戦姫絶唱シンフォギア Fortune Duet (ノーザ)
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オリキャラ設定

連続投稿です。


枢木 奏空(くるるぎ そら)

 

 

 

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身長:163cm

年齢:15歳

イメージCV:下野紘

紫の瞳に、クセ毛のある茶髪が特徴。

数十年前にマリア達に拾われたF.I.Sの一人。いつかマリア達に料理を振舞ってやりたいと思っている。

 

 

シンフォギア・バルムンク

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

奏空が纏うシンフォギア。何故他の装者と違い、姿形が異なっているのは不明。

形状の他にも異なる点が下記の通りである。

 

 

アームドギア

 

 

 

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バルムンクのアームドギア。従来のアームドギアは形状や大きさを変えることが出来るがバルムンクのアームドギアには備わってない。その為か纏った時点で背中に出現してある。

 

アームドギア(1枚目のイラスト①より左から順に説明。)

 

コア・ファースト……アームドギアの中心部にある大剣。この剣を主軸に剣が合体する。

 

オーガニクス……奏空がよく使う剣。分離させて二刀流で使う時が多い。

 

バタフライ……比較的あまり使わない剣。この剣の使い所は後ほど。

 

ルーン……これもあまり使わない剣。これも後ほど説明する。

 

2枚目イラストの左より

 

合体剣……上記の剣がコア・ファーストに合体した状態。纏った時点でこの状態で背中に装備してある。

 

 

元ネタ………FF7ACのクラウドの合体剣

 

2枚目イラスト②より

 

ホバーウィング………従来のシンフォギアは限定解除状態で飛行出来るが、バルムンクには通常の状態から飛行機能が備わってる。

 

 

元ネタ………新ゲッター1のゲッターウィング

 

 

特殊機能 意思誘導(エネルギー・インダクション)

 

バルムンクの特殊機能。アームドギアの変形機構が無い代わりにフォニックゲインをアームドギアに流し込むことができる。コア・ファースト以外の剣にフォニックゲインが宿り、奏空の意のままに操ることができる。

ホバーウィングを展開するときも背中のパーツにフォニックゲインを生き通らせる。

 

風鳴 凛音(旧姓:枢木 凛音)

 

 

 

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身長:164cm

年齢:16歳

何処とは言わないが大きさは87(響のをちょい盛ったぐらい。クリスちゃんほどではない。)

イメージCV:早見沙織

奏空の生き別れの姉。黒髪のロングに奏空と同じ紫の瞳が特徴。あの事件のあと二課が保護し、風鳴機関の養子となって、現在は翼の妹となっている。今でも奏空のことを探している。

翼がいつまでたっても掃除が上達しないのが悩み。

 

 

シンフォギア・天叢雲

 

 

 

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第1.5号聖遺物にして、天羽々斬の姉妹機。姉妹機だからか所々天羽々斬と似てる箇所があり、技も酷似してる。

 

アームドギア

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

天羽々斬のアームドギアを少し長くなったものと少し短くなったものを使用する。

ただしイラスト②のとおり刃ではなくビーム刃が出る。



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オリキャラ設定 GX編

GXのオリキャラ設定です。
凛音の服が一番辛かった………。画力が無くてすみません。


枢木 奏空(くるるぎ そら)

 

 

 

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身長:164cm

年齢:16歳

イメージCV:下野紘

紫の瞳に、クセ毛のある茶髪が特徴。

フロンティア事変から半年が経ち、普通の高校生として生活を送っていたが、再び戦うことになる。

 

 

シンフォギア・バルムンク

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

奏空が纏うシンフォギア。何故他の装者と違い、姿形が異なっている。

形状の他にも異なる点が下記の通りである。

 

 

アームドギア

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

バルムンクのアームドギア。従来のアームドギアは形状や大きさを変えることが出来るがバルムンクのアームドギアには備わってない。その為か纏った時点で背中に出現してある。

 

アームドギア(1枚目のイラスト①より左から順に説明。)

 

コア・ファースト……アームドギアの中心部にある大剣。この剣を主軸に剣が合体する。

 

オーガニクス……奏空がよく使う剣。分離させて二刀流で使う時が多い。

 

バタフライ……使うようになった剣。

 

ルーン……使うようになった剣その2。投擲が多い。

 

2枚目イラストの左より

 

合体剣……上記の剣がコア・ファーストに合体した状態。纏った時点でこの状態で背中に装備してある。

 

 

元ネタ………FF7ACのクラウドの合体剣

 

2枚目イラスト②より

 

ホバーウィング………従来のシンフォギアは限定解除状態で飛行出来るが、バルムンクには通常の状態から飛行機能が備わってる。

 

 

元ネタ………新ゲッター1のゲッターウィング

 

 

特殊機能 意思誘導(エネルギー・インダクション)

 

バルムンクの特殊機能。アームドギアの変形機構が無い代わりにフォニックゲインをアームドギアに流し込むことができる。コア・ファースト以外の剣にフォニックゲインが宿り、奏空の意のままに操ることができる。

ホバーウィングを展開するときも背中のパーツにフォニックゲインを生き通らせる。

 

 

Limit Burst(リミット・バースト)

 

シンフォギアには約301,655,722種のプロテクトが施されている。そのプロテクトを外した状態が限定解除形態『エクスドライブ』である。しかしこの形態はいつでもなれる訳ではない。幾人もの歌を重ね、高レベルフォニックゲインにより初めて開放される。

このリミットバーストは301,655,722の内の1/4を自発的に解除する技である。

発動した途端に青いオーラが放たれるが、その実態は使用者の内部の貯蔵していたフォニックゲインが溢れ出る現象である。

常にフォニックゲインが溢れ出るのはエネルギーが漏れていると捉えられてしまうが、これはエネルギー容量を超えてわざと外に出している。

簡単に言うと常時エクスドライブ状態である。

しかし、この技にもデメリットが存在する。連続で使えない。仮に効果が切れた後にまた発動しようとすると連続の高出力により体が耐え切れなくなり最悪、廃人になってしまう。

不要な感情は捨て、目の前の標的を倒すことだけを実行する。別の意味での「暴走」でもある。

いわばこれは半エクスドライブ、半暴走状態とも言える。

この状態になると手持ちの剣をフォニックゲインで複製することが可能である。

 

 

風鳴 凛音(旧姓:枢木 凛音)

 

 

 

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身長:165cm

年齢:17歳

何処とは言わないが大きさは87(響のをちょい盛ったぐらい。クリスちゃんほどではない。)

イメージCV:早見沙織

奏空の生き別れの姉。黒髪のロングに奏空と同じ紫の瞳が特徴。

事件が収束後、奏空と一緒に毎朝通学したり、彼の料理を食べたりしてとても幸せだったが………。

 

 

 

シンフォギア・天叢雲

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

第1.5号聖遺物にして、天羽々斬の姉妹機。姉妹機だからか所々天羽々斬と似てる箇所があり、技も酷似してる。

 

アームドギア

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

天羽々斬のアームドギアを少し長くなったものと少し短くなったものを使用する。

ただしイラスト②のとおり刃ではなくビーム刃が出る。

 




話が進むごとにまた増えるかもしれません。
重ねて言いますが、下手ですみません。


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G編
第1話 悲劇的序曲


一度消えてしまったので再投稿になります。誠に申し訳ございません。


ある二人の姉弟の話をしよう。

その姉弟はとても仲が良かった。姉は弟思いで、喧嘩をしたことなんて一度もなかった。弟はそんな姉がいてくれて嬉しかった。

 

 

ある時姉弟は両親と共に出掛けた。しかし、そこである事件が起きた。それはノイズによる襲撃。

 

ノイズとは人類共通の脅威とされる認定特異災害。ノイズは空間からにじみ出るように発生し、人間のみを大群で襲撃し、触れた者を自分もろとも炭素の塊に転換してしまう特性を持つ。

両親は姉弟を庇い、ノイズの餌食になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉と弟が逃げ回る。背後にはまだノイズが追ってきていた。捕まれば最後、炭素の塊と化してしまう。父と母は自分達を庇ってノイズに殺された。

だからここで死んでたまるか。

姉は握っていた弟の手に更に力を入れ、必死に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ノイズ達をうまく撒けたが、それは一時的に過ぎない。今も奴らは探している。

と、ここで今まで泣くのを我慢していた弟が泣き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう走りたくない。父さんと母さんに会いたい。

 

 

 

 

 

 

泣きじゃくる弟を見て姉はある決断をした。弟の頭を優しく撫でて微笑みながら彼の目に向かって言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

それだけ。たったそれだけで弟は泣き止んだ。弟はその時の姉が母親に見えていた。

そして姉は続けて言った。

 

 

 

私は、ここから逃げるけど、貴方はしばらくじっとしてて。少し経ったら逃げて。

 

 

……私と約束出来る?

 

 

 

 

弟は涙を拭い、ゆっくりと頷く。

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

そう言い残し、彼女は弟を残してノイズを引きつけて行った。一人残された弟は姉の言われた通り、その場に動かないでいた。

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

姉が最後に言った言葉を思い出し、彼は我慢して溜めていた雫を再び流し、一人泣き叫んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時は過ぎて数年。とあるライブ会場の裏側に一人の少年と二人の少女がいた。しかしその中の茶髪でクセ毛がある少年『枢木 奏空』は顔をうつむかせていた。

 

 

「あ〜まずい………。」

 

 

「どうしたデスか奏空?」

 

 

「あ、いやそれが………緊張してきた………。」

 

 

「え、ええええええええ!?」

 

 

まさかの奏空の返答に金髪のショートカットの少女『暁 切歌』は驚愕した。

奏空達が今いるライブ会場は、観客の数がおよそ10万いや、それ以上いるかもしれない場所にいるのだ。さらにこのライブは世界中継もされている。

そこまでする理由は、日本のトップアーティスト『ツヴァイウィング』の傍、『風鳴 翼』 と世界のトップアーティスト『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』の二人の今晩限りのスペシャルユニットのライブが日本で披露するのだ。

しかしそれはある計画の踏み台にしか過ぎなかった。マリアはノイズを召喚し、ガングニールのシンフォギアを纏った。

シンフォギアとは、通常兵器が効かないノイズに聖遺物の欠片を元に作られた唯一対抗出来る兵器だ。

しかもこれは誰でも纏えるわけでなく、それぞれの聖遺物に適合率が高ければ纏える。

 

話を戻そう。

マリアは武装集団『フィーネ』であると名乗り、領土割譲の要求という全世界に宣戦布告をしたのだ。

そして奏空達もフィーネの一員である。

 

 

「だ、大丈夫デスよ!マムによるとマリアが人質の観客達を逃したって言っていたデスから今残っているのはマリアと目標のアイツだけデス!」

 

 

「でもまだカメラ回ってるんでしょ?現地の人に見られるならまだしも、世界各国の人が見てるとなると……ん?どうした調?」

 

奏空の服の裾をくいくいと引っ張っているのは、黒髪のツインテールの小柄な少女『月読 調』。彼女は首からある物を取り出して奏空に見せる。

 

 

「大丈夫奏空。いざとなったらコレで………。」

 

 

「ちょちょ!?何してるんデスか調……って奏空も何で出そうとするんデスか!?」

 

 

「ムシャクシャしてやった。」

 

 

「後悔は?」

 

 

「してない。」

 

 

「何言ってるんデスか二人とも!?ってヤバッ!」

 

 

切歌は何かに気付き、二人を奥へと引っ張っていく。

 

 

「どうした切歌?」

 

 

「見つかったデス!あいつここへ来るデスよ!?」

 

 

「大丈夫。その人はコレで……。」

 

 

「だからそれは「大丈夫ですか!」ひゃい!?」

 

 

切歌は恐る恐る振り返ると黒のスーツ姿の男性がいた。避難誘導員だろうか。

 

 

「ここは危険です早く避難を!」

 

 

「え、えっとこれはその………。」

 

 

言い逃れしようにもうまく言葉が出ない切歌。するとここで意外な人物が口を開いた。

 

 

「いやぁすみません。実は逃げてる途中、この子達が急にトイレに行きたいと言いまして。」

 

 

「トイレですか?では案内しましょうか?」

 

 

「あ、大丈夫です場所は知っているので!俺が責任持って、この子達をトイレに連れて行きますのでご心配なく!」

 

 

「そうですか………わかりました!でも用が済んだら速やかに逃げて下さいね。では。」

 

 

男性はそういう残し先に行った。

さっきまで緊張して顔色が悪くなっていた人物とは思えないくらいの饒舌で言い逃れできた奏空が凄いと二人は思った。

 

 

「凄いデス奏空!あの状況で落ち着いて対処できるなんて!」

 

 

「…………。」

 

 

「?奏空?」

 

 

饒舌になったと思ったら急に黙りこくる奏空。一体どうしたものかと心配する二人だが、彼は振り返り、かなり焦った表情で二人に尋ねた。

 

 

「ね、ねぇ?俺大丈夫だった!?変じゃなかった!?ちゃんと聞こえてた!?ちゃんと口開いていた!?」

 

 

どうやら自分がちゃんと喋れていたのか心配していたらしい。二人はやっぱり奏空は奏空だったと思い、ため息をついた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その後三人はステージの裏側に来ていた。現在蒼のシンフォギア『天羽々斬』を纏った風鳴 翼がマリアと交戦中だ。

 

 

「じゃあ私と調は先に行くから奏空は後から来るのデスよ。」

 

 

「わかったけど………無理はするなよ?二人には時間制限があるんだし………。」

 

 

「心配しないで。私達はちゃんと帰ってくるから。」

 

 

「だから安心するデス!」

 

 

エヘンと胸を張る切歌。その姿に安心した奏空は二人に行ってらっしゃいと一言言い、二人は飛び出し、歌を歌った。

 

 

「Zeios igalima raizen tron………。」

 

 

「Various shul shagana tron………。」

 

 

次の瞬間二人は白い光に包まれる。切歌は緑のシンフォギア『イガリマ』、調は桃色のシンフォギア『シュルシャガナ』をそれぞれ纏った。

切歌は鎌を装備し、調はヘッドギアから無数の小さな丸鋸を射出した。

それに気づいた翼は連結した剣を回転させて防ぐ。しかし切歌が鎌を振りかぶると刃が三つに増え、翼目掛けて振ると刃が回転しながら射出される。

 

攻撃を防ぎきれず、翼は吹き飛ばされた。

二人はマリアの横に着地する。ここから見れば三対一でこちらが有利である。

そう思ったのも束の間。上空にいた一機のヘリから二人の少女が降り立った。

それぞれ紅、黄色のシンフォギアを纏っていた。紅のシンフォギア『イチイバル』を纏う少女、『雪音 クリス』は両腕に4門3連ガトリングガンを出現させ、マリア達目掛けて撃ちまくった。

調、切歌は横に飛んで回避し、マリアはマントを具現化させ弾丸を防ぐ。

しかしそこに黄色のシンフォギアでマリアと同じガングニールを纏う少女、『立花 響』が落下を利用して右の鉄拳をマリア目掛けて放つ。

マリアはマントを解除し、後ろに飛び退けた。

これで三対三となり戦力差は無くなった。

 

 

「(こっちもそろそろ動くか………。)」

 

 

首に掛けていたペンダントを取り出そうとすると、もう一人いたのかヘリから少女が降り立ち、歌を落とす。

 

 

「Imyuteus amenomurkumo tron………」

 

 

少女は光に包まれ、薄紫色のシンフォギアを纏って現れる。翼のと比較的長い刀を出現させ、切歌に振った。

鎌の柄でなんとか受け止めるが弾かれる。彼女は翼の隣に着地し、アームドギアを構える。

 

 

「(なんだろう。何処かで見た気が…………。)」

 

 

奏空は改めて彼女の容姿を見る。黒髪のロングに紫の瞳。この姿を何処かで彼は見たことがある………。

 

 

「大丈夫翼?」

 

 

「あぁ、すまない()()。」

 

 

「凛音さん!」

 

 

「これで三対四!私らが一気に有利になったなぁ!」

 

 

「気を抜いちゃ駄目よクリス?」

 

 

「わーってるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ん?

 

 

りんね?リンネ?………凛音?

 

 

奏空は彼女の名前を聞いた瞬間頭からありとあらゆる記憶が浮かび上がった。

マリア達と出会うそれよりも前………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命を救ってくれた人の記憶が………。

 

 

今までフィルターがかかったかのような感覚が消えた。そして確証から確信へと変わる。

彼はペンダントを握りしめて駆け出し、歌を落とす。

 

 

「close core balmunk tron………。」

 

 

彼も光に包まれれシンフォギアを纏う。だがそれはマリア達や翼達のと、似ても似つかない姿形のシンフォギア だった。

背中に背負った大剣を取り出し、マリアの前に着地し凛音と呼ばれた少女を睨みつける。

 

 

「どうしたの奏空?」

 

 

「え………。」

 

 

凛音は奏空の名を聞いて目を見開いた。

奏空が彼女を睨みつける理由。なぜなら………。

 

 

「なんで…………。」

 

 

なぜなら………。

 

 

「なんで!!」

 

 

なぜならば………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで()()()にいるんだ!!凛音!!」

 

 

「そ………ら?」

 

 

彼女が彼の姉『枢木 凛音』だからだ。

 

 

 

 

 



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第2話 始めの兄弟喧嘩

1話だけと思った?残念!2話連続です!


彼女には1人の弟がいた。名は枢木 奏空。彼はいつも姉を尊敬していた。いつも傍にいた弟だった。

そんな彼と、とある事件で離れ離れになってしまった。

一度はもう会えないかと思っていた。

しかし今日また会えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッッ!!

 

 

 

(つるぎ)(つるぎ)を交えて。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「そ………ら………。」

 

 

彼女の頭の中から記憶が浮き出る。紫の瞳に、くせ毛のある茶髪。間違いなく自分の弟、『枢木 奏空』だ。

その彼の後ろにいるのは、全世界に向かって宣戦布告をした武装組織フィーネ。そして姿は違えど、自分と同じくシンフォギア纏って大剣をこちらに向けて睨んでいた。

 

どうして彼は彼女達といるのだろうか?どうして彼はこちらに刃を向けるのか?

次々と疑問が出てくる中彼は一気に距離を詰めて大剣を振りかぶっていた。

 

 

「!くっ!」

 

 

一瞬遅れたがなんとか刀で防ぐ。その時彼と目が合うが背筋が凍った。

まるで憎い者を見るかのような目。恨んでいるようかの目。殺意の篭った目。そんな感情が出ていた。

 

 

「何故だ!!なんでそっちいるんだ!!」

 

 

「あなたこそなんでそっちに!?」

 

 

「聞イテんのはコッチだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

怒号を上げ更に力が加わり弾かれる。それが戦闘の合図のようにマリア達は駆け出した。

マリアは翼に、切歌はクリスに、調は響に攻撃を仕掛ける。今だに迷っている凛音に対し、奏空が再び襲いかかろうとする。流石に気持ちを切り替えて応戦する。

 

 

ガキンッ!!

 

 

刀と大剣がぶつかり合い、金属音が鳴り響いた。

凛音は一旦距離を置き刀を大剣にさせ跳躍し、目一杯振った。

 

『紫電一閃』

 

巨大な紫色のエネルギー刃が奏空に迫る。奏空も負けじと大剣を振ると緑のエネルギー刃が生まれた。

 

『Solid Size』

 

紫と緑がぶつかり合い、空中で相殺された。相殺したのを確認すると奏空も跳躍し、攻撃を仕掛けるも大剣で塞がれた。エネルギー刃の次は大剣同士のぶつかり合いが始まった。

落下中にもかかわらず2人は手を休まない。いや、休めないのだ。もし休んだら最期、確実にやられてしまう。ほぼ互角に渡り合えているようだが奏空の動きが少し遅くなってきた。

序盤から飛ばしすぎたのだ。感情剥き出しで攻撃してきた彼に対し凛音は、攻撃を受け流し攻めるという戦いにおいて基本的な戦術だが、今の奏空に対しその戦術が適していた。現に彼は肩を上下させていた。

奏空は堪らず回避に専念し、マリア達の下に集まり、向こうも同じように集まり対峙する。

ここからどうするかと凛音は考えようとした。すると……。

 

 

「やめようよ! 今日、出会った私達が戦う理由なんてないよ!」

 

 

発言者は響。分かり合える人間同士だからこそ拳を交える前に対話を持ち掛ける。

以前は叱咤した翼とクリスも今は何も言わない。

 

 

「そんな綺麗事をっ!」

 

 

「綺麗事で戦う奴の言う事なんか信じられないデスッ!」

 

 

だが調と切歌は響の言葉を拒絶する。

 

 

「そんな……話せば分かり合えるよ! 戦う必要なんか――」

 

 

「偽善者………。」

 

 

遮り、調はそう響を呼んだ。

 ――あなたみたいな偽善者がこの世界には多過ぎる。

その言葉を聞いた途端凛音は調に向かって叫ぶ。

 

 

「偽善者?偽善者ですって!?貴女、響ちゃんの何を知っているの?彼女の過去を知った上での言葉?」

 

 

「………。」

 

 

「彼女が過去にどれほどの辛い思いをしたのかわかっているの!?何も知らないくせに偽善者と言うな!!」

 

 

凛音の怒号により周りは静まり返る。しかし次の瞬間意外な人物が口を開けた。

 

 

「それがどうした?」

 

 

「!?」

 

 

冷たく言ったのは奏空。彼の口からそんなことが出るなんて思いもしなかった。

驚いている凛音に目もくれず、奏空は響を睨みつける。

 

 

「響って言ったか?お前はそんな考えで人が救えると?」

 

 

「………私達は同じ人間だから……。人間だからこそ繋がり合える!だから!「本当にそうか?」!?」

 

 

「人間だからこそ繋がり合える?それが出来ていたら今この世界で争いなんて起こっちゃいない。今でも戦争している国だっている。お前が言っていることは上から目線の同情にしか過ぎない。そんないい加減な考えを持つ奴になんかに誰も助けられないんだよ!!」

 

 

言い捨てると同時に、大剣のエネルギー刃を響目掛けて放つ。

それは躱せない距離ではなかった。

しかし響は避ける事なくまるで避ける事を忘れたかのように突っ立っていた。

響の前に躍り出る翼。刀でエネルギー刃をなんとか相殺する。

 

 

「何をしている立花!」

 

 

翼が叱責し飛び出す。

クリスは援護するようにガトリングガンで牽制する。

マリア達四人は散らばり、マリアは翼へ、調は響へ、切歌は大鎌を回転して弾丸を防ぎながらクリスへ、奏空は大剣を添えて凛音へそれぞれ向かう。

彼は今もなお自分を睨みつけている。剣が交わるだけで心が痛くなってしまう。どうすればいいのかと考えた矢先、

会場の中心から突然ノイズが現れた。

 

「わぁぁ、何あのでっかいいぼいぼ!?」

 

今までのようなノイズではなく、所々が肥大化し響達の身の丈の数倍はありそうな巨大なノイズ。しっかりとした形を保っておらず、響が表現したでっかいいぼいぼが妥当であろう。

 

「こいつって………。」

 

 

「増殖分裂タイプ……」

 

 

「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!」

 

 

切歌の言葉通りなら、このノイズの登場は彼女達の予定にもなかったようだ。

マリアは通信で何かのやりとりを終えるとアームドギアを展開した。

ガングニールの穂先をノイズへ構えると穂先が形状変化しエネルギーが充填される。

 

『HORIZON†SPEAR』

 

ノイズ向かってエネルギー状の光の槍が放たれた。命中したノイズは消滅せず肉片を散らしながら会場中にバラ撒かれた。

 

 

「おいおい!?自分らで出したノイズだろ!?」

 

 

「いや、違うこれは!!」

 

 

凛音は気づいた瞬間、肉片がくっつきはじめる。このノイズは調の言う通り破壊すればするほど増殖と分裂を繰り返していくノイズだ。こんなのが会場の外に出てしまったら避難した人質に危険が及ぶ。マリア達はそれを見る事なく撤退を始めた。

 

 

「奏空!待って!!」

 

 

凛音の声が耳に入り、蔑んだ目で一瞥しようと振り返ったその時だった。

視界にこちらに手を伸ばす凛音の姿が映ると、突然頭に電流が流れらかのような痛みに襲われた。

あまりの痛みに片膝をついてしまう。

 

 

「(なんだ………これ……。)」

 

 

「奏空!?大丈夫!?」

 

 

「っ!!」

 

 

彼に触れようとするとその手を弾かれる。それと同時に彼女に向かって小型丸鋸が飛び交い慌てて避ける。無論やったのは調。

調は彼に向かって手を伸ばす。

 

 

「奏空!掴まって!」

 

 

「!」

 

 

調の声にいち早く気づき、その手をしっかり握る。やがて彼の姿が見えなくなる。

 

 

「奏空ぁ!」

 

 

「凛音!今はこいつの対処が先だ!」

 

 

凛音は見えなくなっていく彼の姿に歯を噛み締めノイズの処理に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だか、これはまだ悲劇の序の口に過ぎなかった。



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第3話 行き詰まる者

よ、ようやく書けた。今回は色んなシーンをカットしていますが大体は原作とあっている………はず(オイ
それではどうぞ。


そこはごく普通で、何処にでもありそうな何の変哲のない公園。

 

 

その中に一人の少女がいた。

 

 

彼女は楽しそうに遊んでいる。ブランコに乗ったり、滑り台で滑っている。

 

 

一緒になって遊びたいと思ってしまうが、体が全く動かない。いや、動けなかった。

 

 

少女はこちらに気づく。

 

 

走ってこちらに向かってくる。

 

 

そして目の前まで来た時、彼女は微笑みながら手を出してきた。

 

 

 

「一緒に遊ぼう。」と言っているようだった。

 

 

その笑顔に吸い込まれるかのように手を伸ばし握ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガガッ

バリバリッ

 

 

 

脳にとてつもない程のノイズ音が走った。頭を抑えているうちに少女も公園もなくなり、ただの暗闇の空間になる。

それだけでなく足元から黒い手が無数に生えてくる。

その手は体にまとわりつき、地面に引っ張っていく。抵抗しようにも手が首を掴み締め上げ始めた。それも凄い力で、一気に意識を刈り取っていく。

更に口を塞がれて上手く呼吸も出来ない。

 

 

 

死にたくない………。

 

 

ダレか……。

 

 

タスケテ…。

 

 

…………。

 

 

………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「!?」ガタッ

 

 

腰にかけていたパイプ椅子から勢いよく起き上がった。首を触ると汗がベッタリついていた。

これで何度目だろう。この夢を見るのは。

あのライブでの戦闘から一週間が経った。あれ以来から毎日のように同じ夢を見る。

それに日が経つにつれ、夢で首を掴まれた感触がリアルに感じてしまう。

 

 

「どうしましたか奏空?」

 

声の主は眼帯をした老婆『ナスターシャ』。マリア達はマムと呼んでいる。

戦闘中にマリアに通信を入れたのは彼女だ。

 

 

「またあの夢を見たのですか?」

 

 

「うん。しかも寝てないときも突然頭に映し出されるんだ。」

 

 

「それは所謂フラッシュバックですね。」

 

 

第三者の声が耳に入った。暗闇の奥から出てきたのは銀髪の眼鏡をかけた男性『Dr.ウェル』だ。彼はノイズを召喚出来る『ソロモンの杖』を用いて一週間前の戦闘に出した増殖分裂タイプのノイズや、観客を人質として使っていたノイズもこの男が出したのだ。

 

 

「フラッシュバック?」

 

 

「強いトラウマ体験を受けた場合に、後になってその記憶が、突然かつ非常に鮮明に思い出されたり、同様に夢に見たりする一種のストレス障害のことです。」

 

 

「ストレス障害……。」

 

 

その時、モニター内にいる黒い生き物が暴れ出し、警報が鳴り始める。

ソレは『ネフシュタンの鎧』や『デュランダル』と同じ()()()()()完全聖遺物『ネフィリム』。旧約聖書にて『天より落ちたる巨人』と記され、人成らざるモノと人の娘から生まれたと記されてる。他にも一説には堕天使とあるとか。

最近ではよくある事だ。ナスターシャは慌てる事なくコンソールを操作し隔壁を閉じ、『餌』となる聖遺物を放り込んだ。

 

 

「また暴れてる……。」

 

 

「……やはり、ネフィリムとは人の身に過ぎた………。」

 

 

「人の身に過ぎた先史文明期の遺産、とか何とか言わないでくださいよ。」

 

Dr.ウェルがナスターシャの言葉を遮る。

 

 

「喩え人の身に過ぎていたとしても、英雄たる者の身の丈に合っていればそれでいいじゃないですか。」

 

 

Dr.ウェルは『英雄』という言葉が好きだ。英雄とは勇敢で統率力もあり、偉業を成し遂げた人物を指す。

しかし彼の言う英雄に『勇敢』や『統率力』などよりも何かあると感じるのは気のせいだろうか。

 

 

「マム! さっきの警報は!?」

 

今度はマリアと調、切歌が部屋に入ってきた。

シャワーを浴びていたのか、髪がわずかな光でも反射して輝きを魅せていた。

 

 

「心配してくれたのね。でも大丈夫。ネフィリムが暴れただけ。隔壁を下ろして食事を与えているから直に収まるはず」

 

 

そんな視線を意に介さず、ナスターシャは安心させるように状況を説明する。

しかし説明が済む前に隠れ家を揺らすネフィリム。

 

「マム………。」

 

 

「大丈夫だよマリア。いざとなったら俺が………ッ!!」

 

 

「ッ!奏空!」

 

 

再び頭に頭痛が走る。それを見兼ねたナスターシャは彼を自室に連れて行くように頼んだ。調と切歌もマリアについて行くように部屋から出て行った。

それを確認するとDr.ウェルは今まで隠していたかのように懐から紙を取り出す。

 

 

「やはり見せなくて正解でした。」

 

 

「それは?」

 

 

「いやぁ一週間前の戦闘ので彼女のことが気になって調べたらこんなのが。」

 

 

ナスターシャに紙を渡し、内容を確認すると顔をしかめる。

 

 

「確かにこれは見せない方が良いですね。」

 

 

その紙にはある人物について書かれていた。

 

 

 

 

 

枢木 凛音

 

 

・8歳…両親がノイズにより死亡、弟は行方不明となる。その時二課が保護。そのまま風鳴機関の養子となり風鳴 凛音と名を変える。

 

 

・9歳…アウフヴァッヘン波形を測るため計測実験を行う最中、保管していた天叢雲に適合する。既に第2、第3号聖遺物が登録しており、波形も天羽々斬と類似していたので第1.5号聖遺物と登録。

 

・14歳…第2号聖遺物ガングニールに『天羽 奏』が適合し、ノイズとの戦闘を始める。

しかし完全聖遺物ネフシュタンの機動実験を兼ねたライブでノイズが出現し天羽 奏は絶唱しーー殉職する。

 

・16歳…フィーネの月の欠片による地上破壊の策謀『ルナアタック』を阻止。その後行方不明となる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

宣戦布告以降、フィーネの行動は完全に闇に隠れ表立った情報は何もない。あの国土割譲と云う要求も二十四時間が過ぎても各国の主要都市にノイズが出現する事はなかった。

だが、表立った行動はなくとも裏立った行動ならば、緒川が見つけた。

とあるヤクザと関わりを持って資金洗浄をしていたようである。そこに気になる情報があったらしいが、詳しい事は分かり次第また報告するらしい。

 

 

そして現在、特異災害対策機動部二課、通称『二課』の司令官『風鳴 弦十郎』は顎に手を添えてモニターに映っているものとにらめっこしていた。

 

 

モニターに映し出された内容はある人物の経歴だった。

 

 

 

枢木 奏空

 

 

5歳…元々孤児であり、枢木家が彼を拾って養子となる。

 

 

7歳…ノイズにより両親が死亡。義姉の凛音と別れてしまう。

 

米国連邦聖遺物研究機関『F.I.S.』の特別被験体という枠に枢木 奏空の名が記されていた。

特別被験体とは聖遺物『バルムンク』に適正反応があった。

 

9歳…バルムンクの機動に成功する。その後の経歴は不明。

 

 

 

「これは凛音に見せない方が良いな。」

 

 

「その方が良いですね。我々がずっと探していた裏でこんなことをやっていたと伝えればどれ程傷つくか……。」

 

 

「それにあの日以来今も彼女の精神はとても不安定ですので、今後どうなっていくのも心配ですし。」

 

 

コンソールを操作していたオペレーターの『藤尭 朔也』、『友里 あおい』がそれぞれ返事を返す。

一週間前の戦闘の後、凛音はこれまでにない程顔を曇らせていた。数年ぶりに再会した弟と対峙し、その上拒絶もされたのだ。

そんな彼女にこの経歴を見せてみろ。最悪の場合、自殺するかもしれない。

しかし彼の経歴にある違和感を感じた。

9歳の時にシンフォギアの機動に成功したとあるが、その日は研究所にとある事故があった日なのだ。

その日に成功したとあればどうも引っかかる。弦十郎は再びモニターを睨みつけるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ここは?

 

 

目が覚めるとそこは全てが黒く冷たい世界だった。誰もいない。何もない。

 

 

「…………ぁ。」

 

 

しかしそんな世界であるものを見つけた。ずっと探していた人。会ってこの腕で包み込みたいと思っていた人。

 

 

「奏空!」

 

 

彼を包み込もうと両腕を広げて駆け出す。しかしあと一歩手前で突如、壁が出てきた。

その壁は灰色のオーロラカーテンのようなもので、叩いても叩いても壊れない強固な壁として機能している。

そして彼の顔を見ようとした瞬間、背筋が凍る感覚にあった。

「こっちに来ないで。」そんな気持ちが込められた目をしていた。

そんな彼女に目もくれず彼は闇と同化するように消えていく。

 

 

「待って!行かないで奏空!」

 

 

自分の声も届かないまま彼は完全に消え去り、ただ彼の名が響くだけであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「………音?…………凛音?どうしたんだ?」

 

 

「…………あっ!?えっ?」

 

 

いつの間にか寝ていたようだ。凛音が通っている私立リディアン音楽院は学祭の「秋桜祭」の準備のため現在翼とクリス、同級生と共に飾り作りをしていた。

何でもないと言いながら作業を再開する。

 

 

「なぁ………何かあったのか?」

 

 

「?何が?」

 

 

「いや、涙が。」

 

 

「え?」

 

 

凛音は目元を触ると一筋の雫が垂れていた。

 

 

「あー、ごめんねちょっと悲しい事思い出して。さ、続きやろ。」

 

 

そう言ってサクサクと進める凛音だが翼は奏空のことだろうと思った。あれ以来彼女はこんな調子だ。

また彼との戦闘になるとどうなるだろう。彼女だけでなく響もだ。響も彼に言われたことが心に深く傷を負い、相当落ち込んでいた。

二人の心が不安定になっていく中彼女は見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「…………。」

 

 

奏空はF.I.S.保有の大型ヘリ「エアキャリア」内で座り込んで顔を沈めていた。

現在の状況は二課がアジトにしていた廃病院に侵入したためDr.ウェル以外はエアキャリアへと移動した。

また彼女と戦わねばならないのか。

調と切歌には大丈夫と伝えたが、内心不安定だ。彼女の顔を見ただけでどうかなりそうだ。

そのぐらい彼は限界だった。マリア達に自室に連れて戻った後も数回頭痛を起こした。

結局いつもこうだ。大事な時に自分は体調を崩しかけて。

もう自分は要らないのではないのだろうか?

 

 

「奏空?」

 

 

聞き慣れた声が耳に入る。顔を上げるとそこには心配そうな眼差しで見ているマリア。何とか作り笑顔で誤魔化そうとする。

 

 

「あぁ。ごめんねカッコ悪いところ見せちゃって………。ちょっと考え事してただけだから………。」

 

 

凛音(彼女)のこと?」

 

 

作った笑顔が徐々に曇っていく。

 

 

「うん当たり………。情けないよねこんな大事なときにこんな状態になって………。俺が唯一四人の中で先天的適合者なのに……。役に立たなくて………。」

 

 

徐々に声が小さくなり顔を俯かせる。

彼はの言う通り四人の装者中で唯一LiNKERと言う適合係数を上げる薬品を使わずに纏える先天的適合者だ。

LiNKERは適合係数を無理矢理上げる劇薬だ。そして数もそう多くない。

そのためにLiNKERを使わずに戦える奏空が戦力として機能しなければ意味がないのだ。

 

 

「奏空………。」

 

 

「ごめんなさい………。ごめんなさい………。」

 

 

俯いたまま目から雫を流す。

情けないな………もう二度と泣かないって決めたのに………。

すると急に体が暖かくなってきた。

マリアが彼をぎゅっと抱きしめているからだ。その温もりはとても優しく、とても心地よかった。

 

 

「奏空、貴方は何も悪くない。貴方がいなかったら今頃向こうの装者達にやられていたかもしれないし、貴方がいなかったら私もここまで強くなれなかった。貴方はとても強い。だからその力でみんなを守って。」

 

 

まるで母親のような笑みを浮かぶマリアに、心の中の曇りが一気に晴れた。

あぁ、そうだ。もう自分は一人ではないんだ。いろんな人に囲まれている。

その囲みを壊すものは誰だ?

向こうの装者達(あいつら)だ。現にあいつらはこちらに攻めてきている。だからそれからマリア達を守るのが自分の使命だ。

 

 

「行きましょう?奏空。」

 

 

「うん!行こう!」

 

 

そして二人は空から降り立ち歌を落とした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二課の装者達が廃病院に侵入し、途中でウェルに出くわすも向こうはすんなりと捕まる。ソロモンの杖は回収出来たが、道中で遭遇したネフィリムが入ったゲージが気球型ノイズに逃げられる。

四人の中から翼が海に向かって走り出す。

通信機から弦十郎からそのまま飛べと入る。言われるがままに翼は飛び出すと、海から一隻の潜水艇が上を向いた状態で現れる。

翼は先端を踏み台にし、更に跳躍する。

気球型ノイズをアームドギアで斬りふせる。

 

 

「(あとはこいつを!)」

 

 

するとゲージに手を伸ばした途端、どこからともなく一筋の槍が飛んできた。

翼は弾かれて海に落ちていく。

飛ばされたゲージは何者かが右腕でキャッチする。その者は海の上に浮いている槍の柄の先端に立っている。

 

 

「時間通りですよ、フィーネ。」

 

 

「フィーネ、だと……!?」

 

拘束されたウェルの呟きにクリスから驚きの声が発せられる。

 

「終わりを意味する名は、組織の象徴であり彼女の二つ名である。」

 

 

「そんな……それじゃあ、あの人が……!」

 

 

「新たに目覚めし再誕した――フィーネですッ!」

 

 

槍を投げ、フィーネと呼ばれたのは、黒いガングニールを纏うマリアだった。

 

 

「私を忘れちゃ困るよ!」

 

 

翼に続き、跳躍して長刀を振りかぶる凛音。そして長刀はマリア当たーー

 

 

ガギンッ!

 

 

ーーらなかった。

槍の次は大剣がマリアと凛音の間に現れた。大剣に弾かれ凛音は二課の本部でもある潜水艇の甲板に着地する。

弾かれた大剣は上に上がり、第三者が掴み取る。その第三者は落下し海に落ちるかと思いきやあとちょっとの高さで空中に静止した。

後ろの突起のようなものを伸ばして羽のような形にして飛んでいるのだ。

 

 

「そして彼がフィーネを守りし騎士(ナイト)。」

 

 

魔剣(バルムンク)のシンフォギア を纏う奏空がマリアを守るように前に立っていた。

その背中には、さっきまで泣いていた彼はいなかった。大切な家族を守るために戦う。そんな気持ちが伝わってくる。

 

 

「(奏空………やっぱり貴方は………。)」

 

 

彼は二課の装者達に向けて大剣を構える。

 

 

「来るなら来いっ!マリアに手を出す者は全て斬るっ!!」

 

 

再びフィーネと二課の装者達の戦闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 



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第4話 二度目の兄弟喧嘩

突如現れた烈槍と魔剣の装者、マリアと奏空が海の上で静止していた。

 

「奏空、私は風鳴翼を相手をするから貴方はもう片方を相手してくれる?」

 

「うん。大丈夫。」

 

「そう………ありがとう。」

 

会話が終わると、翼が海から飛び出し奇襲を仕掛けてきた。狙いはマリアだが、難なく躱す。

 

 

「甘く見ないで貰おうか!」

 

 

しかし翼は大剣にすると大きく振りかぶり、斬撃を放つ。

 

『蒼ノ一閃』

 

奏空が大剣で防ごうと構えるが、視界が遮られる。マリアがマントで奏空ごと包んだからだ。

マリアは翼を見据えて言い放つ。

 

 

「甘くなど見ていない!」

 

翼は脚部のブースターを吹いて再び仕掛ける。

マリアは落ち着いて奏空を庇いながらマントで払う。

飛ばされた翼は浮上した潜水艇に打ち付けながらも甲板に着地する。

口角を上げ、持っていたゲージを上空に放るとゲージは周りの景色と同化するように消える。

槍から飛び上がりマリアも甲板に着き右腕を上げるとそれに答えるかのように槍が海から離れ右手にしっかり握られる。

 

 

「だからこうして私も全力で戦っている!」

 

挿入歌『烈槍・ガングニール』

 

マリアが飛び上がり槍を振るう。

刀とぶつかり火花が散る。翼が後退ると、マリアは挑発するように槍を回す。

気に障ったのか翼は駆け出すもマントを展開し、妨害する。

マリアはマントと槍を駆使して翼を翻弄してしまう。するとマリアは自らを包み込むとコマのように回転し迫ってくる。翼は跳躍し、回転の中心部を狙う。

正面からだと弾かれるが上からだとその回転を殺せるからだ。

だがそれを読んでいたのか、そう来るとわかっていたのか中心部に穴が開き槍が飛び出してきた。またしても攻撃を弾かれ後退される翼。

回転が止みマントが元に戻るのかと思いきや先端が翼に襲いかかる。

翼は転がりながら避ける。だがマントも翼を仕留めんと襲う。甲板が削られる程の威力だ。

 

 

「やっぱり凄い。」

 

奏空はポツリと呟く。

向こうの装者の中で上位クラスの相手に冷静に攻撃を防いで攻める。

先程もマントで自分も包んで攻撃を防ぐ辺り他にも視野を入れているのも凄い。

すると翼に気を取られていたせいか凛音がマリアに攻撃を仕掛ける。

それが視界に入った瞬間凄まじい速さでマリアの間に入る。

長刀を大剣で防ぎ、急に現れた彼に驚愕する。

 

 

「一騎打ちに邪魔をするな。」

 

 

低い声音で言い放ちそのままマリアとの距離を切り離す。

 

 

「奏空もうやめて!」

 

 

「…………。」

 

 

彼は黙って襲いかかる。

攻撃を防いで反撃を狙うも防がれる。最初に対峙した時よりも明らかに動きが変わっている。

最初は一心不乱な感じだったが、今ではこちらの弱点を突いて、完璧に防いでいる。

一週間でここまで変わるとは。

 

 

「奏空!どうしてなの!?どうして私達と敵対するの!?こんなことをしてもただ悲しくなって行くだけだよ!」

 

 

「…………。」

 

 

彼の眉間にシワが寄せられる。

打ち付けが先程よりも強くなる。

 

 

「私は貴方をずっと探していた!貴方に会える日を待っていた!それなのに会ったのは戦場(いくさば)の中!…………今からでも遅くない!私と帰ろう!」

 

 

「…………。」

 

剣を握る力が更に加わる。

打ち付けが更に強くなる。

 

 

「ねぇ!奏空!」

 

 

「…………せぇ……。」

 

 

「え………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせぇっっ!!!」

 

 

凄まじい力が長刀に伝わり跳ね飛ばされる。

彼を見ると肩を震えさせ歯を噛み締めて左手からポタリポタリと鮮血が落ちる。

 

 

「え………なん………。」

 

 

「毎日毎日人の頭ン中で奏空奏空奏空奏空ってウルセェんだよ!!この一週間で何回頭痛にあったことか!!何十回夢でうなされたことか!!もう耳ダコなんだよっ!!」

 

凛音は泣きたくなってしまう。

ここまで変わり果ててしまっていたのか。あの頃のような姿は微塵もなかった。

 

 

「もういい加減………………。」

 

 

彼は大きく大剣を振りかぶる。

またあの時のような緑の斬撃かと構えるが、彼女の予想をはるかに超えることをする。

 

 

「うんざりだっ!!!」

 

 

大剣を思い切り振るとなんと大剣から5つの剣が分離し、飛び掛かって来た。

思わず目を見開く。あの大剣に5つのも剣がまとわりつき、一つの大剣となっていたものを今まで彼は使っていたのだ。

迫り来る5つの剣に凛音は応戦する。

彼は残った一本の剣を指揮棒のように払うと5つの剣が生きているかのように襲う。

 

 

『Sword Taktstock』

 

ただ振っているだけではない。剣一つ一つに命令を送り攻撃しているのだ。

もう一つ刀を取り出して応戦するが、こちらは2本に対して向こうは5本。明らかに分が悪すぎる。気が付けばみるみる押されていて甲板の端まで追い詰められていた。

もう落とされると思ったが、彼は目線をマリアの方に向けると更に鋭くなる。

一つの剣を向こうの方に飛ばすとクリスのクロスボウに命中した。マリアに狙いを定めていたクリスに的確にクロスボウを破壊したのだ。

それが合図のように上空から丸鋸が飛来する。更に鎌を展開してグルグル回す少女が現れる。紛れもなく切歌だ。

切歌は武器を潰されたクリスに攻撃を仕掛ける。

一方滑走路から車輪が駆けてくる音が聞こえる。その正体は調が脚部ローラーを使ってこちらに向かっていた。

ヘッドギアから小さな丸鋸を無数に射出する。

響は受け流したり躱したりするが、脚部・頭部から体の周囲に円形のブレードを縦向きに展開し、回転しながら迫り来る。

 

 

『非常Σ式・禁月輪』

 

ギリギリで避けられたが、向こうで呻き声が耳に入る。

切歌が長い柄を使ってクリスの脇腹にぶつけたのだ。肺の酸素が無理矢理吐き出されむせる。その拍子にソロモンの杖を手放す。

状況は最悪だった。

今の一撃でもうクリスはまともに動けそうにない。翼はマリアとの交戦中最初に受けたダメージが来てダウン。響はクリスの介抱。

そして自分は今もなお攻撃を防ぐのが精一杯。

すると攻撃がピタリと止んだ。奏空がマリア達の方に向いていたのだ。

 

 

「(一体何故?)」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「(ギアが重い………。)」

 

 

マリアは肩を上下させていた。

マリアと切歌、調は先天的適合者ではない。LiNKERを用いて戦っている為次期に効力が切れる。

更に後から負荷が掛かってしまう。おまけにマリアは調や切歌よりも先に出陣してるために効力も限界だった。

そしてナスターシャから通信が入る。

 

 

『適合係数が低下してます。ネフィリムは回収しましたので戻りなさい。』

 

 

「ッ!時限式ではここまでなの!?」

 

 

「(まさか奏と同じLiNKERを?)」

 

 

今は亡き片翼と先代のガングニール装者も、先天的適合者ではなかった。

彼女が亡くなる瞬間がフラッシュバックされる。

と、その時だった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

誰かがマリアに向かって駆け出して来た。隙を見た凛音が奏空を振り切ってマリアに一矢報いる気だった。

防ごうとするが体が思うように動かない。マリアは攻撃を受ける覚悟で目を瞑った。

しかしいつまで経っても攻撃が来なかった恐る恐る目を開けるとそこには………。

 

 

「ヤッベェミスった…………。」

 

 

脇腹に長刀が刺さった騎士が自分を護っていた………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「奏空ぁぁぁぁぁ!!」

 

 

滅多に聞かないマリアの悲鳴が響き渡り、辺りは静まり返る。彼は痛みに耐えながらも長刀を無理矢理引き抜くと、片膝を着く。

刀の抜かれた拍子に凛音は尻餅を着く。大切な人を自分の手で傷つけてしまったのだ。

自身の手を見て震える。

 

 

「おのれよくも!!」

 

 

「待ってマリア!!」

 

 

凛音に攻撃をしようとしていたマリアだが、奏空に止められた。

 

 

「これは俺のミスだから。それにマリアも今はとても戦える状態じゃない。だから………。」

 

 

「ッ。……………わかった、そうするわ。」

 

 

それと同時に風が吹く。上空を見ると今までなかったものが現れる。

マリア達の飛行艇のエアキャリアだ。ロープが吊るされるとマリアは奏空を抱きロープを掴んだ。

その後切歌と調の元に行き、切歌はウェルを掴んで二人ともエアキャリアに乗り込む。

 

 

「逃すかっ!」

 

 

クリスは肩を貸していた響を突き放し、新しいクロスボウを出すと徐々に形を変えて行きスナイパーライフルになる。そして頭部のバイザーが降ろされスコープのようになる。

 

 

『RED HOT BLAZE』

 

 

標準を合わせ始めるがエアキャリアが再び背景と同化していく。

 

 

「それでもっ!」

 

 

クリスは構わずに引き金を引く。弾丸は真っ直ぐ目標に向かっていく。

すると今までマリアに抱かれていた奏空が離れてその弾丸に向かって大剣をぶつける。

弾丸は凄まじい威力で押してくるが、引けられない。

気張っている内に先程受けた傷から血が噴き出す。

 

 

「うおぉぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

奏空は最後の力を振り絞って弾丸の軌道を無理矢理変えた。

晒された弾丸は虚しく海に落ちていく。

 

 

「嘘………だろ………。」

 

 

奏空は力を出し切ったのか糸が切れたように意識を手放す。そして彼は海に落ち…………なかった。

ギリギリ切歌が肩のブースターを吹かして拾ったからだ。

そして切歌を再び乗り込ませエアキャリアは朝日と同化するように消えて行った。




RED HOT BLAZEは原作では一回切りだったので自分なりに活躍(?)させました。
ではまた。


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第5話 貴方を想う

今まで待っていた方々、誠にすみませんでした。お詫びに今回は8000文字越えです。
最後らへんが適当ですけど。(オイ
では5話をどうぞ。


秋桜祭。

文化祭とは違い、共同作業による連帯感や、共通の想い出を作り上げる事で、 生徒たちが懐く新生活の戸惑いや不安を解消することを目的に企画されている行事。

 

 

それが今日、私立リディアン音楽院で行われようとしていた。そこに眼鏡を掛けた少年と少女が合わせて三人。

 

 

「おお!思ってたよりも結構人がいるデスね〜!」

 

 

「…………。」

 

 

「あ!あの屋台の焼きそば美味しそうデス!」

 

 

「………………。」

 

「わ、何デスかあの仮装………って奏空?大丈夫デスか?」

 

 

「え、あ、うん。」

 

 

「本当に大丈夫?やっぱり戻った方がいいんじゃない?」

 

 

「いや、折角与えられた任務だ。俺は戦えないけどこの任務は何としても達成せねば………。」

 

 

「奏空………。」

 

 

しかしさっきから目を離すとどことなく上の空気味になっていたりする。

では、何故彼は今回の任務に入っているかと言うとそれは数時間遡る。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「アジトを抑えられ、ネフィリムを成長させる餌『聖遺物の欠片』もまた、2課の手に落ちてしまったのは事実ですが。

本国の研究機関より持ち出した数も残り僅か……。遠からず補給しなければなりませんでした。」

 

 

「わかっているのなら、対策も考えているということ?」

 

 

「対策など…そんな大げさな事は考えてませんよ。聖遺物の欠片なんて、今時その辺にごろごろ転がっていますからね。」

 

 

ウェルは調と切歌の首に掛けているものに視線を映す。

 

 

「まさかこのペンダントを食べさせるの!?」

 

 

「とんでもない。こちらの貴重な戦力をみすみす失うわけにはいけません。我々以外にも、欠片を持つ者はいるじゃないですか?すぐ傍に……。」

 

 

「だったら私が奴のギアを…………。「それは駄目だっ。」っ、奏空?」

 

 

「マリアも知ってるだろう。力を使うたびにフィーネの魂が強く目覚めてしまう。それはマリアがマリアじゃなくなるの同じ。俺は歌姫(マリア)を護る為に任命された騎士(ナイト)。マリアが出るなら俺が出る。」

 

 

「あんなにもの傷を負ってまだ戦うのですか?流石にこれ以上無茶をされては計画に支障が出ます。」

 

そう。戦闘の後、奏空が目を覚ましたのは実に2日後だった。凛音から受けた傷が大きく開いてしまい、治療にかなり時間が掛かった模様。

普通の動きは出来るが、戦闘は当然出来ない。完治するのに一週間掛かるらしい。

 

 

「それなのに今回の任務に参加するんですか?」

 

 

「それは………。」

 

 

「そしたら私がついて行くデス!」

 

 

「切歌?」

 

 

「私も。マリアを護るのは奏空だけじゃない。私達もマリアがマリアのままでいて欲しい。だから………。」

 

 

「調………。」

 

 

「……………いいでしょう。ただし奏空、貴方は絶対に戦闘は避けること。戦闘は二人に任せて貴方は早急に退去した下さい。それで宜しいですね?」

 

 

「っ………はい………。」

 

 

奏空は静かに拳を握りしめた。切歌も調も大切な家族。なのに二人に任せっきりとは、情けなくてしょうがなかった。

 

 

「ごめんな、任せっきりで……。俺はお荷物になると思うけど。」

 

 

「大丈夫デェス!普段から美味しいものを食べさせているのでこんなの朝飯前デス!」

 

 

「だから奏空、安心して任務を務めて。」

 

 

「…………すまん。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

と、言った感じで奏空はここにいるのである。作戦の参加の代わりに戦えないが、計画を進められることは変わりない。

しかし奏空は一つ不安なことがあった。それはリディアンに凛音()がいること。ここは学園内なので嫌でも会うことになる。これだけは避けたい。何としても。

だから奏空はここに来るまで浮かない顔をしていたのである。

だがもう引けない。ここは既に敵の陣地。作戦は始まっているのだ。いるのだが。

 

 

「お〜!このたこ焼きも中々………」モグモグ

 

 

「…………ねぇ。目的忘れてない?それともこれも作戦?」

 

 

「ムグムグ……ゴックン!これも作戦デスよ奏空!人間誰しも美味しいものに引き寄せられるものデス。学院内の『うまいもんMAP』を完成させることが捜査対象の絞り込みには有効なのデス!」

 

 

「お、おお正論……なのか?」

 

 

「切ちゃん。」

 

 

「ど、どうしたデスか調?そんな膨らまして……。」

 

 

「私達の目的は学祭を満喫することじゃないでしょ?」

 

 

「し、心配ないデス!この身に課せられた使命は1秒だって忘れてないデス。」

 

 

「とか言いながらタコ焼きムシャムシャ食べてたのは何だったの?」

 

 

「奏空〜!お口チャックデス!」

 

 

「ムゴッ!?」

 

 

そんなやりとりをしていると、三人の目に今回の標的が目に映り込んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

またここにも浮かない顔をした者がいた。凛音はこれまでのことを振り返る。

ルナアタックから数ヶ月後、ノイズを召喚するソロモンの杖が盗まれて翼とマリアのライブでノイズが現れ、マリアは武装組織フィーネでありその中には生き別れた弟の姿が。

そして2回目の戦いで説得しようと試みたが向こうは拒絶し、その上傷を負わせてしまった。

全ては自分の所為であんな風になってしまいもう彼は自分の元には戻らないだろう。

どうやったら彼は心を開くのだろう。どうやったら彼は考えを改めてくれるのだろう。

 

 

「あの……凛音さん………。」

 

一人抱え込んでいたところを、誰かに声を掛けられた。振り返ると不安そうにこちらを見ていた響の未来の姿が目に映った。

 

「………ん、ああ、どうしたの響ちゃん。」

 

 

「そろそろステージの時間ですので一緒にどうかと思いましたが………すみませんお邪魔でしたか?」

 

 

「いやいや、大丈夫だよ。じゃあ一緒に行こうか。」

 

 

「…………奏空くんを先程見かけました。」

 

 

「………え?」

 

 

「彼の他にもマリアさん以外の装者もいました。三人はステージに向かおうとしていましたけど………。」

 

 

「……そっか、奏空がね…………。」

 

 

次第に声のトーンが低くなるのがわかっていった。

 

 

「凛音さん?」

 

 

「今あの子が来ても私にはどうすればいいのかわからない。私の生半可な気持ちの所為で傷まで負わせちゃって………。どんな顔であの子に会ったらいいのやら………。」

 

 

「…………それでいいんですか?」

 

 

「え?」

 

 

口を開いたのは未来だった。彼女は凛音を真っ直ぐ見据えてはっきりと言う。

 

 

「そんな簡単に奏空くんのことを諦めていいんですかっ!」

 

 

「ッ…………。」

 

 

「一度突き離されたからって何なんですか!駄目だったらまた挑戦して、また駄目だったらさらに挑戦するって言ってくれたのは凛音さんですよ!」

 

そう。響が未来に装者ということを黙っていたことがバレてしまい二人の関係が崩れそうになった時に凛音が未来に言ったのである。

そのお陰で響と打ち明けることが出来たのである。未来の言葉を受けて凛音は拳を握りしめる。

 

 

「…………私だってやだよ………。やっと奏空に会えたっていうのに向こうは私を遠のいて更に離れていく……。どうやったら彼が心を開いてくれるのか分からないよ!」

 

 

「大丈夫ですよ凛音さん………。」

 

「え…………。」

 

涙を流す凛音に響は耳元でそっと囁いた。そして見開いてがすぐに何かを覚悟をしたかのような表情になった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

所変わってここはリディアンのステージホール。そこではのど自慢のようなことが行われて、優勝すると生徒会より願いが叶うとか。

奏空達は翼の後をつけてここまで来たのだ。そこで生徒による歌唱を聴いていたのだが………。

 

 

「ねぇ調、電光刑事バンって何?」

 

 

「多分アニメの一種。それもかなり古いタイプの。」

 

 

「成る程。通りで歌詞が昭和臭かったわけだ。いやぁ世の中にはああいうのが好きな子がいるんだなぁ。」

 

 

「言ってることがおじさん臭いデェス………。」

 

 

そんなやりとりをしていると次は意外な人物が登場した。ついこの前戦った二課の装者の雪音クリスだった。戦闘では少々荒い言葉使いで気が強い少女かと思ったが、今彼女は頰を赤く染めて恥じらうとは思ってなかった。

と、彼女を見て目的を思い出す。今回は二課の聖遺物を奪取すること。さて、どのタイミングで行動に出ようかと思考する。こんな一般人が大勢いる前で目立った動きは出来ない。どうしたものかと考えていると曲が始まる。

 

 

挿入歌『教室モノクローム』

 

 

それはとても美しく綺麗な声だった。それに何故だろう、歌詞が心に突き刺さる。

奏空は目を覚まさせるように顔を横にぶんぶん振る。流されてはいけない。彼女は敵であり、作戦の標的である。それなのに歌詞の一つ一つが心に突き刺して来てしょうがない。

奏空は耐えきれず後半は耳を塞いで聴かないようにした。隣を見ると調と切歌は見惚れていた。

歌が終わったのか観客に歓声が上がり会場は一気に盛り上がる。

 

 

『すばらしい歌声!柔らかで優しい一曲でした!!みなさん!雪音クリスさんに、今一度盛大な拍手をお願いします!!』

 

そして拍手が送られる。

流されてはいけない。今回は彼女達のギアを奪う為にここに来たんだ。歌を聴く為じゃない。

奏空が頭を抱えていると観客は再びわっと盛り上がる。どうしたと顔を上げるとそこに奴がいた。

今回の任務の標的であり、彼が今一番会いたくない人物であった。風鳴凛音だ。

遠くからなのに目が合ってしまった。そして彼女はこちらに向けて微笑んだ気がした。奏空は急いで目を逸らす。

やがて会場は静まり、曲が始まる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛音はステージに上がる途中、響に言われたことを思い出す。

 

 

『大丈夫ですよ凛音さん。奏空くんが心を開いてくれる方法があります。それは…………。』

 

 

『それは?』

 

 

『歌ですよ。この世界には歌があるんですよ。奏空くんだって人です。感動だってするはずです。だから…………。』

 

 

そう。これは彼に捧げる歌。彼に聞いて欲しい歌。だから奏空、聞いて欲しい。

遠くに眼鏡をかけた彼が目に映り、微笑む。

この歌をどうか耳に入れて欲しい。

 

 

挿入歌『君の神様になりたい』

 

 

この歌は『命』『家族』をテーマにした曲らしい。その自分の作った曲で誰かが救われればいいと思って、「僕の曲を聞いてくれた人が曲に感化されて命を大事にしたらいいのに」そう言葉を発信した。でも本当はそんなの綺麗事で、『命』『家族』をテーマにした曲に対する共感が欲しかっただけ。自己顕示欲や認証欲求にまみれた存在が、作曲者本人だったという。

 

 

苦しいから歌にした。

 

悲しいから歌にした。

 

生きたいから歌にした。

 

「誰かに自分の歌を通して命(愛)を大事にしてもらいたい」と望んでいる一方で、結局自分が作り出した曲は自分のために歌にしたものでしかなかった。それはただのエゴ(自分の利益)にまみれた歌だった。そんな自分のために歌った歌で、誰かが救えるなんてことはない。でも「誰かに自分の歌を通して命(愛)を大事にしてもらいたい」という気持ちも本当だった。

 

『君』は色々な困難や挫折を繰り返してきて、ただならぬ傷を負っている。自分が歌って叫んで、抱きしめるように優しい言葉を歌っても、『君』の今ある現実は変わらない。

けれど現実はそんな歌で『君』を救えない。だから自分は無力だ。

 

歌を聴いた傷ついた「誰か」は、「あなたに救われました」「生きたいと思った」と言う。『グジュグジュ』から『かさぶた』にまで心の傷が癒えたんだ。

 

でもそれは、決して自分のおかげではない。自分の歌はエゴにまみれ、影響力を持たない。変わった(心の傷から立ち直れた)のは歌のせいではない。他ならぬ自分自身の努力・頑張りのおかげである。

 

時が経っても自分は素敵な大人にはなれずに、自分を満足させるためだけの歌を歌っている。自分自身で、傷ついた誰かを救いたかった。

 

エゴまみれの自分の歌なんて実際自分自身も好きになれなかった。欲しいのは自分の作った歌に対する共感だけで、やっぱりそれじゃ人は救えない。

 

『歌を作り残すことで生きた証が欲しい』とか、『曲を称えて欲しい』という気持ちはそんなになくて、ただ、共感してもらいたい気持ちと、『誰かを救える歌』と願っている。

 

 でもそれは無理なことで。

 

自分のエゴで作った曲で人を救うことはできないし、何よりも、自分の歌が例えなかったとしても、傷ついた人は自分の力ではいあがって足掻きながら、幸せになっていくことができるから。

 

自分が歌った曲などに頼らなくても、君は君一人で立派に強くて、立ち直ることも前を向いて歩むことだってできる。

 

でも、もしも一人で立ち上がれない時は、自分の非力な歌を聴いてほしい。君が抱えてきた、痛み辛さ、苦しさを自分が歌うから。

 

『神様にはなれなかった。』は「(自分の曲で)あなたを救うことはできなかった」という意味。最後の『君を救いたいけど、救いたいけど。』とは「あなたを救いたいけど、それでもやっぱり自分の曲であなたを救うことはできない」という願いが込められていた。

 

 

全て歌い終わると会場は歓声に包まれる。今まで人に歌を捧げたことなんて一度も無かった。彼の為に歌った。彼の為だけにこの歌を捧げた。

 

 

『風鳴凛音さんありがとうございました!さぁ次なる挑戦者はいますか?飛び入りも大歓迎ですよッ!』

 

司会者が進める中ある者が席から立ち上がった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「飛び入り大歓迎!?そんなの即参加に決まって『ガタッ』デデデスッ!?」

 

 

「えっ!?奏空!?」

 

 

調と切歌が呼んでくるがその時聞こえてなかった。ただステージにゆっくりと向かっていた。ざわつく会場。スポットライトが照らしてくる。

とうとうステージの上に着いた。ステージには困惑気味の姉。こちらと言ったら恐ろしいほど無表情だった。

 

 

「あッ。」

 

 

握っていたマイクをひったくると観客の前に立つ。そして歌う前に彼女に向いて一言だけ告げた。

 

 

『そこで聞いてろ。』

 

 

「えっ…………。」

 

 

言った瞬間会場は黄色い声援が上がる。そんなつもりで言ったわけじゃないが。

そして曲が始まる。

 

 

挿入歌『命に嫌われている』

 

 

「命を大切にしろ」「生きてればいい事がある」そんな歌は世の中に溢れていて

 

それを聴いた人は実際に元気をもらうかもしれないし、世の中一般に見たときにそれが正しい意見かもしれない。

 

でもその考え方の本音は「価値観の押し付け」で、

 

自分はいなくなっても自分は悲しくないけれど、自分の周りにいる人がいなくなってしまうのは、本当に悲しい事だからいなくなって欲しくない。

 

結局自分がよければ他は全て"他人事"。

 

「自分が誰かを嫌うことで誰かを傷つけているかもしれない」そんな事実があるかもしれないことは、自分自身のファッション(遊び)でしかないから気をつけない。

 

そんなことをしているのに「平和に生きよう」なんて言っているのはおかしいんじゃないか?

 

悲惨な事件などに影響された「命の歌」を歌った誰かの歌をまた誰かが聴いて感化されて行動を起こす。

 

そして少年は凶器を持って走る。

 

「命を大切にする」ではなく「命を奪う」という考えに走る。

 

もしかしたら誰かを傷つけてしまうようなそんな情報も簡単にメディアは流す。それを「誰かを傷つけたい歌」と。

 

命を大切にしようと言っているのに誰かの命を傷つけているような人達も、簡単に命を捨てようとする人も「軽々しい」

 

他人にとって自分の命はどうでもいいかもしれない

 

だから「命に嫌われている。」

 

 

大切な人を失って、生きる意味がなくなって毎日一人で過ごしていくことに辛くなる。

 

どんな人にも生命にもいつか「命の終わり」が来る。

 

「誰にも知られず朽ちていく」というのは周りに誰もいないという意味に等しい。

 

将来もしかしたら周りの大切な人は先にいなくなって、自分はただ一人で誰の記憶にも残らず命を終わらすかもしれない………。

 

それが怖いから、不死身になってずっと生きていくSFを妄想している。

 

自分一人になることが一番怖くて、自分はいなくなってもいいけど、大切な人には生きていてほしい。

 

「自分の命に執着していないのに生きようとしている矛盾。」

 

そんな矛盾を抱えて生きていることに対して、自分の中でおかしいと感じていることを「怒られてしまう」と少年は思う。

 

そして、周りがいなくなって一人になることが怖いから、周りと関わるのを避けることにした人に対して

 

「ずっと一人で笑えよ。」は、

 

「一人でも笑っていける?」という問いかけなのかもしれない。

 

 

今ある幸せに気づけずに、環境や過去を嘆いている今をもっと幸せにするんじゃなくて、後悔ばっかりする。

 

そして、本当の別れ(命の終わり)を知らないのに、さよならすることばかりを恐れている。

 

過去を嘆いてばっかり、将来の終わりを怖がる

 

そんな人に、もっと今ある幸福に目を向けてほしい。

 

 

絶対に死はいずれ訪れるもので、いつも世界のどこかで誰かの命に終わりが来ています。

 

自分にくるのも明日かもしれないし、明後日かもしれない

 

本当に言いたかったのは「生きろ」ではなく「大切なあなたが生きていればいい。それだけでいい。」

 

人それぞれに色んな「葛藤」や「想い」があるかもしれないけれど、必死に足掻いて生きてほしい。

 

簡単に命を終わらせて欲しくない。

辛い時だとしても、足掻いて生きてほしい。

 

 

曲が終わる。会場は一瞬しんとしたが、次第に拍手が送られ歓声が上がる。

再び彼女の方を向くと口を開いたままポカンとしていて吹き出しそうになった。

そしてまた一言。

 

 

「仕返しだ。」

 

 

それも悪戯っぽく。やってやったと言わんばかりに。そしてステージを降りて会場を後にした。

 

 

会場の外に出てベンチに座って一息つく。

初めてだ。あんな大勢の前で歌って、感情を込めて。でも恥ずかしくなかった。

何故だろうと考えていると、目の前に飲み物が差し出された。誰だと顔を上げると。

 

 

「はい、あったかいものどうぞ。お疲れ様奏空くん。」

 

 

ガングニールの装者、立花響がそこにいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

逃げようとはその時考えてなかった。その後普通に話したりした。

 

 

「なんで奏空くんはあの時歌ったの?」

 

 

「…………仕返し。」

 

 

「し、仕返し?」

 

 

「そ、あんな歌聴かされて気分悪くしたからその仕返しにって。」

 

 

果たして本当だろうか。彼の歌った曲は凛音の曲の答えのような歌詞だった。まるで凛音に言っているようにも聞こえた。本当はこの少年は戦いたくないのでは?彼女に会いたいのでは?

 

 

「それに俺が歌い終わった後の顔ときたら。『意外っ』みたいな顔すんな。俺だって歌うよ……。」

 

 

「…………ねぇ、奏空くん。」

 

 

「ん?」

 

 

「もうやめない?啀み合っても戦っても何も解決しないよ。私達は言葉を交わし合える人間だから。争ったりしなくていい。話し合えば分かり合えるよ。」

 

 

前にもそんなことを言っていた気がする。でもその時自分は否定していた。そんなの無駄だ。意味がないと思っていた。だけどよくよく考えたら確かにそうかもしれない。喧嘩していても話し合って最後は仲良くなっている。一々手を上げずに解決できることだってある。話し合いというのは悪くないと思い始めた。

だけどここではいと言えばマリア達を裏切ることになる。マリア達は家族のようなものだ。家族を裏切ることなんて出来ない。ましてやマリアを護らなくてはいけない。

向こうにつけばマリア達を裏切る。マリア達につけば凛音が悲しむ。一体どうすれば?

