朝露乃之は勇者である (バロックス(駄犬)
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第1章~勇気~
第1話~市橋桐香は不機嫌である~


いつもの如く、原作をふらっと見ていて妄想が止まらない。どうも、バロックスです。最近手が止まってたのでリハビリがてらに気に入った作品の執筆してます!


※一話冒頭があまりにもクソ文章だと感じたから書き直しちまったよッッ


                           

 夕暮れに染まる大地に、一人の少女が立っていた。

 

「・・・・・・」

 

 無言でその手に持つ木刀は力なく地面へと落ち、少女は足元に転がる勇者候補生を一瞥してから、自身の姿を見る。 

 

 少女は傷ついていた。 

 全身に疵を創り、顔は自身の血と殴り伏した者たちの返り血が混ざったもので、衣服に付着した物も自分の血なのか判断がつかない。

 

「うぅ・・うう・・・・」

 

 倒れ伏している一人がうめき声をあげたのを少女は聞き逃すことなく、音の鳴る方へと近づいては、

 

「―――-ヒッ」

 

 両の掌で柔肌の如き首を掴み、締め上げる。

 

「・・あぐッ、げっ、・・・がぎ、っ」

 

 首の肉と一緒に気管が容赦なく狭まっていくのをその掌に感じる。

 顔から血のめぐりが消え、口から泡を吹きながら、振り解こうとする両の手がやがて限界を迎え、ぷらんと垂れ下がった。

 

 目の焦点も完全に上を向いて、意識を手放した少女をそこの地面へ投げつけ、

 

 

「―――-あはっ」

 

 

 妖しく、首を絞めた少女は嗤う。 目元から流れている血は、まるで泣いているようであった。

 

 

 

「あぁ、何てことだ・・・ッッ」

 

 

 声色からして男だろう。喧騒を聞きつけた白装束の者たちがその惨状を目の当たりにして、驚愕する。

 

 

「勇者候補生を早く安全な場所へ――――、そこの巫女! 動くなッッ」

 

 

 数人の男が立ち尽している少女を囲み始める。 棒状の筒を持っている男が少女目がけて棒を振りかざすが少女は一切の抵抗をすることなく、

 

「この――――」

 

 

 殴られる。

 

「巫女の分際でッッ」

 

 

 肩から始まり、細い二の腕を、大の男の力で。

 

 膝裏を責め、態勢を崩し地面へと倒れた後も。

 

 頭部、背、脚、ありとあらゆる角度から男たちは少女を殴打する。

 

 

 だが薄れゆく意識と共に少女が感じたのは痛みではなく、

 

 

・・・・許さない。

 

 果てしない憎悪だった。

 

 男たちに抱えられ、医務室へと運ばれていく血だらけの勇者候補生を少女はその目に焼き付け、殺意にも似た感情の炎を燃やす。

 

 

・・・・お前たち勇者を、絶対に。

 

 

 

 

―――-それが彼女の・・・・市橋 桐香という巫女の全ての始まりだった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                 

 

――――時は神世紀290年、四国。 人類は突如現れた天災、バーテックスと戦い始めた旧世紀時代から200年以上が経過。                                    

 

 

~徳島県鳴門市~

 

 

 

 

 

 

 

 春の時期とは、何かが始まる季節である。 それは人類が災厄、バーテックスに襲われるようになり紀年法が神世紀という呼び名になっても変わりはしない。

 

 

 

 日本庭園のような和の屋敷、というよりは神社の色合いを強く残した社が構えられている建物の入りに一人の少女が佇んでいた。

 

 

 

 身長は150くらいだろうか。 肩にかからないくらいの燃えるような赤い髪が特徴的で不機嫌そうにつり上がった瞳は真っ直ぐに大赦・西支部という文字が掛かれた手紙を見つめていた。

 

 

 

「お待ちしておりました市橋 桐香(いちはし きりか)様」

 

 

 

 白い着物と顔全体を覆い隠す仮面をつけた若い男が市橋という名の少女に頭を下げる。

 

 

 

「愛媛からの旅路、さぞお疲れになったことでしょう。 各種手続きや諸連絡を行うのは少し休憩して疲れを取ってからにしましょうか」

 

 

 

 男は長旅を気遣ってか、市橋桐香と呼ばれる少女は横に置いてあった彼女が持ち込んだであろうキャリーケースを運ぼうと、手を2、3度叩いて鳴らすとともに横から現れたもう一人の男に持たせようとした。

 

 

 

「お気遣いどうも。でもこれくらいの旅の距離はどうと言うことはないから・・・自分の荷物くらい自分で持てるわよ」

 

 

 

と、男がこちらの荷物に手を掛ける前に桐香がその荷物を掴んだ。 荷物を持とうとした男はもう一人の仮面の男に視線を向け、小さくを頷くのを確認したの後に頭を下げてからそそくさにその場から立ち去っていく。

 

 

 

「それと神官様、手続きも諸連絡も休憩してからだなんていいからすぐに終わらせましょう。 私、あまり気が短い方ではないというのもここにいる神官様たちも知っている筈だし?」

 

 

 

「え、ええ・・・・・まぁ」

 

 

 

 男のその一言に桐香は笑顔の下で言葉を作る。ここでも同じなのか、と。

 

 

 

「それよりも、色々と手続きが終わったら見せて貰いたいところがあるのよ」

 

 

 

「は、はぁ・・・・もしかして・・・・」

 

 

 

決まってるじゃない、と彼女は続けて言い放った。

 

 

 

「訓練場。 もう来てるんでしょ? ここに勇者が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか綺麗にされてるじゃない」

 

 

 

 各種手続きを済ませた桐香がやって来たのは大赦内でも大広間となっていた一室。光に反射して輝く木の板、外の景色が大きく見渡すことが出来る吹き抜けがあり少し視線を上げれば大きな額縁に納められた大きな筆文字で『克己心』と殴り書きされている。

 

 

 

 

 

「ここで・・・勇者たちが」

 

 

 

 

 

人類の敵であるバーテックスたちを倒す為にこの世界の守護神である”神樹様”から選ばれた”勇者”という存在が御役目を果たすために日々鍛錬に励む場所。 

 

 

 

勇者とバーテックスの戦いを遡れば、勇者がどれだけのいるのかと言われればそれはかなりの数である。 一体、この場所で何人の勇者たちが集まり訓練をしていたのか、桐香は手入れが行き届いた汚れない板目に手を触れて考えた。

 

 

 

・・・今日はもう訓練は終わってるってあの神官も言ってたし、明日また出直そうかな。

 

 

 

 ここに留まっていても彼女が期待していた勇者が現れないと思い、その場を後にしようとした時である。

 

 

 

「・・・・あ」

 

 

 

 小さく、か細い声が聞こえたと同時に訓練場の床に何かが落ちたような甲高い音が響いた。桐香が何事か、と音のする方へ振り返ってみると。

 

 

 

・・・女の子?

 

 

 

 背丈は150くらいだろうか、頭に頭巾を巻いているがその間から見えるブロンドの髪が特徴的である。 

 肌も白くて、どうして大赦に外人が?と思った市橋だったが。

 

 

 

「ひっ・・・あ、あのっ・・・き、気にしないでくださいぃぃ・・・ただの掃除しに来た者な、なので・・・」

 

 

 

「日本人!?」

 

 

 

と、たどたどしい少女の日本語に思わず声を上げてしまった桐香。

そして相手の少女もこちらの声に驚いて、さきほど落としてしまった箒を拾おうとして、

 

 

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

と、また床に落としたのだった。 

 

 

 

 

 

「あ、ああごめんごめん。 そんなに驚かないでよ。 私なんか気にしないで、続けて掃除しちゃってもいいからさ」

 

 

 

「は、はいぃ・・・・すみません・・・」

 

 

 

どうして謝られるのか理解が出来なかった桐香だが、さほど気にすることが無いようにする。それにしても、大赦の人たちは皆仮面をかぶって生活しているものだと思っていた。掃除をする役目を持った人も例外ではなくそうではないかと桐香は考えていたほどだ。

 

 

 

「え、ええっと・・・あなた、歳はいくつ?」

 

 

 

「じゅ、今年で十五です・・・はい」

 

 

 

「同じ年齢・・・だと?」

 

 

 

 これも勝手な決めつけだが、桐香は大赦の人間たちは皆大抵大人たちで確実に自分よりも年上なのだと思っていた。 自分と同じ、御役目を持つ者以外は。

 

 

 

「ぐひぅ」

 

 

 

・・・持ってきた空のバケツに足を突っ込んで転倒している、こんな子が御役目持ちなんて・・・・・ないない。

 

 

 

と、桐香は内心で続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというものの会話は途切れ、少女は桐香に構わず掃除を始めた。最初は窓拭き、次は箒掃除、濡れ雑巾で床を拭いたりとそつなく雑用をこなしていく。

かなり手馴れているのか、その手際の良さには桐香は素直に感心してしまっていた。まるで数十年その手の道を歩んできているベテランのようなそんな感じだ。

 

 

 

「・・・ねぇあなた」

 

 

 

 ただ無心で、しかし動作は淀みなく掃除を行うブロンド少女に桐香は聞く。またしても、小さく身を震わせてから、恐る恐るこちらを振り向く彼女に桐香は自身の聞き方はそんなに威圧的な物であったかと考えさせられる。

 

 だから、今度は出来る限り笑みを浮かべて敵意を感じさせないように気を遣った。

 

 

 

「ここは訓練場であってる? 勇者って何人いるのかしら」

 

 

 

 桐香の問いに少女はきょとんとした表情でこちらを見ている。まるでどうして知っているのか、という風にだ。

 

 

 

「訓練場です、ね。 私もここに最近来たから詳しくは知りませんが、まだ集まっていないらしくて・・・」

 

 

 

「そうなの?」

 

 

 

「話ではあと二人ほど・・・でも召集に少し遅れているらしくて・・・」

 

 

 

既にここにいる一人にはまだ会えてもいないわけだが、あと二人加わって三人の勇者がこの場所に集まるらしい。市橋も全体的な話をするにあたり、顔合わせは明日ということだけは聞いている。

 

 

 

・・・人類の危機だっていうのに召集時間に遅れそうだとか、いい気なものだ。

 

 

 

 少しだけ、頭に血が上りかけたのを必死になって桐香は抑える。これは彼女の性分でもあるが、分かっていてもこの衝動は抑えることが出来ない。

 

 

 

 

 

「あ、あのぅ・・・もしかして勇者のファン、ですか?」

 

 

 

 桐香と彼女の間に行われた会話の中で初めての相手からの問い。 本来驚くべきことではあった桐香だが、彼女のその言葉はいささか市橋の琴線に触れるものだった。

 

 

 

「ちがうっ!」

 

 

 

「ヒッ!」

 

 

 

 笑みが消え失せた桐香の否定の言葉は少女の身を震わせた。 目を瞑り、箒を両手で握って胸の辺りで抱きしめるように身をすくませる。

 

だが怒りのボルテージが上がった桐香にそんな事を気にする余裕などあるわけがなく、続けざまに言い放つ。

 

 

 

「誰が勇者のファンなんかになるもんか! あんな・・・っ、あんないるだけで不快な奴らなんか――――」

 

 

 

 桐香は言う。 息を吸い、高らかな声で。 

 

 

 

「大っ嫌いなんだよッ!!」

 

 

 

 それは大赦の中にいる人々も、果てはどこかにいるであろう勇者にも聞こえたらしい。

 

 

 




久々に作品を更新しようとしたら全く別の作品を書いていた・・・・何を言ってるのかさっぱり分からねーが、『乃木若葉は勇者である』を購入してからアプリまで始めたらいつの間にか筆が止まらなかったんだ。

どうも、バロックスです。 自由気ままに原作をいじるのが好きです。あまり世界観を壊さず、それでいて自分の作風を出した物語を作って皆さんに楽しんでいただければと思っております。

さてさて、この作品はとにかく心に風穴を開けてくる内容が多いデス。日常からの非日常、希望が見えてからの絶望。でもその絶望にも挫けず前を向いて必死に歩く少女たちの姿が印象的な作品でした。

作品の舞台が徳島となっていますが、全国各地に散っている勇者たちがとある理由で徳島に集まってきます。 三人です。例の如く少ないですね、戦力と言うのも毎回枯渇気味です。

一応乃木若葉の時代から数百年、鷲尾須美の話よりも前のお話という事で戦闘能力もある程度は弄っているものの鷲尾須美たちの世代よりは弱い設定にしてます。

そして神樹の恵を呪術的に科学的に解釈させる技術を進化させた事で戦闘関連では今までになかった設置系のシステムを登場させる予定です。


気になったことがあったら感想に乗せていただけると助かります。
では、また次回。








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第2話〜巫女と勇者たち〜

絢爛祭なのにどうして....神樹の恵が1700しかないんだ。
園子様とにぼっしーが欲しいんだぜ...


~大赦書史部・巫女様 検閲済~

 

 

 

――――去年の冬頃、神樹様から信託があった。徳島県を中心にバーテックスたちの侵攻が行われるらしい。それに伴って各地で選ばれた勇者と巫女が徳島に集められるのだとか。だがその頃、私は私で、別の問題に悩まされていた。

 

――――数ヶ月後、愛媛に居た私は徳島の巫女として派遣されることが決まった。他にも巫女はいる筈なのに、私が行かされる理由を知りたいが恐らくは●●の●●●●だろう。 

 

――――きっとどこに行っても同じことがある。私が巫女でそこに勇者がいる限り、向かう所に私の居場所はない。

 

 

――――勇者という者たちは巫女の事を●●●●●●●●だとしか思っていないのだから。

                     

 

   ~神世紀280年3月 市橋桐香 記~

 

 

 

 一人の少女が長大な大赦内の廊下を歩いている。巫女装束に身を包んだ少女、市橋桐香その人だ。彼女の横に小さくかしこまった大赦の職員が桐香に挨拶を交わし、少し距離を置きながら小さく呟いていた。

 

――――あれが噂の愛媛のヤベー奴.・・・。

 

 それはとどまる事を知らず、彼女とすれ違う人や遠目から見ている者たちからも

 

――――愛媛のゴリラ巫女・・・。

 

などという不審なワードが漏れる中、彼女はさも気にしないという感じで歩みを止めることは無かった。それはさておき、市橋桐香は神樹様に選ばれた神の声をくことが出来る巫女である。

 

 元々、彼女は巫女になりたくてなったわけではなく勇者として戦うことを望んでいた。だが、勇者より巫女としての適性がかなりの高さだったことが分かり彼女は巫女になる事を余儀なくされたのである。 

 

しかし、当人がそれを素直に受け入れる筈もなく、数年前から行っている彼女の行動は巫女としてかなりの問題だと大赦内では認識されるようになる。

 

 ちなみに、”ゴリラ巫女”という名前の由来については問題児として認識されるに至って名づけられた物なのだが、それは後に語られることとなる。

 

 

「昨日の女の子・・・・流石にいないか」

 

 

 

 桐香がやって来たのは昨日の訓練場だ。昨日の掃除していた少女のことを気に掛けたが、こんな早朝から掃除は流石に無かったようである。なにせ、あんな風に取り乱してその場を後にしたのだからこちらとしても居ない方が良いと思っていた。

 

 召集により各地にて呼び出された勇者がこの徳島の地に集う。その勇者たちの顔合わせが早朝に行われるのだった。訓練場に入ると既に人がいて、大赦の人間と勇者らしき少女が二人。

 

「おはようございます。 市橋様」

 

「・・・・」

 

 無愛想に、彼女は視線を送るだけ。それを挨拶と理解したのか、もはやそれが当然のように大赦の男は話を切り出す。

 

「こちらが昨晩到着した勇者様達でございます」

 

・・・いったいここの勇者がどんな面をしているのか今見定めてやる!

 

 男の声に反応し、少女たちが桐香と見合う。桐香の方から見て左側いる腰までいかないくらいの黒髪の少女が口を開いた。

 

「琴吹 静流(ことぶき しずる)よ・・・ふぁ・・・・ねむい・・・・」

 

・・・おいおい、自己紹介で勇者が欠伸をするのかい!

 

「あー、早く帰ってドリキャスやらなきゃ。 この集まりまだ終わらない?」

 

・・・この時代で中学生女子がドリキャスとか何してんの!? 一体いつの時代のゲーム機やってんの!?

 

自己紹介をした静流はなぜかとても眠たそうに言うので桐香は心の中で叫ぶ。 そして今後の展開を予想するにあたり残っていた隣の少女が自己紹介をするのかと思いきや

 

「・・・・・」

 

・・・おいおい、今度は喋らないのかい!

 

無言、まったくもって口を開かない。静流のように眠そうなのかと思えば、その視線は遠くを見ているわけでもなくしっかりと桐香の方を見据えている。

 

「ちょ、ちょっと・・・」

 

「・・・・・?」

 

このままでは本当に終始無言というのが実行されかねないと考えた静流が隣の少女の腕を肘で小さく突く。それにようやく反応して、

 

「草薙 命(くさなぎ みこと)・・・」

 

 

この間、わずか2秒であった。

 

 

――――自己紹介短ッ!!

 

その場にいた誰もがそう思ったのは言うまでもない。

 

 

・・・・この勇者たちは大丈夫なの? なんか不安しかないんだけど!!

 

 桐香は眉をぴくぴくと動かしてこの勇者たちの状態に不安を覚える。果たして、この者たちに世界の・・・四国の平和を任せても良いのだろうか、と。

 

・・・・いや、まだあと一人いるだろ! せめて、せめて一人くらいはまともな勇者が居る筈だ!

 

 まだこの場所に来てはいない最後の勇者に桐香は望みを託すしかなかった。

 

 

「あれ、勇者って私たちの他にもう一人いるんじゃなかったっけ?」

 

 この場の違和感に気付いた静流がそう言うと、大赦の男が

 

「おかしいですね、朝露(あさつゆ)様は1週間程前からこちらの方にいらしているので、こちらからも連絡を済ませて本日の召集に間に合うようにお伝えしていたのですが・・・・」

 

 

と、職員が言った時だ。 桐香の正面、つまり二人の勇者たちの後ろ・・・物陰から恐る恐る、そしてとてつもなくノロいスピードでこちらに歩いている少女が見えた。

 

 

「・・・・・え?」

 

桐香は目を疑う、大赦の男は何も口には出すことはないがきっと仮面の下の顔は桐香と同じくきょとんとしているに違いない。 その少女はゆっくりと、そしてぎこちない動きで二人の勇者の参列に加わり目線を下に向けて押し黙った。

 

だが、この少女こそ。

 

・・・一人で掃除してた・・・・・。

 

昨日、桐香が訓練場を下見した時に居合わせたブロンドの少女その人であった。 沈黙が続く、なぜか誰も口を発することができなかった。まるでそういう魔法でも掛けられているみたいに空気が少しだけ重い。

 

「・・・・あのぅ」

 

ここでブロンド少女が口を開く。

 

「召集・・・遅れました。 あと、あ、朝露 乃之(あさつゆ のの)です・・・」

 

若干列から少し、数センチほど下がっては視線を逸らしながら自己紹介を終えたのだった。やがて大赦の男が、頃合いを見て桐香の方を見ると

 

「勇者3名全員集合完了! 健康状態異状ナシ!」

 

と、旧世紀の軍隊のように意気揚々と言うのであった。

 

「うーん」

 

市橋桐香は思う。 それはもう、思っている事はたくさんある。 たくさんあるのだが今は敢えてこの一言で済ますことにする。

 

 

 

―――この勇者達ヤベェ!

 

 

四国の、人類の明日はどっちだ。




どうもバロックスです。明日から山登り行ってきます。山というか、ウォーキングです。 仕事の一環です。 そんなことより休みをくれ...

市橋桐香はゆゆゆシリーズの中でも異質で存在感のある巫女を目指していきます。最初は巫女視点で進んでいきますから朝露乃之が主人公なのに目立たず、あまり喋らないシーンが多いです。

戦闘シーンはもう少し先になりそうです。3人を動かすのは非常に楽しみですが書き手として技量を試されるところ。



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第3話~巫女と勇者たち②~

風邪ひいたので更新遅れたぜ・・・。でもウォーキング中にゆゆゆいで10連したら銀ちゃんと風先輩とタマっち先輩来てくれたぜ。生きてきた価値があるってもんだ。

バーテックス「ぼくらの出番マダ」

まだです。


 自己紹介を終えた後、グランドまで移動した勇者達は巫女である桐香の前で早朝の訓練を行うことになる。ほのかに温かい4月の風を受けながら土のグランドを掛けていく3人の少女。先頭が草薙命、琴吹静流、朝露乃之の順である。

 

 バーテックスと戦う勇者たちの訓練と言ってもその訓練方法はさまざまであり、基礎的な体力作りから精神集中の為の座禅や滝行、実際に対人格闘など大赦に勤める教官が作り出したメニューを早朝と放課後に分けて行われるのが日課となる。

 

 

「まずは基礎体力か・・・もう既に目に見える形で差が出来てしまってるけど・・・」

 

 朝礼台の上で仮面をつけた大赦神官と体育服装に着替えた桐香が体力作りである5キロ走の様子を眺めていた。勇者となって身体能力が大きく向上するのは知って入る。人間でいう一歩の跳躍が勇者にとっては100メートル以上の大跳躍を行えるほどだ。

 

 勇者として最低限は基礎体力を培っておかなければ、スタミナというのはいざという長期戦時には必要になるため訓練自体も疎かに出来ないのである。

 

 

 

 

「あ~、しんどい・・・・」

 

 場面は変わり実際にグランドを走っている長髪の少女、琴吹静流は淡々と走りながら深いため息をついていた。

 

「若干寝不足気味だわ・・・朝食も簡単すぎて10分で済ませろって・・・鬼だと思うのだけど旧世紀の軍隊か!って・・・」

 

「・・・・・」

 

 独り言・・・ではなく、一応併走している命に喋っている筈なのだが案の定返事というのが彼女から返ってくるはずがなく。

 

「むぅ、いけないわ。 このままだと私のテンションが、この訓練をやりきる為の活力が・・・命さん!」

 

 切れてしまう。そう考えた静流は併走する命の方を見て言う。

 

「勝負をしましょう」

 

「・・・・・?」

 

 訳の分からないことを、と言った感じの表情の命に対して静流が笑みを浮かべて続ける。

 

「この5キロ走、どちらかが早く完走することができるのか・・・こう見えても私、陸上部・・・・つまり少しばかり走り込みに関しては自信があるの」

 

 鼻を鳴らして言う静流ではあるがこれは彼女のゲーム形式で訓練を進めることにより自身の低くなりがちなテンションを引き上げる為だけの作戦であった。

 

「今2キロ手前・・・そうね、ちょうどあのスタートラインの白線から始める事にしましょう。自動的に、デッドオアアライブ!」

 

「・・・・」

 

 テンション高めの静流に対して平然とした命はコクリと顔を最小限に動かして承諾の合図を送る。

 

「それじゃあ行きますわよ・・・・」

 

 互いにピッタリと併走して、スタートの合図を出すタイミングを見計らう。次第に近くなってくるスタート白線を目視で捉えて静流は内心で準備を整える。

 

 スタート直後、30メートルまでの間に先頭を取り、相手の出鼻を挫く。長距離走において相手よりも素早く位置を取るというのは非常に重要だ。習い事で陸上競技をやっていた静流は戦い方が分かっていた。

 

・・・コーナー終わりまで加速したらペースを維持、そして残り1.5キロになった時点でスパート!

 

 完璧だ、と己のペース配分、試合展開の隙のなさに勝負をする前から勝ち誇った笑みを浮かべる静流。そして、ついにスタートの白線まで数メートルと迫った時。

 

「・・・・レディ」

 

 呼吸を整え、身構える。目指すは予定通りの陣取りからの加速、予定通りの試合展開。二人の足が白線を跨ごうとする瞬間に静流が声を上げる。

 

「ゴォ――――って、え?」

 

 まずは第1段階、加速からの位置取り、となる前に静流がそんな素っ頓狂な声を上げたのは先ほどまでピッタリと真横にいた命が1秒と満たない程に静流の前方へと駆け出しており、その背を捉えていたからだ。

 

 まるで風が吹くように、しかもその出だしを相手に悟らせることなく命は先頭を取っていた。

 

「え、ええ? えええ!?」

 

 驚くべきは命のその走り方だ。まるで100、200メートルを走る短距離選手の如く前傾姿勢でグイグイと加速をしては静流との距離を引き離していく。

 

 

「・・・・なんてこと!」

 

 呆然とした静流はすぐに憤る。それは油断して前を行かれたことではなく、まったくもって別の事で

 

「私が遅い!? 私がスロウリィ!? 冗談じゃなぁぁぁぁい!!」

 

 既に50メートルは引き離されている命に対して猛追。

 

「ゲーム形式で勝負を持ちかけておいて、私が負けるのは許されんのよぉぉぉぉぉ!!」

 

「ひ、ひぃっ・・・・む、むぅりぃ・・・は、早すぎ・・・みんな、まって・・・」

 

 既に体力の限界を迎えていた朝露乃之は一人そのレースから取り残された。初めから頭数には入れられていなかったが。

 

 

 

 

 数十分後、体力錬成は無事終わりを告げる。グランドのゴール地点では大の字で転がった静流が大量の汗をその身から垂らしていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・み、命さんは身体に何かエンジンでも積んでるのかしら・・・きっとニトロね!ニトロな女なのねッッ」

 

「・・・・」

 

 静流と命の勝負を開始してから5分ほどで命が先にゴールする。尋常じゃないスピードでゴールをしたにも関わらず呼吸一つ乱さず青い空を見つめていた。

 

 

 

 

「体力面は草薙さんがダントツか・・・琴吹が体力そこそこ、朝露さんがヤバい、わね」

 

 ラストランナーとしてゴールした乃之はゴールと同時にぶっ倒れ、用意された水入りバケツに頭から突っ込んでいた。ちなみに消耗が激しかったためか今は近場の木陰に氷タオル巻いて寝かせている。

 

「市橋様、琴吹様だけ呼び捨てなのは・・・・」

 

「いやぁ、なんかあの人アホっぽいからいいかなぁって」

 

「今堂々と酷いこと言いましたね、この巫女さん」

 

 バインダーに挟んだ勇者たちの記録票にさっきまで行っていた10キロ走のタイムを書き込む桐香に対して大赦の神官も思う。本当に神樹様に選ばれた巫女の一人なのか、と。

 

「それよりも神官さん、いま日差しもあるしだいぶ熱いんだと思うんだけどその服と仮面絶対外せない制約とかかかってるのかしら」

 

「何を言いますか市橋様、これは私達の普段着です」

 

 アンタそれマジで言ってんの? という視線を送る桐香。大赦の人間たちは仮面を被っているせいかその本質、感情などが読み取れない良くわからない連中だと思っているわけで。

 

「取り敢えずしばらくは基礎体力作りでランニングはこなさせるとして、座学は・・・・こればかりは分析するには数日が掛かりそうね」

 

 

 

 

 

―――それから数日が経つ。

 

 

 訓練を終えたその後は大赦管理下に置かれた中学校へと移動し、一般のクラスに混じり普通に学生としての授業を受けるのが流れである。その中でも桐香は勇者たちの監視にあたっている。理由は桐香曰く、勇者としてお役目を果たすにあたり、国防における最低限の知識を有しているかを確認するためだ。

 

 教師たちに大赦を通して特別な許可を貰った桐香は少ない日数ではあるが各学年の勇者達の座学を隠れて見ていた。その様子を数日間見ていた結果としてまとめると

 

「座学に関しては静流が一番っぽいわね。 乃之さんが中間で命さんが下っぽい・・・」

 

 授業中に関して、教師からの問いに答えるように指名されると率先して手を上げて答えていたのは静流だった。逆に身体能力が以上に抜きでていた命は小テストの内容はかなり悪いようである。

 

「市橋様、お茶です」

 

「あ、どうも。 あ、あと大赦の中に腰の悪そうな人居たでしょ・・・これ、その人に効く軟膏見つけたから渡しておいて」

 

「恐縮でございます」

 

 中学校のとある一室は桐香と大赦神官の待機室となっている。勇者たちの訓練や今後のスケジュールの確認も兼ねてのミーティングも行っている場所だ。ちなみにその場所は校内の面談室をまるまる貸し切った場所であり、設置されているホワイトボードには今日のスケジュールが簡単にだが書かれていた。

 

「ん? 放課後の訓練に”補備教育”って・・・」

 

「それはですね・・・」

 

 ホワイトボードの下の行に書かれていたその単語をお茶を啜りながら気にした桐香に対して神官が答える。

 

「本当は勇者の戦闘における訓練を計画していたのですが・・・まぁ、ここ数日体力系多かったと言うこともあってそのまま訓練も終了させようかと思いましたが・・・・」

 

 ふーん、と桐香がその一行を見て数秒ほど間を開けてから口を開く。

 

「えーと、じゃあ私と模擬戦で」

 

「ファッ!?」

 

慌てふためく神官に対して桐香が続ける。

 

「体力とか勉強とかある程度出来ても、やっぱ戦闘能力はないとねぇ」

 

 桐香の表情は笑っている。それも戦うことを楽しみにしているようで。

 

「い、いけません市橋様! そのようなことをすればまた!」

 

「また・・・って?」

 

 鋭く、そして冷たい視線が神官の動きと次の言葉を遮った。

 

「ここで私に負ける勇者なら所詮、私が今まで見てきた勇者達と一緒って事で」

 

じゃあね、と最後にそう言うと桐香は湯呑を置いて部屋を後にする。一人残された神官は身を震わせながらスマートフォンを起動させる。

 

「いかん! 始まるぞ・・・愛媛のゴリラ巫女の暴走が!!」

 

そしてグループ通話も可能なアプリを起動させて『大赦関連』というグループを開いてはメッセージを送信した後、室内から飛び出した。

 

―――『異常事態発生。愛媛巫女、暴走ス』




 主人公は乃之ちゃんのはずなのにまったく喋っていない。喋っているのがアクティブゲーマー勇者と巫女と大赦の神官で・・・命ちゃんまったく喋れてねェじゃねぇか!と思った私。

 ちなみに、勇者の中では命ちゃんが一番足が速いという設定です。身体能力は上だけど頭の中はポンコツだった。

 なんか勇者より巫女がメインな状態になってきますがもう少ししたら全体的に話も進む予定です。質問と感想がありましたらいつでもお願いします。


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第4話~巫女と勇者たち③~

 早い話がストックが出来たので早めに投稿させてもらった。そしてようやく乃木若葉の小説を上巻を読破しました。今よく見てみると細かい設定多いですねバーテックス。ゆゆゆとかわすゆとかの比較もしながら楽しんで読むことが出来ました。


 夕日がまだ沈まないくらい辺りの明るさが残る放課後。大赦の訓練場には二人の少女がぽつんと座り込んでいる。一人は朝露乃之と草薙命、いずれも二人は目の前で今まさに行われんとしている試合の見守り役だ。

 

「やれやれ・・・。戻ってきた一番に巫女のアナタから模擬戦の提案とは。どういうことか説明させてもらえるのかしら、市橋さん」

 

 体育服装に着替えた琴吹静流が正面に見据えるは市橋桐香の姿だった。得物である竹刀の張り具合を手で確認する仕草と同時に桐香は答える。

 

「簡単に言えば、テスト・・・みたいな感じだな。 静流」

 

「アレ? 今この人呼び捨てにした? 凄いナチュナルな感じで呼び捨てにしてたかしらこの人」

 

 別に年齢が1個上なんだからいいでしょ、と内心で呟いて桐香は続ける。

 

「三人の勇者としての資質を・・・この私が見極める為よ!」

 

 桐香は竹刀を振るう。

 

「本当にあなたたちが御役目を果たすに足る勇者なのかをねッ!」

 

 尋常ではない殺気が飛び、それは静流の背筋に凍る物を覚えさせるには十分なほどである。しかし、静流は怯まない。小さく息を吸い、言う。

 

「・・・・巫女であるアナタがそこまでする理由ってあるのかしら?」

 

「・・・・」

 

 静流の問いに、桐香は無言で、しかし竹刀を構えるという形で返答する。その形の意味をするところは――。

 

―――ワケあり巫女、という訳なのね。これはまた難易度ハードだわ。フフフ、聞きたければ・・・知りたければ剣戟の中で語りなさいって事ね。 要はアナタ不器用ね!? ザッツ・不器用ッ

 

 でも、と静流は続ける。

 

「私、そういうの嫌いじゃないわ・・・それに私さり気無くあなたから凄い評価下げられっぱなしで、ついでに馬鹿にされてそうだからその仕返しもさせてもらえるのはそれはそれでいいんだけども」

 

と、小さく笑みを浮かべて竹刀を構える。静流にとってシンプルな答えが一番しっくりと来るものらしい。

 

「お互い、ちゃんと防具つけなくていいの?」

 

 試合が始まる数秒という所、雰囲気で勝手に始まりそうなタイミングで朝露乃之は言うのだが、彼女たちは防具一式揃えず竹刀一本で試合をするらしい。

 

「そりゃあそうよ」

 

「防具が重くて負けました、なんて言い訳されちゃ困るから」

 

 その台詞を皮切りに、両者が踏み出す。道場内で、竹刀の乾いた音が響き渡り始めた。

 

 

 

「うおおおおお忙しい忙しい!!」

 

 一方、桐香たちが模擬戦を始めたということを聞いた大赦内では内部の神官たちが廊下と医務室を行ったり来たりと大騒ぎしている状態であった。

 

「おい! 医療班、湿布と包帯ちゃんと用意してんだろうな!」

 

「はい!しかし・・・訓練教官から連絡があってからこんなに忙しくなるなんて・・・」

 

 救急箱に包帯や湿布を詰めていく一人の神官が仮面の下で息を吐く。今の西支部の大赦が遭遇しているのはまるでかつてのバーテックス襲来のような慌ただしさである。

 

 ある者はタライに水と凍りを入れ、ある者は人を担ぐ担架を倉庫から人数分持ってきたり、終いには三人ぐらいの神官たちが座り込んで何やらブツブツと言っているが恐らくは祈っていると思われる。

 

「君、たしか去年から配属になった人だな? まぁ、普段はこんなに忙しくなんてないんだが・・・・あ、腕折れた時の為にギブス持ってて」

 

「ちょっと!右から左の薬品全部!あとバンテージ、と氷枕! 包帯は大目に持ってく!」

 

横から忙しく通り抜けていく女性神官も籠いっぱいにタオルを詰めていた。新人の神官は息を呑む。一体何が始まるのかと。

 

「巫女の市橋様のあだ名は聞いたことはあるだろう。『ゴリラ巫女』、『みかん抜刀際』、『愛媛の巫女でヤベー奴』と色々あるが」

 

確実にあとに出た二つの名は初めて聞いた気がするが。

 

「あの方は・・・市橋家は代々、そこまで大きな家柄ではないが巫女の家系でな」

 

