この不遇な貴族に平穏を! (苦楽)
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この貴族に胃薬を!
うんざりする。
廊下にまで溢れた役人の列を見ながら、デュランは心の中で呟いた。
「デュラン様、国防前線にて魔王軍との交戦があった模様です」
「被害は?」
「はっ。死者は10名、内冒険者3名、騎士団7名。さらにけが人は数百名とのことです」
「……とりあえず殉職した団員の家族には補償金を支給。けが人は常駐のプリーストで足りないなら増員を願う。冒険者は放っておけ」
「御意」
最近城内で流行っている御意という言葉。ニホンという国の人間が広めたらしい。
「デュラン様、銀髪の義賊が出没しました」
「またか、今月3件目だぞ。それで今度はどこの家がやられた?」
「ビラルーク家の金銀が盗まれたのことです」
「どうせその金銀は裏金が殆どだろうに……。まぁいい、いつも通りそいつらの屋敷を捜索しろ。奴らもこちらの行動は予測しているだろうから、盗賊スキルを使える冒険者に協力をあおげ」
「御意」
そう言って下がった。銀髪の盗賊とは貴族専門の盗賊で、その盗んだものを孤児院などに還元していることから義賊と呼ばれている。
現役貴族のデュランにとってみれば頭が痛い相手なのだが、義賊はなぜか黒い噂の多い貴族を狙う傾向にある。なので、今のように捜査の名目で悪行の証拠を掴めたりする。
そのため義賊がいらないか、いるかで言えば評価が別れるところだった。
仕事は続く。
「デュラン様、アクセルの街から救援要請が……」
「人が足りない、冒険者で賄え。次」
「経理から、国王が王女様にお小遣いをあげすぎて国の財政がヤバイと」
「……王には俺から言っておく。次」
「えっと、アクシズ教の司祭からです。宗教保護の観点から、歴史あるアクシズ教に義援金を寄越せと」
「なめんな。次……」
~数時間後~
「本日の報告は以上です」
「終わったぁ~……」
デュランは背もたれてに体重を預けた。朝起きてから飲まず食わずで仕事をしていたので、もう頭は熱を帯びている。
カップに口をつける。メイドにいれてもらった紅茶だ。値段は気にしないと言ったが、香りはそこそこ高そうだった。
一息ついてぼおーと遠くを見ていると、執務室のドアが開かれた。ノックもなしにこの部屋を開ける存在をデュランは1体しか知らない。
「フハハハハハ! 呼ばれていないが来てやったぞ小僧。さあ、我輩の登場に喜んで、泣き叫ぶがいい」
彼は、バニル。アクセルの街でバイトしている大悪魔だ。ついでに元魔王軍幹部である。
ここに来て最悪の来客に、デュランは頭を押さえた。
「帰れ、いやマジで帰ってください」
「ふむ、これはなかなかの悪感情美味である。贅沢を言えばもう少し悲壮感のある方が我輩が好む味なのだかな」
「知らねえよ! こちとら朝から飲まず食わずで仕事捌いて、ようやく終わって一息してたところなんだ。後で相手してやるから、今はやめてくれ」
「うむ。だが断る」
デュランは、テーブルに力一杯拳を下ろした。
「フハハハハハ! いいぞ、いいぞ小僧! その歳不相応に疲れきった目、大変美味な悪感情を発しておるわ!」
「もうやめてくれ。いたたたたた、胃が」
胃の辺りを押さえて呻いた。ストレスによる慢性的な胃痛だ。原因はあちらこちらに転がっている。
すでにデュランのライフはゼロどころかマイナスである。
「うむ。人手不足で使い潰される哀れな小僧よ、胃薬を1つどうかな?」
「……いくらだ? お前がただでものを渡すはずがないだろ」
「まったくお得意様を労ろうという我輩の心遣いがわからないのか……1000エリスである」
どうやら労る気持ちは、1000エリス課金しないといけないらしい。
デュランは壁を殴りたかったが、そんな元気は残っていなかった。
「一月のお小遣い3000エリスの俺から、1000エリス請求とか鬼かお前」
「いいや、悪魔である」
「そうかよ……。まあ、払うけどさ。その薬よく効くし」
背に腹はかえられなかった。
「うむ、毎度あり。それでは我輩はおいとまするとしよう。あまり店を開けているとポンコツ店主がガラクタを買ってしまうのでな」
「まだ借金残ってるのか?」
その話を振った途端、さっきまで無駄に高かったバニルのテンションが急下降した。
「……いや、前の借金は返した。しかし、違う借金が増えたのだ」
バニルは何だかんだまっとうに商売をしている。自分の見通す力を使えばいくらでも金儲けできるのにだ。変なところで真面目というか、人間界に誠実な悪魔であった。
しかし、いくら稼いでも一瞬でマイナスにされる。
正直、デュランはバニルがあまり好きではないが、これには同情した。
「まあ、元気出せよ。また割のいい仕事あったら紹介するからさ」
「すまんが頼む。このままでは家賃も払えるか分からないのでな」
最初楽しそうに登場したバニルだったが、帰りは少し元気がなくなっていた。わりと本気でピンチらしい。
朝から仕事を裁き、胃を痛め、悪魔の玩具or相談役になる。
これでもデュラン14歳、多感なお年頃である。
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(原作1巻)この貴族に救援要請を!
