兵器の本懐 (こたねᶴ᳝ᵀᴹᴷᵀᶴ᳝͏≪.O)
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沖縄・1
質はもはや問題ではない、とにかく数が足りない。そんな時、第二次世界大戦時の、"誰も乗っていない"兵器が現れる……
「来たぞ!」
沖縄県の南部、構築された陣地で兵士が叫ぶ。
その視線の先には、人類に敵対的な未知の戦闘体、
周囲の風景を反射する鏡面で陰影の見えないボディに、頭部のように乗っている赤い立方体。
奇妙なな姿のそれら、強いて言うなら蜘蛛に近い形状のUEの"戦車"、カマキリに近いUEの"
UEの陸戦兵器は、質の面ではそこまで強力なものではない。しかし、とにかく数が多い。
しかも、こちらの装備はそれ以下だ。歩兵用の装備や設置型の装備は揃っているが、現代戦の主力である人型機動兵器、GCSは一機もおらず、旧式の10式戦車やM1A2、雑多な車両が少数いるだけだ。
おまけに。
甲高い、奇妙な轟音が響く。ジェットエンジンの音とレシプロエンジンの音、それに古めかしいUFOの飛翔音を混ぜ合わせたような異音。
上空に、赤を先端とした鏡面の機体が現れる。
矢じり、ではなく、文字通り矢のような外見をしたそれ。UEの"戦闘機"だ。制空専門というのではない。マルチロール。
陸戦兵器と違い、UEの"戦闘機"は高い性能を有している。超高速で飛ぶそれは、瞬く間に陣地の目前までやってきて、急停止。
ヘリコプターのような動きに変化し、地上を狙い始める。
陣地にいた兵力は素早く壕などに隠れる。
"戦闘機"が機関砲を撃ち、がばりと開いた側面からロケット弾を発射する。設置されていたものの中から、対空砲や対戦車砲などが優先的に破壊されていく。
陣地の後方上空から飛んでくるものがあった。味方の迎撃戦闘機、ではない。それは非常に大型のミサイル、あるいは編隊を組んだ小型のミサイルだった。乗機を破壊されたパイロットの生き残りたちは、これを遠隔操縦して敵機に突っ込ませていた。戦闘機の残りなどほとんどなかった。
"戦闘機"はそれを確認し、反転して急加速、離脱する。ミサイルはそれを追うが、大型のものは追いつくことができず、小型のものは射程が足りない。そのまま取り逃がす。
強力な戦力である"戦闘機"は、陸の脅威となる多くの対戦車・対空砲を破壊すれば他へ向かうのだ。
絶望的な戦闘、しかし背後には沖縄市民や米軍の家族と、日本の本土がある。少しでも敵を押しとどめねばならなかった。ここで撤退したとして、これ以上の敵勢力にどこかで押し潰されるだけだ。
UE軍が進軍を開始。地を埋め尽くす青と土地色に染まった鏡面、そして赤く光る立方体の群れ、いや線。
陣地の人類兵力は、迎撃態勢に入った。
―――
「沖縄の大規模UE軍、侵攻を開始しました。」
「うむ……」
本州では上層部の面々が沖縄への対応を会議していた。
とは言っても、できることというのは少ない。それでも上層部はフル稼働していた。
ただでさえ少ない戦力。本土の防衛もあって動かせるような戦力は少ない。北海道にも敵戦力が集結し、今にも侵攻を始めそうなのだからなおさらだ。
しかし現状の戦力で沖縄が戦闘すれば敗北は確実、それも大した時間を稼げもせずにだ。
送ることのできる増援、そしてその手段。日本中から血眼になってかき集めた使える戦力。
GCSと、旧式の歩兵戦闘車の部隊だった。
「増援はどうなっている?」
「海自から護衛艦が二隻と小型艦三隻。それから海保の巡視船が出ます。陸の戦力もなんとかかき集めましたが、輸送の手段がありません。歩兵戦闘車数両だけはヘリで送りましたが、残りは……」
「どうしても見つかりそうにないのか。」