奏空が唸っていると響が提案する。

 

 

「じゃあさ、話し合いは一旦置いていて………凛音さんに会ってみる?」

 

 

「え…………。」

 

 

「ほら、ずっと会ってないでしょ?だから会って色んな事話してみたら?凛音さんも話したい事いっぱいあるだろうし。」

 

 

話したい事。それはこっちだっていっぱいある。彼女は別にこちらにつけとは言っていない。話してみては?と言っているのだ。

話したい。彼女と一緒に話したい。料理を食べさせてあげたい。色んなことをしてあげたい。

 

 

「…………だけ。」

 

 

「え?」

 

 

「話すだけなら……良い。」

 

 

「本当!?やったぁ!じゃあ早速呼んでくるね!」

 

 

ぱたぱたと駆け出して行って見えなくなる。まるで子供みたいだ。(自分もだけど。)

するとポケットが震えた。ウェルからの通信が入ってた。ボタンを押して通信に出る。

 

 

「えっと、何でしょう?」

 

 

「奏空、貴方に新たな任務を与えます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風鳴凛音を生け捕りにしろ。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一週間後、凛音は廃工場に来ていた。あの学祭の後響から奏空と話したいと言ってたので、行ってみたら置き手紙があった。

内容は『一週間後に廃工場で待って欲しい。』と。

側から見れば罠っぽいがその時は疑いもしなかった。奏空に会えるという気持ちでいっぱいだった。

 

 

「奏空〜?来たよ〜。どこにいるの〜?」

 

 

凛音が呼びかける。隠れているのかと思った次の瞬間背後から気配を感じた。

凛音はばっと飛び退く。流石は風鳴の名を冠する者。気配を感じるのも姉に劣らない。

 

 

「…………何もする気だったの奏空?」

 

 

気配の正体は奏空だった。右手に白い布を握りながら立っていた。

 

 

「それ、眠らせる薬品が染みてる布よね?そんなの何で話し合いに必要なの?」

 

 

彼女が問いかけても彼は俯いたまま何も喋らない。握ってた布をそこら辺に捨てる。

 

 

「…………凛音。」

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない……………。」

 

次の瞬間、シンフォギアを纏って襲いかかってきた。

 




挿入歌のところは実際に流して読んでみてください。奏空くんや凛音の心情がよく分かりますので。


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第6話 三度目の……

遅れてホッント申し訳ございません。色々と忙しく手がつけられませんでした。FGOとかFGOとかFGOとか…………。(殴

そ、それでは6話どうぞ…………。あとYoutubeでシンフォギアの配信始まりましたね。(ガクッ


最初聞いた時は意味が分からなかった。電話越しから言われたのが聞いたことない言葉にしかその時感じなかった。

 

 

「……え?」

 

 

「聞こえなかったんですか?風鳴凛音を……」

 

 

「いや、聞こえはしたんですけど……何故、唐突に?」

 

 

「いえ、少し調べたら中々面白いことが判明しましてね....。我々の中で彼女と対等に戦えるのはマリアとあなたしかいません。しかしマリアがこれ以上力を使いすぎるとフィーネが目覚めかねませんし。なぁに、難しいことではありません。別に殺せと言ってません。ただ捕まえてこいと言っただけです。騙し討ちするのもよし、戦闘に持ち込んで戦闘不能まで追い詰めるのもよし、あなたの自由です。あ、戦闘の場合は一週間後に決行する形に「ちょ、ちょっと待ってください!」おや、どうしました?そんなに声を荒げて。」

 

 

「俺に……….あ、あいつを騙せと言うんですか.....。」

 

 

「どうしたんですか?あれほど嫌悪していたのに急にそんなこと言って………。」

 

 

「ッ。いやそれは………。」

 

 

確かにそうだ。昨日まであれだけ拒絶してきたのに、今更できませんなんて虫が良すぎる。だからとて今まで人を攫うことなんてやったことない彼にそんなことできるはずが....。

 

 

「それとも.....私達を裏切るんですか?」

 

 

「ッ!」

 

 

ウェルの声のトーンが低くなる。さっきまでの丁寧な口調が急に冷たく感じる。脅迫じみているが、実際にそうだ。ここでできないと言ってしまえば裏切ることになり、最悪マリア達と戦うことになりかえない。それは絶対に嫌だ。

 

 

「い、一週間後。一週間に実行にしますので………。」

 

 

「おや、ようやくやる気になりましたか。頼みますよ、この任務はあなた次第で計画が大きく変わりますから。」

 

 

「…………了解です。」

 

 

了承すると通信が切れた。

通信機を持っていた手がダランと垂れ下がる。その時はウェルは何故こんなタイミングで凛音を必要としているなんて思考が回らなかった。

『マリア達を裏切るのが怖い。』

そんな気持ちでいっぱいだった。マリア達と離れたくない。マリア達と戦いたくない。マリア達を斬りたくない。

 

 

 

 

 

 

 

一人になりたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない…………。」

 

 

マリア達を取った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同時刻。二課仮設本部内はアラートが鳴り響く。

 

「状況は!?」

 

 

「シンフォギアのアウフヴァッヘン波形をキャッチ!これは、『バルムンク』……奏空くんです!」

 

 

「何!?彼か!?」

 

 

「戦闘区域特定!モニターに映します!」

 

 

中央のモニターに映ったのは、奏空の大剣を凛音が長刀で受け止めている映像だった。

 

 

「彼の他に装者はいるか!?」

 

 

「いえ、現在の波形は一つしか確認できません。」

 

 

「(彼一人だけだと?一体奴らは何を考えているんだ?)」

 

 

「司令、どうしますか?」

 

 

「………万が一に備えて響くん達を出撃させろ。彼しかいないのなら逆にチャンスだ。この戦闘で拘束する。響くん達が戦闘区域に到着する時間は?」

 

 

 

「ヘリでおよそ30分です。」

 

 

「よしすぐに向かわせろ!」

 

 

「了解!」

 

 

「(……持ってくれよ凛音。)」

 

 

弦十郎は凛音を信じていないわけではない。今彼女はとても彼とは戦えない心境である。

彼からの置き手紙を貰った時は罠ではないかと言ったが、彼女は大丈夫と、他の装者(特に響)も彼を信じていた。それがこんな結果になってしまった。そんな状態で凛音が戦えるのだろうか?

弦十郎は事が大きくならないのを願うのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

刀と大剣がぶつかり合う。廃工場の中で金属音が響渡った。二人の少年少女が割れたコンクリートを蹴る。凛音は

長刀で大剣を弾いて距離を取るという事を繰り返していた。一方で奏空も弾かれたら斬りかかり、また弾かれたら斬りかかるのを繰り返していた。

 

 

「ねぇ……やっぱり私達って分かり合えないのかな………戦う事しかないのかな!?」

 

 

「…………。」

 

 

「私は歌うとき怖かった………。聴いてくれないんじゃないかって。伝わらないんじゃないかって。………でもあなたは聴いてくれた。歌まで歌ってくれた!」

 

「………………。」

 

その後あなたの置き手紙を見たときは『信じられる。』って思った!だってあんな風に歌ってくれたから!あの歌で奏空の気持ちが伝わってきたからっ!だから………。」

 

 

『もうやめて』と言おうとした途端、大剣を弾き彼は初めて距離を取った。また仕掛けると思い身構える。しかし大剣を持ったままで動かなかった。

おかしい………。何がおかしい………。

今までの戦闘を振り返る。まず初めに出会った時は逆上してこちらに襲い掛かってきた。2回目に出会った時は説得しようとしたが神経を逆撫でしまった。

これまで彼はこちらと同じく斬撃を放ったり、大剣に纏められた剣を分離させて投擲させて来たりと多彩な技を使ってきた。

じゃあ今は?

最初は襲って来たものの斬撃を飛ばしたりしてないし、剣を投擲してもない。『弾かれては仕掛け、弾かれては仕掛ける』とずっと同じ動きをしている。

前まで会話をしたくない程嫌悪していたが、今は黙って前述の通りの動きをしている。

そこまで思考していたが再び視線を彼に合わせる。すると見てしまった。今まで黙っていた理由とも言える決定的なものを………。

 

 

「……………奏空、何で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いているの?」

 

 

 

 

 

 

ザンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは太刀音ではない。地面に突き刺した音だ。凛音の言った通り少年な頰には確かに一筋の涙が見えた。

彼が同じ動きをしていた理由。それは泣く程戦闘に集中できていなかったからだ。だから技を使ってなかった。否、使えなかった。

 

 

「…………初めてだったんだ。誰かの為に歌を歌ったなんて。だけどそこで拒むとマリア達に迷惑をかけてしまうから…………。」

 

 

本人は小さな声でボソボソと言うが彼女には聞こえていた。

曰く彼は実際のところ凛と戦いたくないとのこと。しかしそうするとマリア達を裏切ることになる。彼はまだマリア達か凛音を取るか迷っていたのだ。

今彼は力を存分に発揮できる状態ではない。二人掛かりでも危ういぐらいの戦闘能力を持つ奏空だが、彼は感情が表に出やすい。倒して良い敵は容赦なく襲いかかるが、敵なのに関わらず倒していいのか躊躇してしまったりと行動が分かりやすいのだ。

 

「…………奏空………もう………いいよ、無理しなくて………。」

 

 

「ッ…………。」

 

 

「私を殺したら貴方のそのモヤモヤした気持ちも晴れると思うから。ほら。」

 

 

凛音は自身のアームドギアを地に置く。その姿に驚愕する。正気の沙汰ではない。彼女は自らの手で武器を捨てたのだ。

そして両手を上げて無防備とういうことを示す。

 

 

「さぁ奏空、その剣で私を斬って。」

 

 

ズシッ

 

引き抜こうと大剣を持とうとするが急に重くなったのを感じた。今まであんなに振るってきたきたのに何故かとても重い。

 

 

「貴方が苦しまなくていいならそれでいい。」

 

 

今度は体が動かなくなる。まるで後ろから抑えられるように。なんだ?迷っているのか?あんなに憎かった相手が目の前で無防備な状態だと言うのに今更迷っているのか?

そんな筈は無い………。早く………早く抜いてトドメを………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏空…………じゃあね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝から崩れ落ちた。

無理だ。出来ない。自分の姉を斬ろうなんて。やっと会えた姉を傷つけるなんて………出来ない…………。

だから自分は甘いんだ。大事な時に自分で決断できない。だからいつまでたっても進まない。

だから………だから………。

彼はゆっくり顔を上げると…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅い弾頭が迫っていた。

 

 

「…………………え?」

 

 

そして爆散し土煙が舞う。

 

 

 

「間に合ったか!」

 

 

そしてその弾頭を撃った紅い装者(クリス)が現れた。

 

 

「無事か凛音!」

 

 

「すいません遅れました!」

 

 

「翼!?響ちゃん!?」

 

 

後ろから響、翼も現れる。クリスは廃工場に入る前にミサイルを凛音に被弾しないように発射したのだ。普通ならあり得ないがクリスのミサイルに目標だけ追尾する機能があったのか一発も当たらなかった。

 

 

「奴は!?」

 

 

「え…………あ………。」

 

 

未だ舞う土煙は彼の姿を隠す。しかし土煙の横から転がりながら出てきた。直撃では無かったが体のそこらが少し黒く焦げていた。

 

 

「て……め……いきなり撃つバカがいるか………。」

 

 

「ウルセェ散々手こずらせやがって。こんぐらいのハンデくらい付けさせろ。」

 

 

「ッ!」

 

 

「オラァ!持ってけ豆鉄砲!」

 

 

『BILLION MAIDEN』

 

今度は無数の弾丸が襲いかかる。奏空は大剣をバラし短剣『ルーン』を用いて弾く。物凄い速さで弾丸を縦横無尽に払う。

やがて銃撃が止んだ頃彼の体力は消耗しきっていた。今にも倒れそうだった。短剣を持つ手まで震えている。

 

 

「まだ………まだぁ!」

 

 

その時だった。

 

 

パラ………パラパラ………。

 

 

上から石屑が降ってきた。何だと見上げた直後、天井が崩壊した。

 

 

「!?」

 

 

避けようとするが今の状態では指一つも動けない。響が駆けつけようとするが間に合わない。やがて瓦礫が彼を襲いかかり、下敷きになってしまう。

 

 

「奏空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

彼女の悲鳴が廃工場に響き渡った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ら……………奏空っ。」

 

 

「あ、え?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「あ、いや、ごめん。なんでもないよセレナ。」

 

 

「そう?ならよかった。」

 

 

二人の少年と少女が壁際に座って日向ぼっこをしていた。澄み通った青い空に、目の前にはちょっとした花畑があった。

少年がポツリと零す。

 

「…………やっぱり駄目だなぁ。一つの物事に判断することも出来ないなんて………。俺やっぱ甘いのかな。」

 

 

「………そんなことないよ。」

 

 

「セレナ?」

 

 

「奏空のそれはね、『優しさ』なんだよ。」

 

 

「優しさ?」

 

 

「そう、奏空貴方はね。判断出来なんじゃなくて一つ一つのことを考えているの。誰も傷つかないように。誰も迷惑がかからないように考えているの。その答えが言えてないだけで奏空は悪くないよ。だからね、安心して。」

 

 

彼女が奏空の頭を優しく撫でる。彼は恥ずかしそうに俯く。いつもこうやって来たが未だに照れる。でもこの心地良さは悪く無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い。

白い巨人に体を跳ね飛ばされて全身が痛い。人間とはなんて弱いんだろう。

自身の周りは炎に包まれている。目の前には実験中に暴れ出したネフィリムが咆哮を上げている。

何が特別被験体だ。何がバルムンクのシンフォギア装者だ。また役に立たなかった。

フィードアウトしていく意識の中右手が暖かく感じた。見上げると白銀のシンフォギアを纏った彼女がいた。

 

 

「大丈夫だよ。貴方が苦しむことはないよ。私がなんとかするから。」

 

 

その時わかった。これは別れを告げるのと殆ど同じだった。目尻に涙が溜まり零れ落ちそうだったが、彼女の指で涙を掬った。そして優しく撫でる。

 

 

「奏空、姉さんを頼みます。」

 

撫でる手がそっと離れ白き巨人と対峙する。

そして彼女は口にする。禁忌の歌を。

その歌声はとても美しかった。とても暖かく感じた。でも何故だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなに悲しくなるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたらそこは未だに炎が燃え盛っていた。しかし先程違うのは白き巨人と白銀の歌姫が居なくなっていた。痛みが引いた体に鞭打って起き上がり、彼女を探す。

対峙していた場所へゆっくり向かう。

 

 

 

 

 

「え……………。」

 

 

そこには鎧を解いた彼女が倒れていた。駆け寄りたいのにまだ体が痛いのかゆっくり向かう。

 

 

「……………セレナ?」

 

呼びかける。

だが彼女はピクリとも動かない。抱え起こすと既に彼女の体は冷え切っていた。あんなに暖かった体が氷のように冷たい。

 

 

「…………あ…………あ………ああ…………あ…………。」

 

 

ふと彼女右手に何かが握られていた。それはネフィリムだったモノ。彼女は最後まで自身の役割を果たしたのだ。

 

 

何故だ。

 

何故彼女が死ななければならない。何故彼女が散らなければならない。

 

結局救えなかった。まるで姉のように接した彼女を。

 

 

 

 

 

 

「あ…………あああ…………ああ…………。」

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

少年は天に向かって叫んだ。そして胸の中に一つの歌詞が現れた。

 

 

「close core balmunk tron」

 

瞬間。

黒い光に包まれた。

 

 

 

「奏…………空?」

 

 

その時マリアは見た。

黒き騎士となった少年とその腕の中で眠る妹と騎士を囲むように浮遊する青く輝く光の剣を。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「そ……んな………間に合わなかった………の?」

 

響が崩れ落ちる。手を伸ばそうとした少年をまた救えなかった。彼女の瞳から雫を零す。伸ばそうとした手が届かなかった。

彼を導くことが出来なかった。

 

 

「うっ………ううっ……………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

ズガァァァァァァァァァンッ

 

 

 

瓦礫の山が轟音と共に吹き飛んだ。

 

 

「え…………。」

 

 

「な、何だ!?」

 

 

「お、おいアレ!」

 

 

「……………あ…………。」

 

 

吹き飛ばした瓦礫から出てきたのは…………。

 

 

「………………………。」

 

青いオーラを纏った黒騎士だった。

 

 

『Limit Burst』

 

 

 

 




奏空とセレナの関係は、奏空を見つけたのは彼女でそれから姉のように接し、そんな彼女に想いを寄せていたという関係です。
7話早く投稿します。
ありがとうございました。


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第7話 君がキミでいられなくなる前に……

や っ た ぜ。
早めに投稿します宣言してから4日目で上がりました。その為今回は6000超えです。


再び二課仮設本部にて。

彼らは現在の状況に驚愕していた。モニターに現れた数値。それはフィーネとの決戦時に見せた奇跡の産物。幾多の歌を重ねて生まれる奇跡。それと酷似していた。

 

 

「そんな………これではまるで……。」

 

 

「……………エクスドライブ…………。」

 

 

廃工場から突き出た青い光の柱の中心に黒騎士が確かに存在していた。

 

Limit Burst(リミット・バースト)

 

シンフォギアには約301,655,722種のプロテクトが施されている。そのプロテクトを外した状態が限定解除形態『エクスドライブ』である。しかしこの形態はいつでもなれる訳ではない。幾人もの歌を重ね、高レベルフォニックゲインにより初めて開放される。

このリミットバーストは301,655,722の内の1/4を自発的に解除する技である。

発動した途端に青いオーラが放たれるが、その実態は使用者の内部の貯蔵していたフォニックゲインが溢れ出る現象である。

常にフォニックゲインが溢れ出るのはエネルギーが漏れていると捉えられてしまうが、これはエネルギー容量を超えてわざと外に出しているのだ。

簡単に言うとこの状態は、常時エクスドライブ状態なのである。

人と人が繋がって生まれる奇跡を、彼はいとも簡単に発動したのだ。

たが、この技にもデメリットが存在する。この状態の時使用者の感情、意識が薄れるのだ。「自発的」は「無理矢理」にも等しい意味であり、基本モードのままエクスドライブ並の出力を出すのでとてもじゃないが意識が保てない。

そして連続で使えない。仮に効果が切れた後にまた発動しようとすると連続の高出力により体が耐え切れなくなり最悪、廃人になってしまう。

不要な感情は捨て、目の前の標的を倒すことだけを実行する。別の意味での「暴走」でもある。

いわばこれは半エクスドライブ、半暴走状態とも言える。

 

 

そしてその彼を目の前に四人の少女達は対峙する。

彼が起き上がってから彼女達は一歩も動けなかった。離れていても伝わるフォニックゲインの余波。この感じは覚えている。

 

 

「エクスドライブ………なんで………。」

 

 

それは自分達が起こした奇跡と似た光だった。エクスドライブが放つ輝きは希望とも呼べるようなもので見るだけで希望に溢れる光だ。

だが彼はどうだろう。放つ光量はエクスドライブ並だが内に溢れるのは無機質なナニカ。何度見てもそこから生まれるのは『無』である。

似て非なるものとはまさにこのことである。纏っているものは同じなのにこんなにも違うなんて………。

 

 

「ボケッとすんな来るぞっ!」

 

 

「ッ!」

 

 

気付いたときには彼が自分達に向かって駆け出していた。

 

 

「速い!?」

 

 

今までとは比にならないくらいのスピードで右手をクローの形にして突き出してくる。

横に飛び退けると右手が地面に接触し割れる。素手でこの破壊力。

その力、見掛け倒しじゃない。

 

 

「たかが光ってるだけでぇっ!!」

 

『BILLION MAIDEN』

 

4門3連ガトリングガンを連射させて迎え撃つ。しかし彼は先程同じスピードで地を滑るように蛇行しながら接近する。それも弾丸一発一発を躱して。

 

 

「クソッ!早ぇんだよお前ッ!」

 

 

クリスが愚痴ると突如彼の姿が消えた。

 

 

「はぁ!?」

 

 

発砲をやめ目標を探す。しかし何処を見ても彼の姿が見えない。何処だと思考を張り巡らせていると………。

 

 

「雪音!上だっ!」

 

 

「なっ!?」

 

上を見上げるが時すでに遅し。天井に張り付いていた彼は蹴って一気に距離を詰める。

迎撃しようとガトリングを構えようとするが、彼はクリスのほぼ目の前で着地する。そして………。

 

 

 

ザシュッ

 

 

「なっ!?」

 

 

持っていた二本の青い光のルーンを右のガトリングの回転門に上下にぶっ刺し、宙返りして後退する。

これでクリスは両方のガトリングを同時に発射することが出来ない。もししてしまえば片方が暴発しかねない。

しかしクリスが攻撃出来るという点は変わらなかった。片方が使えなくとももう片方が使える。両方を構えて片方だけ発砲しようとした途端翼が何かに気付いて叫ぶ。

 

 

「雪音っ!片方の銃を捨てろ!」

 

 

「えっ………?」

 

 

もう遅かった。

 

 

「弾けろ………。」

 

 

奏空が呟いた瞬間あり得ないことが起こった。二本のルーンが光り、ルーンから長剣『バタフライ』に生え変わったのだ。両方突き出たことによりガトリングガンは耐え切れず爆発してしまった。

クリスは爆発の直後に手放したのでダメージを最小限に抑えた。

爆発によって生まれた煙幕が視界を遮る。クリスは残ったガトリングをクロスボウに戻し警戒する。

 

 

 

シンフォギア『イチイバル』

遠距離特化型のシンフォギア。高火力で大量のノイズを殲滅させる。火力ならバルムンクよりも断然有利である。

そう()()なら。

もう一度言うが、イチイバルとは遠距離特化型のシンフォギアである。そのため………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らえ………。」

 

 

 

 

 

近距離武装がない。

 

 

「がっ…………………。」

 

 

気付いた時はもう遅かった。既に彼はクリスの懐に入り、彼の拳が腹部目掛けて放たれた。

次の瞬間全身に衝撃が襲った。

これは圧縮した高出力のフォニックゲインを発勁のように相手に流し込み、全身に衝撃波を喰らわせるものである。

クリスは廃工場の壁を突き破って外に吹き飛んだ。

残る装者はあと3人。

 

 

「クリスちゃん!!」

 

 

響が向かおうとするが………。

 

 

「ッ!!」

 

 

それを彼がそれを許さないように立ちはだかる。響が身構えると、彼は手を突き出す。すると彼の手から青い光が集まる。光は形作り段々その姿を現わす。

ガトリングガンを突き刺した光のルーンだった。あの状態だと彼は光の剣を作れるのだ。恐らく光はフォニックゲインを凝縮させたものだと思う。

ルーンを作り出した途端響に襲いかかる。目の前に刃が迫る中、響は拳打で弾き返す。剣と拳が飛び交う中、翼は加戦しようと駆け出す。凛音も後に続いていこうとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は剣を手放した。纏っていた光が消え、落ちた剣がガラス細工のように割れて胸を抑えて苦しそうに悶え始めた。

 

 

「奏空くん!?」

 

 

響が駆け寄る。

未だ彼は胸を抑えている。あの状態は長く持たないんだと響は思った。最悪の場合()()が起こるかもしれない。

『暴走』。

負の感情を増大させその限界を越えた時、発現する制御不能状態。破壊衝動に飲まれ、敵も味方も関係無く闘争本能を剥き出しに襲う。

かつての自分も暴走し、翼に手を出してしまった。

あんなことはもう二度と起こりたくない。なら救わなければ。今度こそ、彼に手を差し伸べて…………。

響は彼に肩を貸して立ち上がらせる。

 

「奏空くん!大丈夫!?」

 

 

「あ………あ………。」

 

 

「立花!?」

 

 

「翼さん!凛音さん!奏空くんはもう戦えません!救援を呼ぶべきです!」

 

 

「し、しかし………。」

 

 

「このままだと奏空くんが暴走してしまうかもしれません!だからっ!」

 

 

「駄目っ!響ちゃん逃げてっ!」

 

 

「えっ?」

 

 

瞬間。響の視界がブレた。

ブレたかと思ったらさらに景色が変わり、まるでトラックに轢かれかのように地面に横転した。

 

 

 

シンフォギア『ガングニール』

元々は槍のアームドギアを用いて近距離戦や、投擲して敵を突き刺すなど遠距離にも対応できる万能型に分類するシンフォギア。だが立花響は槍を使わず徒手空拳で、体術で戦う格闘型。本人曰く、「その手に何を持たないからこそ、他人と手を取り合える」。自身の手、すなわち拳を己がアームドギアとした為、武器を手に取る事なく体術を主体としている。しかし彼女は二課の装者の中で一番戦闘経験が浅い。だから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…………で…………。」

 

 

彼女の『優しさ』を利用した。

そもそも響は奏空との戦いを望んでいない。かといって普通に戦闘を行うとある程度対抗する。だから通常敵同士の戦闘ではあり得ない『人助け』を行わせ、油断したところを突くという戦法に至った。

肩を貸し立ち上がらせて、翼と凛音に救援を求める間に、左手に密かに溜めたフォニックゲインをぶつけたのだ。発勁だと充填する時にバレるのでただぶつけるに至ったが、それでも意識を刈り取るのに充分な威力だ。

響は自身を騙した相手にも関わらず、手を伸ばそうとして意識がブラックアウトした。

残る装者はあと2人。

 

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

 

「……………。」

 

 

翼が刃を向けて駆け出した。

青いオーラを再び纏い、彼は冷静に長剣『オーガニクス』を作り出して迎え撃つ。

蒼と黒の剣舞が舞い、凛音が加戦する余地が無いほどに打ち合う。

廃工場内に金属音が響き渡り、二人の剣戟が空間を圧する。翼の攻撃を次々と叩き落す。少しでも隙を見せると鋭い一撃を浴びせる。それを、瞬間的に反応して迎撃する。翼が『蒼ノ一閃』などの大技を使わないのはここは屋内であり、もし使えば倒壊しかねないからである。

かと言って不利なわけではない。翼は幼少時代より己を『(つるぎ)』として鍛え、二課の装者の中では一番の戦闘能力を持つ。ノイズ戦、対人戦においても無類の強さを誇る。たとえ相手がエクスドライブ並の出力だとしても武装に変わりない。

翼の刀が彼を弾き飛ばす。

奏空は大きく後退。だが体勢を立て直し、すぐさま接近。

 

 

「(ここだっ!)」

 

 

翼は自身の刀を投擲。刃は奏空の顔に迫るがギリギリのところで躱し、そのまま刃を構えて突き出す。

今度は翼に刃が迫る瞬間だった。

 

 

「ッ!」

 

 

突然彼の動きが止まった。ギリギリと腕が震え、動こうにも動けない状態でいた。

ここで凛音は気付く。

 

 

「影縫い!」

 

 

『影縫い』

敵の影に小刀を打ち込み動きを封じる。通常影が出来る光の下でなければ使えないが、奏空がいる場所は丁度瓦礫が崩れ落ちた際に出来た穴から光が覗き、二人を照らしていた。ただ打ち合っていたのでは無く、ここまで誘導するために打ち合ったのだ。

翼はもう一つの刀を取り出し左手を添える。シンフォギアの共通の弱点。胸のコアを潰す。これにより強制的にギアを解除出来る。

コアだけを狙うなど彼女にとっては造作もないことだ。

刃は真っ直ぐ胸に迫り、コアが破壊………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガギンッ

 

 

されなかった。否、出来なかった。

 

 

「なっ!?」

 

 

翼の体が突然動けなくなったのだ。この体が縛られる感覚。そう、これは…………。

 

 

『影縫い』

 

 

翼の影に本物のルーンが突き刺さっていた。だがいつからだ。あの状況でいつルーンを掴んで投擲したというのだ。とここで翼は思い出す。彼にある特殊能力を。

意思誘導(エネルギー・インダクション)

フォニックゲインをアームドギアに流し込むことで意のままに操ることが出来る。

今廃工場内は彼のフォニックゲインが漂っている。溢れていたのが先程までの打ち合いで広がったのだ。その広がったフォニックゲインを用いて落ちていた本物のルーンに流し込み、影縫いをしたのだ。

もう一本のルーンを動かし、突き刺さった刀を弾く。自由になった奏空は跳んで後退する。

何もする気かと思った矢先、翼の目の前にカード状の人一人分くらいの薄い長方形の障壁が現れる。それも一枚だけでは無く目視で10枚ほど現れた。

 

まさか………。

凛音は翼の影に刺さっているルーンを抜こうと走り出すがもう遅い。

彼は一気に駆け出して跳び上がり宙返りすると、翼目掛けて両脚蹴りを放った。

 

 

『Genocide Venom』

 

 

高速で降下し大きく足を上下させフォニックゲインで作った障壁を割る。一枚、二枚、三枚、割るごとに両脚の輝きが増していく。

十枚目が割れた同時に翼にバタ足の如く高速蹴りを喰らわせた。

 

「ああ!?がああああぁぁぁぁぁ!!?」

 

吹き飛ばされた翼は壁に激突すると火花を散らし爆発すた。

 

 

「翼ぁぁぁ!!」

 

 

着地した奏空は大剣『コア・ファースト』を手元に戻しゆっくりと標的に近づく。

残る装者はあと1人。

 

 

「ッ!」

 

 

凛音は刀を拾い上げ、戦場を廃工場の外に変える。広い範囲での戦闘は使える技が多くなるからだ。

工場の出入口のシャッターから彼が出てくる。外に出てきたと同時に凛音に一気に駆け出す。

相手が変わって再び打ち合いが始まる。凛音も翼に勝るとも劣らない力を持っている。だが、自分以外の装者達を、激戦を潜り抜けた義姉でさえも倒されたのだ。どこまでいけるか………。

迫る大剣を咄嗟に長刀で防ぐ。激しい衝撃が全身を叩き、数メートル吹き飛ばされる。刀を刺して転倒を防ぎ、宙返りして着地する。

彼は立て直す余裕を与えないと言うように、再び急接近する。

上下から来る攻撃を捌き、上段斬りを弾くと間髪入れずに突きを放つ。炸裂音が響き、今度は奏空が跳ね飛ばされる。

そして凛音は一気に跳躍。空中で佇み、空間から大量の紫の光の剣を出現させる。

 

 

『千ノ落涙』

 

 

姉妹機な為か翼に似た技を放った。だが彼は大量の剣が自分目掛けて降ってくるにも関わらず驚くことも無く自身の周りに光剣のルーンとバタフライを作り出し、射出する。彼の光剣が凛音の光剣をことごとく砕いていく。

光剣が無くなった凛音は地上に着地し、逆立ちとともに脚部のビームブレイドを展開して横回転する。

 

 

『逆羅刹・弐式』

 

 

光の刃が迫る中コア・ファーストを地面に刺し、両手に光のルーンを作り出して逆手持ちにし、全身を捻ると駒のように回転する。

紫と青の刃がぶつかり合い、互いに弾かれる。後退した二人は突き刺した大剣を引き抜き、長刀を取り出すと再び激突した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「何………これ………。」

 

エアキャリアにて。

モニターの先には豹変したかのように凛音と戦う彼の姿が映っていた。それにマリアは覚えている。あの光を………。彼と彼の腕の中で亡くなった妹を囲むように連なった光の剣を………。

 

 

「ドクターッ!アレはどう言うことだっ!奏空に何をしたっ!?」

 

 

「別に何も?僕はただ彼女を生け捕りにしろと言ったまでです。」

 

 

激昂するマリアに対し、ウェルは淡々と答える。実際には事実だ。別に奏空に渡したのは眠らせる薬品を染み込ませた布だけ。後は本当に何もしていない。

しかしウェルにとっては好都合だった。三人の装者を相手に様々な戦略で戦闘不能にしたことで凛音との戦闘に集中出来る。

 

 

「しかしこのままだとまずいので行ってあげることを推奨しますよ。あれだと殺し兼ねないので。」

 

 

「ッ!縁起でもないことを言うなっ!」

 

 

マリアそう言い残し急いで向かう。

 

 

「(あの子にはさせない!あの子に手を汚すことなんてっ!)」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

廃工場ではいずれも激しい打ち合いが繰り広げていた。大剣が迫ると瞬時に防いで弾き、カウンターをすると言うのが繰り返されていた。

あれから30分も休まず打ち合いが続いていて体力的にも限界だ。

それが膝に来たのか、片膝を着いてしまう。違う。この痛みはあの時だ。回転してぶつかり合った時に負ってしまったのか。

奏空はそれを見逃さず背中のウィングを伸ばして飛翔。手に光のルーンを作り出し、ブーメランのように投げ飛ばした。

 

 

「くっ!」

 

 

長刀で弾こうとしたが逆に長刀ごと弾かれ手元から離れた。

それに御構い無しに右手を天高く掲げる。穴の開いた屋根から一つの剣が飛び出して握られる。

長剣『オーガニクス』。しかもオリジナルの方のだ。そして一気に降下する。

目標は右膝を負傷した凛音ただ一人。

オーガニクスは彼女腹部を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!うおおおおおあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

しかし彼は突きの構えから斜めに持ち変えて、彼女を斬り裂き彼女の意識を刈り取った。

斬り裂かれた腹部から鮮血が噴き出る。

右手に持っていた長刀を落とし、奏空の胸の中に倒れた。ポツリポツリと天から雫が落ち始める。

 

 

「やっ………た………やったよセレナ………はは、はははははははははははは…………。」

 

 

かつての想い人の名を口にし、渇いた声で笑った。彼の涙は降り続ける雨によって掻き消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏空っ!」

 

 

ガングニールを纏ったマリアが上空から現れる。敵がいないか確認し、彼のところに向かうがもう遅かった。彼の胸の中には血を流して眠る凛音。天を向いて呆然とする奏空がいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

マリアは凛音を担ぎ、奏空を腕に包んでエアキャリアに乗り込んだ。

 

 

「(守れなかった……………。)」

 

 

奥歯を噛み締め、マリアの頰にも一筋の雫が流れていた。その日は、雨が止なかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は色々オマージュが多い回でした。早くYouTubeのシンフォギアのG編が見たい。(せっかち)
次回も頑張ります。


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第8話 それは何の為に

活動報告に書かれてある通り奏空のシンフォギアをティルフィングからバルムンクに変えます。途中から変えて本当にすみませんでした。
あと翼さん誕生日おめでとうございます。


二課との戦闘から約5日後。

今彼の目の前にある者が眠っている。敵側の装者であり、自分の姉である風鳴凛音だ。

あの戦闘の後、彼は毎日のように彼女が眠っている病室のベッドの横にある椅子に体育座りで座っている。

あの時の彼女の傷は幸い深く無く、致命傷ではないとウェルは言っていたがそれでも彼は見ていた。

触れるわけでもなく、話すわけでもなくただ見ていた。

枕の四方に流れている艶やかな黒髪。病的ではない透き通るような白い肌。薄い桜色をした唇。それは誰もが見たら美しいと言うのだろう。

彼は彼女の細い右手を包もうとするが直前のところで硬直する。これ以上はいけない。その汚れた手で彼女に触ってはいけないとまるで誰かに抑えらるように。出した手をスッと戻す。

実際にそうだ。自分は彼女に手をかけた罪人だ。あの日から手についた血の感触が今でも残っていた。何度も洗っても消えない。

そして気付いた。ああ、これは神様が与えた呪いだと悟った。手を差し伸べてきた者を払い退け、挙げ句の果てには手を出した罰なのだろう。

それなら尚更だ。これでもう凛音には触れることさえも出来ないだろう。

悲しくなんか無かった。逆にこの綺麗なものを汚さなくて済むと思ったぐらいだ。

暫く彼女を見ているすると電話が鳴る。キャリア内なのに電話を使う程大事なことなのだろうと思う。掛けてきたのはウェル。その内容を聞いて了承して切るとため息をついた。

 

 

……………別にいいんだ、やるのは自分だから。

 

 

最後にもう一度彼女を一瞥すると病室から出て行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二課がノイズの出現を検知した。その発生場所は東京番外地特別指定封鎖区域『カ・ディンギル跡地』。かつて櫻井了子ことフィーネとの激戦繰り広げた旧リディアン音楽院の場所。

二課装者はその発生場所へ向かってた。奏空との戦闘で受けたダメージは目立つようではなかった為何とか治せたものの失ったものが大きかった。

凛音をF.I.Sに奪われたことだ。報告によると奏空が彼女を斬った言われていた。そして映像の最後に残っていた渇いた声で笑っていた彼の姿。響の心がとても痛んだ。あれは心が壊れた者がする笑い。本当は傷つけたく無かったに違いない。じゃなかったらあんな笑い方するはずない。兎も角今は彼女を無事を祈るしかなかった。

発生場所に着くとカ・ディンギル付近に人影が見えた。不敵な笑みを浮かべたウェルである。

 

 

「野郎っ!」

 

 

クリスがウェルを睨む。彼の右手に持っているのはかつて自身も使っていたソロモンの杖。

ウェルはそれを掲げるとノイズが数十体召喚される。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……。」

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……。」

 

 

「Killter Ichaival tron……。」

 

 

詠唱を歌い、それぞれシンフォギアを纏う。

 

 

挿入歌『正義を信じて、握り締めて』

 

 

響は拳を放ち、翼は刀で斬り裂き、クリスはガトリングガンで殲滅する。

しかし倒した分倍近く召喚し続けるウェル。響はノイズを横薙ぎに蹴るとウェルに向き変える。

 

 

「調ちゃんと切歌ちゃんは!?」

 

 

「あの子達は謹慎中です。だから私がこうして出張ってきてるんですよ。お友達感覚で計画に支障を来すのは困りますので………。」

 

 

「そこまでして何を企てるF.I.S!」

 

 

「企てる?人聞きの悪い。我々が望むのは人類の救済っ!」

 

 

左手を高々と上げ、その先にあるのはルナアタックによって表面が一部欠け、微細な欠片が周りにリングを形成した異様な見た目と化していた。

 

 

「月の落下にて損なわれる無辜の命を可能な限り救いだすことだっ!」

 

 

「月が!?」

 

 

「月の公転軌道は各国の機関が計測中の筈!落下などと結果出たら黙っていられるわけ「黙っているに決まっているじゃないですか!」っ!?」

 

 

翼の言葉を遮り、淡々と続ける。

 

 

「対処方法の見つからない極大最悪など更なる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠蔽する理由などいくらでもあるのですよ!」

 

「まさか……これを知っている連中は。自分たちだけ助かる算段を始めているのかっ!?」

 

 

実際にそうだ。

月の落下など一般人が知ったら大混乱になるだろう。それをウェル達F.I.Sは利用しようとしていた。

月の落下などというの不測の事態を全ての人間が知らないわけがない。なら知っている人間はどうするか。

 

 

「だとしたらどうします?貴方達なら………。欠片の時みたいに絶唱?もしくはエクスドライブ?無理でしょうね!絶唱なんてしたら月が破壊されて大パニック!ましてやエクスドライブはそんなホイホイなれるものじゃない!そう…………()みたいな能力が出来るのなら話は別ですかね!」

 

 

「っ!?まさかっ!?」

 

 

何かに気付いたクリスだが、現れた第三者から脇腹に蹴りを喰らい横転する。

その第三者はウェルが言っていた能力を持つ者。

 

 

「枢木………奏空!」

 

 

「…………。」

 

 

彼はいつもより不機嫌な表情で響達を見ていた。翼は刀を奏空に向けて叫ぶ。

 

 

「凛音はどうしてる!?無事なんだろうなっ!?」

 

 

「…………そんなこと聞くためにここに来たの?」

 

 

「何!?」

 

 

「奏空………くん?」

 

 

彼から発せられた言葉は冷たくて無機質な声だった。まるで5日前のあの時みたいに………。

彼は大剣を翼達に向き返した。

 

 

「俺達はもう止まっている暇なんてないんだ………。過ぎたことに一々構ってちゃ駄目なんだよ………。」

 

 

まるで人が変わったかのように。あの力を発動してもないのにどの言葉も中身が無く、設定されたことだけを言っているようにしか聞こえなかった。

 

 

「その通りです………。私達には時間がない。私達の望みの為に!その答えが………ネフィリム!」

 

 

突如地面が動き出したかと思いきや、地中から黒い獣がクリスを吹き飛ばした。

それは響と交戦した異形だった。だが初めて遭遇した時よりも図体が大きくなっていた。

翼が駆け寄って介抱するがそこでタワー型ノイズの液体ネットによって動きを封じられる。

 

 

「人を束ね、組織を編み、国を食べ命を守護する!ネフィリムはその為の力!」

 

 

這い出た異形は咆哮を上げ、翼達が視界に入ると喰らわんとせんばかりに駆け出した。

しかし響の蹴りによって怯み、すかさず彼女はインファイトを喰らわせる。

正拳突きを放とうとした瞬間、彼が現れ大剣を盾代わりにして防いだ。

更に斬撃を放つが、拳打で相殺してカウンターする。彼はこれも防ぎ足音が聞こえると後退してネフィリムが攻撃するという人と異形による連携を取っていた。

そこでウェルは響に問う。

 

 

「ルナアタックの英雄よ!その拳で何を護る!」

 

 

響は答えず両腕のシリンダーを引いて一気に駆け出しネフィリムにパイルバンカーを放つ。攻撃を受けたネフィリムは衝撃で吹き飛ばされる。もう片方のパイルバンカーを放とうと腰のブースターを吹かすとウェルはノイズを作り出して妨害する。

響は巧みに左腕を使わず蹴りや右手で倒した。だがここでウェルは更に叫んだ。

 

 

「そうやって君は誰かも護る拳でもっと多くの誰かをぶっ殺してみせるわけだぁ!!」

 

 

この発言により動きが止まってしまった響。脳裏に浮かぶは桃色の鋸の装者が発した一言。

 

 

『それこそが偽善。』

 

 

それでも響は固まった体を動かして拳を放った。

大きく口を開けていたネフィリムに向かって。ネフィリムは響の細い腕に喰らいつく。

 

 

「え…………。」

 

 

ゴリッ グチャッ

 

 

骨が砕け千切れた音がし、噛みちぎると千切れた部位から鮮血が噴き出る。

 

 

「立花ぁぁぁぁぁっ!」

 

 

翼が叫ぶ。その様子にニヒルな笑みを浮かべるウェル。バタバタと失った腕から血を流す響。そして目の前には喰らった腕をグチャグチャと味わっているネフィリム。

 

 

「あ、ああ…あああ………………うぁああアアアアアアアアーーッ!」

 

月の下で一人の少女の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビチャッ

 

 

ビチャ?

その様子を見ていた少年の頰に何かが飛んできた。触ると生暖かい感触がした。

そしてそれを目にした。

 

 

血だ。

 

 

あの異形が千切った際に吹き出た血がこちらに飛んできたのだろう。

でも何故だろう。この光景………何処かで見た気が………。

彼の脳裏に浮かぶは一体の白い異形と白銀の歌姫。少女が何か言って………。そして唄ったら急に輝き出して………。そして探してたら目を閉じて…………。その時に手に何か……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャ…………。

 

 

その時彼の中の何かが外れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あの奇天烈っ!どこまで道を外してやがるデスかっ!」

 

エアキャリア内にてモニターで見ていた切歌が壁を殴りつけて憤りを覚えていた。

 

 

「ネフィリムに聖遺物の欠片を餌と与えるって……そういう………。」

 

 

「っ…………。」

 

 

「どこへ行くつもりですか?貴女達に命じているのはこの場で待機の筈です。」

 

 

マリアは我慢ならなくなったようにモニタールームから出ようとしたがナスターシャに呼び止められる。

 

 

「あいつは人の命を弄んでいるだけっ!こんなことが私達の成すべきことなのですかっ!?」

 

 

自分たちは自分たちの正義のため、悪として世界に立ちはだかった。

だがだとしてもこのような事、限度だってある。マリアはそう言いたげだった。

 

 

「……私たちは正しい事をするんデスよね……?」

 

 

「間違ってないとしたらどうしてこんな気持ちになるの……?」

 

 

「…………その優しさは今日を限りに捨ててしまいなさい。私達には微笑みなど必要ないのですから………。」

 

 

ナスターシャがそう言い放ち顔を俯かせるマリア達。ポケットから黒いガングニールではない割れたギアペンダントを取り出し祈るように包む。

 

 

「(何もかもが崩れていく……このままじゃいつか私も壊れてしまう………セレナ、私はどうすればいいの?)」

 

 

心の中でマリアは悲しく呟いた。

その時だった。

 

 

「っ!ちょっと待ってアレは!?」

 

 

「マリアッ!奏空がっ!」

 

 

「えっ!?」

 

 

俯かせた顔を上げるとモニターに映された少年に異変が起こっていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イ――ッタァァアアアッ! ものの見事にパクついたッ! ハハ、シンフォギアを肉体ごとぉぉッ!! ヒャハァッ、これでぇえええ!!」

 

 

一方ネフィリムが響の腕を喰らったことにウェルは高笑いをしていた。

響は未だに腕を抑えて額に脂汗を垂らす。

 

 

「完全聖遺物ネフィリムは言わば自立稼働する増殖炉っ!」

 

食べ終えたネフィリムの体が赤く光り出した。

 

 

「他のエネルギー体を暴食し、取り込む事で更なる出力を可能とするぅ!さぁ始まるぞ!聞こえるか覚醒の鼓動ぉ!この力がフロンティアを浮上させるのだぁっ!!」

 

 

大きかった体が更に大きくなり、姿形を変えていく。色も更に黒くなりより人型になった。

 

 

「さぁネフィリムよ!更なる進化の糧となる餌を貪り尽くせえぇ!」

 

 

未だ動けない響に向かってその腕を振り下ろした。

 

 

「立花ぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「はえ?」

 

 

思わず抜けた声出すウェル。響の前に振りかかった腕を左腕のみで受け止めてる奏空の姿があった。

 

 

「あ、あの〜何を?」

 

 

恐る恐る彼に訪ねた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

『Limit Burst』

 

 

凄まじい怒号を散らし、その衝撃でネフィリムは吹き飛ばされた。

 

 

「な、なああああああああああ!?」

 

 

その光景に驚愕するウェル。だがそれだけではない。

胸の傷が光り出し、突如響が苦しみ体が黒に染まる。

闇が彼女を飲み込みそして…………。

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

二度目となる咆哮を散らした。

 

 

「ぴゃああああああああああああああああああ!?」

 

 

この男もまた情けない声を出した。青白く光る輝きと赤黒く光る闇。二つの相反する光が夜を照らす。

響がネフィリムを捉えると失った腕を突き出す。すると食い破られた箇所から新しい腕を作り出した。

 

 

「ギアのエネルギーを腕の形に固定………まるでアームドギアを形成するかの如く…………。」

 

 

翼が言葉を零す。

側から見たらそれは再生とも言えるものだった。両腕が揃うと響は一気に駆け出し、先程とは比にならない力でインファイトする。

 

 

「止めろ………止めるんだぁぁぁっ!!成長したネフィリムは、これからの新世界に必要不可欠な物だっ!!

それをっ!それをおおおおっ!!」

 

 

更に殴ろうとするがネフィリムからカウンターを貰い吹き飛ばされる。ネフィリムは追撃しようと駆け出すが奏空が大口を殴り飛ばす。

大剣を地に突き刺し走り出す。

 

 

「まさか解いたと言うのかぁ!?記憶操作をっ!?自力でええぇ!?」

 

 

何やら物凄いことを言っているが今の彼には関係無かった。

さっきまで空っぽだったものにあったものは純粋な怒りだった。兎に角目の前の異形が憎かった。ただそれだった。

ウェルがノイズを数体召喚するのが目に入った直後凄まじい速さで駆け出す。

直後ノイズの上半身が消えた。

通過したには光のルーンが握られていた。両腕の獲物でノイズを切り裂いたのである。更に速度を増しネフィリムの懐に入って胴体にルーンを刺した。

ズブブと鈍い音がし、まるでそんなの効かぬと言わんばかりに腕を振り下ろすが、バックステップで躱す。

奴の体は分厚い皮膚かつ脂肪で構成されていると見た。ならばやることは一つ。

彼は再びルーンを作り出す。それも三本も。ブーメランのように投げ出し、すかさずまた三本作って投擲を4回繰り返した。

体中に刺さりハリネズミ状態になったネフィリムに地面を蹴って跳躍し頭上に降り立ち、ルーンをぶっ刺した。

 

 

「吹き飛べ…………。」

 

 

彼が唱えるように呟くと刺したルーンが光り輝く。

そして次の瞬間。

ルーンが眩い光と共に爆炎がネフィリムを包んだ。

 

 

壊れた幻影(Broken Phantom)

 

 

それの炎はネフィリムの周囲をも焼き尽くした。奏空は唱えた瞬間に上空に逃げ込んでいた。

着地してネフィリムがいた爆心地を凝視する。そこには四肢が無くなり、頭部が半壊して更に異形と化したネフィリムがいた。

蠢いているところを見ると恐ろしく生命力が高いと感じられる。

芋虫のように蠢いて逃げようとするがそれをもう一体の獣が許さない。

響はネフィリムに馬乗りになりその腕で背中を打ち抜く。まるで何かを探すように掻き回し、見つかったのかそれを引きずり出すとその手に握っていたものはネフィリムの心臓と思わしきもの。

それを投げ捨て跳躍し、右腕を突き出すと槍のようになり降下する。

槍が身体に刺さりネフィリムは爆散した。

 

 

「あ、あああっ、いやぁぁああああああああああっ!!」

 

 

情けない声を出しながらウェルは脇目も振らずに逃げていった。

そろそろ能力も切れる。走り去った姿を確認して奏空もエアキャリアに帰還しようと一歩歩み出した瞬間だった。

 

 

「止せ立花っ!もういいんだっ!!」

 

 

「お前黒いの似合わないんだよ!!」

 

 

後ろを向けばネフィリムが爆散した際に拘束していたノイズも巻き込まれて消えたのか翼とクリスは未だ暴走する響を押さえ込んでいた。

自分の腕を喰らった敵を殺したにも関わらずまだ暴れ、咆哮を上げていた。

その姿を見て彼は何故かその場から動かなかった。倒すべき敵は倒した。命令する者も何処かに一目散に逃げていった。なら自分もさっさと撤退するべきではないのか?

だが彼は進めた足を戻して逆方向に進み始めた。

 

 

「な、何だよ!?」

 

 

「枢木!?」

 

 

「…………どいてろ。そいつは俺が止める。」

 

 

「何っ!?」

 

 

「馬鹿言ってんじゃねぇっ!コイツはそんな生易しいもんじゃねぇんだ!襲われない内に早く逃げろ!」

 

 

「いいやどかねぇ………。元々は俺達が原因でこうなったんだ。俺にはソイツを止める義務がある。」

 

 

右手広げ刺していた大剣を呼び出す。大剣は青い雷を放ちながら持ち主の右手に握られる。

大剣に左手を添えて響を見据える。響はこちらに狙いを定めたのか更に暴れる。

何故あんなこと言ったのか……。敵同士のはずなのに………。さっきの咆哮を聞いた時思ったのだ。

 

 

彼女を助けたいと。

 

 

「…………誰かさんのお節介が感染っちゃったのかな。」

 

 

それが合図のように響は翼達の拘束を解き駆け出す。奏空も駆け出し、赤と青の光が激突した。

大剣と拳がぶつかり合って金属音が鳴り響く。そこから二人は並行に走り出した。

飛び交う拳を大剣で防ぐ。両者立ち止まり、剣を大きく振り下ろす。

だが響は片腕で受け止めて大きく弾いた。ガラ空きになった懐に狙いを定めて、腰を深く下ろす。そして右手の形を見て次の攻撃が何かを察する。その攻撃は………。

 

 

掌底打ちっ!

 

 

響の放った掌底を喰らい、カ・ディンギルまで吹き飛ばされた。

腹部に接触する瞬間ギリギリ間に大剣で防いでいたが壁に叩きつけられる。

そのまま滑り落ち負けじと大剣を響に向ける。

 

 

「倍返しだああああぁぁぁぁっ!!」

 

 

空間にバタフライを数本作り出して射出する。響は叩き落そうとするがすぐ近くの地面に刺さった。他も同様。まるで彼女を囲むように…………。

すると光出して先程よりも火力を抑えて爆発した。土煙が舞って視界を奪う。

それをかき消すように払うと大剣を構えて突進してくる奏空の姿があった。迎え撃とうと構えるが彼は大剣を槍のように投擲する。

しかし放たれた大剣を止めるなど今の彼女にとっては造作もないことだった。

止めた大剣を何処かへ投げ飛ばして再度向き変えると彼はそこに既にいなかった。

気配を察知して目線を下斜めにすると両手にルーンを持った奏空がいた。コアに目掛けて斬り裂こうとするが避けられる。

ならばともう片方を振り下ろすと拳打でルーンの刀身が破壊された。残ってあるルーンで振るうとまたもや破壊される。しかし彼は破壊されたら空いた手に再び作り出して振り下ろすが壊される。

砕かれては作り、砕かれては作りを繰り返す。

痺れを切らしたのか響は彼の顔を掴み、叩きつけるように投げ飛ばす。受け身を取って後退すると彼女が駆け出す。

迎え撃とうと構えるが突然身体がズシリと重くなるの感じた。

 

 

能力が切れかかってる………。残りのエネルギー的に後一回作れるが壊された後は完全に無防備になる………。大剣はここからかなり先に刺さっているし、取り行こうにも駆け出したら途中でエネルギー切れになる………。どうする………。

 

 

思考を巡らせている間にも迫ってきてる………。時間が無い………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………あっ。」

 

 

何か思い出したような声を上げ響の攻撃を喰らった。

 

 

「まともに受けたぞアイツっ!!」

 

 

「………いや、違う…………。」

 

 

クリスが叫ぶと翼は何か既視感を感じた。

放たれた拳は彼の左手の中にしっかりと掴んでいた。ギリギリだった。残りのエネルギーを左手に集中して身体強化しなかったら左肺が潰されていた。

響が更に攻撃しようとすると信じられない行動に出た。

 

 

彼女をそっと抱きしめた。

身体が密着し腕を腰に回す。燃えるような熱が伝わってくるがそんなの関係無かった。

響は暴れようとするが彼女耳元で囁く。

 

 

「もういいんだ……。もうここにはお前を脅かす奴は消えた。暴れたってどうしようもない………。」

 

 

響の動きがピタリと止まった。更に続けて言う。

 

 

「凛音は無事だ。」

 

 

紅い目が見開く。

 

 

「傷はそんな深くなかったから治せた。今はまだ意識が無いだけだ。本当だ俺が保証する。だからもう……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以上その手を汚さないでくれ。」

 

 

気がつくと紅い瞳から一筋の涙が流れていた。

 

 

「ア…………アア………ア…………。」

 

 

白い光が彼女を包むとそこには制服姿の彼女に戻っていた。垂れていた涙を拭い、横に抱えて翼達も元へ向かう。眠っている彼女を起こさないようにゆっくり、ゆっくりと歩く。

 

 

「終わった………のか?」

 

 

「…………まるで私みたいだ。」

 

 

「?どう言うことだよ?」

 

 

「フィーネとの決戦時、雪音が絶唱を使って月の落下を止めた後立花は今のように暴走した……。だが枢木がしたように私も言葉で暴走を止めた………。」

 

 

「そんなことが…………。」

 

 

あの時の彼女もどうしようない怒りが溢れていた。それを翼は受け止めて彼女を抱きしめた。

彼がこちらまで来ると響をそっと降ろした。

 

 

「大丈夫、眠っているだけだよ。」

 

 

「………………なぁ枢木「言っておくけど仲間になる気は無いし、投降する気も無い。」なっ!?」

 

 

「何より…………。」

 

 

彼は大剣を拾って背を向いたまま翼達に言う。

 

 

「俺はもう人と手は繋げない。」

 

 

背中の羽根を伸ばして闇に紛れて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あの時…………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー私達は言葉を交わし合える人間だから。争ったりしなくていい。話し合えば分かり合えるよ。ーー

 

 

「…………あれを思い出してなかったら死んでかな俺………。」

 

 

そんなことを呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全部書いた後に文字数見ると8000超えててびっくりしました。
次回もこの調子で更新していきたいです。大分忙しくなりますが頑張ります。


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第9話 力の代償

ようやくG編が配信されましたね。なるべくG編が全話配信される前にこっちのG編を終わらせたいです。
そうと決まれば徹夜だ徹夜〜。


炎天下の中息を切らしている白衣の男が照らされていた。あの装者の暴走から逃げ出してからどれくらい時間が経ったのだろう。ソロモンの杖で体を支えて彷徨いながら放浪していた。通信機器の類は戦闘に出た時から所持しておらず、助けを呼ぶのができないでいた。

薄れていく意識の中一歩進めると、足を踏み外した。

情けない悲鳴を上げながら転げ落ちた。それでも体に鞭打って手元から離れた杖に手を伸ばすとその先に何かがあった。

()()は機能しているかのように点滅するように赤く光っていた。

ウェルは()()が何なのか分かると口を釣り上げた。

近づいて持ち上げるとニチャッと生々しい音を立てる。

 

 

「………こんな所にあったのかぁ………フフフ、これさえあれば英雄だぁ…………。」

 

 

ウェルはソレを持ち出し杖を拾って再び歩き出した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「♪林檎は、浮かんだ。お空に………。」

 

 

医務室に歌が流れる。その声音は優しく、暖かい温もりを感じた。それに呼応するかのようにナスターシャが眼を覚ます。

 

「♪林檎は、落っこちた。地べたに………。」

 

その歌い手を見るとそこには目を瞑り壁に背を預けた歌うマリアの姿が入った。

その姿を見るとナスターシャは微笑む。

 

 

「(優しい子………。マリアだけではない。私は優しい子達に十字架を背負わそうとしている…………。私が………間違っているのかもしれない…………。)」

 

 

ナスターシャが起き上がると通信を繋げる。相手は切歌、調、奏空だ。

何故こうなっているのかと言うと奏空がエアキャリアに帰還した後、ナスターシャの容態が悪化した。彼女を診ることができるのはウェルだけ。しかしそのウェルと連絡が取れないでいた。向こうも大分困っているだろう。

そこでマリアは自分は応急処置をして奏空達に彼を探し出すことを指示をした。

 

 

『三人共ありがとう………。ではドクターと合流次第連絡を……。ランデヴーポイントを通達します。』

 

 

「了解デスッ!」

 

 

通信が切れると切歌はホッと一息ついた。リディアンの秋桜祭の後、ナスターシャから謹慎を命じられた。だから二人の代わりに奏空が出てきたのだ。

謹慎のことで内心ビクビクしていた切歌だが、通信からナスターシャが出た時は心臓が飛び跳ねるかと思った。しかし怒られずに済んだので助かった。

そう思っていると小腹が鳴く。

 

 

「切ちゃん?」

 

 

「あ、あー私達朝から何も食べていないデスから……。何か食べるデスか?」

 

 

「………切ちゃん、今はドクターを探すのが先。ご飯はそのあとにしよう。」

 

 

「調………そうデスねっ!じゃあ引き続き探すデスっ!」

 

 

「…………。」

 

 

「奏空?どうしたんデスか?」

 

 

「切歌、調。悪いけど俺あっちの方を探していいか?」

 

 

店と店の間にある通路を指すと切歌は首を傾げる。

 

 

「何でデスか?あ!さては一人でご飯食べる気デスねっ!」

 

 

「しないしない。第一財布はキャリアに置いてるでしょ?」

 

 

「言われてみれば………。」

 

 

「何て言うんだろ………なんかありそうなんだよ。ほら言うじゃん『男の勘』ってヤツだよ。」

 

 

「それを言うなら『女の勘』だと思う………。」

 

 

「…………。と、兎に角!俺はあっちを見に行くからっ!じゃっ!」

 

 

「あぁ奏空!?もうっ気をつけるデスよー!」

 

 

「知らない人にはついていかないでねー。」

 

 

「それ俺じゃなくて切歌に言っとけー。」

 

 

「どう言うことデスかー!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

よりにもよってこんなことになっているとは。

行った先にウェルを見つけた。それはいい。いいとして何故ノイズを召喚しているのか。

そしてその付近に衝突して煙を上げている黒塗りの車が3台。そして宙には灰が舞っている。

そこまでで大体察せた。

 

「フフフ………誰が追いかけて来たって………コイツを渡すわけには………。」

 

 

「何してるんですか………。」

 

 

「ひぎぃ!?………ってなんだ貴方でしたか………。一体なんの用で?」

 

 

「用も何もあなたを連れ戻しに来たんですよ。通信も出来なくて俺と切歌と調で探してたんですから。」

 

 

「それは失礼。こちらもここに来る途中良いもの拾ったので。」

 

 

良いものとは左手に持っている白い布で包んでいるものを指すのだろう。それはそうと早くノイズを仕舞えと言おうとしたが向こうから見たことある人物がいた。

先日暴走した響だ。その後ろには彼女の友人と思わしき者が四人いた。ウェルは響を見るなり顔が青くなる。あの時のトラウマが蘇ったか。

 

「な、何でお前がここにっ!?ひ、ひぃぃ!」

 

 

「やめろっ!相手は生身だぞ!」

 

 

杖を用いてノイズに指示を出すウェルを止めようとすると。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……。」

 

 

聖唱を唱うと響はノイズに向かって拳を放つ。普通なら触れた途端に即灰化する。普通なら。

 

 

「人の身で………ノイズに触れて………。」

 

 

接触した拳からみるみる姿が変わり、制服からギアを纏う。

殴られたノイズは灰となり放った拳打からか、突風が吹いた。

そして彼女は拳を突き出して堂々と叫ぶ。

 

 

「この拳もっ!命もっ!シンフォギアだっ!」

 

 

「………まじかよ。」

 

 

さっきの突風………ただの突風じゃない………。

熱を帯びた突風だ。普通の拳打であんなの可能か?いや、たとえシンフォギアを纏ってもこんな熱普通じゃあ有り得ない。

すると近くの木から落ちた葉が彼女に触れると燃えて消えた。よく見るとコア付近にある傷が光り、彼女から熱気が放っていた。

もしかしてこれは………。

 

 

「いつもいつも!都合のいいところでこっちの都合をひっちゃかめっちゃかにしてくれる!お前はぁっ!!」

 

 

ウェルは叫んでノイズを召喚するが焼け石に水であり、次々と倒していく。ウェルも負けじと出しまくるが腕のガントレットが変形しノイズを倒し、そのままウェルに迫る。

その時響の目の前に円形状の物体が阻んだ。

 

 

「盾っ!?」

 

 

「なんとノコギリ。」

 

 

正体はシュルシャガナの巨大鋸を回転して防いでいた。その後ろにはイガリマを纏った切歌の姿が。しかし僅かに向こうが押しているように見えすぐさまバルムンクを纏い、二人から引き剥がす。

後退した響は構えようとするが、両膝を着き胸を抑えていた。

苦しいのだろうか?息も荒くなっていた。

このまま放っておいてもいいと思い、ウェルに伝えようとすると。

 

 

「何しやがるデスかっ!?」

 

 

「っ!?」

 

 

ばっと振り返ると二人は首を抑え、切歌がウェルに檄を飛ばしていた。ウェルの両手には注射器のようなものを持っていた。

『LiNKER』

装者の適合係数を上げる薬品。奏空以外はLiNKERを使用してギアを纏っているが制限時間式であり、効果が切れる間近になると身体に負担がかかる。

 

 

「効果時間にはまだ余裕が「だからこその連続投与です。」っ!?」

 

 

「あの装者(バケモノ)に対抗するには今以上の出力で捩じ伏せるしかありません。その為にはまず無理矢理にでも適合係数を上げる必要があります。」

 

 

「でも、そんなことすれば過剰投与(オーバードーズ)の負荷で………。」

 

 

「巫山戯るなっ!何で私達がアンタを助ける為に私達がそんなこと!「するですよ!」っ!」

 

 

「いいえ、せざるを得ないのでしょう?貴女達が連帯感や仲間意識などで、私の救出に向かうとはとうてい考えられない事っ!大方あのおばはんの容態が悪化したから、おっかなびっくり駆けつけたに違いありませんっ!病に侵されたナスターシャには生化学者である僕の治療が不可欠。さぁ!自分の限界を超えた力で私を助けて見たらどうですかっ!」

 

 

ウェルの言うことにふつふつと怒りが込み上がる。こいつは人の命を弄んでいる………。人が死ぬことも何とも思っていなかったからあの黒服達を殺せた………。

 

 

「やろう切ちゃんっ!マムのところにドクターを連れ帰るのが私達の使命だっ!

 

 

「絶唱………デスか……。」

 

 

「そう、Youたち歌っちゃえよっ!適合係数が天辺に届くほどギアからのバックファイアを軽減できることは過去の臨床データが実証済みっ!

だったらリンカーぶっ込んだばかりの今なら絶唱歌い放題のやりたいほうだーいっ!!」

 

 

ガシッ

 

 

ウェルの肩が掴まれる。

ビクッと体を震えて恐る恐る振り向く。

 

 

「………なぁドクター。LiNKER持ってない?」

 

 

それはとても冷たく、低い声音でウェルに尋ねる奏空だった。

 

 

「あ、あるにはありますが………。」

 

 

「よし、じゃあ俺にも打ってくれ。」

 

 

「奏空!?」

 

 

ウェルはLiNKERを取り出してすぐさま首に打った。一瞬変な感覚になるが二人の前に立つ。

 

 

「奏空………何で………。」

 

 

「二人だけに辛い思いはさせない………。唱うなら俺にもやらせてくれ……。」

 

 

「そんな………奏空は正適合者なのにLiNKERなんて打ったらっ!」

 

 

「いいんだ。調達だけ辛い思いして俺だけ何もしないのは嫌だ。いいよドクター、貴方の遊びにとことん付き合ってやるよっ!」

 

 

大剣を響に向けて叫ぶ。

 

 

「この体が壊れるまでっ!!」

 

 

そして三人は唱う。禁忌の歌を。

 

 

『♪Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

 

それはとても美しく……。

 

 

『♪Emustolronzen fine el baral zizzl』

 

 

心に響く歌だった……。

 

 

『♪Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

 

しかしそれは悲しく………。

 

 

『♪Emustolronzen fine el zizzl』

 

 

心が痛くなる歌だった………。

 

 

「駄目だよっ!リンカー頼みの絶唱は、装者の命をぼろぼろにしてしまうんだっ!!」

 

 

かつて自身を救った恩人もこの絶唱で命を散らせた。なんとか止めようとするがその時は歌い終わっていた頃だった。

 

 

「女神ザババの絶唱2段構えに、ジークフリートの絶唱を加えた脅威の3段構えっ!!この場の見事な攻略法っ!

これさえあればこいつを持ち帰る事だってっ!!」

 

 

歌い終わった三人の体から力が溢れる。調は桃色の、切歌は翠色の、奏空は青いオーラを纏う。

 

 

「シュルシャガナの絶唱は無限軌道から繰り出される果てしなき斬撃っ!

これでナマスに刻めなくとも動きさえ封殺できればっ!」

 

 

調の腕が、足が、巨大な回転鋸へと変化していく。これがシュルシャガナの能力。

 

 

「続きっ!刃の一閃で対象の魂を両断するのがイガリマの絶唱っ!

