淫獄都市ブルース (ハイカラさんかれあ)
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外伝
淫獄都市ブルース外伝 悪鬼去来<その1>(対魔忍アサギ×???)


「まだわかってないようだな。
いいか? お前が殺した洗脳されていた対魔忍は、任務を失敗した時点でもう死んでいるんだよ。
だから、お前は『敵を殺しただけ』に過ぎない。
それに……戦いを続ける以上、遅かれ早かれ味わうことだ。
それとも? 本気で味方は傷つかないとでも思ってたのか?
だとしたら、能天気にも程がある」

「……」

「アサギお前が戦わないのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに出ると思う?」

「……」

「さくら、紫、ゆきかぜと凛子だ。
今回の件であいつらはお前に負い目を感じているはずだ。
だからお前がやらなきゃ、自分から手を挙げるだろう。
けど、今のあいつらじゃ媚薬には勝てない。
そうなれば、政府の連中はよってたかって対魔忍を責める。
お前が戦うしかないんだよ! 
お前にもわかってるはずだ。だから何かを期待してここに来たんだろう!」

「……それだけ候補がいて全員捕まって調教される前提なの?」

「お前が行っても捕まるだろうが調教や拷問を受けても自力でどうにかできるし」

「(頭を抱える)」

「俺たちの組織って醜くないか?」




過酷な対魔忍稼業を瞬瞬必生する物語はーじまーるよー!
あっ、今回の主人公は秋もとき君じゃないです。


近未来の日本。

 

人間達の世界と魔族と呼ばれる魔物が住む魔界が隣あった世界、古に結ばれた人と魔の間での相互不可侵の約定が人の堕落により破られ、魔界の住民達が人間界で活動を始めた魔都東京。

両者が結託した企業や犯罪組織の登場によって、時代は混沌と化していった。

しかし闇の勢力に対抗できる者が現れ、いつしか人々は其の者たちを対魔忍と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼』の脇を通り過ぎる連中の大半は、明らかに尋常な人間でなかった。

通り過ぎる人々は何かに憑かれた異常に鋭い目の光を放ち。

一目で殺し屋か用心棒と知れる、脇の下に銃器による膨らみがあるトレンチコート姿。

その辺の魔界由来の技術を持つ魔界医による強化手術を受けたらしいパンツ姿の筋肉男。

 

―――みんなおかしい明らかに異常だ。

 

だがそんな場所に住む連中の前に『男』が通り過ぎた。

鍛え上げた体格に短く切りそろえられた髪型の下にある彫りの深い顔。

なによりも墓石のように冷たい目つきは荒くれ者や殺し屋や傭兵、社会になじめない異常者達のギラギラした危ない光を宿すこの街の住人中でも異質であった。

「彼」の耳に街の雑踏の中でもよく通る甲高い声が届いた。

 

「おい、この先で公開調教やってるってよ!」

「ああ、聞いた聞いた対魔忍を躾けてるんだってな」

 

ゲハハと下品な会話で盛り上がるオークの会話に足を一旦止めて手荷物の取手を固く握りしめ再び歩き出した、目当ての相手はこの先にいるようだ。

 

 

 

 

 

道の真ん中で犯され嬌声をあげる、破れたレオタードのような服装......対魔忍スーツをきた女子。

それをみて続々と集まる豚顔人間、下級魔族のオークである。

最初は嫌悪と恐怖しかなかった少女の顔には今は悦楽によるだらしない表情しかなかった。

 

 

「おいおい、最初の威勢はどこにいったんだよこの淫売が!」

「絶対に屈しない(キリッ)とか行ってあっさり堕ちるとか笑わせんなよw」

「頭に行く栄養が乳やケツに行ってんじゃねぇのかオイ!」

「ぁあ…、きもひいいですぅ! もっとぉもっとぉ♥」

「ぶっひゃっひゃ! 聞こえてねぇよこの雌豚にはよォ!」

 

その姿を見て周囲のオーク達の下劣な顔に嘲笑が浮かび侮蔑の言葉が投げられる。

しかし本人はそんなことなど聞こえてないかのように喘いぎ続けていた。

打ち込まれた魔界製の媚薬により脳内麻薬が過剰分泌され続けているのだ。

このまま続ければ近々廃人になるだろうがそんなことはオーク達の知ったことではなかった。

 

ズキューーーーーーーーーンン…!

 

オークの二人の額に子供の小指が入る程度の穴が空きぐらりと倒れ始め遅れて一発の銃声が響き渡りどさっと崩れ落ちる音が響いてその表情が凍りついた。

命中した後に音が遅れてくるのは銃弾が音速を超えた証左である。

 

「そ、狙撃だ!」

 

ズキューーーーーーーーーンン…!

 

叫んだオークとその隣のオークの額に銃痕が刻まれ倒れる。

銃声が二回しか鳴らないのに四体のオークが倒された不思議に狙撃の脅威に晒されている彼らは気付かない。

狙撃場所を見つけようと左右を見渡す者も、頭を抱えてしゃがみ込む者も次々と撃ち抜かれていく、火薬と鉛弾がこの空間を死で満たし始めていた。

 

「このままやべぇ早くここから離れなけりゃ……」

「どうしたのぉ、お願いもっとお❤︎」

 

狙撃から逃れるべく通りから離れようとするオークにプレイを中断されたことにより縋り付いてくる少女を突き飛ばそうとしたがその姿を見て閃く。

 

『この狙撃はこいつを取り戻そうしている奴の仕業では?』

 

そう思い舌打ちして、もし違っても楯ぐらいになると思い少女を背に担いでオークは仲間の悲鳴を背に走り出した。

思ったとおり脇道に入っても自分の体に弾丸が撃ち込まれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狙撃者が使用しているのはNATO 7.62×51mm M198 DUPLEX(デュプレックス)弾だ。

一つの薬莢に複数の弾丸を一列に装填したもので7.62mmNATO弾のM198 DUPLEXは一回の発砲で複数の弾が連続して飛び出し、前側の弾の発射後に傾斜をつけて入れられた後側の弾が初弾とズレた射線で発射される仕組みになっている。

 

中に二つ弾丸が入っているため倍の重さとなった弾を多少とはいえ少なくなった装薬で飛ばさねばならないなどの問題からアサルトライフルや機関銃等での元々数で当てるタイプの銃として使うなら普通の弾丸で事が足りると判断された為に軍用としては廃れている。

 

この様な遠距離での狙撃で一度に複数の相手を仕留めるような特殊な用途ぐらいでしか使い道のない弾丸で繊細な狙撃をミスすることなく目標に対して『一発も外さず』完璧に使いこなす。

まさに人の形をした機械のような精密さと冷静さの持ち主と言えた。

しかしさすがにこの弾丸で目的の人物を背負って逃げる相手だけを正確に狙い撃つのは困難だと判断して狙いから外して冷静に他の人物を射殺し終える。

 

 

狙撃を終えると何もなかったかの様に住人達は娼館の客寄せ麻薬の売買などを再開した。

市内での銃撃戦程度のことは悪徳の東京キングダムでは日常的によくある光景なのだ。

 

男は焦りを感じさせない素早く自然な動作で手早くパーツをバラして銃を鞄に収め始めた。

その動きの淀みのなさは身に染みついた日常的な行動であることを伺わせた。

僅か数秒で撤退準備を終わらせた死神は次の行動に移るべく狙撃ポイントから離れた。

 

 

 

その2に続く

 




短いですが悪鬼去来その1はここまで。

導入が<転生の章>と同じなのは状況が同じでもキャラが違うとこうなるという演出なので誤コピペとかじゃありませんよ念のため。

いつもは完成してから投稿するのですがすでに一月以上待たせてしまっているので分割してできている分ずつ投稿しますのでご了承ください。

ではまた近いうちにお会いしましょうノシ


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淫獄都市ブルース外伝 悪鬼去来<その2>

「秋くんさあ」
「ん〜」
「人探しの仕事始めて結構経つけど、儲かってるの?」
「僕と従業員の二人が東京キングダムで生活できてさらに給料を支払えるぐらいには」
「お〜、そういえばそうだね」
(食費はたまに指定された日に飲食店で客寄せとして食事するだけでただにして貰えたりするし、人探しの仕事で貰ったクーポン転売したりとか人探しの仕事よりも副業で儲かってるんだよね)



この二人はでない悪鬼去来<その2>はじめます
近いうちに投稿? 姉ちゃん明日って今さ!


狙撃されぬようにわざと人波に入って人の流れをかき分けながら路地裏に入ったオークは荒くなった呼吸を整えながら背負った少女を降ろした。

体に入った媚薬の効果が抜けないのか虚ろな目で途絶えた快楽を再び与えてくれるように乞いながら自慰にひたっている。

 

「あぁー! 公開調教に参加しそびれた! お前が途中で無駄に恥ずかしがって躊躇したからだろが!」

「……」

「なんなんだよその顔は!」

「よく考えたら爺ちゃん女襲った責任とらされて腹切ったしよくないかなって」

「そんな爺ちゃん持ったお前が気の毒でならねぇよ!?」

「それで生まれたのが……お前だ」

「衝撃の新事実!?」

「お労しや兄上……」

「お前も爺ちゃんの子供かよ!? そんな爺ちゃんなら腹切らされるわ!」

 

遠くからなにやら諍いの声が聞こえるがよく聞こえない、ここならば周囲は壁に囲まれて狙撃するのにも角度的に不可能だ、そう思って壁に寄りかかって一息つこうとしたオークは目を見開いた。

いつの間にか闇に溶け込むかのように『そこ』に男は居た。

 

「て、てめえは誰だ!」

 

ずっとその場所に居たかの様に気配のない男から感じた恐怖を隠す為に大きな声を出して懐から拳銃を抜く。

人間よりも優れた筋肉を持ち傭兵として鍛えた無駄のない動作で拳銃を抜く速度は人外のみが到達する異形の速さであった。

 

ズキューーーーーーーーーンン…!

 

狙いを定めるより速く銃声が耳に届いたのと、手に持った拳銃が背後に飛んでいくのと一体どちらが早かったのか?

オークに分かったのは相手がこちらが銃を抜くよりも速くこちらの拳銃に弾丸を命中させたという事実だけであった。

その速さは怪物を超えた神域に達した正に神業と呼べる速さであった。

 

「……聞きたいことがある」

 

回転式拳銃を構えた男は先程まで西部劇さながらのガンファイトなどなかったかのように、なんらかの感情を感じさせない平坦な声と凍りつくような底冷えする双眸をこちらに向けた。

毒とも色気ともつかない凄艶なものがその表情にあった。

 

「その女を…お前たちに売りつけた奴についてだ……」

 

無表情にこちらに銃を突き抜ける男に気圧されて走って掻いたのとは別種の汗がしたり落ちる。

沈黙や虚偽は許さないとその眼は言っているのがよくわかった。

知っている限りのことをしどろもどろに話すと「やはりな」と男の呟きが闇に溶ける。

すでに事実を知っていてその確認のために自分に問い詰めたのであろう。

オークは言える限りの事を告げると男はしばし考え込むような仕草を見せた。

 

「……その女を……渡してここから去れ…そしてすべて忘れろ」

 

やはりというべきか、この対魔忍の女が目的らしい、仲間たちを狙撃したのはこいつに違いない。

女を渡せば見逃してやると言っているがオークが思ったのは助かったという安堵ではなく理不尽な目に合わせた男への憤怒であった。

よく見れば想像以上に若く、高めに見積もっても10代後半から20代前半ぐらいの若造である。

こんなガキに自分は苦しめられ仲間たちが殺されたという事実に視界が真っ赤に染まったかのような怒りに腸が煮えくり返る。

 

自分たちが対魔忍の少女にした仕打ちを忘れた自分勝手な思い込みだが本人にとっては邪智暴虐に振る舞う相手への義憤だと認識している。

なんとしても正義の鉄槌をくださなければいけないという思いが恐怖を忘れさせ相手をどうやって倒すかという計算式を導き始める。

 

(相手の獲物は今手にしている拳銃だけ、相手との距離は僅か5m程で俺ならば一瞬で詰められる距離だ、オークの脂肪と筋肉が築き上げた肉の鎧ならば拳銃程度なら痛みは負うが十分耐えられる、頭部も厚い頭蓋骨で一発では致命傷にならないだろうが食らって脳震盪を起こすかもしれないので念の為左手は顔面をカバーをする、そして一発食らっても二発目を打つ前に右手に持ったナイフを逆手でぶっ刺してギタギタに体を引き裂ける!)

 

「わ、わかった、あんたの言う通りに……してやらねぇなぁ!」

 

オークはおっかなびっくり相手の言うとおりにするような仕草を演じながら右手は腰に差したナイフの方に手を伸ばしてナイフに触れた瞬間に対魔忍の少女を男の方へと突き飛ばした。

 

(これで奴は驚いてあの女を支えようとするか、そうしなくとも女を助けに来たのなら銃弾が当たるリスクがある為すぐには撃てない、女を受け止めてから銃を撃っても一発なら耐えられる、これで終わりだ!)

 

勝利を確信しているオークはそのままナイフを振り上げた。

男が少女を抱きとめた次の瞬間にカチリと銃のトリガーが引かれ銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃弾はオークの腕を貫通してそのままぶ厚い頭蓋骨を貫き脳をザクロのように爆ぜさせた、強烈な銃弾の威力に走っていた勢いを強引に止められた体躯はくの字に歪む、そしてオークはバタンとそのまま倒れ伏して二度と起き上がらなくなった。

 

「S&W M500……下級魔族相手なら…威力は充分だな…」

 

映画ダーティ・ハリーで有名になった.44マグナム弾は初活力*1に換算すると1000~2000J(ジュール)。

軍用拳銃弾の標準的として使われる9mmパラベラム弾で約500J、西側でアサルトライフル弾として使用されている5.56mmNATO弾で約1800Jである事を考えると、拳銃弾としては異常な威力である事がわかるだろう。

 

しかし彼が持つS&W M500に使われる50口径のマグナム弾である.500S&Wマグナム弾は.44マグナム弾の約3倍の威力を誇るといわれる。

これでは分厚い脂肪と筋肉で守られているオークの肉体ですらたまったものではない。

頭部に命中した瞬間に脳は激しくシェイクされて頭蓋骨にぶつかってミンチになったであろう。

購入した武器商人にも「こんな銃を手に入れて象でもブッ殺すつもりか?」と言われたぐらいである。

世界一の威力のある拳銃の称号を得たこともあるハンドキャノンの異名を持つ銃は伊達ではない。

 

 

男は受け止めた虚ろな表情で恍惚している少女を地面に下ろすと銃を収めて懐から無針注射器を取り出し首筋に打ち込む。

これで体内の媚薬も中和されるだろう応急手当は終わったのでこれから先は医者の領分だ。

 

「終わったの?」

(なら)くん随分派手に立ち回ったのね」

 

男、(なら)が振り向くとそこには地面に横たわった少女と似たようなスーツを身に纏った二人の少女……対魔忍の二人が居た。

(なら)の仲間であると思われる少女二人の表情は友好的とは言い難い険しい顔をしている。

 

「その子が助かったからいいものの『一人でやるから邪魔をするな』とは、失敗したらどうするつもりでしたの?」

「チャンスをモノに出来ない奴から死ぬ……俺たちの生きる世界はそういう場所だ…」

 

そう言って(なら)は背を向けてその場から去ろうとする、自分の出番は終わり、そう言外に告げての行動だ。

単独で行動して後始末だけを押し付けようとする東郷に少女の一人が顔を真赤にして怒鳴った。

 

「ちょっとどこに行くのよ! 仮にもチームで行動しろと言われたのに自分勝手すぎない!」

「……悪いが……命を預ける相手は自分で選ぶ主義だ…」

「な、私たちが信用できないっての!?」

「まだ…やることがあるんでな……」

 

誰も信用しない、そして誰からも信用されなくていい。

そして与えられた仕事を自分なりのやり方を貫き完遂する。

その為に余計な馴れ合いはいらない。

その態度からそんな痛々しいまでに強烈で強固な意思を感じた。

そしてそのままその場から立ち去った。

今度は少女たちからからの罵声を浴びせられても立ち止まることはなかった。

 

悪鬼去来<その3>へ続く

*1
銃弾が発射された瞬間に持つエネルギー、威力の指標の一つ




淫獄都市ブルース外伝 悪鬼去来<その2>でした

ところで皆さんは対魔忍RPG一周年ガチャどうでした?
時子や鬼姉妹当たりましたか?
自分は当たりませんでしたorz


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淫獄都市ブルース外伝 悪鬼去来<その3>

というわけでその3です
今明かされる衝撃の真実!(※いうほど衝撃ではない)


「ええ、はいっ、はいっ。 ええ! そうです、ええ、わかりました、よろしくおねがいします」

 

痩せぎすで神経質な性格を見て取れる男は電話をきると不機嫌そうに鼻を鳴らした。

先程までのペコペコとした態度が嘘のような豹変である。

 

「はっ! 上げ膳据え膳で人の成果を掠め取ることしか頭にない無能め態度だけは大物ぶりおって」

 

吐き捨てるように机の上にある葉巻をケースから取り出しヘッドをシガーカッターで切り落としガスライターに火を付けて先端部分を焙りながら炭化させ着火したことを確認しゆっくり吸い始めた。

 

トントントンドン!

 

軽く三回、強く一回扉がノックされ部屋の主人が許可するより早く乱暴にドアが開かれた、あとかかってた鍵は粉砕された。

 

「ん〜森田クゥん! 久しぶりだなァ……森田クゥん!」

 

突然の闖入者の声の大きさにびっくりして葉巻は吹き飛んだ。

グレーのスーツの下からはち切れんばかりの筋肉が張り付いているサイズが合ってない。

 

「ほ、宝生議員! なんですいきなり!?」

 

森田と呼ばれる男の前にあらわれたのは国会議員の宝生だ。

元軍人であり任務中に対魔忍としての力に目覚めたが選ばれた人間は人を導く義務があるとして政治家を志して野党議員となった変人である。

 

「ん…んんァ~、今日君の元にィ来たのは他でもないこ、れ、のこ・と・だよチミィ~」

 

そう言って机の上に出されたのは魔族との裏取引の帳簿であるそれをみて眉がピクリと動くがすぐに平静に戻って落ち着いた声音で語りかける。

 

「ええ、これがなにか?」

「んふぅー、冷静な顔つきだなァ、この程度は白を切ってどうとでも揉み消せるという顔だァ……」

「そもそもこんな資料を捏造しようと思えば捏造できますし私が何をしたわけでもありません」

「ンフフゥ~、仮に真実だとしても握りつぶすだろうねぇ」

 

ニヤニヤと嫌らしい顔をしてすっとぼける森田に何故か楽しそうな声で応じる宝生、いつもこの男は何が楽しいのかニコニコと楽しそうにしているのだ。

内心こんな程度では政治家は揺るがないと分かっているはずなのに何故ここに来たのか森田は訝しんだ。

 

「まァいい、こんな程度で慌てるような人間じゃア……面白くないし本題に移ろう」

「ハァ」

「実はだねぇ……私のォ、所に面白い連絡が入ってき・た・の・だよォ、不正の密告という奴ダァ、まあこの国で不正をしてないやつの方が少ないので嘘でも本当でも大したものではないんだが取引をしようというのだ、私と」

「それでなんでここに来てドアを壊したんです?」

「ンフゥ~、私とぉ、君はいろいろあって政治上は対立しているなァ……目の上のたんこぶ、という奴だ」

「――まさか」

「フフフぅ、まあ暴力による解決では色々と問題がある、んー正直な所ォ、貴重な我が国の防衛力でもある対魔忍を売って魔族や米連などに媚を売る売国奴である君を殺してやりたくぐらいはァ、気に入らないが私が直接手を出すわけにはァ、い、か、な、い、そこである提案を受けたんだよもし彼が言った通りのことが実際にできたら協力をして欲しいというね」

「協力?」

「そう、その人物の提案というのはァ……要は腕の売り込みだ内容は――」

 

そう言う宝生の体から熱気による湯気が立っているのが見える、ゴリラのような外見で実際ゴリラを素手で倒せる筋力があり魔族相手にしても護衛もいらず倒せるやつなのだ目の前の男は。

 

「また貴方ですか宝生議員! 来るたんびに扉を壊すのはやめてください弁償してもらえばいいというものではないんですよ!」

 

警備員が複数やってきて宝生を囲んだ、毎回毎回来るたびに扉をはかして業者が来るまでの後始末をしているので声が低くなっている。

 

「まだ話は途中だったんだがなぁ……」

「いいから扉を直すので出ていってください!!」

「はいはい、おっと電話がなってるよ」

 

トゥルルルルル トゥルルルル

 

警備員とやりとりをしている所に部屋の電話から着信音が鳴り響く。

森田は電話の受話器を取り椅子に座り直した。

 

「もしもし?」

「――森田議員……ですか?」

「はい、森田です、どちら様です……」

 

ズキューンンンン・・・・・・!

 

森田は受話器を持ったまま後ろに倒れた、その額には穴があいていた。

警備員達はあわててその場にしゃがみ込んだ。

銃声は一回だけでその後には電話からツーツーと話中音だけが部屋に鳴り響く。

 

 

「そ、狙撃だとぉ!?」

「も、森田議員……だめだ、即死だ」

 

続く銃声がないことを確信した警備員は森田議員の方へと駆け寄るがすでに息絶えていた。

宝生が狙撃された方向を向くとそこにはハニカムシェードに銃弾で出来たらしき穴が外からの風を送ってきていた。

穴を覗くと遠くにあるビルが見えた対面にあるビルとの距離は約400mあった筈だその状態で正確に相手に当てるだけでも難しいというのに狙撃者は窓からは対象が見えない状態での狙撃を成功させたことになる。

 

(外から内部が見えない状態で電話で狙撃対象の場所を限定しての狙撃を成功させるとは……、

神経質な森田くんが部屋にある電話に出るときには必ず同じ位置で椅子に座って真正面にある窓の方を見ることを調査済みというわけだ)

 

「ンんーしかしィ、ンフフ、いい腕だァ!」

 

政敵の排除をする代わりに対魔忍の援助をしろと言われた時は正気かと思ったが、自分に酔った身の程知らずの人間ではとても出来ない神業を見せられては興奮を隠せなかった。

なによりもわざわざ自分のような人間に取引を持ちかける酔狂な相手だこの先退屈しそうにない。

俄に騒がしくなった部屋で警察がくるまで宝生は顔に手を当て楽しそうに口を歪めていた。

 

 

 

 

 

 

新しいオリ主かと思った? 残念、ポルノ13だよ! 

 

どうも(なら)・東郷ですナラくんと呼んでください。

当然ですが偽名です、ナラの木は別名オークともいいます。

オーク・東郷の日本風の偽名ですね。

 

なんでこんな名前になったかというと現在日本で仕事をしておりロドリゲス・東郷だといろいろと違和感があるからだそうです。

ハーフ・オークに違和感もクソもないだろうと思いますが職場がハーフ・オークと分かると色々と不都合がある職場なのです。

 

なんの職場についたかといいますとですね。

 

 

対魔忍です

 

 

そうあれは暑い日でした。

SMにハマって体を痛めた自分はしばらく休業して仕事を再開して仕事帰りに路地裏を通りかかったらチンピラとすれ違いその直後に出てきた女に死の呪文「この人痴漢です!」を唱えられた。

ちげーし、というかあんなバインバインの肉付きしてるくせに水着並みに薄い格好するとか馬鹿か馬鹿なのか!あるいは対魔忍か! 

 

 

 

 

対魔忍でした。

 

 

ちくしょう、ちくしょうと、冤罪で警察の留置所に閉じ込められて「性犯罪被害者と同じ気分をお前に味あわせてやるんだよオラァ!」と迫りくる囚人たちをボコボコにして部屋で涙で服を濡らしながら「対魔忍めこんど娼館で会ったらヌチョヌチョしてやる!」と思いながら寝入ったのです。

 

次に目を覚ましたら米連の研究所にいました。

 

 

なんでぇ??? 

 

最初は睡眠中に変な薬かがされて拉致られたのかと思ったのですがどうやら研究者の話だと数年前から被検体になっているみたいなセリフを聞いて?が浮かんでいましたがガラスに写っていた顔が前より若くなっているけど同じ顔なのでクローンかと思ったのですがさすがに現役バリバリで活躍している本人の記憶の複写は無理なのでなんだか寝ているうちに並行世界の自分に移り変わったようです。

 

 

 

くっ、しかしこのままでは米連の改造人間にされて。

 

『君は僕の友達だ。ここで捕まってアヘって!』

 

と対魔忍脳をインストールしアサギ化させ、囚われの身から陵辱(される)マシンへと仕立て上げるアサギ作戦の被害者にでもなってしまう!

 

 

ううっ……できません! 私の仕事は『人を狙撃すること』だから……ッ!

 

【フフッ、違うって君の仕事は『陵辱されてアヘる』だよ】

 

私の仕事は人間をそげki...

 

ピロロロロロ(ザー)ピロロロロロ(ザー) 

 

私の……仕事は…『陵辱されてアヘる』ことッ……!

頭対魔忍.netに接続!

 

『オーク!』

 

『アサギライズ!』

 

 

 

そんな感じでモルモット扱いされて非人道的な実験を受けると思ったら意外と待遇が良かったです。

ブラックな仕事漬けよりは怪しい薬を飲んだりしてボケーッと過ごしてる方が楽で非常にいい気分転換になりました、偶に同じ被験者の鬼姉妹と仲良くなったり強化兵士のおんにゃの子と喋ったりしました。

Yesロリータ、Noタッチ! そうして訪れた休暇をなんやかんやで満喫していたら。

 

 

 

研究所が襲撃されました

 

 

 

あえてもう一度言おう

 

 

 

 

研究所が襲撃されました

 

し、死にたくねぇ! 俺は死にたくねぇんだよォ! という本能の訴えを受諾した自分は隙を見て銃を強奪して手錠をつけたままMUSOU乱舞しました。

侵入者と対決したりして最終的に脱出するという目的が一致したので共闘して研究所はオールひろゆきしたので行くところがなくなりました。

それを見かねた侵入者……対魔忍の人とのやりとりを簡単にまとめますと。

 

「君いい腕してるねー対魔忍にならない?」

「え? んー、……でもブラックなんでしょ?」

「きれいどころは多いぞ?」

「(ピクリ)」

「(脈あり)しかも世間知らずが多いから結構チョロい」

「なん…だと……」

「(対魔忍を)やらないか?」

「やります」

 

ということで第三の人生は対魔忍になることになりました。

強い男はモテる。 しかもガンマン。

剣士が多い対魔忍で強いガンマン、これはモテる(確信)

なんやかんやで軍隊やってる米連では別部隊の交流はそんなないからなー

 

特殊部隊には美人サイボーグや美人強化兵士もいるがピンポイントに配属されるわけもなく

そりゃちょっと頭足りないけどバインバイン美人ぞろいでピッチリスーツがいる五車学園いきますよ! 

そう思うだろ、アンタも!!(謎の共感要求)

 

 

 

 

 

 

 

その後、色々ありました。

 

 

対魔忍になるきっかけになったおっちゃんが裏切って戦うことになったり。

倒したおっちゃんは娘を人質に取られて自殺まがいの方法でしか助けられなかったという悲しい事情があったり。

助けた娘に「父さんの仇!」と命を付け狙われたり。

こういうヒロイックなイベント起きても別に色っぽいイベントはないんですけどね(遠い目)

 

 

 

しかし周りは脳筋だけど戦闘能力はクッソ高いんでちゃんとサポートすれば楽ちんだし以前の金ばらまきまくって下準備しまくって実行するのも自分だった時代に比べれば楽ですわー

 

 

えっ、次は対魔忍の女の子救出任務?

遠くから狙撃して助けちゃうぞー、

あっ、女の子背負って逃げやがった!

某ゾンビゲーにも出たハンドキャノンさんが唸るぜ!

 

 

Dr桐生印の注射を注射して応急処置OK!

あっ、お疲れ様でーす!

 

え、一人で勝手に仕事すんなって?

……だって無駄に突撃とかしちゃって強襲任務とかならともかく

救出任務だと使いづらいねん君等。

 

口下手だから上手く説明できないし……。

 

 

……気まずくなったから帰りまーす、さっき聞いた内通者をぬっ殺さんと。

一応野良議員を味方につけるようにして動くけど万が一の時には

この人になすりつけるよう細工しないとね!

 

仕事が終わった!よし次の仕事の時間だ東郷!→え?休みは?→休みを休め

 

 

 

【悲報】忙しい割にはモテない【風俗もいけない】

 

 

あれれーハーフオークでも対魔忍になればモテモテじゃなかったのかよ!

無口無愛想で独断専行が多いし濃い顔だから駄目?

……俺は嫌われてはいない(水柱感)

 

(T_T)ちくしょう対魔忍の男のモテ率はどうなってるんだ!?

 

 

八津九朗→元レンジャー部隊出身の有能なハゲ、日常描写はないけど信頼はされても女にモテモテタイプではない

 

秋山達郎→ご存知NTR対魔忍にして見習い対魔忍で主人公属性。

貧乳の美少女と巨乳の実の姉に好かれてるがNTRる。

続編で爆乳対魔忍に誘惑されたりする。

 

ふうま小太郎→対魔忍決戦アリーナ主人公

 

マジカルハイパー兵器持ち、敵であろうと篭絡しまくって味方にするわポイ捨てするわの超絶プレイボーイ

 

ただし腹違いの姉を実の父親の部下にNTR調教される

 

天満 八生→対魔忍決戦アリーナの登場キャラ

お館様にTSさせられてNTR調教済みの恋人(♂生やされてる)相手に♀初体験

 

モブ対決魔忍→裏切って仲間の対魔忍♀を「前からお前を狙ってたんだよおラァン!」するが殺されるポジション。

 

 

あるるれぇー思い返すとモテる奴でもNTRまくってるゥ!? 

クソ! なんて世界だ……

 

 

しかし対魔忍の子はスタイルがいい女の子が多いけど戦うのが前提だからか気が強い子が多くて苦手っすわー。

こうなんだね甘やかしてくれる子がいいね! 

 

研究所の米連の鬼姉妹はつるぺただけど懐いてくれて良かったなー

甘やかしてくれる女子がロリしか居ないという悲劇!

甘やかしてくれるロリでスタイルがいい子……ロリ巨乳…うっ、頭が!

 

お、俺はロリコンじゃないんだ……娼館に行って欲望を鎮めなくては…

え? 未成年は駄目? そんなー(´・ω・`)

 

 

 

 

淫獄都市ブルース外伝 悪鬼去来改め ポルノ13-一周年記念で対魔忍になったけど忙しい割にモテなくて辛い

 

 

 




オーク・東郷は改造人間……否、改造オークである!

彼を改造した米連は世界制覇を企む悪の秘密結社である(※派閥の一部に限る)
対魔忍によって救出され正義の心に目覚めた彼は人間の自由と尊厳を守るために対魔忍となって魔族や米連と日夜戦い続けるのだ!(一部誇張あり)


というわけで淫獄都市ブルース外伝 悪鬼去来改めポルノ13でした。
悪鬼→オーク 去→決戦アリーナ時空から 来→RPG時空に
というネタで狙撃ならアイツだろうな→あれ名前違うし別人かよ!→偽名でしたというのをやりたかっただけなんですが次回から普通にやりますですはい

あっ、一応ちょっとの間は本編の方に置きますが
しばらくしたら新しく作った外伝の方に内容を編集して移動します

それでは次は淫獄都市ブルース本編でお会いしましょう

ノシ


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本編
プロローグ<転生の章>(短編)


3行でわかるプロローグ

主人公は超絶美形の凄腕糸使いの転生者だよ。
美形過ぎて学園生活をやめる羽目になったよ。
拉致られた対魔忍とか人探しの仕事始めたよ。


近未来の日本。

人間達の世界と魔族と呼ばれる魔物が住む魔界が隣あった世界、古に結ばれた人と魔の間での相互不可侵の約定が人の堕落(だらく)により破られ、魔界の住民達が人間界で活動を始めた魔都東京。

両者が結託した企業や犯罪組織の登場によって、時代は混沌(こんとん)と化していった。

しかし闇の勢力に対抗できる者が現れ、いつしか人々は其の者たちを対魔忍と呼んだ。

 

1、

『彼』の脇を通り過ぎる連中の大半は、明らかに尋常な人間でなかった。

通り過ぎる人々は何かに憑かれた異常に鋭い目の光を放ち。

一目で殺し屋か用心棒と知れる、脇の下に銃器による膨らみがあるトレンチコート姿。

その辺の魔界由来の技術を持つ魔界医による強化手術を受けたらしいパンツ姿の筋肉男。

道の真ん中で犯され嬌声をあげる、破れたレオタードのような服装......対魔忍スーツをきた女子。

それをみて続々と集まる豚顔人間、下級魔族のオークである。

―――みんなおかしい明らかに異常だ。

 

 

ここは東京キングダム・シティ、東京湾に建設された人工島の通称である。

かつては政府主導で都市開発が進められたが、現在では魔界の住人も入り混じった、闇社会が構築され無法地帯になっており退廃と混沌が形を成した魔都になっていた。

 

 

だがそんな場所に住む連中が『彼』が通り過ぎるたびに、目を見開き硬直した。

黒いロングコート、黒いシャツ、黒いスラックス、上から下まで、靴に至るまで黒一色の男。

着る人物が間違えば気障か或いは不審者と言う、評価は免れない黒尽くめと言うファッションを、黒と言う色はこの男に纏われる為に神が生み出したのではと、余人はそう思うだろうと断言できるぐらい自然に着こなしていた。 

しかし魔都の住人が停止したのは、服装ではなく来ている本人の顔を眼にしたせいかもしれない。

小春日和が顔に取り付いたようなのほほんとした、間延びした表情のくせに、実に恐るべき美貌の持ち主だった。

 

吸い込まれそうな深みを湛えた黒瞳、天然の絶妙のバランスで形作られた鼻梁、薄い紅を引いたような唇、太陽のように眩い歯並び。

美を司る神がノミを持ち、自らその顔を彫り上げ、依り代にしたとしか思えない美の具現。

 

「見つけた」

 

多くの通行人を唐突な忘我へと導いた本人は、周囲のそんな反応などどこ吹く風。

オーク達に犯されていた女の近くにより顔を覗きこみ呟いた。

 

「あのー、その女性に用があるんですが」

 

オーク達は硬直した顔を数回瞬きし、リーダーらしきオークが色欲と暴力で構成された下卑た顔で前に出た。

 

「ブヒヒッ、イケメンの兄ちゃんよぉ見ての通りお楽しみ中なんだよ、はいどうぞって簡単に渡すわけにはいかねぇな」

「そこをなんとか」

「だったらあんたが代わりに相手するかい? 俺は特に男には興味ねぇがあんただったら別だ」

 

媚薬効果のあるオークの体液を全身で浴び過剰摂取したことで、自分が今何をしているかわからない程に快楽に酔っていた、破れた対魔忍スーツの女子は急に自分に対する激しい快楽が止まったことに疑問を持ち顔を上げ見た。

その顔が視界に入り認識したとたん性的興奮による恍惚の顔が、至高の美を目の当たりにした芸術家のごとき、法悦の色に塗りかえられた。

 

「男でもいい、避妊するから!」

「さきっちょだけ、さきっちょだけだから!?」

「あんたいい男だな、俺と、やらないか?」

「おいこっちケツ向けろ。あくしろよ」

「うぉぉぉッ、助けてくれぇええええええっ! あんたを見てたらオチ●チンが破裂してしまうううううう!!! パーンて!!!!!!」

 

肉欲まみれの熱烈ラブコールに嫌そうな顔をする青年に、オーク達が群がり女から離れていったが女子の視線は『彼』にずっと向いていた。

その視界に一瞬蜘蛛の糸より遥かに細い、銀色の閃光が複数瞬いたことに彼女は気づいただろうか?

 

「聞いたか? 皆をこんなたぎらせた状態にさせて帰す訳ないだろ、三日三晩犯しぬい……ッ…ガ!」

 

『彼』を囲むオークの群れが再び硬直した。

先程の熱に浮かされ表情と違い、今度はまるで極寒の地で全裸にされたうえ、頭から水をかけられすぐさま凍りついたかのように青ざめている。

肉ばかりか骨まで切り込む痛みと痺れのせいだ。

 

「そんな暇はないし彼女を連れ戻すのが仕事でね」

 

美しさのあまり夢見心地な周囲の人々がオークが受けている苦痛を体験し、それを与えてるのがこの若者だと知ったら『彼』を悪魔だと断言するだろう。

中世の拷問官でさえ色を失いそうなその残酷、その美しさ。

見ている周囲の通行人も、そして、苦しみに囚われたオークでさえ、法悦に近い血のたぎりに身を灼いた。

『彼』がオーク達になにかしているのは確かだが、茫洋とした表情のまま両手を軽く握って微動だにせずただ立っているだけだ。

しかし、腕一本動かさず、いったいどんな手段を講じているのか?

