3日、今日はキースの18歳の誕生日である。盛大なパーティーと言うわけにも行かないが、かつて『SOTS』結成当時の最初期メンバー及びヒューバート大尉、アーリン大尉、自由執事ライナーなどが、1日の仕事が終わった後に司令執務室でちょっとした宴会を開いてくれた。

 そして今、キースは司令執務室の床に死屍累々と横たわる酔っ払いどもに、仮眠用の毛布をかけて回っていた。

 

「やれやれ、前も似たような事あったなあ。」

 

 キースは苦笑しつつ呟く。ただし今日は以前の時に加え、気圏戦闘機隊のマイク中尉にジョアナ少尉、サイモン老を始めとする整備兵やネイサン軍曹、アイラ軍曹の偵察兵たちもいる。毛布のストックが当然ながら足りなくなり、キースは城のリネン室に自ら毛布を取りに行こうとした。

 

「む?」

「あ……。き、キース中佐!」

 

 廊下に出たところで出くわしたのは、イヴリン軍曹だ。彼女は敬礼をする。キースもまた、おもむろに答礼を返した。キースは彼女に問う。

 

「どうした?こんな夜更けに。そろそろ就寝せねばならん時間ではないか?」

「は、はいっ!申し訳ありません!」

「いや、今日は叱っているわけではないから、謝らなくて良い。まだ就寝に間に合う時間だしな。それより、来たと言う事は俺に用事があるのではないか?」

 

 イヴリン軍曹は、きょろきょろと挙動不審になる。だがキースはとりあえず待っていた。いつもなら、「はっきりせんか!」とでも叱りつけるところなのだが、キースの勘はそれはしない方がいいと感じていたのである。そしてイヴリン軍曹は意を決して、1本の細長い包みを差し出すと言った。

 

「こ、これをお納めください!本日はキース中佐の誕生日だと伺いましたので、先日音波麻痺銃を頂いたお礼も兼ねまして、贈り物を用意いたしました!」

「む……。うむ、せっかくの心遣いだ。ありがたく頂こう。」

 

 キースは包みを受け取り、開いて見る。それは鞘に収められた、1振りの高速振動剣であった。思わずキースは言葉を漏らす。

 

「こんな高い物を……。いや、音波麻痺銃と変わらん値段だぞ?」

「エリーザ曹長より、キース中佐が両手ききであるとお聞きしましたので、片手に拳銃を持っても、逆手で高速振動剣を扱えると思い、用意いたしました!それがキース中佐の命を守る最後の砦になればと思いまして……。」

「……そうか。うむ、ありがとう。しかし高かったろうに?」

「いえ、先日高額のボーナスを頂きましたので。」

 

 そう言えばイヴリン軍曹には、ニンジャ部隊のアーチャーを撃墜して簡易遺跡基地への攻撃を防いだ事で、臨時のボーナスを支給していたのだった。キースはその事を思い出し、なるほどと思う。無駄遣いしないように、などと釘を刺すのも無粋だろう。

 

(けど、こうなると来年のイヴリン軍曹の誕生日にゃ、張り込まないといけないかな。何にすりゃ良かろうか……。まあ、近くなってから考えよう。)

 

 キースはおもむろに言葉を紡ぐ。

 

「ああ、さて。そろそろ夜も遅い。宿舎まで送って行こう。」

「はい!ありがとうございます!」

「うむ、では行くか。」

 

 酔っ払いたちにかける毛布は、イヴリン軍曹を送った帰りにリネン室に寄れば良いだろう。そう考えて、キースは彼女の横に立って歩き始めた。と、キースは今の状況に関係無い事を考える。

 

(……そう言や、明日だったな。バラノフスカヤ財務大臣やレイトン大佐と語らった、例の作戦の決行日は。上手く行きゃいいけど。)

 

 後日、キースは高速振動剣の使い方に習熟すべく、ネイサン軍曹の指導の下で練習に励む事になる。ネイサン軍曹によれば、かなり気合が入っていたらしい。

 

 

 

 さて翌日の事である。キースはアル・カサス城の指令室で、偵察兵たちからの報告を待っていた。やがてアイラ軍曹から連絡が入る。

 

『こちらアイラ・ジェンキンス軍曹。アル・カサス城指令室応答願います。』

「こちらアル・カサス城、キース・ハワード中佐。アイラ軍曹、いよいよか?」

『例の店舗に、目標3名が集まりました。周囲を惑星軍歩兵に固めさせて、作戦決行してください。交信終わり。』

 

 キースは惑星軍との直通電話のブースへと、早足で急ぐ。そして受話器を取ると、惑星軍本部基地まで電話をかける。

 

「……こちらアル・カサス城指令室、ライラ共和国惑星守備隊司令官、キース・ハワード中佐。惑星陸軍情報2課長デイモン・レイトン大佐はおられますかな?」

『……今替わりました。惑星陸軍情報2課長、デイモン・レイトン大佐です。』

「こちらは共和国惑星守備隊司令官、キース・ハワード中佐です。レイトン大佐、例の店に目標3名が集まりました。周囲を固めて逃がさない様にした上で、捕縛してしまってください。」

『了解です。……。……はい、手配完了です。後は現場の指揮官に任せましょう。同時にオライリー農林大臣の邸宅にも、歩兵1個小隊とうちの情報2課員が踏み込んで、証拠を押さえます。』

 

 デイモン大佐は、電話口で溜息を吐くと、続けて失笑を漏らした。

 

『くっくっく、まさか我々惑星軍がバラノフスカヤ財務大臣と手を組む事になるとは……。情報2課としては財務大臣の持つ情報は、喉から手が出るほど欲しい物だったのは間違い無いところだったのですが。』

「財務大臣が掴んだ、オライリー農林大臣が彼奴等の集まりに出資している額が、農林大臣の経済基盤からして多過ぎたのですな。それで調べてみたところ……。ドラコ連合のスパイからの資金提供を受けていた、と。」

『まあ、バラノフスカヤ財務大臣の掴めたのは、確証の無い疑い程度ですが、その情報を元にそちら方面のプロである我々が動けば……。すぐ確証が掴めましたよ。ちなみに各地の農林業施設はスパイどもの拠点として、農業組合の会合はスパイどもの連絡会議の隠れ蓑として、それぞれ使われていた模様です。

 オライリー農林大臣は、単に資金提供の見返りに軒を貸している程度のつもりだった様ですが、しっかり母屋も取られておりましたね。』

 

 キースもまた失笑する。彼は電話口に向かい、言った。

 

「くくく。で、今回の事件は惑星政府が惑星公爵閣下の御妹様ミシュリーヌ嬢の、代官選出で混乱することを目論んだ、ドラコ連合のスパイの一大計画であった、と。」

『……と言う事になりますな。』

 

 本当は、ドラコ連合のスパイ組織は行動を表に出すことなく、現状は静かに潜んでいるつもりだったはずだ。彼らはとんだ濡れ衣を着せられる事になる。

 

『で、今回捕らえられる予定の農林大臣カティーナ・オライリー、労働大臣アンヘラ・スリナッチ、運輸大臣リッカルド・アゴスティーニは、ドラコ連合のスパイの協力者としての嫌疑がかけられます。残り2人は嫌疑がかかっただけで済むでしょうが、オライリー農林大臣は反逆罪の適用は免れませんな。御家もお取り潰しで、農林業は惑星公爵家の直轄業務になりますなあ。

 残り2人にとっても、反逆者と共に語らっていた所を逮捕されるのです。外務大臣アーチボルド・レッドグレイヴも、彼らを切り捨てるでしょうね。彼らの家中でも、彼らをそのままにはしておかんでしょう。強制的に隠居と言う名の軟禁状態に置き、代替わりさせるのではないでしょうかね?ま、そうなる様に圧力かけますが。』

「レッドグレイヴ外務大臣も、これでしばらく動きが取れんでしょう。うちのサイモン中尉が、伝手をたどって噂と言う形で、レッドグレイヴ氏の運動がクリタ家のスパイ組織に唆された物だったと流しますからね。あくまで噂でしかないレベルで。」

 

 その噂が流れれば、フレデリック・シュタイナーも惑星公爵オスニエル・クウォークを更迭する運動からは手を引くだろう。もともとが、せいぜいオスニエル公爵がちょっと気に入らないと言う程度で、その運動を軽く後押ししていた程度だったのだ。

 

『後はクレイグ・チップチェイス氏を当惑星へ招聘し、少しずつ惑星公爵の仕事を彼に移管して、代官としての実績を積ませる……。そうして充分実績を積んだ後に、オスニエル閣下のご勇退とミシュリーヌ様の惑星公爵継承、チップチェイス氏の代官就任を大々的に発表する……。

 少々寂しい気もしますね。オスニエル公爵閣下は、あれほどこの惑星のために尽くして来たと言うのに。得難きご主君なのですが……。』

「ご本人が望まれている事なのです。仕方ありますまい。」

『分かって、おります。……作戦の第1段階終了の連絡が来ました。目標の3人は、思い切り騒いでいる様ですが、手荒にしても良いので問答無用で捕まえる様、通達しておりますからな。更に各地の農林業施設にも、警察の手も借りて一斉に手入れをしていますよ。

 このまま、ドラコ連合スパイ網の第2次摘発作戦に雪崩れ込みます。一気呵成に攻め立てますよ。それでは今回はこの辺で失礼いたしますよ。』

「ええ。ご健闘をお祈りいたしております。では。」

 

 キースは受話器を置いた。どうやら事は上手く転がりそうである。彼はひとまず安堵した。

 

 

 

 ユニオン級降下船ゾディアック号と同級エンデバー号が、1ヶ月半の商用航宙より帰還して、轟音と共にアル・カサス城の離着床に降り立った。冷却車輛や推進剤補給車輛が2隻の降下船に群がって行く。指令室の主スクリーンでそれを眺めつつ、キースは感慨に耽る。

 

(……シュタイナー家情報部のトマ・ドーファン女史から買った情報だと、フレデリック・シュタイナー公は掌を返した様だなー。アーチボルド・レッドグレイヴ外務大臣の仕掛けた惑星公爵交代の運動を、応援する側から潰そうとする側に。サイモン爺さんが流した噂の裏を取ったら、惑星ソリッドⅢで発表された「事実」がそうなってるんだもんな。さもありなん。

 下手をすれば「デュラン公フレデリック・シュタイナー自身がドラコ連合に踊らされた」って見方も、できなくもないからなー。そら怒るわな。まあ、これでしばらく時間は稼げた。おまけと言っては何だけど、バラノフスカヤ財務大臣からの見返りもあった。公金じゃなしに、彼女の個人の金で肩撃ち式の短距離ミサイルランチャーを2個小隊分も寄付してもらったからなー。)

 

 歩兵用の短距離ミサイルランチャーは、単価こそさほど高く無い物の、希少な品だ。タチヤーナ財務大臣は、何処からそれを手に入れたのやら、キースは不思議でならなかった。

 

(しかし……。俺たちがやったのは、偵察兵の派遣やライラ共和国の政界に噂をちょろっと流した他は、バラノフスカヤ財務大臣とレイトン大佐を会わせたぐらいなんだよなあ。たいした事はやってないって言うかさあ……。

 それでなんとか上手く行った上で、やった事に対する見返りも充分に貰っちゃったし。何処かに落とし穴は無いだろうな?……まあ、目的は惑星公爵交代の阻止じゃなしに、若干の時間稼ぎだったんだし。けれど、オスニエル閣下は政敵を粛正する準備もしてるって言ってたけど、本来はどんな手段だったんだろ?)

 

 その時、キースに外線電話が入る。オペレーターの1人が、キースにその事を知らせた。

 

「ハワード中佐、中佐に外線電話が入っております。惑星公爵執事ウィリアム・フロックハート氏と名乗っておりますが……。」

「む、司令席へ回線を回せ。」

「了解しました。」

 

 そして司令席の卓上にある電話機が鳴る。キースはその受話器を取った。

 

「こちらはライラ共和国惑星守備隊司令官、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐です。フロックハートさんですか?」

『いや、私だよ私。オスニエルだ。』

 

 キースは思わず吹き出すところだった。だが鋼鉄の精神でその衝動に耐え、キースは返答を返す。

 

「公爵閣下、何をお戯れを……。驚きましたよ。」

『いや、今回の事の礼を言わねばと思ってね。君らと惑星軍、財務大臣のおかげで穏便に事を進める事ができた。本当はここだけの話、「本当の意味で」退場してもらう事も考えていたんだけどね。』

「なんと……。」

 

 つまりは、惑星公爵はアーチボルド・レッドグレイヴ、アンヘラ・スリナッチ、カティーナ・オライリー、リッカルド・アゴスティーニの4人に、この世から退場してもらう事も視野に入れていたことになる。

 

「ですがそれは、危険かと存じます。」

『うん。可能不可能で言えば可能だけど、後に災いを残しかねないからね。でも仕方なければ、やるつもりであったよ。だけど……。ミシュリーヌに惑星公爵位を譲る前にはなんとかして、レッドグレイヴは排除しておかないとなあ……。まあ、それは君らがこの惑星を去った後になるだろうから、気にしなくても良いよ。

 君たちには、本当に世話になってばかりだ。何か報いておきたいんだけれど……。』

「いえ、今回の件では我々は些少な事しかしておりません。バラノフスカヤ財務大臣より既に受け取る物は受け取っておりますれば、これ以上は報酬の2重取りになるかと。」

 

 惑星公爵閣下が、電話口の向こうで苦笑したのが感じられる。

 

『ふふ、本当に欲が無いね。』

「いえ、隊の存亡に関わるような時には、閣下が蒼褪めるほどに貪欲にもなります。ご安心下さい。」

『何を安心すれば良いのかわからないけれど、なるほど。まあ、今回の事は裏での働きが多かったから、公式に賞するにも少し憚られるし、ね。でも、あちこちにかかった工作費用ぐらいは持たせてくれたまえ。私の顔を立てると思って。デイモン大佐を通じて支払うからさ。』

「は。了解です。」

 

 オスニエル公爵は、付け加える様に言う。

 

『それと、君たちがやってくれた事は些少な事なんかじゃないよ。おかげで財務大臣と軍が腹を割って話し合える様にもなった。今回協力し合った事でね。少しの事しかできなかったんじゃない、少しの事で充分大きな成果を出してくれたんだよ。』

「……はっ!」

『うん、それじゃあ今日はこの辺で。ではまた。』

「はい。では。」

 

 電話は切れた。キースは溜息を吐く。やはりオスニエル公爵が惑星公爵を降りるのは、なんとしても惜しい気がする。だが、だからと言って止められもしないし、止める権利も無い。キースは頭を振って、ゾディアック号のアリー船長と、エンデバー号のエルゼ船長を迎えるため、歩き出した。




政争は、スパイ網の摘発と言う余禄付きで、惑星公爵サイドの勝利となりました。そして、主人公はそれにちゃんと一役買ったのですが、彼は自分がどれだけの事をしたのか、いまいち自信が無いようですね(笑)。
そしてイヴリン軍曹、しっかり主人公の誕生日プレゼント用意してきました。あっはっは。


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『エピソード-073 ライラ共和国からの旅立ち』

 アル・カサス城指令室の司令席でキースは、サンタンジェロ城の指揮官である第2中隊中隊長ヒューバート・イーガン大尉と回線を繋ぎ、会話していた。ヒューバート大尉は、時折報告を兼ねた会議のためアル・カサス城に帰還する他は、サンタンジェロ城に詰めっぱなしである。

 

「ヒューバート大尉、この間は二日酔い状態でサンタンジェロ城に帰った様だったが、大丈夫だったか?」

『はい、なんとかまあ……。ははは、無様を晒しました。面目ない。』

 

 ヒューバート大尉が二日酔いで帰ったと言うのは、キースの誕生祝の宴席を開いた次の日の事だ。ヒューバート大尉は二日酔いの状態でフェレット偵察ヘリコプターに揺られてサンタンジェロ城まで送られ、地獄を見たらしい。

 それはともかく、キースはヒューバート大尉に惑星撤退の準備について色々説明する。

 

「あと10日前後で、交代の傭兵大隊『アバークロンビー雷鳴大隊』が惑星に到着する予定だ。その1日か2日後になるが、3027年4月25日には惑星公爵私邸で『SOTS』送別会と『アバークロンビー雷鳴大隊』歓迎会を兼ねたパーティーが開かれる事になっている。その翌日、4月26日に最終引継ぎをして、俺たち『SOTS』は惑星ソリッドⅢを撤退する予定だな。

 で、だ。『アバークロンビー雷鳴大隊』の第3中隊が直接そちら……サンタンジェロ城にユニオン級で降下する。そしてそのままそちらへの駐留任務を引き継ぐ事になっているから、4月26日の最終引継ぎは、そちらの城の分はそちらでやってくれ。そして第2、第4中隊はそのままサンタンジェロ城から降下船に乗って発進し、惑星撤退だ。

 あらかじめ、そちらに駐留させてある歩兵部隊はアル・カサス城に移動させる。代わりに臨時雇いの第2歩兵中隊の一部をそちらに送るから、その臨時雇い歩兵たちは当日現場で部隊解散して、最後のボーナスを支給してやってくれ。もっとも『アバークロンビー雷鳴大隊』が継続雇用するかもしれんが。」

『第2、第4中隊が使用する降下船は、どれを?』

「ユニオン級降下船ゾディアック号と、同級レパルス号を今日明日中にサンタンジェロ城に送る。ついでと言っては何だが、それに載せる気圏戦闘機ビートル3、4、5、6も共にな。」

 

 ヒューバート大尉はキースの答えを聞き、自分からの報告を締めくくる。

 

『了解です。こちらからは特にありません。第2中隊も第4中隊も、第2歩兵小隊も第4歩兵小隊も、のんびり過ごしてますよ。交代の歩兵がこちらに着いたら、第2と第4の歩兵小隊はそちらに帰還させます。』

「了解だ。以上、交信終わり。」

 

 通信を終えたキースは、司令席卓上の通信設備を切った。

 

 

 

 司令執務室でキースはジャスティン少尉と共に、『アバークロンビー雷鳴大隊』への引継ぎ書類を作成していた。と、そこへ机上の内線電話機がインターホンモードで鳴る。キースはそのスイッチを入れた。

 

「誰か?」

『総務課のシュゼット・アンペールです。キース中佐にコムスター施設を介してのメッセージが届いておりますので、お届けに参りました。』

「入室を許可する。」

 

 総務課の事務員が入室して来て、たどたどしく敬礼をする。キースとジャスティン少尉は答礼をした。事務員はメッセージの印刷された専用の便箋を机上に置く。

 

「ではこれにて失礼いたします。」

「ああ、いや待ってくれ。場合によっては今この場で返事を作成する。それをコムスターのHPG施設まで届ける様手配をして欲しい。」

「は、了解です。」

 

 キースはおもむろにメッセージ用箋を手に取って、それを眺め遣る。

 

『チュウトンニンムシュウリョウゴ、コウセイレンポウヘキカンシ、ワクセイロビンソンニ、コラレタシ。キョウワコクトノチョウセイハ、カンリョウズミ。ジョナス・バートン。』

「……「駐屯任務終了後、恒星連邦へ帰還し、惑星ロビンソンに来られたし。共和国との調整は、完了済み。ジョナス・バートン。」か。もしかして、ジョナスがロビンソンまで来るのかな?久々に直接会えるか?」

 

 キースは嬉しそうに笑う。彼は早速新品のメッセージ用箋を取って、それにメッセージを書き付けた。

 

(……惑星ニューアバロン、第9ダヴィオン近衛隊連隊長、ジョナス・バートン大佐宛。メッセージ本文は、「先のメッセージの件、了解。可能な限り最大速度で惑星ロビンソンへ向かう。キース・ハワード。」と、これで良しっと。)

 

 そしてキースはそのメッセージを、事務員の女性に預ける。

 

「これを頼んだ、シュゼット君。急いでHPG施設まで届けてくれ。」

「はい、了解です中佐。ではこれにて失礼します。」

「うむ、退出を許可する。」

 

 事務員は敬礼をし、キースとジャスティン少尉は答礼を返す。事務員はそのまま司令執務室を出て行った。キースはジャスティン少尉に言う。

 

「さて、じゃあ引継ぎ書類の続きを作るとするか。」

「はい、了解です。……キース中佐、嬉しそうですね。」

「ん?ああ、大事な友人と久しぶりに直接会えるかもしれんと思うと、な。」

 

 本当に嬉しそうなキースに、ジャスティン少尉も笑顔になる。

 

「では問題無く惑星撤退ができるように、完璧に引継ぎ書類を作る必要がありますね。」

「そうだな、頑張るか。」

「了解です。」

 

 その後彼らは、黙々と書類作成に取り組んだ。その効率は、それまでの1.2倍にもなろうかと言う程であったと言う。

 

 

 

 ぎくしゃくと拙い動きで、40tの中量級バトルメックであるウィットワース2機、同じく40tのクリント、30tの軽量級機体ヴァルキリーが、こちらは滑らかな動きの65tの重量級たるサンダーボルトと45tの中量級傑作機D型フェニックスホーク2機を追走している。先を行くサンダーボルトとD型フェニックスホーク2機からは朗々たる、とまでは行かないが、かなりの大声で歌声が響いていた。

 

『『『大地を蹴って、大空へ~♪ジャンプジェットの力の限り~♪』』……何やってるの!歌いなさい!』

『『『『りょ、了解!だ、大地を蹴って、大空へ~♪』』』』

 

 後続の4機も歌いだす。少し離れたところから、S型バンシーの操縦席で監督していたキースは、感慨に耽った。

 

(うーむ。イヴリン軍曹も、エルフリーデ伍長も、エドウィン伍長も、メック操縦に関しては随分成長したなあ。歌ってても機体の制御をちっとも乱さないし、他人……訓練生たちを注意する余裕まである。)

 

 そう、本日は訓練生たちの、初めての実機訓練であった。キースは通信回線をその場の全機に繋いで、言葉を掛ける。

 

「いいか、訓練生ども!今回貴様らは初めて実機にまともに乗ったわけだが……。これは半分以上お情けだと言う事を念頭に置いておけ!もうあと1週間もしない内に、我が混成傭兵大隊『SOTS』は惑星ソリッドⅢを撤退する!そうなってからでは、実機訓練はしばらく行えん!それ故に、若干予定を切り上げて、貴様らを実機に乗せざるを得なくなった!

 だからこそ、貴様らにとっては千載一遇の機会だと思え!これは……歌わんか!歌うのを止めるんじゃない!」

『『『『申し訳ありません!飛べ飛べ高く、何処までも~♪』』』』

「それで良い!だがくれぐれも事故には注意しろ!イヴリン軍曹!エルフリーデ伍長!エドウィン伍長!貴様らも、よく監督し、事故など決して起こさせるなよ!?」

『『『了解!!眩い閃光、奔る疾風~♪』』』

 

 キースは頷く。単純な操縦技量、単純な戦闘能力に限っては、かつて訓練生だった3名はずいぶんと向上した。

 

(あとは座学が満足行く様になれば、充分一流のメック戦士なんだけどな……。座学の方は順調だとは言っても、実技程じゃあないからなあ。まあ生残性を高めるために、実技を徹底して叩き込んだところはあったけどさ。特に予定外の出来事で任官しちゃった後は、その傾向高かったよな。)

『モーリス訓練生!動きが大雑把だぞ!クリントは反応が速い代わりに過敏だから、気を配れ!』

『ジャクリーン訓練生!ゲルダ訓練生!ウィットワースは動作が鈍いから、先を読む動きを心掛けなさい!』

『ブリジット訓練生!今日は貴様が訓練生の暫定隊長だったわね!貴様もちゃんと部下の動きを見て、拙い所があったら注意なさい!』

『『『『りょ、了解!』』』』

 

 先達3人組は、即座に叱責する。

 

『『『歌わんか!!』』』

『『『『了解!!迫る敵機を飛び越えて~♪』』』』

(うんうん。)

 

 キースは弟子たちの成長に、心から感心した。まあぶっちゃけ、まだまだな所もかなりあるのだが、それでも後で褒めてやろうと思う。まあ、座学ではまだまだ絞り足りないのだが。

 

(そう言えば、エドウィン伍長とエルフリーデ伍長は数学の成績がよろしくない、と教育担当官のヴァーリア少尉から報告が上がって来ていたな。……さて、どうしてくれようか。面目が立たんだろうからな、訓練生たちの前では絞らんでおくが、はてさて。ふむ、戦術理論の座学の時間に、数学的理解が必要な宿題でも出してやるかね。

 イヴリン軍曹は古典がいまひとつだが……これはどうした物かな。メック戦士として直接必要が薄い分野だしなあ。)

 

 弟子たちが訓練生を絞っているのを見ながら、キースはその弟子たちに足りない部分について、色々検討していたのだったりした。

 

 

 

 アル・カサス城指令室には、惑星軍との直通電話が設置されているブースがある。この直通電話は、機密保持などを考慮し、他の席には回線を回せない様になっていた。たとえ惑星守備隊の司令であろうとも、いちいちこのブースまでやって来て電話をしなければならないのだ。

 今キースは、その惑星軍との直通電話を使って、惑星陸軍情報2課長デイモン・レイトン大佐と話をしていた。

 

『……と言うわけでして、ドラコ連合スパイ網第2次摘発作戦は、完全な……とは言い難いですが、まずまずの成果で完了いたしましたよ。これも惑星守備隊、『SOTS』のおかげです。ご協力ありがとうございました。』

「いえ、大した事はしていませんよ。これも皆、惑星軍の方々の努力の結果でしょう。」

『いえいえ、そちらのご協力が無ければ、農林業の施設や農業組合等々は捜査対象から漏れておりましたよ。正直心中複雑ですが、財務大臣にも感謝ですね。』

 

 何かにつけ惑星軍の予算を削る惑星政府のタチヤーナ・レオニドヴナ・バラノフスカヤ財務大臣と、富の再生産に繋がらずに消費するだけの惑星軍は、互いに相性が悪い。つい先日、惑星公爵の政敵を失脚させる工作のために協力した事を契機に、その関係は改善に向かってはいるものの、やはり未だ溝が無いとは言えない状況であった。

 

「……で、大物の半数には逃げられたものの、半数はしっかり捕らえた、と。」

『はい。半数に対しては残念ながらぎりぎりで逃亡を許し、商用降下船の離床を涙を呑んで眼前で見送るはめになりましたがね。しかし半数はきっちり捕らえる事が叶いました。後は尋問官の力量しだいでしょうな。

 ま、ですが相手はスパイです。非合法の工作員です。条約の保護下に無い相手ですからね。いざとなれば、手段は問いませんとも。この際ですから、情報を全部吐き出してもらって、スパイ組織の根切りをいたしましょう。得られた情報を元に、ドラコ連合スパイ網の第3次摘発作戦を発動いたしますのでね。』

「では、おそらくはお忙しくなるのでしょうな。」

 

 キースがそう言うと、デイモン大佐はそれを肯定した。

 

『はい。まず間違いなく、送別のパーティーにも参加できないでしょうなあ。……直接お会いして、お別れを言えないのが残念ですよ。』

「それはこちらとて同じ事ですよ。」

『お電話ですら、もう1度機会があるかどうか分かりません。この場を借りて、お別れの挨拶をしておきましょう。……さようなら、キース・ハワード中佐。もし叶う事あらば、何時か何処かで再会いたしましょう。』

 

 デイモン大佐の挨拶に、キースも最大限の敬意を払い、別れの挨拶を返す。

 

「はい、何時か何処かの宇宙で。さようなら、デイモン・レイトン大佐。貴方は我々のいる様な戦場とは別種の戦場で戦われる方かも知れない。ですが、まぎれもなく自分の戦友でした。」

『……ありがとうございます。ではこれにて。』

「はい。では。」

 

 電話は切れた。キースは静かに受話器を置く。そして彼は速やかに、直通電話ブースより司令席へと戻った。

 

 

 

 2隻の見慣れないユニオン級降下船が、アル・カサス城の離着床に着陸している。これは『アバークロンビー雷鳴大隊』の所有降下船3隻のうちの第1中隊と第2中隊を乗せた2隻だ。残りの第3中隊を乗せた1隻は、今頃は第3中隊の駐留場所となるサンタンジェロ城に直接降りているはずだ。

 キースはその2隻のうち、部隊マークと共に大きく「1」の番号が描かれている1隻の乗降ハッチ前まで、ジャスティン少尉のジープに乗ってやって来ていた。用事は当然の事ながら、『アバークロンビー雷鳴大隊』部隊司令の出迎えである。

 やがて乗降ハッチから、2名の男女が降りて来る。彼らはキースらに先んじて敬礼をした。彼らは迎えに出たキースが中佐であり、自分たちよりも上官である事をあらかじめ知っているのだ。キースとジャスティン少尉も答礼を返した。2名のうち、男性の方が声を上げる。彼は40代半ばと見えた。

 

「自分は傭兵大隊『アバークロンビー雷鳴大隊』部隊司令、ヴァレンタイン・アバークロンビー少佐。こちらは大隊副官のエステル・リクセト・シェルヴェン少尉ですじゃ。ライラ共和国惑星ソリッドⅢ守備隊司令とお見受けしますが、いかに?」

「自分はライラ共和国惑星ソリッドⅢ守備隊司令、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐だ。こちらは大隊副官のジャスティン・コールマン少尉。短い間だが、よろしく頼む。」

 

 ヴァレンタイン少佐は、にやりと笑った。流石に歴戦の古兵らしく、キースに対し萎縮する事も無い様だ。一方10代後半から20代前半に見える彼の副官エステル少尉は、満面に汗を流し腰が引けている。キースはジャスティン少尉を促す。

 

「ジャスティン少尉……。」

「はっ!アバークロンビー少佐、シェルヴェン少尉、これより今後の予定をご説明いたします。

 まず本日4月24日は、『アバークロンビー雷鳴大隊』の方々には順次、このアル・カサス城の宿舎へと移っていただきます。間も無く送迎用のミニバスが参りますので、それにお乗りください。その後連盟標準時16:00時から、担当兵よりこの城内の設備、建物の配置などについて説明を受けていただく予定です。

 明日4月25日はメック戦士、航空兵身分の方々以外は予定はございません。メック戦士、航空兵身分の方々には予定がございます。12:00時より惑星公爵閣下の私邸にて、我が『SOTS』の送別会を兼ねた、『アバークロンビー雷鳴大隊』歓迎パーティーが開かれます。両大隊のメック戦士、航空兵身分の方々は、全員招待されておりますので、出席願います。」

「ふむ、パーティーの招待とな。事実上の出席命令じゃな?」

「しょ、少佐!」

 

 大胆不敵に言うヴァレンタイン少佐に、副官のエステル少尉は慌てる。だがヴァレンタイン少佐はにやり笑いを崩さずに言う。

 

「何、ハワード中佐はその様な細かい事を気にするお人ではなさそうじゃ。心配するでないぞ。」

「いや……。自分……いや俺はけっこう細かい所もあるぞ?油断しない方がいい。ははは。」

「おや、そうですかな?ははは。」

 

 キースとヴァレンタイン少佐は笑い合う。別に腹の探り合いをしているわけではない。単に冗談を言い合っているだけだ。どうやらキースとヴァレンタイン少佐は、互いに気が合うらしい。ジャスティン少尉が説明を続ける。

 

「おほん、えー。翌4月26日06:00時、当アル・カサス城の受け渡しと惑星守備隊指揮権移譲を行っていただきます。07:00時、我が『SOTS』の全降下船が順次発進し、『SOTS』は惑星ソリッドⅢを撤退いたします。その後の事は、貴部隊に全てお任せします。」

「ありがとう、コールマン少尉。……エステル少尉、メモはきちんと取ったかの?」

「は、はいっ!大丈夫です!」

 

 慌ててメモの内容を再確認するエステル少尉に、その場の雰囲気が和んだ。キースはヴァレンタイン少佐に問う。

 

「ところでアバークロンビー少佐。もうすぐミニバスが来るが、貴官らはどうするね?よければジープで一足先に送るが……。」

「そうですな。自分だけお願いしましょうかの、ハワード中佐。是非中佐の様な、若さに見合わん凄みを持つ人物とは話をして見たいですからの。」

「え゛?若い?」

 

 戸惑った様な声を上げるエステル少尉に、周囲の人間は苦笑を浮かべる。

 

「なんじゃエステル少尉、資料を見ておらなんだか?ハワード中佐は貴官より若いぞ?」

「え、え、えええぇぇぇっ!?」

「あー、その辺でいいだろう。俺は、老け顔を気にしているんだ。あまり突っつかんでくれると、心の底からありがたい。」

 

 げらげらと笑うヴァレンタイン少佐は、ひょいとジープの後席に乗り込む。キースは助手席に、ジャスティン少尉は運転席に乗り込んだ。泡を食った様子のエステル少尉に、ヴァレンタイン少佐は命令を下す。

 

「エステル少尉、わしの命令を他の者に伝達してくれ。降下船要員以外の人員は、順次送迎のミニバスに乗って宿舎へ向かう様に、とな。それと、先ほど説明された、これ以後の予定についても伝達しといてくれ。」

「り、了解!」

「では、わしは一足お先させてもらうでの。」

 

 エステル少尉が慌てて敬礼をした。キース、ジャスティン少尉、ヴァレンタイン少佐は慌てずに答礼を返す。そしてジャスティン少尉がジープを走らせ始めた。

 

 

 

 翌日の昼、惑星公爵私邸にて盛大なパーティーが開催された。『SOTS』『アバークロンビー雷鳴大隊』の全メック戦士、全航空兵が一堂に会した様は、中々壮観な物があった。『SOTS』以外でキースに話し掛けて来る剛の者は、今日も殆どいない。いるとすれば、『アバークロンビー雷鳴大隊』の者ぐらいだ。今日はデイモン大佐も参加していない事であるし。

 そう思ったキースが遠慮なしに食べる物を物色していると、剛の者が少しは居たと見えて、近づいて来る気配がある。そしておもむろに彼に声がかかった。その声に、キースは聞き覚えがある。彼は振り向いた。

 

「こんにちは、ハワード中佐。ダドリー、貴方もご挨拶なさい。この惑星をクリタ家の侵略から守ってくださった立役者ですのよ?」

「こ、こんにちはハワード中佐。えー、あー、本日はお日柄も良く……。」

「新たな労働大臣ともあろう人が、何をやっているのかしら?ハワード中佐は見た目は怖い方ですけれど、理知的なお人ですのよ?」

 

 相手はタチヤーナ財務大臣と、おそらくはその交際相手たる新労働大臣であった。キースは失笑しかけて、流石に失礼なのでなんとか笑いを抑え込む。

 

「こんにちは、バラノフスカヤ財務大臣、それにそちらは……自分の記憶に間違いが無ければ、先日新たに就任したダドリー・スリナッチ新労働大臣ですな?ははは、見た目が強面なのは承知しておりますからね。気にせんで下さい。」

「ど、どうも。タチヤーナからお話は聞かされております。あ、貴方と惑星軍のデイモン・レイトン大佐のおかげをもちまして、ようやくの事でスリナッチ家を自分の手で取り仕切る事が叶いました。」

「貴方がたのお家と惑星政府の今後は、貴方がたにかかっております。頑張ってください。」

 

 キースは可能な限りにこやかに、彼らに話し掛ける。ダドリー労働大臣はその笑みに一瞬後ずさりしそうになって、根性で笑い返して見せた。キースは内心ちょっと傷つくが、まあ今更である、と思いきる。

 彼らとキースはその後2、3の話をして別れた。キースは料理の物色に戻る。ダドリー労働大臣が自分ではこっそりのつもりで安堵の息を吐き、タチヤーナ財務大臣から足を踏まれているのは、礼儀正しく見ないふりをした。

 と、そこで再びキースに声がかかった。声をかけたのは、やはりと言うかオスニエル公爵である。

 

「やれやれ、今日はハワード中佐たちの送別の儀も兼ねていると言うのに……。その主賓に、一部を除いてまともに挨拶にも来ないとはね。ハワード中佐、惑星政府の者たちの無礼を、代わって謝罪するよ。まったく……。」

「これは惑星公爵閣下。いえ、お気になさらず。自分が強面なのは自分で理解しております故に。それにこの強面は、案外役にも立っておりますよ。近寄って来る者たちを篩にかけると言う意味しかり、自分たちの様な稼業では大事な「舐められない」と言うことしかり。」

「プラス思考だねえ。……ハワード中佐、この半年間、君には本当に世話になったよ。心から礼を言う。ありがとう。本当なら頭を下げたいところだけれど、衆人環視の中で私の様な立場の者が、それをするわけにもいかないのが辛いところだね。」

 

 惑星公爵位に就くまでは、一介の学者として市井に身を置いていたオスニエル公爵らしい言い様である。キースは笑みを浮かべつつ、公爵の礼に応える。

 

「はっ。その様なお言葉を賜り、とても嬉しく存じますれば。……堅い言い方になってしまうのは、御寛恕くださいませ。」

「うん、分かってるから大丈夫さ。……さて、名残は尽きないけれど、今度は『アバークロンビー雷鳴大隊』のヴァレンタイン・アバークロンビー少佐とも話をしなくちゃならないし、バラノフスカヤ財務大臣やスリナッチ労働大臣とも話をしておかなくちゃね。

 アバークロンビー少佐とは、できる限り親密な関係を結んでおきたい。それに成り行きとは言え大臣2人はこちら側に付いてくれたわけだし、その見返りについても話しておかなくちゃ。ああ生臭い。ははは。」

「大丈夫です。分かっております故。……理解者がいれば、人は踏ん張れる物です。」

 

 オスニエル公爵は、頷く。

 

「それではこれで失礼するよ、ハワード中佐。……君の武運を祈っている。たとえ何百光年の彼方にいようとも、ね。」

「ありがとうございます……。こちらこそ、惑星公爵閣下の御武運をお祈りしております。」

「うん、ありがとう。……では。」

 

 惑星公爵は踵を返すと、その場を立ち去った。見ると、惑星公爵執事のウィリアム氏が、こちらに深く頭を下げて礼をしている。キースも会釈をしてそれに応えた。

 

 

 

 フォートレス級降下船ディファイアント号の士官用船室を流用した部隊司令室で、キースは船窓より外を眺めていた。既に惑星守備隊の指揮権は『アバークロンビー雷鳴大隊』のヴァレンタイン少佐に移譲し、アル・カサス城の受け渡しも終わっている。後はキースたち『SOTS』がこの惑星を撤退するだけだ。

 と、窓の外に『アバークロンビー雷鳴大隊』第1中隊と第2中隊のバトルメック、及び『アバークロンビー雷鳴大隊』が継続雇用する事にした、これまで『SOTS』第2歩兵中隊であった歩兵たちの姿が見えた。彼らは天空に向け、礼砲としてエネルギー兵器や空砲を発射する。そして歩兵部隊を除く全バトルメックが、その機械の腕で敬礼を行った。

 キースは彼らに見えないのを承知で、答礼を行う。船窓のシャッターが下り、壁に埋め込まれている着席を促す赤ランプが点灯した。キースは着席して、シートベルトを締めてシートを倒す。

 やがて轟音が響いて来ると共に、強烈な縦のGが彼の身体にかかる。ディファイアント号が離着床を離床し、軌道上目がけて発進したのだ。おそらく他の降下船も、次々に離床あるいは滑走路から離陸しているだろう。サンタンジェロ城でも、同様にユニオン級降下船ゾディアック号、同級レパルス号が第2、第4中隊を乗せて発進している頃合いだ。

 こうしてキース率いる混成傭兵大隊『SOTS』は、ライラ共和国惑星ソリッドⅢを撤退し、恒星連邦への帰還の途についたのである。




と、いうわけで、いよいよライラ共和国を旅立って元居た恒星連邦へと帰還いたします。そしてそこでは、親友たるバレロン伯爵ジョナス・バートン卿が待っています。いったい何事があったのでしょうか。ま、悪い事じゃないと良いですねー。


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『エピソード-074 親友』

 惑星ロビンソンのジャンプポイント、天の南極方面にあるナディール点に、3隻の航宙艦がジャンプアウトした。1隻はマーチャント級クレメント号、1隻はインベーダー級イントレピッド号、最後の1隻は同じくインベーダー級ズーコフ号だ。これらの艦は、全て混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』と専属契約をしている。

 その内の一隻、マーチャント級クレメント号の重力デッキでは、『SOTS』部隊司令であるキースと、MRB管理人であるウォーレン・ジャーマン氏が会談を行っていた。

 

「なるほど、『SOTS』は恒星連邦帰還後、しばしの休暇を取るのですね?」

「はい、部隊結成以来まともな長期休暇を取らずに働きづめでしたし。まあ駐屯任務では何事も無い時期もありましたが……。今回の契約満了で、かなり多額の報酬も入って来ますからね。それと、ちょっと休暇中にやりたい事があるのですよ。」

「ほほう。ま、その内容は聞かないでおきましょう。聞いてしまえば、私の立場からして上に報告せねばなりませんからね。ははは。」

「助かります。」

 

 キースは軽く頭を下げる。ウォーレン氏の言い様では、どうやら長期休暇中にキースがやりたい事が分かっている様だ。と、ここでウォーレン氏は長く息を吐いた。

 

「ふぅ……。しかし、もうずいぶんと長くお付き合いしてまいりましたね。『SOTS』が結成以来、ずっと連続して途切れる事無く任務契約を続けていた事で、私も『SOTS』担当を外れる事なく今までまいりましたが……。

 長期休暇を取ると言う事になりますと、私はいったん惑星ガラテアへ帰還する事になりますね。次に再び『SOTS』の担当になれるとも限りません。『SOTS』とて、MRB仲介ではなしに恒星連邦との直接契約になる可能性とてありますからね。特に金銭での契約ではなしに、爵位や領地が報酬の場合などは、その傾向が強いですし。」

「ウォーレンさんには、色々とお世話になりましたね。何と言いますか、もはやウォーレンさんも我々の部隊の一員の様な気がしていましたよ。ですが、これでお別れと決まったわけでもありますまい。自分は『SOTS』を恒星連邦から離れさせるつもりはありませんが、MRBに仕事の仲介を頼まないわけでもありません。

 MRBに仕事の仲介を頼めば、任務管理人の方が派遣されて来るでしょう。それが貴方である可能性とて、無いわけでは無いのですから。」

「まあ、そうですね。それに今すぐおさらばするわけでも無いですし。ジャンプポイントから惑星ロビンソンまで7日、そして『SOTS』の口座に報酬が入金されている事の確認が済むまでは、ご同道させていただくのですから。惑星ガラテア行きの民間の商用貨客降下船に乗るのは、それからです。」

 

 キースとウォーレン氏は、顔を見合わせて笑った。ここでウォーレン氏が席を立つ。

 

「さて、それではそろそろ降下船に移らねばなりませんな。」

「はい、では私は一度ブリッジに上がります。後ほどまた。」

「はい、では。」

 

 ウォーレン氏は降下船連結部の方へと歩み去る。その先には、フォートレス級降下船ディファイアント号がドッキングしているのだ。それを見送って、キースもブリッジへと歩き始めた。

 

 

 

 艦の先端部にある艦橋にキースが辿り着いたとき、クヌート・オールソン副長が声を掛けて来た。彼はおざなりに敬礼をしつつ、用件を語る。キースも適当に答礼を返す。

 

「あ、キース隊長。惑星上の深宇宙通信施設より、メッセージが届いてますよ?」

「む、俺宛か?」

「はい、隊長を名指しですな。差出人は……。ああ、隊長のご友人のバレロン伯です。」

 

 クヌート副長は、通信文を手渡して来る。キースはそれを一読した。

 

(ふむ、「ワクセイロビンソントウチャクゴ、イカノバンゴウヘデンワレンラクヲイタダキタシ。0586-55××××-○○○○。ジョナス・バートン。」……か。「惑星ロビンソン到着後、以下の番号へ電話連絡をいただきたし。」……。本当にジョナスは惑星ロビンソンに来ているんだな。この電話番号からすると、首都ブエラーだな。)

「バレロン伯は、ずいぶん首を長くしてお待ちしていた様ですね。ジャンプアウト直後、こちらが惑星ロビンソンの深宇宙通信施設を通じてロビンソン当局に到着の連絡を入れて幾ばくかもしない内に、そのメッセージが届いたんです。」

「む……。悪いことをしたかな。あ、いや、これ以上急ぎようも無かったんだが。」

 

 ここで黙って聞いていたアーダルベルト・ディックハウト艦長が口を挟む。

 

「さて、そろそろ降下船の切り離し準備にかからねばならんのだろう?急いだ方が良くは無いかね、隊長。」

「おお、そうだな。ありがとう艦長。と言うか、切り離し前に艦長に挨拶に来たのだが。」

「ははは。相変わらず律儀だね、隊長。では……ジャンプポイントへの帰還をお待ちしております、隊長。」

「うむ、了解した。では行って来るよ、艦長。」

 

 アーダルベルト艦長たちとキースは、敬礼と答礼を交わす。キースは0G環境なので宙を泳いで、降下船連結部の方へと急いだ。

 

 

 

 惑星ロビンソンの首都ブエラーに隣接している宇宙港に、今『SOTS』の降下船7隻が綺麗に並んでいた。これらの降下船と宇宙港施設の間を、何台ものバスがひっきりなしに往復して、『SOTS』の隊員たちを運んでいる。なお降下船乗組員たちも、半舷上陸を許可されていた。

 そんな中、キース、大隊副官ジャスティン少尉、自由執事ライナー、MRB管理人ウォーレン氏は、一足先に宇宙港の外まで出てコムスター系の銀行まで出向き、とんぼ返りで宇宙港へ取って返していた。ライナーが笑顔で口を開く。

 

「いや、契約通りの報酬が入っていて安心しましたよ。振り込み途中で事故でもあったらと、確実に受け取るまではやはり安心できませんからな。ははは。」

「わかります。私も万一の事故の場合、抗議の矢面に立たされる立場ですからね。」

 

 ウォーレン氏も苦笑しつつ言う。ウォーレン氏はその手に大きな手荷物を持っていた。あからさまに旅支度だ。キースは眉を顰めて言う。

 

「しかし、大変ですな、ウォーレンさんも。MRBが予約した民間の商用貨客降下船の離床時刻まで、全然間が無いとは。」

「仕方ありませんよ、私は下請けの人間ですからね。振り回されるのは慣れておりますよ。」

「……寂しくなりますな。」

 

 キースは微笑を浮かべ、右手を差し出した。ウォーレン氏はその手を握り、別れの言葉を口にする。

 

「さて、それではそろそろ行きます。また何処かでお会いできるといいですね。」

「はい、今までご苦労様でした。また会えることを願っております。」

「……では。」

 

 ウォーレン氏は宇宙港のゲートを潜った。ポーン、と金属探知機の音がして、ゲートが閉じる。ウォーレン氏は一見慌てずに時計とベルトをはずして、ゲートを潜りなおした。と言うか、時計とベルトをはずし忘れていたのは、降下船の離床時刻がぎりぎりであったため、慌てていたのではないだろうか。何はともあれ、色々台無しだった。

 

 

 

 キースはジャスティン少尉を連れて、首都ブエラーで一番のホテル、ブエラー・ウィルコックスホテルへやって来た。部隊のジープは使わず、ハイヤーを使っている。流石にこれだけの格式高いホテルへ、武装を取り外しているとは言えど傷だらけの装甲ジープで乗り付けるのは気がひけると言う物だ。

 フロントでキースは、ホテルマンを呼ぶ。

 

「ああ、君。自分は本日、ここにお泊りになられているジョナス・バートン大佐とお会いする約束をしている者だが、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐が来たとお伝えしてくれないか?」

「はい、すぐご確認いたします。それでは申し訳ありませんが、確認の間あちらのラウンジでお待ち願えますか?」

「了か……ああ、いや分かった。それでは待たせてもらう。ジャスティン少尉、行くぞ。」

「はっ!」

 

 キースはジャスティン少尉と共にラウンジへ移動し、ソファに腰掛けた。ジャスティン少尉もそれに倣う。待つことしばし、キースの感覚に懐かしい気配が捉えられた。キースは立ち上がり、そちらの方へ微笑みを浮かべて敬礼を行う。あわててジャスティン少尉も、立ち上がり敬礼をした。相手は答礼を返して来る。キースは微笑んだまま、言葉を紡ぐ。

 

「混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令、キース・ハワード中佐。お召しにより、参上つかまつりました。『第9ダヴィオン近衛隊』連隊長、ジョナス・バートン大佐……。伯爵閣下、とお呼びした方がよろしいですかな?」

「どちらでも好きな様に……とか?く、くく……。いや、失礼。だがやめてくれよキース。僕らの間で、それは無いだろう?」

「いや、周囲の部下の方が怖いからなあ。」

 

 キースが苦笑して言った通り、やって来たジョナスの周囲には護衛役と思しき体格の良い――キース程では無いが――男たちがいた。ジョナスは笑って言う。

 

「大丈夫、彼らは部下ではあるが、それ以前に僕の個人的な家臣でもあるんだよ。彼らは君に感謝する事はあっても、怒ったりなんてしないさ。」

「はっ。バレロン伯の仰る通りです。ハワード中佐と『SOTS』がライラ共和国へ行ってくださらなければ、我々は難しい事になるところでした。我々からも御礼申し上げます。」

「ああ、彼は僕の連隊副官のランドル・マッカートニー大尉だよ。」

「自分はランドル・マッカートニー大尉です。よろしくお願いします。」

 

 キースも自分の副官を紹介する。

 

「こちらは『SOTS』の大隊副官、ジャスティン・コールマン少尉。色々役に立ってくれるので、つい頼ってしまうんだ。」

「ジャスティン・コールマン少尉です。よろしくお願いします。」

「かなりできますな、その少年……いやコールマン少尉は。下手をすると……いや、確実に自分よりも強い。」

 

 ランドル大尉の言ったそれは、まぎれもない事実である。歩兵上がりであるジャスティン少尉は、生身での戦闘能力で言えば『SOTS』でも上位3位に食い込む。もっとも同着で3位は、歩兵部隊の現役歩兵に数多くいるのだが。なお彼の上に来るのが、偵察兵のネイサン・ノーランド軍曹とアイラ・ジェンキンス軍曹だ。この2名は互いに一歩も譲らずに、白兵戦1位を争っている。

 照れて赤くなるジャスティン少尉を尻目に、ジョナスはキースの手を取って引っ張る。

 

「しかし、執事のロベールに話は聞いてたけど、でかくなったなあ……。さ、ラウンジじゃなしに僕の部屋まで来てくれ、キース。ここ数年、ろくに会えなかったからね。話したいことが、山ほどあるんだ。」

「わかった。だからそう引っ張るなよジョナス。逃げたりしないからさ。」

 

 ジョナスに引っ張られてその後を付いていくキースは、どことなく散歩に連れ出される大型犬を思い起こさせた。

 

 

 

 ジョナスの宿泊している部屋は、ホテルの一室とは思えない豪華な部屋だった。流石に最高級のホテルだけのことはある。ジョナス曰く、もっと粗末な部屋で良いのだが、家臣たちも自分の立場も、それを許してくれないとの事だった。

 キースはジョナスと2人きりで、ここ数年間の出来事について語り合った。随行してきた各々の部下たちは、別室でもてなされている。ジョナスの執事、ロベール・マクファーソンが淹れてくれた茶を飲みつつ、キースとジョナスは旧交を温め合った。ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーの事に話が及んだ時など、ジョナスは苦笑しつつ言った物だ。

 

「やれやれ、傭兵部隊『ブラックホーク重機動連隊』連隊長のシャロン・カルノー大佐が、近年やけにこちらに接近を試みて来ると思ったら……。その祖父殿がキースを欲しがって、孫娘を嗾けてたってわけかい。」

「ああいや、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノー閣下によれば、シャロン嬢の気持ちに嘘は無いとの事だそうだぞ。俺の言葉が原因で、ジョナスに誤解されでもしたら、申し訳が立たないよ。」

「大丈夫さ。僕はこれでも人を見る目はあるつもりだからね。彼女に裏表の無いことぐらいは理解してるさ。ただ僕は立場が立場だからね、迂闊に彼女の気持ちに応えるわけにもいかないんだよね……。かと言って、拒絶するのも悪手の上に、彼女はいい娘さんだからねえ……。だけど……。」

 

 ジョナスは右手で、左手の袖口を押さえる。その着衣の下に、どんな傷跡が隠されているのかを、キースは知っていた。キースは両手を伸ばし、その大きな掌でジョナスの手を握った。ジョナスはキースの眼を見て、頷く。どうやらそこまで心配はいらなそうだ、と見たキースは手を放した。

 彼らはその後も話を続ける。キースが歴史学者ジョエル・ボールドウィンに資金援助してバトルメックの整備マニュアルを手に入れた話をしたり、惑星ソリッドⅢで手に入った各種技術資料の話をした時などは、ジョナスもそれを欲しがったため、そのコピーを作成して渡す約束もした。無論のことジョナス側が恐縮したため、きちんと適正な価格で買い取ってもらう事になったが。

 またジョナスが惑星ロビンソンに、はるばるやって来た理由も聞いた。ジョナスはロビンソン公にしてドラコ境界域大臣アーロン・サンドヴァルへの、恒星連邦政府からの公式の使者としてやって来たそうだ。キースと会うために、少しばかり予定に手を加えたりもしたらしいが。ちなみに既にアーロン・サンドヴァル公との会見は済んでいるそうだ。

 ジョナスの政敵である、レイディ・ローレッタ・グリフィスの話も出た。彼女はジョナスの張った罠に引っ掛かり、贈収賄その他汚職の証拠を突き止められて、現在はその権勢を大きく削がれているそうだ。だがジョナスは油断してはいない。それを聞き、キースは安心した。ジョナスの話によれば、サルバーン女伯爵、レイディ・ローレッタ・グリフィスは復権を賭けて、カペラ境界域大臣、ニューシルティス公マイケル・ハセク=ダヴィオンに接近しているとの事である。

 

「それは厄介だなあ、ニューシルティス公とは……。噂では仇敵カペラ大連邦国首相マクシミリアン・リャオの外交官を、何度か招いているとも聞くからな。火の無い所にも無理をすれば煙を立てることはできるが、この件に関しては轟々と燃え盛ってるんじゃないかと思うんだけどな。」

「うん、分かってるよ。大丈夫、上手くやるさ。」

 

 キースの心配を、ジョナスは微笑んで流す。キースはそれ以上深く訊くことはしなかった。ジョナスがハンス・ダヴィオン派である以上、ジョナスとサルバーン女伯爵の抗争は、恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンとマイケル・ハセク=ダヴィオン公の暗闘の一部分と言う様相を呈してきている。となれば、今のキースが無理に知るべきでは無い事だった。

 無論キースは、ジョナスの味方であり間接的にハンス・ダヴィオン派だ。だが彼の立場は一介の傭兵部隊の長であり、言ってしまえば政治的には下っ端もいい所だ。その彼が妙に深いところまで知ろうとしては、返ってジョナスの迷惑になりかねない。だからキースは訊くのをやめたのだ。

 ところでキースは、彼が抱えている様々な秘密を、どうやってそれとなくジョナスに流すか苦悩していた。このバトルテック世界に関する未来情報をジョナスに流す事ができれば、ジョナスにとって、そして恒星連邦にとって、非常に大きなアドバンテージになるに違いない。しかし信じさせる方法が無い。流石のキースでも親友に、自分が狂ったと思われる事は避けたいのだった。

 

「どうしたものかね……。」

「まだ心配してるのかい?」

「あ、いや別件だよ。ちょっと悩んでいる事があってさ。まあ大したことじゃないんだけれど。」

 

 これほど壮大な「たいしたことじゃない」事も無いであろう。キースは今のところ、未来に起きることの知識を活用できているとは言い難い。いや、はっきり言ってしまえばできていないのだ。

 

「何だい?話してみなよ。」

「う、む。大したことじゃあ無いんだけどね。間違いなく近い将来に起きる第4次継承権戦争に、どう備えたらいいのかとか、さ。」

「……充分大したことだよ、それは。」

「……む、確かに。」

 

 キースの言葉は真実とは微妙にズレていたが、全くの嘘でも無かった。ジョナスはキースに問いかける。

 

「もしかして、ガラハド作戦かい?」

「ああ。恒星連邦ドラコ境界域ならびにカペラ境界域にて、10個メック連隊と100個歩兵・装甲車輛連隊が参加した総合防衛演習。ただの演習と言い切るには、ちょっと、さ。どこがどう不自然だとははっきり言えないんだけれど、はっきり言わせてもらえば、妙だよ。俺の勘が盛大に警鐘を鳴らしているんだ。

 どこがどう妙なのかも、どう動けば、勘の警告を無駄にせずに済むのかも、見えてこないんだけどね。しかし行き着く先は何とはなしに感じているよ。……第4次継承権戦争だ。」

 

 何となくどころでは無く、キースは3028年8月に、第4次継承権戦争が勃発する事を「知って」いる。恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンとライラ共和国次期国家主席メリッサ・シュタイナーの結婚式の席上で、ハンス国王はカペラ大連邦国に宣戦を布告するのだ。そしてキースは、第4次継承権戦争におけるおおまかな方針もまた、考えてはいる。その戦争において、キースには選択肢は3つあった。

 1つ目の選択肢は恒星連邦の後方、南十字星境界域での守備任務を請け負い、約2年間の戦争中安穏と過ごす事。この選択肢を選ぶことは、実は思ったよりも難しく無い。第4次継承権戦争ではカペラ大連邦国を攻めるために、かなりの部隊がそちら方面へ送られるから、傭兵部隊であっても一定の信用さえあれば、留守番を任される事は可能だろう。だがこの選択肢には、行動のダイナミズムに欠けると言う欠点もある。変事が発生したとき、臨機応変に対処する事が難しいのだ。

 2つ目は志願して、カペラ大連邦国を攻める部隊に加わる事。これはけっこう困難を伴う。傭兵部隊『エリダニ軽機隊』並の強烈な信用がなければ、秘中の秘であるカペラ大連邦国への侵攻作戦を明かされることは無い。

 3つ目はドラコ境界域を護る事。第4次継承権戦争ではキースの前世の記憶によれば、セオドア・クリタと指揮下のヴェガ軍団の手によって、マーダックなど幾つかの重要な惑星が奪われる結果になるのだ。それを全て防ぐことは困難だろう。だが一部なりと防ぐことは可能かも知れない。

 と、ここでキースはジョナスが困っている事に気付いた。ジョナスの地位からすれば、ハンス・ダヴィオンの思惑の一部なりとて知っている可能性もある。すなわちカペラ大連邦国侵攻の計画についてだ。だがいくらキースが親友とは言っても、ジョナスの立場ではそれを話すわけにはいかない。第4次継承権戦争に関する話は、打ち切った方が良さそうだ。

 

「まあ、あくまで根拠の薄い勘の話だからなあ。一応万一に備えてはおくが、笑い話で終わる可能性だって高い。気にしないでくれ。この話はこの辺にしようか。」

「ああ、気にし過ぎない方がいい。けれど、一応万一には備えておいた方がいいかもね。ところで……。」

「ん?」

 

 ジョナスはいきなり話を方向転換した。角度は270度ぐらいだろうか。

 

「キースももう18歳だろう?だれか女性とお付き合いはしないのかい?」

「む……。いや、その件でも少々悩んでいる事があってね。相手から好意を寄せられていることは、何とはなしに感じてはいるんだけれど……。確証は持てないかな。他にもちょっとばかり問題があるしね。」

 

 問題とは、はっきり言ってしまえば相手の年齢の事だ。キースはとりあえず茶を啜る。

 

「ふーん。じゃあ政略結婚の話は持ち出さない方がいいね。」

「んぶっ!」

 

 そしてキースは茶を吹き出しそうになった。

 

「ジョナス……。頼むよ、冗談はよしてくれ。本気だったら、正直困るけど前向きには考えてみるけどさ。」

「おや?さっきの話の彼女はいいのかい?」

「言ったろう?まだ好意を持たれてる完全な確証は無いし、自分の気持ちだって実際妹みたいなもんだよ、今は。それに政略結婚て事は、たぶんジョナスのためになるんだろ?」

 

 ジョナスは笑った。この話は冗談で済ませるつもりの様だ。

 

「あはは、まあやっぱりやめておくよ。キースを困らせるのは嫌だからね。そちら方面では、自由にしてくれていいよ。部下にも釘を刺しとく。」

「そんな動きがあるのかい?」

「想像に任せるよ。あはは。部下と言えば……。」

 

 そしてジョナスは急に真面目な顔になる。キースも表情を引き締めた。

 

「今回の1年に渡るライラ共和国への出向、本当に済まなかった。君のおかげでレイディ・ローレッタ・グリフィスにしてやられずに済んだよ。部下たちが君に頼みに行ったと知った時には、ほんとに驚いたよ。」

「いや、迷惑なんかじゃなかったから、頭を下げないでくれよ。むしろ頭を下げるのはこっちの方だよ。君が『BMCOS』の遺産を俺に相続させるよう工作してくれたおかげで、仇も討てたし『SOTS』はここまで大きく精強になった。

 それに友達を助けることは当たり前だろう?君を助けられなかったら、俺はどうしたらいいんだい?」

「ふふ、その言葉そっくり返すよ。友達を助けることは当たり前、なんだろう?」

「む……。こいつはやられたかな?」

「ふふふ……。」

 

 キースとジョナスは、顔を見合わせて笑う。ジョナスはここで、手をパンパン!と叩く。すかさず執事のロベール氏が、分厚い書類束の入った大封筒を手に入室してくる。

 

「ジョナス様、これでよろしいですかな?」

「ああ、ロベール。ありがとう。……キース、ライラ共和国からボーナスにとんでもない物をもらったって話だったけど、今回の出向の件では恒星連邦政府も、君たち『SOTS』が上げた成果には大変満足しているんだ。と言うわけで、はいこれ。」

「ジョナス、これは?」

 

 分厚い書類束入り大封筒を受け取ったキースは、それを開けた。そして彼は目を丸くする。

 

「D型マローダー1機の権利関係書類と、改装仕様書!?」

「ああ、改装仕様書は他所へ流出はさせないで、部隊内秘にしておいてくれよ?S型バンシーの件で、恒星連邦は『SOTS』がライラ共和国に引き抜かれるんじゃないかって心配してるんだよ。たかが1傭兵部隊ぐらい、両国の友好のためならかまわんだろうと言う意見もあれば、これだけドラコ連合に連戦連勝している部隊は惜しいと言う意見もある。

 その惜しいと思っている者たちを突っついて、今回の出向のボーナスとしてD型マローダーを1機と、改装仕様書をね。改装仕様書付きなのは、D型マローダー1機じゃあS型バンシーのインパクトに敵わないからさ。それがあれば、君の部隊のマローダーをD型にアップグレードできるだろう?それを黙認する意味もあるのさ。

 いや実はD型マローダー1機と、ハチェットマン2機とか言う話も出たんだけれどさ。ハチェットマンは大量投入してこそ意味のある機体だからね。少数引き渡しても喜ばれないって話になってねえ。」

 

 ロベール氏は会釈をすると、退室して行く。ジョナスはキースに向かって言った。

 

「君と君の部隊『SOTS』は、これからどうする予定なんだい?MRB管理人の人物が惑星ガラテアに帰還したのは聞いてるんだけど、そうなると休暇でも取るのかな?」

「ああ。ちょっとばかり長期の休暇を。ただジョナスには言っておこうと思う。上手くすれば降下船が手に入るかも知れないんで、それを発掘に行くつもりなんだよ。長期休暇を使ってね。第1次継承権戦争直前から直後ぐらいの古文書を手に入れたんだ。その古文書は暗号で書かれていてね。解析した結果、降下船の基地がある模様なんだよ。

 上手くすれば、降下船がその中身ごと手に入るかもしれない。骨折り損になるかも知れないけれどね。ちなみに中心領域から少し外れた場所にある様だから、発掘品の権利関係もクリアだね。」

「そうか……。まあ、詳しい事は言えないけれど今恒星連邦では大規模に部隊を動かす準備をしてるから、ドラコ境界域でもカペラ境界域でも、仕事を受けるにはあまり美味しくない状況だからねえ。今の内に長期休暇を取ると言うのは、いい考えかもしれない。」

 

 キースは内心思う。

 

(第2次ガラハド作戦だな。30個メック連隊と200個歩兵・装甲車輛連隊が参加する総合防衛演習。同時期にライラ共和国でも、30個メック連隊と100個歩兵・装甲車輛連隊が参加するトール作戦が発動される……か。

 これらの作戦が、単なる演習であった事から、敵対国家首脳部は油断をするんだよなあ。そこへ降って湧くハンス・ダヴィオン国王とメリッサ・シュタイナーの結婚話。結婚式場でのいきなりの宣戦布告に、電撃的なカペラ大連邦国への侵攻。第4次継承権戦争の勃発……。暢気に発掘とかしていられるのは、今の内しか無いのも事実だよね。)

「キース、発掘頑張ってくれ。骨折り損にならない事を期待してるよ。」

「ああ。ははは、俺の身体に合う冷却パイロットスーツでも発掘されないものかね。」

「それは難しいだろう、あはは。遺失技術を使用したバトルメックよりも、下手をすれば珍しいよ?」

 

 そろそろ随分と時間が経っていた。いい加減、キースも部隊が宿舎として借り上げた安ホテルへ帰らねばならない。

 

「さて、それじゃあ俺はそろそろ帰らなきゃならん時刻だよ。また会えるかな?」

「いや、僕は明日か明後日には惑星ロビンソンを離れないといけないんだ。キースに久々に会いたかったから、できる限りロビンソン滞在を引き延ばしたんだけれど、公用のアーロン・サンドヴァル公との会見はもう終わってるからね。」

「あー、無理をさせたみたいで悪いなあ。わかった。俺はもうしばらくロビンソンへ滞在するから、見送りに行くよ。」

「じゃあ後で出発日時を連絡するよ。それじゃ今日は楽しかった。」

 

 ジョナスは右手を差し出す。キースもその手を右手で握りしめる。彼らは笑い合うと、その手を放した。

 

 

 

 翌々日の連盟標準時08:00時、ジョナスたちの乗るユニオン級降下船が、ゆっくりと離床を開始した。キースはそれを宇宙港の施設より見送っている。キースは先ほどの、ジョナスとの別れの言葉を思い出した。

 

『ジョナス、色々大変だろうけれど頑張ってくれ。何かあったら、すぐ教えてくれよ?宇宙の果てからでも飛んでくるからさ。』

『キースも困った事があったら、遠慮なしに言ってくれよ?キースは自分じゃ気付かずに、遠慮する傾向があるからね。』

(……自分じゃ気付かずに遠慮する傾向、か。今までジョナスをその気なしにやきもきさせてた事もあるかもなあ。注意しなくっちゃな。)

 

 キースはジョナスのユニオン級が、空の彼方に見えなくなるまで見上げていた。




ウォーレン氏とは、ひとまずここでお別れです。もしかしたらまたしばらく後に、出て来るかもしれませんが……。
そしてジョナスとの再会!主人公、引っ張られて行くおとなしい大型犬のごとし。実際、そんなもんですけどね。そして怒らせると怖いのも、いっしょですねー。


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『エピソード-075 母校への訪問』

 親友バレロン伯爵ジョナス・バートン卿が惑星ロビンソンを出立してから2日後、キースはヒューバート大尉にジーン中尉や、アラン・ボーマン中尉、ジェラルド・ハルフォード中尉、アルマ・キルヒホフ中尉と言った、ロビンソン戦闘士官学校卒業の士官たちを連れて、いつものジャスティン少尉を運転手にしてロビンソン戦闘士官学校へと向かっていた。流石に部隊にいる卒業生全員を連れて来るわけにもいかず、本日の人選は運転手ジャスティン少尉含め、この7名となっている。

 運転手にサイモン老を選ばなかった理由は、サイモン老が忙しいからである。現在サイモン老は、第1中隊火力小隊『機兵狩人小隊』のマローダーをD型に改装する作業の準備を、彼の弟子たちと共に総掛かりで行っていた。ジョナス・バートンからキースがもたらされた改装仕様書、及び受領したD型マローダー実機を調査した結果、現在部隊にある部品の他に幾つか他所に発注する必要のある部品が存在する事が判明。だが発注部品の数は決して多く無く、すぐにでも改装作業を開始できるとサイモン老は張り切っていた。

 まあそれはともかく、彼らの乗るレンタカーのミニバスは、適切な速度でロビンソン戦闘士官学校の門を潜って行く。キースは久しぶりに訪れる母校に、しみじみとした感慨を抱いていた。

 キースたちは駐車場に停まったミニバスを降りると、本棟に向かい歩き出す。本棟に辿り着くと、キースは受付に足を運んだ。受付の兵が、キースの階級章に気付き敬礼を送って来る。キースは答礼を返すと言った。

 

「俺は混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令、キース・ハワード中佐だ。だが本日は単に、このロビンソン戦闘士官学校卒業生として、かつての教官レオ・ファーニバル中佐に面会に来ただけだ。面会予約の連絡は入れてある、確認してくれ。」

「えっ!あ、あのキース・ハワード中佐!?あ、いえ失礼しました!ただ今確認いたします!」

(……「あのキース・ハワード中佐」?たしかに在学中はトップクラスの良い成績を取ったが、逆に言えば同期で1位とは言えなかったし……。)

 

 キースは怪訝に思う。彼は「あの」とまで呼ばれるほどの成績を、このロビンソン戦闘士官学校在学中に上げた記憶は無かった。少なくともそう思っていた。まあだがしかし、キースは総合トップこそ逃したものの、幾つかの科目でトップは取ってはいた。教官機を相手取り1対1戦闘で撃破判定を取ったのも、同期生たちを指揮して教官機チームを判定敗北に追い込んだのも、同期の中ではキースを除いて存在しない。ましてやキースは同期で最年少の上、年齢に似合わない巨体と老け顔で有名人だった。

 だがそれでも在学中は多少噂になれど、卒業してかなり経つ今もなお、「あの」とまで呼ばれるのはいくら何でもおかしいと言う物だ。ここでヒューバート大尉とジーン中尉の2人が、アラン中尉、ジェラルド中尉、アルマ中尉の方へ目を向ける。ヒューバート大尉がぽつりと言う風情で問い掛けた。

 

「……お前ら、いや貴官ら何かやったか?たとえば、うちの部隊にメック戦士として雇用が決まった時、嬉しさのあまり触れ回ったとか?」

「あ、いえ……。」

「触れ回ったと言う程では無いのですが……。」

「親しい友人には、少し……。」

「なるほど……。帰るべきメック部隊が壊滅した、たった1人のメック戦士候補生。それが当時自分の乗機であったわずか1機のグリフィンから、復讐相手から奪われたバトルメックを奪還して、あっと言う間に大隊規模にまで部隊を拡大して見せた。見事な成功譚……いや、英雄譚か。ああ言った反応も、理解できると言う物か。」

 

 ジーン中尉の笑みを含んだ台詞に、キースは内心引き攣る。キースは自分が為した事を、それほど誇ってはいない。それは幾多の幸運と、仲間たちの助けによって為し得た事であり、自分1人でやった事では絶対に無いからだ。

 そこへ受付の兵が、声を掛けて来る。

 

「お待たせしました、ハワード中佐。ファーニバル中佐と連絡が付きました。司令官ディビット・サンドヴァル大佐の執務室にて待つとの事であります。」

「司令官執務室で?了解した。」

 

 受付の兵の敬礼に答礼を返し、キースたちは本棟GF、つまりはこの建物のこの階にある司令官執務室へ向かう。ヒューバート大尉が言った。

 

「……てっきり面会室で会う事になると思ったんですがね。しかも司令官執務室ですか。当然ながら司令官殿も同席されるんでしょうな。」

 

 ヒューバート大尉の額に、汗が流れている。いや、キース以外の士官たち全員が、額に汗していた。この戦闘士官学校に直接かかわりの無い、運転手として来ただけのジャスティン少尉すらも、緊張のあまりに冷や汗を流していた。内心ではキース自身も緊張はしていたが、これまで各惑星の惑星公爵などと接してきた経験が活きたのか、彼らほどでは無い。

 やがてキースらは、時折すれ違ったメック戦士候補生らが敬礼するのに答礼を返しながら、司令官執務室前へ到着する。ちなみにすれ違った候補生たちは、すれ違った後に充分離れてから、何やらキースたちの方を振り返りつつ、ぼそぼそと言葉を交わしている様だった。とりあえずキースは気にしない事にして、司令執務室のインターホンを鳴らす。すぐに応答が返って来る。

 

『誰かね?』

「本日、レオ・ファーニバル中佐とお約束をしておりました、混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令、キースハワード中佐以下7名です。受付で確認を取ったところ、こちらへ出向く様に言われました。」

『おお、待っていた。入室を許可する、入りたまえ。』

 

 キースは扉を開けて司令執務室へ入室、その場にいる2人の男に対し敬礼を送った。キースの部下たちも、それに倣う。2人の男、レオ・ファーニバル教官……中佐と、ロビンソン戦闘士官学校司令官ディビット・サンドヴァル大佐は、答礼を返して来た。ディビット大佐は答礼を解くと、おもむろに口を開く。

 

「久しぶりだな、キース・ハワード候補生……いや、中佐。貴官と直接会ったのは数えるほどでしか無いが、貴官の事は未だに印象強く記憶に残っておるよ。……?……あの頃より、更に背が伸びたかね?」

「はっ!もはや今ではスティンガーには搭乗不可能かと存じます。」

「当時も、訓練用のスティンガーに貴官を押し込むのには苦労した物だったがな。」

 

 ディビット大佐の隣に立つレオ中佐が、にやりと笑いながら言う。レオ中佐は続けて問い掛けた。

 

「連れて来たのは、ヒューバート、ジーン、アラン、ジェラルド、アルマだけか?エリーザベトにハーマン、ルートヴィヒはどうした?」

「はっ。部隊の基幹将校を流石にそうごっそりと連れて来るわけにも行かず、本日は留守番です。」

「そうか……。奴らはどうだ?ああ、いや。そこにいる者たちも含め、紹介した連中は役に立ってるか?」

 

 レオ中佐の重ねての問いに、キースもまたにやりと笑って答える。

 

「彼らのおかげで、『SOTS』は今まで不敗を貫いてこれました。事に比較的初期段階で『SOTS』に参加してくれたヒューバート大尉がいなければ、今の自分はありませんよ。本日まいりましたのも、彼らを紹介してくれた事のお礼を申し上げるためです。

 教官、いえレオ中佐、良い人材を紹介していただき、本当にありがとうございました。」

「そうか……。役に立てたならば、かつての教官としてこれほど嬉しい事は無いな。ところでヒューバート、キースの言葉は真実かな?」

「はい、いいえ、キース中佐の話は褒め過ぎですね。キース中佐自身に危ない所……指揮下の中隊が半壊したところを救われた事も、ついこの間ありました。役に立って無いと言うつもりもありませんが、あまり持ち上げられるのも気恥ずかしい物があります。」

 

 ヒューバート大尉の率直な物言いに、レオ中佐もディビット大佐も思わず失笑する。一方キースを含むロビンソン戦闘士官学校卒業生たちは、かつての教官であるレオ中佐の柔らかい対応に、違和感を禁じ得なかった。今のレオ中佐は、「狂い獅子」とまで呼ばれた厳しい教官では無かったからだ。彼らは自分たちが戦闘士官学校を既に卒業した身分であると、今更ながらに感じ取る。

 ディビット大佐が、唐突に話を変えた。

 

「ところでそちらの少尉を紹介してはくれんのかね?」

「これは失礼いたしました。この者は自分の副官で、ジャスティン・コールマン少尉です。メック戦士ではありませんが、生身での戦闘能力は『SOTS』でも指折りで、自分のボディーガード役もこなしてくれております。」

「ジャスティン・コールマン少尉です!以後お見知りおきください!」

 

 ジャスティン少尉は、声を張り上げる。キースの副官であると言う意識が彼自身の認識を変えたのか、彼はお偉方の前でも必要以上に委縮する事は無くなっていた。……緊張はしていたが。だが彼は委縮はしないが、礼儀も忘れたりはしない。キースや『SOTS』の体面に泥を塗るまいと、彼はこう言った方面でも努力を忘れてはいなかった。