今日も今日とでデュランは山積みされた仕事に圧殺されていた。
特に頭を痛めたのは、冒険者への対応である。
やれ、冒険者にも騎士団と同じく補償金を出すべきだの、冒険者の待遇が悪いだの、この国はブラック企業と同じだの、我々の要求に耳を貸さないならストライキを起こすだの、半分以上意味が分からないが政府に不満を募らせていることは十二分に伝わった。
しかも、その中心人物が防衛戦で活躍しているニホンジンと呼ばれる黒髪黒目の人間たちだから無視できない。彼らはなぜか不思議な力を持っていたり、神器と呼ばれる武器を持っていたりして実力者が多い。
そんな彼らに戦いから抜けられたら戦線が崩壊するのは目に見えているからだ。
だが、彼らの要求を飲むことはけして出来ない。
まず補償金とは騎士団の団員が殉職した場合にのみ出している。その理由は、団員が死んだ場合残された家族や親族に対する償い、また死と隣り合わせの戦場に行く団員に憂いなく戦ってもらうためでもある。
国が戦場に行くことを強いているのだから、当たり前のことである。
しかし、冒険者は事情が違う。
彼らは報酬目当てで自主的に危険地に向かい、討伐数に応じて報酬を出している。そんな彼らに補償金を出すなんて話になれば、騎士団側が猛反発するのは目に見えていた。
それに、そもそも根本的な問題がある。
簡単に言えば金がない。
長い間戦争を続けてきたため、この国の戦争費はすでに底を尽きかけており、現在では隣国の援助に頼っているのが現実だ。
そんな状態なのに、冒険者に補償金など払えば、この国はすぐに滅んでしまう。
だが、無下にして本当に戦線を抜けられたらどっち道滅ぶ。
完全に板挟み状態だった。
デュランの胃のライフはすでにゼロである。
こんなときは王に相談したり、同僚のクレアやレインに意見を聞きたいところ。しかし、王は武芸に秀でているが細かい政治的駆け引きのセンスはゼロに等しく、クレアは王女のストーキングもとい護衛に夢中、レインは今にも潰れそうな自分の領地に手がいっぱい。
まともなやつがいない。
デュランは絶望のあまり、机に顔を伏せて嗚咽を漏らし始めた。
もうこの国一度滅んだ方がいいんじゃないか? と病んだ考えがよぎってきた。そんなときドアがノックされた。
顔を上げて、表情を引き締めた。
「入れ」
「失礼します、デュラン様。お忙しい中申し訳ございませんが、早急にお耳にいれた方がいいと思いまして」
「よい。話せ」
「はっ。実は昨日、アクセルから報告が入りました」
「アクセルから? 数日前に魔王軍幹部ベルディアが近辺に居を構えたという報告は受けたが、あれは後日討伐隊を組むことで納得してもらったはずだが?」
なぜ魔王軍でも有数の実力者であるベルディアが、初心者冒険者の街アクセル近くに来たのか。目的は不明だが、アクセルを攻め落とすなどの動きは見せなかったことから、デュランは対応を後回しにしていた。
何か動きがあったのか? デュランはそう想定した。
しかし、事態は想定を遥かに越えていた。
「はい、そういう手筈でアクセルの冒険者ギルドにも通達したのですが、実は昨日ベルディアがアクセル門前まで接近してきたとのことです」
「何だと!? それで被害は?」
「いえ……その……ベルディア自身街を攻める気はなかったらしく、被害は特に報告されていません」
「そうか」
ほっと胸を撫で下ろした。
国の民である以上、気にかけるのは当然。デュランはそう考えている。
「しかし、攻め滅ぼす気がないのなら、なぜベルディアは街近くまで来た?」
「説教をしに来たそうです」
「は?」
「自分が住居としていた古城が爆裂魔法の標的にされたことに激怒して、その術者に説教をしに来たそうです」
「いやいやいや待て待て待て! 前提からすべておかしいだろ! なぜ幹部の居城に爆裂魔法を放つ!? その魔法使いはバカか!? それとも頭がおかしいのか!?」
「術者は紅魔族だそうです」
「……なら仕方ないか」
紅魔族とは、産まれながらにして魔力量が高く一族はすべてアークウィザードになると言われている戦闘に秀でた者たちである。しかし、その大半が頭がおかしく、名前もおかしいことで有名で、よく王国でも騒ぎを起こすため、デュランはそのことを実感していた。
そのため、紅魔族が何かやらかしても仕方ないと達観するくらいには慣れている。
「それで、報告はそれだけか?」
この言葉はデュランの希望でもあった。
