Rebirth (大葉景華)
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第1話

ピーッ!と聞きなれたどこか気の抜けた笛の音が鳴り響く。その笛の音を聞いた瞬間俺達はその場に崩れ落ち、相手チームはベンチ総出で喜びを分かちあっていた。俺達の最後の戦い。男子ハンドボール総体が今終わった。

 

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「えーという訳で、俺達3年生は引退します。次のキャプテンは……」

 

と俺の隣で部長が話している。音は聞こえているのに話が全く頭に入ってこない。キャプテンの話の下手さが原因か……違う。あの一球。試合の時の一球の事が忘れられないのだ。「この一球は絶対無二の一球なり」って言ったのはどの球技だっけ?俺はウルトラ体育会系と共にウルトラ活字中毒である。小難しい本であろうが、漫画であろうが、SNSの呟きであろうが、とにかく文字を読んでいなければ死ぬと言っても過言ではない人間だ。そのせいで俺の部屋の本棚には最近流行りのラノベから、果ては聖書まで混沌としている。

 

「おい、副部長。お前もなにか言えよ」

 

いつの間にかキャプテンのありがたいお言葉は終わっていたようだ。俺はその時何を言ったのだろう。その言葉は果たして本当に俺の言葉なのだろうか?そもそも、言葉自体が先人の作り上げたものを借りている。単語、文章表現、スラングに至るまで自分で作り上げたものはひとつも無い。

 

そんな事を考えながら話した俺の話の内容を、俺は覚えてない。多分キャプテンと同じくらいのありがたさだろう。

 

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顧問やコーチの話を聞き、引退した三年生全員でファミレスでだべる。その後はめいめいに帰宅し、明日改めて学校で正式に引退をした。

家に帰り、自室のベットに転がる。寝ても醒めても忘れられない一球。その事だけを考えている。あの時ああしていれば……こうしていれば……後悔だけが積もって俺を押しつぶす。

キーパーと言う一歩引いた目線で戦うポジションだから分かる。あの試合……負けたのは俺のせいだ。

 

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時は流れ秋が来た。俺達が引退して新チームとなって初めての公式戦。俺含め、俺の代の何人かが応援に来ていた。

俺達も声を枯らして応援したが。奮闘虚しく北高校は敗退した。

 

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卒業式間近。卒業にあたって学校生活の思い出を書くことになった。勿論、部活動の事を書いたが、どうしてもあの時の思いを文章にする事が出来なかった。適当に「仲間と全力で戦えて良かった」なんかを書いたはずだが、3日で忘れた。

 

そうして俺は卒業した。

 

何も残せず何も残らず……物語にならない青春が今終わった。

 

 

 

 

 

 

 

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聞きなれたチャイムの音で目を覚ます。いつの間にか机で寝ていたようだ。伸びをしながら体を起こし、席から立ち上がる。すると1年の時のクラスメイト(名前は何だっけ?あんまり仲は良くなかったから覚えてない)が声をかけてきた。

 

「なぁ、次の授業なんだっけ?」

「はあ?知らんよ」

「ちぇっ……」

 

そう言って名前も覚えていない某氏は離れていった。

 

ん?いや待て。何故仲良くも無いそいつは俺に次の授業を聞いてきた?そもそも、そいつは2年の文理選択で離れたはずじゃないのか?

そもそも!なんで俺は高校時代の制服を着ているんだ!?

 

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周りを見回して分かったことはここは3年前の4月。高校一年生最初の月らしい。

制服も新しく、周りの話と言えば中学はどこだったとか、部活はどうするとかだ。携帯で日付を確認していると、隣の席の奴が話しかけてきた。

 

「なあ?お前何中だった?」

先ずは名前を名乗るのが礼儀だろうと思いながらも無愛想に自分の出身中学を答える。

 

「そう。俺は……」

「いや、いい。どうせ出身の中学とか聞いても意味無いし。それより、名前は?」

 

と俺が聞くと気を悪くした様子もなくそいつは名前を名乗った。

 

「そうか、よろしく」

 

そう言いながら俺も名乗り簡単な自己紹介を終え、周りの奴ら数人と雑談をしていると、チャイムが鳴り、担任が入って来る。

 

ホームルームでクラス全体に向けた簡単な連絡事項を終え、時間が余ったから全員で自己紹介をした。俺はこいつは覚えてる。こいつは覚えていないと考えながら全員のを聞いた。

 

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放課後、俺の記憶が正しければこのあと部活動の勧誘があるはずだ。記憶通りに昇降口から校門に向かうまでの道に大量の部活動の勧誘のビラとともに上級生達が新入生を青田買いしようと躍起になっている。俺は迷わず見慣れた先輩らの団体へと向かった。向こうも俺に気づいたらしく、営業スマイルを向けながら話しかけてきた。

 

