【MHXX】キリンちゃんとイチャつくだけの話 (屍モドキ)
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番外編シリーズ 番外編 一式装備お披露目会

 どうも、謎の人物X(さくしゃ)です。

 えー、本日はメインヒロインことシロちゃんに様々な装備を着てもらいたいと思いまーす。

 あ、あと今は主人公君の中にいます。

 

 はじめまして。

「あの、マスター?」

 違います。今は謎の人物X(さくしゃ)です。

「は、はぁ」

 じゃあ始めにに一番最初に出てきた主人公のお気に入りキリン装備から着てみようか。

「わかりました」

 

 少しお待ちください。と言いながら部屋から出ていき、暫くしてオリジナルのキリン装備で部屋に入ってきた。

 因みに改めてご紹介しましょう。

 

 頭キリンR

 胴キリンXR

 腕キリンXR

 腰キリンR

 脚キリンS

 

 となっております。

 おぉー、やはり良いですね。贔屓目かなり入ってるけどこれは光るものがあるんじゃないか?

「そ、そうでしょうか?」 

 では軽く動いて見てください。

「わかりました」

 

 彼女はシャドーボクシングの要領で虚空に向かって連続で拳を打ち出した。

 上段回し蹴りでチラつく中身をよく確認しようとしたらシロちゃんは慌てて腰回りを押さえながら距離を取った。

 

「~~~~ッ!」

 おぉ、怖い怖い。

「見ましたか!?」

 (見て)ないです。

 大丈夫です、何もしませんから。

「………」

 

 なおもジト目で睨むシロちゃんかわええのぉ。

 

 よし次行ってみよー。

「・・・・・・わかりました」

 

 今度はキリンSシリーズに着替えてもらった。

 昔ながらの活発的で肩や腹部、太股まわりなどの露出が多い装備でドスから沢山のプレイヤーを虜にしてきたであろう元祖キリン装備。

 

 頭部は上で纏めていると思われる髪型で、長さは首まわりまでと割りと短め。

 胸部はバンドを巻いてその上からキリン皮のチョッキを羽織り、ゲリョスの皮で首もとと肩まわりを守っているが胸元はスリットが入っているのでなんとも。

 腕は二の腕にベルト、肘から手首にかけてキリン皮が巻かれており、ベルトまでをゲリョス皮で覆っている。手には手袋が填められておりキリン皮は手の甲まできている。

 腰はベルト一本に股間が隠れる程度の前掛けと左右、後ろに毛が付けられていて、上からゲリョス皮がアーチ状に左右に着けられており、後ろにはアーチの先端を留めるようにハート型のポーチとその下に尻尾のように一束の毛が伸びている。

 脚は太股まであるソックスで膝から足の甲までルーズソックスのようなデザインになっており、上下に毛皮、踵は見えず、パチッとした太股回りに反して少しだぼっとしたものになっている。因みに白色。

「演説どうも」

 

 ※今回はキリンSの一式なので説明は省きます。

 

 少し露出が強いのか見られることにちょっとした羞恥心を感じて身をよじり、顔を赤らめるシロちゃん。

 

 素晴らしいッ!!!

「ひぃっ!?」

 では次に行きマッショイ。 

「は、はい」

 

 

 お次はキリンRシリーズ。

 登場は4からで発掘装備限定と言うことでかなり入手に手こずった方も多いのではなかろうか。因みに私はこの時は入手を諦めていました。

 4Gでは亜種の方がイベントのチケットで製作可能で発掘に比べればまだ入手が手頃でした。内容はそこそこ鬼畜ですが。あと亜種は原種と違って白色でなく黒色がメインカラーです。

 

 見た目はまず活発的で短かったSの頭部に比べ、落ち着いたロングヘアーが特徴的。所々跳ねた毛もいいポイントですね。

 胴はコレ完全にビキニですね。厚手のビキニと言う感じ。見方によっては下着に見えなくもない。

 腕は左右非対称で右腕は二の腕と手首にベルトが巻かれ、その間をひし形の編み目でくるまれています。反対に左腕は二の腕のベルトは同じですがそこから下はキリンの皮で末広がりになっていて、着物のようにゆったりとしています。そして両手とも手袋。

 腰は大きめのベルトの直下に腰回りを覆うキリンの毛が付けられていて、スカートの役割をしています。その上から細いベルトが斜めがけで取り付けられており、下がっている所にハート型のピンクのポーチ、左側の前後に縦長のキリンの皮が二枚付けられ、右後ろには短い毛にに紛れて先端を結ばれた二房の毛が流れるように出ています。

 脚はSとは異なりすらりとしたハイニーソのような、脚のラインが見えるデザインで、ガーターベルトが設けられています。此方も白色。

 

 おっと、熱が入ってしまいました。

「軽く引きますよ」

 

 では今回はお次でラスト。

 少し趣向を変えてキリン以外の装備を着てもらいましょう。

「何を装備するんですか?」

 べリオです。

「あんまり変わらないと思うのですが、まぁ分かりましたよ・・・・・・」

 

 ぶっきらぼうに一度退室し、数分してからシロは部屋に戻ってきた。

 

「どうでしょうか?」

 

 べリオ装備、3、3rdから登場したモンスター、べリオロスから作られる装備で、その見た目からキリン装備に似ていると話題になった装備。

 頭部は殆どキリンSと似ているが、キリンの特徴的な角は無いものの代わりとして揉み上げの所に橙色をした牙がサーベルタイガーように下に向いて着けられている。

 胸部はキリンとは違い首まわりはスッキリとしていて肩も出ている。しかし腹部は隠されていて露出は主に肩まわりと腹部が部分的に出ている程度。

 腕も二の腕にベルトと言う点は似ているがそこから下は硬く刺のある甲殻で鎧帷子(よろいかたびら)のようになっていて、甲殻は手の甲まで伸びている。

 腰はキリンと殆ど同じで、違いは前掛けが河から毛に変わり、アーチ状のベルトにはクナイがそれぞれ4本ずつ備わってるぐらい。

 脚はパチッとした皮が無くなりそこを補うように前だけ甲殻が設けられていて、膝宛も付けられている。あと上下の毛皮も無くなっている。因みに此方も白色だがキリンS、Rではかなりのハイレグで付け根が見えるぐらいまでだったが今回のべリオは一般的なものに落ち着いている。しかもその上には細いベルトが巻かれている。

 

 前述のキリンに比べれば露出こそ少ないものの共通点は多く、また違う点もあってどちらが上から甲乙付けがたいものとなっている。

 

 さて、今回はこのぐらいで閉めましょう。

「何だったんですか・・・・・・?」

 ではシロがちゃんサヨナラ~。

「あ、ちょっと待ってください~~~!?」

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

「はっ」

 

 なんだ、寝てたのか俺。

 気がつくと自室のベッドで寝ていた。

 やけに体が気だるい気がするが気のせいなのか。

 

「マスター、起きてますか~?」

「あ、シロ」

 

 そーっと入ってきた彼女に視線を向けるとなんだか少し窶れているような顔をしていた。

 

「っ! マスタぁー!」

「おっ、なんだぁ?」

「良かったぁ、いつものマスターです・・・・・・」

「なに? 何だって?」

 

 彼女の言動がよくわからない。

 何なんだ?

 

 その後シロの説明を受けてもよくわからないし、覚えてもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「仲良くね、二人とも」

 




 謎の人物X、ダリナンダイッタイ。
 思いつきと熱意に任せて書きました。
 今回はただの装備紹介ですがキリン装備、べリオ装備ってこんな感じだよねってぐらいで書いてます。


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番外編2 悪堕ちしたキリンちゃん

 切り替わっての初投稿になります。
 書いてる人は変わりませんので忘れてください。
 ではどうぞ。

 ※因みに内容は切り替え前に内容なので食い違いが多々あります。
 ご了承ください。


 どうも、謎の人物X(さくしゃ)です。

 今回はUA30000突破を記念して書こうと思ってました日間ランキング28位に入って色々増えたのでそれも祝して何か書こうと思ってたらさらに上がって10位になってまた色々増えました。

 そんなわけで盛大に祝いたいけど具体的なことは曖昧です。

 

「あ、マスター」 

 

 今日の主役(ぎせいしゃ)の登場です。

 因みに今回も主人公君の体を使わしてもらってます。

 変な意味はないよ。

 

「なんだか既視感が・・・・・・」

 

 どうも、謎の人物X(さくしゃ)です。

 今回の番外も装備変更をメインにやろうと思ってます。

 

「あぁーっ! この前の変態さん!」

 

 早々に罵りなのかどうか怪しい言葉を飛ばされた。

 変態にさん付けはどうなのだろうか。可愛いからいっか。

 

 それはさておき早速本題に入っていきましょー。

 

「え? きゃぁぁああ!?」

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

 さて今回の装備は     

 

 じゃじゃん。

 オリジナルキリン装備亜種バージョンですっ!

 

「・・・・・・・・・」

 

 色を変えただけではあるけどこれをゲームで再現しようとすると結構な時間を使います。

 さらに実用性も考えたらゴールが見えません。

 そんな猛者に昔に出会い戦慄しました。

 

「色が変わっただけのような気がしますが・・・・・・」

 

 確かにその通りだけどそれだけじゃあないんだよ。

 

「と言いますと?」

 

 4Gでは発掘装備だったけど仕様変更して見た目装備としておりまーす。

 

「へぇーそうなんですか」

 

 反応薄いね。

 

「だって胡散臭いですし・・・・・・」

 

 まぁいいや。

 一応性能の説明させてもらうね。

 見た目は暗い藍色の皮に青白い稲妻のような模様、毛色は薄い青色で所々にあるベルトや紐の色は緑色と、全体が明色が多かった原種キリンの装備に比べ、亜種は暗色が多くなっている。

 性能はこれも4G出身、EXキリンU装備が元になってます。

 

 キリン装備にキリン装備を合わせると言う愚行、いや凶行とも言えるその行為にある種の興奮を覚えかねないッ!!

 

「ちょっと気味の悪い思考に至ってませんか・・・・・・?」

 

 おっと失礼、声に出てしまった。

 さて話を戻して、この装備に変更したついでに少しシロちゃんをいじらせてもらったよ。

 

「はい?」

 

 何事か理解できず首を傾げる。

 主に乗り移った人物は私をいじったと主張するが、今まで何か妙なことをされた記憶はない。

 

 そう思うのも今のうち、すぐに効果は出てくるよ。

 

「だから何なん、ですか・・・・・・?」

 

 ヘラヘラ笑いながら手元のいつの間にか手に持っていたらしいメモ帳の中身を見せつけてくる。

 

 

『シロは一定時間ヤンデレキャラになる』

 

 

 その内容を理解するのにそう時間はかからなかったが、それと同時に自分の意識が曇っていくような感覚に覆われ、一瞬のうちに私は意識を失った。

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

「んん・・・・・・寝てたか・・・・・・?」

 

 

 気が付くとまたもソファーに横になって寝ていたようだ。

 休みだからとは思っても同居人が居るうえでこのようなことはあまり勧められる行為ではないだろう。

 

 気を正して立ち上がり、ゲームでも家事でもなんでもいいから何かしようとして、ふとシロが何をしているのか気になって彼女を探そうとしたが、後ろから足音が聞こえたので振り返る。

 

「あぁ、シロ。おは・・・・・・よ?」

「・・・・・・」

 

 様子がおかしい。

 まず見た目だ。

 彼女は今ハンターとしての装備、俺が組んだキリン装備を着ているが、その色が元の柔らかい白色から濃紺の藍色に変わっていた。

 

「えと、シロ、でいいの?」

「マス、たー」

 

 俯いて棒立ちだった彼女はゆっくりと顔を持ち上げた。

 そこにはシロがよくする明るい笑顔ではなく、顔を紅く紅潮させ、口角を三日月のように吊り上げ、光の灯っていない目をした不気味な笑顔があった。

 

「マ ス タ ー」

 

「ひっ!?」

 

 もう一度呼ばれ、背筋に悪寒が走る。

 何故だろう、命の危険を感じる。

 どうしてだろう、本能が逃走を促している。

 

「あぁ、私のマスター・・・・・・」

「ちょ、ちょっと?」

 

 音もなく近づきぬるりと俺の首に手を這わし、逃げられないように抱き締めながら急接近した顔に息が当たりそうになることに意識してしまい、恐怖心で冷や汗を流しながらも彼女を意識してしまって動悸が激しくなっている。

 

「マスター、最近あんまり構ってくれないですよね」

「急になに?」

 

 かくん、と首を垂れてシロが話だす。

 

「学校に行ってしまって朝から夕方までお家で一人、帰ってきてもご飯とお風呂入ってちょっとしたら寝てしまって。お休みの日もふて寝かゲームで私にはあまり構ってくれないから私寂しいのです・・・・・・」

「シロ・・・・・・」

「だから」

「だから?」

 

 そう口にしたシロは一瞬の間に音もなくするりと密着し、がり、と俺の首筋に噛みついた。

 

「いだっ!!」

 

 力強く噛みつかれ、噛まれたところが熱くなっていく。

 血流が早くなってじんわりと熱が広がってきたところでぬるんとした感触がした。

 

「ひっ!?」

「んぅ、ぬぁー・・・・・・じゅるっ・・・・・・」

 

 ぬろぬろとシロの滑りけを帯びた舌が俺の首元を執拗に這いまわる。

 恐らく出血しているところをシロが舐めとり、なお流れる血を執拗に吸われる。

 

「ちゅぅーー・・・・・・」

「う、はぁっ、シロ、もう・・・・・・」

 

 傷から血が流れていくのがほんのり分かるほど強く吸われ、落ち着いてきた動悸が今度が速くなっているのがわかる。

 突然のとこに頭が追い付かず、緊張で硬直し、されるがままになってしまう。

 

「はぁー、はぁー・・・・・・」

「んくっ、はぁあ・・・・・・マスターの血が、私の中にぃ・・・・・・」

 

 やばい。

 語彙力が欠けるほどに身の危険を悟る。

 今まで平穏に過ごしてきた少女が今はある種の狂気を纏った笑みで俺を見据えている。

 吊り上がった笑みからから漏れる紅い血が余計に恐怖心を掻き立てる。

 体に力が入らず、逃げようともしても恐怖か貧血か、手も足も動かせず、倒れそうになる体を支えるので精一杯だった。

 

「マスター・・・・・・」

「っ!」

 

 脱力し、前髪で顔が部分的に隠れ、ゆらゆらと一歩、また一歩とシロが近づいてくる。

 

「もう逃げられませんよ?」

「シロ、もう・・・・・・」

 

 肩を掴まれそのままシロに押し倒される。

 まさに肉食獣に襲われ喰われる寸前の野兎のような、そんなことを考え自分の状態の危険性を再認識する。

 

 二の腕を掴んだまま俺の胸に顔を押し付け、そのまま胴体、腰、足、と体を密着させ、すりすりと胸に当てた顔をこすりつけるようにする。更に全身で強めに抱擁、締め付けてぐりぐりと柔らかいものも当てられて朦朧としているにも関わらず意識してしまう。

 

 ようやく満足したのか頭を持ち上げ、陰のかかった上気した顔は恍惚の表情を浮かべている。

 

「えへ、えへへ、マスター、好き、です」

 

 体力も尽きて気力も尽きそうだ。

 女性の匂い、黒い装備を着てより一層肌の白さが際立っている。

 紅色の瞳、頬に添わされるグローブの填められた手、朱色に染まった顔、そのどれもが扇情的で、色気が漂い興奮が止まらない。

 

「マスター、マスター・・・・・・」

「シ、シロ、だめ・・・・・・!」

 

 艶のある唇が、ゆっくりと近づいてくる。

 軽く窄められたそれは明らかにその行為をするためだと分かって、止めようと思っても抑止の言葉は喉で止まり飲み込んでしまった。

 どうすることも出来ず、ぎゅっと目を瞑って、時間が過ぎるのを待ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 こない。

 手も足も出せずもうされてしまうのかと思ったら何もされてない。

 口に何も当たらない。

 いや案外当たっても分からないものなのだろうか?

 じゃあもう俺の初めては散らされた?

 

 恐る恐る目を開けてみると、黒い装備はいつもの白色に戻り、トマトのように顔を赤くしたシロが眼前で口をパクパクして呆けていた。

 

「シロ?」

「あ、あの、マスター、ここ、これは、一体、どういう状況なんですか・・・・・・?」

 

 はて、この娘は何を言っているのだろうか?

 先ほどまで狂気染みた雰囲気で只管這い寄り、噛みついたりしていたではないか。

 

「どういうって、さっきまで怖い感じだったけど、覚えてない・・・・・・?」

「いえ、記憶はあるのですが、なんというか、夢を見ていたような気分で、自分じゃない自分が動いているような、不可思議な感じでした」

 

 んん?

 なんとも分かりづらい。つまり自分自身の意思でなく、第三者の意識で動いていた、操られてたみたいなことでいいのか?

 自分で言葉にしてみてなんとも奇妙なことになったが実際に目の前で起こったことだし、何よりいつもの彼女じゃなかったのは明白だった。

 

「それよりマスター怪我してるじゃないですか!」

「あぁ、うん君。君に付けられたんだけど、覚えてない?」

「あんまり覚えてませんが、なんとなくなら・・・・・・って、それは置いておいて早く止血と治療をっ!!」

「わかったからあまり引っ張らないでぇぇぇ」

 

 

 結局何故シロが豹変したのか分からず仕舞いで、なんとも不可思議な体験をしてその日はちょっと怖くてよく眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとやり過ぎちゃったかな?」

 

 

 

 




 番外編第二弾です。

 ちょっと黒いキリンちゃんが書きたくってやりました。
 ヤンデレにしたかったんですがなんかそうじゃない感じに仕上がったのでヤンデレ化ではなく悪堕ちにしました。

 よければご評価、感想お願いします。
 誤字脱字あればご報告ください。

 本編ともう一つお詫び話を出そうと思ってます。

 では。


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番外編3 一式装備お披露目会 part2

 やっとキリンシリーズの紹介が終らせれる。
 軽い気持ちで読んでやってください。
 注意:番外だから設定とかは緩いです。


 どうも皆様、謎の人物X(さくしゃ)改め屍モドキ(さくしゃ)です。

 どっちでもいっか。

 

 随分と期間が空いてるのに投稿本数が少ないのは単に禿げそうなほど倦怠感が強いからです。

 本当にすみません。

 謝罪だけでは不服でしょう、そんな皆様のためにひと肌脱ぎます。

 シロちゃんが。

 

「何言ってるんですか!」

 やぁ、今回も主役(ぎせいしゃ)ことキリン装備のシロちゃん。

「紹介が毎度酷いのですが。あとナチュラルにマスターの中に入らないでください」

 まぁまぁ細かいことは置いといて、早速XとXRに着替えてきてよ。

「・・・・・・分かりました」

 

 シロちゃんは渋々と言った様子で一度部屋から退出し、私腹からキリンXシリーズに更衣を済ませて入室してきた。

 

 うん。いいね。

「性能的にはこれ属性特化ですよね」

 性能なんざどうでもいい、私の美学は見た目だ!

 

 まずは頭、髪はいつもの柔らかな白髪だが長さは背中まである者を二つのおさげにし、肩から前に垂らしている。

前髪は八の字に分けられていて基本頭頂部から伸びている蒼角はXでは額から伸びていた。それが髪を真ん中で分けている理由の一つだろう。これまで活発的な頭部が多かったがここにきて整えられたおさげと言うのも大人しい雰囲気で良い。

 

 次は胴体、今回のXは前回のS、Rとは打って変わってへそが出ていない。それだけでなくキリンXは全身に掛けて露出が最低限まで減っていて、肌が出ているのは顔と肩回りくらいだ。チョーカーを身に付けているが首元はどのキリンシリーズの中でも開放的なのが見どころの一つだろう。服装は皮をつなぎ合わせた上着で、かなり厚手である。

 

 続いて腕、こちらも肌は見えず、下のゴム質の皮すらほとんど見えていないというこれまでのキリンシリーズより見た目の防御力が上がったものになっている。二の腕から肘、肘から手首に掛けて少しずつ膨らんでいって親指の付け根まで隠れている。当然掌にはグローブが填められていて下地はゴム皮が這っている。

 

 お次は腰、これまでベルトに毛、ミニスカのような毛と続いてまさかの皮で作られたスカートだ。丈は結構長く膝まで垂れており、ちょっとやそっとでは傷はおろか綻ぶことすらないだろう。腰回りには角笛やポーチ、お守りのように携えられた鬣の束が結ばれており、かなり実用的である。しかしポーチの形状はハート型であり、そこは変わらずである。可愛い。

 

 最後は脚、これまでVラインが見えるか見えないかのパンツやガーターベルトと中々に攻めた衣装が多かった。しかし今回のキリンX、なんとスパッツである。もう一度言わせてもらおう、スパッツだ! ゴム質の皮で出来たスパッツはとても頑丈なもので、きっちりと下着の役割も果たし、守りも堅い。そこから下の膝もごつい皮で腿から膝を守っており、そこから下はキリンSのものを大きくしたようなブーツが履かれており、端面から伸びる毛の毛量も心なしか増えている。靴はつま先が上に尖ったもので、これまでとは一風変わってより幻想的になった。

 

 総合してキリンXシリーズは森の賢者といった風貌で、露出が少ないのもあって知的な印象が垣間見える。しかしキリン装備としてのポイントは踏襲されており、他とは一味違うものでありとても面白い。

 

「毎度思いますけど解説が少し気持ち悪いですよね」

 ははっ。ご褒美。

 

 じゃあ次にいってみよー。

「はいはい」

 

 呆れた様子のシロちゃんはまた部屋から出て今度はキリンXRシリーズを纏って入ってきた。

 

「本当に好きですよね」

 ボクだけじゃないよ~。不特定多数の人が好きだしなんなら君のマスター君だって割りと好きだよ?

「・・・・・・そう、ですか」

 

 シロちゃんはマスターと言う単語に反応して顔を赤らめもじもじしていた。可愛い。

 

「それより紹介したらどうです?」

 それもそうか。じゃあキリンXRの紹介に入りまーす。

 

 

 それではいってみよう。

 

 

 初め頭部。

 歴代キリンシリーズ随一の頭髪の長さ。これまで長くて肩甲骨が隠れるぐらいだったがXRになって背中がまるっと覆われるほどになり、跳ね毛が増えた。ぼさぼさしている。後頭部あたりで頭髪の一部を括って垂らしているのも特徴的だ。装飾品は変わらずいつもの物だ。

 

 次に胴部。

 首と胸元はゴム質の皮で覆われており、胸は横伸びしたハート型に切られたキリンの皮、腹部も同様にキリンの皮で覆われて背中側に紐で結ばれて留まっている。中華がかった意匠で何処となくチャイナドレスを彷彿とさせる。胸元は菱形に繰り抜かれており、そこにキリンシリーズでは必ずある蒼いペンダントが提げられている。背中は肩上以外は紐だけ。

 

 間に腕部。

 二の腕にベルトとキリンSと変わらないが、そかから紐が交差してベルトから肘、肘から前腕部に巻かれたゴム質の皮に繋がり巻かれている。ゴム皮の上にキリンの皮が被さり、手の甲と肘にかけて尖るように切られている。切り口にはキリンの毛が誂えられており、キリンSアームの物を小さくした印象だ。手にはグローブが填められておりそこは変わらず。

 

 更に腰部。

 簡単に言えばキリンSの強化版。しかし前垂れが無くなり左右のベルトが無くなった。そのかわり左右から伸びるキリンの毛の量が多くなり、それが後ろで一繋がりになっている。ベルトの上からキリンの皮が巻かれてベルトが垂れていたところを補うようにオレンジ色の紐が添えられている。紐は腰に携えられたハート形のポーチに繋がっている。後ろ側にはキリンSでは大きく尻尾のように垂れていた毛に加え、キリンRにあった毛の束が二本、メインの尻尾の左右に揃えるように垂れている。

 

 最後脚部。

 キリン皮のタイトスカートが増えていて片側から紐で結ばれている。太腿からゴム皮のニーソが伸びて膝下からはキリン皮のブーツが履かれている。キリンSやキリンXに比べ大人しいが、キリンRのようにスレンダーと言う訳でもなくしっかりと主張はしている。そしてつま先と踵は蹄のような装飾がされていて安定性が高い。

 

 総評してキリンXRは格闘家のような風貌であり、胴体、主に頭部と腰あたりに物量が集中し、手足は身軽になっているが先端部はしっかりと守られている。露出はキリンシリーズとしてみるとあるようでない、ないようであると面白い。

 

「どうなんでしょうね、実際は」

 スキルは正直キメラ向きだから一式で運用するものじゃあないけどね。

 

 MHXXにおけるRやXRというのは防具の一か所に極端にスキルポイントが集中していてどこか二か所を装備すればスキルが発動するという複合に使う場合が多い。キリンXRのスキルは属性攻撃を使うことがあるくらいで、他はあまり見かけない。さらに言えばその属性攻撃すら影が薄いところもあるので見た目以外で使われているところはあまり見かけない。

 

「まぁ守りが硬いところが強みですよね」

 中級者向けだよね! 多分!

 

 

 さてさて今回最後の装備紹介。

 オリジナルキリン装備!

 

 振り向いてビシィッ! と指を刺すと後方に居たシロちゃんが一瞬肩を跳ねさせて驚く。

 

 じゃあ着替えてきてね。いつものやつね!

「あ、あれですか? 分かりました」

 

 そう言うとシロちゃんはまた行為のため退室していった。

 

 うふふー。この小説作る理由の一つでもあるからねー。思い入れは一番あるよー。

 

 そうこうしていたらシロちゃんがこの小説オリジナルの組み合わせのキリン装備を纏ってきた。

 

「はい、着てきましたよ」

 やっふい!

 

 オリジナルキリン装備。

 

「見た目だけですけど、性能なんてあって無いようなものですよ?」

 細けぇこたぁいいんだよ! そんなの防具合成でなんとでもなる。 

「そうなんですか」 

 そうだよ!

 

 では改めて装備紹介と往こう。

 個別の紹介はこれまでで終わったし、個別名だけ明記しておこう。

 

 頭部:キリンRホーン。

 胴部:キリンXRベスト。

 腕部:キリンXRアームロング。

 腰部:キリンRフープ。

 脚部:キリンSレガース。

 

 キリンXはない。

 この構成においてキリンXの厚みは必要ではなかった。

 けれど使わないから嫌いと言う訳ではないよ。

 証拠にランク開放までの間はずっとキリンXだったわけで。

 

 じゃあ装備紹介。

 試行錯誤を繰り返し遂に辿り着いた自分の見た目装備。

 それがオリジナルキリン装備。

 キリン装備が好きで全て集めてみたけど、どの装備でも狩りはしたし防具合成とか試して一式をよく吟味してみたつもりだ。

 だがそのどれもイマイチ。どれも何か足りていないと常々感じていた。

 そこで思い付いたのが同一のモンスターから作れる装備で一式組んでみようという考えだった。

 幸いキリンシリーズは合計四種類もの一式が存在するのでじっくりと組み合わせを考えて構成した。

 その結果完成したのがこの装備と言うわけだ。

 

 キリンRのふわりとした長髪にXRのよる格闘家チックな胴と腕。腰はRにしてXRに比べるとボリュームは減ったがその分は二重ベルトでカバー。脚はSにして腰で減ったボリュームを此方に回した。

 全体のバランスを取りつつ自分の性癖もといベストのものを集めた装備は当たり前だが自分好みに仕上がっていた。

 

 

 良い・・・・・・。

「感嘆してますね」

 じゃあ良いモノ見れたしボクはこの辺でお暇するねっ!

「あっ! 行っちゃった・・・・・・」

 

 変態が抜け出た主はガクンと体から力が抜けてその場に崩れ落ちる。

 それをすぐさま受け止めてソファーに座らせ、様子を覗っていると暫くして主が意識を取り戻し、目を開いて辺りを見回す。

 

「あれ、部屋に居たはずなのに、どうして・・・・・・」

「マスター、気が付きましたか?」

 

 見上げるとキリン装備を纏った少女が暖かい笑みを浮かべていた。

 

「シロ、どうしたの?」

「なんでもありません」

 

 ニコニコと笑う彼女をほけーと眺め、回転のかからない頭で出てきた言葉は短かった。

 

「俺やっぱりその装備好きだなぁ」

「そ、そうですか」

 

 ふわっと熱くなった顔を他所に向けてたじろぐ少女を少年は深く考えず愛でていた。

 先ほどまでの騒ぎなど無かったかのように思える微睡んだ昼下がりだった。

 

 

 




 さてさてどうだったでしょうか。
 夢と願望と理想をぶつけたんです。
 そんな感じで出来上がったのがオリジナルキリン装備でした。
 自画自賛も甚だしいですが熱いパトスが抑えられず執筆しました。

 感想評価お待ちしています。

 ではっ。


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番外編4 キリンちゃんが四人になった

 どうも作者を名乗る人です。
 なんか色々あったので投稿も遅れてしまいました。
 ランキング入ってたとかいつの話だよ……。
 そんな訳で日刊ランキング最高4位だったのを記念して書きました。

 ではどうぞ。


 またも登場屍モドキさくしゃです。

 

 今回は以前日間ランキングで4位に入ったということでお祝いだよ。

 

 本当にありがとうございます。

 

 

 

 それで、何がしたいんだって?

 

 それはね・・・・・・。

 

 

 

「マスタ~」

 

 

 

 重要人物ぎせいしゃちゃんが来てくれたようなので早速やってしまおう。

 

 

 

「ますた・・・・・・て、あなた変態さんですね!?」

 

 

 

 その通りだよー。じゃあ説明も惜しいからいきなりぼんっ。

 

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 

 うふふふ。

 

 ボクの一声と共にぼふんと煙が立ち込め、煙はたちまちシロちゃんを包み込み噎せる声が一度止んだと思ったら暫くして声が重複し出す。

 

 

 

 煙が晴れてそこに立っていたのは。

 

 

 

「げほっげほっ! 何これ・・・・・・」

 

「急な煙幕とかついてません・・・・・・」

 

「けほっ、むせるわぁ~」

 

「んん・・・・・・、なんなんだい一体」

 

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

 

 現れたのは四人の各キリン装備を着た女性ハンター達。

 

 

 

 順にキリンS、キリンR、キリンX、キリンXRを装備している。

 

 

 

「アンタたち誰!?」

 

「こ、こっちの台詞、なんですが・・・・・・」

 

「あらら、おかしなことになったわねえ~」

 

「随分なことをするじゃないかキミ」

 

 

 

 多種多様な反応を示すキリン娘達。

 

 オーバーな反応をするのはキリンS娘。

 

 逆に気弱に肩を狭くしているのはキリンR娘。

 

 おっとりして二人を眺めているのはキリンX娘。

 

 全員を見回してやれやれと首を降るのはキリンXR娘。

 

 

 

 素晴らしい・・・・・・。

 

 正に絶景、正に桃源郷。

 

 理想は此処にあったのだ。

 

 

 

 さて、見たいもの見れたしボクは早々に退出してしまおう。

 

 それじゃあ、お楽しみにぃ~。

 

 

 

 不意に透の体ががくんと脱力し、それまで憑依っていた誰かの面影は消え去りいつもの気怠けな彼の戻る。そして目の前の修羅場も超えた渾沌とした状況に一度目をこすり、再度目視した時にはくら、と頭を朦朧とさせる感覚が襲った。

 

 

 

「マスター!」

 

「ご、ご主人様・・・・・・!」

 

「トオルくーん」

 

「マスター君」

 

 

 

 目の前にはそれぞれのキリン装備を着たそれぞれの女性。

 

 

 

「なんだこれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれ」

 

 

 

 

 

 

 

 混乱する視界からせめてもの逃避の為、上を向く。

 

 

 

 天井は変わらない。

 

 

 

 喧騒は姦しくなった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 状況を整理しようじゃないか。

 

 不定期で起こる気絶から目が覚めたら四人のキリン装備の女性が居る。しかも全員が自分のことを認識してそれぞれの呼称で呼んでくる。

 

 

 

「まずシロだろ?」

 

「なに?」

 

「それでシロに」

 

「は、はい」

 

「次はシロと」

 

「なにかしら~」

 

「最後のシロ」

 

「なんだい?」

 

 

 

 うん、意味わかんない。

 

 これは中二病の知り合いに切れる女の子も絶叫するぐらい意味わかんない。

 

 増えた。いや分裂した?

 

 そんなのどっちでもいいよ。

 

 なんで増えちゃってんだよ。

 

 四人だよ四人。

 

 対処しようがねぇよ!!

 

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

 

 

 今日一番のため息が漏れ出る。

 

 

 

「まず確認するが、君たちは全員シロ、と言う認識でいいの?」

 

「よくわかんないけど、アタシはシロだよ。マスター!」

 

 

 

 元気の良いキリンSのシロが返事をする。

 

 活発で笑顔が絶えず、そえとスキンシップも多い。甘える猫のように頬を摺り寄せてきて、目を細めて気持ちよさそうにするキリンSのシロの頭をとりあえず撫でる。肌の露出面積が多いインディアン風のその装備でそう抱き着く様にくっつかれると耐えられるものも耐えられないので控えてもらいたい。止めてって、止め、あっ。

 

 

 

「あ、あの。あまり引っ付いてるのは、いけない、かと・・・・・・」

 

「お、おぉ」

 

「なによ」

 

 

 

 おどおどしながら控えめにそう言って、後方から俺の服の裾を遠慮がちにつまむのはキリンRのシロ。

 

 キリン装備の中で唯一全体が非対称なデザインのキリンRの彼女は大人しい性格なようで、ずっと忙しなく周囲を見ている。時折目が合っては慌てて視線を逸らしたりしている。

 

 

 

「お茶淹れましたよ~」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 

 二人の喧騒など構いもせず、一人マイペースにお茶をトレイに人数分淹れてきた女性はキリンXのシロ。

 

 肌の面性が一番少なく、厚手のコートでも来ているようなその恰好は落ち着いた印象を与える。おさげやおっとりとした彼女の性格も相まって淑女と言う言葉がよく似合う。そう思わせる人だ。

 

 

 

「騒がしいね。ねぇマスター君」

 

「あ、はい」

 

 

 

 ソファーに深く腰掛けて脚を組み、背もたれに腕を垂らすキリンXRのシロ。

 

 体のシルエットがよく見えるボディコンのようなインナーに装飾を加えたような装備に身を包む彼女は随分と落ち着き払った、いやどこかキザな印象を与える風貌に冷や汗が垂れる。俺を見つめるその視線はイケメンのそれだった。やだカッコイイ。

 

 

 

 ふぅ、カオス。

 

 誰がどれか分からなくなってくる。

 

 猫のように甘えるシロSをどうにかしないと、心臓と理性が仲良くお陀仏になってしまう。それだけは避けたい。

 

 

 

「ねぇ、シロ。ちょっと離れてはくれないか」

 

「えー? まだこのままがいいー」

 

「それはちょっと」

 

 

 

 ダメだ、シロSは離れてくれそうにない。

 

 見かねてシロRが頬を膨らまし、シロSを引っぺがす。

 

 

 

「く、くっ付きすぎです・・・・・・!」

 

「きゃん!? なにすんのよ!」

 

「男女がむやみに密着するのは、その、いけないと、思います・・・・・・!」

 

「アンタに関係ないでしょ!」

 

「むぅ・・・・・・!」

 

「この・・・・・・!」

 

 

 

 一触即発、触れれば爆発しそうな空気が漂う二人。

 

 

 

「じゃあ勝負しようじゃんか!」

 

「いいです、よ・・・・・・」

 

 

 

 Sは双剣を、Rは片手剣を取り出してぶつかり合おうとしたところでXとXRの二人が止めに入る。

 

  

 

「はいちょっと待った」

 

「おいたが過ぎますよ~」

 

「ひゃあ!?」

 

「わっ・・・・・・」

 

 

 

 気配もなく、いつの間にか二人の前に出たXとXRが二人から武器を取り上げ、腕を固定させる。

 

 シロSに関しては関節を決められている。

 

 

 

「いたたたた!」

 

「折れるまでは擦り傷と一緒ですよー」

 

「ぎゃー!」

 

 

 

 随分とオーバーリアクションで転げまわるシロS。それをニコニコ眺めながら片手でシロSの肩関節をキメているシロXも傍から見ていると少し怖い。

 

 シロXRも武器を手放させ、剣を握っていた方の腕を引きながら足を払い、倒れそうになったRの腰に開いていた手を回して抱えるようにしてシロRを止めていた。やだイケメン。

 

 

 

 ええい話が進まない!

 

 

 

「ねぇ、シロ」

 

「「「「はい」」」」

 

「ややこしい・・・・・・」

 

 

 

 何か打開策とか解決策とか、即席の対処法でも思いつかないか上手く回らない頭を捻ってみる。

 

 そうだ、一人では何も出来なくても複数人ならどうにかなるかもしれない。

 

 そう考えた透は早速スマホを取り出して某無料メールアプリで作った藤ズのグループに目の前の現状の旨を伝えてみる。

 

 

 

 

 

『シロが増えた。助けて』

 

 

 

 さぁ、どう返ってくるのか。

 

 

 

『モルダー、あなた疲れてるのよ』

 

 

 

 思い切りスマホをソファーに向けて投げ飛ばした。

 

 ここまでずっと無言無表情だったので様子を見てたシロ達がびくっ、と肩を跳ねさせていたがそんなの気にしていられない。

 

 

 

『本当だって』

 

『画像も貼らずにスレ立てとな?』

 

 

 

 こいつらウゼェ。それいつのネタだよ。

 

 仕方ない、こんな厄介ごと知られたくはなかったが、相談しなければいけないのだから見せなければならない。

 

 

 

「シロ、ちょっと並んで」

 

「わ、わかりました」

 

 

 

 言われて横一列に並ぶキリン少女たち。

 

 四人を画角に収めてカメラアプリのシャッターを押す。電子のシャッター音が鳴り、画面が一瞬暗転してから四人が写った静止画が表示される。

 

 

 

「よし、送りつけてやる」

 

 

 

 そうぼやいて撮影したモノをグループに送ったところ、瞬く間に既読数が全員分付いた。

 

 しかし返信を返すものは誰一人いなかった。

 

 

 

「少しは俺の心労を知れってんだ」

 

 

 

 返ってこない返信を昇天と受け取りやはりと言うか、結果的に事態を修めるのが自分一人になってしまったことに落胆する。

 

 

 

「一つ聞きたいんだけども、四人とも自分が分裂したって自覚とかある?」

 

 

 

 俺の問いかけに四人それぞれが顔を見合わせ、此方に向いて頷く。

 

 

 

「じゃあ解決案は知ってる?」

 

 

 

 もう一つの問いには全員渋い顔をして首を横に振った。

 

 そんな問いかけに飽きたのか、シロSが懐に飛び込んできた。

 

 

 

「それよりさ! アタシと遊んでよマスター!」

 

「おわぁっ!?」

 

 

 

 懲りないのか好奇心からか飛び付いたシロSを抱える。

 

 またも怒りながら剥がそうとするシロR。しかしそれを制止させる村崎透。

 

 

 

「な、なんで、止めるのですか、ご主人様……!」

 

「マスターはアタシを取ったって事だよ」

 

「あ、貴女は黙っててください!」

 

「何をぉ!?」

 

「ちょっとうるさい」

 

「「ごめんなさい」」

 

 

 

 取り敢えず喋らせて。

 

 

 

「戻る手筈も無いなら焦っても仕方ない、と思って。じゃあ堪能しようとまではいかないけど、今は重く見ないほうが良いと思った」

 

「簡潔に言うと?」

 

「一人ずつ順番に相手するから喧嘩するな」

 

「はぁ~い」

 

 

 

 シロXの間延びした返事で事が決まった。  

 

 

 

 まずはSから。

 

 愛権動物のようにスキンシップ多めでじゃれてくる彼女をあやすように撫でる。他のシロたちには後からと言うことで退室してもらっている。

 

 

 

「私の魅力、イッパイ教えてあげるんだからね!」

 

「うん」

 

 

 

 そう言ってよいしょ、とソファーに座っている俺の膝の上に頭を乗せて寝転がるシロS。

 

 

 

「おいおい」

 

「これがいいの! ……だめ?」

 

 

 

 うっ。

 

 不安げな上目遣い。

 

 拒絶もままならず撫でてあげながら良いよと許可を出す。

 

 やった! と笑みの花を咲かせて話を始めたシロSの話に耳を傾ける。

 

 あれが楽しかった。これが好き。あのときのモンスターが強かった。あのときのモンスターは厄介だった。そんな、彼女にとってのこれまでの出来事を赤裸々に語ってくれた。

 

 

 

「ね、アタシ凄いでしょ!」

 

「うん」

 

 

 

 嬉々としてとても楽しそうに話す彼女に見惚れて暖かい気持ちになる。

 

 溌剌とした性格の彼女に元気をもらっている気分だった。

 

 

 

 暫く話したあと、話題の種が無くなったのか、それとも気が変わったのか、忙しなく口を動かしていたシロSの口が止まった 。

 

 聞き入っていたのもあったが一向に話さなかった俺に苛立ちを覚えてしまったのだろうか。

 

 

 

「マスター」

 

「な、なに?」

 

 

 

 間を開けてSが口を開く。

 

 機嫌を損ねていると思いハラハラしていたが、シロSの顔は紅潮していた。

 

 

 

「え、S?」

 

「ねぇマスター」

 

 

 

 数センチ開いて隣り合っていたシロSはずいと距離を積めて透とほぼ密着する。

 

 血液が溢れそうになるほど心臓が跳ねて脈が加速する。

 

 

 

「アタシね、思ったこと言っちゃったり体が勝手に動いちゃうほうなんだ」

 

「うん」

 

「アタシね、マスターのこと大好き」

 

「う、うん」

 

「だから、ね……」

 

 

 

 

 

 

 

「もう、我慢出来ないの……!」

 

 

 

 そう言ったか言ってないかの間でシロSは身軽な体捌きで透の上に覆い被り、透はソファーに押し倒されてしまった。

 

 シロSの目が血走っている。瞳孔が開き獲物にかぶりつかんばかりに興奮した獣のようだ。

 

 く、喰われる。直感で感じた透は助けを呼ぼうとしたとき、ドアが勢い良く開かれシロRが入ってきた。それでハッとなったシロSが気恥ずかしさで顔を赤くさせ、弁明しようとするも話を聞いてないRが走ってきた。

 

 

 

「ま、また貴女はそうやって、ご主人様に……!」

 

「違う、違うって! てか邪魔しないで!」

 

 

 

 RがSに飛び付いて四つん這いで覆い被さっていたシロSをはね除けた。

 

 思うところがあったのか、さっきまでのように言い合いすることはなくシロSは素直に謝罪する。

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

「まったく、もう……。つ、次はその、私の番です、からね……」

 

 

 

 まだ紅い顔を冷ましながらシロSは退室する。出る寸前で此方に向くと、また再燃してしまい硬直する。

 

 

 

「は、早くいってください!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 

 

 初々しく赤くなるシロSを叱り飛ばし、出ていったことを確認して息を荒くさせ肩で息をするシロR。

 

 

 

「大丈夫?」

 

「ひゃっ、だ、大丈夫、でし、です」

 

 

 

 噛んで言い直した。

 

 せめてフォローしてみようと顔を伏せて縮こまる彼女の頭を撫でてみると、気恥ずかしそうにしつつも目を細めて甘受している。

 

 

 

「少しは落ち着いた?」

 

「はわ、ひい。いや、はいっ……!」

 

「……ぷ、ふふ、そんな気張らなくていいよ」

 

「ごめんなさい……」

 

 

 

 Sとは打って変わって控えめ、と言うより臆病な性格をしているシロR。シロSを犬としたらシロRはウサギのようで、必ず密着しようとしてくる。

 

 でも時折意識を戻してはぴゅっ、と離れるので半ば無意識でやっているようだ。

 

 

 

「シロ、君はこの騒動で何か覚えてることはある?」

 

 

 

 透の問いかけに、先程まで気持ち良さそうに添えられる掌を頭で転がしていたシロRはピクッと止まり、じわりと目尻に涙を溜めて震えながら首を横に振る。

 

 

 

「ごめん、なさい……。な、何も、わから、ない、ですぅ、うぅ……」

 

「いやいやいや責めてる訳じゃないから!?」

 

 

 

 泣き止まないシロRを抱き寄せて優しく頭を撫でる。

 

 声を圧し殺して泣く彼女を宥める。少しでも落ち着かせるのに一回座らせてから泣き止むまで辛抱強く、ゆっくりと撫でる。

 

 

 

 少しして、しゃくりあげる声が治まり目尻を赤くするシロR。

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「はい、なんとか……」

 

 

 

 気分も落ち着いてなんとか話せるようになったシロRと少し話してみることにした。今度は彼女のことについて。

 

 

 

「シロ、君はここが怖い?」

 

「っ……、そん、そんな、ことは……」

 

 

 

 ない。

 

 その一言で詰まり、またしゅんと俯く彼女。

 

 

 

「今はこんな大事になってるけど、そんなに慌てるほどじゃないと思う」

 

「はい……」

 

 

 

 自分の言葉がどれほど軽いか。

 

 励ましにすらならない軽率なことを言っているのは自覚している。それでも元気付けられるのならそれでもいいか。

 

 暫くして落ち着いたシロRは、ただじっとしながら片時も袖を離すことなく引っ付いていた。

 

 

 

「えへへ、こうしてると、なんだか、安心します……」

 

 

 

 泣き止んで鼻を啜り、擦ってしまい少し赤くなった目尻をたゆませ微笑みながらそのようなことを口ずさむ。

 

 

 

「なら良かった」

 

 

 

 少しの罪悪感と愛らしさが混ざり、謎の背徳的な雰囲気が醸し出される。

 

 

 

「あの、ご主人様」

 

「なんだ?」

 

 

 

 シロRは俺のことをご主人様と呼ぶ。シロSはマスターと呼んでいた。性格なのかは分からないが呼び方は全員とも違っていてはたしてそれに意味はあるのか定かではない。

 

 

 

「私は。私も、ご主人様のことが好きです。優しくて、頼りになって、御側に居たいと、思ってます」

 

 

 

 シロRは弱々しくもしっかりと芯のある声音で告白ともとれるようなことを言う。

 

 そんな健気な姿に気恥ずかしくなる。

 

 言った本人も思い立って自分の言ったことに羞恥心を感じたのか困り顔で真っ赤になる。Sと似てるな。

 

 

 

「いえ、その、そんな大それたものではなく……! いや違わなくはないけど……でもでもでも、うぅぅぅ……」

 

 

 

 湯気が出そうなほど赤くなったシロR。

 

 ピタリとフリーズして動かなくなった。

 

 

 

「し、シロ?」

 

「あふぅ……」

 

 

 

 ダメかも知れない。

 

 どうしたものかと唸っていたら、頃合いを観ていたのかすかさずシロXが来た。

 

 

 

「はぁーい交代の時間ですよぉ~」

 

「ひゅっ!?」

 

「うぉあ!?」

 

 

 

 音もなく、躊躇せずシロXが入室してきた。それに身を跳ねさせてシロRが驚き飛び付いてくる。

 

 

 

「あら~。もしかしてお邪魔しちゃいましたかぁ~?」

 

「いや、大丈夫。全然大丈夫。何もないから。何一つとして疚しいことなんてないから」

 

 

 

 これ以上無闇な接触は控えよう。

 

 そう心に誓ってシロRに離れてもらうように促す。

 

 彼女も慌てて飛び退きもの恋しそうに振り返りつつも「失礼しました……」と出ていった。

 

 

 

「お次は私の番で~す」

 

 

 

 ずっとニコニコしていたが今はより一層口角も上がり頬もうっすらピンクに染まり、「私は現状を凄く楽しんでいます」と言わんばかりのシロX。

 

 

 

 大人しい方かと思ったが案外アグレッシブな方だった。

 

 ある意味裏切られた感じがするがSほどじゃなければまだ安心できるだろう。

 

 

 

「取り敢えず、何するの?」

 

「何をしましょうか~」

 

 

 

 ゆらゆら揺れながら微笑むおっとりしているシロX。厚手の服装だと言うのにしなやかな体のラインは見えているので露出が少ないのに艶やかだ。

 

 

 

「特に無いなら話でも……」

 

「え~い」

 

「おふっ」

 

 

 

 こちらの話を聞くことなくシロXはがばりと腕を広げて抱きつく。いや抱き締めてきた。俺はシロの胸の中に頭を埋めるような体勢になり、その上しっかりとホールドされてしまい動けない。

 

 

 

「今度はこうか……」

 

「うふふ~あったかぁい♪」

 

 

 

 攻守逆転と言おうか。二人目まで此方が抱擁していたのに対して今度はシロに抱き締められている。

 

 これまでこのような状況になったこともあるが、如何せん回数が少なくて正直慣れていない。そもそも誰かに大胆に甘えるとか、この歳になってしまうとなかなかどうして恥ずかしい。

 

 

 

「なんか、むず痒い」

 

「それなら私がかきましょうか~?」

 

 

 

 そのふわふわした声音で言われると疲れも癒されて微睡んでくる。あ、ヤバい寝そう。

 

 

 

「トオルくんいいこいいこ~」

 

「おぅ、これはやばい……」

 

 

 

 ゆっくりと頭を撫でながらそのようなことを繰り返し言うシロX。

 

 未だかつて体験したことのない天国のような沼に嵌まりそうになっている。このままだと骨抜きにされかねない。けど無性に心地好い……。

 

 

 

「なんか、眠く、なって……」

 

「おやすみですか? ならどうぞ私の膝枕で~」

 

「う、ん……」

 

 

 

 言われるがまま体重に任せ頭を彼女の膝の上に乗せる。弾力と柔らかさが感じられる極上の枕。以前されたことのあるそれとはまた違った、より柔らかい厚みが、これにはあった。

 

 

 

「少ししたら起こしますから、それまではゆっくり休んでください~」

 

「うん、おねが、い……」

 

 

 

 抗えない温もりに甘んじて、微睡みの海に着水した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「あらら、可愛らしい寝顔♪」

 

 

 

 肘の上で眠る少年の前髪を掻き分けてやる。

 

 なんとも言えない幸福感が胸の中に広がって溢れそうになる。

 

 愛らしい、そんな言葉では言い表せないほど普段はあまり見せないような純粋な寝顔にギャップを感じ、胸が熱くなる。

 

 

 

「そろそろ交代だよ」

 

「もうそんな時間なの~? ざーんねん」

 

 

 

 キリンXRを纏った自分が入ってきた。

 

 やれやれと腰に手をあてがい私の肘枕で気持ち良さそうに眠る少年の顔を楽しそうに覗く。

 

 

 

「よく寝てるじゃないか」

 

「お昼寝には良い時間ですから~」

 

 

 

 もっとこの至福の時間に浸っていたいが約束なので仕方ない。

 

 私は少年を起こさないよう、ゆっくり頭を持ち上げ、体を滑らせて抜け出し退出する。

 

 

 

「あとはお任せしますね~」

 

「あぁ、任された」

 

 

 

 ひらひらと舞い散る花弁のように、捕らえきれないような足取りで退室するするシロX。

 

 部屋を出る間際顔を覗かせうふふと含み笑いで「お願いね」と言い残し、今度こそ部屋からいなくなる。

 

 残されたシロXRと眠る主。

 

 

 

「さて、どうしようか」

 

 

 

 起きる気配を見せない主を見て薄ら笑いを浮かべるキリン少女。

 

 今の間にイタズラでもしようかと考えてはみる。

 

 

 

「やめよう、ボクのキャラじゃない」

 

 

 

 一先ず起きるまではなにもしないことにした。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ぱちりと目が覚める。

 

 仮眠で微妙な眠気が取れて体が軽くなった気がした。

 

 睡眠に落ちる寸前まで感じていた柔らかさはなく、無機質なソファーの弾力だけが頭を支えていたようだ。

 

 

 

「あれ、Xいないのか」

 

「おはよう、マスター君」

 

「その呼び方は……えぇと、XRか」

 

「あぁ、正解」

 

 

 

 声のする方を向くと足を組んで深く腰かけたシロXRがいた。シロはこちらに振り向き、今までの可愛らしいものではなく格好いいと言える笑顔で微笑む。

 

 

 

 これまでの三人は大小あれど可愛らしさがあったがXRは何処かクールな性格をしてしているような気がする。

 

 

 

「随分と気持ち良さそうに眠っていたから、起こすのも野暮かと思ってそのままにしていたよ」

 

「あ、あぁ、ありがとう」

 

 

 

 そう言えば時間制限を設けて四人それぞれと相手をするようにしていた。

 

 それがシロXから放たれる謎の魔性による睡眠欲に抗えず、そのまま眠ってしまった。

 

 あれは卑怯も超えて若干恐ろしいほどの魔力だ。

 

 

 

「おかげでボクの時間が少なくなってしまったよ」

 

「それは、ごめん」

 

 

 

 大袈裟に肩を竦めて首を振るシロXR。なんでこんなにも様になっているんだろう。男らしいと言うか、そう言うようなもので圧倒的に負けた気がした。

 

 

 

「それよりも、埋め合わせ出来るくらいボクと遊ぼうじゃないか、マスター君」

 

「おぉ」

 

 

 

 頷いたものの何をしようか。このタイプの人間と遊んだことはないしそもそも関わったことがない。

 

 強いて言えば姉の知り合いみたいな人に意識高そうな人がいたような気もするが、すぐに姿を見なくなった。

 

 

 

「でもこの距離はちょっと寂しいな」

 

「今でも大分近いけど」

 

「よしこうしよう」

 

「うぉう!?」

 

 

 

 突然脇と膝裏に腕を回されて抱き抱えられる。所謂お姫様抱っこと言うやつだ。

 

 

 

「やめて、ホントにやめてくれ。あと今すぐ降ろして」

 

「イヤだね。もっと楽しませてくれなきゃ離れないよ」

 

 

 

 抱えた状態で顔を寄せ、目と鼻の先で囁いてくる。背筋がぞわぞわと粟立ち背中から全身にかけてから力が抜ける。足にまわされていた腕が抜かれ、胸に這わせてきた。淫猥な触り方で撫でられるのは妙な感じがするので止めてほしい。

 

 

 

「ふふ、可愛いなぁ」

 

「止めて耳元で囁かないで」

 

 

 

 女性らしい艶のある声で少し低めで、鼓膜が震えて止まらない。

 

 

 

「食べちゃいそう……」

 

「本当に、やめ……!」

 

 

 

 胸を登る細やかに蠢く掌が鎖骨に到着し、そらに首筋、頬に達し、一切の力みもなく引き寄せられる。

 

 

 

 

 

「もう満更でもないだろう?」

 

 

 

 

 

 光を受けて煌めく唇が、止まって見えるほどの時間をかけてゆっくりと、ゆっくりと接近する。何度目かに味わう貞操の危機に諦めてしまおうかと一瞬頭を過った。

 

 

 

「だ、ダメぇえ……!」

 

「おぉっと」

 

 

 

 咄嗟にシロXRの顎と肩口に手を当てて無理やり押し退ける。特に驚く素振りも見せず、シロXRは押し込まれる主の腕力に従って両手から力を抜いてほどけるように離れる。

 

 

 

「あは、流石に早すぎたかな?」

 

「あったり前だよ……!」

 

 

 

 口元に手をおき目を細めてクスクスと笑うキリン少女。余裕たっぷりな態度は何一つ崩れない。

 

 

 

「力付くでもやれるけど、それは好みじゃないしなぁ」

 

「な、なにを」

 

「マスター君が決心してくれるまで待ってるよ」

 

 

 

 そう言ってシロXRは立ち上がって出入り口の前に立つ。

 

 

 

「何処に」

 

「一人ずつの対面も終わった。みんなを呼んでくるよ」

 

「お、おぉ」

 

 

 

 じゃあね、と廊下に消えたシロXRを無言で見送る。

 

 一人部屋に残された透はソファーの背もたれに深くもたれ掛かり、手を額に当てて大きく息を吐く。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 やっと終わった。

 

 皆個性的だった。目新しくもあって、けれども知っているようでもあり、不思議な気分で胸が満ちていた。

 

 

 

「みんなシロ、か」

 

 

 

 魅力的だった彼女たちの姿が脳裏に蘇る。

 

 明るかったり、臆病だったり、優しかったり、格好よかったり。

 

 

 

 だが何か違う。

 

 こうじゃない、気がする。

 

 そんな違和感が落ち葉のように募っていた。

 

 

 

 一人物思いに耽っていると、外から爆発にも似た物音が家に響いた。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 思わず飛び起きて部屋を出る。

 

 一体何が起きたと言うのか。シロに何かあったか、もし大事になっては大変だ。不安や心配が頭を巡り体を突き動かす。

 

 

 

 部屋の一室、シロの部屋になっているところこら煙が上がっている。

 

 

 

 本当にシロに何かあったか!?