すでに胃はズキズキ痛み、血を吐きそうだからだ。これを聞いたら胃薬を飲もうと心に誓った。
「いえ、怒りが収まりきらなかったベルディアは帰り際に術者に向かって死の宣告を与えていったそうです」
「何!? それはまずい、あれは腕利きのアークプリースト十人を要しても解けないほど強力な呪いだぞ!」
解呪するにはベルディア本人を倒すしかないと言われている。しかし、それはほぼ不可能なため、死の宣告を受ければ死ぬしかないと言われている。
となれば、呪われた魔法使いはもう……。
「呪いは術者のパーティーメンバーだったクルセイダーが間一髪で身代わりになったそうです」
「そうか……。仲間を庇って死を選ぶとはクルセイダーの鏡のような人物だ」
「それで……そのクルセイダーなんですが、ダスティネス=フォード=ララティーナ様らしく」
「ん?」
今何て言った? デュランは固まる思考の中、そう考えた。
冷や汗が滝のように流れる。
胃の中は、胃液が洪水になっているのかのよう荒れ荒れである。
ダスティネス=フォード=ララティーナとは、王族の懐刀とまで言われる地位の高い貴族である。それこそ無礼を働けばデュランでさえ簡単に死罪になってしまうほどだ。
ベルディアに早急な危険がないと判断したのはデュラン、すぐに対応せずに後回しにしたのもデュラン。
その結果、ダスティネス家の令嬢が死の宣告を受けた。
その答えは?
自分の責任問題になる。要するに死罪になる。
デュランは血を吐いて倒れた。
次回、デュラン死す! デュエルスタンバイ!(嘘)
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もはやサブタイトルすらめんどくさい
気まぐれ更新、行進、交信♪
例の報告を受けた翌日、デュランはアクセルの街にやってきていた。
目的は当然、ダスティネス=フォード=ララティーナにかけられた死の宣告という呪いを解くことである。
自分の判断ミス(納得いかない部分もあるが)で大貴族の令嬢を死なせたとなれば、物理的に自分の首がはねられかねない。
そのため、デュランが生き残るには呪いを解くしかないのだ。
しかし、その呪いは腕利きのアークプリーストが何人いようとも解呪できないほど強力な呪い。解くには、呪いの使い手である魔王軍幹部ベルディアに解かせるしかない。
本当ならば騎士団を派遣するのが一番リスクが少ないのだが、魔王軍の幹部に対抗できる人材など王国にはデュランを含め数人しかいない。
そのため、しかたなくデュランが赴いたというわけだ。
「はあ、頭痛が痛い」
「大丈夫ですか? 働きすぎて馬鹿になってません?」
「失礼なことを言うな、貧乏女」
「貧乏女はやめてください!?」
「すまんな。ちょっと懐と心が寂しい、貧乏アークウイザード」
「フォローになっていないうえに余計にひどい!?」
涙目になってつっこんでいるのはレイン。王国王女の教育係であり、驚異的に貧乏ではあるが一応貴族である。
さすがに魔王軍幹部相手に一人では不覚をとるリスクがあるので保険で呼んだのだ。
「でも、何で私だったんですか? 正直、王国の冒険者に頼んだ方がよかったのでは?」
「そりゃ戦力的にはその方がいいだろうさ。だが、奴らは払う報酬が高い上に、使い勝手が悪い。戦功を狙って独断で動いこうとするし、言うことはきかないし......その点、レインなら安く済むし、連携もしやすい」
「私使い勝手で選ばれたんですか!?」
「あー、あとレインなら多分断らないだろうと思ったからさ」
「だからフォローしようとして余計にひどくなってますよ!? もう!」
レインは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
拗ねてしまった理由が分からずデュランは困惑する。もっとも、功利主義のデュランにとって、女心を察するとはフェルマーの最終定理を解くよりも難しいことである。
デュラン眉を困らせながら。
「怒らせたのならば謝ろう。しかし、共に戦う上で貴様が1番適していると言う言葉に嘘は一つもないぞ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、レインがいれば負けそうになったらテレポートで逃げられるからな。その時は頼むぞ……って、おいこら! やめろ脇を掴んで持ち上げるな! 地味に足がきついんだぞ! やめ、やめろー!」