「聞いております。他の巫女にはない能力が宿るという家系ですよね」

 

 新人の神官は聞いていた市橋家についての情報を話す。

 

 

 過去に巫女としてのお役目に就いていた市橋家の特殊な能力はこれまでの勇者たちの戦いをより良いものにするために大いに役に立っていた。だが、その希少な能力は代を重ねるほど顕現することが少なくなり、能力が使用できたとしても回数に限りがあるとか、それ以前にあまりにも弱い能力で使用が出来なくなるなど、次第に大赦内の立場も揺らいでいったとか。

 

「市橋桐香様は市橋家歴代で優れた巫女と言われ、その能力の開花はこれからのバーテックスの戦いに大きな進展を遂げる筈だった・・・だが」

 

 ここからは、上司だけでなく新人である神官も聞いていた話だ。

 

 

 

 

―――ある日、巫女である市橋桐香が、勇者候補生を全員病院送りにしたという、そんな話を。

 

 

 

 

「市橋様はとても巫女とは思えないほど、活発で、巫女としてではなく市橋様自身が勇者となり、バーテックスと戦うことを目指していた」

 

 生まれた頃、巫女としての家系とかそんな細かいことを知らない幼いころの桐香は、バーテックスと戦う勇者の話を聞かされる。それを聞いた市橋は思っただろう、自分も勇者になりたいと。

 

 だが、勇者というのは『なりたい』から『なれる』のではなく、この世界の恵みとなっている神樹様による選択により『ならされる』のである。

当然、桐香の勇者としての適性はゼロ。 揺るがない、動くこともない一つの数字。

 

 しかし桐香はポジティブだった。努力を成すことで、神樹様に『認めさせる』という考えに至り、巫女としてだけでなく勇者と同等の、もしくはそれ以上の濃い密度の鍛錬を己に課したのである。

 

 

 ここで話は戻る事になる。市橋桐香が勇者候補生を病院送りにしたという話だ。

 

 

 事件の始まりは桐香が愛媛で巫女としての修業をしている中、その地の勇者候補生との口論が原因だった。騒ぎを聞きつけた大赦の神官たちが目の当たりにしたのは木材や竹刀、木刀などが散乱した地面に14~15人ほど血まみれで倒れ伏した勇者候補生たちの現場に一人だけ竹刀一本を手に持った桐香の姿だったという。

 

「それ以来、市橋様は勇者を試すと言っては己の身一つで勇者候補生に啖呵を切っては力でねじ伏せ、病院送りにするという凶行に・・・」

 

 巫女にあるまじき、そして勇者以上のパワーで相手をねじ伏せていく、故に彼女には『愛媛のゴリラ巫女』というあだ名がついたのだった

 

 

「今回の神託による戦いは、この世代では市橋様しか優れた巫女がいなかった為だと香川の本部はそう言ってい入るが・・・実際は何も神託も無ければ巫女としての勤めすら行わせず、大赦内に勤めも果たせない市橋家の地位を一気に落とすつもりという噂だ」

 

「なんと・・・ひどい」

 

 巫女としては厄介者であるから、いらぬ荷物として隅に追いやるのだ。 本来の勤めである巫女としての力を発揮させられぬまま。

 

「たしかに市橋様は人を傷つける事をしましたが・・・あの子は泣いていました」

 

 二人の話を聞いていた一人の女性神官が入ってくる。 男性神官はもしや、と言葉を続けた。

 

「君は市橋様が愛媛に行っている間に付き人をしていた・・・」

 

 20代くらいの女性神官は小さく頷いて、語る。

 

「事件のほとぼりも冷めて、謹慎処分も終わった後で私が部屋へ伺った時なんですが・・・・市橋様はベッドに突っ伏したまま寝言で言ってたんです」

 

――――なんで、なんであんな奴らが勇者なんだ・・・・。

 

 

――――私だって好きで巫女なんかになった訳じゃないのに・・・。

 

「なんと言えばいいか分かりませんが、とにかくその当時の候補生達には途轍もなく『酷いこと』を言われたんだと思います」

 

 女性神官の話に、辺りがどよめく。その中には何人か憤りを覚えた神官もいたそうで。

 

「なんだ酷いことってッ!」

 

「俺達の桐香ちゃんが手を出すほどヤベー事言った勇者候補生が居るんだってさ!!」

 

「おい誰かその愛媛の勇者候補生連れてこいッ!!」

 

と怒鳴りだす始末。女性神官は仮面の下で小さくため息をつきながら続ける。

 

「何か、良い方法はないのでしょうか。このままでは御役目に支障が・・・」

 

分かっている。と、男性の神官は粗方揃えた道具を持って立ち上がった。

 

「これは勇者と巫女が発端。ならば、そのわだかまりを解決するのもまた、勇者と巫女だ」

 

「つまり彼女達に丸投げですか」

 

違う!と男性神官は声高らかに言う。

 

「私たちは勇者と巫女が御役目を立派に果たせるように、無事に帰って来られるように見守るだけしかできない。大人だからって、なんでもかんでも子供のやる事に介入することが私たちのするべきことではないはずだ」

 

「そうだ」

 

男性神官の声に反応する声がある。先ほどから3人ほどでブツブツと呟いていた内の一人だ。声色からして40,50くらいだろうか。

 

「どんな時代、ワシらはいつだってあの子たちを頼ってしまう。この世界は御役目だの神託だの都合のいいことで自分の孫とか、娘くらいの女の子に命懸けの戦いをさせとる・・・本人達の意志なんンて関係ないんじゃ」

 

だから、と老人の神官は続ける。

 

「そんなかで、桐香ちゃんが自分の意志でやってることなんだ。 そこでワシら大人が無理やり押さえつけようとしても意味がねぇ。同じ年代の子の言葉しか、多分届かん」

 

 でも、どうしてもというのなら。それは、彼女たちが取り返しのつかない事をしてしまったときに正しい道へ戻してあげるということぐらいだろう、と老人は思う。

 

「だからワシらがここにいるのは、ただ勇者たちを祀り上げるだけじゃなくてよぉ、いつか大人として取る事になる責任の為にここにいるんじゃねぇかと、最近思ったんだが?」

 

 反論する者など誰も居なかった。 徳島県、大赦西支部の神官たちは誰よりも勇者と巫女の事を支援する存在となったのだ。

 

「なんか意外です。てっきり市橋様ってここでだと嫌われてるかと思いました」

 

 女性神官は口にした言葉は本当で、そういった噂が全体に広まっているという反面、この場所にいる神官たちの桐香に対する好感度はかなり上の方にあるようでその熱気は若干ファンクラブのようなものを感じられたからだ。

 

「そりゃあ悪い子じゃねぇと思うね。いつだって勉強熱心だし」

 

「勇者達のデータまとめて嘘偽りなくこっちに送ってくれてんだろ?そこまでしなくてもいいと思うけどな」

 

「トレーニングメニューとか献立の栄養バランスもちゃんとチェックして人手が足りなかったら配膳側の仕事も手伝ってくれるしよ」

 

「ワシなんてこの年だから気遣われて休憩所の椅子譲ってもらったもんね!!」

 

「初めてお会いした玄関先でのあの見下すかのような笑み!! あれに見つめられて目覚めない者など!!」

 

 それぞれ挙がっていく言葉に一部完全な変態がいた気もするが、それ以外は彼女に対してのひた向きさと優しさを正当に評価されたものだと、女性の神官は思う。実際、彼女も愛媛に向かう道中で巫女の手前で酷く緊張しっぱなしだったのだが桐香はそんな自分を気遣ってか一緒にカードゲームをしたのを思い出す。

 

 その時は巫女と神官の立場もあり、否定はしていたがそうしなきゃ一人で永遠とババ抜きをする痛い子を演じます。と遠まわしに脅されたのだった。巫女とかそういう以前に中学生の少女にそんな事をさせるわけにもいかず渋々その提案を呑んだのだが、ババ抜きをしていた時の彼女の笑顔はとても明るいものだった。あの事件から一年くらい、その笑顔を見る事が出来ていないが。

 

―――頼みます。勇者達・・・市橋様の笑顔を。

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・」

 

場面が戻り、訓練場となる。大の大人たちが謎の一致団結している一方で。

 

 

「・・・な-んだ、こんなものなのね、勇者って」

 

その訓練場では床に膝を着いている静流に対し、竹刀を突きつけている桐香の姿があった。

 

 

 

 




 どうも、バロックスです。普段は仕事終わりに白猫テニスとかゆゆゆいとか筋トレとか、空いた時間に執筆してます。なんかプライベートが出ましたが無視してもいいデス。

 桐香ちゃん無双出来るのは人間まで、ただ普通の人間じゃマジで対応できないくらい、強いデス。 簡単に言えば、巫女なのに戦闘スペックは煮干しとか若葉王子とかしずくさんと同等。

 書いてて思った、コレ巫女じゃなくね?ゴリラだよね。


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第5話〜巫女と勇者たち④〜

気付けば5話まで進んでいた。
そしてだ、だれか...神樹様の恵を..うどんを...く...れ
桐香ちゃん相手に静流ちゃんでは戦闘描写もないままあっけなくボコボコに.... はたしてこんな巫女が居ていいのか


昔、桐香は自身の祖母に巫女としてのお役目について聞いたことがある。それは『神樹様の神託による声を聞く』ものではなく、市橋家に代々と伝わっていた巫女としての役割というものだ。

 

まだ幼かった頃の桐香はその力の内容を聞いても自分が勇者になるものだと諦めておらず、

 

「そんなことより、私は勇者としてたくさん戦ってバーテックスを倒したい」

 

そう言っていた。だが彼女の祖母は少し笑って桐香の言葉を咎めた。

 

「この能力《ちから》は今日まで四国が生き延びてきたその一端を担っています。徐々に弱まって、歴代で数人くらいしかその力を使うことが出来ていませんが・・・・勇者だけが戦っているのではないのですよ、桐香・・・」

 

 祖母は桐香の頭を優しく撫でながら彼女の身体を引き寄せる。膝の上に乗せられた桐香の前に見えた写真があった。代々、市橋の巫女としてお役目を成し遂げていた巫女の写真が写りだされていた。そこには巫女だけでなく、勇者や大赦職員との集合写真まであったのだ。

 

「”誰もが”、この国を生かす為に戦っている・・・そこに巫女とか勇者とか、関係ないのですよ」

 

「・・・・わからない」

 

「そうでしょうね」

 

 だが、今度の祖母は特に桐香を咎める事もなく、こちらを見らこともなかった。そして勇者と巫女と大赦職員一同が集まってVサインをしている写真を見つめては言うのだ。

 

「でもきっと大丈夫、いつか分かる時がくるから」

 

 そう言ってくれた祖母は二年後にこの世を去っている。だが、桐香はこの時も祖母の言葉の意味が分からないままであった。

 

 

 

 

「・・・チッ」

 

 試合の合間に突如として呼び起こされた記憶に桐香は思わず舌打ちをした。忌々しそうに竹刀を振るって気を紛らわせては、目の前で無様に膝を着いた勇者である静流に視線を戻す。

 

「まだ続ける? ・・・・私の10戦10勝、たしか静流は剣道部にも入ってたんだっけ?」

 

「はぁ・・・はぁ、それが・・・なに?」

 

 呼吸が乱れまくって完全にスタミナが切れている静流に対して桐香は肩がわずかに上下する程度だ。それくらいに技術にも体力にも差があるという事だろう。

 

「通りで・・・綺麗なスポーツ剣道なんてやってるから隙を突かれる。あんたらが戦う相手は人間じゃなくて、化け物なのにさ」

 

 桐香はため息交じりに竹刀を杖にして地面に立たせた。実際に、試合をしてみた桐香が感じたことは、確かに静流の剣術の腕前はかなり高いものであった。踏み込みの強さも気合も充実している。

 

だが、それはスポーツ競技という枠の中に留まっている。 悪手や不意打ちなどには滅法弱く、それをフル活用した桐香の喧嘩剣道とではどちらに武があるのは明白だった。

 

「だいたい分かったわよ」

 

落胆するようにだがそれは元々分かっていたかのように、

 

「同じね。これまでに私が見てきた勇者候補生と一緒・・・全員----」

 

 弱い、そう吐き捨てる。そんな桐香に静流も黙ってはおらず立ち上がった。

 

「そこまで言うほどかしらッ」

 

立ち上がるや否や、即座に桐香に竹刀で斬りかかる。だが竹刀は空を切り、代わりにカウンターの竹刀が静流の面に放たれた。身を捻って避ける事も敵わず、額の部分に直撃する。

 

「うわ、いたそ」

 

「・・・・・」

 

正座している乃之と命が思わず身を震わせるが、当の本人である静流は地面に倒れることなく一歩踏みとどまって見せた。

 

「不意打ちとは、成長したジャン」

 

「どうもどうも、学習能力は高いのよ私」

 

 その割にカウンター直撃してんじゃん! と桐香は内心でツッコンだ。どこまでこの女はポジティブなのか。

 

「その前に、弱いってさっきアナタ言ったわけだけど・・・ドヤ顔で言ったわけだけど」

 

「ドヤ顔は余計として・・・たしかに言ったわ」

 

うーん、そうねぇ・・・と静流は唸った勝負中なのに腕を組み始めた。

 

「やっぱりアナタダメ女よ! 今この四国でもっとも冴えない女ねッ 今この場で私が一番弱い人間が誰か当ててやるわよ10秒も待たないわゲームのコンティニュー画面みたいな数字なんて私見たくないもの、指で刺してやるわ!さんハイ!」

 

 意気揚々と静流が指差すのは目の前にいる桐香だった。

 

「へぇ・・・私に一発も入れられない人が何を言ってんだか」

 

 笑って吐き捨てる。事実、試合が始まってから静流は桐香に対して竹刀を一発どころか掠らせることすらできていない。実力の差は歴然であり、負け惜しみとも取れる言動ではある。

 

「近接タイプのアナタがここで私に勝てない時点で他の二人なんてたかが知れた強さだわ。命さんならいざ知らず、乃之さんとかにすら勝てないと?」

 

「私へのさり気無い呼び捨てが今三人の中で立場が低いと完全に理解したわ。そんなことよりも、よ」

 

内心ショックなのを隠しながら静流は目先の桐香に視線を落とさず言う。

 

「わたし、この中で一番・・・乃之さんが強いと思ってるから」

 

「へ?」

 

とキョトンとした声を上げたのは桐香ではなく、本人である朝露乃之であった。

 

 

 

 

 

「訳わからんことを・・・木の棒で押したら倒れそうだし、敵が来たら真っ直ぐに逃げ出しそうじゃない」

 

 そうね、と静流は桐香の言葉に頷く。確かに朝露乃之はこの勇者の中では一番の非力であり、いつもどこか脅えていて、人との付き合いが苦手そうで戦いになったらすぐに撤退を決め込みそうな少女だ。

 

「でもアナタ、知らないでしょ。この子、他の誰よりも優しい子なのよ」

 

 それは最初の体力作りのランニングが終わった後、授業の休み時間に乃之が疲れ切っていた自分にクエン酸などのサプリなど持って来てくれたのだ。わざわざボトルで、一番上の3年の教室からだ。

 

 静流だけにではない、勉強がなかなか進んでいないらしい命の面倒を見ていたのを寮に戻ってからは付きっきりで教えていたのを静流は目撃している。自分の勉強もあるというのに。 

 

また訓練後は一番疲れている身の癖に地面を這いながらスポーツドリンクやタオルをこちらに渡しにきていた時は流石にそろそろ休めと思ったが。

 

「体力も低いし、力もないし、臆病に見られてしまうかもしれない・・・けど、こうした仲間を思いやる行動を自分から行えるっていうのは中々出来ないことだわ・・・・そしてそれは彼女の強さと言える」

 

 静流自身も勇者と言うお役目を与えられて、自分の事しか見えていなかった。自分の事は自分で決めて動くことが出来るし、周りの他の勇者たちの事なんて何一つ考えていなかったからだ。

 

「んで? 関係ないと思うんだけど・・・敵を倒すのに優しさがいるの?」

 

 桐香はただ冷静に切って捨てる。だが、表情は少しだけ歪んでいたのを静流は見逃さない。

 

「まだ分からない? 勇者ってのは、勇気ある行いをする勇気に溢れた者のことよ。 人の為に、勇気ある行動を進んでやっていた乃之さんが一番勇者として相応しいと思うのは当然じゃないかしら?」

 

 少なくとも自分はそう思っている、と静流は断言できる。三年という上級者だからと言ってまったく見ず知らず、赤の他人に対して時間をかけたが理解をしようとしてくれた。

 

 この際だから、と静流は続けた。

 

「言ってやるワケだけどアンタ、少しでも私たちの事を知ろうと、勇者の事を理解してあげようと努力したことがあったのかしら?」

 

 

 

 

 

「りか・・・い?」

 

 静流の言葉を聞いて、考える。理解するというその意味を。

 

・・・理解をする? 誰を?

 

―――勇者をだ。

 

 自問自答。だが、その問いを自身に行ったと同時に蘇るのは愛媛でのあの勇者候補生たちの言葉。

 

『いい加減、無駄な努力はやめたら?』

 

訓練ですれ違い様に何度も聞かされた陰口。

 

『どうせ落ちぶれた家系の巫女なんだから』

 

数少ない巫女の装束を泥で汚され。時にはハサミか何かで切り刻まれた。

 

『生まれた家を呪え』

 

あまり良く理解もしてなかった家柄の事まで言われた。

 

『巫女なんて神様の声を聞く装置なんだし』

 

「――――ッッ!!」

 

 ふざけるな、と心で言葉を浮かべた時には竹刀を握る力を強めて静流目がけて振り下ろしていた。

 

「分かるもんかッ アンタたちにッ!!」

 

少し大げさに振り上げていた為か、その一撃は簡単に静流に受け止められる。鍔つり合いのようにはいかず、上から押し込むように竹刀に体重をかける。

 

「自分の力がたいして役にも立たないかもしれないッ」

 

「くっ・・・」

 

「勇者になることも否定されて、巫女としても否定してくる・・・私の生き方も存在理由も否定してくる、そんな勇者の事なんて知りたいと思うかッ」

 

 激昂とともに静流が受けている竹刀が徐々に押され始めた。 だが、静流の顔がその緊迫した場面にも関わらず一瞬戸惑いの表情を浮かべる。

 

「あなた・・・涙」

 

「え・・・?」

 

 泣いている事に気づいてなかったのかその事実に思わず籠っていた力が抜ける。その隙を突かれたか一気に静流に竹刀を押し返されて弾かれた。

 

「どうして・・・」

 

「余程、嫌なことがあったんでしょうね。 まぁ、無理に聞かないけど・・・」

 

 静流は流れるように竹刀を構え直した。決めたのである、ここで終わらせるしかないと、禍根を断ち切るしかないと。

 

桐香を縛り続けている呪いにも等しいその鎖はこの時、彼女を打ちのめすという形でしか解放する方法はない、そう思ったのだ。

 

「何もかもここに置いていきなさいッ」

 

 正攻法の正面からの突進。何度も桐香に仕掛けては見破られ、返されていた技だがそれでもなお自身の意地を通さんが為に静流はこのスタイルを選ぶ。これが琴吹静流という証の戦い方が、市橋桐香を打ち下すという事実に意味が生まれるのだ。

 

まる

 

・・・正面、反応が遅い!これなら――――

 

 一本を取れる、そう確信した静流に違和感があった。 それは思わず繰り出そうとした突進を止めてしまうほど。

静流たちを包んでいる空気が一変した。空の雲は流れる事を止め、風によって舞い上がった土煙すらも、周囲の木々の揺れる音すらも聞こえない。

 

 目前の桐香も竹刀を構えたままの姿で凍りついたように停止していた。

 

 

「あ、あれ・・・これって」

 

「・・・・くる」

 

 異変に気付いた乃之と命が立ち上がる。だが長い間正座していた為か乃之だけ前のめりに倒れ込んだ。

 

「なにしてるの朝露さん・・・」

 

「し、しびれた・・・」

 

 まったく、と呆れたようにため息を出して静流はこの状況を分析する。

これは自分たちが勇者としての授業を受けていたころに聞いた事があった現象だ。

 

「―――ちょっと、空気の読めない奴らよね・・・こんな時に」

 

突如として三人のスマホが耳障りな警報音を鳴らし始めた。すぐにスマホを取り出して画面を確認すると視認できるほどに映し出された文字を読み上げる。

 

「樹海化・・・警報ね」

 

 樹海化―――それは、四国内部にバーテックスが侵入した際に起こる現象。

四国の結界を破り、神樹破壊を目的とするバーテックスを勇者が迎え撃つための神樹による防御結界。

 

 神樹による世界の再構築が始まった。急激に世界の景色は作り変えられ始め、周辺の木々が、遠くに見える家屋や建造物が巨大な蔓に覆われていく。そうして樹海化により四国と言う国は完全に別世界の物質となるのだ。

 

「乱入クエストとはやってくれるじゃないバーテックス!」

 

「そろそろゲームから離れようよ、琴吹さん」

 

――――四国の命運をかけた初陣が今始まる。

 

 




多分、友奈ちゃん達みたいな超絶いい子達だけじゃなくて地方になればこんな感じの腐った奴らも居たと思うんだ。

乃木若葉小説下巻とわすゆ予約なう。届くのが待ち遠しいぜ。
次回からようやく出てくるバーテックス、一応この時代でも星屑相手なら問題なく対処は出来ますが大型には苦戦する設定。


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第6話〜巫女と勇者たち⑤〜

最初の戦闘まで長スギィ! 相変わらず戦闘描写ムズスギィ!
未だに襲来イベント超級を通れない私が通りますよって。無理だよ、上級のラストクリアするのに恵み五回くらい使ってたんだぜ。戦力揃ってないのに無茶しすぎだろ...

でも猫に囲まれた芽吹きさんは無事ゲットできましたよ、ええそれだけでも価値はある。

それより勇者装束なのか勇者服なのかよく分からない。ゆゆゆいだと勇者服、のわゆだと勇者装束だった気がする。


「ここに全て、置いていきなさいッ」

 

 こちらの竹刀を弾いて、一呼吸おいた静流が覇気をまとった一撃をこちらに繰り出してきた時だった。桐香の意識は徐々に薄れ始める。それは、静流の一撃を貰い昏倒したという意味ではなく樹海化による時間停止なのだという事を身を持って理解した。

 

・・・お役目が始まった。これで―――

 

 巫女と言う存在がいかにこの時に無力な存在か思い知らされる。この瞬間から世界は神樹による再構築され動物、建物、人間が全て樹木に覆われその存在は同化する。バーテックスと直接戦う勇者たちを除いてだが。

 

・・・なんにも、できない。私、なにも―――

 

 悔しい。ただただ、その想いがある。戦えば、勇者としての力があれば今の勇者にだって、バーテックスにだって負けはしない。奢りかも知れないが、一人で戦ったっていい。それだけの鍛錬を重ね、実力も身に着けてきたのだから。

 

 だが現実は非情だ。どんなに鍛錬を重ね、実力を身に着けたとしても勇者として選ばれたのは乃之達を筆頭にしたあの三人の少女たちだ。それは絶対に覆ることは無いし、この先で自分が突然勇者になれるなんて都合のいい展開は用意されてはいないだろう。

 

・・・今頃、戦ってるのかな。

 

 これから数時間、彼女たちは神々しい勇者服を身に纏い、戦っているだろう。勇ましく、武器を振るい、敵を殲滅して桐香が意識を取り戻した頃には勇者たちは戻ってきている筈だ。

 

 そして全員が喝采を受け、これからも勇者による戦いが続く。そして無事に戦いが終われば、彼女達の戦いが肯定されて桐香自身も彼女たちを認めざるを得なくなる。

 

 

・・・分かってるよ、巫女に戦う力がない、なんて。

 

 現実を知り、桐香は思う。どんなに努力をしたとしても、勇者になれないなんてことは。でも、それを受け入れられない自分がいた。他人に神の声を聞く装置だとか、無駄な努力だと否定されるのが嫌だっただけだ。

 

 

・・・もういいだろ市橋桐香。 これ以上の我儘、通してもただただ滑稽なだけだ。笑いものにされるだけだ。それに――――もう疲れた。

 

 市橋桐香は諦める。意識を手放すことに躊躇いはない。周りが言っていた通り、自分はもう神の声を聞く機械として勇者の側にいることを受け入れるしかない。それに抗い続けて意地を張り通すのは身体が万全であったとしても、心が擦り切れてしまうだけだ。

 

 それならもう、諦めよう。自分の役を受け入れよう。そう思い、心を閉ざす。意識が戻る頃には、元の日常に戻っている筈だ。桐香は失意の内に自身の意識を完全に手放した。

 

 

 

 

 

 暫くして、瞼の裏に光を感じた桐香が意識を取り戻す。恐らく、戦いが終わり世界が無事に守られたか、勇者が負けて樹海化が保たれなくなったくらいだろう。

 

・・・もし勇者が負けても、私にもう戦う意志はない。潔く、奴らに食われてやるさ。

 

 完全に自暴自棄に陥っていた桐香だが、自身の顔付近に圧力を感じる。ちょっとした息遣い、生き物が桐香の眼前にいるのだと分かった。相手がどんなものだろうと知ったことではない、と桐香はゆっくりと重い瞼を明ける。

 

「・・・・え?」

 

「あ、お、起きた」

 

 目の前に、というか桐香の顔と数センチという距離に人の顔、朝露乃之の顔があった。

 

「うああああ!?」

 

「ひえぇぇあ!!?」

 

 両者が悲鳴を上げて飛び上がる。まるでシンクロしたように二人は地面に尻もちをついた。

 

「ようやくお目覚めね・・・・ずっとこのままかと思ったわ」

 

 乃之の真後ろに立っていた琴吹静流がやれやれと言った表情。

 

「え、みんな・・・なんで・・・というか、ここッ!?」

 

 目が覚めた眼前に乃之が居るとか、側に静流が居たとかよりも桐香が慌て、理解できない事があるのは目の前に見える景色についてだ。

 

 

 

――――彼女の前に見える景色は先ほどまでいた大赦の訓練場ではなく辺り一面が色とりどりの樹木に覆われた異質な世界。

 

 

 それは巫女としても知識として教えられていた勇者がバーテックスを迎え撃つために神樹が形成した樹海化現象と呼ばれる結界の中だった。

 

「ビックリしたのは私達もなんだけど。巫女が樹海化した世界にやって来るなんて流石に訓練でも聞いてないんだけど」

 

「ここに来たら、市橋さんが目の前にぶっ倒れてて・・・起きるまでみんなで待ってて・・・」

 

 説明する静流に、たどたどしい口調で乃之が言う。聞くところによると、寝ていたのはほんの数分程らしい。

 

「もしかして、これが・・・・市橋の」

 

「巫女の力ってやつ?」

 

 静流に答えを当てられる。この桐香に起こっている現象は過去に祖母から聞かされていた市橋の巫女としての能力だ。

 

 

―――市橋の巫女は勇者と同じく、バーテックスとの戦闘の際には樹海化している世界に入り込むことが出来る。

 

 

―――だが、それは精神体による侵入の為実体はなく、巫女である桐香を他の勇者たちは感知することが出来ない。

 

 

―――だからこそ勇者の戦いを直に見ることができ、その戦闘を客観的に記録することで勇者の戦闘を改善しバーテックスと戦闘において、勝率を高くすることに貢献してきたのが市橋の巫女の能力だった。

 

 

「でも話に聞いていたのはその時の巫女は勇者にも感知できない存在で、こんなくっきりと体が出てくることなんてないし・・・見れる景色も故障したテレビみたいに砂嵐が邪魔して良く見えないものだって聞いてたのに」

 

 なのに、こうして彼女はその場の勇者に知覚され、自身の五感が機能しているのが分かる位に己が存在を感じている。

 

「ふーん、よくわからないわ」

 

 静流が唸りながら桐香の身体の一部に触れようとする。しかしその腕は阻まれることなく桐香の身体を通過した。

 

「なるほど、精神体だから私たちは触れないのね」

 

「なんで胸の部分を触ろうとした」

 

「なにって、検査よ」

 

 今度は手の部分を桐香の胸の部分にとどめて縦横無尽に動かしまくる。だが全ては空を切り、桐香は思わず静流の頭に向かってチョップを繰り出した。すると、桐香のチョップは静流の身体を通過することなく頭部へと直撃する。

 

「ちょっ、何するのよ!?」

 

「いや、そろそろウザかったから・・・というか私は触れるんだ」

 

「チョップされた私に痛みとかそういう感覚は無いのだけど」

 

と頭を摩ってみる静流。どうやら叩かれても痛みは感じないようだ。他にも、勇者などを動かそうとしてみたがどんなに桐香が力を込めても人が動くことは無かった。

 

「ん、待てよ? 勇者は私に触れられないけど、私は触る事ができる・・・つまり?」

 

「・・・ハッ!?」

 

と静流が構える。桐香の異常すぎる不敵な笑みと絶え間なく蠢いているその両手を見てだ。

 

「こ、この巫女・・・さっきの仕返しする為に、私達勇者の胸を揉みしだく以上のエロいことする気だわ!エロ同人みたいにッ!!」

 

「あんたの頭どうなってんだ」

 

「エロ同人みたいにッ」

 

 なんで二度も言った。とツッコむことすら放棄した桐香はため息をついて手の動きを止める。テンション高くなるとかなりきついキャラだと思った。色んな意味で。

 

「あれ、ここだと市橋さん巫女の姿になるんだ」

 

と、乃之に言われた桐香が自身の服装が体育服装から大赦の巫女装束に変わっている事に気付いた。だが、変化は桐香だけでなく。

 

「そう言えば朝露さんたちも勇者服に変身してたのね・・・いつのまに」

 

「そりゃあここに来た後すぐできたわよ」

 

 静流の言葉の後、桐香は三人の勇者としての姿を確認した。

 

 

―――朝露乃之はスミレのような水色を基調とした勇者服。

 

 

―――琴吹静流は秋の紅葉のような赤い勇者服。

 

 

―――草薙命はクロユリのように真っ黒な勇者服だ。

 

「草薙さん、敵の様子はどうぉー? まだ動きはないかしらぁー」

 

 静流が遠くの丘で遠くを見つめていた命に呼びかける。届いている不安ではあったが、暫くして何か光る物が見えた。それは瞬時に静流の顔の真横を高速で通過し、その後方に居た乃之の足元に突き刺さる。

 

 

 足元の地面に突き刺さったのは弓矢だった。

 

 

「ヒッ・・・!!」

 

「あ、あぶねェッ!!」

 

脅えて飛び上がる乃之が近くにいた桐香に抱き着こうとしたが、実体がないためそのまま通過して地面に倒れる。

 

「あら、よく見ると矢に紙が結んであるわ・・・これ、『矢文』よ」

 

 静流が結ばれていた紙を広げてその内容を確認する。

 

『げんざい、いじょうなし』

 

「いや、普通に喋りなさいよ」

 

 大きく墨汁で塗られた文字がそこに書かれていた。いったいどこから出したのか、それにしても樹海化した中でも草薙命は相変わらず無口のままだった。

 

「というかスマホの機能で確認しなよ! 授業でもその機能について聞いてたろうに・・・取り敢えず」

 

 

 桐香は頭に当てていた手を下して大きい声で言い放つ。それは遠くにいる静流にも聞こえるように、

 

「集合ぉ――――!!」

 

 

 

 

 勇者が所持しているスマホには大赦によって作られた機能がいくつか備わっている。勇者になるための変身機能もその内の一つだ。その他には樹海化した際の自分たちの現在位置や周囲の敵のおおよその数を確認する機能がある。

 

 勇者3人と巫女1人が円を組むように集まって一台のスマホの画面を見つめている。桐香が画面に指で示して行っているのは自分たちの現在の状況確認だ。

 

 

「私達の現在位置はここ・・・敵との距離は約30kmってところね」

 

 それぞれの勇者たちの名前が表示されている画面を見て桐香は思う。そこには勇者だけの名前は確認できるが桐香の名前はなかった。

 

「敵の数・・・は星屑が50?60って所かしら」

 

 静流が確認するのは自分たちがいる場所より遥か遠くの位置。海側にあった大鳴門橋が完全に樹海化されずに残っている。その周囲から橋を渡るように赤い斑点のようなものが多くみられた。この赤い斑点が敵の数になる。

 

 

「大型もいるわね・・・」

 

赤い斑点の他には規格外の大きさを持った表示を持つ点が確認できた。ゆっくりだがこちらに向かって進んできている。

 

「足が遅い相手で良かった・・・こいつらが神樹様にたどり着いた時には世界が終わるとされている」

 

 桐香が思わず息を呑んだ。この四国を囲っている壁は神樹によって作られたもの。その神樹がバーテックスによって破壊されたとき、結界や四国全ての恵みはなくなることが容易に予想できた。なにより、樹海化が終わって結界が消えたとなればその場にいるバーテックスたちが現実世界になだれ込んでくる。

 

そうなれば人類になす術はない。

 

 

 人類がもつ兵器の力ではバーテックスに傷一つつける事が出来ないのが現状だ。神の力をもった勇者だけがバーテックスを倒すことが出来る。

 

「ふふん、なら早々に奴らを倒さなきゃいけないわよね」

 

 鼻を小さく鳴らした静流が徐に立ち上がった。

 

「神樹様の樹海化も時間が経てば経つほどその力を消費し、この世界での樹海へのダメージは現実世界へ何かしらの事故としてフィードバックされる・・・だっけ?」

 

 授業で習ったことだ。 だからこそ、お役目の際は迅速に表示されている敵を倒さなければならない。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだ全体でどう動くとか、作戦もなにも決めてないのに・・・」

 

 制止する桐香を静流は流すように前を向く。見据えるのは敵がいる大鳴門橋だ。

 

「敵が動いているわ。意外にも、星屑は動きが速いのね・・・なら、即座に動いて対応しないと。 動きが遅れて後手に回ってたら、いつの間にか取り返しのつかない状況になるもしれないじゃない」

 

「それでも危険だわ!」

 

「それに――――」

 

 静流が振り返るその笑みを持った視線は桐香に向けられており、

 

「まだアンタとの決着ついてないから・・・覚悟しておきなさい、戻ってきたら勝つのはこの私よォ!!」

 

 再び前を向いて、彼女は駆け出す。その跳躍はたったの一度だけで100メートルを超える大跳躍となった。数度飛び跳ねていっただけで静流の姿は遠くから眺める点くらいの大きさになってしまう。

 

「んなこともう言わなくても・・・さ」

 

 既に、桐香に戻ってから静流と戦う事など考えてはいない。こうして実際に勇者となって戦いに行く静流の姿を見せられただけで、彼女には抵抗する意志も何も湧き上がってこなかったのだ。

 

 桐香はこの三人の勇者の存在を認めざるを得ないのだ。

 

・・・帰ったら、無様に負けてやろうかな。

 

 