「はい……」
「ならばもはや陸路で構わん、すぐに向かわせろ。」
「了解しました。」
―――
沖縄では、UEと人類側の戦闘が始まっていた。
陣地からの歩兵の射撃、そして重機関銃がUEの"歩兵"をなぎ倒す。"歩兵"も射撃を行うが、その性能は1、2世代は前の水準。損害は小さい。
戦車が砲撃し、UEの"戦車"が貫かれる。榴弾による射撃で"戦車"の脚と"歩兵"がまとめて吹き飛ぶ。
UEの陸戦兵器の性能は、本当に大したものではなかった。しかし、あまりにも数に差がある。2輌の敵"戦車"をまとめて撃破した10式が、10輌の"戦車"の砲撃を同時に喰らって撃破された。
それに人類にはGCSがいない。UE"GCS"が跳躍滑空し、陣地上面から40mm程度の口径の機関砲を撃ちこみ、戦車の上面装甲にロケット弾を叩き込む。
戦車では狙えない。対空砲は排除されている。歩兵の銃器では通用しない。携行式の対空ミサイルや重機関銃の射撃は効果があるが、物量差によって無意味となり、優先的に排除されていく。
損害の数でいえば、人類側は大した量ではなく、UEは大量の損害を出している。ただし全体の量に対する比でいえば、人類側の損害が圧倒的に上回っていた。
「支援部隊は来ないのか!?」
「来たぞ!」
兵士が指さす方には、陸上自衛隊の輸送ヘリが4機に、海上自衛隊の哨戒ヘリが2機、哨戒ヘリも無理やり貨物をぶら下げている。
UEの対空砲火が行われるが、対空用の兵器がいるわけではない。ヘリは無事に到着し――貨物の、計6輌の旧式歩兵戦闘車を降ろす。
それでも貴重な戦力ではあった。ありがたい支援ではあった。しかし、戦局に対してはほとんど意味がなかった。
「クソッ……、数が足りなさすぎる!」
「撃てればなんでもいい、何かないのか!?」
「弓矢でも作ったらどうだ!?」
「一体何がそれを射るっていうんだよ!?」
兵士たちは吐き捨てて、目の前の敵を撃ち続ける。どこに撃っても敵に当たった。敵の陣形はほとんど戦列歩兵陣と変わらない。しかし、いくら撃っても全く数に変化が見られない。
その数に絶望するものもいた。これを撃退したとして、島にあるプラントから生産された敵がまた押し寄せてくる。プラントを叩く戦力などない。
人類側の損害も増え始めていた。弾が切れだしたのだ。すべての兵士の願いはひとつ、なんでもいいから頭数が欲しい、それだけだった。
沖縄本島では人々が皆、各々の方法で祈っていた。倒れた兵士の硬直した指が引く引き金が、大量のUE歩兵をなぎ倒し、すぐに補充される。
戦線は崩壊寸前だった。
そこで基地に通信が入る。艦艇群が到着したのだ。
兵士たちは大半が喜びの表情を浮かべる。そうでない者は、そんな余裕もない者たちだ。
海の方から飛翔物。護衛艦の主砲や、巡視船に無理やり積まれた火砲群の砲撃だ。ミサイルは最初に一発威嚇に撃ったのちは使われない。UEの増援を乗せた揚陸艇の排除のためだ。
UEの兵力は次々となぎ倒されてゆく。全体で言えばまだまだ減ってはいないが、一時的にでも押しとどめられれば勝機が見えるかもしれない。
しかし。
艦艇群に迫る航空機。UEの"戦闘機"だ。放たれた対空ミサイルを急激な機動で回避し、搭載火器を放つ。護衛艦は迎撃ミサイルやCIWSで対処するが、多数の巡視船までは守り切れない。
護衛艦1隻と小型艦1隻、巡視船2隻だけが残った。弾の無くなったらしい"戦闘機"は退いていく。
艦砲射撃は続けられたが、効果は薄くなってしまった。戦況は再び、絶望的なものとなった。
―――
陸上自衛隊のGCSが進軍する。
人型、頭部はラインアイの入った球状、無骨で角ばった機体、肩や腿には日本の大鎧の大袖のような部品も見える。