そこに物理的防御すら通じないっ!絶対の絶対の一撃デスっ!!」

 

 

持っていた鎌が更に大きくなり、後方にブースターが生まれる。これがイガリマの能力。

 

 

「こいつの切れ味は、水にさらすと上流から流れてきた一筋の羊毛が絡みつかずに真っ二つに断ち、金床の石をも砕くこれがバルムンクの絶唱っ!凄まじい切れ味と破壊力を誇る魔剣だぁっ!!」

 

 

大剣に青い光が集中して大きく輝く。これがバルムンクの能力。

三人の絶唱になる形状変化及びエネルギー充填が完了する頃だった。

 

 

『♪Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

 

『♪Emustolronzen fine el baral zizzl』

 

 

『♪Gatrandis babel ziggurat edenal』』

 

 

『♪Emustolronzen fine el zizzl』

 

 

なんと響も絶唱を口にしたのだ。口にした途端に三人の力が抜けていく。

これは響が三人の絶唱のエネルギーを自身に集中しているのだ。通常なら出来ない。だが彼女にはそれが出来る。

 

 

「セットッ!ハーモニクスッ!!」

 

 

『S2CA』

他者と手を繋ぎ合う特性を持つ響のみが持つ能力。他の絶唱のエネルギーを自身に収束して爆発的なエネルギーを生み出すことが出来る。

しかし結果的に三人分の絶唱の負荷を響一人で負うこととなる。

 

 

「三人に絶唱は使わせない………!!」

 

 

両腕の装甲を合わせて一回り大きなガントレットになる。それを空高く掲げると巨大なエネルギーの竜巻が生み出された。こちらに来ることも無く暫くしたら消えた。

それを見ていると通信が入った。発信先はキャリア。恐らくマリア達が来たのだろう。内容はウェルを連れて戻れのこと。

 

 

「身体、思ったより何ともない………。

 

 

「絶唱を口にしたのにデスか?」

 

 

「まさか、あいつに守られた?なんで私たちを守るの?」

 

 

「……………でだ………。」

 

 

「奏空………?」

 

 

ズンズンと響に近づく。彼女の熱気が凄まじいのか近づくごとに熱が伝わる。彼女手前までが近づくのが限界だった。

 

「なんで助けたっ!?いくら負荷(バックファイア)を中和出来るからって三人分の絶唱だぞっ!?下手したら死ぬんだぞっ!?」

 

 

まただ。

また自分は彼女に気にかけた。何故だ?本来敵であるはずなのになんでこんな気持ちになるのだろうか。

響は小さく、確かに聞こえる声で言った。

 

 

「私………人助けが趣味だから………辛い思いをさせたくないから………。何より…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君を死なせなくないから。

 

 

「ッ!!」

 

 

ブン殴りたい衝動に駆られるがグッと堪える。今彼女に触れたら火傷どころじゃすまない。

 

 

「何やってるデスか奏空っ!早くしないと奴らが来るデスよっ!」

 

 

「…………わかってる……。」

 

 

上空から光学迷彩を解除したキャリアが現れる。そこから三本のワイヤーが垂れる。

ウェルを片腕に抱えて乗り込んだ。四人が乗り込むと同時に再び光学迷彩を発動して姿を消した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「数値は安定。年齢の割に大したものです。それとも振り絞った気力でしょうか?」

 

 

その後ウェルはキャリア内でナスターシャに治療を施した。彼女の容態に安心したマリア達。一先ず落ち着いたがまた同じことがいつ来るかわからない。ウェルは治療用具を直すとモニターの前に立つ。

 

 

「それでは本題に入りましょう。」

 

 

モニターに映し出されたのは紅く光る何かの物体。それは奏空も一瞬だけ見たことあるものだった。ネフィリムの心臓。響が暴走した際に引っこ抜き、その場に投げ捨てたものだ。

響の腕を取り込んだことで覚醒状態になっている。この心臓と五年前に入手した神獣鏡(シェンショウジン)を用いることでフロンティアの封印を解くことができる。

二つの鍵が今揃ったのだ。

 

 

「そしてフロンティアの封印されたポイントも先も確認済み。」

 

 

「そう!既にでたらめなパーティの開催準備は整っているのですよッ!後は私たちの奏でる狂想曲にて全人類が踊り狂うだけッ!!」

 

 

顔を歪ませる程高笑いするウェル。そこに奏空が挙手をする。

 

 

「あの………ずっと思っていたんですけど………。」

 

 

「何ですか?」

 

 

「…………あいつは何に使うんですか?」

 

 

あいつ。

それは未だ目覚めない凛音(彼女)のことだ。

 

 

「彼女には目覚めた際に解放してあげますよ。聖遺物を取り上げた状態でね。」

 

 

「…………その聖遺物俺が持ってていいですか?」

 

 

「奏空?」

 

 

本来なら聖遺物の管理はナスターシャがやるということはわかっている。

でも…………。

 

 

「………別にいいんじゃないですか?どうせ持ってても起動するわけじゃありませんし。」

 

 

ウェルはポケットから紅いペンダントを取り出す。恐らく凛音の天叢雲だろう。彼はウェルからそれを受け取った。

 

 

「(奏空………?)」

 

 

彼がペンダントとを受け取る際に顔を暗くしたのをマリアは見逃さなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

後日、LiNKERの過剰投与による負荷(一人は通常投与による毒素)が残っている為給仕係としてスーパーに買い出しをしていた。その後休憩として建設中のビルに腰を休んでいた。幸い人がいなかったことが救いだ。

パンを食べながら昨日のことが脳裏に浮かぶ。三人分の絶唱を抱えた彼女。助けたのは辛い思いをさせたくないから。そして何より………。

 

 

『君を死なせなくないから…………。』

 

 

「ああああっ!!ムカつくあの自殺志望女っ!!」

 

 

「デデデスッ!?」

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「あ………ご、ごめん。ちょっとヤなこと思い出しちゃって…………。」

 

 

「なんか奏空があんな怒り方するの初めて見たかも………。」

 

 

「そ、そう?」

 

 

「うん。なんかアイツらと戦っているうちに変わったね。前まではあまり喋らなかったのに…………。」

 

 

思えばそうだ。

前までは口数が少なく、命令を受けて実行する。という感じだったが、二課の装者と会ってから色々考えるようになった。主に(彼女)のせいで。

さらによく考えたらアイツがきっかけで凛音に近づこうとしたのだ。

普段からあんな他人の為に頑張って、時には自分の身を犠牲にして救って………。

俺を死なせたくない?まるで…………。

 

 

 

 

まるで凛音(アイツ)みたいじゃんか。

 

 

 

俺に辛い思いさせたくないからって武器を捨てるなんて。馬鹿にするなよ俺は弱くない。

 

 

弱くない………はず。

 

 

「調!?どうしたんデスか!?」

 

 

考え事をしていたら突然切歌が叫ぶ。向き変えると調の顔色が悪かった。

LiNKERの負荷が襲ったのだろうか。調はふらついて壁にもたれかかったその時だった。

もたれた拍子に積み重ねていたパイプが崩れ落ちた。パイプは三人に向かっている。奏空は瞬時に二人に覆い被さり身を守ろうとする。

奏空は二人を庇ってパイプの餌食になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

いつまでたっても痛みが感じず、ぶつかって来る様子も無かった。一体何がと後ろを振り返った。

 

 

「何が………どうなってるデスか…………?」

 

 

六角形状の障壁が三人を守るように出ていた。

それは奏空の隙間から伸びた切歌の掌から発しているように見えた。

絶唱を使った代償のように、切歌から新たな力が生まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後が駆け足気味ですみません。基本的には主人公側視点で書いていきます。
次回も楽しみに。


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第10話 届かぬ手

始めに言っておきます。
途中でかなり飛びます。
例えるならマリオで4面から7面くらい飛びます。


「フィーネを宿ってない?」

 

 

上がるエレベーターの中で奏空は抜けた声を出した。現在いる場所は東京スカイタワー。とても人気のある観光地として有名である。

そのエレベーター内でナスターシャは奏空に確かに言った。

マリアにはフィーネが宿ってないと。

元々マリアと調、切歌の3人はフィーネの魂を受け止める為の器、レセプターチルドレンとして集められた孤児であった。奏空はレセプターチルドレンの中でバルムンクとの適合率があったので途中から特別被験体として扱われていた。

しかし実際に蓋を開けるとフィーネの魂を受け止められた者はおらず、結果マリア自身にもフィーネの魂は宿らなかったのだ。

だがこの『フロンティア計画』にはウェルの力が必要不可欠だった。

その為には自分たちこそが異端技術の先端を行く物だと証明するため、レセプターチルドレンであるマリアか調、切歌のうちの誰かにフィーネを演じてもらう必要があった。

調と切歌の2人はまだ幼く、世界政府に宣戦布告をするにはとてもじゃないが演じきれない。

よってマリアが引き受けることになった。

しかしここに来てナスターシャは自分たちの計画がもたらす結果が自分たちの望んだ物とかけ離れた物になるのではと危機感を感じるようになっていた。

このままいけば自分たちは取り返しのつかない事をしてしまう。そう感じたので奏空を護衛に就かせた際に伝えたのだ。

 

 

「そうか………マリアにはフィーネが宿っていなかったのか………。」

 

 

「ええ。今まで心配かけてごめんなさい。いつ私の記憶が消えてしまうか心配していたのに…………。」

 

 

「ううん…………。逆に良かったと思っている。マリアがマリアのままでいてられて………。」

 

 

だが奏空は昨日の出来事が脳裏をよぎる。

あの障壁。切歌の手から発していた。もしかしたら………。

いや、そんなわけない。あれはそう、ギアの力が部分的に解放しただけだ。そうだきっとそうだ。

目的の階に着きドアが開いた。

マリアはナスターシャの車椅子を押して会議室を目指す。

 

「真に為すべきことは月のもたらす最悪の被害を如何に抑えるか、違いますか?」

 

 

「………つまり今の私達では世界は救えないと………。」

 

 

『今のままでは救えない。』その言葉が重くのし掛かる。今の自分達では無力だとも捉えられていた。

会議室に着き扉が開くと二人は驚愕する。黒服の男数人。明らかに政府に関係あるということがわかっていた。

 

 

「マムこれはっ!?」

 

 

「米国のエージェントです。講和を持ちかけるため私が召集しました。」

 

 

「講和………それって………。」

 

 

「結ぶつもりなの?」

 

 

「ドクターウェルには通達済みです。さぁこれからの大切な話をしましょう。」

 

 

嫌な予感しかしないのは自分だけだろうか?

その時奏空はそう思うしかなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

スカイタワーにある水族館で立花響は暗い顔をしていた。

あの後翼によって貯水タンクの水を被ったお陰で放っていた熱気とギアが解除された。

そして目を覚ました後に弦十郎から伝えられた自身の体の状況。

その時翼は涙を流していた。二課の装者の中で年長者で、普段凛々しい彼女が自分の為に涙を………。

 

 

『このままでは死ぬんだぞっ立花!』

 

 

「(死ぬ……戦えば死ぬ……考えてみれば当たり前のこと……。でも、いつかマヒしてしまってそれはとても遠いことだと錯覚していた。戦えない私って誰からも必要とされない私なのかな………。)」

 

 

そんなことを考えていたら彼に怒られるのを想像した。『そんなこと言うんじゃないっ!』とか言いそうだ。

思えば彼も大分変わったと実感する。最初は嫌悪しかなかった彼だが、凛音を歌を聴いて歌で応えていたり、彼女に会ってみたらと言えば会うだけなら良いと言ったり、自分の暴走を止めたり。後から聞いた時にはびっくりした。彼が暴走を止めたのだ。そして先日は絶唱の負荷で危うくなった時に怒っていた。

 

 

『下手したら死ぬんだぞっ!』

 

 

ここまで思い返すと改めてわかった。

彼は優しいのだ。敵として振舞っているが、誰かが辛い思いをしていると放っておけないような人だ。

まるであの人のように………。

やはりあの姉であればあの弟ありと言うのか……。

 

 

ヒヤッ

 

 

「うっひゃああああっ!??」

 

 

突然頰にひんやりとした感触が伝わって大声を出す。回りの客が注目する。

未来が冷えたジュースを響の頰に押し当てたのだ。

 

 

「大きな声を出さないで。」

 

 

「だだだだ、だってこんなことされたら誰だって声が出ちゃうって!?」

 

 

「響が悪いんだからね?」

 

 

「私?」

 

 

「だって折角二人で遊びに来たのにずっとつまらなそうにしてるから…………。」

 

 

「あ………う………ごめん…………。」

 

 

二人は戦闘続きの羽休みとしてここに遊びに来ていたのだ。しかしここまで来る間ずっと浮かない顔をしていたのだ。

 

 

「心配しないでっ!今日は久しぶりのデートだもの!楽しくないはずないよ!」

 

 

「響………。」

 

 

「ささっ、デートの続きだよ!折角のスカイタワーまるごと楽しまなきゃ!」

 

 

彼女は未来の手を引いて上の階へ足を運び始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「異端技術の情報、確かに頂きました。」

 

 

マリアから渡されたSDカードを黒服の男は懐に仕舞った。

 

 

「取り扱いに関しては私が享受いたします。つきましては…………。」

 

 

ナスターシャがそこまで言った時だった。黒服の男達が一斉に拳銃をこちらに向けてきた。

 

 

「マムっ!」

 

 

「やっぱりか………。」

 

 

「貴女の歌よりも銃弾は遥かに早く、躊躇なく命を奪う。」

 

 

「初めからこれが狙いか………。」

 

 

「必要なものは手に入った、後は不必要なものを消すだけ………。」

 

 

彼らは元々講和なんてするつもりは無かった。シンフォギアと言う異端技術のデータが目的で集まった。結局は自分達の物にしたいのだ。

シンフォギアはノイズに対抗できる唯一無二の手段。それのデータがあればノイズどころか兵器にも応用できる。

男が引き金を引こうとすると外から何の飛行音が聞こえた。

 

 

「ノイズっ!?」

 

 

飛行型のノイズがガラスを通過して黒服に襲いかかる。触れられた黒服は灰と化する。残りの黒服が後ずさると今度は天井から現れる。

こんなこと出来るのは大方ウェルだ。きっと何処かで茶でも飲みながら見物してるだろう。

このタイミングはナイスと思ったが、ノイズは人を襲う。よってこのスカイタワーの客にも被害が出かねない。

 

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl……。」

 

 

「close core balmunk tron………。」

 

 

聖詠を唱えてギアを纏う。

 

 

挿入歌『烈槍・ガングニール』

 

 

アームドギアを形成してノイズを貫く。奏空も大剣を振るってノイズを斬り裂く。その余波が扉に触れて爆発する。マリアは渡したSDカードを怒りを露わに踏み潰す。その後ナスターシャを担いで会議室から出た。

通路にはノイズが待ち構えていたが、奏空が前に出て薙ぎ払った。

進んでいくとエレベーターが開き、特殊部隊が現れ銃を発砲する。

マリアがマントで奏空ごと防ぎ、大剣を分解させて剣を操って峰打ちをする。マリアもマントで薙ぎ払ったり、防ぎながら接近して殺さない程度に蹴り飛ばす。

 

 

「マリア、奏空。待ち伏せを避けるため上の階からの脱出を試みましょう………。」

 

 

そう聞くと奏空は非常階段の扉を剣を操って押し飛ばして上へと移動する。

しかしそこにも特殊部隊がおり銃弾を浴びせるがさっきの要領で行う。

すると避難していた客に流れ弾が当たる。見境なく撃った特殊部隊にマリアは睨みマントで薙ぎ払って被弾した客に駆け寄るが時既に遅し。

人とは脆い物だ。一発の銃弾で簡単に死んでしまう。

 

 

「…………私のせいだ…………。

 

 

「え…………?」

 

 

奥からさらにやって来る特殊部隊に対しマリアは叫んだ。

 

 

「全てはフィーネを背負いきれなかった私のせいだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「っ!?駄目だマリアッ!!」

 

 

怒号とともにマントが特殊部隊に襲いかかる。さっきまでは加減していたが本気の力でマントが当たって体が変な方向に曲がる。更には跳び蹴りを顔面に食らわせ槍を腹が貫いた。

そして奏空は見た。彼女から流れる一筋の涙を………。

 

 

止められなかった…………。

 

 

その烈槍は血を浴びて汚れていた…………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ノイズが現れたことにより客は避難していた。二人は迷子になっていた子供を避難経路に連れて行くと避難員が現れ子供を保護する。

二人も急いで向かおうとするとノイズが窓ガラスを突き破って突撃して来た。

その際に床が崩落し響は落ちそうになるが未来が右手を掴む。だが人一人を持ち上げるのに力が足りない。せめて後一人いたら上がるかもしれない。

 

 

「未来っ!手をっ!!」

 

 

「ダメッ!」

 

 

それでも掴んだ手を離さなかった。大切な親友を失いたくなかったから………。

 

 

「未来………いつか本当に私が困った時、未来に助けてもらうから、今日はもう少しだけ私に頑張らせて………。」

 

それを聞いた途端未来はぼろぼろと涙を流す。

 

「私だって………守りたいのに………!」

 

「…………ありがとう……。」

 

そして次の瞬間。

自ら未来の手を手放した。

 

 

「響ぃいいいいッ!!」

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……。」

 

 

落下しながら響は聖詠を口ずさむ。

ガングニールを纏い、地面に着地するとすぐさま未来のいる方へと視線を移した。

 

「未来、今行くッ!」

 

だが次の瞬間。

未来のいた場所が爆発する。

 

「未来ぅうううう!!」

 

彼女の叫びが響き渡たるだけだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

止められなかった………。

そのせいで変わってしまった………。

 

 

『力を持って貫かなければ正義を成すことなど出来やしないっ!』

 

 

違う。

マリアはそんなこと言わない。

そんなの弱者を力で抑えると言ってるのと同じだ。

変わっていく………。大切な人が全く知らない人になっていく………。

 

 

「怖い………。」

 

 

口からぽつりと出た言葉が響く。

変わっていくのが怖い………。

マリアじゃなくなっていくのが怖い………。

離れ離れになっていくのが怖い………。

 

 

ズズッ………

 

あぁまただ。

またこの感覚だ………。後ろに何かが絡みついて引っ張られる感じ………。出てこなかった分引っ張られるようだ。

無くなったと思っていたのに………。

また無くなっていく………また命令を実行するだけの機械になっていくのか………。

そんな気持ちのまま彼女がいる部屋に着いた。

扉が開くと奥に一つの檻があった。そこに彼女はじっと座っていた。

 

 

「貴方は………?」

 

 

彼女の名は小日向未来。スカイタワーで逃げ遅れた少女だ。彼女と会うのは初めてではない。ウェルを見つけた時にいた響の四人友人のうちの一人だ。その日は響と一緒にスカイタワーに来ていたが、崩壊した際に響を助けようとしていたが落ちてしまい、放心状態だったところをマリアが助けたのだ。

奏空は彼女の前に腰を下ろした。

 

 

「………あの、響を助けてくれてありがとう。」

 

 

「………あー………そんなのはいい………。あれはたまたまだ…………。」

 

 

恐らく彼女は暴走を止めたときのことを言っているのだろう。思えばあの時は人を助けたいという感情があったな………。今じゃそ感情すら湧かない……。

 

 

「優しいんだね、奏空くんは………。」

 

 

「名前………知ってて………。」

 

 

「うん、響から聞かされてね。『奏空くんが私を助けてくれた!』ってね。」

 

 

「そっか………でも俺は優しくなんかない………。差し伸べられた手を払って傷つける奴なんだから………。」

 

 

ポケットから紅いペンダントを取り出す。バルムンクではない。これは彼女(凛音)のギア。どうせ自分では使えないのでお守りのように持っているのだ。

不安になったら出して胸に押し当てる。そうするとなんだか落ち着ける………。

 

 

「…………なぁ。俺はどうすればいい?」

 

 

「え?」

 

 

「大切な人を傷つけて、大切な人を守れなくて命令を実行するしか出来ない俺はどうすればいい?」

 

 

何を言っているんだろうな俺は………。こんな私情を他人に言ってなんになるんだ。

すると彼女の口からこんな答えを出してきた。

 

 

「………とやかくは言わないけど、私は貴方がやりたい事をやればいいと思う。」

 

 

「俺の………やりたい事?」

 

 

「そう。誰かに命令されるとかじゃなくて貴方が心からやりたい事をやればいいんじゃないかな?だって私達は人間だもの。」

 

 

やりたい事?俺のやりたい事って何だろう?

思い返してみると俺は自分がやりたい事をやっていたか?

 

 

 

…………いや、あった。確かにあった。それは………。

 

 

「………ごめん。ちょっと用事出来たからこれで失礼するよ。」

 

 

「そう………頑張ってね。」

 

 

彼女は見え透いたように微笑んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

海上に浮かぶ戦艦にて、切歌は調に適合係数を下げるLiNKER『アンチLiNKER』を打ち込んでギアを纏えなくなるようにしていた。

自分じゃなくなる前に何か残しておきたい。彼女もウェルの計画に賛同すると言った途端。海からミサイルが飛び出る。しかしそれは爆発せずに中からクリスと翼が現れた。

動けない調はクリスに抑えられ、切歌は翼と戦うも喉元に刀を向けられ一歩でも動くと斬られると言った状態になっていた。

 

 

「close core balmunk tron………。」

 

 

その時上空から歌が聞こえ、見上げるとそこには黒騎士がいた。

 

 

挿入歌『destiny's play』

 

 

着地するとまず翼に駆け出して切歌を引き剥がす。向こうも迎撃するが、バラして二本のバタフライを用いて弾き返す。

次に調を抑えながらクロスボウを向けてきたクリスにルーンを投擲。

クロスボウを手元から弾く。

 

「奏空………?」

 

 

「調、決めたよ俺………。俺は俺の守りたいものの為に戦うっ!もう命令を実行するだけの機械じゃないっ!俺は俺だぁっ!!」

 

 

手元に戻ったルーンを掴み、もう片方のルーンを逆手に持ち体を捻ってクリス向かって回転しながら飛びかかる。

 

 

暴風乱斬(Hurricane Beat)

 

 

クリスは片手からもう一つのクロスボウを放つが、弾が刃に引き込まれるように斬られる。

調を離して跳躍するが奏空はそのまま斜めに上がり、回転を止めてクリスを蹴り落とす。

着地して翼に攻撃しようとした瞬間、それは聞こえた。

 

 

「「Rei shen shou jing rei zizzl……。」」

 

 

それは聞いたことのある声だった。

上空から落ちたそれ甲板に亀裂が走りながら着地する。土煙が晴れるとソレはつい先程俺に助言してくれた人だった。

身に纏っているのは紫のシンフォギア。それを見てわかった。あれは神獣鏡(シェンショウジン)だ。

キャリアに搭載している光学迷彩『ウィザードリィステルス』は神獣鏡(シェンショウジン)の能力だ。あれをギア化したとは………。

恐らくウェルの仕業だろう。いつでも纏えるように細工し、洗脳を施したのだろう。

あいつも俺に大切なことを気づかせてくれた恩人だ。絶対に助ける。大剣を構えて対峙するとあることを思い出す。

聖詠が二つ聞こえた。それも同じのが………。キャリア内にいるのはマリアとナスターシャとウェル。あといるのは………。

嫌な予感してバッと上空を見るとそれは的中した。

未来と同じく紫のシンフォギアを纏って光を失った瞳の装者。

それは自分を見ているのうに見えたソレの正体は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛音………?」

 

 

同じく神獣鏡(シェンショウジン)を纏った凛音だった。

 




ようやく凛音が再登場しましたね。
最悪な形で、何故シェンショウジンが二つあるかは次回の話に出ます。
次回も楽しみにしてください。


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第11話 歪んだ歌姫

今回は前準備みたいな回です。
次回に向けての………。そう、次回に向けての………ね。


………すみません調子に乗りました。今回はいつもより短いです。(4000文字)
ではどうぞ。


 

 

「いやー大変でしたよ。一つの聖遺物から二つのギアを作るのは………。」

 

 

「ドクターッ!何故神獣鏡(シェンショウジン)をっ!?風鳴凛音には天叢雲があるはずっ!」

 

 

そう。一人が複数の聖遺物に適合するなんて普通はあり得ない。

あり得ないのだが。

ウェルは眼鏡をクイッと上げる。

 

 

「確かに普通ならあり得ませんが、彼女には出来るのです。何故なら彼女には…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖遺物を引き寄せる力があるのだからっ!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

「引き寄せる………!?」

 

 

「ええ。記録によれば当時ニ課は風鳴凛音にも素質があるのではないかと思い天羽々斬の起動テストをした………。既に風鳴翼に適合している天羽々斬をねっ!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

「そしてやってみたらどうだっ?保管していた天叢雲が適合したっ!まるで磁石に反応した金属のように!僕はそれが気になり、神獣鏡(シェンショウジン)に適合出来ないか試行錯誤した。だが出た結果が微弱な反応だった。しかし、枢木奏空に天叢雲を渡してみたらどうだ?一気に適合係数が上がった!だから彼女には洗脳だけで済みましたよっ!」

 

 

「そんなことが………。」

 

 

「と言っても全部を引き寄せるわけじゃなく、適合係数が60%から80%までの系統なら引き寄せるってところですがね。」

 

 

それでもそれは異質すぎる。

磁石のように聖遺物を引き寄せる体質。それをウェルはフロンティアの浮上に使えると思い生け捕りにしたのだ。

 

 

「まぁあの少女は所謂保険ってことでもう一つ作りましたが、風鳴凛音に劣らない性能をしてるので堕ちはしませんけど………。」

 

 

「ドクターウェル………そんなことを………うっ!?」

 

 

「マムッ!?」

 

 

ナスターシャが咳をこむと口から血が流れていた。

 

 

「ドクターッ!マムをっ!」

 

 

「いい加減お役目御免なんだけどねぇ。仕方ないなぁ。」

 

 

ウェルはナスターシャを操縦席の下の階に移動させる。モニターに凛音と対峙する奏空の姿が映る。

 

 

「(奏空………無事でいて………。)」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……………。」

 

一体何が起きているのか未だに理解出来なかった。今自分を見ているのは凛音だ。

だけど何かが違う…………。

何でそんな禍々しいものを纏っているのだろう………。

何でそんな目をしているのだろう………。

 

 

 

 

 

 

 

何でそんな目で見るの………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー02より伝達。枢木奏空の足止めを求む。ーー

 

 

ーー了解。01はターゲットを枢木奏空に照準。ーー

 

 

 

 

 

 

 

そう考えていた瞬間二人のヘッドギアが同時に閉じる。未来の腕から閉じた扇子のようなものが、凛音の両腕から開いた扇子を出現させた。

未来はクリスに、凛音は奏空に迫った。

クリスはクロスボウをガトリングに変えて迎え撃つ。奏空は羽を伸ばして空中に逃げる。

 

 

「(早いっ!?)」

 

 

距離はあっという間に縮まり扇子を振るう。大剣で防ぐが凄まじい衝撃が襲った。

あれは鉄扇。

見た目は扇ぽいけど強度を保つため扇として広げることが出来なかったり、完全に固定してしまっている完全戦闘向けの扇子。

それでもこの力は一体?

弾き飛ばされ体勢を保とうとすると、鉄扇を上下に繋げて円形の鏡のようなものになる。

そしてそこから拡散したレーザーが放たれた。

 

 

『乱光』

 

 

放たれたレーザーは軌道がめちゃくちゃになり避けにくくなる。

ギリギリ躱すして反撃しようと一気に距離を詰める。振り下ろした大剣は彼女を斬り裂いた。

 

 

パリン

 

 

かに。見えた。

それはまるで鏡が割れたように凛音が砕いた。

一瞬理解が遅れると背中から衝撃が走った。

 

 

『影鏡』

 

 

凛音は分身を作り出して奏空の後ろに回り込んで背中に蹴り落としたのだ。

奏空は先程いた甲板に墜落する。

強い………。

神獣鏡(シェンショウジン)を完全にものにしてる動きだった。

書き込まれたプログラムが強いのか、ギアに馴染んだ強さなのか。とにかく奏空を圧倒していた。

体に鞭打って上空を見上げて警戒するが、いつの間にか凛音は消えていた。

どこに行ったか探していると、突然後ろから眩い光が通り過ぎる。

一体何がと振り返ると極太のレーザーが目前まで迫ってきた。

 

 

「んなぁっ!?」

 

 

すぐさま浮上して上空に避難する。

先程までいた場所がレーザーによって焼き払われる。あそこいたら絶対に死んでいた………。

レーザーの発生源を探していると視界に未来が発射しているのを目撃した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『流星』

 

 

未来の脚から鏡を展開して巨大レーザーが放たれた。クリスは腰パーツかはリフレクターを展開して防御する。

背後にはギアを纏っていない調。敵であろうとも生身であんなの喰らえば死にかねない。

クリスのリフレクターはカ・ディンギルの軌道を変える程の強度を持つ。向こうがどんな聖遺物か知らないがこれなら耐えられる筈………。

 

 

「っ!何で押されてんだっ!?」

 

 

「無垢にして苛烈………魔退ける輝く力の奔流。これが神獣鏡(シェンショウジン)のシンフォギア………。」

 

 

レーザーを防いでいるうちにリフレクターが耐えきれずどんどん消滅していく。レーザーは更に輝きを増し、腕の装甲が沸騰し始める。

リフレクターが残りわずかになった途端視界が何かに阻害された。

 

 

「呆けないっ!」

 

 

翼が上空から巨大な剣を出現させたのだ。翼はクリスと調を掴むと脚のスラスターを使って滑走する。

レーザーは剣を溶かして翼達に迫る。上空からどんどん剣を出現されるが貫通して尚も迫る。

横に避けたら減速してレーザーに呑み込まれるだけ………。なら取るべき選択は一つ。

翼達の目の前に剣が突き刺さる。

 

 

「どん詰まりっ!?」

 

 

「喋っていると、舌を噛むっ!!」

 

 

剣を伝って上に滑走して上空に逃げ込んだ。レーザーは最後の剣を貫くと同時に消滅した。

翼が着地しようと悪寒が走った。目の前に鉄扇を振りかぶる凛音が現れた。

無防備な状態の翼は一瞬反応が遅れたせいで刀を出す暇が無かった。

振り下ろされた鉄扇は翼に命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………かに見えた。

目の前に黒い背中が現れる。奏空だ。

凛音が現れたと同時に瞬時に飛翔。大剣で鉄扇を防いだ。しかし力は向こうが上。力負けして奏空は甲板に叩き落される。

 

 

「枢木っ!!」

 

 

翼が叫ぶ。

敵であるのに心配してくれるのか?いや、今の状況で敵とかそんなこと関係無いな。体を起こして凛音に向き変える。

神獣鏡(シェンショウジン)。聖遺物由来の能力は魔退ける力。聖遺物殺しのシンフォギア………。

近付こうとすれば鉄扇で弾かれる。離れれば分解能力があるレーザーを喰らう………。

強すぎる………。

大剣を握ろうと手を伸ばしたその時だった。

 

 

 

「え………。」

 

 

柄に触れようとした途端掴めなかった。何故?そう思っていると彼は気付いた。

手が震えていた。

何で?別に腱を切られた訳じゃないのに何で震えているのだろうか?

凛音が迫って来てる。

早く、早く掴まないと………。

 

 

「ゴボッ………」

 

 

掴めたが掴んだ時には彼の腹部に蹴りが入った時だった。吹き飛ばされて外に放り出される。羽を伸ばして体勢を立て直して大剣を構える。

なのにまた震え出した。

まさか俺………怖がっているのか?

凛音と戦うのが?いや違う。傷付けたくないから?いいや違う。

単純に怖がっているのだ。死角なしの神獣鏡(シェンショウジン)の前に。恐れているんだ。

俺は………どうすれば………。

そう考えていると再び飛び蹴りを喰らった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あれから状況はウェルがノイズを召喚し、それをクリスが殲滅し始める。翼も向かおうとしたが切歌によって妨害され交戦。調は緒川が救出したという。

その中で未来は戦艦を伝って飛んでいた。

すると海から潜水艇が現れる。二課の仮設本部だ。

そしてその潜水艇の窓から響が出ようとしたその時上から何かが堕ちて来た。

 

 

「奏空くんっ!?」

 

 

堕ちて来た上空を見るとそこにはヘッドギアを開いた凛音がこちらを見ていた。

 

 

「凛音さん………。」

 

 

「…………俺はもう駄目かもしれない………。」

 

 

「え………?」

 

 

突然そんなことを言い出した。

よく見ると彼の体は震えていた。

 

 

「俺、怖いんだ…………。力が強いアイツが怖いんだ…………。」

 

 

それはまるでいじめられている子供の理屈みたいだった。単に強いから怖い。だから何も出来ずにやられていた。

 

 

「なぁ………俺はどうすればいい?桁違いに力の差が大きいアイツをどうすればいい?」

 

 

震えている彼に対し、響は両肩に手を置いて目を見た。

 

 

「私なら諦めずに立ち向かう………かな?」

 

 

「…………何でだよ…………。お前はいつもそうだ。死んでしまうかもしれないのに何でそうやって立ち向かうんだよ!?何でそんな目が出来るだよっ!!」

 

 

奏空から見て今までの響の行動はどれも自分の身を犠牲にして助かるというイメージが大きかった。いつ死ぬかわからないのに何故そんなに戦えるのか………。

 

 

「確かにいつも言われる…………でもね、私は助けたいから。」

 

 

「助け………たい?そんな理由で?」

 

 

「うん。この手は誰かと繋ぐためにあるものなんだ。この力で多くの人が助けられるなら私はそれでいい。だから私は未来を助ける………。君は何の為に戦うの?」

 

 

この力で多くの人が助けられるならそれでいい。

その言葉が深く刺さった。

俺は何の為に戦う?そんなの決まってる。

 

 

「俺は大切な人を守る為に戦う。だから俺はアイツを助けるっ。」

 

 

その目にはもう迷いがなかった。響は安心して微笑んだ。

 

 

「な、何が可笑しいんだよ。」

 

 

「フフ、ごめんね。じゃあ………お互い頑張ろうねっ!」

 

 

「……………うん。」

 

 

彼が飛翔して飛び立った同時に、潜水艇の近くの戦艦に未来が現れた。

 

 

「一緒に帰ろう未来っ!」

 

 

「…………帰れないよ。だって私にはやらなきゃいけないことがあるもの。」

 

 

ヘッドギアを開いて話し出す。心なしかその目に光があって本心を言っているようだった。

 

 

「やらなきゃいけないこと?」

 

 

「このギアが放つ輝きはね………新しい世界を照らし出すんだって………。そこには争いがなく、誰もが穏やかで笑ってられる世界なんだよ………。」

 

 

「争いのない世界………。」

 

 

「私は響に戦って欲しくない。………だから響が戦わなくていい世界を作るの………。」

 

 

響が戦わなくていい世界。

誰もが笑ってられる世界。確かに理想的な世界だが、響は視線を横に映す。

そこには煙を上げて炎が燃え盛っている戦艦群があった。

 

 

「………だけど未来………こんなやり方で作った世界は暖かいのかな?」

 

 

「っ?」

 

 

「私が一番好きな世界は………未来が傍にいてくれる暖かい陽だまりなんだ………。」

 

 

「……………でも響が戦わなくていい世界だよ?」

 

 

「………例え未来と戦ってでも、そんなことさせないっ!」

 

 

「…………私は響に戦って欲しくないの………。」

 

 

彼女の目の光がだんだん無くなり、声音も低くなっていく。それでも響は笑顔を見せる。

 

 

「ありがとう………。だけど私………戦うよ。」

 

 

その笑顔は辛いように見えた。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……。」

 

 

少女が歌を落とし、それが合図のように二人は激突した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

響と別れた後、奏空は凛音がいる上空へ向かい対峙した。その目には一切の光が無く。完全に洗脳されていた。

 

 

「………俺さぁ、二課の連中にいろんなこと教えられたよ。俺の悩みとかも乗ってくれてさ、今まで命令が来たら実行するしか出来なかった俺に教えられたよ。俺はどうしたらいいかって聞いたら『貴方がしたいと思うことをやればいい』ってね。」

 

 

奏空は話し出すが彼女は何も言わない。彼の話を聞いているようにも見えた。

 

 

「だからな………。俺は大切な人を守る為に戦う。」

 

 

大剣を彼女に向けて堂々と言う。

 

 

「これが俺達の………最後の兄弟喧嘩だっ!」

 

 

言い終えたと同時にヘッドギアが閉じて、二人は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




凛音は洗脳だけで背中にチューブを刺していません。『神獣鏡(シェンショウジン)が彼女を拘束している。』というイメージでお願いします。
ではまた。


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第12話 最後の兄弟喧嘩

で、でけた………。
やっとでけた。
配信された10話と同じ日に………。
でも残り3日でG編終わる…………。
どうしよ(´・ω・`)。



あと、今回もオマージュ多めです。知ってる人には知ってる技があるかも…………。


『ああ、とても長い夢を、見ていた。未だ何処からか声が聞こえてくる。』

 

 

『時間の ようにすり抜けていく。わたしの名前を 追い駆ける。』

 

 

彼女から発せられる歌はどこか美しかった。

 

 

『つぼみから花へ。さなぎから蝶へ。何度でも姿形(すがたかたち)変え、貴方の元へ。

鏡よ鏡、わたしは 誰?何度でも応えてみせる。生まれ変わる。』

 

 

『美しいものが 愛される、なら。貴方の瞳を奪えるの、なら。

その 暖かい手を どうか 差し伸べて 欲しい。そのまま ああ、連れ去って。この夜が 明ける、前に……。』

 

 

でも例え美しく感じられると言えどその声は無機質で、機械的なものであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

空中で大剣と鉄扇がぶつかり合う。相手は正確に急所を狙って来るが全て弾く。暫く打ち合いが続くと向こうが距離を離した。

刃にエネルギーを収束し、彼女目掛けて振るう。

 

 

『Solid Size』

 

 

飛ばされた斬撃は彼女を捉える。しかし鉄扇に白く光り、交差させて振るうと一つの白い斬撃が放たれた。

 

 

白雷(びゃくらい)

 

 

斬撃と斬撃がぶつかって対消滅する。今度は鉄扇に紫の光が集まって、連続して振ると無数の斬撃が飛ばされた。

 

 

『乱風』

 

 

それはまるで無数の鎌鼬の如く彼に迫り来る。

避けることなく瞬時に大剣から二本の長剣『バタフライ』を取り出して真似するように連続で振るう。

 

 

『Solid Rush』

 

 

飛び交う無数の斬撃。下の戦艦に凛音の斬撃が刻み込まれる。

斬撃が止むと一気に接近して来た。空中で剣舞が舞う。こっちが降下すると向こうも降下し、落ちながら斬り合う。ほぼ急降下に近い中ギリギリ意識を保って戦っているが、向こうは完全洗脳だ。そういうのはプログラムが補正しているのだろう。全く剣速が落ちてない。

海上まで達すると二人は距離を離す。地を這うに海を低空飛行をすると、向こうが鉄扇を円形の鏡にさせて拡散レーザーが放たれた。

 

 

『乱光』

 

 

レーザーを剣で防ごうとするが、あることを思い出して無理矢理軌道を変えた。体がびっくりして吐き気がした。

あのレーザーは聖遺物を分解する能力がある。それは翼の大剣を貫通する程だ。

こんな可変、変形機構がないこの剣なんて簡単に溶かされる。

だけどこっちは何も出来ないと言うわけじゃない。

 

 

『Sword Taktstock』

 

 

意思誘導(エネルギー・インダクション)で大剣にフォニックゲインを流し込み、剣達を凛音に向かわせる。レーザーに当たらないように操り、刃が彼女目掛けて当たろうとしたその時だった。

凛音の横から誰かが剣を叩き落とした。落としたのは凛音だった。しかも一人だけではない。目視で5人の凛音が現れたのだ。

 

 

『影鏡』

 

 

所謂影分身だろう。まるで自身の周りの鏡から無数の自分が写し出されるように生み出したのだろう。

 

 

『(分身能力とか戦闘にすごく使えそう………。ってあれ?なんで全員こっち見てんだ?まさか接近して来ないよな?またレーザーを撃つんだろ?頼むからそうであって欲しい。こっちは今コア・ファーストしかないから、海に落ちた剣を浮上させないとかなり不利だから。

ねぇ、鉄扇構えようとしないで。レーザー撃って頼むから頼むから)ってああああっ!?来たあああっ!?」

 

 

彼の願いは叶わず全員が鉄扇を構えて駆け出した。逃げようとするも回り込まれて案の定囲まれて鉄扇が迫る。

コア・ファーストで懸命に防ぐも斬撃が止むことは無い。こう言うごちゃごちゃした時には……。

海からルーンを呼び出し、コア・ファーストを背中にマウントして両手にルーンを握る。

 

 

暴風乱斬(Hurricane Beat)

 

 

回転して攻撃が止んだところで反撃に出る。どれが本物かはわからないので勘で攻撃する。

近いのに剣を振り下ろすが割れて消える。次、近づいたのに横薙ぎする。

だが割れた、次。

二人目掛けてルーンを投擲。割れる、次。

背後から一人が襲い掛かる。しかし海からバタフライ、オーガニクスを呼び出して串刺しにする。

これも割れた。つまり………。

 

 

「お前だぁっ!!」

 

 

残された本体目掛けて刃を向けて突進。狙いは勿論コア。あれが破壊されればギアは強制解除される。それを狙って。

刃の先端がコアに刺さった。

 

 

パリン

 

 

「え………?」

 

 

しかし刺した彼女は割れた。おかしい。作られたのは5人だから計6人。だから一人が必ず本体のはず。なのに何故全員が分身なんだ?

思考を巡らせていると殺気を感じ取り、振り返るがもう遅かった。

 

 

「ゴッ………。」

 

 

腹部に強い衝撃が伝わり、戦艦まで吹き飛ばされる。そうだ、これはさっき逃げていた翼に接近した時に使った技………。

 

 

『隠鏡』

 

 

恐らくエアキャリアの『ウィザードリィステルス』みたいな透明化の能力だろう。

囲んだ時にもう一人作り出して本人は姿を消していたのか………。

目にも留まらぬ剣(というか鉄扇)捌きに、敵の上手く錯乱させる特殊能力、そして追い打ちを掛けるかのような分解能力。

何もかも完成されている………。

さて、そんなチートみたいなヤツをどう対処するか………。あまり時間を掛けれないし、かと言って少しでも判断を誤ったら死ぬ。

 

 

「正に八方塞がり………だな………。」

 

 

悠長に呟いていたら紫のレーザーが迫っていた。跳躍して避けようとするが、それは垂直に上がってきた。

 

 

折龍(おりたつ)

 

 

まるで龍が天に登る如く急に上がってきたので自壊覚悟で剣で防ぐ。しかしそれが接触すると太刀音が響いた。

あれはレーザーではなく斬撃だった。これがもしレーザーだったら剣は溶かされていただろう。

そこから更に追い打ちを掛けるかのように先程の乱撃が放たれた。

横跳びで違う戦艦に飛び移る。先程いた戦艦が斬り裂かれて爆炎を上げる。

 

「(こうも斬撃を自在に変えるか………。さっきの透明化といい、分身といい、あれは鏡の特性を使っていると見た。斬撃が急に上がって来たのは鏡の屈折を利用したもの。こっちはせいぜいアームドギアにフォニックゲインを流し込んで操るだけ………ん?フォニックゲイン?流し込む?………もしかしたら………。)」

 

オーガニクスを呼び出して迫る彼女を迎え撃つ。再び舞う剣戟。懐に入られる前に叩き落とす。

剣を腰に回した。

 

 

「ぅらあっ!」

 

 

右………と見せかけて左に剣を払う。流石に反応しきれなかったのか吹き飛ばされる。

奏空はオーガニクスにエネルギーを収束させて斬撃を放った。

 

 

直角閃光(Tern Accelerate)

 

 

しかしその斬撃はレーザーのように一直線に放たれた。立て直した凛音は彼と同じような斬撃を放った。

 

 

『線光』

 

 

相殺しようと思ったのだろう。奏空の斬撃と彼女の斬撃がぶつかる瞬間だった。

 

 

カクンッ

 

 

彼の斬撃が斜めに直角に曲がったのだ。普通斬撃を飛ばすなら必ずしも扇状になる。しかし凛音は斬撃を一直線に飛ばしたり。それを垂直に曲げたりした。それは鏡の特性を使ってのこと。

一方で奏空の能力はアームドギアにフォニックゲインを流すこと。

アームドギアから放たれる斬撃はフォニックゲインと同等のエネルギー物質。

即ち彼にとって斬撃もフォニックゲインと変わらない。剣を操るように斬撃を一直線にしたり、曲げたりすることも可能ということだ。

 

 

「つまりこういうことも出来るっ!!」

 

 

疾走狼牙(Wolf Run)

 

 

放った斬撃が甲板を抉りながら跳ねるように突き進む。斬撃と同時に彼女に向かって駆け出す。斬撃を避けるが囲むように高速移動する。それも目で捉えられない程の速さで。

 

 

四方鋭刃(Square Edge)

 

 

四方から剣が迫り防ぐが体勢が崩れた。その隙を逃すことなく一気に懐に入る。

コアに向かって鋭い突きを放ち、彼女は吹き飛んだ。今の感触は確かに手応えがあった。

これで終わった………のか?止められたのか俺は………?長期戦を想定していたが早く終わって良かった。とにかく今のでギアが外れたから早く彼女を介抱しないと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『危険レベルREDと断定。特殊撃退システム

code:Mirage Burst発動。』

 

 

 

突如彼女のいた場所から凄まじい衝撃が響いた。気がつけば彼女は上空に佇んでいたが、何かが変だった。彼女にまとわりつくように輝く赤いオーラに既視感を感じた。

そして次の瞬間。

 

 

『凱鳥』

 

 

巨大な鳥の姿をした斬撃が迫って来た。

上空に逃げ込むと斬撃は戦艦を真っ二つに両断した。斬られた戦艦が爆煙を上げる。

覚えている。このとてつもない力………。身の毛がよだつ程の発せられるオーラ。

紛れも無くそれは『Limit Burst』だった。

『Limit Burst』………それはエクスドライブ並の出力を出すことが出来る、半覚醒モード。

あのオーラは容量を越えてわざと外に出している。内部から無限に等しいエネルギー量を生み出すためだ………。

そんなのが神獣鏡(シェンショウジン)に搭載したら………。

彼はコア・ファーストとオーガニクスを構える。そして彼女は鉄扇を上に振るうと何やら小粒のようなものが舞った。

その上には鏡が搭載したビットがあった。あれは確かキャリアに積んでいたもの。しかもキャリア側でしか操作出来ないはず………。

…………フォニックゲインか?この上空に漂っているフォニックゲインを用いて操作権をギアに?ますます自分ではないか………。

そして光は鏡に反射するように折り返し、雨のように降って来た。

 

 

『時雨』

 

 

その光の正体は一つ一つが斬撃であった。剣で掻き払うが雨に一つも濡れずにすることと同じ。たとえ弾丸を全て弾く彼でも礫レベルまでになると完全には防ぎきれない。礫が肌に触れると凄まじい激痛が走った。

まるでカッターナイフで手の爪をそぎ落とされたかのような痛み。

怯んだ為後半は剣を傘代わりに防ぐが、隙間から礫が漏れ出す。

斬撃の雨が止んだ時には腕やら背中から鮮血が流れる。もう意識が飛びそうだった。何とか保ちながら彼女の方へ見上げるとそこにはもう居なかった。

ブルブル震えながら見渡すが何処にもいない。

そして彼女は急に現れた。自分の腹に両の拳を当てながら。

 

 

『衝牙』

 

 

瞬間視界が歪んだ。口から多量の血を吐く。

この強烈な衝撃………。覚えている………。

これはフォニックゲインを用いた『発勁』だ。しかも自分がやった倍の量のフォニックゲイン………。

痛みが感じない………。

景色が霞んでいく……………。

浮力を維持できず、逆さまに落ちる。その先は海。

 

 

ああ…………結局…………。

 

 

やがて意識を手放し、彼は海に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い…………。

 

 

それに酷く静かだ…………。

 

 

もしかしてこれがあの世というなのだろうか?だとしたら自分は真っ先に地獄に堕ちるだろう…………。

差し伸べた手を振り払い、その差し伸べた者を傷つけ、大切な人の手を血で汚れるを止められなかったのだから…………。

それに結局、歪鏡に囚われた彼女を救うことも出来なかったのだ…………。

地獄に堕ちてもおかしいくない、充分すぎる罪だ。

 

 

もう戦わなくていい。ようやくこれで楽になれる……………。

 

 

瞼をゆっくり閉じて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ

 

 

 

………ん?なんだ?なんか頰を叩かれている感覚が………。

 

 

ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ

 

いや、なんか増えてない?叩く回数がさっきより増えた気が………。

 

 

ーーーなかなか起きねぇなー。ならも少し強く………。ーーー

 

 

え、いや、ちょっとm………。

 

 

ベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシ

 

 

「だぁぁぁぁっ!痛えよさっきからっ!!」

 

 

「おっ、ようやく目覚めたか。」

 

 

耐え切れずガバッと体を起こした。そしてそこにいたのは………。

 

 

「…………………………………………誰?」

 

 

まるで鳥の羽のような朱色の髪で歳はマリアと同じぐらいだろうか、大人びた感じの少女がいた。

 

 

「私か?私は天羽奏。翼の相棒で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前の姉だ!」

 

 

「………………………………………………………は?」

 

 

何を言ってんだこの人は。

見知らぬ人から君の姉だよと言われて思わず抜けた声が出る。

そんな胸を張って言われても困る。

 

 

「あの…………俺の姉は………。」

 

 

「凛音だろ?色々聞かされたよ。」

 

 

「じゃあなんで………。」

 

 

「そりゃあれだよ。凛音の姉は翼だろ?私にとっては凛音も妹みたいなもんだ。そんでお前は凛音の弟だろ?翼の妹は私の妹。つまり凛音の弟も私の弟だっ!名前に『奏』って入ってるしなっ!」

 

 

「何そのジャイアン理論………。」

 

 

「まぁこの話は置いといて本題に入るが………。お前はこれからどうする?」

 

 

「どうするって俺死んじゃったし………。」

 

 

「そのまま逝っちまうのか?」

 

 

「……………。」

 

 

さっきまでの空気が嘘みたいに重くなる。俺は間違いなく死んだ。

だからもう助けるどころか戦うことも出来ない…………。

 

 

「…………確かあいつは言っていたなぁ、どこか放っておけない感じだって。」

 

 

「え?俺ってそんなやんちゃ?」

 

 

「だってそうだろ?自分が助けたいも思ったら無茶をしてまで助けるってことなかったか?」

 

 

「それは…………あります…………。」

 

 

「だろ?だから放っておけないってわけだ。それに…………。」

 

 

「それに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしまた弟に会えたなら抱き締めてやりたいって言っていた。」

 

 

「っ!」

 

 

「おっ、いい顔になったな。それで?お前はこれからどうするんだ?」

 

 

「……………あいつを助ける。」

 

 

「ははっ、言うと思った。流石我が弟!」

 

 

ワシャワシャと頭を撫でて来たが別に嫌とは思わなかった。

なんだか本当にこの人が姉に見えて来た。

 

 

「それじゃあ頑張れよ。あとあいつのことは一回くらい姉さんって言ってやれ。」

 

 

「………うん、そうする。」

 

 

「おう!じゃあな弟よっ!」

 

 

天羽奏………。

なんだか不思議な人だな………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

彼女は彼が沈んだ海を上空からジッと見ていた。禍々しい赤いオーラは相変わらず出ている。

機械が生命活動が停止したことを知らせるとその場から去ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオンッ!!

 

 

 

去ろうとした足が止まった。

海から何かが浮上して来た。大体見当はついている。

彼だ。

枢木奏空だ。

六本の剣と共に上空に現れた。

 

 

「…………。待たせてすまなかったな。だけど遅れた分取り返す…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう終わりにしよう…………()()()。」

 

 

『Limit Burst』

 

 

瞬間少年は青いオーラを纏う。

それに共鳴するように彼女のオーラも大きくなる。

青と赤。二つの光が空で揺らめく。

 

 

「…………。」

 

 

「…………。」

 

 

暫くの沈黙が続き、両者一斉に動いた。

剣捌きが今までの遥かに超えて打ち合う。奏空はルーンを用いて鉄扇を迎え撃つ。

彼女が自ら距離を離して分身体を作り出す。その量およそ50。

 

 

「っ!そりゃない…………ぜっ!」

 

 

奏空は羽を用いて逃げる。分身体も追うように突き進む。

『Limit Burst』で飛行速度も上がったが向こうも同様に上がっているのかどんどん差を詰められる。

しかし彼は更に速度を上げて、大分切り離したところで急ブレーキを掛ける。

襲ってくるとてつもないG。普通人間なら内臓が耐え切れず死んでいるだろう。

しかしフォニックゲインを身体強化に回しているのである程度は大丈夫だ。

そしてそのまま後ろ向きで斜めに飛んだ。

分身体は予想の仕切れなかったことに反応出来ずその場に取り残される

そして………。

 

 

『千ノ落涙』

 

 

大量のルーンとバタフライを作り出して一気に射出した。分身体は貫くと鏡、というよりガラスが割れるように大きく空中に響き渡った。

そしてすぐさま彼女の方へ、予想していた通り砲撃の準備をしていた。

 

 

『極光』

 

 

未来が打った『流星』並のレーザーが迫る。だが彼は逃げずにそのまま突っ込む。

当たる瞬間、レーザーの軌跡に沿りながら彼女に接近する。

 

 

「どらぁぁっ!!」

 

 

彼女目掛けて大剣を振り下ろす。

しかし何かに阻まれて弾かれた。

例のミラービットだ。

あれはかなり厄介な存在。あれ自身がレーザーを撃てないのが救いだ。

反射させて攻撃に応用したり、防御にも転用できる。

さっきのは反射の特性を生かして攻撃を跳ね返すって感じか。

ルーンを8本作り出して射出させる。しかし彼女は避けずにそのまま突き進んだ。

目の前に刃が迫る中、彼女は光の塊となる。

光の塊はミラービットを伝って反射して移動する。

 

 

『転鏡』

 

 

背後にあったミラービットに気付かず。そのまま蹴り落とされた。

ただの蹴りでまた海に落ちそうになった。立て直して上を見ると彼女の周りにビットが集まる。鉄扇を鏡に変えてそこから赤い光が集まる。

そこで察する。とてつもない技が来ると。

次の攻撃で決まらなかったらそこに待っているのは確実な『死』だ。

だがもう考えている時間は無い。

やるしかない!

奏空は一気に跳ね飛んだ。剣を構え、刃にゲージが溜まるように光が集束する。

そしてさっきと同じ凛音の頭上まで行き大剣を振り下ろした。

 

 

ガギンッ

 

 

しかしここで来て彼女は赤いオーラをバリアにするという能力を隠し持っていた。

鏡の輝きが放たれる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もらったぁっ!!!」

 

 

 

瞬間、大剣に合体していた剣達が分離する。それもゆっくりと。光を帯びた5本の剣は瞬時に彼女を囲む。電流を浴びたかのように体が動かなくなった。

彼は持っていたコア・ファーストを空高く投げると光の粒子となる。光の粒子は彼女の背後にあったオーガニクスの元へ行き奏空となって斬り裂く。

一つ目。

更にバタフライにも粒子は行き、彼を形作り斬り裂く。

二つ目。

ルーンにも粒子の彼が現れる。

三つ目。

残りのバタフライ、ルーンにも同様に現れる。

四つ、五つ目。

上から見ると彼らは星を描くように動いていた。

そして5人の奏空が一つとなりコア・ファーストを掴むと真ん中が割れて光を纏う。

 

 

「凛音ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

星ノ輝キ(Stardust Breaker)

 

 

彼女のヘッドギアに叩き込み凄まじい衝撃が響き渡った。それは周りにあったミラービットを余波で破壊する程だった。

ヘッドギアに亀裂が走り彼女の顔が露わになる。

更にコアにも亀裂が走って強制解除される。紫のインナースーツから制服に変わる。

凛音はそのまま落ちた。その先は、海。

彼も後を追い、急降下する彼女の手に伸ばす。

 

 

 

 

 

 

一度振り払った彼女の手………。

どうかもう一度握るチャンスを下さい…………。

この手はもう二度と絶対に…………絶対に…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「離さないっ!!!」

 

 

その日少年は掴めなかった手を再び握った……………。

 

 

 

 

 




凛音の神獣鏡(シェンショウジン)には特殊能力込みの完全戦闘用です。
その為393よりもつおい………。
次回も頑張ります。


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第13話 おかえり、ただいま

結局間に合わなかったよちくせう(´・ω・`)。
でもこのままのペースで出す。早くGXを書きたいです。

XVのPV見た瞬間テンションが倍になったのでこのテンションを保って書きたいです。では、どうぞ。


……………。

 

 

 

……………………。

 

 

 

そこには何も無く、誰もいなかった。

 

 

どこを見渡してもそこには『無』しか無かった。

 

 

音もない。見えない。何も感じ取れない。そんな場所にいた。

 

 

そして、何かが体に纏わりつく。腕から脚にかけて植物の蔓が絡まる。

 

 

私が私で無くなっていく…………。

私でない何かになっていく……………。

 

 

振りほどく力も無い。蔓は海に引き込むように沈ませてくる。

彼女は諦めて生きることを放棄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし意識が薄れていく中、それは上から唐突に現れた。

青い小さな光。

それが彼女の目線の先にとどまる。その瞬間その光が輝くと絡まっていた蔓が消滅した。

光はそのまま彼女の元へ近づく。興味本位でその光に触れようとした。

指先が当たると光が彼女を包み込むように大きくなる。

 

 

 

 

 

 

…………ああ、そこにいたんだね。「ーー」。…………

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「………………………ここは?」

 

 

目が醒めると眩い光が視界に入る。起き上がって周りを見渡した。

覚えている。ここは仮設本部の医務室だ。

 

 

「なんでこんな所に………。」

 

 

呟いた途端、頭痛が襲った。

痛みとともに映像が流れるように記憶が再生される。流れたのは自身の視点。それも無音で映像だけだった。

彼から呼び出されて戦った。響達を倒して自身を斬り裂かれた。

そして場面は変わってF.I.Sの装者と翼とクリスを上空から見下ろしていた。

彼を捉えると鉄扇を構えて襲いかかった。そして何回も彼と剣を交えて戦って彼が海に落ちた。

暫く見つめて去ろうとすると急に振り返る。そこには青い光を纏った彼がいた。

そして彼と交戦し、最終的には彼が何か叫んで剣を振り下ろしたところで映像が終わった。

 

 

「…………そっか………やっぱり………。」

 

 

斬り裂かれた箇所に手置いて呟く。あの時の傷は無かったかのように綺麗に消えていた。

すると医務室の扉が開き、見知った人物が入って来た。

 

 

「良かった、目を覚ましたのね。」

 

 

「友里さん。」

 

 

オペレーターである友里あおいが所持している端末を操作する。

 

 

「あれからバイタルは良好。神獣鏡(シェンショウジン)の負荷が嘘みたいに消えて軽傷で済んだわ。これも彼のお陰ね。」

 

 

「彼って………もしかして………。」

 

 

凛音が言いかけると彼女は微笑んで肯定した。

 

 

「ええ、彼よ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

果たして大丈夫なのだろうか…………。

奏空は不安になっていた。戦闘後二課の仮設本部へ彼女を運び、バルムンクを預からせてからまだ報告が来ていない。

現在はモニターやコンソールがいくつもある所謂指令室という場所にいた。

響もどうやら未来を止められたらしく、二人とも同じく指令室にいた。

その際に胸のガングニールが消滅し彼女は聖遺物に成らずに済んだ。

もうあんなことにならないと考えるとホッとする。

それでも彼の不安は治らない。

響や翼から「大丈夫だよ。」や「心配するな。」と言っていたがどうだろうか。

神獣鏡(シェンショウジン)によって歪んだ歌姫となった凛音。もし完全洗脳の後遺症が残っていたり、ギアの負荷が体を崩壊していないだろうか。

余計に不安になっていると指令室の扉が開かれる。

 

 

「あっ……………。」

 

 

「…………っ。」

 

 

黒の長髪、自分と同じ紫の瞳。制服姿の凛音がそこにいた。

彼はゆっくりと彼女の元に歩み寄って行く。

互いに言葉が出ずに沈黙が続く。言いたいけど言えない、そんな状態だった。

 

 

「………………………ごめんなさい。」

 

 

「え…………?」

 

 

沈黙を破ったのは奏空だった。

彼は深々と凛音に頭を下げた。

 

 

「…………お前は必死に手を伸ばして来たのに…………。それを拒絶したり…………挙句の果てにお、お前を傷付けた…………。傷付けた後に凄く後悔した…………。だからどうしても助けたくて俺…………俺…………。」

 

 

弱々しく、細い声で彼女に謝罪をした。

許されないことだってのはわかる。彼女が目覚めたらどうしても言っておきたかった。

殴られる覚悟はある。

彼女はゆっくり近づき…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼を抱き締めた。

 

 

「……………え。」

 

 

伝わってくる暖かな温もり。

マリアとはまた違った温もりが包み込んだ。

 

 

「私ね、信じてた。奏空なら絶対助けるって。あの時、私を斬り裂いたとき本当は刺すつもりでいたんだよね?でも咄嗟に斜め斬りに変えたよね。それは死なせたくないって思ったからじゃない?」

 

 

そう。

あの時『Limit Burst』を発動したとき彼の意識は半ば失っていた。だがとどめを刺す瞬間意識が戻り、彼女を死なせたくないと無理矢理斜め斬りに変えたのだ。

 

 

「それにね、私は怒ってなんかないよ。貴方が帰って来たことが嬉しいよ。」

 

 

「凛………音………。」

 

 

気が付けば顔が涙でぐしゃぐしゃになっていた。こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。

奏空は彼女に体を任して泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、奏空……………。」

 

 

「ただいま、凛音……………。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二人が再会したあと、赤髪の巨漢『風鳴弦十郎』が本題に入る。

響と未来の交戦の際に神獣鏡(シェンショウジン)の光を海に向かって放たれると海底から神殿が浮上した。

名を『フロンティア』。月の落下に伴う極大災厄より、 可能な限り人命を救うためF.I.S. が遂行する為に用いる星間航行船。

F.I.S.がそこに移ったのが記録に残されていた。更にフロンティアが浮上と同時に起こったクリスの突然の裏切り。

そして突如フロンティアから光の柱が現れた途端フロンティアが宙に浮いた。周りにいた米国の戦艦群を一瞬で葬った。更にフロンティアが放った光の所為か月の落下が早まったという。

そして今に至る。

現段階で二課の装者で動けるのは翼だけだった。

 

 

「今こちらで動けるのは翼だけだが、奏空くん。君に頼みがある。」

 

 

「頼み?」

 

 

「月の落下による災厄を防ぐために我々に力を貸して欲しい。凛音を救ってくれたことは感謝する。だが事態は急激に迫っている。ここで衝突するよりも月の落下を防ぐのが先決だと思わないか?」

 

 

「…………やらせて下さい。」

 

 

「いいのか?」

 

 

「はい。俺、気付いたんです。俺は俺のままにやりたいことをやればいいと。それにこんなときに衝突も何もありません。それに…………俺は彼女を…………マリアを止めたいっ。」

 

 

彼は決心した目をしていた。

今まで命令されたことを実行し続けた自分。彼は機械ではない。枢木奏空という一人の人間だ。

彼は彼のやりたいことをやる。そう決めたのだ。何よりも変わってしまったマリアを救いたい。その思いでいっぱいだった。

 

 

「よしっ!なら奏空くんは翼と共にフロンティアへ向かって「私も行きますっ!」凛音?」

 

 

「私も…………私も行かせて下さい!ギアの負荷が無くなったのでいつでも私はっ!」

 

 

「駄目だ。第一、天叢雲は向こうに…………。」

 

 

その時奏空は何かを思い出したのかポケットを漁る。

 

 

「それならここに。」

 

 

「天叢雲っ!?でも何で?」

 

 

「ウェルに頼んで俺が預かっていたんだ。御守りみたいに持っていただけだけどね。」

 

 

「叔父様っこれならっ!」

 

 

「…………全くこれが所謂ファインプレーというヤツか………。」

 

 

「っ!ということはっ!」

 

 

「ああ、兄弟揃って行ってこいっ!」

 

 

「ありがとうございますっ!」

 

 

「凛音、私はバイクで向かうから枢木と共に来るといい。」

 

 

「わかったわ翼。奏空、行きましょ。」

 

 

「あぁ。でもその前に…………。」

 

 

彼は調に向き変える。

ウェルに裏切り者と決め付けられてF.I.S.からこちらに救助された調。

響を偽善者と嫌悪していたが、その仲間達と共に行動してもいいのだろうか?

 

 

「調………いいんだな?」

 

 

「…………ドクターのやり方では世界は救えない。多くの人が死んでしまう…………。だから奏空、ドクターを………マリアを止めて………。」

 

 

「ああ、じゃあ…………行ってくる。」

 

 

「うん………行ってらっしゃい奏空。」

 

 

調と話を済ませ凛音達の元に向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

三人はハッチの近くの倉庫にいた。

 

 

「ところでここからどうやって向かうんだ?」

 

 

「私達にはこれがある。」

 

 

翼が被せていたシートを取り外すと蒼いバイクが鎮座していた。隣には同型の紫色のバイクがあった。

 

 

「これって凛音の?」

 

 

「うん。まぁ、たまにしか乗ってないけどね。」

 

 

「じゃあ二人はバイクで向かうの?」

 

 

「いや、三人だ。」

 

 

二台のバイクの奥に行くとそこにはもう一台の黒いバイクがあった。

 

 

「え、これは?」

 

 

「私の予備だ。この機会に使うといい。」

 

 

「へぇ〜二台持ちなんだな。」

 

 

「まぁ厳密には違うけどね。」

 

 

「違う?どゆこと?」

 

 

「それはね「凛音?」………いや、何でもない。」

 

 

ジロリと視線を飛ばされて口籠る。

言えない。

翼は何台も所持し、乗る毎に大抵は壊しているなんて…………。

 

 

「というか奏空は動かせるの?」

 

 

「本で使い方とか読んだから一応動かせる。」

 

 

「よし、なら決まりだな。」

 

 

ポケットからバイクのキーを渡し、自分のバイクのキーを刺す。

三人はバイクを飛ばしてハッチから出る。前方にはノイズが迫ってきてるのが確認出来た。

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……。」

 

 

「Imyuteus amenomurkumo tron………。」

 

 

「close core balmunk tron………。」

 

 

翼を筆頭に各自ギアを纏う。

翼は脚のブレードを合わせ、凛音は脚のビームブレードを展開してノイズを斬り裂く。

 

 

『騎刃ノ一閃』

 

 

「すげぇ………。よし俺も………。」

 

 

背中から剣を分離させ翼と同じように剣同士を合わせる。そしてそのままノイズに突進して斬り裂いた。

 

 

剣の戦車(Sword Chariot)

 

 

三人はノイズを地帯を突っ切った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

所変わって指令室。メインモニターには三人の姿が映し出されていた。

 

 

「流石ですねあの三人は………。」

 

 

「しかし向こうには雪音さんやF.I.S.の装者が………。道中で何が起こるか………。」

 

 

「いいえ、こちらにもシンフォギア装者はまだいますよ。」

 

 

「ギアを持たない響くんを戦わせるつもりはないからな。」

 

 

「戦うのは私じゃありませんよ。」

 

 

キッと横目で彼女を見る弦十郎。しかし彼女はある提案を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵に出撃要請ってどこまで本気なの?」

 

 

「勿論全部っ。」

 

 

それは調にも協力して貰うことだった。また突拍子もないことだがそれは響なりの考えだった。

 

 

「あなたのそういうところ、好きじゃない。正しさを振りかざす偽善者の貴女が………。」

 

 

「私………自分がやってることが正しいなんて思ってないよ………以前大きな怪我をして家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね………。でも私が帰ってからお母さんもお婆ちゃんも暗い顔ばかりしてた………。それでも私は自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら誰とも手を繋げなくなる。」

 

 

「手を繋ぐ………そんなこと本気で………。」

 

 

「だから調ちゃんにもやりたい事をやり遂げてほしい。

もし、それが私たちと同じ目的なら、少しだけ力を貸してほしいんだ。」

 

 

「私の……やりたい事………。」

 

 

響は調の手を握る。

この暖かな感じ………どこか懐かしく感じた。

 

 

「やりたい事は暴走する仲間を止めたいこと、でしたよね。」

 

 

緒川が分かっていたように調に微笑む。彼女は響の手から離れてそっぽ向いた。

 

 

「………みんなを助けるなら手伝ってもいい。」

 

 

協力を了承したことに響と未来は喜んだ。調は顔だけこちらに向けて続ける。

 

 

「だけど信じるの?敵だったんだよ?」

 

 

「敵とか味方とか言う前に子供のやりたいことを支えてやれない大人なんて、格好悪くて敵わないんだよ。」

 

 

「師匠っ!」

 

 

ポケットから調のギアのシュルシャガナを出し、彼女の手の中に握らせる。

 

 

「こいつは可能性だ………。」

 

 

「………相変わらずなのね。」

 

 

「甘いのは分かっている、性分だ………む?」

 

 

「ハッチまで案内してあげるっ!急ごう!」

 

 

少し妙な感じをした弦十郎だが響が調の手引いて指令室を出た。

調はシュルシャガナを纏い、ヘッドギアを変形させて一輪タイプの走行型にしてハッチから飛び出した。彼女の姿がメインモニターに映し出されると驚愕する。

なんと彼女の背中に響がいたのだ。

 

 

「何をやっているっ!響くんを戦わせるつもりは無いと言ったはずだっ!」

 

 

調のヘッドギアから通信が入っているのか響はそれに反応して答える。

 

 

『戦いじゃありませんっ!人助けですっ!』

 

 

「減らず口の上手い映画など見せた覚えは無いぞっ!!」

 

 

「行かせてあげて下さい。」

 

 

「っ!?」

 

 

講義していた弦十郎に未来が遮った。

 

 

「人助けは………一番響らしいことですから。」

 

 

「っ。………フッこういう無茶無謀は本来俺の役目だったはずだがな。」

 

 

「弦十郎さんも?」

 

 

「帰ってたらお灸ですか?」

 

 

「特大のをくれてやるっ!だから俺達はっ!」

 

 

「バックアップの方は任せて下さい!」

 

 

「私達は私達の出来る事をしますから!」

 

 

オペレーターの藤尭朔也と友里がコンソールを操作しながら言う。

弦十郎は指を鳴らして響を見た。

 

 

「子供ばかりにいい格好させてたまるか。」

 

 

その顔はどこか嬉しそうな顔だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「立花があの装者と一緒に……ですか?」

 

 

「えっ、響ちゃん出たの?」

 

 

「やっぱ出るよな〜。」

 

 

「奏空は知っていたの?」

 

 

「だってさ、アイツがじっと待機していられると思う?」

 

 

「「無いな(いわね)。」」

 

 

三人はノイズの群れを倒しながら進んでいき、かなり奥まで行ってしまっていた。

周りには神殿のような建築物が建っていた。通信で響と合流するようにと言われ戻ろうとすると、突如光の矢が降って来た。

翼は跳躍してバイクから離れ、奏空と凛音はアクセルを回して避けた。

 

 

「どうやら誘い出されたようだな。」

 

 

光の矢が降って来た場所には紅い装者、クリスが少し高い岩山の上にいた。

 

 

「そろそろだと思っていたぞ、雪音。」

 

 

「クリス………。」

 

 

「マジで裏切ってやがったか………。」

 

 

「…………凛音、枢木。ここは私が引き受ける。貴女達は先に行け………。」

 

 

「し、しかしだな………。「行きましょう奏空。」い、いいのか?」

 

 

「翼が引き受けるって言った以上、私達は口出しできないわ。」

 

 

「………わかった。」

 

 

二人はアクセルを回して先に進むことにした。

その先は他のよりも大きな神殿があった。恐らく一番上にマリアはいる…………。

 

 

「まだあそこまで距離があるわね。………急ぎましょう。」

 

 

「……………いや、その必要はない。」

 

 

「え?どう言う………。」

 

 

「俺に考えがある。ちょっとバイクから降りて。」

 

 

「え?なん「いいから。」う、うん。」

 

 

凛音が降りると奏空も降りた。

そして彼女に近づき、担いだ。

 

 

「ふぇ!?そ、奏空!?」

 

 

まさか担いでここから行くのかと思ったが次の行動で予想の斜め上を行く。

担ぐ向きを変え彼女を前に向かせる。そして何となく察した。

 

 

「そ、奏空………もしかして………」

 

 

彼は深呼吸して少し落ち着くと、キッと神殿の方へ睨みつける。

そして………。

 

 

「だりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

槍投げの要領で彼女を一番上に目掛けてぶん投げた。姿勢を真っ直ぐにしていた為かまさに槍の如く飛んだ。

 

 

「奏空ぁぁぁぁ!!貴方、覚えてなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

「おお〜飛んだ飛んだ。」

 

 

やがて凛音の声が遠くなったのを確認する。

 

 

「………いるのは知っている。」

 

 

彼の背後にいた第三者に語りかけた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

所変わってフロンティアの最上部。そこには黒いガングニールを纏ったマリアがいた。

マリアは世界中継で人々に協力を求めていた。ナスターシャに月の落下を防ぐにはマリアの歌が必要なのだ。

 

 

 

「私一人の力だけでは足りない。だからどうか力を貸して欲しい。」

 

 

深呼吸して歌おうとしたその時。

 

 

ズガァァァン!!

