何回も転生した奴が名もない世界に転生しました。 (オット)
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プロローグ

良し、今回の分はコレで終わりかな、夜月、次の転生はもうそろそろのはずだ、どこに転生するんだ?

 

「あー、今回はアニメとか漫画の世界じゃなくて普通の世界だね。」

 

なるほど、ある程度の事前知識ってのは無理か、まぁ良いさ、どういう世界なんだ?まぁ今までの傾向からしてまた凄い世界なんだろうが。

 

「えーっと、魔法があって、魔力があって、冒険者ギルドなんかがあるっていう、良くあるファンタジー。」

 

まぁ割と比率多いから仕方無いか。

 

「最近は特典なんかは全然使ってないけど、大丈夫?」

 

言っても魔力がある程度あればそんなに苦労はしないし、最悪家宝か国宝扱いで紅黒龍作り出せばいける、コピー品でも良いからな。

 

真打は威力が高すぎていけねぇ。

 

「あはは、あれ元々神殺し出来るスペックだからね。多分エヒトの時みたいに中級くらいまでだったら割と一方的に殺戮出来るよ。」

 

神は人間にしか殺せないっていう法則無かったら戦争だらけだもんな、良くも悪くも。

 

「まぁ、取り敢えず、行ってらっしゃい、ヒロインは勝手にこっちで用意しとくね。」

 

要らんわ!!

 

自分が落ちていく感覚と共に暗闇に包まれる。

ーーーーーーーーー

「〜!!」

 

「・・・せ!」

 

いきなり騒がしいな、今回はどんな身分だ?それによって変わってくるぞ・・・。

 

背中が叩かれる。

 

激痛で思わず叫ぶ、苦しいと思ったら呼吸して無かった、危ねぇ。

 

「〜〜!!〜〜〜〜!!」

 

ヤッベェ、いつもの事ながら何言ってるかわっかんねえ。

 

気長に待つか。

 

毛布で包まれる、誰かに抱かれ、一気に眠気が襲いかかって来た。

 

こういう時は大人しく寝るに限る。

 

スヤァ。

 

ーーーーーーーーー

そして俺が生まれてから数日経った、暫くは婆さんや、女性が俺の世話をするようで色々と話しかけられている、俺の母親は多分まだ寝込んでいるだろう、というか、そうでなくては困る。

 

俺の目もちゃんと開き、腕や足が無いということもなく、至って健康な男子として生まれた。

 

コレで女だったら絶望してたがちゃんと息子があるのを確認した、愚息よ、世話になるぞ。

 

ただ、赤子の視力では目の前の人物すら分からないので自然と眼を細める事になった。

 

言語すら分からないのだ、せめて顔ぐらい覚えないと俺の貧困な記憶力では関係性すら持たせられん。

 

そして安定の母乳チューチューでは無心になった、今は息子なので別に恥ずかしがらなくて良いのだが免疫をつける為にも母乳は飲まなければ俺が死ぬ、というか家の色や布の質から平民とか村人の身分っぽいので余計に体を丈夫にしないと最悪捨てられる、せめて幼児くらいになるまで保護下にいなければ。

 

そしてまた数日経つと何か違和感を覚えた。

 

と言うのも余り汚れていないのだ、俺だって筋肉が育っていないからおねしょや大の方を漏らしているのに布が常にある程度の質のものが出てくる、まぁ部屋着を切って布にしたりしている所もあるので不思議では無いのだがなんて言ったら良いのだろう、その布が緑色の絹のようなものなのだ、絹のようなやつとかいくら何でも金が足りない。

 

現代で言うならふかふかのバスタオルのようなものだ、魔法があるとはいえこのレベルがあるのはおかしい、帝国や王国の首都などならともかくここは部屋の内装からして田舎の木造の家だ、そんな物があるのは生産地でもなければおかしい、その筈なのに時たま訪れる婆さんなんかの服はガサガサっぽいのだ、流石に推測しかできないからキツイ。

 

体が育つのを待つしか無いか。

 

母親と思われる女性が胸を晒した、また母乳タイムか・・・。

 

ーーーーーーーーー

数ヶ月経った、おかしい、魔術が発動出来ねえ。

 

俺の魔術は転生した世界にある魔法の適正によって左右される。

 

例えば火を放つ魔法があったとしよう、魔法の法則はほとんどの場合2つか3つ、魔法陣なんかを使えばもう少し複雑に効果を発揮させられる。

 

法則の1つ目はまず適性がある事、これはステータスプレート、魔力の資質などに現れる。

 

スキルの様な形ならば魔法《火》とか火魔法とか表示は色々ある、そして俺の魔術は世界によってそれが変わる、大前提としてその分類の『魔法』が使える事が前提なのだ。

 

では魔法が無い世界ではどうなるのか?使おうと思えば使えるが魔力消費なんかが馬鹿でかい、ハジメの作ったクリスタルキーの燃費がアホみたいに悪いのもこれが原因だ、世界を渡る事自体は魔力はそこまで必要ではない、せいぜい勇者ほどの魔力があれば良い、だが行った先の異世界で魔法を使おうとするには適正を取得する必要がある、伊丹や帝国の奴らに行った魔術の言い訳もここから来ている。

 

俺の場合は天使だからか負荷はそこまで無いが命を削って小さな魔術1つ、何て事もざらにある様なので何も言わない。

 

話を戻そう、俺が使える筈の魔術を常用のものを使えないという事はまず、魔術での物量戦が出来ない、俺の適性が無いからだ。

 

次に荷物を魔術で作った空間に入れられない、そういう魔法を付与した入れ物があれば良いんだがな。

 

そしてこれが一番ヤバい。

 

俺の眷属含め武装などの戦力類が使えない。武器は現地調達、つまり新しく俺が作るか誰かに紅黒龍の様な専用装備を作ってもらわないと満足に暴れる事もできない。

 

ヤッベェ、コレでこの世界がスキルレベル制とかだったら少しずつレベル上げとか出来るんだが・・・自我があるのも厄介だな。

 

・・・どうしようか。




間違ってあとがき無しのやつあげちまったよ・・・

プロット無し、世界設定のみ、というかぶっちゃけ行き当たりばったりのノリで出来た作品だぜ。

そして私は懲りずに自分の面白いんじゃね?という直感とノリで書き上げる日々に戻るぜ。

そういう点ではありふれって色々自由に書けるから良いよね、アレが完結したらこっちの小説の更新速度が下がると思ってくれ、ある意味繋ぎだ。


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カルト

1歳になった、時間がとても長く感じる。

 

ハイハイができる様になった。

 

鍛えよう。

 

そして寝ながら色々見てると俺の世話をしている女性は金髪の女の人で美人だった、顔の半分くらいやべえ火傷してたけど。

 

その女性は俺の母親で、たまに来るお婆さんは何かの魔法職?見たいで少しずつ俺の事も分かってきた。

 

俺の名前はゼルという名前らしい、呼びにくい。

 

婆さんは母さんを大事にしている様で来るたびにいろんな話をしている、その会話を聞きながら言葉を覚えていった。

 

そして俺はいつも使っている回復魔術をしながらの高速筋肉増強法が出来ないので地道に努力する事にする。

 

ーーーーーーーーー

半年くらい経った、母さんが泣いていた、何も言えねぇ、俺にご飯くれたらそのまま泣き疲れたのか寝てしまった。

 

仕方ないのでじっと見ていた。

 

そう言えば父親居ないけどどこ行ったんだろうか。

 

少しずつ扉が開き、婆さんが俺を見て悲痛そうな顔をして母さんの近くで立ち尽くしていた。

 

マジでどういう事ですかね。

 

ーーーーーーーーー

次の日、よく分かった、これ多分生贄かなんかにされた、だって男の集団が俺を抱えて祭壇みたいなところに連れてこられて供物みたいに置かれてるもん、どういう事だってばよ。

 

そしてそのまま暫く経つと誰かの足音がした、獣とかそんな感じの足音じゃないから人かな?

 

「・・・ほう、何事かと来てみれば、幼子が一人で生贄にされているとは・・・なかなかどうして。」

 

黒い細長い人・・・人かこれ。

 

えっマジで何これ、絶対こいつ人間じゃねえぞ、絶対人外の類だぞ、美人な魔女とかだったらいいなとか思ってたけどこれマジで人じゃねえ、何だこいつ。

 

「これはまさか私への供物か?だとすればなんとも言えぬな、お主にも迷惑を掛けるな、勝手に生贄になどされて。」

 

本当にそうだな、ところであんた誰よ。

 

「・・・興が乗った、お主を少しばかり育ててみよう、人間など育てるのは初めてだ、許せ、幼子よ。」

 

「・・・。」

 

離乳後で良かったな、あんた、赤子だったら死んでたぞ。

 

「そうそう、名を名乗っていなかったな、私は聖霊のカルトという、覚えておきなさい。」

 

カルトとか嫌な予感しかしないんですけど。

 

「まずは言葉から教えてみるか、私の家へ来るがいい、稽古くらいならば付けてやろう。」

 

戦闘前提っすかカルトさん。

 

ええ、キツイですよこれ、マジで、だってこのエ○ダーマン見たいなこのカルトさんなんか絶対手出ししたらやばい系統だろ。

 

「お主が大きくなった時が楽しみじゃな。」

 

俺としてはものすごく怖いのが意見でありますカルトさん。

 

俺の内面など露知らず、カルトは暗闇へ歩き始めた。

 

カルトに抱えられている俺は予想以上に高い視点に少しばかり恐怖しながら暗闇の向こうを見ようと躍起になった。

 

「私は闇を操作する事が出来る、特別にお主にも加護を与えてやろう、暗闇の中でもよく見える様になる。」

 

そう言って頭に触られた瞬間情報量が増えすぎて気絶しそうになった。

 

というか一瞬気絶した。

 

「すまんな、加護を与えるなど初めてであったから加減間違えてしもうた、だが、無事な様だな、問題なかろう。」

 

独り言多いっすね。

 

「さて、見えてきたぞ、あれが私の、お主の家になる家じゃ。」

 

家の外見は暗闇の中にポツンと立っている木造の家、だろうか、山奥のコテージといった方が分かりやすいか。

 

「まずはお主の服からじゃの、ほれ、軽く作ってやろう。」

 

そう言った瞬間俺の体にピッタリと合う着脱可能な緑色の絹のようなふくが纏わり付いた。

 

「どうじゃ?私特製の聖霊布じゃぞ、貴重な物じゃ、嬉しかろ?」

 

それうちの村で腐るほど使われてたんですけど、というか制作元あんたかよ。

 

という事はアレか?俺の村はカルト教団の村とかってる貼られてる?うわ嫌すぎる。

 

何はともあれそれから俺とカルトの共同生活が始まった。




狂信者とか異常者の代名詞の様なカルトではなく普通に聖霊の名前です、名前はノリで決めました。


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成長記録

三歳ほどになった、俺はカルトの教えでみるみるうちに知識をつけていき、俺の中身とカルトの喋り方強制(矯正ではない)で大人っぽい?喋り方になった。

 

俺も大分喋れるようになったので普通に話せるのはありがたい。

 

そして俺が言葉を喋られるようになると同時にこの辺りの地理と歴史を習うことになった、五千年前からの歴史知ってるってカルトの歳がわかんねぇな。

 

因みにそれにともない精霊と聖霊の違いも何となくだが分かってきた、精霊は聖霊より行使できる力量に限りがあり、支配領域のようなものは群れで管理する、大精霊と呼ばれる者達も各地に散らばってそれぞれが管理しているので精霊の強化版と考えていいらしい。

 

そしてカルトは精霊ではなく聖霊、精霊や大精霊の上位者であり、一つの個体で全てを管理できるほどのスペックを持つ、カルトが司るのは闇、穢れなどのおよそ人間が持つ悪性のようなものを司っているらしい、人間が恐怖を感じる事柄全てを司るため、夜の暗闇や地の底など光の届かない場所なら自由に移動でき、少し薄暗い程度ならば影を利用して顕現することも可能らしい。

 

俺が生け贄に捧げられていた祭壇も夕方位に発見し、転移したのだと言う。

 

「私は光の一側面じゃからな、光が強いから闇が強いのではない、闇と光が強いのだ。」

 

何を言いたいのか分からんがそう言うことらしい。

 

そしてカルトがほぼ常に顕現しているこの森は昔聖霊を手懐けようとした国を滅ぼしたら光の聖霊が管理を手放したせいで暗闇一色に染まったらしい、灯りは灯せるし、ちゃんと場所さえ分かれば普通に通り抜け出来るが、魔物なども暗闇の中での狩猟手段を持っているため、冒険者達があまり来たがらないらしい。

 

その為人間達からは黄昏の森と言われている。

 

鉱石掘らなきゃと思った俺は悪くないと思う。

 

だが灯りは灯せると言っても光がない訳じゃないらしい、もう少し奥地に行けば光る苔やキノコなど、主に植物が光を放っているらしい、ただし、まばらな上にその光を利用して狩りを行う魔物も多いため危険度は高い。

 

「それがこの光ってるキノコとか苔なのか。」

 

「ぬ?ああ、それは私がいつでも消せるように品種改良したものじゃな、生存競争が激しいためか一ヶ月ほどで生まれて育ってを繰り返す種が多くての、それをかなり遅くさせ、光を放つ時間を長くしておるのだ。」

 

「はー、よくもまぁ。」

 

因みに、繁殖期には蛍のような光がフワフワと風に乗るらしいので幻想的なのだそう。

 

そして、俺を生け贄にした村はというと、まだ森の近くにあるらしい、たまに襲ってくる魔物等が嫌がるように威圧してやったとどや顔で言われた。

 

「じゃが山賊などは対処できぬからの、そのときはお主がやっつけて参れ。」

 

「うわぁ、微妙に役にたたねぇ・・・。」

 

「人間とか私の司る悪性の塊じゃぞ、一つでも操作してみよ、大混乱じゃ。」

 

それもそうか。

 

「わかった、俺が十歳以上になってからな。」

 

「それでよいのじゃ。」

 

このエ○ダーマンめ・・・。

 

因みに、魔物を司る聖霊は居ないらしい、創造神が魔物を統べるものとして群れの長を魔族や獣人など、人間の亜種を統べるものとして魔王と獣王を造り、人間は完全にフリーらしい、カルト曰くすぐ増えたから半分実験台扱いじゃの。らしい。

 

創造神は作ったものに愛などなく、今人間が掲げている聖神教会とか言うのはただの人間のエゴじゃ、とも言われた、何もしないうちからこの世界の秘密が暴露されまくっている気がする。

 

今は獣王が亡くなってから二百年ほど経ち、人間からは被差別種族とされているらしい、獣王が生まれ、人間と戦争をして勝てば逆の立場になるのだから擁護などしないらしい。

 

魔族や獣人等は生存するには厳しい場所で暮らさなければいけなくなり、創造神に直談判に来た人間が居たらしく、道のりやべぇのにお前よくここまでこれたな、御褒美あげよう、こっち来て、みたいなノリで種族を変えたらしい、そして旗頭として魔王と獣王が生まれた、というのが真実らしい、何でカルトが知ってるかって?魔族に限っては変更担当だったらしいからだよ。

 

つまり、俺もカルトに加護を与えられた関係で半分魔族の特徴を持っているらしい、魔族の特徴は身体能力か魔法がなにか一つだけ資質が現れる事らしい。

 

俺の場合は身体能力強化の魔法らしい、ただし、魔力も年齢ゆえにまだ少なく、十歳位まではまともに発動も出来ないだろうと言われた、悲しい。

 

そして魔術起動しようとしたら気絶しかけた、本当に魔力ないんだな。

 

ただ発動は出来たのでプロテインみたいな使い方で身体能力を伸ばして行こうと思う。

 

言うて筋肉痛になることが多くなるだけだからな。

 

そしてこの黄昏の森がある俺の出身国はアルダハイド王国、この森を挟んでアルカディア帝国があり、森の回りは冒険者達が勝手に作った都市国家がいくつかある、その一つに学園迷宮都市ポリスがある、創設者は異界の都市の名前だとか言っていたらしいが真偽は定かではない。

 

というかポリスって都市国家の名前だったよな、地球で、影響残しすぎでは?

 

「ところで戦闘訓練なのだがの、私との模擬戦は保留でどうじゃ?」

 

「何でだ?」

 

「いやなに、体も育って居らぬのだから手加減に慣れていない私ではほぼ確実に殺してしまうやもしれん、死なない程度の攻撃にはするつもりではあるがお主は台風や津波、噴火などに特別な手段なく立ち向かえるか?」

 

「無理だな、魔法があるならともかく、ただの人の体で天災に勝負なんて挑めない。」

 

「それが答えじゃ、そして私は人が恐怖を感じるものはほぼ全て操れる、精神的にも、概念的にも、聖霊の中でも特に支配領域が多い私では手加減など望めるはずなかろうて。」

 

カルトさん支配領域は広く浅くだったみたいだしまぁそうなるか。

 

「了解、模擬戦は止めておくよ。」

 

そして俺は簡単な長剣を渡された、三歳に与えるようなもんじゃないだろう。

 

こちとらやっとこさ歩いたり走ったりする段階だぞ、まずは筋トレさせろ。

 

ーーーーーーーー

5歳になった、筋トレの効果は出ているが、子供なのでそこまで筋肉が付いているような見た目ではない。

 

が少なくとも短剣程度ならば触れるくらいには大きくなった。

 

カルトの家には暗黒面を綴った書物があり、そのなかに暗器とか護身用の武器が載っている本があったのでねだった。

 

というか、この家から殆ど出せてもらっていないので生き残るもくそも無いのだがたまにカルトは何処かへふらっと行くときがある、その隙に本を読んでいたのだが一度官能小説を見つけてあるんだなと思った。

 

帰ってきたカルトがまだお主には早いものだとか言ったけど既に全部見てたから憶えて朗読してやった。

 

カルトが何かすごい顔してたけど面白かった。

 

そして俺はカルトが買ってきた鈍く光る短剣を渡された、きっと光を放っているので俺の位置が分かりやすいからだろう。

 

そしてカルトから渡されたランタンを手に黄昏の森へ出陣した。

 

数分後に後悔した、魔物がうじゃうじゃいて戦闘しかしてない。

 

狼の魔物だったりコウモリだったりトレントだったりの魔物が休憩もしないうちに襲ってくる。

 

俺の歩き方が悪いのかランタンが悪いのか、多分前者だな、冒険者は普通にこの森に入ってるらしいし。

 

念のためランタンを消して腰に装着する。

 

近くの木を駆け上がり、木から木へ跳ぶ。

 

だがそんなことをしていたら大物にも会うわけで、

 

岩だと思ってふんずけたものはすげぇでかい熊だった。

 

熊は俺をみて咆哮した。

 

熊の大きさは四つん這いの今でさえ八メートルほど、でかすぎる。

 

俺はまた木に登ろうとして木ごと地面を抉りとった熊の一撃をみて諦めた。

 

短剣を逆手に持って熊の横を通りすぎ様に足を切る、血が出たが筋肉を切るには至らない。

 

毛をつかんで上へ跳ぶ。

 

背中にのり、とりあえず突き刺すと熊は立った。

 

ヤバイと思って離れると背中から倒れ込んできて短剣が背中にずっぷりと突き刺さった。

 

熊は全然痛みを感じていない?ようで構わずに起き上がり俺をみた。

 

威圧感もそうだが殺気の質がヤバイ。

 

俺が持ってきていたのは短剣とランタンのみ、ランタンは武器じゃないから除外すると俺には武器がない。

 

熊は短剣の痛みすら耐えられる程度っぽいからな、取り出すには少し無謀すぎる。

 

熊の突進が迫る。

 

横に避けようとすると熊は一瞬で横へ移動した、何がなんでも俺を殺すつもりらしい。

 

「チッ。」

 

まだあまり制御できないが・・・使うか。

 

『身体強化』

 

まだ無意識に出来るほど使い慣れていないのでわざわざ声に出して使わなきゃいけない。

 

「まずは一発、ブッ飛べ!」

 

突進に合わせて大きく振りかぶった右ストレートは熊の勢いをかなり削ったが俺の体は簡単に吹き飛んだ。

 

だが、生き残った。

 

右手が動かないのできっと骨が折れている、だが足と左手は無事。

 

熊は既に振り返って俺を爪で引き裂こうと腕を振りかぶっている。

 

落下を始めた俺にピッタリと重なる軌道だ、野球ならホームランとでも言いたくなる。

 

だが、軌道が合っているということは熊は俺を見ているという事でもある。

 

「ランタン!」

 

ランタンに火が灯る。

 

暗闇のなかで戦っていた熊は急に灯ったランタンの光に目をやられた。

 

その隙に短剣を背中から力ずくで抜き出し脇の下から一気に切り上げた。

 

「ッシャオラァ!左腕は貰ったぜ!」

 

肩から先が身体強化によって大人の数倍の身体能力になった俺の攻撃で腱が切れたのか動かなくなった。

 

熊は依然として立ったままだ、四つん這いでは大きな隙を晒すことになる。

 

熊は唸っている、諦めてくれると助かるがそんなうまい話はなかった、明らかに負傷が多いのも俺、武器が貧弱なのも俺、気を抜けば死ぬのは最初から同じ。

 

対して熊は俺の会心の一撃で何とかギリギリ左腕を使用不能にした程度、確かに隙はできるが逆に言えば大事な場所を守っていれば負けることはない、逃げようにも熊の大きさ的に数歩もあれば事足りるし、何なら体当たりを当てるだけで勝てるのだ、閃光も対策さえ知っていればまず敗けはない。

 

この森の魔物はほぼ全て考える頭があった。

 

だから戦闘で有利なのは人間にもひけを取らない魔物側なのだ。

 

さて、次はどうやるか。

 

俺がそんなことを考えていると熊は左腕を噛み千切った。

 

俺が驚いているとすぐに左腕が再生した。

 

「おいおい、嘘だろ・・・!」

 

バケモンかコイツは!?

 

腕は貧弱ではあるがそれでも熊の体重を支え、更に攻撃で俺を殺すには十分すぎるほどの力はあるようだ。

 

「絶望的すぎるだろ、でもやるしかないか。」

 

短剣を構え、熊をじっと見る。

 

「おい。」

 

その時、俺が聞き慣れた筈の人物の声が聞こえた。

 

「私の子供に何をしている?」

 

カルトだった。

 

熊は既に怯えきっていて俺のとなりに現れたカルトに恐怖している、俺が何とか左腕を奪うに過ぎなかったあの熊がだ。

 

「失せろ。」

 

カルトがそう言った瞬間、熊の体はネジ曲がり、血を噴き出して絶命した。

 

「なっ・・・。」

 

聖霊というのはここまで圧倒的な力を持つものなのか。

 

俺は安心したのかへたりこむ、力がもう全く入らない。

 

カルトは安心したようにため息を吐いた。

 

「このバカタレが!」

 

そしてめっちゃいたい拳骨を貰った。

 

「っづぁあああ!?」

 

「誰が奥地まで行けと言った!?ランタンをつけていればすぐに帰ることができたであろうが!?」

 

そんなことも言っていたか、全く記憶にない、というか泣きそう。

 

「そもそもなぜロックベアになど挑んだ!?あれはまだ子供だ!お前では子供にすら勝てぬと分かった時点で逃げる選択をせんか!」

 

マジで?あのでかさの奴が子供?

 

そのあとも延々とカルトは俺に説教を続けると思ったが俺の傷を見て一旦飲み込んだようだ。

 

「その傷を治すぞ、説教はそのあとじゃ、バカタレが。」

 

「・・・ごめん。」

 

「フン、自分の命も守れぬものに、何が守れるものかね。」

 

カルトは家まで俺をおぶって歩き始めた。

 

カルトは人間じゃないが、何故か安心できる、だからだろう、俺はすぐに眠ってしまった。




魔術無かったらこんなものですね、遠距離攻撃が無いと途端に弱くなるチート主人公の図。


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人間

八歳になった。

 

身体強化もかなりの割合で操れるようになり、体に成長に合わせて魔力量も増えはじめて来たのでカルトとの戦闘訓練も追加された。

 

そして結果だが俺の身体能力では雷を斬ることも風の刃を避けることもできないのであっという間に負けた。

 

しかもほぼ真っ暗な森の中だからか雷の光が予想以上に目に刺さる。

 

閃光で視界が潰されると同時に地面に倒れていたのだ最初は何が起こったのか分からなかった。

 

そして戦闘訓練に伴いいつぞやの長剣を使ったのだが一瞬で壊れた。

 

俺の服もすぐに駄目になるので最近では真っ裸で戦っている状態だ。

 

流石に終わったら寒いので服は着ている。

 

何だか順調に蛮族への道を歩んでいる気がする。

 

そして最近では剣ではなく大剣を素振り用の得物としている、筋力がつくし何より大剣レベルのものを持てるのなら何を持っても武器として使えるだろう。

 

カルトが家の地下倉庫から取り出してくるので中身はなんだと聞くと此処を襲った人間達の死体とか武器が大量に保管されていると言われた。

 

そしてカルトは最近ではよく何処かに行くようになった、帰ってきたら泣きそうになっていたり酔っているかのように笑っていたりし始めたからきっと誰かと会っているのだろう。

 

今日もカルトは何処かへ行っている、俺は家から出て狩りをしようと思って短剣と素振り用の大剣を背負って家を出た。

 

ランタンは持っている、ランタンを灯して掲げれば家の前に転移できる。

 

熊の時は俺が興奮しすぎてそれを頭から放り出していたらしい、説明したがすぐに忘れていた辺り俺の興奮具合がよく分かる。

 

「さて、今日は何にするかな、狼、猪、蜂でもいいが、そうだ、ウサギなんかもあるな。」

 

勿論全部魔物なので俺より何かしら秀でている、ウサギに至っては撹乱が得意なので気を抜けば頭が消し飛ぶ。

 

「~!」

 

「ん?」

 

いつもとは違う声が響いてきた。

 

「~けて!」

 

「まさか人間か?何だってこんなところに。」

 

木に登り、声の方向を探る。

 

俺からみて右、走るか。

 

木の枝を足場に跳ぶ。

 

叫び声の主は女のようで甲高いからこそ位置が変わればよく分かった。

 

所々から狼の声がするので狼の集団に追いかけられているとみた。

 

叫んでいる人間の元へたどり着いた、大きな幹にもたれ掛かり、手に何かのシンボルを握りしめている。

 

「助けてください、神よ、助けてください。」

 

人間は俺と同じくらいの女の子だった、このくらいの女の子がここまで来れるはずも無いのできっと森に入った辺りからつけられていたのだろう。

 

真っ暗な森の中でやたら滅多に走り回るのがどれだけ自殺行為か、今も少女の回りに狼が集まっているが少女はそれに気付かない。

 

「仕方無い、か。」

 

少女のもたれかかっている木の上に着地する、それの音で少女は怯えているようだ。

 

狼も焦ったのだろう、群れの一匹が少女に飛びかかった。

 

「全く、何でこんなところに、俺が言えた義理じゃないんだがな。」

 

大剣を地面に刺して壁を作る、狼がそれを避けようと体を反らしたが空中で姿勢を帰ることもできずに大剣にぶつかる。

 

刃が立っている訳でもないので切れたりするわけではないが俺の出現と共に警戒心を露にした狼達は動かない。

 

「おい、今から灯りを渡すから照らせ、良いな?」

 

「は、はい!」

 

いい子だ。

 

ランタンを少女の手に渡すとすぐにランタンを照らした少女は驚いていた。

 

俺は大剣をそのままにして短剣を構える。

 

「来いよ、犬ッコロ、肉にしてやろう。」

 

狼が飛びかかってくるのに時間はかからなかった。

 

大きく開いた口に短剣を差し込み、身体強化を使って無理矢理引き裂く。

 

裂けた頭部が後ろに飛んでいく。

 

「ヒッ!」

 

「次ぃ!」

 

狼の群れの中に飛び込み、複数の爪や牙が迫ってくるが鼻っ面に掌底を食らわせると吹き飛んでいく。

 

狼の手を掴んで背負い投げをする、すると他の飛びかかった狼の攻撃を背に背負った狼が全て受けてくれた。

 

盾にした狼を地面に倒し、腹を出した狼の腹を踏み台にして飛び上がる、俺を見て上を見ていた狼の顔に向かって短剣を投げる。

 

短剣は狼の目に深く刺さり、狼は叫び声をあげた。

 

地面に降り、短剣が刺さっている狼の首を掴んで短剣を引き抜く、抜いた短剣で俺の後ろに居た狼の顔を両目ごと切り裂いた。

 

目が使えなくなった狼はがむしゃらに噛みつこうとしてきたので短剣を刺していた狼の首を噛ませて俺は上から狼の首を短剣で削いだ。

 

狼達はまだ30匹ほど居るが仲間が三体死に、もう一体も時間の問題なので諦めたようだ、大量の足音が響き、静かな空間が戻ってきた。

 

「ふぅ、おい、無事か?」

 

少女を見ると股から黄色い液体を漏らしていた。

 

「・・・はぁ、着いてこい、家に案内してやる。」

 

「あ、ありがとう。」

 

大剣を引き抜き、狼達の死体を集めてランタンを掲げる、すると狼の死体と俺達は家の前に転移していた。

 

「え!?」

 

「とりあえず中には入れ、あと、風呂沸かすからさっさと入ってこい。」

 

「お風呂!?お風呂があるの!?」

 

・・・そうか、風呂ってそんなについてないよな、というか下手したら水浸しになるか。

 

風呂沸かしながらどうしようと頭を抱える、何となくで助けたがカルトにどうやって説明しよう、と。




戦闘シーンみてやっぱ技術もった蛮賊だなと思った作者は悪くないと思います。


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アト

少女を風呂に叩き入れ、その間にカルトが帰ってくることを願う。

 

そして手持ち無沙汰だったので大剣の整備をし、短剣がそろそろ壊れかけていたので仕方無いが処分する。

 

何だかんだ何年間も使っていたものだ、素材も何か貴重なものっぽかったのでいつか鍛冶屋に行って新しくしてもらおうと思う。

 

「お、お風呂出ました。」

 

少女が出てきたようだ、布は置いていたから流石に体を拭くくらいはしててほしいな。

 

少女は布を体に巻き付けて胸元で押さえていた。

 

「そうか、お前、名前は?」

 

「・・・アト。」

 

アトね、了解了解。

 

この家はカルトによって色々な改造が施されている、地下に農園があったり薬草の群生帯に繋がる洞窟があったり、あとは何故か山羊がいたり、それのお陰か森の奥にある辺鄙な家でもある程度の生活水準はあった。

 

なので適当に飲み物を出すこともできる。

 

「緑茶か抹茶か紅茶かミルク、どれがいい?」

 

緑茶と抹茶など無い。

 

「ミルクでお願いします。」

 

「はいよ。」

 

冷えているわけではないがミルクをアトに渡す、アトもミルクを受け取って静かに飲み始める。

 

やっべぇ、何も話すことがねえから気まずいぞ。

 

「あの・・・。」

 

「ん?」

 

「何で、助けてくれたんですか?」

 

アトがそう言って俺を見る。

 

ぶっちゃけ俺も分からん、カルトが人助けはしておいて損はないと言ってはいたが、最悪この家で一生暮らしたとしても俺は不都合はないわけで。

 

「気まぐれ、だな。」

 

「気まぐれ?ですか。」

 

「ああ、だから忘れろ、もうすぐカルトも帰ってくる。」

 

「カルト?」

 

「ただいまじゃな、お主、もう少しおとなしくできんのか?」

 

エ○ダーマンが帰ってきた。

 

「お帰り、カルト、外への道を作ってくれ、こいつを返して来る。」

 

「今外は夜じゃ、今外に出しても獣に喰われて終わりじゃぞ?」

 

「・・・チッ。」

 

カルトの言葉はあまり信用出来ない、昼も夜もないこの森では眠たくなったら寝て起きたら運動するの繰り返しだ、陽の光すら無いのだ、カルトの言葉を信用するしかない。

 

「あの、迷惑だったら出て行きますけど・・・。」

 

「「行かんでいい。」」

 

「あっはい。」

 

アトはカルトを見て少しおびえている様だ。

 

「私の名前はカルトという、もしかしたらこれっきりかもしれんが、よろしく頼むぞ。」

 

「よろしくお願いします・・・?」

 

「カルト、魔物の解体するから手伝ってくれ、アトはベットが奥にあるからそれを使ってくれ。」

 

「分かりました、本当に泊まっていいんですか?」

 

「くどいぞ、カルトが朝になったと言ったらたとえ真夜中だろうが外に放り出す、それまで寝ておけ。」

 

アトはしょんぼりとしながらベットのある部屋へと向かった。

 

「お主、当たりがきついのう。」

 

「そうか?こんな場所に一人で来る様なアホなんざあれで十分だろ。」

 

「何か理由があったのかもしれんぞ?」

 

「それでも一人では無謀過ぎる、自分にできることの区別もつかん奴は破滅する、あんたが教えたことだぞ、カルト。」

 

カルトは頭を手でポリポリとかいていた。

 

「・・・ふむ、先ほどホルスに言われたのだがな、子供には旅をさせてやるがいいと言われた。」

 

「ホルス・・・確か光の聖霊だったな。」

 

「うむ、ちょうど良い、お主、あのアトという少女と共に外へ行ってみてはどうじゃ?」

 

「・・・なんで?」

 

「だから旅をさせろと言われたからじゃ、お主にはもう少しくらい世界を広くした方が良い。」

 

カルトは自分でうんうんと頷いており、満足そうだ。

 

「・・・わかった。」

 

「うむ?素直じゃな、いつものお主なら顔を顰めて言い訳を並べるというのに。」

 

「うるさい、条件がある。」

 

「・・・なんじゃ?言ってみよ。」

 

「・・・・・・・・・何かカルトを感じさせる物が欲しい。」

 

正直な所すげえ恥ずかしいが今の俺はカルトが近くにいるだけで安心するのだ、少なくとも、挫けない為に何か欲しい。

 

「・・・クッ。」

 

「く?」

 

「クァッハッハッハ!!そうかそうか!私からのプレゼントが欲しいと言うか!あっははははは!!」

 

「クッソ黙れ笑うな指差すな腹黒聖霊!」

 

カルトはツボに入った様で暫くの間笑い声が響いた。

 

「クソッ言わなきゃよかった。」

 

「フフッ、いやまぁ、問題は無いぞ、フハッ、特別な物をやろう、フフッ。」

 

「今すぐ笑えない様にしてやろうか腹黒聖霊さんよぉ・・・!」

 

「そう恥ずかしがらんでも良い、むしろ、お主の年齢でそんな控えめな願い事など・・・まだまだわがままを言っても良いのだぞ?」

 

「じゃあ・・・またこの家に来る、その時は土産話をしてやる。」

 

「フッ、私は闇の聖霊だぞ?少なくとも夜の土産話など、すぐにでも分かるぞ?」

 

「なら昼の土産話を楽しみにしてろ、なんならたまに俺のところに来て鍛錬をしてくれ。」

 

俺の言葉にカルトは薄く笑うばかりだ。

 

「・・・なんだよ。」

 

「・・・赤子から少しだけ成長した様な幼子が、既に親離れするほどに大きくなったのだと思ってな。」

 

「親離れ、ね、俺を生贄にした奴等も俺からすればどうでも良い。」

 

「自分を産んだ母親にくらいは感謝しておいた方が良かろう、私が変質させたとはいえ、お主を腹を痛めて産んだのには変わり無い。」

 

きっとカルトは母さんの居場所を知っているのだろう、それでも黙っていたということはいずれ俺を外に出すつもりだったという事でもある。

 

「それでも、カルトは俺にとって親の一人だよ、カルトの知識のおかげでここまで賢くなれたんだ、ありがとう。」

 

「・・・そうか、もうそろそろ寝ておかないと明日の朝に出発できぬぞ、ほれ、さっさと寝るがよい、少女の隣で寝るとよかろう、ベッドにもまだ広さはあったはずじゃ。」

 

「そうしよう。」

 

俺はアトの横で眠りについた。

 

ーーーーーー

「ホルスよ、お主の言った通りだったな。」

 

会って数年、我ら聖霊からすれば瞬きにも等しい時間なのに、いつの間にか息子だと思ってしまっている自分が居る。

 

最初はただの気まぐれだった、まだ二本の足で歩くこともままならない子供を、ただの気まぐれで育て始めた、大きくなり、動き始めるとそこからの成長はとても早い。

 

未だ数回しかこちらの手札を見せていないにも関わらず、幾つかの手札は既に攻略されつつある、それはあやつが天才であるという証でもあるのだが、親として、これほど誇らしいものはない。

 

(君は既に親の顔をしているよ、カルト、でも、可愛いだろう?人間は。)

 

「ああ、私は腹を痛めて産んだわけでも、ましてや奪った訳でもない、それでも、私の息子だと、そう言ってくれるのなら、全力を尽くすまでよ。」

 

暗所でのみ育つ緑藻を混ぜ込んだ布ではなく、私の血を混ぜ込んだ聖霊布を作る。

 

「すまぬな、我が息子の母よ、お主の息子もすぐに行く、私は影から見守っていよう。」

 

地下の湖に血を垂らし、魔法陣を描く。

 

緑藻は黒く染まり、黒い光とでもいうような光を光らせる。

 

「私の知識はもうほとんど授けた、技術も知らない間に身につけていた、あやつは誠の鬼よ、だがなあやつを鬼にせぬ為に私の一部を封印として使わせてもらう。」

 

光が落ち着き、湖の中に出現したのは黒い布束、これを束ね、服にする。

 

「これを着たあやつはきっと、とても男らしいのだろうな、いや、まだ子供、そんなことを考えるような物でもあるまいか。」

 

魔法でサイズも完璧に合わせるようにする。

 

およそ3時間に及ぶ精密作業を終わらせ、一息つこうとした時、カルトは気付いた。

 

「ぬ?」

 

湖の中で精霊が出現していた。

 

「私の眷属か・・・あやつのお供にもちょうど良いのかもしれぬなぁ。」

 

精霊を近寄らせ、名前を授ける、種族名インプだ。

 

個人名はあやつに決めさせようと心に決めて、カルトは服を畳んだ。

 

「あやつの武器はここで私が作るよりかは、身の丈に合ったものを使った方がよかろうて、選別はこれだけじゃな、まだまだ足りぬ気がするわい、これでも十分過ぎるほどなのになぁ・・・。」

 

(君はいつか、息子の為にその身を投げ出すかもしれないよ?いくら聖霊でも命を一つ無くせばもう別人と言っていい、それでも君は自分の息子に手を貸すのかい?)

 

「ホルスよ、あの時、お主が何故そんな事を知っているとそう思ったが、そうか、お主は既に幾度も、身を投げ出しその身を滅ぼしてきたのだな、光は不滅、故に記憶を持ったまま転生し、ほぼ同じ人格で生まれ変われる、しかし、私は闇、光が強ければ強いほど、私は強くこびりつく、願わくば、息子の生きる道が闇で覆われぬよう、祈るしかあるまいな。」

 

カルトはゆっくりと目を閉じる、カルトは闇こそが権能であり、眠りなどは意味を成さない、しかし、今だけは息子が遠くに行ってしまう親の夢へと向かって微睡んで行った。

 

ーーーーーーー

「起きなさい。」

 

カルトに起こされ、眠くなりながらも起き上がる。

 

アトも既に起きており朝ごはんにがっついていた。

 

「あんまり急いで食べるなよ・・・ふぁ。」

 

「だって・・・おいひい・・・もん!」

 

案の定すぐに喉に詰まらせていた。

 

カルトが慌てて水を飲ませている。

 

「カルト、プレゼントは?」

 

「フッフッフッ、私の力作を見よ。」

 

カルトがそう言って取り出したのは外套だった。

 

「雨を弾き、ついでに血も弾き、衝撃を吸収し、風化もせず、更に自動的に修復される上に衝撃すら緩和する!どうじゃ!?私の会心の出来じゃ!」

 

「・・・・・・・・・。」

 

俺の隣でアトも驚いている。

 

「やり過ぎだバカルトォ!」

 

「何故じゃ!?」

 

そのあと一悶着あったが結局押し付けられた。

 

外套をつけると真っ黒な割に他の色と合うため、隠れる時にもあまり邪魔にならない。

 

「こっちじゃ、私について来ればすぐに外に取られる故な、足を取られぬよう気をつけよ。」

 

「全く、何でこんな高性能にしたんだよ。」

 

「年甲斐も無くはしゃいだ結果じゃ、老婆心故のものじゃ、大人しく受け取るが良い。」

 

「ありがとうございます、大事にしますよ。」

 

「それで良いのじゃ。」

 

カルトがご機嫌すぎる。

 

エ○ダーマンの癖に。

 

アトはビクビクしながら後ろを歩いている。

 

「そろそろ森を抜けるぞ、土産話を楽しみにしているぞ?」

 

「はっ、待ってろ、たっぷり聴かせてやる、嫌になるまでな。」

 

「はっはっは、楽しみじゃ。」

 

森を抜けると俺からすれば数年間ぶりの陽の光だ、少し目に眩しい。

 

「眩しいな、ちょっと慣れるまで時間がかかりそうだ。」

 

「まずはアト少女の村に向かうのじゃ、ゆっくりしていけば良い、ではな。」

 

「ああ。」

 

さよならなんて要らんだろう、多分なんだかんだですぐに会うはずだ。

 

「えっと、道があそこだから・・・よし!」

 

「アト、道はわかってるんだな?」

 

「バッチリ!」

 

そうか。

 

「道案内、頼むぞ。」

 

「まっかせて!暗いところじゃないし大丈夫!」

 

森での怯えようは嘘だったかのように元気に歩き始めたアトに俺は後ろからついて行った。




序章?プロローグ?まぁ何はともあれ導入終わりやで、こっからは色々と話を展開しつつゆっくり進めていくことになります。

元々拙い文なのは警告してるからそんなに気負わずにかける分なかなか作者にとって面白いのが書けている気がします。

一応かなり先の方の伏線とかも貼ってるから続けようと思えばいくらでも続けられるという。


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アトの村

「着いたよ!ここが私の村!」

 

森からそう遠くない場所にあった村は穏やかな場所だった。

 

「そういえば聞き忘れていたな、お前はなぜあの森に?」

 

「・・・笑わない?」

 

「多分な。」

 

「じゃあ言わない。」

 

そうか。

 

アトはチラチラとこちらを見ているが俺は放置する。

 

それに、アトを見つけた大人が般若の形相で此方に向かって歩いてきているのだ、俺は退散する。

 

「アト!!」

 

「ヒッ!」

 

売店でもあれば魔物でも狩って金にするんだがな。

 

「た、助けて!」

 

「断る。」

 

アトから差し出された手をはたきおとし、村に入っていく。

 

俺の髪が灰色だからなのだろうが子供達が俺を遠巻きに見ている。

 

雑貨屋はあったがめぼしいものは無さそうだ。

 

「店主、この辺りに売れるような魔物は居ないか?」

 

「うん?ああ、素材になる魔物かね?この辺りはあまり魔物もおらんでのぉ、ああそうだ、ちょっとした薬があるんだが買っていくかい?」

 

爺さん・・・。

 

「大丈夫だ、薬というほどの物ではないが、怪我を治すものくらいはある。」

 

そんなものは無い。

 

「そうかそうか、しばらくしたら魔女さんがくるでのぉ、何か打診してみてはどうじゃ?」

 

「魔女?」

 

「魔女さんじゃよ、傷があるがべっぴんさんじゃ。」

 

「それは聞いてない。」

 

「ホッホッホ。」

 

店主の爺さんは笑いながら店の奥へと消えていった。

 

「大分ガタ来てんなあの爺さん。」

 

爺さんを少し気にしつつ店内を物色していると誰かが近付いてきた。

 

「おい!それ本物か!?」

 

「あ?」

 

そこには悪ガキという言葉が似合いそうなガキとその後ろに二人くらいの取り巻きがいた。

 

「こんなでっかい剣持てるとかすげェな!」

 

「あ、ああ。」

 

こんなガキだと嘘だと決めつけて襲ってくると思ってたんだが、存外純粋らしい。

 

「かっけーな!俺にも持たせてくれよ!」

 

「そうか、持てるかは分からんが、しばらくここの村にいる、少しくらいなら持たせてやろう。」

 

「やったぜ!」

 

目の前のガキが喜んでいると後ろの二人も期待するような目を向けていた。

 

「はぁ、分かった分かった、お前らにも持たせてやる、だからそんな目を向けるな。」

 

「やった!」

 

「お前は今日から俺の子分な!」

 

「おいてめぇ、それ本気で言ってんのか。」

 

「当たり前だろ?」

 

頭が痛くなる。

 

「なら、俺が今日泊まれる場所を教えてくれ、アトも今頃は説教されてるだろう。」

 

「ゲッ!?」

 

ガキはアトの名を出すと驚いていた。

 

「お前アトの仲間かよ!あんな男女のどこがいいんだ!」

 

あれそんなに男っぽいか?

 

「知らん、助けたら成り行きで来ただけだ。」

 

「そうかよ、子分ならあいつと別れろ!いいな!」

 

「そんなまた横暴な・・・。」

 

ガキは何処かへ歩いていってしまった。

 

「アホかよ、いや、アホだな。」

 

「見つけた!」

 

噂をすればなんとやら、だな。

 

「アト、宿はあるか?」

 

「無いよ。」

 

「無いのか。」

 

まぁ規模も小さいし、そんなもんかな。

 

「だから今日から私の家に泊まりなさい!」

 

「親には言ったのか?」

 

「今から!」

 

こいつら揃いも揃って・・・。

 

「何でそんな残念そうな人をみる目なのさ。」

 

「お前の言った通りだからだよ。」

 

名前、ゼルかなー、やっぱ。

 

「また一悶着ありそうな予感がするわー。」

 

「失礼な!お母さん達だったら許してくれるもん!」

 

「俺は明日になれば適当に魔物狩る予定なんだが?」

 

「じゃあ今日は泊まれるじゃん。」

 

この子押し強くない?疲れるわこのテンション。

 

「分かった分かった、そら、家行くぞ。」

 

「私の家だからね!あの家じゃないからね!」

 

「分かってるっての!」

 

アドニス連れられてアトの家まで来る、アトは扉を叩き、少し待っていた。

 

「誰だ?」

 

「お父さん!アトだよ!」

 

今気付いたけどこの家でかいな。

 

「何!?」

 

扉が大きく開き、中からアトと同じ青い髪の男性が出てきた。

 

「このバカが!」

 

あ、めっちゃ懐かしい、対応が完全にカルトと同じだ。

 

「お前には次期村長としての自覚が「アーアーアー!とりあえず話を聞いてお父さん!」・・・。」

 

お父さん凄い青筋たててるけどこの状態で俺と話してもいいのかコレ?

 

「黄昏の森で私を助けてくれた恩人で、名前は・・・。」

 

頭を押さえる、教えてないからいいんだが、親の顔くらい見ろよ・・・。

 

「ゼルです、森で狼に教われてたところを保護しました。」

 

「そうそうゼル!ゼルには今日ここで泊まって貰うから!」

 

「アァ!?」

 

そうなるよなぁ、分かるでお父さん、俺も通った道だ。

 

「お父さん!ゼルって凄いんだよ!狼の首を素手で千切り取ったりしてたんだよ!」

 

「おいなに口走ってるアト、短剣を口に差し込んで切り取っただけだ。」

 

「それにカルっ・・・。」

 

全力で口を防いだ、こいつ放置してたら要らんことばら蒔きそうだ。

 

「モゴモゴモゴ。」

 

「・・・まぁそんな感じで訳ありなんですよ、一晩だけでいいんで、泊めてください、あと、必要なら森の魔物の素材も渡しますんで。」

 

「・・・まずはアトを預かるぞ、奥の客室を使え。」

 

お父さんは目を血走らせてそう言った。

 

「有難うございます。」

 

「それでねお父さん!「お前はまず説教だ!」うわぁ!助けてゼルぅ!」

 

「おとなしく怒鳴られろ戯け。」

 

「裏切り者おおおお!!」

 

アトの叫びを聞かなかった事にして俺はアトの家に上がった。




ゆっくり更新していきます。


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狩り

「盛大にやってんなぁ。」

 

部屋の中で色々と雑事を済ませているとアトのお父さんの怒鳴り声が未だに響いているのに驚いた。

 

そういえばアトのお父さんの名前知らないんだよね。

 

暇だし、何か適当に訓練でもしとくかな。

 

そしてこの家、やはり風呂はなかった。

 

ーーーーーー

「ゼル、ご飯だよ。」

 

「もうそんな時間か、了解。」

 

「せめて汗は拭いてね。」

 

「分かってるよ。」

 

もう既に日は降りかけている、いつも訓練にはカルトとの模擬戦をイメージしているのだが大体三十秒くらいで俺が倒れる。

 

俺のカルトとの勝負ではほとんど勝つことはできない、カルトの方は円から出てはいけない、ひとつだけでも当たれば負け、道具を使ってはいけない。

 

というハンデがありながらも圧勝なので似たような戦法を取る魔術ありの俺はヤバイよね。

 

でも今はそんなこと言ってられないから本気で挑むけど負ける。

 

アトの家に入るとキッチンに一人の女性がいた。

 

「あら、貴方がゼル君ね?初めまして、私はハルっていうの。」

 

チラチラと垣間見える日本人の影響よ・・・。

 

「はい、これから数日間よろしくお願いします。」

 

「ええ、あの子のこと、よろしくね。」

 

何か違う意味で言ってませんかね。

 

「もうご飯は出来ているから、リビングに行って待っててね。」

 

「わかりました。」

 

リビングに行くとアトのお父さんがムスッとした顔で待っていた。

 

「・・・。」

 

「うちの娘を助けてくれたこと、感謝する。」

 

「ただの気まぐれだ、それに、俺は自分の事すらよくわかっていない、信用する方がおかしいだろう。」

 

「それでも、感謝は受け取っても問題無いだろう。」

 

「なら、適当に狩りするんで、素材になる物があれば買い取って貰いたい。」

 

「小さな村だ、金があるとは思うなよ。」

 

「分かってる。」

 

どうしよう、ついタメ口で喋っちゃったけどどうしよう、失礼じゃないよな?

 

「チッ、何でアトはお前を気に入ったんだろうな。」

 

「知るかよ・・・。」

 

そこからは無言で食事をする、あ、うまい。

 

「あー!先に食べてる!ずるい!」

 

後ろからアトに抱きつかれた、そのせいで飲み込もうとした食べ物を喉に詰まらせた。

 

「ハグッ!?」

 

胸を叩いて吐き出す。

 

咳をしながらアトを睨むとアトは目をそらした。

 

「あらあら、仲良しなのね。」

 

ハルさんあんたこの状況見て言うことがそれか?

 

「アト、お前後で覚えてろよ・・・。」

 

「・・・ごめんなさい。」

 

飯を食い終わったら日が暮れないうちに水を貰って体を拭く、風呂ほど綺麗になる訳じゃないが無いよりマシだ。

 

夜中の方が俺にはよく見えそうだが俺は寝る、流石にアトの強襲には疲れた、上半身裸になった時にノックなしで入ってくんのマジやめろ。

 

ーーーーーー

朝になり、大剣と短剣を持って家から出る。

 

村の入り口から出ていき、近くの森とか草原とかを探索する。

 

「いた、ゴブリンかな、初めて見るな。」

 

黄昏の森では基本的に目を使わない、目が無かったり、蛇のピット器官やコウモリの超音波のような技能を持っている魔物が多い、だから基本的に奇襲は困難、逆に彼方から奇襲されやすい。

 

だからか基本的に目に頼る人型の魔物は居ない。

 

黄昏の森の難易度が高いのはそれのせいもあるのだろう。

 

だが外では普通に光もあるし視界もある、だから俺は初めての人型の魔物との戦闘だ。

 

草むらからゆっくりと近付いていく、ゴブリンは三体ほどで固まっていて、羊のようなものを食べていた。

 

「シッ!」

 

一気に近付いて大剣で一人を切る。

 

気付いた二体のうちの片方に短剣を投げ、投げなかった方に大剣を上から叩きつける。

 

縦に両断されたゴブリンから目を離し、短剣を投げたゴブリンを見ると腹に刺さっていた。

 

「グギャ!」

 

「すまんな、死ね。」

 

首を切る。

 

頭は胴体と別れ、ゴブリンは3体死んだ。

 

「ゴブリンは確か金にならないな、町だと違うんだろうが。」

 

出来れば狼とかを殺したいが。

 

そう思って森に入るとすぐに戦闘音が聞こえてきた。

 

「助けるか。」

 

この辺りならアトの村に行くこともあるだろう、他に村があるかは知らないが。

 

音のする方に走る。

 

森の少し開けた場所で狼の群れと荷馬車を中心に何人かが固まっている。

 

狼の数は十、人間の数は4かな。

 

走りながら何をするかを決める、まず何体か狼を減らす、次に負傷者の確認、んで出来そうなら狼の全滅、この辺りか。

 

「助太刀する!」

 

狼の後ろからの強襲、攻撃は当たらなかったが大剣のインパクトはそう簡単に消せるものじゃない。

 

予想通り慌てた狼達は攻撃する前に俺を警戒し始めた。

 

「助かった!」

 

「あれくらいならヘマをしなければ問題ないさ、すぐに片付けるぞ。」

 

『応!』

 

狼に斬りかかると乱戦になるため迎撃だけにする。

 

たまにフェイントをかけて誘い出すがなかなか見つからない。

 

こうなりゃ一体だけ速攻で倒して撤退させるか。

 

身体強化で一気に狼の群れへ突撃する。

 

大剣を地面にめり込ませ、上へ力ずくで振り抜いた、すると地面が割れ、細かくなった土や石が散弾のように狼達を襲う。

 

何体か負傷し、狼達は撤退していった。

 

傷ついている狼達を始末し改めて護衛達と話すことにした。

 

「すまねぇな、あれならあんたらだけでも対処はできただろう?」

 

「それでも負傷者がでたら意味ねェよ、ありがとな。」

 

「それで?誰を護衛してたんだ?場合によっちゃもうすこしくらい手伝えるぞ。」

 

「いくら強くても子供が無理言っちゃいけねぇよ、まぁ、婆さんだからな、男二人いれば十分だ、坊主は気にすんな。」

 

冒険者とはみんなこんなに親切なのだろうか、それともこの人が稀少なだけなのだろうか、どちらにしろいい人そうで安心した。

 

「この先の村に用があるならまた会うかもな、俺の名前はゼル、よろしく。」

 

「ゼル坊、元気でな。」

 

「ああ、またな。」

 

あいつら面白いな、話してたのは一人だけだったが他の奴も中にいた婆さんと話してたり世話してたりしたし、いい人たちだ。

 

「さて、狩りを続けるかね。」

 

今日の戦果は鳥と猪一匹ずつだった。




早く進みたいけど進みすぎたらエタりやすくなるこのジレンマ、まぁゆっくりとやってくかー。


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親と婆さん

「ゼル、客人だ。」

 

「魔女さんか?」

 

「ああ、お礼がしたいんだそうだ。」

 

「別にしなくても良いんだがな、まぁ、会おうか。」

 

魔女は客間に居るらしく、アトが話していた。

 

アトが話していた相手は婆さんでフードを被っていた。

 

「あ!ゼル!おかえり!」

 

「おう、それでだ、婆さん、さっきの礼なら別に要らないんだが、何か用か?」

 

「・・・。」

 

婆さんは何も言わずに俺を見ている。

 

「おい婆さん、喋れないのか?」

 

「いや、そんな事はないんじゃ。そうか。」

 

婆さんの様子は何かを思い出しているようで俺は記憶を思い出そうとしていた。

 

「お主の名前はゼル、で合っておるのだな?」

 

「ん?ああ、俺の名前はそうだな。」

 

「そうか、そうか・・・。」

 

なんか俺の名前になんか関係あったか?

 

「お主は、私の孫だ。」

 

「・・・・・・・・・ん!!?」

 

あ、ああ!!!?そういう事か!?母さんのところに来てた老婆か!?

 

「・・・俺が・・・婆さんの孫?」

 

「私の名はマーリン、魔女と呼ばれておる、お主の母は私の娘じゃよ。」

 

「えぇ・・・。」

 

じゃあなんで俺は生贄になったんや・・・マジで何があったんや。

 

「・・・今のお主にはあまり関係ない話さね、でももし、知りたいと思うなら、あの子の村に、来て欲しい。」

 

「・・・。」

 

俺まだ森から出てきて2日くらいなんだが?何でこんなに厄介ごとが・・・。

 

「・・・。」

 

「ゼル?」

 

「2人で話したい、アト、少し部屋から出て行ってくれ。」

 

ハルさんが無理やりアトを部屋から出して扉を閉めた。

 

「婆さん、俺は何で森に捨てられた?」

 

「・・・当時村の中で疫病が流行っていた、処置も簡単で薬さえあれば気にせずとも良い疫病じゃ。」

 

「それで疫病を止めるために婆さん達は奔走したと?」

 

「うむ、そして同じく奔走していた婿殿・・・お主の父親が倒れた。」

 

「・・・。」

 

「薬を作っていたのは婿殿だったのじゃよ、人里に下りて薬の作り方を教え回っていた心優しき者じゃった。」

 

「それで倒れてたら意味無いだろうに。」

 

「・・・そして婿殿はお主を身籠ったキャロル・・・お主の母に知らせずに治療を続けた。」

 

そして死んだ、か。

 

「それで死んでたら意味が無いだろう、自分を守れない奴に何が守れるものか。」

 

カルトはいちいち真理をついてくる気がするわ、こういう話を聞いていたら。

 

「・・・キャロルは夫が死んだ事を知ると一晩中泣いた。」

 

その辺りはまだ記憶に残っている。

 

「その次の日、村の男達がやってきた、薬がたんまりあると思って私たちの家に襲いかかってきたのだ。」

 

俺その状況で寝てたのか、度胸あるな。

 

「そして、何が起こったのか黄昏の森に居る異教の神に生贄として捧げようという話になった。」

 

「だから俺が捨てられた・・・いや、生贄にされたのか。」

 

「お主が生きているという事は黄昏の森に住むのは異教の神などでは無いのだろう?」

 

「ある意味合ってるけどな、カルトだし。」

 

「!・・・そうか・・・闇の聖霊・・・なるほど、かの者が・・・。」

 

カルト本当に知名度あるんだなぁ。

 

「それでだ、俺を産んだ母さん、キャロルは・・・生きているのか?」

 

「ああ、生きておる、お主が顔を見せればきっと喜ぶ!」

 

「だから,会えと?」

 

「・・・。」

 

俺の母さんは多分、精神が死んでる、だから魔女としてこの婆さんが村を回って隊商染みた事をやっているし、薬も売っている。

 

「俺の母さんは、既に生きる活力を失っている、そこから俺があったとして、それで活力が戻ったところで一度壊れた精神が歪なまま固まれば今度こそ母さんは死ぬ、それがわからないほどじゃ無いだろう。」

 

魔術があれば、と何度も思ったが、本当に、何も出来ないこの状況は、嫌いだ。

 

「・・・俺は魔法が使えない、使えるのは身体強化のみ、それもかなり限定された状況のみだ、魔力が育てばまた別なんだろうが、母さんを救えるほどの力は俺には無い。」

 

「・・・だから、キャロルに会わないと?」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

どうする?俺は魔術が使えない、何も出来ない。

 

なのに、少なくとも、血が繋がっていて、少なくとも短い期間だったとはいえ愛を与えてくれた相手に何かできることはないのか?

 

カルトなら、いや、カルトは闇の濃度を上下させるだけで無くすことはできない、闇を払うのは光の聖霊ホルスの領分。

 

「・・・チッ。」

 

「ゼル?」

 

「文通ならどうだ?」

 

「キャロルが本物と信じるかどうか。」

 

「やってみなきゃ分からん、取り敢えず、何か書いてみる、ここに寄ったら手紙を一通書く、それをあんたが母さんに届けてくれ、そうすれば、運が良ければ、治る可能性だってあるだろう。」

 

俺は何度も転生するにあたってある程度の線引きを引いている。

 

家族は大事にする事、損を被せて利を与えよ。

 

貰った分の恩は全て返せ、と何があっても大事な者を守れ、の四つだ。

 

女だろうが男だろうが、果ては化物だろうが、それだけは守ってきた、それだけ苦しむ羽目になろうが、死にたくなろうが、それだけは。

 

だからこそ、救えるとも思えない、俺が個人で何かをできるとも思わない、それでも何かをしたい。

 

悩む時間はとっくの昔に終わった、苦しみなんざ大事な奴の笑顔で全部吹き飛ぶんだからいくらでも苦しんでやる、だから俺は他人から幸福を奪い取ってでも大事な奴を笑顔にさせる、幸せにしてみせる。

 

今すぐは無理かもしれない、でもいつかは親子として、顔を会わせる事ができるように願う。




まぁ大事な人を立て続けに2人失ったら精神崩壊くらいするよねと、しなかったらそれはそれでなかなか精神力ヤバイと思うの。

因みに2作目からの主人公の行動基準が上の四つやで。

その結果が覇王とか魔王とか死神とか言われてるんですけどね!