 ディビット大佐も、レオ中佐も柔らかく微笑む。レオ中佐はしみじみと言った。

 

「そうか……。キースの事をしっかり支えてくれよ。アラスターの様にはならん様にな……。」

「……?……教官、いえレオ中佐。アラスターとは、アラスター・アンダーヒル候補生の事でしょうか?ああ、いえ。今はとっくに任官しているのですから、候補生ではありませんでしたね。」

 

 アラスター・アンダーヒル候補生は、キースやヒューバート大尉と同期の人間だ。アラスターは幾つかの科目でキースにトップを奪われたものの、総合トップの座を守り抜いた俊英である。レオ中佐は、キースに答えた。

 

「うむ。アラスターは、今は少佐だ。……二階級特進して、な。」

「……そうですか。奴が……。」

「勇敢な最期ではあったと聞いている。ただしある意味では愚かでもあった。ドラコ連合ゲイルダン軍管区、惑星デラクルーズへの奇襲任務において、奴の率いる小隊を含んだ中隊は任務を達成したにも関わらず、更に戦果を拡大しようと欲した。奴もそれに賛成票を投じたと聞く。

 結果、無理をした奴の所属する中隊は壊滅。奴は賛成票を投じた事に責任を感じたのか、奴とその小隊は残存した味方を逃がすために、自ら捨て駒となった。奴の小隊員たち、それに奴の物を含む小隊のメックは身代金交換で戻って来た。だが奴自身は戦場で奮戦したあげく、ライフルマンの操縦席を粒子ビーム砲で焼かれて死んだよ。」

 

 キースとヒューバート大尉は瞑目する。候補生時代のアラスター・アンダーヒルは、キース他数名の成績優秀者を何かとライバル視しており、キースとは性格の相性もあまり良く無かった。キース自身はあまり成績の順位に頓着しない事もあり、突っかかってくるアラスターを特に相手にしていなかった。そのため、余計にアラスター側ではキースを気に入らなかった物と思われる。

 ヒューバート大尉がぽつりと漏らす。

 

「アラスターは、卒業試験の総合順位でキース他数名の、奴曰くライバルからトップの座を守り切った事で、大いに喜んでいた物だったけどなあ……。ちょっとばかり高慢ちきなところはあったが、そこまで悪い奴じゃなかった。」

「……死んだ奴は、誰だって「良い奴だった」だ。皆、その「失われた幾多の可能性」を惜しむ物だ。だが残された者は、それだけではいかん。逝った者のあら捜しになるやも知れんが、原因を究明し、二の轍を踏まん様にせねばならんのだ。

 伝え聞くところによると、アラスターは卒業後もキースの事を何かと気にしていた様だ……悪い意味でな。キースが士官を紹介して欲しいと言って来たのは、大尉として中隊を率いていた頃だったな。アラスターは自分に負けたはずのキースが、自分より先に大尉になった事をどこからか聞き込み、焦っていた様だ。」

 

 ロビンソン戦闘士官学校教官であるレオ中佐は、卒業生などを通じて非常に広い情報網を持っている。かつて『SOTS』入隊前のヒューバート大尉が経済的な窮地に陥っていた事なども、彼はしっかりと掴んでいた物だ。キースはアラスターに関する話を聞き、やりきれない思いを抱いた。

 

「……そんな顔をするな、キース。貴官はアラスターの遺した教訓を無駄にせず、貴官と部隊を生き残らせる事を考えればいいんだ。」

「その通りだ、キース中佐。アラスター少佐の件はたしかに残念ではある。されど貴官に責のある事では無いのだ。貴官自身には性格から言ってその心配は無いであろうが……。ヒューバート大尉、ジーン中尉、アラン中尉、ジェラルド中尉、アルマ中尉……。貴官らも妬心には注意せよ。健全なライバル意識は良い物だが、妬心は容易く判断を狂わせる。」

 

 レオ中佐、ディビット大佐の言葉に、キースたちは力強く頷いた。

 

「「「「「「はっ!」」」」」」

「それで良い。……ところでな、キース中佐。少しばかり訊ねたい事があるのだが。」

「はっ!何でしょうか大佐殿。」

 

 ディビット大佐は、ずばりと本題を口にする。

 

「今期の卒業生を何人か、雇用してもらえんかな?バトルメックを継げない者の中で、貴官に仕えたいとレオ中佐に嘆願してきた者がおるのだよ。貴官は母校のメック戦士候補生たちの間で、一躍時の人になっているのだ。一族の予備メック戦士として部屋住みの飼い殺しになるよりは、僅かな可能性に賭けたいのだろう。

 それとな……。自分のバトルメックを持っておる者の中にも、帰るはずの部隊が破産して解散してしまった者がおってなあ……。」

「このままではそいつらは、将来的に悲惨な目に遭うだろうからな……。奴らはフリーの傭兵になる事を覚悟しているが、成功できるのはほんの一握りに過ぎん。正規軍に入ろうにも奴らには伝手が無い。なんとか助けてやってはくれんか?」

「……いったい何人いるのですか?現状受け入れ可能な人数には、限界があります。」

 

 キースはレオ中佐の言葉に、できる限り平静な声で質問を投げかけた。レオ中佐は答える。

 

「バトルメックを持たない者が4名、バトルメックを持ってはいるが帰る部隊が無い奴らが2名。計6名だ。」

「レオ中佐、教官としての目で見て、その6名はどうです?」

「まだ甘いが、訓練と実戦で絞れば使い物になるだろう。最低限使い物にならん程度の者は、元より自分が卒業させん。1、2度死線を潜れば一人前にもなれるだろう。……アラスターの様に、人生その物から最後の「卒業」をしなければ、な。その6名は、きちんと卒業見込みの者ばかりだ。」

 

 今の時期は既に最終試験も終わっており、その発表を待つばかりだ。そして教官が「卒業見込み」と言ったからには、卒業は間違いないだろう。キースは少しばかり考えた後、おもむろに口を開く。

 

「……一応その6名の書類を見せていただけますか?それで問題が無ければ、『SOTS』で受け入れましょう。」

「かまわんとも。少し待ちたまえ。……ああ、庶務課かね?こちらは司令官執務室だが……。」

 

 ディビット大佐は内線電話を使い、候補生6名の考査票や成績表、身上調書など関係書類を取り寄せる命令を下した。電話を切ると、ディビット大佐は再度キースに向き直る。

 

「これで間も無く書類が届く。」

「ありがとうございます。ジャスティン少尉、帰ったら宿の予約延長が可能か交渉してくれ。駄目だったら、別の宿を手配せねばならん。予定では、明々後日には惑星ロビンソンを出立する予定だったからな。卒業式の後まで出発を延ばさねばならん。

 ああ、それと宇宙港の離着床とレパード級格納庫の使用期限延滞願いも、宇宙港の当局に提出せねばならんな。その手配も忘れずに頼む。」

「了解です。」

 

 ジャスティン少尉が予定を書き込んだ手帳を取り出し、修正を加えて行く。ディビット大佐が、安堵の表情を浮かべた。

 

「いや、感謝するキース中佐。どうかね、卒業式に来賓として参列し、祝辞でも述べてはくれんかな?」

「申し訳ありませんが、その儀はご勘弁下さい。今の自分は確かに成功者に見えるかも知れませんが、実のところメック戦士としては未だ若輩ですからね。技量自体は充分あると思っていますが、それ以外の部分でまだまだです。」

「……候補生時代とかわらず、謙虚だなキース。中佐になったと言うのに……。ヒューバート、こいつは未だにこの調子で、自分を過小評価する癖が抜けていないのか?」

 

 レオ中佐の質問に、ヒューバート大尉は頷く。

 

「はい。大尉から少佐に、少佐から中佐に昇進するときでも、周囲の者が強く勧めなければ昇進しなかったでしょう。それでも最近は、少しは改善の兆しが見て取れますよ。」

「ほう?実戦に揉まれて、多少は悪癖もなんとかなってきたか。」

「悪癖……。」

 

 キースは唖然とする。レオ中佐はにやりと笑って言った。

 

「悪癖だろう。敵を過小評価したりしない姿勢は、評価できる。しかし自身が行った成果を過小に見積もるのは、敵に与えたダメージを見誤る危険があると言う事でもあるのだぞ?」

「……ヒューバート大尉からも、以前似た様な忠告を受けた事があります。それ以来、注意する様にはしておりますが……。いえ、確かに悪癖かもしれませんね。」

「かもしれないじゃない、確実に悪癖だ。」

 

 キースはぐうの音も出ない。まあ、これもキース自身が言う通りに、彼が未だ若輩故だと言う事なのだろう。幸いなことに、そこへ先ほど要求した書類が届いたらしく、インターホンが鳴る。ディビット大佐が机上のインターホンを操作した。

 

「誰かね?」

『庶務課のアネッテ・フルトクヴィストです。先ほど電話で申し付かった書類を持ってまいりました。』

「うむ、入室を許可する。」

 

 落ち着いた細身の中年女性事務員が、書類ケースを持って入室して来る。彼女はそれを執務机の上に置くと、ドアの脇まで下がって待機した。おそらく用事が終わったら、彼女が持ってきた書類をそのまま庶務課まで持って帰るのだろう。ディビット大佐が書類ケースを開け、中身をキースに手渡す。キースは手際よく書類を確認して行った。

 

「オスカー・ノールズ候補生、ロジャー・マッコイ候補生、ジョーダン・アディントン候補生、テリー・オルコット候補生、イルヴァ・セルベル候補生、カーラ・カタラーニ候補生の6名ですか。

 ふむ、その内イルヴァ・セルベル候補生が55tグリフィンを、カーラ・カタラーニ候補生が65tサンダーボルトを所有している……。なるほど、男女差別をするつもりは無いですが、女性ではなおさらフリーの傭兵は事情が厳しいでしょうね。軍隊と言う男社会では、女性蔑視が歴然としてまかり通っている。

 技量は……各自が卒業間近ならば、この程度あれば充分でしょう。経験を積ませれば、伸びて行くでしょうね。それより大事なのは人格面です。ふむ……。入学初年度には、各々が色々とやらかしてますね。ですが既にきちんと矯正されている様だ。なまじな無菌培養の優等生よりも安心できますな。」

「キースは初年度から何処か達観していて、風紀上では問題1つとて起こさなかったからな。逆に良い子ちゃん過ぎて、モノになるのかと心配したが……。逆だったと言う事が、ある時その目を見てわかった。貴官はそう言うところを、既にとっくの昔に通り抜けて来ていたのだよな。

 ちなみに長距離行軍訓練にて、放熱器の中にヤカンを置き忘れた時は怒鳴ったが、貴官でも抜けたところはあるんだと安心した覚えがある。」

「……教官。いえ、レオ中佐。自分から部下にバラして、緊張を解くのに使おうと思っていたネタを1つ、潰さんでいただけませんか?少なくともここにいる部下の前では、それが使えなくなってしまいました。」

「これは失礼したな、くくく。」

 

 キースの抗議を、レオ中佐は笑って軽く受け流す。キースも苦笑し、そして真面目な顔になって言った。

 

「この6名、『SOTS』で受け入れましょう。幸い予備メックが、彼らのうちメックを持たない者に行きわたるだけの数、部隊に存在します。メックを持たない者には、それを貸与いたしましょう。ディビット大佐、彼らへの通知はお任せしても?」

「うむ、それは任されよう。連絡先は、先日面会予約の電話をもらった時に教えてもらった電話番号で良いかね?」

「いえ、宇宙港経由で我が部隊の降下船、フォートレス級ディファイアント号に願います。おそらく……いえ、間違いなく卒業式前後は出立の準備で宿を引き払い、降下船に行っておりますから。ジャスティン少尉、宇宙港の電話番号と、ディファイアント号の通信コードを。」

「はっ!宇宙港の電話番号は、0586-77××××-○○○○、ディファイアント号の今週の通信コードは……。」

 

 ジャスティン少尉は口頭で電話番号や通信コードを読み上げると共に、メモパッドを取り出して書き付けた。レオ中佐がそのメモを受け取り、ディビット大佐に渡す。

 

「うむ、確かに。ああ、フルトクヴィスト君。この書類を庶務課まで戻してくれたまえ。」

「はい、大佐殿。では失礼いたします。」

「うむ、退出を許可する。」

 

 庶務課の女性事務員が、一礼をして部屋を出て行く。ディビット大佐はそれを見送ると、キースに向かい言葉を発した。

 

「さて、これから後、キース中佐たちは何か用事でもあるかな?」

「いえ、特には……。このまま乗って来たミニバスで宿へと帰るつもりでしたが。」

 

 ちなみに宿に帰ったら、キースとジャスティン少尉はそのまま宇宙港の離着床にある、フォートレス級降下船ディファイアント号の士官用船室を流用した部隊司令室に行き、各種書類仕事を済ませるつもりだ。5月末のロビンソン戦闘士官学校卒業式後まで出立を伸ばさざるを得なくなったため、宇宙港の降下船を停泊させておく各施設の使用期限延滞願いなどを作成せねばならない。また、予定が延びたために各降下船乗員の半舷上陸期間を再度調整せねばならなかった。

 だがディビット大佐はにんまりと笑うと、キースに言う。

 

「ならば候補生たちの訓練の様子でも、我々と共に見にいかんかね?」

「はっ。では御供させていただきます。」

 

 予定が無いと言ってしまった以上、断るわけにも行かない。しかも相手はディビット・サンドヴァル大佐だ。ドラコ境界域全体の指揮官、大臣アーロン・サンドヴァル公の次男である。嫌だと言うわけにもいかなかった。まあ嫌なわけでも無かったが。

 

 

 

 そして連盟標準時で15日後、フォートレス級降下船ディファイアント号の部隊司令室で、キースは急遽『SOTS』に雇い入れた、6人の新任士官の任官を行っていた。キースの傍らでは副官ジャスティン少尉が、新任士官たちに渡す辞令と階級章を用意してくれている。

 

「オスカー・ノールズ、本日この時をもって君を少尉とし、新設の訓練中隊所属とする。この辞令と階級章を受け取りたまえ。貴官には55tシャドウホークが貸与される。」

「はっ!謹んで拝命します!」

「ロジャー・マッコイ、ただ今をもって君を少尉とし、新設の訓練中隊に配属する。これが辞令と階級章だ。貴官に貸与されるのは55tウルバリーンだ。」

「はい!謹んで拝命いたします!」

「ジョーダン・アディントン、今日この時より君を少尉とし、新設の訓練中隊所属とする。辞令と階級章を。貴官には45tフェニックスホークが貸与される。」

「はっ!謹んで拝命いたします!」

 

 男性3名が終わった後は、女性3人組の番だ。

 

「テリー・オルコット、本日たった今から君を少尉とし、新設の訓練中隊配属だ。この辞令と階級章を。貴官に貸与されるのは、45tD型フェニックスホークだ。」

「謹んで拝命いたします。」

「イルヴァ・セルベル、今この瞬間より、君は少尉だ。貴官は新設の訓練中隊に配属される。この辞令と階級章を受け取りたまえ。」

「はいっ!つ、謹んで拝命いたします!」

「カーラ・カタラーニ、ただ今より、君を少尉とする。他の皆同様に、貴官は新設の訓練中隊に配属となる。辞令と階級章を受け取る様に。」

「はっ!謹んで拝命いたしましゅ!」

 

 最後に約1名ばかり台詞を噛んだが、皆何も言わずに流してやった。当人からすれば、突っ込まれた方が楽だったかも知れないが。キースは6名を睥睨し、言葉を紡ぐ。

 

「ようこそ諸君、我が部隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』へ。今日この日、この時、この瞬間より、この部隊が貴官らの家であり、隊員は家族で同胞だ。貴官らの家族は、皆が貴官らを守ってくれる。だから貴官らも全力で家族を守れ。貴官らの背中や脾腹はかならず家族の誰かが守ってくれている。貴官らも家族たちの背中や脇腹を、それを狙って来る者たちから守り抜くんだ。……できるな?」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

「よろしい。言っておくが、ロビンソン戦闘士官学校の卒業はゴールでは無い。スタートラインだ。貴官らは今までスタートラインにすら立てていなかったのだ。メック戦士になる事は、目標ではなくスタートでしか無かった事を、諸君はいずれ思い知るだろう。もっとも、最初から士官であると言うだけでも、多少は有利なスタートラインなのだがな。

 最初は既に実戦を経験した者たちとの、あまりの力量の差に、自信を失うやも知れん。だが腐る事は無い。貴官らと彼らはスタート時点では、同じ程度の力しか持っていなかったのだ。貴官らの素質は決して彼らに劣る物では無い。時間と経験、そして日々の訓練が全てを解決してくれるだろう。」

 

 キースは彼らの眼前を、ゆっくりと左に右にと歩く。そしてキースは彼らに再度向き直った。

 

「貴官らには期待している。俺だけでは無い、『SOTS』全てが諸君に期待しているのだ。……それを重いと考えるか、それを力と為すかは諸君しだいだ。だができるなら、潰されずにいつか花開いて欲しい。……以上だ。解散!」

 

 新任少尉6名は敬礼をし、キースは答礼を返す。新任少尉たちはそのまま部隊司令室を退出して行った。キースは執務机の椅子を引き出して、それにそれに身を預ける。ぎしり、と椅子が軋み、慌ててキースは体重をかける位置を調整した。筋肉は脂肪の3倍の重さがあるので、筋肉達磨のキースはとても重い。

 キースは言葉を吐き出す。

 

「やれやれ、一段落ついたな。」

「ですね。」

 

 ジャスティン少尉が小さく笑う。キースは執務机の引き出しから、数枚の書類を引っ張り出した。

 

「さて、いよいよ明日出発だな。」

「そうですね。いよいよですか。」

「宝探しか……。ちょっとわくわくするな。」

 

 キースが引っ張り出した書類は、例の古文書に隠された暗号の解読結果だ。それには恒星パールクを中心とする星系のジャンプポイント座標、及び星系内にある惑星の座標――おそらくは第4惑星だからパールクⅣとでも言うべきか――が記されている。更にはその惑星内の幾つかの地理座標と共に、「降下船基地?」「水浄化施設」「詳細不明」「詳細不明」と言った文字が書き込まれてもいた。

 またこの星系内には他にも遺物が存在するらしく、惑星パールクⅣ以外の星系内座標が別個に書き込まれていた。ただしこれも「詳細不明」の文字が躍っている。

 

「色々詳細不明だが、もし降下船だけでも手に入れば大儲けだ。積み荷と言うか、搭載機まであれば、もっと言う事は無いが。……だが、この発見を隠した人物が「クリタ家を打倒する力にならんことを祈って」なんて書き残しているからには、何かしら重要な発見があると思うんだがな。」

「夢が広がりますね。生のゲルマニウム2000~3000tって言うのはどうです?」

「金に換えるルートに困るな、それだと。だがそれだけの財力があれば、たしかに強力なメック部隊をいくつも雇えるだろうなあ。ドラコ連合に雇われている傭兵メック部隊を引き抜きするのにも使えるだろうし。」

 

 なんだかんだ言って、行ってみるしかないのだ。もしかしたら、発掘済みの遺跡がぽつんとあるだけかも知れない。だが、予想もつかないレベルの物が隠されている事だってあり得るのである。キースの胸は少年の様に踊った。いや、実際少年なのだけれど。キースの意識は、数百光年の彼方に飛んでいた。




ごめんなさい。戦タヒによる二階級特進が、海外とかでは一般的でなく、日本独特の風習っぽかった事、知りませんでした。ですがあえて今回、そこは修正しておりません。


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『エピソード-076 惑星パールクⅣ』

 ベルダール星系の天の北極方面ゼニス点ジャンプポイントで、ジャンプ帆を張って停泊――この星系には、補給ステーションは存在しなかった――していた3隻の航宙艦が、その直径1km弱から1km強のジャンプ帆を畳み始める。どうやら中核装置へのエネルギー補給が終了した模様だ。この3隻の航宙艦はジャンプ帆を畳み終えると、次々に超空間へ突入して最長距離ジャンプに入った。

 そしてこの3隻はパールク星系のジャンプポイント、ゼニス点で一斉にジャンプアウトする。そして3隻はゆっくりと恒星パールクへと艦首を向けると、その巨大なジャンプ帆を展開し始めた。その内の1隻、マーチャント級クレメント号のブリッジでは、混成傭兵大隊『SOTS』部隊司令たるキースが今しがた、重力デッキより上がって来たところである。

 アーダルベルト・ディックハウト艦長以下ブリッジ勤務の面々は、敬礼と笑顔でキースを迎えた。キースも答礼を返す。アーダルベルト艦長は主スクリーンを指さしながら、キースに話し掛けた。

 

「隊長、あれを見てごらんよ。この星系の補給ステーションだ。だが太陽エネルギーを受けてコンデンサーにチャージするための「帆」がずたずたに破れてしまっている。既に動いていない模様だね。」

「む……。だが補給ステーションが、かつてこの星系にあったと言う事は、ある意味期待大だな。そうだな……もしかしたらあの補給ステーション自体にも、何かいい物が残っているかも知れん。」

「それはこっちで、イントレピッド号のイクセル艦長や、ズーコフ号のヨハン艦長と相談して調査するよ。隊長たちは、惑星……パールクⅣ、でいいのかな?それの調査をしっかり頑張りたまえ。ところで星系内にある、惑星パールクⅣとは別座標のポイントには、まだ調査隊を送り込まないんだったね?」

 

 アーダルベルト艦長の台詞に、キースは頷く。

 

「ああ、とりあえずは惑星パールクⅣの調査をざっと済ませてからだな。それが済んだら、降下船を1隻派遣してそこを調べる。おそらくは宇宙基地か何かがあるんじゃないかと思うんだが……。だとすると、そこはそこで宝の山だな。……既に誰かに発掘されていなければ、だが。

 さて、それではちょっと行って来る、艦長。」

「うむ、頑張ってな。それでは……ジャンプポイントまで、ご無事のお戻りを願っております、隊長。」

「うむ。」

 

 敬礼してくる艦長たちに答礼を送り、キースは宙を泳いで降下船連結部へと向かう。これよりこのクレメント号にドッキングしているフォートレス級降下船ディファイアント号を切り離し、キースたちは惑星パールクⅣへと降下するのだ。

 そしてフォートレス級降下船ディファイアント号が、マーチャント級航宙艦クレメント号より切り離される。それとほぼ同時に、インベーダー級航宙艦イントレピッド号、ズーコフ号から、ユニオン級降下船3隻とレパード級降下船3隻が切り離された。そして各降下船は、惑星パールクⅣに向けて1G加速で降下を開始したのである。

 

 

 

 連盟標準時で8日後、『SOTS』の降下船群は惑星パールクⅣの軌道上に到達した。キースは降下船ディファイアント号のブリッジに上がり、船長や副長に問いを投げかけているところだ。

 

「……つまりこの惑星は、第1次か第2次の継承権戦争の際に、散々に叩かれたらしい、と?船長。」

「はい、部隊司令。惑星首都や主要都市と見ゆる場所を軌道上から望遠観測いたしましたが、酷いもんです。生々と軌道爆撃の跡が、各々の都市の市街地中心部に残ってますな。一部では地形が変わる程叩き込まれた様で。これでは当時都市部には生存者はおりますまい。」

「そればかりでは無いよ、中佐。」

 

 そう言ったのは、いつの間にかブリッジに来ていた惑星学者ミン・ハオサン博士だ。彼はブリッジの一画を占領して、色々と何やら作業をしている。

 

「核兵器も遠慮なしに使われた様だね。大半は雨で流された様だが、ごく一部の地域からは弱い放射線が観測されておる。BC兵器はわからんがね。」

「使われた可能性を鑑みて、メック以外で船外に出るときは、劣悪環境スーツの着用を推奨するとしましょう。ありがとうハオサン博士。」

「いやいや。しかし、第1次や第2次の継承権戦争はひどいもんだねえ、中佐。軌道爆撃も核兵器も、アレス条約違反なのに。」

 

 アレス条約がようやくまともに守られる、と言うか表立って破られる事が無くなったのは、第3次継承権戦争からだ。あまりに巨大な被害に各継承国家が音を上げて、これ以上の戦争による文明後退を避けるため、アレス条約を守る様になったのだ。無論こっそり生物兵器の開発を行うなど、裏では条約違反をしている継承国家は多いはずだが、少なくとも表向きにおおっぴらに破る事は無い。なお破った実行犯は無法者とされて、法の加護の外に置かれてしまうばかりか、積極的に攻撃を受ける運命にすらある。

 

「さて、とりあえず全降下船を「降下船基地?」の地点へと降下させよう。マンフレート船長、マシュー副長、全降下船に降下指示を出してくれ。ただし降下後にうかつに外に出ない様に申し送り付きで。」

「了解です、部隊司令。では部隊司令とハオサン博士は、船室へ戻ってシートベルトで身体を固定していただけますかな?」

「了解だ船長。」

「わたしも了解したよ。では行きますかな、中佐。」

 

 キースとハオサン博士は、連れだってブリッジを出て行った。

 

 

 

 そして『SOTS』降下船群は、惑星パールクⅣの地上に降り立った。ここは解読した暗号文に、「降下船基地?」の注意書き付きで記されていた惑星内地理座標のポイントである。確かにここは降下船の基地の跡であり、幾つもの離着床や滑走路、ひび割れ崩れかけた建造物などが多数存在していた。おそらくはこの近辺に行われた、軌道爆撃の余波を浴びたのだろう。

 船窓から外を眺めていたアンドリュー曹長が、ぽつりと漏らす。

 

「……残骸ばっかじゃん。あんま期待できねーかもな。」

「いや、まだ使える部品が残っている可能性もありますよ。ざっと見たところ、形を保っている倉庫らしき建造物も数多い。」

 

 そう言ったのは、マテュー少尉だ。しかしアンドリュー曹長の言った事も確かで、幾多の離着床や滑走路脇には、朽ちたユニオン級やレパード級と思しき降下船の残骸が転がっていた。バトルメックの残骸と思われる物体も、あちこちに転がっている。頑丈な降下船が、卵が爆ぜたかの様に残骸を晒しているのは、これも軌道爆撃の余波によるものであろうか。

 キースの脇で外の様子を眺めていたサイモン老が、口を開く。

 

「まあ、徹底的に調べ回ってからですのう、結論を出すのは。一見朽ち果ててはおりますがの、回収できる部品を集めれば、ここに来た元ぐらいはとれるんでは無いかと思いますわい。」

「今、とりあえずハオサン博士以下数名が、劣悪環境スーツ着用の上で外の環境を調査している。それが終わったら、この基地の調査だな。」

 

 キースが現状での方針を示した事で、とりあえずこの場はお開きとなる。その場に集まっていた者たちは、三々五々散って行った。

 

 

 

 結局のところ、BC兵器による汚染の心配は無い事が判明した。と言うか、化学兵器は使用されたのだがあくまで即効性の物であり、環境中に放たれてから分解されるまでの時間が短い物であったらしい。地表に残されていた残留物を調査したところ、そう言う結果が出た。

 『SOTS』の偵察兵、整備兵および助整兵たちは降下船より外に出て、調査を開始した。歩兵たちもその手伝いをする。やがて基地建造物、特に形を保っていた倉庫から、多数の部品群が見つかる。ネジやボルト、電子部品と言った一般的なものから、小型や中型のコンピュータ、メック部品や弾薬に至るまでかなりの量が発見された。また、降下船の残骸やバトルメックの残骸からも、幾多の使用可能な部品が回収される。金銭的には元は取れそうだ。

 しかし元は取れそうだとは言っても、期待が大きかっただけに隊員たちは少々気落ちしてもいる様である。どうにか士気を高める必要がありそうだとキースは考えるが、さりとて方法が見つからない。フォートレス級ディファイアント号の部隊司令室でキースが唸っていると、誰かがインターホンを鳴らした。

 

「誰か?」

『偵察兵分隊暫定隊長、エルンスト曹長です。キース中佐、少々お話が。』

「入室を許可する。」

 

 入室して来たエルンスト曹長は、紙束を抱えていた。彼はそれを置くと、敬礼する。答礼を返したキースは、エルンスト曹長に訊ねる。

 

「その紙束は?」

「作成したばかりの、この降下船基地の地図ですな。キース中佐、これを見てください。」

「どれ……。む?」

「やはり、お気づきになられましたか。基地の一部の土地が、やけに広く空いてるんですね。それで地下施設の存在を疑ったんですよ。無論、何か建物の建設予定地として確保してあっただけと言う可能性もありますが……。

 そこで、爆弾による人工地震を起こして、伝わる振動の波形を観測する例のやり方で、地下施設の存在を確認したいと思いまして。パメラ軍曹をお借りできないかと。」

 

 キースは即断する。

 

「問題無いとも。即刻始めてくれ。それと基地施設の更に丹念な調査も頼む。地下施設があるなら、その入り口が何処かにあるはずだ。」

「では作戦開始と行きましょうか、中佐。ではこれにて失礼いたします。」

「うむ、退出を許可する。吉報を待っている。」

 

 敬礼と答礼を交わし、エルンスト曹長は足早に部隊司令室を出て行く。キースはいったん萎みかけた期待が、再び膨らむのを感じた。そして2時間後、降下船基地跡地の地下に、何らかの施設の存在を確認。更に数時間後には、地下施設への入り口が発見される。しかし既に時間が遅い事、働きづめの隊員たちが疲労している事などを考慮し、キースは地下施設の発掘作業は明日に回す事を決定した。

 

 

 

 そして次の日の昼時、フォートレス級ディファイアント号の士官食堂で食事を終えたキースが、同じく食事を終えた副官ジャスティン少尉を従えて部隊司令室に戻って来ると、そこには偵察兵の中では未だ下っ端なれど、最近そこそこの実力を備えて来たヘルムート・ゲーベンバウアー伍長が扉の前で待っていた。彼はキースに気が付くと、敬礼して来る。キースとジャスティン少尉は答礼を返す。キースは彼に問い掛けた。

 

「ヘルムート伍長、どうした?何か報告か?」

「はい!実は……。」

「ああ、いい。中で聞く。入室を許可する、入れ。」

 

 キースはヘルムート伍長を促し、ジャスティン少尉と共に部隊司令室へ入る。ヘルムート伍長は慌てた様に彼らに従って入室して来た。キースは席に着くと、ヘルムート伍長に話し掛ける。

 

「さて、報告を聞こうか、伍長。」

「はっ!ネイサン軍曹とジェレミー少尉の手により、降下船基地地下施設への入り口が解放されました。偵察兵分隊がジェレミー少尉以下4名の整備兵を護衛しつつ、内部の調査を行っております。なおパメラ軍曹が地下施設のコンピュータにアクセスを行い、地下施設の概要を入手いたしました。自分はその内容について、ご報告に上がったしだいであります!」

「うむ。つまりは地下施設のシステムは、まだ生きていたと言う事だな。続けてくれ。」

「はっ!ではまず……。」

 

 ヘルムート伍長の報告によれば地下施設の探索中に、1室でこの基地の最後の生き残りと思われる上級士官――少佐の階級章を着けていた――の朽ち果てた遺骸を発見、その手記を入手したそうだ。それによれば、この惑星は第1次継承権戦争中の2790年に、クリタ家の軌道爆撃や核攻撃、化学兵器散布を受けて滅んだ模様だった。

 更にとんでもない事も、その手記には書かれていた。この惑星は、星間連盟期のバトルメックや気圏戦闘機の実験場であったらしいのだ。そして地下施設の兵器庫――不活性ガスを満たしてモスボール封印されているらしい――には、通常型バトルメックに加えてその星間連盟期の実験機も多数……と言っても数はわからないのだが、幾つも隠されているらしかった。

 また地下施設には降下船もまた数隻ばかり封印処置されているらしい。具体的な船種と隻数はわからないものの、それらが手に入れば『SOTS』は大儲けである。大儲けではあるのだが……。

 

「……実験場惑星、か。かつて駐屯していた事のある、ドリステラⅢを思い出すな。となると、複数の降下船が手に入ったとすれば、この星系から撤退する際にはピストン輸送が必要になるかな。まあ、まだ取らぬ狸の皮算用であるのだが。」

「あ、いえ。まだパメラ軍曹からの、コンピュータから取った情報のご報告が……。」

「おお、それがあったな。」

「はい、それによると決して取らぬ狸の皮算用では無い様です。おそらくは3隻の降下船が、地下施設に存在する模様でしたから。」

 

 キースは唸る。ジャスティン少尉がヘルムート伍長の分も合わせて、彼お得意のコーヒーを淹れてくれた。

 

「ああ、ありがとうジャスティン少尉。」

「し、少尉、恐縮です。」

「いや、気にしないでいい伍長。」

「しかしそうなると、降下船を航宙艦によるピストン輸送しないとならないのか……。これは参ったぞ。」

 

 そこへジャスティン少尉が意見を述べる。

 

「キース中佐、意見を具申いたします。それは後に回して『SOTS』全体にこの大発見を通達すべきではないでしょうか?『SOTS』隊員のほとんどは、せっかく来た降下船基地が廃墟であった事に消沈しています。地下施設があった事が判明したときも、ぬか喜びになる危険を考慮して一般の隊員たちには教えていませんでした。ですがここまでくれば、ぬか喜びにはならないでしょう。」

「そう……だな。隊員たちの士気を上げるためにも、ここはこの発見を発表すべきだな。うむ、これで下がり気味だった隊員たちの士気も上がるだろう。」

「ではその様に。」

「うむ。手配を頼む、ジャスティン少尉。」

 

 キースはヘルムート伍長に向き直った。

 

「伍長、他に報告はあるか?」

「いえ、現状はこれで全てです。」

「そうか、では偵察兵分隊に戻り、引き続き探索を行う様に。コーヒーを飲み終わったら退出してよろしい。」

「はっ!もういただきました、ごちそうさまでした!これにて失礼いたします!」

 

 敬礼と答礼を交わし、部隊司令室を退出するヘルムート伍長を見送ったキースは、机上に何枚かの書類を広げる。それはかの古文書に隠された暗号を、解読した文書であった。

 

(次に近場なのは、この水浄化施設だよな。ここの降下船基地の調査が終わったならば、とりあえずフェレット偵察ヘリコプター2機を飛ばせばいいかなあ。こちらの「詳細不明」2ヶ所も、早目に確認しておきたい物だけど……。まあ時間はある。ゆっくりやって行こう。)

 

 その日が終わる頃には、地下施設に収められている降下船や兵器類のリストアップが完了した。通常の兵器類は、通常型バトルメックが様々な種類で20機、通常型気圏戦闘機の30tスパローホークが6機、80tと95tの超重戦車類が計44輛に95tの機動ロングトム砲が1輛、その他細々とした車輛類が8輛。降下船がレパードCV級降下船アーコン号、トライアンフ級降下船トリンキュロー号、そして仰天した事に、オーバーロード級降下船フィアレス号の3隻が存在した。

 だが何よりも驚くべき発見は、遺失技術を用いた超強力な実験機群の存在であろう。軽量級から重量級までの遺失技術バトルメックが計12機、重量級の遺失技術気圏戦闘機が計6機ばかり発見されたのだ。それと同時に、多数の通常型バトルメックに関する様々な技術資料に混じって、幾ばくかの遺失技術に関する技術資料や研究資料も発見された。

 無論の事、これらの兵器類に関する補修部品類、予備部品類も多数発見されている。通常のメックや気圏戦闘機の部品だけでなく、遺失技術を用いた部品類も莫大な数発見された。遺失技術部品類は、恒星連邦に持って帰れれば貴重な研究資料となるはずだ。キースは考える。

 

(これらの遺失技術機体は、強力だけど所詮実験機だしなあ……。よし、持って帰れたら全部売り払おう。ジョナスを介して恒星連邦に売れば、ジョナスの手柄にもなるだろうさ。)

「隊長、大発見ですな。とりあえず全部、再稼働整備開始と言う事で良いですかのう?それと、通常型バトルメックの中に含まれていたノーマルのマローダー2機は、あれもD型に改装してしまっても良いですかの?改装に必要な部品は、発見されたパーツ群に全部ありましたわい。」

 

 報告のため、部隊司令室を訪れていたサイモン老が、方針を訊ねて来る。キースは答えて言った。

 

「サイモン中尉、その方針でやってくれ。ただし、ジェレミー少尉やパメラ軍曹、キャスリン軍曹あたりの最高レベルの腕利きは、なるべく使わない方針で頼む。彼らには、偵察兵分隊に同行してもらって、他の地点の調査をやってもらうつもりなんだ。それと、今日はそろそろ休んでくれ。再稼働整備とメック改装は、明日以降でいいだろう。」

「了解ですわ。ではわしも休みますわい。」

「うむ、退室を許可する。ゆっくり休んで明日に備えてくれ。」

 

 サイモン老は敬礼をして退出して行く。答礼を返してそれを見送ったキースは、自分も休むべくシャワールームへ向かった。

 

 

 

 ユニオン級降下船レパルス号と、同級エンデバー号が離床して行く。これらの降下船は、各々が2ヶ所の「詳細不明」地点へと別れて向かうのだ。それぞれの船には、レパルス号に第2中隊、エンデバー号に第3中隊のメック部隊が一部だけ……それぞれ4機ずつ乗り込んでいる。全機、手が使えるタイプのメックばかりが選ばれていた。必要時には、それらのメックを作業用に用いる予定である。

 キースは離床して行く2隻を見上げた。隣には、いつものジャスティン少尉が控えており、更に第2中隊中隊長ヒューバート大尉、第3中隊中隊長アーリン大尉も立っている。キースは呟く様に言う。

 

「水浄化施設に、推進剤タンクが6基も無傷で残っていて助かったな。おかげで余裕を持って降下船を移動手段として使える。施設本体は既に動かない残骸でしか無かったが。後は報告では、大型の6連タンクローリーが何台かあった様だ。それを整備して往復させ、推進剤をこの降下船基地まで輸送させる。」

「今歩兵部隊が整備兵と助整兵を何名か連れて、推進剤の回収に向かっているんでしたよね。」

「うん、そのはず……。お、あのD型マローダーは、第4中隊指揮小隊のジョシュア少尉だな?」

 

 アーリン大尉とヒューバート大尉が口々に言う。その彼らの視線の先を、75tのD型マローダーが1機、地響きを立てて走行して行く。ヒューバート大尉が言った通り、それはジョシュア・ブレナン少尉の機体であった。彼は50tハンチバックから、あのD型マローダーに機種転換していたため、機種転換訓練に忙しかったのである。

 見ると、他にも訓練に励んでいるメック戦士たちが多くいる。訓練中隊に配属された新任少尉たちと、未だ何処にも正式配属に至っていない訓練生の面々である。訓練生を監督しているのは、キース、アンドリュー曹長、エリーザ曹長の直弟子である、イヴリン軍曹、エドウィン伍長、エルフリーデ伍長だ。キースは頷く。

 

「うむ。イヴリン軍曹たちも随分腕が上がったな。新任少尉たちと比較すれば、はっきりとわかる。ロビンソン戦闘士官学校の正式な訓練課程を経て来たやつらと比べても、技量は劣っていないどころか、はるか上回る。」

「今頃、オスカー少尉もロジャー少尉もジョーダン少尉も、テリー少尉もイルヴァ少尉もカーラ少尉も、顔色が蒼くなってますよ。絶対に。」

「なんと言ったって、イヴリン軍曹たち13から15の子供だものねえ……。それが既に実戦を潜り抜けて、厳しいはずの訓練を受けて来た自分たちを、技量的にはるかに引き離しているんだもの……。」

「腐らずに頑張って欲しい物だな。」

 

 見ると、ジョシュア少尉のD型マローダーの周囲に、第4中隊指揮小隊のバトルメックが集まって来ている。どうやらこれより、新しい機体を加えた形でのフォーメーションなどを色々と試し、連携訓練を行う様だ。キースたちはそれを見届けると、踵を返してフォートレス級ディファイアント号へと向かい歩き出す。全ての報告は、ディファイアント号の部隊司令室へ集まって来るのだ。いつまでも油を売ってはいられなかった。

 

 

 

 キースは内心で頭を抱えた。レパルス号とエンデバー号から通信が入ったとの連絡を受け、ディファイアント号のブリッジまで上がって来たのだが、その内容が大変だったのだ。まずユニオン級レパルス号に同道した熟練整備兵にしてコンピュータ技師、パメラ軍曹の報告は以下の様な物だった。

 

『隊長。こちらのポイントなんですが、とんでもない物が隠されていました。以前惑星ドリステラⅢで発見した、バトルメックの自動整備施設とほぼ同じ物です。ほぼ、と言うのはここの施設が気圏戦闘機にも対応しているからです。

 ただし、そのコンピュータに記録されている設計データの数が半端じゃありません。ありとあらゆる……とまでは行きませんが、各継承国家オリジナルの機体を除けばほぼ全てのメックや気圏戦闘機の設計データが入っています。更に遺失技術メックや遺失技術気圏戦闘機に関する設計データも登録されていて、この施設で自動的に整備可能です。他にもバトルメックや気圏戦闘機、LAM機に関する技術資料が山の様に発見されました。中には遺失技術に関する詳細資料もある模様です。

 それと、この施設に付随してバトルメック倉庫を発見いたしました。自動整備施設の中に入っていた物を含めて、合計14機のLAM機を確保できました。内12機が50tのフェニックスホークLAM、2機が形式不明の遺失技術満載の実験機LAMです。交換部品や補修部品も山の様にあります。』

 

 一方、ユニオン級エンデバー号に乗り込んでいった、サイモン老を除けば最高峰の技術者であるジェレミー少尉の報告は、次の様な物だった。

 

『隊長!大変です!あ、し、失礼しました。えー、こちらの地点ですが、かつてドリステラⅢで発見されたバトルメックの製作施設を覚えてらっしゃいますか?それと似た様な物が隠されてました。ですがこっちの施設は気圏戦闘機も製作できるようです。大量生産は不可能ですが、実験機などを少数作る場合には、こちらの方が良さそうなのは変わりありません。

 それと、エンドウスチールやらフェロファイバー装甲やらXLエンジンやら、遺失技術に関する詳細技術資料が山の様に見つかりました。あとは大量と言いますか、莫大な原料と莫大な部品に、2機の強襲メック……見たことの無い形式の、遺失技術の実験台として製作されたらしい85tと90tのバトルメックが1機ずつ計2機です。

 あと、意見を具申いたします。現在改装中のマローダー2機ですが、作業を中断してこちらに送るわけには行きませんか?D型に改装するのは、こちらの設備を使えば数倍の速度で可能になります。』

 

 ちなみにジェレミー少尉の意見具申には了承を返し、サイモン老と改装中マローダー2機に部品群を、レパード級降下船ヴァリアント号に乗せてすぐさま送り出した。その後でキースは、必死に考える。

 

(見つかったバトルメックは全部で48機……。どうする?降下船に載せきれないぞ。いや、メック以上に価値があるのは、メックと気圏戦闘機の自動整備施設に製作施設だ。絶対にそれを置いていくわけにはいかない。戦車積むのあきらめて、トライアンフ級を全部貨物輸送に使うか?

 いや、今のままだとどうせ航宙艦によるピストン輸送は避けられない。先に自動整備施設、製作施設を分解して積み込んで、遺失技術メックと遺失技術気圏戦闘機を積んで、それをジョナスを介して売り払おう。ああ、遺失技術に関する技術資料もコピー取って、ジョナスに原本を渡してしまわないと。そうしてから、再度この惑星パールクⅣに戻って残りの物資や装備、降下船を……。しかし……。)

 

 キースは泥水の様なコーヒーを啜る。ディファイアント号ブリッジでは、副官ジャスティン少尉が淹れてくれる美味いコーヒーは飲めない。

 

(ドリステラⅢとの共通点からして、ここにそう言う施設や設備がある事は、想定してしかるべきだったかもな。ドリステラⅢも、かつては新兵器の実験場と言う側面があった惑星だったらしい。そしてここパールクⅣも、秘匿技術兵器などの実験場だった様だ。バトルメック、気圏戦闘機の自動整備施設や製作施設か……。)

 

 その時、ユニオン級降下船ゾディアック号が離床して行く轟音が、ディファイアント号ブリッジにまで響いた。ゾディアック号は、偵察兵エルンスト曹長を始めとして、熟練ではあるがサイモン老の直弟子たちにはやや及ばない整備兵たちを乗せて、このパールク星系にあるこの惑星とは別の星系内座標のポイントへと向かうのだ。その星系内座標は、これもまた例の古文書の暗号を解読した結果、見つかった物であった。

 

(そこに何があるやら……。いや、ここは貪欲になるべきだ。何があろうと、洗い浚い頂いて行こう。……しかし、メック戦士や兵員の確保だけでなく、降下船の搭乗員も色々考えないといけないなあ。中心領域に帰還したら、真っ先に兵員と船員の募集かけないと。

 ああ、いや。遺失技術メックやら遺失技術気圏戦闘機やら、自動整備施設やら製作施設やら抱えたままでいるのは、ぶっちゃけ怖いな。まず必要なだけの船員の募集かけたら、後はジョナスを通じてそれらを恒星連邦政府に売り払ってからだ。)

 

 キースはおもむろに泥水コーヒーを飲み下し、マンフレート船長たちに声を掛けた。

 

「俺は部隊司令室へ戻る。何かあったら、すぐに呼び出してくれ。」

「了解です。では。」

「うむ。」

 

 敬礼と答礼を交わし、キースは踵を返して下層ブロックの士官用船室へと降りて行く。キースは頭の中で、部隊の編制や人員の再配置について、一生懸命に考えていた。




もうお宝ザクザクです。でも、まだ終わりじゃありません。
待て、次回!


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『エピソード-077 中心領域への出立』

 フォートレス級降下船ディファイアント号の船倉に置かれた、2台リンクのシミュレーター筐体で、モーリス・キャンピアン訓練生が教官からマンツーマンで訓練を受けている。ちなみにキースは、一応様子は見に来ているが、本日の教官ではない。更に言えば、イヴリン軍曹たちが教官役をやっているわけでもない。本日の教官は、気圏戦闘機隊指揮官マイク中尉だ。

 

『なにやってるっすか!この○○○!気圏戦闘機はバトルメックと違って、ダメージコントロールの面で厳しいっす!徹底的に動いて、相手の射界から逃げるんすよ!そして相手の死角に滑り込むっす!気圏戦闘機の武器は、圧倒的な機動力っす!わかったら返事をするっす、この×××!』

『は、はい!!了解です教官!!』

 

 訓練生たちは、キースの教育方針変更により、バトルメック操縦技能だけではなく、気圏戦闘機の操縦技能をも習得させられる事になったのだ。今頃他の訓練生たちも、気圏戦闘機乗りの航空兵を教官にして、各ユニオン級降下船にあるシミュレーターで猛特訓を受けている頃合いだ。

 キースがなぜその様な方針変更をしたかと言うと、今モーリス訓練生がシミュレーターで使用している機体にその答えがあった。実機が点検整備中だったものでシミュレーター訓練をしようとやって来たものの、筐体が埋まっていたために見学に回っていたイヴリン軍曹が、言葉を漏らす。

 

「……50tのフェニックスホークLAM、ですか。今は気圏戦闘機モードですね。」

「うむ。奴ら訓練生はバトルメックの実機に乗り始めてまだ日が浅い。それに若い、と言うより幼いのだが、それ故に柔軟性があるからな。独特の運用をせねばならんLAM機に、上手く適応してくれる事を期待している。

 正直な話貴様ら先代の訓練生たちもLAM機が多数手に入った以上、LAM機搭乗員として再訓練する事を考慮しなかったと言えば嘘になるが……。だが貴様はお父上の遺してくれたサンダーボルトを降りるつもりなど、無いだろう?」

「は、はい!!それはもう!!」

 

 キースは笑って、イヴリン軍曹に言う。

 

「だろうと思っていた。それにエドウィン伍長もエルフリーデ伍長も、偵察小隊隊員として替えの無い人材に育って来ている事だしな。まあ偵察小隊はともかく、『機兵狩人小隊』の編制は、いじるつもりは無い。」

「そうですか……。」

「安心したか?」

「はいっ!!」

 

 元気よく応えるイヴリン軍曹に、キースは頬を緩めた。彼は内心で思う。

 

(いや、サラ中尉待遇少尉が頑固なんだよなあ。彼女だったら大尉……に一気に昇進させるのは問題があるだろうから、大尉待遇中尉にでもして中隊を任せたいところなんだけどさあ。いくら「将来的に『機兵狩人小隊』はイヴリン軍曹が指揮する様に取り計らう。」って言っても、そうなったら自分はイヴリン軍曹の下に入りたいって……。気持ちは分からんでも無いけどさ。

 通常のバトルメックが20機発掘されたから、予備機や訓練中隊のメック数を加えると2個中隊は更に編制できるよね。中心領域に帰還したら新たにメック戦士を募って、遊んでる機体をある程度減らさないとなあ。予備機は必要だけれどもさ。でも中隊長候補が……。)

「……どうかなさいましたか?」

「ああいや、取らぬ狸の皮算用をしていたところだ。辺境から中心領域に帰還したら、メック戦士を新たに雇用して部隊を拡張せねばならんと思ってな。それで部隊編制に悩んでいただけだ。だがまだ、帰還したわけでも無いしな。

 さて、俺はそろそろ部隊司令室へ戻る。貴様はどうする?」

「はっ!自分も戻って座学の予習でもしようかと!」

「そうか。」

 

 キースはシミュレーターの制御卓から、筐体内へ繋がる通信回線を開く。

 

「あー、マイク中尉。俺はそろそろ部隊司令室へ戻る。後は任せていいな?」

『了解っす!任せてくだ……。何をやってるっすか、このフニャ○○野郎!隊長の前で恥ずかしい所見せるんじゃないっす!』

『も、申し訳ありません!!』

『まったく……。あ、失礼したっす。それではご苦労さまっす。』

「あー、うむ。頑張ってな。」

 

 通信回線を閉じると、キースはイヴリン軍曹に向き直る。イヴリン軍曹はキースに敬礼をし、キースは答礼を返す。

 

「うむ。では次会うのは座学の時間だな。」

「はっ!」

「予習がんばれ。ではな。」

 

 キースは部隊司令室に向かい、その場を歩み去る。その背中にイヴリン軍曹の視線が向いているのを、キースは何とはなしに感じ取っていた。

 

 

 

 数日後、キースはフォートレス級ディファイアント号のブリッジで、マテュー少尉の100tアトラスの装備する深宇宙通信アンテナから中継されて来る、データ通信による報告書を受け取っていた。脅威の100tメックであるアトラスには、高指向性の深宇宙通信アンテナが装備されており、単独で宇宙船との通信が可能なのだ。まあさすがに地上の固定局よりは効率も精度も落ちるが、便利である事は疑いない。

 キースに、ディファイアント号のマシュー副長が訊ねて来る。

 

「例の星系内の別ポイントに派遣した、ゾディアック号からの通信文ですか?」

「ああ、エルンスト曹長からの定時連絡だ。指定されたポイントに到着したらしい。宇宙基地らしき構造物を確認、どうやら降下船や航宙艦のための0G乾ドックらしいとの事だ。外観からは攻撃を受けたらしい痕跡が認められるらしい。詳細な調査はこれからする様だ。」

「0G乾ドックですか!?」

 

 マシュー副長の言葉に、キースは頷く。

 

「ああ。もし乾ドックに修理中でもいいから航宙艦が残っていれば、サイモン中尉とジェレミー少尉を派遣して修理再開させるんだがな。修理用の資材ごと、艦が残っていればだが。」

「航宙艦用の修理資材ですか……。残っていれば、これまた一財産ですけどねえ。」

「残骸状態でもかまわんから、航宙艦が形だけでも残っていてくれれば良いんだがな。そうすれば、うちで専属契約している3隻の航宙艦の予備部品が助かると言う物だ。」

 

 キースがそう言った時、ブリッジの主スクリーンにバトルマスターの姿が映る。これはアーリン大尉の機体ではなく、発掘されたバトルメックだ。乗っているのはヒューバート大尉である。キースは部隊全体の戦力強化を行うべく、各中隊の中隊長と語らって部隊のバトルメックの一新を図ったのだ。結果、ヒューバート大尉の乗機は75tのオリオンから85tのバトルマスターへとパワーアップしたのである。

 機体を交換したのはヒューバート大尉だけではない。主スクリーンに映る映像では、ときどき引っ掛かる様に動きが鈍くなる、発掘されたメックや再配置されたメックの姿が見える。これらは皆一様に、機種転換訓練中の部隊員である。

 

「皆、まだまだ慣れない様だな。だがヒューバート大尉は流石だ。既に手足の如くバトルマスターを操っている。」

「このパールクⅣにいる間に、機種転換訓練を全部終わらせられればいいんですけどね。」

「そうだな。」

 

 キースとマシュー副長が話していると、ブリッジにマンフレート船長が上がって来る。彼はキースの姿を認めると、敬礼を送って来た。キースとマシュー副長、それに手が空いているブリッジ要員が答礼する。マンフレート船長は溜息まじりに言った。

 

「ふぅ……。いや、今惑星上にいる各降下船の船長たちと協議を重ねて来たのですが、オーバーロード級フィアレス号にはうちの船から船員を分ける事になりました。それで足りない分の船員を、助整兵を借りて素人船員として使う事になったんですが……。まあ『SOTS』の助整兵は他所とは段違いの技術教育を受けていますから、安心と言えば安心です。」

「本職の船員には負担をかけてしまうな。」

「はい。まあ、降下船基地に発掘に来る予定でしたから、見習い船員の名目で惑星ロビンソンで各船合計20人ちょっとばかり雇用してはいましたが……。3隻も降下船があって、しかも内1隻がオーバーロード級だとは予想外でした。ユニオン級が2隻も見つかればいい方では、と言う予想で見習い船員を雇いましたからね。

 何を他人ごとの様な顔をしているのだね、マシュー副長。各降下船の船長たちと協議を重ねたと言ったろうに。結果、オーバーロード級フィアレス号の船長には君を推薦する事になったのだよ?」

「ええっ!?」

 

 マシュー副長の顔が引き攣る。一方キースは、なるほどと頷いた。

 

「ふむ、となると貴官は中尉昇進だな。俺としては船の事は必要最小限しか分かっていないからな。船長会議の決定ならば、よほどの事が無ければ退けはせんよ。」

「ありがとうございます、部隊司令。」

「ありがたくありませんよ!」

「給料も上がるぞ?マシュー副長。」

 

 キースの台詞に、マシュー副長は反論する。

 

「ユニオン級ぐらいならば、よろこんで引き受けましたとも!ですがオーバーロード級ですよ!?その責任の重さはユニオン級の比じゃありません!しかも半分がた素人船員ですよ!?」

「副長、我々船長たちが君しかいないと判断したのだよ。次点はゾディアック号のレオニード副長だったのだが、ゾディアック号は今惑星上にいないからね。本音を言えば、私も優秀な副長を引き抜かれるのは痛いと思うが、やむを得ない事なのだよ。」

「素人船員たちを訓練する時間は、まだ充分ある。引き受けてくれんか?」

 

 マンフレート船長とキース、2人がかりの説得に、マシュー副長も折れた。

 

「はぁ……。了解しました。……で、何時からその辞令は発行されるんですか?こうなったらもう、なるべく早くして頂きたいです。素人船員を最低限使える様に、訓練しなければなりませんからね。」

「少し待ってくれ。マンフレート船長、レパードCV級アーコン号と、トライアンフ級トリンキュロー号の船長は?」

「アーコン号は、レパード級ゴダード号副長のセルマ・ルンヴィク少尉が。トリンキュロー号は、ユニオン級エンデバー号副長のエレーナ・アルセニエヴナ・ゴリシニコワ少尉が。あとは各船から機関士を各々の発掘した降下船に異動させる様にしたいと考えております。これより各員に同意を取った上で、申請書類を部隊司令室にお届けに上がります。」

「そうか……。申請書類が来しだい、辞令の作成に入る。なんとか今日中に各員に辞令を渡せる様にしたい。これでいいかな?マシュー副長。」

 

 マシュー副長は頷く。

 

「了解しました。今日中に辞令が発行されるのであれば、明日から即席の船員を選抜し、選抜が終わりしだい最低限役に立つように訓練開始します。」

「そうか、感謝する。」

「いえ、気にせんでください。」

「船長、何故貴方が言うんですか。」

「君の気持を代弁してみたのだが、間違っていたかね?」

 

 その場の全員が笑った。何はともあれ、キースはいつでも辞令作成が可能な様に、部隊司令室へと戻ることにする。敬礼で見送るマンフレート船長とマシュー副長、それにブリッジ要員たちに答礼を返し、キースは急ぎ下層ブロックへと戻って行った。

 エルンスト曹長から、サイモン老、ジェレミー少尉、パメラ軍曹らの精鋭整備兵と、助整兵多数を乗せて降下船を追加派遣して欲しいとの要望が届いたのは、それから24時間後の定時連絡の時であった。

 

 

 

 フォートレス級ディファイアント号のブリッジから、キースはレパード級スペードフィッシュ号と同級ヴァリアント号へ通信回線を開いた。

 

「こちらキース・ハワード中佐。ヴァリアント号カイル船長、スペードフィッシュ号イングヴェ船長、お客たちを安全に目的地まで届けてくれよ?」

『こちらヴァリアント号カイル船長だ。大丈夫だよ隊長、ジャンプポイントまで行って助整兵の即席乗組員を届けて、代わりに向こうから航宙艦副長やら機関士やら熟練乗員やらを連れて、例の0G乾ドックまで届ければ良いのだろう?タクシー代わりだ、楽なもんだよ。』

『こちらスペードフィッシュ号イングヴェ船長。サイモン中尉、ジェレミー少尉、パメラ軍曹、他大勢の助整兵たちは、必ず0G乾ドックまで送り届けますよ。心配しないで下さい。』

「そうか、2人とも頼んだぞ。」

 

 キースは頷く。この2人は、時折無茶もやるが結果は今まできちんと出して来ている。こうして請け合ってくれた以上、心配はいらないはずだ。

 今回人員を派遣する原因となったエルンスト曹長からの報告は、期待した以上の物があった。かの古文書から発見された、星系内の惑星パールクⅣとは別の座標は、やはり星間連盟期の0G乾ドックを指した物であった。0G乾ドックは、これもおそらくはドラコ連合軍の攻撃を受けて、かなり損傷していた。だが、その一部はかろうじて無事であったのだ。

 キースは何度か読み返した、データ通信で送られてきた報告書兼要望書を眺め遣る。

 

『目標構造物は、やはり0G乾ドックと判明。複数のドックのうち幾つかは完全に破壊されております。しかし一部のドックは完全な形で残っており、同行した整備兵によれば、修理設備すら稼働する模様です。

 2つ残っていた航宙艦ドックにて、修理完了間際のマーチャント級航宙艦ネビュラ号、およびこれも修理完了間際の同級パーシュアー号を発見。また降下船ドックはいずれも破壊されておりましたが、1つのドックに入っていた1隻のオーバーロード級降下船サンダーチャイルド号が、奇跡的に損傷軽微で充分稼働できる状態でした。

 サンダーチャイルド号は、おそらく惑星パールクⅣに荷を降ろした後であったものと思われ、搭載物は若干しかありませんでした。バトルメックが4機、気圏戦闘機が6機搭載されていただけです。バトルメックと気圏戦闘機の機種については、別紙にて報告いたします。

 なお、その他のドックは完全に破壊されており、中身の航宙艦や降下船も使い物にならない状態です。ほとんどが溶融しており、ごく一部を除いて部品取りにも使えません。ただし、この乾ドック自体の備蓄倉庫は一部が無事で残っており、航宙艦修理資材や推進剤の類が幾ばくか発見されております。

 同行した整備兵によれば、発見された航宙艦ネビュラ号とパーシュアー号は、彼らでは修理を完了させる事は困難だとの事です。そこで、サイモン大尉待遇中尉、ジェレミー少尉、パメラ軍曹ら3名の急派を願います。それとこちらはゆっくりでもかまいませんので、これらの航宙艦および降下船サンダーチャイルド号を動かす人員の派遣もお願いいたします。』

 

 要は、修理できそうな航宙艦2隻と無事なオーバーロード級降下船を発見したので、修理人員と動かす人間を送れ、と言う事である。キースはこの報告を受けた時、はっきり言って目を疑った。事実だと理解した時、キースの頭の中は物凄い速度で回転を始めた。臨時の即席の素人船員として、助整兵のほとんどを航宙艦と降下船の運用に割くことにはなる。しかしそれをするだけの価値があるのも確かだった。

 キースは決断した。そしてその決断の結果、ヴァリアント号はジャンプポイントを経由して0G乾ドックへ、スペードフィッシュ号は直接0G乾ドックへ赴く事になったのである。これで航宙艦の修理が完了しさえすれば、全ての降下船が一度に運べる事になる。本当に2隻のマーチャント級が修復可能な状況であるかどうかは、未だ不明である。サイモン老であれば修復できるであろうと言うのは、先に送り込んだ一段実力の低い整備兵たちの見立てでしか無いのだ。

 

「む……。」

 

 キースが唸ると同時に、轟音を立てて滑走路よりヴァリアント号が、そして続けてスペードフィッシュ号が飛び立って行く。あとはサイモン老たちの力量に賭けるしかない。キースはその間、パールクⅣの地上でできる事をやっておく事にした。

 

 

 

 3027年09月01日、『SOTS』がパールクⅣに到着してから、1ヶ月と1週間が経過していた。降下船基地跡の離着床に、轟音と共に盛大な噴射炎を噴きつつ、巨大なオーバーロード級降下船が降りて来る。これが0G乾ドックで発見された降下船、サンダーチャイルド号である。

 助整兵が臨時の即席の素人船員を務めていると言うのに、サンダーチャイルド号はわずかなズレも無く、見事な離着床への着陸を見せる。キースはジャスティン少尉の運転するジープでその近くへとやって来た。ここには冷却車輛などと言う気の利いた物は無いので、降下船の下部近辺――推進機の噴射ノズルから近い――は、暑いなどと言うレベルではない熱気が満ちていた。キースたちは、オーバーロード級に120基搭載されているはずの放熱器が、船体の熱を逃がし切るのをじっと待つ。

 やがて船体が充分冷えた頃、船体下部の乗降ハッチが開き、そこからぞろぞろと船員たちが下船して来た。そのうちの1人……上級船員らしき人物が、キースたちの方へと歩いて来る。彼は、本来はユニオン級降下船ゾディアック号の副長をしている、レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー少尉だ。レオニード少尉はキースたちに敬礼をした。キースたちも答礼を返す。レオニード副長は口を開く。

 

「部隊司令、オーバーロード級降下船、サンダーチャイルド号の惑星パールクⅣまでの回航を完了いたしました。」

「うむ、ご苦労だった。慣れない船と素人船員で、大変だっただろうな。」

「いえ、貴重な経験であったと自分では思っております。」

 

 レオニード副長は微笑んで言った。

 

「これは素晴らしい船ですね。何より力強い。この様な船を、一時でも指揮できたのは良い経験でした。」

「そんなに気に入ったかね?」

「はい。」

「なら……。ジャスティン少尉。」

「はっ!」

 

 ジャスティン少尉は、ジープの座席より書類ケースを取り上げ、中の書類と金属片をキースに手渡した。キースはレオニード副長に向かい、言葉を紡ぐ。

 

「レオニード・ミロノヴィチ・ゲオルギエフスキー少尉!」

「はっ!」

「本日ただいまをもって、貴官を中尉とし、オーバーロード級降下船サンダーチャイルド号船長へ異動とする!」

「はっ!……は?あ、あの?」

「これが辞令と、新しい階級章だ。」

 

 レオニード副長――いや既に船長である――は、目を白黒させる。キースは続けて言った。

 

「この人事は、ユニオン級降下船ゾディアック号のアリー・イブン・ハーリド船長も承知の事だ。貴官の出世を、我が事の様に喜んでいたぞ?」

「え、え?じ、自分がこの船の……船長、ですか?」

「そうだ。……荷が重いと思うかね?」

 

 キースはレオニード船長の目を見つめる。レオニード船長はごくりと唾を飲み込んだ。だがやがて、決然と言い放つ。

 

「いえ、光栄です!!」

「……うむ。今後とも、頼りにしているぞ。さて、それでは副長の人事だが、早急に相応しい人物を選抜して、俺に推薦してくれ。餅は餅屋、船は船乗りに任せるのが順当だからな。よほど変な人事でなければ、その推薦のまま通すつもりだ。できれば今日中に推薦書が欲しいな。」

「はっ!了解しました!」

 

 微笑んだキースは、指示を続ける。

 

「そしてもう1つ仕事があるんだ。バトルメック、気圏戦闘機の自動整備施設と製作施設を既に分解、荷造りしてある。これをオーバーロード級フィアレス号とサンダーチャイルド号に分けて積み込む予定だ。発掘したバトルメックや気圏戦闘機、LAM機も同時にな。フィアレス号のマシュー・マクレーン船長と相談して、荷積み作業を行ってくれ。まあ副長人事の方が優先だから、荷積みは明日からでいいぞ。」

「全部積み込めますかね?」

「一応計算では、少しだけだが搭載量に余裕が出るぐらいのはずだ。誤差が出て容積が足りなくなったら、ユニオン級レパルス号にメックベイが1機分空いてるから、そこも使う。」

「了解です。」

 

 その時、少し離れた離着床に轟音と共に、ユニオン級ゾディアック号が着陸した。これもまた冷却車輛がこの場に無いため、まだ熱い。しかし徐々に冷えて、近寄れる程度の温度になると、乗降ハッチが開いて船員たちが降りて来る。レオニード船長はキースに向かって言った。

 

「では自分はゾディアック号に帰……ではありませんね。ゾディアック号に赴き、アリー船長と話をして来ます。船員を何人かサンダーチャイルド号へ正式に移籍してもらわなければなりません。まあ、今サンダーチャイルド号に来ている船員をそのまま貰おうと思っていますが。その中から、副長を選ぶとしましょう。」

「うむ、ではまた後ほど。」

「はっ!では失礼します!」

 

 レオニード船長は敬礼をする。キースとジャスティン少尉は答礼を行い、ゾディアック号へ向かうレオニード船長を見送った。ふと目を滑走路に向けると、レパード級ヴァリアント号とスペードフィッシュ号が着陸するところである。これで『SOTS』の降下船は、全て惑星パールクⅣに集結した事になるのだ。

 

 

 

 フォートレス級ディファイアント号の部隊司令室で、キースはサイモン老と話をしていた。ジャスティン少尉の淹れてくれたコーヒーの、良い香りが漂う。

 

「サイモン中尉、となると0G乾ドックには、今の時代では貴重かつ希少な、航宙艦用の修理、整備のための資材などが遺されていたんだな?」

「ですのう。ですが、そればかりではありませんでしたわ。降下船や航宙艦の整備・修理マニュアルなんて代物まで見つかりましたでのう。コンピュータの扱いにかけては、パメラ嬢ちゃんの右に出る者はおりませんわい。あの娘っ子がいなければ、見つからなかった代物ですわな。」

「むむ、ボーナスを出さねばならんな。……で、2隻のマーチャント級の方は、定時連絡であった様に問題無しか?」

 

 サイモン老はにやりと笑って言った。

 

「2隻とも修理は万全ですのう。整備・修理マニュアルが見つかったおかげですの。それのおかげで完全に修理できたと、自信を持って言えますわい。……まあ、マニュアルが無くとも何とかなったかも程度は、自分の腕に自信はありますがの。

 それで2隻とも、0G乾ドックで発見された物資を、1隻あたり3つの貨物ベイいっぱいに詰め込んでジャンプポイントに向かいましたわ。明日にはジャンプポイントへ到着予定ですのう。発見された物資全部積み切れず、少しだけ積み残したのが残念と言えば残念ですがの。それでも貴重品から順に、大事だと思った物は全部詰め込みましたわい。」

「それも売れば大層な値が付きそうだな。」

「金で売るのは勿体ない気もしますのう。メックなりを物納で買うべきでは?」

 

 キースはサイモン老に頷く。

 

「うむ。だがとりあえず、比較的かさばる物を金銭で売り捌いて、現金を作ろう。できればCビルで。惑星パールクⅣの遺跡からは洗い浚い引っ剥がしたからなあ。降下船の残骸とかからも徹底的に。これだけぼろ儲けしたんだから、隊員にボーナスを支給しないといかん。」

「ですな。ジャンプポイントのクレメント号でも、補給ステーションの残骸から色々資材などを貨物ベイいっぱいに手に入れたんでしたな?」

「通信で、そう報告を受けている。物資の貴重さから言って、補給ステーションで手に入れられた物資から先に売り飛ばすべきかな?」

 

 キースの言葉に、サイモン老は考え込んだ。やがてサイモン老は、結論を先延ばしにする事を提案する。

 

「うーん、それは今決めずとも良いでしょう。どの物資が自分たちで取って置きたい品で、どの物資が売り飛ばすべき物なのかを、作成した目録をつき合わせてじっくりと検討すべきですわ。どうせ旅には時間がかかりますからの。」

「そうだな。だがそれとは別に、さっさと手放すべき物品も数多い。遺失技術を使ったバトルメック、気圏戦闘機に、あとはバトルメックや気圏戦闘機の自動整備施設、製作施設だ。特に自動整備施設と製作施設は、手元に持っているだけでも怖い。ジョナスを介して恒星連邦政府に売り払うつもりなんだが、引き渡すまでは所有している事を秘匿しておかなくては……。誰にとは言わんが、絶対に狙われる。」

「個人的には、製作施設は惜しい気もしますがのう。」

「それは済まんと思うが、持っているだけで危険なんだ。価値があり過ぎると言うのは、それはそれでまずい。それに今は分解してコンテナ多数に積み込んでいるが、設置する場所が無いしな。持っていても宝の持ち腐れだ。まともに使えもしない上に、危険を引き寄せるとあれば、俺たちが持っていても荷物になるだけだ。」

 

 キースの真剣な言葉に、サイモン老は真摯な危険を感じ取ったのか、何度も頷く。

 

「了解ですわ。いや、確かによく考えると危険ですわな。さっさと手放すのが吉ですのう。」

「とりあえず荷積み作業が完了したら、惑星オケフェノキーまで行ってそこのHPG施設を通じて、ジョナスかその執事のロベールさんと連絡を取れないか、やってみよう。」

 

 そう言いつつキースは帰還直後、直接はジョナスに連絡がとれず、ロベール・マクファーソン氏を介しての連絡になるだろうと考えている。理由は恒星連邦で行われている総合防衛演習、第2次ガラハド作戦だ。キースは考え込む。

 

(今は第2次ガラハド作戦の真っ最中だからなー。ジョナスの率いてる第9ダヴィオン近衛隊も、忙しくてたまらないだろうなあ。となるとロベールさんだな、連絡を取るのは。惑星オケフェノキーに到着するのが10月上旬。HPG施設から連絡を入れたとして、返事が返ってくるまで早くて2週間。それから惑星オケフェノキーを出立したとして、ジョナスに会えるのは11月に入ってからだ。

 なんだ、会えるまでに第2次ガラハド作戦終わりそうじゃないか。だいたいこのスケジュールでいいだろ。HPG施設から送るメッセージには、詳しい事は書かない方がいいよな。単に「早急に会いたい」とだけ書こう。)

「ん……っと。ぷはあ、ジャスティン少尉のコーヒーは美味いですのう。これがいつでも飲める隊長が羨ましいですわい。」

「ははは、だが代わってやるわけにもいかんな。」

「それは当然ですのう。それではわしは、作業に戻りますわ。とは言っても、整備兵がやるべき事はメックや降下船の日常点検ぐらいで、重要な仕事はもうほとんど終わっておるんですがの。コーヒー、ごちそうさまでしたわい。」

「うむ、退出を許可する。仕事、無理しない様にな。」

 

 サイモン老とキース、ジャスティン少尉は、いつもの様に敬礼と答礼を交わす。そしてサイモン老は部隊司令室を退出して行った。

 

 

 

 各降下船に最後の荷物が積まれた翌日の早朝、『SOTS』所属の全ての降下船が一斉に惑星パールクⅣの降下船基地跡を飛び立った。オーバーロード級フィアレス号、同級サンダーチャイルド号が轟音と共に離床する。フォートレス級ディファイアント号、ユニオン級ゾディアック号、同級エンデバー号、同級レパルス号がその後を追うかの様に次々と飛び立つ。

 滑走路からは、発見された戦車などを満載したトライアンフ級がまず最初に飛び立った。そしてそれに続けてレパードCV級アーコン号、レパード級ヴァリアント号、同級ゴダード号、同級スペードフィッシュ号が連続して離陸して行く。

 キースはいつも通りフォートレス級ディファイアント号に搭乗して、部隊司令室として使用している士官用船室でシートを倒し、発進時にかかる高Gに耐えていた。彼の鍛え上げられた頑健な身体は、楽々とGに耐える。キースは身体にかかるGを物ともせずに、色々と考えを巡らしていた。

 

(まず惑星オケフェノキーに着いたら、重くてかさばる、あたりさわりの無い種類の物資を選んで売り払おう。そして部隊員にボーナスを出したら、降下船と航宙艦の船員募集だなあ。整備兵や助整兵、歩兵も増やしたいところだけど、人選は吟味しないといけないもんな。そう大勢を短期間に一度に増やすわけにもいかないよ。まず最低限必要な船員からだ。船員は、絶対欲しい。

 そう言えば、隊員にボーナス、かあ。素人船員を使わせる事で負担をかけた本職船員と、慣れない船員としての仕事をさせた助整兵には、ちょっとばかり色を付けてやった方がいいな。降下船の各船長たちにも、航宙艦の艦長たちにも、だな。ああ、発掘で頑張ってくれた偵察兵や整備兵にも多めに出しとこう。ちょっとばかり経済的負担は大きめだけど、その負担を補って余りある結果が出た……出してくれたんだ。きちんと報いないと。

 あ、そう言えば各降下船の飲料水や食料も買い付けないと。予定より若干長くパールクⅣに居たからなあ。まあ、まだ余裕はあるけれど、オケフェノキーに着いたら買い込まないと。船の食堂で野戦糧食が出される事態は、可能な限り避けないとね。)

 

 色々考えているキースを含めた混成傭兵大隊『SOTS』は、この日惑星パールクⅣを離れた。目指すは恒星連邦惑星オケフェノキー。恒星連邦の辺境ぎりぎりにある惑星だ。辺境ぎりぎりにしては人口も多めで、2億8000万を超える。熱帯性気候でジャングルと広大な沼地の惑星であるが、その沼地の底に莫大な石油資源が発見されて以来、外部資本の流入が起こっている。

 その外部資本ならば、キースたちが持ち込んだ物資を買い取る事も可能だろう。まあ、貴重な希少な品は、まだ売るつもりは全く無いので、比較的一般的な代物だけなのだが。上手くすれば、外部の星系から来た技量の高い船乗りも雇えるかも知れない。あるいはこの惑星を出て行きたがっている、才能ある現地住人の若者でも良いだろう。

 『SOTS』の降下船群は、船団を組んで深宇宙へと飛び立って行った。




またもお宝ザクザクです。そしてそのお宝を運ぶ術も手に入りました。それ自体がお宝なのですが。
でも、他にもこの星系にはお宝が……。いえ、既に見つけている物ですがね。持って行ける物じゃないってだけで。


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『エピソード-078 土産は爆弾事案』

 星系のジャンプポイントから惑星オケフェノキーへ降下する1週間の旅の途中、キースは惑星上に支社を置く総合商社であるレンツ通商に、惑星上の深宇宙通信施設を通じて通信を送り、今回の発掘における戦利品の一部の売却交渉を試みていた。とは言っても、売却する品目は価値ある物でこそあったが、3027年現在でも比較的普通に見られる物に限られていた。

 要は、遺失技術の産物などは今回売らないと言う事だ。売るのは若干価値のある合金のインゴットであったり、比較的今の時代でもありふれた、技術レベルの低い電子部品類である。キースたち『SOTS』は、こう言った物品を降下船の余剰スペースに、みっちりと詰め込んで持ってきた。惑星オケフェノキーでは、こう言った代物であっても高い技術の産物として、ある程度でこそあったが高値で売れる……と言うか、価値ある資源と交換できるのだ。