 そう思っている間に遠くで蠢く白い巨体の姿が見えた。 白い巨体の姿はまるで深海生物のように目という器官が存在しない物。不気味で大きな口を開けては、どういう原理化分からないが空中に浮遊して魚のように動き回っている。

 

 

「・・・・ッッ」

 

 その不気味な姿を初めて目にしたとき、思わず桐香は握っていた拳を震わせる。その口は、過去に何百、何千以上の人類の命を奪ってきた悪魔と呼ばれる存在だと知っているからだ。

 

それが恐怖から来るものだと桐香も理解する。だが、その恐怖に屈することなく静流が立ち向かっていく、それだけでもう埋められない差が出てしまったのだ。

 

 

 桐香は思う。もう勇者と一緒に同等の位置に居られることは無いだろう。この力はそれを思い知らせる為の、自分のような未熟な者を戒める為に与えられる呪われた力なのだろうと。

 

「・・・・」

 

 朝露乃之が俯く桐香へ心配そうに視線を移し、小さな手を自身の胸に置いて意を決したように命の方を向いて言う。

 

「く、草薙さん・・・琴吹さんの援護に行ってください。 突っ込みすぎちゃ、ダメって伝えて・・・?」

 

「・・・・」

 

 何も言わず、ただ小さく頷いた命が跳ぶ。いや、跳ぶというより、消えると表現した方が正しいのだろう。 瞬間移動を繰り返すように消えては現れ、そして距離はどんどん離れていく。まるで忍者のようだ。

 

 静かになったその場所に、乃之と桐香だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 空を飛ぶように大地を蹴り、宙を駆ける人影がある。勇者の中で一番に敵へと向かった静流だ。

 

「・・・来たわね」

 

 向かう正面、というよりも一面に見えたのは白い生物。星屑と呼ばれるそれは原理が良くわからないが空中を浮遊し、その数体がこちらへと向かってきていた。

 

 星屑の特徴は、まっさきに人間目がけて襲い掛かってくることだと静流は聞いていた。この樹海化された四国には静流を含め4人しかいないので真っ先に先頭で動いている静流が狙われるのは当然である。

 

「上等ッ 全部切り刻んでナマスにしてやるわッッ!!」

 

 高らかに翳した静流の手に光るものがある。それは戦う意志を示す勇者が持つことができる、バーテックスを打ち滅ぼすことが出来る武器だ。

 

静流が手にしたのは一本の日本刀。剣道をやっていた彼女にはうってつけの武器だ。それ以外にも勇者としての自身の力や、その武器の使い方は神樹のデータベースと繋がっているスマホの端末から読み取ることが出来る。

 

 だから、静流がたとえ剣道をやっていなかっとしても、勇者としての力を覚醒させるだけで誰もが自身の武器を自在に操ることが出来るのだ。

 

「せええぇぇぇぇええいッ」

 

 覇気を込めて振り下ろされる刀。その一刀のもとに、目前へと迫っていた星屑の一体が真っ二つに両断される。

 

「雑魚に用はないの・・・・だけれどッ」

 

 地面に着地して反転、残りの二体を目で追う静流の前にはその二体が大きな口を開けて迫って来ていた。あの口で噛まれようならたとえ神樹による加護持つ勇者服とはいえ、無事では済まないだろう。

 

・・・まだ死亡フラグすら立ててないからここでリタイアするとかなしよッ

 

 二体いるうち、若干前に出ていた星屑から順に袈裟懸けに刀を振るう。突きによる攻撃も考えたが、大きな口を持つ星屑相手に突きを行うことは危険だと判断した。最悪武器を口で掴まれ、動きを封じられる可能性があったからである。

 

 その一体を斬り捨てた後、瞬時に刀を真横に滑らせて残りの一体も同じように切り裂いた。だだがあんどするのも束の間である。敵の数は50以上と多い。当然矢継早に襲ってくるのは予想できた。

 

「忙しいわね全くッ」

 

 向かってくる三体の星屑へ再度構えて突撃する素振りを見せた静流だが、自身の後方から三つの光が駆け抜けて目の前の三体の顔面に直撃した。破裂した星屑が弓矢によって狙撃されたのを理解した静流が振り返ると自身のすぐそばに降り立つ命を確認した。

 

「なかなかやるじゃない、琴吹さん。 助かったわ」

 

 命のその腕前に素直に賞賛を送る。正確に、三体同時に射抜いた彼女の射撃力はこれからも世話になる事だろう、と。

 

「アナタの武器、弓矢なのね? しかも黒装束にマフラーってこれもう忍者アイエェェってやつかしら――――ん?」

 

 言葉を遮るように命が一枚の紙を差し出す。そこにはこう書かれていた。

 

『前に出過ぎるな、って朝露さんが言ってる』

 

「いやこの距離で!? アナタこの距離でもこのやり取り続けなきゃいけないのかしらッッ!?」

 

・・・どんだけ喋りたくないのこの子ッ 恐ろしい子ッ

 

 色々と理由があるのだろうが、そこには踏み込まないようにした静流である。

 

「まぁ朝露さんの意見ももっともね・・・ちょっと出過ぎたわ」

 

 呼吸を整えて冷静になる。もし彼女が援護してくれなかったらさらに相手の陣地奥深くまで進んで自分は孤立していただろう、と。

 

だが、そう思ったが矢先だ。静流と命の視線はスマホの画面。そのスマホの自身の位置を知らせる画面には点滅する星屑の斑点よりも遥かに大きい点が目の前にあったのを見て数度目を見開く。

 

「あー・・・気づかない内に相手の陣地、来過ぎちゃった感じ?」

 

 コクコク、と数度頷いた命の視線が上へと移る。静流も同じ方向を見るとそこには巨大な物体が浮遊していた。

 

そのサイズは香川にある丸亀城とかお城並みに匹敵するほどの巨体であった。巨体の影に2人の姿が完全に隠れてしまう。

 

「うわ、なにあれキモ」

 

その下腹部の尻尾のようなものから何やらカプセル状の物体が射出され、数個が静流たちのすぐ足元を転がった。

 

「え・・・なにコレ、卵?」

 

「・・・・ッッ!?」

 

 

 

――――次の瞬間、強烈な破裂音と光とともに爆塵が舞い上がった。

 

 

 

 

 




戦闘あると文字数多くなりますね、なんか久しぶりにこわな長く書いた。分割しようと思ったほど。

記念すべき初バーテックスさんは乙女型、もうチュートリアルと言っても差し支えない乙女型。のわゆの時は未完成、でも今回は完全体の状態でみんな出てきます。だからやっぱり勇者側がキツイ。

というかヴァルゴさん、お城サイズなんだと初めて知った。写真で丸亀城確認してから想像すると、でけーな、おおほんとにデケーな!

ちなみに1番好きなバーテックスはブレイブキラーことスコーピオンさん。シリーズでファンから嫌われるけれどあのフォルムと尻尾のデザインが私は好きです。

次回で第1章は終わる予定です。


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第7話〜巫女と勇者たち⑥〜

同じタイトルが多すぎる...変更して整理しようか迷っている今日この頃。第1章は今回で終了になります!のわゆ下巻とわすゆが届いた!一日でのわゆ終わったけどメンタルヤバすぎたw執筆意欲がごがが


 遠くから爆音が響いている。爆音は振動となり丘に佇んでいる乃之と桐香に伝わる。足元の震えは大きくなってくる感じからしてその音響は徐々に近づいてきていた。

大型のバーテックスがこちらに向かっているのだ、と乃之は理解することが出来る。

 

「なんで、なんでここに残ってるのよ・・・」

 

 後ろにいる桐香がこちらに聞いてくる。桐香には、勇者の静流と命の二人がバーテックスに向かっていくのに対して一人でこの場所に残っている乃之の事が気になって仕方なかった。

 

「敵が目の前まで来てるのに・・・どうして皆で戦いに行かないのよ」

 

 大型バーテックスの姿は桐香たちが居る場所から肉眼でとらえる事が出来ている。爆炎をまき散らしながらこちらに向かってきているし、それを迎撃しているであろう静流と命の姿も見えた。

 

 なのに乃之は動かない。表情を少し強張らせて、その場から動かない。緊張しているのか、突撃して戦うことに不安と恐怖を抱いているのか。

 

「だって・・・」

 

 桐香の問いに、乃之が答える。それは動作を伴うものであり、両手を翳した瞬間に光が顕現する。その時に乃之が手に現れたのは一本の槍だった。

 

「い、今の市橋さん・・・放っておけないから」

 

 

 

「放っておけない・・・って、どういうこと?」

 

桐香は乃之の言葉の意味を理解できないでいた。

 

「市橋さん・・・手、震えてた・・・」

 

思わず、あっ・・・と言葉を漏らす。確かに、大型バーテックス以前に桐香は星屑の姿が見えた瞬間に身震いした。それは確実に、恐怖からくる震えであった。恐らく乃之はその自分ですらあまり意識していなかったサインを見逃していなかったのだろう。

 

「か、関係ないでしょ・・・私はこの世界では実体のない精神体なんだし、アイツらに襲われることなんてないんだからさ!」

 

「でも、それは勇者が触った時の話だよ・・・もし、星屑とかバーテックスは市橋さんに触れられるかもしれない」

 

乃之が言う内容はあくまで憶測に過ぎない。だが、この場所に来た桐香でさえも先祖代々の能力とは違い勇者に知覚できるほどの姿で樹海に現れる事が出来ているのだ。例外中の例外。それならば、乃之が言う話も鵜呑みには出来ないのだ。

 

・・・だとしても、私は朝露さんに助けられる資格なんて持ってないッ

 

 勇者である彼女、いや・・・彼女達に対して、巫女である自分はなんと言っただろうか。

 

 

――――弱い。

 

 吐き捨てるようにそう言ったのだ。ましてや、自分と乃之を静流が比較した時も桐香は鼻で笑うように否定していた。ありえないだろう、と。冗談だろう?と。

 

 考え込む桐香をよそに、乃之がいる前方から飛び上がる白い影が見える。 静流達が戦っていた前線から漏れてきた星屑の一体だ。その出現に気付いた桐香が叫ぶ。

 

「乃之ッ!」

 

「・・・・ヒッ!!」

 

 白い星屑の姿を確認した乃之の顔が恐怖で染まる。だが恐怖の声を上げると同時に、彼女は既に武器である槍を構えて前に踏み込んでいた。向かっていた星屑の頭部目がけて思いっきり槍を突き出す。

 

「ぐ、ぐぅぅぅうぅ!!」

 

 星屑の額を確実に貫いた槍を気合の一声と共に押し込んで見せる。槍の刃が白い巨体から顔を見せて星屑は声も上げずに絶命ていたが乃之に突進してきた勢いは止まらない。慣性の法則に従い巨体が乃之と衝突し、その華奢な体を吹き飛ばす。

 

 

「乃之ッ ねぇ! 大丈夫ッ!?」

 

「だ、大丈夫・・・・い、痛いけど」

 

 桐香の足元まで転がった乃之がゆっくりと体を起こす。樹海の土の上を転がったからか、勇者服にはもう泥が付着していた。

 

「市橋さんは、無事・・・」

 

「あなた・・・怖くないの?」

 

 桐香は乃之に触れる事が出来ても実際に動かしたりすることは出来ない。意味はないが、乃之の背に手を添えて身体を起こすよう手を動かした。

 

「・・・・」

 

 桐香の問いに暫く黙った後、言う。

 

「怖いよ・・・とても、怖い・・・でも」

 

 星屑に刺さっていた槍を引き抜いた乃之は身体の土を手で払った。そして、脅えながらも強い意志を感じさせるような口調と共に

立ち上がる。

 

「私は、勇者だから・・・」

 

――――乃之さんが一番強いと思ってるから

 

「放っておけない人がいる。その人が怖い思いをしている時に、私は逃げてちゃいけない・・・から」

 

「・・・ッッ!!」

 

 樹海化する前の静流が言っていたことを思い出す。勇者たちの中で一番強いのは朝露乃之だと。勇者とは勇気に溢れる行いを勇気を持って行う者のこと、それは力があるとは関係ない恐怖に屈することが無い心の強さなのだと、今の桐香には理解できる気がした。

 

 そう考えた時、朝露乃之の背がこれ以上ないくらいに大きく見えて思わず目を伏してしまうくらいに眩しく見えたのだ。

 

「あと、名前・・・」

 

「え?」

 

「呼んでくれて、ありがと・・・乃之って・・・」

 

 桐香は思い出す。星屑に攻撃される直前、咄嗟に乃之の名を口にしていたことを。

 

「・・・今まで私、学校で名前呼ばれたことなかったから、呼んでくれるの・・・嬉しかった」

 

「き、気が動転してただけだし!」

 

 そう言って、桐香は顔が熱くなるのを感じる。視線を送っている乃之に対して完全に目を逸らすほどに。

 

でもさ、と言って乃之は小さく笑みを浮かべて言うのだ。

 

「私達もお互いの事・・・知らなきゃいけないと思う。 巫女とか、勇者とか関係なしに・・・その」

 

 仲良くなりたい、と。

 

・・・貴方は恥ずかしいとも思わないのか。

 

 またしても、顔に熱を感じた桐香だったが小さくため息をつく。先ほどの発言がさぞ当然の事のように言うことができる。時間が掛かり、もたついてしまうことがあるが必ず実行し、言葉として、行動として表す。それが朝露乃之の強さなのかもしれない。

 

「なーんか、一人相撲してた気分だわ・・・ずっと」

 

 桐香は空を見上げる。樹海化しても空は存在している。雲も無くまるで夜のように暗闇となっているが。

乃之の雰囲気にほだされたというのか、勇者として巫女として否定されてきたころから胸に抱いたモヤモヤしたものはどこかに消えていく気がした。

 

・・・今の勇者たちに、巫女としての私が出来ることを探すんだ。

 

 彼女の、乃之のお蔭で巫女としての自分をすんなりと受け入れられる気がしたのだ。そして、同時に思う。今この樹海化してる世界に居る自分が出来る事を。

 

「ちょっと朝露さんッ!? あのクソデカブツが倒せないんだけどッ」

 

 突如としてこちらに飛び上がってくる人影がある。影は二つ、静流と命のものだった。

 

 

 

 

 乃之達がいる場所に集まった静流は実際の戦闘時の内容を報告していた。 

 

「あのバーテックス・・・周囲に爆弾のような、砲弾っぽいの撃ち込んでくるわよ。 近距離でも遠距離でもお構いなくだわ・・・命さんと話し合って、一時撤退するほどね」

 

 遠くに見える、ピンクの巨大な物体が空中を浮遊して前へと進んでいる。乃之達が遠くからでも感じていた爆音の正体はあのバーテックスによるものだったと理解した。

 

「このままじゃ、時間が・・・」

 

 桐香の視線を向ける先は周囲の樹海の樹木。この樹木は見た目こそ木の形をしているが作り変えられた現実世界の物質なのだ。だからこの場所でのダメージは現実世界に戻った際に事故や災害などの形に置き換えられて返ってくる。

 

「正面から斬りかかろうにも残った星屑が邪魔するようにバーテックスに張り付いて攻撃できないし。命さんの弓も体に一本だけ当たっただけじゃ対してダメージにはならなかったわ」

 

 星屑たちの戦いは単調に動き回るという出現時の特性から迎撃する分には苦労はしない相手であったが、時間をかける事によって相手も学習し、連携することを覚え始めた。その例として今の大型を守る星屑の群れからは連携と言う動きが見られる。厄介な相手になったものである。

 

「・・・・」

 

 乃之は真っ直ぐに敵を見つめる。視線の先には大型バーテックス。今でも進行を続けており、下腹部から伸びた尻尾のようなものから砲弾のような物体を複数射出していた。辺り一面に爆炎が吹き上がる。

 

「・・・ん?」

 

 何かに気付いたように、乃之がさらにバーテックスを観察した。ポイントは敵が爆発物を射出する過程だ。

敵が砲弾を射出する直前、異様に腹部が輝いてうっすらと丸型の物体が見えて、それが尻尾へと移動しているのが見えた。そして数秒後、同じく砲弾が射出される。

 

 敵の砲弾を打ち出す瞬間には必ず腹部が光り出す事、そして砲弾を射出する場所はたった一つ。その過程から見出される作戦が、乃之にはあった。

 

「あら、朝露さんいい作戦が?」

 

「うん、ちょっとみんな・・・」

 

 

 

 

手招きするように、全員を集めた乃之が自分が先ほど思い浮かんだ作戦を一同に伝える。すると一瞬の静寂のあと、桐香が口をあんぐりと開いて

 

「マジでやんの!?」

 

「く、クレイジーだわ」

 

と静流。

 

「・・・・」

 

命に関しては無言だが、体がカクついていた。

 

 

 

 

それぞれが配置につく。静流と命が前に出て、乃之が二人の姿を捉えられる後ろの位置で待機。対するバーテックスは先ほどまでと変わらず周囲に星屑を旋回させるように纏わせて前進中だ。

 

 

「ええい、こうなりゃやったもん勝ちよ! 作戦開始ィィィィ!!」

 

 若干ヤケクソ気味に静流が跳ぶ。それに続いて命も駆け出した。前に飛び出した二人は大型バーテックスに照準を合わせておらず、大型バーテックスが牽制用に射出した砲弾のようなものを躱していくと真っ先に周囲の星屑へと攻撃を仕掛ける。

 

「参る」

 

 その一言は静流ではなく、命が発した言葉だった。自身の武器である弓矢をしまい、身を低くして静流を凌駕するスピードで星屑に肉薄。だが、丸腰ではない。今の命の手には握られている武器があった。

 

 

「刀・・・?」

 

 

 否、それは刀というにはあまりにも短い。長さ的には脇差よりあるかないか。さながらその身なりからして忍者刀の類。

その後の命の動きは常人では理解できない物だった。

 

 

 飛び上がって狙いを定めた星屑に最初の一撃をお見舞いした後、その星屑の死体を踏み台にして次の星屑の元へ飛び移っていく。その飛び移り方も尋常ではないスピードだ。勇者としての動体視力が無ければ捉えきれないほどのスピードであった。瞬く間に周囲にいた星屑たちは命によって殲滅されていく。

 

「なんてことッ! 遠距離だけでなく近距離もイケる口だったなんて・・・このままでは近接タイプの私の価値が下がりっぱなしだわ!!」

 

 武功を上げる命の動きがいい意味で働いたか、負けじと静流も続いて見せた。命が一体のバーテックスを仕留めるのにかかる手数が3撃なのに対して、静流は一刀のもとに星屑たちを切り裂いていく。

 

 もともと星屑の数も多くはなかった。大型でなく星屑の殲滅に念頭を置いた二人の連撃によって大型の周りにいた50以上の星屑がその数を10と切った時、活路が開ける。星屑が激減したことで、大型の守備が手薄になったのだ。

 

「今よッ この憎たらしい爆弾魔、さっさとやっちゃいなさい! 朝露さんッ」

 

 静流の視線が後方に居る乃之に送られる。好機と感じた乃之が槍を構えると槍の先端が変形し始めた。刃はさらに細く、尖り、装飾は柄の部分に移動して翼のように広がって見せた。

 

 

 乃之が見つけた活路はここにあった。敵の大型バーテックスは必ず攻撃するときに腹部を発光させ、球体状の何かを作り出す。恐らくこれが爆弾の正体なのだ。それが下腹部へと移動し、尻尾の射出口から撃ち込んできているのだ。そしてその出口は一つしかない。ならば、その射出の直前に射出口を塞いでしまったらどうなるのだろうか。

 

 あれほど爆発を起こすほどの威力を有した物質を密閉した相手の体内の中で爆発させれば、恐らくは一撃とはいかないにしても大きなダメージを与えられるはずだ。

その為に、周囲の星屑を限りなく撃退する必要があった。目的の射出口付近を星屑に漂われてしまっては命中率が低下してしまう。 命の弓による射撃も考えたが、威力も星屑を倒す程度しかなく、矢が本体に届くことなく邪魔される確率が高い。

 

 

 だから、最後の射出口を塞ぐ役目は乃之自らが行う。その刺突に特化させた槍を相手の射出口目がけて突撃するのだ。そのための下準備は危険ながらも静流と命がやってくれたのだ。

 

・・・え、あれ。

 

 前に出ようと、脚を動かそうと必死に力を込めるが動かない。脚だけでない、腕も頭も体の至る場所が動作を行えなくなっていた。

乃之は前を見る。目の前には浮遊している巨大なバーテックス、その射出口は乃之へと向けられていた。その砲弾の威力は知っており、それがこちらに向けられている、食らってしまったらどうなるのか、そう考えただけで乃之は蛇に睨まれたカエルの如く動けなくなってしまったのだ。

 

 

「あ、あ・・・」

 

 敵のバーテックスの腹部が光り始めた。砲撃の合図、もう数十秒としない内に攻撃が開始される。それを分かっていても、乃之の身体が動くことは無かった。

 

・・・う、動いて、動いて動いて動いて!!

 

 膨張していく敵の腹部と輝きが一層強くなるごとに焦りだけが募る。乃之はいつのまにか呼吸も出来ない状態になっていた。恐怖による筋肉の硬直とプレッシャーが乃之を過呼吸直前まで追い込む。

 

 意気地なしだな、ビビりだな、と乃之は自分で思う。自らが立案した作戦で勇者たちを動かして、二人はその役目を果たしたのに自分だけが恐怖して動けないでいるのはまったくお笑いだ。情けなさ過ぎて、本当に自分が勇者なのかと疑ってしまうくらいだ。

 

 

・・・し、死ぬ! このままじゃ、みんな!

 

 遠くで静流が何かを叫んでいる、ような気がするくらいに乃之の意識が酸欠による影響で朦朧としていた。乃之は思う、ごめんなさい、と。このままでは役目も果たせないで世界が終わってしまう事に謝罪をする。何もかも諦めようとすると自然と力が抜ける気がした。だがそれは問題の解決になっておらず、このまま腕を下せば乃之の意識は完全に刈り取られるだろう。

 

だが、それを許さない声があった。

 

 

「乃之! しっかりしなさいッ!!」

 

 耳元の声で乃之が意識を取り戻すとそこには桐香の姿があった。

 

「さっきまでの勢いはどうしたのよッ勇者ッ!」

 

下がっていた乃之の手に桐香の手が添えられた。一本の槍を二人で持つように添えられる手。精神体の桐香がいくら力を込めても物体を動かすことは出来ないはずなのに、乃之が力を込めると自分の力とは思えないくらいに槍は軽々と持ち上がった。

 

「どうして、ここに・・・」

 

「固まってる乃之を見てたら居てもたってもいられなくなって・・・ってそんな事はいいわよ!」

 

そう言う桐香は続ける。

 

「失敗した時の事なんか考えないで、進もう。私も隣にいるからさ」

 

 添えられた手に握られたような気がした。実際に触れられている訳じゃないのに、ただそれだけで乃之の不安が消し飛んでいき、全身の硬直がなくなっていくのを感じる。

 

「・・・・ッッ」

 

腕が動く、脚も動く、心も熱く、けど頭は冷静に。自分でも分からないくらいの力が湧いてくる。勇気が湧いてくる。

 

「行くぞ! 勇者は気合と根性だ!」

 

 桐香の言葉に強く頷いて見せた乃之が槍先を大型に向けて照準を合わせる。槍の柄に展開していた装飾が光と空気圧をもった何かが噴出される。それは次第に大きくなり、乃之と桐香の身体を物ともせず、まるでロケットのように斜め上へとバーテックス目がけて飛んだ。

 

時速100キロ以上出ているであろうスピードで飛んでいる。乃之はさながら人間ミサイルだ。

 

「だあああああああああッ!!」

 

 気合と共に乃之と槍は減速することなく大型バーテックスの尻尾の穴に突き刺さる。爆発物である光る球体は既に下腹部へと移動を開始していた。乃之は突き刺していた槍をさらに奥に突き刺して槍をさらに変形させる。

 

 槍の先端の刃が真っ二つに割れたのだ。 折れたとか、そういうトラブルではなく中心から分かれるように刃が移動する。その刃が移動するにしたがってバーテックスに刺しこまれていた肉部分がさらに広がった。 刃の根元には筒状の管が現れている。その管が光り出したのを見て乃之は槍を放置して射出口を蹴り桐香と同時に後方へ跳ぶ。

 

 それと同時に穴付近に爆発が起きた。それに続くように射出されかけていたバーテックスの光る物体にも衝撃が伝わり腹部付近で巨大な爆発が起こる。閃光と衝撃が重なり、あまりの衝撃に勇者達が吹き飛ばされる。

 

「あ、あれ・・・は」

 

 吹き飛ばされる直前、粉々になったバーテックスの身体から巨大なダイスのような物体が現れた。それが光となって消えていったのが乃之が最後に見えた光景だった。

 

 

 

 

 バーテックスの掃討が終わると樹海化が解け元の世界へと戻る。勇者や巫女の桐香も一緒になって現実世界へと帰還した。皆、最後の爆発で顔も体もボロボロだった。

 

「あぁ! 私のプレイスキルが磨かれていくのを感じるッ!」

 

 戦闘後だというのに五月蠅い声を上げるのは全身煤まみれの静流だ。命はある程度は平気なのか平然と立っており、乃之と桐香に関しては地面に大の字で倒れていた。帰還した場所が草の上だったこともあってか自然に体を預けることが出来た。

 

 既に大赦の職員と連絡は取っている。回収されるのも時間の問題だろう。

 

「だから私は今なら市橋さんに勝てる気がするのよ。 さぁやるわよレッツバトルッ」

 

と、静流が構える。 完全に格闘技のそれだ。竹刀が手元にないから格闘戦に切り替えたのだろうか。

 

「いや、もうやらなくてもいい・・・その必要もないから」

 

「ワッツッ!?」

 

「私の中で、もう十分納得できる気がしたから。 自分が巫女であることを、三人が勇者であるってことを」

 

その時の桐香の表情は曇る事を知らないように、まるで憑き物が落ちたような顔であった。静流は面白くない、と言った顔で。

 

「何一人でハッピーエンド迎えて闇落ち回避しようとしてんのよ。許さないわよ」

 

と桐香に指さして言い放つ。

 

「と言うことは、私の華麗なる勝利でいいのね!? 愛媛のゴリラ巫女であるアナタがこの私に屈したと、もう二度と敵わないことを認めるってことでいいのね!?」

 

ゴリラ巫女と言う単語が出た瞬間、桐香の動きが止まる。だが顔は何故か笑っており、

 

「うん、やっぱ無理だわ。 静流に言われるのはどうしても我慢できないわ」

 

 額に筋を浮かべて静流に向けて構える。

 

「全員叩きのめしてやるから覚悟しなさい」

 

「や、やめようよ・・・お役目終わって皆疲れてるんだから・・・」

 

「乃之ッ、疲れなんて関係ないわよ。勇者は気合と根性だから」

 

「凄いスパルタモードに入ってる・・・・ひえ」

 

 

だいたい、と桐香は続ける。

 

「静流は突っ込みすぎてるし、乃之はもっと自信持って堂々として指示出さないと、命に関しては戦闘中はコミュニケーションが大事なんだから言葉でしゃべる!それが出来ない限り、勇者としてあなた達はまだまだだわ!よって!」

 

大きく息を吸い、続けた。

 

「これから先のトレーニング、衣食住とかの管理は私がやるっ! 手始めに静流、アナタのゲーム機は睡眠の妨げになるからこれが終わったら没収するわよ」

 

「なんだとッ! ふざけるなよこのゴリラッ!」

 

キャラ崩壊を起こすくらいの声色で静流が叫んだ。

 

 

「いやならこの勝負に勝ちなさい。 ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん、よ」

 

「さり気無く、私たちのこと名前で呼んでくれてるんだ・・・」

 

桐香の言葉に乃之が小さく笑みを浮かべて言うと、桐香は顔を真っ赤にして乃之に相対する。天地魔闘の構えだ。

 

「・・・・最初は乃之、あなたよ」

 

「ヒッ・・・む、むぅりぃいい」

 

「二対一ならどうよ。みかんゴリラ巫女のあなたでも流石に勇者二人は勝てないでしょ」

 

「私は一向に構わないわッ かかってきなさいッ」

 

 どこかの中国拳法の達人よろしく、桐香は二人に対して駆け出した。巫女とはなんなのか。と、その一方で命は小さくため息をついて近くの岩場に腰を落ち着かせた。あわよくば、自分は巻き込まれたくないな、と心の中で想いながら。

 

 

――――こうして、初めての御役目を終えた勇者たち。最初は打ち解けれなかった者たちもこの戦いを通して更なる結束を見せる事だろう。

 

 

――――だが、戦いはまだ始まったばかりだった。彼女たちはまだ知らない・・・この先に待ち受ける大きな試練を。

 

 

――――何百年も続いているバーテックスとの戦い、その真の意味と勇者達の結末を。

 

 




今回でそれぞれの戦闘スタイルが各手当したわけどす。
わすゆに習って静流が近、乃之が中、命が遠と分けようと思いましたが被りもあまり良くないので一味工夫してみました。

乃之は槍を使った園子みたいな中距離みたいな立ち位置ですが槍の変形によって中、遠まで対応が可能です。でも攻撃特化のスペックなので園子みたいに階段とか傘になるとか防御面の機能はないです。槍の変形機構としてはブースターによる一点集中突破突き。イメージはシンフォギアでいう響のガングニールとか、リリカルなのはのエクセリオンバスターとか、最後の爆発ギミックとかはファフナーのルガーランスを参照。

命は完全に忍者というイメージで。弓だけ使わせようかと思ってましたが設定したのが忍者なので弓を使いますが須美のような一点に止まり射かけるのではなく、機敏に動きながら射撃をするという変態スペック。 書いてる中で意識したのはロードオブザ・リングのエルフのレゴラスですかね、一度に3発斉射とか、近接では剣をつかって対処する。今回は忍者刀まで出しましたが他にもあります。忍者らしい武器なのでそこまで変なのはでませんが、あとは命の火力は多分勇者たちの中で1番低いです。

静流のことも語りたいですが長々となってしまうので今回はここまでで、次の2章は日常パート多めで結束を深めるためにアレコレ行動し始める巫女と勇者とか、それぞれの勇者の秘密とかにも迫ろうと思ってます。では、また次回。意外に作品を読んでくれている人が多くて感謝。


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第2章〜育まれし想い〜
第1話~変わりゆく~


第2章開始という事でかなり時間が掛かりました。 日常回メインでバーテックスさんは暫く待機してもらいます。というか、ゆゆゆいのメインストーリー18話の赤嶺さんノーマルで強すぎない? 皆ワンパンされるんだけど・・・。


――――勇者達と巫女の朝は早い。彼女の一日はまず早起きと、体力作りによる訓練から始まる。

 

 朝の五時、まだ太陽も登り切っていない大赦訓練場のグランドを駆け抜ける四つの人が居た。大きく息を乱しながら走るのが二人と、ここまでの走りを物ともしないように平然と快速な走りを見せるのが二人。

 

「ラストスパート400メートルッ! 最後まで走りぬきなさいッ」

 

 先頭に立って三人の勇者達を引っ張るのは巫女である市橋桐香である。 掛け声とともに桐香が走り出すとそれに負けじと残り三人の勇者達もペースを上げた。一分と経ったくらいだろうか、距離を走り終えた桐香がゆっくりとペースを落として呼吸を整える。

 

「相変わらず・・・命は速いわね」

 

 誰よりも先にゴールを果たしていた命に視線を移した。巫女とは他の勇者達や桐香よりも早くゴールしていた。あれだけスピードを出していたにも関わらず彼女は肩で息をするどころか、わずかに肩を上下にするくらいだ。身体能力はこの場にいる全員より高い。

 

「だぁ~、も、もう無理ぃだぁ」

 

 遅れてゴールをした二人の内の一人、琴吹静流が息も切れ切れで手を膝に当てている。朝露乃之はゴールと同時にその場にぶっ倒れていた。

 

「な、なんなのよこの巫女は・・・いつも思うんだけど、なんで巫女なのにこんな身体能力が高いのかしら? 実はアナタ、身体に加速装置とか詰め込んでないわよね」

 

「鍛えてるからに決まってるじゃない・・・こう見えて、武道系はかなり極めたわ」

 

 ふふん、と胸を張る桐香。勇者を目指す為に、彼女はありとあらゆる武道に身を打ち込んでいた。剣道、柔道、空手、ボクシング、テコンドー、ムエタイ、ストリート・・・・上げていけばキリが無いが、その鍛錬の過程で生み出された体力はもはや巫女としても規格外である。

 

「あたしは戦闘のプロよ」

 

「どこかのグレートなマジンガーのパイロットじゃないんだから」

 

「それはさておき、朝の訓練は終了よ全員水分補給をしなさい」

 

 あらかじめバケツの中に氷水を入れて冷やしておいた彼女の特性ドリンクが全員に配られる。静流はそのドリンクを口にした瞬間、梅干しを食べたのごとく口をすぼめた。

 

「ヌアァアァァァァッ」

 

「今日は特製よ、愛媛名物のみかんとクエン酸大量に混ぜ込んだ疲れもぶっ飛ぶスポーツドリンクッ」

 

「し、舌がぁぁあ! 頭がぁああああ! 喉がぁああああ!」

 

「・・・・」

 

のたうち回る静流の横で無言を貫いていた命だったが身体全体がガタガタと震えていた。相当に酸っぱいらしい。

 

「フフフ・・・知らないのね静流。 愛媛みかんには魔法の成分、クエン酸とミネラルがそりゃもうたっぷり含まれているの。 これは疲労回復にはもってこいなワケで、そこにダメ押しで別売りのクエン酸サプリを粉末にしてぶち込んでおいたわ・・・見なさい、この効果を」

 

 

 そう言う桐香が長椅子で横になっていた乃之の口にペットボトルの口を含ませた。液体が口の中へ入り込んだ瞬間、死んだ目をしてた乃之が目を見開き、あまりの強烈な酸っぱさに長椅子から転げ落ちる。

 

 

「死人も生き返らせるわ」

 

「それもう拷問よ」

 

「もう許してください、ごめんなさい、なんでもします」

 

 涙を浮かべる乃之の眼には明らかに影が残っていた。どう見てもトラウマを植え付けられたようである。

 

 

「それにしても・・・勇者と同じメニューをこなすって、変わってるわねアナタも・・・体力的に変態だけど」

 

「別に、いいじゃない」

 

 初めての御役目を終えたその後の事である。桐香は唐突に訓練に参加し始めることが決まった。静流との決闘後、勇者達の育成プログラムは桐香が作成することになったのである。これは大赦の訓練係と相談を重ねて決定したことだった。

 

 ちなみに決定した理由としては彼女の、桐香の巫女としての能力と大きな関係があった。精神体として樹海の中を行動できる桐香は誰よりも勇者達の動きを観察できる存在である。故に、今の勇者たちに何が足りないのか、改善すべき点はどこなのかを桐香を通してトレーニング内容を見直して次回の戦闘に繋げることが今の桐香の役割だ。