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魔族襲来

「よし、そろそろ魔物は少なくなってきたな。」

 

俺が狩りをしているのでゴブリン含め魔物も少なくなってきた、魔石なんかも一応集めていたが数が多いので途中から集めていない。

 

「ゼルー!」

 

村の外で大剣を振っているとアトが出てきた。

 

「おう、なんだアト。」

 

「私に剣を教えて!」

 

「無理、諦めろ。」

 

「何で!?」

 

お前大剣持ち上げようとして腰をやったじゃねえかよ。

 

「お前がところかまわずわめき散らすからだバカ者め。」

 

アトは弓はちゃんと標的に当てるんだけど近接はなぁ。

 

「とりあえず、今日は狩りするほど魔物がいる訳でもなし、帰るか。」

 

「剣を教えてよー!」

 

村も俺の狩りの成果でなかなか潤った、少なくとも一年分位は備蓄できているだろう。

 

「さて、そろそろどっかにいくかねぇ。」

 

「え!?」

 

アトいたなそういえば。

 

「俺はずっとここにいるとは言ってないぞ。」

 

「私もいく!絶対そっちの方が楽しいでしょ!?」

 

「俺が言えた義理じゃねえけどお前子供じゃねえかよ。」

 

「お父さんくらい説得する!」

 

「ハッハッハ、抜かしおる。」

 

何週間かたったけど未だに敵視されてんだからな。

 

「うぅ~!」

 

アトが唸る、やっぱ子供だなぁ。

 

一人でほんわかとしているとあのガキ共が俺達を見ていた。

 

「おう親分、何だ?」

 

「な、何もねぇよ!」

 

そうか。

 

「じゃあな。」

 

ガキ共が少し気になったがとりあえず後回しだ、ガキ共はいったい何を?

 

家につくとアトはすぐにハルさんに飛び付いた。

 

「ゼルが村から出ていくっていってるの!止めてよお母さん!」

 

「あらあら、そうなの?」

 

「はい、流石にここにずっといるわけにもいかないので。」

 

「この子の世話を任せられるから居てくれても良いのよ?」

 

「お断りです。」

 

アトが無言で脛を蹴ってきた。

 

「痛いぞ。」

 

「痛くしてるんだよ!」

 

俺はその後もアトに纏わりつかれた。

 

ーーーーーー

「おい、ゼル!」

 

寝ていると誰かにたたき起こされた。

 

「何だ?魔物でも見たのか?」

 

「違うんだよ!何か翼の生えた人が来たんだよ!」

 

え?なんで?

 

「自分の事誇り高き魔族の一人とか言ってたんだけど意味分かる?」

 

「それを早く言えバカ!」

 

俺がそういった瞬間爆発音が聞こえてきた。

 

「チッ、お前は他の手下とアトをつれて近くの町まで行け!良いな!?絶対に殺されたりすんじゃねえぞ!」

 

俺はそう言って大剣を担いで飛び出した。

 

外に出ると爆発したのは広場の様で、既に村長とハルさん、そして雑貨屋の爺さんと思われる死体があった。

 

真っ黒に変色していて誰が誰か分からない。

 

「魔術が使えれば解決できたのに、クソッ!」

 

爆発音を聞いた村人達が外に出てきて叫び声をあげる。

 

「おいおい、さっさと逃げてくれよ、人間、特別に子供は生かしてやるからよぉ!」

 

大剣を投げつけて走る。

 

魔族は飛んできた大剣を弾くが俺は下まで潜り込んでいた。

 

下から顎に掌底を撃つ、発勁も使って体にダメージを与える。

 

だが魔族は上を向いたまま一気に回転し回し蹴りを叩き込まれた。

 

咳き込む時間も無く弾かれていた大剣が俺の上に落ちてきた。

 

このままでは大剣が体に刺さる。

 

地面に接するタイミングで身体強化の度合いを上げて上へ飛ぶ。

 

大剣を掴み、俺を見ていた魔族と目を合わせる。

 

魔族は氷の槍を構えていた。

 

「見込みあるやつもいんじゃねぇかよぉ!」

 

氷の槍は一瞬で俺に当たる、俺はギリギリで大剣を間に滑り込ませる事に成功した。

 

だが衝撃が強すぎて大剣を離してしまった。

 

体勢を崩しながら地面に立つ。

 

「ッゲホッゴホッ。」

 

口から血が大量に出てきた。

 

「おいおい、大人かと思ったら子供じゃねえかよ。」

 

魔族はゆっくりと歩いてくる。

 

「お前、何でこんな辺鄙な村なんかにいるんだよ?お前の実力ならどっかの街でも行けば強くなれたはずだろう?」

 

「お前に教える義理は無いな。」

 

大剣が地面に突き立つと大剣を掴む。

 

「・・・俺にはまだ守らなきゃいけない奴がまだいるから・・・な!」

 

大剣を構えて切り掛かる。

 

「・・・ハッ、誰かを守る?出来てねえじゃねえかよ。」

 

遠くで爆発音がした。

 

そして叫び声も。

 

「・・・何をした!?」

 

「いや、ただ逃げた奴の中に爆弾を仕掛けた奴がいただけ、そんな簡単な事分かってるだろう?」

 

アトたちが死んだかもしれない、今すぐに確認しなければ、いや、まずはこいつをどうにかしないと。

 

「チッ。」

 

「ほらほらどうした?守らなきゃいけないんだろ?」

 

「・・・。」

 

精神を集中させろ、格上、なら短期決戦が一番。

 

「お?やるか?」

 

「・・・身体強化。」

 

クロックアップ発動、時間がゆっくりになっていく、色が無くなり、魔族の動きもかなり緩慢になる。

 

大剣で袈裟斬りに斬りかかるが弾かれる、手を離し短剣を投げる。

 

左手でもう一つの短剣を取り出し、刺突を繰り出す。

 

魔族は刺突を避け、手を伸ばしてきた。

 

右手で大剣を逆手に持ち、水平に切る。

 

腹に衝撃、景色が遠くなる。

 

景色に色が戻ってくると同時に骨まで響く衝撃が来た。

 

身体の節々がズキズキと痛む、身体強化の反動だ、そして、骨が折れている、コレは、キツイぞ。

 

「チッ、少し掠ったか、おい褒めてやるよ。お前の名前は?」

 

しゃべろうにも喋れないっての、くっそ、魔術が無ければ俺はこんなもんかよ。

 

「まぁ、ほっといても死ぬだろうし、俺の名前はあの世まで持って行っても良いぞ、俺の名前はアークラ、もしお前が生きてたら今度は正真正銘の本気で殺りあおうぜ?」

 

魔族、アークラは笑いながらどこかへ歩いて行く。

 

「行かせるかよ。」

 

アークラが止まった。

 

「こんな子供でも、出生すら知らない俺でも受け入れてくれたこの村のみんなを、これ以上殺させるものか。」

 

「・・・良いね、お前はここで殺してやるよ、クソッタレな戦争を始める第一回戦なんだ、盛大にやろうぜ?」

 

「腕の一本は切り落とす。」

 

魔族は心底楽しいという風に笑う。

 

「もう一回聞くわ、お前、名前は?特別に覚えておいてやる。」

 

「前兆なく襲いかかってきたクソッタレな魔族様に教えるような名前じゃないがな、ゼル。」

 

「だって目に付いたからな、本来ならこの先の街で暴れる予定だったし。ゼルか。」

 

戦闘再開。

 

同時に地面を蹴る。

 

大剣は盾として使う、一瞬で大剣が歪み真っ二つに折れる、アークラが拳に魔力を纏わせていた。

 

「ッヅァアアア!!」

 

俺も見よう見まねで同じ事をする。

 

魔力を纏わせた拳は、届いた。

 

「ガッ!?」

 

そして仰け反った隙に腹に蹴りを入れる。

 

それだけでアークラは吹き飛ぶ、だが背中から翼が生え、くるりと回転して地面に立った。

 

既に俺の下の地面は出血で赤く染まっている。

 

見覚えがある、焼けた匂い、血の匂い、叫び声と怒鳴り声。

 

「アッはは。」

 

ああ、安心した、結局俺はもう、取り繕わない。

 

「ヒャハハハハハハハ!!」

 

アークラは唐突に笑い出した俺を訝しげにみる。

 

「気が狂ったか?」

 

「いや、思い出させてくれたのさ、俺がどうしようもない殺戮者で、ぬるま湯に浸った馬鹿だったって事をな。」

 

天使としての権限発動、一部制限解放。

 

俺の体に許される限り魔力を生み出し続ける。

 

「!?」

 

身体強化の比率を加減など考えずに上げる。

 

「ヒャハハハハハハハ!!お前の言う通り!楽しもうぜ!ナァ!」

 

俺の拳が地面を削り、風を打つ。

 

「化け物が!」

 

アークラは飛び上がり上から魔法を展開した。

 

氷の槍が大量に降り注ぐ。

 

クロックアップ発動、足場が出来たのだからいける。

 

半分に折れた大剣を掴み、槍の雨の中を跳ぶ。

 

氷で遮られているのかアークラの姿は確認出来ない。

 

氷の槍が一度無くなり、アークラが掃射を止めた時、俺はアークラの上に飛んでいた。

 

折れた大剣の切っ先の部分を足に合わせる。

 

これだけ面積があれば、あとは身体能力さえあげれば地面に向かって急降下できる。

 

月明かりに照らされたアークラが俺を見る、今俺の後ろに月があり、俺は光で照らされた標的を良く見ることができる。

 

アークラは汗をかいていた。

 

「化け物・・・!」

 

「うおおおおおああああ!!!」

 

アークラは腕で大剣を受け止めた。

 

大剣が食い込み、腕を少し切った所でアークラはもう片方の腕で俺を殴ろうとしてきた。

 

「死っ・・・。」

 

横から飛んで来たものにアークラの腕が貫かれた。

 

アークラは痛みで固まり、俺は更に大剣を食い込ませた。

 

「ヅェアア!!」

 

アークラの腕を切ることに成功した。

 

「あっがあああああ!!?」

 

俺の体が自由落下を始める、地面まではかなりある、高くて200メートルといったところか。

 

「死んだかな。」

 

空から村を見るとほぼ全域が燃やされており、生き残っている村人は少なくとも目の届く範囲では居ない。

 

そして死体の数は村人のほぼ全員だった。

 

「・・・。」

 

守れなかった、か。

 

ー天使権限の使用を確認しました、代償は昏睡20日ですー

 

俺の意識がプツリと消えた。

 

意識が完全に消える前、男の声が聞こえた気がした。




魔族の襲撃の前兆は魔物が少なくなった事です、強い奴が来たから逃げたみたいな。

次はアト視点を予定しています。

多分数話くらい進まないかも。


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村から逃げ(アト視点)

「起きろ!起きろ!男女!」

 

「え!?何!?何が起きてるの!?」

 

私は夜中に叩き起こされた、目の前にはあの馬鹿やろう、アルがいた。

 

「私の家に忍び込むなんていい度胸してるじゃない。」

 

思わず拳を握る、ゼルにだって拳の威力は評価されているのだ、暴漢もどき程度どうとでもなるわ。

 

「そんな事言ってる場合か!逃げるぞ!」

 

「は?何言ってるの?」

 

「時間がない!早く!」

 

いきなり手を引いて村の外へ走り始めたアルはチラチラと広場の方を気にしていた。

 

「ねぇちょっと!?何が起きてるのよ!?」

 

「そんな事言って場合じゃないって言ってるだろ!?」

 

広場の方で大きな音がした、身体の奥まで響くような音だ。

 

「まさか、大きな魔物でも襲ってきたの?」

 

「・・・魔族だ。」

 

魔族、それは長い間人類と敵対した人の形をした魔物、聖神教会が神敵と定めた化け物。

 

「嘘・・・だよね、ねぇ!」

 

「嘘じゃねぇ!だから逃げるんだよ!」

 

「他のみんなは!?一緒に逃げられないの!?」

 

「固まったら狙われる!分かりきってるだろ!」

 

「いや!離して!お父さん達も一緒に逃げるの!」

 

アルと2人で力比べをしていると近くに傷だらけになったゼルが降って来た。

 

「ッゲホッゴホッ。」

 

大量に血を吐いている、アルの様子を見る限り戦ってからそこまで時間が経っていないようだ。

 

ゼルはすぐに広場の方向に向かって走って行った。

 

「・・・逃げるぞ。」

 

「・・・。」

 

逃げる?何処に?

 

「・・・アル、黄昏の森に行こう。」

 

「正気か?」

 

「私がゼルと会った場所は黄昏の森だよ、そこにゼルの家がある、そこに行く事ができれば。」

 

「・・・賭ける価値はある・・・か?」

 

頷く。

 

「・・・分かった、行こう。」

 

村から離れる、街道を歩き、黄昏の森への道を静かに歩いた。

 

遠くから見た村は火の光で照らされ、やけに小さく見えた。

 

村の上空ではキラキラと光っているものが雨のように降り注いでいてこんな時でなければ見惚れてしまいそうなほど綺麗だった。

 

「何か来る!隠れろ!」

 

アルは私を押し倒して草むらに隠れた。

 

「ふむ、逃げた子供はこの辺りのはずなんですが・・・見当たりませんね。」

 

魔族の1人なのだろう、歩いている音が近くまで来ている。

 

「まぁ良いでしょう、子供ですし、何処かでのたれ死んでいる事を祈りましょうか。」

 

バサバサと音を出しながら魔族は何処かへ行ってしまった。

 

「・・・アル?」

 

「あいつ、俺たちに気付いてた、気付いてて見逃した。」

 

「え?」

 

「アレが・・・魔族?化け物じゃねえかよ。」

 

アルの体が震えている。

 

「全く、珍しい者が居ると思ったら、お主か、アト。」

 

「え?」

 

アルの後ろ、木の陰に真っ黒な人影があった。

 

とても小さな体に長い手足、私達の倍ほどはある身長をもつ人影。

 

それは、ゼルが親として見ている聖霊の一柱、カルトだった。

 

「カルト・・・さん。」

 

「お主らは何がしかに秀でておるようじゃ、私の家で保護しよう、ランタンの使い方は分かるな?」

 

「は、ハイ!」

 

ゼルと会った日の穏やかなカルトではなく、確かに怒気を滲ませて村を見ているカルトは村に向かって歩いていた。

 

「ありがとうございます!」

 

「・・・。」

 

アルはカルトを見て怯えていた。

 

「よい、私に怯えぬこのこやつらが特別なのじゃよ、行け、あの家で待っておる。」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

アルを引きずりながら道を歩く、私達が黄昏の森に着いたのはそれから2日後のことだった。




次はカルト視点です、そして多分すぐに投稿されます。

そしてうちの主人公に隠れてますがアルは実は普通に主人公属性を持っているのですよ。

そうじゃないと状況判断能力やばすぎる子供が多い世界になるので。


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私の愛し子よ

二話更新してます、前話から見てね。


闇に生きる聖霊、カルト、闇を制御し、光と対立する事もある、故に勢力図は簡単だ、夜は私の独壇場で、昼はあやつの、ホルスの独壇場、力の制御が出来ておる故に私達のどちらかが制御を間違えた瞬間世界が死にかける。

 

そうであるはずなのに、私は制御を手放してでも今すぐそこに向かって行きたかった。

 

世界を捨ててでも助けたいと、そう思ってしまいそうになった。

 

私が育てたゼルという名の人間、気まぐれで育てたがいつの間にか愛というものを捧げていた。

 

ゼルはあの年齢の子供にしては成熟している、既にその精神は大人と遜色無い、だが、子供故の無鉄砲さで物事を見るようにもなり始めた、きっかけはアトという少女だ、何故か森に入り込み、餌になりかけているところをゼルが助けていた。

 

あの少女には感謝している、ゼルは誰かと関係を持つという事を知らなかったからだ、ゼルは興味があれば積極的だがそうでない場合には欠片たりとも意識を向けない、初めて会った自分の同族という、何処か狂っているような興味の持ち方であっても外へ連れ出していく口実をくれたことに私は感謝していた。

 

そして外に行って1ヶ月ほどが経った今。

 

私の愛したゼルは魔族によって傷だらけになっていた。

 

村で過ごした時間は短くても守らなければならない者が出来たと、ゼルの母親にしたためた手紙に書いてあるのだ、あの村はゼルにとってとても大事なものになったはずだ。

 

それをほとんど何の前兆も無く壊したのだ、魔族は。

 

闇の中を移動している途中、アトと1人の少年を見つけた、ゼルが気に入っていた少年は私を見て怯えているようだったが安心するように伝えて村へ急ぐ。

 

ゼルを外に行かせたことに後悔は無い、いずれ大事な者ができたり悲しむことがあったりもするだろう、だが、これはいくら何でも哀れにすぎる、少なくとも私は飛ぼうとする鳥を飛ぶ前に落とすような真似を許せるほど寛大では無い。

 

ゼルは二つに折れた大剣を駆使して魔族の1人に斬りかかる。

 

だが魔族はそれを左腕で受け止め、右手でゼルを攻撃しようとしていた。

 

「ダークバレット。」

 

古の勇者が使っていた闇の弾丸という意味の魔法を使う、弾丸が魔族の腕を貫き、魔族の動きが止まる。

 

ゼルはそこを見逃さずに左腕を一気に切り落とした。

 

産まれて8年であれば英雄の如き所業、だが、魔族は未だ健在、現実は非情だった。

 

「ゼエェェェェルゥゥゥゥゥ!!」

 

既にゼルは力を出し切ったのか動かずに落下している。

 

激昂している魔族はその顔を怒りに染め、氷の槍でゼルを貫かんと氷の槍を作り出す。

 

「召喚、『スカルパラディン』」

 

ゼルの隣に骨の鎧を纏った大男が出現しゼルを保護した。

 

ゼルは地面に激突することなく地面に寝かせられる。

 

スカルパラディンに氷の槍が幾つも刺さるが鎧の防御力は勿論中身は骨しか無いので動くのに問題が出る事もなく、魔族の男は叫び、激昂していた。

 

「お止めなさい、アークラ。」

 

上ではもう1人の魔族が激昂している魔族に話しかけていた。

 

「アァ!!?ただの人間如きに俺様が負けたと言いてぇのか!?」

 

「少なくとも、あの少年がそれにふさわしい戦士であったのは間違い無いと思いますがね。」

 

「何だと!?」

 

「それに見なさい、奴が居ます。」

 

話しかけていた魔族はスカルパラディンの横に居る私を見る。

 

「あいつは・・・。」

 

「カルト、闇の聖霊です、貴方では1秒たりとも戦える相手ではありません。」

 

「チッ・・・。」

 

「それに、貴方は情報を与えすぎです、私が炎を操れなければ貴方はほとんどハッタリをかます羽目になったのですよ?」

 

「分かってるよ!」

 

魔族2人は何処かへ飛んで行った。

 

「・・・。」

 

ゼルは傷だらけだった、誰かを守るための強さというものを手に入れたのだろう、私ではここまで本気になれない、立場があるからだ、私が死ねば小さくとも影響が残る、故に本気で戦えることは無い。

 

「・・・お主に私の本当の加護を与えよう。」

 

きっとゼルの人生は波乱万丈になるだろう、私と会っている時点で今更ではあるだろうが。

 

私の本当の加護、それは夜限定の回復能力の上昇だ。

 

「私の愛し子よ、その人生が幸福であることを祈る。」

 

私の作った外套を被せ、スカルパラディンに世話を任せて森へと帰った。

 

ゼルが起き上がるまでかなりの時間が掛かるだろう、それまでにアト達を返すことは出来るのだろうか。




後書きで用語解説的なのを作ろうかなー。

というのは置いといてカルト視点、チラチラとヤンデレ臭がする。

というかカルトって性別無いはずなのに一人称が私なので女っぽくなるんですよね。

小さい胴体に長い手足の人外作ろうでエ○ダーマンが一瞬で思いついてしまった作者の頭の中よ・・・。


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スカルパラディン

黒い空間でゆっくりと沈んでいく感覚、目を開けると目の前に小さな光が見えた。

 

「・・・。」

 

死んだわけではないのは分かっている、だがこの温もりに包まれているこの感覚は・・・。

 

『おい、ゼル。』

 

いつの間にか立っているという感覚と共に背後から話しかけられた。

 

「・・・。」

 

そこに居たのはアトのお父さんだった。

 

『俺は死んだ、だがアトは生きている、アトを頼んだ。』

 

「すみませんでした、守れなくて。」

 

『魔族に襲われたから、仕方無い、そう言って諦めるのは簡単だ、だがお前は諦められないんだろう、なら苦しめ、死ぬまで苦しめ、それで許してやろう。』

 

「・・・ありがとうございました。」

 

アトのお父さんは靄のように消えた。

 

『あの人ったら、言いたい事全部言っちゃったわ。』

 

「・・・ハルさん。」

 

『アル君も生きてるみたいだし、あなたも生きている、生きて幸せになりなさい、じゃないと怒っちゃうわよ?』

 

「すみませんでした、俺にもっと力があれば・・・。」

 

『自分を責めないで、きっと、幸せに暮らす事ができるわ。』

 

ハルさんの肩にアトのお父さんが手を置く。

 

『行こう、言いたい事は言った。』

 

『ええ、頑張ってね、ゼル君。』

 

思わず手を伸ばす、すると光が大きくなり、俺は目を覚ました。

 

俺が目を覚ましたのはボロボロのベッドの上。

 

『起きたか、少年よ。』

 

「!!?」

 

声がした方を向くと骸骨の鎧?のような魔物がいた。

 

『我の声が聞こえているな?我はカルトの眷属が一人スカルパラディン、元聖騎士である。』

 

「・・・俺は、カルトに助けられたのか?」

 

『少年が魔族の腕を切り、それに激昂した魔族の攻撃をカルト様が払われた、少年よ、剣をやる、強くなりたければ我と剣で戦うが良い。』

 

「カルトが残した試練か。」

 

『肯定する、我を倒した時、少なくとも魔族ともまともに戦えるであろうという事は保証する。』

 

スカルパラディンは少なくとも現時点の俺より強い、そのスカルパラディンを倒しても魔族と互角程度だっていうのか、化け物かよ。

 

「やってやる、俺はもう、誰も守れないのは嫌なんだ。」

 

そう言って立とうとすると全身の筋肉がビキビキと痛んだ。

 

『少年は約一月の間眠っていた、まずは筋肉をつける事から始めるが良い。』

 

一月、かなり寝ている。

 

「・・・武器は大剣で良い、俺は身体能力しか取り柄がないからな。」

 

『肯定する、身体能力を高める事が一番強くなりやすい。』

 

「・・・スカルパラディン、世話になるぞ。」

 

『了解した、聖騎士の剣をとくと見るがよい。』

 

こいつ、中々面白い奴みたいだな。

 

『ところで少年、少年の目つきの悪さはかなりのものだ、それでは人間は怯えるのではないか?』

 

「喧嘩売ってんのかテメェ!クッ、全然動かねえ。」

 

『急激に筋肉を動かすと危険である、やめたほうが良い。』

 

絶対倒してやるからなお前・・・!




アトのお父さん、本名はオウル、ただし自己紹介してないので主人公は覚えていない、悲しみ。


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鍛練

「ハッ!」

 

『ぬぅん!』

 

「そぉら!」

 

俺とスカルパラディンの鍛練は既に1年ほどの年月が経っていた、婆さんも一度来ていて俺の生存を涙を流して喜んでくれた。

 

俺がいたこの国の王都は魔族達に襲撃された、という事だけは聞いた、それ以外は情報が無いらしい、そもそも地方の行商人が情報をそう簡単に手に入れられるはずも無いので仕方無い。

 

スカルパラディンにも驚いていたがスカルパラディン自体中々親しみやすい性格である事もあってかすぐに馴染んだ。

 

『鍛練中に考え事か!?』

 

「チッ。」

 

元聖騎士というから基本に忠実なのだと思っていたら変則に変則を重ねた結果獣じみた動きで迫ってくるのだ、戦い辛くて仕方無い。

 

ゲームで例えるならボスキャラをプレイヤーが操作して格ゲーじみた反応速度とエイムで迫ってくる、というよくわからない事を平然としてくる。

 

大剣を盾にして弾き飛ばされる。

 

「そこぉ!」

 

『でぇい!』

 

スカルパラディンの鎧に擦り傷がつくのと俺の首に剣が当てられたのは同時だった。

 

「・・・参りました。」

 

『ふむ、中々上達して来た、コレならば数ヶ月もあれば戦えそうであるな。』

 

俺の戦闘時間はかなり制限しても1時間が限度、全力戦闘ならば数分で終わる。

 

一応大人になれば全力戦闘でも数時間は戦えるらしいのだがいかんせん子供なのだ、その状態で戦えると言ったところで少しも嬉しくない。

 

勝てるではなく戦えるだけなのだから。

 

『それでは狩りをするぞ少年よ、今日は何を食べるのだ?』

 

「野菜はある・・・肉もある・・・、調味料でも取りに行くか?」

 

『塩か?』

 

「それくらいしかないよなぁ・・・それで良いや。」

 

『うむ!では岩塩を取りに行くぞ!』

 

「そもそも塩を取れるところなんか近くになかっただろう、だから今までそのまま食ってたんだし。」

 

『いやそれがだな、老婆殿が言うならば岩塩を装甲として使う魔物がこの近くを通るらしいのだ、それを狩れば塩は調達出来るとは思わんか?』

 

「大丈夫なのかその魔物・・・。」

 

結局行くことになった。

 

数もかなりの大軍勢のようで遠くの丘から見るだけですぐに分かった。

 

薄いピンク色の小さなものが地面を這っているのだ、気持ち悪過ぎて吐きそうになった。

 

『うむ!やはりあれは蟹だな!今日の飯は蟹を所望する!』

 

「アレ1匹1匹が1メートルくらいのバケモンじゃなきゃ同意するんですがねぇ!?」

 

アシダカ蟹のようなものではなく毛蟹のような丸いピンク色の1メートルくらいの蟹、それが地面を覆い尽くすくらいの量で迫ってくるのだ、気持ち悪い。

 

『何を言う!あれらの装甲は全て塩だぞ!倒しやすい上に量自体も多い!』

 

「あれ確実にスタンピード起こってるから言ってんだよスケルトンアーマー!」

 

この聖騎士ワイルド過ぎて怖い、一度死んだ身だからとはっちゃけているのか自分から無茶無謀に突っ込んでいくのだ、俺としても戦う度に少しずつ強くなっているのが分かるので殺されたくない、だからそれを補助するのだがこの聖騎士、当たり前の様に生還してくる、俺が放置していたら鍛練を増やされる。

 

死ねよ。

 

俺の使う大剣が何本も折れた、その度に何処かから大剣を調達してくるのだから鍛練に休みはない。

 

『いくぞぉ!』

 

「待てっつってんだろうがドグサレアンデッド!」

 

蟹のハサミを避けまくって数十匹程倒して息切れしているとスカルパラディンは何百匹も倒していた。

 

「どうやって消費すんだよこれ・・・。」

 

『ハッハッハ!狩りすぎてしまったな!』

 

「・・・ところでコレは誰が持って帰るんだ?」

 

『少年だ。』

 

「お前絶対生前ろくな生き方してないだろ・・・。」

 

スカルパラディンは大笑いしていた。




主人公はダクソで言ったら不死隊、スカルパラディンはウーラシールでの闇堕ちアルトリウス、実際スカルパラディンはこの世界でもヤベェやつ。


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お前・・・お前・・・。

大剣が俺の体を斬ろうと迫る。

 

それを飛んで避けると回し蹴りが飛んで来る。

 

腕で防御するが数メートル程弾かれる。

 

腕が痺れる、かなり本気で打ったな。

 

左腕で背中に回した大剣を持つ。

 

『今更武器を出せると思っているのであるか?』

 

「チッ。」

 

大剣が地面を削りながら迫る。

 

横に転びながら避けるが上から断頭台の様に大剣が迫っているのが見えたので迎撃する。

 

「そら!」

 

『ぬぅ!?』

 

大剣に発勁をあて弾きかえす事に成功した、その代わり俺の掌は大惨事だが。

 

左腕で大剣を取り出し自分の周りを薙ぎ払う。

 

右手に持つと痛みが走ったが問題は無かった。

 

「斬る。」

 

大剣で抜刀術など出来ない、だがその代わり似たような方法は使えるようになった、鞘からの最高速ではなく、ありとあらゆる場所からの最高速、大剣の重さを片手で完全に支える程の身体能力とタイミングを合わせれば何とか放てる、と言ったかなり難しい技術ではあるがかなり使える。

 

その結果はすぐに出た。

 

『真に天才であるな、少年は。』

 

「秀才だよ、天才であればあんたとこんなに時間を過ごすこともないだろ。」

 

今の俺は12歳、スカルパラディンはかなり手加減していたようで全然剣で勝てなかった。

 

魔族と同列と言っていたがマジで魔族の身体能力おかしすぎるだろ。

 

『それであっても我の剣を斬るなど、曲がりなりにも竜の素材を使っていたのだがな。』

 

「マジか。」

 

『剣ではもう戦えぬな、では次は格闘でするとしよう。』

 

「は?」

 

目の前に拳が迫る。

 

無意識に体を曲げて拳を避ける。

 

後ろに飛び地面に手を置いて体勢を整える。

 

『滾ってきたぞ!少年!』

 

「アンタ剣だけじゃなかったのかよ!?」

 

『興が乗った!もう少し付き合ってもらう!』

 

「あっぶねぇ!」

 

『倒して見せるのである!』

 

この腐れ骸骨絶対遊んでやがる。

 

「やってやるよおおおおお!!」

 

伸びてくる腕を横に弾き右手で胴に衝撃を通す。

 

『ぬぅ!やはり強いな!もっとやるのである!』

 

「口調崩れてんぞクソ野郎!」

 

『ハッハッハ!!』

 

こいつ大男の癖にかなり俊敏だからマジで本当に。

 

兜も殴り上から踵落としを食らわせる。

 

足を掴まれ投げられる。

 

瓦礫に突っ込み埃が舞う。

 

「・・・気は済んだか?」

 

大剣が無いから瓦礫が背中に刺さって痛い、多分血が出てるなこれ。

 

『うむ!我の技のほとんどを吸収されたのは悔しさが残るのであるな!』

 

「こっちは毎日必死だよスカルパラディン。」

 

『数百年生きている・・・死んでから気が楽になったのだ!この程度で焦るほど若者では無いのだな!』

 

「毎日毎日殺す気で来やがって・・・恨むぞ。」

 

『そうでなければ成長しないと思ったのである。』

 

途中からお前も成長してた気がするのは気のせいか?

 

「まぁ感謝するよ、かなり強くなった。」

 

『うむ、本来ならば我を殺す事で試練は達成となるのだが得物がなくなった時点で負けである、武器に頼りすぎた我の負けである。』

 

俺の目的バレてるわ。

 

「曲がりなりにも世話になった奴を殺したくは無かった。」

 

『分かっているのである、カルト殿にもまた世話になるのであるな。』

 

12歳、成人がたしか15歳だからかなり時間がかかったな。

 

「明日から近くの町に向かう、婆さんにはお前から言ってくれないか?」

 

『うむ、めでたいついでに一度我の切り札を見ると良いのだ。』

 

「は?」

 

スカルパラディンは赤いオーラのようなものを纏った。

 

赫化(ルベド)という、特殊能力では無いのだ、どう言えばいいのであるか・・・身体強化を限界を超えて使うだけである。』

 

絶対に違う事だけは分かった。

 

気が付いたら俺はまた瓦礫に突っ込んでいた、腹から木の柱が突き出ているのでかなりの大怪我だ。

 

『しまったのである!やってしまったのである!』

 

何も見えなかったな。

 

スカルパラディンが必死に瓦礫を除去し、カルトがぶちぎれたのだろう、ボッコボコにされている声を聞きながら眠りについた。

 

ーーーーーーー

目を覚ますと怪我は完全に無くなっていた。

 

「スカルパラディン、カルトは何を使った?」

 

『伝説の霊薬、エリクサーである、貯蔵されているものを使ったらしいのである。』

 

「・・・その結果がそれか。」

 

スカルパラディンは兜だけが残っていた。

 

『鎧は持っていかれたのである。動かせないのであるな。』

 

「アホかよ・・・。」

 

『何、コレでも数百年間アンデッドとして活動しているのである、動けなくても50年ほどなら何とかなりそうなのである。』

 

「・・・婆さんといたら良いじゃねえか。」

 

『おお!それは気が付かなかったのであるな!そうするのである!』

 

もうやだこのアンデッド。

 

次の日、俺は纏めた荷物を背負って婆さんから貰った地図を見た、最寄りまでの道を描いているものらしいのだがあまり詳しくないようで分からないところがちらほらとある。

 

置き手紙は残して来たので居場所は分かるだろう。

 

「よーし、出発〜!」

 

『行ってらっしゃいなのである!』

 

俺たちの戦いはこれからだとか言ったら打ち切りだな。




物語は多分ここから始まる。


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生者と屍人

うむ、中々筋が良いどころか化け物なのだな!

 

今我の前には齢8歳の子供が大人と変わらない程の大剣を構えて立っている。

 

うむ、我も中々強者達と戦ってきたが子供の強者など手で数えられる程度、それゆえに最初は手加減をしていた。

 

だが違った、この子供、ゼルは文字通りの化け物だった、人では考えられぬ膂力、判断力、敵と定めた者の全てを見透かすような目、全ての動きが次の瞬間に読まれてギリギリのところを大剣が滑っていく感覚、およそ人が到達出来る様な境地ではない。

 

我がアンデッドでなければ我は既に2回ほど出血で死んでおるであろう傷を既に入れられておる、こやつは化け物よ。

 

『うむ!次に移行するのだ!』

 

「今しがた終わったばっかだろうがクソッタレ!」

 

悪態を吐く姿は良く見る子供なのだがその技量は既に達人の一歩手前、戦闘出来る時間が少ないのと圧倒的な身体能力に任せたゴリ押しによって強者となっているに過ぎない、我も勿論戦法を取っ替え引っ替えし対抗しているが、我が倒されるまで2年もあれば十分であろう。

 

『ハッハッハ!少年!頑張るのだ!』

 

「覚えてろよ畜生!」

 

アンデッドとなり、世界を彷徨い歩いて、摩耗し、カルト様に拾われた、生前は聖騎士と謳われた我は死ぬ間際に死にたくないと望み、結果、屍人として生き返った、死は絶対のもの、最初はただ嘆いた、何故死にたくないと思ってしまったのかと。

 

しかし、カルト様は溜息と共に言った。

 

「死にたくないと思う事の何が悪い、それを言うならば、死にたくないと思い、生き返ったアンデッド達を不浄の者だと、神に逆らった化け物だと言って討伐する人間達はどうなる?罪など、人間が勝手に作ったもの、創造神は死から生き返る理すら作られている、であれば、正邪の区別無く、屍人と生者がわかりあう事も可能であろうて。」

 

初めて聞いたときは何を言っているんだと本気でそう思った。

 

神は人間を愛していて、獣人や魔人を駆逐する為に聖なる力を与えたのだと、本気で思っていたから。

 

結局は人間の身勝手な思考によるものだと気付いた時には愕然とした、聖騎士であった時から変人だと言われてきた私がこんな事を考えるなんて思いもしなかった。

 

アンデッドも人間も、魔人も獣人も、結局のところ弱肉強食の世界に生きているに過ぎないと。

 

それに気づいた時、我はカルト様に仕える事を誓った、永遠とまではいかずとも、恐らく考えうる限り長い間従者となれるのならば本望だと。

 

カルト様も笑いながら了承してくれた。

 

それがどんな因果か、我は子供の世話をしている、暗闇から目を覚ましてみれば目の前には焼け落ちた村と傷だらけの子供、そして激怒しているカルト様の姿があった。

 

子供を保護し、カルト様の存在を知った魔人達は何処かへ消え、代わりに我は子供に殺されろと言われたのだ、理不尽だとも思う、だが、それに笑いながら承諾してしまう自分の能天気さにも呆れている。

 

しかしこの子供が化け物の類だと分かった瞬間に我の中から何かが顔を出した。

 

アンデッドになってからかなりの時間を過ぎてから思い出した感情、熱意、というものだ。

 

育ててみたい、自分の技を一つ残らず継承させてみたい、この子供が自分の技をどこまで高められるのかを見てみたい。

 

そんな思考が次から次へと溢れ出てきたのだ。

 

『我も、変わったものよ。』

 

「なんか言ったか腐れガイコツゥ!」

 

『何も言っておらん!ほれ!追加である!』

 

「テメェマジでぶっ飛ばしてやるからなあアァァァァァ!!!?」

今は・・・まだこの子供、そして化け物である我の一番弟子、ゼルの世話をするとしよう。

 

ーーーーーーー

遠くに見えるゼルの背中は小さい点のようになっていた。

 

『行ってしまったか、寂しくなるなぁ。』

 

ゼルは優しい子供だ、人間でありながら魔物のような膂力を持ち、鬼人のようにタフで粘り強い。

 

我も、錆び付いたとはいえ聖騎士、剣の強さではそう簡単に勝てる者は居らぬという自負がある、その我ですら最上位の魔族には異世界からの勇者の力が無ければまともに戦えぬのだ、だがもしかしたら、ゼルは勇者と同じと言える強さを・・・いや、これはまだ予想でしかない。

 

「もしもし、骨騎士さん、ゼルはどこに行ったのかね!?」

 

『おお!老婆殿!少し考え事をしていたのだ!』

 

ゼルの祖母であるマーリン殿、しがない薬屋ではあるがその薬はかなり質の良いものだ。

 

『あやつは我を倒し、街へ向かいました、手紙は今まで通りに出すと言っておったが返信は届かないであろうな。』

 

「・・・そうかい、あの子は行ったのかい。」

 

『老婆殿もいつかこの日が来ると分かっていたでしょう。』

 

「ええ、骨騎士さん、あの子は私達の村の者がカルト様に生贄を捧げた時から既に他人様さ、それを、まだ家族として関係を持てているのはあの子の優しさ故さね。」

 

『うむ、ゼルは身内にはかなり甘いですからなぁ、我も殺されるつもりでいたのをただ世話になったというその一点だけで技の全てを盗み、格上となった上で剣をだけをポッキリと折られてしまいました。』

 

「あの子らしいねぇ、どうだい?骨騎士さん、あの子は。」

 

『うむ、誇らしい限りである。』

 

「そうかい、あの子の旅が、尊いものでありますように。」

 

老婆殿は祈っていた、子供を思う親の姿はどの時代でも変わらぬものなのかと思いながら、スカルパラディンは静かに黙った。

 

祈りが終わったのを見計らい、スカルパラディンは切り出した。

 

『老婆殿、行商人であるのも疲れるであろう、馴染みの冒険者パーティがいるとはいえ、一人腕っ節の強い者がいるだけでだいぶ楽ではありませんかな!?』

 

「そうだねぇ、じゃあ骨騎士さん、護衛になってくれるかい?」

 

『うむ!なるとも!という訳なのだカルト様、我の体を返して欲しいのである!』

 

そう言って兜だけになった顔から声を出す。

 

「全く、タイミングの良い・・・次は無いぞ、スカルパラディン。」

 

『うむ!了解した!』

 

カルト様が暗闇から我の体を取り出す。

 

『戻ったぞ!これで元どおりである!』

 

「・・・お調子者め。」

 

『ハッハッハ!では行こうぞ老婆殿!次の村は何処でござるか!?」

 

「その前にカルト様に一言よろしいですかな?」

 

「なんだ?」

 

カルト様の前で深くお辞儀をして老婆は言った。

 

「私の孫を、あの子の息子を、育ててくれてありがとう、老い先短い老婆だけれど、これだけは言っておきたかった。」

 

「・・・よい、面を上げよ、私も親元から離れさせてしまった事を気に病んでいた、本人では無いにしても、その言葉が聞けて安心した。」

 

カルト殿は少し恥ずかしがっているようで少し照れが見える。

 

今は流石に無粋か。

 

荷馬車の近くでダレている冒険者たちに向かって歩き出した。

 

「誰だ!?」

 

「ゼルと戦ってた魔物!?」

 

「待てお前ら!ゼルと婆さんも言ってただろうが、友好的な者だと。」

 

『うむ!ゼルは旅に出たのでな!今しばらくの間世話になるのである!』

 

「「「嘘だろ!?」」」

 

『ハッハッハ!毎日少しずつならば稽古をつけてやってもよい!ゼルほどとはいかなくてもお主達もまだまだ荒削りなのでな!綺麗に研いでやろう!』

 

「ゼルの奴ヤベェやつ置いて行きやがった!」

 

これからも退屈はしなさそうだ。




スカルパラディン、育成に目覚める。

次はアトの視点にするか主人公の視点にするか・・・。

プロット無しでも案外いけるもんだな。


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悲しみ

取り敢えず道を歩いて早一週間、一向に街に辿りつかねぇ、というか街の影すら見えねぇ、どういう事だ?

 

「・・・せめて地図くらい買っときゃよかった・・・。」

 

まぁなんとかなるだろう、今までもそうだった。

 

そんな事を思って数日間粘ったが未だに街が見えない、何でだ?流石におかしい、かなりの距離を歩いている筈なんだが。

 

そう思いながら周りを見ると小さい人間の様なものが見えた。

 

「お、人間か?おい!ちょっと道を聞きたいんだけど!」

 

そう言いながら近づいていくと矢が飛んできた。

 

身体強化がなくても掴める程度の速度だったので使わずに掴むとガサガサと音を立てながら逃げられた。

 

「おい。」

 

こちとら食料無くなっても彷徨ってるんだよ、話くらい聞けよ。

 

「逃げんな。」

 

揺れている木を大剣で攻撃すると人間は落ちてきた。

 

その人物は緑色の肌をしていて枝で作った杖を片手に持っていた小さな人間・・・人間か?コレ。

 

「ギャギャ!」

 

うんコレゴブリンですわ。

 

「ゴブリンって友好的な奴だったっけ、覚えてねぇ・・・。」

 

そう呟くと炎が目の前に出現した。

 

「あっつ!?」

 

咄嗟にゴブリンを炎に向かってぶん投げる。

 

熱がいきなりきたから思わず投げちゃった、死んでる?あ、死んでるわこれ。

 

「やっちまった。」

 

ゴブリンを倒すと景色が変わった。

 

街道が延々と続く景色から遠くに街が見える様になっていた。

 

「・・・ゴブリンの幻術か!?魔法の知識もつけときゃよかったかな・・・。」

 

というかよく使えたなあのゴブリン。

 

俺は街に向かって歩き出した。

 

ーーーーーーー

「ん?あ、お前生きてたのか。」

 

街に来て門番にいの一番に言われた言葉がコレってどういう事。

 

「・・・何となく察しましたけど聞いときます、どういう事ですか。」

 

「お前ゴブリンメイジに幻覚見せられてたろ、一週間くらい前からこの辺りをずっと徘徊してたんだよお前。」

 

「助けろよおおおお!!?」

 

「だってゴブリン程度に魔法かけられる奴なんて初めて見たからな、少し面白がって放置した。」

 

切れそう。

 

「・・・取り敢えず街に入りたいんですけど。」

 

「おういいぞ、入るのに銅貨一枚を貰うぞ。」

 

「了解。」

 

村長宅から金貨1枚分の銀貨数枚と銅貨数十枚は持ってきてあるのですぐに出す。

 

「あとお前の腕なら冒険者も出来るだろ、この大通りをまっすぐ行って三つ目の十字を右に曲がれば冒険者ギルドあるから、多分いじられるだろうけど我慢しろよー!」

 

「いじられるのはお前らのせいだろうが・・・!」

 

取り敢えず俺は知らない内に売名は出来ていたようだ・・・遊び道具として。

 

門から入ると俺を見て何人かの大人が苦笑いで通り過ぎて行く、何で俺の事がこんなにたくさんの人に知られてるんだろうな、ゴブリンのせいだよな畜生。

 

冒険者ギルドは三つ目の十字を右だったよな?

 

「・・・うわぁ。」

 

ギルドの外側はかなり綺麗にされていた、が、端の方に赤い染みがあったり看板が少し傾いていたりと古いのと喧嘩でボッロボロになっているのが分かった。

 

「これはひどい。」

 

中に入ると酒の臭いと酒に酔った呑んだくれ達が俺を見た。

 

「よっしゃ!俺の勝ちだな!銀貨1枚ゲットだ!」

 

「くっそー!」

 

いきなり盛り上がり始めた、何でお前ら賭けなんかやってんの?

 

「ハッハッハ!坊主!お前ゴブリンメイジに幻覚見せられてたんだって!?どうだった?」

 

うっぜえ!

 

「・・・延々と続く街道を人一人見つけられずずっと歩くとかいう修行を味わったよ。」

 

俺がそう答えると酒場の全員が大笑いした。

 

「災難だったな!でも泣いたりしなかったのは偉いぞぉ!」

 

俺はもう切れてもいいと思う、子供扱いはまだしも賭けの対象になるのはちょっと違うだろう。

 

「・・・。」

 

取り敢えず飲んだくれ達の手を払いながらカウンターに向かう。

 

そこにいた受付嬢は恰幅のいいおばさんだった。

 

「冒険者になりたいです。」

 

「・・・災難ねぇ、文字は書けるかい?」

 

「書ける。」

 

「ゴブリンメイジに幻覚見せられてるのにかー?」

 

イライラしながら名前を書く。

 

「ゼル、ね、じゃあちょっとだけ待っててね、すぐにカード持って来るから。」

 

「俺は暫くゴブリンメイジに街道を延々と歩かされていた。」

 

「ハハハハハ!!」

 

大剣に手が伸びそうになる。

 

「・・・ほら煩いよ飲んだくれ共!子供いじめてんじゃないよ!」

 

「・・・。」

 

「そうは言ってもこれは面白すぎるからなぁ!」

 

「だったらあんたらが新米に基本的なルールを教えてやりな!」

 

おばちゃんがそう言うと飲んだくれ達は動きを止めて俺を見た。

 

「・・・何?」

 

「冒険者カードを発行するときにね、他の冒険者と戦って成績次第でランクを上げる事が出来るんだよ、やるかい?」

 

「勿論。」

 

そう言うと飲んだくれ達はニヤリと笑った。

 

『負けたら奢りな!』

 

「俺が勝ったらどっかの宿紹介してくれよ。宿賃お前ら持ちな。」

 

「楽しくなってきたぜ!」

 

「どっちが勝つか賭けするぞ!どっちに賭ける!?」

 

「俺は新米に1銅貨!」

 

「俺も新米に1!」

 

こいつら・・・。

 

ギルドの建物の裏にある少し広い広場で大剣を構える。

 

「そんな思い武器でまともに戦えると思ってんのかぁ?」

 

「俺としては酒入ってるお前らが同士討ちしないかと割と本気で心配してるんだけど。」

 

「なぁんだとぉ?ちょうしにのりゅなあ!」

 

「ねぇちょっと待って危険域一人いるんだけど誰か退場させろよ!」

 

先輩冒険者達は千鳥足や比較的まともな動きで近づいて来る人などがいた。

 

が。

 

「ウゴッ!?」

 

「アガ!?」

 

「グペッ!?」

 

「酒入ってないやつ連れてこいや!!!」

 

同士討ちどころか近づいて来る過程でほぼ全員が転んで気絶していた。

 

生き残っている数人の攻撃を捌きながら叫ぶ。

 

「何なんお前ら!?せめて危ないやつ入れんなよ!後これ本来なら一対一だろ!?何やってんの?何させてんの!?馬鹿かよ!?お前ら酒入ってんだろ!?無茶すんなよ!」

 

「お、大人の意地ってやつがあるんだよ、子供には分からないだろうがな!男にはやらなきゃいけない時があるんだよ!」

 

「少なくとも今のアンタは吐きそうになって顔面蒼白の危険域到達してるバカだよ!そんなセリフ言える状況じゃねえだろうが!さっさとどっか行けバカが!」

 

暫く耐えていると残っていた連中も吐きそうな顔になったので強制的に下がらせた。

 

というかこいつら揃いも揃ってバカしかいねぇ!

 

本当に大丈夫かよ・・・このギルド・・・。




曲聞きながら書いてたらアシスタント起動して耳から血が出た、だから遅くなった。

急にポロンって音したと思ったら耳に痛みが発生した、マジでアシスタントとかいらねぇ、しかも連続で煽るようにポポポポロン!ってなったからマジで死ねばいいと思う。

イヤホン片耳だけで助かったぜ。

アシスタントは消したい、基本無効にしてるくせに何がアシスタントが違いますだよ、キレそう、携帯壊さなくてよかった。


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おっさん

酒の入った連中を伸して、俺は受付で冒険者カードが作られるのを待っていた。

 

その間、俺は大剣を横に置いて腹ごしらえをしていた。

 

暫くするとおばちゃんが冒険者カードを持って来てくれたので受け取る。

 

「あんたの成績は・・・まぁ相手が弱すぎたってのもあるけど、そこまで成績に入る程のものじゃなかったから、最初はコツコツと依頼を受けていきな。」

 

「・・・昇格の条件などは?」

 

「依頼を受けてりゃいずれ上がるさ、詳しい事なんかそうそう覚えるもんでも無いさ。」

 

「じゃあ宿の場所を教えて下さい。」

 

「少しボロいけど黄金の豚亭って宿があるよ。」

 

なんだその名前、すげえ覚えやすい。

 

「・・・じゃあ其処にします、依頼は明日からでも良いですか?」

 

「あんたまだ子供なんだから、無理すんじゃないよ。」

 

「了解。」

 

叔母さんは信じられなさそうな顔をしていた。

 

「そう言えば、武器屋などは何処にありますか?」

 

「はぁ・・・地図渡してあげるよ。」

 

手を差し出したので銀貨1枚を渡す。

 

それを見てまた溜息をつかれた。

 

「・・・足りなかったんですかね。」

 

「サラッと高額出すんじゃないよ、全く、カモられるんじゃないよ。」

 

義理堅いな、珍しい。

 

「ありがとうございます。」

 

外に出ると先ほどまでのどんちゃん騒ぎが周りにも伝わっていたのだろう、店先にいる客などが見つめてくる。

 

外套を被って溜息をつく。

 

地図を見てある程度の方角を特定する、というかめっちゃ詳しいなコレ、街の中全部書かれてんじゃねえの?

 

上に飛び、空気を蹴ることで移動を開始する、森の中と違って木などは無いので屋根を渡る事になる。

 

街の屋根は平坦なものが多く、戦闘するのにはあまり問題は無さそうだ。

 

えっと・・・なんだったか。

 

「黄金の豚亭・・・ここか。」

 

見た目は少しボロいと言うか、古いのか。

 

中に入ると渋いおっさんが俺を見た。

 

「・・・いらっしゃい、泊まっていくか?」

 

「はい、部屋は空いていますか?」

 

「いつでも空いてる、あのババアめ、俺への当てつけか?」

 

ひっどくないですかね、まぁ良いけど。

 

「世話になります。」

 

「飯は作る、だが夜は止めろ。」

 

「分かりました。」

 

案内された部屋は女の子の私物の様な物が大量に置かれていた。

 

「すまん、間違えた。」

 

「あんたの家だろ、間違えんな。」

 

俺が案内されたのはその部屋の隣の部屋だった。

 

ベッドとある程度の広さだけがある、案内されるとおっさんは静かに切り出した。

 

「一晩銅貨一枚だ、どれくらい泊まる?」

 

「まずは一週間、其処からは多分稼げたらもう少し泊まるかもしれない。」

 

「そうか。」

 

おっさん・・・商売慣れてないだろあんた・・・まあ良いけど。




ひっさしぶりすぎて後の展開忘れた、もしかしたらぐっちゃぐちゃになるかもしれないけど許して。


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初めての依頼

翌日、おっさんが慣れない客商売をしているのを見ながら顔を洗っているとおっさんからある物を投げられた。

 

「昼飯だ、腹減ったら食っとけ。」

 

「・・・干し肉?」

 

「今日の昼飯くらいにはなる。」

 

干し肉かったいな。

 

「まぁ、持ってくよ。」

 

「頑張れよ。」

 

大剣を背中に回して俺は冒険者ギルドに向かった。

 

俺が起きたのはかなり遅い時間だったみたいでめぼしい依頼は既にほとんどなくなっている様だった。

 

「あるのは恒常の物と・・・街道の魔物退治?なんじゃそりゃ。まぁ良いか。」

 

紙に書いてあるのを見るには街道上を通過する商人達から魔物の数が増えているらしいとの報告があり、騎士団を派遣し、掃討したがそれでもこの先徐々に増えていくことが予想される為、恒常依頼に値するかの調査と共に、駆除を頼みたい・・・らしい。

 

いやまぁ書いてあるのは恒常云々だけなのだが、裏を読もうとするのはハジメ達の影響かな。

 

まぁ、これにしようか。

 

「・・・アンタ・・・いきなり難しいのを・・・。」

 

「まぁ、軽く見てみて行けそうだったらやるさ。」

 

「そっちがあんたの素かい、まぁ、頑張るんだよ。」

 

街道の名前はアルカダ街道、この街は黄昏の森に比較的近い事もあって魔物の種類もそれなりに多い、草原であっても所々に林がある為、それなりに大きい魔物も出現する様だ。

 

ただ俺が死にかけたロックベアの幼体の様な奴は出て来ない、と言うか今でもあれが幼体だと思えない。

 

アルカダ街道はその中でも王都に向かう為の街道だ、道中には幾つかの街があり、商人達がよく使う、鉄や塩などの補給もこの街道を使う為、かなり重要な街道である。

 

魔物が来ている原因が何であれ、被害が多くなれば街も無視できない、対処出来ずに大事にするよりかは予防しておいたほうが後が楽だ。

 

「まぁ、魔物狩って素材売ってけば旅の資金程度くらいは稼げるだろう。」

 

まぁ、数日間行くことになりそうなので定期的に街に戻る必要はあるか?

 

門から出てアルカダ街道を歩く、三時間おき位に休憩所の様に切り開かれた場所があるので野営などは此処で集まって警備するのだろう。

 

何人か既に商人などがいるので小さい市場の役目も果たしている様だった。

 

俺もウルフやゴブリンの小隊などを狩っていたので何か素材になるかと質問してみたがウルフの皮1頭分で銅貨一枚だと言われた。

 

ウルフの皮だけ売り、肉などは後で料理して食おうと思う。

 

「さて、この辺りは林か?」

 

黄昏の森程木が密集していないからか、視界が広い。

 

「原因があるとすればこの辺りっぽいが・・・。」

 

そう呟くと共に叫び声が聞こえて来た。

 

「原因がいるかは分からんが、向かうか。」

 

ーーーーーーーーー

「ハク!マル!」

 

俺の周りには仲間のハクとマルが倒れている、目の前に居るのはランクDの魔物、オーガだった。

 

「グオオォォォォォォォ!!」

 

オーガは近くの木を掴んで即席の武器としていた、木は薙ぎ払ったりしているうちに少しずつ小さくなっていったがオーガの攻撃はその度に速度を上げ、人間よりも何倍もある力で振り回されればそう簡単に制御出来るものではない。

 

そして目の前にいたオーガはその棍棒サイズにまで折れた木を振り上げて迫って来た。

 

(ごめん・・・皆。)

 

だが、衝撃は来なかった、とてつもない風と共に俺の体が吹き飛ばされ、尻餅をついてしまった。

 

目を開けると其処には鉄塊のような大剣を棍棒とその人物との間に挟んでいた。

 

その人物は

 

「・・・子供?」

 

「全く、なかなか力が強い、少しばかり時間を稼いでやろう。」

 

ーーーーーーーーー

「全く、なかなか力が強い、少しばかり時間を稼いでやろう。」

 

道中で五十ほどのゴブリンが三人の男を囲んでいたので排除していたら死にかけたので間に入った。

 

と言うかナメプしててすまねぇ。

 

残りの数体のゴブリンが林から出てきた。

 

それぞれ弓や粗悪な剣などを持っていて、久しぶりの真正面からの勝負に柄にもなく熱くなる。

 

オーガと俺は未だに鍔迫り合いをしている、オーガ、確かランクD、ランクD冒険者のパーティー一つと同等の戦闘能力、ランクCなら倒せる、だったかな。

 

「なるほど、この膂力ならそう言われるのも頷ける。」

 

俺の身体強化のレベルは今は成人の6倍程、それでも拮抗がギリギリである、筋肉の塊だから何時ぞやのミノタウロスを思い出す。

 

「軽く撃ち合おうか。」

 

棍棒を弾き飛ばす。

 

オーガの態勢が一気に崩れ、がら空きになった胴に蹴りを叩き込む。

 

オーガにはさほど聞いていなかったようでそのまま棍棒を上から叩きつけてきた。

 

「脳筋一辺倒、技術は其処までない。」

 

後ろに下がり飛んでくる破片を防ぐ。

 

オーガはそのまま狂戦士のように俺目掛けて走りながら棍棒を振る。

 

周りの木がぼきぼきと折れていくのをみて少しマズイかと思う。

 

開ければそれだけオーガの武器と振りまわせる領域が広がるのだ、オーガがそれを察しているかはともかく、そうなりかねない。

 

逆に踏み込み、大剣の柄でオーガの肘を叩く、オーガの右腕は肘から折れて使えなくなった。

 

左手で木を掴んで投げて来るが、俺にとって大きな投擲物は足場と同じだ。

 

木に足を置き、一気に上へ跳ぶ。

 

俺を見失ったのか下でキョロキョロしているオーガの真上から大剣で一気に引き裂いた。

 

頭の天辺から股下まで一気に切り裂くことに成功し、二つに分かれたオーガは絶命した。

 

「・・・あやべ、大剣抜けねぇ、ふっ・・・アレ?ヌグググ・・・やっべ。」

 

身体強化を割と本気でかけてやっと抜けた大剣を担いで周りを見ると俺の助けた3人組の内1人が俺をじっと見ていた。

 

「・・・勝ったのか・・・?」

 

「ハッ、安心しろ、オーガは死んだ、確かにな。」

 

「・・・夢みたいだ。」

 

「まぁそうだろうな、近くの野営地まで向かう、立てるか?」

 

「あ、ああ、助けてくれてありがとう。」

 

俺は鎧を着ていた男を担ぎ、近くの野営地にパーティーを送り届けた後街へ歩き出した、まだ日は落ちていない、と言うか、飯食ってないから腹減ったな、干し肉食うか。

 

「・・・しょっぱいな。」

 

塩っ気が強すぎるぜおっさん・・・。




用語解説的なの載せようと思います、制度とか、まぁテンプレが多いんで其処まで変な物はないと思いたいですが。

ーーーーーーーーー
冒険者ランク
E→D→C→B→A→S
の順にあり、一人前として認識されるのはDランクから、Eは言うなれば子供や孤児などのためのお小遣いクエストばかりの依頼が多いです。
Dランクからは魔物を相手にしたり、危険性がある程度判明している場所への調査が主な仕事。
Cは盗賊退治や危険性がどれほどか分からない場所への調査が主な仕事
Bから上は基本的に人間辞め始めてる奴等、Aから本格的におかしくなる。
Sは1人で騎士団と戦って勝てる、ワンマンアーミー、ただし火力は魔物用。

基本的にワンクの一つ下が1人でクリア出来る基準、基本的にパーティーを組まないと死ぬ。

3人組の男達

モブ、それ以外の何物でもない。

受付嬢(おばさん)

実は元B級冒険者、本編ではあんまり関わらないかも知れないけどなんだかんだ裏で世話になる予定。

宿屋のおっさん

黄金の豚亭の店主、実は主人公が初めての客だった、受付嬢(おばさん)の計らいで初めての顧客ゲット、1人娘もいるけど関わるかは現時点では不明。奥さんがいない理由は察しろ。

ーーーーーーーーー
アカン、これただの設定集や。


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報告

街に着き、ギルドへ向かう。

 

受付は空いており、誰もいない、日没前だからだろうか、基本的に誰もいないようだ。

 

「坊主、どうした?」

 

受付の奥から大柄な人が出てきた。

 

「あ、いえ、街道の調査の進捗を報告しに来たんですよ。」

 

「ふむ、少し待て。」

 

渋いおっさんだったな、いい人そうだ。

 

「よし、街道はどうだった?」

 

「まず確かにゴブリンやウルフが多くなってます、襲撃回数も資料より少し多い程度、ですが一年前の物と比べると約1.8倍ほど増えてます、林にはオーガも出現し、新人のパーティーが一つ壊滅仕掛けていました。」

 

「何?」

 

「オーガは既に討伐し、新人パーティーには近くの野営地で休息を取らせています、次に襲撃回数ですがオーガほどの魔物が単体で出現すると言うのは些か不自然です、人型の魔物は基本的に複数で行動します、オーガだけが違うような記述も無いので、恐らく、オーガの群れを討伐できる程度の危険度があると思われます。」

 

「いつの間に資料を・・・。」

 

「恐らくですがランクDのオークの群れか巣があると思われます、危険度は少なくともC、上位種が居た場合はCランクパーティーが三つほど、と言ったところでしょうか。」

 

「上位種が居ると言う根拠は?」

 

「一年前の資料を見る限り、相手はかなり人間を警戒しているようです、獲物が減りはじめてからも同じ場所に留まっていると考えられ、そうなると人間に見つからないと言うのは相当知恵が回るものがいます。」

 

「街道は王都まで続いている、どの辺りに巣があると思う?」

 

「恐らくですが、次の街アッピアとのちょうど中間、ヒューイの谷辺りを根城にしていると思います。」

 

「どうやってそこまで絞った?」

 

「人目につかないのであればまず人間がいかない場所、危険度が高く、そこまで旨味の無い場所ならば、冒険者が向かって殺されたところで行方不明にしかなりません、それに、人間の子供であろうと食料は食料、骨になるまで食われでもしたらまずわからない。」

 

あとは一度見に行ってどのくらいの規模があるのかを偵察しないといけないが、もしオークならば上位種が居る可能性は高い。

 

「・・・。」

 

「ですが、オーク以外にもコボルトの大群や、ただの野良のオーガである可能性も勿論あるので、その辺りはギルドに考えてもらいたいです。」

 

「有益な考察を考えた褒美として資料室に忍び込んだことは不問にする、助かった。」

 

「・・・すいません。」

 

有耶無耶にしようとしてたことを言われて駄目だったかと反省する。

 

「今を持って君を暫定的にCランクとする、もし偵察部隊に非常事態が起こった場合、君には掃討のために参加してもらう。」

 

「了解、あと・・・そんな権限持ってるってことはもしかして。」

 

「俺がここのギルドマスターだ、そろそろ帰ろうと思ってた所にお前が来たんでな。」

 

とんだ厄ネタが来やがったと呟くギルドマスターは悲しそうだ。

 

何かホントにすんません、でも緊急の案件でも無いんで、ゆっくりで良いんで。

 

「取り敢えず次の会議で言うべき問題だな、クソ、次の会議いつだ?」

 

「少なくとも年単位で増えてるんでそう急ぐ必要もないと思いますよ、数は尋常じゃないと思いますけど。」

 

「好き勝手言いやがって・・・取り敢えず今日の所は帰れクソガキ、絶対に一人で谷に行こうとすんじゃねえぞ。」

 

俺は幼児かよ・・・言いたくなる気持ちは分かるけど。

 

「分かりました。」

 

「俺だってガキが死ぬところ何て見たくねぇ、生きろよ。」

 

何回も言わなくても分かってるって。

 

宿に帰るとおっさんに厳重注意を受けた、せめて夕方には帰ってこいと。

 

だから俺は幼児かよ・・・子供だけど幼児じゃねえよ・・・




ギルドマスター

渋いおっさんってカッコいいよね、子供を見ると世話を焼かずにはいられない。

ーーーーー
章的なものが終わるたびにこの設定集まとめようかな、プロット無いからキャラ設定だけははっきりさせておきたい。


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鍛冶屋

翌日、朝におっさんとの朝食を済ませてから武器の点検をする。

 

俺が武器の点検をするのは晩と朝、晩は暗いのもあってそこまで詳しく見ることはできないが、朝になれば日もよく当たり、詳しく見える。

 

「・・・やっぱり歪んでたか。」

 

昨日のオーガ戦、最後の一撃を入れて抜くときに歪んだのだろう、サブも欲しいところなので今日は休みかな。

 

普通はこんな簡単に歪むもんじゃないんだけどなぁ。

 

武器屋の位置を調べて武器を担いで歩き出す。

 

そういえばギルドマスターに金もらってないな、手持ちで足りるか?