 だがキースたち『SOTS』が今必要としているのは、現金であって資源ではない。そこでこの惑星の住人達と取引がある商社のレンツ通商に、これらの物品を売却しようとしていたのだ。レンツ通商はキースたちから買った品を惑星の住民に転売と言うか、物々交換して大量の石油資源を確保し、惑星外へと輸送するのである。

 キースは降下船のブリッジで、データ通信で送られてきた通信文を見遣り、満足げに頷いた。

 

「……ふむ、交渉はほぼ纏まったな。恒星連邦中央の惑星に持って行くよりも、高値で売れる事になる。払いも、Cビルおよび水と食料……農産物だ。」

「水と農産物、ですか?」

 

 怪訝そうな顔で聞いて来るのは、キースが乗っているこのフォートレス級降下船ディファイアント号の、マンフレート船長だ。キースは頷く。

 

「ああ。この惑星は、中央の様な文明社会じゃない。物々交換が主流なんだよ。金が使えるのは、惑星首都オケステンぐらいだろうな。だから、自分たちで食料品を集めようとしたら、えらい手間がかかる事になる。田舎までトラックを出してこちらの商品を見せて、相手が出して来る農産物なんかを見て、そして交換レートの交渉……。ちょっとばかり、やってられんよ。

 それよりは、レンツ通商に依頼して水と食料を集めてもらった方が楽だ。現地住民との伝手も、彼らにはあることだしな。下手な事して現地住民から攻撃されて、反撃したら虐殺だとか言われて無法者になるのは、はっきり言って御免だからな。貴官らもできれば宇宙港から、最悪でも首都から出ない様にな。現地住民はよそ者に対してあまり良い感情を持っていないらしい。」

「……私たちが最初に会ったドリステラⅢもド田舎だと思いましたが、それより田舎があったんですね。」

「あー、惑星に降りたら田舎だとか思っても口に出すなよ?……今のうちに、隊員たちにも周知徹底しておいた方がいいな。……ふぅ。」

 

 キースは溜息を吐いた。

 

 

 

 惑星オケフェノキーの首都、オケステンに隣接した小規模な宇宙港オケポートは、14隻の降下船で満員状態になっていた。内11隻が『SOTS』の船である。そして2隻が商船としてこの惑星に来たと思われるミュール級商用降下船。残り1隻が、この惑星に駐屯している傭兵部隊『ハヤタ防衛団』のレパード級降下船であった。

 何故相手の傭兵部隊の名前が判ったかと言うと、相手の方からキースたちの所へ挨拶に来たからである。相手からすれば、辺境ぎりぎりの田舎惑星でのんびり駐屯任務をこなしていたら、突然1個連隊――相手からはそう見える――規模の部隊がこの惑星に降下して来ると言うのである。この惑星ではせいぜいが海賊相手だろうと高を括っていた『ハヤタ防衛団』は、最初パニックになったらしい。すぐに敵でない事が分かって、気が抜けたらしいが。

 だが万一『SOTS』が変な気を起こしたら、『ハヤタ防衛団』の命は風前の灯火だ。それ故に、腰を低くして挨拶に出向いて来たらしいのである。『ハヤタ防衛団』の隊長、テツロウ・ハヤタ中尉は、当初引き攣った顔をしていたが、今はすっかり寛いでいた。部隊司令室のソファに座ったテツロウ中尉は、ジャスティン少尉の淹れたコーヒーを飲みながら言う。

 

「いや、美味いですな。一流の傭兵部隊は、コーヒーも一流ですな。」

「いえ、銘柄は普通の軍用レギュラーコーヒーですが……。」

「え゛っ!?そ、それでこの味が出るのかね、少尉!?」

 

 ジャスティン少尉の言葉に、驚くテツロウ中尉。キースは茶菓子を勧める。

 

「ハヤタ中尉、茶菓子でもどうかね?コーヒーにはよく合うぞ?」

「これは恐縮です。いただきます。」

 

 テツロウ中尉は遠慮なしに茶菓子を食べる。当初はキースの迫力に圧倒されていた彼だったが、あっと言う間に慣れてしまった。肝が太いのだろう。テツロウ中尉は茶菓子のクッキーを齧りながら言う。

 

「しかし最初は驚きましたよ。こんな辺境ぎりぎりの田舎惑星に、こんな大部隊が……。

 いやしかし、恒星連邦でドラコ系の日系人は辛いですなあ。こんな田舎の駐屯任務ぐらいしか、受けられる仕事が回って来ません。けれど、ドラコ連合に雇われていた時よりはまだマシな扱いだと言うのが何とも……。」

「ドラコ連合に雇われていた事が?」

「ええ。あまりのひどい扱いに、逃げ出して来たのですよ。誠心誠意勤めても、クリタ家は働きに見合った金も補給も出してくれませんからな。あげくに使い捨ての様な任務を振られるし……。本物のサムライは、何処に行ったやら……。

 恒星連邦はきちんと金も払ってくれますし、その金で注文した補給物資は遅れることはあっても、きちんと届く。今までドラコ連合に雇われていた身を、そのまま対ドラコ戦線に置く事もしない。おかげで壊れかけていたメックも直せる。ありがたい事です。」

 

 キースは微笑んだ。笑いが引き攣っていないと良いと、そう思う。テツロウ中尉は、皿に盛られたクッキーをきっちり半分食べると立ち上がる。

 

「さて、ごちそうになりました。いや、美味かったです。そちらの目的が旅の途中の物資補給と骨休めである事も理解いたしました。」

「うむ、ハヤタ中尉。この惑星にいる間、問題を起こさない事を約束しよう。」

「ありがとうございます。そのお言葉、信じさせていただきます。では中佐殿、これにて失礼いたします。」

 

 テツロウ中尉は見事な敬礼をする。キースも答礼を返し、ジャスティン少尉に命じる。

 

「お客様のお帰りだ。乗降ハッチまでお送りしろ。」

「了解です。行きましょう、ハヤタ中尉。」

「うむ、頼むよ少尉。」

 

 テツロウ中尉は、ジャスティン少尉に連れられて部隊司令室を出て行った。キースはそれを見送りつつ、感慨に耽る。

 

(なかなかの人物だなあ……。最初こそ俺に気圧されていたものの、あっと言う間に慣れてしまったよ。ああ言う人材を逃がしちゃうドラコ連合、いやタカシ・クリタか……。もったいないことするよなあ。ああいや、恒星連邦サイドとしては嬉しいけどさ。)

 

 キースは皿に残ったクッキーを摘まみ上げ、齧った。

 

 

 

 そして2週間が飛ぶ様に過ぎ去った。『SOTS』はこの間、とりあえず足りない船員を雇用する。幸いなことに、この星の石油油田の話を聞いてやってはきた物の、現地住民との摩擦や軋轢に辟易した者たちが多く応募してきた。彼らには学もそこそこあり、鍛えれば充分物になると思われる。

 『SOTS』がこの惑星に来ている事は分かるはずが無いので、スパイを送り込まれる心配はまず無かった。それでも一応の思想調査や、ついでに能力テストを行って合格者だけを雇ったが、充分な数が集まった。これで素人船員となっている助整兵を解放してやれると言う物だ。

 ちなみに旧来の隊員たちは、レンツ通商に当たり障りの無い物資を売り払った金から出たボーナスを受け取り、その金額に最初は大喜びだった。だが、この惑星ではあまり金の使い道が無い事に気付くのも早かった。早く恒星連邦中央部に戻りたいと、彼らは願う。

 そしてそれに応えるかの様に、キースがHPG施設から送った超光速メッセージの返答が届いたのである。部隊司令室でそのメッセージの返答を受け取ったキースは、即刻『SOTS』全部隊に対し出立準備を命じた。

 

「ジャスティン少尉、宇宙港の当局に明日早朝の出航届を提出してくれ。後は深宇宙通信施設に……ああ、いや。『SOTS』のアトラスの深宇宙通信アンテナ使った方がいいな。マテュー少尉、アトラスを起動してくれ。ジャンプポイント、ゼニス点の航宙艦群に連絡して、出発の準備をさせるんだ。」

「了解です、キース中佐。」

「こちらも了解です、隊長。行先はどこの惑星ですか?」

「中央付近にある、ウィロウイックと言う惑星だ。そこにジョナス……バレロン伯爵の領地がある。バレロン伯爵の執事、ロベール・マクファーソン氏からのメッセージによれば、ウィロウイックに11月末から12月初頭に来て欲しいとの事だ。明日にでもこの惑星を発てば、最短で11月の27日には到着できる。」

 

 ここで、惑星学者のミン・ハオサン博士が口を挟む。

 

「ウィロウイックかね。農業惑星ではあるけれど、充分に都会だよ。まあ、ここと比べれば何処も大概は都会だけれどね。少なくとも、遊ぶ場所は充分にあるとも。」

「ほんとか、ハオサン博士!いやー、アイラと出かけようにも遊ぶ場所が無くて、参ってたんだ。金はあるのによ。」

 

 嬉しそうに言うのは、アンドリュー曹長だ。エリーザ曹長もそれに同意する。

 

「ここの食べ物は、あまり美味しく無いのよね。同じ材料でも、船の食堂の方が美味しいんだもん。外出する意味が無いわよ。」

「食ってばっかだと、太るぞ。」

「てい!」

「ぐえ!」

 

 余計な事を言ったアンドリュー曹長が、エリーザ曹長の一撃を食らう。まあ、仲間内のじゃれ合いで、本気のど突き合いでは無い。ちなみに何故部隊司令室に第1中隊指揮小隊の面々やハオサン博士がいるかと言うと、ジャスティン少尉のコーヒーを飲みに来ていたのだ。そこはかとなく、ジャスティン少尉のコーヒーは部隊員に大人気であった。

 まあ気軽に飲みに来れるのは、キースに対しそれこそ遠慮が無い『SOTS』初期メンバーか、ヒューバート大尉やアーリン大尉と言った『SOTS』上級士官、それにハオサン博士の様なキースから立場を超えた尊敬を受けている人物などである。それ以外では、自由執事のライナー・ファーベルクぐらいだろうか。

 まあそれはともかくとして、『SOTS』は驚くほどの速度で出立準備を整える。夕刻頃には、翌朝に『SOTS』が出立する事を知らされた『ハヤタ防衛団』のテツロウ中尉が、慌てて菓子折を持って別れの挨拶に来たりもした。お返しの品に、フォートレス級ディファイアント号専属コックが作ったパウンドケーキを持たされて、テツロウ中尉が恐縮しつつも嬉しそうだったのがキースの印象に残った。

 そして翌日の早朝、『SOTS』の降下船群は惑星オケフェノキーを離れたのである。

 

 

 

 3027年11月27日、惑星ウィロウイックはバレロン伯爵領の都市ヴァグジェルの、南に隣接して造られている宇宙港ヴァグジェポートに、『SOTS』の降下船群11隻が着陸した。ヴァグジェポートは、ジョナスの連隊の降下船、オーバーロード級2隻とユニオン級3隻を着陸させるための離着床が、他の民間用貨客降下船などを停泊させる以外にも必要なので、充分な大きさを持ってはいる。しかしそれでも『SOTS』の全降下船を着陸させると、流石に手狭になっていた。

 宇宙港備え付けのバスが往復し、『SOTS』隊員を降下船から宇宙港施設へと送る。また、冷却車輛が退いた後に推進剤補給車輛が集まり、『SOTS』の降下船に推進剤を補給していた。そんな中、キースはサイモン老の運転するジープにジャスティン少尉と共に揺られ、首都ヴァグジェルの中央部にあるジョナスの邸宅へと向かう。キースがジョナスと秘密の会話をしたいと望んだところ、ジョナス側から彼の邸宅を指定されたのだ。

 

「……ジープで良かったんですかのう?ご領主の邸宅に行くんですから、何かもっと良い車をレンタルした方が……。」

「ジョナスもロベールさんも、構わないそうだ。見栄えより実を取るらしい。」

「なら良いんですがの。」

「あ、サイモン中尉。突き当たった幹線道路を左折して西進してください。」

 

 ジャスティン少尉のナビゲートに従い、サイモン老がジープを走らせる。やがてジョナスの邸宅が見えて来た。キースの記憶にある、恒星連邦首都惑星ニューアヴァロンのバレロン伯爵役宅よりも随分と小さいが、それでも上品な造りの立派な邸宅であった。門で門衛に用件を告げると、門衛は電話で何処かに確認を取る。そして門衛は失礼を詫びると、すぐに開門して通してくれた。キースたちはジープのまま乗り入れ、広い前庭を少々走ると邸宅前に停車した。

 ジャスティン少尉が感嘆した様に言葉を漏らす。

 

「大きなお宅ですねえ……。」

「これでもニューアヴァロンの役宅より小さいんだ。本宅の方が役宅より小さいのはどうかと思うかも知れないが、バレロン伯爵……ジョナスはあまり領地には帰って来られないんだ。『第9ダヴィオン近衛隊』連隊長として首都惑星ニューアヴァロンの守りに就いているか、あるいは政治関係の仕事であちこちの惑星を飛び回ってるからな。それでも領民たちに権威を示すために、けっこう立派な造りにはなっているが、さほど使わない物に金をかけるのもな。」

 

 キースはそう言いつつ、ドアに近寄りインターホンを鳴らす。返事はすぐにあった。

 

『はい、キース様でございますな?正門門衛から連絡を受けました。今すぐお迎えに上がります。』

「はい、待たせていただきます、ロベールさん。」

 

 響いてきたのはジョナスの執事、ロベール氏の声だった。やがて両開きのドアが開き、数人の人影が現れる。ロベール氏、メイド数名と、当のジョナス本人だった。ジョナスはキースたちに向かって言う。

 

「やあ、いらっしゃいキース、半年ぶりかな。それにジャスティン少尉に、サイモン・グリーンウッドさんだったかな?例の発掘は大成功だったみたいだね。オーバーロード級が2隻も降りて来たって聞いた時には、正直驚いたよ。あと他にも2隻増えてたみたいだね。」

「ああ、他にも色んな物が見つかったよ。運べる物は、あらいざらい持ってきた。それの事で、ジョナスに相談があって来たんだよ。」

「……そうか。じゃあ、奥へ行こう。」

 

 キースの言った「相談」の一言で、ジョナスの眼が鋭くなる。わざわざ会って話したいと、HPG通信を使ってジョナスに時間を空けさせたのだ。よほどの事態が起きたとジョナスは理解しているのだろう。ジョナスはキースたちを誘って、奥の応接間へ案内する。

 応接間に入ると、キースたちはジョナスの勧めに従い、ソファに腰を下ろす。ジョナスはキースの正面に腰掛けた。執事のロベール氏が、メイドたちに命じて茶とお茶請けを用意させる。そんな中、ジョナスはずばりと斬り込んで来た。

 

「キース、何を見つけたんだい?僕に何を望んでいる……いや僕に何ができる?」

「降下船を掘りに行って、とんでもない物を見つけてしまったよ。いや、まったく……。ジャスティン少尉、目録の写しを。」

「はっ!了解です、ただ今。」

 

 ジャスティン少尉がパンパンに膨れ上がった書類ケースから、書類束を取り出す。キースはそれを手に説明を始めた。

 

「まずオーバーロード級降下船が2隻。トライアンフ級降下船が1隻。レパードCV級降下船が1隻。通常型のバトルメックが24機。通常型の気圏戦闘機が12機。これも通常型のLAM機が12機。そして重戦闘車輛が44輛に機動ロングトム砲が1門、雑多な車輛類が8輛。そしてマーチャント級航宙艦2隻。莫大な交換部品や資源を含む雑多な物資。ここまでだったら全然問題無いんだ。俺たちが全部使う予定だし。」

「マーチャント級航宙艦2隻は、正直予想外だよ。降下船基地としか、キースからは聞いてなかったからね。でも、そうか。それが無かったら降下船を全部運べないか。」

「うん。それはともかく……。次が第1の問題だよ。」

「第1の?」

 

 キースは目録の1部をジョナスに渡す。

 

「遺失技術を使用したバトルメック、星間連盟期の実験機が14機。同じく遺失技術使用の気圏戦闘機の実験機が6機。遺失技術を使用したLAMの実験機が2機。そして星間連盟期の遺失技術を使用した部品群が山ほど。まったく呆れ返る量だったよ。」

「……それも想定内ではあったけど、それほどの数と言うのは驚きだね。確かにそれを処分したいと言う事であれば、僕に連絡を取ってくれたのも理解できるよ。実験機と言う事は、自分たちで使う気にはならなかったんだろう?でも研究材料として恒星連邦政府に売れば、大きな見返りが望めるからね。

 それに、僕の事も考えてくれたんだろう?それだけの代物の売却を仲介すれば、僕にとっても大きな手柄になる。」

「だが、これで終わりじゃないんだ。」

「!?」

 

 ジョナスは驚きの表情を隠さない。キースは続ける。

 

「最後に巨大な爆弾が幾つかあるが、それは最後に取って置こうか。まずは通常型メックや気圏戦闘機、遺失技術機に関する事の続きだね。各種継承王家オリジナルの物を除いた、各種メックや気圏戦闘機の設計データが遺跡のコンピュータから回収された。遺失技術メックの設計データも含まれている。それらのメックの整備・修理マニュアルなんてものもあったなあ。

 そして遺失技術に関する詳細技術資料、研究資料が大量に発見されているし、航宙艦や降下船の整備・修理マニュアルや多数の修理用資材なんて物も発見されてるよ。これらは今の時代、とんでもないお宝だと思う。現物よりも、ある意味貴重だろう?」

「もう言葉も無いよ。だけど、まだ爆弾が残されてるんだろう?」

「ああ。第1の爆弾は、バトルメックと気圏戦闘機の自動整備施設さ。分解してコンテナ詰めにして持ってきた。設計図を主コンピュータに登録しておけば、内部に収めておいたバトルメックや気圏戦闘機を自動的に修理や整備して、完全な状態に復旧、維持してくれる。全自動で稼働するし、必要部品類の備蓄さえあれば……いや、一部は原料状態の資材からでもバトルメックや気圏戦闘機を完全修復できるんだ。ここにいるサイモン中尉の言葉によれば、星間連盟期の技術の粋だと言う事だよ。

 第2の爆弾は、バトルメックと気圏戦闘機の製作施設さ。ああいや、「工場」じゃない。どちらかと言えば「職人の工房」に近いイメージを持ってもらえるとありがたいかな。あくまで少数のサンプル機や、実験機、試作機をハンドメイドに近い形で「製作」するための施設なんだ。「製造・生産」じゃあないんだよ。

 効率もそんなに良く無いんだ。既にありものの機体を改造したり、骨組みだけでもあればそれにありものの部品群を組み付けて、機体をでっちあげるだけならば非常に早くできる。でもゼロから造る場合、サイモン中尉ほどの練達の技術者でも、重量級を2年に3機が精一杯なんだ。強襲型メックならば、もっと時間がかかる。……これも分解してコンテナ詰めにして、持ってきた。」

 

 キースは言葉を切る。ジョナスは言葉も無い。

 

「……最後の爆弾は、これらが発掘された星系の座標そのものさ。その星系にはね、航宙艦の修理が可能な0G乾ドックが2基、稼働可能な状態で残っていたんだ。これは流石に持ってはこれなかった。だが満足に動くシップヤードがあると言うだけで、この情報に意味がある事ぐらい、ジョナスなら分かるだろ?」

「……ああ、分かるよ。キースが僕のところに話を持ってきた理由がね。下手なところに話を持って行ったら、3つの爆弾のどれでも、命取りになりかねないよ。バトルメックや気圏戦闘機を自動修理できる施設、同じくバトルメックや気圏戦闘機を効率が悪いとは言え製作できる施設、あげくに稼働する0G乾ドックの情報……。」

「あとは俺たちが見つけ損ねた、探し残しのお宝も、その惑星にまだ存在するやも知れない。」

 

 深く頷いて、ジョナスは応える。

 

「うん。……通常型メックや気圏戦闘機、降下船、航宙艦、それらの部品や資材以外の、言わば「危険物」については全部僕を通して、恒星連邦政府に売却すると言う事でいいのかな?」

「ああ、後は技術資料の類はコピーを取って手元に置き、原本をそちらに渡すよ。」

「うん、遺失技術バトルメックや遺失技術気圏戦闘機、及び遺失技術部品群については比較的早目に査定ができると思う。それでも莫大な価値があるからね。金銭での買取は現実的じゃないね。バトルメックや気圏戦闘機及びその補修用パーツなどでの物納になると思う。けれど、いったい何機分と査定される事やら……。遺失技術メックは中量級1機で強襲メック1機が最低ラインと思われるし……。キースたちの降下船の搭載機数がどれだけ空いてるかの問題もあるからねえ。

 けれど、その他の設計データを含む技術資料類、それに爆弾3つについては、かなりの時間が欲しい。報酬を何にするかで、相当もめると思う。」

 

 キースは了承する。ジョナスの言う事に、間違いは無いだろう。

 

「わかったよ、ジョナス。とりあえず査定ができるまで、追加人員の募集やら何やら、やる事があるから、それをやってる事にするよ。」

「それとキース、「荷物」を持って、僕と惑星ニューアヴァロンまで来てくれないかい?引き渡し先は、間違いなくNAISになるだろうからね。その方がいいだろう。これだけの価値のある物品に情報だ。慎重に事を運ぶ必要がある。HPG通信での連絡も一瞬考えたけど、やはり直接僕が向こうに行って「上」に奏上するよ。人員募集とかは向こうでやってくれるとありがたい。」

「うん、わかった。そうしよう。出発はいつだい?」

「早くて3日後、遅くても1週間以内だよ。」

「ああ、わかった。正確な日程が決まったら教えてくれ。」

 

 ジョナスとキースは、右手を差し出して握手をする。キースたちが発掘してきた遺物を恒星連邦に売却する窓口になる事は、ジョナスにとっても非常にありがたい事だ。これにより、ジョナスの立場は更に強化されることは間違い無かった。一方キースたち『SOTS』にとっても、下手をすれば身の破滅になりかねない重要過ぎる品を、安全に始末できる上に多大な利益に結び付くであろう事は、正直ありがたかった。

 

 

 

 ジョナスとの会見の4日後、『SOTS』の降下船群はこの星系のジャンプポイント、ナディール点に向かい出立した。同時にジョナスが乗り組んでいるユニオン級降下船オーベルト号も、宇宙港ヴァグジェポートを出航する。この船は、キースたちの航宙艦に便乗して惑星ニューアヴァロンへと向かう予定だ。本当であれば、12月上旬のうちは領地でゆっくりするはずであった親友を、忙しく急き立てる結果になってしまい、キースは少々申し訳なく思った物である。

 ちなみに惑星ウィロウイックでの休暇を切り上げられた『SOTS』の面々は、さぞかし文句を言うであろうとキースは考えていた。だが行先が恒星連邦首都惑星ニューアヴァロンであると言う事で、文句は全然出なかった。『SOTS』の面々は、文明の香りに飢えていたのだ。アンドリュー曹長などは言った物だ。

 

「いや、ウィロウイックも悪くないけどよ。ニューアヴァロンに比べりゃあなあ。恒星連邦の首都を見に行くのは、初めてだぜ!」

 

 そう、大概の『SOTS』メンバーは、惑星ニューアヴァロンには行った事が無い。皆が皆、おのぼりさんであったりするのだ。ニューアヴァロンまでは2週間強、12月半ば過ぎに到着予定だ。うきうきと期待に胸を膨らませる部隊員たちを連れて、確実に向こうでは仕事漬けになるであろうキースは、これも指揮官の孤独か、などと内心溜息を吐くのだった。




なんやかんやで、休暇切り上げで『SOTS』は恒星連邦首都惑星の、惑星ニューアヴァロンへ。でも欠片も文句は出ません。だって首都惑星ですから。
それはともかく、主人公たちは恒星連邦に、爆弾をいくつも持ち込みました。いえ、比喩的な意味で。ああ、弾薬もたくさん持ってるから、直截的な意味でも爆弾たくさん持ち込みましたけどね(笑)。


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『エピソード-079 恒星連邦首都惑星』

 フォートレス級ディファイアント号の船窓に、乗員が鈴なりになっている。船員しかり、歩兵しかり、整備兵や助整兵しかり、偵察兵しかり、あげくにメック戦士までが我先に、と眺めの良い場所を占領して、感嘆の声を上げていた。

 ここは恒星連邦首都惑星ニューアヴァロン、その惑星首都アヴァロン・シティーに隣接した巨大宇宙港、アヴァロンポートである。混成傭兵大隊『SOTS』所属の降下船群は、今このアヴァロンポートに到着したばかりであった。

 アンドリュー曹長とエリーザ曹長が、感慨深げに言葉を発する。

 

「すっげぇ広いぜ……。しかも設備の充実ぶりも、並じゃねえや……。」

「惑星ロビンソンのブエラーポートも大したものだと思ったけど……。さっすが恒星連邦の首都惑星ニューアヴァロン、その更に首都であるアヴァロン・シティーの宇宙港、アヴァロンポートよねえ……。」

 

 おのぼりさん達のその様子を眺めて思わず失笑しつつ、キースは徐に言った。

 

「やれやれ……。まあ気持ちは解るんだがな。幼い頃にはじめてニューアヴァロンに来たときは、俺も同じだったし。」

「隊長は、以前にもニューアヴァロンにおいでになった事が?」

 

 苦虫を噛み潰した表情で、指揮下の歩兵たちの様子を見遣っていたエリオット大尉が、キースの台詞に反応する。キースは頷いた。

 

「ああ。俺の出身部隊であった『BMCOS』が、まだ健在だった頃に、な。俺の父親が、部隊の中では交渉役だったんだ。色々と恒星連邦のお偉いさんたちにコネを持っていてな。その中でもかなり親しい間柄だったのが、ジョナスのお父上だ。

 だから父親や母親と共に、何か事あるごとにニューアヴァロンには来ていたからな。その都度ごとにジョナスのところにはお邪魔したもんだったな。ジョナスがアルビオン士官学校に入学してからは、なかなかそう言う機会も無かったんだが……。

 ふふ……。もう昔の話だ。」

「……。」

 

 エリオット大尉は言葉に詰まる。キースの過去は、『SOTS』初期メンバーの内では有名な話である。キースの出身部隊『BMCOS』が味方の裏切りが原因で全滅した事も、キースの両親がその際に喪われた事も、『SOTS』の中では古参であるエリオット大尉ならば、幾度か聞いた事があった。

 キースは苦笑する。

 

「ああ、すまんなエリオット大尉。気にすることは無い。貴官らの助けもあって、俺は無事に本懐を遂げる事ができた。貴官らには感謝しているんだ、心底な。俺の中ではもう決着もきちんと付いている事だしな。重ねて言うが、気にするな。」

「はっ!了解です。……しかし、見ていられませんな。いくら何でもたるんでいます。少し気合いを入れて来ましょう。」

 

 エリオット大尉は船窓に集っている兵員たちに向かい、のっしのっしと歩いて行く。背後から見るキースにも、その迫力が感じられた。

 

「総員、気を付け!!」

「「「「「「!?」」」」」」

「貴様ら、何をブッたるんでいるか!!間もなくオーベルト号より、隊長のご友人であらせられるバレロン伯爵ジョナス・バートン閣下がお見えになるのだぞ!?隊長の大事なお客人に、無様な姿をお見せするつもりか!!さっさと配置に戻れ!!総員、解散!!」

「「「「「「り、了解!!」」」」」」

 

 兵員たちは、泡を食って散じる。身分が上のはずのメック戦士ですら、エリオット大尉の迫力には抗しきれずに、慌てて自分に割り当てられた船室へ走った。キースはにやりと笑いながら、エリオット大尉に頷く。

 

「すまんな。俺が怒鳴らねばならん所を、貴官にやらせてしまった。」

「いえ、お気遣いなく。では小官も戻ります。」

「うむ。ご苦労。」

 

 エリオット大尉が歩み去るのを見送ると、キースは自室へと歩を進めた。

 

 

 

 そしてここは、ディファイアント号のキースが使っている士官用船室……つまりは部隊司令室である。そこに設えられた応接セットのソファには、キースと来客であるジョナスの2人が腰掛けていた。その傍らに、キースの副官であるジャスティン少尉、ジョナスの副官ランドル・マッカートニー大尉の2名が直立し、影の様に付き従う。ジャスティン少尉がこの部屋の金庫から取り出して来た書類束を、キースに渡した。キースはそれを検めると、ジョナスに手渡す。

 

「これがパールク星系の星間連盟座標、および惑星パールクⅣの星系内座標、そして肝心の0G乾ドックの星系内座標だ。それにうちの整備兵……サイモン大尉待遇中尉が製作した資料……。例のバトルメックと気圏戦闘機の自動整備施設と製作施設の資料だよ。後は遺失技術メックや遺失技術部品他の貴重品の目録とか、各種設計データや整備・修理マニュアルなんかの概要や抜粋。」

「いいのかい?先に航宙艦用0G乾ドックの座標情報を渡してしまって。0G乾ドックの位置座標は、まだ内密にしておいた方が良かったんじゃ?」

「その辺は、ジョナスを信じてるからな。それに情報の現物がなければ、ジョナスも交渉が難しくなるだろう?」

「わかった。信頼にはかならず応えて見せるさ。ランドル大尉……。」

「はっ!」

 

 ランドル大尉がジョナスから書類を受け取り、厳重な鍵付きの書類ケースに入れて、更にその書類ケースを頑丈なアタッシュケースに収めてその上から鍵をかけた。ジョナスはそのアタッシュケースを、鎖で自分の身体に繋ぐ。ジョナスは鎖と錠前の具合を確かめて、笑う。

 

「うん。僕はこれから宮中に参内して、「上」に他の「爆弾」の件や売却物の件と共に、ニューアヴァロンへの旅の途上で練っていた、0G乾ドックの回収計画を奏上するよ。」

「うん、頼んだよジョナス。」

「ああ、それとあとは……。キースは確か、部隊の兵員の追加募集を行う予定だったよね?」

「ああ、そのつもりなんだが……。基本的に歩兵や助整兵、戦車兵、偵察兵になるかなあ、この惑星での募集は。メック戦士と航空兵、それに整備兵は難しいからなあ。ユニオン級を1隻ばかり、傭兵の星ガラテアに送り出して、メック戦士他の募集をやらせようかと思ってるんだ。まあ、それでも満足に兵員が集まるかどうかは分からないけどね。」

 

 ジョナスはキースの台詞を聞くと、少し怒った様な顔をしてみせる。眼が笑っているので、本気で怒っているわけでは無いのは分かるのだが。

 

「キース、水臭いじゃないか。」

「え?」

「言ってくれれば、僕がメック戦士や航空兵、整備兵を紹介できるのに。」

「あ、だけど今回の件で既にいろいろ頼んでしまってる事だしなあ……。」

 

 ジョナスはやれやれと首を振る。

 

「キース、それが水臭いって言ってるんだよ。メック戦士や航空兵の候補者を推薦するのは、僕にも利益があるんだ。僕の配下や派閥のメック戦士や航空兵の家系には、機体を相続できない3男4男や3女4女とかがごろごろいるし。中には当主の嫡男が成人するまで代理で機体に乗っていたと言う、実戦経験がある人間だっているんだ。

 そう言った家の人間を、僕の推薦で今名前が急速に売れて来ている『SOTS』に紹介できるとあれば……。そう言った人間が、正規のメック戦士や航空兵になれるとあらば、それらの家に恩を売りつける事になるんだよ。僕はそれらの家々からのより一層の忠誠が期待できるし、君は裏切る心配の無いメック戦士や航空兵を雇用できる。それに僕からの推薦だと言う事実が後押しするから、各家では整備兵の郎党とかを付けて寄越す事も期待できる。いい事尽くめじゃないか。」

「あ……。」

 

 唖然としたキースは、やがて肩を落とした。

 

「そうか……。ジョナスの利益にもなる、か。また俺は、変に遠慮をしていたか……。」

「ああ、そうだとも。……だから遠慮しないで、頼ってくれると僕の側でも嬉しいね。」

「うむ……。よし、ジョナス。頼めるかい?」

「ああ。と言っても僕自身は宮中に詰める事になると思うから、実務はこのランドル大尉に頼む事になるね。頼むよ、ランドル大尉。」

 

 話を振られたランドル大尉は、深く頷くと力強く言う。

 

「お任せ下さい、閣下。キース中佐、必ずや粒よりの人材を集めてみせます。ご期待下さい。」

「ありがとうランドル大尉。ジャスティン少尉、必要人員のリストを用意して、後でランドル大尉に渡してくれ。」

「了解です。」

 

 ふとキースは、やらなければならない事を思い出した。彼はそれを口に出す。

 

「……ああ、そう言えば兵員たちの半舷上陸の指示を出さないといけなかったな。ただ歩兵たちには申し訳ないけれど、警備の人員が足りないからなあ。半分ずつじゃなしに、ざっと計算すると、1/8ずつ交代でしか休暇をやれないなあ……。」

「ああキース、降下船は『第9ダヴィオン近衛隊』の歩兵部隊に警備させるから、君の所の歩兵部隊にもゆっくり休みをやってくれ。と言うか、こっちでは最初っからそのつもりでいたんだけど。」

「え?それはありがたいんだが、いいのかい?」

「かまわないさ。うちの部隊はニューアヴァロンにはしょっちゅう来る、って言うか此処が任地だからね。大事なお客の船を護るのも、仕事のうちさ。」

 

 キースはまた自分が下手に遠慮をしようとしているのに気が付いた。それは逆に、相手の迷惑にもなりかねない。しかも部隊としても、この話を断ったりすれば、歩兵部隊に大変な負担をかける事になるのだ。正直な話、降下船の隻数すなわち警備に必要な歩兵数は、以前とは全く違うのである。彼は口元に右手をやり、眉を顰めた。

 ジョナスがその様子を不審に思ったか、訊ねて来る。

 

「……どうしたんだい、キース?」

「いや、また自分が無意味で尚且つ有害な遠慮をしようとしていたのに気づいてな……。激しく自省していた所さ。」

「あはは。なら大丈夫だね。」

「ああ。警備の件、歩兵の派遣をお願いするよ、ジョナス。」

 

 キースの言葉に、ジョナスは笑って頷いた。

 

 

 

 混成傭兵大隊『SOTS』が惑星ニューアヴァロンに到着した翌日、キースはサイモン老に連れられて、現在この惑星にいるサイモン老の伝手がある貴族や高官を訪ね歩いていた。目的は、サイモン老の持っているコネをキースに受け継がせる事である。

 ちなみにジャスティン少尉は、今日は来ていない。今日行く場所は安全で、ボディーガードの必要性は無いからと、たまには羽を伸ばさせるべく休暇を与えたのである。ジャスティン少尉以外も、『SOTS』の兵員たちは半舷上陸し、惑星ニューアヴァロンでの休暇を楽しんでいた。アンドリュー曹長などは、郎党であり恋人でもあるアイラ軍曹を連れて、張り切ってデートに出かけて行った。

 サイモン老が今回、彼のコネをキースに受け継がせようとしている理由であるが、それは彼が自分が歳を食った老人である事を、痛いほど理解しているからなのだ。いつかそう遠くない未来、彼がキースの役に立てなくなる日がやって来るのは間違い無い。だからこそ、様々な技術を後進に伝え、弟子を育て、キース自身にはコネを受け継がせる事でその時に備えているのだ。まあもっともサイモン老には、そう簡単に朽ち果てるつもりは全く無いのだが。

 

「……本日は我々のためにお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。」

「そうですのう。まっこと閣下にはいつもお世話になり申して……。」

「いや、私も有意義なお話ができて、ありがたかったよ。」

「そう言っていただければ幸いです。」

「ありがとうございますわ。ではこれにてお暇いたしますわい。またお会いできる日を、主共々待っておりもうす。」

「うむ。ハワード中佐、サイモン殿を大事にな。サイモン殿、貴殿ももう若く無いのだから、無理はいかんぞ。ではまたな。」

 

 キースとサイモン老は、ロラスム侯爵ケヴィン・ギブソン閣下役宅を辞すると、レンタルして来た車で次の場所へと向かう。

 

「サイモン爺さん、次は誰と会うんだ?」

「次はそう偉い人物ではありませんでの。そう気を張らずとも良いですわな。ただ、油断のならない人物ではありますの。ダヴィオン情報部のヴィンセント・ケイ氏ですわ。」

「気は抜けんな。」

 

 キースはこの後数日間、サイモン老のコネの人物たちの役宅などを訪ね歩く事になる。今まで惑星公爵などと会話した経験が活きたか、そこまで精神的に消耗はしないで済んだ。まったく消耗しなかったかと言うと、そうでも無かったりもするのだが。

 

 

 

 ここはアヴァロンポートの離着床に着陸している、『SOTS』の降下船フォートレス級ディファイアント号の部隊司令室である。キースは一応アヴァロン・シティーの街中に、部隊員のための宿を借り上げてそこに自分の部屋も確保してはいる。確保してはいるのだが、そこは流石にセキュリティとかの面で問題もあるので、キースはほぼ毎日書類仕事のためにディファイアント号まで出勤して来る形を取っていた。

 キースは惑星ウィロウイックから惑星ニューアヴァロンまでの旅の途中で行った、部隊員の目ぼしい者に受けさせた、士官任用試験の結果を眺める。その顔が、若干にやけた。副官ジャスティン少尉がコーヒーを淹れてくれつつ、問う。

 

「その書類は自分もチェックしましたが、そこまで良い結果だったでしょうか?試験に落ちた者もそこそこいた様に思いますが。」

「ああ、コーヒーありがとう。ああ、いや……。確かに落ちた者もいたが、そいつらは基本的に無理を承知で、試しに受けさせて見た者達だからなあ。ネイサン軍曹とか……。だが、予想外に良い結果を出して合格してみせた者が、結構な人数出たんだ。特に歩兵部隊や戦車部隊。

 これだけの数が合格してくれたなら、歩兵部隊や戦車部隊に新しい人員を迎えた際に、小隊長職に就けられる人材が一気に増えると言う物だ。これで歩兵部隊や戦車部隊の拡張に弾みがつくぞ。」

「なるほど……。了解です。」

 

 と、そこへ卓上の内線電話機がインターホンモードで鳴る。キースはそのスイッチを入れた。

 

「誰か?」

『隊長、エリーザ曹長です。連れが1名。入室許可、願いまーす。』

「あー、許可する。」

 

 扉が開き、エリーザ曹長とイヴリン軍曹が入って来る。彼女らは敬礼を送って来た。キースとジャスティン少尉も答礼を返す。キースが要件を問う前に、エリーザ曹長が声を上げた。

 

「隊長!ちょっとジャスティン少尉を借りていいかしら?って言うか借りるわね!」

「あ、ちょ、待……。」

「じ、自分にはまだ仕事が……。」

「ではエリーザ曹長、退出しまーす!」

「そ、曹長!当たってる、当たってますって!」

 

 まだ退出許可も出していないのに、エリーザ曹長はジャスティン少尉の腕を胸元に抱え込んで引っ張って行ってしまった。唖然とするキース。ちなみにジャスティン少尉は、年上女性の胸の膨らみが腕にもろに当たっていた事で、顔を赤くしていた。キースはしばし呆然とする。

 

「……あー、イヴリン軍曹。貴様がどんな大人になるかは分からん。しかし可能であるならば……。せめて、ああはならん様にしてくれるか?少なくとも慎みは持ってくれ。」

「は、はい……。了解です。」

「あー、ところで貴様は今日は何の用だ?」

 

 イヴリン軍曹もまた、エリーザ曹長の勢いに圧されて呆然としていた様だが、キースの台詞に我を取り戻す。

 

「は、はい!部隊の皆が休暇を楽しんでおりますが、キース中佐は毎日お仕事だと聞いております!先日出かけたのも、結局はお仕事の延長の様な物であったとサイモン大尉待遇中尉よりお聞きしました!それで母、い、いえ失礼しました、チェンバレン=イェーガー総務課長やエリーザ曹長より、何か差し入れでもしたらどうかとアドバイスを、い、いえ、その、あの……。」

「む、差し入れか?それは有難いな。」

 

 キースは一瞬いっぱいいっぱいになりかけたイヴリン軍曹に、そっと助け船を出してやる。イヴリン軍曹はほっとした顔になり、差し入れの品を差し出した。

 

「アヴァロン・シティーで有名な菓子店の、焼き菓子のセットです!」

「ほう!『ディオン・フェレール』か、一流店じゃないか!高かったろうに。いや、しかし美味そうだな。早速頂くか。貴様も一緒にどうだ?」

「あ、は、はい!」

「あー、しかし……。しまったな、エリーザ曹長にコーヒー名人を連れていかれてしまったからなあ……。」

 

 イヴリン軍曹は、少々迷っていたが、意を決して口を開く。

 

「こ、紅茶でよろしければ自分がお淹れします!」

「む?では頼むとしようか。」

「はい!了解です!」

 

 イヴリン軍曹は中々の手つきで紅茶を淹れる。まずカップを温め、沸騰したお湯を注ぎ、ティーバッグを入れる。次に受け皿で蓋をして、茶葉を蒸らす。最後にティーバッグを軽く数回振ってから、カップから取り出す。これがティーバッグしか無い場合の美味しい淹れ方らしい。

 

「中々の物だな。いい香りだ。焼き菓子にも良く合う。」

「こ、光栄です。」

「くくく、見ていないで貴様も食べたらどうだ?美味いぞ?」

「あ、はい。……あ、美味しい。」

 

 イヴリン軍曹の顔が綻ぶ。キースも柔らかく微笑んだ。エリーザ曹長の策に嵌るのは何となく癪な気もするが、たまには良いだろうとキースは茶を楽しんだのだった。

 その後イヴリン軍曹が退出してしばらくしてから、ジャスティン少尉が戻って来た。何があったのか、ちょっと目が虚ろだったのがキースの気にかかったが。まあ何はともあれ、その後彼らは士官任用試験合格者たちの少尉昇進に関する書類を仕上げて行った。2、3日中には彼らの昇進処置が行える事だろう。目が死んでるのに、ジャスティン少尉の仕事効率が妙に高いのが、やはり若干気になったが。

 

 

 

「ううむ、歩兵と戦車兵の集まりはあまり良くないな。」

 

 人事書類を眺め遣りつつ、キースは唸る。その愚痴にジャスティン少尉が答えた。

 

「おそらくそれは、他所の後進惑星と違って「この惑星を出て一旗揚げてやるんだ!」などと考える人材が少ない事が、理由の1つでしょう。惑星ニューアヴァロンは恒星連邦の首都ですし、先進惑星もいいところですからね。」

「む、なるほど。まあ多少でも集まっただけ良いか。もう少し募集を続けるとしよう。一方で、偵察兵志願者は結構多いな。皆新兵だが、最低限の資質は備えている者が多い。鍛えるまでに時間がかかるだけが問題か。

 それと正規雇用の助整兵はやはり集まりがさほど良くないが、そうでない臨時雇用の助整兵は充分に集まったか……。あとでエリオット大尉、テリー大尉待遇中尉、アイラ軍曹、ベネデッタ伍長が報告に来るんだったよな?何時になっていた?」

「は。14:00時から予定が入っております。」

「流石に首都惑星であるニューアヴァロンで、スパイの類が入り込むのは難しいと思うが、用心に越したことは無いからな。彼らによる内部監査には、いつも助けられてる。……内部監査の要員を、もっと多く増やさないとな。せめて倍増程度に。彼らが来たら、内部監査要員の推薦も頼まないと。」

 

 キースは新しい書類を手に取り、検め出す。それはジョナスの連隊副官、ランドル大尉が送ってくれた、メック戦士候補、航空兵候補、その郎党の整備兵たちの第一陣の書類であった。追記されていたメモ書きによると、第一陣はここ惑星ニューアヴァロン上にいた人材たちであり、この後星系外から第二陣、第三陣が到着予定であるらしい。

 しばし時間をかけて書類を確認した後、キースは呟くように言う。

 

「ふむ、士官の資格をもっている人物もそこそこ多いな。書類を見る限りでは、人格的にも信頼できそうだ。さすがジョナスの懐刀、ランドル・マッカートニー大尉の手配だけはある。……一応明日を丸一日使って、メック戦士候補、航空兵候補、その郎党の整備兵たちと面談するんだったよな?」

「は。明朝08:30時から予定が入っています。」

「書類通りなら、問題なく全員を雇用できる。正直ありがたいな。予備メックや予備気圏戦闘機を遊ばせて置くのは、勿体なさすぎる。

 ……しかし、LAM機を使った降下猟兵隊要員は、才能のある素人を集めて訓練した方が良いかもなあ。しばらくの間、降下猟兵隊は欠員だらけになるな。」

 

 キースは溜息を吐く。そして彼は、引き続き書類仕事に戻った。

 そして次の日に、ランドル大尉に引き連れられてメック戦士候補他の人材がやって来る。直接会談して人格を確認したメック戦士候補他の面々は、全員が問題なく部隊の一員となった。彼らは一様に、諦めかけていたメック戦士や航空兵への道が開けた事に感激し、その郎党の整備兵たちも心から喜んでいた。

 

 

 

 メック戦士候補や航空兵候補、郎党の整備兵たちを部隊に受け入れたその日の夜遅く、キースとジャスティン少尉がアヴァロン・シティーの宿に帰ろうかとした時の事である。部隊司令室の内線電話機が、内線モードで鳴った。表示パネルを見ると、ブリッジからの連絡である。キースは受話器を取った。

 

「こちら部隊司令室、キースだ。」

『こちら副長のガイです、部隊司令。』

 

 ガイ・オサリヴァン少尉は、オーバーロード級フィアレス号の船長に異動した元副長マシュー・マクレーン中尉の後任である。今は乗員たちは半舷上陸であるため、船長に代わってこの船を預かっていた。キースはガイ副長に用件を訊ねる。

 

「副長、何かあったのか?」

『部隊司令に今からお客様が来ます。たった今、宇宙港の回線を介して電話がありました。バレロン伯爵ジョナス・バートン閣下と科学技術省副大臣ブリジット・ギャヴィストン女史、軍務省副大臣ブライアン・ランプリング氏が内密にお会いしたいそうです。』

「!?……了解した。電話はもう切れたのか?」

『はい。何やら妙にお急ぎの様でしたので、自分の一存で部隊司令をお待たせしておくとお返事いたしましたが……。』

「いや、それで構わない。船の乗降ハッチまで出迎えに出よう。」

『はい。ではこれで。』

「うむ。」

 

 キースは受話器を置くと、ジャスティン少尉に言った。

 

「急なお客様が来る。ジョナスともう2人、かなりのお偉いさんが今から来るそうだ。俺と共に乗降ハッチまで出迎えに出てくれ。」

「はっ。了解です。」

 

 2人は乗降ハッチまで急ぐ。彼らが乗降ハッチに着いた時、そこには既に豪華な高級車が停まっており、SPと思しき人物がそのドアを開いている所だった。キースは謝罪の言葉を口に出す。

 

「出迎えがおそくなりまして申し訳ありません、伯爵閣下、ギャヴィストン副大臣、ランプリング副大臣。」

「ああ、いや。急に来たのは私たちの側だからね。気にしてはいないとも、ハワード中佐。」

 

 今日は2人の副大臣がいるため、口調が友人としての物ではなく、公人としての物になっているキースとジョナスだった。キースはお客人たちを船内に迎え入れる。

 

「軍用の降下船ですので、むさくるしい所ですが、お入りください。」

「ではお邪魔するよ。」

「では、わたくしどもも……。行きましょう、ランプリング殿。」

「ああギャヴィストン殿。ではお邪魔する、ハワード中佐。」

 

 キースとジャスティン少尉は、部隊司令室まで彼ら3名とSPを案内する。ジョナスは部隊司令室の前で、SPたちにその場での立哨を命じた。キースは入室を促す。

 

「ではお入りください、お三方。」

「ああ。失礼するよ。」

「はい。」

「ふむ……。質実剛健でなかなか好ましいね。」

「ありがとうございます、そちらのソファにお掛け下さい。」

 

 ジャスティン少尉を除くその場の全員が、ソファに腰掛けた。ジャスティン少尉はキースと客人3人のコーヒーを淹れて茶菓子を用意した後、キースの傍らに直立不動で立つ。ジョナスが口を開いた。

 

「さて、ハワード中佐。」

「はっ。」

「此度の貴官の多大なる功績に、まずは感謝を。」

「わたくしたちからも、御礼申し上げます、ハワード中佐。」

「貴官の発見は、軍事的にも軍事科学分野に置いても、恒星連邦に多大なる貢献をもたらす事は間違い無しだ。」

 

 2人の副大臣も、口々にキースに礼を言い、称賛する。キースは軽く頭を下げた。

 

「ありがとうございます。ですが、私だけの手柄ではございません。これも優秀な我が部隊の隊員たちの、努力のたまものでありますれば……。」

「それで、だ。ハワード中佐。」

「はっ。伯爵閣下。」

「貴官たち『SOTS』の発見物を……。発掘された遺失技術メックや遺失技術気圏戦闘機、各種技術資料の原本、そして最大の宝であるメックや気圏戦闘機の自動整備施設および製作施設を、NAIS……ニューアヴァロン科学大学まで運び込みたい。それも早急に……。できれば1日~2日のうちに、だ。

 可能かな?」

 

 ジョナスの言葉に、キースは少々考え込むと、ジャスティン少尉に顔を向ける。そしてジャスティン少尉が懐から予定を書き連ねた手帳を取り出して言った。

 

「は。今夜のうちに船員たちに緊急招集をかけて、明朝には「荷物」を積んだ降下船全てが発進可能です。明日からの予定は、後日にずらす気になればずらせる物ばかりです。」

「そうか。……伯爵閣下、可能です。明日早朝には移動開始できます。」

「まあ!助かりますわ!NAISにさっそく連絡を入れて、NAISとその専用宇宙港に受け入れ準備をさせましょう!」

「おお、それは有難い!」

 

 科学技術省副大臣ブリジット女史と軍務省副大臣ブライアン氏は、喜色を顕わにする。ジョナスも柔らかく微笑んで、キースに言葉をかけた。

 

「感謝する、ハワード中佐。」

「いえ、元々こちらからお願いした事でもありますから。」

 

 キースもジョナスに向かい、微笑む。ようやくの事で、下手をすると部隊に破滅をもたらしかねない、価値のあり過ぎる「爆弾」を始末する事が叶うのだ。

 だがキースは気を引き締める。明日にきちんと「爆弾」を引き渡し終えるまでは、まだ危険が去ったわけではない。まず無いとは思うが、省庁の副大臣あたりまで話が下りていると言う事は、もしかしたらその過程で情報漏れが発生する可能性も、まったく無いわけでは無いかもしれないような気もしないでもない。たぶん大丈夫だとは思うが、だが気を抜いて良いわけは無いのだ。

 表情を引き締めたキースに、ジョナスもまた真面目な顔になって頷く。明日、無事に「荷物」の引き渡しを済ませられる事を願いつつ、彼らはやや冷めてしまったコーヒーを一口飲んだ。




今回は、恒星連邦首都惑星であるニューアヴァロンで、お偉いさんたちとの折衝とかお付き合いとか様々な苦労を主人公キースがするのがメインです。
あとジョナスと。
それとイヴリン軍曹(笑)。
がんばれイヴリン軍曹。


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『エピソード-080 慌ただしい年末』

 鮮やかな朝日を浴びて、連盟標準時の3027年12月23日04時21分、惑星の現地時刻で07時12分に、『SOTS』所属の降下船であるフォートレス級ディファイアント号は、惑星ニューアヴァロンの首都アヴァロン・シティーより南に約30kmの地点にある、NAIS……ニューアヴァロン科学大学の専用宇宙港離着床に着陸した。ディファイアント号の船長や副長の操舵の腕前は見事な物で、着陸位置にわずかなずれも無い。

 更にディファイアント号を追う様にして、これも『SOTS』所属である2隻のオーバーロード級降下船、フィアレス号とサンダーチャイルド号が着陸する。これもまた、素晴らしい腕前を披露して見事な着陸を見せた。

 着陸した3隻の降下船に、宇宙港所属の冷却車輛が群がる。その後ろには、船体の冷却を待っている推進剤補給車輛が、エンジンをアイドリングさせたまま停車していた。その様子をディファイアント号の船窓から、キースはジョナス、科学技術省副大臣ブリジット・ギャヴィストン女史、軍務省副大臣ブライアン・ランプリング氏と並んで眺めていた。

 

「流石に規模はアヴァロンポートには敵いませんが、設備はあちらに負けないほどに充実していますのよ。」

 

 そう言うのは、ブリジット女史である。彼女は科学技術省副大臣であるが故に、NAIS及びその関連設備に関しても深い関わりがあるのだ。キースは同意する。

 

「確かに。着陸してから冷却車輛が来るまで、ほとんど間がありませんでした。設備だけでなく、人員の練度もかなりの物と見えますね。」

「NAISには、この専用宇宙港を使用するか、あるいは直通の地下鉄を使うかしか出入りする方法は無い。様々な極秘プロジェクトが進行しているから、保安体制を厳しくするためにも、そうやって人員の出入りを管理している。

 中佐、此度の貴官らのここ専用宇宙港への着陸は、非常に例外的な出来事なんだ。警備上少々窮屈な思いをさせるかも知れないが、堪忍して欲しい。」

「はっ。それは重々承知しております、伯爵閣下。どうかお気になさらず。」

 

 ジョナスの言葉に応えると、キースは推進剤補給車輛の更に後方を眺め遣る。そこには多数の歩兵と、2個中隊のバトルメックが存在していた。彼らは『SOTS』降下船群の警備と言う名目で、万が一のための監視任務に就いているのは間違いない事だろう。如何にジョナスの保証があったとしても、立場上キース達『SOTS』は外部の傭兵部隊なのだ。相手からすれば、仮にキース個人が信じられたとしても、その部下の下っ端1人1人までことごとく信頼できるとは言えないのである。

 やがて船体が充分に冷え、推進剤補給車輛が冷却車輛と入れ替わりで配置に着く。ディファイアント号、フィアレス号、サンダーチャイルド号のメックベイ扉が開き、傾斜路と化した。そして周囲を取り囲むメックの壁の向こうから、幾台もの重量物輸送車輛がやって来て各船の船倉を兼ねた格納庫へと入って来た。

 ジョナスがキースに向かい、言葉を発する。

 

「さて、事前に知らされた通りならば、今この船に入って来た重量物輸送車輛の1号車に、NAIS側の今回の責任者であるハーマン・マクウィリアムズ博士が乗っているはずだ。中佐、ギャヴィストン副大臣、ランプリング副大臣、行こうか。」

「はっ!了解です。では船倉までご案内いたします。」

「わかりましたわ。」

「うむ、行きましょうジョナス卿。」

 

 彼らはキースを先頭に歩いて行った。

 

 

 

 船倉には混沌が溢れていた。キース、ジョナス、ブライアン軍務省副大臣は唖然とする。しかしブリジット科学技術省副大臣は少々失笑しただけであった。彼女はこの手の混沌には慣れていたのだ。船倉で待っていたジャスティン少尉が、キース達に敬礼をする。キースとジョナスは答礼を返し、副大臣2人は片手を挙げて略式の礼を返した。キースはジャスティン少尉に問いかける。

 

「ジャスティン少尉、これは一体何事だ?」

「はっ。サイモン大尉待遇中尉が、重量物輸送車輛から降りて来た白衣の一団に、なんと言いますか……。その……。拿捕されました。彼らが何を言っているのか、専門用語ばかりが飛び交っておりますので、自分には解りかねます。」

「サイモン中尉が、か。」

 

 キースが見遣ると、興奮し発奮しエキサイトする白衣の集団の中に、確かに自分の郎党である大柄な老整備兵の姿が確認できた。その周囲には、サイモン老の弟子であるジェレミー少尉、パメラ軍曹、キャスリン軍曹の姿も見えた。彼ら4名の整備兵たちは彼らを取り囲む白衣の集団に対し、書類を示し、ホワイトボードに図を描き、時折機械部品の実物を手に取って、何やら解説している。

 ブリジット副大臣は困った物だと言う様な笑顔を浮かべて言う。

 

「まあ、あの方たちはいつもああですから……。研究の事しか頭に無いんですのよ。ほら、警備の歩兵の方々もどうして良いやら困ってらっしゃいますわ。」

「たしかに困った物だ。ハワード中佐の部隊に不心得者がいるとは思えんが、にしても不用心が過ぎる。万が一のテロの可能性ぐらいは考慮すべきだろうに。ギャヴィストン殿、科学者たちは貴女の管轄でしょう。なんとかしていただけませんか?」

 

 ブライアン副大臣の要請に、しかしブリジット副大臣は首を左右に振った。

 

「あの方たちが、とりあえず満足するまでやらせるしかありませんわ。特に今回の責任者であるハーマン博士は、いったん火が付くとどうにもならないお人ですのよ。もし下手に止めようものなら、玩具を取り上げられた子供の様に不機嫌になりますわ。天才的な科学者ではあるのですけれど……。」

 

 キースとジョナス、ブライアン副大臣は、酢を飲んだ様な顔になる。やがてしばしの時を経て、質疑応答の嵐は止んだ。白衣の集団のリーダーと思しき男性……おそらくはハーマン博士と思われる人物は、非常に元気いっぱいだった。一方、質問の集中砲火を受けたサイモン老とその弟子たちだが、サイモン老はまだ比較的元気であったが、ジェレミー少尉、パメラ軍曹、キャスリン軍曹の3名は精根尽き果てた様子である。キースは彼らに声をかけた。

 

「あー、大丈夫か、貴官ら?」

「隊長、わしは大丈夫ですがのう……?」

「あ、た、隊長。な、なんとか大丈夫、です。」

「た、たいちょ、う、わたし駄目かも……。」

「隊長……。私が死んだら遺灰は宇宙葬にしてください……。」

「……駄目そうなのが約2名いるな。」

 

 サイモン老は見た通り元気であったし、ジェレミー少尉はそれでも気力を奮い立たせてやせ我慢をして見せるが、パメラ軍曹とキャスリン軍曹はちょっとばかり台詞が怪しかった。キースは溜息を吐いて頭を振ると、気を取り直してハーマン博士らしき人物に向かって歩み寄った。

 

「ハーマン・マクウィリアムズ博士ですか?」

「うむ。貴殿はどなたかな?」

「自分は混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令、キース・ハワード中佐です。」

「おお、貴殿が!いや、今貴殿の部下のサイモン大尉待遇中尉と話をさせてもらったのですがな。すばらしい部下をお持ちですなあ。いや、あの方が書いた、発見物に関する概略を読ませていただきましたがな。素晴らしい発見です!それらの品々を恒星連邦政府に売却すると言う決断を下した貴殿にも、礼を言いたいですな。貴重な研究材料と高度な機材類をもたらしてくれて、感謝いたしますぞ!」

「いえ、どういたしまして、マクウィリアムズ博士。と、それよりもその「機材」や「研究材料」の移送を行わねばならないのですが……。」

 

 ハーマン博士は一瞬きょとんとしたが、すぐに我に返る。

 

「しまった!そうでしたな!」

(……忘れてたのかよ。)

「ええと、先に頂いている資料によりますと、この船には主に遺失技術を利用したバトルメックやその部品類が積んであるとの事でしたな。我々が乗せてもらって来た、重量物輸送車輛へ、それらを荷造りします。その作業自体は、こちらの人員が行いますので、積み荷の場所だけ指示していただければ……。」

「わかりました。サイモン中尉!ジャスティン少尉!マクウィリアムズ博士に積み荷を引き渡してくれ!」

「「了解!」」

 

 キースに向かって会釈をするハーマン博士に、キースも会釈を返した。そして彼はジョナスや副大臣2人の所へ戻る。

 

「ご苦労、中佐。」

「はい。いいえ、大した事はありませんよ、伯爵閣下。」

「まあ、後は私たちは「品物」の引き渡しに立ち会うだけで良いんだがね。ああ、後は何かあった場合に責任を取らなければならないか。」

「まあ、いざと言う時の責任のために、我々2人は来た様な物ですからな。」

「そうですわね。まあ、天才故に突発的に変な事をやるお人ではありますけれど、責任感が無いわけではありませんわ。手綱さえ上手く取っていれば、きちんと仕事をしてくれる方ですから大丈夫かと思われますわ、ハーマン博士は。」

 

 キース達4人は、その後しばらくその場で作業を監督していた。まあ監督と言っても、実際何もすることは無かったのだが。まあ責任者の仕事は、責任を取る事である。居るだけでも、意味は無くは無いのだ。

 そして様々なお宝、特に何よりもバトルメックや気圏戦闘機の自動整備施設およびそれらの製作施設と言う「爆弾」を全て引き渡したキース達は、再び降下船3隻でアヴァロンポートへと取って返した。なお別れ際にキースは、ハーマン博士より一通の書面を受け取った。キースはそれを見て驚いた物だ。それは今回引き渡した品々についての預かり証であり、その末尾にあるのは恒星連邦国王、ハンス・ダヴィオン陛下のサインだったのである。

 国王のサインが入っている書類をロイヤル・パレスの宮廷外に出すと言う事は、非常に大きな事だ。もし悪用しようとすれば非常に大きな力を振るえる事になる。無論、下手に悪用すれば身の破滅にもなる様な書類だ、と言う事でもあるが。キースは国王のサイン入りのその預かり証を、ディファイアント号の部隊司令室の金庫に、しっかりとしまい込んだ物である。

 

「やれやれ……。やっと何時もの口調で話せるよ。」

「そうだな。お疲れ、ジョナス。」

「お互い様さ。キースもお疲れ。」

 

 恒星連邦政府の公用車で、一足先に副大臣2人が帰って行った後、キースとジョナスはディファイアント号の部隊司令室にある応接セットのソファに腰掛け、談笑していた。キースがほっとした様な笑いを浮かべる。

 

「しかし、ようやく「爆弾」を手放す事ができたよ。国王陛下のサインが入った預かり証を渡されるとは思わなかったけどな。まあ、でも「爆弾」の現物よりはまだ気が楽だ。」

「陛下のいたずら、だろうなあ。「結婚式」の準備で忙しい今の時期に、恒星連邦の利益になるとは言え、でかい面倒ごとを持ち込んだんだ。ま、ちょっとした稚気だよ。そこまで気にする事は無い。第一これは国王陛下にとっても大きな利益になる事なんだから、別に気を悪くされてはおられないはずだよ。」

 

 キースはジョナスが「結婚式」の単語を、ややアクセントを強めて強調した事に気付いた。おそらくはジョナス自身で気付いていない事だろう。だがキースは「結婚式」の意味を知っていた。

 

(……結婚披露宴で、メリッサ・シュタイナー=ダヴィオンはハンス・ダヴィオンにウェディングケーキを1皿と、1個連隊のバトルメックの永遠の奉仕を贈った。そしてハンス・ダヴィオンはメリッサ・シュタイナー=ダヴィオンに、ウェディングケーキを1皿と、なんとカペラ大連邦国を贈ると言い放った。それが第4次継承権戦争の開始の合図だった。

 それとほぼ同時にラット作戦が発動され、カペラ大連邦国の9つの惑星に電撃的に恒星連邦軍の第1波攻撃が開始された……んだったよな。そっか、ジョナスはやっぱりハンス国王の計画を、全てかどうかはわからんが、一端なりとも知ってたかあ……。)

「……?どうしたんだい、キース?」

「ああいや、国王陛下の結婚式かあ……。盛大な式になるんだろうなあって思ってさ。」

「うん。僕も陛下に付き従って、参列する事になる。」

(ふうん……。となると、ジョナスの『第9ダヴィオン近衛隊』は、ラット作戦の第1波には含まれないんだろうなあ。いや第2波にも下手すると含まれないかも?だがジョナスの連隊は、恒星連邦政府にとって極めて信頼でき、信用できる重要な部隊だし。かならずラット作戦には投入されるはずだよなあ。)

 

 キースが1人で自分の考えに頷いていると、ジョナスはくすくす笑った。

 

「……?……俺、何かおかしな事言ったかな?」

「ああいや、そうじゃない。そろそろロイヤル・パレスの宮廷では、パルジファル作戦が発動されてる頃だと思ってね。」

「パルジファル作戦!?」

 

 キースの前世の記憶では、バトルテック世界でその様な名前の作戦が行われた事は無いはずであった。つまりこの作戦は、キースの干渉によって発生した可能性が高い。ジョナスは笑いながら言った。

 

「もう言っちゃってもいいだろうさ。パルジファル作戦は、ガラハド作戦や第2次ガラハド作戦の補完として行われる、航宙艦による艦隊演習さ。」

「……。あー……。!!……もしや艦隊の行き先はパールク星系か!?」

「流石にわかるか。その通りだよ。」

「なんとまあ……。確かにそう言う演習の名目ならば、多数の航宙艦を一時に動かす理由にはなるだろうけど……。あー、これ以上は聞かないでおくべきだな。」

 

 キースはそう言うが、ここまで聞いてしまえばこの作戦が、パールク星系から航宙艦用の0G乾ドックを運び出し、恒星連邦領域内に運び込むための回収作戦だと言う事は理解できる。だがそれをあえて口に上らせないだけの自制心は、ちゃんとキースにはあった。ジョナスは苦笑する。

 

「ああ。そうしてくれると僕としても助かる。ごめんよ。」

「ははは。いや、構わないさ。ジョナスの立場も、俺はわかってるつもりだからな。話せる事と、話せない事があるだろう、って事ぐらいは理解してるさ。」

「そう言ってくれると、気持ちが楽になるよ。……さて、僕もそろそろロイヤル・パレスに戻らないといけないんだ。車が迎えに来る時間だ。またすぐ会う事にはなると思うけれどね。」

 

 ジョナスの台詞に、キースは笑ってソファから立ち上がる。

 

「そうか。じゃあ乗降ハッチまで送るよ。」

「うん、頼むよ。」

 

 ジョナスもまたソファから立ち上がり、2人は並んで部隊司令室を後にした。

 

 

 

 そして翌日の早朝の事である。ジョナスの副官ランドル・マッカートニー大尉よりキース達が借り上げているアヴァロン・シティー内の宿に電話連絡があった。内容は、深宇宙通信施設を介した通信で、ゼニス点ジャンプポイント補給ステーションから通信があったとの事だ。キースには通信の中身に心当たりがあった。

 果たして、通信の中身は予想した通りであった。恒星連邦所属のミュール級降下船ヘリン号が、『SOTS』の航宙艦マーチャント級ネビュラ号と同級パーシュアー号、同級クレメント号が積んで来た貨物を受け取り、あらかじめキース達が恒星連邦政府に渡してあった目録に記載されていた通りの物資がある事を確認した、と言う物だ。

 ちなみにマーチャント級航宙艦は、1隻あたり3つの貨物ベイを持っている。その貨物ベイは1つあたり200tの容量を持っており、『SOTS』の3隻のマーチャント級は1隻あたり600t、3隻合わせて1,800tの貴重な航宙艦用修理資材などを、目いっぱい積んでいたのだ。無論これらの物資は、パールク星系で発掘された物である。

 ランドル大尉は電話口の向こう側で語る。

 

『その知らせが宮中……ロイヤル・パレスに届きまして、早速にGOサインが出されました。』

「GOサイン?」

『は。今回引き渡された物のうち、既に査定ができている物品類の代価を、ごく一部を現金……Cビルにて、そして一部をメックなどの物納にて『SOTS』に引き渡すための、GOサインです。ですが今回そちらに引き渡されるのは、あくまで一部です。本番の報酬の前の、言わば手付金代わりであるとの事です。未だ査定ができていない品なども多いですからね。

 本日14:00時に、アヴァロンポートにて『SOTS』にそれらを引き渡します。その際には、当部隊の部隊司令ジョナス・バートン大佐が伯爵……恒星連邦貴族としての資格で、自ら赴くとの事です。』

「うむ、了解した。ありがとうランドル大尉。ジョナスに待っていると伝えてくれるかね?」

『了解いたしました。それでは失礼いたします。』

「うむ。」

 

 電話は切れた。キースはジャスティン少尉と共に、宇宙港アヴァロンポートの降下船ディファイアント号まで向かった。

 

 

 

 ジョナスは時間よりもやや早目に、フォートレス級ディファイアント号までやって来た。キースはジャスティン少尉と出迎えに赴く。

 

「やあキース、話は聞いてるよね?」

「ああ、そちらにいるランドル大尉から電話を貰ったよ。さてジョナス、船内へ……。」

「いや、もうすぐ引き渡す品物を載せた降下船がやって来るから、ここでそれを待とう。キース、物資を搬入するための人手は?」

「サイモン大尉待遇中尉に指示してある。整備兵の半数と、この惑星で臨時雇用した者含めた助整兵全員が待機しているから、いつでも呼び出して仕事に当たらせられる。」

 

 ジョナスは頷いて、自分の副官の方に顔を向けた。

 

「ああランドル大尉、今のうちに書類を引き渡してしまおう。」

「はっ!」

 

 ランドル大尉が、手に持っていたアタッシュケースをまるごとジャスティン少尉に手渡すと、頷いて言った。

 

「中身をご確認ください。」

「ああ、ありがとうランドル大尉。ジャスティン少尉?」

「はっ!」

 

 ジャスティン少尉がアタッシュケースを開けると、中には複数の書類ケースがぎっしりと詰まっていた。キースはジャスティン少尉が差し出す書類ケースを1つづつ手に取ってそれを開け、ぱらぱらと書類の表題だけを確認して行く。キースは溜息を吐いた。

 

「はぁ……。たいした量だなあ……。現金の『SOTS』口座への振り込み証明書に書かれた額も、仰天したけれど……。カメレオン練習機が数機入ってるけど、それ含めてバトルメックが39機に気圏戦闘機が8機かあ……。そして中古とは言え、ユニオン級降下船ミンドロ号が1隻。これが手付金代わりか……。」

「それも恒星連邦に引き渡した物品や情報のうち、査定ができた分だけだからね。メックや気圏戦闘機は、遺失技術機体はその2倍の重量の通常型機体が相場っぽいからねえ。

 正直に言えば、君が昨日NAISに引き渡した遺失技術機体の価値に、遠く及んでいないんだよ、メックや気圏戦闘機だけじゃね。君に報酬として渡すために、可能な限り急いでかき集めた機体だから、中古機体や鹵獲メックも多く混じってるし。中量級や軽量級も多いし。

 だからその足りない分を、今回宇宙で引き渡された航宙艦修理用資材なんかの分も加味して、これも中古品で申し訳ないけれどユニオン級ミンドロ号で埋め合わせて、それでも足りない分を現金で、って事だよ。」

「しかも査定ができた分だけで、これだろう。査定ができてない分の報酬が、何で渡されるか、考えるとちょっと怖くなるな。」

 

 キースがそう言った時、空の彼方に球形と長球形の影が見えた。ジョナスがそちらに目を遣って、口を開く。

 

「ああ、来たね。例のユニオン級ミンドロ号と、残りの荷を運んできたオーバーロード級ウォルベリン号だ。」

「うーん、また船員を再配置して、足りない船員を雇わないとなあ。」

 

 キースは頭の中で、ユニオン級ミンドロ号の新船長は、今現在同級レパルス号で副長をやっているダーナ・フィリップス少尉あたりになるんじゃないかな、と当たりをつける。まあ船の事は、実際に決めるのは船長会議であり、キースはその人事を追認するだけだ。餅は餅屋、降下船の事は船長たちに任せるのが一番良いのである。

 やがて轟音と共に、『SOTS』降下船群の近場の離着床に、ミンドロ号とウォルベリン号が着陸した。

 

 

 

 連盟標準時の3027年12月25日、恒星連邦の宮殿であるロイヤル・パレスの大広間にて、年末パーティーが開催された。キースはこの催しに際し、正式な招待状を受け取っている。これは事実上の出席命令であった。ただしキースのみ、である。流石に他の『SOTS』の面々は、いかにメック戦士や航空兵であるとしても呼ばれる事は無かった。

 ちなみにここニューアヴァロンの宮廷では、キースの迫力に気圧される様な、やわな神経の軟弱者はあまりいなかった。流石は恒星連邦の中枢である。キースは何とはなしに感嘆していた。

 そしてキースは今、とある大貴族と会談していた。

 

「……あの時は、公爵閣下のおかげでドリステラⅢの惑星政府議会への工作が上手く行きまして。」

「いやいや、貴官の部下であるサイモン殿には、色々借りがあるからな。少しずつでも返していかねば。サイモン殿にはよろしく伝えておいてくれたまえ、中佐。」

「はっ。戻り次第サイモン大尉待遇中尉には、必ずや伝えておきます故、ご安心ください。」

「うむ。では済まぬがこの辺での。他にも挨拶に回らねばならん。やれやれ、忙しないことだ。」

「はっ。ではこれにて失礼いたします、公爵閣下。」

 

 キースは恒星連邦ダヴィオン家政府高官でもあるダルゾナル公爵アレックス・キャンベル閣下の前から辞する。彼はこのパーティー会場にて、サイモン老から受け継いだコネの相手や、彼が以前から持っていたコネの相手への挨拶回りで、大忙しであった。そこへジョナスが現れる。ここは公式な場所なので、2人とも口調は公人としての物だ。

 

「やあ、探したよハワード中佐。」

「はっ、伯爵閣下。」

「君に紹介しておきたい相手が何人かいらっしゃる。ついて来たまえ。」

 

 ジョナスはキースを、『第2南十字星部隊』連隊長である王族ジャクソン・ダヴィオンや、それにモーガン・ハセク=ダヴィオン――ハンス・ダヴィオン国王の政敵であるマイケル・ハセク=ダヴィオンの息子ではあるが、ニューアヴァロンの宮廷との関係は良い――と引き合わせる。また、ジョナスはその他の様々な貴族にもキースを紹介した。

 そしてジョナスは腕時計を見遣る。

 

「さて、そろそろいいかな。さっき私も一度ご挨拶に伺ったが、一言二言声を交わすだけで精一杯だった。貴官を紹介する余裕など無かったからな。もうそろそろ空いている頃合いだろう。」

「伯爵閣下、どちらへ?」

「ふふふ、来ればわかるとも。」

 

 釈然としないながらも、キースはジョナスに付き従い歩き出す。そしてある人物の近くで、彼らは立ち止った。その人物は多数の共の者を引き連れて、他の偉そうな高級官僚らしき者と、談笑していた。やがて会話が終わり、高級官僚らしき者はその場を去る。ジョナスは残ったその人物に話しかけた。その人物の右目近くには、小さな、しかしやや目立つ傷跡がある。キースには、多数の共を引き連れたその人物が誰であるか、見当がついていた。

 

「陛下、先ほどは挨拶もそこそこに、大変失礼をば。」

「いや、かまわないともジョナス卿。そちらが貴公の友人にして、此度の功労者だな?」

「はっ。ハワード中佐、自己紹介を。」

「はっ!了解です。」

 

 キースは即座に了承を返す。同時に彼は、失礼にならない程度にその相手……恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンを観察した。一見してハンス国王は、友好的で陽気な様子を身に纏っている。だがその瞳の奥にはこちらを見通す深い洞察力がある事を、キースは前世において読んだことのある、ハンス国王の紹介文で知っていた。

 だがこれほどまでに対人交渉能力に長けた人物に対し、腹芸で相手をしても意味は無いどころか有害である。キースはこの相手に、下手な小細工はしない事を選択する。彼は口を開いた。

 

「自分は混成傭兵大隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令キース・ハワード中佐、メック戦士であります。」

「よく来てくれた、中佐。流石、少し調べただけでも貴官の戦歴は物凄いな。それに物腰の端々から、凄みが伝わって来る。……まだ20歳にもなっていないとは、とても思えんな。」

「はっ。光栄です。」

「ははは。貴官がライラ共和国へ一時出向してさえいなければ、対ドラコ連合の奮闘を称えて今頃は、ドラゴンスレイヤー・リボン章を与えられていたに違いないんだがな。」

 

 ドラゴンスレイヤー・リボン章とは、ドラコ連合との戦いに際しての手柄を表彰する勲章である。ライラ共和国と恒星連邦の両国に、その勲章は存在してはいるが、今の段階では2つの国家は別国家である。キースの部隊である『SOTS』の功績は、半分が恒星連邦に対する貢献、半分がライラ共和国に対する貢献であるため、全部合わせれば充分に勲章に値する功績ではあるのだが、1国に対しては若干……と言う話であるらしい。

 