 

 

 

 吹き飛ばす勢いで扉を開き、中に入る。

 

 

 

「シロっ!!」

 

 

 

 煙幕で視界が塞がってしまいよく見えない。

 

 害は無さそうだが煙たいのはあまりよろしくない。立ち込める白煙を手で扇ぎながら中に入ると咳をしている一人の声がした。

 

 

 

「シロ!」

 

「けほっ、えほっ……。あれ、マスター?」

 

 

 

 そこには涙目で座り込み、両手で口を押さえ咳をする白い少女がいた。

 

 

 

 いつもの、見慣れたシロだ。

 

 

 

「うぅ、頭が痛い……」

 

 

 

 記憶が混乱しているのか頭を抱えてぐわんぐわん揺れる少女に駆け寄り肩を押さえて倒れないように支えてやる。

 

 

 

「シロ、大丈夫?」

 

「ちょっと、記憶があやふやで……」

 

 

 

 あうー、と、唸るシロの頭を擦りながら肩を貸してやり、やや俯き気味にして楽な体勢にさせる。

 

 

 

 やがて落ち着いたのか苦しそうだった呼吸が整いだして正常な呼吸になる。

 

 

 

「ふぅ、治まりました……」

 

「もう苦しくない?」

 

「はいっ」

 

 

 

 えへ、と笑う少女。

 

 それを見て、先ほど感じていた違和感がするりと抜け落ちた。

 

 

 

 答えを見つけたかその寸前か、透は思わずシロを手繰り寄せ抱き締める。

 

 

 

「ひゃあ!? ま、まま、ますたぁ?」

 

「あぁ、シロだ……」

 

 

 

 安堵で体から力が抜ける。

 

 お互いに体を支えるような体勢になり、持ち上げていた腰がすとんと床に落ちる。

 

 

 

 暫くそのまま動かず、誰にも、何にも変えられないと感じた少女の熱に触れていた。

 

 シロも抱き締めてくる主に困惑したが、それでもなんだか嬉しくなっていたのだった。

 

 

 

「シロ……」

 

「はい、マスター。私はここに居ますよ」

 

 

 

 少女の暖かさが、随分と久しく感じた透だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 

 

「今日の昼の、分裂したときのこと覚えてる?」

 

「思い出して、い、一応、覚えてます……」

 

 

 

 羞恥心でお湯が沸けそうなほど真っ赤になったシロがいたとか。




 どっかのイタリアマフィアの人がキレそう。

 どうでしたでしょうか四人のキリンちゃん。
 本当はご飯にとかお風呂とか就寝とか書きたかったのですが、何分量が多くなったのでここいらで纏めてしまいました。長いと遅れるしね、多少はね。

 個人的には満足です。
 こう言うのしたかった……!
 寝かしていたネタでもあったので出せて凄く嬉しいです!

 それでは。


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リアル季節番外編 キリンちゃんのハロウィン

 迷走しました。


 世間の十月の印象とは何だろうか。

 色々あるだろうが一先ずハロウィンだ。

 前置きなんて面倒くさい。

 そもそも楽しむも何も無いのでお菓子食べて終ろうと、去年までそう思っていた。

 

 しかしシロが来たのでそうもいかず、適当に焼き菓子でも作ってあげよう。

 

 それで完成お手製カップケーキ。

 

 では与えにいこう。

 

「シロー」

「なんですかマスター?」

 

 台所から彼女を呼ぶと二階から返事がして、今日はキリン装備を着たシロが降りてきた。

 俺の傍まで走り寄ってきてなんだろうと子首を傾げるすがたはあざとさの化身でも憑いているのかと錯覚するほどだった。

 

「実は今日はハロウィンと言って、お化けや怪物の恰好をしていたずらされるかお菓子を渡すかの選択を迫るイベントがある日なんだ」

「そ、それは何とも強情なイベントですね」

 

 大分偏見で話してしまったが今の時代そんな認識でいいだろう。

 もう当のイベントの本質が消えかけて、商業目的なのか分からないお菓子の要求すら求めているのはどれくらいの人数が居るのか定かでない。

 

「ま、お菓子がもらえる日と言う認識でもいいか」

「そうなんですか」

「そんなわけではい、どうぞ」

「わぁ! いただきますっ!」

 

 差し出したカップケーキを美味しそうに頬張るシロ。

 プレーンからチョコチップ、抹茶やココアなど色々試してみたので二人で食した。

 

 大方平らげてふぅ、と一息。淹れておいたカフェオレで口を潤していると、シロが質問を投げかけてきた。

 

「そういえば先ほど悪戯とお菓子の二択と仰っていましたが、何故そうなるんですか?」

「あぁ、色々諸説あるようだけども他所の国の(こよみ)では今の季節が年の終わりで、大晦日になると冥界の扉が開いて悪霊が現世に彷徨うからそいつらと同じ格好してやり過ごそうとなって、それでなんなら自分達も可愛らしい程度で悪戯みたいなことしてやり過ごそうって感じじゃないか?」

 

 あくまで個人の推測の域なので正確性なんて欠片もないが。

 

「へぇ~、そうなんですか」

 

 まぁお祭りごとなんて楽しく過ごせたらそれでいいだろう。

 

「ちなみにお菓子を貰ってから悪戯というのは可能ですか?」

「欲張りな質問だなオイ」

 

 上目遣いに言っても許可しないぞ。

 絶対だぞ。

 ・・・・・・。

 

「さっきも、言ったけど、子どものイタズラで済むなら・・・・・・」

「じゃ、じゃあ!」

 

 ずずいと身を乗り出してえっとえっとと悩むシロ。

 頼むから普通のこいよ・・・・・・。

 

「えっと、では後ろから失礼しますね!」

「お、おう」

 

 そう言うとシロは俺の背後に回って俺の真後ろに立った。

 何をするのかと思ったら「えいっ」と可愛らしい声と共にぎゅっと俺を抱きしめた。

 

「お、お、おお・・・・・・」

「えへへ、びっくりしました?」

 

 脈が上がって顔が熱くなり、変な汗をかいているのがわかる。

 全身が強張り過度に力み過ぎて身動きはおろか言葉もまともに発せないくらいだった。

 

「・・・・・・」

「ま、マスター?」

「な、なに?」

 

 後ろからシロの声がする。

 密着状態で色々当たってしまっているので意識しないようには心掛けているがやはり無意識が働いて余計なことが過って仕方ない。

 

「もう少しこのままでいたいです・・・・・・」

「わかった・・・・・・」

 

 それから何とも言えない空気の中シロと密着したまま棒立ちで十数分費やした。

 

 その後暫くハロウィンとは何だろうと哲学的な思考に陥った。

 

 

 




 もうこれでいいや(自暴自棄)

 良ければ感想お願いします。
 誤字脱字等ございましたらご報告願います。

 では。


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季節番外編 不思議なクリスマス

 間に合わなかったぁ!!
 さらっと書いた即席話なのであしからず。
 
 ではどぞ(涙目)。


 冷たく乾いた冬の朝。

 まだ冷蔵庫のほうが暖かいともなるようなこの季節はベッドから出るのも億劫になる。

 

「ん、さむ・・・・・・」

 

 こんな日でも律義に仕事を果たす目覚まし時計を止めてもそもそとベッドから這い出る。

 いつもよりも言うことを聞かない体を起こして洗面所に向かうと、自分より早く起きていたらしいシロが丸まって転がっており、歯磨きの途中だったのか歯ブラシを咥えたまま寝ていた。

 

「シロ、起きろ」

「ふぁあ?」

 

 肩を揺すって起こしてやるとぴくっと跳ねてから目を開き、「おはおーごあいあう・・・・・・」ともごもご言いながら立ち上がり、歯磨きを再開した。俺も歯ブラシにクリームを付けて口に突っ込み、歯磨きをする。

 口を濯いで顔を洗い、ぱっちり目を覚ます。よし。

 

「マスター、おはようございます!」

「うん、おはよ」

 

 ようやくシロも本調子になったのか百点の笑顔でにこりと微笑んだ。

 

「ひっくしっ」

「大丈夫ですか?」

「うん、寒くて」

 

 鼻の下を擦って鼻をかむ。

 流石にここまで寒くなるとくしゃみの一つも出てしまうか。

 

「それにしてもシロは元気だね」

「このぐらいならまだ大丈夫ですよっ!」

「あぁー、そっか」

 

 ゲームでは氷海とかそんなステージでまわりが氷で出来ているようなところに行ったり、吹雪いている雪山に登って温かくなるドリンク飲んで平気で活動してるからか、ピンピンしている。

 それでも少し寒いのか肩とか鼻の先が赤くはなっていた。

 

「防寒具でも買いに行こうか」

「お買い物ですか? 分かりました!」

 

 今日は買い物にしよう。

 さっそく温まる朝食を済ませて家を出た。

 

 

 デパート。

 

 また来た大型小売店。

 階によって色々あり、大体はここに来れば揃うのでよく活用するところだ。まぁこんな人間は行くところは限られるので、大きいとはいえ数回行けば迷うことはない。

 

「おおきいー」

「はぐれるなよ」

「はいっ」

 

 衣類はこっちか。

 エレベーターに乗り込み衣服店のある階を押す。人は多いがこちらに来る人は見えなかったのでドアを閉めようと思ったら二人の男女が走ってきた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「お、おい!」

 

 その声に閉ボタンを押そうとしていた手を止めて入り口に向き直る。するとすぐエレベーター内に二人が走り込んできた。二人とも大分焦っていたのか肩で息をしている。

 男の人の方は一般的で黒い髪に黒い瞳をしていたが、女性の方はこの辺りでは珍しい白金色の長い髪をしていて、瞳の色は紅色だった。

 

「おぉ・・・・・・」

「透くん?」

「いや、なんでもない」

 

 少し見惚れてしまった。それほどに美しく、妖艶な雰囲気をしている風貌だった。

 目が合いそうになってすぐに視線を外して頭を振る。いかんいかん、今日はシロの服を買いに来ただけなんだ。

 

 一人でそんな自問自答をしていたらいつのまにか指定した。階に到着した。

 

「「じゃあ僕たちはここで」」

 

「「え?」」

 

 見事にダダ被り。

 男の人と一言一句全て被ってしまい、少し恥ずかしくなってしまった。しかも白金の女の人は後ろで吹き出していて余計に恥ずかしくなる。

 

「なんかもう、折角だし一緒に回ろうか?」

「いやそんな、悪いですよ」

「いいよいいよもう。その方が面白そうだからさ」

「わ、わかりました」

 

 そう言うことで二人の男女と一緒になり、シロを含め男女四人で回ることになった。

 

「貴女お名前は?」

「えっとシロと言います」

「シロちゃんね、わかったわ」

 

 後ろでは日本人離れした女の人がシロに色々聞いていて、こっちはこっちで男の人と話をしていた。

 

「君、名前は? 俺は村瀬」

「僕は村崎っていいます」

 

 二人と話をしながら店舗に向かう。

 

「ここに入ろう」

「はい」

「わかりましたっ」

 

 折角ならと男女で分かれて服を選ぶことになった。

 シロの服を買いに来ただけなのに、なんでこんなことになったんだろう。

 俺は村瀬さんと趣味や好きな色調などを話し合わせながらお互いに良さそうなものを選んでいた。どうしてもシンプルで無難なものを選んでしまうのは性格からだろうか。

 

「まぁ分かるよ、俺も昔はそうだったから・・・・・・」

 

 なんかしみじみと言われるとちょっと複雑な気持ちになる。

 そう言いいながら村瀬さんも服を選び、レジに持って行った。

 

「二人はまだですかね?」

「女の買い物は長いって言うからな・・・・・・」

「そ、そうなんですか」

 

 遠い目をしてそんなことを言った彼はどこかさとりを開いたような雰囲気だった。何があったと言うのですか。

 こちらが早すぎたせいか、ちょっと長く感じてしまう。

 

「見に行くか」

「いいんですか?」

「少し覗きに行くだけだし大丈夫だろ」

「はぁ」

 

 と言うわけで女性陣の方に顔を出しに行くことになった。

 行ってみるときゃいきゃいと黄色い声が聞こえてくる。

 

「シロちゃん、今度はこれ着てみて!」

「こ、これですか?」

「絶対見合うわ!」

「は、はい~」

 

 

 そこにはシロにあれこれと着せ替えをさせている女の人の姿があった。整った顔立ちは崩れてちょっと目が三白眼気味になっており、心なしか息が荒い。額を伝う汗が危険な雰囲気に拍車をかけてしまっていた。

 

「ど、どうですか?」

「うん、最高よ・・・・・・」

 

 試着室から出てきたシロが身に着けていたのは腰を絞った膝丈ほどの黒いスカ―トに縦縞のベージュに近い白

のセーター。上にカーディガンを羽織っており頭にはベレー帽を被っている。靴はブラウンのブーツを履いており、冬のファッションの代名詞とも言えるような恰好だった。

 

「なんか凄いことになってんな」

「はい・・・・・・」

 

 まさに女の空間とでも言う空気で、自分たちが声を掛けれるようなものではなかった。

 暫くして何着か選び、満足顔でくる女性と少し恥ずかしそうにしているシロが家を出た時と同じ格好で戻ってきた。

 

「これ買うわ!」

「大丈夫かよそんなに持たせて」

「心配ないわよ、アナタが出すんだから」

「はぁ!?」

「えっ?」

 

 女の人のまさかの一言に村瀬さんだけでなく俺達も驚いて思わず声が漏れてしまう。

 どうしてそんなことになってしまうんですか。

 

「そんな悪いですよ! 流石にウチの分はこっちで払いますから!」

「い、いいんだ村崎君・・・・・・、ここは格好つけさせてくれ・・・・・・」

「そんな震えながら言っても寂しいだけですって・・・・・・」

 

 二人で出す出さないとの論争をしている横で面白そうにしている女の人とあわあわとしているシロが止めるか止めないかで数分使い、結局割り勘で払うことにした。(こっちのほうが払う額が多かったため)

 

 四人で店を出て、時間が良いのでフードコートに行くことにした。

 

「まったく、お前はすぐにそうやって・・・・・・」

「いいじゃない、可愛い子には良いモノ着せろって言うでしょ」

「旅をさせろだ。しかもあんなに高い値段の物を」

「結局割り勘だったじゃない」

「お前なぁ!」

「ま、まぁまぁ、こっちは服も買ってもらえたので気にしてませんから・・・・・・」

「そうですよ、えっと、ありがとうございますっ!」

 

 お互い膨れながら喧嘩しようとする男女を宥めながら飲食店に入っていく。

 ここでも何を頼むかで言い合いになりそうなところを引き留めて、丁度いい値段のものを頼んで事なきを得た。安いの頼もうとしたら「もっと食わないのか? 出すぞ?」と言ってきたので断ったら余計に払う払うと言って聞かないので、中間下あたりの値段のもので許しを得た。

 

「ごちそうさん」

「ご馳走さま」

「お粗末様でした」

「ごちそうさまでしたっ」

 

 皆それぞれの言葉で締めくくり、勘定を払って店を出る。

 

 

「じゃあ、僕たちはもう帰りますね」

「もう帰るのか?」

「はい」

 

 早くない? と言う村瀬さんに流石にこれ以上一緒にいると金銭面的に危険な香りがするので長居は無用だと思う。隣の女性がすごい豪胆なのでさっきのお店でも出す出さないで色々言っていた。

 

「目的の物は買って用も終わったので、もう帰ります」

「そっかー、俺らも用事終わったし、帰るか」

「あ、その前に」

 

 村瀬さんはちょっと来いよ。と俺たちを引き連れてデザートショップまで連れて行った。

 

「冬、クリスマスケーキ買ってやろう」

「だから悪いですって!」

「ええい素直に奢られろい!」

 

 もう自棄になってきているのか半ば強引に数個のカットされたショートケーキを箱詰めにして、二箱買った村瀬さんは片方をこちらに手渡してきた。

 

「ほれ、早めのメリークリスマス」

「・・・・・・ありがとうございます」

 

 こんなに良い笑顔で言われてしまえばもう返す言葉も見つからなかった。

 店を出て、最後に一言お礼を言おうとして、村瀬さんではなく女の人がこちらに向き直っていた。

 

「あの、ありが―――」

「ありがとうね」

「いえ、お礼を言うのはこっちで・・・・・・」

 

 女の人はいいえ、と否定をして、再度俺たちに向き直った。

 

「本当はあの娘にもお礼を言いたいのだけれど、いないのなら仕方ないわね」

「あのこ?」

 

 いいのよ。と言ったその顔は嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。この人と接点はない。しかし何処か見た雰囲気の誰かと会ったような気がしてならない。

 

「おーい、行くぞー」

「分かったわよー」

 

 村瀬さんに呼ばれた女性はそちらの方へと走っていった。

 

「またね、二人とも!」

 

 一度振り返って手を振る。

 さっきとは打って変わって気持ちいいくらいの笑顔で女性は去っていった。

 しかし違う点が一つだけ。

 

 額に黒い角が二本生えていた。

 

「えぇ!?」

「やっぱり」

 

 まさかの出来事に驚愕する自分と、やはりと疑問が確信に変わっているシロ。

 シロ知ってたの?

 

「なんか雰囲気が似ているなーと思っていたのですが、当たってました」

「マジか・・・・・・」

 

 でも、と付け加えてシロは笑みを作って二人が消えていった方角を見る。

 

「とても優しくて、暖かいヒトでしたよ」

「・・・・・・そっか、なら良かった」

 

 モンスターだろうが狩人だろうが一緒に過ごせる大事な相手だというならそれでいい。

 それは俺もよく分かるから。

 

 気づけば手をつないで帰っていることに気付き、顔から火が出そうなほど熱くなってしまい、やはりスキンシップは慣れないな、としみじみと感じて家に帰る。

 

 夕飯後、頂いたケーキの箱を開けて二人でケーキを食べる。

 

「甘いです!」

「うん」

 

 目を輝かせてイチゴのショートケーキを頬張るシロ。

 向こうの世界でもあまり甘いものは無かったのか、それともこういった製菓は無かったのか、人一倍美味しそうに食べる姿にはこちらも食欲がそそられる。

 

「どれ・・・・・・お、うまい」

「~♪」

 

 二人で舌包みを打ち、四つあったケーキは瞬く間に片付いた。

 食後のコーヒーでも淹れようと思って立ち上がろうとしたらシロが袖を掴んで「待ってください」と言ってきた。

 

「なんだ?」

「じっとしててくださいね」

 

 なんだろうと立とうとした足を下ろして座り、シロの方を見るとずずいと顔を近づけてくるシロ。

 逃げようとしたら顔を掴まれ、逃げようとも出来なくなってしまい、必死の抵抗も虚しくから回る。

 

「な、なにする気だよ・・・・・・」

「れろっ」

「ひぃっ!?」

 

 じっと目を閉じて待っていたら頬を細い舌でぺろん、と舐められた。

 

「な、なんだ!?」

「えっと、クリームが付いていたので」

「クリーム・・・・・・」

 

 口元を拭うとまだ少しだけ残っていたクリームが付いていた。

 な、なんだよ・・・・・・。驚かせてからに・・・・・・。

 

 緊張の糸が切れて背もたれに体重をかける。

 誰がこんなことをシロに吹き込んだんだよ・・・・・・。

 

「シロ、それ誰から聞いたんだ?」

 

 加藤あたりなら今度あったときにでも締め上げよう。山田さんあたりならそういった知識は謹んでもらうように言えば聞いてくれるだろうか、わからん。

 

「実は、今日あったあの人に教えてもらいました」

「今日って、あの人たち?」

「はい」

「そっか・・・・・・」

 

 何してくれてんだよあの人らはぁ! どうしようもないやるせなさが込み上げてくる。

 そういえば男の人には名前聞いていたけど、女の人の名前は聞いてなかったな。

 

「なぁシロ、女の人の名前は何て言ってた?」

「えっとですね」

 

 シロがその名前を出す。

 

 

 

 

「『黒姫レシカ』と名乗っていました」

 

 

 

 




 もっと早く執筆していれば・・・・・・。
 計画性がないのがバレる。(今更)

 さらっと適当に書いたのでいまいちな出来だとは思います。
 今度ちゃんとクロスオーバーは書くので許してください。

 メリクリということでこんな感じにはなりました。
 6時間はまだまだフリーな作者です。
 では。


 追記:誤字修正しました。


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本編 一話 朝起きたら自機が添い寝していた。

pipipipipipi・・・・・・。

 

 朝。

 目覚まし時計のアラームが聞こえてくる。

 時刻は午前5時半。

 朝日がカーテンを透かして眠気眼に刺さる。

 

「んん、眠い・・・・・・」

 

 俺はこのまどろみを放したくないというように体の向きを変えた。

 

 むにぃ。

 

 柔らかい何かがそこにはあたった。

 眠い目が少し覚めた。

 ベッドの上には毛布と枕と俺しか存在しないはず。

 その中で柔らかいものは毛布と枕だけ。

 そして枕は俺の頭に、毛布は今俺の体を覆っている。

 ではこの感触は一体何か。

 

 この肌触り。

 

「ん・・・・・・」

 

 この弾力。

 

「あっ」

 

 この温もり。

 

「んぅ・・・・・・」

 

 人の肌?

 

 ここで一気に目が覚めた。

 それと同時にどんどんと顔が青ざめているのがわかる。

 

 俺のベッドに俺以外の人がいる。 

 

 しかも女の子だ。

 すぐさまベッドから抜け出し、距離を取った。

 

「ん、くぁあ~・・・・・・」

 

 女の子が眠りから覚め、もぞもぞと体を起こして辺りを見回し、こちらに気づいた。

 眠そうな顔で、しかし嬉しそうな顔で挨拶をしてきた。

「あー、おはようございます~」

 

 完全には覚醒しきっていない頭をフル回転させ、状況の整理をする。

 

 どういうことだ!?

 ベッドに知らない女の子。

 挨拶してきた。面識があるのか!?

 絶対にない。

 昨日は何があった!?

 普通に学校に行って、帰ってモンハンをしていた。

 

 モンハン・・・・・・?

 

 その娘は見たことのある格好、というより、俺のモンハンでのキャラクターと全く同じ格好をしていた。

 キリンRホーン。

 キリンXRベスト。

 キリンXRアームロング。

 キリンRフープ。

 キリンSレガース。

 頭からつま先まで全て同じ装備、同じ見た目。

 なんだこれ、ゲームが現実に? まだ寝てんのか? 俺。

 夢なら早く覚めてくれ、思考が追い付かない。

 

「あの、大丈夫ですか・・・? マスター」

 

 ます、たー?

 この娘は何を言っている?

 俺がマスター? そういうプレイ?

 

「えーっと、君は誰・・・・・・?」

 

 俺はその子に問いかけた。

「そんな、私がわかりませんか?マスタぁ~・・・・・・」

 わからないと言われても・・・理解が追い付かない。

 う、そんな今にも泣きそうな顔で見つめないで、罪悪感が、罪悪感が!

 

「わからないというか、信じたくないというか・・・・・・」

「うぅ~・・・・・・本当に、わかりませんか?」

 

 それを認めたくない、けれど頭の中にはその答えしか浮かんでこない。

 俺はこの答えが違っていてほしいという気持ちで、目の前の少女に問いかけた。

 

「も、もしかして、シロ、なのか・・・・・・?」

「はいっ!私は貴方のシロです!」

 

 満面の笑みでそう言われた。

 俺の考えは見事に当たってしまった。

 

 

 お願いです神様、夢なら覚ましてください、すっごいキツいから、精神的に・・・・・・。

 

 

 

 

 

 



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二話 朝食

 お互い起き上がり、向かい合うように座る。

 俺はまだ信じられないと言った心境で、シロを眺めていた。

(ホントにゲームから出てきたのか? いやでもそんなの絶対嘘・・・・・・俺女友達とかほとんどいないし、女装? それこそ絶対ありえない、じゃあホントに誰だ・・・・・・?)

 

「あの、マスター・・・・・・?」

 

 シロが不安そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

「ッ!?」

 

 き、急にくんな・・・・・・びっくりしたぁ・・・・・・。

 とにかく平静であろうと心掛け、シロに顔を向ける。

 

「どうした?」

「お腹が空きました・・・・・・」

 

 シロがそう言ったと同時にシロのお腹からぐぅ、と可愛らしい音がなった。

 

「・・・・・・とりあえず、朝飯にするか」

「はぃ・・・・・・」

 

 恥ずかしさで顔を赤らめながらシロは頷いた。

 

 俺とシロは一階に降りてきた。

 我が家は二階建ての家で、俺の部屋は二階にある。

 最近、両親は家を空けることが多いので、家事は基本一人でやっている。

 なので今のこの状況はなにかと都合が良い。

 シロの言い訳を考える時間があるのが・・・・・・。

 さて、何を作ろうか、俺は別にいいとして、問題はシロだ。

 

「シロ。君は何か食べられないものはあるか?」

「加熱処理されてれば何でも食べれますよ!」

 

 おおう、モノスゴイ豪快だな・・・そういやハンターだったな、忘れてた・・・・・・。

 

「そ、そうか・・・・・・じゃあ適当に作るわ」

「あっ! お手伝いします!」

 

 シロは息巻いてそう言った。

 が。

 

「手伝うと言っても、コッチの調理器具の使い方とかわかるの?」

「えーと、わかりません・・・・・・」

 

 予想通り。あの世界はどこか古い感じがあるからな、ムービーの料理もそうだった。

 シロの気持ちは嬉しいが何か壊されては困る。おとなしくしていてもらおう。

 

「朝食は俺が作るかな、シロは椅子に座って待っててくれ」

「はい・・・」

 

 シロは俯いて申し訳なさそうにしていた。

 さて、確認はしていないがシロは箸は使えないと仮定して、箸を使わず食べられるものを作らねば。

 そんなことを考えつつ冷蔵庫をガチャ、と開く。

 中には一通りの食材は揃っていた。その中から卵とベーコン、マーガリンを取り出す。

 食パンをトースターに入れタイマーをセット、その間にフライパンを熱してベーコンと卵を焼いていく。

 フライパンにお湯を回し入れて、数秒待ち、目玉焼きが出来上がる。

 トーストが焼き上がり、マーガリンを塗って皿に盛る。

 

「よし、完成っと」

「おぉ~」

 

 エプロンを外して座ると、シロがキラキラした目で料理を見ていた。

 なんだか痒い気分だな。

 

「さ、食べるよ」

「い、いただきます!」

 

 シロにフォークを渡し、食べ始める。

「おいひぃれふ!」

 シロがもごもごと朝食の感想を言う。

 

「食べながら話すな。あとこぼれてるから。ほら、お茶。落ち着いて食べな。」

「ふぁい・・・・・・」

 

 シロはもくもくと咀嚼を再開した。

 

 もともとそんなに量もなかったので、あっという間に朝食を食べ終えた。

 

「ご馳走様」

「ごちそう様でした~」

 

 さて、学校に行かねば。

 

 あ、シロはどうしよう。

 

「あぁぁ、どうしよう・・・・・・」

「?」

 

 焦る俺、キョトンとするシロ、時間はどんどん過ぎてゆく。

 

 

 

 



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三話 自宅

「トイレはここ!」

「はい!」

「この部屋には入らない!」

「はい!」

「アレとソレとコレにはさわらない!」

「はい!」

 

 シロにザックリと注意事項を説明していく、向こうの勝手がきかないんじゃココでの生活なんてままならない。

 それに家の物を壊されたら駄目だ、いろいろと面倒だ。

 

「家の物絶対壊すなよ!?」

「わ、わかりました!」

 

 しっかりと念を押す、振りじゃないぞ?

 

「とりあえず、俺が帰ってくるまで俺の部屋で大人しくしていてくれ」

「分かりました! マスター!」

 

 元気のいい挨拶でシロが返事をする。

 

「鍵は絶対開けるなよ、誰か来ても無視しろ、極力部屋からは出るな、もし誰か入ってきたら俺の部屋で鍵かけてじっとしてろよ、いいな」

「は、はいぃ・・・・・・」

 

 言葉のラッシュでシロがたじろぐ、言い過ぎたかもしれないが大丈夫だろう。

 

「じゃ、4時には帰ってくるからな」

「わかりました~いってらっしゃ~い」

やっと学校に行ける・・・・・・。

 

 

 学校。

 

 

「おはよー」

「おはよ~」

 

 挨拶が教室のあちこちで飛び交う、こんな日常風景に安心している自分がいる。それだけ朝の出来事が衝撃的過ぎたんだろう。

 学校なら落ち着ける、そう思う朝だった。

 

 

 自宅。

 

 

「どうしよう」

 

 私は一人悩んでいた。

 マスターが学校に行ってしまったので、私は家でお留守番をしている。その上マスターからは部屋から出ないように言われているので暇だ。

 

「何かないかなぁ」

 

 あまりにもやることが無さ過ぎたので少し部屋の中を見回してみる。

 今座っているベッド、机、本棚、小さな機械、それと、人形?

 

「なんだろう? モンスター?」

 

 そこにあったのはモンスターの形をした手乗りサイズの小さな人形だった。草食獣や飛竜などいろいろあるが、どれも小さいので恐くない。むしろ可愛い。

 

 「わぁ、いっぱいある」

 

 ポポの親子、ティガレックス、ナルガクルガ、アグナコトル、そしてキリン。

 他にも様々な大きさの物があった。どれも生き生きとした動きで止まっている。

 モンスターの人形を愛でていると、本棚にモンスター図鑑なるものがあるのを見つけた。私は少しばかり気になってそれを手に取り、ベッドに腰かけて読んだ。

 

「ふむふむ、へぇ、なるほどー」

 

 その本にはモンスターの情報、倒し方、装備の見た目や性能、武器のことや素材の入手方法も載っていた。

 知っているモンスター、知らないモンスター、伝説のモンスター、神と呼ばれるモンスター、倒したこのあるもの、倒したことのないもの、いろいろだった。

 

 シロが本を読み進めていると、ぐぅ、とシロのお腹が鳴った。時計の針はちょうど12時を指している、お昼時だ。

 

(お腹空いちゃった・・・そういえばマスターがごはんを作りおきしてくれてたっけ)

 シロは部屋を出て二階に降り、台所へ向かう。そこにはホットドッグがあった。

 

「これかな?」

 

 皿に盛られているのから一つ取り、「いただきます」と一言、齧り付いた。

 パンにソーセージを挟み、ケチャップをかけたシンプルなものだが、シロにとってはとてもおいしいらしく、満面の笑みで頬張っている。

 

「ん、おいひぃ・・・・・・」

 

 三つあったホットドッグはあっという間になくなってしまった。

 

「ごちそう様でした~・・・・・・」

 

時刻は午後1時、まだマスターが帰ってくるまで時間があるなぁ・・・読書してよっと。

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

ガチャ

 

「ただいまー」

「・・・!」

 

扉が開く音がした。マスターが帰ってきた!

 

「おかえりなさい!マスター!」

「うおぁ!」

「ちゃんとお留守番できました!」

「おぉ、よく出来たな」

「んふぅ・・・・・・」

 

 マスターに頭を撫でてもらった。優しい手つき、安心する。

 

 もっと一緒にいたいな・・・・・・。



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四話 帰宅してから

 帰宅後、シロに出迎えられ、現実を突き付けられた気分になった。

 もしかしたら夢かなにかで、帰ったらいないのではないのか。

 そもそもただの俺の妄想ではないのか。

 そんなことを考えていた時期が僕にもありました。()

 

「マスタ~♪」

 シロが嬉しそうに腕にくっついてくる。

 

「シロ、放して、家事ができない」

「あ、はい、すみません・・・・・・」

「わかればよろしい」

 

 朝できなかった部屋の掃除と、洗濯をする。

 洗濯機に衣類を放り込み、回している間に掃除機で各部屋を掃除して回る。

 ざっとしているがこれだけでも大分違ってくる。

 一日しないだけでもホコリは溜まるからね、マジで。

 

 さて、掃除は終わったな。あとは洗濯物だ。

 

『ピーーー』

「ヒッ!?」

 

 洗濯が終わったらしく、電子音が聞こえた。

 シロは聞きなれない音にビクビクしている。

 

「ますたぁ~・・・・・・」

 

 涙目だ。嘘だろ、ゲームでデカいモンスターと対峙してるじゃん・・・・・・いつも平然としてるじゃん・・・・・・。

 けど、可愛いなぁ。

 おっとイカン、のろけてた。

 

 さて、洗濯も終わったし、飯作ろ。

 シロには邪魔しないように釘を刺し、ささっと作る。

 

 冷蔵庫の中身を確認して、献立を考える。

 

(シロは箸は使えるのかな、ちょっと試してみよう)

 

 シロが大人しく座っているのを確認し、調理を始める。てかアイツモンハン図鑑読んでる。気になったのかな・・・・・・。

 

 ・・・・・・

 ・・・

 

「できたぞー」

「わぁ・・・・・・!」

 

 献立はごはん、肉野菜炒め、味噌汁にサラダ。

 シンプルにしてみたが、受けは良かった。

 そもそもコイツ何でも食いそうだけど・・・言ったら流石に怒られるかな。

 

「どーぞ、召し上がれ」

「いただきます!」

 

 シロに箸を渡し、俺も席に着いて飯を食う

 

「あの、マスター」

「なんだ?」

「コレ、凄く扱いづらいです・・・・・・」

「まぁ、ちょっと使ってみてくれ。俺が教えるからさ」

「はい・・・・・・頑張ります!」

「うん」

 

 夕飯を食べながら、シロに箸の使い方を教えていた

 どうしたことか、ものの数分でシロは箸を使いこなすようになった。

 異常に早い。普通はもっと時間がかかるものじゃないのか?

 俺の疑問と驚きなど気づかないというように、シロは器用に箸を動かし、夕飯を平らげた。

 

「ごちそうさまでした!」

「ご、ごちそう様」

 

 やっぱりシロは普通の人間じゃないのか?

 いや、決定付けるにはまだ要素が。

 ん~・・・・・・。

 

「シロ、皿洗い手伝ってくれ」

「はいっ」

 

 食った後の片付けはちゃんとせねば

 水を出して食器全部を濡らす。洗剤をスポンジに付けて汚れの少ないモノから洗っていく。

 シロは俺の隣でずっと食器洗いの風景を眺めていた。

 全ての食器を洗ったので次は水で流していく。

 

「シロ、流した食器をコレで拭いてってくれない?」

「分かりました!」

 

 俺が洗ってシロが拭く、数分で洗い物は終わった。

 さて、一息つくか・・・・・・。

 

「なぁ、シロ」

「何でしょうか?」

「どうやって現実に来たの?」

「マスターに会いたいという思いで来ました!」

「そんなもので来れるの・・・・・・?」

「よくわかりませんが、マスターにお会いできて私は嬉しいです!」

「おう、恥ずかしいからあまり言うな」

 

 俺が淹れた緑茶を飲みつつ、シロとそんな会話をしていたら、風呂の沸く音がした。

 

「お、もう沸いたか。シロ、先に風呂入ってきなよ」

「お風呂・・・・・・」

「どうした?」

「扱い方が・・・・・・」

「あぁー」

 

 やべ、どうしよどう、教えたらいいんだ・・・・・・。

 

 ・・・・・・

 ・・・

 

「お湯、流すぞ・・・・・・」

「は、はい」

 

 シャワーデッキからお湯を出し、シロの髪を濡らしていく。

 脱衣の時に本人に聞いてみたがこの髪はカツラでもウィッグでもなく地毛らしい。

 白の長髪に赤い目、それで俺と同じか少し小さいくらいの体躯をしていて、正直ドキドキして落ち着かない。

 何か、話題は、えーとなんだぁ・・・・・・?

 

「な、なぁ」

「なんでしょうか?」

「お湯、熱く、ないか?」

「大丈夫ですよぉー」

「そっか、ならいいんだ」

「・・・・・・」

 

 会話途切れた。

 俺に話術というスキルは存在しなかったようだ。悲しいなぁ・・・・・・。

 それより、シロを洗ってやらねば。

 

「シャンプーはこれね」

「はい」

「じっとしてろよー」

「はいぃぃぃ」

 

 シャンプーを手にのばし、わしゃわしゃと爪を立てないように気を付けながら髪を洗ってやる。

 ゲームのデザイン通りの髪形で癖っ毛が結構目立っていたので毛先まで丁寧に洗う。

 その間シロは大人しくしていた。そのうえどこか心地よさそうにしていた。

 髪は終わったにでシャワーで流す。

 

 

「流していくけど、目ぇ開けたら沁みるぞ」

「はいぃー・・・・・・!」

 

 目をぎゅーっときつく閉じてぷるぷると震えている姿はなんとも言えない可愛らしさが出ていた。

 よし、今のうちに流してしまおう。

 髪に付いていた泡を落とし、もういいよ、と伝える。

 シロはぷはっ、と息を出して一息ついていた。

 

「じゃあ、次は体洗うんだけど、その」

「うー・・・・・・」

「準備はするから、自分で洗ってくれないか?」

「わ、わかりました」

 

 タオルを濡らし、ボディソープを付け泡立てる。

 それをシロに渡し、自分は後ろを向きじっとしておく。

 シロが体を洗っている間、何も考えないように必死に努めた。

 理性が何度か飛びそうになったがなんとか持ちこたえることができた。

 シャワーの音が聞こえる、もう流してるのか、良かった・・・・・・。

 

「もう大丈夫ですよー」

「お、おう・・・・・・」

 

 お互いぎこちなくなりながらなんとか交代する。

 シロには浴槽に浸かってもらった。横からの視線が厳しいが我慢しよう・・・・・・。

 俺は全身をさっさと洗い終わり、先に風呂場から出ようとしたが、シロに止められた。

 

「あの、もう少しいてください」

「う、うん・・・・・・」

 

 流石に寒いので俺も湯船に浸かることにした。

 浴槽からお湯が溢れ、そこまで大きくない浴槽に人二人が入る。

 会話は無かった、というより何か言いだせる状況ではなかった。

 つらい、居心地が全然よろしくない、シロはどうしてるのだろう? そう思って横にいる顔を覗き込もうとしたら目があった。お互いばっと顔をそらした。

 気まずい、一人であれこれ考えていたらシロから切り出してきた。

 

「あの、マスター」

「な、な、何?」

「私はマスターに会えてとても嬉しいです」

「うん」

「マスターはま私に会えて嬉しかったですか?」

「・・・・・・あぁ、嬉しかったよ」

「そっか、そうですか、ふふ・・・・・・」

 

 シロは真面目な顔から一転、ふにゃ、とはにかんだ。

 ゲーム画面越しで何度も見てきた。が、話したことなんてないし、まずそんなことはありえなかった。

 ゲームじゃあ全然表情は変わらなかったから間近で見てドギマギする。

 

「ちょっとのぼせてきたな・・・・・・」

「そうですか?」

「俺上がるね」

「あ、なら私も・・・・・・」

「あとから出てくれ!」

「は、はい」

 

 危ない、あれ以上いたら倒れるわ・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 二人とも風呂から上がり、寝間着に着替えた。

 シロには俺のものを着せている。少しサイズが大きいようで、ぶかぶかで袖から手が出ていなかったりしている。

 

「マスターのおっきいです!」

「おぉ」

 

 嬉しそうだなおい。しかし問題は寝床だ。

 俺はどこでもいいけどシロはどこで寝させようか

 

「シロ、寝床はどうする?」

「その、マスターと一緒に寝たいです・・・・・・」

 

 わぁーおこの破壊力よ。

 上目使いで顔を赤らめながら可愛い娘にこんなこと言われて誰が断れるか。

 俺はシロの意見に負け、俺の部屋で一緒に寝ることになった。

 

「狭くない?」

「大丈夫ですよ」

「そっか」

 

 シロに来客用の枕を渡し、一つのベッドで二人が寝る。

 狭いから結構くっつかないと落ちてしまう。

 そんなわけでかなり密着した状態なわけで、理性が危ない。

 なにより、寝れない・・・・・・明日から寝床は絶対に変える。

 俺はそう決心して何とか眠りについた。

 



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五話 買い物

 次の日

 

 全然眠れなかった。

 あのあとシロは数秒で寝た。

 それは良かったが、そこからが問題だった。

 最初は添い寝をする形で寝ていたが、途中からシロが俺の腕に絡み付いてきて、その…む、胸が……当たって、もう寝るに寝れなかった。

 本人は無意識でやっているのだから余計質が悪い。

 

 本日は学校が休みで時間が結構ある、いつもならモンハンにほとんどを費やしているが今日はそうもいかない。

 今日はシロの服を買いに行く予定だ。

 何故なら多分シロの手持ちの服はほぼ全てが装備、もしくは民族的な衣装しかないと踏んでいる。

 取り敢えずは朝食を済ませてからにしよう。

 

「シロ」

「何でしょう、マスター」

「朝ごはんにしよう」

「はい!」

 

 軽い朝食を作り、二人で食べる。

 そのあと片付けと掃除を済まし、出掛ける準備をする。

 

「何処かへ行かれるのですか?」

「あぁ、ちょっと買い物に」

「そうですか、なら私はお留守番を……」

「お前も来るんだよ」

「へ…?」

 

 俺はラフな格好に着替える。

 防具のままで家の外に出すわけにもいけないのでシロには俺の服を着せる。

 丈が若干合っていなくて服に着られている。袖も余っていてブカブカしている。

 

「ぶかぶかぁ~」

「そうだな」

 

 ………

 ……

 …

 

 近くのバス停からバスに乗り、デパートに行く。

 出切るだけ目立たない格好にしたがやはり目立つ。シロの容姿や髪の色や目の色、そもそも俺が女の子と一緒にいるというのが目立つ原因だと思う。

 どうか知り合いに出会いませんように……。

 俺の思いなぞ知らないと言うように、シロは相変わらず俺に引っ付いてくる。

 

「~♪」

「はァ……」

「マスター、どうしました?」

「いや、困ったなぁって、思ってね…」

「?」

「あ、そうだ」

「どうしました?」

「外では俺の事をマスターと呼ぶなよ」

「では何とお呼びすれば?」

「名前、(とおる)って呼んで」

「トオル、マスターのお名前・・・」

「あぁ、そういや言ってなかったな・・・ごめん」

「い、いえ、私もお聞きしなかったのですから」

「じゃあ、まぁ、行こうか」

「はい!」

 

 遅くなったがシロに自分の名前を教え、デパート内の洋服店を目指す。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 洋服店に着いた。

 今のところクラスメートや知り合いには遭遇していない、安全に進んでいる。

 早いところシロの服を買って帰ろう。

 一人決意をしてる横でシロは店のマネキンを見て目を輝かせていた。

 

「なかに入るよ」

「あ、はい!」

 

 店内には様々な服が並んでいた。

 とりあえず適当に選んで試着させよう。

 そう思い、近くにあるものから選び、シロを試着室に入れる。

 

「ここで着替えてみてくれ」

「わかりましたー」

 

 そのあと、シロに色々な服を着てもらい、本人が気に入るもの、似合うものなどを中心に購入した。

 あと店員さんにも見てもらい、服のコーデなんか分からない俺に変わって服選びをしてもらった。

 

 店を出て、帰るか適当に買い物でもしようか悩む。

 そうしていたら、シロが何やら気恥ずかしそうに俺の上着の袖を摘まみながら聞いてきた。

 

「あ、あの、ま、トオルくん・・・・・・」

「ん、どした?」

「その・・・下着を買ってはもらえませんか・・・?」

「あ・・・」

 

 忘れていた。シロは昨日から下着を着ていない。

 服を買うのに固執して気づかなかった・・・

 

「ご、ごめん。今すぐ買いに行こう・・・!」

「は、はい・・・・・・」

 

 まさかこの歳でランジェリーショップに行くなんて思いもしなかった。

 いや、そもそも男が行くような所ではない。

 コレに関しては俺は口出ししようもできないので全て店員さんに任せた。

 しかし気まずい。シロは店員さんに連れていかれて、俺は一人取り残された。見て回ろうにも見る対象物の刺激が強すぎる。試着室の近くの椅子で座ってよっと・・・・・・。

 

「あの、店員さん、ソレは危ないと思います・・・」

「なぁ~に言ってんのキレイな身体してぇ~」

「ひゃぁ!?」

「じっくり決めてあげるわ・・・」

「お、お助けをおぉぉぉ・・・」

 

 ・・・・・・

 ・・・

 

 赤面しながらシロが出てきた。

 隣の店員さんは良いモノを見たとでも言うようにツヤツヤしている。試着室で一体何が繰り広げられていたのだろうか、あまり知りたくない。

 

「なかなか可愛い()を彼女にしたわねぇ彼氏君!」

「は、はぁ・・・どうも・・・・・・」

「着せ替えててすっごく楽しかったわぁ~」

「・・・・・・」

 

 店員さんはとても楽しそうに話してくれているが、俺の理性がガリガリ削られているので止めていただけると嬉しい限りである。

 いや、そりゃ気になるけどね・・・?

 

「だ、大丈夫か?」

「あまり、大丈夫じゃありません・・・・・・」

「そ、そっか・・・」

 

 ほんとに何されたんだろう・・・?

 

 

 シロの下着を買い、近くのベンチでひと休みすることにした。

 

 店員さんにいくつか服を見繕ってもらい、靴屋にも行き、四つほど買った。

 下着もまぁ、何着か買ったので問題はないと思える。

 

 しかし、何かが足りない。

 必要物を買い、特にもう無いかとふとシロを視れば、何かが足りないように思えた。

 

 何が足りない、何が違う、一体どこがおかしいんだ・・・?

 

 そんな疑問を抱きながらシロを凝視する。

 

「あ、あの、トオルくん・・・?」

 

 こちらを不安そうに見つめてくるシロ。

 

 あ、そうか。アレが足りないんだ。

 

「シロ、もう一店行くぞ」

「へ? は、はいぃ」

 

 



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六話 買い物2

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 シロを引き連れ着いたのはアクセサリーショップ。

 

「ここならあるかな」

「な、何がですか・・・?」

 

 いきなり引っ張られて気が動転しているシロをよそに、店に置いてある品を見て回る。

 その中で目当ての物を探す。

 シロの、というか、キリンRホーンに付いている装飾の類は、まずあの特徴的な角、その根元に黒いバンド、そして羽のついた耳飾り。大体はこの三つだ。

 モンハンの世界観ならどれを付けていても違和感は無いが、現実世界で考えたら結構違和感が仕事する。さっき挙げた三つのうち、現実でも違和感がない物。

 ヘアバンドみたいなやつか。

「何か良い感じのものはないもんかなぁ・・・・・・」

「マスター、何を探してるんですか?」

「ヘアバンド、無ければカチューシャでもいいかな・・・・・・」

「?」

「まぁ、好きに見てていいよ」

「わかりました~」

 シロは店の中を見て周り、俺は髪飾りの商品が並べてある棚を探す。

 

・・・・・・

・・・

 

 あれから数分、そんなに大きな店ではないので迷うこともなく商品棚のところへたどり着き、そこでやっと見つけた。

「お、あった」

 そう言い、手にしたのは黒いカチューシャ。

 シンプルなデザインだがしっかりとした作りで、安っぽい感じはしない。

「値段は・・・・・・」

 値札を見る。

 1458円

 そんなにすんの・・・? 仕方ない、シロのため、もとより俺のためだ。買うしかない。

「お買い上げ、ありがとうございましたー」

 シロの衣類に加え、カチューシャ。前者は必要な出費だった。

 高かったけど。

 後者は別に無くても支障はないが、如何せん俺が落ち着かなかった、まぁ、我が儘ってやつだ。

 仕方ない、そう考えておこう、泣けるから。

 

 買い物も済んだし、シロを呼んで帰ろう。

「シロー」

「あ、はい~」

少し間延びした返事でシロが答える。

目の前に来たシロにさきほど買ったカチューシャを手渡す。

「はい」

「これは?」

「カチューシャ、着けてみて」

「ん、はい。わかりました」

言われてシロは黒いカチューシャを装備・・・身に着けた。

「うん、結構似合ってるね」

「そ、そうですか・・・・・・?」

「うん」

「えへへ・・・・・・」

 照れくさそうに、けれど嬉しそうに、シロは笑った。

 こっちも恥ずかしくなってきた・・・・・・。

 

「さ、さぁ、もう帰ろうかぁ・・・・・・?」

 

 変な声が出た。泣きたい・・・・・・。

 

 

 帰りのバス、シロはさっき俺があげたカチューシャを着けてくれている。

 ついでに俺の腕に絡んでくる。

 周りの目がすっごく痛い、正直俺も恥ずかしいので止めてほしいけど、この娘ムチャクチャ力強いんですけど。

 可愛い見た目して中身はやはりハンターか、くそう。

 

 その後、家に着くまで腕を組んだ状態のままだった。

 



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七話 性能確認

 

 日曜日。

 

 俺とシロは朝食と掃除を済ませ、一階のリビングで寛いでいる。

 俺はモンハンXXを、シロはテレビを観ていた

「シロは居てもデータは無くなってないんだね」

「というと?」

「シロがこっちに来たらデータも消えてるのかと思ってたから」

「ん~、よく分かりません」

「まぁ、深く考えたらダメなんだろう」

「そうですかね?」

「うん」

 最近ばたばたしていて忙しかったので、こういうのんびりとした時間があってもいいのではないか。

 誰に言うでもなく一人考えながら、クエストを回す。

「ねぇ、シロ」

「なんですか?」

「シロはスキルって使えるの?」

「? 一応使えますよ」

 昨日のバスで感じたけど、やはりハンターなのか、よく分からないことが多いけどゲームに関連はしている様子だ。

「よし、実験してみよう」

「はい?」

 

 

 ややあって。

「まずスキルを自発的に発動できるかの検証だ」

「はい」

 シロのデータは剣士、チャージアックスがメイン武器だったので、盾斧の必須スキルをまず思い浮かべてみる。

 発動していたスキルは斬れ味+2 、業物、見切り+2、砲術師、ガード性能+1。

 武器は『角王盾斧ジオブロス』、安価で作りやすく、火力も盾斧の中ではトップクラスの優れものだ。

「取り敢えず装備しないとな」

「着替えますね」

「うん」

 シロは俺の部屋に行って先ほどまで着ていた私服から初めてあった装備品に着替えてきた。

「やっぱりそれのほうが落ち着くなぁ」

「そうですか?」

「なんか、変わらない安心感がある」

 ゲームで何度も目にした格好なので、定着したイメージがあるのかもしれない。

「武器は出せるか?」

「やってみます」

 シロが腰に着けたハート形のポーチから小さな両刃の斧のようなストラップを取り出し、上に放る。

 するとストラップが大きなゴツゴツした質感の剣と盾になった。

「出せました!」

「武器の出し方すっごいSFチックだな」

 ストラップが本物になるって。

「じゃあ次はスキルだな」

 極力最小限に、しかしよくわかるものでないと確かめられない。まぁさっきの武器の取り出しを見ればほぼ確定で使えると思うけどね。

「武器はしまっていいよ」

「はい」

 武器を収納させ、待機させる。

「スキルは自分でいじれる?」

「やってみます」

「まず砲術師を砥石使用高速化に変更」

「はい」

 胸部と腰部から灰色の珠を計四個取り出し、ポーチから黄色い珠を取り出して交換する。

「何処に填めてるの? それ」

「首元のココとベルトのココです」

「あ、うん」

 装飾品の装着位置とか意識したことなかったけど、やっぱり一個一個つける場所違うのかな?

「あとはお守りだな、外せるか?」

「ん~・・・・・・はい、取れました」

 そう言い、腰の後ろあたりからお守りを取り外し、ポーチに詰めた。

「連撃のお守りに変えてみて」

「はい」

 またポーチからさっきとは色の異なるお守りを取り出し、腰に結ぶ。

「さっきから気になったんだけどそのポーチの中どうなってるの?」

「いっぱい物が入ってますよ」

「四次元ポケットみたいだな」

「?」

「それはいい。あ、脚の珠を達人から連撃の珠に変えといて、俺ちょっと準備してくる」

「? はい」

 そう言って、台所でキャベツとまな板と包丁を準備する。

「シロ、こっちに来て」

「はい~」

 キャベツを洗い、まな板の上に乗せて半分に切る。

「今から手本見せるから、俺がやったあとに真似てやってみて」

「はい」

 シロに見えるように考慮しながら構えて、キャベツを千切りにしていく。

 1分と経たないうちにキャベツはフサフサの千切りになった。

「おぉ~」

 シロがパチパチと拍手をする。

 コトリと包丁を置いて、まな板から一歩離れる。

「じゃあ、次はシロがやってみて」

「頑張ります!」

 ふんす、とやる気に溢れるシロ。

「体の向きは斜めにして、包丁は真っ直ぐ、反対の手はそんなに伸ばさないで曲げる」

 一つ一つ教えていく。

 シロは真剣な顔をしているが何処か恥ずかしそうにしたいた。

「よし、切ってみて」

「は、はい」

 

 ざくり、ざく、ざく、ざ、ざ、ざ、ザザザザザザザ!

 

「うおぉお!?」

「出来ました!」

 さっき俺がやった動きをそのまま再現したか、それ以上に上手く千切りを終わらしてしまった。

「凄いな、断面がすごく滑らかに切れてる・・・・・・」

「えへへ~」

 嬉しそうに笑っている。スキルを使ったとはいえ少しは手こずるかと思ったが、刃物の扱いに慣れているのか恐ろしく速かった。

 刻んだキャベツを容器に移して冷蔵庫に入れ、片付ける。まな板を洗い、包丁も洗って、砥石を取り出す。

「シロ、研いでみて」

「ん、わかりました」

 シロが包丁を取り、砥石台に刃が全て当たるように構える。

 ズッ、と一回、大きく研いで反対を向け、また一回研ぐ。

「研げました!」

「はやっ!?」

「砥石使用高速化つけてますから」

 ゲームでは一回だけで完了していたが、現実では両面研ぐようだ。速いのは変わらないけど。

 しかし問題は切れ味、どれほど良くなったか。

 キラリと刃が光を受け輝く。

「すげ・・・・・・」

「どうですか?」

「あぁ、ちゃんと綺麗に研げてるよ・・・・・・」

「やった!」

 

 今日の夕飯はフライにしようかな。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 昼はアジフライにしました。

 おいしそうに食べるシロの顔を見てたらごはんが食べ終わてた。

 

 ピロン。

 

 俺のスマホからメールの受信音がなった。

「っ!?」

「あ、メールだよ。怖いものじゃないから、ね?」

「は、はぃ・・・・・・」

 メールなんて滅多にこないから一瞬なんの音か忘れてた。

「誰からだ?」

 画面を開いて内容を確認する。

「親じゃない、加藤?」

 クラスメイトから某無料メールアプリで手短な内容のメールが来ていた。

「明日覚えとけ?」

 はて、何かしたっけ?

 

 隣でシロがまじまじとスマホの画面を見ていた。



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八話 友人襲来

 月曜日、それは憂鬱な日。

 

 多くの学生や社会人はこの曜日を恨んでいるに違いない。

 

 しかし終わりがあれば始まりもある。一週間という七日の中で、一番の嫌われ者になったのがたまたま月曜日だったわけで。

 

「結論は?」

「学校だるいなってこと・・・・・・」

 

 思えば先週末はシロがやってきたからバタバタしていてあまり休めていなかった気がする。

 服買ったり、スキルとかみたり、色々やってたな。だがそれで体が休めれたと言うわけではなく、むしろ余計に疲れた。しかし収穫はあったので良しとしよう。

 しかし何故にこの娘はスキンシップが多いのか、正直この土日一緒に過ごしている時間のほうが多い。

 まぁそうせざるを得なかったと言うのもあるけど、それにしても気が付いたら密着していて理性を保つのが精一杯だった。別で寝ようと言っても頑なに断るので仕方なく、あくまで仕方なく一緒に寝ている。

 

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした~」

「じゃ、行ってきます」

「あ、待ってください」

「ん?」

「ぎゅうっ」

 

 呼び止められ、何かと思ったらシロに抱き着かれた。

 たっぷり数十秒、最後は少しだけ強く抱きしめられて解放された。

 

「・・・・・・え?」

「えへ、行ってらっしゃいませ!」

「い、行ってきます・・・・・・」

 

 通学路

 

 完全に不意打ちだった。

 今後のシロの行動にどう対処しようかと考えていたらあの奇襲、結論すら出ていなかった考えが全部吹き飛んでしまった。

 もうゴールしてもいいよね?