 

武器屋の前に到着した、がコレはダメだ、武器屋であって鍛冶屋じゃねぇ、どっかにねえかな。

 

地図を広げて鍛冶屋を探す。

 

少し所ではなくうろうろしているとやっと目的地らしき場所に出た。

 

「・・・一時間くらいかかったな。」

 

適当に閑古鳥鳴いてるところにでも行って預けてみようか。

 

フラフラと歩きながら火事場を覗いて居ると後ろからでかいおっさんに肩を叩かれた。

 

「坊主、俺の仕事場に何のようだ?」

 

「・・・大剣が歪んだので直せるかを聞きに来ました。」

 

「客か、なら中に来い、どうせ日に何人もくるわけじゃねぇ、見てやる。」

 

「あざっす。」

 

中に入ると煤だらけの道具が大量に置いてあった。

 

店主は俺の大剣を片手で持つと暫くじっと見つめていた。

 

「かなり使い込んでるな、坊主、コレはいつから使ってる?」

 

「一年前からだ、その前のは修行で折れた。」

 

「大剣を折る子供か、おもしれぇ、原因はお前の力だな、芯からネジ曲がってやがる。」

 

やっぱりか、いや、まだ持った方か。

 

「坊主、この大剣を新調してやる、変わりに珍しい魔物の素材を手に入れたら俺のところに持ってこい、武器だろうが何だろうが作ってやるよ。」

 

「・・・もしかしてドワーフか?」

 

「ああ、少なくとも人の手で作れるもんは何だって作ってやる。」

 

普通はドワーフでもそんな事言えないと思うがな。

 

ドワーフは寿命が百年単位である種族だ、エルフと起源を同じとし、エルフは自然を、ドワーフは火を尊ぶ、両者は特別仲が悪いなどはあんまりなく、エルフの武器や日用品をドワーフが、エルフの薬や狩りなどで取れた素材を交換しあって生活しているらしい。

 

ただエルフやドワーフは魔族とも獣人とも言えない存在なので一応は人間に近い部類である。

 

聖神教会からは魔物や獣と混ざりあった種族として教えられているので迫害がある、と言うか主要な国家のほとんどが聖神教会を国教としているのでこのおっさんはかなり腕がたつのだろう、迫害されてもなお店が出来る程なのだから。

 

「了解だ、もし倒せたらドラゴンの素材でも持ってきてやるよ。」

 

「カッカッカ、大きく出たな坊主、だが嫌いじゃない。」

 

ドワーフのおっさんは笑っていた。俺も笑った。

 

「完成までどのくらいの時間がかかる?」

 

「3日くれれば新品同様ピッカピカにしてやるよ。」

 

「了解。」

 

「それまではこの短剣でも使っときな、一本しかないがアルバタイト製だ。」

 

アルバタイト、確か重くて硬い金属の代表格。

 

「流石に短剣だから軽いな。」

 

「それでも鉄の直剣位の重さはあるんだがな、もしアルバタイトを大量に持ってこれるならこれで大剣を作ってやれるが?」

 

「マジかよ、頑張って集めて来るわ。」

 

今日の所は短剣で軽く練習してみよう。

 

「ちょっとだけ庭借りてもいいか?」

 

「構わねえよ、帰るときは言えよ、調整すっから。」

 

「分かった。」

 

庭で短剣を逆手に構える。

 

大人の人型の影を思い出しながら膝、首、肩、脇に短剣を刺していく。

 

「・・・うん、充分使える。」

 

おっさんに短剣を預けて居る間に格闘の型をできるだけ速く行う。

 

(体に何か異常とかがあるわけでもなし、流石に一日くらいじゃガタは無いか)

 

「坊主、出来たぞ。」

 

「ありがとな、おっさん。」

 

「おっさんじゃねぇ、アロウズだ、今度から間違えんじゃねえぞ。」

 

「わかった。」

 

短剣を受け取ると持ち手の革が変わっているように見えた。

 

「これは?」

 

「先行投資って奴だな、壊れるまで使ってやれや。」

 

このおっさん株とかやったら義理人情で破産するタイプだな。

 

「ありがとう。」

 

「大剣が出来上がるのは3日後位だ、そのときに取りに来てくれ。」

 

「了解。」

 

短剣だけ持ってギルドに向かう、今日は適当にどっかの家の掃除とかやってみるかな。




投稿してたと思ったらしてなかった


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慈善事業

俺がギルドに入ると受付嬢は俺を見て溜息を吐いた。

 

「おいおい、酷いな。」

 

「あんたもう取り繕うことすら辞めたのかい、全く、もうまともな依頼は無いよ。」

 

「知ってる、残ってるのは街の雑用だろう?」

 

「それが狙いかい。」

 

「まぁな。」

 

依頼は確かに少ないが雑用の依頼は腐るほど貼ってあると言った有様だった。

 

「この街の人達はやっぱり識字率は低いのか?」

 

「そうだね、特に子供なんかは文字すら分からない子が多いね。」

 

「ふむ。」

 

孤児院などは領主からの命令で何とか保ってはいるようだが、スラム街や日陰者が集まる場所はどうしても出てしまう。

 

「面白い、少しばかり探ってみるか。」

 

「あんたまた変な事考えてんじゃないだろうね。」

 

「ハハッ、それは分かってからのお楽しみってな、取り敢えずこれとこれ受けるわ。」

 

そう言って受付嬢に渡したのは孤児院の子守りと貨物運搬の手伝い、孤児院のガキ共を使うついでにコネ作りの場を作ろうという考えだ。

 

「あとこれの写しをくれ。」

 

基本的にこの時代の孤児院のほとんどは子供達が荒んでいるから時と場合によっては1人になるけど、夜まで粘ればいける。

 

「・・・分かったよ、失礼な事言うんじゃないよ!」

 

「分かってる。」

 

まず孤児院に向かう、そこにはお婆ちゃんと小さい子供達が小さな庭で遊んでいる所だった。

 

婆さんになるまで生きてるのは珍しいな、そりゃ体力面で不安にもなるか。

 

「どうも、依頼を受けて来たものなんですけど。」

 

「あらあら?冒険者の方かい?ごめんねぇ、わたしは目が見えないんだ、少し触らせておくれ。」

 

お婆ちゃんが手を伸ばしてきたので握手する。

 

「あらあら、お若いのに御立派ねぇ、うちの子供達と遊んでくれるかい?」

 

「分かりました、俺も若いんで、気のすむまで遊んであげますよ。」

 

「ありがとうねぇ。」

 

お婆ちゃんは子供達を集めた後、孤児院の中へ入っていった。

 

子供達が警戒全開で俺を見ている、まぁそうなるよな。

 

「あー、頼りないかもしれんけどお前らの遊び相手になったゼルだ、よろしく頼む。」

 

俺はそう言って手を差し出した。

 

「兄ちゃん、冒険者か?」

 

「ああ、まだ新人だけどな。」

 

「何かお金になる仕事はある?」

 

ある、その為の勉強も必要だが。

 

「ある、腐るほど、だがその分、危険も多い。」

 

「俺達でも出来るものはある?」

 

「そこでだ、こういう依頼がある。」

 

俺が持ってきた依頼の写し(おばちゃんに書かせた。)を見せる、そこに書かれていたのは貨物の運搬、荷物は鍛冶屋への鉄の運搬、それだけで子供が数人腹一杯に食える程度の金は貰える。

 

その他にも自警団への食糧運送等があったが食べ物の恨みは恐ろしいものがあるので止めた、その点鉄なら落としてもそこまで大きな怪我はせず、子供が二人居れば大人一人分位の仕事は出来る、今度ギルマスにでも打診してみようと思う。

 

「何はともあれ、まずはこういうのをやっていきな、お前らじゃ魔物と戦ってもすぐに死ぬ、俺なんかはどうしようもない事情があってこうなってるからな、参考にするのは止めておけ。」

 

「雑用じゃねえか。」

 

「鍛冶ってのも良いもんだぞ。」

 

「・・・今日は従う。」

 

「良い子だ。」

 

孤児院のリーダーが頷いた事で他の子達も雑用をすることになった、ここまでは狙い通り。

 

「あぁ!?ガキだと!?」

 

「はい、鉄の運搬を手伝ってもらっています。」

 

「ガキが鉄運べるってのか?」

 

「小さく分ければ問題ないでしょうし、危険な事がないように見張ってます。」

 

「てめぇも対して変わらんと思うが?」

 

俺は無言で5人分の荷物をどうにかこうにか持ち上げる、一人分でも結構な量なので目の前が見えない。

 

「分かった、分かったから降ろせ、危なっかしくて見てられねぇ。」

 

「了解です。」

 

取り敢えず2人分を両手に持ってにっこりと笑う、俺達が話している途中も子供達は頑張って運搬を続けており、既に目減りするくらいには減っていた。

 

「・・・結構減ってやがんな。」

 

「あんたら商人の思う以上に孤児は多い、力が無くても2人3人で協力すればそれなりに仕事は出来るさ。」

 

「・・・。」

 

「冒険者ギルドに頼むのも良いが、それよりも安上がりで、更に従業員を雇う金も減らせる良い案がある、乗るか?」

 

商人のおっさんは少し悩んだ後明日話があると言ってそのまま店に帰って行った。

 

「計画通り。」

 

「・・・おい、次はどこに運べば良い?」

 

「こっちのはこの先にある倉庫に送ってくれ、ゆっくりで良いからな?」

 

「分かった。」

 

孤児達もリーダー格は数人居て、それなりに連携が上手い、やはり人手を増やして教育するなら孤児だな。

 

「次は鍛治師達との交渉だな、アロウズにも協力して貰うか?」

 

いや、アロウズが周囲からどう思われてるか分からんし、止めておくか。

 

地道にやってくか、どうせ領主とかいない街だろ、王都までそんなに距離ないらしいし、多分王都で貴族達と色々やってるだろ、知らんけど。

 

その後も鍛治師達と相談したり子供達と相談したりしている内に依頼が終わったので俺が依頼の報酬を受け取りに言って全額孤児院に寄付した。

 

が。

 

「あんた達何やってるの!?」

 

門限を過ぎていたらしくてめっちゃ睨まれた。

 

うん、なんかゴメン。

 

マジでゴメン。




スヤァ


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仕事

翌日、ギルドマスターが冒険者を集めて谷へ簡単な調査に行った。

 

俺はもし問題があった時の予備突撃部隊の一人だ。

 

そしてギルドマスターが居なくなったところで受付嬢から大量の書類を渡された。

 

「ギルドマスターからの八つ当たりだよ。」

 

「嘘だと言ってよ。」

 

「残念ながら本当だよ、さっさと仕事に取りかかりなさいな。」

 

くっそ、逃げられねぇ。

 

書類に目を通すとギルドマスターの承認が要るものは省かれており、その代わり、今後のこの街の冒険者ギルドがするべき事を出来うる限り詳細に書き記せだとか、ギルマスお前読んでたな。

 

仕方無いのでスラムの貧困層を雇って仕事、特に清掃と製造業を中心にしてもらおうと考えた。

 

なぜ製造業なのかと言うと、単純に覚えやすいからだ、少なくとも基礎は。

 

この世界、と言うかこういう世界の鍛冶技術は鋳造(液体にして固める)か鍛造(日本刀の様に叩いて強度などを増した状態で冷やしたりする)かのどちらか、鋭さを求めるなら鍛造、重さや普段使いなら鋳造と使い分ける所もあるようだが基本的にここは鍛造だ。

 

鍛造は一人の作業量がとてつもなく多いからかどうしても町ひとつ分の作業をするとなると人数がかなり居る。

 

ではそこに新人としてスラムの子供達等を含めるとどうだろうか、単純に材料などの運搬にかかる時間も少なくなり、子供特有の記憶力の良さで鍛冶に詳しくなるかもしれない、そうなると自然と弟子も出来るだろうし何なら金だって落ちるだろう。

 

そうなれば街は大きくなり、それだけスラム等も多くなりまた吸収しの繰り返し、確かにそれにともなって闇も深くなるだろうが、それでも一定の速度での発展は望める。

 

鍛冶だけじゃなくても、どの仕事でも小さいことからコツコツとやっていればそこまで大きな問題はないはずだしな。

 

ギルドの仕事も悪くない、さりげなくこちらの考えている事を権力上位者に伝えられる。

 

まぁ、まずはこの書類の山を終わらせるのが先だな。

 

うへぇ、下水に魔物が入り込んだからどうにかしてくれ。知るか、依頼で出せや。

 

林で犬を見つけた、保護してくれ、知らんて。

 

ーーーーー

「終わった。」

 

肩が凝ったのか腕を回すと少し気持ちいい。

 

「お疲れ様、はい、紅茶。」

 

「どうも。」

 

時間は夜、昼過ぎてた。

 

自覚するとお腹が鳴った。

 

受付嬢も笑っておやつを出してきた。

 

クッキーなどではなく小さなブルーベリーの様なものだが。

 

「飯食いに行ってきます。」

 

「あー、今はもうどの店も開いてないから家寄ってきな、一食位分けてあげるよ。」

 

「・・・すみません。」

 

受付嬢の家に行くと台所がかなり汚れていたが飯はまともなのが出てきた。

 

出てきたのは米でもパスタでもなく普通の固いパン、と肉。

 

野菜も多めなので大丈夫だと信じる。

 

食べると旨かった、流石にパンは固かったが野菜を切り刻んで煮たのだろうか、スープがとてもうまい、と言うか火はどうした、薪代凄いだろうに。

 

「ああ、これかい?これはね、昔の学者さんが作った魔動機だよ、魔力を貯められる装置を作って火を起こせるようにしたのさ、名前はコンロって言うんだよ。」

 

・・・この世界転移者とか転生者多くねぇ?

 

めっちゃ残ってんじゃん、何なら重要なところに絶対居るじゃん、何かしらの偉業残してんじゃん!

 

いやまぁ多分食事関係はほぼ確実に日本人だろうけどさ!舌肥えてるもんな!分かるよ!パサパサのパンと塩っからい水しか与えられなかったときはブチキレそうになったから分かるよ!

 

でも、何か違うだろ?お前らならわざわざ知識チートしなくても色々できただろ?

 

・・・俺も人の事は言えないか。

 

「美味しかったかい?」

 

気付けば皿の中は無くなっていた。

 

「美味しかったです。」

 

「このスープはね、私のひいお婆ちゃんが作った物らしいんだよ。」

 

めっちゃ近くに居たわ転移者か転生者か知らんけど。

 

「はぁ。」

 

「まだまだあるから、たんとお食べよ。」

 

マジで?良いの?コンソメスープと違う味だから飽きなさそうなんだけど良いの?

 

そのあとめちゃくちゃ食った。

 

帰ったらおっさんにめちゃくちゃ怒鳴られた。

 

ごめんなさい。




徹夜して友達の家でフォーオナーしてたら書きたくなった、フォーオナーって対人戦の動きとか物凄く参考になるんじゃあ~、でも崖とか水に落とすのは止めろ、お前らホントにNPCか?


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オーク襲来

翌日、俺は大剣を回収しに鍛冶屋に向かっていた。

 

「おう、来たか。」

 

「どうもアロウズ、剣はできてる?」

 

「ハッハッハ、バッチリだ、重くて硬くて簡単には壊れてねぇ。」

 

まぁ素材要求量はとんでもなかったみたいだが。

 

請求書として出されていたのは金貨10枚、少しずつ払えば良いローン仕様だったのが幸いした。

 

庭を借りて少し素振りをすると、空気を裂く音が前より格段に良くなった。

 

「・・・うん、いい剣だ。」

 

「どうだ?今度も使ってくれるか?」

 

「ああ、これなら充分使えるよ。」

 

俺がそう言った瞬間、遠くから銅鑼の音が響いてきた。

 

「敵襲!?そんな、どこの国も戦争なんか始めてねぇはずだ!」

 

「ああ、やっぱ敵襲か・・・。」

 

街の正面から敵は襲って来ているらしく正門がすぐに閉じられているのが見えた。

 

「アロウズ、ちょっと試し斬りに行ってくる。」

 

「お、おい!」

 

身体強化。

 

家の屋根に飛び移り城壁の上を見る。

 

「反応から見て相手は人間じゃねえな、魔物か?」

 

屋根を走りながら状況の把握を始める。

 

正門は破られていない、だが既に少数が入り込んでいるのか中で戦闘が起こっている。

 

建物の隙間から見えた敵の姿は・・・。

 

「オーク、何で、ギルマスがミスしたのか!?」

 

城壁の上に飛び移ると兵士達が弓を構えて正門前にいるオーク達に矢を浴びせている途中だった。

 

「状況は!?」

 

「突然森からオークの大群が押し寄せてきたんだ!オークを倒せるような奴らはギルドマスターが全員連れて行った!」

 

「留守を狙った!?何でそんな奴が相手にいる!?」

 

「知るかよ!ぐぁ!?」

 

投石で話していた兵士の頭が消し飛んだ。

 

「チッ。」

 

城壁の上から正門前を見ると正門前に大きな個体がいるのが見えた。

 

「ランクC冒険者!ゼルが加勢する!」

 

俺はそれだけ言うと城壁から飛び降りた。

 

上からの奇襲で破城槌の様に棍棒を振り上げていたオークを叩っ斬る。

 

数メートルほどの大きなオークの巨体が崩れ落ち、正門前に小さな空間が出来た。

 

「・・・。」

 

敵も味方も、突然現れた俺を見て固まっている。

 

遠くに兜の様なものをつけたオークを発見した。

 

「・・・オークの上位種は調べてねぇな、だが、やるしか無いか。」

 

大剣を構える。

 

オークが咆哮する、豚の様な鳴き声を一斉に挙げて俺を殺そうと迫る。

 

「行くぞぉ!」

 

俺も走り、先頭のオークの頭を刎ね飛ばす。

 

幾つもの槍や剣が俺に追いすがってくる。

 

「そぉい!」

 

オークの頭や肩、武器などを足場にして群れの中を進んでいく。

 

身体強化して地面にオークを叩きつける。

 

その風圧でかなりのオークが体勢を崩し、その隙に大剣を振る空間を確保する。

 

「クッ。」

 

全方位を薙ぎ払ってもオークの勢いが止まる様子は無い、単純に数が違い過ぎるのだ。

 

しかもかなり不思議なのがこのオーク達、いやに統制が取れている、いや、元々人型の魔物はある程度統率が取れているのだがそうでは無い、オークの一番前に盾を配置し、その上から槍で突き、盾に近づいたら剣が盾の隙間から出て来ると言った戦術を駆使して来るのだ。

 

これは明らかに知恵のある何かがいる、ギルドマスター達が死んでいた場合、この街は終わりかもしれん。

 

「チッ・・・魔術があれば・・・。」

 

何故適性がなかったのかと本気で思う。

 

その時、遠くから岩が飛んできた。

 

その他にも炎なども飛んで来ている。

 

「街からの援護か、助かるな・・・!」

 

街からの援護も既に膨大な数がいるオーク達相手にはそこまでの意味は無いはずだ、今の所、正門前にいるのは本当に俺だけ、その俺も少しずつ正門から離されてきているのが現状だ、援護が届く位置から離れれば、俺はあっという間に死ぬことになるだろう。

 

オークの上位種は門から2キロほど遠くにいる、今の俺ではどう頑張っても無理だ。

 

「うおおおおらああああああ!!!」

 

正門前を俺1人で支えている現状、俺がこの街の要だ。

 

予備もいないし、粘るしかない。

 

「かかって来い!豚共、全員挽肉にしてやるよぉ!」

 

早く帰ってきてくれよ・・・ギルマス。




防衛側一人(援護あり)、攻撃側無数。

こんなのやりたくないっすわ。

なお制限時間はランダムとする。


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懐かしい?2人

肉を切れば血が出る、骨を砕けば血が出る、首を切れば血の噴水が出来上がる、どのくらい切っただろう、オーク達の攻勢は未だに止まらない、気が遠くなるほど切り刻んだ筈なのに全くと言っていいほど減っている気がしない、

 

血の匂いで既に鼻はイカれている。

 

俺の大剣は脂に塗れてかなり切れ味も落ちている、ふき取れればいけるだろうが、そんな暇はない。

 

俺の足元には既に血河屍山の有り様だ。

 

俺の身体は既に血で真っ赤になっていることだろう、血が服に入り込んで気持ち悪い。

 

こういう時、あの腐れ骸骨ならどう言うだろうか。

 

まぁそれは良い、どうせまだまだなのである!とかいうに違いない。

 

「さぁ、殺戮だ。」

 

ーーーーーーーーー

「敵の情報はどうなってる!?街を襲ってる魔物の数は!?」

 

「約1万ほどです!」

 

「一万!?クソが!王都でも攻めてろよクソッタレ!」

 

「ギルドマスター!俺達に指示を!命令されればすぐにでも動けます!」

 

「・・・。」

 

少し小高い丘の上でギルドマスター以下Bランク冒険者達が固まっていた。

 

総数は約一万、それがフロックスの街に向かって進軍しているのが見えた為だ。

 

防衛部隊はその数の前に何かが出来る訳でもなく、あっさりと門の前に辿り着かれ、門も挙げられようとしている光景すら見て取れた。

 

だが、その時、門を破壊しようと棍棒を振り上げたオークが倒れたのだ。

 

そして倒れたオークの前にいるのは。

 

「クソガキ・・・?」

 

そして、1人対一万の戦争が始まった。

 

戦いが始まってから、あの子供はずっと動き続けている、軍の真ん中で仁王立ちしているオークロードという災害級の化け物も、油断無くあの子供を見つめている。

 

そして、数時間が経った今、あの子供は約二千ほどのオークを討ち取った。

 

それを見ていた誰もが言った、英雄だと。

 

「おい、お前ら。」

 

攻めるなら、あのクソガキを生き残らせるには。

 

「英雄を、助けるぞ。」

 

全員が静かに熱狂した、自分達が英雄の1人になれる喜びと窮地の英雄を助けるという、一種の物語の様な展開に、冒険者という人種はこれ以上無いほどに燃え上がった。

 

動かなかったギルドマスターに思う所もある、何故最初から参加しなかったと糾弾したい気持ちもある、だがそれ以上に、何の義理も無い筈の街の為にその命を賭けて最終防衛線を1人で維持している英雄の助けとなりたいと、そう思ったのだ。

 

この世界において、一番のバカで愚か者の代名詞、冒険者。

 

彼等は、どのランクも基本的に自分の生きたいように生きて、夢の為に死ぬ、なるほど、理屈ではなく感情で動く人種など、確かに馬鹿馬鹿しくて愚かだ。

 

しかし、感情で動く分、やる気になれば、びっくりするほどの強さとなるのも、また愚か者であることも忘れてはいけない。

 

「テメェら!一世一代の正念場だ!全員気張れぇ!」

 

『うおおおおおおおお!!!』

 

ギルドマスターは感謝する、ギルドマスターになってから、冒険すら満足に出来ず、しかし代わりの自分の欲求を満たす物も見つけられず、燻っていたところにコレだ、全てはあの子供の影響だろうか。

 

「あの厄病神で英雄のクソッタレを助けに行くぞ!全員、突撃!」

 

地面を鳴らして突撃していくのは一人一人が人間の区分を超えた化け物達、それでも一万の魔物を相手に持ちこたえられる者はそうは居ない、彼等にも嫉妬の情はある、それでも心躍る愚か者でもある。

 

ジャンヌダルクがジルドレェなどと共に国を救った時、彼等の強さは当時では考えられないほどの強さだった、確かにジャンヌダルクの当時からすれば非常識な戦術などのお陰でもあったのだろうが、少なくとも、死に体にあった国を救うくらいには彼女達は英雄だった。

 

彼等は英雄に恋い焦がれた少年の様な気持ちで戦いに参加した、少なくとも、今ここにいる愚か者は。

 

オークの集団は予想外な方向からの攻撃に混乱し、オークロードも驚いて指示を飛ばせない状況になった。

 

「ねぇ、助けてほしい?」

 

「何?」

 

ギルドマスターの横に居たのは丁度クソガキと同じくらいの小さな男女。

 

「まぁ、聞かれなくても助けるけどね。」

 

「アル、ゼルを助けてね。」

 

「その前にアト、頼むよ。」

 

「分かってる。」

 

アトと呼ばれた少女が、古い木を削った様な杖を掲げる。

 

「・・・闇夜を照らす古の光、全てを覆う夜の闇、何もかもを見通す賢者の知恵の一端を今ここに、『グラビトンブラスター』!」

 

闇色の光がオーク達に向かって飛んでいく、それは、一瞬でオークの群れの半分以上を地面に這いつくばらせた。

 

「やっぱり全力で放てると楽だね!」

 

「結構制御出来てないから多分後で師匠に怒られるよ。」

 

「・・・やめておけば良かったかな。」

 

「あはは、行ってくる。」

 

四つん這いになった少女を置いてアルと呼ばれた少年は走り出す。

 

「光を纏え、浪脚!」

 

足に光が集まり、その速度を一気に上げ、オーク達の中に突撃した。

 

「君達は、一体・・・。」

 

「やっぱり怒られるかな、いやでも師匠ゼル大好きだし、でも・・・。」

 

少女は欠片も聞いていなかった。

 

ーーーーーーーーー

「次。」

 

オークを腕を斬りとばす。

 

「死ね。」

 

大上段から大剣を叩きつけてオークを真っ二つにする。

 

次から次へと!周りを見る暇すら無いぞ!

 

「闇を浄化する聖なる光よ!我が剣に纏い薙ぎ払え!『聖龍斬!』」

 

周りのオークが光に飲み込まれて消えていった、光は俺も巻き込んだが、俺には被害は無く、むしろ傷が塞がって行った。

 

「・・・これは。」

 

「久し振り、助けに来たよ、ゼル。」

 

光を放った奴は俺を知っている様だった。

 

金髪に青い瞳、全体的に程よく筋肉がつき、剣もかなり上等な物の様だ。

 

「・・・どちら様で?」

 

相手はずっこけた。

 

「ゼルが俺を助けてくれたんだろうが!忘れてんじゃねえよ!」

 

「・・・・・・・・・あのクソガキか!」

 

「やっぱり名前覚えて無かった!というか忘れるくらい俺の存在感無かったのかよ!」

 

「はは!今までどこにいたんだ?俺はてっきり死んだのかと。」

 

「アトと一緒にカルト様の所にね、ただ、ホルス様がやって来て2人で煽り合いを始めた時は焦った。」

 

「うわぁ。」

 

「まぁ、いろいろあったんだけどそれは後で!今はこのオークの群れをどうにかするよ!」

 

「了解、ただ大剣を切れ味が落ちててな、脂拭くために30秒持ちこたえてくれないか?」

 

「了解、守るから早くしてよ!」

 

元クソガキが剣を構えてオーク達と対峙する。

 

威圧でもしているのか、それとも単純に敵が増えたから警戒しているのか、それは分からないがとにかく俺は脂を拭き取ることにした。

 

「布持っていて良かったわ、うわ、布が切れた、これ本当に大剣かよ。」

 

というか歪みもしてなければ刃が欠けてもない、というか斬れ味が下手な刀より良いんだけど、アロウズは化け物か?

 

大剣についた血と脂を全て拭き取ると、大剣の刃先に白い光が見えた。

 

「よし、これならいけるかな、元クソガキ、名前は?」

 

「アルだよ、あとアレは俺の黒歴史だから止めてくれ、マジで。」

 

「了解アル、合わせる、好きにやれ。」

 

「分かった、まずはオークロードまでの道を一気に突破する、その後オークロードを撃破、異論は?」

 

「無い、行くぞ!」

 

同じカルトの所で育ったからか、それともアトとの連携でもしていたのか、アルはなかなか良い動きをしていた。

 

俺も身体強化でブーストした身体能力で追走し、撃ち漏らしとカバーをしていた。

 

オークロードの前まで突っ込み、2人でオークロードに斬りかかる。

 

オークロードは無言で骨で出来た剣で俺とアルの剣を止めた。

 

「まさか、片手で止められるとはな!」

 

オークロードの剣を蹴って後退する、アルもオークロードに追撃しようとしたが殺気でも感じたのだろう、慌てて背後へ飛び退いた。

 

「ちょっと2人とも!調子乗らない!」

 

「「アト!」」

 

アトは灰色のローブを着て上空から降りてきていた。

 

アトの黒い髪は綺麗に伸びており、背中に届くほどの長さになっている様だった、というか、アルの時も思ったけどお前ら美男美女かよ。

 

「カルトから伝言!オークロードはロックベアの幼体と同じくらいの強さだから3人で倒して見せて、だって!」

 

「嘘だろ!?」

 

「俺とアトじゃ傷をつけるので精一杯だったやつじゃん!」

 

「俺は死にかけで腕一本取ったな。」

 

「「え、つよ。」」

 

3人ともオークロードに目を向けながら会話する。

 

「やっぱりこの中で一番ゼルがおかしいよね。」

 

「分かる。」

 

「おい、俺が狂人みたいな事言うのやめろ。」

 

「だって血塗れだし。」

 

「それは仕方ないだろうが、ったく、行くぞ。」

 

「「了解!」」




因みに、アルとアトの2人がロックベアの幼体と戦ったのは最近であり、その時点で傷をつけるのが精一杯。

主人公が腕一本取ったのは5歳の時である。

やっぱほぼ森で育った人は違うんすねぇ!


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黒化

大剣とオークロードの持つ骨の大剣がぶつかる。

 

「闇の弾丸よ!貫け!『ダークバレット』!」

 

「光の槍よ!敵を穿て!『ホーリーランス』!」

 

闇の弾丸と光の槍がオークロードに向かうが、オークロードは俺を一瞬で弾き飛ばし、二つの魔法を力任せに大剣で薙ぎ払った。

 

「・・・。」

 

先程から同じ様な光景しか続かない、俺の攻撃はオークロードの圧倒的な膂力に敵わず、2人の魔法は威力こそ大きいものの、オークロードに届かせることが出来ない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 

「魔力切れ?嘘でしょ・・・。」

 

やっぱり、一騎討ちしか無いよなぁ。

 

『・・・小童共が我に立ち向かってくるから何かと思えば・・・。』

 

「「「!!?」」」

 

オークロードが喋った?嘘だろ。

 

『見込みはあるが、今は雑魚だな、しかし、そこの剣使い、お前はなかなか強いぞ、我も久しぶりに血が騒ぐ。』

 

「そりゃどうも、こっちとしては今すぐにでもアンタに死んでもらいたいもんだがね。」

 

『良い、それが人間の答えだ、構えろ。』

 

空気が変わった。

 

今までは様子見だったことがよく分かる、こいつは・・・俺でも簡単に勝てるかどうか。

 

ロックベアの幼体と同レベルってのも頷ける、だからこそ3人だった訳か。

 

「キッツイねぇ、本当にさぁ!」

 

大剣を構えるとオークロードは車の様に突撃してきた、オークロードの身体は大きい、俺の体のどこかに当たるだけで致命傷だ。

 

「そら!」

 

オークロードの身体をかすめる様に大剣を横に流して勢いを減らす。

 

それでも俺の身体が浮き上がり、地面が割れた。

 

「グッ。」

 

『まだだ。』

 

オークロードは俺の斜め後ろから体勢を変え、背後に飛ぼうとしている俺の身体を斬ろうと大剣を横に倒してなぎ払おうとしていた。

 

ゆっくりと大剣が迫ってくる、俺も出来うる限り大剣を盾にしようと腕を動かすが少しばかり間に合いそうに無い。

 

次の瞬間、俺とオークロードの間に火花が飛んだ。

 

『ぬぅ!?』

 

「目が!?」

 

向けていたのが片目だけで助かった、が、今の内にアルとアトの所まで下がる。

 

「・・・今のは!?」

 

「おう坊主、危なかったな。」

 

俺たちの背後から現れたのはギルドマスターだった。

 

て言うか、持ってる武器何だそれ。

 

「鎖鎌・・・じゃ無いよなぁ、何だそれ?」

 

片手剣に分銅鎖をつけて、更にその先に探検のようなものがある、ぶっちゃけそれ武器として機能するの?と言いたくなるような武器だった。

 

「さっきは助かったぜガキ共、後は大人に任せな。」

 

「残念ながら。」

 

「それで満足できるほど。」

 

「大人しい子でも無いんですよ!」

 

2人も少しくらいは魔力が回復したのだろう。

 

「はぁ・・・クソガキに似て生意気だな・・・。」

 

「俺とギルドマスターが前衛、アルは中衛、アトは後衛、これでいいな?」

 

「「「了解!」」」

 

『敵の前で作戦会議とは、余裕だな。』

 

「そうでもない。」

 

身体強化、今の時点でのレベルMAX!

 

俺はオークロードの大剣を一太刀で弾き飛ばした。音が自動車が事故起こしたみたいな音したけど問題ない。

 

『何!?』

 

「油断しすぎだ、豚面将軍。」

 

オークロードの足に分銅鎖が巻き付き、ギルドマスターの斬撃が始まった。

 

足を基点にして股下や背後に回り込み、健や大腿など、機動力を中心に割いて行った。

 

「聖なる光の加護を、我らと共に、歩む力を!『ホーリーサークル』」

 

光の波が空間を揺らす、地面が少し波打っているように見えている、傷が少しずつ言えていくのが分かった、俺は細いが傷だらけだったからな。

 

「闇の極光、全てを包む母なる闇よ、その全てを暗闇に染め、光なき哀れな子らに祝福を、『カースエンチャント』!」

 

アトが俺の大剣に赤い魔力を纏わせた、何だこりゃ。

 

『ぬぅら!』

 

脚を切られながらもしっかりと俺を狙って放たれた拳をバク転して避ける。

 

足に組み付き、捻らせようかとも考えたが、そこまで効果もなさそうだったので諦める。

 

「おっさん!」

 

「ついにギルドマスターから呼び方変わったなクソガキィ!」

 

オークロードの周りに大量の鎖が彼方此方に巻き付き、足場を作った。

 

「一気に行くぞクソガキィ!」

 

「ぶっ飛べ豚面ァ!」

 

俺が足場を使って勢いを乗せた大剣で攻撃し、その隙にギルドマスターが片手剣や短剣でじわじわと削っていく、筈だった。

 

俺がかちあげた骨の大剣が降ってきたのだ、それも、オークロードの目の前に。

 

オークロードが笑った。

 

『天運は我にあり!』

 

骨の大剣を逆手に持つと、真正面から突撃していた俺に投げつけた。

 

俺は空中に浮いており、避ける暇も無かった。

 

大剣を盾にする暇もなく、俺の身体が切り裂かれる。

 

肩から横腹まで、かなり深く傷が走った。

 

「・・・マズイな。」

 

骨が逝ったとかの次元じゃない、息苦しい、血が出まくってる。

 

「・・・強いな。」

 

ギルドマスターも片腕を無くして吹っ飛んできた。

 

「ガハッ、チッ、やられた・・・。」

 

オークロードを見るとギルドマスターの・・・左腕か?を持って嗤っていた。

 

『どうした?早く来るがいい。』

 

アルもアトも既に精神がギリギリだった、確かに魔物と戦う経験は豊富なのだろうが、人の言葉を喋る魔物など、珍しいどころの話ではない。

 

俺だってあの腐れ骸骨が居なければ戸惑っていたかもしれないのだ、責められない。

 

「やるしかない・・・か。」

 

『奥の手か?それも良い。』

 

「奥の手なんて言えるようなもんでもないがな、出来るかもわからん。」

 

『良い、待ってやろう。』

 

「ありがとよ、あと、出来た時、もしかしたら一瞬で終わるかもしれん、許しは請わん。」

 

身体強化を最大で展開する。

 

「・・・すぅ・・・。」

 

身体の奥で何かが動く、血のようで血ではない、あの腐れ骸骨が最後に見せたアレを思い出せ。

 

・・・名前は確か

 

「『緋化(ルベド)』」

 

身体から何かが噴き出る感覚と共に全てが遅くなる。

 

世界がモノクロに変わる。

 

身体から噴き出ている黒い瘴気のようなオーラも・・・黒?

 

手を見ると俺の手の周りには黒いオーラが纏わり付いていた。

 

動かすのに影響は無い、腐れ骸骨が緋色だっただけか?

 

なら、コレは黒化(ニグレド)と名付けようか。

 

俺は大剣を構えて走り出す、ここまで来てやっとオークロードは反応した、腕を伸ばし、俺を握り潰そうとしていた。

 

俺は腕を斬り飛ばし、そのまま一回転して首を切り落とした。

 

そこでモノクロの世界から戻ってきた。

 

世界に色がつき始めたのだ。

 

オークロードを斬った俺の動きが3人とも見えなかったのか、全員が呆然としていた。

 

「・・・勝ったぞ。」

 

「すげぇ。」

 

「・・・。」

 

「流石だね・・・。」

 

全員が無事なのを見て安心したのか俺は倒れ込む。

 

顔に暖かい液体が触れるのが分かった。

 

あー、そう言えば俺大怪我負ってたなー・・・。

 

俺の意識は暗転した。




この主人公ボスと戦う度に気絶してるのどうにかしなきゃなー、と言っても戦力的には序盤で強いNPCポジなのが辛いところ。


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起きた

目の前が明るくなってきた。

 

「・・・。」

 

頭がぼうっとする、ここは何処だ?

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・。」

 

俺の寝ていたベッドの横でアトが寝ていた。

 

「アト・・・なら、アルもいるのか。」

 

俺がそう言った時、部屋の扉がガチャリと開いた。

 

「起きた?」

 

アルだった。

 

「あー、まぁな?どのくらい経った?」

 

「一週間ってとこかな、俺達も冒険者として活動を始めたよ、一応ギルドマスターからランクCの冒険者カードを渡された。」

 

「そうか。」

 

「俺達はチームを組む事になったけど、良いよね?」

 

「問題ねぇよ、オークロードはどうなった?」

 

俺がそう言うとアルは何かを少し悩んだがゆっくりと言葉を吐いた。

 

「・・・ゼルがオークロードの首を刎ねて気絶した後、オークロードはまだ生きていたんだ。」

 

「・・・は?」

 

「俺もビックリしたよ、急に首だけになったオークロードから言葉が出て来たんだから、そして言われた、魔王が復活したぞと、数十年かけてお前達を殺しに来るぞ、地獄で待っている、その三つだけ宣言して死んだ。」

 

「・・・なるほど。」

 

「・・・魔王が復活したって・・・本当かな。」

 

どうだろうな、冥土の土産にしちゃ相手は強過ぎた、ギルドマスターもあっという間に戦闘不能になっていたし、知能も高かった。

 

「・・・多分本当だと思う、ただ、数十年掛けてってのが少しわからない、魔人族は確かに魔物との混血だとか言われてはいるが、魔物を従えるような魔法はまだ発見されていないはずだ、オークロードを一から育てるにもかなりの時間が掛かるはずだし、交渉したとしてもみすみす死ぬ意味が無い。」

 

「・・・ゼルは・・・魔人族が憎くないの?」

 

俺は考察を止めてアルをじっと見る。

 

アルの目は魔人族と言う言葉が出る度に昏くなっている様だった。

 

「思うところはある、が、相手は戦争を仕掛けてきている、俺は冷静に、確実に相手を倒す事以外に、誰かを助けられる手段を知らない。」

 

「だからって!」

 

俺は口に人差し指を立てて静かにする様に伝えるとアルは素直に静かになった。

 

「・・・アル、復讐は何も生まない何て言葉は言わねえよ、自分の思うままに行動して良い、ただし、復讐が生きる目的になる様な事があれば、俺はお前を殺してでも助ける。」

 

「俺が、ゼルに殺される・・・?」

 

「そうは言ってない、が、場合によっては・・・。」

 

「・・・わかった、その時は、俺を殺してくれ、ゼル。」

 

「俺に友を切らせるなよ。」

 

アルはフラフラと部屋を出て行った。

 

「オイ、起きてんだろお転婆魔法少女。」

 

「待って、その言葉は聞き捨てならないよ。」

 

溜息が出る、俺が静かにしろとアルに言う前、アルがオークロードについての話をした辺りでアトが目覚めたのは分かった。

 

「・・・それで?アト、お前は魔人族は憎いのか?」

 

「・・・分からない、私はアークラって魔人族は憎いと思う、でも魔人族自体を憎んでるかって言われると・・・分からない。」

 

狸寝入りしている途中も、考える事は止めてなかった様だ。

 

思わず頭を撫でてしまった。

 

「んっ・・・。」

 

「出来れば一緒くたにせずに個人で判断してくれると助かる、アルを止められるのは多分俺とお前だけだからな。」

 

「フフッ、ゼルったら、お父さんみたい。」

 

「えっ・・・。」

 

それは老けてるって言いたいのか?

 

「お父さんも同じ様な事言ってたんだ、出来るだけそいつ自身を見てあげなさいって。」

 

「・・・いの一番に死んだから、かなり罪悪感感じてたところもあったんだがな。」

 

「気にしなくて良いよ、私も、もうあんまり、覚えてない。」

 

・・・あー、ダメだ、湿っぽい話は嫌だ。

 

「・・・あと思ってたんだけど、アルとアトってもしかして付き合ってたりするのか?」

 

俺の言葉にアトは目を見開いていた。

 

「・・・・・・えっ。」

 

「・・・少しだけだけど、お前の体からアルの匂いがする。」

 

「えっえっ。」

 

「・・・俺の勘違いか?でもそれにしては結構はっきりしてるだが。」

 

「待って!」

 

起きた時から思ってたけどこいつらヤッてんな?

 

「ゼルにはほとんど会ってないからバレてないと思ってたのに・・・!」

 

「あ、やっぱり付き合ってんだ。」

 

「アルから告白されて、そのままズルズルと・・・。」

 

「まぁ良いや、興味無いし。」

 

「私が恥ずかしいだけじゃん!ずるい!」

 

「そんな事言われてもな、と言うか、よくもまぁそんな子供同士でやるわ・・・男女の体の事習わなかったのか?」

 

「習ったけど!習ったけど!私達は・・・その・・・あの・・・勢いでやっちゃったから、ね?」

 

「そうか、幸せになる様に祈ってるよ。」

「・・・時々思うんだけど、ゼルって女の子に興味あるの?」

 

「知らね。」

 

いろんな意味でな。

 

「もしかしてホm「そんなわけねぇだろぶっ飛ばすぞ。」・・・ゴメン。」

 

何て恐ろしいことを・・・。

 

「まぁなんだ、今は夜だし、さっさと寝ろ、と言うか、お前は最悪アルをその女の体全部使って変なことしない様に繋いどけ、最終的にお前とアルがドロドロに溶ければ俺が裏から色々と手を回せる。」

 

「さっきから蒸し返さないでくれるかな・・・!」

 

アトはそう言って俺にグーで顔面パンチを繰り出した後顔を赤くして出て行った。

 

「・・・よし、みんな居なくなったな。」

 

ベッドから降りると体の全身がバキバキになってすごく痛かった。

 

「やっぱり筋力落ちてやがる、筋力強化トレーニング、やるか・・・。」

 

大剣を背負ってトレーニングを始めた。




今まで出たのってどのくらいあったっけな。

ーーーーー
グロックスの街
主人公達が現在いる街、王都への街道が通っており、比較的重要な拠点の一つ。

オークロード
今回のボス枠、本来ならばグロックスの街にいる冒険者全員で挑んでも勝てない、がスカルパラディンの緋化を真似した主人公によって首だけになった、がそれでも数分間は生きており、魔王復活と魔王は知略で来ることと、先に地獄で待ってるぜクソ野郎!と捨て台詞を残した。

緋化、又は黒化
身体強化を極めた先にある秘術、の様なもの。本来は血のような緋色なのだが、主人公のものは黒である。何故かは多分ずっと先で判明する、そこまで作者のやる気とかが持てば。

スカルパラディン
これ書くのもう少し前の方が良かったかなと思わなくも無い人、過去の大雑把な回想で大体察せる人、主人公曰く腐れ骸骨、数年間ずっと扱かれてたから仕方ない、がそのおかげでオークロードとの戦いに多少なりとも対抗出来た。因みにオークロードと戦うことになれば一太刀でオークロードは死ぬ。因みに今は王都で百人組手をしている。

アル
主人公を子分にすると言っていたクソガキ、実はあの時点ではアークラ襲撃時にアトを守って死ぬ役割だった。ただ、勢いとノリと話の流れで彼の運命は変わった、今では金髪に青い瞳の光の御子に、どうしてこうなった。魔人族絶対殺すマンになるかは未定、シリアスルート書きたくなったら遠慮無く主人公が殺すと思います。

アト
本来ならばヒロインだった筈の人、ノリで今回アルとカップルに、ぶっちゃけこの先もいっぱい女の子出てくるから適当にくっつけたとも言う、本来ならアトが光属性を使うはずだった。ぶっちゃけ詠唱考えるの面倒くさいから一気に無詠唱とか覚えさせようかと思っている人、尚覚えさせるかは未定。

アークラ
アル、アト、ゼルの3人がいた村を襲撃し、舐めてゼルに片腕取られた人、3人の復讐対象にして抹殺対象にしてある意味目標。彼からすればゼルはともかくアルとアトは知らないので会ってもガン無視、ゼルを見た瞬間バーサーカーになるはず、多分、恐らく。

もう1人の魔族
説明出来ない、と言うかまだ出るか決まってない、アルとアトに気付いたけど見逃した人、どうせ出る頃にはこんな序盤の文章なんかみんな忘れてるやろ!多分!

ギルドマスター
オークロード戦では実は機動力削ぎまくったおかげで3人の戦闘をかなり楽にしていた立役者、ただしその代償に片腕をもぎ取られた、役に立っている筈なのに描写すらされない悲しみの戦士、描写されたかったら名前をつけられろ、流石にもう無理そうだけど、名称的な意味で。

カルト
実は今回の戦いでハラハラしながら見ていた。
が、何とか耐えて子供達の健闘をほっとしながら祝福した。

ゼルの生みの母親
手紙が届かなくなったので少し寂しい、婆ちゃんと2人で暮らしていたが最近スカルパラディンが家に住み着いたからか精神状態が少しずつ回復してきた。さすパラ。

ゼルの婆ちゃん、マーリン
決して過労死メンバーではない、妖艶な魔女のレジェンドカードでもない、実は凄腕の薬師、アルとアトの避妊薬を作っているのもこの人、尚2人はゼルの関係者だと知らない模様。

ーーーーー
抜けがあったら気が向いたときに出てくるこの設定集で追加されるかも。

次はどこに行こうか。

と言うか気がついたら本編レベルで文字数多いんだけど、やっぱ設定考えてる時が一番楽しいんですねぇ!


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ギルドマスターの依頼

3日ほど経過した、俺の筋力低下もアトの回復魔法で即回復させていたのであと1日ほどあれば元の筋力に戻りそうだ。

 

「待って・・・もう少し回復させて・・・。」

 

「あと五分でもう一回出来るか?」

 

「出来ないよ!筋肉バカ!」

 

「ひっでえなおい。」

 

大剣が同時に二つ放たれたように見えた、そして刀身がぶれて空気を切った。

 

「・・・これ増やせるかな。」

 

「もうやめなさい!」

 

アトに頭を殴られた。

 

オークロードやオーガといった人型との戦いは確かに俺の力になっているようだった。

 

「・・・仕方ねえな。」

 

「仕方ないじゃないと思うんだけど?」

 

宿からアルが出てきた、苦笑いでそう言っているのでさっきまでの訓練を見られていたのだろう。

 

「昼前から大事な回復役を疲労困憊にしないでくれよ?」

 

「もう既になってるよ!」

 

時刻は昼前、朝から付き合って貰っているので流石に止めにしておこう。

 

「ゼルはギルドマスターから呼ばれてるから、ギルドに行ってきてね。」

 

「マジかよ。」

 

「ギルドマスター曰く、パーティリーダーのお前が決めろ、だってさ。」

 

つまりお前らは何の用件が知ってると?

 

「・・・行ってくる。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

ギルドに着くと片手で葉巻を吸っているギルドマスターが座っていた。

 

俺がギルドに入るのを見ると奥を顎でさす。

 

俺は奥にある部屋に入るとギルドマスターもすぐに部屋に入ってきた。

 

「片腕、結局治らなかったのか。」

 

「アレだけ派手に潰されて、治る筈もねぇ、ま、俺としちゃ満足だがね。」

 

「まぁ、その話は追々、俺への用件は何だ?」

 

「あー、まぁ、お前からすれば色々と変な事かもしれないんだが、今学園から教員になるか?っていう打診があってな。」

 

「・・・おい、それってつまり・・・。」

 

「俺は見ての通りこの身体だからな、お前が良ければ臨時教師役としてお前らのパーティに行って貰いたい。」

 

「うわメンドクセェ。」

 

「テメェ・・・。」

 

「まぁ、俺にも責任があるし、受けよう、だから、資料を、くれ。」

 

「お、おう、切実そうだな。」

 

当たり前だ畜生め、オークロード戦では情報が無かったからまともな戦闘すら出来なかった、と言うか前兆が欠片も分からなかったから予測を見誤った、俺の責任だとは言えないだろうが、それでも何がしかの情報が拾える筈だったんだ。

 

「情報が無いことでえらい目に遭ったのはこれで3度目だ。」

 

「なんでそんなに多く・・・。」

 

黄昏の森でロックベアと死闘を繰り広げ、村ではいきなりの奇襲でアークラに滅ぼされるわ、街に行ったらオークロードの軍勢に襲われるだと?何?何で俺こんな人生ハードモードなの?

 

「取り敢えず、位置はどこよ?」

 

「迷宮都市ポリスのほぼ真横だ、ぶっちゃけ暇なら迷宮に潜っときゃいい。」

 

「OKOK、アルとアトは知ってるのか?」

 

「笑顔でリーダーに任せる、だとよ。」

 

「・・・。」

 

あいつら絶対面倒くさいから思考放棄したな?

 

「受ける・・・クッソ。」

 

「・・・ドンマイ。」

 

「いつ向かえばいい?」

 

「来年までに行けば問題無いぞ。」

 

「期間長過ぎるだろ何が起きた。」

 

後何ヶ月だ?年跨いでそうたってねえぞ今の時期。

 

「いや、臨時って付いてるだけあってな、非常時以外はただの冒険者とそう変わらん、だからまぁ。来年までに、な?」

 

・・・ギルドマスターも大変なんだな。

 

「まぁ、色んなところ旅してたらいいだろ、ゆっくり行くさ。」

 

・・・なら、少し思うところはあるが、母さんのところに行くか。



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疫病神

俺の母さんの居る村は黄昏の森外縁部に近い場所、黄昏の森自体一つの国を丸ごと覆えるくらいの大きさなので外縁部と言っても精々が10キロ程度、更に黄昏の森は山に囲まれた中心にあるので外縁部といえば三つほどの谷になっている部分だけなので防衛自体はかなり簡単だ。

 

・・・まぁその山も上に行けば行くほど化け物が増えていくから何とも言えないが。

 

黄昏の森自体が魔物の楽園みたいな状態なので人間の軍隊が森に入っても逆に物量で喰い殺される。

 

「まぁだからこそたまに転生者とかも居るみたいなんだが・・・。」

 

カルト曰くここ数百年で転生者は数人魔物として来ているらしい、全員化け物レベルの強さらしいので会った時は気を付けなさいと言われた。

 

ただ今では全員獣人だったり人間に化けて旅をしているらしいので会うことは無いだろうとも。

 

と言うかカルトがその度にニヤニヤ笑ってたところを見るにカルトに挑んだ奴絶対何人かいる。

 

「まずは準備だな。」

 

「食べ物は?」

 

「現地調達。」

 

「飲み物は?」

 

「袋が予備も含めて五つくらいで良いだろ。」

 

「道中は街も村も無いからゆっくり行けるけどどうする?」

 

「定期的に村に立ち寄って適当に魔物の素材売ろうぜ、それで行ける、最悪森に入って獲物取ればいける。」

 

「・・・それが出来るのはゼルだけだよ。」

 

「俺らは2人だとあっという間に囲まれて死に掛けたからな。」

 

まぁ、そうだろうな。

 

アルはそもそも森に入ったこと無いだろうし、アトは隠れるのが苦手だろうという印象はある。

 

「俺らだけだし、適当に歩いてたら着くだろう。」

 

門を出て街道を歩き始める。

 

村まで一週間程度、遠いが、まぁ行けるだろう。

 

ーーーーーーー

道中、ちょっと厄介なことが判明した。

 

俺は魔法がかなり効きやすいらしい。

 

そう、またもやゴブリンシャーマンの幻術に引っかかったのだ。

 

原因は分からない、俺の魔法は身体強化なので強化すれば問題は無いのだが、この世界において魔法はかなり強い立ち位置だ、魔法が使えない種族などほとんど居ないし向き不向きはあっても全く使えないなどは無い。

 

俺の場合は身体強化に着いてならば世界でたった1人と言えるレベルで適性は高いが他が絶望的なまでに向いていない、アトもアルも闇や光の魔法が得意というだけで他の魔法が使えないというわけでは無いのだ。

 

だから近接専門の俺はリーチ的な意味でとても不利な立ち位置である。

 

雑兵ならば問題は無いだろう。

 

攻撃魔法は使う魔力が多く、生活に使う様な火種を生み出す魔法なんかは使えても人を丸焦げにする様なものは使えないのだから、だが俺の場合は効果が増幅される。

 

それは防御魔法や付与魔法なんかの魔法も増幅されるみたいだから良かったが・・・まぁ、要するに、死にやすいという事だ、ゲームで言えば魔法防御力0のダメージ2倍みたいな強制縛りプレイ、悲しいにもほどがある。

 

まぁ、ゴブリン自体は吼えて見つけて叩き斬った。

 

アル達は幻術掛けられたのを察して警戒しようとしたら急に俺が吼えて走って行ったからまたオークロードみたいな化け物が現れたのかと思ったらしい。

 

幻術があったところで地形なんかはそう簡単に変わらないんだから音で探せるんだよなぁ。

 

とまぁ、こんな出来事があった一週間であった。

 

というわけで村がやっと視界に入ったんだが、様子がおかしい。

 

今は朝なんだが、騒がしい?

 

火の手が上がっているわけでもなく、村人達はみんな普通に畑を耕していたりするのだが森が、というか動物達が騒がしいのだ。

 

ザワザワと見知らぬ何かが来たみたいな・・・すこし嫌な予感がするな。

 

すぐに原因が分かった、壁の影に20人ほどの人間が伏せていたのだ。

 

「・・・アレ、山賊?」

 

「・・・多分。」

 

「・・・俺ってもしかして疫病神だったりするのか?行ってくる。」

 

「え、でもまだここ崖の上・・・。」

 

崖から飛び降りる。

 

「「ええぇぇぇぇぇぇ!!?」」

 

身体強化発動。

 

地面に着地する時にクルリと一回転し、走る。

 

この辺りには詳しく無いが、木の上を走れば問題は無いだろう。

 

動物に体を当てそうになりながらも何とか木の上を渡って行った。

 

ーーーーーーー

「行っちゃった・・・。」

 

「・・・やっぱり、一番人間辞めてるのってゼルだと思う。」

 

「・・・私も。」

 

「取り敢えず急ごう、多分村の中はゼルがなんとかしてくれるでしょ。」

 

「うん。・・・重いけど。」

 

「水の量をもう少し減らせば良かったかな。」

 

私達はゼルが持って行った重装備以外を背負って小走りで山を下り始めた。

 

ーーーーーーー

「奪え!こんな辺鄙な村なんて領主でも見向きしないだろうからな!」

 

私が外に出ると、そう言っている山賊が目に着いた、男達は全員彼方此方で戦っていて、私達女は長老の家の中で山賊達が撤退するのを待つという決まりなので私も外に出て長老の家まで走る所だった。

 

お母さんも今はスカルパラディンさんと一緒に王都まで薬を届けに行っているから1ヶ月も待てば山賊達は居なくなる、その間を耐え凌ぐくらいの食料は長老の家の地下に溜め込んであるし、仕事が出来ないのは困るがその間に私達女が何とか売れるものを作る事で耐え凌ぐのだ。

 

少なくとも餓えは防げる。

 

「居たぞ!女だ!」

 

背後から男達が迫って来る。

 

「はっ・・・はっ・・・きゃっ!?」

 

最近までベッドの上だったからか足が余り動かせない、すぐにこけてしまった。

 

「ははっ、女だ、しかも上玉じゃねえか。」

 

服が剥ぎ取られ、裸にされる、ああ、私は犯されるのね。

 

夫が死んで、子供も生贄にされた、子供は闇の聖霊様が拾ってくれたらしいけれど、今はどこかの街にいるらしい、でも、死ぬにはいい日ね。

 

そんな事を考えてしまった自分が嫌になる。

 

「ごめんなさい、貴方・・・。」

 

「あ?」

 

私を捕まえた男は嗤ったのだろう。

 

だが睨みつけようとした瞬間頭が無いのが分かった。

 

「・・・少し間に合わなかったか。」

 

その声は、夫に少し似ていた。

 

「さて、立てるか?」

 

「・・・ぜる?」

 

「・・・あ?」

 

ーーーーーーー

「・・・ぜる?」

 

「・・・あ?」

 

この女なんで俺の名前知って・・・あっ、母さんじゃないか?