 

 何よりも、勇者と共に訓練をしたいというのは桐香自身が提案したことだった。今まで信頼することをしてこなかった勇者達を今度は信頼し、彼女たちの事をもっと良く知りたい、と。

 

「んじゃ、後はストレッチして汗ふいて全員ちゃんと登校しなさいよ」

 

「え、市橋さんは・・・」

 

「いい汗かいたからねー、滝に打たれてから行くわよ・・・巫女としての日課もやってるから。 あと、乃之」

 

「え?」

 

と、乃之に向けて桐香は強めの口調で言う。

 

「名前! もう桐香でいいって言ってるでしょうに!」

 

「あ、わあわわわ・・ご、ごめん! き、きりちゃん!」

 

「き、きりちゃん・・・!?」

 

乃之のまさかのあだ名呼びに桐香の顔が少しだけ赤くなった。今まで呼ばれもしてこなかったまともなあだ名に恥ずかしさを感じ、思わず頭が熱くなる。

 

「あらきりちゃん、そんなに恥ずかしいのかしらきりちゃん、イガリマと巨大鎌とか振り回さないのかしらキリちゃん、語尾にデスってつけなさいよキリちゃん」

 

「・・・・・」

 

 

悪乗りしている静流に怒りの視線を向けると一呼吸を置いた後に、桐香は非情の一言。

 

 

「静流だけ腕立て200回ね」

 

「ちょっ!?」

 

「登校する前に終わらせなかったら寮の部屋の中でやらせるわよ・・・解散ッ」

 

もともと用意していたであろう自転車に乗って、桐香は一目散に駆け抜けていく。

 

「ふふふ、ここで姿を消したのは間違いだったわね桐香・・・・こんなの元からやるつもりもないわよ!」

 

と、悪の笑みを浮かべる静流。訓練を提案した本人がいないとなれば適当にやったと言って誤魔化すつもりでいたのだが。

 

「え? アレ? 乃之さん、命? どうして私の肩を掴んでるの?」

 

「あれ多分かなりキレてるからちゃんとやった方がいいよ・・・かわいかったけど」

 

「え、かわいい?」

 

 ときどき、乃之が良くわからなくなる静流であった。

 

「一応、静流ちゃんのお目付け役として私がついてるから・・・うん、ちゃんとやってるかとかも後で報告するつもり。 同じクラスだし」

 

ジーザス、と静流は落胆する。この世に神はいないのか、と。こうして、腕立て伏せが始まった訳だが。

 

「え? ちょ、乃之さん? なんで私の背中に乗ってるの!? 命も私の両足持って・・・これじゃ腕への負担が・・・ギャァァァァ!」

 

「じゃあ一回目―――――」

 

「無視してんじゃないわよォォォオオォオ!!」

 




日常はどっちかというと短編みたいな感じになりそうですね。食事の話とか、それぞれの出身の話とか、寮での勇者たちの生活とか。 巫女さんはここから難易度下がってどんどんデレてく予定。


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第2話〜昼食にて〜

今回お昼ご飯の彼女たち。出身地とか、食べ物の話ちなみに、香川のうどんはマジで美味い。


―――――昼休み、それは一般生徒たちのささやかな休息。4限の授業を終えた時点でそれは訪れる。それは一般生徒だけでなく勇者と巫女も同様だ。

 

 彼女達の通う中学には学生食堂が用意されている。大赦のバックアップ機能が働いているからなのか、それなりにメニューの種類の豊富さ、値段とともに学生向けという非常に財布に優しいというところもあり生徒たちからの人気は高く、いつも人は多い。

 

「あー、もう私の腕がボロボロで上がんないわよ・・・」

 

プルプルと震える手で箸を手に取る静流がため息をついている。結局腕立てはきっちりと200回やらされ、その影響で腕の筋肉はパンパンであった。

 

「おっ、いたいた。座るわよ」

 

「・・・・」

 

「どーぞっと」

 

お盆にラーメンを乗せた桐香が静流の隣に座る。一緒に命も向かいの席に座っていた。

 

「というか静流、命・・・あなた達、クラスの人たちと一緒に食べないの? もしかしてボッチなの?」

 

「いや!昼休みのご飯はみんなで食べるようにしようって言った張本人がソレ言うの!?」

 

静流の言うように勇者と巫女たちの学年はバラバラだ。乃之と桐香が3年に対して命は1年、静流が2年である。当然、彼女達のクラスも普通に他の生徒も存在するため、仲が良い友達がいればその者たちと一緒に昼を食べるのが自然である。

 

 だが、静流が先ほど言っていたように桐香からの提案でこれからの連携力の育成の為に学年関係なく昼休みの食事は一緒に食べようと提案されていたのだ。

 

「いや、提案しておいた私が言うのもなんなんだけどさ。 ちょっとあなた達のクラスでの立ち位置がなんとなく気になって・・・・」

 

「私は至って普通よ。心配されるほどのものではないかしら・・・命はどうなのか分からないけど」

 

 そう言われるのを聞いた命は口に運ぼうとしたカレーのスプーンを一旦置いてから静かにサムズアップ。それの意味するところ、あまり問題はない、という事なのだろう。となれば、気になるのはもう一人だ。

 

「乃之さんは?」

 

「乃之は・・・察して」

 

「あー・・・・」

 

 聞いたことを後悔した桐香である。と言っても、ある程度予想はしていたのだが。

 

「昼食のお誘い、クラスの人から何回か誘われてるんだけどいつもどこかに逃げちゃって・・・・私も誘おうとしたら逃げ始めたから昼休み終わり頃に屋上まで追い詰めてやっと観念したって感じよ」

 

 勇者を追い回す巫女がどうやら徳島にはいるらしい。

 

 

「それにしても、乃之さんって戦闘と日常だとだいぶ雰囲気が違うのね・・・」

 

 静流は思う。普段の学校生活で見る彼女の姿は他人に対して少し距離を置き、あまり人とは話したがらないどちらかと言えば内気な少女というイメージがあるのだが。

前回の初の御役目の時、誰よりも指揮を執っていたのは静流や命、桐香でもなく乃之だ。敵の弱点を見抜いた上で危険と分かっていてなおその重役を果たす為には自らも行動に移すという、作戦指揮官という印象が強い。

 

「凄い子だと思うわ・・・敵の爆弾のある体内まで槍一本で突撃するとか到底真似できるものじゃないもの・・・」

 

だからこそ、と桐香は続ける。

 

「この勇者チームの隊長は乃之が適任だと思う訳よ」

 

「それは賛成ね。 ちょっとぶっ飛んだ作戦だけどもそれが勝利に繋がるなら気にしないわ」

 

 と言っても、と静流は内心で続ける。もし、その作戦が上手くいかないのであれば自分が少しでも体を張るぐらいの事をしてやろうと。

 

前回の戦いで知ったのはこの御役目が命掛けだということ。四国存亡という重圧の中で一人指揮を執るというのは乃之の精神的負担もかなりきついに違いないのだ。

 

 

と、考え込んでいた静流の腕を突くものがある。カレーを食べていた命が何かに気付かせるように指で腕を突いていたのだ。

 

 

「あ」

 

 桐香と静流が同時に発した言葉とその先に視線に居たのは、いつもまにか命の隣に座って来ていた乃之。彼女は顔を伏していたが耳を真っ赤にさせてプルプルと肩を震わせていた。

 

 

「私・・・・褒められるのって慣れてないから・・・その、ごめん」

 

 桐香と静流の会話でべた褒めされていた乃之は余程恥ずかしかったのか、まだ彼女の顔は赤かった。

 

 

 

 

「そう言えばここにいるメンバーって全員出身地が違うのよね」

 

 桐香の一言で昼食が中断される。彼女の言うように、この場にいる勇者と巫女は全員が違う地方から集められたのだ。例えば、桐香なら愛媛県。

 

「私は徳島ね・・・一応地元民よ」

 

と静流が言うのに対して視線が移るのは命の方だ。彼女はいち早くカレーを食べ終えたのか水を片手に

 

「・・・・高知」

 

と一言。なかなか一文以上の言葉が生まれないな、と静流は思ったのであった。

 

「やっぱ徳島県って徳島ラーメンばっか食べるの?」

 

「んな訳ないでしょうが蜜柑ゴリラ。あなた徳島県民のことどう思ってんのよ」

 

「静流、アナタ昼終わる前にちょっと屋上に来なさい」

 

「徳島ラーメンって色々と種類があるんだっけ?」

 

今にも戦争が始まりそうな雰囲気を察した乃之が会話を作る。 静流と桐香も一旦メンチを切りあうのを止め、静かに席へと座る。その後で、徳島出身の静流が咳払いをして口を開いた。

 

「徳島ラーメンは大きく分けて三系統。 茶系、黄系、白系に分かれていて豚骨スープに濃口醤油とかたまり醤油とか中細麺を用い、トッピングに豚バラ、葱、もやしを使ってるのが特徴よ・・・・まぁようするに、濃い系の豚骨ラーメンに近いわね」

 

「へぇ」

 

と、相槌を打つ桐香に静流が続ける。あまり関心がないようだがここで徳島ラーメンの魅力を語れないのであればそれは県民として失格だ。

 

「あと徳島ラーメンの具をご飯にかけた丼ものとして徳島丼と呼ばれるものがあるわよ・・・今度食べさせてあげるから楽しみにしておきなさい」

 

「おお・・・濃い系のスープが掛かった具材をご飯に、ジュルリ・・・やるわね、愛媛県民の私の喉を唸らせるなんて」

 

 桐香の他にも、命ですら興味深々で口から涎を垂らしている。連れて行くときはしっかり命も連れて行こうと思った静流だった。

 

 

「命、どうなのよ高知県は・・・何か特別美味しい物ってあるかしら?」

 

静流は命にも話題を振る。こういう時こそ命には人と会話するということが必要だ。皆で楽しく喋っている今なら気軽に命も話してくれるかもしれない、と静流は考えたのだ。

 

だがそんな期待を裏切るかのように命はこちらから視線を外し、下を向いていた。

 

「・・・・命?」

 

「・・・・あまり、良くわからない」

 

名前に呼ばれた命が小さく、そう答えた。 周りは命の想定外の発言にポカンとなったが、彼女は続けて

 

「今度、実家に帰ったら持ってくる・・・多分いいのがあるはずだから」

 

そう言ったのだ。

 

 

「そういえば乃之って香川県の出身だったわね」

「うん」

 

 桐香の言葉に乃之が答える。彼女が食していたのは香川県の名物料理、うどんであった。

 

「やっぱうどんが好きなの? この食堂に来ても乃之だけいつもうどんを注文してるし・・・飽きない?」

 

「あ き な い」

 

 彼女は言い切った。

 

「まず香川のうどんはなんと言ってもコシ、ツヤ、味、どれをとっても四国一。これを一日の内に一回も食べないのはまずおかしい」

 

「アレ、乃之さんキャラ変わった?」

 

 乃之が纏う雰囲気が明らかに違うのを静流は感じ取る。うどんの事になるとどうやら人が変わったかのように饒舌になるらしい。

 

「私が聞いた話だと、昔の・・・初代の勇者様も大のうどん好きで、戦闘時も常に持ち歩いていたとか・・・」

 

 一同がほぅ、と興味を持ってその話を聞く。ちょっとだけ勢いのついた乃之は続けて言うのだ。

 

「敵のバーテックスにも投げつけて、うどんを素通りしていく個体は皆その勇者様に食われたらしいよ・・・もうそれは踊り食いと言っていいほどに」

 

「え、なにそれは」

 

 あの白い物体を食した初代勇者の奇行に桐香は驚くよりも若干引き気味だった。恐らく、この場に居る乃之以外の誰もが同じことを思ったに違いない。

 

「でもまぁ、本場の香川のうどんを知っているだけに、ここのうどんは少し物足らないでしょう」

 

「そんなこと・・・ないけど」

 

 桐香の言葉に乃之がそう言う訳だが、うどんが大好きと言っている割にはそのペースは特別早い方ではなかった。 しかも、食しながら見えるその表情は嬉々としているものではなく、何か模索している感じである。

 

―――コレジャナイ。

 

と、内心ではそう思っているのだろう。

 

「実家付近に美味しいうどん屋があるの・・・讃州市の”かめや”っていうんだけどね」

 

「それ知ってるわ、テレビでも結構有名だし」

 

 静流の言葉に乃之が頷く。讃州市の人間ならその店の名前を聞いて知らない人はいないらしい。

 

「御役目でこっちに来るまでは、お婆ちゃんと一緒に良く通ってたなぁ・・・」

 

 乃之の遠くを見るように呟いたその一言を桐香は思う。それはどこか寂しげで、懐かしむような表情を見ては考える。もしかして、と桐香は尋ねた。

 

「実家、帰りたいの?乃之」

 

「・・・・」

 

 喋りはしないが、彼女は小さく頷いていた。

 

「そっか」

 

と、桐香も小さく返す。当然だが、静流以外はこの土地について詳しくはない。当然、初めて来る場所であればそれなりの不安というものがある。

加えて、ほとんどが自分の知らない赤の他人で慣れない学生寮暮らし、化け物との戦闘となれば抱え込むストレスは相当のものだ。

 

「お婆ちゃん、体調ちょっと悪いって言ってたから」

 

 それも不安の種だろう。そして、もう一つこの場の者たちが気に掛ける事があった。乃之の両親のことである。 どうして故郷から離れた場所で最初に話す身内の事が"お母さん"ではなく、"お婆ちゃん"なのかを。

 

・・・あまり聞かない方が、いいのよね。

 

多分、これは皆が思っていることだ。踏み込めば確実に万能地雷クレイモア。辺り一面を焦土と化す最大の爆薬。それを理解した上で桐香は言う。

 

「大赦の方に休暇申請してみなさいよ」

 

「で、できるのかな、御役目もあるのに」

 

 乃之が言うように、バーテックスとの戦いは彼女たちの予定も考えず、唐突に始まる。風呂に入っていれば裸で樹海の中に放り込まれるだろうし、戦うことを拒んだとしても関係はないのだ。

 

「敵さんも毎日攻め込んでくる訳じゃないわ。 ある程度痛手を食らわせれば次の襲来まで間が空くっていうのも、過去の記録にも書いてあったし・・・」

 

それに、と桐香は付け加えて

 

「そういう時期は私が神託でしっかり受けとったら一番に知らせるわよ。 それも巫女の務めだし」

 

「ああ、なるほど・・・少しは役に立つじゃない蜜柑」

 

「果物扱いは良くないわ、ラーメン」

 

どっちもどっちだ。と言った表情だった乃之だが、そのやり取りを見て段々と顔が明るくなる。

 

「ありがとう・・・きりちゃん」

 

「・・・だからァ、きりちゃん止めてって」

 

 

と恥ずかしく視線を逸らす桐香だが、正直、悪い気はしなかった。それはあだ名呼びされたことではなく、自分の巫女としての能力に対して感謝されたことに対してだ。

少しでも、彼女たちの力になれる事が出来ればよい、と桐香はそう思っている。それに、乃之から嬉しい、と言われるとこちらも同じくらいに嬉しくなった。

 

「だから、私・・・御役目頑張る」

 

と、意気込む乃之に人差し指を振った静流が不敵な笑みで言うのだ。

 

「ノンノン、乃之さん・・・皆で頑張るのよ。 何の為に勇者が3人いると思って?」

 

乃之の隣では命もコクコクと頷いていた。 調子の良いことばかり言うなァ、と桐香は思うが雰囲気自体は悪いものではない、むしろ良い物だと捉えることが出来た。

 

 

だからこそ、と桐香は願う。

 

 

 

――――どうか何事もなく、みんなが無事に戻って来てくれることを。

 

 




なんだか最後の一文だけでど偉くシリアスになった。 そんなつもりはなかったのに! 若葉様の奇行はえらく捻じ曲がって後世の勇者たちに伝わりました。徳島ラーメン、一度でもいいから食べてみたい....。
さて、さりげなく出身地に伏線が。 讃州とか高知とかにいる勇者はなにかとヤベー奴が多い。やはり蕎麦派はいなかった、ドンマイうたのん。

次回は大赦の人達メインで1話使う予定です。


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第3話〜仮面を被った人びと〜

予約投稿してなかったー!


徳島県西支部、大赦内の長大な廊下を市橋桐香は歩く。それは巫女としての務めをこなして帰路に着こうというというその途中であったのだが。

 

「・・・ん?」

 

 歩みを進める数メートル先に、神樹の木をイメージした絵が描かれた仮面を被った人がいた。この大赦内で見ることは珍しくもない、大赦の職員たちだ。彼らは勇者たちをサポートする為に数々の手を尽くしている。

 

 戦闘訓練の指南、勇者専用の寮の設置、医療施設、勇者システムの強化、御役目後の休暇手配などサービス精神旺盛のブラック企業よろしく、人類を守る一端を担っている。

 

 そんな大赦職員たちを見て桐香が思うことは、とにかく不気味だという事だ。

 

「おはようございます」

 

「・・・おはようございます。市橋様」

 

 仮面をつけた男性の声を発した職員は身を屈め、桐香の通り道を譲るかのように通路の端に掃ける。勇者でもない巫女ですらこの待遇。勇者だったらこの人たちは土下座でもするのだろうか、と思ってしまった桐香である。

 

・・・相変わらず、何考えてんだか分からない人達ね。

 

 男性女性、年齢を問わず大赦に勤める職員たちは皆が白の装束に身を包み、白い仮面を被って仕事をしている。一般人から見てもその姿で往来を歩かれでもしたら速攻で逃げ出して100当番通報も止む無し慈悲はないという状況になるはずなのだが、この世界では大赦という名前は大きな力として様々な方面に働いている。例えば、政治方面などでは総理大臣よりも権力は上なのである。

 

 

 四国を守るための結界を張っている神樹を祀り上げている大赦という存在は、勇者たちと神樹の力を繋げるたメカニックみたいなものであり、彼らが居なければ神樹という神がいてもバーテックスに人類は西暦の時代で既に滅ぼされていたに違いない。

 

「えーっと、この前に腰痛持ちの人に軟膏渡してくれた?」

 

「はい・・・市橋様のお気遣いにより、無事腰痛は解消されたのことです。 つきましては、そのことでその者から無礼でなければ謝礼をしたいとのこと」

 

「いや、そこまでしてもらわなくても・・・私はなんか結構年齢もかなり上のおじさんの感じがしたし、ずっと腰触ってたから気になっただけだからね」

 

 桐香の一言に職員は一層頭を下げる。

 

「もったいなきお言葉・・・その者もさらに喜ばれることでしょう」

 

 少しだけ職員の肩が震えていたのが見えた桐香だが仮面で表情が見えないから不気味さが一層増してこちらも少し引いてしまう。

 

「市橋様、今夜は我々は会議の為、大赦内を留守にされます。警備の者が数名いますので急な要件の時は彼らを通して連絡をしてください」

 

 彼らはそう告げると、では、と頭を深々と下げてその場を後にする。二人を見送った後で桐香は腕を組みながら唸る。

 

「うーん会議ねぇ」

 

 定例会議のようなものだろうか、と考えるが気になるのは内容だ。ここ最近、御役目が無いために戦闘データの解析に熱を持っているらしいが徹夜組みの職員が床下で雑魚寝をしていたのを桐香は覚えている。多分、そのことだろう。

 

「きっと静流だったら・・・」

 

 変人ゲーマー剣士が見たら彼女は迷わず口にするだろう。 

 

 

――――きっとあの仮面の下で、めちゃくちゃ私たちの事をエロい目で見てるに違いないわ!そう、エロ同人みたいに!

 

 

 って、言うに違いないな、と思った桐香だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

徳島県徳島市のどこかの駐車場に2~3台ほどの大型バスが停止する。黒塗りで、大赦のマークが掛かれたバスから降りてくるのは大赦の仮面と白い装束に身を包んだ者たちだ。

 

「お母さん、あれなに?」

 

「ワッザッ! 見ちゃいけませんわよアイエェェェ!!」

 

 そう、その光景はやっぱり一般人にはヤベー奴らとしか思われていないらしく、見る人はその異様な光景に思わずその場を通ることを躊躇う程であった。

やがて、バスから全員が降りた訳だがその数はなんと100名。徳島県の大赦職員がほぼ集まったと言っていいだろう。その集団の中で特別長い時代劇の偉い人がかぶってそうな帽子をつけた職員が仮面の集団の前に立つ。

 

 

「えー、みなさん、近隣の方々の迷惑にならないように迅速かつ安全に移動してください。会議はこちらで行います」

 

 男の諸連絡らしき言葉に一同は”オウッ”とまるで体育会系のような答え方をした後、ぞろぞろと一列に並んで歩いていく。

 

 

――――だが、彼らが向かうのは会議室ではなく・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達が勇者の御役目初勝利を記念し、ここに祝勝会を開始するッ 全員ッ」

 

 手に持ったグラスを掲げ、

 

――――――乾杯ッッッ!!

 

 総勢100名の仮面の者たちがグラスを片手に叫ぶ。その光景はまさに異様、異質、奇怪・・・と表現はさまざまあるが、要約するとヤバい。

 

「全員最初の一杯目は生だからな! それ終わってから好きなの飲んでくれよ!」

 

「うえーい!」

 

 繰り広げられるのは宴会。そう、会議とはただの名目に過ぎない、彼らの目的は勇者たちの御役目勝利を祝う飲み会だったのだ。

 

「新人、お前もさっさと暑苦しい仮面と装束脱いだらどうだァ、この飲み屋の中でならそれも許されるぞ?」

 

「班長、自分は幹事という立場をわきまえてこのままでいようと思いますが」

 

「お、気構えがなってんねぇ。 気に入った、取り敢えず一杯な」

 

 年長者らしい男からグラスを渡されてビールを注がれる。自分は幹事なのだから飲まない方針だったのだが上からの圧力というものがあり、仕方なく。

 

「グビッ・・・グビッ・・・キンキンに冷えてやがる・・・っっ!!」

 

 熱気冷めないこの部屋の中で飲むビールの味に思わずそう叫んでしまった新人だった。

 

 

 

 宴会と言うのは本当に良くわからないオーラというものがあり、普段バカやらなそうな奴がアルコールを飲むと何をしでかすか分からないというジンクスのもと、飲み会の方向性と言うのは次第にとんでもない方向へとシフトしていくことがある。

 

 

 少人数による飲み会ならそういう事にはならないのだが、100人単位のアルコールの入った団体がいるのだから当然、その展開はある程度は予想できるものであり、当初の飲み会の方針とは大きくずれていくことになるわけで。

 

 

「お前らイチ押しの勇者は誰だァ!!」

 

 唐突に始まるゲーム的なもの。これも大人数による飲み会の魔物である。

 

「僕はやっぱり朝露乃之ちゃん!」

 

「忍者スレイヤー命ちゃん!」

 

「乃之ちゃん!」

 

「乃之ちゃん!」

 

「乃之ちゃん!」

 

「桐香ちゃん!」

 

「桐香ちゃん!」

 

「きりちゃん!」

 

 

「オイコラ誰だァ! 巫女の名前入れた奴オラァ! あと、なんで静流ちゃんの名前はいってねぇんだよオラァ!!」

 

 俺の押しだぞ!と一升瓶片手に男は叫ぶ。すると隣のテーブルから一人の男が立ちあがった。

 

「巫女服の桐香ちゃん可愛いだろうがオォン!? あの最初のツンツンから勇者たちに健気に尽くしている面倒見の良さと、デレ期の桐香ちゃん最高だろうがヨォォォォ!!!」

 

 ザッケンナコラァ――――ッッ!!と、先ほどの男に呼応するかの如く、一人の男が静流押しの男の肩を組んで立ち上がった。

 

「静流ちゃんちょっと奇人で変態チックな感じ出してるけど実はめちゃくちゃ押しに弱いタイプなんだよコラァ!心は一番のガラスで悩みを持ってそうな感じのギャップ萌が堪んねェンだろうがァ!」

 

 ザッケンナコラァ-----ッッ!!

 

「ギャップ萌なら桐香ちゃんだって負けてねぇんだゴラァ!乃之ちゃんに壁ドンとかされたら絶対に恥ずかしがって落ちるからなオラァ!早くその展開だせやオラァ!!」

 

 ザッケンナコラァ―――――――ッッ!!

 

「テメェらの眼は節穴コラァ! 命ちゃん絶対闇抱えて生きてるキャラだろうがコラァ! 高知県の勇者は代々ヤベー奴がなってるだろうがコラァ!! でもそこに自分への価値とか見出す為に懸命に頑張る姿が最高だろうが! 俺も頑張るってなるんだろうが!」

 

 

 まだそんな話すら出て来てねェだろうがコラァ!! というツッコミのもと、話題はいつの間にか自分の一押し勇者から最高のカップリングへ。

 

「だから乃之×桐香」

 

「いやお前違うって、桐香×乃之だから」

 

「異論は認める」

 

「乃之×命の私は異教徒ですか?」

 

「許す!」

 

「私は許された! イエス! ワザリングハイツ!!」

 

 

「桐香×勇者三人!!」

 

 

 

―――――お前天才かよ。

 

 

 

 

 百合紳士たちの魂の叫びは留まる事を知らなかったが、それも60分くらい前の事である。自分たちの理想をひたすら語り合っていた猛者たちは酒に潰れ、座敷の倒れ伏していた。

 

 

 

 

 

 

「それで、聞いたか。 あの話」

 

「はい、勇者を援護する御霊石の開発が成功したと」

 

 新人と班長が日本酒をお猪口に注いで飲んでいる最中に飛び出した言葉、御霊石。

 

「現在の勇者システムじゃ、御霊持ちの大型バーテックスには有効打を与えられない・・・・そのデータを香川の本部に送ったら実験中の御霊石の話がきやがった」

 

 舌打ち交じりに言う班長に新人は察する。香川と徳島の大赦の人々は仲が悪いのだと。

 

「御霊石・・・徳島の地脈に宿る霊力を御霊石を介して神樹様への供物として奉納し、樹海化時には勇者たちにその力を与える石・・・そう聞いています」

 

「そう、過去の戦いにあった精霊を勇者の身体に宿すのは勇者本人に悪影響がある。だが、精霊も宿っていない霊石を介した力の供給なら問題ない、というのが香川大赦の見解だ」

 

それよりも、と班長はお猪口を置く。

 

「どうしても御霊石で解決できない場合の最終手段がある。 だが、これは問題アリアリだし、俺も実装させるつもりはサラサラない」

 

 話には聞いていた、徳島の勇者に与えられる四国の技術が結集された切り札。それはかなりえぐい物らしい。新人は震えるが班長は安心しろと酒を差出し。

 

「俺達は彼女たちが苦しまないように、その切り札を使わせない為に出来るだけ、最大限のサポートしてやるんだ。 なんも力もない、大人がよ、自分よりも小さな女の子たちにだ」

 

んでつかぬ事を聞くんだけど、と男は続けて。

 

「新人君、キミは4人のなかで誰が一番かわいいとおもう?」

 

結局この飲み会は日を跨ぐまで続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作ったあとは大分カオスな出来だなと思ったりした。 やっぱワザリングハイツって名前を考えた人は天才だと思う。

徳島県の大赦の人達は勇者の子達大好きなヤベー大人たちの集まりです。ゆゆゆの大赦が大分腐ってた分、こっちの大赦の人は本当に勇者達を大事に思ってます。

話の最後に出た御霊石のイメージは魔界戦記ディスガイアで言うジオシンボルです。味方にバフ効果を与えますがデメリットとして、その土地の寿命を縮めます。


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第4話〜生きがい①〜

静流ちゃんがメイン?の会



「フンフフーフ・・・」

 

 真っ暗な部屋の中でテレビに向かって鼻歌を口ずさむ一人の少女が居る。琴吹 静流は、深夜ゲームに熱中していた。

 

アクションゲームをしているからだろうか、コントローラーに配置されているボタンの動かし方が激しい。 時には長押し、時には連打、時にはコマンド入力と、それに合わせて画面の中のキャラクターはビームと衝撃はを放ち、敵を倒していく。

 

 だが、そのプレイングは他人からはお世辞にもあまり上手い、とは言えなかった。やりこんだ者ならこの程度の難易度でダメージを負ったりミスをしたりはしないだろうが、静流のプレイキャラはかなり被弾し、体力も真ん中くらいまで減っていた。

 

 

 体力減少により発動するスキルとかあまり考えていない、敵の集団に突っ込み、広範囲攻撃で真ん中からかき回す。初心者とかが思いつきそうな最初の戦術。

 

 

だが、静流にとってはそれだけで十分だった。

 

「・・・・やったわ」

 

 ようやく敵を倒し、ステージをクリアする。体力は赤ゲージでギリギリだったが、物語を進め、見る事ができるイベントに達成感を覚える。その単純なことで静流は満足していた。

 

 

・・・勇者になる前の実家での生活は息苦しいものばかりだったけど。

 

 家のしきたりはかなり厳しい物で、門限とかを中学生に求めてくる実家。マナーとか言葉づかいとすら徹底され、去年までは”ですわよ”とか”ごめんあそばせ”とか使っていた自分を殴りたい気分である。

 

 勉強とスポーツも両方出来るようになれと父に言われ、専属の家庭教師やコーチのもと特訓が施された。だが、どれをやっても長続きせず、今振るっている剣道すら自分でも楽しいとか、やる気があって振るっているものではない。

 

自分のやる事や成す事に意味を見出せない、なんて空虚で意味のない人生だろうかと静流は思った。

 

 だがある日のこと、外を遊んでいた静流は流れるままにゲームセンターに入り込む。彼女にとってお嬢さまの勉強をするべく俗世にあるものを斬り捨ててきたせいか、ゲームセンターの異質な光景は静流の冷めていた琴線を響かせる切っ掛けとなった。

 

 初めてやったゲームはシューティングゲーム。本物ではない銃のオモチャを画面に向けて画面内の敵を撃つ、シンプルな物。そこに、足元のペダルを踏んで画面の自分のキャラクターが壁や障害物に隠れるという回避要素を取り入れていたゲームだ。

 

最初は分からず1ステージくらいクリアするのに1000円以上使ってたし、キャラクターの動きに合わせて自分も身を筐体の陰に隠していた。今思えばただ恥ずかしい。

 

 だが、そのゲームをやっている時は本当に楽しかった。周りが厳しい口調で”やれ”とか、”まだできないのか”と急かす強制の元始めた習い事より、自分の意志で手に取ったそのゲームをやっている時は、時間や、嫌なことも全て忘れるほどにやりこんだ。

 

 それ以来、ゲームは彼女の人生にとっても大事な趣味となった。小遣いを溜めてはゲームセンターとかショップに向かいソフトを買い、携帯ゲーム機を買っては家の部屋の中で監視の目を盗んでゲームを起動させていた。

 

 その姿を見た父はかなり、というか、超がつくほど怒った。もう涙を流すくらい。だからそんな父と一緒に生活することはかなり息苦しいものだったし、静流としてもあの家にいる事はうんざりであった。

 

「この一人の寮生活は最高ねッ キャッホゥゥゥウッ!!」

 

 だから勇者としての選ばれ、実家から寮暮らしになると聞いた瞬間、静流は歓喜した。あの家にいるくらいなら外へ出て犬小屋で暮らすこともいとわない。

そして実際に寮生活は同じ勇者と巫女の四人での生活。それぞれ個別に部屋を渡され、ある程度の自由は保障されている。部屋には大型テレビ、パソコン、ゲームソフトが積まれていて、それを堪能するには最高の環境である―――

 

「五月蠅いわねッ 今何時だと思ってんのぉぉぉぉお!!」

 

――――――筈だった。

 

 

「アァァ・・・・・」

 

 机に顔を突っ伏したゾンビのような呻き声を上げる少女が居る。静流だ。

 

「えーっと、静流ちゃん・・・だい、じょうぶ?」

 

 乃之が心配そうに声を掛けている。三年生の彼女が二年の静流の教室に居るのは静流が呼び出したからだった。

 

「私の友が・・・奪われたのよ」

 

「あー」

 

 乃之はある程度察する。それも、昨日の夜の事だ。深夜に大声を出した静流の騒音は隣の部屋にいた桐香の部屋まで響いていたらしく、激怒した桐香が静流のゲーム類を殆ど没収してしまったのだ。桐香曰く、勇者としての御役目を果たす為に支障が出そうなものは撤去するとのことで、暫くは彼女が静流のゲームを預かるという。

 

「酷過ぎない・・・? プレイしていたゲームならまだわかるけど、押し入れにあるゲームとか携帯ゲーム機も没収なんて・・・私からゲーム取ったら何が残るのよ」

 

「うーん、なんだろう」

 

・・・いや、ちょっとはフォローしてよ。

 

 まるで自分に残る物があまりないような、という感じの乃之の反応に静流は肩を落とす。彼女は時々、ぐっさりと突き刺さる事を平然と言ってくるからビックリする。

 

「こうなったらやるしかないわね」

 

「なにして、るの?」

 

 乃之が見つめる視線の先、静流の両の手が動き始めた。何もない虚空を見つめ、静流の視線もその一点のみを見つめていた。

 

「分からないかしら、エアモンハンよ」

 

 乃之の口元が引きつっている。何故なら、静流の眼は物凄い程に曇っていた、というか淀んでいたのだから。

 

「見える、見えるわ・・・! 私の正面に突っ込んでくるバサルモスがッ」

 

 その後、あ、3乙したわ。という言葉に再び机に頭をどん、と突き刺す。そして再び顔を勢いよく起こす。

 

「やっぱり無理よ! 私にゲームのない生活なんて考えられないわッ ゲームイズライフ!こうなったら・・・・」

 

ゆらりと椅子から立ち上がる。その目は闘志に満ち溢れており、眼の中では炎が揺れていた。

 

「戦争をしましょう・・・」

 

奪われたものを取り返す聖戦。静流は決心したのだ。悪魔のゴリラ巫女に大切なゲームを持たせておくわけにはいかないと。

 

「相手が奪うなら私が奪い返すまでよ!」

 

「でも静流ちゃん、桐香ちゃんだって反省して少し我慢すれば許して返してくれるよ」

 

「命ッ カモンッ」

 

 乃之の言葉を無視するように静流が指をパチンと鳴らすとどこからともなく命が現れた。先ほどまでに気配すら感じなかったのに、瞬時に現れたかのような素早さに乃之は驚愕する。

 

「乃之さん、命・・・あなた達も協力してもらうわよ。 報酬はそうね、今度徳島ラーメン奢るわ」

 

「いや、奢るとかそういう問題じゃなくて」

 

「お願いよ、私達勇者は仲間・・・悲しんでいる後輩を見捨てちゃうんですか先輩ッ」

 

 涙目で迫る静流に乃之は思う。こんな時だけ先輩、後輩とか使ってくるのは中々タチが悪いのではないかと。

 

しかし、素直に先輩と言われることが少なからず良い気分になっている事を隠せない乃之は満更でもないと言った表情で協力することになったのだ。

 