 ダメだ、これフラグだ。

 どうしよう・・・・・・。

 

「あ、もう学校か・・・」

 

 気付いたら学校に到着していた。

 物思いに耽っているっていると時間が過ぎるのは大分早い。

 家の鍵は閉めた。家事はやりながらシロに教えておいたので大丈夫なはず。

 どうでもいいことを考えれば胃の痛みも薄れてきた・・・・・・。

 

 教室に入る。

 いつもならあまり注目もされずSHRに入るのが、今日はいつもと違って入っていきなり質問攻めにあった。

 

 

「あ! やっときた!」

 

 

「おい村崎、お前彼女居たのかッ!?」

「土曜にデパートで一緒に居たあの娘誰!?」

「名前教えろ!」

「吐け! さぁ吐け!!」

「神砂嵐」

「今の誰だ」

 

ホントに誰だ。

「待って、一から説明して」

 

 朝から慌ただしい、あぁ・・・唯一信じていた俺の安息の場所が・・・・・・。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「で、今はウチにいるんだ・・・・・・」

「そうなのか・・・・・・」

「よし、遊びに行こう」

「え?」

「いいな、そうしよう」

「待って」

「放課後すぐ行こう」

「待てって」

「楽しみだなぁー!」

「話を聞けええええええ!!!」

 

 

 放課後

 

「楽しみだなー」

「せやな」

「せやせや」

「なんなんだお前ら・・・・・・」

 

 学校でもあまりいない知り合いであるこの数名が俺とシロがデパートで買い物をしているところを見つけ、写真を撮ってグループラインにアップしたようで、俺は朝から注目の的にされたわけだった。

 てか盗撮だろ。チクショウ絶対いつかし返ししてやる。

 

 思えばこいつらと遊ぶのはあまり、というかなかった気がする。記憶がない。

 教室とかで駄弁ることはあっても休日等で遊ぶほどの関係を築いてこなかったというのもあって、新鮮だ。

 

 気付けばもう家の前、不本意だけど後がうるさいしなぁ・・・仕方ない、と言うしかない。

 

「ただいまー・・・・・・」

「あ! お帰りなさ・・・い?」

「お邪魔しまーす!!」

「しまーす」

「まーす」

 

 あぁ、よくわかっていない顔をしている。

 

「シロ、こっち来て」

「へ? あ、はいぃ」

 

 奴らをリビングに置いてシロと自室で確認をとる。

 

「シロ、あいつらが帰るまで俺のことは透って呼べ、いいな?」

「あ、はい。わかりました。」

「あとスキル等モンハン関連の知識は一切出すな、あとあまりしゃべらないように」

「あの、質問いいですか・・・?」

「なんだ?」

「あの人たちはマスターのお友達ですか?」

「あー、うん、そんなところ。じゃあ、頼んだぞ」

「わかりました!」

 

 少し不安が残るが、あいつらも少ししたら帰るだろ。てか帰らす。

 

「お待たせ・・・・・・」

「おう村崎!」

「早く彼女見せろー」

「そうだそうだー」

「俺たちには知る権利がある・・・!」

「なんなんだお前ら」

 

 こいつらのノリに追いつけないのでスルーする。

 

「シロ、おいで」

「はぃ・・・」

「ほら、挨拶」

「初めまして、トオルくんからはシロって呼ばれてます」

 

 初めて見る顔におどおどしているが、今のところは問題ないようだ。

 正直すごく不安だ。何事もなければいいんだけど・・・・・・。

 

「へぇ~シロさんか~」

「かわいいじゃん」

「よいぞ・・・よいぞ・・・」

「キマシ・・・」

「ひうっ・・・・・・」

「あんまりいじめんな」

 

 奴らがグイグイ来るのでシロが怯えている。

 座っている位置はあいつらはテーブルの椅子、俺とシロはソファに座っているが、圧力というか、勢いというか、あまり積極的に絡んだりしてなかったので俺の中で彼らのキャラが崩壊しつつある。

 

「家での村崎ってどんな感じなんですか?」

「んと、すごく優しくしてもらってます・・・」

「優しく・・・・・・」

「村崎君から聞いたけど同棲してるってホント?」

「は、はい」

「ぶっちゃけもうヤった?」

「や、やる・・・?」

「おいコラやめろ」

 

 まだ純粋なままの彼女だ。変な知識を吹き込んだら絶対許さん。

 俺はとくに話すこともないので彼らの話を監視、もとい見守っている。

 シロも質問の受け答えであたふたしているが、気恥ずかしそうにしつつも嬉しそうに答えていた。

 ・・・・・・見てるこっちが恥ずかしくなってきた。

 

「いや~いい話聞けたわ」

「初々しいねぇ」

「キマシタワー」

「上出来、それ以上か」

「へ・・・?」

「気にしない気にしない」

 

 ネタを挟まないと死んじゃう病気なのかこいつらは。

 全部に突っ込み入れてたらこっちの精神が持たない。

 

「じゃ、俺たち帰るわ」

「いや、ホントご馳走様」

「うぷ、砂糖吐きそう」

「口直ししねぇと糖分高で死にそう」

「だ、大丈夫ですか・・・?」

「「「お構いなく」」」

「早く帰れ」

 

・・・・・・

・・・

 

「元気な方々でしたね~・・・」

「学校でもあんな感じだけど今日はいつにもまして強かったな・・・」

「けど、楽しかったな」

「マスターが良かったのなら私もうれしいです」

「はは・・・・・・」

 

 ぴと、とくっ付きながらシロが答える。

 なんかすごい自然にきたけどすごくドキドキする。

 ゆったり過ごせるようになるのはいつなのか・・・・・・。



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九話 忘れ物

 朝六時。

 

「おはようございまぁ~す・・・・・・」

 

「ん、おはよ・・・」

 

 朝、挨拶を交わす。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・?」

 

「洗面所行こう、寝癖直さないとな」

 

「はい~・・・・・・」

 

 二人とも寝癖がひどい。俺はまだいいけどシロは長髪だからかかなり跳ねてる毛が目立っていた。

 

「ちゃんと直さないとなぁ」

 

「んう…はぁい……」

 

 大人しく、と言うよりまだ眠たげにしているだけのようで、うつらうつらと櫛で髪を解かれていた。

 

「えへへ、ありがとうございます……」

 

「うん」

 

 眠たげだが嬉しそうにお礼を告げてくる。

 ぼさついた髪はある程度治まり、跳ねていた毛は流れるような白髪になった。

 

「よし、いいぞ」

 

「はい~・・・」

 

 着替えて朝食と昼の自分の弁当とシロの昼食を作る。

 

「よし、食べよう」

 

「いただきまーす」

 

「いただきます」

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「あ、今日日直だった」

 

「?」

 

「早めに学校行かないとだめだから、俺もう出るね」

 

「わかりました」

 

「じゃ、行ってきます。家事頼んだ」

 

「はい、行ってらっしゃいませ!」

 

 

 

 学校。

 

 

 

「よし着いた」

 

 教室の鍵を開け、中に入って窓を開ける。

 まだ朝早いので教室には人が居なかった。

 

「はぁ・・・」

 

 まだ少し寒い朝の時間、教室で一人静かに過ごすのもいいかもしれない。

 そういえばシロが現れてから一人で居る時間が減った。

 考えれば今の生活で一人なのって学校の登下校とトイレぐらいだな。

 それ以外は常に誰かが視界に映っている。

 

 寂しさとかは感じず、落ち着く。

 

「いっちばんのりぃー!」

 

 一人で黄昏ていたら誰か来た。

 クラスメイトの加藤だった。

 

「お、村崎もう来てたのか。おはよっ!」

 

「おはよ」

 

 こいつは結構元気の良いやつで、友達も多い。

 所謂陽キャと言うやつで、俺とはあまり接点がないはずなのによく絡んでくる。

 絡んでくることにあまり抵抗はないし、根本からして悪い奴でもないから話していて嫌に思うことはない。

 

「加藤はいつもこんな時間に登校してるの?」

 

「いや? 今日はなんか目覚めが良くてな、日直より早く来てやろうと思ってな」

 

「そっか」

 

 花瓶の水を変えてきて、加藤と話す。

 先日俺の家に集団で来たときはいつにも増して荒ぶっていたが、いつもはああではなく爽やか系男子と言うやつなのだ。女子からの人気も結構あるらしい。

 羨ましいと思ってはいるが、嫉妬を感じたりすることはない。

 こいつはそれほど対人関係が出来た人間なのだ。

 

「ところで、シロさんとはどうなんだ?」

 

「別に、何ともないよ・・・・・・」

 

「ま、大丈夫だとは思うけど破目を外すなよ~」

 

「なぁっ、うるせぇ・・・!」

 

 心配されなくても自分できっかりセーブするわ。

 

 多分・・・・・・。

 

「あっ」

 

「どした?」

 

「弁当忘れた・・・・・・」

 

「あちゃ~・・・」

 

 朝急いでいたので忘れてしまったようだ。

 忘れたのは仕方ないけどこういう場合後が面倒なのだ。

 昼は学食なり購買なりで買ってしまえばいいが帰ってからだ。

 食べられず、キッチンの上で静かに鎮座した弁当の処理をしなければいけないのだ。

 

「はぁあ~~・・・・・・」

 

「長いため息だな」

 

「だってさぁ・・・・・・」

 

「その、なんだ、ドンマイ」

 

「ちくせう」

 

 

 

 

  村崎家

 

「~♪」

 

 シロは鼻歌混じりに食器洗いをしていた。

 主に教わり大体の家事を熟せるようになり、初めは手間取ったりもしたが最近はそこそこ上達してきた。

 洗濯機に汚れ物を入れてセットし、その間に朝食の食器洗い。終わったら洗い物を干して部屋の掃除。

 段取りを考え、一つ一つしっかりやりおえて、一段落。

 

「ふぅ・・・終わったぁー」

 

 ソファーに座って息を吐く。

 お茶でも飲んで一息つこう。

 

 そう思い台所に向かうと、調理台の上に包みにくるまれた弁当があった。

 

「これって・・・・・・」

 

 朝慌ただしく出て行ったからか、忘れていったのだろう。

 

「届けに行かないと!」

 

 マスターの空腹を解消するために!

 



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十話 届け物

「鍵は閉めた。鍵持ってる。お弁当も持ってる。よしっ」

 

 主が忘れていったお弁当を届けるため、シロは家を出て学校へ向かおうと考えた。

 

「スキル使ってもいいよね・・・・・・?」

 

 ポーチの中をまさぐって二つの珠を取り出した。

 茶色い珠、千里珠と双眼鏡を取り出して覗きこむ。 

 

「マスターの位置は・・・・・・ふむ、ふむ」

 

「マップは・・・・・・ふむふむ、うへぇ・・・・・・」

 

 狩猟地に比べるとかなり入り組んだ地形に思わず声が出た。

 

「けど、ちゃんとマスターにお弁当届けなきゃ!」

 

 自分の主に弁当を届けるべく、シロは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここどこ・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷子になってしまった。

 

「地図通りに来たと思ったのに・・・・・・」

 

 装備を身に着けていないのでスキルが常時発動していない。

 それによりある程度進んだら珠と双眼鏡を取り出して現在地とマスターとの距離を確認しながら進んでいた。

 

「大きい道はもっと向こう・・・・・・?」

 

 道を間違えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁぁーーーんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 学校

 

 四時間目

 

「で、この時期は株価が値上がりしてしまい・・・・・・」

 

 歴史ってすっごい情報量多くて眠いよね。

 

 30秒おきに欠伸が出そうになり、それを噛み殺しては睡魔と戦っている。

 

 モンハンにおける睡眠状態というのはかすりダメージを喰らえば直ぐに目を覚ましたが、リアルでそんなことをそう簡単には出来ないのだ。

 

 ダメだ、気を抜いたら意識が持っていかれそうになる・・・・・・。

 

 くらりくらりと舟を漕ぎそうになっていると、廊下からパタパタと誰かが走ってくる音がした。

 

 見回りの先生かな?

 

 気にも止めず、少し眠気が覚めた頭で授業に復帰しようと思ったら、突然教室のドアが開けられ、忙しなく歩いていた人物が乱入してきた。

 

「・・・・・・は?」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 シロが入ってきた。

 教室内の全員が唖然としていた。

 

「トオルくぅぅぅぅん!!!」

 

「うわぁあ!?」

 

 突然シロが現れた、と思ったら泣きながら飛びついてきた。

 

「うぅ、ひぐっ・・・・・・」

 

「ど、どうしたっ!?」

 

 状況に困惑しながらも泣いているシロの背中を摩り、落ち着かせる。

 なんとか落ち着いて、ぽつりぽつりと話してくれた。

 

「どうした・・・?」

 

「お弁当を、届けようと、思って・・・・・・」

 

「うん」

 

「歩いてたら、道に、迷っちゃって・・・・・・」

 

「うん」

 

「地図、見ずに、千里眼だけ、で走って来ました・・・・・・」

 

「そっか」

 

 事情を聞いてなんと言えばいいか。

 

「あぁ、うん」

 

 もともと俺のせいでこうなったのか・・・・・・。

 

「トオル君・・・・・・」

 

 シロは頑張って届けてくれたんだよなぁ。

 なら、お礼を言うのが良いよね。

 

「ありがとう、シロ」

 

 頭を撫でてやりながら、そう言った。

 

「はいっ・・・・・・!」

 

 それまで目尻に涙を浮かべていた顔は、元気を取り戻してにっこり笑っていた。

 

 まぁそれはいいんだけどだからと言ってくっつくのはどうなんだろう。

 回りの視線が痛い。

 

 この前遊びに来た連中はニヤニヤしていて、他はヒソヒソと何か言っている。

 先生は「授業・・・・・・」と焦りながら呟いていた。

 

「村崎、お前・・・・・・!」

 

「仲間だと思っていたのに・・・・・・」

 

「処す? 処す?」

 

「ギルティ」

 

「よろしい、ならば戦争だ」

 

「お、そうだな(便乗)」

 

 何やらクラス中の男子から反感を買ってしまったようだ。

 

「わぁーお」

 

「ひぅっ・・・・・・」

 

 生きてシロの顔見れたらいいなぁ。

 

 そう思いながら、俺はただ時間が過ぎるのを待った。

 

 

 ややあって昼休み。

 

 弁当を届けにきて帰りは大丈夫なのか本人に聞いてみたら案の定「分かんないです・・・・・・」と暗い返事が返ったきたので午後の授業が終わるまで学校に居てもらうことになった。

 そして今は弁当を食べている。

 俺の隣ではシロが先ほど購買で買ってきた菓子パンと牛乳を飲み食いしている。

 昼休みになったと同時、シロのお腹からぎゅるる、と鳴り、俺が買ってこようとしたら周りのクラスメートが譲ってくれた。

 初見の相手だが良く思ってくれているようで俺としても良かった。

 ・・・・・・男子生徒からの視線はかなり痛いものになっているが。

 

「ご馳走様」

 

「ごちそうさまでした」

 

 二人とも食べ終わり、仮眠でもとろうと思ったら、クラス中の生徒が俺たち二人のもとに集まってきた。

 

「二人はどういう関係!?」

 

「恋人?」

 

「シロさんだっけ? 髪白いけどどっかの国の人?」

 

「なんで村崎みたいなゲーマーがこんな美人と付き合ってんの!?」

 

「よし、シベリア送りだ」

 

「うるせぇ!」

 

「え? えぇ?」

 

 シロは女子たちに囲まれ、質問攻めを受けている。

 俺は男子連中からの嫉妬の攻撃をなんとか回避しながら逃げていた。

 なんだこの差は。

 

 そしていたら昼休みは終わった。

 

 午後からの授業は空き教室から椅子を持ってきてシロも一緒に受けた。

 各先生に一言断りを入れてシロにも大人しくしておくように言っておいた。

 

そして放課後。

 

 夕方に入るかというような時間。

 俺は部活には入っていないのでまっすぐ家に帰っている。

 いつも一人だが今日は隣に一人、シロがいる。

 

「今日は、ごめんなさい」

 

 少女は申し訳なさそうにそう言った。

 

「何言ってるの、お弁当届けようと頑張ってくれたんでしょ?」

 

「でも・・・・・・」

 

「でももないよ」

 

 頭を撫でながら言う。

 

「本当に嬉しかったよ、ありがとう」

 

 彼女は照れくさそうに俯き、顔を上げて微笑む。

 

「はい、マスター・・・・・・!」

 

 やっぱりこの娘は笑ってるほうが可愛いな。

 

 改めてそう思う今日だった。



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十一話 胸の内

「あぁぁぁ・・・・・・」

 シロが現れ、衣類を買い、弁当を忘れたと思ったらシロが届けてくれたが注目と殺意を浴びた。

 

 端的に言えば色の濃い日が続いてしまって体が変に疲れている。

 

 以前弁当を届けてもらって数日経ったが、それ以降クラス中の男女から質問攻めにあった。

 そのせいで授業間の休みや昼休み、放課後などに俺の周りに人がいないことが無かった。それまでクラスの陰キャのゲームオタという存在で、人と話すこともあまりなかったのに会話を余儀なくされ軽く喉が枯れた。

「はぁぁぁ・・・・・・・・・」

「マスター、大丈夫ですか?」

 ソファーに寝そべって項垂れていると、シロが大図鑑(どんき)を抱えてリビングに入ってきた。今日はロンTに上から羽織り物とスカートとなっていて買い与えたカチューシャを着けている。隣いいですか? と断りを入れて、俺の隣に座って図鑑を読みはじめた。

「なぁ、よくそのモンスター図鑑読んでるけど、やっぱ気になるの?」

「そうですね、倒したことのあるモンスターだったり、見たことのないモンスターとかが見れて楽しいです!」

「そっかぁ」

 XX (ダブルクロス)に登場するモンスターはどれも基本的に原種と呼ばれるもので、原則亜種や希少種は登場しない。その代わり二つ名と呼ばれるモンスターが登場し、それが実質亜種的存在となっている。

 まぁリオ夫婦の希少種だけは出てくるが、ストーリーの進行上必要なためだと思えば仕方ないのかもしれない。そのためもあってかXXはシリーズ史上最多数のモンスターが登場するのでボリュームはかなりある。ありすぎて困るぐらいある。

「マスターは今日はゲームをなさらないのですか?」

「あぁ・・・・・・やってたんだけどさ、十分と経たずに三乙したからやめた」

「そ、それは・・・・・・」

 シロが二階から降りてくる前にちょっとモンハンをしていたが、気づかない間に三乙して画面にクエスト失敗の×印のマークが表示されていたので、今は休息と療養を兼ねて横になっていた。

 テレビも面白い番組ないしなぁ・・・・・・何しようかな・・・・・・。

 ぐるりと部屋を見回し、シロに目が留まる。

 正確には彼女が読んでいる本に。

「それ番号いくつのやつ?」

「えっと、4G・・・・・・ですかね?」

 俺がこのモンスター図鑑を買いだしたのは大体2ndGのころから。

 はじめは単純にアイテムの入手確率とかが知りたくて買っていたが、ネットで調べれるようになってからはただ眺めるだけに買っていた。内容もほとんど読んでいないのであまり知らない。

 4系か、極限化とギルドクエストがあるやつか・・・・・・。

「村がいっぱいあるんですね!」

「XXにも村結構でてくるだろ」

 XXでは歴代の、2(ドス)から3rdまでと、新たに追加されたXのベルナ村、XXから追加された一応村のクエストを受けれるので村の扱いをする龍歴船の、合計六つがある。

 各村を拠点として活動ができるので、自分に思い入れのある村をホームとする人も多いと聞く。

 4も拠点を変更できるが、XXのそれとは違ってストーリーの進行上必ず訪れて暫くその村に居座る。そこで問題を解決して次の村、また次の村へと進んでいくのだ。

 Xでは話を聞きに行くだけで、村に居ようが居まいが話の流れに一切の影響は無い。

 それぞれに利点があって味わいが違うのでどちらが良いとは言えない。

「やべ、考え込んだら眠く……」

「お休みになられますか?」

 何かしていて眠くなってきてそのまま寝てしまうなんてこともよくあるが、今日はさらに疲労感も相まってさらに眠気が増してきた。

「シロ、悪い、しばらく寝る・・・・・・」

「あ、ぁ、えっと、じゃあ・・・・・・」

 

 

「私の膝をお使いください・・・!」

 

 

 唐突に何を言い出すのだこの娘は、と一瞬思ったが、どうにも眠気が勝って思考停止一歩手前の俺にはもう頭を預けて寝るしかなかった。

「んじゃ遠慮なくー・・・」

「ひゃあっ!?」

 おぁあ、柔らかい。一瞬びくっ、と力んだせいか硬くなったが、またすぐに緊張が解かれてマシュマロのような柔らかさになった。

 あぁ、良い・・・・・・。

 俺は意識を手放した。

 

 

 ◆

 

 

 マスターが眠そうにしていたので思い切って膝枕というものを勧めてみたらふらりと横になって寝てしまった。

 いつも少し眠そうな顔をしていたが、今日はいつにもましてかなり眠そうにしていた。

 部屋を覗いたとき寝ながらゲームをプレイしているのを見て一層心配になった。

「マスター・・・・・・」

 自分の膝の上に頭を預けて寝入る少年の髪を優しく撫でる。

 少なからず迷惑を掛けていると思ってはいるが、恩返しをしようとしても掃除や洗濯が関の山で、土地勘もない自分では道に迷ってしまって一人で買い物も出来ない。

 今している膝枕も見方を変えればただの罪滅ぼしだ。

 私と背丈は変わらない。何か特別なものがあるわけじゃない。ゲームが好きな男の子。

 私のマスター。大好きなマスター。ずっと一緒にいたい。隣にいたい、寄り添いたい。

 けど、自分のせいで面倒事を背負わしてしまっているのはとてもつらい。

 

「もっと、頼ってください・・・マスター・・・」

 

 その言葉は静かな部屋の中に消えた。

 

 

 ◇

 

 

「ん・・・・・・」

 今何時だろ・・・?

 壁に掛けてある時計の時刻を確認したら午後の四時半を過ぎたぐらいだった。

 とても良い膝枕で寝起きが良いが、昼寝程度なので少し寝たりない感じだ。

「ん~・・・・・・」

 起き上がろうとしたが、身体に何か絡んでいる。

 シシロの腕が俺の頭と胸あたりに添えられてあって横になっている態勢もあって抜け出せない。

「シロー、放してー」

 呼びかけるが反応がない。

「シロー?」

 頭の向きを上に向けてみると、案の定寝ていた。

 こくり、こくり、と船を漕いでいる。

「ましゅたぁ・・・・・・」

 寝言なのか呂律が回っていない。

 やれやれどうやって抜けようかと考えていると、顔に滴が落ちてきた。

「なんだ・・・・・・?」

 ふと上を向くと、シロが涙を流していた。

 静かに、ポロポロと涙を流し、小さな声で呟いている。

「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 目の前の少女はとても辛そうに、苦しそうに、泣きながら謝罪を繰り返していた。

 次から次に涙が零れ、俺の顔を濡らしていく。

 シロが来てから確かに色々あったが、心から彼女を嫌うことは一つもなかった。むしろ楽しかった。いつもの同じような毎日を繰り返していた俺の前に突然現れてきてからは衝撃の連続だった。

「そんなことないよ」

 腕を伸ばし、彼女の白い頬を撫でる。

「確かに疲れちゃったけど」

 涙を拭ってやる。

「君が来てくれたおかげで毎日が楽しいんだ」

 聞いていないが、聞いていないからこそ、本心が出た。

 今まで率先して人と話そうとしなかったからか人と面と向かって会話することができなかった。

 今のだってそうだ。シロが寝ているからこうやって心の内の言葉が出た。

「君が来てくれたから変われたんだよ、シロ」

 

「俺も、シロが好きだよ」

 

 ゲームの自機とか関係なく、単なる好意ではあるが、この気持ちに一切の偽りはない。

 いつかは愛と言える気持ちになるのだろうか。

 その日がきたら、嬉しいのだろうか。

 

「わかんないなぁ・・・・・・」

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「ん・・・あれ、寝ちゃってた・・・・・・?」

「おはよ、シロ」

 目を開けると、やわらかい笑顔でこちらを覗く少年の顔が見えた。

 その顔はどこか嬉しそうで、ニコニコとしている。

「ますたぁ・・・・・・?」

「ん?」

 記憶があやふやだ。自分がいつ寝入ってしまったのかわからない。膝枕をしてあげて、眠たくなってから・・・・・・どうしたんだっけ・・・・・・。

「シロ」

「な、なんでしょうか?」

「そろそろ離してくれると助かるかなぁ」

「あっ・・・。ご、ごめんなさいっ!」

 ずっと置いてあった両の手を挙げてマスターを開放する。

 名残惜しい気もするけど、仕方ないよね・・・・・・。

「あの、マスター」

「どした?」

「私は、マスターに迷惑を掛けていませんか・・・・・・?」

 胸の内の不安をぶつける。

 もし彼に負担をかけているなら少しでも手伝いたい。自分の責任なのだから。

「大丈夫だよ。確かに色々ごたごたしたけど、人が増えるときってそんなもんじゃない?」

「はい・・・・・・」

 彼は笑って流すが自分の中では納得がいっていない。

 現に今日は疲労が溜まって昼の間寝ていたのだから。

「それに、俺はシロが来てくれて嬉しいんだよ」

「え・・・?」

 俯き気味だった顔をあげて、彼を見る。

「大好きだよ、シロ」

「・・・・・・はいっ、私も大好きです!」

 その言葉で不安は消え去り、より一層彼のことが好きになった。

 

 大好きです。マスター!



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十二話 やり返し

 あれ以来シロが積極的になった。

 家に居るときはよくくっついてくるし、学校に行くときは以前のようにハグをしてくる。しかも強めに。スキンシップをしてくることが増えた。というかレベルが上がった。

 

 ここまでならまだいい。まだ。

 

 あろうことか寝るときも一緒に寝ようとしてくる。

 最初に一緒に寝て以来理性が弾けそうだったので布団を空いている部屋に持ってきてそこで寝てもらっているが、たまに夜中に俺の部屋に入ってきてベッドの中に潜り込んでくる。追い出そうにも体に抱き付いてきて離れないので追い出せない。

 空き部屋に布団を敷いたときに俺がそっちで寝ようかと提案したがそれではナニかあるようでベッドは俺が使っている。ナニがあるのかは知らない。

 

 今日はふつうの平日なので俺は学校がある。

「じゃあ、行ってきます」

「あ、待ってくださいっ」

 家を出ようとして引き止められ、シロが駆け寄ってくる。

 振り向くと可愛い笑顔を浮かべたシロにぎゅっと抱きしめられた。

 スキンシップが増えたとは言えまだ数日、未だにこの習慣に鳴れない。

「・・・・・・シロ、もういい?」

「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・・・・」

 たっぷり三十秒、抱擁から解放されて名残惜しいようなほっとしているような、不思議な気分だ。

 朝から心拍数を上げられ今後のことも考えて慣れないといけないな、と改めて実感する。

 止めさせようとして注意したら泣きそうな顔をするので一度言って以来まったく注意をしていない。

「ん~・・・・・・はい、もう大丈夫です」

「ん、じゃあ行ってくるよ」

「はいっ、行ってらっしゃいませ!」

 元気な見送りを受けて家を出る。

 

 

 ◆

 

 

 学校。

「はぁぁ・・・・・・」

 学校に着いて早々にため息が出る。

 最近ため息を吐くのが癖になっている。いや、前からあったけど、頻度が上がっているのか。

「どうした村崎、朝からそんな大層なため息ついて」

「あぁ、おはよう加藤・・・・・・実はシロがさ・・・・・・」

 親友の加藤に声を掛けられそちらを向く。

 清々しい顔で挨拶をしてきたが俺の顔を見て神妙な顔をしてきた。

「お前の彼女さんがどうしたって?」

「彼女・・・・・・それは置いといて、実は最近シロによくくっつかれる」

「なんだその超羨ましい悩みは」

「ゲームヲタのコミュ力の低さを舐めるなよ」

「自慢げに言うことじゃないよな」

 一人で過ごすことが多く、家に親がいることが本当に少ないので会話なんてほとんどしていないというのに「やったねたえちゃん!家族が増えるよ!」なんて言われたら対処しようがない。てかこれトラウマなやつだ。

「お前ら席につけー。SHRすんぞー」

「あ。じゃあ後でな、村崎」

「あ、うん・・・・・・」

 長い一日が始まるなぁ。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 昼休み。

 生徒達は各々の過ごし方をしていた。

 昼食を摂るもの、睡眠にあてるもの、早々に食事をすませ遊戯に浸るもの。

 俺は重たく弁当の中身を口にはこびながら加藤に相談を持ちかけていた。

「で、朝の続きだ。シロさんがどうしたって?」

「身体接触してくることが多くなったんだ」

 もそもそと弁当を食べながら質問にこたえる。この弁当も以前は自分で作っていたが、最近は半分ほどシロが作るのを手伝ってくれるようになった。

 対して加藤は購買のパンとパックのジュースだ。内容は惣菜パン二つに菓子パンが一つ、飲み物は緑茶だった。

「今日弁当じゃないんだ」

「親が寝坊して作ってもらえなかった」

「そっか」

「それはいいんだよ!」

 世間話をして気分を紛らわそうと思ったがそうはさせてくれない。

「お前が彼女とイチャつくのは大いに結構だ。腐れ縁として喜ばしい」

 が、と加藤は続ける。

「村崎、お前が受け身になりすぎてどうする!たまには自分からいってみろ!ゲームの時のお前みたいに!」

「でも・・・・・・」

「でももだってもあるか!」

 親友の言葉が今は耳に刺さるように痛く感じる。

 人との関わりを避けてきたツケが今回ってきたのかな・・・・・・。

「・・・・・・今日、帰ってやってみる」

「よし、いけっ!」

 覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 自宅。

 

 なんだか帰りの足取りが重たかったが、加藤の言葉を思い出すと不思議と重りが取れた感じだった。

「ただいま」

 玄関のドアを開ける。

「おかえりなさぁ・・・・・・い?」

 パタパタと奥から駆け寄ってきて腕を広げてきたシロを、逆に抱きしめて受け止める。

「あの、マスター?」

「・・・・・・・・・」

 何も言わずにただ抱きしめる。というか言葉が出ないぐらい恥ずかしい。

「その、無言でいられると・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 まだやめない。

「マスター・・・・・・?」

「・・・・・・・・・」

 まだ。

「うーー・・・・・・」

 強張っていたシロの体から力が抜けていく。

 それと同時に全身が熱くなっているのが服越しで伝わってくる。

 抱く力を強めて、もっと密着する。

「ぁぅ・・・・・・」

 正直俺自身羞恥心で死にそうだ。

 そろそろ止め時か? 

 そう思って体を放してシロの状態を確認する。

「ぅあ・・・・・・?」

「・・・・・・やり過ぎた、かな?」

 とろん、と蕩けた顔で顔を真っ赤にしながらふらふらとするシロが出来上がった。

「おーい、だいじょう・・・・・・ぶ?」

「・・・・・・きゅう」

「わっ」

 こっちに倒れてきたので受け止める。

 耳の先まで赤くしてユデダコ状態にしてしまった彼女を抱えてリビングまで運ぶ。

「よっ・・・・・・うおっ、いくら女の子でも、人間一人抱えるってなったら、それなりの重量が・・・・・・」

 絶対本人が起きている前で言えないことが出てしまったが、幸いと言うか気を失っているのでありがたかった。

 

 

 

「これでよし、と」

 ソファーにシロを寝かせて伸びをする。

 唸りながら眠るシロの頭を撫でながら、起きたらどうしよう、と考えてとりあえず加藤に某メールアプリで報告する。

「抱き返したらシロが倒れた、と」

 文面で見たら大分初心な気もするけど、実際そうだし気にしなくてもいいか。

 シロの頭を撫でてやりながら自分もソファーに座って休む。

 少ししたら加藤から返信がきた。

『お前だけかと思ったらシロさんもかよ。もう結婚しろよ』

 あの野郎好き放題言いやがって。

 けど実際こんな状態になっているので反論できない。

「まぁ、これもいいのかな・・・・・・」

 自分の中で嬉しく思っているのも事実、なら別に気にしなくてもいいのかな。

 免疫つけなければいけないのは確かだけど。

 

「じゃないと理性が持たないよ・・・・・・」

 

 本能の制御に悩まされるなぁ・・・・・・。

 

 

 

 



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十三話 スランプ

 翌日。

 

 シロがよそよそしい。と言うか顔を合わせたら赤面して目線を逸らす。会話は最低限で起きたときに俺のベッドの中にも入っていなかった。

「じゃ、学校行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ・・・・・・」

 重苦しいことこの上ない。

 何とか打開せねば・・・・・・!

 

 

 ◇

 

 

 マスターが学校に行かれました。

 いつも笑顔で見送っているのに今日は顔も合わせられません。

 目線が気になってチラチラと見てしまい、目が合うと顔を逸らしてしまいます。

「どうしちゃったんだろ、私・・・・・・」

 お会いしたときから好きと言ってきました。

 自分の好意を伝えてきました。

 スキンシップもそれなりにしてきましたが、いざ自分がしてきたことをされたらとても恥ずかしくて・・・・・・。

「思い出したら、また恥ずかしい・・・・・・」

 家事しなきゃ・・・・・・。

 

 

 ◆

 

 

 学校。

 

「加藤ぉぉ~・・・・・・」

「おうどうした幸せ者この野郎」

「お前は貶したいのか祝いたいのかどっちだよ」

「両方だよ」

「これはひどい」

 朝のHR前の友人との会話で少し傷ついた。

「シロさんが倒れたって言ってたけど、大丈夫だったのか?」

「うん、まぁね・・・・・・」

 加藤の一言で教室が騒めいた。

 

「シロさんが倒れただぁ!?」

「え?」

「嘘だろ村崎」

「待って」

「な、なんだってぇーッ!?」

「話を」

「なんだって、それは本当かい?」

「聞いて」

「生かしてはおけねぇ!」

「待てって」

「磔刑にしろォッ!!」

「おい」

「「「「オォーーーッ!!!」」」」

「止めろお前らぁーーー!!!」

 その後先生が来るまでやんややんやと吊るされて、昼までの体力が全部持っていかれた。

 

 

 ◇

 

 

 村崎家。

 

「お掃除終わった、洗濯機も止まったし洗濯物・・・・・・」

 ふらふらと脱衣所に行って洗濯機の蓋を開ける。

「あれ、こんなに色薄かったっけ・・・・・・?」

 洗剤の量を間違えてしまった。どうしよう、色物が大分薄くなっている。

「やっちゃった・・・・・・。他ので挽回しないと!」

 お風呂場掃除。

「わっ、洗剤が・・・!」

 お料理。

「えっと、油を入れて・・・・・・て、火柱がぁーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁあぁぁぁ・・・・・・・・・」

 何でだろう? 上手くいかない。いつも難なくこなせることが今日は全然上手くいかない。どうしてだろう?

「まだ引きずってるのかな・・・・・・。本当にどうしよう・・・・・・」

 ……とりあえず、片付け、しなきゃ。

 荒れた部屋とキッチンを見て切にそう思うシロだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 放課後。

 

 疲れた。あいつら手加減を知らねぇのか畜生。朝からもみくちゃにされて一日中いじられていた俺は放課後になったのを伝えるチャイムが鳴ったのと同時に荷物を片付けて即行で教室を抜け出した。何人か追ってきたが振り切った。

 

 さて、シロは大丈夫だったかな。それが一番心配だ。

「ただいま・・・・・・ってうわぁっ!?」

 家のなかがメチャクチャになっていた。

 部屋は荒れ、花瓶は割れて破片が散乱しキッチンからは焦げ臭い匂いがしてくる。

 何が起こったんだ?

 ひとまずシロの安否を確認しなければ!

「シロ、大丈夫かっ!?」

 呼び掛けるとソファーの上に踞っていたシロが起き上がり、ゆっくりと此方を向く。

「ますたぁー・・・・・・?」

「お、おい、本当に大丈夫か……?」

 恐る恐る近づいていくと、ぶわっと涙を流しながら飛び付いてきた。

「まじゅだぁぁあああああああああああああ!!!!!」

「うわぁ!?」

「うわぁぁああああぁぁぁあん!!!」

 抱きついて、泣きじゃくる。

 おいおいと泣きわめくその姿は、まるで幼子のようだった。

 そんなシロを抱き締めて落ち着くまで頭を撫でてやった。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 暫くして、泣き止んだシロに何があったのか聞いた。

何でも昨日俺がやった行為のことを引きずっていて、それが気になって作業に集中できずに失敗が続いて、焦って負の連鎖に繋がってしまったらしい。

「ごめん、なさい・・・・・・」

「それはいいんだ、怪我はしてない?」

「それは大丈夫です・・・・・・」

「そっか、よかったぁ・・・・・・」

「あの、怒らないんですか・・・・・・?」

「故意じゃないなら注意だけだ」

「そう、ですか」

 思わず安堵して力が抜ける。あの大惨事を見たときは何事かと思ったが、シロが無事で本当に良かった。

「ひとまず、掃除するか」

「はい・・・・・・」

 割れ物は注意しながら大きい破片を拾い、細かいものは掃除機で吸い込む。乱れた家具は整頓して、キッチンの鍋等は水に浸けて汚れがふやけてきたらたわしで擦る。

「よし、こんなもんか」

 ふぅ、と息を吐いて汗を拭う。

「ごめんなさい、マスター・・・・・・」

「いいって、それより夕飯作るから手伝ってよ」

 

「え、でも、また失敗しちゃうかも・・・・・・」

「大丈夫だって。俺がいるんだから」

「・・・・・・はいっ」

 

 夕飯は簡単にパスタにした。

 美味しいごはんを食べているときが一番の幸せと言ったのは誰だったか、確かにその通りだと思う。

 目尻に涙溜めてたシロが今はいい笑顔で飯食ってるんだから。

「美味しい?」

「むぐ、はいっ!」

「ん、よかった」

 うん、いつも通りに戻ったようでよかった。

「お風呂どうする? 先入る?」

「あ、後からでいいです」

「ん」

 

 

 風呂。

 

「ふぅ・・・・・・」

 湯船に浸かって今日の疲れを癒す。

 シロが心配で相談してたらなんか話が飛躍して大変なことになった。

 帰ってきたら家が惨事になってて肝が冷えたけどシロが無事で本当に良かった。

「シロの写真撮って送ってやろ」

 とびきり笑顔のやつ。

「あの、マスター!」

「んー? て、シロっ!?」

 シロが勢いよく風呂場の扉を開けて入ってきた。

 タオルで隠しているが、それはそれで・・・・・・待て危ない、それはキケンだ。

「お、おお、お背中をお流しさせてくらしゃいっ!」

 嚙んだ。あ、顔真っ赤んいしてる。俺も恥ずかしかったけど今のでちょっと冷静さを取り戻してきた。

「まぁ、身体流して浸かりなよ」

「・・・・・・・・・はい」

 

 デジャヴ。

 この前もこんなことがあったな。それはいい。シロと並んで浴槽に浸かり、お互い出来るだけ顔を合わせないようにしている。気恥ずかしいことこの上ない。

「シロ、今日はどうしたんだ?」

「マスターのことを考えたら、胸が締め付けるように痛くなって、いつも以上に張り切ったら、空回りして、それで・・・・・・」

「うん」 

 歯がゆいと言うか、歯が浮くような気分だ。

「シロ」

「何でしょうか」

「あまり考えるなよ。ステ振り間違えたような行動とか思考回路だと短時間で使えなくなるんだから」

「?」

「悩みすぎたらまず立ち止まって落ち着け」

「はいっ」

「よし、いい返事だ」

 なんとも言えない言葉を掛けた気がするが、まぁいいだろう。

「じゃあ、先に上がるぞ」

「あ、はい」

 

 

 

 自室。

 髪を拭きながらベッドに座る。俺の後ろをシロがついてきて俺の隣に座る。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「なんでいるんだ」

「へ?」

 立ち上がって

 すっごい自然に部屋に入ってきたぞこの()

「今日は、一緒に寝たいんです。マスター、お願いします・・・!」

 まぁ、減る物(物体)はないけど。

「お願い、します・・・・・・」

 あ、もう無理。

 

「ん・・・・・・。わかった、いいよ。おいで」

「・・・・・・はいっ!」

 減る物(精神)は捨ててしまおう。

 我慢だ、息子よ。この雰囲気を壊してはいけない。

 

 添い寝することを許容し、初めてシロが来た時のように二人が一つのベッドで寝る。いつも積極的なシロは今は遠慮がちに距離を開けている。これじゃあまだダメだと思い、こちらから密着する。

「ま、マスター?」

「シロ」

「は、はい」

「このままいさせて」

「んう、はい・・・・・・」

 寝ろ、鎮まれ、覚醒するな。

 頼むから今大地に立とうとしないでくれ息子よ。

 

 翌日、気を紛らわすのに必死であまり眠れなかった俺に対して、シロは調子が戻ってすこぶる元気になっていた。

 

 

 



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十四話 お花見

 今日は休みなのでシロと二人で花見に来ている。

 家の近所にある神社か広い公園に行くか迷ったけど今回は公園にした。

「いい天気ですね、トオル君!」

「そうだねぇ」

 今は外出中なのでシロは俺の呼び方を「マスター」から「トオル君」に変えている。そう言えばシロが学校に来たときこの子何気に俺の名称変えてたな。意図的にやってたのか無意識に切り替えたのか、どちらにせよ恐ろしくも凄いな。

 敷物を桜の木の下に広げて、二人でその上に座る。ここら辺の桜は少なく、離れたところに密集するように木が生えているので、大半の団体はそちらの方で楽しまれている。

「トオル君、あっちは花が多くてとても楽しそうです」

「じゃあこっちは景色が良くてきれいだよ」

「あ、ホントだ。きれい・・・・・・」

 見上げれば一面桜景色、それもいいが、少し離れて見れば様々な色が入り、まるで一級品の絵画のような美しい景色が広がっていた。単色より多色、いいものだ。

「さ、弁当食べよう」

「そうですね、そうしましょう!」

 家で二人で作った弁当箱の蓋を開ける。

 中はおおよそ朝方見たものばかり、と言ってしまっては風情も楽しみもあったものじゃ無いから口に出さずに飲み込んでおく。

「うん、美味い」

 我ながら良い出来だ。仕込みはちゃんと出来てるな。

 しかしこう、桜を眺めながらボーッとして飯を食うのもいいな。落ち着く。

 

 

「あー良い天気だなー。桜きれーだなー」

「ゲームしながら言うことではないと思いますが・・・・・・」

 俺は持ってきた某電気メーカーが作ったゲームハードを敷物に寝ころびながらプレイしている。

 携帯機でこの大画面でプレイできるのは素直に凄いと思う。まぁ、初期型は色々不具合とか設計的に大分無理してたらしいけど、改良型はそこらへん大分修正されてて遊びやすい。この日の下でもちゃんと画面の色がくっきりと見える発光は素晴らしい。さらにソフトは何かと良作も多いので大分遊んでいられるのがまた良い。

「あーP○Pさいこー」

「もー、トオル君!」

 ゆっさゆっさと体を揺すられる。シロ待って、そんなに大きく揺すられてたらさっき食べた分が出そうになるから待って話せない息が途切れて会話できないから待ってってねぇえああああああああああああああああああああ。

 

 

「ご、ごめんなさい・・・・・・」

「う、うん、俺も悪か・・・うぇっぷ・・・・・・」

 なんとかリバースは回避できたがその代わりに喉を焼くような不快感はちゃんと出てきてしまった。

 お茶お茶、飲み物飲まねば。

「ん・・・・・・、ふぅー」

「大丈夫ですか?」

 水筒のお茶を差し出して上目使いに恐る恐る訊ねてくる。

「うん、もう大丈夫」

 真正面に正座で座るシロにカップを手渡して、息をつき、改めて桜を観る。

 やわらかい風に吹かれて花びらか舞い、ひらひらと靡かれて飛ぶ。桜舞う季節という言葉を絵にすれば、こんな情景が当てはまるのかな、なんて考えていたら、シロの頭に花びらが舞い降りた。

「シロ、動かないで」

「へ? あの、マスター?」

 わたわたと慌てるシロにどうしたのだろう、と思いながら花弁を取ってあげる。

「ま、まだ心の準備がですねあのえっと・・・・・・て、え?」

「え?」

 

 沈黙。

 

「あの、えっと・・・・・・」

「いや、花びらが付いてたから、取ろうと思って」

「花、びら」

「うん」

 

 またも沈黙。

 

「ごめんなさい勘違いでしたぁー・・・・・・」

「う、うん。気にしなくていいから、ほら元気だして、ね?」

 シロの言葉でこっちも意識してしまって気恥ずかしくなってきた。

 なんとか打開しなくては。

「な、なんかジュースでも買ってくる」

「は、はい」

 戦術的撤退。

 

 

 ◇

 

 

「はぁー・・・・・・」

 公園に設置されている自販機に行き、俺の分とシロの分の飲料を買う。

「俺は炭酸で、シロはどうしよう、果汁ジュースでいっか」

 赤いうさぎと青い戦車のイラストが入っているなんともスパークリングな炭酸飲料とにっこりした笑顔が印象的なオレンジジュースを買って戻ってきたら、シロがナンパされていた。

「あ、やばい。どっちに転んでも地獄だありゃ・・・・・・」

 

 

 ◆

 

 

 マスターがお飲み物を買いに行かれて、その間に上がっている動悸を抑える。

「はぁー・・・・・・。びっくりしたぁぁー・・・・・・」

 急に間近に寄られて驚いてしまった。

 何されるのかな。なんてちょっと期待したりしなかったり・・・・・・。

 そんなことを思っていたら、何やら派手目の衣装を着た二人の男性だ近づいてきた。

 

「ねー。君一人?」

「良かったら俺たちと一緒に飲まない?」

 なんなのだろうかこの人達は。

「あ、あの、どちら様ですか?」

「俺ら男何人かで飲んでたんだけどやっぱ女の子が居ないとむさ苦しくてさー」

「暇そうなら助けると思って一緒にお花見しない?」

 気さく、というよりどこか軽そうな言葉で誘ってくる。

 男の視線は舐めるような不快感があり、少し拒否感を覚えた。

「あの、ごめんなさい。私トオル君と来てて、あなた方とはいけません」

「そんなこと言わないでさぁ。ね、何にもしないって」

「そうそう、俺たちと遊んでる方が楽しいよ~」

 

 イラッ。

 

 我慢だ。以前外出した時も極力スキルの使用などは禁じられた。そう簡単に攻撃はしない。

 

 

 けど準備はする。

 

 闘魂2。攻撃力大。見切り3。弱特。抜刀会心。超会心。匠2。

 武器は拳双剣。

 思いつく限りの火力スキルを発動できるようにする。

 会心200%の火力で超会心も合わさって初発に限定すればかなりのダメージが期待できそうだ。

「ですから、トオル君と・・・・・・」

 

 

 

 

 

「ウチのシロになにか用ですか?」

 

 

 

 

 

 マスターが現れた。

 少し距離遠いところから声をかけ、その手には二本の飲料物が握られていた。

 良かった。なんて思っていたらあろうことか見知らぬ男たちはマスターに突っかかっていった。

 

「彼氏クン? ちょっとあの子貸してくれない?」

「大丈夫、何もしないからさ」

マスターはこちらと男たちを交互に見て、戸惑った顔をしていたが私の手元を見て少し慌てていた。

 

「じゃあ、コレを見てから再度決めてください」

 マスターは私のところに小走りにきて小声で説明する。

「シロ、俺がこの缶ジュース放り投げるから、殴って潰して」

「え、でも、いいんですか?」

「大丈夫、それであの人達もビビッて逃げるよ」

「ん~・・・・・・。やってみます」

「よし決まり」

 何か決まってしまった。

 けど、やったらすっきりしそう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そんなこんなでシロの一発芸()をやることになった。

 ちょっとトイレで着替えてきてもらい、ハンターの武具を装備している。

 見た目はいつもの俺が組んだオリジナルキリン装備。

 スキルはわからない。だが火力全振りなのは帰ってきてシロの手を見て一目瞭然だった。

 あんな殺傷のオーラを纏った手は今まで見たことがない。ていうかこの人達はソレに気づかなかったのだろうか。そうだとしたら呆れる。

 

「なに、コスプレ?」

「踊りとかするの?」

 男共はそれぞれの感想を述べているが、不安でしかたない。

「じゃあ、シロ。いくぞー」

「はいっ!準備OKです!」

 そういってシロはスッ、と構えた。

 目付きは真剣そのもので、一切の表情は覗えない。

 

「そーれ」

 

 俺はぽーんと弧を描くようにアルミ缶を投げ、シロはアルミ缶げ目の前に来たその一瞬。

 

 

 パァァァンッ!!!

 

 

 凄まじい破裂音と共に、未開封の缶ジュースは潰れて、中の炭酸飲料は弾け飛んだ。

 売り文句が『シュワッと弾ける!』だったが正にその通りだな。なんて思って男共を見たら顔を青くして震えていた。

「なんだこれ・・・・・・」

「ヤベェ・・・・・・」

 それと対照的にシロは先ほどまでの真剣モードから切り替えていつもの物腰柔らかな感じになっていた。

「マスター!上手くいきましたー!」

「うん、お疲れ」

 俺のもとまで小走りできて嬉しそうに跳ねるシロの頭を撫でながら褒めてやる。

 予想していたがここまで威力のあるものなのか・・・・・・。

 もはや原型を留めていない円盤状のジュース缶だったものを見ながらそう思う。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 男たちは一目散に逃げ出して、俺とシロの二人に戻る。

 あたりは缶ジュースの中身で濡れてしまい、汚してしまった罪悪感が沸いてくる。

 シロはまた着替えてきて防具から普段着に戻っている。

「シロ、ごめん。一人にさしちゃって」

「そんな、大丈夫ですよ!」

「でもスキル使おうとしてたじゃん」

「う、それは、その・・・・・・」

 アレは間違いなく殺せるだけの威力を持っていた。もしあのまま介入せずに放っておいたら傷害沙汰になっていたかもしれない。

 が、当の本人は何処吹く風と言わんばかりに、美味しそうに果汁ジュースを飲んでいる。

「ん、ん、ん・・・・・・ぷはぁ」

「そうしてたら可愛いよな」

「えぇっ!? あの、えっと、その・・・・・・」

「受けは弱いんだよなぁ」

「うぅ・・・・・・」

 まぁそこも可愛いのだけれども。

 

 さて、そろそろ片付けするか。

「シロ、そろそろ帰るから、片付け手伝って」

「あ、は、はい!」

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 大してそんなに物を持ってきていなかったので、片付けはすぐに終わり、俺とシロは帰路についていた。

 帰り道、大した会話はなく、無言で歩いているともう家に着いた。

「ただいま。と言っても誰もいないけど・・・・・・」

 先に入って上がろうとしてシロに引き止められる。

「シロ?」

「マスターは、後から入ってください」

「え、何、なにすんの?」

「いいからっ!」

「ア、ハイ」

 そう言いながらシロは先に家の中に入り、こちらに振り向き、なにやら自信ありげな顔で待機していた。

「どうぞ!」

 程無くしてシロが一声。

「た、ただいま?」

 

 シロは元気で明るい笑顔で、

 

「おかえりなさいませ、マスターっ!」

 

 



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十五話 誘惑?

 いつも通りの朝。

「んぅ・・・・・・」

「・・・・・・」

 起きたら隣でシロが寝ている。と言うのはもうよくあることなので驚きはしない。心臓に悪いのは確かなんだが。腕に絡むな腕に。あ、バカおいやめ、ああああああ。

 

「いただきまふ・・・・・・・・・」

「いただきます」

 朝食を作って席につき、合掌して食べる。シロはまだ眠たそうにしているがそれでもご飯はしっかり口に運んでいるので中々面白い。

 

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃいませ、マスター!」

 すっかり目が覚めたシロにたっぷりハグされて見送られる。さて、今日も何とか耐えきった。

 

 

 学校。

 

 

「村崎お前今シロさんとどこまでいってんの?」

「何だよ急に」

 学校の昼休み。内藤と昼食を食べていたら、いきなり内藤がアバウトな質問を振ってきた。内藤とはよくゲームをするので珠に昼食を食べることがある。

「どこまで、と言われてもなぁ」

「なんかこう、あるだろ? チューしたとか、ヤったとか、出来たとか」

「あるかそんなこと。あってたまるか」

 こいつは何を言っているのだ。

「百歩譲ってチューはやってたとしてもヤってできちゃったはまずいだろ普通!」

「じゃあチューはしたんだ?」

「してない」

「アイエェェ」

「何だよ」

 どこぞのニンジャのような台詞を吐きながら加藤が驚いている。

「チェリーのまんまじゃああんまり良くないぞ」

「うるさいなぁ……」

 余計なお世話だこんにゃろう。

「ごちそうさま、俺は寝る」

「おう、オヤスミー」

 

 

 

 自宅。

 

 

 

 家ではリラックスできるのかと言われたら最近はそうもいってない。家庭内に身内以外の異性がいるという状況というのは当たり前だが落ち着かない。シロがウチに来て暫くするがやはりどこかまだ慣れない。主に俺の心境とかが。

 そんなことを考えながら玄関の扉を開くと、パタパタと音を立てながらシロが出迎えてくれた。

「マスター、おかえりなさいっ!」

「ん、ただいま」

 出迎え、と言うか勢いで抱擁してくるのは何故だろう。彼女が嬉しそうなので良しとするべきなのか、止めさせるべきなのか、止めさせてメリットがない。よし、放置で。

「んふ~♪」

「嬉しそうだね」

 にこにこしながら抱き締めるシロの背中を擦りながら興奮する彼女を宥める。柔らかい感触は無視の方向で。昼の話で大分意識してしまっているので無心でいなければ理性がもたない。

「シロ、俺着替えてくるから」

「ん~…、はいっ。では私はお夕飯作ってますね!」

 最後少し強く抱き締めてぱっ、と放してくれたシロはそのまま台所に向かっていった。

 当初から料理の手伝いをさせて、今では簡単なものなら一人で作れるようになった。感慨深いなぁ……。

「はぁー」

 自室で着替え、下に降りるとシロは『グルニャン』シリーズに身を包んでいた。

「あ、マスター。もうすぐ出来ますよ!」

「いや、それはいいんだけど、何故にグルニャン?」

 足は足袋のような見た目をした、ニーソと言えるほどの長さがある履き物で腰は後ろと左右に切り込みのあるミニスカートで腰巻きをしていて小さな猫の尻尾が生えている。

 

 腕には袖抜きのようなものの上から猫の肉球のようなミトンを着けて、服は半袖のシャツ、と思わしきものの上に白いチョッキと赤いスカーフを巻いている。

 

 頭部は下半分がメッシュで色が変わっており、所謂ボブカットと言えるのか? そんな髪形で襟足から三つ編みが垂れていて頭頂部には猫耳が生えている。

 

 装飾は片耳にスプーンの刺さった小さなコック帽に緑ぶちの淡い赤色の髪止め長めのもみ上げに猫の髭のような感じで取り付けられたヘアピンがあるくらい。

 

 そして全身クリーム色に茶色のラインが入っており、各所に猫の肉球のようなマークが入っている。

 

 そんな格好をしたシロが夕飯を作っているので、ちょっと気になったので声をかけた。

「スキルがどこまで日常生活に応用出来るのか気になって」

「実験的にグルニャンの『グルメ』スキルを使う、と?」

「はい!」

「しかし何故にグルニャン?」

「キリン装備での複合スキルの発動が難しかったので」

「なるほどね、だからグルニャンと言うわけか」

「そうですっ!」

 凄く良い笑顔で答えるシロ。耳はピコピコ動き、尻尾は忙しなく揺れている。

 

「・・・・・・ソレ触っていい?」

「はい? いいですよ?」

 本人の許可が降りたので早速猫耳と尻尾に触れる。手触りは滑らかでただの獣の毛皮を纏ったというわけではないようで毛並みがきちんと整っていた。

「すっごい柔らかい・・・・・・」

 

「ひゃんっ」

 ん?

 

 くにくに。

「ぅあぁう・・・」

 

 いじいじ。

「はぅあっ!?」

 

 しゅこしゅこ。

「や、ぁん、だめぇ・・・・・・!」

 

 んー・・・・・・?