 

金髪の・・・顔の半分くらい火傷してる・・・うん、多分母さん。

 

上半身全裸なんだけど、取り敢えず外套被せるか。

 

「これ着て、話は後。」

 

まだあちこちで戦闘が続いている、すでに何人か死んでるみたいだからすぐに終わると信じたい。

 

大剣を片手で持って走る、農具を槍のように使っている人やナイフで応戦している人などがちらほらといる、お前ら本当に農民かよ。

 

通りすがりに脚を切り落としたり背中から蹴って農具に突き刺したり、自警団のような人達がそれなりの使い手だったからかなり楽だった。

 

そんなこんなですぐに広場にいた山賊達は全滅した。

 

「・・・ありがとう。」

 

「山賊に襲われるとは、不運だったな。」

 

「ああ、助けてくれて本当にありがとう。」

 

「ああ。」

 

母さんが玄関前で待っていた。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

・・・気まずいにも程がある、ジッと見つめないでくれ。

 

「・・・ゼル、よね?」

 

「・・・あー、まぁ、うん。」

 

「来てくれたのね。」

 

「来たって言うよりかは、本来の俺の家に戻ってきたって言った方が正しいのかもな。」

 

「・・・ふふっ、ええ、お帰りなさい、ゼル。」

 

「・・・・・・・・・ただいま。」

 

俺は少し遅めの再会をここにしたのだった。

 

「ゼールー!」

 

「アト!ちょっ!?早いって!」

 

「お友達?」

 

「あー、パーティー仲間、かなぁ。」

 

「そうなの?じゃあ今日のご飯は豪勢にしなきゃ!」

 

「いや、しなくて良いから。」

 

なんか、こういうタイプはやりにくいな。




戦闘描写すら無く処理される山賊、これがモブの定めよ。


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母さん

「ゼルー、暇ー。」

 

「俺は暇じゃねぇ、アルと一緒に居とけよ。」

 

「襲っちゃいそうだもん。」

 

「お前は盛った猿か?あ?」

 

山賊の襲撃から暫く経ち、山賊の死体や戦闘による負傷者の治療で時間がとられた。

 

俺は簡単な治療法、応急処置等を受け持ち、重傷者はアルが回復魔法を使って傷をふさいでいっていた。

 

「お母さんが帰ってきたらビックリするでしょうね。」

 

「母さん、俺達はすぐに村を出ていく予定だよ。」

 

「分かってるわ、でもそれなら尚更よ。」

 

母さんは気を病んでると婆さんに言われていたので危険かもしれないと思っていたのだがまだましっぽい。

 

ただ、今までずっと俺が居なかった反動か、めちゃくちゃベタベタしてくる。

 

他の人の前でも愛してるわとか好きよとか、色々と言っているので少し、いや、かなり恥ずかしい。

 

村の皆も俺が息子というのと、生け贄にしようとしたという事実から何も言えないようだ、子供はキャッキャと話題にしているが。

 

まぁ恨んだりもしてないし、問題ないだろう。

 

「ゼル!見てくれ!」

 

「ん?おお!?なんだそれ!?」

 

「多分この辺りの主だと思う、でかいよねぇ。」

 

アルがズシンと音を立てて下ろしたのは三メートルほどある熊だった。

 

「おお、でかいな。」

 

「という訳で、宴だ。」

 

「しかたねぇなぁ、夜に村人全員に配るか。」

 

という事で、熊鍋をすることになった。

 

作るのも俺、配るのは母さん達、普通に美味しかったから良かった。

 

そして夜、皆がそろそろ寝始めて静かになった頃、母さんがふらっと外に出ていくのを感じた。

 

「・・・。」

 

「んー?ゼル?」

 

アルが寝ぼけながら俺の名前を呼ぶ。

 

「ちょっとトイレに行ってくるわ。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

俺も大剣は持てなさそうなので短剣だけもって母さんのあとを着いていった。

 

「・・・墓?」

 

母さんが何で墓に?

 

俺が音を立てずに木の上から母さんを見ていると母さんは一つの墓の前で祈るように手を合わせていた。

 

「神よ、私を最期に息子に会わせてくれたこと、感謝しています。」

 

・・・最期?

 

嫌な予感がする、飛び出す準備だけはしておくか。

 

「夫も居なくなり、母しか居なくなったと思い込んでいた私に、死んだはずの息子を送り届け、共に暮らすという幸せを私に恵んでくれましたことを感謝いたします。」

 

「・・・。」

 

「私の体はもうボロボロです、もう数日も生きてはいけないでしょう、ですが、それでも最期に、あの子に贈り物をしたいのです。」

 

なんの話だ?母さんの体は至って正常のはず、何が起こってる?

 

母さんは墓の近くで祈っていた。

 

それと最期?薬も何も無いはず、母さんは、何を持って最期と言った?

 

明日にはここを出る、その時に分かるのか?

 

一人で悶々としながら家に帰った。

 

ーーーーーー

翌日、朝に起きたが昨日の出来事が頭から離れなかった、どうしても俺には原因が分からなかった。

 

・・・母さんは相変わらず俺にベッタリだ。

 

そろそろ村を出る、母さんが贈り物をするならこのタイミングしか無いはず。

 

「ゼル、ちょっと来てくれる?」

 

「何だ?」

 

母さんが俺を呼んだ、どうしても口調は変えられなかったが母さんは嬉しそうだった。

 

「これをゼルにあげるわ。」

 

「・・・ネックレス?何でこんなものが。」

 

「私とあの人の大事なものよ、今の私が持っているより貴方が持っていた方が良いわ。」

 

そんな大事なもん俺に渡しても良いのか?

 

「・・・分かった。」

 

ネックレスを受け取り、首にかける、母さんは本当に嬉しそうに笑っていた。

 

「俺は行く、母さんも元気で。」

 

「ええ。」

 

ーーーーーー

一週間後、留まっていた街で婆さんから手紙が届いた、貴方の会った母さんは亡霊だった、村も三年ほど前に滅んでいたらしい、母さんは婆さんに似て魔法がとても上手かったらしく、自分の死体を代償に呪いを掛けたらしい、自分の息子に会った数日後にあの世に送られる、祈祷魔法と呼ばれている類いの物らしい。

 

村も元々母さんが再現したものらしく、村人達の魂に語りかけて一時の生を与えていたらしい。

 

母さんの属性は闇、幻術が特に得意だったそうだ。

 

俺の手の中には母さんからもらったネックレスが今もある。

 

思うところはある、もう少しあの村で過ごしておけば良かったと思うことも、ただ、哀れむことだけは、してはいけないだろう、あと少しで次の街だ、せいぜい面白おかしく生きて親孝行するとしよう。




ゼルの母さん
自分が死ぬ事を理解し、ゼルに会えば死ぬという呪いを掛けた、彼女視点でそれに一言も触れていないのは自分が死んだという記憶を思い出すのがゼルと会うことだったから、思い出してからはいつ死ぬかも分からない恐怖を表に出さずにゼル達を送り出した。

因みに、山賊達はゼルが村を発見したという警報のようなもの、この辺りは婆さんが協力した。

と言うかぶっちゃけこの路線で行くか数日悩んだ、でも出番もなくなりそうだからこのままにした。


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迷宮都市ポリス

「着いた。」

 

「此処まで何日経った?」

 

「私達の歩きで二週間弱?」

 

「俺らが野生児で助かったと本気で思ったがな。」

 

街は道中いくつもあり、俺達もそこを通ったのだが観光、宿など、金を使っていたら食料を買うことが出来なかったのだ。

 

仕方ないので道中で小動物などを狩って食料としていた。

 

まさかこんな事になるとは・・・おっさんに念の為とか言って金貨渡さなきゃ良かった。

 

何はともあれ学園に最寄りの街、ポリスへ到着した。

 

「やっとまともに金が稼げるな、さっさと稼いで宿入るぞ。」

 

「「おー!」」

 

門番に冒険者である事を証明し、通行許可を貰う。

 

門の前に並んでいる列にいる時も俺の背中にある大剣やアルやアトの美貌に興味を持った輩が近付こうとしていたが俺が気付いた段階で殺気を放つとすぐに退散して行った。

 

アルは分かってなさそうだったがアトはやはり視線を感じていたのか露骨にホッとしていた。

 

「ん〜、どうしようか。」

 

「何が?」

 

「いや、迷宮都市ポリスって言うからには迷宮があるだろうって思ってさ。」

 

「そう言えば迷宮ってどんなところだろう。」

 

「古の勇者が生み出した概念で別名ダンジョン、異空間に繋がる穴や場所を起点として魔物や鉱石などがいたるところに点在する巨大な空間を探検出来る、だったか、地図とかも売られてると嬉しいが、まぁ、問題無いだろう。」

 

「学園へはどうするの?」

 

「俺が明日ポリスに居るって連絡だけ言ってくる、何かあれば非常勤講師として協力しますってな。」

 

事前連絡は大事なものよ、マジで。

 

別にアポ無しでも俺は良いが出来ればあった方がありがたい。

 

ギルドに行くと迷宮を攻略している冒険者達か大量にいた、雰囲気はいつぞやのオラリオだ。

 

俺達が扉を開けた瞬間に全員の目が此方に向いた。

 

アルとアトはビクビクしていたが俺は慣れたものだ、当たり前のように受付まで歩いていった。

 

「ハイハイー!なんですか?」

 

・・・若いな、それに珍しい。新人か?

 

「宿を探しに来た、向こうの・・・フロックスって街のギルドから来た。」

 

「王都近くの坊っちゃん達が何しに来たんだ!?」

 

「迷宮はそんなに甘くねぇぞ!」

 

やっかみにも子供だからとかなり優しい言い方の者がかなり居る。

 

誰でも子供が死ぬのは見たくはないだろう、俺達はほとんど成人前の子供だからな。

 

「だからゆっくり攻略するよ。」

 

「なら良いんだよ!」

 

「俺らの目の前で死ぬんじゃねぇぞ坊主!」

 

コイツらツンデレか何かか?

 

「えっとー?ランクは・・・C?」

 

「うむ。」

 

「偽造?いやでも・・・うーん。」

 

無言でアルとアトも冒険者カードを出した。

 

「両方ランクC・・・。」

 

受付嬢は悩んでいたがまあいいや!という声と共に元の顔に戻った。

 

「宿はーこことーこことーここにあります、空いてるか分からないからそこは勘弁してね。」

 

「了解した、ありがとう。」

 

「はーい。」

 

という事で宿を取る事にした。

 

宿といっても何だかんだ暇だったおっさんと違って飯も作らないし、荷物を置いて寝るだけの場所だった、飯がない代わりに宿暮らしという事で割り引きがされたり、宿に泊まる商人等とコネを持てるという利点もある。

 

何はともあれ俺達にはかなり都合が良い、金がなかったのでかなり安いこの宿は都合がとても良かった。

 

「俺は寝る、お休み。」

 

「お休みー。」

 

俺はベッドに横になる、流石に敵襲を警戒してかなり経つ、体も疲れているが何より精神的な意味で疲れた。

 

程なくして俺の意識は微睡みの中へと消えていった。



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学園

翌日、寝ぼけている2人を尻目に大剣を背負う。

 

外套を着込んで夜の内に学園に向かう事にした。

 

「・・・森とは、やっぱり違うな。」

 

流石にもうすぐ朝とはいえまだまだ暗い、それでもカルトの加護がある俺は昼のように暗闇の細部が見える。

 

門の前に着くと門番が訝しそうに見てきた。

 

「通れないか?」

 

「なんでこんな夜中に来た。」

 

「学園に用があるんだ。」

 

「何の用だ。」

 

「フロックスのギルドマスターから学園への非常勤講師としての移動を命じられた、事前に報告しておいた方が何かと楽だろう。」

 

「・・・まぁ、理解できないことも無いが、こんな早くから行くこともないと思うが?」

 

「夜に出歩くのは慣れてる、問題無いさ。」

 

「・・・そうか。」

 

門横の扉を開けてくれた。

 

「良い旅を。」

 

「ありがとう。」

 

門から出て草原を歩いた。

 

「くぁ・・・よし、ちょっと走るか。」

 

身体強化を発動して走る、草原を走っていると魔物にも会うのだが、魔物が俺を攻撃するよりも早く俺は遥か彼方へと移動している。

 

立ち塞がったやつは蹴り砕いたり叩き斬ったので問題無い。

 

その調子で走っていると日の出が出た辺りで学園に着いた。

 

学園には門番は居らず、5メートルほどのゴーレムが二体、向かい合わせに設置されていた。

 

試しに門をくぐろうとすると背中から大剣を持ち出してきて俺に向かって叩きつけてきた。

 

「・・・石の大剣で助かったな。」

 

大剣を受け止めながらそう呟く程度には攻撃が重かった。

 

だが。

 

「動くな、不審者。」

 

背後から剣を突きつけられちゃうと何も出来ないよね。

 

「・・・好奇心のつもりだったんだが、こんな夜更けに起きている人が居るとは思わなかったな。」

 

「無駄な話はよせ、用件を聞こうか。」

 

「フロックスのギルドマスターから学園への非常勤講師としての移動を命じられた、今回は受け入れのために時間があった方がいいだろうと思い、連絡に来た。」

 

「・・・来るのはフロックスのギルドマスターの筈だが?」

 

「フロックスのギルドマスターは先のオークの襲撃でオークロードと戦い片腕を失った、俺はその代わりだ。」

 

「何?あいつが?」

 

知り合いか、ギルドマスターってもしかしてこの学園の生徒だったのか?

 

「あと、もうそろそろこの二体収めてくれないですかね、流石に二体分の大剣を受け止めるのはそろそろきつくなってきてるんですけど。」

 

「学園長に報告する、少し待て。」

 

「あっちょっと待って!拘束してもいいから!抵抗しないから!何ならどっかの部屋に閉じ込めてていいからさ!こいつら何とかしてくれ!キッツイ!」

 

「悪いな、私にはその権限が無いんだ。」

 

「じゃあ壊してもいい?」

 

「何?」

 

クッソ振り向けないから相手の感情がほとんど読めねぇ!

 

「出来るものならやってみろ。」

 

「・・・了解。」

 

黒化(ニグレド)を発動する、大剣から手を離し二つの大剣の間に入り込む。

 

片方の大剣を足場にして一体のゴーレムの顔面に向かって蹴りを入れる。

 

俺が蹴りを入れたゴーレムは吹き飛び、その間に俺は大剣を背中から引き抜いた。

 

・・・少し試す価値はあるか。

 

この状態なら出来るかもしれん。

 

ゴーレムは大剣を振りかぶって迫ってくる。

 

「・・・幻影剣『双牙』」

 

技名とか呟いたけどその場で考えた。

 

やる事は至極単純、ほぼ同時に上と下から斬るだけ。

 

まぁそれをするには大剣だと身体能力以前にほとんど出来ないんだが、この黒化(ニグレド)を使用しているならば出来るかもしれないと思ったからやった。

 

ゴーレムは一瞬にしてXの様な斬撃を食らった後、4等分に切り分けられた。

 

「・・・もう少し威力は上げられそうだ。」

 

俺がそう呟くと俺が蹴り飛ばしたゴーレムが壊れた大剣を投げつけてきた。

 

俺は上へとジャンプして上から状況を見る。

 

俺に剣を突きつけていたのであろう人物は女性で耳が長い人だった、エルフか。

 

ゴーレムは俺をずっと補足していたのか上へと頭部を向ける。

 

「嘘!?」

 

そして着地地点に向かって突進してきた。

 

俺は自由落下を止めることも出来ずゴーレムの突進に直撃した。

 

「やっぱり空中にはそんなに出るべきじゃねぇなあ!」

 

まぁ直撃しても相殺くらいはできたのが救いか。じゃなきゃ死んでた。

 

ゴーレムは相殺されて勢いを無くし、俺は相殺する為に使った大剣が何処かへ吹っ飛んでいった。

 

ゴーレムは背後へ飛び、また突進するための態勢に入った。

 

「正面突破だ、吹きとべ。」

 

突進して来るゴーレムを身体強化で受け止め、片方の拳を振りかぶる。

 

「終わりだ。」

 

思いっきり振りかぶってゴーレムを殴る。

 

ゴーレムは粉々に砕かれ、再生する事もなく沈黙した。

 

「ハッハッハ!やっぱ思いっきり暴れられるってのは楽だ!」

 

学園に着いたのは朝方であり、この世界では朝にはほとんどの人間が起きている事を俺は完全に忘れていた。

 

「ハッハッ・・・あっ。」

 

ゴーレムはこの学園において対外的にはかなり強い部類の防衛装置に値する、少なくとも、B、Aランクの冒険者などであれば問題無く対処出来るが逆に言えば、ゴーレムを倒せるような強者は学園において最大限警戒する相手であるのは自明であった。

 

つまり

 

「あの人何?犯罪者?」

 

「ゴーレム倒された、化け物だ。」

 

生徒達が起きていたのである。

 

そして、ゴーレムとの戦闘を見ていた生徒達は既に怯えきっている。

 

「・・・来てもらうぞ。」

 

エルフの女性から呆れた様な様子でそう言われる。

 

「・・・はい。」

 

かなりハイになっていたのは間違いないので素直についていった。

 

・・・やっちまったなぁ。




そろそろありふれたも更新したいところ。


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学園長

俺は学園の一室、客室と言うべき場所で反省していた、外套を脱いでソファに置き、背もたれに持たれながら天を仰いでいた。

 

「・・・やっちまったなぁ。」

 

大剣はすぐに持ち出せる場所に置いているため戦闘が起きても問題は無い、だから何もおこんないで。

 

そんな事を延々と考えていると部屋の扉が開いた。

 

「貴方が、フロックスのギルドマスターの代わり、ですね?」

 

「ああ、はい、そうです、ゴーレム壊してごめんなさい。」

 

入って来たのは人間の男だった、かなり若い人だが雰囲気は老練と言える、どういう事だ?

 

「え?子供?」

 

エルフの女性はびっくりした様子で俺を見ていた。

 

「分からなかったんですか?まだまだですよ、アルダ。」

 

「学園長に追いつくのは難しいので。」

 

「・・・あの。」

 

2人はこちらを見るとそう言えばと言うような顔で話を持ち出した。

 

「貴方はゴーレムを倒しましたね、それは私も確認しました、戦闘の様子も見ていましたし。」

 

「「見てた!?」」

 

「ええ、魔法を使って少し見学させてもらってました、大剣を回収したのも私です。」

 

「だから部屋に入った時これがあったのか。」

 

学園長の雰囲気が誰かに似ている気がするんだけど誰だろう。

 

「其処でです、貴方を本格的にこの学園の実技教師として雇いたいと思っています。」

 

「要らないです、臨時教員ではダメなんですか?」

 

「それをするには貴方の力は強過ぎる。」

 

「俺と同レベルの同年代がポリスに二人いるんすけど。」

 

「へぇ?」

 

学園長から殺気が飛んできた。

 

狙いは俺の額。

 

「ッ!」

 

反応が遅れたせいで大剣を取るのは不可能、防御するには空間も足りない、なら。

 

俺は机を蹴り上げ攻撃自体のタイミングをずらそうとした。

 

だがその前に俺の額に杖の先が寸止めで出現していた。

 

「合格です、君は強い。」

 

「ハッ・・・ハッ・・・。」

 

死んだと思った、本気で、殺されると思った。

 

「が、学園長!?」

 

「アルダ、問題はありません、彼は私より弱い、何かが起こっても、私がどうにか出来ます、心配は無いでしょう。」

 

こいつ・・・!

 

「絶対超えてやる・・・。」

 

「ええ、君にはそれが出来る強さがあります、頑張って下さい。」

 

学園長は部屋の扉を開けると振り向いてこう言った。

 

「教師としての仕事はあまりしなくても構いません、貴方方の年齢を考えて、この学園を卒業するまでの期間中、貴方方には生徒兼臨時教師としての活動を許可します、来年から、よろしくお願いしますね。」

 

「え!?あの、学園長!?」

 

アルダは慌てながら学園長について行った、彼女はあの一瞬で俺が出来た行動がほぼひとつしか無かったのは分からなかったに違いない、俺が机を蹴り飛ばそうとした瞬間、足先が光り、足首に向かって魔法の刃が出現したのだ、俺が足を少しでも動かせば足が千切れていた。

 

俺が取るべき選択肢は、何もしない事。

 

「・・・性格悪過ぎるだろ、クソッ。」

 

汗だくになった体を拭く為にフラフラと客室に取り付けてあるシャワー室に向かった。




圧倒的お前が言うな案件である。


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帰ってきました。

俺がシャワーを浴びている途中に誰かが来るという事もなく、俺が全員からビビられてるのを除けば概ね問題なく学園は立ち去る事ができた。

 

立ち去った後に鳥が飛んできて手紙を貰った、学園長だった。

 

『君が言っていた2人も見ていました、彼等も生徒としての特別枠を上げるので是非3人で来てください。』

 

怖すぎて叫びそうになった。

 

学園長絶対人類最強格だぞこれ。

 

鳥は帰って行った。

 

「・・・学園長怖すぎる。」

 

ポリスに着くと門番がもう戻ってきたのかという顔で俺を見た。

 

そうは言ってももう昼だ、何も食べてないし、昼飯を食いたい。

 

何処かの食堂に行くか。

 

食堂で出て来たものは黄昏の森に生息しているものと似通っていた、が個々人で違う味付けがあったりするので美味しい。

 

食堂の飯に満足しながらも道を歩いていると小さな女の子がぶつかって来た。

 

「おっと、すまんね。」

 

財布をすってきた女の子から財布をすりとり、銀貨だけ握らせてあげた、まぁ、自己満足ではあるんだが、困ってるみたいだし、敵対するならその時はその時だ。

 

それに、女の子がそういう事をするなら、覚悟もいるだろうしなぁ。

 

女の子は銀貨を握っている事に気づかずに走り去っていった。

 

さてと、ギルド行くか。

 

ーーーーーーー

ギルドに入るとまた全員の視線が集まった。

 

そして目の前にナイフが飛んできた。

 

「オイオイ、危ないぞ。」

 

「ゼル!?」

 

「あ?あんたがこいつらのパーティーリーダーか?」

 

アルとアトは2人で拳を構えていて、構えている相手はチンピラそうな、粗暴な顔をしている男だった。

 

「そうだが、誰だ?」

 

というかナイフの速度からして完全な不意打ちだったら人殺してたんじゃねえか?

 

「俺はBランク、『黒刃』のライクスだ、覚えとけ。」

 

「はぁ、それでその黒刃様が何の用ですか?」

 

「命令だ、あの女を俺に寄越せ。」

 

えぇ・・・。

 

アトの年齢は誤差を考慮しても13歳程、この世界での成人が15歳からなのでまだ子供だ。

 

「・・・ロリコンだったか。」

 

「は?」

 

ギルドに居た全員が噴き出した。

 

アルも思いっきり笑い転げている。

 

この世界でもロリコンという言葉はあるし、というか言語は違うのにチラチラとネットスラングとか意味が違う言葉があったりとかする辺りに地球の人が来ているのがよく分かる。

 

「殺す。」

 

「まぁまぁ、その辺りで、取り敢えず、こちらの意思としては3人のパーティーなんで、1人でも抜けられるとかなりきついんでね、貴方の要求は受け入れられません。」

 

「うるせぇ、寄越せって言ってんだよ!」

 

ムキになってるしもう・・・。

 

「じゃあこうしましょう、こっちもパーティーなんで、パーティー同士で戦うってのは。」

 

「・・・。」

 

「それに、これは賭けです、こちらは負ければ1人がそちらに行く、代わりに、こちらが勝てば貴方のパーティーの誰かをこちらに下さい、それを飲めなければ、ここで遠慮無く、戦闘開始、という事になりますね。」

 

「・・・分かった。」

 

「理解が早くて何よりです、では貴方のパーティーメンバーをここに呼んで下さい、それから、裏の訓練場で、試合と行きましょう。」

 

ライクスは舌打ちをしてギルドを出て行った。

 

「お前ら、祭りだ、楽しめ。」

 

俺がそう言った瞬間ギルドから歓声が上がった、この際だ、証人は多いほうがいいだろう。

 

「と言うわけで、許可は貰えるかね?」

 

「あげるしかないでしょう。」

 

「ですよねー!」

 

受付嬢が違う様で額に手を当てていた。



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試合開始

訓練場で俺たち3人は固まって作戦会議を開いていた、内容は勿論今から行うパーティー戦についてだ。

 

「取り敢えず言っておく、俺は負けることはないと言ったが相手のメンバーによっては普通に負ける。」

 

「「えっ。」」

 

「まぁあいつがリーダーなら考え無しの馬鹿なんだが、一番最悪なのがリーダーとしてまとめる事だけ任せて実務は他の奴がやるってのだ、そんな奴は基本的に賢いからな、俺らじゃまず抵抗できん。」

 

「じゃあ、私あいつのところに行かないといけないってこと・・・?」

 

「それは俺が許さん、一番の欠点は俺らは格上相手のパーティー戦をした事がないって事だけだ、お前らのは連携、俺はそれの穴を埋めるフォロー役だった訳だが今回はどんなに嫌でも全員で全員をフォローして貰う。」

 

まぁ、脅しておいてなんだが、俺はそう深く考える必要もない。

 

「基本戦術は同じ、俺が突っ込んで穴を開け、お前らが穴を直させない様に立ち回る。何時もと違うのは相手もよく考えて動くという事だけ、オークロードの時みたいに相手も1人じゃない、不意打ちを食らう可能性も考えておけよ。」

 

「・・・分かった。」

 

「じゃあ簡単な目的を言うぞ、目的は三つ、仲間は助ける、倒れない事、相手が隙を見せたら傷つかない程度に攻撃する、他にも細々としたのはあるが・・・こんなもんだろ。」

 

基本戦術は守り、俺の攻撃性能が突出している以上守ったほうが効率が良い。

 

訓練場にさっきのライクスが入ってきた。

 

「「・・・!」」

 

「まぁ、お前の性格からそんな事だろうとは思ってたよ。」

 

ライクスが連れてきたのは、奴隷だった。

 

それも、子供の。

 

この世界には機械が無い、基本的に現代日本かそれに近い世界から来ている異世界人が多く、機械ができれば銃やそれに類似したものが開発される可能性が高いからだろう。

 

それの弊害として、奴隷、人の労働力はどうしても売り買いされる結果となっている、身売りする勝負も奴隷も剣闘士も、全てこの世界にはある。

 

許せないと言う人も居ただろう、だがこれは人がどうにかできる問題じゃない。

 

でも、気分は良くない、少なくともポリスを含めてこの王国には戦争はここ数十年起きていない、だから奴隷の数もかなり少なかった、だがポリスでは肉壁としての役割を果たせるが、ここに居る冒険者のほとんどは奴隷を見た事も無く、更には自分の腕っ節で成り上がった者も多いので奴隷を使っていると言うのは歓迎されない。

 

それが他国で当たり前の事であっても。

 

それに。

 

「君とはさっきぶりか。」

 

「!」

 

俺がさっき銀貨をあげた女の子だった。

 

「生意気にも飯なんか食ってたからな、人様に迷惑掛けてんだから躾するのは当たり前だ。」

 

見物人達がザワザワとし始める。

 

アルとアトも表面上は冷静を装ってはいるが力が余分に入っている。

 

「お前、この国についての勉強が足りなかったようだな。」

 

「何?」

 

「この国では奴隷はどれほど身分が低くても人として扱われている、表面上だけでもそうするべきだったな。」

 

「奴隷が?ふざけるなよ。」

 

「・・・じゃあ交渉といこう、俺たちが勝てば奴隷達を解放してもらおう、代わりに、お前が勝てば俺たち全員がお前のパーティーに入る。」

 

「奴隷に命かけるとか狂ってやがるな。」

 

「言うだけ言っておけ、それがこちらの意思だ。」

 

俺が銅貨を指にかける。

 

「これが落ちたら戦闘開始、そちらは何をしても良いし、殺さなければ何をしても良い、それはこちらも同じ事、奴隷も人数に含めた四体三、これで異存はないな?」

 

「無い。」

 

「了解、じゃあ戦闘開始だ。」

 

銅貨を指で弾く。

 

それと同時に大剣に手をかける。

 

アトは魔力を高め、アルは足に魔法を纏わせる。

 

相手の奴隷達はそれぞれの武器を構えているが女の子だけはナイフを両手に持って震えている。

 

銅貨が地面に当たり、音を出した。

 

「『黒刃』」

 

「『黒化(ニグレド)』」

 

黒い刃が俺たちの目に向かって飛んで来る、その速度は速い、アルはともかく、アトは目で追う事がやっとなくらいだ。

 

「幻影剣『双牙』」

 

俺がアルとアトに当たる黒刃を相殺する。その代わりに俺の目が潰れた。

 

「「ゼル!?」」

 

「問題無いさ。」

 

視界はゼロ、両目が使えなくなった、口に血が流れ込んでくる。

 

俺はリズムを刻んで舌打ちをしようとするが声や爆発音が多過ぎて位置が分からなかった。

 

なので視線を頼りに動く事にした。

 

足に来る、一歩下がって薙ぎ払う、首に視線が移り、後ろに一歩下がる。

 

「ゼル!回復するよ!」

 

「頼むわ。」

 

目の前が白く染まる。

 

「片目だけ!?何で!?」

 

「問題無い、さて、反撃開始だ。」

 

この世界では欠損は時間が経ってなければ回復魔法でゴリ押せるが、まさか片目だけとはいえ完全に治すとはな、腕が良い。

 

目の前ではアルがライクスと戦っていた。

 

「オラオラ!どうしたひよっ子!」

 

「くっ。」

 

俺の周りには残りの奴隷3人が取り囲んでいた。

 

「頼みがある。」

 

剣を構えた男の奴隷が切り掛かりながらそう言った。

 

大剣で受け止めて返事をする。

 

「何だ。」

 

「俺たちは奴隷だ、この国以外では差別され、最悪の場合殺される、俺は良い、だが、この子だけは絶対に死なせてはいけない、子どもが死ぬ世界など、あってはならない。」

 

「確約は出来ない、場合によっては死ぬ事もあるだろう。」

 

「それでも、ライクスに従うよりかはマシだろう。」

 

「私からも頼みます。」

 

大人の男女の奴隷が戦闘をしながらそう頼み込んでくる。

 

「・・・やるだけやってみる、だからゴメンな、気絶させる。」

 

大剣を使わず二人の腹にグーで殴る。

 

鳩尾を殴ったので苦しいだろうが気絶してたら楽だろう、多分。

 

女の子を見る。

 

「っあ・・・。」

 

身体は震えているし、そもそも戦闘が得意なようにも見えない。

 

女の子の頭を撫でる。

 

「!」

 

ワシャワシャと撫でてから地面に刺した大剣を抜く。

 

「待ってろ、すぐに終わらせる。」

 

黒化(ニグレド)は使えるのは一瞬だけだ、そう簡単に何回も使えるような技じゃないし、使い過ぎると動けなくなる。

 

相手は腐ってもBランク、オークロード並みに強いと考えたほうが良いか。

 

ただ、俺は許さん。




小さい女の子が頼ってきたらやる気出すのは当たり前だよなぁ!ロリコンじゃなくても本気出すよなぁ!だから主人公はロリコンじゃない。

今までのヒロイン全員幼い時から惚れてる事については言わないで。


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ライクス

「防いでばっかの玉無しか!?オラァ!」

 

「フッ!」

 

俺がゼルに言われた役目は足止め、ゼルが来れば2人になるし、攻撃に移る余裕も出る。

 

「腰抜けが!」

 

盾にした剣越しに強い衝撃が俺の体を突き抜ける。

 

剣の間から見るとライクスは足を突き出した姿勢で止まっていた。

 

今のが、ただの蹴り?ハハッ、笑える。

 

ただの蹴りで俺の防御を抜いてくるなんて。

 

「ヒール!」

 

体に緑色の光が纏わりつく、傷はすぐに回復した。

 

「・・・頑張れ!」

 

「・・・やるしかない。」

 

「チッ、さっさと倒れろよ。」

 

俺は剣を構える、ゼルみたいに技が強い訳でもアトみたいに引き出しが多い訳でもない俺は、多分俺たちの中で一番弱い、だから、今自分に出来ることを、必死にやるだけ。

 

「すぅ・・・。」

 

深呼吸する。

 

「行くぞ。」

 

「面構えが変わったか、なら、俺も本気でやる。」

 

ライクスの持っている剣が黒い剣に変わる。

 

「俺の異名である黒刃の妙を味あわせてやる。」

 

「そうかい、せいぜいやってみせろ!」

 

ライクスの剣と俺の剣が交わった瞬間剣が腐った。

 

そうとしか思えないほど手応えが変わった。

 

「アホかよ、俺が馬鹿正直に正面から挑むわけねぇだろうが。」

 

腹に剣が突き刺される。

 

「あっがああああああ!!?」

 

「あっはははは!さいっこう!もっと叫べよ、なぁ!」

 

そう言ってライクスは剣を引き抜く。

 

「次は腕〜!」

 

左腕が刺される。

 

痛みで気絶出来れば良かったがライクスは慣れているのだろう、気絶しないギリギリで剣を抜いている。

 

「次は足「オイ。」・・・チッ。」

 

俺が涙で濡れた視界で見えたのは、黒い外套を着たゼルだった。

 

ーーーーーーー

片目を治してもらうためにアトと俺はアルが痛めつけられるのをじっと見ていた。

 

曲がりなりにも友達だ、痛めつけられるのは見るに堪えない。

 

だが、数分近く稼いでくれたおかげでアトの魔法で俺の身体は治った。

 

「・・・ゼル、殺って。」

 

「それは出来ねぇな、ルールを最初から殺し合いにしてればギルドが止めたろうし、だが、すぐに終わらせる、お前はアルを回復させてやってくれ。」

 

「・・・こういう時、何で近接戦が苦手なんだろうって心底思うよ。」

 

「・・・俺は何も言えねぇよ。」

 

「・・・分かってる。」

 

俺はライクスに近づいていく。

 

「次は足「オイ。」・・・チッ。」

 

「俺を忘れてないか?」

 

「役立たずの奴隷が・・・。」

 

「おいおい、舐めてもらっちゃ困るぞ、こっちだってパーティーリーダーとしての矜持位はあるんだ。」

 

大剣を構える。

 

「何の因果か一騎討ちになったな、俺はお前を許すことは出来そうにない。」

 

「正義の味方面した子供が粋がりやがって、気にいらねぇから潰してやるよ。」

 

「はっ、頭が愉快に沸騰している輩は感情だけで動く獣でもあったというわけだ、狩ってやろう、来い。」

 

「『黒刃』」

 

「見ていたよ。」

 

大剣で地面を削り、砂の散弾で黒刃を打ち消す。

 

それと同時に大剣を上に投げ、俺は太ももに付けていた小さい短剣と幾つかの投げナイフを持って走った。

 

「『身体強化』」

 

一歩で砂の壁の側面へと回り、もう一歩でライクスの足を斬りつける、そして足元に投げナイフを突き刺して半回転後逆手に持ち替えた短剣でライクスの背中を深く斬り裂きながら上へと飛んだ。

 

「ガ!?」

 

大剣は訓練場のかなり上まで飛んでおり、日も少し傾いているとはいえ上を向けば太陽が見える位置なので問題は無い。

 

地面に突き刺した投げナイフが魔法陣を展開する。

 

「何!?」

 

「アト特製、アースクエイクってな。」

 

ライクスは自分の足元から向かって来る土の柱に押されて空中に飛ばされた。

 

空中では踏ん張りも効かず、姿勢も変えられない。

 

対して俺は落下を始め更には大剣で叩き斬る姿勢に入っている。

 

まぁ、クルクルと回っているから既に酔いそうな視界ではあるわけだが。

 

「落ちろ。」

 

ライクスを真っ二つにするわけにもいかないので右足と右腕を切断する程度に留める。

 

五体満足では無い限り冒険者は出来ないだろうから問題無い。

 

それに、個人的にアルにされた事の仕返しも込めている。

 

ライクスは何も言うことは無い、足で蹴ってみると気絶しているようだ。

 

「ライクスは気絶している、コレで勝負は終わりでいいな?」

 

周りに視線を送ると全員が頷く。

 

良かった、コレで俺はあの子を救えるわけだ。

 

俺がそう思いながら女の子の方に振り返ると腹に痛みが走った。

 

「あっ・・・違う、違うの・・・ごめ・・・なさ・・・。」

 

「なるほど、ライクス、やっぱりお前クズだわ。」

 

「は、はは!分かったか青二才!そいつは奴隷で、その首輪の所為で俺の命令は絶対に聞かなくちゃいけない!誰が渡すか!そいつは俺のもんなんだよ!」

 

「なるほど、アト、解析頼んだ。アル、頼むよ。」

 

「「了解。」」

 

「それで?どうすんだよお前は、あの奴隷はくれてやってもいい、その代わりあの女は貰うぞ。」

 

「残念ながら、奴隷の首輪は宿主が死ねば初期化される機能がある、奴隷本人には宿主に被害を加えることはできないが、他者が宿主を殺せば奴隷の次の宿主は奴隷本人から一番近いものに変更される。」

 

「おい、まさか、待ってくれ。」

 

「少なくとも、お前が先に約束を破った。」

 

ライクスの首を切り落とした。

 

「お前ら、証人になってくれるな?」

 

周りの冒険者達はいきなり人が死んだのを苦い顔をして見ているもの、俺に怯える者、多種多様な者がいたが全員が頷いた。

 

「よし。」

 

女の子に近づいて行く。

 

アトが首輪を持っていた為、解除はできたようだ。

 

「宿主が私になったからすぐに解けたよ。」

 

「ありがとよ。」

 

俺が気絶させた2人の男女は後にしてまずは女の子を落ち着かせよう。

 

俺の腹には未だにナイフが刺さっており、血がどくどくと流れている。

 

「もう安心だ、大丈夫、頑張ったな。」

 

そう言って頭をゆっくりと撫でると女の子は安心したのか寝てしまった。

 

「取り敢えず俺はこの子を宿に連れて帰る、丸洗いして適当に服縫えばいいだろ、アト達は向こうで苦しんでる2人を頼む、俺は疲れた。」

 

今回は黒化こそあまり使わなかったものの精神的に疲れた。

 

宿に入った瞬間気絶するかもしれん。

 

「あー、きっつ。」

 

因みに、宿に入ると同時に気絶してその所為で腹に刺さったままだったナイフが内臓にまで届き、何気に命の危機になっていたがすぐに帰ってきたアトが叫びながら全力の回復魔法を使ったので一命は取り留めた。




書いててノーカウントさんの台詞入れるか悩んだ。


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オリヴィア

俺は女の子を連れて帰り、全身を水と布で拭いたあと掛け布団にくるませて俺は寝た、色々と精神的に限界だったのだ、起きてからアトに顔面パンチを食らったことは自然な流れだっただろう。

 

ライクスの奴隷だった男女二人は暫くギルドが預かるらしい。

 

なんでも俺と戦っているときは力の殆どを出せないような状態だったらしく、二人で連携することが出来ればアルとまともに戦えるほど強いらしい。

 

いつかポリスお抱えの戦力兼事務員になることだろう。

 

この国は人を理不尽にこき使うような人物は目の敵にされるしな。

 

だがあの二人は生活にも困っているし、暫く二人で行動する、だが女の子を世話できるほど裕福になれる自信もないのでそっちで引き取ってくれないか?

 

そういってきたらしい。

 

「まぁ問題ないだろう、年齢的に、先に金を貯めておくことが出来れば学園にも一緒に来れるだろう。」

 

「そうだね、私達と一緒に居るんだし。」

 

なんで俺がこんな歳から親代わりをせにゃならんのか。

 

「アルはどうした?」

 

「何か訓練場で特訓してくるとか言ってギルドに行った。」

 

「なにやってんだあいつ。」

 

「さぁ?」

 

まぁ良い、俺もやることはある。

 

「あの・・・。」

 

「ん?起きたか、昨日はすまなかった。」

 

「・・・ごめんなさい。」

 

「なんで謝るんだ?」

 

女の子は俯いて黙ってしまった。

 

「こういう時はな、ありがとうって言うんだよ。」

 

「あり、がとう?」

 

「おう、誰かに助けて貰ったらありがとうって言えば良い、それが感謝を一番伝えられる。」

 

俺はそう言って女の子の頭を撫でる。

 

「アト、取り敢えず3日分で良い、この子の服を買って来てくれ、サイズはこの子が着れるようならなんでも良い、その辺りはお前に任せる。」

 

「了解、金貨一つある?」

 

「待て、お前どんな服買ってくるつもりだ。」

 

「小銭が無いんだよ、銀貨が無いんだよ!」

 

「・・・。」

 

アトは無言で手を差し出してくる。

 

「・・・はぁ。」

 

金貨を渡し、女の子に向き合う。

 

「名前はあるか?」

 

「無い、奴隷、いの一番に名前無くされる、奴隷は理不尽な目、合うから、元々の名前、消え去る。私、奴隷と奴隷の子供、だから無い。」

 

「親はあの2人か?」

 

「違う、偶々一緒に居ただけ。」

 

「そうか。」

 

名前が無い・・・うーん、名前なぁ。

 

「ネーミングセンスは無いんだがなぁ・・・。」

 

「名前、無くても、問題無い。」

 

そういうわけにはいかんだろう。

 

「そう言えば、君は何の種族なんだ?人間にしては髪質が・・・。」

 

「分からない、人間と何かの子供。」

 

猫耳とか狐耳になってる訳でもないみたいだしなぁ。

 

まぁ見た目は普通の人間の女の子だし、問題無いか?

 

「何歳なんだ?」

 

「分からない、でも多分十歳以上。」

 

「なら年齢は10歳って事にしとくか。」

 

「うん。」

 

「それで名前なんだが・・・。」

 

女の子の姿を見る。

 

今はアトの服を着ている為少しぶかぶかで胸の谷間などが見えている、まぁそこは置いておいて、髪は青い、目は赤と青のオッドアイ、まぁ見た目も悪く無い。

 

蒼炎、違うな藍華?ん〜、なんか違う。

 

横文字だとどうだ?

 

・・・オリヴィア。

 

「・・・オリヴィアなんてどうだ?」

 

「・・・オリヴィア。」

 

女の子・・・オリヴィアは満足そうに小さく笑った。

 

「ありがとう、お父さん。」

 

「おいおい・・・。」

 

俺は2歳年下の娘が出来たようです。




予め予防線を張っていくスタイル。

奴隷の女の子改めオリヴィアちゃんです、何の種族かは多分判明する、続けば、そろそろ設定集出さなきゃ、多分編集で追加される。

ーーーーーー
この世界での奴隷
ファンタジー小説と大体一緒、頑丈な獣人が主に奴隷にされているが人間も普通に居る。

オリヴィア
ライクスの奴隷だった女の子、産まれたときから奴隷なので主人公達に助けられたという実感はない。

二人の男女の奴隷
設定上名前を持たせる事が出来ないけど結構関わるかもしれない二人、恋愛的なものは欠片もない。

学園
一応平民と貴族の区別はなく、毎年一クラス分ほぼ無料で入学できる、ただしその基準は学園長に完全に任されている。

平民からは貴族並みの教育が受けられる場所として、貴族からは平民の視点でどう写るかなどを学べる、国際的には中立なので他の国からも貴族は来るが王国特有の国風から外国の貴族はあまり歓迎されない。

学園長
分かりやすく言えば化け物、イメージは他の世界での主人公。

スカルパラディン
婆さんと村に帰ってお酒飲んでる。

アルダ
エルフの不憫枠、学園長に惚れてるけどヘタレて何も出来ていない。


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お世話

オリヴィアと話したりしていたら俺にくっ付いて離れなくなった、オリヴィアはその理由を話してくれないし、俺がトイレに行こうとした瞬間に泣きそうになっていたのでどうしようもなかった。

 

その場面を帰ってきたアトがバッチリ見ていて無言で魔法を展開した事に焦って事情を説明していた。

 

「・・・。」

 

「と言うわけなんだが・・・。」

 

「ずるい。」

 

「は?」

 

「私達に何も言わずに名付けなんてずるい!私だって考えてた名前あるのに!」

 

「どんな名前なんだ?」

 

「ゴンザレス。」

 

「ぶっ飛ばすぞテメェ。」

 

オリヴィアはこの間ずっと背後でアトを見ている。

 

・・・心なしか怯えてるように見えるのは気のせいだろうか。

 

「まぁ何だ、取り敢えず、服見せろ、お前の感覚がイマイチ信じられん。」

 

「何で!?」

 

「当たり前だ!」

 

オリヴィアは既に服を物色していたようで服がグチャグチャになっていた。

 

「あーあー、ったく。」

 

脱ぎ捨てられたアトの服をアトのバッグに入れる、アトが顔を真っ赤にしているがお前らの服とか何時も俺が管理してること忘れてる訳じゃねえよなと聞きたくなってくる。

 

「オリヴィア、パンツはかぶるもんじゃねぇ、下半身に履くものだ。」

 

途中からめんどくさくなってオリヴィアにつきっきりで着替えをさせた。

 

「おいアト、これはお前の仕事の筈だが?」

 

「ごめん、私だって結構色んなことしてたのに、ゼルにプライドをボロボロにされた気がして・・・。」

 

えぇ・・・。

 

「お父さん、これで良い?」

 

「お父さん!?」

 

「おう、取り敢えず形にはなったな。」

 

時間は・・・朝を少し過ぎたあたりか。

 

外を確認すると目の前から可愛いお腹の音がした。

 

「・・・。」

 

オリヴィアからだった。

 

「アト、ギルド行ってアル拾ってこい、飯にしよう。」

 

「了解、お父さんって呼ばれてる事、後で詳しく聞かせてもらうから。」

 

「はいはい。」

 

アトは俺を睨みながら部屋から出て行った。

 

「・・・おとうさん、ごめんなさい。」

 

「謝らなくて良いって、取り敢えず飯食いに行くぞ。」

 

「はい!」

 

ーーーーーーー

「・・・アト、そんなに怒らなくても良いんじゃないか?」

 

「アルまでそんなこと言って!私だって名前考えてたのに。」

 

ギルド前まで歩くとアルとアトが言い合っていた。

 

あるが俺に気付き、手を挙げる。

 

俺も手を挙げるがオリヴィアは背後から2人をじっと見ているだけだった。

 

「来た!」

 

「おう、取り敢えず適当に食堂入るぞ。」

 

「おはよう、かな?俺はアル、知ってると思うけど一応ね。」

 

「オリヴィア、です、おとうさんに名付けてもらいました。」

 

「ゼル、君のセンスは抜群だな。」

 

「・・・お前・・・。」

 

アルが遠い目をしているところから見るにアトのネーミングセンスは酷いものらしい。

 

近くの食堂に入り、何を頼むか決める。

 

「俺はパンとスープで良いや、オリヴィアは何にする?」

 

俺がそう言ってオリヴィアを見るとオリヴィアは地面に座っていた。

 

「・・・オリヴィア?」

 

「わ、たしは・・・。」

 

オリヴィアの頭を撫でる、元奴隷ってのは難しいな。

 

「もう奴隷じゃない、地面に座らなくて良い。」

 

「ですが。」

 

「あと、敬語。」

 

「あっ・・・ごめんなさい。」

 

やっちまったか?

 

「良いんだよ、ゆっくり慣れていったら良い、俺はおとうさん、だからな。」

 

取り敢えず何時までも地べたはまずいので俺の横に座らせる。

 

「・・・アル、お父さんだよ、ゼルがお父さんしてるよ。」

 

「完全に保護者だなぁ。」

 

対面に座っていた2人の言葉で2人が居たことを思い出したのだろう、オリヴィアは顔を真っ赤にして小さくなっていた。

 

念の為水も頼む、元奴隷ってのは割と反応が素直なところがあるし、用心しといて問題は無い。

 

オリヴィアはスプーンの使い方など、色々と知らなかったが俺が一緒にゆっくりと説明するとスプーンでスープを飲み始めた。

 

スープを一口飲んだ瞬間目を輝かせて俺を見た。

 

そこで俺はパンをスープを染み込ませてオリヴィアの口に突っ込んだ。

 

オリヴィアは美味しさで笑顔になっていた。

 

そしてパンを飲み込むと声を大きくして美味しいと言った。

 

俺も思わず頭を撫でてしまう。

 

「「・・・おとうさん。」」

 

「止めんか気持ち悪い。」

 

2人の頭にチョップを入れるのを楽しそうにオリヴィアは見ていた。




人って美味しいもの食べたら精神年齢下がりませんか?少なくとも作者の親戚の子達はそうでした。

オリヴィアは一応ゼルと同い年のはずなんですがねぇ。


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テメェ・・・

飯を食い終わった後オリヴィアはまた俺の後ろにくっついた。

 

「・・・懐かれてるね。」

 

「まぁ、悪い気分では無いな。」

 

「今日はどうする?」

 

「依頼は個人個人で好きに行ってくれ、取り敢えず俺はオリヴィアの周りを整理する。」

 

俺の言葉にオリヴィアは嬉しそうに俺の手を握る。

 

「・・・。」

 

「取り敢えず、オリヴィアは一応パーティーに入れようと思ってるし、ギルドで冒険者登録だけは済ませるつもりだ。」

 

オリヴィアは俺以外の前では余り話したがらない、だから多分オリヴィアか慣れるまでは俺が近くに居る必要がある。

 

「よし、解散。」

 

「「はーい。」」

 

既に依頼を受けていたのだろう、すぐに2人は走って消えていった。

 

「ところで、オリヴィア、何か特技とか無いか?」

 

「特技?」

 

「これが出来るとか何か得意な事とか。」

 

「・・・一応、魔法の適性はそこそこらしいです。」

 

魔法の適性はあるか。

 

「なら何の属性か調べるか、ギルドで出来るか?」

 

ギルドに行くと少し厄介そうな雰囲気を感じた、まぁ仕方ないだろう、外の冒険者とはいえBランク冒険者を相談もなしに殺してしまったのだ、どうしても悪感情は生まれるだろう。

 

「魔法の適性を調べる方法を知りたいんだが。」

 

「では此方へどうぞ。」

 

受付嬢にそう言われて通されたのは裏の部屋だ。

 

オリヴィアは俺の背中にピッタリとくっ付いて居るから問題は無い。

 

「今回は彼女の魔法の適性を調べるんですね?」

 

「ああ、どうするんだ?」

 

受付嬢が取り出したのは白い小石だった。

 

「コレは魔力の属性によって色を変える性質のある鉱石の欠片です、魔力が操れるのならこれが一番簡単で詳しく調べることが出来ます。」

 

「やって、みます。」

 

オリヴィアは小石を掴んで魔力を拳に移動させる。

 

そして小石の色が変わったのかオリヴィアは手を開く。

 

「お父さん、取り敢えず、全部、込めた。」

 

「・・・ん?」

 

「えぇ・・・。」

 

受付嬢が引いているように見えるのは気のせいでは無いだろう。

 

元々の白い色から色々な色の虹色の小石へと大変貌していた。

 

「皆、凄い。」

 

「待って。」

 

「お父さん?」

 

「皆?」

 

「うん、皆、居る。」

 

もう察した。

 

「精霊、姿を現せ。」

 

俺がそういうも何も起こらない。

 

「・・・チッ。」

 

「皆、お父さんは大丈夫。」

 

オリヴィアが小さく呟くと1匹だけ目の前に現れた。

 

「やっほー、闇の子。」

 

「誰が闇の子だ、精霊、お前らオリヴィアに何した?」

 

「ちょっとちょっと、私達はシルフって名前があるのよ、せめて種族名で呼んでくれない?」

 

種族名とかあったんすね。

 

「・・・シルフ、オリヴィアに何をした?」

 

「この子私達の事が見える種族みたいだからちょっと協力してあげようと思うのよ。」

 

「・・・。」

 

「安心しなさい、少なくとも聖霊が怒らないかぎり協力してあげるわ。」

 

・・・精霊の言うことが信じられねぇ。

 

「・・・証拠としてあんたの使ってたあの変な道具、定期的に作ってあげてもいいわよ?」

 

「・・・アレか・・・。」

 

此方に有利すぎる、何が目的だこいつら。

 

「オリヴィアの種族名とかは分かるのか?」

 

「知ってるけど、教えな〜い。」

 

「何でだ?」

 

「オリヴィアちゃんが知りたいと思ってないし、本人より先に教えるのはちょっとずるいじゃない?」

 

・・・筋は通ってる・・・か?

 

「分かった、取り敢えずそれで俺は納得する。」

 

「ありがと、それじゃよろしくね、オリヴィアちゃん。」

 

「・・・よろしく。」

 

オリヴィアは手乗りサイズにまで小さくなったシルフに嬉しそうに話しかけていた。

 

「ゼルさん。」

 

「あー、すまんな、蚊帳の外にしちまった。」

 

「精霊とコネが出来たこと、黙っておいたほうがよろしいですか?」

 

「出来れば、ちょいと背負い込むには些か辛い。」

 

「分かりました、秘密という事にしておきます。」

 

その後サラッとその受付嬢から黙っておく条件として幾つかの難しい依頼を1人でこなす羽目になった。



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娘の装備

「ほれほれ〜。」

 

この野郎・・・。

 

精霊の姿は俺とオリヴィアしか見えないようでそれをいい事に俺をいじり倒してくる。

 

シルフ含む精霊が近くに居るとオリヴィアが安心するので俺の感情で引き剝がしたり出来ない。

 

「それで、装備について何だが、何が欲しいとかはあるか?」

 

「・・・人を傷つけるのは・・・いや。」

 

「だよなぁ。」

 

「私達が協力するから普通の人間なら手加減くらいは出来るわよ、あんたみたいなのとかだと無理だけど。」

 

「ん〜。」

 

人を傷つけるのは無理としてもせめて人型の魔物を倒せるくらいにはなっていて欲しいからなぁ。

 

「精霊の魔法ってどんな手順なんだ?」

 

「宿主がいるときでいいのよね?」

 

「ああ。」

 

「なら簡単よ、宿主が魔力を分け与えて私達が必要に応じて魔法を使うの、私達が勝手に使っても良いし、宿主の命令で使うことも出来るわ。」

 

「よりにもよってストック式かよ・・・。」

 

だとすれば不意打ちに対応出来る程度なら十分か。

 

「まぁ、魔法使い御用達のローブでも着込むか、精霊布は作れるのか?」

 

「私達下級の精霊は無理よ、せめて中級か上級の精霊でないと。」

 

「下級の癖にいやに頭が回るな。」

 

「ちょっと!私は集合体の中の一体なのよ、人の考えるようなのは生まれたばかりの赤ちゃんみたいなのよ、私達はもっと賢いわ。」

 

なるほど。

 

「それはすまんかった。」

 

「仲直り、した?」

 

「した。」

 

「よかった。」

 

防具を選んでいるうちに俺は防具は外套以外つけていない事に気付いてこの際何か着込んでみるかなと思ったのは内緒だ。

 

胴体は難しいけど身体強化もあるしなぁ。

 

「ま、後で考えるか。」

 

オリヴィアが買ったローブを着るとぶかぶかではあったが逆に似合っているように思えた。

 

「案外似合ってるわね、どうよ、闇の子。」

 

「闇の子じゃねえ、いや合ってるけど俺の名前はゼルだ、シルフ。」

 

「ふーん。」

 

後は武器なんだがコレは保留しておこうと思う。

 

アトは俺に投げナイフに付与した魔法と言う荒技を使った代物を渡したがあれは俺の無茶振りが原因だ、アトは本来技術者では無いし、そもそも時間もそこまで使えない。

 

ぶっちゃけあれが出来たのは奇跡だとも言われている。

 

1日使って何とか3本と言ったところなのだ、難易度が跳ね上がるのは当たり前だ。

 

「まぁ、武器が無くてもやれる事はあるしなぁ。」

 

「あのヘンテコ武器ね。」

 

「あれなんて言ったら良いんだろうな。」

 

「魔剣とかじゃ良くあるし、あんたが決めていいんじゃない?」

 

「んじゃ魔導器で。」

 

「さっと決めたわね、元々決めてた?」

 

「まぁな。」

 

「あれすごかった。」

 

オリヴィアが癒しすぎて辛い。

 

「オリヴィアもアレを使えば自衛くらいは出来るだろ。」

 

「あんな威力のもの人に向けられない。」

 

「ははっ、アレは戦闘用の強い奴だよ、自衛用の奴はもっと威力は弱めでいい。」

 

「人が傷付かない?」

 

「傷つくかもしれないが死にはしないはずだ、オリヴィアがそう望めば。」

 

遠回しに精霊達に頼めと言い含める。

 

オリヴィアは素直に良かったと呟いたが精霊達はオリヴィアの背後から呆れたような目を送ってきている。

 

シルフは元々こちらの事をあまり信用出来ていないようなのでジト目だ。

 

近くの店に林檎のように赤い果実が売ってあった。

 

「すみません、コレ5個ください。」

 

「銅貨5枚だよ。」

 

金を出すと果実が袋に入れられ渡された。

 

「みんなの分?」

 

「ああ。」

 

「私達の分もあるのね?」

 

「お前らが結構小さいから1人一つじゃ金も掛かるし量も多いだろ、だから後で切り分けてやるよ。」

 

「小さいは余計よ、全員集まったらこの町くらい大きいんだから。」

 

そんなでかいのか。

 

「味見用にもう一つ買っておくべきだったか。」

 

「別にもういいんじゃない?宿もすぐだし。」

 

「それもそうだな。」

 

宿に入り、この世界では少し高めの羊皮紙の束と投げナイフ10本を試作品兼実験台として使う事にした。

 

「投げナイフも護符も要領は同じ、自分の血を少しだけ溶かした水と魔力を合わせて表面に魔法陣を書いていく、魔法を放つ時に現れる魔法陣をそのまま書けばその魔法が飛ぶが威力は使う時に込めた魔力量で決まる。」

 

「なかなかめんどくさいわね。」

 

「ちょっと難しい。」

 

「少しずつ覚えていけばいいさ。」

 

精霊は血が出るような身体ではないのでどうしてもオリヴィアが血を溶かした水を用意しなければならない。

 

「まさか適性のある人の血じゃないと反応しないのは誤算だったな、まぁ、オリヴィアが居てくれて助かった。」

 

因みに、コレを構想段階ではあったが作り出したのはアロウズである。

 

あのアースクエイクの魔法陣を組んだのはまた違うドワーフらしいがアトが愕然としていたところを見るにきっとすごい奴に違いない。

 

「その変な筆貸しなさいよ。」

 

「すまんな、今の所これは俺専用なんだ。」

 

魔法陣さえ作ることが出来れば誰でも使える関係上俺も適性のある方の血さえあれば作れない事もない、魔力制御は必須だが。

 

「・・・ねぇ、あんたそれって。」

 

「投げたら投げナイフの周囲が真空になって速度を上げる、着弾すると周りを巻き込んで爆発、その二つの魔法陣を組み込んだ。」

 

「何当たり前のように化け物じみた道具作ってるのかしらね・・・!」

 

「あんまり使う事もないだろう、というか使うなら魔物だろうし、問題ねぇよ。」

 

「ただいまー。」

 

「お帰りー。」

 

「あれ?道具が浮いてる・・・。」

 

「あー、見えてないのか、シルフ。」

 

「分かったわ。」

 

シルフが2人にも姿が見えるようにしたのだろう。

 

2人は驚いて叫んだ。

 

「「精霊!?」」

 

「私の名前はシルフよ、他にも何人かオリヴィアちゃんについていく事になったからよろしくね!」

 

「よ、よろしく、シルフ。」

 

「私達の師匠以外で精霊って初めて見たな〜。」

 

「カルト様は聖霊よ。」

 

「え?」

 

アトのやつ分かってねぇ!

