仮面ライダーアーツ (CrackMasterMk03)
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Ep.1 それは、気怠そうな正義の味方だった。
Ep.1-1


初の小説作品です。
あまり文才はありませんが、大目にみてください。


『侵入者は、スーパーコンピューターを狙っている模様。直ちに捕縛せよ!』

「ちぃっ」

 

 しくじった。セキュリティに感知されてしまった。館内にサイレンが鳴り響く。

 この作戦のキモは、スーパーコンピューターをハッキングすることにある。しかし、バレてしまってはもう一刻の猶予もない。急がなければ。

 事前に上司から渡されていた指示書に従い、スパコンルームの入り口を突破する。そしてスパコンのコンソールにアクセスし、ハッキングを開始した。この作戦で最も重要なステージだ。失敗は許されない。

 

「間に合え……よし」

 

 そして手元で行う作業を全て終えると、コンソールのLANポートに持ち込んだマイコンのLANケーブルを接続する。マイコンには自壊装置が仕込まれているため、もう放置しても問題はない。しかし、最後の工程が残っていた。休息を取っている暇はない。

 

「後は、ミッション・オブジェクティブの顕現を待つのみ」

 

 原理は不明だが、後のハッキングを機械に任せることで、スパコンが何らかの事象に干渉し、そのミッション・オブジェクティブを顕現させるらしい。

 顕現、という表現はよくわからないが、何か理解を超えるものがあるのだろうとその思考を放棄した。

 そんなスパコンルームに複数の足音が響き渡る。

 

『こっちだ!』

『ここのどこかに居るはずだ、探し出せ!』

「くそ、想定より到着が早い!」

 

 警備隊が到着したのだ。急いでここを脱出しなければならない。

 ミッション・オブジェクティブが顕現するとされるのはこの建物の屋上だ。入り口を塞がれては、そこに向かうことも許されない。ここまでくれば、警備隊を無力化するしかなかった。

 

「ミッションプランでは戦闘は最低限と言われていたが、仕方ない」

 

 仕方なく、戦闘の準備をする。敵の総数は足音から察するに三人。音の重さから、それぞれが防護服を身にまとっている可能性が高い。

 物陰から、姿を確認する。するとその手には、日本国内では有り得ないショットガンが握られていた。

 

「なっ……⁉︎」

 

まさか、たかだかネズミ一匹のためにショットガンまで持ち出すような企業だったとは。このミッションを受託したことを大変後悔した。

 

「相手は散り散り、各個撃破が望ましいか」

 

そう呟き、ポケットから出したチップを、別のポケットから出したスマートフォンに差し込む。そして右手首に巻かれたガントレット状のデバイスにそのスマートフォンを画面を伏せて差し込み、めくった。

 

「──着装」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

『ぐわぁっ』

 

 最後の警備員が床に倒れる。これでこのフロアは制圧した。顕現まで時間がない。急いで屋上に向かわなければ。

 しかし、少し痛手を負ってしまった。怪我をした左脚に鎮痛剤を打ち込み、しばらく待つ。こうしている間にも、顕現までの時間が迫ってきている。

 脚が動くようになってから、屋上に急いだ。

 屋上に至るドアを開けると、そこには大きめのヘリポートが一つと、エアコンの室外機が大量に設置されているだけの空間が広がっていた。

 

「時間だ」

 

 すると、ヘリポートの中心あたりの空間がねじ曲がり始めた。

 

「あれが……ミッション・オブジェクティブ」

 

 そして、青白い光を放つ結晶がそこに存在した。これを回収すればミッションは完了だ。

 しかし、その瞬間。一機のヘリコプターがビルの陰から姿を現した。当然、警戒をするが。

 

『K、聞こえるか。このヘリはミッション・オブジェクティブの回収用ヘリだ。それに向かってミッション・オブジェクティブを投げろ。それでミッション完了だ』

 

 聞いてない。そんなもの、指示書には載っていなかった。

 そう思い、ヘリを警戒する。しかし、奴は己がコードネームを知っていた。Kと、はっきりそう告げた。

 わからない。ここは指示書に従って、自分で回収すべきだと判断した。しかし、ヘリからまた声が飛んでくる。

 

『K、ミッションプランに従え。さもないと、反逆者として貴様を討つことになる』

「そんなミッションプランは聞いていない。これは俺が持ち帰る手筈になっていたはずだ。その指示には従えない」

 

 ヘリにそう告げ、結晶の奪取に向かう。すると、ヘリが搭載していた機銃の砲身を回転させ始めた。

 

『ミッションプランに従わないような無能は始末しなければならない。死ね』

 

 直後、弾丸の雨が屋上全体に降り注いだ。

 

「わっ」

 

その弾丸を避けながら、結晶までひた走る。そしてヘリポートからジャンプし、結晶をその手に握りしめた。その直後、弾丸がそばを掠めた。そして飛んだそのままの勢いで、ビルの屋上の外に投げ出されてしまった。このままでは落下死は免れない。

 まずい、と心の中で思ったその刹那。ミッション・オブジェクティブと呼ばれていたその結晶が、その輝きを増した。その光は、まるでKと呼ばれた青年を包み込むかのごとく光を拡大させていった。

 暖かい。まるで誰かに抱擁されているような錯覚さえ覚えるその光は、青年の体を包み込み、その空間から姿を消した。

 

 



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Ep.1-2

「テストを返す、赤城ー」

「はーい」

 