 

 

大きな音を立てながら壁が割れた。振り返ってそれを見た途端、彼女から怒りのようなものが込み上がってきた。

 

 

「やっと会えたわね………。」

 

 

「風鳴…………凛音っ!」

 

 

そこにいたのは奏空の姉である、風鳴凛音がそこにいた。




今回はセリフ多めですみません。
G編も残りわずか。早くGX編が書きたいです。
次回も楽しみにして下さい。


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第14話 失恋のワルキューレ

やっと書けたぞ………。
残り1話………。
でも本当はYouTube配信よりも早く終わらせたかった………。
あと今回も大分はしょってるので注意。では、どうぞ。


調と響もフロンティア最上部へと向かっていたが、道中で奏空を見つけた。

響が声を掛けようとしたが近くまで行くともう一人と話していた。

 

 

「いるのは知っている。…………切歌。」

 

 

「えっ!?」

 

背後にいたのはイガリマを纏った切歌だった。彼女はアームドギアである鎌を向けていた。

 

 

「切歌ちゃん………。」

 

 

「奏空………貴方も裏切るデスか?私達を………マリアを………。」

 

 

「裏切る?違うな………俺は俺のやりたいままをする………。俺のやりたいことはドクターを………マリアを止めること。ドクターのやり方では世界を救うどころか世界を殺そうとしてる………。切歌はそれに加担するのか?」

 

 

「私は………私が私でいられるうちに何かを残したいんデスっ!調とマリア、マム………そして奏空が暮らす世界を………私がここにいるって証を、残したいんデスッ!」

 

 

「二人も落ち着いて話し合おうよっ!」

 

 

「「「戦場(いくさば)で何を馬鹿なことをっ!!」」」

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

三人から同時に怒られ思わず縮こまる響。奏空は剣を背中から取り出して構える。

 

 

「アンタは先に行け………。」

 

 

「えっ………でも………。」

 

 

「安心しな。そう簡単に俺はやられんよ。俺もこれが終わったら光よりも速く駆けつける。アンタは自分を信じて突き進め。…………胸の歌を信じな。」

 

 

「っ!」

 

 

『胸の歌を信じなさい。』

 

 

かつてフィーネが消える寸前に言った言葉を思い出し、響は先に中枢部へと向かった。

 

 

「切ちゃん………本当にやるの?」

 

 

「私は本気デス………。」

 

 

「そうか………切歌、歯ぁ食い縛れ………。」

 

 

「え…………?」

 

 

「お仕置きだ………!」

 

 

彼は地面を蹴って彼女に駆け出した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やっと会えたわね………マリア。」

 

 

「風鳴………凛音………。」

 

神獣鏡(シェンショウジン)ではない紫のシンフォギア、天叢雲を纏った凛音が壁を突き破って現れた。

彼女は壁に当たる前に刀で壁を斬り崩して最上部まで着いた。ほんと奏空には後でお礼をさせてもらう。

 

 

「………貴女、神獣鏡(シェンショウジン)をどうやって………。」

 

 

「コアを破壊させて強制解除したわ。奏空のお陰でね。」

 

 

「そう…………奏空がねぇ………。」

 

 

先程から感じたことのない感情が込み上げてくる。まるで宿敵と対峙したかのような感覚。

いや、最早宿敵というレベルではない。絶対に許されない存在。決して許してはいけない存在。

目の前の彼女がそう思えた。

マリアはアームドギアの槍を具現化させる。

 

 

「貴女と戦うなんてね………。」

 

 

「翼程じゃないと思ったら大間違いよ………。」

 

 

「それはそれは、期待してもいいかしらね………。」

 

 

挑発する二人の戦姫。

そして次の瞬間。

 

 

ガギンッ!!

 

 

凛音が始めに仕掛けた。マリアは槍で防ぐが凄まじい衝撃が発生した。

刀を弾くと槍で凛音を突く。ほぼ瞬間反応で首を動かしてギリギリ躱すと壁に穴が空いた。

 

 

「突きを飛ばせるのね。」

 

 

「日本のことわざで『能ある鷹は爪を隠す』って言うじゃない?でもまぁこれで"指し分け"ってところかしら。」

 

 

言い終えた途端彼女の背後の壁が斬り込まれた。

躱す瞬間ほぼ同時に斬撃を放った。

 

 

「危うく斬られるところだったわ。」

 

 

「嘘ばっかり。余裕で避けたじゃないの。」

 

 

突きと斬撃を飛ばせると言うことは同じタイプの筋力を持っていること。

筋力が同じということは"同系統の破壊力"を持っているということ。

 

 

つまりこの勝負が長引くことはない。

 

 

今度はマリアが仕掛けた。彼女の刀を叩き折るように。向こうは武器折りが狙いだろうがそうはいかない。

一旦退がってもう一本の刀を取り出す。

二刀を平行にして横斬りを繰り出した。防いだところに更に平行のまま逆手にして飛びかかるように斬った。

壁に叩きつけるが彼女は槍を細剣(レイピア)の如く連続で突きを繰り出す。

避けながら後退するとマリアは一気に駆け出した。凛音は刀を鞘に納めるように腰に添えて居合斬りの構えを取る。

そして接触する瞬間斬り裂いた。

しかしマリアは何ともなかった。接触する瞬間、居合斬りの一つの斬撃を二つに分けたのだ。

二つ斬撃が彼女達を挟むように床を抉った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お前がお前であるうちにって、どういうことだ?」

 

 

響を見送った後二人は切歌と交戦していたが、突然奏空が攻撃を止めて尋ねた。

 

 

「………私の中のフィーネの魂が覚醒しそうなのデス………。」

 

 

やはりあの時は………。

降り掛かった鉄パイプを防いだ障壁を発したのは切歌の方だったのか………。

 

 

「施設で集めたレセプターチルドレンだもの………。こうなる可能性はあったデス………。」

 

 

「そうか………それが分かれば尚更退けない。」

 

 

「私も、尚のこと切ちゃんを助ける。」

 

 

「え……………?」

 

 

「これ以上………塗りつぶされないように、大好きな切ちゃんを守る為に………。」

 

 

「俺もだ。俺の好きな家族の為にこの力を振るう。」

 

 

二人の言葉を聞いた瞬間、彼女は眉間にしわを寄せた。

 

 

「好きとか大好きとか言うなっ!私の方がっ!ずっと二人が好きデスッ!だから………大好きな人がいる世界を守るんデスッ!」

 

 

「切ちゃん………。」

 

 

ヘッドギアのアームに保持した回転鋸をローターに変形させ、体の上下で回転させると宙に浮く。奏空も背中の羽を伸ばして浮上する。

 

 

『緊急φ式・双月カルマ』

 

 

「調………。」

 

 

切歌は肩の4つのアーマーから鎌の刃を展開し、彼女も浮上する。

 

 

『封伐・PィNo奇ぉ』

 

 

「切歌ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「奏空ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

三人は獲物を構えて空中で激突する。

 

 

「「「大好きだって言っているでしょうぉぉぉぉぉぉぉ(だろぉぉぉぉぉぉ)!!!」」」

 

 

互いの思いを乗せてそれぞれがぶつかり合った。

切歌は肩アームで奏空を狙う。首を動かして攻撃を躱し、大剣を振るう。

それを切歌が後退すると調が小さな丸鋸を飛ばす。鎌を振り回して丸鋸を弾いた。

肩のアンカーを二人に飛ばして拘束しようと迫る。調はローラーで地を這うように滑りながら躱し、奏空は飛行しながら避ける。

鎌をもう一つ取り出して跳躍する。調もヘッドギアを展開し巨大な丸鋸を出す。

再び空中に刃が交わる。弾かれて三人は着地した。

 

 

「切歌………こっちは2対1だ。これ以上戦ってももう………。」

 

 

「切ちゃん………どうしても退けないの?」

 

 

「退かせたいのなら力づくでやってみせるといいデスよ。」

 

 

すると彼女はこちらに何かを投げ出した。

掴んでみるとそれは見たことのあるものだった。

『LiNKER』

装者の適合係数を無理矢理上げる劇薬。これを使うと言うことは………。

 

 

「まさか………。」

 

 

「ままならない思いは力づくで押し通すしかないじゃないデスか………。」

 

 

簡易式の注射器の引き金を引き体に流し込む。注射器を投げ捨てるとあの唄を歌い始めた………。

 

 

『♪Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

 

こちらも投与して歌い始める。

 

 

『♪Emustolronzen fine el baral zizzl』

 

 

詠唱を途中で止めると三人は光を纏う。

 

 

「絶唱にて繰り出されるイガリマは、相手の魂を刈り取る刃っ!分からず屋の二人からほんの少し負けん気を削ればっ!」

 

 

「分からず屋はどっち?私の望む世界には切ちゃんもいなくちゃ駄目っ!寂しさを押し付ける世界なんて欲しくないよっ!」

 

 

「お前に分からず屋なんて言われたくねぇっ!そんな自分を犠牲にするんだったら俺は全力でお前を止めるっ!」

 

 

あの時と同じように巨大な鎌に、手足とヘッドギアが大きく、青いオーラを纏う。

刃の後部のバーニアを吹かして鎌が振り下ろされる。腕の鋸を駆使して弾く。

 

 

「私が調と奏空を守るんデスッ!!例え、フィーネの魂に私が塗りつぶされる事になってもっ!!」

 

 

鎌のバーニアを吹かして切歌ごと高速回転して鋸のようになり、二人に迫る。奏空が迎撃しようとするが、大きさに差がありすぎて逆に弾かれる。

そのまま調に迫り左腕の鋸を破壊する。

 

 

「ドクターのやり方で助かる人たちも、私たちと同じように大切な人を失ってしまうんだよっ!!」

 

 

「そんな世界じゃ俺や調も歌えないっ!誰も笑顔になんかやらやしないっ!!」

 

 

「でも、そうするしかないデス………そうするしかないんですっ!!例え2人に、嫌われたとしてもおぉおおおおおおお!!」

 

 

再び回転して二人に迫り、残りの右腕も破壊された。

 

 

「調っ!!」

 

 

「切ちゃん………もう戦わないでッ………!!私たちから大好きな切ちゃんを奪わないでぇええええ!!」

 

 

迫る彼女に向かって両手を突き出すと奏空と切歌は驚愕する。

突き出した途端、調の前に六角形の障壁が現れた。切歌は弾かれて鎌も地面に突き刺さる。

 

 

「何………これ?」

 

 

それは降りかかる鉄パイプを防いだときに現れた障壁。

あれを発していたのは切歌でなく調だった。つまりフィーネの魂が宿っていたのは調だったのだ。

 

 

「そんな………フィーネの魂が宿ったのは………器になったのは調なのに、あたしは調を………。」

 

 

「切ちゃん………。」

 

 

「切歌………。」

 

 

「調や奏空に悲しい思いをして欲しくなかったのに………出来たことは二人を泣かす事だけデス………。」

 

 

切歌が手をかざすと刺さっていた鎌が浮遊した。そして一人でに回転しそれは彼女に向かっていた。

彼女の瞳から一筋の涙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

「あたし………本当にヤな子だね……消えてなくなりたいデス………。」

 

 

「駄目っ!切ちゃんっ!!」

 

 

「………やめろ………。」

 

 

調は通常形態に解除して彼女の元へ駆け付けるが間に合わない。

鎌はそのまま捉えて彼女に突き刺さろうとした。

 

 

「やめろおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

彼が目を瞑りながら叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………あれ?」

 

 

急に静かになった。

一体どうしたものかと目を開けるとそこには驚愕の光景が写っていた。

鎌が彼女の前に静止していた。それどころか駆け付ける調も静止していた。

 

 

「どうなってるんだこれ………調っ!切歌っ!」

 

 

呼びかけても反応しない。

まるで時が止まったかのように………。

 

 

「………………時が止まる?

もしかして今、時が止まっているのか!?でもなんで………いや、困惑してる場合じゃないっ!

まだ絶唱のエネルギーは残っている!こいつを使って!」

 

 

『Sword Taktstock』を発動し5つの剣を鎌目掛けて放つ。剣は一斉に鎌に刺さった。

これだけでは終われないこのままあの時の要領で………。

 

 

「ぶっ壊れろっ!!」

 

 

壊れた幻想(Broken Phantasm)

 

 

刺さった剣は輝きを放ち鎌を爆散させた。『壊れた幻影(Broken Phantom)』はフォニックゲインから作り出された剣を爆散させる技。だがそれが本物の剣にさせるとアームドギアごと破壊する威力を誇る。爆散させたあと剣は復元出来ないのがデメリットだが。

兎に角これで切歌を守れた。止まった時間を動かそうとするがやり方がわからない。

 

 

「………時よ動け………とか?」

 

 

すると一時停止した映像を再生するように動き出した。突然のことで困惑する二人。でもこれで切歌を死なせずに済んだ。

二人に近づこうとすると片膝をついた。

 

 

「え………?」

 

 

何が起きたと自分の体を見ると………。

 

 

「そ、奏空………。」

 

 

「あ………ああ………。」

 

 

腹部に翠の刃突き刺さっていた。

悲しいかな。爆散させた時にイガリマの刃の破片が運悪く彼の腹部に刺さってしまったのだ………。

彼は吐血して倒れた。

 

 

「「奏空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ここは……………覚えている…………。

この場所はあの時と同じ。そうか………絶唱状態のイガリマに刺さったことにより魂が逝っちまったんだな………。あーあ、ツイてねぇな………。

前のは仮死だからギリギリ生き返ったけどこれはもう死んじまったしな………。

なにもかもツイてねぇ………。まぁでも切歌を死なせずに済んだからいいか………。このまま堕っちんで逝くか………。

 

 

『………ら!奏空っ!!』

 

 

『お願い………目を開けてよ奏空っ!!」

 

 

当然声が聞こえた。

 

この声は切歌と調?

 

仰向けの状態のまま目を開けると誰かが近くに現れた。

 

 

「奏………さん?」

 

 

「残念ながら彼女じゃないわよ。」

 

 

「………じゃあ………もしかして………貴女がフィーネ?」

 

 

白い羽衣を纏い、白に近い金色長髪をした才色兼備な女性。彼女こそが響達と激闘を繰り広げた終わりの巫女『フィーネ』だった。

 

 

「でも………なんで………調じゃないのか?」

 

 

「ええ、あの子にもあるわよ。」

 

 

「じゃあなんで………?」

 

 

「不思議なこともあるわね………。普通なら同じ時代に二人以上はフィーネの魂は宿らないけど、貴方にも因子があった。そしてそれがさっきので覚醒したのよ。」

 

 

「あの、時が止まったこと?」

 

 

「そう。発現した時間操作能力で私は目覚めたということよ………。」

 

 

「…………俺を殺すのか?」

 

 

「まさか。このまま魂を塗り潰さないように大人しくするつもりだったけど………魂を両断する一撃を喰らって長くはもちそうもない………か。」

 

彼女の体から粒子が出ていた。

 

 

「お前………消えるのか………。」

 

 

「まぁそりゃ先史文明期の巫女でも魂を両断されちゃあねぇ………。」

 

 

「そんな…………こんな知らない俺の為に………。」

 

 

「もう、なーに泣いてるのよ。」

 

 

彼の顔に手を伸ばして涙を拭った。それはまるで息子をあやす母親のようだった。

 

 

「でも………どうして俺を………。」

 

 

「あの子に伝えてほしいのよ。だって、数千年も悪者をやってきたのよ。いつかの時代、何処かの場所で今更正義の味方を気取ることなんて出来ないって………。今日を生きる貴方達でなんとか成さい。」

 

 

あの子とは恐らくアイツだろう。

馬鹿そうで、真っ直ぐで、自分を犠牲にしてでも誰か助けるアイツだろう。

 

 

「私も消えたらあの子に宿っている私も消える………。何時かの未来に、人が繋がれるなんて事は亡霊が語る物ではないわ………。」

 

 

彼女はそう言い残すと光の粒子となって完全に消えた………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「奏空………お願いだから目を開けて………。」

 

 

切歌はボロボロと涙を流しなが彼を揺らす。調も泣きながら彼の左手を握って祈っていた。

 

 

「私の………私の所為で………。」

 

 

「なーに泣いてんだよ。」

 

 

「え…………。」

 

 

彼は何事もなかったようにムクリと起き上がった。

 

 

「「奏空っ!」」

 

 

「うおっとっと!」

 

 

二人は同時に飛び込んだ。また倒れそうなるのをなんとか立て直す。

 

 

「でも………何で………。」

 

 

「あの人が助けてくれたんだ。」

 

 

「あの人って………もしかして。」

 

 

「フィーネがデスかっ!?」

 

 

「うん。とても悪いことするような人には見えなかった。あとあの人が消えたら調の中のフィーネも消えるって言ってた。」

 

 

「と、言うことはっ!」

 

 

「調の記憶は消えないってことだ。あと切歌。」

 

 

「?」

 

 

彼女の頭上に手刀を降ろす。ドスッと鈍い音がした。

 

 

「いっ!?」

 

 

「言ったろお仕置きだって………。」

 

 

「うう………忘れてたデス〜。」

 

 

「………こんなのにあの人が宿ったらどう思うだろ………。」

 

 

「どう言うことデスかー!」とプリプリ怒る切歌。その光景を見て調は思わず笑った。

 

 

「行こう切ちゃん、私達でマリアを止めよう。」

 

 

「っ!ええっ!今度こそ私達でマリアをっ!」

 

 

「…………あぁ!そうだっ!俺早く行かないとっ!」

 

 

「えっ?」

 

 

「奏空?」

 

 

奏空は再度バルムンクを纏い一気に飛翔して凛音を投げ飛ばした方向に向かって飛んだ。

 

 

「あぁっ!奏空ーー!!」

 

 

「………ああ言うところほんと奏空らしい………。」

 

 

「………全く、やんちゃな子になったもんデス。」

 

 

「切ちゃん年寄り臭いよ………。」

 

 

「デデデスッ!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方フロンティア最上部では二人の戦姫が尚も戦っていた。

凛音は腰から数本の小刀を取り出して投擲する。それをマントで防ぐマリア。

ならばと長刀を構えて斬りかかる。剣と槍の打ち合いになる。

どんどん追い込まれマリアが槍を放つが、放った瞬間槍を踏み台にして跳躍する。

そして壁を蹴って上段の構えで刀を振り下ろした。

しかしマリアにはマントがある。マントで横薙ぎに吹き飛ばす。

すぐに起き上がり、その手には既に数本の小刀が握られていた。

矢を放つが如く投擲するもマントで弾く、弾く、また弾く。

凛音は彼女に接近しながら投擲し、小刀が無くなったところで一気に刀を横薙ぎに降るが、槍で持っている腕を抑えられる。

強い………。これが彼女の言っていた『能ある鷹は爪を隠す』。これが本来の彼女の力………。

 

 

「でも私は負けるわけにはいかないっ!だって………だって奏空が待っているのだからっ!」

 

 

「…………れ……。」

 

 

「えっ?」

 

 

「黙れっ!!」

 

 

槍で刀を弾き、凛音諸共吹き飛ばした。

彼女顔は怒りで満ちていた。

 

 

「お前に………お前にあの子の何がわかるっ!!ずっと一人で抱え込んでいたあの子のっ!あの子何がっ!」

 

 

怒りを露わにして槍を振るった。とてつもない力が連続で来て防戦一方となる。

 

 

「セレナを失ってからあの子は変わったっ!言われたことを実行するだけの機械にっ!違うっ、奏空は人間だっ!私達にまた心を開いてくれた時は嬉しかったっ!また一緒にいられるからっ!彼と一緒にいられるからっ!………私は………私は………。」

 

 

抑えられない感情が込み上がり、彼女は遂に言う。

 

 

「奏空のことが好きなのよっ!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

突然の告白。

好き。奏空が好き。

ごく普通の少女の感情が彼女にあった。

 

 

「貴女を生け捕りにした日から奏空は毎日のように目覚めない貴女の隣に座っていたっ。心配して………心配して………。あんなに人を気に掛けた彼を初めて見た。更に融合症例第1号が暴走した時からも彼女を気に掛けていた………。私はそれが羨ましかったっ!あんなに感情を表して接する彼が羨ましかったっ!この気持ちが………お前にわかるかぁっ!!」

 

 

槍が頭上で大きく振り下ろされる。

そっか。奏空のことが好きなのか………。

彼のことが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリア、私もよ。」

 

 

「……………へ?」

 

急に彼女がそんなこと言うのだから思わず抜けた声が出る。

 

 

「私も奏空のことが好きって言ったのよ。これは嘘じゃないわ。枢木奏空も一人の男の子として好きよ。」

 

 

「………正気なの?」

 

 

「私はいつだって正気よ。私はね、彼の優しさに惚れたわ。」

 

 

「優しさ………?」

 

 

「そう、敵なのに響ちゃんを助けたり心配したり、私が彼に攻撃しても諦めずに私を救ってくれた。惚れた理由なんてそれだけで充分よ。」

 

 

「そ、それだけで………。」

 

 

「しょうがないでしょ?だってあの子、そういうところが可愛いんだから。」

 

 

「………う………ああああああああああああっ!!」

 

 

マリアは再び突進する。

しかし凛音は退かない。ここで退がったらチャンスはない。この一撃で決める。

 

ーー我が心は不動。しかして自由にあらねばならぬ。即ち是、無念無想の境地なり。ーー

 

 

彼女とすれ違った後刀を鞘に納めるかの如く添えた。

 

 

『剣禅一如』

 

 

瞬間マリアは斬り裂かれ、片膝をついた。

居合の太刀。

相手がこちらを斬る瞬間に相手よりも早く斬る技。簡単そうに聞こえるが、タイミングが合わなければ返り討ちにされる諸刃の技。

凛音はこの一撃に賭けたのだ。

 

 

「負け………た………もう私は人類を救う資格なんて………。」

 

 

「いいえ、諦めるのはまだ早いわよ。」

 

 

「え………。」

 

 

「貴女の歌が人類を救えないことはない。貴女なら救える。人類を………世界を………だから歌って………マリア。」

 

 

「私が………世界を………。」

 

 

「この馬鹿ちんがぁっ!!」

 

 

「あうっ!?」

 

 

「マリアっ!?」

 

 

彼女が立ち上がろうとした瞬間第三者が彼女の頰を振った。左腕が異形と化したウェルだった。

 

 

「月が落ちなきゃ、好き勝手できないだろうがっ!!」

 

 

「ドクター………ウェルッ!!」

 

 

ウェルはマリアを振った後ズンズンとメインコンソールに近づく。

 

 

『マリアッ!』

 

 

「あーやっぱりおばはんか。」

 

 

『お聞きなさいドクターウェルッ!フロンティアの機能を使えば月の軌道を変えられるのですっ!』

 

 

「そんなに月を止めたいのならっ!アンタが月に行けばいいだろっ!!」

 

 

コンソールを叩くとフロンティアの一部が空に向かって発射された。

 

 

「まさかあそこには………。」

 

 

「マムッ!」

 

 

「有史以来、数多の英雄が人類支配を成し遂げられなかったのは人の数がその手に余るからだっ!だったら支配可能なまでに減らせばいい、僕だからこそ気付いた必勝法!!英雄に憧れる僕が英雄を越えて見せるっ!!ふ、ふははははは!!」

 

 

狂ったように笑うウェル。

マリアは怒りを露わに槍を手元に呼び出す。

 

 

「よくもマムをっ!!」

 

 

「手に掛けるのか?この僕を殺せば全人類を殺すことになるぞっ!」

 

 

「殺すっ!!」

 

 

「ええええっ!?」

 

 

「やめなさいマリアッ!!そんなことをしても………。」

 

 

「黙れっ!私はコイツを殺してマムの仇をっ……!!」

 

 

槍をウェルに向けて貫こうとすると何者かが割り込んだ。ここまで全力疾走で駆け付けた響だった。

 

 

「そこを退けっ!融合症例第1号っ!!」

 

 

「違うっ!私は立花響16歳っ!!融合症例じゃない!!ただの立花響がマリアさんとお話ししたくてここに来ているっ!!」

 

 

「お前と話す必要は無いっ!!もう私に………世界を救えないこの私に生きる意味なんてないっ!!」

 

 

「マリアッ!!」

 

 

生身の響に躊躇なく槍を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

だがその槍が彼女に突き刺さることは無かった。新たに現れた者が彼女の槍を受け止めたのだ。

その者は………。

 

 

「ようやく………止められた………。」

 

 

バルムンクの装者、枢木奏空だ。

槍を両手でしっかり受け止めていた。

 

 

「奏空…………。」

 

 

「マリア………『生きる意味なんて無い』なんて言っちゃダメだ。生きる意味なんて後から探せばいい………。」

 

 

「そうですっ!だから………生きるのを諦めないでっ!」

 

 

響は槍を掴み一つの唄を落とす。

 

 

『Balwisyall Nescell gungnir tron…』

 

 

それはガングニールの聖詠。

歌った途端マリアのギアから光の粒子を漏らして、ギアを解除された。

そして光は響の元に集まるようにまとわりつく。

 

 

「何が起きているっ!!こんなことってあり得ないっ!!融合者は適合者ではないはずっ!!これはあなたの歌?胸の歌がして見せたこと?あなたの歌ってなにっ!?何なのっ!?」

 

 

光は形作り、ギアを形成する。ヘッドギアが、ガントレットが、白いマフラーが巻かれる。

そして彼女は天高く叫ぶ。

 

 

「撃槍・ガングニールだぁぁあああああああああああああああっ!!!」

 

 

少女は再びその身に撃槍を纏った。

 

 

 

 

 




次の話でG編が終わります。
早くGX書きたいです。(願望)
次回もお楽しみに。


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第15話 その日、空に凛と音が聞こえた日………

大変長らくお待たせしました!
Fortune Duet、G編完結です!遅れた分今回は過去最多の18000字越え!
それではどうぞ!





「ガングニールを………適合………だと……。

 

聖詠でマリアのガングニールを響は自身に纏った。

マリアが纏っていた黒いガングニールは響の纏っているものと同一と言ってもいい。

同じ欠片から作られたものだからだ。

ガングニールが彼女の想いに応えて響に纏わせたかもしれない。

その光景に恐れたウェルは階段を駆け下りる。

 

 

「うああああああっ!!こんなところでぇっ!うおあっ!?」

 

 

踏み外して転げ落ちた。しかし体に鞭打ってネフィリムの腕を上げた。

 

 

「こんなところで………終われるものかぁぁっ!!」

 

 

腕を振り下ろして床を叩くとその床に穴が開いて逃げ込むように入って行った。響は追うよに駆けつけようとすると、ギアを解除された所為かマリアはバランスを崩す。

それに気付いた奏空は彼女を支える。

ここまで来た弦十郎と緒川が駆け付けた。

 

 

「響さんっ!そのシンフォギアはっ!?」

 

 

「マリアさんのガングニールが私の歌に応えてくれたんですっ!」

 

 

すると突如地響きが発生した。この振動はフロンティアごと揺れているのだ。

 

 

「なんだっ!?一体何が起こってるんだっ!?」

 

 

「フロンティアが………上昇してる………?」

 

 

「………今のウェルは左腕をフロンティアに繋がることで意のままに制御出来る………。」

 

 

「あの腕………ネフィリムのかっ!」

 

 

「………フロンティアの動力はネフィリムの心臓………。それを停止させればウェルの暴挙を止められる………。お願い………戦う資格の無い私に変わって………お願い………。」

 

 

「っ!」

 

 

「………調ちゃんにも頼まれてるんだ。『マリアさんを助けて』って………だから心配しないでっ!」

 

 

「っ………。」

 

 

すると今度は別の振動が起きた。何かを壊すような音が。それも大分近い。

 

 

「うお………あの人生身で床ぶっ壊したぞ………。」

 

 

「あーまぁ、叔父様はああいう人だから………。」

 

 

生身なのに関わらず拳を床に叩きつけ、遺跡にも匹敵する硬さの床に割れ目を作った弦十郎を見て奏空は驚きを隠さずにいた。

ギアを纏っている相手にも関わらず発勁でアームドギアを破壊するような男だ。これぐらいは朝飯前である。

 

 

「師匠っ!」

 

 

「ウェル博士の追跡は俺達に任せろ。だから響くんは………。」

 

 

「ネフィリムの心臓を止めますっ!」

 

 

グッと拳を握る響に対して彼は微笑んだ。

 

 

「よしっ行くぞ緒川。」

 

 

「はいっ。」

 

 

二人は割れ目に飛び込んだ。響はマリアに向き変える。

 

 

「まーってて。ちょーっと行ってくるからっ!」

 

 

「奏空、私達も………。」

 

 

「………悪いけどちょっと二人だけにしてくれない?」

 

 

「え?」

 

 

「奏空………。」

 

 

「すまん、俺ちょっと遅れて来るかもしれないけどいい?」

 

 

「大丈夫だよっ!ネフィリムは私達が抑えておくからっ!」

 

 

「そうか、すまんな。と、言うわけだ。だから凛音も先に行っといて。」

 

 

「………うん。わかった。」

 

 

彼の提案を何かわかったのか凛音は了承すると、二人は外壁の穴から外に飛び出して行った。

 

 

「さて、これで二人になったね。」

 

 

「………………。」

 

 

彼はマリアに向き変えって話しかける。彼女は暗い顔をしたままだった。

 

 

「………昔さ見つけたとき、俺物陰に隠れていたっけ。」

 

 

語り始める奏空。

そう。それは凛音と別れてから何週間も経ったこと。ノイズに見つからないように震えながら身を潜めていた。

身も心もボロボロになっていた時、彼女達に出会った。

 

 

「それで施設に連れてって貰って、そこに引き取ってくれたよね。」

 

 

素性も知らない自分を彼女達は迎えてくれた。そこから彼女達は彼に色々なことを教えてくれた。

読み書きを習った。生き物について学んだ。料理を教えてくれた。

 

 

「んで、植物図鑑を見てたら切歌と調に出会ったんだよなぁ。」

 

 

セレナから勧められた本。それを鑑賞していたところを彼女達が通りかかってこちらに話し掛けて来た。

切歌の最初印象はとても元気がある子で、調は大人しい子だと思った。

遊ぼうと手を差し出して来てその手を握り、彼女達と遊んだ。

 

 

「でも………四人に会える時間が減ったんだよね………。」

 

 

その施設はフィーネの魂の器になり得る可能性持つ子供『レセプターチルドレン』が集められていた場所だった。ある日彼の検査結果に異常が見られた。

聖遺物バルムンクの適合の素質あり。元来シンフォギアは少女の歌によって起動するもの。

男の彼に聖遺物の適合があるとわかってから色々な検査が行われた。

 

 

「でも、沢山検査した後必ず迎えに来てくれたよね。」

 

 

数々の検査をやり終えた後、彼を必ず迎えに来てくれたのはマリアだった。

毎回「お疲れ様。」と言ってくれた。それがとても暖かく感じた。

 

 

「とまぁ、色々言って何が言いたいんだと思うけど、俺はマリア達のお陰で生きることが出来た。」

 

 

「っ………。」

 

 

「読み書きも出来るようになったのも、生き物のことを知ったのも、料理出来るようになったのもぜーんぶマリア達のお陰だよ。」

 

 

「奏空…………。」

 

 

「何も無かった俺を………一人になっていた俺にマリアは生きる資格を与えてくれた。それなのに生きる資格が無いとか言うな。もし次そんなこと言ったらお仕置きするからな。切歌にやったように。」

 

 

そう言って彼は手刀で空を切る。それを見てマリアは思わずクスッと笑った。

 

彼女が惚れるのも仕方ない………か。

 

 

『…………マリア姉さん………。』

 

 

「……………えっ!?」

 

 

「セレナ……………。」

 

 

何処からか声が聞こえ、上を見ると光を纏ったセレナが舞い降りて来た。

その光景はまさに天から降り立った天使だった。

セレナを見てウルッと目尻から涙が出そうになるが、誤魔化すように目を擦る。

 

 

「(駄目だ………こんな姿をセレナに見せるわけには………。)」

 

 

『どうしたの?奏空?』

 

 

「っ!な、何でもないっ!これはえーと、そう!目が乾燥して痛くなっただけだっ!あー痛っ………。」

 

 

必死に泣くの我慢する彼を見て彼女は笑った。

 

 

『フフッ。奏空は相変わらずだね。ところでマリア姉さん。姉さんはどうしたいの?』

 

 

「…………私は………歌で世界を救いたい………月がもたらす災厄から………みんなを助けたい………。」

 

 

彼女の願いを聞いたセレナは近づいて手を取る。

 

 

『生まれたままの感情を、隠さないで。』

 

 

「セレナ………。」

 

 

目を閉じてゆっくりと歌い始めた。

それは奏空が眠くなったときに二人が歌ってくれたもの。

歌の名は『Apple』と言う。

 

 

『♪林檎は、浮かんだ。お空に………。』

 

 

マリアも彼女に続けるように歌い始めた。

 

 

『♪林檎が、落っこちた。地べたに………。』

 

 

その歌はとても懐かしく感じた。体暖かく包まれていくようだ。

彼女達が歌うからこそ暖かく感じられる。すると二人はこちらを見て来た。まるで『一緒に歌わないか?』と言うように。

彼は強く頷き、マリアと同じパートを歌う。

 

 

♪星が 生まれて 歌が生まれて。

 

 

♪ルルアメルは 笑った 常しえと………。

 

 

♪星が キスして 歌が眠って。

 

 

♪帰る場所(とこ)は どこでしょう?

 

 

♪帰る場所(とこ)は どこでしょう?

 

 

♪林檎は 落っこちた 地べたに………。

 

 

♪林檎は 浮かんだ お空に………。

 

 

あぁ、やっぱりいい歌だ。

歌だけでこんなにも心が暖かくなるなんて………。二人はやっぱり凄いや………。

心地良く感じていると通信が入った。

 

 

『マリアっ!聞こえますかっマリアっ!!』

 

 

「その声は、マムっ!?」

 

 

彼女がいた区画を月に飛ばされたが、生きていた。

ナスターシャは続ける。

 

 

『貴女の歌に世界が共鳴しています………これだけのフォニックゲインがあれば月の遺跡を稼働させ、公転軌道に戻すには十分です。月は責任を持って私が止めます。」

 

 

「マム………。」

 

 

『もう何も貴女を縛るものはありません………。行きなさい、マリア。行って私に貴女の歌を聞かせて下さい………。』

 

 

マリアは決意したような顔になり、不敵に笑った。それを見た彼も不敵に笑う。

 

 

「………OKマムッ!世界最高のステージの幕を上げましょうっ!!」

 

 

「そのステージまではこちらがお送りしますよ、歌姫様。」

 

 

「えぇ!よろしく私の騎士(マイ・ナイト)っ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

響達は翼とクリスに合流し、ネフィリムの心臓を破壊する為に中枢部に向かっていた。

しかし向かう途中突然地面が蠢き、土が形作るようにそれは現れた。

響と対峙した時の数十倍の大きさの更に禍々しくなったネフィリムの分身体だった。

彼女達は攻撃するもその身に刃を通さず、拳も通されなかった。

クリスがガトリング、ミサイルを異形に叩き込む。しかし爆煙から出てきた異形は口から火球を放ちクリスを吹き飛ばした。

 

 

「雪音っ!」

 

 

「クリスっ!!」

 

 

凛音と翼が駆けつけるもネフィリムは二人を上から押し潰すように腕を振り下ろした。

二人はなんとか躱す。

 

 

「翼さんっ!凛音さんっ!!」

 

 

もう片方の腕が触手のようにくねり、響に向かって放たれた。

すると何処からか、翠の鉄線が腕を拘束させた。拘束した腕の上には鎌をギロチンのようにその腕を切り落とした。

更に上空から円形型のブレードがネフィリムの胴体を斬り裂いた。

 

 

「シュルシャガナと。」

 

 

「イガリマ、到着デスッ!」

 

 

上空から現れたのはシュルシャガナを纏った調とイガリマを纏った切歌だった。

 

 

「来てくれたんだっ!」

 

 

「とは言え、コイツを相手にするには少々骨が折れそうデス。」

 

 

断面から新たな腕を再生し、切り口を復元させて尚も咆哮を上げるネフィリム。

どうしたものかと思っていると………。

 

 

「だけど歌があるっ!!」

 

 

切歌と調は声をした方を見るとそこには宙に浮いた岩場に佇む奏空とマリアの姿が見えた。

 

 

「マリアっ!」

 

 

「奏空っ!」

 

 

二人は彼女達がいる岩場まで跳躍して向かう。他の装者も同じく跳躍して集まる。

 

 

「マリアさんっ!」

 

 

「奏空っ!」

 

 

「待たせてごめんね………。ようやく覚悟が決まったからな………。」

 

 

「………もう迷わない………。だって………マムが命掛けで月の落下を阻止してくれている………。」

 

 

8人が集まった様子を中枢部にいるウェルは嘲笑うかのように見ていた。

 

 

『出来損ない供が集まったところでっ!こちらの優位は揺るがないっ!!焼き尽くせっ!!ネフィリームッ!!!』

 

 

先程の比じゃないぐらいの大きさの火球を8人がいる岩場に放ち、岩場は爆発した。

 

 

『ウヒ、ウヒヒヒヒヒヒッ!!フハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 

勝利を確信したかのようにウェルは高らかに笑う。

その時だった。

 

 

「Seilien coffin airget-lamh tron……」

 

 

それはかつて彼女が纏っていたもの。

『銀腕・アガートラーム』。セレナが使っていたシンフォギア。

8人は球体型の光のバリアの中にいた。そしてその奥にはマリアが光を纏っていた。

 

 

挿入歌『始まりの(バベル)

 

 

「調がいる………切歌がいる………マムもセレナもついている………そして………奏空がいるっ!!みんながいるなら………これくらいの奇跡………安いものっ!!!

 

 

その光景を見ていたウェルは驚愕を隠せないでいた。

 

 

『装着時のエネルギーをバリアフィールドにぃっ!?だがそんな芸当っ!いつまでも続くものではないっ!!!』

 

 

ネフィリムの口に再び火球が装填されて放たれる。しかし響が前に出た。

 

 

「セットッハーモニクス!!」

 

 

脚とヘッドギアが解放してガントレットを合わせる。

 

 

「S2CAッ!!フォニックゲインを力に変えてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

迫る火球に向かって拳を放ち、火球を掻き消した。

 

 

「惹かれ合う音色に、理由なんて要らない…………。」

 

 

翼は調に手を差し伸ばした。少し躊躇したが、彼女の手を握った。

 

 

「私も、付ける薬が無いな………。」

 

 

「それはお互い様デスよ………。」

 

 

互いにボヤきながらクリスと切歌は手を繋ぎ合う。それを見ていた奏空の肩に誰か叩いた。

 

 

「ほら、私達も………。」

 

 

「え………あ……。」

 

 

「もう、奏空ったら。ホラ。」

 

 

「あ………。」

 

 

彼の手を取って握り合う。握った瞬間彼は顔を俯かせた。改めて彼女と手を繋ぐのは久し振り過ぎて恥ずかしかったようだ。

 

 

「奏空くんっ!私達もっ!」

 

 

「えっ………。」

 

 

響が彼の手を握ぎり、調の手を繋いだ。彼は余計に恥ずかしくなって顔を赤く染めた。

奥から翼、調、響、奏空、凛音、切歌、クリスの順になる。

 

 

「貴女のやってること………偽善でないと信じたい。だから近くで私に見せて。貴女の言う『人助け』を私達に………。」

 

 

響がそれに強く頷くと彼女は笑った。

光はどんどん大きくなり、輝きを増す。

 

 

「(………繋いだ手だけが紡ぐもの………。)」

 

 

『絶唱8人分?たかだか8人ぽっちですっかりその気かぁっ!!』

 

 

学習したのかネフィリムの体から無数のレーザーが放たれる。レーザーがぶつかると纏っていたギアが剥がれかける。しかし………

 

 

「8人じゃない………私が束ねるこの歌はっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「70億の絶唱ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

彼女達は天に飛び立ち光を纏う。

響のガングニール、翼の天羽々斬、クリスのイチイバル、調のシュルシャガナ、切歌のイガリマ、マリアが新たに纏ったアガートラーム、凛音の天叢雲。

白く、神々しい程の輝きを放つシンフォギアの真の姿。

『エクスドライブモード』

 

 

 

 

ただ、その中には一人異常な者がいた。

 

 

「奏空………?その姿は………?」

 

 

彼女達が白に対して黒く、細身で流麗な彼女達に対し甲冑のような物を纏うその姿は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさに『黒騎士』だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「カッコいいデスッ!!」

 

 

「うん、とても似合ってる。」

 

 

「ええ、正に騎士(ナイト)ね。」

 

 

「みんな………ありがとう。」

 

 

 

青い光を纏いながら彼は笑った。

 

 

 

「響合うみんなの歌声がくれたっ!!

シンフォギアだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

 

 

8つの光が一つに束なりネフィリムに向かって貫き、虹の竜巻を上げた。

そこには神々しく、美しい光を纏う8人の装者がいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何だと………。」

 

ところ変わってフロンティアの中枢部。

エクスドライブを発動した装者達を目の当たりにし、ウェルは膝から崩れて落ちた。

 

 

「ウェル博士っ!」

 

 

「っ!」

 

 

「お前の手に世界は大き過ぎたようだな………。」

 

 

奥からここまで追いかけた弦十郎と緒川が入って来た。こちらに向かって来る弦十郎達に対してウェルは石碑を操作しようと左腕を伸ばすと緒川が拳銃を放つ。

弾丸はウェルに向かわず弧を描くように上に跳ね、彼の腕の影に食い込んだ。

 

 

『影縫い』

 

 

翼が影縫いを使えたのは、彼が直々に伝授させたのだ。

緒川慎次。

表向きは翼のマネージャーだが、その正体は風鳴家に仕える飛騨の隠忍の末裔だった。

ウェルは何とか動かそうとするが、弾丸が腕の影を食い込んで身動きが取れない状態になった。

 

 

「奇跡が一生懸命なら………っ!!」

 

 

左腕の血管が浮き上がり血が噴出し、双眼から血涙を流しながら影縫いを解こうとする。

 

 

「僕にこそぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

血を垂れ流しながら影縫いを解くと腕を石碑に叩き込んだ。

瞬間、彼の頭上にあったネフィリムの心臓が光輝いた。

 

 

「何をしたっ!?」

 

 

「ただ一言………ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけぇ………。」

 

 

「「っ!?」」

 

 

「こちらの制御から離れたネフィリムの心臓はフロンティアの船体を喰らい、糧として暴走を開始するっ!そこから放たれるエネルギーは一兆度だぁぁぁぁっ!!」

 

 

ケタケタを狂うように笑うウェル。その姿に見兼ねた弦十郎は操作した石碑を叩き潰した。

だが光は輝きを止まない。それどころか赤い血管なようなものが包み込む。

 

 

「壊してどうにかなる状況ではなさそうですね………。」

 

 

弦十郎はこのことを通信で翼に繋げて伝え、ウェルを拘束して仮設本部までモービルカーで向かっていた。

 

 

「………覚悟だなんて悠長なことを………。僕を殺せば簡単なことを………はっ!?うわわわわぁぁぁぁっ!?」

 

 

空から岩の塊がこちらに向かって降って来る。それを弦十郎は助手に立ち上がり、拳を放って砕いた。

 

 

「………殺しはしない………お前を………世界を滅ぼした悪魔にも………理想に殉じた英雄にもさせやしない………。何処にでもいるただの人間として裁いてやるっ!!」

 

 

「〜〜〜っ!!畜生っ!僕を殺せっ!!英雄にしてくれっ!!英雄にしてくれよぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

ウェルは駄々をこねるように叫んだ。その姿はとても哀れだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

フロンティアの中枢部から無数の光が漏れ出す。やがてフロンティアは崩壊し、爆心地から赤い炎の塊のようなものが姿を見せる。

塊は宙に浮き、どんどん姿形を変える。

 

 

「あれが司令が言っていた………。」

 

 

「………再生する………ネフィリムの心臓………。」

 

 

それは巨大な人型の熱源体に等しいものだった。

名を『ネフィリム・ノヴァ』。彼女達の前に立ちはだかるように咆哮を上げた。

 

 

「にしてもデカ過ぎるっ!」

 

 

「これがフロンティアのエネルギーを喰らった姿………。」

 

 

調は腕や脚の装甲を飛ばして巨大なオートマタを作り出して頭部に乗り込んだ。

 

 

『終Ω式ディストピア』

 

 

切歌は背中から大型化した三枚刃の大鎌を回転させる。

 

 

『終虐・Ne破aア乱怒』

 

 

不死殺しの双剣がネフィリムを斬り裂く。しかし………。

 

 

「「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 

二人のギアに亀裂が走り光が漏れ出した。

 

 

「調っ!切歌っ!!どうしたっ!?」

 

 

「っ!見て光がっ!!」

 

 

漏れ出した光は露わになっているネフィリムの中心部に吸い込まれた。

 

 

「聖遺物どころか、そのエネルギーを喰らっているのかっ!?」

 

 

「このまま臨界まで達したら地上はっ!」

 

 

「蒸発しちゃうっ!」

 

 

「何とかしないと………ってオイッ!?」

 

 

奏空の間から紅い翼が通過する。そして彼女は高らかに叫ぶ。

 

 

「バビロニアッ!フルオープンだぁぁぁぁっ!!」

 

 

ウェルから奪ったソロモンの杖。緑の閃光がネフィリムを通過して宝物庫が露わになる。エクスドライブの力で機能を拡張したからだ。

 

 

「ゲートの向こう………バビロニアの宝物庫にネフィリムを格納出来ればっ!!」

 

 

しかし見えただけでそこから大きくならない。クリスは杖に更に力を注ぎ込む。

 

 

「人殺すだけじゃないってやって見せろよっ!!ソロモォォォォォォォォンッ!!!」

 

 

彼女に応えたのか穴が大きく広がり、宝物庫の中を見せた。

 

「これならっ!!」

 

 

「っ!避けろ雪音っ!!」

 

 

翼が刀を構えて駆け付けるがネフィリムの巨大な腕でクリスは薙ぎ払われた。

杖は飛んでいくがマリアが掴んで再び力を注ぎ込む。

 

 

「明日をおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

彼女が力を加えたことにより更に大きくなった。察したのかネフィリムが腕をマリアに向けると触手が放たれる。触手が彼女を捕まえて宝物庫の中へと引き込む。

 

 

「格納は私が内部よりゲートを閉じるっ!ネフィリムは私がっ!!」

 

 

「自分を犠牲にする気デスかっ!?」

 

 

「マリアァァァッ!!」

 

 

切歌と調が叫ぶ。

しかし彼女は抵抗せずにネフィリムと共に引き込まれる。

宝物庫に入る覚悟を決めて目を閉じた。

 

 

「………こんなことで、私の罪が償える筈が無い………。だけど全ての命は私が守って見せる………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ俺はマリアを守る。」

 

 

「えっ!?」

 

 

目を開けるとそこには奏空がいた。更にその周りには凛音達もいた。

 

 

「貴女達………。」

 

 

「英雄でない私に、世界なんて守りやしない………。でも………私達………。」

 

 

「私達は………一人じゃないのよ、マリア。」

 

 

「風鳴……凛音……。」

 

 

フッとマリアは笑った。

 

………やはり彼女には敵わないな…………。

 

8人は宝物庫の中へと消える。

その様子を見ていたナスターシャはコンソールを動かして最終段階に入る。

 

 

「フォニックゲイン照射継続………ゴホッ………。」

 

 

既に限界が来ていたのか吐血する。

それでもコンソールから離れなかった。

 

 

「月遺跡、バラルの呪詛、管制装置の再起動を確認………月軌道、アジェスト開始………。」

 

 

挿入歌『Vitalization』

 

 

星が………音楽となって………。

 

 

最後に笑うとナスターシャは倒れた。

 

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

 

響が右腕を突き出すとガントレットが槍へと変わる。それは天羽奏が使っていたアームドギアに酷似していた。

 

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

槍を添えてノイズを一気に貫き、爆散させる。翼は凛音と背中合わせで巨大ノイズを斬り裂いていた。囲まれると翼は実体剣を、凛音はビーム刃を脚に具現化させ、駒ように回転して斬り裂く。

クリスは装甲を射撃ユニットに変形させて数多くのノイズを乱れ打つ。

一方切歌と調はマリアを拘束していた触手を斬ろうとしていた。

 

 

「調っ!まだデスかっ!?」

 

 

「あと、少し………。」

 

 

「退いてろ。」

 

 

「えっ?」

 

 

次の瞬間凄まじい剣戟が触手をバターのように斬り裂いた。やったのは奏空。その手には柄が長く剣というよりも斧に近い獲物を握っていた。

 

 

「マリアはその杖でここをこじ開けることに集中してくれ。」

 

 

「え………?」

 

 

「外から開けられるなら中からも開けれるだろ?」

 

 

「っ!」

 

 

「その間俺が奴らを引きつける。なぁに心配しないで、俺強いから。」

 

 

「………わかったわ!けど無茶しないでねっ!」

 

 

「了解、歌姫様。」

 

 

彼はマリア達から離れるとノイズ達に向かった。獲物を見つけたと言わんばかりにノイズ達が襲い掛かる。しかし彼は動かず背中の羽に力を注ぐ。不規則な形をした翼は角ばった三枚羽と化す。

そこから光の十字刃が発射されノイズ群を抜いて撃ち抜いた。

 

 

『Southern cross Knife』

 

 

「次ぃぃぃぃっ!!」

 

 

羽を元に戻してノイズ群に突っ込んだ。目に見えぬ速さで飛行しながら斬っていく。

斬りながら進んでいくと彼の目の前に巨大ノイズが立ちはだかった。

 

 

「だからどうしたぁぁぁっ!!」

 

 

またもや光の羽がギチギチと伸びて行く。鉤爪のように鋭くなりそのまま側転して振りかざした。

 

 

『Feather Harken』

 

 

巨大ノイズは縦に真っ二つになって爆散した。その所為かノイズ達がワラワラと彼の前に集まる。

 

 

「鬱陶しいんだよぉぉぉっ!!」

 

 

左手に青い光が集まり、それを放つと一筋の雷が生まれる。ノイズまで届くと全体的に広がってズタズタにする。

 

 

『Slash Vortex』

 

 

後ろを向き左手を掲げて、振り返って握り締めると大爆発が起こった。

更に攻めようとすると………。

 

 

「お疲れ様。脱出するよっ!」

 

 

凛音からの通信が入った。振り返ると向こうに穴が開いているのが見えた。

それを確認すると浮遊している財宝を足場しながら跳ね飛んだ。

あっという間に凛音達追い付き、脱出しようとすると何かが通過した。

ネフィリムが通さないと言わんばかりに行く手を阻んだ。

 

 

「迂回路は無さそうだ。」

 

 

「ならば、行く道は一つっ!!」

 

 

「手を繋ごうっ!!」

 

 

彼女達は再び手を繋ぎ合う。彼また少し戸惑ってしまうが、今度は調が彼の左手を握った。

マリアはギアの中心から剣を取り出し高く投げ出した。

そして奏空の右手を、響の左手をしっかり握った。

 

 

「この手、簡単には離さないっ!!」

 

 

「「最速でっ!最短でっ!真っ直ぐにっ!」」

 

 

二人は握った腕を掲げると、投げた剣が光の鱗粉となって彼女達の頭上に降る。

ガングニールとアガートラームの二つの輝きが装者達を包み上空へと浮上する。

響とマリアの装甲がパージされ、それぞれ金の腕と銀の腕を形作る。

 

 

「一直線にぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 

 

二つの腕は装者達を包み込み、ネフィリムに向かって輝いた。

 

 

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」」」」」」」」

 

 

『Vitalization』

 

 

両腕はネフィリムを貫通し、そのまま宝物庫の外へと出た。地上へ戻った装者達は地面に叩きつけられる。

 

 

「くっ、杖が………すぐにゲートを閉じなければ間もなくネフィリムの爆発が………。」

 

 

このまま宝物庫を閉じなければ爆発の余波が地上にも影響が出る。

 

 

「まだ………だ……。」

 

 

「心強い仲間は………他にも………。」

 

 

「仲間………?」

 

 

「そうよ……とても心の強い………。」

 

 

「………私の………親友だよ。」

 

 

彼女の視線の先には小日向未来が杖に向かって駆け出していた。

 

 

「(ギアだけが戦う力じゃないって響が教えてくれたっ!私だってっ!戦うんだっ!!)」

 

 

彼女は刺さっていたソロモンの杖を引き抜く。

 

 

「お願いっ!!閉じてぇぇぇぇぇえっ!!」

 

 

穴に向かって杖を槍の如く投擲する。

 

 

「もう響が……誰もが戦わなくていい世界にぃぃぃぃっ!!」

 

 

少女の思いが伝わったのか杖は穴に引き込まれるように向かう。

やがて杖は穴に入ると直ぐに閉じ、空が変色するも、暫くしたら元の空色に戻った。

 

 

ーーようやく………終わった。ーー

 

 

響は安心したかのように息を吐いた。彼女達の戦いはここに終結した……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おい、なんだよアレ。」

 

 

震えた彼の声で全員上を見る。するとどうだろうか、空に黒い亀裂が走っていた。

亀裂はどんどん大きくなってやがてそこから何かが出てきた。

手だった。

それも人じゃないごつごつした化け物の手。そこからズルリと這い出てソレは落ちてきた。

装者達のいる砂浜に着地し、ソレは立ち上がった。

全体的に黒く手や足は銀色、先端が特殊な長い尻尾があり、鋭い双眼を持った鉄で出来た獣だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

体が言ってる。奴は危険だと。

動こうとしたら今にも襲ってくる感じだった。暫く静寂が続くと、それは突然起こった。

背中から紫の光の帯が出現すると咆哮を上げ、熱を発して両手が高熱を帯びて駆け出した。

 

 

『Varzo Dozen』

 

 

狙いは彼でも装者でもない、未来だった。

 

 

「未来っ!!」

 

 

熱の塊は真っ直ぐ未来を捉えて今にも殴り掛かろうとしていた。

そこに彼が飛び込むように押し倒し、塊はそのままの速度で未来の先にあったちょっとした岩山に拳を放った。

瞬間、岩山は凄まじい爆発音と共に弾け飛んだ。あんなのに当たったら『死』しかない。

砕いた岩山の煙から鋭い双眼を光らせて現れる。

 

こちらは既にエネルギーが切れ掛かってる。エクスドライブのギアインナーを纏っているのが精一杯な状態なのに、そこからアームドギアを形成なんて無理だ。

しかしソレは、圧倒的な力を持ちながらも更に追い打ちをかけるが如く見せた。

 

 

ズ………ズズ………。

 

 

ソレの周りの何かが吸い込まれるように纏う。

 

 

「熱っ!?なんだよコレッ!?」

 

 

「まさか………大気中の酸素が奴に集まって行っているのかっ!?」

 

 

翼の言う通り、大気中にある酸素が燃えながらソレに集まっていた。

 

 

まさか………。

 

 

炎を束ねて内部のエネルギーを一気に解放した。

 

 

『Inferno Burst』

 

 

「グオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!」

 

 

咆哮と共に爆炎を撒き散らす。周囲の温度は一気に上がりまるで砂漠にいるような気分だった。

その咆哮からは次のような感情が読み取れた。

『怒り』、『憎しみ』。そんな負の感情が詰め込まれた叫びだった。

獣は紅い双眼を光らせ急に姿を消した。

 

 

「奏空っ!逃げてっ!!」

 

 

「っ!」

 

 

気がつけばソレは彼の目の前に現れ顔を掴んだ。掴んだ彼を無造作に地面に叩きつける。それも一回ではなく数回叩き付けた。

更に上空に投げ、一気に跳躍。あっという間に飛ばした彼に追い付き、叩き落とした。彼は砕けた岩山に墜落する。

 

 

「奏空ぁっ!」

 

 

凛音が叫びが響く。

瓦礫に埋もれた彼は一つわかったことがあった。

 

 

奴はネフィリムだ。

 

 

あの黒いボディに紅い血管の模様が入った姿は奴を連想させたのだ。では、何故聖遺物にあんな負の感情が伝わったか。

それはネフィリム・ノヴァに『Vitalization』を喰らわせたときに生まれた。

 

 

『感情』というものが………。

 

 

その感情はただの人間に負けた『怒り』。

その感情は道具のように扱ってきたことによる『憎しみ』。

二つの感情が合わさって出した結果は『復讐』だった。そうと決まればネフィリムは体の一部を切り離し、宝物庫に残していったシンフォギアの残骸を主軸に体を再構築した。

もう一つの自分が爆発する前に別空間に移動し、地上に現れたというわけだ。

 

 

『ネフィリム・ノヴァ』ならぬ『ネフィリム・イフリート』とでも言うべきか………。

 

 

このまま奴を野放しにしていたら他の装者を殺し兼ねない。それが終われば今度は地球を破壊するだろう………。

そんなことは絶対にさせやしない。

しかしどうする?宝物庫から出る為に殆どのフォニックゲインを使い果した………。今の残りエネルギーでは光の剣すらも作ることは出来ない………。

仮に戦えたとしても向こうは『Limit Burst』に似たものを発動している………。最早どうすることも…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………あ。」

 

 

何かを思い出したような声を漏らした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あ………ああ……奏空が………ああ……。」

 

 

彼が岩山に叩きつけられたのを目の当たりにして凛音は戦意損失していた。

だが仮に戦えたとしてもそれは不可能だろう。フォニックゲインを使い果たしてアームドギアを形成する力すらも残ってない。

ネフィリムは奏空を叩き落とした後、次の標的を決めるように彼女達に視線を移した。

どのみち全員戦えない状態だから一気に屠ることも出来るが、ネフィリムに宿った復讐心が一人ずつ殺すことを選んだのだろう。

そして次の標的となったのは………。

 

 

「っ!」

 

 

「凛音さんっ!!」

 

 

ネフィリムは真っ直ぐ彼女に駆け出す。

逃げようと動いた直後更に加速して彼女の首を掴んだ。

 

 

「ガッ!?」

 

 

掴んで彼女をそのまま持ち上げて宙に浮く。

異形から発する高熱が喉に直に伝わる。このまま喉が熱によって溶かされるのではないかと言うぐらいに熱かった。

ネフィリムは首を絞め上げるという選択を取った。

 

 

「(奏…………空…………。)」

 

 

落ちた場所に彼の名を呼んだ。

このまま自分は絞め上げられて死ぬだろう。やっと倒せた敵なのに最後の最後でこんなどんでん返しに遭うとは………。

 

 

あの子じゃないけど………私って呪われてるかもね………。

 

 

ある少女の口癖を呟くと彼女は意識を手放した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の義姉(あね)に触ってんじゃねええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

突然何者かがネフィリムの顔面に拳を叩き込んだ。離された凛音は少量の血を吐いて呼吸困難になる。それを見て更に激昂しネフィリムの口に腕を突っ込み、上顎を掴んで引きづり回した。

 

 

「好き勝手に暴れんじゃねぇっ!!人様に迷惑だろうがっ!!!」

 

 

引きづり回した後、力一杯でぶん投げた。ネフィリムは空中で静止し、体勢を立て直して上空に佇んだ。

 

 

「そ、奏空くんっ!?それはっ!?」

 

 

「ああ……これか………。」

 

 

凛音を助けたのは奏空だった。しかしその姿はギアインナーの姿ではなく、エクスドライブモードの黒騎士の姿をしていた。

 

 

「『Limit Burst』でエネルギーを増幅する形で使ったんだ。まぁ予備のバッテリーだと思えば良い。」

 

 

「さっすが奏空くんっ!!じゃあそのエネルギーを私に送ってっ!!S2CAで一気にネフィリムを「それは駄目だ。」えっ?」

 

 

彼の返答に一同騒然とする。

 

 

「ど、どうしてっ!?」

 

 

「鏡見て自分の姿確かめてみろ。ホントは限界なんだろ?仮にお前にエネルギーを送ったとしてもそれを維持出来ずに撒き散らすだけだ………。それに完全に力が戻ったってわけじゃない。『一応戦えるレベル』になっただけだ。」

 

 

「じゃあ………どうするの………?」

 

 

視線を上空へと移す。

不敵な笑みを浮かべ、腕を組んで佇む異形の姿が視界に入った。

そして彼は決断する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴は俺が倒す。」

 

 

「なっ!?」

 

 

「な、何言ってるデスかっ!?」

 

 

「巫山戯んなっ!!アイツはお前一人でどうにか出来る相手じゃ…………。」

 

 

「黙れっ!!!」

 

 

「「っ!」」

 

 

激を飛ばして二人を黙らせる。彼は上空の異形を睨みつけた。

 

 

「………俺はもうお前達に辛い思いをさせたくないんだよ………。」

 

 

「え…………。」

 

 

「あの時俺に声を掛けてくれた時からそうだった。人の為に尽くしに尽くして、自分の身を投げ出すつもりで………。その所為で自分が自分でいられなくなるまで人を助けて………。これ以上それを黙って見てろってか?巫山戯るなよ?そんなの俺が許さない。」

 

 

彼は背を向き、異形と対峙する。

 

 

「それに俺は死ぬつもりはない………。お前の言う『人助け』をするだけだ………。」

 

 

「だからってそんな………。」

 

 

「……………お前には感謝してるよ。凛音と話す為に与えてくれた『勇気』。」

 

 

「………奏空くん………。」

 

 

「…………どうすればいいか迷ってた俺に小日向が与えてくれた『在り方』。」

 

 

「そんな………。」

 

 

「そして………そしてこんな俺を暖かく包んでくれた『優しさ』………。」

 

 

「奏空…………。」

 

 

「こんなに沢山くれたんだ………お返しの一つや二つしてもいいだろ………。」

 

 

「……………待ってっ!行かないで奏空っ!!」

 

 

凛音が彼を止めようと叫ぶ。

 

 

「………………凛音………。」

 

 

顔だけ彼女の方に向けると口角を上げて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、人々を守れなかったら………俺もう二度と大切な人を守るなんて言えなくなるよ………。」

 

 

「っ…………。」

 

 

止めたいのに………なのに何で………私は………彼を止めないの?

 

 

彼女に伝え再び悪魔と対峙する。

目を閉じて深呼吸し、カッと開眼させる。

 

 

「行、く、ぜええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

青い羽を生やして猛スピードでネフィリムに接近し、激突する。

ネフィリムは腕をクロスさせて防ぐが彼はそのまま突き進み、宇宙まで運ぶ。

 

 

 

「奏空あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

彼女の悲鳴が響いた時には彼の姿が見えなくなった。

 

 

 

 

 

宇宙空間まで運んだ奏空はネフィリムを蹴りで切り離した。

猛スピードで激突したにも関わらずネフィリムは無傷でいた。

 

 

「さてと、待たせたなぁ。」

 

 

右手に大剣を呼び出して握って構える。

 

 

「悪魔退治の始まりだ。」

 

 

それが合図のように異形と戦い始めた………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「私は………また止められなかった………。」

 

 

凛音は膝から崩れ落ちた。

彼を止められず、一人で戦うことになった奏空。一応戦えるレベルの力では確実に死ぬだろう。

彼なら相打ちを狙うだろう。自身は死ぬがネフィリムを倒せると命を投げ出すだろう。

 

 

「う………うう………。」

 

 

ボロボロと目から涙を流す。

和解することが出来、共に歌を束ね人々を守った弟。

また一緒にいることが出来ると思った………。それなのに………それなのに………。

装者一同はかける言葉もなく見てるだけだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

一人を除いて………。

 

 

「え…………?」

 

 

両肩を掴まれ、グシャグシャになった顔を上げるとそこにいたのは………。

 

 

「何をしてる風鳴凛音っ!!」

 

 

「マリア…………?」

 

 

「泣いている暇があるなら………一緒にいたいのなら………彼を………奏空を追えっ!!」

 

 

両肩を掴む力が加わって真っ直ぐ凛音を見つめて言った。死なせたくないなら追って一緒に戦う。それが一番彼を生かすことが出来る方法だ。

 

 

「だけど………私には力が…………。」

 

そう。

最後の一撃で殆どのエネルギーを使い、ギアインナーを纏う程度のエネルギーしかないのだ。

するとマリアは凛音の右手を掴む。

 

 

「力ならここにあるっ!!」

 

 

自身のコアを掴んで握り締めると白い光が凛音に移る。

 

 

「これは………アガートラームの輝き………?」

 

 

「風鳴凛音っ!貴女には聖遺物を引き寄せる力を持っているっ!!」

 

 

「聖遺物を………。」

 

 

「引き寄せる………?」

 

 

知らなかった装者の面々が驚く。それもそうだ。これはマリアしか知らなかったことなのだから。

 

 

「それを利用して私のアガートラームのエネルギーを貴女に直接渡すっ!」

 

 

「どうしてそこまで…………。」

 

 

それを聞いたマリアはフッと笑う。

 

 

「惚れた男の為なんだろう?ならばこの力、全部くれてやるっ!!…………行って一緒に帰って来なさい………風鳴凛音。」

 

 

「マリア………。」

 

 

「私からも………。」

 

 

「よろしくデスッ!!」

 

 

調と切歌も彼女の右手に手を翳し、コアを握ってエネルギーを送る。

 

 

「奏空が帰って来るなら私はそれでいい。」

 

 

「あとで奏空にはお仕置きが必要デスッ!」

 

 

「調ちゃん………切歌ちゃん………。」

 

 

「やれやれ………厄介な弟が出来たものだな。」

 

 

「ああ、全くだ。まるでアイツみたいな野郎だな。」

 

 

「翼………クリス………」

 

 

それぞれ自身のコアを握りながら凛音に伝えた。

 

 

「凛音さんっ!奏空くんをお願いしますねっ!!」

 

 

「響ちゃん………。」

 

 

響からもエネルギーが送られる。

 

 

感じる………みんなの力が………体に流れていく………。

 

 

6つの光が彼女に集まって行った。

 

 

挿入歌『PROUD』

 

 

エネルギーを送った彼女達は元の姿に戻る。凛音は紫の光を纏い、ギアを再生していく。

紫の羽が生まれ、宙に浮いた。

 

 

「みんな…………ありがとう…………。」

 

 

「凛音さんっ!」

 

 

「未来ちゃん?」

 

 

「…………必ず二人で………二人で帰って来て下さいっ!!」

 

 

「っ!ええ!じゃあみんなっ!行ってくるっ!!」

 

 

彼女は羽を広げて天高く飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

奏空、貴方は初めの頃ととても変わった。嫌悪し、殺さんとばかりにぶつかって来た貴方が私の歌を聴き、歌で応え返してくれた。歪鏡に囚われた私を必死に名前を呼んで助けてくれた。

私は貴方が生きているだけでも幸せなの………。

 

 

 

「だから奏空っ!今、行くっ!!」

 

 

青空を少女は突き抜け宇宙空間に到達した。彼を探そうとすると目線の先に赤と青の閃光がぶつかり合っていたのが見えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『Southern cross knife』

 

角ばった3枚羽から無数の光の刃を射出した。しかしネフィリムは掌を突き出して盾で防ぐように刃を弾いた。

剣を仕舞い、両手に青い雷を集めてバチバチと唸らせる。両手首を合わせ、雷が目標へと向かう。

 

 

『Twin Slash vortex』

 

 

雷はネフィリムを縛るように纏わりつく。しかしフンッと体を張ると雷は塵となって消えた。

 

 

「これならどうだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

ギチギチと翼を伸ばしに伸ばして先端が鉤爪となり、側転して襲いかかった。

 

 

『Feather Harken』

 

 

ネフィリムに刃を喰らわせて吹き飛ばした。

 

 

「もう、いっ、ちょおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

もう片方の翼を叩き込む。刃が迫る中、ネフィリムは口を大きく開け刃に喰らい付いた。

 

 

「なっ!?」

 

 

そのまま噛み砕き、刃がガラス細工のように割れる。ネフィリムは爆炎を纏って両の拳を突き出して迫って来た。

 

背負っていた剣を盾代わりに構える。

ネフィリムがぶつかり、物凄い勢いで後退する。背には地球。このままいけば大気圏で燃え尽きるっ!