 

ゆるめる(、、、、)からそのまま帰ってよ」

 

その言葉と共にオーク達の痛みが消える。

ほとんどのオークが得体の知れない攻撃による激痛から解放されたことにより、一斉にへたり込んだ。

しかし残りは怒りと性欲となにより恐怖(、、)により暴走し、『彼』に向けて武器を構えた。

再び硬直し今度は何が起きたか理解する前にまるで人型の積み木みたいに崩れ落ちたのである。

コンクリートの上に散らばった手足と胴は合せて数十個に達した。

 

あまりの切断面の滑らかさに血すら流さず倒れ、路場で人体断面図の展示会を開いた仲間に生き残っていたオークのリーダーはこの魔性の美貌の持ち主が触れてはいけない不可侵の存在であると骨身にしみて(、、、、、)呆然と呟いた。

 

「あ、んた……、もしかして対魔忍……だったのか…?」

「『元』ね、見習いでやめたけど。しかし脅せば逃げると思ったんだけど失敗だったな反省」

 

凄惨な光景をつくりだしながら、どうということのない声色で呑気、というよりこの状況では不気味とも取れる台詞を口にした。

オークたちをバラバラにしといて、その美貌には苦悩や凄愴(せいそう)(かげ)ひとつ浮かんでいない。

そんなもの、美しさの邪魔でしかないという風に。

 

オーク達が知るよしもないが自分達を金縛りにし、解体したのは錬金術で加工したチタン鋼の糸、太さnm(ナノメートル)

風にもそよぐ、綾取りもできる。

しかし『彼』の指が動くとき、それは主力戦車の装甲すら断ち切る鋭利な刃と化して敵を両断し、あるいは骨までめり込む不可視の紐と化して、四肢の動きを封じるのだ。

そのような神業、否、魔技を可能とする指先の手練。

『彼』はまさしく魔人であった。

 

いまだ呆然としてる女性のもとに腋の下から妖糸を侵入させ、肝機能と腎機能とを一気に昂進させ、オークの体液による媚薬効果を分解させる。 

多少障害は出るが、医者に行けば治る……だろう。

二、三度身震いをして、瞳に理性の光がともされる。

 

「五車学園所属、対魔忍見習いの佐川久仁子さんであってますよね?」

「あ……はい」

「五車学園の依頼によりあなたをお連れします」

「え……あ、その、貴方は?」

 

夢から醒めたばかりのような虚ろな声に、『彼』はオークから脱がせたコートを破けた対魔忍スーツの上に羽織らせ優雅に頭を垂らせた。

 

人探し(マンサーチャー)をやっている、秋もときです」

 

 

2、

こんにちは神だか悪魔だかよくわからん超越存在に闇の勢力に対抗できてない場面が多い凌●エロ特化サイバーパンクである、対魔忍世界に魔界都市ブルースという作品の主人公である、秋せつらの顔と能力を持った転生者こと秋もときです。

 

魔界都市ブルースシリーズを知らない人に説明すると、魔震(デビルクエイク)とよばれる大地震に遭ったことが原因で、妖獣が棲み、異能の犯罪者集団や暴力団の巣食うようになった魔界都市《新宿》。

そこで主人公の秋せつらが桁外れの美貌と鋼糸による超絶技術で人探し屋(マンサーチャー)として依頼された人物を探して魔界都市を駆け回る話だ。

ちなみに人探し屋は副業で本業はせんべい屋である。

 

秋せつらは二重人格(謎の第三人格もあるので多重人格かも)で、通常の一人称が『僕』の人格が敵わない場合や外道な相手に出てくる数段技量が上の一人称『私』の人格という無双モードがある。

しかし再現は無理だそうで、『僕』の秋せつら擬き(もどき)で、《秋もとき》という名前になりました(駄洒落か)。

それで今何をしているかというと、学校の校舎裏で愛の告白をされています。

 

 

3、

「あ、あの、ひ、一目会った時から好きでしたッ!」

「はぁ」

 

若々しい青春美のエネルギーを慕情にこめて決死の覚悟で伝えた思い。

それにたいして相手はいつもどおりの茫洋な声で応じた。

神は世界を作るのに5日と半日かけたというが、この男の美しさは一週間以上かけただろうと芸術の徒に囁かれる秋もときである。

この男は他者が自身を視界に収めた瞬間から老若男女を虜にする美の化身だ。

 

 

「あ、あの、それでどうでしょう?」

「ごめんなさい」

「!? ど、どうしてですか、悪いところがあったら直します、り、理由を!!!」

「悪いけど同性愛のケはないんで」

 

相手は男だった。 ゴリゴリマッチョメンで制服ピチピチである服のサイズ変えろ。

エロい体つきの美女・美少女が大勢いる五車学園でなんでゴリラのような男に愛の告白されてるんだろうともときは嘆いた。

 

もときは知らないが学園では女性たちが淑女協定なる不戦の約定を結んでおり。

『YesもときNoタッチ。我が命我が物と思わず、至高の美愛でること、あくまで陰にて、己の器量伏し、抜け駆けするもの死して屍拾う者なし、死して屍拾う者なし』

と何かを勘違いした条約が締結されている。

 

無論淑女協定なので男子は含まれていないのでそんな条約を知らない男子は止められず。

今回の告白劇につながるのであった。

これにより不戦の約定が解かれ、もとき争奪の熾烈な忍法合戦が繰り広げられるのは完全に余談である。

淫獄都市ブルース-甲河忍法帳-はじまりますん。

 

「そ、そんなことをいわずに! 同性愛はいいぞぉもときぃ、性欲が絡まないからピュアな愛だ」

「そうかもね、じゃ帰るわ。 あと呼び捨てすんな」

「待って! ……ならば力でそんな常識、私が塗り替えて見せよう、この、拳で!」

「ええー(ドン引き)どんな考えでそうなるのか、というかキャラブレすぎ」

 

完全に性欲の激流に身を任せすぎてどうかしてる、糸で相手を調べても洗脳の類は感じられないので素であった。

学園という閉鎖的空間で訓練漬けの毎日だからかなぁと、もときは遠い目になった。

 

「鍛え抜いたこの体と忍法、今使わずいつ使う見よ、我が全身全霊!」

「いや任務のときに使うべきでは?」

 

筋肉ムキムキマッチョメンこと鈴木東海林太郎丸宗近(しょうじたろうまるむねちか)(17)の上半身に纏う制服が膨張した筋肉ではじけとんだ。

さながら巨大な巌が割れて川に落ち、水に流されていくうちに余分な角がとれ 川下で完全な球体なった。

そんな印象を持つ肉体である。

もときはそんな肉体に興味はないので相手が筋肉に力を入れてるうちに、こっそり距離をとった。

 

「私ぁ能のない対魔忍でしてねぇ、唯一できるのがこの筋肉操作なんです」

「もしかして転生者だったりする?」

「?」

「違うのか…」

「なにやら知らんがいくぞ!」

「こないでいいよ」

 

鈴木(略)の使う『忍法・爆肉鋼体(ばくにくこうたい)』は筋肉操作による爆発的パワーと鋼鉄の如き鎧とかした鉄壁ならぬ肉壁防御を誇る、硬い・速い・強いの三拍子が整った攻防一体の術だ。

本人の技量に強さが左右されるが学園随一の格闘能力を誇る彼が使えば、単純故に隙のない強力な術である。

 

「フルパワー100%中の100%だ!」

「戸●呂なのか美しい魔闘●鈴木なのかどっちだよ」

 

忍法で強化された巨大な筋肉が高速で迫ってくるのは岩山がこちらに向かって雪崩れ込むような凄みがあった。

強化された絶大なパワーと質量を増した鋼の肉体から繰り出される攻撃をまともに受けたら、性癖を変える以前に肉体のほうがミンチよりひどい変化をとげそうである。

すごい勢いで突撃してくる相手の腕にもときは糸を巻き付けひっぱり、合気道の要領でバランスを崩して相手の力を利用して投げ飛ばした。

その結果規格外のパワーを制御できずに鈴木はもときの上をロケットのようにものすごい勢いのまま空に向かってすっ飛んでいった。

 

あとで聞いた話によると鈴木は限界を超えた能力の使用(100%を超えた歪み)で空中で動けなくなりそのまま受け身を取れず着地して、捜索隊が来るまで身動きが取れずに衰弱状態で発見されそのまま入院したそうである。

その後、彼が退院して学園に復帰直後に行われた、(当事者無視の)もとき争奪の忍法合戦で猛威を振るったというのは完全に余談である。

 

「まだ午後の授業まで時間あるな教室で寝よ」

 

まだ昼休みである、五車学園の一日は長い。

 

4、

「よう、もとき」

「やあ達郎」

 

こいつは友人の秋山達郎。スタイル抜群の才女であるブラコン属性の秋山凛子を姉に持ち、褐色貧乳の水城ゆきかぜを将来彼女に持つリア充である。

エロゲの主人公か! と突っ込みたいが対魔忍ユキカゼでは制止をガン無視でほぼ無策で娼館突っ込んであっさり洗脳からの調教雌落ちされたせいで頭対魔忍という言葉を浸透させた原因であるゆきかぜが主役だ。

そのためエロゲの主人公ではない彼は姉と恋人が高確率でNTRるエンディングをむかえる星の下に生まれた可哀想な男である。

 

容姿レベルが高すぎて最早オーバフロー状態のもときは学園内でモテすぎるが故、逆に周囲が牽制し合って冷戦状態となっているため、モテまくってるのに主観ではあたかもモテてないような不可思議な現象が起きている。

普通にリアルが充実してるが破滅の未来が待っている達郎が羨ましいようなそうでないような微妙な気分にさせるのであった。

ちなみに将来付き合うといったのは現在付き合ってないからである、いつ付き合うかは正直忘れたがやっぱり羨ましいやつである。

 

「昼飯も食わずに相変わらず呼び出しか。どっち(、、、)だ?」

どっち(、、、)も」

「いつもどおりか、モテる男はつらいな」

 

愛の告白と決闘とどっちかという質問だ。

だいたいセットなのでどっちもするのが秋もときの日常である。

 

「そういえば、放課後校長室に来てほしいって伝言預かったぞ」

「へぇ」

「他人事だなお前、また外で仕事か?」

「さぁ?」

 

五車学園の生徒はあくまでも見習いなので基本は訓練と下積みのため現役対魔忍のサポートが中心だが、一部の有望な対魔忍はすでに現場で働いておりもときもその一人である。

その美貌と実力からもときと組みたいという生徒は多い。

しかし一人で索敵、強襲、奪還、撤退をこなせるもときは下手に組むよりも個人で活動することを好み、『騙して悪いが』系のダミーの依頼以外失敗もなく八面六臂の大活躍をしておりちょくちょく呼び出され便利屋扱いをされていた。

 

「とりあえず放課後校長室ね、了解」

 

5、

「申し訳ないけれど自主的に退学してほしいのよ秋くん」

「はぁ」

 

関東の一角にある現代の隠れ里『五車町』、そこに存在する対魔忍養成機関である『五車学園』の校長室ですまなそうな顔をしている妙齢の美女。

意志の強さを感じる目、後ろにまとめた濡れ羽色の髪、野生の豹のようにしなやかに無駄なく鍛えられた肢体。

シックな女教師スタイルの服からはち切れんばかりに主張する、豊満な胸としゃぶりつきたくなる引き締まった尻。

凛々しさと強烈な女の色気を合わせ持つ、最強の対魔忍と名高い五車学園校長の<井河アサギ>である。

ドーモ、タイマニン=サン息子がいつもお世話になってます(R-18的な意味で)

 

「<上>からの直々に退学させろとの命令よ」

「敵対組織の政治工作」

「……でしょうね」

 

対魔忍は魔族に対抗するために近年設立された日本政府公認の組織である。

しかし日本政府の役人は大部分が魔族と手を結んでいる状態だ、そこから根回ししたのだろう。

しかしなぜ一介の見習い対魔忍のもときをわざわざ指名して退学させようとするのか?

 

「ここ最近、間諜(スパイ)が多かったですからね」

「それを排除し続けている生徒を退学させろ、ここまで露骨だと笑えないわね」

 

対魔忍の構成員は古来より退魔の力を受け継ぐ家系の出が多く『ふうま』が没落した現在、アサギの『井河』が筆頭である。

しかしその『井河』の当主であるアサギの祖父が裏切りアサギの手によって粛正されたゴタゴタで、政治や組織運営に長けた人物が失われアサギを中心とする若手が組織を担うことになった。

結果、ノウハウもなく手探り状態で組織を回している五車学園は防諜に関してザルでスパイ天国状態になっている有様だ。

ソシャゲの対魔忍決戦アリーナ(通称:決アナ)の主人公である『ふうまのお館様』など数多くの工作員達が潜入し人材確保のために様々な策を弄して、何人もの将来有望な見習い対魔忍が洗脳や調教を秘密裏に受けて拉致されている。 

 

 

当然人妖問わず魅了する魔性の美貌を持つもときに対してもあの手この手でその魔の手を伸ばしているが、ことごとく妖糸の返り討ちにしている。

今さっきもこの部屋に入る直前にもときは探査用の糸で部屋を探り、部屋に足を踏み入れた瞬間に妖糸で仕込んであった罠を解除していた。

余談になるがもときが会話しながら遠隔操作の罠を辿ってその先にいるスパイの首を刎ねていたのを目の前のアサギが知るのは、もときが部屋から出て少しして清掃員に扮した魔族の死体を発見したと報告が入った後である。

 

「けど、それが退学させる理由ですか?」

「もちろん違うわ」

 

井河アサギは単純な実力では文句なしに対魔忍最強だが裏世界の住人にしては情に流されやすい、その甘さがアサギ自身の首をしめることが多々あるが、逆に言えば敵からの交渉で仲間を売るような真似は自分が不利益を被ることになってもしない。

だからこちらの少し横(、、、)をみて話すアサギをみて、もときは理由は『これ』かなぁと内心ため息をついた。

 

敵に囚われれば、常人なら発狂するかストレスで死亡する。その常人を遥かに凌ぐ対魔忍ですら屈する凄惨な調教に耐え抜き、機会を窺い敵を排除し生還した実績が何度もあり、調教の後遺症もその卓越した精神力で抑えきる最強対魔忍井河アサギ。

そんな彼女でさえもときの顔を数分以上見つめ続けると夢の世界に旅立ってしまうのだ、もしもまだ十代の精神的に未熟な見習い対魔忍がもときの顔を見続けたらどうなるだろうか?

 

「喧嘩で重症になった生徒や、精神的にまいってしまいカウンセリング中の生徒が多数」

「はぁ」

 

もときが次の移動教室先を聞くために少し女子と会話しただけで話した女子に対する嫉妬による争いが起き、もときを見ただけで一目ぼれをして思春期の男女(、、)が重度の恋煩いで日常生活がままならなくなったのだ。

 

「あなたに手足を切り落とされた者の人数が多すぎて、保健医が過労死すると直訴があったわ」

「あとぐされがないように、手足でなく首を切り落とした方がよかったですかね?」

「気持ちは察するけど、もう少し手心を加えてあげなさい……」

「同じ対魔忍相手にそんな余裕ないです」

 

特別見覚えのない女子に「自分のものにならないなら一緒に死んで!」と無理心中を図られたり。

「俺の女(片思い含む)奪いやがったな死ね!」と男子から身に覚えのない報復の刃向けられたり。

「お前が好きだ、お前が欲しいィィ!!!!」と性的に襲ってくる男女を返り討ちにするのはもはや日常茶飯事。

もときもうんざりして、「正直どうでもいいや」と投げやりな対応だが、さすがにあんまりにもあんまりな発言にアサギはドン引きして顔をひきつらせた。 

 

「えーと、つまり学園に悪影響がでてる+政治圧力で退学?」

「それが建前、本当は無理して残るとあなたを学園から確実に排除するために敵が何をするか予想がつかないからよ」

「別に自分の身くらいなんとかなりますが」

「あなたを排除するのに他の生徒が巻き込まれる可能性があるのが問題なのよ」

「ですよねー」

「『自主退学』というのはそういう形でないと一部生徒から猛反発がでるわ、そうしてもでるでしょうけどしないよりはマシね」

 

あれれ~おかしいぞ~、最初は超絶イケメン最強キャラでしかもエロゲー転生で勝ち組確定、モテモテのうはうはだぜfoo!とか思ってたのに、護身のためにリビドーに翻弄される学生や教師の手足ぶった切る毎日送った末に退学とかどうなってるんだYO!

相手の手足ぶった切るのが悪いだろって? 

いやいや、だって言い訳させて貰うと自分は超絶イケメンフェイスと糸の技倆を再現したせいで転生特典に忍法非搭載のなんちゃって対魔忍なのだ。

固有の『(嘘)忍法・ 美影身(びえいしん)[効果 常時魅了]』を常に使用していると(超イケメンスマイルで)誤魔化しているが実際には忍法どころか対魔粒子を扱えないのである。

対魔粒子で身体強化できるうえに切り札に忍法の使える対魔忍と自分との間に身体能力は雲泥の差がある。

先手をとって糸で()らなきゃ()られるのだ、しかたないね。

そもそも対魔粒子は魔族の血を引いたものしか操れないのでメイド・イン・ゴッドボディの秋もときが使えるはずもないのだが。

 

あいつら糸で激痛与えてもたまに気合で耐えて忍法使ったりすんだよねー、手足ぶった切って確実に戦闘不能にしないとこっちが死ぬんで手加減とか無茶いうなし!

というかなんでそういう根性を味方を殺そうとしたりレ●プしようとする時に使って、敵の罠にかかったときにみせないであっさりつかまってるんですかね逆だろ普通!

 

「こちらも正直心苦しいのでその後のフォローするから、なんとか了承してもらえないかしら?」

「はぁ(これ断れなくね?)」

 

世界の不条理にもときは嘆くが悲しいことに正義側の美形キャラはさっさと殺されるか性的に食われるのが凌●系エロゲー(対魔忍世界)のお約束であった。

そんな世界で知性がある人型の生物なら問答無用に魅了する魔貌をもっていれば、どうなるかはいうまでもない。

 

6、

そんなこんなでもときは性的に襲われ続ける学園生活に正直嫌気がさしてたので学校を中退した。

しかし異能の域にある美貌はトラブルの元になるので、異能・異形のはみ出し者が集まるトラブルが起きるのが日常的な魔都東京キングダムへ行き。

生活の糧を稼ぐため本家と同じ人探し(マンサーチャー)家業なんて始めていた。

 

学園の配慮で(需要が多いのも確かだが)、ちょくちょく見習い対魔忍の探索依頼を受けており。

今回も任務に失敗して行方不明になっていた、見習い対魔忍の少女を探してくれとの依頼を受託。

オークから救出して五車学園に引き渡すために、現在学園から手配されていた車に乗って移動中であった。

 

先程こちらを狙っていた半径2kmの地点にいる、狙撃手三名の首と胴を妖糸で切断したもときは、敵兵の無線での連絡をどういう原理でか糸を通して正確にミスなく感じとっていた。

どうやら少女を敵に売った内通者が、情報の暴露を恐れて傭兵を雇い、強襲部隊を編成して学園につくまでにこちらを抹殺する気らしい。

 

「しかし内通者とか、相変わらず対魔忍は組織的にガタガタだなぁ」

「え、あ、はい! ど、どうかしました!?」

「いーえ、何も」

 

独り言を呟くと横に目をやると助けられた少女が、自分に話しかけられたと思ったのか。

夢から醒めたように慌てて返事をするが、もときが視線を向けるとまた脳裏が恍惚と溶けた。

 

女性に接するとよくある反応をされ仕事終わった後の夕食はどうしようかと考え始める。

そんなくらいのことでも宇宙の真理に思いを馳せてるように見えるのが、ハンサムの得な所だ。

 

「おや」

「どうしました?」

 

もときの常ならぬ美に酔ってしまった少女に代わりそれまで沈黙を守っていた運転手が今度は話しかけてきた。

もときが何かを感じとったのを察したらしい。

客の雰囲気が変わったのを敏感に察知するのはさすがベテランといったところか。

 

「襲撃ですね、思ったより対応が早い」

 

もときは米連製であろう銃火器とパワードスーツを装備した兵士たちが乗った装甲車が接近しているのを周囲に張り巡らせた糸から感知した。

運転手が緊張する、少女は蕩けている。

 

「大丈夫です」

 

春風のような言葉であった。

車の後部座席で左手を開き戦闘態勢を整え、東京キングダムの人探し(マンサーチャー)秋もときが比類なき美貌と戦闘力を持つ『魔人』であると、襲撃者たちに思い知らせるのはわずか数分後であった。

これが対魔忍世界での一人の転生者のありふれた日常であった。




おかしい、学園生活を満喫させるつもりが第一話で退学している不思議
ちなみにタイトル名は「いんごくとし」です


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淫獄都市ブルース<来訪の章>(短編)

臥者がRしか出なかったので作風が変わりましたが投稿します


1、

「はッ!」

 

裂帛の気合とともに異形の魔獣を斬り捨てる。

 

<ブレインドッグ>

 

次元侵略者(ブレインフレーヤー)の下僕たる魔獣だ。

 

その姿はまるで目のない褐色の大蛙だ、

もっとも人どころか牛をも飲み込みかみ砕けそうな口に生える牙と、

人間の脳を吸い取るための4本の触手がこの世界の存在であることを否定している。

 

「あーもー、しつこい!」

 

金髪の少女はそのまま手に持った刃を振るい魔獣を再び両断した。

年齢はミドルティーンぐらいだろうまだまだ幼さを残したあどけない顔とそれに反して豊かに実った女性らしい起伏の体。

そして身にまとう黒い対魔忍スーツ、突如姿を消したとお思えば相手の背後に周う不可思議な動き。

足元の揺らめく影がその奇術の種だろうか?

影を操る『忍法・影遁の術』を使う最強対魔忍の妹と名高い井河さくらである。

 

(まずい、このままじゃジリ貧だ)

 

敵を倒し続けているがいかんせん数が多い。

こちらは一人で相手の戦力は不明の状況だ。

更にどこの施設かわからないが薄暗い建物の中で影が作り辛い。

援護が望めず、不利な場所で戦う羽目になっているのはこちらを仕留めるための計算しての行動だろう。

先の見えない状況に焦る。

 

「どうした? これまでか」

 

タコとイカを足した名状しがたい人型の生物次元侵略者(ブレインフレーヤー)がこちらを煽ってくる。

 

「女の子一人に数で嬲るとか、趣味悪くない?」

「臆病なものでね、そのまま力尽きるまで戦ってもらおうか」

 

人と顔の形状が違うので表情がいまいちわからないが声から、こちらを嘲笑っているのがわかる。

 

(どうにかしないとこのままじゃ…)

 

瞬間、銃声がさながら終末をつげるトランペットのようにこの状況を終わらせる合図のように場に響き渡る。

響く音からするとSMG(サブマシンガン)だ。

恐らく反動を抑えるため小口径だが弾頭に炸薬をしこみ対象に接触すると爆発するいわゆる炸裂弾だろう。

 

炸裂弾は人体や物体を吹き飛ばすなど、大げさな高威力弾薬として描写されることが多い。

重機関銃や対物自動小銃に使われる遠距離での射撃で減衰した威力を補うタイプの炸裂弾が一般の炸裂弾のイメージだろう。

 

しかし拳銃や小銃に使用する小口径の炸裂弾は第二次世界大戦以降多発する、ハイジャック犯との戦闘用に開発されていたものでライフルなど大型銃では威力が高すぎて飛行機に穴が空いたりする危険があるため、

貫通力が低い弱装弾(弾丸を発射する火薬の少ない弾丸)を使い、

機体へのダメージを最小限にしつつ犯人のみを倒すために開発されたものであるそのため威力は低い。

 

実際に小口径の炸裂弾が使われた事件ではレーガン大統領暗殺未遂事件が有名だ。

その事件では銃を扱う入門用の弾丸と言われる低反動の.22LRの炸裂弾が用いられたが、

一発が大統領の胸部に命中、ジェームズ・ブレイディ報道官が頭部に被弾、他数名が負傷したものの致命傷には至らなかった。

 

拳銃や小銃弾の小さな弾頭の中に、有効な量の炸薬と確実に作動する信管を仕込むのは、技術的にかなり難しい。そして常に資金調達に苦心している軍から「わざわざ無理して手間と金かけて拳銃や小銃の弾丸を開発しなくても人間相手なら最初から威力が強い重火器を使えばでいいのでは?」という結論に落ち着いた。

 

警察などの拳銃や小銃が主な装備な団体はそもそも殺傷力の高い銃弾は必要ないので、殺傷目的の小口径の炸裂弾は弾頭が変形して体内で対象を引き裂くホローポイント弾の技術的向上もあり廃れた。

……のだが魔族の台頭により再び日の目を浴びることになる。

 

魔族相手には主流となっていた軍用ライフルの火力では効果が薄く、

高火力の重機関銃や対物自動小銃銃も遠距離での狙撃はともかく、

遭遇戦などの近接戦闘では重さと反動の強さ、装弾数の少なさにより取り回しが悪く、実践では役に立たなくなっていた。

 

そのため低反動かつ弾数が多く殺傷力の高い、なによりすぐ実戦投入するために『特別な訓練をせずに扱える既存の銃でも使用できる弾丸』を求められ、

開発されたのがこのSMG(サブマシンガン)に使われている特殊炸裂弾だ。

 

魔界の技術が流出したことで得た魔術と科学の両方の技術が使われた米連製の弾丸は、既存の火器に使用できる互換性を持ちながら重火器並みの高い威力と殺傷力を実現、まさに現代の魔弾というべき品物だ。

そんな対魔族用の新兵器だが、この異界の魔獣相手には決め手にかけるようであった。

 

「ありゃだめか、やはりこの世ならぬ者をこの世の武器で(たお)すのは難しいか」

 

そういって魔弾の射手は弾倉(マガジン)から銃弾が切れたのを確認するとSMG(サブマシンガン)をそのまま床に放り投げた。

 

いきなり現れた闖入者をみてさくらも。

次元侵略者(ブレインフレーヤー)も。

ブレインドッグですらその姿に動きが停止した。

 

この世の美しさを白と黒で例えるなら、彼は黒。

しかも薄暗い闇すら汚れた絹の白に見えるほどに際立つ深い漆黒。

黒は死者と別れを告げる時に着る服である。

一説によれば何よりも目立つ色であるために死者を目立たなくする。

その存在を薄れさせ思い出に決着をつけさせる色だという。

彼を見ればあらゆる存在を忘れ彼一色に染まるであろう。

闇よりも深い黒の具現、彼の名は秋もときといった。

 

「しかたない、いつもどおり得意の技でやろう」

 

もときの姿をみて動きを止めていた次元侵略者(ブレインフレーヤー)も、姿同様に人と感性も違うのかすぐさま立ち直る。

現れた相手が敵だと気づくと下僕の魔獣に命令を下してすぐさま包囲させた。

 

「この世の技でか?」

 

そう嘲るように言い放った言葉をもときは受ける。

 

「この世で身につけたこの世以外の技で」

 

そういい放つと1nm(ナノメートル)の妖糸が魔獣たちを一瞬で解体するという形で返答した。

他の者が扱ったところでチタン妖糸は単なる丈夫な屑糸以外の何物でもなくなる。

しかしもときの超常たる技倆(ぎりょう)が加わることで、

鋼をも紙の如くに斬り裂く恐るべき必殺の武器に変化するのである。

それはまさしく常軌を逸したこの世ならざる技であった。

 

「なッ!?」

 

驚愕するは次元侵略者(ブレインフレーヤー)は、そのまま頭頂から縦にまっぷたつになった。

体の構造は人と違えど、似た姿では弱点も似ているようでそのまま死亡した。

 

「え、と、あ、あ、ありがとう?」

 

さくらは状況の変化について行けないようだが、目の前の美しい少年が助けてくれたのがわかったので顔を赤く染めたまま礼をいった。

 

「どういたしまして」

 

そういうともときはそのまま脇を通り過ぎた。

 

2、

こんにちは、学校中退して自営業をスラムみたいな東京キングダムで営んでいる秋もときです。

今日も今日とて働きアリのごとく人探し稼業を行い、今回は廃棄された実験施設にきています。

今回は対魔忍からの依頼でなく東京キングダムの外から拐われた人物を探してくれとの依頼でここにたどり着いたのですが。

元は米連の施設だったのを現在マッドな魔界医師が使用しているらしくそこかしこに謎の生き物が彷徨っています。

 

前に仕事で交戦した米連兵からかっぱらった銃でホラーゲームのノリを楽しみつつ先に進むと誰かが人外と戦ってるじゃありませんか。

とりあえず、援護しましょうか。

ヒャッハー! 逃げる奴は魔族だ!

逃げない奴は訓練された魔族だ!

ほんと戦場は地獄だぜ! ……あっ、弾切れた。

助けた相手はパッツンパッツンのスーツがエロい井河さくらさん。

対魔忍シリーズのメインキャラの一人だけあってスケベな体してるね素晴らしい!

しかし学園であった時よりどうみても若くてさほど自分と変わらない年齢なのをみると、これ決戦アリーナででた若さくらさんじゃね?

確かふうまのお館様がさくらさんを拐ってきた次元侵略者(ブレインフレーヤー)倒してしまって帰れなくなったから、愛人契約結んで護衛件情婦として仲間にしてたよね……。

 

やべ、ついカッコつけたくてイカタコマンを後先考えずに倒してしまった決アナ時空かここ!?

仕方ないんや、だって女の子のピンチに颯爽登場して決め台詞をビシッと言って敵を瞬殺するとかやってみたいシチュエーションじゃん!

「仕事が忙しいんで、じゃあの! 」で誤魔化せないかな?

 

無理? ですよねー(汗)

 

3、

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「……なにか?」

「いやいや、こんな所でうら若き女の子ほってどこいくの!」

「今、仕事中なんで(目そらし)」

「仕事?」

「マンサーチャー」

「まんさ??」

「人探し」

 

スタスタと軽やかダンスステップを踏むかのような早足でこの場を去ろうとするもときに、慌ててさくらが追い縋ろうとする。

 

「えー、つまり探偵みたいなお仕事?」

「探すのは人間だけ、そして探した人を依頼人に会わせる仕事」

「へー」

 

移動して話しながらもときは探知用の糸で、敵や罠を探っている。

薄暗い建物でも暗闇を超音波でさぐる蝙蝠よりも鋭い認識力を妖糸は可能とするのだ。

 

「ねえキミの名前教えてよ私はーー」

「井河さくら」

「いが……、知ってたの、なんで?」

「有名人だし、僕も元だけど対魔忍なんでね」

「え、そうなんだ! それでそっちの名前は?」

「秋もとき」

「じゃあ秋くんだね」

 

フレンドリーを通りこして正直馴れ馴れしいが不快にさせないのは一種の人徳だろうか?

不気味な生物の死骸や謎の薬品やカビの臭いが充満する場所に不釣り合いなくらい、和気藹々とした明るい雰囲気になっていた。

 

「けど対魔忍で、秋くんくらいカッコよければ私知ってそうなものだけどなぁ?」

「世代が違うからね」

「世代? そんなに歳変わらないよね?」

「いや『こっち』と『そっち』では十年くらい差がある、別次元だから」

「???」

「つまりイカタコマンに連れられてそっちからすると未来に来てしまったということ」

「え、嘘でしょ」

「ほんと。10年後の今だとそちらは講師やってる。アサギさんは校長」

「はー、へー、そうなんだー」

 

普通なら与太話扱いされそうな話だがあっさり受け入れたのは、対魔忍だから本人が柔軟な思考をしてるからかはたまた話した相手の美貌からくる魔力か。

 

「教師かー、こっちの私は立派にやってる?」

「……実力は確かだね」

 

雑魚には無双だがネームドキャラにボコられて負けた末に調教されて鼻フック姿でアヘ顔さらしたりする噛ませ犬ポジとはいえないもときであった。

 

4、

「ここか」

「一番奥だね」

「……いやなんで最後までついてきてるの?」

 

外面はポーカーフェイスを保つもとき。しかし意外かもしれないが、実は同年代の女の子と二人きりで話すことがそんなになかったもときは内心かなりドキドキしていた。

学園では女の子が二人きりになろうとすると必ずインターセプトされるか、二人きりになると血走った目で襲いかかってくるので、こうやって普通に会話するのはなかなかレアなイベントだった。

しかも一緒にいるのが気安い感じで接してくるピチピチ衣装でスタイル抜群の美少女なら余程女慣れしてなければ誰だってそうなる、俺だってそうなるby秋もとき。

ちなみに二人きりになっても、もときの顔をみてしまうとまともに話せないので照れ隠しで銃を向ける貧乳褐色ツンデレや、弟を理由に斬りかかってくる青髪ロングのブラコンなども襲ってくる相手に含まれていたりする。

 

「女の子をこんな所で置いてくとかなにかあったらどうするのよ〜」

「心配しなくても大抵の男は君より弱いよ」

 

しかし弱い相手に絡め手使われてアヘるのが対魔忍である。

 

「まあ、いいや仕事だ」

 

糸で内部を探ったら罠の類はないが……、未来予知じみた直感を持つ魔界都市の住人の中でも極めて強い直感を持つ秋せつらの肉体を再現したもときの勘が何かを囁いていた。

何が起きても次の行動にすぐ移れるように、糸で扉を開け――

 

「素材をマッスィィイーンに入れてシュートォォォ!

超エキサイティンッッッツ!!」

 

――扉を閉める。

 

「別の場所にいるみたいだ帰ろう」

「なにあれ?」

 

ハゲた白衣を着たいかにもなマッドサイエンティストが部屋で叫んでいた。

正直関わりたくないが仕事なので覚悟を決め部屋に入る。

 

「誰だ!」

「僕だ」

「ブルーノ、おまえだったのか…」

「違う、僕は秋もときです」

 

自分を見ても反応が薄い、どうやらこちらを見ているようで何もみてない(、、、、、、、、、、、、、)

狂人の類だ。この手の輩は大抵面倒くさい。

 

「しかし貴様なんという美しさだ……、そうかおまえが神の御使か、ついに我が野望は成就した!」

「髪?」

「悪魔に対する神でしょ、邪神くさいけど」

 

彼の中では髪は死んだが神はまだいるのだろう。

 

「異形の神がいずれ世界を支配する、そのために私が尖兵となり新たなる世界に福音をもたらすのだ! その為の装置、その為の贄!」

「異形の神ってもしかして(小声)」

「さっきのタコイカマンだね多分(小声)」

 

要するに次元侵略者(ブレインフレーヤー)に洗脳された手駒なのだこいつは。

 

「まあいいや、お宅が拐った人はどこ?」

「神が遣わした御使を捧げ新世界開闢の礎としよう!」

 

会話が噛み合わないSAN値0(永続的狂気)だ。

そして狂気の形相でこちらに手に持った杖を向けてきた。

その手首に赤い線が引かれーーーー消えた。

 

「おかしな技を使うな御使、だが儂は斬ったり撃ったりじゃ(たお)せんよ」

「秋くん、こいつ多分むっちゃんと同じような不死身の能力!」

「しかも、こんなことも出来る」

 

もときの体が痙攣した。

妖糸を操る指先から痺れを感じていたのである。

nm(ナノメートル)の糸を伝わってきた高圧電流であった。

 

「儂の体は体内電流を増幅して相手に流すことが出来る、黄色のネズミよりも強力な50万ボルトじゃ! よく無事じゃったな」

「はぁ」

 

間一髪糸を切り離せたのは魔界都市屈指の肉体が持つ固有の勘故か。

しかし感電したせいか舌がよく回らず、ついでに体が動かない。

 

「さあ、疾く昇天してその身を捧げるがいい、この電撃で!」

「影遁の術‘影鰐’」

 

その言葉と共に影の海から飛び出した影鰐(影の鮫)が白衣の狂人に食らいつき切り裂いて呑み込んでいった。

再生能力は高くとも、咀嚼されて挽肉になった所から再生できる程ではなかったようだ。

 

「やるねぇ」

「えっへん」

 

そう言って大きな胸を張るさくら。大抵の場合相手が悪いだけで間違いなく彼女は一流の実力者なのである。

 

5、

しばらく休んで実験室を探した所、幸いにもまだ捜索対象は手付かずで、薬で眠らされただけであり依頼人に連絡して引き取らせた。

東京キングダムでの行方不明者は死ぬか、ヤク中になるか、洗脳されて働かされるか、実験動物として人間をやめるかのどれかなので五体満足で後遺症もなくトラウマを抱えず生きて戻れるのは非常に珍しいケースだ。

 

「めでたしめでたし」

 

で、終わればいいのだがまだやり残した問題がある。

 

「それで私は?」

「うーん」

 

井河さくらのことである。

 

「あのタコイカマン秋くんが倒しちゃったから帰れないんだけど」

「そーですね(汗)」

 

拐った相手に戻させるのが一番だが、すでに死んでいるのでどうしようもない。

 

「対魔忍にはもう一人の私がいるから会ったらどうなるかわからないし」

「……SFとかだと対消滅したりしますしね」

「魔族は論外、米連は商売敵なんで正直行きたくないし」

「そーですね」

 

嫌な予感がビンビンである。

 

「これはもう責任を持って養ってもらうしかないね♪」

「Matte! いやいや、それは不味くない!?」

 

超絶イケメンボディとはいえ、前世から未だにDTには対魔忍の女性と一緒に暮らすのは刺激が強すぎる。

 

「えー、だって他に方法なくない?」

「ぐぬぬ」

 

命を助けて貰った手前、知ったことじゃないと突っぱねにくい。

しかしふうまのお館様みたいにホテル借りてそこに住ませるほどの財力はもときにはない。

 

「代わりに私が仕事手伝うからさ」

 

実際、さくらほどの手練れで使い勝手がいい忍法を使う対魔忍がいれば心強いのは確かである。

しかしなぁー、と悩むもときは名前の通りさくら色に染まる顔で熱っぽい視線でこちらを見ているさくらに気が付かない。

手を出してしまってもOKな表情である。

 

「それじゃよろしくね♪」

 

自分の命を助けてくれたこの世のモノとは思えない美貌の持ち主にすでに心を奪われていることに、必死でモラルと取っ組み合いしているもときが気付くのは暫く先のことである。




やっぱりおしゃべりなキャラだすと会話が楽しくて筆が進むね


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淫獄都市ブルース<哀愁の章>(短編)

書いてる途中でデータが飛んだので時間がかかりましたが投下します。
うーん、R-18禁要素削りながら対魔忍らしさを出すのはどうしたらいいものか


1、

 

秋もときは仕事前と仕事後はサングラスをかける、

依頼人に会わなければいけないからだ。

人に会うのにサングラスをかけるのはファッションではなく、

その美貌の抑制のためである。

 

もときがまだ学生だった時代、ひさびさに学園の寮から休日に街へとくりだしたら複数事故がおきた。

彼を目撃した通行人達が棒立ちになって、交通を妨害し、ひどい場合は車に撥ねられた。

さらにその車の運転手がもときに眼を奪われ......(略

まさに眼もあてられない大惨事というやつである。

それ以来自主的にサングラスを購入したのである。

 

それでも、その美貌は古今類を絶する。

遠目で彼を見る通行人は無事になったが、それでもすれ違う者......どころか、前方数メートル以内で彼に気付くものは、老若男女を問わずに立像になる。

効果としては事故の規模が小さくなっただけであった。

 

サングラス装備でこれだと、いっそ仮面でもつけるかと考えるもとき。

そこで仮面をつけるデメリットとはなんぞやと思いを巡らせる。

まず「僕」の秋せつらの技倆止まりの自分ではこの顔も重要な武器である。

原作ではその再現不能の美貌で敵をも魅了して命拾いしたことがなんどもあり。

情報収集などが捗ったりしたことがしばしば。

こちらでいるかどうかわからないが、絵画で書いたものの魂を奪ったり、操ったりする能力者も絵に書けないほどの絶世の美貌のためにその術を無効にしたことが多々ある。

下手に仮面かぶったりして日常が不便になるだけならともかく、美貌のデメリットばかりみてメリットを殺して仕事に差し支えがあるような状況になるというのは考えものである。

 

色々考えた結果任務など特別な事情がない限り外出は、人目につかない夜にすればいいやともときは結論づけた。

それがまた別の事件引き起こすことになったのだが、その話はいずれ別の機会に語ることにしよう。

 

2、

「この人物の依頼を受けないで欲しいんです。」

「はぁ」

 

サングラスを付けたもときに依頼人として自宅兼事務所に来た女性は写真を見せてそう告げた。

相手もサングラスをかけているが、頰が赤く染まっている。

互いに目を遮らせても、もときの美貌は抑えきれてないのだ。

 

「そういった依頼は受け付けてません」

「相手より報酬を払うといってでもですか?」

「規則に例外をつくると癖になります」

「規則を破ることが?」

「依頼人が規則を破らせろということがです」

 

依頼人の女性は溜息をついた、説得は無理と判断したのだ。

それだけの動作だが気品がある、使われている衣服の生地も上等品だどこぞの上流階級の貴婦人だろうか?