 

「文字が違うんだ、カルトの方が格上。」

 

「へー。」

 

「今度私とカルト様を同列に語ってみなさい、貴女がカルト様から怒鳴られるわ。」

 

「うぇ!?気をつけよう・・・。」

 

「まぁそれは置いておいてだ。」

 

俺は袋を取り出す。

 

「それは?」

 

「適当に店で買った果実、味は知らん。」

 

「え、何その不安を煽る言い方。」

 

「美味ければよし、不味ければ残念だったなと笑えるだろう?」

 

「待って、それは私達も強制参加?」

 

「何を当たり前な事を。」

 

「・・・。」

 

既にアト以外の全員が赤い果実を持っていた。

 

「嫌な予感がするんだけどなぁ。」

 

アトも果実を持って円を作るように座る。

 

精霊たちもそれぞれ果実を持っている。

 

「オリヴィアの解放とパーティー参加祝いに。」

 

「乾杯!」

 

杯などないがそれは言わなくてもいいだろう。

 

果実にかぶり付く。

 

シャリっとした食感、そして舌に途轍もない刺激とともにヒリヒリと舌が痛む。

 

うん、コレは。

 

「辛!?」

 

「「「あまー・・・え?」」」

 

「お父さん、どうしたの?」

 

「ゲホッゴホッ、俺のだけめっちゃ辛い!舌が痛い!というか喋ってるだけでめっちゃ痛い!」

 

「水飲んで!はい!」

 

「かっら!何だこれ!?」

 

「何でアルも齧るかなぁ!?」

 

「お父さん、食べる?」

 

「食べる。」

 

辛すぎて味が分からねぇ・・・!

 

「しまらねぇなぁ!」

 

畜生、畜生!




オチは必要だよね。


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日常茶飯事

俺達は迷宮都市に来たにも関わらず、訓練を続けている、それは金に余裕があるからでもあり、短いようで割と長い一年という時間を潰す為でもある。

 

「はぁ!」

 

「甘い!」

 

「クッ!」

 

大剣が横から迫るとアルは後ろにステップし、大剣から逃れることができた。

 

「逃がさん!」

 

「光脚!」

 

アルは俺よりも早く突きを繰り出してきた。

 

俺は半身になって避けると共に、一回転し、大剣を地面ごと削り取るようにして凪ぎ払った。

 

土が舞い上がり、俺の視界が狭くなる。

 

視線を感じて大剣を背中に回すと大剣には直剣が当たっていた。

 

「なんで分かるのかなぁ!」

 

恐らく光脚で空中から奇襲を仕掛けたのだろうが、視線があからさますぎたな。

 

アルが地面に降り立つ瞬間に身体強化をかけて地面を思いっきり踏む。

 

衝撃と共に地面が割れる、その衝撃でアルは体勢を崩し、少しだけ隙が生まれた。

 

「取った!」

 

「蜃気楼。」

 

確実に捉えた筈の大剣は空を切り、代わりに俺に向かって直剣が迫ってきていた。

 

そして俺に直剣が当たる直前。

 

「そこまで!」

 

両方の動きが止まる。

 

俺とアルは汗だくで倒れる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・アル、いつの間にそんな技を・・・。」

 

「俺のとっておき、だったんだけどね・・・はぁ。」

 

アルはとっておきが通用しなかったのがかなり悔しいようだった。

 

「お前、俺の身体強化と同レベルの魔法使ってるのに、更に技術磨いてやがるな、毎回毎回ギリギリだ。」

 

「次は真正面から倒してやる。」

 

「やってみろ、更に上から叩き潰してやる。」

 

男二人の友情劇の横でアトとオリヴィアは何やら本を読んでいた。

 

「ここの文字が『あ』でここの文字が・・・。」

 

「お疲れ様ー、あ、これはこれとこの二つでいんだよ。」

 

「・・・。」

 

完全に教師役が板についている、オリヴィアの目は死んでいるが。

 

「迷宮にはいつ挑むんだ?」

 

「オリヴィアが戦闘に参加できるようになってからかね、道具もそうだし、最初のうちは俺らが全力でサポート出来たら理想。」

 

「はー、それまでは迷宮には潜らない?」

 

「新しく出来たような迷宮じゃなきゃどこでも、なんなら他のパーティーに入れてもらうだけでも良い。」

 

俺は少しばかりギルドに行ったりしてるから時間はあまりとれないし、ハジメの時みたく多少無理を通して何十層も踏破できるような能力もないから、危ないときはすぐに帰ってこれるような場所には居てほしい。

 

「まぁ、俺は適当にぶらぶらしてるよ。」

 

オリヴィアの魔法適正からして、精霊魔法以外も適正はあるらしいしな。

 

というか、精霊魔法なら俺も使えるんじゃね?と思って聞いたらシルフ曰く『武器に魔法を纏わせるくらいしか出来ない』らしく、非常時には協力することを条件に俺も宿主になった。

 

ただ、俺が特別な訳ではなく、シルフも言っていたがオリヴィアの保護者だから協力するのであって俺が好きに命令したら即座に殺すと物騒な忠告も頂いた。

 

まぁ問題ないと笑って頷いたらその場にいた全員が唖然としていた、何故だ。

 

という訳で。

 

「シルフ。」

 

風が巻き起こり、シルフが顕現する。

 

「精霊魔法に適した杖の材料があるらしい、これだ。」

 

「マホドレイク、これ、森竜じゃない。」

 

「そんな呼び方もあるのか、生息域が分からないんだ、一応黄昏の森に上位個体が居るのは俺が知ってるが倒せる気がしなくてなぁ。」

 

「カルト様の森は殆どが魔法を使うなら垂涎物の素材ばかりよ、他の森と比べちゃダメよ。」

 

「そうなのか・・・それで、こいつの居場所は分かるか?」

 

「少なくともこの近辺には居ないわ、あんたの言った上位個体以外はね、倒す算段はあるのね?」

 

「いっても木を操って来るくらいだろ、それなら避けるか迎撃して潜り込むか、まぁ、いくつか手段はあるだろ、なかったらそれで終わりだけどな。」

 

「あんた、死んだらあの子が悲しむから、死なないでよ?」

 

「ハハッ、分かってるさ。」

 

「ならちょっと割高だけど普通の杖買うか、マホドレイクはまた後だな。」

 

所持金は前のオークロード討伐の報奨金でまだ金貨二十枚はある、家を買える値段だが家具などは買えない額だ。

 

せめて銀行のような施設があれば良かったんだが、基本的に冒険者は宵越しの金は持たない主義だ、女の冒険者でも金払いの良い冒険者や兵士に春を売ったり、そういうやつらに媚びて金をむしりとったり、まぁ、金を貯めると言う思考がない。

 

俺のように手元に置いておいていざというときに使うという思考を持つ者も居るが少数派だ、なんならゆすられる。

 

俺達はそういう意味では限りなく心配は無いと言える、Bランクとは言え、人間を辞めたような人間と一騎討ちで戦って善戦した前衛とほぼ互角の俺が居る、うちの女性陣は近接戦闘は弱いが付け焼き刃ながら護衛術も嗜んでいるので不意討ちでもされないかぎりはそう簡単に落ちない。

 

総合力ではバランスが取れているのだ、それも高いレベルで。

 

だからと言って油断はしてはいけない、こういう世界では情報伝達が遅い関係上裏の組織も活発に動いてくる。

 

「止めてください!」

 

「俺の妻に何してる!?」

 

こんな風に。

 

「そこのお前、止まれ。」

 

目的の為なら手段を選ばない、そんな言葉はあるが、実践してくる連中ほど厄介なものもない。

 

「・・・何か御用で?」

 

「お前の命、頂戴する。」

 

「これまたご丁寧に、それで?あちらの二人は人質ですか?」

 

一軒家の窓に二人の男女が拘束されている、先程の怒号の主達だろう。

 

「シルフ、風でナイフを阻むことはできるか?」

 

「出来ないこともないけど、制御が難しいわね、多目に魔力をもらうけど、良い?」

 

「時間も少し稼ぐ、やれ。」

 

「了解。」

 

「お前でもこの距離はどうしようもないだろう?」

 

「さて、どうかな?もしかしたら俺の仲間がどうにかするかもしれない。」

 

「他の三人は訓練上から出ていない、はったりは聞かんぞ。」

 

「そうそう、気を付けた方がいい、相手に情報を漏らすことは情報戦においては負けも同然だ。」

 

身体強化して加速する、ギャング、ヤクザ、まぁなんでもいいが、階級はそれほど高くないのだろう、高説を垂れている間に首を切り飛ばす。

 

首が飛んだのを確認して男女を拘束していた集団が男女に斬りかかったが、シルフの作り出した風の防壁によって悉く弾かれる。

 

俺は窓の縁に足を乗せてゆっくりと言った。

 

「残念、時間切れだ、死ね。」

 

ーーーーーー

真っ赤に染まった部屋をシルフ達に魔力を与えることで掃除させ、男女を見る。

 

「君は、一体・・・。」

 

「此方の事情に巻き込んでしまってすまなかった。」

 

「・・・。」

 

「これから先、俺が原因でこの街に色々と騒動が舞い込んでくるかもしれん、覚悟だけはしておいてくれ。」

 

「待ってくれ。」

 

「・・・なんだ?」

 

「助けてくれて、ありがとう。」

 

・・・俺のせいにしときゃ良いものを。

 

「謝礼は受け取る、改めて謝罪しよう、すまなかったな。」

 

俺はそれだけ言って窓から飛び降りる。

 

「ツンデレかしら?」

 

「はっ倒すぞシルフ。」




日常灰です。


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訓練と悪夢

「お父さん!」

 

今朝、オリヴィアが急に俺を呼び止めた。

 

「どうした?」

 

「私!魔法を習ってみたい!」

 

「アトが居るだろ?」

 

「「アト(お姉ちゃん)はダメ。」」

 

お前ら二人が拒否するのかアイツは。

 

アトは部屋の隅でのの字を書いていた。

 

「アト、魔法を使うときの手順を教えろ。」

 

「え?こうぎゅーっと集めてしゅるしゅるっと書いてペカー!ってだす!」

 

「それは何の魔法だ?」

 

「光明!」

 

「良かった、まだ予想の範囲内だ、だがお前は今後も誰かにものを教えるのを禁止する、欠片もわからん。」

 

「そ、そんな!?」

 

「説明が擬音だけとか分かるわけないだろう?」

 

俺の言葉にうんうんと頷いている二人はきっと俺の言いたいことが分かるのだろう。

 

「じゃあアル、同じ光明でいい、魔法の手順を教えてやれ。」

 

「まず自分の魔力を集める、それで光の球が出るイメージをして実際にそうなるように術式に追加の文字を追加していく、魔方陣の中で・・・

 

 

(一分後)

 

 

・・・そしてそれが出来たらこんな風に光明が使えるようになる。どうかな?」

 

「オーケー分かった、お前も一部以外教えるの禁止だ馬鹿者共!」

 

分かりやすいからまだいい、少なくとも基礎の基礎も分かってない奴にはいい教師にはなれる。

 

だが!長いのである!とても!長いのである!

 

なんでお前もそんなところで残念なんだよ!?

 

「メモとかとれるならともかくなぁ?」

 

オリヴィアはしきりに頷いている。

 

「だから、お父さんに教えてもらいたい。」

 

「そうか。」

 

取り敢えず分かったことは俺は娘に魔法を教えなければならないことだけだった。

 

ーーーーーー

それで!俺は相も変わらず訓練場に入り浸ることになった。

 

「まず、オリヴィアは魔力は感じることはできるか?」

 

「それは出来た!」

 

「そうか、ならその魔力を手だけに纏わせたりは出来るか?」

 

「手だけ?」

 

「ああ。」

 

オリヴィアは魔力を感じて動かしたりはしていても纏わせたりとかは苦手なようだった、なので少し練習させてみた。

 

「・・・難しい。」

 

「だろうな。」

 

俺は本当に小さいときからやってるからもう無意識で出来るようになっているがそこまでもかなり苦労した。

 

「例えばこうやって手を握って相手の手を魔力で覆ったりするのはやりやすい。」

 

そう言いながらオリヴィアの手を持って魔力で腕を覆っていく。

 

オリヴィアはくすぐったいようですぐに手を振り払おうとした。

 

「だがこういう状態は離れたりすると霧散する。」

 

「あ、変なのが無くなった。」

 

魔力が霧散したのだ。

 

「だけどね、魔力を纏わせると少しだけだけど霧散するまでの時間が長くなる。」

 

「その能力が高いほど効果が高くなるの?」

 

「回復魔法とか俺みたいに身体強化の魔法はそうだな、あとは水とかを凍らせたり、決まった形のない物を剣とか鞭とかにして使うときもこの能力を使う。」

 

そう言ってオリヴィアの頭に手を置いてオリヴィアの目に魔力を纏わせるとオリヴィアはビックリしたようだった。

 

「お父さんの色が違う!」

 

「少しだけ魔力の色が混ざって見えるだろ?適性に近い色がそれに表示される、例えばアトは黒に近い灰色、アルは黄色に近い白だ、俺の場合はあんまり色はついてない、適性自体あまりないからな。」

 

オリヴィアはチラチラと炎のように魔力が揺れている、全身から色々な色が出てきている。

 

精霊は一色だから分かりやすいが。

 

「すごい!」

 

「暫くは魔力を纏わせる練習だな、纏わせた時間が一秒を越えたら身体強化を教えてやる、頑張れよ。」

 

ーーーーーー

「全然出来ない。」

 

「はっはっは!難しいだろ?だから魔法使いは無条件で尊敬されたりするんだよ。」

 

夕方、赤い光が差し込んできた、そろそろか。

 

「あっ。」

 

オリヴィアに纏わせた魔力が切れたようだ。

 

「今日はこれだけだな、オリヴィア、歩けるか?」

 

「私赤ちゃんじゃな・・・あれ?」

 

「この訓練は魔力を纏わせる関係上常に魔力が外に出る、出しすぎて体力が無くなりやすいんだ。」

 

オリヴィアは気付いていないが既に汗でビショビショになっている。

 

「背中に乗れるか?」

 

「・・・頑張る。」

 

背中を差し出すと数分かけて背中に乗った。

 

「頑張ったな。」

 

「うん。」

 

「1日で出来るようなものじゃないから頑張れよ。」

 

「う・・・ん。」

 

「・・・お休み、オリヴィア。」

 

「・・・。」

 

寝たか。

 

宿に入り、部屋に入る。

 

「どうだった?」

 

「ぐっすり、魔力を纏わせると体力消耗するからなぁ。」

 

「「あー。」」

 

二人も経験があるのだろう、苦笑いだ。

 

「こうなると結構な時間目が覚めないのもお約束だな。」

 

「だから寝る前とかにすると便利!なるんだけど汗だくになるからカルト様から止めろ!って止められた。」

 

「俺がそれやって風邪引いたからな、体調も崩すし、カルトが近くにいないとこれやっちゃダメって言われてた。」

 

「へー。」

 

というかほんとに六時間くらい目を覚まさないんだよなぁ。

 

「俺はカルトにかなり高いレベルまで仕込まれたから、かなり得意だよ、こういうの。」

 

「あの森そういう特訓とかするなら割りと理想的だよな。」

 

「「分かる。」」

 

当たり障りのない話をして三人で寝た。

 

ーーーーーー

「ん・・・お父さん?」

 

暗闇の中には私一人だけ、お父さんは何処?

 

『早く逃げろ!■■■■■!』

 

「お父さん!?」

 

よく響く低い声で叫ぶお父さんと遠くから聞こえる大勢の足音と怒号

 

『いい?■■■、貴女は明日近くの町に行きなさい、この国は■人でも差別はされないはずだから。』

 

お母さんは私を必死に抱いて寒い夜を洞窟で過ごした。

 

『何処に行く?』

 

『あっ!?』

 

そして、私とお母さんを捕まえた、人間。

 

『どうか!どうか娘だけは!』

 

『なら、俺に奉仕しろ、一生な、そうすれば殺しはしないと約束しよう。』

 

『分かり、ました。』

 

そこから先は覚えていない、私の中で何かが壊れていく音と誰とも分からない人間から何かをされて、乱暴に叩かれたり蹴られたりしているうちにライクスに買われて、お父さんと出会った。

 

生き残りは多分居ない。

 

『コレがお前の記憶。』

 

『お前は何者だ?』

 

『お前は何故そこにいる?』

 

「私は・・・。」

 

『人間が憎くは無いのか?』

 

「それでも、私は・・・。」

 

『ゼルというあの男も、人間だ、いつかお前はあの人間も殺す、憎悪によって。』

 

「違う。」

 

『違わない、何故ならお前は私だからだ。』

 

目の前に真っ白な人が現れる。

 

真っ白な人型の影は腕を伸ばして私に触る。

 

『お前は災厄そのものだ、いずれお前も思い知る、何故お前が精霊に好かれるのか、そして、お前の過去が何なのか。』

 

「・・・。」

 

『お前に特別な言葉を教えてやろう、『化け物』だ。』

 

私がその化け物という言葉を聞いた瞬間心臓が跳ねた。

 

「違う!私は!私は・・・。」

 

「どうした!?」

 

「え?」

 

横を見ると私を心配そうに見るゼル(お父さん)がいた。

 

「お父・・・さん。」

 

「かなりうなされてたみたいだが、大丈夫か?」

 

「・・・おとうさん、私、頑張るから・・・居なくならないで・・・おとうさん。」

 

お父さんは目を見開いて驚いていた。

 

そして頭を撫でられた。

 

撫でられているうちに私はねむってしまった。




「寝たか。」

「もしかしたら、とんだ厄ネタかもしれねぇなぁ。」

「まぁ、解決法を探すにしろ何にしろ、まだ先か。」

「解決はしてみせるが、オリヴィアが耐えられるかどうか・・・やるしかないか。」

「俺は『お父さん』、だしな。」


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正義と狂人と純粋と

「むぅ・・・。」

 

オリヴィアに魔力を纏わせる訓練をしてから早一週間、やっと一拍ほどの間纏わせることに成功した。

 

「シルフ、一度纏わせることが出来ればあとはかなり順調に時間を延ばせるはずなんだが原因は分かるか?」

 

「簡単よ、無駄が多いのよ。」

 

「無駄?」

 

オリヴィアはそこまで無駄があるようには見えない、少なくとも、やり始めて一週間なら十分上手いと断言できる。

 

「簡単よ、贅沢だけどあの子には適性が多すぎるのよ。」

 

「そうか!それぞれの魔力が反発しあってるのか!」

 

「そういう事、だから生活魔法に使う様な無属性の魔力を纏わせたら他の適性の魔力によってかき消されるわ。」

 

「面倒くさいな。」

 

「だからと言って風とか纏わせたりしないでよ、身体がズタズタになったりするわよ。」

 

「なるほどなぁ、オリヴィアの魔法使いへの道は長いね。」

 

オリヴィアは今は少し休憩して精霊達と遊んでいる。

 

「シルフ、あの中に話せる精霊はいないのか?」

 

「居ないわね、あの子達はみんなあんたが奴隷から解放した時について来たから。」

 

「お前は違うのか?」

 

「風の精霊っていうのは変わらないけど、本名はまた別にあるわね、あんたも聞いたでしょ?」

 

「オリヴィアの悪夢か。」

 

「ええ、私はその悪夢の原因も全て見てるわ、教える気は無いけれど。」

 

シルフはオリヴィアに何を感じていたかは知らないが、きっとこの聡明さもシルフが見たものの影響なのだろう。

 

「そうか。」

 

「聞かないのね?」

 

「今聞いても何も出来ないだろ?」

 

「そうね。」

 

「なら聞かなくていい、それに、今のオリヴィアは楽しそうだ。」

 

俺がそう言ってオリヴィアを指差すとオリヴィアはモコモコの精霊達に囲まれて幸せそうだった。

 

「・・・なら、あの子が過去の事で何か悩んだり巻き込まれたりした時に解決してあげて、私たちはその時は無条件であなた達を援護する。」

 

「了解。」

 

「ゼル〜、頼まれてた物、買ってきたよー。」

 

「何それ?」

 

後に頼んで買って来てもらったのは二つの角材だった。

 

「この前までいた街の鍛治師、アロウズが仲間の鍛治師から色々な刀剣の資料を貰ったらしくてな、その中に少し耐久性が低いが鋭い切れ味の刀って剣があったらしい。」

 

ぶっちゃけそれを聞いて真っ先にメイン武器へと昇格させた。

 

大剣振るより一撃の鋭さは上だし、この世界はでかい奴は強いし小さい奴もそれなりに強い、というか小さい奴は群れる分でかい奴より厄介だったりする。

 

だったら大雑把な狙いしかつけられない大剣と細かく切って出血とかでトドメを刺す刀の方がいいと判断した。

 

あと夜月の言っていた事が確かならこの世界の何処かに紅黒龍がある、あの刀があれば魔法が使えないとかもう関係無い、少し本気で切れば城壁が割れる。

 

なので見つけるまでのスペアとして大剣を使っていたわけだが、絶対に刀の方がいいというわけでも無いので使い分けていく事になるだろう。

 

角材をナイフで削っていき、刀と同じ様な形に整える。

 

流石に機械で削ったような真っ直ぐな刀にはならないが充分だろう。

 

刃をつけるわけでもなし、これで充分以上に訓練は出来る。

 

そう言えばなのは達はカートリッジシステム使ってたよなぁ。

 

・・・オリヴィアの武器の一つとして考えておくのも悪く無いかもしれん。

 

ていうか魔力制御の一つではあるが魔力制御の総合力上げるなら魔力固めて魔法使わせた方が楽じゃね?

 

「オリヴィア、ちょっと考えた事があるんだがやってもらっていいか?」

 

「何?お父さん。」

 

「魔法を使って人形劇見たいなの出来ないか?土の魔法で人形とか背景とか作って炎とか水とかで風景とか作ってさ。」

 

「何それ面白そう、私も混ぜて。」

 

横で話を聞いていたアトも面白がって参加したがったので遠慮無く巻き込む。

 

人形劇に使うような小さい魔法を使うには少しどころではなく魔力制御が必要な気はするが小さい分イメージが固まっていれば良いらしく魔力制御にはちょうど良いとのこと。

 

アトもオリヴィアも女の子だ、面白がって人形を俺にしたりアルにしたりしていた、挙げ句の果てに訓練場の2割くらいの土地を使って盛大にオークロード戦を展開させていた。

 

もう既に劇の範囲じゃねぇ、しかもどこからそんな魔力が出てきたと思ったら精霊達が協力してやがる・・・。

 

だがオリヴィアが制御を手放したらほぼすべての魔法が消滅するので訓練にはなる・・・のか?

 

「楽しんでるわねー。」

 

「シルフは参加しないのか?」

 

「アレは基本的に風の精霊はあんまり出番無いのよね。」

 

「そうなのか?」

 

「じゃああんた、聞くけど劇で風を使う機会が頻繁にあると思う?」

 

「ねえな。」

 

「それが答えよ。」

 

なるほど。

 

「ところでアルはどこにいるんだ?」

 

「アルならちょっと防具見るって言って店の前で立ち止まってたよ。」

 

「分かった、ちょっとオリヴィア頼んだ!アル見てくる!」

 

「了解。」

 

アルはどこにいるんだ?

 

「探してあげましょうか?」

 

「シルフか、頼む。」

 

「なら魔力を渡して。」

 

「はいよ。」

 

少し余分に与えているからかシルフは俺に魔力を求めてくる事が多い。

 

「OK、見つけたわ。道案内するわね。」

 

「ありがとさん。」

 

シルフと買い食いしながらアルに向かって歩いていると戦闘音が聞こえてきた。

 

俺は今素手だが、どうにかなるか?

 

削ったナイフはあるけど投げナイフ見たいな魔法も何もねぇ、倒せて1人か。

 

木刀も置いてきてるし、さて。

 

「アルが戦闘中だけどどうする?」

 

「こんな裏路地に入る時点で怪しいとは思ってたが、全く。」

 

正義感を出すのは良いがせめて連絡してくれよな!

 

屋根から戦闘をしている戦場を見渡す。

 

アルは3人の男に攻められているが反撃をほとんどしない事で持っている状態。

 

アルの後ろにはボロボロの子供が2人。

 

おそらく子供が絡まれているのに突っかかったら予想以上の強さだったってところか。

 

「うちのメンバーに何してる?」

 

屋根から飛び降りて1人の後頭部を蹴り飛ばす。

 

足の甲で男の頭を引っ掛けてもう1人の方に向けて蹴り飛ばしたので2人は一緒に荷物に激突した。

 

「アル、状況は?」

 

「助けに入ろうとしたんだけど罠みたい!敵は三人じゃないね!裏の人?」

 

「おそらく、殺気が思いっきりぶつけられてら。」

 

「素手でいける?」

 

「一通りは習ってある、流石に大剣ほどは期待するな。」

 

「充分!」

 

二手に分かれて戦闘を開始する。

 

俺が担当するのは蹴り飛ばした奴とそれに巻き込まれた奴、二人共すぐに飛び上がって短剣を構えた。

 

俺は姿勢を低くして懐に入り、短剣を持っている腕の肘に掌底を打つ。

 

短剣は腕の動きにつられ胴をガラ空きにしたので遠慮無く正拳突きで鳩尾をぶん殴る。

 

そうすると短剣を構えた男の一人は吹っ飛んで戦闘不能になった。

 

「うおおお!」

 

直剣を持っている男が斬りかかってくるが俺は踏み込んで相手の手の甲を裏拳で弾き飛ばす。

 

男は衝撃で剣を離し、剣が空中で回転する。

 

「すまないがこちらも自衛の為だ、許せ。」

 

剣の柄を掴んで後ろに下がると同時に男の大腿部を切断した。

 

「ふむ、少し切れ味が悪いな、手入れはしておいたほうが良い。」

 

俺がそう言って直剣を捨てた。

 

アルも四人を相手に大立ち回りをしていたようだ、四人中三人を無力化し、残りの一人を今無力化した。

 

「お疲れ様。」

 

「そっちこそ。」

 

子供達は戦闘中に逃げた様で居なくなっていた。

 

「残りは?」

 

「さぁ?10人くらい?」

 

「いや、違うだろう。」

 

「不届きもの共め!このヴァレスター家次男のレクト・ヴァレスターが捕まえてやる!」

 

「ボンボンの登場だ。」

 

「これは貴様らがやったのかね!?」

 

「ああ、子供を人質に取っていたこともある、勝手ながら制圧させて頂いた。」

 

「報告は聞いている、先程二人の子供が私たちを見つけ案内してくれたのだ。」

 

そうか。

 

「なら気を付けろ、まだ残党は居る。」

 

「何と!?」

 

周りに麻薬をやっている犯罪者達が俺たちを取り囲む。

 

人数を数えてみると9人ほど。

 

「ボンボン、短剣で良い、刃物を持ってないか?さっき捨てた直剣を拾うには距離がありすぎてなぁ。」

 

「解体用で良いのならあるが、問題無いか?」

 

「問題無い、少し残酷かもしれんが、狩らせてもらうぞ。」

 

手渡された短剣を逆手に構えて嗤う。

 

「一人3人、確実にやるぞ。」

 

「了解。」

 

「分かったのである。」

 

レクトとかいうのは槍を構えた、槍使いか。

 

「『身体強化』」

 

身体能力を上げて9人の内3人の首をナイフで切り裂いた。

 

アルも身体強化をして腕を斬り飛ばしたり足を切ったりして無効化を済ませている。

 

レクトも少し間やる様で最初に槍で1人を突いてビビっていたもののすぐに槍を抜いて2人目を突いているところだった。

 

だが二体目を突いたときに槍が抜けなくなってしまい、レクトの背後から麻薬中毒者がナイフを振り下ろそうとしていた。

 

俺は短剣を投げてレクトの背後にいる麻薬中毒者の頭を爆散させた。

 

「・・・油断はするなよ。」

 

もう何も出てこない、近くに誰かがいる様な気配は無し、もう大丈夫か。

 

「初めて人を殺したのである。」

 

レクトの手は震えていた。

 

「冒険者と言うのはこんな事をしなければならないのであるか?」

 

「・・・場合によっては、ただ、あんたがそれをどう乗り越えるかは知らん、だが、恐れを抱かない人間など、化け物と何が変わろうものか。」

 

「・・・。」

 

「アル、訓練場にアトとオリヴィアを待たせてる、行くぞ。」

 

「あ、ああ。」

 

そうか、アルも殺人は初めてか。

 

「アル、さっきのボンボンにも言ったが、恐れは抱け、恐れを抱かないのは化け物と同じか、精神がぶっ壊れた狂人だ。お前は違うだろう?」

 

「・・・ああ。」

 

「まぁ、狂人であっても、自分が怖いと思うなら、まだ人だ、心配すんな。」

 

「・・・。」

 

訓練場に戻るとオリヴィアとアトの劇はギルド職員に大人気だった。

 

受付嬢から絵本や貴重な筈の本を渡されていたりしてオリヴィア達はてんてこ舞いだった。

 

「楽しそうだな?」

 

「あ!お父さん!」

 

「劇は人気になったか。」

 

「うん、毎日でもして欲しいんだって。」

 

「まぁ暫くはやるだろうし、魔法使いの新人でも集めて一緒に劇でもやるか?」

 

ギルド職員達がひそひそと話していたが、まさかな?




4,000文字は日常的に描く分量じゃないぜ、少なくとも作者は疲れたぜ。


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学園ダンジョンへの招待

「すみません、ゼルさんですね?ちょっと此方に来てもらえますか?」

 

俺が訓練場に行こうとしたとき、受付嬢に呼び止められた。

 

「分かりました。」

 

受付嬢はホッとした様子で俺を案内した、案内された先では一つの部屋があった。

 

「・・・。」

 

「この部屋です。」

 

一つだけ明らかに雰囲気が違うんだが、何で威圧感満載なのこの部屋、怖い。

 

取り敢えずノックすると中から入っていいぞと声がした。

 

中に入ると白髪のおじさんとギルドマスターが中にいた、二人はにらみあっており、俺を見ると声を出し始めた。

 

「今日来てもらったのは他でもない、君にはダンジョンに行ってもらいたい。」

 

「用件を言うのが早いな爺さん、俺達はパーティーだ、俺一人って訳じゃねえよな?」

 

「口には気を付けろ坊主、逆らってもどうにもならん。」

 

「なら俺は黄昏の森へ帰るとするよ、カルトもいることだしな。」

 

「フッ、ポリスのギルマスも耄碌したか?」

 

「何を言ってる若造が、子供がランクDになるという反則をしたのは貴様だ。」

 

「実力的にはBにも届くぞ。」

 

「それはあくまでも雑魚に対してだろう?」

 

うーん、質問に答えてくれない。

 

「それで?俺は何処に行けば良いんだ?」

 

「君達には学園の人工ダンジョンに行ってもらいたいんですよ、ゼル君。」

 

真後ろから声が聞こえてばっと飛び退いた。

 

「来たか学園長。」

 

「はい、来ました。」

 

「ゼルがこんなにびびるとは思わなかったな。」

 

「考えてみろ、一回為すすべもなくやられた奴が気配もなく真後ろにいるのを。」

 

「うん、まぁそうなるわな。」

 

俺はギルドマスターにそう言われて少し安心した。

 

「て言うか、人工ダンジョンって言ってたけどダンジョンって作れるものなのか?」

 

「作れるぞ、大陸中の魔力集めて固めるみたいなことしない限り出来ないがな。」

 

「私が半分くらい魔力提供したのでダンジョンを自由に書き換えられるんですよね。」

 

「うん、やっぱあんた化けもんだろ。」

 

やろうと思えば生徒全員避難させたあとに入り口に大量の魔物吐き出すとか出来るじゃん、無理じゃん。

 

「本来は教員がするんですけど、一人入ったら気絶して出てきましてね。」

 

ダメじゃねえか。

 

「何されてんだよ。」

 

「ですから、その調査と、出来るならその原因の排除がメインです、まぁ、異常があったとしてもドラゴンが出たとかでしょうし、貴方達なら問題はないでしょう。」

 

「「「おいテメェなんつった?」」」

 

良かった、俺がおかしいと言うわけではなかった。

 

「ドラゴンです、まぁ学園のダンジョンならばそこまで強くもないでしょう、せいぜいポリスの迷宮の30層ボスくらいでしょう。」

 

やべぇ、どのくらいなのか欠片も分からねぇ。

 

「・・・ならBランク冒険者一人分か、なら問題無い・・・のか?」

 

「待てや、こっちは新人教育やってる途中だぞコラ。」

 

「元々新人教育用の迷宮なので問題無いでしょう?それに、貴方達の迷宮探索の経験にもなるでしょう?せいぜい10層程度なので簡単に攻略して来てください。」

 

こいつ・・・。

 

「・・・分かった、パーティーメンバーとも話して決める、それで良いな?」

 

「ええ、迷宮に挑むのであれば学園に来て下さい、貴方達の視線を魔法で写して教員全員で見るので。」

 

うわぁ、人身御供感が凄い。

 

「今日のところはこれで良いか?」

 

「ええ、もう貴方は出て行って構いません、では。」

 

「俺あんたみたいな奴、結構好きだよ、利用されたくはないがな。」

 

「おっと、結構好印象なのですね、では、よろしくお願いしますよ。」

 

俺は学園長に礼をしてから部屋から出た。

 

「相談しなくちゃな・・・。」




気づいたのです、私は無双系の小説を書いているときでないと書きたいという意欲がイマイチである事に、という事でありふれの他になんか足します、何にするかはまだ決めてませんけど。

でも最近だとアニメもやってるしやっぱり転スラかなぁ、アレ後半インフレするからあんまり手を出したくなかったのよね。うちの主人公だとせいぜい大賢者レベルまでしか到達出来ないこともあってキツイキツイ。

シエルさんマジパネェっす。


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学園へGO

「という事があったんだが、如何する?」

 

俺が今日のギルドマスター連中の話を要約して伝えると全員が目を光らせた。

 

「ダンジョン!」

 

「行く!」

 

「お父さんが行くなら・・・。」

 

「満場一致みたいね?」

 

・・・全く。

 

「やるだけやるか、という訳だ、明日学園に向かってすぐにダンジョンの攻略を開始する。」

 

窓に止まっていた小鳥にそう言うと小鳥は俺を見て声を出した。

 

「気付いていたのですね。」

 

「よく言う、魔力を少しだけ漏らしてるだろう、それだと魔法使いにはバレバレなんじゃないのか?」

 

「かなり強めに隠蔽してるのでそれ程でも、私としては何故そんなに気配察知が上手いのかと疑問だったりするのですが。」

 

「知らん、まぁ、明日にはそっちに行く、教員用の部屋で泊まるからよろしく。」

 

「分かりました、私からも通達しておきましょう。」

 

小鳥は何処かへ飛んでいった。

 

「と言う訳だ全員準備を始めろ、あと掃除もな。」

 

なんだかんだで散らかっているので掃除はしておく。

 

「「「了解。」」」

 

シルフが風を起こしてゴミを集めるという贅沢な魔法の使い方をしていた為掃除自体はすぐに済んだのが救いか。

 

そして門の前まで来ると門番にある事を言われた。

 

門番曰く、最近魔物の活動が活発化し始めていると言うのだ、オークロードを倒した影響だろうか。

 

「道中はそんなに強い奴はいない、適当に狩って道具にでもするか?」

 

「あ、オリヴィアちゃん少しだけ戦ってみる?」

 

「!」

 

オリヴィアは少し怯えているようだった。

 

「一応短剣と弓は持って来たが?」

 

「ゼルってたまに凄い準備が良いよね。」

 

「ていうか使うかもわからないものを買ったの?」

 

「俺の使う奴めちゃくちゃ単純かめちゃくちゃ複雑かの二つしかねえしなぁ。」

 

使わないなら俺の予備の武器になるだけだ。

 

「やってみる。」

 

「ていうか、何気に私と相性の良い武器持って来てるあたりにゼルの用意の周到さが表れてるわね。」

 

「弓なら風で飛ばせばそれなりにはなるさ。」

 

街道に居るのはそんなに強くない獣などだ、弓があればまぁ倒せる。

 

「じゃああそこに居るホーンラビットに向けて撃ってみろ、多分気付かれる。」

 

オリヴィアは弓すらあまり満足に引けなかったが俺がゆっくりと姿勢を整えていくとすぐに数発程度なら撃てるようになった。

 

「・・・当たらない。」

 

「ま、そんなもんだろ、ていうかまともに周辺に当たってるだけでも十分凄いと思うけどな。」

 

アトは四つん這いになっている、アトも元々使おうと思っていたのだろう、というか前に見たアトのレベルなら多分あっという間に抜かれる、ブランクもあるだろうし。

 

「・・・。」

 

「拗ねるな拗ねるな、ほら、行くぞ。」

 

オリヴィアは頬を膨らませて俯いていた。

 

そして夕方ほどになり、やっと学園に着いた。

 

学園の前にはいつぞやのエルフが居てお辞儀をしていた。

 

「ようこそ、来年の特別枠の生徒及び教員のゼル様、アルダと申します。」

 

「ど、どうも。」

 

「よろしくお願いします。」

 

アルとアトは二人でお辞儀をしてオリヴィアもそれにつられてお辞儀していた。

 

「よろしく頼む。」

 

「貴方は暫くゴーレムの代わりをしてもらいますからね。」

 

げっ、やぶ蛇だったか。

 

「了解、ダンジョン攻略は明日で良いんだよな?」

 

「はい、ではアル様、アト様、オリヴィア様は此方に。」

 

「マジで外に放置かこの野郎。」

 

「せいぜいあと3日です、頑張って下さい。」

 

この貧乳エルフめ・・・。

 

「1週間に増やしますか?」

 

「喜んで勤めさせていただきます。」

 

やっぱり気にしてたわ。



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学園の教師の実力

「春で助かったな・・・結構寒いわ。」

 

朝になり体で暖まった外套を脱ぐ。

 

「・・・ちょっとだけ試すか。」

 

地面に刺した大剣を引き抜き、黒化(ニグレド)を発動する。

 

「・・・フッ!」

 

早すぎて二つにブレるように見えるから幻影剣と名付けたが結局はただ早く振っているにすぎない、だから本当に搦め手で来られると何も出来ずに死ぬことになるだろう。

 

全方位から銃弾が飛んで来るようにイメージすると銃の発射音と共に銃弾が飛んで来る。

 

勿論ただのイメージトレーニングである、だが、幾億、幾兆と繰り返しているのだ、ありとあらゆる状況で訓練出来る程度の妄想は出来る。

 

身体に当たるものだけ弾いているが1分ほどで膝に一発入り、動けなくなり、死ぬ、繰り返して見てもおおよそ1分半ほどが限界だった。

 

刀ならば使い慣れているのもあり、もう少し伸びるだろうか。

 

紅黒龍はそもそも銃弾切れるから関係無い、突っ込めばいける。

 

少し構えたまま休憩していると短剣が後ろから飛んできた。

 

幻影ではない、本物だ。

 

「よっと!」

 

前転をしながら靴の踵で短剣を上へと蹴り飛ばす。

 

その勢いのまま立ち上がり落ちてきた短剣をキャッチするとパチパチと拍手された。

 

「それで、何の用だ?アルダさん。」

 

「ちゃんと門番をしていたのですね。」

 

「まぁ、不可抗力とはいえやっちまった責任は取らなきゃな、まぁ、時と場合によるが。」

 

「ぶっちゃけ部屋に行くと思ってました。」

 

「場所が分からん、そうなりゃここに居るしかないだろう、それで?やるか?」

 

短剣を投げるとアルダはニッコリと笑った。

 

「良いでしょう、ですが、そう簡単に負けませんよ。」

 

「・・・ハッ、上等。」

 

大剣を構える、アルダは短剣を太ももにある鞘に直し、弓を構えるように腕を置いた。

 

「・・・。」

 

横に歩くと静かに照準を合わされる。

 

「・・・なるほど、強い。」

 

多分これ、目に見えないし効果も分からんタイプだ、挑んだの後悔しそう。

 

俺の言葉が聞こえたのか一気に殺意が広がった。

 

「シッ!」

 

矢が飛んで来る、魔力でできた矢なのだろうが見えないし、物理が効く気もしない。

 

「シャア!」

 

大剣に魔力を纏わせる、魔法が使えないから効率が悪いなんてものじゃない、魔法が半魔族である俺の魔力でさえ数分纏わせたら動けないくらいに披露する。

 

大剣が何かを砕いた感触と共に弾き飛ばされる。

 

「何!?」

 

万歳のような姿勢になり身体全体が晒される。

 

そしてアルダは次の矢を構えていた。

 

無慈悲に放たれた次の矢は早い。

 

大剣を手放し、身体強化をして逃げるが逃げた先にも地雷が埋め込まれていたのだろう、地面が爆発した。

 

「チッ!」

 

搦め手主体とか言ったけど訂正しよう、確実にキルゾーンに誘い込める策士タイプだこいつ!

 

「あらあら、自分の武器が無くなりましたよ?どうしたのですか?」

 

アルダは女王様の様に微笑んでいる、その筋の人には人気そうだ。

 

だが。

 

「どうもこうもねえよ、ただ、戦う手段を変えるだけだ。」

 

腰から二つの短剣を引き抜く、アロウズに新調してもらっていた短剣だ、今頃役に立つとは思っていなかったが。

 

姿勢を低く保ちながら走る。

 

地面を蹴る瞬間に身体強化を発動し、地面を割りながらアルダに向かって走る。

 

「一直線?分かりやすいわね?」

 

余裕を持って一発だけ矢を放つ、それは分裂した様に魔力の塊を増殖させ、確かに俺に迫っていた。

 

速度を変えずに矢の雨の間をすり抜ける様に跳ぶ。

 

前転しながらもう一度放たれた矢の分析に切り替える。

 

次、地面の爆破。

 

走る、さっきまで自分の居た場所が爆発するのを尻目にまだまだ遠いアルダに向かって走る。

 

アルダは俺と大剣の間になる様に位置を変えている、大剣の威力が脅威だと分かっているのだろう。

 

「ハハッ。」

 

俺と同レベルか上、この前のゴーレムの時は油断してたな?

 

「少しレベルを上げよう。」

 

「来てみなさい、綺麗な風穴を開けてあげるわ。」

 

魔力が広がる、俺は魔力の制御を手放し、身体強化のレベルを上げる。

 

そして、俺の姿がブレる。

 

「面白いだろう?早く動けばその分数が増える。」

 

それぞれが短剣を持っている為手数だけは増える、ただ早く動いているだけなので面で来られると死ぬが。

 

アルダもそれが分かっているのだろう、目を見開いた後に矢を細かく、そして多くした。

 

幻影を三つに増やし、拡散する。

 

一つに向かって矢が飛んできたのでそちらには行かずに幻影を減らす。

 

「見つけた。」

 

そして俺本体がバレる。

 

「まぁコレ実用性皆無だし仕方ない。」

 

と言うわけで次の策を講じようか。

 

「次だ。」

 

擬似魔法を発動する。

 

俺の前に土の壁が現れ、矢を遮断する、矢は貫通してこなかったので賭けには勝った。

 

「擬似召喚、精霊サラマンダー。」

 

俺がわざわざ影分身とかいう実用性皆無な技を使ったのか、それは魔法陣を組む為だ。

 

サラマンダーは無言で周りを火の海にする、擬似召喚とか言ったが原理的には普通の召喚と変わらない、ただ構造上複数の護符を使って一度しか使えないから両方話す余裕も無いだけである。

 

陽炎で俺の姿がゆらゆらと揺れる。

 

「チャンス。」

 

火の海の間を走り、火の海の中を走ったお陰でアルダに一気に近づくことが出来た。

 

「しまっ!?」

 

「取った!」

 

短剣を交差させ、アルダの胴を切り裂こうとすると途中で止まった。

 

「取ったと思いましたか?残念でした、罠よ。」

 

アルダがそう言うと同時に地面から鎖が飛び出し、俺を捕まえた。

 

身動きは・・・出来ないか。

 

「チェックメイト。」

 

「・・・降参だ。」

 

アルダは見下しているように笑っていた。

 

鎖が解かれるとアルダは顔を赤くして頭を抱えた。

 

「あー、キッツ、なんでそんなに強いんだお前。」

 

「やっちゃった、しかも新人の前で、なんであんなに簡単に?」

 

「・・・。」

 

黒歴史になってるやんけ。

 

大剣を引き抜きながら周りを見るとオリヴィア達が近付いてきていた。

 

「おはよう、よく眠れたか?」

 

「うん、でも盛大にやり過ぎたね、私たちのいる部屋まで聞こえてきてたよ。」

 

「あら、そんなに音でかかったか、学園だし広場くらいあると信じるか。」

 

グラウンドと言っても通じると思うがそもそも単語自体あるか分からない、通じる言葉選ぶ分面倒くさく感じるのは俺の気のせいだろうか。

 

「凄かった。」

 

「まぁ勝負は俺の負けだ、アルダは多分オリヴィアの一種の完成型だから教えてもらうのもアリだぞ。」

 

「ライクスモードにならなきゃそうする。」

 

その言葉に俺とアルとアトはブッ!?と吹いた。

 

知識が無いからそう言うしか無いんだろうがあの女王様モードとライクスは似てるようで全然違う。

 

二人も分かっているようでお腹を抑えて声を押し殺して笑っていた。

 

「クッソ・・・こんなので・・・!」

 

「ずるいよ、オリヴィア。」

 

「何で?」

 

「まぁまぁ、なんかアルダさんが白く燃え尽きてるからその辺りで許してやれ、迷宮へはすぐに行けるけどどうする?」

 

「「「行く!」」」

 

「了解。アルダさん、そう言うわけなんで、行ってきます。」

 

アルダさんは相変わらず白く燃え尽きてしまっていた。




アルダさんは学園の教師の中では強い方、学園最強は学園長である。

と言うか学園自体天才とかを優先的に持って来てるから教師陣もそれなりに強い、現時点でゼルと同レベルがアルダともう一人、スカルパラディンレベル(ランクA相当)が一人居る予定。


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学園ダンジョン攻略

「準備運動は終わった、やる気はあるぜ。」

 

「凄い戦いだったね、相変わらず大剣がナイフみたいに動くから戦える気がしないよ。」

 

「要所要所で使ってればあんな感じになる、頑張れ。」

 

学園のダンジョンは学園長が管理している事もあって分かりやすく舗装されていた。

 

洞窟の正面が何処となくサーカスの様に絢爛になっているのはちょっとどうかと思うが。

 

「貼り紙?」

 

「ダンジョンに挑む時の心得と契約なんだって、ダンジョンの中で死んでも自己責任、傷付いても私達には責任は無いですよっていうの。」

 

「あらかじめ書いてないと色々と言われるからか。」

 

「貴族とかがそんなこと言うんじゃない?」

 

平民は良くも悪くも自由だからな。

 

アルもアトも本当にそんな奴がいるのかとでも言いたげだ。

 

「まぁ、俺たちは関係無いな。」

 

「そうだね。」

 

遠くで鐘が鳴る、授業が始まるのだろう。

 

「・・・眠い。」

 

「ちょっと我慢してくれ。」

 

オリヴィアは寝足りなかったのか目をしきりに擦っている。

 

締まらないがそんな感じで俺たちのダンジョン攻略は始まった。

 

「一階層は洞窟の形か、暗いが・・・見えるな?」

 

「見えるよ。」

 

オリヴィア以外はカルトの加護がある、夜目はきくだろう。

 

「魔物も居るみたいだが、どんな魔物かは知らん、暫くは気を張れよ。」

 

暫く洞窟を彷徨っていると音がした。

 

オリヴィアは真っ暗にしか見えないだろうが俺達は見えていた、俺も少しばかり因縁のあるゴブリン、それが三体少し広い部屋に居た。

 

本来ならばランタンなどの光で襲い掛かってくるんだろうが俺達はランタンどころか光る物といえば剣位しか無い、俺に至っては自作の艶消しまで使っているせいで光とかほとんど反射しない。

 

アルとアトが目の前に居るのに見失うくらいといえばその隠密性が分かるだろう。

 

「背後から暗殺する。」

 

「「了解。」」

 

オリヴィアには石をもたせて目の前に少し投げたら良いと指示した。

 

ゴブリンはオリヴィアが投げた石が立てた音で見当違いの方向に体を向けた。

 

俺達が短剣で首、脇太ももを切ると小さく声を出しながら死んでいった。

 

「ゴブリン排除。」

 

「次行こう次!」

 

「何も分からない・・・。」

 

オリヴィアにも戦わせてみたいがシルフが協力するか分からん、そもそも魔力制御すら出来ない奴が魔物と戦ってまともに生き残れる世界じゃないからな。

 

オリヴィアの手を握って歩き出す。

 

「ねぇ、ゼル、扉があるよ。」

 

「・・・いちおう行ってみるか。」

 

一階層ずつボスが居る?面倒くさいな。

 

扉を開けると其処にはゴブリンの上位種であるゴブリンメイジ、そしてゴブリンソルジャー、最後に一体だけホブゴブリンが居る。

 

「・・・魔物も決まってんのか、メイジ潰してア後は成り行き、異論は?」

 

「無し。」

 

「じゃあ戦闘開始、幸い松明あるし視界は良好だろ?」

 

「シルフ。」

 

「りょうかーい。」

 

シルフが風の刃を作ったのだろう、ゴブリン全員の首が面白い様に飛んだ。

 

「・・・。」

 

「見えてたら負けない、シルフがやってくれる。」

 

「シルフ、今度甘やかしたら蜂蜜わけねぇぞ。」

 

「そんな!?」

 

「・・・お父さん、ダメ?」

 

オリヴィアは上目遣いでそう言ってくるが俺はため息をついていった。

 

「ダメだ、自力で出来る範囲じゃないといざという時何も出来ない。」

 

「・・・分かった。」

 

「ただ、今度からやる時はやるって言えよ?」

 

「分かった。」

 

部屋の奥に出来た扉を調べていたアル達が戻ってきた。

 

「次の階層に行き着いたよ、森だった。」

 

「森ぃ!?つくづくとんでもねぇな、ダンジョンってのは。」

 

何時ぞやのオラリオの様には行かなそうだ。

 

頑張るか・・・。




ちょっと旅行に行く前にチラッと投稿


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魔族

「ゾンビか、燃やせるか?」

 

「回りに木が多すぎる!引火したら大惨事だ!」

 

「チッ、面倒だが、切り刻む!」

 

「シルフ!木を切り落として道を塞いで!」

 

二階層ではゾンビの群れに襲われて撤退戦を繰り返し。

 

「あっつう!?火山!?どうなってんだこのダンジョン!?」

 

「あ、スライムが居る、可愛い!」

 

「地形と魔物の種類がちぐはぐすぎて訳わかんねえ!?環境だけ地獄か!?」

 

三階層の火山ではスライムと戯れ。

 

「迷路ー!」

 

「バカ!叫ぶな!」

 

「ヴゥモオオオオ!!」

 

四階層の迷路ででたらめに強いミノタウロスに追いかけられた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・まさか、俺の身体強化の全力で互角とか、急に難易度上がりすぎだっての・・・。」

 

「魔法が効いてくれて助かったね。」

 

「あれは魔法無しじゃ無理だ、大剣での一撃が効かねえとか反則だっての。」

 

五階層に繋がると思われる階段の前で休憩をすることにした。

 

「はー、何か俺だけ消耗が早い気がするんだが気のせいか?」

 

「ゼルが何だかんだで一番動いてるしね、仕方ないんじゃない?」

 

五階層へと足を踏み入れると五階層は闘技場のように円形のドーム場になっていた。

 

そして、魔物がいない、ボス部屋か?

 

「・・・どういうことだ?」

 

「分からない。」

 

警戒する俺に向かってオリヴィアが怯えた声で警告した。

 

「・・・お父さん、怖いよ。」

 

「え?」

 

「ふむ、私と貴方達は何かと縁があるようだ。」

 

俺達の反対側から、そう言って出てきたのは魔族の男だった。

 

魔族だとすぐに分かったのは相手の足が山羊のようになっていたからだ。

 

魔族にも色々な形がある、獣人の様に体の一部か全身の至るところに人間と違う物があったりありきたりなコウモリのような翼を持つものだって居る。

 

「なにもんだ、テメェ。」

 

「フフ・・・貴方達の村をアークラと共に焼いた者、と言えばお分かりですか?」

 

「「!!」」

 

「そして、そこの娘とも、街を襲ったときの指揮官でした。」

 

魔族の男は薄ら笑いをしたまま喋っている。

 

「指揮官が部隊も引き連れずに一人で物見遊山かね?魔族とはかなり軍が暇なようだ。」

 

「そうとも言えるかもしれませんね、ですが逆です、部隊を全滅させられたのですよ、ここの学園長に。」

 

本当の事言ってるかも分からねぇな、多分白だが。

 

「随分と正直なことで、そのまま魔族の進行ルートでも喋ってくれたらありがたい。」

 

「流石にそこまでは、それよりもいいのですか?飼い犬が暴れそうですよ?」

 

「何?」

 

隣を見るとアルとアトは明らかに正気を失っていた。

 

血走った目で魔族の男を見つめており切っ掛けがあればすぐにでも突撃するだろうと言うような様子だった。

 

「何しやがった・・・?」

 

「いえいえ、ただの催眠術です、それにしても、貴方、魔族ですね?」

 

「それがどうした?俺の生まれはちゃんと人間だ、そう簡単に負けねぇよ。」

 

「それは楽しみです、では、仲間に殺されてくださいな。」

 

魔族の男が俺を指差すとアルとアトは俺を見て完全に目標を俺に変えた。

 

「あ、ああ!」

 

「オリヴィアもか!きっついなぁ!シルフ!」

 

「分かってるわ!魔族なんかに操られたりするものですか!」

 

よしきた!大分楽になった!

 

「シルフ、全力でやる、ついてこれるな?」

 

「私は風の精霊よ?風についてこれるかなんて無粋な質問は止めてくれる?」

 

「精霊とも契約していたのですか、楽しみです。」

 

魔族の男と戦いながら三人助けるのは辛いが。

 

「やるしかねえよなぁ?」




勝った!第三部、完!

俺達の戦いはこれからだ!