 

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

怒号を上げて力任せてでネフィリムを弾いた。

 

枢木奏空、エネルギー残量僅か。装甲問題なし。手持ちの武装………破損。

剣がネフィリムの攻撃に耐えられなかったのか、弾いたときに砕けたようだ。刀身がまるまる無くなっていた。

 

 

「やっぱ無理だよなぁ…………わかっていたけど。なら取るべき手段はただ一つ。」

 

 

刀身が無くなって柄だけになったものを投げ捨て、両の拳を突き出してくっつける。

 

 

「ギアの炉心を暴走させて奴にぶつける。聖遺物同士の衝突なら確実に奴も死ぬはずだ………。」

 

 

体に青い光を纏い始まる。

…………すまんな。奴を倒せるのはこいつしかねぇんだわ。俺も死ぬが奴も死ぬ………。それだけだ………。

 

 

「行くぜ…………。」

 

 

だがその腕は震えていた。

その所為か体が動かなかった………。

ああそうか、まだ死にたくないんだなぁ。

 

 

 

ーー貴方が帰って来たことが嬉しいよ。ーー

 

 

 

…………淋しいなぁ………悲しいなぁ。俺の人生………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏空ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

「っ!」

 

 

聞き覚えのある声がしてバッと振り向いた。

白と紫のギアを纏った凛音がこちらに来ていた………。

 

 

「な、なんで………。」

 

 

「みんなが私のギアにエネルギーを送ってくれたの………だから奏空っ!一緒に戦おうっ!!」

 

 

「………いやっ駄目だっ!!お前を死なせるわけにはいかないっ!これは俺の戦いであり、人助けでもあるんだっ!!」

 

 

「…………いいえ、違うわ。貴方がやっているのは人助けではなく…………『償い』じゃないの?」

 

 

「っ…………。」

 

 

そう指摘された瞬間何も言えなくなる。

彼が犯した罪。

嫌悪し、敵としてその力を振るった罪。大切な人の手を汚れるのを黙って見ていた罪。

彼女を神獣鏡(シェンショウジン)によって歪んだ歌姫にさせた罪。

 

 

 

 

 

 

差し伸べられた手を払い退け、傷付けた罪。

 

 

 

 

彼はずっと自分を責め続け、結論として出したのは『ネフィリムと相打ちとなって死ぬ』ということ。

相打ちとなって大切なものを守り切ることで自分の罪は晴れると考えていたのだ。

 

 

「貴方はそう迷っていた手を繋がなかった…………。大方『こんな罪人の手で触ってもいいのか。』なんてところかしら?」

 

 

彼女が彼と手を繋ごうとしたときに躊躇したのは正にそれだった。

一度は掴んだ彼女の手。離さないと言ったのに心にのし掛かった罪の重さがそれを拒んだ。

 

 

「………貴方はまだ自分の所為だと悔いている………。差し伸べられた手を拒絶して戦う………これからもそうするの?」

 

 

「お………俺………は………。」

 

 

口籠る彼に彼女は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう………自分を許してやろうよ奏空………。」

 

 

瞬間彼は崩れ落ちた。

こんな罪人の自分を許してくれるなんて………。もう二度と繋げないと思っていた………。

けれど………けれども………彼女はこんな自分を許してくれるのだ………。

 

 

「凛………音………こんな………こんな俺でも…………許して…………許してくれますか………?」

 

 

気が付けば涙で顔がグシャグシャになっていた。

凛音は優しい声で彼に言った。

 

 

「許すよ。だって貴方と一緒にいたいんだもの。」

 

 

瞳の中に映し出された彼女と言う名の希望。

自分と一緒にいたいと言う彼女。彼の脳裏に気持ちがよぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と一緒にいたい。

 

 

 

「…………凛音。」

 

 

「…………なぁに?」

 

 

「………手………繋ごう………。」

 

 

手を差し出すと彼女はやんわりと笑った………。

 

 

「うん………もちろんだよ………。」

 

 

二人は手を絡めて繋ぐ。

忘れてはいけない。炎さえも駆け抜けるその勇気を………。

もう繋いだこの手をずっと…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

離さずにいるから…………。

 

 

青い翼が彼女と同じ紫となり、彼女の光と同化して大きな光となる。

ネフィリムも見るとさっきまで話している間に溜めていたのか巨大な火球を作り出していた。しかしその時は恐怖心などなかった。

彼女といると何も怖くなかった。

二人はネフィリムに向かって羽ばたく。二人が向かったと同時に火球を発射した。

 

 

『Prominence Raid』

 

 

 

忘れないで 嵐さえ包み込むその光を 約束なら刻まれた

 

 

「「輝きを信じてえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

 

『Fortune Duet』

 

 

繋いだ手を突き出すと二人を包んだ光は紫の不死鳥となる。

不死鳥は火球を搔き消しネフィリムに突っ込む。

最後の抵抗なのかネフィリムは高熱を帯びた拳を放つ。

その拳は砕け、胴体を突き破った。

ネフィリムは爆発することなく紫の光の粒子となって散った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二人はネフィリムを倒した後無事に地上に戻った。その時に奏空はマリア達に勝手に飛び出したことを謝って、これから互いに繋ぎ合うことを約束した。

それを聞いた彼女達は責めることなく許してくれた。その時に切歌から手刀を喰らったのは言うまでもない。

その後響はマリアにガングニールを返そうとしたが………。

 

 

「ガングニールは君にこそ相応しい。………だが、月の遺跡を再起動させてしまった………。」

 

 

「バラルの呪詛か…………。」

 

 

「人類の相互理解はまた遠退いたってわけか…………。」

 

 

一同が静まる中、響は笑っていつもの口癖を言った。

 

 

「へいき、へっちゃらですっ!」

 

 

彼女の言葉にマリア達は響を見る。

 

 

「だってこの世界には歌があるんですよっ!」

 

 

「歌………デスか………。」

 

 

「………いつか人は繋がれる………。だけどそれは何処かの場所でも、いつかの未来でもない………。確かに、伝えたから………。」

 

 

調は響に笑顔を見せた。彼女も応えるように笑う。

 

 

「立花響。」

 

 

マリアに呼ばれて彼女は振り向く。

 

 

「………君に出会えてよかった。」

 

 

彼女と出会ったから色んなことを知った。

生きる資格を与えてくれたこと。歌が人と繋ぐことが出来ること。

大切な人の優しさを知ることが出来たこと。

奏空が口を開く。

 

 

「俺もだ。多分お前と会ってなかったらここまで変わってなかったと思う。」

 

 

一番変わったのは奏空だろう。

在り方を見つけ、人と繋げることが出来たのだから………。

 

 

 

 

戦いは終わったもののマリア達はF.I.S.であることは変わりない。4人は拘束という形で事態は収束した。

4人は二課のヘリに向かっていると一人、その足を止めた。

そしてそのまま振り返ってこちらに向かって走ってきた。

 

 

「凛音っ!」

 

 

彼女の名前を言う。彼女は黙って彼の前に立つと手を差し出しえきた。彼女はそれを握り返した。

 

 

「言っとくけどさよならじゃないからな。ちょっと会えなくなるだけだ。」

 

 

「何?寂しいのかしら?」

 

 

悪戯っぽく言うと彼は顔を赤くする。

 

 

「バッ!?違うし!そんなつもりで言ったんじゃないし!会えなくなるけど落ち込むなよってことだよっ!」

 

 

「私がそんな脆そうだと見える?」

 

 

「一応だよ一応っ!じ、じゃあもう行くからな。」

 

 

そう告げて彼はマリア達の方へ向かおうとする。

 

 

「奏空。」

 

 

「えっ?なん………。」

 

 

呼ばれて再び彼女の方へ向くと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゅっ

 

 

 

彼の唇を奪った。

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

「なっ!?」

 

 

「デスっ!?」

 

 

唇を離して彼の顔を見てはっきりと言った。

 

 

「そんな貴方が好きだよ。奏空。」

 

 

告白された彼は放心状態になっていた。

 

 

「り、りりり凛音っ!?これは一体っ!?」

 

 

「悪いわね翼。先に彼氏が出来ちゃって。」

 

 

「お、おおおお前っ!兄弟なのにそんなことしていいのかよっ!?」

 

 

「兄弟は兄弟だけど義兄弟だから問題ないわよ?」

 

 

「あ、あわわわわわっ!り、凛音さんがっ!凛音さんがっ!!」

 

 

「ひ、響っ!お、おお落ち着いてっ!」

 

 

「未来こそ顔真っ赤じゃんっ!?」

 

 

それはマリア達も例外ではなく顔を真っ赤にしていた。

 

 

「に、日本人はいきなりあんなのをするものなのっ!?」

 

 

「見ちゃいけないものを………。」

 

 

「見てしまった気がするデース。」

 

 

真っ赤にして顔を手で隠す調と切歌。しかし指の隙間から見えるので意味が無い。

 

 

「と、言うわけだから。楽しみに待ってるからね?」

 

 

悪戯っ子のように笑う凛音。一方いきなり唇を奪われた彼はと言うと………。

 

 

 

「………………。」

 

 

「奏空?」

 

 

バタンッ

 

 

そのままで後ろにぶっ倒れた。

 

 

「ああっ!奏空くんっ!」

 

 

「枢木っしっかりしろっ!」

 

 

「おい息してねぇぞコイツ!」

 

 

「デスデスデースッ!!」

 

 

「奏空、お気を確かに。」

 

 

「〜〜っ!風鳴凛音ぇっ!!」

 

 

振り返ると相変わらずクスクス笑う彼女がいた。

 

 

「ちょっと刺激が強すぎたかしら?まぁ、あの時の仕返しには丁度いいか。」

 

 

そう呟くと、彼女も彼を介抱へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、二つの運命は織り重なって一つになった………。

 




G編ここに完結。
こんな自分に付き合ってくれてありがとうございました。
次はGX編でお会いしましょう!
改めてここまで読んでいただきありがとうございました。


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GX編
第1話 日常が終わった日


お久しぶりです。
お待たせして申し訳ございません。今回はプロローグ的なものです。
ではどうぞ。


あの日。

 

 

 

彼女と再会し(つるぎ)を向けたあの日。

 

 

 

彼女と対峙し一撃を貰ったあの日。

 

 

 

彼女の歌を聞き歌で応えたあの日。

 

 

 

力が覚醒し彼女を傷付けたあの日。

 

 

 

歪鏡に操られた彼女を救ったあの日。

 

 

 

優しく抱き締めて迎えてくれたあの日。

 

 

 

人々が束ねた歌で共に翼を得たあの日。

 

 

 

自分の罪を死で償おうとしたとき自分を許してくれたあの日。

 

 

 

手を繋ぎ、二人の光が一つとなったあの日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唇を奪ばわれて好きだと告白されたあの日。

 

 

 

今でも忘れない数々のあの日から約半年が経った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ん………。」

 

 

眠気が取れぬままパイプベッドから起き上がり、閉まったカーテンを勢いよく開けた。

朝日の光が顔を照らして、半分覚醒する。

枢木奏空の朝は早い。

冷たい水で顔を洗って完全に眠気を取る。夏に差し掛かっているこの時期の冷水は気持ちいい。

その後冷蔵庫から食材を出し、朝食と並行しながら昼食の弁当を作る。

五人分の弁当箱に惣菜やご飯を入れる。これは一人で食べるわけではない。

家族内二人の分と仲間になった二人の分を作っているのだ。

弁当箱の色もそれぞれ違う。黄緑と桃色、赤に黄色とそれぞれ誰なのかわかる色にしている。因みに自身は黒。

朝食を済ませ、制服のシャツにアイロンをかける。かけ方は以前から知っていたので難なく使う。かけ終わったら寝間着から制服に着替えて歯を磨く。口をゆすぎ、靴を履く。忘れ物がないか確認し、鍵を閉めて家を出る。

学校に向かって通学路を歩いていると………。

 

 

「奏空っ。」

 

 

自分を呼ぶ声が聞こえた。振り返って呼んだ者を見ると彼は嬉しそうに笑う。

 

 

「おはよう。」

 

 

「うん、おはよう凛音。」

 

 

黒の長髪で彼と同じ紫の瞳を持つ彼の義姉(あね)である風鳴凛音だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「どう?リディアンは馴染んだ?」

 

 

「まぁまぁって感じ。だって俺しか男子いねぇもん。」

 

 

二人が通う『私立リディアン音楽院』は女子校である。しかし二課の監視が一番近いので彼は転入した。

転入初日は質問攻めで大変だった。その後彼女と登校しているのを目撃されたときは更に質問攻めに遭った。

彼女は風鳴翼の義妹(いもうと)とという肩書きを持っている。

それだけでも有名なのに転入したばかりの男と登校していたらそりゃあ目立つ。一体どういう関係なの?という類が大概多い。

 

 

「でもいいんじゃない?私達付き合っているていう噂がもっぱらだけど事実だし。」

 

 

「っ。よく堂々と言えるなそんなこと………。」

 

 

「だって奏空が好きなんだもん♪」

 

 

「〜〜っ。」

 

 

顔が赤くなって俯く。

確かにあの時の感触は今でも忘れられないものだった。唇に伝わった甘い香り。桜色の柔らかな唇が触れた途端、まるで雷に打たれたかのような衝撃。

その後脳が理解に追いつかなくて気を失った。この義姉には一生勝てんと思った。

 

 

「でもね奏空、こうやって毎日通学してるだけでも私は幸せだよ。」

 

 

「…………ん、どういたしまして。」

 

 

やっぱり彼女は敵わないな………。

暫く沈黙が続いて彼は口を開く。

 

 

「なぁ凛音、もしよかったr「奏ーーーーー空ーーーーーくーーーーーんっ!」グェッ!?」

 

 

突如背中に何かが突進してきて地面に倒れる。

朝からこんなことをする者は大方見当がつく。ひよこみたいな髪型で彼とは違う茶髪の少女。同じクラスで席が隣でいつも世話を焼いている立花響が突進しながら後ろから抱き締めてきた。

 

 

「おはようっ奏空くんっ!」

 

 

「うん、おはよう………。だから早く退いて………起き上がれんから退いてくれ………。」

 

 

すると耳元で何か大きな音がすると体が軽くなる。起き上がって振り返ると頭を痛そうに抑えた響と通学鞄を肩に預けている銀髪の少女、雪音クリスがいた。

恐らくあの鞄で響の頭を叩いたのだろう。かなりの大きな音がしたのだから。

 

 

「痛いよ〜クリスちゃ〜ん……。」

 

 

「朝から特攻してんじゃねぇ。それに私は先輩だっ。」

 

 

「た、助かりましたクリス先輩………。」

 

 

「………おう、こんぐらいどっーてことねぇよ。」

 

 

ソッポ向いて言う彼女の顔はほんのり赤みがかかっていた。

 

 

「あ〜れれ〜?もしかしてクリスちゃん、照れちゃってる?」

 

 

バッシィィィンッ

 

 

「あだっーーー!?」

 

 

 

本日2回目の鞄制裁が鳴り響いた。

 

 

「もう………響ったら………。ごめんね奏空くん。」

 

 

「いや、大丈夫。なんか慣れたから………。」

 

 

クリスの後ろから白いリボンが特徴の小日向未来の他にも彼女の友人が続々とやってきた。

 

 

「おはよう、ルルソラ。朝から苦労してるね。」

 

 

グレーのショートカットの安藤創世が挨拶する。彼女は基本的に親しい人物をあだ名で言うのだが、付け方が独特過ぎるのだ。響の場合はビッキー、未来の場合はヒナ、クリスの場合きねクリ先輩と基本的に名前を捩って呼ぶ。クリスェ………。

しかし彼は生まれて初めてあだ名で呼ばれたのが嬉しかったのか大層気に入っている。

 

 

「な〜んか朝からハーレムアニメみたいな展開になっているわね。」

 

 

彼女の後ろから茶髪のツインテールの板場弓美がひょっこり現れる。

彼女は根っからのアニメ好きで初めて会ったときの会話はこんな感じだった。↓

 

 

「初めまして枢木奏空です。」

 

 

「枢木っ!?枢木って言うの貴方っ!?」

 

 

「え?ええ、まぁ。」

 

 

「いやー嬉しいわー!まさかホントに枢木って苗字の人いるんだ〜!」

 

 

「え?」

 

 

「あ、私が言っているのはね、『コ○ドギアス』って言うアニメに出てくる枢木スザクのことでね?生真面目な性格で、責任感が強く頑固で不器用でもあり、お人好しで絆されやすく、結果的に貧乏くじを引くことも多い。人前では明るく又は毅然とした振る舞うけど、根本の自己肯定感は極めて低くて………。」

 

 

 

「(呪文っ!?)」

 

 

その後、散々枢木スザクのことや、コ○ドギアスの世界観を延々と聞かされた。後半は殆ど覚えてない。

しかしその中にあったKMF(ナイトメアフレーム)の『ランスロット・アルビオン』のエナジーウィングを用いての攻撃はなんだかバルムンクのエクスドライブモードの技『Southern cross knife』と似てるなと思った。

 

 

「朝から大変ですね枢木さん……。」

 

 

金の長髪の寺島詩織がにこやかに笑う。どこか癖のある二人とは違い、一番まともなのが彼女だ。

そしてその後ろには見慣れた二人組が………。

 

 

「奏空、おはよう。」

 

 

「おっはよーデースっ!!」

 

 

「うん、おはよう二人共。」

 

 

言うまでもなく切歌と調だった。あの後彼女達もリディアンに転入することになった。

ふと彼は二人の手に視線が映る。それぞれ桃と翠のシュシュつけている二人の手は繋ぎ合っていた。それも恋人繋ぎで………。

 

 

「いや〜暑いのに相変わらずだね。」

 

 

「いやいやそれがデスね〜。調の手はちょっと冷たいのでついつい繋ぎたくなるのデスよ〜。」

 

 

「そういう切ちゃんの二の腕もプニッとして癖になる。」

 

 

「それ本当なのっ!?えいっ。」プニー

 

 

「いやーんっ!やめて止めてやめて止めてグフッ!?」

 

 

「………そういう事は家でやれ………。」

 

 

「家ならいいのか(困惑)。」

 

 

本日3度目の鞄制裁が鳴り響く。

すると凛音から制服の袖を引っ張られる。

 

 

「何?」

 

 

「ねぇ、今日さ………。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

学業を終えた彼女達はクリスの家である事をする為お泊り会を開いていた。

テーブルには色とりどりの菓子が並べてあった。

 

 

「やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージ!」

 

 

「みんなで応援………しないわけにはいかないよなっ!」

 

 

「そしてマリア………。」

 

 

「歌姫のコラボユニット復活デスッ!」

 

 

「あれ?ちょっと待って。奏空くんと凛音さんは?」

 

 

「あいつらは家で見るつってたけど。」

 

 

「あー成る程そっかー。」

 

 

 

………………………………。

 

 

 

『ええええええええええええええええ!?』

 

 

「うおっ!?何だよお前ら………。」

 

 

「そ、そそそそれって奏空と凛音さんだけで今日のライブ見るってことっ!?」

 

 

「ど、どっちがどっちの家に行くんデスかっ!?」

 

 

「確かり、凛音があいつの家に………。」

 

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?!?!?!?』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

テーブルに並ぶのは香り立つ豚汁に、脂が乗った鯖の味噌煮にひじきの煮物、そしてふっくらご飯。全て奏空が作ったものだ。

彼女は豚汁を口に運んだ。

 

 

「うん。とっても美味しい。やっぱり奏空が作った豚汁は最高ね。」

 

 

「そりゃ今まで沢山練習したしね。」

 

 

彼がF.I.S.にいた頃はマリアと彼が給仕担当をしていたのだ。昔から料理本を熟読していたので作る料理は絶品だ。彼の料理を食べた響は絶賛で、彼女に毎日弁当を作ってやっていたりする。また、普段の昼食はあんぱんしか口にしないクリスを見かけて彼女の分も作ることにした。最初はいらないと言っていたが、渡したその日の放課後には空になった弁当箱を返してくれた。切歌と調の分も当然作っている。

凛音は箸で鯖の身を切ると口に運んだ。

 

 

「この鯖味噌も美味しいわ。」

 

 

「…………うーむ。」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「………いや、やっぱり凛音の作る鯖味噌にどうしても近づけないなと思って。」

 

 

以前彼女の料理も口にしたこともあるが、その中でも鯖の味噌煮がとても美味しかった。

自分も鯖の味噌煮を作ったのだが、あの味がどうしても再現出来ずにいた。

 

 

「うーむ、どうやったら………。」

 

 

「そんなのいいじゃないの。」

 

 

「え?」

 

 

「貴方が作る料理は貴方の味。私が作る料理は私の味。そうやって完璧を目指さなくて貴方は貴方の味を磨いて行けばいいと私は思うよ。」

 

 

「………うん、わかった。」

 

 

鯖の味噌煮を切って再び口にする。味がほんのりとして美味しかった。

すると家のインターホンが聞こえた。彼女に一言言ってテーブルから離れて玄関に向かう。

扉を開けるとどうやら宅配便の人だった。

ハンコを押して荷物を受け取ると宅配便の人は帰っていった。

はて。何か頼んだだろうか?

ガムテープを破って中身を確認すると………。

 

 

「………何これ?」

 

よくわからないものが入っていた。

後でいいかと、ダンボールを隅っこに置いて再び食卓に戻った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕食を済ませた後、二人はソファに腰を落とす。今日はただ彼の家で夕食を食べることと、もう一つ目的があった。

翼とマリアの海外で行われるライブの鑑賞であった。

半年前のあの日以来の二人の歌姫によるスペシャルライブ。

歌姫としてのマリアが歌うのだ。見ないわけにはいかない。

テレビをつけると丁度始まる頃だった。

 

 

 

『星天ギャラクシィクロス』

 

 

歌が始まると二人は霧の中から現れる。美しい色彩の照明に照らされ歌い始める。

すると彼女達が写っていたスクリーンが動いた。その隙間から夕日の光が入る。

そして気付いた。二人は水面に立っていたのだ。

それを氷のリングのように音楽と共に滑る。その姿はまさにフィギュアスケートのようだった。

 

 

光と飛沫のKiss

恋のような 虹のバースデイ

 

どんな美しき日も

何か生まれ  何かが死ぬ

 

せめて唄おう

I love you

世界が酷い地獄だとしても

 

せめて伝えよう

I love you

解放の時は来た

星降る 天へと

響き飛べ!リバディソング

 

 

二人は横に並び、片腕を掲げる。

 

 

Stardust。

 

 

そして夕日から一気に夜空へと変わる。その空には美しい星々が輝いていた。

 

そして奇跡は待つモノじゃなくて

その手で創るものと、吠えろ

 

この光景は覚えている。二つの光が交わって光り輝く。

 

涙した過去の苦みを

レクイエムにして

生ある全のチカラで

 

それはまるで彼のことを言っているかの如く、心に伝わる。

 

輝けFuture world

信じ照らせ

星天ギャラクシィクロス

 

 

再び腕を掲げると二つの光が大きな光となって星を描く。そう、これはまるで………。

 

 

「まるであの時の私達みたいだね………。」

 

 

 

「………ああ。」

 

 

あの日。

二人の光が一つに織り重なった日。それにとても似ていた。

ふと自身の右手が暖かくなる。視線をやるとそこには彼女の左手が自分を握っていた。握り返すと彼女は肩に身を預けた。寝間着の彼女の体温が体に伝わってくる。

 

 

ああ、なんて暖かいのだろうか。

 

 

彼女といるのがこんなにも暖かなのか。

 

 

嫌悪していた頃。彼女と対峙して戦って傷付けていた頃………。

辛かった日々がまるで嘘だったように今はこんなにも幸せである。

こんな日々がいつまでも続けばいいのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれは一瞬で壊された………。

 

 

彼女の手によって…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界を壊す、歌がある………。』




短くてすみませんでした。
次回もお楽しみに。


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第2話 脅威再び

すみません。今回もちょい短めです。
ではどうぞ。


燃え盛るマンション。

その階段に一人の男の子が息朦朧としていた。逃げる途中に一酸化炭素中毒になったのだろう。このままでは少年は死んでしまう。

 

 

「お姉………ちゃん…………。」

 

 

少年の視界が無くなっていく。

 

 

 

「そんなに会いたいならまだ死ぬな。」

 

 

 

どこからか声がした。

すると突如壁が破壊されてそこにいたのは………。

黒のインナースーツを基調とし、手脚と胸には銀の甲冑と装甲を纏い、左耳にはインカムのようなものを付けて、その人物よりも何倍もある大剣を肩に乗っけていた。

 

 

「姉ちゃんに会いたいんだろ?泣いていたから会いに行くよ。ホラッ捕まって。」

 

 

「う、うん………。」

 

 

火に掛からないように少年を片腕で抱いた。そして大剣をスッと構えると壁を切り崩した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それは突然のことだった。

特異災害対策機動部二課改めて、超常災害対策機動部タスクフォース『S.O.N.G.』から緊急の連絡が入った。

内容は第七区域に火災が発生した為、避難要請をしてくれのこと。

二人は着替えて家を飛び出した。途中で響達に合流してヘリに乗り込んで現場に向かったのだ。

響と凛音、奏空は救助活動を、クリスは被害状況の確認を任された。

調と切歌は、ウェルのリンカーも押収された為に変身出来ないのでお留守番とのこと。

三人は逃げ遅れた人を救出していると、違う場所に生態反応が確認された。

そして少年を助けて外まで避難した姉と会わせた。少年は泣きながら姉に抱き付く。姉はあやすように頭を撫でた。その光景がいつかの自分と重なった。

ああやって泣いて、撫でてくれたっけ………。

 

 

「なぁに?貴方も撫でて貰いたい?」

 

 

「ち、違うっ!そんなこと思ってないっ!」

 

 

クスクス笑っている彼女を尻目にソッポ向く。やはりこの姉には勝てん………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュッ

 

 

 

何かが横切ったように空を切った。バッと振り向くが誰もいない。

 

 

「どうしたの………?」

 

 

「………いやなんでも………。」

 

 

ないと言おうとしたその時、彼の目はある場所に着目した。不自然に開いた施設の扉を………。凛音も気が付いたのかそこに注目する。

 

 

「………あそこ………気にならない?」

 

 

「………行ってみましょう。」

 

 

二人は同意してその施設の中へと入って行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その施設は桜が咲いてあり、小川も流れていた。川の流れる音が耳に入ってくる。

日本庭園の展覧会でもあったのだろうか、地面にパンフレットやら紙カップやらが落ちてあった。

ここから火災現場までは遠くない。火事に気付いて観客が逃げたんだろう。その証拠に誰もいなかった。

 

 

「ここに一体何が「待って。」奏空?」

 

 

「何 か い る。」

 

 

彼女も感じ取ったのだろうか表情が険しくなる。周りを見回して彼に提案する。

 

 

「高台に陣取りましょう。あの丘に最強の武器を置く。」

 

 

「うん、わかった。」

 

 

向こうにあるちょっとした橋に()()は向かう。そう()()で。

 

 

「で、凛音は?」

 

 

「何処へ行くの?」

 

 

「え、いや、何処ってあそこに………。」

 

 

「ここは私が行くわ。」

 

 

「確かに凛音は強いけどこう………凛音ってどっちかと言うと対人戦向けじゃん?俺のは対群向けの装備が多いし、行くなら俺が………。」

 

 

「言っても私も対群向けのが技が多いし、何より敵が一人だって可能性がある。」

 

 

彼女の説得力ある反論に何も言えなくなる。彼は渋々と頷いた。

 

 

「…………わかった、上行ってきな。俺が引きつけるから………。」

 

 

「ありがとう。」

 

 

一段落ついてそれぞれ向おうとすると彼女が再び彼を呼び止める。

 

 

「あ、でもここにいちゃ駄目よ?ここの場所は最悪だから………。」

 

 

「早く行った方が………。」

 

 

「何処から来るかわからないし、もしかしたら大勢で来る可能性が………。」

 

 

ドスンッ

 

 

何かが落ちた音がした………。

音がした方を見るとそこには忘れたくても忘れられない存在がいた。

特異認定災害『ノイズ』。

それは半年前の事件『フロンティア事変』にて、ソロモンの杖と共にバビロニアの宝物庫に投げ入れ、ネフィリム・ノヴァの爆発で完全に消滅した筈。

そう思っていと、張り付いていたのか天井から次々と落ちてくる。

二人はいつの間にか背中合わせの形になり、雑音の群れに囲まれる。しかし今の体勢は互いの背中を守るようなポジションになっていた。

桜が舞い散る中暫くの静寂が続く。

 

 

 

それぞれ剣と(つるぎ)を取り出すと同時にそれは動き出した。

 

 

 

中には触手のように伸ばし、中にはナメクジのようなノイズが回転して鋸のように飛び、中には弾丸を飛ばすノイズがいた。

二人は迫ってきたノイズを次々と斬り裂いて行った。

奏空は大剣を、凛音は刀を振るって殲滅させる。彼に弾丸が迫ってくるが、難なく避けて大剣を向けると合わさっていた剣が飛び出した。

 

 

『Sword Taktstock』

 

 

五本の剣は数体のノイズを斬り裂いて爆散した。

 

 

 

「見たかっ!」

 

 

「お見事っ!!」

 

 

しかしそう言っているが数は一向に減らない。二人の行動範囲が狭くなったとき………。

 

 

「凛音っ!!」

 

 

彼の腕の装甲が光り出す。

 

 

「伏せろっ!!」

 

 

装甲から細いレーザーが出現し、そのまま斬るように回転する。

光が止むとノイズ達は一つ残らず消えていた。

 

 

「………最初からそれやったら早かったんじゃ?」

 

 

「生憎一発しか出来ないんだよ………一度きり。」

 

 

甲冑の一部が開いて空のカートリッジが飛び出た。これは新たに追加した彼の装備であり、高密度のフォニックゲインをレーザーカッターのように出す技である。

しかし出力が馬鹿でかいので一度きりしか使えない。初めから使わなかったのは囲まれるのを見計らって一網打尽にする為だった。

 

 

「でもなんでノイズが………。」

 

 

「アイツらは完全に………。」

 

 

「それは我々が新たに作り出したからだよ。」

 

 

突如第三者の声がした。二人はすぐに身構える。声からして男だろうか?

その者は桜の木の陰から現れた。

丸眼鏡に腰まである黒髪、黒い外套を身に纏っていた。

片手にはステッキが。

 

 

「何者だっ!?」

 

 

凛音に尋ねられると男の口角が釣り上がる。

突然奏空に駆け出してステッキを振るった。防ごうとするがそれは凄まじい速さで襲い掛かってきた。ステッキは胴、小手と的確に狙ってくる。

途中からステッキを投げ出すと、拳打が飛び掛かってきた。ステッキを使った時よりも重く、早い攻撃だった。放つ拳から風を切る音がする程だ。さらに掌底が腹に決まると吹き飛ばされる。

彼は何とか起き上がろうとすると追撃するかの如く飛び膝蹴りが飛んできた。またもや喰らってしまい地面に転倒する。

起きがったのを見計らって腹部に回し蹴りを入れてきた。それも何発も。男は最後に蹴りを入れて吹き飛ばし、桜の木に激突した。

倒れたと同時に彼のギアが強制解除されて元の服装に戻った。

 

 

「が………は………。」

 

 

「そんな………生身でギアをっ!?」

 

 

「………やれやれ。フロンティア事変から高くなったと期待していたが………。通常状態でこのザマとは………。」

 

 

男は呆れたような仕草をして落胆した。

シンフォギアが強制解除されることはコアが破壊された時のみ。

生身でこんなことを出来るのは人外レベルの戦闘力を持つS.O.G.N.の司令であり、凛音の叔父でもある風鳴弦十郎だけだ。

なのに体格が普通の彼にこんなことが出来るなんて………。

 

 

「いやいやすみません、ついついカッとなりました。本題に入りましょう。貴方達が相手をしたのは厳密にはノイズではありません。」

 

 

「ノイズでは………ない?」

 

 

彼女が怪訝そうにすると男はポケットから3つのキューブを出して地面に転がす。すると映像が映し出された。

その内容は海外にいる翼が天羽々斬を纏ってノイズを戦っている映像だった。更にイチイバルを纏ったクリスもノイズと戦っていた。男は一体何を見せたいのだろうか?

 

 

「そう、こいつらノイズでは無く………。」

 

 

翼が侍のようなノイズと対峙して刃が激突する。

 

 

 

()()()()()()()()()()()ノイズ『アルカ・ノイズ』です。」

 

 

激突した刃がゆっくりと溶けるように消えて、その刃は彼女のコアに接触した。

すると身に纏っていたギアが剥がれていき、生まれたままの姿となって倒れた。

クリスも同様に、触手をガトリングガンで防ぐと分解され、出来た穴を通り抜けてコアに接触して生まれたままの姿になった。

 

 

「「なっ!?」」

 

 

「いや〜貴方達は良かったですね。奴らに一回も当たらずに倒すとは『おい。聞こえるか?』ええ、聞こえてますよ我が主人(マイ・マスター)。」

 

 

『こちらは終わった。お前も引き返すが良い。』

 

 

「了解しました。と、言うわけで私はこれで………。」

 

 

「待てっ!お前らは一体何者だっ!!」

 

 

再び凛音が尋ねる。

男はまた口角を上げた。

 

 

「………そうですねぇ。せっかくなので最後に面白い物を見せましょうか………。」

 

 

すると男は外套から黒い拳銃を取り出した。しかしその拳銃は何処か変だった。

銃口の下には何かはまるスロットが設けられていた。

更に片手でもう一つのポケットを漁ると何かを取り出した。

それは茶色のフレームに銀の蓋、紫の容器といった小さなボトルを取り出した。

 

 

「………それはっ!?」

 

 

男はボトルを拳銃に挿した。

 

 

『カブトガニ!』

 

 

そして拳銃を上に向ける。

 

 

「凝固………。」

 

 

『Mist match………。』

 

 

引き金を引くと銃口から煙が出て、男を包み込んだ。煙が晴れるとそこには男ではない()()がいた。

全身が紫で刺々しく、硬い皮膚で包まれていたそれは何処か生物ぽかった。右腕に営利な針を持ち、鋭い爪を持つそれはカブトガニのような感じだった。

 

 

「私の名はこのボトルと同じ名の『カッシス』と言う、ハザードスマッシュという者です。」

 

 

そのボトルはあの宅配物にあったのと同じ形をしていた………。

 

 




カッシスはカブトのカッシスワームディミディウスをイメージして下さい。
ではまた次回。


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第3話 静かな怒り

お待たせしました。
今回はGXを見てて「あ、書こう」と思ったもの三位です。形から見てわかる人は察して下さい(笑)。
久々の7000越えです。
あとGX用のオリキャラ設定を載せました。出来れば先にそちらからご覧下さい。


「退屈デースッ!!」

 

 

「味が薄い………。」

 

 

「そんなこと言うなよ………。」

 

 

彼は切歌と調が検査入院している病院に訪れていた。どうやらいても居られずにシュルシャガナとイガリマを纏ってクリスとキャロルという少女を救出した。それも『LiNKER』無しで。

その為身体に影響があった為に入院することになったのだ。

 

 

「まぁでも助かったよ………。その時俺と凛音はアルカ・ノイズと戦っていたし、急に現れた男にギアを強制解除されるし………。」

 

 

「えっ!?それって………。」

 

 

「大丈夫、ギアは壊されてないよ。」

 

 

「ホッ………。」

 

 

「でもでも、生身でギアを強制解除するなんて聞いたことないデスよ。」

 

 

あのカッシスとか言う男。生身でギアを纏っている人間を簡単に圧倒して強制解除まで追い込んだ人物。

司令や他の仲間から聞いた『錬金術師』とか言う奴らの仲間だろう。

錬金術。

魔法と科学とはまた異なった性質を持つ異端技術。響が出会った少女『キャロル・マールス・ディーンハイム』は世界を分解しようと企んでいる。

そして翼やクリスのギアを分解したアルカ・ノイズを出した自動人形(オートスコアラー)。彼女達もキャロルの仲間だろう。

そしてキャロルと酷似した少女『エルフナイン』も気になる。クリスが助けたと言っていた人物だ。どうやら彼女の企みに気付いて『ドベルグダインの遺産』を持ち込んでここまで逃げて来たとのこと。

このドベルグダインの遺産で、アルカ・ノイズに対抗することが出来るとのこと………。

 

 

 

 

 

平和になった矢先にこれか………。

 

 

 

それはまるで新たな物語が始まるかの如く今まで培った大切なものや思いを強制的に切り捨てていくように………。

何処の誰かも知らない奴らがどうでもいいように壊していく………。

 

 

「奏空?」

 

 

「どうしたんデスか?」

 

 

不思議そうにこちらを見てくる調と切歌。

 

 

「絶対に守るからな…………。」

 

 

もうこれ以上大切なものが壊されないように………。

二人の頭を撫でて彼はそう決心した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

響と未来、他の三名は学業を終えて帰路に着いていた。響は先日マリアから言われたことを思い出す。

戦わずに分かり合うことは出来ないかと提案したら逃げているのかと言われた。

元はマリアが所持していたガングニールを自分の力だと実感したとき、誰かを傷付きたくないと反論した。

 

 

『それは力を持つ者の傲慢だっ!!』

 

 

この言葉が深く心に突き刺さってあれから考え込むようになった。

 

 

そんなつもりじゃないのに………。

 

 

そう思っていると弓美が悲鳴を上げた。

その先にはまるで干からびたように髪が白くなってしまった一般人が倒れていた。

響は木陰に気配を感じて身構える。

 

 

「聖杯に願いは満たされて、生贄の少女が現れる………。」

 

 

人間とは思えない程色白く、鮫のようにギザギザした歯が見えるショートカットの少女『ガリィ』が現れた。

 

 

「キャロルちゃんの仲間………だよね?」

 

 

「………そして貴女が戦うべき敵………。」

 

 

「違うよっ!私は人助けがしたいんだっ!戦いたくなんかないっ!!」

 

 

ガリィは不満そうに舌打ちをすると右手から石のようなものを投げつけた。それが地面に落ちるとガラス細工のように割れる。

すると地面から例のアルカ・ノイズが現れた。

 

 

「貴女みたいな面倒くさいのを戦わせる方法はよく知ってるの。」

 

 

それは「戦わないのなら仲間を殺す。」と言っているようにも聞こえた。

 

 

「こいつ、性格悪っ!」

 

 

「私らの状況も良くないってぇ!」

 

 

「このままじゃ………。」

 

 

「頭の中のお花畑を踏みにじってあげる………。」

 

 

彼女が指を鳴らすとアルカ・ノイズが彼女達ににじり寄る。

響は決心して首からペンダントを取り出して聖詠を口にしようとするが………。

 

 

「…………歌えない。」

 

 

「え?」

 

 

「…………いい加減観念しなよ……。」

 

 

「…………聖詠が胸に浮かばない…………ガングニールが答えてくれないんだ!」

 

 

いつものように胸に浮かぶ歌詞が出てこなかった。歌わないのではなく歌えないのだ。

 

 

「(ギアを纏えないコイツと戦っても意味がない………ここは楽しみに仲良しこよしを粉っと引いてみるべきか?)」

 

 

なんとも悪趣味なことを考えていると突然地面を強く踏む音がした。

 

 

「あーまどろっこしいなぁっ!」

 

 

全員がその声の主に注目するとそれは意外にも詩織だった。

 

 

「あんたと立花がどんな関係か知らんけど、ダラダラやんのなら私ら巻き込まないでくれる?」

 

 

普段はお嬢様口調な彼女だが、全くの別人のようにガリィに言い放った。

 

 

「………お前、コイツの仲間じゃないのか?」

 

 

「冗談っ!たまたま帰り道が同じだけ、ホラ道を開けなよ。」

 

 

一瞬キレそうになったが、彼女はぶっきらぼうに手を払うとノイズ達は響達から離れた。

 

 

「ほら行くよっ!」

 

 

それと同時に創世が未来の手を引くと彼女達は一斉にその場から逃げた。

 

 

「あんたって変なところで妥協あるわよねっ!」

 

 

「去年の学祭の時のテンション違ったしっ!」

 

 

「さっきのはお芝居っ!?」

 

 

「偶には私達がビッキーを助けたっていいじゃないっ!」

 

 

「我ながらナイスな作戦でしたっ!」

 

 

口調がいつも通りになった詩織が言った。あれが演技とは、やっぱり彼女達は普通の一般人と何処か違う。結局詩織も癖のある人物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、見せた希望をバッサリ摘み取るのよねぇ。」

 

 

ニッタリ笑って彼女は腕を響達に向ける。ノイズはそれに反応するかの如く彼女達を追跡した始めた。

腕の触手を伸ばし、その先の街灯やベンチを掴むと掴んだ箇所が赤い粉を撒き散らしながら分解された。

触手を伸ばしながら走り、赤い霧が舞いながら地面が削れる。

ガリィは地面を凍らせてスケートのように滑りながら進む。

 

 

「上げて落とせばいい加減戦うムードにもなるんじゃないかしら?」

 

 

「アニメじゃないんだからー!」

 

 

一体のノイズが触手を横薙ぎに振って脚を狙ってきた。響の片足の靴に触手が触れて分解される。その拍子で転倒し、持っていたペンダントが空に投げ出された。

 

 

「ギアがっ!」

 

 

ペンダントが地に落ちようとしたその時、一台の黒塗りの車が止まった。運転席と助手席から見知った人物が現れる。

一人は緒川、そしてもう一人は。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 

助手席から飛び出して跳躍し、ペンダントを掴む。

 

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl………。」

 

 

「マリアさんっ!?」

 

 

その声の主は間違いなくマリアだった。彼女は空中でガングニールを纏った。

ただ背後にあったマントが無く比較的肌の露出が増えて、軽装の状態だった。

 

 

挿入歌『烈槍・ガングニール』

 

 

腕を合わせてアームドギアを作り出し、それを掴むと先端からレーザーが放たれた。

 

 

『HORIZON†SPEAR』

 

 

それに被弾したノイズは爆散して爆煙を上げる。

 

 

「(戦える………この力さえあれば………。)」

 

 

しかしLiNKER無しで纏ったことでそう長くは持たない。彼女は槍を構えて駆け出す。

ガリィは更に追加するようにノイズを召喚する。彼女は跳躍して槍を振り下ろし、着地して背後にいたノイズを斬り裂いた。

 

 

「想定外に次ぐ想定外………捨てて置いたポンコツが意外なくらいにやってくれるなんて………。」

 

 

槍を投擲して突き刺すと蹴りや拳打で迎え撃つ。走り出して突き刺した槍を掴むとガリィに駆け出す。

 

 

「私のガングニールで………マリアさんが戦っている………。」

 

 

響は自分に相応しいと言ってくれたマリアに何処か不満を感じていた………。

彼女は跳躍して落下するように突き刺そうとすると青い六角形のバリアに防がれた。それはまるで大気中の水分を凍らせて作った障壁のように………。

 

 

「っ!それでもっ!!」

 

 

槍を回すと先端が二つに割れて放っていた両腕が左右に開く。

小振りになった槍を振り回して今度こそ彼女を突き刺した。

が………。

 

 

「なっ!?」

 

 

またもや青い障壁に阻まれた。

ガリィはニタリと笑うとそれはどんどん広がって行く。

 

 

「頭でも冷やせやぁ〜っ!」

 

 

障壁から二つの氷の棘が飛び出して来た。マリアは後退する。

 

 

「決めた。ガリィの相手はアンタよ。」

 

 

ギアからバチバチと電気が漏れ出した。

 

 

「いただきまぁ〜すっ!」

 

 

ジグザグに高速で滑り、一気に彼女の懐に入った。左腕を氷の剣に変え、コアに目掛けて放った。

しかし放たれた直後、彼女のガングニールが強制解除された。ペンダントが転がり、彼女は四つん這いの形で倒れる。両目から血涙と口から血を流して辛そうに呼吸していた。

 

 

「それでもこの程度?」

 

 

ガリィは剣を腕に戻してマリアを一瞥する。

 

 

「何よこれ。まともに歌える奴が一人も居ないなんて。聞いてないんだけど。」

 

 

響は聖詠が浮かばず、マリアは既に限界を超えて強制解除された。再度ギアを纏えば体に負荷が掛かって最悪の場合死ぬ………。

このままではノイズの餌食となって全員死ぬ………。

 

 

「はぁ、つまんない。………しょうがないからアンタの命からいただこうかしら?」

 

 

再度腕を剣に変えてマリアに向かれた。万事休すか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止せっ!」

 

 

突如第三者の声がした。声からして男。緒川ではない、少し幼めな低い声。

全員がその声の主に向いた。そしてそこに居たのは………。

 

 

「奏空くんっ!」

 

 

赤いペンダントを握っていた奏空だった。彼は聖詠を口にする。

 

 

G()r()a()n()z()i()z()e()l() ()b()i()l()f()e()n() ()g()u()n()g()n()i()r() ()z()i()z()z()l()………。」

 

 

「えっ!?」

 

 

しかしそれは彼のシンフォギアのバルムンクの聖詠では無かった。

マリアと同じガングニールの聖詠だった。瞬間彼の体に光の白い帯が張り巡り、光が晴れるとそこには響ともマリアとも違う黒いガングニールを纏っていた彼がいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

数分前。

調と切歌の見舞いを終えた後帰宅しようとしていた。しかし近くから大きな音が聞こえてその発生源に向かった。

来てみるとそこには黒いガングニールを纏ったマリアが戦っていた。そしてその近くには響と未来達の姿が………。

何故響では無く彼女が戦っているのか不明だが、マリアはノイズの攻撃に当たらず順調に倒して行った。

そしてガリィにトドメを刺そうとしたが返り討ちにあって吹き飛ばされた。ガリィが腕の剣をコアに捉えて刺そうとするがそこでガングニールが強制解除をされた。

彼女は両目と口から流血する。ペンダントがこちらのすぐ近くまで飛んで来た。

 

 

「何よこれ。まともに歌える奴が一人も居ないなんて。聞いてないんだけど。」

 

 

剣を解除して引いてくれるかと思ったが彼女の次の言葉で大きく心が変わった。

 

 

「はぁ、つまんない。………しょうがないからアンタの命からいただこうかしら?」

 

 

ブチリ

 

 

その時彼の頭の中で何が千切れた。

いただく?マリアの命を?それは奪うと見てよろしいだろうか?

あんなになってまで戦った彼女を?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………。」

 

 

近くに飛んできたペンダントを拾い上げると彼女達に近づいた。

 

 

「止せっ!」

 

 

全員が一斉にこちらを向く。

 

 

俺はコイツを絶対に許さない。これ以上俺の大切な人を奪う奴は誰であろうと許さん。だからガングニール………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺にその力を貸せ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl………。」

 

 

浮かび上がった聖詠を口にすると体中に白い帯が張り巡らされた。

それは響のような白いガングニールではなく、マリアのような黒いガングニールではなかった。

そこにいたのは黒基調で血管のように体中に白いコードが浮き出て、耳のヘッドギアが逆三角形を二分割したような形だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

挿入歌『EGO~eyes glazing over』

 

 

それを見たガリィは口角を釣り上げて剣を構えこちらに接近してきた。

だが彼はしゃがんでそれを躱し、腹部に拳を入れた。

 

 

「ガッ!?テッメッ………ゴフッ!?」

 

 

しかし彼は間髪入れずに再び拳打を放つ。それも右手だけで。ほぼ顔面に拳打を入れると取っ組み合いとなる。

彼は彼女を路上に生えていた木に向かって投げ出して激突させる。

そして無理矢理彼女を立ち上がらせて顔面にまたしても拳打を放った。そしてすぐに近づいてまた顔面を殴打し、手首をスナップさせると腹部に鋭い蹴りを入れて吹き飛ばした。

普段の彼とは思えない荒々しい戦い方で容赦なく顔面を何発も殴打した。

ガリィは起き上がって奏空を憎たらしい目で睨みつけた。

 

 

「お前ぇ………女の顔をボカボカと殴りやがって………。」

 

 

「すまん、あまりにも殴られたいような顔していたからボコボコにしてやった。で、まだやんの鮫口女?まだやるんだったら顔の骨格が変わるまで殴るけどどうする?」

 

 

ブチリと彼女の中で千切れると大量の石を投げ出してノイズを召喚した。

 

 

「こいつらどうにかしてから人の顔殴りなっ!!」

 

 

「そんなっ!?」

 

 

「っ!逃げて奏空っ!!」

 

 

数はマリアが相手をした倍近く現れた。それにマリアみたいに制限時間があるので全部倒した時には既にガス欠になるだろう。そこで一気にトドメを刺すと言う戦法であった。

すると彼は突然両手の指でそれぞれ『1』、『0』と表した。

それを見て怪訝そうな顔をしていると彼が口を開く。

 

 

「10秒だ。10秒以内で全部倒してやるよ。」

 

 

彼女の顔が更に憤怒の表情となる。

 

 

「そんな大口叩いているのも今のうちよぉっ!!」

 

 

腕を彼に向けるとノイズ達が一斉に走り出した。しかし彼は冷静に左腕のシリンダーを引き上げる。

 

 

挿入歌『The people with no name』

 

 

飛行機のような駆動音が鳴り響く。ノイズは触手を鞭のようにしならせて彼に目掛けて振るった。

すると突如彼の姿が消えた。そしていつの間にかノイズ達の背後に回っており、振り返る前に腹部に拳を叩き込んだ。。一体、二体、三体とジグザグに駆け巡り、過半数以上を屠る。

一度止まって手首をスナップさせて再び走り出し、また止まって一体を一瞥すると蹴りを入れた。

更に跳躍するとノイズの目の前に光の白い三角錐のマーカーが現れた。

それに目掛けて蹴りを放つと一直線にそれに吸い込まれるように向かってノイズを突き刺した。

 

 

穿つ銀の槍(Platinum Smash)

 

 

着地して更に駆け出すと真横にマーカーを放ち、槍を突き刺すように貫いた。

全て倒した後腕のシリンダーがカチリと閉じる音を立ててノイズ達は青い炎を上げて灰化した。

 

 

「な、何が起きたのか全然わからなかった………。」

 

 

側から見れば白い閃光がノイズ達を駆け巡っているようにしか見えなかった。

周りから視認出来ないぐらいの速度を出して彼は倒したのだ。

それを見たガリィは舌打ちをすると氷柱を作り出して弾丸の如く射出する。

すぐに気付いた彼は右腕のシリンダーからマリアが先程使っていた小振りの槍………と言うよりもクナイに近い武器を逆手に持ち出して弾いた。続く第二撃を叩き落として彼女に飛び掛かって上から突き刺そうとする。

大気を凍らせて障壁を作って防がれる。彼女はニタリと笑うが、次第に亀裂が走ってガラスのように割れた。クナイは彼女の胸に突き刺し膝から崩れ落ちた。

 

 

「やったかっ!?」

 

 

「………いや。」

 

 

彼が呟いたと同時に彼女は氷の彫刻のように割れた。

そして空気が一箇所に集まると肩を上下させた彼女が姿を現わす。

 

 

「次は殺すっ!」

 

 

ポケットから水が入った小瓶を取り出して叩きつけると、召喚陣が現れて彼女は消えた。

それを確認して力を抜いた途端に体が重くなった。ギアが解除されて片膝をついた。

 

 

「奏空っ!」

 

 

マリアがこちらに駆け寄る。介抱しようとするが制止させた。

 

 

「ちょっと待ってくれ………。」

 

 

「?………あ。」

 

 

ポケットから白いハンカチを取り出して彼女の顔から流れている血を綺麗に拭き取った。彼女の顔がほんのり赤くなった。

 

 

「これで綺麗になったね。」

 

 

「あ、ありがとう………。」

 

 

彼女は恥ずかしさを隠すように地面に落ちたペンダントを拾い、響に渡そうとする。

 

 

「これは君のガングニー「私のガングニールですっ!」っ!」

 

 

響は彼女から奪うようにペンダントを取った。

 

 

「これは人を助ける為に使う力っ!私が貰った………私が貰ったガングニールなんです!」

 

 

まるで自分の物を誰かに使われたくないと言っているようにも聞こえた。

 

 

「…………おい。」

 

 

それを見た彼はズンズンと響に近づく。困惑している彼女に構わず目の前に立った。

 

 

「あ、あの………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ

 

 

空の下に渇いた音が響いた。

彼が響の左頬を平手打ちをしたのだ。状況が整理出来ない彼女に追い打ちを掛けるように言い放った。

 

 

 

「目が覚めたか………?」

 

 

それはとても冷たく、背筋が凍るような声音だった。彼と初めて会った時よりも低く、冷たく、怒りが混じっている声だった。

 

 

「奴らは世界を滅ぼそうとしてる連中だ。現にこっちはギア二つも破壊されて次々と死人が出てんだぞ…………。それでもお前は話し合いで何とかなるって思ってんじゃねぇよなぁ?

 

 

「そ、それは………。」

 

 

「思ってるって顔だな…………いいか?奴らは無差別に殺す連中だ………。たとえお前に戦う意思がなくても、奴らは構わず誰かを傷つけるっ!!それがお前にとって大切な人でもっ!!」

 

 

「っ!」

 

 

「こんな事になっても奴らとは戦わないって言うのかっ!?…………もし、このままみんながやられていく中、お前は何もしないって言うのなら…………。」

 

 

 

 

俺はお前を一生許さないからなっ!!

 

 

少年の怒号が響き渡る。

紫色の瞳には怒りと憎しみしか無い濁った目をしていた。彼はソッポ向いて帰ろうとするが足を止めた。

 

 

「殴ったことは謝る。すまん……。けどお前が奴らと話し合うって言っても………俺は奴らを殺す………。」

 

 

再び歩み出して彼は帰路に着いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

薄暗い玉座の間。そこには三体の人形が奇妙なポーズを取りながら静止していた。

その玉座には主人である金髪の少女が頬杖をついていた。そしてもう一体の自動人形(オートスコアラー)のガリィが転移陣から現れた。

 

 

「随分とやられたようだな………。」

 

 

「………だってぇしょうがないじゃないですかぁ〜。まさかあいつが別のシンフォギアを纏うなんてぇ……。」

 

 

普段おちゃらけた感じの彼女がぶっきらぼうに答えた。彼には散々人の顔を殴打したのだ。その理由が殴られたいような顔をしていたと………。

先程のことを思い出して奥歯が破けるぐらい噛み締めた。自分のギアでも無いのにあのマリア(ロクに歌えもしない奴)よりも彼は使いこなしていた。

まるで聖遺物もそれに呼応するかの如く、ギアの力を引き出したようにも見えた。

 

 

「『愚者の逆位置』。うっかりしていたということだな。」

 

 

「あぁ?」

 

 

喧嘩腰で振り向くとそこには眼鏡の長髪の男のカッシスがタロットカードの柄を逆さにしながら彼女に占いの結果を伝えた。

 

 

「全く、そんな性格だからお前は不意を突かれるのだ。」

 

 

「テメェ………。」

 

 

「止せガリィ………。」

 

 

「…………チッ。」

 

 

彼女は舌打ちをして他の自動人形と同じく奇妙なポーズを取った。

 

 

「他のシンフォギアを纏い、尚且つそれを使いこなしていたか………ふふふ、はははははははっ!!」

 

 

「何か知っているのか?」

 

 

キャロルは彼に尋ねると口角を釣り上げた。

 

 

「いやいや、大分面白くなって来たと思いましてね………。」

 

 

その笑みは何かの含みがあるような笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

「(そろそろ彼には拍車をかけてみましょうか………。)」




あのシーンを見て「よし、繋げよう。」と思ってやっと書けました(笑)。
次回も頑張ります。


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第4話 『死神の正位置』

待たしてしまって本当に申し訳ございません。
後半は大分駆け足気味ですがどうぞ。


「……………。」

 

 

市街地の中、彼はギアを纏って目を瞑り、佇んでいた。

周りを囲むのはアルカ・ノイズ。人型に芋虫型、武士型、パイプオルガン型と、これまで遭遇したタイプのノイズが群がっていた。

一体の人型が動こうとした瞬間、短剣『ルーン』が頭部に突き刺さった。

それを筆頭にノイズ達は彼を襲う。しかし彼は冷静に大剣にフォニックゲインを流し込んで4つの剣を操作して斬り裂く。

武士型が腕の刃を向けて襲い掛かってきたが、彼は武士型に向かって走り出す。

刃が放たれる瞬間、飛び越えると同時に二本のバタフライで両腕を斬り落として背後から刺した。

続けてパイプオルガン型が弾丸を飛ばして来た。これは躱してバタフライをブーメランのように投擲する。

投げた剣はパイプオルガン型を真っ二つにし、更にその後ろにいた人型も斬り裂いた。

別方向から芋虫型が体ごと回転して回転鋸の如く迫って来る。だが呼び出したルーンによって斬り裂かれた。

更にオーガニクスを手元に戻し、背中のコア・ファーストを取り出す。二つの剣を構えてノイズに向かって駆け巡った。

立ち止まると彼が通った道に柔らかな青い光の道筋ができた。そして彼が通った順にノイズが赤い塵となった。剣を振り払うと市街地から一転、何も無い一室となった。

彼が戦っていたアルカ・ノイズは二課が解析したデータを元にして作った訓練プログラムだ。

ガリィとの戦闘後、彼は篭るようにプログラムのノイズと戦っていた。

休憩を取ろうとシュミレーションルームから出た。

 

 

「ん………?」

 

 

「……………。」

 

 

そこには心配そうに見つめている義姉(あね)の姿が。

 

 

「どうしたの?俺の顔に何か付いてる?」

 

 

「………そろそろ辞めたら?このままじゃ体壊すよ?」

 

 

彼がシュミレーションルームに入ったのを見たのは2時間前。その間彼はただひたすらにノイズと戦っていた。通常なら平均30分が適度だが、2時間ぶっ続けで戦闘を繰り返していた。

 

 

「大丈夫大丈夫。それに万が一に備えての対策も含めての訓練だからね。」

 

 

「……………。」

 

 

果たしてそうだろうか?

彼がやっているのは対策ではなく、一種の洗脳ではないだろうか?

アルカノイズが攻撃を与える間もなく倒すというのを繰り返してやっていた。

始めは躱して倒すのが多かったが次第に攻撃する前に倒すというスタイルに変わっていた。

それも段々倒していくスピードが増えて今の戦闘も3分も掛からなかった。

まるで私の知っている奏空が奏空でなくなっていっているような気がする。

すると突然アラートが鳴り響いた。

 

 

『アルカ・ノイズの発生源を感知!奏空くんと凛音は至急そこへ向かってくれ!』

 

 

「…………だ、そうだ。行こう凛音。」

 

 

「え、ええ…………。」

 

 

彼は休憩室を出たが、その背はまるで別の誰かに見えた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

フィーネの魂の器となる少女を集めた施設『白い孤児院』。

そこに自分は研究員としていた。

シンフォギアへの適合性が見込まれた少女たちを選抜し、 研究と実験、そして訓練を繰り返していた。

そんな中で一人だけ男がいた。とある少女が近くに見つけてきたらしい。

ものの試しに保管していたバルムンクの適合実験を行った。その結果は大きく予想を裏切った。

男なのにバルムンクと適合したのだ。これを機に彼を特別被験体という形で施設に入れた。

 

 

しかし適合したものの、何故かギアを纏えなかった適合係数を上げる劇薬のLiNKERを用いても適合係数が上がるだけで中々纏えなかった。

悩んでいるそんな中、同じ研究員の『葛城巧』がある提案を出した。

掘削調査で見つけたある気体を注入したらどうだろうか?

その気体の名は『ネビュラガス』。掘削中に噴き出てきた気体。これを人体に取り込むと特殊な細胞分裂を引き起こすという。

半信半疑ながら彼に微量ながらもそれを液状にしたものを摂取させた。

するとどうだろうか今まで適合値しか示さなかったのが反応したのだ。摂取させたその日から日が経つごとに反応が大きくなった。

 

 

 

そしてそれは起こった。

ネフィリムが暴走したあの日。自分達は二階で見ていたから無事だったものの、アガートラームの少女が絶唱でネフィリムを抑制して事態は収束した。

……………かに見えた。

突如、瓦礫で埋もれた実験室から強い聖遺物の反応が現れた。

視線を移すとそこには周りにいくつもの青い剣が囲むよう連なり、白銀の鎧が解かれた少女を抱いて泣き叫ぶ黒騎士の姿があった。

 

 

 

確かに彼はギアを纏えた。纏えたが何処かおかしかった。通常ならインナースーツはアガートラームの少女と同じタイプの筈だが、彼だけ違った。

更に解析してわかった。アームドギアの可変・変形がオミットされている。二課の保有している天羽々斬やガングニール、天叢雲など、通常は備わっている筈の機能がなくなっている。

逆に普通なら備わってないものが備わっているということもわかった。エクスドライブにしか搭載されてない飛行能力。

本来ならエクスドライブが発動して初めて飛行出来ると言うのに、何故か彼のギアは常時飛行可能であった。

何故ここまで他のギアと違うのか謎だったが、あることを思い出す。

ネビュラガスだ。

彼に摂取させたネビュラガスが原因ではないかと葛城に伝えた。

『摂取すれば特殊な細胞分裂を引き起こす。』それがシンフォギアに影響したのではないだろうか?

そして再度解析をした結果はそれは的中だった。ギアからあの気体の反応が見られたのだ。彼の歌に反応してネビュラガスが活性化したと思われる。

これを知った葛城はその日から研究室に篭った。何日、何週間も経っても彼は研究室から顔を出さなかった。

一ヶ月近く経ち、流石に心配になったので彼の研究室に入ることにした。開けると部屋の様子を見て戦慄した。

壁には計算式がびっしり書かれた紙埋めつくさんとばかりに貼られていた。その奥には彼が何かを作っていた。

何を作っているのかと聞いた。

 

 

それは抑制するもの。

 

 

それは安定した力が使えるもの。

 

 

それは効率よくエネルギー配分をするもの。

 

 

彼の中のネビュラガスがこれ以上活性化して彼に影響がないようにするための装置を作っていた。

それは初めて見る形で、どうやって取り付けるのかわからなかった。

そして何やら二つの小さなボトルが置いていたのが目に入った。

とても自分では追いつけないレベルまで進んでおり、手伝う部分もない。後は任せろと彼はそう言い残すと再び作業に入った。

自分は彼の部屋を後にして戻ろうとすると強い衝撃が襲い意識がフェードアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると自分は人一人分が入る水槽に入っていた。手足は拘束されて、口に何やら吸引器のようなものを取り付けられていた。

自分を呼ぶ声が聞こえた。声の主はネビュラガスを共に解析した『内海』という男だった。

自分がF.IS.に就いている間彼はあることを見つけ出した。

 

 

『ネビュラガスを生身の人間が過剰投与すると突然変異を起こし、別の生物が誕生する。』

 

 

その生物の名は『スマッシュ』。

 

 

そして吸引器からネビュラガスが送り込まれると体に激痛が走った。

まるで自分の情報が上書きされるように、自分の体が別のものになっていくような感覚に襲われた。

逃げ出そうとするが拘束具を付けられているので意味が無い。自分の目に映るのは口角を釣り上げる内海の姿だけだった。

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ましたのは牢獄の中だった。

中には4人程の男がいた。一人を除いて残りはどれもいかつそうだった。

ここはネビュラガスを注入されて生き残ったものが送り込まれる牢獄。

そしてそこから地獄が始まった。

 

 

 

 

配給された食事を寄越せと言われて殴打された。二人に羽交い締めされリーダー格の奴から何発もの鉄拳を食らった。

 

 

 

 

 

 

 

今日は気晴らしに殴らせろと言われまた殴打された。自分の血が床に撒き散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ最近の記憶は覚えていない。ただひたすら殴られて血を吐いていた気がする…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きょうもいっぱいなぐられた。

やめてといってもなぐってきた。つかれたからきょうはねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日リーダー格の男がこいつを殴れと差し出してきた。そいつは初めて見た時からいかにも下っ端で弱そうな奴だった。

こいつを殴ったら今後手を出さないと言ってきた。

そいつには色々と恩になった。取り上げられて腹が空いている自分に飯をくれた。自分が殴られた後『大丈夫ですか?』と介抱してくれた。

それなのにこいつを殴ることなぞ到底出来なかった。戸惑っている自分にそいつは奴らに聞こえないような声で言ってきた。

 

 

 

貴方を助けたいんです。

 

 

 

 

その時、生きたいと強く思ったのか、単に思考力が低下していたのかそいつを殴打した。

男は満足したのかもういいぞと言ってきた。

しかし自分は殴るのをやめなかった。そいつが血を吐いても殴り続けた。

殴っている最中もういいと男が肩を叩いて来たがそれにイラついたので男の顔面を殴った。

その後は部下の二人が押さえつけて男にひたすら殴られ続けた。

殴られているうちに意識がシャットアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ましたときには目の前に見知った二人がいた。前の研究機関にいた自分の部下だった。

あの後自分は奴らに殴殺されてここの死体処理場に運ばれてきたとのこと。

自分だと知った二人は必死になって色々と手を尽くし、なんとか息を吹き返したのだ。

それを聞いた途端思わずそいつらに泣きついた。こんな無様な自分を助けてくれたことが何よりも嬉しかった。

 

 

泣かないで下さい。自分達は貴方の為なら何だってします!

 

 

その言葉が頭に鮮明に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内海は『ハザード計画』と言うのを企てていた。

ネビュラガスを摂取することにより特殊な細胞分裂を起こし、『スマッシュ』たる新たな生物になることがわかった。それを応用し、『ハザードスマッシュ』になることによってノイズに対抗できる。

ハザードレベルが高いほど自我を保ちつつ、人間を越えた戦闘力を発揮することができる。

前からハザードレベルが高い被験者で実験をしてきたが、彼の目には異常な光景が映っていた。

実験場には血みどろになった被験者と両腕が血で染まった男が机に座っていた。

 

 

 

 

さぁ、早く実験を始めようや………。

 

 

 

男は口角を釣り上げながら言った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アルカ・ノイズの反応があったのは廃虚になっている区域からだった。凛音と奏空はそこに向かっていた。

現地に到着すると廃虚からワラワラと出ていた。ノイズ達は気付いて一斉にこちらに向いた。

 

 

「Imyuteus amenomurkumo tron………。」

 

 

「close core balmunk tron………。」

 

 

二人は聖詠を口にしてそれぞれ紫と黒のシンフォギアを纏った。

 

 

「奏空、まずは距離を取ってから攻撃を………って奏空!?」

 

 

纏った直後彼は背中の大剣を取り出して駆け出した。それに反応するようにノイズも一斉に向かった。

走りながら大剣からルーンを外して投擲すると人型ノイズの頭部に刺さる。そして追い打ちの如く柄に向かって膝蹴りを入れた。

膝蹴りを入れたノイズを飛び越えると、武士型のノイズが雪崩のように迫り来る。

しかさ彼はそれに怯むどころか手持ちの大剣で走りながら斬り裂く。

一体の武士ノイズが跳躍して飛び掛かるが大剣を向けると合わさっていた4本の剣が飛び出す。

剣は的確に武士ノイズの両腕を切断し、着地した途端に手持ちの剣で胴体を真っ二つにした。

 

 

…………やっぱり何か違う。

 

 

ノイズを斬り裂きながら駆け巡る彼の姿を見て思った。自分は見たことある。あれは響と出会う前の翼と似ていた。奏を失った彼女は一つの(つるぎ)として心を閉ざし、一人で戦っていた。

言葉を交わすことも無くただただ立ちはだかる敵を斬る。彼女は一人の防人となっていた。

しかしあれは防人、というよりも違うものに見えた。斬る時に何の感情もないその姿は機械にも見えた。ただひたすら敵を斬る。攻撃して来る前に斬る。攻撃する権利も与えずに斬る。

先読みするように書き込まれた機械のように彼は戦っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アルカ・ノイズは屋内にも出現しており、彼は次々と斬って赤い塵と化す。

剣を投擲したり、操って斬ったり、直で斬ったりもした。人型ノイズの腹部を突き刺して倒すとある場所に辿り着いていたことに気づいた。

周りを金網で囲み、中は血痕が床や柱にベッタリと残っていた。

そして更にそこにあったのは『人の骨』だった。白骨化したのか身につけている青い囚人服がそのままだった。

 

 

「ここは私が私で無くなった場所であり、私が生まれた場所だ。」

 

 

突然第三者の声が響いた。一度聞いたことがある声。そいつが現れると眉間にシワを寄せて紫の瞳に怒りが込み上がる。

 

 

「カッシス………!」

 

 

「おお、怖い怖い………。他の聖遺物を纏い、今の戦闘を見ると2.5ってところか………。」

 

 

「何を言っているのか知らないが、お前………わかってるよなぁ?」

 

 

「まぁ落ち着けよ。さっきも言ったが、ここは私が私で無くなった場所であり、私が生まれた場所と言った。」

 

 

「………何が言いたい?」

 

 

「そのままの意味だよ。私という存在が無くなって、新たな私が生まれたのだ。」

 

 

 

ネビュラガスを再度注入された後、ここに連れてこられた。

そこには自分と同じ囚人服を着た男が四人ほどいて殺し合っていた。ハザードレベルが上がり、最後に生き残ったものが新たな力を手に入れることが出来るという。

 

 

面白い………やってやるよ。

 

 

金網の中に入って自身も参加した。

殆ど休まずに4人の男達を屠った。だが最後の一人を倒した頃には自分も限界だった。

内海に力を寄越せと要求したその直後、新たな刺客が現れた。体中に歯車が装飾されたそれぞれ緑と白の人型の怪物が二体現れた。

そいつを倒すのは新たな力でしか無理だと中心に黒い拳銃とボトルが現れた。

それを掴もうとするが突然誰かがそれを奪い取った。奪ったのはあの時、殴ってくれと言った男だった。

 

 

生きていたのか………。

 

 

男はボトルを拳銃のスロットに挿して引き金を引く。しかし体に電流が走って倒れた。

変身に失敗したのだろうか?二体は近づいて男を無理矢理立たせると腕の歯車が回転して鋸のようになる。そして男の首を斬り裂いた。

頸動脈を切られ、鮮血が噴出し再び倒れた。

 

 

 

………もう失うものなぞ何もない。

 

 

握っていた拳銃を奪って怪物に向き合う。二体はゆっくりとこちらを向く。白と緑のボディに紅い色がベッタリ張り付いていた。

ボトルの蓋を回転させて拳銃に挿し込んだ。

 

 

『カブトガニ!』

 

 

口に溜まっていた血をプッと吐き出すと拳銃を上に向けて睨みつけた。

 

 

「凝固………。」

 

 

引き金を引くとさっきの男のように全身に電流が走るような激痛に見舞われた。

膝をつきそうになるが、なんとか立つ。

 

 

絶対に引かない………。この力を手に入れる為に………!