「君!ハンドボール部興味無い?今部員少ないし中学からやってる子少ないから直ぐにレギュラーに慣れるよ?ほら!マネージャーもめっちゃ可愛いし!どう?」

 

人がいないというのは本当で当時のチームは3年が6人で2年生はたったの1人。だから部長は次世代のことを考えて部員勧誘をやってくれていたのだ。

俺も勿論断るわけなく、二つ返事でOKを出す。部長含め全員が喜んで歓迎してくれる。練習は明日かららしいからそれまでに部員勧誘を手伝ってくれとビラを渡されてこの日は終わった。



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第2話

一人でいるのと一人になるのは違う。

その事を理解したのは高校を卒業した頃だった。中学の時は俺はひねくれていて、敵を作りがちな性格だった。高校の初めの時もその性格が災いしてあまり友人は出来なかった。あの時とある友人が真に俺と話してくれなければあの時最後まで仲間と戦った俺はいなかっただろう。

 

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新入生歓迎から一日。とりあえず俺は記憶通りに周りの席の奴らに声をかけることにする。

左隣の奴は……確かサッカー部の奴だっけ?

 

「よ、宜しく」

 

自分はこいつの事を知っているのに相手は俺の事を全く知らない。下手に馴れ馴れしい挨拶をすればめんどくさいやつだと思われかねない。

そんな考えは杞憂に終わり、サッカー部の天パは気さくに挨拶を返してくれた。

 

「おう! 宜しく! 」

 

とりあえずファーストコンタクトで盛大にコケなかった事を内心喜び、当たり障りのない会話をしようとする。

 

「なぁ、お前中学どこだった? 」

 

「中学? 俺はなぁ……」

 

天パが言葉を発する前にちょっと面白いことを思いついた。

 

「待った! 俺が当ててみせるよ」

 

天パもその方が面白いと思ったのか、それに了承する。

 

「オーケー!ただしノーヒントだぜ? 」

 

「任せろ……ううん」

 

と悩むフリをしているが、進路の影響で三年間ほぼ同じ授業を受け続けた相手の中学くらいはさすがに覚えている。

 

向こうが飽きてきそうなほど悩んだりヒントを聞くふりをしておどけたりして、そろそろかと思う頃に答えるとするか。

 

「……うーん。……分かった! 社中学だろ? 」

 

俺がそう答えると天パも満足そうに首肯する。

 

「当たりー! よく分かったなー! 」

 

ドヤ顔を決めながら天パの前の席の大分チャラそうな奴にも話しかける。こいつが将来俺のチームに入りあまつさえ部長になるのだから世の中わからない。

 

「なぁ、お前も社中学だろ? 」

 

今度は勿体ぶらずに答えを言う。勿論三年間同じ部活だったから知っている事だったけど、こいつからすれば初対面の見知らぬ奴に中学を当てられたのだから内心ビックリだろう。

 

「お前すごいな! なんで分かったの? 」

 

事実ビックリして聞き返してくる事に満足しつつ、適当に答える。

 

「いや、こいつと仲良さそうに話していたからそうだろうなーって思っただけだよ」

 

俺のその即興の答えに部長も納得し、調子に乗ってクラス全員を出席番号順に出身中学を当てていった。

 

「あいつは社中、あっちは瓦中学。あ、あいつは俺と同じだから甲中だわ」

 

と次々と当てていく。そうしているうちにクラスの中心人物達の目に止まってワラワラと集まられた。

 

「何何?どうしたの?」

 

「いや、こいつがさー、クラス全員の中学当ててんのよ!」

 

「ウソだろ?なんで分かるの?」

 

クラスの中心人物連中が騒ぐから、今やクラス中の注目の的になってしまった。悪いことをしている訳じゃないから別にいいのだけど、どことなくこそばゆい。

 

「いや、たまたまだよ」

 

そう言ってキリがいい所で切り上げた。そうこうしているうちに気づいたのだが、俺は高校に入った時は緊張からつっけんどんな態度を取ってしまい、ややクラスで浮き気味だったはず。それなのに、今回みたいにクラスの注目の的になって褒められたりしている。どうやら俺の前世の(正しくは過去の)記憶と完璧に同じという訳ではなく、寧ろ俺の行動しだいでいくらでも過去は帰られるらしい。

 

それならと思い、今後は色々な行動をとる事に決めた。一回目では出来なかったいろんな人との交流をしつつ、俺の目標の部活で大成するを夢見て。

さしあたって今日から日記を付けることにした。一回目と二回目の記憶が混同しないようにだ。

 

早速今日の出来事を記し、明日が楽しみだと初めての日記の最後を締めくくった。



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第3話

友人や仲間というのは案外数奇なものだ。なんの縁もゆかりも無い間柄なのにふとした事で出会い、幼年からの友人であるかのように振る舞い合う。学生時代は竹馬の友とまで感じるほどの仲なのに、卒業してしまえば殆どと連絡を取らないどころか存在を覚えてるかどうかすら怪しい程だ。