 

「わかりました、時間をとらせてすいません」

「写真をお忘れですよ」

 

机の上の写真が浮かび上がり、女性の服のポケットに吸い込まれるように収まった。

その現象に目を見開き何かを言おうしたがそのまま頭を下げ、女性は部屋から出ていった。

 

「変な依頼だったね」

「まあね」

 

足元の影から声が響いた、影に潜んでもときの護衛をしているさくらである。

机の上にある菓子鉢から茶菓子を一通り糸で先程の依頼人が毒を盛ってないか調べてから取り出して口にした。

そして別の茶菓子をもうひとつ取り出して影に投げ込んだ。

そのまま噛んで顔を顰める。

本家を真似して作った手作り煎餅だ、硬かった。

煎餅職人への道は遠いようだ。

 

3、

「料金は一日5万円、現金でも口座振り込みでも可ですが振り込みを確認後に仕事に入る前払い制なので現金の方が楽です。

必要経費は別に請求しますがこちらは解決後でもかまいせん。 

料金3倍で最優先に解決の特急依頼となります。

こちらは予約制なのですでに特急依頼を受諾してると自動的に通常依頼となりますのでご注意を現在は特急依頼の予約はありません。」

「通常で構わんよ、前金はこれだ」

「了解しました、依頼が長引いて前金の分以上に日数がかかる場合連絡させていただきます。

逆に前金の分より短い日数で終わった場合必要経費を抜いてお返しします」

 

そう告げて前金の入ってる茶封筒をみる、この厚さは30万ほどだろう。

 

「この街にこられる人は必ずワケありです。

自分の意志で来たのか、それとも自分の意志に反して来させられたのかそれによって探し方が変わりますがどちらかわかりますか?」

「こんな街に自分の意志でくるはずないだろう」

「そうですか……、であれば注意事項を。」

 

そういいもときは田岡と名乗った相手の男性に目を向ける、相手は以前依頼を受けるなと言われた女性が見せた写真の人物だ。

 

「この街に来て笑顔で帰れることはほぼありません特に女性ならなおさらです。

この街にいる女性は死体かヤク中かマフィアなどの裏社会に属する住人か娼婦です。

あとは人間ではない者や、人間をやめさせられた『モノ』です。

わざわざ東京キングダムへ僕に会いに来てまで探したい相手が、変わり果てた姿になってる可能性が高いのを承知で依頼されますか?」

 

田岡はごくりと息を呑む、この美しすぎる少年が得体の知れない魔物に一瞬見えた。

この街の闇を深く知っている者特有の空気に気圧されたのだ。

 

「勘違いされてる方が多いのですが、この仕事は笑顔で再会するために探すのではありません。

相手が死んでいるか生きているかはっきりさせて思い出に決着をつけるために探すのです。

生きて見つけてもこれならいっそ死んでたほうがいい、、、、、、、、、、、、、、、、そういって嘆くお客様は多いです。

――それでも依頼されますか?」

「……当然だ、そうでなければこんな場所にわざわざこない」

「承知しました、気が変わってそちらが途中で捜索を打ち切っても支払った分の料金は返金しませんのでご了承を」

 

もときはそういって前金と依頼の資料を受け取ろうとするが田岡がそれを取り上げた。

 

「ありゃ」

「偉そうな口を聞いてくれたがこちらからすれば、そちらはまだまだケツの青い若造だ。

正直にいって探す気もない癖に金を奪おうとする方弁に聞こえる」

「はぁ」

「そこでだ、私の護衛と戦ってみろ。この殺伐とした街で人を探して回るのに私の護衛すら倒せない実力なら、自分で護衛を付けて自分の足で探し回ったほうがよっぽどマシだ」

「まあ、別に構いませんが」

 

そういってもときは相手の護衛を引き連れて外にでた。

そして数分もしないうちに護衛と一緒に戻ってきた。

部屋に戻った途端に護衛はそのまた倒れ込み動かなくなった。

 

「これでいいですかね?」

「……その男は元米連の特殊部隊上がりだ、それを軽く倒せるなら問題なかろうよろしく頼む」

 

そういって護衛を叩き起こすと、そのまま事務所を出ていった。

歩み去る足取りを妖糸で感知した。

田岡が後部座席に護衛が運転席に乗りそのまま去っていった。

 

「なにあの横柄な態度!」

「まあまあ抑えて」

 

ぷりぷり怒るさくらをなだめる、実際若造なのは確かだ。

安くない金を払ってもらうのだからそのくらいは我慢である。

突然、妖糸はこう告げた。

田岡と護衛の二人とも死亡した、と。

 

4、

「……あの依頼人可哀想だったねなんだか複雑」

「運が悪いとしかいえない」

 

確認したところ田岡の乗った車は見事に破壊されていた。

田岡を狙った暗殺か馬鹿な魔族の戯れかは新たな情報待ちだが、依頼人が死亡したのは間違いない。

依頼を受けるなと言った女性のことがなくともどうにもこの依頼はキナ臭い感じだ。

護衛と戦わせたのも依頼を達成できるか疑問だったというより、単にこちらの手の内を知りたがっていたような気がする。

 

依頼人は死亡したが前金貰った以上仕事は続ける。

資料の入ってるCDとそのケースを妖糸で探り仕込みがないのを確認してからPCに入れて読み込む、娘を探しているという話だが……。

入っていた画像データの写真の一つを見るとなかなかに可愛い女の子が写っており年は12、13ぐらいでもときとさくらより年下だ。

その少女を見てもときは何かが引っかかった。

 

「前に来た女の人に似てるね」

 

影からでてきたさくらが画面を覗き込む。

そう言われてみれば確かに面影がある。

姉妹にしては年が離れすぎているので娘か姪か。

どちらにしろかなり近い血縁者なのは間違いないだろう。

 

データには出生証明のコピーからはじまり小・中の成績表、写真、手紙などが入っていたが先程の写真が一番新しく最近の写真がない。

生年月日から計算すると少女はもときと同い年である。

高校時代の情報がまったくはいっていない。

しかもおかしいことに田岡とその妻、家族構成に関する情報が一切はいっておらず。

教えられた連絡先はダミーで、記された住所には別の一家が住んでいた。

 

 

5、

「悪いがそんな別嬪さんなら娼館や奴隷市にきたらすぐわかるよ、みてねぇな」

「どーも」

 

娼館で店番しているオークに情報代を渡して立ち去る。

ふと壁に貼っている写真をみると昔みたことがある顔が載っていた。

娼婦堕ちした元対魔忍だ。

居た堪れない気分で店から出た。

 

「東京キングダムに入った形跡なし、そもそもそれ以前に娘はすでに死亡している」

 

片っ端から情報屋にあたったが少女の目撃証言やそれらしい情報がない。

東京キングダムは広いようで狭く、例え人攫いや奴隷商人が関わっていても情報0というのはありえない。

魔獣が骨まで食べたりしても形跡は何かしらの形で残るものだ。

つまりこの少女は東京キングダムにそもそも来ていない(、、、、、、、、、、、、、)ということになる。

違和感を感じ調べた所、捜索対象はすでに死亡した女子高生だと発覚。

しかも五車学園の生徒、つまり少女は対魔忍であった。

 

「どういうこと?」

「……依頼人のことを調べる必要があるなこれは」

 

東京キングダムの外に出る必要があるとわかり。

サングラスつけただけではその美貌を隠すのに足りないのでどうしたものかともときはため息を吐いた。

一旦準備の為に家路へと足を向けると違和感が首に悪寒という形で走る。

周りには娼館に入ろうとするオーク。

客引きをする娼婦。

交代勤務で娼館の警護に向かう傭兵。

仕事が終わって帰宅する殺し屋。

喧嘩して殴り合う魔族らしき獣人。

道端でケタケタ笑うヤク中。

倒れたまま動かないホームレス。

東京キングダムでよくみる光景だが、なにかおかしい。

 

「秋くん」

「いつでも飛び出せるようにして待機」

 

声を出さずに影に向かって糸を伸ばしてさくらに糸電話の要領で振動を使った指示をだす。

歩きながら気付かない振りをして違和感の正体を探る。

 

喧嘩している獣人が銃をとりだした。

そして自分のこめかみに銃口を当てると引き金を引いた。

銃弾が脳を貫通し反対から脳漿が飛びーー散らず。

木片が代わりに噴出した。

獣人の顔はなかった。

見回すと周囲のもの全てこちらに武器を向け。

のっぺりとした顔がないマネキンに変化していた。

 

人形(にんぎょう)使い」

 

その言葉への返答は銃弾だった。

しかし撃ち込まれた銃弾は反対にいる人形に撃ち込まれた。

もときは空中に浮いていた。

逆バンジージャンプの要領で空中に移動した後に不可視の糸を足場にしてるなど相手の術者には思い浮かぶまい。

そのまま糸を振るい全ての人形を十字に切り裂き四つに解体した。

 

「人払いしてこれだけの数の人形を操るか」

「手練れだね」

 

もときが漆黒の衣装で音もなく大地に降り立つ姿はさながら黒い天使が舞い降りたようだった。

 

 

5、

「この男はうちに出資してる政治家の一人ね」

「へぇ」

 

五車学園校長室で対魔忍の少女について聞き出すためにアサギに会いに来たもときである。

姉とこちらの世界の自分に会うと面倒なことになりそうだということでさくらは留守番だ。

 

「娘さんは確かにこの学園に所属していた対魔忍よ、確かあなたが退学してしばらくした頃に任務中に殉職したはずよ。

詳しくはさくらが担当教官だったから聞いてみて」

「了解」

「後それと生徒の探索依頼をしたいのだけど」

「そろそろ本気でカリキュラムを組み直した方がいいのでは?」

 

 

 

「は〜い、秋くんひさしぶり♪」

「どーも」

 

もときの主観では毎日会っている井河さくらの大人バージョンである。

時間の積み重ねで色々アップデートされているな。

へへッ、コイツは中々暴力的ですぜ!(ナニがとはいわないが)

真っ正面からみると魅了されるので、相手が横目でみてるのをいいことにめっちゃガン見しているもときであった。

オープンスケベだと本人ではなく周りが血の雨撒き散らすのでかなりのむっつりスケベである。

露出度の高い東京キングダムの魔族もいいけど対魔忍もいいよね!

 

「それで殉職した田岡さんについてだっけ」

 

途中で言い淀むと視線を彷徨わせ、意を決して口を開いた。

 

「あの子、秋くんが好きだったみたいで学校やめたあと何人も気落ちしてる子がいたけど特に沈んでて。

殉職した任務の時も最後はキミの名を叫んでたって……」

「そうですか…」

 

もときは学生時代に自分によく話しかけてきた相手に彼女がいたのを今思い出した。

 

 

 

7、

「はいはい! どなたですかまったく」

「こんにちは、今大丈夫ですか?」

「………………………………………………………………」

「もしもし?」

「であッ!? あ、あ、あ、秋、もときさん!?」

 

チャイムを鳴らして赤みのかかった長い髪をツインテールにした少女はぶつぶつ文句をいいながらドアを開けた数秒後、口をポカーンと開けてもときが話かけるまで動きを止め、話しかけた後に血圧が心配になるほど顔を真っ赤にして慌てだした。

 

「え、嘘、なん、どう、あわわ、わ、わわわわわわ」

「大丈夫?」

 

扉を開けて目に入ったあまりの美に硬直してから、話しかけられ再起動してから気の毒なくらいものすごく動揺していた。

人形だけが友達ぼっち属性の彼女に五車学園における伝説のアイドル扱いのもときがいきなり訪ねて来るのはドッキリ番組以上の衝撃を与えたようだ。

 

「ちょっと尋ねたいことがあったんだけど」

「は、はい、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

慌ててドアを閉めると、中でバタバタ音が聞こえる、人形を整備する工房を整理整頓しているのだろう。

大地震で荷物を持ち出すときですらこんなに慌てないであろう速さで片付けている彼女に対して別にいいのに、とボケーと待っているもとき。

中と外の心の温度差がすさまじかった。

もときが人形使いの対魔忍、白瀬楪(しらせゆずりは)を訪ねにきたのは、今回の敵が人形使いだからその対策のためだ。

 

「は、はひ、ど、どうぞ!」

「お邪魔します」

 

ぼさぼさになった髪と転んだのか服に張り付いたゴミをみてみぬふりをした。

汗で額に張り付いた髪と顔を赤らめ息を荒げる姿にもときは心の中で「いいね!」ボタンを連打した。

 

「それで御用件はなんでしょえか!?」

「えーとですね」

 

かくかくしかじか。

 

「敵の人形使いですか」

「そうそう」

 

要件が色気のある話ではないと気づくと泣きそうな顔をしたが、すぐ真剣な顔をして相談に乗ってくれた真面目な子で超助かるでかした!

 

「人形使いにも色々ありますが、幻術を併用するトリッキータイプですね」

「タイプ?」

「広義の意味で人形(ひとかた)を操るのはなんでも人形(にんぎょう)使いに分類されます。 

一般的な人形使いは傀儡(くぐつ)使いと呼ばれる人形(にんぎょう)を操作するタイプで私もそれに該当します。

しかし洗脳や催眠術で人を操るのも人形(にんぎょう)使いと呼ばれることも有り、今回のケースは軽度の催眠術と傀儡(くぐつ)を併用したタイプですね」

「へー」

 

早口で語られる情報に少し圧倒されるもとき、それをみて得意分野だからと熱くなり過ぎてドン引きされたんじゃないかと思いあわあわと慌てる楪。

 

「と、とにかく相手は恐らく認識を狂わせて相手を仕留める暗殺型の人形(にんぎょう)使いです。

奇襲に注意さえすればなんとかなると思いますよ!」

「なるほど、ありがとう詳しいね」

「……知り合いの子にそんなタイプの人形(にんぎょう)使いがいたんですよ」

「いた?」

「ええ、まあ……戦死してしまったので任務中に」

「もしかして田岡って名字だったりする?」

「! 知り合いですか?」

「名前と顔を知ってるだけ」

 

どうやら、話がだいぶ見えてきたようだ。

 

 

 

8、

 

「とうとう、来ましたね」

 

 

 

東京郊外にある田岡議員の豪邸を訪ね応接室に通されたもときを待っていたのは以前に奇妙な依頼を持ってきた女性だった。

田岡の家内です、それだけの言葉を出すのに一分以上の時間を必要とした。

 

「ねえ、どうやったら、まともに話せるかしら」

「もう手遅れです」

 

もときは正解を口にした。

 

「ここに来るまでに色々調べましたがまだわからないことがいくつかあります。

娘さんが死んだ原因を僕だと考えた田岡さんが依頼という形で罠にはめて僕を殺そうとして、

貴方が旦那を殺した」

 

田岡夫人は頷いた。

 

「私はあの人を止めました、そんなことをしても娘は喜ばない、むしろ恨むだろうと。

しかしあの人は止まりませんでした、私は自分の手を染めてでも止めると決意しました」

 

田岡夫人はうつむいて涙を流した。

 

「どうして僕の所にきた時に直接説明をしなかったんです?

依頼を断れと中途半端な警告ですませて旦那を殺してまで止めたのに、

――――その後僕を殺そうとした、なぜです?」

 

五車学園で色々話を聞いたとこと田岡議員は当時護衛だった対魔忍、現田岡夫人と結婚して、娘を生んだ。

 

娘にも対魔忍の素質が有り父親が止めるのを聞かずに対魔忍になるべく五車学園に入学した。

忍法は母親と同じ人形を操る術が使えたらしい(、、、、、、、、、、、、、、、)

 

「娘を心底愛していたのは夫だけじゃないの、娘を殺したのは任務でも娘を殺させる病に落としたのは貴方。

ひと思いに殺せればよかった、夫は苦しませてから殺すといったけど私にはできなかった……」

 

声は次第に笑いを帯びてきた、全身の震えは泣いているのではなかった。

夫人は顔を上げた、その目は燃えるような炎の意思があった。

 

「そして最後に、―――僕のことをどう考えてます?」

「あなたは、どうしてそんなに美しすぎるの?」

 

顔を上げた田岡夫人の目からは赤いすじが流れていた。

それも恋に落ちた女の心の働きだろうか。

幻術で隠した人形があらわれ、もときを囲んだ。

 

「恋い焦がれていたのは娘だけじゃないの、だから娘の仇とわかっていても、依頼を受けるなと、関わるなといったのよ。

娘も夫も死んだわ、せめて貴方と一緒に」

 

そういった、田岡夫人が頭に手を当ててうめいた。

 

「術返し、どうして……」

 

最後に苦痛の尾を引いて夫人は倒れた。

ひとつ息を吐いて、妖糸を放ち夫人の様子を調べた。

死んでは居ない。だが二度と術は使えないだろう、倒れた原因は脳溢血だった。

すぐに家の手伝いに声をかけた。

救急車と警察が来るまで時間がある。

もときは懐にあるものを取り出した。

友人が最期まで渡せなかったもときへのプレゼントだと、そう言って渡された人形だ、渡される前と違い割れてしまっている。

親の凶行を止めようとして、作り主の代わりに止めたのだろうか?

 

 

 

9、

警察の事情聴取が終わり戻ったのは日をまたいでからだ。

家の明かりが消えているので、さくらももう寝ているのであろう。

自分もそのまま床に入った。

昼近くに起きて事務所に入ると、何かを焼いている匂いがした。

換気扇の下でさくらが何かを焼いていた。

 

「なにやってんの?」

「煎餅を焼いてみた、ちょっとたべてみてよ」

 

そういわれ、一枚手にとって食べてみる。甘くて辛い。

 

「これ、なに?」

「七味マヨネーズ味の煎餅、コンビニにそんな味があったから試しに作ってみた♪」

 

明らかに調味料の分量がおかしい。

助手も所長も人探し家業をやめて煎餅職人として食ってくのはまだまだ先だな。

そう思いながら二口目を口にした。




七味マヨネーズ味は美味いけど途中で飽きるよね


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淫獄都市ブルース<彷徨の章>(短編)

章管理の練習中でしおりを挟んでもらった方々に
不便をおかけします

なんだか人気が高いようなので
あのキャラが本編に参加します


1、

最近対魔忍もあまり捕まらないのでしばらく捜索依頼がなかった。

開業して一年未満でまだ知名度が低いため一般の人探しの依頼もまだそれほどこないので一時的な依頼の空白期間にもときとさくらは暇を持て余していた。

 

暇な時に出来る副業をなにか考えたほうがいいかなと思考を巡らせて練習作の煎餅を口にした。

ふと横に目をやるとさくらはヨガの体操をしていて非常に良い保養になった。

体の起伏を強調するポーズの数々さすが対魔忍、エロいことに関してはやはり天才か……。

 

通販でうるち米と七輪を買って煎餅を焼く練習をしていたがそろそろ練習でつくった煎餅は一通りアレンジを試して食べ飽きてきた。

本家の方は一袋500円以下の煎餅で年収3000万以上の売上を叩き出している。

大部分は店長である秋せつらの美貌によるところが大きいのでもときも同じことができるだろうが、ここは観光客が来る魔界都市<新宿>ではなく、東京キングダムなので需要があるとは言いづらい。

それでも『この人が焼きました』という謳い文句と写真でもつければ焼くのに失敗した煎餅でも飛ぶように売れるだろうが元が煎餅屋の体の影響だろうか、謎のプロ意識がそれを許さなかった。

 

ジリリリリリリン

 

いまどきもはや骨董品の部類に入る黒電話が鳴った。

東京キングダムの闇市めぐりであまりの珍しさについ購入してしまった一品だ。

もちろん盗聴器や呪術などの類がないのは確認済みである。

電話に出た。

 

「はい、もしもし」

「メフィストというものだが」

「そんな人知りません」

 

ガチャと電話を切る。

 

「誰から?」

「間違い電話」

 

ジリリリリリリン ジリリリリリリン

 

嫌そうな顔で再び受話器を取った。

 

「……もしもし」

「未だに時代錯誤の黒電話を使ってるのかね? 」

「大きなお世話だ、なんの用」

 

受話器をとってそうそうの嫌味に腹立ったような物言いだが、春風のような口調ではまったく迫力がなかった。

 

「仕事の依頼だ」

「断る」

「今、予定は空いて暇を持て余していると風の噂で聞いているが?」

「風となんかと話すなよ」

「ふむ、所で前回の診察代がまだ支払われてないのだがね」

「……すぐいくよ、この業突く張り」

 

ふん、と子供ぽく乱暴に電話を切ると嫌そうに壁にかけてある愛用のコートを取り出した。

 

「出かけるの?」

 

じゃあ、自分もと着替えの準備をするさくらをもときは止める。

 

「いや留守番で」

「え〜、何かあったりしたらアレだよ〜?」

「ついてったほうが危険だから」

「仕事依頼だよね、相手は誰?」

「女嫌いのヤブ医者だよ」

 

自分以外の者が言ったらどんな目に合うかわからない暴言をもときは口にした。

 

2、

メフィスト病院は都市計画で作られた建物を改築したものが多い東京キングダムで数少ない新築の建造物である、周囲の住人が気がついたら出来ていた。

当初は得体の知れない建物に近づくものがいなかったが、破格の料金と完璧な治療と患者を狙う不届き者を許さない院長であるメフィストの存在によって、絶対の安全と万全の医療体制を誇る。

 

現在では命のやりとりが日常である東京キングダムで「助かりたければメフィスト病院にいけ」との言葉が病院への絶対的信頼をあらわしており。

必要不可欠な施設として人が絶えない。

 

院長であるメフィストの医術は超一流であることは東京キングダムの誰もが周知の事実だ。

ただ、腕以外に広まっている院長の美貌に惹かれ、ひと目見ようと、仮病を使って病院に来る患者が後をたたないという弊害が生じている(病院スタッフが「またか」で対応するほどに、日常茶飯事の光景らしい)

その院長室にもときは招かれ足を運んだ。

 

「座りたまえ」

 

エクトプラズムの椅子を用意され、そのまま座った。

 

「で、仕事の内容は?」

「せっかちな男だな」

「仕事熱心なだけさ」

 

そういって相手を見る、天使の美貌と呼ばれる自分に対して神の美貌と呼ばれる自分以上の美しさを誇る男。

圧倒的な実力と、死者の蘇生以外に治せないものはない医術を誇る。

魔界と人間界の医術を合わせた技術を学んだ医師である魔科医(まかい)ではなく。

魔界都市を体現する魔界医師(まかいいし)

黒のせつら、白のメフィストと並び称される絶対に敵に回してはいけない人間。

魔界都市<新宿>の三魔人の一人、ドクターメフィストだ。

 

もときは自分同様に転生者ではないかと睨んでいるが、実力と美しさと『性的嗜好』から本人の可能性もある。

魔科医である桐生佐馬斗は死者の蘇生すらも成し遂げているので死者の完全蘇生が大望のメフィストならその技術を求めてこの世界にいてもなんら不思議ではない、なんでもありなのだこの男は。

魔界都市<新宿>だろうが東京キングダムだろうがドクターメフィストなら患者の治療ができればどちらでもかまわないだろう。

本物なら『私』の人格がないもときに興味がないとおもうのだが、聞いても答えないだろうし正直医者としての腕以外は興味もないので深くは追及していない。

 

「女を待たせているからかね、『僕』などという女に媚びる一人称を使う男はこれだから困る。 人間が犯した最大の罪は知恵の身を食べ楽園を追放されたことでなく(イブ)を作ったことだ。

それさえなければ人間は神の座に王手をかけていた」

「お前の男尊女卑思想はどうでもいいから早く仕事の話に入れよ」

 

ドクターメフィストは生粋の女嫌いだ、患者と自分の病院のスタッフ以外の女性を毛嫌いしている。

益荒男と彼が称する勇ましく雄々しい男性が好みで『私』の人格のせつらに懸想している。

もっとも『私』のせつらに言わせれば『私』を気に入っているのが気にくわないらしいが。

 

「失踪した患者を探して欲しい」

「自分の患者ぐらいきちんと管理しろよ」

 

嫌味をいうもときだが面倒な依頼だと頭が痛くなった。

メフィスト病院は独自の技術で万全の警備がしかれており、武装した警備員や警備機械、魔術的、霊的防御で患者の安全を確保している。

少なくともそれらを突破できる相手なのだ。

 

「治療が終わっていないので、連れ戻したいのだ」

 

外部からの侵入者ではないようだ、もっとも病院の警備を突破できる強者はそうそういないし仮に居たとしても患者に危害を与えるならメフィスト本人がでて病院の移植用臓器へと解体するだろうが。

メフィスト病院の移植用臓器が病院を襲撃してきた不届き者から摘出されているというのは有名な話だ。

 

「治療中の患者が脱走ね。忍法や能力でも使わなきゃ無理だな、患者は対魔忍か魔族か?」

「米連兵だ」

 

米連、正式名称は米国(アメリカ)及び太平洋諸国連邦。かつてのアメリカ大陸/東南アジア/台湾/朝鮮半島の一部が1つになった連邦制国家である。

魔界の技術を求め『こちら』と『魔界』を繋ぐ『異界の門(ゲート)』のある唯一の国である日本に干渉して対魔忍と敵対している組織のひとつである。

巨大なだけあって複数内部組織があり米連国防総省の下部機関であるDSO(ディーエスオー)、和名は「防衛科学研究室」は表向きは「オレンジインダストリー」の社名で存在している、そこの日本支部には対魔忍アサギ3の主人公のひとり『甲河アスカ』・仮面の対魔忍ことアサギの宿敵の朧の本来の中の人である『甲河朧』などが所属している。

 

「米連……能力開発された強化兵士か?」

「機械化装備の一般兵だ」

「……ということは、死にかけて能力が発現したケースか」

 

何らかの命の危機で突然能力に目覚めるというのは稀にある。

例えばアサギの右腕である『八津 九郎』は元レンジャー部隊出身の盲目の対魔忍という異色の経歴である。

任務で両目を失明したことがキッカケで能力に目覚め対魔忍になっている。

件の人物もそれまで眠っていた能力の根源である魔族の因子が『異界の門(ゲート)」に近い日本で死にかけたことで発現したというのは十分あり得る話だ。

 

「病室から抜け出したのなら空間を跳躍する異能系とか?」

「いや違う、病室にはいるのだ(、、、、、、、、)

 

「患者の魂を探すってどういうこと?」

「なんでもその患者が幽体離脱系の能力に目覚めて体から魂が戻ってこないらしい」

「幽体離脱! 戻らぬ魂!」

「なんでそんなに興奮してるの?」

「だって幽霊だよ、幽霊! ワクワクしない!?」

 

合流して事情を話したらキラキラ目を輝かせるさくらをみながら口にブロック状の栄養補給食を運ぶ。

先程メフィストから差し入れとして渡された「クララ・バー」だ。

これ一本で一日の栄養を完全にまかなえるもので院長お手製の完全栄養食だ。

以前院長が「アルプスの少女」を見ていたと、患者が憮然と漏らしていたのを聞いたがそれが名前の由来だろう。

 

「先日の戦闘で魔族と交戦して部隊は壊滅、生き残りはその女性一人だけ。 そのままメフィスト病院に運ばれ治療を施したが意識が戻らず原因は魂が体から抜けているからだと判明。

……魂が戻ってこないのは戻れないのか、戻りたくないのか」

「……生きていたくないから、体に帰りたくないってこと?」

「こんな街に来ればね」

 

そういって退廃と混沌の街を見渡す。

マフィア、その情婦、チンピラ、オーク、半人半馬、人種の坩堝ではなく人魔の坩堝だ。

 

「……それでも探すの? たとえ本人が望んでなくとも」

「あのヤブは人を治すのが仕事で、僕は人を探すのが仕事。

やらなきゃいけないことをするだけさ」

 

そう言ったもときの顔にはなんの感慨も浮かんでいない、その美貌を彩る表情に感傷の色など不要だといわんばかりであった。

 

4、

「米連兵士の個人情報を知りたい? また珍しい依頼ね」

 

酒と性臭ただようピンク色の眩い明かりで照らされる店内の奥へと進み、娼館のオーナーである情報屋の元にもときは足を運んだ。

元高級娼婦でいまでも金をいくら積んででも一晩を共にしたいという男が絶えないという美貌を誇る妖艶な美女だ。

 

「少し時間がかかるわ、それまで……一杯やる?」

「仕事中なんで結構」

 

お酒は20歳になってから、節度のある飲み方をしましょう。

 

「それで、報酬は一晩の付き合いでどうかしら?」

「いつも通りの金額を振り込んでおく」

「相変わらずつれないわね…」

 

娼館通いをする男達が歯ぎしりして嫉妬しそうな誘いをもときはあっさり断った。

影に潜んでいる助手が刃の形をした影を作ったのが関係あるかは定かではない多分。

 

「ーーーじゃあこれが対象の資料ね」

「時間がかかるんじゃなかった?」

「そんなこといったかしら? でも貴方が付き合ってくれれば多分一晩はかかったわね」

 

目の前の美女はそういってぱちりとウィンクをした。

 

「写真とドッグタグだけで短時間によくこれだけ調べられるものだ」

「私なんだかあの人嫌い」

 

資料を受け取り、手早く印刷された文字に目を通す。

ハッカーとのイタチごっこをする情報業界ではレトロな紙媒体の方が逆に安全である。

 

「ふーむ、機械化装備というからパワードスーツ装備やサイボーグ化しただけの部隊かと思えば違うみたいだね」

「脳にマイクロチップをいれて感情の制御、命令実行する為の情報伝達の誤差をなくす、脳内麻薬の分泌を促し基礎身体能力の一時的向上……ねぇ」

 

孤児を集めてつくった実験部隊だ。

上官五名がチップを埋め込んだ部下を統制して運用する部隊らしい。

部隊員達は生き残った一名を除き先日の騒動で壊滅しているが、その上官全員は逃走成功したらしい、部下を捨て駒にして逃げ出したのだろう。

その上官三名がここ数日で変死しているらしい。

 

「幽体離脱してなにをしてるかわかった」

「自分達を見捨てたことに対する復讐?」

「それは本人から聞くとしよう」

 

資料にはその上官の居場所も書いてあるが、恐らく身の危険を感じて逃げ出して書かれた場所にはいないだろうが両名ともまだ東京キングダムにいるだろう。

中国では幽霊のことを鬼と呼ぶらしい。

鬼ごっこをしている幽霊(おに)を探しに向かった。

 

5、

彼女には名前がなかった、いやあったはずだが思い出せなかった。

覚えている一番古い記憶は路地裏で空腹を紛らわせるために野良犬のように残飯を漁っていた幼少期。

そして窃盗を繰り返して警察に捕まり、更生施設ではなくなんらかの研究施設に入れられた記憶だ。

そこでは飢えることもなく、暖かい寝床もあり、訓練と称した運動で思いっきり体を動かせた。勉強は苦手だったが同じ境遇の仲間と友人になった。

思えばこの時期が一番楽しかった。

何せそれからはずっと苦しい時期が続いた。

 

『イブ』と呼ばれる鷲津マテリアル社製のマイクロチップを参考にした改良品を手術で埋め込まれたのだ。

もともとの『イブ』の効果は、対象の脳幹に移植されると、あらゆる性的調教に対して否定的な思考を抱けば頭痛を起こして苦しめ、

一転して妥協や肯定的な思考に至ると痛みも止まるという機能を持つ。

そのためイブを仕掛けられた者は、無意識に痛みを避けようとする選択を繰り返す内に性的調教を受け入れ結局すべては自分で選んだ結果なのだと信じて疑わなくなってしまうというものだ。

 

改良品のこのマイクロチップは命令に逆らわないように完全な人形にするための通常の機能と。

いざという時に個々の判断力を持たせるために記憶をON/OFFで切り替えられるようにする第二の脳として活用できるようにしている。

要するに完全に手綱を握りつつ調教して心が折れてない状況に強制的に戻して自我を失わせないようにする悪趣味極まりない機能だ。

苦痛で逆らえないようにして調教して完全に都合のいい性欲処理の道具にしたらまた楽しむために精神状態を戻す。

人の尊厳を踏みにじるような卑劣極まりない道具。

 

兵隊兼都合のいい玩具として地獄の日々を同じ境遇の仲間たちで構成された部隊で送る日々。

自分の意志では死すら選べない状況にあっけなく終止符が打たれた。

独断で部隊を運用した無能な上官達は東京キングダムで魔族を前に醜態をさらし、保身のために私達を囮にして逃亡し部隊を壊滅させた。

仲間は死に、私自身も死を迎えた筈だったが、何故か今、あれほど渇望した自由を手にしていた。

―――死人として。

 

「ば、化け物め! 死ね、死ねよぉぉぉぉぉおぉぉ!!!???」

 

そういってこちらに銃弾を発射した元上官の攻撃はすべてすり抜けていった。

無駄なことだ、すでに死んでいる私にそんなものは無意味なのに。

そのまま近づき、相手に触れる。

相手の体温が徐々に下がっていってるのか青ざめていくのに対して、私に熱が移っていく。

そして徐々に動きが鈍くなり完全に動かなくなる。

生前はあれほど憎かった相手を殺したというのになにも感じない。

肉体を失った影響だろうか?