 

 

『Mist match………。』

 

 

銃口から煙が出ると体にまとわりつく。

煙が晴れると全身が紫で刺々しく、硬い皮膚で包まれて右腕には鋭い爪を持つカブトガニのような生物がいた。

変身が完了するとそれは二体の怪物を圧倒した。

赤子を捻るようにしてトドメを刺そうとすると内海が突然言ってきた。

 

 

そいつらはお前の部下が変身していると………。トドメを刺せばそいつら死ぬぞ。

 

 

……………だからどうした。

 

 

内海は酷く驚いた。

あの二人は自分の為なら何でもすると言っていた。なら自分の新たな力の礎となるがいい。二体にトドメを刺すと怪物は粒子となって消えた。

そして内海を襲いかかろうとしたが金網に電流が走り、変身が解除された。

このまま自分を洗脳して完全に内海の言うことしか聞けない兵器にしてやると内海は狂笑するが突然彼の腹が裂けた。

そこには大剣を持った女がいた。更にその後ろにはローブを纏った金髪の少女がいた。

 

 

俺と来い。世界を壊そうじゃないか。

 

 

 

「こうして私は名を捨てて、カッシスという新たな名を得た。」

 

 

「………何故アイツと手を組んだ?」

 

 

「………あの方に恩を返す為だ。」

 

 

「恩?」

 

 

「そう………自分を必要としてくれたこと………こんな何処の馬の骨か知らない奴の力を必要としたのだ。そんなの、恩を返さないで何になる?」

 

 

『カブトガニ!』

 

 

「凝固………。」

 

 

『Mist match………。』

 

 

怪人態になったカッシスは彼に襲いかかった。

すぐさま剣を取り出し対応する。前回とは別人のような動きでカッシスと渡り合っていた。

 

 

「ほう………中々。」

 

 

「練習していたのがアルカ・ノイズだけだと思ったら大間違いだ!」

 

 

そう。彼はアルカ・ノイズだけでなく、カッシスの模擬プログラムと戦っていたのだ。そのためカッシスと互角の力で渡り合っていた。

 

 

「これで終わりだっ!」

 

 

オーガニクスを用いて彼を突き刺そうとすると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュッ

 

 

「なっ!?ゴボッ!?」

 

 

突然消えたかと思いきや腹に激痛が走った。吹き飛ばされて金網に激突する直後背中に激痛が走って再び吹き飛ばされた。

 

 

カッシスの能力、それは『高速移動』。

それも自身がやったよりも更に早い高速移動だった。何とか起き上がって警戒しているとカッシスは懐に入っていた。

鋭い爪はコアに命中して彼ごと金網に吹き飛ばした。

 

 

「………ふむ。」

 

 

カッシスは一枚のカードを取り出す。そこには鎌を持った死神が写っていた。

 

 

「成る程『死神の正位置』………か。」

 

 

ニヤリと笑うとカッシスは消えた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「くっ………どうなったんだ?」

 

 

吹き飛ばされた奏空は状況が把握出来ずにいると自分の上に何かが乗っているのを感じた。

起きてそれを確かめる。

 

 

「………………………え?」

 

 

そこには見知った人物が生まれたままの姿でいた。守るべきものの一つ。壊されてはいけない人物。

 

 

『死神の正位置』

変化、あきらめ、決別、終わり、過去を捨てる。そしてもう一つの意味は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………凛音?」

 

 

『損失』、である。




駆け足気味ですみません。
そしてついに明日がXV放送開始!とても楽しみにしてます!
次回も頑張ります。


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第5話 崩壊までのカウントダウン

お久しぶりぶりです!5話完成しました!
そして何より…………XV放送スタートォォォォォォォォ…………ハルトォォォォォォォォ!!←どさくさに紛れて叫ぶ兄さんは嫌いだ。

すみません調子乗りました…………。
とにかく!放送が始まりましたねXVッ!!
まぁリアルタイムで見れませんけどねっ!(絶唱顔)
うちの家に入ってなかったし〜!!でもどうしても見たかったからアニメサイト漁っていたら見れました!やったぜ。
しかしあんな終わり方したら次がめちゃくちゃ気になるじゃないですかぁぁぁぁ!!
来週が楽しみです。


遅くなりましたが5話どうぞ。
あと今回はグロ注意です。それでもいい方は進めてください。



カッシスとの戦闘の後、響のガングニールも敵に壊されて現段階で動けるのは奏空だけとなった。

凛音と響は未だに意識が失ったままで本部の医務室で眠っている。

彼はその後、特に何も変わったこともなく登校し、毎日二人の見舞いに来ていた。

時折見せる悲しみに満ちた瞳は、今にも涙で溢れそうだった。

守るべきものが壊された今、彼の心は既に朽ちていた。手元にあるのは先日に届いた謎の宅配物。

中には二つのボトルと灰色に染まった変なスイッチだった。

カバー付きのスイッチで、カバーを開いて押しても何の反応もしなかった。

カチカチと無機質な音を鳴らして天井を見上げていた。何の装飾もないごく普通の天井はまるで今の彼を表しているかのようだった。

今の彼は支えてくれる人がいない。自分の料理を食べてくれたあの人はいない。自分の頭を撫でてくれたあの人はいない。

 

 

自分の手を繋ぐあの人はいない………。

 

 

 

そして彼の思考を遮るようにアラートが鳴った。電力を供給中の発電所にアルカ・ノイズが検知されたと。

そのことを聞いた彼は飛び出すように家から出た。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

シンフォギアの改修・修理の為に外部から電力を供給していたS.O.N.G.だが、突然現れたアルカ・ノイズが供給中の発電所を襲っていた。

今電力を断たれるとメディカルルームの生命維持装置にも支障が出る。

自衛隊が銃火器で対抗していたが、始めは倒せていたものの、不意打ちに遭い赤い塵と化した。

ソーラーパネルを破壊していたアルカ・ノイズだが、突如爆散した。

上空から何かが降下して来た。それが地上に降り立つとノイズはそれに反応する。

大剣を持った黒騎士が一呼吸して目を瞑る。そしてゆっくりと開眼すると静かに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ネ。」

 

 

『Limit Burst』

 

 

青い光を纏った直後、彼の周りに無数の剣が現れる。光の剣と共に彼はノイズの群れに飛び込んだ。

人型が触手を伸ばしてくるが先に彼の剣が斬り裂いた。上空にいた飛行型に向かって剣を飛ばす。斬り飛ばした肉片が彼の近くに落ちる。

飛行型は槍のように体を変換させて急速に降下して来た。彼がいた場所に降下して爆発した。爆煙が上る場所に武士型がにじり寄っていくと地中から剣が飛び出して腹を突き破った。

地中から彼が飛び出て態勢を立て直すと突如上空から何かが飛来して来た。

それを弾くと地面に突き刺さる。それは紅いカーボンの塊のようなスティックだった。

 

 

「お前が二課の装者カ?」

 

 

投げた張本人は紅い縦ロールの少女だった。ただその少女に不似合いな巨大な熊の手が装備されていた。掌から先程のカーボンスティックを出してクルクル回していた。

記録映像で見た響のシンフォギアを破壊した自動人形(オートスコアラー)だろう。

 

 

「ワタシはミカ。お前がワタシの相手になってくれるのカ?」

 

 

「………………。」

 

 

「ン?どうしたんダ?腹でも壊したんかz『ヒュンッ』おっ?」

 

 

彼女が尋ねた途端、光のルーンが頰を横切った。

 

 

「………そう慌てるな。言われなくても殺してやるよ………。

 

 

「オオッ!殺る気満々でいいゾ!いいゾ!ワタシを楽しませてくレェ!!」

 

 

両腕にカーボンスティックを出して襲い掛かった。片手に光のオーガニクスを作り出して迎え撃った。まるで剣戟のように火花が散る。

やはり彼の戦い方は荒々しく何処かおかしかった。

 

 

「単調でわかりやすい動きだゾ。」

 

 

「黙れっ!!」

 

 

8本のバタフライを作り出して射出させた。しかしミカの周りに人型ノイズが現れて肉壁のようにミカを守る。

斬り裂かれて赤い塵から彼女が飛び出して来た。無数のルーンを射出するが彼女は薙刀のようにカーボンを回して全て弾いた。

そしてそのまま彼に向かってカーボンを振り下ろした。弾こうとするが逆に押されて片膝をついてしまう。

 

 

「な……んで………。」

 

 

「当たり前だゾ。ワタシは最強の自動人形(オートスコアラー)なのだから………ナッ!!」

 

 

「ガッ!?」

 

 

腹に蹴りを入れられ壁まで吹き飛ばされた。

内臓にとてつもないダメージが入り、吐血してしまう。そう、彼女『ミカ・ジャウカーン』は戦闘特化型の自動人形(オートスコアラー)だ。『想い出』の吸収・供給機能が無い代わりに戦闘力に全振りさせた4体の中で最強の自動人形(オートスコアラー)である。

 

 

「クソッ………タレッ!」

 

 

「ほらほら〜モタモタしてるとやられるゾ〜。」

 

 

「っ!」

 

 

気が付くと頭上に飛行型が向かっていた。

彼は攻撃される前に自身の羽を伸ばして飛翔する。

 

 

「うおおああああああああっっ!!!」

 

 

ザシュッ、ザシュッと手持ちの大剣で次々と斬り裂いていく。

するとロール髪がバーニアのように火を吹いてミカも飛翔し、カーボンを投げ付けた。

彼は防ぐが弾かれ、二撃目が頭を掠めて血が噴き出る。

 

 

「クッソがああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

片目が血で染まって視界が不安定になる中、彼は光のルーン、バタフライを射出する。

爆発が起こったのを視認していると突如背中に激痛が走り地面に叩きつけられた。

再度吐血してしまう。

 

 

「コレが刃だったら今頃お前は死んでいたゾ。」

 

 

グリグリとカーボンを押し付けながらケタケタとミカは笑う。

奏空は手持ちの大剣から剣を飛び出させて彼女を狙う。飛び退いて避けるとノイズを呼び寄せる。

彼は何とか立ち上がって大剣を構える。

 

 

「へっ、今更頭数増やしたって当たらなければどうということはない………。」

 

 

「残念だがお前はもう戦えないゾ。」

 

 

「あぁ?何言ってやが」

 

 

ドクンッ

 

 

瞬間世界が歪んだ。

とてつもない痛みが全身を駆け巡った。頭痛、吐き気、脳震盪。色んな症状が一気に襲い掛かってきた。

両膝をつき、先程の比じゃない程の量の血を吐き出した。

 

 

「な………んでぇ……?」

 

 

「カッシスから聞いたケド、お前他のシンフォギア纏ったからじゃないのカ?」

 

 

「………まさか………。」

 

 

ガングニールの負荷が今になって来たのか?

適合してないシンフォギアを纏うだけでこんなにも負荷が掛かるのか?

意識が保てず『Limit Burst』が解除された。気付けば既にノイズが彼を囲んでいた。

 

 

「終わったナ。楽になるといいゾ。」

 

 

「それは私達を」

 

 

「倒してから言うデス!」

 

 

彼の背後から丸鋸と回転した鎌の刃が通過した。二つの刃はノイズ群を斬り裂く。

そして彼の目の前に現れたのは………。

 

 

「調………切歌………?何で?」

 

 

「エルフナインが言っていた強化型のシンフォギアがもうすぐで完成する」

 

 

「それまで私達が時間稼ぎをしようとしたのデスが………。」

 

 

「誰かさんが突っ走って先に戦っていたの。」

 

 

「そしてピンチになっていたところで私達が登場!ってなったわけデスよ!」

 

 

「っ!お前らわかってんのか!?LiNKER無しだと馬鹿みたいに体に負荷が!」

 

 

「それには心配無用だよ。」

 

 

「っ?」

 

 

「それまで休んでいるデスよ。」

 

 

「あっ!おいっ!」

 

 

彼の制止も聞かずに二人はノイズ群に駆け出した。切歌は鎌を、調は新たにヨーヨーを駆使してノイズを殲滅する。その表情には余裕があったものだった。

何故と疑問に思っているとインカムから通信が入る。

 

 

『奏空くん!聞こえるか!」

 

 

「司令!これはどう言う………。」

 

 

『………あいつら………メディカルルームからLiNKERを持ち出しやがった。』

 

 

『まさか、モデルKを?奏の遺したLiNKERを……。』

 

 

「モデルK?」

 

 

通信から翼の声が漏れ出した。

『モデルK』

先代ガングニール装者の天羽奏はマリア達と同じ後天的適合者であり、LiNKERを用いて戦っていた。そのLiNKERを彼女に合わせて調整したのがモデルKと言う。

しかし二人はそれを諸共せずに落ち着いてノイズを倒していた。奏空と同じノイズの攻撃が当たらないように躱しながら戦っていた。

ノイズの数がかなり減り、残り僅かと言うところで彼女が動いた。

 

 

「そぉぉぉリャアアアアアッ!」

 

 

ミカが片手にカーボンを構えて切歌に奇襲を仕掛けた。切歌は鎌の柄で防ぎ、調が助けに駆け寄る。しかし調が近づいたのを察知しもう片手にカーボンを出して切歌諸共彼女を吹き飛ばした。

 

 

「「うああああああああああっ!?」」

 

 

「調ぇ!切歌ぁ!!」

 

 

駈け寄ろうとするがまだ負荷が抜けてなく、体が麻痺したように動けなかった。二人は発電所の壁に激突した。

 

 

「ジャリンコ共〜。ワタシは強いゾ!」

 

 

カーボンの先端に器用に乗って挑発するように手持ちのカーボンを向ける。

ミカ・ジャウカーンという存在は本当に強かった。見た目に反してその戦闘力は狂気染みていた。自分でも太刀打ち出来なかった彼女を、二人で束になっても勝てないだろう………。

二人は瓦礫を退かしながら何とか立ち上がった。

 

 

「子供だと馬鹿にして………!」

 

 

「目にもの見せてやるデス………!」

 

 

すると懐から見覚えのある注射器取り出した。LiNKERである。

投与の量を増やせばギアの出力も増大する。しかしその負荷は一本分のLiNKERの比じゃなく、体が朽ちてしまう可能性が増える。

二人は向き合って互いの首筋に注射器を当てる。

 

 

「二人でなら!」

 

 

「怖くないデス!」

 

 

「止めろぉお前らぁっ!!」

 

 

奏空の制止を聞かず二人は引き金を引いた。LiNKERが体の中に注入される。

よろめくが何とか支え合って持ち直す。すると調が自身の鼻を抑えた。その手には少量の血が付いていた。

 

 

過剰投与(オーバードーズ)・・・」

 

 

「鼻血がなんぼのもんかデス!!」

 

 

「行こう切ちゃん!」

 

 

「切り刻むデスっ!!」

 

 

切歌は両肩のアーマーから二振りの鎌を新たに取り出すし、2本を合体させて三日月を背中合わせにしたような形状の大鎌を作り出した。

 

 

『対鎌・螺Pぅn痛ェる』

 

 

調もヘッドギアから巨大な鋸を出して駆動音を大きく響かせる。

 

 

「オォッ!面白くしてくれるのカ〜!?」

 

 

ミカは嬉しそうに両腕のカーボンを投擲し、掌からカーボンを更に射出する。二人は同時に彼女に向かって駆け出した。

 

 

挿入歌『Just loving X-Edge』

 

 

切歌は肩のバーニアを吹かして投擲されたカーボンを鎌で弾く。そしてそのままミカに突撃して鎌を振るった。カーボンで防ぐが亀裂が走って砕け散った。

切歌の背後から調が現れヘッドギアの大鋸を射出する。

 

 

『γ式 ・卍火車』

 

彼女は再びカーボンを作り出し、バットのように鋸を弾く。

更に調はヘッドギアを回転して一輪バイクのように駆け抜ける。

 

 

『非常Σ式・禁月輪』

 

 

カーボンで止めようとするがまたしても亀裂が入り砕け散った。

皮肉にもLiNKERの過剰投与のお陰で今の二人のギアの出力は大幅に上がっていた。

二手に分かれて同時に鎌と鋸を振るい二つの刃が交差する。両腕に持っていたカーボンがまたしても割れる。

 

 

「……子供だの下駄を履けばそれなりのフォニックゲイン。出力の高いこの子一人でも充分かもだゾ!」

 

 

彼女は怪しく笑い二人と対峙する。

調は二つのヨーヨーを合わせて上に打ち上げる。するとヨーヨーはたちまち巨大な鋸となってミカに襲い掛かった。

 

 

『β式 ・巨円断』

 

 

ミカは掌から炎の球体状のエネルギー障壁を出して巨大鋸の軌道を逸らした。

二人は高く跳躍する。空中で一回転して調は足のローラーを鋸に、切歌は足から鎌のような刃を出した。そしてそのまま降下して障壁に激突する。そのまま障壁を打ち破ってミカを貫く算段だった。

しかし………。

 

 

「…………ドッカーン!」

 

 

「「っ!!」」

 

 

球体は突如爆弾のように爆発した。あれは障壁ではなく初めから二人を一掃する為の爆弾だったのだ。見た目に反して先読みする能力。やはり彼女はそういうのを含めて最強なのかもしれない。

爆煙が晴れるとそこには所々亀裂が入り、ボロボロになった二人と、奇妙なポーズを取るミカがあった。

 

 

「………このままじゃ何も変わらない………変えられない………。」

 

 

「こんなに頑張っているのにどうしてデスかっ!?こんなの嫌デスよ………変わりたいデスっ!!」

 

 

「まぁまぁだったゾ〜!でもそろそろ遊びは終わりだゾっ!」

 

 

彼女のロール髪から火を吹いて一瞬にして切歌の懐に入った。

 

 

「っ!」

 

 

「バイナラ〜!」

 

 

掌からカーボンを射出し、パイルバンカーのようにして切歌のコアを砕いた。

吹き飛ばされた彼女は地を跳ねてギアが解除され一糸纏わぬ姿となった。

 

 

「切ちゃんっ!!」

 

 

調が彼女に駆け寄るが目の前にカーボンが刺さって行く手を阻む。

 

 

「よそ見してると後ろから狙い打ちだゾ〜。」

 

 

「邪魔しないでっ!!」

 

 

「仲良しこよしでお前のギアも壊してやるゾ!」

 

 

『……ミカ、適合係数の低いソイツの歌に用は無い。好きに始末するといい。』

 

 

「わかったゾ!そぅれっ!」

 

 

掌いっぱいの召喚石を上に放ると割れて地面から先程の比じゃないくらいのノイズ群が現れる。

 

 

「に、逃げるデス………調………。」

 

 

「切ちゃんを置いて逃げるなんて出来ない!私の命は切ちゃんや奏空に救われた命だもの!切ちゃんを救う為に………全部使うんだっ!!」

 

 

「止せっ!調ええぇぇぇぇぇ!!」

 

 

「始まるゾ………バラバラ解体ショー!!」

 

 

ノイズ群は一気に彼女に襲い掛かる。

迫り来るノイズを鋸で片っ端から伐り刻む。だが、伐っても伐っても異形の波はまるで収まることが無かった。

芋虫型の攻撃で回転鋸の一つが破壊される。調は代わりにヨーヨーを手に取り、攻撃の手を補おうとしたが、敵が調のギアを破壊するスピードの方が遥かに速かった。

 

 

「誰か、助けて欲しいデス……。私の、大好きな調を………。」

 

 

人型の触手が調のコアに触れて砕け散る。その拍子に倒れると彼女も一糸纏わぬ姿となる。

そして彼女の近くの壁に穴が開くと数体のノイズが現れる。背後からもノイズがジリジリと迫り、彼女を完全に囲んでいた。

 

 

「誰か調を…………!!」

 

 

人型の腕が彼女に今にも振り下ろそうとしていた。

 

 

「誰かああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

少女の目から流れた雫が地に落ちた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………え?」

 

 

恐怖で目を閉じていたが、いつまで経っても痛みが来なかった。ではもう自分は死んでしまったのだろうか?恐る恐る目を開けるとさっきまでと同じ景色だった。ノイズの方を見てみると伸ばされた触手が無くなっていた。彼女の前には見覚えのある者が立っていた。

そして…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!!!!!!」

 

 

『Limit Burst』

 

 

彼が咆哮を上げると()()()()()()()()()()を纏った。光の柱が天高く伸びる。

 

 

「奏…………空…………?」

 

 

名を呼ぶと彼はゆっくりと振り返る。

そしてその形相に恐怖した。頭から流れる血が片目の紫の瞳を紅く染め、もう片方からは血涙を流していた。そして顔にはいくつもの血管が浮き出て今にも血が噴き出しそうだった。

『Limit Burst』

301,655,722のプロテクトの内1/4を自発的に解除する技。それは半エクスドライブモードであり、半暴走とも言える状態である。しかし今の彼は暴走の一歩手前まで来ていた。

 

 

「調ぇ………切歌と共に本部に逃げろぉ………。」

 

 

ここの職員が着ていたと思わしき白衣をパサリと捨てる。

 

 

「で、でもそうしたら奏空が………。」

 

 

「俺が………少しでも理性を………保っているうちに…………早"ぐじろ"ぉぉ"!!!

 

 

「ひっ!わ、わかった………。」

 

 

獣が入れ混じったような声を聞いて思わず悲鳴を上げた。調は白衣を拾い上げて自身と切歌に着せて本部へ向かった。

そしてほぼ同時に砲撃型からの攻撃が迫ってきた。地面に被弾すると爆発する。

人型が様子を伺っていると、爆煙から拳を振りかぶった彼がヌウッと現れる。

目の前にいた人型目掛けてその拳を放った。人型が砕くと、同時に腕の装甲の一部が剥がれる。更に近くにいた武士型の胴体に向けてもう片方の拳を放ち、先程と同じく砕くと腕の装甲が剥がれた。

二体を倒してニヒルな笑みを浮かべるミカに向けて言い放った。

 

 

「殺すっ!お前もっ!!キャロルもっ!!絶対にぶっ殺すっ!!!」

 

 

「おぉ〜怖い怖い。なんか殺意高いゾ〜。」

 

 

「っ!どの口が………どの口が言いやがるっ!!調をっ!切歌をっ!翼さんをっ!クリスさんをっ!響をっ!凛音をっ!!!みんなを蹂躙したテメェ等の野蛮さを省みやがれっ!!!!」

 

 

「………弱い犬程鳴くとは正にこのことカ………。」

 

 

「ほざけっガラクタメガァ"ッ!!」

 

 

最早彼だとわからないぐらいに声が変貌していた。

オーガニクスを呼び出して武士型と一騎打ちとなる。武士型の刃がオーガニクスに接触すると砕ける。しかし光のオーガニクスが射出されて武士型を倒す。

そして他のノイズは雪崩れるように彼を押し寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣と化した黒騎士は己が最強であると言わんばかりに倒し、倒し、倒しまくり、目の前にあるものを全て薙ぎ払いながら、自らの体を壊していった。

 

 

「砕ケッ!!斬リ裂ケェッ!!!微塵ト化セェッ!!!!」

 

 

壊レタ幻影(Broken Phantom)

 

 

黒い光のルーン、バタフライ、オーガニクスを大量に作り出してノイズ群を爆散させた。

先の戦闘で砕かれたオーガニクスとそれぞれ一本のルーン、バタフライの代わりに三つの光の剣で補わせて合体させる。

ミカ目掛けて急接近して、その大剣を振るった。彼女はカーボンを出して防ぐが砕かれる。更に出して砕かれる。出しては砕かれ出したは砕かれを繰り返しているうちにそれは起こった。

 

 

「懐イタダキィ〜。」

 

 

彼の腹に向かってパイルバンカーの如くカーボンが射出される。血を吐きながら吹き飛ばさて壁に激突した。

瓦礫を吹き飛ばして彼はすぐさま起き上がる。

 

 

グサリッ

 

 

すると何かが刺さったような音がした。

 

 

「アァ?」

 

 

そして徐々に痛みがジワリと来た。

 

 

「あと少しうるさいから静かにしてもらうゾ。」

 

 

よく見ると彼女の人差し指の爪が無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア"ァ"ッ!?ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!?!?!?!?」

 

 

叫びながら大量の血を吐きのたうちまわる。ミカは爪を射出して横から彼の喉を撃った。

その証拠に喉の横に爪が深々と刺さっていた。彼は急いでそれを抜いて投げ捨てるが激痛が消えずに転げ回る。

しかしその姿に彼女は目もくれずに生えた爪を含めて左腕の爪全て射出した。

剥離した右腕の装甲で防ぐが三つの爪が彼の腕を撃ち抜いた。声を上げたいのに上がらなかった。

それでも彼は痛みを噛み締めて大剣を構えて彼女に向かって駆け出した。

 

 

「ガア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッ!!!!」

 

 

そしてその一振りの大剣は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ

 

 

虚しく砕かれた。

 

 

「お疲れさん。もう終わったゾ。」

 

 

両腕版のパイルバンカーをもろに腹に受けて吹き飛ばされた。

地を引きずり、やがて止まると彼は仰向けになっていた。最早腕を上げる力すら残っていない。心なしか痛みが感じなくなってきた。

 

 

 

ーーなんでだろうな………なんでこんな目に遭わなければいけないんだろう………。ただ幸せを願っていただけなのに………。もう守るものもなくなった………壊された………。知らない奴らによって………。何もかも無くなった………。ーー

 

 

ノイズ群が彼を囲み調と同じ状況に陥っていた。

 

 

「じゃあナ。死ネ。」

 

 

人型の触手が一気に彼を襲い掛かった。

 

 

「ちくしょおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

死んで…………ない?

まだ…………生きてる?

なん…………で…………?

 

 

「…………あっ。」

 

 

そして彼は見た。

見覚えのある三人を。新たなギアを纏った三人の装者の姿を。

 

 

「あぁ………あぁぁぁぁ………。」

 

 

ぼたぼたを涙が流れる中、その中に一人は笑顔で彼に向けて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏空、お待たせ。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

天叢雲の装者、風鳴凛音だった。

 

 




ふぅ描けた………。
さてイグナイト分も描かねば………。
下手ですみませんが凛音のGX版のギアです!
牡丹色と菖蒲色を使って二種の紫をイメージしました。あと脇腹は露出しています。基本的にベースは翼さんですが、消去法で脇腹にしました。(どうでもいい)
ではまた次回!


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第6話 抜剣

お待たせしました………。今回は初イグナイト回ですが、描きたい話ランキング2位の回ですっ!!
初めてイグナイトを見たときにこれと似たようなのは無いかなって探していたんですが、ある時見つけました………。
それを見た瞬間「コレだっ!!」と思いすぐさま脳内設定を組み上げる程でした。
今回はそれもあってか10000字越えです!では第6話どうぞ!


「ごめんね奏空、緒川さんが来るまでここで待ってて。他の場所より幾分かマシでしょう。」

 

 

彼女は奏空を壁に座らせる。

凛音が目覚めたのは彼が戦い出したのとほぼ同時だった。響はまだ眠っているとのこと。目覚めた時には奏空がミカと戦っていたのを目の当たりにした。そして切歌と調が交戦中にようやく強化型のギアが完成したのだ。

二人は無事に回収されたという。翼とクリスと共にここに駆け付けたのだ。

 

 

「じゃあ緒川さんが来るまでそこで………。」

 

 

ごめん………凛音………。

 

 

「え?」

 

 

彼は消え入りそうな声を出した。

そしてその目にはボロボロと涙を流していた。

 

 

「護れながっだ………俺………もう仲間を護る資格なんてないよ………。」

 

 

「っ。」

 

 

彼女は優しく彼を包み込んだ。

 

 

「大丈夫だからっ!私がアイツをどうにかするからっ!貴方は死なないでっ!!」

 

 

わかったと彼女の耳に呟くと彼から離れて翼達と合流した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ごめんなさい、待たせてしまって。」

 

 

「枢木は大丈夫だったのか?」

 

 

「えぇ………()()()()………ね。」

 

 

「そしたら倍以上に返してやらねぇとな………。」

 

 

「えぇ、そうね。」

 

 

刀を取り出してミカを睨みつける。彼女は新たしい玩具を見つけたように嬉しそうにしていた。

彼女が手を振り払うとノイズ群は一気に雪崩れ込む。凛音達は散開して殲滅を行った。

 

 

挿入歌『BAYONET CHARGE』

 

 

新たな(つるぎ)を携え、ノイズ達を次々と斬り裂く。翼は自身のギアを破壊した武士型と対峙する。

互いの刃がぶつかると武士型の腕が砕けた。さらにクリスはガトリングガンを用いて人型、芋虫型、砲台型を一掃した。強化したお陰か出力も前よりも格段と上がっていた。凛音と翼はミカを捉えると駆け出して跳躍する。大型化した大剣の柄を引き抜くと刀となってそれぞれ蒼と紫の斬撃を放った。

 

 

『蒼刃罰光斬』

 

 

『紫刃罰光斬』

 

 

ミカは避けるがクリスは二つの大型ミサイルを生成して彼女目掛けて発射する。

 

 

『MEGA DETH FUGA』

 

 

着地した彼女はほぼ無防備の状態でミサイルに被弾して爆発を起こした。爆煙が彼女を包む。

 

 

「へっ、ちょせぇ。」

 

 

「………っ!二人ともっ、アレッ!」

 

 

爆煙が晴れるとそこにはいつくもの黄色の六角形の障壁を展開した誰かがミカを守っていた。

彼女よりも背が低く、三つ編みの金髪に大きな帽子にローブを纏った少女が佇んでいた。

 

 

「面目無いゾ………。」

 

 

「いや、手ずから凌いでよくわかった。オレの出番だ。」

 

 

その正体は4体の自動人形(オートスコアラー)と異形の主人である、錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムだった。

 

 

「キャロル………。」

 

「ラスボスのお出ましとはな………。」

 

 

「だが、決着を望むのは此方も同じこと……!」

 

 

「………全てに優先されるのは計画の遂行………ここはオレに任せてお前は戻れ。」

 

 

「わかったゾッ!」

 

 

そう言うとミカは跳躍してテレポートジェムを割ると空間転写した。

 

 

「トンズラする気かよっ!」

 

 

「案ずるなこの身一つでお前らを相手にするぐらい造作も無いこと………。」

 

 

「その風態でぬけぬけと言える………!」

 

 

「………成る程。ナリを理由に本気が出せなかったなどと言い訳される訳にはいかないな………。」

 

 

「何が言いたいのっ!?」

 

 

「…………刮目せよっ!!」

 

 

キャロルが左腕を振るうと空間からハープのようなものが現れた。三人は瞬時に身構える。

彼女が弦を弾くとたちまちハープの音色が流れる。そして彼女は紫の光に包まれた。

それはとても見覚えのある光景だった。それは自分達がシンフォギアを纏うときの光と同じなのだから。

『ダウルダブラのファウストローブ』

ケルト神話に於けるダーナ神族の最高神ダグザが振るう金の竪琴。

彼女は人形のように吊されハープが変形して鋼の弦が彼女の四肢に巻き付いて正に操り人形のようになる。

弦が引っ張ると着ていた紅いワンピースは引き裂かれて体がどんどん成長していく。

裂かれた部分に装甲が形成されて金の長髪がまとめられて帽子を被る。その帽子には赤、青、黄、緑と言った四元素を指しているようにも見えた。ハープが分解されて彼女の手足に装着されて背中に本体が合体されて完全な女性へと変貌したキャロルとなった。

その姿はシンフォギアととても酷似していた。

 

 

「これくらいあれば不足はなかろう。」

 

 

自身の胸元を撫でるキャロル。そして手を振り払うと弦が現れて三人を襲う。凛音達は散開すると地面が弦によって斬り裂かれた。

 

 

「大きくなったところでっ!!」

 

 

「引けを取る私達じゃないっ!!」

 

 

「張り合うのは望むところだっ!!」

 

 

アームドギアを構え直すが、彼女の背中の弦が展開すると背後から三つの魔法陣が現れる。赤の魔法陣からは爆炎が、青い魔法陣からは水が、緑の魔法陣からは突風が発射された。なんとか躱すが被弾された場所が大爆発を起こす。

歌わずに出せるこの出力は想い出を焼却して力へと変換しているのだった。

誰もが持つ数多の想い出。彼女はミカ以外のオートスコアラーに搭載させて次々と想い出を収集していた。

だからこれ程までの力を出せるのだ。弦が発電所のタンクを斬り裂いて爆発を起こして翼は吹き飛ばされる。

そしてそこから追い討ちを掛ける如く六つの黄色の魔法陣が現れてエネルギーレーザーが射出される。レーザーは翼に被弾して爆煙を上げる。

 

 

「その程度の歌でオレを倒せるなどとっ!!」

 

 

弦がクリスを襲い、彼女のいた足場が斬り崩れる。跳躍してガトリングガンからクロスボウに変えて二つの紅い矢を放った。

 

 

『GIGA ZEPPELIN』

 

 

矢は分離してクラスター弾となってキャロルを捉える。しかし彼女は弦を使って掻き回して全ての弾丸を粉々にする。そして弦を纏めると巨大なドリルと化した。

ドリルが回転して緑の竜巻を放つ。クリスは竜巻に呑まれて身動きが取れずキャロルの攻撃をまともに喰らった。打ち上げられた彼女は地面に叩きつけられる。

キャロルはその二人を見て鼻で笑っていると背後から気配を感じた。

凛音が長刀を大剣に変えてそれを振り下ろした。しかしそれは空を斬った。

『空間転写』

ミカがやったように一瞬にして彼女の背後に着いたのだ。キャロルは弦を鞭のように変えると炎を纏い、彼女を叩きつける。鞭を喰らった彼女は地面を何度も跳ねて倒れ伏す。

これこそ4体の自動人形(オートスコアラー)を率いる彼女の実力。戦術に錬金術を用いるなどセンスが飛び抜けていた。

三人はヨロヨロと立ち上がる。

 

 

「クソッ………たれがっ!!」

 

 

「くっ………!」

 

 

「大丈夫………?二人………とも………。」

 

 

「………()()を試すくらいにはギリギリ大丈夫ってとこかな………。」

 

 

「アレを………?」

 

 

「………フン、玉を隠しているなら見せてみろ………オレはお前らの全ての希望を打ち砕いてやる………。」

 

 

「………付き合ってくれるよな?」

 

 

「勿論だよ………!」

 

 

「無論だ!一人で行かせるものか!」

 

 

エルフナインが組み込んだのは対アルカ・ノイズの防護フィールドだけではない。

 

 

「「「イグナイトモジュールッ!抜剣ッ!!!」」」

 

 

『Danesleyf』

 

 

三人はコアの両端を押し込むと奇怪な電子音が鳴ると取り外す。そしてそれを上へと投げるとコアは変形して刺々しくなり………。

 

 

 

 

グサリッ

 

 

彼女達の胸元に()()()()()()

三人は呻き声を上げて赤黒い光を纏い始める。その光は暴走の光と酷似していた。

 

 

 

シンフォギアにはいつかかの決戦兵装がある。一つは、装者の生命に関わる負荷(バックファイア)と引き換えに、必殺のダメージを与える『絶唱』。アームドギアを介して放たれる為、各ギアによって特性が異なるものの、自らも滅ぼしかねない捨て身の一撃であることに変わり無かった。

 

 2つ目は限定解除の『エクスドライブモード』。

シンフォギアシステムには、総数301,655,722種類もの機能制限ロックが設けられている。エクスドライブには、幾重にも束ねられた歌による高レベルフォニックゲインによりそれらの機能を一時的に解放し、文字通りシステムのパフォーマンスを限界まで引き出すことができるのだ。

その出力は『絶唱』を上回り、必殺級の大技をエネルギーチャージ無しで連発できる。

他にも、単体での飛行能力や念話による意思疎通と歌唱中断というシンフォギアの弱点の無効化などメリットを挙げればキリがないが、発動する為には半年前にあった『フロンティア事変』のように70億人の歌が一つとなるような『奇跡』が不可欠であり、戦術に組み込むにはあまりに不確定な機能であった。

 

そして、最後にしてプロジェクト・イグナイトが着目した機能が『暴走』である。

シンフォギア、もとい聖遺物がもたらすものは戦う力だけではない。装者の心に巣食う負の感情や戦闘・破壊衝動をも増大させてしまう。

通常はロックによって制御されているが、何らかの要因で心の闇が限界を超えた時、理性を失い制御から外れた闘争本能の塊と化す。

他の2機能同様、通常時とは比較にならない攻撃力を発揮するも、理性のタガが外れたことで目に写る者を見境なく攻撃するようになってしまう。

 

プロジェクト・イグナイトは、この≪暴走≫のメカニズムを解析・応用することで、暴走時の出力を維持しながら理性を保ち、戦術的運用を目指すというものであった。

その為に搭載されたのが『イグナイトモジュール』。聖遺物の一つ、『魔剣ダインスレイフ』を中核としたシステムである。

 

 

(はらわた)を掻き回すような……これがっ……この力が……!」

 

 

「私の中で………何かが暴れてやがるっ!?ガァァァァァッ!?」

 

 

「こ、こんな痛みを………あの子はいつも味わって来たの………!?」

 

 

『ダインスレイフ』

伝承にある殺戮の魔剣。その呪いは誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こす。

それでも、人の心と英知が破壊衝動をねじ伏せればシンフォギアはキャロルの錬金術に打ち勝つことが出来る。

 

 

「(こ、この感覚は………何処かで………?)」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

気が付くと自分は見知らぬ場所にいた。

辺りを見渡すとそこは荒廃された市街地。その中心部に彼がいた。

 

 

「奏空………?」

 

 

よく見ると彼の姿はボロボロで咆哮を上げながら白い異形と戦っていた。

すると突如彼に目掛けて一本の紅い槍が目を突き刺した。

彼は悲鳴を上げて貫通した槍が地面に突き刺さって彼は倒れる。

そして異形達は口角を釣り上げると翼を生やし一斉に彼に襲い掛かって、彼に群がった。。皮膚を剥がして内臓を晒して貪り尽くす。異臭がこちらまで届いて一気に吐き気が込み上がる。

 

 

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、奏空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

駆け付けようとするが何かが彼女の動きを止めた。いつのまにか手錠や足枷が付いていて動きを封じられていた。

そしてそうこうしているうちに異形達は彼の内臓を引っ張って上空へ飛び内臓を離した。

そこにいたのは最早人の形すら無くなった枢木奏空だったナニカだった。

 

 

「(私が………私が無力なばかりに………っ!!!)」

 

 

目から涙を流して自分の不甲斐なさに恨んでいると呻き声がした。

 

 

「………… してやる………。」

 

 

「え………?」

 

 

見てみると内臓をさらけ出しているのにも関わらず、血涙を流しながら異形達を睨みつけている彼の姿があった。ボロボロになった右腕を伸ばして起き上がろうとする。

 

 

 

してやる……… 殺してやる………殺してやる………殺してやる………殺しやっ…………」

 

 

グサッ

 

 

一振りの槍が彼の腕を裂いた。

そして9本の槍が矢の如く彼の体や顔を突き刺した。

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

「っ!?」

 

 

気が付くとそこは再び現実世界。状況が掴めないでいると誰が両肩を掴んでいた。

 

 

「大丈夫か………凛音?」

 

 

「大分………うなされていたいたが………平気か?」

 

 

そこには黒い光が消えて元に戻っていた翼とクリスが自身の肩を掴んでいた。

あの後ダインスレイフの闇に呑まれていたが、なんとか自我も取り戻した二人は未だにうなされていた凛音を呼び戻したのだ。

 

 

「………尽きたのか、それとも折れたのか………。いずれにせよ、立ち上がる力ぐらいはオレがくれてやるっ!」

 

 

キャロルは紅い石を上空へ投げると砕かれて巨大な空母型ノイズが召喚されて飛行型が出てきた。

三人の変化に期待していたキャロルだが失敗したことによって苛立っていた。そして中々立ち上がらない三人にアルカ・ノイズを召喚することによって倒さねばならないことになり、再びあの力を使わせるという算段だった。

飛行型は変形して市街地に降下して爆煙を上げる。

 

 

「いつまでも地べたに膝を付けていては市外の被害も抑えられまい。歌えないのなら、分解される者どもの悲鳴をそこで聞けっ!!」

 

 

街には避難が済んでない人々の悲鳴が響き渡る。このままでは被害が拡大するだけだ。

新たな力を制御出来ない自分達を悔やんでいたその時、弾頭ミサイルが撃ち放たれた。

その先頭には新たな強化型のガングニールを纏った響が拳を構えていた。

ミサイルと共に空母型に激突して拳を放った。他のミサイルも飛行型を爆散させて彼女は三人の場所に着地する。

 

 

「ありがとう、おかげで助かったわ。」

 

 

「………イグナイトモジュール、もう一度やってみましょう………。」

 

 

「だけど……。」

 

 

「ああ、今の私たちでは………。」

 

 

一度失敗して再びあの衝動に呑まれたら今度こそ暴走するだろう。しかし響は拳を胸元に添えた。

 

「未来が教えてくれたんです。自分はシンフォギアの力に救われたって。この力が、本当に誰かを救う力なら、身に纏った私たちだって救ってくれるはず………。だから強く信じるんですっ!! ダインスレイフの呪いを打ち破るのは――」

 

 

 

「いつも一緒だった、天羽々斬。」

 

 

「あたしを変えてくれたイチイバル。」

 

 

「繋ぐことができた天叢雲。」

 

 

 

「そして、ガングニールッ!信じよう、胸の歌を………シンフォギアをっ!!」

 

 

「………この馬鹿に乗せられたみたいで、カッコつかないが………。」

 

 

「ホント、まさか響ちゃんにこんなこと言われる日が来るなんてね。」

 

 

「もう一度行くぞっ!!」

 

 

四人はコアに手を添えて声高らかに叫ぶ。

 

 

「イグナイトモジュールッ!!」

 

 

「「「「抜剣っ!!!!」」」」

 

 

『Danesleyf』

 

 

再び奇怪な電子音が鳴り響き刺々しいコアになる。そして彼女達の胸元に一気に突き刺さった。

 

 

 

破壊、破壊、全てを破壊し、殺す。何者であろうと邪魔をするものはーー!

 

 

 

「(違う………!この力は………!みんなを………奏空を………繋ぐ為の力っ!!そんな殺戮を繰り返す悪魔なんかになるなんて微塵もないっ!!)」

 

 

「未来が教えてくれたんだ……力の意味を、背負う覚悟を…………だから、この衝動に…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『塗りつぶされて、なるものかぁぁぁぁぁっ!!!!』

 

 

瞬間彼女達は黒い光を纏った。

白い部分が剥離して代わりに黒が新たにまとわりつく。暴走のような悪魔じみた狂気の姿とは違う。制御された暴走の力。

新たな力…………。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

挿入歌『RADIANT FORCE IGNITED arrangement』

 

 

イグナイトが起動したことを視認したキャロルは一気にノイズを増やした。

今までの比じゃなく、区間地図を埋め尽くす程の量だった。

 

 

『検知されたアルカ・ノイズの数………3000!』

 

 

「高々3000ッ!!」

 

 

響はノイズ群に一気に駆け出して拳を突き出す。ガントレットが変形し、バーニアに火を吹いて止まることなくノイズ群を突き破った。

翼は刀を構えると刀身が割れ、蒼い光が漏れ出す。そしてそのままノイズ群に斬撃を放った。

 

 

『蒼ノ一閃』

 

 

ノイズの波を一気に殲滅し、その後ろにいた巨大ノイズも斬り裂いた。

クリスは腰部アーマーから大量のミサイル、形状が違う大型ミサイルを展開して発射させる。

 

 

『MEGA DETH QUARTET』

 

 

ノイズ群を一気に殲滅し、大型ミサイルの装甲が剥がれてそこから小型ミサイルが上空の空母ノイズを爆散させる。

凛音は後ろ腰にある二つの柄を引き抜くとビーム刃が飛び出し敵へ投げ付け、すぐさま二刀に持ち替えると翼同様刀身が割れて紫の光が漏れ出す。

そしてそのまま交差した。

 

 

『紫電・四刃烈風』

 

 

一瞬にしてノイズの体が真っ二つとなって宙に浮かぶ。そして投げたブーメランが帰ってくるようにこちらに向かいながら、浮かんだノイズを縦に斬り裂いた。

ブーメランをキャッチして腰に戻してキャロルと対峙する。

全てのノイズを殲滅した三人も凛音と合流した。

 

 

「どうだっ!!全て片付けてやったぜっ!!」

 

 

「観念するがいいっ!!最早私達の前ではアルカ・ノイズなぞ有象無象に等しいっ!!」

 

 

「もう終わりよ………キャロル………。」

 

 

追い詰める四人だが、キャロルは逆に嬉しそうに口角を上げた。

 

 

「………………フフ、面白いっ!!そう来なくてはなぁっ!!もっともっとオレを楽しませてくれぇ!!」

 

 

彼女は弦を携えて四人と対峙した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「凄い………。」

 

 

「強すぎるデスッ!!」

 

 

「でも油断はならないっ!」

 

 

「………響。」

 

 

一方S.O.N.G.本部ではイグナイトモジュールの稼働に成功させた四人に驚きを隠せなかった。

3000もいたノイズ達を一瞬で屠る程の力を振るった姿は確かに気を保っていた。

 

 

「これなら………。」

 

 

弦十郎が呟いた途端、外部から通信が入った。

 

 

 

『司令っ!風鳴司令っ!!』

 

 

「どうした緒川っ!?」

 

 

「そ、それが奏空くんの救護に向かったのですが…………。彼が………()()()()!」

 

 

「何っ!?どう言うことだっ!?」

 

 

緒川に問いただしているとアラートが鳴り響いた。

 

 

「えっ………どういう………こと?」

 

 

「どうしたっ!?」

 

 

「わ、我々が保有している聖遺物の照合を確認………でもこれは………。」

 

 

「何だっ!一体なんなんだっ!!」

 

 

 

ズガアアアァァァァァァァァァァンッ

 

 

突如モニター上に何かが地に落ちた。

土煙が晴れるとそこにはあり得ない光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「双方、剣を納めろ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

…………………。

 

 

…………………………。

 

 

……………………………………。

 

 

オイ。

 

 

………?

 

 

いつまでそうしてている気だ?

 

 

……………誰だ?

 

 

誰かって?

おいおい、いつもいるだろ。

 

 

その声はノイズか入って誰か判別出来なかった。そして見た目は人の形をした黒い何かだった。

 

 

………どう言うことだ?

 

 

まぁ、困惑するか………。それもより単刀直入に聞くが………お前はどうしたい?

 

 

…………どうしたい?

 

 

そうだ。お前が今思っていることを率直に伝えろ。

 

 

…………俺は…………………みんなを………。

 

 

違うだろ?

 

 

えっ?

 

 

守りたいものは壊されただろ、()()()()に。

 

 

……………そうだ。

奴らに壊された。

大切な家族を………、自身に手を差し伸べた者を………、暖かく迎え入れてくれた者を………、自分に寄り添ったあの暖かな彼女を…………。

 

 

………で?再度言うが、お前はどうしたい?

 

 

影が問い掛ける。

そして自分の声とは思えないくらいの低い声でその問い掛けを答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺す」

 

 

 

…………そうだ。それでいい。

その気持ちがお前の力と糧となる。その殺意がお前の望みを実現する。

 

 

徐々に影が薄れていき、声もはっきりと認識できるようになって正体がわかった。

 

 

コイツは俺だ。

心の奥底にいる殺意の塊が具現化した俺自身であった。

仲間を守る為になどと綺麗事を言って戦う俺でなく、ただ純粋に殺したいことを望んで戦うもう一人の自分であった。

 

 

 

そして気が付けば自分は飛翔して交戦中の彼女達に向かっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

急に現れたと思ったらそこには右腕が痛々しい程ボロボロになり、喉が流血して血みどろとなった黒騎士が佇んでいた。

 

 

「ほう………喉を潰されてもまだ生きているとはな………。」

 

 

「まぁなお陰様で………。って言ってもかなりギリギリだけどな………。」

 

 

既にフラフラで呼吸が荒くなる程彼の体はボロボロだった。常人なら死んでもおかしくない、いや既に死んでいる筈なのだがしぶとく生きていた。

 

 

「奏………空………くん?」

 

 

「おいっ!どう言うことだよこれっ!本部が回収したんじゃないのかよっ!!」

 

 

「………今連絡が入った。緒川さんが来た時にはもういなかったと………。」

 

 

「………どう言うこと奏空?ここで待っててって私は言った筈よ………。」

 

 

やはり言われたか………。まぁ、予想はしていたが………。

キャロルはとても不機嫌な顔をしていた。自分が楽しくしていたら途中から関係ないのが割り込んで思い切り嫌な気分になるあれと同じように。

 

 

「出来損ないのが今更オレに何の用だ………邪魔をするんじゃ「違うっ!!」っ?」

 

 

喉にダメージを負っているのにも関わらず大声を上げて彼女の声を遮った。

 

 

「お前が………お前らが俺達の邪魔をしたんだっ!!」

 

 

「…………あぁ?」

 

 

 

「…………俺は半年前に嫌なことが沢山起こった………家族と敵対し、悪夢のような毎日だった。………でも戦いが終わり、再び一緒になった時にはとても幸せだった………。こんな毎日が続けばいいのにと思った。戦わない平和な毎日が永遠に続けばいいのにとも思った………。そしたらお前らが現れた………。無差別に今まで培ってきたものを壊し、己の目的の為なら多くの犠牲を出しても構わない………そんな悪逆非道のお前らが現れた………。例えお前がこの世界をどう思っていても、勝手に壊していい世界ではないっ!!人々が幸せな日々を過ごす、そんな世界を………っ!!!」

 

 

言い続けようとするが咳籠って少量の血を吐いた。片膝をついて呼吸が荒くなる。

 

 

「もういいよ奏空っ!それ以上喋らないでっ!!」

 

 

「無茶してんじゃねぇよ馬鹿っ!!もう本部に戻って治療してろっ!!

 

 

「奏空くんっもうこれ以上は………っ!」

 

 

「今、緒川さんを呼んだっ!今度こそ本部へと戻れっ!!今ならまだ助か「ねぇよ。」っ!?」

 

 

翼の言葉を静かに遮った。

彼は確かに今、もう助からないと言った。

 

 

「もう助からないってわかっている。自分でも引く程血を垂れ流して、挙げ句の果てに喉がぶっ壊れちゃって………もう自分でもわかっている………。」

 

 

「奏空………。」

 

 

そろそろいい加減にして欲しいと言わんばかりの表情で見ていたキャロルは言い放つ。

 

 

「お前がオレをどう思っているのは勝手だが、今のお前に用は無い。とっとと消えろ、それともお望み通りオレが分解(バラ)してもいいんだぞ?」

 

 

威嚇のつもりか弦をチラチラさせて彼をこの場から離そうとしている。

 

 

「テッメェッ!!そしたらそのドテッ腹に風穴開かして「もういい。」っ!?」

 

 

突然背筋が凍る感覚に見舞われた。

そこ声音は響に平手打ちをした時よりも低く、冷たかった………。

介抱していた彼女達を振りほどいてユラリと立ち上がった。

 

 

「キャロル………お前はあくまでも意見を変えないんだな?」

 

 

「当たり前だ。オレに指図出来るのはオレ自身だけだ。」

 

 

「…………そうか、わかったよ。お前がどうしようもない愚か者だってこたぁよーくわかった。」

 

 

すると彼は何処からかあの例のトリガーを取り出した。

 

 

 

『ハザードレベル:3.0の到達を確認。使用を許可します。』

 

 

頭の中で無機質な声が流れてトリガーが輝き出した。灰色だったトリガーが鮮やか赤となる。

 

 

「何だそれは?」

 

 

予想通りに彼女が問い掛ける。

彼はトリガーを握ったまま彼女を睨みつける。

 

 

「お前にとっての邪魔が俺なら………雑音(ノイズ)とお前自身が俺の邪魔だ…………!!」

 

 

カバーを開いて銃のように持って彼女に向ける。

 

 

「何をする気だ?」

 

 

予想通りに問い掛ける彼女に、不敵に口角を上げた。

 

 

「なぁーに簡単なことだ。お前が分解(バラ)すのと同じように…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はただお前を殺す(ものを壊す)だけだ。」

 

 

『HAZARD ON』

 

 

親指で『ハザードトリガー』の青いボタンを押すと奇怪な音声が流れた。クルリと自分の方に向き変え次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ

 

 

「はっ?」

 

 

自身のコアに刺した。

 

 

 

「グッ!?ガアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」

 

 

今日で何度目かわからない、今日一番かもしれない絶叫を上げる。

銀のコネクタ部分が細かく分解されてコアに入り込んでいた。

心臓にナニカが入っていくような感覚。彼は両腕でハザードトリガーを抑えつけて融合を更に促進させる。

バチバチと赤い稲妻が迸るその光景は先程コアが体を突き刺した際になったのととても酷似していた。

まるで響達と同じくイグナイトモジュールを発動するのと同じように。

やがてハザードトリガーがコアに取り込まれると同時に彼の左腕にナニカが巻きつけられた。

赤い鳥の横顔に、下部に二つのスロットが設けられた腕輪『ハザードレジスター』が現れる。

 

 

ーーやっぱりそうか………。()()()こういう時に使う為にあったんだな。ーー

 

 

今度は更に何処からか藍色と金色のボトルを取り出してシャカシャカと振り出す。

カチャカチャと音を立てて藍色から金色と上部の蓋を指で回転して開ける。

右手に持っていた藍色のボトルを腕のスロットに装填した。

 

 

DRAGON

 

 

パシリと左手に持っていた金色のボトルを右手に移し替えてさっきと同じように装填した。

 

 

LOCK

 

 

SUPER BEST MATCH!!

 

 

ドンテンカン!ドンテンカン!ドンテンカン!ドンテンカン!

 

 

奇怪な待機音が流れ、鳥の顔の嘴の部分を押し込んだ。

 

 

 

ガタガタゴットン!ズッタンズッタン!ガタガタゴットン!ズッタンズッタン!

 

 

ガチャガチャと虚空から鋳型が彼を挟み込む形で前と後ろに現れた。

 

 

Are You Ready?

 

 

無機質な音声が問い掛けてきた。

準備はいいか?(Are You Ready?)だと?そんなものもう決まっている…………。

 

 

「……………来い。」

 

 

それに呼応するか如く、鋳型はプレス機のように彼を挟んで閉じた。

そして数秒後、鋳型はゆっくりと開いて虚空に消える。

 

 

Uncontrol Switch! BLACK HAZARD!!No wayyyyy!!

 

 

出てきたのは背中の羽が無くなって肩が刺々しく、全身が黒に包まれて響達のようなヘッドギアを装備し、コアのあたる部分が赤いメーターのようなものが配置されていた。

更に紫色の瞳がハイライトが消えた蛇のような金と藍色のオッドアイとなり、口元がマスクで覆われていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

挿入歌『Armour Zone』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何………アレ………。」

 

 

「け、計測結果が出まし………な、何だコレは!?」

 

 

「どうした藤尭っ!?」

 

 

「彼のギアからバルムンクとは違う()()()()()()()()()()いますっ!!識別不明ですが、イグナイトを越えるフォニックゲインですっ!!」

 

 

「何だとぉ!?」

 

 

識別レーダーにはバルムンクの上に塗り潰すように何かが乗っていた。

すると突如としてモニターにあるアルファベットが並べられた単語が映し出される。

弦十郎は思わずその単語を叫んだ。

 

 

 

()()()()()()()()()、だとぉ………!?」

 

 

 

映像には(くろがね)の悪魔と化した奏空が殺戮者を睨んで見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『次回予告』

 

 

「私の知らない誰かになっていく………。」

 

 

「貴方は何てモノを作り上げたのですかっ!!」

 

 

「なんだよ………あれじゃあまるで………。」

 

 

「やめて奏空っ!戦わないでぇっ!!」

 

 

MAX!HAZARD ON!!

 

 

第7話『悪魔は止まらない』

 

 

 

 

 

 

 




や っ た ぜ
遂に書けましたイグナイトと(実質)ハザードフォームの共演!
初めてハザードフォームを見たとき「あれ?これイグナイトじゃね?」と思い暫くの後、八木に電流が走ってこうなりました。
どうしても出したい出したいと思い、ようやく出せました。
次から大分ビルド要素が増えますので楽しみにして下さい!
あと、挿入歌に合わせて次回予告も作りました。多分次は作りません。(オイ
Armour Zoneを聴きながら見てて下さい。ではまた次回。


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第7話 悪魔は止まらない

たいっっっっっっっっっっっっっ変長らくお待たせしましたっ!!
リアルの方で時間がなくて大分投稿に遅れました。
では(実質)ハザードフォームの暴れっぷりをどうぞ。


あと今回もグロ注意です。


『えーと…………あれっ!?これもう始まってるっ!?いけないいけない………。』

 

 

白衣を着た男が録画機の前で只々していた。そして録画機から少し離れた場所に立つ。

 

 

『やぁ、僕の名は葛城巧。F.I.S.研究機関に所属している研究員だ。さて、先日行なったネフィリムの起動実験だが、そこでバルムンクの装者、枢木奏空くんは初めてギアを纏ったがある問題が起こった。

それはネビュラガスによるギアの突然変異。ネビュラガスは人間に摂取すると特殊な細胞分裂を起こす。彼が中々ギアを纏えなかった時に微量ながらも彼に摂取させた。そしたらどうだろう、その日から適合係数が上がったのだ。初めは成功だと思った………。しかし残念ながら結果は悪い方向に傾いた………。

本来ならエクスドライブで使える飛行能力が通常状態から使用でき、アームドギアの可変・変形機構がオミットされていた。通常なら使える機能が使えず、通常なら使えない能力が使える。そして何より…………ギアのプロテクトを自力で解除したこと。例えそれが1/4でも、自力で解除出来るということだけで異常である。これ以上放っておくと今度は彼自身に異変が起こるかもしれない。…………そこであるものを作った。』

 

 

画面の奥に透明なケースが映り込む。その中には灰色の小型デバイスが入ってあった。

 

 

『これは僕が作った装置『ハザードトリガー』だ。こいつはハザードレベルが3以上じゃないと使えないが、『()()()()()()()()()()使()()()』装置だ。これ一つでバルムンクの問題点を全て解決できる。』

 

 

葛城はポケットからカード状のメモリを投影機に差し込むと何かが映し出される。

そこにはモニターに映っている彼と瓜二つの者が投影された。

 

『これをコアに取り込むとハザードトリガーが変化し、腕輪状の『ハザードレジスター』に二つの『フルボトル』を装填する事でこの姿になれる。フルボトルにはある聖遺物の欠片を『トランジェルソリッド』という物質に変化させてそれを閉じ込めた。これを振ると中の成分が刺激されて増殖・活性化する。これをスロットに装填するとハザードレジスターに接続され、全身に張り巡らせる。そうすると彼の体の中にあるネビュラガスと融合して装甲として具現化される。』

 

 

葛城は彼に近づいて隣に並び立ち、撮影機に向かって堂々と言い放った。

 

 

『これこそ僕が目指した『シンフォギア・バルムンクの完成形』と言っていい程過言ではない。』

 

 

バルムンクの完成形。

確かに葛城はそう言ったのだ。

 

 

『バルムンクの問題点は通常形態で使えない機能が使え、使える機能が使えないことと、過剰なまでのエネルギーの放出。幾ら無限に近い出力を持ってしても、使用しないエネルギーを出しっぱなしするのはもったいなさすぎる。ハザードトリガーは所謂『コンバーター』のようなものだ。』

 

 

コンバーター。

交流の電気を直流に変える装置。もしくは情報の形態を変換する装置やソフトウェアを指す。

そして彼は

 

『エネルギーを使わないときには使わず、使うときには使うようにすることができる。つまりエネルギーの効率化に成功した。これを利用してもう一つの問題点も改善した。通常、シンフォギアは歌うことによって出力が上がるが、歌唱が途中で中断すると出力が減衰してしまう。そこで、ハザードトリガーをシステムに組み込む際に『()()()()()()()()()()()()()』し、『()()()()()()()()()()()()()()』にさせた。即ち簡潔に言うと…………。」

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

『さて、僕からは以上だ。……………この力があればどんな敵が来ようとも今まで以上の力を発揮出来る……………………これで怖いものなしだっ!』

 

 

「ふざけているのかぁ!!」

 

 

ダンッとコンソールを弦十郎は叩きつけた。突然送られてきた記録映像。内容は奏空が『ハザードトリガー』たるものを用いて変身したあの姿についての詳細が説明された動画だった。

特に彼の最後のあの発言は弦十郎の逆鱗に触れた。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

シンフォギアは元来歌で起動し、出力を上げ、そして何よりも人と繋ぐことが真の力を発揮するものだ。

それを排除し、人為的に出力を上げて戦うなどと非道にも程がある。

すると別のデータがモニターに映し出される。そこにはハザードモジュールについての詳細が書かれていた。

 

 

「あ………ああ………ああああっ………。」

 

 

その詳細を読み取ったのかエルフナインは膝から崩れた。

 

 

「貴方は………貴方は何てモノを作り上げたのですかっ!!」

 

 

目からボロボロと涙を流しながら叫ぶ。

 

 

「エルフナインちゃん?」

 

 

「これは………これはシンフォギアの構成を余りにも無視し過ぎています!確かに本来の機能になったとしてもネビュラガスで出力を上げるなんて…………。こんなのシンフォギアじゃありません!()()()()()です!!」

 

 

歌う必要が無くなったシンフォギアは最早別の何かになっていた。エルフナインの言う通りそれは兵器と言うのが妥当であろう。

 

 

「な、何やら大変なことになったデス…………。」

 

 

「奏空は一体どうなるの…………マリア?」

 

 

傍観していた調と切歌はある異変に気付いた。マリアが奏空を見た瞬間に胸を抑えて苦しそうにしていた。

 

 

「(何なのこの感じ………このとてつもない不安と焦燥感は?奏空のあの姿を見た瞬間………胸が苦しい………とてつもなく苦しい!………何処かへ行ってしまう………彼が………彼が………!)」

 

 

「……………………私の知らない誰かになっていく………。」

 

 

胸を抑えながら見上げると変わり果てた彼がモニターに映っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「奏………空くん?」

 

 

「何だあの姿は………?」

 

 

「イグナイト………ってわけじゃねぇし………暴走ってわけでもねぇ………何なんだアレ?」

 

 

突然現れ、変身した彼に怪訝そうにしている装者一同。するとガチャンと何かが落ちた音がした。

 

 

「凛音さん?」

 

 

見れば凛音が頭を抑え、膝を地についていた。先程の音はアームドギアを手放した際に生まれた音だった。よく見れば彼女は震えていた。

 

 

「違う………違う違う違う違うっ!あんなの奏空じゃないっ!!あんな禍々しい姿は………彼じゃないっ!!こんな………こんな……………。」

 

 

マリアと同じくこちらも同じ状態に陥っていた。彼から発する禍々しさが心を締め上げた。

しかしそんな彼女を尻目にキャロルは逆に嬉しそうに口角を上げていた。

 

 

「ほう………まだそんな力を持っていたのか………どれ、その力、どれほどの歌なのか聞かせて貰おうかっ!!」

 

 

そう言うと彼女は召喚石を投げつけアルカ・ノイズを多数召喚する。

人型、武士型など歩行型が多い種を出す。アルカ・ノイズはキャロルの指示に従って彼に向かう。

 

 

「そうはさせるかよっ!!」

 

 

「それはこっちも同じだ。」

 

 

響達にもノイズを向かわせ彼と分断させる。幾ら彼が新たな姿になったとしてもこちらみたいに解剖器官の分解効果を減衰するような防護フィールドを施していない。なんとか助けようにもノイズが邪魔で彼の元に行けない。

 

 

「クッソ!邪魔なんだよお前らっ!!」

 

 

「ボヤかない!来るぞ!」

 

 

「凛音さんっ!私達もっ!」

 

 

なんとか凛音を立たせて異形と対峙する。既に放たれたノイズは三人に向かって真っ直ぐに駆け出してくる。

クリスがガトリングガンをノイズに向けて発砲しようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グヂャァ"ッ!!!!

 

 

 

瞬間、何かが通り過ぎ去り後列にいたノイズ群の首が弾け飛んだ。千切れた箇所から黒が入れ混じった緑の液体を噴き出し、バタバタと倒れていった。

それに気付いたのか前列のノイズが立ち止まる。装者達も突然のことで困惑している中、一体のノイズが左に向いた。それに釣られて他のノイズ達も一方向へ向く。凛音達もその方向へ見る。

そこには、先程まで囲まれていたはずの奏空が黒い背を向けていた。

 

 

「奏空………………。」

 

 

よく見ると右手には人型の頭部と思わしきものを掴んでいた。

 

 

BGM『モグラー』

 

 

頭部をどこかへ投げ捨てるとノイズ群の方へ振り向く。ノイズを捉えたのか彼の顔が一層に険しくなった。

 

 

「グウウルルルルルル……………。」

 

 

獣のような呻り声を鳴らし、彼はノイズ群に飛び掛かる。

手が鋭利な爪となり、ノイズを斬り裂いて確実に倒していた。斬り裂くごとにグロテクスな音を立てながら切口から黒っぽい緑の液体を噴き出してバタバタと倒れていく。しかもその液体からかなりの異臭がした。

 

 

「一体どうなっているの………?ノイズから出てるあの液体って………。」

 

 

『皆さん、大変ですっ!!』

 

 

「エルフナインちゃん!?」

 

 

響の疑問に答えるように本部からエルフナインの通信が入った。

 

 

『詳細データを確認したところ………奏空さんの手脚には………任意で()()()()()()()()()()()()()()()()()が搭載されていますっ!!』

 

 

「えっ!?」

 

 

「何っ!?」

 

 

「何だよそれっ!?って言うか霧じゃなくて汁みたいのが噴き出してるぞっ!?」

 

 

『恐らく体内のネビュラガスの濃度が高い所為で、分解した際に出る霧が凝縮されて液体になったのかもしれません………。』

 

 

「でも……あれは分解って言うより………。」

 

 

「腐って行く…………。」

 

 

「なんだよ………あれじゃあまるで………。」

 

 

ノイズとほぼ同じだった。

それを察した凛音は更に体の震えが止まらなかった。有象無象(ノイズ)の力を持って行使する彼の姿を見るだけで心が締め付けられる。最早今の彼は枢木奏空ではないナニカだった。

 

 

「ーーーーーーっ!!やめて奏空っ!戦わないでぇっ!!」

 

 

とうとう我慢ならなくなり、凛音は彼に向かって叫ぶ。悲痛が混じったその声を聞いたのか奏空は立ち止まった。

それを好機と言わんばかりに武士型が正面から襲いかかった。しかし腕の刃部分が胸部装甲に命中すると、逆に刃が砕けた。砲台型が弾丸を発射して被弾しても装甲に傷一つ付かなかった。

 

 

「ウウゥゥゥゥゥ…………………ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!

 

 

それに対して神経を逆撫でしたのか獣混じりの咆哮を上げ、飛び上がって再びノイズ群を襲う。

蹴りで頭部を吹き飛ばし、武士型を組み伏せて腕を引き千切った。更に背後にいた人型の真ん中に腕を突き刺してそのまま上げると縦に裂けて液体が体中に返り血のように張り付いた。

しかしどれだけ奮闘しようにもノイズはまだまだ沢山いた。このペースで戦っていたらいずれ数で押し潰されるだろう。

すると彼は右手を広げると一本の剣が彼の手元に戻った。それは破壊されていなかったルーンだった。そしてそれを投擲するかの如く振りかぶった。まさかあれをブーメランの要領で投げるのではないだろうか。幾らあれ程凄まじい戦闘力を持っていても、射程距離が限られている筈。例え倒せても彼が有利になれる状況にはならないだろう。

そう思っていた時だった。振りかぶっていたルーンに異変が起こっていた。

ビキビキと音を立てながら形を変え、原型を留めてないほどのものになっていた。それは彼よりも一回り二回り、いやそれよりも漆黒の巨大なV字型のブーメランが具現化された。

 

 

『VICTORY RISE』

 

 

それが放たれた瞬間、一瞬にして囲まれていたノイズ群の上半身が宙に舞った。

ブーメランは発電所の周りを一周すると彼の手元に戻った。すると周りにあったソーラーパネルが取り付けられた支柱か斜めに切断されて倒壊した。

 

 

「あれって………。」

 

 

「アームドギアの可変・変形機構………。だがあれは………。」

 

 

「エクスドライブレベルの破壊力だろあれ…………。」

 

 

本来のシンフォギアの機能だが、彼のそれはエクスドライブ、もしくは絶唱によって巨大化する現象と酷似していた。あれが常時搭載されている機能なら彼のシンフォギアは普通なのだろうか?より酷くなっているのではないだろうか?

あれが葛城が目指した『バルムンクの完成形』なのか………。

 

 

「ほう………見掛け倒しだと思ったが、中々心踊らせてくれるではないかっ。もっともっと俺に聞かせろぉっ!!」

 

 

新たに召喚石を上空へばら撒く。

空に召喚陣が展開され、そこから幾多ものの空母型が現れる。四つの孔から飛行型が排出されその量は空を埋め尽くす程だった。

 

 

『飛行型アルカ・ノイズの数…………3万以上!?』

 

 

「3万!?私達のときよりも倍!?」

 

 

「たった一人であの量のアルカ・ノイズを葬ったことは褒めてやる。だが、上空からの攻撃は防がれるかっ!!」

 

 

腕を振り下ろすと楔型(アローヘッド)に並んで、槍のように変形すると彼に突っ込んだ。周囲に着弾すると地を抉り、装甲に被弾すると爆炎が彼を襲う。

それが絶え間なく降り注ぎ、流石の彼も顔を辛くしかめる。

ブーメランを投げつけて斬り裂くが、すぐに新しいのが作り出されてキリがない。腕を交差させて防ぐが、とうとう片膝をついた。

 

 

『司令、流石にこれは………。』

 

 

『藤尭、援護だっ!殲滅できなくて良い!逃げられるだけの隙を作れっ!!』

 

 

「雪音、凛音っ!私達もやるぞっ!!」

 

 

「お、おうっ!!」

 

 

本部である艦からミサイルが射出され飛行型を撃ち落とす。翼と凛音は斬撃で、クリスはガトリングガンと腰のミサイルで墜落する飛行型を倒す。

隊列が乱れ、僅かだが特攻に間隙が生まれた。

 

 

「今だよ奏空くん!早く逃げ………。」

 

 

『MAX!HAZARD ON!!』

 

 

しかし彼はゆらりと立ち上がりハザードレジスターの鳥のクチバシを押し込む。

 

 

ガタガタゴットン!ズッタンズッタン!ガタガタゴットン!ズッタンズッタン!