陸自の迷彩、肩には日の丸。隊長機の頭部には一本角。
彼らは沖縄への支援部隊であり、輸送手段がないことからその脚で陸路を往っていた。かき集めた、とは言っても、相当に大量の部隊が、ぞろぞろと列を成して進んで行く。
しかし自力ではどうしても時間がかかる。
この後の戦闘のためにブーストを使うわけにはいかないのでなおさらだ。それに、沖縄へ渡るためには海を渡る必要がある。
海上での機動は可能ではあるが、燃料の消費が激しい。いくら節約しているとはいえ、到着したころには相当の損害を受けているであろう戦況を覆せるかどうか……
隊員みなが焦っていた。海側、後方に何か微かな光を感じた。カメラをそちらへ向けて確認、横に何か、大きな艦艇が何隻も見える。みな平たい甲板。航空母艦のようだ。2隻ごとに大きく間が空いている。
「空母?いきなり現れた。旭日旗、海自さんの航空護衛艦か?どうして今まで気付かなかった。」
「待て、あれは……随分と古めかしく見えるが。」
「AI、あれが何かわかるか?」
『データにありません。解析を開始します。カメラを対象に向けたままにしてください。』
データが無い。旭日旗を掲げているにも関わらず、だ。しかし、解析、というには異様なほど早く終わった。
『解析完了。対象艦群、先頭から、『信濃』『あきつ丸』『龍鳳』『レキシントン』『赤城』『加賀』』
「なんだそれは。」
『第二次世界大戦時の日本および米国の航空母艦、揚陸艦です。』
「それはわかっている。みんな沈んだか解体されたはずの艦だろう?なぜここにいる。」
『不明』
部隊は混乱していた。進軍の足並みは乱さないが、突然現れた二次大戦の艦艇に困惑している。
と、艦艇群が岸に接近してくる。『信濃』(?)艦上に光、今となっては使われなくなった発光信号だ。
『『信濃』より発光信号。"沖縄へ向かうのであれば、乗艦されたし"』
「何?」
隊長はそれに困惑する。突然現れた二次大戦時の艦が発光信号を送ってくる。それも、現状を知っている。これでは幽霊船でもなさそうだ。
「この機は、発光信号を送信できるか?」
『可能。』
「"貴艦隊の所属、指揮官、目的を問う"だ、送信」
『了解。……返答を解読。"所属は大日本帝國海軍、指揮官以下乗員はなし、本懐を果たすべく、貴隊を沖縄へ輸送せんとす"』
いよいよもって意味がわからなかった。とうになくなった旧軍の所属を名乗り、乗員がいないと言ってきている。
隊長クラスが通信で話し合う。
「どうする?」
「正体がなんであれ、乗せてくれるというなら乗ればいいだろう。我々には猶予がない。」
「馬鹿な。UEの偽装だったらどうする。」
「IFFはどうなっている。」
「そんなものがついているわけがないだろう。」
隊長たちはレーダー画面を確認する。黄色のアンノウン表示が、緑の味方の表示に変わった。
各機の支援AIが声をそろえる。
『味方です。』
隊長たちは沈黙する。艦艇群はさらに近づき、岸のすれすれにいた。一部の艦からは艦載機が次々と飛び立ち、上空を追従している。甲板は空いた、飛び移れる距離だ。
「……なぜわかる。」
『不明』
「……」
「……、乗ろう。」
「何だと?」
「沖縄では、今も激戦が続いているんだ。陸路を往って海を渡っていては遅すぎる。あれがUEの艦で我々がやられることがあっても、このまま行っても、大して差はない。負けるだけだ。」
その通りではあった。時間をかけてたどり着いても、燃料を消耗している。GCSの強みである機動力が損なわれることになる。
艦に乗っていけば、そうはならない。速度も相当にマシになるし、何より燃料を使わない。
「行くしかない、か。」
『パイロット、あれは味方です。理由は不明ですが、わかります。』