 

 

 

 

 

そして静流の計画は夜の7時ころに実行されることとなった。スマホの連絡機能で合図を出したところで部屋の中から静流と命、乃之の三人がゆっくりと周囲を警戒して出てくる。

 

「いい?あのゴリラ巫女は今お風呂に向かったわ。その隙に私のゲームを回収するの・・・部屋の中に入ったら即効よ即効・・・命、袋は持ってきた?」

 

「・・・」

 

コクン、と頷いた命の手には大きなごみ袋があった。乃之は不思議に思う。いったいどれくらいのゲームソフトを回収されてしまったのか。

 

「さぁ入るわよ。三人で潜入ミッションしたり秘法を盗む怪盗キャラが居たわね・・・いっそのこと、全員猫耳と黒タイツでそろえる?」

 

「それはやめよう」

 

乃之はきっぱりと否定した。

 

 

静流が扉の前に立ち、ゆっくりとその扉を開ける

 

「お邪魔するわよ」

 

「律儀に言うんだ」

 

乃之が一言呟くが静流は気にせず中に入る。部屋の中は灯りがついていなかった為、すぐ側に設置されていた壁際にある灯りのスイッチを点けた。

 

「あら、私の部屋よりなかなか綺麗にしてるじゃないというか質素ね! ザ・質素!」

 

 部屋の中をぐるりと見渡してみると、そこは必要最低限の物が揃えられているだけであり、自身のゲームに溢れている部屋と比べればあまり生活感に欠けていると思ったりもした部屋だった。

 

「お、これは?」

 

 床に敷かれているカーペットの上に置かれている段ボール箱を発見する。恐らく、静流の目当ての物だろう。しかし、彼女はその箱の上にマジックペンで書かれていた内容に驚愕した。

 

「・・・・”今月末に処分”、だと・・・? あんのミカン鬼ゴリラァ!暫くは返さないって言ってたくせにちゃっかり捨てる気でいたのねッ」

 

 あの巫女許すまじ慈悲はない、と怒りを露わにしているが内心ではゲームが捨てられる前に回収することが出来て良かったと胸を撫で下ろしていた静流だった。

 

「でも静流ちゃん、桐香ちゃんは本当に捨てるつもりだったのかな?」

 

乃之が怪訝そうに聞いてきた。彼女としては桐香がそんな事をする人間だとは思わないのだろう。

 

「同じ三年生として肩を持つのは分かるわ乃之さん、でもデビルゴリラは訓練中私に恨みがあるかのようにメニューの回数を他の人より多くしてたり、模擬戦闘でも容赦なく鳩尾に突きをかましてきてくるグラップラーよ・・・まぁでも、私に特別当たる理由があるのはたしかね、気にしてないけど」

 

 静流は思う。訓練の模擬戦でかなり威勢よく噛みついてきたのは確か自分の方だった。静流は模擬戦で叩きのめされていたがそれで降参したわけでもなく、今訓練の中ではいつでも彼女に打ち勝つという事を目標に修練を重ねている。

 

 だが、そんな姿が桐香は気に食わないからだろうか。乃之や命と比べて当たり方が強かったり、体力訓練になると集中的にこちらをしごいてくる。

 

・・・なかなか、人間関係ってのは上手くは行かないのね

 

 

 ため息をつく。自分としても、初めての御役目の後はそれなりに仲間として皆まとまりが出来た筈だったと。だが、桐香の内心では自分や、勇者達を憎む心がまだ残っていたのだとしたら、これまでの事にも多少なりとも納得はいく訳で。

 

 

「まぁまず、中身をちゃんと確認しようよ」

 

「そうね、乃之さんの言うとおり・・・命、誰も来ないかちゃんと見てなさいよ・・・・って、命?」

 

 びりびりと、段ボールに張られていたガムテープを剥がしていた静流達であったが、その動作は止められることになる。静流の呼びかけに応じなかった命の方を見ると、

 

「なぁに人の部屋でコソコソとやってんの・・・・」

 

 不敵な笑みを浮かべた桐香がそこに立っていた。

 

 

 

 

「桐香ちゃん!? お風呂に行っていたんじゃ?」

 

「残念だったわね乃之、トリックよ・・・じゃなかった、普通にシャンプー忘れたから取りに戻って来たのよ」

 

 桐香の足元には縄で縛りあげられた命の姿があった。多分、接近を許してしまい、一気に桐香に拘束されたのだろう。

 

「なるほどね・・・静流、私が居ない間に取られたゲームの回収しようって魂胆ね・・・乃之達まで使って――――って、ちょっと!?」

 

 桐香が慌てている、その視線の先にあったのは静流が今開けようとガムテープを剥がされようとしていた段ボールだった。

 

「あ、アナタ! それ開けるんじゃないわよ!!」

 

「え? これ、私のソウル・・・ゲームが入ってるんじゃ?」

 

「ちがうわよ! それ私の! 開けたら許さないから!」

 

 血相を変えてそう訴える桐香に、静流はその様子から不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうしようかしら・・・」

 

「・・・・ッッッ」

 

「見なさい乃之ッ! この女の慌てよう! きっとスゲーヤバいのが入っているに違いないわ!」

 

高らかに言う静流に乃之が息を呑んだ。

 

「い、いったい何が入ってるのかな・・・」

 

ふふ、と静流はまた笑う。

 

「決まってるじゃあない! この女のパンツよ! 下着よ! ランジェリーよ! きっと種類も豊富でエッッッグイ奴とか入ってるに違いないわ! 紐パンとか!」

 

「んなわけあるかァ! さっさと・・・・」

 

顔を炎のように真っ赤にさせた桐香がどこからともなく取り出した木刀を構える。さすがに静流も常時持ち歩いているとかドン引きだったが、

 

「やば・・・ッ」

 

「返せ―――――」

 

 桐香がこちらに向けて竹刀を繰り出そうとした時である。桐香の動きが止まっていた。周りをよく見ると、桐香の机に置かれていた目覚まし時計の秒針もその時間で止まっていてそこから動こうとしない。

 

「ファッ!? 樹海化!? このタイミングでかっ!?」

 

 アラームが鳴る。御役目、バーテックスがこの徳島に攻め込んできたことを知らせるアラームが三人のスマホから鳴り響いた。

 

「うぅ・・・私この後樹海で桐香ちゃんと会いづらいよ・・・」

 

「そうね・・・ほんと、空気読めないバーテックスだわ」

 

 

 地鳴りが起き、窓の外を見ると橋の方角からこちらに向かって景色が変わっていくのが見える。神樹による世界の再構成、樹海化現象が始まっていたのだ。

 

 

「取り敢えず、敵は即効殲滅してゲームを取り戻す・・・以上ッ!」

 

「そろそろゲームから離れようよぅ・・・」

 

駆け出し勇者たち、二回目の御役目が始まる。

 

 

 




バーテックスはやはり空気を読めなかった。日常だから敵襲はないと思ったか? 残念だったなぁ!静流さんは結構いい所のお嬢様です。


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〜生きがい②〜

忙しくて更新遅れんだぜ・・・。辛いぜ。
ゆゆゆいの秋イベントは最高でしたね。やっぱり友奈ちゃんのゴッドハンドにはだれも勝てなかったよ・・・


「うわぁ・・・」

 

 朝露乃之は数分ほど前とはまるで違う目に映る景色に感嘆の声を上げていた。

眼前に広がる景色、二度目の樹海化現象、世界が神樹の力によって世の理をも書き換える事で現実の乃之たちの世界を結界へと同化させる現象。そしてそれはバーテックスたちの襲来を告げる現象なのだ。

 

だが、そんなことより、目の前の変化している景色よりもかなり重大なことが事件が起きていた。それは事件と呼ぶに相応しいものなのか分からないが。

 

「それで? 言い訳を聞かせてもらおうかしら? 聞いたところで言い訳はいい訳なのだけれど。 私にとっては許されざることなのだけれど」

 

「ハッ! 最初から許す気がないってそう言えばいいじゃないのこのミカンメスゴリラ。いいわよ言い訳、してあげるわよ言い訳。 奪われた我が友を返してもらうためよ」

 

 途轍もなく気まずい雰囲気なのだと乃之は理解はしている。そしてなんかいつの間にかリーダーにさせられていた自分にとってこの状況は早めに終わらせておかないと今後の戦闘に支障が出るという事も理解はしているが。

 

「ゲームは期間を空けたらちゃんと返すって言っていた気がするのだけど・・・それよりも勝手に人の部屋に入って物色するなんてコソ泥以下のやり方よ」

 

「言っとくけど、勝手に人の私物を奪い取る行為って簡単に言えば窃盗よ。大体、部屋の鍵をかけ忘れる人もどうかと思うわよ。あまりに不用心じゃなくて?」

 

 桐香が額をぐりぐりと押しつけては問答を繰り返している。まさに終わらない連鎖、エンドレスワルツである。互いに実体を掴むことが出来ないからもどかしいものなのだが。

 

「と、とりあえず今は戦闘に、し、集中しよ?」

 

 乃之が諫めに入ろうとしたらしたらで、

 

「乃之は黙ってッ」

 

「乃之さんは黙っててッ」

 

 ほぼほぼノータイムで返答がきた。この時だけはタイミングぴったりだなぁ、と思った乃之である。きっと仲はいいに違いない。

 

 

 だが、敵はこちらの都合なんて気にも留めずやってくるのである。戦いは待ってはくれない。偵察に出ていた命がクロユリ一式の真っ黒なマフラーを揺らして乃之たちの場所まで戻ってきた。命の身体能力と勇者としての能力は偵察のほうがうってつけだという考えで乃之はあらかじめ偵察に出していたのである。

 

「どう? 敵はもう見えた?」

 

という乃之の問に命は頷いて指を2本だけ伸ばしてこちらに見せてきた。相変わらず口数が少ない、というより全くない情報伝達方法であるが、その2本の指を示した意味を乃之は悪い予感がしてならない。

 

「まさか?」

 

その場で一人、乃之は飛び上がった。勇者の身身体能力を持ってすれば数百メートルの高さまで飛び上がることなど造作もない。

 

「・・・ッッ」

 

やっぱり、と乃之が先ほどまで抱いていた悪い予感は的中した。

 

 

「大型バーテックスが・・・二体」

 

 

 

 

 

「前回と違って一体多い・・・向こうもいよいよ本腰って訳ね」

 

 遠くにいる二体の大型バーテックスを見据えて静流が呟く。一体のバーテックスは前回と同じくらいのサイズであった。青色の奇妙なボディに、左右に大きく膨らませた風船のような水球を浮かせている。

 

 比べてもう一体の方は小さめのサイズだった。尻尾にはハサミのような物が見られ、羽なのか盾なのかよく分からない板がふわふわと浮いている。

 

「な、なんて・・・」

 

 それは水球を持ったバーテックスを見て、静流が呟いたことだった。彼女はそのバーテックスを震えながら指差して叫ぶ。

 

「なんて卑猥な形なのッッ」

 

 その場にいた全員がずっこけた。

 

 

「静流・・・アンタねぇ」

 

「だって見なさいよあの嫌らしい形をッ バーテックスも人類に勝てないからってついに精神攻撃を仕掛けてきたのよッ バーテックスに司法が通じるなら私はセクハラで訴えてやるわ・・・どう見たってあれキン――――」

 

 次の瞬間、いわせねぇよ、と言わんばかりに敵のバーテックスが攻撃を仕掛けてきた。水球を持ったバーテックスが一直線に水を発射してきたのだ。

 

「なんの光ッ!?」

 

「ただの水ッ!!」

 

 静流のボケに瞬時に桐香はツッコみをいれる。こんな状況でも一番にボケて、ツッコめるのは彼女達くらいだろうか。

一同はまるでビームのように発射された水を飛んで避ける。通り過ぎた水は近くの巨木に大きな穴を穿った。勇者の身体でも果たして無事で済むかどうか分からない。

 

「羽持ちが何してくるか分からない・・・けれど」

 

 水を躱して地面に着地する乃之は意を決して皆に敵を倒すための指示を出す。

 

「命ちゃんはもう一体の羽持ちを警戒しつつ、遠距離で援護。 静流ちゃんと私で大きいの仕留めるよ!」

 

「・・・・」

 

命、了承のサムズアップ。

 

「やったらーいッ!」

 

謎の男気を見せる静流。それぞれが役割を理解してバーテックスに向かっていく。

 

 

 

 

「・・・・参る」

 

 

 命は羽持ちのバーテックスを警戒しつつ、敵が攻撃を仕掛けてくるギリギリのラインで配置についた。恐らく敵が攻撃を仕掛けて来ても命にとっては余裕で躱す事がが出来る安全圏というものだ。

 

 

「水の攻撃に気を付けてッ」

 

 前方から乃之の警戒を促す声が聞こえる。前衛として正面の敵を見るだけでなく、後衛の事まで気にかけなければならないのだからリーダーというのは大変だな、と命は思う。だが、そんな乃之に命は高い信頼を寄せていた。だからその指示に反発することなく従い、全うする。

 

 

――――それが即ち、忍の道。

 

 

 

 

 命が大型の周りをまるで高速で飛び回り、矢を射かける。 走りながら、空中で敵の攻撃を回避しながら、その最中に放たれる弓矢は瞬時に10を超える。命は一度に2~3本の矢を放つことが出た。大きな隙も、誤差もなく複数の弓を撃つことは漫画とか映画の中の話だと思っていたが。

 

 常人では成すことは出来ない神技。普段からの鍛錬と、勇者としての強化された力が合わされば不可能な事はない。

 

「・・・・ッッ!!」

 

 だが、それはダメージに繋がっているかと思えば、それは皆無だった。水球のバーテックスは先ほどとは違い、一直線の水を吐き出すのではなく、小さく細かい水球を命の放った矢に向けて発射していた。

 

 放たれた水球は命の矢を包みこ、勢いを失った矢はやがて地面へと落ちていく。

 

「遠距離攻撃が効いていない!?」

 

 その光景を目の当たりにして静流は思う。厄介な相手だな、と。だが、眼を疑うような出来事が起きる。それは遠距離による攻撃を仕掛けていた命が自分たちよりも前へと駆け出していたことだった。

 

 

「命ちゃん、戻って!」

 

 乃之の制止も聞かず、命は大型の側面へ飛び込む。その手には既に弓矢ではなく、短刀が握られていた。弓矢がダメなら、近接攻撃で直接という判断だろう。

 

だが、その攻撃をまるで予測していたのかのように、待っていたかのように動きを見せていなかった羽根持ちのバーテックスが動き出す。 その後ろで浮いていた羽の一枚が命の繰り出される斬撃の直前、水球持ちのバーテックスの合間に滑り込んでいた。

 

 

「・・・・ッ」

 

 命の斬撃はその盾の役割をした羽に弾かれる。神の武器を持ってしても傷一つすらつかない敵の羽・・・いや、あれは盾なのだろう、と命は理解する。だが、そんな理解を進める間にもバーテックスの攻撃は続く。

 

 今度は水球持ちのバーテックスが小さい水球を多く飛ばしてきた。それは命を狙って放たれたものだけではなく、近くにいた乃之達をも巻き込んでいくものだった。

 

「あのバーテックス・・・見境なしにッ」

 

 そして、攻撃はそれだけではなかった。もう一体のバーテックスが盾を数枚その場に動かすと水球の動きに合わせて水球を反射させていたのだ。乃之は理解する。あの盾は大型を守る盾でもあり、攻撃の際には最大の連携を見せるものなのだと。

 

 その威力は一発一発は大した攻撃ではない。だが、効果は驚異的な物だ。

 

「・・・・ッッ」

 

 驚異的な身体能力で水球の反射を躱していた命の足に一発の水球が当たる。痛みが無かったが、その瞬間に体の反応が大きく鈍る。まるでガムのように水球は張り付き、水の重みで動きが鈍っていたのだ。

 

 その効果に気付いた時には既に遅く、移動速度を失った命の腕と胴に一つずつ水球がまとわりつく。水球三つほどで命の動きは完全に停止してしまった。

 

「ちょっと! アレヤバくないッ!? って乃之さん! 貴女まで突っ込んでどうするのぉー!?」

 

 静流が止める前に、乃之が槍のブースター機能を展開して命の元へ飛んでいた。敵が全く動けないこの時が一番の攻撃のポイント。自分がバーテックスだったらそうする、と乃之は考えていた。だからこそ、バーテックスの動きが分かる。そしてそれは確実に命を殺すものだ。

 

 

 水球を持つバーテックスが動けないでいる命に照準を合わせて力を溜めている。予想通り最初に見せてきたあの水のビームだ。この距離で撃たれたらひとたまりもない。

 

間に合えッ、と心の中で叫ぶ。乃之にとって仲間が居なくなること、大切な人が居なくなることは自分が死ぬより辛いことなのだ。

 

――――乃之の両親が死んでしまった日からそれは変わらない。

 

 

 

 

 命は死を確信していた。多分、この攻撃を食らったら確実に死ぬだろう、と。水球により動きを封じられ、逃げ場もなく、抵抗する術もなく。目の前のバーテックスが力を溜めている姿を黙って見ている事しかできなかった。

 

「・・・・あ」

 

―――確実に迫ってきている死。

 

 その事実に命は恐怖する。今までよりも必死になって体を動かして逃げようとするが、水球がそれを許さない。

 

ダメだ、と命は肩を落とす。このまま死ぬ事、御役目も自身に課せられた使命も果たせない出来損ないのまま死んでいくことは許されないというのに。

 

だが生を諦めていたその時である。

 

「命ちゃぁあああんッッ!!」

 

 自分の名を呼ぶ声が聞こえて、それとほぼ同時にバーテックスが水を発射していた。凄まじい水圧を持つ水が命に直撃する直前、飛び込んでくる影がある。

 

命は目を瞑っていた為分からなかったが、誰かに凄い勢いで引っ張られ、凄まじい水の衝撃を感じ、吹き飛ばされる。

 

どのくらい飛ばされたか分からないほどの浮遊感。地面にそのまま2人とも激突し、数メートル転がった先で停止する。

 

「い、いきて・・・る?」

 

 身を起こして目を明ける命のすぐ側には息を絶え絶えにした乃之が居た。

 

「乃之さん! 無茶し過ぎよ!やばい落ち方したわよ!? アタマアタマ!ヘッドよヘッド!」

 

 静流が乃之に駆け寄り、身を起こさせる。乃之は頭を手で押さえていた。敵が放った水が命に直撃する前に乃之は寸でのところで救出することはできた。しかし、完全に躱すことは出来ずに吹き飛ばされた結果、乃之は頭を地面に打ち付けていた。

 

「言い方、他にない・・?」

 

と、いつものように言うが乃之の口調が途切れ途切れだ。 体も左右に揺れているし、眼も虚ろだ。

 

「ああ、もう・・・脳震盪起こしてるわね。これじゃあ・・・」

 

 死ぬことがないとしてもこの戦いには復帰するのも時間が掛かる。そう判断した静流は辺りを見渡して叫んだ。

 

「ちょっとゴリラ巫女! その辺にいるでしょ!?」

 

「誰がゴリラ巫女だ!ちゃんといるわよここにッ!」

 

樹木の陰に身を隠していた桐香が姿を現した。

 

「乃之さの事を見てて・・・多分実体がなくても、アナタが側にいるだけで乃之さんもちょっとは落ち着くから」

 

「まるで私が精神安定剤みたいな言い方ね・・・でも今は仕方ないわ」

 

そう言いつつ、桐香が座り込んで乃之の背中を摩る。効果はないが、少しだけ乃之の顔色が良くなっている。静流の言うこともあながち間違いではなかった。

 

「・・・さて、じゃあ命?今から人類の存亡をかけた戦いをたった二人でする訳だからヨロシク・・・ちゃんと付いてきなさいな」

 

「ちょっと、無茶し過ぎよあなた達! たった二人で、しかも二体も大型がいるのよ!?」

 

「乃之さんが身体張ってくれたんだもの。今度は私たちが身を張る番よ・・・異議はないわね命」

 

「・・・・」

 

あと、と静流は桐香を見据えていう。

 

「ちゃんと二人で帰ってくるから、見事敵をデストロイしてきた時は渡していたゲームを返しなさい」

 

「か、勝手に決めないでよ!あ、コラ! 勝手に行くなぁー!」

 

と、桐香が反論する間もなく、静流と桐香が跳ぶ。高速で跳躍を繰り返す二人の姿は瞬く間に見えなくなっていった。

 

「・・・ちゃんと帰ってきなさいよね」

 

 見送った二人を見て、桐香は自身の拳を強く握った。

 

 

 

 

 

 

「さて、本当はビンタの一発でもかましてやりたいところなのだけれど・・・」

 

「・・・・」

 

 跳躍を続けながら、静流は命に目をやる。視線を落としていたのが分かった。気落ちはしているらしい。

 

「ま、勝手に自分で突っ込んでしまうという前科は私もやったわけだから強くは言わないわ」

 

敵の距離が近くなってきたところで、近くの樹木に二人は着地した。

 

「だから今から説教なんてしないし、特にビンタとかかまそうとか考えてない・・・・けれどね」

 

一息ついて、彼女は言う。

 

「私たちは仲間よ。互いに足りない所はカバーしなきゃならない・・・アンタの攻撃力の低さは知ってるし、そこは近接特化の私で帳尻を合わせるから・・・無理に突っ込んで行ったって怪我するだけよ」

 

 静流は続ける。

 

「もっと私たちを頼りなさいよ。乃之さんも、それを言いたかったはずだし・・・」

 

「すまない」

 

 短く、だがはっきりとした口調で返答してきた命に、静流が一瞬気を取られた。

 

「焦っていた・・・技が通じない事と・・・役目が果たせないことを・・・」

 

 珍しく、一言以上の台詞を言うのはそれなりに彼女自身も気にしていたのだろう。自分のせいで、仲間が傷ついた。その事実は精神にかなり負担になっていたに違いない。

 

「私には、果たさなきゃならない御役目があって・・・」

 

「御役目・・・・?」

 

 それは、この御役目のことだろうか、と思って静流が問おうとした時だ。背後から違和感を感じて、その質問を中断する。バーテックスが二体、二人の前に迫って来ていた。

 

「事情があるのね・・・命。 でも、それも含めて相談していくのが仲間ってもんよ。三人寄らば、文殊の知恵ってね」

 

 命の背中を気合を入れる意味でバシンッと叩くと命の身体が跳ねた。余程痛かったのだろうか、座り込んで背中を押さえている。

 

「ちゃんと、帰って乃之さんに謝りましょう。 私も、一緒に謝ってあげるから」

 

「・・・・」

 

 小さく、頷いたのを見て静流が微笑んだ。だが、すぐに戦話立つ戦士の顔つきになり、持っていた鞘から刀を抜き放つ。

 

「作戦がまったく無いって訳じゃないのよ。ただちょっとお互いに、火傷することは考えて欲しいかなって」

 

「・・・?」

 

 意味が分からない、と言った表情の命の前で熱気を感じる。それは間違いなく、静流から発せられていた物だった。

 

 その熱気は徐々に高まり、やがて刀身が発火する。

 

「今回の相手は、どちらかというと私が向いてるわ。ちゃんとサポート頼むわよ愛しの後輩」

 

 灼熱の剣を持った静流が敵目がけて、飛ぶ。比喩ではなく、燃えながら突っ込んでいく様はさながら大気圏で燃え尽きようとしてる流星のようだった。

 

 

 

「紅葉の勇者の炎を・・・その身を持って味わいなさいッッ」

 

 




この三人の勇者、いろいろと問題を抱えています。個人の問題を仲間と解決するか、っちゃんと向き合って解決するのか、そういう点では少し『のわゆ』の影響を受けてしまっているかもしれません。

静流ちゃんの最後の機能は刀に備えられた能力であり、三ノ輪銀の斧が燃える、みたいなイメージを持ってもらえればと思います。


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~生きがい③~

短編なのに三話も使うとはこれいかに。完全に失敗ですね、猛省であります。
いまさらですが、今回のバーテックスはみんな大好きキャンサーさんとアクエリアスさんです。


 琴吹静流は文字通り火の玉となってバーテックスに突進していった。敵のバーテックスからは命の動きを封じたあの水球が発射され、静流目がけて数発が飛んでいく。

 

「足りないわねェッ」

 

 その一言の元に、水球に斬りかかる静流。燃え上がった刀身が水球に触れた瞬間、凄まじい蒸気が発せられ、完全に水球は両断される前にその姿を焼失させた。

 

「そんなので私の炎を消そうなんて片腹痛いわッ」

 

 振り払う剣先から零れるように炎が踊る。その炎の勢いが一層増した。

 

 

 静流が自身の勇者としての能力を調べていた時、この能力は発見された。大赦関係者の話では静流の刀から発せられている炎は武器の特性によるものであり、自身の攻撃力を一時的に引き上げる能力を持っていた。

 

 敵に一撃を加えるごとにその力は炎の勢いと共に増していく。だが、欠点はいくつかあり、その一つは持続時間はせいぜい五分程度。その時間を経過すると排熱が強制的に行われ、その間に静流は全く動けなくなってしまう。

 

 そして致命的なのは、この機能を使用した静流でさえも、火傷によるダメージを負ってしまうという点だった。

 

「・・・・・」

 

 凄い、と命は思う。水球は静流が刀で斬らずとも素手で触れただけで沸騰し、はじけ飛んでいる。先ほど自分たちが苦しめられていた水の攻撃は完全に無力化していた。

 

「はぁ・・はぁ・・どう、よ」

 

 静流の様子がおかしいことに命は気づく。たった数度の攻撃、むしろ敵に対しては殆ど攻撃をしていない静流が既に肩で息をしているという事だ。

その正体は静流が今纏っている炎にある。

 

「あつ・・・」

 

 命が静流の近くまで歩み寄ろうとした時、感じた物。それは熱気だ。神樹による加護と勇者服の防護性を持ってしても言葉にしてしまう程の熱気。数メートル離れた場所からでもこの熱さ、一体静流本人はどれほどの熱さなのか。

 

「私は・・・大丈夫だから、命・・・自分にしか出来ない事をやりなさい」

 

ブンッ、と炎を纏った刀を振るい静流は前へと駆ける。身を焼くほどの熱に負けることなく。そして敵を圧倒する彼女の炎に充てられるように、命もその後を追うように駆け出したのだ。

 

「・・・ほんと、熱いわよ、ね・・・!!」

 

 上昇した体温が静流の体力を奪っていく。欠点の多い能力だと思ったが、いざ発動してみるとやっぱり面倒な能力だと感じた静流だった。

蓄積されたパワーはだいたい7割と言った所か。まだパワーは上がる、現在の段階で体力的に結構きついのに熱が限界値まで達したら恐らく自分は立っていられないだろう。

 

 それでも、と彼女は気をしっかりと保ち、走る。それも全て、

 

「わが愛しの友の・・・ゲーム達のためぇぇぇ!!」

 

 

 だが、その一撃を確実に敵のバーテックスに叩き込めるか、それについてはかなり不安要素が多すぎた。敵の攻撃が水球だけでなく、一直線に離れる水の攻撃もあるのだ。あれは水圧だけでこちらを吹き飛ばすことが出来るし、もし距離を稼がれようものなら本体にたどり着く前に静流は活動限界を迎え、体を動かす事は出来なくなる。

 

 負傷した乃之と決定力が無い命しかいなくなれば勝負は圧倒的に不利だ。だから、なんとしても今は距離を詰めなければならない。だが、水球の攻撃を躱すことに徹しても躱す動作、防御の動作だけでも体温は上昇していく。

 

 

・・・時間にして後2分ッ まずいわね。

 

 そして向こうのバーテックスに動きがあった。水球による攻撃。だが、今までの水球とは一味違い、静流一人を丸ごと包み込んでしまうくらいの大きさがあった。

回避に徹しようとするが、静流の周囲をもう一体のバーテックスが放っていた盾が囲んでいた。静流を逃がさない為だろう。

 

「チィ・・・ッ」

 

 悔しく悪態をつくも、静流の身体が水球に飲まれる。最初こそは水も蒸発して蒸気を出していたが、圧倒的に水の質量が多すぎる為に炎を完全に消されてしまった。

 

・・・息が出来ないッ このままじゃ時間が、無いッ

 

 身動きもとれず、静流の体内の酸素だけが奪われていく。

 

・・・こ、こんなところで、さぁ!

 

 朦朧とする意識の中、水中からこちらを見おろしているバーテックスたちの姿が見えた。それがこちらが何もできない事を嘲笑っているように見えた静流は。

 

 

・・・見下してんじゃねぇぇぇえええッッ!!

 

 キレた。同時に、静流の周囲の水が沸騰を始める。静流の炎は完全に消されていたわけではなかった。水の中でもなお、燃え続けていた。

静流の感情の昂ぶりが炎へと変わり、急速に水が沸騰を始め、水球を蒸発させていく。

 

 そして水球が静流の肌付近まで縮小された瞬間、火山が噴火するかの如く、水球を打ち破り炎の柱が上がった。

 

「ああああああああああああつううぅぅぅぅぅいいいいい!!!!」

 

 絶叫する。炎を強引に出した為に反動が全て静流の身体に返ってくる。

 

「時間が・・・・ッ」

 

 身動きを封じられていた分、リミットも近づいていた。急ぎ敵へ向かおうとする静流の前に、水球を持ったバーテックスが力を溜めていた。水球ではなく、今度はビームによる直線的な攻撃。

 

 アレを食らえば、作戦は失敗する。、こちらの攻撃の時間を取れなかった時点でこの作戦は失敗していたのだ。せめてもの突破する点があるとすれば、あの水の攻撃を防いで静流が最後の突撃できるタイミングを作る事だった。しかしその手段も静流も、攻撃力を持たない命には出来ない。静流は浮かべてしまう、ゲームオーバーという言葉を。

 

だが、絶望的なこの状況で静流の横を駆け抜けていく一人の少女が居た。 草薙命である。

 

「命ッ!?」

 

・・・まさか盾になるつもり!?