 

 

再び奇怪な待機音が鳴り響く。

瞬間、彼は黒が入れ混じった紫のオーラを纏った。その光景は何処で見覚えがあった。

 

 

『バルムンクのフォニックゲインが急激に上昇っ!!これは…………ほぼエクスドライブと同じ出力ですっ!!』

 

 

『なんだとぉっ!?』

 

 

『Overflow!!』

 

 

彼が腕を曲げて胸まで持って行くと突如として彼の周りに無数のルーンやバタフライが現れた。

それも光で出来たものではなく、本物に遜色ない再現度だった。それはまさしく言の葉の如く『複製』だった。

そして腕を天に向かって掲げると一斉に剣は上空の標的に向かった。その刃は突き刺さり飛行型、空母型の動きが止まる。

 

 

『No wayyyyy!!』

 

 

物を潰すように掌を閉じる。

すると剣が一斉に光を放つと大きく爆発した。先程まで有象無象によって埋め尽くされた空は炎と黒煙に覆い尽くされた。

 

 

『飛行型アルカ・ノイズの反応………消失………。』

 

 

『………こんなことが………。』

 

 

一瞬にして3万の群勢を屠った彼に一同戦慄していた。あのフォニックゲインを纏った現象は間違いなく『Limit Burst』のそれだった。ただ『Limit Burst』はプロテクトの1/4を強制的に解除するが、スイッチ一つで全てのプロテクトを解除し、エクスドライブと同等のフォニックゲインを解放したのだ。

そして解放されたフォニックゲインを使用した技を使った後、再度蓋が閉じるようにオーラが収まる。

まさに『効率性』を重視した機能だった。ただ、効率が良くてもそれは恐ろしいことだった。それは言い換えると『いつでもエクスドライブ並みの出力を出せる』ということになる。もっと分かりやすく言うと、いつでも核を撃てると言うことだ。

 

全ての有象無象を屠った彼は次なる標的を捉えようとすると左腕に何かが巻き付かれた。

それは何重にもなったダウルダブラの弦だった。完全に縛られて全く動かせない。

そして次第に右腕、両脚も縛られた。

 

 

「油断したなっ!!流石の貴様でも手脚が使えなければ意味がないっ!!」

 

 

鬱陶しそうに弦を振り払おうとしようとするが、弦が手脚にしっかり巻き付かれており完全に動きを封じられた。

彼女は自身の右腕に弦を巻き付かせると鋭利なドリルとなる。駆動音を鳴り響かせてジリジリと奏空に迫る。

 

 

「枢木っ!!」

 

 

「やらせるかってんだっ!!」

 

 

「お前らはこいつの相手でもしてろ。」

 

 

ガトリングガンを構えるクリスだが、空いた左腕で召喚石を投げ付け、アルカ・ノイズが肉壁のように現れる。

 

 

「くっ、ノイズが邪魔で………!」

 

 

「これじゃあ奏空くんを助けに行けないっ!」

 

 

斬り裂き、撃ち抜き、殴り倒すが次々と現れる中々前に進めない。

すると今まで踠いていた彼は抵抗をやめた。

 

 

「諦めたのか?まぁいいだろう。そんなに死にたいのならば今すぐ分解(バラ)してやるっ!!」

 

 

ドリルの回転が更に増して彼女は構える。

 

 

「さらばだ黒き獣よっ!!」

 

 

回転する矛は彼の眉間に向けて放たれる。

 

 

「奏空ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………?」

 

 

しかし彼が貫かれることはなかった。ドリルは彼の眼前まで迫っていたが、数センチの間に止まっていた。

それは何故か?答えは簡単だった。

 

 

「こ、これは………。」

 

 

虚空から伸びている金色のそれ。彼の金色の眼が怪しく輝きを放っていた。

それはキャロルの手脚をきつく縛っていた。

 

 

天の鎖(エルキドゥ)

かつてウルクを飢餓に追い込んだ最強の神獣・天の牡牛グガランナに対して使用し捕えたという鎖。

それは捕らえた相手が神性が高ければ高いほど鎖の強度は高くなる。

それはキャロルどころか、シンフォギア装者全員に対しても効果がある。

何故ならシンフォギアは聖遺物の欠片から作られている。神話に登場した聖遺物全般は図らずとも神性を持っているのである。

彼に纏わり付いていた弦を鎖を射出して切断させて身動きが取れるようになった。そしてそのままゆっくりと彼女に近づき、眼前で立ち止まった。

 

 

「(何をするつもりだ………?)」

 

 

怪訝そうに彼を見ていると、突然左手に()()が現れた。ルーンやバタフライのようなハッキリとした実態のものでなく、バチバチと稲妻のようなナイフだった。

そしてそれを彼女の腹に向かって叩き込むように刺した。

 

 

『Optiumium・γ』

 

 

叩き込むと同時に鎖を解除して数十メートル近く吹き飛ばされ、施設の壁に激突する。

数々の技を使っていた彼だが、思ったよりもありふれた攻撃だった。その為か、喰らった本人にはあまりダメージが通ってなかった。

 

 

「…………ふん………どうやら見掛け倒しのようだな………。」

 

 

「……………。」

 

「先程の鎖は驚いたが、追撃が甘かったな。どんな攻撃が来るのかと少しヒヤっとしたが、大したことではな………。」

 

 

瞬間、世界が酷く歪んだ。

吐き気、頭痛、脳震盪、全て内部に関する症状が一気に溢れ出てきた。

耐え切れずに大量の鮮血を吐き出した。

熱い………熱い、熱い、熱い、熱い!!

口から吐き出す血が喉を酷く熱くさせた。内臓まで出てくる勢いだった。

 

 

 

『Optiumium・γ』

 

標的にネビュラを物質化したナイフを叩き込み、刺し傷に液状化させて標的の体内に侵入し、気体となって内部炸裂するという物質の三態を利用した複雑な技。

気体だったものを固体にし、刺した傷口に液体となって体内に侵入、そして爆発するかのように炸裂させて内部崩壊させるかなり惨い技である。

 

 

「(こ、こんなものに…………こんなものにオレは地を着いているのか…………!?こんなチンケなものに瀕死のダメージを負ったというのか………!?)」

 

 

口から血を垂れ流しながら彼の方へと向く。相変わらず言葉を発さず、無言でこちらを見ていた。向こうは観察のつもりだろうが、今の彼女はそれが舐めているようにも見えた。

直ぐに殺せる程の戦闘能力を持ちながら、直ぐには殺さず、最低限の能力で標的を殺すというのが苛立ちを覚えた。

 

 

「…………貴様は舐めているのか…………?そんな凄まじい力を持っていて、最低限の力で殺すだと…………!?……………調子に乗るのも…………いい加減にしろおおぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 

彼女の目の前に紅と黄色の二つの魔法陣が現れ、それらを合わせると巨大な橙色の魔法陣が出来上がる。

 

 

「ダウルダブラのエネルギーをほぼ空になるまで作り上げたこのエネルギー砲。避ければこの発電所は必ずとも言っていい程吹き飛ぶだろう…………。」

 

 

「そんな…………!!」

 

 

「全て無に帰すつもりかっ!?」

 

 

「っ、どうするっ!?」

 

 

「ーーーーーーっ!!奏空あぁっ!!」

 

 

「………………。」

 

 

目の前に大型のエネルギー砲が発射されるのにも関わらず彼は落ち着いていた。

逃げる素振りもなく直立不動でいた。

 

 

「どうやら諦めたようだなっ!だがもう遅いっ!!皆もろともっ!!分解(バラ)されろおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 

錬成陣から光が集まり、巨大な橙の光の砲撃が放たれた。例え奇跡的に避けれたとして、彼の背後にいる装者達や本部は跡形も無く消し飛ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこの両手に束ねるは人々の悲しみ、怒り。ーーー

 

 

静かに目を閉じ、右手には青、左手には黒の光が宿る。

 

 

ーーー金色(こんじき)の鎖から邪竜は解き放たれ、竜は巨悪を噛み砕く。ーーー

 

 

二つの光が宿った両手を腰付近まで持っていくと二つの光を合わせると大きな藍色の光の玉となる。

 

 

ーーー全てを喰らえ。ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを呑み込む竜の咆哮!!!(ファヴニール・モルガァァァン !!!)

 

 

カッと開眼し、両手を突き出すと巨大な藍色の閃光を放った。

橙と藍色の衝突。その際に生じた余波は凄まじいものだった。風圧でソーラーパネルの残骸が吹き飛び、海が激しく波打つ。

どちらもほぼ互角と思ったが、徐々に奏空が押されていた。奏空の放った閃光はキャロルよりも二回り程小さかった。

 

 

「どうしたっ!?それがお前の全力かぁっ!!だとしたら拍子抜けだなぁっ!?被害のことを考えていた所為で力量を間違えたかぁっ?」

 

 

「………………………。」

 

 

「何も言えないかぁっ!!どの道貴様はここで死ぬんだっ!!全員仲良くあの世で悔やむがいいっ!!ふはははははははははははははっ!!!」

 

 

ズズッ

 

 

既に橙の閃光は彼の眼前まで迫っていた。最早何もしても間に合わない様子だった。

 

 

ズズズッ

 

 

…………そう確信していた。

 

 

彼の閃光の上と下に何かが生えてきていた。

それが徐々に這い上がるように出て行くとそれは生き物の一部にも見えた。

 

 

竜の(あぎと)

上顎と下顎が生え、横から見ると完全に竜の頭の形となっていた。

そして…………。

 

 

 

邪竜は橙の閃光を呑み込むように喰らい、彼女に近づくと段々大きくなる。

 

 

「そん…………な……ことが…………。」

 

 

橙の閃光を全て喰らった竜は彼女の眼前まで来て、その巨大な口を大きく開ける。

無防備なキャロルをかぶりつくように呑み込んだ。

 

 

 

「がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

 

断末魔を上げると爆発せずに藍色の閃光は黒が混じった紫の光となり、天高く光の柱が地上に生えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「嘘…………たった一人でキャロルちゃんに勝ったの…………?」

 

 

響達は未だに目の前の光景が現実だと思えなかった。満身創痍だった彼が、新たな力で姿ごと変貌し、その力を思う存分行使し、キャロルを打ち負かした。

それもシンフォギア由来の力では無くハザードモジュールという異端の技術を用いて………。

 

 

「………あれ?奏空くんは?」

 

 

先程までいた場所にいつの間にか、彼の姿は消えていた。煙が晴れて視界が開くとそこには一同驚愕した。

 

 

「野郎………っ!!」

 

 

「キャロル………!!」

 

 

そこには大人の姿では無く、ファウストローブが解除された、少女の姿のキャロルが立っていた。

纏っているローブもボロボロになって、帽子も無くなっていた。

 

 

「…………やってくれたな………オレをここまで追い込むとは…………。」

 

 

ダウルダブラは損傷し、今の彼女は戦いそうになかった。

 

 

 

「キャロルちゃん………どうして世界をバラバラにしようなんて………。」

 

 

「……………忘れたよ。理由なんて思い出を償却、戦う力と変えた時に……………お前達は踏み越えてはならない領域に足を着いた…………。」

 

 

「ダインスレイブはその刃に血を浴びないと決して納めることが出来ない呪われし呪剣………その呪われた旋律で誰かを救えるなどと思い上がるな………。あいつにも言っておけ…………ハザード トリガーと言う『禁断の制御装置』で悪魔となりゆく力で人々も守るなどと………。」

 

 

懐にしまっていたテレポートジェムを取り出そうとした瞬間ピタリと口と共に止まった。

 

 

そう言えば奴はどうした?

 

 

ここに(くろがね)の悪魔の姿が見当たらない。

 

何処かに転移した?

いや、あり得ない。転移するとしても目的が無い。

 

 

ならば先に帰投した?

今の状態の奴にそんなことを考えるか?いや、もしかしたらあの装置が脳に指示して帰投せよとしたのもあり得ないことは……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待てよ、脳に指示する…………?

 

 

そう思っていた直後急に視界が上に上がった。誰かが右腕を握っている感触が伝わった。

首を少し後ろに向けるとそこには光が消え、無機質なオッドアイを向ける悪魔の姿がいた。

 

 

「き………さま……………。」

 

 

「…………………………………。」

 

 

相変わらず無言のまま彼女を見つめる。最早抵抗することも出来なくなった彼女をどうするのだろうか?

 

 

彼の出した答えはこうだった。

 

 

キャロルを真上へ投げつける。

そんなに高くない。彼の頭の4つ分ぐらい。それでも時が遅く感じた。

 

 

そして彼は腰を落とし、右腕を突き出して構えを取った。

 

 

ーーー…………まさか…………。ーーー

 

 

「やめて奏空ぁっ!!」

 

 

凛音は気付いたのか彼に向かって叫ぶが時既に遅し。

 

 

 

落下するキャロルの胴体の真ん中目掛けて、右腕で彼女の体を真っ二つに裂いた。

 

 

飛び散る鮮血、裂いた箇所から覗く内臓。

 

 

ゴロリと上半身と下半身に分かれた彼女は絶命した。

 

 

「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

「っ!!これはっ…………!!!」

 

 

「アイツッ!!!」

 

 

「ッ!!!」

 

 

響は泣き叫び、翼とクリスは戦慄し、凛音に至っては口を抑えて絶句していた。

あまりにも無慈悲な殺り方でキャロルを殺めた光景は見るに耐えなかった。

 

一方で、彼は右腕にベットリと赤黒い血を暫く見つめてニチャニチャと音を立てながら掌を閉じたり開いたり、閉じたり開いたりしていた。黒いマスクには赤い返り血が付いていた。

そして上半身の方を一瞥するとゆっくりと近づき一番上の箇所、頭に当たる部分まで到達した。彼女の頭に片脚を乗せるとググッと力を入れ始めた。

今度は彼女の頭を…………。

 

 

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

すると彼の足元にビームブーメランが突き刺さり、今ではメーターとなっている彼のコアに長刀を叩き込んだ。

接触した部分が火花を散らすと彼は光に包まれ、転倒しながら元の服装に戻った。

 

 

「……………う、こ……こ……は………?」

 

 

頭を抑えながら彼はゆっくりと起こす。

 

 

 

「っ!!そうだっ!!アイツは!?切歌と調をやった自動人形(オートスコアラー)は!?アルカ・ノイズはどうなったっ!?」

 

 

装者一同に訴えるように尋ねる奏空。

彼が言っていることに装者達は一人を除いて呆然としていた。

 

 

彼が言っていることはかなり前のことだった。

切歌と調は無事に回収され、ミカはキャロルが時間稼ぎをしている間にもうこの場にはいなかった。

 

 

「っ?どうしたんだよみんな…………。」

 

 

彼が起き上がろうとしたその時。

 

 

ベチョリ

 

 

左手に生暖かい感触を感じた。

見てみるとそこにあったのは血。人の血だ。その血を辿って目で見ると彼は目があってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下半身が無く、目の光が消えた少女の瞳と。

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!」

 

 

曇天の下で一人の少年の声が響いた。

 

 

 





……………はい。
反省はしています…………。
だが、後悔はしていないっ!!!!(やかましいわ

えー、と言うわけでかなり惨い死に方をしたキャロルちゃんですが、どうせ生き返るからやん(オイ


ようやくシンフォギアにハザードフォームをぶち込むことが出来ました。
初めて見たときに「これだっ!!!」と思って創造した結果が今回の話です。
重ねて言いますが、最後が中々グロい終わり方ですみません。許して下さい!何でもしますから!(何でもするとは言っていなry


それではまた次回も楽しみにして下さい!




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第8話 力の種類


待たせてしまい本当にすみませんでした。
8月はリアルでガチで忙しかったです。今後は更新ペースを上げていきたいです。


「皆、先程の戦闘及び救出、復旧活動ご苦労だった。」

 

 

『……………。』

 

 

労いの言葉をかける弦十郎だが、一同は何とも言えない状態だった。

キャロルとの戦闘後、発電施設内に逃げ遅れた職員を救出し、斬り倒されたソーラーパネルの支柱や、パネルの残骸などの処理を手伝った。

幸い施設内にいた職員はシェルターに立て込んでいたので大半の職員が無事だった。

しかし、発電施設の方は激しい戦闘の余波によって発電施設としての機能は使えなくなった。

 

 

「ギリギリのところでエルフナインくんが完成させた強化型シンフォギアのお陰でアルカ・ノイズと難無く戦闘でき、新たに搭載されたイグナイトモジュールを起動することが出来た。…………強化型ギアの完成までの時間を稼いでくれた彼のお陰だが…………。」

 

 

弦十郎は彼女達の奥に目をやる。それに釣られて装者一同は後ろにいた人物に注目する。

疲れきった顔をして窶れかけている奏空は顔を俯かせていた。

キャロルとの戦闘の後、彼はすぐさまメディカルルームにて精密検査した。

最初こそ暴れていたが鎮静剤を打ったら大人しくなった。しかし問題はその鎮静剤の量だった。

一本だけではまるで効果が無く、二本、三本、とも同じ様子で四本目からは暴れなくなり、五本目で完全に大人しくなった。

これを見た医療班達は雲行きが怪しくなりがらも精密検査を開始した。

 

 

「単刀直入に聞こう…………。()()は何処で手に入れた?」

 

 

「……………。」

 

 

「………………奏空くん、俺は責めているわけではないんだ。だから………「翼さんとマリアのライブが行われた日に、宅配便で入ってました。」っ!」

 

 

疲れきった声で答えた。

差出人の名前も書かれておらず、中に入っていたのは灰色のハザードトリガーと二つのフルボトル。しかも手に入れたのはかなり前の日だった。

 

 

「………何故黙っていた?」

 

 

「…………………知らなかったんです。あんな風になるなんて………。」

 

 

「違う!何故俺達に相談しなかったのだっ!?」

 

 

「…………………よくわからないけどまぁいいかと思って相談しませんでした………。」

 

 

はじめはスイッチ部分を押しても何も起こらなかったので変なものと思っていた。

しかし、あの時ふとこれを持っていこうと思ってしまったのだ。

何故なのだろうか。場違いなことだが、『男の勘』というものなのか。

それとも彼の中の本能がそう言ったのだろうか。

 

 

「…………もう一つだけ尋ねる。……………あの形態は知っていたのか?」

 

 

「知りません。」

 

 

即答だった。

さっきまでは少し黙ってから発言していたが、この質問だけは即座に答えた。

 

 

「…………あの映像の男は知っていたのか?」

 

 

「……………検査の時によく診てくれていたのは覚えています。」

 

 

彼が目覚めた後、送られてきた例の記録映像を見せた。確かに本人も面識があると言っている。

検査の内容はほとんど覚えていないとのこと。恐らく記憶操作の影響で過去の記憶がうろ覚えなのだろう。

 

 

 

さて、次は今後の彼の処遇についてだ。

精密検査の結果、損傷した部分がまるで最初からなかったことになっていたように元通りに戻っていた。

これ以上戦わせると彼は人としてなくなるかもしれない。人ではない何かに………。

まずこれから起こる戦闘には絶対に参加させない。そして彼の体にあるネビュラガスを何としても取り除くこと。

弦十郎がこれからのことを彼をに伝えようと口を開こうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………もう、いいんじゃないですか?」

 

 

空気が一瞬詰まった。

ふてぶてしく言った彼の顔はうんざりしていていたように見えた。

流石の弦十郎の表情が一層険しくなる。

 

 

「………どう言うことだ?」

 

 

「そのまんまの意味ですよ。もう倒すべき敵を倒したのに何をそんな切羽詰まるんですかね?」

 

 

普段ならありえないことを淡々と言う奏空。吐き捨てるように言うがさらに続ける。

 

 

「残りの人形共は………まぁ何とかなるでしょう。それらを命令する親玉を倒したんだし今はそれでいいじゃないですか。なのに何でそんな………。」

 

 

「テメェいい加減にしろよっ!!」

 

 

我慢の限界だったのかクリスが胸ぐらを掴む。身長の低い彼女だが、勢いよく掴んで近くまで顔を持っていく。

 

 

「お前の所為でどんだけの被害が出たと思ってんだっ!!下手したら死亡者が出ていたんだぞっ!!」

 

 

「…………じゃあどうしろって言うの?土下座しろってならするけど…………。」

 

 

ゴッ

 

 

鈍い音が響いた。左頬を殴られて尻餅をついた。

 

 

「お前ぇっ!!」

 

 

「止せ雪音っ!!」

 

 

「クリスちゃん落ち着いてっ!!」

 

 

クリスは響と翼に取り押さえられ、切歌と調が彼に駆け寄る。殴られた箇所を拭うって立ち上がる。

 

 

「…………一つ聞いていいですか?」

 

 

「あ"あ"っ!?」

 

 

声を荒げながらも彼の質問に耳を貸す。

 

 

「そんなに怒ってて逆に疲れない?」

 

 

ブツッ

 

 

何かが切れた音がしたような気がした。

 

 

 

「上等だよテメェッ!!ヒト舐めんのも大概にしろっ!!!」

 

 

彼のやるせない気抜けた声音が逆に神経を逆撫でした。翼と響が必死に取り押さえられながらも彼は淡々と続ける。

 

 

「はぁ…………何でこんな怒られなきゃいけないんだろ…………敵倒しったってのに………こんな責められてきゃいけないんだよ…………。」

 

 

 

もういいじゃないか。勝ったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシンッ

 

 

渇いた音が室内に響いた。

唐突の出来事で一瞬理解が遅れた。左頬にまた痛みが走ってきた。

気が付けば険しい顔した姉が目の前に立っていた。それでいて脳がようやく理解できた。彼女に自分は平手打ちされたのだ。あんなに怒った顔をしたのは初めてかもしれない。

そして彼の目の光がスゥーと消えていってむくれた顔になる。

 

 

「…………あぁそうかい、わかったよ。こんな奴らとは思わなかった。…………これで終わりか?せっかく一つになれたってのに…………。」

 

 

そう言い捨てると彼は凛音を通り越してモニター室から出て行った。

 

 

「奏空くんっ!!」

 

 

「行くなっ!立花響っ!!」

 

 

「っ!でもっ!!」

 

 

「…………今は……そっとしてあげて…………。」

 

 

マリアが視線を移すと涙を流して泣き崩れる彼女の姿が映った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「(………何やってるんだろ俺……………。)」

 

 

これを思うこと実に5回目。奏空は本部から出て街を歩いていた。

所持品は何も持っておらず、携帯どころか財布すらも持って来なかった。

別に目的もなく今はブラブラしている。こうでもしないと何処かで腐ってしまうからだ。

 

 

だからとてこの濁った気持ちが元に戻るなんて思っていない。

色んな色を混ぜると最終的に黒っぽくなる。それは決して白にはならない。

と、言っても今の気持ちはもう真っ黒になっているだろう。

今後の自身の処遇はどうなるのだろうか。まずシンフォギア装者を降ろされるのは確実だろう。それで本部の下に監視されて当分そこに移住すること間違いなし。

あと思い当たるのは医療班による治療。最悪手術されるかもしれない。

さて、どうしたものか………。

 

 

今後のことで若干嫌がっていると通行人とぶつかった。

 

 

「っと、すいません。」

 

 

「………………。」

 

 

謝ってそのまま立ち去ろうと急に後ろに引っ張られる。ぶつかった男が襟を引っ張ったからだ。

 

 

「ちょっとツラ貸せや。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

無雑作に投げられゴミ箱に頭を打ち付ける。目の前にはガラの悪そうな男が三人。一人は茶髪。もう一人は黒髪ピアス。そしてもう一人はプリンヘッド。

如何にもと言った感じの者だった。俗に言う不良と言う奴だろう。

 

 

「いやぁ〜さっきので腕折れたわ〜。5万?いや、10万だなこりゃ。」

 

 

つまり金を寄越せってか。

生憎こちらは財布どころか金目の物は所持していない。と言いたいところだが、そんなこと言えば殴られるに違いない。

 

 

「………………さっき謝ったじゃないですか。」

 

 

「あ"あ"ぁ"?知らねぇよんなこと!!」

 

 

倒れたままの彼に茶髪が腹に蹴りを入れる。肺にあった酸素が一気に口から吐き出る。

 

 

「ごめんで済んだら警察入らなんだよっ!!」

 

 

少なくともお前らが使っていい言葉ではないと思う。黒髪ピアスが近づいて耳打ちしてくる。

 

 

「悪りぃな。今あいつ気が立ってよ…………。金出せば殺さないと言っておく。」

 

 

「るっせぇなっ!!!こいつがぶつかったのが悪いんだろっ!!?」

 

 

「まーまーそう怒るなって。ほれ、コーラ。」

 

 

「で、結局持っているのオカネ?」

 

 

再度黒髪ピアスが聞いてくる。

 

 

「……………何も持ってません。」

 

 

「………だってさ。」

 

 

「どうする?」

 

 

「どうするってそりゃお前…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺し確定でしょ。

 

 

 

そう言った途端黒髪ピアスとプリンヘッドが無理矢理立たせる。

茶髪が目の前に立ってボクサーのような構えを取る。

 

 

「最近ボクシングの本読んでよぉ〜。覚えたてだけど少しマシになった………ぜっ!!」

 

 

男の右ストレートが腹にめり込む。更に止めることなくジャブ、ボディブローと止むことなくパンチの嵐が襲う。

およそ5分にも及ぶパンチがようやく止んだ。

黒髪ピアスとプリンヘッドが拘束を解くと、今度は直接茶髪が壁まで追い込んで背中を打ち付ける。対象が逃げないように。

 

 

「よーし。とっておきの行きまーす!」

 

 

「おぉ!やったれ殺ったれ!」

 

 

「外すなよー?」

 

 

「外すかよこの距離で!」

 

 

何やらワイワイ騒いでいるが、こちらは腹やら、顔やら殴られて満身創痍だ。

 

 

 

…………なんでこうなったけ?

 

確か普通に歩いてて、ぶつかって謝ったけど連れてかれてカツアゲされてボコられて今に至る…………。

 

 

何だよそれ。急に現れて、急に襲い掛かってボコられる…………。これじゃあまるで…………。

 

 

 

茶髪が振りかぶって彼の顔に右ストレートを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

「あ?」

 

 

放たれた右ストレートはギリギリのところで届かなかった。

それは彼の左腕が茶髪の右腕を掴んでいたから。

 

 

「……………お前も()()()と同じなら…………。」

 

 

「あ?何だよ?クソッ離せっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前も悪だ。」

 

 

グチャッ!!

 

 

何やら砕ける音がした。

見てみると茶髪の掴まれた箇所がダラリと垂れていた。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!?!?う、腕がっ!!俺の、腕があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?!?」

 

 

握撃。

片手だけで男の腕を折った。

茶髪が右腕を抑えて蹲る。

 

 

「て、テメェッ!!」

 

 

今度は黒髪ピアスが殴り掛かってきた。しかしこれを彼は避ける。左から来ても避ける。更に避ける。

 

 

「く、クッソッ!!何で当たんねぇんだっ!!」

 

 

愚痴りながら当たりもしない拳を振るう。それもそうだろう。彼にとって男の放つ拳が()()()()()()()()()のだから。

避けるのも飽きてきたので反撃に出ようと彼は一瞬にして黒髪ピアスの懐に入る。

 

 

「しまっ………。」

 

 

そして男の喉元に強力な肘打ちを炸裂。吹き飛ばされて壁に衝突し、白目を剥きながら泡を吹いて失禁した。

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!バ、化け物ぉっ!!!」

 

 

仲間が屠られるのを目の当たりにしたプリンヘッドが悲鳴を上げて逃げる。

 

 

化け物………ねぇ。確かに今の自分にピッタリかもしれない………。

 

 

茶髪が飲もうとしていた缶コーラを拾ってプリンヘッド目掛けて投げる。

豪速球と化した缶コーラはプリンヘッドの後頭部にクリティカルヒット。

当たった瞬間に裂傷したのか頭から血を噴き出して倒れた。破れた缶コーラから流れるコーラと混ざって血が分からなくなる。

そして足元で芋虫のように地を這いずって逃げようとする茶髪を頭部を思い切り踏んづけて停止させる。何かが潰れた音を立てると鮮血が広がっていった。

 

 

全ての事を済み、口元を拭うといつの間にか血が止まっていた。

まるで最初からなかったかのように………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

化け物。

人間ではないナニか。また、人間でなくなった別の生き物。

正に今の自分にピッタリな名称だった。

それは何故か。

自動人形(オート・スコアラー)との交戦時に死んでもおかしくない状態に陥ったのにも関わらず、ハザードトリガーを用いたその後、全くの外傷が見られなかった。

その理由は恐らく体内のネビュラガスによる再生能力。欠けた部分をネビュラガスが埋めるように擬似的な再生を施したのだろう。

そしてギアを纏ってなくての化け物じみた力と動体視力。男子高校生で握撃で骨を折ることが出来るのだろうか?肘打ちで人間を殺せるのだろうか?缶コーラで人を殺せるのだろうか?

あの男が叫んだ言葉が再び脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………この際丁度いいかもしれない。

化け物………。結構じゃないか。

装者どころか人ですら無くなった自分にピッタリな名称じゃないか。

そしたらなんで歩き回っているんだっけ?あぁそうか無くなったんだっけ、居場所。

まぁ居場所なんて適当に選んでひっそりと生きようじゃないか。

 

 

そう心に決めると動かしていた足が止まった。視線の先は何の変哲のない公園があった。

 

 

 

綺麗さっぱりに無くなった傷をトイレで洗い終えてベンチに腰を下ろす。

一日中歩いた所為かどっと疲れた。

もう日が暮れている。このまま眠って一日目が終了して…………。

 

 

 

 

 

「あれ?お兄ちゃん?」

 

 

…………しなかった。

閉ざそうとした瞼を開けるとそこには自分よりも歳がかけ離れた男の子が不思議そうに見ていた。しかもその男の子は見たことがあった。

 

 

「君はあの時の………。」

 

 

「うん、あの時助けてくれてありがとう!」

 

 

カッシスと遭遇する前に火災から救助した男の子であった。

確か救助した後、彼の姉と合流したのだが………。

 

 

「………えっと、お姉ちゃんは?」

 

 

「それが遊んでいる時に逸れちゃって………お兄ちゃんはどうしたの?」

 

 

「俺は………ちょっとあってここに…………。」

 

 

「そっか………。」

 

 

男の子は彼の隣に座る。

 

 

「君はどうしてここに?」

 

 

「うん?それは来るから。」

 

 

「来るって………?」

 

 

「お姉ちゃんが。」

 

 

ズシリと彼の心に何かがのしかかる。

 

 

 

「…………なんでわかるの?」

 

 

「それがね、ここに来ればお姉ちゃんは必ず来るんだよ。」

 

 

「必ず………。」

 

 

また重くなる。

ここに来れば必ず姉が来る。

今心の状態がアレなのにそんなことを聞いたら本当に来そうで怖かった。

 

 

「例え喧嘩してもね、僕がここに来れば必ずと言っていいほどお姉ちゃんは来るんだよ。」

 

 

「…………それはなんで?」

 

 

「ん〜。姉………だから?」

 

 

「姉………。」

 

 

「お姉ちゃん言ってた。『貴方より先に生まれてきて貴方のこと見てきたからわかるのよ。』って。」

 

 

「…………。」

 

 

もう何も言えなくなった。

というか今の彼には辛すぎた。自分から逃げたのに今になって戻りたいという気持ちがほんの僅かだが、芽生えてきた。

 

 

「あ、来た!」

 

 

視線の先には男の子の姉が半ば息を切らしてこちらに来ていた。

 

 

「やっぱりここにいたのね。」

 

 

「だってここに来ればお姉ちゃんが来るし。」

 

 

「もう………あ、貴方はあの時の………。あの時はありがとうございました。」

 

 

「え、あ、ああ…………。」

 

 

「またねー!お兄ちゃん!!」

 

 

「………うん。」

 

 

ブンブン手を振る男の子に対して少しだけ手を上げて振って応えると、二人は公園から離れて行った。

ようやく一人になれた奏空。

だが今の気持ちは複雑でいた。心に何か靄がかかってようでスッキリしない。

 

 

それは何故?

 

 

…………知らない。

 

 

迎えに来てもらいたいんじゃ?

 

 

 

違う!そんなことない!!

 

 

 

じゃあなんでそんなモヤモヤしてる?

 

 

 

それは………。

 

 

 

脳内会議をする中、思いたある節があることがあった。

 

 

 

 

 

彼が誰かと出会う時にはいつもこうだった。

 

 

 

ノイズから逃れ、凛音と生き別れとなって隅で泣きじゃくっていたら声を掛けられた。

見上げると二人の少女と出会った。今で言うマリアとセレナだ。

 

 

その後施設で本を読んでいると声を掛けられた。見上げると二人の少女が遊ぼうと誘ってくれた。

今で言う切歌と調だった。

 

 

 

そしてそれ以前に、

 

 

 

 

 

 

 

家族もいなく、独りぼっちになって泣きそうになると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏空………。」

 

 

 

そこに凛音(彼女)がいてくれた。

 

 

凛音には今の自分がどう見えているのか、眉が垂れ下がっていた。

そしてゆっくりと手を差し伸べて口を開いた。

 

 

「帰ろう…………。」

 

 

そう聞いた瞬間彼女に抱き着いた。最初こそびっくりしたものの、彼の髪を撫でる。

そして久々に、本当に久々に大声で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「本当にすみませんでした。」

 

 

再び本部に戻って彼は一同の前で謝罪していた。

 

 

「許さないことをしたのは重々承知です。ですが、どうかもう一度、もう一度だけチャンスを下さい………。」

 

 

弦十郎の前で深々と頭を下げる奏空。

さっきまでとは違っていつもの彼に戻ったのだが、しばし彼を見定めると口を開いた。

 

 

「奏空くん、これを見てくれないか?」

 

 

顔を上げると真剣な面持ちをした弦十郎がモニターを起動させた。

そしてそこには見覚えのある男性が映っていた。

 

 

「これは送られてきた記録映像の残り時間にあった記録だ。」

 

 

そして再生させると映っていた男性がカメラの前でパイプ椅子を持ってきて座る。調整し終えると真剣な表情になる。

 

 

『研究の成果を披露するのはさっきので終わったが、ここから僕個人のメッセージを残しておく…………。

確かにハザードモジュールは膨大な力だ。だが、僕が作り上げたハザードモジュールはほんの一例だ。つまりまだ他にも使い方がある。

言い方を変えれば人を救う為にもなれる。壊すことだけが力じゃあない。

創ることだって力の部類に入る。奏空くん、君は壊す方よりも創る方が向いていると僕は思う。

壊すことは一人で出来るが、創ることは多人数で出来ることが多い。

だから奏空くん。一人で抱え込まないでくれ。君は何でも抱え込みやすい。他人に迷惑をかけたくないという気持ちはとてもわかる。だけど君には仲間がいる。それに中には君のことをとてもわかっている人もいるはずだ。だから………この力で君の思う、『明日』を創ってくれ。………僕からは以上だ。では………。』

 

 

そこまでで記録が終わる。

モニターを消すと弦十郎と向き合う。

 

 

「奏空くん。俺達はただ敵を倒せばいいというものではない。最初から一人で全力で潰すのではなく、仲間と共に助け合って敵に立ち向かうんだ。だから奏空くん、今度から一人で抱え込むのではなく、俺達を頼って欲しい。」

 

 

彼は回りを見渡す。

そこには笑顔で自分を迎える者達が写っていた。またしても申し訳ない気持ちになった。

今まで気付いていなかった所為で自分は………。

 

 

「ほらもう泣かないの。」

 

 

凛音が近付いて彼を両手で包み込む。

とても暖かった。

 

 

「おかえりなさい。そして………これからもよろしくね奏空。」

 

 

「グスッ…………よろしくお願いします…………。」

 

 

既に溢れている涙を押し殺して振り絞るような声で言った。

そして次第に抱き締める力が強くなっていくのがわかった。

 

 

「……………オイッ!!いつまで磁石みてぇにくっ付いてんだっ!!離れろよ!!」

 

 

我慢出来なかったのかクリスが声を荒げる。心なしか顔がほんのり赤みを帯びていた。

 

 

「あら?もしかして羨ましかったの?」

 

 

「先輩彼氏いないからね、しょうがないねってあ"あ"あ"あ"ウソウソ!!ジョーダン!ジョーダン!!」

 

 

笑顔だが目が笑ってなく、奏空を追い掛け回すクリス。

外れた歯車がまたくっついて噛み合った。

 

 

 

「ちょ、マジで許して!!カバディカバディカバディカバディ………。」

 

 

「私を挟んでカバディしないでぇっ!?」

 

 

5分ぐらい響を挟んでカバディ状態になったとか。

 

 

 




カバディってどういう遊びだったけ?(ググれ
次回は早くに投稿します。
そうするように頑張ります。


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第8.5話 警告:奏空、暴走中

今回は書いている途中で、絶対長くなるだろうと思い、二つに分けました。
近いうちに投稿しますので楽しみ待って下さい。
あと今回は微エロ注意です。


それは四季の中で一番暑い季節。

 

 

それは楽しい行事やイベントがある季節。

 

 

それは必ずしも誰もが遊びに行く場所がある季節。

 

 

 

その場所の名は『海』。

多くの人々が、家族や友人と共に戯れる自然が生み出した観光地。

 

その浜辺に一人の男が佇んでいた。

女性と思う程の肌の白さを持ち、男にあるまじきくびれを持つ腹部はゴツくなかった。本人曰く筋肉が付きにくいとのこと。その下には迷彩柄のスイムパンツを着用していた。

さて、そんな彼の後ろにいるのはワイワイ遊んでいる装者達。

何故彼が背を向けているかと言うと………。

 

 

「奏空く〜ん!遊ばないの〜?」

 

 

「やめろこっちを向かせるな!」

 

彼を腕を引っ張る響だが、その格好は彼女の纏うギアと同じ黄色のフリル付きのビキニを着用していた。他にも中には彼女と同じく女子高生にも関わらず、平然とビキニの姿の装者がチラホラいた。

思春期真っ盛りな彼にとっては少しいや、かなり刺激が強すぎた。今だって直視出来ないでいる。

そんな場所に彼は何故いるのか。その理由は先日、切歌、調のギアの改修が完了し、セレナのアガートラームを新調させて実戦配備にすることが出来た。弦十郎がその身体慣らしの特訓ということで政府が保有しているビーチにいるのだ。

 

 

大体近頃の女子高生は無防備すぎる。調はワンピースタイプに、未来は競技水着のように全身包むんでいるタイプだがそれ以外は全員ビキニだ。

そんな中に男一人だけだととても居心地悪い。

 

 

「そんなところいないで一緒に行こ!」

 

 

「お、おおおおおう。わかったからひひひ、引っ張るなっ!!」

 

 

彼の腕を引っ張た際に彼女の双丘に当たってしまう。

一気に顔が赤くなって挙動不審になる。だって柔らかいんだもん。

 

 

「奏空〜、どうデスか私達の水着!」

 

 

「似合ってる?」

 

 

「ゑ"!?いや、どうって、言ったら、似合ってるんじゃ

、無いデスカ…………?」

 

 

切歌の黄緑のビキニを目の当たりにして片言気味になってしまう。

 

 

「やった〜!奏空を悩殺出来たデス!」

 

 

「むう………。奏空ってやっぱり大きい方が………あ、逃げた。」

 

 

それ以上聞きたくなかったのでその場から逃げた。断じて彼はムッツリではない。

しかし逃げた先は余計に地獄だった。

 

 

「何やってんだよお前………。」

 

 

「っ!!!」

 

 

最初に出会ったときからわかっていたが、かなりのボリュームのある双丘を目の当たりにし、体が硬直してしまう。

赤いビキニを着たクリスと対峙して思わず生唾を飲んでしまう。

 

 

「そんな堅くならないで柔らかくやれよ。」

 

 

「………さぞかし柔らかいんでしょうね…………。」

 

 

「は?何言ってんだお前。」

 

 

ハッと我に返り、そそくさとまた退散する。第一あんな体をしているクリスが悪い。

そして次に遭遇したのが…………。

 

 

「む?さっきからどうしたのだ枢木?」

 

 

水色のビキニを着た翼だった。彼女は比較的女性装者の中では控えめな方だが、彼が着目したのはそんなのじゃなかった。

 

 

「(うわっほっっっそ!!脚とか腹とかほっっっそ!!!)」

 

 

防人として研ぎ澄まされた肉体美を凝視して感想を漏らしていた。

普段はわからなかったが、比較されがちな胸部を十分に補っている細い四肢や、美しい女性特有のくびれは本当に美しかった。

あの色白い美脚を満足するまでスリスリしたい………。

 

 

「(………って、なぁぁぁぁぁぁにを考えているんだ俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?)」

 

 

「枢木っ!?」

 

 

頭を抱えながら翼を通り越して逃げた。

というかさっきから様子が変だ。響の水着を見てからどうも思考がおかしい方向へ行っている。

 

俺ってこんな変態だったけ?

 

自分でそう思う程、彼の思考は暴走していた。次に誰かと出会ったらもう止まらないかもしれない。

 

 

「もう、そんなに張り切っちゃってどうしたのかしら、騎士(ナイト)さん?」

 

 

とても聞き覚えのある声がしたので、向いちゃダメだけど向いてしまった。さっきまでの出来事を見られたのだろうか。

 

 

「い、いや!違うっ!違うんだっ!!これはその………。」

 

 

言葉を濁しながら振り返ると。

 

 

「?どうしたの?」

 

 

そこには女神がいた。

 

 

BGM「熱き決闘者たち」

 

 

どう表現したらいいのだろう。

赤と黒を主体として、彼女の豊かな双丘を隠していた。それだけでなく、翼に引けを取らないくびれを持ち、橙色のパレオからは黒と赤のビキニパンツが覗かせ、スラリとした美脚は本当に美しかった。

サングラスをかけ、モデル顔負けのプロポーションを放つ彼女は女神と言っていいほど過言ではない。

その輝きを浴びて彼は惚けてしまっていた。

 

 

「奏空?どうしたのさっきから?ちょっと変よ?」

 

 

「……………。」ガクッ!

 

 

「え、えええ!?」

 

 

思わず膝を着いて崩れてしまう奏空。

女神的な光を浴びて心が浄化されたのだ。自分は今まで何て事を考えていたのだろうか。

仲間であり、剰え家族を下心全開で感想を述べていた自分が恥ずかしい。穴があれば入りたい。

今までの自分を反省すべく、困惑しているマリアを残してその場を去って行った。

それにしても彼女は本当に美しかった。いや、もう言葉で表現できるレベルではなかった。

兎に角美しかった。もうこれ以上の言葉は無…………。

 

 

「そ、奏空…………。」

 

 

しかしここで彼は誤算をしてしまう。

彼を呼んだ声で条件反射的に振り返ってしまった。まぁそれは当たり前だが。

だが、問題は視界に映った者だ。

彼を呼んだのは紛れもなく凛音だ。水着姿のマリアを見て消えかけていたのがまた出てしまった。

 

それなりの大きさを持つ双丘を包むのは紫のビキニ。翼と同じタイプだが、あの時は脚しか見てなくて一番大事なものを見落としていた。

 

 

紐 パ ン

 

 

そう。下は紐で結ぶタイプのビキニパンツだった。それに加えて今の彼女は恥ずかしいのか頰を赤らめ、右腕で双丘を抑えていた。

柔らかく形が歪む双丘を凝視して消えていた下心が再び浮上した。

ここまではさっきと同じ流れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女があの一言を発していなければ。

視線に気付いたのか凛音が顔を赤らめ、一言零す。

 

 

「やだ奏空…………恥ずかしい………。」(ボソッ)

 

 

ブツ

 

 

瞬間、彼の中で何かが千切れた。

男としての大事な何かが。

 

 

「そ、奏空?どうし………ひゃっ!?」

 

 

急に動かなくなった彼に声を掛けると、彼に押し倒された。

更に、その上から彼が逃すまいと言わんばかりに四つん這いになって彼女の右腕を掴む。

いきなり過ぎて戸惑う凛音だが、ここであることに気付いた。それは彼の表情だった。

 

呼吸が荒く、耳まで真っ赤で目の焦点が合ってなく、その掴む手も震えていた。更に心なしか半泣きだった。

彼はもう限界だった。散々見てきたものが彼の欲求を湧きに湧き上げ、最終的にそれを抑える制御線が千切れた。

まだ彼には早過ぎたかもしれない。これ以上彼を苦しめるわけにはいかない。

そう判断した彼女は………。

 

 

「………いいよ奏空。好きにしても………。」

 

 

「…………ごめん………。」

 

 

「謝ることはないよ。ホラ………一緒に行こう…………。」

 

 

そう言うと彼は意を決したのか目をつぶって彼女の唇に近付ける。

凛音を意を決してゆっくり目を閉じる。

そして二人の唇が重なり合って……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁにやってんだお前はぁぁぁぁっ!!」

 

 

「ヘブッ」

 

 

 

接触する前にクリスの蹴りが彼の横腹に入って海辺に吹き飛ぶ。そしてそのまま海にダイブし、両足が海に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「日中から何をやり始めようってんだお前はっ!!そういうことは家でやれっ!!」

 

 

「…………すみませんでした。(家でなら良いのか(困惑))」

 

 

その後彼は下心で見ていた女性陣の前で正座をさせられていた。当然っちゃ当然だが…………。

 

 

「しかも仮にも姉弟だろっ!?家族にまで手を出してんじゃねぇよっ!!」

 

 

「だって………抑えきれなかったのです…………。ホラ、トイレしたいけど目の前にあるのは和式しかなくて我慢の限界に達して和式でやる。あれと同じさ………。」

 

 

「汚ねぇ例え方してんじゃねぇっ!!」

 

 

ゴツッと鈍い音を立てて彼の脳天に拳骨を放った。

しかし中には自分を女性と見てくれて内心嬉しがっている者がチラホラいた。

かく言うクリスもほんのちょっと嬉しかったりして…………いや無いか………。

 

 

「と・に・か・く・!!次そんな下心な目で見て来たら砂浜に埋めてお前でスイカ割りするからなっ!!」

 

 

「ちっ、うるせぇなぁ大体そんなもんぶら下げているそっちが悪いだろ(わかりました。今後とも無いようにします…………)」

 

 

「本音と建前が逆じゃねぇかっ!!やっぱコイツ埋めてやるっ!!!」

 

 

「フハハハハハハハハッ!!そう簡単に捕まるものかっ!カバディカバディカバディカバディカバディカバディ…………。」

 

 

「だから私を挟んでカバディしないでぇっ!!」

 

 

再びカバディの餌食になる響。その後隙を見計らって彼は逃げた。

 

 

「(…………成る程。)」

 

 

その中に、何かを思い付いた者がいたとも知らず。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ。やっと振り切れた………。大体向こうが悪いんだ………あんなのをさらけ出して………。」

 

 

反省の色が出ず、ブツブツ愚痴っている彼に更なる災難が訪れる。

 

 

「奏空………。」

 

 

思わず飛び上がり、錆びたブリキの人形のような音を立てながら恐る恐る振り返る………。

 

 

「大丈夫。私は怒ってないわよ。」

 

 

フフッと笑いを零したのは女神だった。

 

 

BGM『熱き決闘者たち』

 

 

再び彼の目の前に現れた女神マリア!しかもこの場には彼と彼女しかなく、逃げ場もない!

そんな中で彼は生き残ることが出来るか!?

次回「枢木死すっ!!」デュエルスタ「そんなことよりも………。」

 

 

「………は、え?」

 

 

彼女の右手に持っているのはちょっとしたビーチマットに、左手には白い容器が………。

 

 

「………日焼け止め………塗ってくれる?」

 

 

ピシッ

 

 

まるで石化したかのように体が固まった。

今何て言ったのだ?日焼け止めを塗れ?それは直で触ってもいいって言っているのと同じだった。

というかもう彼女は準備万端だった。日焼け止めを受け取り、うつ伏せになっている彼女に恐る恐る近付く。

もうここだけでも美しかった………。

その背中をまじまじと凝視した後、我に返りさっさとやろうと思い、日焼け止めを手で受けて塗ろうとする。

 

 

 

「んあっ………。」

 

 

すると日焼け止めを彼女に付けた途端、突如艶っぽい声を上げた。それに反応して思わずビクッと震えた。

そしてこちらを向いて来た彼女は顔を赤らめ、目をうるって彼に一言。

 

 

「奏空………もうちょっと優しく…………。」

 

 

 

ブツ

 

 

再び彼の中の何かが千切れる。

うつ伏せになっているマリアを無理矢理仰向けにし、凛音とやった時の同じように彼女の左腕を掴む。

そして彼の今の形相はさっきの2割り増しになっていた。もう女神とかどうでもいい。兎に角彼女を欲していた。

 

 

「大丈夫よ奏空………私は出来ている………。」

 

 

実はマリアは内心凛音を羨ましがっていた。どっちが彼への思いが強いかの勝負に負け、剰え彼のファーストキスを奪われてしまったのだ。

そこで彼女が思い立ったのはさっきの光景だった。彼のああいうのに耐性が全くないことを利用してここまで誘導したのだ。

回りくどいやり方だが、彼なら全然許せた。

そして彼と彼女の唇がゆっくりと重なり…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「血迷ったかっ!!枢木っ!!!」

 

 

「フゴッ」

 

 

しかし今度はそこに駆け付けた翼が、彼に飛び蹴りを放ってまたさっきみたいに海にダイブし、両足が浮いていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「まっっっったく反省してねぇなお前はよぉっ!!」

 

 

再び女性陣の前で正座。当たり前ちゃっ当たり前だが、マリアにも非がある気が…………。

 

 

「だって…………だって…………。」

 

 

「だってじゃねぇ!!日に二度もやる馬鹿がいるかっ!!」

 

 

「奏空………流石にこれは…………。」

 

 

「しかも相手がマリアなんて………大胆過ぎるデ〜ス。」

 

 

調、切歌に白い目で見られる奏空。

頼み綱で凛音の方へ向くが、目が合った瞬間プイッとそっぽ向かれる。この時かわいいと思ったのは内緒である。

 

 

「まぁまぁクリス。そこら辺にしてあげたら?私はまだ何もされてなかったし。」

 

 

「っ。けどよぉ………。」

 

 

「奏空も反省しているんでしょ?」

 

 

「はい………すみませんでした…………。」

 

 

「ホラ、本人も反省しているんだし。気を取り直してみんなで遊びましょう?」

 

 

渋々クリスが了承すると奏空に向き変えて言い放つ。

 

 

「次はねぇからなっ!!もし次同じことやってみろ!流刑だからなっ!!!」

 

 

背後に鬼が映る勢いで怒号を上げる彼女にコクコクと頷くしかない奏空。

フンッと鼻で息をしてズンズンと向こうへ行った。

 

 

「男だからしょうがないと思うけど…………場を考えて…………ね?」

 

 

「…………はい。」

 

 

「じゃあ行こうか奏空。」

 

 

そう言って凛音は彼の手を引いて皆がいる砂浜へ行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もうちょっとだったのになぁ。)」

 

 

その中でもう少しで彼から唇を奪われていたことを悔やむ者がいたのは誰も知らない。

 





中々の暴走ぷりでしたね。
何度も言いますが奏空くんは変態じゃありません。作者も変態ではありません。
近いうちに投稿します。書きたい話なのでそう遅くはならないと思います。次回もお楽しみ。


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第9話 白銀、黒になって………

また書いているうちに明らかに長くなるとわかったのでまた分けます。早ければ今日中に出せると思うので楽しみに待っていてください。


奏空の暴走(意味深)後、一同は浜辺でビーチバレーで遊んでいた。

ビーチバレー

通常のバレーとは違い二人1チームで行い、3セットマッチの2セット先取で勝利となる。また、ポジションも定めまってない。

現在は翼とクリスが響と未来と対戦していた。

 

 

「決めろ雪音っ!!」

 

 

「でぇぇぇりゃ!!」

 

 

翼が上げたトスをクリスがスパイクを放つ。叩かれたボールは響と未来の間を通り抜けて地面に着いた。

 

 

「ゲームセット、翼クリスチームの勝利。」

 

 

「っしゃあっ!!勝ち取りぃっ!!」

 

 

「中々やるがこちらの方が一枚上手だったな立花。」

 

 

戦闘でも発揮されたコンビネーションを駆使して攻守共々二人は完璧だった。

 

 

「翼さん、本気にしちゃってるよ…………。」

 

 

「肩を抜く為のレクリエーションだったのになぁ。ははは………。」

 

 

途中から本気になった二人に誰も手も足も出ずにいた。

 

 

「ホラどうしたどうした!!他にいねぇのか!?このまま私らが最強ということになるぞっ!!」

 

 

高飛車を上げるクリス。

そんな彼女の前にある二人が立ちはだかる。

 

 

「じゃあ今度は私達が相手ね。奏空、行ける?」

 

 

「え〜やったことないけどなぁ〜。でもまぁいっちょやってみますか。」

 

 

次の相手は奏空、凛音ペア。

義姉弟の二人の連携は皆も承知だが、果たして。

 

 

「ホラ〜バッチコーイ!」

 

 

クリスの掛け声で翼が身構える。

 

 

「いいよー奏空ー行ってー!」

 

 

「え〜出来るかなぁ〜難しいなぁ〜。じゃあ行くぞー!よっこら…………。」

 

 

彼がボールを上げる。

しかしここで一同何か違和感を感じる。

高すぎないか?初めてな者があんな高く上げられるのだろうか。

そしてそのまま彼はボール目掛けて助走をつけて跳躍する。

 

 

「ショット!!」

 

 

瞬間。

叩き付けられたボールは一気に放たれ、クリスの頰を霞む。

ボールが着いた地面は凹んでいた。

 

 

「ほらどうしたやりましょうぜ〜。楽しい楽しいビーチバレーを〜。」

 

 

ムカつく声音で挑発する奏空。

ハッと我に返ったクリスは怒号を上げる。

 

 

「お、お前っ!!さては経験者だなっ!!」

 

 

「いやいやそんな訳ないでしょ。ただ俺はある漫画を読んでそれの通りにやっただけですよ。」

 

 

「それだけでそんな風に撃てるかぁっ!!」

 

 

そんなやり取りをしているうちに試合は進んでいき、凛音達にチャンスボールが訪れる。

 

 

「チャンスボールッ!!」

 

 

「やらせるかっ!!」

 

 

「ふんぬっ!!」

 

凛音達の動きを警戒して翼とクリスがブロックする。クリスは身長が足りない分、目一杯ジャンプして翼と同じ位置になる。

だが………。

 

 

「よっ。」

 

 

「なっ!?」

 

 

「はぁっ!?」

 

 

トスを上げずに片手でそのまま相手のネットにボールを送る。所謂ツーアタックを使用した。

 

 

「漫画を読んでいたのが奏空だけじゃないってよ。」

 

 

「何者だよお前らぁっ!?」

 

 

その後、激しい攻防の故見事翼クリスペアに勝利した。次の対戦相手はマリア&エルフナインペアだ。

エルフナインがボールを高く上げてサーブを放とうとするが、空を切って地面に落ちる。

 

 

「なんでだろう………強いサーブを打つ知識は持っているんですが………やっぱり実際やってみると難しいですね。」

 

 

「背伸びをして誰かの真似をしなくても大丈夫。下からこう………ポンッて打つようにすると簡単な方のサーブが打てる。」

 

 

同じチームのマリアが転がってきたボールを拾って実際にやって見せた。

 

 

「はうぅぅ、ずみ"ま"ぜん"…………。」

 

 

若干涙声になってしまうエルフナインにマリアは笑顔で優しく言いかける。

 

 

「弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしくあることだから。」

 

 

「………はい!頑張ります!」

 

 

元気を取り戻したかのようにエルフナインが笑い返す。その言葉が何故か奏空の心に引っかかってる感覚がした。その後ビーチバレーの他にも、ビーチフラッグで競い合ったり、バドミントンをやったりした。

後半から特訓みたいになってしまい、大半はグッタリしていた。

 

 

「あー久々に戦闘以外で体動かしたからマジで疲れた…………。」

 

 

「こんなに疲れるなんて………。」

 

 

「デ〜ス………。」

 

 

「ぬわああああん疲れt「言わせねーよ?」………すみません………。」

 

 

表社会で使ってはいけない言葉を使いかけた奏空を、グッタリしているがクリスの威圧ある声音で遮られる。

ふと彼は視線を上に移す。上にはただただ青空が広がっている。

 

 

かつて、あの青空で凛音と死闘を繰り広げた。

歪鏡によって自我を操られた彼女を救うべく、ギリギリのところで能力が覚醒し、彼の勝利に終わった。そしてその後目覚めた彼女と和解した。

 

 

それももう半年も前の話。今はこうしてみんなと共に一緒に居られるのだ。

それだけでも彼にとっては幸せだと感じた。

 

 

「ところで皆さん、お腹空きません?」

 

唐突に響が言うと丁度腹が空いていた。

 

 

「だが、ここは政府保有のビーチ故……。」

 

 

「一般の海水浴客がいないと、必然売店の類いも見当たらない………。」

 

 

「これは………買い出しかしら?」

 

 

ピクリッ

 

買い出しと聞いて全員が震える。ここから近い場所にコンビニがある。そこで軽食や飲料などが買えるが、こんな炎天下の中誰もそこまで行きたくない。

そこでここは古来より伝わる公平なやり方で決めてもらう。

 

じゃんけん。

これ以上にない公平な決め方の一つだ。そこで一人の男がニヤリと口角を上げる。

 

 

「俺これ、絶対勝てるわ。断言出来る。」

 

 

「おお?」

 

 

「ホントか?怪しいなぁ。」

 

 

「まぁ、見てなって。いいか?最初はグーで行くぞ。」

 

 

エルフナインを含めた全員が了承する。

緊迫した空気。誰が何を出すか予想も出来ない。言わば心理戦に近い雰囲気になっていた。

そして遂に火蓋が切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初っからっ!!よっしゃ俺の勝ちぃぃ!!後は決めろよお前r「待てゴラ"ァァっ!!!」グェッ!?」

 

 

皆グーを出す中、一人だけパーを出して早々と抜け出そうとする卑怯者(奏空)をクリスは首根っこを掴んで捕まえる。

 

 

「平然とズルしたんじゃねぇよっ!!何が『絶対勝てるっ!』だっ!ただの後出しじゃねぇかっ!!」

 

 

「だから言ったじゃん『最初っからっ!!』って。最初はパーとか古典的な掛け声じゃなくて最初からパーを出すという宣言をしてパーを出すという、枢木奏空の必殺技である。」

 

 

「捨てろっ!そんな必殺技っ!!ふざけんなやり直しだやり直しっ!!」

 

 

「しょうがねぇな〜(悟空)。」

 

 

「それ以上無駄口叩くんだったら沈めるぞ「よし気を取り直してやろうっ!!」

 

 

これ以上怒らせたら本気でやり兼ねないのですぐに実施することになった。

 

 

「いいか?さっきみたいな手を使ったら強制的に買い出し係行きだからな?」

 

 

「…………わかりましたよ。もう使いません。じゃあみんな行くぞー!」

 

 

再び緊迫した空気になる。

しかしなんだこの違和感は。奏空はもうさっきのような手は使えないのにまだ何かがありそうなのは気のせいだろうか………?いや、まさかな…………。

そして彼の掛け声によって再び始まろうとした。

 

 

「せーのっ!俺のっ勝ちっ!!はい俺の勝ちぃぃ!!後は決めろよお前r「同じじゃねぇかぁぁっ!!!」ゴエッ!?」

 

 

またしてもパーを出して早々と抜け出そうとする彼をクリスは再び首根っこを掴んで捕まえる。

 

 

「なんだよ、敗者が勝者に文句言うんじゃねぇよ。」

 

 

「黙れ馬鹿っ!!何が勝者だボケッ!!さっきと全然変わんねーじゃねぇかっ!!」

 

 

「甘いな………たかがじゃんけん。そう思ってませんか?それやったら明日も、俺が勝ちますよ。ほな、いただきm「テメェは、強制に買い出し係だっ!!!」ホブゥッ!?」

 

 

さっきまで使っていたバレーボールを彼の顔面に叩き込んだ。

しかし凛音が流石に彼一人だと可哀想なので最低でも彼含めて二人以上必要となった。

そして結果は………。

 

 

「プッ、ハハハハッ!翼さん変なチョキ!」

 

 

「変ではない!カッコいいチョキだっ!!」

 

 

「斬撃武器が………。」

 

 

「軒並み負けたデスッ!」

 

 

響、クリス、凛音、マリア、エルフナイン、未来はグーを出し、翼、調、切歌がチョキを出して、翼、調、切歌が買い出し係となった。

翼のチョキに関しては人差し指と親指を出した今時滅多に見ないチョキだった。

 

 

「好きなものだけじゃなく、塩分やミネラルも補給出来るものを買ってね?」

 

 

「むぅ………。」

 

 

「了解デ〜ス………。」

 

 

「一応希望は聞いてやるけど何がいい?」

 

 

奏空が一同にオーダーを聞こうとすると一番で響が挙手をした。

 

 

「はいはーい!私、C○レ○ンとおにぎり!味はツナマヨッ!!」

 

 

「私はぺ○シとあんぱん。つぶあんな。こしあん買ってきたら埋めるからな。」

 

 

「じゃあ私はソ○ティラ○チに一本○足バー。シリアルホワイトで。」

 

 

「私はグ○ーン・ダ○ラとチョコクロワッサン。」

 

 

「えっと………僕は、どうしようかな………ダ○ラスポーツにソイジ○イのストロベリー味で。」

 

 

「私は………響と同じ○Cレモンで、おにぎりは日高昆布でお願い。」

 

 

「多いな………間違えずに買って来れるかな………。」

 

 

彼が何気なくポロリと呟くが、クリスが新たに条件を追加した。

 

 

「あと、一つでも間違えたら追加で新たにオーダーするからな。しかもお前一人で。」

 

 

「ゑ?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「C○レモンツナマヨぺ○シつぶあんソ○ティラ○チ一本○足バーシリアルホワイトグ○ーン・ダ○ラチョコクロワッサンダ○ラスポーツソイジ○イストロベリー○Cレモン日高昆布………よし間違ってないな。」

 

 

「奏空ちょっと怖い………。」

 

 

「呪文みたいデース………。」

 

 

ビーチから離れた後、彼はお経の如く注文されたオーダーを繰り返していた。

翼、調、切歌の分は店に入ってから決めることになった。それでも彼はここに行き着く間、指を折りながら六人分の注文を何度も呟いていた。つまづいたり、リズムが狂ったり、軽く会釈したりでもしたらすぐにごちゃごちゃになる勢いだったとか。

 

 

「しかしとて店員が驚いていたぞ枢木。」

 

 

「だってこれで間違えたら、また歩いてここまで来ることになりますし………。それだけはやだなって思って………。」

 

 

呪詛のように呟く彼を見て店員は終始怯えていた。そうでもしなければ今度は一人で買い出しに行くことになる。そんなことになれば、行きか帰りにぶっ倒れること間違いなし。

 

 

「そしたらメモを取ってから行けば良かったんじゃない?」

 

 

「時間の無駄。」

 

 

「えぇ………。」

 

 

奏空の即答に半ば呆れる切歌。そのやり取りを後ろで見ていた翼には微笑ましく見えた。

ビーチと中間辺りの場所に着くと、ある場所に人だかりができていた。気になって近くに行くとあり得ない光景が広がっていた。氷の柱が地面から突き出て元々神社だった場所が見る影も無くなっていた。

周りの人は台風か?と言っているが、彼らは一つ心当たりがあった。

 

 

「翼さん………。これって………。」

 

 

「ああ。もしかすると…………。」

 

 

二人の表情が険しくなり、周りを警戒する。

そして予想が的中するかの如く、ビーチの場所から爆発が起きた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方響達が待機していたビーチでは突如として海中からガリィが現れた。命令を下す主人が居ないのにも関わらず、何故現れたのか不明だが、そんな思考をすることさえも許されないようにアルカ・ノイズを召喚させる。

そこへ駆け付けたクリスと凛音がギアを纏い、響も纏って応戦する。

マリアは未来とエルフナインを連れて森の中へ避難していた。

 

 

だが、そこへ先回りしていたガリィが三人の前に現れた。

 

 

「見つけたよ。外れ装者。」

 

 

「っ!」

 

 

「さぁ!いつまでも逃げ回ってないでっ!!」

 

 

左腕を氷の刃に変えたガリィが駆け出してくる。ギアを持たないマリアを狙うのが彼女の考えだった。確かに懸命な判断だ。

彼女がもう一つのギアの存在を知っていれば………。

 

 

「Seilien coffin airget-lamh tron………。」

 

 

マリアが聖詠を口ずさむと、迫って来た刃を間一髪で躱し、左腕で彼女の顔面を殴り飛ばす。

そして左腕から徐々に白い光が全身を纏い始める。

 

 

「銀の………左腕………。」

 

 

「マリアさん!それはっ!?」

 

 

「改修された新生アガートラームですっ!」

 

 

光が収まると白銀を主体とし、赤と青が散りばめられたギアを纏ったマリアが現れた。

 

 

挿入歌『銀腕・アガートラーム』

 

 

「あの時みたいに失望させないでよ?」

 

 

ニタリと口角を上げ召喚石を散らすとアルカ・ノイズが召喚される。

マリアは左腕の篭手から伸びている剣の柄を引き抜くといくつもの小太刀が現れノイズ群に投擲される。

 

 

『INFINITE†CRIME』

 

 

彼女に向かうとしていたノイズを突き破って灰化させる。それに続けるように小太刀を携えて自身もノイズに向かって突き進む。

迫り来るノイズを斬り裂き、芋虫型と刃が衝突するが、横一閃で倒す。着地すると他の芋虫型が回転して地面を這ってマリアを囲む。分解機関が働いて赤い塵を撒き、ほぼ同時に回転を止めて飛びかかる。

しかしそれも無駄だと言うように一瞬で斬り裂かられる。

 

 

「(特訓用のLiNKERは効いている………今のうちにっ!)」

 

 

遠くから向かってくるノイズに向けて小太刀を振るうと蛇腹状となり、鞭のようにしならせ様々な角度からノイズを斬り裂く。

 

 

『EMPRESS†REBELLION』

 

 

「うわー私負けちゃうかもー。あっははははは!」

 

 

新たなギアを纏ったマリアの前でも余裕の態度を見せるガリィ。ノイズを倒し切って彼女に向かって小太刀で突き刺そうとする。

 

 

「なんてね。」

 

 

だがそれを軽々と避け、カウンターを食らってマリアは倒れ伏した。

 

 

「強い………だけどっ!」

 

 

マリアは胸のコアを握りしめて対峙する。それを見た彼女はまた笑う。

 

 

「聞かせてもらうわ………。」

 

 

「この力で決めてみせるっ!」

 

 

「イグナイトモジュールッ!『抜剣』!」

 

 

『Danesleyf』

 

 

コアの両端を押し込むと奇怪な電子音が鳴り、取り外す。それを上へと投げるとコアは変形して刺々しくなる。そしてそのままマリアの胸に突き刺さった。

 

 

「うっ!ぐうううううううああああああっ!!」

 

 

黒いオーラを漏れ出して悶える。銀の腕が黒に侵食されて行く。

 

 

「弱い自分を………殺すん………だ………あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!!」

 

 

だが彼女の思いは魔剣の呪いに負けて黒が全身を侵食する。

やがて絶叫が止むとそこには見たことのある姿があった。かつて左腕をネフィリムに喰われた際に響が呑まれたのと同じ現象。

『暴走』である。

 

 

「あれれ。」

 

 

「ガア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」

 

 

最早黒き獣と化したマリアだった者が咆哮を上げ、ガリィを捉えると襲い掛かる。先程まで小太刀を用いて華麗に戦っていたのが嘘のように単調動きで攻撃するも、ひょいひょい躱される。

 

 

「獣と堕ちやがった………。」

 

 

「マリアさんっ!?」

 

 

「魔剣の呪いに呑まれたか………。」

 

 

「マリア………。」

 

 

響達が駆け付けるも手が出せないでいた。

左腕が鋭くなって獣の腕と化し、ガリィに襲い掛かる。だがこれも避けられる。

 

 

「いやいや、こんなむりくりなんかでなく………。」

 

 

 

「ガア"ア"ア"ア"ッ!アガッ!?」

 

 

追撃を仕掛けようとするが、彼女に顔を鷲掴みにして静止させられる。

 

 

「歌ってみせなよっ!アイドル大統領っ!!」

 

 

獣と化したマリアを彼女は軽々と片手で地面に叩きつけられる。

暴走したシンフォギア装者に驚く素ぶりを見せないところを見るとそれほど彼女は研究し尽くしているということになる。

だが、それでも獣は倒れず。暫くすると喉を鳴らして起き上がる。

 

 

「あーあ、面倒くさ。私はこんなんじゃなくてえ、あの四人がやったようなのを期待してたんだけどなー。こんなのじゃ話にならなーい。」

 

 

溜息混じりに愚痴るガリィ。

心配した響はマリアに呼びかける。

 

 

「マリアさんっ!目を覚まして下さいっ!!そんなの貴女じゃありませんっ!!そんな姿を奏空くんが見たら………。」

 

 

「駄目!響ちゃんっ!今の彼女に近づいたら………!」

 

 

しかし時すでに遅し。

狙いを呼び掛け響に変え、地面を蹴って彼女に襲い掛かる。完全に躱すタイミングを失ってしまった。

致し方なく凛音はイグナイトを起動しようとコアに手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガギンッ

 

 

だが凛音がイグナイトを起動する前に第三者がマリアと響の間に入って彼女の攻撃を止めた。

 

 

「奏空くんっ!?」

 

 

なんとその第三者はバルムンクを纏った奏空だった。大剣で獣の腕を受け止めていた。無理矢理弾いて彼女との距離を取る。

 

 

「胸騒ぎがして急いでここに来たけど………遅かったか………。」

 

 

「ああ、ダインスレイフの呪いに………。」

 

 

クリスの情報を受けて改めて彼女を一瞥する。

確かにそこにはマリア・カデンツァヴナ・イヴという少女の面影が残ってなく、一体の黒い獣が佇んでいた。あれと遭遇するのは実に二度目だった。

一度目はネフィリムに左腕を喰らわれたことで暴走した響。あの時は彼女を助けたいという気持ちで戦った。

だが、今回は違った。いつも側にいて、共に戦って来た彼女が呪い支配されて見る影もなかった………。

彼女を見るだけでも心が痛む。

 

 

「グウウウウ………ガア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」

 

 

しかし獣はそんな気持ちになっている彼の気持ちも知りもせず襲い掛かる。

彼は大剣を駆使して彼女の攻撃を防ぐ。単調だがどれも重く、徐々に押され始める。

 

 

「おいっなんで反撃しないんだっ!!」

 

 

傍観していたクリスが彼に向けて怒鳴る。

そんなの簡単だ。彼女を傷付けたくないからだ。たとえ闇に堕ちたとしても彼女は彼女だ。だから別の方法で彼女を止める。

だがどうやって止める?

 

 

『Limit Burst』?

駄目だ。傷付けたくないのに力で抑えたら意味がない。

 

 

ハザードモジュール?

もっと論外。アレを使えば逆に彼女を殺し兼ねない。

そもそもこれ以上身体強化を行えば今度こそ人間ではないナニかになってしまうかもしれない。

 

 

思考していくうちに隙を突かれて投げ飛ばされて叩き付けられる。

今上げた以外だとどれも彼女を傷付けるものばかりだ。せめてあの呪いを取り除ければ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………待てよ、取り除く?

