突発短編 艦これ (からすにこふ2世)
しおりを挟む
突発短編 艦これ
私達は長い間深海棲艦と戦い続け、多くの犠牲を払いながらも母港へ帰還した。
母港には多くの艦娘達が待っていて、最初は歓迎してくれるのかと思った……まあ、ある意味間違いではなかった。
帰港した私達を歓迎したのは、イナゴの群れのように飛んでくる砲弾。蜘蛛の糸のような、芸術的で濃密な軌道を描いて襲い掛かる魚雷。太陽を隠すほどの航空機。連戦に次ぐ連戦で、疲弊し、ようやく母港に帰れると思って安心しきっていた私達は、驚愕の中で砲火の嵐に飲み込まれ、轟沈した。辛うじて生き残れたのは私だけ。痛みと流れ出る血に涙を流し。歯を食いしばりつつ、追撃を振り切った。いや、もう放っておいても轟沈すると思われたから、見逃されたのかもしれない。 それもそうだ。もう私は脅威ではない。武装を全て失い、燃料はもはや残っておらず、機関部もすでに熱の限界を超え、体を焼き始めている。私が轟沈するのも時間の問題だろう。
「一体、どうして……何故!!」
海面に膝をつき、怒りと屈辱、悲しみ、色々な感情がごちゃごちゃになった状態で、全力で海を叩く。母なる海、と呼ばれるだけあり、海はその圧倒的な包容力を持って私の感情を飲み込む。塩辛い涙が溢れだし、さらに味の濃い海に溶け込む。
しばらく泣いた。わけがわからないほどに泣いた。ワタシハ、私達はあんなに頑張ったのに。私達はあんなに沢山の『敵』を倒してきたのに、どうしてあんな仕打ちを受けなければならないのかと。理不尽さに泣いた。
そして、涙がようやく止まった頃。丁度海面に映った『敵』の姿を見て慌てて振り向く。しかし誰も居ない。
まさか、と思い再び海面を覗き込む……
「わた……し?」
肌は死人のように青白くなり、目は海のように青く。提督に褒めてもらったことを誇りにしていた髪は真っ白に。一目見ただけではそうとわからないけれど、『ソレ』は間違いなく『私』だった。
一瞬思考が黒く焼き切れた。
「うわああぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」
何も無い海の中心。光すら飲み込む、私の心より真っ黒な海。その中心で叫ぶ。ひたすら叫ぶ。
涙が止まらず、鼻水だって出る。それでも叫ぶ。
もう帰れない。あんなに好きだった提督にも、もう会えない。もう話せない。あんなに私を慕ってくれていた駆逐艦達にも。世話を焼いてくれた空母達にも。皆に会えない。
嫌だ。そんなのは、嫌だ。こんな現実は狂ってる。だけど、認めるしか無い。
ワタシハ、シンカイセイカンニナッテイタ
目次 感想へのリンク しおりを挟む