「それにしても、貴官が中佐か……。聞いた話では、充分に連隊規模はあると言う話だったがな。」

「陛下、中佐は奥ゆかしい所がございまして。」

「うむ。だが流石に年貢の納め時だろうよ。こちらの得た情報では、発掘品の通常型バトルメックや気圏戦闘機だけでもかなりの数になったそうだな。しかも今回発掘品のうちの貴重品を恒星連邦に引き渡した報酬の手付として譲渡された機体群……。大佐でなくば、部隊の格とつり合いが取れまいな。」

 

 キースは驚いていた。国王が色々と『SOTS』について知っていた事にではない。いまだに国王との話が続いている事について、驚いていたのだ。当初は一言二言短い言葉を貰っておしまいだろうと、そう考えていたのだが。

 

「中佐、貴官が大佐になる時は祝宴ぐらいは開くのだろう?なんなら私も出席しようかね?」

「陛下、お戯れを……。第一陛下にはその様な時間の空きはございませぬ。」

 

 ハンス国王の共の1人、おそらく侍従と思われる人物が、流石に口を挟む。

 

「む、なら祝電ぐらいは打とうか。」

「それもお止め下さい。下々の者には、かえって重荷になり申す。」

「は。ここでこうして親しくお言葉を頂いているだけで、充分に光栄にございます。」

 

 キースは侍従に目礼し、感謝の意を伝える。侍従も目線だけでそれに応えた。

 その後、位の高そうな他の参列客が国王と話をしに来るまで、キースとジョナスは国王の話につき合わされた。宴席上での非公式な物とは言え、恒星連邦国王との謁見は、なかなかに精神的な耐久度を削る物であった。

 

「……陛下がハワード中佐を連れて来るようにと言っていたんだが、どうやら、気に入られでもしたかな?」

「有難くも、恐れ多い事です。」

 

 ジョナスの言葉に、真面目な顔でキースは返答する。その顔は、ちょっとだけ引き攣っていたかも知れない。ジョナスの労わる様な申し訳ない様な、そんな視線がキースに投げかけられる。キースは思わず苦笑した。

 

 

 

 年末パーティーも終わり、3027年の暮れももう近い12月27日、キースは惑星軍から借りた演習場にて、バトルメック部隊と機甲部隊の実機訓練を行っていた。これは新規に雇い入れたメック戦士や戦車兵たちに、新たな機体や車輛に慣れてもらうためである。同じく新入りの航空兵たちについては、気圏戦闘機隊A中隊中隊長のマイク中尉の指揮のもと、当局に飛行許可を取って徹底的に扱いている最中だ。

 キースは徐に、自分の乗機である95tの強襲メック、S型バンシーの操縦席で思いを口に上らせる。

 

「ふむ、もう皆が新しい機体に慣れてきている。中々の素質を持っているな。だが……。実戦経験のある者と無い者の格差が大きいのは気にかかるな。」

『それは仕方ないでしょう、隊長。何、これだけの力量があれば、充分合格ラインです。実戦を1回潜り抜ければ、一人前になるでしょう。』

 

 S型バンシーの傍らに立つ100tアトラスから、マテュー少尉の声が小隊内回線で届く。更に80tオウサムからアンドリュー曹長の、85tストーカーからエリーザ曹長の声が、同じく小隊内回線で響いた。

 

『俺が心配なのは、今年の6月に入って来た新任少尉様たちだな。予定通り増員が成れば、奴らは中尉待遇って事で小隊長を任されるんだろ?』

『ああ、あのロビンソン戦闘士官学校組の若手少尉様6人ね。単純な腕前だけはこの半年の訓練で上がって来たけれど……。この半年は発掘仕事だったから、実戦はまだ経験してないもんねえ。』

『実戦の機微は、まだわかってねえだろに。いきなり小隊長は厳しくねえか?』

 

 キースは苦笑しつつ言う。

 

「だが、小隊長を任せられるだけの力量を持つ士官が足りん。奴らには頑張ってもらうしか無いな。何、これまでの半年で見てきたが、期待に応えられるだけの能力はあると感じた。最初のうちは何かとフォローしてやる必要はあるだろうが……。

 その辺は、奴らの小隊を指揮下に収める中隊の中隊長に、内密に頼んでおくとしようか。」

『やれやれ、士官はやっぱ大変そうだな。俺は気楽な下士官で良かったぜ。』

『激しく同意。あたしも士官じゃなくて、良かったー。』

『2人とも、実力的には任用試験を突破できるだけの能力はあるんですがねえ……。』

 

 そんな軽口を叩いている自分直卒の小隊員たちに、キースは真剣な声音で語る。

 

「なあ……。アンドリュー曹長にエリーザ曹長、本気で士官任用試験受けてみないか?いや、冗談抜きで真面目な話だ。マテュー少尉も、もうちょっとだけ昇進して欲しい。」

『『ぐげえぇっ!?』』

『あー、私は構いませんけどねー。』

 

 マテュー少尉以外の2人が、踏みつぶされたカエルの様な叫び声を上げる。キースはひとつ溜息を吐き、理由を説明した。

 

「いや、な。俺はたぶん間違いなく、来月に予定されている更なる増員が完了したら部隊を連隊に格上げして大佐になる。そうなればマテュー少尉は連隊長の直卒小隊の副隊長だ。それが少尉では今一つ格と言う物が足らないからな。これまでの貢献、功績を考慮しても、昇進が妥当だ。

 で、だ。アンドリュー曹長とエリーザ曹長なんだが……。2人の郎党の、アイラ軍曹とキャスリン軍曹の事なんだよ。アイラ軍曹の階級をもう少し上げてやりたい。郎党の方が主人よりも階級が高くなるのは、ちょっとばかり、な。アンドリュー曹長は気にせんかも知れんが、アイラ軍曹の方で気にしないとも限らない。

 で、だ。キャスリン軍曹の方は、もう少し事情が深刻だ。彼女は軍医の中では最も技量が高い。当然ながら、軍医の中ではリーダー格だ。しかし、軍医の中で彼女より階級が高い者はけっこう居るんだ。上官を怒鳴り飛ばすのは、例が無いとまでは言わんが……。今の階級のままでは、キャスリン軍曹もやりづらい事が多いだろう。

 あの2人が気兼ねなく昇進するためだ。アンドリュー曹長、エリーザ曹長、士官になってはもらえんか?」

『うむむむ……。アイラのためか……。』

『ぬぬぬ……。キャスリンには色々迷惑かけてきたし……。でも……。』

 

 とりあえずキースは、頭を振って2人に妥協案を示す。

 

「まあ、とりあえずお前たち2人には、俺の大佐昇進と時期を合わせて、下士官最上位階級の准尉になってもらう。しばらくはこれでお茶を濁すことにする。だが、そう遠くないうちに決断して欲しい。」

 

 そう言ってキースは、視線を訓練中のバトルメックたちに向け直した。アンドリュー曹長とエリーザ曹長は、未だに悩んでいる。大空を100tの最重量級気圏戦闘機であるスツーカ戦闘機が、50tのライトニング戦闘機……マイク少尉機に追われてフライパスして行った。




主人公キースが、お貴族様とか政府高官とか色々相手にして、疲れるというお話でした。


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『エピソード-081 忙しない新年』

 3028年1月1日、恒星連邦国王の宮殿であるロイヤル・パレスの大広間にて、キースはジョナスと共に、大勢の貴族、貴人、お偉いさんなどに挨拶回りをしていた。キースは年末パーティーに続いて、新年パーティーへの招待状も貰っていたのである。年末パーティーの時と同じく、これは事実上の出席命令であった。ちなみに招待状を貰ったのがキースだけで、他の『SOTS』メンバーは出席できないのも前回と同じである。

 

(やれやれ……。コネのある人物は、これで全員回ったかな。)

「疲れたかね?ハワード中佐。」

「はい。いいえ大丈夫です、伯爵閣下。」

 

 ジョナスへの返事とは裏腹に、キースはそこそこ精神的に疲労していた。ジョナスもそれは理解している。戦場での心理的な重圧と、パーティーの様な政治的なショーでの心理的圧迫とでは、やはり違う物だ。ジョナスは器用に両方に対応できているが、キースは単に慣れで誤魔化しているに過ぎない。キースの本領はやはり軍人であり、政治家は向いていないのだ。まあ、ある程度誤魔化せる程には慣れてはいるのだが。

 ここでジョナスが、一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべてから直ににこやかな笑顔に戻し、キースに向かい言った。

 

「ハワード中佐、陛下はやはり貴官を気に入られた様だな。そろそろ時間も頃合いだ。陛下に新年の挨拶をする者達も一通り終わっただろう。それを見計らって、貴官を連れて来る様に言われているのだよ。」

「それは光栄ですな、伯爵閣下。まいりましょう。」

 

 ジョナスの本心は、疲れているキースを休ませてやりたいところだろう。一瞬申し訳なさそうな顔をした事で、それは知れている。だが国王陛下のお召しとあらば、そう言うわけにもいかない。キースは疲れた精神に鞭打って、ジョナスと共に歩き出した。まあ肉体的には充分な余裕があるので、まだまだ頑張れるだろう。

 その後キースはジョナスと一緒に、長々と国王陛下ハンス・ダヴィオンとの会話に付き合わされる事になる。それだけならばまだ良かったのだが、キースはハンス国王の瞳に、こちらの事を推し量ろうとする様な輝きがあるのを、その超絶的な勘で気付いていた。それ故に、キースの精神力はごりごりと音を立てて削られて行くのだった。

 

 

 

 キースとジャスティン少尉、それに手伝いに来たマテュー少尉、ヒューバート大尉、アーリン大尉、ケネス大尉はフォートレス級ディファイアント号の部隊司令室で、人事書類の山に埋もれていた。要は、ジョナスの副官ランドル・マッカートニー大尉が手配してくれていた、メック戦士候補他の第二陣が、正月早々到着したのである。

 その第二陣の面々は、基本的には星系外からやって来た者達だ。年末年始を降下船の中で過ごしてでも、『SOTS』に加わりたいと言う熱意は、何やら凄まじい物を感じさせた。既に実際にそれらの人材との面談も終わり、彼らは無事に『SOTS』の一員となっている。

 だが、今回部隊に加わったのはそれだけでは無い。今現在、部隊の教育担当官はヴァーリア・グーテンベルク少尉1人だけだ。そうなると、学生たちが複数の降下船に分乗した場合など、彼らの授業に支障が出る。それ故に教育担当官を更に増員すべくキースやサイモン老の伝手をたどって探したところ、6名もの人材が応じてくれたのだ。ヴァーリア少尉は今後1階級昇進して中尉になり、その6名のリーダーとなる予定だ。

 更に惑星学者ミン・ハオサン博士にも助手を付ける事になった。民間大学にいた物の、学内の権力闘争、派閥抗争に嫌気がさして辞職してきた惑星学者が4名、ハオサン博士に惚れ込んでそのチームに入る事を希望してくれたのだ。キースはハオサン博士を少尉待遇から中尉待遇に格上げし、新たなチーム員たちを少尉待遇として迎える事にした。

 その他にも、武器担当官ペーター・アーベントロート軍曹の補佐役も数名付ける事になった。整備兵や歩兵他の兵種を兼任している軍医たちも、腕は極めて良いが忙しくて大変なので、専任の医師チームを雇ってキャスリン軍曹の直下に付けてやった。パメラ軍曹以下のコンピュータ技師も色々忙しそうなので、専任のコンピュータ技師チームを雇用、パメラ軍曹の下に置いた。

 ちなみに教育担当官以下の人材は、12月の時点より色々伝手をたどって集めていた人材たちであった。それがいきなり集中して雇用が成立したため、部隊の中核士官、基幹将校たちの手も借りて、書類仕事に励んでいるのだ。

 

「しかし、あと2、3日後にはまたメック戦士候補たちの第三陣が到着するんでしょう?それでとりあえず最後とは言え、大忙しですなあ。」

「今を乗り切れば、色々楽になる。後で楽をするために、今忙しくなってる様なもんだ。」

 

 ヒューバート大尉に苦笑しつつ応えるキース。更に彼は続ける。

 

「それに俺たちよりも、エリオット大尉、テリー大尉待遇中尉、ヴィクトル少尉、ジェームズ少尉、アイラ軍曹、ベネデッタ伍長、フィリップ伍長、ソフィーヤ伍長らの方が大変かも知らん。エリオット大尉たち歩兵部隊指揮官は表側から、アイラ軍曹たち偵察兵は裏側から、色々新規部隊員の内偵監査をやってくれているからな。」

「幸いな事に、問題のある……スパイの疑いのある新人は、入ってきませんでしたね。ほっとしました。」

「アーリン大尉、まだ安心できるわけじゃありませんよ。さっきもヒューバート大尉が仰った様に、新人はまだまだ入って来るんですから。

 あと戦車兵と歩兵、それに臨時雇いじゃない、常時雇用の助整兵も数が足りないんです。今のところは臨時雇いの助整兵で数合わせしてますけどね。それらの雇用の際にも、新入りに毒が混じらないか調べてもらわないとなりません。」

 

 マテュー少尉の言葉に、ばつが悪そうな顔になるアーリン大尉。更にケネス大尉が溜息を吐く。

 

「ふう……。しかし戦車兵に歩兵、助整兵ですか……。予定よりも集まってませんね。この惑星を出て行こう、などと言う者はそうそう存在しませんでしょうからね。首都惑星ですし。」

「まあ、それでも徐々に集まってはいる。なんとか歩兵部隊も戦車部隊も助整兵も、定数の半分は行きそうだ。とりあえずそれでお茶を濁して、部隊を再編しよう。」

 

 そう言った後、新たな人事書類を手に取りつつ、キースは言葉を続ける。

 

「さっさと書類を片付けて、新入りのメック戦士たちや戦車兵たちに訓練を付けてやらねばならん。今はサラ中尉待遇少尉やジーン中尉ら、小隊長格の者達が見ててくれるが。」

「気圏戦闘機の航空兵たちは、マイク中尉たちが見ててくれてるんでしたね?」

「ああ、アーリン大尉。さすがジョナスの所のランドル大尉が選んでくれただけあって、皆有能だと報告が来ている。まあ、流石にそれでも古株には全然敵わんのだがな。」

 

 2枚の人事書類に、両手で別々に自分のサインを書き込みつつキースは言った。この特技のおかげでキースの書類処理速度は、他の人間よりも速い。彼らはもりもりと書類の山を片付けて行った。

 

 

 

 数日後、第三陣のメック戦士候補や航空兵候補、それに郎党の整備兵などを『SOTS』へ受け入れて部隊を再編したキースは、ついに大佐に昇進した。そして今夜はそのお披露目を兼ねた祝賀パーティーである。アヴァロン・シティー内のパーティー会場を貸し切りにして、この祝宴は開催されていた。

 まあ、何処かの惑星に恒星連邦派遣の部隊として駐屯しているわけではなし、今夜のパーティーは政治家とかもまず来ない、素直に飲み食いできる普通の宴会だった。もっともキースやサイモン老のコネがある貴族や高官などからの祝電披露はちゃんとあったりしたが。幸い国王からは祝電は来なかった。来たら怖い物がある。

 なお、この祝宴では『SOTS』部隊員たちは、正式な『SOTS』の軍服を着用していた。この軍服は、ようやく先日、自由執事ライナーと総務課長ケイト女史他総務課員たちが頑張ってデザインなども決め、今日この日に間に合ったのだ。まあ、色々発掘品を恒星連邦に売却したため、資金に余裕ができたのも軍服を揃えられた理由の1つではある。

 ちなみにこの祝宴には、ジョナスも無理矢理時間を空けて都合を付け、連隊副官ランドル大尉と共に出席していた。ジョナスがキースに向かい、祝福の言葉を述べる。

 

「大佐昇進、おめでとうキース。これでようやく対外的な肩書も、内実に追いついたかな。」

「ありがとうジョナス。しかしとうとう年貢の納め時か……。本音では、あんまり偉くなりたく無かったんだがなあ……。」

「ははは、それは無理だろう。第一、今まで混成傭兵大隊を名乗っていたけれど、実情は混成傭兵連隊と言ってもおかしくは無かったんだよ?正直、中佐では無理があったよ。」

 

 親友の言葉に、苦笑するキース。ここでジョナスがふっと笑う。

 

「ところでキース、そちらで君の事をちらちらと見ているお嬢さんがいらっしゃるけれど?」

「ああ。気付いてはいたんだが、話しかけて来なかったからなあ。まあ、大佐になった俺とジョナス……伯爵閣下が話をしているところに割り込んでこられるほど、面の皮が厚い者は……。けっこういるかもな、うちの部隊には。どれ、紹介でもしようかジョナス。」

 

 キースは彼を見ている少女に手招きする。その少女は一瞬どぎまぎするが、意を決して近寄って来た。出来上がったばかりの軍服に着られている感じが、何とも言えず愛らしく微笑ましい。彼女……イヴリン曹長はキースとジョナスに敬礼をする。キースとジョナスも答礼を返した。

 ちなみに彼女はこれまでの功績や技量の向上を評価され、キースの大佐昇進に合わせて曹長に昇進していた。これは彼女に限った話ではない。『SOTS』旧来の部隊員たちの、かなりの割合の者が今回昇進していた。

 

「ジョナス、これがうちの若手のホープ、イヴリン・イェーガー曹長だ。幼いながらも努力家で、将来を嘱望されている。俺の弟子とも言えるな。

 イヴリン曹長、こちらが『第9ダヴィオン近衛隊』連隊長、惑星ウィロウイックはバレロン大陸の伯爵にして、スルバラン市の男爵と言う2つの爵位を持っている、ジョナス・バートン閣下だ。そして俺の親友でもある。

 挨拶を、イヴリン曹長。」

「はっ!メック戦士、イヴリン・イェーガー曹長です!お見知りおき下さい、閣下!」

「よろしく、イヴリン曹長。キースに何か話があるんだろう?僕にはかまわないから、言うと良い。」

「はっ!あ……。その……。」

「イヴリン曹長、お言葉に甘えろ。いや、この様な場合ならば、ご厚意を謝絶する方がご無礼に当たる。覚えておけ。」

 

 キースの言葉に、イヴリン曹長ははっきりした声で返答する。

 

「はい!了解です!キース大佐、昇進おめでとうございます!これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます!」

「うむ、イヴリン曹長。貴様も昇進おめでとう。最近は苦手な科目の勉強も、随分と改善が為されていると教育担当官から報告が上がっているぞ。軍事関係の座学も、なかなかだ。今後奢らずに努力を続ければ、士官任用試験に合格して少尉昇進も、そう遠くない未来の事だろう。」

「ありがとうございます!」

 

 微笑ましくキースとイヴリンの様子を見ていたジョナスだったが、ここでキースに声をかける。

 

「あー、僕は少し空腹になったな。いつもはパーティーと言うと、挨拶回りとかばかりで、あんまり食べられないからね。こう言う心置きなく飲み食いできるパーティーは珍しいんだよ。ちょっと行って、食べて来るよ。」

「あ?ああ、わかったジョナス。」

「じゃ、ごゆっくり。」

 

 ジョナスはイヴリン曹長に笑いかけると、色とりどりの料理が載っている長テーブルの方へ歩いて行った。キースと会話中少し離れていた副官ランドル大尉が、さりげなく立ち位置を変えてジョナスの後を追う。キースは小さく笑った。

 

「くくく、ジョナス……。イヴリン曹長に気を使ったかな?」

「は?」

「ああいや、なんでもない曹長。それより俺たちも、何か飲みにでも行くか?」

「あ、はい!」

 

 キースはソフトドリンク類のサーバーが並ぶドリンクバーの方に、イヴリン曹長を連れて歩いて行く。その間、彼はちょっとばかり考え事をしていた。

 

(今年の春先、と言うか2月末でイヴリン曹長も14歳か……。早いもんだな。俺の勘違いじゃなければ、好意を持たれてるッポイんだけど……。確たる自信は無い、よなあ……。それに俺の気持ちも、妹みたいなもん……なのかな?いや自分の気持ちほど分からん物は無いしなあ……。

 うん、とりあえず彼女の誕生日プレゼントだけは用意しとこう。今年のはレーザーピストルにでもするかねー。)

 

 はるか後方で、エリーザ曹長のチェシャ猫笑いとサイモン老の柔らかい笑顔が、温かく見守っていた。無論のこと、恋愛関係はともかくとして、そう言う方面の感覚は妙に鋭いキースは、見られている事に気付いてはいたのだが。

 

 

 

 ここは惑星軍から借りた演習場。第8中隊偵察小隊の小隊長、テリー・オルコット中尉待遇少尉の怒声が、キースの乗機であるS型バンシーの操縦席に、隊内回線を通じて響く。

 

『チャールズ伍長!貴様の機体はD型とは言え、フェニックスホークよ!フルにジャンプした直後に全力射撃なんか、やるんじゃないわ!熱量計をちゃんと見なさい!』

『も、もうしわけありません!以後注意いたします!』

「……うーん、単純な操縦技量は充分なんだが、今まで訓練で乗ったことがあるのがスティンガーだけだったらしいからな、チャールズ・アーロン伍長は。スティンガーはどこか壊れてない限り、熱が出ないからなあ。」

 

 キースは苦笑する。それと同時に彼は、新人たちについて、物思う。メック部隊も気圏戦闘機隊も、なんとか数だけは完全充足とは行かなくとも、そこそこに揃えられた。メック部隊は第9中隊が、気圏戦闘機隊はE中隊……エッジ中隊が、それぞれ幾分足りないだけである。しかし、新人のうちでも実戦経験の無い面々は、単純な技量はともかくとして、新たに貸与された機体の癖に戸惑ったり、戦闘における勘所を押さえていなかったりなど、行き届いていない部分が大きい。

 

(まあ、実戦を1回かそこら潜り抜けて生還すりゃ、どうとでもなるレベルなんだけどなー。でも、第4次継承権戦争まで7か月と半月無いからなー。それまでに何処かで実戦経験を積ませられるかなあ?)

 

 今度は第5中隊偵察小隊の小隊長、ジョーダン・アディントン中尉待遇少尉の怒鳴り声が聞こえる。どうやら彼の小隊員も、D型フェニックスホークでジャンプ直後全開射撃した様だ。

 

『こんのクソ馬鹿野郎ども!さっきのテリー小隊の様子見てなかったのか!?同じ失敗を、よりによって大佐の見てる前でやりやがって!実機演習終わったら、泣くまで腕立て伏せだからな!』

『『りょ、了解!!』』

「今度はヘイデン・ラッセルズ伍長にイザドラ・フルード伍長か……。書類では、彼らもワスプやスティンガーなど、加熱の心配の無い機体にしか乗った事なかったみたいだしなあ。」

 

 キースの小隊内回線でのぼやきに、マテュー大尉待遇中尉が慰めを言う。

 

『まあ、最初のうちだけですよ、きっと。それにもう機体に慣れて来ています。』

『さすがバートン閣下のところのランドル大尉が選別しただけの事ぁ有るわな。』

『あたしたちが初陣の時よりも、下手をすれば腕だけはいいんじゃないかしら?ま、腕だけで戦術とかは、あの時のあたしたちの方が上だけどね。』

 

 アンドリュー准尉とエリーザ准尉も、一応程度に新人たちを褒める。キースは機体の上体を捻り、別方向を眺め遣った。

 

「……機甲部隊戦車大隊は、やはりまだまだ、か。」

『今までの熟練兵たちを各車に車長として配して、なるべく全体的な能力の維持を図ったんでしたか。』

『けどよ、射撃命中率や運転技術が今までの戦車隊からガタ落ちしてやがんな。』

『最低限、味方撃ちはやらない程度の能力が欲しいわね。ま、車長はベテランだから大丈夫かな。』

 

 徐にキースは、脳裏に戦車大隊の編成表を浮かべる。

 

(戦車大隊は第1中隊が完全充足、第2中隊が1個小隊弱の欠員はあるがほぼ充足、第3中隊が欠員だらけだが4輛が稼働、ディファイアント号に載せてる第4中隊も欠員だらけだが3輛が稼働、か。つまりは合計で2個中隊強、定数の半分ちょっとの戦力が整ってる。)

『隊長?』

「ああ、うむ。あとは歩兵の訓練についても、後でエリオット少佐に話を聞かねばならないな。」

『歩兵部隊はA大隊が欠員42名で充足と言うにはちょっと足りず、B大隊は欠員だらけ、そのかわりフォートレス級ディファイアント号所属の独立ジャンプ歩兵中隊は完全充足してるんでしたね。総勢では、1個大隊強と1個中隊、合計500名ちょっとですか。』

「ああ、その通りだ。先月……昨年末に危惧していたよりは、集まってくれたな。なにせあの時は、このままじゃいざと言う時に警備の歩兵が足りんと、『SOTS』上層部の面々が蒼白になってたからなあ。」

 

 そしてキースは、機体の顔を空に向けさせる。そこでは50tのライトニング戦闘機、75tのトランスグレッサー戦闘機と60tのスティングレイ戦闘機が、100tのスツーカ戦闘機、30tのスパローホーク戦闘機、25tのセイバー戦闘機を追い回していた。最重量級のスツーカ戦闘機は機動性が鈍いから追い回されるのも仕方ないが、軽量級のスパローホーク戦闘機とセイバー戦闘機は桁外れの機動性を持っている。それが数段機動力の劣るはずの先任の機体たちに、あっさり後ろを取られている。

 徐にキースは呟いた。

 

「マイク大尉、ヘルガ大尉、やってるなあ……。」

『あ。降下猟兵隊のフェニックスホークLAMよ。』

『あいつら、一応伍長に昇進したんだよな?訓練生は一応卒業って事で。』

「まだ仮免で、一応でしかないんだがな。」

 

 エリーザ准尉の言った通り、気圏戦闘機モードの50tフェニックスホークLAMが4機、大空での実機演習に参加した。LAM機とは、気圏戦闘機にも変形可能な、特殊な高機動バトルメックである。フェニックスホークLAMは変形機構を搭載している分、機体容積が圧迫されて、気圏戦闘機としては決して強力な機体ではない。されど単純に技量だけはそこそこの物になっている新任伍長たちは、新人航空兵たちの乗る気圏戦闘機を圧倒的でこそ無いものの、かなり有利に押しまくる。

 無論これにはタネがある。降下猟兵隊には今の所、暫定的な措置として隊長が置かれていない。それ故にこの演習に置いては、気圏戦闘機隊を預かっているマイク大尉が降下猟兵隊の指揮権を預かっているのだ。熟練の指揮官の指示により、4機のフェニックスホークLAMは演習空域を縦横に飛翔し、新人航空兵たちを追い詰めている。

 もしこれが、降下猟兵隊4機VS他の新人航空兵の機体4機と言った勝負であったとしよう。その場合、戦術能力と機体性能に劣る降下猟兵隊が、間違いなく敗北しているはずだ。マイク大尉の指揮があってこそ、降下猟兵隊のフェニックスホークLAMは有利に戦えているのだ。

 

「うん、命令に従って動くぐらいの事は、普通にできるようになってるな。」

『降下猟兵隊は重要だから、そのぐらいにはなってもらわないと困りますけどね。』

『LAM乗りの指揮官も欲しいわよね。』

『あいつらじゃあ、ちょっとばかし指揮官はまだ無理だろー。』

 

 キースの台詞に反応し、マテュー大尉待遇中尉、エリーザ准尉、アンドリュー准尉が口々に言葉を発する。キースは天空で行われている模擬演習から、地上へ視線を戻した。そこでは機体を貸与された新人メック戦士たちが、一刻も早く貸与されたバトルメックに慣れようと努力している。慎重にミスの無いように動いている者もいれば、あえて限界近い機動を試みて以前の癖を払拭しようとしている者もいた。だが一様に言える事は、皆が希望に燃えている事だ。

 

(さもありなん。メック戦士の道を諦めなければならないか、と思っていた所に降って湧いたチャンスだもんなあ。俺自身、父さんがグリフィンを持たせてくれてなければ……。ジョナスがグリフィンの相続に関して手を回してくれなければ……。下手すると失機者扱いだった可能性もあるもんな。気持ちは分かるよなー。

 あ、そうだ。今第5中隊の中隊長になってるグレーティア大尉待遇中尉、第4中隊指揮小隊のロタール少尉にカーリン少尉、気圏戦闘機隊B中隊隊長ビートル1のヘルガ大尉、ビートル2のアードリアン中尉の5人。『SOTS』最初期から居たメンバーほどじゃないけれど、入隊もヒューバートとほぼ一緒で、初期の方だしなー。ロタール少尉とカーリン少尉は更にそれより入隊早いしな。……メック戦士になったのは同じぐらいの頃合いだけど。)

 

 S型バンシーの操縦席で、キースは腕組みをする。

 

(彼らは勤めてくれた期間も長いし、功績も貢献度もたいした物だ。うん、そろそろ良いよな!)

 

 そしてキースは、ヒューバート少佐とアーリン少佐の機体に個人回線を繋いで話しかける。

 

「ヒューバート少佐、アーリン少佐。演習が終了したら、幹部会議を開きたいんだが。」

『了解です。議題は何ですか?』

『同じく了解。そろそろ新しい任務についてかしら?』

「あー、いや違う。グレーティア大尉待遇中尉、ロタール少尉、カーリン少尉、気圏戦闘機隊のヘルガ大尉、アードリアン中尉の事なんだ。今は部隊から、彼らに機体を貸与してるよな。それなんだが、今彼らが使ってる機体をそろそろ下賜しようかと考えてな。それの可否を幹部会議に掛けたいと思ったんだ。」

 

 ヒューバート少佐とアーリン少佐は、声を上げた。

 

『それはいいですね!奴ら、喜びますよ!』

『そうね!これまで充分に部隊に尽くしてくれたんですもの、いいご褒美になるわね!』

 

 更にヒューバート少佐は、その事の別な側面にも言及する。

 

『それに、誠心誠意部隊に尽くせば、かならず報われるって良い証明になります。この話が広まれば、機体を貸与されてる他の連中や、今回入って来た奴らの士気や忠誠心が高まりますよ。』

『なるほど、確かにそれは言えるわね。』

 

 そして演習終了後、ディファイアント号の部隊司令室にて『SOTS』幹部会議が開かれた。そこでの結果は全員一致で可決。翌日にはバトルメック部隊のグレーティア大尉待遇中尉、ロタール少尉、カーリン少尉、気圏戦闘機隊のヘルガ大尉、アードリアン中尉の計5名に、彼らが今現在使用している機体を下賜される事が通達された。彼らは非常に喜び、元失機者であったヘルガ大尉などは感動の余りに落涙したほどであった。

 なお、その話は彼ら付き整備兵などから、口コミで広がって行く。これを聞いた機体を貸与されている者達は、いつか自分も、とやる気を高くしたのだった。

 

 

 

 そして3028年1月9日の朝、つい一昨日に幹部会議が開かれたばかりであるのに、再度『SOTS』幹部会議が行われた。参加するのは大隊長以上のメック戦士、気圏戦闘機隊総隊長、機甲部隊戦車大隊の大隊長、偵察兵小隊の暫定小隊長、整備中隊中隊長、歩兵部隊総隊長、各降下船船長、オブザーバーとして自由執事と連隊長直卒小隊の副隊長、更に発言権は無いが連隊長および大隊長の補佐として連隊副官と各大隊副官である。

 連隊長であるキースが、今回の議題について発表を行う。

 

「皆、集まってくれてありがとう。今回会議を招集したのは、次の任務についてだ。率直に言って、急な話だ。バレロン伯爵ジョナス・バートン閣下を通して、恒星連邦の傭兵関係局が俺たち『SOTS』に、MRBを通さない直接依頼を持って来た。バレロン伯爵閣下を通して来たと言う事は、俺と閣下の友誼を計算に入れてあるんだろう。そうすれば俺がこの任務を受けると踏んだ、とかな。」

「やっかいな任務、ですか?」

 

 ヒューバート少佐が訊ねて来る。キースは頷いた。

 

「厄介で無い、とは言えんな。任務の種別は、救援任務だ。攻められたのは、ドラコ境界域の端の方にある、惑星シメロン。この惑星シメロンはそれほど重要な惑星ではない。ないんだが、他を攻める橋頭保として使えなくもない微妙な位置にある。そのため恒星連邦では、1個大隊の傭兵メック部隊『チェックメイト騎士団』をそこに駐屯させていた。」

「!!」

 

 キースの話を聞いて、自由執事のライナーが目を見開く。しかしライナーはオブザーバーであるため、特に発言はしなかった。実はライナーはかつて、傭兵大隊『BMCOS』の偵察兵をやっていた。そして味方の裏切りにより『BMCOS』が全滅した際に、彼はキースの父であるウォルト・ハワード大尉の遺命により、今話に出た『チェックメイト騎士団』へ逃げ込んで、傭兵大隊『アルヘナ光輝隊』の裏切りを通報したのである。ちなみにその逃亡劇の際に彼は左腕と右脚を失い、偵察兵を引退していた。

 

「その『チェックメイト騎士団』だが、隊員たちの疲労が激しく士気が落ちていた事もあり、休暇を兼ねてここの駐屯任務を受けたらしい。本当なら、本格的な休暇を取るならば安全な後方惑星へ行くものだが、是非にと頼まれて仕方なく受けた任務だったそうだ。敵が襲って来る危険性も低いと言う話だったそうだしな。

 しかし恒星連邦当局の予測は外れた。惑星シメロンは先ほども言った様に微妙な位置にある。獲ってもそれほど得をしない。獲られると損ではあるが。言ってみれば、鶏肋、かな。だから1個大隊も部隊を張り付けておけば、襲撃される事は無いと踏んでいたんだ。だが襲撃された。しかも敵は1個連隊規模だ。」

「大佐、報酬はどうなっていますか?」

 

 アーリン少佐の言葉に、キースは頷いて見せる。

 

「先ほども言った通り、基本の報酬は救援任務扱いだ。そして戦闘報酬は1個小隊あたり5万、戦闘の勝利につき1個小隊あたり10万、敵機の破壊ごとに敵機の価格の1/100のボーナス、敵機の鹵獲ごとに敵機の価格の1/10のボーナスだ。また戦闘で消耗した弾薬や装甲板は支給してもらえる。ただし事後清算だから、自前の物資を持っていく必要がある。それと契約期間中のメックや気圏戦闘機の維持費も面倒を見てもらえる。

 契約金や戦闘報酬、ボーナスなどは全額Cビル払い。DHビルじゃなしにCビルだ。要求があれば、報酬の一部をバトルメックや気圏戦闘機の部品などで引き渡しても構わないと言う話だ。それと契約期間中に申請さえ済ませれば、恒星連邦の備蓄部品などを定価で購入できる。

 それと敵が無法者であった場合の特別条項として、その場合は戦闘報酬が支払われない代わりに敵の機材……バトルメックや気圏戦闘機、降下船などだが、それらを『SOTS』で接収可能だ。」

「いつもより、条件がいいっすね。」

「いつもはDHビル払いで、報酬の一部を貴重な部品で払ってもいいなんて事は無かったですからね。」

 

 マイク大尉とエルンスト少尉待遇曹長が頷き合う。キースは話を続ける。

 

「バレロン伯爵閣下によれば、可能であればうちでこの任務、受けて欲しいそうだ。今現在、大至急動かせる部隊で連隊規模の部隊は多く無いから、と。だが嫌ならば無理は言わないとも言っていた。最悪、大隊規模の部隊を数部隊かき集めて送るなり方法はある、とな。

 ここで言っておきたい事がある。ニュースソースは開示できないんだが、1年以内、早ければ半年ちょっとぐらいで、大きな戦いが始まる可能性が高い。この事は、皆も他の隊員たちには黙っておくようにな。重ねて言うが、口外厳禁だ。そこで、だ。新たな隊員たちを迎えて実戦経験の無い者が多くなっている『SOTS』を、今のうちに実戦を経験させて鍛え直しておきたい。もしこの任務を受けなくとも、できる限り早急に何らかの、確実に戦闘が見込まれる任務を受けねばならない。」

 

 ここでサイモン老が声を上げた。

 

「隊長、受けてもいいんではないですかのう?たしかに条件が良すぎて、危険も想定されますがの。ですが、受けねば大恩あるバレロン伯爵閣下の顔を潰しかねないのでは?」

「整備中隊長に、自分も賛成ですな。」

「自分も同意いたします。」

 

 戦車大隊のイスマエル少佐待遇大尉、歩兵部隊総隊長エリオット少佐もサイモン老に賛成する。その他の者達も口々に賛意を表す。キースは言った。

 

「よし、決をとろう。この任務を受ける事に賛成の者は、挙手を。」

 

 その場にいる全員の腕が挙がった。

 

 

 

 キースは幹部会議の後すぐに、ジョナスへ依頼を受ける事を伝えた。そしてその日の午後、ジョナスはいつものランドル大尉ともう1人の士官を連れて、ディファイアント号を訪ねて来た。と言うか、そのもう1人の士官は旅支度であった。部隊司令室に通されたジョナスは、口を開く。

 

「今回の依頼、受けてくれてありがとうキース。ちょっと無視できない筋から話を通されてね……。もう少し訓練時間を取りたかっただろうに、申し訳ない。」

「気にしないでくれ、ジョナス。ところで、そちらの大尉を紹介してくれないか?」

 

 キースがその士官を大尉だと見たのは、単に襟に着けられている階級章を見ただけの話である。ジョナスはその大尉を紹介する。

 

「彼はリアム・オールドリッチ大尉。傭兵関係局から派遣された、連絡将校だよ。君たちの感覚で言えば、MRB任務管理人の恒星連邦政府版だと思えば、あんまり違いは無いかな。」

「はじめまして、キース・ハワード大佐。自分はリアム・オールドリッチ大尉です。お噂はかねがね。」

「貴官が「あの」リアム・オールドリッチ大尉かね!?」

「「どの」リアム・オールドリッチかは判りませんが、周囲にはリアム・オールドリッチは私しかおりませんな。ははは。」

 

 キースはリアム大尉について、サイモン老からコネを受け継ぐ挨拶回りの際に、コネの相手から噂話の形で聞いていた。彼は元情報士官であり、対カペラ大連邦国の諜報活動で大きな成果を上げた。しかしその活躍によって、彼の顔が広く知られる事になった。間諜としての生命が絶たれた彼は、軍事諜報局MIから傭兵関係局へ異動したのである。

 ジョナスはリアム大尉について、補足説明を加える。

 

「リアム大尉はメック戦士じゃないけれど、一応バトルメックの操縦能力は持っている。いざと言う時は使い倒してくれて構わないよ。」

「ははは。ご冗談を、バートン大佐。」

「いや、いざと言う時には当てにさせてもらおうかな。ははは。」

「ハワード大佐まで、ご冗談を。」

「「誰か冗談を言ったかな?」」

 

 キースとジョナスの言葉が被った。笑顔の引き攣ったリアム大尉に、キースは真面目な顔で言う。

 

「失礼。だが本当にいざと言う時は、予備メックにでも乗ってもらう可能性も排除しないでくれ。貴官が生き延びるためにもな。今回の任務に限らず、細心の注意を払って事に当たるべきだろう?」

「……了解です、ハワード大佐。」

「ファーストネームでかまわんよ、オールドリッチ大尉。」

「自分もリアムで構いません、キース大佐。」

 

 キースはリアム大尉と固い握手をした。ジョナスはそれを見て頷く。そして『SOTS』は大急ぎで出発準備を整えた。その日のうちにアヴァロン・シティーの宿を引き払い、深夜までかかって各自の荷物などを各降下船の船室へ運び込む。幸いにも物資の類はかなり大量に備蓄があり、無理な補給は必要ない。惑星シメロンの風土病などのワクチンも、その日の内に手配ができ、各降下船に運び込んだ。後は航宙中に、隊員に対して予防接種するだけである。降下船の推進剤などは、最初から満タンである。

 そして翌日3028年1月10日には、ジョナス他数名の見送りの元、混成傭兵連隊『SOTS』は惑星ニューアヴァロンを出立したのである。




主人公、ようやく大佐昇進です。そしてこれもようやく、新たな任務です。
新たな任務は、『SOTS』の母体とも言える『BMCOS』が付き合いのあった、『チェックメイト騎士団』の救援任務。気合いが入ります。
ですが今回は、数こそ多くなったものの、部隊のかなりの部分が新兵になってしまいました。一部は精強な兵が揃っているのですが……。はてさて。


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『エピソード-082 宿敵の残滓』

 シメロン星系の天の北極ゼニス点ジャンプポイントに、混成傭兵連隊『SOTS』の航宙艦5隻が、次々とジャンプアウトする。各航宙艦は、艦首をシメロン星系の恒星に向けると、直系1km前後ある巨大な傘の様な帆を展開し始めた。この「ジャンプ帆」で星系の主星から放射されるエネルギーを受け取り、連盟標準時での1週間前後の時間をかけて再度のジャンプのためのエネルギーをチャージするのである。

 本当であれば重要な星系か、あるいは運の良い星系には、星系の天の北極ゼニス点か天の南極ナディール点に、航宙艦にエネルギーをチャージするための補給ステーションが存在する。その様な場合航宙艦は、補給ステーションがあらかじめ溜め込んだエネルギーを譲り受ける事が可能であり、長くても1日前後の時間でエネルギーチャージが完了するのだ。

 かつての星間連盟期には、主要な星系にはかならず補給ステーションがあったと言うが、今現在のこの星系には補給ステーションは存在していない。おそらくは第1次か第2次の継承権戦争あたりで破壊されてしまったのだろう。そのため『SOTS』の航宙艦群は、こうやって自前のジャンプ帆を張ってエネルギーチャージを行っているのだ。

 その『SOTS』航宙艦群の1隻、マーチャント級クレメント号のブリッジで、『SOTS』連隊長のキースはこの艦の主、アーダルベルト・ディックハウト艦長に出発の挨拶をしていた。

 

「では艦長、我々はこれより惑星シメロンに降下開始する。」

「うむ、気を付けてな。……しかし、ここゼニス点のジャンプポイントに『チェックメイト騎士団』の航宙艦も、敵ドラコ連合の航宙艦もおらんとなると、おそらくは両方とも主星を挟んで反対側のナディール点ジャンプポイントに居るんだろうな。」

「たぶん、な。だがそうなると、向こうの居心地の悪さは想像し難い程だな。ジャンプポイント付近での戦闘は御法度だとは言え、敵味方が近場の宇宙空間に浮いてるんだ。」

 

 キースがそう言うと、アーダルベルト艦長も嫌そうな顔になる。

 

「船舶コードを偽造したりジャミングで姿を隠したりしても、限界はあるからな。いつまでもジャンプポイントに浮いてれば正体は知れる。私にも経験があるよ、攻める側になった事も、護る側になった事も。だからジャンプポイントで敵の航宙艦と鉢合わせになった事も1度や2度じゃないな。

 航宙艦への攻撃は条約違反だが、条約を守る相手ばかりとは限らない。それに航宙艦を直接攻撃せずに、接舷して乗り込んで乗組員を殺して艦を奪うって手もあるしな。屁理屈に近いが、これなら「航宙艦」を攻撃した事にはならんと強弁できる。

 正直な話、敵艦とジャンプポイントで出くわすのは、可能なら避けたいね。心臓に悪い。」

 

 第1次や第2次の初期の継承権戦争では、数多くの貴重な航宙艦が失われた。航宙艦を全て喪失してしまえば、星々の間の交易は止まり、文明は退行する一方になるだろう。その状況に危機感を持った各継承王家は、条約で航宙艦への攻撃を厳禁した。更にジャンプポイント近傍で戦闘行為を行えば、航宙艦への被害が出るのを止められない事から、ジャンプポイントの近場では戦闘は御法度になっている。

 だがアーダルベルト艦長が言った通りに抜け道は無くも無いし、そもそも相手が条約を守らなかったら意味は無い。

 

「……いや、降下の前に妙に時間を取らせてしまったね。では……。無事のお帰りをお待ち申し上げております、隊長。」

「うむ。必ずや隊員たちを無事に連れて、ここジャンプポイントに戻って来るよ。では行って来る。」

 

 敬礼と答礼を交わし、キースは踵を返すとフォートレス級降下船ディファイアント号へ向かって早足で急いだ。

 

 

 

 5日間の航宙の末、『SOTS』降下船群は惑星シメロンの軌道上までやって来た。キース達は、てっきり敵の気圏戦闘機による航空戦力が迎撃に上がって来る物と思っていたのだが、何も軌道上には現れる気配も無い。キースが座るS型バンシーの操縦席では、通信用の小スクリーンの中で、マテュー大尉待遇中尉が怪訝な顔で呟いていた。

 

『……もしかして『チェックメイト騎士団』が頑張ってくれていて、それで気圏戦闘機をCAP(戦闘空中哨戒)に出す余裕が無いんでしょうか?』

「むう……。だが事前情報では、『チェックメイト騎士団』はウォリック城に、惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下および惑星軍と共に籠城しているとの事だ。その状態で、敵の妨害をできるとは思えないな。そして『チェックメイト騎士団』が諦めず籠城していると言う事から、敵の目にも増援の可能性がはっきりしているはずだ。現にこうして俺たちが来ている。

 となると……。俺が敵指揮官の立場だったら、2つの選択肢があるな。1つは気圏戦闘機隊をCAPに回して、敵増援つまり俺たちが降下する前に軌道上で叩き、残りの戦力でウォリック城を攻略する。もう1つは全戦力をウォリック城攻略に回し、俺たちが到着する前にウォリック城を陥とす。」

 

 キースはそう言うと、通信回線をブリッジに繋いだ。

 

「……こちら部隊司令、キースだ。地上の望遠観測結果は出たか?」

『こちら副長のガイです。今ご連絡しようとしていた所ですよ。幸いなことに晴れていたため、鮮明な絵が撮れました。ウォリック城はバトルメック連隊の包囲下に置かれています。敵は気圏戦闘機を対ウォリック城の爆撃に使用しておりますな。ウォリック城からそう遠くない惑星軍の海軍基地、こちらが降下ポイントの候補に一応入れていたF地点ですが……。それが占拠され、気圏戦闘機の拠点として使われている様です。

 敵降下船群は、今現在は惑星首都とウォリック城の中間にある平野……。こちらが降下するポイントの候補として考えていたC地点に、9隻のユニオン級が降りています。敵降下船に動きはありません。』

「そうか、ありがとうガイ副長。……敵は全戦力をもって城攻めする方を選んだか。俺たちの惑星到着は、ほんとぎりぎりだったかもな。いや、ここで選択を誤ると逆に、ぎりぎりで間に合わなかったって事になるかも知れんな。」

 

 キースは少々考え込む。当初は敵の隙をついて、ウォリック城の近傍の適切な地点――実際に降下する可能性が高い方から、A地点、B地点、C地点と言う様に符合を振っていた――に降下殻を被ったバトルメックで強襲降下し、味方降下船の降りる場所を確保するつもりであった。

 無論、強襲降下するのはそれが可能な力量を持った者達だけである。具体的にはキース直卒のA大隊第1中隊、ヒューバート少佐率いるB大隊第4中隊、アーリン少佐直属であるC中隊第7中隊の3個中隊だ。これらの中隊は、可能な限り混成大隊時代の『SOTS』部隊員を集めて編成されており、また若干の割合で含まれる新入りたちも実戦経験有りの腕の良い者を選抜している。よって強襲降下作戦に不安は無い。

 

(だけどそれじゃあ間に合わないかも知れないよな……。敵は気圏戦闘機まで含めた戦力を、ウォリック城攻略に回してるし。だからと言ってさ、1個連隊が包囲している場所に強引に強襲降下したところで、降下できるのは3個中隊に加えて降下猟兵隊4機だけじゃんか。いくら何でも3倍の戦力のところに突っ込んでくのは、それが『SOTS』内で精鋭部隊だって言っても無理無茶通り越して無謀と言う物だし。

 だからって、当初の予定通りA地点でもB地点でも確保した地点に味方降下船を降ろして、そこから全戦力をゆっくり出撃、進軍させていたりしたら、気圏戦闘機の爆撃でウォリック城が更地にされかねないよ。……気圏戦闘機の動きを封じる事ができれば、ウォリック城もあと少しだけでも保ってくれるかなあ?くっそ、ウォリック城の今の様子が分かりゃあなあ。)

 

 しばし顔を伏せて考えに耽っていたキースだったが、やがて決心して顔を上げる。キースは全部隊、全降下船に回線を繋ぐと、決然として言った。

 

「こちら部隊司令のキースだ。これよりA大隊第1中隊、B大隊第4中隊、C大隊第7中隊の3個中隊および降下猟兵隊の4機のフェニックスホークLAMを用い、強襲降下作戦を行う。目標はF地点、シメロン惑星軍第2海軍基地だ。気圏戦闘機隊は同時に全機発進して、強襲降下部隊の支援を行ってもらう。

 またレパード級ヴァリアント号、ゴダード号、スペードフィッシュ号の3隻は、高機動性を活かし他の降下船に先んじて海軍基地近傍へ降下。それらに搭載されているジーン大尉の第3中隊は、強襲降下を行った部隊の後詰として海軍基地の占拠に加わってもらう。

 あえてF地点の海軍基地を狙う理由だが、そこが敵気圏戦闘機隊の拠点として用いられているからだ。そこを強襲降下作戦で叩き、敵気圏戦闘機の行動を掣肘する。そうしないと敵気圏戦闘機の爆撃で、救援すべき友軍のいるウォリック城が早期に陥落しかねない。」

 

 ここで一旦、キースは言葉を切る。そして部隊の全員が彼の言葉を飲み込んだ頃合いに、再度話し出す。

 

「敵の狙いはおそらく……いや間違いなく、ウォリック城に逃げ込んでいる惑星公爵閣下の身柄もしくは首だろう。もしくは公爵閣下が『チェックメイト騎士団』と共に惑星を脱出してしまえば、それでも敵の勝利条件は満たされる。それを許せば、敵は勝利宣言をしかねない。その場合、我々は「悪いメックの後に良いメックを投入する」事を避ける意味でも、同じく撤退せねばなるまい。そしてこの惑星は、ドラコ連合の手に落ちる。

 その様な事態を避けるためにも、海軍基地に存在する気圏戦闘機を叩いた後は、全軍で速やかにウォリック城に進軍を開始する。最低限の弾薬補充は行うが、機体修理はしている時間が無いと思ってくれ。場合によっては、損傷の大きい機体は降下船と共に占拠した海軍基地へ残して行かねばならないだろう。その場合、損傷機の乗り手には一時的に予備メック、予備気圏戦闘機を貸与する。

 何か意見、質問は?」

『偵察兵小隊の暫定小隊長、エルンスト・デルブリュック少尉待遇曹長です。自分たち偵察兵は、降下直後メックや気圏戦闘機が弾薬補充などをやっている間に、先に進発した方が良いかと。』

「む。その通りだな。せっかく全員分のスキマーを揃えたんだ。軽量級気圏戦闘機で高高度偵察も行うつもりだが、貴様たちは本隊に先駆けてウォリック城および敵降下船群着陸地点へ向かえ。そして城を包囲している敵と、敵の降下船について、地上からの精密な偵察をしてくれ。偵察兵小隊の誰々をどちらに向かわせるかは、任せる。」

『了解です。』

 

 キースはその後、意見や質問が無いのを確認すると、命令を下す。

 

「各船船長に副長、準備ができ次第、第1、第4、第7中隊及び降下猟兵隊の強襲降下開始だ。速やかに降下猟兵隊のフェニックスホークLAM4機と、降下支援の気圏戦闘機隊稼働全機を発進させてくれ。

 気圏戦闘機隊総隊長マイク大尉、降下猟兵隊の降下完了までは、そいつらの指揮を貴官に任せる。しっかり面倒を見てやってくれ。降下完了後は、降下猟兵隊の指揮をこちらで引き受ける。それと、降下中の俺たちの命は貴官らにかかっている。頼むぞ。」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 ユニオン級エンデバー号から、4機のフェニックスホークLAMが気圏戦闘機モードに変形して出撃する。更に気圏戦闘機の稼働機を載せている各降下船から、気圏戦闘機隊が次々に発進。そして若干の待ち時間の後、ディファイアント号のブリッジより、マンフレート船長、ガイ副長の声が通信回線を通して聞こえてきた。

 

『副長!バトルメック部隊A大隊第1中隊の射出急げ!目標はF地点、惑星軍第2海軍基地だ!』

『了解!カウントダウン開始します!ご武運を、部隊司令!……60秒前……30……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』

 

 そしてキース達の搭乗したバトルメックは、降下殻に包まれた姿で大気圏上層部に射出された。

 

 

 

「60秒前……30……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、降下殻パージ!」

 

 キースの駆る95tバトルメック、S型バンシーは降下殻を分離し、降下用の制動ジェットを噴かして遥か下の大地へと降りて行く。彼が降下しながら周囲を確認すると、同じように機体の各所に制動ジェットを装備した『SOTS』のバトルメックが何機も確認できた。彼らは一様に見事な腕前を見せ、下に小さく見える海軍基地へと降下して行った。

 目標となった海軍基地には砲台が存在している。だが敵にとっては残念なことに、それは既に動いていない。と言うか、おそらく砲台を壊したのは侵略者であるドラコ連合の軍勢であるはずだ。自業自得と言えば言える。

 海軍基地の滑走路脇には、6機の65tシロネ戦闘機が露天駐機されている。そして今その滑走路に着陸しかけた1機の80tスレイヤー戦闘機が、エンジンパワーを戻して再度大空へ舞い上がった。海軍基地の周囲に空中待機していた他のスレイヤー戦闘機や35tのショラガー戦闘機が、降下してくるキース達のメックを攻撃しようと寄り集まって来る。

 そこへ味方の気圏戦闘機隊が割って入った。マイク大尉の喜声が通信回線から響いて来る。

 

『ひゃっほおおおぉぉぉ!!入れ食い状態っす!!気圏戦闘機隊、全機ブレイク!各個に敵を狩るっすよ!けどダート中隊とエッジ中隊は軽量だから、スレイヤー戦闘機は荷が重いっす!両中隊は同じく軽量の、ショラガー戦闘機を相手にするっすよ!

 降下猟兵隊はエアメック状態で着陸!その後は隊長……キース大佐の指揮下に戻るっす!』

 

 キースは滑走路からさほど離れていない場所に、士官学校の教本にでも載せたいぐらいの、良い意味で教科書通りの着陸を見せた。彼は隊内通信回線を開き、叫ぶ。

 

「オストスカウト以外の全機、対空射撃!味方の気圏戦闘機を援護しろ!オストスカウトは無理に攻撃に参加するな!ノア少尉、貴官のオストスカウトはセンサー情報を味方に送る事と自機を生き残らせる事に専念しろ!」

『こちらノア少尉、了解!』

 

 そしてキースはノア少尉からの返事を聞くと、降下した全員の無事を確認する。

 

「対空攻撃と同時に、各小隊点呼!その後直属の上官に結果を報告せよ!マテュー大尉待遇中尉!アンドリュー准尉!エリーザ准尉!」

『こちらマテュー大尉待遇中尉、降下完了。今、壮絶に撃ちまくってます。』

『こちらアンドリュー准尉、こっちも撃ちまくってるぜ!ショラガー戦闘機、1機撃破!』

『こちらエリーザ准尉、あたしも無事。おっと、ミケーレ中尉機のライトニング戦闘機に、狙ってたスレイヤー戦闘機、取られちゃった。』

 

 少し時間を置いて、今度は各小隊長から報告が入る。

 

『火力小隊、サラ中尉待遇少尉。『機兵狩人小隊』、全員無事。現在対空攻撃中です。』

『偵察小隊、ルートヴィヒ中尉!偵察小隊は完全な状態にあります!』

 

 そしてヒューバート少佐、アーリン少佐からも報告が来る。

 

『こちらヒューバート少佐。第4中隊、全機異常なし!順調に対空射撃中!』

『こちらアーリン少佐です!第7中隊は全員無事に降下しました!全機対空攻撃中!特に火力小隊……対空小隊が、流石にライフルマンだけを集めた小隊だけあって、圧倒的な戦果です!』

 

 更に降下猟兵隊からも報告が来た。

 

『こちら今週の降下猟兵隊暫定指揮官、ジャクリーン伍長です!ただ今より、大佐の指揮下に入ります!』

 

 キースが見遣ると今ちょうど、エア・メック形態と言うバトルメックと気圏戦闘機の中間形態に変形した、50tフェニックスホークLAM4機が降りて来た。キースは彼女らに命じる。

 

「ジャクリーン伍長、貴様ら降下猟兵隊のLAMは、バトルメック形態に変形してこの基地の管制塔のある本部棟を包囲しろ。対空射撃にはとりあえず参加しなくてよろしい。それよりも、基地の人員に対して降伏勧告を行うんだ。」

『了解!』

 

 ちなみにキースはそのやりとりをしている間にも、味方の気圏戦闘機に低空に追い込まれてきた、1機のショラガー戦闘機を撃ち落としている。味方側にとって圧倒的に有利な状況であった。おまけと言ってはなんだが、ここで更に駄目押しが来た。

 

『こちらレパード級ヴァリアント号、船長のカイルだ。ゴダード号、スペードフィッシュ号共々、お客さんを連れて来たよ、隊長。』

『キース大佐!ジーン・ファーニバル大尉以下、A大隊第3中隊ただ今到着しました!』

 

 海軍基地の外には草原が広がっているが、そこに3隻のレパード級が強引に着陸をかました。そして各船のメックベイ扉が開き、第3中隊のバトルメックが次々に飛び出して来て戦列に加わる。この時までに、スレイヤー戦闘機が4機、ショラガー戦闘機が5機撃ち落とされていた。

 ちなみにライフルマンを集めて結成した第7中隊火力小隊……対空小隊は、今回大活躍をしており、スレイヤー戦闘機を1機、ショラガー戦闘機を3機墜としている。まあ味方の気圏戦闘機隊が、自分たちで撃墜するよりも低空に相手を追い落とし、メック部隊と連携を取る戦術を採ったためであるが。

 と、ここで敵の残ったスレイヤー戦闘機2機とショラガー戦闘機1機が、次々に機動力がガタ落ちになる。どうやら推進剤が切れたようだ。こうなると、機体外から大気を取り込んで推進剤代わりに使う低速巡航飛行以外は不可能だ。空戦機動など論外である。故に残りの敵3機は信号弾を打ち上げて、降伏の意を表した。

 

「……この戦力差で逃げなかったのは、推進剤が足りなくて逃げ切れない、と思ったための様だな。少なくとも今飛んでいた12機はウォリック城攻撃から帰還したばかりで、補給のために戻って来たところだったんだろう。

 降伏を受諾する!滑走路に順に降りて、機体から離れろ!」

 

 一般回線に切り替えて、キースは叫ぶ。そして今度は隊内の回線に切り替え直すと、先ほど到着した第3中隊へ通信を送る。

 

「ジーン大尉、基地の本部棟は今降下猟兵隊が包囲して降伏勧告を行っているが、貴官の中隊は小隊単位にわかれて海軍基地の目ぼしい施設をそれぞれ包囲してくれ。残敵がいたら降伏勧告を。」

『了解です。』

「俺たちは撃墜したり降伏させた敵機から捕虜を取る。頼んだぞ。」

 

 やがて天の彼方から、球形や長球形、そして航空機型の影が見えて来た。『SOTS』の残りの降下船群である。キースはそれらの船を着陸させるべく、全降下船に回線を繋いだ。

 

 

 

 敵の航空兵は、地上施設にいたシロネ戦闘機の操縦士も含めて全員が生きていた。そして地上施設の運用を行っていた若干名の整備兵と助整兵が加えて捕虜となった。

 キース達は味方各機に弾薬と推進剤の補充をする時間の間に、捕虜に対する若干の尋問を試みる。尋問官であるエルンスト少尉待遇曹長が、一足先に偵察兵小隊を率いてウォリック城及び敵降下船群の偵察に行ってしまったので、実際の尋問はパメラ曹長によって行われた。

 そして今、キースはフォートレス級ディファイアント号の部隊司令室で、尋問結果をパメラ曹長より聞かされていた。

 

「……ほう?敵の正体が判明したか。」

「はい。敵は『第4アン・ティン軍団』のD大隊を母体にして拡張、編制されたばかりの『第13アン・ティン軍団』です。」

「……奴らか。何か奴らと『SOTS』とは腐れ縁でもあるのか?」

 

 キースは元の仇敵が中心になって設立された『第13アン・ティン軍団』に、複雑な思いを抱く。まあもっともその怨敵は、キース達自身の手で地獄へ送っているのだが。逆に相手からすれば、『SOTS』に対してそれこそ複雑な思いを持っているやも知れない。

 

「それで他に判った事は?」

「奴らの目的も、判明しました。いえ、この惑星を獲る事も最大の目的なんですが……。わざわざ1個大隊で護っていたこの惑星に、1個連隊なんて規模のものを持って攻めて来たのは、訓練の総仕上げだそうです。」

「は?」

「ですから訓練です。『第13アン・ティン軍団』は出来上がったばかりで、訓練途上です。一部のメック戦士こそは熟練ですが、その半数以上、多く見積もれば6~7割が実戦経験の無い者で占められているんです。だから1個大隊規模の敵のいるこの惑星に、タカシ・クリタの鶴の一声で送り込まれて来た模様です。実戦経験と、勝利の味を教えるために。」

 

 唖然としたキースが立ち直る前に、パメラ曹長の報告は次の情報に移っていた。

 

「奴らの司令官は、ウォリック城に籠城している友軍『チェックメイト騎士団』に、援軍が来る可能性は極めて高いと判断していた模様です。それで気圏戦闘機隊まで戦力を注ぎ込んで、一気呵成に陥落させようとしていたらしいですが。ですが実際に爆撃を行えたのは、1回程度だそうです。補給して再出撃しようとする直前に、我々が天から降って来ましたから。」

「……奴らは、俺たちの到着に気付いていなかった模様だが?」

「はい。惑星軍の対宙監視大型レーダーを接収して使おうとしたのですが、惑星軍が基地を放棄してウォリック城に逃げ込んだ際に、重要部品を幾つか抜いていったらしく、動かなかったとの事です。奴らの技術者では復旧させられなかったらしいですね。

 ですが我々がここに降下してきた際に、援軍が到着した事は無線通信で、敵の部隊司令部に送信済みだとの事です。」

 

 腕組みをして、キースは考え込む。影の様に付き従っていたジャスティン大尉待遇中尉が、そっとコーヒーのお代わりをマグカップに注いでくれる。キースはそれを1口啜ると、卓上の内線電話機に手を伸ばし、サイモン老のいるメックベイに内線を繋いだ。数回のコール音の後、相手が電話口に出る。

 

「こちら部隊司令室、部隊司令キースだ。サイモン大尉は今、手が空いてるか?」

『こちらキャスリン曹長です。サイモン整備中隊長は、今ちょっと手が離せません。私でよければ代理で聞きますが。』

「そうか。気圏戦闘機隊の弾薬と推進剤の補充はどうなっているか分かるか?それと対空小隊のライフルマン始め、弾薬を使った機体の弾薬補充の進行具合についても聞きたい。後は重大な損傷を受けた機体は無かったはずだが、問題を抱えた機体はあるか?」

『気圏戦闘機隊、特に軽量級D、E中隊は最優先だと言う事でしたので、完了していると報告を受けています。弾薬補充は今最後の機体をやってる最中ですので、あと10分もあれば終わります。若干の損傷を受けた機体はありますが、幸いな事に重装甲の機体でしたので戦闘参加は可能です。』

「良く分かった。感謝する、サイモン大尉にはよろしく言っていてくれ。では。」

 

 キースは頷いて、内線電話を切る。そしてパメラ曹長に退出の許可を出した。

 

「ご苦労だった、パメラ曹長。退出して通常の業務に戻る様に。」

「はいっ!失礼します!」

 

 続けてキースは、ジャスティン大尉待遇中尉へ声をかける。

 

「ジャスティン大尉待遇中尉!俺の命令を、気圏戦闘機隊に通達してくれ。気圏戦闘機ダート中隊のスパローホーク戦闘機は、敵降下船群の着陸場所を、気圏戦闘機エッジ中隊のセイバー戦闘機は、ウォリック城を包囲している『第13アン・ティン軍団』を、それぞれ高高度より低速巡航で偵察、監視する様に、と。偵察、監視は2機編隊1個小隊で行い、一定時間ごとに同一中隊の別の小隊と交代させろ。無理をして疲労を残さない様に注意する旨、伝えてくれ。」

「了解!」

「それとこの惑星の地図をもう一度出してくれ。」

 

 キースはジャスティン大尉待遇中尉が、内線電話でキースの命令を通達している間、広げた地図で進軍路の検討をしていた。だが最速で行くのならば、選択肢はあまり無い。

 

(道は大きく分けて2つかあ……。一直線だけども難所を通り抜けるルートと、平坦だけど多少回り道になるルート。……時間が惜しいよなー。一直線のルートで行くとしようか。)

 

 進軍するルートを決断したキースは、再度ジャスティン大尉待遇中尉に命令した。

 

「整備中隊から弾薬補給完了の報告が来たら、即座にメック部隊出撃だ。ジャスティン大尉待遇中尉、貴官も指揮車輛で同行してもらうぞ。ここの海軍基地に置いて行く降下船群との通信を維持してもらわなければならない。他にも、ウォリック城近辺にはこちらの偵察兵がいるはずだ。それとの連絡役も頼む。」

「はっ!お任せ下さい。」

「捕虜の監視のため残して行く若干の歩兵の他は、降下船を除く全力出撃で行く。砲兵隊も連れて行く。スナイパー砲車輌には間接砲撃手ボールドウィン軍曹以下数名、機動ロングトム砲には間接砲撃手サイモン大尉以下十数名。気圏戦闘機は基本ここの海軍基地で待機してもらい、こちらからの出撃要請で来てもらう事にする。

 では各員への通達は任せた。」

「了解!」

 

 元気よく応えるジャスティン大尉待遇中尉に、キースは力強く頷いて見せた。

 

 

 

 出撃間際に、連盟標準時における日付が変わった。今は3028年2月1日の午前0時。現地時間ではまだ真昼間なのだが。キースはTシャツとトランクスの上に拳銃のホルスターと、そしてイヴリン曹長より前の誕生日の時に貰った高速振動剣を装備したその上に、ガウンを纏ってディファイアント号のメックベイに居た。出撃準備は万端整っている。そこへ恒星連邦傭兵関係局の連絡士官、リアム・オールドリッチ大尉がやって来た。

 

「キース大佐、間に合いそうですかね?」

「正直なところ、分からないな。敵の気圏戦闘機隊を叩き潰す事ができなければ、今頃はウォリック城が陥ちていたのではないかと思われるがな。

 偵察兵達が、持って行った機材で組み立てた、高指向性の据え置き型無線機で連絡して来た。ウォリック城はズタボロになっているらしい。気圏戦闘機E中隊のセイバー戦闘機からの高高度偵察でも、それは裏付けられている。敵『第13アン・ティン軍団』は、焦った様に自軍の損害も厭わぬ猛攻を城に対しかけている。我々の存在が、危機感を与えたのかも知れん。」

「まずいですな……。いや、気圏戦闘機隊を潰しておかねば城が危険だったのですから……。」

 

 徐にキースは、懐から1枚の紙きれを取り出す。そして彼はそれをリアム大尉に渡した。

 

「これは?」

「万が一に敵がこちらへ来た場合の備えだよ。空からの監視網もしっかりしてるし、まず来ないとは思うのだがね。予備機になってる20tスティンガー1番機と、45tヴィンディケイター1番機の神経ヘルメットの暗号だ。

 敵が歩兵部隊を送り込んで来た場合には、対人戦闘能力に優れるスティンガーで、敵が戦車やメックなどを繰り出して来た場合にはヴィンディケイターを使って、リアム大尉自らと海軍基地、降下船群を守って欲しい。」

「……了解です。」

 

 リアム大尉は暗号を書きつけたメモを何度か繰り返して読むと、ポケットから取り出したライターでそれを燃やす。更に灰を粉々になるまで握り締めて砕くと、彼はキースに向かい言った。

 

「ご無事でのお帰りと、任務を果たされんことを願います。」

「ありがとうリアム大尉。では行ってくる。」

 

 踵を返し、メックの操縦席までタラップを登りつつ、キースは考える。

 

(強行軍で行くしかないなあ。難所は渓谷を通り抜ける狭い道だけども、メックや車輛が通れないわけじゃない。何よりも時間が大事だし。休憩は最小限にして、飯も操縦席内で、カロリーバーかなんかで済ますしか無いかあ……。操縦席の機械類に、カロリーバーの欠片とかこぼさない様に皆に言っておかないとなあ。

 ああ、あと眠気覚ましのカフェイン錠剤のストックが、医療チームの薬物備蓄にあったはずだ。野営してる時間がないから、1回程度取る休憩の時に、同行する全部隊員に支給しとかないとなあ。MASH2台にも付いてきてもらうから、全員分のカフェイン錠剤を運ぶのは大丈夫だな。眠らずに行軍するのは、士官学校での訓練以来だよなー。)

 

 ウォリック城までの所要時間は、おそらく丸1日前後。上手く行けば本日中に、遅くとも明日2月2日には到着できるはずだ。『チェックメイト騎士団』と惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下を救うには、できる限り急ぐ必要があった。




お久しぶりです。ちょっと精神的に変なヤバさげな状態に陥って、更新ストップしてました。なんとか立ち直ってきましたので、更新を再開したいと思います。
さて、『SOTS』も、主人公が大佐になってからの初仕事ですね。ただちょっとばかり、技量が貧弱な者も多数いるので……。ちょっとばかり、ちょおっとばかり……大変かも知れませんねえ。
で、任務は惑星公爵を護る、というか護っている味方ごと惑星公爵を救出せねばならない事。でもってその味方は恩義のある『チェックメイト騎士団』で、敵は因縁のある『第13アン・ティン軍団』。色々ごちゃごちゃしてますねー。


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『エピソード-083 タイムリミット』

 夜闇が迫る中、キースは薄暗い操縦席でカロリーバーをかじって空きっ腹を満たし、水筒の水で喉を潤していた。ついでに先ほど、拠点にしている惑星軍第2海軍基地とウォリック城の中間地点でトイレ休憩を取った際に、彼も含めて全部隊員に支給された、眠気覚ましのカフェイン錠剤を呑む。その間も彼のバトルメック、95tS型バンシーは足を止めない。

 今、キース率いる混成傭兵連隊『SOTS』は、降下船を除いたそのほぼ全戦力をもって、この惑星シメロンの防衛拠点の1つ、ウォリック城へと進軍していた。ウォリック城では友軍である恒星連邦の駐屯軍、傭兵メック大隊『チェックメイト騎士団』が現在絶望的な状況下で籠城しており、そこには惑星公爵ドウェイン・ベックリー及び惑星軍の残存戦力の全てが逃げ込んでいた。

 そのウォリック城を攻めているのが、敵性国家ドラコ連合の正規軍、最近編制されたばかりの『第13アン・ティン軍団』だ。『チェックメイト騎士団』1個大隊が護っていたこの惑星を攻略するために、ドラコ連合は必勝を期して1個連隊の部隊を送り込んだのだ。だがドラコ連合の……正確にはその大統領タカシ・クリタの目的は、編制されたばかりの『第13アン・ティン軍団』の訓練にあった。この惑星がいらないと言うわけでは無いが、ほぼ確実に勝てる相手を叩き潰す事で、この連隊に実戦経験を与え勝利の味を教える方が、重要な目的であったのだ。

 味気ない夕食を終えたキースは、機体の上半身を旋回させて進軍する自らの部隊を確認する。と、S型バンシーの操縦席の主スクリーンに機動ロングトム砲の姿が映った。機動ロングトム砲は、バトルメックの行進速度について行くために、通常の50%増しの速度で突っ走っていた。まあそうは言っても元々の速度が極めて遅いので、たいした速度では無かったが。その様子を見て、キースは機動ロングトム砲のハンドルを握っているのがサイモン老である事に気付く。

 

(あー、サイモン爺さん……。若い者からハンドル奪ったな?)