 夏も過ぎ去った秋の入り口。二学期の生徒にしてみれば、それはまさに一喜一憂するにふさわしい時期である。

 今日はテストの返却日。大変喜ぶ者もいれば、大変落ち込む者もいる。高校生にとっては「成績」というレーティングを下される運命の瞬間である。

 そんな試験であるが、相変わらず彼、水野海斗の点数は平均点ちょっと上であった。

 容姿も並み、運動能力も並み、頭脳も並みな彼はザ・普通と呼ぶにふさわしい人間。それが彼、水野海斗だった。

 

「水野ー」

「はい」

 

 テストが返却される。そこに書かれた点数は六十七点。授業の冒頭で発表された平均点は六十五点。またも平均より少し上だ。

 

「海斗、どーだったよ」

「別に。いつも通りだよ」

 

 隣の席の澤部が話しかけてくる。わかってるくせに、と思いながらも断る理由がないので答案を見せる。

 

「お前、やっぱり平均点くらいだよな。いいなぁ、俺なんて赤点ちょっと上だぜ」

 

 それは自慢げに言えたことではない、と思いつつも澤部の答案を確認する。三十二点。数学が苦手な澤部にしては頑張った方だな、という評価を脳内で下す。よく見ればケアレスミスばかりだったりするので、地頭はそんなに悪くないのでは、とも思う。

 

「お前、もうちょっと頑張れよ。ケアレスミスばっかだろ」

「そのあとちょっとがわからないんだよなぁ」

 

 塾にでも行けよ、と割と本気で思った。

 そうこうしているうちに、テストの返却が終了した。学生である彼らにとっては、つかぬ間の安息の時である。

 

「なぁなぁ海斗、今日AOに入るか?」

「入るよ。経験値ボーナス期間なんだし、今のうちにレベリングしておかなきゃだしさ」

 

 AOとは、現在社会現象にまでなっている世界初のフルダイブ型MMORPGである。その正式名称はART-imate Online。ヒーローからヴィランまで、戦闘から生産まで、幅広いプレイスタイルがウリのオンラインゲームである。

 無論、澤部も海斗もそのAOのプレイヤーであった。

 チャイムが鳴る。それは、その日の授業が全て終了したことと、テスト返却が全て完了したことを意味していた。

 

「よっしゃぁ、全部終わったぁ!はー、長く苦しい戦いだった……」

「大袈裟だよ」

 

 往年のゲームの名言を吐いて机に突っ伏す澤部。

 

「まだホームルームもあるんだしもうちょっと我慢しなよ」

「あーもう、早く帰ってAOしてぇ……」

「駄目だこいつ」

 

 そんな茶番をしているうちにホームルームも終了し、下校時間になった。

 そこにいる生徒のほぼ全員が、思い思いの時間を過ごすため帰宅の準備を始める。

 

「早く帰ろうぜ。もう我慢できねぇよ」

「ヤクでもキメてんのかうぬは」

 

 それは海斗と澤部も例外ではなく、二人は帰路についた。

 

「そういえばさ」

「ん?」

 

 澤部が語り出す。

 

「最近、妙な噂を聞くんだよ。AOでも、リアルでも」

「妙な噂?」

 

 海斗は、特に噂に心当たりはなかった。

 

「なんだそれ」

「ああ。なんでも、最近リアルで、AOの敵モブやヴィランに似た怪人が暴れてるらしい」

 

 突拍子も無いその噂に、海斗は顔をしかめた。

 

「流石に特撮の見過ぎだろ。なんだよ、怪人って」

「それが、結構マジらしいんだよ。最近増えてるだろ、ガス爆発事故とか、建物の崩落事故とか。あれは、その怪人の仕業らしいぜ」

 

 妙に真剣に語るので、海斗はその話に少し薄ら寒さを感じた。

 

「そんなことがあったら警察が黙っちゃいないだろ」

「それがどうやら、警察が揉み消してるらしい」

「まさか」

 

 そんな話をしているうちに、澤部と海斗の帰路の分かれ道に着いた。

 

「あの噂、結構マジらしいから気をつけろよ。じゃあな」

「ああ、また後で」

 

 そうして別れ、自宅への歩みを進める。

 しかし自宅への歩みを進めていると、その帰路の途中でガラの悪そうな三人組に絡まれてしまった。

 

「なぁ」

「俺たち、今金に困ってんだよね」

「ちょっとだけでもさ、分けてくれない?」

 

 なんとも典型的なカツアゲである。

 しかし、ごく普通の生徒である海斗は、その形相に完全に怯んでしまっていた。

 

「いや、僕、そんなにお金持ってないです……」

「いいからいいから、財布出してみなって」

「痛くしないからさあ、ね?」

「ちょっとカバンから財布を出すだけだって。簡単でしょ?」

 

 リーダー格と思しき大男が凄みながら、取り巻きとともに詰め寄ってくる。

 あまりにも頭が近くなってきたので、海斗はある脱出方法を思いついた。

 

「えっと、その……」

「なぁ、俺たち時間ないんだよね」

「そうそう、早くしてくれないかなぁ」

「ほら早く早くゥ」

 

 あまりにも凄むことに集中しているあまり、彼らは互いの顔が近いことに気づいていなかった。

 そこで。

 

「ちょっと待ってください……なっ‼︎」

 

 両手を大きく広げ、思いっきり挟み込んだ。

 ──三人の頭を巻き込んで。

 

「がっ」

「ぐっ」

「ぐぇ」

 

 そしてそのまま、悶絶する三人組をよそに、脱兎の如く逃げ帰ったのであった。



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