「なんだ、勘でも覚えたのか?AIらしくもない。」
愛機の支援AIの言動にパイロットは苦笑する。こういったAIというのは常に無機質で淡々としているものだ、こういった言い方をすることは異例だ。
「発光信号を送信、"貴艦隊の援護に感謝する"、全機、あれに飛び移るぞ!」
陸自GCSたちは次々にジャンプし、スラスターを吹かして空母に飛び移っていく。艦隊は増速、沖縄へと向かった。
―――
沖縄では激戦が続いていた。
被害はどんどんと増えていた。もう重機関銃の弾もない。UE"GCS"が跋扈する。艦砲射撃は雑多な陸上戦力を吹き飛ばすことができたが、機敏な回避をするGCSには効果が薄かった。
それでも爆風による動きの制限は欠かすことのできない援護だった。
本州からの救援部隊の知らせは届いていた。それを待って持ち堪えようとする。絶望的な戦況。
海の上でも大騒ぎだった。
プラントからのUE"揚陸艇"が姿を現したのだ。
クラゲに近い形状のそれは、まだ問題ではない。護衛艦がミサイルを放って沈めてしまえばよい。
しかしその"揚陸艇"は、"戦闘艦"の護衛を引き連れていた。
強いて言うなら、アノマロカリスの上にカツオノエボシの浮き袋を乗せたような形状。赤い立方体はひとつではなく、3つほどがピラミッド状を形作っている。
護衛艦は対艦ミサイルを発射する。狙いは"揚陸艇"。"戦闘艦"のCIWSを警戒して、高高度を飛行して真上から垂直急降下。
"戦闘艦"にCIWSはあるが、対空ミサイルはない。超高速で僚艦に急降下する対艦ミサイルは迎撃しきれず、命中、"揚陸艇"が撃沈される。
"揚陸艇"は沈めることができる。陸の戦力がこれ以上増えることはない。しかし、"戦闘艦"まで全て平らげられるような弾数はない。自艦に対してのものであれば、CIWSはある程度迎撃できる。
そして"戦闘艦"を残せば対地攻撃が行われる。かといって主砲で一隻一隻沈めていくわけにもいかない。
"戦闘艦"はなかなかにしぶとい、艦砲射撃を中止してそれを沈めていては、ギリギリで持ち堪えている陸は決壊する。
やはり絶望的だった。護衛艦は一隻しか残っていないのだ。性能に不足はないが、数が足りない。
艦首を敵艦に向け、横に向けた主砲から砲弾を次々に放ちながらミサイルを発射して敵艦を狙う。
"戦闘艦"からの攻撃。対艦ミサイルが飛んでくる。UE"戦闘艦"の対艦ミサイルは終末誘導が乱雑で命中率が低い。周囲に着弾して海面で爆発、破片をまき散らす。機銃や巡視船の迫撃砲が損害を受ける。
全対艦ミサイルを撃ち尽くした。"揚陸艇"は全滅、しかし"戦闘艦"はまだまだいる。
艦砲射撃をやめれば、陸はたちまち決壊する。こうなったら接近して機銃でも撃ちこむしかないか?しかしそれは無謀だ。"戦闘艦"はそこそこの装甲があるが、こちらにはない。
"戦闘艦"には57mm程度の連装砲塔が複数と120mm程度の砲が一基装備されている。現代においては奇妙な装備ではあるが、現代艦が接近するのは自殺行為だ。
指揮官を兼ねる護衛艦艦長は悩んでいた。後方に光。そちらに目を向ける。
「艦長、レーダーに不明艦群が現れました!後方からです!」
ほとんど同時に報告が入る。艦橋の窓の端からそれの影が姿を現す。大きく、ゴテゴテとしている。艦色も黒ければ、黒い煙を濛々と吐き出している。艦橋が屹立している。
「あれは……」
艦長はその艦影に覚えがあった。日本人ならば、あるいは海軍に関わるものならばみなそうだろう。
「『大和』……?」
呟き。艦長だけではなかった。誰からともなくのものだ。
その艦が近づいてくる。斜めに転舵。後続の艦が見える。阿賀野型軽巡、特型駆逐艦、陽炎型駆逐艦、他にも駆逐艦がぞろぞろと。