 

 

それを疑問に思った瞬間すぐに閃いた。だがこれは外傷は与えないが、辛い思いをさせしまうかもしれない。だけど迷ってる時間は無い。

そして何を思ったのか彼は大剣を投げ捨てて突っ込んだ。獣は戸惑うことなく奏空を迎え撃とうと左腕を振り上げる。

ギリギリ、本当にギリギリで攻撃を躱して直ぐさま背後に回り込んで羽交い締めにする。

何をする気だとガリィを含めた一同が思うと彼の右手には見たことあるものを持っていた。

 

 

「ごめんっ!許せマリアッ!!」

 

 

『HAZARD ON!』

 

 

『なっ!?』

 

 

持っていたのは例のハザードトリガー。

スイッチを押して起動させるとなんとそれをマリアのコア部分に刺した。

 

 

「グッ!?ガア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!?!?」

 

 

まるで首を絞められたかのような絶叫を上げて腕の中で暴れる。

それだけでも心が絞め付けられてしまう。彼にとってそれは悲鳴にも聞こえた。

 

 

「我慢してくれマリアッ!俺は嫌なんだっ!!こんな………こんな破壊をし尽くす怪物になるマリアがっ!!汚したくないだっ!!だからぁっ!!」

 

 

トリガーを握る力が加わると、なんとハザードトリガーが彼女を支配していた黒を吸い上げた。

メーターが最大まで溜まり、コアから切り離すと彼女は元のマリアに戻った。糸が切れた人形のようにダラリと力が抜けた彼女を片腕でしっかり抱える。

 

 

「響っ!俺の剣をこっちにくれっ!!」

 

 

「えっ、あ、うんっ!!」

 

 

大剣を響が拾うと彼目掛けて投げる。

トリガーを片手に持ち替えて右腕を掲げると彼の手の中にしっかりと剣が握られる。

そしてトリガーの接続部を刃に叩くように繋げると大剣が一気に黒に染まる。

次第に腕にまで侵食しそうになるがそのままガリィの方へと向き変える。

 

 

「喰らええええええええっ!!!」

 

 

彼が叫ぶと刃から一筋の太い閃光が放たれた。

ガリィが踊るように躱すと背後にあった木々を閃光が呑み込む。

その閃光はビーチまで届き海を裂く。

 

 

「魔剣の呪いを利用しての攻撃………でも当たらなかったら意味がないのよねぇ〜。」

 

 

茶化してくるガリィに身構えるが、興ざめのようにそっぽ向く。

 

 

「ソイツに伝えな。ヤケッぱちで強くなれると思うなってな。」

 

 

そう言い残すとテレポートジェムを割って転移した。

ガリィがいなくなったことを確認すると手に持っていた大剣を離してマリアの安否を確かめる。

 

 

「マリアッ!マリアッ!!聞こえるかマリアッ!!」

 

 

「………………う、………奏……空?」

 

 

目が覚めたことがわかると彼は膝から崩れる。

小声で良かった………良かった………と何度も繰り返し言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……………勝てなかった………私は何に………負けたのだ?)」

 

 

 

 

 




過去18000文字越えで明らかに読みにくいと思い、その反省を生かして皆様にはなるべく読みやすいように書いてあります。
前書きにも書きましたが、早ければ今日中に出せますので楽しみに待って下さい。こんな自分の作品を読んでいただきありがとうございます。


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第10話 万戦の果て、龍は聖母を想ふ。

予告していました通り連続投稿です。
今回は奏空の覚醒回です。では、どうぞ。


主人が居ない玉座にてガリィが自身の定位置に転移するとすでに他の自動人形(オートスコアラー)もいた。

 

 

 

「派手に立ち回ったな………。」

 

 

「目的ついでに寄り道しただけよ………。」

 

 

「自分だけペンダント壊せてないから焦っているんだゾ。」

 

 

「うっさいっ!だからあの外れ装者からむしり取るって決めたのよっ!!」

 

 

茶化してくるミカに声を荒げる。彼女はミカのことが嫌いだ。想い出を摂取出来ないので自身が吸収した想い出を彼女に移して供給するのだが、戦闘用なだけあった馬鹿みたいに燃費が悪い。かなりの量でも足りない足りないと嘆く彼女がうざったらしかった。

 

 

「ほんと、頑張り屋さんなんだから………。私もそろそろ動かないとね………。」

 

 

普段から冷静を保っているファラが珍しく行動しようと決心する。

するとカツカツと奥から一人の男がやってきた。

 

 

「どうやら随分楽しそうだな。」

 

 

「カッシスか………また地味にタロットでもしていたのか?」

 

 

「ええ、少し彼のことが気になってね………ガリィ。」

 

 

「あ"あ"?」

 

 

「枢木奏空には気を付けろ………とだけ言っておく………。」

 

 

「…………どう言う意味?」

 

 

懐から一枚のカードを取り出す。そこには太陽の絵柄が写されたもの。

 

 

「太陽の正位置。意味は『変化』。近いうちに、奴の何かが変わる………。」

 

 

「なに?私が負けるって言いたいの?」

 

 

「違う、これは………忠告だ。ナメてかかると逆転される可能性があるから手っ取り早くちゃっちゃっと済ませろ………。」

 

 

怪訝そうな顔をするガリィをほっといてカッシスは再び闇に消えた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕焼けの中、マリアは一人ビーチに佇んでいた。

魔剣の呪いに抗えずに暴走してしまった自分を悔やんでいた。全てを支配され、破壊をし尽くすだけの獣に成り果てた自分が情けなく感じた。

すると砂を踏む音が聞こえた。音をした方を見ると暗い顔をした奏空がいた。

 

 

「奏空………。」

 

 

「………ごめんね、一人になりたいって言っていたのに来てしまって………………隣、いいかな?」

 

 

「…………えぇ。」

 

 

壁に寄りかかって腰を下ろす。

後から聞いたが、暴走を止めたのは彼だったという。その時彼はどう思ったのだろうか。

装者は違えど暴走を相手にするのは2回目だ。一度は立花響だったが、今回は…………。

そう思うと余計情けなく感じた。支えてやる立場なのに自分が傷付ける側になってしまった。最早彼に顔を合わせる資格なんて…………。

 

 

「俺さ、怖かった。」

 

 

「え?」

 

 

ポツリと彼が言葉を零し、そのまま続ける。

 

 

「いつも優しいマリアがあんな風になったとき、焦りと同時に怖かったんだ………。俺の知っているマリアがマリアで失くなっちゃうって。止めなきゃって思ったけど、焦りの方が大きかったんだ。…………笑っちゃうよね。一度対峙したことあるのに焦るなんて………あの中で俺が一番止める方法を知ったいた筈なのに…………ごめん。」

 

 

「そんな…………貴方が謝ることは無いわ。あの時呪いに勝てなかった自分が悪いんだもの…………。弱い自分を殺せなかった私が…………。」

 

 

「………………。」

 

 

場の空気が重くなっていると奏空の足元に何かが当たる。それは昼間の特訓で用いたバレーボールだった。

そのバレーボールを追い掛けるように現れたのはエルフナインだった。

 

 

「エルフナイン…………。」

 

 

「お取り込み中すみませんでした。…………あと奏空さん…………ごめんなさい。僕の技術不足でイグナイトどころか改修も出来なくて…………。」

 

 

そう。

先日奏空が再びS.O.N.G.に戻って来た後にイグナイトの搭載を試みたが、他のシンフォギアとは基盤が変質していてとても手が出せない状態だった。

下手に弄れば使用不可能になってしまうかもしれないのでバルムンクにイグナイトの搭載は愚か対アルカ・ノイズの防護フィールド加工も出来ないでいた。

 

 

「いいよ、俺のギアはみんなより特別だからね。多分ハザードトリガーを使わなくても改修出来なかったと思う。」

 

 

元より彼のシンフォギア『バルムンク』はネビュラガスが働いて変異を起こしたギアだ。ハザードトリガーがなくても結果は変わらない。

 

 

「大丈夫だよ。当たらなければいいんだから。」

 

 

「ところで君はどうしてここに?」

 

 

「皆さんの邪魔にならないようにサーブの練習をしていたのです。」

 

 

「ああ、昼間のあれね。」

 

 

「…………エルフナイン、良かったら練習に付き合ってもいいかしら?」

 

 

「じゃあ折角だから俺も。」

 

 

「二人ともありがとうございますっ。」

 

 

はじめに奏空が簡単な方のサーブの手本を見せてエルフナインに教える。

実際に打ってみるが、向こうのコートに入ったのはいいが勢いが無く、テンッと軽い音を立てた。

 

 

「やっぱり上手くいかない…………。」

 

 

「はじめは誰だって上手くいかないさ。努力を重ねれば報われるよ…………。」

 

 

「……………色々な知識通じているエルフナインならわかるのかな…………。」

 

 

「っ?」

 

 

「だとしたら教えて欲しい……………強いってどういうことかしら…………?」

 

 

マリアの何気ない質問に対してエルフナインは微笑む。

 

 

「それは………マリアさんが僕に教えてくれたじゃないですか。」

 

 

「え?」

 

 

「それってどう言う」と言い続けようとしたその時、砂浜から水の柱が生えた。真上に乗っているのはやはりと言っていいのか奇妙なポーズを取ったガリィだった。

 

 

「お待たせ、外れ装者と情緒不安野郎。」

 

 

「またお前かっ!!いい加減しつこいぞっ!!」

 

 

「今度はがっかりさせないでよね?」

 

 

「大丈夫ですっ!マリアさんならきっとっ!!」

 

 

「いけるよね、奏空?」

 

 

「がってん承知っ!!」

 

 

二人は首からペンダントを取り出して唱を落とす。

 

 

「Seilien coffin airget-lamh tron………。」

 

 

「close core balmunk tron………。」

 

 

聖詠を唱え、二人は白銀と黒のギアを纏った。

 

 

「外れてないのならっ!戦いの中で示して見せてよっ!!」

 

 

召喚石をばら撒いて砂浜にノイズを召喚する。

二人は駆け出してノイズを斬り裂く。奏空は例の如く攻撃される前に先に斬っていく。

マリアは小太刀を投擲したり、蛇腹状にしたりと幅広い攻撃を仕掛ける。

順調に数が減って行ったところでガリィが両手を頭上に掲げて球体状の水を作り出し、マリアに向けると勢いよく発射される。

三本の小太刀を用いて障壁を作り出すが向こうが途中で冷気を混じらせて凍らせてどんどん氷漬けになっていくマリア。

 

 

「マリアさんっ!」

 

 

「マリアっ!」

 

 

自力で氷を破るが膝から崩れ落ちてしまう。

 

 

「てんで弱すぎるっ!」

 

 

馬鹿にしたような声音ではなく、心底呆れたような声音で彼女を見下す。

負けじとコアに手を伸ばそうとするが…………。

 

 

「その力…………弱いアンタに使えるの?」

 

 

「っ!……………私はまだ弱いまま…………どうしたら強く…………。」

 

 

呪いに呑まれた自身を思い出して手が止まってしまう。今のままではまたあの時の二の舞だ。

どうしたら響達のように…………凛音(彼女)のようにあの力を使えるのだろうか…………。

 

 

「弱い…………だと…………?」

 

 

震えた声が聞こえた。

声の主はアルカ・ノイズを倒し切った奏空がガリィの発言に対して怒りを覚えていた。

 

 

「マリアが…………弱いだとっ?……………ふざけるんじゃねえええっ!!」

 

 

 

『HAZARD ON』

 

懐からハザードトリガーを取り出してガリィに駆け出しながらコアに取り込む。

 

 

「変身っ!」

 

 

『Uncontrol Switch! BLACK HAZARD!!No wayyyyy!!』

 

 

通常の目つきのままオッドアイに、マスクが外れた姿になり、大剣を振るう。

だが、彼がいくら剣を振りかざしても軽々と避けてしまう。

そして勢いを付けようとすると突然体に激痛が走る。

 

 

「っ!?がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

 

「奏空っ!?」

 

 

あまりにもの激痛に片膝をついてしまう。まるで拒否反応が起こったかのように全身に兎に角激痛が駆け巡った。

 

 

「なん…………でぇ………?」

 

 

「何?ただの見かけ倒しのつもり?だったら消えなぁっ!!」

 

 

右手を掲げると徐々に水色のエネルギーの球体が出来ていく。それが奏空へと放たれコアに命中して吹き飛ばされる。その拍子にハザードモジュールが解除された。

 

 

「なんで…………?あの時は使えたのに………なんで…………。」

 

 

「そりゃあアンタがあの時みたいな感情を持ってないからよ………。」

 

 

「な………に?」

 

 

「その力は誰かを助ける力でも………ましてや誰かを護る為の力じゃあない。標的が完全に絶命するまで殺す。戦うことでしか満たすことが出来ない。全てを壊すまで戦い続ける………そういった感情を抱くことによってはじめてあの姿となるのよ。」

 

 

つまりは殺すことしか考えない、逆に言えば護るものを無視しないとあの時の力を発揮出来いないというわけだ。彼自身はそんなのはもう真っ平御免だった。

 

 

「(奏空さえも押されて…………私に足りないのは一体なんなの?強さって一体なに?)」

 

 

イグナイトの起動を拒んだ所為でハザードモジュールを使わせることになってしまった彼に自分を恨んだ。

彼自身も二度と使いたくないと思っていたものを使用し、その起動条件を突きつけられて心もボロボロになっているだろう。

どうしたらみんなを………彼を守れるのだろう…………。

 

 

 

 

 

 

『それは、マリアさんが僕に教えてくれたじゃないですか。』

 

 

さっきまでの会話が脳裏をよぎる。

 

 

「私が………教えた………?「マリアさんっ!」っ?」

 

 

 

「大事なのは…………()()()()()()()()()()()()!」

 

 

「っ!」

 

 

かつてエルフナインに言った言葉を思い出す。

 

『弱く打っても大丈夫。大事なのは自分らしく打つことだから。』

 

その言葉を思い出すと何かを理解した如く立ち上がった。

 

 

「弱い…………そうだ。」

 

 

「っ?」

 

 

「弱い私に、エルフナインが気付かせてくれた。『弱くても、自分らしくあること。』それが強さ。エルフナインは戦えない身でありながら、危険を顧みず勇気を持って行動を起こし、私達に(希望)を届けてくれた…………。エルフナインっ!そこで聞いていて欲しいっ!!君の勇気に応える歌だっ!!!」

 

 

右手にコアを掴んで声高らかに叫ぶ。

 

 

「イグナイトモジュールッ!!抜剣っ!!」

 

『Danesleyf』

 

両橋を押し込んで頭上に投げて再びイグナイトの起動を試みる。変形したコアはマリアの胸元に向かって真っ直ぐ降下し、深々と刺さる。

 

 

「ぐっ!?うううううぅぅぅっ!!!」

 

 

再び黒いオーラが侵食しだして支配しようとする。

狼狽える度、偽りに縋ってきた昨日までの自分。

 

 

「そうだっ!!らしくあることが強さであるならっ!!」

 

 

「マリアさんっ!!」

 

 

「マリアァッ!!」

 

 

「私は弱いまま、この呪いに叛逆してみせるっ!!

 

 

そして瞬間、黒が一気に彼女を包んだ。

段々姿形が変わり、白銀から一新して黒になって、かつて烈槍を纏っていた聖母(マリア)を喚起させるような刺々しい姿となった。

 

 

「この力で、奏空を…………みんなを護るっ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

成功したんだ…………。

彼女は魔剣の呪いに打ち勝ったのだ。呪いを新たな力に変えてその身に宿したのだ。

これは喜んでいいのだ。安心していいのだ。心配する必要はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに、

 

 

何故自分は今悔しいと思っているのだろうか?

 

 

彼女が新しい力を手に入れたから?

 

 

違う。

 

 

自分は克服出来ず、彼女だけ克服出来たから?

 

 

もっと違う…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身が護られる立場になってしまったからだ。自分はどうする人間か?

ただ黙って戦っているのを見ているだけの観客か?

違うだろう。自分は彼女達と同じ、戦場(いくさば)に音を奏でる一人だ。

それなのに何も出来ずに地にひれ伏していることが悔しかった。

 

 

戦いたいということはわかっている。一緒に戦わないといけないということは十分にわかっている。

それなのに、

 

 

 

 

なんで………身体が動かないんだ………。なんで………立ち上がれないんだよ…………。

凛音は…………みんなは俺を信じてくれたんだぞ………俺の明日を創ってくれたんだぞ………!

 

なのに…………俺は………また何も出来ないのか………。……………いいのかそれで…………本当にそれでいいのか…………本当に………それで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいわけ…………ねぇだろぉっ!!

 

 

握っていた砂を振り払って彼は立ち上がった。

 

 

「そんな馬鹿なっ!?確かに心は折った筈っ!?」

 

 

「寝ぼけたことを言うな………。全てを壊すまで戦い続ける?知ったような口聞くんじゃねぇっ!!俺が知っているみんなはなぁ誰かを守る為に戦ってきたんだっ!誰かの幸せを祈って立ち上がって来たんだっ!!

誰かの力になりたい………誰かを守りたいっ!!それが俺の戦う理由だっ!!俺は殺す為に使う力じゃあないっ!みんなを守って………明日を創る力だぁっ!!!!

 

 

「なぁにが創る力だ!破壊こそが力よっ!!部外者は黙って死んでなぁっ!!!」

 

 

再びエネルギーの球体を作り出して発射される。さっきよりも大きく、速い球だった。

 

 

「奏空ぁっ!!」

 

 

「奏空さんっ!!」

 

 

やられること承知で腕で防ごうと防御の構え取る。

エネルギー弾が被弾する瞬間、それは起こった。

彼の目の前に赤いエネルギーの障壁が突如として現れた。球弾は爆発を上げて消失し、彼は無傷でいた。何故現れたのか疑問に思っていると発生の中心部にあるものが映った。

 

 

ハザードトリガーだ。

 

 

ハザードトリガーが宙に浮いて障壁を張っていた。まるで彼を守るように。

そして地面に落ちていた紺色のボトル『ドラゴンフルボトル』が紺色のオーラを放ち、宙に浮く。

障壁が消えて赤いオーラを放ち始める。トリガーとフルボトル、二つのアイテムが徐々に近づいてやがて一つになっていく………。

 

 

パキンッ

 

 

瓶が割れる音を立てるとそこには紅い蓋をし、紺色の龍のエンブレムが刻まれ、逆さまにすると金色の龍が顔を覗かせるような金色のボトルになった。

それが彼の左手に落ちる。

 

 

「力を貸してくれるのか…………?」

 

 

まるで呼応するかのように、また主として認めたかのように右腕にハザードレジスターが現れる。

彼は意を決してボトルを振って蓋を回して開ける。蓋の惑星に歯車が掛かったマークが浮き出る。

 

 

覚醒(カクセイィ)!』

 

 

男性の電子音が鳴るとレジスターのスロット上の部分に挿した。

 

 

『GREAT CROSS-Z DRAGON!!』

 

 

軽快な待機音が鳴り響き、クチバシのスイッチを押し込むとまたしても全身に激痛が走った。

 

 

「ぐっ!?ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

だが、さっきのとは違い、まるで全身の情報を上から書き換えていく感じだ。

マリア達はこれを耐えて来たのだ。ここで耐えなきゃ意味がない。気を抜けば意識が刈り取られそうになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は………俺は戦争兵器になるつもりはないっ!!この力は破壊する為じゃあないっ!!誰かを守る力………明日を創る力!!

その力で俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いを終わらせるっ!!

 

 

 

『Are You Ready?』

 

 

「変身っ!!」

 

 

『Wake up CROSS-Z! Get GREAT DRAGON!! Yeahhhhhhhhh!!!』

 

音声と共に高速で『スナップライドビルダー』が展開。ハザードモジュールの時と同様に前と後ろから作られた装甲が彼を挟むように装着する。装着した瞬間、腰の黒いマントが燃えて消えた。

左側にあった追加装甲が瞬時に後ろに回り込み、彼を包み込むように装着される。一瞬。ほんの一瞬だが、装着される瞬間一人の少女が彼を優しく包み込むようのが見えた。

 

両腕には甲冑が無くなって新たに白い刃が付いた紺色の装甲。無くなった腰マントの位置には紺色のサイドアーマー。胸部はモナカ構造で挟むように装着された胸部装甲。

天体を思わせる、赤と青のパターンが入った追加装甲。背面は龍の背びれを思わせるようになっていた。

頭部の左右は龍の横顔を思わせるヘッドホンに、額には龍の顔のようなエンブレム。

そしてコアの下には金色の龍のクレストが刻まれていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うおおおぉぉぉぉぁぁぁぁっ!!あ"あ"あ"あ"っ!!!」

 

 

彼は天に向かって雄叫びを上げる。

そこにはハザードモジュールとは全く違う、新たな力『クローズモジュール』を得た装者が佇んでいた。

ガリィを捉えると拳を振りかざして駆け出した。

 

 

挿入歌『Burning My Soul (貴水博之ver)』

 

 

誰ノ為ニ生キル?

 

 

誰ノ為ノ(チカラ)

 

 

誰ノ為ニ戦ウ?

 

 

この手で現在()を守り抜くよ

 

 

彼の放たれるラッシュに防ぐのがやっとになる。明らかに格段と力が上がっていることがわかった。

体を掴まれて地面に投げ飛ばされ、追撃しようとする彼に向けてノイズを向かわせるが、今の彼の前では焼け石に水。

 

拳打を放って胴体に風穴を開け、回し蹴りで頭部を削り飛ばし、直接掴んで地面に叩きつけて蹴り飛ばすなどと、肉弾戦を発揮する。

遂には、跳躍して上から火球を作り出してそれを蹴り落として降下する。

蒼い爆発を起こしてノイズを屠り、爆炎から彼が飛び出してガリィに向かって走り出す。

 

 

「くっ!」

 

 

左腕を氷の刃と化して突き刺そうとするが、なんと拳打で刃を粉砕した。

驚愕するガリィを尻目に彼女の左腕を引き寄せて脇で締めて拘束する。

 

 

「強ぇだろ………?俺だけの力じゃねぇからなぁっ!!」

 

 

「ゴボォッ!?!」

 

 

左腕が一瞬輝いて彼女の顔面にクリーンヒットする。さっきまで気付かなかったが、彼の左腕だけ追加装甲が施されていた。胸部の追加装甲の遜色、左腕の追加装甲。そして「俺だけの力じゃない。」という発言。もしかするとクローズモジュールは………。

 

 

「マリアァッ!」

 

 

思考していると突然名前を呼ばれる。

 

 

「もう暴走する心配はないっ!マリアと同じ自分の意思で動くことが出来るっ!!この力を使って俺は戦いを終わらせるっ!!だからっ!」

 

 

「ええっ!共に戦いましょうっ!!」

 

 

黒の小太刀を取り出してマリアも構える。その反応を見て彼は嬉しそうに口角を上げる。

一方でやられっぱなしのガリィは心底嫌な気持ちでいっぱいだった。

 

 

「くだらない…………くだらないっ!くだらないっ!!苦しみを乗り越えて強くなる系は私の嫌いなタイプなのよおっ!!苦しんで、苦しんで、絶望して死ねっ!!」

 

 

さっきよりの尋常じゃない程の量の召喚石をばら撒いてノイズを召喚する。

二人は散開してノイズ達を殲滅する。マリアは小太刀を左腕に装着していくつもの小太刀を放ち、奏空は駆け巡りながらすれ違い様に倒す。

手元から離した大剣を拾って構えようとすると突如藍色に光りだす。

みるみるうちに形状が変わっていき、やがて片手剣ぐらいの大きさまで縮約される。

 

 

『BEAT CROSSER!』

 

 

剣身にゲージが取り付けており、鍔の中央には穴が開いた『奏剣 ビートクローザー』に変化した。

しばし眺めていると武士型のノイズが襲い掛かり、刃が彼に迫る。

慌てることなくそれをいつものように振るうと武士型の刃と激突する。しかし鍔迫り合いになったのはほんの一瞬で、刃ごと綺麗に縦に真っ二つになる。

 

 

「へぇ………。」

 

 

パッ、パッ、と持ち変えてまた眺める。今度は突進してきた三体の人型を連続で斬りつける。

突進してきたノイズは真っ二つになって塵となる。

 

 

「気に入ったっ!!」

 

 

新しい剣の使い心地が良かったのか堪らず駆け巡って斬りまくる。

駆け巡っているとイモムシ型が回転して囲んでくる。昼間のマリアと同じ、同時に襲い掛かってくるのだろう。だが彼はビートクローザーの柄の下部『グリップエンド』を引っ張る。

 

 

PULL IT(ヒッパレー)!」

 

 

刀身に蒼い炎が纏わり、一回転して斬撃を放った。

 

 

『SMASH HIT!』

 

 

彼の中心に波紋が広がってイモムシ型は攻撃する前に斬撃に呑まれた。

使っているうちに楽しくなり、マリアを見てみると小太刀を蛇腹状にして斬り裂いていた。

それを視認するとあることを思い付く。地面に転がっていた『ロックフルボトル』を拾い上げて鍔の中央に挿し込んだ。

 

 

『Special tune!』

 

 

PULL PULL IT(ヒッパ、ヒッパレー)!』

 

 

グリップエンドを2回引っ張ると軽快な音楽が鳴り響き、刀身から金の鎖が飛び出す。

 

 

『MILLION SLASH!』

 

 

剣を振るうと多角度の鎖によってノイズが切り裂かれる。まるでマリアの蛇腹剣のように。

 

 

「ああもうっ!!さっきから引っ張れ引っ張れうるさいんだよっ!!」

 

 

地面を滑りながら彼に向かうガリィだが、目の前にマリアが現れて横一閃を放って彼女を真っ二つにする。

だが、真っ二つになった途端に彼女は無数の泡になり、中には奇妙なポーズを取ったガリィが。

シャボン玉のように上空に浮かび上がるが、再び小太刀を乱射させて割る。

過半数が割られると背後から巨大な泡が現れ、中から本体が出て来た。

 

 

「私が一番乗りなんだからっ!!……っ!?」

 

 

一瞬にしてマリアに距離を詰められて小太刀が襲い掛かるが、また間近に障壁を張って防ぐ。

したり顔をするガリィだが障壁に亀裂が走って真っ二つに割れて驚愕の顔になる。

 

 

「俺もいることを忘れるなっ!!」

 

 

いつの間にか懐に入れていた奏空に左のアッパーカットを喰らって上空に吹き飛ぶ。

 

 

「決めるぞマリアッ!!」

 

 

「ええっ!行くわよ奏空っ!!」

 

 

小太刀を左腕に装着すると刀身が更に伸びる。彼はレジスターにセットしてある『グレートドラゴンフルボトル』を抜き取り、ビートクローザーに挿し込んでから3回引っ張る。

 

 

『Special tune!』

 

 

PULL PULL PULL IT(ヒッパ、ヒッパ、ヒッパレー)!』

 

 

今までよりも激しい音楽の待機音が鳴り響き、二人は同時に跳躍する。

マリアの後ろに奏空が並んで無防備になったガリィを捉える。

 

 

「終わりだ、鮫口女ぁっ!!」

 

 

彼女の左腕のガントレットがスライドして炎が纏い、彼の剣に蒼色の炎が刀身を覆い尽くす。

マリアは横に、奏空は縦に剣を振るった。

 

 

『SERE†NADE』

 

 

『Diversiment』

 

 

彼女は胴体を斬り、彼は頭から振り下ろすと削るような金属音が鳴り響いてガリィを斬り裂く。

 

 

「一番乗りだったのにぃぃぃぃぃっ!!」

 

 

斬り裂かれたガリィは遺言のように叫ぶと空中で爆散した。二つの剣戟が十字架に見えた。

完全に破壊したのを確認したマリアは肩を下ろして安息する。

 

 

「っしゃあっ!!どうよぉっ!俺のっ!必!殺!剣!」

 

 

一方で奏空はいつもよりもハイテンションになっていた。その姿がはしゃぐ子供のように見えてマリアはクスリと笑う。

 

 

「どうだったマリア!俺、強くかっ、た、だ、ろ…………………。」

 

 

「奏空っ!?」

 

 

糸が切れた人形のように突然倒れ、マリアは彼に駆け寄った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「マリアさんっ!!」

 

 

警報を聞き付けた他の装者がマリアに駆け寄る。彼女は膝を折って砂の上に着いていた。

 

 

「マリアさん、怪我は!?怪我はありませんでしたかっ!?」

 

 

「奏空も大丈夫なのっ!?」

 

 

響と調が聞き出すと彼女は人差し指を顔の前に持って行き、静かにするジェスチャーを送る。

一同は首を傾げるが、視線を下に移すとある者が映り込んだ。

寝息を立てて彼女の膝枕で眠っている奏空の姿が………。

 

 

「彼のお陰よ。彼がいてくれたから私も戦えた。そして………。」

 

 

視線をエルフナインに向き変えて笑顔で伝える。

 

 

「君のお陰でもある。私に強さを教えてくれてありがとう。」

 

 

「っ!はいっ!!」

 

 

初めてかもしれないエルフナインは笑顔を一同に見せた。心なしか頰が赤くなっていたが、その時装者は気にしなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………逝ったか。」

 

 

遠くから一人の男が海を見て呟く。

一応彼女には四元系ではない、純粋なエネルギー攻撃の仕方を教えたが失敗に終わったようだ。

 

 

『変化』と来たが、これ程までとは………。まぁ、ようやく使いこなせるようなったレベルと言ったところか。

 

 

ポケットから一枚のカードを取り出して眺める。

 

 

 

『魔術師の正位置』

 

 

意味は意志、スタート、表現力、アイデア、巧妙、熟練、才能、発端。

 

 

そして………。

 

 

「創造…………か………。」

 

 

カードを仕舞うと男は笑い始める。

 

 

「せいぜい頑張るといい戦いを終わらせる者(CROSS-Z)よ。」

 

 

風が鳴くとそこにはもう誰もいなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時間は少し遡る。

装者が砂浜に来る前、彼は突然倒れた。

 

 

「奏空っ!?」

 

 

まさか例の力を使った所為で体に異変が?

心配して彼の元へ駆け寄ると。

 

 

「すぅ…………すぅ………。」

 

 

「…………寝てる?」

 

 

寝息を立てながら彼は眠りについていた。そんな体に悪影響がなかったと確認出来る。

彼女は彼の頭を自身の膝の上に乗せて、跳ねた髪を優しく撫でる。心地良さそうに笑う。その姿が愛おしく見えた。

 

 

さっきまでの戦闘を思い返してみる。

左腕だけ追加装甲が施され、蛇腹剣のような攻撃をした。それがアガートラームに見えるのは気のせいだろうか?

でもわかったことが一つだけある。

 

 

あの時彼を後ろから優しく包んでいた少女がセレナと酷似していたということ。

 

 

セレナの力が彼の為になるなら私は良い。

そして何より彼があの姿になった途端、繋がった気がした。

 

 

「マリアさん………?奏空さんは…………。」

 

 

「…………エルフナイン、みんなには内緒にしてくれる?」

 

 

「ふぇ?それってどう言う………っ!?」

 

 

赤面してバッと顔を両手で覆い隠した。

彼女は眠っている彼の唇にキスを落とした。

 

 

「これからもよろしくね…………奏空。」

 

 

彼の右手にあるフルボトルが、一瞬だけ銀色に光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。
奏空の覚醒回。いかがですか?えっ?イグナイトじゃないのか?
そうです。奏空くんにはイグナイトの代わりにクローズモジュールを搭載することにしました。
というか始めから奏空くんには別のを搭載する予定でしたのである意味サプライズです。
次回も頑張りますのでお楽しみに。


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第11話 吠えよ龍、その血に流れるは蒼炎の如し


お久しぶりです。
まず言っておきたいことがあります。

二ヶ月投稿しなくてすみませんでした。理由としてはあまり小説に携わることに時間が作れないでいました。
お待たせしてすみませんでした。本編をどうぞ。


あと後書きで発表することがございますのでそちらも。



暖かな光が差す街の中。

燦々と照らす太陽の光は夏にも関わらず何処か気持ちの良さそうだった。

空がそんな感じなのにもその街には誰もおらず、静寂に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある区域を除いて。

 

 

「うらぁっ!!」

 

 

奏空がアルカ・ノイズに向かって拳打を放った。赤い塵を撒きながら吹き飛ばされる。

現在彼は四方八方から迫るアルカ・ノイズと交戦していた。

だが今の姿はいつもと違う。紺色の追加装甲に包まれ、龍の横顔のヘッドホンを装備し、額にある龍の顔を思わせる装飾をした新たな姿『クローズモジュール』を起動した姿だった。

何より目立つのはコアの下の金色の龍のエンブレムだ。

 

 

囲まれているのにも関わらず、怯む様子は全然無かった。逆に徐々に押していた。

やがて彼は戦闘スタイルを拳から片手剣、ビートクローザーを装備する。

ビートクローザーを用いて人型、武士型などの二足歩行タイプを次々と薙ぎ倒していく。

倒していくうちに上空から飛行型がその身を槍と変え、降下してくる。

それを焦ることなく難なく避け、何処からかロックフルボトルを取り出して鍔の中央部の穴に挿し込むとグリップエンドを2回引っ張った。

 

 

『Special tune!』

 

 

PULL PULL IT(ヒッパ、ヒッパレー)!』

 

 

軽快な待機音が鳴り響くと刀身から金色の鎖が飛び出して蛇のように唸る。

 

 

『MILLION SLASH!』

 

 

「おらぁっ!!」

 

 

剣を振えば忽ち鎖が飛行型を叩き斬り、地面に接触する寸前に曲がって下から貫き、それを繰り返しているうちに上空の有象無象は赤い塵と化し、宙を舞う。

 

 

『はい、OKです。テストお疲れ様でした。』

 

 

何処から声が聞こえてくると、さっきまで市街地だったのが徐々に崩れて無機質な空間となった。

その無機質な空間こそ、S.O.N.G.の本部内にあるシュミレーションルームである。そこで彼は先日手に入れたクローズモジュールの実戦データの収集の為に、仮想ノイズと戦闘していた。

 

 

「クローズモジュール………流石ですね。イグナイトと引けを取らないレベルです。」

 

 

「彼の体に異常は?」

 

 

「バイタル、心拍数、適合係数共に安定しています。」

 

 

「安定………か。」

 

 

シュミレーションルームの管制室で、集めたデータをエルフナインを筆頭に弦十郎、凛音が見ていた。

 

クローズモジュール

 

ガリィとの戦闘時にハザードトリガーとドラゴンフルボトルが融合してグレートドラゴンフルボトルと化し、それをハザードレジスターに装填するとなれる、ハザードモジュールの代わりとなる、彼にとってのイグナイトモジュール。

戦闘力はイグナイトと同等の力を発揮し、比較的に近接特化型となっている。

 

 

「そして何よりも驚いたのが、通常形態でも防護フィールドが施してあることです。僕が取り付けようとしていた時には手の出しようも無かったのがいつの間にか構築していたなんて………。」

 

 

バルムンクは突然変異で生まれたギアである為、回路系統も複雑である。下手に弄ると回路に影響が出る可能性があったので手の施しようが無かった。

しかし、ガリィとの戦闘の後、彼のギアを解析するとなんと防護フィールドを発生する処置が施されいたのだ。

 

何故そうなったのかは、恐らくネビュラガスが変質して彼のギアの構成を書き換えたのだろう。

その為通常形態でも、アルカ・ノイズと戦えるようになった。

 

 

「しかし一体何故………。」

 

 

「それはアガートラームのお陰だと思います。」

 

 

「アガートラームが?」

 

 

「はい。実際にクローズモジュールを見てアガートラームと似てると思いませんでしたか?クローズモジュールを起動してる際に微弱ですが、アガートラームの信号を発していました。

これはマリアさんが暴走した際にハザードトリガーでイグナイトのエネルギーを吸収してそれをガリィにぶつけました。その時に、ハザードトリガーにアガートラームのイグナイトの力が残留していたから、アガートラームに近い力を持つことが出来たと思います。

砕いて言うなら『擬似アガートラーム』と言った方がわかりやすいでしょう。」

 

 

「『擬似アガートラーム』か………。」

 

 

「兎に角マリアさんのお陰で奏空さんに新たな力が得られので自分は何も問題ないと思います。」

 

 

「ふむ、それなら納得いくな。」

 

 

「そう………マリアのお陰ねぇ…………。」

 

 

弦十郎とエルフナインは納得していたが、凛音は何処か複雑な気持ちになるのであった………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「むむ、むむむむ〜。」

 

 

学校帰りの切歌は自販機と睨めっこしていた。数あるボタンの羅列。種類は様々でメジャーなドリンクや、変わり種なドリンクなどがあった。

 

 

「これデースッ!!」

 

 

決まったのかボタンを押すが、何故か両手でそれぞれ違う箇所を押す。ガコンと飲料落ち、取り出すと案の定出てきたのは今の暑い季節にかけ離れたコーヒーのブラックだった。

 

 

「うへー!ブラックが出ちゃったデス!」

 

 

飲みたかったであろうドリンクじゃなくてゲンナリする。だったら初めからそれを押せば良かった話じゃないのか?すると彼女の持っていたブラックがひんやりした林檎ジュースになっていた。

 

 

「私、ブラックでも大丈夫だから。」

 

 

「ご、ごっつぁんデース………。」

 

 

既に開けていたブラックを口へ運ぼうとする。すると背後から手が現れてブラックからピーチジュースにすり変えられた。

 

 

「おっ、ブラックじゃ〜ん。ラッキー丁度飲みたかったんだ〜。」

 

 

腕の主は奏空だった。調の有無を聞かずにそのままぐいっと口に運んだ。

しかしブラックは砂糖が一切入ってない無糖。大人でも飲む人は数少ない。

それを一気に飲み干すと、予想通り酷く顔が歪む。

 

 

「えっと………大丈夫?」

 

 

心配そうに尋ねると、『待て』というジェスチャーをすると近くの空き缶入れに飲み干したブラック缶を入れる。そしてそのまま口に含んだブラックを全部出した。というか吐いた。

 

 

「わぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

「大丈夫デスか奏空っ!?」

 

 

滅多に出ない調の悲鳴が響き、二人は奏空(負傷者)に駆けつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー不味かった。誰だよブラックなんてものをこの世に生み出した奴………。」

 

 

「無理しなくていいのに………。」

 

 

「だからって捨てるのは勿体ないだろ。」

 

 

「全部出したんデスがそれは………。」

 

 

「エーナンノコカナーシラナイヨー?」

 

 

カタコトで誤魔化してナタデココ入りの飲むヨーグルトを口に含む。

あの後全部吐いた彼は自販機に駆けつけて今も飲んでいる

 

飲むヨーグルトを三つ買って無理矢理味を変えた。しかも普通の缶ジュースサイズの。しかし中にはイチゴポタージュという明らかに美味しくなさそうなものが入っており、そんなことも気付かずにそれを飲んだ直後また振り出しに戻った。

 

 

「悪いな二人とも。嫌なもの見せてしまって………。」

 

 

「…………ねぇ、奏空。」

 

 

「ん?」

 

 

「奏空は先日イグナイトの力を手に入れたんだよね?」

 

 

「え、あ、うん。いや、でもアレってイグナイトって言ってもいいのかな?」

 

 

「兎に角新しい力を手に入れたんだよね?それで思ったんだけど…………どうやったら自分に打ち勝つことが出来るのかな?」

 

 

一瞬だけ硬直し、うーんと唸って考え始める。

調と切歌のギアは既に改修及び、イグナイトの搭載は完了している。

8人の装者の中でまだイグナイトを起動していないのは彼女達だけだった。

自分に打ち勝つ方法。

マリアは『自分らしさを強さに変えて、弱いまま呪いに叛逆した。』と言っていた。

逆に自分は『破壊する力ではなく、明日を創る力にし、戦いを終わらせる者となる。』という想いで変身してみせた。

二人の場合はどういった想いでイグナイトのトリガーとなるのか。

さらに深く考えていると突然着信音が鳴った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

着信者は弦十郎。

内容は共同溝にアルカ・ノイズの反応が感知したということ。

丁度そこから近かった響と合流して迎え撃てと言われたが………。

 

 

「どうなってんだ一体?」

 

 

「やっぱり様子がおかしいデスッ!」

 

共同溝に入ると、そこには待機していたミカとアルカ・ノイズの姿が。

響はすぐさまギアを纏うとミカに突進して拳打を放った。『まだ全部言い終わってないんだゾッ!』とミカの話を遮って攻撃をしたのだ。

更にそこからアルカ・ノイズを倒していくが、途中から歌わなくなり、何かを悔やむように叫んだ。

戦いながら彼女の様子を見ているとあることに気付いた。

 

 

「(涙?)」

 

 

うっすらと彼女の目に溜まっていた雫。

二人にも見えたのかそれを疑問に思っていた。

 

 

「(何でそんな簡単にやり直したいって言えるんだっ!)壊したのはお父さんのくせに!お父さんのくせにっ!」

 

 

「馬鹿っ!共同溝を壊すつもりかっ!?」

 

 

柄にも無く声を荒げて奏空が静止するが、聞く耳持たずでノイズ達を天井に打ち付ける。

 

 

「お父さんのくせにぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 

腕のシリンダーを下げてパイルバンカーの如く撃ち放ち、天井が砕ける。

まるで硝子のように………。それを見た彼女は外から石を投げつけられて家の硝子が割れる映像が脳裏によぎった。

 

 

「(違う………壊したのはきっと………私も同じ…………。)」

 

 

「ションボリだゾッ!!」

 

 

「っ!ガァッ!?」

 

 

一瞬の気の迷いが油断を生むとは正にこのこと。動きが止まった響にミカは右腕から紅いカーボンスティックを射出して彼女の胸に被弾し壁に打ち付けられる。

 

 

「言わんこっちゃないデスッ!」

 

 

アルカ・ノイズを倒していち早く響の元へ駆け付ける切歌。それを見逃さないミカはそのまま熊の手から巨大な炎を噴射する。

響を介抱している切歌は逃げるのが遅れ、炎の塊に呑み込まれ…………。

 

 

「くっ………。うううう……………。」

 

 

………たに見えた。

ヘッドギアを巨大鋸に変えて二人を守るように盾になっていた。

 

 

「大丈夫………?切ちゃん………。」

 

 

苦しそうにこちらを振り向く彼女を見て切歌は何処か思い当たる顔をするとすぐに顔をしかめる。

 

 

「な………わけ………ないデス………。」

 

 

「っ?」

 

 

「大丈夫なわけっ!ないデスッ!!」

 

 

それはクリスのギアが破壊され、救護した際に彼女が言い放った言葉と酷似していた。

 

 

『護る筈の後輩に護られて、大丈夫なわけないだろうっ!』

 

 

実際の今の自分もそうだ。

こんな筈じゃないのに………。そして自然と自身のコアに手を伸ばす。

 

 

「駄目………無茶するのは…………私が足手まといだから?」

 

 

「っ!」

 

 

再び苦しい顔でこちらを向く調。

二人の想いはどんどんすれ違っていく。その隙を逃さないミカは更に火力を上げようとすると急に視界がブレた。

 

 

「ゴオッ!?」

 

 

「俺がいることを忘れるなっ!」

 

 

彼女の顔面目掛けて飛び蹴りを放った奏空だった。

剣を構えて調の前に出る。

 

 

「調、切歌っ!響連れて先に撤退しろっ!!」

 

 

「でもっ!」

 

 

「心配すんなって!俺はつよ「まだ話の途中だって言っているゾッ!!」やばっ!?」

 

 

再び火炎放射を放って来たミカに対して、大剣を盾のように持ち替えて防ぐ。

だが、刀身がすぐに熱くなり、その熱が柄まで達していた。

 

 

「あちちちちちちちちちちちっ!?」

 

 

「奏空っ!」

 

 

(あち)ぃっ!(あち)ぃっ!!あちぃっ!!アチィッ!!」

 

 

若干ふざけているように見えるが、常人なら大火傷しているのだ。ギアを纏っているお陰か、ある程度耐熱性を持っていたのが救いだ。

しかし熱さに耐え切れなくなった彼はジタバタ慌てはためく。その瞬間何かが落ちた音がした。

視線を落とすと、龍のクレストが目印のグレートドラゴンフルボトルが大剣の前に落ちていた。

 

 

「やっべぇっ!!」

 

 

拾おうとするにも火炎放射の所為で前に進めない。次第にボトルが熱で赤くなる。このままでは溶けてしまうのでは?という勢いで。

 

 

「デュフフフッ!このまま焼き殺してやるゾッ!『ミカ……。』っ!」

 

 

『いつまで道草食っているの?早く戻って来なさい。』

 

 

「ちょいと邪魔が入っただけだゾ。」

 

 

ファラからの念話を受信すると放ち続けていた火炎放射を停止させる。

すっかり熱で橙色に染まった大剣を奏空は落とした。

 

 

「運が良かったなジャリンコ供!今回はお預けだケド、次やる時は殺す勢いでやるからナ〜。」

 

 

転移石を熊の手で砕くと錬成陣が現れて、ミカは姿を消した。

全てが終わって全身の力を抜けた。まだ何かあるんじゃないかと消えた場所を凝視しながらボトルを拾おうとする。

 

 

「あっつっ!?」

 

 

しかしボトルの方もまだ橙色に染まっていてとてもじゃないけど触らない状態だった。

暫く放っておこうとしていると、キャップ部分から何かが漏れ出す。

その漏れ出したものは次第に形作り、見たことがあるものに変換する。

 

 

「ゼリー?」

 

 

ゼリー飲料のような形になり、キャップ部分がフルボトルと同じ形の水色で、パッケージ部分には龍の横顔がプリントされていた。

暫く呆気に取られていたが、二課からの通信で我に返り、フルボトル共々謎のゼリーも拾い上げてその場を離れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

響が何故あんな風になっていたのか後から判明した。

父親と再会したが、その父親は長年響の家族から離れていた。彼女がいじめを受けている間に。

しかも自ら切り捨てたのにまたやり直せないかと向こうから言ってきたそうだ。

その対応に対して響は今更無理だと豪語したとのこと。

 

 

父親。

それはかつて彼にもいた者だ。顔は殆ど覚えていないけど優しく接してくれたことは覚えている。

そんなの父親じゃないと言いたいが、じゃあ自身の父親はどんな人物かと聞かれたら答えが揃えていない。

きっと優しかったとかそういう曖昧な答えでは説得力に欠ける。

それも問題だが、他にも目の前に別の問題が生じていた。

 

 

「ふんっ!」

 

 

「つーん。」

 

 

「…………。」

 

切歌と調が絶賛喧嘩中なのだ。

何故こうなっているかというと戦闘中でちょっとした揉め事が起こってそこで口論になり、治療中の時も互いの顔を合わさなかったそうな。

現在は気晴らしに出店がある神社に向かっていた。だがここに着くまで二人ともこんな感じだ。

 

 

「お前らいい加減仲直りしろよ………。」

 

 

「奏空には関係ないデスッ!」

 

 

「これは私達の問題。」

 

 

「…………。」

 

 

どうしたものかと頭を抱えてしまう。

もうすぐで目的の神社に着こうとしたその時、一際大きい爆発音が近くに響いた。

すぐに駆けつけるとやはりと言っていいか、鳥居の上にニヒルな笑いを浮かべたミカがいた。

 

 

「足手まといと軽く見てるのなら!」

 

 

顔の絆創膏をペリペリ剥がして各自、聖詠を口ずさんだ。

 

 

「♪Various shul shagana tron……」

 

 

「♪Zeios igalima raizen tron……」

 

 

「♪ close core balmunk tron……」

 

三人はギアを纏い、調が先手を打った。

 

 

『α式・百輪廻』

 

無数の丸鋸がミカに降り注ぐ。だがカーボンスティックを取り出して盾代わりに防ぐと一気に三人に距離を詰めた。

奏空目掛けて大きくカーボンスティックを振り下ろすが、大剣で受け止めた。

その隙に調と切歌は散開。調が回転するとスカートが鋸となり、ミカに刃が迫る。

 

 

『Δ式・艶殺アクセル』

 

 

しかしカーボンであっさり跳ね返され、追撃する切歌も弾き出される。

 

 

「これぽっちィ?これじゃギアを強化する前の方がマシだったゾ。」

 

 

「そんなことっ!あるもんかデスッ!」

 

「駄目っ!切ちゃんっ!!」

 

 

「無闇に突っ込むなっ!」

 

肩にカーボンを乗せて気怠けに溢すミカ。その挑発に怒りを覚えた切歌が鎌の刃を振り飛ばす『切・呪リeッTぉ』を放つ。鎌は被弾して爆煙を上げた。

 

 

「どんなもんデスッ!」

 

 

「こんなもんだゾッ!」

 

しかし爆煙の中から出てきたのは幾つもの大型カーボンスティックを宙に浮かせて腕を掲げているミカが現れる。熊の手を振り下ろすとそれに倣ってカーボンも地上に降下する。切歌は何とか避けようとするが、カーボンは彼女を囲むように地面に刺さって逃げ場が無くなる。

そして眼前には新たなカーボンが向かって来ている。

 

 

「躱せないのなら………受け止めるだけデスッ!!」

 

アームドギアを構えて迎え撃とうとするが、目の前に調が巨大鋸を展開してカーボンを防いだ。

ホッとした奏空だが、またしてもトラブルが生まれる。

 

 

「なんで、後先考えずに庇うデスかッ!」

 

 

「やっぱり………私が足手まといと………。」

 

 

再び口論が始まるのかと思ったが、切歌の発言で戸惑う。

 

 

「違うデスッ!!それは………調が大好きだからデスッ!!」

 

 

「えっ………?」

 

 

「大好きな調だから………傷だらけになるのが許せなかったんデスッ!!」

 

 

「私………が………?」

 

 

「私がそう思えるのは、あの時調に庇って貰ったからデスッ!皆が私達を怒るのは、私達を大切に思ってくれているからなんデスッ!」

 

 

「私達を………大切に思ってくれている………優しい人達が………。」

 

 

応戦してミカに挑んでいた切歌だが、攻撃に耐え切れずに吹き飛ばされてしまう。

 

 

「何となくで勝てるわけないゾォッ!!」

 

 

ワサワサと熊の手を動かせて挑発するミカ。だが、今の二人は何処か落ち着いていた。

 

 

「マムが残してくれたこの世界で、カッコ悪いまま終わりたくないっ!」

 

 

彼の脳裏に浮かんだのは戦闘後の響の顔。いつも明るい彼女とはかけ離れていた悲しい顔をしていた。

 

 

『無責任でカッコ悪かった………。』

 

 

大剣を握る力が増す。

彼女にはあんな顔二度とさせたくない。何かと救われたあの笑顔。

凛音(彼女)に近づく勇気をくれたあの笑顔。もう壊させやしない。

 

 

「だったら………カッコよくなるしかないデス………。」

 

 

「自分がしたことに向き合う強さを!」

 

 

二人はコアを握り締めて声高らかに上げる。

 

 

「「イグナイトモジュールッ!!抜剣っ!!(デスッ!)」」

 

『Danesleyf』

 

両端を押し込むと無機質な電子音が鳴り、宙に放ると変形して刺々しくなり、二人の胸に突き刺さった。体が黒に侵食され、二人の意識を呑み込もうとする。

 

 

「ごめんね………切ちゃん………。」

 

 

「いいデスよ……それよりも………皆に………。」

 

 

「………そうだ。皆に………謝らないと………その為に……… 強くなるんだっ!!

 

 

瞬間二人は黒を纏った。

調はツインテール型のヘッドギアからポニーテール型になり、小さな角が生えているように見え、切歌もヘッドギアが大型化し、肩の装甲も刺々しくなる。側から見たら悪魔を彷彿させる見た目となった。

 

 

『Just Loving X-Edge(IGNITED Arrangement)』

 

 

新たな形状になった獲物で二人はミカに仕掛ける。イグナイトを起動出来たことにより、更に気持ちが高まった彼女はこれまでの比じゃない程の猛威を振るう。

大型の鋸ヨーヨーを鷲掴みにして調を地に叩き付けられる。

 

 

「そんなんじゃ最強のワタシには響かないゾ!もっと強く激しく歌うんだゾッ!!」

 

 

両の掌からカーボンロッドを機関銃の如く乱射する。調の前に切歌が鎌を回転させて防ぐが、その隙に接近したミカに壁に叩き付けられる。

そこから追い討ちの如くカーボンロッドが飛び交い、彼女の退路を無くした。

そして目の前にはニヒルに笑って掌の噴射口から光りが………。

 

 

「向き合うんだ………でないと乗り越えられないっ!!」

 

 

ヘッドギアが3分割されて通常よりも多くの鋸を射出される。だが、ミカのロール髪が解かれて尻尾のようになぎ払う。二人のイグナイト相手でも全く怯まないミカに脅威を覚えた。

再びロール髪になると跳躍して上空に止まると円を描くように指を動かす。

すると円を描いた箇所からカーボンの柱が飛来して来た。三人は降下するカーボンを避けながら駆け出す。

 

 

「逃げててばっかりじゃジリ貧だゾォォォッ!!」

 

 

先程よりも巨大なカーボンロッドに乗って背を向けている切歌目掛けて迫った。

 

 

「知っているデスッ!!だからっ!!!」

 

 

鎌を使って地面に刺さったカーボンに引っ掛け、一周してミカを蹴り飛ばす。

 

 

「ゾなもしっ!?」

 

 

肩の装甲からワイヤーを射出する。ワイヤーはミカを捕らえず、禁月輪で向かって来ている調のアームドギアに接続。残ったワイヤーはミカを縛って爪が地面に刺さって完全に逃げなくなった。

 

 

「足りない出力を掛け合わせテェッ!?!?」

 

 

『禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS』

 

 

挟み撃ちの形で二つの刃がミカを捕らえる。切歌は横、調は縦にそれぞれの刃を用いて彼女を斬滅しようとしていた。完全に逃げ場を失ったミカは何も出来まいと奏空は思っていると彼女の口角が釣り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、突如としてミカが光を放った。

それは爆発にも近い光だった。倒したのかと思ったが、二人の悲鳴が耳に入ってそれは無くなった。

爆心地にはミカがいた。確かにミカだった。しかし、衣服が無くなって自身が造られた存在と主張するような機械仕掛けの身体。

ロール髪が解かれて紅いロングヘアを靡かせ、身体が熱を帯びるかの如く照らしていた。

 

 

「セイィィ!!正ィィィィ!!!星ィィィィィィィィィィ!!!!!

 

 

まだ強くなるって言うのか!?

ただでさえ素の性能がとんでもないのに更にそれを上げることが奴に出来るのか。

これは所謂、擬似イグナイト…………。

目に十字の星を光らせると、一瞬にして切歌の懐に転移した。

 

 

「ゴッ!?」

 

 

ミシミシと腹部に鋭い蹴りを入れられ、カーボンの柱に叩き付けられた。

彼女の元に駆け付けようとする調だが、いつの間にか接近されていたミカに回し蹴りで切歌同様カーボンの柱に叩き付けられる。

小さな体にとてつもない衝撃が走る。思わず胃の中の物が出そうになる勢いだった。

 

 

「どうダ?ワタシのチカラは?正直侮っていたダロ?イグナイトになれば倒せると思ったら大間違いだゾ。なんたってワタシは最強の自動人形(オート・スコアラー)だから

ナァ!!」

 

 

手にした希望が砕かれる音がした。

ようやく手にした力で、みんなと同じ位置に着けたと思ったらそれを嘲笑うかのように敵は軽々と越える。

 

 

 

 

 

 

………私は一体何をしている。視界の奥には柱に打ち伏した大切な人が倒れている。

早く助けなきゃ………。でないと殺されてしまう。

………いや………駄目だ。アイツは先に私を殺すつもりだ………。

ホラ………もうそこまで迫ってきている………。

あんなに息巻いて言っていたのに………。あの時と同じ………。

結局自分は何も出来ない子供なの?

 

無垢な少女の瞳から一筋の涙が地に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ。まだ泣くには早すぎる。」

 

 

聴き慣れた声が聞こえた。

見上げると何度も見た黒い背中が。ずっと見てきた筈なのに今じゃ大きく感じてしまう背だった。

 

 

「奏空………。」

 

 

「カッコ良くなる………ね。それはヒーローになるってことだよな。………ヒーローってのは人々を守るだけじゃない………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんなピンチでも常にぶち壊して行くもの………。こんな言葉を知っているか?Plus Ultra(更に、向こうへ)ってな!!」

 

 

Plus Ultra(更に、向こうへ)…………。」

 

 

だが、誰もが最初からピンチを壊せるものではない。ピンチを壊し、さらにその先の向こうへ行けるものこそがヒーローなのだ。

それに対してミカはくだらないと言わんばかりに鼻で笑う。

 

 

「バカバカシィ!ナニがヒーローだァッ!?ナニがプルスウルトラダァッ!?そんなの世迷い言に過ぎナイッ!!第一何処にそのヒーローはいるんダァッ!?!?」

 

 

尚も身体を照らして手をワシャワシャして馬鹿にする彼女に、彼は不敵に笑う。

 

 

「いるさ………ここに………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローは俺だっ!!」

 

 

己がヒーローであることを示すように、ドンッと胸を叩いた。

 

 

「戯言ヲォッ!とっとと死ネッ!!」

 

 

両の掌から炎ではなく、紅いエネルギー弾を奏空目掛けて放つ。しかし彼は動かない。

それはただの見栄を張っているのか、背後に調がいるからか。

 

 

「駄目っ、奏空逃げてっ!!」

 

 

「……………。」

 

 

それでも彼は何も言わず立っていた。

その口角が釣り上がっていたのが薄らと見えた。

 

 

「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

そして紅いエネルギー弾が彼に被弾して爆煙を上げた。その光景を目の当たりにしていたミカは一人笑いこげる。

 

 

「ニーヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッ!!!バカなヤツッ!!最後まで抵抗せずにすんなり攻撃を受けやがっタッ!!さーて、残るはガキンチョの二人だけだしこんなのラクショ………。」

 

 

切歌の方へ向こうとすると奇妙な音が耳に入った。ゴボゴボと液体が注がれるような音。

それが更に大きくなっていく。

 

 

『潰レル!流レル!溢レ出ル!』

 

 

厳つい電子音が鳴り響き、煙が晴れて行く。そこに立っていたのは異形だった。

 

 

『Dragon in CROSS-Z CHARGE!BLAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

腕に白銀の装甲。肩はゼリー飲料のパックを模し、そこに龍の横顔が描かれた装甲。更に胸部には同じく龍の横顔が形作られた水色のクリアパーツ。

そして一番の特徴は遠くから見ると龍の顔のような仮面に包まれていた。

胸部装甲と同じ水色で、その奥には黄色い双眼が覗かせていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「奏………空………?」

 

 

あまりにも変わり果てた姿に困惑する調。すると次の瞬間………。

 

 

「ウガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

獣如く天に向かって雄叫びを上げた。

 

 

BGM『Beast out』

 

 

黄色の双眼がミカを捉え、姿勢を低く構えて一気に飛び掛かった。

しかし単調な動きな為、彼女は難なく避ける。彼の勢いは止まらず、刺さっていたカーボンの柱を殴り付けると殴られた箇所から亀裂が走り、粉々に砕けた。

このとてつもない力の奔流。肌で感じたことがある。

 

 

「暴走………?」

 

 

だとしたらそれしかない。

あんな獣混じりな雄叫びが暴走じゃなかったら一体何だろうか。兎に角今の彼は理性を完全に失っていた。

今度は体を捻って刺さっている柱に飛び跳ねてミカを囲む。何処から来てもおかしくない状態だが、彼女は難なく上空に跳躍して攻撃を避ける。

 

 

「残念ダッタナッ!!いくら新しい力を持ったとしても暴走したら意味がナイッ!!」

 

 

着地して一気に飛び掛かって熊の手が彼の顔に降りかかる。調が叫ぶが、今の彼には聞こえてないだろう。

鋭利な爪が彼の顔を引き裂いて…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰がいつ暴走したって?」

 

 

「ナッ!?」

 

 

仮面の下から声がすると、彼女の腕を寸前で掴んで止めた。よく見ると左腕のレジスターには四角いゼリー飲料のパックが装填されていた。

そして流れるようにゼリーパックを外して金色のボトルを装填する。

 

 

『GREAT CROSS-Z DRAGON!!』

 

 

「キャストオフ。」

 

 

音声は流れず、インストの変身音が流れると、背中にクローズモジュールのパーツが現れ、ゼリー部分の装甲や、肩と腕の装甲が飛び散るように外れてクローズモジュールの姿になった。

掴んだ腕を離さずにガラ空きになった彼女の腹部に鋭い左を入れて、吹っ飛ばした。

飛んでいる間に熊の手を地面に突き刺すことにより、数メートルのところで止まった。

 

 

「な、なんでダ………お前のアレは明らかに暴走していたハズ………。」

 

 

「馬鹿か。そう簡単に暴走すると思ってるのか。アレはお前が油断したところでカウンターを決める為の演技だったのさ。」

 

 

取り換える際に外したゼリーパックを見せつける。それは数時間前にミカの火炎放射で熱したグレートドラゴンフルボトルから出て来た成分が変異して出来たゼリーパックだ。

 

 

「コイツをレジスターにセットした場合、ゼリー状のものが顔、胴に纏い、水色の装甲と化す。装甲はあらゆる衝撃を吸収し、その衝撃をギアのエネルギーに変換させて貯蔵させる。

そしてグレートドラゴンフルボトルを装填することでそのエネルギーがクローズモジュールの力となる。さっきなった形態は名付けるなら『クローズチャージ』ってとこか?」

 

 

「チャージだが、何だが知らナイが、例えそんな力を持ったとしてもこのワタシを倒すことなんてデキナイゾ!!」

 

 

「いいや出来るね。」

 

 

熊の手を広げて彼目掛けて駆け出すが、全く動じずに左の拳を放つ。

腹部に衝突する瞬間、左腕にゲル状の物が纏わり付き、とてつもない衝撃波を放ってミカを吹っ飛ばした。

ゲル状の物は形を変えて左腕に二つのスロットがあるパイルバンカーのようなものが握られていた。

 

 

『TWIN BREAKER!』

 

 

『ツインブレイカー』

片手式簡易型のパイルバンカーであり、クローズチャージモード(後述チャージモード)の貯蔵したエネルギーで形成出来る専用武器。アームドギアに類する。然程大きく無いので戦闘に支障は出ない。

但し、チャージモードの後に使用可能なのでクローズモジュールの最初からは使えない。

 

 

「マダそんな武器を隠し持って………。」

 

 

「違う………()()()()()。」

 

 

「創ったァ?」

 

 

「そうだ…………よく聞け人形。俺達人間は最初から強いわけじゃない。だが、お前達と違うことが一つある!」

 

 

それは積み重ねが出来ること。

 

 

汗を流し、血を吐き、その鍛練で結果を出し、さらに上に行くことが出来る。

そして自身のことを一番把握することが出来ること。

 

 

「お前らみたいに燃料さえ有れば動く機械じゃない………。絶望に抗う力………それが人間(ヒト)の力だっ!!」

 

 

「人間の……力……。」

 

 

倒れている調に手を伸ばす。その手が今はとても大きく感じた。

 

 

「行こう調。俺達で奴を倒すんだ。俺達の手で………この戦いを終わらせるんだっ!ほら、切歌も起きろ!そんなんでやられるタマじゃないだろ!」

 

 

「えへへ、バレてたデスか〜。」

 

ひょいっと立ち上がって彼の隣に並び立つ。 

そうだ………たとえ相手が強くなったとしても、それでも挫けずに立ち向かうだけのこと!

 

 

「奏空!」

 

 

「行くぞ調!」

 

 

「うん!」

 

 

調も隣に並び立ち、新たな力を得た三人の装者が揃う。

対するミカは三日月のように釣り上げる。

 

 

「笑わせンじゃネェ!ワッパ供ォォォォォォォォ!!!」

 

 

最早口調も変わり出した彼女は掌からカーボンロッドを機関銃の如く乱射する。

三人はそのままカーボンを掻い潜るように駆け出した。

 

 

挿入歌『Burning My Soul 』

 

 

♪なんのために奪う?なんのための未来?

なんのために傷つけ、傷ついて生きてゆくのかな?♪

 

奏空はツインブレイカーを用いてミカにラッシュを叩き込む。削るような音を立て、火花が散る。

しかし彼女はまるで効いていないかのように払い除けた。

 

 

「チマチマ鬱陶シイゾォォッ!!」

 

 

またしてもカーボンロッドを乱射するミカ。彼はツインブレイカーの白い銃身を前に持っていく。

 

 

『BEAM MODO!!』

 

 

ばら撒くかのように弾丸を発射させてカーボンを打ち砕いた。

 

 

「これだけじゃねぇぜ!」

 

空いた掌に光が集まると、形作って見たことのある形状になる。

彼の持つボトルと似たようなグレーのボトルだ。容器の中央には機関銃のようなデザインが施されていた。それをツインブレイカーに差し込む。

 

 

『Single!』

 

 

待機音が鳴ると同時に灰色のエネルギーが二つの銃身に集まる。それをミカに向けて構え、トリガーを押す。

 

 

『Single Finish!』

 

 

勢いよく突き出すと先程のエネルギー弾が機関銃の如く放たれる。

しかも発射される瞬間、空中で弾丸の形となっていた。すぐにカーボンロッドを回して防ごうとするた虚しくすぐに割れて熊の手で防ぐことになる。

 

 

「こういうことも出来る!」

 

 

再び掌を広げると、今度は紫の蝙蝠と、水色のヘリコプターのフルボトルを作り出した。

グレートクローズボトルの下部にバットフルボトルを差し込む。

 

『コウモリ!Creation!!』

 

そして外してヘリコプターフルボトルを差し込んだ。

 

 

『ヘリコプター!Creation!!』

 

 

両手にそれぞれ紫と水色のエネルギー体が集まり、それを切歌と調目掛けて放った。

紫のエネルギー体が切歌に接触すると、彼女の背中から蝙蝠を模したゲル状の羽が生え、調には水色のエネルギー体が接触するとゲル状の飛行ユニットが背中に現れ、二つの水色のプロペラが現れる。

 

 

「こ、コレハッ!?」

 

 

「所謂、能力付与ってヤツだ。俺は一人だけで戦う力を持ってるんじゃねぇ!!これが創る力ってやつよぉっ!!」

 

 

飛行能力を手に入れた切歌は上空から斬り裂き、調は丸鋸と高速回転するプロペラを同時に投擲する。

まともに喰らって無防備な彼女に奏空は更に追い討ちを掛ける。

 

 

「こっちを見ろぉっ!!」

 

 

『ベアー!Creation!!』

 

新たに生み出した黄色のクマフルボトルによって両手にゲル状の巨大な熊の手が現れる。

そのまま蚊を潰すが如く、ミカを熊の手で包んだ。被弾した瞬間、熊の手が弾け、彼女自身も弾け飛んだ。

 

 

「キサマァァァァァッ!!」

 

すぐさま態勢を整えて鯖折りにせんと言わんばかりに彼に襲い掛かる。

それに対して冷静に新たなボトルを作り出した。

 

 

『発動機!Creation!!』

 

 

赤いオーラを纏ってミカと取っ組み合いになる。最初こそ互角に渡り合っていたが、赤いオーラが更に大きくなって次第に彼が押し始め、遂には彼女手首をへし折った。

 

 

「ギニャァァァァァァァァァァァァァァァッ!?!??」

 

 

感じたこともない激痛に思わず声を上げ、彼女の腹部に鋭い蹴りを入れて再び吹き飛ばした。

手首があらぬ方向に曲がって使い物にならなくなった彼女だが、鬼の形相のように睨み付ける。

 

 

『グガァァァァァァァァァァッ!!!!』

 

 

遂には獣のように咆哮を上げて三人に駆け出した。

それでも彼はまた新たなボトルを作り出し、元々あったロックフルボトルと共に、ツインブレイカーに差し込んだ。

 

 

『Twin!!』

 

 

待機音が流れ始め、二つの銃身にそれぞれ金と桃色のエネルギーが集まる。

 

 

『Twin Finish!!』

 

 

トリガーを押すと銃身から金の鎖と桃色のオーラを纏ったイバラが放たれる。

それらはミカを拘束するように身体に巻き付き、先端が地面に刺さって先程と同じようになる。

 

 

「次こそ決めるぞ調、切歌っ!!」

 

 

「ええっ!」

 

 

「合点承知デスッ!!」

 

 

二人は跳躍すると、切歌の右足の先端に刃が生え、調の左足の先端に丸鋸が生える。

奏空はドラゴンゼリーを下部へ取り付ける。

 

 

『Dragon Jelly!』

 

 

電子音と共に腕の装甲がクローズチャージと変換される。

 

 

「終わりだっ、鉄屑っ!!」

 

 

スイッチを押すとどういう原理か、ゼリーパックが横から圧力が掛かったようにクシャッと潰れる。

 

 

壊れよ、鉄屑(Scrap Breake)!!』

 

 

勇ましい電子音が鳴り響くと、水色のオーラを纏い、跳躍すると腕のピースパックから水色のゲル状のような物が噴射され、それが推進力となって一直線に降下した。

切歌と調も同時に降下し、緑、桃、水色の三つの矢となってミカに向かって落雷する。

 

 

『Trident Spear』

 

 

眼前まで迫った瞬間、彼女は何処か嬉しそうに釣り上げ、小さな胴体に大きな空洞が空いて爆発四散した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ミカの撃退後、S.O.N.G.が駆け付けて後処理をしたが、その時にクリスと弦十郎にうんと叱られた。応援を待たずにそのまま戦闘を続行したからだ。

奏空に関しては再検査の必要があるのでそのまま本部に向かうよう指示され、三人は帰路についた。

 

 

「はははー。怒られちゃったデスね………。」

 

 

「…………。」

 

 

「奏空?」

 

先程から顔を俯かせている奏空は、急に歩む足を止めて二人に向き変えると深々と頭を下げた。

 

 

「ごめんっ!!」

 

 

突然の謝罪に困惑する二人だが、彼は淡々と続ける。

 

 

「二人の気持ちに気付けなくて………。俺、ずっと皆んなを守ろうって思っていたんだけど……二人は強くなりたいって思っていたのに………本当にごめんっ!!」

 

 

再び頭を下げて謝る奏空。そんな彼に調はそっと近づいて耳元で囁く。

 

 

「奏空………顔を上げて。」

 

 

「っ?しら…………べ?」

 

 

言われた通りに上げた直後、小さな細い腕が彼の身体にキュッと巻き付いた。

瞬間的に硬直してしまうが、調は彼の胸に顔を沈めた。

 

 

「大丈夫だよ………奏空が謝ることなんて何一つも無い。奏空はただ、周りのことを守ろうということで頭がいっぱいになっていただけ。私は奏空のことも守ろうって言っていたの。だからね、約束して…………これからは一緒に戦おうって。」

 

 

「…………うん。」

 

 

頷くとそっと抱き締めた。

すると見兼ねた切歌が奏空の後ろから抱きついて来た。

 

 

「ちょ、切歌っ!?」

 

 

「調だけズルいデスッ!!私も抱き締めるデスッ!!」

 

 

「もう………切ちゃんってば………。」

 

誰が言ったかきりしらサンド。

奏空は暫く二人にされるがままになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また逝ったか………。ボトルの生成か………ますます楽しみだな。」

 

 

影で男が不気味に笑うのを知らずに…………。

 





ご覧になっていただきありがとうございました。
そして発表することがございまして、もう一つ新シリーズの小説を出そうと思っています。
勿論シンフォギアも出します。
二ヶ月間待って頂いたのにこんなことを言って申し訳ございません。
新シリーズと次回も楽しみに待って下さい。


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