 

 サイモン老は、超人的技術者であり熟練の砲兵でもあるが、もう1つの顔も持っている。それは彼がスピード狂であり、練達のドライバーであると言う事実だ。彼の腕前であれば、プロのドライバーに混じってスピーダーのレースに出ても、けっこう良い所まで行くほどである。キースは機動ロングトム砲の運転席の様子を脳裏に描き、苦笑する。その想像の中でサイモン老は、引き攣った顔の若手を尻目に安全速度をブッチ切って車輛をブン回していた。

 

(ま、サイモン爺さんなら車体を壊しゃしないだろ。それに普通の巡行速度で行かれたら、機動ロングトム砲が射撃位置に着く頃にはウォリック城が陥ちてるしなあ。)

 

 その後彼らは、ウォーハンマーやライフルマン等、一部のメックに搭載されているサーチライトに助けられながら、真っ暗な闇の中を進んでいった。

 

 

 

 やがて彼らは、ウォリック城への行程で最大の難所に差し掛かった。この道は渓谷の底に存在し、その左右は50~60mほどの切り立った崖になっている。歩兵たちを運ぶ装輪APCや、機動病院車MASH、スナイパー砲車輛、機甲部隊の戦車などは、やや速度を落とす。左右にうねった道を高速で突っ走り、崖の壁面に突っ込んだりしては危険だからだ。更に言えば道なりに進んで行っても、かなり急な坂道が連続したりしている。

 キースはスナイパー砲車輛の後ろを走っている、機動ロングトム砲へと個人回線を繋ぐ。

 

「サイモン爺さん、頼むからここでは少し自重してくれよ?」

『坊ちゃん、さすがのわしでもこの状況じゃあスピードは出せんですわい。と言いますかの。前がつっかえてますからのう。前を走っとるスナイパー砲車輛の運転手は、今日はフィリップの奴でしたかいな。運転の筋はいいと思ったんですがの……。もうちょっと度胸が欲しいところですわな。もちょっとばかり、スピード出してもいいと思うんですがのう。』

「まあ、ここら辺ではメックも速度を落とさざるを得ない。無理に速度を上げることはないさ。んじゃ、後はよろしくな。先に言ってた通りに、渓谷を出たらスナイパー砲車輛と機動ロングトム砲は進行方向を変えてXXD-44296地点に向かってくれ。歩兵たちの一部も、そちらに護衛として回すから。」

『了解ですわ。では。』

 

 キースはサイモン老との個人的な通話を終える。と、ここで指揮車輛のジャスティン大尉待遇中尉から、通信回線の接続要求が来た。キースは即座に回線を繋ぐ。

 

「ジャスティン大尉待遇中尉、何が起きた?」

『ウォリック城に派遣している偵察兵アイラ曹長が、海軍基地の通信設備を介してこちらに連絡を入れて来ました。先ほどの件です。』

 

 先に進発していたアイラ曹長たち偵察兵の面々は、キースたち『SOTS』ウォリック城救援部隊の位置を正確には知らない。今彼らが行軍している進軍路は、偵察兵たちが出発した後で決められた物だからだ。だからアイラ曹長たちが用いている高指向性で遠距離まで電波が届く通信装置では、逆に高指向性過ぎてキースたちの本隊にアンテナの照準が合わせられないのである。

 それ故に、アイラ曹長は一度海軍基地へと連絡を入れ、そこからキースたちの本隊に通信を中継してもらったのだ。おかげで、若干の音質の劣化はあるものの、アイラ曹長とは問題なく通信ができていた。キースはジャスティン大尉待遇中尉に向かって言う。

 

「先ほどの件とは、敵の偵察兵と思しきやつらが、今俺たちが拠点にしている第2海軍基地方面へ散った、と言うアレだな?」

『その通りです。ネイサン曹長とアレクセイ軍曹の偵察兵分隊が、その後を追ったけれど、アレクセイ軍曹のチームは敵偵察兵を見失ってしまったらしいです。ネイサン曹長からの連絡は、依然ありません。』

「……了解した。後は無いか?」

『はっ。今の所はありません。』

「了解。また何かあったら、すぐに知らせてくれ。以上だ。」

 

 キースは考え込む。敵偵察兵の能力次第ではあるが、こちらは急ぐだけ急ぐために姿を隠していない。敵には容易に発見されるはずだ。キースはA大隊第1中隊偵察小隊の副隊長、ノア少尉のバトルメック、35tオストスカウトに回線を繋ぐ。

 

「ノア少尉、パッシヴセンサーだけじゃなしに、アクティブセンサーも使ってかまわん。全力で索敵をしてくれ。」

『了解しました、大佐。』

「スキマーの様な小型の車輛や、あるいは電波発信している対象……偵察兵が使用している小型通信機の様な代物にも注意してくれ。」

『はい、任せてください。』

「以上だ。」

 

 そして1時間が何事も無く過ぎる。キース達『SOTS』の主力は、いまだに渓谷の中を進んでいた。キースはメックを歩ませながら、考えに沈む。

 

(うーん、とりあえずは今の所問題なく来れてるよね。ウォリック城は危険な状態だけど、報告ではまだかろうじて持ちこたえてる。……ウォリック城に行くのに降下船を使わない以上、これ以上は早くはならないしなあ。

 降下船を使えばあっという間に到着できたんだろうけど、ウォリック城の近くには降下船を安心して降ろせる場所が無いんだよな。せめてウォリック城内に直接降ろせれば、話は違ったんだろうけどなあ。城内には当の『チェックメイト騎士団』の降下船があって、うちの船まで入らねーってば……。いや、ウォリック城の付属宇宙港は小規模だから、元から12隻もの降下船は入らねーし。)

 

 その時である。突然キースのS型バンシーの操縦席に、ジャスティン大尉待遇中尉の指揮車輛を介さず、直接に回線接続要求が入った。同時にノア少尉のオストスカウトから、報告が入る。

 

『大佐!たった今、部隊先頭近辺の崖上に、ごく小規模の金属反応を捉えました!同時にそこから暗号化がかかっている通信電波も傍受!それとその近辺より、友軍のコードが付随した電波発信を確認!』

「了解だ、ノア少尉!」

 

 キースはノア少尉に応答すると、入って来た回線接続要求に応えて通信回線を開く。すると即座に緊迫した声が飛び込んで来た。

 

『隊長!こちら第2偵察兵分隊分隊長のネイサン曹長!説明してる暇がないんで、即座に進軍を一時止めて下さい!以上です!』

 

 ネイサン曹長からの通信は切れた。キースは全部隊に対し、隊内回線を繋ぐ。彼は叫んだ。

 

「全部隊、緊急停止!別命あるまでその位置を確保せよ!隊列前方、特に最前列にいる者は、崖上の挙動に注意するんだ!何者かが崖上に潜んでいる可能性がある!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 すかさず了解の返事が返って来る。部隊はキースの命令に従い、緊急停止した。更にノア少尉からの報告が入る。

 

『キース大佐!崖上でレーザーと思われるエネルギー兵器が使用されました!規模は極小、メックや戦車用ではなく人間用の小型レーザー火器と思われます!繰り返します、崖上で人間用レーザー兵器の使用反応有り!』

「ご苦労、ノア少尉!降下猟兵隊、エアメック形態に機体を変形させておけ!場合によっては崖上まで飛んでもらい、そこでの戦闘に介入してもらう!」

『『『『了解!』』』』

 

 キースは、そうは言ったものの崖上まで彼らを飛ばせる事は無いだろうと予測していた。崖上はかなり険しい地形で、メックなどが立てる場所がほとんど無い。エアメック形態を維持して浮遊する様に飛行を行えばなんとかなるかも知れないが、経験の浅い降下猟兵隊に高度な操縦技量を要求されるそれを強要することは避けたい。

 やがてノア少尉が再度の報告をして来る。

 

『崖上のエネルギー兵器反応、無くなりました。』

「了解した。む?」

 

 再度ネイサン曹長からと思われる、回線接続要求が来る。キースはそれに応じ、回線を開いた。

 

『こちらネイサン曹長。隊長、こちらの騒動は無事終了しました。第2偵察兵分隊は、私を含めて負傷者はありません。』

「ネイサン曹長、こちらキースだ。何があった?」

『敵陣から出た敵の偵察兵4名が、渓谷の底を歩いている隊長たちを発見し、今私がいる所……隊列の先頭付近の崖上に先回りして来ていたんです。で、奴さんたちは崖上の各所に、プラスチック爆薬を仕掛けていました。人工的に崖を崩落させて、隊長たちの進軍を止める、あるいは遅らせるために。

 相手が欲をかいて、先頭の数機のバトルメックを岩の下敷きにしようとタイミングを計っていたらしいんですがね。そのおかげで我々がそいつらを排除する時間的余裕ができましたよ。相手が欲をかかずに最初から崖を崩されていたら、間に合わないところでした。』

「ネイサン曹長、よく敵の企みを阻止してくれた。ボーナス物だ、期待していてくれ。」

 

 キースはネイサン曹長を称賛する。だが当のネイサン曹長は、多少暗い声で言う。

 

『ありがとうございます。しかし……。敵が高指向性の無線機を現場に設置しておりまして、隊長たちがウォリック城救援に向かっていると言う情報は、既に敵陣へ送られている模様かと……。そちらは阻止できなかったのが、残念です。』

「いや、気にする事は無い。敵がこちらの事を知らないと仮定して動くのと、知っているとわかって動くのでは、大きく事情が違う。それでは我々は再度移動を開始する。あとはそちらからは無いか?」

『は、こちらからは以上です。通信終わり。』

 

 通信は切れた。キースは全部隊に対し、再度の進軍を命じる。無論降下猟兵隊は、再度バトルメック形態に変形させるのも忘れない。やがて朝日が昇る頃に、キースたちのウォリック城救援部隊は渓谷を抜けた。ここでサイモン老たち間接砲部隊の砲兵は、本隊とは別行動を取る事になる。機動ロングトム砲とスナイパー砲車輛、それに護衛の歩兵部隊1個小隊を載せた装輪APC数台が、本隊の進行方向から2時の方角へと向きを変えて去っていく。

 

『では隊長、わしらはXXD-44296地点へ向かい、そこから砲撃しますでの。』

「頼んだ、サイモン大尉。では無事でな。」

『了解ですわ。ではまた後程。』

 

 そしてキースは、ジャスティン大尉待遇中尉に命じてウォリック城と連絡が取れるかどうか、交信を試みさせる。

 

「ジャスティン大尉待遇中尉、指揮車輛の通信システムならばそろそろウォリック城と交信できないか?」

『やってみます。少々お待ちください。』

 

 指揮車輛の屋根の上に装着されているパラボラアンテナが、進行方向に向けられるのがキース機操縦席の主スクリーンに映った。やがてジャスティン大尉待遇中尉の声が、通信回線から再度流れ出す。

 

『キース大佐、向こうと繋がりました!今、回線をそちらに回します!』

「そうか、頼んだ。」

『……。こちらウォリック城、恒星連邦駐屯軍指揮官、傭兵大隊『チェックメイト騎士団』部隊司令のマイケル・アダムソン少佐。』

 

 ウォリック城からの通信が、キース機の操縦席に響く。キースは城がいまだ何とか持ちこたえていたらしい事を知り、人知れず安堵した。

 

「こちら恒星連邦惑星シメロン救援部隊指揮官、混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』部隊司令キース・ハワード大佐。アダムソン少佐、そちらの状況は?」

『来援を感謝します、大佐。状況ですが……悪いの一言ですな。地雷原と3門あるスナイパー砲の助けを借りて、なんとか防戦に努めておりますが……。地雷原もかなり薄くなり、スナイパー砲の砲弾も底が見えて来ました。

 我々メック部隊も、未だに1個半中隊はなんとか稼働できる状態を保っておりますが、残り1個半中隊は……。完全破壊された機体こそ無いものの、半数が敵に鹵獲され、半数が稼働不能なまでに痛めつけられております。また稼働機ですが、こちらも外面の装甲板は張り替えた物の、中身がずたずたの機体が多く……。』

「あと半日足らずで、そちらに到着できる。それまで保たせられるかね?」

『正直わかりませんな。ですが、何とかやってみます。部隊員たちにも味方の来援を伝えれば、士気向上は……。む、何だ?』

 

 マイケル少佐は、通信機の向こう側で何者か……おそらくは彼の大隊副官と話をしている模様だ。やがてマイケル少佐は通信に戻って来た。

 

『大佐、敵の一部が……。城の周りを固めていた敵部隊のうち、B大隊と思われる1部隊が、急遽城の周囲を離脱して行きました。離脱方向は、城より北西です。』

「その方角は……。間違いなくこちらだ!そのB大隊とやらは、こちらの部隊の足止めを狙っているのだろう。たぶんまともに戦う気は無く、だらだらと遅滞戦闘を繰り広げて時間稼ぎをするつもりだな。その間に、残りの部隊でウォリック城と貴官ら『チェックメイト騎士団』を撃破、惑星公爵閣下の身柄を押さえるつもりだろう。

 ……そうはさせるか。」

『キース大佐!ジャスティン大尉待遇中尉です!お話し中申し訳ありませんが、こちらの拠点第2海軍基地から緊急連絡です!敵の1個大隊がウォリック城を離れ、こちらへ向かって来ています!気圏戦闘機エッジ中隊、およびアイラ曹長の偵察兵分隊両者から、同じ報告が入ったとの事!その向かって来る敵の陣容は、今しがたデータ通信で着信中です!』

 

 惑星の地図を脳裏に描き、一瞬でキースは決断する。彼はまずマイケル少佐に向かい、声を発した。

 

「マイケル少佐!なんとかもう少しだけ頑張ってくれ!こちらは足止め部隊を叩き潰して、一刻も早くそちらへ到着できるようにする!迂回路を探す事も考えたが、地形図からして結局は叩き潰した方が早く着けそうだ!」

『了解しました。できるだけ粘ります。ですが、そう長くは無理です。長くて1日保てば御の字ですね。短ければ、今にも陥落してしまいそうです。そうなった場合、残念ですが我々は惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下をお連れして、降下船で惑星を撤退します。』

「了解した。できる限り最速でそちらへ向かう。以上、通信終わり。」

 

 次にキースは、指揮車輛のジャスティン大尉待遇中尉に第2海軍基地への通信中継を命じる。

 

「ジャスティン大尉待遇中尉、第2海軍基地へ通信を中継してくれ!」

『了解です!今繋ぎます!』

『……こちら第2海軍基地、司令官代理のカイル・カークランド船長。隊長かね?』

「カイル船長!気圏戦闘機隊A、B、C中隊の発進を命令する!目標地点は惑星マップ上のXXD-44008地点!到着時刻が今から3時間後になる様に、調整して発進させてくれ!それと気圏戦闘機D、E中隊のうちで今そちらに戻っている者たちから、充分休んだ2名を選んで今すぐ緊急発進、先ほど言った地点へ高高度偵察に飛ばしてくれ!」

『了解したよ、隊長。偵察機はすぐに飛んで行かせる。攻撃隊もちょうどいい頃合いに発進させるよ。』

「頼んだ。通信終わり。」

 

 そして更にその次に、キースは砲兵隊のサイモン老へも通信を入れた。

 

「こちらキース!サイモン大尉!今どの辺だ!?」

『こちらサイモン大尉、XXD-44250地点を通過中ですわ。』

「よし、そこで一時停止!どうやら目的地に着く前に、1戦交える羽目になりそうだ。XXD-44008地点かその周辺で会敵する可能性が高い。予定は3時間後だ。サイモン大尉はそこから間接砲撃による支援を頼む。」

『サイモン大尉、了解!』

「以上、通信終わり。」

 

 キースは敵B大隊に、時間稼ぎなどさせる気は無かった。だからこそ、本来は敵本隊に取っておきたかった気圏戦闘機隊や砲兵隊の戦力まで使って、ごく短時間で敵B大隊を叩き潰すつもりだったのである。敵本隊に当たる前に戦力を消耗することになるが、まずは急ぎたどり着く事が先であった。

 

 

 

 混成傭兵連隊『SOTS』の「目」であるノア少尉のオストスカウトが、敵B大隊の存在を察知する。気圏戦闘機D中隊のうちの、ロブ・ギャロウェイ少尉とクラーラ・フィオラヴァンティ少尉の機体、スパローホーク戦闘機2機からも、敵を発見したとの報告が入っている。それはキースが予測したXXD-44008地点であった。

 やがてキースたち『SOTS』がその地点に到着した時、敵は既に陣を張って準備万端整えて待ち構えていた。ちなみにキースたちは歩兵部隊の装輪APC、機動病院車MASH、ジャスティン大尉待遇中尉の指揮車輛などを、ここよりやや後方の地点に待機させている。キースは檄を飛ばした。

 

「お客さんをお待たせしてしまった様だな。お詫びの品を受け取ってもらおうじゃないか。叩き潰すぞ!スナイパー砲はXXD-44008-C12、XXD-44008-C22、XXD-44008-C14、XXD-44008-C23、XXD-44008-C31に連続して、ロングトム砲はXXD-44008-C19、XXD-44008-C17、XXD-44008-C15に連続して砲撃開始だ!風向と風力はWNWに3単位!撃て!

 A大隊第1中隊指揮小隊。俺たちはこの距離でも命中させられるだろう。狙うのは敵指揮官機と思われる通常型マローダー!前進しつつ攻撃開始だ!他の者たちは、まずは高機動メックは敵陣を迂回し、その背後に回り込んで敵の退路を断て!残りの者は主戦機を前衛にして前進、命中が見込める距離になり次第攻撃せよ!機甲部隊の戦車隊は、最後尾より支援射撃!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 『SOTS』のメック部隊が、前進を始める。D型と通常型が混じったフェニックスホークの群れを先頭に、6機のウルバリーン、13機のグリフィン、5機のシャドウホーク、2機のスパイダーが敵陣を迂回して後背に回り込むべく、全速で疾走する。同時にエアメック形態になった4機のフェニックスホークLAMが、これもまた敵陣の後ろ目指して離陸した。ただし敵中に1機だけ確認できたライフルマンの近傍には、可能な限り近寄らない。ライフルマンはエアメックの大敵なのだ。

 キースの95tS型バンシーを始めとして、彼の直卒小隊の面々が駆るメックから絶大な砲火が吐き出され、敵指揮官機の森林迷彩塗装のマローダーに突き刺さる。20連長距離ミサイル、10連長距離ミサイルが2門、5本の粒子ビーム束、大口径オートキャノンの砲弾、大口径レーザーの光条が2閃、それら全てを一身に受けたマローダーは、全身の装甲板を綺麗に剥がされた上に、頭部に大口径オートキャノンの直撃を受けてメック戦士が緊急脱出に追い込まれる。

 

『す、すげえ……。』

『あの距離で全部当たった!?』

『無駄口を叩くんじゃない!ユーイン伍長!エルトン伍長!そんな暇があったら、前衛のメックを支援しろ!貴様らの技量なら、100発100中とはいかないが、中距離にまで踏み込めば静止射撃でなら命中が見込める!』

『『は、はい、中隊長!』』

 

 第8中隊の中隊長、リシャール大尉待遇中尉が、自分の隊の新入りメック戦士たちを叱責する。一方敵陣だが、指揮官があっという間に撃墜されたことに驚愕したのか、一瞬動きが止まった。しかし指揮を受け継いだ次席指揮官が有能な人物なのか、すぐに気を取り直してゆっくりと後退しつつ、砲火を『SOTS』に向けて放ち出す。そしてその中から高機動メックが出て来て、後背に回り込もうとする『SOTS』高機動メック群を妨害せんとの動きを見せた。キースは叫ぶ。

 

「高機動メック隊!ジャンプジェットで妨害者を飛び越えろ!A大隊第1中隊指揮小隊、移動を妨害する敵の高機動メックを狙え!目標選択は任せる、撃て!」

『了解です。』

『任せろ隊長!』

『撃つわよー!』

 

 再び絶大な砲火力が発揮され、フェニックスホーク、グリフィン2機、K型フェニックスホークが大地に倒れ伏す。ことに1機のグリフィンは、粒子ビーム砲で操縦席を焼かれてメック戦士を喪っていた。泡を食った敵方の高機動メックたちは、それでも『SOTS』高機動メックに一撃を加えんと一斉に砲撃を行う。ジャンプ移動距離の短いシャドウホークたちが若干のダメージを受けるが、大半の『SOTS』高機動メックは一撃も貰う事無く相手を飛び越えて、敵陣後背に至る進路を確保した。

 ここで、キースが指示していたスナイパー砲の第1射目が着弾する。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 その砲弾は、高地を占拠して周囲に支援射撃を行っていた敵のライフルマンに降り注ぐ。たまらず敵のライフルマンは高地を捨てて平地に降りて来る。そこへアーリン少佐直卒の第7中隊の火力小隊、対空小隊として知られている彼らが、集中射撃を見舞った。敵機もまた応射するが、4機のライフルマンに1機のライフルマンでは歯が立たない。また技量も、『SOTS』の対空小隊の方が高い。あげくにライフルマンに限らず敵部隊のメックは、城攻めをしていた際のダメージがそのまま残っている。結局敵ライフルマンは、片足を折り取られてぶざまに転倒する事になった。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 スナイパー砲の第2射が、今度は別の高地にいたK型アーチャー2機を叩く。それらのK型アーチャーはその高地を捨てて後退した。しかしそこには降下猟兵隊のフェニックスホークLAM4機が、エアメック形態で回り込んでいる。

 

「降下猟兵隊!下手に戦果を上げようと思うな!エアメック形態で飛び回って、ちくちくと嫌がらせ程度の攻撃を繰り返せ!敵を今の位置から後退させない事だけ考えろ!そのうちに味方の高機動メックがそこへたどり着く!」

『『『『了解!』』』』

 

 キースの命令通り、エアメック4機は全力で飛び回り命中弾を避け、ちくちくと嫌がらせ攻撃を繰り返す。そして味方の高機動メックのうちフェニックスホークの一団が、敵陣の後背を断つ位置に到着した。これで敵は容易には後退できない。本当であれば、じわじわと後退しつつ味方の被害を抑えて徹底した遅滞戦闘を行い、『SOTS』に牛歩のごとき歩みを強要するつもりだったのだが。

 更にスナイパー砲の第3射とロングトム砲の第1射が、予定通りの後退ができずに動きが取れなくなっている敵陣に着弾した。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 敵のK型アーチャー数機、K型クルセイダー数機が巻き込まれて損傷する。そして通信回線より、お調子者だが頼りになる、鋼鉄の猛禽たちを率いる『SOTS』最古参航空兵の声が聞こえた。

 

『マイク大尉以下、気圏戦闘機隊アロー中隊、ビートル中隊、カバラ中隊、ただ今参上っす!!』

「マイク大尉!B、C中隊は敵後衛に地上掃射を!A中隊は逃げ出す敵を優先し、その最大口径オートキャノンで大物狩りを頼む!」

『了解っす!聞いていたっすね、お嬢さんがた&野郎ども!アロー中隊ブレイク!ビートル中隊、カバラ中隊は中隊ごとにトレール(縦一線)形態を組んで、敵後衛に地上掃射っす!』

 

 とうとう敵は遅滞戦闘を行う事を諦めたか、『SOTS』指揮官機と彼らが判断……と言うか勘違いした、マテュー大尉待遇中尉の100tアトラスに向かって全力で前進して来た。『SOTS』指揮官を倒す事で、九死に一生を得ようと言うのだろうか。

 だがそれよりも早く、ヒューバート少佐、アーリン少佐、ジーン大尉の3機の85tバトルマスター、それにケネス大尉、第6中隊の方のルートヴィヒ中尉、カーラ中尉待遇少尉、ヴェラ少尉、イヴリン曹長、ティアナ軍曹、アンヘラ伍長の7機の65tサンダーボルトが、一塊になって敵中に斬り込んだ。余談だが、ルートヴィヒと言う名前の中尉は現在、『SOTS』メック部隊に2人存在している。非常に紛らわしいが、これだけ部隊が大きくなっては、名前や姓が被る事は避けられない。

 これで勝負はほぼ付いた。敵が最後に後退による遅滞戦闘を諦めて積極的攻勢に転じた事で、『SOTS』側のメックも新入りたちの機体を中心に、そこそこはダメージを受ける。だがさほど問題になる損傷では無い。それよりも問題となるのは時間である。敵は遅滞戦闘による時間稼ぎができないと悟った時点で、それでもせめて可能な限りの時間を稼ごうと、最後の1機が戦闘不能になるまで勇敢に戦い続けたのだ。

 キースは内心で、苦々しく呟く。

 

(ちっくしょう。一応予想の範囲内だけどさあ、その予想の範囲で目いっぱい粘られちゃったよ。気圏戦闘機隊の推進剤も、かなり使っちゃったしなあ……。今から海軍基地に帰して補給させると、ウォリック城の救援に参加させられないよ。……仕方ないか。このままウォリック城上空で低速巡航モードで高高度待機させて、ここぞと言う時に短時間だけ投入するしか無いなあ。

 サイモン爺さんとボールドウィン軍曹の間接砲も、残弾が心もとなくなってるなあ。足止め部隊の撃破を優先して撃ち過ぎたなあ……。)

 

 彼が足止め部隊の突破ではなく殲滅を選択したのは、敵に戦力を残して置いて敵本隊との交戦中に、背後からちょっかいを出される事を嫌ったためである。ここで、ヒューバート少佐が隊内回線で話しかけて来た。

 

『キース大佐、戦闘不能になった敵機はいかがいたしますか?』

「歩兵部隊の半数を残して放置だ。テリー少佐待遇大尉に降伏勧告と捕虜の拘束を任せて、我々はそのままウォリック城に急ぐ。致命的な損傷を被ったメックは無いと言う話だったな?ならば残す歩兵部隊以外は、隊列を整え次第に急ぎ出発するぞ。」

『了解です。』

 

 そしてキースは、先ほど歩兵たちの装輪APCや機動病院車MASHと共に現場に到着した、ジャスティン大尉待遇中尉の指揮車輛に回線を繋ぐ。

 

「ジャスティン大尉待遇中尉!ウォリック城との通信回線は確保しているな?向こうの様子はどうだ?」

『向こうではマイケル・アダムソン少佐ご自身がメックで出撃してしまったため、今現在大隊副官で少佐の親族であるクリストファー・アダムソン少尉が、代理でこちらとの連絡を行っています。少尉の話では部隊のメックも弾薬の不足と損傷により、継戦能力がほぼ尽きているらしいです。少佐のオリオンも損傷はともかく弾薬切れですが、枯れ木も山の賑わいとばかりに、止める周囲を振り切って強引に出撃なされた模様です。』

「まずいな……。オリオンは弾薬切れすると戦力価値が著しく減退する機種だ。一刻の猶予も無い、急いで出発するぞ!」

 

 装輪APCの一台に通信回線を繋ぎ、キースは早口で言った。

 

「テリー少佐待遇大尉、後は頼んだぞ。この場は貴官に任す。」

『了解です。お任せ下さい。』

 

 そしてキース達『SOTS』は、再度ウォリック城目指して歩み始めた。

 

 

 

 『SOTS』がウォリック城にたどり着いたのは、本当にぎりぎり限界直前であった様だ。城の城壁のあちこちから煙が上がり、3門あったスナイパー間接砲は弾薬切れで沈黙している。そして城の周辺にある『チェックメイト騎士団』のメックの姿は、全て煙を上げて損壊した物だけであった。せめて原型が残っており、修理が効きそうな事だけが救いであろうか。

 城門の前には、多数のドラコ連合と『第13アン・ティン軍団』の紋章を着けたバトルメックが集結している。城門を破ろうとしていた所なのだろう。彼らはキースたち『SOTS』の到着に、慌てている模様だった。

 ウォリック城から、キースのバトルメック、S型バンシーに通信が入る。

 

『ハワード大佐、危ういところで間に合ってくださいましたな!今現在、残っているバトルメックとメック戦士、それに何よりも誰よりも、惑星公爵閣下を降下船に乗せ、惑星を脱出する準備をしていたのですよ。ありがとうございます!』

「やれやれ、本当に危ういところだったな。だが、貴官らがぎりぎりまで粘ってくれたおかげで間に合った。こちらこそ、ありがとう。ところでこちらの攻撃に呼応して、城内から打って出る事は可能かね?」

『残念ながら、不可能ですな。申し訳ありません。最も損傷の軽い自分のオリオンですらも、機体の装甲を満遍なく剥がされており、弾薬を使い切っていなかったら爆散していた事間違いなしの有様です。動くことは動くんですがね。』

「そうか……。申し訳なく思う必要は無いよ。無理を言ったのは解っているからな。謝るのはこっちだ。遅くなって済まない。

 ……さて、では戦闘開始と行こうか。美味しいところだけ貰う様で済まない気がするが、な。『SOTS』、全機攻撃開始!」

 

 キースの檄に応えて、混成傭兵連隊『SOTS』のバトルメック全機と戦車全車輛が、『第13アン・ティン軍団』の集結しているウォリック城城門前目指し、進撃を開始した。




様々な障害を越え、主人公たちはウォリック城の前までたどり着きました。本当にギリギリ、本当に危うい所で。
さあ、これからが反撃です!


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『エピソード-084 『チェックメイト騎士団』を救え』

 ウォリック城城門前での戦いは、なおも続いていた。

 戦闘開始直後、キースは敵が城門前に固まっていた陣形をあまり崩さずに向かって来たのを見て、いきなりの気圏戦闘機隊ビートル中隊およびカバラ中隊の投入と、弾薬が残り少ない間接砲の戦力投入を決意。気圏戦闘機隊B、C中隊により、密集していた自分たちへの地上掃射を受け、あげくにスナイパー砲とロングトム砲による連打を浴びた『第13アン・ティン軍団』A、C大隊は急ぎ散開しようとするが、キースはそれを見越して敵の左右に高機動メックを半数ずつ展開。キース機を含む鈍足のメックが正面から攻撃するのと合わせ、3方向からの砲撃によって、敵が部隊を散じるのを阻止した。

 無論、敵も撃たれっぱなしでいるわけは無い。気圏戦闘機隊ビートル中隊とカバラ中隊は濃密な対空砲火により12機のうち8機が痛撃を浴びて、被撃墜こそ免れたものの離脱して上空における高高度待機に回らざるを得なくなった。それに推進剤も心もとなく、もうB、C中隊は地上攻撃に参加させられない。

 更に新人たちのうちで足止め部隊との戦いが初陣だった者達のバトルメック数機が、経験の無さ故に機動回避のタイミングを誤り痛打を受けて、キースの指示で後方に後退せざるを得なかった。まあそれら70tアーチャーも65tカタパルトも40tウィットワースも、主武器に遠距離攻撃が可能な長距離ミサイル系の武器を搭載している機種であったため、後方に下げたところで完全に戦力外にはならないのが救いか。新人故に遠距離での命中率に不安はあったが。

 その上に『SOTS』機甲部隊の戦車が、想像以上に今回の戦いでは役に立っていない。キースはある程度は覚悟の上だったが、予想以上に戦車の砲手が新兵になったのは厳しかった。それでもたまに、まぐれ当たり気味に命中弾を送り込んでくれるので、完璧に無駄とも言えないが。各々の車長は熟練兵であるため、味方撃ちなどもやらかしてはいない。

 まあそれを言うなら『第13アン・ティン軍団』のメック戦士も、けっこうな割合で新人が混ざっている。砲撃命中率も機動回避技術もそう言う者たちは今一つであり、カモも同然である者すらも多く存在していた。

 双方ともにストレスの溜まる戦いをしばし続けていた『SOTS』と『第13アン・ティン軍団』であったが、ここで転機が訪れる。『SOTS』側は間接砲の残弾が、『第13アン・ティン軍団』側は自分たちの機体の実弾兵器の弾薬が、共に底をついたのだ。キースは決断する。

 

(よし、バトルマスターとサンダーボルトでの斬り込み隊を突っ込ませるのに良いタイミングだな!近接支援に、ハンチバックもそのすぐ後ろに付いていかせようかね。それと気圏戦闘機隊のアロー中隊を投入しよっか。あの後ろにいるストーカーが総大将で、やや前に出て来てるブラックナイトが次席指揮官かなあ?アロー中隊にはストーカーを集中攻撃させよう。)

 

 キースは命を下す。

 

「ヒューバート少佐!アーリン少佐!ジーン大尉!斬り込み隊を率いて敵陣に突貫せよ!ヴァーリア・ゲーリケ軍曹、貴様のハンチバックは斬り込み隊の近接支援として付いていけ!

 マイク大尉、アロー中隊の出番だ!その最大口径オートキャノンで、敵の総大将機と思われる85tストーカーを袋叩きにしろ!」

『『『『了解!!』』』』

『了解っす!任せといてください!』

 

 バトルマスターとサンダーボルトの一団が、ハンチバックを引き連れて敵陣に突入する。だが同時に敵陣からもブラックナイトを先頭にして、ウォーハンマー、ドラゴン、ウルバリーン、シャドウホーク、K型クルセイダー、ハンチバック、おまけでジェンナーなどが突っ込んで来る。特にドラゴン、シャドウホーク、K型クルセイダーなどは、弾切れのために後は格闘戦に望みを託すしかないと出て来た模様である。

 両者のタイミングは偶然合致した。結果、両者は自陣と敵陣の中央で激しくぶつかり合う。キースは敵本陣へ斬り込み隊を突入させる思惑を外され、小さく舌打ちした。まあ相手がキースの狙いを読んで妨害したわけではなしに、純粋に偶然だったのだが。しかしもう1つのキースの狙いは、きちんと成功した。敵総大将のストーカーが、気圏戦闘機隊アロー中隊の最大口径オートキャノン連打に叩きのめされ、両腕両脚を千切り取られて大地に伏したのだ。

 

「今だ!敵は浮足立ったぞ!左右の高機動メックは敵本陣を狙って集中砲火!支援メック及び機甲部隊は斬り込み隊を遠距離支援だ!彼らを自由に動ける様にして、敵本陣へ斬り込ませるんだ!

 マテュー大尉待遇中尉、アンドリュー准尉、エリーザ准尉、俺たちも前進する!マテューはすまないが先頭に立ってくれ!エリーザ准尉はそのすぐ後ろでマテューを近接支援!アンドリュー准尉は俺と並んで、粒子砲を撃ちながらその後ろだ!狙うのはブラックナイト!」

『先頭に立つのは、一番装甲が厚い私の仕事ですからね。了解です。』

『俺も了解だ。皆の背中はまかせとけ!』

『あたしも了解。マテュー大尉待遇中尉の陰から、がんがん撃たせてもらうわね。……大尉待遇中尉って、長くて言いづらいのよね。隊長、早目に大尉に昇進させたげて。』

「そうしたいのは、俺も山々なんだが……。早くても、今回の任務が終わってからだな。」

 

 そしてキースたちは前進した。

 

 

 

 戦いの終わったウォリック城城門前で、『SOTS』の機体は歩兵たちの助けを借りつつ、倒れた敵機から捕虜を取っているところである。味方には酷く叩かれた機体は出た物の、倒れたバトルメックは幸いな事にいなかった。足や下腿の駆動装置をやられて脚を引き摺っている機体や、胴体部の装甲板を全損し内部構造までダメージを受けて危うくエンジンやジャイロに損傷を負いそうになった機体は存在していたが。

 そんな中、キースのS型バンシーの操縦席にある通信用小型スクリーンには、アンドリュー准尉の少々複雑そうな顔が映っている。

 

『はぁ……。こいつら、聞いた話では新兵が多いって事だったよな。腕前を見るに、それは確かな情報だと思うんだけどよ。でもそれにしちゃ、最後まで士気崩壊せずに、最後の1機が倒れるまで戦ってたよな。おかげで、致命傷こそ避けられたけど味方機のダメージも、決して軽くねえし。

 ……なんで途中で降伏とかしなかったんだ?取り囲まれてたから、逃亡はできなかったのは解るけど、よ。』

「たぶん、だがなあ……。今回の出兵が、ドラコ連合大統領のタカシ・クリタ御大の鶴の一声で決まったって情報があったからな。それが事実なら、奴らにとって「無様」な真似は絶対にできまいよ。戦力が残ってるうちの降伏も、敵前逃亡もな。そんな事をすれば、後が怖いだろう。タカシ・クリタの顔を潰したとなったら、将来が断たれるどころじゃなく、切腹させられてもおかしくない。

 俺が思うに……。奴らを支えてたのは勇気とか忠誠とか以前に、「恐怖」じゃないのかね。後方の「味方」に対する。いや忠誠が無いとまでは言わないが。」

『恐怖で縛られてた、ってわけかよ……。』

「さて、俺たちはそろそろ戦利品と『チェックメイト騎士団』の取り残されたメックを拾って、入城するとしようか。」

 

 キースたちは自分の機体それぞれにパンパンに膨れ上がった戦利品回収用の網を、両手があるメックの助けを借りて背負わせてもらう。キース直卒小隊でまともに両手があるのは、マテュー大尉待遇中尉のアトラスぐらいだ。そのキースたちを先頭に、荷物を背負った『SOTS』のA、C両大隊はウォリック城に入城して行く。ちなみにヒューバート少佐率いるB大隊は、足止め部隊であった敵B大隊の損傷メックと捕虜を拾いに戻っている。

 ウォリック城に入城したキースたち『SOTS』は、大歓呼で迎えられる。惑星軍の残存部隊が、城の職員が、そして何よりも『チェックメイト騎士団』の部隊員たちが、歓喜の表情で迎え入れてくれた。

 

 

 

 ウォリック城の司令執務室で、キースは『チェックメイト騎士団』のマイケル・アダムソン少佐と面談していた。ちなみに惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下には、つい先ほどこの面談に先んじて、挨拶とご機嫌窺いに行って来たばかりだ。流石に恒星連邦の駐屯軍司令官とは言え結局は一介の傭兵である。公爵閣下よりも優先する事はできない。

 応接セットのソファに座すマイケル少佐は多少やつれてはいたものの、笑顔でキースに話しかける。歴戦の傭兵部隊の司令官だけあって、キースの迫力に物怖じしている様子は無い。

 

「いや、おかげさまで命拾いいたしましたよ、ハワード大佐。この御恩を、いったいどうやってお返ししたら良いものか……。」

「いやいや、こちらとしても任務だったからだ。そう気にする必要は無いとも。それに私たち『SOTS』側……と言うより、私個人か?貴部隊と貴官には恩義を受けている。」

「我々が、ですかな?」

 

 怪訝そうな顔で問うマイケル少佐に、キースは笑って言った。

 

「私の元々の出身部隊が、『鋼の勇者隊』、略称『BMCOS』だと言えば分かるかね?」

「!!」

「貴官とその部隊には、今私の部隊の自由執事となっている、『BMCOS』全滅時に偵察兵であったライナー・ファーベルク……当時は軍曹だったが、彼を保護していただいたと言う御恩がある。」

「なんと……。メック戦士の生き残りがいたのですか。」

 

 マイケル少佐の言葉に、キースは頷く。

 

「私は当時、ロビンソン戦闘士官学校で就学中――卒業間際ではあったが――と言う理由があり、部隊を離れていたのだよ。卒業後、私は傭兵部隊を組織し、そして様々な幸運と、何より仲間の助けによって奪われた『BMCOS』のバトルメック他の装備を奪還し、その後も色々な事があって部隊規模を先日に現在の連隊規模に拡張したんだ。

 ちなみに今回の敵『第13アン・ティン軍団』も、実は元々『BMCOS』を滅ぼした仇がその大本を創った部隊だ。仇そのものは、私たちの手であの世に送っているがね。そいつらの遺産と言うわけだな、『第13アン・ティン軍団』は。」

「なんとまあ……。因縁深い物がありますなあ……。ああ、先ほどファーベルク軍曹を保護した恩と申されましたが、それについてはこちらこそ恩義を感じていますよ。彼が片腕片脚を失ってまでこちらの部隊まで通報しに来てくれなかったら、惑星タンクレディⅡはクリタの手に落ち、駐屯軍の一部であった我々も諸共にやられておったでしょう。

 ファーベルク軍曹は、『チェックメイト騎士団』全員にとっての恩人です。できるならば、我々がこの惑星上に居るうちにもう一度会って礼を言っておきたい物ですな。……いや、我々『チェックメイト騎士団』は、はっきり言いまして駐屯任務の遂行が不可能な状態です。可能な限り早急に代替の部隊を用意してもらって、惑星撤退せねばならんでしょう。会う機会があるかどうか……。」

「……何なら、我が部隊の整備兵をこちらへ呼ぶための降下船に同乗してもらい、ウォリック城へ呼ぶが?確認してみたところ、非空力型降下船のための離着床が1つだが空いていたな。今こちらが奪還して一時的拠点としている惑星軍第2海軍基地から、フォートレス級ディファイアント号を呼ぼうと思っていたんだ。」

「おお、それならばぜひ!」

 

 キースとマイケル少佐は笑い合う。キースは、自分の笑顔が不自然になっていなければ良いと、そう思った。『チェックメイト騎士団』の今回の損害は桁外れな物だ。そして任務遂行不可能で依頼中断ともなれば、報酬がどれだけ支払われるかは判らない。おそらくは相当に目減りするはずである。『チェックメイト騎士団』の経済状態は、一気に悪化するはずだった。下手をすると、破産と言う最悪の事態も想定しなければならない程に。

 キースの脳裏に、惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下の言葉が蘇る。

 

『なあ、救援部隊指揮官キース・ハワード大佐であったな。……なんとか『チェックメイト騎士団』を救ってやる方法は無い物かな。いや貴官と貴官の部隊には感謝はしておるのだ。だが、今まで身体と命を張って、わしを護ってくれたのはやはり『チェックメイト騎士団』なのだよ。このまま見捨てるのは心苦しい……。

 しかしわしは、この様なドラコ境界域外れの価値の低い、しかして危険度だけは高い、辺鄙な惑星の支配者に過ぎん。わしがボーナスを払ったとて、大した額にはなりはせん。いや、現在の惑星の財政状況から言えば、その様な些少なボーナスとて払えるはずも無いのだ。誰か恒星連邦の中央に繋ぎを取って手を貸してもらおうにも、わしにはそんな政治力も無いのだよ。悔しい事にな。

 なあ……。なんとかできぬ物かなあ……。いや、貴官に言うべき事でも無かったな。所詮愚痴だ。ふう……。』

 

 ふとキースは、妙なことに気が付いた。今の会話とは、基本的に何も関係が無い事柄である。それは敵の降下船群の事であった。まあ、今しがた降下船ディファイアント号の事を話題に出したから、それから連想が跳んだのかも知れない。

 

(……敵の偵察兵は、崖を崩して俺たちの進軍を邪魔しようとした奴らは全員あの世逝きだってネイサン曹長言ってたよなあ。けど、報告では他にもけっこう数がいて、そいつらは行方知れずだって話だよな?当然だけど、敵の降下船にも何人か逃げ込んでてもおかしくないよね?

 でも、気圏戦闘機ダート中隊のスパローホーク戦闘機や、こちらの偵察兵連中の報告じゃあ、敵降下船群は惑星から逃げ出そうとしてないって話だけど……。いくらなんでも、これだけの大敗北を喫したんだ。普通は逃げ出すだろ?偵察兵が逃げ込んだとしたら、敗北の報は伝わってるだろお?

 何でだ?何で奴らは惑星から逃げないんだ?まさか偵察兵が逃げ込んでない?それこそまさかだよなー。)

 

 とりあえずキースは、まだやれる事、やるべき事、やらなければならない事が残っている事に気付き、気持ちを引き締め直した。そして彼はマイケル少佐と少々談笑した後に司令執務室を辞して、まずは海軍基地より整備兵満載のディファイアント号を呼び寄せたのである。

 

 

 

 ここはウォリック城内の、キースに割り当てられた部屋である。現在、敵『第13アン・ティン軍団』の手により寸断されていた、ウォリック城と外部を繋ぐ電話線を、サイモン老が応急処置ではあるが復旧させる事に成功。かろうじて復旧した電話で、キースは惑星軍第2海軍基地にいるジェレミー中尉と、気圏戦闘機隊の損傷と復旧状態について話していた。

 

「……なるほど。ビートル1、2、4、6は無傷で補給も完了し、ビートル3、5にカバラ1、2、4、5は修復完了間近なんだな?」

『はい、しかしカバラ3とカバラ6は損傷度合いが酷く、もうしばらく修理に必要です。到底、仰られる作戦には出せません。』

「何、目標の対象数は9だ。ビートル1、2とカバラ中隊機なら単機でも大丈夫だが、ビートル3から6までの機体は60tでちょっと足りん。もともとそう言った場合は2機1組で行わせる予定だった。2機1組ならば、50tのライトニング戦闘機で構成されているアロー中隊機でも可能だしな。

 となると、ビートル1、2にカバラ1、2、4、5の6機は単機で。ビートル3と5がペアで。これで目標を7個叩ける。あと2個の目標をやらねばならんが、それはアロー3と4、アロー5と6のペアでやってもらおう。アロー1と2には全体的な指揮とその補佐をしてもらう。」

『了解です。ではビートル3、5、カバラ1、2、4、5が修理完了次第にアロー3、4、5、6、ビートル1、2、3、5、及びカバラ1、2、4、5に爆装させ、アロー、ビートル、カバラ各中隊の稼働全機に発進準備を整えさせます。』

「頼んだ。それでは以上だ。」

 

 キースは電話を切ると、今度はウォリック城の司令執務室へ内線電話をかける。電話を受けたのは、大隊副官のクリストファー・アダムソン少尉の様だ。

 

『こちらウォリック城、恒星連邦駐屯軍司令執務室。誰か?』

「こちら恒星連邦惑星シメロン救援部隊指揮官、混成傭兵連隊『SOTS』部隊司令キース・ハワード大佐。アダムソン少佐はおいでかな?」

『こ、これはハワード大佐。失礼いたしました。今、替わります。』

『お電話替わりました、マイケル・アダムソン少佐です。ハワード大佐、いったい何の御用でしょうか?』

 

 そしてキースはいきなり核心に入る。

 

「アダムソン少佐。儲け話があるんだが、1つ乗らないかね?」

『!?』

 

 驚くマイケル少佐に、キースはにやりと笑った。いや、普通の電話なので相手からは見えないのだが。

 

 

 

 そして3028年02月04日、キース達『SOTS』の全バトルメック、全戦車と、『チェックメイト騎士団』の現在稼働する全てのバトルメックは、IR偽装網を被って惑星首都とウォリック城の中間にある平野にやって来ていた。それらのバトルメックは、IR偽装網の下の装甲はピカピカに磨き上げられ塗装され、部隊マークも美麗に描き直してある。……ただし、立派なのは見た目だけだ。

 95tS型バンシーの操縦席にある、通信用の小型スクリーンに映るマイケル少佐の顔は、何処と無しに不安そうである。彼はキース機の隣に自分の75tオリオンを持ってきて、互いの機体間に直通ケーブルを張って有線通信で話していた。これは無線封鎖されているためだ。彼はキースに向かい、必要も無いのについつい声を低めつつ言った。

 

『本当に大丈夫でしょうか?我々のメックは皆、動いているだけの張り子の虎です。装甲板こそ張り替えましたが、中身はボロボロですが……。』

「いや、うちの部隊のメックにも、同様の状態の機体は何機もあるとも。相手を包囲しているかの様に見せる、ハッタリが必要なのだよ。そのために、数が要るんだ。と言うか、ハッタリ以上はこの際必要無い。失敗したら、さっさと逃げ出すしか無いがな。

 だが上手く行けば、貴官の部隊の捕虜になった隊員たちや鹵獲されたメックを取り返す事もできるぞ。」

『それは解ります。……そうですね、一か八かもう賭けたんでしたな。既にルビコン川を渡っていてオマケに賽子まで投げていたのでした。』

 

 マイケル少佐の瞳に、力が戻る。キースはそれに頷いて見せた。

 

「さて、じゃあ配置に就いてもらうぞ。いつでも逃げ出せるようにだけはしておいてくれ。じゃ、作戦通り目標を取り囲む様に移動してくれ。通話用ケーブル、切るぞ?」

『了解です。ではまた後程。』

 

 通話用直通ケーブルを切り、マイケル少佐の機体が離れて行くのを見ると、キースはS型バンシーのハンドサインで作戦決行を味方に指示する。それを見た各大隊長機が今度は各中隊長に、各中隊長機が各小隊長にと、ハンドサインの連鎖で情報が伝達されていった。そして『SOTS』と『チェックメイト騎士団』はこそこそと、平原のど真ん中にある「目標」を取り囲む位置に移動して行った。また随伴してきている歩兵部隊と機甲部隊の戦車もまた、同様に配置に就く。

 そしてキース達はじっと待った。やがて待っていた物が、大空の彼方から現れる。それは『SOTS』所属の気圏戦闘機隊であった。動きはいつもよりも、ずっと鈍い。それも道理、彼らは重い爆弾を大量に抱えていたのだ。「目標」に動きがある。その球状の船体に装備されている中口径オートキャノン、20連長距離ミサイル発射筒、大口径レーザー砲、中口径レーザー砲、粒子ビーム砲が、一斉に大空の『SOTS』気圏戦闘機隊へと向けられる。

 キースは叫んだ。

 

「無線封鎖解除!第1段階開始!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 そして『SOTS』の機体のうち、「張り子の虎」でない物がIR偽装網を脱ぎ捨てて立ち上がり、「目標」……『第13アン・ティン軍団』のユニオン級降下船9隻の方へ走り寄った。また機甲部隊の戦車たちも同様だ。各自が遠距離射程に入り次第、一斉に射撃する。中らなくても良いのだ。この攻撃は、あくまで囮である。だがキース直卒の小隊員たちや、ヒューバート少佐、アーリン少佐などは、それでも命中させていたりしたが。

 そう、目標は『第13アン・ティン軍団』をこの惑星まで運んできた、ユニオン級降下船である。キースは当初、これを放置しておけばジャンプポイントに逃げ帰り、ドラコ連合の領域に脱出するであろうと思っていた。だが一向にこれらは動く様子を見せなかった。それ故に、これらの船に攻撃を仕掛ける事を決定したのだ。

 ユニオン級降下船9隻は、慌てて地上のバトルメックへ照準を合わせ直して発砲する。しかし距離が遠く、目標メックが全力移動しているため、全く命中しない。そこへ『SOTS』気圏戦闘機隊が襲い掛かった。

 

「マイク大尉!第2段階だ!」

『了解!こちら気圏戦闘機隊総隊長マイク大尉!全機予定通りに所定の目標の着陸脚付近の地面に爆弾落とすっすよ!』

 

 ユニオン級9隻の足元で、大爆発が起きる。気圏戦闘機隊による爆撃の結果だ。それは過たず目的通りの爆撃ポイントに命中していた。そして9隻のユニオン級が、ゆっくりと傾いでいく。これでは相当腕の良い降下船船長であっても、離陸させる事は不可能だ。更に射撃管制室が斜めになったせいか、射撃の精度ががくっと落ちる。

 そう、ここの平原は地盤強化されていない土地であった。それ故に、重量級気圏戦闘機の爆撃で、地面に降下船がひっくり返りかけるほどの大穴をあける事が可能だったのである。キースはここの平原を、『SOTS』が惑星に降下する際の予定Cポイントとしていた。だがウォリック城から他の予定ポイントよりも若干だけ近いにも関わらず、その候補としての順位は「C」と低かった。その理由が、ここが地盤強化されていない単に平坦なだけの土地であったためなのだ。

 

「第3段階開始!」

 

 キースの声に、今まで隠れたままになっていた「張り子の虎」メックがIR偽装網を脱ぎ捨てて立ち上がる。そして全バトルメックは包囲の輪を狭めて行く。まれにユニオン級から射撃があるが、その射撃精度は低く、1発も命中しない。キースは更に叫ぶ。

 

「第4段階!サイモン大尉!ボールドウィン軍曹!予定ポイントにぶっぱなせ!」

『サイモン大尉、了解ですわ!』

『こちらボールドウィン軍曹、撃ちます!』

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 そしてスナイパー砲の砲弾が、ユニオン級の1隻すれすれに着弾する。しばし後に、別のユニオン級すれすれに今度はロングトム砲の砲弾が落ちて来た。キースは一般回線と外部スピーカーを用いて、ユニオン級9隻に向かって言った。

 

「今の砲撃はわざと外した!次は中てるぞ!貴官らに降伏を勧告する!きちんとアレス条約に乗っ取った扱いをすると約束しよう!

 だが降伏しないならば、遺憾ながら貴官らを殲滅せねばならない!バトルメックと戦車で攻め寄せても良いし、先ほどの様に間接砲でそちらの射程距離外から連打しても良い!最後の1兵まで抗戦してもかまわんぞ!その場合はその最後の兵士まで殲滅するまでだ!」

『……こちら旗艦の船長だ。しばし時間をくれないか。各船の船長で会議をする。』

「ほう?その声は……。良いだろう、1時間の猶予を与える。ユニオン級降下船コバヤシ・マル号船長ユウジ・ヨコガワ殿。」

 

 相手の船長は一瞬愕然とする。

 

『!?な、何故その船名を!?い、いやそれ以前に何故自分の名前まで!?』

「以前にも俺は貴官らと会った事があるからな。その時はドリステラⅢ駐屯軍とその捕虜と言う形だったか。当時は貴官はコバヤシ・マル号の副長であったな。」

『そうか、貴官らだったか……。貴官らなら信頼できるか。あのハリー・ヤマシタの下にいた自分らにさえも公平な扱いをして、身代金と引き換えとは言え船ごとドラコ連合へ帰してくれたものな。

 これから各船の船長で会議をするが、自分は降伏に投票しよう。たぶん他の皆も同じ結論に至るはずだ。……前の船長の様に後で更迭されるやも知れんが、部下の命にはかえられん。』

「では1時間後に。」

 

 その後、1時間どころか30分しないうちに、ユニオン級9隻から降伏の使者がキースの下へやって来た。そしてユニオン級の乗員たちは随伴して来た歩兵たちが拘束して行き、『チェックメイト騎士団』の捕虜にされたメック戦士と鹵獲されたバトルメックもまた、取り戻される。マイケル少佐は非常に喜んでくれた。身代金交渉なしで鹵獲されたメックと捕虜にされたメック戦士が戻って来たのだ。

 もし敵降下船群に逃げられていた場合――先ほどまではその可能性は非常に高かった――は、身代金交渉がもしもきちんと纏まらなければ、鹵獲されたバトルメックが戻ってこないだけでなく、捕虜たちの未来も明るい物ではない。そして身代金交渉が纏まったとしても、万が一に――『チェックメイト騎士団』ほどの貢献度や信頼度なら、その危険性は低いが――その身代金として支払った額を恒星連邦政府から請求されでもしたら、確実に破産で部隊解散となるのは避けられない。

 正直な話、今現在においても『チェックメイト騎士団』は破産の瀬戸際にいると言っても良い状況なのだ。今回の任務における損害で、バトルメックの大半が大規模な修理が必要であり、その部品代は部隊の予備費を切り崩しても全く足りない。一応恒星連邦にも彼らの支援者はいるから、その様な人物から借金でもできるなら、望みはある。しかしそれが叶わなかった場合、ヤバい筋の金融機関などから借金する羽目にでもなれば、結局は『チェックメイト騎士団』の終焉は避けられないだろう。

 だがしかし、恒星連邦シメロン駐屯軍指揮官にして『チェックメイト騎士団』部隊司令マイケル少佐は、後日書類仕事をしていて驚くことになる。『第13アン・ティン軍団』の降下船を拿捕した事による戦闘報酬、ユニオン級降下船9隻の価格の1/10から出た分け前が、『チェックメイト騎士団』と『SOTS』で1対1、きっかり折半になる様に分配されていたのだ。

 マイケル少佐は慌ててキースの居室に飛び込んで、何かの間違い、書類ミスではないかと訊ねる。確かに降下船の捕獲に際し、「張り子の虎」とは言えど戦力を出した事から、ある程度戦闘報酬を分けてもらえるのではないかと、マイケル少佐は期待していた。しかしあくまで出した戦力の評価値比率で貰えれば良い方、そしてもし出撃したメックなどの機数割りで貰えるならば非常な幸運だとも考えていたのだ。

 それに対し、キースは言ったものだ。

 

「こちらは貴部隊には、恩があるからな。それを少しでも返したいと思っただけだ。何、うちの幹部会議を通った話だから、気にしないでかまわんよ。まあ……貴官がそれを当然だと思うような人物であれば話は別であったが、そうではない事はこの短い付き合いでも知れている。」

「いえ、しかし以前も言った通り、あの件についてはこちらの方が恩義を受けた物と思っておるのですが。」

「それならば、それでかまわんさ。今度出会った時に、それや今回の件の恩返しをしてくれればいい。そしてこちらは、更にそれをこちらへ受けた恩義だと考えて、いつかまた出会った時にこちらも恩返しをするさ。その繰り返しで、お互いが上手く助け合っていければ理想的だろう。マイナスの連鎖は困るが、プラスの連鎖ならば構うまい?」

 

 マイケル少佐は、この若い――30歳過ぎぐらいに見える――大佐の人間性に、感銘を受ける。だが彼は、キースが未だ20歳にもならない若者である事を知らなかった。増援の部隊である『SOTS』に関する書類は一応見たのだが、部隊の立て直しのための書類仕事に埋もれていた事もあり、見落としていたのだ。『BMCOS』が全滅した頃に士官学校卒業間際であったと言う事は聞いていたので、20代半ば程度かな、老けて見えるのは苦労したからだろうな、等とは考えていたのだが。

 後々にマイケル少佐は、キースの実年齢を知って唖然とする事になる。が、それは別の話である。

 

 

 

 敵降下船群を降伏させたその日のうちに、ウォリック城のキースに割り当てられた部屋で、キースはエルンスト少尉待遇曹長から捕虜尋問の報告を受けていた。なお、駐屯軍の指揮官マイケル少佐にも、この尋問結果は書類になって届いている。マイケル少佐の部下には尋問を不得手とする者ばかりだったため、『SOTS』の尋問官が代行して捕虜の尋問を行っていたのだ。

 

「そうか、『第13アン・ティン軍団』連隊長タツオ・ハムラ大佐は惑星上の多数の惑星軍基地を攻略するために、降下船を多用していたのか。バトルメック戦力を効率良く輸送するために。ただ、あてにしていた第1海軍基地の推進剤タンクが、惑星公爵の命によって惑星軍が基地を放棄する際に爆破されてしまった……。」

「はい、それでジャンプポイントにまで到達するだけの推進剤が、敵の降下船には残っていなかった模様です。そのため、一時的に惑星上の何処かへ隠れようと検討中だったらしいのですが、その前にこちら側が急襲したと言うわけでして。」

「やれやれ、敵降下船群が飛んで逃げなかったのは、それが理由か。なんとも世知辛いな。」

 

 エルンスト少尉待遇曹長の説明に、キースはため息を吐く。実のところ『SOTS』でも、降下船を戦略のために戦術的に使用することは珍しく無かったからだ。キースは重々しく言う。

 

「むう、我々もまた同じ愚を繰り返す事の無い様に注意せねばならんなあ。我々もこれまで、見切り発車的に降下船を用いる決断をした事が無い、とは言えんからな。後々推進剤を手に入れる可能性に賭けて。」

「確かに……。ですが、今までの例ではやむを得ない事でもあったのでは?」

「確かにそうなんだがな。しかし注意するに越したことはあるまいさ。」

「ですなあ……。」

 

 そして話は、ネイサン曹長の事に移る。

 

「キース大佐、ネイサン曹長の事なのですが。」

「うん?ああ、彼にはボーナスを支給せねばならんなあ。此度の成功は、彼の活躍のおかげだ。」

「それは無論なのですが、私が言いたいのは別の件です。彼は前回行われた士官任用試験に失敗しておりますが、近いうちに彼に再度の機会を与えてはもらえませんか?」

 

 その言葉に、キースは少々考え込む様子を見せる。

 

「ううむ、だが彼は優秀な戦士で熟練の偵察兵でこそあるが、指揮官適正はあまり高く無い。分隊レベルの指揮では充分な能力を見せてはいるが……。」

「ですが彼は何やら心境の変化があったと見えて、最近座学にも力を入れております。前回落ちたのは座学の不足による物です。それに確かに中隊、大隊レベルの指揮は無理でしょうが、少尉あるいは中尉として偵察兵小隊を率いるだけの力量は、実務を通して身に着けておりますよ。」

「くくく、そんなに小隊長職が嫌かね?エルンスト少尉待遇曹長……。」

 

 失笑しつつ言うキースに、エルンスト少尉待遇曹長は大きく頷く。

 

「勿論それもありますな。」

「あるのか……。」

「さっさと自分の肩書から、「少尉待遇」の文字を外して気楽なただの下士官に戻りたい物です。」

 

 すまし顔で言うエルンスト少尉待遇曹長。キースはにやりと悪い笑顔を浮かべる。

 

「だがその場合、ネイサン曹長を貴様にも支えてもらわねば困る。そうだな、その場合准尉で副隊長格ぐらいが適当かな。」

「そのぐらいでよろしければ、いくらでも。」

「くくく、慌てるかと思ったんだがなあ。まあ、分かった。次の士官任用試験に、受験者にネイサン曹長を押し込んでおく事にしよう。」

 

 頷くキースに、エルンスト少尉待遇曹長もまた頷きを返し、敬礼と答礼を経て部屋を退出していく。キースは小さく笑って、それを見送った。彼は内心で独り言ちる。

 

(やれやれ、となるとネイサン曹長が士官任用試験に合格するまでは、偵察兵小隊は正式隊長なしかあ。次回でちゃんと合格してくれるといいんだけどなあ。

 さて、あとは各鹵獲バトルメックおよびユニオン級降下船9隻分の捕虜と、船そのものを運ぶ航宙艦と航法士や機関士それに船員を、恒星連邦政府が送って来てくれないとなあ。それが来て、恒星連邦政府がそれらを持って行ってくれて、初めて戦闘報酬の鹵獲・撃破ボーナスが確定するんだしー。リアム大尉がHPG通信で状況を中央に送ってくれたけど、急いでくれないかなー、恒星連邦政府……。

 万が一、何かの工作員とかに奪還とか破壊でもされたら、目も当てられないよ。流石にこの状況で援軍は送ってこないだろうけどねえ……。スパイとか工作員とかは、怖いよなあ。上手くいけばさ、『チェックメイト騎士団』が何とかなりそうだってのにさあ。)

 

 キースは恒星連邦政府の船が、一刻も早く来てくれる様に祈るのだった。




『チェックメイト騎士団』は、はっきり言って経済的な大ピンチです。主人公たちが報酬を分配してくれなければ立ち行かないところまで来ていました。うまく部隊経営が立ち直ってくれれば、主人公たちは有能な味方部隊を手に入れたことになりますね。
『第13アン・ティン軍団』ですが、タカシ・クリタの怒りのほどが恐ろしいですね。ふがいない(とは言い切れないのですが)味方にその怒りが向けられるか、敵(主人公たちを含む傭兵全般ですね)に向けられるか……。
それでは次回もよろしくお願いします。


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『エピソード-085 惑星シメロン残務処理』

 復旧なったケーブルテレビでキースとジャスティン大尉待遇中尉は、惑星公爵ドウェイン・ベックリー閣下のテレビ演説を見ていた。ケーブルテレビの回線も、電話線同様『第13アン・ティン軍団』の手によって切断されていたのだが、サイモン老の弟子たちの手で復活したのだ。

 

『……かくして、ドラコ連合クリタ家の侵略の魔の手は打ち払われた!優勢な敵に勇敢に立ち向かい戦った惑星軍、最後の首の皮一枚で惑星を守り通してくれた恒星連邦の駐屯軍、および絶体絶命の窮地に間に合ってくれた同じく恒星連邦の救援部隊には、このドウェイン・ベックリー、この上無い感謝を贈る物である!そして武運拙く喪われた兵士たちに、最大限の感謝と共に哀悼の意を……。』

「惑星首都へ戻ったばかりだと言うのに、精力的に働いてらっしゃるなあ。」

「他の惑星のお貴族様には、政治をすべて配下や議会に投げて、ご自分の趣味の世界に耽溺している方もいらっしゃるんです。ご立派な方だと思いますが。」

「俺もそう思う。そう言う方だからこそ、最前線で政情不安なこの惑星を任された、と思うのは俺の考え過ぎかな?いや、ご自分で中央に対する政治力が無いと仰っておられたからなあ。いやまさか、押し付けられたかな?」

 

 2人がそう言っている間に、テレビ演説は終了して惑星上のニュースを報道するニュース番組が始まった。このニュース番組も、惑星シメロン防衛成功のニュース一色である。キースはテレビを切った。

 

「さて、仕事に戻るか。と言うか、閣下のテレビ演説を見て内容を把握して置くのも、仕事の延長みたいな物だがな。」

「了解です。」

 

 キースとジャスティン大尉待遇中尉は、連絡士官リアム大尉を通して恒星連邦の傭兵関係局へ提出するための書類を書き始めた。ところで、本来であれば駐屯契約期間中だけの暫定的な物とは言え、ここウォリック城の主は恒星連邦惑星シメロン駐屯軍指揮官であるマイケル少佐だ。

 しかしキースはマイケル少佐よりも階級が高く、任務を受けた先も『チェックメイト騎士団』がMRB仲介であるのに対し、『SOTS』は恒星連邦政府からの直接依頼だ。だからキースたちはその気になれば、マイケル少佐の意向を無視して行動しても構わない。だがキースは、年長者であり駐屯軍指揮官であるマイケル少佐に敬意を払う形で、連絡士官リアム大尉とも協議の上、関係書類は皆マイケル少佐にも回すか、最低限そのコピーをマイケル少佐の下へ送っていた。

 無論マイケル少佐側も、自分たちの書類仕事で忙しい。だからキースたちは、マイケル少佐に回す書類は最低限サインだけ貰えば良い様に仕上げてある。ここまで気を遣うと、相手によっては下手をするとキースたちが舐められるかもしれない。だがキースたちとて、相手を見て行っている事だ。現にマイケル少佐はキースたちの腰の低さに好感を抱きこそすれ、舐めてかかる様な真似はしなかった。

 閑話休題、キースたちはしばらく黙々と書類仕事を続けた。だがそれも、サイモン老がキースの居室にやって来るまでの事だった。キースの卓上の内線電話機が、インターホンモードで鳴る。キースは電話機をスピーカーモードにしてスイッチを入れた。

 

「こちら救援部隊部隊司令室、キース大佐。誰か?」

『ぼっ……隊長!上級整備兵、整備中隊長サイモン大尉ですわ!入室許可、願いますわい!』

「妙に慌ててるな?入室を許可する。……もしや、そう言う事か?」

 

 サイモン老は入室すると、敬礼をしてくる。キースとジャスティン大尉待遇中尉は答礼を返した。そしてキースは口を開く。

 

「サイモン大尉、で、鹵獲メックのうちの何機が元『BMCOS』の機体だったんだ?」

「へ?……流石に鋭いですなあ、隊長は。」

「サイモン大尉がそれだけ慌てるんだ。条件にあてはまる事柄はそれほど多く無い。そのうちの1つにヤマをかけただけさ。」

 

 悠然と構えるキースに、サイモン老は感嘆の溜息を吐く。

 

「はあ……。では……鹵獲バトルメックのうち、9機が元『BMCOS』の機体でしたわい。機体胴体部の骨格の、製造番号が一致しもうした。これで『BMCOS』の物だったバトルメックはほぼ全て隊長の手に戻った事になりますのう。」

「と、さて……。こうしてはいられないな。マイケル少佐と面談して、メック戦士の捕虜の内でその9機に乗っていた者たちの扱いを「通常の捕虜」から「戦争犯罪の被疑者」に変更して再逮捕しないと。ジャスティン大尉待遇中尉、司令執務室に連絡して面談のアポイントメントを取り付けてくれ。」

「りょ、了解です。」

 

 この9名の捕虜にはドラコ連合軍の工作員として、正式な休戦期間中に『BMCOS』の基地を襲撃し、歩兵や料理人、助整兵などに変装して『BMCOS』隊員たちを家族諸共に皆殺しにした疑いがかかっている。この場合、他にも様々な問題はあるが、特に問題となるのは「休戦破り」と「変装」だ。「休戦破り」の方は言うまでも無いが、「変装」は自軍の所属が明らかになる軍服などを着用せずに戦闘行為を行った事が問題になる。それを行えば、非合法の工作員としての扱いを受けても言い訳できない。いや、元から非合法の工作員ではあるらしいのだが。

 マイケル少佐の承諾を得て行われた尋問と、他の捕虜たちへの聞き取り調査によって判明した事であるが、やはり彼ら9名は『BMCOS』襲撃のメンバーであったらしい。他にも「休戦破り」と「恒星連邦への裏切り」を働いた元『アルヘナ光輝隊』のメンバーがいる可能性も高かったが、少なくとも捕虜の中には見つからなかった。まあ、名前を変えて若干の整形手術を施した可能性は否定できなかったが。何にせよ、問題のバトルメックに乗っていたメック戦士9名の捕虜は、改めて逮捕されて収監される事になった。

 

 

 

 3028年2月9日、この日……と言っても惑星の現地時刻と連盟標準時が大きくずれてているため、連盟標準時では昼間なのだが現地時刻では夕刻に、惑星公爵私邸にて『チェックメイト騎士団』『SOTS』のメック戦士や航空兵を招待して、ささやかな祝宴が開かれた。惑星政府や惑星公爵自身としては、派手なパレードなども行いたかったのだが、現状の惑星の財政状況でそれを行うと、極めて大きな負担となってしまう。それ故、せめて祝宴だけでもと、ささやかながら開催した、と言うわけだ。

 ちなみにこの祝宴は、『チェックメイト騎士団』の送別会の意味もある。『チェックメイト騎士団』は駐屯任務遂行能力を喪失しているため、任務契約を解除して後方惑星で改めて休暇を取り、バトルメックの修理と再編制を行う事になっていた。なおその費用は、例の降下船9隻を鹵獲した報奨金の『チェックメイト騎士団』の取り分である半分で、充分に賄える。

 なお報奨金の支払いは、鹵獲品や捕虜を引き取りに来るはずの恒星連邦の船は未だ到着していないが、既に確定している。惑星公爵が恒星連邦貴族としての肩書で、鹵獲品を接収してくれたのだ。形式的な意味しか無いが、これで「恒星連邦が鹵獲品を接収した」との体裁は整う。後で何か事故――接収品が奪還されるとか破壊されるとか――があっても、それは恒星連邦側の責任であり、雇用された傭兵部隊には戦闘報酬は変わらず支払われる。

 宴席で、連れだって挨拶に行ったキースとマイケル少佐に――おそらくは主としてマイケル少佐にだと思われるが――惑星公爵ドウェイン閣下は言ったものである。

 

「せめてもの恩返しよ。わしにできる事は、このぐらいしか無いわ。すまんな。」

 

 恐縮するマイケル少佐を見ながら、キースは内心安堵していた物だ。

 ドウェイン閣下に挨拶に行った後は、普通に楽しい会食になった。惑星政府や議会の高官などは必要最小限しか呼ばれておらず、彼らも純粋にお客に楽しんでほしいと言う惑星公爵の意をくんでか、キースやマイケル少佐への挨拶は最小限に切り上げて行った。まあ、キースの前では内心の怯えが面に出てしまい、早く立ち去りたいと言う感情があらわになっていた者が半数程度いたが。半数しかいなかった事を褒めるべきか、それともその半数が内心怯えていてもきちんと挨拶をして行った事を褒めるべきか、キースはちょっと悩んだ物である。流石は前線の統治が難しい惑星を切り盛りしている者達だった。

 

(ま、とりあえずマイケル少佐はじめ『チェックメイト騎士団』の主だったメック戦士には挨拶したしなあ、後は食いまくるかね。せっかくの公爵閣下の心遣いだしさ。)

 

 テーブル上に並んでいる料理は、他のもっと繁栄している惑星のパーティーで見た料理には流石に一歩譲るものの、比較的質素な食材を手を尽して豪勢に仕上げた立派な物だった。

 

(あ、これ美味え。どうやって調理したんだろ?レシピ聞いても教えてくれないだろーなー。

 ん?この気配は……。エリーザ准尉とイヴリン曹長か。)

「あ、隊長。ここに居たんだ。ちょっとあたしが料理取ってくる間、イヴリン曹長見ててくれるかな?」

「む?ああ、かまわんぞ。」

「よ、よろしくお願いします大佐!」

「うむ。……あー、そんなに硬くなるな。今日はせっかくの宴の席だ。ま、無礼講とまでは行かんが、公爵閣下の心づくしでそう堅苦しい席でもない。肩の力を抜け。」

 

 必死になって肩から力を抜こうとするイヴリン曹長を見て、キースは思う。

 

(あー、エリーザ准尉が良く俺とイヴリン曹長を2人っきりにしようと画策するのは、まあ……そう言う事なんだろうなあ。だが、俺自身の気持ちの方はどうなんだろ?う~ん、まあ、まだ妹、だよなあ。……マテ、「まだ」だって?将来的には変わるって事かよ!?)