第二次世界大戦時、沖縄戦の"海上特攻隊"として沈んだ艦たちだった。
「何だあれは、幽霊船か?」
「IFFはどうなっている?所属と指揮官、目的を確認しろ。念のため、発光信号を使え。」
「IFFアンノウン。所属は……」
サーチライトが明滅して発光信号が送信される。同じく発光信号で応答が来た。
「大日本帝國海軍、だそうです。指揮官以下乗員はなし、と。目的は、"本懐を遂げるべく、日本に迫る敵を排除せんとす。貴艦隊と陸上部隊を援護する。"と。」
「何?」
艦長は困惑する。艦艇群への情報収集を命じるが、電子戦機器は見た目通り、護衛艦の超高性能なカメラの捉えるところによれば、艦や砲指揮所、機銃等には人員はなし。しかし動いている。
幽霊艦隊はUE艦隊に対して斜めに機動。各艦からは水上機が飛び立っている。
「『大和』、UE艦隊に主砲を向けています!」
直後、雷のような轟音が響く。『大和』が発砲したのだ。
UE"戦闘艦"はCIWSで迎撃を試みるが、戦艦の砲弾に対して効果がない。命中はしなかった。巨大な水柱が立つ。
「艦長、本艦のコンピュータがあの艦艇群を味方として識別しています。」
「何だと、なぜわかる。」
「不明だが確実、と言ってきています。」
"戦闘艦"がミサイルを発射した。狙いは海自・海保艦艇群と地上。幽霊艦隊の砲撃は回避できると判断したのだろう。
そこに割って入るものがあった。"誰も乗っていない"水上偵察機。上面が緑で下が白の塗装。赤い円。
「……」
ミサイルと水偵は空中で衝突、諸共に爆散する。
1隻残った海自小型艦、近年登場した無人艦たるそれが転舵する。
「『ちどり』が転舵しました。あの艦隊を援護すると言ってきています。」
「本艦コンピュータが、あの艦隊と協同せよと主張しています。」
幽霊艦隊の砲撃はなかなか命中しない。水偵が"戦闘艦"に突っ込んだ。爆発。"戦闘艦"は持ち堪えている。
海面付近に何か黄金色の光があった。光の粒子をまき散らして何がが上昇する。すぐに解析。零式艦上戦闘機が多数、F6FヘルキャットとSB2Cヘルダイバーが少数。
旧日本軍機はそのまま海戦に参加する、"戦闘艦"に突っ込んだ。米軍機は陸へ向かう。"戦闘艦"からの攻撃。F6Fが身を挺してSB2Cを守る。
「コンピュータの提言を受け入れる。これより本艦隊はあの幽霊艦隊を支援する!」
「よろしいのですか、艦長。」
「少なくとも今は味方だ。それに、この航空機たちや戦艦が対地攻撃に参加すれば、もっと持ち堪えられるかもしれない。そうすれば本州からの救援が間に合う。
あの艦隊に発光信号だ!特攻をやめさせろ!コンピュータに発光信号で索敵情報を共有するように命じるんだ!」
命令は速やかに伝達される。サーチライトと幽霊艦隊の探照灯が忙しなく明滅する。護衛艦のコンピュータはすでに対象の砲の諸元を取得していた。
事実上のデータリンク。命中率は目に見えて向上する。"戦闘艦"の勢いがそがれる。
『大和』、『矢矧』は砲塔を地上へ向ける。
「『大和』より発光信号。"本艦はこれより艦砲射撃を実施する。貴艦は敵艦隊の排除に専念されたし。"」
護衛艦は主砲をUE艦隊に向けて増速した。
―――
二次大戦時の米軍機が空を飛ぶ。F6Fは、対空攻撃からSB2Cを身を挺して守る。
機銃掃射、爆弾投下。UEの"歩兵"や"戦車"が弾け飛ぶ。
飛び去って反転しまた機銃を掃射、何度も何度も反復攻撃を行った。
陸でも光と共に二次大戦時の戦車が現れていた。M4シャーマンや九七式中戦車が出現。
流石にUE"戦車"には対抗できずにすぐに撃破されるが、それまでに"歩兵"を減らし、また遮蔽物となって兵士を守る。
大量の頑丈な壁によって、防御陣は持ち直していた。