 

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日記をつけ始めて二日目。毎日書こうとは最初から思ってはいなかったけど、意外と書き始めると楽しくなってやめられない。小さい頃から本を読むのが好きで、いつか自分も誰かをワクワクさせられるような小説を書きたいと思っていたせいかもしれない。一回目の高校生の時では、友人に即興の物語を聞かせてやり、帰り道の一興にする事もしばしばあった。

それはさて置き二日目には特にニュースというニュースは無かった。授業もまだ始まらず、ホームルームだけの半ドンだし、部活も実はまだ活動しておらず、一年生向けの部活動紹介も終わってないのだ。おそらく、一年生でここまで入部が早かった人はいないだろう。俺自身、前世? の記憶通りのチームメンバーはまだ集めようとせず、部活動紹介の後に勧誘しようと思っている。

特にやることも無いから荷物を纏めて帰ろうとする。その時、ふと思いついた。街の施設はどうだったか? まだあの施設は立っていないのか? そう言うことを言って大丈夫なのか? そう思って俺は街を散策する事にした。

 

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電車で数駅。最寄りの大きな駅、北口駅にたどり着いた。 昔、アニメの舞台になったから、所々にそのアニメのキャラクターの絵が描かれている。

行きつけのゲーセン。よく行く本屋。帰りによく寄ったファーストフードのチェーン店。大体記憶とおりにあったが、いくつかはまだ無かったり、寧ろまだあったりした。

アニメでよく使われた喫茶店は、俺が卒業した時くらいに移転となってしまったし、アニメのキャラクター達がよく立ち寄ったファミレスは、一年生の夏くらいには取り壊されてしまった。ファンとしては当時、なかなかに凹んだ記憶がある。

しかし、こうしてまた拝める日が来るとは……人生何が起こるか分かったもんじゃあない。そして改めて見てみると、俺の街は案外面白いものが沢山ある。娯楽施設は少ないけど、色んな専門店や、大型のショッピングモール。少し、電車に乗れば日本でも有数の大都市二つに簡単にアクセス出来る立地の良さ。

改めて自分の街の良さを実感して、俺はその日家路についた。

 

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翌日、長くきつい坂を登りながら登校中、クラスメイトの1人にあった。何を隠そう、コイツこそが前世? で俺が即興の小話を聞かせてやり、俺の話を真摯に聞いてくれた読者(正確にはこの頃は聞かせてやっていたから読者ではなく傾聴者とでも呼ぼうか)第一号だった。偏差値のあまり高くない俺の学校では、一応の進学の体を装っている実質の就職クラス四クラス。理系と、国公立クラスを狙う文系の混合クラス二つに分けられる。一応理系の俺は文系進学組のそいつと三年間同じクラスで、休み時間でもよく話していた。

 

「おはよ」

 

そう言いながらそいつの背中を軽く叩く。この前の一件で騒ぎすぎたせいか、俺の顔はクラス中に広まっているから「誰だお前?」という目を向けられずに住む。

 

「あ、おはよ」

 

そう言って向こうも挨拶を返してくれる。実はこいつもハンドボール部の仲間なのだが、どうやって入ってくれたかよく覚えていないのだ。大きな出来事は覚えていても細部まではさすがに覚えていられない。というか、そんなことが出来るなら俺はもう少しテストで余裕を持った点数を取れていただろう。

閑話休題。そいつと挨拶を交わしたあとはありきなりな会話をしながら一緒に登校する。そう言えばいつも一緒に帰っていたけど、こいつと一緒に登校することはあまりなかった気がする。俺がいつも誰よりも早く登校するのが主な理由な気もするけど……。早朝、職員室で鍵を借りて、教室のドアを開ける時の空虚に響く音が好きなのだ。

そいつとは特に共通の趣味は無かったが、話をすると直ぐに意気投合し、一緒に校門をくぐる。昇降口の時計を見上げると、まだ八時でおそらくまだ誰も教室には来ていないだろう。

 

「どうせまだ誰もいないだろうし、鍵。職員室に借りに行こうぜ」

 

俺がそう言うと、そいつも頷いて2人で二階にある職員室まで鍵を借りに行った。

 

「いつもこんな時間なのか?」

 

こんな時間に鍵を取りに来る一年生が珍しいのだろう。先生も不思議そうに俺たちを見下ろす。俺はそんな不躾な視線を三年間耐え抜いたのだ。飄々と受け流し

 

「先に校舎を少し回ろうと思うんですよ」

 

と適当に受け答える。

そうして鍵を受け取って渡り廊下を歩いて教室まで行く。俺が鍵を差し込む。

ガチャリと心地のよく、三年間一人で聞き続けた音を今日は二人で聞いた。



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