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喧嘩

戦闘開始、アトとアルが突撃してくる、アトは手足に闇を纏わせており、魔法は撃てないようだ。

 

アルは足に光を纏わせている、最近は詠唱せずともこんな感じにさりげなく魔法を使ってくるのでやりにくかったのだが。

 

「吹っ飛べ!」

 

身体強化を腕だけに集中強化して空気を殴り付けた。

 

俺が拳を振り抜いた瞬間地面を抉りながら部屋全体が崩壊を始めた。

 

「正気を疑いますね!迷宮の階層を破壊しようとするとは!お仲間の被害などお構いなしですか!」

 

「昔から正気を失ってる奴は殴れば直る。」

 

「そんなわけないでしょう!?」

 

おいおいシルフ、案外直るもんだぞ。

 

「ゼル、後で説教ね・・・ケホッ。」

 

「後でぶん殴る・・・。」

 

オリヴィアはシルフが風の防壁で守ったようで無傷である、そしてオリヴィアは精霊に魔法を撃たせる事をメインに戦闘を組み立てていたのであまり強い魔法を撃ってくることもなく、何ならトラウマに悩んでいるのか今すぐにでも気絶しそうだ。

 

「できる限り早く起き上がってオリヴィアの面倒見てくれ、じゃねえと集中できねぇ。」

 

「・・・」

 

気絶してるわ、ダメだなこりゃ。

 

「腕を犠牲に仲間の無力化、魔法を使える訳でもないでしょうに。」

 

「いっちょまえに敵の心配か指揮官、今なら好きに料理できるぞ?」

 

「そんな人物ではないでしょう?手負いの獣が一番恐ろしい、調子に乗らず、ゆっくりと痛めてあげましょう。」

 

「そんな悠長に出来るかね?」

 

「出来ますとも、こうすれば。」

 

魔族はオリヴィアの体を手元に引寄せ、頭に手を置いた。

 

「・・・。」

 

オリヴィアは虚ろな目でゆっくりと動いている。

 

「・・・外道が、オリヴィアを爆弾にしやがったな。」

 

「おや、分かりやすかったですか?ですがいいでしょう、ほら、あれはお父さんやお母さんを殺した魔族ですよ・・・。」

 

「・・・。」

 

「反応しない、ああ!そうですか気絶していますね、仕方ない。」

 

「あ・・・。」

 

「ほら、行きなさい、お父さんの元へ。」

 

オリヴィアはゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

 

そして俺の近くまで歩いてきた。

 

魔族は微笑んで指をならした。

 

が。

 

「!?」

 

「・・・残念ながら、用意は出来るだけするようにしてるんだ、少し高かったが、あって困るものでもねぇな。」

 

オリヴィアはその場で崩れ落ち、俺の手の中にあったのは御札、学園長が御守りと言って渡してきたものだ。

 

「腐れ学園長め、迷宮の探索とかなんとか言っておきながら・・・まぁ今はいい。」

 

背中の大剣を引き抜く、腕が痛むが身体強化を繰り返していた時よりかは耐えられる。

 

「これで遠慮なく一騎打ちだ。」

 

「ああもう!結局全部力尽くじゃないですか!?だから嫌なんですよ脳筋は!」

 

「知るか!敵なら死ね!味方なら助ける!」

 

「立場上殺すって言ってるじゃないですか!手駒以外信用出来ない!」

 

「だからって人形ごっこにうつつ抜かしてる歳じゃねえだろ!?」

 

「知りません!手駒を悉く壊しておいてその言い草は酷いのではないですか!?」

 

地面を削り、魔法が飛び、曲芸の様な動きをしながら喧嘩をする俺達をシルフがジト目で見ていた。

 

「馬鹿ね。」

 

「聞こえてんぞシルフゥ!」

 

「ザマァないですね!」

 

「うるせぇ!」

 

途中から模擬戦の様相を呈してきているが戦っている二人共油断はしていない、いつ状況が変わるとも分からないこの状況で半分遊びの戦いをしている時点で油断も何も無いのだが。

 

「ていうか何で魔族が人間の味方をしてるんですかねぇ!はぐれの子供ですか?」

 

「カルト様に加護もらったんだよ!分かったらさっさと死ね!」

 

「下手な上級魔族より立場上じゃないですかふざけんな!」

 

「俺が純潔より上の魔族だ!俺がルールだ俺に従え!」

 

「はー!?何で敵の言うこと聞かなくちゃいけないんですか身体強化以外できないくせに〜!」

 

「ぶっ飛ばすぞ!お前ら全員イケメンな癖に全員襲ってきてる時点で有罪だボケェ!」

 

「知りませんよ!顔の出来なんかで判断する人間の頭は理解出来ませんね本当に!」

 

「は!?イケメンの贅沢な悩みか!?ぶっ殺す!」

 

俺と魔族は依然として戦闘を続行している、が、この脱力する空気の中で真面目に戦おうとする者はいなかった。

 

「シルフ、魔力あげるからあの馬鹿達倒して。」

 

「・・・了解。」

 

背後でそんな会話がなされると俺と魔族は無言で逃げ始めた。

 

「ちょっ!?離してくださいよ!」

 

「フハハハハ!巻き添えだ付き合え。」

 

「嫌ですよ!」

 

魔族の足を掴んで地面に叩きつける、その上から大剣を叩きつけるが身代わりの土人形に当たる。

 

「ああもう!何で私の居場所が分かるんですかね!?」

 

「魔力迸らせてたらわかるよなぁ!」

 

焔が地面を走るのを紙一重で避けながら大剣の腹で風を起こし、焔をかき消す。

 

「フォールダウン!」

 

「風で凍りなさい!ついでに頭も冷やしなさい!」

 

世界が真っ白に染まる、空気が凍った影響がどんどん迷宮を侵食していく。

 

見える範囲全てが凍りつくのを確認すると俺は叫んだ。

 

「アトー!アルー!助けてくれ〜!シルフ・・・とオリヴィアはダメだー!」

 

「よっしゃ!助かったぜこの野郎!ザマァみやがれ脳筋がぁ!」

 

「おー魔族助けろ。」

 

「だーれが助けるかバカ野郎!戦略兵器ぶっ放してんじゃねえよ!俺は逃げるぜ!」

 

魔族はボロボロになりながら逃げていった。

 

「助けてくれ〜、真面目に頼む〜!」

 

「罰としてそこで30分待機ね。」

 

「そんな〜。」

 

「「「「当たり前だよ。」」」」

 

悲しいね。




シリアスに耐えられなかった、シリアス出来るのは原作ありの時だけの様だ。


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パーティー会議

魔族と戦った後俺達は学園まで帰って来ていた。

 

「おめでとうございます、あなた達のおかげで相手の手札が少しだけ判明しましたよ。」

 

「学園長、あんたなら魔族達をどうにかできたんじゃないのか?」

 

「出来ましたねぇ、ですがそれは私の主権領域内での事、ダンジョンの中身を変えるくらいがせいぜいです。」

 

学園長は微笑みながらそう嘯いた。

 

「あんた、少なくともこの世界の誰よりも強いって言えるくらいには強いだろ、それこそ魔王かそれ以上に。」

 

「ええ、先代の魔王は私の教え子ですから、誰であっても育てるのが私の教師としての信条ですよ。」

 

「・・・はぁ、色々と突っ込みどころがありすぎて理解出来ん、取り敢えず、この魔族との戦闘は別途で報酬を支払ってくれないと此方が困る。」

 

「ええ、元値の10倍支払います、それに加算して教師としての月給にボーナスを付けてあげましょう。」

 

「それで良い、後、ボーナスは無しで良い、代わりにオリヴィアとアトに魔法を教えてやってくれないか?」

 

「アル君はどうするのです?」

 

「あいつは俺達の中で一番才能を持ってるからな、満遍なくやってもらう。」

 

「分かりました、貴方はどうするのです?」

 

「・・・すこしばかり出掛ける、明日の朝になったら出発する。」

 

「そうですか、2年ほど経ったら帰って来てください、帰って来た時が楽しみです。」

 

学園長は一体どれ程情報を得ているのだろうか、カルトとのこと然り、スカルパラディンのことを知ってるっぽいのも含めて、いつか聞きたいものだ。

 

「ああ、そうそう、かなり遠いですが、二つほど国を超えた先に大きな森があります、そこは獣人達が統べる森、ビーストフォレストと呼ばれています、もし、子供の事が気になるなら、そちらを覗いてみてはいかがでしょう?」

 

「・・・感謝する。」

 

訂正、多分何でもありな奴だこいつは。

 

「今日は早めに休憩する予定だからな、追加の情報があるなら明日の朝に頼むぜ。」

 

「では直筆の魔力制御方法と身体強化の為の基礎訓練を記した書物でも置いておきましょう、きっと役に立つはずです。」

 

「・・・・・・本当に何でもありだな。」

 

「お褒めいただき、ありがとうございます。」

 

褒めてねぇよ。

 

俺は扉を閉めた。

 

学長室から出てきた子供ということで学生達に興味を持たれているが無視する。

 

さて、気が重いな。

 

廊下を渡り、教員用の部屋がある寮へ移動する、俺の部屋の前まで来るとアルとアトは既に廊下で立っていた。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・まぁ、何だ、少し場所を変えよう。」

 

「分かった。」

 

返事を返したのはアルだけ、アトは何の感情も読み取れない顔と目で俺をじっと見つめていた。

 

俺達は寮の屋上へ来ていた。

 

フェンスなどがあるわけでもなく、木で出来たしきり以外は大して何もない場所だ。

 

「・・・、ゼル、君が魔族というのは本当か?」

 

「ああ。」

 

「オークロードと戦って死に掛けた俺に魔族は殺す発言してくれたのにはビックリしたがな。まぁ、俺達はまだ12やそこらのガキだ、そこまで行き急ぐ必要もあるまいよ。」

 

「・・・ゼル、ゼルのお母さんは人間だったんだよね?」

 

「恐らく両方人間だ。」

 

「・・・なら、何でゼルだけが魔族なの?」

 

「・・・。」

 

正直な所俺にも分からんのよね、俺が赤ん坊だった時から少なくとも起きてる時にはカルトは何もしなかったし、寝てる時だってそう簡単に何かが出来るほど深い眠りなんかあんまりして無かったし。

 

「ねぇ、何で黙ってたの?」

 

「・・・。」

 

「何で黙るんだよ、おい!」

 

アルが胸倉を掴んでくる。

 

幼心に植え付けられた復讐心というのは恐ろしいものだ、経験が浅いというのもあるが下手に賢い分感情の溢れ方が尋常ではない、それに関しては俺も言えた義理ではないが、それでも、全てを壊すほどの感情を出せるのも子供だけだ。

 

「アル、アト、君達はあの魔族の催眠術にかかって俺を魔族だと思い込んだ、逆に言えば、君達は相手が魔族なら例え親しい人であっても一時的に我を忘れるほど復讐心に囚われるということだ。」

 

「俺はそんなことを聞きたいんじゃねえ!」

 

「アル!」

 

「アト、今だけは黙ってくれ、ゼル、お前は言ったよな。復讐は何も生まない何て言葉は言わない、自分の思うままに行動して良い、ただし、復讐が生きる目的になる様な事があれば、俺はお前を殺してでも助けるって!それを言ったお前が俺に殺される対象ってどういう事だよ!?ふざけんなよ!?」

 

アルはきっと俺が人間だと思っていたんだろう、あの魔族も俺も、見た目は人間とそう変わらない、魔族だと判別する方法は戦闘を仕掛ける以外にないのだ。

 

「カルトは俺を魔族にした、分類上で言えば俺は一番最後の原初の魔族という区分になるんだろう。」

 

実際身体能力がオークロードを倒した辺りから急激に上がっているのが分かる。

 

大した訓練もなしに黒化を使えている事も含め、きっと俺はこれからインフレが始まるだろう。

 

「カルトは魔族を創り出した原因であり、全ての魔族の親と言える。」

 

「俺達だってカルト様の加護を持ってる!ゼルが魔族と言うのなら俺達だって魔族なんじゃないのか!?」

 

「無理だね、幾らカルトでも成長途中の子供の体を全て魔族に変える事は不可能だ。」

 

「カルトは何故か俺を溺愛してくれている、多分俺を魔族にしたのも過保護が行きすぎた結果とも考えられる。」

 

「それは・・・。」

 

「分かったらまずは落ち着け。」

 

アルは手を離して俺から離れた。

 

「俺は明日から旅に出る、取り敢えず師匠を見つけてもう一回修行をつけてもらうさ、2年後、俺が15歳になったら帰って来る。」

 

因みに誕生日はオークロードを倒して気絶しているうちに過ぎた、悲しいね本当に。

 

「・・・。」

 

「もし俺を殺せるようになったら挑んで来い、全力で相手してやるよ。」

 

「ふざけんなよ、オリヴィアはどうする。」

 

「置いていく、強引にでも雛の状態は止めてもらわんと困る。」

 

アルは俺の顔面を思いっきりぶん殴った。

 

アルの顔は赤く染まっており、色々な感情が読み取れた、怒り、憎しみ、悲しみ。

 

「言いたい事は山ほどある、だけど、今はこれで終わりにする。」

 

歯が何本か折れた、下手な大人より威力のある拳はなってきやがったあいつ・・・。

 

「部屋に帰る、オリヴィアの面倒を見なきゃいけないしな。」

 

アルは扉を開けて寮に帰って行った、ちらっと俺を見る目には深い失望が浮かんでいた様に思う。

 

「・・・お前も帰らないのか?アト。」

 

「私も言いたい事くらいあるよ。」

 

「そうか。」

 

「ゼル、私、アークラは恨んでるけど魔人族はどうか分からないって言ったじゃない?」

 

「ああ。」

 

「アレね、私の勘違いだったみたい、ゼルが魔族だって分かったときからさ、殺したくて堪らないの。」

 

「・・・。」

 

うっそだろオイ。全然そっちに気を張ってなかった。

 

「だからさ、ゼル、一つだけ質問させて。私達は友人、だよね?」

 

「・・・。」

 

どう応えるのが正解か、ぶっちゃけはいもいいえも地雷な匂いしかしねぇ。

 

「答えないんだね。」

 

「残念だけど、俺は友達とか、そういうのは分からない。」

 

アトの顔は俯いているせいで見えない。

 

「だけど、もし、チャンスをくれると言うのなら、俺を殺せ、アト、アルと共に俺を殺せ。」

 

「!!!」

 

アトは顔を上げて俺を見た。

 

そして涙を流しながら口だけが裂けるように横に広げられた。

 

「あは、アハハハハハハハ!!」

 

狂ったか、いや、村が滅んだときから・・・か。

 

「出来れば、君達とは、もう少し友達で居たかったよ、さようなら、宿敵よ。」

 

「うん!次は絶対にゼルを殺すね!オリヴィアちゃんだって邪魔したら遠慮無く殺すから!ね?良いでしょ?」

 

「・・・。」

 

外套と大剣さえあれば良いし、学園長に頼んで別の部屋用意してもらうか、自分で煽っといてなんだがすっげえ怖い。

 

2年後にはせめて表面には出てないと良いんだけどなぁ!

 

結局その日は朝まで学園長の側にいた、いつ襲われるか分からん、学園長も聞いていたようで何も言わずに学長室に止めてくれた、ぼそりと怖かったですねと言われたがマジトーンだったから学園長の本心だろう。

 

結局朝まで寝られなかった。




何時から元ヒロインと親友ポジに命狙われるとかいう案を思い付いたのだろう、主人公絶対体力削り切ったら攻撃力と素早さがガン上がりするやべえボスになるぞ。


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別れと再会

朝になり、俺は荷物を持って入り口に行った、荷物袋の中に学園長が言っていた指南書を入れてくれていたので暇にはならないだろう。

 

「お父さん!」

 

学園の校門の前で声をかけられた。

 

「・・・オリヴィア。」

 

「なんで行っちゃうの?」

 

「・・・まぁ、喧嘩しちまった、頭冷やす為にも一度距離を取る、2年後には帰ってくるさ。」

 

「私も連れてって。」

 

「ダメだ。」

 

オリヴィアは俺の言葉に泣きそうになっている。

 

「・・・。」

 

「オリヴィア、俺も頑張るからお前も頑張ってくれ、学園長には言ってある、お前の進みたい道を進めば良い。」

 

頭を撫でてそう言うがオリヴィアは俯いたままだ。

 

「・・・。」

 

「オリヴィア、俺はお前の本当のお父さんじゃない、お前が俺には過去を話さないのもそれが分かってるからだろうが、お前がそれに向き合う覚悟が出来た時は俺のところに来い、それまでに俺も強くなって守ってやれるように頑張るから。」

 

「・・・。」

 

反応が無いから何言って良いか分からねぇ・・・。

 

「とにかくだ、お前も頑張れ、アルもアトもいる、今の内に出来ること全部やっとけ!良いな?」

 

「・・・うん。」

 

「それで良い。」

 

オリヴィアから離れる。

 

これ以上いたら感傷に浸りそうだ。

 

「我ながら、かなり情が湧いてたんだなぁ。」

 

暫く歩くとウルフが俺を見つけて走って来た。

 

飛びかかってきたウルフを一刀両断して血を被る。

 

「ああ、やっぱりこれが一番落ち着く。」

 

血に濡れた俺の手を見て俺は嗤う。

 

「次だ。」

 

ーーーーーーーーーー

お父さんが行った、また遠くへ。

 

お父さんが逝った、遠い場所へ。

 

「すぐに私も行くから、待ってて、お義父さん。」

 

私は学長室の扉を叩いた。

 

「どうぞ。」

 

「・・・学園長、私に全部の魔法を教えて。」

 

「ええ、良いでしょう、私も貴女には少しばかり興味がある、私はスパルタですよ?」

 

「私は元奴隷、辛いのには慣れてる。」

 

「・・・そう言う意味では無いのですけれど、まぁ良いでしょう。」

 

学園長は指を鳴らして大量の本を取り出した。

 

「今出した魔導書を全て読んで理解して下さい、1日1冊までにして下さい、貴女ではそれ以上を読むと呑まれますので。」

 

「呑まれる?」

 

「ええ、私の魔法は大雑把に言えば禁術と呼ばれるものです、当然その書物の中にも禁術指定されるべきものが大量にあります、それに呑まれれば最後、貴女は魔物に成り果て討伐されるべき魔人となります、ですから忠告です、くれぐれも、1日1冊だけにして下さい。」

 

そう言う学園長の目は真剣だった。

 

「・・・分かった。」

 

「ついでです、マナーも教育してあげましょう、貴女はかなり成績も良く無さそうな気がしますので。」

 

「・・・・・・分かった。」

 

正直イラっとした。

 

ーーーーーーーーーー

一ヶ月後

「おお!マーリン殿!これは良いものであるな!」

 

「スカルパラディンさん、それは毒草だよ、少量なら薬になるからカゴに入れといてくださいな。」

 

「了解したのである。」

 

スカルパラディンと老婆は山で薬草採取に勤しんでいた、老婆の娘、ゼルの母が死んでから二人は少しずつその商売の規模を増やしていた。

 

売りは経験による確かな効果を持つ薬と多少の魔物なら単騎で討伐できるスカルパラディンによる確実な配送であり、老婆のいる辺境限定ではあるが少しずつ名が売れて来ていた。

 

「む?マーリン殿、少しばかり下がるのである。」

 

「魔物が最近多くなってるねぇ、頼むよ。」

 

「あい分かった。」

 

林の奥から現れたのはオーガだった。

 

「オーガであるか、引いてはくれぬか?」

 

だが残念ながらオーガは人の言語を理解できるほど学が無かったようである、遠慮無く殴りかかって来た。

 

「力任せでは倒せるものも倒せないのであるよ。」

 

腰から普通の人間ならば大剣と言える大きさの剣を抜き、オーガを一刀両断する。

 

「・・・マーリン殿、このオーガは何かから逃げていたようである、この山には暫く入らぬ方が良いかもしれないのである。」

 

「そうなのかい?」

 

「うむ、オーガが逃げるなどよほどのことが無いとあり得ないのである、例えば集落が襲われて全滅仕掛けるとか、であるな。」

 

スカルパラディンは唐突に大剣を引き抜き、空中に向かって半ば本気で斬りつけた。

 

「ふむ・・・何者であるか。」

 

「やっと見つけた、いや、早いほうか。」

 

「む?」

 

「少しぶりだけどさ、スカルパラディン、また会ったな。」

 

「ゼル?」

 

そこに居たのは全身傷だらけの青年だった。

 

「中々成長したようであるな、まだ13ほどの年齢とは思えぬほどに。」

 

「コレは何でかはしらねぇよ、ただ、大剣は振りやすくなった。」

 

「まぁ、そうであろうな。」

 

大剣でつばぜり合いをしながら世間話をしている二人に老婆が言った。

 

「此処は薬草の群生地なんだよ!さっさと武器をしまいな!」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

二人は無言で武器をしまった。

 

「手紙もよこさずに何ふらっと帰ってきてんだい馬鹿孫、いきなり切り掛かるとはどういうことだい、話してくれるんだろうね!?」

 

「え、ちょっと待って、キャラ変わって無い?」

 

「元からこんな性格である。」

 

「嘘だろ・・・。」

 

カルトとは別方面で怖えよ、婆さん・・・。




話が思いつかなくなってきたのでちょっと飛ばした、予想以上に学園への話の繋ぎが思い浮かばなかったんや。


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「・・・それで、何故此処が分かったのであるか?」

 

「オーガぶっ倒してたら1匹逃した、ついてったら腐れ骸骨がいたから斬りかかった、これじゃ不満か?」

 

「大事なことを喋っておらぬであろう、あの二人はどうしたのだ?」

 

アルとアトの事だろう。

 

「分かれたよ、俺がカルトに体を弄られて半魔族になった事で、恨みを向けられた、アトは俺を見る度に魔法を撃とうとするくらいだったから頭を冷やす意味も込めて別行動中、戻った時に改めて攻撃されたらその時に考える。」

 

「・・・。」

 

「別れてから急激に身長が伸び始めたのは少しびっくりしたけどな。」

 

今の俺の身長は160後半、一ヶ月前は140から150ほどだった事を考えると急成長なんてものじゃない。

 

「むう、何やらまた一段と強くなっているようであるし、古い知り合いの元に連れて行くべきか。」

 

「知り合い?そんな奴がお前に居たのか。」

 

「うむ、200年ほど前の話であるが場所が変わっていなければ会えるであろう。」

 

「隠れ里か?」

 

「うむ、この大陸の東端、東の霊峰と呼ばれる場所にその里はある。」

 

東・・・確か獣人達の住んでる土地だった気がするんだが。

 

「種族は?」

 

「今となってはただの伝説であるが、竜人族である。」

 

「・・・へぇ。」

 

この世界で竜人族はかなり扱いが違う。

 

曰く、種族全てが戦闘狂である。曰く、子供であろうとCランクの強さを持つ。曰く、彼等は転生者の眷属である。

 

一番最後は多分真実であろう。

 

「婆さんはどうするんだ?」

 

「馬鹿孫、私は最初から一人でやってきてるんだ、今更スカルパラディンさんが居なくなったって1年くらいなら大丈夫さ。」

 

そういう婆さんは瓶ごとに分けた薬を箱ごと持ち上げていた。

 

「・・・わかった。」

 

「であるな。」

 

スカルパラディンも何も言わずに何かを考えているようだった。

 

「ゼルよ、少し訓練するのである、全力でくるがよいのである。」

 

「・・・了解。」

 

結果は善戦するも30分で伸された、かなり本気で戦ったし、何なら黒化まで使ったと言うのにスカルパラディンは俺ごと身体強化を切るとかいう反則技で倒された。

 

「むぅ・・・手加減がし辛くなっているのである。」

 

「いつか本気を出させてやる・・・。」

 

「・・・竜人の里に行けば我と同じレベルなどそれなりに居るぞ。」

 

「バケモンかよ。」

 

「変わってなければの話しである。」

 

スカルパラディンはそう言うが竜人族の寿命は確か300年、世代が二つ変わっている程度のはずなのだ、そう変わることもないだろう。

 

この時、俺は気付くべきだった。

 

スカルパラディンの知り合いという言葉がどんな事を意味するのかという事を。




主人公の成長は早い方なのです、尚それに伴い味方も敵も急成長する模様。


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疫病神か

そういえば、スカルパラディンに聞きたいことがあった。

 

「スカルパラディン、この鍛錬法をしてたら此処まで成長したんだけど、何か原因っぽいのはあるか?」

 

「む?」

 

学園長から貰った本を読んで色々なところで試していたのだ、中にはただひたすら魔力を出して運動すると言うのもあった。

 

「なぬ!?」

 

読んでいるスカルパラディンから驚いたような声が聞こえてきたので振り向くとスカルパラディンは顔を押さえて空を仰いでいた。

 

「何と・・・貴方は・・・生きていたのですか。」

 

スカルパラディンは少し安心したように呟いた。

 

「何かあったのか?」

 

「うむ、うむ、問題は無いのだ、ただの我の感傷である。」

 

「・・・。」

 

「それで、危険なことではあるが何も問題は無い、強くなるのにこれ以上の方法はそれこそ天才の体に乗り移るくらいしか無いであろう。」

 

身体乗り移るって・・・禁術かよ。

 

「はぁ、やっぱり学園長はすげえな。」

 

「ところで、あともうすぐで港町である、此処から大陸の東まで移動するのである。」

 

「航海期間は?」

 

「約3ヶ月、2週間置きに補給の為に違う港に入る予定の筈なのである。」

 

「成る程ね。」

 

だとするとちょっとした世界旅行か。

 

「我は魔物故、町に入る事は問題なくても船に乗るとなったら色々と制約が付くであろうし用心棒として雇ってもらうのが一番良いのだが。」

 

「俺は冒険者ランクBなんだけどいけるかな。」

 

「むぅ・・・実力的には問題無いであろうが信用が無ければ海の上に連れて行くという事は難しいであろうな。」

 

港町の門が見えてきた。

 

「・・・とりあえず、スカルパラディン、お前は冒険者登録しような。」

 

「うむ、取り敢えずやっておくのである。」

 

門番に冒険者カードを見せると驚かれた後すんなりと入る事を許可された。

 

Bランクの強さでは小さい町などは殆ど英雄扱いなのだろうか。

 

「まずは宿、それから船だな。」

 

「であるな。」

 

基本的に表通りにある宿は使えない、スカルパラディンが魔物だからと言うのもあるが表にあるのは良くも悪くも初心者、新米と上級者の為に作られている。

 

本来ならばBランクの冒険者であれば上級者、ベテラン扱いではあるのだが俺自身の使っている大剣はアロウズ特製の一品、オークロードと戦った後も何なら魔族との戦いでも弾き飛ばされる事はあっても歪んだりはしていなかった。買う必要が無い。

 

「裏通りの宿にしないと、色々と煩いからな。」

 

「であるなぁ。」

 

スカルパラディンが生きた時代からはかなり経っているのだろう。

 

目を細めているように見える、骸骨だが。

 

そうして裏通りに入るとすぐに娼婦やゴロツキが此方を見始めた。

 

だが魔物であるスカルパラディンを見るとすぐに目をそらす。

 

基本的に裏通りは見ざる聞かざる、関わって死んだらそれまで、生きたいなら余計な事は聞かないし見ていない。

 

それのおかげで噂程度は広まってもすぐに居なくなれば問題無い。

 

宿のマークはない、金をばら撒いて宿の場所を教えてもらう。

 

俺の金を狙ってきたゴロツキには遠慮無くぶん殴り。

 

宿で一晩だけ休ませてもらった。

 

スリにもあったが取られたことに気づいた瞬間聴覚を強化して仕立て人を追い詰めた。

 

そして船のある港にやって来たのだが・・・。

 

「何で貴方達に船を売らないといけないんですか!」

 

「言ってんだろ?ボスの命令だ、お前は大人しく船を渡してくれればいいんだよ。」

 

「・・・やっぱ俺って疫病神かなんかなのかねぇ?」

 

「・・・否定は出来ぬな。」

 

止めてくれよ・・・。




盾の勇者の成り上がりというものを見つけた、読んでみよう、運が良ければクズの代わりに入れるかもしれん。


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フランさーん!

「こっちにはオタクの父親がサインした証書まであるんだよ、さっさと渡してくれなきゃこっちも困るんだ、だからなぁ、フランちゃん、船を渡してくれよ。」

 

厳つい男の中にいる優しそうな外見の男がそう言った。

 

「名前はフラン、愛称か?」

 

「だと思うが、平民は大体二文字か三文字、長くて五文字だからな、多分本名だろうさ、そんで多分親父さんは死んでて過去の証書を持ち出してきたってところだろうが・・・。」

 

視力を強化して証書を盗み見ると面白いことが書いてあった。

 

軽く見ると普通の引き渡しに同意したという物だったが隅の方、下から3行目にこんな事が書いてあった。

 

『ただし、引き渡すのは仕事が無いときに限る。』

 

「へぇ・・・。」

 

考えたな、だとすれば・・・。

 

「何を見つけたのであるか?」

 

「あいつらは魔法使いじゃないらしい、紙の仕掛けにも気づいてない、成る程ね、なかなかうまい手を使う。」

 

基本的に魔法使いは軍に入るか貴族や大商人の側に行く、魔法使い位の魔力があれば平民だろうが貴族に仕える事も出来るし他の仕事をするより稼げる、それを隠して何故船乗りなんかをやっているのかは・・・関係無いか。

 

俺は当たり前の様に集団に向かって歩いていく。

 

「フラン叔母さん、お客さんがお見えになってるよ。」

 

「おば!?」

 

「ブッ・・・。」

 

フランさんは愕然とした様子で俺を見ていた。

 

そしてその後スカルパラディンを見てヒィ!?と怯えた。

 

当たり前だ、スカルパラディンは高位の魔物、街中で歩いて良い類の魔物じゃない。

 

見た目も骸骨の頭にゴツイ鎧を当たり前の様につけているので威圧感はバッチリだ。

 

「昨日此方に伺うと言っておいたはずなのだが、取り込み中だったようであるな。」

 

「え!?え!?」

 

フランさんは混乱している様で俺とスカルパラディンを交互に見ていた。

 

「お客さん、ですかね?」

 

「む?そうであるな。今日此方の船で航海する予定だったのだが。」

 

「だがね、此処の船はうちの貸している船でして、それに借金まで背負ってるんですよ、ですからこの船はもう使えないんだ。」

 

「ふむ、だが先程までの貴殿達の会話では脅している様にも取られる、それにまだ年端もいかぬ少女を相手に多人数で囲んで詰問するなど、自警団に突き出されても文句は言えぬぞ?」

 

スカルパラディンは顎で自警団を指すと自警団も気づいたのか笑いかけてくる。

 

自警団の静かな怒りが半端ないんだが、何で?

 

「ですがねぇ、そもそもこの船は我々の商会が此方のフランさんの商会に貸し出していたものです、それこそ貴方がこの船を買うとでも言わなければ証書に書かれた通り、今日此処でどうにかして貰わないと。」

 

「その証書にも書いてあるよね、受け渡しは仕事の無いときだって。」

 

優男の顔がピシリと固まった。

 

「ハッハッハ、そんなこと書いてないじゃないですか、何を根拠にそんな事を。」

 

「基本的に取引証書は魔力を纏わせ、契約魔術を付与した上で魔力の隠蔽を重ねて使う、それが本物であるならば、魔力を纏わせる事である程度の痕跡が出てくるはずですが。」

 

「・・・。」

 

優男は無言で魔力を纏わせる。

 

「これは・・・。」

 

先程の受け渡しは仕事の無いときに行うという文を見つけたのだろう、優男の顔が驚愕で染まり、次に怒りで染まった。

 

「貴様!こんな細工をしてタダで済むと思うなよ!?ベルト商会の力を舐めるなよクソガキ!」

 

「・・・ククッ。」

 

「何がおかしい。」

 

「君たちは何かを忘れている様だ、スカルパラディン、仕込みは良いかね?」

 

「上々であるな。」

 

「何!?」

 

優男がスカルパラディンを見るとスカルパラディンはサムズアップしていた。

 

その背後には町の人間や自警団が笑顔でジリジリと迫っていた。

 

「貴様・・・何をした!?」

 

「何、そう変な事をしたわけでもあるまいよ、ただこの雑踏の中で商談も声が届きにくいと思ったのでな?少し声を聞こえやすくしただけである。」

 

そうは言うが俺は知っている、スカルパラディンは戦闘で使う魔法以外しか知らないが元聖騎士だけあって魔法の練度が高く、恐らくこの町のほぼ全てに先程の会話が聞こえているであろうという事を。

 

そして言質と共に、彼等は自分の名前すら言ってくれた。

 

「先程お主は我がこの船を買えば何も問題が無いと言っていたな?」

 

「何?」

 

「言ってたな・・・そして、君達はこうも言ったわけだ、ベルト商会の一員が取引の為の基本すら押さえていない、そして不都合があれば揉み消す、そうとも言ったのだよ。」

 

「そんな事は言っていない!」

 

「それならそれで良い、私達は何も言う気は無いよ、代わりに、手切れ金だ、金貨50枚やろう、それでこの船を買う。」

 

金貨50枚、現代の日本価格で言えば1000万円程、たったこれだけでそれなりの大きさの船が買える、その件の金貨50枚だが学園長が本と一緒に束で入れてやがった、多分買い物は自分でしろということだろう。

 

多分魔族撃退の報酬も入ってる気がするが気にしない。要らんって言ったはずだが入れてくれるのなら使うだけだ。

 

「そんなこと許すはずが無いだろう!?」

 

「残念ながら、君達に決定する権利は無い。」

 

優男は汗を垂らしながら周りを見る。

 

周りには脅迫と取れる発言で治安の為に彼等をしょっぴかなきゃならない自警団と脅迫と取れる手法で年端もいかない少女を寄ってたかって詰問していた優男達を睨む住人達。

 

「君の負けだ、運が悪かったな。」

 

「きっさまぁ!」

 

男は腰から剣を抜いて俺に斬りかかって来た。

 

「危ない!」

 

半分空気になっていたフランさんが叫ぶ。

 

「問題無いさ。」

 

剣の修行はしているのだろうが、こちとら数億数兆の戦争をどうにか潜り抜けてきた転生者様だオラァ!へなちょこ剣技なんか通用するか!

 

という事で遠慮無く懐に潜り込み腹に発勁、ついでに蹴りで利き腕の肘を蹴って戦闘不能にした後飛んで上から踵落としを喰らわせると一瞬で周りには血溜まりが広がった。

 

「はぁ・・・やり過ぎである。」

 

「・・・こんな脆かったっけ、人間って。」

 

「そんな問題では無いわ、全く。」

 

まぁでも死んで無いし、OKで。

 

「ところで貴方達は誰ですか?」

 

血塗れの優男の顔を踏んづけて俺達を睨んできたのは標的にされていたフランさんだった。

 

「そうであるな、まずはそこからであるな、という訳でゼル、頑張るのである。」

 

「待てや、交渉事全部任せるつもりかテメェ。」

 

「少なくとも我より交渉事は上手いと思うのだ、故に全て任せるのだ!」

 

「言ってて虚しくならないかお前。」

 

「ふっ・・・我は戦うことしか出来ぬ魔物よ。」

 

「はっ倒すぞ元聖騎士。」

 

「・・・其処までにしてくれないかな?」

 

ヤバい、フランさんがマジギレしそうだ。

 

「事情、説明してくれるよね?ゼルくん?」

 

「・・・はい。」

 

絶対叔母さん呼びしたこと根に持ってるわこれ。




フラン改めフランさんの登場です、見た目は紅い髪に茶色の目をしてる美人です、まだ10代ですがいずれは・・・。


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フランさーん!たすけてぇ!

「という事なんです船を貸して下さい小さいので良いんで!」

 

「・・・。」

 

フランさんは仕事場所である港で何かを考えていた。

 

「・・・元々これは貿易用の船よ、でもかなり老朽化してるわ、かなり持ったとしても恐らく片道切符が精々よ。」

 

「じゃあくれるんですか!?」

 

「・・・船員はどうするのよ。」

 

「其処は別に魔法でどうにかなるのである、我もそれなりに死霊術程度なら使える故な。」

 

「・・・不安過ぎる・・・。」

 

フランさんは額を抑えて唸る。

 

まぁ軽く考えてるのは否定しない。

 

「最悪半分くらい潰せれば問題無いし、其処から先はまた別の手段探すさ。」

 

「・・・行き当たりばったりすぎて絶望すら感じるのだけれど。」

 

「それとも、ただの個人旅行にあんたの大事な船員を乗せるのか?」

 

「・・・。」

 

未だにフランさんの職業が分からんが恐らく貿易商、それもそれなりの規模の商会。

 

「・・・そろそろ潮時かしらね。」

 

「ん?」

 

「良いわ、今回の船には私が乗る。」

 

「良いのであるか?」

 

「そもそも、あいつに目をつけられた時点でもうこの商会はギリギリよ、それならまた新しく何処かで商売したほうが良いわ、それに、貴方達は腕は立ちそうだしね。」

 

「護衛は任せろ。」

 

「なら点検の為に3日ちょうだい、その間に私達は荷物をまとめる、貴方達も船の中で生活してもらって構わないわ。」

 

「よっしゃ宿代消えたぜ。」

 

「我は魚でも釣って置くのである。」

 

「食える魚にしてくれよ?」

 

修行の時毒持ったやつ遠慮無く食わせようとしてきたの忘れてねぇからな。

 

「わからなかったほうが悪いのである。」

 

「やっぱお前腐れ骸骨だわ。」

 

そんな話をしていると外が暗くなってきていた。

 

「ちょっと出掛けてくるわ、少しばかり気になる事もあるし。」

 

「気をつけてね。」

 

「分かってる、油断はしない。」

 

港から出ると早速敵意のある視線が飛んできた。

 

「屋根の上に二人、背後に1人、んでもって正面には・・・。」

 

「昼間は良くもやってくれたな・・・くそガキ。」

 

「本性出てるぜ優男、来いよ。」

 

「やれ!」

 

全方位から襲われる、だがやはり連携は取れていてもスペックはそれなりでしかない、性能によるゴリ押しだが、やらないよりはマシだ。

 

まずは背後の1人の側頭部に回し蹴りを当て、蹴り飛ばす。

 

その勢いのまま一回転し正面の優男に向き直る。

 

「残念だけど、後5人くらいはいるんじゃないか?」

 

「分かっている、だからこうした!」

 

殺意が膨らむ。

 

「上!」

 

背後に飛び退くと上から女性が襲いかかってきていた。

 

「・・・。」

 

「冒険者雇うほどかよ。」

 

「俺の面子を潰した罰だ!死ね!」

 

「全く。」

 

女性は拳で石の地面を割っている。

 

格闘だけで戦うのはキツイか?

 

「はぁ!」

 

「チッ!」

 

滑るように移動してきて緩急が激しい、リズムが掴めないから防戦一方になってしまう。

 

「クソッ、何ランクだお前!ここまで戦いにくいのは久し振りだぞ!」

 

「cランク、護衛を任された。」

 

「護衛という名の私兵化してませんかねぇ!?」

 

と言うか何気に大通りで戦ってるからか騒音になってる節がある。

 

チラチラと家の中から人が見ている辺りもうだいぶ手遅れ感はあるが。

 

「ああもう!とりあえず一撃で終わらせる!」

 

身体強化を最大まで発動すると同時に動体視力を上げる。

 

モノクロのようになった世界の中で俺だけが普通に動くことができた。

 

そう思っていたのだ。

 

嫌な予感がして首を横に曲げると先程まで俺の顔があった位置に拳が叩き込まれていた。

 

その腕の持ち主は目の前に居た。

 

先程の女性だった。

 

「おい嘘だろっ!?」

 

汗をダラダラ流しながら女性は俺に追撃を加えようと動く。

 

「この状態の俺と同じかそれ以上の速度で動いてやがる。」

 

だが。

 

動きが悪い、それに、体力も消耗しているようだ。

 

すぐに汗だくになって倒れそうになってしまった。

 

「・・・おいおい。」

 

倒れたのを見て強化を解除する。

 

いつの間にか屋根に居た2人が優男を連れて撤退していった、上の2人も冒険者だったのだろう。

 

「追撃だけしてやろうか。」

 

割れまくった道にあった少し大きい石を掴み、投げた。

 

一番後ろのやつを狙ったが石はずれて先頭の奴の肩を抉るという結果になった。

 

「・・・さて。」

 

目の前で倒れている女性を見る。

 

連れてくか。

 

女性を背負うと腹や脚に少し違和感があった。

 

「・・・鱗か?」

 

まためんどくさい奴が・・・。



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冷夏

「元いた場所に返してきなさい。」

 

ペット扱いか。

 

俺が女性を担いで帰ってくると女性を見たと同時に言った言葉がそれだった。

 

「良い?出航はすぐよ、それまでに厄介ごとを持ち込むことは許さないわ。」

 

「と言っても女の子を夜に放置するのはちょっとな・・・。」

 

「・・・まぁ、それはそうなのだけど。」

 

と言うか背負って思ったけどこの子スタイル良いんだな、結構スリムだった、胸はないが。

 

「腕は立つから問題無い、あのボンクラ優男の護衛だったが適当に雇っただけだろう、冒険者カードは持ってたからこっちが依頼すればそれなりに役には立つ。」

 

「・・・雇うお金は?私は無理よ。」

 

「適当に料理でも食わせたら良いんじゃねえの?」

 

「海の上で料理なんか出来ると持ってるならぶっ飛ばすわよ。」

 

フランさんは笑顔だが目が笑っていない。

 

「・・・なら、俺のとこに入れるか。」

 

「・・・いつも思うのだけれど、貴方割と適当に生きてるわね?」

 

「死ぬときゃ死ぬ、好きにやってりゃ良いんだよ。」

 

「はぁ・・・全く、面倒は見なさいよ。」

 

よし!

 

というわけで汗だくの女性の服を脱がす。

 

そして懐から布を取り出して全身を拭いていく。

 

腕や足などに鱗が生えていたがあんまり影響も無さそうだったのでそのまま拭く。

 

「・・・は!?」

 

「替えってどこにあったかな、あ、フランさん、布の替えってどこにあります?」

 

「いきなり女の子の服を脱がすなぁ!!」

 

「は?」

 

「貴方男でしょう!?女の子の服脱がすなんて最低よ!」

 

「別に看病?してるから良いんじゃね?」

 

「それでもせめて同性がするのが当たり前でしょう!?」

 

「えぇ・・・。」

 

「取り敢えず出て行きなさい!」

 

部屋から締め出された。

 

「・・・まぁ、後のことやってくれるなら良いか。」

 

俺は船室に戻り、寝た。

 

ーーーーーーーー

朝になり、することも無いので船の先で釣竿を垂らしていた。

 

船旅だ、釣り用に船底近くまで下ろせる足場もあるのだがわざわざ起動するのは面倒くさい。

 

「港とは言っても釣れるのは弱い魔物位か。」

 

子供でも倒せるようなクラゲや魚位しか釣れない。

 

「・・・。」

 

そして背後からの視線が俺にずっと突き刺さっていた。

 

「・・・。」

 

「・・・・・・ジュルリ。」

 

1匹魚を後ろに放り投げるとガツガツと食べている音が聞こえてきた。

 

「・・・。」

 

数秒も経たずに食べ終わったようだ、早えよ。

 

「どうして私を襲わなかったの?」

 

「は?」

 

「昨日、私を裸にしてた、何故襲わない?」

 

「お前起きてたのかよ・・・。」

 

「フランという人には気付かれていた。」

 

マジかよ、マジかよ・・・。

 

「何となく、かねぇ、お前、亜人だしそういう事もされてる可能性も含めて注意はしていた。」

 

「・・・。」

 

女性は俺の目をじっと見つめてきた。

 

女性の目は爬虫類と同じ目をしていて少し不思議な気分になる。

 

「そう言えば、あんたの名前は?この船の護衛兼客になるからな、名前だけでも知っておきたい。」

 

「・・・冷夏。」

 

「・・・何?」

 

「私の名前は冷夏。東の竜人族の一人。」

 

「おい嘘だろ・・・。」

 

スカルパラディンに聞きたくなってくるな、コレは。

 

「貴方は何であそこに行きたいの?」

 

「スカルパラディンが行ったほうが良いって言ってたからだな。あとはいろんな場所の武器とか魔物とかに興味がある。」

 

「そういう事ならあそこはオススメ、いろんな意味で人外魔境。」

 

・・・そうだろうなぁ。

 

「伝説の武器とかあったりするのか?」

 

「伝説と言うよりかは特徴的な武器がある。刀。」

 

「・・・。」

 

刀あんのか、当たりかもしれんな。

 

「妖刀があるって話もある、触るだけで精神が破壊される刀、神殿に保管されてる。」

 

「・・・そうか。」

 

「死にたいなら止めない。」

 

「死にたくはねぇかなぁ。」

 

「なら止める、里帰りついでに案内する。」

 

「ありがたい。」

 

好印象ではある・・・のか?

 

うーん、分からん。




舞台裏

「私はイチャイチャが見たいのに誰も落とさない!フラグ管理が完璧過ぎて友達付き合いにしかならない!」

「お主・・・眷属で恋愛ゲーム始めようとするとは・・・。」

「良いじゃん!ハーレムだよハーレム!男の夢じゃん!」

「あやつは背後から刺されたりして少なからずそういう類には気をつけるようにしておるようだしのう。」

「いつもハーレムにしても良いよっていっても全力拒否だもんね。」

「女の嫉妬の恐ろしさはお主が一番分かっておろう?」

「そうなんだけどね。」

「お主は穏やかな方であろうよ、イシュタルやヘラなどは過激というのも憚られる故な。」

「・・・まぁ・・・うん、うん、そうだね。」

「今は大人しく見守るが良かろう、もう一人もそろそろ来る頃であろう?」

「そうだねぇ、頑張るよ。」


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出発準備!

「それでなんだが、俺の出航について来る気ならちょっと野暮用を済ませよう。」

 

「野暮用?」

 

「あのボンクラ優男についての情報が欲しい、出来うる限り情報を吐いてくれないか?」

 

冷夏はキョトンとした顔で俺を見ていた。

 

「私が知っているのはあの男の住んでいる邸宅の場所だけ、そうじゃなかったら私には何も分からない。」

 

「オーケー、それだけで良い。」

 

本拠地じゃないと思うがベルト商会、俺の為に潰れてくれや。

 

「我も連れて行くのである。」

 

「!?」

 

「骸骨・・・さん。」

 

船内からスカルパラディンがのしのしと出てくる。

 

「フラン殿にも世話になった故な、少しばかりの恩返しである。」

 

「・・・ハッ。」

 

「私は案内するだけ、どうするかは任せる。」

 

俺はスカルパラディンの横をすり抜けて部屋に立てかけていた大剣を握る。

 

「・・・。」

 

「準備は良いのであるか?」

 

「ああ、行こうか。」

 

船から降りるとすぐに男達に囲まれる、フランさんは昨日から船員たちと共に港の周りを掃討を始めていたはずなのだが・・・。

 

「ベルト商会に手を出した事を後悔させてやる・・・か?」

 

「分かってんじゃねえか、身ぐるみ剥がさせてもらうぜ。」

 

「全く、こういう時は物語もバカに出来ねえな。」

 

大剣を構える。

 

「ぶち抜くぞ、冷夏、ルートの選択は任せた、スカルパラディン、ついてこれるな?」

 

「任せるのである。」

 

冷夏が無言で走り出す。

 

男達も冷夏を捕まえようと手を伸ばすがスルスルとすり抜けていく。

 

そして冷夏を捕まえようと体勢を崩した男達を吹き飛ばすのは俺とスカルパラディンの役目だ。

 

「吹き飛びなぁ!」

 

「ぬぅん!」

 

二つの大剣が衝撃を飛ばす。

 

ただの剣士ならそのまま数で攻め込まれ、成す術もなく飲み込まれただろう。

 

だが、片方は子供とは言え経験だけはそれこそ世界一だと断言出来るほどの戦士であり、もう片方はかつての聖騎士であり、最低でもAランクの魔物である、ただのチンピラや暴漢に勝てる見込みなど万が一すら無かった。

 

冷夏が家の屋根に登ったのを確認して俺たちも移動する。

 

「よっと!」

 

「甘いわ!」

 

二人でひとっ飛びで屋根の上まで跳躍し上から冷夏の先に居る弓兵に向かって大剣を投げつけた。

 

爆発と共に巻き上がる煙の中を走り抜ける冷夏が呟いた。

 

「凄い。」

 

身体強化をしていたから災難だが聞こえている、後でいじってやろう。

 

スカルパラディンは何も言わないが喜んでいるような雰囲気がしているので問題無いだろう。

 

俺たちも煙の中を走り、俺は大剣を引き抜きながら弓兵の持っている武器を切った。

 

流石に進撃が早過ぎたのだろう、敵がほとんどいなくなった屋根の上から冷夏が叫んだ。

 

「この先にある少し高い建物がベルト商会!行って!」

 

「「了解。」」

 

石造りの建物の壁に蹴りを入れるとすぐに大穴が開いた。

 

「失礼するぜ。」

 

部屋をぶち破ったからか警備部隊がすぐにすっ飛んでくる。

 

「流石にこれで俺たちもお尋ね者だなぁ。」

 

「であろうな、まぁ、汚職の証拠でも掴めば良かろう。」

 

最悪捏造するから問題無いな。

 

「ボンクラ優男に用がある、呼んで来てくれないかね?」

 

「・・・それを誓えば何もしないか?」

 

「民間人にはそもそも何もする気はねぇよ、手加減出来る限りで殺してもない、俺たちは話に来ただけだ。」

 

「・・・連れてこい。」

 

数分後叫び声が聞こえてきた。

 

「止めろ!この俺を誰だと思っている!離せ!」

 

ボンクラ優男は肩をがっしりと掴まれて連れて来られた。

 

「お前は・・・!」

 

「もうさ、船から見ててウロウロしてるの気に喰わないんだよね、大人しくしてくれるかな。」

 

「貴様が俺に楯突くからだ!」

 

話にならんな。

 

「駄目みたいだな、それはそれとしてさ、俺らが暴れた事で色々とくると思うけど、大丈夫かな?」

 

「何の話だ!?」

 

「まぁ教える気も聞く気もないから良いけどね、取り敢えず俺がやりたかったのはこれだけだから。」

 

優男の胸倉を掴んで空中に放り投げ回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

鳩尾に綺麗に入ったので息すら出来ないだろう。

 

「もうフランさんは俺らと一緒に行くことが決定してるからもう何もしねぇよ、ただし、今度舐めた真似したら今度はこれだけじゃ済まさん。」

 

「かっ・・・ハッ・・・!!」

 

スカルパラディンは大剣をチラつかせて警備部隊を牽制している、正直少し面白い。

 

「スカルパラディン、お前の用は終わったか?」

 

「うむ、コレである。」

 

スカルパラディンは近くの机の中から書類を取り出した。

 

「見つけたのである。」

 

それはフランさんとの契約を含む限りなく黒に近い契約書だった。

 

スカルパラディンはその書類を大剣でバラバラにして放り投げた。

 

「もう縛るものは何もないのであるな、ついでに幾つかの闇は晴らしておいたのであるよ。」

 

「そうか、じゃあ帰るか。」

 

「うむ。」

 

壁から入り壁から出る、いつの間に壁は玄関になったのだろうか。

 

屋根に上ると冷夏が座って待っていた。

 

「私の出番、あまり無かった?」

 

「結構あっさり片付いたからな、警告ついでだし問題ねぇさ。」

 

「ご飯。」

 

「そうか、もう昼か。」

 

「何か食べるのであるか?」

 

「じゃあ俺がなんか作るか。」

 

「楽しみ。」

 

「美味であるから楽しみにすると良いのだ。」

 

俺たちは食材を買いに市場へ出かけた。




このあとめちゃくちゃ連行された。


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技名叫ぶのって厨二っぽいけどカッコいいよね。

「ちくしょおおおおおおお!!!」

 

建物を壊した件で怒った自警団の方々からイラつき交じりに小言を貰った。

 

ボンクラもボンクラなりに頑張っていたようでのらりくらりと犯罪を煙に巻いていた傍ら民間人にはほとんど実害は無かったらしい。

 

優秀じゃねえか、ボンクラ呼びは辞めてあげようかな。

 

まぁ俺が起こした家屋倒壊及びベルト商会本拠地襲撃に伴う諸々への被害が予想以上だったらしくて俺だけ連行された。

 

一番俺が騒いでる上に連れて来やすいというある意味消去法だったからだ。

 

本来ならば投獄されていたというが学園長から手紙が届いたらしい、だから特例を認めるらしい。

 

それのせいで朝帰りだ。

 

船へ戻るとフランさんは呆れ顔だった。

 

「今から出航するわ、乗りなさい。」

 

「眠い・・・寝させて。」

 

「既にハンモックを用意してるわ、思う存分寝なさいな。」

 

ありがとう。

 

俺はフラフラと船室に向かい、ハンモックに揺られる事になった。

 

ーーーーーーーーーーー

遠くで爆発音のようなものが聞こえる、何が起きている?

 

寝惚けてるな・・・頭が回らん。

 

船室を出ると目の前に大きな触手が見えた。

 

「ぬおっ!?」

 

触手に捕まれ、水中に引きずり込まれる。

 

目が染みる・・・。

 

「ゴポッ!?」

 

触手に締め付けられて息が苦しい。

 

肺の中の空気が全て押し出される。

 

起きて早々こんなことが起きるとはな!

 

しばらく耐えていると触手が急に力を抜いた。

 

急速に上へと上がる感覚と共に水面から飛び出た様な音がしたので目を開けると船の甲板に大きなタコ?イカ?がへばりついていた。

 

息を吸い込んでまたすぐに息を止める。

 

俺の予想通り俺は勢い良く甲板に叩きつけられた。

 

「ゲホッゴホッ・・・やってくれたなクソ野郎が・・・。」

 

「船はもう限界よ!すぐに倒して!でないと私達はここで死ぬわ!」

 

「我が動きを止める故、どうにかせよ!」

 

「チッ。」

 

大剣が無いのはきついどころの話じゃないぞクソッタレ、この世界急展開からのピンチ多すぎんだよこの野郎・・・!

 

「護符はあるが・・・使えるのは足場用の一枚だけか、最悪スカルパラディンに大剣投げつけてもらうか・・・?」

 

大きな触手を叩きつけようと上まで大きく触手が伸ばされる。

 

「考える時間は無い・・・やるしか無いか。」

 

スカルパラディンは甲板の上から飛び出して触手を切り始めた。

 

俺は切り倒された触手を投げて足場にし、タコの真上まで跳躍した。

 

「スカルパラディン!寄越せ!」

 

スカルパラディンは大きく振りかぶって大剣を投げて来た。

 

足に護符を貼り付けて足場を形成し、大剣を受け取る。

 

「おっも!?」

 

空中の癖に引っ張られそうだ。

 

足場が消えそうになっているのを確認して足に力を込める。

 

「・・・奥義『千刃一刀』」

 

元々刀の技だ、大剣で満足に使えるはずも無い、それでもこのタコを倒す程度の威力はあった様だ。

 

タコの体を斜めに横断し、片方は細切れになる程の威力があった。

 

俺が甲板に落ちると冷夏が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫?」

 

「何とか、いきなり何なんだ、あいつは。」

 

「クラーケンよ、まだ子供みたいだけどね。」

 

冗談だろ?この船の大きさどれだけあると思ってるんだ。

 

「嘘じゃ無いわ、本物はこれより数倍大きいガレオン船を一撃で破壊してくるもの。」

 

「海って怖え・・・。」

 

「そうであるな、我も海の魔物にはあまり対処できそうに無いのである。」

 

「だな、気配探っても奇襲される、海がこんなに厳しいとは。」

 

念の為もう一度魔力探知してみるか。

 

そう思って魔力を周りに飛ばそうとした時、海から一本だけ触手が飛び出して来た。

 

「何!?」

 

俺も急いで立ち上がったが触手に捕まれ、俺の側にいた冷夏も俺と一緒に触手に巻き込まれた。

 

「スカルパラディン!東で会うぞ!!」

 

触手は大きくしならせて俺達を何処かへ投げた。

 

身体を強い衝撃と重さが襲うが意識は途切れなかった。

 

冷夏も気絶したら大惨事になると直感で理解した様で俺にしがみついて離さない様にしている。

 

俺も周りを見ているがさっきからずっと水面への高さが変わっていない、ほぼまっすぐ移動している。

 

下手に姿勢を変えると海に落ちて死ぬかもしれないのでそのままの体勢だ。

 

寝不足の子供と女1人、陸に着いたとしても現地に人がいるかも分からない。

 

「最悪、サバイバル生活か・・・未成年にキツイ試練を施すなぁ。」

 

死んだらまた書類地獄だから死にたくねぇ・・・ウッ頭が・・・!




唐突に試練が襲うのは作者の思いつきのせいである。


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主人公ってなんだかんだ生き残るよなぁ!?

俺たちがクラーケンに何処かへ飛ばされてからもう1日半ほど、俺も冷夏もお腹が減っているが陸地も見えない為、変に体勢を変えることもできない。

 

「どれだけ飛ばされてるんだ俺たちは。」

 

「分からないけど・・・もう大分飛んでる。」

 

「だな・・・。」

 

俺たちの高度もそれなりに下がっていた。

 

あのクラーケンのどこにそんな力があったのか、俺たちは運良く?海面と激突する事なく、空中浮遊出来ていた。

 

「・・・!」

 

「どうした!?」

 

「島が見えた・・・。」

 

「島!?」

 

「もしかしたら、東の果ての近くなのかもしれない。」

 

「おい、この速度で地面や山に激突したら一瞬で死ぬぞ!?」

 

「分かってる、少しずつ減速していきたいから少し緩めて。」

 

「分かった。」

 

冷夏が飛んでいる方向、俺の後ろに向かって魔法を打ち出し始めた。

 

「どれだけ減速してるかも分からんな。」

 

「でもやるしかない。」

 

冷夏がそう言った瞬間、俺は嫌な予感がして全力で身体強化をした、黒化は時間が短すぎて咄嗟の出来事には使えない。

 

「!?」

 

ほんの一瞬ではあるが、俺の視界に陸が見えた。

 

「ぐっあああああああああ!!!」

 

身体にいくつもの壁と思う物が当たって砕ける、俺は冷夏を守る為に結構な割合で身体強化を偏らせたので多分俺の背中はかなり悲惨な事になっているだろう。

 

「山とかならどけだけ良かった事か・・・街のど真ん中じゃねえか。」

 

「大丈夫!?」

 

「お前はコレが大丈夫に見えるのか?」

 

冷夏を守る為に両腕は無事だが減速する為に地面にこすり続けた足はすり潰され、肉が大根おろしの様に道に続いている、骨もかなり削れていて既に痛覚が限界を訴えている。

 

俺の背中もいくつもの家を貫通したからだろうか、鉄や木が俺の身体を貫通していて肺の片方を完全に停止させていた。

 

「心臓が貫かれなかっただけマシか・・・冷夏、俺の名前、言ってなかったな、俺はゼル、出来れば医者か誰かを読んで来てくれ、今眠ったら確実に死ぬ。」

 

既に勢いは止まっているからかなり血が出ている、地面に向かってドボドボと血が出始めている上に胸からゴポッと言う音がしている、本格的にマズイ。

 

「せめてポーション位は、持っておきたかったが・・・。」

 

周りの景色が白く染まっていき始めた。

 

「薬じゃ、染みるぞ。」

 

頭から何かがかけられた。

 

色が急速に戻って行く。

 

「ゴボッ・・・?」

 

「喋るな童、傷が完治したわけではない。」

 

「ゼル!?」

 

「おお!娘っ子、手伝え、この男、流石に死にかけておるぞ。」

 

「は、はい!」

 

身体に刺さった鉄や木を抜かれていく、その度に復活した痛覚が異常な程敏感に反応する。

 

叫ぼうにも肺の片方は大穴が開いている上に血が溢れている、暴れない様に耐えるしかなかった。

 

「娘っ子!桶を持ちな!」

 

「はい!」

 

「私がこれを抜き終わったと同時に薬をぶっかけるんだよ!」

 

「はい!」

 

胸の鉄が動いた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」

 

痛みが今までより強くなった気がする、意識が朦朧としてきた。

 

胸がつっかえている感覚が無くなると同時に俺は気絶した。

 

ーーーーーーーーーー

「ゼル!」

 

「娘っ子、何があったんだい、分かる範囲で話しな、話によっちゃ助けてやらんでもない。」

 

「お婆ちゃん・・・ありがとう!」

 

私はすぐに話した、港町でゼルに助けてもらった?事、船での移動中、クラーケンに襲われて投げ飛ばされてここに来た事、ゼルの旅の仲間にスカルパラディンという骸武士の魔物がいる事。

 

私が知っている範囲の全てを話した。

 

「・・・また変な男が入って来たもんだねぇ、取り敢えず、私から領主様には言っておくから、娘っ子は休みな、飯もまだの様だし、食って来な。」

 

「ありがとう、お婆ちゃん。」

 

「ただのババアにできる事は限られてるさね。子供は素直に従うものさ。」

 

私はご飯を食べながら外を見ていると海から続く血の線が二つあることに気付いた。

 

家が破壊されている中に骨と肉が混ざった線が書かれているのだ。

 

「ゼルは、なんで私を助けたんだろう。」

 

私は思わずそう呟いてしまった。

 

これは純粋な疑問・・・だと思う。

 

・・・多分。




はい、此処からはお婆ちゃん無双の始まりです。

強くて渋いおっさんとか婆さんとかがいがみ合いながら完璧な連携で主人公より格上の相手と互角に戦うっていう物凄い惚れそうになるシチュエーションで助けられたい。

そして2人に漬物とかおすそ分けして縁側で煎餅食べたい。


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眼が覚める

暗闇の中で俺が浮いている。

 

寝てる訳でも無いのに浮いているという感覚だけがある。

 

「・・・ちょっと気持ち悪いな。」

 

何かに呼ばれている気がする、人間じゃない何かに。

 

「魔術さえ使えれば・・・か。」

 

魔術によるゴリ押しが通用しなければ俺は世界でも中堅どころまでしか到達出来ない、才能があればまた違う、俺にとっての才能は魔法や魔術が使える事、何億何兆という戦争を戦ってきていてもその半分くらいが魔術での殲滅戦だというのだから笑えない、経験だけあっても体がついていかなければ意味が無い。

 

それ以前に、抵抗できる余地すらなく殺される恐怖は・・・。

 

「嫌な感じだ。」

 

この世界ではまだ夜月が紅黒龍を置いてくれている、恐らくとても似ている類似品だろうが、あるだけでも安心感が違う。

 

「まだマシな方とはわかっているが・・・。」

 

アークラとの戦闘、俺は反則行為をやらかしてまで戦ったのにも関わらず互角だった、10秒かそこらだったがかなりの時間寝込んだ、魔族の男との戦闘では辛うじて戦闘の体をなしていた、俺が躊躇していたら全員が死んでいた。

 

アルやアトが操られ、俺に殺意を向けた時、俺は判断に迷った、殺すかどうかを。

 

そんな自分が嫌になる、こと戦闘という出来事においてのみ、俺は機械のように動いてしまう、ハイになると殺しを楽しみ始める時まであるのだ、俺は・・・誰かを助ける事でその事実から目を逸らそうとしているのかもしれない。

 

「・・・冷夏が居るはずだ、早く起きないと。」

 

意識が朦朧としてたから分からなかったが・・・冷夏の喋り方が変わっていた気がする、他の言語か?

 

早く、起きなければ。

 

ーーーーーーーーーー

目を開けると知らない天井が見えた。

 

「・・・。」

 

「起きたかい、薬の効き目は良いみたいだね。」

 

「あんたは?」

 

「そう警戒しなくても大丈夫さね、あの娘っ子から頼まれてるんだ、取って食いやしないよ。」

 

俺の横でゴリゴリと薬草を潰している婆さんは静かにお茶を出して来た。

 

抹茶か・・・。

 

「色はアレだが毒じゃない、飲んでみな。」

 

飲んでみるとエグいくらい苦かった、子供の味覚とかそう言う意味ではなくちゃんと処理されてない感のある苦さだった。

 

「我慢して飲み込みな。」

 

吐き出しそうになるのを必死で我慢して飲み込む。

 

すると身体の倦怠感が全て無くなったような気がした。

 

「お婆ちゃん!持って来た!」

 

「ならそこに置いときな、あんたはこいつの世話だ。」

 

「婆さん、俺はもう立て・・・くっ。」

 

急に立ち上がろうとするが足がもつれる。

 

「アンタ足がすりおろされてるのを忘れたかい?欠損はどうにかなっても立てるかどうかは別問題だよ。」

 

「・・・。」

 

「肩貸す。」

 

「・・・ああ。」

 

冷夏はやっぱり別の言語で喋っているようだ、俺はカルトからある程度の言葉を習っているが冷夏の喋っている言語が思いっきり日本語なので分かりやすかった。

 

転生者、お前世界言語にしろよめんどくさい。

 

「ゼル。」

 

「何だ?」

 

「頑張ろ?」

 

あらやだこの子、自分が美少女なの分かってやってるんじゃないのんモゥ!