体も薄くなってきている気がする。

なにも感じない。

すでに元上官たちを四人殺したがこの体になって忌々しいチップからの束縛がなくなり得た自由。

開放されたと実感した当初に感じた身を焦がすほど憎悪の『熱』はすでに失われており。

追いかけて殺しているのは惰性のようなものだ。

恐らく全員の命を奪った時点で生への執着も失い自らが消滅するだろうことも悟っていた。しかしそこに恐怖はなかった。

なにも感じない。

このまま存在がゆらぎ、ただ水面に揺れた波紋のように消えるのだろうか……。

 

「こんにちは」

 

その美しすぎる顔を見た瞬間に色あせた世界に色彩が戻り、失われた熱が戻った。

 

6、

もときがたどり着いた場所には一体の死体と一人の幽霊(おに)がいた。

さくらと二手に分かれて米連の士官を探したがどうやら当たりを引いたようだ。

半透明の女性は全裸姿であり。

均整の取れ、引き締まった体を彩る豊かな乳と柔らかそうな尻は、性的興奮よりも先に彫像のような美術的美しさを感じさせた。

 

「寒くない?」

 

女性の横に横たわる死体などどうでもいいかのように思ったことをそのまま言うもときに女性はくすりと笑った。

 

「とぼけた人ね。私が怖くないのかしら?」

「僕に怖いことしますか?」

「いいえ」

「なら怖がる必要はありません」

 

まるでコントのような会話にまた女性は笑った。

 

「ふふっ、面白い人ね……久々に笑ったわ」

「それは結構」

「それでこんな場所に何しに来たのかしら?」

 

薄汚れた路地裏にいかにもお坊ちゃま然とした、もときがいることに疑問を持った女性が尋ねる。

 

「貴方を探しに」

「……口説き文句としては悪くないわね、違うみたいだけれども」

 

女性は笑顔から警戒している表情になる。

 

「ええ、仕事です。病院から抜け出した患者を連れ戻せと知り合いの医者から頼まれました」

「病院? 医者じゃなく神父やお坊さんの間違いじゃないの?」

 

透き通った自分の体を見ながらそういった。

 

「まだ貴方は生きているので医者の管轄です」

「……生きているの私? こんな状態で?」

「ええ。ですが早く帰らないと、神父やお坊さんの出番になります」

 

神妙そうに頷くが、どことなく気が抜けてる感じがしていまいち信憑性がなさそうな言い方である。

 

「性格は悪いが腕だけは良い医者の言っていることなので確かです。早く戻りましょう」

「…………別にいいわ」

 

そういって悲しげに顔を歪めた。

 

「例え生き返っても、行く所もやりたいこともない。やるべきことをやり終えたら、まだ死んでないというだけの惰性に満ちた人生がいよいよ終わるだけよ」

「ふーむ」

 

悲痛な声を出す女性の言葉に、もときは黒板に書かれた数学の問題の解説を聞かされた生徒のような声を上げ。

 

「今まで生きていないのなら、これから改めて生きればいいだけなのでは?」

 

そんなことを口にした。

 

「この街は碌でもない街ですが、見方を変えれば普通の世界に居場所のない人間でも生きていける寛容な街です。

これはこれで住みやすい。とりあえず生きてみて生き続ける理由を探せばいいと思いますよ」

 

普通ならこんな一般論を言ったところで怒りを買うだけだが、闇と月光の化学変化が生んだ魔性の美の落とし子であるもときが口にしたことで心を激しく揺さぶる魅力的な提案に思えてきた。

 

「そうね……、貴方がそういうならって気になってきたわ」

「じゃあ戻りましょう」

「駄目よ、そうする前にしなきゃいけないことがあるの」

 

そういって女性は姿を消した。 

肉体から開放された魂は時空を無視することができるのだ。

 

「最後の一人の方へ向かったか……、間に合うかな?」

 

7、

「俺は死なんッ! 生きるッ! あってはならんのだ死ぬようなことはッ! だから死ねッ! みんな死ね!?!?」

 

血走った目で口角に泡を吹きながら持ち込んだ武器を手当たり次第撃ちまくる男。

完全に錯乱している。幽体となった女性がもたらす不可避の死の恐怖で発狂したのだ。

 

「あ~も~、失敗した! 逆にしてもらえばよかった!?」

 

そう言って逃げるさくら。

影を使って逃げようにも乱射した武器によって建物が見る見るうちに崩れていっているので、下手に影に潜ると瓦礫で埋まってしまいかねないため走って逃げるしかないのだ。

 

「死ね、死んでしまえあの世で俺にわび続けろ!?!?」

「いえ、あの世で詫びるのは貴方よ」

 

そういって男の前に幽体となった女性が現れる。

 

「馬鹿な……死ぬわけがない、俺が死ぬなどッ!」

 

そういって女性に向かって銃を撃ち続けるが、すり抜けた女性に触れられそのまま倒れた。

 

「本物の幽霊だ!」

 

逃げ回ってるうちに動いた状況に困惑するさくらだが、すぐに幽体となっている女性に目をキラキラ輝かせる。

 

「終わった?」

 

そう言って、空からもときが降りてきた。

糸を使って建物を某蜘蛛男のように次々と渡って高速移動してきたのだ。

 

「……ええ、終わりよ」

「それは良かった、じゃあ行きましょうか」

 

そういって女性に近づくもとき。

男の生命活動が停止しているのは妖糸で確認している。

 

「……やり直せるかしら?」

「さぁ? 自分次第でしょう」

 

そういったもときに女性はうっすら微笑むと消えていった。

もときの懐から振動が伝わった。

 

「患者の意識が戻った」

 

携帯電話のスピーカーからドクターメフィストの声が響いた。

「元の世界に戻ったらお姉ちゃんに自慢しなきゃ」と呟くさくらの声もついでに聞こえた。

 

8、

「それで彼女は?」

「体の傷は癒したし脳の異物は取り除いた。

完治したといっていいだろう。

しかしこの街に来る以前の記憶を失ったようだ」

 

ドクターメフィストでさえも完全な死からは患者の蘇生はできない。

彼女はこの街で人生をやりなおすために記憶を捨て(死んで)新しく生まれ変わったのだ。

 

「そうか」

「その方が幸せかもしれんよ」

「それを決めるのは彼女であって僕たちじゃないさ」

 

そういって、部屋から出ようとしたもときの背中に声がかかる。

 

「ところでこの後一緒に食事でもどうかね?」

「今日は自宅で食べると決めている」

「君は生涯の敵だ」

 

扉を閉めて、そのまま歩いて病院のロビーにでた。

 

「あ、あの、前にお会いしたことがありませんでしたか?」

 

声に振り向くと、元米連兵の女性がいた。

もときの顔をみて自身の顔が熟した林檎より真っ赤になった。

 

「なにか?」

「…………え、えっと、ナンパとかじゃなくて、そ、その、私この病院にいたより以前の記憶がなくて、でも貴方の姿をみたら、その、なんだか」

貴女とは(、、、、)初対面ですよ」

「そうですか……」

「退院ですか?」

「は、はい。 先に退院した同室の患者さんに「行く所がないなら、うちで経営してる酒場が人手不足だからよかったら住み込みで給仕でもやらないか」って言われて迎えに来てくれるのを待っているんです」

 

店の名前を聞いたらこの街では珍しい真っ当な人気店だ。

情に厚く人望がある店主が軽い過労でこの病院に検査入院してたのを聞いた記憶がある。

詐欺の可能性は低いだろう。

 

「――ごめんなさい一方的に話しちゃって。でもなんだかお礼を言わなくちゃいけない気がしたんです、『ありがとう』って」

 

穏やかな顔で笑う女性の顔が再び朱に染まる、もときの口端がわずかに上がり微笑んでいたからだ。 思い出した時にこの少年にそれを浮かばせたのは自分なんだと誇らしくなるような、そんな微笑みだった。

 

「お大事に」

 

そういって病院からでたもときは、今日の晩御飯は何にしようかと考えながらわずかに気分を良くしてこころなしか軽い足どりで東京キングダムの雑踏に消えた。




終わり方が別のシリーズっぽいですが
この終わり方をした魔界都市ブルースもあります

ところで紅とフェリシアの兄に転生した主人公が、
エドウィン・ブラックに「お前は唯一の成功例だ」
と言われるヴァンパイアハンターDTって需要ありますかね?
まあやるならぶる〜ちゅですが


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淫獄都市ブルース<還来の章>(短編)

ここ最近対魔忍RPGのイベントを走っていたら対魔忍作品の更新ラッシュに乗り遅れてしまった……。

ところで対魔忍RPGの詫び石臥者引いたら初のSRキャラ秋山凜子をゲット。
というわけで今回は「対魔忍RPGに秋もときが出たら」をやりたかったしチャプター5のシナリオが凛子先輩でてるのでこの作品風アレンジ話です。
外伝でもよかったけど性春姫じゃできないんで本編でやります。
対魔忍RPGのチャプター5が元ネタなのでネタバレがありますが

「ストーリー未読とかいつの話だよそんなんとっくに見たぜ!」
または
「そもそも、対魔忍RPGなんてやるつもりはねぇぜ早く見せな!」
という方たち以外はネタばれに注意して肩の力を抜いて気楽にお読みください。


東京キングダムにある闇の円形劇場(アンフィエアトルム)

大地のほぼ中央に、二つの影が立っていた。

だが、これがある種の戦いだと誰もが知っていても、それに付き物の行為はなかった。

拍手はない、歓声もない、足を踏み鳴らす音もない。

競技に欠かせぬ選手への励ましも激闘を期待する興奮も、ここでは遠い行事であった。

 

「選手の紹介をします」

 

と、にやけた表情で男はアナウンスした。

これから行われる残虐行為(ショー)を楽しんでいるのだ。

 

「NEOカオス・アリーナの闘奴、

ブラッド・レディ!」

 

紹介された選手に対してスポットライトが当たる、光の下にはサディスティクな表情をして相手をみつめるレオタード姿の女性が鞭を携えていた。

 

「そして本日のゲスト、

『金剛の対魔忍』四條如月!」

 

そしてもう一人の女性にスポットライトが当たる。

その明かりに照らされていたのは苦しげに武器を持つ、対魔忍スーツを着た女性である。

脂汗が滲むその顔は明らかに健康とは程遠い調子で明らかに戦いに赴くべき様子ではなかった。

 

「では、これから始まる両者の『戦い』にご期待下さい!」

 

そういい始まりの合図をしてアナウンサーは舞台から去った。

 

「さて、どうやって料理してあげようかね?」

 

そういい、手に持った鞭を地面に振るった。

鞭には金属の棘が茨のようについており、打ち据えるのではなく相手の皮膚を傷つける用途だと知れた。

明らかに相手を倒すためではなく傷つけるための道具であった。

 

四條如月は力なく獲物である鉄棒を構えた。

もとよりこれは尋常な立会でなく半ば八百長試合のようなものだ。

とある任務で失敗し捕獲されてしまった彼女はこの試合に強制的に参加する羽目になったのである。

『NEOカオス・アリーナ』かつては『カオス・アリーナ』『デモンアリーナ』と呼ばれたこの闇試合は、戦いに参加した選手を勝者が時にはいたぶり、時には陵辱して嬲る姿を見せることで人気を馳せた残虐な見世物である。

 

今回強制的に参加させられた嬲られ対象の対魔忍である彼女もまっとうな条件では戦いに参加させられるはずもなく、薬と暗示により相手を攻撃できないという条件を与えられた上に全身の感度を上げ痛みや快楽に敏感になる状態にさせてある。

 

彼女の扱う忍法『金遁・金剛』は肉体を鋼のようにする防御型の忍法だ。

同格の相手にはその防御力と棒術で有利に立ち回れるが薬で意識が朦朧として、忍法に集中できない現在の状態ではただ嬲られる時間が長くなるだけであった。

 

容赦なく鞭で鉄棒の防御を突破して痛みに喘ぐ彼女を愉悦の表情で痛めつけるブラッド・レディと呼ばれた女はパワー・レディ、スネーク・レデイというかつてのアリーナの選手達と同様に魔族である。

殴り合いからの拷問器具責めが多いパワー・レディや毒を盛り両性具有の体で陵辱するのが好みであるスネーク・レディと違い鋼で出来た茨の鞭で肉を抉り鮮血に塗れさせる残虐ファイトが人気の女戦士である。

 

絶望的な状況にもめげずに気丈にも活路を見出そうとした如月だが薬により強化された痛覚と、出血により意識が朦朧とする彼女はどんどん悪化する状況に心が折れつつあった。

 

闇社会の住人に対して色々と邪魔な存在である対魔忍が心折られ敗者となった挙げ句に嬲りものにされていく過程を、愉悦と共に楽しんでいた観客達の視界にふわりと何かがよぎった。

 

スポットライトの明かりに照らされながら舞い降りる影はさながら黒い羽を背にした堕天使のようにも見える。

いきなりの闖入者にせっかくの宴に水をさされた観客が色めき立つが、次の瞬間に場内がまるで水を打ったように静まり返る。

 

降り立った黒ずくめの人物がもの珍しそうに観客の方をくるりと一瞥した。

ただそれだけ、それだけのことで巷にあふれる娯楽に飽き、血と闘争に彩られた残虐な催し者に熱を上げているNEOカオス・アリーナの観客達が全て黙り込んでしまったのだ。

その美貌はあらゆる場所において、すべてを忘却の彼方へ誘いただその美の持ち主以外のことを考えられなくしてしまう美の結晶とでもいうべき存在だった。

 

「対魔忍の四條如月さんですね? 依頼により貴女をお連れしに来ました」

「――――」

 

これが世にいう死に際に見る光景なのかと本気で彼女は思ったであろう。

想像すらできないほどの超常の美の持ち主が自分を連れていくと言っているのだ。

対魔忍としての責務を全うせずにこうして死んでいくのかとこの瞬間以前の彼女なら嘆くのであろうが、その美貌を前にした時から、いっそどこにでも連れて行ってほしいと心から思ってしまった。

 

「どこに連れて行こうっていうんだい?」

 

ブラッド・レディはその美貌を見て暫く恍惚となってしまったが、戦士としての矜持で強引にねじ伏せそれを作り出した原因である眼の前の相手に激しい怒りを燃やしていた。

 

「とりあえず病院?」

 

そういって自身に向けられた激しい怒りとぼけたような発言で煽っているようだが、わざとではなく本人としてはいたって素の会話である。

春風駘蕩たる雰囲気を持つこの世ならざる美を持つ少年、秋もときはそういう男なのだ。

 

「ヒューッ、見ろよやつの顔を…まるで天使か悪魔みてえな綺麗な顔だ!! こいつはやるかもしれねえ…」

「まさかよ、しかしブラッド・レディには勝てねえぜ」

 

なにやら騒いでいるオークを尻目に、怒りに燃えるブラッド・レディはその美しすぎる顔をズタズタにしてやろうと鞭を振るった。

しかし鞭がもときに届く前に弾かれた。

 

「なにッ!?」

「立てますか?」

 

ブラッド・レディからもときのあまりの美貌に呆然としている対魔忍の女へと視線を向けてこちらの方を見向きもせずに攻撃を防いだもときに愕然とした。

もときに害意を持つものは不可視の護り糸が自動的に防御するのだ。

相手に自身の防御を突破できないと判断したもときはすでにブラッド・レディを見向きもせず如月に対して妖糸による止血と、内臓機能の活性化により薬の効能を抜く作業をしている。

 

数度試してもまるで壁を叩くような手応えと共に鞭を撥ね返され、武器を捨て矜持もなにも捨てなりふり構わずに、一番信頼できる自分の体を使うことを選択しもときに殴りかかった。

その気概を感じ取ったのか、後ろを振り向いたもときの顔にブラッド・レディは拳を叩きつけようとした。

―――そして腕が拳から肩まで縦に裂けた。

 

「ッ…ぁ…」

「まだやります?」

 

声をだすことも出来ない激痛に腕を抑えるブラッド・レディにもときはそう尋ねた。

それをみてブラッド・レディは最初からこの少年は自分を路傍の石程度にしか見ていないのだと気づいた。

これだけのことをしても満員電車で揺れたせいで隣の人の足を踏んでしまった程度にしか思っていないのだ。

超越者である上位魔族達と同じようにこの少年は完全に自分とは『別』の種類の存在であると気づき戦意喪失した。

 

「じゃあ」

 

そういって未だにもときの美貌に恍惚としている如月を抱えてもときは妖糸を使い勢いよくこの場から飛び立った。

観客は先程の出来事が幻覚であったかのような心持ちであった、さながら白昼夢だ。

しかし腕を抑えて呻くブラッド・レディの姿がそれを否定していた。

再び観客達はこの場所に通うのだろう。

恐らくそれは残虐な闘争を見るためでなく、あまりにも甘美な夢を見させた少年をもう一度自身の目に焼き付けるためにだ。

 

1、

「所で実は貴方の復学運動なるものが校内で行われてるのよ」

「は?」

 

メフィスト病院に四條如月を送り届けた際に、

『魔族に嬲られた末に辱められ殺されるところを助けていただいたお礼に全てを捧げたい♥』

と言ってきたので「落ち着けまだ慌てる時間じゃない」と宥め。

逃げるように(実際そうだが)五車学園に報告しに来たもときはそんなことを言われ、「なにいってんだコイツ?」という視線をアサギにおくった。

ちなみに場所が学園なので今回もさくらは留守番である。

 

「というかこちらの安全と、学園にかかる被害を考えての自主退学なのに復学もなにもないでしょ」

「そうなんだけどねぇ……」

 

そう言ってアサギは目の前のもとき復学嘆願書の山を見て溜息をついた。

 

「この通りなのよ」

「はぁ」

「貴方に助けられた子たちが貴方の話をしているのを聞いて、退学して貴方に会えないから燃え尽き気味な子たちを巻き込んでこの通り嘆願書を出しているのよ」

「へぇ、まあどうでもいいですが」

「はっきり言うわね」

「気にしてたらきりがないので」

 

夜にたたずめば闇を染め、昼にたたずめば光を放つといわれる程に極まった美は人を狂わせるといういい例であった。

しかし影響を与えた本人はどこ吹く風である、嵐は移動するたびに他を巻き込み大きな損害を与えるが中心は穏やかなものなのである。

 

「それはさておき、いちいち報告にこちらまで来るのが非常に手間なんでどうにかなりません?」

「別に報告だけなら電話でも良かったのだけれども」

「いやいや、電話とか盗聴されるじゃないですか、せめて専用回線とかないと安心できませんし」

 

防諜対策が一般レベルの五車学園では安心できないので、ことあるごとにもときはこうやって直接来るのである。

最寄り駅である『まえさき』でさえ近くと言っても電車とバスで三時間ほどかかる距離なので東京キングダムからだと移動だけで一日予定が潰れてしまうのだ。

今現在はそれほど依頼がこないので問題ないが、将来的には非常に困る。

 

「連絡はどうにかするとして、うちの子たちを連れ戻す際に敵の襲撃があるかもと考えると護衛も兼任できる貴方が直接連れて来るのが一番確実なのよね」

「そうはいっても不便すぎなんですが。こうワープ装置的な何かで転送とか」

「あったら欲しいわねそれ」

「米連辺りが研究してそうですけどね」

「無い袖は振れないわね」

「じゃあ、もうちょい対魔忍が捕まらないようにしてくださいよ」

「……無い袖は振れないわね」

「いやいや、拉致から調教・洗脳されて無事に生還できるのは貴女ぐらいなんだからそこらへんちゃんと教育してくださいよ」

「教育できるいい人材いないかしら」

「いてもここには来ないと思いますけどね」

 

アサギが頭を抱えて唸り始めたので、もときは部屋を出た。

上層部が敵組織とずぶずぶで組織運営のノウハウもない場所に来る物好きはそうそういないだろう。

組織の体裁を保てるだけですごいとは思うが、だからといって貴重な人材が捕まったのを奪還すべく人探しをこちらに毎回毎回委託されると正直洒落にならない負担がかかるのでなんとかしてもらいたいものである。

 

2、

「来た、秋くん来た! これで勝つる!」

「秋ィ! お前は俺にとっての新たな光だァ!」

「もとき、お前が好きだッッ、お前が欲しい!!!」

「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッ!

らめぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェッ!

あきキュンに見られただけであらひは逝っちゃうのぉぉぉ❤︎」

「……ごゆるりと」

 

校長室の外にもときが学園に来たと知った生徒達が集団で押し寄せていた。

もときは後ろ手で扉を開きそのまま校長室に引き返した。

 

「老害連中始末したのが始まりとはいえ、そのままにしておいたらロクでもない事になるのは確実だったし、けど組織のたまった膿をだそうとしたらタガが外れた連中の派閥抗争が激化して組織の弱体化に歯止めがきかなくなるしどうしたらよかったのよ……」

 

まだぶつぶつ呟くアサギの横を素通りして、もときは窓から抜け出した。

妖糸を使いそのまま地面に無事に着地して、校長室を見上げた。

 

「対魔忍はこんな変態お笑い集団だっけ?」

 

おっかしーなー、と首を傾げるもとき。

もときの玲瓏たる美貌はその記憶を朧にして、見たものに美しいという印象のみ残して忘却の淵に叩き込むのである。

それに耐えて交流を深めようとする人間は、何よりも自我が強い。言いかえると揺るがない個性を持つ連中が集まっているのだ。

これもまた一種の人徳であろう。類は友を呼ぶものである。

 

「しかし虫が多いなここ、人も虫もいない場所どこかなー」

「あ、あの、秋くん」

「はい?」

 

こちらに寄ってくる羽虫を糸で駆除しながら、もときはそそくさ校舎から離れるため歩き出そうとして声をかけられた。

振り向いたら肩口まで髪を伸ばして前髪の長い華奢な少女がいた。

いわゆる目隠れ属性である。

 

「どちら様?」

「……っ! 以前貴方に助けられた田崎です、田崎麻美」

 

そういえば以前見たような気がする、といっても正直何人も女生徒を助けているので正直覚えていないが。

少女は忘れられたことに少し腹がたった様子だったが、睨もうとしてもときの顔を見て数秒間ほど我を忘れたことに気づき慌てて顔を振って正気に返った。

 

「うっとりしたり、憎んだり――貴方と一緒にいる女の人は気が休まらないですね……」

「はぁ」

「ごめんなさい、以前助けてくれたお礼を言おうとしたのに。 なんだかあたってしまって」

「いーえ」

 

自分に関わると女性が情緒不安定になるのは正直よくあることである。

 

「それだけですか用事」

「はい、そうですけど……」

「それじゃ急いでいるんで」

 

そういって足早に校舎から去ろうとするもときを見ながら、少女の口から独り言がぼそりと漏れた。

 

「―――やっぱり興味ないんですね、私も、他の人も」

 

3、

授業終了のチャイムが学園に響きわたる。

 

「おっ、昼だな。 では本日はこれまで!」

 

「「ありがとうございました」」

 

秋山凜子は剣術の授業が終わり用具を片付けていたが、次々と同級生が集まり人の輪が形成されていた。

 

「凜子さん、すごーい!」

「転校してきたばかりでもう学年一よ!」

「ありがとう、いやでも私はまだまだだ」

 

逸刀流の跡継ぎでもある秋山凜子は授業で見事勝ち抜き選抜試合の代表に選ばれたが、浮かない表情をしている。

凜子は以前、『彼』が斬った物の断面を逸刀流の師匠に見せて聞いたことを思い出した。

 

「真の名人ならば、血の一滴も流さずに骨まで断つことは可能だ。その技にかかれば斬られたことに気付かず数時間、あるいは数日の間を以て寸断されるともいう。

長きに到っては数年後まで普通に生活して突然四肢がばらばらになった人物もいるとなれば。

『これ』を成した者の技倆はいずれにしろ名人鬼神の域に達しておる」

 

秋山凛子は『彼』に返さなければならない大きな借りがある。

それを返すためには、少なくともあの技を再現できるくらいに強くならなければ――

そう考えると学年一という成果程度ではとても満足が行かないのだ。

 

「あのー?」

「――ああ、すまない突然黙り込んでしまってちょっと考え事を……」

「お久しぶりです先輩」

「ふぁッ!?」

 

先程まで思いを巡らせた相手が目の前にいた。

その顔を間近で見た瞬間から頬に熱がこもり、胸の高鳴りが激しくなり苦しくなってくる。

頭が真っ白になって何も考えられなくなり、口から漏れる言葉は意味をなさなくなってしまった。

 

「なななななななななな!?」

「なんでここにいるか、ですか? 達郎に依頼されて先輩を探しに来ました」

 

日が暮れたので、車での長距離移動をして疲れていたもときは学園に泊まることにした。

下手に学園をうろついて先程のような集団に出くわすと面倒くさいので、友人の秋山達郎の部屋で少し時間をつぶそうとしたもときであったが、彼の姉である凜子が行方不明という話を聞いて、もときはその話を仕事として引き受けた。

凛子が最後に目撃されたという体育館に探索用の妖糸を放つと違和感を感じた。

もときの操るnm(ナノメートル)の妖糸は空間の歪みを感知し、糸を使い空間を引き裂き出来た次元の穴にもときは命綱として妖糸を自分と壁に括りつけてから足を踏み入れた。

 

そうしてこの世界の体育館に出たのだ。

何時もどおりにもときの美貌で恍惚となっている生徒たちに、最近変わったことがないか聞くと、

トランス状態に近い精神状況に陥っている生徒達がぺらぺらと喋ってくれた。

 

「不良の井河さんが行方不明になった」

「秋山という美人の対魔忍が転校してきた」

 

興味を引いた噂話はその二つ。 

恐らく噂の秋山という対魔忍が自分の知っている秋山凜子だと思い、現在武道場で授業中と聞いたもときは足を運んだというわけである。

 

「はぁ…、ふぅ……、よし…落ち着いた」

「それでどうしてこんな場所にいるんです?」

 

呼吸を整えて、落ち着きを取り戻し凜子が周囲を見渡すと、武道場に残る同級生がみな顔を赤らめてぽけーっと惚けている。

術の類や道具を使わずにこんなことをできるのは、東京キングダムの白い医師と目の前の黒尽くめの男ぐらいだ。

間違いなく自分の知る後輩だろう。

 

「ああ……、数日前、ひとりで鍛錬をしていた所、急な目眩に襲われてな、いつの間にかこの世界に来ていた」

 

なんでも最初は気づかずに鍛錬を終えた後にアサギ校長に用があったので校長室へ行った所、

校長は別の人物だったらしい。

これはおかしいと凜子は教室に戻るも、そこに自分の席はなく、見知ったクラスメイトもいない。

危うく騒ぎになりかけたが、偶然この世界の凜子に出会ったそうだ。

 

「ロ凜子……だと……」

「ん? どうした、何か気になる点でもあったか?」

「いえ、続きをどうぞ」

「彼女の協力で『秋山家の遠い親戚だが対魔忍の力に急に目覚めて学園に来た』ということになってな。それで今まで学生としてここで過ごしていた」

「ふーむ。どう過ごしていたかはわかりましたけど、原因は不明ですか」

「まあそこは帰ってから原因を探ればいいさ」

「――帰る?」

「あちらの世界からこちらの世界にいる私を探しにこれたのだから、当然帰還方法があるのだろう?」

 

これで達郎(愛しい弟)ゆきかぜ(可愛い後輩)に久々に会える、とニコニコしている凜子にもときはそっぽを向きながら答えた。

 

「ソーデスネ」

「…………まさか、お前、来たのはいいが、――帰る手段がないとかいわないよな?」

 

もときは口端を上げて微笑んだ。

困った時の秋もときの奥義である、通用しないのは某白い医師のみという必勝の戦法であった。

多用しすぎるといらぬ誤解とトラブルを招くので、何度も使えない諸刃の刃である。

「あ、う、卑怯な…」と茫然とせずに顔を真赤にして少し反応できている凜子の精神力に軽く感心しながら、もときはこの世界に凜子が迷い込んだ原因を探しにこの場を離れた。

 

 

4、

「さて、どうしたものか」

 

ごまかすために凜子から離れたが、特に当てがあるわけでもなかった。

空間の穴を広げて来たのはいいがすぐに閉じてしまったので、糸は元の世界に繋がっていて場所はわかるが時空を操る能力があるわけでもないので正直お手上げである。

空遁という空間を操る忍法を使う凜子も自力で世界を超える力はないので、やはり原因を探すのが一番手っ取り早いだろう。

 

「そういえば不良の井河さんが行方不明という噂があったな」

 

どうやら小さい自分にあったという凜子の話を聞いた所によるとここは過去の世界らしい。

 

「……行方不明になった井河ってのは、もしかしてうちの居候のさくらのことかな?」

 

まさかねー、とは思うが、自身の直感が『それ』だと囁いていた。

本当にそうだとしたら、さくらは元の世界に帰れる機会をのがしたということになる。

今頃、家で買った携帯ゲームで遊んでいるだろう本人には黙っとくかともときは思った。

 

「となると、原因はあのタコだかイカっぽい生物かな」

「みつけたぞ、話はまだ終わっていない!」

 

顔を怒りか照れかはわからないが真っ赤にした凜子が追いついてきた。

そしてその直後、突然辺りの風景をかき消すような巨大な渦が出現して二人は身構えた。

 

「なッ、これは訓練してた時と同じ!?」

「へぇ」

 

興味深そうに周囲を見渡すとまるで、暗黒と星がきらめく宇宙空間の様な光景に変わり。

そして熱気感じる溶岩地帯らしき場所に出た。

 

「暑いな……まさか、幻術なのか!?」

「いえ、本物のようですよ」

 

周囲の熱気と探査用の妖糸が幻ではないと告げている。

その認識さえ幻術だという可能性もある。

だとしたらその術者は瞬時に二人同時に術をかける凄腕だ、そこまでの相手は正直おてあげなので考えてもしょうがない。

 

「いかにも魔界って感じの雰囲気ですね」

「瘴気を感じるぞ……」

「おい、お前らどこから来た!」

「突然現れるとは一体何者だ!」

 

突然オークの群れが現れる、しかも東京キングなどで見かけるのとはまた別物だ。

確か羅刹オークと言われる魔界にいるオークの中でも頂点に立つ戦士の氏族で、並のオークとは段違いの戦闘力と残忍さ、凶暴さを持つという話である。

 

「女と、……なんだこれは…。たまげたなあ魔界でも見たことがないほどの美形だぞ!」

 

何やらざわついているが、美人でスタイルのいい凜子先輩でなく自分の方に熱い視線が注がれている気がする。

まったくもって嬉しくない。

羅刹オークをかき分けて、ひときわ目立つ鉄仮面のオークが現れた群れのリーダーだろうか?

 

「ボス! 人間がいます!」

「女と信じられないほどの美形の男がいます、へへ……どうします?」

「ふーむ、よぉし、この女はおまえたちにくれてやる。 好きにしろッ! この男は俺がもらう!」

「さっすが~、ボスは話がわかるッ!」

「けど目が眩みそうなイケメンとはいえ男でいいんすかあ?」

「まだまだだな。ソドミーはいいぞぉ、半永久的な絶頂が得られる」

 

 

ボスの言葉で爆発的に士気をあげて盛り上がるオーク達。

さりげなくボスに狙われてるけど絶対強敵としてでなく♂的な意味である。

性に関して雑食すぎるぞオークは。

 

「見かけだけで性格は対して他のオークと変わらないなー」

「羅刹オークの実力はどれほどのものか、腕が鳴るな!」

 

横を見ると何故かやる気満々な凜子の姿があった、目がギラついて正直オークよりこちらのほうが凄みがあって正直怖い。

 

「乗り気ですね、……やりますか」

「やろう」

 

そういうことになった。

これから先は特に語るまでもない、羅刹オーク達は糸と刀によってバラバラになった。

羅刹オークといっても所詮オークなので悪鬼羅刹と呼ばれることのある超美形人探しと『斬鬼の対魔忍』の敵ではなかった。

そして再び風景が変わる。

 

「学園に戻った? ……あっ、タコ怪人だ」

「敵か、いつ斬る? 私が両断しよう」

「対魔院、……じゃない対魔忍的思考ですね」

 

先程のもときが振るった妖糸による切断面を見てからなにやら凜子が張り切っていた。

気合が入りまくっていたところで数だよりの力押しの羅刹オークに肩透かしもいいところなので消化不良のようだ。

愛刀である石切兼光からチャキと鯉口を切る音が響く。

 

「MATTE☆ 話せば分かる、これだから下等生物は野蛮で困る……」

「口が悪いなぁ……ちょっと教育的指導するかな」

 

腕を振り回すもときと、ギラついた目で殺意を向けてくる凜子にブレインフレイヤーが慌てた。

 

「生意気言ってすいません! 自分アルサールといいます! どうか話を聞いていただけないでしょうか!」

「へいへい、オクトパスビビってるぅー。 で、なんでここにいるの?」

「煽るな! ……ごほん、我がブレインフレーヤーは究極の技術で快適かつ自由に次元移動ができるのです」

「次元移動」

「次元、お前たちが言う世界は五次元宇宙に浮かぶ水滴のようなもの。

我々は五次元宇宙を伝って水滴、すなわち世界を移動している。

危機的な環境変化に見舞われ、そこで高度な知的種族である我らにふさわしい移住先である次元を調査して、現地の有害生物の駆除をしているのです」

「勝手に人様の世界に来て住むのに邪魔だから殺す、それは侵略行為ではないのか? やはり斬るか」

 

そういって再び鯉口を切る凜子をぼけっーと見るもとき、元の世界に戻れるなら別に死んでもいいやと思っているのだ。

 

「だからYAMETE! 主流派はそうだが環境保全運動家もいます!

移住先の野生環境を保全する運動を行っていて私もその一人です。

無論、自分たちの邪魔にならぬ程度ですが、この世界の端っこに、君たちの自然保護区を設置してあげましょう。

君たち害獣にも生きる価値がどこかにあるはずですから。下等であることを卑下してはいけませんよ!」

「先輩GO」

「うむ、所詮タコもどきの辞世の句ならその程度だろうな」

「ひりゅー!? 暴力反対!」

 

上段に刀を構え、凜子はアルサールを一刀両断する態勢を整えた。

ひゅっーーーーと、何かが降りてくる音と共に見たことのない生物達が謎の言語で叫んで襲ってきた。

 

「■■■■■ーーー!!」

「Gaaaaaaaaa!!」

「なんだこいつら」

「次空間を渡る際に空間に相当の負荷がかかるので、まったく別の下等生物を連れてきてしまったりしますので恐らくどこかの世界の下等生物でしょう、まあ我々高度な種族が活動するためには些細な犠牲です! アハハ!」

「凜子先輩、あの世界に連れてった犯人はやっぱこいつですよ」

「逸刀流奥義……」

「あっ、ほらほら来ましたよ! そちらを片付けなきゃ」

「くっ、仕方ない」

「がんばれ♪ がんばれ♪」

「お前も戦え! なんであれだけの実力があるのにいちいち不まじめなんだお前は!」

 

一気呵成に空遁と忍の剣術である逸刀流の技を組み合わせて敵をばったばったと斬り倒す凜子を応援するもとき。

それが気に入らないのか怒りながら更に勢いをまして敵を瞬く間に倒していく姿はさすが次世代のエースと名高い『斬鬼の対魔忍』である。

 

「虫けら共よブラボー! おお…ブラボー!! 見事な戦闘力であったぞ!」

「あ、どこに隠れてたんだ?」

「環境保全に勤しむ私は戦闘はからっきしなのですよ」

「騙されては駄目よ秋くん」

 

静止する声を聞こえ、そちらの方を向いたら対魔忍スーツに身を包んだ少女がそこにはいた。

校長室から出た後に会った少女だ。

 

「誰だ?」

「えー、んー、……そうそう田崎さんだっけ」

「知り合いか?」

「前に仕事で助けたことがあったとか?」

「なんで疑問系なんだ……」

「さぁ? えーと、騙すとはどういうこと? こいつが胡散臭いのは確かだけど」

「私の虫が聞いたのよ、そいつはテクノロジーをくれるって唆したあとで、味方のように振る舞って油断したら奴隷にしてやるといっていたわ」

 

どうやら彼女は蟲使いらしい、蟲を使ってアルサールの独り言を聞いていたようだ。

 

「まあ、よくある詐欺の手法だね」

 

親切に振舞って相手を信用させてから、隙をついて罠に嵌めるというのは古来より使われている詐術の常套手段だ。 

 

「………………ふん、所詮は下等生物、黙って私の環境保全に従えば奴隷として飼ってやったものを、物分りの良い奴隷がいれば便利だと思ったのですがね……代わりはいくらでも探せるでしょう! 

@%&$■?●**、――あれ?」

 

なにやら呪文を唱えだしたので、もときは妖糸を使ってアルサールの首を跳ね飛ばしさらに念の為に空中に飛んだ頭を十字に裂いた。

 

「今更だが帰る方法を聞き出さずに倒して大丈夫だったのか?」

 

『対魔忍たるもの純然たる悪は倒して当然』なので問題ないが、とった行動の順番は正しかったのかと聞いているのである。

恐らく自分一人だとそんなことを気にせず斬ったであろうが、先輩として格好つけたいんだろうなぁともときは推測した。

間違ってもそんなことを考えてるとおくびにも出さないが。

 

「僕を知っている人がいる五車学園ということは、元の世界に戻ったということでしょ多分」

 

指先から伝わる糸の感触が自分の体に結んだ糸が体育館に繋がっている感触があることから間違いないだろう。

 

「えー、田崎さん。 なんだか変な渦に巻き込れたりした?」

「いえ、先程の魔族の術かなにかですか?」

「違うならいいです。 じゃあ先輩、達郎の所まで行きましょうか、それで依頼完了です」

 

凜子と同じように異世界に連れて行かれたのではないと確認したもときは、それで話は終わりだとすたすたと校舎に向かって歩きだした。

あわてて二人はそれについていった。

 

もときはその背中を危険な色を宿した眼が見つめていたのを気づいただろうか?

ガサガサと去っていく三人の背後に小さく音が響いた。

 

5、

その夜、学園の者たちが皆寝静まった時間に一人校舎におぼつかない足取りで移動する人物がいた。

『斬鬼の対魔忍』秋山凜子だ。

弟と後輩に行方不明になった事情を説明して、翌日学園に報告をするために早く床についたはずの凜子は今、虚ろな目で校舎へと導かれていた(、、、、、)

その先には肩口まで伸ばした髪に長い前髪でその目を隠している凜子を操った張本人である田崎麻美がいた。

麻美が忍法で操る蟲はすでに凜子の脳を支配して彼女の意のままに動く人形と化していた。

 

「――――これで四人目……貴女達が悪いわけではないんです。けど感情が抑えられない(、、、、、、、、、)

ごめんなさい、だから死んでください」

 

そういって麻美が忍法で呼び出した巨大な蜘蛛は凜子の体を骨さえ残らずに貪り尽くそうと近づいていった。

 

「悪いけど、そうはいかない」

「!?」

 

蜘蛛達が十字に切り裂かれた。

そこに現れたのは闇夜に溶け込まず逆に存在を強烈に彩る眉目秀麗なる少年、秋もときである。

 

「秋くん!? 何故ここに、そんな、どうしてここに、彼女が特別だから来たとでも言うの!?」

「実は校長から依頼があってね、生徒が三人程学園から行方不明になってると聞いていたので調べたら全員僕が助けだした人物だったとわかった。

それで次のターゲット候補として二人をマークしていたけど、まさか片方が犯人だったとはね」

 

もときは単に救出の報告だけのために五車学園に来たのではなく、正式な依頼があるから学園に直接来たのであった。

凜子を探す依頼を受けたのも縁深い人を助けたいという情からでなく、知り合いがターゲットになれば学園の行方不明者を作り出した犯人への囮役にちょうどいいだろうという合理的判断で引き受けたのである。

 

「――そう、そうよね、たとえ知り合いだろうと仕事でもなければ自分から関わろうとはしない。 

貴方はそういう人だもの」

「行方不明者三人はさっきみたいに蟲に襲わせて殺した?」

「そうよ、蟲たちの餌にちょうどよくて死体も残らず痕跡を消せて一石二鳥だったわ」

「それでどうしてこんなことを?」

「どうして? ……貴方に貴方と会ってしまったから。 

一度貴方に会った途端にみんな女は狂ってしまう、助けられたらもう忘れることなんて不可能よ。

けど貴方はそんなことを省みない、ただ依頼のままに助けて出会った女の心を奪い何事もなく日々を過ごす、私は……、そんな貴方にとっての有象無象の一人になりたくないの」

「他の人間を殺したところで特別にはなれないと思うけど」

「殺したのはついでで目的ではないわ、『薬』を貰って自分が抑えきれなくなってしまったの」

「『薬』?」

 

明らかに異常な様子の少女はどうやら『薬』とやらでこうなったらしい。

長い前髪から除く眼光は明らかに人のものでなく、さきほどから漂う尋常じゃない妖気は彼女が人でないものに変わってしまった証左だ。

対魔忍の力は魔族の異能を根源としているため時に血に目覚め魔族へと堕ちるものもいる。

今の彼女は一線を越えて完全に『魔族化』していた。

 

「ずっと前から貴方に使おうと思っていたの、誰であろうと興味を持てない貴方を私だけのものにする力を!」

 

空中の空間が歪み、彼女が召喚した蟲は空中で数千匹に分散し一匹でも目標に接触すれば体中にある毛穴のどこからでも体内に侵入して対象の脳を支配して思いのままになるのであった。

ピンク色の雨がもときに降り注ぐ。

銀色の閃光が走った。

空中の虫が一匹残らず両断され悶え狂って死んだ。

その直後、魔族になった少女が頭から断たれた。

 

「そ…そん……な…あ、あき……、せめて……さい…ごに……だき…しめて…」

 

魔族になったため即死はしないが致命傷だ、ほとんど目が見えなくなったであろう彼女のぼやけた視界にガサガサした音が耳に響いたあとでゆっくりと影が近づき、そのままそっと抱きしめた。

 

「いっ…し…よ……に…」

 

そうつぶやいて彼女の体が紅色の舌を伸ばした炎に飲み込まれた、自決用の爆薬か何かを使ったのだろう。

 

「――そんなことだろうと思ったよ」

 

爆発に巻き込まれない場所に凜子を抱えて移動していたもときは憮然とつぶやいた。

秋もときの秘術、『死人使い』

もときは死体ですら全身に張り巡らせた妖糸を一種の神経繊維と化して肉体を刺激して生前以上の筋力を持つ傀儡として自在に操れる。

卓越した第六感が必要だと囁いたので見つからぬようにこっそり糸を使って草陰に隠していた、ブレインフレイヤーの死体を彼女に抱きつかせたのだ。

 

「悪いけど付き合いきれない、代わりにそいつと仲良くしてやって」

 

ふと、自分が関わらなかったら彼女も普通に暮らせたのだろうかともときは思案した。

その場合は助けが間に合わずに敵対組織にそのまま洗脳されただろう。

はたして自分の意志を失って道具として長生きするのと、自分の意志で行動して早死するのではどちらが幸福かと考え、どっちもどっちだなと結論を出して凜子を抱えて校舎に向かって歩き出す、その背中は現世からの執着を拒んでいるかのようだった。

 

後日、五車学園である教師を調査した所、対魔忍を魔族へ変化させるために生徒を実験体にしたと思われる様々な実験データが部屋から出てきた。

その件を問い詰めた所、その教師は所有していた『薬』を自らに投与して魔族へと豹変し学内で生徒が数名重傷を負うなどの被害が出てアサギ校長をはじめとする複数の対魔忍が対処する事態になった。

 

対象の魔族は対魔忍達の総攻撃が始まる寸前に胴と首が分かれる末路に至った。

足元に転がった生首の切断面を見た凜子が下手人についてアサギ校長に尋ねたが口を閉ざしたため、何故この事件に部外者である東京キングダムの人探しが関わったのか凜子は結局わからなかった。




凜子先輩をヒロインにするつもりがこうなったけど、凜子先輩いなくてもこの話は別に問題ないんじゃないかなーというのは内緒。
余談ですが臥者で凜子引かなければもときが東京キングダムの闇カジノで負けて素寒貧になりそうになって仕方なく女性ディーラーの席に移動して不思議と勝ちまくったりして客に勝ち分おごって小銭を持って帰る話にする話になる予定でした、原型全く無いですね。


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淫獄都市ブルース<深者の章>(長編)

???「生前の僕はエロゲの主人公に憧れてた」
神「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」
???「うん、残念ながらね。エロゲキャラは二次元限定で、大人になるとなりたいと人に語ることすら難しくなるんだ。そんな事、もっと早くに気が付けば良かった」
神「そっか。それじゃしょうがないな」
???「そうだね。本当に、しょうがない」
神「うん、しょうがないから俺がお前をエロゲ世界のキャラにしてやるよ。
まかせろって、お前の夢は――俺が、ちゃんと形にしてやるから」
???「ああ………安心した」


もとき「――って答えたら、目が醒めたんだ…とても懐かしい夢だったよ。
行くならイチャラブ系作品の世界が良かったなぁ」
さくら「最近忙しいから疲れてるんだよ秋くん、メフィスト病院行く?」

※このやりとりは本編に関係ありません


海沿いにある西欧風の館。

鉄柵に吹き抜ける海風は、大理石の彫像が引き絞った弓の弦を鳴らし。

噴水の清水に太陽と月の断片をきらめかす。

普段はアポイントメントを取らない客を対応することなどないと思われる厳正さを形にした平べったい潰れた鼻の執事が不意の来訪に応じたのはその訪問者の美貌を見てしまったからかも知れない。

月輪のような輝かしさと妖しさを兼ね備えた美少年秋もときである。

『アミダハラ』周辺の廃棄都市にあるとは思えない非常識な程に豪勢な屋敷に何故訪れたのか?