□
「そういえば、どこに向かってるんですか?」
「アクセルの冒険者ギルドだ。さすがにギルドに一言言わずに幹部に戦闘を仕掛けるわけにもいくまい」
本当ならこっそりと倒してしまいたいところなのだが、魔王軍の幹部という存在が急に消えたら混乱が起こる可能性がある。それで一番割を食うのは国の要人であるデュランなのだ。ただでさえ忙しさに殺されそうなのに、自分から仕事を増やすのは避けたいのが本音である
「あと、ついでに使えそうなやつがいたら、懸賞金を餌に雑魚の相手をさせようとも思ってな」
「大丈夫ですか? アクセルの冒険者のレベルでは足手まといになるのでは?」
「最悪俺が支援すれば雑魚ぐらい相手にできるだろ。それに使い物にならないのなら、連れて行かなくても問題ない」
本音で言えば魔力を温存していたいから、極力雑魚のアンデットは他に押し付けたいと考えているのだ。
ギルドに到着した。
ギルドの中に入ると、デュランとレインに視線が集まった。
「すごい見られてますね」
「ふむなぜだろうな」
見慣れない金髪碧眼の美男美女が入ってくれば誰でも見てしまう。
しんと静まりかえっているギルドに、ががっと椅子を引きづる音が響いた。くすんだ金髪の男はつかつかとデュランたちに近づいてくる。
「おいおいお子様よ。いい女連れてるじゃねえか。しかし、おまえさ......ごはあああ!?」
デュランのアッツパーカットがさく裂する。男は最初に座っていた机に飛び込んだ。
「言葉に気をつけろ三下。ちなみに俺は14歳、立派な大人だ!」
「あああああ、ちょっとデュランさん! 机が壊しちゃだめですよ! 誰が弁償すると思ってるんですか! たしかに身長小さいの気にしてて、お子様扱いされるのが嫌なのはわかりますけど!」
「ええい、わざわざ繰り返すな!」
「おいてめえら俺の心配しろ!? 普通なら死んでるぞ!?」
「知るか。貴様から絡んできたんだろうがチンピラ」
「チンピラじゃねえダストだ! いいか、お前ら。俺はこの街ではそこそこ名が通ってる冒険者だ。この街で背中を気を付けたくないなら、仲良くしておいて損はねえぜ」
新参者であるとみて大きいことを言っているのかと考えたが、一人自分たちにかみついてきたところを見ると案外本当なのかもしれない。と思ったのだが。
「名が通ってるって悪評で有名になってるだけだろ?」
「そうだな」
「むしろあんたの方が恨み買ってるんだから、人のこと言う前に自分の背中を気にしなさいよ」
「おい、仲間がやられてんのにその言い草はなんだ!」
どうやらすべて虚言だったようだ。仲間らしい人間からも心配されない人望のなさに、一瞬でも警戒した自分がバカらしいと、デュランは呆れた。
「時間の無駄だったな」
「そうですね」
ダストを無視して受付に行く。後ろから声が聞こえてくるが、殴られた時に実力差を察したのか絡んでくる様子はなかった。
「騒がせたな」
「すいません。壊した机は後でこちらで弁償しますので」
「あ、あのー、あなた方は?」
2人の独特な空気に受付嬢のルナは戸惑い気味に対応する。
「ああ、申し遅れた。俺の名前はデュランだ」
「同じくレインです」
「俺たちはアクセルの救援要請を受けてきた王国の人間だ。これから魔王軍幹部ベルディアの討伐に向かう」
「なるほど......って、ええええええ!? あなた方が王国の......?」
「おい、今どこを見て首をひねった」
デュランの睨みにルナは露骨に目を逸らす。
「はい。こちら冒険者ギルドです。本日はどのような御用ですか?」
「誤魔化し方が露骨すぎるだろ......」
「肝が据わってらっしゃいますね」
レインは苦笑いを浮かべる。
デュランはため息をつく。
「まあいい。そこでベルディア討伐に向かうにいたって、道中の雑魚の相手をする冒険者を募集したい。報酬はベルディアの討伐報酬の一部である300万エリスだ」
「なるほど......クエストの受注は承りましたが、危険なクエストになりますので、受ける冒険者がいるかどうか......」
「いないなら、いないで構わない。明日出発前にもう一度ここに来る。クエストを受ける人間がいたら教えてくれ」
「はいわかりました」
このすば完結おめでとうg......
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