 

気持ち悪いから辞めるか。

 

「・・・せめて、戦闘が出来る程度には足が治ってくれるとありがたいんだが。」

 

「出来なかったら私の責任。」

 

「しなくて良い、仕方ない部分が多すぎる。」

 

「でも・・・。」

 

「アホ、お前は災害が起きたら責任を感じるのか?それと同じだ、少しずつだが、頑張って行くさ。」

 

この後冷夏に支えられながら街を歩いているとひそひそと街の人に噂されていた、聴覚を強化して聞いてみると血みどろおろしとかいう物凄い不名誉?な名前を付けられていた。

 

名前の由来がエグすぎる。

 

この後2週間ほどかけてリハビリをした結果、日常生活くらいならば出来るようになった。

 

戦闘が出来るようになるまではどれ程かかるのだろうか。




アンセム楽しい、予約してて良かった、ありふれのバレンタイン話が更新されてたのでかなり遅いけど書こうかな。


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武器貰った。

「驚いた、普通は3ヶ月位はかかるはずなんだけどね。」

 

俺は身体強化も含めた筋肉強化方法でかなりのハイペースで身体能力を取り戻すことに成功していた。

 

ただし、また大剣を担いで動き回れるほどではなく、むしろ鈍重になった結果威力は込めやすくなった。

 

「俺が満足出来るほどじゃないがな。」

 

「それでもあんたがこの国に来てからまだ一月くらいさね、一日中裏で模擬戦やら型の練習やらを汗だくになるまでやられちゃ何も言えないだろう。」

 

大剣が無くなるのがここまで響くとは、リーチの差って奴は理不尽だね。

 

「そんなあんたに朗報だよ、領主様があんたに興味を持たれた、行ってきな。」

 

「待てや。」

 

婆さんはしっしっと手を振る、冷夏は今は買い出しに行っているので俺だけだ。

 

「婆さん、もし俺が無作法で捕まっても文句言うなよ。」

 

「他人のふりするから大丈夫さね。」

 

無理に決まってんだろうが。

 

手ぶらだし、呼ばれたから来たって言っても信じてもらえるかどうか。

 

大通りに出るとすぐに領主の住んでいる家が見えて来た、城もあるが城は基本的に防衛用の砦だ、中身も城と言えるものではない。

 

何で知ってるかって?一回しのびこんだら酷い目にあったからだ、あそこだけ絶対からくり屋敷とかいうレベルじゃねえぞ。

 

「罠の位置は全部把握したけど、どれだけ変わるかも分からんしな。」

 

領主邸の前に着くと護衛が近づいてきた。

 

「ゼル殿で間違いないか?」

 

「ああ、敬語の方が良いよな?」

 

「あまり気にされる方ではないが・・・できればそうして欲しい。」

 

「了解。」

 

領主邸の客室に通されると中では全裸の女性が畳の上で寝転がっていた。

 

「あんたが領主か、俺は客のはずなんだがね?」

 

「あら、気にしないのかい?年頃なら食いつくだろうに。」

 

「生憎とあんたみたいな奴には興奮出来ないんでね。」

 

「ふうん、まぁ、君の連れも可愛いし、からだの関係くらいはあるんだろう?」

 

「ねぇよ、で?要件は?」

 

女性はニッコリと笑った、美人ではあるんだがなぁ。

 

「君に武器を与えようと思って。」

 

「何?」

 

「どれが良い?と言っても君からすれば全部クセが強いと思うけどね。」

 

「待て、その前にどんなやつがあるかを説明してくれ、じゃないと答えようがない。」

 

女性はショボンとした顔で俺を見ていた。

 

「まずは刀、次に薙刀、太刀、棍と鉈、槍、取り敢えず基本は全部揃えてるよ。」

 

「全部試させてくれ。」

 

「なら裏の道場を使うといい、試すだけなら全部試させてあげるよ。」

 

「太っ腹だねぇ。」

 

「かか!あの婆さんが気に入ってる青年だからね、私も気になるのさ。」

 

裏の道場に通される、木刀ではなく、普通の真剣を渡された。

 

刀を引き抜くと光沢と共に持ちやすい形に整える。

 

幾つかの型をなぞると全員が息を飲んでいた。

 

「試してみるか。」

 

刀を鞘にしまい、腰の横に無理やり取り付ける。

 

「すぅ・・・。」

 

一閃、滑るように人間の首くらいの位置を一瞬で切り裂き、止まった。

 

「・・・チッ。」

 

刀が歪んだ、やはり技量が落ちている。

 

「次だ。」

 

薙刀、棍は同じような動きで試してみたが棍は多節棍と言うのが一番しっくりと来た。

 

薙刀は魔法が使えればそれなりに戦えると言ったところか。

 

槍も似たり寄ったり、東洋の武器が多いことも相まってトリッキーなものが多かった。

 

「・・・刀だな。」

 

「毎度あり、それあげる代わりにあの婆さんのこと任せたよ。」

 

「分かってるよ、婆さんには世話になってるしな。」

 

「分かってりゃいいの、あと君、刀を触ったことは?」

 

「(この世界では)ない。」

 

「天才か、嫌になるねぇ。」

 

「魔法は使えん、物量で押せば殺せるさ。」

 

領主はため息を吐いたあと家の奥へと消えた。

 

「帰る、目的も終わったようだしな。」

 

護衛に門まで見送られ、俺は婆さんの家へ帰った。

ーーーーーーーーーー

「あの子供、どう思う?爺。」

 

「はてさて、儂の目から見ればほとんど裏切ることはない、ただし、手違いでも起ころうものなら一瞬で斬られますな。」

 

「そんなに彼は強いのかい?」

 

「恐らく、魔法を封じられた状況で戦争をすれば、彼は一騎当千、いえ、一騎闘万ほどであるかと。」

 

「一万人は討てると?」

 

「違います、一万人と一度に戦えると言う意味です、彼の鍛錬方法をご存知ですか?」

 

「模擬戦や型の練習って聞いてるけど?」

 

「それの全てが音と同じような速さで行われていると言ったら、どうでしょう?」

 

「・・・何?」

 

「相手は無事なのかい?」

 

「毎回ボロボロにされておりますがその度に指導や褒美を与えておるようです、それに、彼はこの国の言語を既に使いこなしている、地頭も恐らくは。」

 

「彼が魔法を使えなくて本当に良かったよ、まるで化け物だ。」

 

「ええ、魔法が使えているとするなら彼は、きっと単騎で世界と戦い、ほとんど損害を出さずに勝てる。」

 

「ごますりでもしておこうかしら?」

 

「客人の前で全裸になるなど、許される行為ではないですぞ。」

 

「藪蛇だったかぁ、あの子男色だと思う?」

 

「違うでしょう、あれはそもそも異性に興味をあまり持っておりませぬ。」

 

「そっかぁ、面白いねぇ。」




急に寒気がした、風邪か?

「お帰り。」

「只今、ちょっと野暮用を済ませてきた。」

「そう・・・刀?」

「買ってきた。」

「高いでしょ。」

「ああ、でも払えるさ、多分な。」

「・・・体売ったりとかしないよね?」

「お前は俺を誰だと思ってんだコラ。」


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合流

「・・・。」

 

俺の周りには動く泥人形がある、この国でゴーレム生成の魔法の護符を作り、使用したら細長いマネキンのようなゴーレムが出来たのだ。

 

数は五体、俺を囲むように配置され、かつ全員が違う武器を装備している。

 

手斧、刀、槍、メイス、弓だ。

 

領主がアレ以来興味を持ったらしく冷夏と共に領主邸へと良く足を運ぶようになった。

 

その関係で道場を含めてかなり広い土地を訓練で使えるようになったのだ。

 

俺の訓練を見ても参考にはならないかも知れないが見せて欲しいと頼み込まれたのでいつもより簡単に見せる事にした。

 

いつもはこれの10倍くらいはいるし、倒した端から新しく生成されるので護符の魔力が無くなるまでの耐久レースだ、一回倒すだけならそんなに時間はかからん。

 

「始め!」

 

俺の目の前に矢が飛んで来る、首を傾けて矢を避け、回し蹴りで背後に移動した手斧を持つゴーレムの手斧を叩き落とす。

 

カランと音を立てると同時に槍を持ったゴーレムが腹に向けて槍を突き出して来たので俺は前に転がり足で槍の穂先を手斧を叩き落としたゴーレムの胸へと誘導させた。

 

俺の誘導通りに槍はゴーレムの胸に突き刺さり、背中まで突き抜けた。

 

ゴーレムは一瞬止まる。

 

足払いで槍の突き刺さったゴーレムを倒れさせ槍を掴んで腕力で起き上がる。

 

槍を持っていたゴーレムもこのタイミングで動き出すが俺はそれに追いすがり発勁を使ってゴーレムを吹き飛ばす。

 

「ハハッ。」

 

横から刀が伸びてくる。

 

バックステップで避け、刀を持っているゴーレムを正面に捉える。

 

踏み込んで来るゴーレムに向かって俺は震脚で態勢を崩れさせた後俺は飛び上がりゴーレムに踵落としを食らわせた。

 

ゴーレムの頭は弾け飛び、行動不能になった。

 

「後は弓だけか。」

 

弓を持ったゴーレムは俺に向かって矢を放つがいくら何でも遅すぎる。

 

矢を避けながら腰から刀を引き抜いて通り過ぎると同時に斬った。

 

ゴーレムは上半身と下半身を分かたれて動かなくなった。

 

「こんなもんか。」

 

時間にして20秒、こんなもんだろう。

 

「驚いた、あんた、それだけの腕があって冒険者の中でもそれなりなのかい?」

 

「上位の奴らに比べればな、狭い範囲ならほとんど英雄扱いだよ。」

 

「そうだろうねぇ、動きを見てる限りあの土くれもそれなりに熟練した兵士と同じくらいの強さと連携だったじゃないか、毎日こんなことやってるのかい?」

 

「まぁな。」

 

「ゼルは色々とおかしい。」

 

「言ったな?次はお前だ。」

 

「やだ!」

 

冷夏は笑顔でそう宣った。

 

「笑顔で言うな笑顔で、それで?領主さんから見て俺はどの程度の強さだ?」

 

「普通に問題無いんじゃない?と言うかあんたどちらかと言えばタイマンの方が得意でしょ、ならこっちは数倍の数で挑むだけさ。」

 

「そうか。」

 

刀は貴重な武器だ、今の俺が持てる物では最高の部類のもの、紅黒龍には劣るが、アレはどんな身体でもすんなりいける、違和感が無い、まさしく俺専用、神の力は伊達ではない。

 

「さて、領主さん、あんた、急に俺の戦闘能力を見たいとか言ってたが、どういう訳だ?」

 

少し腰を落とす、何かあれば冷夏を回収し、逃げられるようにしておく。

 

「ちょっとやっかいな客が来ててね。」

 

「うむ!故に我はここに来たのだ!」

 

「オーケー理解した、知り合いだ。」

 

「む?」

 

「ほう!」

 

領主が開けた部屋にはスカルパラディンともう1人、トカゲのような鱗が生えている竜人がいた。

 

「スカルパラディン、船は?」

 

「うむ!フラン殿が絶望の叫びを上げる程度には酷い状態である!」

 

「・・・フランさんは?」

 

「造船所と市場で金策であるな!」

 

「可哀想に・・・。」

 

泣きそうになりながらお金を数えている姿が容易に想像出来てしまった。

 

冷夏も空を見上げていた。

 

「それで?そこの・・・竜人の人は誰だ?見たところ知り合いみたいだが?」

 

「うむ、知り合いの孫であった、これから竜人の里へ行くのだ。」

 

「そうか、なら俺たちの世話になっている家を教えるから。」

 

「お主も来るのだ。」

 

「は?」

 

俺は瞬く間にスカルパラディンに脇に抱えられ、スカルパラディンと竜人は走り出そうとしていた。

 

「待って!」

 

「ぬ?」

 

「わ、私も連れて行って!」

 

「構わぬか?」

 

「構わぬであろうが、そこの子が守ればよかろう。」

 

「うむ、では行くのである!」

 

「待てやああああああ!!!!?」

 

景色がとんでもなく早く横に過ぎていく。

 

崖から落ちたり山を駆け上ったりしているのは分かるのだがそれ以外は欠片も分からない、俺たちに圧力などは欠片も無く、不思議な空間の中でただひたすらに強い風と上下運動に耐えるだけだった。




スカルパラディンとその周辺は実力の伴った脳筋である。


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竜人の里

「着いたのである!」

 

スカルパラディンが何か言ってる、頭が、グワングワンしてる、降ろされたと思う衝撃があるがどこが正面でどこが後ろなのか分からない。

 

「吐きそうだ。」

 

「鍛錬が足りないのであるな!」

 

「絶対違・・・うぷっ。」

 

「おえっ、気持ち悪っ・・・。」

 

冷夏もこちら側だったようだ、2人で何とか固まって気分が収まるのを待っていると竜人の人が薬草を渡してきた。

 

「食べろ、酔い止めにもなる薬草だ。」

 

「ありがどうございます。」

 

「ごめんなさい・・・。」

 

2人で苦い薬草をぼそぼそと食べていると本当に酔いが収まり始めた。

 

「今動いたら死ぬくらいまでには回復したな。」

 

「うん、ゼルって、いつもこんな感じなの?」

 

「久しぶり過ぎていつもより酷くなってるんだ、コレだからあの腐れ骸骨は嫌なんだ畜生・・・。」

 

冷夏は魔法で保護されていたが俺は身体強化で耐えろという命令なのだ、久しぶり過ぎて強化された感覚で上下左右に揺らされる事になった。

 

立てるか?これ。

 

「お主は何をやってるんだ馬鹿者!」

 

「そんなに怒る事でもなかろう!?」

 

「怒る事だ!子供2人をグロッキーにしてどうする!阿呆か!」

 

「む?片方は我との勝負でまともに打ち合う剣士であるが?」

 

「それでも加減くらいはしてくれ!」

 

そうだぞ、俺は全面的にその意見に賛成だ。

 

誰があのスカルパラディンに説教しているのかと気になったので目線だけ向けるとそこにはスカルパラディンより2倍ほど大きなドラゴンがいた。

 

いやあれドラゴンじゃねぇ、竜人だ、全身超筋肉質なせいでドラゴンみたいな体になってるだけだあれ、自分で言っててわけがわからんぞこれ。

 

スカルパラディンと仲が良いと言って良さそうなくらいには親しげなのできっとアレがスカルパラディンの知り合いなのだろう。

 

「ゼル、動ける?」

 

「何とか。」

 

「助けて・・・。」

 

「ごめん、そこまでの余裕は無いかな。」

 

冷夏は足がガクガクと震えている、俺も大して変わらない。

 

「トイレ・・・行きたい。」

 

「先に言えバカ!」

 

喧嘩してる2人を放置して先程薬草をくれた竜人に質問する。

 

「トイレあります!?」

 

「む?トイレであれば向こうに人間用のものがあるが?」

 

「冷夏?こっち!」

 

「待って・・・。」

 

ゆっくり歩いていき、トイレに間に合わなかったという事態は無く、ギリギリではあったが間に合った。

 

「聞かないで!見ないで!開けないで!絶対!」

 

「分かったからさっさと入れ!限界だろもう!」

 

女の子だしそれくらいは配慮するわ、誰がトイレするところ見るかよ。相手も俺も恥ずかし過ぎるわ。

 

トイレから離れてスカルパラディン達のいる場所まで戻ろうとした時、ふと道場が目に付いた、中では大勢が稽古している音が響いているようで男達の声が混じって音がしている。

 

覗こうとするとクナイが飛んできた。

 

「ぬおっ。」

 

驚いて咄嗟に取ってしまった。

 

「・・・。」

 

誰のものか聞こうと思って道場に目を戻すと全員がこちらを見ていた。

 

「このクナイって誰のだ?」

 

「く、曲者だ!」

 

「殺れ!」

 

「は?」

 

俺が驚いている隙に竜人達は様々な武器を構えて大勢で突撃してきた。

 

武器の間をすり抜けるように動いていくが竜人の数が多い、四十人ほどだろうか、流石にその人数の攻撃は防げないので逃げるとしよう。

 

だが。

 

「知っているか?魔王からは!逃げられない!」

 

スカルパラディンと言い争っていた筈のクソでかい竜人が壁のように待ち受けていた。

 

「テメェ転生者かこの野郎!」

 

「フハハハハハ!!!」

 

「先代族長が賊を止めてくれたぞ!殺れ!」

 

「ああもう!殺れば良いんだろうがクソ野郎!あとで絶対ぶっ飛ばす!」

 

そして俺は門下生達と正面からぶつかり合い、腕一本と足一本を斬り飛ばされながらも勝利する事に成功した。

 

回復魔法で治してもらったがいくら何でも強過ぎた。

 

服はボロボロ、というか普通に丸見えであり、何なら外套で視界をふさいでいる性犯罪者スタイルなので色々と怖い。

 

もちろん冷夏には説教された。




「うわぁ、狂人がやってきたよ、躊躇無く腕を斬り飛ばされやがった。」

「足を噛んだ奴を起点にして腕をぼきぼき折りながら蹴りと殴り?絵面がモザイクかかるレベルだな・・・。」

「血で濡れた状態で笑ってやがる・・・ほんとうに転生者なんだな・・・。」

「狂人でも可愛い子には逆らえないんだな、というかあの子すげえ見覚えあるんだが。」

「・・・回復魔法かけてあげたけどそのままでも良かったんじゃねえかな、リア充死ねば良いのに。」

by先代族長


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本題

「本当に全員倒すとは、流石にそのままタコ殴りかと思ったんだが。」

 

「こちとらこれでも修羅場結構超えてんだ、あれくらい頑張らないとここには居ねぇよ。」

 

「その結果がこれか。」

 

「足と腕治してくれてありがとよ。」

 

「全く、無茶をする。」

 

死ななきゃ安い。

 

「それで?スカルパラディンはどうした?」

 

「帰った、転移魔法でな。」

 

「あの腐れ骸骨ぅ!」

 

「まぁ座れ、スカルパラディンからここに来た目的は聞いた。今はそれについて話すとしよう。」

 

「俺はそれについては聞いてないんすよ転生者さん。」

 

「アイツ・・・。」

 

2人で溜息を吐く。

 

「俺はここに来れば強くなれると聞いたからここに来た、俺の適正魔法は身体強化、それ以外は補助道具がいる。」

 

「俺はここに在る妖刀を与えてくれと言われた、俺たちの中でも禁忌に近いものだ、精神がよほど強くなければ触った瞬間に精神が崩壊して死ぬ。」

 

「その言い方は強くてもヤバイな?」

 

「俺の兄がそれを触って邪竜に落ちた、英雄と言われ、実際に精神もそれに見合った偉大な人だった。」

 

族長はしみじみとそう言った。

 

「転生してから、良いことはあったか?」

 

「・・・ああ、今思えば、かなり充実した人生だった、そう言える。」

 

「ならいい、この世界は文献を見る限り転生者や転移者が多いらしい、知ってる限りで何人だ?」

 

「約100人、それ以上いるかもしれん、数えるのが面倒になってきたからな。」

 

「数百年でその数だと?多過ぎる。」

 

「ほとんどが勇者召喚、この里にもお前を除けば怪しいのはそれなりに来た。」

 

「勇者召喚・・・か。」

 

「何か思う事でも?」

 

「・・・召喚される前から好きだった子に告白して付き合い始めたのに異世界召喚されて魔王倒したら姫だの神様だのが俺と付き合いたいと言い出してそれに乗って説得してきたことがあってな・・・。」

 

「・・・リア充死ねばいい。」

 

「俺は1人で良いんだよ!そりゃハーレムも良いかもとか思った事あるけどなぁ!親友がハーレム作って殺されてんだよ!?誰がハーレム作りたがるかよ!?」

 

「うわぁ。」

 

親友とかじゃなくて全部俺だけどな!?

 

「まぁ、それは良い、その妖刀ってどこにあるんだ?見るだけ見たい。」

 

「山ごと呪われてるから俺でも近づけません行くならご勝手にどうぞ。」

 

「知ってた、んでもってアレだろ?俺みたいなのが来た瞬間に厄介ごとが連なってくるのも知ってる!畜生!」

 

「ようこそ、転生者特有の疫病神体質へ。」

 

「分かりたくなかったよこの野郎め。」

 

憂鬱になりそうだ。

 

「そういえば冷夏の事なんだが・・・。」

 

「あの子な?多分兄の子孫よ、兄は人間とやってたからな、人間の血が濃いだけだろう、良かったな、英雄の血があるぞ。」

 

「仕方ないとはいえその言い方は良い気分にはなれないな。」

 

「・・・そうだな。」

 

「責めてるわけじゃない、が家族?親戚?としてなんか言ってやれ、あいつの過去は知らんが、こういうのは土壇場で言われると後に引く。」

 

「こんな老人にキツイことを。」

 

「一生でかくなり続ける爬虫類に言われたくねえな、今が絶好調の体の癖に。」

 

「言ったな?ただの数打ちの刀で俺に勝てるか?」

 

「勝つわけねぇだろ、せいぜい分析させて貰う。」

 

「食えないガキだな。」

 

「言ってろ。」

 

この族長とは仲良くなれそうだ。

 

「ところで、あの子とどういう関係?」

 

「仕事先で一発殺りあってぶっ飛ばしたら引き取ることになった。」

 

「あー。」

 

「ちなみに俺は奴隷の訳ありの子のせいで子持ち。」

 

「なにお前、ハーレム嫌だとか言ってるくせにハーレム作りたいの?」

 

「そんなわけないだろ、助けられる奴は出来る限り助けてる。」

 

「はー、そういう奴に限って調子乗って死にに行くんですよー知ってた?ん?」

 

お前ただでさえでかいんだからビッタンビッタン魚みたいに動いてんじゃねえよ。

 

「知ってる、というか世界破滅させる為に世界全体に天変地異起こした奴をぶっ殺して代替手段作る位ならやった事あるわ。神殺しの魔王とか創造神とかと友達だし、どうにか信号出したら多分転移して来るぞ。」

 

「は?」

 

「言ってて悲しくなってきた、俺今あいつの足元くらいでしかないんだよな・・・アメリカ大陸蒸発させることも出来なければ太陽相手にぶつけるとかも出来ないのか・・・弱くなったなぁ。」

 

「俺の聞き間違いか?」

 

「残念、すべて本当だ。」

 

「やべえ奴が来ちまったよ。」

 

「お?煽ってる?やるか?ん?」

 

「やめとけ、今のお前じゃ俺に傷をつけるくらいしかできん。」

 

「毒塗ったら死ぬよなぁ?」

 

「変に現実的だなお前。」

 

「殺れないとこちとら死ぬんですよ、誰が好き好んで存在ごと消滅させてくる斬撃の嵐の中を進んでいかなきゃいけないんだ?」

 

「・・・飲めよ。」

 

「おう。」

 

出されたお茶を飲み干す。

 

「まぁかなり話がずれたが・・・要するに門下生に混ざって実力上げろってことだろ?」

 

「既にかなりのもんだと思うが?」

 

「親友が魔王討伐に行きそうなもんで、その嫁には俺が半魔族ってことで殺されかけてるが。」

 

「お前本当に厄ネタに困らないな。」

 

「ヤンデレは怖いぞ。」

 

「ききたくねぇ、俺にはもう死んでるけど嫁も出来た。」

 

「ちなみに親友も嫁も学園に通う予定です、そして此処には転移者や転生者が数多くいます。」

 

「オーケー、つまりアレだな?ゲームの世界と勘違いして親友と仲良くなって寝取られたら次の魔王はその子の可能性があるわけだ。」

 

「カルトの加護持ってるしな。」

 

「さらっと聖霊の名前出してんじゃねぇ、というかお前が半魔族なのそれが原因か?」

 

「正解、元々魔力適正は何もありませんでした!ハハッ!」

 

・・・今思うとあれだなーかなり無茶したなー。

 

「魔族なぁ、俺たち攻撃されたりとかしない?俺らは別に魔族につかないし、何なら此処は穏健派の場所だし。」

 

「それ決めるのは国だから、俺がどうにかできる場所にはいねえな。」

 

「だよねぇ、今の内に王様とかにゴマ擦っとくか?」

 

「やめとけ、俺のいた国はともかく他の国は基本的に人族至上主義だ、言ったところで魔物として討伐される。」

 

「・・・生きにくい世の中になったなぁ。」

 

「隠居にはまだ早いぞ、ジジイ。」

 

「・・・いざとなったらまた武器を取るか。」

 

「期待してるぞ、ジジイ。」

 

「君実は結構鬼畜だね?」

 

「何を今更。」

 

「まぁ良いよ、俺も少しやる気が出た、手始めに君のコーチは俺がする。」

 

俺たちはニヤリと笑って手を握り合った。

 

「よろしく頼むぜ、説明も無しに夕飯取って来いと称して魔物の群れに投げとばす骸骨みたいなことはするなよ。」

 

「しねぇよ。」




族長
竜人族の中でも平和を好む穏健派の先代族長、現族長は孫、スカルパラディンと領主の館で話していた人。
自分の子供は体が弱かったので孫が無事なのはとても有難いと思っている。
主人公と会って昔と勢いを少しずつ回復させている。
転生者らしく中々激しい人生を送っているが嫁が死んだ事を理由に隠居、しかし後進の育成は前世の影響もあって積極的。
「俺もう死ぬくらいの老体なんだけどねぇ、何でこんな狂人の育成をしなきゃならないのか。もう疲れるのはこりごりよ?」by族長


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戦闘戦闘戦闘ですぜ兄貴!

「うおおおおお!!」

 

「・・・。」

 

ありとあらゆる方向から武器や魔法が飛んでくる、その全てをいなすためにはもっと強くなるしかない。

 

「次元斬。」

 

だが、少しずるいが空間ごと裂くという方法もある。

 

俺は魔術師ではあるがそれなりに刀術、特に居合についてはかなり真剣に取り組んだ。

 

居合は場合にもよるが基本的に待ちの戦術だ、後の先を取るために俺は使う事が多い、何故なら隙をつかれる時は一瞬、その一瞬を狙い澄まして来る相手に防御など間に合わない、ならせめて相討ちに、そう思ってやり始めたのが切っ掛けだ。

 

そんな訳でずっと居合の練習と実戦を繰り返してきたわけだが、いつの間にかかなり鋭く、早く、空間を斬り、敵を斬ってしまった、凡人でもかなりの時間をかければ達人になるのだろう。

 

ゲームのキャラ達は天才なのだと本気で思った。

 

だって俺が空間をまともに切れるようになった時には最初の転生から星の数ほど転生を繰り返した先だったのだから、天文学的な数字よりも多いかもしれない先でやっとゲームの世界と同じ事ができるようになっているのだ。

 

「次だ!」

 

「斬る。」

 

地面が割れる、俺の身体は自分の思い通りに竜人族の門下生達の間を駆け抜けた。

 

「安心しろ、峰打ちだ。」

 

背後でドサドサと倒れる音がする。

 

そして一つだけ上がる拍手、冷夏だ。

 

「凄い!」

 

「ははっ、結構キツイがな、先代もキツイ条件を押し付ける。」

 

あの転生者から言われた言葉は門下生全員と戦って全員を一撃で気絶させる事、それが竜人族の戦士達と試合をする条件だと言われたのだ。

 

「・・・。」

 

冷夏が疑問を浮かべた顔で俺を見る。

 

空気が変わった、念の為門下生達を下がらせるか。

 

「冷夏、手当をしてやってくれ、少しばかり暴れるぞ。」

 

「・・・分かった。」

 

冷夏も素直に後ろに下がり、門下生達の手当を始めた。

 

「よくここまで来た。」

 

「・・・。」

 

出てきたのは転生者、3メートル近い巨体だったが、それが立ち上がり、その手には大きな薙刀が握られている。

 

「・・・竜人族の戦士って、あんたかよ。」

 

「まぁ、お前の師匠からも言われていたからな。」

 

「・・・ここ数日の間、ずっと見ていたのはそれのせいか。」

 

刀も貰って数日でボロボロになる程度には消耗している。

 

勝てるか?いや、まずは様子見か。

 

「そう簡単に、戦えると思うな。」

 

体を半身にして薙刀を構える。

 

俺も刀を鞘に納め、集中する。

 

魔力を高め、身体強化を刀にも付与する、視界がモノクロへ近づいて行く。

 

「・・・!」

 

薙刀が二つにぶれた。

 

刀で受けた瞬間に弾き飛ばされ近くの壁を貫通する。

 

木に着地し、壁の方向を見ると目の前には転生者の巨体があった。

 

木から飛び上がり、空中で護符を起動する。

 

空気の壁を作り出し地面に向かって突撃する。

 

地面に手をつき、それを支点にしながら足で体を回転させながら転生者に踵落としを繰り出したが転生者はそれを避け、返答として薙刀の薙ぎ払いが飛んできた。

 

「グッ・・・!」

 

さっきからずっと弾き飛ばされてばかりだ。

 

対面の山の近くまで飛ばされたようだ。

 

「ゲホッゲホッ、クッ!」

 

上から転生者が降ってくると同時に地面が割れる。

 

岩が空中に飛び散り、火山の噴火のように煙と衝撃が俺たちを襲うが俺たちはそんなことを意に返さずに戦いを続ける。

 

「そら!」

 

居合を放つも薙刀で受け流され、代わりに尻尾での一撃が飛んでくる、受け止めて地面に叩きつけるが両腕で衝撃を完全に受け流され、足で地面を揺らされる、上にある岩まで飛び、近付いて居合を繰り出すふりをして発勁で攻撃するが薙刀の柄で頭を殴られて体制を崩した隙に上から足で押さえつけられた。

 

「フハハハハ!まだまだ現役よ!」

 

「涼しい顔して全部受け切りやがって・・・。」

 

足をどかされ、フラフラになりながらも立ち上がると転生者は真剣な顔に戻る。

 

「近い内、ここに魔族の侵攻が来る、もし俺たちが全滅したらその時は妖刀を好きにすると良い。」

 

「おい、どういう事だ?」

 

「老人すら恐れる臆病者が今の魔王だという事だろう、せめて死ぬまでは放っておいて欲しかったんだがな。」

 

「魔族ってそんなに強いのか?」

 

「お前は余り自覚が無いかもしれないが魔族とは戦闘民族だ、一人一人が人間の街くらいならば滅せる。勿論それなりに訓練をすればの話だが。」

 

「逆に言えばそれなりの訓練で単体戦力になるという意味だな?」

 

「そういう事だ、下級の魔族程度ならば聖剣や弱い英雄程度で対処出来るが中級、そして上級にもなると経験や知識、そしてその体の強さも一線を超える。」

 

「伝説の勇者様でも無いとって奴か。」

 

「魔王軍の知り合いから通達が来た、魔王軍に加わるか里ごと滅びるか、とな、彼奴も甘い、泣きながらこっちについてくれと言われたよ。」

 

転生者は笑いながらそう言った。

 

「・・・そいつも転生者か。」

 

「うむ、俺と違って優しい奴だ、身近な人が死ぬのに慣れておらず、戦争に参加している癖に人を殺せばトラウマになって刃すら握れない。」

 

「ハハッ、良い奴じゃねえか、そのままだと困るがな。」

 

「彼奴もそれなりに強い、不殺を志していたからな、きっと私も生き残るに違いない。」

 

「俺も酒が飲めるなら良かったんだが、無理そうだな。」

 

「年齢を気にするほど弱いのか?お前は。」

 

「そうしないと聖霊に叱られるもので、それで?なんでその話を俺にした?」

 

少し間を空けて転生者は話し出した。

 

「妖刀、俺も本当の名前は知らない、誰が作ったのか、誰が使っていたのか、何故武器だけが残ったのか、それが未だに分からない。」

 

「・・・伝承だけが残ったか。」

 

「ただ分かるのは、触った者は邪竜と化し、災厄になる事だけ、過去にも転生者が数人使おうと試みたが全員が災厄となった、いくつもの国が無くなり、自分の身体が動かなくなるまで破壊を繰り返すドラゴンとなって世界を襲った。何故それをお前に渡せとあの聖騎士が言ったのか、それも分からない。」

 

「・・・。」

 

「だがもし、もしお前がアレを使いこなせるのなら、魔王軍を退けて、英雄になってくれないか。」

 

「何でだ?」

 

「この里は穏健派が集まる里だ、此処を攻め滅ぼされれば俺という英雄を失った竜人族は滅び、過激派の中でも強い者が魔王軍に入る事になるだろう、それ程までに此処は俺一人に影響力を依存している。」

 

「それの代わりに俺がなると?」

 

「私兵にでも、何なら俺自身が死ぬまでお前の手足になっても構わない、もしそれで魔王軍が俺の大切な物を守れるのなら、俺はそれに賭けてみたい。」

 

そう言って転生者は頭を下げた。

 

「・・・やれるだけやってみるが、お前が無理なら多分無理だ、戦力としてはお前の半分の力量で計算しろよ。」

 

「ありがたい、妖刀の場所を教えておく、いざとなれば、使うと良い。」

 

ーーーーーーーーーー

教えられた場所は、とても厳重だった、少なくともかなり安全だと言わざるを得ない。

 

場所は転生者以外は俺以外に知る者はいない、それほどまでに機密性の高いものだった。

 

空に浮かんだ月を見ながら考える。

 

妖刀を使うとなればその時はかなり切羽詰まった状況だろう、その状態からスタートして俺が妖刀を使ってまともで居られる自信はない。

 

正直な話、できうる限りの事をするといったが俺に出来るのはせいぜい数人を守る程度だ。

 

「ゼル。」

 

「・・・冷夏か。」

 

「教えて、あの人が何であんなに気を張っているのか。」

 

「・・・。」

 

「教えて!」

 

「数日以内に、魔族が侵攻してくる。」

 

「!?」

 

俺はそれだけ言うと立ち上がって振り返った。

 

「多分、死ぬつもりだ。」

 

「何で・・・。」

 

「元々老人だった、最期に綺麗な花を咲かせよう、そんなところか。」

 

「私、話してくる!」

 

冷夏は走って行ってしまった。

 

「・・・多分あいつは・・・最後の願いにしちゃ本人の意思を無視しすぎだ、馬鹿野郎が。」

 

そんな事も言えない、か。

 

「何だって俺はこんなに疫病神体質なんだろうな。」

 

役に立つかは分からないが、やるしかないか。




魔族
ぶっちゃけると成長率の低い野菜人、主人公はそれの軍勢と闘わないといけません。

護符
主人公が魔法を使えないので代わりとして威力も弱い、保存だけ効く魔法陣を血で作り上げて簡易的な魔法を放てるようにしたこの世界からすればかなり画期的な道具、ただし普通に使う方がコスパも使い勝手も上。

妖刀
使うと変質するやべー刀、魔術が使えるならこんな欠陥品にはならなかったチート武器その1。

ーーーーーーー
学園側
アト
現時点でやっと感情の整理がついてヤンデレじみた事になってる。

アル
感情の整理がついたがアトに絞られている。

オリヴィア
魔導書を読みまくって魔法の習熟度はかなり高くなり始めている。

シルフ
オリヴィアと学園長の間を繋ぐ電話扱いをされている、主人公の現在地も把握しているが手出しする気はない。

学園長
主人公の現在地を把握しており、ちょっとちょっかいかけようかなと思っている、魔族の軍勢をどうしようかと思案中。

ーーーーーーー
スカルパラディン
フランと一緒にクラーケン討伐と自警団の指導をしている、最近山が噴火したので調査に行きたがっている。

フラン
山が噴火して飛んできた岩で金庫代わりの倉庫の半分が消し飛んだ、新しく船を買うお金は無事だったのは幸いだった。

婆さん
カルトが最近よく会いに来てくれるので今此処で死んでも聖霊に看取ってもらえそうだと喜んでいる。

カルト(闇の聖霊)
手出しする気はないとホルスに行ったけど今すぐ魔王軍を蹴散らしたがっている。

ホルス(光の聖霊)
カルトの気持ちもわかるから静観する予定、ただし知り合いの転生者が死にかけたらどうにかしたいなとは思っている。


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作戦会議

「伝令!魔王軍の姿を確認!」

 

「・・・来たか。」

 

なぜ俺は此処にいるのかわからない、冷夏はあの夜からずっと篭っている、もう2週間になる。

 

「何故逃げない?お前はまだ生きられる。」

 

転生者としてではなく、竜人族の族長としての顔でそう問いかける。

 

「ん〜、それなんだがなぁ、この里の周辺を魔改造したからそれの説明に、かな。」

 

そう言うのはゼルという転生者、何回も転生しているナニカ。

 

だがその精神性はまともどころか英雄とでも言うべき精神だった。

 

まぁ、本音で話している節もあるので信用はされているのだろう。

 

「そうか。」

 

だがこのゼルという男、経験に裏打ちされた先読みが未来でも読んでいるのではという域にある、剣士と言うよりは後衛よりの能力だ、この男が軍師にでもなれば俺は即刻投降を何としてでも許可させる、それほどまでに化け物じみた動きをするのだ、この男は。

 

魔法を使えないと言うがこの男の先読みは魔法なんかより恐ろしい。

 

何だってこちらの攻撃の全てを先読みして潰してくるのか、まともに攻撃出来たのは最初の一戦のみ、それ以降はほぼ全て受け流され、最近は反撃すらしてくる。

 

「罠か、何を仕掛けた?」

 

「俺の予想が正しければ、3割は壊滅させられる。」

 

部下達が聞き間違いかと驚いているが俺だってそう思いたい。

 

・・・化け物め。

 

ーーーーーーーーーー

「敵の戦力は恐らく低ランクの群れをけしかけて来る、その数は多分一万ほど、その背後に多分100人くらいの魔族が居る、一人につき100体くらいなら群れのボスを押さえておけば十分だ。」

 

周りがどよめく。

 

「その魔物の数を300は減らせると?」

 

「此処は隠し里でも無いのに何故無くなっていないか、それは山に囲まれ、進軍しやすいのもあるが竜人族達は戦士ならば大抵Bランク以上の強さを誇る、ならそれを全員倒すのならば魔王軍の幹部が出張って来る位はするだろう。」

 

「それの相手は私か?」

 

「ああ、老人だろうがあんたはこの里の最高戦力だ、出来うる限り避難はさせるが多分壊滅する、これは負け戦だ。」

 

「そうだろうな。私もこれを生き残れるとは思っておらぬ。」

 

会議室の空気が重くなる。

 

「ならこの中で誰かが残りを生き残らせる必要があるな。」

 

「であれば・・・今の族長はお前だ。」

 

「なっ!?」

 

妥当だな、生き残らせるなら一人はリーダー格をしている者が一番良いんだから。

 

「説得は任せるぞ、次に、罠と言っても自動で発動してくれるのは半分以下だ、出来うる限り簡単にしてあるが高火力のものは色々と手順を踏まなければならないから気を付けろ。」

 

その手順を口頭で答えると俺は点検の為に会議室を出た。

 

廊下を歩いていると影から誰かが話しかけてきた。

 

「・・・ゼル。」

 

「冷夏か、魔王軍が来た、早く荷物をまとめろ。」

 

「逃げるの?」

 

「逃げるのはお前だ、直ぐに避難を開始する。」

 

「ゼルは!?」

 

「戦う、世話になったのもあるしな、お前は街まで降りてスカルパラディンに魔王軍が来たことを知らせろ、此処が落ちれば次は彼処だ。」

 

「・・・!」

 

冷夏は何かを言いたそうに口をつぐむ。

 

俺は頭を撫でて笑った。

 

「俺は部外者だからな、出来る限りの事をしてから逃げるさ。」

 

「・・・嘘つき。」

 

苦笑いに変わってしまった。

 

「・・・そうかもなぁ、でも、逃げても後悔する、そう思うからな。」

 

「死んだら終わりだよ、何もかも、何でわかってくれないの・・・!」

 

冷夏は終いに泣き始めてしまった。

 

しばらく泣いていたが落ち着いたのだろう、俺をじっと見て静かに言った。

 

「死んだら許さないから。」

 

「任せろ、生き残る事に関しては割と得意だ。」

 

冷夏は部屋に戻る道を歩いて行った。

 

「・・・ふぅ、これで良かったのか?」

 

「・・・やはり、お前にあの子を任せた方が良い気がして来たぞ。」

 

「止めろ、俺を好きになるような物好きはそうはいねぇよ。」

 

「やってる事がラノベの主人公だって事を理解してからその言葉を言え。」

 

「英雄色を好むってだいたいこんなかんじだぞ。」

 

「知りたくなかったな。」

 

「さて、お前の言っている妖刀に関してだが、俺はお前が死ぬまで受け取る気は無い。」

 

「・・・。」

 

「俺は今度こそ点検してくるわ。」

 

山までひとっ飛びだ、直ぐに終わる。



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戦争

罠を確認しに行くと既に斥候と思われる魔物が何体か引っ掛かっていた。

 

「早いな、どういうことだ?」

 

掛かっていた魔物は二足歩行の魔物、種別は分からないがそこまで苦労せずに倒せる程度の強さだ。

 

四つ足ならば不思議ではないがそういう魔物は山地の攻略にはあまり得策ではない、何故なら竜人族の里は切り立った崖の上にある。

 

「つまり、二足歩行の魔物でなければならないっと。」

 

木から降りると周りから魔物が襲い掛かってくる。

 

「残念ながら、罠だらけだよ。」

 

木の間に張り巡らせた糸によって切断されていく魔物達はその血によって大地と糸を濡らす。

 

「なるほど、糸か。」

 

「!?」

 

森の中から声がして全力で後退する。

 

「逃げるなよ。」

 

「すみませんけど死ぬ気は無いんですよね!」

 

持っている道具のすべてを使いきる気で消費する。

 

「チッ。」

 

舌打ちされたかと思うと気配が消える。

 

撒けたか。

 

「ヤバイ、普通に生き残られた、何で斥候にあんな奴が居るんですかねぇ!」

 

思わず声に出して突っ込む、どういう性格なのかは置いといてこんなところで魔族と遭遇するのは予想外すぎる。

 

「報告しなきゃ不味いな。」

 

ーーーーーー

「来たぞ!」

 

「放て!」

 

すでに戦闘は始まっていた、何が起きたのだろう、あれは先遣隊の筈、そうでなければあの速さはあり得ない。

 

「ドラゴニックストーム!」

 

「タイタニックフォール!」

 

山の上では巨大な土の巨人と炎の嵐で大惨事になっている、里も既に襲われているようだ。

 

「チッ。」

 

魔物の中をすり抜けて移動する。

 

戦士の死体と魔物の死体以外は無い、この周辺には人は居ない。

 

「誰か居ないのか?」

 

大きな魔物の死体の側を通ると槍が突き出された。

 

「うおっ!?」

 

「お前は・・・。」

 

「門下生の一人か、何で此処にいる?護衛はどうした?」

 

「死んだ、一番最後の隊は全滅だ。」

 

「クソッ、何でわからなかった!?」

 

「いきなり魔族達が現れたんだ!里の中に!」

 

転移魔法?オイオイ、そんな物を使える奴が魔族に?嘘だろ?

 

「クッ、取り敢えず生存者を集めて頑張るぞ。」

 

「ああ、だが・・・。」

 

そういう門下生の足は魔物に食われたのか無くなっていた。

 

「・・・此処でできるだけ頑張ってくれ、最悪死体のふりをして生き伸びろ。」

 

「・・・絶対に、助けてくれるよな・・・?」

 

「絶対に此処に助けにくる!だから耐えてくれ!」

 

俺は竜人族の門下生から逃げるようにして走り出した。

 

ーーーーーーーーーー

山の上まで登っていると誰かの声が聞こえてきた。

 

「竜人なんて言うからどんな物だと思えば、こんなもんか。」

 

位置はこの先の民家の直ぐそばだ、刀を抜き、通り過ぎざまに首を刈り取る。

 

魔族と言っても油断しているときはすんなり死んでくれるものらしい。

 

2人目もいたようで近くの民家から出てきていた。

 

「にんげ・・・。」

 

首に向かって突きを繰り出し、其処から横へとスライドさせる、それだけで魔族は声を出せなくなり、更に時間さえかければ死ぬくらいの血が出る。

 

だがこの世界は回復魔法なんてものがある、首を切り落とした程度で死なない様な奴だっているだろう。

 

頭に刀を突き刺し、確実に殺す。

 

「・・・次だ。」

 

魔物が竜人族を喰っていた、殺した。

 

魔族が3人で笑っていた、殺した。

 

少し強めの魔族がいた、少し手間取ったが腕を切り飛ばして突き落とした。

 

倉庫に魔族が生きた竜人を魔物に食わせていた、すべて殺した。

 

余り記憶は残っていないが片っ端から怒りに身を任せて殺し回った気がする。

 

魔物も魔族もまだまだいるだろう、だが殺人鬼の様にずっと徘徊しながら戦っているわけにもいかない。

 

そう思ったのは里が静かになってからだった。

 

「山の上は・・・まだ戦ってるな。」

 

登るか。



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竜人族の意地

「アースシェイカー!」

 

「甘いわ!」

 

頂上では盛大な闘いが繰り広げられていた、此処に来る道中にも上から落石とか大きな亀裂が走ったりとか色々あったが割愛する。

 

転生者の相手はかなりの手練なのだろう、少なくとも俺がほとんど勝てていない転生者を相手に今の今まで生き延びている。

 

2人共俺に気付いているがわざと此方に攻撃をしていない。

 

多分魔族の方は雑魚だから、転生者の方は足手纏いになるからか。

 

「こっちに来てからは初めて使うか。」

 

黒化(ニグレド)、一気に沈める。

 

俺の身体が黒く染まる、視界にあるもの全てが止まり、オークロード戦よりも鮮明に、そして早く動ける様になっている、まさかとは思うが大剣を背負っていたからだろうか。

 

俺の目の前には巨大なゴーレムが3体も配置されている、走り出すとゴーレムはゆっくりとだが動いている。

 

かろうじて動く程度だがこれに反応できる時点でおかしい。

 

何なら俺より少しだけ早く動いている魔族と転生者もおかしい。

 

刀を鞘に入れたまま前傾姿勢へと変え、ゴーレムの腕の上を走る。

 

「まずは1。」

 

居合斬りでゴーレムの頭を切り飛ばして次へ移行する。

 

「ゴーレム!」

 

「良くやった!」

 

まだまだ行くぞ。

 

「次だ。」

 

ゴーレムの足元に移動し護符を大量に飛ばして足場を生成する。

 

そして足場を転々としながらゴーレムを切りつけていくとゴーレムの魔力回路的なものに触れたのか足が崩れて動けなくなった。

 

「こんなもんか。」

 

「タイタニックフォール!」

 

俺に向かって急激に速度を速めたゴーレムの拳が叩き込まれようとしたが俺は刀を鞘に収めて居合の構えをとった。

 

「最後だ、千刃一刀。」

 

元々この技は刀用の技だ、ぶっちゃけるとただ千回切りつけるだけだが早すぎれば奥義にもなる。

 

俺の攻撃でゴーレムは粉々になってしまった。

 

「ゴーレムはやった、最後くらい締めてみせろ。」

 

「勿論!此処までお膳立てされて何もできない様じゃ竜人族の名折れよ!」

 

転生者は魔力を一気に開放し、手元に一つの刀を作り出した。

 

「コレでも封印はされているのでな!遠慮無く使わせてもらうぞ!」

 

転生者の姿が変わる。

 

竜人族のトカゲの様な姿が溶けるように液体になり、其処からまた人の形を取って行った。

 

それは黒い肌、いや、鱗のないつるつるとした見た目の体に、和服の様な羽衣を携えている。

 

背中には翼などはないがその姿からは歪な魔力が漏れ出していた。

 

『・・・アァ・・・ガアアアアアアアア!!!!』

 

「まっず!」

 

魔族へと一直線に突っ込んでいったその怪物は魔族が使用した魔法の防壁をいとも容易く破壊し、魔族へと迫って行った。

 

魔族は魔法陣を描き始めた。

 

魔法陣を読み解くと転移魔法陣を書き上げていた様なので俺が術式に介入する。

 

介入とは言っても別の術式を紛れ込ませるだけだ。

 

「あっがあああ!!?」

 

紛れ込ませたのは雷を召喚する魔法だ、つまり、痺れる。

 

「今だ!」

 

『グゥオオオオアアアアアアア!!!』

 

咆哮と共に転生者は魔族の頭蓋を掴んで一瞬で砕いた。

 

血飛沫と共に転生者の体から力が抜ける。

 

『アァ・・・ああ、やっぱり、きっつ。」

 

転生者の姿が竜人の姿に戻っていく、刀は既に地面に刺さっており、先程の転生者の言葉によればまだ封印状態ではあるらしい。

 

「動けないか?」

 

「動けるが、精神的に超怠い。」

 

「寝るなよ、せめて下まで降りてからにしてくれ。」

 

「分かってる。」

 

魔族の強さはどの位なのだろうか、魔族についてはあまりわかっていない節が多過ぎる、転生者と戦えていた事、俺が黒化してからも普通に戦っていた辺りを見るとかなり強い部類ではあるんだろうが・・・。

 

飛び降りるには高過ぎる崖から降りるわけにも行かず、何なら妖刀を勝手に回収していいものかと考える、と言うか妖刀使ってないよな、終始近接戦しかやってないよな、相手の大技を消すために色々と技を使ってたくらいか?

 

そう考えると恵まれた物だ。

 

「ったく、妖刀使う事もできそうにないか?」

 

「妖刀は掴んだだけでもかなり精神を蝕んで来る。俺よりも転生して居るらしいから大丈夫だろうが・・・。」

 

「安心しろ、妖刀の類は慣れてる、魔剣や聖剣もな。」

 

俺はそう言って妖刀を掴んだ。




地球防衛軍4.1をやってたんですけどルールオブゴッド使ってアマッカスの真似するの凄い楽しかった。


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夢は泡沫

白い世界、そう言うしかないほど真っ白な世界、その中に俺がいた。

 

「あー、こう言うパターン?今回は運がないんじゃないのか?」

 

「否定は出来ないかな?私も結構運が悪いとは思ってるよ。」

 

「今更だけど、この試練のクリア条件は?」

 

「自分と戦って勝つ事。」

 

「だよな、ただな夜月、俺の姿で声だけ夜月は違和感バリバリだから止めてくれ、せめてガワだけでも作ってくれよ。」

 

「あはは、君の事なら何でも知ってる私にそれを言う?」

 

「はいはい、分かったよ。」

 

俺の腰に鞘と刀が現れる。

 

「私は干渉してるだけだから、体はもう動くよ。」

 

「ゲームのトレーニングルームにいる気分だ。」

 

「今回も頑張ってね?」

 

「了解。」

 

やって見せようか、精神が壊れようと知ったことか、せいぜい付き合え、クソッタレの相棒。

 

「確認、排除する。」

 

「簡単に死ぬと思うなよ?」

 

真っ白な空間で斬り合う、少し動けば空間ごと薙ぎ払われ、動かなければ死ぬ、そんな嵐の様な中で俺と妖刀の俺はずっと違いの動きを上回るために感覚を研ぎ澄ませていた。

 

互いの刀が砕かれ、ふるい落とされ、その度に交換の様に持ち替えながらも斬り合う事だけは止めない、その内に俺の身体が切り刻まれる。

 

「次だ。」

 

次の瞬間には俺たちの体は最初の状態に戻り、最初から戦闘が始まる。

 

俺の身体が切り刻まれ、突き抜かれ、背後から心臓を突かれ、その度にまた最初から、相手の腕を切り飛ばし、頭をかち割っても最初から、やがて俺のキルスコアが100を越える頃には俺は千回も死んでいた。

 

「まだだ。」

 

俺はそう簡単に死ぬわけにはいかない。

 

身体強化もどれだけの時間掛け続けたのだろう。

 

どれだけ腕を振るったのだろう。

 

骨が折れた感覚も、首が飛んで死んでいく感覚も、心臓を突き抜ける刃の感覚も、幾度となく感じた。

 

「まだ死ねない。」

 

体は既に限界だ、精神も色々とおかしくなっているのを自覚して居る。

 

「まだまだ。」

 

まだ最初から。

 

最初から。

 

最初から。

 

最初から。

 

最初。

 

次だ。

 

次。次。次。次。

 

ーーーーーーー

「あの・・・族長様。」

 

「かしこまらなくて良い、ゼルの事だろう?」

 

「あ、はい。」

 

「アレは妖刀の試練に挑んでいるだけだ、今あそこに行けば君も呑まれるぞ。」

 

あの馬鹿は試練に挑むとすぐに眠ってしまった、妖刀は馬鹿の体に吸収され、取り出す事もできない、こんな事は初めてだ。

 

俺は体から出して少しの間だけ使えるが本体があいつの身体に乗り移った事で使えなくなった、俺も自分との戦いというのがどれほど辛いか走っている、それのせいで隠居を決めたくらいだ。

 

「でも!」

 

この娘は多分あいつに惚れている、俺も子供を産んだが、妻には200年前に先立たれた、俺は兄とは違ってただの人間とほとんど変わらない。

 

実際竜人族の女は俺の性欲を煽らなかった。

 

兄は幼い頃から俺と居たから理解してくれていたが他の里の竜人族は鱗が無かった俺を落ちこぼれと称して身一つで街へと叩き落とした。

 

其処からは色々あったが俺はそれなりに強くなり、里に帰ると兄が暴れていた。

 

兄をどうにか鎮圧すると兄が家に封印されていたという妖刀を掴み、邪竜になった、其処からは良くある事だ。

 

仲間と共に倒し、倒した呪いとして俺は竜の身体になった。

 

竜人族としては自分たちの仲間入り、今までの仲間や嫁を冷遇し、嫁の精神が壊れそうになってから新しい妻として竜人族の女を勧められる。

 

俺は本気で逃げ出した。

 

俺の仲間も嫁を救い出すのに協力してくれた。

 

其処からは嫁が死ぬまで里とは違う場所で暮らしたりした。

 

「それでも、今ゼルが起きた時、本人の間違いで殺されたら本人は後悔するぞ。」

 

「・・・。」

 

良いなぁ、俺はもうかなり老人だ、刀が無くなればすぐにでも寿命は来るだろう。

 

老人としては若い子供達の恋路を応援したい。

 

「もうすぐ私は死ぬ、そうなれば人間であるゼルは攻撃の対象となりうる、その時は全力で逃げろ、竜人族は元々排他的な種族だぞ。」

 

「・・・分かりました。」

 

ーーーーーーーーーー

次、次、次、次。

 

「まだだ。」

 

「お前は何故戦う?」

 

「まだだ。」

 

「何の為に。」

 

「まだだ。」

 

「力は英雄と呼べるほど強くないだろう。」

 

「まだまだ。」

 

「どれほど強さを望んだとしてもその身体では強くなれないぞ。」

 

「まだ。」

 

「分かっているだろう?」

 

「まだ!」

 

「それでも争うのか。」

 

「まだだ!!」

 

「愚かな。」

 

「まだだ!!」

 

「・・・化け物め。」

 

俺が俺を切り裂いた。

 

そして目の前が真っ暗になった。




書いてて何処かで見た事あると思っている。


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起きた

起き上がると目の前に冷夏の顔がどアップで見えた。

 

思わず頭を上げてしまい、額に衝撃と痛みが走った。

 

「いったあああああ!!?」

 

頭を抑えて転がる。

 

「ちょっ、冷夏、無事か!?」

 

冷夏は笑顔のままで気絶していた。

 

「待て、落ち着け、どういう事だ、何で冷夏が・・・。」

 

周りを見ると和室の一室、と言うか、俺が転生者に与えられた部屋だった。

 

「魔族の侵攻はどうにかなったみたいだな。」

 

人の気配はする、俺が知らない間に殺し回ったという事はないようだ。

 

「転生者は何処だ、せめて、あいつの無事だけでも・・・ッ!」

 

身体の痛みが凄まじい、ミシミシと音を立てるくらいだ。

 

「ゴフッ。」

 

口から血が出る、オイオイ、俺の消耗はほとんど無かったはずなんだが?

 

『主人様。』

 

「誰だ。」

 

『・・・貴方様の武器でございます。』

 

「・・・妖刀かよ・・・何の用だ?」

 

『貴方は、私を従える事に成功しました、その結果、自己の強化が出来るようになっています。』

 

「・・・おいまさか。」

 

『この世界で貴方だけ、いえ、転生者としては現在貴方だけがレベル制になりました。』

 

「ファック!」

 

『ちなみに、貴方のレベルは現在1です。』

 

「分かってるよこの野郎!」

 

『魔族たちの平均レベルが40程度の強さとなっているのでどうぞ参考にしてください。』

 

「この世界なんかおかしくないですかねぇ!?」

 

『私は妖刀と言われていますが実際は神器に近い物ですので、人の身体を変える事など容易です、聖霊よりも権限は上ですので。』

 

え、何?災害よりも権限上なの?そんなのもう要らなくね?

 

『私たちの本質は変化、自然が持つ全ての変化を司る聖霊です。』

 

「お前も同類かーい!権限上・・・上か。」

 

『因みに名前はありませんのでお好きにどうぞ。』

 

「お前案外良い性格してんな?」

 

『私は常に変化するのです、性格などいくらでも変わります。』

 

「ああ、そう。」

 

妖刀を掴むと俺の身体に生じていた痛みは消えた、俺の身体が妖刀の言う通り変化したのだろう。

 

「ああ、またレベル上げの始まりだ。」

 

『因みに、レベル制とは言っても、熟練度ごとに能力値が上がるのでクソめんどくさいですよ。』

 

「何で君そんなクソめんどくさい仕様にしたの?ねえ?」

 

『スキル制ではないのでそこは安心して下さい。』

 

「そっちの方が良かったまであるんですけど。」

 

俺が妖刀を鞘に入れると疑問に気付いた。

 

「待て、お前さっき何処から現れた。」

 

『貴方の身体の中ですが?』

 

そっかー、そっかー、遂に俺も本格的に人外化が進んで行ってるんだなぁ。

 

「・・・そうか。」

 

「鞘も?」

 

『はい。』

 

「ありがたいと思うようにしよう。」

 

『それが良いかと、それはともかく、周りの状況を理解していますか?』

 

「してるよ・・・全く、仕方無いからしょうがない。」

 

『そうですか、では、私の力を使いますか?』

 

「使わない、出来うる限り使わない、お前は切り札だ、それを簡単に出してたら意味が無い。」

 

『わかりました、では、刀としての私を使って下さい。』

 

「名前は紅黒龍な。」

 

『了解です。』

 

改めて感覚を研ぎ澄ませる。

 

周りには10人ほど、俺の持っている妖刀を警戒していると言うよりかは、妖刀で変質した部分を見極めに来た、と言うところだろうか。

 

「さて、一応聞いておく、侵攻はどうなった?」

 

「・・・。」

 

「だんまりか、まぁ、お前らがいるならばきっと凌げたのだろう、だが・・・妖刀に囚われたはずの俺のところに、何故冷夏を送った。」

 

「・・・。」

 

「まぁ良い、おそらくどんな結果になっているのかも予想はついている。」

 

竜人族たちは各々の武器を構えた。

 

「弱い俺で何処までいけるかは分からんが、押し通る。」

 

妖刀、紅黒龍を構えて、突貫した。




隻狼早くやりたいんじゃあ。


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悲しいね

はい皆さん、今私はお縄です、前と同じ強さじゃないこと忘れてたわ、あっという間に捕まって悲しいくらい落胆されたよ。

 

止めてよ、イキってる子供みたいだっていうのは分かってるからそのお前なんで戦いを挑んできたの?みたいな目をするの止めてよ。

 

「死にたい。」

 

「止めろ。」

 

「ハイ。」

 

俺が縄で雁字搦めになって連れて来られたのはどでかいソファの置かれた族長室だった。

 

王城なら謁見の間に当たるこの部屋で優雅に寝転がっていたのは転生者だった。

 

「どうも、ゼルです、自信満々に突っかかってあっという間に捕縛されました。」

 

「ブフッ。」

 

転生者め、噴き出して笑いを堪えてやがる、テメェぜってえゆるさねぇ。

 

「変わらないようだな?」

 

「ハッ、簡単に変わってたまるかよ、たった一億回くらい死んだだけだ。」

 

「桁おかしいって分かってる?」

 

「気にするな!」

 

「・・・そうか、変質した部分って把握してたりするか?俺の兄は精神ぶっ壊れてたが。」

 

「えっとだな、最悪な事に弱くてニューゲームだ、この世界で俺だけレベル制になりやがった。」

 

「うわぁ。」

 

「魔力だけはかなり潤沢になったのはありがたいが、俺は魔法を使えねぇんだよ!せめて魔法を使えるようにしてくれないですかねぇ!?」

 

「ああ、試したんだな。」

 

「ああそうだよ!自信満々に魔法名唱えてやりましたよ!魔力すら動かなかったね!ファック!」

 

「面白すぎて死にそう。」

 

お前あとで絶対一発入れてやるからな・・・。

 

「まぁ、その関係で俺は人間より少し強い状態になった訳だ、あとは妖刀と話せる。」

 

「そうか、妖刀と話せるか、ならばあとは安心だな。」

 

「やっぱり知ってたな?」

 

「この身に宿してからはずっと共に居たのでな。」

 

「そうか。」

 

転生者は少し寂しそうにしていたがすぐにもう一つのことを話し始めた。

 

「この話はここまでにしよう、魔族の襲撃についてだが、撃退は成功した、こちらの被害は2割、民間人もかなりの数をやられたが里が壊滅する程ではない。」

 

「彼方さんは?」

 

「お前の活躍のおかげで魔族は半分程死んだようだ、魔物はかなりの数を逃したがな。」

 

「そうか、少し強い魔族が司令塔だったんだろうな。」

 

「それの事なんだが、その魔族は転生者だ。」

 

・・・ほう?

 

「腕が同じだったか?」

 

「ああ、結婚指輪をしていたからな、向こうではそんな風習はない。」

 

「・・・。」

 

「思う所はあるだろうが、あやつの事だ、仕方なしとしてくれるやもしれん。」

 

「知り合いなんだよな?」

 

「うむ、その指輪を渡しておこうか?」

 

「・・・そうしてくれ、悪かったとも。」

 

「・・・気が変わった、お前が持っておけ、俺ももう歳だいつ逝くかも分からん。」

 

「・・・了解。」

 

俺を見た瞬間に決死の覚悟で殺しに来る気しかしないんだが?