 

「秋DSM(デイスカバーマン)事務所所長、秋もとき」

「ええ、行方不明の所員を探しにきまして」

 

そういい、写真を見せる。

そこには笑顔でダブルピース*1をしている井河さくらの姿が写っていた。

写真をみている執事から視線を外しふと空を眺めると雲に覆われ薄暗く今にも泣き出しそうな空模様だった。

 

1、

「秋くんの私に対する扱いが悪いので待遇の改善を要求する!」

「はぁ」

仕事を終えたもとき、さくらの両名が帰路に着く途中でさくらがそんなことを言い出した。

 

「とりあえずまだ早いけど食事にしてから聞いていい?」

 

何故か頬を膨らませて怒るさくらはもときのその言葉に空を仰いでからお腹具合を確かめ、日が完全に昇る一時間ほど前に早めの昼食を食べることに了承した。

昼前だというのに混雑している店内に運良く退席した客と交代する形で席についた。

客層の中にオークなどの魔族が混じっているのは東京キングダムではよくみる光景である。

 

「凄く流行ってるね、よっぽど美味しいのかな?」

 

外でもときと一緒にいる時に顔を見られて後で嫉妬からの凶行を防ぐため(もときの美貌を見た直後は我を忘れてるので大丈夫)

休日の芸能人のような帽子にサングラスという出で立ちで店内をキョロキョロ見回すさくらの視界に壁に飾ってある色紙が入る。

 

「……? 何て書いてあるんだろアレ」

「んー?」

 

英語とはまた違った言語で書かれた色紙をみて首を傾げるさくらに、メニューをみて何食べようか葛藤しているもときが顔をあげる。

 

「――あぁ、あれはラテン語だね」

「へー、なんて書いてあるの?」

「Dr.メフィスト」

「え?」

「あいつが贔屓してる店だからここ」

そういって再びメニューに顔を戻すもとき。

さくらは脳裏に白い麗人の姿が思い浮かぼうとしたが首を振って中断する。

眼の前の黒衣の美貌を見ながら、それ以上の美貌の持ち主のことを思い浮かべようとしたら脳の情報量を超えて処理できずにフリーズしてしまう。

 

「え、嘘、ドクターメフィストがよく来るの? この店に?」

 

あまりにも大衆食堂にそぐわない印象の人物が話題に飛び出たため思わず聞き返す。

 

「あいつ、タンメンが好物だから」

「はー」

 

フランス料理のフルコースをワインと共に楽しむようなイメージだったが思いの外庶民的な好みだと、意外な一面に感嘆の声が上がる。

セットにしたほうが得だけど食べきれないしなー、とメニューを睨んでいるもときにさくらが尋ねた。

 

「随分悩んでるけどドクターお気に入りのタンメンじゃだめなの?」

 

もときがその問いに答えようとするとガラスが割れる音が響き、店内に何かが床に落ちる。

飛び込んできた円形の物体を何か認識した瞬間にもときの指がチタン鋼の糸を操るために動く。

『それ』は爆発して破片をバラ撒くのでなく爆発すると高温・高圧のガスへと変化して膨れ上がり、それにさらされた人間は目や耳といった敏感な器官を破壊し表皮や肺に裂傷させるタイプのいわゆる攻撃型手榴弾といわれるものであった。

 

職業柄、銃器や爆弾などの知識の収集に余念がないもときはその物体を見た瞬間に脳内に記憶してある構造と指先から伝わる妖糸の探知により飛び込んできたものの内部にある雷管の場所がわかった直後に妖糸を使い爆発する前に無効化した。

 

「あっ、もう大丈夫ですよ」

 

飛び込んできた手榴弾にパニックにならないのはさすが東京キングダムの住人である。

もっとも、黙ってしまったのは手榴弾を拾い上げた人物の美貌をみてしまったからかもしれないが。

もときはそのまま不発状態になった手榴弾を闇市に後で売るために懐に入れた。

 

攻撃型手榴弾は金属片を広範囲にばら撒く破片手榴弾よりも危害半径が小さいため、相手を選ばない無差別テロではなくこの店にいる誰かを狙ったものであろう。

自分を狙ったのかそれとも別の誰かを狙ったかを聞き出すためにもときは、糸を店外へと伸ばし。

急いでその場から立ち去っていくものを探し当て糸を巻き追いかけるために店を出ようとした。

 

「――え、あっ、ちょっとちょっと!」

「注文はチャーシューメンでお願い、……それとね」

 

いきなりの出来事に眼を白黒するさくらに対してもときは店から出ていく前に耳元に近寄りこう囁いた。

 

「タンメンはこの店で一番まずいからやめたほうがいい」

 

注文した料理がのびる前に戻ったもときはなにやら不機嫌そうなさくらを尻目に料理を平らげて、満足そうな顔をしながら店に入る前の言葉の真意を問いただした。

 

「えーと、待遇の改善がどうだって話だっけ?」

 

そういうとさくらはキッとこちらを睨みつけてきた。

 

「私ってそんなに頼りにならないかな!?」

「……は?」

 

あっけに取られるもときにさくらは言葉を捲し立てた。

 

「さっきだってこっちを置いてけぼりにして先に行っちゃうし、こないだも私のいない時に事件に巻き込まれたって言うし、護衛として雇われてるのに肝心な時に私を頼ってくれないじゃん!」

 

どうやらもときがさくらに対する評価が低いため頼りにされてないと思っているらしい。

 

「何かあったときの備えの切り札として雇っているから普段バリバリに表立って働かれると困るのだけど」

 

その人知を超えた美貌で相手を恍惚とさせて自白剤などの薬物を使用するよりも効果的に情報を引き出せ、探知用の妖糸で下手な科学捜査班のチームを凌駕する精度と速度の捜査・情報収集能力を持ち、戦闘能力も忍術無しで下手な対魔忍を寄せ付けない正に魔人と呼ぶべき強さを持つのが秋もときである。

 

しかし相性が悪い敵相手に不覚を取ってそのまま死ぬ可能性があるのが血と欲望と裏切りに満ちた裏稼業の世界である。

その万が一の備えとして一級の体術と影を使用した戦闘、隠密、などの汎用性が高い忍術を備えたさくらを影に潜ませているのだが……。

 

「最近留守番だけでほとんど何もしない状態ってどうかと思うの、こう、なんていうか腕に覚えのある対魔忍的に!」

「そう? むしろ代わってほしいくらいだけど」

「楽して生活したいなら秋くんはヒモにでもなって養われればいいんじゃない?」

「寄生相手のご機嫌取りするよりも、人探しの仕事であちこち動いてたほうが楽なんで……」

 

出歩くだけで大抵の女性に惚れられる容姿なので、独占しようと外に出さずに監禁されることになるだろうし正直勘弁していただきたい。

 

「それで待遇改善って具体的にどうしろと? 仕事量にあわせて給料下げればいいのかな」

「ええー!? いや、それは、ちょっと……」

 

楽して給料をもらうのが気まずいという建前の裏にある、好意を持っている相手に格好いいところを見せたいというさくらの乙女心などもときに理解できるはずもない。

その手の感情の機微は数え切れないほどの好意を感受しすぎてオーバーフロー状態なのである。

仕事に支障がないように経費の支出は出し惜しみはしないが、秋もときはスキあれば経費削減を狙うどちらかというとケチな経営者であった。

プライドは大事だが、お金は生活を潤すためにもっと大事である。

年頃の少女として色々と使用する予定がある給料を守るためさくらは慌てて減給を阻止しようとした。

 

「えーと、うーんと、そうだ! 私にも単独で仕事をさせてよ、それがいいよ、うん、だから給料は据え置きで!」

「はぁ、僕に秘密のボディガードがいるとばれないような仕事を選ばないといけないから……、めんどくさいなやっぱ給料下げれば良くない?」

「よくない!」

 

そんなこんなで適度に有能っぷりをみせつつ気持ちよく給料を貰いたいというさくらの要望により東京キングダム外での人探し仕事を複数任せることになった。

これが井河さくらから連絡が途絶える前にした最後の直接的なやりとりである。

 

2、

「また女絡みの厄介事か、いい加減恥というものを知ったらどうかね?」

「うるさいよ」

 

月に二度のメフィスト病院での定期検診を院長自らの手で行われたもときは、メフィストの嫌味をさらっと流して病院から出た。

 

「料金ぼったくって……、たんまり儲けてるくせに」

 

ぶつぶつと自分以外が口にだしたらどうなるかわからないことをいいながら行方不明になったさくらの捜索に出ることにした。

 

「土地勘のない場所で情報屋のコネもない状態で受ける仕事じゃないな、ちゃんと仕事の選び方を教えるべきだったかな?」

 

DSM(デイスカバーマン)事務所(人探し専門)は東京キングダムでの人探しを基本としているが、腕を見込んでかはたまたその容姿を一目見ようとしてかはわからないが稀に東京キングダム以外の二つの場所での人探しを頼まれることがある。

 

一つは東京の地下300m地点に存在する『ヨミハラ』。

魔界の門に最も近いため、もときのモデルの人物やドクターメフィストに縁深い<魔界都市>という名前のついた場所である。

対魔忍世界のラスボスことエドウィン・ブラック率いるノマド傘下の魔界の住人を中心にしたマフィア組織がヨミハラ一帯を支配しており、麻薬・魔薬の取引、売春、殺人、人身売買といったありとあらゆる非合法がまかり通る犯罪の温床となっている東京キングダム以上に危険な場所である。

 

ちなみにメフィスト病院の分院があり、こちらもドクターメフィストが院長を務めている。

どちらの院長がダミーでどちらが本人かという議論が一部で行われているがもときには興味がない話である。

 

 

もう一つは『アミダハラ』。

近畿地方に存在する東京キングダムと同じ人工島都市。

日本第三の都市として栄えていたが、米連と中華連合の代理戦争となった“半島紛争”の煽りを食らって弾頭ミサイル攻撃により廃墟化。

その後、地下深くに存在する魔界の門を通じて魔族が流入するに従い無法者たちの巣窟となり、10年余りで<廃棄都市>と呼ばれる日本最大級のスラムに成長した場所である。

 

ただし東京キングダムやヨミハラなどの無法地帯とは違い、「魔術師組合」を中心としたアミダハラ独自の秩序が築かれており、中心地のシンサイをはじめ、キタ、キョウバシといった普通の街並みとさほど変わらない町地区と、危険な廃墟地区が併存している場所である。

 

この二つの場所での人探しの依頼は基本断るか他に仕事がないときまで後回しにしているのだが、今回さくらの要望により任せたところいくつか依頼は片付けたという連絡を最後に音沙汰がなくなった。

 

「うーん、対魔忍フラグが立つと思ったけど本当に立ってしまうとは」

 

嫌な予想が的中してしまったがほっておくわけにも行かずこうして遠方まで探しにきたというわけである。

距離がありすぎるためか、それとも他の理由があるのかさくらに巻き付けた糸がどうにも反応しないので探すために直接行方不明になった現地へ足を運ぶ必要があった。

 

移動の際に不幸な事故がないように(もっとも0にはならなかったが)。

乗り物に乗ってるときはアイマスクとマスクで顔を隠してぐっすり移動中に寝たため、すっかり固くなってしまった筋肉をビキビキと解しながらさくら探索をするため公共の乗り物で乗れるところまで乗ってあとは徒歩で移動して件の沿岸の廃墟都市に到着した。

 

「東京キングダムもそうだけど、こっちも日本の風景とは思えないね」

 

さくらが行方不明になったと思われる、『アミダハラ』近隣の都市廃墟周辺に到着したもときはその異様な風景を見て思わず言葉をこぼした。

ビルや建物が崩壊してアスファルトに亀裂が走り、窓ガラスの割れた建物たちのいくつかが無事な建物があるというさながらSFにでてくる崩壊した世界のような光景が広がっていた。

 

下級魔族やホームレスたちが廃墟に住み着くと聞いたが人の気配らしきものがまったくせず、糸で探ってもそれらしき気配は少なくとも数km範囲にはいない様子だ。

単に昼間は外で出稼ぎしているだけなのか、それとも人が住み着かない特別な理由があるのか……。

 

ここにくればすぐさくらに繋がる糸から居場所が分かると思ったが、糸の反応が妙だ。

掃除機のコードみたいに弛んだ糸を巻いて引っ張ってみると本体が近寄らず奥から新しい糸が伸びて遠ざかっているような手ごたえがする、初めての現象だ。

 

「いやーな予感、……いつものことか」

 

人がいないなら好都合と、廃墟周辺を探索するための拠点を確保することにした。

 

4、

無事な建物を探して入った所、先客がいたのかいくつかの荷物とゴミが部屋の中に散らばっていた。

捨ててあったゴミを見てみると軍用レーションの入っていた袋とプラスチック製のナイフとスプーンだ。

プラスチックの汚れぐらいからすると少なくとも昨日今日出たゴミではないようである。

 

「米連絡みか、人がいないのはそこらへん?」

 

うーん、と頭を捻ってみても情報が不足しているためなんともいえない。

荷物を漁ってみるとさすがに銃弾や爆弾のような武器の類はなくレーションの残りと、毛布などの野営グッズがあるのみだ。

 

「買い出しに行く手間が省けたな、ラッキー」

 

見た所賞味期限も問題ない、近頃のレーションは味も良くなっているらしいので楽しみだ。

今日の夕食はお湯を注ぐと作れるバナナ味の蒸しパンと紐を引くと蒸気で温まる容器に入ったビーフシチュー、ミートボール、ポテトグラタンに飲み物は水で溶かして飲む粉のグレープフルーツジュースに決定した。

 

「それじゃあ、あからさまに怪しいあの洋館に行ってみますか」

 

拠点に手荷物を置いて都市から離れた場所にある洋館に向かって足を進めた。

 

「いえ、見覚えがありませんね」

 

空を見上げていたもときに声がかかる。

 

「そうですか」

 

そのまま渡していた写真を懐に入れる。

 

「そもそも、このような不便な場所にわざわざ人が来たりしませんよ」

「失礼ですが、そんな場所にわざわざ住んでいるんですか? 貴方のような使用人を雇ってまで」

「旦那様は人間嫌いなもので、このような場所ではなくては落ち着かないそうです」

「なるほど」

 

嘘だなと、もときは判断した。

言葉と表情はいっさい気取られないように平静を装っているが、執事に気付かれないようにまとわりつかせた糸から伝わる筋肉の反応は偽りを示していた。

どうやらここにさくらが来たのは間違いがないようだ、館を探索する必要がある。

 

「それでは失礼しました」

 

そういい、一旦ここから離れるためにもときは踵を返した。

糸を張り巡らせたところ入り口周辺には監視カメラや赤外線センサーのような電子設備はない、探索しに行くなら夜だ。

その後姿を執事はギョロと飛び出した大きな目で見つめ続けていた。

 

5、

草木も眠る丑三つ時、雲で月明かりのない絶好の不法侵入コンディションである。

一旦帰り食事をとってそのまま眠りについたもときは移動した時と合わせて睡眠のとり過ぎで頭痛が少々するが問題なく糸を使い鍵を開け屋敷の裏口より侵入することに成功していた。

 

館内部も幸運なことに電子的な防犯設備がないため鍵をどうにかすれば探索に支障がないため夜が明けるまで探索し放題である。

無論見回りに見つかることががないように糸を張り巡らせて、人の気配などを探る必要はあるが……。

 

明かりがなくとも糸による指先に伝わる感触で部屋の構造、人の有無などが分かり鍵も糸でかちりと開けられるので気分はさながら某怪盗紳士の三代目である。

足音がならないように壁に巻き付けた糸を足場にして綱渡りの要領で床に乗らずに移動しつつ、もときは館の探索を開始した。

 

(今すごく、忍者やってる気がするなぁ……)

 

一応対魔忍も忍びのはずだが忍者というよりNINJAだからなー、とそんなことを考えながら探索を続けていた。

どうやらこの建物は地上二階建て地下室を含めて三階建て。

一階が台所、食堂、応接間、使用人室、庭園、浴室、トイレ、物置。

二階が寝室、客室、書庫、美術室、ダンスホール、娯楽室。

地下室は人の気配がしたのでまだ入っていない。

 

外から見た面積と内部から探索した面積が違う気がするので、恐らくどこかに隠し部屋があるようだ。

とりあえず把握できたのはそれぐらいだ。

窓を見てみると空が白む様子だ、善は急げで突入して慎重に時間をかけて探索したせいでそろそろ夜明けが近い。

 

(本命の地下室は今日は無理だな)

 

鍵をかけ直しながら使用人が目覚める前に退散することにした。

そう思いドアを開こうとドアノブを捻ろうとした時、もときが手を触れる前にドアノブは回転して部屋の扉が開かれ誰かが部屋に入ってきた。

 

「ふぁ~…眠い……」

 

寝ぼけ眼で入ってきた、執事と同じく平べったい顔に潰れた鼻の使用人は目をこすりながらドアを開くと誰もいない(、、、、、)部屋に明かりをつけ、窓の鍵を開けて窓を開いた。

 

「夜明け前だってのに、見回りしろとか旦那様は神経質なんだからもう……。」

 

ぶつぶつ呟いて窓を開き外を見渡し、再び窓を締め窓の鍵をかけると部屋から出ていった。

鍵を開けてドアを開く音が何回か聞こえ、だんだん足音が遠ざかると、もときは天井から(、、、、)音もなく降り立った。

 

「あぶなかった……」

 

咄嗟に糸でひっぱり天井にぶつかる直前で網を上下に張ってぶら下がっていたが、使用人が電気をつけて明かりを見ようと上を向いたりしたらアウトだった。

見つかる前にさっさと館から離れるもときが空を見ると雲間からうっすらと浮かぶ月を捉えた。

 

「満月まであと少しか、早く片付けなきゃね」

 

月が満ちれば魔が跳梁し活発化する、どうやら今回の人探しは長くなりそうだ。

 

6、

「オークにも人権があるつーの、俺はマダムの奴隷じゃないつーの!」

「そういうセリフはちゃんとツケを払ってからいいな!」

「ブヒー!」

 

うーん、母親の顔よりみた光景(親はいないが)、オークは場所が違っても生態はさほど変わらないようだ。

なんでも聞いた話によると東京キングダムとヨミハラとアミダハラではすこしオーク態度が違うらしい。

 

魔族の影響がもっとも強いヨミハラは弱肉強食の階級社会故に上に対して腰が低く、魔法使い達の組合に統制されてるアミダハラは協調性があり、東京キングダムは様々勢力が入り混じって自由な分ちょい悪らしい。

こんなことをわざわざ比較・分析したのは相当な熱意を持った暇人であろう。

いったい彼か彼女かはわからないがなにがオークの文化研究に駆り立てたのか不思議である。

閑話休題。

 

「……ああ…そいつなら…まっすぐ行った…ビルの…酒場だ」

「どーも」

 

いかにも一般人じゃなさそうな、顔に大きな傷跡を残す男は顔を赤らめてぼんやりした顔でもときの質問に答えた。

普段なら話しかけられても「うるせえっ!」と一喝して不機嫌そうに去るのだが、あまりにも美しすぎる顔の持ち主からの質問に応じないという考えは微塵も浮かばなかった。

 

館から去ったもときは拠点で一休みしてから、さくらの足取りとなぜ米連が廃墟に来ていたかを調べるためにアミダハラに訪れた。

見るものを陶然させる月輪玲瓏たる美貌を活用して裏事情に詳しそうな人間を適当に捕まえ質問することを何回か繰り返し、情報屋の居場所を探りあてることに成功した。

 

情報屋がいるというバーに入った瞬間こちらを見る者達が凝結した、

気にせずあんぐりと口を開いてグラスを磨いていたバーテンダーに情報屋について聞くと従業員用の控え室にいると答えたので、もときは礼をいうとそのドアを開いてずかずかと入った。

 

「うぅ……頭に響くだろ…丁寧にドアを開け……」

 

二日酔いでソファーに寝転んで休んでいただろう情報屋らしき男は頭を抑えた青い顔をこちらに向けて億劫そうに顔をあげ、目を見開いた。

 

「こりゃ…夢だな……こんな顔の奴がいるわけない…二日酔いの頭痛もぶっとんだぜ」

「あなたが情報屋さん?」

「お、おぉ! そうだ、客か」

 

こちらが情報を求めに来た客と分かると蕩けた顔が引き締まる。

プロ意識がしっかりしてるらしいこれは信用できそうだ。

 

「すまねぇ、ちょっと待ってくれ……ふぅ、生き返るぜ」

 

そう言うと情報屋は二日酔いの薬らしき粉薬を口に含み、机の上にあるミネラルウォーターのペットボトルを掴み一息で飲み干した。

 

「待たせたな、それでどんなことを聞きたい?」

「この女の子を見なかった?」

 

さくらの写真を渡すと、じっくり眺めてからああと声を出した。

 

「何日か前に新興ギャングと大立ち回りをした嬢ちゃんだな、『外』から女を攫って薬漬けにして売っ払うタチの悪い連中なんだがそいつらの所に殴り込みをしたそうだ」

「……はぁ?」

「一人で大暴れして攫われた女達を逃がしてから構成員をボコボコにしたらしい。

調子に乗った馬鹿達は近々ぶっ潰す予定だったんでよくやったとあれだけやってお咎めなし所か一部のお偉方に気に入られたらしいぜ? 」

「何やってるんだか……」

 

脳筋すぎる結果オーライとはいえ派手にやり過ぎだ、頭痛くなってきたさっきの二日酔いの薬貰おうかな?

 

「暴れた後は女達を『外』で保護させて、どっかに行ったらしい。

俺が知ってるのはそれぐらいだな」

「どーも、それとこの近隣に米連がどんな活動したかという情報ない?」

「米連? 米連なぁ……、最近なんらかの実験の協力をここのお偉方に頼んだら断られたって話は聞いたことがある、それに対して嫌がらせをしたとかしないとか」

「ふーん、最後に近隣の廃墟から人気がない理由を知ってる?」

 

ふと気になっていたことを聞いた、米連がなにかしたという情報がないなら他に理由があるということだ。

 

「……ああ、最近変なのが出没するらしいんで廃墟に住む連中はみんな一時的に退去したんだ」

「変なの? 曖昧な言い方だね」

「魔族の連中にもよくわからん化け物を見たらしい、魔獣の類とはまた別らしい」

「……ふーん、米連の実験とやらが関係してるのかな」

「さっき言った嫌がらせがそれじゃないかって話だ、失敗した生物兵器をあそこで廃棄したってな」

「本当なら大問題じゃない?」

「魔界の門からでた新種と言われたら嘘か本当か確かめようがないからな、魔界は広いからここに住む魔族も知らない生物は多いらしい」

 

どうやら、運良く遭遇しなかったが廃墟には化け物がうろついていたらしい。

拠点に荷物を残した米連兵達はそいつにやられたのだろうか?

 

「ちなみにどんな化け物かわかる?」

「詳しくはしらないがカエルみたいな化け物だとさ」

 

7、

情報屋に報酬を渡したもときは食糧を買い出すと一度拠点に戻った。

謎の実験をしようとした米連、そして現れた謎の化け物、行方不明になったさくら、それに関わっているだろうあの館。

 

色々と情報が出てきたがもときの目的はさくらの捜索だ、化け物がでるとかは正直どうでもいいのでまたあの館に行ってさくらの痕跡を探さなければ……。

とはいえ新しい拠点を探さなければいけないようだ、わざわざ危険な場所で度胸試しするような趣味もないのでどうしたものか。

 

「あの館に住ませてもらうのが一番だけどなー」

 

それが出来るなら探索する手間が減り、さらに住む場所を確保でき一石二鳥なのだが流石に無理だろう。

 

「お断りします」

「ですよね」

 

駄目で元々言ってみたが駄目でした。

 

「縁も所縁もない赤の他人を屋敷に泊める理由はありません、お帰りを」

「はーい」

「お待ちなさい」

 

そのまま帰ろうとすると背中から声をかけられる。

 

「奥様! どうなさいましたか?」

「ここに来る客人など珍しいので興味があったのですが……」

 

そういって、この館の主人の奥方らしき女性がこちらの顔を覗き込んだ。

 

「ああ…こんな……こんなに…美しい……人が…この世にいるなんて………」

「はぁ」

 

何やら熱のこもった得もいわれぬ妖しい視線を女として脂の乗り切った肉感的なこの奥様から感じた。

 

「……毒島、この方はどのような御用件で来たのかしら?」

「は、仮宿を求めてだそうです。 しかし「いいじゃない」……は?」

「泊めてあげればいいのよ、どうせ使うことのない客室が空いているのだし」

「し、しかし奥様! このような得体の知れない客を泊めたりしたら旦那様がなんとおっしゃるか!」

「何も言わないわよ、……どうせ一人で殻に閉じこもって気付きもしないわ」

「ですが「毒島?」……わかりました」

「では、行きましょうか案内しますわ」

 

そう言うともときの腕をとり自分の腕を組ませた。

ふくよかな胸が腕にあたっているがわざとであろう。

……何やら話が自分を置き去りにして進んだが、まあいいやと気にせずもときは奥様に連れられ館の門をくぐった。

男は度胸、女は愛嬌とはいうがやはり決め手は度胸ではなく顔であった。

 

8、

鼻唄を今にも歌い出しそうな程に機嫌の良さそうな奥様と、対照的に不機嫌そうな執事に部屋を案内され夕食の席まで誘われたもときは、まさか本当にokが出るとは思わなかったので置きっ放しにした荷物を取りに廃墟まで一旦足を運んだ。

 

「買った食糧が無駄になったかな?」

 

缶詰めなどの保存食だから後日食べればいいかと、荷物をまとめて廃墟から出ようとすると近くでガタッと物音がした。

 

「……人かな、それとも話に聞く化け物か」

 

部屋の中心に移動し、外に向かって糸を伸ばすと170cmぐらいの身長の持ち主が部屋の前に居た。

それ以外(、、、、)にも複数、一人二人ではなく十数名程。

部屋に窓はなく外に出るには一つしかないドアから出なければいけない。

待ち伏せには絶好のポイントだ、逆にいえば逃げ道がないということだが。

 

ドアを破り侵入してきた相手の顔は鼻は平らで、耳は異常に小さくなり、目はまばたき出来ない程飛び出て、指には部分的に水かきができ、首の周りはたるんでいた。

 

「……ここはアメリカのインスマスでなければ東北の蔭洲升(いんすます)じゃないけど?」

 

いわゆるインスマス面をした魚人であった、ヌメヌメとした光沢ある粘液が部屋にポタポタと垂れ落ちる。

 

「えーと、不法侵入についてなら今から出て行くので勘弁してもらえ……関係ない?」

 

もときの言葉など聞かず呻くようなら声を上げて掴みかかってきた、後ずさりしながらチタン鋼の糸が死を告げるべく疾った。

 

「あれ? やば……」

 

放った糸が見当違いの方へ滑った(、、、)

その身体の粘液がもときの糸が届く前に方向を狂わせたのだ。

飛びかかる魚人の背後から同じく魚人達が雪崩こむのが、もときの目に映った。

 

 

淫獄都市ブルース<深者の章 後編>に続く。

*1
アヘ顔ではない




対魔忍RPGのイベントやら性春姫が煮詰まったりで遅れました。
今回のイベント若さくらは欲しいですが周回面倒ですねー。

勘のいい読者の方はタイトルでピンときたでしょうが、この話はクトゥルフ神話モチーフですTRPGの方ですが。
探索者が秋もときなのでRTAみたいにサクサク行くと思ったら長くなり中編になりました、短編形式からはずれたので後で外伝の方に回すかもしれません。
続きはそう遠くないうちに投稿……できるかどうかは若さくらのスキル5になるまでの早さ次第。


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淫獄都市ブルース<深者の章 後編>(長編)

前回までの 淫獄都市ブルース<深者の章>

魔界からの『門』により魔族や異能の犯罪者たちが巣食う『魔都』へと変貌した東京湾の海上10km地点に存在する人工島、通称『東京キングダム』
そこに住む元対魔忍の美少年秋もときは、超一流の人捜し屋でもあった。
ある日、助手の井河さくらが第二の魔都『アミダハラ』で単独の人探しの依頼を行い消息を絶った。
さくらの行方を探すもときに謎の生物たちが襲いかかるが操る妖糸が弾かれてしまい……!


もときは迫り来く魚人が大きく異形たる口を開くのを凝視した、そこから見えるのはこの世のすべての生物を憎み冒涜し嘲笑せしめんとするような漆黒の意思を感じる牙と深淵に通ずるような消化器官へと続く虚無の穴であった。

 

常人ならその名状しがたい恐怖に身も心も捉えられ明確な死を与えられる前に狂死しそうな光景に、もときはいつも通りに屈託のないのんびりな声で告げた。

 

「口を大きく開けるのはやめた方がいいよ、はしたない」

 

魚人の姿はグロテスクだったが、忌々しいことに全体的な輪郭は人間によく似ていた。水かきのある手足、驚くほど大きくてたるんだ唇、ギョロッとしたガラスのような目玉、その他、見るだけで吐き気がする特徴にもかかわらずだ。

 

だがその生物の異端と呼べる形状の頭部は内側から裂け、噴出した血霧は大地に染み込んだ、ぶつからぬようにもときが少し体をずらすと体はその脇をそのまま勢いで通りすぎ床にばたりと倒れこむ。

 

「――さすがに体内までは粘液はないみたいだね」

 

あらゆる者を嘲笑するかのように大きく開けられた口内から妖糸を侵入させ斬り裂いたなどと、即死した魚人は想像すら出来なかったであろう。

 

視線をあげると仲間を殺された為か呻くように身体を這いずり回るような低く響くような怒声を上げている。

 

「さてどうするか」

 

仲間を血祭にあげた若者は凄惨な光景の中でも可憐に咲く美しい華だった、その残酷なまでの美しさに骨がらみ緊縛されたかのように、魚人達は聞くに堪えない地の底へ誘うような奇声をあげてはいるが攻めてこない。

 

そのまま部屋の空間を自身の病的な青ざめた肌の色に染めんと入ってきた魚人達ともときを囲むようにして陣形を整えていた。

広い部屋とはいえ、さすがにもときと魚人十数名が入ると狭い。

 

糸の探知によるとこれ以上の援軍はいないようなので一網打尽といきたいところだが……。

先程の魚人のように都合よく全員大きく口を開けてはくれないだろう。

 

見るもの全てが言いようもなく脅迫的で恐ろしく混じりけのない恐るべき戦慄に襲われ、大抵はショックのために狂気へ目覚めさせてしまうような異形の存在たちはもときを殺戮すべく一斉に四方から飛び込んできた。

 

黒衣の影は高く舞い上がり天井に到達すると、落ちる方向を変えて出入り口の方に降り立つとそのまま矢のように建物から出るべく全力で飛びだした。

 

当然そのまま見過ごすはずもなく魚人達は同じく出入り口に向かって追いかけてくる。

一足早く出入り口に到達したもときは手を一瞬霞んで見える速度で振ると建物から外に出た。

そして少し遅れて魚人が出入り口に足を踏み入れた瞬間に下半身が爆ぜた。

 

糸砦(いととりで)

 

妖糸を周囲に張り巡らし糸の結界を張る技である。

それに触れた相手はさながら無謀にも砦に攻め込んだ相手が防衛隊に苛烈な猛攻を加えられるように、糸による斬撃の嵐により斬り裂かれる。

 

単一の斬撃は粘液で防げても数を劇的に増した複数の斬撃なら粘液を弾き飛ばして斬撃が通るともときは読んだがどうやら賭けには勝ったようだ。

 

再び仲間がやられたことに足をとめた異貌の群を背に建物の外まで出ることに成功したもときは再び糸を使いそのまま建物を切断した。

 

土台となる柱と壁を斜めに斬られた建物は一瞬そのまま横に滑ると重力に従い崩れ落ち、中の怪物たちを巻き込み激しい音と埃を撒き散らし倒壊した。

 

それを離れた場所まで全力で走って出た汗を拭ったハンカチを、今度は土埃が入らぬように口元を押さえることに使用していたもときはあることに気づく。

 

「しまった」

 

その瞬間のもときの顔を見たものがいたのなら苦渋の選択を迫られた政治家が身を切るような思いで決断したかのように、苦痛と後悔に歪んだ表情であったと証言するだろう。

 

「米連のキャンプグッズを持ち出すの忘れてた」

 

今回の出張は依頼ではないため支出しかないので、少しでも出費を補填するために後で売る予定だったがいまや魚人たちと共に瓦礫の下であった。

 

「……切り替えていこう、相手は多分「ダゴン秘密教団」」

 

あの魚人たちは深き者(Deep ones)とよばれる存在だ。

 

予見者H・P・ラブクラフトが1936年に小説という形で発表した『インスマスの影(The Shadow Over Innsmouth)』というタイトルの資料に詳細がある。

 

その正体は異星から来た邪神の一柱である旧支配者クトゥルフの眷属(奉仕種族)だ。

主に海底で生活している存在だが彼らの長である父なるダゴンと母なるヒュドラ、そして海底に沈んだ古代都市ルルイエに封印された、あらゆる水棲動物の支配者、大いなるクトゥルフを崇拝すると同時に彼に仕え、必要とあらば、どんな用向きにもすぐに応じるための「ダゴン秘密教団」と言われる組織を作っている。

 

深き者と人間が交配して生まれる混血の存在が確認されているため、もしかしたら生殖目的でさくらが拐われたのだろうか?