 

直線的に向かうのは水球を持ったバーテックスだ。だが、あのバーテックスの水圧は掠っただけとはいえ、乃之と命二人を軽々と吹き飛ばしたものだ。そんなものを一人で防げるとは思えないし、命が至近距離で食らおうものならただでは済まないだろう。

 

「た、たしかに自分に出来る事をしなさいって言ったけど!! そういう意味じゃないわよ馬鹿ァ―――!!」

 

 自分のせいだ、と静流は自分を責めた。自分がもっとちゃんと言葉を上手く伝えられていたら命も無茶をしなくて済んだのだ、と。

しかし、命自身はもともと盾になるつもりは無かった。

 

 バーテックスから水が放たれる直前、命の手には矢でも弓でもなく鎖が握られていた。鎖の先端には分銅が垂らされている。

 

「・・・・ッ」

 

 ここぞと言わんばかりに命がその分銅を投擲する。その分銅が狙ったのは浮遊していたもう一体のバーテックスが持つ”盾”であった。

命は考えた。あのバーテックスの盾は途轍もなく強固なものだと。そしてあの盾はあらゆる直線的な攻撃を反射させる。破壊困難な反射板。

 

 なら、壊せないならばその特性を利用する、というそ結論に命は辿り着く。投げた分銅は盾に巻きつき、絡まった所で命が力の限りに鎖を引っ張る。

 

直後、発射された水は真っ直ぐに命と静流を狙っていた。だが、その間に命が引き寄せた盾が水に当たり、その盾のもつ特性から水は反射された。反射した水は盾を持つバーテックス本体に直撃し、その巨体を大きく吹き飛ばした。

 

 

 バーテックスは驚異的な再生力を持つ。だから、生半可な攻撃ではすぐに自力で修復してしまう。だが、この段階で静流たちが勝利するための条件は敵の完全破壊をするための時間だ。そして命の働きで、大型は次の攻撃までチャージがかかるし、盾をもつバーテックスも水球を持つバーテックスを援護することが出来ないほどの距離が開いたため、すべての準備が整ったのだ。

 

「・・・・言ってください、先輩」

 

 そう言ってくれる後輩の言葉に応えるべく、静流が駆ける。地面に燃える刀を滑らせて炎の軌跡を刻みながら、静流の炎は勢いを増し、その力は臨界点へと達する。

 

「トドメだぁぁぁぁぁあ!!」

 

 敵の頭上から斬撃を繰り出し、刀身が敵の表面に触れた瞬間、まるで刀は触れたものをすべて溶かすかのように敵を焼き、切り裂いていく。途中、体内の中でひし形の物体が刀身とぶつかったが、まるで鉄を高熱で溶かすかのようにさほど気にすることもなくその物体は両断された。

 

 敵の全身を斬り果たした瞬間、バーテックスは奇妙な光を発し、その姿を焼失させていく。

 

 

「ま、まだまだぁぁぁあああああ!!」

 

 敵を倒し終えても静流はすぐさま切り返す。当然だ、敵はまだもう一体いる。盾を持つバーテックスに直進し、斬撃を繰り出す。バーテックスは盾を重ねて静流の前に展開し、静流の炎を帯びた刀と全てを反射させる盾が激突する。

 

「かったい・・・カニよねッッ」

 

 物の数秒後、均衡が崩れる。静流の刀が敵の盾を溶かし始めたのだ。溶け始めた隙間から刀はさらに食い込み、奥の盾を続けざまに溶かしていく。臨界状態の静流の攻撃力は敵のバーテックスの防御力を上回っていた。

 

「ラスト一枚・・・今日はカニ鍋よォォォオ!!」

 

 最後の盾一枚を両断した瞬間、静流の叫びが樹海に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・とまぁ、今回は私の華麗なる活躍で四国は守られたのだけれど」

 

「嘘を言いなさい嘘を」

 

 桐香のツッコミと称したデコピンが静流に当たり、甲高い音が部屋の中に響く。その夜、桐香の自室に勇者と巫女は揃っていた。

 

「命が機転を利かせなかったらアナタ時間切れで動けなかったじゃない。 命7割、乃之2割、静流1割の勝利よ」

 

「辛口過ぎないッ!? さすがに1はないでしょッ!!」

 

 戦いから、すでに3日が経っていた。結果は勇者たちの勝利だった。

 

「でももう体大丈夫なの?すごい火傷で入院してたのに・・・・」

 

 乃之が心配そうに静流のほうを見ていた。戦いが終わった後、静流は蒸気を上げながらぶっ倒れた。能力の使い過ぎにより強制的な排熱が行われたためである。樹海化が解けた後にすぐさま大赦系列の医療施設に運ばれた。

 

 施設には勇者を治療するための術式や器具がそろっており、勇者たちはそこで治療を受ける。今回の静流は全身に軽度だが火傷を負っていた。応急処置後、1日の入院をさせられて三日目の今日、退院して寮に戻ってきたところである。

 

「私の勇者服が耐火、防御力に優れていたお陰ね。それでも最初は全身に包帯を巻いて寝ていたけれど、今はこの通り、お肌スベッスベッ!!」

 

と、乃之に袖をまくって腕を見せつける。今の静流の肌はキズ何一つない健康そのものの状態だった。

 

「あの機能、無暗に使うんじゃないわよ。 いくら攻撃力が上がると言っても、あんなふうに毎回入院されちゃ静流の身が持たないわ」

 

 桐香が言うのはもっともで、静流の持つ機能はこれまで有効打を与えれていなかったバーテックスを仕留めることができる唯一の能力。だが、静流自身への負担は大きいという、まさに諸刃の剣である。

 

 

「フフフ、頑丈さが取りえなのだけど・・・まぁ一応気にとどめておくわ。 それにしても、あの最後のカニバーテックス、仕留めれなかったのが残念ね」

 

「そうね、盾全部壊されたら来た場所に戻っていったし」

 

 静流が盾を破壊した後、敵のバーテックスは静流を攻撃しようとせずに壁の外へと進路を変えて、姿を消してしまった。

ちなみに、バーテックスは星座に関連した名前が付けられていたことが大赦関係者の中で分かった。今回戦った相手は水瓶座と蟹座というのも過去のデータから判明している。

 

「攻撃する手段、もともと無かったからかも・・・あの蟹、他のバーテックスと連携してるときはすごい強かったし、倒せてなってい事は、また来るかもね」

 

「そうね乃之さん、撃破じゃなくて撃退なのが気に食わないけど・・・次会ったらカニ鍋にしてやるわ」

 

「食い物のことしか頭にないらしいわね・・・ほら、静流」

 

 桐香が机下に入れらていた段ボールを取り出す。静流が確認すると、そこには桐香に奪い取られていたゲーム機とソフトが入っていた。

 

「え、ええ!? ちょっとゴリラ! なんか変なの食べたの!?素直に返すなんてアンタらしくないわ!病院よ!ホスピタル行きよ!」

 

と、静流の顔面を桐香がアイアンクローで鷲掴みする。少女の力とは思えないほどの握力に、静流の顔面が軋む。

 

「・・・あんたが勝手に約束したからじゃない。それであんな無茶するもんだからさ、これで返さなかったら流石に可哀そうだし」

 

「か、顔割る勢いで掴みながら言うセリフじゃないわね・・・ッ」

 

 心底、この女はゴリラだなと静流は思ったのだった。

 

「それで? あんたの段ボール箱の中身だけど・・・」

 

「な、なによ・・・もういいでしょ、ゲームだって返したんだし」

 

「いやよ、ここまで来たらついでにその謎の箱の正体も明らかにしなさいなッ」

 

 ぐいぐいと、静流が詰め寄る。それは戦闘が始まる前に静流たちが見つけた桐香の段ボールだ。最初はゲームが入っていると思って明けようとした時、桐香に見つかったのが発端で、それを開けられようとするのを桐香はかなり嫌がっていたのを思い出したのだ。

 

「変なものなんて入ってないわよ」

 

「そうかしら、なら見せられるわよね」

 

「プライバシーの問題よ」

 

「ということは、やっぱりエッッッグイ下着ねッ」

 

「だから何度言わせれば・・・もう、わかったわよ」

 

 うちの赤の勇者はとにかく話を聞かない奴だ、と思う桐香。ついに観念したのか、その段ボールの封を切り始める。

 

「桐香ちゃん、いいんだよ? 静流ちゃん、ちょっと調子乗っちゃってるから・・・見られたくないものなら見せなくてもいいし・・・」

 

「乃之は最近毒舌ね・・・大丈夫よ、今の貴方たちになら、見られても平気だもの。 面白いものでもないけれど」

 

 乃之の優しさに笑顔で返した桐香はその段ボールを開くと乃之たちにその箱の中身を見せた。

 

「あら、これエグイ下着じゃないわ。 巫女服よ」

 

 中に入っていた物を広げるとそれは大赦の巫女服だった。

 

「でも、かなり汚れてるね・・・しかもボロボロ」

 

 広げた巫女服は数年使い古したように酷く汚れていた。しかも何かで切り刻まれたようにあちこちが裂かれている。

 

「・・・・」

 

 乃之は察する。多分これやべー奴だ、と。

 

「私が愛媛にいた時の巫女装束よ」

 

軽快な口調で桐香は言った。

 

「その時の勇者候補生達と私は仲が悪くてね・・・主に私のせいなんだけど。 ある日、滝行から帰ってきたら私の巫女服がそんな感じになってたのよ」

 

本当にそんなことをする人間が勇者候補生の中にいるのか、と疑いたくなる。仮にも神に選ばれるその候補たる人間がやっていい事なのだろうか。

 

「替えの巫女装束は大赦が持ってきてくれたけど、私はこのボロボロになった巫女服を見るたびに思い出すようにしたわよ、この出来事を・・・そして”絶対にあんなやつらを勇者として認めない”っていう誓いもね立てたわ」

 

その時の出来事が原因だった。桐香が完全に勇者を憎み、嫌うようになったのもの。勇者を否定し、暴れまわる愛媛のゴリラ巫女と呼ばれるようになったのも。

 

「ごめん桐香ちゃん!みんな土下座土下座ッッ!!!」

 

 乃之が涙目になりながらその横にいた静流と命の頭を後頭部から掴み、地面へとたたきつけた。三人で連携され生まれた見事な土下座のポーズである。

 

「やっぱりゲームは返すッ! 私も罰受けるッ みんなで罰受けるからッ」

 

「ちょ、ゲームはなしっ やっと返してもらえたのにッ」

 

 静流が頭を上げようと抵抗するが乃之が途轍もない力で頭を押さえつけている。普段の温厚そうな態度の乃之からは考えられないような力だった。

 

「・・・別にいいのよ。昔だったらともかく、今の私は自分で巫女であることを誇りに思ってるんだから」

 

 全員が目を丸くする。桐香は照れくさそうに続けた。

 

「昔、御祖母ちゃんが言ってたんだ。”誰もがこの国を生かすために戦っている。そこに巫女も勇者も関係ない”って・・・今ならそれが分かるっていうか・・・」

 

 もう既に他界している祖母。その人が言っていたことが今なら理解できると。勇者はバーテックスと戦い、巫女は神託を受け勇者を導き、大赦の人々はシステムの改善を行い、サポートに徹してくれている。

 

 バーテックスの迎撃はこれらの三つ、どれかが欠けていては成り立たないものなのだ。

 

「それに私の巫女の能力で見た情報は、これからの皆の訓練に活かされるし、今までの巫女ではできなかった事をやれているんだから。そりゃあ、勇者になって皆と戦えたら本当は良いけど」

 

 皆と戦う、その言葉すらも今までの桐香だったら出なかったはずである。確実に、一人で戦うという考えだったはずだ。

 

「だから、この巫女装束はもう捨てる・・・・まぁこの部屋に置いておく意味もない、かな。これまでの自分にサイナラってわけで・・・みんなには感謝してる・・多分みんなと会えなかったらこうも私自身、変わらなかったから」

 

 

「うわぁあああ!! 桐香ちゃあああん!!」

 

次の瞬間、乃之が桐香に抱き着いていた。勢いあまって後ろのベッドに倒れこむ。

 

「ちょ、ちょっと抱き着かないでよ乃之ッ」

 

「だ、だって! ごめん、ごめんね! そんなことあったなんて・・し、知らなくて・・」

 

「あーもう! こうなるから嫌だったのよ! 静流も手伝いなさい!」

 

「乃之さんが桐香さんをベッドに押し倒しているわ! 貴重なシーンよ! そして乃之さん途轍もなく大胆ねッ だから私も便乗するわッ」

 

なんでよ!と声を上げる桐香に構うことなく、静流もベッドに飛び込む。命が無言でいつの間にか飛び込んできていた。

 

「ちょっ、し、死ぬ・・・わりと、まじで!!」

 

 4人がベッドの上に乗り、暴れたため部屋でかなりの騒音が起きたためか、その数分後、寮母によって全員が怒られたのは言うまでもない。

 

 

 

また後日に、大赦内で勇者と巫女が一つベッドの上でイチャイチャしてたという紳士たちの歓喜の声が上がったのは別お話である。

 




戦闘からエピローグまで書くと7000文字を超えるという現象に遭遇。ちなみにキャンサーさんは逃しました。勘のいい人なら大抵分かるはず。

設定的には静流の火力は臨界状態なら全勇者1の火力という設定です。ですがお忘れなく、5分しか動けません。

後は命ちゃんの過去と乃之ちゃんの髪のお話で短編作って、短編の章は終わりッ
次の章へと移っていきますよ!

この作品も「花結いのきらめき」編を作ろうと思ったんですが原作キャラの描き方がちょっと慣れていないので短編で練習しつつ、本篇が良い所で移動したら花結いのきらめき編に移行しようかな、と考えています。

ぐんちゃんとか、FOO先輩とか銀ちゃんとか、せっちゃんとか書きたいのだ。
本日、もう一本短編で作ります。犠牲者は若葉様です。


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第5話〜乃之とヘアメイク〜

今回は朝露さん家の乃之さんがメインのお話。


 数年前。暗闇の中で、朝露乃之は一人泣いていた。幼い自分の体躯が簡単に隠れてしまうくらいの机の下で身を丸めて、泣いていた。

 

「あら、乃之。またこんなところで隠れて」

 

 目を伏していた乃之へ掛けられる声は彼女が良く知る人物の声だ。女性の声は先ほどまで俯かせていた乃之に顔を上げさせる反応を見せる。見上げてみると、乃之と同じブロンドの色が目を引く長髪の女性だ。

 

「どうしたのよ乃之、また学校でいじめられたのかしら、おいでおいで」

 

 優しい笑みを浮かべた女性は両の手で乃之を招く。乃之はたまらず、机の下から飛び出して女性の胸元にしがみつく。お日様の匂いがした。

 

「ほーら、何があったのかいってごらんなさい」

 

「・・・みんなが、わたしの髪の色が変だって・・・」

 

 乃之の髪の色は母親と同じブロンドだ。両親ともに日本人であり、その髪の色は彼女の地毛であった。

 

「わたし、この髪の色・・・いや」

 

 だがそれ故に、周囲からは異質な視線を送られる。小学校の同じクラスメイトからは心無い言葉が浴びせられる。

『変な髪』、『英語しゃべってよ』、『気持ち悪いよ』。

 

 

 小学生と言うのは容赦がない。思ったことを口にするので、繊細な感性を持つ乃之の心は酷く傷ついてしまった。

 

 

「そうかしら、こんなに可愛い髪した女の子、私が男子なら放っておかないわね」

 

 母は言う。いつもみたいに、乃之の暗い気持ちの時はまるで太陽のような笑顔を見せてた。

 

「これはね、乃之。 乃之が私達の子供っていう証なのよ? それはこの香川・・・いえ、四国・・・世界中で探しても、たった一つしかないものなの」

 

「せかい?」

 

「そう、世界! 昔は海を越えた先にも国はあったって聞いたわ!  つまりワールドなの!」

 

 乃之の母はいっぱいに両の手を広げる。何もない空間を乃之はぽかんとした表情で見つめていた。

 

「私はとても嬉しいわ。 だって、私の髪の色と同じだもの」

 

「お父さんと似ている所は?」

 

「目元とかソックリよ。あと、鳥の巣見ようとして高い木を登ったりとか・・・そういうアクティブな所はお父さんに似てるわね」

 

私にプロポーズした時だってそりゃあ、大胆で―――。と、にやけ顔だった母は咳払いをした。

 

「お父さんもお母さんも乃之の事を誇りに思うし、愛してるわ。 それに、いつか学校の子たちも乃之の髪を綺麗だって言ってくれる子も出てくるはずよ」

 

だから、と母は続ける。

 

「自分の事は嫌いにならないでいてあげてね」

 

母の手は優しく乃之の髪を撫でる。くすぐったく、もどかしいものがあったがそれ以上に、乃之の心の中に曇っていた部分は少しだけ晴れやかになったのだ。

 

「よーし、今度のお休みで私が直々にヘアスタイルをいじってあげるわ。私の手にかかれば、どんな男子も女子もイチコロよ!」

 

「ほんとぉ?」

 

「ええ、マジよ。 それに髪型が変われば気持ちが変わるわ!きっと乃之もハイパームテキ!だから楽しみにしてなさいって」

 

 笑顔が素敵だった乃之の母は自信満々に腕に力こぶを作って見せた。その日から乃之は思うようにした。この髪は自分の誇りなのだと、父と母の子であるとい唯一の繋がりなのだと。

 

 だからこそ、この髪型を母にいじってもらうことは少しだけ怖かったが、同時に楽しみになった。どんな世界が見られるのだろうか、どんな自分が見られるのだろうか、と期待に胸を膨らませながら。

 

 

 

 

 

 

 

―――しかし、その約束は果たされることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝訓練。勇者たちは来るべき襲来に備え、己の鍛錬に励む。訓練場には三人の勇者達と一人の巫女の姿があった。

 

 

「どうよどうよゴリラ巫女。この私の美しい姿ッ」

 

だが、鍛錬というには緊張感に欠ける雰囲気。その原因となっているのはドヤ顔で胸を張る琴吹静流が原因だった。

それを見た市橋桐香が蔑んだ視線を送る。

 

「うわ、この女ついに無意味なプロポーションアピ始めたわよ・・・落ちたものね」

 

「か・み・が・たッ! ヘアスタイルを見なさいよッ! せっかくだから身体を強調してやってもいいわよッ! この際だから!」

 

「特に凹凸ない身体なんだからいくら強調しても無駄よ静流」

 

「ムッキィ! ゴリラ巫女に言われたくないわッ」

 

 もはやこの喧騒は見慣れた光景である。いつもと変わっている所があるとすれば、それは今日の静流の髪型が後ろを一本にまとめたポニーテールだという些細なことくらいだろうか。

 

「気分を変えてみたの。なかなかそそる物があるでしょう? ねぇ乃之さん」

 

「うん、とてもいいと思うよ」

 

 謎のポージングを決めていた静流に唐突に振られた乃之は動揺することもなく、そう答える。その反応に気を良くした静流が乃之に抱き着いた。

 

「ああん、流石ね乃之さん! 私の魅力に気づくのはアナタだけよ! どこかのいつでも木刀を持ち歩いているゴリラ巫女とはえらい違いだわ!」

 

「む」

 

 眉に皺を寄せた桐香が静流の背後に忍び寄るとポニーテールに手を掛けると、わずか数秒程で髪の毛はヤシの木のごとく変形させていた。

 

「なぁああああああおどれぇぇぇ!!」

 

「はっはっは、見なさい命、ヤシの木よ!四国の地にヤシの木が生えたわ!!」

 

「・・・・」

 

 無口ではあるが、感嘆の表情を浮かべる命は両の手を叩いて拍手をしている。

 

「いやー長いわね静流の髪。弄り甲斐があるわ」

 

 静流の頭にそびえ立ったヤシの木を見つめて桐香は思う。静流の黒髪は少し艶があり、長い為か多少無理な髪型も出来てしまう。

それは本人も誇りと思っている事らしく。

 

「ふふ、伊達に家では教育を受けてないわね・・・風呂上りと寝る前のキューティクルケアに抜かりはないわよ。まぁ私としては、乃之さんの髪もとても弄り甲斐があると思うわ」

 

「・・・ふぇ?」

 

 不意に呼ばれた自分の名に、乃之から変な声が出た。

 

「だってそのブロンド、とっても素敵だもの。とても日本人の髪とは思えないわ・・・どう?私に髪をいじらせてもらってもいいかしら? 乃之さん素材がいいから色んな髪型が合うと思うわ」

 

「それはいいアイディアね静流。 私も乃之で試したい髪型があったのよ」

 

 珍しく気の合う二人、謎の笑みを浮かべては乃之へと迫っている。その二人の雰囲気はとにかくヤバいものだと乃之は一瞬で理解した。何故なら、二人の瞳にはこれから自分を心行くまでヘアメイクするという欲望が光となって映し出されていたからだ。

 

「・・・わ、私は別にいいかな。 たぶん、似合わないと思うし」

 

「あら、謙遜しなくてもいいわよ乃之。たまには違う髪型にしてオシャレしたっていいじゃない?」

 

「そうよ、乃之さん・・・今夜は覚悟しておいてよね」

 

「え、えええ・・・・・」

 

 目を輝かせた二人の追撃を躱すことは出来ず、乃之はその提案を拒否することが出来なかったのである。

その夜、勇者と巫女は乃之の部屋に集まる事となった。

 

 

 

 

 

「そういえば、多分私初めてよね・・・乃之の部屋に入るのって」

 

「同じく」

 

「・・・・」

 

 桐香達がこの寮に集まって1カ月ほどの月日が経つが、誰も乃之の部屋に入った事は無かった。簡単な定時連絡だけで乃之から部屋に誘われることは無かったし、そもそも勇者と巫女が一緒に部屋にいる事が今までなかったのである。

 

 扉の前に桐香が立った時、扉が小さく開く。その隙間から乃之が顔を覗かせていた。

 

「あ、みんな・・・入っていいよ」

 

「お邪魔するわよ。悪いわね、押しかけるようで」

 

 桐香が部屋に入ると、床下に柔らかいカーペットの感触があった。乃之の部屋は綺麗に整頓されており、ベッドの枕元には目覚まし、壁際には大きな本棚があった。意外だったのは本棚に置いてある本のジャンルとしては漫画系の本が多かったことだった。

 

「乃之・・・意外だわ、漫画を読むのね」

 

「ほんとだわ・・・しかも結構バトルモノ大目ね」

 

「うぅ・・・人に部屋を見せるって恥ずかしい・・・」

 

 思わず赤面する乃之。誰しも、自分が寝たりしている部屋を見られるのは一種の抵抗というものがあるものだ。

 

「まぁ乃之はまだいいわよ。私なんて完全に不法侵入されたから」

 

「あの件はゲームの為よ、ノーカンノーカン!」

 

桐香と静流が睨みを利かせる中、命はひたすら本棚の漫画本を読み漁っていた。もう、完全に友達の家に来てゲームするか置いてある漫画本を読むタイプの友人のソレである。

 

「まぁ、乃之さんは大人しく椅子に座ってなさいな」

 

「ええ、私たちに任せておきなさい」

 

再び、桐香と静流の眼が妖しく光る。両手はわきわきと稼働し、それを見た乃之は思わず恐怖してしまう。彼女たちの足元には鏡やら髪留め、ありとあらゆるヘアアクセサリーが置いてあったのだから。

 

「ひ、ひぃぃ・・・・」

 

 

 

 

―――数分程経過して。

 

 

「ふぅ・・・取り敢えず第一弾ね」

 

「ああ、いいわ・・・素敵よ乃之さん」

 

 大きな鏡の前に座っている乃之の髪型はツインテールだった。漫画のようなヒロインの長いツインテールではなく、短く、ぴょこりと申し訳なさそうに垂れ下がったブロンドの髪がとても可愛らしい。

 

 

静流と桐香は口を揃える。

 

 

――――グレートですぜ、コイツはァ・・・。

 

 二人の少女から歓喜の声が上がる。そして額の汗を拭う二人は満足した表情と共に、短い間隔の機械音がその場に響く。

 

「え、ええーっと桐香ちゃん、なんで写真撮ってるの?」

 

「記念すべき乃之のヘアチェンジの瞬間をフィルムに納めなくてどうするの」

 

―――カシャカシャカシャカシャカシャ。

 

「一回だけでいいよね!?そんなに何枚も写真いらないよね!?」

 

「なんというかゴリラ巫女、今のアナタ例えるなら・・・そう、レズ! クレイジーサイコレズの波動を感じるわッ」

 

「愛と言いなさい。古今東西、写真は愛によって撮られるのよ」

 

 血走った目でスマホのシャッターを切る桐香に各々が感想を述べる。ちなみに静流は直後、頭にチョップされていた。

その後は時間の許す限り、二人による乃之のヘアスタイル革命が続けられた。

 

 ハーフアップ、ポニーテール、サイドポニー、イカリング、思いつくありとあらゆる髪型の変更が実行された。途中で静流と桐香の間で激しい口論があったりと波乱を極めた。

 

「”アイサツはされたら、返さなければならない・・・古事記にもそう書かれている”だと?」

 

 その様子をさも気にしないように命は漫画本を読み漁っていた。

 

 

 乃之の髪型革命の途中、静流が乃之の机に写真立てがあることに気付く。

 

「あら、この写真立て・・・乃之さんの御両親かしら?」

 

 写真には乃之と同じ長髪のブロンドの女性、その隣には父親らしき男性が立っていた。二人の間に挟まるように、幼いころの乃之が女性のスカートの裾を掴んでいた。

 

「うん、私が7歳の頃・・・かな」

 

「へぇー、やっぱお母さん譲りだったのね、その髪」

 

桐香は納得する。髪型も見た目も乃之をそのまま大きくした姿で、とても美人であった。

だが、気になる事がある。それは写真の中の乃之が幼いことである。

 

両親の写真を持ってくるのならば、ここ最近の成長した乃之の姿を映した写真を持ってきていても可笑しくはないのだ。

では、なぜ7歳の頃の乃之の写真しかないのか。桐香は気付く。これは多分、踏み込んではいけない領域なのだ、と。

 

「香川の実家だったわね、休暇取れたら帰って近況報告しなきゃいけないわね・・・両親は二人とも元気?」

 

・・・空気読まないわねッ 馬鹿ッ

 

と、桐香が警戒していた矢先に静流が地雷を踏んでいた。

 

「・・・もういないんだ」

 

「え?」

 

重々しくも感じられなく、軽快に開かれた口から発せられた言葉に静流は戸惑う。そして漸くその違和感に気づき、察した。だが、横目では”もう遅いわ”という視線を桐香が送ってるのは言うまでもなく。

 

 

「私が8歳の頃、事故・・・で」

 

 乃之の両親は彼女が8歳の頃に二人とも亡くなっている。交通事故だった。

 

 

 交差点で赤信号を無視してきた車両と正面衝突。事故を起こした相手も死亡している。当時、乃之が家で留守番をしていた為、乃之だけは無事だった。

 

 

「・・・髪の毛、お母さんに変えてもらう約束して、たんだ」

 

 それは虐められていつものように泣いていた乃之を元気づける為に乃之の母親が言い出した髪型を変えて、オシャレしようという約束。それが果たされることなく、7年という時間が流れてしまった。

 

「私はね・・・お母さんたちが死んじゃってから、髪型を変えたことがないの」

 

 その事故以来、乃之は自分の髪型を変えたことがない。いや、変える事が出来なくなったと言ってしまった方が正しい。

寝癖を直したり、自分でアイロンを掛けたり、入浴後のケアをするくらいで色や髪型を変える事は決してしなかった。

 

「なんか、嫌なんだ。この髪型を変えたら・・・二人を忘れちゃいそうで」

 

「乃之・・・」

 

 桐香は思う。恐らくだが、乃之の今の髪型は母親が亡くなる前から変わっていないのだろう。髪を変えようという約束をした矢先、母親が亡くなったのならば今の髪型が生きていた母親の形見となる。

 

 だからこそ、その髪型を変える事は亡くなった両親との繋がりを断つようだったから、乃之は髪型を変える事が出来なくなったのだ。実際に髪型を変えようと提案した時、断ろうとした時の乃之の言葉から感じられたのは明確な拒否の意志だった。

 

「でもね、二人に髪型を変えて貰って良かったって思ってるんだ」

 

 乃之は少しだけ笑っていた。

 

「御役目でみんなと仲良くなって、二人の事は信頼できるし・・・それに、お母さんたちも私の変わった髪型、いっぱい見たかったはずだから」

 

 乃之も気づいていた。いつまでも二人の事を引き摺って、過去に囚われたままの自分で居てはいけない、と。

自分を愛してくれていた両親も自分たちの死で前に進むことが出来ないでいる乃之の事は見たくはない筈なのだ、と。

 

「だから、ありがとう」

 

 乃之は振り返らないで、鏡に映る二人に感謝の言葉を述べた。

 

「こんな心が弱い隊長、なんだけど・・・これからも、一緒に戦ってくれる、かな」

 

「そんなことないわ・・・乃之は、とても心が強い人間よ」

 

「桐香ちゃん?」

 

 桐香は思う。彼女が言う程、朝露乃之は心が弱い人間ではない。

いつも弱弱しくクラスの中では影が薄い存在。

でも周りの事は常に気を掛けていて、戦闘時に前に突出し過ぎる静流を命を使って前に出過ぎるなと言う指示を出していたし、命が危機に瀕した時は単身で救出に向かう程に度胸がある。戦闘訓練だって桐香に打ち負かされてすぐにダウンするが何度でも立ち上がる。ゾンビみたいな根性もある。

 

 

 そしてなにより、彼女の一言で救われた自分が居るのだ。勇者を憎んでいた、巫女としての役も否定され荒んでいた桐香を救ったのは乃之だった。

 

 

「ついていかない訳がないわ・・・それにこのチーム、個々で色々と弱い部分があるけどお互いが上手いことカバーしてくれるからいいチームにだと思うのだけれど」

 

「ええ、濃い面子がいるけれどそれを纏めてくれている乃之は立派な私たちの隊長よ。一緒に戦わないわけないじゃない」

 

 このチームが色々と面倒なメンツが多いのは最初から分かっていた事だ。それぞれが乃之のように隠れた闇のようなものを抱えているというのも桐香は知っている。

 

だが、共に御役目を乗り越えていく事でそれを解決できるのではないかと桐香は思っていた。チームと言うのはお互いが支え合うものだから。その大切さを知っているこのチームならきっとどんな困難も乗り越えられる気がしたのだ。

 

「だから報告しましょ。今の乃之がこういう変な仲間と一緒にいるけど、楽しくやってますって・・・それだけでも、ご両親も安心するだろうから」

 

「あらゴリラ巫女、自分が変だっていう自覚はちゃんと持っていたのね? 感心だわ、クレイジーサイコレズでゴリラとかもう救いようがないから」

 

「あら静流、ゲーム脳で変態淑女の貴方が言う事かしら。多分チーム一の変人は貴方よ」

 

 ゴン、と互いに額を押し付け合う二人。こうやって唐突に喧嘩が始まっても穏やかに見守る事ができるのはきっとこのチームだからだろう。

乃之は改めて認識する。このチームは良いチームだ、と。

 

―――お母さん、お父さん。

 

 乃之は机の上に置かれている写真立てに映る両親に視線を送る。

 

 

―――初めて髪型を変えたよ。似合っているかな?お母さんが言ってた通り、髪型を変えるとちょっと気持ちが変わったよ、不思議だね。本当はお母さんにやってもらいたかったけど。

 

 

―――私はもう大丈夫だよ。この人たちのお蔭で、毎日が楽しいから・・・。

 

 

―――今の乃之は幸せです。安心してください。

 

 

 

賑やかさが途切れない空間で乃之は写真へ笑顔を向けながら、そう思うのだった。

 

 

 

 

 




乃之さんの髪型は園子よりも少し薄めの金髪。というかプラチナブロンドって言った方がいいかもしれない..., 園子も本編だとちょくちょく髪の色変わるからたまに誰だ?ってなるのは私だけではないはず。

ゆゆゆい28話をプレイした後の私はまさしくタカヒロ絶対許さねェマンになりました。そしてネットでは、やはりゲンムが湧いた。エグゼイド見ようかな...


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第6話~シノビ・イズ・バースデイ~

ほんの少しだけ胸糞注意報。完全に前回のお話と順番間違えたねー。と心の中で反省。


 薄暗い森の中にある細道を一人で歩いている少女が居た。キャンプを一人でやるには小柄のリュック、紙袋一つだけとあまりにも軽装である。

 

 草薙命は実家のある高知へと帰郷していた。巫女である桐香の神託により、しばらくのバーテックスによる襲撃はないと聞き、休暇を申請したのだ。案外すんなりと大赦側も容認し、学校からも特に言われることは無かったので命としては難しい手続きを踏まなくて良かったと安心した。

 

 ただ一つ心残りなのは桐香だけにしか帰郷の話はしていなかった。

 

・・・相変わらず、人が通りたくはなさそうな道だ。

 

 人が一人、通れるくらいの幅で所どころに砂利があって靴の裏にはその突起が当たって少しだけ痛かった。今は良い方だ。昔修行をしていた時は裸足でこの道を走り、血だらけになったのを思い出す。

 

 命の実家は駅からバスを利用して2時間ほど、バス停を降りてからはひたすら徒歩だ。

徒歩の時間は約三時間だ。人が歩けない状態の悪い道をひたすら3時間歩くのだ。

 

 

 常人や、運動部の人間ですら根を上げるであろう砂利道をなんの疲労感もなく歩くことが出来ているのは幼少のころからの激しい訓練により培われた体力のお蔭であろう。

 

 

ほどなくして、視界が開けるとそこには小さな村があった。あまり人気がなさそうな村ではあるが、これはこの村の住人が基本外を出歩かないだけである。ちゃんと村人はいるのだ。

 

「命ちゃん・・・帰ってたのかい?」

 

関所のような場所にいる見張り役の男が一人、命を見て駆け寄ってきた。それは命が良く知る人物、幼少の頃に自身を鍛えてくれた教官の一人だ。

 

「シゲさん・・・元気だった?」

 

「元気だよ・・・そうか、今日だったね命ちゃんの・・・」

 

 小さく頷いて、命はその関所を抜けていく。村人が何人か命を出迎えをしてくれた。全員が優しく、声を掛けてくれた。

 

 

 

 命の生まれた村はとても小さな村だ。外部との接触は極力避けられており、酷く閉鎖的である。コンビニとか、スーパーなどは命が生まれた時からこの村で暮らしている時に見たことは無い。

 

 そんな人里から極力隔離されている命の里には秘密がある。それは先祖代々、過去のお話・・・それこそ命が生まれる前、神世紀、旧世紀と呼ばれるもっと前の戦国時代の頃からのお話だ。

 

 

 名だたる戦国武将たちが活躍していた群雄割拠の戦国時代。その武将たちの華々しい活躍の裏にはある一族の功績があった。それは誰もが効いたことがあるであろう忍者・・・忍びの一族である。命の里は昔、忍者の里だったのだ。

 

 

 忍者という単語ならば、伊賀や甲賀といった有名な出所を思い浮かべる訳だが、命の里はそのどちらにも与さない忍者だった。どこにも与さない故に金を積まれれば何でもやる。命の知る限りでは大阪夏の陣でも一族は活躍したそうである。

 

 しかし、その忍の里は戦国時代が終わると同時に姿を消した。理由は当時の徳川の将軍が天下平定後に自身に従わない忍びの一族を滅ぼそうと兵を動かしたからである。

 

 言い伝えによると、数百程度しかいなかった里の者たちが徳川の襲撃を受け、無残にも惨殺されていったという。しかし、中には生き残った者がおり、生き延びた者たちが誰にも目の届かない場所で集落を作り、徳川に追われていた他の忍びの者たちを呼び込んで少しずつだが人口を増やしていった。それが、今の命がいる村だという。

 

 

「・・・・」

 

命が村の奥へと歩いていくと一際大きな屋敷が目の中に入ってきた。その大きな屋敷へ入ると玄関を跨いですぐに大広間に繋がっていた。命は小さく、息を吐く。そして震えてた自分を落ち着かせようと大きく息を吸って、また吐いた。

 

恐る恐る大広間へと足を進めていくとまるで戦国時代の会議のように床に座布団一枚で老人や大人の男たちがそれぞれ向かい合うように座っていた。命はその視線に挟まれるように真ん中くらいまで移動して座布団も何もしかれていない床に正座する。

 

「・・・戻ったか、命よ」

 

白髪で手足の異様に長い老人が命の前に座っていた。位置的にも、トップのような男は命にそう言われ、命は深々とその頭を下げる。

 

「・・・ただいま戻りました。長老」

 

「・・・報告せよ、戦果を」

長老は白い歯をむき出しにし、命じた。戦果と言うのは自身が担っている御役目の事である。

 

「報告します――――」

 

命は頭を下げたまま、話す。自身が今どういう御役目をしているのかを。この一カ月と言う期間にどれほどの戦果を挙げたのか。全てだ。

 

「よろしい」

 

報告を終えた命がその一言を聞き、小さく安堵する。だが次の瞬間に命の頭部に違和感を感じる。冷たい、人ならざる者の違和感の正体は長老の異様に長い手が命の頭の上に乗せられていたのだ。

 

「・・・っ」

 

悪寒が走る。ストレートに今の感想を述べるならばその言葉がしっくりくる。少しだけ身を震わせたがあとは意識を強く持ち、すぐに冷静な状態へと自身を落ち着かせた。すると長老は深々と、ゆっくりと息を吐きながら口を開いた。

 

「命よ・・・よくやってるじゃあないかぁ・・・そのまま精進するがよい、じゃが―――」

 

不意に力を籠められた手の動きに反応できず、命の頭は床にダイレクトに叩きつけられた。

 

「忘れことなかれ・・・・お主が御役目にて戦果を上げられない、一族に利益を出せない場合、どうなるか・・・分かってるおるな?」

 

「・・・は、い」

 

とても90歳を越えた老人とは思えない力に勇者であり、忍びとして鍛錬を積んだ命ですら太刀打ちできない。長老がゆっくりと命の横側から顔を覗き込んできた。妖怪じみた大きく開かれた目玉が命を凝視する。

 

「もっとじゃ・・・もっと戦え・・・仲間の誰よりも、たとえ仲間を蹴落としてでも・・・お前にはやるべきことがある・・あの出来そこないの親の為にもじゃ」

 

 床が軋む。あまりの力に命の額が床へとめり込んでいく。それほどまでに強烈であった。これまでの修業中はこんな事はしょっちゅうだったが、今回は桁が違う。年数を重ねるごとに力が上がっている気がする。衰えというものを感じさせない、まさしく妖怪。

 

「あぁ、命、命よ・・・げ、ぐへ、ぎひ、ぎひ、ぎぎぎ・・」

 

 突如、タガの外れた下衆な笑みが涎とともに村長から発せられた。滴った涎が命の首筋に足らされる。これには命も反応を隠さずには居られなかった。そして同時に、首筋を這う感触がある。

 

「うぁおおあ、ああ、くび、くびぃ・・・」

 

 長老の舌だった。

 

「・・・・・っ」

 

 まるで蛇のように長い舌が命の首筋を這うように動く。耳元、うなじ、背中までにも這われるその得体の知れない感覚に命はついに震えを隠せなかった。粘着質な唾液が背中に広がっていく、同時に長老の舌が自身を犯していくような感覚。

 

 

 命は涙目を浮かべるが、周りの大人たちに視線を送り、助けを求める事は決してなかった。それは周りの大人たちもこの妖怪じみた男には決して逆らえないからである。命はそのことを知っている、だから黙って耐える事しかできなかった。

 

 

 

 やがて背中を這っていた舌が命の背中から引き抜かれると長老は卑しい笑みを浮かべて覚束無い足取りで広間の外へと歩いていく。男二人ほど側について介護するように支えながらその場所からは姿を消した。