 

 揺れる尻尾を優しく掴み、あれだこれだと色んな触り方をしてみて気が付いた。そうしたらシロが一つ一つの動作に敏感に反応して体を痙攣させる。

 あ、ヤバイ、なんか、エロい。

 

 もっと触りたい。

 

「ゃ、あんっ、マスター、今はだめ、ですってぇ・・・・・・!」

 悶えるシロの言葉は耳に届かず、無言で尻尾を攻める。

「あの、今、お料理、してましゅからぁあああ!?」

 時に優しく触れるか触れないかの狭間で。

「だめ、ホントに、もう、だめ、あ、ひぅんっ!」

 時に強く握って強引に擦り。

 

 先っぽを擦り。

 

 根元をいじり。

 

 下から逆撫でしたり素早く擦ったりしてみたり。

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!?」

 

 

 途中から口を押さえて声を止めていたシロが最後ビクン、と大きく体を跳ねさせて硬直したかと思えばその後すぐに力が抜け落ちその場にふにゃあ、と崩れ落ちてしまった。

 

「あ、シロ、大丈夫ー・・・・・・?」

「はぁー・・・・・・はぁー・・・・・・」

 顔を赤く染めて虚な目をして荒く息をする。まだ体の痙攣が治まっておらず、時折体をひきつらせている。

 虚な目は焦点が定まっておらず虚空を捉えていた。

「や、やっちゃった・・・・・・・・・」

 伸びてしまったシロをソファーに運び、途中、と言うか殆ど手を付けてない調理現場に行って、夕飯を作り上げた。

「起きたら謝らないとなぁ・・・・・・」

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

「ん・・・・・・」

「あ、起きた?」

 あの後シロをソファーに運び、パパっと夕食を作ってシロに付き添っていた。

「ご飯出来てるけど、食べる・・・・・・?」

「あ、はい、じゃあいただきます」

 

 静かな夕食。

 賢者モードってこんなに長かったっけ。言葉が出ない。会話ができない。

 ええい自分の責任じゃないか。ちゃんと自分で謝罪の言葉を言わなければ。

「あの、シロ!」

「は、はい!」

 喉が渇く。脂汗が止まらない。目線が定まらない。不安で落ち着かない。

 

 落ち着け。落ち着け。落ち着け。

「シロ、さっきはごめん。調子に乗ってやり過ぎた。反省してる」

「あ、あれは、その・・・・・・」

 シロは先程の出来事を思い出して顔を真っ赤にさせていた。

「まだ不満があるなら言ってくれ。俺にできることなら何でもする」

「ですから、あれは・・・・・・」

「だから、ごめんなさい・・・・・・!」 

「マスター!聞いてください!」

 シロは声を荒げて言葉を遮った。

「えっと、何か気に障ることしちゃった・・・・・・?」

「そうではなくて、その・・・・・・」

 もじもじと言葉を濁しながらもシロは伝えた。

「実は、今日マスターのお部屋でこういう本を見つけまして」

 

 差し出された本はピンクと肌色成分が多い大人向けのエ本だった。

 

 それを見て俺は一瞬思考回路が止まった。

「何、それ」

「わ、わ、私が聞きたいですっ!」

 羞恥心を露わにしながらシロは言い放った。

「これ見てなんだか不安になってしまって、それでこの本に描いてあるようなことをすればマスターが私にもっと興味を示してくれるのかなって思って、それで・・・・・・」

「あー、シロ、待って。落ち着いて」

 なんだか話がこんがらがってきた。

 あの本はなんだ? 俺はゲームの参考書か攻略本(どんき)かちょっとしたライトノベル程度しか書籍類に金を使わない人間だ。

 なのに俺の部屋からエ本が出てきた? 

 それにあにあの表紙。エッ・・・・・・んん、素晴ら・・・・・・そうじゃない、何がと言わないけど出すぎじゃないのか。もっとこう、ハッ、いかん。話が逸れそうになった。

「シロ、それ多分俺のじゃない」

「へ?」

 間の抜けたような声を出して止まる目の前の少女。

「ちょっと確認してみる」

 そういってポケットからスマホを取り出し、某無料会話アプリで確認を取る。

 会話先はクラスの少ない友人らのグループ。

 

『この本俺の家に置いて行ったの誰だ?』

『俺』

 俺の通知にいち早く返信したのは首謀者である内藤だった。あの野郎。

『テメェかこの野郎』

『最高だったろう?』

 うるせぇ。

『おかげでシロが真似したじゃねーか』

『マ?』

 マ? じゃねぇよ家庭内が大変なんだよ。

『明日覚えとけこん畜生』

『感想おせーてー』

 

「野郎ゼッテー許さん」

「あ、あの、マスター?」

 おどおどしながらシロが状況を聞いてきたので気持ちを荒げないように注意しながら大体のことを伝えた。

「あー、この本やっぱり俺のじゃなくて友達のだった」

「そうだったんですか」

「この前家に遊びに来たときに持ってきたんだと思う」

「ほへぇ」

「明日何とかしとく、今日は本当に悪かった・・・・・・」

「えと、あ、あの、こちらこそ疑ってごめんなさいっ!」

 二人がテーブルを挟んで頭を下げ謝る。

 とんだ早とちりで起きた今日の出来事、初心な彼女が起こした大胆な行為に釣られてしまってその気になった、と言うか変な興奮の仕方をしていたと思う。

「くふっ、あははは!」

「へぁ? あのマスター?」

 思わず笑ってしまった俺に困惑するシロ。

「勘違いが妙なところまできて二人ともおかしなことしちゃって、なんか、おかしくて・・・・・・!」

「そう、ですか?」

「なんか笑えちゃった」

「んー・・・なんか解せないです・・・・・・」

 不服です。と言わんばかりにむすっとした顔のシロを宥めながらちょっと遅めの夕飯を食べ終えた。

 

 

 

「はぁー・・・・・・。酷い一日だった」

 風呂から上がり、明日の学校の準備を済ましてゲームを起動させる。

 夜中にRPGをすると止め時がわからなくなってしまいそのまま朝になっていた。何てことがあるので平日の夜はアクションやパズル系が殆どだ。

 かち、かち、と静かにボタンを叩き、今日の出来事を思い出す。

 内藤と話して、シロの尻尾いじって、そのあと誤解の種が出てきてお互いがちがちになっていた。

「ひっでぇーなこりゃー・・・・・・」

 ゲームのプレイスキルに対してでも、今日の自分の行いに対しても言えたことだった。

 もう笑えてくるほどに酷かった。

「くふふ・・・・・・」

 一人部屋で思い出し笑いをしてたらドアをノックする音がした。

「マスター、起きてますかー?」

 十中八九シロだ。てかこの時間にシロ以外が来たら怖い。

「起きてるよ、どうしたの?」

 ドアを開けると、枕を抱いて照れながら俯き加減にこちらの顔を覗くシロが立っていた。

「入る?」

「は、はいっ」

 ベッドにでも座りなよ、と促してシロはベッドに、俺は椅子に腰かけた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 お互い目は合わさず、ただ沈黙していた。

 気を紛らわそうとゲームに手を伸ばすと、シロが口を開いた。

「あの、マスター!」

「な、なに?」

「お夕飯のとき仰った『何でもする』って、まだ有効ですかっ!?」

「」

 何かと思ったら、まさかそれかァーッ!

 確かに言った。絶対言った。間違いなく言ったけど。

 今持ってくるかね!? こちとらやっと落ち着いたってのに!!

「えーっと、ちょっと待って」

「あ、でもマスターが嫌ならいいんですよ・・・・・・?」 

 少し申し訳なさそうに言っているが本心はどうなのだろう。

 俺としては減るものなんて無いしそもそも俺の責任だから何かしてやりたいと思っているのでなんでも甘んじて受け入れようと思ている。仕方ない。やるしかない。

「うん、いいよ。なんでもするよ」

「っ!」

 シロは嬉しさでいっぱいの表情を浮かべ、では、と言いながらこちらに近づいてきた。

「今度、お買い物に連れて行ってくださいっ!」

「うん? いいよ」

「やたっ!」

 わいのわいのと喜ぶシロを見てなんだか朗らかな気持ちになった。

「ありがとうございますマスター!」

「いいよお礼とか、そもそも俺の不注意なわけで」

「いえ、そんな。私が早とちりしたせいで」

 あ、これ以上は泥沼な気がする。

「シロ、この話はもうやめておこう。終わらない」

「そ、そうですね。ではもう寝ましょうか」

「うん」

 そう言って二人でベッドに入る。

「おやすみなさぁ~い・・・・・・」

「おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て」

「え?」

 なんと自然な流れで一緒に寝てるのだろうか。自分でも驚いた。

「なんで一緒なんだよっ!?」

「ダメ、ですか? マスター・・・・・・」

 ぐ、やめろ、そんな目で俺を見るな・・・・・・!

 

 結局俺が折れてその日は初めから添い寝することになった。

 

 

 

 次の日。

 

「内藤テメェぶっ殺す!」

「ぶっ殺すって思った時、すでに行動は終わっているんだよッ!!」

 朝からハイテンションだった。

 



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十六話 買い物と言う名のデート

「わぁー!」

 シロを連れていつぞやの大型小売店に来ていた。

「元気だねー・・・・・・」

「トオル君とのお出かけですから!」

「うんー」

 外なので俺の名称はマスターからトオルに変えられている。 

 しかしあまり大きな声を出すのはあまりよろしくない。他の人の迷惑になるしただでさえ素で目立つのに余計目立ってしまう。

「ちゃんと買い物は付き合うから、もう少し気持ち抑えて、ね?」

「ん、はい、わかりましたっ」

 にぱ、と笑うその笑顔はかなり眩しかった。

 

 

「で、具体的にシロは何か欲しいものでもあるの?」

 買い物に連れて行ってください、と言われたが何を買うのかは言われていない。

「お家以外でトオル君とも接していたくて、特に欲しいものは無いんです」

「う、うん。そっか」

 どうしよう、目的がない。

「じゃあ、適当に服とかみて回ろっか」

「はいっ」

 

 

 

 衣服店舗。

 

 デパートの衣装コーナー。様々な店舗が入っており多種多様な衣類や履物などが小奇麗に並んでいる。

「トオル君、どうですか?」

 現在、以前シロの服を買いに来た服屋に来ている。

「うん、いいと思うよ」

 店に入って色々見て回っていると前と同じ店員さんが出てきてあれよこれよとシロに服を着せている。

 ジャンルは一定ではなくシンプルなものや派手なものまで着せていた。細かい装飾などは分からないが大まかに似合う、似合わないは見てとれている、と思う。

 しかし露出が多いものは如何なものか。目のやり場に困るので控えてもらいたい。

「まぁ、本当にお似合いですわぁお客様ぁ・・・・・・」

「あ、ありがとうございます」

 うっとりした表情で着飾ったシロを褒める店員さん。大丈夫かこの人。なんか妙に熱っぽいぞ。

「宜しければこちらも試着をお願いしますッ」

 ビシィッと言い切る姿は勇ましかった。

「あの、はい、分かりましたあ」

 迫る店員さんに負けたシロはおずおずと試着室に手渡された服を持って戻っていった。

 

「いい、凄くイイですよお客様ァァァーーーッ!!!」

 一人奇妙な冒険でもしそうな勢いで写真を撮っている店員さんを尻目にシロを見る。許可は取っていたがほぼ脅迫じみていたのでもしもの時は止めるか逃げよう。

 現在シロの着用物は腰部がコルセット状になっているハイウエストの暗色のスカートに、白いブラウスという出で立ち。

 まぁ、世間一般で所謂『童貞を殺す服』と言われる衣装に身を包む彼女は何処か神秘的で妖艶なオーラを纏っていた。

「トオル君!」

「な、なに?」

 仄かな羞恥を醸しながら上目使いに聞いていた。

「どうですか? その、似合って、ますか・・・・・・?」

「・・・・・・ッ!」

 頬を赤らめ、恥ずかしながらも俺に感想を求めてくるその姿に心臓が張り裂けそうになった。

「うん、すごく、似合ってる」

「なんで片言なんですかっ!?」

「大丈夫、大丈夫だから」

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」

 俺より大変なことになってる人がいた。

 

 

「ちょ、ちょっとお腹空いたし、休憩しない?」

「わかりました!」

 

あの服は結局購入した。

 別に邪な感情なんて噛んでないから。ただただシロの私服を買っただけだから。

 ちなみに今のシロの服装はそのままブラウスを着ている。

 目のやり場に困っているのが現状。

 

 

 

 ある飲食店。

 

 フードコートにて昼食を挿もうと、どこかいいところはないかと二人で探す。

「トオル君、ここは何ですか?」

「カフェか、良さそうだね。入ってみるか」

「はいっ」

 

 店の入り口の扉には鈴が付いており、ドアを開けたら鈴の音が鳴った。店内はアンティーク調で大人しく、落ち着いた雰囲気を出していた。

「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

「二人です」

「はい分かりました、お席の方へご案内いたします。二名様入りまーす!」

 店員さんに案内され、窓際のテーブル席に案内される。

「ご注文の方決まったらお呼びください」

 メニュー表を渡され、どれにしようか選ぶ。

「パスタかグラタンか」

「うぅん? ん~・・・・・・」

 どちらにしようか迷うな。パスタは最近食べたし、グラタンにするか?

「よし決めた」

「私も決めましたー」

 どうやらシロも決まったようなので店員さんを呼ぶ。

「すみませーん」

「はーいただいまー」

「クリームパスタ一つ」

「サンドイッチをお願いします!」

「かしこまりました、少々お待ちください」

 注文を取った店員さんが奥に消えていく。

「サンドイッチか、良さそうだね」

「んふふー」

にこにこしながら頬杖を突いているので見たところかなり期待しているよう。

「サンドイッチ好きなの?」

「はい、向こうに居た頃も好んで食べてました」

 モンハンのメニューとか最近まったく見てなかったな。酒とチーズだけを頼んでたあのころならまだ見てた記憶があるが今はセット名すらおぼろげになっている。今度確認してみよう。

「お待たせいたしました、クリームパスタとサンドイッチです」

「わぁ、いただきます!」

「いただきます」

「ごゆっくりどうぞー」

 店員さんは料理と注文票を置いて戻っていった。

 目を輝かせながら出てきた料理を食べる彼女を宥めながら俺もパスタに手をつける。

 ふむ、ソースが濃厚でパスタとよく絡んでおり、クリーミーでありながらくどくないないように胡椒が塗してあり、味が纏まっていて美味しい。今度家で作れるか試してみようかな。

「・・・・・・・・・ゴクッ」

「・・・・・・ほしいの?」

「ふあ!? い、いえ、そういうわけれは・・・・・・!」

「よだれ拭きながら言っても説得力ないよ・・・・・・」

 慌てて口元を隠しているが見えてしまったのでもう改める余地はない。

「いいよ、ほら、あーん」

「あー」

 フォークで一口分巻き取り、シロの口へ運ぶ。

「む、ん・・・・・・おいひいれふ」

「感想は飲み込んでから言いなさい」

「んぐ、美味しいです!」

「ん、そか」

 やべ、自分でやっておいてなんか恥ずかしくなってきた。

「トオル君も、一口どうぞ!」

 シロはそう言いながらサンドイッチを持ってずい、と俺の前へ向けた。

「いや、その・・・・・・」

「どうしました? おいしいですよー」

 一瞬の躊躇いがあったが、ここは折れることにした。

「あ、あーん」

「どうですか?」

「うん、おいしい・・・・・・」

「そうですか、ですよね!」

 味なんて分からなかったが、シロが言うのなら美味しいのだろう。そうしよう。

 それと周囲の目線が痛い。あまり睨むのはご遠慮願いたいが、向こうとしてはそうもいかないのだろうか。つらい。

 

「甘い、これブレンドコーヒーのはずなのに・・・・・・」

「誰だよ俺の紅茶にミルク入れたの」

「スイーツを頼むべきではなかったか・・・・・・」 

「おrrrrrrrr」

 申し訳なさでいっぱいになってきた。

 俺達は食後に頼んでいたコーヒーをさっさと飲み干し、綾足に店を出て行った。

 

 

 

 自販機でジュースを買い、近場のベンチに腰掛ける。

「はぁ・・・・・・」

「ふぅ・・・・・・」

 喉を潤して一息つく。

 

「疲れた・・・・・・」

 さほど回ってもないのにこの疲労感。外気にあまり触れてない証拠かな・・・・・。

「大丈夫ですか、トオル君」

「あーゲームしたい・・・・・・あ、そうだ」

「?」

 こういう所はだいたい置いてあるものだろう。

「シロ、悪いけどちょっと付き合って」

「へ? はいぃー」

 

 

 

 ゲームセンター。

 

 

 

 沢山の筐体が立ち並び、それぞれからSEやBGMなどがかなりの音量で流れている。

「わぁぁー!なんだかすっごくキラキラしてます!」

 キラキラした目であたりを見回すシロ。やはり物珍しいのか。

「トオル君、いろんなものがあります!」

「そうだね」

 さて何からしようか。STGか? カートか? クレーンか? 迷うな。

「手慣らしにメダルでもしようか」

「めだる?」

「そう」

 

 小さなメダルゲームの筐体の前に座る。今回は目押し。

「ここにさっき換金したメダルを入れてゲーム開始」

「ほうほう」

 メダル入れに一枚メダルを入れる。

「で、ミニゲームをクリアすれば」

 じゃらら、と軽い金属音がして筐体から獲得分のメダルが出てきた。

「こんな感じでメダルがもらえる」

「なるほど!」

「勝った分でまたゲーム」

 そう言ってまたメダルを投下。勝利。増えるメダル。

 これのループ。

 最初十枚程度だったメダルがどんどんと増え、バケツが一つ、また一つと増えていった。

「こ、これいつまでやるんですかぁ~!?」

「空になるまで」

「えぇぇ~~!?」

 

 あの後筺体内のメダルを出し切ってカウンターに預けた。

 

 さて次は。

「STGかな」

「えすてぃーじー?」

「そう」

 大画面の前に二つの大きめの拳銃の形をしたコントローラーがあるゲームのところに来た。

「百円入れてゲーム開始」

 銀色の硬貨を一枚入れてゲーム開始。ストーリーとかはスキップ。操作説明は要点だけ観てスキップ。

 銃口を画面内の敵に向けてトリガーを引く。

「序盤ヘッドショット、いいね」

「おぉー!」

 

 すべての敵を撃って各ステージのボスを撃破。

「被ダメ瀕死ギリギリ、危なかったー」 

「すごいです、トオル君!」

「よし次だ」

「はいっ」

 

 ハンドルとレバーとシートがあるこれまた特殊な形の筺体。イラストは赤を基調にしたカラーリングの配管工がメインキャラのゲーム。世界中で人気らしい。

「カート系は面白いよねぇ」

「かーと、かーと?」

 シートに乗って百円硬貨を入れる。

「シロも隣に乗りなよ、諸々の説明はするから」

「で、では失礼します」

 そう言って俺が座っている座席に座ってきた。

「いや、あの、俺の隣の空いてるほうに、ね?」

「す、すみません!」

 慌てて空いている座席に座り込むシロ。

「はい、右側の入れ口に入れて画面の説明見ながら進んでね」

「はいっ・・・・・・!」

 わたわたとシートを前にずらしたりハンドル回したりと忙しそうに操作をしているシロを見て俺も昔はこんなだったかな、と思い出に浸る。

「右を踏んだら進んで、左を踏めば後ろに行くから」

「えと、右が前で左が後ろ・・・・・・」

 繰り返し暗唱するシロを横目にステージを選ぶ。

 ふむ、ライトコースじゃ物足りないし、ハードじゃシロが付いてこれないだろうから、真ん中かな。

「さ、始まるよ」

「はいっ!」

 3。

 

 2。

 

 1。

 

「お先」

「えぇっ!?」

 スタートダッシュを決めてNPCごとシロを追い抜いて一位に躍り出る。

 その後何事もなく順位を維持して俺は一位、シロは最下位になった。

「その、ドンマイ」

「うぅ・・・・・・」

 終盤逆走していたこともあってゴールまで到達できなかったようだ。

「そんなしょげないで、アイス買ってあげるから」

「うう、わかりました・・・・・・」

 悔しそうにしながらも了承して立ち上がる彼女をみて流石に大人気なかったかな、と反省する。

 

「へぇ、まだあるんだ」

 そう言いながら座ったのは格闘ゲームの台。

 『K,O,FIGHTER!!』と描かれたタイトルは家庭用ゲームソフトにも進出しているタイトルだったのでコンボとかはなんとかなりそうだ。

「けーおー?」

「ノックアウト、さてどこまでいけるかな」

 キャラは赤色が似合う鉢巻を巻き、ボクシンググローブのようなものを身に着けたキャラクターを選択。

「目指せ百人抜きー」

 初めは正面に座っていた人。

 

『WIN!』

 

 次はその隣の人。

 

『WIN!』

 

 ギャラリー。

 

『WIN!』

 

 

 

『K,O!』

 

「なんだアイツ・・・・・・」

「やべぇよ、やべぇよ・・・・・・」

「もう少しで百人抜きするらしいぞ」

 黙々と台に向かってもの凄い速さでコマンドを入力するその姿は無機的で恐ろしいものがあった。

 

「勝った、第三部、完!」

「残念、俺の勝ち」

「ナニィィィィィィィィィ!!?」

 勝利を確信した対戦相手が高らかに宣言したところをついて空中コンボを決めてやった。

『ALL CLEAR』

 どうやらこの台の対戦は百回が上限らしく、台からファンファーレが鳴り響いた。

「よし、終わりー」

「お疲れさまです、トオル君!」

 横で見ていたシロから労いの言葉を言われて少し赤くなってしまった。

「あ、いや、ごめん。遊び過ぎた」

 

「なんだぁ? 彼女持ちかぁ?」

「羨ましいねぇ」

「ヒューッ!」

 

「シロ、行こ、恥ずい・・・・・・」

「わっ。と、トオル君!?」

 ちょっと強引にシロを連れて人混みを抜ける。

 

 

 最後はクレーンゲーム。

 様々な景品がガラスケースの向こうに陳列し、フィギュア、ぬいぐるみお菓子やラジコン、調味料なんてものも並んである。最後のマジか。

 

「好きなの選んでいいよ」

「じゃあ、トオル君を」

 シロが目を細めながら腕に絡んできた。

「いや、景品でどれが欲しいかって」

「あ、す、すみません。探してきますねっ」

 シロにそう言うと彼女はあれこれじっくり眺めて最終的にぬいぐるみを選択した。包帯を巻き縫い跡がある灰色がかった熊のぬいぐるみ。 

「これが欲しいです!」

「ん、わかった」

 五百円投入して六回プレイを選ぶ。この手のゲームは個人的に成功率が安定しないので安全策にのく逃げる。

 最初は普通に掴んでみてアームの強さを視る。そのあとは景品の位置調整をして掴みやすく落としやすいところに移動させる。

 最後にうまくぬいぐるみを掴んで穴に落とす。

「よし、取れた」 

「わぁー」

 寛大な拍手を送ってくるシロにぬいぐるみを手渡す。

「ありがとうございます!」

「ん、ゲーセンはもう満足したし、出よっか」 

「はい!」

 

 取れたぬいぐるみを店員さんに頼んで袋に包んでもらい、俺とシロはゲームセンターを出た。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

「トオル君、さっきはとても生き生きしてましたね」

「そう?」

 確かにちょっと楽しみ過ぎてしまったかもしれない。

 しかし、表情は見て取れるほど出していないと思っていたのに。

「よく分かったね。俺ゲームするときは無表情になるのに」

 

「ちゃんと見てますから、トオル君のこと」

 

 この()はなんでこんな恥ずかしいこと言えるのかな。

 その反面で最近家でもゲームをしてなかったのでやり過ぎたかな、と反省する。

 そもそもシロの買い物なのに俺が楽しんでどうする!?

「ごめん、俺が楽しんでもだめだよね・・・・・・」

「いえ、トオル君の楽しそうな顔が見れて私も嬉しいです!」

「う、うん・・・・・・」

 健気で涙でそう。

「あ、トオル君。私アイスが食べたいです」

「アイス? あぁ」  

 そう言えばゲーセンに居るときに言ってたな。

「分かった、じゃあ、アイス買いに行こう」

「やった~!」

 

 アイスを買って、そろそろいい時間だったので帰ることにした。

「アイス美味しい?」

「はむ、ん、はいっ」

「そか」

 ソフトクリームを頬張り緩んだ顔をする。

「あ、そんなにがっつくと」

「いっ!? くぅぅ・・・・・・!」

「頭に、ってもう遅かったか」

 アイスクリーム症候群だっけか、これ。ダイレクトにくるから慣れないんだよねぇ。

「落ち着いて食べなさい」

「ふぁい・・・・・・」

 頭を軽く撫でて暖めてやる。こういう時はこうするのが一番だ。

「ん、ふぅ、はぁぁぁ」

「もう大丈夫?」

「はいっ」

 よし、意識はしない。平常心を保て俺。

 

 静かな帰り道。

「トオル君」

「なに?」

「今日はありがとうございました。わがままを聞いてくれて」

「いいよ別に」

「明日からも私、頑張れます!」

「ん、そっか」

 家事を手伝ってくれるのはありがたいがおかげで元の俺の分が減ってしまいちょっと危機感を覚えていたりする。空いた時間はゲームに当てているので以前よりクリア本数が増えた。ホントに危機感を感じている。

「トオル君、家に着くまで手をつないでいいですか?」

「う、うん」

「ありがとうございます!」

 するりと手を絡めてくる。

 人目があったら即放しているが今は人通りも少なくクラスメイトもいないのでまた何か言われることはなさそうだ。まぁデパートで見られていたとなったらもうどうしようもないが。

「着きましたよトオル君」

「あ、うん」

 考え事をしていたらもう着いてしまった。

玄関のドアを開けようと鍵を刺して捻る、が。

 

「あれ、開いてる?」

 

 おかしい、出るとき確かに閉めたはずなのに。空き巣か?

「シロ、一応準備しといて」

「わかりました・・・・・・!」

 シロに臨戦態勢をとらせてゆっくりとドアを開ける。

 誰かいるか、誰もいないか。

 

「あ、おかえりー」

 

「へ?」

 

 出てきたのは俺の姉だった。

 

 

 

「遅かったねぇ・・・・・・」

 

 

 



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十七話 帰ってきた姉

「出掛けてたんだ、遅かったね・・・・・・」

「う、うん」

 村崎(むらさき)(かえで)。二十歳、現在は大学に通っている。成績優秀、合気道の有段者で文武両道。容姿端麗、艶のある黒髪ストレートで切れ長の目、すらっとした高身長で出るとこは出ていて締まるとこは締まっている。かなり高スペックな人物で、俺の姉である。

「そっかそっか、うん、おかえりぃ・・・・・・」

「うん、放して姉さん」

 そう言いながらさも当然のように俺を抱きしめてくる。

 

 俺の自意識過剰とかではなければ俺の姉はおそらくブラコンと言われる類の人間だ。

 

 残念美人ってよく聞くけどステ値振り違えにも程があるだろ。

「もう少し、もう少しだけぇ、あと二時間んん・・・・・・」

「ちょっとじゃないよそれ」

 外ならきちっとしていて凛々しいのに家ではこんなにぐだりとしているのでなんとも言えない。

「マスター!」

「透君、この子は誰?」

「もう遅いよ姉さん」

 ずっと黙っていたシロが我慢ならなかったのか口を開けた。

 それに気づいた姉さんが瞬時に俺から離れたが時すでに遅し、がっつり見られたよ。

「いろいろ話したいことがあるから、上がらして」

「私も聞きたいことが山ほどあるわ。透君」

 なんで怒ってるのこの人。

「んぅ・・・・・・」

 シロはシロで俺の服の袖を掴みながら姉さんを少し睨んでいる。

 修羅場になりそうな気がする。

 

 

 ◇

 

 

「この()はシロ、ちょっと色々あって(うち)に居候してもらってる」

「初めまして、シロです・・・・・・」

 少し不機嫌そうな顔でシロが姉さんに挨拶をする。

 第一印象は良くないとはいえ、そこまで不機嫌になるものか?

「初めまして、透の姉の楓と申します」

 良い笑顔で自己紹介を返しているが目が笑っていない。所謂(いわゆる)営業スマイルというやつだ。

 片方は笑顔で片方は不貞腐れた顔。第一印象でここまで偏るかな。胃が痛くなってきた。

「ところで、どうしてこの娘がうちに居候することになってるの?」

 さて、俺のはったりを噛ますか真実を話すか、嘘を吐いたところで即行で見破られそうなのはどうしようもないけど。

「はっきりとは言えない」

 黙秘権を行使した。

「お姉ちゃんにも?」

「うん」

 言わない、というより話がぶっ飛び過ぎてて説明がしづらい。

「けど隠したりはしない、いつもの生活風景を見ててくれたら多分どんなのかはわかってもらえると思う」

「・・・・・・・・・分かった、じゃあ詮索はしないね」

「ありがとう、姉さん」

 張り詰めていた雰囲気が解け、柔らかい物腰に戻った姉から了承を頂いて安堵する。

「でも私が家にいる間は私も構ってくれないと不貞腐れるぞぉ~・・・・・・」

 先程の凛々しさは跡形もなく消え去り、猫のようにするりと俺に絡んでくる。

「あっ! ダメです!」

「貴女はいつも透君とくっついてるんでしょう? いいじゃない」

「むぅ~!」

 柔らかいものには意識を向けるな。別のことを考えるんだ俺。ゲームしたい。よし。

 

 

 ◆

 

 

 私は村崎 楓。現在大学二年生。実家にほぼ毎日一人暮らしの弟に会うため定期的に家に帰っているが最近はなかなか帰る機会がなく、一か月ほど久しぶりに帰ってきたら弟が彼女(仮定)を作っていた。

 初めて見たときは驚きと絶望に染まってしまったがよくよく話を聞けば居候と言うではないか。もっとダメだろう。しかし本人たちにやましいことは無いらしいし、まだ大丈夫だろう。一瞬離れさせようとも考えたが仮定とした通り完全にデキているというわけではないらしいので取り敢えず経過観察と言ったところか。

 

「ふぬ・・・・・・」

 

 気になることも多い。透君をマスターと呼んだりするし、まず容姿が日本人とは全くと言っていいほど違う。西洋人とも東洋人とも取れない顔だちをしているのに話す日本語はとても流暢だ。日本育ちとも考えられるが、考えるのはまた今度にしよう、今日はもう頭を使うのは疲れた、透君をhshsして明日のエネルギーを補充しよう・・・・・・。

 



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十八話 二人の仲

 キッチン周りで二人の男女が忙しなく動く。

 

「シロ、皿出しといて」

「はい!」

「サラダ出来てる?」

「今出来ました」

「ん、こっちももう少しで出来るから」

「わかりました!」

「・・・・・・・・・」

 慌ただしく動く長い白髪の少女と調理をしている黒髪の少年。私の弟。マイブラザー。透君だ。

 

「よし、完成」

「はふぅ・・・・・・」

 

 額の汗を拭い、軽く調理場の掃除をしてからテーブルに夕飯を並べる姿は様になっていた。

 

「姉さん、夕飯できたから食べるよ」

「う、うん」

「お腹空きましたあー」

 

 それぞれが席に着いたところで「いただきます」と合掌し、料理に手を付ける。

「何これおいしい!」

「そんなに驚くことないでしょ」

「おいひいれふ!」

「飲み込んでから言おうな」

 しばらく咀嚼したあとごくっ、と飲み込んでから再度おいしいです! と感想を述べるシロの頭を撫でる透。

 それをちょっとうらやましそうに眺める楓。

 

「・・・・・・二人は付き合って何年目?」

「んー、二、三週間ぐらい?」

「にしては随分と息が合ってるようで・・・・・・」

 

 そうかな。と何でもないように言う透に面白くないと思ってしまう自分の心がやるせなく感じてしまう。

「この後透君の部屋に行ってもいい?」

「いいけど、姉さん今日は帰らないの?」

「うん、明日くらいに戻ろうと思ってるよ」

「そうなんだ」

 素っ気無く返されてちょっと落ち込む。

 しかし、今日のうちに確認できることは出来るだけ探さねばあるまい。

 家族として、姉として、透君大好きとして!

「お風呂沸かしといたから姉さん先入って」

「あ、はい」

 

 

 ◇

 

 

「はぁぁあぁぁ~~~~・・・・・・・・・」

 長い息を吐いてゆっくりと湯船に肩まで浸かる。

 一人暮らしを始めてからお風呂は大概シャワーだけで済ましていたのでこう、ゆったりとお湯に浸かるのは大分久々だ。

「極楽ぅ~・・・・・・」

 熱すぎず温すぎず、とても丁度良い温度に設定されている湯船は最高に気持ちの良いものだった。

「て、そっちじゃない」

 危ない危ない。もう少しでお風呂の気持ちよさに溺れるところだった。風呂だけに。

 

 一人になる時間が出来たのであの白い女の子についての考察を始める。

 

 あの娘は誰か?

 二人の言い分から考えると友達以上恋人未満ぐらいの距離感であることが窺える。

 

 仲の良さは?

 新密度は高いがお互いどこか初心なところがあるのでまだそこまでの時間は経っていないと推測する。

 

 ヤっているのか?

 本人の口からはまだ聞けていないがこれも重要な議題項目だ。前述の通り出逢ってからそこまでの時間が経っていないところから思うにまだ行為には及んでいないはず。それに透君って結構恥ずかしがり屋さんだしね。

 

 さて、ある程度の考察と予想は出来た。あとは真偽を確認して透君とちゅっちゅっするのみ!

 待っててね透君、お姉ちゃん頑張るから!

 

「ちょっと・・・・・・のぼせちゃったけど・・・・・・」

 

 何とか浴室から出て湯中りした体を冷まして透君にお風呂を譲るとシロちゃんも一緒についていこうとしていたので必死に止めた。透君も止めていた。

 

 

 透の部屋。

 

「来たよー」

「うん」

 

 部屋に入ると透君はテレビ画面に向いてゲーム機のコントローラーを操作しながら向きを変えず返事をした。

 

「何してるの?」

「ダ〇ソ」

「う、うん」

 

 自分で聞いておいて何だが分からなかった。

 本棚の前に移動し、借りていたゲームソフトとその攻略本を本棚に居れる。

 次はどれを借りようかと思いながら自分の弟のことを考える。

 

 そもそも私はあまりゲームに詳しくない。

 もっと言うとゲーム機とかにも疎いし会社名も任〇堂とかSEG〇ぐらいしか分からない人間だ。

 そんな私が何故ゲームをしているかと言うと、お察しかも知れないが弟が関係している。

 昔透君に言われた。ゲームばかりで構ってもらえず、ゲームを辞めてはどうか? という私に対して弟君は。

 

『知りもせずに嫌う人は嫌い』

 

 その言葉が刺さり、それ以来こうして透君からゲームを借りるようになった。

 怖そうなものは避けて、可愛いものや遊びやすそうなものを選んでやっているが、それでも中々思うようにプレイできない。

 噛り付くようにムキになってやっと一つの面がクリアできる程度の腕前の私にとって、難なくゲームをプレイできている透君を見ていると遠い存在に見えてくる。

 でもゲームを通して仲良くなろうと思っているだけなのでそこまでの腕前は必要無いのでは? と思うかもしれないが、そこは個人的に譲れないところなのでスルー。

 あぁ、もっと透君とお話ししたいな。

 

 

 ◆

 

 

 俺は姉さんが好きではない。

 昔から姉は何でも出来た。勉強も、運動もそつなくこなし、人当たりも良く、老若男女様々な人に愛されていた。

 

 当然姉がそんななら弟も気になるだろう。

 残念ながら俺には勉学の才能も運動神経もずば抜けてはいなかった。

 オトナは勝手に俺を哀れな目で蔑み、感嘆し、憤りを覚えていた。

 姉に追いつこうと頑張っていたときもあったが圧倒的な実力差を思い知っただけだった。

 

 いつから死んだ目になったのか忘れた。

 コントローラーを弄りながら昔のことを思い出した。

 姉さんは悪くない。悪いのは俺だ。そう言い聞かせても割り切れないものが渦巻いてた。

 

「透君、この敵ってどうやって倒すの?」

 姉さんが携帯ゲーム機の画面を見せながら質問を投げてきた。

 ゲームの画面をポーズ画面にして姉さんの方を向いて解説をする。

「そいつは攻撃にパターンがあってね・・・・・・」

 あーだこーだとざっくりした説明をしてやり、立ち回りとかを教えてあげたら「ん、わかった。やってみる・・・・・・!」と意気込みながら姉さんは俺のベッドに寝転んでそのままポチポチとゲームを再開した。

「なんで部屋に戻らないの?」

「ココが一番集中できるのだー」

「・・・・・・荒らさないでね」

「はぁーい」

 以前無理やり降ろそうとしたら寝技を掛けられて手も足もでなくなったので力による行使はしないようにしている。けど口で言っても降りてもらえないので半ば諦めている。

「マスター居ますか?」

「ん、いるよ」

 そうこうしていたら失礼します。と一言添えてシロが部屋に入ってきた。

 一人部屋に俺と姉さんとシロの三人。

「マスター、借りてた本を返しに来ました

「うん、じゃあ元のところ戻しといて」

「分かりましたー。あとまた借りていきますね」

「うん」

 本を片手に持ったシロは自然な流れで俺の横に座った。

「何でだよ」

「はい?」

 本当にわかってないのか首をかしげてこちらを見つめる少女。

「なんでさも当然のように俺の隣に座るの」

「居たかったので」

「あ、そう」

 納得は出来ないが理解だけはしておこう。そして俺が折れよう。あとが面倒だし。

「なんでそうなるの!?」

 姉さんが声を荒げながら上体を起こして抗議してきた。

「なんでって言われても、割と最初からこうだったし、少し慣れただけだよ」

 実際初っ端朝チュンで風呂でお互い裸は見た(事はしてない)し、一緒に過ごすことが多いから感覚がおかしくなっている自覚はある。

 たった数週間でここまでのイベントをこなしている自分が少し怖くなってきた。

 あっこらほっぺすりすりするな。

「ずるい!」

「知らないよ」

「はふぅ・・・・・・」

 アウェー感が否めない一人は今はスルーしておいてこの姉をどうしようか。珍しく姉が駄々をこねた。外で気を使っている分家ではだらけきっているので時たまこう言うことが起こる。

「聞き遅れたけど二人ってどこまでいってるの・・・・・・?」

「それ友達にも聞かれたよ」

「いいから、どこまでヤってるの・・・・・・!?」

 なんでそんなに凄むんだよ姉さん。

「一緒に寝たとか、そんなぐらいだよ」

「ね、ねね、寝た・・・・・・」

 あ、絶対勘違いしてる。

「寝たって添い寝しただけだよ」

「あ、そうなんだ。て、私最近透君と一緒に寝てないよ!」

「そりゃ避けてるんだから当たり前でしょ」

 ガーン。と大げさなリアクションで四つん這いで落ち込む姉。

 高校生と成年した女性が一つのベッドで寝るって何か危険な臭いがする。

「なら今日は一緒に寝てよ!」

「やだ」

「」

 俺もビックリするほどの速さで答えた。

 言われたほうの姉はハイライトオフで固まっている。

 髪をくわえて変な角度に頭を傾けて虚ろな目をして見つめられるとかなり怖いので止めてほしい。

「あの、マスター」

「なに?」

 シロが俺の服の袖を引っ張ってきたのでそちらを向くとシロが割りと真剣な表情をしていたのでコントローラーを置いて向き合う。

「マスター、お姉さんと一緒に寝てみては如何でしょうか?」

「っ!?」

「し、シロ? どうした急に」

 突然の言葉に思わず動揺してしまう。

 まさかシロからそのような言葉が出てくるとは思っていなかった。

「一緒に寝るとまではいかなくても、今夜はもう少しお話していく、と言うのも良いと思います」 

「う、ん・・・・・・」

 もしかしてこの娘は俺の心情を読んでいるのか?

 確かに仲睦まじくとはいかなくてもこの軋むような姉弟仲を何とかしたいとは思っていた。けれど今まで言い出す勇気が俺には無かった。

「分かったよ、今夜は姉さんと、寝るから・・・・・・」

「と、透くん・・・・・・?」

 

 シロが背中を押してくれたお陰で話す切っ掛けが出来た。

 ならちゃんとけじめを着けないといけない。

 

 今夜は長くなりそうだ。

 

 



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十九話 気持ちをぶつけて謝って

 なんでシロがあんなことを言い出したのかは分からないが、多分俺たちに気を使ってくれたのかもしれない。出なければ自分からあんなことを言い出すとは思えない。

 

「あの、透君・・・・・・」

「なに、姉さん」

 

 姉さんが不安そうに俺の衣服の袖をつまみ、呼んでくる。

 いつもそこまで気弱じゃないのに俺と話すとき、面と向かっての時はいつも言葉が尻すぼみになっていって途端に目を逸らす。

 それがなんとももどかしい気持ちになってあまりいい気はしない。

 

「シロちゃんはああ言ってたけどお話はまた今度でもいいって言うかそもそも私たち姉弟だしそこまでじっくり話し合うことなんてそんなにないしそれにあとはえーっとあのその・・・・・・」

「姉さん」

「ひゃい!?」

 

 なんでそんなに驚くんだ。

 

「取り合えずゲーム、しようよ」

「う、うん」

 

 昔のように仲良くなんて虫の良いことなんて言わない。けど、せめて仲直りぐらいはしてみせよう。

 

 

 ◇

 

 

「マスター大丈夫かな」

 

 買い物(デート)を終えて家に帰ってから自分の主の様子がおかしかった。

 いつもあまり表情を出してないが、それでも嬉しそうな顔を浮かべてくれていたマスターが、帰ってからはずっと暗い顔をしていた。

 それが気になって帰ってからの行動等を観察しているとどうやらお姉さんが原因のようだったのでこういった形を取った。見ている限りだとマスターだけじゃなく、お姉さんの方もマスターに何か暗いものがあるようだ。

「姉弟でこれとは・・・・・・」

 ちょっと気になる。ダメだ、人様のいざこざに首を突っ込むべきではない。

 

「頭で分かってても気になるよね」

 

 スキル 隠密発動。

 

 バレないよう忍び足で主の部屋の前まできてそっと扉に耳を添える。

 部屋からはちょっとした話し声が聞こえてくる。

 

「どれどれ・・・・・・?」

 

 扉に耳を当てて音を探る。

 何かあったら突撃することも止むをえない。

 

 

 

 ◆

 

 

 ゲームハードをテレビから差し換えて対戦方のゲームソフトを挿入する。入れたのはスライムのようなブロックを同じ色で四つ以上合わせて消していく有名なあのゲームだ。これなら加減もしやすいのですぐに終わることもないだろう。

 

「これにしよ」

 

 ゲームをセットしてテレビの前に二人で座り込む。

 スタート画面から進んで対戦モード、キャラ選択を済ませて対戦画面に切り替わる。

 

「わ、私全然上手くないよ?」

「いいんだよ、本命はコレじゃないし」

「う、うん」

 

 紡ぐ言葉もなく、お互い無言でコントローラーを操作する。

 透は慣れた手つきで配置されているボタンを押しているのに対して楓はたどたどしく、視線が画面と手元を何度も往復していた。

 

 しばらくして画面には二人の勝敗結果が表示され、透が勝ち、楓が負けていた。

 

「ぐぅ、もう一回!」

「いいよ」

 

 闘志に火が付いた楓が再戦を申し込む。

 それを受け、また画面に二人が向き合う。

 

 またも同じ結果だった。

 

「も、もう一回!」

「うん」

 

 1-7

 

「もう一回!」

 

 22-6

 

「なんの!」

 

 21-9

 

「次こそ・・・・・・!」

 

 26-7

 

「リベンジ・・・・・・」 

 

 29-1

 

「・・・・・・・・・」

 

 33-4

 

「もうやだ・・・・・・おうち帰る・・・・・・」

「姉さん、うちここだよ」

「やぁーだぁー」

 

 姉がそろそろガチ泣きしそうだったのでここら辺でゲームを終了させる。

 ある程度手加減はしていたが、自爆されてそのまま勝手にお邪魔ブロックを勝手に積み始めたあたりから大体察した。

 

「姉さん」

「・・・・・・なにー?」

「もう一回しよ」

「えー・・・・・・」

 

 露骨に嫌そうな顔をしている。

 せめてもう一線、と手を合わせてお願いしてみる。

 

「お願い」

「・・・・・・次で終わりね?」

 

 渋々といった感じで汲み取ってもらえた。

「ありがとう」

 

 なんとか了承がとれたのでまたゲームを再開する。

 

 無言でプレイする空気を割って、姉のほうは向かず、そのまま画面を見ながら声をかける。

 

「あのね、楓姉さん」

「なぁに?」

「俺、姉さんに謝りたかった」

「何を?」

 

 平凡な自分、追いつけない自分、情けない自分、諦めてしまった自分。

 すぐ思いつくものだけ見ても酷いものだった。

 

「俺が勝手に姉さんを引け目に感じて勝手に色々嫉妬したり諦めたり・・・・・・」

 

「言っとくけど透君は私よりすごいんだよ」

「え?」

「え?」

 

 思わず変な声がでてしまった。

 自尊心なんてほとんど捨ててしまったので自分が凄いなど微塵も思ってない。

 なのに姉は俺のことを凄いなどと言った。

 

「どうしてかって? まずゲームが上手い」

「はぁ」

「家事が出来る」

「まぁ一応」

「可愛い!」

「知らないよ」

 

 なんで最後力を込めて言ったのか分からない。

 

「透君は私より上手くできることなんていっぱい持ってるよ」

「全然ないよ、勉強も運動も、人付き合いも・・・・・・」

「あーもう!」

 

 姉さんは立ち上がり、俺を見ながら熱弁を始めた。

 

「学校の成績とか人の目とか自分がどうこうとか全く関係ないよ!」

 

「透君は透君で私は私だよ。いくら姉弟だからって同じ人間じゃないのは誰でもわかるよ」

 

「確かに透君は私の弟だけどそれが理由で『私と同じように』なんておかしいじゃん」

 

「見ず知らずの他人の言葉に負い目感じて必要でもないのに無理に良くしようなんてそれじゃあ持たないよ」

 

「そのせいで透君が笑わなくなったのが私一番嫌」

 

「私のせいで透君が壊れちゃったと思うと私も普通に笑えなくなっちゃった」

 

「周りが悪いと思っても結局期待をさせてたのって元を辿ると私なんだもん。そりゃ嫌いにもなっちゃうよ、仕方ないよ」

 

 そんなことない、と言おうとしたけれど、言葉は出なかった。自分でも姉さんに暗い感情を持っていたのは事実だし、それも一つの原因でもあった。

 

「姉さん・・・・・・」

 

「だから、今まで、散々迷惑、かけちゃって、ごめんなさい・・・・・・!」

 

 深く頭を下げる姉に困惑しつつも、俺も口を開く。

 

「確かに姉さんに負い目を感じてた」

 

「けどそれももう止めたんだよ」

 

「昔のことを謝りたくて、仲直りしたくて、また二人で笑いたくって・・・・・・」

 

 熱いものが喉を刺す。顔がどんどんと熱くなってくる。

 

「姉さんが嫌いなんじゃない、嫌いになりかけた自分が嫌いだったんだ」

 

 目から涙が溢れ、それは止め処なく流れていく。

 

「だから・・・・・・だから、俺も、ごめん、心配かけさせちゃって、ごめんね・・・・・・」

 

 

 そのあと、二人とも気が済むまで泣いた。

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

「「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません・・・・・・」」

 

 二人とも向き合ってお互いに土下座で謝る。

 いくら姉弟とは言え、人の前で大泣きするなど子供のとき以来だ。

 

「その、お互い暗いものは言い合ったし、もう寝よっか?」

「そう、だね」

 

 これ以上は気恥ずかしいのでそそくさと寝床に行く、ところで姉さんが待って、と声を出した。

 

「今日は久々に、二人で寝よっか、シロちゃんの断りもちゃんとあるしね 」

「う、うん」

 

 ちょっと恥ずかしいが、まぁ今日ぐらいはいいだろう。

 

 

 

「ありがとう、姉さん。おかげで気持ちが楽になった」

「うん、私もだよ。透君」

 

 二人の顔にはもう暗い雲はかかっていなかった。

 

 

 

 

 扉前。

 

 

「あ、終わったみたい」

 

 ずっと扉に耳を当てて中の会話をガッツリ盗み聞きしていたシロは二人の会話が途絶え、寝息が聞こえたあたりでそっと中の様子を『千里眼』で確認し、二人ともとても良い顔で寝ていたので自分も部屋に戻り、床についた。

 

「おやすみなさい、マスター、お姉さん」

 

 静かな声で、眠る二人にそう告げた。その顔には心配の表情は出ておらず、安心した笑顔があった。 

 



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二十話 走り抜けての脱力感

 やっちまった。

 それは起きてから気がついた。

 今俺はベッドの上で二人が密着した状態で寝そべっている。姉さんに手足を絡められていて動こうにも動けない状況になっていた。抜けようにも体格差的に無理を察した。

 

「デシャヴ感あるな・・・・・・」

 

 今はまずこの状態いら抜け出さなくてはならない。

 そのためにも姉を起こすことが先決だ。

 

 と、思ったら扉からノックが三回響き、シロがゆっくりと入ってきた。

 

「おはよーございまぁーす」 

 

 間延びした声でそう言いながらまだ眠たそうなシロは俺を見ると何やらにまっ、と微笑んできた。

 

「おはよ、て、何だよその顔」

「いえ、何でもありませんよ」

 

 意図が読めず少し困惑していたが、「よく眠れましたか?」と言う一言で納得がいった。

 

「うん、お陰ですっきりした。ありがとう」

「私は何もしてませんよ」

 

 流れる沈黙。ちょっと気まずくなっていると不意に体に絡められていている姉の手足に力が入り、俺は姉さんに引き寄せられた。

 

「ふぅーん、シロちゃんにはそんな顔するんだー。ふーん」

「おはよ、姉さん。て、苦しい、苦しい」

 

 今なおジト目で俺を抱き締める姉さんの対処に十数分費やして何とか開放してもらえた。その間シロは「朝ご飯作ってきますね」と言いながら部屋から出ていき、助けてはもらえなかった。

 

「俺らも降りよ」

「うん」

 

 

 二階から降りると丁度朝食を作り終えたシロがエプロンをほどいていた。

 

「あ、ちょうど今ごはんが出来たましたっ!」

「ん、ありがとう」

「シロちゃんの手作りか・・・・・・お味はどうかな」

 

 三人が席についていただきます、と手を合わせ、朝食に手をつける。

 

「どうですか、上手に出来てますか・・・・・・?」

 

 ちょっと不安げに聞いてきたシロの頭を撫でながら「美味しいよ」と素直な感想を述べる。目玉焼きとトーストとサラダと言うシンプルなものだがこれだけ出来れば上出来だろう。

 

 

 

「ん、ご馳走さま」

「ご馳走さまでした」

「お粗末様でした」

 

 食べ終えて皿洗いは俺がするよと言ったがシロも手伝うと言い、姉さんも手伝うと言い出したので皿洗いは俺が、拭くのをシロが、食器棚に戻すのを姉さんがして、あっという間に終わった。

 

「じゃあ、私は昼前に帰るから、荷物まとめてくるねー」

「うん」

 

 そう言いながら姉さんは部屋に戻り、俺は各部屋に軽く掃除機をかけたあとリビングでゲームに勤しんだ。

 

 暫くしてトランクを持った姉さんが部屋から出てきて、玄関前に移動していたので見送るため俺も玄関に出る。

 

「んじゃ、行ってきます」

「ん、いってらっしゃい。気を付けてね」

「いってらっしゃいませ!」

 

 二人で言葉をかけると姉さんが思い出したかのように俺に近づき、ぎゅう、と強く抱き締める。

 

「んっ!?」

「ん~、ぷはぁっ。じゃ、行ってくるね!」

「う、うん」

 

 小走りに家を飛び出る姉を見る。今までの張り付けたような笑顔ではなく、心からの笑みが浮かんでいるような気がした。

 

「元気良いなぁ……」

「ふふっ」

 

 姉さんがアパートに戻り、家は再び俺とシロの二人だけになった。シロは寝間着から着替え、今日は私服ではなく装備を着ていた。

 

「キリンSか」

「はいっ!」

 

 何故だろう、以前までキリンSを見ても特にそこまでの高揚感を覚えなかったはずなのに今目の前にして見ると胸の中で何か熱いものが(たぎ)っている感じがした。

 何だろう、恋だ愛だとかそんなもののようで何処か違っているこの感情を言い表すことが難しかった。

 

「ん、マスター、どうしました?」

「いや、何でもない、なんでも・・・・・・」

 

 これ以上は気持ちが変になりそうだったので思考を切り替える。

 今日は日曜日、何か用事があるわけでもなく暇なのでダラダラと惰性の極みを目指そうと思っている。

 

「今日は遊ぶ」

「はぁ」

 

 自室に行きnew3DSを構えてデータをロード。

 使うのはデータ1のシロ―――

 

 ではなくデータ2。

 

「さて、育成しますか」

 

 データ2はデータ1のシロとは違い、遠距離武器をメインでプレイしている。

 最近になって始めたガンナーだがこれがなんとも面白い。射撃と言われてどこか小難しく考えてしまうかもしれないが弾はまっすぐ跳ぶしダメージはほぼ均一なのでどの弾をどれだけ撃てばこのモンスターが倒れるかとかも分るのでダメージ計算がしやすい。

 そこからスキルを決めていくので自分にあったスキル構成とかが出てきて人によってプレイスタイルが変わってくるというのはとおても面白い。

 

 まぁこのゲームにおいてはブレヘビィ一択と言っていいほど火力が偏っているのが辛いかな・・・・・・。

 

 データを読み込んでゲームを開始する。

 手慣らしにライトで鳥竜種あたりを狩る。

 ガンナー、というかこういうゲームにおいて大事なのは『もう一発いける』を控えることだ。どんなスタイルや武器でも欲を出さず堅実にいけば被弾が減り、攻撃回数が増えて結果的に速く狩れる。ただしブシドーは除く。

 

「よし」

 

 まだ慣れていないので少し時間は掛ったが難なく倒せた。

 最大火力のヘビィに持ち替え、飛竜種に挑む。

 先ほどとは違い、押し黙り、顔から表情が消える。

 最短距離でメインターゲットが居るエリアまで進み、手前で武器の用意をする。

 

『ギャァアアアアアア!!!!!』

 

 発見されたSEが鳴りモンスターがこちらを向いて咆哮を上げる。

 それをイナシで避けて攻撃態勢に入る。ブレイヴの弱いところは攻撃の出だしに火力が盛れないところだ。このスタイルの専用ゲージがあり、それをためない限りブレイヴというのは全スタイルに劣る劣化スタイルと言っても過言ではないだろう。

 しかし逆に言えばゲージさえ溜まれば強攻撃出し放題のぶっ壊れスタイルでもある。

 そのあたりの調整がよく出来ていて使っていて楽しい。

 

「・・・・・・ふぅーっ」

 

 討伐完了し、ゲームクリアのファンファーレが鳴る。

 やっぱりガンナーは楽しいなぁ・・・・・・疲れるけど。

 

 

 

「浮 気 で す か ?」

「ッ!?」

 

 突然後ろからシロがハイライトオフの目でそんなことをきいてきた。

 何だよ浮気って。

 

「どうしたの、突然」

「マスターが射撃武器を使っていたので気になって」

 

 どうしてそんなに淡々と語るの。さっきまでふんわりしてたじゃん。怖いよ。

 

「コレはどういうことですか」

「どうって、大げさだなぁ。ボウガンが強いって聞いたから試しに作ったデータだよ。一応ランク開放してテンプレ装備作ってある程度自分なりにカスタムはしたけど」

「ふーん」

 

 なんだか朝の姉さんと同じ対応してるなあ。

 シロは剣士で育ててきたので遠距離武器には何か線引きとかがあるのだろうか。シロでも弓は触れた程度で使ってはいた。すぐ飽きたけど。

 

「私みたいにそのデータからも出てこられたら厄介なので」

「おい怖いこと言うな」

 

 これ以上増えたら本当に困るぞ。

 まさか、無いよね・・・・・・?

 



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二十一話 曇り空

「行ってきます」

「行ってらっしゃいませ~」

 いつものやんわりとした声でシロに見送られる朝。天気は晴れと言うほど青空が見えてなく、少し雲りがかっていた。

 傘は、要らないか。

 曇ってこそいるがそこまで心配するほどじゃないだろう。

 

 

 

 学校。

 

 

「お、村崎か、おはよー」

「おっはよー」

「やっはろー」 

「おはぽよー」

「あげぽよー」

「色々変わってるぞ、おはよ」

 

 朝から元気な藤sに挨拶を返して自分の席に座る。

 しかしぽよって死語じゃないか?

 

「土日何してたー?」

「シロと買い物行ってた、あと姉さんが帰ってきた」

「ハァーン」

「なんだよ」

 

 何とも言えない渋い顔をされた。

 

「けどそれにしてはやけに清々しい顔してんな、なんか進展でもあったか?」

 

 加藤の言葉に少し驚いたがまたすぐに切り替えて言葉を返す。

 

「あぁ、うん。姉さんと仲直り出来た。シロのお蔭でね」

「へぇ、そっか、そりゃ良かった」

 

 おどけた感じはなく真面目な顔で言うものだから一瞬誰? と思ってしまった。

 そうこうしてたら担任の先生が教室に入ってきたので話を切り上げて座る。

 

「おーうお前ら座れよー。朝のHR(ホームルーム)の時間だオラー」

 

 なんで一昔前のマガ〇ンに出てきそうな台詞なのか。

 

 ぼー、としながら連絡事項を聞いていると、ふと視線のようなものを感じた気がした。

 

「・・・・・・・・・?」

 

 なんだろう、虫にでも噛まれたか?

