みえない愛ときこえない声 (ゆりかご5735)
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みえない愛ときこえない声

 

 

「優香?いる?」

 

「いるよ美香、ちゃんといるよ」

 

「うん…」

 

 

 

 

私の幼馴染みの美香は生まれつき

『目が見えない』子だった、

 

『体の感覚が人より弱かった』

 

手を繋いでもその感覚があまりないらしい…

 

今こうして手を繋いでいても、

 

その温もりを感じているのは私だけ…

 

こういうと美香は傷つくと思うけど、

 

私は美香をとても可哀想だと思う

 

 

 

 

「優香…いるよね?ちゃんとそこにいるよね?」

 

「うん、いるよ、大丈夫だよ、ちゃんといる」

 

私が隣にいることで美香を安心させてあげられる、

 

美香には私がいないと駄目なんだ…

 

私は美香に必要とされている、

 

それがとても嬉しかった

 

「優香…」

 

「うん、いるよ」

 

「…大好き」

 

「…!…うん、私も」

 

 

 

初めてのキスは私からした

 

当然だよね、目が見えるんだから、

 

私が美香をリードしなきゃ

 

「美香…触っていい?」

 

「…うん」

 

「じゃ、じゃあ…いくよ」

 

「…うん、いいよ…」

 

「あ……ん…」

 

「やっぱり美香でも、ここ触られたら少しは感じるんだね」

 

「…んん…」

 

「可愛いよ…美香…」

 

おかしな話だけど…

 

Hしてる時だけ、美香と私はお互いの温もりを感じあうことができた…

 

美香も私を感じている…

 

なんだか心が通じあったみたいで少し恥ずかしかった

 

 

 

「優香…私ね…優香と出会えてよかった…」

 

「どうしたの…?なんだか今日は素直だね」

 

「えへへ…ねぇ優香…」

 

「ん?」

 

「私ね…自分でも変だと思うけど…目が見えなくてよかったって…こんな体でよかったって…思うの」

 

「…?どうして?」

 

 

 

 

「だって…優香は私が可哀想だから、私と一緒にいてくれてるんでしょ?」

 

 

「え…?」

 

 

ドキッとした…

 

なぜって、私は美香のことを可哀想だと思っていたからだ…

 

でも、違うよ

 

私が美香と一緒にいるのは純粋に美香のことが好きだからだよ…

 

そう言おうとしたけど、なぜか言葉が詰まる…

 

本当にそうなのだろうか…

 

美香の言う通り、

 

可哀想だから一緒にいるのだろうか…

 

自分のことなのに分からなくなる…

 

だってそんなこと考えたこともなかったから…

 

 

「優香?」

 

「…美香…ごめん…」

 

「どうして謝るの?」

 

「私…美香にそんなふうに思わせてたんだね」

 

「…?」

 

「美香はそれでもいいの?私が美香と一緒にいるのは、美香が可哀想だからって理由でも」

 

「うん、別にいい…優香が私の傍にいてさえくれればそれで…」

 

複雑だった…

 

私は本当に美香のことが好きだったのに…

 

美香にはそれが伝わってなかった…

 

それとも私は本当に美香が可哀想だからという理由で一緒にいるのだろうか…

 

あまり考えたくないな…

 

これ以上悩むとおかしくなりそう…

 

 

 

 

「あ…あ…美香…!美香…!」

 

「優香ぁ…ちょっと…いたい…」

 

「あっ…ごめん」

 

「ううん…続けて…」

 

今日の私はなんだか変だった…

 

何にイラついてるんだろう…

 

美香とのHがひどく乱暴になってしまう…

 

多分焦ってる…

 

もっともっと美香と一緒になりたい、

 

美香に好きだという気持ちが伝わってほしい…

 

そういう感情が焦りに繋がってるんだと思う…

 

 

 

「美香…今日はごめんね…なんか私…駄目だね」

 

「ううん…そんなことないよ、私…優香にならどんなことされても平気だよ」

 

そう言って笑う美香、

 

手首にできた大きなアザが私の目を逸らさせる…

 

私…最低だ…

 

あの日からだった…

 

私が美香に対して引け目を感じていたのは…

 

私は少しづつ、

 

美香との距離を置いた…

 

このままでは美香を傷つけてしまう…

 

心も体も…

 

私はどうしたらいいんだろう…

 

何が正しいんだろう…

 

何が私にとって幸せなんだろう…

 

何が美香にとって幸せなんだろう…

 

 

 

 

 

美香とはもう何年も会ってない、

 

中学卒業と同時に美香とその家族は遠くへ引っ越してしまったからだ…

 

私から距離を置いたくせに、

 

私がいなくても平気かな?なんて心配してる

 

私ってほんと最低…

 

美香を傷つけまいと距離を置いたけど、

 

やっぱり寂しかったよね…

 

辛かったよね…

 

悲しかったよね…

 

私に嫌われたって思ったかな…

 

ごめんね美香…今でも美香のこと大好きだよ…

 

 

 

 

美香の病気が悪化したと昨日電話があった…

 

美香の病気はとても重いもので、

 

まだ治す薬とか、

 

進行を遅らせる薬とか

 

できてないんだって…

 

美香のお母さんが言うには、

 

全神経が麻痺してる感じで

 

ほとんど体を動かせない状態らしい…

 

私は電車の中で必死に祈る

 

神様…お願いします…

 

どうか美香を助けてください…

 

お願いします…

 

 

 

 

 

「美香、優香ちゃんが来てくれたよ」

 

「美香…久しぶり」

 

「……ュ…ウカ…」

 

虚ろな目がこちらを見つめる、

 

見えないその目で私を見つめる…

 

もうあまり喋れないんだ…

 

私の目から涙が流れる…

 

なんか、昔に戻ったみたいだ

 

 

 

「私の声…聞こえる?」

 

「…ュ…ウカ…ぃ…ルノ?」

 

「いるよ…美香…ちゃんといるよ…」

 

「…ごめんね…美香…」

 

「…」

 

「私ってほんと馬鹿だよね…美香の気持ちなんも考えてなくて…覚えてる?中学のとき…私が美香を避けはじめた時のこと…私ね、良かれと思ってやってたんだ…馬鹿だよね…ほんと…」

 

「…バ……ヵ…」

 

「…うん…馬鹿野郎だよ…」

 

 

それから私はずっと美香に声をかけ続けた…

 

毎日毎日美香の傍でずっと声をかけ続けた…

 

 

 

 

 

「美香…来たよ」

 

「…」

 

「うん…いるよ…ちゃんといるよ」

 

私はいつまでも声をかけ続ける…

 

美香が完全に動けなくなっても…

 

美香がまったく喋れなくなっても…

 

美香が安心できるように…

 

ずっと一緒にいてやれなかったこと

 

私はこれからも後悔し続けるだろう

 

いつまでも…声をかけ続けながら…




終わりです

最後まで読んでくれてありがとうございます


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