『こちら海上自衛隊、これより、戦艦『大和』、軽巡『矢矧』が艦砲射撃を行う。注意されたし。』
護衛艦からの通信とともに雷のような轟音。ヒュウヒュウと甲高い落下音を立てて砲弾が降ってくる。
巨大な爆発。46cm砲は前線近くではなく中部の敵を狙っていた。まとめてUEが消し飛び、俯瞰してみれば板に大きな穴が空いたように見えただろう。
艦砲射撃は続く。UEの群れは薄くなり、戦局は好調となっていった。
―――
「本当に誰も乗っていないな……」
『信濃』甲板上でGCS部隊の一員が呟く。
艦艇群には乗員は1人もいない。誰もいないにもかかわらず、艦や航空機がひとりでに動いているのだ。
艦艇群は沖縄の戦場の側面に回り込んで上陸する機動をしていた。
陸が見えてくる。
「総員戦闘準備。艦が陸に近づいたらブーストで跳びだすぞ。」
「木製の甲板は焼けてしまいますが……」
「俺たちを載せると言ったんだ、承知の上だろう。」
陸に接近すると、陸から大量の砲撃が彼らを襲った。"戦車"や"GCS"の攻撃だ。
艦艇群は攻撃を喰らって傷つくも、気にせずに突撃する。『赤城』や『加賀』、『レキシントン』が前に出て弾を受け止め、搭載された砲を撃ちこんで黙らせる。
岸が近づく。
UEからの反撃はさらに激しくなる。温存していたのであろう"重砲"まで持ち出してきた。
GCSは姿勢を低くしてそれらから逃れるが、これでは飛び出すわけにはいかない。
『『信濃』より、"本艦隊はこれより座礁する"、と。』
GCSに迫る重砲弾を艦載機が盾となって防ぐ。爆弾投下や体当たりで敵の脅威を取り除く機もいた。
岸がさらに近づく。艦隊は減速をしない。そのまま轟音とともに岸に乗り上げた。
UEが群がってくる。艦載機やあらゆる火器がそれらを追い払う。
『"我に構わず進まれたし。貴隊は沖縄の希望である。"』
各艦から載っているGCSに伝えられた内容だ。
「総員、跳び出すぞ!3、2、1、ナウ!」
GCS隊が次々に飛び出していく。「お世話になりました!!」と、スピーカーを通して叫びながら。
艦載機や艦艇群のわが身を顧みぬ援護を受けてGCSが飛び出した。
UE"GCS"を優先的に狙っていく。
ある機体が"GCS"の機関砲をスラスターを吹かして横に移動することで回避し、57mm砲を叩き込んで撃破する。
またある機体は真っ直ぐ突っ込んで蹴りを叩き込み、そのまま実体剣で切り捨てる。
「陸自のGCSだ!間に合ったぞ!」
「あれは……WW2の日本の空母に、レキシントンか!?」
対軽装甲タイプのGCSが陣地――計3輌の九七式中戦車の残骸――に移動して屈みこみ、両腕のガトリングガンを掃射して"歩兵"を吹き飛ばす。
完全に絶望的であった戦況は、援軍が間に合ったことと謎の二次大戦時兵器によって覆された。
そこに空から異音が響く。UE"戦闘機"が援軍に現れたのだ。
GCSが動き回りながら火器で"戦闘機を追い上げる。GCSの背部兵装だった対空ミサイルに追われ、急減速してのヘリコプター機動で回避しようとした瞬間、空中で折れた。
その横を九七式戦闘機と零式艦上戦闘機が飛び抜けていく。GCSを積まなかった『鳳翔』から発艦した機体と、『大和』らと共に現れた機体だ。
「いけるぞ……、沖縄を守れる!」
兵士たちはみな奮い立っていた。戦局は人類側に傾き始めていた。
UEを押し返し始めた時、UEが一斉に退却を始めた。人類優位になり始めたとはいえ、まだUEの戦力が多い、UEが撤退するレベルではない。
その時、空からプロペラの音が響いていた。
煙を吐きながら飛んでくるそれは……
「……B-29?」
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