 

 

 

 

「ご主人・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 村崎家。

 

 洗濯をしていたシロはふと手を止めて窓の外を眺めた。空は朝のような雲の多い晴れではなく薄い灰色に染まった曇り空に染まり、空気が湿ってきた。

 

「ちょっと降りそう……」

 

 洗濯物外で干せないかな、と思いつつ降らないように祈る。

 自分の主は今日は雨具を持って行っていない。そんなときに雨が降られては最悪だ。もしものときは自分が傘でも届けようとは思っているが、前回迷子になったのでちょっと怖い。

 

「こ、今度は迷わず行きますから・・・・・・」

 

 誰に向かって言ったのか分からない一人言は家の静けさに消えた。

 

 

 

 

 学校、昼休み。

 

 

 

 

「おぉ、降りそうな天気・・・・・・」

 

 どんよりとしだした空を見てそう呟く。

 今日は傘を持ってきてない、もし降ったら大惨事は免れないので降らないでほしい。もしくは小雨迄に留まってくれたら幸いだ。

 

「今日は降水確率高かったから多分降るぞ」

「マジか」

 

 加藤の言葉に俺の祈りは虚しく意味を無くした。

 こんなことなら折り畳み傘でも入れておけば良かった。しかし今そんなことを嘆いても何の役にも立ちやしない。濡れて帰るか・・・・・・。

 

 そう思っていたら一滴、また一滴と雨粒が落ち、次第にそれは小雨から本降りに変わった。

 

「うへぇ・・・・・・」

「ひゃーこれは凄い」

 

 中々に強い雨で気が滅入る。雨雲を見てもどこも分厚く広がっていて通り雨と言う分けでもなかった。

 

「最悪だ・・・・・・」

「シロさんに届けて貰えよ」

 

 加藤が呑気にそんなことを言ってきた。

 

「届けてって、前にシロが迷って泣きながら学校に来たの忘れたか?」

「あー、あったな」

 

 お互い何ともいえない顔で振り返る。

 俺が忘れた弁当をシロが届けようと試みたところ、道に迷い半ば強引に学校を目指し、なんとか到着はしたがメンタル的にボロボロになっていた。

 

 そんな事があってシロに傘を届けてもらうと言うのは些か難しいものがあるのではと危惧している。

 

「ま、最悪俺ら二人で帰るか」

「不本意だけど仕方ない」

「んなこと言うなら入れてやんねぇぞ」

「ごめん悪かった」

 

 お礼に今度何か奢ってやろう。

 

 

 

 村崎家。

 

 玄関前でシロは傘を握りしめて家を出てしっかりと鍵を閉める。

 

「鍵はちゃんと持ってる、うん、傘もあるね、うん、よし」

 

 自前のキリン装備を身に着け、持ち物チェックをする。

 鍵持った、傘持った、アイテムも一応ある。

 大丈夫・・・・・・だと思いたい。

 

「早いとこ渡しに行こっと、今度はぜってい迷いませんっ!」

 

 一人意気込み、『千里眼』で見えている主が居る方角に向かい走り出した。

 前回のような失敗はしない、そう誓う彼女だった。

 

 

 

 

 

  



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二十二話 不安な雨

 以前通った道を進みながらキリンの少女は思う。

 

 以前のような失敗をしないためにはどうするべきか。

 

 前回はスキルを過信していたのと土地勘が無かったこと、複雑な街の道を知らなさ過ぎたと言うのが失敗の要因だった。

 では今回はこれらの点を回避するにはどうするべきか。

 

 これらの点はどれもスキルによるものだった。

 

 スキルだけではうまくいかない。

 

 

 なら武器も使えばいい。

 

 

「だったら操虫棍!」

 

 腰のポーチから身の丈ほどありそうな棒状の物体を引きずり出してさらに中から小さな虫の玩具を空に投げる。

 玩具は肘から手首ぐらいまでありそうな巨大なカブトムシのような昆虫に姿を変えて数回宙返りをしたら左腕に張り付いてきた。

 

「よーしよしよし、久しぶりータッくんー」

 

 カブトムシの角を撫でてやると、カブトムシは嬉しかったのか身を震わせ少し腕を掴みなおした。

 

「早速だけどトオル君の匂いを覚えてくれる?」

 

 追加でポーチから主の洗濯物のシャツを取り出してカブトムシに匂いを嗅がせ匂いを覚えさせる。

 

「トオル君のいる方向は分かるね?」

 

 頷いたように見せたカブトムシは羽根を鳴らしながら宙に浮き、匂いのする方向に向かって進み出した。

 

「今度こそ迷いませんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、行き止まり……」

 

 猟虫の進む方向に従って最短ルートと思われる道を進んでいってたら猟虫が記憶していた匂いを忘れてしまい、道がわからなくなってしまった。

 

 また翔ばそうにも猟虫が疲れて戻ってきてしまったのでもう猟虫に頼ることは出来ない。

 

「うぅ、やっぱり自力で抜けるしかないありません……」

 

 迷路とも思えそうな道を進んでいると、頭にぽたり、と水滴が落ちてきた。

 

「あ……間に合わなかった」

 

 一滴、また一滴と落ちてきた滴は次第に多くなり、それは小雨となって空気を湿らしていった。

 

「仕方ない、傘使っちゃおう……」

 

 もたつく手付きで傘を開く。

 

「わっ、わっ、と」

 

 バサッと音を立てて開いた傘は大きく、人二人までなら入れそうなスペースがあった。

 これで帰るのも、なんて思ってもまず目的地まで赴かなければ話にならない。

 

「前はどうしたっけ、えっと」

 

 躍起になってがむしゃらに走り回ってなんとこ着いた気がする。しかしなんであのときマスターの居るところに辿り着いたのか未だに分からない。

 

「今度は泣かないもん」

 

 熱くなる目頭を押さえ、傘を握りなおして歩き始める。

 

 が、ふと何かを感じる。

 一瞬視線のようなものを感じ取った。

 洋服でなく装備を着ているので物珍しそうな目こそあるものの敵意は無かったのに、その中に紛れて明らかに敵意のある視線を感じた。

 

「なんだろう・・・・・・?」

 

 嫌な予感がする。

 急いで主のもとに行かなくては。

 

「トオル君、待っててください!」

 

 抵抗を受けて邪魔に感じた傘を閉じて全力で駆け出した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「・・・・・・誰だ」

 

 雨音の響く街、陰に隠れて一人の『ハンター』を視る。

 キリン装備を身に纏う少女が雨に濡れながら走っている。

 目指している所はおそらく自分と同じところだろう。

 

「渡さない・・・・・・」

 

 私だけのご主人だ。

 

 

 




バトル展開が微レ存・・・・・・?
 それとサブ垢の娘が登場します。
 設定などはおいおい出していきます。
 
 シロちゃんがっつりキリン装備で街中を闊歩してますが職質とかされないんでしょうかね?(他人事)


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二十三話 対決! 剣士とガンナー!

「あー、雨だ・・・・・・」

 

 昼休み、そんな言葉が口から漏れた。

 降らないでほしいと祈ってはいたがそんな祈りも関係ないと言うふうに空は曇り、だんだん薄暗くなって雨が振りだした。

 

「帰りにコンビニ寄って傘買うべきか・・・・・・ん?」

 

 窓から外を眺めていると見慣れた白い恰好をした少女が見えた。

 シロだ。

 シロが複合キリン装備で傘も差さず一目散に走ってきているのが見えた。

 

「シロ、何やってんだ・・・・・・?」

「え? シロさん?」

 

 呟いた一言に加藤が気付いて窓を見る。

 加藤も走ってきているシロを見つけて驚愕する。

 

「うわ、ホントにシロさんだ!」

 

 加藤の驚いた言葉にクラスの大半が反応し、皆同じように窓から眺める。

 

「シロさんだと?」

「マジだ」

「傘も差さずずにどうしたんだろ」

「家で何かあったのかな?」

 

 その言葉を聞いて少し焦った。

 ウチがどうかしたのだろうか。

 強盗でも入られたか? ならシロだけでどうにかしそうだし、それとも火事だろうか? 火も煙も見えないしサイレンだって鳴ってない。

 じゃあ何だろうか?

 遠目で見ていてもどこか焦っているような顔をしているのが分かった。

 

「俺、ちょっと行ってくる」

「あ、おう。気ぃつけろよ!」

 

 落ち着かない気持ちで階段を降りてグラウンドに出る。

 

「シロ!」

「トオルくーん!」

 

 シロは傘を握って走ってきた。

 何で差さないのだろうか、と思っていると、突然発砲音が響いた。

 

「ぐッ!」

「はあっ!?」

 

 シロはとっさに取り出した小型の盾を持って振り向き、跳んできた弾丸を弾いた。

 すかさず持っていた傘を手放して腰のポーチに右手を突っ込み、小さなナイフを摘まみだして弾の跳んできた方向へ投擲する。

 ナイフは敷地の壁に並んで生えている樹木へと飛んで行き、少し遠いところで高い金属音を鳴らして跳ばされたナイフと黒い人影が生い茂る樹木から落ちてきた。

 

「あれは・・・・・・」

「トオルくん、下がってください!」

「いや、シロ、あの()見覚えが」

「私がトオル君をお守りします!」

「ねぇ聞いて」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 落下して音もなく地面に着地した人物は暗い褐色の肌をしていてナルガ装備を・・・・・・、いや違う。

 あれは『白疾風(しろはやて)』一式だ。

 モンハンダブルクロスには(ふた)()モンスターと言われる特殊個体のモンスターが存在し、どれも並外れた能力を持っているのっが特徴。その中で今褐色の少女が身に纏っている装備は斬撃を飛ばしてくる白疾風ナルガクルガと呼ばれるモンスターだ。

 そのモンスターの装備を身に(まと)った少女が表情を変えずこちらを睨み、担いでいたライトボウガンをすかさず構える。

 

「貴女は何者なんですか?」

「目標確認、排除する」

「おい待てって」

 

 褐色の少女はボウガンの引き金を引き、発射された弾をシロが盾で弾く。ノックバックして出来た隙をついて褐色の少女がシロに接近し、シロは一本の直剣を片手に持って斬りつける。

 が、それは寸前で避けられて少女はまた距離を取った。

 

「一旦落ち着いて」

「急に攻撃してきてなんなんですかっ!」

「アナタが邪魔だから」

「待って」

「絶対倒します!」

「撃ち抜く」

「待てぇぇえええ!!!」

 

 褐色の少女が速射による早撃ちで撃った三発の弾丸をシロが接近しながら剣で弾き、少女が通常より飛距離の長い前転でシロの背後に移動し、二人とも即座に振り向きながら互いに持っている獲物の先お互いの数寸先に向けて静止する。

 

「っ!」

「・・・・・・・・・」

 

 白と黒の二人の少女がピタリと止まり、互いに剣先と銃口を向けて動かない。

 二人の間で息度となくイメージによる鍔迫(つばぜ)り合いが続いていた。

 

 動けばやられる、しかし動かねばやれない。

 

 火花が散るような幻覚さえ見えてしまいそうなほど、二人の間は緊迫していた。

 

 

 ◇

 

 

「なんじゃこりゃ・・・・・・」

 

 何故うちの学校のグラウンドで格ゲー張りのアクションシーンなんてやってるんでしょうかねぇ。

 ほらみろギャラリーが集まってきやがった。

 窓から身を乗り出して二人の様子を(うかが)ったり、はたまた写真を撮ったりしている。

 

 そろそろこの状況の収拾がつかなくなるので止めさせよう。

 言葉で言っても分からないと言うのなら実力行使しかない。

 ならばアレを取ってこよう。

 出来るだけ大きなアレを。

 

 

 ◆

 

 

「どうして私を狙うのですか・・・・・・?」

「アナタが邪魔だから」

「意味がわかりません!」

「知らなくていい」

 

 今から逝くのだから。

 

 そう言おうとして引き金にかけていた指を引こうとした時。

 

「マカチョップ」

「あだっ!?」

「ぎゅっ!?」

 

 突然鋭い痛みが頭頂部を刺した。

 新手か? と考えてすぐ隣に立っていた人物を睨むと、そこには透が二冊の分厚い本を持って立っていた。

 

「ご主人・・・・・・?」

「痛いですよトオル君ん~~・・・・・・」

「当たり前だろ角でやったんでから。それよりお前ら、ちょっと来い」

「はいっ」

「了解」

 

 片方の本を重たそうに肩に担いだ透は二人に着いてくるように言う。

 雨の降る昼下がりの対決は一人の少年によって幕を閉じた。

 



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二十四話 尋問

 グラウンドでシロと戦っていた少女を捕まえ、と言うか連れてきて今は教室にいる。

 

「で、君の名前は?」

「プロトガンナー黒式。クロ、でいいよ」

「分かったよ、クロ」

「うん」

「「「「・・・・・・」」」」

 

 クロと名乗った褐色の少女。

 表情が変わらず終始真顔だが、今はどこか嬉しそうに頬を少し染めている。

 

 正座させられているが。

 

「ご主人、少し足がピリピリしてきた・・・・・・」

「わ、私も・・・・・・」

「膝で全体重支えてるからね」

 

 今目の前でハンター二人を正座させている。

 理由や経緯がどうあれ学校のグラウンドであれだけ暴れられては迷惑というもの。

 説教の間ずっと慣れない正座をさせていたのでそろそろ足が痺れてきたころだろう。

 

「もう足崩していいよ」

「おぉぉ・・・・・・」

「や、やっと終わりましたぁ~・・・・・・」

 

 二人はその場でへたり込んで痺れた両足をさすっている。

 

「さてこのぐらいで・・・・・・」

「村崎ィ・・・・・・」

 

 加藤に肩をガシィッ、と掴まれた。

 冷や汗を流しながらゆっくりと振り向くと世紀末な世界の主人公かはたまた男の中の男が通いそうな塾に通ってそうな人たちのような顔をしていた。

 後ろに並んでいたクラスの男共も似たような顔芸してるのでたぶん後者だろう。

 

「村崎ぃ・・・・・・屋上、行こうか・・・・・・キレちまったよ、久々によぉ・・・・・・」

 

「加藤、あのな、これには事情があってだな・・・・・・」

「問答無用だァ!! お前ら、この不届きモノを連れてけェッ!!!」

「「「「オオォォォーーーーーッッ!!!」」」」

 

 鬨の声を上げ俺を囲んだ男子達が一斉に押し寄せてきた。

 が、しかし。

 

「ご主人・・・・・・!」

「おわっ」

 

 音もなく近くに来ていたクロが俺を抱えて上に飛び上がり、群がった男子の群れを踏みつけて安全圏に着地した。

 

「お、オレを踏み台にしただとぉーーー!?」

「ご主人にかすり傷一つつけさせない・・・・・・!」

 

 透をお姫様抱っこをしたまま男子達の方へ振り向き、カッコよく決めるクロ。

 

「クロ、降ろして」

「ん、もう少しだけ・・・・・・」

「いや結構恥ずかしいからコレ」

「あと二時間・・・・・・」

「ちょっとじゃない!」

 

 降ろそうとせずなおも抱きかかえられた状態で少し恥ずかしくなってきた。

 

「と、トオル君から離れなさいっ!」

「イヤ」

 

 そんな二人に見かねたシロは奪い取るようにクロから主をひったくり、そっと床に立たせる。

 

「ん、ありがとうシロ」

「トオル君が困っていたので」

「むぅ・・・・・・」

 

 警戒するように睨むシロと主をとられてむくれるクロ。

 

「まぁいいよ、私は目的があってコッチに来たわけだし」

「目的?」

 

 そうだよ、と答えた褐色の少女は音もなく透の目の前まで接近し、身体を絡ませて透の顔に両手を添えて間近で見つめながら妖艶な声音で言葉を続ける。

 

 

 

「ご主人との、子どもをつくりたい」

 

 

 

「え?」

「は?」

 

「「「「ファッ」」」」

 

 それぞれがそれぞれの反応を示し、褐色の少女を見つめる。

 

「私は、本気だよ」

 

 褐色の少女に熱い眼差しを向けられ、背筋に寒気が走る。

 クロに向けられるものとクラス内の男子からはもちろん、女子たちからも冷たい視線に晒され、居た堪れない気持ちに襲われた。

 

「村崎、屋上」

「」

 

 冷たく、短く告げられた言葉に、ただ従うのみだった。

 

 

 この散々な目にあった。

 

 

 




 クロちゃんの元ネタはFGOの静謐のハサンと清姫を足して2で割ったような感じです。

 褐色女子良いなーとか思ってサブデータを作り、そこで試しにガンナーに挑戦してみまして、ブレヘヴィの強みに惚れました。

 暑さにやられたような内容ですが間違いは無いと思います。
 
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 ではまた。


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二十五話 相合傘

 クロちゃん出ましてキリンではありませんがキリンは着せますよー。


 何とか生きて教室に帰還したら昼休み終わりのチャイムが鳴った。

 

「あのお、大丈夫ですか、トオル君・・・・・・?」

「九死に一生、いやお情けだった・・・・・・」

 

 完全に殺る目をしていた。

 嫉妬なんて生半可なモノじゃない、明確な殺意を持っている目をしていた。

 

「ん、もう、平気」

「ご主人・・・・・・平気?」

「死んではいないから大丈夫、だと思う」

 

 実際そこまで大きな怪我は無かった。

 どこぞの地球人のように起爆生命体によって命を落としたりはしていないので多分セーフだろう。

 

「午後の授業があるから二人とも大人しくしててね」

「はいっ」

「わかった・・・・・・」

 

 またも椅子を借りてきて先生に説明と謝罪をしていった。

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

 六限目の終わりのチャイムが鳴る。

 

「よし、今日の授業はここまで。みんな気を付けて帰れよー」

「「「ありがとうございましたー」」」

 

 それぞれ席を立ち荷物をまとめたりしはじめた。

 

「トオル君、まだ降ってますけど」

「あー、そうだね・・・・・・」

 

 窓の向こうはまだ暗い雲が雨を降らしていた。

 

「あー、どうするよ村崎ぃ」

「そだな、俺はシロが持ってきてくれた傘あるし、それで帰るよ」

「いやまぁお前がそう言うならいいんだけど」

 

 加藤がクロを見ながら言葉を続ける。

 

「三人で一本使うのか?」

「・・・・・・・・・」

 

 言葉に詰まった。

 シロとならまだ帰れたかもしれないが三人となれば一本の傘では大分狭いことになると思われる。

 では誰か出る、つまり濡れて帰るか?

 そうしたもので悩んでいるとクロが口を開いた。

 

「ご主人、私はいい」

 

 そう言いながら窓に身を乗り出した。

 

「おい、ここさんが・・・・・・!」

「またね」

「い・・・・・・」

 

 ひょいと何も物おじせず飛び降りたくノ一。

 慌てて窓に駆け寄って下を見るがそこにはもう誰もいなかった。

 

「大丈夫かな・・・・・・」

 

 止まない雨音の中そんな言葉が出た。

 

「・・・・・・帰りましょうか、トオル君」

「あぁ、うん」

 

 シロに促され、俺も帰る支度をする。

 教本をカバンに入れて教室を出る。

 

 踊り場を降りて生徒玄関に行く。

 

「じゃ、先に帰るぞー」

「あ、うん」

 

 じゃあの、と手を振りながら加藤は学校を出た。

 何故にあんな労わるような眼で眺めてきたのかは聞かないようにしよう。イライラしてくる。

 

「トオル君!」

 

 先に外へ出て振り返ったシロが俺の名前を呼ぶ。

 両手で持った傘を肩にあてがい、柔らかな笑顔で見返るその姿は、可愛らしさと可憐な美しさを合わせたような、形容し難い妖艶さと呼べるものがあった。

 

「・・・・・・・・・」

「トオル君?」

「はっ・・・・・・!」

 

 いかん、軽く見惚れていた。

 

「大丈夫ですか?」

「あぁ、うん、大丈夫、大丈夫だから!」

 

 熱くなった顔を誤魔化すように自分も早々に靴を履き替えてシロの持っている傘の中に入る。

 

「じゃ、行きましょう!」

「う、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 帰り道、何も会話がない。

 凄く気まずい。

 

 数週間一緒に過ごしたがこうも急に静かになると何も話せなくなるのが辛い。

 話題・・・・・・話題・・・・・・あ、そうだ。

 

「なぁ、シロ」

「はい、何でしょうか」

 

 声を掛けられぱっと顔を向けるシロ。

 

「今日いきなり出てきたクロ、どう思った?」

「クロ、あの急に攻撃してきたハンターですか?」

「うん。あの娘」

「正直好意は持てません」

「あーやっぱり・・・・・・」

 

 まぁ当然だろう。

 急に出てきて名乗りもせずこっちに攻撃してくるなんてゲームなら明らかな地雷行為だ。

 ゲームならまだしも現実であんなことすれば一発アウトで鉄の輪っかを両手に掛けられてそのまま鉄格子の向こうに繋がれるわ。

 相手がシロだったからまだ良かった・・・・・・。

 

「しかも窓から飛び降りてどこか行っちゃったし、大丈夫かな・・・・・・」

「並大抵では死なないとは思いますが、どうでしょう・・・・・・」

 

 不安はあるがあのタフさならそこまで問題は無いだろう。

 そう思わないとやってられない。

 

 思いふけっていると突然シロが立ち止まった。

 どうしたのかと思ってシロの方を見たら恥ずかしそうにちらちらと目線を合わしたり外したりしながら聞いてきた。

 

「あの、トオル君」

「どうした?」

 

 意を決したのかぎゅっと手を握って話す。

 

「トオル君は、子どもが欲しいとか思いますか?」

「な、シロッ!?」

 

 急に何言いだすのこの娘!?

 

「だって、あの時クロさんが子供が欲しいって・・・・・・」

「あれはアイツの勝手な話だから!」

「でも、でも、以前トオル君のお部屋から出てきた本にもそのような事が描かれてましたし・・・・・・」

「それは内藤が置いていったやつだから」

 

 そう言えばそんなこともあったな・・・・・・。

 あの時はシロの尻尾を弄り倒して大変なことになった。

 

「それで、もしトオル君がその、溜まっていらっしゃる(・・・・・・・・・・)のなら、私がお手伝いしようかと思いまして・・・・・・」

「いや、溜まってないから、そんなことないから」

 

 赤らめた頬に手を当て、身体をもじもじさとせながら口走るキリンの少女。

 何故か分からないが少し悲しくなってきた。

 

「とにかく、俺はそんなことは思ってないし、子どもとかまだ作る気はない」

「うぅ、そうですか・・・・・・」

 

 真正面から全否定されてうなだれるシロ。

 少し言い過ぎたかな・・・・・・。

 

「シロ、焦らずゆっくりいこう、ね?」

「う、はい」

 

 どうやら分かってもらえたようだ。

 シロは少し考えて一つのアイデアを出す。

 

「では、折角相合傘をしているのですし、もう少し近くにいても、いいですよね?」

「いや、あのそれは」

 

 問答無用というように肩が密着するまでシロは俺に接近し、今にも抱き着かんとするほど近くに来ていた。

 

「それに、こうでもしないとトオル君が濡れっぱなしでしたし・・・・・・」

「あははは、ばれてら」

 

 流石に人を二人入れる容積というのは厳しかったのか少し距離を開けただけで少し肩が出るくらいだった。

 まぁその程度なら濡れてても大丈夫だろうと思ってたし、何より触れたままだと言うのがちょっとメンタル的に持ちそうになかったにので離していたのだが、シロから来られては逃げ場がない。

 なら素直に諦めよう。

 

「濡れないようにと持ってきたのに、トオル君が濡れてはいけません!」

「うん、わかった、気を付けるから、あまりグイグイ押し付けないで」

 

 小振りながらもしっかりとした双丘が満遍なく当てってくるので恥ずかしくて顔を合わせられない。

 多分耳まで赤い気がする。落ち着け、意識するな。

 

「んふ~~」

「ご機嫌なようで・・・・・・」

 

 腕にくっつき、少しゆっくりとした速度で歩く。

 

 最近退屈しないなぁ、とか思いながらシロを見て、幸せそうな表情をしているなーとか考えてたらいつの間に家の前に着いていた。

 

「ほら、着いたから一旦離れようか」

「うー、分かりました」

 

 玄関の鍵を開けがちゃりと扉を開ける。

 

「おかえりなさい、ご主人・・・・・・。 ご飯にする・・・・・・? お風呂にする・・・・・・? それとも、こ・づ・く・り・・・・・・?」

 

 バタン。

 

 どうしよう、家に痴女が不法侵入キメてた。

 

「それは酷いと思う・・・・・・」

「なんでウチに居るんだクロ・・・・・・」

 

 すかさず玄関を開け、半開きの目を潤ませながら上目遣いに俺を見てくる。

 

 頭が痛くなってきた。





 評価感想誤字脱字、あればご報告ください。
 
 では。 


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二十六話 モノトーンな二人との夜。

 住所を知っているというのはクロが若干ストーカー気質だというのが垣間見えていたのでまだ分かるがいきなり茶番かますか普通?

 

「それより、どうかな、この見た目・・・・・・」

「どうって裸エプロンじゃんか、隠せ隠せ」

「そ、そうです! はしたないですよっ!」

 

 クロはその艶のある肌をエプロン一枚で隠しているが、そこまで活発的でない性格と相まってギャップがすごいことになっている。

 眠たげな半開きの眼、少し長めの白いメッシュの入っているぼさついた黒髪、気怠けな雰囲気であるがその肢体は引き締まっていて出るとこは出て締まるとこは締まっている。

 まだ発展途上と言うぐらいだがそれでも膨らみはある。

 そんな少女に裸エプロンなんて露出の多い恰好をされたら目のやり場に困る。

 

「とにかく、装備でもなんでもいいから着替えてくれ・・・・・・」

「ご主人がそう言うなら、仕方ない・・・・・・」

 

 クロはどこからともなく大きな布を引っ張り出し自分に覆い被せると、一瞬の合間に身に着けているものが変わっていた。

 今は通常のナルガ装備を身に着けている。

 

「どうやってんのそれ」

「内緒だよ」

「あ、うん」

 

 どうやら機密事項らしいいのであまり触れないでおく。

 それはさておき。

 

「夕飯の支度するから、大人しくしてて」

「了解」

「あ、お手伝いします!」

 

 支度を手伝おうとシロが着いてきたがクロが気になる。

 

「いや、シロはクロのことみてて」

「・・・・・・わかりました」

 

 ちょっと眉を下げて了承するシロ。

 そんなこと知ったことではないと言うように少し上を見上げながらボケーっとソファーに座るクロを見て何だか心配になってきた。

 

「ここがリビングで、あっちが洗面所とお風呂です。で、あそこは・・・・・・」

「ふむふむ」

「二階はご家族の皆さんの各自室になってます」

「ご主人のお部屋・・・・・・」

 

 妙に意気込んで何か考え出すクロ。

 嫌な予感しかしない。

 

「よし、出来た」

 

 夕飯を作り終え、皿に盛り付けてテーブルに並べ、エプロンを取って二人を呼ぶ。

 

「二人ともー、ご飯出来たよー」

「あ、はいー。今いきますね!」

「あいさー」

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 合掌し、料理に手を付ける。

 俺とシロは平然と箸を進めるがクロは少し戸惑っていた。

 

「あ、あの、ご主人」

「どした?」

「これは何?」

 

 クロは二本の棒、箸を両手で握り、困惑した顔で手に持っている物を差し出してきた。

 

「あぁ~・・・・・・、そういや知らないのか」

「全く分からない、悪いけどフォークください・・・・・・」

「ん、分かった」

 

 立ち上がって食器棚からフォークを一本抜き取ってクロに渡す。

 ありがとう、と受け取ったクロはあまり顔には出していないが恍惚の表情と言った感じでもむもむと食べる手を進めている。

 

「こうしてたら好感持てるんだがなぁ」

「そうですかね?」

「ウマー」

 

 喋らなければちょっと抜けている美人というような、そんな彼女を眺めて項垂れながら夕飯を済ませた。

 

「お粗末様」

「ご馳走様でしたー」

「ごちそーさまー・・・・・・」

 

 

 それぞれの言い様で食後に手を合わせて食器を片付ける。

 

「今度こそ、お手伝いしますっ」

「うん、じゃあ食器積んで持ってきて」

「お手伝い、するー・・・・・・」

 

 食器を洗い場に持って行き、俺が洗いクロが水気を取ってシロが食器棚に洗った食器を片付ける。

 人手が多いのであっという間に洗い物が終わった。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 ソファに腰かけ一息つく。

 食後なので少し眠気がするが風呂入って明日の準備をするまでは寝れない。

 と言うか今日も何かと色々あって疲れた。

 一般的な帰宅部男子の精神的キャパシティを裕に超えているように思えるのは錯覚か。

 

 ゲームは週末にしよう、そんでもって今日はもう風呂に入って寝よう。うん、そうしよう。

 

「風呂入ってくる・・・・・・」

 

 重たい腰を持ち上げて着替えを取りに行く。

 

「あ、わかりましたー」

「ん、了解」

 

 階段を上がり部屋に入り、着替えを取って脱衣所に入る。

 ガラリと浴室に入ってまず体をさっさと洗って風呂に浸かる。

 

「はぁぁぁ~~・・・・・・」

 

 疲労感が尋常ではない。

 雨による気の滅入りとクロが登場した驚愕で俺のメンタルはボドボドダ。

 

「・・・・・・! ・・・・・・!!」

「・・・・・・・・・」

 

 向こうから何やら言い争う声が聞こえる。

 二人が言い合いでもしているのだろうか。

 あ、眠気が・・・・・・。

 

「じゃあ・・・・・・」

「・・・・・・せん!」

 

 なんか声が近づいている気がする。

 

「ご主人、入るね」

「あ、こらぁーーっ!!」

「うわぁあああッ!!?」

 

 クロが浴室に突入してきた。

 ユアミシリーズを身に着けて。

 

「なんだ、ユアミか、良かった・・・・・・」

「良くないですよマスター!」

 

 安堵する横でシロもユアミを装備して入ってきた。

 なんで?

 

 ユアミシリーズとは。

 モンハン3rdから実装されたいわゆるネタ装備。

 バスタオル一枚を体に巻いてサンダルと湯浴みタオルを頭に置いているだけのほぼ全裸と言って差し支えない装備の事。

 下着はスパッツのようなものを付けているので本当に全裸と言うわけではない。

 余談だがその装備とネタ武器縛りで古龍を倒している輩がいたとかなんとか。

 

「なんだかんだで雨で冷えてしまった体を、お風呂で暖めようと思って・・・・・・」

「嬉々として濡れていたように思えるのは俺だけかな、それと目のやり場に困るからそんな恰好は止してって言ったよね?」

「そんな、濡れるだなんて・・・・・・」

「いけません!」

 

 顔を赤らめ頬に手を当ていやんいやんと腰をくねらせるクロ。

 そんなクロを必死に止めようとするも狭い浴室のため思うように動けないシロ。

 そんな二人を見て現実逃避がしたくなった俺。

 

「とりあえず、体洗いなよ」

「「あ、はい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 壁に顔を向け耳を塞いで無心に徹する。

 シャンプーの音とかそんなの聞こえない。

 ボディソープを泡立ててタオルで擦る音なんて俺には絶対に届いてない。

 

「ねぇ、コレどうするの?」

「洗ってあげますからじっとしててください」

「わ、あわあわだー」

 

 聞こえない。

 

「髪キレイですね」

「そう? でも貴女もイイ身体つきしてる・・・・・・」

「何言ってるんですか!?」

「じょーだん、かも」

「断言してくださいっ!」

 

 許してくださいお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、洗い終わりましたよ・・・・・・」

「ん、ありがとう・・・・・・」

 

 ぷるぷると体を震わして滴を跳ばすクロ。

 

「きゃあっ!? お行儀が悪いからそんなことしちゃいけません!」

「えぇー」

 

 クロは眉間に少しだけしわを寄せて抗議の目を向けるが間違ってはいないので諦めて自分も浴槽に入る。

 

「ご主人と一緒・・・・・・」

「わ、ちょ、クロ! あまりくっつくな!」

「あぁーーっ! 待ちなさい!!」

 

 シロが俺とクロの間に入り、なんとか抑止しようとする。

 

「そうは、いかない・・・・・・」

「わっ、あぶな!?」

「ご主人!?」

 

 クロも負けじと避けるが俺とぶつかって浴槽に倒れこむ。

 

「捕まえたぁーーっ!!」

 

 そこにシロが突っ込んできてクロを捕まえたは良かったが俺も巻き込まれ、クロの下敷きになってしまった。

 

「いてて・・・・・・」

「わわ、ご主人、大胆だよ・・・・・・」

「いいから退いて」

「は、離れなさい!」

 

 顔を赤くさせながらシロが引き離そうとするがクロも俺の体をがっちりと掴んでいるのでなかなか剥がれない。

 その結果またとっかえひっかえで二人の間に挟まれたりした。

 

「きゃあっ!? まま、マスター!」

「おお、ご主人の背中、イイ・・・・・・」

「動きづらいから放れようか二人とも・・・・・・」

「ごごめんなさいっ」

「ここに足を掛けてっと」

「ちょ、クロぉっ!?」

 

 クロがかんッ、と足を掛けて三人が浴槽で倒れるとかいうかなり危険なことになった。

 そんな広さのない浴室に三人が騒ぐものだから浴槽の中で足が絡まってしまった。

 

「え、ちょ、これどうすんの」

「スミマセン・・・・・・私がこの娘を止められなかったばかりに・・・・・・」

「流石にやり過ぎちゃった・・・・・・」

 

 暴れたせいで体に巻いていたタオルがはだけてしまって二人の双丘が見え隠れしているのがいやでも目についてしまう。

 

「・・・・・・」

「あの、マスター、そんなにマジマジと見られたら、その、恥ずかしいと言いますか・・・・・・」

「ご、ごめん!」

 

 シロが顔を伏せて赤くなりながらそう言ったので俺も慌てて目線をそらす。

 

「私は別に、見てもいいんだよ?」

「クロは少し黙ろうか」

 

 なんでこの状況でまだそんなこと言える自信があるのだろうかこの娘は・・・・・・。

 

 その後、一旦動くのはやめて落ち着きを取り戻し、ゆっくりと足の絡み具合を見ながら一人ずつ風呂から上がった。

 俺は何も見ていない。何も・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室。

 

 何とか風呂から上がり、ベッドに仰向けに倒れる。

 

「はぁ・・・・・・」

 

 疲れを取ろうと思って入ったのに余計に疲れるとはこれ如何に。

 絡まった足を外すとき、ヘンなところに足が当たってしまったり、逆に誰かのつま先が体を撫でたりして、妙な気分になってしまうのを堪えるのに必死だった。

 

「やべ・・・・・・」

 

 考えるな、変な気分になるな、だから首を伸ばすな卑猥竜。

 一人で悶々としているとシロが入ってきた。

 

「あの、マスター、起きてますか?」

「んー、うん」

 

 まだ火照っているのか少し顔に熱を帯びているシロは何というか、色っぽかった。

 

「俺もう寝るけど、シロはどうするの」

「わ、私も寝ます」

 

 枕も持ってきました、と後ろ手に持っていた枕を前に持ってきてにへ、と笑う彼女。

 

「・・・・・・もう添い寝も慣れてきた、のかな」

「ちょっと恥ずかしいですけど、ね」

 

 照れ隠しに笑ってい入るがまだ顔が赤いのは気のせいじゃないだろう。

 俺もあまり人のことは言えないけども。

 

「じゃあ、もう眠いし、寝よっか」

「は、はいっ」

 

 二人ともベッドに入って電気を消そうとした時に、ドアをノックする音がした。

 

「ご主人、まだ起きてる・・・・・・?」

 

 クロが来た。

 

「うん、起きてるよ」

「そか、じゃあちょっとお邪魔するよ」

「う、うん」

 

 がちゃりと戸を開けて入ってきたクロはシロを一瞥してまた見た。

 

「何ぃ、先客だと・・・・・・」

 

 惜しいことをした、とでも言いたげな顔をしたクロはすぐに持ち直してふらふらと俺の前までくるとぎゅっと抱き締めた。

 

「ッ!? ・・・・・・ッ!?」

「ねぇ、ご主人・・・・・・」

 

 パクパクと金魚みたいに口を開け閉めする俺にクロは上目遣いに言葉をつなぐ。

 

「今日は一緒に寝ていい・・・・・・?」

「・・・・・・降参、お好きにどうぞ・・・・・・」

「マスター!?」

 

 どうあがいても無理でした。

 そ、それにクロが一緒にいる以上シロも傍に置いておかないと俺の貞操がちょっとアブナイ気がした。

 嫌ではないけど、襲われるのはちょっと・・・・・・。

 

 そんなこんなで俺を挟んで右にシロ、左にクロが寝そべっている構成になった。

 ちなみに二人ともを絡ませている。

 

「俺はもう寝る、二人ともあまり騒がないように・・・・・・」

「ふぁ・・・・・・分かりましたぁ~・・・・・・」

「ん・・・・・・分かった・・・・・・」

 

 俺も二人ともやはり眠たかったようで、みんな欠伸してそのまま眠りについた。

 

 かなり疲れる一日だった・・・・・・。

 

 




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 では。


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二十七話 八つ当たりにお菓子を

 学生の喧騒が響く教室。

 穏やかな昼休みにパックのコーヒーを飲みながら、村崎透は今日の夕飯はどうしようか。などと考えていたら突然女子グループが目も前までやってきて声をかけてきた。

 

「村崎くーん、ちょっといいー?」

「・・・・・・。あ、俺?」

 

 まず学校で女子と話すことなんてほとんどないので一瞬誰の事かと思ったがどうやら彼女達は自分に用があるようだ。何だろう、カツアゲかな。

 

「悪いけど今は今月分の生活費しか残ってないからお金はあげられないよ・・・・・・」

「そんなじゃないわ! アンタあたしらのこと何だと思ってんの!?」

「イケてる女子連中」

 

 少し眉を寄せながらそう言うと呆れたよな顔をしてため息をつく女子たち。

 なんだろう、変なことを言ってしまったか?

 

 困惑しながら眺めていると先頭にいた女子がまーいいよ、と話を切り出して要件を伝えてきた。

 

「今度の土曜アンタ予定空いてる?」

「自宅で積みゲー攻略」

「何も予定ないね」

「いやあの積みゲー・・・・・・」

「じゃああたしら今度の土曜アンタんち遊び行くから、ちゃんんと家に居ろよー」

「あのー・・・・・・」

 

 じゃねーと手を振りながら女子達は俺の席から離れていった。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 それを傍から見ていた藤ズは俺たちもと言わんばかりの目線を透に向け、次に女子達に向けたが女子達はもう自分たちの会話に花を咲かせていた。

 男子リーダーの加藤が女子グループの入っていき、交渉を始めだした。

 

「おうおうおうお嬢さんたち、なんか面白そうな話してたじゃないの」

「なーにー加藤ー?」

 

 面倒くさいと態度で示すも男子連中は構わずやんややんやと話をしているが暫くして加藤がいい笑顔でこっちにやってきた。

 

「よ、村崎。俺らも行くことになったわ!」

 

 清々しいほと気持ちのよい笑顔でそう言ってじゃあ俺トイレ行ってる! と加藤は教室を出ていった。

 

「積みゲー・・・・・・」

 

 落胆するも時すでに遅し、自分の会話力の低さもあるが半ば無理矢理に決められてしまった。

 もう腹が立った、こうなったら徹底的におもてなししてやろうではないか。

 

 当日に備えてお茶や茶菓子を揃える透だった。

 

 

 

 

 その日の村崎家。

 

 夕食の後透は台所に立ち、焼き菓子を作るための材料を揃え、各使用する素材の分量などを量ったり調理器具を揃えたりしていた。

 

「マスター、何をされているのですか?」

 

 夕食後、何やら物音がするので来てみたら主が台所で何か作業をしている。覗いてみると薄い黄色の生地をこねていた。

 

「あぁ、うん。今度の休みに何人かクラスメイトが来るから、全力でもてなしてやろうと思って」

「そ、そうなんですか」

 

 説明を聞いてもよく分からない。おもてなしをするのは理解できるのだがなぜそんな八つ当たりでもするかのような口調で作業をしているのか。普通、自棄(やけ)になったらもっと乱雑にするのではないだろうか。それを何故に主は全力でもてなすため下準備をしている。

 

「焼けたら試食がてらに食べさせてあげるからちょっと待ってて」

「あ、はい分かりましたっ!」

 

 甘いものが食べられるならまぁいいや。

 

 

 ◇

 

 

 さて準備は出来た。

 まずはシンプルに混ぜて焼くだけ。ココアパウダーなども入れつつプレーンとココアの二種類のクッキーを焼く。

 小麦粉、卵、牛乳、砂糖、その他色々。必要ならまた色々入れればいいだろう。

 

「温度はこのぐらいで、時間は、これぐらいかな」

 

 生地をそれぞれ一口大に切ってトレーに乗せ、オーブントースターにセットして蓋を閉じ、時間と温度を設定してあとは待つだけ。

 

「よし、次の準備もしておくか」

 

 あらかじめ冷やしていたチョコチップを冷蔵庫から取り出して余っているクッキー生地に混ぜ込む。

 これもまた一口大に分けていき、トレーに乗せて焼く準備をして待っていると一枚目が丁度焼きあがったようだ。

 

「わあ!」

「まだ駄目だぞ」

「はいっ」

 

 オーブンからトレーを取り出して熱を取る。

 二枚目のトレーをオーブンに入れて再設定して開始。

 シロが目をらんらんと輝かせながらかじりつくように目の前のクッキーを眺めている。

 まだかまだかと待つ姿に笑みを零しつつ牛乳を注いコップに注いで少し冷めてきたクッキーを皿に取り分けシロの前に出してやる。

 

「よし、もう食べていいぞ」

「いただきます!」

 

 すぐさまバタークッキーに手が伸び熱さに驚きながらも美味しそうに焼き菓子を頬張っている。

 牛乳を挟みつつクッキーを頬張る、と言うことを繰り返しているシロを眺めているともう一つの方も焼き上がったようだ。

 

「こっちも出来たっと」

「~♪」

 

 至福の時と言わんとばかりにクッキーを食べているシロの前にチョコチップクッキーを出して一枚つまんでシロに向ける。

 

「シロ、あーん」

「あー、むっ」

 

 テーブルに少し身を乗り出して口を広げぱくりと一口に俺が手に摘まんでいたクッキーを食べるシロ。

 

「どう、おいしい?」

「んー、んぐっ」

 

 暫くの租借の後、ごくりと飲み込みしっかりと味を確かめていたまじめな表情から満面の笑みに変わるのを見て安心する。

 

「すっごくおいしいです!」

「そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや今日クロのやつはどうした?」

「しばらくあっちの世界に戻るって言ってましたよ」

「え、戻れるの?」

「らしいです」

「えぇ・・・・・・」

 




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 では。


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二十八話 お着換え会

 番外を除けば移行してから初めての投稿。
 お騒がせして申し訳ありませんでした。
 ではどうぞ。


 

「いてっ」

 

 起きると首元に鈍い痛みが走った。

 肉食動物にでも噛まれたかのような感じの痛み方だったが触れた肩にはなんの傷も怪我も無かった。

 

「なんだろ、まぁいっか」

 

 昨晩は一人で寝たのでベッドには誰もいない。

 起き上がって部屋着に着替え、洗面所で顔を洗い歯を磨き台所に立つ。

 今日は休日でクラスの男女連中が来る日なので早めに朝食を済ませておもてなしの準備をしたかった。

 

「白米、味噌汁、煮物、浅漬け・・・・・・」

 

 献立を考えて調理にかかる。

 

 ご飯は昨晩セットした分が炊けているのを確認、味噌汁は片手鍋に湯を張って中の具材を一口大に切り分け投入、味噌を沪して完成。

 煮物は作り置きがあるのでそれを暖めなおして終わる。

 浅漬けも作り置きを取り出して盛り付け。

 うん、和食。

 

 ご飯も出来たのでエプロンを取ってシロを起こに行く。

 

 階段を上がって一番奥の部屋、物置としいて使っていたが今はシロの部屋になっている。

 扉を開けて少々狭い部屋の真ん中に布団を敷き、その中に白髪の少女がゆっくりとした呼吸で眠っていた。

 

「シロー。起きろー」

 

 近くによって肩を持ち、軽く揺すると瞼を震わして少し目を開けた。

 

「ん、ましゅたー・・・・・・」

「シロ、朝ご飯出来たぞ」

 

 上体を起こしてゆらゆらと体を揺らす。まだ寝ぼけているのかその眼は開いていない。

 すぐにこてん、と持たれかかってきて支えにしようとしてくるのを受け止める。

 

「はぁっ・・・・・・!」

 

 密着状態に気が付いたのかすぐさま体を離して立ち上がる。

 

「おはようござます、マスター!」

「ん、おはよ。ご飯できたから食べよ」

「はいっ!」

 

 やっと目が覚めたシロと一階に降りて朝食に手を付ける。

 

「「いただきます」」

 

 食べ始めて少ししたぐらいか、突然インターホンが鳴った。

 

「こんな早くに誰だ?」

「私が出ましょうか?」

「いや、俺が出るよ」

「わかりましたー」

 

 シロはそのままもむもむと食事に戻り、俺は扉の曇りガラスから誰かのシルエットが見える玄関に向かった。

 

「はーい、どちら様で・・・・・・」

「「突撃! 隣の朝ご飯!!」」

「いろいろはえーよ」

 

 何してるんだコイツら。

 それをやりたいなら夕飯時に来い。

 

「あ、村崎ぃ。オハヨー」

「おはよっ、村崎クン!」

「山田さん、山本さんおはよう」

 

 バカやってる男子の後ろに女子数人が顔を出したので挨拶しておく。

 というよりなんでこんなに早いの。

 

「ちょっと早く来過ぎじゃない?」

「いやー、シロさんのこと考えてたらこのぐらいじゃないと時間足りないかなーって」

「足りないって、まだ朝の八時半過ぎくらいだよ・・・・・・」

 

 女は支度に時間がかかると聞くが、この人達何時起きなんだろうか。

 おもてなしの準備しておいて良かったかもしれない。

 

「今飯食ってるから、リビングか俺の部屋でくつろいでてよ」

「「「「はーい」」」」

 

 クラスメイト合計六人。加藤と内藤、山田さん山本さん山谷さん山下さんの六名だ。

 男子人数が少ないな。と聞いたところ他の奴らは用事があるらしいので来れないから通話アプリにて審査などするらしい。

 それはさておき。

 

「あのー、どうしてそんなに見るんですか?」

「「「あ、お構いなくー」」」

「気にするわ」

 

 適当に部屋分でもしようかと考えてたら全員リビングのソファーなどに腰かけ俺とシロの朝食風景を眺め、ガン見している。

 

「お前ら飯食ってきたの?」

「食ったぞ」

「携帯食料」

「パン食べたよー」

「おにぎりにしたー」

「え、みんな食べてきたの?」

「コンビニで適当に食べたよ」

「うん、山谷さんちょっと待ってて」

 

 どうやら一人を除いて食べてきたようだ。

 俺は立ち上がっておにぎりを作りお椀に入れてお茶漬けの素と鮭フレークをかけてお湯を注いだ鮭おにぎり茶漬けを作って山谷さんに渡した。 

 

「どーぞ」

「え、いいの?」

「空腹のまんまじゃ辛いでしょ」

「あ、ありがと」

 

 山谷さんはまず一口すすり、目の色を変えた。

 

「あ、美味しい!」

 

 そのままあっと言う間にお茶漬けを食べ終えた。

 

「ごちそう様!」

「俺まだだから洗い場に置いといて」

「うん」

 

 さて人も来てるのでとっとと食べ終えよう。

 シロもあらかた食べ終えているので早足に箸を進める。

 

 食べ終えて食器を洗い、お茶とお菓子を用意して振る舞う頃には九時半になっていた。

 

「お待たせ、コレ食べてみてよ」

 

 トレイに紅茶を乗せたものを俺が、クッキーを乗せたものをシロに運んでもらい、今日来た皆に出す。

 

「どうぞっ」

「シロさんどうもー」

「いただきますー」

「わ、これも美味しい」

「至福・・・・・・」

 

 どうやら女子には受けが良かったようなので一安心である。

 

「村崎お前ホント料理スキル高いよな」

「なんだコレ、下手な喫茶店よりウメェ・・・・・・」

「そりゃどーも」

 

 なんだその反応、口からビーム出すか、はだけそうな勢いの内藤を放置して本題に入る。

 

「で、皆さんうちに何か用で?」

「シロさんに会いに来たのが本音だけど、元気そうだから何よりだわー」

「そだねー」

「いやしかし可愛いのぉー」

「うぁうあう」

 

 女子団体にシロがもみくちゃにされている。

 

「で、それだけで来たっていうなら昼からでも良かったんじゃないの? まさかあのネタやるためだけに朝からスタンバってたとかないよな?」

「それはないって」

「その俺らこいつらに起こされてきたもん」

「そうなのか」

 

 では女性陣の方、と思ってそちらを見ると、持ってきたらしいカバンやに持ちをがさごそとあさっていて中から様々な衣装を取り出していた。

 メイド、ゴスロリ、チャイナドレス、水着や執事服など和洋折衷何でもあった。 いやありすぎだろう。

 後半のなんだよ。コスプレじゃないか。

 

「こんなのどうかな~?」

「アタシ小道具持ってきたよ」

「ミキ準備良い~!」

「本格派に仕上げるのも良いかと」

「何してんだお前ら」

 

 女子で固まって衣装の見せあいをしてきゃいきゃい騒いでいる。

 男子はそれを遠い目で眺めているだけで何も言わず、俺も介入の余地すら無かった。

 シロはは何が何だか分からないと言った様子で俺たちを見たり女子をみたりと交互に見ていたが突然女子連中に身柄を掴まれ、そのまま別室に連行されていった。

 

「あ、ちょ、助けてトオルくん~~~!!!」

「合掌」

「「合掌」」

 

 何もできない俺たちはただ手を合わせて無事を祈るほか無かった。

 すまんシロ、ああなった女子に手出しは出来ないんだよ・・・・・・。

 

 

 別室。

 

 シロは現在隣の部屋にて女子四人に脱がされ撫でまわされ着せられて、目を回していた。

 

「シロさんやっぱり可愛いなぁー」

「お肌すべすべ~」

「ぷにぷにしているのに無駄な脂肪が少ない・・・・・・!」

「ほほう、Cは堅いですぜ」

「ひゃっ・・・・・・ダメですぅ・・・・・・!」

 

 四方八方、腕やら脚やらお腹やら、果ては胸も好き放題に触られて、ヘンな気分になってきたのも気に留めずやおにやいのと一つ目の衣装に袖を通して男子たちの前に出た。

 

「じゃじゃーん! まずはメイド服シロさん!!」

「・・・・・・ッ!!」

「良いぞォ!!」

「おぉ」

 

 よくあるイメージ通りのメイド姿、黒いシャツに真っ白なフリルのついたエプロン。袖は短いが手首に袖口が別で付いている。

 スカートの下からガーターベルトが見え隠れしていて、その舌はすぐに二―ソックスになっている。

 所謂コスプレってやつなのだが素材がいいのか安っぽい感じはなく、すごく似合っていた。

 

「どうですか?」

「あ、あぁ、うん。似合ってる、と思う」

「ありがとうございます!」

 

 花のような笑顔に見惚れてあまり良い言葉が見当たらない。

 

「なんだこれ甘いな」

「紅茶がストレートで良かった」

「あたしコーヒー欲しい」

「シロさんちょっとご主人様って言ってみて」

 

 山田さんがアブナイ注文をしたので止めようかとしたらそれにシロが答えてしまった。

 

「ご、ご主人様?」

「あーいいね。うん最高。もうちょっと上目遣いで、うんうん。」

 

 顎を下げ、上目遣いになるようにして、ちょっと肩を落として手を体の前と胸の上に添えてもう一度。

 

「ご主人様・・・・・・」

 

 照れが混じりながら頬を少し赤らめ、気持ち八の字に眉を傾けてのそのセリフの破壊力とは凄まじいものだった。

 

「オールイェイ」

「パーフェクト」

「エクストリーム」

「議論の余地がない」

「もうこれ優勝でいいんじゃないかな?」

「初手圧勝過ぎ」

「惚れそう、惚れたわ」

「う、うぅっ・・・・・・可愛すぎ・・・・・・!」

「大丈夫か、って言いたいけど俺もこれは慣れてないわ・・・・・・」

 

 俺も含めて七人全滅。

 再起するまでに時間がかかり、皆を扇いだり安静にさせたりと本当のメイドみたいなことをシロがしていた。

 

 

 

「さ、さて気を取り直して二着目いこー!」

「「「おぉー!!」」」

 

 盛り上がる女子。

 沈黙して固唾をのむ男子。

 

 あれ以上の刺激を与えていいものか。

 メイド服着させてご主人様と言わせてあの惨事さったというのにさっきちらと見えた服を着せたら多分生きている自信がない。

 それは他の二人も同じなようで、俺は無言で立ち上がって救急箱と出血用のテッシュを持ってきた。

 

 

 二着目、ゴスロリ。

 

 先ほどのメイド服とは似ているようで違うもの。

 っさきほどはメイド、従者としての服だったが今回はゴスロリ仕様なのでお嬢様やお姫様といったメルヘンチックな印象があるがどこかダークな雰囲気があり、まさに孤高、高根の花、ミステリアスなオーラが醸し出されていた。

 シロの白髪と相まって黒いドレスがより際立って見えた。

 

「そうそうもっと憂いのある目で、あぁーーいいっすわー」

「そんなに良いものなんですか?」

「無論」

「愚問」

「答え無用」

「感無量」

「元気だな・・・・・・」

 

 

 三着目、チャイナドレス。

 

「シロさんって可愛いのに運動も出来るとか何それ最強じゃん、ムテキじゃん、ジーニアスじゃん」

「よ、よくわかりません~~!」

 

 スリットの開いたチャイナドレスに身を包んだシロ。

 横はかなり上の、あばら横腹あたりまで切り込みが入っており、紐で順々に広がっていくように締められていているが腰のあたりで蝶結びになっているがあれは服のものか下着の物か・・・・・・。

 背中も同様に大きく開いていてそこも紐が通されている。

 色合いは白に青の縁取りがされていて波の波紋が描かれていた。

 

「片足立ちで上げた脚は曲げてそのまま、うんうん、おぉー体のラインが健康的で良、いやホントに良い」

「んん~~~」

「見え、ない」

「だがそれでいい」

「いやそれがいい」

「チラリズムを楽しもうじゃないか」

「ある意味凄くね」

「何がさ」

 

 

 四着目、水着。

 

「ちょっと待ってシロさん、あたし鼻血出てきた」

「うぇえ!? だ、大丈夫ですか!?」

「うん全然オッケー」

 

 大丈夫なのだろうか・・・・・・。

 淡い水色のビキニに半透明の白いパレオを巻き、前開きのパーカーから覗く肌色はかなり目の保養、いや毒か?

 実際何人か鼻血を出してティッシュのお世話になっている。

 

「マジか・・・・・・」

「俺死んでもいいわ」 

「プール、いや海のほうが良いの・・・・・・?」

「これを似合うというのか服が合っているというのか、素材の違いって凄い・・・・・・」

「鼻から愛が溢れてきた」

「栓して安静にしてて」

 

 

 五着目。

 

 六着目。

 

 七着目。

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

 

 

 興奮なのかまた別の何かなのか、数名鼻から愛が溢れて鑑賞会は一時中断され合間で昼食をはさみながら昼から鑑賞会が再開され、また女子が部屋から出て行った。

 暫くして扉が開かれ、先ほどは和気あいあいとしていた女子も何故か顔を伏せている。

 みんな目線を合わせようとはせず、笑顔も消え去り悟りを開きかけているようにも見えた。

 

「シロさん入っていいよ」

「は、はいっ」

 

 どうしたのだろうと思いながらも次の衣装に着替えたシロを見ると、だいたい察しがついてしまった。

 

 セーラー服。

 黒に近い濃紺色の、ミニスカートのセーラー服とは。

 自分たちの学校の女子生徒用の制服であるが、それをシロに着せたようだ。

 

「トオル君、どうですか?」

 

 着慣れないからなのか、はたまた免疫がないからか、素の状態で恥じらいながら遠慮がちに聞いていた。

 

「うん、すごく、似合ってる。かわいい」

「うぅ~、ちょっと恥ずかしいです・・・・・・」

 

 会話が続かない。

 いい言葉が出てこない。 

 本当に可憐で清楚といった印象を受け、なびくスカートに目が食いつき、ふわっとした彼女が制服と言うメリハリのある服を着ることであどけなさと大人びた感じが混ざり合い、不思議な何かを感じた。

 

「満点」

「満点」

「満点」

「満点」

「満点」

 

 こいつらはもう手遅れだと悟ったと同時に、シロと言う存在をより強く感じ取った。

 

 

 

「あ、シロさん。ちょっといいかな」

「はい、なんでしょうか山谷さん」

「出来れば今日の夜に・・・・・・ゴニョゴニョ」

「えぇ? や、やってみます・・・・・・!」

 

 

 その夜。

 

 風呂から上がってのんびり自室でくつろいでいると、ドアをノックする音が響いた。

 

「あの、マスター」

「んー? なんだシロー」

「入ってもいいですか?」

 

 なんだろう、声が若干高いような気がする。

 緊張でもしているのだろうか。

 何かの用事のようだし拒む理由もないので中に入れる。

 

「いいぞー」

「し、失礼します・・・・・・」

「どうしたんだよ、こんな、夜更け、に・・・・・・」

「えへへ、似合ってますか・・・・・・?」

 

 照れながら軽く握った手をまっげて猫のように顔の近くに持っていきにゃー、と恥ずかしそうに鳴くシロ。

 それだけならまだ可愛いで許せるのだが、問題はその格好にあった。

 

 猫耳のカチューシャに白スク、ニーソとなっている。

 

 マニアックすぎじゃないか!?