 

 キースが人知れず混乱していると、イヴリン曹長が話しかけて来た。

 

「あ、あの……。キース大佐、もしかしてご迷惑だったでしょうか?」

「む?何故そう言う考えになる?」

「いえ、ご視線が泳いでいたので。」

「あー、それは関係ない別の事でちょっとばかり考え込んでいただけだ。貴様といて、迷惑に感じる事は無いな。それどころか、疲れてささくれた精神が癒されるぐらいだ。」

「え……。」

 

 イヴリン曹長の表情が、ぱっと綻ぶ。キースもまた、微笑んだ。

 

(まあ、今のところは「まだ」妹だな。それでいいだろ。後々の事は、後々考えりゃいいさ。)

「あ、何か飲みませんか?」

「そうだな。ボーイさんを呼ぶか。ああ、君。私と彼女にジンジャーエールをくれないか?」

「は、ただ今。」

 

 2人はその後、旺盛に飲み食いして楽しんだ。イヴリン曹長も、日頃の訓練その他で大量にカロリーを消費するので太る心配は無い。ちなみにエリーザ准尉はなかなか戻って来なかった。しかしこっそり物陰からチェシャ猫笑いを湛えた視線がキースとイヴリン曹長を監視しているのを、キースはちゃんと感知していたりする。まあ、既にキースにとっては慣れっこになっているので、気にするほどの事はなかったのだが。

 

 

 

 翌日の3028年2月10日、この日は『チェックメイト騎士団』が惑星を撤退する日である。キースはウォリック城の司令執務室で、マイケル少佐から最後の挨拶を受けていた。

 

「ハワード大佐、今回は本当にお世話になりました。貴部隊は、今後代わりの駐屯軍が到着するまで?」

「ああ。それまでは留守番部隊として、この惑星に留まり続ける事になるな。あくまで留守番だから、形式上は駐屯軍司令官の座も引き継がない。この部屋と執務机の鍵は預かるがね。」

「なるほど。では司令執務室と、執務机の鍵をお預けします。……名残は惜しいですが、ではこれにて失礼します、キース・ハワード大佐。」

 

 マイケル少佐は敬礼を送って来る。キースもそれに答礼しつつ、応えた。

 

「うむ、留守はしっかり預かる。ゆっくりと休んで、部隊と隊員の傷を癒してくれ、マイケル・アダムソン少佐。」

「はっ!」

 

 マイケル少佐は、踵を返すと部隊司令室を出て行く。キースは直後、軍服の襟を緩めながら、バトルメックの格納庫へ急いだ。そして彼はTシャツとトランクスだけの格好になるとS型バンシーの操縦席に飛び込み、機体を発進させる。行き先は、ウォリック城の降下船用離着床だ。そこには既に、『SOTS』バトルメック部隊のうちキース直卒のA大隊第1中隊と、第4戦車中隊の稼働全車輛、そして独立歩兵中隊……つまりは今ウォリック城に来ている、フォートレス級ディファイアント号に搭載されている全戦力が集まっていた。なお他の戦力は、臨時の拠点として借り上げている惑星軍第2海軍基地に帰還している。

 3隻のユニオン級降下船がエンジンを噴かし、ゆっくりと夕焼け空に舞い上がって行く。キースは号令を発した。

 

「礼砲、撃て!『チェックメイト騎士団』に対し、敬礼!」

 

 そこに集っている全戦力が、エネルギー兵器もしくは空砲で、礼砲を打ち上げる。そして歩兵部隊を除き、全メック、ハッチから身を乗り出した全戦車兵が、上昇して行く3隻に敬礼を送った。キースは心の中で、『チェックメイト騎士団』にエールを送る。

 

(部隊、きちんと立ち直ってくれよー。資金的には問題ないだろうけど、メック部品調達が上手く行くか、だな。契約内容からすると、ウチの部隊みたく恒星連邦の備蓄を定価で買えるってわけでも無さそうだしなあ。となると、部品取り寄せに時間がかかるか、さもなくば割増の値段で入手するのが一般的、かあ。

 ホントに頑張ってくれよー、マイケル少佐。)

 

 まあ、バトルメックや気圏戦闘機の部品調達を急がねばならないのは、『SOTS』も同じ事だ。予備部品はあらかじめ潤沢にあるものの、むやみに使っていては何時かは尽きる。特に今回は、新人のメック戦士たちや航空兵たちの機体が、かなりのダメージを負っている。

 書類の提出が契約期間中であるならば恒星連邦の備蓄を定価で購入可能だが、契約期間は引継ぎの駐屯軍が到着するまでだ。部品購入の書類を、急いで作ってしまわねばならない。こちらはもう少し後でもかまわないが、消費した弾薬の補填請求書も必要だ。

 『チェックメイト騎士団』の降下船群が空の向こうに見えなくなってから、キースは部隊を撤収させた。これから彼には膨大な書類仕事が待っている。

 

(さて、俺も頑張るか。契約内容的には、『SOTS』はかなり恵まれてる方だし。ああ、他にも歩兵、戦車兵、助整兵を募集しないと。募集要項を惑星上の職安に出すのはライナーと総務にやってもらおうかね。この惑星なら、惑星を出て一旗揚げようって人間は多いだろうし。

 ああ、やる事が級数的に増えて行くよ……。)

 

 キースは気力を奮い起こして、格納庫にS型バンシーを戻した。

 

 

 

 留守番部隊とは言え、その扱いは正規の駐屯軍と大差ない。キースはウォリック城の損耗した地雷原を、自分たちの持って来た振動爆弾で復旧させる。無論この分は、消費した弾薬扱いで後日恒星連邦に請求するため、書類にしっかり残して置く。この作業には、この惑星に来る前に雇った新入りの常時雇用助整兵を主に用い、仕事に慣れさせるのと同時に、将来の上級助手整備兵候補として教育する事も目論んでいる。

 また、訓練がてら軽量級気圏戦闘機であるダート中隊とエッジ中隊、そして気圏戦闘機モードの降下猟兵隊をローテーションでCAP(戦闘空中哨戒)に送り出す。CAPに送り出さなかった新人航空兵の最重量級気圏戦闘機隊カバラ中隊は、アロー、ビートル両中隊の先任航空兵たちに模擬空戦演習で扱いてもらう。更にバトルメック部隊も、ウォリック城に駐留しているA大隊第1中隊以外の、現在第2海軍基地に仮住まいしている分の部隊は、ヒューバート少佐とアーリン少佐に監督してもらって、これも徹底的に演習で扱かれている。

 キースは可能な限りウォリック城と第2海軍基地をフェレット偵察ヘリコプターで往復し、両者の面倒を見ていた。しかしそれが可能であったのも、1週間後に歩兵、戦車兵、助整兵の応募書類の山が一気に届くまでであった。

 キースはぼやいた。

 

「なんだこの10歳の戦車兵志願者は。こっちはこっちで75歳の歩兵志願者?サイモン大尉よりずっと年上じゃないか。応募資格を満たして無いぞ。なんでこんなのが第1次の書類選考に残ってるんだ?ライナー!」

「すいません、新人の総務の娘がミスをした様です。私もチェックが漏れてました、申し訳ありません。」

「むう……。第2海軍基地の方の事務処理を任せるために、総務課長ケイト女史を向こうに置いて来たのが痛いな。ああ、そこまで気にするなライナー。ミスは誰にでもある。大事に至る前に発見できたんだ。ただ、この書類の一山は差し戻して再チェックさせてくれ。」

「了解です。」

 

 書類を一山差し戻したキースは、別の書類の山に向かう。隣の机ではジャスティン大尉待遇中尉が、その隣に持ち込まれた机ではマテュー大尉待遇中尉が、反対側の隣の机ではサラ中尉待遇少尉とルートヴィヒ・フローベルガー中尉が、それぞれ書類の山に向かっていた。

 普段なら、ヒューバート少佐とアーリン少佐が手伝ってくれているのだが、彼らは今のところ第2海軍基地に常駐している。ちょいちょいとウォリック城まで手伝いに来るのは無理だ。それ故に、火力小隊『機兵狩人小隊』のサラ中尉待遇少尉と、偵察小隊のルートヴィヒ中尉が戦力として引っ張り出されたのだ。

 また、忙しいのはキースたちだけではない。エリオット少佐率いる表側からの監査チーム、アイラ曹長率いる裏側からの監査チームも大車輪で働いている。と言うか、彼らの方が忙しいやも知れない。いや、これからの方がもっと彼らは忙しくなるのだ。『SOTS』にスパイの類が入り込む危険性は、以前よりもずっと高い。彼らの役目は重大であった。

 

 

 

 採用者の書類を捲りながら、キースは厳しい目で言う。

 

「歩兵119名、戦車兵72名、常時雇用の助整兵121名、か。充足率は一気に上がったなあ。まだ完全じゃ無いが。そして……スパイの疑いがある者が15名。内7名は疑いが軽度のため、要注意人物として惑星軍に通達。6名は疑いが濃いため、これも惑星軍に通報、監視が始まる、と。そして残り2名はスパイ確定したために逮捕、尋問後に銃殺、か。」

「流石ですね、これだけ狙われるとは。一介の傭兵部隊への扱いじゃありませんよ。」

「褒められてる気がしないんだがね、リアム大尉。」

 

 キースの言葉に、連絡士官リアム大尉は苦笑を返す。

 

「充分褒めてますとも。これだけ狙われると言う事は、それだけ評価されてるって事でもあるんですから。まあ敵手からの高い評価は、危険でもありますがね。」

「キース大佐、こちらによけた4通の書類は、あの子らの物ですね。幾多の歩兵志願者の中から、特別に大佐とライナーさんが面接した。」

 

 ジャスティン大尉待遇中尉の言葉に、リアム大尉が妙な顔をする。流石にこれだけ部隊が大きくなると、キース自身が1歩兵志願者の面接に出て来る事は無い。いや、無いと言うよりも忙しくてできない。それを曲げて、キース自身が出張ったのだ。リアム大尉が奇妙に思うのに、無理は無い。

 キースは眉間の皺を揉み解しつつ、言葉を発する。

 

「その4名か……。書類見て、体力測定データ見て、変だと思ったらやっぱりそうだったんだ。実機に乗った事があるのはアーシュラ・リーコック1人だけだったが、残りのルーシャン・パートランド、グレン・ヤングハズバンド、アリシア・ディーコンの3名も、バトルメックに搭乗する事を前提とした訓練を受けて来ていたんだ。シミュレーターだけなら、飽きるほど乗ったらしいな。」

「ほう?なるほど、話が見えて来ましたな。」

「アーシュラ・リーコックはメック戦士一族の4女で、一応予備の予備のまた予備ぐらいの扱いでメック操縦訓練を受けたらしい。だが結局はコムスターの僧院送りにされそうになり、反発して家を逃げ出したそうだ。で、商用降下船の調理師補助として宇宙を渡り、この惑星に来たらドラコ連合の惑星襲撃に巻き込まれて、惑星を逃げ出した商用降下船に置いていかれたそうだ。

 他3名は、失機者の一族の出だ。メック戦士の地位を取り戻すため、幼少時からメック操縦の訓練ばかりして育ったらしい。ただ、いつかメック戦士の地位を取り戻したら、などと夢みたいな事ばかり語る親に愛想をつかし、家を出た。あとはアーシュラ・リーコックと似たような形でこの惑星に流れ着き、戦いに巻き込まれて身動き取れなくなった様だな。」

 

 一旦話をとめ、キースは一拍置いて再び話し出す。

 

「で、だ。歩兵で駄目ならば助整兵でも戦車兵でも、それこそ降下船の調理師補助でもいいから雇ってくれ、この惑星では職にありつけない、と言われてな。だからメック戦士訓練生として受け入れると言ったら、泣かれてなあ……。ああいや、嫌だったわけじゃあなく、職に就けたうれし泣きだったらしいんだがな。本人たちの言う事には。」

「メック戦士訓練生ですか。そう言った係累の無い子供は、現地徴用スパイにもってこいなんですがね。大丈夫ですか?」

「アイラ曹長たちに裏を取ってもらったから、大丈夫だ。そうでなければメック戦士訓練生になど、怖くてとてもとても。」

 

 リアム大尉にキースは首を竦めて答える。ここでジャスティン大尉待遇中尉が疑問を呈した。

 

「ところで、あの子たちにはメック戦士の地位への拘りとか憧れとかが無いみたいですね、話を聞く限りでは。それをメック戦士訓練生にして大丈夫でしょうか?」

「親たちに対する反感が、そのままメック戦士の地位への無関心に繋がった様だな。だが最初歩兵として入隊しようとしていたからな。命令に従って戦う事への忌避間は、無い模様だ。だから今後の教育しだいだろうよ。」

 

 キースはそう言って、書類を机上に置いた。ちなみに後日、メック戦士訓練生として採用した4名を実機に乗せてみたところ、流石に実戦経験者には及ばないものの、かなりの技量を見せたのである。

 

 

 

 新規隊員を迎え入れたすぐ翌日の事である。深宇宙通信施設よりウォリック城に、ジャンプポイントからのメッセージを受け取りに来る様にと、連絡が入った。キースはもし機密性の高い情報であった場合の事を考え、総務課員ではなしに連隊副官のジャスティン大尉待遇中尉を派遣する。そしてそれは正解であった。

 そのメッセージの内容は、ジャンプポイントに交代の駐屯軍である傭兵大隊『流星鉄騎団』、傭兵大隊『エルドレッド聖戦士隊』、傭兵大隊『雷撃巨砲隊』の降下船を乗せた、インベーダー級ムラトーリ号他2隻が到着した事を告げる物であった。メッセージは、ムラトーリ号が発した物だったのである。

 だがメッセージはそれで終わりでは無かった。キースはメッセージの続きを読む。

 

(何々?「コウタイノブタイトウチャクゴ、イップンイチビョウデモハヤク、ワクセイニューアヴァロンヘキカンセヨ。ヨウヘイカンケイキョクキョクチョウ、ゴドウィン・ヒンシェルウッド。」……。「交代の部隊到着後、1分1秒でも早く、惑星ニューアヴァロンへ帰還せよ。傭兵関係局局長、ゴドウィン・ヒンシェルウッド。」……か。1分1秒でも早くとは、一体何事なんだろな。

 まあ、何にせよ惑星公爵閣下と今のうちにお別れの挨拶をしておいて、惑星撤退の準備をしておいた方がいいんだろうなあ。)

 

 メッセージの印刷された用紙をシュレッダーにかけると、キースは惑星公爵ドウェイン閣下への謁見を申し込むために、公爵私邸へと電話をかけた。

 

 

 

 この日ウォリック城の離着床に、『流星鉄騎団』、『エルドレッド聖戦士隊』、『雷撃巨砲隊』の各傭兵大隊の、それぞれの第1中隊を載せたユニオン級降下船が着陸していた。この3隻以外の6隻のユニオン級降下船は、今頃は惑星軍から借りた他の基地に着陸しているはずだ。そして3隻のユニオン級に乗って来た新たな駐屯軍の指揮官たちは、ウォリック城の司令執務室でキースの前に並んで立っていた。

 3名の指揮官中で最年長で、かつ最も軍歴の長い『流星鉄騎団』アレグザンダー・エインズワース少佐が代表して口を開く。

 

「惑星シメロンへの留守居役、ご苦労様でした!混成傭兵連隊『SOTS』部隊司令、キース・ハワード大佐!」

「うむ、着任を歓迎する。傭兵大隊『流星鉄騎団』部隊司令、アレグザンダー・エインズワース少佐。傭兵大隊『エルドレッド聖戦士隊』部隊司令、アントニー・エルドレッド少佐。傭兵大隊『雷撃巨砲隊』部隊司令、コーディ・エヴァレット少佐。

 書類によると、エインズワース少佐がこの駐屯任務中は一時的に大佐待遇となり、3つの傭兵大隊をまとめた連隊の総指揮を執ると言う事であったが……。相違ないかね?」

「はっ!間違いありません!付け加えますと、現状では惑星シメロンに1個連隊規模の駐屯軍を置きますが、後々は徐々に削減し、半年後には1個大隊規模に戻す事になっております!」

 

 キースは頷くと、懐から鍵束を取り出した。

 

「これがこの司令執務室の鍵と、執務机の引き出しの鍵だ。受け取りたまえ、惑星シメロン駐屯軍新司令官、アレグザンダー・エインズワース大佐待遇少佐。この惑星の事を、頼んだぞ。」

「はっ!……ハワード大佐、大佐は今後どの様に?」

「私は恒星連邦傭兵関係局から、早急に帰還する様に命令を受けている。1分1秒でも早く、とな。何か用事でも申し付かるのだろうさ。お互い使い走りは辛いな。

 そんなわけで、私は自分の部隊と共に即座に惑星撤退だ。もう準備はできているんだ。では、また会う事があればその時はよろしく頼む。貴官らの武運を祈っている。では、また会おう。」

 

 敬礼と答礼をもって、キースは3人の傭兵大隊部隊司令と別れ、ウォリック城の司令執務室を立ち去った。

 

 

 

 軌道に向けて上昇するフォートレス級降下船ディファイアント号の部隊司令室で、キースはシートを倒してそれに身を預け、上昇時のGに耐えていた。今頃は『SOTS』の他の降下船も、軌道上に向けて惑星軍第2海軍基地を出立しているところだろう。ディファイアント号は軌道上でそれらの降下船群と落ち合い、シメロン星系の天の北極、ゼニス点ジャンプポイントへと向かうのだ。

 惑星ニューアヴァロンで、自分を何が待っているのか、今のキースには知る由も無かった。




『チェックメイト騎士団』は、司令官の器量しだいですが、まあまず助かったと言えるレベルまで落ち着いて、惑星撤退しました。そして主人公たち『SOTS』もまた……。
はてさて、昔からの読者の方は既に知っておられるでしょうが、急遽首都惑星であるニューアヴァロンへ呼び戻された彼を待っているのは、いったいなんでしょうね(笑)。


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『エピソード-086 出世』

 明後日にシメロン星系ゼニス点ジャンプポイント到着を控えた3028年2月27日、フォートレス級降下船ディファイアント号の士官用船室を流用した部隊司令室に、キースはイヴリン曹長を呼び出していた。イヴリン曹長は、船旅の間にまで大量の書類に埋もれたキースに驚く。キースは苦笑しつつ言った。

 

「契約期間中に必要なメック、気圏戦闘機の部品発注は終えたんだがな……。そちらを優先した結果、使用した弾薬他の清算に必要な、弾薬及び装甲板の補填請求書作成が遅れてしまった。それに惑星シメロンにいる間は、人事書類も優先して処理せねばならなかったしな。

 覚えておくといい。これも指揮官の戦場の1つだ。こういう事をおろそかにすると、実際の戦場で物資が足りなくなったり、整備不良で動けない機体が出る事になる。」

「はい!了解です!」

「さて、わざわざ呼び出したのは他でもない。ええと、確かこの辺に……。ああ、あったあった。受け取れ。」

 

 キースは執務机の下に置いてあった、中型の鞄サイズのケースを差し出す。そのケースは、リボンで飾られていた。キースは言葉を続ける。

 

「誕生日プレゼントだ。貴様のお母上に確認して、他の者達のプレゼントと被らない様に調整してもらったから、その辺は大丈夫だと思うんだが。惑星ニューアヴァロンで出立前に買った品だから、品質も満足行くと思うぞ。……開けてみろ。」

「は、はい!……これは!?」

「レーザーピストルだ。貴様が拳銃の扱いにある程度習熟するまでは、与えるのを躊躇っていたんだ。だがしばらく前の拳銃射撃訓練の出来で、そろそろよかろうと思ってな。以前贈った音波麻痺銃よりも確実に、貴様の身を護ってくれる。……どうした?」

 

 目を見張るイヴリン曹長を見て、キースは怪訝に思う。イヴリン曹長ははっとすると、満面の笑みでキースに礼を言う。

 

「ありがとうございます!大事にさせていただきます!」

「あ、うむ。だが、大事にし過ぎて逆に貴様自身を危険に晒す事の無い様にな。俺がそれを貴様に贈ったのは、あくまで貴様の命を護るためだと言う事を忘れないでほしい。」

「は、はいっ!」

 

 元気よく返事をするイヴリン曹長に、キースは思わず笑みを溢す。彼は言った。

 

「さて、それでは退出してよろしい。ではまた座学の時間にな。」

「は、はいっ!イヴリン曹長、退出します!」

「うむ。」

 

 退出するイヴリン曹長を見送り、キースは独り言つ。

 

「うーむ、士官任用試験はまだ早いか?まだやっと今日で14歳だからな……。しかし、能力のある者にその実力に見合った地位を与えないなんて贅沢は、うちの部隊じゃできないしなあ……。

 でもなあ……。まだ14歳なんだよなあ。あまり無理はさせたく無いが……。」

 

 無意識のうちに過保護になっているキースであった。

 

 

 

 ニューアヴァロン星系の天の南極、ナディール点ジャンプポイントにジャンプアウトした『SOTS』航宙艦群は、惑星ニューアヴァロン地上の深宇宙通信施設を通じ、当局に到着を知らせるメッセージを送る。メッセージの返答は、それほど経たないうちに届いた。マーチャント級航宙艦クレメント号のアーダルベルト艦長が、キースにその通信文を手渡す。

 

「隊長、見ての通りだよ。『SOTS』降下船群は、アヴァロンポートに降下せよ、とある。」

「ああ、そう書いてあるな。」

 

 通信文を検めつつ、キースは応えた。そして彼は苦笑する。

 

「しかし、何の用事があるのかは一切書いてない。やれやれ、何が待っているやら……。」

「行かないわけにもいかんだろう?」

「まあな。潔く行って来るさ。……では艦長、我々は惑星ニューアヴァロンへと降下開始する。」

「うむ、では……。ご無事でのお帰りをお待ちしております、隊長。」

 

 敬礼と答礼を交わし、キースは降下船ディファイアント号のドッキング部へと歩み去った。

 

 

 

 轟音と共に、長球型降下船であるディファイアント号が宇宙港アヴァロンポートの離着床に降り立つ。それを追う様に、オーバーロード級降下船が2隻、ユニオン級降下船が4隻、その近くの離着床に降りた。また、滑走路にはトライアンフ級降下船1隻、レパードCV級降下船1隻、レパード級降下船3隻が順番に降りて来る。これが混成傭兵連隊『SOTS』の全降下船であった。

 地上に降りた降下船には、宇宙港所属の冷却車輛と推進剤補給車輛が群がった。キースはディファイアント号の船窓からそれを見遣る。すると、船内放送がキースに呼び出しをかけた。

 

『キース・ハワード部隊司令、キース・ハワード部隊司令、ブリッジまでご連絡下さい。繰り返します。キース・ハワード部隊司令……。』

 

 キースはすかさず近場のインターホンに飛びつき、ブリッジに連絡を入れた。

 

「こちら部隊司令のキース。今第1層の外縁、第1区画の船窓近くだ。」

『こちら副長のガイです。今、宇宙港当局から連絡がありました。部隊司令に面会者があり、今この船に向かっているとの事です。』

「む。誰が来るのか、聞いたか?」

 

 その問いに、ガイ副長は遅滞なく答える。

 

『ジョナス・バートン閣下と、傭兵関係局二課長ベネディクト・スラットリー殿と聞いておりますが。』

「む。了解した、連絡士官のリアム大尉と連隊副官ジャスティン大尉待遇中尉を乗降ハッチまで呼んでくれ。俺はここから直接向かう。」

『了解しました。』

「以上だ。」

 

 キースは急ぎ、乗降ハッチへと向かった。途中でリアム大尉やジャスティン大尉待遇中尉と合流する。リアム大尉はキースに問いかけた。

 

「二課長がわざわざ来るとは……。大佐、貴方何者ですか。」

「俺が凄いんじゃないよ。ジョナスが大物なのさ。」

「バートン大佐が大物なのは知ってます。貴方がそのバートン大佐と君、俺で呼び合う仲なのもね。ですが二課長は傭兵関係局局長ゴドウィン・ヒンシェルウッドの懐刀ですよ?貴方何やったんですか。」

 

 キースは笑って言った。

 

「くくく。そう訊くからには、ジョナスからは知らされてないんだろう?知りたいのか?」

「……いえ、やめておきましょう。今の私は単なる傭兵関係局の連絡士官でした。」

 

 そしてキース、リアム大尉、ジャスティン大尉待遇中尉の3名は、乗降ハッチから外へ出る。仕事の終わった冷却車輛が立ち去って行くその向こうから、恒星連邦政府の公用車が姿を見せた。公用車はキースたちの前で停車する。そして中からSP数名を引き連れたジョナス、ジョナスの副官ランドル大尉、そしてキースたちは初めて見る痩身の中佐が姿を見せた。

 第三者がいるので、キースはジョナスに敬礼を送ろうとする。と、ジョナスがそれに先んじて口を開いた。

 

「ああ、スラットリー課長は大丈夫だよキース。話のわかる男だからね。」

「そうなのかい、ジョナス?」

「うん。無事で戻ってくれて、安心したよ。リアム大尉からの速報はHPG通信で入ってたのを、スラットリー課長から見せてもらってたけどね。大変だったってね?」

「間一髪だったよ。駐屯軍の『チェックメイト騎士団』が頑張ってくれてなければ、俺たちは間に合わずに今頃あの惑星は陥ちてたね。」

 

 ここでベネディクト・スラットリー課長が割って入る。

 

「ご歓談中のところ、失礼します。バートン大佐、そろそろ本題を……。」

「ああ。ごめんよ、スラットリー課長。」

「いえ……。とりあえず、どこか落ち着ける所で本題に入らせて頂きたいのですが、ハワード大佐。」

 

 頷いて、キースは言った。

 

「では船内へどうぞ、ベネディクト・スラットリー課長。部隊司令室でお話を伺いましょう。行こう、ジョナス。」

「うん、そうしようか。行こうかスラットリー課長。」

「はい。」

 

 キースたちはディファイアント号の部隊司令室へ場所を移す。ジョナスがSPたちに命じ、扉の外で立哨をさせた。キースはお客たちを応接セットのソファへ誘う。そしてベネディクト課長が口を開いた。

 

「ハワード大佐、此度は急な呼び出しに応えていただき、ありがとうございます。まったく宮中の者どもは、タイトなスケジュールばかり立てる。現実と、宮中の貴人たちの都合、どちらが動かせない物なのかぐらい普通判るだろうに。

 6日も余裕があれば良いだろうなどと、6日などちょっと途中のジャンプポイントの補給ステーションでトラブルがあれば、航宙艦のエネルギーチャージで吹き飛んでしまう物を……。本当に、よく間に合うように帰還して下さった。おかげでこちらの顔が潰れずに済みます。」

「いえ、トラブルが無かったのは補給ステーションの人員の努力による物です。私たちは普通に航宙してきただけですよ。……宮中?」

 

 ベネディクト課長の言葉の端々から、キースは今回の急な帰還命令が宮中から出た事に気付く。ジョナスがばつの悪そうな顔をした。

 

「ごめんよ、キース。僕もなんとかもう少し余裕を持って呼び返すように言ったんだけどね。」

「いや、それはもう良いんだ。どうやら話によれば間に合ったみたいだし。けど、俺は一体何に間に合ったんだい?」

「それはですな……。」

 

 ベネディクト課長は事情を、キースに掻い摘んで話す。キースとジャスティン大尉待遇中尉は唖然とした。いや、ジャスティン大尉待遇中尉の顔は直後、歓喜に染まる。キースは唖然としたまま、なんとか言葉を発する。だがそれは意味のない言葉だった。

 

「なんとまあ……。」

 

 そしてジョナスが、申し訳なさそうに言葉を発する。

 

「それでキースと、君の部下のヒューバート・イーガン少佐にアーリン・デヴィッドソン少佐。この3人は、6日後までに付け焼刃でも構わないから、最低限の作法を身に着けてもらうために特訓してもらう事になるね。君はまあ、特訓いらないと思うけどさ。

 ……本当にごめんよ、キース。宮中で、あれだけの成果に相応しい報酬と言ったら、これしか無いって方向に話が行っちゃってさ。名誉欲の無い君の事だから、辞退するんじゃあないかって言いもしたんだけど、そうしたら僕が辞退しないよう説得しろって言われてね。陛下も乗り気だったし……。」

「あー、辞退しないから気にしないでくれ、ジョナス。確かにちょっと俺には荷が重い気もするが、ウチの部隊にとってもこれが必要な事だってのは理解してる。」

 

 ジョナスはほっとした顔をする。だが、申し訳なさそうな色はその表情から消えなかったが。彼は話を続ける。

 

「そう言ってくれると、救われるよ。ライラ共和国との調整も、もう進んでるんだ。」

「共和国と?」

「キースはS型バンシーを貰って来ただろう?だからあれを旗印にしてる君を重用することで、両国の絆の強さをアピールする材料にしようって腹なのさ。……なんか、ますますゴメン。」

「ああ、だから謝るなって。そのぐらい何でも無いさ。」

 

 キースはそう言うが、ジョナスはキースを政治的に使う事に抵抗を感じている様だった。ジョナスは頭を振って気持ちを切り替えると、続きを話し始めた。

 

「せめて、場所だけは徹底的に口出しして来たよ。候補地の中から、できるだけ条件の良い場所になる様に。」

「ほう。何処だい?」

「それはね……。」

 

 キースとジョナス、そして時折ベネディクト課長が口を挟む会話は、しばしの間続いた。そしてそれから数日の間、キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐の3名はジョナス監修の下、宮廷における作法の特訓に励んだ。もっとも、しれっと何事もそつ無くこなしたキースに比べ、ヒューバート少佐とアーリン少佐のそれはやはり付け焼刃の域を出る物では無かったが。

 

 

 

 そして問題の日、キースはヒューバート少佐とアーリン少佐を伴い、ジョナスに連れられて宮中……ロイヤル・パレスの謁見の間に赴いていた。キースは表向きは泰然と、ヒューバート少佐もなんとか平静を保っていたが、アーリン少佐は少々動きが硬いのが目に見えて判る。ここには数多くの貴族や貴人、高名なメック戦士などが居並んでいたし、何よりも国王ハンス・ダヴィオン陛下が目の前にいらっしゃったのだ。キースには、こういう場が苦手なアーリン少佐の気持ちも分からなくも無かった。

 議事進行役の儀典官が、次々と貴族の名前を読み上げて行く。それらの貴族は国王陛下の前に進み出ると、領地替えを申し渡される。それらの貴族に不満の色は無い。今までよりも若干良い場所に移封されるか、さもなくば若干の余禄が与えられたからだ。そしてジョナスの名が呼ばれた。

 

「『第9ダヴィオン近衛隊』連隊長、バレロン大陸の伯爵にしてスルバラン市の男爵、ジョナス・バートン大佐!」

「はっ!」

 

 ジョナスはハンス国王の前に進み出る。ハンス国王は重々しく言った。

 

「バレロン大陸の伯爵にして、スルバラン市の男爵、ジョナス・バートン卿。これより卿は此度の貴重な遺物の発見者との仲介の労を取り、更にはパルジファル作戦を立案、実行した功績により、スルバラン市とその周辺地域だけにとどまらず、スルバラン市を含むダルデスパン大陸の伯爵となる。今後とも、わたしの力となってくれ。」

「はっ!ありがたき幸せに存じます!」

「うむ、頼りにしているぞ。バレロンの伯爵にしてダルデスパンの伯爵、ジョナス卿よ。」

 

 貴族や貴人たちから、一斉に拍手が送られる。キースも拍手をしながら、内心で思う。

 

(ふむ。これでジョナスは惑星ウィロウイックに3つある大陸および2つの衛星のうち、2ヶ所を領有することになるな。ダルデスパン大陸はこれまでスルバラン市以外は王家直轄領だったんだよなあ。

 残りのモンドンヴィル大陸と衛星オーイェル、衛星ラウハも、ジョナスの加増に先立ってモンドンヴィルの伯爵、オーイェルの伯爵、ラウハの伯爵3名の国替えがあって、そこら辺が全部王家の直轄領になったって事はだ。もしかして将来的にジョナスに惑星ウィロウイックとその衛星全部与えるつもりかな?

 もしその予想が当たってたら、ジョナスは公爵、そうでなくとも侯爵ぐらいにはなるわけだし。まあ、家格から言ってもこれまでのバートン家の功績から言っても、順当だよなあ。

 さて……。次は俺の番だな……。)

「混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』連隊長、キース・ハワード大佐!」

「はっ!」

 

 キースもまた、ハンス国王の前に進み出る。キースはハンス国王の眼に、いたずらっぽい光を感じ取った。

 

「傭兵部隊『鋼鉄の魂』司令官、キース・ハワード大佐。貴官には此度の貴重な星間連盟期遺物発見の功績により、惑星タワスⅣのサオルジャン大陸全土と、および同惑星ラウルト大陸の都市であるテナール市及びその周辺地域を領地として与え、伯爵位と男爵位を叙爵する。サオルジャン伯爵にしてテナール男爵、キース卿。卿の友人であるジョナス卿と共に、恒星連邦に尽くしてくれたまえ。」

「ははっ!ありがたき幸せに存じます!」

 

 周囲より、拍手が一斉に送られる。そう、キースがパールクⅣで発掘したバトルメックおよび気圏戦闘機の自動整備施設、そして製作施設、更に様々な遺失技術に関する詳細資料、そして0G乾ドック座標を恒星連邦に売却した代価は、爵位の授爵と領地の拝領であった。しかもキースだけではなく、その部下の大隊長まで授爵する念の入れようである。

 ちなみにキースは表面的に泰然自若としながら、内心では若干混乱していた。

 

(ちょ、伯爵位の授爵はジョナスやスラットリー課長から話聞いてたけど、オマケの男爵位は聞いてないよ!?)

 

 そんなキースを置き去りに、議事は進行して行く。次はヒューバート少佐の番だ。

 

「混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』B大隊指揮官、ヒューバート・イーガン少佐!」

「はっ!」

「傭兵部隊『鋼鉄の魂』B大隊指揮官、ヒューバート・イーガン少佐。貴官には此度の功績により、惑星タワスⅣのラウルト大陸の都市であるヴィオネ市及びその周辺地域を領地として与えて、男爵位を叙爵する。ヴィオネ男爵、ヒューバート卿。今後とも司令官であるキース卿を助け、国家の力となってくれ。」

「はっ!ありがたき幸せに存じます!」

 

 今度はアーリン少佐の順番である。ガチガチのその様子は、見ていて可哀想になる。

 

「混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』C大隊指揮官、アーリン・デヴィッドソン少佐!」

「は、ははっ!」

「傭兵部隊『鋼鉄の魂』C大隊指揮官、アーリン・デヴィッドソン少佐。貴官には此度の功績により、惑星タワスⅣのラウルト大陸の都市であるジロ市及びその周辺地域を領地として与えて、男爵位を叙爵する。ジロ女男爵、レイディ・アーリン。今後とも司令官であるキース卿を助け、恒星連邦のために尽力してほしい。」

「ははぁっ!ありがたき幸せに存じます!」

 

 拍手を送りながら、キースはこっそり考えに耽る。

 

(ヒューバートとアーリン少佐に惑星タワスⅣはラウルト大陸の都市及び周辺地域を与えたかよ……。って言うか、ラウルト大陸の都市の残り1つは、俺が男爵として貰ってるだろ?ラウルト大陸の主要都市は3つとも、『SOTS』高級士官が領有してることになるから……。その上俺がサオルジャン大陸領地にしてるから、『SOTS』が大陸2つ持ってるみたいな物じゃんかよ。

 あと惑星タワスⅣにあるのは、アイヤゴン大陸と衛星レミネンだけで、そこらは王家直轄領だから……。『SOTS』の今後の貢献次第では、そこらも『SOTS』関係者に割譲されるかもしれないぞ。

 いや、文句は無いけどさ、恒星連邦に仕えるのは。でも領地をもらうと、領民への責任が重いなあ……。って言うか、俺は軍人として出征しっぱなしになるんだから、きちんと代官置かないと。人材を探さないとなあ……。ジョナスに推薦してもらうしかないかなあ……。)

 

 キースたちが今回領地として貰った大陸や都市のある惑星タワスⅣは、元は別の貴族が領有していた惑星であった。位置的には南十字星境界域の星図上で左上付近、カペラ境界域に近い所にある惑星だ。しかしその惑星を支配していた貴族はニューシルティス公マイケル・ハセク=ダヴィオンに切り崩されかけていたため、表向き適当な名目で粛清され更迭されていた。今現在惑星タワスⅣは恒星連邦政府が派遣した代官たち数名によって分割統治されている。

 ちなみにジョナスが骨を折ってくれただけあって、この惑星は物件としてはそこそこの物だ。文明も最先進惑星とはいかないが、適度なレベルに保たれている。工業的にも充分な技術が残っており、その生産高は良好と言える。産業に必要な原料も100%とはいかないものの、惑星内でかなりの割合が確保可能であり、星系外からの輸入依存度はそれほどではない。農業生産も充分なレベルにある。この惑星の大陸や都市であれば、領地として申し分あるまい。

 そしてその後は大広間へと場を移して、祝宴が行われた。こう言う場に慣れているキースは普通に、肝が据わっているヒューバート少佐はどうにかこの場をこなしていたが、アーリン少佐は慣れない作法をとちらないかで頭がいっぱいいっぱいで、大変な様子である。見かねて時折、キースやヒューバート少佐が助けに入る事もしばしば有った。まあ内心ではこの3名、程度こそ違えどゴリゴリと精神力を削られているのは同様なのだが。

 

 

 

 そして1週間が過ぎた。この1週間は、キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐は非常に多忙であった。急な授爵故に、根回しとかはジョナス他の関係者がやってくれていたのだが、それでお世話になった貴族や貴人、これからお世話になりそうな方々、その他機嫌を損ねるとまずそうな人たちなどに、挨拶回りが待っていたのである。爵位を貰うと言う事は、とてもとても大変な事なのである。ちなみに国王陛下のサインが入った預かり証は、既に返却していた。

 宿舎として借り上げているアヴァロン・シティー内のホテルのロビーで、疲れ切ってたれているアーリン少佐や、それよりはましだが流石に疲れを隠せないヒューバート少佐を見ながら、キースは考えに沈んでいた。彼が考えていたのは、今回挨拶回り先で多く聞かされた噂についてである。

 

(……傭兵部隊『グレイ・デス軍団』がシリウスⅤで投降して来た市民1200万人を虐殺した、か。……コムスターの手による陰謀で、大嘘なんだけどな。……いよいよ、だな。無法者の烙印を押された『グレイ・デス軍団』は、これからヘルム・メモリーコアを巡っての戦いに身を投じる。……何度かこの戦いに介入し、『グレイ・デス軍団』を助けて、メモリーコアのコピーを分けてもらう事も考えたけど。……無理、だよなあ。

 うかつに介入して、『グレイ・デス軍団』がメモリーコアを発掘し損ねたら、目も当てられないし。それに『グレイ・デス軍団』の無法者の疑いが晴れなくなったら、それも大変だよなあ。それに自由世界同盟、マーリック家領域の惑星ヘルムは距離的に遠すぎるよ。途中で補給ステーションが無い星系も、いくつもあるだろうし……。介入は無理だよ。

 で、介入しないと決めたわけだけど、そうなると怖いのは俺が今までやって来た事柄によるバタフライ効果だよなあ……。頼むから、何事も無くストーリー通り推移してくれー。メモリーコア、ちゃんと発掘してくれよー。)

 

 キースは、自分が正義の味方でない事を自覚している。シリウスⅤで虐殺された1200万人の事は胸が痛むが、だからと言ってそれを阻止するために『SOTS』を危険に晒す事はできないし、しなかった。別件で忙しかったと言う事も大きいのだが。

 今回の事件で『グレイ・デス軍団』から出る犠牲者についても同じだ。キースは自分の手が届くところでは、かなり甘い部分もある。しかし手が届かないところまで無理に手を伸ばそうとはしない。そう言うところでは、彼は恐ろしく冷淡にもなれるのだ。彼にとって第1なのは、『SOTS』と自分自身であった。

 

「やれやれ……。俺は地獄に堕ちるな。」

「なんか言いました、キース大佐?」

「ああいや、アーリン少佐。ちょっと『グレイ・デス軍団』の噂について考えていたんだ。噂で伝え聞く『グレイ・デス軍団』のやり様と、今回のシリウスⅤの虐殺は、あまりにかけ離れてるからなあ。もしや『グレイ・デス軍団』は嵌められたんじゃないかと思ってな。

 うちも急速に部隊拡大し過ぎて、あげくに部隊司令や幹部が爵位まで貰ってしまった。あちこちからの嫉妬が怖いな。今後より一層、注意が必要だ。」

 

 キースの言葉に、ヒューバート少佐とアーリン少佐が頷く。背後の敵は、正面からの敵よりも恐ろしい事がままある物だ。

 まあそれはともかくとして、本日で挨拶回りも一応の終わりを見せた。今度は実際に領地に向かい、領民たちに顔見世をしなくてはならない。出立の準備は、連隊副官のジャスティン大尉が各大隊副官などと協力して、既に終えてくれている。ちなみに彼を始め、幾人かの大尉待遇中尉や中尉待遇少尉などが、今回のキースらの授爵に合わせて正式な大尉や中尉に昇進していた。まあサラ中尉待遇少尉は、いつも通り頑なに昇進を拒んでいたのだが。

 

 

 

 翌日の3028年3月29日、キースは宇宙港アヴァロンポートで、見送りに来たジョナスやリアム大尉と別れの挨拶を交わしていた。ジョナスの脇に、彼の連隊副官ランドル大尉他の護衛が付いているのは、いつも通りだ。

 

「キース、これでまたしばらく会えなくなるかな。」

「何、ジョナスに呼ばれれば、宇宙の果てからでも飛んでくるさ。増してや同じ恒星連邦の、それも南十字星境界域内なんだ。少なくとも、ライラ共和国に行ってた頃よりかは近いしな。」

「ははは、頼もしいな。ところで代官の推薦を頼まれたけれど、この間書類を送ったクリスティアン・ウォーターハウス氏で構わないかな?」

 

 キースはジョナスに頷く。

 

「ああ、彼ならば問題ないだろう。」

「なら良かった。何、ちょうど彼にとって役不足の仕事を与えられていた所なんだ。内々に話を進めているけど、受けてくれる事は間違い無いよ。その場合、残務処理と引継ぎでちょっと時間は欲しいけどね。」

「俺はしょっちゅう軍務で出征するだろうから、その間の事を任せられる人材はどうしても必要なんだよな。いや俺が領地にいる間も、相談役と言う形で助力してもらうつもりだが。俺は領地経営に関しては素人だからな。」

 

 そしてキースはリアム大尉に顔を向ける。

 

「リアム大尉。短い間だったが、世話になったな。」

「いえ、こちらこそお世話になりました。キース大佐は書類をきちんと纏めて下さるので、傭兵関係局の連絡士官としては非常に助かりましたよ。何処とは言いませんが酷い所になると、書類の締め切りを伸ばしてくれと半ば脅迫交じりや泣き落としで頼まれた事も何度か……。あげくに書類が遅れた責任を、こちらへ押し付ける事もしばしば……。」

「あー……。それは酷いな。」

「そんな所と『SOTS』を比べるのは失礼かと思いましたがね。ですが、そう言う意味でも『SOTS』は理想的な部隊でしたよ。次の仕事でも、この様な部隊に当たりたい物です。可能ならば『SOTS』その物で。」

「自分の部隊を褒められるのは、嬉しい物だな。ありがとう。」

 

 キースはジョナス、リアム大尉と握手を交わす。そして彼は宇宙港の建物から出ると、ジャスティン大尉の運転するジープの助手席に乗り込む。ジープは走り出し、フォートレス級降下船ディファイアント号へと向かった。

 やがてキースたちが降下船に乗り込んでしばらくしてから、ディファイアント号はゆっくりと上昇を始める。轟音と共に噴射炎が下方に轟然と吐き出され、ディファイアント号は一気に軌道へと向かって上昇して行った。その後を追って、『SOTS』の他の降下船群もまた、各々離床、離陸して行く。

 こうしてキースは惑星ニューアヴァロンを離れ、新たに得た自らの領地へと向かって出立したのである。




さて、主人公、友人のジョナス、ヒューバート少佐、アーリン少佐の4人が昇進、出世いたしました。どうしようかなあ……。近いうちにUPする予定の、Arcadia様投稿分から先の物語で、出世させたい人物はいるんだけど、二番煎じになるかなあ……。


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『エピソード-087 貴族はつらいよ』

 ニューアヴァロン星系の天の南極、ナディール点ジャンプポイントへ向かうフォートレス級降下船ディファイアント号の部隊司令室にて、キースは先ほどまでこの場で行われていた、自分の19歳の誕生祝に思いを馳せていた。この誕生祝は、キースの直卒小隊のメンバーやサイモン老、自由執事のライナーなど、ディファイアント号に乗っているキースと特に親しい面々が開いてくれた物だ。ちなみに主役のキースが恒星連邦内での飲酒年齢に達していないため、今回は酒は無しである。その代わりと言っては何だが、ディファイアント号の料理長が腕を振るった料理が振る舞われた。

 キースは手の中にある、イヴリン曹長からの誕生日プレゼントをじっと見る。それは1丁のレーザーピストルであった。イヴリン曹長は、エリーザ准尉が宴会の場に連れて来たのだ。キースは安全装置をかけた上に念のためにパワーパックを抜いた状態で、そのレーザーピストルを構えてみる。特注で設えられたそのグリップとトリガーガードは、キースの巨大な掌にしっくりとおさまった。

 イヴリン曹長は言ったものだ。

 

『以前私の誕生日にレーザーピストルを頂いた時には、用意していたこれと品物が被ったので驚きました。グリップとトリガーガードのサイズに関しましては、整備中隊長のサイモン大尉にご協力を願い、キース大佐の掌のサイズを教えていただいたんです。』

 

 照れたように笑う彼女は、キースが礼を言うと今度は本当に照れて赤くなった。その様子を思い返し、キースは考える。

 

(うーん。好意を持たれてる気はするんだけどなあ。決め手が今一つ……。恋愛関係は俺、鈍いからなあ。エリーザ准尉にでも聞いてみるかあ?彼女はイヴリン曹長を色々けしかけてる雰囲気があるから、彼女は確信を持ってるんだろうなあ。イヴリン曹長から直接話を聞いてるかも知れんし。だがなあ……彼女相手だと、からかわれたり、いじられたりしそうで怖いんだよなあ。

 サイモン爺さんはどうだ?今回イヴリン曹長は、サイモン爺さんに協力を仰いだって言ってたもんなあ。サイモン爺さんなら、彼女の気持ちにも俺よりかは見当がついてるんじゃないかな。俺よりも恋愛経験とか豊富だろうし。)

 

 キースはレーザーピストルをしまいながら、サイモン老への質問の仕方をあれこれ検討する。その時、机上の内線電話機がインターホンモードで鳴った。彼は急ぎ、そのスイッチを入れる。

 

「誰か?」

『アンドリュー准尉。エリーザ准尉もいるぜ。隊長、入室許可が欲しいんだけどよ。』

「ああ、許可する。」

 

 アンドリュー准尉とエリーザ准尉が入室してきて敬礼を送って来る。キースも答礼を返しながら、言った。

 

「どうしたんだ?何か用事があるなら、さっきの宴会の時にでも言えば良かったろうに。」

「あー、いや。ちょっとまじめな話だからよ。それに踏ん切りってもんが……。あの場だと雰囲気にそぐわなかったって言うか……。」

「そうよねー。軽い話なら、あの場でも良かったんだけど。いや、そこまで重い話ってわけでもないんだけどね、あはは。」

「?……どうしたんだ、言ってみろ。」

 

 アンドリュー准尉とエリーザ准尉は、居住まいを正して直立不動になると、はっきりとした口調で言葉を発した。

 

「アンドリュー准尉!」

「エリーザ准尉!」

「「両名は、士官任用試験の受験を申請いたします!」」

 

 キースは頷く。そして彼は、執務机の引き出しから2通の書類を引っ張り出した。

 

「やっと決心してくれたか。書類は作ってある。あとはお前たちのサインだけあれば良い。」

「いやあ、な。俺が上に引っ掛かってるせいで、アイラの昇進の邪魔になってるとは考えが至らなかったって言うか……。俺もまだまだ駄目だな。」

「あたしもー。キャスリンには苦労かけてるからねー。その上仕事の邪魔までしちゃってたら、顔向けできないわ。」

「サインは終わったな?次の士官任用試験が近くなったら、連絡が行くからな。」

 

 アンドリュー准尉とエリーザ准尉は、真面目な面持ちで頷いた。キースはいかにもついでと言った風情で、2人に2冊ずつ本を渡す。2人は妙な顔になる。アンドリュー准尉は訊ねた。

 

「こいつは?」

「士官任用試験の問題集と参考書だ。お前たちの力量なら問題は無いはずだが、ペーパーテストはまた違う物だからな。」

「「うげ……。」」

 

 アンドリュー准尉とエリーザ准尉は、酢を飲んだような顔になるが、すぐに立ち直って決然と言った。

 

「くそ、ペーパーテスト何するものぞ、だ!」

「そうよ!こんなとこで躓いていらんないわ!」

「そうと決まれば、部屋に戻って早速勉強だ!」

「応ともよ!エリーザ准尉、アンドリュー准尉、退出します!」

「ああ、うむ。退出を許可する。」

 

 敬礼と答礼を交わし、アンドリュー准尉とエリーザ准尉は部隊司令室を退出して行く。キースはそれを見送りつつ独り言つ。

 

「さて、あの2人が合格してくれたら、まずはアイラ曹長とキャスリン曹長を准尉に昇進させないとな。あと、問題はネイサン曹長か。今度の試験で合格してくれれば、エルンスト少尉待遇曹長に代わって偵察兵小隊の小隊長を任せる事になるんだが。」

 

 キースの悩みは尽きない。確か最初は別の事で悩んでいたはずであったのだが。

 

 

 

 キースの誕生祝から2週間近い日々をかけて、『SOTS』降下船群はようやくの事で、タワスⅣの大地に降り立った。場所はキースの領地であるサオルジャン大陸にある、連隊規模の部隊が余裕で駐留可能な大規模な城、ヘルツォーク城である。ここには今現在多数の来客が訪れ、キースの来訪を今か今かと待っていた。

 その来客とは、次に挙げる人物たちである。まずはキースの領地となったサオルジャン大陸のダヴィオン王家代官アーヴィング・オールドフィールド氏。次に主要3都市全てがキース、ヒューバート少佐、アーリン少佐の領地となり、事実上『SOTS』領地となったラウルト大陸のダヴィオン王家代官エミリア・ロレンツォーニ女史。この2名がヘルツォーク城にいる理由は、キースやヒューバート少佐、アーリン少佐に任地の統治の引継ぎを行うためである。彼らはキースたちの到着後約1ヶ月してから入れ替わりで、恒星連邦中央に帰還する事になっていた。

 その次は今もダヴィオン王家直轄領である、アイヤゴン大陸のダヴィオン王家代官ジェレマイア・アームストロング氏。同じくダヴィオン王家直轄領である、衛星レミネンのダヴィオン王家代官カルヴィン・スティーヴンソン氏。そしてヘルツォーク城からかなり離れた場所に存在するヴィアンデン城に駐屯している、恒星連邦駐屯軍『ゲージ螺旋槍隊』部隊司令ジュリエット・ゲージ大尉だ。この3名は基本的に恒星連邦政府からの指示に従うのだが、だからと言って惑星首都を擁するサオルジャン大陸の領主であるキースの顔色を窺わないわけにもいかない。それ故と言うわけでも無いのだが、彼ら3名はキースとの顔つなぎに来たのである。

 最後に控えているのは、惑星軍総司令官ファーディナンド・ヒギンボトム少佐だ。この惑星タワスⅣの惑星軍は、惑星首都を擁する面積でも人口でも最大の大陸であるサオルジャン大陸の、その代官であるアーヴィング・オールドフィールド氏が各代官たちの中心になって、各領地の税収から資金を捻出して組織していた。今後はキースがその役割も引き継ぐことになる。言い換えれば、彼は今後キースの部下、臣下になるのだ。ファーディナンド少佐は今後自らの主君になるキースを、見極めに来たとも言える。

 ヘルツォーク城の司令執務室に落ち着いたキースおよび付き従っていたヒューバート少佐とアーリン少佐にまず声を掛けたのは、アーヴィング氏とエミリア女史である。流石に代官として領地を切り盛りしていただけの事はあり、キースの迫力に腰が引ける様子は欠片も無い。無論の事これは残りの代官、ジェレマイア氏、カルヴィン氏にも同じことが言える。

 

「キース卿サオルジャン伯爵閣下、私がこれまでサオルジャン大陸の代官の地位にありました、アーヴィング・オールドフィールドにございます。イーガン男爵閣下も、レイディ・アーリンも、引継ぎが終わるまでの短い間ですが何とぞよしなに。」

「キース卿サオルジャン伯爵閣下、イーガン男爵閣下、レイディ・アーリン、私がこれまでラウルト大陸代官でございました、エミリア・ロレンツォーニにございますわ。同じく引継ぎが終わるまでの短い間ですけれど、よしなに願いますわ。」

 

 その大仰な呼び掛けに、キースとヒューバート少佐はにやりと小さく笑みを溢す程度で済んだが、アーリン少佐は酢を飲んだような顔になる。キースはそれを見て、内心少々慌ててアーリン少佐を庇う。

 

「あー、申し訳ない。我々は知っての通り、成り上がり者の傭兵だ。正式な呼び掛けには慣れていない。どうか慣れるまで、軍人階級で呼んでいただくわけにはいかんだろうか?」

「む、そうですか……。では……。」

 

 アーヴィング氏はキースの提案を承知しようとする。しかし、エミリア女史はそれに待ったをかけた。

 

「いいえ、いけませんわ。それでは何時まで経っても慣れませんわ。慣れた後であれば、軍人階級で呼ばせるのもよろしいでしょうが。しかし慣れるまではいけません。厳しい様ですが、体面も貴族にとっては武器の1つ。閣下方がお使いのバトルメックで言えば、レーザー砲や装甲板の様な物ですのよ?

 そして舐められるのが閣下方だけであればともかく、それにより出た犠牲は閣下方の領民に押し付けられることになるのです。閣下方が意図した、しないに関わらず。」

「「「!!」」」

 

 キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐は目を見開く。そしてアーリン少佐とキースが言った。

 

「ごめんなさい、ミズ・エミリア。」

「申し訳ない。そこまで考えが及ばなかった。」

「わかってくださればよろしいのです……。と、言いたいところですが、それも駄目ですわ。」

「「?」」

 

 エミリア女史は魅力的ににっこり笑って言う。

 

「閣下方は、うかつに下々の者に謝ってはいけませんわ。無論、謝らなくてはいけない時もございます。けれど小さな事でペコペコしておられては、それこそ体面を傷つけます。そう言うときは、「わかった」でよろしいのですわ。」

「うむ……。わかった、ミズ・エミリア。だがこれくらいはよかろう?ありがとう、ミズ・エミリア。」

「わたしもわかりました。ミズ・エミリア、ありがとう。」

 

 再度エミリア女史が、にっこりと笑う。そしてアーヴィング氏がヒューバート少佐に向かって言った。

 

「ふう、すっかり良い所をロレンツォーニ女史に取られてしまいましたよ。」

「私も流れに乗り損ねたよ。」

 

 2人の男はくくく、と含み笑いをした。

 そしてアーヴィング氏とエミリア女史に引き続いてキースたちに挨拶をしたのは、ジェレマイア氏にカルヴィン氏である。

 

「キース卿サオルジャン伯爵閣下、イーガン男爵閣下、レイディ・アーリン、私がアイヤゴン大陸代官ジェレマイア・アームストロングにございます。以後何とぞよしなに願います。」

「キース卿サオルジャン伯爵閣下、イーガン男爵閣下、レイディ・アーリン、私めが衛星レミネン代官カルヴィン・スティーヴンソンにございます。今後ともよしなにお願いいたします。」

「うむ、私がキース・ハワード伯爵だ。こちらこそ、よしなに頼む。」

「私がヒューバート・イーガン男爵だ。色々と助けてくれるとありがたい。」

「わたしがアーリン・デヴィッドソン女男爵です。今後ともよろしく頼むわ。」

 

 ここでジェレマイア氏がキースに質問をした。

 

「伯爵閣下、少々質問をよろしいでしょうか?」

「内容によるな。何かね?」

「惑星軍の扱いにございます。」

 

 キースは片眉を上げる。惑星軍の司令官であるファーディナンド少佐もピクリと反応を示した。ジェレマイア氏は話を続ける。

 

「閣下は精強なバトルメック部隊をお持ちでございます。もしやそれに今後の惑星防衛を頼り、惑星軍を削減するなどお考えでしょうか?」

「いや、私の部隊は恒星連邦政府傭兵関係局よりの依頼で、いつ出動するやもわからない。常設の防衛戦力としては頼れないのだ。その様な状況下で、惑星軍を削減する危険は冒せない。もしや貴殿が代官として統治している領地より、防衛費の一部として供出してもらっている負担金が重いのかね?」

「負担が重く無いとおべっかを使う気はありませぬが、必要な支出だと理解してもおります。私めが危惧しておりましたのは、今よりその規模を削減されることにございます。惑星軍の存在はある程度の雇用も生み出し、治安の維持にも一役買い、災害派遣においても必要な物でございますれば。」

 

 頷いてキースは、同意の言葉を発する。

 

「うむ。惑星軍は財政なり軍事的なりの非常事態が起きない限り、現状の規模を維持するつもりだ。安心して欲しい。」

「はっ。私めからは、以上にございます。」

 

 これで代官たちの挨拶は一通り終わった様だ。次は恒星連邦駐屯軍である『ゲージ螺旋槍隊』部隊司令のジュリエット大尉と、惑星軍総司令官ファーディナンド少佐の番だ。

 

「キース卿サオルジャン伯爵閣下!イーガン男爵閣下!レイディ・アーリン!自分が恒星連邦惑星タワスⅣ駐屯軍、傭兵メック中隊『ゲージ螺旋槍隊』部隊司令のジュリエット・ゲージ大尉であります!」

「キース卿サオルジャン伯爵閣下!イーガン男爵閣下!レイディ・アーリン!自分は惑星軍総司令官ファーディナンド・ヒギンボトム少佐であります!」

 

 この2名は軍人故にか、キースの放つ「威」に他の4人よりも強く反応していた。一方はこれまで複数の戦場を経験していたが故に、もう一方は実戦経験こそ無かったが災害派遣などで修羅場を潜っていたが故に、腰が引けている様な事は無い。無いのだが、少なくとも彼らはキースに確実に気圧されていた。

 ことに、キースを見極めてやろうとやって来たファーディナンド少佐の、受けた衝撃は大きい。事前に読んだ書類では19歳になったばかりの若造でしか無いはずであったこの新任貴族は、蓋を開けてみればとんでもない化け物であったのだ。よく代官たちや元代官たちはこの相手にあれだけの口がきける物だと、彼は内心で汗を流した。だがいかに軍人として凄みがあったとしても、主君として相応しいかは話が別である。ファーディナンド少佐は必死にこの新任貴族を見極めんとした。

 一方のキースであったが、彼は彼でジュリエット大尉とファーディナンド少佐を見極めんとしていた。それも当然と言えよう。この2人には、彼がこの惑星タワスⅣを留守にした場合、彼の領地と領民を含むこの惑星を護ってもらわねばならないのだ。と、その時キースの視線がファーディナンド少佐のそれと絡む。そしてお互いに視線を逸らせなくなった。

 キースはふと思う。

 

(なんだ?なんでこうなった?だけど、なんか視線を先に逸らしたら負けの様な気がする。何に負けるのかはわからないけどさ。)

 

 丁々発止、一触即発の雰囲気の中で、よく分からない勝負は続く。キースは不意に、目だけで笑って見せた。ファーディナンド少佐は、ガンッ!とショックを受けた様に一瞬のけぞる。そして顔を伏せ、肩を落とした。どうやらキースは勝ったらしい。何に勝ったのかは分からないが。ファーディナンド少佐は謝罪する。

 

「……ご無礼をいたしました、伯爵閣下。この罰はいかようにも……。」

「いや、何もなかった。気にしないでくれ。皆も、そうだろう?」

「え?ええ。そうですな。何も無かった。」

「あ、はい。何もありませんでしたね。」

 

 すかさずヒューバート少佐、アーリン少佐がキースに追従する。ジュリエット大尉などは、何があったのか理解できずに視線を左右に彷徨わせていた。代官たち、元代官たちはやれやれと苦笑していたが、キースの下した処遇に異を唱えるつもりは無い様だ。どうやら今のあれは、貴族と下々の者と言うよりは武人同士に相通じる何かだと取られた様であった。その一方ファーディナンド少佐は何やら感じ入ったのか、頭を深く下げる。どうやらキースは、なんらかの形で認められたらしかった。

 

 

 

 3028年4月17日、キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐の授爵を祝う祝賀パレードとパーティーが、キースの領地であるサオルジャン大陸に存在している惑星首都ワロキエ市にて行われた。無論キースの主催である。

 キースは当初、パレードはともかくパーティーだけでもかかる費用を自分の貯金から出そうとした物だったが、それはアーヴィング氏とエミリア女史に止められた。各々の領地における政庁の予算に、例えばキースの場合では伯爵家諸費用と言う名目のお金が、今四半期からきちんと用意されているのだと言う。相応に大きな額が計上されているため、使ってもらわねば逆に困ると言うのだ。納得したキースは、素直にパーティー費用を出してもらう。

 

「……故に、私は恒星連邦と国王陛下へこの御恩を報じ、我が忠誠を示す!そしてそれこそが、我が領地のためにもなると、私は信ずるものである!以上をもって、この私の所信をここに表すものとする!恒星連邦万歳!」

 

 そしてパーティーに先立って、パーティー会場になっているワロキエ市屈指のホテルにて、キースの演説が行われた。これはいわゆる所信表明演説に近い物である。この演説は惑星上のネットワークを通じ、TV放映もされている。これにより、領民への顔見世の意味も兼ねているのだ。

 さらにこれに続いて、ヒューバート少佐、アーリン少佐の演説も行われた。ちなみに彼らの演説もTV放映されている。彼らは本来の領地である、ラウルト大陸のヴィオネ市、ジロ市に出向くべきであるのだろうが、その辺はキースの部隊である『SOTS』の高級士官であると言う事も勘案して、キースと共に行う事になったのである。無論、後々には自分の領地にも出向かなければならないが。

 ちなみに彼ら3人の演説内容を決めるにあたっては、彼ら3人は勿論の事だが自由執事ライナーが色々と頭を捻ってくれた物である。ライナーには幸いなことに、こう言う事に対する若干の知識もあった。もっとも実地の経験が足りていないので、本職には遠く及ばないのだが。

 キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐、そしてライナーは、本職の代官――キースが領地にいる間は相談役――のクリスティアン・ウォーターハウス氏が、一刻も早く惑星タワスⅣに来てくれる様に祈った物だ。クリスティアン氏が到着の暁には、キースの領地だけでなくヒューバート少佐やアーリン少佐の領地も、その統治を委任する事になる。その方が効率も良いし、第一ヒューバート少佐とアーリン少佐も基本、キースと共に出征するのだ。

 そしてパーティーが始まる。キースたちは事前にエミリア女史などからアドバイスを受けた通りに、自分たちの初期位置から動かずにどっしりと構えていた。政庁の要人やら、議会の重鎮やらが次から次へと挨拶に来る。幸いだったのは、キースの迫力に抗し得る者がごく少数……と言うか、ほとんど居なかった事だろう。大抵は型通りの挨拶を済ますと、ぺこぺこと無礼を詫びて退出して行く。事前のアドバイスによると下手な言質は取られない様にと有ったが、その心配はほとんど無かった。

 アーリン少佐は言う。

 

「ちょっと前まではこう言うパーティーの時は、自分で挨拶に回る方だったのに……。」

「何、多数の貴族が集まるパーティーでは、まだ俺たちが挨拶に回る側さ。その辺を勘違いすると、大変な事になるぞ。」

 

 ヒューバート少佐の言葉に、アーリン少佐も頷く。だがどうやら挨拶の人波も途切れた様だ。キースは近くに控えていたボーイに言って、飲み物を3人分持ってきてもらう。3人とも、流石に喉が渇いていた。そこへ駐屯軍の部隊司令、ジュリエット大尉が現れる。彼女はキースたち3人に対し、敬礼を送って来た。キースたちも答礼で応える。

 

「サオルジャン伯爵閣下、イーガン男爵閣下、レイディ・アーリン、本日はご機嫌麗しゅう。」

「やあジュリエット・ゲージ大尉。楽しんでくれているかね?」

「はっ。料理も飲み物も素晴らしく、粗食に慣れている身といたしましては胃がびっくりしそうです。」

 

 キースは笑みを溢す。

 

「くくく、それは私たちも同じだよ。私が成り上がり者で、ただの傭兵部隊の長であった事を忘れてもらっては困るな。」

「は、はあ……。」

「ゲージ大尉。貴官とその部隊には我々が出征中、この惑星の護りの要となってもらわねばならない。期待させてもらって、かまわないな?」

 

 急に声音を真面目な物にしたキースに、ジュリエット大尉は居住まいを正す。彼女はきっぱりと答えた。

 

「はっ!粉骨砕身の覚悟で事に当たらせていただきます!」

「うむ。頼むぞ。ときに惑星防衛上の事で、何か困っている事は無いかね?」

「は……。実は、降下船の推進剤が任に当たるについて心もとなく……。」

 

 傭兵部隊『ゲージ螺旋槍隊』は、中隊規模であるが降下船にユニオン級ではなく、レパード級3隻を用いていると言う、戦力の展開能力に優れた部隊である。普段はサオルジャン大陸のヴィアンデン城に駐屯しているが、いざとなれば惑星各地に短時間で飛んでいけると言う特徴を持っている。だがそれも、推進剤が充分に供給されていれば、の話だ。

 頭の中で、キースは素早く計算する。惑星各地の水関係の施設から供給される推進剤は、商用降下船への供給に必要な分はうかつには動かせない。しかし『SOTS』の降下船群に用意されている分は、『SOTS』がサオルジャン大陸とラウルト大陸の双方を事実上領有している事もあり、いささか過剰に確保されていた。その余剰分であらば、キース個人の裁量でいかようにもできる。

 キースはジュリエット大尉に答えた。

 

「わかった。その件に関しては早急に検討し、答えを出そう。悪い様にはしない。」

「ありがとうございます!」

「要望は以上かね?ふむ、では下がってよろしい。」

 

 ジュリエット大尉は敬礼をして下がる。答礼でそれに応えたキースたち3人は、小声で会話を交わす。ヒューバート少佐がキースに向かい、言った。

 

「なるべく言質は与えないんじゃ、ありませんでしたか?」

「その辺は臨機応変、さ。第一、駐屯軍がまともに動けない状態を放置しておくわけには行かないだろう。」

「それはそうですよね……。『ゲージ螺旋槍隊』ご自慢の部隊展開能力も、推進剤が無ければ意味が無いわ。あとは2機だけでも気圏戦闘機を持ってくれていて、安心は安心よね。」

 

 キースの言葉に、アーリン少佐も同意を返す。ヒューバート少佐もまた、頷きを返した。

 そんなこんなで、パーティーは終わりを迎えた。だがキース、ヒューバート少佐、アーリン少佐は主役だと言うのに、あまり飲み食いできなかったのは言うまでも無い。

 

 

 

 その後もキースたち3人は、精力的に働いた。サオルジャン大陸への顔見世が終わったので、今度はラウルト大陸にあるキースの領地、テナール市に航空機で飛ぶ。そこでも政庁で演説を一発ぶちあげたら、今度はヒューバート少佐の領地ヴィオネ市に飛ぶ。市庁舎でヒューバート少佐が演説して、キースはキースで彼の上司にしてタワスⅣ貴族の最上位者として、祝辞を述べたりする。更にはアーリン少佐の領地ジロ市にも飛び、同じくアーリン少佐の演説と、キースの祝辞が行われた。

 ようやくの事で自分の居城であるヘルツォーク城に戻って来た時には、キースたちはへろへろに疲れ切っていた。特にアーリン少佐は、疲労の余りに某ゆるキャラのごとくたれていたりする。彼女は言った物だ。

 

「子供の頃は、ううん、ちょっと前まではお貴族様って、もっと気楽な物だと思ってたわ……。」

「きちんと権利に対する義務を果たさんとすれば、どうしても忙しくなる物さ。ふう……。」

 

 ヒューバート少佐も、かなりお疲れだ。そんな2人に向かい、キースは慰めの言葉を掛ける。

 

「何、代官兼相談役のクリスティアン・ウォーターハウス氏が到着すれば、楽にはなるさ。演説とかしなくちゃならない状況でも、内容は考えてもらったりアドバイスもらったりできるからな。まあ、それでも「顔」としての役割だけは代わってもらえないんだが。」

「今日までの仕事って、ほとんどその「顔」としての仕事じゃないですか……。」

「ん、まあそうなんだが。」

 

 アーリン少佐には、あまり慰めにはならなかった様だ。とりあえずキースは、顔を両手でパン!と叩いて気合いを入れる。

 

「ん!さて留守にしている間、盛大に部隊関係の書類が溜まっているだろうな。それを片付けるとしようか!貴官らはもうしばらく休んでいて構わんぞ。」

「いえ、お手伝いしますよ。気になって休んでられませんからね。」

「わたしもそうします。片付けてから、ゆっくり休みますね。」

「そうか、正直助かる。」

 

 キースは先頭に立って、司令執務室へと進んで行く。その後をヒューバート少佐とアーリン少佐が追った。キースが司令執務室へ入室すると、連隊副官のジャスティン大尉が立ち上がり、敬礼をしてきた。キースたちは答礼を返す。キースは問いかけた。

 

「ジャスティン大尉、ご苦労。我々がいない間の書類はどうなっている?」

「演習場の使用願いなど急を要しかつ重要度が低い物に関しては、当番で司令官代理を務めていたケネス大尉やジーン大尉が処理してくれました。急を要しかつ重要度が高い物についてはそう多くありませんが、書類束の上の方に纏めて置いてあります。明日出発予定の、商用航宙に出るユニオン級エンデバー号、レパルス号、ミンドロ号の件と、傭兵の星ガラテアへスカウト旅行に出るユニオン級ゾディアック号の件ですね。

 歩兵、戦車兵、一部の助整兵などの正規雇用の兵員募集については重要ですが、予定ではまだ余裕があるので、書類束の下の方に纏めて置いてあります。非正規の臨時雇用の助整兵募集については、一番下です。

 整備中隊からの整備や部品補充に関する報告書、各実戦部隊からの訓練報告書、その他の雑多な報告書に関しましては今現在自分が、急を要する物、要チェックの物、サインだけすれば良い物等々に仕分け中です。

 そしてキース大佐へのお手紙類ですが、封を開けて見るわけにもいきませんので重要度の判定が難しく、一纏めにして置いてあります。」

「ご苦労、助かる。……何かひさしぶりに階級で呼ばれたな。まさか大佐と呼ばれてほっとする日が来るとは思わなかった。」

「は?」

 

 怪訝そうなジャスティン大尉をよそに、キースは執務机に着く。ヒューバート少佐とアーリン少佐も予備の机に着いて、ジャスティン大尉がやっていた報告書の仕分けを手伝い始めた。

 キースはまず、手紙の束から片付ける事にする。たしかにこれは封を切って開けて見なければ、重要度がわからない。まあ差出人で多少はわかるかも知れないが。そしてキースは驚く。手紙の大半が惑星ニューアヴァロンでの知人やコネの人物からか、さもなくば惑星タワスⅣ上からの仕事上の手紙であるのに対し、1通だけ惑星ロビンソンからの物が混じっていたのだ。キースは呟く。

 

「あの人の情報網は本当に侮れないな。俺の領地がタワスⅣのサオルジャン大陸とテナール市なのは授爵の様子が伝わってれば判るだろうけど……。俺の居城がヘルツォーク城になるなんて、どこから知ったんだよ?消印の日付は、俺がまだ惑星ニューアヴァロンにいる間だぞ?宛先の住所、よく分かったな。」

「キース大佐、どちらからです?」

「レオ・ファーニバル教官。」

「ぶっ!」

 

 ヒューバート少佐が吹き出す。流石に意外過ぎたらしい。キースは手紙の封を切る。

 

「何々……。俺の大佐昇進と、俺とヒューバート少佐の授爵に対する祝いの言葉がまず述べられているな。ふむ……。しかしあの人の情報網は、本当に半端無いな。俺の連隊に、メック戦士の空きがある事までしっかり掴んでるじゃないか。」

「キース大佐、もしかして……?」

「ああ。今度卒業予定の者を4人、可能ならばウチで預かって欲しいそうだ。その4人の書類のコピーも同封されてる念の入れようだ。デリック・ゴールズワージー、アルジャノン・ハドルストン、リア・エンツェンベルガー、アレグザンドラ・エンダース……。男2人、女2人で、いずれも自分のバトルメックは持っていない。

 人材の紹介はありがたいんだが、相変わらず底知れない人だよな……。ふう……。」

 

 キースは溜息を吐く。ヒューバート少佐は引き攣って冷や汗を流す。アーリン少佐がこの何とも言いようのない雰囲気をどうにかしようと、明るい声で言った。

 

「ま、まあメック戦士が増えて稼働メックが増えるのは、良い事じゃない!ね、ジャスティン大尉!?」

「え、じ、自分ですかっ!?そ、そうですね。良い事だと、自分も思いますです、はい!」

「……ま、そうだよな。あの教官の底知れなさは、今始まった事じゃない。それよりか、今でも俺たちを気にかけてくれてる事をありがたく思う方が建設的、か。」

 

 ヒューバート少佐も気を取り直す。キースもまた、その言葉に頷いた。

 

「うむ、その通りだな。さて、手が止まってしまったな。仕事を片付けるとするか。」

「「「了解!」」」

 

 キースたちは、溜まっていた仕事をてきぱきと片付けていった。




お貴族様1年生の3人、いろいろ大変です。貴族って、こういうもんですよね。ヒューバート少佐の台詞でも言わせましたが、きちんと義務を果たさんとすれば。
それと主人公、イヴリン曹長の気持ちに気付けているのかいないのか。いや、頭ではわかってるんですけど、感覚的にしっかりと納得いけてないというか……。主人公は鈍感でこそないものの、恋愛関係ではヘタレで、なおかつそっち方面で自分に自信ないもんですから。


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『エピソード-088 タワスⅣの日々』

 3028年4月20日、4隻のユニオン級降下船……ゾディアック号、エンデバー号、レパルス号、ミンドロ号がヘルツォーク城の離着床を離床し、大空へ駆け上がって行った。これらの降下船は、ゾディアック号が傭兵の星ガラテアへの新規兵員のスカウト旅行、他3隻が資金稼ぎのための商用航宙に出発したのだ。期間はどちらも1ヶ月強である。航宙艦は、ゾディアック号がマーチャント級クレメント号を、残り3隻がインベーダー級イントレピッド号を用いる事になっていた。

 この他にも、マーチャント級航宙艦ネビュラ号、同級パーシュアー号、インベーダー級ズーコフ号にも1ヶ月を目途に、小銭稼ぎのために商用降下船を運ぶ仕事に就いてもらう。最低でも6月半ばまでは、領地に慣れるためにも恒星連邦政府からの依頼は行わない、とジョナスや傭兵関係局二課長ベネディクト・スラットリー氏が請け合ってくれたから、こう言う真似ができるのである。

 キースは離床する4隻の降下船を、ヘルツォーク城の指令室から見送っていた。指令室のメインスクリーンに、空の彼方へ消える間際の4隻がエンジンより発した噴射炎が映っている。だが実は、キースの心を占めていたのは別の事だった。キースは自らの斜め後ろに立っている、ケネス大尉の事を考えていたのである。ケネス大尉はこの後司令執務室に詰めるキースの代理として、指令室を監督するためにこの場に来ていた。

 

(さて、困ったぞ……。俺直卒の第1中隊を、今度の部隊再編で連隊指揮中隊として分離しようと考えたんだけど……。残った第2中隊と第3中隊に新規隊員をメインにしたもう1個中隊を加えて大隊を編制しなおして、3個大隊プラス連隊指揮中隊、それに加えて降下猟兵隊1個中隊と言う体裁を整えたかったんだけど……。

 内々で確認した時に、ケネス大尉が大隊長への昇進を固辞するとはなあ……。)

 

 そう、ケネス大尉は大隊長、少佐への昇進を固辞していた。理由は彼が、大隊指揮の自信が無いからと言う物であった。単に能力的な物を考えるならば、ケネス大尉は充分に大隊長を務められるだけの物は持っているとキースは考えていた。しかし同時に、性格的な物から大隊指揮は荷が重いのではないか、との危惧も抱いていたのだ。その危惧は当たり、ケネス大尉に内々で話を通した時に彼は昇進を固辞したのである。

 

(ケネス大尉が駄目となると……。次の候補はジーン先輩かなあ。ジーン先輩なら、指揮能力も戦術能力も充分に高いし……。無論個人的なメック戦能力も高いしなあ。ちょっと昇進が早すぎる気もするけど、そこは仕方ないよね。)

 

 考えを纏めると、キースはケネス大尉に声を掛ける。

 

「ケネス大尉、俺は司令執務室へ行くからこの場を頼む。」

「は、了解です。」

「では俺は行く。」

 

 ケネス大尉と手空きのオペレーターが送って来る敬礼に答礼を返し、キースは指令室を立ち去った。

 

 

 

 司令執務室でキースを待っていたのは、ヒューバート少佐、アーリン少佐、ジャスティン大尉、自由執事ライナー、そして惑星首都ワロキエ市からやって来た数名の官僚と、官僚たちが持ち込んだ多数の書類であった。官僚たちを率いて来た元代官のアーヴィング・オールドフィールド氏およびエミリア・ロレンツォーニ女史は言う。

 

「将来的には伯爵閣下が任命した代官兼相談役の方にお仕事を委任するといたしましても、だからと言って伯爵閣下方がお仕事の内容を知らないで良いと言う事にはなりません。」

「我々がいる間に、しっかりと学んでくださいましね?」

「むう……。私は惑星首都ではなしに、ここヘルツォーク城に詰める事になるからなあ。書類を効率よくこちらへ運んでもらう仕組みを考慮せねばならんな。……ジェットヘリか何かによる定期便でも飛ばすか。FAX等で電子的に送ってもらうか。」

 

 言いながらキースは、ジャスティン大尉とライナーが重要度別に仕分けしてくれたサオルジャン大陸各地およびラウルト大陸テナール市からの報告書を捲り、サインを入れて行く。ヒューバート少佐とアーリン少佐も同じく自分たちの領地からの報告書に目を通してはサインを入れている。

 しばらくして、キースは報告書の山を片付けた。幸いにしてどの報告書にも、大きな問題は記されていなかった。まあ小さな問題はいくつも有ったのだが。それら小さな問題には、対処すべく即座に命令書を発行した。報告書の次に待っていたのは、陳情書や意見書の山である。大半が議会から上がって来た要望であるため、大抵はそのまま了承のサインを入れるだけで済む。しかし稀にとんでもない物も混じっているため、油断はできない。

 キースは1通の陳情書を精読し、眉を顰めた。

 

「なんだこの「惑星軍の軍服を一新するべきである」って陳情書は。ぐだぐだ理屈を捏ねているが、要約すると「当社の高価な製品を使え」と言っている。あげくにそれが成った際の、利益供与までほのめかしている。贈賄の証拠にならない様に、言葉を遠回しに晦ましてはいるがな。BYE-TEC社か……。」

「それはひどい……。あれ?こちらにも似たような……。こっちは決定権を持つ伯爵閣下へ働き掛けてくれと。」

「わたしの所にも来てるわね。成功した場合の利益供与をほのめかすのも、そうね。」

 

 ヒューバート少佐とアーリン少佐の言葉に、キースはますます仏頂面になる。彼は苛立たし気に言う。

 

「舐められてるのか、俺た……いや、私たちは?惑星軍の予算は、各領地の税収から出ている。雑な言い方をすれば、俺たちの財布だ。そこから高い品物を買って、見返りとして払った代価の一部を受け取る。意味が無いばかりか、こちらを信じて防衛費の負担金を供出してくれている他の領地の代官たちに対する裏切りだろう。

 オールドフィールド殿、ミズ・エミリア、この会社について何か知らないかね?」

「以前、惑星軍用迷彩服のコンペで敗れた会社ですな。機能性、丈夫さ、着心地などで大差が無いのに、やけに高価でありまして。ですが何故か採用されかけたと言ういきさつがありましてな。その時も不正が疑われたのですが、証拠がありませなんだので。」

「ラウルト大陸のヴィオネ市に本社がある会社ですわね。粛清、更迭された以前の惑星公爵と癒着があったのでは、との噂がございますわ。」

「えっ!?俺、いや私の領地に!?」

 

 アーヴィング氏とエミリア女史、特にエミリア女史の言葉にヒューバート少佐が声を上げる。ここでアーヴィング氏が少々意地悪げな笑みを浮かべ、キースに訊ねて来た。

 

「政の世界では、清濁併せ呑む事も重要ですが……。伯爵閣下は、いかがいたす所存でございますかな?」

「いや……。清濁併せ呑むと言っても、それは理があり利がある場合だろう。この「濁」は呑んではいけない類の物だ。理が無く、利が無く、恒星連邦政府から派遣されている代官たちを敵に回すとまではいかずとも、不快にさせ怒らせる危険までもがある。呑む意味が無い。」

 

 それを聞いたアーヴィング氏は、満足げに頷く。キースは苦笑した。

 

「試すのは勘弁してくれないかね。正直、政治は畑違いで色々といっぱいいっぱいなんだ。で、だ。何故こんな陳情書が、私のところまで上がって来たのかな?普通、途中のチェックで撥ねられるだろうに。手違いと言うならば、イーガン男爵やレイディ・アーリンのところにまで似たような書類が上がって来るのは偶然が過ぎる。」

「残念な事ですが、官僚たちの中に鼻薬を効かされて篭絡されている者がいるのでしょうね。嘆かわしい事ですわ。」

 

 そのエミリア女史の言葉に、キースは彼女たちが連れて来た官僚たちの方へ顔を向ける。官僚たちは一斉に顔を左右にぶんぶんと振った。キースは失笑する。

 

「くくく。いや、貴公らを疑っているわけではない、安心したまえ。オールドフィールド殿やミズ・エミリアが、そんな輩を連れて来るわけが無い。だが貴公らが持ち込んだ書類に、これが混ざっていた事は確かだ。貴公らはそれが可能でかつ、BYE-TEC社に篭絡されそうな同僚に心当たりは無いかね?」

「「「……。」」」

 

 官僚たちはボソボソと相談をはじめる。心当たりがありそうな、無さそうな、よくわからない様子だ。それを見遣りつつ考えを纏めるキースに、自由執事ライナーが質問をしてくる。

 

「キース大佐、いえ伯爵閣下。どう対処なされるおつもりですか?」

「この様な児戯に乗る様な相手だと舐められていては、沽券にかかわるからな。エルンスト少尉待遇曹長のところの偵察兵を、訓練がてら動かすとしよう。まあ蜥蜴の尻尾切りにあって、せいぜい官僚たちに鼻薬を効かせた実行犯の営業部員や、上手く行っても営業部長あたりまでが精いっぱいだとは思うが……。

 だがそこら辺まで証拠をつかんで叩く事ができれば、こちらを舐めた相手への意趣返しと警告には充分だろう。こちらが甘い相手では無い、と知ってもらえればとりあえずの目的は達成できる。