 

「ないな」

 

捕まったのなら母体として使われる可能性は高いがそれを目的にする可能性は低いだろう。

 

「ダゴン秘密教団」の活動原理は奉仕者を増やし、将来的な敵を取り除くため人間を味方に着けることである。

この方法として金に似た金属で作られた奇妙な宝飾品や魚の大漁を約束し、見返りに人間との交配を契約させている。

 

『インスマスの影』の主人公の祖父であるマシュー・オーベッド船長がインスマスの住民に拘束されると「ダゴン秘密教団」と協力関係を結ぶことに同意し子供を作らせ彼を解放している。

その末に生まれたのが『インスマスの影』の主人公だ。

 

「行方不明者が「教団」に関わってしまい協力を拒み口封じに、その人物の足取りをさくらが調べて「教団」に関わってしまい――こんなところかな?」

 

教団はクトゥルフの存在を敵となる勢力から隠すことも目的にしている。

深き者の存在について暗示したとされる『ダゴン』でも最後の場面で目撃者に対する追討が行われたことが仄めかされた。

『あぁ、窓に! 窓に!』の一文は有名である。

インスマスに立ち寄った住民が行方不明になるのも、口封じのためだ。

 

「――けど、さくらがこの程度の相手にやられるかな?」

 

糸による斬撃が主体のもときと深き者たちとは相性が悪いとはいえ数が揃っても工夫次第で倒せる相手だ。

 

相手の影を槍のようにして攻撃したり、影鰐で噛み砕く、影で縛り拘束するなどの多彩な手段を持つ影遁の使い手であるさくらの方が深き者たちに対しては相性がいい。

 

忍法は消耗が激しく相手の数が多かろうが、深き者たち程度ではどうにかなる可能性は低い、大人verより弱いがさくらはあれでも対魔忍屈指の実力者なのだ。

 

他の敵か別のなにかがあると考えたほうが無難だろう、案外あっさり毒や薬でやられた可能性も否定できないのが対魔忍なのだがしかしそれにしても………。

 

「負けてエロいとされるのが対魔忍の常とはいえ単独行動任せたらすぐコレかぁ……」

 

もしもさくらが「教団」に捕まっていたらアヘ顔で魚人と家族計画している可能性があること思い至りもときは少しげんなりした。

敗北して敵に調教されるのは対魔忍世界の様式美である。

 

1、

 

「あら遅かったのね?」

「ええ、まあ」

 

屋敷の方に荷物を持って移動したもときは部屋に荷物をおいて部屋に備え付けのシャワーで戦いの汗と埃を落としたら少々食事の時間が過ぎてしまった。

 

「準備はできてますので席でお待ちになって」

 

席につくと、部屋に誰か入ってきた。

余分な肉が腐り落ちて骨と肉が薄く張り付いている歩く屍体(ゾンビ)かと思うような容姿の持ち主であった。

 

「ほぅ……。」

 

見るものの精気を奪い取るような強い眼光が、こちらを見て緩みその口から切なげな溜息が漏れた。

 

「客人はとんでもない美形と聞いたが、これほどとは……儂の若い頃にそっくりじゃ」

「え?」「え?」「え?」「はぁ」

 

左から館の主人の声に思わず声がでた奥方、執事、使用人、そして返答に困ったもときである。

周囲の反応に気にせず館の主人は話を続けた。

 

「儂がこの館の主、藤曲 佐兵衛(ふじまがり さべえ)じゃ。 たまの客人じゃ、我が家のつもりでゆっくりくつろいでゆきなさい」

「はい、ありがとうございます」

 

そういってしばし出された料理に舌鼓を打つ、実は変な材料だったり食べたりしたら異形の仲間入りする黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)的な食べ物かと*1戦々恐々していたが、見たことのない食材というわけでなく普通の魚介類で作られた美味しいだけの料理だった。

 

しばらく無言で食事を楽しんでいたが、食事が終わりに近づき調査のこともあるのでいろいろと聞き出そうと話をした。

情報屋にこの家のことは色々聞いていたが、他愛のない話に混じってちらほらと現在の警備など内情を探るような話題を振った。

 

「そういえば屋敷の大きさの割には防犯設備とか見かけないですけど大丈夫なんですか?」

「ああ、何分古い屋敷を買ったものでな。 改修にも人手が必要じゃがあまり家に他人を入れたくなくてなぁ……。 代わりに用心棒を雇っておる」

「用心棒?」

 

潜入に気付いていなかったけど大丈夫なのだろうか?

 

「用心棒のオーク、東郷じゃ」

「オーク……東郷?」

 

え、誰? やだ、誰なの怖い……。

 

「仕事か、要件を聞こうか」

 

壁に寄りかかって葉巻を煙らせながらM4カービンライフルを担いだオークがそこにいた。

 

「要件も何も、お前護衛の仕事サボってアミダハラの娼館行って朝帰りだったのバレとるぞ減給じゃ」

 

ふー、と煙を吐きながら天を仰いだ。

 

「新人の女の子が入ると聞いてつい……、はじめての客になれたんだが初々しくて、最高だった」

「アンダー13の異名を持つ、ロリコンじゃからなコイツ」

「大丈夫なんですか?」

 

いろいろと不安しか残らない、そもそも護衛が主人ほっといて娼館通いってどうなのよ?

クビにしないのが不思議でならない。

 

「銃の腕だけは確かなんじゃがなぁ……、娼館狂いなのが玉に瑕じゃ」

「性欲持て余してクライアントの関係者に手を出すよりマシだと思って……」

 

某背後に立たせないスナイパーのように仕事前に娼館に寄る習慣があるようだ、さすがに本物は仕事サボってまでいかないが。

 

「ロリ巨乳こそ至高じゃないか?」

「巨乳がロリなんでジャンル的にはロリじゃなくて巨乳の範疇だと思うが」

「それは違う! ロリっ子が他の子よりも発育が良くてコンプレックスもってるのがいいんじゃないか!」

「おまえこの話題になると急に早口になるよな」

 

もときはゆきかぜがいたら貧乳ロリ扱いで守備範囲内なのかなーと失礼なことを考えながら二人の漫才を見ていた。

 

こんな猥談を話している佐兵衛老だが、魔科医の技術を持つ現代のモロー博士*2の異名を持つマッドサイエンティストだ。

 

彼の逸脱行為は魔科医の技術を入手する前は単なる奇行であったが暗黒の偏執狂へと移行したことにより人々は恐れ嘆いている。

その偏執狂ぶりは、殺人的傾向と、精神の内容におけるあからさまに奇妙な変化とを含んでいた。

 

それは『魔界の門』が近いこのアミダハラの目と鼻の先にある場所で現れる様々な奇怪な生物は『門』の影響ではなくこの老人が生み出し破棄しているのではないかという噂が立つほどである。

 

「あなた、仲がよいのは結構だけどゲストをほっておかないでくださる?」

「いえ、見てるだけで楽しいですから」

 

糸を纏わせて色々探りたいところだが、さくらという人質がいるという状況のため佐兵衛に気付かれるリスクは避けるべきか……?

少なくともさくらに巻いた糸をどうやってか処理できる手合いなので下手をうつと色々面倒である。

 

(行方不明の身内に影響があるかもしれないから色々打てない手があるって不便だなー)

 

普段ならそういうリスクも含めての依頼と割り切るのだがそういうわけにもいかないよなーと内心ため息を付いた。

 

「男装してる中性的な子が胸がだんだん大きくなって女性的な自分に悩むとかもいい……」

「コンプレックス系の巨乳ばっかじゃなー」

「思春期の性に翻弄される女子が好きだけどやっぱスタイルが良いほうが嬉しい、カレーは美味いがカツカレーはもっと美味いしラーメンもチャーシュー麺のほうがいい的な」

「――薬でロリになった大人の女性というのはどうかな?」

 

なんとなく話題に乗ってみた。

 

『ッ!?』

 

話している二人の顔が、万有引力の存在に気付いたアイザック・ニュートンのような驚愕に染まった。

 

「また新たな爆弾をぶっこんできたな!」

「できる……!? 顔がいいだけの男じゃないな、逆転の発想だ! 少女から大人になるというあたりまえの葛藤もいいが、大人から少女に変わるという特殊なシチュエーションでの葛藤! ……いいぞぉ、とてもいい!」

「男って……」

 

そんなこんなで表向きは賑やかな会食は終了した。

 

 

「さて、探索タイムだ」

 

ちゃんと許可をとって堂々と館を探索することになった。

館の主人夫婦に顔はともかくそういうところは年相応だと微笑ましい顔をされたがまあ問題ない。

(あの反応からすると、『何も知らない』か『若造が調べた程度ではわからない様にしている』……だな)

 

もう夜なので許可があっても一時間程度が限界だろう、それ以上はさすがに怪しまれる。

「客室に隠し部屋はなし…」

 

客室から催眠ガスが出てそのまま隠し部屋へ拉致とかいう、パターンではないらしい。

 

「では本命の地下にゴー! ……いつも影の中にいるさくらに話しかけてるせいか独り言が多くて困るな」

 

頰をかきながら、さっさと見つけようと探索の二回目を始めた。

 

淫獄都市ブルース<深者の章 後編 2>へ続く

*1
黄泉の国の食べ物を口にして黄泉の国の住人なること。 異邦の食べ物を食べその土地の住人になることを受け入れる儀式をさす。 転じて人外の食べ物を食べると人外になるのを受け入れるという意味もある。

*2
モロー博士の島の登場人物、高名な生理学者。 生体解剖などを行なったとして学界を追放され、孤島で動物に人間の遺伝子を注入し、獣人を作り出して育てる研究を続けている。




正直短いですが、あんまり時間かけすぎてもなんですので中途半端ですが投稿します。
投稿に遅れたのは年末で仕事が忙しくて執筆時間をとれなかったのと、ようやくとれた休みに体調を崩してしまい熱が40度程でて最終的に病院で点滴うったりして休日がまるまる潰れたため投稿に時間がかかりました。


決して参考資料を探して興味を持った同人ゲームのBLACKS●ULSが面白くて執筆をサボってたわけじゃないんです隊長、俺を信じてください!
言い訳はこの辺にして、ではまた次回。
ところで対魔忍RPGのガチャが相変わらず渋いですね10連で全部Rのひまわりチュライ……。


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淫獄都市ブルース<深者の章 後編2>(長編)

前回までの淫獄都市ブルース<深者の章 後編>

「あぁ、恐ろしい、(おぞ)ましい、信じられない! 早くここから出るんだ、できるなら急げ! 他のものは全部ほっといて外に出ろ、君が助かるにはそれしかない! 言うことをきけ、理由は聞くな!」
「何があったんだ、しっかりしろ! 今行く!」

地底に続く伝線の受話器からまくしたてるような友人の声に私は地底に向かおうとして、強い言葉で制止されました。

「やめろ! 君には理解できない! もう手遅れだ、自業自得だよ。 誰であれ、できることはない! 早く、間に合う内に逃げろ! 急げ! 無駄なんだよ君は行かなきゃ……二人より一人のほうがましだ…ほとんど詰んだ……それをこれ以上辛いものにしないでくれ……糞ったれ、命がけで逃げろ……時間を無駄にするな…これまでだ、お前には……もう会えないな」

ここで友の(ささ)くような声は叫びへと(ふく)れ上がり、叫びは次第に万古(ばんこ)の恐怖を伴う絶叫(ぜっきょう)になったのです。

「呪われろ、この地獄のものども――魔軍め――ああ神様!? 逃げろ! 逃げるんだ! 逃げてくれぇぇぇッ!」

この後、沈黙が訪れました。
どれほど私は長い時間呆然(ぼうぜん)としたまま座っていたかわかりません。
しかし、しばらくして受話器からもう一度カチッという音が聞こえ、私は耳をすませました。
再び呼びかけました。

「おい! 聞こえているのか! 返事をしろ――そこにいるのか?」

これに応えてあれが聞こえました。
なんと言いましょうか、その声は、深く、(うつ)ろで、膠質(こうしつ)で、(はる)けく、地上のものでなく、非人間的で、肉体を離れていたとでもいいましょうか? 

私の記憶はそれで終わりで、私の話もそれで終わりです。
私は最初の数語を聞いてそのまま意識を失い、病院で目覚めるまでの間、何も判らない状態になっていたからです。


それは言いました。


<深者の章 後編>「莫迦(ばか)め、対魔忍要素(おまえの友)は死んだわ!」






▼元ネタ H.P.ラヴクラフト著「ランドルフ・カーターの陳述」

というわけで、対魔忍クロスなのにまったく対魔忍要素がなかった
<深者の章 後編>のつづきはーじめーるよー 


「この世にあんな綺麗な子がいるなんて……」

 

妖艶な館の美女が目を閉じるともときの月や華もかくやという美貌が思い浮かんだ。

振りほどこうとしても脳裏に焼き付いた顔を忘れることはできずに脳裏の片隅にとりあえずおいておくことにした。

男女問わずもときの顔を見た者がかかる軽度の症状である。

 

「亜門さん」

「はい、奥様」

 

(いわお)と見間違う筋肉の塊のような二mある巨漢が亡国の王族に仕え続ける忠臣の如き誠実さと鋼の意志を感じさせる声で応じた。

 

「あの人はいま何を?」

「いつも通りに」

 

その言葉に幽冥の淵に立つ様な心境で深い後悔や侮蔑を含む暗色の吐息が漏れる。

 

「夢をみれないものは世の中に多いけれども、起きたまま醒めない夢を見続けることに比べればずっと幸せかもしれないわね」

「……奥様」

「ねえ――亜門さん?」

 

底冷えするような眼で巨漢を見煽った。

 

「あの……、何か?」

 

巨漢の使用人、亜門は気丈な母親の前に出た悪戯っ子のように大きな身体を縮ませた。

 

「前から気になっていたことを、はっきり伝えましょう」

「は、はいっ」

 

妖艶な美女からの圧に亜門は絶望の感情が心の臓を握りしめるのを感じた。

 

「あなたは――私のこと好き?」

 

静かな声だった。

亜門をわずかな間きょとんとさせたのはその言葉の内容よりも、その声にこもった情感と空間の静けさであった。

 

「お、奥様――そ、そんな……」

 

何かを言おうとして、じっと自分をみつめる眼差しに硬直した。

凝視するその美しい視線の送り主の口許にふと翳がよぎる。

それは哀しみに似ていた。

いつからこの冷厳な美女は使用人が自分に向けている感情に気づいたのだろうか?

 

「――二度と私をそのような視線で見ることは許しません、いいわね?」

「は、はい」

「ではお行きなさい、私は主人のもとに行きます呼ぶまで来ては行けません」

「しょ、承知しました」

 

巨体を直立不動のまま石像のように固まる亜門に背を向け歩き出す。

ふと窓の外の月を見る、雲のない月はほぼ真円に近い。

満月まであと僅かであった。

 

1、

 

藤曲 佐兵衛(ふじまがり さべえ) 館の主人 マッドサイエンティスト

藤曲 美沙子(ふじまがり みさこ)  佐兵衛の妻 妖艶な美女

山岡(やまおか) 執事カエル顔 細身長身

亜門(あもん) 使用人 巨漢 奥方付き

毒島(ぶすじま) 使用人 小柄 小太り カエル顔 旦那付き

東郷(とうごう) 用心棒 オーク 娼館狂い ロリ巨乳萌え

 

なにやら約一名やたら濃いのがいるが、館の住人はこの六名である。

館の大きさの割に維持する人員が執事と使用人合わせ三人は少ないと思うが、情報屋の話によると何度か館で求人があり働き手が出入りしていたがいつしか館に訪れる者はいなくなったそうだ。

 

アミダハラに近い場所という特殊な場所な為、ロクな人員がこなかったので人が入れ替わり続け人間嫌いの佐兵衛が見知らぬ人間の頻繁な出入りを嫌ったのか、それとも何か他に理由があったのかはわからない。

 

(案外なんらかの秘密がバレないように信用できる人間以外を排除したのかな)

 

もしこの仮説があっているならもときは相手からすると敵しかいない場所にわざわざ来た哀れな獲物でしかないはずだが、一切の恐れを抱いていないかのようにその歩みは澱みなかった。

 

(聞いた話によると主人は生物を改造してるという話だから実験室や研究室があるはずだけど……)

 

カエル顔の使用人、毒島から笑顔で交渉し鍵を借りて地下まで来たのはいいが、掃除道具と植木道具などの物置になっているだけで特に怪しいものはなかった。

 

「んー…と」

 

探り糸で探ってみると壁の奥に空間がある。

どこかに隠し部屋があるのは確かであるが入り口はここにはないようだ、どうやってその隠し部屋に行くかが問題だ。

さくらがどこかに捕らえられている内は強引に壁を妖糸で切り裂いていくわけにもいくまい。

思案にふけるもときの美しい顔が唐突にあがった。

 

こちらに向かって向かって黒い布が飛びかかってきたが白銀の一閃で切り裂くと、空中でバラバラに布が散乱し空間にノイズのようなものが走り周囲が闇に閉ざされた。

もときが周囲に糸を伸ばすと底なし沼に足を踏み入れたかのようにただただ深く広く沈んで行くような手応えが返ってきた。

 

「やられたね、これは幻術か空間操作か……」

 

もときが気付いた瞬間に術中に落とす手腕から相当な手練れに違いない。

――さて、どうする?

 

やせっぽちとでぶのカエル顔をした従者達が術中に落ちたもときを本に囲まれた部屋で眺めていた。

執事と使用人は常軌を逸した美貌の少年を自分達の掌で好きに扱えるという事実に興奮を隠せなかった。

 

「へへっ、こんな綺麗な人間がいるとは凄えなァ世の広さってやつはよ!」

「まったくだ、それを好きな様に嬲れるとはこの仕事に就いて役得だ」

 

顔は心を映す鏡とはよくいったもので昼間の客人に丁寧な対応をした二人は薄皮ひとつ剥がせば、顔と同じく爬虫類じみた幼稚で残忍な本性が隠れていた。

もっとも顔に関しては天上の住人も酔いしれる美貌の持ち主である少年が外面に釣り合う内面を持っているか疑わしくもあるのだが……。

 

「しかしこいつ異空間に閉じ込めてものんきにあくびしてやがる、図太いのか鈍いのか」

 

透視術を使う使用人は、接触によって透視したものを相手に伝える、彼は執事の肩に触れていた。

渦中の人物であるもときは敵地で絶対絶命の窮地(きゅうち)かつ助けが来る見込みもない状況だというのに、世間知らずの良家の子息然とした態度を崩していなかった。

 

もし今の状況を知った第三者がその姿を見たのなら夜に煌めく月のように暗闇の中で黒衣でありながら漆黒に染まるどころか、眩く輝く世にも美しいその白い(かお)を傷つけることができる存在は同じ美しさの持ち主だけだと確信しているからに違いないと言ったかもしれない。

もとき以上に美しい存在がこの館にいないのは確かであった。

 

「このままじゃつまんねぇ、少しばかり遊んでやってくれ」

「おう」

 

そういうと片手に持っていた本を開き執事の眼がギラリと怪しく(うごめ)く。

そして透視術による視界の中で眠そうにしていたもときが違和感を感じたのかピクリと反応した。

術により閉ざされた世界の中で不可視の炎がもときの身体を干上がらせ、夏場の熱せられたアスファルトの上で干からびた蚯蚓(ミミズ)の様な姿になるであろう光景に二人は胸を躍らせる。

 

「が、がぁあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

「おい、どうした!?」

 

突然執事が眼を手で押さえたが次々と滝のように血が溢れ執事は絞るように長い長い絶叫を上げると倒れた。

あまりの使用人が光景にしばし言葉を失い呆然とすると、部屋の扉がガチャと音を立てて開かれた。

 

「こんばんは」

 

扉を開けた人物は先程まで術により異空間に居た秋もときであった。

 

「貴様どうやって……何故ここが!?」

「本業は人探しでね、命を狙った襲撃者を探すのは得意中の得意さ」

 

視線を向けると長身のカエル顔の執事は目や鼻や口などの体中の穴という穴から出る鮮血で紅に染まっていた。

 

「知り合いの医者に防御術を頼んだけどえげつないな」

 

もときは健康診断のついでに魔術師たちの巣窟であるアミダハラに寄ることもあるだろうから、Dr.メフィストに魔術対策をお願いしていた。

もときに対して攻撃呪文を仕掛けたことによりカウンターとしてメフィストの防御魔術が発動し術者である執事の肉体を蹂躙したのである。

そして術が破られたことにより異空間から脱出できたのだ。

 

随分と足元を見た料金をメフィストに取られたが効果は抜群だったようだ。

術者の場所を特定する探知術もおまけに頼んだので居場所にすぐ駆けつけられたということはわざわざ口にしなかった。

 

「さて色々と話してもらおうか」

「お、俺をどうする気だ!?」

「うーん、とりあえず命を狙われたから腕一本かな。 有益な情報を話せば減刑も考慮するかも」

 

のほほんとした顔でそんな恐ろしいことを言い出した。

沈黙すると、骨まで食い込むような激痛に失神して数瞬後に同じ痛みで覚醒した。

気が狂いそうな痛みでも気が狂わず、痛みを与えるのを止めると先程までの激痛が幻だったかのように消え去る神業とよぶべきもときの技倆(ぎりょう)であった。

 

「わ、わかった聞きたいことは全部話す」

「正直なのはいいこと」

 

死体のように顔を白くする使用人に、にこりと微笑むもとき。

その笑顔をみて白かった顔色が赤く染まった、直前の出来事やその後に訪れる運命さえ忘れる凄烈な秋もときの美しさは正に魔性であった。

 

2、

 

「で、なんで僕を狙ったんだ誰かに頼まれた? それとも個人的理由?」

 

単純に考えれば刺客として雇われたというのが有力だが何分(なにぶん)この顔である。

自分の預かり知らぬところで勝手に味方になる者もいれば敵になる者も多い。

超絶美形の転生者やって嫌になるほど見にしみた経験則の一つである。

 

「そ、それは……、ぎゃッ! 個人的理由です綺麗な顔を苦痛で歪めたいとか思ってすいませんでした!」

「あぁ、そう」

 

主人に頼まれたとかなら話が早かったのだが。

 

「じゃあ次、この写真の女の子にそこでぶっ倒れてる山岡さんが反応してたけど心当たりは?」

 

懐からさくらが写っている写真を取り出してみせる。

 

「は、はい……。 数日前に旦那様が、研究室に運べと言われて山岡と二人で運びました!」

「ふーん」

 

ようやく有益な情報が出た、やはりこの館にいるらしい。

 

「で、その研究室って何処にある?」

「そ、それは、……グェッ! い、言えないそれだけは!?」

 

骨まで食い込む苦痛を与えても答えないところを見ると、佐兵衛の恐ろしさは魔王のように骨身に染みているようだ。

……まあ、そんな事は知ったことではないので妖糸を使い情報を引き出そうとして、背筋に悪寒が走りその場から後ろに飛ぶ。

 

「え」

 

毒島の頭が次の瞬間なくなり僅かな血が飛び散った。

一体何が起きたのかを確認する前に狭い場所で正体不明の相手に戦闘するのはまずいと判断し、書庫の窓を糸で開けてすぐさま外に飛び出すと遅れて轟音が鳴り壊れた本棚の破片や破れた本の頁が書庫から屋敷の外に散乱した。

糸を使い着地すると振り返ることなく庭の戦闘に適した広い場所まで走り出す。

 

 

開けた場所に到達してようやく振り返ると、なにもいない。

しかし再び悪寒を感じて横に飛ぶと『なにか』がもときの横をよぎった。

なにかが腐ったような臭いに顔をしかめる。

視線を後ろに向けると地面をもの凄い勢いで蹴ったであろう足跡だけが残っていた。

 

「動きが速い、面倒な……」

 

襲撃者は未だもときの視界に入らず、周囲を飛び跳ねる音だけがその存在を示していた。

こういう敵は狭いところに追い込み攻撃場所を限定して倒すのがセオリーだが、さすがにこの速度からすると逃げるより早く相手に攻撃されるであろう。

 

「書庫の窓に『糸砦』でもやっとくべきだったなー」

 

咄嗟に逃げることを優先してそこまで頭が回らなかったことを反省する。

気持ちを切り替えて眼の前の敵(もっとも目にも留まらぬ相手だが)に備えて周囲に糸を張り巡らせる。

 

ババババババババッ

戦闘態勢を整えたもときの背後(、、)から銃声が鳴り響いた。

銃声から弾薬が5.56x45mm NATO弾だともときが理解する。

そして打ち込まれた弾丸が全弾(、、)命中すると『なにか』が地面に倒れる音と共に銃声を轟かせたであろう人物が現れた。

 

「あなたは……ポルノ13」

「待て、変なアダ名をつけるな」

 

この館の用心棒オーク、東郷であった。

 

淫獄都市ブルース<深者の章 後編3>へ続く




クリスマスにポルノ13とかいうアホなネタをかきあげた作者がいるらしい……
そう、私です。 速さを重視して前回と同じく短めです儂の後編は108式まであるぞ!
というわけでクリスマスに対魔忍が出ない対魔忍クロスを投下しますメリークリスマス!
……いやそろそろ出しますよ(目逸らし)


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淫獄都市ブルース<深者の章 後編3>(長編)

というわけで、ようやく対魔忍がアヘる対魔忍クロス、始まります


「んほぉぉぉぉぉぉぉ!だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!ばかになっちゃうのほぉぉぉぉぉぉ!」

「これは酷い」

 

低く傾いた天井から微細な隙間を通して邪悪で異様な光は黄、紅、藍が分ち難く入り組んだ狂気の混合光が漏れ出している。

その狭いようで広大な空間に漂う生臭い空気に混じって微かなアンモニア臭がする、恐らく快楽のあまり失禁しているのであろう。

見事なアヘ顔を晒しており、モザイクをかけたほうがいいんじゃないかというような顔になっていた。

 

玉虫色の泡の集簇(しゅうぞく)万華鏡(まんげきょう)の様に変化する小型多面体の肉壁に覆われたさくらは見るもの全てが言いようもなく脅迫的で恐ろしく、動きからみて彼女が包まれた『それ』が有機体の一つだろうと気づく度に混じりけのない恐るべき戦慄に襲われ、大抵はショックのために気を失ってしまうような有様であった。

 

「うーん? 触手の一種かなー、さっぱりわからん」

 

常人ならとうに過剰な脳内麻薬の分泌に完全に脳が焼ききれて発狂している状態でも耐え抜いているのはさすが対魔忍という所であるが、完全に快楽にとらわれて周囲の状態を認識するどころではない。

 

恐らくこの悪夢のような名状しがたい『それ』は取り込んだものから出た体液を吸収して宿主に栄養として返しているいるのであろうか?

囚われて狂態を晒し続けているであろうさくらの顔色は騒ぎ続けているにも関わらず健康そのものであった。

一体どのような意図で存在するのかもときには見当もつかない。

 

ようやく目的の井河さくらを発見したもときであったが、この場所にたどり着くまで何があったかは少し前の時間まで遡る。

 

1、

用心棒のオーク、東郷に助けられたもときは先程倒した『なにか』を調べてみたところ、それは牛とも犬ともつかぬ大きな体躯、鋭い牙と爪、全身に纏わせた瘴気を持つ生き物であった。

 

対魔忍をやっていたもときには見覚えのある生き物だ。

『ブラッドドッグ』

魔界に生息する魔獣である。

 

魔界の狩人だが魔界の者がしばしば人間界に持ち込み、そしてそれを欲しがり高い金を出す人間がいるため近年人間界でも見かけることが多い。

 

現役対魔忍をやっていた時には敵が番犬代わりに使いよく戦わされた相手だ。

――無論、ここまで強くなかったが。

 

見習い対魔忍でもやり方をきちんとすれば対処可能な相手であり、反応速度だけなら対魔忍の上位勢すら凌駕する秋もときが見失うほどのスピードを出す生き物では間違ってもない。

 

藤曲 佐兵衛(ふじまがり さべえ)の制作した改造魔獣か」

 

クトゥルフ神話で犬といえば『ティンダロスの猟犬』だがあれは犬と名がついているが外見は犬とは似ても似つかない異形の存在だ。

襲われて助かった生存者は殆どおらず目撃した者は「肉体をそなえていない」「痩せて、飢えていた、宇宙の邪悪さが全部あの痩せて飢えた体に集約されているようだった」と語る。

 

「猟犬」というのも常に飢え、非常に執念深い性格で人間および他の普通の生物が持つなにかを追い求め、時空を超えて一度目を付けると執拗に追い立てる性質から例えられているだけである。

 

「見立てて作ったのか、ただの偶然か、……そんなことより何故こいつは使用人を殺したのか?」

 

偶々逃げ出して襲いかかったというには会話のタイミングが良すぎる。

客人であるもときに害をなしたことに対する制裁か、館の情報が外部の人間に漏れるのを嫌ったのか……。

 

「わからんことは置いといて、話をしましょう、そうしましょう」

「……生憎だが、俺には世間話……、という習慣はない……仕事の時には…な」

「そこをなんとか」

 

そう言ってもときは闇を紡いだようなコートのポケットからなにか取り出して東郷に渡す、胡乱(うろん)げな目がカッと見開かれ野生の獣さえ慄く危険な眼光がもときを貫いた様に思えた。

 

「…………用件を、聞こうか」

「話が早い人は好きだよミスター東郷」

 

ちなみに渡したのはアミダハラに行った時に娼婦にナンパされ、無理やり押し付けられた娼館優待割引き券である。

 

 

東郷の拠点である庭の片隅にあるテントの前に移動して話をすることになった。

焚き火の側に夜食だったのかKINGサイズのカップ麺が転がっていた。

 

「何で館の外にわざわざテントを張っているんです?」

「……サボって娼館に行ったら部屋を追い出されて」

「はぁ」

 

空いた部屋にもときが割り振られたのは余談である。

 

「で、さっきのは一体何?」

「……予想はできているだろうが藤曲佐兵衛が作った実験体だ」

「へー」

「俺の仕事は用心棒というが、どちらかというと実験体が外部に逃げ出すのを阻止する仕事だ」

「守るのは館の住人でなく、館の外の住人」

「そうだ」

 

一代にして巨万の富を築いた藤曲 佐兵衛だがその名を聞くだけで十中八九、否、十人中十人が恐れ慄くのはこの「実験」が原因である。

魔界の門が出る前から様々な実験を繰り返し、生物学の常識を揺るがすような論文を幾度となく提出しながら認められるどころか学者たちが魔女狩りの時代の審問官が疑わしき対象に焚き木を用意して焼き尽くすさんとするような、忌まわしき呪われた存在だったのだ。

 

時代を先取りしすぎた異端の狂人は、自分を認めない存在に対して時に『刺客』さえ差し向けた。

その結果、警察の介入を数度招き時には対魔忍さえ動く自体になったらしい。

闇の存在であるはずの対魔忍すら動かすような「モノ」を作り出す天才も最終的にはついには抵抗を諦めた。

――二十年程前の話である。

 

どうやら狂気の天才が再び活動を開始したらしい、しかも設備が整った様々な対策を練ってあるであろう環境から逃げ出す程の知性を持った存在を定期的に――迷惑も甚だしい話である。

 

「しかし館の住人が実験体のせいで亡くなってるんですが用心棒的にいいんですか?」

「カエル顔の二人か?」

「ええ」

 

一人はもときが原因だとは言わない、とどめを刺したのはあの実験体なので間違ったことは言っていないのだ。

 

「なら大丈夫だ、その二人以外なら問題だがな。 そいつらならすぐ補充(、、)される」

「『補充』」

「次は性格がいい奴らだといいんだが、どうにも主人には忠実だが残忍な奴らばっかりが生える(、、、)

「『生える』」

 

聞き捨てならない言葉が続くが当たり前のような顔をしているあたり、このオークも館の狂気に少々染まっているらしい。

 

「ところでこの女の子知らない?」

 

そういってさくらの写真を見せる。

 

「……もっと幼い方が好みだなスタイルは文句なしだが」

「誰があんたの好みを聞いた」

「冗談だ、館を探っていたので俺が捕らえて引き渡した」

「――へぇ」

「殺気を向けるな、――俺も対応せざるを得ない」

 

もときの春風のような穏やかさを保つ美貌が僅かに揺らいだ、次の瞬間に東郷の手にはすでに撃鉄を起こしてこちらに照準を合わせた状態の拳銃が握られていた。

S&W M19の2.5インチモデル、コンバットマグナムと呼ばれる名銃だ。

某怪盗紳士の三代目の相棒が愛用している銃でもある。

――相手は後は引き金(トリガー)を引くだけだが、こちらも既に糸は巻いている(、、、、、、、、、)

 

「わるいね、その女の子の身内なものだから興奮した」

 

そう言って手を上げる。

自分らしくもない反応だと反省する、気持ちを鎮めよう。 

さくらを倒せるほどの手練だ、会話で済むならわざわざ戦闘する必要もないだろう。

 

それを見て東郷は撃鉄を戻して拳銃を脇のホルダー収めた。

過信でも慢心でもなく仮にこちらが攻撃の意志がないと油断させてから不意打ちしようとしても、こちらが動く前にそれより早く撃ち抜くいう絶対の自信があっての行動だ。

 

「恋人か?」

「雇用主と従業員だよ」

「……娼館かキャバクラどっちだ?」

人探し(マンサーチャー)

 

普通なら色ボケし過ぎとツッコミを入れたくなるが、魔界都市や東京キングダムやアミダハラでは行方不明者が働いてた職業に水商売はよくあるのでそんなに変な質問ではない、さらにいえば行方不明になって水商売をやるのはもっとよくあることである。

 

「元対魔忍の人探しか珍しい」

「対魔忍出身とわかるんだ?」

「あんなピッチリスーツで機械や近代兵器を使わず、能力を使う人間は対魔忍ぐらいなものだ」

「ですよねー」

 

米連の強化人間もピッチリした服を着てるが大体機械などで補助したり、近代装備を駆使するので人間なら対魔忍に消去法でなる。

魔族? そもそも人間ではないが服装に関してはピッチリした服どころか服着ろよレベルの痴女とかいるので流石に対魔忍も比べたら怒る、もときからしてみたら五十歩百歩だと思うが。

 

「それでさくら、その女の子は研究室にいると聞いたけど行き方は?」

「……知っていても、言うと思うのか?」

 

もときは懐から再び何かを取り出し東郷に渡す、これまたアミダハラに行った時にナンパされて押し付けられたキャバレーの特別サービス券である。

 

「――普通の方法では無理だ、魔術的な『鍵』がいる」

「魔術的な『鍵』ね」

 

もときの妖糸でも隠し部屋の察知ができないのでそんなことだろうと思ったが……。

 

「その『鍵』は持ってる?」

「外に追い出されてる有様で持ってると思うか?」

「うーん、使えない」

「俺の仕事は外に出ようとする『作品』の処理だ、別に必要ない……」

「でもその仕事を娼館行ってサボってたよね?」

「だってさっちゃんの初仕事の相手になりたかったんだもん」

「『もん』っていうなキモい」

 

パチッと薪が弾けて焚き火から舞い上がった火の粉がひらひらと地面に落ちた、庭が火事にならないのかと視線をずらすと横に水の入ったバケツが置いてあった、気の回る男である。

ふと、水道はどこかなと気になって周りを見渡すと庭の一角に墓があることに気づく。

佐兵衛が古い館を買い取ったといったが、その墓石を見るとそんなに時間が立ってないように見える。

 

「……あの墓は?」

「あぁ、藤曲夫婦の息子の墓だ」

「はぁ」

「数年前に事故でなくなったという話だ、この館は息子を海の見える場所で眠らせてやりたいとの思いで購入したらしい」

「へぇ」

 

海の見える屋敷というが魔界の『門』がある、アミダハラ近辺をわざわざ選ばなくてもいいと思うのだが。

 

「『鍵』は何処にあるか、心当たりは?」

 

手持ちのピンクなサービス券を全部渡して聞いてみた。

 

「……なんでこんなに持ってるんだお前?」

「全部貰い物、未成年にこんなに渡されても困るので処分できるしそちらも貰って嬉しいWIN-WINな取引でしょ?」

 

東郷は券を確認して「おっ、高級店のがあるな」「……ウッソだろ、あの店の人気No1嬢の一日指名券だと!?」と興奮していた。

 

「確認は後でゆっくりして、『鍵』の場所教えて」

「ハァ…ハァ…、ふぅーーーーーーーーーー、いいだろう(キリッ)」

 

何やら格好つけているがすでに色々手遅れだった。

 

2、

「書庫にあるってこれ、さっきので入れない」

 

魔術関連の道具は書庫にあると聞いて部屋に向かうと、本棚が倒れこんでいるのか入り口が開かない。

しかし、あれだけの騒ぎで佐兵衛はともかく奥方ともうひとりの使用人が出てこないのはどうしてだろうか?

 

「「「……う…うぅ…あ・・・・・・ぁ…あ…」」」

「ん?」

 

声に振り向くと、肉体が腐り果て目が白濁した佐兵衛老……ではなく動く死者(ウォーキング・デッド)が複数いた。

 

「犬の次はゾンビか、植木鉢から緑や赤い薬草を採取して調合したほうがいいかな?」

 

白く濁った目にはもときの指から放たれた極小の光は見えなかったであろう。

仮に見えていたとしても次の瞬間に自分の五体がバラける光景が見ることになるなら、見えていないほうが幸運かもしれない――そんなことを思う知性は再び動かなくなった死者はもっていない。

『すでに死んでいる死者は殺せない』というが、特別な『技』をつかうまでもなく無力化出来たようだ。

 

「黄金の右足で踏み砕いといたほうがいいかなー、しかしなんだね泊めるとか言っといて食事以降もてなす気ないよね」

 

 

死後を弄ばれる哀れな亡者を悼む感情など最初から持ち合わせていないような口ぶりである。

 

トゥルルルルルル、トゥルルルルルル

 

「はい、もしもし」

 

懐に入れていた携帯電話からの着信に液晶を見ると非通知とでている。

構わずでると、電波が悪いのかノイズ混じりで途切れ途切れの声がした。

 

「……か…ぎ……しょ……こ…まど………た」

「もしもし?」

 

ブツッと音がして電話が切れる、見るとアンテナは立っていなかった。

 

「ファンの一人かな? サイボーグ忍者に心当たりは……」

 

両腕に義手と両脚に義足をつけたピンク色のピッチリスーツを着た米連に所属する元対魔忍を思い出した。

 

「そういえばいたな、いま電話したのとは間違いなく別人だけど」

 

幼い子供の声であった――書庫の窓の下と聞こえたが?