 

「なんだその恰好!?」

「実は今日皆さんから衣装の類を貰ってしまって、山谷さんから今日この恰好でマスターの部屋にいってみて、と言われたので恥ずかしいとは思いながらも、試してみましたっ!」

「いいから着替えてこい!!」

 

 腰に腕を添えてガッツポーズをするがそれで揺れ動く大福に目が釘付けになりそうになりながら、しっかり着替えさせて寝るように促した。

 最後の最後まで休ませてくれない一日だった。




 もっと書きたかったけどこれ以上はまた長くなりそうだったので区切りました。

 感想ご評価お願いします。
 誤字脱字があればご報告願います。
 
 では。


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二十九話 柔らかいものを心行くまで

 今回は筆休め回です。





 作者にとってのなぁー。

 


 一難去っての休日。

 

 カロリー消費が激しいのと理性の削れ方が尋常ではないのでリラックスがてらソファーに深く腰を下ろし、惰性の極みのような持ち方で無線コントローラーを握って平行四辺形の断面が特徴的な据え置きゲーム機でゲームをしていた。

 

「マスター、起きてますか?」

「あぁーうん」

 

 ソファーの上から顔を覗かせるシロを目線だけ向けて一言返事を返してまた画面に向き直る。

 シロはソファーの前に回って隣に座りいつも通りの攻略(どんき)本を読み始めた。

 俺はガチャガチャとボタンやレバーを操作しながら画面の中の自機をを動かして敵キャラを倒していた。

 

 RPGなのでエンカウントとイベントを数重ねればクリアするのでゲーム性は易しいのではないだろうか。

 アイテム取り逃ししてセーブすると詰んだりするのが稀にあるけど。

 

「・・・・・・ふぁ」

 

 思わず欠伸(あくび)が出てしまった。

 ゲームは面白いけどもレベル上げとなるとやはり作業的になってしまうのがつらいよなぁ。

 モンスターを倒して、経験値を稼いで、キャラを育成、ストーリーを進める。

 うん、清々しいほど王道で素晴らしい。

 皮肉じゃないよ。

 

 ふとシロを見ると本でなくゲーム画面をまじまじと見ていた。

 会話シーンや戦闘シーンで「ほうほう」とか「へぇー」とか小さく声が漏れている。

 

「・・・・・・・・・」

 

 細かく動くその表情や肩をじっと見つめていると疲れていたのか柔らかそうという謎の感想が(よぎ)った。

 スタートボタンを押してメニュー画面を開き、チラ見どころかガン見しているとこちらの視線に気が付いたシロが向き変え、微笑みを浮かべながら首を傾げる。

 

「どうしました?」

「あ、うん。柔らかそうだなって」

「柔らかそう?」

 

 はて、と更に疑問符を浮かべるシロの顔にコントローラーをテーブルに置いて手を伸ばし、そのマシュマロのような頬を持ち上げるように包む。

 

「ひゃみゅ」

「ほおぉ」

 

 もにもにと手の中で転がすと、スベスベで柔らかい頬が申し訳程度の反発を残しつつも形を変えて、されるがままに弄ばれる。

 

「おぉー」

「んぁうなぁー」

 

 変な声を出すシロを気にも留めず軽くつまんで上下左右に引っ張ったりしてみる。

 

「あいひゃひゃひゃひゃ、あふは(マスタ)いはいえふ(いたいです)いはいえふ(いたいです)

「あっ、あぁ、ごめん」

 

 ふと我に返ってぱっと手を離すと、少し赤くなった頬をさするシロが軽く涙目になっていた。

 それすらいつのまにか無心で眺めていて、また手を伸ばしてしまった。

 

 もにぃ。

 

「やおい・・・・・・」

「ぬぅー」

 

 もにもにもにもに。

 

 

「・・・・・・」

「ま、まひゅたぁぁぁぁ?」

 

 むにむにむにむにむにむにむにむにむにむにむにむに。

 

「あ、あお、まひゅはぁぁぁあああああ」

「・・・・・・・・・」

 

 むいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむいむい。

 

 

「あぅあぅあうあぅ」

「ふぅー・・・・・・」

 

 心行くまで堪能し、満足したと同時に手を離す。

 燃焼後の静寂のような気持に満たされて悦に浸る。

 シロはソファーに項垂れてぐったりしていた。

 

「満足・・・・・・」

「私は全然納得してませんーー!!」

 

 その後仕返しとばかりに抱き着かれて今度はシロが満足するまでぎゅうぎゅうしていた。

 




 脳死で書いてました。
 キリンちゃんのほっぺをむにむにしたい。
 なんかアブナイ路線に足を突っ込んでいるのではないかと思いましたが突っ切ろうかと思います。

 ご感想、評価、お願いします。
 
 では。


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三十話 ケモミミを生やしてみたら燃えてきた

 闇夜に光る赤色の眼光は、ただ一つの獲物を見据えていた。
 睨む先には大和も思える巨体。
 柄を握りしめ、より深い深呼吸を数度したあと、息を完全に殺して暗殺とも思える狩りが、再び始まる。



 暗い夜の森の中、私は地面に這いつくばってヘビィボウガンのスコープの覗き込んでいた。レンズの先に見えているのは今回依頼されたモンスターが腹を満たすために来ている場所だ。そこに大タル爆弾を設置してひたすらじっとモンスターが訪れるのを待っている。

 

 好機を伺い、油断して隙を見せたときが息を刈り取るその時だ。その時が来るのを極限まで集中した頭のなかで復唱しながら殺意を殺し、引き金を持ち直す。

 

 そうこうしていたら草むらを掻き分けながら一匹の大型モンスターが姿を見せた。

 

「目標捕捉」

 

 まだだ、まだ好機じゃない。

 もっと美味しい瞬間を見せるとき、その時こそ奇襲を仕掛ける絶好の機会だ。

 

 モンスターは左右を確認し、外敵が居ないことを確信してその前に伸びている口を腐敗した木に寄せて、バリバリと貪り始めた。

 

 好機。

 

「攻撃開始」

 

 引き金を引き、近くの爆弾を爆破させる。爆弾は爆ぜ、モンスターは爆破に巻き込まれて仰け反る。装填している弾を通常弾から残裂弾に切り替えて、立ち上がってぐはぁ、と息を吐いて深く息を吸いながらリロードする。ブレイブスタイルで使用できるブレイブリロード、火力を出すためにこれを選んだが使い勝手は人による。私は使いやすかった。接近戦に近い距離になることが多いのでこのスタイルの回避力には大分お世話になっている。

 

「装填完了。構え・・・・・・発射」

 

 続け様に残裂弾を四発撃ちこみ、すぐにリロード。

 

「発射」

 

 着弾した弾丸がすべて弾けたところで何故か体に力がみなぎり心なしか足取りが軽くなる。横に避けて距離を保ちながら走り出し、モンスターの斜め後ろあたりまできたらスライディングしながらしゃがみ撃ちの態勢に入りつつ、リロードをしながら銃口をモンスターの方向に向ける。

 

「準備完了、射撃開始」

 

 引き金を連続して引く。振り向き様に鋭い弾丸乎嵐がモンスターの体を撃ち抜いていく。モンスターは後退したが、避けようとしたところを狙い撃ち、転倒した。その機を逃さず移動し、しゃがんで連射する。今度は弱点である背中を狙って。

 

『グゥゥ・・・・・・!』

 

 モンスターの呻く声が暗い森に鳴り響く。起き上がったモンスターは明確な敵意と殺意を私に向け、私を屠らんとする勢いで突進してきた。それをイナシで対処して距離を離す。

 銃口を再度構えて、あくまで冷静に目の前のモンスターと対峙する。

 

『オォォォォォッ!!!』

 

 狩猟の時間だ。

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 さて、飯も炊けたおかずも出来た。

 シロも掃除があらかた終わったようなので二人で席に着き朝食を摂る。

 

「ごちそう様、じゃあ行ってくるから留守番宜しく」

「わかりました、行ってらっしゃいませっ!」

 

 今日は朝礼があるのでいつもより早い登校だ。急がねば。

 

 

 ◇

 

 

 さて、マスターも学校へ行かれたのでまだ終わっていない掃除をしましょう。

 一階の掃除は終わったので二階に行きます。まずは自分のお部屋を、身の回りが終ってから他のところに手を付ける。信条です。自分のお部屋の掃除が終わったので順にご両親のお部屋、お姉さんのお部屋、最後にマスターのお部屋とやっていきます。

 

「さてマスターのお部屋~。ん? なんでしょうか」

 

 マスターのお部屋に入って掃除をしていると、何やらベッドに膨らみがある。人一人ほどの大きさで、微かに布を擦らせながら一部分が上下している。朝来た時までこんなものは無かったはずです。掛け布団を掴んで剥ぐと中から褐色の女の子、もといクロが出てきました。

 

「何をやってるんですかアナタはぁーーーッ!!!」

「ハッ・・・・・・」

 

 怒鳴り声で目を覚まし、横になった状態から半身を起こして寝ぼけ眼で辺りを見回してシロを捕らえると、なんだ、といった風な態度でまた床に就こうとする。

 それをみたシロは眉間をぴくりと引きらせて、容赦なく布団を捲りあげる。しかしそこに真っ黒な少女の姿はなく虚を突かれて驚くもすぐに布団を手放して部屋を回し見て一瞬見切れた黒い影に向かって走り出し、飛び込んで捕まえる。

 

「捕まえましたよ!」

「やーらーれーたー」

 

 なんで朝からこんな茶番をしなければいけないのか、嘆息しながらクロに説教をしたあと二人で主の部屋の掃除をした。

 

 一段落して。

 

「それで、何しに来たんですか?」

 

 テーブルに向かい合うようにして座り、カップに注いだお茶で口を湿らせてから、シロは目の前に呆けた顔で鎮座する褐色の少女に訊いた。

 クロは以前の白疾風一式ではなくなっていて、頭と腰、脚が通常のナルガXのガンナー装備に変わっていて、網の面積がほぼなくなっており、変わりに肌の露出が際立っていた。頭部はナルガXガンナー頭部なので末広がりな艶のある黒の長髪にカチューシャのようなところに二本の小さな牙が交差するように縫い付けられていて、頭頂部の横から猫の耳のように毛が跳ねている。

 

「腕ならしが済んだから、コッチでの用事を済ませようと来た」

「コッチでの用事って、もしかして」

「ご主人との子作り」

「やっぱり・・・・・・」

 

 この少女は懲りもせずまた来たようだ。

 何故そこまでして主との子に拘るのか、分からない。

 自分だって主に対して好意はあるし、一緒に過ごしたいと思っている。

 しかしこの恋慕にも似た感情の上にまだ達していないので、踏ん切りとかはついていない。

 そうして一人で悶々と考えているとクロはベッドから降りて、そそくさと一階に降りて行ったので慌てて追いかける。

 

「待ってください!」

「汚したら悪いから」

 

 降りたクロはポーチから一本のキノコを取り出してきた。

 

「何ですかそれ?」

「獣茸」

「ケモノダケ」

「うん、そう」

 

 全く聞き覚えのない茸だ。見た感じとしては椎茸に獣の耳が生えているような形をしていて随分と胡散臭い。

 

「はい」

「あ、どうも」

 

 思わず受け取ってしまったが食べられるのだろうか。匂いを嗅いでみると土臭さの中に茸独特の香りと混じって獣臭さを醸し出していることに驚いた。

 

「なんですかこれ」

「獣茸」

「それは分かりましたからっ!」

「そう」

 

 なんだこの不審過ぎる茸は。今まで見たことが無いしギルドが出していた情報にも商人の噂話ですらも聞いたことがない。

 

「これ毒とかありますか?」

「実質的な害は、ないと思う」

「んん・・・・・・」

 

 曖昧な返答に顔を顰める。

 しかし見れば見るほど不気味なキノコだ。

 かさの表面はは頂点から広がるようにガサガサと波打っており、まさに動物の毛皮のようで、そこに耳も生えているので本当に獣に似ていると言える。そしてご丁寧に尻尾は未発達で成長が止まっている茎がそれを担っており、無駄に偽装度が高い。

 

「食べたことはあるんですか?」

「私自身はない。でも適当なモンスターに与えてみたけど、特にこれと言った変化はなかったし、オルタロスがエキス吸ってるのを見たりしたから、栄養はあると思う」

「そうですか・・・・・・」

 

 ふむ、毒に対する危機感とかは野生のほうが高いし、何よりあの蟻虫が巣に持ち帰っている所をみるとやはり毒物の類は心配がないようだ。

 なら頂いてもいいんのではないだろうか、と思うが何分貰う相手がこの人だ。

 一番心配しているのはこの事項だ。

 

「では、一応貰っておきます」

「私も食べてみたいからもう少し滞在する」

「お好きにどーぞ」

「わーい」

 

 しかし、どうやって調理しようかな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 学校。

 

 昼休み、学生は各々のグループで集まったり一人でくつろいだりまたは空いた時間に遊戯や勉学に励む者もいる。そんな時間に透は知人と集まって昼食の弁当を口に運んでいた。

 そこで他愛もない会話で賑わっていた。

 

「獣っ娘っていいよな」

「急にどうした」

 

 口を開いたのは内藤。常習犯ではないだろうか。内藤は弁当を食べながらそんなことを真剣な顔そのもので呟いた。

 

「確かに良いな」

「佐藤」

「それで臭ったりしてたら尚良い」

「安藤」

「八重歯が少し見えてるのも良い」

「伊藤」

「少し垣間見える本能的欲求を見せてくれたら尚更良い」

「加藤、お前もか」

 

 かく言う自分も賛同したい気持ちはあるので否定はしない。

 

「まぁ、わかるけども」

「おぉ、いつもツッコミにまわってあまり個人的な意見を言わない村崎が賛同したぞ!」

「担ぐな」

 

 わっせわっせと紙吹雪を散らしているのを傍から眺めたところでお茶を口に含む。

 今日も元気一杯だなこいつら。

 

 ケモミミかぁ、一種の夢だよな。

 帰ったらシロになんかの動物の耳が生えてるとか、ないか。

 

 

 村崎家。

 

「ど、どうするんですかコレぇーっ!?」

 

 シロの絶叫が響き渡った。

 姿見の前で自分の体を隅から隅までまじまじと見る。

 いつもと変わらないオリジナルのキリン装備。

 だがいつもと変わっている所があった。

 頭、頭頂部。

 耳の少し上のところから髪の色と同じ色をした、馬の耳のようなものがひょこっと生えている。

 しかも直接つながっている感覚があり、触ってみるとあやふやだが自分の耳に触れている感触がする。

 次に腰。

 後ろのあたり、腰装備の下から長い筆のような白い尻尾が垂れ下がっていて、体の揺れに合わせてゆらゆらと揺れている。

 こちらも感覚があって付け根を擦ってみると少々慣れない変な気持ちがして気持ち悪い。

 

「どうするんんですかコレ!?」

「なるほど。これは動物が食べても、効果が無かったのは、頷ける」

「そんな適当な・・・・・・」

 

 振り向いて講義の念を向けるとその先で黒い猫の耳と尻尾を生やしたクロがさながら猫のように四つん這いで伸びをして明楽間と答えた。

 

「マスターが帰ってきたら大変です・・・・・・」

「ご主人に、見てもらいたい気持ちは、ある。」

「恐らく一大事ですよ」

「そうかな?」

 

 何故こうも楽観的にいられるのか不思議に思うけど今はこのキノコによる効果を無くすのが先だ。

 何か食べて体に異変が起きるのはよくあることなのでそれは置いておこう。

 じゃあ時間経過でどうにかなるだろうか? 大体のものは数分も経てば効果が消えていたので今回のこれもそのやり方でなんとかなかもしれない。

 

「とりあえず、治るか分かりませんが時間をおいて様子をみましょう」

「アイサー」

 

 出来れば主が帰るまでに治っていることが望ましいけど、不安だなぁ・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

 帰宅。

 

「ただいまー」

「え、ちょ、あっ。お、おかえりなさいませぇ~っ!」

「?」

 

 なんだろう、シロがいつもより大分慌てているが、何かあったのだろうか。

 玄関から上がってリビングに入ると、慌てた様子のシロが台所の方へうずくまっていた。

 しかし何か様子がおかしい。見たところの恰好はオリジナルキリン装備だが腰の毛束が一本多い。

 

「大丈夫かシ、ロ・・・・・・」

「お、おかえりなさいませ・・・・・・」

 

 恐る恐る振り向く彼女を見て一瞬固まる。

 いつもと変わらないキリン装備のシロ。

 しかし決定的に違う点がある。

 耳の10cm上あたりから生えている円錐状の筒を斜めに切ったような白い毛に包まれたウマ科の耳。

 左右に少しの間をおいてゆらゆらと床に擦らせながら揺れる、腰から伸びる白い筆のような馬の尻尾。

 

 馬型の古龍の装備を着た彼女が馬の擬人化みたいに人の体に馬の耳と尻尾を生やしていた。

 

「・・・・・・」

「あの、マスター。マスター?」

「あ、あぁ、うん。ちょっと驚いてた」

「大丈夫ですか、て、私が言える立場じゃないですね・・・・・・」

 

 あははと笑うシロ。俺は真顔だけど内面滅茶苦茶焦っている。以前にも似たような状況があって、そのときはシロの尻尾を弄り倒して大変なことになったと思う。

 正直理性を半ば失いかけていたので記憶が一部あやふやなところがあるが、恐らくそんなだった気がする。

 

「えっと、耳生えちゃいました・・・・・・」

「ウン」

 

 そんな気恥ずかしそうに笑うシロに台風直撃のような衝撃を受ける俺は無機質にうなずくだけで動くうことも瞬きすらもままならなかった。俯き気味で照れくさそうににへっと笑みを浮かべながら、頬をかいている。しかしその行動の反面耳と尻尾は素直らしく、先ほどよりも動作が機敏になっている気がする。

 

「・・・・・・いいな」

「え?」

「いやなんでもない」

「そうですか」

「ご主人の声がする」

「うおぉっ!?」

「きゃぁ!?」

 

 突然背後からぬるっと現れたクロに驚いて前に飛び退き、そのままシロに抱き着いてしまった。急な出来事で不可抗力と言うほかないが流石に許容し難い距離である。急いで離れて条件反射の速度で頭を下げた。振り向くとネコ科の耳と尻尾を生やしてナルガXガンナーに胴と腕を白疾風にしたクロが音もなく立っていた。

 

「ご、ごめん・・・・・・!」

「い、いえそんな別に、大したことでは!」

「そんなことよりご主人・・・・・・」

「く、クロ!?」

 

 お互い顔を真っ赤にして謝罪をするというなんとも滑稽なことになっていて、それを我関せずという顔で眺めるクロは先ほどの事などなかったように俺にぴたりと密着してきた。するりと伸びる細い腕が絡み、露出した腹部や股の付け根が制服の上から吸い付くようにくっつき、何時かの記憶が蘇ってきてしまい、血圧が上昇する。

 

「ご主人、興奮してる」

「なっ・・・・・・」

「気持ちいいこと、しよ?」

「すごいデジャヴ・・・・・・」

「ますたぁー!」

 

 横からシロが突っ込んできてそのまま二人にサンドイッチ。

 前に似たような状況になった記憶がある。

 ケモミミ生やした二人の美少女にゼロ距離で挟まれて、むぎゅむぎゅと潰れる柔らかいそれらに血流だトップギアで爆走し、ついに限界突破してしまった。

 

「かふっ」

「あっ」

「マスター!?」

 

 お前ら、夢は見つけたぞ。

 

 

 

 気が付くとソファーで寝かされていたようで、外はすっかり暗くなっていた。

 少し寝て冷静になった頭でまわりを見るとシロが横で眠っていた。

 耳はまだ生えていてピコピコ動いてる。

 寝起きでぼけーっとしている頭で何も考えずウマ科の耳を摘まんでくにくにと弄ってみるとシロがむずがゆそうな顔をして身動ぎをしたあとふ、と目を覚まして俺を見る。

 

「ごめん、起こしちゃったか」

「いえ、おはようございます」

 

 ふへ、とした表情で笑うシロはなんだかいつもよりも笑顔に明るさがるように思えた。

 

「ねぇ、シロ。その耳触っていい?」

「耳って、こっちの耳ですか?」

「うん、その上の方の馬の耳」

「いいですけど、結構敏感なので、優しくお願いしますね?」

「あ、はい」

 

 どうぞ、と目を閉じて頭を差し出すシロの馬耳を、力を入れないようにそっと優しく触れて、曲げた人差し指で支え、親指の腹で軽く擦るように触る。

 

「んっ」

「」

 

 さわさわとゆっくり、力まないことを意識して撫でる。

 無意識に反対の腕も伸びてもう片方のケモミミにも触れて、ケモミミだけでなくゆっくり髪を手櫛で梳いてみたり、頬を撫でたり、髪をかき分けて額に手を当てたりしていると。

 

「んうっ」

「おぉ?」

 

 シロが突然ぎゅむ、と抱き着いてきて、ソファーに横座って上体を起こしている俺の腹部に顔を埋めてきた。

 

「・・・・・・ッ!!」

「すぅー、はふぅ・・・・・・」

 

 いきなり抱き着かれ、あわや深呼吸までされて服越しの対流で熱が移動して吸った時の冷たさや息を吐いたときの湿っている熱のこもった息が意識の立っている肌で感じられた。

 

「あの、シロ・・・・・・?」

「んむ、まふはーの匂い、しゅきでふ」

「シロ?」

 

 服で埋もれて言葉が若干聞き取りづらいがあまり腹のあたりでもごもごされるとこそばゆい。

 けどどうしようもないのでそっと抱きしめてみる。

 

「ん~~♪」

「これでいいのかね・・・・・・」

 

 上から見えるのはちょっと跳ね毛の目立つミルク色の長髪に青い角飾り、髪色と同じ色をした馬耳と下の方で大きく揺れる長い尻尾。

 その間は開いた背中が見えており、ゆっくりと上下している。

 それからしばらくそのような密着状態でいると、シロの体に異変が起き始めた。

 

「ん?」

「んむぅ~・・・・・・んえ?」

 

 頭のケモミミが徐々に小さくなっていき、それに連れて腰の尻尾も小さくなっていく。

 変化が始まってからものの数秒で、栓を外した風船のように萎んでいき、遂には跡形もなく消えてなくなった。

 

「消えた・・・・・・」

「なお、った・・・・・・?」

 

 突如として出現したケモミミは前触れもなく消えてしまい、この驚愕の感情は一体どうすればいいのか分からず二人で呆然と時間が流れていった。

 

「ん、ケモミミ消えた?」

「あ、クロ」

 

 ソファーの裏からナチュラルにひょこっと顔を覗かせるクロ。

 まだケモミミは消えておらず猫耳がぴこぴこ動いている。

 

「シロ、どうやって消したの?」

「えっと、マスターに、こう、ぎゅっとしてもらって、ました・・・・・・」

「ほほー」

 

 それを聞いたとたんにクロの目がきらりと光った。と思った途端。

 俺は視界が回転してまたソファーに寝そべっていた。そしてその上にクロが馬乗りになっていて、身動きが取れないように肩を掴まれていた。

 

「く、クロ、離してくれ」

「ヤダ、私もこの耳取りたいから、ご主人、少しだけ我慢、して?」

「・・・・・・はい」

 

 何されるかと考えたが思いのほか過激なことはなく、その態勢のままクロはおずおずと体を丸めて胸に手を置きゆっくり手を回して頭を胸に摺り寄せる。

 

「ご主人、悪いけどぎゅっとして」

「あ、うん」

 

 クロに言われた通り、俺の上に重なるクロを抱き締めてやると、クロは一瞬ピクッと肩を跳ねさせて少し全身が力んだと思ったらじわー、と入れた力を抜いていき服を掴む手にだけ、変に力が入っているのがわかる。

 

「クロ?」

「な、なに?」

「緊張してる?」

「し、しいし、っしてないゆ」

「噛んでるから」

 

 よく見てみると褐色の肌で分かりづらいが頬が若干赤くなっていて、体温も割と高い。

 今まで言動や行動が読みづらく、接し方や距離が分かりづらかったが、今目の前で恥じらいを見せる彼女には今までの不思議な雰囲気はなく、どこか初心な女性、といった印象を受けた。

 

「クロ」

「結構可愛いね」

「~~~っ!?」

「マスター!?」

 

 誰が見ても話からぐらいで顔を真っ赤にしたクロは猫耳と尻尾をぴんと立てて硬直し動かなくなった。

 そのままきゅうと倒れてくるのを寝そべりながら受け止めてやると、意識のないクロの体からケモミミと尻尾がまた縮こまるようにして消滅し、いつもの彼女の姿に戻った。

 クロをそのまま寝かしておいて二人でご飯を食べていると、クロが起きてきて、俺の顔を見るなりいつもの誘惑の表情ではなく余裕なんてない顔で赤面し「も、もう帰るね!」と早足にリビングから出て行ってドアを閉めていった。

 気になったので急いで追ってドアを開けると、そこに彼女の姿は無くいつもの廊下があるのみだった。

 

 

 

「不思議なもんだなぁ」

「多分向こうの世界に帰りましたね」

「わかるの?」

「今朝もこんな感じだったので」

「そっかぁ・・・・・・」

 




 何かありましたっけ。
 暴走しかしませんでしたよ、はは。
 
 ご感想、評価気が向いたらお願いします。
 誤字脱字等ございましたらご報告ください。
 
 では。


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三十一話 くだらない探求心

 半ば完成してたので連続的になるだろうとは思いますが出来るのならやっておこうと言うことで投稿しませう。

 



 学校。

 休憩時間。

 

「母性とは一体何かッ!!」

「オッパイですッ!!」

「やかましい」

 

 一体こいつらを突き動かしているのはなんなのだろうか。女子からは物凄い視線に晒され、男子からはある意味尊敬の眼差しで見られている。

 

 何故乳房について熱く熱弁しているかはさておき、気がつけば額を蒸らす汗を軽く拭って次の授業の準備をしてぼんやり過ごす。

 

 それにしても、おっぱいねぇ。

 

 

 帰宅。

 村崎家。

 

「ただいま」

「おかえりなさいませぇ~」

 

 少し間延びした声でシロがパタパタと玄関まで小走りで出てくる。背の半ばまである長い白髪を後ろで纏め、服装も少し緩いロンTとジーンズを着用している。

 

「ふむ」

「どうかしましたか?」

「いや何でもない」

 

 女性の胸について考えてました、なんて真面目な顔で言っても困惑させるだけだろう。

 

 しかしそれだけでなくうなじも良いのではないだろうか。

 

 活発で健康的なイメージを持たせつつ、ショートヘアーでいいんじゃない? と言わせない確固たる強みがある、と思う。それでいておみ足が覗いていると言うのも乙ではないだろうか。

 

 けど今ここでズボン脱いでなんて言ったら流石に傷害沙汰になりかねない気がするので控える。

 

「あの、私になにかついてますか?」

「え? いや、何もないよ」

 

 いかん、流石に見過ぎたか。

 けれど女性の胸が気になって仕方ない。

 悟られないように、しかし確実に触れ合うにはどうすればいいのか・・・・・・。

 

 そうだ。

 俺に良い考えがある。

 立ち上がって背筋を立てて、腕を少し広げながら少し恥ずかしい気持ちを押し殺してシロにふわっと声をかける。

 

「シロ、おいで」

 

 突然そんなことを言われたシロは一瞬目が点になってその後瞬く間に顔が赤くなりほんの少しにやけた口が開いて閉じなくなっていた。あたふたしてどうしようどうしようと唸っていたシロは少しして、おずおずと近寄ってきてゆっくりと密着し、しゅるっと腕を後ろに回してほんのり強めに抱き返してきた。

 

「お、お邪魔、しま、します」

 

 おずおずと小動物のように近寄ってきたシロを真正面からぐっ、と抱き締める。

 特に言葉は発さず、力み過ぎないように脱力した状態をそこはかとなく心掛け、背中に向かって垂れる長い白髪をゆっくり、ゆっくりと優しく撫でる。

 

 自分の薄い胸板に、シロの柔らかい夢の山が押し当てられ、ふわりと形が崩れて服越しにぴたりとくっついてくる。ぴくっと体が無意識に跳ねて、シロの体に回している腕が少し緩んでしまったが、すぐに落ち着いてきたので再度抱き締めなおす。

 

「あ、あの、マスター?」

「ん?」

 

 突然の俺の行動に動揺を隠せないシロがあたふたしながら聞いてきた。

 

「今日は、急にどうされたの、ですか?」

「んー。何となくだよ」

「そ、そうですか・・・・・・」

 

 少し赤らめた顔を俺の肩にぱす、と伏せて背に回した腕に力が入っていくシロにおっかなびっくりな気持ちでいる反面、可愛らしく感じてしまい、愛くるしい感情が勝る。

 

 それからお互い無言で暫く抱き合ったまま、満足するまでそうしていた。

 

 その後、自分がしでかしたことを思い出して寝る前にベッドの上で悶絶していた。

 

 

 翌日学校。

 

 こっそり藤ズに胸の感触の感想を述べたところ、ひっちゃかめっちゃかにされた。

 




 ハイ、願望です。
 詳しく書こうとか一瞬でも考えましたがそんなのやりだしたら色々と引っ掛かりそうな気もしたし、メインはそこじゃないと思ったのでこんなかたちになりました。

 感想評価お願いします。
 誤字脱字等ございましたらご報告願います。

 では。


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三十二話 嫉妬心

 ある程度書いてるしもう少しで投稿かな、と思っていたらこんなに期間が開くのですもの。
 ごめんなさい。
 遅くなりましたがどうぞ。


 現在、俺はシロと一緒に古本屋に来ている。

 何かと本が多く、小説や漫画、号数の古い雑誌やゲームの攻略本やそのゲームソフトなども置いてある全国チェーンの古本屋。流石と言うか、結構な品数があって感心する。

 

「トオル君、ここですか?」

「あ、あぁ、ここだよ」

「シロ、好きに本読んでいいよ。あと静かにね」

「ん、分かりました」

 

 自分も漫画やゲーム関連のコーナーを眺めながら先日教室であったことを思い出す。

 

 

「ね、ねぇ」

「・・・・・・」

「ねぇ、てば」

「・・・・・・ふぁ」

「む、村崎、くん・・・・・・!」

「・・・・・・んー?」

 

 ふやけているような微睡んだ意識に誰かが声をかけてきた。

 女子と学校で話す機会なんて授業でもほとんどないというのに話しかけてくるものだから気が付かなかった。

 数回の呼びかけのうち最後の名前を呼ばれたことによってやっと自分が呼ばれていたのだと気づく。

 

「ナンデショウカ」

「な、なんで、片言、なのかな」

「女子と話すことがないから」

 

 机に突っ伏していた上体を起こしてぼやけていた頭を起こす。

 見ればクラスでも大人しいほうのグループに属している女の子が立っていた。

 目は前髪で隠れていて少しはねっ毛が目立つ。セミロングというのか、決して短くはないが好きで伸ばしているわけでもないのだろう。肩の下あたりまで伸びた髪はよく手入れされている訳でもなく、伸ばしているだけといった印象を受ける。

 服装は学校指定の制服にカーディガンを羽織り袖から指がちょこんと見えている。

 

「えっと、あのね」

「どうしたの?」

 

 もじもじとして言葉が見つからない様子の彼女は遂に言葉を切り出した。

 

「あのね、村崎君て、ゲーム、好きだよ、ね?」

「うん」

「それでね、このゲーム、私好きでね?」

「どれどれ」

 

 向けられた小型電子端末の画面を見ると小型ゲーム機対応のゲームソフトの画像が表示されていた。

 ピンク色の一頭身で、ゴーグルを被り、手袋とスニーカーを履いていて頭には斜めに生えたとんがりが特徴的な活発的なキャラクターがセンターでキックポーズをしているのがパッケージイラストのゲーム。

 

「これね」

「う、うん」

 

 確かに持っている。

 発売されて間もないこの作品は今のところゲーム界隈で結構な人気を博している。

 自分ももうすぐ全クリにいきそうでこの週末にやり込み要素全て終わらそうとしていた。

 

「それでね、このゲームって二人でプレイできるからね、あのね」

「うん」

 

「その、村崎君と一緒に、プレイしたいなって・・・・・・」

 

 少し間をおいて、彼女は言葉を並べた。

 少し考えてそう言えば最近誰かとローカル通信でゲームしてないなと思う。

 

「わかった、良いよ」

「えっ、いいの!?」

 

 間髪入れずに了承すると彼女は少し驚いて「ほ、本当に・・・・・・?」と言ってずずいと顔を近づけて確認を取ってきたので思わず仰け反ってうんと答える。

 

「やった・・・・・・じゃ、じゃあ今度の土曜日、村崎君の家、行っても、いいかな・・・・・・?」

「うん」

「あ、い、家分かんない・・・・・・」

 

 あー、そういえば家に来たこと無かったな。

 

「じゃあお昼に古本屋集合で」

「わ、分かり、ました」

 

 

 こんな流れでクラスの女子、島田さんが家に来ることになった。

 ゲームに興味がある様子だったけどどれくらいあるのかな、それが分からないと何も言えないけどそれなりにあったら結構話しやすそうだから嬉しい。

 

 階層は戻って古本屋。

 ひよこのようについてきたシロは小説コーナーに入っていき、自分は適当に様々なジャンルの本や漫画、中古ゲームやその攻略本等を見て回っていた。

 

 そうしていたら。

 

「あ」

「あ・・・・・・」

 

 私服姿の島田さんがライトノベルのコーナーに居るのを見つけた。

 パーカーにスキニーとシンプルなもので、背中にやけに大きなリュックを背負っていた。

 

「お、おお、おはよう村崎、くん」

「おはよう島田さん」

 

 顔を真っ赤にしながら少し遅めの挨拶を口から出す彼女は文庫本を本棚に戻そうとしていたが中々入らずわたわたとしている。

 

「大丈夫?」

「う、うん、大丈夫、大丈夫だから」

 

 もういいよ、と本を戻した島田さんは恥ずかしさか縮こまるようにしている。

 ふと立って真正面から向き合うと、彼女の身長が自分より高いことに気が付いた。俺の身長が160センチメートル、彼女の目線が俺の頭頂部辺りにあるくらい。

 

「島田さん、おっきいね」

「ふぇ!? えぇっと、村崎君、いい、いきなり、そんな、大胆ななに・・・・・・!?」

 

 何故か急に慌てだして胸元を隠す島田さんの反応を見て、自分の言葉の綾に気が付き、自分も恥ずかしくなる。

 

「いや、その、身長がって意味合いで、別にヤマシイ気持ちはないから・・・・・・」

「あ、そうなん、だ」

「「・・・・・・・・・」」

 

 気まずい。どうしてそんなセクハラ交じりのような言葉を吐いてしまったんだよ。そりゃ自分の背丈が平均より小さいからうらめしそうに見てて口に出しちゃって、たまたま主語が抜けただけでこんな感じになるなんて思ってなかったしそれより改めて見ると島田さんホントおっきいな、姉さんとまではいかないけど女性の平均身長は超えてるんじゃないだろうか。それに胸も結構・・・・・・待て待て俺はどこを見てるんだ馬鹿。

 

「あ、トオル君」

「うおあ!?」

「きゃあ!?」

 

 後ろからシロに名前を呼ばれ、ふと我に返って驚く。

 自分はただ声を掛けただけなのに、急に驚かれてきょとんとよくわからないという顔をするシロはとりあえず心配することにした。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「あ、うん、全然大丈夫」

「私も、大丈夫、です・・・・・・」

 

 ただ只管焦る二人とよく分かってない一人、傍から見れば騒ぐおかしな人達というわけで、周囲からの刺すような視線に耐え切れず三人で古本屋を後にした。

 

 

 

「あぁ、疲れた・・・・・・」

「う、うん・・・・・・」

「お二人とも本当にどうしたんですか?」

 

 古本屋を出て近くの公園に来た。

 日頃の運動不足が祟ってか、そんなに走ってもないというのに息切れしている。それは島田さんも同じのようで髪を乱して肩で息をする様は何とも言えなかった。唯一平然としているシロは流石と言うべきか、何事もないようにしていて不思議でならなかった。

 

 公園のベンチに二人が腰掛け、シロが心配そうに覗き込んでいるという絵面になんとも不甲斐なさを感じる。

 近くにあった自販機で飲み物を買いに行き、二人に配る。自分は缶コーヒー、シロには果実ジュース、島田さんにはカフェオレを渡して一息つく。

 

「はぁ・・・・・・」

「あ、ありがとう・・・・・・」

「ありがとうございます!」

「うん」

 

 口を開けたスチール缶を傾け、速いペースで中の液体を飲み干す。シロも一気飲みに近いぐらいの勢いで飲み干し、公園の遊具で遊んでいた。ジャングルジムを駆け上がっててっぺんから飛び降り、滑り台に登ったり、次はブランコに手を出していた。

 

「し、シロさんだっけ、元気、だね」

「あぁ、うん、今日はいつもより元気な気がする」

「わーい!」

 

 あぁブランコが360度回転し出した。いや危ないから。

 

「シロ、そろそろ帰るぞー」

「はーい!」

 

 お昼は家にて。

 買うのも面倒なので自宅で済ました。島田さんにも皿を出したら「いやいやいやいや、もう、申し訳ないから・・・・・・!」と全力拒否していたが、お腹が鳴って恥ずかしそうに食事に手を出していた。

 ちなみに適当にパスタ茹でました。

 

「さて、腹も膨れたしゲームに手を出すか」

「や、やっとだね」

 

 リビングのテレビに電源を入れてゲームハードを用意する。『マイティアクション』と書かれたゲームタイトル通りこのゲームは横スクロールのアクションゲーム。お菓子を食べてパワーアップする一頭身のキャラがハンマーを片手に出てくる敵をなぎ倒し、ステージのゴールであるリングドーナツをくぐり向ければクリアと言うゲームだ。

 

「さてと、二人プレイモードにして・・・・・・」

「ゲームコントローラー、持って、きた」

 

 大きなカバンからシンプルなコントローラーを取り出し、ハードと通信させて2pコントローラーにしている。

 ゲームカセットを刺し、起動させると大きく表示されたゲームタイトルの下に出るスタートを選択し、ゲームセレクト画面で協力プレイを選ぶ。

 ゲームが始まってステージが表示され、自機のキャラを動かしているとこれまでの一人プレイと違っていたところを島田さんは見つけたようで、声を漏らした。

 

「あっ、キャラの色が違う」

「ホントだ。オレンジと、青緑?」

 

 片方はオレンジ色のキャラで、もう片方は黄緑のような、明るい青緑のような、曖昧な色をしていた。

 何故こんな色合いをしているのだろうか。

 

「ななんでも、色反転、したら、赤青になる、らしい、よ?」

「へぇー、何故にそうするのか知らないけども。それはちょっと面白いね」

「う、うん」

 

 そんなことを話しながら島田さんとゲームを進めていく。アイテムを拾い、敵を倒し、ゴールを目指す。

 

「アイテム取れるよ」

「あ、ホントだ」

 

「こ、ここに隠し通路、が・・・・・・」

「あぁ、そこだったのか」

 

「あ、あのアイテム、取れ、ない・・・・・・」

「ちょっと失礼」

「わ、私を投げた!?」

 

 なんだかんだ話していたら島田さんとすっかり意気投合し、もう既にやり込み要素も終わりラスボスを超えた裏ボス戦まできていた。ナメクジの伯爵のような怪物、通常のラスボスだったそいつがパワーアップし、キャラクターモデルのバージョンアップだけでなく攻撃モーションにも追加があり、なかなか手強くなっていた。

 初手回避に専念してモーションや一連の動作を確認し、ダメージを喰らわないようにしていたら、ボスが突然画面の中央で丸まって溜め行動に出た。

 

「まさか」

「そ、そんな」

 

 次の瞬間ボスが画面いっぱいに膨れ上がり、俺達二人は一撃死でやられてしまった。

 

「はは、流石裏ボス・・・・・・」

「き、鬼畜・・・・・・」

「もう一回」

「う、うん」

 

「・・・・・・・・・」

 

 その後数回のコンテニューを繰り返し、やっと行動パターンの暗記をしてボスを撃破した。

 

「いやーなんとかなった」

「て、手強かった、ね」

 

 完全クリアを果たしたゲームをハードから抜き取りだしていたジュースで口を潤す。さっきまで集中していたので口の中が渇いてしょうがない。

 明色の液体を流し込み、コップの中を空にしていたら島田さんが大きなバッグの中から色々なゲームソフトのパッケージを取り出した。

 

「次は、これ、し、したいな」

「うん、いいよ」

 

 それから日が暮れるまでゲーム三昧で遊びつくした。オンラインとかなら島田さんも饒舌のようで、チャット越しで会話して実際の口話は少なかった。

 

「はー、楽しかった」

「わた、私も、楽しかった、よ」

 

 ずっと座っていて凝り固まった背中を反らしてぱき、こき、と音を鳴らすと幾分か身体が軽くなる。

 途中モンハンを出してきて二人でやっていたのだが、島田さんが思っていたより強くて何個がクリアしたあたりからタイムアタックになっていた。

 

 時計を見れば短針が真下を向いていた。そろそろ帰る時間になったのだろう、島田さんもリュックに持ってきていたゲームなどをしまって帰り支度をしていた。

 

「じゃ、じゃあ、私帰る、ね」

「あぁ、送るよ」

「あ、ありがとう」

 

 立ち上がって玄関まで向かう。

 出先までついてきたシロに「留守番よろしく」と伝えて島田さんと外に出て彼女の帰路に着く。

 お互い口下手で並んで歩くもの話すこともなく、夕暮れに照らされた二人が押し黙っていると言うのも気まずい。

 

「ね、ねぇ。村崎君」

「なに?」

 

 島田さんが話を切り出した。

 

「あの、家に居たお、女の子、し、シロさんだっけ」

「あぁ、うん。シロがどうかした?」

 

 えっとね、と言葉を濁す島田さんは何処となく話辛そうだった。

 ゲームをしていた時は気分が上がっていたからか少し口数が増えていたが、今は落ち着いていていつものテンションに戻っていた。

 

「し、シロさんに、凄く、好かれてるんだ、ね」

「あぁー、うん」

 

 初めて会った日からずっと一緒に居たわけだし、なんならそれよりも前から面識こそ無いが認識はしていたようで、よく知った間柄と言うものだろう。

 

「アイツの素性とかほとんど知らないし分からないことも多いんだけども、それでも慕ってくれてる、とは思う」

「・・・・・・そうなんだ、仲、良いんだね」

 

 何処か寂しそうな顔をした島田さんはすぐに取り持って立ち止まる。

 

「じゃあ、い、家までもう近いし、ここまで、で、いいよ」

「そっか、分かった」

「送ってくれて、ありが、と」

「うん」

「じゃあ、また、学校でね」

「ん、じゃあね」

 

 おずおずと小走りで目の前の信号を渡って小さくなっていく島田さんをしばらく眺め、近くの自販機でコーヒーを買い、飲みながら家に帰った。

 

 

 ◇

 

 

 今日、マスターの家にマスターのクラスメイトの島田さんと言う人が来た。

 背丈は私より大きく黒く長い髪で大きな眼鏡を掛けていて、ちょっと気が弱そうな雰囲気をしていた。胸は私より大きく、以前見たマスターのお姉さんと同じかまだ小さいかぐらいで、化粧っ気は無く香水の匂いもしなかった。大きなリュックサックを背負っていて時折中から様々な物を出していて主と楽しそうにゲームについて話していた。

 主が島田さんと楽しそうに話していた。

 最初はちょっと距離を離していたが、その距離感も時間が経つにつれてもどかしくなり終盤になるとなんだか恨めしく思ってしまっていた。

 

「んん・・・・・・」

 

 ソファーのひじ掛けに両腕を置いてその上に顔を顎を置く。

 彼が表情を人に分かりやすく見せるなんてことはほとんどなく、いつもは眠そうな顔や疲れているような顔しか見せず、楽しそうにしている時は決まってゲームをしていて良いことがあった時だ。

 それ以外は構ってくれている時だろうか。

 いつもが光が薄れた真顔なだけに表情が現れた時の変わりようは顕著だ。

 

「それでも、あんなに楽しそうなのは、ちょっと・・・・・・」

 

 羨ましく思ってしまう自分がなんだか嫌になる。

 自分の方が近くに居るのに。

 自分の方が長く居るのに。

 自分の方が分かってるはずなのに。

 そんな卑しい考えがずっと胸のあたりでぐるぐると渦巻いてしまっていた。

 

 もやもやと暗い思考に陥っていた時に、主が帰ってきたようだ。

 

「ただいまー」

 

 出迎えに行きたいが、先ほどの考えが身体に巻き付いて離れない。

 手足が重くなり、喉がつっかえ、動くことも儘ならない。

 

「シロー? あ、いた」

 

 リビングに入ってきた彼がこちらの存在に気が付いて、今までずっと消していた部屋の電気にスイッチを着けた。急に眩しくなり少し目を細めてから、慣れたころに強張る眉間の力を抜く。

 それでも体が動こうとしなかった。

 

「寝てるの?」

 

 すぐ横まで来た彼が私の体を揺らし、意識の有無の確認を取っていたところで起き上がり、マスターにしがみつく様にして彼の細い体に腕を回した。

 

「お、おい、シロ?」

「・・・・・・マスター」

 

 活力が湧かない、元気なんて枯れてしまったかのような体を震わし、主にしがみつく。

 

「マスター、今日ご自宅に招いたあの人は、マスターのご友人ですか?」

「あぁ島田さんのこと? まぁそうなのかな、うん、友達」

「そう、ですか」

 

 何がしたいのか自分でも分からない。

 しかしこうしていないと、離れてしまいそうで、何処かへ往ってしまいそうで、怖くて仕方なかった。

 しばしそうしていたら、主も私の背中に腕を伸ばして抱き締めた。

 

「ひゅっ!?」

「なんて声を出すんだ」

 

 暗い感情になっていただけに虚をつかれてしまい自分でも恥ずかしく思えるほど変な声が出てしまった。

 それにともなって体が反れ、上を向くと主の顔が間近にあってさらに驚いてしまう。

 

「ひゃ、ち、近いです・・・・・・!」

「そりゃくっ付いてんだから近いだろうよ」

「そ、そうでした」

 

 どきどきと胸を叩く心臓がうるさくて、一人で変な汗をかいていると主もそうなのかあまりこちらを直視しないでいた。

 

「マスター」

「なに?」

 

 押し黙ってしまう不安感が薄れ、元気が次第に戻ってきた。

 

「今日、あの人が、島田さんがマスターと仲良くしてるのを見ていて、ちょっともやもやしてました」

「うーん、ゲームで語れるいい人なんだけどね」

 

 共通の趣味を持つのは良いことだ。それは大いに賛成だけど、それでも譲れない場所があった。

 

「私はマスターが好きです」

「お、おう」

「だからって他の人と会わないでくださいとは言えません」

「うん」

 

 しかし、それでも、だからと言って。

 膨れっ面を下げて半目で睨む。

 

「他の女の人とあまり仲良くしているのを見ているのは気分が良くないです」

 

 ここは、譲れないのだ。

 言葉を言い終わるとともに抱き締める腕に力を入れてより強く抱きしめる。

 そのまま持ち上げてくるりと反転し、彼をソファーに押し倒す。

 

「うぉっふ」

「わふっ」

 

 倒れたことによって体勢がずれて彼の胸辺りに顔があたる。そんなのお構いなしにと顔を埋める。

 

「今日は満足するまで離しませんっ」

「勘弁して・・・・・・」

 

 赤くなっても離しませんから!

 

 

 その後一緒にお風呂に入ろうとしたが「それだけは本当に勘弁して」と悲願されたので混浴は控えたが、就寝時はしっかりと添い寝させてもらい、朝まで離れることはなかった。

 

 

 




 シロちゃんがちょっと嫉妬しちゃうようなお話が書きてぇなぁと思って書いてました。
 なんかこう、置いてけぼり喰らった感じでいじけてるのはよくあったのでイメージこそすれど心的ダメージあったりなかったり。

 それはさておき、やりたい番外と言うか、装備紹介してぇなということでいまだ残ってるキリンXとキリンXRの紹介番外で次を潰そうかなと。
 あとはこの小説ページの整理しようかと。本編と番外で。

 感想、評価お願いします。
 誤字脱字等ありましたらご報告願います。

 では


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三十三話 拗ねた少女は気難しい

 ちょっと前回の続き。
 これが書きたかった。



 シロのご機嫌があまりよろしくない。

 ご飯や朝、顔を合わせるときの一瞬は笑っているが、その度「しまった」というように言葉を詰まらせてツンとそっぽを向いて「なんでもありませんっ」と元に戻る。

 別にそれで死にそうなほど悲観にくれるわけではないけども、あまり話をしない人間からすればちょっと寂しく感じてしまう。

 

「・・・・・・はぁ」

 

 ため息が漏れる。

 

「どうした辛気臭い顔して」

「あぁ加藤」

 

 紙パックのイチゴオレを吸いながら加藤が声を掛けてきた。

 現在は学校の休み時間。

 授業も意識半分でいつの間にか終わってしまい、気が付けば板書を映したノートが出来上がっていたのを見て自分でもちょっと重症じゃないかと思った。

 

「実は、シロの事で悩みがあって」

「なんだ、惚気か?」

「いや違う」

 

 なんで即行で惚気話だと思うのか、実に不服である。

 そんなに話してる覚えはないが、そうなのだろうか。控えねば。

 

「実はさ、最近シロがあまり話してくれなくて」

「何故に」

「あんまり分からない」

「俺も状況が掴めん」

 

 加藤は俺の前の席に座って腕を組んで考えている。

 もっと情報くれというので大まかな日付と出来事を話した。

 

「クラスで大人しい島田さんを家に招いた、と」

「うん」

「はぁ・・・・・・」

「どうした」

 

 加藤がやはり、みたいな顔をして頭を抱えた。

 なんかダメな事でもしてしまったのだろうか。

 こう、女性にとって触れてはいけないこととか。

 

「やっぱり惚気じゃねぇか」

「どこが」

「全部」

「なんだと」

 

 ほれ、と加戸が周りを示すと周囲で盗み聞きなりして俺たちの会話を耳にした生徒の大半が口元を抑えて軽く悶絶していた。

 

「あれはどうしたんだ?」

「大体お前のせいだ」

「俺の?」

「あぁ」

 

 コーヒー買っとけばよかった、と加藤が愚痴がっていると授業開始のチャイムが鳴り、生徒の大半が悶々とした教室の風景に授業に来た先生がぎょっとしていて、よく分からずとも申し訳ない気持ちになりながら授業が終わった。

 

 

 結局なんの相談も出来ず、重たい足取りで家に帰る。

 

「ただいま・・・・・・」

 

 出迎えは無い。

 最近まで毎日のように帰ってくればシロが飛び込んできたので、急にいつもの(ハグ)がなくなると胸回りが寒く感じる。

 リビングに入るとぽつんとソファーに座ったシロが何も言わずテレビを見ていた。

 

「・・・・・・」

「シロ、ただいま」

「・・・・・・おかえりなさい」

 

 一度此方を見た後しかめっ面をしてまた画面に目を向ける。

 全く興味を示されないというのはこんなにも心にくるものなのか。

 いつもあでも引きずるわけにはいかない。

 けれど何かアクションを起こすほどの考えが自分にあるかと聞かれたら言葉に迷ってしまう。

 とりあえず、とシロの隣に腰かけてテレビを見る。

 

「ねぇ、シロ」

「・・・・・・」

「なんでそんなに怒ってるんだよ」

「別に怒ってません」

 

 むすっとした表情のままこっちを見ようともしないシロに、俺はちょっと目頭が熱くなるのを感じながら彼女の肩に頭を乗せた。

 

「なっ、ちょ、マスター!?」

「ねぇシロ」

「な、なんでしょう」

 

 気が滅入っている自分とはまったく反対にシロは焦ってしどろもどろになっている。

 そんな彼女の様子など気に止めれるわけもなく、シロの手をするりととってゆっくり握る。

 

「シロ、俺が何か君の感に触ることをしたなら謝る」

「・・・・・・」

「全部変えるって言うわけじゃないけど、出来るだけ直す、うん」

「そんな、マスターは悪くないですっ!」

「うぉあ」

 

 自分の声が後半湿ってきたぐらいでシロが俺の頭を抱き寄せて、頭をぎゅうと抱き締めてきた。

 陰る視界が急に柔らかいモノが押し当てられることによってさっきまでの暗い気持ちが吹き飛んだ。

 柔らかい。いや待てそんなことを言っていい空気じゃないのは考えなくても分かるだろう。

 あまりに急なことで感情の整理が追い付かない。

 

「先日クラスメイトの島田さんが来ましたよね」

「うん」

 

 俺を胸に抱いたままシロが話し始めた。

 え、マジで?

 このまま?