 

「もう良い、こやつは解放せよ、少なくとも私の知るこやつだ、危険性は無い、近くの獣狩りに同行させよ、こやつはそれだけで強くなろう。」

 

ありがてぇ。

 

ーーーーーーーーーー

大馬鹿者が無事に戻って来た。

 

「助かった・・・か。」

 

「長!」

 

薬も抜けて来た、効果時間ももう無くなり始めている。

 

「良い、元より私はあの刀の力で生き永らえたも同然よ、元の理に戻りつつあるだけ、今までが不自然過ぎたのだ。」

 

「・・・ですが。」

 

「お前も私の子孫だろう、しゃんとせい。」

 

「恐らくは、夜明けには死ぬ、それまでは、静かにさせてくれぃ。」

 

記憶が蘇る。

 

兄は素晴らしかった。

 

努力を認め、血を認め、才能を認め、そして自らにその全てがあると自覚し、その上で全てを利用し強くなった。

 

それが狂ったのはいつからだろう。

 

『自らの全てを用いても、私は何も救えない、ならば私は外敵を全て殺しつくす。』

 

『それが自分の兵!自分の家臣!自分に従う全ての人々を殺しつくすことか!?ふざけるな!何故だ!?他人を傷つけてはならないと言ったのは貴方のはずだ!』

 

『私はたった一つの槍でいい、誰かを守るのはお前の役目だ。』

 

『貴方でも守れたはずだ!竜人族の族長である貴方なら!』

 

『私では無理なのだ。』

 

『こ、この・・・大馬鹿野郎!!』

 

『私もこの通りのザマだった、俺も!この通りのザマだった!』

 

『・・・まさか、妖刀を、使ったのですか?』

 

『化け物を倒せ!お前は!それが出来る英雄であるはずだ!』

 

『ふざけるなあああああ!!!!誰が家族殺しを強要する兄がいる!?何処に!そんな事があってたまるものか!俺は・・・俺はこんな事のために生まれ変わりたかったわけじゃない!』

 

『ギャアアアアアアア!!!』

 

『クソッ!クソオオオオオオ!!!』

 

「私は生き過ぎた、此れからは安心して後を任せられる。」

 

「・・・。」

 

ああ、もう直ぐ其方に行けるよ、エマ。

 

そして、兄にも俺にも出来なかった世界を救うという偉業を、任せた。




翌日に聞いた話だ、転生者は死んだらしい。

その死に顔を見たが、晴やかそうだった。

怖いなぁ、辛いなぁ、誰かの期待を背負うのは、誰かの命を背負うのは、だが、やるしかない。


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クソッタレのレベル制

『レベルが上がりました、現在のレベルは3です』

 

「ファック!」

 

竜人族の里の周辺の獣、それだけならば問題など無かった、竜人族は滑空出来る上に身体能力もリザードマンと比べれば雲泥の差であるという事実が俺を勘違いさせていた。

 

更に転生者の言った獣狩り、狩りという言葉にも騙された。

 

俺が居るのは山の中腹、そこにポツンとある平原だ。

 

「全員一体ずつだ!力づくで奪い取れ!」

 

そこで行われる獣狩りとは。

 

「ギャアアア!!」

 

ドラゴン狩りだった。

 

正確にはドラゴンではなくワイバーンだ。

 

「どっせい!」

 

「そこぉ!」

 

周りの竜人族達は飛んで跳んで横から掠め取ったりワイバーンを落としたりして居る。

 

「ぬおお!?あっぶねぇ!」

 

ワイバーンに鉤縄もどきを作って引っ掛けて移動しているのだがそれのせいで俺が群れのボスに狙われていて油断も隙もねぇ。

 

ボス自体は多分タイマンならなんとか倒せるかもしれないというところだがいかんせん雑魚の数が多過ぎる。

 

「どうした?群れのボスだぞ?やらないのか?」

 

「出来るわけねぇだろふざけんな!」

 

群れのボスも同じワイバーンとは言え他のワイバーンの数倍は大きいのだ、油断していたら一噛みで死ぬ。

 

近くのワイバーンに乗り、すぐに移動する。

 

スタミナを余り気にしなくて良いのは助かるが足場代わりが減る一方なのが一番不味い。

 

ワイバーンの群れのど真ん中に誘い込まれているので抜け出そうにも抜け出せない。

 

「仕方ない、被弾覚悟で降りるぞ!」

 

『了解です、死なないようお祈りください。』

 

ワイバーンから地面に向かって跳ぶ。

 

蹴られた衝撃でワイバーンが消し飛んだようだ、血が足に付いていた。

 

『レベルが上がりました、良かったですね、ワイバーンを3体同時に倒したようですよ。』

 

「嬉しくねぇっての!」

 

平原に降り立つと俺の正面にワイバーンのボスが降り立った。

 

「ちょっ!?」

 

ワイバーンは大きく口を開けて突進して来ているので回避するしかない、無いのだがここは崖に近い、木よりも大きなワイバーンが戦闘をすればすぐにでも崩れるだろう。

 

「こなくそっ!」

 

鉤爪をドラゴンに向かって投げる、と同時に横に走り去る。

 

身体強化をフルに使っての全力逃走だ、そう簡単には捕まらない。

 

俺を追いかけてきたワイバーンは翼に引っかかった鉤爪に気付かずに追いかけて来る。

 

平原から林に突っ込み、鉤爪についている縄を限界まで出し木に引っ掛ける。

 

「っしゃオラァ!」

 

ワイバーンが俺の目の前に来る頃には俺は縄と木による全方位を囲む檻が出来上がっていた。

 

「ニグレド!」

 

『了解。』

 

俺の身体が黒いオーラで包まれ、一気に加速する。

 

ワイバーンの全方位から斬りかかり、妖刀を振るうが悲しいかな、レベル制のせいでかすり傷くらいしか付いておりません。

 

「何で此処だけRPGやってんだろうなぁ!」

 

『諦めてください。』

 

もう良い!弱点狙う!クソッタレが!

 

ワイバーンが口を開けて俺を噛み殺そうとしてくるのに合わせて突っ込み、上へ飛ぶ、縄を掴んで急速方向転換し、下に加速し、ワイバーンの顔に着地する。

 

降りた速度が早かったせいでワイバーンの首から下が地面に叩きつけられたので俺はワイバーンの瞼を掴んで刀を差し込んだ。

 

目から大量の血が溢れ出し、俺の腕が血塗れになる。

 

「もいっちょ!」

 

刀を捻り、地面に降りながら両手で柄を掴む。

 

地面に降りるのと同時に強引に引き抜き、俺の身体が血塗れになる。

 

文字どおり真っ赤だ。

 

「最後にこれだ。」

 

刀で開いた目の中に特別配合なダイナマイトを設置し、爆破させる為に火をつける。

 

そして逃げる。

 

防水防爆防火、そして中には水に溶けやすい毒を撒き散らすえげつない爆弾だ、当然金もかなり掛かっているのでコレで死ななかったら大損な上に怒り狂うだけと言う諸刃の剣だ。

 

目論見は・・・どうなのだろう。

 

「なぁ、俺の目からは爆破しても普通に動き回ってる気がするんだが!?」

 

『私も同意見です、私は八岐大蛇のように体内に呑まれたくはないので死なないでくださいね。』

 

「分かってるよ!」

 

ワイバーンはかなりフラフラになっているが、下手に死に掛けたお陰で暴れ回って非常に危険だ。

 

「退避・・・出来ねぇ!鉤爪がねぇ!」

 

『最悪私が鉤爪もどきになりましょうか?2度と刀になれませんが。』

 

「本当お前良い性格してんなぁ!?」

 

という事で俺は走って逃げるしかなくなったわけだが、ワイバーンと目が合った。

 

「やっば。」

 

ワイバーンは俺を見つけると俺に向かって無理矢理突進してくる。

 

『生き残るには平原に戻るしかなさそうですが?』

 

「分かってる!」

 

平原までの道を忘れたんだよ!ナビゲートとかしてくれたら良いんですけどねぇ!

 

『私は刀です、道案内などは出来ませんよ。』

 

「ですよね知ってた!」

 

木があるだけまだマシか。

 

『いいえ、ナビゲート出来ます、先程ワイバーンの向こう側に平原が見えました。』

 

「でかした!」

 

それなら斜めに移動したほうが良いか。

 

そうすれば時間は掛かるが平原に戻れる。

 

「よし、希望は見えてきたな。」

 

『そうでもないようですよ。』

 

「は?」

 

辺りが急に暗くなった。

 

『退避を推奨します、特にワイバーンの近くから。』

 

その言葉が聞こえた瞬間にニグレドを発動してワイバーンから距離を取った。

 

ワイバーンは一瞬で何かに呑まれ、俺の目の前から居なくなってしまった。

 

「・・・。」

 

『これまた大きい蛇ですね、この怪物も餌を漁りに来たのでしょうか。』

 

いや冷静に観察してる場合じゃねえだろ。

 

俺の目の前に居るのは蛇だ、人ではなく、ワイバーンを丸呑みに出来る規模の大きい蛇、なのだが、ワイバーンを食べる瞬間に地面ごと抉っていった。

 

呆然としていると身体を掴まれ、急激に景色が遠くなり始めた。

 

「逃げるぞわっぱ!」

 

「是非そうしてくれ・・・。」

 

俺の目に映ったのは山を削って移動している大きな蛇だった。

 

俺たちの隣の山だと思っていたものは蛇だったらしい、背景になりそうなくらい大きな蛇がたまたま近くにいたワイバーンを食べたということなのだろう、理解したくないですね。

 

「今日の狩りは終わりだ、帰るぞ。」

 

よく見ると周りには牛などの動物やワイバーンの死体などを抱えている竜人族たちが居た。

 

「これだけあれば当分の間の食糧には困らない。」

 

「だから盛大にやったんだな、被害は?」

 

「竜人族を舐めるなよ、重症の奴が5人程度だ。」

 

「羨ましいよ、本当に。」

 

里に帰ると同時に冷夏に突撃された。

 

「ただいま〜。」

 

「ただいまじゃない!」

 

全身血塗れの俺を見て叫びそうになっていた冷夏は焦って俺の着ている外套を脱がせようと必死になっていた。

 

「待て待て、俺は傷付いてない、落ち着け。」

 

「この前はそう言って内臓傷付いてたじゃん。」

 

「あくまで外傷はだ、それのせいで1ヶ月くらい動けなかったのは忘れてないから。」

 

・・・そういう事だ。

 

今日の狩りは特別だった、レベルが2も上がった。

 

俺が!転生者が死んでから!もう2ヶ月も経つというのに!まだレベルが!4なのである!

 

これは切れますわ。

 

あのワイバーンも倒せればそれなりにレベルも上がったのだろうが俺の攻撃力が無さ過ぎた。

 

地道に倒せれば良いのだがそれをするにはこの世界は弱者と強者の違いが大き過ぎる。

 

「・・・明日は絶対に休んで。」

 

「分かってるよ。」

 

冷夏も過保護になって来たな。

 

いや、心配していると思い込む事で自分の心の傷を慰めているだけか?

 

『良かったですね。』

 

「・・・は?」

 

『あの大蛇、貴方の毒で苦しんでいますよ。』

 

「ファ!?」

 

『死ぬのに時間はかかるでしょうがあの大蛇が休眠を始めたので何れ糧になるかもしれませんよ。』

 

「オイオイ、嘘だろ。」

 

「どうしたの?」

 

「あー、言いにくいんだが・・・山みたいにデカイ蛇の魔物が俺の調合した毒で死に掛けてる・・・多分死ぬのにすごい時間かかるけど。」

 

「・・・暴れたりしない?」

 

「休眠に入ったって言ってるから、多分しないと信じる。」

 

マジで信じるしかなかった。




1ヶ月の鍛錬でレベルが1しか上がらない悲しみ。

クソ面倒くさいMMOですね間違い無い。


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試合

「ッシャオラァ!」

 

「ぬ。」

 

攻撃の隙を突いて後頭部にかなり深く入るが組手相手は少し痛い程度で済んでいる様だ。

 

「圧倒的に攻撃力が無いな、身体強化の比率を上げればまともな戦闘にはなるが・・・。」

 

「それだとレベルが上がらない・・・。」

 

頑張って今の俺のレベルは5に上げた、組手が一番危険が無い手段でレベルを上げられるがまぁまず上がらない。

 

『身体強化を使っていても同格の相手と戦う事が出来ればレベル自体はガンガン上がりますよ。』

 

「レベルの限界は?」

 

『ありません、謎の基準でレベルは上がります。』

 

「おいちょっと待てや。」

 

なんだ謎の基準って。

 

『因みに、レベルは乗算方式なのでレベルが上がるほど身体能力やその他の能力は化け物じみた事になりますよ。』

 

なるほど、レベル制も化け物か。

 

『貴方ならばほぼ完璧に制御出来るでしょうが、お気をつけて下さいね。』

 

「分かってるよ。」

 

妖刀はもう何も言わなくなった。

 

「いつ聴いても我等には妖刀の言葉はわからぬ様だな、今の会話も聞こえておらぬ。」

 

「俺の近くでしか話さないから俺が内容を話せば会話自体はできるのが救いか。」

 

「そうであるな。」

 

こういう時にスカルパラディンが来てくれたらありがたいが、あいつは今船の素材を集めに何処かへ行っているらしい、フランさん経由で手紙が送られて来るので彼方の状況もわかる。

 

「そう言えば冷夏、一度向こうに降りたんだよな、どうだった?」

 

「魔族が襲撃して来て少し大変だったみたい、三十人くらいの結構大きな集団だったみたいだけど少し強い侍が固まって戦ったら数人の被害で済んだって。」

 

「・・・さすが侍。」

 

元日本人の分際で何を言っているのかと思うだろうが侍は割と本格的におかしい。

 

何なら西洋鎧ごと切り裂いて来る剣豪が割といたりするのが一番怖い、一回そういう奴らと戦って国が半壊した事がある。

 

鎧を真っ二つに切れて一人前なんて修羅の国だったときはもう戦争する気すら起きなかった、向こう側が温厚的な種族だったのがどれだけ救いだったか。

 

鎧の保管庫を見て新人の侍がカカシ置き場ですかって言った瞬間思考が停止したくらいだ。

 

話を戻そう、魔族を相手にそのレベルが居るのなら魔族は劣勢だと思うだろうがそうでもない、四天王だの何だのと言われる様な幹部は大体アホみたいな強さなのだ。

 

通常攻撃がミサイルで本気の攻撃が核爆弾と言ったら分かりやすいだろう、そんなレベルなのだ、カルトの所の書物を漁ってみたが大体合っている。

 

下限がただでさえ高いのに上は巻き込み上等の被害なのだまともに動く事すらさせないレベルで無ければ周りが色んな意味で死ぬ。

 

だからこそ今回の侍については防衛向きではあるだろうが攻められれば恐らくすぐに陥落するだろうというレベルでしかない。

 

ただ、もしこの国に化け物がいた場合は話が違ってくる、刺し違えてでも良いのなら幹部の一人くらいは確実に葬り去れる。

 

戦力としてはこの上無く有難いものだ。

 

「・・・まぁそれは良いんだ、フランさんは何て言ってた?」

 

「船が出られるのは8ヶ月後だって。船が出来てから。」

 

「つまり結構切羽詰まってると。」

 

修行期間も少ないか・・・。

 

「なぁ冷夏「ダメ。」・・・。」

 

「山籠りしても良いか?でしょ?ダメ。」

 

「だがなぁ・・・。」

 

「私から一本取れたら良いよ。」

 

「お前の一本は気絶だろうが、だが良いのか?」

 

「そう簡単に取られる様な弱い女じゃない。」

 

冷夏は静かにそう嘯いた。

 

「なら、やって見るか?」

 

「勿論。」

 

ーーーーーーー

俺は今回刀を使わない、下手に武器を持つと懐に来られた時かなり対処が出来なくなる、今の身体能力では特に。

 

冷夏も拳を構え、静かに息を吐く。

 

「・・・始め!」

 

周りには門下生も多くいる、技量だけならばこの里でもかなり上位に食い込んでいる為、少しでも見ておきたいのだろう。

 

ドンッ!という音と共に冷夏が低い姿勢で踏み込む、そして突き手を繰り出してくる。

 

俺はその手を掴んで後ろへ倒れ込み、腹に蹴りを入れ投げる。

 

冷夏は地面に当たる直前で手をつき、体勢を整える。

 

「・・・どうしたの?来ないの?」

 

「さて、どうかな。」

 

構えを変える、顔の両隣にあるボクシングスタイルから右手を下げ、左手を顔の横に持っていく構えへ。

 

冷夏はステップを踏み、近づいて来る。

 

「こっちは力が無い、結構な長丁場になりそうだ。」

 

「よく言う。」

 

左手のジャブ、躱されて踏み込まれ、顔に向かって肘が飛んでくる。

 

右手で掴み、クルリと回転しながら逆に後頭部へ肘鉄を食らわせて体勢が崩れたのを確認して韻を踏む。

 

後ろに下がりながら両腕を振り、力を抜く。

 

「まだいけるだろう?」

 

「・・・!」

 

構え直し、最初から。

 

「私だって!」

 

冷夏が俺の顔に向けて手を広げ引っ掻こうとして来た。

 

俺は腰を深く落とし顔の位置を下げて頭の上を腕が通り過ぎたのを待ってから前傾姿勢へと変える、深く踏み込み、左手を冷夏の腹へ手を当てる。

 

そして地面からの衝撃を足に伝え、腰に伝え、胸に伝え、腕に伝える。

 

発勁を発動し、衝撃を全て内臓へ通した。

 

「かはッ!?」

 

冷夏が思わず腹を押さえる。

 

俺はその隙に足を振り上げ震脚を繰り出そうとするとハッと気がついたのだろうすぐに飛びのいた。

 

結果としてそれは正解だった。

 

俺の足が地面に当たると同時に床が轟音を立てて割れたのだ。

 

「どうした、もう少し気張れ。」

 

外野の門下生達はざわめいている、魔法を使ったのかと驚く者もいる。

 

だがこれはれっきとした技術だ、中国拳法というのはかなり頭のおかしいものも存在するからな。

 

「続きだ。」

 

踏み込み、顔に右拳をお見舞いする。

 

冷夏は首を傾けるだけでそれを避け、俺の腕を抑えに掛かった。

 

俺は右脚で膝の裏、膕を踏み、体勢を崩し、右手の肘を冷夏の頭に振り下ろした。

 

丁度額に肘が当たり、衝撃を脳に直接伝えることができた様だ。

 

冷夏はぼうっとしたまま力を抜いた。

 

「・・・。」

 

足をどけて俺が息を吐くと冷夏は地面に倒れた。

 

「一本。」

 

「試合終了。」

 

『レベルが上がりました、女の子殴って強くなるとか外道ですね。』

 

テメェ・・・!!!

 

『ですがやはり拳法の達人だったんですね。』

 

「・・・そんなわけ無いだろ。」

 

冷夏を抱えて道場を後にする。

 

冷夏を部屋のベッドに寝かせて少し息を整える。

 

試合とはいえ、敵じゃない女の子を殴るなんて久しぶりだ。

 

「手応えも良いもんじゃないな。」

 

『どさくさに紛れて胸触ってましたよね。』

 

「触ってねえよ・・・。」

 

『貴方の悩みは、どう考えてもただの考え過ぎです。』

 

「分かってる。」

 

『なぜただの試合にまで戦闘を持ち込むのです?』

 

「・・・昔、とても昔だ、好きな女の子が居た、その子は武術では俺よりも強くて、戦闘も強かった。」

 

『なるほど、死にましたか。』

 

「敵に捕まって強制的に体だけ操作されてな。必死に嘆願された、私を殺してくれと。」

 

『結果的に、貴方は?』

 

「殺した、この手で。」

 

『・・・。』

 

「今でも思う、他に何か手段はなかったのかと、俺は才能さえあれば命すらも操れる魔術を使える、いや、使えた、か、それを手に入れたのは、その次の世界だった。」

 

『貴方は幾度も転生を重ねているのですね。』

 

「俺の武術も数多くの先達からの習い事だ。」

 

『恨みはありますか?』

 

「無いと言えば嘘になる、怒っていないと言えば嘘になる。だがそれでも、前を向くしか無い。」

 

『・・・。』

 

「英雄の末路を知っているか?」

 

『ええ、とても。』

 

「『英雄の末路は悲劇』」

 

さすがは聖霊、よく知ってる。

 

「喜べ、俺の末路はどう足掻いても英雄だ。」

 

『ええ、喜びましょう、私が貴方を只人に落として差し上げましょう。』

 

「やってみせろよ、呪い刀。」

 

『知っていますか?呪い(のろい)という言葉は時に呪い(まじない)とも言うことを。私は貴方にとっての呪い刀になりましょう。』

 

「・・・ハッ、やっぱりお前はクソッタレの妖刀だな。」

 

『そう思いますか?妖刀はそう簡単に言うことを聞きませんよ?我が主。』

 

その言葉に俺はとても救われた気がした。




歪んでいるし拗れているし好きな相手にはヤンデレの発動する我らが主人公の過去、過去が重い分今の気持ちも重い。

末路は英雄、何て心地の良い言葉でしょうか。


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修行がしたかったです。

「よっしゃ、行ってくるわ。」

 

「・・・。」

 

冷夏はぶすっとしながらも何も言わない。

 

「取り敢えず3ヶ月位頑張ってこよう。」

 

「1ヶ月。」

 

「・・・了解。」

 

里から飛び降りる、近くの森までノンストップだ。

 

まずは何をするか、適当に洞窟に籠もるか?

 

「・・・最悪魔物の巣を奪うか。」

 

この辺りはワイバーンとかの割と中位から上の魔物が多い、単純に食べ物やらが多いからなんだがその結果獣人なども時たま里を開いたりしている、俗に言う隠れ里と言うものだ。

 

だからこそ、俺は気付かなかった。

 

「おん?」

 

背後から矢が飛んでくる。

 

「危な。」

 

「我等の里に何用だ?」

 

村?

 

「え、この辺り集落とかあんの?え、帰ったほうが良い?」

 

「・・・貴様・・・。」

 

俺の周りに炎の球が回り始める。

 

「おいおい物騒だな、何もんだ、お前ら。」

 

「知らなくとも良い、人間よお前はここで死ぬ。」

 

「待て待て、せめて言葉で話し合おうぜ。」

 

「言うことは無い。」

 

ああそう。

 

周りが霧に包まれる。

 

霧の中を炎と影が蠢きだす。

 

後ろと上、その次に右か。

 

背後に回った相手の顔に裏拳を当て、胸元を持って地面に叩きつける。

 

その次に上から奇襲を仕掛けて来た相手の武器は刀だった。

 

剣や槍じゃないだけマシか。

 

半歩下がって刀を避け、離れようとする相手の脛を斬りつける。

 

それに動揺したのか右から飛びかかってきた奴は力が入っていなかった。

 

刀を弾き飛ばし、地面に転がすと3人が数秒で倒されたのを見て周りから見ていた奴等が動揺する。

 

「あー、取り敢えず、俺は敵対する意思は無いです、と言うか人がいる事自体さっき知りました。」

 

「信じられるか!」

 

「ですよねー。」

 

不意に木陰から短刀を構えて俺に近づいて来る・・・子供?

 

「姫様!?」

 

「ファ!?」

 

「やああああ!!」

 

待て待て待て!?何でそんなのがここに居るんだ。

 

動きは読み易く、受け流しやすい軌道で攻撃してくれるため攻撃自体は受けないが、魔力が少しずつ吸い取られている。

 

「変な武器だな、魔力が吸い取られるのか。」

 

「クッ。」

 

「取り敢えずだ。」

 

手を叩き短刀を落として頭にチョップする。

 

「あうっ。」

 

「おいたはダメだ。」

 

周りからの殺意は高いが俺は彼等の言う姫様の姿を何とかじっくり見る事ができた。

 

そしてその姿は彼女に似ていた。

 

「・・・オリヴィア・・・?」

 

「違います、私の名前はタマモです!」

 

「・・・。」

 

妖狐族・・・幻術と火の魔法が得意な種族か・・・。

 

霧や炎を召喚していた相手とは、狐の耳があり、尻尾があり、全身か体の一部に毛を生やす人型の亜人、妖狐族だった。

 

もしかしてだが・・・オリヴィアも尻尾とか生えてたりするのか?人間の耳はあったが、どうなんだろう。

 

やばい、すごい気になる。




自分の命の危機より身内の体に興味が出るお年頃(白目)


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山籠り、したかったなぁ

取り敢えずだ、この姫さん、素人なのに何で俺の前に出て来たの?周りも殺気立ってるし、状況的に何しても恨まれる気がするんだけど。

 

「・・・良いか?お前はこの里の中でも地位が高いんだろう?そんなお前が戦闘をしているここに来たら周りはどれだけ心配すると思ってる?」

 

「で、でも私だってみんなを守りたいもん!」

 

「例えそうでも守り方は他にもあるんだぞ?例えば敵が二手に分かれて襲われていたらどうなる?前に出て守っていた筈の他の戦えない人達が襲われるかもしれない、少しは戦える奴もいるだろうがそれでも本職にはかなわない奴のほうが多いだろう?」

 

「・・・。」

 

「良いか?戦うのは危険だ、だがそれは他の誰かが負うべき危険を代わりに背負ってくれている、それを乗り越えるための訓練もしてくれている。お前が誰かを守りたいと思うのなら守ってくれるやつらを信じろ、自分を守ってくれる奴らができない事をお前が代わりにやれ、良いな?」

 

「・・・グスッ。」

 

静かに泣かれたんだけど、周りの奴等が殺気ヤバイし、ねぇ、俺なんか間違ってる事言ったか?

 

「説教は終わりだ、返すぞ。」

 

姫さんを近くの兵士に投げ渡す。

 

「・・・何が目的だ、人間。」

 

「俺への直接的、間接的な攻撃をしないでくれ、不可抗力は気にしない、それだけで良い。」

 

俺はそれだけ言い残して近くの木の上に移動する。

 

「1ヶ月くらい適当に修行してるから見かけてもできれば無視でよろしく。」

 

霧に紛れて姿を消すが何人かに捕捉されているようだ、気にせずに拠点探しをする。

 

道中に現れる魔物などは大きい個体が現れると倒している。

 

「洞窟か。」

 

『中には・・・いますね、魔物。』

 

「・・・マジか。」

 

少し中を覗いてみると中にはお腹が膨れた狼がいた。

 

「何の魔物だ?」

 

『さあ?私は魔物の名前など覚えませんし、時代によっても名称は変わると思うので。』

 

「まぁそうだよな。」

 

気が立っているようで唸ってきていたのでさっき狩った魔物の肉を遠くから妖刀で押してみる、毒を警戒しているのか食べない。

 

「仕方ないな。」

 

洞窟から外に出て石や木を集めて篝火を作る。

 

「この辺り火打石とか落ちてないよな。」

 

『落ちてないですね。」

 

「よし、火花起こすか。」

 

妖刀を引き抜いて乾いた枝を切る。

 

摩擦を使ってたまに出る火花で刀が燃えるので篝火に刺して火をつけた。

 

『まさか私が着火材になると思いませんでした、手入れはしてくださいね。』

 

「当たり前だろ。」

 

魔物の肉は食える奴だけ取ってきているので問題無い、木をナイフで切り、棒を幾つか作り、肉に刺していく。

 

焼き魚と同じ方法で肉を焼くと持ってる場所が脂とかで大惨事になるのだが近くに川があるのも確認したので問題無い。

 

肉が焼けると匂いも周りに充満し、動けない狼の目の前で食事を作るという拷問をしていることに気づいて申し訳なくなった。

 

「・・・あげるか。」

 

大きな木の皿を作る時間は無いので近くにあった大きな葉っぱを少し加工して食べ皿にする。

 

そこに串から取った肉を入れて洞窟に入る、塩もなく素焼きなので多分いける、はず。

 

唸り続けていたが皿を置いて妖刀で押し出すと唸るのをやめた。

 

「食いたいなら食え、食料は取ってきてやるよ。」

 

しばらくジッと見ていたが食べないので洞窟から出た。

 

木で枠を組み立てて獣の毛皮を上から被せるという突貫工事だが洞窟の中で寝ようが外で寝ようが大して変わらん。

 

そして俺は寝た。

 

朝起きると暖かいものが俺を掴んでいた。

 

暖かい・・・暖か・・・あた・・・暑苦しい。

 

「何が居るんだ?」

 

「んぅ・・・。」

 

・・・・・・。

 

俺は盛大に溜息をついた。

 

「何でお前と姫さんがここに居る・・・!」

 

俺のそば、というより俺にひっついて寝ていたのは冷夏と姫さんだった。




ハーレムだぞ、喜べよ。


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修行・・・したいです・・・。

「何で二人がこんなところに居るんだ・・・。」

 

冷夏も姫さんも何でいる、幻影とかじゃないよな。

 

二人の頭を撫でてみる。

 

本物だわ。

 

「取り敢えず、飯食うか・・・昨日の残りあるかな・・・。」

 

冷めていたが保存用に作っておいた干し肉はあった。

 

ただし、一つだけ。

 

「狼の分も取って来なきゃいけないから狩るのはでかい奴2体ってところか。」

 

「んぅ・・・。」

 

テントから這い出てきたのは姫さんだった。

 

「タクヤー、ハルトー、ご飯はまだですかー?」

 

「寝ぼけんな姫さん、起きたんなら火を見ててくれ。」

 

「んう?」

 

寝ぼけている姫さんを篝火の近くに下ろし、テントの中にいる冷夏を引き摺り出す。

 

「お前もさっさと起きろ、ていうか何でいる。」

 

「ん・・・お風呂。」

 

「ねぇよそんなもん。」

 

こっちも寝ぼけてら。

 

「おら、近くの川まで連れてくからそこから先は自分でやれ。」

 

姫さんは火を見ている為冷夏だけ先に川に連れて行く。

 

川もそれなりに危険なので冷夏を先に洗っておきたい。

 

服を脱がせて川に放り込む。

 

服をビシャビシャと洗いながら毛皮のマントを近くの木にぶら下げておく。

 

「・・・ゼル?」

 

「やっと目が覚めたか、ほれ、服の代わりだ。」

 

「き・・・。」

 

耳を塞ぐ、そして服を川から出しておく。

 

「きゃああああああ!!!?」

 

まぁ今冷夏は全裸だし仕方ないね。

 

ーーーーーーー

魔物を狩って戻ってくると毛皮を羽織ってブルブルと震えている2人が居た。

 

叫ばれた後驚いて様子を見に来た姫さんが足を滑らせて川に落ちたのだ、それのせいで女子2人は泣きながら毛皮を羽織っていた。

 

「ほれ、食え。」

 

魔物の生肉を洞窟の中に持っていくと狼は昨日の肉を完全に食べ尽くしており、生肉を鼻で突き返された。

 

「急にグルメになりやがって・・・。」

 

狼の目は完全に期待しており、俺への警戒など微塵もない。

 

「ちょろ過ぎる・・・。」

 

仕方がないので篝火で肉焼きセットのように部位ごとに焼いてから洞窟の中へと置いていくと数分もしない内に魔物全てを平らげてしまった。

 

「一食で一体か、中々食うな。」

 

「どうしたの?」

 

「ん?ああ、何かの魔物、餌与えたら懐いた。」

 

「ゼルって本当に目を離したらとんでもないことするよね。」

 

「お肉焼けましたよ〜!」

 

「飯の誘いか、すぐに行く。」

 

俺たちも肉を食べて腹を満たす。

 

「さて、飯を食ったところ悪いが・・・何でお前らがここに居るのか説明してもらおうか。」

 

「「・・・。」」

 

おずおずと冷夏が手を挙げた。

 

「私から言わせてもらいます。」

 

「おう。」

 

「竜人族内で混血の私が人間を連れてきたから魔族が来たという意見がありまして・・・。」

 

「・・・はぁ?」

 

何の関係があるんだそれ、いや、ある意味トラブル体質の俺が居るから間違ってはないのか?

 

「叔父さんが死んだのも遠因は私達だという老人方が予想以上に多く、ゼルが里を出た翌日に強制的に叩き出されました。」

 

・・・ほう?

 

「今の族長がやった訳じゃないからそこは安心してもらっていいよ。」

 

「・・・そうか。」

 

そして其処まで言うと妖狐族のタマモが手を挙げた。

 

「其処から先は私が!実はあの時私の兄も見ていまして!私への説教を聞いてもっと考え方を聞いて来いと言われて里からここに来ようとしたら途中で冷夏さんと会ってここまで一緒に来ました!」

 

「で、俺が寝てたから一緒に寝たと・・・。」

 

「はい!」

 

俺は遠慮無くアイアンクローをタマモにする。

 

「アビャアァァァァァァァァ!!?」

 

「来ることになった理由はまぁ良い、だが俺を起こすとかしなかったのか?」

 

「気持ちよさそうに寝てましたし、洞窟から狼が私を食べ物としてしか見てないような目で見てるんですよ!?怖いですよ!」

 

ギリギリと締め上げるとタマモは顔を青くして暴れ始めた。

 

「みゃって!待って!ストップです!このままだと頭パーンですよ!この綺麗な景色が血で汚れますよ!だから力を緩めてください!」

 

「・・・チッ、死体の処理が面倒か・・・。」

 

「待ってください、もしかしてそのまま殺す気でした!?」

 

「冗談だ。」

 

「あなたが言うと冗談に聞こえないんですよ!」

 

「それで?お前は社会勉強に出てきたって認識で良いんだな?」

 

「はい!」

 

・・・まぁ、こき使ってやるか。

 

「冷夏はもうこの際仕方ない、1ヶ月後に襲撃かまして戦士共全員のしてから帰ってくるわ。」

 

「分かった、叔父さんの為にも被害は無しでお願いね。」

 

「分かってるよ。」

 

・・・3人分のベッドとか必要か。

 

「今日もまた突貫工作か。」

 

「私は・・・いっしょでも構わない・・・よ?」

 

「裸を見られて泣き叫ぶ奴が何を言うか、変な意地を張るな。」

 

「2人は付き合っているのです?」

 

「付き合ってねえな。」

 

取り敢えず素材さえあればログハウスくらいは作れるか?

 

こちとら技術だけは豊富にあるんだ、増築を考えないログハウスくらいならば何とかなるだろう。

 

問題は木を切ったり運べるのが冷夏と俺以外いないことか、労働という一点において姫さんは役に立たない、一応火の適性はあるから血さえもらえれば火種は作れるからそれで我慢だな。

 

「幸い洞窟の近くはそれなりに広い、キャンプ場位なら少し木を切れば作れなくもない。」

 

「ゼル?」

 

「ゼルさん?」

 

「修行は後回しだ、個人部屋は期待するなよ。」

 

「「え?」」

 

周りの木をなぎ倒すぞ。




隻狼でラスボスが倒せねぇ!3ゲージまでは行けるからあとは運が絡むかなぁ。

みんな何で3週目とか行ってんすかね。

こうなりゃ無心で攻め力ガン上げしてやる。


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家造り

木を切り倒し、荷物を運ぶこと半日、設計図も無いので枠組みだけまずは作り、扉は狼の牙を使って釘とし、扉設置する。

 

床もまっすぐ縦に切る必要があるので苦労した、それなりに大きい気で無いと使えない為だ。

 

建築を進める過程で幾らかの魔物を討伐し、トレントという木の魔物の群れを見つけたので五体ほど討伐させて貰った。

 

そして家が完成してしまった。

 

「よし、こんなもんか。」

 

「「・・・。」」

 

冷夏と姫さんは言葉を発するほどの気力すらも無くしてしまったようですぐに寝そうになっていた。

 

「お疲れ、明日になったら次は布団とかを作りに行くぞ。」

 

2人は身を寄せ合って毛皮を羽織って寝てしまった。

 

石が積まれているところで寝たので明日は体がバキバキだろう。

 

「・・・良し。」

 

トレントの体は魔物だけあってかなり魔力を通しやすくなっている、コレで護符を作ってみたくなったのだ。

 

魔法陣を書き込むとすぐに魔法陣が光り、小さく種が出始めた。

 

種はすぐにトレントの体を覆い尽くし、水を出し始めた。

 

「・・・。」

 

確かに水を出すように作ったがこんな風になるのか。

 

次は火を出させてみよう。

 

種が出る前に炎が発射された。

 

「待て、まさかこれ一つで何回も使える?」

 

魔法陣を追加することなく一度だけ念じてみると小さくはあるが多種多様の魔法が発射された。

 

「ハハッ、コレは・・・」

 

ある魔法陣を描いて割ってみると俺の隣から木が出て来て正面5メートルほど先で交差した。

 

「当たりだ、コレはいけるか、切り札兼常用戦闘手段。」

 

その代わり、紙のものより使いやすく、再利用しやすい物ではあったが割って使うのはやめておいたほうが良いだろう。

 

嵩張りやすい、それがこれの一番厄介なところだ。

 

『レベルが上がったことによるブーストが掛けられているので急激なレベルアップ時はお気を付けください。』

 

「レベルブーストまであるのか、なら使えるな。」

 

隙を埋める為に使えるというだけで儲け物だ。

 

翌日、早めに起きて支度をする。

 

妖刀を掴んで一度だけ居合斬りをする。

 

「・・・よし。」

 

『何かの確認ですか?』

 

「ただの感傷みたいなものさ。」

 

飛び上がり、木を足場にして走り出す。

 

向かうのは川を少し遡ったところ、昨日少しだけだが大きな魔物がいるのを確認している。

 

今は朝日がで始めたばかりだ、いるとしても腹を空かせている。

 

生物は腹を空かせていると凶暴になる、その状態のほうが強いことも往々としてある。

 

「さて、輪郭だけだったが居るのかな。」

 

川の岸辺を歩いていると滝の上に魔力の反応が出て来た。

 

殺気を感じた様に全身がチリチリと騒ぎ、すぐにその場から飛びのいた。

 

飛びのいた瞬間俺のいた位置に雷が落ちた。

 

「早速やって来るか。」

 

滝の上に俺を見下ろす様にして堂々と立っている魔物が居る。

 

二つの角をもち、前足が太く、4足歩行の魔物だ。

 

俺が知っている中で一番近いのはジンオウガ、だろうか、勿論違うのだが雰囲気はその辺りと似ている。

 

「・・・。」

 

『・・・。』

 

目が合った。

 

さて、やれるかな。




戦闘開始、因みに相手のこの魔物、この辺りでは少し強い程度の魔物です。

モンハンで言えば下位のティガレックスとかナルガクルガ当たりでしょうか。

最上位は勿論フロンティアですよ、化け物揃いにしてしまったな。


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戦闘開始

雷って事は水場はかなりまずいかもしれない、少なくとも狙った場所に雷を落とせる程度の能力は持っているのだ、そう簡単に逃してはくれないだろう、川の水なんて純水とは程遠いのだから。

 

走り出す、身体強化など初めから本気だ、ニグレドは継戦能力に乏しい、アレは時間を測ってみれば1分も戦闘出来ない。

 

雷が落ちる直前にチリチリという感覚が働くのでそれで判断する。

 

なかなか死なない俺に業を煮やしたのか滝から降りて此方に突進しようとしている相手に割り符を使って石の槍を地面から生やした。

 

かなり太い物を生やしたが弱い部分に少しだけ刺さっただけの様だ、迎撃は不可。

 

「次。」

 

魔物は腕を振り上げて地面を割る威力の叩きつけを繰り出してくる。

 

飛びのいて前を見る暇も無く上に飛び上がる。

 

少し前まで俺がいた位置に魔物の尻尾が通り過ぎる。

 

「チッ。」

 

魔物の身体に雷が溜まっていく。

 

やってることが大体予想通りという事は・・・。

 

鉤縄を投げて移動する。

 

予想通り雷を周りに撒き散らして攻撃していた。

 

周りを見渡しても俺が居ないので油断したのだろう、警戒を解いて俺に背中を見せる。

 

俺は背中に飛び移り、俺が背中にいることに気付いた魔物はやたらめったらと暴れだした。

 

暴れる魔物の背中を走り顔の周辺に到達した後目に妖刀を差し込む。

 

咆哮と共に吹き飛ばされ近くの木に全身を強打する。

 

「げほっげほっ・・・。」

 

動けなくなっている暇ではない、すぐに動かなければ死ぬ。

 

飛び退く為に足に力を入れるが足に力が入らない。

 

「チッ。」

 

鉤縄を使ってターザンの様にその場から移動する。

 

だが俺が思ったほどの強敵ではなかった様だ。

 

と言うか、運良く脳に突き刺さったのだろうか。

 

魔物は動かなくなっており、倒れていた。

 

「・・・。」

 

死んだ振りなどのもあるので近付いて確認して見るが確実に死んでいた、念には念を入れて首も頑張って落としたがその間も無抵抗だった。

 

『確認しました、レベルが上がりました、死闘になっていればレベルは3ほど上がっていました。』

 

「割とピンチだった気がするんですけどねぇ。」

 

『ですが順調ですね、未だレベルが6であるというのを鑑みても貴方は格上殺しが得意の様です。』

 

「待て、いつの間にレベルが1上がった?」

 

『ワイバーンの時ですかね、目に差し込んで殺すというのが手段になっているのでもう暗殺者ですね。』

 

「自分の今のレベル的に最終的にどんな感じになるんだ?」

 

『さぁ?取り敢えずレベル100になった時には魔王以外の魔族ならばそれなりに単騎で倒せる、と言ったところでしょうか。』

 

「因みに、魔王相手だと?」

 

『単騎という事でしたら追い詰めは出来るけど倒せはしないと言ったところでしょうか、生き残るだけならば十分できます。』

 

人類最強格の完成だな。

 

『勇者は基本的に複数回の復活で削っていく様な人ばかりなので参考にしない方がよろしいかと。』

 

「ゾンビかよ。」

 

魔物を引きずるにも体が大きい。

 

「体感7メートルか、食い尽くすにも数日かかりそうだ。」

 

『そもそも移動が出来ないのでは?』

 

「止めろ。」

 

血抜きだけでも頑張るか。

 

冷夏と2人で何とか家の近くまで運び込んだ。

 

数十ブロックも出来たが川と爪と骨は残して工房作りを開始した。

 

工房作りと言っても武器の整備やアップグレードなどが主な作業だ、妖刀も魔物の素材を使用すれば勝手に切れ味やら何やらが上がるので完全にハクスラか何かをしている気分になる。

 

一応ではあるが竜人族の里で魔物の分布を確認して来ているのである程度のエリアと生息域は分かる、族長が言うにはまだ弱い方だそうだが。

 

この辺りの魔物を借り尽くすくらい頑張らないといけないかもしれないな。



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狩り

俺だけなら修行と言う名の修羅道まっしぐらなんだが冷夏や姫さんがいるお陰でそうならずに済んでいる。

 

効率は落ちるがそれでも感情が死なないというのはありがたいと思う。

 

姫さんもいつの間にしか狼と仲良くなっている様で最近は少し歩かせたりもしている、飯を運んでいる関係で狩りをする必要が無いのだから動かなくても良いと思うのだがいつの間にか2人で近くを歩いている事がままある。

 

『レベルが上がりました、8です。』

 

『レベルが上がりました、9です。』

 

『レベルが上がりました、10です。』

 

少し調子に乗って大物と戦っている。

 

正直に言おう、やらなきゃ良かった。

 

「ッシャァ!」

 

相手はデカイ蜂の女王だ、飛ばしてくる毒も数種類、デカイ上に配下の数も尋常じゃなく、その全てが連携を取ってくるせいで防戦一方にならざるを得ない上に飛ばしてくる針や毒に加え鱗粉も毒の様で息苦しくなってくる。

 

かれこれ二日間ほどずっと闘っているが未だ群れの3割を倒した程度なのだ、その数と気の抜けなさが分かるだろう。

 

どいつもこいつも火や魔法にめちゃくちゃ弱いのを見るに魔法使いが50人いれば安定して倒せると言ったところか、大物ではあるが対処できないほどではない。

 

が。

 

物理装甲が異様に硬すぎるせいでまともに倒せねぇ・・・!

 

折れない刀でマジで助かったと思う、下手したらそこらの鉱物より硬いぞこれ。

 

女王自体はそこまで硬くない、と言うか多分アレ小さい刃物でも傷付くんじゃないのか?

 

出て来る血液も飛ばしてくる鱗粉もその全てが毒だという事に目を瞑ればすぐに近付いてすぐにでもやれるだろう。

 

既に片腕が溶けて無くなっているのを無視すれば。

 

一度背中に降り立って刀で斬り裂いたのだ、斬り裂いた場所から血液が飛び出て俺の腕を溶かし切りやがった。

 

何処かに弱点があるはずだがその何処かの場所すらわからない。

 

一撃で仕留めるにも配下の数を減らさないとまた張り付く事すらできないと判断したのが戦闘が始まって数十分ほどだった時だ。

 

そろそろ限界が近づいて来た。

 

『身体強化をしたとしても離れる前に酸の雨が降り注いで死ぬ未来しか見えませんが?』

 

「分かってる。」

 

『レベルが上がりました12です。』

 

「このまま50くらいまで上がらない?」

 

『難しいかと、ここの狩場では全ての魔物を借り尽くしても40位だと思われます、この蜂の様に苦手な魔物でも無い限りは、ですが。』

 

空中だから薙ぎはらったりも出来ない、面倒臭い。

 

「撤退は出来ると思うか?」

 

『恐らく無理です、単純に移動スピードが違います。』

 

「だよな。」

 

妖刀を持っているだけだが使わないよりマシか。

 

「転生者にやった手段は?」

 

『アレを使うと数日はまともに動けませんが、それでも良いのですか?』

 

「構わない、やろう。」

 

妖刀が俺の腕を這いずり身体を覆う。

 

始めての手段だがこれはたから見たらアレだよな、ボスの第二形態とかそんな感じだよな。

 

呑まれた腕がグズグズになって行く感覚と身体の感覚が無くなっていくのを感じる。

 

指すら動かせず、少しの浮遊感を感じて暫くすると視界が晴れた。

 

「いだっ。」

 

地面に放り出され、顔面から落ちる。

 

思わず手をつくと両腕がある事に気づいた。

 

「オイオイ、マジかよ。」

 

溶けた皮膚も指がなくなっていた手も膝から下が溶けて消えていた足も全て完全に治っていた。

 

代わりに竜の鱗の様なものが腕を覆っていた。

 

『使用出来る時間は少ないと考えてください、悠長に考えてる暇はありませんよ。』

 

「よっしゃ!なら一撃で終わらせよう。」

 

魔力を纏わせると炎が噴き出た、これは便利だな。

 

「薙ぎ払え。」

 

炎を掴んで振り回すと十字架の様な剣が出来上がり周りをチリすらも残さず焼き尽くした。

 

女王は生き残っている、女王は魔法防御が強いのか。

 

「好都合だ。」

 

飛び上がり、空気の壁を蹴る、それだけで方向転換には充分であり、すぐに女王の顔面に着地した。

 

「『逃がさんよ。』」

 

拳を振り上げて思いっきり殴り飛ばした。

 

衝撃が強かったのか地面へと落ちていく女王に追い付こうと走る。

 

「解除しろ。」

 

『了解』

 

元の体に戻っても足とかは戻っていた。

 

「奥義『一刀千刃』」

 

女王の身体が切り刻まれて血が大量に噴き出る。

 

女王の血で山が平らになっていく。

 

「・・・地形破壊が当たり前なのはキツくない?」

 

『選んだのは貴方ですので。』

 

「因みにレベルは?」

 

『レベルが上がりました、現在レベル15です。』

 

「やべえ、全然上がってないと思うべきか短時間でこれくらいあると見るかで結果がちげえ。」

 

『頑張って下さい。』

 

畜生。



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お姫様の言い分

「ああああああああああ!!!!」

 

机に向かって本を読んでいた姫さんが唐突に叫び始めた。

 

お陰で組手をしていた俺と冷夏がビックリして動きが止まった。

 

「・・・どうした?」

 

「どうしたじゃないですよ!私もうずっと机に向かって暗記してるだけじゃないですか!」

 

「・・・ああ。」

 

「良い加減精神死にますよこんなの!なにか仕事をください!」

 

ん〜と言っても狼の餌やりも姫さんの仕事だしなぁ。

 

「手に職つけると言っても器具もないし、どうしようもなくないか?」

 

「なら拠点の整備をさせて下さい!」

 

「整備と言ってもだな。」

 

周りを見渡すと中心の広場を囲む様に工房、家、洞窟の入り口、更には川の水を運んで来てシャワーの様なものも出来ている。

 

これで整備とか言われてもな?

 

「・・・分かりました、ならこうです!」

 

姫さんが腕を振るうと姫さんの尻尾から子犬が3匹飛び出て襲いかかってきた。

 

「「!?」」

 

「みんな!追い込んで下さい!」

 

子犬たちは俺たちを囲んで1匹ずつ突撃してきた。

 

「オイオイ。」

 

裏拳を1匹に当てると手ごたえがあった、気絶。

 

俺が動けない隙に背後から子犬が飛んで来るが冷夏が俺を踏み台にして子犬を受け止める。

 

「わ!」

 

冷夏の胸はそれなりに大きいので眼福だな。

 

「よっと。」

 

最後の1匹が飛んで来るのをチョップで叩き落とす。

 

裏拳で気絶した奴も拾い、姫さんに投げ渡す。

 

「もう少しジグザグに動かしたほうが良いかもな、動きが直線的で分かりやすい、頑張れよ。」

 

姫さんは四つん這いになって涙を流していた。

 

「それはそうと姫さんよ、暇なら少しばかり護身術をやってみるか?」

 

「して良いんですか?」

 

「俺が帰ってくるときは大体重傷だしな、まともに動けないし、護身術の稽古程度で体壊すくらいギリギリなら冷夏が代わりだ。」

 

「私も!?うぷっ。」

 

犬っころお前実は気に入ったな?

 

「そうだ、取り敢えず、自分の身を守れる程度には慣れてもらわないと困る、という訳で。」

 

あくまで自然体でナイフを投げる。

 

ナイフは姫さんの胸に確実に刺さったが直後にポワンと音を立てて煙を出し、横に現れた。

 

「舐めないでください!」

 

「舐めてるのはお前だ。」

 

煙で視界が無くなったのもそうだが俺が移動した事も見えていない、背後から姫さんの頭に手を置く。

 

「何かを考えたいときはゆっくり休むか適度に運動するかだ。」

 

子犬を3匹集めて全員を起こす。

 

「1匹だけ気絶させたから2匹で良いや、よし、お前らの仕事はただ一つ、姫さんの尻尾を追いかけろ。」

 

「「えっ。」」

 

『ガウ!』

 

子犬2匹は待ってましたとばかりに姫さんを追いかける。

 

「なんでもう私より指示を聞くんですかぁ!?」

 

「力量の差って奴だな。」

 

姫さんも必死に逃げていたが時期に捕まって尻尾をボサボサにされていた。

 

「尻尾弱いのに・・・。」

 

「よし、お前らこれ毎日やって良いぞ、冷夏か俺が良しと言ったらやってくれ。」

 

「鬼畜ですか!?」

 

「分かった。」

 

「やべえ待って下さい、冷夏さん!もう少し優しく!出来れば3日に一回くらい・・・。」

 

「やるなら早いほうが良い、でしょ?」

 

「全員かかれ!」

 

『ガウガウガウ!』

 

「にゃああああ!!?」

 

平和だなー。




ほのぼの。


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共存

やったぜおい。

 

家畜になるかもしれない魔物を見つけた、問題はデカイこととかなり獰猛な事だ。

 

牛なのだが人くらいならば頭突きで死ぬ程度にデカイ。

 

その代わりに繁殖期、周りの動物に乳を与える事で守って貰い、かなり温厚になる。

 

問題は牛の数が少ない事と守る魔物の数が多い事なのだが。

 

「モー。」

 

此処にオスとメスの二体居ます、周辺には大型犬ほどの大きさの魔物達が俺たちを警戒しながら囲んでいる。

 

洞窟の奥に居た狼も牛から乳を貰っている。

 

そして。

 

「みんな並ぶのです、ゆっくりと飲んで良いですよー。」

 

姫さんはそいつらの引率をしていた。

 

「・・・あいつお姫様より調教師の方が天職なんじゃねぇの?」

 

「・・・同意。」

 

姫さんが全員に乳を飲ませ終えると木のコップに乳を入れて差し出してくる。

 

「・・・美味いな、家畜に出来ればどれほど良いか。」

 

「繁殖期以外は獰猛なので無理ですね、私達がいるので後2週間くらいは此処にいてくれますけど、そこから先は・・・。」

 

「まぁそうだよな、あと、あいつら目当てに結構な大物まで来てる事に驚きなんだが。」

 

広場の方に目を向けると何時ぞやのジンオウガが牛の近くで休んでいた。

 

「これ縄張りになったりしないよな、敵対関係になる筈の奴等が率先して協力してるのが一番信じられないんだが。」

 

「取り敢えずあれがいるうちは大丈夫だと思う、多分。」

 

というか姫さんが真面目に有能になってきた。

 

子犬達も尻尾に隠れられるサイズではなくなっているが俺達と共に食事などをしていた結果、親と違い体色が変わり、影の中に居られるようになった。

 

ちょうど3匹なので1匹ずつ影の中に入ってもらい、警戒をしてもらう事になっている。

 

「・・・ちょっと料理作るか。」

 

拠点を発展させている関係上質を求めるのは当たり前だ。

 

だから既に竃などの建築も済ませている、決して良いものは出来ないが個人で少し使う程度ならば問題は無い。

 

だけど問題が発生した、何かを作ろうとするたびに魔物達からの期待の目が凄まじい事になるのだ。

 

最初は肉だった。

 

焼けばまず俺たちが食う、その残りを食べた魔物が自分から魔物の肉を焼き始め、その食べ残しを食べた魔物が肉目当てに近づくようになった、果実などもそうだ。

 

その身を直接すり潰し、肉に振りかけるとそれなりに味に幅ができるのだがそれを食べた魔物達がいつの間にか倉庫に大量の果実を集めてきていた。

 

そんな事が数回繰り返された結果、彼等は自然を維持しつつ、破壊しすぎない範囲で贅沢するという事を覚えてしまった。

 

だが良い事もあった。

 

この森の近辺の村と交流を持つ事ができるようになったのだ。

 

牛の繁殖期から先はどうなるかわからないが食べ物やおもちゃを持っていれば魔物に襲われにくいと言うのが広まったのか死に掛けた商人がこの拠点まで彷徨ってきた。

 

これのお陰で鉄などの鉱物資源を手に入れる事ができるようになった。

 

・・・一番コレで信じられなかった事は魔物を倒すより魔物と共存したほうがレベルの上がりが良いという事だ。

 

今の俺のレベルは28、繁殖期が始まってまだ一月ほどだ、定期的に竜人の里に襲撃を掛けている分を考えても増えるペースが変わってないのはおかしい。

 

何でだろうな。



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護衛

「はぁ?村に来た商人の護衛?」

 

「うん、私達が魔物の素材を使って建物とか建ててるからどんな人物なのか知りたいんだって。」

 

「話すだけじゃダメなのか?まだあいつら居るから怖いんだろうが・・・。」

 

「・・・それが、ね、少し強い盗賊団が居るらしくて魔物達が来てくれるなら良かったんだけど無理だから・・・。」

 

「・・・わかった、取り敢えず行ってくる。」

 

「あ、私も行く、人は多いほうが良いでしょ?」

 

という事で、姫さんには叫ばれ、魔物達には無視され、村人達には少し怯えられた。

 

俺の姿は真っ黒な外套に黒い鞘の刀だ、物語なら完全に敵だ。

 

「森の賢者殿・・・でしょうか。」

 

「何だそれは?」

 

「いえ、見た事も無い物を作ると言われているので。」

 

「機能的には君たちが作っているものと変わらん。」

 

そうなのですかと商人が何とも言えない表情で動きを止める。

 

「それで?護衛する日程はおよそどのくらいだ?」

 

「最寄りの町までのルートを経由するので比較的短いのですが其処は盗賊団が居ます、もし盗賊に襲われ、その盗賊の捕縛などが出来ればその賞金の値段に応じて道具を買って貰い、買ったものが報酬となります、無論盗賊に出会わず、問題無く護衛が完了したとしても何がしかの道具は報酬として与えます。」

 

「・・・。」

 

チラチラと上から目線なのが気になるが・・・さて。

 

「報酬に異存は無い、だが、覚悟しておけ、俺を利用するならそれ相応のリスクは負ってもらう事になるぞ。」

 

「何ですと?」

 

「出立するまで時間はある、少しばかり指導しておこう。」

 

刀を引き抜き、商人の首ギリギリまで刃を入れる。

 

「アンタ、権力的にはかなり高い方だろう?護衛も位置が遠い、出来るなら真横くらいの位置に居られる位の奴を見つけておけばいい、そんな奴が1人もいないのならアンタは商人としては二流だよ。」

 

「・・・。」

 

「説教はここまでか、さて、護衛が無事に終わる事を願っているよ。」

 

刀をしまい、荷物を馬車に載せる、何か仕事はないかと辺りを見渡すと家の影から子供達が俺を見ていた。

 

冷夏は商人に頭を下げてばかりだ、焦りまくって周りが見えていない。

 

「どうした?」

 

「兄ちゃんは侍なのか!?」

 

何だろう、アルを思い出すな。

 

「いや、ただの旅人だよ、お前は?」

 

「俺はライ!兄ちゃん!俺に剣を教えてくれ!」

 

「・・・へぇ。」

 

刀を引き抜き、顔の目の前まで持っていく。

 

「剣は人を守るために人を殺す物だ、お前は、誰かを守りたいか?」

 

「妹を守りたい!母ちゃんは父さんが守るって言ってたから!」

 

「・・・良いだろう、なら、間違っても自分で決めた約束だけは破らないようにしな。」

 

刀をしまって馬車まで歩いていくと既に全員の準備が整っていたらしい、すぐにでも出発出来る用だ。

 

「俺が帰ってくるまで待ってろ、それまでは自警団で剣の基礎を習っておけ。」

 

「分かった!」

 

魔物との戦いももうかなりの期間していない、というか牛がいなくなってからも何体かは洞窟前に居座りそうな辺り魔物達も比較的おとなしい種類が多いのかもしれない。

 

「出発しますが、よろしいですね?」

 

「構わない、行こう。」

 

護衛する旅が始まった。




この主人公目的の途中で他の事やり始めること多くない?


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街に到着

「さて、取り敢えずの目標なんだが・・・。」

 

「ゆっくりしないの?」

 

「流石に少し位運動しないと体が鈍りそうでな。」

 

護衛中、ゆっくりと馬が移動している、遠目に魔物と戦っている冒険者が見えるくらいには安全な場所だ。

 

盗賊の襲撃ポイントなんかが分かれば逆に罠を張ったりも出来るだろうが、その場所でしか来ないということもないだろう。

 

弓なんかかあれば道中の食事くらいならどうにかなるんだが。

 

ん?

 

「待て、何で冒険者がここに居る。」

 

「はい?」

 

「た!助けてくれ!」

 

魔物と戦い、ボロボロになっている冒険者が助けを求めてくる。

 

「ああ、なるほど、そう言う手段か。」

 

馬車から飛び降り、刀ですれ違い様に魔物を斬る。

 

「ほれ。」

 

「た、助かった。」

 

冒険者は頭を下げてくるが、こいつは盗賊の手先、又は関係者の可能性があるので警戒しておく。

 

「お疲れ。」

 

「あ、ああ。」

 

馬車の上に飛び移り、周りを探す。

 

音の探知は閉鎖空間じゃないので出来ない、気を探る何て事は俺は仙人ではないので出来るはずもなし、だったら視線を感じるなんかになるのだが・・・。

 

「ビンゴ、観測1人か、他にも数人いそうだな。」

 

「・・・来る?」

 

「いや、どうだろうな、様子見しているのは間違いなさそうだが・・・。」

 

暫く此方も様子見段階と言ったところか。

 

ーーーーーーーーーー

3日後、何事も無く街に着いた、見逃した?だが俺や冷夏の周囲はともかく商人の周りや商隊の後ろを襲って逃げる程度の隙は作っておいたんだが。

 

「・・・。」

 

規模で襲撃するかを判断している?それとも向こう側に魔法使いなんかが居る?

 

「・・・とりあえず想像出来る範囲では間抜けではない、考えているかは別にして勘は鋭いかもしれない?」

 

「ゼル?」

 

「もしかしたら・・・だがそれをして何の利益が?だがもしそうだった場合・・・。」

 

「ゼル!」

 

「ヌォッ!?」

 

目の前に冷夏がいた、いつの間に。

 

「今日の宿は商人の人が用意してくれるらしいよ。」

 

「そうか、せっかく街に来たし何か覗いてみるか。」

 

「・・・タマモちゃん大丈夫かな。」

 

「・・・姫さん場合によっては魔改造とかしてそうで怖いなぁ。」

 

俺がそう言うと冷夏は静かに目を逸らした。

 

「・・・。」

 

冷夏の目が逸れたうちに宿の外観を見る。

 

「宿は結構綺麗な感じだな。」

 

「あ、そうだね。」

 

中もそれなりに綺麗だった。

 

「よし、取り敢えず武器屋かなんか見てある程度揃えるか、盗賊と戦うかもしれないなら色々と入り用だ。」

 

「それはあと!行くよ!」

 

「えちょ・・・。」

 

冷夏が怒っている、何でだ・・・。




本格的に投稿しなくなってきたのでリハビリがてら投稿。


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