他に当てもないので館の外に出て見ることにした。

 

 

「本? ……これが『鍵』かな」

 

月明かりだけが大地照らす館の裏庭にでると二階にある書庫の窓の下に散乱した紙片と本棚の残骸と思わしき木片、そして一冊の本が落ちていた。

記憶が正しければ執事の山岡の側に落ちていた本である。

 

本を拾い上げ移動して館の入り口の灯りの下で地上に美しい影を投影しながらもときはページをめくり書に目を通してみる、ラテン語でなにやら死者がどうやら秘術がどうやら、神がどうやらと書いてある、すぐに閉じた。

 

短時間流し読みしただけで目眩と吐き気がしてくる……。

本にタイトルは書かれていない。

 

 

「――魔導書の写本か、アミダハラなら手に入るだろう」

 

『鍵』は手に入った、次は鍵穴を探して扉を開くとしよう。

東郷は『鍵』の存在は知っていても研究室の具体的な場所は知らないと言っていた。

研究室へは目隠しをされたうえ何らかの薬をのまされて意識を失った状態で連れて行かれたそうだ。

夢うつつだが上に昇っていた気がすると言うので恐らく二階の何処かであろう。

 

『鍵』である魔導書がおいてあり、入れなくなった書庫を除くと二階の部屋は、寝室、客室、美術室、ダンスホール、娯楽室。

客室はすでに調べてあるが『鍵』があればなにか違うかもしれない。

 

 

そして時間は冒頭に巻き戻る。

 

「んほぉぉぉぉぉぉぉ!だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!ばかになっちゃうのほぉぉぉぉぉぉ!」

「これは酷い」

 

淫獄都市ブルース<深者の章 完結編>に続く。




ふー、 ノルマ達成したぜ!
完結編とありますが、まだまだこの話は続きます


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淫獄都市ブルース<深者の章 完結編>(長編)

前回までの淫獄都市ブルース<深者の章 後編>

深き者たちと戦い『藤曲邸』に戻り会食を終わらせ探索を始めた秋もとき。
館の執事と使用人の魔の手を辛くも逃れたもときは新たな謎の襲撃者により陥った窮地をオーク、東郷に助けられる。

東郷から井河さくらのいる研究室に行くために必要な特殊な『鍵』の存在を聞き、探索を再開すると屋敷は死者が闊歩する魔境と化していた。
謎の声に導かれ新たなる道へと続く『鍵』、禁忌に至る叡智を求むものだけが読むことを許される魔導書の写本を入手する。

異界へ続く扉を探し当て開いた先にいたのは探し求めたさくらであったが、脅迫的で名状しがたい悪夢の牢獄のような肉壁に取り込まれた彼女は助けに来たもときを認識することすらできない淫獄に沈んでいた。
淫猥な喘ぎ声をあげ続けるさくらが狂気に染まる前にもときは彼女を救い出せるのか?


鍛治の神が白金を削り出したような美しい指先から伝わる切断の意思を1nm(ナノメートル)のチタン鋼の妖糸は忠実に反映して深き者たちの両目を切り裂いた。

世界を呪う怨嗟の呪文とでもいうべき呻く声は苦痛の絶叫に変わり、叫び声をあげて開かれた口から忍びこんだ糸によって頭部が両断された。

 

「んほぉぉぉぉぉ! わらひこわれるのぉぉぉ!」

「……帰りたくなってきた」

 

死体を操り高速移動する魔犬への障害物としてぶつけて動きが止まった隙に首を落としたもときはさくらの嬌声をBGMとして聞いたことにより自分のやる気がだんだんなくなるのを感じていた。

 

もときは魔導書により作動した館の仕組みにより美術室から続く隠し階段を降りて研究室と思わしき異界としか言いようのない(おぞ)ましく脅迫的で名状し難い場所でさくらを見つけて、どうやって肉塊に取り込まれ状態から解放するか考えていた最中に襲いかかってきた敵の軍勢を倒しつづけていた。

 

数頼みの力押しの相手など対処方法がわかっている現状、もはや敵ではないが周囲の邪悪な狂気に溢れる空間で知人の喘ぎ声を聞きながらの長時間の戦闘は流石に気が滅入ってくる。

 

「しかし良く考えると対魔忍的にアヘらなかった今迄が狂っていたのか? うーん対魔忍とはなんだろう……」

 

狂気の混合光を浴びながら妖糸で敵に死を与えるもときの美しき姿は泥にまみれても決して汚なき輝きを放つ宝石の様に揺るぎなく。

悪夢の様な光景の中でも熟練の指揮者が指揮するオーケストラの様な荘厳さを生み出していた。

流れている曲は鎮魂歌(レクイエム)に違いない。

 

「怪物を殺す怪物か」

「ん?」

 

さくらの嬌声以外の声が聞こえたので糸を振るいながら声の方を向くとカメラやマイクもないがどういう方法かこちらを監視しているであろう藤曲佐兵衛の声が聞こえた。

 

「ああ、どうもこんばんわ」

 

飛び込んできた魔犬を空中に張った糸罠で真っ二つにしたもときは場違いとも言える呑気な声で挨拶をした。

 

「この世のものとは思えん恐ろしい程の美しさだと思っていたが、本当に恐ろしいのはその美貌を一切傷つけずに生きてられる強さの方とはな」

「はぁ」

 

迫りくる死者の群れをスパスパとぶつ切りにしながら気のない返事を返す。

その手の賞賛は今日は天気がいい、悪いという話題くらいに聞き慣れているからである。

 

「『これ』どうにかしてくれません? 一応客人だと思うんですが僕」

 

粘液まみれの深き者の体に糸の先端を束ねて突き刺し(、、、、)体内に入った糸で体表を引き裂き、溢れた血で粘膜が流された部分にすかさず斬撃を放ち切断しながらもときは頼んだ。

 

「ふむ、妻が勝手に呼んだ客とはいえそれもそうじゃな」

 

そういうともときを囲んでいた敵の群れは部屋から出ていき、もときとさくらだけが残された。

 

「らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ビリビリきちゃうのぉぉぉぉぉ!」

「……ついでにこれもどうにかなりません?」

「それはさすがに無理じゃのー」

 

相変わらずのアヘ顔で叫び続けるさくらをもときは嫌そうに見ながら頼むがさすがに断られた。

 

「というか年頃の男が痴態を晒してる女を見て何も思わないのか、ん?」

「んー」

 

そういわれて視線を横にずらす。

 

「んほぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁ!イッぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

さくらがビクビク痙攣しているのを見て視線を元に戻した。

 

「……ないわー、もしかしてこういう特殊プレイが好み?」

「いや、ないな(キッパリ)」

「誰得な光景なんだこれは……」

「この手のジャンルは好き嫌いがはっきりわかれるが需要はあるじゃろ」

「ほんとぉ?」

 

周囲に腐った人間と魔獣と深き者の死体が積み重なり腐臭と死臭が漂い、有機物か無機物かすらよくわからない謎の物質で構成された装置に囚われてヨダレや涙まみれのだらしない顔でアヘってる少女という、冒涜的な光景で興奮したら多分それは変態を通り越して邪神の眷属よりの感性ではなかろうか?

 

「特殊性癖じゃないならなぜこんな真似を?」

「その対魔忍の娘は儂の周りを嗅ぎ回るだけでなく暴れまわって研究の妨害をしたからな、新たな同胞たちの母体になるべく調教中じゃ」

 

捕まった後のR-18禁な調教は対魔忍の伝統である。

深き者と直接的な家族計画までいってないが準備中であった。

 

「うちの子がすいません、後日反省文を書かせるので連れて行っても?」

「駄目じゃ」

「うちの子がすいません、後日反省文を書かせるので連れて行っても?」

「いいえ」

「うちの子がすいません、後日反省文を書かせるので連れて行っても?」

「いいえ」

「うちの子がすいません、後日反省文を書かせるので連れて行っても?」

「いいえ」

「うちの子がすいま「しつこい!?」 ……ちぇー駄目かー」

 

某国民的RPGの選択肢ループ作戦は通じなかったようである*1

 

「そもそも何かしてもらうのに対価もなしとかありえんじゃろ」

 

ぶぅ…じゃなく、ぐぅの音も出ない正論である。

 

「未成年を拉致監禁して調教してる人に一般論をいわれても」

 

――もっとも普通の一般人でなく逸脱人に言われても説得力はなかった。

 

「対価ねー、……僕の自撮りブロマイドとか」

 

あまりの美貌にカメラマンが凝視すると恍惚とするため目を閉じてシャッターをきったり、自動で撮ってもカメラさえピントが狂いピンぼけや見切れていたりしてまともに写真が撮れないので秋もときのブロマイドはレア中のレアである。

 

「いらん、その美貌は大変興味があるが手に入れるならブロマイドより本人をホルマリン漬けにして保存した方がじっくり見れるわい」

「うへぇ」

 

冗談で言っている目ではなかった、悲しいことにこの目で自分を見られるのは初めてではないのですぐわかってしまうのであった。

 

「まあ茶番はここまでにしといて、さくらがここに来て妨害した研究とは一体何?」

 

その質問に佐兵衛は闇より濃い漆黒の深淵に染まった目で答えた。

 

「―――大いなる『クトゥルフ』の降臨じゃよ」

「…………それはそれは大変な目的なことで」

 

『クトゥルフ』とは『クトゥルフ神話』と神話体系の名称に冠せられるほど代表的な神性である。

 

そ宇宙から飛来した異生物『クトゥルフ』の名前は、本来、人間には発音不能とされ、その呼称を便宜的に表記したものである。

本来人間には発音不能な呼称を便宜的に表記したものであるため、日本語では『クトゥルフ』、『クルウルウ』、『クスルー』、『トゥールー』、『チューリュー』、『九頭龍』など様々な呼び方がある。

 

遥かな昔、眷属と共にゾス(Xoth)星系から飛来し、地球に降り立ってムー大陸を支配した。

ラヴクラフトの小説『狂気の山脈にて』では、『クトゥルフ』の一族は、同じく宇宙から飛来してきた『古のもの』や『イースの大いなる種族』らと当時(約3億5千万年前)の地球の覇権をめぐって争っていたという。

やがて星の位置が作用する霊的な干渉により古代石造都市『ルルイエ』と共に海底に没し、『クトゥルフ』は深き眠りにつくこととなった。

 

H.P.ラヴクラフト著「クトゥルフの呼び声」にて初めて登場し、眷属である深きものどもに崇拝されている様は、「インスマウスを覆う影」でみることができる。

 

『死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり』

という有名な一説があるがこれは死せる『クトゥルー』が封じられ、夢見ながら再浮上を待つ『ルルイエ』は星辰が正しい位置についたとき、『クトゥルー』は目覚め、『ルルイエ』は再び浮上すると伝えられていることをさす一節である。

 

ロバート・ブロック著「アーカム計画」によるとルルイエ浮上状態では「時は止まり、死が死に絶える」らしい。

端的に言えば『クトゥルフ』が降臨すれば人類が終わる(、、、)そうだ。

 

「それはわかったから、うちの従業員返してくれません?」

「なにい!? 貴様どういうことかわかっていないのか!」

「あいにく僕はただの人探し(マンサーチャー)なんでね、探した人間を連れ帰ればそれでいい」

 

世界が滅ぶかどうかという瀬戸際の話でもこの少年は我関せずの態度を崩さなかった。

世界の滅亡など起こるはずがないと思っているのではなく、自分なら大丈夫だと思っているわけではなく、投げやりになって自分を含めて世界などどうなっても構わないと思っているわけでもなくただ興味がないのだ(、、、、、、、、)

 

先程もときの恐ろしさは美貌よりもその技倆といっていたが、本当に恐ろしいのは転生前は元普通の人間だったのが後天的にあらゆる状態でも揺るがない精神性を得てしまった(、、、、、、)という事実の方かもしれない。

どのような出来事を経験すればこうなってしまうのか?

もときに尋ねたとしても。

 

「忘れた」

 

そう返されるだけであろう。

天与の美貌と他を寄せ付けない戦闘技倆を持っていたとしても、過去の思い出にとらわれるような感傷的な人間は生きていけない世界なのだ。

そんな過ぎ去った日々を懐かしむという人間らしい権利はこの世界に転生してからとうになくしている。

 

「なるほど、面白い奴だ……。 いいだろう解放してやってもいい」

「やったー」

「儂の所までこれたらな」

「解放する気ないじゃないですか、やだー!」

 

ゴール直前で鍵がスタート地点にあるから戻って取ってこいとか、それで着いても「騙して悪いが」とかいって酷い目に遭うんでしょ対魔忍みたいに、対魔忍みたいに! 騙されんぞ。

 

 

「嘘か本当かどちらにしろお主にはどうにかする手段はあるまい、言うことを聞くしかないのだ」

 

その言葉にさくらの方に振り返って体を覆う肉塊に両断の意思を込めて不可視の刃を振るった。

世にも美しい切断面を見せて体に纏った支えがなくなったことによりさくらが倒れこむ。

――だが次の瞬間に再び肉塊に取り込まれた。

 

「無駄じゃ無駄じゃ、切り裂けたことには驚いたがその程度の破損ではすぐ修復されるわい次には学習して再生効率がよくなり取り出すのは無理じゃ」

「ふーん」

 

もう一度斬撃を放つとすぐ再生してさくらの体勢を変えることすら出来なかった。

肩を竦めて部屋の入口に向かう。

 

「ん? ……まてまてまて、まさかそこの子を置いて帰る気かこの人でなし!」

「貴方が言うこと? 罠がしかけてるであろう場所にほいほい向かう程、自信家じゃないので一旦戻って準備を整えるだけだよ」

 

先程の様に妖糸が通じない可能性があるなら他の手段を用意した方がいいに決まってるよねー、そう言ってスタスタ歩くと入り口が閉ざされた。

声のする方をジト目で睨みつける。

 

「残念じゃがそれはNGじゃ、さっさとこちらにくるんじゃな」

 

そう言って佐兵衛の声が聞こえなくなる、ここから先は出口のない一方通行を行くしかないようだ。

嫌そうに顔をしかめるといつのまにか静かになったさくらの方を向く。

一瞬解放されたことにより快楽がはじけて気絶したらしい。

 

行方不明の身内を人探しとして探しに来ただけなのに、いつのまにか世界の命運に関わる事件に巻き込まれることになってしまった現状に深く溜め息をつきながら佐兵衛のいるであろう奥に向かって歩きだした。

 

 

淫獄都市ブルース<深者の章 完結編2>へ続く

 

おまけ

 

「ところでオーク、東郷は? 刺客としてこっちにこないの?」

「なにやら紙を大量に抱えてどこかに行った、どうせ娼館じゃろ腕が立って面白い奴じゃが昨日の今日でサボるのは流石に許せんクビじゃ」

「……へー」

*1
「○○してくれますね」→「いいえ」→「そんなひどい」→「○○してくれますね」と「はい」を選ぶまで繰り返すやつである




あけましておめでとうございます

異界ジェノサイダーAMK編…間違えた、淫獄都市ブルース<深者の章 完結編>始まります。

決アナが俺達の戦いはこれからだENDになりそうですねー
対魔忍RPG一本に絞るんですかね、作者がプレイしていたDMMのソシャゲが去年いくつかサービス終わりましたが寂しいものです。
対魔忍RPGは紅狙いでSR確定ガチャを属性魔性でひいたら闘技場でオリジナルレディだしたせいかスネークレディが来たりしました。

相変わらず対魔忍……どこ? な作品ですが今年もよろしくお願いします。



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淫獄都市ブルース<深者の章 完結編2>(長編)

前回までの 悪性隔絶魔界都市<新宿>-序-

神様転生をした秋いつわは、「秋せつらを偽るでいつわはないな」と思いながらその美貌の為に魔術や超能力などの異端者が集う裏社会で生きることを強いられた美少年であった。

ある日、ハリー・茜沢・アンダーソンに紹介された職場が南極大陸で人理継続保障機関フィニス・カルデアという人理を守る組織だと聞きここがFate/Grand Orderの世界だということを知る。

のちのクリプターとなるAチームのスカンジナビア・ペペロンチーノ とキリシュタリア・ヴォーダイムと交流を深める日々を送りついに運命の日を迎えた。

仮病を使いレフ教授の爆破テロからのがれることに成功するがやはりなんらかの修正力かレイシフトに巻き込まれ、燃え盛る冬木でサーヴァント相手に戦闘をする羽目になる。

命からがら逃げた先で骸骨兵と戦うマシュと藤丸立香(♀)を援護して戦闘終了後に情報交換をすると会話の中でマシュが立香への説明で、ありえない程の美貌が原因でいつわはマシュから怖がられていたという事実を知り凹む。

オルガマリーを助けることに成功し、カルデアと連絡がとれDr.ロマンの提案で戦力の増強を図るためサーヴァントを呼び出すことにするが、マスター適正が低いためカルデアからサポートが出来ない現時点では何回か呼べるが一回戦闘する程度の短時間しか維持できず宝具が使用不可と言われる、要するにフレンドなしのサポート編成である。

試しにサーヴァントを呼ぼうとするが転生させた神から「ストーリー制限でマシュは呼べないんだけど、今繋げられる平行世界はマシュをフリーに置くだけで他に登録サーヴァントなしのマスターしかいないから今回は自力で頑張って」といわれる。

自分を守るサーヴァントがいない中、原作コンビとどうにかしてこの冬木を戦い抜くしかない――この先生きのこれるのか? きのこは何も教えてくれない。


秋いつわ 混沌・中立

魔界都市の人探しをモチーフのキャラその2、『僕』よりでムッツリスケベなもときに比べると、『私』よりで敵には一切容赦しないが情が深い性格をしている、あと天然。

レイシフト適正は高いがマスター適正は低い。
マスターとして似たようなスペックのカドックには共感を抱いているが本人からは天から溺愛されているような美貌をしているいつわは嫉妬の対象であり一緒にするなと思われており、顔を見ると妬みや僻みを消し飛ばすぐらいの美貌に魅了されるためカドックからは露骨に避けられている。

Aチームのメンバーとはペペとキリシュタリアの二人以外には避けられており、逆に二人は色々と好意的に接してくるため仲がいい。
マシュからはAチームの中でもベリルと同じくらい恐れられている。

ダ・ヴィンチちゃんからはその美貌から是非是非絵のモデルにと切望されているがカルデアのスタッフからそれに集中して絶対に他が疎かになるので断れと言われているので理由をつけて逃げ回っている。
Dr.ロマンとは茶飲み友達だがお茶会の度にマギ★マリについてしつこいほど熱く語ってくることに辟易としている。


型月作品はFate系より実は月姫の方が好みで琥珀さん派。
メルブラはシオン推し、エーテライトのミクロン単位で人を操れる糸って運命を感じるとはいつわ談(扱う妖糸がチタン鋼を練金加工したものなので錬金術師のシオンに会えたらとりあえずチタン鋼のバージョンアップとかできないか交渉する予定である)
らっきょだとふじのん派である。
Fateで桜派だと回す方のノッブと推しが丸かぶりだがイリヤ派である。
らっきょコラボでふじのん、第二部でシオンに会えたら内心狂喜乱舞するであろう、もっとも顔には出ないが。

ヒロインはそれに相応しい主人公とくっつくべきという原作原理主義者なので仮にフラグが立っても、主人公のぐだがいるでしょとスルーする構えである。


タイトルが魔界都市<新宿>だと主人公は「阿修羅」という木刀と十六夜念法を使う方じゃない?というのは気にしてはいけない。

誰か書いてくれませんかね?
では淫獄都市ブルースを始めます


「デ・デ・デ・デデ・デ・デ♪」

 

もときは非ユークリッド幾何学に基づく奇怪で異様な構造の建物の中を鼻歌を歌って歩くと、時々出現する動く屍体(ウォーキング・デッド)に不可視の刃を振るいながら佐兵衛のもとへ向かっていた。

 

「しかし、なんでゾンビばっかりなんだろね?」

 

進んでいくうちにでてくるのが動く屍体ばかりなことに気付いて?マークを浮かべる。

そもそも深き者が出てくるのはクゥトルフ復活を狙うのなら、深き者たちは奉仕種族であるため協力者として戦列に加わるのはわかる。

 

ブラックドッグを改造した魔犬が出てくるのも……、まぁわからなくもない。

一部の好事家が飼うのが流行っているので「じゃあ儂も」と買って飽きたので改造するのはマッドサイエンティストだったらありえる話だ。

 

しかし動く屍体は特別深き者に関係あるわけでもなし、作ろうと思えば魔術、科学、時には忍法でも死体から作り出せると聞くのでありふれているが研究をするような特別な理由でもあるのだろうか?

 

もしかしたら「フランケンシュタインの怪物」を映画か小説で見て自分も死体を材料に人造人間を作ってみようとでも思ったのかもしれない。

 

「おや、新鮮(フレッシュ)な死体だ」

 

先程までの腐り落ちていたいかにも死体ですという動く屍体の次はぱっと見では生きた人間との違いがよくみると青白い皮膚ぐらいの死んでそう時間の立ってない動く屍体が出てきた、服装をみるとこれは……。

 

「軍服、米連かな? しかし今更だけど一応元対魔忍なのに魔族とは縁がない分、米連と関わることが多い気がする」

 

もしかしたら廃墟に来ていた部隊の人間かもしれない、今となってはただの死体、否、ただの動く屍体である。

身体を十字に絶たれてただの死体に戻った。

 

しかし芸がない、この程度の相手ならたとえ百体相手にしても、もときは問題なく倒せる。

先程の軍勢を相手にしていたのを見たならその程度の実力があるとわかっているはずだが?

 

その疑問に答えるためか、今度は新しく黒い(、、)屍体が現れた。

それは頭から指先、両足の爪先を覆う黒い戦闘服(バトルスーツ)を身に纏った屍体だった。

死体と分かるのは唯一透明な頭部から覗く顔が目玉がなくなり眼窩から闇が浮かび腐り落ちた顔面の肉は、丸見えになった頬骨にわずかにこびりついている顔だからだ。

 

装甲に十文字の亀裂が走る。

もときの天工が作り上げたような美貌が僅かに歪む、装甲と動く屍体の両方を完全に斬り裂くつもりが思ったよりもダメージが少なく装甲のみを切断しただけに留まったからだ。

 

次の瞬間に動く屍体も先程と同じ場所をなぞる様に斬り裂かれた。

鋼鉄さえゼリーの様に容易く断ち切るチタン鋼の糸に一度でも耐える戦闘服には驚いたがわずかな時間稼ぎにしかならなかった。

 

そのまま黒い死体の脇を通り過ぎようとしたもときの動きが止まった。

再び死体が動きだした(、、、、、)からだ。

戦闘服からなにやら触手が蠢き切り裂かれた箇所を縫い合わせた。

動く屍体が纏う戦闘服はどうやら修復機能があるらしい。

 

 

「死んだ後も強制的に働かされてバラバラになっても無理やり蘇生させられるとはブラックな環境だ、労基でも呼ぼうか?」

 

もう一度同じ箇所を斬りつけると嫌な手応えがした攻撃する前より頑丈になっている。

大きく振りかぶってこちらに殴りかかってくるのを避けるとそのまま壁に拳があたりクレーターができた固くて頑丈で力持ちというわかりやすい強さだ。

 

もときはそのまま横を駆け抜けて逃げることにした。

ボスとの強制戦闘以外は逃げて戦力を温存するのはゲームでもよくある敵地でのサバイバルの基本である。

 

「ええーい、まともに戦わんか貴様、それでも男か軟弱者!」

「そうだね、プロテインだね」

 

どこからか佐兵衛の声が聞こえるが無視する。

逃げるという行為はジョースター家でも伝統として使われる立派な戦術の一つである。

ゲームと違って移動するとそれだけ疲労するのだ、避けられる戦いをわざわざ戦わなければいけないという決まりはない、戦わないのも勇気です。

 

元々が死体だからか戦闘服のせいか動きが鈍いためそのまま無視をして駆け抜けた。

次の区画へ続く扉を見つけそのまま開く看板に何を書いてあったがよく見てない。

 

「ふぅ、一休み」

 

ちらっと扉を開けて後ろをみるとだいぶ先程の敵から距離を稼ぐことに成功した、普通に歩く程度の速度でしかこれないらしい。

随分古典な動く屍体だ、兵器として使うのには少々問題ありである。

 

「最近では走り回るせっかちなのが多いがやはり動く屍体は走り回るより「うーぅー、あーぁー」(うめ)いて迫る方がいい、そこに美学と浪漫(ロマン)があるんじゃよ」

「ゾンビ映画マニアじゃないんでゾンビに浪漫(ロマン)を求められても、襲われてる方からするとどうでもいい」

 

佐兵衛の声はTVで見たヒーローの活躍を話す少年のようにキラキラした声をしているが、現在進行系でリアルホラー作品の世界でサバイバルをしているもときからすれば『そんなことより早く帰って寝たい』としか感じなかった。

開けた扉を閉めようとしてそういえばなにか書いてあったなと看板を見る。

 

『廃棄所』

 

入った先には『なにも』なかった、ただ白い空間が広がっていた。

いやよく見ると壁にぽつんとスイッチがあり、床は中心に向かって窪んでおり部屋の中央部には何やら溝がある、恐らくスイッチを押すと床が開くのだろう。

『探り糸』を放って溝の下を探ってみた、次に糸の反応に目を開く先端がなくなったのだ。

 

「んん? これって」

 

ドバンッ! と扉が吹き飛ばされた。 

妖糸で扉が開かないように固定していたのだが見事なパワーである、館の主人も壊された扉の修理に頭を抱えることであろういいぞもっとやれ。

ゆっくりこちらに迫ってくる歩く屍体をみてゆっくり後ずさりをする、徐々に後ろに下がっていきついには部屋の壁に背が当たった。

 

「ぽちっとな」

 

歩く屍体が部屋の真ん中に到達した瞬間に糸を使い壁のスイッチを押す。

次の瞬間部屋の中心が割れてそこから液体が噴出した。

バランスを崩して倒れた動く屍体は液体を浴びて黒い戦闘服が溶解し、腐った身体がむき出しになり地面から伸びた触手に引きずり込まれた。

 

どうやらこの部屋の下にいる『モノ』は生物以外を溶解する液体を噴出してそれを浴びて裸になった生物を捕食するらしい。

もう一度スイッチを押して床を閉じてから部屋を出た。

――ゆっくりこちらに向かって歩く黒い人影を複数見かけたので部屋に引き返してスイッチを押した。

 

「……あれ?」

「同じ手段で倒すのは見ていてつまらん、自力でどうにかするんじゃな」

「こんにゃろう」

 

スイッチを押しても何も反応がないことに訝しむと声がかかる。

もときはイラっとした、TVのバラエティ番組気分で弄んでいる。

気配を感じて視線を向けると部屋に黒い戦闘服装備の敵が四体入ってきた。

 

「何度も出してきて恥ずかしくないんですか?」

「大丈夫じゃ、問題ない」

「神に言っている、僕を救えと」

「残念だがその願いは神の力を超えている」

「使えないなぁ神……」

 

コントをやってる内に迫ってきた黒い動く屍体が攻撃を仕掛けてきた。

そして無抵抗のまま黒い動く屍体(、、、、、、)が殴られ大きく吹き飛んだ。

 

「なにぃ!?」

「やっぱり困った時は神頼みよりも近くの他人が頼りになる」

 

秋もときは影までも美しい美貌を表する『美影身』という二つ名の他にもこう呼ばれる、

『死人使い』と。

わずか1nm(ナノメートル)の不可視の糸は戦闘服の隙間から入り込み死体でさえも生前以上の動きをする操り人形(マリオネット)に変えることが出来るのだ。

 

戦闘服と妖糸の相乗効果により強化されたもときの操る動く屍体はあまりの力に自身をも破壊しながら他の三体の動く屍体を戦闘服ごと粉砕した。

そしてそのまま自分自身を殴りつけ戦闘服を破壊して動かなくなる。

 

「ステージクリア」

 

もときはそう言って次の場所へと歩き出した。

 

2、

扉を開けると潮の香りが広がった、闇に染まる黒い水面がもときの視界一面に広がっている。

 

「海?」

 

周囲を見渡すと岩礁地帯にいくつか船の残骸がある、館の近くは確かに海だったがこのような場所はあっただろうか?

空を見上げると赤い月(、、、)黄色の月(、、、、)が今にも落ちてきそうだ。

後ろを振り向くと扉が空中に浮かんでいた。

 

「なるほど」

 

どうやらここは異空間の中らしい、次の道はどこにあるのだろう。

 

「海を渡った先じゃよ」

「思うんだけどこんな構造じゃ利用が不便じゃないの?」

「儂は行きたい部屋までのショートカットが使えるんでな、これも次元連結システムのちょっとした応用じゃ」

「木ィ原くゥン、それ僕も使いたいんだけど」

「悪いな……ザザ…び太…これ…一人乗り…ザザ…ん…ザ…じ……」

 

突然佐兵衛の声にノイズが走る、通信不良だろうか?

とりあえず船の残骸に行って使えるものがないか見てみることにする。

 

 

時間が経って腐敗しきって白骨化した死体に混じって、まだ数日程度の死体を見つけた。

死因は拳銃を口に加えての自殺のようだ。

装備からして米連部隊の者だろう、近くにアタッシュケースと装備が落ちていた弾倉にはまだ弾薬が入っている。

対魔族用のHEAT弾だ、これなら深き者相手でも通じるだろう。

 

見たところ大きな怪我もなく、弾切れしたのならともかくまだ弾がある状態でなぜ自殺を?

顔を見ると恐怖に染まりきった表情をしている一体何を見たのだろうか……。

 

他に何かないか死体を調べると軍用タブレット端末を見つけた。

幸いなことにロックしてない、機密情報を気にする余裕はなかったようだ。

或いは気にしてもしょうがない相手だからかもしれない。

 

データを読み取るとどうやら米連がスポンサーとして佐兵衛に出資していたらしい。

魔犬やゾンビは生体兵器として作られたもので米連に納める予定だったのを佐兵衛が突然拒否した為、佐兵衛を殺害し兵器の回収を目的に来たようだ。

 

「ゾンビに戦闘服着せて戦わせるか、確かに米連らしい発想」

 

命令に忠実な不死の軍団を欲しがる国はいつの時代も必ずいるものだ。

アタッシュケースを開こうとするとこちらは鍵がかかっていたが妖糸で鍵を切った。

中身をみると絶句した、記憶が正しければこれは……。

 

「みんな頭がおかしい、正気なのは僕だけか?」

 

呆れてアタッシュケースを閉じる、さてボートを用意しよう一人乗りでいいが水や食べ物も欲しいがあるだろうか?

海を渡るなら船外機付きのボート、電動でもいいが理想をいうならガソリンエンジンが欲しい。

 

その時、突然、もときはそれを見た。

水面をわずかに波立たせて浮上してきた『それ』は、暗い水面を出て、視界に滑りこんできた。

ポリュフェマスのように忌まわしいその巨人は、悪夢に出てくる恐ろしい怪物のように、巨人は醜い頭を垂れて、ゆっくりした一定の声を発した。

目撃したもときの視界が暗転し、船内の床に横たわる死体の上に倒れ込んだ。

 

 

淫獄都市ブルース<深者の章 完結編3>へ続く。




この度、お気に入りが2000に一時的に到達しましたありがとうございます。
UAも十万に達しますし拙作ではございますが、今後もよろしくお願いします。
ではまた次回お会いしましょう。

(このペースだと完結篇が5以上いってしまうマズイ……)


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淫獄都市ブルース<深者の章 完結編3>(長編)

前回までの『傭兵VS屍操術師(ネクロマンサー)-終末世界の七日間戦争、童貞たちへの鎮魂歌-』

世界を襲った未曾有の大災害により人類の総人口は激減し死者が闊歩することになった未来。
死者を操る能力を持つネクロマンサーと呼ばれる異能者たちが世界を支配していた。

この世界で生きる男、本郷(童貞)は屍食鬼(グール)という二つ名を持つ傭兵である。
幼い頃に死者災害によって両親と妹を失った本郷は歩く死者たちを葬り去るため日々死者を狩り続ける傭兵になった過去を持っていた。

ある日、かつて家族を失った災害があるネクロマンサー達が人為的に起こしたことを知る。
異能者に対抗するために得た力の代償に身も心も削り尽くした体に残された時間はわずか七日間。

仇は五人。

終末世界に轟く銃声は自らを死地に誘う開幕の号砲なのか?
それとも眠れぬ死者へ送る弔砲 なのか? 
傭兵と屍操術師たちとの最後の七日間が始まる。


多分、途中でギャングと宝石を巡って戦ったりゾンビになったサメとかと戦ったりして、最後はヒロインを日常に戻すために最後の命を振り絞って自爆して敵と相打ち。
エピローグはヒロインが主人公の墓参りEND

今回はあらすじ二本立てだよ !

▼淫獄都市ブルース あらすじ

秋もときは美人でスタイルがいい剣術使いの先輩とそんな姉を持つ友人とついでに貧乳褐色雷撃娘の三人幼馴染がいるがとある事件で疎遠になっていた超美形の転生者である。

そんな状況だが学園でエロエロな美人、美少女(あと♂)に無意識のニコぽでキャーキャー言われていたというライトノベルの主人公を通り越して属性盛りまくりのエロゲの世界の主人公境遇だった、……そういうギャルゲー方面に行くかもしれない時期がこの話にもありました。
だがそうならなかったんだよ、それでこの話は伝奇バイオレンスになったんだそれだけの話だよロック。

ある日、最強対魔忍の校長アサギに学園を追放されて平行世界から来たボンキュボンの能天気影使い娘と同居しながら東京キンダムで人探しの仕事をしていた。

しかしそんなもときに
「イチャラブなにそれ? いいからバトルしろよ」
といわんばかりに行方不明になり拉致監禁からのアヘ顔調教されている助手を救う為に現在はゾンビみたいな爺さんの館でホラーな敵と戦いを繰り広げ謎の巨体な影を直視したために意識を失ってしまったのであった。


Qなんでこんなあらすじを書いたイカれているのか?
Aああ、窓に! 窓に!

狂った文章を中和するために淫獄都市ブルースはじめます。


「おい、起きろ色男!」

 

闇に落ちた意識が怒鳴り声で浮上して、自身の身体が縛られていることに気付く。

指を封じてないので糸でどうにかなるのだが、情報が行き届いてないのだろうか?

目をつぶったまま『探り糸』をこっそり放つとどうやら先程までの廃船から洞窟の様な場所に運ばれたらしい。

 

「あと五分……」

「ベタベタな寝言いってるんじゃねぇぞ!」

 

様式美のわからん相手である粗暴な性格を表したような声でユーモアがないとはさぞモテなさそうな顔に違いない。

どんな顔をしてるか見てみるかと思い目を開くとそこにはカンテラを持ったカエル顔をした背の低い男が居た。

 

「『カエル顔に起こされることから始まる神様転生』」

「何ほざいてんだテメェ!」

「『僕を起こすのが幼馴染じゃないなんてありえない』の方がいい?」

 

ライトノベルのタイトルみたいな事を言いながらもときは縛られたまま、よいしょと身体を起こす。

 

「それで何か御用? 人探しの依頼なら名刺がポケットに入ってるからそこに書いてある連絡先にどうぞ」

 

あまりにも人を喰ったような発言に腹が立ち、男の短絡的で粗暴な思考回路から痛めつけるという答えを導き出したが、近寄りもときの顔が暗闇からカンテラで照らされたことにより、見えるとふにゃと陶酔して思考が桃色に包まれた。

 

話には聞いていたが直接目視するとその美貌がもたらす効果があまりにも絶大すぎた、もときの容姿は男女問わず作用する甘美すぎる猛毒なのである。

防ぐのには常人離れした克己心が必要なのだが安易な暴力に走るチンピラ程度の精神構造では耐えられるはずもないのであった。

 

もっとも対策があっても怪異に慣れきった魔界都市の人間でも目蓋の裏から美貌が浮かんで離れず何も手に付かない状態になり一般人なら三週間、特殊な職に就いてる人間でも復帰に三日はかかるので無理もないのだが。

ここまで美貌が突き抜けるともはや武器の域である。

 

なにはともあれ相手が見慣れた状態になったのを見て、「しめた」ともときが思ったのかどうかはわからないが天与の武器を活かすべく情報収集を開始することにした。

 

「それでここはどこ?」

「あ…う……」

「もしもーし?」

 

魅了されて茫然とするのは反応がなんだか違うがどうしたのだろうか。

 

「『壊れた』のね、即席の刷り込み教育しかされてない精神熟成では貴方の顔は劇薬すぎたのよ」

 

声に振り返ってみるとバイザーをかけた佐兵衛の妻、美沙子がいた。

暗闇でそんなものをかけるとカンテラ程度の明るさではボンヤリとしかものが見えないのでもとき対策であるのは間違いないだろう。

 

「今晩は、夜会の誘いですか?」

「素敵ね、でもお疲れの様子なのでそれはまた今度にしましょう」

 

薄く笑う美女の背後には使用人の亜門が控えていた、こちらは素顔でこちらを薄っすら顔を赤らめながら睨みつけている。

常人離れした克己心を持っている様だ、立ち振る舞いに隙がない、なにか特殊な技術を習得している人種の人間らしい。

 

「ところで刷り込みって? 生えてくるとか用心棒が言ってたことと関係が?」

「ええ……、山岡と毒島は主人の実験によってどうあがいても死ねないの(、、、、、)

「はぁ」

「正確に言うと死亡した場合死体が消滅して別の身体に生まれ変わるの、外見は変わらず別人としてね。 外見も昔はあそこまで醜くなかったのよ?」

 

死んだ瞬間に記憶のないコピーが作り出される、あのカエル顔はその代償だというのか、しかし……。

 

「何故そんなことを?」

「八つ当たりよ、馬鹿な話だわ……頼み事があります」

 

僅かな逡巡を含んで溢れた言葉には暗闇の中でバイザーで目を覆って顔がほとんど見えない状態でありながら、声だけで隠しきれない悲壮な決意を感じさせた。

 

「夫を止めて欲しいのです」

 

2、

「はぁ」

 

悲壮な美女の嘆願にもときは気の抜けた声を出し、後ろの使用人が睨んできた。

 

「僕は人探しであって、世界が滅ぶのを止めるとかそういうのは対魔忍の仕事ですよ」

「元対魔忍だと聞いたけれど?」

「はぁ、まあ確かにそうですけど誰に聞いたんです?」

 

長い夜で時間間隔が狂いそうだが会ってまだ一日と経っていない。

 

「貴方が助け出そうとしてる子よ、捕まる前に話したのだけど自慢げに貴方のことを話していたわ」

「守秘義務ェ……」

 

人様の個人情報を何故ペラペラしゃべるのかコレガワカラナイ。

べ、別に影で女の子に褒められてもう嬉しくないんだからね!

……いやほんとに。

 

「もしかして、同じことをさくらに?」

「……ええ、正直言って後悔してるわ」

「なんとまあ」

 

それでオーク、東郷にやられて捕まったと。

対魔忍は銃弾を正面から躱せる身体能力を持つため銃火器を軽視する傾向がある。

風俗狂いのオークがまさか射撃の達人とは思わず油断したのだろう。

正直自分も目の前で見なければ信じなかったが。

 

「捕まった原因の私を恨む?」

「いや別に。 安請け合いした本人のせいですし、本人も気にしてないと思いますよ」

 

騙すつもりで頼んだのでないようだし、今回は本人の実力不足が原因なので恨むのは筋違いというものであろう。

もっとも大きな口を叩いて本職と関係ない事件に首突っ込んで失敗したさくらの減給は確定である。

……よけいなことに巻き込みやがってと恨んでないよホントダヨ?