 

「島田さんとマスターが話しているのを見ていて、少し嫌な気持ちがあったんです」

「そっか・・・・・・」

 

 しかと抱き締めたまま話されることは明るい話ではなかった。

 

「島田さんと対面してからずっと胸の内がモヤモヤとしていて、息苦しかったです」

 

 そういや島田さんが家に来たときシロは殆ど俺たちの会話に入ってこず、ずっと別室にいた。

 

「マスターが島田さんと楽しそうに話している姿を見て、モヤモヤが膨らんで・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 話がそこで止まった。

 抱き締める腕に力が入ってより深く頭が沈む。

 このままでは話半分でまともに理解出来そうにないのでシロの腰を掴んでちょっと離してくれるように促す。

 

「シロ、とりあえず離して」

「あ、はい・・・・・・」

 

 夢見心地、いやそうじゃない。

 さっさと本題に入らないと脳内の本題が脱線してしまいそうになる。

 

「ねぇシロ。島田さんのことは嫌い?」

「いえ、全く」

 

 シロはすぐさま頭を振って俺の質問を否定する。

 

「じゃあ苦手?」

「はい・・・・・・」

 

 今度は俯いて躊躇いがちに肯定した。

 まぁそうだよね。

 嫌いじゃないけど好きになれないってよくあることだよ。

 

「苦手ならそれでいいと思うよ」

「そうでしょうか・・・・・・」

「無理に接する必要なんてないし、ずっと気を使ってたら相手も疲れるし自分もしんどいからね」

「・・・・・・はい」

 

 無理に友好関係を築こうとしても負担が大きいとどこかで綻びが出来てしまう。

 その結果お互い気まずくなって疎遠になったりしてしまうことも少なくない。

 

「人それぞれ距離感を持つのも大事だよ」

「・・・・・・分かりました」

「うん」

 

 しゅんと縮まった彼女の頭を軽く撫でてやると上向き気味にこちらを覗き、えへ、と笑顔が戻ってきた。

 なんとか不機嫌が収まって何よりである。

 

「じゃあここ最近あまり構ってもらえなかったから今日はじっくりと浸らせてもらうね」

「えっ」

 

 おかげでこっちも本調子じゃなかったんだ。

 いつもはシロがくっついて離れない、という構図が主だったために最近接触がなくて腕回りとかうすら寒い。

 

 

 いつもと攻勢が逆転して終始俺がシロにくっつき、シロが赤面して動かなくなると言うことになっていた。

 

「あの、マスター、今日は別々で寝ませんか・・・・・・?」

「だーめ」

「あうう・・・・・・」

 

 シロを抱き締めてベッドに潜る。

 頭一つ下がってシロが俺の腕辺りまで下にずれているので、シロの頭を抱える形になっている。

 あぁ、この暖かさ。落ち着く。

 じっくりとシロを愛でて撫でてと堪能し、その日は熟睡だった。

 

 

 翌日加藤になんとかなったと事の顛末を話したところ「殺す気か」とコーヒーを啜りながら怒られた。

 

 

 




 形勢逆転。
 シロちゃんピンチ。
 それもしたかったというだけ。
 今回は最近に比べると短いですがまぁ元はこのぐらいだったと言うことで。
 
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 では。


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三十四話 運動したいための口実

 何してたんだっけ・・・・・・。
 食って寝てしてたら日が過ぎるのでまた急いで書きます。

 



「「「ありがとうございましたー」」」

 

 昼休みのチャイムが鳴り、各教室から生徒達一斉の挨拶が聞こえてくる。クラスでもそれぞれの生徒が教科書などを片付け机を動かしたり食堂や購買へ走っていく。自分も教本を片付けて飯にしようとした矢先、先ほどの授業を受け持っていた先生が「あっ」と言って俺の名前を呼んだ。

 

「村崎、体育の飯田先生が呼んでたぞ」

「あ、分かりました」

 

 要件を伝えた先生は「それじゃ」と教材を小脇に抱えて職員室へと踵を返す。それだけ伝えられた俺は一瞬クラス名とから視線を感じ、何事もないのだと悟ったクラスメイトはすぐに自分達の昼食にありついて雑談に花を咲かせる。

 

「村崎、中田先生なんて言ってたんだ?」

「飯田先生が呼んでたって」

「あの筋肉教師がか?」

「らしい」

 

 自分もよくつるむグループの輪に入って弁当に手を付ける。先ほどの通り先生に呼び出しされているので手早く食事を済ませて職員室に向かう。

 

 

 

 職員室。

 

 

 

「失礼します。村崎です」

「おぉ来たか」

 

 忙しない書類の擦れる音やキーボードを叩く音が木霊し、化粧の匂いが微かに漂う。教員用のデスクが所狭しとひしめき多数の教員が仕事をしたり昼食を摂ったりとしている中、体育教師のところに向かう。

 

 飯田先生。

 この学校で保険体育を担当しておりその体躯は背広で肩幅も広く、少し焼けた肌は健康的な褐色をしていて引き締まって盛り上がった全身の筋肉をより強調している。常時ジャージを着用していてスポーツ刈り。古典的な運動好きのような見た目で熱血的。スポーツの事となると熱中して手に負えないこともしばしば。

 

 個人的に職員室というのは居心地が悪い。別段不真面目というわけでもないが、教員からは良い印象を持たれているわけではないので奇異の視線が少し痛い。なので早々に話を区切って教室に帰りたい一心だった。

 

「それで、用ってなんですか?」

「あぁ実はな・・・・・・」

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

 

 村崎家。

 

 今朝方主が学校へ行かれて時間が経ち、今は昼過ぎほど。自分は昼食を済ませて家事を熟し、寛ぐ時間が出来た。

 

「暇ですね」

 

 いつも読んでいた分厚い攻略(どんき)本を昨日で全て読み終わってしまい、時間を潰すものが無くなってしまった。

 

 暇なので寝るというのもなんだか気が引ける。せめて起きて何か出来ることはないだろうか。

 

 手持ち無沙汰になり、何となくテレビを点けると画面ではストレッチ運動の番組をしていた。

 

「ふむ」

 

 試しに今画面でやっているポーズを取ってみる。

 

「くぅ、思ったより、辛い・・・・・・!」

 

 画面に映るポーズを真似てみるが中々うまくいかない。無理に似せようとして腰から悲痛の叫びが聞こえてきたので敢え無く断念し、固定させようとしたポーズを中断してぐた、と床に倒れ伏す。

 

「あいたたた・・・・・・」

 

 周期的に熱い痛みを放つ腰を摩って按摩する。

 

「こういうじっとするようなものより動くことの方が私には合ってます・・・・・・」

 

 立ち上がって体をほぐす。全身の関節から子気味良くぱき、こき、と子気味良い音が鳴ってじんわりと血流の流れを感じる。

 

「はっ」

 

 その場で逆立ちをしてみる。少しふらついた後ぴたりと止まって安定する。そのまま数歩歩いてみてからくるりと回り、肘を屈めて飛び上がって半回転。ふわりと足から着地する。

 

「ふぅ、まだいける!」

 

 体がまだ動けることを確信して調子が戻り、暫くやり過ぎない程度に体操に近い何かに勤しんでいた。

 

 

 

 ◇

 

 

 学校も終わって飯田先生の話を思い出しながらどうしようかと悩み歩いていたら家に着いた。自宅なので入らないわけにもいかない。しかし気持ちは重かった。

 

「ただいま」

 

 一声発しながら入る。けれど言葉を返す人は居らず人影も見当たらない。

 

「ん?」 

 

 家に上がってみるがシロが来る様子もない。居ないのか? まさかそんなはずは。

 不安が少しづつ募るのを感じる。背中に冷や汗が垂れ肝が冷える。じっとりとした手汗を握りしめて足音を殺してリビングに入る。

 

「シロ・・・・・・?」  

「ふぇ、マスター? あ、ちょっと待ってくださ、あうぁっ!?」

 

 そこにはキリン装備で妙な倒立をしていたシロがいた。帰ってきたことに気が付かない程熱中していたのか俺を見た途端に慌ててしまい集中が切れたようで微動だにしていなかった体幹が崩れてどてんと倒れてしまった。

 

 そのせいでミニスカの様になっている腰装備から純白の三角形が見え隠れしているのを見てしまい、慌てて顔を反らす。それに気づいたシロも上体を起こしてすぐさま股を閉じる。

 

「お、お見苦しいものを見せました・・・・・・」

「そんなこと全然、いやそうじゃなくて」

 

 バカなことを口走る自分の口を押えて邪念を抑える。

 それよりも大の字で転がる彼女をしゃがんで見下ろし引き上げる。

 

「大丈夫?」

「なんとか」

 

 立ち上がったシロにこの状況の経緯を聞いてみる。

 

「で、何してたの?」

「マスターの部屋にあった本が読み終わって暇になったので、ちょっと運動でもと思い立ちまして」

「なるほど」

 

 なるほど、そういうことだったのか。

 思えば外出もあまりなく、家で過ごす事が殆んどの生活で運動不足を気にするのも頷ける。

 

「シロ、一ついいと思える話があるんだけど」

「なんですか?」

 

 首を傾げる彼女に今日学校で言われた言葉を掛ける。

 

「今度、学校に行かないか?」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 




 短いっ。
 シロちゃん全然動いてないやんとリアルの方で言われたのでそれを果たしたいがために。
 次回シロちゃんはっちゃける。

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 では次に。


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三十五話 朝から居たから注目される

 体育教師と聞いてどんな人物像浮かべるのでしょうか?


 家を出て鍵を掛ける。ガチリ、と重なる金属音を響かせて樹脂と金属で出来た扉が閉まった。

 

「忘れ物は?」

「ありません」

 

 振り向くとそこにはいつもはいない少女の姿。普段着の防具やら私服やらではなく以前女子団体がやって来た時に置いていかれたセーラー服を着用している。

 

「じゃあ行くか」

「はいっ!」

 

 白髪の少女と並んで歩く。

 制服姿でシロと並ぶというアブノーマルな状況に改めて考え直して焦った。横を向けば戸惑いつつも嬉しそうな顔をして浮かべるシロがいる。

 

「……」

 

 一緒に買い物に行ったことはある。シロが訳あって学校に来たこともあった。しかしこうして二人並んで登校することは無かった。お陰でさっきから無言になっている。

 

「トオル君」

「ど、どした?」

 

 振り向くと不安そうな顔を浮かべる彼女が居た。

 

「本当に、私が行ってもいいのですか? 学校へ……」

「あぁ、それか。いいんだよ。むしろ歓迎されてると思う」

 

 やはり若干の不安があるのかそんなことを聞いてきた。

 自分としては別に大丈夫だとは思う。

 昨日の会話をみれば多分大丈夫だろう。

 

 昨日、飯田先生の呼び出されて向かった職員室での会話を思い出す。

 

 

 ◇

 

 

「用ってなんですか」

「そう早まらんでもいいじゃないか」

「まぁ、はい」

 

 からからと笑う先生の太い肩が揺れる。見ているだけで暑苦しい。どこかのテニス選手かよ。

 

「お前彼女居たよな」

「なんですか唐突に」

 

 腕を組んで楽しそうに聞いてくる先生とは真逆に俺は鬱陶しい気持ちをチラチラと出しながら答える。

 

「あの娘、あの白い女の子だよ、お前の彼女じゃないのか?」

 

 何が嬉しいのか楽しそうに話す教師を覚めた目で眺める。

 

「あの運動神経は視ていて光るものがあったんだ」

「はぁ」

 

 先程とはうってかわって考えに耽っていた飯田先生は俺に向き直って背もたれに預けていた状態を起こして肘を曲げた膝に当てた前傾姿勢になって俺を見上げながら言う。

 

「次の体育って体力テストだったろ」

「そうですね」

「そこでお前の彼女の身体能力を測ってみたいんだよ」

「はぁ……はい?」

 

 思わずすっとんきょうな声が漏れた。

 職員室内もざわつきが見える。少し遠いところでは飯田先生の性格を知っているのか、諦めてため息をついている先生の方がいた。

 

「な、いいだろ?」

「いや、先生何を言ってるんですか」

「教職員の特権だ」

「職権乱用も甚だしい!」

 

 

 ◆

 

 

 うん、不安しかない。

 どうしたもんか、今すぐシロを家に帰そうか。

 それも何だかなぁ・・・・・・ええいもうどうにでもなれ。

 悩みを全力投球でどこかへ投げ飛ばして何も問題ないことにする。

 

「よし、着いた」

「おぉ」

 

 二人で校門を潜る。

 すると当然ではあるが登校してきた生徒たちの注目が全方位から刺さって仕方無い。

 早いとこ先生に報告して教室に入ろう。 

 

「トオル君……」

「シロ?」

 

 突然シロが身を縮こませて制服の袖を摘まんできた。

 見られるるとは慣れてないのか、好奇心の目に晒されて不安そうにするシロ。

 

 このまま道の真ん中で立ち止まるのもいただけない。何か元気付けて上げられないか、そんなことを考えて取った行動は手を繋ぐ事だった。

 

「シロ、早く教室に行こう」

「……はい!」

 

 上手くいった。シロがいつもの朗らかな笑顔を取り戻して内心ほっとする。

 気を取り直して職員室へ向かう。出切るだけ目立たないように。

 

 

 程なくして職員室で飯田先生にシロを紹介した。

 先生は朝からひと汗かいていて額に滴が見えた。元気すぎやしませんか。

 

 そんなこともあってやっと教室に入る。

 ここまででかなりの生徒の注目を浴びてしまった。視線に敏感なのか、最初はまだ平静を保っていたシロが次第に俯いてびくびくしながら腕にしがみつくので逐一宥めながら教室に向かっていた。

 

「おぉむらさ、き・・・・・・」 

「えっと、おほよう、加藤」

 

 賑わっていた教室がしんと静まり返る。

 扉附近にいた生徒から始まり、近くに居た生徒がその異変に気が付いて此方を見たため固まる。その連鎖が連なってクラス全体が静かになり、椅子の軋む音すら聞こえなくなった。

 

「お、お前ら?」

「「「」」」

 

 藤ズも動かない。

 女子も男子もこちらを見ているようでどこか遠いところを見ているようだ。

 

「し、しし、シロさんっ!!?」

「きゃあ!?」

 

 一人声を荒げて正気に戻り、シロを見て驚く。

 それを皮切りにクラスメイト達が意識を取り戻していき、シロを見てまた驚く。

 まるでコントだな。

 

「どうしてシロさん学校にいんの?」

「それは訳合って」

「しかもセーラー服! 黒の!」

「この前女子が家に来た時においてったもので」

「可愛いが可愛い着て可愛さがけた違いに可愛くなって可愛い!」

「結局なんなんだ」

 

 十人十色の感想を述べて興奮しているクラスメイトを見て呆気に取られる二人。

 シロは早速女子に持っていかれてやんややんやと騒いでいる。

 俺も男子に囲まれてしまい、いつぞやの質問攻めにあった。

 

「なんでまたシロさんが学校に来たんだよ」

「しかも朝から二人並んでくるとか」

「当てつけか、俺らへの当てつけなのか」

「うるせぇ喋らせろ」

「竜巻旋風脚」

「なんだ今の」

 

 事の顛末を簡潔に説明するとその殆どが渋い顔をして納得して頷いていた。

 

「あの筋肉教師か・・・・・・」

「そう」

「シロさんと体育か」

「恐らく女子に入るだろうけどな」

「だがそうだとしても!」

「力説をするな」

 

 拳を握り締めて苦虫でも噛み締めたようにまさかの涙を流している内藤を一蹴して話に戻る。

 

「それで、体育までとその後はどうするんだ?」

「特別許可証貰ったから教室で」

「ほほう」

 

 なんだかんだで鐘が鳴り、生徒は席に着き、シロも女子生徒が忙しなく持ってきた椅子に着いている。と言うより俺の横に居る。さっきまで向こうに居たのに。

 

「お前らおはよう」

「先生おはようございまーす」

 

 教壇に立つ先生に誰かが返し、点呼を取ろうとした先生が教室を見回したところで目の色を変えて二度見し、シロを凝視する。

 

「き、君は・・・・・・!?」

「えっと、シロです」

「村崎の彼女でーす」

「超可愛い娘でーす」

「それと強いでーす」

 

 ざっくりし過ぎる説明をされて若干焦るシロ。

 そんな説明で数人があ、そういえばみたいな顔をして思い出し、何とも言えない顔をする

 

「村崎、許可は?」

「ちゃんと取ってます」

 

 そう言って先生にシロの入場許可証をみせると渋々了承してくれて、SHR後に詳しいことを説明して頭を抱えて「飯田先生のところ行ってくる・・・・・・」と言っていた。大丈夫だろうか。

 

 本日は午前中の授業を使って体力テストを行うので女子は早々に更衣室へ向かい、男子も教室で着替え始めた。

 

 




 ステンバーイステンベーイ。
 モブの性格なんて適当で良いやと思ってたけどなんか拗らせてきたから凝ろうかなんて考えている。
 いつゴア娘書くんだ。

 次回、体操着!

 では。


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三十六話 輝かしいあの子は運動神経抜群でした

 ちょっと長編になってきた。


 一時限目から四限目まで体育になっているので女子は早速別教室に移動、男子も教室で更衣をする。

 

「なぁ村崎、シロさんの着替えってあんのか?」

「一応ある」

 

 学校指定のものではないがシロの体操服は確かにある。

 だがそれは俺が今この場で公言するのはなにか違うと思った。

 だから黙っておくことにした。

 

 全員が体操服に着替えてグラウンドの集合する。

 男女それぞれで固まって整列し、地面に座る。

 シロは女子のグループの最後尾の方で女子生徒に促されて一緒に居た。こちらに気が付くとにぱ、と笑って手を振ってきたのでこちらもそれに返す。

 

「仲いいなぁ、えぇ?」

「茶化すな」

「熱いねぇ」

「ヒューッ!」

「うるせ」

 

 囃し立てる男子連中(アホ共)を無視してひたすら先生が来るのを耐え待つ。早く来いあの筋肉。

 

「よーし揃ってるな~」

「きりーつ、気を付けー、れーい」

「「「お願いしまーす」」」

「え、えと。お願います」

 

 数分してやっと出てきた筋肉教師こと飯田先生がジャージの袖を巻くって出てきた。手には出席簿や体力テスト用の用紙を抱えている。

 

「それでは前回説明したように、本日は体力テストを行う! それにともなって今回は特別にある人に来てもらった」

 

 そう言って飯田先生はシロの方を見る。シロは俺の方を見てきたので目視でいっていいよ、と促し、シロは前に出てその姿を見せる。

 

「おぉ……」

「マジかよ、おいマジかよ」

「誰だよあんなの着せたの、いや最高だけども」

 

 生徒の前に出たシロは、ブルマを身に着けていた。

 紺色の女性用下着にも近しいその履物は昭和の女子学生の間では一般的だったがこのごろには破廉恥だという声もあって殆ど出回らなくなって久しい。それを今彼女が履いて生徒の前に出ている。

 なんの羞恥プレイだ。

 

「皆さん、お久しぶりです。今回この授業にお呼び頂き、皆さんと一緒に体育? をすることになりました。今日一日宜しくお願いしますっ!」

 

 朗らかな笑顔で締めくくるシロに男子だけでなく女子も見惚れて呆ける。

 だがその間も一瞬のようで、すぐに目に光を取り戻した野郎ども淑女諸君は後ろに連れるにるれて立ち上がっていくスタンディングオペーションというやつで拍手喝采でシロを歓迎してくれた。

 

「そんなことなら仕方ねぇなぁ!!」

「分かんないことあったら言ってね!」

「是非とも頼ってくれて構わねぇぜ!」

「可愛い通りこした何かだよマジで」

 

 なんともテンションの高いクラスメイトである。

 やる気と活気に満ちたスタートで、体力テストは始まったのだった。

 

 

「準備体操をしとけよー」といって先生はグラウンドに白線を引きに行った。その間で体操をしていたがちらほらシロを見る目があり、それに気づかないシロでもないので小さく笑顔を浮かべては大なり小なり大ごとになる生徒が多数。

 終わるころにはまだ始まってもないのに肩で息をするものが大半だった。

 

「ではまずは、50m走をしてもらう・・・・・・て、お前ら大丈夫か」

 

 目の前には既に燃え尽きている生徒が複数名。

 俺は無事だった。いつもあれ以上のを家で四六時中喰らっているのでまだいける。

 

「先生、俺ぁまだいけますよ・・・・・・」

「虫の息じゃないか加藤。大丈夫なのか」

 

 なんでかは知らないが格好つけてでてきた加藤が名乗り出る。いけるのか。

 お調子者で大袈裟なところがあるので今回も大体そんな感じなのだろう。

 すぐに平静を取り戻して脚部の全体を伸ばし、スタート位置に着いた。

 

「フッ、行きますよ!」

 

 加藤は体を屈めて両手を白線の上に置き、両足の先を段階的にずらして後方に向けて地に踏ん張り、見事なクラウチングスタートの態勢を取る。先生の合図で屈めた腰を引き上げて脚を伸ばし、次の合図で走り出した。

 

「おぉ」

「速いですね」

 

 瞬く間に加藤は小さくなり、がゴール地点で突き抜け勢いを殺しながら歩いている。

 先生がゴールと同時にタイムを測り、その記録を声高らかに言い渡した。

 

「六秒八七!」

「よっしゃぁ!」

 

 タイムを着た加藤は大きくガッツポーズをして走りながらこちらに戻ってきた。どれだけ元気がるんだアイツは。恐ろしいほどのアウトドア派な友人に戦慄すら覚え、なお尊敬する。

 加藤はいつの間にやら正気に戻ったクラスメイトと組み合っていた。

 

「要は全力で走ればいい。大体分かった?」

「はい、やってみます!」

 

 次走ります! と言ってスタートラインに立つシロに視線が集まる。

 加藤の真似をして見様見真似のクラウンチングスタートの形を取る。ふわりとした白髪が頬を撫で、背に伝う。真似ただけのはずのその体躯はしなやかでそうあるべきのようで、誰もが息をのみ見惚れる。

 騒いでいたクラスメイトも静まり風の凪ぐ音だけが聞こえてきたところで先生の合図が響き、その次の合図でシロが走り出した。

 

「ッ!!」

 

 前傾姿勢で弾丸の如く走り出したシロは腕も降らず足をあらん限り前に出し、踵が付いたと思えばすでに後方へ流し、目にも留まらない速さて加速し、50mを一瞬で走り抜いた。

 

「はっや・・・・・・」

 

 ゴールラインを抜けてその勢いのまま走り抜けるシロは暫く真っ直ぐ進み、糸が切れたように速度が落ちて膝に手を付いて肩で息をしていた。

 

「だ、大丈夫か?」

「分からん」

 

 少しして顔を上げたシロは遠めでも分かるほどの煌めく笑顔でこちらを見ていた。

 

「トオルくーん! 見てましたー!?」

 

 うん、恐ろしく元気だ。

 こちらに呼びかけながら小さく飛び跳ねている。あれだけ元気なら大丈夫だろう。

 

「あぁ、シロさん。タイムなんだが」

「あ、はい。幾つでしたか?」

 

 驚いながらもどこか納得している教師は冷や汗を一筋垂らしてその記録を言い渡す。

 

「五秒、九二」

 

 あまりの速さにその場に居た生徒全員が絶句する。

 どよめきが出てどうなるか、と危惧したがその心配も必要なく、次には拍手喝采であった。

 

「シロさんすげー!!」

「五秒って世界記録じゃない!?」

「ヤベーイ! ハエーイ!」

 

 その歓声にシロは気圧されつつもにこにこと笑みを浮かべていた。

 だがこちらに気付いたシロがすぐに走り寄ってきて「どうでした?」と聞いてくるものだから、頭を撫でながら褒める。

 

「凄かったよ」

「ん、はいっ」

 

 シロを褒めちぎっていると、突然誰かの声が遠くから聞こえた。

 

「なんだ、楽しそうなコトしてるじゃないか」

 

 その声に気が付き、全員が振り向くと木陰から人影が飛び出してその姿を現す。

 そこにはクロが居た。

 シロは咄嗟に俺を背にしてクロと対面して睨む。クロはそれに特にアクションを起こすことなくひっらひらと寄ってくる。

 

「クロ?」

「やぁご主人、久しいね」

「言うほどか?」

「何か御用でしょうか」

「別に」

 

 眠たげな半目の眼でにこにこしながら駆け寄る褐色肌で黒い忍のような妙に露出の多い装備を纏う彼女の向き合う。サブで作った彼女はガンナー特化にしており、今装備しているものもガンナーのものだ。

 

「それで、これは何をやっているんだい?」

「あぁ、体力テストだよ」

 

 ほう、と興味がるのか表情の乏しい顔に微量の笑みを浮かべてクロは背に担いでいたライトボウガンを、その小ささにどれだけの要領があるかも分からないと言うのになんでも入ってしまうポーチにまるっと仕舞う。

 

「私も、参加させては貰えないかな」

「なに?」

 

 手足を解してスタートラインに手を付くクロ。

 それを見てすかさず記録お測ろうとする教師を一目見て、先生が手を下ろした合図を見たクロは白にも開けないほどの加速で飛び出した。

 

「「「!?」」」

 

 一息でクロはゴールラインを通過して先生がタイマーを止め、言い渡されたその記録に慄く。

 

「五秒七八・・・・・・」

 

 完走したクロは振り向いてほくそ笑んだ。

 いや蔑むような卑しい笑み、様はドヤ顔だった。

 器用だな。

 

「ねぇ、白いの。私と、勝負しない?」

 

 不敵な笑み。

 ナルガ装備のクロは余裕綽々に挑発をする。

 

「いいですよ。やってげますよ」

 

 それに乗っかるシロ。

 その目にはいつかの闘志が見えていた。

 

「マジで」

 

 




 クロちゃん出てきちゃったよ。
 どうなるんだろう。

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 最近自分の書き方が分かんなくなってきたけどこれ大丈夫ですかね?
 キャラ崩壊とか怖いです。

 誤字脱字等あれば報告願います。



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三十七話 正妻戦争 体育編

 このタイトルを与えて下さったメルツェェェルさんに多大な感謝を。


「ねぇ白いの。私と、勝負しない?」

 

 不敵な笑みを浮かべてあからさまな挑発を吹っ掛ける褐色のくの一娘ことクロ。

 

「いいですよ、やってやります」

 

 睨むほどの眼差しでクロを見やるシロ。

 冷ややかな視線の中に熱いものが見えるようだった。

 

 

『さぁやってまいりました! 正妻戦争体育編! 熱き魂を燃やし、己の意中の人を手にするためにその肉体を賭して戦い抜きます!!』

「何やってんだ内藤のやつ」

 

 内藤がマイクを握っていつのまにか用意されている司会席に座っていた。本当に何してんの。

 

「実況は私内藤、解説には今回の優勝者に贈呈される女たらしこと村崎の友人、加藤さんに来てもらっています。加藤さん、よろしくお願いします」

「解説の加藤です。よろしくお願いします」

「あいつも何してんの」

 

 サングラスに無精髭と白い手袋が似合いそうなどこかの司令官のポーズで座る加藤。

 あいつも何してんの。それと正妻戦争て何。

 何処かの街で七人ほどが戦いそう。

 

 そんな話など他所にそれぞれ準備体操などして身体を解すシロとクロ。

 公平さを出すためか好きで着ているのか、はたまたシロに便乗してかは知らないがクロも体操着を着用してきた。赤のブルマだ。

 はて、ブルマ、ザザミか……?

 

「えー、じゃあ体力テスト再開していいか?」

 

 現状の変な空気に若干困惑する飯田先生が内藤と加藤に素朴な疑問を持ちかける。それに二人は「あ、どうぞ」とさっきまでの熱気はどこへやら、素の対応で返していた。

 

「それでは次の項目にいくぞー」

「「「はーい」」」

 

 気を取り直して体力テスト。

 次の項目はボール投げだ。

 グラウンドの隅に掛かれたサークルから扇形に伸びる線。サークルの中からボールを投げて何処まで飛ぶかを測る。

 

 一人二回までの計測で順にハンドボールを投げていく。

 

「つ、次、投げます・・・・・・!」

 

 女子にしては大きい体躯を丸めながら一人の女子生徒、島田さんが円の中に入る。呼吸を整えて全体の半分ほどを片手で掴めるほどの大きさのボールを、なけなしの助走をつけてえいやと投げる。

 

「え、えいっ」

 

 ボールはへろへろと小さな弧を描いてすぐに地面に落ちてしまった。

 記録係が測りに行って直ぐ様その記録が言い渡される。

 

「9m!」

「と、飛ばない・・・・・・」

 

 落胆し、眼鏡の奥に涙を溜めて戻る島田さんを数人の男子が無言で見つめていた。

 

「あざとい」

「だがそこがいい」

「そして大きい」

「何がとは言わんが」

 

 真剣な眼差しで島田さんの投球を見ていた男子がそれぞれひた隠しにもしない感想を述べる。

 記録こそ著しくなかったものの、その大きな房は男心を擽られるものらしく、女子に軽蔑の眼差しを向けられてもものともしない奴らに感服する。

 

「何してんだか」

「次、行くよ」

 

 褐色肌を網の目鎧で申し訳程度に隠すクロが躍り出る。さも自信ありげにボールを手で弄りながらサークルの中に入る。

 上体を捻り、投げるために肩を大きく回して解し、一度ギリ、と力を込め再度脱力し、大股を開いてボールを持った腕を後方に引っ張る。

 そした撓らして縛った棒の紐を切ったような瞬発力で腕を振るい、見事なフォームでハンドボールを飛ばす。

 

「フゥーッ・・・・・・」

 

 溜め込んでいた息を吐きだして張っていた肩の力を抜く。

 大きく飛び上がったボールは一瞬で小さくなり計測係が慌てて追いかける。遠くからポーン、とボールの跳ねる音が小さく響く。着地点に計測係が立ち、メジャーでその長さを発する。

 

「よ、43m!」

 

 その記録を聞いた途端に勝ち誇った顔をして振り返り、シロを見据えるクロだった。

 だがシロの表情は変わらない。

 

「そんな記録、私が追い越してあげます」

「・・・・・・何?」

 

 訝しげに顔を顰めるクロ。

 そんなクロを横目にシロはボールを掴みサークルの中に入る。

 クロと同様、脚を開いて屈め、地面を踏ん張る。腰、胸、肩、を捻り腕を曲げて握ったボールを後方に運び、前に出した方の爪先をジャリッ! と音を立てて内に向けて一斉に捻っていた向きを反転させて初速からオーバー気味に勢いの付いた球体を腕が前方に出た時に指先を伸ばしながら手放す。

 シロの投げたハンドボールの速度はクロの投球よりも速く、そして高い。胡麻粒ほどのサイズまで落ちた球体がより遠い位置に向かって落下する。それを追う計測係。若干不憫さが醸し出されている。

 

「ご、57m!」

 

 腕を回しながらボールが落下するまでを見つめていたシロがクロに向き直り、キリリと睨む。

 

「そう簡単に負けませんよ!」

「フン、上等。いやそれ以上」

 

 挑発とも取れる台詞を吐いて舌なめずりをする褐色の忍。

 剣呑な空気が二人の間に漂う。

 順々に全員がボール投げを終わらして記録を書き込む。

 ちなみに自分は16mでした。

 

 全体が測り終えたところで先生が記入された容姿を抱えて連絡事項を言いに来た。

 

「次は体育館に入って種目やるから、少し休んで移動な」

「「「はーい」」」

 

 尚も互いに歪み合う二人を連れて体育館へと向かう。館内での種目にはシューズが要るが、二人は持っていないので必要時に他の生徒から借りることになった。

 

「じゃあ場所移って一発目の競技はー・・・」

 

 遂に競技って言っちゃってるよ。

 ただの体力テストから飛躍し過ぎじゃないのか。

 なんで楽しそうにしてるんだ教師。止める側じゃないのか教師。おいコラ。

 

「そうだな、反復横跳びからいくか」

 

 そう言いながら飯田先生は倉庫からタイマーを引っ張り出してきた。集積番号順で三本の線の上に一定の間隔を開け、並んで立つ。

 規定時間内にどれだけステップで三本線を踏めるかと言う、瞬発力が試されるもの。

 体育系の部活に力を入れている学校なら平均以上の結果が出るだろうが、この学校は一応進学校なので平均が出せればおの字だろう。そしてあの二人は果たしてどれほどのものだろうか。恐ろしい。

 

「いくぜいくぜいくぜ!!」

「おー、張り切ってんなー伊藤」

 

 我がクラスの運動部代表こと伊藤が張り切っている。

 

「俺は最初からクライマックスだぜ!」

「それ授業開始に言えよ」

 

 何故今になって言ったのか実に不可解だ。

 そして一組目が並び終わったところで先生が確認を取り、ブザーの合図とともにタイマーが稼働する。

 床を跳ねる音とシューズゴム底の切れるような音が小刻みに体育館内に響き渡る。

 

「まぁ速いよな」

「おぉ」

「なるほど」

 

 感想はそれぞれに。今やっている組は運動部が多いほうなので流石と言うか、それだけ鍛えているので当然速い。

 狩人二人はこんなのは初めて見る光景なのか、まじまじと見つめている。

 

「うん、大体分かった」

「何回線を踏めばいいか、ですね」

「そうそう。そんな感じ」

 

 習うより慣れろ。と言う事で二人の番が回ってきた。

 途中オレもやったが結果は著しく悪い。当たり前だけど。インドア派に運動神経を求める方がおかしいんだ。

 

「いくぞー」

 

 先生の用意の声に、二人は脚を屈めて低く構える。

 ブザーの音が響く。それと同時にまたももの凄い速さで二人は反復運動を始めた。

 

「「!!」」

 

 これまで断続的に途切れていた踏み込みの音が、二人の場合は殆ど間隔が空くことなく、継続して音が鳴る。

 二人の足が霞んで見えてきだした。疲労かな。

 

「あと二十秒!」

「まだまだ!」

「負けません!」

 

 ここまで殆ど二人の記録に誤差は無く、横並びの数字になっていた。後半になって前半優勢だったシロがばててクロがシロの記録に追いついてきたようだ。

 

「残り十秒!」

「うぅ・・・・・・!」

「くぅぅ・・・・・・」

 

 秒単位の経過時間が長く感じられる。それほどまでに緊迫した状況下にいる二人の表情は苦しそうだった。しかし負けられない。その一心で跳ねる。跳ねる。跳ねる!

 

「終了!」

「はぁっ・・・・・・!」

「うぁっ・・・・・・」

 

 ブザーが鳴り、二人の足が止まる。

 限界まで粘ったのか二人とも腰から下の力が抜け落ちてかくんとヘタリこんだ。

 

「はっ……はっ……」

「ふっ……おぉ……」

 

 肩で荒く息をする、倒れそうな体を 両手で支える二人。整った顔の顎に伝う汗がより生々しい。

 

「おぉ……」

「すげぇ」

「なんかエ」

「それ以上いけない」

「ゴホォッ」

 

 何かを言いかけた生徒が隣にいた友人らしき人物に腹パンされてガクッ、と倒れる。えぇ……。

 

「き、記録は……」

「あぁ、二人とも83回だ」

「そんな……」

「勝ち越しなんて、させない……」

 

 勝てず肩を落とすシロと濡れた前髪からシロをしたり顔で見やるクロ。今のところはお互い一勝一敗一引分けで同点。果たしてここからどうなるのやら。

 

「まだ、これから、です……!」

「そんなの、当たり前……!」

「ちょっと休めお前ら」

 

 




 書けた……。
 Q.何で時間あるのに書かないの?
 A.なんか何も浮かばなくて。あとツイッター楽しくて。
 ギルティ。
 チョマ アッ。

 はい、投稿遅れてすみませんでした。
 体力テストの記録やら平均やらを覗きながら書いていたらいつの間にかこれだけ日が空いている……。
 遊ぶのも程々にしなきゃ。

 体育編は次回で終わりそうです。
 なんとかして書きます。

 遅蒔きながら、この小説が日刊ランキングに掲載されまして、なんと四位まで昇りました。
 これまで読んでくださった人。新しくお目に触れていただいた人。すべての人に感謝します。

 感想、評価お待ちしております。
 誤字脱字等ありましたらご報告ください。

 では。 


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三十八話 正妻戦争 体育編 その2

 申し訳ありません! このような投稿ペースで!
 時間と体力の限界をみながら書いてたらこんなにも間が。
 死なない程度にこれからも書きますので、どうか。


 体育館内。

 授業間の休憩。

 生徒たちはタオルで汗を拭いたり、給水所に走ったり水筒を煽ったりしている。

 

「それにしてもあの二人、凄いよなぁ」

「シロさんとクロさんだろ? モノスゲーよなー」

 

 二人の男子が体育館の隅で談笑している。内容は今日の主役とも言える狩人二人のこと。

 当の二人はと言うと。

 

「水のみたい」

「我慢してください。私も飲みたいんですから」

「他の人飲んでる」

「貰うわけにもいきません」

 

 隅の方で喉を渇かしていた。

 それを聞き付けた連中が、自分達のために持ってきたはずの飲料物を我先に渡しに行っていた。

 

「く、クロさん! 良かったらこれ飲んでください!」

「シロさん、嫌じゃなかったら私のやつ飲む?」

 

 男女に囲まれてんやわんやになっている二人。申し訳無いとシロが断ろうとしている隣で遠慮など知らんと言わんばかりに受け取り勢い良く煽り飲むクロ。

 

「何してるんですか!?」

「え、くれるって言うから」

「貴女に遠慮というものはないのですか!」

「貰えるなら貰う」

「もう!」

 

 うん、大変そうだ。

 声もかけたいところだが中休みなのでそこまでの時間はない。今は遠目から眺めるぐらいでいいか。

 

「よーし、そろそろ再開するぞー」

 

 チャイムがかかり、飯田先生が号令をかけて出てきた。

 手には大型のメジャーがある。

 

「ある程度終わってきたので次は立ち幅跳びだ」

 

 線に爪先を揃えて立ち、そこから一度でどこまで跳べるかを測るもの。

 うちのクラスには運動部がそこそこに居るから結果も大したものになると予想する。

 

 あとはハンター二人。

 画面の向こうではたまに二段ジャンプもやってのけていたが、あれはシステムの関係でなってるだけであって、現実では恐らくあのようなことはないだろう。多分。

 

「取り敢えず私からいくよっ!」

 

 そう言って前に出たのは山田さん。

 一度シロの着せ替えをさせるために家に来た人だ。

 元気が良くて人との交流が多い出来た人。

 家に置いていった服は回収する気はあるのだろうか。

 

「位置について」

「何処までいけるかな~!」

 

 基準の線に爪先を揃える。

 大きく屈伸を繰り返し合わせて腕も前後に大きく振る。

 そして彼女のタイミングで前方に飛び上がり、空中で体をくの字に折り曲げ足を前に向ける。着地して体を起こし、倒れないよう体を起こす。

 

「さぁ記録は!?」

 

 記録係がメジャーを伸ばして彼女の踵から線までを計り、その記録を叫ぶ。

 

「195cm!」

「やったぁ!」

 

 記録が出たところで山田さんは飛び上がり、女子グループの生徒のところに走ってハイタッチを交わしていた。

 

 そのまま順番が回り彼の二人の出番だ。

 

「跳べーシロさーん」

「負けるなクロちゃーん」

 

 男女それぞれの歓声が混じり良い具合に士気が上がる。皆楽しそうだ。俺は憂鬱だ。二人は闘志を再燃焼し出した。元気だ。

 

「いきますっ」

 

 先攻はシロ。

 線に爪先を揃え、勢いをつけて飛躍する。立っている体勢からと言うのによく跳ぶ。床を蹴り、着地した距離は山田さんより遠い。

 

「はっ、と。どうでした?」

 

 足を床から離さないよう着地した体勢から上体だけ捻って振り向く。「やってやった」と言わんばかりの笑顔をしている。可愛らしい。

 

 記録係がメジャーを伸ばして記録を言う。

 

「275cm!」

「やりました!」

 

 興奮気味の歓声がどっと騰がる。

 跳んだ本人はぴょんぴょん跳ねている。

 まさにウサギのようだ。

 

 一つ間を開けてクロが立ち上がり、線の前に立つ。静かな眼差しに野心を籠めている。何処かの傭兵のように「待たせたな」と聞こえてきそうだった。

 

「次、いくよ」

 

 そう言ってクロは、若干深い屈伸運動を繰り返す。

 バネのような延び縮みを繰り返し、その関節の往復は、爪先までも含まれていた。

 段々と屈伸運動が加速し、胴体が次第に床と水平になりだす。

 そして、付けるだけの勢いを付けて、ついにクロが跳んだ。

 

「ッ……!」

 

 前方に鋭く、しかし上昇気味に跳ねたクロは、粘る足を爪先まで意識を巡らせ、縮ませる筋肉に集中して跳ぶ。

 足が床から離陸し、浅い弧を描いて前へ跳び、今度は引き伸ばした足を前に出す。

 この時、胸と足がくっつきそうなほど足を前に向け、着地と同時に上手く踵を付けて尻餅などつくこともなくするりと、吸い付くように着地した。

 

「っ、ふぅーっ」

 

 集中で使い終わった息を吐き出し記録係に測ってもらっている。

 表示された記録にまず係の人間が驚き、次にその内容を知った人間が驚愕した。

 

「さ、316cm……!」

「おおぉぉぉ!!」

 

 シロの時よりも大きい歓声。

 残りの項目も半分を切ったところでこの盛り上がり。まだまだ楽しめるといったぐらいだろうか。個人的には辛さが出てきた。

 

 てか3mて跳びすぎやしないか。

 

「ある意味、裏技」

「心を読んで答えるな」

 

 人外化が進んでる気がするぞこの褐色娘。

 

 

 次の種目は握力。

 画面の中では自分の体躯より大きい武器を巧みに操ることもある狩人。そんな二人の握力ともなればリンゴを潰すのも容易いのではないだろうか。因みにリンゴは握力60kg以上なら砕けれるらしい。

 

「俺の右手が疼くぜ……」

「早くしろ内藤」

 

 中二病発症させている内藤。相変わらずだ。

 

「セェイッ!」

 

 怒り肩になりながら内藤が測定器のグリップを握る。

 真っ赤になりながら握り、金属部品が僅かに軋む。

 数秒そのままで、記録が出たことを伝えるアラームが鳴り、やっと力を抜いた内藤がぶはぁっ、と息を再開する。

 

「結果は」

「31kg」

 

 うん。まぁまぁじゃないのか。

 そりゃ平均までは達してないとはいえ、それなりに出やすい数値なんだからそんな虚しい顔をしなくてもいいと思う。

 

 測定器に数があったのでこの項目もスムーズに済まされていく。

 ただ測るだけ、大半の人間からすればそんなものでしかない体力テストもあの二人にすれば大事な事のようで。

 

 そうこうしていたら離れたところで二人が握力を測っていた。

 

「えいっ」

「むんっ」

 

 可愛らしい掛け声で握力計の、上下に別れたグリップを片手でを握り締めている。

 数秒経って記録が表示され、ぱっと脱力する二人。無呼吸で力んでいたため顔が赤くなっているようだ。

 

「シロさん75kg! クロさん53kg!」

 

 結果を聞いて勝利の笑みを浮かべるシロ。

 反対に悔しそうに眉を潜めるクロ。 

 

「ま、まだもう片方あるから……」

「平均を上げないと勝てませんよ」

 

 なんでフラグを建てるのか。

 そして案の定フラグ回収するクロだった。

 

 

 続いて上体起こし。

 

「じゃあ二人組作ってー」

 

 物凄くナチュラルに呪いの呪文を唱える教師。

 しかし加藤と組んだ透は難を逃れる。

 良かった。

 狩人二人はそのままペアかと思いもしたが、それぞれ別の女子生徒と組んだ様子。

 

「シロさんすっごい肌キレー」

「クロさん体引き締まってるけど柔かぁい」

 

 二人のペアになった女子生徒がここぞとばかりに二人の肌を撫で回していた。

 

「く、くすぐったいですよ~」

「んう、変な気分……」

 

 ちょっと肌色成分の強いキャッキャッうふふな情景にその場の誰もが生唾を飲んだ。

 それを見かねた先生が咳払いをし、正気に戻った生徒が腕を組んだりして準備をする。

 

「それじゃあ一人目。よーい、どん」

 

 ペアの片方が一斉に腹筋運動を始める。

 肩甲骨を床に、胸の前で交差させた腕が膝に当たるまでが一回としてその前後運動を時間まで繰り返す。

 跳ねる必要も無ければ大きな運動をするわけでもないが、上体を腰回りの筋肉だけで持ち上げると言うのは割りと苦しかったりする。

 

「ふっ、ふっ、ふっ!」

「おおぉぉぉぉ!!」

 

 皆が額に汗を流しそれぞれのペースで腹筋運動を繰り返す。三十秒という時間のなかで、どれだけの回数腹筋が出来るかという内容に回数を比べるために躍起になる人間が多い。

 もちろん数が多い方が健康的な証拠であるし、そもそも運動部である彼ら彼女らにとってこれもある意味勝負事のようなものなのだろう。

 

「負けらんねぇ!」

「これなら一番も目じゃねぇ!」

「俺たちの戦いはこれからだ!」

 

 なんでフラグを張るんだよ。

 シロとクロは後半にやるようで、二人ともペアの女子の足をがっしりと支えている。

 クロは相変わらずの無表情だが、シロは控えめながらも「が、がんばってくださいっ」と小さな応援をしていた。

 

「ひゅんっ」

「えっ」

 

 それを耳にした同じペアの女子生徒とその周辺で計測していた生徒が、糸の切れた人形のようにパタンと倒れたかと思うと、再び目を開き、先程とは明らかに違う、加速したペースで再開した。

 

「シロさんの、応援は、これ以上ない、ドーピングぅぅぅ!!!」

 

 違法じゃねぇか。

 狂気的な闘志で腹筋運動をする女子生徒。時間までペースは落ちることなく、自己ベストを出したよう。

 

「次ー、もう片方準備~」

 

 いそいそと足を持っていた片方が寝そべり膝をたてる。その膝をさっきまで計測していた片方が支える。

 

 狩人二人も膝をたてて横になり、シロは胸の前で腕を組み、クロは後頭部で腕組みをした。

 

「よーい、始め」

 

 先生の合図で後半戦が始まる。

 前半のペア達と変わらない勢いで腹筋運動を繰り返す後半の人たち。

 

「シロさんの、エールが、俺達を、支える!」

 

 何か言ってる。

 当のシロは気恥ずかしさで目を伏せながら腹筋運動をしている。

 

「そんな、ペースで、私に、勝てるか、な」

「なんの!」

 

 挑発するクロ。それに真正面から乗っかりつつ、食らいつくシロ。

 運動部員達と変わらないペースで上体を起こす二人。

 しかしこれまでとは違い、超人的な速さが出ているわけじゃない。

 他と変わらない。いや遅い訳じゃない。ペース的には運動部員とほぼ同じくらいだ。

 

「あと二十秒!」

 

 残り時間を知らされ、焦りが見え出す。一部の生徒はペースが落ちてきた。それでも体力を振り絞り、痛みが走り出す腹筋にむち打ち体を起こす。

 狩人二人はまだ余裕がある様子。まだペースも落ちていない。

 

「うあぅ、キツい……!」

「弱音、かな……!?」

「何も、言って、ません!」

 

 伝う汗に気もくれず、只管に腕を組み、体を起こす。

 最初は余裕のあった息も切れてきだした。

 浅い呼吸を繰り返し、胸が若干上下する。それでも止まることはない。

 

「あと十秒!」

 

 ラストスパート、最後の追い込みまで来た。

 体力を切らす者、最後にペースを上げる者、多種多様に変えて残り時間が過ぎるのを待つ。

 

「うぅぅ!」

「ま、け、な、い」

 

 どちらも譲らず、これまでどっちもリードすることはなかった。

 そしてそのままタイムアップ。

 笛が鳴り、みんな床に寝そべったりして乱れた呼吸を整えている。

 シロ、クロ、両方32回。平均よりは高い。と言うほどだろうか。しかし問題はそこではない。

 

「シロさん動ける?」

「はぁー……、はぁー……、な、なんとか……」

「クロさん平気ー?」

「もう、まん、たい……」

 

 くて、と脱力しきって倒れたままの、真珠のように、病的でないぐらいの適度に白いシロと、日焼けという焼けた色ではない、しっとりとした浅黒い褐色のクロ。

 長い前髪やらが汗で濡れ、今までで大分汗を吸ったのか体操着がボディラインに沿うように張り付いている。乱れた呼吸で無防備な胸が上下に動き、可愛らしい主張をする膨らみが揺れる。

 

「「「おぉぉ……」」」

 

 誰もが見惚れる。

 扇情的とも言い難いが、邪な目で見てしまうのも致し方無いほど魅力的な二人に言葉が出ない。

 

「ふ、二人とも! 汗拭いて!」

「ふぁ、はいぃ」

「んぅー、うん」

 

 山田さんが持ってきたハンドタオルを受け取りびしょ濡れになった体を拭く。それでやっと正気に戻った皆は次の種目の準備にかかった。

 

 残る種目はあと二つ。

 結果はどうなるのだろうか。

 




 中編と言った感じですかね。
 次回後編、最後の勝負!
 勝つのはどっちか!

 感想、評価お願いします。
 誤字、脱字等あればご報告願います。

 では。


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三十九話 正妻戦争 その3

 よし書けた!
 ちまちま書いてなんとかいった!
 ではどうぞ!


 次は長座体前屈。

 

 足を伸ばし、上半身が地面から垂直になるように座り、計測台を肘を伸ばして持ち、出来る限り前に押すもの。

 ある意味中休みのようなもの。

 最後に残された種目のための。

 

「セイッ」

「ソォイッ」

「ロッショイッ」

 

 謎の掛け声で計測台を押す男子連中。

 なんの掛け声だそれ。

 

 男子平均はおおよそ43cmといったところか。

 全国平均から見ても大した差はなく、まずまずというところ。筋肉質な体型の人間が多いのでそこまで伸びないかもと思ったが、案外いけるようだ。

 なら自分ももしかしたら結構良い数字が出るのではないだろうか。

 

「おりゃ」

「20cm」

 

 伸びない。

 嘘だろ、流石に硬すぎやしないか?

 

「ご主人、ん、硬い・・・・・・」

「言い方」

「マスター! その、今度私が、お身体ほぐしましょうか?」

「だから言い方」

 

 妙な言い回しをしてくる二人を宥めて自分のお粗末な記録を用紙に記入する透。

 複雑な視線を向けるクラスメイト(男子)達が一連の流れを見て何かを閃いた。

 

「アアー、カラダがカタくてノビナイー」

「アー、オレモー」

「アー」

 

 女子からは軽蔑の眼差し。教師は呆れた様子で首を振り、シロは何事だろうと慌てている。クロはあまり気に留めていなかった。

 

「お前ら、ちゃんとしなかったら最低評価にするぞ」

「なーんてめっちゃ体柔らかいんだーオレー」

「みてみてこんなに倒れるー」

「腰がかるーい」

 

 おふざけも大概にしなければいけない。

 

 そうしてシロとクロの番。

 クロは十分なほどの柔軟で体を解している。

 アキレス腱を伸ばしたり手首を伸ばしたり、上体を前後に倒したりしている。

 直立で上体を前に倒し、何ともないような顔で両掌を付け根まで地面にぺたんとくっつける。

 

「ん、んー・・・・・・。ふぅ、よし」

 

 見せつけるように柔軟をして、クロは計測台の前に座る。

 

「この勝負、貰った」

 

 猫のように、液体のような滑らかさで台を一息に押す。

 顔が腿にぴと、と付き、手足は折ることなく一直線に伸びている。

 

「っ、ふー・・・・・・」

 

 一仕事終えた後のように上体を起こして台から立ちあがり、吐いていた空気を吸い込み、また吐き出す。腰に手を当て上体を反らしたり横に傾けたりとぐにぐに動かしストレッチをしている。

 そして振り向き、真顔からむふー、と鼻から空気を抜いて若干口角を上げたドヤ顔をキメてきた。

 

「63.5cm!」

 

 記録係が計測台からその記録を言う。

 怖ろしいほどに柔らかい。

 並みの体操選手やバレエの選手よりもしなやかなのではないだろうか。

 

 続いてシロの番。

 なのだが。

 

「う、うぅ・・・・・・」

 

 なんだか落ち着かない様子。

 退けた腰に八の字に垂れた眉で困り顔を引っ提げた彼女が計測台の前でたじろいでいる。

 

「シロさん、どうしたの?」

「な、なんでもありません! なんでも・・・・・・」

 

 煮え切らない感じでこっちを見たりあっちを見たり、計測台をふと見てはすぐに目を反らしたり閉じたりとしていて一向に測ろうとしない。

 

「何、してるの? 早くしなよ」

「わ、わかってます! こ、こんなの、すぐに、終わらせます・・・・・・!」

 

 遂に決心したシロが計測台の前に、実に綺麗な姿勢で背筋と腕を伸ばしてすとんと座る。

 表情は険しく脂汗が一筋、頬を伝う。

 

「シロさんのタイミングでぐーんと押してねー」

「は、はい」

 

 目を閉じ、呼吸を整えて、やっと台を握る。

 そしてシロが台を押した。

 

「むっ!」

 

 可愛らしい掛声で台が押された。

 

 押された?

 

 

 あまり動いてない。

 いや動いてはいるが、先ほどのクロのように驚くほど進んだりしていない。

 一般的、いや平均に達さないほどか。

 

「んん~!」

 

 目をぎゅっと閉じて頬を膨らまし、出来る限り台を押そうと必死に体を曲げ、腕を伸ばすシロ。しかし悲しいかな。計測台はピクリとも進まず依然として前進しなかった。

 

「可愛い・・・・・・」

 

 そんな言葉を誰が発したか、みんな微笑ましくシロを見守っていた。

 透はどうフォローしようかと悩む。

 クロはその手があったか、という下心といや勝たねば、という乙女心(狩人)が無表情の下で葛藤していた。

 

「シロさん23.7sm。うん、その、可愛かっt・・・・・・んん! どんまい!」

「うう~・・・・・・」

 

 一瞬本音が漏れかけた女子生徒。

 シロは女子生徒らに慰められながら記録を書きにいった。

 

 

 

 いよいよもって最後の項目。

 20mシャトルラン。

 徐々に加速するテンポの内に20mの距離を往復していく内容。最初こそ優しい速さだが三桁を越えると難易度も高い。

 

 並みの人間なら百と余十ぐらいか。日頃鍛えている者なら百五十を悠に越えて八十に達するほど。

 

 ではあの二人は何処まで往けるのか。

 

 一先ずは男子から計測。

 体育館を目一杯使い全員が一列に並び立つ。

 飯田先生が音響の準備をしている間、運動部員等は足腰のストレッチをしている。

 

「おーし、始めるぞー」

「「「よっしゃァ!!」」」

 

 気合い十分という具合で全員がラインに爪先をつける。

 教師が音響のスイッチを入れると無機的な説明が流れ、ようやく始まった。

 ピアノの音階がドから始まり、ゆっくり上に上がっていく。

 みんな競歩か軽いランニング程度の速度で走りだし、余裕をもってラインを超えた。

 

 そしてゆっくり、ゆっくりとテンポが速まって往く。

 

 五十を越えたころ、おおよその男子はまだ余裕たっぷりだ。透は若干息が切れている。

 

「トオルくーん! 頑張ってくださーい!」

「がーんばれ、がーんばれ」

 

 約二名の熱い声援を受けて、運動とは別の理由で赤くなる顔を振り冷ましてシャトルランに集中する透。

 その様子を端から見て羨ましいとも妬ましいとも思う男子諸君はその邪な熱意をおのれの足に宿し、少しでも自己ベストを越してやろうと闘志を燃やしていた。

 

 

 人によっては疲労が見えてきだした五十台。

 文化系は数名余裕もなくなってギリギリラインを越えられるぐらいまで体力が落ちてきた。透もこの内に入り、一回目のライン未到達を出してしまい、もう後がない。

 運動部はまだまだ余裕があるようで、平然としている。

 

「もう、無理・・・・・・」

 

 透がダウン。

 記録は54回。

 萎んだ風船のようにふらりと床に腰をおいて荒く呼吸を繰り返している。

 そこへシロとクロが水筒やらタオルやらを運んできて透に手渡していた。

 ここでまだ計測中の男子達の額に青筋が走る。

 

「どうぞトオル君」

「あー・・・・・・ありがと・・・・・・」

 

 村崎 透(妬み相手)が倒れた!

 一転して今度は閃光が脳裏を透過する。

 好機、ここでカッコいいとこを魅せて自分達だって案外イケるんだ、なんてことを考える男子連中。

 

「「「ウォオオオオオオ!!!」」」

 

 抜くか抜かれるか。

 一番の問題がリタイアした今こそ、追い上げ時だ!