 

「おわったな・・・」

 

「うむ・・・」

 

やがて長老が戻ってこないと思った周りの大人たちもその場を後にする。頭を床について小刻みに震えている命に目をくれる事もなく。

一人、また一人と大人たちが消えていき、やがて命だけがその場に残った。

 

「―――うっ」

 

 喉奥からこみあげてくる吐き気に耐えきれず口を抑え込む。しかし、今日は何も胃袋にいれてはいない。こうなる事が、分かっていたから朝から食事は抜いていた。だから胃から出てくるものは何もない。

 

「うぅ・・・」

 

 代わりに、命の瞳からは大粒の涙が零れていた。

 

「なんで、なんで・・・私、こんな・・」

 

 数分間、自身の気持ちが落ち着くまで命はその場で泣き続けた。

 

 

 

 

 泣き止んだ命はその村の外れにある自身の実家へと帰宅していた。帰宅した命が最初に行ったのは両親の顔を見るのではなく、シャワーだった。

両親も、目元を泣き腫らした命と”シャワーを浴びたい”という要求に察してくれたのか、何も言わずに風呂場へと案内してくれた。

 

「・・・・」

 

湯船までつかる必要は無かったのでシャワーを浴びる。頭上から注がれるお湯に身を打たせ、しばらくの間は黙って体全体にお湯をなじませるようにしていた。数分くらい経ってから頭や体を洗剤を使って洗い始める。特に背中は入念にだ。床に叩きつけられた額が洗剤に触れた瞬間、やけに沁みた。

 

 

 

 草薙命の家庭事情は少し複雑だ。彼女の里が忍者の里という時点でかなり複雑な環境なのだが、命が今置かれている状況は正確に言えば奴隷のような立ち位置に近い。

 

 

 命の父親はこの里の出身だ。この忍者の里で生まれ、育ち、この里から一歩も出ないという鉄の掟の元、彼は里の外からの侵入者を監視する見張り役の仕事をしていた。

 

 木の上から村へと続く道を監視していると、一人の女性が歩いていたのを命の父親は見つける。恐らく迷い込んだのだろう。山登りが好きなもの好きか、どちらにせよここから先へと進ませるわけにはいかず、彼は山に籠る老人を装い、適当に女性を追い返そうとした。

 

 

 だが、彼はそれが出来なかった。その女性を一目見ただけで心を奪われてしまったからである。それが今の命の母との出会いの始まり。

 

 

 二人はふとしたきっかけで近づくことになり、それを機に会話をすることが多くなった。その女性は大赦という組織に属する小さな家柄の娘らしい。その二人がやがて恋仲になり、お互いの生活を考え始めた頃、彼は決心した。里を離れ、この女性と共に暮らしていこう、と。

 

 

 里以外の者を連れ込んだのなら、間違いなく彼女は殺されるだろう。それが掟であった。そしてあの妖怪じみた長老が居る限り、理由を説明しても妥協してくれるとは限らない。

 

 だから彼はひっそりと、親しい知人にだけは話をして里を抜けた。知人たちは応援してくれた。古いしきたりなんていつまでも気にしていてはいけない、これは自分の人生なのだと、この里も変わるべきだ、と。

 

 二人は夫婦となった。式はお金が無かったので挙げず、とにかく生活基盤を作るべく、二人は働いた。彼はこれまでの閉鎖的な生活が長かった為に一般社会に馴染むまで苦労したが、妻と共に協力し合い、彼自身も持ち前の身体能力の高さを生かしてとび職の仕事に就く。苦しくもあったがなんとか問題なく生活できるようになったのだ。

 

 月日が流れ、やがて二人の間には子供が生まれた。 草薙 命だ。ボロいアパートで三人が暮らすには少し狭かったが、命の父はお金を溜めて、自分の家を持ちたいと張り切っていた。母はそんな父を応援し、命もそれを待ち望んでいた。

 

 

 

 だが、幸せな時間は長くは続かなかった。里から長老の追手が来たのである。命が小学校3年の頃だった。

 

 

 父は戦ったが多勢に無勢、抵抗虚しく3人は里へと連れ戻されてしまう。村に戻って知った事だが、里を抜ける際に話をしていた友人は既に殺されていた。父も殺されることは覚悟したが、なんとか幼い命だけは逃して欲しいと、父は懇願した。母親も同じ願いだった。命は離れるのが嫌でひたすら泣いていた。

 

 

 残忍で頭のネジが外れた長老から提案があった。草薙 命の勇者としての適性についてだ。長老も、大赦という組織がこの世界では大きな影響力をもつ組織だというのは知っていたのだ。

 

 

”一族千年の栄光を約束せんッ”

 

 勇者として御役目を果たし、大赦内で草薙家の地位を確立させることで自身の里への利益を得ようとしていた。それが出来れば、家族全員を生かし、いずれ解放するというのが長老の提案だった。

 

 

 父と母は長老に、里の為に利用される命を見たくはないと別の条件を提案しようとしたが聞かず、幼い命は涙ながらにその条件を呑んだ。自分が頑張らなければ、父と母に、とても良くない事が起きるのだと理解できていたからである。

 

 

 

 それから命は修行の日々を送った。長老の監視の元、裸足で砂利道を走り、木に登り、戦う術を学ぶ。それは幼い命には過酷なものであり、失敗しようものなら、へこたれ様ものなら容赦なく鞭を打たれた。

 

 その度に言われたのが、両親がどうなっても良いのか?という脅し文句。それを聞いては命は必死で修行に励むしかなかった。足裏と手の皮がどんなに破れても、何度鞭でぶたれようとも、命は負けなかった。いや、負けてはいけなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 シャワーを終えて、バスタオルを手にとり鏡の前に立ち、自身の身体を見る。命の身体には幼い頃からの忍としての訓練で傷だらけだ。それは訓練によるものではなく、ほとんどが懲罰によるもの。特に悪いことをした訳ではなく、疲れて倒れたり、修行で失敗した時に鞭で叩かれたことによる傷だ。

 

 傷が背中部分に集中しているが、おかげで今の勇者達には風呂場に一緒に行くという事がなく、殆ど誰も居なくなったのを見計らって深夜に入浴をしている。この傷を誰にも見せたくは無かった。多分、あの勇者と巫女に喋ってしまったらきっと自分は甘えてしまうだろう。

 

 

「お帰り・・・」

 

着替えて居間へと入った命に母がそう言われ自分が如何に落ち着いていなかったか分かる。最初に実家に帰ってから”ただいま”という当たり前の言葉すら言えていなかったのだ。

 

「ただいま・・・」

 

 ソファに座っている母の元へ駆け寄り、倒れ込むように抱き着いた。数か月ぶりに感じる母のぬくもりを全身で感じ取る。

 

「誕生日、おめでとう命」

 

「お母さん・・・うん」

 

 晴れて13歳となった命。この誕生日の日、命はこの里に帰る事を許される。定時報告もかねていたが、彼女にとっての本命はこの誕生日の時だけ会うことが出来る家族との貴重な時間であった。

 

 そこから、命の父も含めて誕生日会が開かれた。食事はさほど豪華というものではなかったが、食材のレベルが重要なのではない。ごく一般の家庭でありふれている一家団欒、それが出来ている事が命にとって大事なのだ。

 

 命は両親にこの数カ月の事を楽しそうに話した。自分が今住んでいる場所、寮に住んでいるとか、同じ御役目についている仲間のこと。二人に会えなくて寂しいが、絶対に二人を助ける為にいっぱい活躍して見せると。

 

 

 楽しく外での生活を語る命に比べ、両親は謝罪をしていた。命がこれまで自分たちの為に自由を奪われているということ、長老達に酷い目に遭っているというのに、ここで軟禁されている自分たちが何も出来ないでいるということ。

 

 命は思う。そんな事はない、と。二人が居なければ自分はこんなにも頑張れていなかったし、今は信頼できる仲間たちと一緒にいるからそれまでみんなで頑張ろう、と。その言葉を聞いた両親は涙を流し、命もそれを見て、泣いた。

 

 

 

 

 両親との面会の時間はこの誕生日が終わるまで、つまり、日を跨いだ時がリミットとなる。いつもなら24時を回ればお目付け役が現れて外へと連れて行かれるのだが、今回は里の者が便宜を図ってくれたのか翌日の朝までいる事が出来た。

 

 

 徳島で買ってきていたお土産を両親に渡し、命は里を後にした。里を出ていく道中、見張り役の里の者があらゆる角度から殺気を込めた視線を感じた。だが、彼らもまた長老の圧力によってどちらかと言えば、この監視を”やらされている”者たちだ。中には頭の古い者も居てその一部の者は本気で命を監視し、妙な動きをしようものならその場で始末しようとする考えを持つ者もいる。

 

 

・・・分かってはいる。分かってはいるけれど。

 

 バスに乗り込み、視線を感じられなくなったところで命は座席で膝を抱え込んだ。

 

 

――――怖い。

 

 里の者たちの助けは期待できない。誰も助けてはくれない。もし御役目で活躍できなかった時、他の勇者達より劣っている事が長老に伝わってしまったら、両親の安全は保障できなくなる。

 

 

 他の者に相談なんてしたら、きっとその者たちに迷惑が掛かる。だから命は黙っていた。出来るだけ口数を減らして、自分の事を悟らせないように努めたのだ。

 

 だが、そんな負の感情を内側にため込んで処理するには、命の心はまだ幼い。口では強がっていたとしても、まだ13歳になったばかりだ。周りに助けが無い孤立した状態はただの恐怖でしかなかった。

 

 心がすり潰されそうな圧迫感をぎゅっと押し殺して、バス、電車に揺られながら命は帰路に着く。徳島に変える頃には夕方になっていた。

 

 

 

 

 命の足取りは重い。昨日から受けたストレスは両親の為と思えば我慢は出来た。だが、耐えれていただけであり体の中には疲労となって蓄積されている。それに帰りまでの時間はかなり長かったためだろうか、眠気も少しある。

 

 

・・・明日までの課題、少し残ってたんだっけ。それ終わらせてから寝よう、かな。

 

 

 扉の前に立ち、ため息をつく。休暇だったといのに、肉体的にも精神的にも疲労していた。休めた事なんてなかった。そして普通に明日から訓練と学校だ。気が重くなる。

 

沈みきった気持ちのまま、命が自室のドアを開ける。そして次の瞬間。

 

 

 先ほどまでの眠気が覚めるような甲高い破裂音が扉を開けた瞬間に鳴り響いた。思わず敵襲かと、身構えてしまった命であるがその視線の先。

 

「・・・え?」

 

 乃之と桐香、静流がいる。その手にあったのはクラッカーだ。先ほどの破裂音は乃之達によるものである。

何がなんだか分からない命に桐香が小さくため息をついていた。

 

「はー、やっと帰って来たわね。遅いじゃない命」

 

「まぁそんなこと言うもんじゃないわよゴリラ。お蔭で準備は十分にできた訳だし」

 

 静流は済ました顔で座布団を敷く。テーブルを囲むように三人は座っており、敷かれた座布団に座るようにとぽんぽん、と手で叩いて命を誘導する。

 

「準備って・・・なん、の」

 

 テーブルを見てみると、豪勢な料理とワンホールのケーキがあった。実家でもあまり食べたことが無い品物に命は目を丸くする。

 

「今日、命の誕生日でしょ? 仲間の誕生日、祝わなくてどうすんのよ」

 

「当日やろうかと思ったけど命ちゃん、休暇で帰っちゃったから・・・でも部屋に戻って来るならそこでみんなと誕生日会やりたくて」

 

 静流と乃之は喋りながらも皿やスプーンを用意し、食事の準備を進めている。命も手伝おうとした桐香に止められた。

 

「主役は座ってなさい。 ちなみに今日のこの料理は私と乃之の手作りよ」

 

 ローストビーフやちらし寿司、から揚げなどの定番料理を中学生が作るらしい。すると隣で静流が

 

「いい命、私に関してはちゃんとこの部屋のメイキングをしてやったわ! 部屋掃除とかッ 飾りつけとかッ お皿の準備とかッ」

 

「静流? なんで調理から外されたか教えてあげなくていいの? 貴方たしかケーキつくろうとして材料に片栗粉と銀杏を―――」

 

「静流ちゃん、ローストビーフとかお肉料理全般にオリーブオイル掛けようとしてて――――」

 

「ちょ、ちょっと!少しだけ料理の感性が違うだけでそんなに批判しなくてもいいじゃないッ! あれだってきっと美味しいわよッ 多分!」

 

 きっと、とか多分、を使っている時点でその料理はたかが知れていることだろう、と桐香と乃之は思った。 

 

「ともあれね、命。 誕生日、おめでとう」

 

 笑顔でそう言う静流に、命は数秒ほど間が経った後で涙を流した。

 

「ちょ、なんで泣いてんのよ! おかしいでしょ!」

 

「ち、ちがう・・うれしく、て・・! ほんとに・・!」

 

 視界が涙で滲んで良く見えない。昨日から一日色々とあった後にこの仲間たちからの優しさは、本当に命の心に沁みた。

 

「あーもう、馬鹿ね」

 

 泣いている命を見ていられなかった静流が命の頭を引き寄せた。

 

「おー、よしよし。嬉しいのは分かったから、ちゃんと泣き止んでから食べなさい。作ってくれた人も、泣かれながら食べてもらうより、笑って楽しく食べてもらいたいものよ?」

 

 頭を優しく撫でてくる静流に命は戸惑いながらも、その手の優しさに自身の母の面影を感じたのだ。服越しに感じた温もりもそっくりで、命もいつのまにか落ち着き、泣き止んでいた。

 

「なんというオカン力・・・」

 

「五月蠅いわねゴリラ。淑女の嗜みよ」

 

――――あぁ、この人たちは本当に、優しい。

 

 その後は四人で誕生日会が行われた。ケーキをどのくらいの大きさで分けるのか、イチゴの取り合いで静流と桐香が喧嘩したりとか、プレゼント交換では忍者系漫画を段ボールに詰めて乃之が渡してきたりとか、マリオカートで静流を他の三人でボコボコにしたりとハチャメチャしていた。

 

 

 しかし、命の抱いていた疲れ、不安、恐怖がその喧噪のとともにどこかへと消えていくのもまた事実。こんな人たちが仲間に居てくれて、自分は幸せだと。だからこそ、皆の事を信頼できるし、自分もその期待に応えたい、現状の辛さに負けてはいられないのだと、命は思ったのだ。

 

 




 最初は暗かったけど最後に綺麗に?まとめたから善しッ 命ちゃんの元ネタ、というかイメージはバジリスク。長老が天膳みたいな。

 ちなみに長老、頭がボケて来ていますけどマジで強いデス。のわゆの千景のようにがっつり暗い感じには出来なかった。でもどんなにシリアスにしてもうちの静流さんが居れば基本シリアルになるホント不思議。

 ちなみに静流さん元からオカン力強いデス。なにこの風先輩2号。だが料理は出来ない。

 短編ラスト、終わりました! 次回より、本篇作成になります。ほんわかした日常の後はハードな血みどろな展開、あ、いつもの勇者シリーズの奴だ。

 一応次の章が『朝露乃之は勇者である』の区切りになります。終わりではないのですが、花結いの章もやりたいのでそのために。次回は巫女が危険な目にあったりと色々とぶっ飛んだお話になりそうで。 


最近、ゆゆゆと別作品でコラボさせたいと思っている今日この頃。某格闘技漫画とコラボさせて面白おかしく出来ないかとプロット作成中。


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短編~花結いのきらめき編~
~それいけ、くっころ若葉ちゃん①~


 息抜きがてらに、若葉様と赤嶺さんで短編を作ってみたかったんです。もう若葉様って、完全にくっころ系の人だよなと思った時、このストーリーが思い浮かんだ。たぶんこれだけで終わるかもしれないし、続くかもしれない。
 
 とにかく、原作キャラを使ってみたかった。後悔はないッ


「う、うぅ・・・」

 

 樹海の景色が広がるこの世界で疲弊しきった声が聞こえる。一人の少女のものだ。桔梗思わせる青の勇者装束を身にまとったその少女の名は、乃木若葉という。

彼女は旧世紀における勇者たちの最初の勇者。つまり、すべての勇者の歴史の原点にあたる人物。

 

「こ、ここは・・・私はいったい、何を・・・」

 

 身を動かそうとした若葉は自分の体の違和感に気づく。両腕と両足は謎の触手によって絡めとられており、その力強さは若葉が解こうとしても、身をよじるだけで精いっぱいのものだった。

 

「・・・バーテックス、私を縛っているのだな」

 

 触手の先を見れば大型のバーテックスがいる。だが、それは若葉たちが言う世界のバーテックスとはまた違うものだ。植物のような蔦や果物が生えたバーテックスはこの世界、神樹が作り出した仮想世界に現れる敵の”造反神”が作り出す疑似バーテックス。

 

「お目覚めかなー?初代勇者様」 

 

間の抜けた、陽気な声が若葉の耳に届く。その声の発信先は頭上だった。若葉が視線を向けると一人の少女が飛び降りてきていた。

 

「・・・お前は! 赤嶺友奈ッ!」

 

 赤の勇者装束に身を包み、右手には大きな手甲を携えた少女。赤嶺友奈、彼女は若葉の敵である。

若葉たちの神樹を裏切り、内部から神樹の力を分散させようと企む、造反神が呼び出した過去の勇者。

 

「こんなことをしてくるとは思わなかったぞ。友奈という名前を持つ者が・・・」

 

「あれー?意外だった? でも国土亜耶ちゃんの目の前に現れた時点でもうそういう覚悟もしてるもんだと思ったけど」

 

 自身の仲間である巫女の名前を出し、不敵に笑う赤嶺友奈。 仲間の名を出されて、若葉は思い出した。自身がなぜこうなっているのかを。

 

・・・バーテックスの襲撃で皆と戦闘をしていたのは良かった。いつも通りに皆と連携して、油断なんてしなければこんなことには。

 

 戦いは若葉たちに有利な戦況だった。旧世紀と神世紀、そして沖縄、北海道と様々な地方を守っていた勇者たちが集まったのが若葉たちの仲間だ。最初こそ、分かり合えないこともあったかもしれないが絆を育み、まとまりを見せてきたのだ。

 

 だから、超大型バーテックスに打ち勝つことが出来たし、造反神によって支配されていた地域をも奪還することもできたのだ。

 

 だが、その日の襲撃は違った。

 

 

・・・巨大なバーテックスによって勇者たちが分断され、爆発するバーテックスが私にめがけて飛んできたな。

 

 近づいたり、衝撃を加えることで爆発するバーテックスが若葉に向かってきていた。遠距離の伊予島杏や土井球子らが必死に若葉を援護する。爆炎が舞い、視界が遮られたその瞬間だった。

 

 

・・・私は爆煙から現れる赤嶺友奈の不意打ちをもらい、気絶してしまった。そして、今この場所に囚われている、というわけか。

 

 

「状況を理解したみたいだね、この襲撃は初代勇者、乃木若葉を捕まえるための作戦だったんだよ」

 

うんうん、と赤嶺が頷く。顔や仕草が仲間の友奈たちとよく似てはいるがその笑みは酷く、悪意を持った何かだった。

 

「みんなは・・・どうしたんだ」

 

「大丈夫だよー、三好夏凛と乃木園子が引っ張って一度戦線を整えるために全員引いたよ。まぁでも、救援はしばらく期待できないだろうね」

 

無事、か。と若葉は安堵のため息をついた。

 

「私をどうするつもりだ・・・」

 

「うーん、どうしようかな」

 

「どういうことだ?」

 

赤嶺のその答えに若葉は疑問が残る。何かしら理由があって若葉を捕らえたはずなのだ。

 

「造反神サマ、こっち側の疑似バーテックスを大量生産したんだけど、私だけじゃ操り切れなくてね。ほら、勇者より数は多いけど、一気に指揮すると大変なの、分かるでしょ?」

 

若葉の周りをくるくると回るように赤嶺はいう。身動きが取れず背後を取られるというのは何とも言えない気分になる。

 

「だからぁ」

 

と、背後から若葉の耳元に囁く。

 

「コッチ側にもう一人、勇者を増やそうかなって」

 

「なにッ!?」

 

「初代勇者様とかがコッチに仲間になれば指揮関係で私も楽になるし、向こうの勇者たちにも結構ダメージだよね。信頼していたリーダーが敵になるって展開・・・アツいっしょ!」

 

フフ、と背後でおそらく笑みを浮かべているであろう赤嶺に若葉は声を上げる。何者にも屈さない、否定の声を。

 

「私が貴様らに組すると思うか?だとすれば、目論見はすでに外れているぞ赤嶺友奈」

 

初代勇者の中で一番責任感があるであろう若葉にはこれまでの苦難を乗り越えてきた経験がある。仲間との絆もある。それを裏切ることなど、否、裏切ろうとすることはあり得ないことなのだ。

 

「今のうちだぞ赤嶺友奈。私の仲間がいずれ戦線を立て直し、ここに必ず戻ってくる・・・」

 

「凄いねー、この状況で仲間の事を信頼してるんだ。来ないかもしれないのに?」

 

「いや、必ず来るさ。それに、たとえ来なかったとしても勇者である私がここでお前に屈し、負けることはあってはならない!さすればここで腹を切る所存だ!」

 

若葉は胸を張る。彼女が持つその覚悟はまさしく戦国時代の武士が持つ矜持そのものだった。

 

「へー、さすが初代勇者様・・・風雲児と呼ばれることだけはあるね」

 

次の瞬間、若葉の両手足を縛っている触手の拘束がさらにきつくなるのを感じた。

 

「くっ! くぅ・・・!!」

 

勇者としての力をその身に宿しているため、耐えられるが拘束が強まったために逃げることが更に困難となったのは確かだ。

 

「一つ仮説を立ててみたんだ」

 

「・・・!?」

 

赤嶺が若葉の前に立つ。痛みに苦しむ若葉を見ながら彼女は一言。

 

「タイムパラドックスって知ってるかな? 初代勇者様」

 

「・・・たいむ、何?」

 

「うーん、例えばなんだけど」

 

 と、赤嶺は例を簡単に上げる。

 

「一人の少年が過去に行きました。過去に行くと、そこには自分が生まれる前、少年のお母さんになる前のお母さんがいます。その人を少年は突き飛ばして、その女性が死んでしまうと一体どうなるでしょうか」

 

「・・・その少年を生むはずの母親がいなくなる、か」

 

正解、と赤嶺は続けて言う。

 

「つまり、少年は生まれなかったことになる。さぁ、ここからです。ここで勇者乃木若葉が死んでしまった場合、後ろの方で待機している乃木園子はどうなるのか」

 

「あ・・・」

 

と、若葉の中で答えにたどり着いた。それはいとも簡単で、なおかつ実行されるなら途轍もなく恐ろしいことだ。

 

「旧世紀で乃木の名を持つのは、アナタだけ・・・ここでその血が途絶えるってことは、その子孫、乃木園子の存在が”なかったこと”になるんだよ」

 

つまり、と赤嶺は言い放つ。

 

「乃木若葉を捕らえた時点で、神世紀の乃木園子の命も私たちの掌の上ってことなんだよ!」

 

両手を広げて言い放つ赤嶺に若葉は呆然とする。

 

「乃木園子・・・あの子は直感的にこちらの作戦を読んでくる天才型の指揮官タイプ。 ああいうタイプの勇者はつぶした方が良いって、ね?」

 

「き、貴様ッ」

 

「一石二鳥・・・いや、これなら小学生と中学生の乃木園子を同時に始末できるから一石三鳥かな?」

 

「あ、あぁ・・・・」

 

 乃木若葉は絶望する。自分が油断し、捕らえられたばっかりに無関係な子孫たちの命まで人質に取られてしまったのだ、とそしてそのことに、自分は何もできないという事も。

 

「仲間が戻ってくる・・・うん、その前に終わらせた方が良いよね。 それじゃあ初代勇者様、あの世でお元気で」

 

「・・・・ッッ」

 

拳が振り上げられる。赤嶺友奈は対人に特化した勇者。人を壊すことに関しては若葉たちも敵わない。その相手が、身動きもできない勇者の命を握りつぶすなど造作もない事なのだ。

 

・・・すまない、園子。不甲斐ないご先祖を許してくれ....っ

 

 若葉は目を瞑る。脳裏には若葉の事を慕う子孫たちの姿が浮かんでいた。

 

 

――――わかちゃんわかちゃん、一緒に日向ぼっこしに行こうよ~

 

――――ご先祖様ご先祖様!ひなたさんとの濃密な夜の出来事をメモさせてください!

 

――――『『ビュオオオオオオオオオ!!!』』

 

 乃木の血を引き、どこか暴走している彼女達。若葉の子孫たち。普段は何を考えているか分からないが戦いの時は皆の前に立ち、的確な指示を出しているその姿はとても頼りがいのあるもので、同じ乃木の名を持つ先祖の若葉としては誇らしく思え、愛しくも思えたのだ。

 

だが、自分を貫こうとしてくる拳が寸でのところで止められていた。何事かと若葉が目を見開くとため息をついた赤嶺がいる。

 

「うーん、やっぱダメかなー」

 

肩を回して、不調を表す赤嶺。

 

「やっぱり、仲間に引き込む方で話を進めるよ」

 

「だからそれは無駄だと言っている」

 

どういう風の吹き回しだ、と若葉は思う。今この時点で圧倒的有利なのは赤嶺友奈なのだ。自身と、その関連する乃木の血筋を葬る利点を使わない理由が若葉には分からない。

 

「タイムパラドックスって言っても確信はないしねー。それよりも乃木若葉が死んで他の勇者が逆上して攻め込んでくる・・・・それは避けたいかな」

 

「なら、どうするというんだ?命も取らない、私は取引にすら応じないつもりだ。 お前の計画は既に崩れていると言ってもいいだろう?」

 

 周囲を見渡して、若葉は脱出の機会を窺う。決して諦めてはいけないと、必ず子孫たちがいる場所へ戻るのだと心に決めながら勝機を待つのだ。

 

「そうだねぇ・・・私、一応人を壊す感じのイメージあるけど、壊すってことは、直す事も出来るんだよね」

 

何が言いたいかと言うと、続ける

 

「作る、造る、創る、作り直す。つまり、壊して新しく作り直す。破壊と創造は表裏一体・・・うーん、ダメだなぁ上手く伝わらないから思いっきりシンプルに言うとね」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべた赤嶺が若葉の顔へと肉薄する。彼女の香りが若葉の鼻先を刺激する。それは少しばかり甘さも持っていたのか、一瞬だけ若葉の視界が歪んだ。

 

 

「”調教”ってやつだよ」

 

「調、教・・・・・?」

 

「そう、勇者乃木若葉を私が調教して、造反神様に使える勇者に変えちゃおうって言うのが、私の作戦」

 

「ふっ、何を言い出すかと思えば・・・」

 

 しめた、と若葉は思う。これはチャンスだ、と。向こうのやる事が分かればこちらとしては耐えようはいくらでもある。要はこちらが折れなければいい話なのだ。忍耐力には自信があるし、普通の死なない程度の責め苦ならば耐えられるはずだ、と。

 

 向こうが心変わりをしない間、自分は仲間が戻ってくるまでの時間を稼ぎ、仲間と合流した際にこの状況を逆転するというシナリオが若葉の頭に浮かんだ。

 

・・・これくらい、なんてこと―――。

 

 

「なんてことない、そう思ってるのかな?」

 

 若葉の心を見透かすように、赤嶺は微笑していた。まるでこちらの考えている事が分かるかのように。

 

「俄然、やる気が湧いたよ。これなら思いっきり、どーんってやっても大丈夫だよね?」

 

 右手に嵌めていた手甲を外して、地面へと置く。普段戦闘していても見る事は無かった赤嶺友奈の右手が露わになった。若干の日焼けしたような小麦色の肌と自身が知る友奈たちのような細く、そして柔らかそうな手。

 

 その手が、何をも破壊してきたとされる右手が若葉の頬に触れた時、若葉の身体が一瞬震えた。震えているのを面白がった赤嶺は数度若葉の頬を撫でるように触り、両手両足で身動きが出来ない若葉の顎を人差し指と親指で持ち上げると赤嶺の方へ少しばかり引き寄せた。朱色の瞳が妖しく若葉を捉える。それだけでも、若葉は気を持って行かれそうになる。

 

 

「覚悟してよね・・・メチャクチャにしてあげるからさ」

 




多分、ゴブリンスレイヤーだったら絶対若葉様フィーヒヒ!!ってなってた気がする。今回はありそうでなかった、若葉様と赤嶺さんの絡み。 方向がアッチ系ですが、はい、勘の良い人はオチを書くまでもなくわかりそうですが。

意外とこういう方向性のお話って作るの大変なんですね。色々とやってみて勉強になりました。一応次回で決着させる予定です。短編のネタなので『ゆゆゆい』本編には何も影響はありません。

取り敢えず、若葉様、赤嶺さんファンの皆さんごめんなさい。


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〜それいけ、くっころ若葉ちゃん②〜

若葉様で遊ぶ最後のお話。ちなみに今回活躍してくれるバーテックスさんは状態異常を振りまくウザさで有名なドルチェさん。


「ぐっ・・くうっ・・・あぁ・・・」

 

 変わらぬ樹海の景色に溶け込むように、一人の少女の悶える声が聞こえる。それは乃木若葉の物だ。

 

「ほらほら、もうへばっちゃったのかなぁ~」

 

 赤嶺友奈はとても楽しそうにそう言う。若葉と赤嶺の対決が始まって、10分くらいが経っただろうか。

彼女は若葉に言った。若葉を、造反神側の勇者にすると。

 

―――メチャメチャにしてあげるからさ。

 

そう言って、生唾を呑み、若葉は覚悟する。どんな苦痛を伴う拷問も耐えてみせる、と。

 

たとえ顔を殴られ、骨を折られ、爪を剥がされようとも、信じている仲間の救援が来るまでどんな痛みを耐えてみせると誓ったのだが。

 

「それにしても、流石初代勇者様。 日頃から鍛錬しているだけあって、筋肉質だけどしなやかな身体・・・マッサージし甲斐があるね」

 

 赤嶺友奈の両の手が若葉の二の腕を掴む。骨を折り、痛める為ではなく、骨に纏わりつく筋肉をゆっくりと撫でまわすように揉む。

 

「く、こっ・・こんなもの・・・はぅ・・・」

 

・・・もしやとは思ったが、こちらの”友奈”もマッサージが得意とはッ

 

 若葉の仲間である結城友奈と高嶋友奈もマッサージが得意だった。その手技たるや、手に触れる郡千景や鷲尾須美を悉く骨抜きにしてしまう程である。姿や性格が似ているだけあって予測はしていたのだが。

 

「ずっと刀ばっかり振ってるからだろうね・・・ってことは、ここも」

 

「はぁっ・・・んん!!」

 

 肩甲骨の隙間、筋肉が薄い部分を摩るように掌を回し、段階を上げては親指をその隙間に滑り込ませる。赤嶺の指が若葉の皮膚から筋肉までにかけて溶かしていくようにすんなりと親指の第一関節が入り込んだ。

 

「ここをさぁ・・・ぐりぐり、と」

 

「・・・っ」

 

 肩甲骨の隙間に入り込んだ指はまるで蛇の如く若葉の筋肉を蹂躙していく。普通ならば筋肉により阻まれ、進むことを止める筈なのに、赤嶺の指は巧みに動き回る。

 

普段の鍛錬で肉体を鍛えていたことが災いした。良質で鍛え上げられている筋肉はマッサージの影響を受けやすいのだ。

 

「はぁっ・・はぁっ・・・」

 

「よっと」

 

 肩甲骨に入り込んでいた指は引き抜かれる。若葉の伸びていた背筋から緊張がなくなり、ぐったりと脱力した。もう、立つ余力もないためか、繋がれている触手に半分吊るされている状態である。

 

「”若葉ちゃん”って最初はお堅いイメージがあったけどさぁ・・・そうでもないんだねぇ」

 

「ど、どういう意味だ・・・あと、気安くその名を呼ぶんじゃあない!」

 

「この方が慣れてるから良いかなーって・・・こんなに蕩ける様な顔するなんて意外だったよ」

 

「なっ!! と、蕩けてなど・・・」

 

 顔が熱くなるのを感じながら、若葉は否定する。赤嶺はくすくすと笑いながら、今度は若葉の背後に回った。

 

「本当かなぁ、こことか責められると・・・」

 

 赤嶺の手が若葉の首筋に及んだ。手はゆっくりと下から這うように首筋をなぞり、指は若葉の耳にたどり着く。

 

「ひゃうっ・・・!」

 

「ふんふふーん、やっぱねー」

 

 2本ほどの指は若葉の耳の全体、裏側、骨を触れるか触れないかの接触具合でなぞっていく。それだけで、若葉の身体が小さく震えていた。

 

「耳・・・だいぶ弱いでしょ」

 

「・・・っ」

 

 事実を突かれ、若葉は息を呑む。若葉にとって耳は幼馴染の上里ひなたに日ごろから耳掃除をされている場所であり、若葉も体の力が全身から抜けるほど弱い所だと自覚はしていた。

 

・・・だが、それをよりにもよって敵に知られてしまうとはッ

 

「いっておくけど、こっからが本番だからね・・・」

 

「ふん、これくらいの事で私が屈すると思うか?」

 

「顔真っ赤にして汗たらたらでよくそんな言葉が言えるよねー、ねぇそこのキミー!」

 

 赤嶺が手招きをして呼び出すのは若葉を縛っている植物型のバーテックスだ。うねうねと身をくねらせて赤嶺の前まで現れると赤嶺は指示を出す。

 

「ちょっと、”例のアレ”お願いできるかな?うん、思いっきり、どばーって」

 

・・・何をするつもりだ。

 

 話が済んだのか、バーテックスは蔦をまるで了承したように上下に振ると、その長い蔓を伸ばしてきた。先端が開き、花弁を若葉に向ける。

 

 

「むぐっ・・!?」

 

 花弁から噴き出した粉末が若葉の顔付近を包み込む。せき込む若葉はその際に粉末を吸い込んでしまった。やがて粉末を出し終えて役目を終えたそのバーテックスはその場から去っていく。

 

「それじゃーはじめよっか。これから若葉ちゃんには最高の耳かきをしてあげるよ」

 

 花粉を食らわないように隠れていた赤嶺がひょっこりと顔を出すと赤嶺の合図で若葉を縛っている触手の締め付けが緩んだ。

 

・・・チャンスはここしかない!