 ジャスティン大尉!エルンスト少尉待遇曹長を呼び出してくれ!」

「了解です、大佐。」

 

 そしてキースは書類仕事の続きに戻る。そのキースに、アーヴィング氏が語り掛けた。

 

「政治が畑違いだと仰っておられましたが……。慣れている様にも見受けられますな。」

「何、文字通り慣れで誤魔化しているだけさ。体面が大事なのは、傭兵部隊も同じだからな。貴族のそれとは若干質が違うがね。舐められては、やっては行けんよ。」

「なるほど。」

 

 そしてしばし後に、エルンスト少尉待遇曹長がやって来る。キースは彼に事情を説明し、官僚組織の内偵とBYE-TEC社の調査を命じた。後々の事になるが、結局贈収賄で官僚組織内とBYE-TEC社の双方に若干の逮捕者を出し、騒動は終息する。BYE-TEC社に対する警告は、政庁内部における綱紀粛正と言う余禄付きで成ったのである。

 

 

 

 約1週間後、キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐、ジャスティン大尉、自由執事ライナーの5名はアーヴィング氏とエミリア女史を伴って、惑星首都ワロキエに隣接して造られている大規模宇宙港ワロキエポートへとやって来ていた。彼らの視線の先には、今しがた着陸したばかりの1隻のミュール級商用降下船がある。冷却車輛と推進剤補給車輛に集られているそれには、キースたちが待ちわびた人物が乗っているのだ。

 そう、その人物とはジョナスが紹介してくれたキースの代官兼相談役となる、クリスティアン・ウォーターハウス氏である。やがてミュール級降下船の方から、宇宙港の送迎バスが宇宙港のターミナルビルへと到着。乗客たちがぞろぞろと降りて来た。しばし後、入国審査を終えた乗客たちが、ぞろぞろと宇宙港ロビーへと出て来る。キースたちは、そのうちの1人……クリスティアン氏に歩み寄った。そしてキースが彼に声を掛けようとしたとき、彼の方から先んじて挨拶をして来る。

 

「キース卿サオルジャン伯爵閣下、イーガン男爵閣下、レイディ・アーリン、私がジョナス卿バレロン伯爵閣下よりご紹介にあずかりました、クリスティアン・ウォーターハウスにございます。此度はまことに過分な扱いをいただきまして……。更にわざわざのお出迎え、まっこと有難く……。」

「ウォーターハウス殿、私がサオルジャン伯爵にしてテナール男爵、キース・ハワードだ。よろしく頼む。貴公には私がこの惑星上にいる間は相談役として、私が出征中には私の代官として、領地の統治を仕切ってもらう事になる。そしてこちらが……。」

「私がヒューバート・イーガン男爵だ、ウォーターハウス殿。私の領地も、貴公に統治を委任する事になる。なにせ私も基本、伯爵閣下に従って出征するんでな。」

「わたしがアーリン・デヴィッドソン女男爵です、ウォーターハウス殿。イーガン男爵同様に、わたしの領地も統治の委任をお願いしますね。わたしも伯爵閣下と共に出征する身ですから。」

 

 クリスティアン氏は朗らかに笑って言う。

 

「これは責任重大ですな……。非才の身ではありますが、微力を尽くす所存。それとファーストネームで結構でございますよ。殿、もいりませぬ。」

「そうか、クリスティアン。これより我々の力となってくれ、頼んだぞ。」

「はっ。この身に代えましても。……ところで、そちらの方々は?」

 

 キースは残りの面々を紹介する。

 

「こちらはサオルジャン大陸の前代官アーヴィング・オールドフィールド殿と、ラウルト大陸の前代官エミリア・ロレンツォーニ殿だ。任期は終了しているのだが、仕事の引継ぎのために残ってくれている。

 そしてこちらの2人だが、私の部隊の連隊副官ジャスティン・コールマン大尉と、自由執事ライナー・ファーベルクだ。」

「そうでしたか。私がクリスティアン・ウォーターハウスです。よろしくお願いいたします。」

 

 クリスティアン氏の挨拶に、紹介された者たちも、挨拶を返した。

 

「いえいえ、我々がこの惑星を去るまでの短い間ですが、よしなに願いますぞ。私がアーヴィング・オールドフィールドです。」

「私がエミリア・ロレンツォーニですわ。あと半月程度ですが、よしなにお願いしますわね。」

「自分が混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の連隊副官、ジャスティン・コールマン大尉です。未だ若輩の身ではありますが、より一層の努力を心がけて参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。」

「そして自分が自由執事のライナー・ファーベルクです。色々とお世話になる事も多いかと存じます。今後ともよろしくお願いいたします。」

 

 互いの挨拶が済んだのを見計らって、キースは言葉を発する。

 

「さて、私の居城であるヘルツォーク城に案内しよう。ヘリポートに、ヘリを待たせてある。軍用ヘリなので乗り心地が悪いのは勘弁してくれ、ははは。」

 

 そして彼らは、フェレット偵察ヘリコプター2機に揺られてヘルツォーク城へと向かったのだった。

 

 

 

 クリスティアン氏が到着して、すぐにキースたちの仕事が楽になったかと言うと、実はそうでもない。まず彼の到着と着任を一般に知らしめるために、キースが主体となって記者会見を開かねばならなかった。そしてその後クリスティアン氏は、アイヤゴン大陸のダヴィオン王家代官ジェレマイア・アームストロング氏、衛星レミネンのダヴィオン王家代官カルヴィン・スティーヴンソン氏にも挨拶に出向く。クリスティアン氏はキースが個人的に雇用した代官であり、ジェレマイア氏とカルヴィン氏は恒星連邦政府が任命した代官である。当然格は向こうの方が上であるので、こちらから挨拶に出向く必要があるのだ。

 まあ別大陸にいるジェレマイア氏はともかく、カルヴィン氏は衛星レミネンの利権を全て握っているとは言えども住居はサオルジャン大陸の惑星首都ワロキエにある。挨拶に行くのはそれほど時間はかからない。ジェレマイア氏に会いに行くには、航空機で飛んでいかねばならないが。

 まあその挨拶回りが終わりクリスティアン氏が実務に就くと、いきなりキース、ヒューバート少佐、アーリン少佐の仕事は楽になった。雑多な仕事は基本的に権限を委任したクリスティアン氏が処理してくれて、キースたちは彼が上げて来る報告書をチェックする事と、たまに来る「顔」としての仕事をこなせば良くなったのだ。

 そんな折、キースはコネのある人物の1人であり恒星連邦の軍事諜報局に所属しているイサーク・テラダス氏からの、HPG通信文を手に考え事をしていた。

 

(いよいよ、かなあ。「ウルフリュウキヘイダン、4ガツ23ニチ、ドラコレンゴウトノケイヤクシュウリョウ。ケイヤクノコウシンハ、オコナワズ。」……。「ウルフ竜機兵団、4月23日、ドラコ連合との契約終了。契約の更新は、行わず。」か。ウルフ竜機兵団の動向が判明したら教えてくれる様にお願いしておいたけど、義理堅く教えてくれたね。きちんとお礼をしておかなくっちゃ。

 ……今のところ、イレギュラーは発生してないな。この後ウルフ竜機兵団は惑星ミザリーでドラコ連合軍と激突し、勝利をおさめるものの甚大な被害を被るんだ。でもってウルフ竜機兵団は恒星連邦ダヴィオン家と再契約して、8月のハンス・ダヴィオン国王とメリッサ・シュタイナーの結婚式の場で、ウルフ大佐がタカシ・クリタに挑戦を叩きつけるんだよな。

 そしてタカシ・クリタの「傭兵に死を」令かあ……。俺、「傭兵に死を」令が何時出たか、正確には知らないんだよな。でも、この頃から……いや、既にドラコ連合では傭兵に対する風当たりが強くなってるんだったな。)

 

 キースは通信文をシュレッダーにかけると、徐に仕事に取り掛かった。クリスティアン氏が来てくれたおかげで余裕ができ、滞りがちであった部隊関係の仕事が満足に進む様になったのである。キースが今やっている仕事は、先日に募集を開始して最近届き始めた、歩兵、戦車兵、臨時雇用では無い助整兵、臨時雇用の助整兵の応募書類の確認である。

 まあ流石に部隊がこの規模になると、何から何まで全部キースが精査するわけにもいかない。歩兵はエリオット少佐、戦車兵はイスマエル少佐、助整兵たちはサイモン老が主として人員登用を管理している。キースは基本的にそちらから上がって来た書類を承認するだけだ。まあ正式に採用する前に、スパイの疑いが無いかどうかを表から歩兵部隊の総指揮官であるエリオット少佐たちが、裏から熟練偵察兵のアイラ曹長たちが徹底的に監査しているのだが。

 ではキースが何故これらの応募書類を確認しているかと言うと、ここに来ている書類は応募者の中でも何かしら光る物を持っている者たちの書類であるからだ。キースは現在バトルメック部隊の拡張を考えている。特に定数を満たしていない第9中隊や降下猟兵隊は、可能な限り早急に穴を埋めたい。またA大隊第1中隊を連隊指揮中隊として分離する以上、A大隊にも1個中隊分の穴ができる事になるのだ。

 それだけではなく、気圏戦闘機隊にも未だ穴は存在する。E中隊……エッジ中隊が定数を満たしておらず、予備の気圏戦闘機も2機存在していた。バトルメック部隊と気圏戦闘機隊、キースはその穴を満たす人員を、応募書類の束から探していたのである。

 勿論その穴の全てを、素人を訓練する事で埋めようなどとはキースは考えていない。ユニオン級降下船ゾディアック号を傭兵の星ガラテアへ、スカウト旅行に出してもいる。また幸いな事に、6月になればロビンソン戦闘士官学校より、4名の士官が紹介されてくる。

 

(でも……。LAM機を扱う降下猟兵隊だけは、素人を訓練した方が早そうなんだよなあ……。ゾディアック号のアリー船長たちには、指揮官として使えそうなLAM乗りを可能であれば探して来てくれるよう頼んだけれども……。LAM機自体が遺失技術機体よりも珍しい代物だしなあ。見つかる可能性は少ないと思ってた方がいいよな。)

 

 キースは一通一通の書類を精読し、鍛えればモノになりそうな人材はいないかどうかを確認して行った。

 

 

 

 その日、クリスティアン氏がある問題について上申して来た。口頭ではなしにきちんと上申書を作成しての上で、である。どうやらかなり気合が入っている模様だ。キースは唸る。

 

「むむむ……。いや、言いたいことはわかるがクリスティアン。本当に必要かね?」

「必要です。」

「しかし……。領地に拠点を持っていないイーガン男爵やレイディ・アーリンならば話はわかる。ラウルト大陸のヴィオネ市、ジロ市にそれぞれ邸宅を建てる必要があるのは、な。だが私はここ、ヘルツォーク城と言う立派な拠点があるんだが……。

 そう、例えばロビンソン公アーロン・サンドヴァル閣下は、城であるキャッスル・サンドヴァルを住居としているだろう。私の伯爵としての権威付けの意味から考えても、ヘルツォーク城があれば充分ではないかね?どうせ家を建てたところで、ほとんど住むわけでも無いのだ。」

 

 そう、この上申はキースの住居、邸宅を惑星首都ワロキエ市に造営すべきだとの物だったのだ。半ばおまけではあったが、ヒューバート少佐とアーリン少佐の邸宅も各々ヴィオネ市とジロ市に造営すべきであるとも、上申内容にはあった。使いもしない物を建設する事に抵抗感を覚えるキースの抗弁を、だがクリスティアン氏は切って捨てる。

 

「いえ、伯爵閣下。ほとんど住まないのは最初から分かっておりますが、それでも必要です。惑星首都ワロキエ市に1つ、可能であらばラウルト大陸のテナール市にも別邸を。もっともテナール市の別邸の方はまた今度、と言う事でも構いませぬ。ですがワロキエ市の本宅の方は可能な限り早目に必要です。

 それに惑星外などからお客人を迎えた場合など、何処にご案内するおつもりですか。ヘルツォーク城は軍事基地です。貴賓室などもございますが、それでもお粗末な物に過ぎませぬ。正直な話、伯爵閣下が今お住まいの司令官私室も、威厳などの面からもう少し何とかしたい所ではございますが……。

 第一、ロビンソン公が城を住居としているのが可能であるのは、かの城がヘルツォーク城が問題にもならないほど大規模であると言うのが1つ。キャッスル・サンドヴァルが豪華絢爛で純粋な軍事基地と言うよりも本宅としての機能を備えているのが1つ。そしてロビンソン公のサンドヴァル家が代を重ねた名家であるからこそ無理が効くと言うのが1つです。」

「……ぐうの音も出ないな。わかった。だが予算はどうするね?」

「今期の領地の予算には新たなご領主を迎える事もあり、既に邸宅の造営を想定した額が伯爵家諸費用に計上されておりました。これはヴィオネ市、ジロ市それぞれの予算における、男爵家諸費用にも同じ事が言えますな。前代官の方々のお心遣いでしょう。」

 

 クリスティアン氏は、うんうんと頷いている。それを見たキースは仕方ない、と肩を落とす。

 

「あー、設計は基本的には任せる。ただ、私は軍人だからな。質実剛健さを表に出した造りにして欲しい。虚飾は可能な限り取っ払ってくれると嬉しいが。」

「ご要望、確かに承りましてございます。ではご了承いただけたと言う事で、早速に候補地を絞り込んで適切な設計事務所を選び、設計を依頼したく存じます。では下がってもよろしゅうございますか?」

「うむ、退出を許可する。」

 

 一礼してクリスティアン氏は司令執務室を退出して行く。キースはやれやれと頭を振る。ちなみにヒューバート少佐とアーリン少佐は、キースの様に無駄な抵抗はせずに、あっさりと邸宅の造営に合意したらしい。どうやら両親を惑星タワスⅣに呼んで、造った邸宅に住んでもらうつもりらしい。キースは自分の邸宅に住まわせる人もいないので、管理をしてもらう人間を新たに雇わねばならない事に頭を痛めた。

 

 

 

 キースはヘルツォーク城の城壁内側を、イヴリン曹長を伴ってランニングしていた。重い足音と軽い足音が、同時に響く。と、キースが徐に独り言ちた。

 

「ついに『グレイ・デス軍団』が……。」

「キース大佐、今何と?」

「ああいや、独り言だ。……まあ、良いか。『グレイ・デス軍団』の無実が、ついに証明されたなと思ってな。」

 

 そう、先日ニュース・ネットに載っていた情報によれば、『グレイ・デス軍団』がシリウスⅤで行ったとされていた虐殺が、事実無根……と言うか、正確には『グレイ・デス軍団』の仕業では無かった事が証明されたのである。そしてキースは、それが意味するもう1つの事についても理解していた。

 

(これでおそらくは、ヘルム・メモリーコア……。いわゆるグレイ・デス・メモリーコアはたぶん発掘されたなー。あとはソレが上手く中心領域全体に広まってくれるなら……。

 いやいや、うわの空で走ってると危ない。集中しないと。)

 

 キースは走りながら考えに耽るのが危険だと、意識を切り替える。

 

「キース大佐、『グレイ・デス軍団』にお知り合いでも?」

「いや、そうじゃない。だがかの部隊は、ウチの部隊と成り立ちが少し似ているんでな。もっともウチの部隊の方が、初期条件も運もずっと良かったが。」

「そうなんですか?」

「ああ。」

 

 やがてゴール地点と決めていた本部棟入口が見えて来る。キースとイヴリン曹長はそこへたどり着くと、クールダウンのストレッチに入った。ここでキースは、ふと以前考えていた事を思い出した。

 

(うーん、まだ士官任用試験は早いかと思ってたけどなあ……。でも、最近の伸びは凄いしなあ、この娘は。過保護になり過ぎるのも、アレか?)

 

 キースは唐突に、イヴリン曹長に向かい訊ねる。

 

「イヴリン曹長、次の士官任用試験だが……。受けてみる気はあるか?」

「はい、あります!」

 

 即答だった。キースは内心少々驚く。

 

「自分から言っておいて何だが……。何ならもう少し待ってみても良いんだぞ?まあ合格するかどうかは分からんが、合格すれば今以上に責任を負う立場にならざるを得ない。」

「ですが合格できれば、今よりももっと……。その……。お力になれます、よね?」

 

 キースはちょっと焦る。

 

(今、ちょっと……。いや、ちょっとどころじゃなしに可愛かった。マテ、少し待て。落ち着け自分。よし、落ち着いた。)

「……大佐?」

「ん?いや、な。可愛い事を言ってくれると思ってな。少し感動していたところだ。」

 

 結局、キースは正直に言った。まあ少しばかり「可愛い」の意味が違うかも知れないが。それでもイヴリン曹長は嬉しかった様で、赤面しつつ微笑んだ。キースは彼女に言う。

 

「さて、では後刻時間が空いたら、士官任用試験の申込書類にサインをしてもらわねばならんから、司令執務室に顔を出せ。」

「了解!」

「よし、ではまた後でな。では解散!」

 

 イヴリン曹長はキースに敬礼をする。キースも答礼を返すと、汗を流すために男性用シャワールームへと歩きだした。彼は心の中で思う。

 

(うーむ、イヴリン曹長……。たぶん好意を持たれているとは思うんだが……。自信は持てないなあ……。この世界に生まれてから19年、前世でも○○年、女性に縁が無かったしなあ。

 もしイヴリン曹長に、本気で好かれてるとしたら、俺どうするんだ?……真面目に考えて、真面目に答えを出して、それを伝えるしか無いよな。でも先走って行動して、俺の考え過ぎだったりしたら、恥ずかしいなんてレベルじゃあ無いよなあ……。って言うか、悶死もんだ、悶死。)

 

 キースはそそくさとシャワールームへ入って行った。

 

 

 

 歩兵部隊、機甲部隊、常時雇用と臨時雇用を合わせた助整兵が、新たに雇用した新兵で数だけは完全充足となった。更に応募して来た者たちの内から、幸いなことに6名もの才ある人材――今だ少年少女と呼ばざるを得ない年齢でこそあったが――を得る事が叶う。彼らのうち4名はメック戦士訓練生、2名は航空兵訓練生となる。更にメック戦士訓練生の4名には、メック操縦技能と併せて、気圏戦闘機の操縦技能も教え込むことにになった。要は降下猟兵隊要員である。

 キースは演習場に居並んだ兵員たちを閲兵する。新兵たちは皆年若く、下手をすると幼いと言うほどの歳の者まで居る。キースはふと、感傷的になった。

 

(……頼むから、死んでくれるなよ。)

 

 歩兵や戦車兵の命は、この31世紀の戦場では紙の様に軽い。キースはこれまで歩兵や機甲部隊の戦車兵を、可能な限り大事に使って来た。今のところ、それは報われている。だがこれからもそれが続くとは言い切れない。キースの両肩に、ずしりと重い荷が載った様に彼は感じた。だが彼には潰れる事も、立ち止まる事も許されてはいない。彼は柔らかな笑みを顔に張り付けて、閲兵を続けるのだった。




さて、前回に続いての貴族生活。主人公は普通にこなしてますが、これはキャラ作成時に2,690点ももらった作成点のおかげ。能力値が最初から阿呆のように高かったので、スキルとかもかなり助かってますし。あとはジョナスとの幼少期からの付き合いは、かなり助けになっていますね。
でも、さっそくトラブルも。贈賄攻勢に出ようとした会社を1つ、思いっきり実のある警告でブッちめました。
それとイヴリン曹長。そしてイヴリン曹長。更にイヴリン曹長。以上(マテ


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『エピソード-089 戦いの影』

 色とりどりの料理がテーブル上に並び、給仕の青年や女性が談笑する人々の間を歩き回る。絵に描いたようなパーティー会場の様子だ。いや、実際にパーティー会場なのだが。パーティー会場は、以前もキース、ヒューバート少佐、アーリン少佐の授爵パーティーを開いた事もある、惑星首都ワロキエ市屈指の有名ホテルだ。

 このパーティーはキースが主催した物で、サオルジャン大陸の前代官アーヴィング・オールドフィールド氏と、ラウルト大陸の前代官エミリア・ロレンツォーニ女史の送別パーティーである。2名の前代官は、明後日の3028年05月13日に惑星タワスⅣを離れて、恒星連邦首都惑星ニューアヴァロンへと向かう予定になっていた。

 

「アーヴィング殿、ミズ・エミリア、これまでありがとう。貴方がたが任期が終わってもタワスⅣに残って色々と教えてくれたおかげで、我々が領地を拝領した後の、本当なら色々と混乱が起こってもおかしくない時期を、何事もなく乗り越えられた。」

「いや、これまで本当に助かりましたよ。貴方がたには、いくら感謝しても足りないぐらいだ。」

「お二人には、本当にお世話になりました。貴方がたの教えてくれた事は、忘れません。」

 

 キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐が口々に礼を言う。アーヴィング氏とエミリア女史は、笑顔で応じた。

 

「そう言っていただけると、こちらとしても嬉しく思いますな。」

「どうか今後とも、領民のための政を心がけてくださいましね?もっとも、ウォーターハウス殿がいらっしゃるのです。余計な心配でしたかしら。」

 

 まあ、エミリア女史の言う通りだろう。有能で実直なクリスティアン・ウォーターハウス氏が、キースたちが出征している間は代官として、キースたちが領地にいる間は相談役として、タワスⅣのサオルジャン大陸とラウルト大陸の統治に責任を持ってくれるのだ。彼がいるかぎりは、大きな問題は起きる事は無いだろう。少なくとも他の継承国家からの侵略などと言う、外圧がかからない限りは。

 ちなみにそのクリスティアン氏は、このパーティーには出席していない。本当は出席予定だったのだが、急な仕事が入ってしまったために、ヘルツォーク城の司令執務室でキースの代理として政務を執っている。そのため彼はこのパーティーに先立って時間を作り、アーヴィング氏とエミリア女史に既に別れの挨拶を済ませていた。

 なお軍務の方は、ジーン大尉が司令官代理として受け持っていたりする。ジーン大尉は近いうちに少佐に昇進予定であり、キースの中隊を連隊指揮中隊として分離した後のA大隊を任せる事になっていた。閑話休題。

 

「アーヴィング殿、ミズ・エミリア……。改めてこれまでの事、礼を言わせてもらいたい。本当に、ありがとう……。今後、貴君らの将来に、その能力と為人に相応しい成功と栄光が待っている事を、切に願う。」

 

 キースはアーヴィング氏とエミリア女史に向かい、見事な敬礼を送る。ヒューバート少佐とアーリン少佐も、それに倣った。アーヴィング氏とエミリア女史は居住まいを正すと、会釈をもって礼に代える。パーティー会場には楽団の奏でるクラシック音楽が流れていたが、その音楽は何の偶然か、少々物悲しく聞こえるパートに入っていた。

 

 

 

 パーティーから8日後の、05月19日。既にアーヴィング氏とエミリア女史は惑星タワスⅣを離れており、キース達はなんとは無しに何かが足りない様な気分を味わいつつ日々を過ごしていた。やはりおそらく、そのうちに慣れてしまうのだろうが、いましばらく彼らはこの感覚と付き合わなくてはならない様だ。

 そんな中、キースはヘルツォーク城の司令執務室で、星系のゼニス点へ到着した航宙艦インベーダー級イントレピッド号からの通信文を受け取っていた。これは惑星タワスⅣの深宇宙通信施設を介して送られてきた物である。キースの本音を言えば、キース直卒小隊のマテュー大尉が駆るバトルメック、100tアトラスには深宇宙通信アンテナが搭載されているのだから、それを使ってメッセージを受信したかった。

 しかし、そう言うわけにもいかない。ここはキースの領地がある惑星なのだ。そしてキースの領地は、この惑星で最も広い。事実上、キースはこの惑星の支配者に準ずる立場を持っている。その様な者が、ちょっとばかり高く付くからと言って、妙なところでけちる姿を領民に見せるわけにはいかないのだ。面子にも関わる。まあ、支払った金はこの惑星内の経済活動に回る事だし、無駄にはならない。

 それはともかくとして、イントレピッド号から届いた通信文は、商用航宙に出していたユニオン級降下船エンデバー号、同級レパルス号、同級ミンドロ号が帰って来たとの知らせであった。実際にそれらがヘルツォーク城の付属宇宙港まで無事に戻って来るまでは安心はできないが、儲けはかなり出た事が文中に記されていた。

 

「ふむ……。ゼニス点のジャンプポイントから事故を起こさないでこちらまで到着してくれれば、部隊の運転資金はかなり余裕を持てるな。また隊員たちにボーナスも出してやれそうだ。」

「それはいいですね。皆喜びますよ。コーヒーのお替りは?」

「ありがとう、貰おうか。」

 

 連隊副官ジャスティン大尉が差し出すコーヒーを受け取り、キースはそれを一口飲む。

 

「ふむ、相変わらず美味いな。さて……。エンデバー号、レパルス号、ミンドロ号が帰って来る頃合いだと言う事は……。予定ではほぼ同時期に、マーチャント級のネビュラ号にパーシュアー号、インベーダー級のズーコフ号が商用降下船を運ぶ仕事から帰って来る頃合いだったな。

 更にそれと前後して、ユニオン級降下船ゾディアック号を載せたマーチャント級航宙艦クレメント号がタワスのジャンプポイントに帰って来る……。ゾディアック号の兵員スカウト旅行は、結果がどうなっているか早く知りたい物だが……。」

 

 04月下旬に傭兵たちの星ガラテアへ、新たな兵員のスカウト旅行に出たゾディアック号からは、惑星ガラテアから大昔の電報の様なHPGメッセージが届いただけである。内容は、スカウト旅行の目的はなんとか達した、との事であったが、詳細はわからない。HPG通信で大量の情報を送るのは、大金がかかるのである。

 片方では金を惜しまず使わねばならないし、片方では倹約しなければやっていけない。新興貴族の中途半端な権力者は、大変なのであった。まあそれはともかくとして、ゾディアック号の帰還と、06月に入ってからにはなるが惑星ロビンソンからロビンソン戦闘士官学校の卒業生がやって来れば、部隊の拡張と再編は一段落つく事になる。

 

(今のうちに、新しい部隊編制の骨子を決めておかねばならないな……。)

 

 キースは内心で呟くと、部隊の編制表を取り出し、幹部会議に賭けるためのたたき台の書類を作るために、色々と考え始めた。

 

 

 

 そして今、キースと『SOTS』幹部士官たちは、正直なところ驚いていた。昨日05月24日にユニオン級エンデバー号、同級レパルス号、同級ミンドロ号がヘルツォーク城付属宇宙港に帰還したのと時を同じくして、ユニオン級ゾディアック号を搭載したマーチャント級クレメント号がタワスのジャンプポイント、ゼニス点に到着したのである。そしてゾディアック号がスカウトに成功した新規の人員についての詳細情報を、惑星タワスⅣの深宇宙通信施設を介し送って来たのだ。

 ヒューバート少佐が、溜息を吐いて言う。

 

「メック戦士や航空兵が、失機者や元から機体を持っていない者も多いですが、それでも28名ですか……。しかも機体を持っている者を、8名も含んでいる。」

「まあ、その内3機は損傷機ですけどね。けれど驚きなのは、LAM乗りが4名も、機体ごと加わってくれた事よね。」

 

 アーリン少佐も、この大成功過ぎるスカウト結果に唖然とした様子を隠せない。そこへジーン大尉が、厳しい視線を投げかける。

 

「ですが大佐。これだけの大量の人員確保……。もしや……。」

「ああ。やはり応募者に毒水は多少混じっていたそうだ。スパイの疑いがある者は不採用に。疑いレベルではなしに確証を掴めた者は……。まあ、例のごとく「処理」したとの事だな。」

 

 司令執務室に集まった『SOTS』幹部士官たちの一部は酢を飲んだような顔になり、そして一部は重々しく頷く。やはり部隊規模が大きくなった事もあり、『SOTS』は敵対陣営から注目されているらしい。キースは苦笑いを浮かべつつ、言葉を紡ぐ。

 

「採用者はきちんと身元も洗ってあるし、思想的にも調査済みだそうだ。まあ、Cビルはかなり使ってしまったらしいがね。まあ必要な経費だ。このままジャンプポイントからタワスⅣまで、無事に降下してきてくれる事を祈ろう。」

「アリー船長もガス副長も、歴戦の船乗りです。アデル機関長もグレン副機関長も、同じく熟練の技術者です。安心して良いでしょう。」

 

 ケネス大尉の言葉に、機甲部隊のイスマエル少佐たちや整備中隊のサイモン老らが頷きを返す。キースもまた同様に頷いて、その意見に同意を示した。そしてその言葉通り、5日後の05月30日早朝まだ暗い内に、ゾディアック号は新規参入した隊員たちを乗せて、ヘルツォーク城付属宇宙港の離着床へ無事に着陸したのだった。

 

 

 

「ほう、ヒューバート少佐とアーリン少佐の邸宅は、設計が完了したのか。」

「ええ。先ほどクリスティアンから聞かされました。」

「わたしも同じくですね。さっそく工事に入ったそうです。まあ、まだ基礎工事が始まったばかりですけど。」

 

 司令執務室での書類仕事中、キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐の3人はひと息ついて休憩を取っていた。気晴らしの無駄話として掛けられたキースの問いに、ヒューバート少佐とアーリン少佐は、笑いながら答えた。キースは朗らかに笑う。ようやくの事で、ヒューバート少佐の領地であるヴィオネ市や、アーリン少佐の領地であるジロ市に建てる、彼らの邸宅の設計が完了したのだ。アーリン少佐の言葉通りに、既に彼女らの領地では基礎工事が始まっている。

 アーリン少佐が、キースに訊ね返す。

 

「そう言えば、キース大佐の邸宅は、まだ設計は出来上がらないんですか?」

「む、ああ……。流石にな。規模が大きいので、な……。あんなに大きくなくてもいいと思うんだが……。」

「そうもいきませんよ。星系外からのお客をお泊めする場所でもあるんですし。くくく、往生際が悪いですね。」

「む……。」

 

 ヒューバート少佐にばっさりと真正面から叩き斬られ、キースはぐうの音も出ない。と言うか、それはクリスティアン氏からも言われていた事と同じであった。何度も同じ事を言われるのは、中々来る物がある。キースは連隊副官ジャスティン大尉が差し出したコーヒーのマグカップを受け取って、一口飲み込む。

 

「さ、て。演習場の手配をしなくてはな。再編制した部隊の訓練を、今のうちにしっかりやっておかねばならん。ジャスティン大尉、書類を用意してくれるか?」

「了解です、キース大佐。」

「そうですね。仕事再開するとしますか、キース大佐。」

「あら?こっちにジーン大尉から上がって来た、A大隊の再編制書類が来てるわ?」

「あ、失礼しましたアーリン少佐!」

 

 慌ててアーリン少佐の机へ向かったジャスティン大尉が、書類一式を受け取ってキースのところへ戻って来る。キースは失笑してそれを受け取った。

 

 

 

 数日後の06月03日、実機演習から司令執務室へ戻ったキースは連隊副官ジャスティン大尉より、1通のHPG通信文を受け取った。

 

「これは?」

「はっ。差出人は、バレロン伯にしてダルデスパン伯、ジョナス閣下です。内容は私信との事で、チェックしておりません。」

「私信か。しかし普通に私信なら、手紙でも送ってよこすのが普通だ。わざわざ高価なHPG通信で知らせてよこしたのは、何か理由……。」

 

 キースはそこまで言って、口を閉ざした。そして少々考えにふける。だがすぐに彼は気を取り直すと、ジャスティン大尉に向かい命令を発した。

 

「ジャスティン大尉。今から中会議室を1つ押さえてくれ。緊急の幹部会議を行う。」

「はっ!了解しました!」

 

 ジャスティン大尉は卓上の端末に飛びつき、指令室へと電話を掛ける。そしてすぐにキースに向き直ると、結果を報告した。

 

「第2中会議室が取れました!今から連盟標準時で18:00時まで押さえてあります!『SOTS』幹部士官にも召集を掛けました!」

「ご苦労。すまんが連盟標準時で06月後半以降の予定は、全てパスになる。たいした予定は入っていなかったと思うが……?」

「はっ。大きな予定は、今のところ入っておりません。」

「ならいい。第2中会議室へ向かうぞ。」

「了解です。」

 

 2人はそのまま司令執務室を出、第2中会議室へと向かう。廊下に出るとヘルツォーク城全館放送で、小隊長以上の士官および連隊副官、大隊副官、各船長、惑星学者や自由執事他の文官組など、『SOTS』の全幹部士官に対し第2中会議室へ集合する様に指示が流れていた。

 キースとジャスティン大尉が第2中会議室へ入ると、そこにはハオサン博士や自由執事ライナー、偵察兵小隊暫定隊長エルンスト少尉待遇曹長他数名が既にやって来ており、文官組は会釈を、武官は敬礼を送って来る。キースとジャスティン大尉はそれに答礼を返すと、定位置へ着座した。その後も次々に『SOTS』の幹部士官が集まり、全員が集まるとキースが会議の開始を宣言した。

 

「皆、忙しいところご苦労。これより緊急の扱いで、『SOTS』幹部会議を開く。」

「隊長、議題はいったい?」

 

 そう言ったのは、連隊指揮中隊指揮小隊の副長である『SOTS』最古参士官、マテュー・ドゥンケル大尉である。頷いたキースは、語り出す。

 

「つい先ほど、恒星連邦首都惑星ニューアヴァロンにいらっしゃる、バレロン伯にしてダルデスパン伯、『第9ダヴィオン近衛隊』連隊長ジョナス閣下からHPG通信でメッセージが届いた。恒星連邦の傭兵関係局より緊急の任務依頼があり、連絡将校リアム・オールドリッチ大尉が契約書を持ってこの惑星タワスⅣに向かっているとの事だ。メッセージには任務内容について、ざっとであるが説明があった。その内容は……。」

 

 キースの説明に、一同は真摯に聞き入る。そして彼の話が終わるや、次々に挙手が為され、質問や意見が飛び交う。そして『SOTS』は今この時より、出征の準備を整えるべく動き出した。長き休息の時は、終わろうとしていたのである。

 

 

 

 その後も、キースの持っている伝手の1人であるダヴィオン家情報工作員イサーク・テラダスより『ウルフ竜機兵団がダヴィオン家と再度契約し、恒星連邦に仕える』との情報が届いたり、キースの邸宅の設計図が完成し即時着工されたりと言った事件とも言えない事件が起きた。しかしそれらの出来事は『SOTS』自体に特に影響を与える事はなかった。

 今現在『SOTS』は、メック部隊を連隊指揮中隊+A、B、Cの各大隊+歩兵随伴支援独立小隊+降下猟兵隊+訓練中隊という構造に再編制しており、また気圏戦闘機隊もA(アロー)、B(ビートル)、C(カバラ)、D(ダート)、E(エッジ)の各中隊と、F(フィアー)の1個小隊という編制に変えていた。無論、支援をする機甲部隊や歩兵部隊、偵察兵や整備兵の隊も、当然ながらそれらに対応して、編制が変わっている。若干の欠員はあれど基本的な構成は固まっており、今のところこれ以上編制が変更される事は無いはずである。

 この新たな部隊構成に慣れるため、『SOTS』全部隊はここしばらく実機、図上、シミュレーターを問わず、必死で演習に取り組んでいた。ちなみにキース中隊を連隊指揮中隊として切り離したA大隊は、元第3中隊を第1中隊に異動し、ほぼ新人で構成された1個中隊を新たな第3中隊として加えて再出発を図っていた。A大隊の暫定指揮官は第1中隊中隊長のジーン・ファーニバル大尉が少佐待遇になって任に就いており、新たな第3中隊の中隊長はC大隊第7中隊火力小隊である対空小隊の小隊長であった、ジェラルド・ハルフォード中尉が異動して大尉待遇で暫定的に就任している。

 そして06月14日、ミュール級商用降下船に乗って、惑星ロビンソンのロビンソン戦闘士官学校より、メックを所有していない卒業生が4名やって来る。彼らはレオ・ファーニバル教官及び、ロビンソン戦闘士官学校司令官ディビット・サンドヴァル大佐の礼状を携えていた。キースは早速彼らを部隊に組み込む。と同時に彼は、ジーン・ファーニバル少佐待遇大尉と、ジェラルド・ハルフォード大尉待遇中尉を正式な少佐と大尉に昇進させた。

 

「ジーン・ファーニバル大尉。本日ただ今をもって、貴官を少佐に任ずる。この辞令と新しい階級章を受け取れ。また同時に貴官を正式に、『SOTS』メック部隊A大隊の指揮官に任命する。今後とも、より一層の努力を期待する。」

「はっ!必ずやご期待に沿ってみせます!」

「うむ……。では、ジェラルド・ハルフォード中尉。今この時をもって、貴官を大尉に任じ、正式に『SOTS』メック部隊第3中隊の指揮官に任命する。これが辞令と階級章だ。中隊指揮官の重責は、小隊指揮官とは比べ物にならない事を、これまでで充分理解していると思う。だが、貴官ならば必ずやできる。頼むぞ。」

「はっ!了解いたしました大佐!」

 

 昇進した2人は、見事な敬礼をキースに送る。キースと彼に付き従うジャスティン大尉は、答礼を返した。キースは2人に語り掛ける。

 

「たしか明日は、すぐにA大隊の実機演習だったな?来たばかりの新人どもは今日1日は休ませてやったが……。恒星連邦の連絡将校、リアム大尉が来るのは明後日の16日の予定だ。降下船の事故でも無ければな。既にリアム大尉とは、深宇宙通信施設を介して任務内容に関する情報を貰っている。今、その情報を分析させているところだ。

 リアム大尉が来たら、すぐにでもこの惑星を出立するつもりなのは、以前の会議で言った通りだ。現地ワクチンの確保などは医療チームと惑星学者チームがやっている。貴官らは、新人どもが少しでも動ける様に、僅かでも鍛えてやってくれ。何もしないよりはマシと言うものだ。」

「「了解しました!」」

「では退室を許可する。」

 

 再び敬礼と答礼を交わし、ジーン少佐とジェラルド大尉は司令執務室を退室して行く。それを見送って、キースはジャスティン大尉にぽつりと漏らした。

 

「ドラコ領域内の惑星に向かい、そこで立ち往生している味方の撤退支援、か……。」

「たしか惑星パリスⅡ、でしたね。」

「ああ。ジャンプポイントのナディール点から惑星軌道上までの時間は2日程度。強襲するに易く、護るに難い星系だな。だから、我々の任務も比較的やり易い。しかし……。そんなに簡単には行かないのだろう、な。」

 

 キースは眉を顰め、溜息を吐く。だがすぐに頭を切り替え、新たな任務に対し闘志を燃やした。前回の戦闘任務は、3024年02月04日に恒星連邦ドラコ境界域の惑星シメロンで行った戦いが最後である。それから優に4ヶ月半、『SOTS』にとって久しぶりの戦闘任務が近づきつつあった。

 




ようやくの事で、続編を投稿できました。プロット自体は前からできていたのですが、少々鬱状態に陥って、それが解消された後もなんとなくモチベーションが湧かずに書けないでいました。待っていてくださった方々、申し訳ありませんでした。
さて、今回は部隊のきっちりとした再編制と再度の新人加入、そして次の戦いが近づいてきている、と言うところまででした。部隊の最新の編制表は、ちょっと清書してからUPするので、また少し待っていただきたいです。さて、次回はリアム大尉の再登場なるか?そして撤退支援という一見地味でめんどくさくて難易度が高い任務、主人公たちはきちんと遂行できるのでしょうか!?亀更新になるとは思いますが、次回も待っていていただけると幸いです。


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『エピソード-090 パリスⅡ降下』

 ここは惑星タワスⅣの惑星首都ワロキエ、それに隣接して造られている大規模宇宙港ワロキエポートの宙港ロビー。キース、ヒューバート少佐、アーリン少佐、連隊副官ジャスティン大尉、自由執事ライナーの5名は、いましがた離着床に到着したミュール級商用降下船から降りてくる人物を待っていた。

 

「……あのミュール級、ギリランド号にリアム大尉が乗船しているのだったな?」

 

「はい、大佐。深宇宙通信施設で受け取った航宙艦からのメッセージには、そのように」

 

 ジャスティン大尉の返答に、キースは頷く。そう、今キース達は恒星連邦傭兵関係局の連絡士官である、リアム・オールドリッチ大尉を出迎えに来ていたのだ。そこへヒューバート少佐が、つぶやく様に言う。

 

「ドラコ領内で立ち往生している味方部隊の撤退支援、か……」

 

「詳しいことはリアム大尉から話を聞かねばならんがな。だが、この依頼を断ることはできん。リアム大尉が商用降下船に乗ってまで、我々に同行するためにわざわざ来るんだ。恒星連邦内での調整は、既に済んでいるんだろう。

 ……それに、ジョナスが私信という形でわざわざ知らせてくれたんだしな」

 

 言葉を交わしながらしばし待っていると、入国審査を終えた乗客たちの姿が見えた。その中の見覚えのある1人に、キース達は歩み寄る。当然ながらその人物は、リアム大尉であった。

 

「リアム大尉! よく来たな、歓迎する」

 

「キース大佐! ああいえ、失礼しましたな、伯爵閣下」

 

「ははは、気にするな。それと今、惑星タワスⅣ上では伯爵と呼んでもらわねば困るが、任務中は大佐で頼む」

 

「了解いたしました、伯爵閣下。イーガン男爵閣下も、レイディ・アーリンも、コールマン大尉もファーベルクさんも、お久しぶりです」

 

 歩きながらにこやかに会話していたキース達であったが、送迎のフェレット偵察ヘリコプターに乗り込むと、皆の顔が引き締まる。

 そしてまず、リアム大尉が口を開いた。

 

「先ほどは『任務中は』というお言葉を用いられておりましたが、それでは今回の依頼はお受けいただけるという事で?」

 

「ああ。というか、わざわざジョナスに前もって連絡させた上で、面識のあるリアム大尉を送り込んでくるぐらいだ。断れる状況では無いんだろう?」

 

「それは、まあ……」

 

「詳細を教えてくれるかね?」

 

「は。それはこちらの書類に」

 

 リアム大尉が差し出した書類を、キースは精読する。

 

「ヒューバート少佐、アーリン少佐も読んでくれ。終わったら、ジャスティン大尉に渡してくれ。

 ……ドラコ連合の惑星パリスⅡに向かい、オーガスト・マンスフィールド大佐率いる友軍傭兵連隊『マンスフィールド劫火連隊』の撤退支援を行え、か」

 

 その『マンスフィールド劫火連隊』なのだが、彼らはドラコ連合の軍事技術研究所を破壊する奇襲/破壊作戦を請け負って惑星パリスⅡを攻撃した。任務自体は成功したのだが、元から惑星上にいた敵1個連隊と、増援の1個連隊の挟撃に遭って、降下船まで帰還できなくなったとの事。

 元々2個大隊規模で連隊を名乗っていた『マンスフィールド劫火連隊』は、現在1個大隊強にまで撃ち減らされつつ、降下船の隠れ場所まで帰れずに惑星内を逃亡しているらしい。この情報を届けたのは、同部隊所属のマーチャント級航宙艦ノーヴァ号だ。ノーヴァ号は情報を恒星連邦に届けると、すぐに現地に取って返したそうである。

 

 ここで書類をアーリン少佐に手渡したヒューバート少佐が、怪訝そうな声で問う。

 

「今回の傭兵関係局からの依頼は、ドラコ領内で立ち往生してる『マンスフィールド劫火連隊』の撤退支援ですよね? でもこう言う場合『悪いメックの後に良いメックを投入』することを避けて、後々の身代金交換で捕虜やメックを取り返すのが普通じゃないんですかね?

 救援に成功しないと、味方惑星が陥落する状況でもないですし」

 

「それはですな……」

 

 リアム大尉は眉をしかめて言葉を(つむ)ぐ。

 

「その『マンスフィールド劫火連隊』ですが、彼らを支援しているパトロンが、国王派閥のそこそこ大物貴族である事が1つ。その方の顔を潰すわけにもいきませんでね。

 もう1つは、こちらの入手した事前情報に誤りがあったのですよ。元から惑星に居た『第20ベンジャミン正規軍』の動きは掴んでいたのですが……。増援の『第7アン・ティン軍団』が、あれほど早く駆け付けられる位置に居た事は掴み損ねていたんです」

 

「なるほど、その負い目がある事と、パトロン貴族の後押しで今回の作戦が決定したわけですか……」

 

「今現在、早急に行動できてかつ手が空いている連隊規模の部隊は、この『SOTS』以外にはそう多くありません。その中で、最も信頼できる部隊は、やはり『SOTS』なのです」

 

 やがてフェレット偵察ヘリコプターから、キースの居城であるヘルツォーク城が見えて来た。

 

 

 

 

 

 

 翌日の3028年6月17日、ヘルツォーク城付属の宙港施設では『SOTS』付属の降下船群が、今まさに発進準備の最終チェックを行っていた。キースがジョナスより事前に連絡をもらっていた事もあり、『SOTS』は今回の任務を受けると、あらかじめ隊内の意思統一が為されていたのだ。

 そのため今回の作戦の契約は、契約書に不備がないかを確認して即座に結ばれた。現地の風土病などのワクチン手配、バトルメックや気圏戦闘機、戦闘車両などの降下船への搭載も、あらかじめ完了している。

 

 キースはフォートレス級ディファイアント号の司令執務室で、各降下船からの最終報告を受けていた。

 

『こちらレパード級ヴァリアント号、いつでも行けるよ、隊長』

 

『レパード級ゴダード号、準備よし』

 

『隊長、レパード級スペードフィッシュ号はいつでも飛べますよ』

 

『こちらはレパードCV級アーコン号。こちらもいつでも大丈夫です大佐』

 

 他にもユニオン級のゾディアック号、エンデバー号、レパルス号、ミンドロ号、トライアンフ級トリンキュロー号、オーバーロード級のフィアレス号、サンダーチャイルド号から次々に連絡がやって来る。最後にキース自身が乗船しているディファイアント号のブリッジから報告が届いた。

 

『各降下船、出港準備整いました。無論、本船もいつでも出られます。部隊司令のGOサインが出れば、30分後の連盟標準時間09:00時から順番に発進いたします』

 

「ああ、それで頼む。そちらのタイミングで各船は順次発進してくれ」

 

『了解しました』

 

 キースは(おもむろ)に席を立つと、司令執務室の船窓から外を眺める。そこからは今回惑星タワスⅣに居残りとなる、歩兵随伴支援独立小隊と訓練中隊のバトルメックが整列しているのが見えた。更には惑星軍の戦車部隊のごく一部も、見送りにやって来ている。

 歩兵随伴支援独立小隊と訓練中隊が今回居残りとなるのは、今回の任務が撤退支援であり事実上の救出任務であるためだ。万が一の場合にある程度お客を乗せる事を考え、ユニオン級ミンドロ号をできるだけ空荷で持っていくため、それに乗せていたこれらの隊を居残りとしたのである。両方の隊は、練度も非常に低かった事もあるが。

 

 そこへ卓上に据え付けていた端末が、インターホンモードで鳴る。キースは端末のスイッチを入れると誰何した。

 

「誰か?」

 

『連隊副官、ジャスティン・コールマン大尉です。ただいま戻りました。入室許可願います』

 

『連絡士官、リアム・オールドリッチ大尉です。入室を許可願います』

 

「許可する。2人とも入りたまえ」

 

 2人は司令執務室へ入室して来ると、敬礼する。キースは答礼を返した。ジャスティン大尉は自分の机に戻ると、小脇に挟んでいた書類ケースから書類を出して分類を始める。一方のリアム大尉は、キースの傍らまで来ると話し掛けて来た。

 

「大佐、今回は任務を受けていただいて、本当にありがとうございます」

 

「いや、リアム大尉。その礼は、任務に成功するまで取っておくべきだ。正直、難しい任務になる可能性が高い」

 

「まあ、そうですね。ただ、『SOTS』なら……キース大佐なら、なんとかできると思いますよ。まあ、単なる勘なのですがね」

 

「だといいな、ははは。しかしリアム大尉も大変だな。タワスⅣに着いたばかりなのに、昨日の今日で我々といっしょに宇宙に出なければならんとは。時間があれば、タワスⅣを少し案内したんだがなあ」

 

「まあ、慣れていますよ。『上』に振り回されるのはね。……大佐、今回の任務であまり無理はなさらない様に。『上』の方も100%の達成率は無理だと考えています。できるだけ現場を引っ掻き回して、『マンスフィールド劫火連隊』がある程度形を保っている状態で脱出できれば、その程度で『上』も満足するでしょう」

 

 急に真顔になったリアム大尉に、キースも頷く。

 

「そうか。心に留め置くとしよう」

 

「お願いします。『上』も『SOTS』をここで磨り潰すつもりはさらさら無いですからな。正直、大佐と『SOTS』には色々と期待が掛かっているんですよ」

 

「ふふ、有難いと同時に身が引き締まる思いだな、期待が重いと言うのは」

 

 その後、2~3の話をしてリアム大尉は自分に割り当てられた船室へと戻って行った。今まで口を挟まずに居たジャスティン大尉が、心配そうな様子で言葉を発する。

 

「大佐……。無理はしないようにと言われても、やはり難しいんでしょうね」

 

「そう、だな。最低限『マンスフィールド劫火連隊』の部隊長と直属の隊だけでも救出すれば、面目は立つだろうが……。だが出来るならば、可能な限りの味方を救出したいものだなあ。文字通りの『友軍』だからな。まあ、現地で『マンスフィールド劫火連隊』の現状を知ることが、まず第一だ。

 無理をしなければならない状況なら、進んで無理をした方が結果としては良い場合が多い。一番まずいのは、無理をしなければならん状況なのに『無理を避けようとして下手を打つ』事だな。それだけは避けなければならん」

 

 そして出立の時刻がやって来る。キースを乗せたフォートレス級ディファイアント号以下『SOTS』降下船群は、居残り部隊や惑星軍の戦車隊が礼砲を撃つ中、上空へ向けて上昇して行った。

 

 

 

 

 

 

 数日後の6月22日、タワス星系のジャンプポイント、天の北極方向ゼニス点で『SOTS』降下船群は、航宙艦マーチャント級クレメント号、ネビュラ号、パーシュアー号、インベーダー級イントレピッド号、ズーコフ号とランデブー、ドッキングする。そして航宙艦群は即座にジャンプシーケンスを開始した。

 幾つかの星系を介して数度のジャンプを繰り返し、『SOTS』航宙艦群は目的地パリス星系のジャンプポイントである天の南極方向ナディール点に到着した。マーチャント級クレメント号のブリッジに出向いていたキースは、アーダルベルト艦長から報告を受ける。

 

「隊長、ジャンプポイントに先客が居るよ?」

 

「!! 何処の航宙艦だね? 艦長」

 

「現在照会中だよ。少し待っててくれ」

 

 果たしてその航宙艦たちの正体は、あっさりと判明する。それらは『マンスフィールド劫火連隊』の航宙艦である、インベーダー級ガルーダ号、同級ボンチューン号、マーチャント級ノーヴァ号の3隻だった。相手の代表であるノーヴァ号トレヴァー・ヒースコート艦長から通信が入る。

 

『こちらは『マンスフィールド劫火連隊』所属航宙艦ノーヴァ号艦長、トレヴァー・ヒースコート。『SOTS』と恒星連邦には、救援要請に早速応えていただき、感謝に堪えません。伏してお願い申し上げます。どうか『マンスフィールド劫火連隊』メック部隊を救出してください……』

 

「こちら『SOTS』部隊司令、キース・ハワード大佐。この度は大変だったな。無論のこと、微力ながら全力を尽くすとも。早速だが、今現在の状況で判明している事を教えて欲しい」

 

『はっ。ではまず……』

 

 ヒースコート艦長からの通信によると、6月20日の時点で『マンスフィールド劫火連隊』の偵察兵が深宇宙通信施設に接触し、残存兵力1個大隊強は未だ健在である事を伝えてきたそうだ。だがその現在位置は、彼らが逃亡中であることも合わせ、判明していない。

 一方のドラコ連合側だが、元々の惑星守備隊『第20ベンジャミン正規軍』、増援部隊である『第7アン・ティン軍団』双方とも、おおまかな位置は掴めている。もっとも、あくまでおおまかな位置でしかないが。ドラコ側の部隊の動きからすると、『マンスフィールド劫火連隊』は今現在、敵に発見されてはいない模様だった。

 

 そしてキースはヒースコート艦長からの情報とあらかじめ知らされている情報を元に、敵地の地図を頭の中に描く。彼は通信の向こうのヒースコート艦長を、力づけるように言った。

 

「ヒースコート艦長、先ほども言ったが我々も全力を尽くす。貴官は『マンスフィールド劫火連隊』の残存部隊が帰還してくる事を信じ、待っていてくれ。なんとか1兵でも多く、連れ帰って来るからな」

 

『ありがとうございます。部隊の皆の事、よろしくお願いいたします』

 

 航宙艦ノーヴァ号との通信が終わった。キースは自艦の艦長であるアーダルベルト艦長に声を掛ける。

 

「艦長、それでは我々は惑星パリスⅡへ向かい、降下するよ」

 

「うむ、味方は半壊していて敵は2個連隊。注意に注意を重ねて行って来るんだよ? そして駄目だと思ったら、ヒースコート艦長らには悪いが、諦める事も大事だ」

 

「ああ、それは重々承知、肝に銘じておく。だがね? もしかしたら、上手く行きそうだ。現状の情報では、『第20ベンジャミン正規軍』と『第7アン・ティン軍団』の連携は、あまり上手くいっていないのが見て取れる。

 もしかしたら、指揮官同士に何かしら確執なりなんなりがあるのかも知れない。まあ、追い詰められれば協力するんだろうがね。……それでは艦長、行って来るよ」

 

「うむ。……それではジャンプポイントへの無事のお帰りを、お待ちしております。いってらっしゃいませ、部隊司令」

 

 敬礼と答礼で挨拶を締めくくり、キースは航宙艦クレメント号にドッキングしている降下船、フォートレス級ディファイアント号へと立ち去っていく。しばしして、『SOTS』所属の各航宙艦から降下船群が切り離される。キース達を乗せた『SOTS』降下船群は、惑星パリスⅡへと降下開始した。

 

 

 

 

 

 

 惑星パリスⅡの衛星軌道上で閃光が(ほとばし)り、時折爆光が炸裂する。今キース達『SOTS』は、惑星地表から上がって来た迎撃機、気圏戦闘機1個航空大隊……シロネ戦闘機20機を相手取って壮絶な空間戦闘を繰り広げていたのだ。

 

 もっともこの場で戦力になるのは、『SOTS』所属の気圏戦闘機隊と、降下船そのものの火力だけが頼りだ。無理をすれば50tフェニックスホークLAMで構成されている降下猟兵隊も戦力になるかもしれないが、LAM機は変形機構に機体容量を取られている事もあり、真正面から航空戦力とぶつかり合うのは心もとない。

 更には気圏戦闘機隊においても、機体重量がそこそこから充分にある(アロー)(ビートル)(カバラ)中隊と(フィアー)小隊はともかく、軽量級で構成されている(ダート)(エッジ)の2個中隊は正面戦闘の戦力として心もとない。故に今回出撃したのはA、B、C、Fの各隊合計20機である。数は互角だが、これに降下船からの支援射撃が加わればまず敗北することは無いだろう。

 

 現に、降下殻に収まった自分のバトルメック、95tのS型バンシーに搭乗して待機しているキースの元に届く報告は、その大多数が敵機の撃墜報告であった。

 

『こちらビートル1、ヘルガ大尉。敵シロネ戦闘機を撃墜』

 

『アロー3ミケーレ中尉! シロネ戦闘機をアロー4コルネリア中尉機と共同撃墜!』

 

『こちらフィアー2、エルシー少尉! シロネ戦闘機をフィアー1グレイアム少尉機と共同撃墜するも、こちらも相打ちで機体損傷! 離脱と帰艦許可を!』

 

『こちらはアロー1、気圏戦闘機隊隊長マイク大尉っす! フィアー2は即刻離脱、帰艦するっす! フィアー1は単独での戦闘は避け、カバラ5、カバラ6の支援に回るっす!』

 

『フィアー1、了解!』

 

『隊長、こちらレパード級ヴァリアント号のカイル船長。敵機はあと残り2機だ。周囲を味方機に取り囲まれて逃げ道も無いし、あとは破れかぶれの逆襲に注意しつつあたれば……あっ!』

 

 突然カイル艦長が、驚きの声を上げる。とは言っても、その声音からすれば緊急を要する事態では無さそうだ。

 

『隊長、こちらカイル船長。残り2機の敵機は降伏の信号弾を上げて抵抗を止めたよ』

 

「了解だ。アロー1、マイク大尉! 部下に命じて、そいつらを空荷で来たミンドロ号のハッチに誘導するんだ。ただし万が一の偽装降伏にそなえて、火砲の狙いは外すんじゃないぞ」

 

『こちらアロー1、了解っす! アロー5、アロー6は降伏した敵機の誘導を! アロー3、アロー4はその後ろから見張ってるっす!』

 

 そしてキースは更に命令を下す。

 

「これより『SOTS』メック部隊は惑星上に強襲降下を行う! 目的は降下船群の着陸地点確保! 目標地点は事前ブリーフィングで説明した候補のうちで第2目標としたBポイント! 山間部に開けた盆地で、周辺を山麓に囲まれて発見され難い場所だ!

 気圏戦闘機隊の(アロー)(ビートル)(カバラ)(フィアー)各隊は降伏した敵機の収容を完了次第、自艦へ帰艦して修理、整備と補給を受けろ! (ダート)(エッジ)の2個航空中隊は至急発艦し、降下船の先導及び護衛任務につけ!」

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 ディファイアント号ブリッジより、キースのS型バンシーに通信が入る。

 

『こちらブリッジのマンフレート船長。これよりバトルメックの射出、秒読みに入ります。また地上で会いましょう、部隊司令』

 

「うむ、では頼んだぞ船長」

 

『了解です。きっちり正確に射出しますよ。……60秒前……30……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!!』

 

 そして激しいGと共に、キースのバトルメックは降下殻ごと大気圏上層部へと射出された。

 

 

 

 

 

 

 樹木をメックで引っこ抜き、地面をドーザーブレードを着けた戦車で(なら)し、そこに鉄板を並べて敷いて行く。そこにはあっという間に、即席の滑走路が出来上がった。

 レパード級、レパードCV級、トライアンフ級の航空機型降下船は、垂直離着陸するよりは滑走路を使って離着陸した方がずっと推進剤の節約になる。また気圏戦闘機も、滑走路があった方が運用し易いのは当然の事であった。

 

「キース大佐、偵察兵各員は既に『マンスフィールド劫火連隊』の捜索と、『第20ベンジャミン正規軍』、『第7アン・ティン軍団』の偵察に出発いたしました」

 

「ご苦労、ジャスティン大尉。整備と推進剤の補給が完了したら、気圏戦闘機隊D、E中隊の機体も偵察に出すように通達してくれ」

 

「はっ!」

 

 ここは『SOTS』が強襲降下して占拠した、周辺を山麓に囲まれた小さな盆地である。幸いな事に、この地点には人の手が入っておらず、周辺には街どころか村落、集落すら存在しない。念のために強襲降下はしたものの、実際のところその必要性は無かったかもしれない。

 

 キースは内心で思う。

 

(さて、とりあえずの拠点はできたが。発見されていないと楽観するわけにもいかないな。場合によってはすぐにこの場所も捨てられる様にしないと。移動先の候補は、現状4つ、か。

 さて、できるだけ早目に『マンスフィールド劫火連隊』の位置を掴まないとなあ。『第20ベンジャミン正規軍』、『第7アン・ティン軍団』の情報も。可能なら、『マンスフィールド劫火連隊』の残存部隊を全員連れて、惑星を脱出しないと)

 

 流石のキースと『SOTS』でも、2個連隊を相手に真っ向から戦えるとは思っていない。彼にできるのは戦線を引っ掻き回し、『マンスフィールド劫火連隊』に脱出の機会を作ってやる事ぐらいだ。そのためにも、正確な情報は必要なのである。

 

 やがて12機の軽量級気圏戦闘機が、2機1組になってあちらこちらの方角へと飛翔して行く。D中隊とE中隊の機体である。それを眺め遣ると、キースは後ろに着陸している降下船、フォートレス級ディファイアント号の方へと歩き始めた。




 本当に申し訳ありません。超亀更新になってしまいました。今後も更新は遅れに遅れるかと思いますが、それでも少しずつ書き進めるつもりではありますので、どうかよろしくお願いいたします。
 さて今回はいよいよ主人公たち『SOTS』の出撃です。目的地はドラコ連合の領域内ぎりぎりにある、惑星パリスⅡ。そこにある軍事技術研究所を破壊しに行って、目的は達したものの下手を打って逃げ損ねた味方部隊『マンスフィールド劫火連隊』の撤退支援です。
 敵は元々そこの惑星に居た1個連隊と、近場に居て急遽増援に来た1個連隊。そいつらが今どのぐらい消耗しているかは不明ですが、少なくとも『マンスフィールド劫火連隊』は半分まで撃ち減らされてます。いや、元々2個大隊規模で連隊を名乗ってたんですけどね。
 2個大隊で比較的身軽で、その上である程度の攻撃力が見込める事、降下船と航宙艦を独自で保有している事、恒星連邦の大物貴族がパトロンに付いていて、信頼が置けた事などでこの任務に送り出されたんですが。惑星守備隊『第20ベンジャミン正規軍』については恒星連邦の情報部により調べがついてたけれど、『第7アン・ティン軍団』が容易に救援に来られる位置に居た事は、調べ損ねてたんですな。
 見事軍事研究所を破壊して『さあ逃げよう!』というところで『第7アン・ティン軍団』が空から降って来まして。と言うわけで、責任はどっちかと言うと恒星連邦当局側に比重が。流石に見捨てたら後ろめたいです。
 そんなわけで、『SOTS』にお鉢が回ってきました。


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『エピソード-091 動けない味方と動き出した敵』

 連盟標準時で3028年6月29日、キース達が今現在の拠点にしている山中の盆地を確保して、2日目の事である。

 

「……それで、『第20ベンジャミン正規軍』と『第7アン・ティン軍団』が先を争う様にして出撃したんだな?」

 

「はい、アレクセイ軍曹の第4偵察兵分隊が『第20ベンジャミン正規軍』の動向を、ベネデッタ軍曹の第5偵察兵分隊が『第7アン・ティン軍団』の動向を追跡してチェックしています。

 そして『第20ベンジャミン正規軍』は本拠地であるミストラ城から緊急出撃、『第7アン・ティン軍団』も宇宙港バナスラポートに停泊していた自部隊の降下船から次々に緊急発進を」

 

「なるほど、それで俺の休憩中に指揮を預かっていたアーリン少佐が、奴らの行く手に先んじて、偵察中の気圏戦闘機を向かわせたのか。うん、アーリン少佐の判断を、俺も支持する」

 

 寝ていたところを緊急の報告と言う事で叩き起こされたキースだったが、副官のジャスティン大尉に文句のひとつも言わず頷く。キースは急ぎトランクスとTシャツ一枚になるとガウンをはおる。そして机上の端末から部隊に緊急の招集をかけると司令執務室を出て、フォートレス級ディファイアント号の廊下を小走りにメックベイに急いだ。

 ちなみにキースの身体に合う冷却パイロットスーツは、未だに手に入っていない。流石に『SOTS』もこのぐらいの規模になると、1個中隊あたり1~2人は冷却パイロットスーツを手に入れている者も居る事は居る。だがやはり、キースの巨体に見合う冷却パイロットスーツを手に入れる事は、かなりの難事だ。財産的には全然無理では無いのだが、ブツそのものが存在しないのはどうしようも無い。

 

 キースが自分のバトルメック、95tのS型バンシーにたどり着いたとき、彼の小隊メンバーもその場に駆け付けたところだった。マテュー大尉とアンドリュー准尉はキース同様に半裸にガウンをはおっている。だがエリーザ准尉は先日ようやくの事で手に入れた、冷却パイロットスーツを着用していた。

 

「隊長、緊急事態か?」

 

「アンドリュー准尉、おそらく間違いない。敵部隊が緊急発進した。下手をすると、『マンスフィールド劫火連隊』の残存部隊が発見された可能性が高い。各自メックで待機、後の命令はコクピットで受けてくれ」

 

「「「了解!」」」

 

 一同は、急ぎ各自の機体へと乗り込む。キースは現在アーリン少佐が指揮を執っている、オーバーロード級サンダーチャイルド号のブリッジへと通信回線を繋いだ。

 

「こちら部隊司令、キース・ハワード大佐。アーリン少佐は居るか?」

 

『こちら降下船サンダーチャイルド号船長、レオニード中尉。アーリン少佐は、現在自分のバトルマスターに走ってるところです。少佐は自分かキース大佐が指揮に復帰するまで、自分に指揮権を預けました。大佐、指揮権をお返ししてよろしいでしょうか?』

 

「うむ、了解だ。では報告してくれ。俺が知ってるのは、敵の2個連隊が緊急発進した事と、アーリン少佐がその敵の行く手に偵察機を飛ばしたって事だ。その後の展開を報告するんだ」

 

 レオニード船長は問われたことに対し、即座に回答する。

 

『はっ。アーリン少佐はメックベイに走る前に、気圏戦闘機隊(ダート)中隊機、ダート5と6の分隊(エレメント)を敵が向かっていると思しき方角へと飛ばさせました。それでつい先ほど、AL-0272のNo.1101地点の峡谷内に、『マンスフィールド劫火連隊』の残存部隊が隠れ潜んでいるのが確認取れました』

 

「そうか。……メックの標準的な移動速度なら、敵が向こうに到達するのは現地時間で明日の正午過ぎ、連盟標準時だと05:30頃か。向こうと連絡は取れるか?」

 

『ダート5のスパローホークが通信を試みてます』

 

「そうか。繋がったら、ダート5とこちらの降下船ディファイアント号のシステムを介して、俺のS型バンシーまで通信回線を構築してくれ。それと他に緊急事態が発生したら、即座に報告を」

 

『了解です』

 

 キースはしばしそのまま待機した。やがてレオニード船長の声が聞こえてくる。

 

『キース大佐! 向こうの連隊副官と通信が繋がりました! 今、回線を切り替えます!』

 

『……あー、こちら『マンスフィールド劫火連隊』の連隊副官、ブルース・ファリントン大尉です。聞こえますか?』

 

「聞こえる。こちらは恒星連邦より依頼を受け、『マンスフィールド劫火連隊』の撤退支援任務にあたっている混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令、キース・ハワード大佐だ」

 

『はっ! ほ、本当に!? た、助かるのか!? あ、い、いえ、失礼いたしました! 本来ならこちらの部隊司令であるオーガスト・マンスフィールド大佐が直接お話しするべきなのでしょうが……。いえ、今呼びにいかせているので、あと20~30分もすれば』

 

 キースは相手の言葉を遮って言う。

 

「すまないが、あまり待てん。敵の連隊、『第20ベンジャミン正規軍』『第7アン・ティン軍団』が根拠地より緊急出撃した。目的は、間違いなくそちらだ。我々がそちらを発見できたのも、奴らが緊急出撃した方角に気圏戦闘機を飛ばしたからだ」

 

『ええっ!?』

 

「おそらくそちらの近くに、敵の偵察兵が潜んでいるんだろうな」

 

 と、その時通信の向こう側でドタバタと音が聞こえたかと思うと、あちらの連隊副官ブルース大尉ではない中年、もしくは初老程度の男の声が響いた。

 

『あー、今代わりもうした。こちら『マンスフィールド劫火連隊』連隊長のオーガスト・マンスフィールド大佐じゃ』

 

「マンスフィールド大佐……。こちらは混成傭兵連隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の連隊長、キース・ハワード大佐です。こちらの任務は、そちらの隊の撤退支援です。それで今現在、大きな問題が。敵の2個連隊がそちらの隠れ場所を突き止めて、出撃した模様です」

 

『む、まずいの……。こちらの偵察兵からは連絡が無かったところを見ると、もしや始末されたか? ハワード大佐、こちらは今しがた、メック戦士2名の長時間かかった手術が終わったばかりでな。今すぐに動かすと、命にかかわる。敵の到着予想時刻はどのぐらいじゃの?』

 

「現地時刻で明日の正午過ぎ、連盟標準時で05:30かと。ただし標準的なメックの移動速度で計算しているので、敵が高機動メックを中心にした部隊を抜き出して進発させた場合は……」

 

 通信装置から、マンスフィールド大佐の苦り切った声が響く。

 

『……まずい、の。軍医の見立てでは、明日の正午ごろには一応機動病院車(MASH)でなら運べるじゃろうと言う話なんじゃが。やつらのメックそれ自体は予備メック戦士が動かせば運べるが……。じゃが手術したメック戦士2人は、今はどうしても動かせん』

 

「く……」

 

『最悪の場合、奴らと軍医には降伏させて、本隊はここから逃走するしか無い、か……。なれど、おそらくは敵の偵察兵がこちらを監視しておるのじゃろうて。脚駆動装置にダメージを受けて移動速度が鈍っているメックも複数ある。今からでは結局のところ、逃げても敵に捕捉されてしまうのが落ち、じゃのう。

 なれば、乾坤一擲、死中に活を求めて最後の一戦を挑む方がマシ、かも知れん』

 

 キースは頭の中に、『マンスフィールド劫火連隊』が隠れ潜んでいる峡谷付近の地図を描く。そして幾つかの方策を検討する。

 

(くっそ、リアム大尉は無茶するなって言ってたけどさ。早速に無茶しないといけない場面になって来たじゃないかよ。これは敵部隊2つが、それぞれどう動くかにかかってるな……)

 

 そして彼は可能な限り気を落ち着けて、通信の向こうのマンスフィールド大佐に語った。

 

「まだ自棄(ヤケ)になるのは早いです。まだ時間はあります。最後まで足掻きましょう」

 

『う、うむ。そうじゃの』

 

「それではいったん通信を終了します。こちらでも情報を収集し、作戦案を練りますので。新たに判明した事があれば、またお伝えしますよ」

 

『うむ、それではまた後程に』

 

「はい。それでは」

 

 マンスフィールド大佐との通信は切れた。キースは急ぎ、気圏戦闘機部隊(ダート)(エッジ)中隊や各偵察兵分隊に指示を出し、敵である『第20ベンジャミン正規軍』『第7アン・ティン軍団』の動きについての情報を収集させる。情報が集まるに従い、キースの頭の中に浮かんだ思い付きが、少々賭けの要素は強いが作戦案としてまとまりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 多数の降下船が空を飛翔する。これらは『SOTS』の降下船群だ。キースはその中の1隻、フォートレス級ディファイアント号のメックベイに収容された1機のバトルメック、95tのS型バンシーから全部隊に指示を出している。

 そこへディファイアント号のブリッジから、キース機に報告が入る。マンフレート船長は、彼の所を中継点として集まった情報を、キースに伝えた。

 

『キース大佐、『第20ベンジャミン正規軍』の方は残念ながら真正面から目的のAL-0272、No.1101地点の峡谷へ向かっています。進軍ルートは、5通り予想したうちの1番目、完璧にまっとうな普通の進軍路です。』

 

「そうか……。残念だ」

 

『ですが『第7アン・ティン軍団』の方は、ちょっとばかり奇をてらった模様ですな。今しがた、本道を外れて狭隘な峡谷に踏み込みました。この峡谷を踏破すれば、『マンスフィールド劫火連隊』が隠れてる峡谷の背後側に出る事ができます。

 何事もなければ、敵は最終的には非常に有利な立ち位置から『マンスフィールド劫火連隊』を攻撃できますよ。……ええ、何事もなければ。進軍ルートは、こちらも5通り予想したうちの3番目ですね』

 

「それは有難い。では計画通りに、地上待機させていた第1、第2偵察兵分隊を目標地点にフェレット偵察ヘリコプターで送るんだ。あとは先に下した指示通りに」

 

『了解です』

 

 やがて『SOTS』の降下船群は、そこそこの広さを持つ平野へと着陸する。キースは命令を下し、『SOTS』のバトルメックと機甲部隊、歩兵戦力を降下船から降ろした。ここから先は降下船を着陸させるのに不適切な、狭隘(きょうあい)峻険(しゅんけん)な地形が続く。

 

(さて、ここから先は地べたを歩いて、『マンスフィールド劫火連隊』との合流を目指して進まなきゃならないなあ。『第20ベンジャミン正規軍』が『マンスフィールド劫火連隊』と戦端を開く前に、『第20ベンジャミン正規軍』に『SOTS(ウチ)』が攻撃をかけられるといいんだけどさ)

 

 そして『SOTS』降下船群は、搭載していた部隊を降ろすと再度飛び立つ。ただし最初に確保していた拠点には戻らない。降下船の着陸地点として目をつけていた残りの地点のうち、『マンスフィールド劫火連隊』が今現在隠れ潜んでいる場所から最も近い地点に移動することにしたのだ。

 同時に『マンスフィールド劫火連隊』の降下船群も、遠い今現在の隠れ場所から位置を移動して、『SOTS』降下船群と合流する事になっている。『マンスフィールド劫火連隊』連隊長マンスフィールド大佐は当初、降下船を飛行させてその位置を変更する事に不安を持っていた。降下船の推進剤が、ジャンプポイントに到達するための分量を割り込む可能性があったからである。

 だがキース達『SOTS』の降下船は、推進剤にかなり余裕があった。であるので、必要とあらば『マンスフィールド劫火連隊』の降下船に一時的に推進剤を融通する事を約束したのである。まあ、そうなると恒星連邦の領域に帰還した際に、宇宙空間でタンカーとランデブーして、推進剤の補給を受けないといけなくなるのだが。

 

 キースは『SOTS』の全部隊に通信を送る。

 

「さて……。では我々は、『マンスフィールド劫火連隊』との合流を目指し、進軍する事になる。ただ、おそらくは合流直前で敵のメック連隊『第20ベンジャミン正規軍』と衝突することになる。単純な火力の量では、気圏戦闘機隊と機甲部隊の支援がある『SOTS(ウチ)』の方が圧倒しているが、油断は禁物だ! 注意してあたれ!