 そう確信、いや誤信した憐れ者が続々と己のペースを上げていった。

 

 そして100回に到達するかしないかで次々と再起不能へと誘われた。

 

「馬鹿な・・・・・・」

「この、俺が・・・・・・」

「無念・・・・・・!」

 

「バカだ」

「アホだ」

「手遅れだ」

 

 全方向、いまだ倒れていない男子と様子を見ていた女子団体から非難の視線が降り注ぐ。

 そんなこともありつつ男子の計測が終る。

 

 順番は変わって女子の番。

 クロとシロが混じることによって華が増える、いや平均の底上げが行われるのではないだろうか。

 妙な期待が女子から積もりつつあることを知らない二人に視線が集まる。

 

 さっきと変わらない無機的な説明が入り、ブザーと共に計測開始。

 

 開始直後は流石に男子の時と変わらない。

 だが二桁に入ったところで数人が追い付けなくなってきていた。中には十台で終了する人もいた。そのほとんどが文化部の人だったので仕方ないと思う。

 

「いけー女子ー」

「走れー」

 

 なんとも気の抜けた応援である。

 さっきまで走っていたのだから仕方ないと言えばそうなる。

 

 二十台、点々と脱落者が出つつ、女子の計測が続く。

 文化部はほとんどが居なくなり、残っているのは運動部と一部の帰宅部員。そして例の二人。

 

 三十台、上がっていくテンポに合わせて歩調も強まり、ランニングも速くなっていく。

 残っている者は大半は軽やかに走り、喰らい付いている者はなんとか残っているという印象も持たせる。

 

 四十台、ここで一定の人数が絞られ、常日頃運動なりなんなりしている者が残った。

 

「おー、減った減った」

「こっからが本番だな」

 

 ここまで来たらあとは中々減らない。

 五十を越えてからは黙々と走るだけの作業感溢れる光景。

 男子は疲労で動けず、皆々汗を拭い水分補給をしながら、黙りこけて女子の計測を眺めている。

 

 ただ呆然と眺めているだけ。かと思いきや、内藤が距離を詰めて耳打ちをするように細い声で話してきた。

 

「良いよな」

「何が?」

「女子の計測」

「何処が?」

 

 何を言っているんだコイツは。透は思ったが「あれを見てみろ」とさされた先を見る。

 そこには走る女子がいるだけだったが、それに首を傾げた透に内藤は重点的にポイントを絞らせ、顔を指差し、ゆっくりと、下に差した指を落として揺れる巨峰を差す。

 

「何処を見てんだ・・・・・・」

「良いよな」

「やかましい!」

 

 コイツの煩悩はいつになったら消えるのか。そもそも消えることはあるのか心配になってきた。

 

 ゆっくりと回数も進んでいき、今は六十台。

 そろそろ残っていた帰宅部員がしんどそうな顔をしだして四、五人ほど脱落していった。

 

「ぜんぜんよゆー」

「こちらもまだまだ!」

 

 むん、と可愛らしくも険しい顔で走るシロとその隣で口笛でも吹きそうなほど軽い様子を見せるクロ。それを

見ていた紳士淑女は疲れも癒され、計測中の淑女はペースアップをしだした。してしまった。

 

「私はまだ走れる! 走れるんだぁぁああ!!!」

「山田さん!?」

「バカ! 今とばしたら後がもたないぞ!」

 

 山田さんを筆頭に数名の女子がペースを上げてしまい、七十台に到達して数回往復したぐらいで暴走してしまった人たちは軒並みダウンしてしまった。

 

「無茶しやがって・・・・・・」

「良いヤツだったよ・・・・・・」

 

 苦い涙を流して倒れていった者たちを置いて走り出す女子。

 それに困惑しながらも付いて行くシロとクロ。

 

「えっ、えぇ?」

「気にしたら、負け」

 

 けして振り向くことなく、尊い犠牲(山田さん)になった彼女に続かないよう暴走しないことを肝に命じて走り出した女子一同。

 山田さんは先に抜けた女子たちに介抱されていた。

 

 ようやくやってきた八十代。

 

 よく見れば女子達の大半が息切れを起こしていた。

 流石にもう体力的にも厳しいのかみな余裕がなくなり滝のような汗を流して走っていた。中には既にライン到達がギリギリになっている人もちらほら。

 

 運動部のはもう少し行けるようだが、それでも後も残り少ないだろう。

 しかし健気に食いついていたのも僅かな間だけ。大半がここで脱落してしまった。

 

「流石に、疲れてきたんじゃ、ないかな」

「まだまだ、いけます!」

 

 あの二人は本当にタフネスだ。

 ペースもさることながら未だに疲れが顔に出ていない。他の女子生徒はもう虫の息だ。残っている女子生徒は数人で、それらも明らかに足取りが重そうだった。

 

『九十』

 

 無機質な声が回数を示す。

 加速する音階と反比例してラインまでの距離が遠く感じて余計に足に力が入り、更に疲労が溜まっていく。

 ここまで来ると明確に人数が減り出してもう片手で数えられる程しか残っていない。

 

 その女子生徒たちもラインまで届かなくなってしまい、学生組は誰もいなくなってしまった。

 

 そして遂に本当の戦い、狩人二人の競り合いが始まる。

 後に引けない二人。

 

「絶対、 負けない・・・・・・!」

 

 思っただけか、それとも声に出たか。そんなことも分からない程に気を張った身体が昂る。

 焦燥感で重く感じていた体がよく動く。足取りも軽く踏み込みも強まって保たれる。

 

『百』 

 

 到達回数が二桁から三桁に切り替わり、いよいよ終わりも見えてきたのではと誰もが思い始めた。

 しかし二人はバテる様子もなく、それどころかまだ俄然走れるぐらいだった。

 

「続くなー」

「長いなー」

 

 声援が止み静かな空気の中、床を蹴るシューズの音が木霊する。

 

 三桁も百から進んで百十、二十と進み、百五十までこのまま変わらずに進んでいたが、ここで変化が現れた。

 

「ッ!? おい、あれを見ろ!」

「なんだよ・・・・・・ッ!!」

「あれはッ!?」

 

 なんだよその物々しい言い方は。

 大々的な表現で計測中の二人を差す集団に釣られてシロたちを見る。

 

「しゅーっ・・・・・・ふーっ・・・・・・」

 

 見ると、クロの方が疲れてきだしていた。

 

「この勝負、見えて来たんじゃないか!?」

「これはシロさんが勝つかもしれない!」

「いや、良く見ろ!」

 

 またも往復する二人を見やる。

 なんとシロのほうもバテてきだしているではないか。このままシロの独壇場かと思っていたが、こうなると勝敗がどっちに傾くのか分からない。

 

「限界、の、ようで・・・・・・!」

「どの口が、言ってますか・・・・・・!」

 

 横目で互いを睨み、荒い呼吸の合間で挑発をするクロとそれを受けるシロ。

 

 二人とももうフラフラなのに速度は変わらないし時間制限にも追い付けている。けれど今の時点でギリギリだから、恐らく後も残り少ない。

 

 無慈悲に響く音階。

 百八十の台に入って後どれだけ続くのか。そんな気持ちで二人を見守る。

 

 そして遂に、二人の勝敗が決した。

 

「も・・・・・・無理・・・・・・」

 

 ラインに到達出来なかったのは、クロだった。

 体力が切れたのか終わったと悟ったクロはびたんと床に倒れてだくだくと汗を流している。

 

 倒れたクロに意識を向けて一瞬でも立ち止まったシロに、まだ計測中と言うのもあって一人の女子生徒が走るように促してシロはまだ走る。

 

 重しが取れたのもあってか、シロの足取りは軽くなる。

 しかしその軽快な足取りも長くは続かずすぐに元の鈍重さに変わり、結局百を通りすぎて二百まで進み、最終的に二百六までいってついに終わった。

 

「ふひゅ・・・・・・。もう、走れま、せん・・・・・・」

 

 体力の限界を迎えたシロがふらりと床に倒れる。

 駆け寄った女子たちが称賛の声をあげながら寝そべって動けない二人を介抱する。

 

「シロさんお疲れ様~!」

「水分補給しなー!」

「クロさんもお疲れさーん」

「汗拭いたげるよー」

「そ、んな、自分で、やれまひゅから・・・・・・」

「うご、ける・・・・・・か、ら」

 

 断ってしまおうにもその体力すら切れてしまった二人はされるがままになっていた。

 

「シロさんが勝ったってことは」

「勝敗はどうなった?」

「六戦二勝二敗二引き分け。決着着かずか」

 

 最初クロが提示した勝負は、きれいにあいこで終わったようだった。

 

「おーう終わったかー」

「今終わりましたせんせー」

 

 音響機材の操作をしていた飯田先生が出てきて生徒に片付けや整列の指示を出す。

 

「やー、興味本位でシロさんを呼んだが、まさかこんなになるとはなぁ。けどまぁ面白かったし、良いか! そんじゃ記録書いて終わり! 解散! お疲れさん!」

「「「ありがとうございましたー!」」」

 

 教師の号令で皆々解散。

 

 競技もとい計測も無事終了し、午前の授業が終わったチャイムが鳴った。

 男女それぞれ教室と更衣室に着替えに行き、そこから弁当を取りに行ったり学食に行ったり、購買に直行するものがいたりとぶっ続けの体力テストで消費したカロリーを摂取しに行く。

 

「あー! 腹減ったー!!」

「ホントなんでこんな日程なんだよ・・・・・・」

「キツかったー!」

 

 異口同音に授業の愚痴を吐きつつ汗を吸った体操着を脱ぎ捨て、べたつく体を拭いて制服に着替える男子組。

 

「早く着替えて飯食おう飯」

「当たり前だこの野郎」

 

 皆空腹感に襲われいち早く着替えて昼食に飛び付きたいほどだった。

 

 

 更衣室。

 

 

「シロさん凄かったねー!」

「えへへ、ありがとうございますっ」

「クロちゃんカッコよかったよー」

「それほどでも、ある」

 

 更衣室では女子達が今日の主役だった二人を囲うようにきゃいきゃいと盛り上がっていた。

 シロは照れながら受け答えをして、クロは少しどや顔をしながら天狗になっていた。

 

 

 やっと教室に帰り、空になった腹を満たそうとそれぞれ持参したものや購入したものを頬張る。

 

 透も自分用とシロ用に作ってきた弁当を持って教室でシロが来るのをじっと待つ。

 

 山田さんたちに連れられてシロとクロが教室に入ってきた。

 シロ、クロは透を見つけると一目散に駆け寄っていき、空いていた席にそれぞれ座る。

 

「トオル君! ごはん食べましょう!」

「うん、こっちおいで」

「ご主人。ごはん食べよ」

「う、うん。クロはこっち」

 

 二つ分作ってきた弁当の片方をシロに渡し、そこでふと固まる。もう片方をどうしようかと悩んだ。

 何故二つあるかと言うと、今日シロが学校に来ることはもう事前に知っていたので、今朝二人分作ってきたのだ。しかしクロが出てきたのはイレギュラーすぎて用意も予想もしてなかった。

 

 ので今手元にはシロと俺の分と言うことで持ってきた弁当が二つ。

 そしてあり当てられるべき人数は三人。

 如何様にして分けるべきか。

 

「はい。クロ」

「トオル君!?」

「え・・・・・・ご主人、いいの?」

 

 透は仕方無いと小さなため息をついてクロに自分の弁当を渡す。クロは意外そうな顔をして素直に両手で受け取り、手元の平たい箱と主人の顔を交互に見る。

 

「俺はあんまり動いてないし、クロも頑張ったろ?」

「でも私、ちゃんと勝てなかった・・・・・・」

 

 勝敗の事を気にしていたのか、しゅんとなる彼女を慰めようと身を屈めて頭を撫でる。

 

「勝ったとか勝てなかったとか、俺はそんなの求めてないし、それで優劣は着けないからね。だから食べて欲しいなって」

「ご主人・・・・・・」

 

 潤んだ瞳でこちらを見つめ、湿った声で彼を呼ぶ姿にシロが嫉妬を覚える。

 

「はい! 話がついたのならご飯にしましょう! トオル君はお弁当がないなら私のお弁当の中身分けますよ!」

「し、シロ?」

「あ、白いの。抜け駆け卑怯・・・・・・。ご主人、私も分けるよ」

「く、クロも・・・・・・?」

 

 左右に座る美少女にずずいと詰め寄られて心臓を握られる感覚に陥る透。

 それを端から見ていた男子連中は血涙が出そうなほど睨み、それだけでなく女子生徒たちも面白そうにニヤニヤ眺めながら、数人はいいなーと指を咥えていた。

 

 『一難去ってまた一難』ってこう言うときに使うのかな、と思いながら、二人の手から伸びる弁当の中身を恥ずかしさと一緒に飲み込んだ。

 

 

 楽しい昼食も終わって午後の授業。

 あと二時間もすればこの空間から解放されると思ったらそれなりに粘れるが、四時間動いた後で飯を喰らい、授業を受けるとなると、並みならない眠気が体と瞼に張り付いて取れない。

 

 クラスを見回しても睡魔と交戦している者がチラホラ見受けられ、中には敗北者もいた。

 

 そこでふとシロとクロは大丈夫かな、と疑問が浮かんだ。今日一番張り切っていた二人なのでもしかしたらもうダメかもしれない。

 

 そう思って二人が並んで座っている、教室の後ろを覗いてみると。

 

「すぅ・・・・・・」

「んく・・・・・・」

 

 教室の隅で、お互いがお互いにもたれ掛かるように、二人ともぐっすりと眠っていた。

 

「おい、あれ」

「なん・・・・・・ほほう」

 

 その幼児のように純朴な寝顔に、教室にいた誰もが見居って、和んだ昼下がりだった。




 はい。正妻戦争編終わりました。
 三話に分けて書く長い内容でしたが楽しんでいただけたでしょうか。

 体力テストの項目は全部ではありませんがこんなだったなと言う記憶から出しました。

 ではでは。


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四十話 キリン娘に尽くされる

 間が空いて申し訳ありません。
 新作作ってました。


 筋肉痛が痛い。

 いやホントに痛い。

 普段何か運動をしているわけでもなく、家に帰れば最低限の家事と炊事をすればあとはだらけてゲームと言う危ない人手前の生活を送っていた代償として、今回の体力テストは全身にキた。

 

 まず寝起きがつらい。起きれなかったもん。

 体を起こそうとしてもお腹に力が入らず、無理をしようものなら腹筋に電流が走ったかのようにビリビリと痛みだして、動けないまま悶絶していた。

 

「朝ですよ~マスター」

「シロ、動けない。たすけて」

「マスター!?」

 

 痙攣に近い痛みでまともな会話すら許してはくれなかった俺は片言の言葉でシロに助けを求める。

 様子がおかしいと悟ったシロはパタパタと駆け寄ってきて俺の腕を掴み、「いきますよー」と一言添えて引き揚げるように起こしてくれる。

 

 ありがとうとお礼を言って無事にベッドから這い出れたものの、足腰にまで及ぶ筋肉痛は立つことがやっとのようで、シロに支えられて部屋を出た。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、無理」

「ご飯出来てるので一緒に行きましょう?」

「うん・・・・・・」

 

 シロの純粋な優しさがちょっとつらい。

 俺はそんなに貧弱だったか。ちくせう。

 

 幸い今日は休日なので一日休養に費やそう。でないと休み明けに動けない。

 度々料理を落としそうになりながらなんとか朝食を食べ終え、油を刺そうが直らない軋む体を稼働させてソファーに飛び込む。

 

「あぁー・・・・・・」

 

 そしてすかさずゲーム機を取り出して仰向けでプレイに勤しむ。

 機種は二画面折り畳み式の携帯ゲーム機。大手メーカーの大人気だったゲームハードだが、今でも人気の作品が多く、未だに現役で使っている人も多い。

 

「もう少しで全クリだー・・・・・・あがっ」

 

 寝そべってゲーム機を持ち上げたら、手に力が入らずプラスチックと精密機械の塊が顔面に落下してきた。

 また同じように持ったと思っても、同じように顔に落ちてきて、携帯ゲームは諦めた。

 

「ダメだ、これ以上は顔が凹む」

「安静にしてましょうよ」

 

 洗い物をしてくれているシロにやんわりと正される。

 それもごもっともだが、何もしないと言うのはとてつもなく暇なのであまりしない。現に体は痛むが眠気はあまりないので何かしていたい。

 

「そうは言っても動けないけど眠くないし、暇潰しと言ったらこれぐらいしかないよ」

「んう~・・・・・・あ、そうだ! ちょっと待っててくださいね、マスター!」

「おう? うん」

 

 少し唸ってから、何か思い付いたのかぱぱっと食器洗いを済ましたシロが何かを探しに小走りで部屋を出ていった。

 しばらくして帰ってきたシロは右手に小さな棒状のものを握っていた。

 

「ありましたっ♪」

「なにそれ」

「耳掻きです」

「わぁ」

 

 焦げ茶色の細い棒状。先端は平べったく半ば反っていて引っ掛かりになっている。反対の端には綿毛があしらわれており、空気に揺れてなんとも。

 

「それどうするの?」

「んふふ~。マスターがお疲れのようなので、リラックスできるように私がマスターの耳掃除をさせていただきますっ!」

「そうきたか」

 

 ふんす、と鼻を鳴らしてぐっと可愛らしく拳を握る彼女。

 その様子をソファーの肘掛けから頭を大向けのまま垂らして眺める。

 

 脚を持たれてずさーと引き戻されて頭がソファーの座席部分に乗り、頭を持ち上げられ、自分の頭があった所にシロが座り、ふとももの上にそっと乗せられた。

 

「おぉ、なんか久しぶり・・・・・・いやそうじゃなくて、なんでまた」

 

 唐突な提案に若干困惑しながら訪ねると、これまた可愛らしい笑顔でしっかりと答えてくれる。

 

「昨日山田さんと話してたら、こうしてあげると殿方は喜んでくれると聞いたので」

「そっか」

 

 何吹き込んでるんですか山田さんほんと山田さん勘弁してください山田さん。

 部屋に逃げようにも朝から筋肉痛で身動きすら出来ない。

 

「少しじっとしててください。優しくしますから・・・・・・」

「耳掻きだよね?」

 

 得も言えない不安要素を抱きながらされるがままに身を任せる。動けないのなら諦めるしかないだろう。

 そうしていたら、シロはふとももに乗せた俺の頭を少し持ち上げて横に向け、俺自身も其方に体を傾ける。間も無く「入れますね」と断りを入れて耳掻きを俺の耳にゆっくり入れた。

 

「ん・・・・・・」

 

 まずは入り口付近をなじるように掻く。痛みはなく、力をいれていないようで少しこそばゆい。

 

「ふぅ、ではちょっと奥に入れますね」

「うん・・・・・・」

 

 耳の穴の縁で転がされていた感触が、今度は穴の壁を掻く感触に変わる。左右や上下を隈無くかりかりとつつかれる感触がやけに気持ちいい。

 

「どうですか?」

「ん、気持ちいいよ」

 

 穴の口の直ぐをつつかれていたのが、じわじわと奥に進んでいく。その感覚にぞわりと背筋を震わすが、それも過ぎれば快感に変わってしまう。

 今まで痒かったところを丁度良い強さで掻かれるのは中々に心地好い。

 

「あぁ~・・・・・・」

 

 なんともだらしない声が腹の底から零れる。全身から力が抜けて、ソファーに張り付いたようになる。指一本すら動かすことなくシロの太ももに頭を預けていた。

 

 そして大方耳の垢も取り終わったのか、耳の中から耳掻きが一度抜き取られる。

 しめの綿毛を鼓膜を突かないところまでいれられ、細かい汚れも根こそぎ掻き出され、軽い爽快感が耳の中を撫でた。

 

「はい、終わりましたっ」

「おー、気持ちよかったー」

「それじゃあ反対側もしましょう!」

「わかったー・・・・・・あぇ?」

 

 そう言われると、俺の身体は有無を言わさず肩と胴をがし、と掴まれてぐるんと手前に転がされた。目の前に映るのはシロの腹部。爬虫類のような体表の、キリンの皮で作られたボディコンのような装備が眼前に映る。見上げればシロが楽しそうな貌でに、と笑う。

 

「いや、もう、大丈夫なんで」

「ダメですよー、両方ともお掃除しないと汚れが偏っちゃいますから」

「うん、わかってる、あとは自分でするよ」

「それは許容できません」

「だったら反対側に身体向けるってのは・・・・・・」

「ちゃんとキレイにしてあげますね♪」

「おーぅ・・・・・・」

 

 交渉失敗。

 逃げることなど叶わず頭に手を添えられ、固定される。

 

「入れますよー」

「う、うん」

 

 耳の穴に耳搔きを入れられる感触すら敏感に感じてしまうほど、心臓は昂り全身が熱くなる。

 冷や汗か脂汗か、何かが背中を伝って濡らすが、そんなことを気にしていられるほどの余裕すらなく、節操もなくシロの引き締まった腹部を凝視した体制のまま硬直してしまった。

 

「痛くないですか?」

「う、ん」

「ではもう少し奥に入れますね」

「ん」

 

 片言の返事すらたどたどしくなり、感覚が研ぎ澄まされていく。

 髪に触れるシロの柔らかい手、側頭部と頬に当たる弾力のあるふともも、耳の中を突く耳搔きの木片・・・・・・。

 

「いづっ!?」

「ひゃあっ!? ご、ごめんなさい!」

 

 あまりに感覚が敏感になりすぎてしまい、耳搔きの当たる感触に激痛を覚えた。

 その痛みに身体を撥ねさせてしまい、思わずシロのお腹に腕を回してしまった。

 

「あ・・・・・・ごめん」

「いえ、私こそ。それより耳は大丈夫ですか?」

 

 耳の中。腕や脚を擦りむいたぐらいならまだ堪えれるが、耳の奥ともなればこの痛みは相当だった。シロから離れようとしてもさっきから強張んでいたせいもあって腕がシロから剥がれない。

 ぴと、とくっついて離れようとしない俺にシロは最初こそ戸惑っていたが、すぐに平常心を取り戻して優しく頭を撫で始めた。

 

「う?」

「大丈夫、大丈夫ですよマスター」

 

 ふわりとした滑らかな手が髪を撫でる度、強張んで動かなかったからだから余計な力が抜けて熱が冷めていく。痛みはまだあるけれど、それもじんわりと和らいでいって、薄まっていく。

 ふと目線だけを上に持ち上げると悲しそうな顔をしたシロがいた。

 

「ごめんなさいマスター、余計なコトをしたせいで、マスターのお耳を・・・・・・」

「いいよ気にしなくて。血が出てるわけでもないし、耳搔きしてればあることでしょ」

「ですけど・・・・・・」

 

 自分に非があると食い下がって謝るシロ。しかし態勢も相まって以前のような状況になりかねない。

 そういう辛気臭いのは真っ平御免被りたいので話を切り出す。

 

「それよりさ、このままで終わると中途半端に終わって後味悪いんだ。だからもうちょっとやってくれない?」

「それは・・・・・・」

「ね? お願い、シロ」

 

 こちらの提案に要領を得ない言葉で濁していたシロだったが、しばらく唸った後に諦めたように息を吐いてにこりと微笑む。

 

「わかりました、最後までやります」

「ん、お願いします」

 

 彼女の手が耳を撫でて硬い耳搔きがまたは入ってくる。

 今度は痛みはなく、片方の時と同じような気持ちよさがつついてくる。

 さっきの脱力が拍車をかけて、微睡みが身を浸していくような感覚に覆われ、瞼が重い。

 

 暫くして綿毛が入り、壁を撫でて出ていくと先ほど片側で感じたのと同じ爽快感がする。耳搔きも終わったことだし体を起こすとしたら、シロはまだ俺の頭を抑えたまま放さない。

 まだ奥にあるのか、それとも気になるのか、どうしたものかと思っていると突然、シロが耳の中にふぅ、と息を吹きかけてきた。

 

「んん!?」

「あ、すみません! つい・・・・・・」

 

 当然彼女の暖かい吐息に耳を撫でられて背筋がぞわ、と波打った。

 

「いや、大丈夫。それで、終わった?」

「はいっ、ちゃあんとキレイになりましたよ!」

 

 よいしょ、とシロに手を添えられて起きあがり「ありがとう」と言いながら彼女の頭を撫でる。

 気持ちよさそうに目を細めて撫でられる仕草はとても愛らしいものだった。

 

「またお願いしようかな」

「その時は私もお願いしていいですか?」

「うん、いいよ」

「ありがとうございます!」

 

 

 

  




 いやホント、遅れてすみませんでした。
 新作作ってたら一か月、手を付けていなかったわけではないのですが、話が纏まらず作り直しとかしてました。
 三話ほど連続でバトルと言うか競い合いの話を書いていたのでちょっと感覚が狂ってました。(精一杯の言い訳)
 
 次のネタがない。


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四十一話 遊園地に行こう

 間隔空きすぎじゃねーか! いい加減にしろ!

 大変長らくお待たせしてしまいすみませんんでした!
 多忙というより体力の無さが響いた気がする。あと集中力。

 そんな言い訳もほどほどに本編どうぞ。 



「わぁー! おっきい! おっきいですトオルくん!」

「そだね」

 

 遊園地。

 

 大小、傾向様々なアトラクションひしめき並ぶ大型娯楽施設。

 

 メジャーならジェットコースターやメリーゴーランド、観覧車等。絶叫マシンはほぼすべて網羅されているほどのアトラクションの数からして、ここの敷地の広さから規模の大きさがどれほどのものかが伺える。

 

 そんなアウトドアの定番ともいえる場所に、俺はシロと来ていた。

 チェック柄のトレンチコートのような、裾の短いワンピースを着たシロが小走りに前を歩く。シロに手を引かれて自分も遊園地良いの門をくぐり、目の前の人気の多さと賑わいも改めて肌で感じる。

 

 何故このようなことになったのか、経緯から話そう。

 

 

 とあるファミリーレストラン。

 

 店内の一角で二人の男子が話をしていた。

 

 あれよこれよと話題を振っているのが加藤。そして退屈そうにコーヒーカップに沈むマドラーを弄っているのが村崎。

 二人の間には剣呑とも気まずいとも言えない微妙な空気が流れていた。

 

「それで、シロさんとはどこまでいったんだ?」

 

 加藤が頼んだランチセットをつつきながら、村崎にシンプルな質問をする。

 もう何度目かも分からないこの質問に、村崎はマドラーを弄っていた手を一瞬止めて、俯き気味の顔から視線だけを向けて、ためらいがちに答える。

 

「なんもないよ」

「なんもないわけないだろ、こんだけ過ごして」

 

 加藤はやや食い気味に村崎に尋問の如く質問を繰り出す。

 村崎は困り顔で天井を見上げ、近況報告でもしようと思って最近のことを端的に話した。

 

「平日は帰ったら一緒に家事して、ダラダラしてる」

「ほう」

「休みの日は、買い出しに行くか家でゲームするか、かな」

「それで」

「いや、それだけ」

「はぁー・・・・・・」

 

 呆れられた。

 事実を言っただけなのに何故これほどにも悲しまれなければいけないのか。村崎は少しばかり憤りを感じた。

 

「年頃の男女が休日家に篭って何もしないて、お前ほんとダメだぞ」

「なにが」

 

 なんでそんな説教じみたことを言われなければならないのか。

 

「まぁお前ならそんなことだろうも思ってたけども」

「だからそんな目でみてくるな」

 

 諦めが入っていた目を閉じて加藤は「そこでだ」と言いながら持ってきたボディバックから二枚の紙切れを取り出した。

 それを卓上に指で押さえるように置いて村崎へ突き出す。

 

「これをお前にやろう」

「なにこれ」

 

 手にとって紙に書かれている絵柄と文字列を眺める。

 

「遊園地?」

「そうだ。福引きで当たったからお前らにやるよ」

 

 若干ウザいキメ顔で渡された遊園地のチケットと加藤の顔を交互に見る。

 余談だが加藤は福引きでは当てていない。藤ズが集まって会議をした結果を村崎があまりシロと外に出ていないだろうと危惧し、仲間内で出しあって購入してきた。

 

「報酬は」

「お前らの楽しそうにしてる写真で十分さ・・・・・・」

「本音は」

「今度のテスト範囲の勉強教えて・・・・・・」

「わかった」

 

 素直な要望を聞いて貰った手前断るわけにもいかないので了承した村崎。

 話の本題も済んだので代金を置いて席を立つ。

 店を出る前に加藤に「絶対に行けよ」と釘を刺されて気恥ずかしい思いになりながら早足に家に帰った。

 

 

 とまぁこんな具合で加藤に半ば無理矢理チケットを押し付けられてシロと一緒に遊園地に行くことになった。

 確かにまともに外出なぞしたこともないのでこうやって機会を与えてくれるのはありがたい限りだ。その経緯が強引なだけであって。

 

 そんなことより今の状況。

 シロは向こうを見たりあっちを見たり、興味の湧き出る視線を色んな施設に向けてらんらんとしていた。

 

「どれに乗る?」

「どれもやってみたいです!」

「そっかー」

 

 何分アトラクションの数が多いのでどれから手をつければ良いのか悩んでしまう。いきなりジェットコースター等のメインにいってしまうと後が味気無いと思える。

 

 なら初めはそこまで過激じゃないものにしよう。

 

 等と一人であれこれ考えていたら、シロが袖を引っ張ってきた。

 

「トオル君、あれ乗りたいです!」

「どれどれ」

 

 無邪気にはしゃぐ子供のように示されたものは、ど定番とも言うべきジェットコースターだった。

 しかも高低差が激しく、途中宙返りがあるタイプの。

 

「わぉ」

 

 やってやろうじゃねぇかこのやろう。

 

 

 ◇

 

 

『安全バーが下がります。ご注意ください』

 

 注意喚起のアナウンスが入る。

 張りの強いシートに座らされ、これまたゴツい安全バーが上半身をガッチリとシートに固定してくる。座っているぶんには多少窮屈に感じるが、それよりも恐怖感と絶望感が凄まじい。

 

「早く出ないかな~♪」

「メイン・・・・・・」

 

 計画性も何もあったもんじゃない。けれど隣で楽しそうにしているシロを見る限り、そんな考えすらどうでもよくなってくる。

 楽しいならいっか・・・・・・。

 

『まもなく発車いたします! 楽しんできてくださーい!』

 

 軽快な発車合図と共に八両ほどが列なったコースターが、重々しい機械音を響かせながらゆっくりと進みだした。

 

「あれ、遅いですね」

「これから上に上がるんだよ」

 

 初速から最高速度とかなんの冗談だ。

 コースターは急な坂を登り始め、車体は地面から垂直に傾いき、背中で重力を感じる。

 レールに挟まるチェーンが回転し、車体を徐々に徐々に空に向かって垂直に伸びるコースの際頂点へ向かって、進んでいく。

 

「高いですねー」

「う、ぅぉお」

 

 だんだんと地面から離れて、清々しい空色が視界情報を占めていく状況に腹の底が浮く。

 

 そして、頂点に達した車体は一瞬速度を止め、前に倒れるように落ち始める。

 

「あっ」

「わぁっ!」

 

 Uを反転させたように列なった車体を下へ向かって進んだコースターは、その重みと高低差を持って、全てを速さに変えた。

 

「きゃーっ!」

「うおぉぉぉ」

 

 眼前には地面と上に曲がるレールが映る。妙明色の使われたレールや地面の煉瓦の色合いと、現在進行形で耳を叩く車輪の轟音がアンバランス過ぎた。

 

 しかしそんなことも頭に留める気力もなく、高速で走る通気の良いコースターに縛り付けられ、顔面どころか全身でその異常なまでの速度と風圧を受ける。

 

 落ちたかと思えば登り、カーブを曲がれば車体はほぼ直角まで傾く。しまいに大きな宙返りを挟んだ時は視界が反転していることにキモが冷えた。

 

「ひゃぁー!」

「おおおおお」

 

 ぐるぐると目まぐるしくコースを走り、最初に比べれば半ば落ちた速度でコースを流れていく車体。

 

 やがて高低差も無くなり、緩やかにもとのスタート地点まで戻っていった。

 

『お疲れさまでした! レバーが上がったらお降りいただき、お出口までお願いします』

 

 アナウンスの後に体をしっかりと固定していた安全バーが上に上がり、体の自由が効くようになる。

 乗客はぞろぞろと降りる中、俺は腰が引けて動けなかった。

 

「ほっ、と。大丈夫ですか? トオル君」

「うん、まだ大丈夫」

 

 随分と軽やかにコースターから降りるシロを尻目によじ登るかのように、震える脚を立たせて自分も降りる。

 シロの手を借りてジェットコースターのアトラクションを離れ、近くのベンチに腰掛ける。

 男らしさなぞありもしない姿で、なんだか恥ずかしくなる。

 

 だが、こんなものではここに来た意味がない。

 まだまだ回らねば、シロに喜んで貰わないと。

 

「あのう、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫、次いこう」

「あ、待ってください~!」

 

 

 もう建前も考えも投げ捨てて、目に入ったアトラクションからしらみ潰しに乗っていくことにした。

 

 ドロップ・タワー。

 乗客が乗るゴンドラが巨大な柱のてっぺんに上がり、その後解放されて自由落下する。途中で止まったり回転したりするものもあるとか。

 

「これにする」

「はい!」

 

 直ぐに決めて搭乗する。

 ジェットコースターよろしく似たような座席に座り、安全装置が降りて体を固定。案内役の人のアナウンスが入り、稼働が始まる。

 と同時にゴンドラがバネ仕掛けのように、初速からかなりの速度で上がり始めた。

 

「おぐっ」

「わぁっ」

 

 加速による引力が体を座席に締め付けてきて、一瞬体が重く感じる。

 高くなっていく視界に恐怖を覚え、目を閉じようとしても目線は釘付け。更にはその流れで下方向を見てしまい、急に後悔した。

 

「たっか・・・・・・」

「おぉ~」

 

 青ざめる自分とは対照的にシロは平然としていた。

 慣れてるのか。

 慣れてるか。

 高台から飛び降りたりしてたもんね。

 

 ゴンドラが頂点まで達して、縛りつけられていた引力から解放され、一瞬の浮遊感に包まれた。

 そして押さえつけるような急上昇から一転。

 今度は投げ出されるような急降下が始まった。

 

「うわぁぁあああああああ!!!」

「ひゃわああああああああ!!!」

 

 腹の底から叫んだ。絶叫マシンの名の通り、これは叫ぶ。

 同じゴンドラに乗っていた客も叫んでいるので問題は無いだろう。

 

 それにつけてもシロはこんな状況でも一切ブレることなく嬉しそうだった。

 

 

 

 

 それから数々の絶叫マシンを網羅し、くたくたに疲れ果てた。

 

「はー、はー、うえっ・・・・・・」

「大丈夫ですか、トオル君?」

 

 ベンチに腰掛けるどころかもはや溶けて雪崩れているくらいには果てていた。

 近くの自販機で買ってきたスポーツドリンクを半分ほど飲み、シロに背中を摩られている。

 

 おかしい。シロに楽しんでもらおうとしていたのに、自棄になって自滅している。

 いやまだだ、まだ絶叫マシンを乗りつくした程度。まだアトラクションは半分ぐり残っている。何もコースターだとかなんだと乗ればいいってもんじゃない。

 次は何に乗るか・・・・・・。

 

 気分の悪さを飲み下してパンフレットを睨む。

 刺激の強いアトラクションはだいたい乗り終わったし、今から乗れそうなものと言ったら何が残っているだろう。

 これは乗ったし、あれも乗ったし、どれもこれも乗った試した失敗した・・・・・・!

 

 様子を見かねたシロがそっと手を取って気を引いた。

 予期せず手を握られて肩を刎ねさせ、シロの方を見ると、とても悲しそうな顔をして覗き込んでいた。

 

「あの、今日はどうしたんですか? 急に遊びに行こうだなんて」

「あ、あぁ、うん・・・・・・」

 

 隣に座り、心配そうな顔をもたげてこちらを覗き込んでくるシロ。

 距離感の近さに血が急流して顔が熱くなる。

 いい加減慣れなきゃいけないのにどうしても意識してしまう自分に悔しさが湧く。

 

 いや、慣れてきたからこそ、意識しているのかもしれない。

 

「加藤に言われてさ、外に連れたほうがいいんじゃないかって。俺インドア派だからさ、外出して楽しいところなんて全然知らないから、こういう所も何すればいいのか全く分からないんだ」

「トオル君・・・・・・」

 

 シロは悲しそうな嬉しそうな、良いも悪いも入り混じった複雑な顔を俯かせ、その表情を隠した。

 そして瞳を閉じて顔を上げて、きりりと真剣な顔で切り出す。

 

「トオル君。いえ、マスターは勘違いをしています」

「え?」

 

 これまで向けられたことのない意識に虚を突かれた。

 

「マスター。私だって生きてます。楽しいことをすれば楽しいと感じますし、怖い体験をすれば怖いと感じます」

「・・・・・・」

 

「でも、マスターと一緒の時は違います」

「・・・・・・具体的には」

 

 「それは・・・・・・」と少し間を開けて、恥じらう少女のように頬を桃色に染めたシロは一瞬はぐらかそうと視線を外すが、すぐに透に向き直って言葉の続きを並べる。

 

「マスターが楽しくないのなら私も楽しくありません」

「・・・・・・っ」

 

 認めたくない事実を突きつけられたように、言い訳したくても何もできず俯くだけの子供のように下を向く。

 シロは一拍開けてですが、と続ける。

 

「もし、マスターが怖くないのなら、私も怖くありません」

「!」

 

 その言葉に再び顔を上げる。

 

 そこには、さっきまでの厳しい顔つきをしていたものから一転して、優しい眼差しのシロがいた。

 

「マスターが恐怖しなかったからこそ、私はハンターとして戦えました。マスターが退かなかったからモンスターと立ち会えました。マスターが背中を押してくれたから、私は立てていました」

「そんなの、思い過ごしだ・・・・・・」

 

 画面越しの事を言われてもどうしようもない。

 あの時は目の前に出てくるマンスターをただ狩っていたという感覚しかなかった。無心とも言っていいだろう。現実が嫌すぎて逃げる様にゲームに没頭していたのだ。そんなことを考える暇すらなかったのだ。

 

 だから、そんなふうに言われる覚えなど・・・・・・。

 

 また沈んでいく頭をシロにがしりと掴まれて無理矢理上に上げられて顔を寄せられる。

 眼前に彼女の端麗な色白の顔が見えて必死にはなれようともしたが、引き寄せられる力の方が強くて抜けられない。

 せめて視線だけでも逸らそうともしたが、惹き付けられる彼女の視線に釘付けになっていた。

 

「でも、マスターが悲しんでいるなら、私だって悲しいのです」

 

 

 

 

 だから。

 

 

 私はマスターの下に来たんです。

 

 

 

 

 言葉にしたか分からない。

 けれども、シロの声は届いた気がした。

 

 一目で本心と分かる。

 そんな気がしてくるほど、その時の彼女は美しく思えた。

 

 

 そんな優しい顔をしていたシロは今度は頬を膨らませてしかめっ面をする。

 急なジト目に物おじして、動かなかった視線がやっと自由になると同時に横にスライドさせてしまった。

 

「けど、今トオル君が楽しんでいるようには思えません」

「うっ・・・・・・それは」

 

 ずっと彼女が楽しんでいるかどうかを考えていた。

 自分のことなどどうでもいいと気持ちをほっぽりすてていた。

 それでは駄目だったようだ。

 

「ちゃんとトオル君も楽しまないとだめですよ?」

「・・・・・・・はい」

 

 そう言いながらシロは俺の頭をゆっくり撫でてくる。

 外と言う環境もあって人目もあるのだが、恥ずかしさよりも嬉しさが強いというあたり自分も相当なんだろう。

 

 幸福感に溺れそうだ。

 

 

 

 ややあって昼食。

 園内にあるファストフード店で済まそうと、今度は二人で話し合って店を決めた。

 先程のやり取りを誰かに見られていたのか、店内で視線を何度か感じた。思い過ごしかと思って振り向いたら目線を逸らす人が何人かいたので間違いないだろう。

 

 なんとなく居心地が悪いと言うか、背中が痒い思いだったので早足に注文を取って店の隅で食べた。

 

 

「午前は私が楽しんだので。今度はトオル君が行きたいところに行きましょう!」

「それはいいんだけど、シロ大丈夫?」

「私は何処でも大丈夫です!」

 

 腹拵えを済ませて何処に行こうかと二人で話す。

 午前はシロが楽しめそうなものを中心に、絶叫系のアトラクションを中心に乗り進めていたが、今度はシロの提案により俺の行きたいところに行くことになった。

 

 そしてついたのはホラーハウス。

 

 

「ここなんだけど」

「ひゅ」

 

 大丈夫かな。

 

 

 中に入ってからはそれはそれは酷いものだった。

 

「きゃぁぁぁぁあああああああ!?」

「シロ、落ち着いて」

 結論から言えばシロが怖さのあまりその場でへたりこんで泣きわめいていた。あまりの泣きようにスタッフの人が出てくるぐらいには泣いていた。

 

「もうやだぁぁぁぁ・・・・・・!!!」

「うん、もうすぐ出れるから」

 

 そのあとは泣き止まないシロの手を引いて出口まで連れていったのには中々恥ずかしかった。

 

「うぅぅううぅぅぅぅ・・・・・・」

「もう出口だからね、頑張ろうね」

 

 ようやく外に出ても引っ付いて離れようとしないシロを近くのベンチで休ませていたら、そろそろ夕方に差し掛かることになっていた。

 

「シロ、最後にあれに乗ろう」

「今度はなんですか・・・・・・?」

「観覧車」

 

 

 

 

 ゆったりと回る円形に組まれた鉄骨に、多数のゴンドラが円の縁に繋がれてぶら下がっている。

 高さはそれなりにあるようで、ジェットコースターよりかは低いが二、三階建ての家よりかは断然此方の方が高さがあり、遊園地より外の景色も一望出来るぐらいには高かった。

 

「さっきはごめん、まさかあんなに驚くとは思わなかった」

 

 目の前に座るシロに頭を下げて謝罪をする。

 シロは半ば虚ろな目をして席に腰かけ、どこか遠いところを見ている。申し訳ない。

 

「大丈夫、大丈夫、じゃないかもです・・・・・・」

「ごめん」

「いえ、私も、大分取り乱したので・・・・・・」

 

 なんとか平静を取り戻したシロは背筋に力を入れて身体を起こす。乱れた髪を抑えながら正して俺の方と、外の風景を交互に見て気分が落ち着いたのか息を吐いた。

 

「キレイですね」

「うん」

 

 傾いた夕日が赤い色を増しながら落ちていく。

 夕陽に照らされたシロと、ふと目が合った。シロは何も言わず、ただ微笑んでいる。それだけでも画になるのは美意識が疎い自分でも分かる。

 

「マスター、今日は楽しかったです」

「そっか」

 

 二人しかいない状況、シロが俺に対する呼称がいつも家に居る時のそれに戻る。

 

「マスターは楽しかったですか?」

「あぁ、楽しかったよ。すごく」

 

 素朴な質問。しかし大事な投げかけをしっかり本心から返す。

 言葉足らずであるけども、これが本心であることに変わりないから。

 

 そうしていたらシロが立ち上がって、向かい側に座っていた此方にきて、俺の隣に腰を下ろした。

 

「どうした?」

「んふふ、マスターを眺めるのもいいですけど、やっぱりこうして近くに居るのが一番好きです」

「そ、そっか・・・・・・」

「このままずっとこうしていられたらいいのに・・・・・・」

「シロ・・・・・・」

 

 本人すら声に出たのか分からない小さな声に、胸を掴まれて苦しくなる。

 思わずシロを抱き締めてしまった。

 

「わわっ、マスター?」

「ずっと」

「?」

 

「ずっと一緒にいたい。俺もそう思ってる」

「・・・・・・はい」

 

 俺の言葉を聞き、シロも俺の背中に手を回した。

 そのまま観覧車がゆっくりと回り、四分の一を過ぎるまでずっとそうしていた。

 そのまま下まで回り、二人で降りる。

 そして遊園地を出た。

 

 

 帰り道。

 

「今日は楽しかったです。ありがとうございました!」

「俺も楽しめたよ、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回は遊園地と言う事で、この前ツイッターでボソッと呟いた事に反応してくださったフォロワーさんの案を参考に執筆させていただきました。
 遊園地に行ったことが今まで片手で数える程度しかないので半分以上妄想だったりしてこんなものあるかなーぐらいの出来ですが、如何でしょうか。

 次はどのくらいかかるだろうか・・・・・・。
 死なない程度に頑張ります。


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四十二話 夏の日照りの合間の蚊

 一月一話は流石に少なすぎやしませんか?

 他にも手ぇ着けてるんで勘弁してくだせぇ。

 うるせぇ書くんだよ!

 ひぃ!


「暑いでずぅ~・・・・・・」

「うん、夏だからね・・・・・・」

 

 買い物の道中、両手に荷物を持ち、灼熱の日差しに焼かれながら帰路を進んでいた。

 電車を降りた時点で社内と外の温度差に絶望し、帰ることを諦めたりもしたが、シロの「頑張ってみましょう!」の一言でなんとか歩いている現状。後悔はない。だが幾分辛い。

 

 歩くこと数分、目の前からクラスの女子生徒複数名がそれぞれ帽子やらフードやらを被っているのを見た。向こうもこちらに気付いたようで、隣のシロを見るとあっと言ったような顔をして小走りに近づいてきた。

 

「こんちわ~シロさん!」

「こんにちわ皆さん」

「よー村崎、相変わらずほっそいねぇーアンタ」

「うっさい」

 

 山田さん筆頭に山村さんと山岡さんが間に挟まり囲むように絡んでくる女子数名。

 暑いのに引っ付くな蒸し暑い。

 

 山田さんは俺をシロから話すように引っ付いているので、女子同士の会話はあまり聞こえない。

 

 そんな時、一人の女子が会話を遮って、ふと声を漏らしていた。

 

「あれ、シロさん?」

「なんでしょう?」

 

 気になって首を向けようとするが、山田さんの腕に押さえ込まれてよく見えない。

 それなのに向こうは何も言わず、静かにしているのが余計に気になる。

 

「これって⋯⋯」

「やっぱそうなのかな⋯⋯」

「あ、あの、私の身体に何かついてますか?」

 

 額がくっつきそうなほど間近に寄られて若干仰け反りながら見られている理由をシロは女子達に尋ねるが、そんなこと耳に入っていない様子の彼女達は俺を掴んでいた山田さんを引っ張っていって、背を向けて何か話し込んでいた。

 

「(ねぇ、あたしヤバイのみつけた)」

「(なになに?)」

「(シロさんの⋯⋯見てみ)」

「(おけ)」

 

 手短に話し終えた彼女達は、ものすごく神妙と言うか、真面目と言うか、真顔に近い言い表しがたい表情で振り向いてシロの身体を手取り足取りと言った様子でマジマジ見ていた。

 

「おぉ、ホントだ⋯⋯」

 

 何か見つけたのか感心したような感想を零した山田さんは、次はこちらににやにやした顔をしながら横腹を小突いてきた。

 

「村崎ぃ~、アンタ見かけよりガツガツしてんのねぇ~」

「はぁ? 何のことを言って⋯⋯」

「いっていって! 大事にしなよ~」

「あ、ちょ⋯⋯なんなんだ」

 

 そう言って彼女達はそそくさと通り過ぎていった。

 その帰り際になんだか楽しそうに見られていたのがちょっとイラッと来たが、これも暑さのせいだろう。

 

 

「ちょっと休憩しよう」

「は、はいぃ~」

 

 咄嗟に提案して近くにあったコンビニに流れる様に入る。

 生モノこそあるが事前に氷詰めにしてあるのでまだ大丈夫だろう。

 店内は強めに冷房が掛けられていたが、熱気にやられそうだったのでこのぐらいでもちょうど丁度いいくらいに感じる。顎まで滴っていた汗を軽く拭って飲料水のコーナーまで歩いて回る。

 

「いらっしゃ⋯⋯イラッシャイマセー」

 

 入店音に気付いて出てきた店員さんがこちらを見て一瞬言葉を詰まらすが、すぐに言い直した。

 だが、どこか片言と言うか、なんだかぎこちない言い方に引っ掛かったが、そんな疑問など夏の暑さに焼かれてしまった。

 

「なんなんだ⋯⋯?」

 

 二人分の清涼飲料水を買って店を出る。出てすぐにボトルキャップをぱき、と開けて液体を流し飲む。シロも同じように飲み下していたが、口を放してもにもにと液体を咥内で転がして、飲み込んだ彼女の顔はあまり晴れたものではなく、中途半端と言うか微妙な顔をしていた。

 

「どうかしたの?」

「あ、いえ、なんとなくぬるいと言うか、思っていたよりは冷たくないのかなーと感じただけですから」

 

 「トオル君が買ってくれたのですからありがたく頂きます!」と言ったシロはまたそのまま一気に残りを飲み干した。炭酸飲料ではないとはいえ、500mlはあったはず、それを一気はちょっとまずくはないだろうか。

 

「ぷはぁ!」

「大丈夫? それ」

「やっぱり足りません!」

「暑いよね⋯⋯」

 

 暑さに項垂れそうになっていた俺とシロだったが、シロが何かを思いついたようにどこからともなく久々に見た気がするハート型のポーチから半透明の水色をした液体が入った瓶を取り出して煽っていた。

 

「シロ、それは?」

「あ、クーラードリンクです」

「へぇ」

 

 一口飲んだシロがさっきまでのだらけ具合が瞬く間に解消されて、涼しげな顔をしていた。

 

「それやっぱり効くの?」

「すごく効きますよ」

 

 飲んでみますか? と聞かれて興味本位で手を出してみる。受け取った瓶は分厚いのに氷でも持っているかのような冷たさが手の皮を刺す。蓋を開けるとドライアイスのように冷気が溢れ、下に流れていった。

 

「凄そうだね・・・・・・」

「飲んでみますか?」

「いいの?」

「どうぞ!」

 

 そうにこやかに言われて手渡された瓶詰の液体を眺める。氷をそのままの温度で液体に戻したのかというほどの冷たさと霜を瓶の口から出している目の前の物体。瓶を持つ手はじんわりと冷たく、張り付いて刺すような痛みが染みてきた。ふとシロの方を見ると、さっきまで濡れたように掻いていた汗がピタリと止まっていた。

 

「⋯⋯いただきます」

 

 一言こと呟いて、そろそろ痛みが大きくなってきていた便を握る手を口に近づけ、液体を口に含む。一先ず味わうとかは抜きにして、何も考えずに飲み込んだ。

 

「んむっ!?」

 

 突如として頭に響く金属音と痛みだす頭の内側。吐き出そうとしても飲み込んだ液体は熱された体内を冷やしながら胃に乗り、袋の中に流れ込んだ。冷たいを通り越して冷気を放つ液体は身体を真から冷やすどころか、体内から凍傷にさせるような勢いで身体から熱を奪っていった。

 

「んんんんんん~~~~~~~~っっっ!!??」

「と、トオルくぅーーん!!?」

 

 その場で腹と頭を抑えて蹲り、真夏の道路にのた打ち回る男子学生の図。傍から見れば変人か狂人だろうが、そんなことを気にしていられるほどの余裕など凍って砕けた。

 

 痛い。とにかく頭が痛い。

 アイスクリーム頭痛とかいう、あの独特な痛みがずっと頭の中で居座っている。なんなら小躍り踊っているくらいには長くいる。痛いうえ殺意が湧いてくる。

 

「はぁっ⋯⋯あ、あぁ⋯⋯!」

「トオル君、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

 

 ゆっくり、本当にゆっくりと締め付けるような痛みが退いていくが、それでも残留する痛覚が反響して余波を与えてくる。

 

 しばらく動けないままでいると、誰かが声をかけてきた。

 

「お、村崎。何してんだ?」

 

 コンビニ袋を片手にアイスを舐めていた加藤だった。

 加藤はこちらに寄ると蹲る俺に手を添えて何が起こっているのかシロに訊ねた。

 

「シロさん。村崎のやつどうしたの?」

「それが、私がクーラードリンクを飲ませてしまって、頭痛を起こしてしまいました⋯⋯」

「なにそれ、どれだけ効き目強いのそれ」

「加藤ぉ~⋯⋯だずげでぇ⋯⋯」

 

 息がしづらいので鼻声混じりになってしまっている。そんな俺を見てため息を一つついた加藤は俺を支えるように担いで立たせてくれる。

 

「それじゃ外暑いし、ひとまず俺んちに寄るぞ」

「おぉ⋯⋯」

「シロさん。悪いけど荷物持っててくれない? 俺こいつ運ぶからさ」

「わかりました!」

 

 

 

 そんなこんなで友人、加藤宅へお邪魔することになった。

 

 

 

 

 加藤宅。

 

 荷物の中で危なそうなものは冷蔵庫に避難させてもらい、後は邪魔にならないところにおかしてもらった。俺とシロは居間に通されて出されたお茶に手をつける。

 

「で、結局何がどうなってたわけ」

「さっき話した通りだよ。シロにもらった飲み物の効き目が強すぎて悶絶してた」

「改めて聞いてもわけわからん」

「俺も」

「ごめんなさい⋯⋯」

 

 落ち込むシロを撫でてやって慰める。

 誰かが悪いわけでもないのでそこまで落ち込まなくてもいいだろうに、律儀と言うかなんと言うか。

 

 少し経って、あれだけ痛かった頭痛もやっと引いてきたのでそろそろお暇しようかと思ったとき、加藤がシロの事を凝視しているのに気がついた。

 

「あの、どうかしましたか?」

「あ、あぁ、ごめんよシロさん。ちょっと気になってさ」

「?」

「全然なんもないですよ! うん!」

 

 物凄く不自然に話を切り上げると加藤は俺の首に腕を回し、耳元に小声でちょっと来いと言いながら部屋の隅につれていかれる。

 

「おい、あれはちょっと大胆じゃないか?」

「何が」

「惚けんなよこら、あれは流石に目につきやすいわ!」

「だから何が」

「あくまでシラを切るか⋯⋯まぁいいさ。ほどほどにな」

 

 やたらと嬉しそうにしている加藤に肩をバシバシ叩かれて加藤宅を後にした。

 

 帰り道。寄り道が多かった気がするが、自宅までもう少しというぐらいまで進んだ。

 そこまで歩いていて、頭の片隅で考え事をする。

 

 今日逢った人のほとんどが、シロを見て呆けていることが多かった気がする。何かあるのは確定だと思うが、誰に聞いてもはぐらかされて教えてはくれなかった。

 

 家に着き、荷物を持ち替えたりともたつきながら扉を開けて、家に入る。

 

「ただいま」

「帰れました~」

 

 直ぐ様エアコンを掛けて、荷解きをしながら冷気を浴びる。

 早急に生物を冷蔵庫に搬入させて、次に野菜など大丈夫なもの、麺や調味料など常温で置くものを定位置に置いてやっと終わる。

 

 一段落着いたので、何か飲み物を淹れて休もうとコップにアイスココアとアイスコーヒーを淹れて、先に休ませていたリビングに居るシロの方を振り向くと、何やら首もとや背中に腕を回してかきむしっていた。

 

「シロ、どうした」

「あ、マスター、体が、かゆくってぇ⋯⋯!」

 

 半泣きで掻き回しているので持っていたコップをテーブルに降ろして、食い止めるように宥める。

 

「多分蚊に噛まれたんだろう。あんまり掻いたら余計に酷くなるから止めな」

「でも、でも、ますたぁ~~⋯⋯!」

「薬取ってくるから我慢して」

「わかりました⋯⋯」

 

 何処に置いたか忘れかけていた救急箱を探して、痒み止めの塗り薬を持ってくると、掻きたい欲求を寸のところで我慢していたのか、餌付けで待てを強要されて理性が崩れかけている飼い犬のように身を低くして座り込んでいた。

 

「そんなに痒い?」

「痒いですぅううう!」

「あ、うん」

 

 今にも幹部に手をかけそうになっているシロの手を掴んで軽く強引に引き剥がし、腫れてあろうところを確認すると、首筋に小さな膨らみがあるのが見えた。それも胴に近い首もと。

 

「首筋か、なんかキスマークみたいな⋯⋯キスマーク?」

 

 そういや今日の帰りがけに会う人は皆、シロに視線を向けては何かを悟ったように気を逸らしたり茶化してきたりと様々ではあるが辺な気を使っていた気がする。

 

 絡んでにやにやとしていた山田さんたち。一瞬固まっていたコンビニの店員さん。加藤。

 

「なるほど、つまり、これを勘違いして」

「マスター?」

 

 エアコンの風に当たって冷えていた頭が沸騰してくる。気づかなかったことによる羞恥心と、からかわれていたと言う事実に対する怒りが混ざってどうしたものかと震えてくる。

 

「あの、マスター。塗って、くれないのですか⋯⋯?」

 

 お預け状態で耐久させられていたシロが泣く寸前まできているので、今は痒み止めを塗ることを有線放送する。

 

「ちょっと染みるだろうけど、我慢してね」

「はいっ⋯⋯」

 

 薬液を少し染み出させて幹部に当てる。火照った体、しかも首筋と敏感なところに当てられたシロはぴくっと背筋を跳ねさせた。

 

「ひんっ」

 

 ハッカのような清涼感が漂うその液体は、使い心地は独特だが、効果は確かにあるものだ。

 薬用液特有の滑りのある液体なので、塗るときは若干の気持ち悪さが伴う。シロもそれを感じているのか、眉を寄せて唇を噛んでいた。

 

「ん、んぅ、あっ⋯⋯」

 

 だからといって声を漏らすのはやめてほしい。

 早急に塗り終わって患部から容器を離す。

 

「はい、終わり。他に痒いところない?」

「実は腰の辺りも痒くって、そこもお願いできますか?」

「ん、わかった」

 

 そう言うと彼女は後ろを向いて服をたくしあげ、更に履いているスカートを少しだけ下ろしたのだった。

 

「ふぅっ」

「ではお願いします」

「ま、任されました」

 

 血色のよい色白できめ細やかな柔肌。少し浮き出た背骨や骨盤で陰りが見えるのが、より生々しさを醸し出す。

 いかん、見とれている場合ではない。

 邪なことを考える気持ちを抑えて、真面目な気持ちで再度目を向けると、腰部右側に赤く膨らんだ凸を見つける。

 

「これか」

 

 さっさと薬を塗って休もう。

 でないと頭が煮えそうだ。

 

 また容器の先端に薬液を染みださせ、ぺとりと湿った音を静かに立てて当ててやる。

 

「んんっ」

「」

 

 無心だ、無心を貫け。

 シロの声に反応するな、良いとか思うな、静まれ俺の邪心。

 外面なんとか平静を保つ。これまで大胆な接触とかはそれなりにあったのだ。タカが嬌声程度なら我慢も簡単だろう。耐えて見せろ俺の息子。

 

「ひぅっ!」

 

 無理そうです。

 存外慣れていないようだった。

 

 俺は崩れかけている理性が崩れ切ってしまう前にこの生殺しのような作業に終止符を打ち、とっとと塗り薬を片付けに走った。

 

 戻ってみると、痒み止めの効果が出て来たのか、息をついて涼しそうにしているシロの姿があった。

 

「どう、落ち着いた?」

「はい~、はしたないところをお見せしました」

「いやいいんだ」

 

 危なかった。

 

 一波乱の末に啜ったコーヒーは、煮えた頭を冷やすには少し温かった。




 と言うわけで蚊です。
 大分前に頂いた案を今回やっと採用させていただきました。
 この場を借りて感謝申し上げます。
 ありがとうございます。

 番外何を書こうか悩んでますが、まぁ同じようなおいおいおい。

 ご感想等ありましたらお気軽に投稿ください。


 では。


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