 

 拘束の緩み具合は全力の若葉なら腕に力を入れただけで振り解けそうなものだった。何を思って拘束を解く行為まで及んだのか理解は出来なかったが、若葉にとって逃げ出し、反撃をする絶好の好機である。

 

「・・・なっ」

 

 だが、いかに力を込めても若葉が触手を振り解くことは出来なかった。拘束は完全に緩んでいる。それどころか、完全に触手は若葉から外されたのに若葉は動くことが出来ずに地面に落下する。

 

・・・どうしたというのだ……ち、力が入らない……しかも……

 

 脱力感と同時に感じたのは自身の体温の上昇。心臓が脈打つたびにそれは加速し、若葉の行動の自由を奪っていた。

 

 

・・・逃げなくては……

 

 

 力を振り絞り、手と足を動かしてわずかずつ進んでいく。だが、そんな行動は傍から見ればカタツムリが歩いているが如き遅さだ。それを赤嶺友奈が黙って見ている訳がなく。

 

「ははっ、こっちこっち若葉ちゃん」

 

「かはっ・・・!!」

 

勇者装束の首根を掴まれ、強引に引き寄せられると若葉の後頭部を柔らかなクッションが包んだ。

 

・・・膝枕ッ!? 赤嶺友奈の!?

 

「いつもされてる膝枕の具合とはまた違うだろうけど・・・・それよりも、どう? 体が動かないし、凄い熱いでしょ?」

 

 若葉が言わずとも、それは自身の身体の心臓の鼓動と汗番だ顔を見れば分かる事だ。

 

 効果は十分、と赤嶺が頷く。

 

「・・・赤嶺、き、貴様・・一体、なにを・・した・・っ」

 

「さっきの子の煙を吸ったでしょ? アレ、簡単に言うと・・・ちょっとした毒だよ」

 

「なっ!?」

 

「大丈夫大丈夫、体には自由を奪うのとちょっと体が熱くなるだけのクリーンな毒だから」

 

と、若葉の視線は赤嶺の手だ。彼女が持つ小さく、細長い棒がある。その視線に気づいた赤嶺は小さく笑みを浮かべて言うのだ。

 

「これから若葉ちゃんに耳かきするよー」

 

若葉の顎を片手で支え、顔を動かないように固定する。若葉は何をされるかも全て分かっているから逃げ出したいのは山々だが、毒のせいで全く動くことが出来ない。

 

すると、赤嶺が若葉の耳元で囁いた。

 

「多分、これで最後だと思うから・・・覚悟しちゃっていいよ?」

 

「・・・っっ!!」

 

その直後、耳かき棒が若葉の耳の中へと刺しこまれる。刺しこまれると言っても、いきなり奥深くまでいく訳ではない。ゆっくりと、焦らすように、浅い部分から、しかも丹念に耳かき棒を動かしていく。

 

「んにゃっ!?」

 

・・・こ、コレは……マズイ……!!

 

「こしょこしょこしょ・・・っと」

 

 耳かき棒の先端の部分が若葉の内壁を軽く、小刻みにひっかく。

 

「うあぁ、うあぁぁっ、ふぐっ・・・」

 

 赤嶺の動作一つ一つ、若葉の弱い個所を的確に責めていた。だが、若葉も黙ってやられている訳にはいかない。身を焼くような快感に負けないよう、勇者装束の一部を口に含んで声を押し殺す。

 

・・・わ、私は絶対に屈しないっ

 

「若葉ちゃーん、我慢しても無駄だよ」

 

「ふー、ふー、・・・んぐっ!?」

 

 息継ぎの間、若葉の背筋が震える。耳たぶを軽く引っ張られ、露わになった耳の窪み部分を耳かき棒が走った。小さく、引っ掻くような動きは若葉の思考を徐々に狂わせていく。

 

「や、やめ・・やめろ・・・っ・・・あか、みね・・んあっ」

 

「あんま動かないでー、怪我しちゃうかもよ」

 

こちらの意見など聞く耳持たないといった感じで赤嶺の耳かきは続行される。耳かきだけでなく、時には耳周りのツボも刺激されて若葉の口元から力が抜けるのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

――――数分が経過する。

 

 

「・・・ふあ」

 

 執拗な責めによって若葉の顎は動かなくなっていた。

 

「いい顔になったねー、若葉ちゃん、今どんな顔してるか見てみよっか」

 

 赤嶺から手鏡を差し出され、その目の前にいる少女を見て若葉は目を疑った。

 

 

・・・これが、わたしなの、か。

 

 

 目を疑う。そこには髪は乱れ、惚けた顔でだらしなく口元から涎を垂らす乃木若葉の姿がそこにあったのだから。

 

「普段勇者達を取りまとめているリーダーも、これじゃあ形無しだねぇ」

 

 

・・・く、屈辱だ。こんなの……

 

 若葉は涙を浮かべる。それはここまで良いようにされて何も抗えないでいる自分がいるのと、実際に赤嶺の耳かきに自身が感じてしまっている事だ。散々と赤嶺友奈の責めに耐えられると豪語したのに、蓋を開けてみれば自分はまったく歯が立たなかった。

 

 

・・・しかも私はこの耳かきに....

 

期待をしてしまっている。

思考はどんどんと赤嶺友奈の色に染まりつつあり、彼女の耳かき行為がまだ若葉が到達したことが無い世界へ連れて行ってくれることを望んでいるのだ。

 

「いいんだよ若葉ちゃん」

 

 まるで心の中を見透かすように赤嶺が顔を覗かせる。

 

「いーっぱい、向こうの世界で頑張ってたからね・・・戦って、戦って、疲れてたもんね。私のモノになっちゃえば・・・今まで守ってきたものを捨てちゃえば、楽になれるよ・・・それとも」

 

 卑しい笑みを浮かべて赤嶺が耳元に顔を近づける。次の瞬間、若葉の耳に向かって彼女の息が吹きかけられた。

 

「ふにゃあああん!!」

 

・・・こんなの……私は知らない! 今まで、ひなたにされてても……

 

 幼馴染の耳かきの途中、たまに悪戯で同じように息を吹きかけられたことがあったが、今のような感じ方は無かった。こそばゆい程度であり、今のように声を上げて乱れてしまうような事は一度も無かったのだ。

 

 

「まだまだあるよ? 若葉ちゃんの知らない”気持ちイイこと”がさ」

 

 数度息が吹きかけられる。浅い部分、深い部分、どちらも強すぎず弱すぎずリズミカルに。その絶妙さは若葉の脳を揺さぶるには十分だった。

 

「ひゃ、ひゃめろ・・・あきゃみねぇ・・しょ、しょれはもう、らめっだ・・・っ」

 

 自分でも何を言っているか分からない。若葉の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 

「かわいいね若葉ちゃんは・・・今は口もまともに聞けないだろうからさ・・・私に従って、こっち側の勇者になるんだったら頷いてくれればいいよ。もちろん、今までの仲間は捨ててね」

 

・・・友奈、千景、球子、杏……。

 

 ぼやけた頭の中で思い浮かべるのは旧世紀の、元の時代でともにバーテックスと戦っている仲間たち。そして、巫女として常に若葉の帰りを待っている愛しい幼馴染。

 

・・・ひな、た……!

 

できない、と若葉は心の中で否定する。自分を信じ、互いに背中を合わせて戦ってきた大切な仲間たちを若葉は裏切る事は出来ない。これまで培ってきた絆と思い出が若葉の意識をギリギリまで繋ぎ止めていた。

 

「まだかーな?・・・れろっ」

 

「ひっ・・・・」

 

 耳の裏に、にゅるんとした感触が走る。 赤嶺の舌が若葉の耳の外側をつつーっと、なぞった。全身を電気が走ったような感覚、同時に若葉の頭の中で何かが弾け飛んだ。

 

・・・あれ、私……なに、を…

 

 大切な友たちの顔が、思い出せない。自分は何か大きな役割を担っていたはずなのに。

 

 

・・・だれ、だろう……。

 

 笑顔でいつも自分を迎えてくれていた幼馴染の顔も若葉はもう思い出すことは出来なかった。

 

 だが、その中でも若葉は思う。

 

・・・すまない、みん、な……私は、もう……。

 

 自分はもう誰に謝っているのか分からない。だが、こんな状態になり、これからする自分の行動は謝らずにはいられないのだ。罪悪感と快楽が混ざり合い、勇者乃木若葉の精神は崩壊していく。

 

 

―――若葉は小さく、頷いた。

 

 それは、服従の証。この世界で敵対する造反神の手先になること。これまでの仲間たちを全て裏切るということ。そして、赤嶺友奈の手に堕ちるという事。

 

「ふふ・・・じゃあ約束通り、だね」

 

 無邪気な笑みと共に、若葉の耳へ再び耳かき棒が迫る。若葉にはもう抵抗する気力はとうに消えうせ、ただただ与えられるであろう快楽に身を任せる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――そして赤嶺友奈は言うのだ。『これは我慢できるかな若葉ちゃん”』そうしてこれまでの34倍のスピードで動く耳かき棒に耐えられずにご先祖様は――――――――」

 

「ああっ! 凄いよ小学生の私ッ! こんな創作のアイディアが小さい頃の自分のゆめから生み出されてくるなんて・・・ッ  メモメモ」

 

「ビュオオオオオオオオオオ!!」

 

「ビュオオオオオオオオオオ!!」

 

 二人の乃木園子が目に生えたての椎茸を宿らせてメモ用紙にひたすらペンを走らせる。鼻息を荒くしながら物凄いスピードで舞うメモ帳の片紙。

その舞散る用紙に埋もれるように鼻血を垂らす一人の少女がいた。伊予島杏である。

 

 

「あ、ああっ、園子先生、園子ちゃん、流石すぎます・・・! 私、今は時が見える!」

 

「うおーい杏! 戻ってこ―い! お前が今行こうとしてるのは多分行っちゃいけない所だッ タマが連れ戻してやるから待ってろー!」

 

「ちょっと土井さん、連れ戻すって・・・どうするの?」

 

「止めるなよ千景! タマもこれから頭を打って杏と同じところに行く! そしたら杏も連れ戻せるだろ!?」

 

「・・・いいわ、止めないからさっさと逝ってきなさい」

 

「ぐんちゃーん! 字が違うよ字が! それ死んじゃうほうの字だって!!」

 

「・・・・」

 

乃木若葉は思う。この神樹が作り出した世界に来てから皆おかしくなっているな、と。

 

「ああ! イイッ! くっころ若葉ちゃん最高ッ!!」

 

 嬉々とした表情で園子の小説を聞きながら常軌を逸したスピードでパソコン画面にタイピングしていく上里ひなたは今日もフルスロットルだ。

 

「いやーまさかあの植物バーテックスを見て創作意欲がガンガン湧いてくるとは思いもよらなかったよー」

 

「そうだねー、これなら勇者部の皆にも応用が利くかもしれないから色んな人で試そうよ! 次はにぼっしーとゆーゆで!」

 

「なら私はミノさんとわっしーで試すよ!」

 

 二人の乃木の子孫たちは今日も常識のメーターを振り切っている。どうやら今度は同僚達をも自身の小説の中で陵辱するらしい。

 

「あれ、ご先祖様、どうして生太刀なんて構えて・・って」

 

「いやははは、般若のようなお顔は、わかちゃんには似合わないかなーって・・・」

 

「そーのーこー! 今日と言う今日は許さんぞ! 明日の朝まで正座だァ!!」

 

「ひいーーーーーーん!」

 

「ひいーーーーーーん!」

 

 

 乃木園子のメモ帳はこの後、怒りの若葉によって殆ど没収されたのだった。これ以降、若葉が植物型のバーテックスを見て真っ先に自ら討伐するようになったのは言うまでもない。

 




僅か2時間半て作ってしまったお話。タイトル通りあんまくっころ出来なかった.,..悔しい。

というか最後のオチだけだとただの「園子の夢」になるじゃねーかと執筆終盤で気付いた。

絢爛大輪祭、始まりましたね、20連して土井珠子、迎え入れました。 メブが欲しかった...

こっちの短編はほのぼのイチャイチャなんでもござれな展開になりそう。思いついたらまた書く予定です。


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〜千景と若葉〜

みんなにとって「ぐんわか」なのか、「わかちか」なのか分からない...., 教えてくれ園子先生!さて、皆さんはどっち派?


 四国、香川の空に剣戟の音が響いている。

 勇者服に身を包んだ少女たちが砂浜を駆け、跳び、同時に散っていく砂の勢いがその剣戟の激しさを物語っていた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

 ぶつかる得物は刀と大鎌。 二つは大きく、金属音を鳴らし、だが鍔迫り合いに持ち込む事なく、交わされるのは一瞬の剣戟のみ。

 

相対しているのは二人の少女だった。 一人が桔梗の色合いを強く残した青の勇者服に身を包んだ少女、乃木若葉。 片方は彼岸花の色、赤の勇者服の少女、郡千景。

 

「手に汗握る戦いです! 頑張ってくださいね! 決闘若葉ちゃんです!」

 

「ぐんちゃーん! 怪我だけはダメだよー!」

 

「千景さん! ロックっす!」

 

 目を輝かせてシャッターを切る上里ひなた、千景の応援をする高嶋友奈、三ノ輪銀などの他の勇者達もこの戦いの様子をそれぞれが見物していた。 そもそも、なぜこうなったかと言えば、普段週末は個人訓練となるのだが、”どこかの脳筋勇者”が”模擬戦だ”と提案したからだった。

 

「うむ」

 

「何が、”うむ”なのかしら乃木さん」

 

「千景とこうして戦うことになるとは思わなかったからな」

 

「あらそう」

 

 笑みを作る千景だが、その下では凄まじい業を煮やしていたのだ。

 

・・・・・どうして週末土曜に、こんな模擬戦を提案してくれたのかしら・・・・・。 よりにもよって、高嶋さんをショッピングに誘おうとしていた土曜日にッ

 

 自身の武器である大鎌を握る手に力が入る。 この訓練を提案した脳筋勇者である若葉を睨み付けるが、当の本人は頭にクエスチョンマークを浮かべて、首を傾げる程度だ。

 

「先祖子孫揃って天然がッ」

 

「な、なぜ怒っているのだ? 私は何か怒らせるようなことをしたか?」

 

 この返しこそがもう天然の証拠だ。 と、額に青筋をうっすらと浮かべた千景である。 

 

 高嶋をショッピングに誘おうとしたのは先週だ。 予定を聞いては高嶋自身も”休もうかなー”と言っていたから実質この模擬戦が無ければ今頃千景は最高の休日を満喫しているだろう。  

予定がなかったのを確認した時点で誘わなかった事を千景は金曜日に後悔した。

 

 不思議なのはこの模擬戦を行うに当たって他の勇者達が意外なことに乗り気だったことだった。終いには、

 

「ふむふむ、最後に残ったこの二人が戦うワケね。 さぁ、どっちが勝つか、昼のかめやのうどんを賭けるわよ」

 

「いやー、流石にノギーっしょ。 一回戦ったことあるけど、小細工通じないトロールだわ」

 

 卑しい笑みを浮かべた犬吠埼風と秋原雪花がなにやら人の勝負で賭け事をしようとしている始末だ。 だがそんな状況に、

 

「二人とも、千景先輩と若葉先輩の真剣勝負をそんな賭け事に使っちゃいけません・・・めっ! ですよ!」

 

 防人組の巫女、国土亜耶が膨れ顔で二人を注意すると、バツが悪かった二人は亜耶の頭に手をやり、

 

「冗談よ冗談。 ね、雪花?」

 

「にゃあ」

 

 と諌めてしまっていた。 彼女は聖女か、何かか。

 

 

「いくわよッ」

 

 千景が大鎌を構えて、若葉へと駆けて繰り出したのは袈裟懸けの一撃だ。 ちなみに勇者の武器はそれぞれ模造で、尚且つ刃の部分には上から厚めの布を巻いている。

 

「ふんッ」

 

 対して若葉は刀を構え、千景の鎌の刃の腹を狙い、叩くことで軌道を逸らした。 鎌は砂の地面へと突き刺さり、完全に躱される。 上から振り下ろされる大鎌の一撃は受け止めることは得策ではないと若葉は判断した。 

 

即座に若葉がカウンターの要領で刀を千景の横腹を掻っ捌く勢いで一閃する。

 

「甘いわッ」

 

 千景が取った行動はバックステップだ。 地面に突き刺さっている鎌ごと引き抜き、後方へと跳躍する。 足場の悪い砂場であっても、勇者としての身体能力の前では、さして障害にはならない。 

 

もともと千景の初撃は当てる事を目的としていなかった。 だから若葉が避ける事も、反撃してくることも予見し、回避に徹することが出来たのだ。 いわば、様子見である。

 

「ここに来る前とでは、動きが見違えたな・・・・・千景」

 

 数十メートルほど距離を取って着地した千景に贈られたのは賞賛の言葉だった。

 

「あまり、嬉しくはないものよ・・・・・乃木さん」

 

「そうか? 振りの重さも、踏み込みのスピードも、咄嗟の対応力も・・・・・今までの千景と思えない」

 

 新手の煽りかしら、と、千景の表情が曇る。 だが若葉に悪気はなく、これは本心だ。 だから彼女を責めようとは思わない。 それでもその本心を快く思わないというのは、自分の器が知れるな、と千景は思う。

 

「それをなんと呼ぶか知ってるかしら、乃木さん・・・・・”油断”よ」

 

 模造の鎌を持ち、千景は再度若葉へと駆ける。 今度は千景が鎌を真横へと構えて繰り出してきた。 先ほどの若葉への意趣返しだ。

 

「いや、これは”油断”ではない」

 

 対して若葉が、冷静な表情で刀を翳す。

 

・・・・・受け止めるつもりッ?

 

 千景の鎌は特殊だ。 その大きさゆえに、先端の刃も重く、遠心力を得た鎌は刃としてだけでなく、鈍器としても利用できる。 細い刀で受け止めようものなら若葉ごと、もしくは武器を吹き飛ばす事など造作もない。

 

だが、次の瞬間に千景が感じたのは異様なほど軽い感触だった。

 

「これは”余裕”と、言うものだ」

 

 どこの秘剣使いだ、カグツチでもつかうのか、と内心でツッコんだ千景が自身の手に感じる軽い手ごたえの正体を見る。

 

「たしかに千景の鎌は、先端が重く、刃の部分をまともに受けようものなら、私の模造刀では防ぎきれないだろう・・・・だが」

 

 戦いに精通した若葉は知っている。 そもそも、もともと農具であった鎌という武器は闘いを想定して作られていないのだ。

 敵の兜の隙間に見える首や、盾の兵士の死角である真上を狙う為に用いられたのだが、千景のようなサイズの鎌では大振りで隙になるし、そもそも刃から手元にかけては完全に死角となる。

 

 

 そして鎌の重量が集中しているのは刃の部分だ。 だが、柄の部分はそれほど重くはない。威力もだ。 野球で言うバットと同じで、先端、真芯でとらえればボールは遠くへ飛ぶが、根本付近では内野すら越えられない。

 若葉が千景の鎌に対して行ったのは、柄の部分に刀を当てた。それだけだ。後は若葉の筋力だけでもなんとかなるのだ。 

 

「そんなッ」

 

 自身の攻撃がこうも簡単に無力化させれてしまう現実に、千景は焦る。 だが、これが武人・乃木若葉である。

 

「どうする?」

 

「え・・・・・」

 

「勝負は身体の一部に武器を当てる、か、相手に負けを認めさせるか、だ」

 

 ルールを再確認する若葉。 その意図は現状の圧倒的有利のためだ。 鎌の刃は完全に若葉の射程から外れてしまっている。 そして若葉の刃は千景の鎌の柄に鍔釣り合いしており、すぐにでも千景に刃が届く。

 

「そうね・・・・・」

 

 千景自身も分かっている。 自分が圧倒的に不利だということも。 ギブアップするに値する状況だが、

 

「ぐんちゃん・・・・・」

 

 心配そうに見ている高嶋を見て、不利である状況で千景は顔を伏して、

 

・・・・・高嶋さんの前で、ねぇ。

 

 むりっしょ。 と、柄にもなく、そんな口調を心の中で呟いた。 言える訳がないのである。

 

「断固ッ 拒否ッ」

 

 力強く、真横で防がれている鎌を思いっきり、自身の方へと引っ張った。

 鎌を受け止めていた刀の腹の部分を柄が横滑りするように急速に若葉の背中に千景の鎌の刃が迫る。 この勝負は武器があたるか、負けを認めさせるか、だ。 だから武器の刃の部分が当たれば、それで千景の勝利である。 ここで千景は鎌の柄の長さという利点を生かした最後の攻撃へと出た。

 

 

「・・・・ッ」

 

 次に千景が見た光景は、空を舞う若葉の姿だった。 

 鎌の刃が当たるその瞬間、若葉はバク中し、空へ跳んでいた。急ごしらえの跳躍のため、千景の頭を越えたくらいの跳躍だが、千景も唖然とするが周りの勇者達も同じく唖然としている。

 

「ふんッ」

 

 若葉の背にある太陽と重なり、千景の視界が完全に奪われる。 思えば若葉はこれを見越して、最初から太陽を背に戦っていたのかもしれない。

 

・・・・ッッ、くやしいのに、な。

 

 千景は思う。 心の底から負けたくないと思った相手。 

自分の持てる技術と根気立ち向かった相手。 だが、若葉はそれすらも自身の技術で打ち返して見せた。 そして太陽の背に空を舞う彼女を見て思ったのだ。 

 

不覚にも”美しい”と。

 

 

「終わりだ・・・千景」

 

 

 スコンッ、という軽い音が香川の海空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとにもう、手加減ってものを知らないのかしら・・・・・」

 

「ちーちゃん、ご先祖様のバトル・・・・熱かったよ~。 なんかこう、凄いYu-joが生まれそうな感じで~」

 

 千景の部屋にて珍しくいる来客は乃木園子だ。 この乃木園子は中学生の方である。

 

「あれ人間じゃないわ・・・・・弱点とかあるの?」

 

「なんで私に聞くのかな~」

 

「そりゃあ、子孫だし・・・・・」

 

 えー、と言った表情の園子。

 

 あの後、千景と若葉の勝負が最後の組み合わせだったので模擬戦はその午前で終了。 一同はそれぞれ解散し、遊びに行く者、かめやに行く者とそれぞれ分かれ、千景もその集団に誘われたかけたがあの勝負の後で疲れたのか一人で知らぬ間に寮へと帰ったのである。

 

 なるべく高嶋に気づかれないように帰ったのだったが、部屋へ帰って数分後。 ドアを豪快に開けた園子が奇声を浴びて入ってきた時は驚いてコーラを落としてしまったくらいだ。

 

「いやー、なんかちーちゃんが傷心してるなーって」

 

 傷心、と聞いて千景は小さくため息をつく。 

 

「・・・・気にしてくれてるのね。 ありがとう」

 

 実際、園子の言う通りで実力以上の戦いをしたにも関わらず、若葉の圧倒的な技術には完敗だった。 年齢も一つ上なのは自分なのに、こうも違うものなのか。

 

「別に、心配することではないのよ・・・・・ただ、やっぱり悔しいし、ね」

 

 勝負の後、若葉を囲んで賞賛の嵐が吹き荒れた。 彼女のその強さと誠実さには誰もが目を見張るものがあるし、誰もが彼女のその姿を見ては羨望の眼差しで見つめる。

 

 

 正直、羨ましいと千景は思った。 それは自分には無いものだから。

 

 

「ふっふっふ・・・・・御先祖様の弱点が知りたいかい、ちーちゃん」

 

 妖しい笑みを浮かべている園子のワードに、千景が食いついた。

 

 

 

 

「ええーっと、これを持って行け、と?」

 

 手に握られている”かめや”の割引券を二人分もった千景がいるのは、若葉の部屋の前だ。

 

 

”ちーちゃんにはこれをご先祖様に渡しに行ってほしいのです。 拒否権はないのです~”

 

 と、半ば強制的に渡されて、今この状態だ。 突発的な行動が多いのは知っていたが、自分の予測を常にななめ上を行く、簡単に言えば読めない。それが乃木園子である。

 

 

”あと、御先祖様って、普段はあんなにかっこいいんだけど~、結構隙だらけな所が多いんだよ~”

 

「それは確か、上里さんも言ってはいたけど」

 

 深く考える事は止めて、用件を済ませる事にした。 若葉の部屋のドアをノックする。

 

「乃木さん・・・・・渡したいものがあるのだけれど」

 

 返事はない。 その後何回か繰り返してみたが、反応は無かった。

 

「いないのかしら?」

 

 ドアノブに手を掛けて、試しに回してみると鍵がかかっていなかった。 あまりにも不用心すぎではないか。

 誰も居ないのなら、戻ろうかと思った時だ。部屋の中から、小さく何かが聞こえた。

 

「あら・・・・」

 

 小さく、だが確かに聞こえたのは寝息だ。 中をゆっくりと開けてみれば、テーブルに顔を預けた若葉の姿があった。

 

 

・・・・・こんな所で寝ちゃって・・・・・。

 

「すー、すー」

 

 心地よさそうに寝ている辺り、疲れていたのか、うどんを食べすぎてから来る眠気に勝てなかったのか。

 ため息をついて、千景はゆっくりとドアを閉めてから若葉の側へと近づくと。

 

・・・・・風邪、ひくじゃない。

 

 近くに置いてあったタオルケットを若葉の背に掛けてあげた。

 

「ふむっ!?」

 

「ヒッ!?」

 

 直後、若葉が声を出して千景も思わず肩をビクつかせた。 若葉は口元を動かし、だが目は開かずに、

 

「そ、園子・・・・・いつから16等身でサッカーをやるように、なったんだ・・・・・・」

 

・・・・・とんでもない夢を見ているわね。

 

 恐らく若葉の世界では長身の園子がボールと友達になりながら、小学生の園子とスカイラブハリケーンを決めているに違いない。

 

「・・・・まぁ、確かに隙だらけ、か」

 

 緩みきった表情の若葉を見て千景は園子に言われた事を思い出す。 戦い以外の事になると、だいぶポンコツだったんじゃないか、と。 今更ながら千景は思った。

 眠っている若葉の隣まで来ると、そのまま千景も座り、テーブルに頬杖をついて少し下の角度から若葉の様子を窺った。

 

「すー、すー・・・・」

 

「どうして、アナタは・・・・・」

 

 心の中で千景は続ける。 ”そんなにも、凄いの”か。

 誰に命令された訳でもなく、自分の意志で動き、発した言葉に自信を持ち、結果を出す。 それを見て、周りの誰もから尊敬を集めている。

 

 比べて、自分はどうだ。

 

 幼いころから、疎まれ、蔑まれ、自分でも人生に無意味だと悟っている。郡千景の人生観とはそう言うものだった。 しかし、勇者に選ばれて、周りから祝福され、元の自分に戻りたくないと思って、必死にもがいている。 勇者なのに、なんと卑屈なものか。

 

 

 彼女が羨ましい。 皆の信頼を集め、先頭に立つ乃木若葉が。

 

 

「いまなら・・・」

 

 彼女は寝ていて、部屋には誰も居ない。 常に一緒にいるであろう上里ひなたも何故かここにはいない。 

 

 チャンスだ。

 

・・・・なんの?

 

 自問自答して、彼女は自分でも吐き気を催す感情に襲われた。 彼女をあらゆる手を使って陥れる事だ。

 西暦のリーダーを、皆から羨望の眼差しを集める勇者・乃木若葉の評価を陥れろ。 その機会は今、目の前にあるのだ、と。

 

千景の内なる声がそう促す。

 

「・・・・」

 

 なんでもいい。 写真を撮ったりとか、落書きをしてやるとか、なんなら、傷一つ負わせたって構わない。

 千景の手が小さく震える。 その震えている手がゆっくりと若葉の白い肌へと伸びた。

 

 

 

 

 

 

 

「できないわよ・・・・・」

 

 千景はハンカチを持って若葉の口元に付いていた涎を拭いていた。

 

「むにゃむにゃ・・・・」

 

 確かに、以前の世界にいた千景なら、そう言った行動をしていたかもしれない。 自分の評価が下がること、勇者として誰も見てくれなくなること、誰も必要としてくれなくなることが。 その経験があるからこそ、震え、そうなる事を恐れていた。

 

 だが、今の千景は違う。 この世界に来て、様々な勇者に会ってから千景は変わった。

 小学生組の勇者の中では一番前衛を務める三ノ輪銀。

 勇者部の出来る姉を持つその妹、犬吠埼樹。

 

 彼女たちはこの世界に来て間もない頃、自信が無かった千景を信じて、その元で何度も戦い、今でも付いてきてくれている。 それは以前の千景ならできなかっただろう。 

 自分を信じてくれている人の為に全力を尽くす。それが今の千景には出来る。 そしてそれは、若葉ほどではないにしろ、人望を集める事に繋がっているのだ。

 

 

”ぐんちゃんの手って、あったかいよね!”

 

 

 何より、ずっと側で見守って、助けてくれている高嶋を裏切る事だけはしたくない。 ましてや、自分がそんな事をして泣いている顔なんて、見たくない。

 

「それに、乃木さん・・・・・」

 

 その先の言葉を言うには、少しだけ気恥ずかしくある。 だから間を空けて、千景は一言。

 

「私は・・・・多分あなたに、憧れてる、のかしら」

 

 自信はない。 いつもの事だ。 だが、若葉がリーダーシップを発揮してる姿を見て、自分も張り切っているのは事実だ。 だから彼女が高嶋の件で千景とぶつかった時も、そんなリーダーらしくない姿をしている若葉を見たくは無かったのかもしれない。

 

 

「ふ、ふむむ・・・?」

 

 程なくして、若葉の重い瞼が開いて大きく欠伸をしながら顔を上げた。

 

「・・・・・なぜ千景が居るのだ」

 

「おはよう乃木さん。 いい夢は見れたかしら・・・・」

 

 質問の答えになってはいないが、くすくすと千景は笑う。

 若葉は背に掛かっていたタオルに気付いて、手に取ると千景を見て、

 

「千景が掛けてくれたのか? ありがとう・・・・・」

 

「別に・・・・アナタは私たちのリーダーでしょ。 それが風邪なんか引いてたら、締まらないじゃない・・・・・まったく」

 

 顔を背けたのは自身の顔が熱くなったのを感じたからだ。 面と向かってお礼を言われるのは、やはり恥ずかしいことだな、と千景は思う。

 

「そ、そういえば、園子さんからコレ・・・・」

 

 要件を思い出して、千景は”かめや”の割引券を取り出した。

 

「ああ、そう言えば期限が切れそうだけど自分じゃ行く暇がないから使ってくれと言っていたな」

 

 と、よくよく見るとその割引券の機嫌は明日だった。 ホントに急な案件だったんだ、と千景は苦笑い。

 若葉はそのチケットを受け取ると少し考えてから、

 

「どうだ。 私と千景でいかないか?」

 

 そう言った。

 

「え・・・?」

 

 思いもよらない一言に、眼を丸くする千景。 若葉は続ける。

 

「いつも世話になっている。 このお礼もしたいのだ」

 

「べ、別に・・・・いいけど」

 

 うむ、決まりだな、と言った所で。

 

「ところで千景・・・・私が寝ている間に何かしなかったか?」

 

「へ?」

 

 口元をその形にして、千景は首を傾げる。

 

「ひなたや園子だったら”シャッターチャンスだ!”と言って何枚も写真を撮っている所だ! もしかしたら千景・・・・その携帯を見せるんだ!」

 

「い、イヤよ!私が写真撮ったっていうの?・・・・というかなによこの展開ッ!?」

 

 ずい、と千景に詰め寄る若葉に身を捩って回避しようとするが残念なことに後ろにはベッドと壁際に囲まれていて逃げ場がない。

 

「撮っていなければ、見せれるはずだ!」

 

「プライバシーって知ってるかしら乃木さん!?」

 

 思わず立ち上がって逃げようとする。 しかし行く手を若葉に遮られ、携帯を持っている手を掴んだその瞬間。

 

「あ・・・・」

 

 千景のバランスが大きく崩れる。 若葉もだ。 二人は同じ方向に自由落下し、倒れる。

 不思議な事に痛みは無い。 それもその筈で、千景の真後ろには若葉のベッドがあったのだから。

 

 ただ、一つ言うとすれば。

 

「ちょっと・・・・・」

 

「なんだ・・・・・」

 

 若葉が千景の上に覆いかぶさっていた事だった。

 

「殺すわよ・・・・」

 

「凄い殺気だな・・・・・だが動けまい」

 

 千景の手首は若葉の両の手でしっかりと固定されている。 下半身も、上手いこと足をからませて千景が動けないようになっていた。

 

「む、千景・・・・良い匂いがするな」

 

「そりゃシャワーした後だし当然・・・ひゃっ!!」

 

 若葉の顔が吐息の届く距離まで近づく。 首元に顔を近づけると若葉の息が千景の首元に吹きかけられ、なんとも言えないもどかしさに千景の身体が小さく震える。

 

「うむ、やはりいい匂いだ。 何のシャンプーだ?」

 

「だ、だから・・・・んんっ・・顔が近いって! こんな所誰かに見られたら・・・・」

 

 

 

 その直後だ。

 

 

 

 

「若葉ちゃーん! お約束してた耳かきの時間ですよー!」

 

 勢いよく扉を開けて入ってきたのは耳かきセットを抱えた上里ひなただった。 

 

「あ・・・・・」

 

 仰向けになっていた千景が扉前に立つひなたを捉える。 その時のひなたの瞳は、ハイライトが消えた漆黒そのものだった。

 

「・・・・・・」

 

 ひなたも耳かきセットをいつの間にか落下させていた。 彼女の視点からでは若葉が千景を押し倒し、首元に顔を寄せている姿がキスをしているように見えたのだろう。 

 

数秒後、ひなたが口を開いた。彼女は肩をわなわなと震わせて、

 

「ど、どろぼう! どろぼうわか、ば、ちゃん・・・・! うわきわか、ばちゃん、うわああああああ!!」

 

 目に涙を浮かべて、この世の終わりみたいな顔をして彼女は部屋から出ていった。 それと同時に、

 

「あれー、ヒナたんが泣きながら出ていったけど・・・・・こ、これはッ!!」

 

 乃木園子がその現場を見て、その瞳をシイタケに変形させて叫んだ。

 

「やったぜェ! フォオオオオオオオオオオ!!」

 

 口元から涎を出しながら、台風のような勢いで園子は飛び出していく。 噂が広まるのは時間の問題だろう。

 

「ちょっと! 誤解よ! 誤解なんだってばあああああああ!!」

 

弁明の余地すらなかった。 千景はこの日、初めて若葉に対して明確な殺意が湧いたという。

 

 なお、高嶋に納得してもらうのに三日くらいかかった。

 

 

 




友だちの"ゆゆゆ紳士"に「ぐんたか」書こうぜ、と言われる。
五穀化してでも俺は「ぐんわか」書くと反論。6000文字くらい書いたくらいになぜか最初の190文字くらいしか保存されておらず、自動保存もされていない事態に遭遇。書き直しを食らう。

これは天の神の呪いかなにかか。

???「せめせめ若葉ちゃんもいいですね・・・」(魔女化しながら

風先輩と雪花がゲスい感じになった。申し訳ない。


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