 もう1つの敵メック連隊、『第7アン・ティン軍団』についても『マンスフィールド劫火連隊』を狙って進軍しているが……。こちらに関しては、足止め策を用意している。2個連隊といっぺんに衝突する事態にはならん」

 

 ここでキースはあえて断定的に言ったが、この足止め策が上手く行くかどうかは賭けの要素がある。上手く行かなかった場合は、『マンスフィールド劫火連隊』の幾ばくかなりとも連れて逃げ出さねばならないだろう。

 

 キース達『SOTS』は、粛々と進軍を開始する。行く手には傷ついた友軍が、助けを待っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 キースのS型バンシーに、第4偵察兵分隊からの報告が入る。

 

『こちら第4偵察兵分隊、アレクセイ軍曹。敵『第20ベンジャミン正規軍』は進軍速度を上げています。雰囲気が、ちょっとばかり不自然です』

 

「なるほどな。『SOTS』が追いつく前に、『マンスフィールド劫火連隊』を叩き潰すつもりの様だな。了解した、こちらも進軍速度を上げるとしよう。引き続き、敵部隊を追跡して状況報告してくれ」

 

 頭の中で会敵予想ポイントを少しばかり修正したキースは、全軍に命じてそのスピードを上げる。『マンスフィールド劫火連隊』残存部隊が蹂躙される前に、なんとか『第20ベンジャミン正規軍』に追いつかねばならない。

 そんな中、今度は第1偵察兵分隊からの通信が入った。こちらは第2偵察兵分隊と共に、『第7アン・ティン軍団』の足止め策を行うために出動させた隊だ。

 

『こちら第1偵察兵分隊、エルンスト少尉待遇曹長。現在我々は、敵進軍路の前方にある岩山に陣取っています。爆薬は既に仕掛け終わりました。ネイサン曹長のチーム、第2偵察兵分隊も既に作業完了したと報告を受け取っています』

 

「ご苦労。では早速起爆してくれ。『第7アン・ティン軍団』は重量級メックが多く火力や耐久力が高いが、代わりにジャンプジェットを積んだ機体は数少ないと第5偵察兵分隊のベネデッタ軍曹から報告を受けているからな」

 

『了解です。では起爆いたします』

 

 そして通信の向こうから、轟音が響く。

 

『こちらエルンスト少尉待遇曹長。成功です。峡谷の両側の岩山に仕掛けた爆薬により、崖が崩落。峡谷を完全にふさぎました。ジャンプジェットを搭載していないメックでは、通ることは不可能ですね。通常規模の崖崩れならばメックの手で岩を除ける事も出来たんでしょうが……。この規模では、通れる様になるまで数週間の専門技術者による工事が必要でしょう』

 

「よくやってくれた。これで『第7アン・ティン軍団』は、今まで辿って来た道を逆戻りして峡谷から出て、今度は表道を大回りして来なければならない。大きく時間稼ぎができたぞ。それではそちらは撤収してくれ」

 

 そう言っている間に、その『第7アン・ティン軍団』を追尾している第5偵察兵分隊のベネデッタ軍曹から、通信の接続要求が来る。キースは急ぎ通信を繋いだ。

 

『こちらベネデッタ軍曹、第5偵察兵分隊です。峡谷を進軍していた『第7アン・ティン軍団』ですが、エルンスト少尉待遇曹長とネイサン曹長のチームが起こした崖崩れで、道が埋まって立ち往生しています。

 あっ、今しがた敵は来た道を逆戻りし始めました。ただ、焦った様子が見受けられます。進軍ペースはちょっと、いえ、かなり無理をして可能な限りの最速で移動していますね』

 

「ベネデッタ軍曹、そちらのチームは引き続き『第7アン・ティン軍団』を追跡してくれ。だが無理をして発見される事の無い様にな? 万一発見されたら、追跡は中断して何が何でも逃げて来い」

 

『了解です』

 

 通信が終わると、キースは少々考え込む。賭けはあたった。これでしばらく『第7アン・ティン軍団』は気にしないで良い。だが『第20ベンジャミン正規軍』とはまっとうに戦わねばならない模様だ。

 キースは全軍に行軍速度を上げる事を命じると、ジャスティン大尉の指揮車両に『マンスフィールド劫火連隊』との連絡を絶やさない様にあらためて通達。そして自身は頭の中に描いた会敵予想地点の地図上で、何度も戦いをシミュレートするのだった。

 

 

 

 

 

 

 とうとう『SOTS』は、『第20ベンジャミン正規軍』に追いつく事に成功する。山が多く、水地がほぼ無い平地の少ない地形で、大軍同士がぶつかり合うには難しい土地だ。『第20ベンジャミン正規軍』側は、既に陣形を整えて展開を終えている。どうやら『マンスフィールド劫火連隊』残存部隊と戦う前に、『SOTS』を打ち破らねばならんと決心した模様だ。

 

(さて、敵さんは手堅い陣形を整えてるなー。だがアレクセイ軍曹の第4偵察兵分隊の報告では、2割から3割は『マンスフィールド劫火連隊』との戦いによる損傷が残っている模様だとの事。ミストラ城という理想的な修理環境があっても、完全状態には持っていけてなかったみたいだな)

 

 キースはこちらも陣形を整えて、静々(しゅくしゅく)と部隊を前進させる。あと少しで双方の前衛が長距離ミサイルの遠距離射程に入る、というところで事態は動いた。

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 キースはあらかじめ気圏戦闘機隊(エッジ)中隊の機体の一部を高高度偵察に飛ばし、敵陣の様子を掴んでいたのだ。そしてボールドウィン・アクロイド軍曹のスナイパー砲車両と、サイモン老の機動ロングトム砲に、あらかじめ砲撃地点と砲撃開始時刻を伝えて砲撃を行わせたのである。

 スナイパー砲の目標となったのは、高度のある山地を確保していたカタパルトと、その両脇に居たデルヴィッシュ、トレビュシェットだ。一方ロングトム砲に狙われたのは、別の山地で『SOTS』を狙っていたK型アーチャーと、その両脇にいたこれもK型アーチャー、K型クルセイダーである。

 その後も連続して、『SOTS』側の間接砲撃が敵陣の要所を狙って叩いて行く。更には『SOTS』降下船群から発進した、気圏戦闘機隊(アロー)(ビートル)(カバラ)(ダート)(エッジ)(フィアー)の各隊が来援する。

 

「よし! A、B、Cのメック大隊は前進! その背後に機甲部隊が続き、メック部隊を支援せよ! 降下猟兵隊のLAM機はエアメック形態で敵後背に回り込み、いやがらせ攻撃を繰り返せ! ただし全員、味方の間接砲撃にはあたるなよ!?

 気圏戦闘機隊は今回基本的に地上戦力の支援専念を! スナイパー砲ボールドウィン軍曹は、前もって指示した地点に繰り返し砲撃を! サイモン大尉のロングトム砲はAL-0263のNo.1331地点、No.1338地点、No.1512地点に撃った後、敵司令部のあるNo.2236地点に2発、そして砲撃を避けて移動すると思われるNo.2238地点に2発撃ちこむんだ!」

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 連続して、間接砲撃の砲弾が戦場に落着する。敵メックは籠っていた優位地形を捨てて高地を下りてくるか、あるいは山地に(こだわ)ってその場で砲弾の雨に叩かれて倒れ伏す。それでも敵は、流石にドラコ連合の正規軍だ。致命的ではないものの、相手も『SOTS』のバトルメックに相応の損傷を与えていた。

 

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

「連隊指揮中隊、前進! 勝負を決めるぞ!!」

 

 サイモン老のロングトム砲が、敵司令部に着弾した。敵の動きが一気に浮足立つ。キースは予備戦力となっていた、連隊指揮中隊を投入する。

 マテュー大尉のアトラスが先頭に立ち、エリーザ准尉のストーカーがそれに護られつつ前進する。粒子ビームの乱射でそれらを支援しつつ、アンドリュー准尉のオウサムが歩き出し、それと並んでキースのS型バンシーも粒子ビーム砲2門と大口径オートキャノンを撃ちながら進む。

 キース直卒の指揮小隊に続き、火力小隊の『機兵狩人小隊』が前進し、偵察小隊が纏わりついて来る敵機の散発的な攻撃を露払いする。

 

 この場での戦闘は、勝敗の決着が付きつつあった。




 続編、投稿いたしました。今回主人公キースは、2つある敵連隊の片方を奇策で足止めし、もう片方は正攻法で叩いています。まあ奇策で足止めされた方も、正攻法ではなく奇をてらった戦術に出ようとしたのが、付け込まれる隙になったのですが。
 この足止めされた1個連隊が、まっとうにもう1個連隊と連携を取って進軍してたら、いかに主人公と言えども『マンスフィールド劫火連隊』の残存部隊を救うのは難しいなんてもんじゃありませんでした。せいぜいが部隊司令とその直属の1個中隊を救えれば御の字とかのレベルです。でも敵の失策に付け込む事で、希望が見えてきました。
 でもって、実のところ『SOTS』の戦闘力は単純計算でメック1個連隊分を超えています。気圏戦闘機が多数、大隊クラスの戦力はありますし。防御力はともかく単純に火力ではメックに匹敵する戦車、機甲部隊の支援射撃もあるので。しかも前回の戦いでは新兵だった連中も、既に一皮むけて熟練に化けてますからね。
 しかし連隊規模になると、間接砲の数が微妙に足りませんねえ。機動ロングトム砲が1輌とスナイパー砲車両が1輌だと。もう少し間接砲を増やすには、降下船1~2隻と航宙艦が1隻欲しいですねえ……。


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『エピソード-092 撤退支援と言うよりは救出』

 いま一歩の位置まで『マンスフィールド劫火連隊』に迫っていた『第20ベンジャミン正規軍』は、それを阻止せんとする『SOTS』との戦闘により1/4強のバトルメックを撃破もしくは鹵獲された。『第20ベンジャミン正規軍』はやむなく、しかし整然と撤退を開始。キースは無理な追撃は控え、撤退する敵を見送った。

 戦闘はキース率いる『SOTS』が勝利したものの、全く損害が無かったわけではない。致命的な損傷は受けてはいないものの、矢面に立ったA、B、C大隊のバトルメックは相応に装甲板を削られている。たとえばC大隊に所属する第9中隊は偵察中隊としてほぼ中軽量級で構成されているため、真正面からの戦闘であった今回は損傷度合が大きい。今後の戦闘に参加させるのは不安が残る。

 

 そんな中、『マンスフィールド劫火連隊』からの通信がジャスティン大尉の指揮車両を介し、キースの機体に入る。キースは急ぎ応答した。

 

「こちら『SOTS』部隊司令、キース・ハワード大佐」

 

『こちらは『マンスフィールド劫火連隊』部隊司令、オーガスト・マンスフィールド大佐。ハワード大佐、見事な勝利、おめでとう。こちらも物見の兵を出していたんじゃがの。それからの報告でのう。

 いや、こちらもそろそろ負傷者を動かせそうじゃて。生き残っている偵察兵にも、撤退命令を出したわい。合流して、急ぎ降下船まで赴かんと』

 

「そうですね、マンスフィールド大佐。そちらから見て、南西に5km地点にある程度の広さの土地があります。そこで落ち合うのはいかがでしょう」

 

『うむ、それでこちらはかまわんとも。ではこちらは至急出立するとしよう』

 

 マンスフィールド大佐との通信を終えると、次にキースは『SOTS』の降下船と連絡を取る。彼はフォートレス級ディファイアント号に通信を接続した。

 

「ディファイアント号、応答せよ。こちら部隊司令、キース大佐。ディファイアント号……」

 

『こちらはディファイアント号船長、マンフレート中尉です』

 

「マンフレート船長、こちらはとりあえず1回戦目は勝つことができた。気圏戦闘機隊をそちらに帰したから、受け入れと補給、整備を頼む。特に(ダート)(エッジ)中隊の軽量級気圏戦闘機は、すぐに偵察に出すから大至急でな。

 それと、もう少しで『マンスフィールド劫火連隊』と合流できそうだ。そちらは『マンスフィールド劫火連隊』の降下船群と合流できたか?」

 

『気圏戦闘機の件は、了解です。『マンスフィールド劫火連隊』の降下船は、既に合流済みで、こちらのオーバーロード級フィアレス号とサンダーチャイルド号から推進剤を分けてやってます。恒星連邦に戻ったら、宇宙空間でタンカーから推進剤を買わないと……。

 あ、ちょっとリアム大尉がお話がある様なので、代わります』

 

 通信機のスピーカーから、回線を切り替えるかすかな雑音が流れ出る。そして恒星連邦の連絡士官、リアム大尉の声が聞こえて来た。

 

『大佐、こちらリアム大尉です。結局、ちょっと無理をする羽目になりましたな』

 

「そう言うな。と言うか、まだ無理は終わっていない。『第20ベンジャミン正規軍』は退(しりぞ)けたが、『第7アン・ティン軍団』は足止めを食らわせて回り道をさせただけで、健在なんだ。『マンスフィールド劫火連隊』のメックは脚部の駆動装置に致命打をくらってる機体も多く、足が遅い。……追いつかれる危険も高いんだ」

 

『……大佐。わたしには『SOTS』をできる限り無事に帰還させるという使命もあるんです。たしかにこの任務の依頼書を持ってきたのもわたしですが……。『上』の方では『マンスフィールド劫火連隊』も助けたいですが、『SOTS』をこの件で消耗させ、磨り潰してしまうのは絶対に避けろ、と』

 

「うむ……。リアム大尉も大変だな。無茶振りされて。だがここで『マンスフィールド劫火連隊』を犠牲にでもしようものならば、『SOTS』の名に傷が付く。それも致命的な、な。

 なに、偵察兵からの報告では『第7アン・ティン軍団』は『マンスフィールド劫火連隊』との戦いの傷が、まだ色濃く残っているとの事だ。こちらも今しがたの戦闘で傷を受けたが、致命傷は無い。……なんとかしてみせるさ」

 

『……了解です。くれぐれも、ご無事で』

 

 リアム大尉との通信を終えると、キースは『第20ベンジャミン正規軍』と『第7アン・ティン軍団』を追跡させている、第4、第5偵察兵分隊を降下船まで撤収させる事にする。今後は(ダート)(エッジ)中隊の軽量級気圏戦闘機による高高度偵察に切り替えるのだ。

 偵察兵による地上からの偵察の方が事細かに情報を得られるのは確かだ。だが少なくとも、キース達主戦力が降下船に帰還するよりも先に偵察兵を戻しておかねばならない。メック部隊や機甲部隊などが戻り次第、降下船群は即座に発進して惑星を撤退せねばならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 整然と並んだ、バトルメックの列が進む。それらには輸送用の網に包まれた、戦利品の損傷バトルメックが背負われていた。更にそれに追随して戦車の群れ、歩兵や捕虜を乗せたAPC(装甲兵員輸送車)、指揮車両や輸送車両、数台の機動病院車(MASH)が走行する。

 今現在、『SOTS』と『マンスフィールド劫火連隊』は合流を果たし、出せる全速で降下船の着陸地点まで急いでいた。もっとも『マンスフィールド劫火連隊』のメックは脚部の駆動装置がやられて速度が出せない機体も多い。これが『SOTS』のメックだけであれば、戦利品を捨てて速度を稼ぐという選択肢もあったのだが、この状況下ではその意味も無い。

 

 そんなさ中、キースのS型バンシーにマンスフィールド大佐のD型マローダーから、通信が入った。カーキ色をしたマンスフィールド大佐のD型マローダーは、あちこちに着弾痕は見受けられ損傷はあるものの、移動速度には問題は無い様子だ。

 

『ハワード大佐、敵の動きは今現在どうなっておるのかの?』

 

「気圏戦闘機による高高度偵察を行いました。それによると、『第20ベンジャミン正規軍』は前回の戦闘で受けた損害に耐えきれず、本拠地であるミストラ城に退却した模様です。一方の『第7アン・ティン軍団』ですが、あちらは執拗に我々を追跡していますね。

 ……残念ながら、あちらの足の方が速い。このままだと降下船に到着直前で追い付かれます」

 

『……対策は?』

 

「降下船群の着陸地点より前で、『SOTS』は足を止めて迎え撃ちます。既にその場所には、降下船に残してきた整備兵たちの手によって、地雷原を敷設中です。更にその場所には距離的に、『SOTS(ウチ)』のフォートレス級に装備されてるロングトムがぎりぎり届きますので。

 ですので『マンスフィールド劫火連隊』は、急ぎ降下船へ逃げ込んでくださ……」

 

 キースの言葉を遮り、マンスフィールド大佐が言った。

 

『いや、『マンスフィールド劫火連隊(こちら)』にも戦闘に耐えうるメックは、半数の2個中隊強は残されておる。それを一時的に、そちらの指揮下に入れよう。そちらと連携を取っての戦闘は難しいかもしれんが、遊撃の兵力としてなら役には立つじゃろうて』

 

「……了解です。先の戦闘で、こちらの部隊にも戦闘参加が厳しい機体がいくつも出たので、正直助かります」

 

『いやいや、助けられているのはこちらの方じゃて。しかも現在進行形でのう』

 

 そしてマンスフィールド大佐は、大きくため息を吐く。

 

『ふう……。言わんでおこうと何度も思ったのじゃが……。捕虜になった部下たちは……。やはり身代金交渉で取り戻すしか無いのう……。そやつらのバトルメックも……』

 

「……」

 

 悄然と語るマンスフィールド大佐の声に、キースはしかし黙するしか無かった。マンスフィールド大佐は知る由も無い事だが、あと1ヶ月半で第4次継承権戦争が始まる。それまでに身代金交渉がまとまらなければ、下手をすると長期に渡り、敵の捕虜になった者たちは帰って来ない事になる。

 だがその事をマンスフィールド大佐に言うわけにも行かない。それ以前に、まず『マンスフィールド劫火連隊』の残存部隊を、この惑星パリスⅡから無事撤退させなければならないのだが。キースは黙したまま、S型バンシーを走行させた。

 

 

 

 

 

 

 キース達『SOTS』の大半と、『マンスフィールド劫火連隊』のうちで戦える力が残っている2個中隊強は、峻険(しゅんけん)な地形に挟まれた荒野に布陣していた。ちなみに『SOTS』のうち、ダメージが大きい第9中隊とその他幾ばくかのメック1個小隊ほどが、本隊を離れて降下船へ先に移動している。

 なおマンスフィールド大佐のD型マローダーは移動力にこそ不安は無かったが、それでもけっこうな損傷を被っていた事と、現場で指揮権がキースにある事を鮮明にすべく、自身は降下船へと帰艦していた。その際に当然ながら、『マンスフィールド劫火連隊』の2個中隊強にはキースの命令に従う様に厳命を下していたが。

 

「さて、『マンスフィールド劫火連隊』アッシュベリー大尉、コープランド大尉。頼りにさせてもらうぞ。だが、あまり前には出ないで遊撃に専念してくれ。貴官らに無理をされて万が一大ダメージを食らわれでもしたら、助けに来た我々の面目が立たんからな、ククク」

 

『は、了解です。まあしかし、先に降下船に行った仲間たちを護るためです。あくまで必要な無理ならば、遠慮なしに命じていただきたいですな』

 

『こちらも了解です。ジム、あ、いえ、アッシュベリー大尉の事ですが、あちらの言う通りですね。自分たちも命を捨てる気は更々無いですが、必要な無茶ならやってみせますとも』

 

「……うむ。さて、お客さんがやって来たぞ。『SOTS』全機! 『マンスフィールド劫火連隊』全機! 奴らを降下船の方に通すな! だがまずは、奴らが即席の地雷原に差し掛かるまでは撃つなよ!」

 

 キースは全部隊に通達する。そしてキースのS型バンシー、『SOTS』に2機存在するオストスカウトのセンサーに、『第7アン・ティン軍団』の姿が捉えられた。キースは『SOTS』降下船群と、はるか後方に位置取りしたスナイパー砲車両、機動ロングトム砲に命じる。

 

「ディファイアント号ロングトム砲、アレクセイ曹長! BK-0311のNo.1980、No.1981、No.1982、No.1983に連続して撃ち込め! スナイパー砲車両、ボールドウィン軍曹はBK-0311のNo.2020、2021、2022、2023、2024、2025に連続して砲撃! 機動ロングトム砲サイモン大尉はBK-0311のNo.1901、No.1902、No.1903、No.1904だ!

 続いて気圏戦闘機隊! (アロー)(カバラ)(ダート)(フィアー)各隊は通常装備で出撃! (ビートル)中隊は先に指示していた通り爆装して出撃し、(エッジ)中隊はその護衛と先導に就け! 爆撃の目標は敵後方のスナイパー砲搭載車両群!」

 

『キース大佐! 敵先頭のおそらくは偵察小隊、K型ワスプ2機、K型フェニックスホーク2機が地雷原へ踏み込みました! 機体が軽量のため、あの周辺の地雷は起爆していません!』

 

 オストスカウトのノア少尉が報告を寄越す。キースは叫ぶように言う。

 

「最初の地雷が炸裂するか、間接砲の砲弾が落着するまで、まだ撃つな! ……よし!K型ウルバリーンとK型クルセイダーの足元で、地雷が起爆したぞ! A、B、C大隊は前進しつつ攻撃! 機甲部隊は遠距離兵器でその後ろより支援しろ! 降下猟兵隊はいつもの様に、エアメック形態で敵後方に飛んで、いやがらせ程度に攻撃をするんだ! 奴らを地雷原から出すな! 

 出番だぞ、『マンスフィールド劫火連隊』アッシュベリー大尉、コープランド大尉! 貴官らは自分の中隊を率いてアッシュベリー大尉は右翼、コープランド大尉は左翼に展開し、敵の側面を攻撃するんだ!」

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 ロングトム砲2門、スナイパー砲1門の、合計3門の間接砲撃が敵『第7アン・ティン軍団』後方のメックに降り注ぐ。地雷原と間接砲撃とに挟まれ、敵は動きが取れない。普通ならば間接砲撃手段があるならば、それを用いて地雷原を吹き飛ばすのが基本なのだが。

 

『こちら気圏戦闘機(ビートル)中隊、中隊長ヘルガ大尉。キース大佐、ご命令通り敵のスナイパー砲搭載車両を爆撃により撃破いたしました。機体は空荷になりましたので、護衛の(エッジ)中隊と共に通常の戦闘任務に復帰いたします』

 

「よくやってくれた、ヘルガ大尉!」

 

 ヘルガ大尉と(ビートル)中隊の活躍により、戦闘序盤で敵は間接砲を全て失った。その報告が行ったのだろう、『第7アン・ティン軍団』はK型アーチャー、通常型アーチャー、ウォーハンマー、マローダーなどの重量級の中でも重いメックを前に出し、地雷原を突破せんと前進する。

 

「思い切りが良いな……。だがそう簡単に、突破されるわけにもいかんのでな! マイク大尉!! 地上掃射!」

 

『了解っす! (ビートル)中隊! (カバラ)中隊! BK-0311のNo.0366から2時方向に地上掃射!』

 

 多くは言わなくとも、阿吽の呼吸でキースの意図を悟った気圏戦闘機隊隊長のマイク大尉は、絶妙な位置取りで(ビートル)(カバラ)の2個気圏戦闘機中隊に地上掃射の指示を出す。この芸当は、最初期の小隊規模時代から『SOTS』に参加していた、一部隊員でなくば不可能だ。

 そして濃密な地上掃射により、地雷原を突破せんとしていた数多くの重量級メックが倒れ伏し、あるいは擱座する。しかし代償として、濃密な対空射撃により(ビートル)中隊機、(カバラ)中隊機も多くがダメージを負った。

 

『ビートル3、4、5、6! カバラ1、2、3、4! 気圏戦闘機隊隊長の権限で離脱と降下船への帰還を命じるっす! カバラ5とカバラ6は、現状ビートル1の指揮下に入って戦闘継続っすよ!』

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 次々に降り注ぐ間接砲の砲弾と、多数の気圏戦闘機の支援、後方の機甲部隊よりの遠距離射撃と、即席で若干の薄さは否めないが充分役立っている地雷原により、『第7アン・ティン軍団』は大打撃を負う。しかしながら『SOTS』側も最前線で敵の攻撃を抑えきっているB大隊、ヒューバート少佐の大隊がかなりのダメージを受けていた。

 

 ここでキースは、連隊指揮中隊の投入を決める。

 

「連隊指揮中隊、前進!」

 

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 連隊指揮中隊は、かつて精鋭であるA大隊の中でも最精鋭であった、言わば中隊規模としては『SOTS』の最大戦力だ。ことにその指揮小隊は、全てが強襲メックで構成されており、メック戦士も人類限界の技量を持つ者たちばかりで、信じがたい打撃力を誇っている。

 

 そしてしばし後、連隊指揮中隊の攻撃力を見た『第7アン・ティン軍団』の司令官は、『マンスフィールド劫火連隊』の撃滅を断念した模様。最後方を抑えていた降下猟兵隊の攻撃を突っ切り、全部隊を離脱させる。

 最終的な敵の損害は30機弱、連隊の1/4にも上った。しかし『SOTS』にも相応のダメージはあり、A大隊から1名、B大隊からは2名、C大隊から1名の合計4人のメック戦士が機体脱出に追い込まれ、その他にも1機のメックが脚を折られ、2機が腕を吹き飛ばされている。まあ破壊された機体が無かったのは幸いであったが。

 幸いと言うならば、遊撃にあたっていた『マンスフィールド劫火連隊』の部隊は大きな損害は無く、悪くてもかなり装甲が削れただけで済んでいる。キースとしては『SOTS』の損害が致命的ではなく、助けるべき対象である『マンスフィールド劫火連隊』残存部隊も無事であった事で、安堵したと言うものであった。

 

 

 

 

 

 

 連盟標準時3028年7月11日、恒星連邦はマーケサン星系の天の北極、ゼニス点のジャンプポイントで、キース達『SOTS』と『マンスフィールド劫火連隊』の降下船は、恒星連邦のタンカー型降下船から推進剤を購入し、降下船のタンクを満たしていた。この星系に来たのは、恒星連邦の連絡士官であるリアム大尉の指示である。

 

「キース大佐、今回は本当にご苦労様でした」

 

「いや、リアム大尉。惑星マーケサンに降下し、そこで今回の捕虜と戦利品を当局に引き渡すまではまだ注意が必要だろう?」

 

「それはそうですがね。ですがここまで来れば、任務は達成できたと言ってもよろしいでしょう」

 

「まあそうだがな。しかし『百里を行くものは九十を半ばとす』という言葉もある。ドラコ連合はスパイや工作員による破壊工作にも長けているからな」

 

「慎重ですな」

 

 キースとリアム大尉は笑いあう。ちなみに今回の捕虜と戦利品は、空荷で連れて来ていたユニオン級ミンドロ号と、多数が捕虜になってしまい空き船になってしまった『マンスフィールド劫火連隊』の降下船に詰め込んである。

 

「しかし、『マンスフィールド劫火連隊』の捕虜たちや鹵獲されたメックは、上手くドラコ連合から取り返せるかな」

 

「大丈夫でしょう。こちらも『第20ベンジャミン正規軍』『第7アン・ティン軍団』からの捕虜と鹵獲メックが大量にあるんです。しかもけっこうな偉いさんのメック戦士がその中に居ましたからね。

 身代金の額としては、恒星連邦(こっち)側がかなり優位かも知れませんよ。ちょっと交渉に時間はかかるかも知れませんが」

 

(その『ちょっと』が、『ちょっと』じゃ済まない事になるかも知れないんだよなあ……。あと1ヶ月と半分、8月20日だったよなあ……。第4次継承権戦争勃発、かあ。口に出すわけにはいかないからなあ……。ああ、ストレス溜まる)

 

 第4次継承権戦争が勃発してしまえば、ドラコ連合との交渉事は難しくなるだろう。下手をすれば、戦争終結まで捕虜交換の交渉は行われない可能性もある。いや戦時中でも交渉が行われる可能性は残っているが。

 しかしマンスフィールド大佐には申し訳ないが、この件はキースがどうこうできる話では無い。キースにできる事は、既に彼らを救出した事で終わっている。いや本来は撤退支援だったはずなのだが、結局救出してしまった事になるのだが。まあ成り行き上、やり過ぎになるのは仕方のない事であったが。

 

「ああ、もうすぐ航宙艦からの切り離し時刻だな。わたしはアーダルベルト艦長のところに切り離しの挨拶に行って来るよ」

 

「ご苦労様です、キース大佐」

 

 キースはリアム大尉と別れ、マーチャント級航宙艦クレメント号とのドッキングハッチへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 3日後の7月14日、『SOTS』降下船群は『マンスフィールド劫火連隊』降下船群と共に、惑星マーケサンへと降下。そこの軍港で当局に、捕虜と戦利品を引き渡した。更に戦闘で消耗した弾薬や装甲板の補充を受け取る。

 その上で、今回の依頼の報酬を受け取る。今回の報酬は、一部はDHビル、一部はCビルだが、一部はメックや気圏戦闘機の部品で物納の形であった。資金は部隊の銀行口座に振り込まれるが、メック部品などはこの惑星上の恒星連邦正規軍備蓄から抜き出して引き渡されるのだ。

 

 ちなみに『マンスフィールド劫火連隊』はこの惑星で休暇を取り、補充と再編成の予定である。別れの挨拶に出向いてきたマンスフィールド大佐は、言ったものだ。

 

「ハワード大佐、いやキース卿サオルジャン伯爵閣下。はっはっは、お人が悪いですぞ。伯爵閣下だったとは……。いや今まで色々とぞんざいな口を利いてしまい、申し訳なかったですな。

 いや、伯爵閣下の叙爵はニュースネットで放映されていたのでしたな。知らなかったのはこちらの不覚でしたかの」

 

「ああ、いやあまり気にしないでいい。こちらは結局のところ、成り上がり者だからな」

 

「そう言っていただけると、ありがたいですな。はっはっは。……伯爵閣下、此度の事は本当にありがとうございました。お陰様で、部隊の半分強とは言えどあの惑星から脱出する事が叶いました。あとは残る捕虜になった部隊員とメックを、身代金交渉で取り戻すことができれば……」

 

 

 真顔になったマンスフィールド大佐に、キースはこちらも真顔で語る。

 

「ああ。きっとなんとかなる。ただ、できるだけ交渉は急いでもらった方がいいかも知れない。あまりはっきりした事は分からないんだが、何かしら不穏な気配がある。何か事件でも起きれば、交渉が後回しにされて長引く可能性もあるからな」

 

「む……。ご忠告、ありがたく」

 

「それではわたしは、この辺でお開きにしようか、マンスフィールド大佐。また何時か、肩を並べて戦えるといいな」

 

「はっ。ありがとうございます。その日が来たら、必ずやご恩返しいたします」

 

 そしてキースは、マンスフィールド大佐と別れた。

 

 翌日の7月15日、『SOTS』は契約満了の上で惑星マーケサンを離れ、惑星タワスⅣへの帰還の途に就く。ちなみにリアム大尉はマーケサンで何がしかの指示を受け取ったらしく、『SOTS』の降下船、もっと言えばフォートレス級ディファイアント号に同乗して、タワスⅣまでついて来る事になった。




 続編、投稿いたしました。比較的あっさり目な感じで、今回の任務は成功裏に終わりました。まあ、細かい描写はしませんでしたが、多少の損害は『SOTS』側にも出ているのですがね。4人が機体脱出、1人が機体の脚折られて、2人が機体の腕吹き飛ばされて。手駆動装置とか下腿駆動装置とか放熱器とかやられた機体なら、もっと多くいますし。
 でもって、第4次継承権戦争まであと1ヶ月強。来る戦争で、キースと『SOTS』はいったいどの様に動くのか。乞うご期待です。


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『エピソード-093 キースは忙しい』

 轟音と共に、惑星タワスⅣサオルジャン大陸のヘルツォーク城宙港施設離着床に、長球型あるいは球型の降下船が次々に着陸する。更にそれに隣接した滑走路には、航空機型の降下船がこれもまた次々に着陸した。混成傭兵連隊『SOTS』が、本拠地であるこの惑星に帰還してきたのである。

 

 着陸直後、司令執務室にジャスティン大尉のコーヒーをたかりに来たアンドリュー准尉とエリーザ准尉が、マグカップ片手に船窓から外を眺めつつ(つぶや)く。

 

「いやー、やっぱり帰って来る本拠地(ホーム)があるってのは、いいな」

 

「そうねー。休暇は出るのかな。首都行って、食べ歩きしたいなー」

 

「お前たち、まだ身体検査済んでないだろう。ちゃんと船医のアッカースン先生のところ行って、検査受けろよ? エリーザ准尉はこないだ滅茶苦茶に時間に遅れて、仕方なしに順番飛ばされて、キャスリン曹長に泣きついただろ」

 

「ヴ……」

 

 キースの台詞に、エリーザ准尉は硬直する。キャスリン曹長はエリーザ准尉の郎党であり、超一流の軍医でもある。ディファイアント号には専任の船医であるブラッドフォード・アッカースン医師が居るが、実のところキャスリン曹長の方が腕前は上だったりするのだ。だがキャスリン曹長は同時に超一流の整備兵でもあり、戦闘直後や着陸直後は泣くほど忙しいのである。

 つまりはそんなクソ忙しいときに、いかに自分の(あるじ)だとは言え惑星外からの帰還時の身体検査をやらされては、それこそ超ド級に迷惑千万なのだ。ちゃんと順番守って専任の船医のところで検査受ければそれで済む事でもあるのだし。まあその時はキャスリン曹長も、エリーザ准尉の泣き落としに負けて身体検査してやったのだが。

 

「やれやれ、しょうがないですねえ。順番の時間に遅れちゃダメですよ2人とも」

 

「わ、わかったよマテュー大尉。って言うかなんで俺まで、まるごと(まと)めて注意されてんだろうな。俺は身体検査に遅れた事ねえぞ」

 

「そういうマテュー大尉は? 隊長やジャスティン副官の順番は、色々忙しそうだから後の方だってのは知ってるけど」

 

「わたしは今からですね。ちょうどコーヒーも飲み終わった事ですし、それでは退出許可願います隊長」

 

「うむ、退出を許可する」

 

 マテュー大尉とキースは、敬礼と答礼で挨拶を交わす。そしてマテュー大尉は司令執務室を出て行った。ジャスティン大尉が、マテュー大尉の使っていたマグカップを片付ける。

 

「じゃ、俺も行くわ隊長。退出許可、願います」

 

「あたしもー。退出許可願います」

 

「うむ、2人とも退出を許可する。……ほんとに遅れるなよ?」

 

 こちらも敬礼と答礼で、アンドリュー准尉とエリーザ准尉は司令執務室を出て行った。ふとキースが見遣ると、ジャスティン大尉の目線が2人の後を追って、今まさに閉じたドアに注がれている。いや、ジャスティン大尉の視線が追っていたのは、明らかにエリーザ准尉だった。

 

(……これは、下手に突っつかない方がいいかな?)

 

 キースはエリーザ准尉がときどきジャスティン大尉を挑発しているらしい事に気づいていた。挑発と言っても、悪意あって喧嘩(ケンカ)を吹っかけるわけでは無い。ときどき偶然を装って、自身の胸をジャスティン大尉の腕に押し付けたりと、そう言った意味での挑発をしているのだ。

 ただエリーザ准尉は少々いたずら好きで、なおかつその手の冗談を好いている。その事もあり、彼女が本気なのかどうか、キースにはいまひとつ確証が持てなかった。それにエリーザ准尉は現時点で21歳、ジャスティン大尉は必要性や能力から昇進が早かったが18歳だ。

 

(それは無いだろと言うほどでは無いが、ちょっとジャスティン大尉側が若すぎるかもな。ジャスティン大尉の方でもエリーザ准尉の行動に戸惑ってるんだろ。エリーザ准尉が本気でジャスティン大尉を想ってるなら、応援するにやぶさかじゃ無いんだけどな)

 

 まあ、キースは他人の事は言えない。彼もまた、イヴリン曹長から恋慕の情を寄せられている事は、まあ間違いが無かった。ただキースは自身でも認めているが、そう言った方向性、自分自身がからんだ恋愛関係の感情にはかなり鈍い。何せ前世も含めて○○年ばかり、女性には縁遠かったのだ。

 そう言ったわけで彼はイヴリン曹長に対し、どの様な態度で(のぞ)むべきか悩んではいたのだ。だがどうしても自分自身、彼女の気持ちに確証は持てない。彼女に直接問う事も考えたのだが、違っていたら恥ずかしいなどと言うレベルでは無いし。それに自分自身の気持ちもよくわからない。

 そんな事もあって、キースは今のところイヴリン曹長に対し、師匠であり兄であると言う様な立ち位置を崩せないでいる。だが彼は、何時までもこのままではいけないのでは、とも思っていた。

 

 

 

 

 

 

 まあキース個人の悩みとは別に、タワスⅣに帰って来たからには伯爵としての仕事が待っている。それに加え、『SOTS』部隊司令としての仕事も放って置くわけにもいかない。3028年8月1日、キースは惑星首都ワロキエ市のホテルのホールを借りて、盛大なパーティーを開いていた。

 パーティーの名目は、1つ目はサオルジャン伯爵にしてテナール男爵であるキース、ヴィオネ男爵であるヒューバート少佐、ジロ女男爵であるアーリン少佐と、そして『SOTS』のタワスⅣ帰還を祝うものである。2つ目は、これまで惑星を護っていた恒星連邦駐屯軍『ゲージ螺旋槍隊』の送別の宴だ。『ゲージ螺旋槍隊』は任期切れで、次の任地へ向かう事になっている。

 パーティーの3つ目の名目は、『ゲージ螺旋槍隊』の代わりに送り込まれてきた『烈火の嵐(SEF)』『金剛石の輝(BOD)』『ティッチマーシュ閃光小隊』の3個傭兵小隊の歓迎会である。ちなみに今まさに、それら傭兵小隊の指揮官たちがキースの前で挨拶をしているところだった。

 

「『烈火の嵐』小隊、略称『SEF』の部隊指揮官にして、3個傭兵小隊を中隊として指揮するにあたり、恒星連邦より大尉待遇を命じられたエドマンド・グリーンハルジュ中尉であります!」

 

「自分は『金剛石の輝』小隊、略称『BOD』の指揮官、ヒューゴー・メイスフィールド中尉であります!」

 

「『ティッチマーシュ閃光小隊』指揮官の、ハミルトン・ティッチマーシュ中尉! キース卿サオルジャン伯爵閣下にお目もじ叶いまして、光栄です!」

 

 3小隊の指揮官たちは、キースの威に飲まれてかなり緊張気味だ。いや、キースとしては普段通りにしているだけで、威圧しようと言うつもりはまったく無いのだが。

 

「うむ、わたしと『SOTS』はしょっちゅう恒星連邦からの依頼で出征し、惑星タワスⅣを空ける事になる。惑星の護りの(かなめ)は、貴官らの3個小隊だ。頼むぞ」

 

 うん、ほんとうに頼むぞ、と心の中で思いながら、キースは3人と握手をする。敬礼と答礼をもって挨拶を終えると、3人の指揮官たちは今度はヒューバート少佐とアーリン少佐に挨拶するため、その場を辞去して行った。

 

 とりあえず一通りの人物がキースのところに挨拶に来て、ようやく一息吐いたキースはパーティー会場を見回す。と、パーティー開始直後に挨拶に来ていた『ゲージ螺旋槍隊』の部隊司令、ジュリエット・ゲージ大尉が目についた。彼女はキースの他にも色々と挨拶回りに行かねばならず、かなり疲れている様子である。

 キースはゲージ大尉を放って置くのが親切だろうと、他所へ行こうとするが、その直前に彼女と目が合ってしまった。知らん顔をするわけにもいかない。キースはゲージ大尉に話しかける。

 

「ゲージ大尉、これまでタワスⅣを護ってくれて、ほんとうにご苦労だった。心より感謝する」

 

「! は、伯爵閣下! いえ、自分たちは任務を果たしただけですので!」

 

「それでも、だ。我々のタワスⅣ(ホーム)を護ってくれた事には、かわりが無い。貴官らの働きには、本当に満足しているんだ」

 

「……ありがとうございます!」

 

 まあ実のところ、恒星連邦の比較的内側、南十字星境界域の端にあるタワスⅣに侵攻してくる様な敵は、そうそう存在しない。『ゲージ螺旋槍隊』にとっては今回のタワスⅣ駐屯任務は、半ばこれまでの忠勤に対するボーナスの様な物だったはずだ。

 実際『ゲージ螺旋槍隊』の仕事は、惑星軍と肩を並べての災害救助や犯罪摘発などが主だった物であった。彼らにはいい骨休めになったはずだ。

 

「ゲージ大尉、貴官らの次の任務は何処に……。ああ、いや。守秘義務があるのだよな。言わなくてもいい。だが、貴官らの更なる活躍を祈っている」

 

「ありがとうございます。いえ、まあ詳細な場所はお教えするわけにはまいりませんが……。次の任地で本来の恒星連邦駐屯軍が一時的に引き抜かれ、別惑星への増援に駆り出されたので、急遽代理で送り込まれる事になったのですけれど」

 

(……それ、どこかで聞いた話だな)

 

 どこかで聞いた話も何も、それは『SOTS』が小隊規模であった頃に、惑星ドリステラⅢの恒星連邦駐屯軍の一部として送り込まれた時の事情そのものであった。キースは一瞬、懐かしさに目を細める。かつて先達であり当時大尉待遇として駐屯軍司令官であった、アルバート中尉の姿が脳裏に思い出された。

 

「そうか……。そこの駐屯軍が引き抜かれた事ぐらい、敵対している継承王家の間諜(スパイ)は掴んでいるはずだ。そうなればその国家の上の方に、その惑星を攻める絶好の機会だと考える人間も居るかもしれない。わたしにも似たような経験があるのでな。注意したまえ。わたしの時は、相手はドラコ連合だったのだがな」

 

「……はっ! ご忠告、ありがたく!」

 

 そしてキースとゲージ大尉は、敬礼と答礼をもって別れた。

 

 

 

 

 

 

 キースは自分の直卒小隊を引き連れて、サオルジャン大陸内ではあるがヘルツォーク城からはかなり離れた位置にある、ヴィアンデン城まで出向いて来た。ヴィアンデン城はこれまで恒星連邦駐屯軍であった『ゲージ螺旋槍隊』が駐屯していた場所であり、これからは『SEF』『BOD』『ティッチマーシュ閃光小隊』の3個小隊が駐屯する場所になる。

 キースが何故にここまで出向いて来たかと言うと、本日このとき惑星タワスⅣを撤退する、『ゲージ螺旋槍隊』の見送りに来たのだ。ヴィアンデン城の宙港施設の滑走路に降りたレパード級ヴァリアント号よりキース直卒小隊4機の強襲級メックが降りる。

 彼らのメックは、これより駐屯軍となる『SEF』『BOD』『ティッチマーシュ閃光小隊』のメックが並んだ隣に整列した。駐屯軍メックが敬礼を送って来る。キースらのメックも、見事な答礼を返した。

 

 やがて滑走路に、『ゲージ螺旋槍隊』の3隻のレパード級降下船がタキシングしてくる。キースは号令をかけた。

 

「総員、『ゲージ螺旋槍隊』に敬礼!……礼砲、撃て!」

 

 全メックから、空砲あるいはレーザー、粒子ビーム砲(PPC)で上空に礼砲が放たれる。その中を、3隻のレパード級が滑走路を疾走し、上空へ舞い上がって行った。その様子を眺めつつ、キースは思う。

 

(『SOTS』がこの惑星に居るのに、『ゲージ螺旋槍隊』の代理の部隊をかき集めて即座に送り込んで来たって事は……。やはり『SOTS』には引き続き、かなり近い時期に新たな任務が割り振られるって事なんだろうな。

 いったい何処になるのかね? 今この時点で知らされていないって事は、第4次継承権戦争ラット作戦でカペラ大連邦国攻撃に参加するってのは、無いな。となると、ドラコ境界域か……)

 

 蒼空に、レパード級3隻の噴射炎が遠く消えていく。キースは次なる戦いに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 あくる8月3日の事である。ヘルツォーク城の司令執務室は、いつになく緊張した空気に包まれていた。そこではアンドリュー准尉、エリーザ准尉、イヴリン曹長、ネイサン曹長、エルンスト曹長が直立不動の姿勢で立っている。キースの声が響いた。

 

「アンドリュー・ホーエンハイム准尉。貴様は先日の士官任用試験に、優秀な成績で合格した。おめでとう。これより貴官を少尉に任じる。連隊副官ジャスティン大尉より、辞令と新しい階級章を受け取りたまえ」

 

「謹んで拝命します!」

 

 そう、今回彼らが司令執務室に呼び出されていたのは、昇進の通達であったのだ。アンドリュー少尉に続き、エリーザ准尉の順番が来る。

 

「エリーザ・ファーバー准尉。貴様は先日の士官任用試験に、見事合格した。おめでとう。貴官を少尉に任じる。ジャスティン大尉、彼女に辞令と階級章を」

 

「はっ!」

 

「謹んで拝命しますっ!」

 

 キースは頷く。これで彼ら2名の郎党である、アイラ曹長やキャスリン曹長を遠慮なしに昇進させられると言うものだ。とりあえずは2人を准尉に、そしてアンドリュー少尉やエリーザ少尉が中尉になったら、郎党の2人にも士官任用試験を勧め、少尉になってもらうつもりだ。アイラ曹長はともかく、キャスリン曹長は少なくとも少尉か中尉にならないと、軍医のリーダーとしての立ち位置が少々難しい。

 そしてキースは、並んでいるメック戦士の中で最後の1人、イヴリン曹長へと目を向けた。彼は(おもむろ)に口を開く。

 

「イヴリン・イェーガー曹長。貴様は士官任用試験に、非常に優秀な成績で合格した。うむ、おめでとう。貴様を教えた俺も、鼻が高いと言うものだ。……貴官を少尉に任じる。貴官はこれより、サラ中尉待遇少尉の元で小隊指揮について色々と学べ。そして何時かは火力小隊を……『機兵狩人小隊』を見事率いてみせろ」

 

「はっ! 謹んで、拝命いたします!」

 

「うむ。ジャスティン大尉、辞令と階級章を渡してやってくれ」

 

「はっ!」

 

 キースはしみじみとした物を感じる。イヴリン少尉は、未だ14歳だ。12歳でキースと出会い、メック戦士訓練生になったのがつい先日の事の様な気がする。

 

(ちょっと早すぎる気もするが……。メック戦士の家系の人間としては、仕方ないところもあるんだよなあ……。可能ならば、もう少しただの子供としての時間を与えてやりたかった気もするんだが……。いや、それが無理だと言うのは分かっているが)

 

 キースは一瞬目を瞑ると、ネイサン曹長に顔を向ける。

 

「ネイサン・ノーランド曹長。貴様は先日の士官任用試験に見事合格した。おめでとう。これより貴官を少尉に任じ、現在の偵察兵小隊暫定小隊長エルンスト少尉待遇曹長の希望もあって、貴官を偵察兵小隊の小隊長に任命する。ジャスティン大尉から辞令と階級章を受け取るように」

 

「はっ!謹んで拝命します!」

 

「そしてエルンスト・デルブリュック曹長。これより貴様を准尉に昇進させ、偵察兵小隊の副隊長に任命する。ネイサン小隊長を補佐し、これからも部隊に貢献してくれ。ジャスティン大尉から、辞令と新しい階級章を受け取れ」

 

「了解です。謹んで拝命いたします」

 

「以上だ。解散してくれ」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 アンドリュー、エリーザ、イヴリン、ネイサンの各新任少尉とエルンスト准尉は、キースに敬礼を送る。キースも答礼で返すと、昇進した面々は司令執務室を退室して行った。

 

「ふう……。第一陣は終わりか」

 

「は。では次に昇進する面々を呼ぶ前に、コーヒーでもいかがですか?」

 

「うむ、貰おうか」

 

 キースは頷く。今回昇進するのは、先ほどまで居た面々だけでは無い。他にもまだまだ昇進する連中は多いのだ。キースの仕事はまだまだ終わらない。

 まあ大半はジーン少佐、ヒューバート少佐、アーリン少佐などの直接の上司に任せておいてもかまわない。だが今の面々の様に、昔馴染みの者たちや直接の部下、そして少なくとも尉官の者たちにはキースが声をかけてやる事にしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 この日キースはイヴリン少尉と共に、ヘルツォーク城の城壁内周を軽く流してランニングしていた。いや、軽く流して5周と言うのは、この2人の体力はどうなっているのかとアンドリュー少尉やエリーザ少尉、エドウィン曹長にエルフリーデ曹長あたりが唖然とするところではあるのだが。

 2人はクールダウンのストレッチを終えると、シャワーを浴びるべく城の本部棟に向かう。そしてとある曲がり角を曲がった時の事だった。

 

「……っと」

 

「!?」

 

 2人は急ぎ回れ右をして、曲がり角の陰に引っ込む。そしてちょっと遠回りをして本部棟へと向かった。いや、何があったかと言うと、曲がり角の先で2人の男女が熱烈な口づけを交わしていたのである。まあキースは気配でその2人が居る事には気づいていたが、何をしているかまでは分からなかったのだ。

 

「むう、ケネス大尉とドロテア准尉か……。ふむ、ドロテア准尉の数年越しの気持ちは、きちんと実った模様だな」

 

「あ、キース大佐はあのお二人の事、と言いますかドロテア准尉のお気持ち、知っておいででしたか」

 

「ん? うむ。彼らが『SOTS』に加わった時、ドロテア准尉がケネス大尉に……当時はまだ入隊直前で階級とか無かったが、そのときにドロテア准尉がケネス大尉に、せつなげなと言うか、熱烈なと言うか、そんな視線を送っていたもんでな。

 その手の事にニブい俺にすら分かるほどだったんだが、ケネス大尉は気づいていたのか、いなかったのか……。まあ、安心した。『SOTS(ウチ)』は部隊内での恋愛は禁じておらんからな。というか、貴重な兵員を婚姻で外に持っていかれては困る。ははは」

 

 そう言いながら2人が歩いていると、今度は真正面からアンドリュー少尉とアイラ准尉が腕を組みながら歩いてくるのを発見する。まあ2人が付き合っているのは、部隊の皆が知っている。彼らの側でも今更ながら恥ずかしがるほどでも無いが、キースはアンドリュー少尉の直属の上司だ。

 アンドリュー少尉とアイラ准尉はちょっとばかり名残惜しそうに腕を離すと、キースに敬礼をして来る。キースとイヴリン少尉もまた、答礼を返した。

 

「よお隊長、ランニングか?」

 

「ああ。今終わったところだ。お前らはこれからデートか? たしか2人とも有休の申請出てたな」

 

「おう、ちょっと首都まで行って来る」

 

「気をつけてな。まあ、お前らの戦闘技能だったら襲ってくるやつらの方を可哀想に思わねばならんが……。襲われても、相手にもよるが普通の不良なんかだったら、下手に殺すなよ?」

 

「難しい注文だよなー」

 

 笑いながらアンドリュー少尉とアイラ准尉は再度の敬礼と答礼をもって、その場を辞去する。残されたキースとイヴリン少尉は、溜息を吐いた。

 

「ふう……。こうも連続して見せつけられるとはな。さっさと答えを出せと言う事か?」

 

「え?」

 

「ああ、いや気にするな。本部棟へ急ごう。さっさとシャワーを浴びねば、仕事が待っている」

 

「は、はい!」

 

 

 そしてキースは歩きながら考える。

 

(……やっぱりサイモン爺さんが一番いいかな。エリーザ少尉と違って、ちゃんと茶化さずに相談に乗ってくれるだろ。近いうちにイヴリン少尉の気持ちとか、彼女との関係をどうしたものかとか、サイモン爺さんの意見を聞いてみよう。

 問題は……。サイモン爺さんも俺も、むっちゃ忙しくて中々時間が取れない事か……)

 

 キースは歩きながら大きく、大きく溜息を吐く。その様子を、イヴリン少尉が心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 ヘルツォーク城の司令執務室には、キースとジャスティン大尉の他、相談役にしてキースの惑星不在時には代官のクリスティアン・ウォーターハウス氏、そして恒星連邦との連絡将校であるリアム・オールドリッチ大尉が集まっていた。リアム大尉が(おもむろ)に口を開く。

 

「伯爵閣下。近いうちに、中心領域では大規模な混乱が起きる可能性があります」

 

(……いや、そりゃ起きるだろう。今月の20日に第4次継承権戦争が始まるんだし。……まあリアム大尉と傭兵関係局の立場としては、直接言うわけにもいかんだろう。可能な限り婉曲表現で話してくれたと見るべきか)

 

「おそらく、いえ間違いなくクリタ家は、恒星連邦のドラコ境界域に攻撃を仕掛けて来るでしょう。それに備え恒星連邦の傭兵関係局では、航宙艦と降下船を擁し星系間移動力に長じた連隊である『SOTS』を、惑星ニューイヴァーセンへ駐留させたく考えています。

 ニューイヴァーセンからであれば、その周辺の星系に対し1ジャンプから3ジャンプ程度で至急戦力派遣が叶います。いざ事が起こった時に、すぐに『SOTS』を使える様にしておきたいのです。

 経費は月毎に支払いし、戦闘報酬は別計算で。最終的な報酬は、領地の加増などになる予定ですな」

 

 キースはリアム大尉に頷く。

 

「了解した。ただそうなると、かなりの長期に渡ってわたしはタワスⅣを留守にしなければならないな。クリスティアン、その間かなり大変だとは思うが、任せても大丈夫だな?」

 

「お任せを。方針としては?」

 

「リアム大尉の言葉では、中心領域全域を巻き込むような混乱が起きると『上』は見ている様だ。そうだな、リアム大尉?」

 

 リアム大尉は、キースの言葉に頷きを返した。

 

「はっ。そう考えていただければ間違いは無いかと」

 

「ではクリスティアン。わたしが留守の間は、出来得る限り星系外には頼らずに、タワス星系内部で流通が完結できる様な経済を重視してくれ。おそらくそれほどの混乱となると、軍事に使うために航宙艦の数が足りなくなるのは、目に見えている」

 

「なるほど……。やむを得ない物以外は星系内で物資を調達し、輸出もできるだけ削減するのですな? 混乱が長引かない事を祈らざるを得ませんなあ……」

 

 キース、クリスティアン氏、リアム大尉はその後も色々と話し合った。まあリアム大尉は第4次継承権戦争における恒星連邦の戦争計画については漏らさなかったが。

 そして『SOTS』の次の出征が決定する。行く先は、恒星連邦ドラコ境界域惑星ニューイヴァーセン。『SOTS』はそこを拠点として第4次継承権戦争を戦う事になるのだ。




 続編、投稿いたしました。『SOTS』の次の任地は、ドラコ境界域の惑星ニューイヴァーセンです。ただしそこを護るわけではなく、そこを拠点にして緊急事態に備え、あちこちに飛ばされる事になりますね。けっこうな激務になりそうな……。
 そしてキース、個人的にも悩み事が。けれど公務がとんでもなく忙しいので、それに対処するための時間ががが。どうしたもんでしょうな。


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『エピソード-094 第4次継承権戦争勃発』

 あと数日で『SOTS』が惑星ニューイヴァーセンへ向けて旅立つという3028年8月5日の事である。『SOTS』幹部会議で、部隊資産つまりはキース個人の財産とほぼ同義であった幾つかの機体が、下賜される事が決定。即日、対象メンバーに引き渡された。

 機体を下賜されたのは、以下の者達である。ます連隊指揮中隊からは、偵察小隊小隊長のルートヴィヒ・フローベルガー中尉が選ばれた。

 A大隊からは大隊長のジーン・ファーニバル少佐、第1中隊指揮小隊の隊員エドウィン・ダーリング曹長、エルフリーデ・ブルンスマイアー曹長、第2中隊中隊長ケネス・ゴードン大尉、指揮小隊隊員のドロテア・レーディン准尉、マイケル・ニューマン准尉、第3中隊中隊長のジェラルド・ハルフォード大尉だ。

 B大隊は第4中隊偵察小隊小隊長のエリーザベト・メリン中尉、第6中隊中隊長のジョシュア・ブレナン大尉、偵察小隊小隊長のヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン中尉が機体を与えられた。

 C大隊では第7中隊火力小隊小隊長のハーマン・カムデン中尉、副隊長のアナ・アルフォンソ少尉、隊員のメアリー・キャンベル曹長、偵察小隊小隊長のアルマ・キルヒホフ中尉、隊員のマキシーン・ウィンターズ曹長、アドルファス・マコーマック曹長、第9中隊中隊長アラン・ボーマン大尉、指揮小隊隊員のレノーレ・シュトックバウアー曹長が下賜の栄誉を受けた。

 

 これらの部隊員は、最古参でこそないものの初期の『SOTS』を支えた、かなりの古株メンバーである。たしかに(うらや)む声こそ上がったものの、この件に関してはまったく不満の声は聞こえなかった。まあ彼らの功績や立場から言って、文句を言う者が居ないのは当然であろう。

 ちなみにエドウィン曹長、エルフリーデ曹長は訓練生から叩き上げた、言わば生粋の『SOTS』構成員である。彼らを教え鍛えたキース、アンドリュー少尉、エリーザ少尉、教育担当官のヴァーリア・グーテンベルク中尉達は、彼らに特に祝福の言葉を送ったものだ。

 

 そしてその翌々日の8月7日、惑星首都ワロキエ市にある一流ホテルのホールで、盛大な式典が開かれた。何の式典かと言うと、サオルジャン伯爵にしてテナール男爵であるキースより、ヴィオネ男爵であるヒューバート少佐と、ジロ女男爵であるアーリン少佐に、それぞれユニオン級降下船エンデバー号、同級ミンドロ号を下賜する式典である。

 これまでキースが権利を持っていたこの2隻であるが、今後はヒューバート少佐とアーリン少佐が恒星連邦貴族として権利を保有し、『SOTS』に貸し出す形を取る事になる。まあ内実は今までと全然変わらないのだが、これによりサオルジャン伯爵にしてテナール男爵であるキースのハワード家と、ヴィオネ男爵であるヒューバート少佐のイーガン家、ジロ女男爵であるアーリン少佐のデヴィッドソン家に強固な繋がりを構築し、同時にそれを内外に知らしめる目的があった。

 式典終了後、疲れ果てたアーリン少佐は言ったものだ。

 

「ふう……。まあ、必要性はわかるけれど、言わばショーよね?」

 

「まあ、確かに疲れたけれどね。それこそ必要性がある事なんだ。キース大佐と俺たちの政治的他の繋がりが太い事を示しておかないと、下手したらひよっこ貴族である俺たちを金銭なりなんなりで懐柔して、キース大佐の下から引き抜こうとする動きが出ないとも限らないからな。事あるごとに、双方の絆を目に見える形で誇示しておかないと……」

 

「ヒューバート少佐の言う通りだな。将を射んと欲せばまず馬を射よ、とばかりにジョナス卿バレロン伯爵閣下の派閥を崩そうとする者が、俺を狙って来る可能性は無くも無い。そして俺が狙われるとなれば、今度は貴官ら2人を狙って来る可能性もあるんだ」

 

「「……やれやれ」」

 

 キースの台詞にげんなりしたヒューバート少佐とアーリン少佐だった。

 

「まあ、ショー要素が強い今回の下賜だったが。けれど今後は貴官らが『SOTS』に降下船を貸し出す形になるからな。『SOTS』から、幾ばくかなりとレンタル料金の支払いが発生するぞ? イヴリン少尉のイェーガー家にも、レパード級ゴダード号のレンタル料金が出てるので、それに準ずる形だな。降下船のトン数や乗員数等々でかなり金額は違って来るが」

 

「けれど『SOTS』のお財布は、わたしたちへの払いが発生しても大丈夫なのかしら?」

 

「その辺は大丈夫だ、心配いらんよ。それよりも3日後に迫った、惑星ニューイヴァーセンへの出立の事を考えねばならん。大至急、準備をせねばならんよ。

 本当は今回の下賜も、次の任務が終わってからにしたかったんだが……。次の任務は、いつ終わるかわからんからな……」

 

 実のところ任務終了すなわち第4次継承権戦争終結は、キースの記憶している歴史通りならば3030年の1月、1年半ばかり先の事だ。下手をするとキースたち『SOTS』はその間ずっと惑星タワスⅣに帰って来られない事になる。

 

(……あ。ワロキエ市に建設途中の俺の邸宅、どうしよう。確実に完成までに帰って来られないぞ。完成記念式典とか、どーすんだ本気で。あくまで『完成までに帰って来られない場合』って事で、クリスティアンと話をしておいた方がいいなあ。あと、常駐して邸宅を管理する人員の事も、相談しておかないと……)

 

 いきなりキースの背中が(すす)けたのを見て、ヒューバート少佐とアーリン少佐は唖然としたのだった。

 

 そして3日後の8月10日、この日は『SOTS』が惑星ニューイヴァーセンへと出立する日であった。混成傭兵連隊『SOTS』の居城であるヘルツォーク城の宙港施設より、次々に『SOTS』の降下船群が発進していく。

 惑星軍の戦車部隊および恒星連邦の駐屯軍バトルメック、そして居残り部隊である訓練中隊第3小隊のカメレオン練習機が礼砲を放つ中、『SOTS』降下船群は宇宙へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 惑星タワスⅣの軌道上から天の北極ゼニス点ジャンプポイントまで5日間の航行、更に目的星系のジャンプポイントまで7回のジャンプを行う。途中の星系に幾つか補給ステーションがあったとは言え、7回ものジャンプには結局数日を必要とし、ニューイヴァーセン星系は天の南極ナディール点ジャンプポイントに到達したのは3028年8月20日の事であった。

 降下船フォートレス級ディファイアント号のデッキでは、連隊指揮中隊の女性メック戦士たちが噂話に興じている。ちょうどデッキに出ていたキースは、その声を聞くともなしに聞いていた。

 

「あー、結婚かあ。できれば早目にしたいよねー」

 

「メック戦士としては、家を保つために必須ですからねー。でもエリーザ少尉は、お相手とかは?」

 

「んぐっ……。目をつけてる相手はいるんだけどね……。相手はメック戦士じゃないから、お婿に来てもらわないとダメだけどねー。でもその相手、感じからすると脈が無いわけじゃないんだけど、なんか煮え切らなくて。気を惹こうとするだけじゃ、やっぱりダメかー。ちゃんとはっきり意思表示する時期かなあ。

 ラヴィニア曹長は?」

 

「あー、わたしは……」

 

 別に聞き耳を立てているわけでは無いが、なんとなく盗み聞きでもしている様な気分になったキースは、その場を立ち去ろうとした。彼は航宙艦マーチャント級クレメント号とのドッキングハッチへ向かおうとした。あちら側のアーダルベルト艦長と、降下船切り離し前の挨拶に行こうとしたのである。

 その時、キースの耳にイヴリン少尉の声が聞こえた。

 

「結婚と言えば、今日は恒星連邦のハンス・ダヴィオン国王陛下と、ライラ共和国次期国家主席のメリッサ・シュタイナー様の結婚式ですよね? たしか地球の式場で披露宴が開かれるはず……」

 

「あー、各国から沢山の来賓を集めて、壮麗な式を挙げるみたいだよねー。あー、ちょっと憧れちゃうなあ。あたしたちも、披露宴に出席できるほど身分があればなー」

 

「ウチの隊長でも出席できなかったんだから、ダメダメ。伯爵閣下でも難しいんだから」

 

(いや、俺は出席できたとしても、可能ならば断わってたぞ。……まあ、もし話が来てたら、断れはしなかっただろうが)

 

 キースは知っている。前世の記憶による中心領域の歴史では、そのハンス・ダヴィオンとメリッサ・シュタイナーの結婚披露宴の式場で、いきなりハンス・ダヴィオン国王陛下サマが言い放つのだ。『妻よ。我々の結婚を祝して、このウェディングケーキに加え、君に大きな贈り物をあげよう。ここに我がいとしの君に……。君に、カペラ大連邦国を捧げよう!!』と。

 つまりは、カペラ大連邦国に対するいきなりの宣戦布告であった。だが結婚披露宴に参列していたカペラ大連邦国首相、シーアン公マクシミリアン・リャオは防戦のため急ぎ国元へ帰還するかと思いきや、たまげた行動に出る。披露宴では、様々な惑星の紋章が描かれたケーキ皿が配られていた。彼は部下に命じ、その皿を奪い集めさせたのだ。曰く『皿を集めろ! これは軍事情報だ! 皿の模様は奴が征服を意図している、目標星系を意味しているのだ!』……だそうである。

 そして現場の披露宴式場は、阿鼻叫喚の坩堝(るつぼ)と化した。貴族やメック戦士が、惑星の紋章が描かれたケーキ皿をめぐって乱闘を始めたのだ。皿が、ケーキが、宙を舞った。

 

(……んなわきゃ無いだろ。そんな重要情報を結婚式のケーキ皿に描くかよ。よく言っても、欺瞞情報とかだろ。

 たしかジョナスは、結婚式には新郎ハンス国王陛下の側近の1人として、参列してるはずだな。……ジョナス、無事だといいんだが)

 

 キースはキャイキャイと黄色い声を上げる女性陣から離れ、航宙艦とのドッキングハッチへ向かい、逃げるように去って行った。

 

 

 

 

 

 

 この3028年8月20日、第4次継承権戦争が勃発した。恒星連邦軍のラット作戦発動により、第一波攻撃としてカペラ大連邦国の9つの惑星を急襲。ほぼ同時に、ライラ共和国軍の神々の黄昏(ゲッターデメルンク)作戦が発動、ドラコ連合の23の惑星へと侵攻開始した。

 キースと『SOTS』の面々がそれを知ったのは、ジャンプポイントから惑星への降下中、時間にして1日後の事である。惑星ニューイヴァーセンの深宇宙通信施設からジャンプシップへと通信が送られ、その内容がジャンプシップから降下船に転送されたのだ。まあキースからしてみれば、前世情報通りに事が推移した、という事ではあったが。

 

 

 

 

 

 

 ナディール点のジャンプポイントから5日かけて、『SOTS』降下船群は惑星ニューイヴァーセンの指定された地点へと降下した。降下地点はヴィアンデン城と言う城塞で、小規模ではあるが専用の宙港施設が完備されている。このヴィアンデン城が、これからしばらくの間『SOTS』の居城となるのだ。

 まあ、契約上からすれば『SOTS』はしょっちゅうドラコ境界域のあちこちの惑星へ飛び回らねばならない。そのため、ここに腰を落ち着けるのもそんなに長くは無いはずであった。ちなみにこのヴィアンデン城の管理それ自体は、惑星軍が人員を出して行っている。先にも述べた通り、『SOTS』はしょっちゅう出撃する事になるので、『SOTS』から管理の人員を出したりその都度雇用したりするのは逆に無駄が多いのだ。

 とりあえずキースは、ヴィアンデン城の司令執務室に腰を落ち着ける。

 

「ふむ……。さて、近日中に惑星首都へと出向いて、惑星公爵閣下にご挨拶申し上げなければならんな」

 

「お名前は、リコ・スティーブンソン閣下でしたね」

 

「あ、その事ですが……」

 

「「?」」

 

 惑星軍との連絡士官であり、ヴィアンデン城に常駐を命じられているアーヴァイン・ガスリー大尉が声を上げる。キースとジャスティン大尉は怪訝そうな顔になった。ガスリー大尉は言葉を続ける。

 

「つい今しがたの連絡ではニューイヴァーセン公爵閣下は、今晩早速にサオルジャン伯爵閣下と『SOTS』メック戦士、航空兵らを招いて歓迎の宴を開かれるそうで……。惑星時で16:30、連盟標準時で14:27分までに惑星公爵邸宅までおいで頂けと……」

 

「む、そうか。あと6時間弱か。ジャスティン大尉、全メック戦士と航空兵に通達を。ガスリー大尉、公爵邸までの脚は? 用意が無いならば、我々で手配するが」

 

「はっ。惑星首都の空港までは惑星軍の輸送機を、そしてそこからは専用バスを用意してあります。合計2時間で向こうに到着できます」

 

「了解した。だが急いだ方がいいな」

 

 キース達は急ぎ準備を整えると、メック戦士や航空兵たちを連れて惑星軍の輸送機に乗り込む。輸送機の乗り心地は、相応に悪かった。

 

 

 

 

 

 

 惑星公爵たるリコ・スティーブンソン閣下に挨拶を無事終えた後、更に惑星の高官連中とも顔合わせを行い、キースはようやくの事で堅苦しい公務から解放される。同様の処遇に遭っていたヒューバート少佐、アーリン少佐も一見無事な様に装っているが、目元に疲労が浮き出ていた。やはりお貴族様1年生の彼らには、辛いものがあった模様だ。

 

「……ニューイヴァーセン公爵閣下の折角の心づくしだ。何かいただくとしよう」

 

「そうですな、サオルジャン伯爵閣下。ボーイを呼びましょうか」

 

「そうしましょう、サオルジャン伯爵閣下、イーガン男爵」

 

「レイディ・アーリン、お疲れの様だし少し休んでいたらどうかね?」

 

「ありがとうございます、伯爵閣下。大丈夫ですわ」

 

 人目があるために歯が浮くような台詞を吐きつつ、さっさとヴィアンデン城に戻りたいと願うキースら3人であった。彼らにとって幸いと言って良いのか分からないが、ここでもキースの迫力が仕事をしていたため、彼らに自主的に声を掛けて来る者はそう多くは無い。そのため彼らはボーイが運んでくる適当な料理を、邪魔されずにいただく事ができたのである。

 そしてキースらが一息吐いた頃合いに、ようやくの事で彼らに声を掛けて来る者が現れた。

 

「おお、キース卿サオルジャン伯爵閣下。イーガン男爵閣下とレイディ・アーリンもご一緒で。先ほどは挨拶のみで失礼いたしました」

 

「おお、恒星連邦駐屯軍、惑星守備隊『カーペンター咆哮大隊』のカーペンター少佐だったね。我々の部隊『SOTS』はこの惑星に駐留はするが、いざ事あらば即応して近隣星系へ出撃せねばならない。だが我々が居る間にこの惑星それ自体が攻められた場合、我々の戦力もあてにしてくれて構わないよ」

 

「その場合には、共に肩を並べて戦う事になるね」

 

「その時には、よろしくお願いしますね」

 

「はっ! ありがたきお言葉に存じます!」

 

 コーニーリアス・カーペンター少佐率いる『カーペンター咆哮大隊』は、この惑星ニューイヴァーセンの本来の駐屯傭兵部隊だ。ただし恒星連邦に対する忠誠心という面では充分に高く信頼できるものの、練度はさして高く無い。先ごろの某惑星での防衛戦で大ダメージを受け、新人を受け入れて再編成したばかりなのだ。平均的な技量はおおよそ一般兵レベルに達するかどうか、そして新兵の割合がかなりに至っているのである。

 そんなわけでどうやらカーペンター少佐としては、もしこの惑星が攻められるとするならば、『SOTS』が駐留している間にして欲しい、と心の底から願っている模様である。それもあり、キースのところへご機嫌取りに来たらしかった。まあキースの側としても、もしこの惑星が『SOTS』が居る間に攻められたのなら、協力して事にあたるのはまったく問題ないというか、当然の事ではある。

 キースはボーイに持って来させた料理を片手にカーペンター少佐と話し込む。そして多少のリップサービスと幾つかの助言をし、幾ばくかの噂話を仕入れたのを成果としてカーペンター少佐と別れた。

 

「ふむ……。ニューイヴァーセンは直接狙われることは、しばらくは無さそうだが……。最も近場では、危ういのはマーダックあたりか? あそこは重要な惑星なんだが、その割に常駐戦力が薄い。先日も某所より引き抜いて増援に充てたばかりの戦力を、緊急で他所の惑星に回した模様だ。

 あの惑星に残っているのは、老朽メックと年老いたメック戦士が中心になって編制された、民兵だけらしいな……。恒星連邦に戦力の余裕があるならば、至急マーダックに駐屯軍を送り込むべきなんだが……」

 

「となると伯爵閣下。我々の第4次継承権戦争での初仕事は、マーダックになる可能性もありますな」

 

「いえ、そう決めつけるのもいけないわ、イーガン男爵。できるだけ視野を広く取って、緊急事態に備えられる様にしておかないと」

 

「レイディ・アーリンの言う通りだな。まあ、我々『SOTS』としては『上』からのお達しが来ない限りこの惑星から動けんし、お達しが来たら来たでそれに従って出撃せねばならん」

 

 キース達はとりあえずの結論を出した後は、とりあえず飲み食いに専念する。まれにキースの威圧感バリアを突破して来る者には、きちんと礼儀をもって対応するが。ちなみにそう言った強者は確かに少なかったが、予想よりは若干多かった模様である。

 

 

 

 

 

 

 惑星公爵が開いた『SOTS』歓迎パーティーから、おおよそ10日が経過した。おおよそと言うのは、惑星時と連盟標準時にズレがあるため、感覚的にその程度だろうなと言う事である。正確にはこの日は連盟標準時で3028年9月4日、パーティーより10日が経過していた事になる。

 この10日間『SOTS』は、ヴィアンデン城に付属の演習場で演習を行ったり、あるいはシミュレーター訓練を重ねて牙を研いでいた。そしてついに、彼らに対し出撃命令が下される事になる。今現在、キースはヴィアンデン城の指令室で、惑星公爵リコ・スティーブンソン閣下からの通信を受けていた。

 

『……というわけでの、キース卿サオルジャン伯爵。貴君らの部隊『SOTS』は明朝の惑星時で05:00、連盟標準時では07:29時をもって当惑星ニューイヴァーセンを出立。この星系から1ジャンプで到達できるところにある、ドリステラ星系の惑星ドリステラⅢへ向かってくれい』

 

「了解です、公爵閣下。我々は即刻出動準備に入ります」

 

『うむ。装甲板や弾薬、食料品他の補給物資はヴィアンデン城に備蓄されている物を自由に持って行ってかまわぬ。と言うよりも、それを前提にしてそちらの城に備蓄してあったのじゃて。ただし使わなかった分は、後日返却じゃよ。

 その他、向こうの惑星における風土病などのワクチンについては、後で惑星軍連絡士官からも通達があると思うが、惑星軍の輸送機で今しがた首都の空港を出たところじゃて。では貴君らの勝利を祈っておるでの』

 

「はっ! ありがとうございます!」

 

『うむ、ではな』

 

 キースの敬礼に、画面の中の惑星公爵は右手を挙げて応える。そして通信が切れると、キース達は早速動き出す。

 

「ジャスティン大尉! 惑星軍のガスリー大尉から輸送機の到着予定時刻を聞いて、輸送機の受け入れ準備を!」

 

「了解です!」

 

「キース大佐、では早速メックや戦車他と物資の降下船への積み込みに入ります!」

 

「ああ、頼んだ! キャスリン准尉、アッカースン先生たちと語らって、早速予防接種の準備を始めてくれ! ワクチンが届いたら、すぐに開始するんだ!」

 

「はい、了解です!」

 

 てきぱきとキース達は出動準備を整える。流石に歴戦の部隊である『SOTS』は、あっと言う間に準備を整えてしまった。翌朝出立直前、キースはヴィアンデン城の司令執務室の鍵を、惑星軍の連絡士官であるガスリー大尉に手渡す。

 

「それでは我々は出立する。ガスリー大尉、後の事はよろしく頼むぞ」

 

「了解いたしました。無事任務を果たしてお戻りになられるのを、お待ちしております」

 

 そして『SOTS』の降下船群は急ぎ発進。軌道へ向けて駆け上がって行った。ちなみに緊急の出立であったため、何時もの駐屯軍のメック部隊や惑星軍の見送りは無かったが。

 

 

 

 

 

 

 惑星ニューイヴァーセンの周回軌道を離れ、航宙艦群が待つ天の南極ナディール点のジャンプポイントへ航行するフォートレス級ディファイアント号の司令執務室で、キースは物思いに沈む。

 

(……ドリステラⅢ、か。『SOTS』が小隊単位だった頃に駐屯していた惑星。あの惑星で当時中尉だったアーリン少佐と出会い、メックが壊れて借金を背負って困窮していたヒューバートと再会したんだったなあ。そして、アルバート中尉……。

 色々な人の助けを借りて、どうにか仇討ちを成し遂げたのも、あの惑星だし。何か色々と懐かしいよなー。たった3年前だって言うのにさ)

 

 そして『SOTS』の降下船群は、ひたすらジャンプポイントまで宇宙空間を進む。目的地は惑星ドリステラⅢ。かつてのキース達が、過去の因縁と対決する事になった惑星だ。その地では友軍が敵の攻撃を必死になって持ちこたえ、一日千秋の思いで援軍を待っている。

 その思いに応えるべく、『SOTS』降下船群はひたすら宇宙を航行する。ドリステラⅢは戦略上重要な位置にあり、そこをドラコ連合に取られると厳しい状況に陥る。しかしその惑星の経済規模は大きくないため、多数の軍を常駐させて置くのは難しい。

 

(……間に合うか? いや、航宙速度や軌道は緻密な計算の上で成り立ってるし、そうそう変えようが無いんだが。間に合ってくれよ……)

 

 内心の焦りをかけらも表に出さず、キースは表面的に泰然自若を装う。連隊副官ジャスティン大尉の淹れてくれたコーヒーの香りが、若干だが気を落ち着かせてくれた。




 続編、投稿いたしました。第4次継承権戦争、始まってしまいました。ハンス・ダヴィオン国王とメリッサ・シュタイナー次期国家主席の結婚披露宴の会場では、歴史通りのドタバタが繰り広げられた模様。そう言えば結婚式の席上で、タカシ・クリタにジェイム・ウルフが挑戦を突き付けるんでしたか。その件も(つつが)なく行われたものとします。
 ……しかしマクシミリアン・リャオは何考えてるんでしょうね。絵皿の模様が各惑星の紋章だったからって、なんでそれが恒星連邦軍の戦略目標だと思い込むんでしょうか。いくらなんでもハンス国王がそこまでやるかなあ。
 そしてキース達の第4次継承権戦争最初の戦いは、かつて舞台となったオリジナル星系、ドリステラⅢです。さて、どうなることやら……。


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