 

「…………はじまりはよくある出来事でした」

「あのー」

 

引き受けるとは一言も言っていないのに目を閉じて語り出した美沙子に声をかけるもとき。

……スルーされた、さすがゾンビ爺の妻をやっているだけあって肝がすわっており図太い。

 

「息子が死んだのです」

 

その平静を装った声の響きにはいまだに隠しきれない悲しみが残っており、いまだに過去の傷が癒えていない証左であった。

 

3、

「お恥ずかしながら私とあの人は金銭目当ての政略結婚でした。 資金があっても成り上がりゆえに家格のないあの人と、格式がある名家で現在は資金がない我が家はちょうどいい相手同士でした。 私は実の父より年上のあの人に嫁ぐことになったのです」

「はぁ」

 

確か佐兵衛と三十歳以上離れていたはずだ、親と子を超えて下手をすれば祖父と孫ぐらいの年齢差がある夫婦である。

 

「当然うまくいくわけもなく正直干物のようなあの人の身体に抱かれるのは苦痛でしかありませんでした。 しかし愛がなくとも子はできるもの、やがて私は一人の男児を身籠りました。 

子は(かすがい)とはよく言ったもので冷めきった夫婦中でしたが二人で子供の世話をする内に情が芽生えてようやく私と夫は夫婦と呼べる関係になったのです」

 

そう話す美沙子の表情は慈悲深い母のそれであった、しかし月に叢雲、花に風、次の瞬間にはその表情が陰っていた。

 

「あの子が4歳になってそう日の経ってないある日のことです。 夫は用事で家を出かけていて門土はその護衛に、私は執事の山岡と使用人の毒島が子供が散らかしたものの片付けをするという申し出を断り、代わりに息子が外で一緒に遊ぶ係を任せていました。 

……わずかに目を離していた隙に起きたことだそうです、たまたま庭においてあった梯子で木登りをしようとした息子が足を滑らせて頭から落ち、打ちどころが悪く二人が見つけた時にはもう……」

 

そういった彼女の目には光るものがあった、その美しい顔から滴る雫がぽたぽたと洞窟の床を濡らし続けている。

 

「……事故だったのです、どこにでも起きうる悲しい事故。 私は大いに嘆きました、しかしそれ以上に夫は深く嘆きました」

「…………」

「年をとってからできた子供だからか、冷めた私との夫婦生活に明るい灯火となって温もりを与えてくれたからか、あの人は私以上にあの子を溺愛していました」

 

確かによくある話だ、しかし当人達にとっては耐え難い出来後であろうことから流石にもときは口を噤んだ。

 

「悲しみに暮れてただいつしか時間が癒してくれるのを待てばよかったのです、しかし……」

「――――そうは思わなかった、旦那はただの成金じゃなくて天才、藤曲佐兵衛だったから」

「……はい」

「なるほどクゥトルフの降臨が目的とか言ってたけれど本当の目的は『死者の蘇生』か」

 

一般に死者の蘇生は古来より不可能とされている、生あるものに不死をもたらす方が余程簡単だ。

生から死のプロセスは不可逆の一方通行なのである、一部の例外を除いては(、、、、、、、、、、)

 

対魔忍世界の天才である魔科医の桐生 佐馬斗も成功しているし、死者の蘇生が研究課題だというドクター・メフィストも本人は不可能と言っているがそれは謙遜で実際には三十分以内であれば黄泉の淵から引き戻すことができる。

確かに不可能ではないのだ死者の蘇生は、しかしいかに天才とはいえそう簡単にできることでもない。

ましてや時間の経った状態での死者蘇生は。

 

なにせ出来ないことが殆ど無いといっても過言でもないドクター・メフィストでさえも限定的な状況に限っての死者蘇生が限界で、完全な死者蘇生はそれこそ医神と呼ばれるギリシア神話のアスクレピオス等の神話の存在ぐらいしか達成してない程だ。

日本神話やギリシャ神話でも黄泉や冥府まで降り立って引き戻そうとして失敗したエピソードがあるし、その手の失敗談は語りだしたらキリがないほど世界中にその手の話は溢れている。

 

「わからないのがなんでそれでクトゥルフ降臨とかいうことに繋がる?」

「……ご子息を失った旦那様が手に入れた魔導書が原因だ」

 

美沙子の後ろで待機している門土が後を引き継いで話を始めた。

 

「魔導書? 深き者達について書かれている魔導書といったらルルイエ文書だけど」

 

ルルイエ文書、あるいはルルイエ異本とよばれる魔導書は元々は『螺湮城本伝』*1と呼ばれる古代中国の粘土板が元になっており甲骨文字で書かれたオリジナルの粘土板は破壊されている。

しかし世界中にいるクトゥルフ信奉者に写本・訳本である漢文の巻物やイタリア語訳などが世界に広がっている。

 

内容はクトゥルフの召喚、ダゴン・ハイドラの召喚、深きものとの接触、その他にもクトゥルフ教団に必要な呪文が数多く載っているとされている。*2

 

 

「いえ、旦那さまが手に入れたのはネクロノミコン(、、、、、、、)です」

 

『ネクロノミコン』、恐らく一番有名な魔導書であろうこの本は、狂えるアラビア人、アブドル・アルハズラット*3が、730年にダマスカスにおいて書かれたアル・アジフ(Al Azif)*4『ネクロノミコン』の表題はギリシャ語への翻訳の際に与えられたものとされる。

 

ありとあらゆる魔術とその奥義、邪神の召喚と送還の両方、異星の生物、歴史、崇拝者、組織などが記されているとされる。

それ故か魔道書そのものに邪悪な生命が宿ることもあるという。『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』ではジョセフ・カーウィンが*5所有し、「時を越え」たり「地下の大軍を出現させ」たりする準備をなした。

カーウィンの所有した魔道書は襲撃によって失われたはずであったが、なぜか現代に舞い戻った。

 

また、『ダニッチの怪』では、不完全な英語版が異世界からの怪物を召喚させるために用いられ、逆にそれを撃滅するためにも用いられた。

 

ギリシャ語のΝεκρός(Nekros 死体) - νόμος(nomos 掟) - εικών(eikon 表象) の合成語であり、「死者の掟の表象あるいは絵」の意とされる、日本語での呼び方は……。

 

「死霊秘法、死者の蘇生さえ可能にする(、、、、、、、、、、、、、)魔導の奥義が書かれた本」

「……はい、この本を手に入れたのが過ちの始まりです」

 

なんだか面倒になりそうな物が出てきたなともときは顔を憮然とさせた、いや、あるいは長話に飽きていたかもしれないがそれは本人に聞いてみなければわからない。

 

「で、試してみて失敗したと」

「いえ、成功しました」

「は?」

 

成功例はそこにいます、そういって呆然と立っている使用人の毒島を指さした。

 

「――息子が事故にあった時に目を離したのが原因だと山岡と毒島を薬を使い眠ったままの状態で殺害して、魔導書の死者蘇生の記述の実験台にしたのです」

 

 

涙で目が腫れた顔の美沙子がそう言葉を引き継いだ。

 

「そして二人は生前そのままの状態で蘇生しました、会話をしていくつかの質問にもキチンと答え、健康診断をした結果、薬で眠る前のままの状態とまったく同じ健康な状態で蘇ったのです」

「へぇ」

 

そう言ってカエル顔の横顔を眺めた、しかし佐兵衛がクトゥルフ降臨とかいう世迷い言を言っているなら……。

 

「ああ、そうか。 息子さんの蘇生には失敗したのか」

「……はい、生前の息子ではなく息子の外見を持つ怪物が出来ました」

 

成功したのは大人の二人だったからか、それとも何か他に理由があるのかわからないが本命である息子の蘇生には失敗した。

 

「それからというもの夫は魔導にのめり込む様になり、屋敷にはあのカエルのような顔をした者たちが入り浸るようになりました」

「蘇生した二人も旦那様は何らかの実験で彼らと同じような生き物に変えてなにやらしていたようです」

「普通に考えるなら宗教に走ってクトゥルフ信奉者になった、と考えるところだけど」

 

果たしてそれだけだろか? どうにも東京キングダムという魔境で鍛えた人探しの勘が違うと言っている気する。

 

「お願いです、夫をとめていただけないでしょうか? 儀式は満月に完了すると言っていて、もう時間がないのです」

 

そういえば異界に入る前の月はほとんど真円だったのを思い出す、何でこうなったのかなーともときは深くため息を付いた。

 

淫獄都市ブルース<深者の章 完結編4>へ続く

*1
「螺湮城」は「ルルイエ」の中国語表記である。

*2
ちなみにこの魔導書、某聖杯を巡って戦う話に出てくる目玉が飛び出しそうな顔をしたフランスの聖女信奉の魔術師枠の反英霊が使った宝具として有名である。

*3
アブドゥル・アルハザードや、アブド・アル=アズラットと記される場合もある

*4
某「魔を断つ刃」な巨大ロボを召喚して戦うロリコン魔導探偵の相棒として出てくるのがこの本の精霊である。

*5

『イスラムの琴(カーヌーン)』の偽題で




どうもシリアスになると筆が重くなりますねー、これからキャラが死ぬのを書くのかと思うとしんどくてつい気分転換にfgo書いたりしました。
――大丈夫、答えは得た。 これからは頑張って新キャラを駆逐するよ(彼は狂っていた)
ではまた次回お会いしましょう。


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淫獄都市ブルース<深者の章 完結編4>(長編)

前回までの『マンサーチャー-僕のヒーローアカデミア-』

父親がオールマイト以上に人を救ったと言われるトップヒーロー『Drメフィスト』を持つ「僕」はヒーローの資格を手に入れて将来個性を生かしてまったりと人生を過ごすために雄英高校に通うことにした。

始まる学園生活!

「それじゃ自己紹介して貰おうか」
「名前は秋○○、個性は『アドバイザー』、トヤブーと名付けた情報収集能力のある太ったマスコットを呼べます」
「ぶぅ」

生まれる友情!

「トップヒーローやってる父親ってみんなろくでもない奴しかいないのかな?」
「とりあえずウチの親父(エンデヴァー)は間違いなく糞」

迫りくる陰謀!

「こいつはDrメフィストが手を加えた新型の脳無だ、そう簡単にやられるものかよ!」
『!?』
「そんなトップヒーローがヴィラン連合に協力してるなんて!?」
(実験データ欲しさに興味本位で手を貸したなあのヤブ)

明かされる真実!

「秋○○! 何故君が生まれたときから妖糸が使えるのか、何故母親が居ないのか、何故幼少期を思い出そうとすると頭が痛むのくわァ!」
「それ以上言うな!」
「その答えはただ一つ…」
「やめろー!」
「アハァー…♡ 秋○○!君が世界で初めて…Drメフィストに製造されたダミー人間だからだぁぁぁぁ!!
アーハハハハハハハハハアーハハハハハハハハハ!!!

「僕が……ダミー……? 嘘だ、僕を騙そうとしている…父親が女嫌いの漢好きだけど…養子じゃないの……?」
「「「同性愛者なのッ!?」」」
「そうなの(ホモカミングアウト)、てかあんたらどちらさん?」

親子の対立!

「こんな家出ていってやる!」
「夕食はいらないのかね?」
「……今日のメニューは?」
「出前だ」
「タンメンはもう飽きたんだよ!(ダッシュ)」
「……ふむ、たまには野菜ちゃんぽんにしとくか?」

そしてあの人物が登場!

「やれやれ、僕の顔をした子供をツケの代金と引き換えに探せとか無茶言うなあのヤブは」
「あ、あなたは!?」

「マンサーチャー-僕のヒーローアカデミア-」 
対魔忍アサギ決戦アリーナ5周年記念に向けて鋭意製作中!

「ところでメフィストの息子設定なのになんで名字が秋なの?」
「さぁ?」

【速報】対魔忍アサギ決戦アリーナ2019年3月29日でサービス終了!
「マンサーチャー-僕のヒーローアカデミア-」もそれに伴い制作打ち切り決定!


「魔界都市キャラでヒーローやるなら念法使いや刑事や用心棒の方が向いてるし、マンサーチャーや魔界医師は傍観者やラスボスだし向いてないからしょうがないね」

-完-













さて、少々間が空きましたが外伝もいいけどそろそろ淫獄都市ブルースもね?
ようやく終盤入ってきたから終わりは近い(多分)
では始めまーす


「僕、人探し」

 

『自分の仕事じゃない』、それで話は終わりだと言わんばかりに二人の横を通って行こうとして腕を掴まれる。

むっ、とした表情で掴んだ相手を見ると相手が一瞬固まった後に腕を引っ張ってきた。

直接見ていたなら、そのまま固まったままであろう。

 

「人を探すのが仕事であって、対魔忍はやめてるし、警察でもなければ殺し屋じゃないんですが?」

「……それじゃあ、物を持ってくるという依頼は受けてくれますか?」

 

もときが情や世界平和などの大義で動く相手ではないとわかったのか、すぐさまビジネスの方面で動かそうとする姿にもときは少々感心した、一番正しい説得方法だからだ。

 

「料金次第で受けますが対象の場所がわかってる場合は依頼は引き受けません」

「では、主人が持ってる魔導書を持ってきてください」

「話聞いてます?」

「報酬は――」

 

今回の出張で空いた事務所の財布の穴埋めしてあまりある金額が提示され、もときの動きがピタリと止まる。

休業中で収入の見込みがないどころか支出しかない現状での報酬は正直喉から手が出るほどに欲しいものであった。

もときは少々考え、危機的状況では人は平気で空手形をきることを知っているもときは手をひらひら振って歩みを進めようとした。

 

「やめておこう、お金は欲しいけどいのちはだいじに」

「……金、金、金! 対魔忍として恥ずかしくないのか!?」

「対魔忍じゃないから恥ずかしくないもん」

 

あまりにも人情に欠けた行動に義憤に駆られた門土に対してもときの拗ねたような物言いは普通ならふざけるなとさらに火に油を注ぐよう行為だが、もときの美貌と相まって門土の顔は朱に染まった。

なお本人は「うぇ」と自分の言葉にダメージを受けていた。

 

 

「そうですか、――では手付金にするつもりでしたが、500万程引き出せますので迷惑料としてどうぞ、それと勝手について行くのは構いませんね?」

「お好きにどうぞ、身の安全は自己責任で」

 

迷惑料として預かったカードを懐にいれてさすがに「もん」はないな、「もん」はとぶつぶつ言いながらもときは洞窟の出口に向かって歩いていった。

その背をわずかな時間、見ていた美沙子は視線を門土の方を向き陶然としている頬を叩き正気に戻した。

 

「お、奥様」

「行きますよ門土さん」

「よろしいのですか?」

「この状況で自分を見失うような人ではないのなら問題ありません」

 

もときのあまりの美貌に我を忘れてしまったことを咎められたと思った門土は「ぐっ」と言葉に詰まるが、自責よりも美沙子の安否が大事と言葉を続けた。

 

「ですが、あの男は――」

「依頼として引き受けないのは『主人はどちらにしろ倒すけど、見学時には守るつもりはない』ということよ。 あなたが私を護ってくれれば何も問題ありません」

「……はい」

 

門土はこれ以上異を唱えても意思は変わらず不興を買うだけだとわかり口を閉ざし二人でもときの背を追いかけていく形で歩き出した。

歩きながら門土は館の先に待っているのは主人の狂気ともときの美すぎる魔性が絡み合った不安と恐怖の運命しか待ち受けてないのではと体を震わせた。

 

2、

「展開が唐突すぎるなぁ」

 

長い暗闇を抜けると海岸であった。 

海の色は黒かった。 

もときの足が止まった。

振り返ると洞窟の入り口にある絵が目に入った。

 

はて? 何故こんなところに絵があるのかとじっと絵を見る。

どこかの屋敷を描いたであろう絵に気を取られたもときはまるで目隠しをしたまま身体を回転させられたかのような方向感覚が狂った感覚と共に急激な目眩がした次の瞬間にはもときは気が付いたら霧に覆われた屋敷の前に立っていた。

 

「エッシャーの絵*1かな? そういえば『魔界都市の二笑亭*2』と呼ばれる家もこんなんだったな、エッシャー邸壊すべし」

 

もときの目の前の館も不可思議な構造で出来ており夢や幻を実体化したらこうなるといった形である。

つまり形容し難いということだ、正直入りたくないが後ろを見ると霧に覆われて何もみえない光景が広がっており、妖糸を放っても周囲数kmには何もない、どうやらこの館に入るのは強制イベントのようだ。

今回の人探しですっかり癖になりつつある肩を竦める動作をして館の扉を開いて中に入った。

 

眼の前の床は異様に歪み、真っ直ぐ友見え、床面に沈み込んでいるとも見えた。

左右に二階へ向かう階段があるが、右側はどう見ても下に降りて来てしまう。

左側のは妙な具合にねじれ曲がっており途中で裏返しになっており壁にめり込んでいる。

空間自体が歪んでいるのだ。

 

目を閉じても、五感は空間の歪みを伝えており糸を放っても同様だった、もときが認識する限り空間の歪みは身心に影響を与えるのである。

もはや頼れるのは勘しかなかった、奥へと続く廊下は壁を這いもときはその上を床と壁を平行に歩いた。

気配を感じて足元(、、)にある扉を開いて中に入った。

 

「こんちは」

「ほう――いままで聞いた中で最も美しい声だ。 いらっしゃい客人」

 

扉を開いて入った部屋には黒人らしき僧衣を着たサングラスの男が居た、部屋の中には複数の本棚と懐古趣味でもあるのかレコードプレイヤーから荘厳な旋律が流れている。

 

「私は生まれつき盲目でね外の世界を知るのに魔導書を使うんだがそれで見つけた君を呼んだんだ」

「はぁ」

 

こんな場所に住んでいるのだからまっとうな相手じゃないんだろうなと思ったら普通の術者らしい、もっとも魔術師が『普通』かどうかは議論の余地があるが対魔忍世界の裏の住人であるもときにとっては会社員や工員よりも遥かに接する機会がある職業の相手である。

 

「それで何の御用で?」

「いやなに、どうやら色々困ってるみたいじゃないか老婆心から助けが必要かと思ってね」

 

そういって棚から何かを取り出してもときに手渡した、そしてもときはそのまま机の上に置いた。

世にも美しい黒コートに身を包んだ若者の意外な行動に自称盲目の魔術師は軽く驚きの声をあげた。

 

「おや?」

「ただより高いものはない、何が目的?」

「純粋な親切心からとは思えんかね」

「そんな親切な人間はこんな右も左もどころか天地上下も定まらないような場所には住まない」

 

そう言ってあまりにも胡散臭い魔術師をジト目で見るもとき。

もしも相手が普通の人間ならもときの『魔法』にかかっているだろう。

絶対に見ないと思いつつも自然に吸い寄せられてしまう。

異常に克己心の強い人間のみがそれに抗える。

だが見ずにはいられずついチラ見をする、そうして目が離せなくなる美という名の『魔法』である。

 

だがこの男は『魔法』にかかった様子は全く見られない。

本当に盲目なのか、あるいはもときの『魔法』が通用しない程の異常な存在なのかどっちかだ。

 

「ずばり言うとまあ好奇心というやつだよ、魔導書や魔術、超常の存在ががからむと人間はこちらの理解を超えていく行動を取る。

外にロクに出れない身ではそれを『観る』のはこの上ない娯楽だ」

「悪趣味」

「ご尤も、とはいえ責任感というのも多少はある。 君が今いる屋敷の主人に魔導書を使うように言ったのは私でね」

「ふぅん」

「興味ないようだね? まあそんなわけで世界が滅ぶか否かの事態は私としては望んでいないので手を貸そうというわけだ」

「――で、その手段がこの時計もどき?」

 

机の上にはもときが置いた銀色の物体が置いてある時計ともときは評したが長針はあっても文字盤はなく用途がわからない謎のオブジェクトだ。

 

「使い方は然るべき時にいずれわかる、受け取り給え」

「知らない人から物をもらってはいけないと言われて育ったんで遠慮しとく、それより早く帰してくれない?」

 

いきなり現れた人物からのイベントアイテムなんて厄ネタ臭しかしないので貰う気皆無なもときはさっさと元の場所に戻すように急かした。

その様子をみて男は何が可笑しいのか口許を歪めて楽しそうにしている。

 

「ふふ、面白い。 面白いな君は。 こんな状況での助けは喉から手が出るほど欲しいと思うがあっさり拒否するとは」

「助けは欲しいけど溺れた時に掴むなら藁じゃなくてしっかり浮かぶ板のほうがいいと思うだけ、いきなり現れた自称魔術師とか胡散臭い相手の助けはいらない」

「こんな異常な状況でも揺るがない自分を持っている、非常に興味深い」

 

そう言って愉快そうにする男を憮然とした態度でいるもとき、いいから早く帰せと考えていると思われる。

 

「ではひとつ助言を、君が目撃したのは『堕慧児(おとしご)』と呼ばれる邪神の一柱だ。 まだ赤子で泣きわめく程度の事しか出来ないが魔術師でもない人間では目撃するだけで狂死する。 君も見ただけで気絶していたね?」

「まぁね」

「まともに相手をせず逃げることをおすすめするよ、そうもいかない場合はなんらかの目くらましでもした方がいい巨大な火を使って(、、、、、、、)ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと洞窟の前つまり元の場所に立っていた、後ろから美沙子と門土が駆け寄ってきてもときの背に追いついた。 

海風の冷気が流れこんだ。 

 

「どうなさいました?」

 

立ち止まり周囲を見渡すもときに美沙子が声を掛ける、その言葉にもときは応じた。

 

「いやなんでも、――そういえば僕が廃船を探索した時になんだか巨大な怪物がいたんだけど今はいないのかなって」

 

並の怪物なら見ただけで気絶するなどということありえないもときが視界に入れただけで気を失う程の異形の怪物がうろついているのだ、当然もときは警戒しているのだが。

 

「その分だともしかして見てない?」

「ええ」「はい」

「ふーん」

 

胸に何か硬い感触を感じると銀色の時計型オブジェクトがポケットに入っていた。

ふんと鼻を鳴らしそれを捨てると空に浮かぶ二つの月明かりだけが水面を照らしている静かな海をもときはしばし眺めて、廃船の方へ歩き出した。

強い風ではためく漆黒のコートは闇の中を駆けていく翼のように見えた。

 

4、

「はい、これ」

「は?」

 

廃船の中にスタスタと入ったもときは目的のものを見つけ、そのまま門土に渡す。

いきなり銀色のアタッシュケースを渡された門土は何事かと目を白黒させていた、渡されたケースはずっしりと重く金属か何かが入っていると思わしき重量だった。

 

「なんですかこれ?」

「開けてみればわかるよ」

 

そういわれて門土はアタッシュケースのロックを外して中身を見ると発射筒と砲弾が入っていた、どうやら砲身にこの砲弾を装着して発射する武器のようだ。

 

「砲弾を見て」

 

いわれて砲弾を見てそこに刻まれた☢マークに門土は顔を青ざめて思わず手を離しそうになるが次の瞬間に本人の意志に反して落とすまいと逆に手を固く握りしめた、もちろんもときの妖糸の仕業である。

 

「こ、ここ、これって!?」

「『デイビー・クロケット』の一種だね」

「?」

 

兵器に詳しくない美沙子だけがよくわからない顔で二人のやり取りを見ていた。

 

「どういう兵器なんですそれって?」

「核兵器」

 

一言で説明するもときの言葉に美沙子の顔も門土と同じ様に外の海よりも青ざめる。

 

『デイビー・クロケット』名前の由来はアラモ砦の英雄「デイヴィッド・クロケット」とロケットを掛けている兵器である。

冷戦当時、アメリカがソ連の侵攻に対抗する為に開発した携帯可能な核兵器だ。

 

『デイビー・クロケット』は核兵器の中でも最小サイズであり、米ソの直接戦争から局地戦までを幅広くカバーする事とされた、最も使用されることはなかったのだが……。

今ここにある兵器はそれを米連が改良した新型であろう。

 

「な、なんでこんなところに!?」

「多分、お宅の主人対策用に持ち込んだものだろうね」

 

H・P・ラブクラフトの弟子であるオーガスト・ダーレスは著作『永劫の探究』で、クトゥルフの復活を恐れたラヴァン・シュリュズベリイ博士が米軍を動かし、ルルイエに核兵器を打ち込む一幕を描いている。

核の力は人間の兵器の中で数少ない邪神に通用する武器だ。

 

「多分必要になるから持ってて」

 

依頼は受けないと言いながら利用する気まんまんで危険な兵器を預けて他に使えるものがないかを探し始めたもときにさすがに門土は文句を言おうとしたが、思い出したかのようにもときはくるっと振り返り若葉に溶ける春のひかりみたいな声で微笑んで「お願い」をしてきたので何も言えなくなった。

 

自分の笑顔がどんな効果を生むか、充分心得てやっているのである。 

性質の悪いことこの上ない。

 

船の中を探索して行くがどうやらこの廃船は元々客船の類らしく武器等は見当たらなかった、脱出用の救命ボートぐらいはあるだろうとデッキの方に向かおうとしたところ、曲がり角の奥に子供がいた。

『何故こんな所に子供が?』とはもときは思わなかった、何故なら。

 

「ビャア゛ァ゛゛ァユウレィ゛ィィ゛ィ゛!?」

 

門土が騒ぎ出した、指差すその先にある少年の足元はなにもなくその姿も向こう側がうっすら透けている様子からして間違いなく霊的存在だろう。

何も言わない美沙子の方をもときは見るとその顔には驚愕と懐かしさに溶けていた、懐かしさを支えるのは遠い日の後悔と記した思いだった。

 

何かを伝えようとする表情でこちらを眺める少年に美沙子は頷き、曲がり角の先へ行った少年に美沙子は付いていった。

幽霊に怯えきった門土はその姿を見て慌てて追いかけていく、恐怖さえも乗り越える献身的なその姿に「愛ってすごい」ともときは軽く感心してると『探り糸』から反応が返ってくる。

 

後方から迫ってくる相手を敵と判断して糸を張り巡らせるとドアが大きな音を立てて開いた。

そこにはカエル顔のひょろ長い体型をした異形の持ち主が憎悪を滾らせた顔でこちらを睨みつけていた。

 

-<深者の章 完結編5>へ続く-

*1
マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898−1972)、オランダ出身の版画家。

建築不可能な構造物や、無限を有限のなかに閉じ込めた物、平面を次々と変化するパターンで埋め尽くした物、など非常に独創的な作品を作り上げており、階段を上がっていたと思っていたら逆に降りている様に見える降りていると思っていたら上がっているように見える上昇と下降(1960)、滝のある水路を辿ると下に行った水がいつのまにか上に流れて滝として落ちているように見えるWaterfall()(1961年)など錯視を書かせたら右に出る者がいない『トロンプ・ルイユ(騙し絵)』の画家としては世界一の知名度を持つアーティストである。

*2
閉鎖的で特異な外観を持ち、近所では「牢」「お化け屋敷」などと呼ばれていた特異な建物、藤田和日郎作「双亡亭壊すべし」の双亡亭のモデルにもなっている館、取り壊されて現在は存在してないこの館に関しては『二笑亭奇譚』という本が詳しい。




対魔忍決戦アリーナが正式に3月29日終了が決定しましたね、最近復刻ばかりなのでRPGの方をメインにしていたので長くないとはわかっていましたがいざ終わるとなると寂しくなります……。
決戦アリーナが終わる前に<深者の章>を終わらせて短編で対魔忍が出る淫獄ブルースを一作ぐらい出したいたいものです、……なんでこんなに長くなったのかコレガワカラナイではまた次回。


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淫獄都市ブルース<精選の章>(短編)

なんてことだ・・・・!! 間に合わないボスの射程の中に入ったッ! 投稿期間が飛んだぞ!


アニメのジョジョ5部面白いですね、どーもお久しぶりです。
<深者の章>は後は落とし仔に核兵器をシュゥゥゥーッ!! 超!エキサイティン!!➡︎佐兵衛さんをぬっ殺す➡︎締めにポルノ13する(動詞)だけなのですがどーにも筆が進まないです。

そんなわけでリアルでもいろいろあり中々更新で出来ずにいましたがモチベ的にも書かないと終わりが無いのが終わりになりそうなので気分転換として短編の投下しまーす。
決戦アリーナサービス終了前に投稿がギリギリ間に合ったぜ!


1、

ある少年は特別な力に目覚めた。

後で聞いた話によると『魔界の門』が活性化したことで同時期に能力に目覚めた人間が複数現れたそうだ。

彼はそんな人間たちの一人であった。

 

十代半ばの二次性徴を迎えたことにより肉体が大人に近づき精神的にも自我が確立され始める思春期特有の『特別』に憧れる時期に手に入れた『才能』に当然のごとく有頂天になり少年は玩具のように自由気ままに使った。

 

社会と自分との上手な距離のとり方がわからない状態で万能感に酔いしれる少年は周囲の迷惑を考えず力を奮った結果、鼻つまみ者になり自然と裏世界へと流れていった。

 

「おらぁ! 乗り込んできたときの威勢はどうしたぁ!」

「ぐッ! た……たす…」

「聞こえねぇぞ!」

「あがぁ!?」

 

後はよくある話である、社会に溶け込めず力だけを持て余した馬鹿な若者が狡猾な大人の言葉に乗せられて鉄砲玉として使われた。

調子に乗って暴れたが所詮は素人、異能者や異形の住人相手に張り合う暴力を生業にしている人種に勝てるはずもなく今殺されようとしている、よくある話であった。

 

(いやだ…おれは…特別な力を手に入れたんだ…こんな…みじめな終わり方なんて…)

 

サイボーグ化による強化処置を受けた元米連の脱走兵や魔族などにサンドバッグにされたせいで顔は腫れ上がり、骨はところどころ折れたり罅が入り、内蔵が傷つきほっておいたらそのまま死ぬであろう。

よくある話である、ここまでは(、、、、、)

 

 

 

 

 

2、

魔都『東京キングダム』、ここは人魔入り乱れる陰謀と性と暴力に彩られた退廃の街である。

そんな街に乱立する娼館の中でその店は様々な要求に応じる人型の魔族たちの様々な能力と特異な肉体による独自のプレイに定評があり娼婦が護衛も兼任しており値段も良心的で財布にも防衛の意味でも安全な店だと評価が高い。

客層は主に外の世界での風俗に満足できなくなった人間が訪れ時々政府の高官が変態趣味を発散するために来たりすることもある人気店である。

そんな場所で今現在奇妙な光景が広がっていた。

 

先程下半身が蛇の魔族に尻尾を巻き付かれ圧迫されながらする濃厚なSMプレイを終えて満足して帰ろうとした客は店員全てがサングラスを掛けているのを見て首を傾げた。

見ると皆顔を赤らめて化粧をしたり、鏡を見て髪をいじったりしながら入口と時計を交互にチラチラと見ていた。

 

「何が始まるんです?」

「今にわかるわ」

 

そう言ってにっこりと店の娼婦は笑った。

 

「黙って拝顔しなさい」

「はいがん?」

 

聞き慣れない言葉にオウム返しする客は、次の瞬間声を呑み込んだ。

黒いコート姿は戸口を手も触れず(、、、、、)に開け前に進んだ。

ほとんど抜け殻状態になった彼の前を音もなく通り過ぎる。

 

「――なん、だ、あれ」

 

放心状態になった男の疑問に答えるように嬉しそうに娼婦が応じた。

さながら信者が降臨した神について語るかのようである。

その神は美の神に違いない。

目にかけたサングラスは天上の美に魂を麻痺されないようにする備えだ。

 

「『東京キングダム』が誇る二人の美の化身の一人、人探し屋(マン・サーチャー)の秋もときよ」

 

茫洋たる美少年はその美を見たものの脳裏に焼き付ける。

さながら掴むことも出来ず決して離れない影のように。

しかし本人は目覚めた瞬間に消えていく朧な夢の如くただ無言で通り過ぎていくのだ。

 

 

 

 

3、

「秋く…所長の顔を見に来たひやかしが13件で、正式な依頼は2件あったよー」

「了解」

 

探していた人物が来たと娼館から連絡が入り全身を巨大な口に飲み込まれながら甘噛されるプレイ中の依頼対象を粘液まみれのまま待機していた依頼人の前に連れていったもときは、依頼が片付いたと報告をして次の依頼が来ているかどうかを事務所で待機している井河さくらに聞こうと連絡をしていた。

 

「そろそろ私にも仕事振ってよー!」

「タダ働きならいいよ」

「えー、横暴だー!?」

「行方不明になった時の捜索費用分働けば手当は出すよ?」

 

実は迷惑料として出費を埋めて余る程に金は貰っているのだが言わないもときである。

様々な依頼をこなし最近は評判も上がり依頼も頻繁に来ているので忙しい。

どこぞのオークが「有能な人探しならコイツ」と紹介しまくったからという噂があるが真偽は不明である。

 

なんにせよ一時的なものだとは思うが電話で予約した相手ともときが直接面談してから依頼を受けて仕事という形式では手が回らないのでさくらを留守番にし、面談して仕事を受けるか否かの取捨選択して、受けた依頼内容をもときが持つ端末機へと転送しそれを見ながらもときがとりかかるやり方に変えた。

 

そういうわけでもときがこうやって慌ただしく外を駆け回っているのである。

しかし行方不明者や失踪者がこんなにも多いとは相変わらず対魔忍世界は物騒である。

 

「表立って秋くんの代理をやってると『女があの人の側にいるなんて許せない!』と嫉妬した女性陣にナイフや銃を向けられるから特別手当を要求するー!」とぎゃあぎゃあ騒ぐさくらの声を携帯の通信をピッとオフにして遮断した。

帰りになんか差し入れでも渡して腹が膨れれば機嫌も直るだろう。

 

「さてさて、次は竹生会の事務所に行って配信動画に少しだけ映ってた人物が探してる人物かどうか聞いて……」

「あ、あのー」

 

次の仕事に取り掛かろうとしたもときは、声をかけられ振り返るとこちらの顔を見て中学生か高校生ぐらいの女性が顔を真赤にして陶然としていた。

 

「はい、何か?」

「――は、はい! 凄いイケメンて話は聞いてたけど想像よりも何万倍もカッコいい…」

「急いでいるんで後でもいい?」

「い、いえ、あの探偵さんなんですよね私の依頼を受けて下さい!」

「うーん、残念! ちょっと違います、次の機会にまたお会いましょう」

 

Q、正解は?

A、L( ・´ー・`)」 [答]人探し屋(マン・サーチャー)

 

残念賞として名刺を渡して依頼ならこちらに予約してくださいと言い残しさっさと暴力団事務所のヨーチューバーから情報を聞き出すためにさっさと歩き出す。

 

今現在四件ほど仕事を抱えており、追加で二件増えたのでさっさと片付けて週末はだらだらするという目的があるのだ。

休んでばかりだと食っていけないが、働いてばかりではやっていけない、時に休むことは大切だ。

「金を払っても休暇がほしい」と過労死寸前の知人のオークが虚ろな目で言ってた。

 

「待ってください話を聞いて!」

「名刺だけ受け取って帰って欲しいなぁ」

 

もときにとっては迷惑なガッツを発揮して依頼を受けさせようとする少女は五車学園の対魔忍見習いらしい。

 

「対魔忍かー」

「なんだか嫌そうな顔してますけど五車学園出身の対魔忍ですよね?」

「そんな過去は忘れた」

 

一方的な思いを押し付けられ逆ギレした男女に命を狙われ続け、嫌なこともいいこともさっさと忘れるもときが強烈な印象を残す因縁の場所であった。

早く記憶から消したいのだが地面を掘り返したら出てくるミミズの様にちょくちょく絡んでくるのが悩ましい、対魔忍やめて久しいしどうでもいいことだが。

 

 

 

 

 

3、

もときは昼間は軽食を出すカフェをやっている美人の店員がいると評判のバーに昼休憩がてら入った。

ここのローストビーフサンドは絶品で、薄い肉を長めに一切れ入れただけのサンドイッチとちがい。

外はさくさく中はふんわりにトーストしたパンを柔らかさと歯ごたえの両方を堪能できるギリギリの厚さにきってレタスとオニオンスライスの挟んであるグレイビーソースのローストビーフサンドは値段の割にボリュームたっぷりで味もよく。

この店の名物としてそれ目当てに尋ねる客がいるほどに人気が高い。

 

「――人探しをお願いします。」

 

少女の奢りで店自慢のサンドウィッチにジンジャーエールを少し遅めの昼食としてとり一息ついたところで食事している姿をうっとりと見つめていた少女、島本菊世が依頼について切り出してきた。

ちらっと横をみると他の客もうっとりとこちらを見ていた、食事をしているだけの動作でも夢見るように美しいのがこの若者なのだ。

その手の反応に慣れたもので何事もなかったように視線を正面に戻してもときは返事をした。

 

「はあ」

 

もときが質問に対する返答はいつもこう(、、)だ、その間に状況の分析が始まる。

五車学園経由ではなく個人でもときに依頼を持ち込むということは任務中に行方不明になった仲間を探してほしいという依頼ではない。

その場合はわざわざこうやって直接来ないでも校長のアサギや他の教員からもときに『生徒を探して欲しい』と仕事の依頼が来る。

ではどういう相手を探したいかと言うと……?

 

「相手は恋人か何か?」

 

消去法として相手は対魔忍以外の知人となる。

対魔忍は代々一族で対魔忍をやっている者か、才能のある孤児が引き取られてなるものである。

対魔忍シリーズの主役である井河アサギ、八津紫、水城ゆきかぜは前者。

外伝の主役である結城炎美、もときは後者に当たる。

 

一族代々の対魔忍は幼少の頃から訓練をするため一般人の知り合いが基本的に少ないし、防諜のガバガバさに悪い意味で定評がある対魔忍だが特殊部隊であるため一応の身内の警護はそれなりにできており、身内が人質に取られて身動きが取れないという事態は以外にもそんなに多くない。

 

有名になりすぎてトップクラスの魔族に狙われたり絡め手を使わないとどうにもならないと認識されているアサギ、さくら、紫ぐらいである。

……対魔忍の重鎮がよく捕まるのは正直どうなのと思わんでもないが自力でなんとかできるので気にしてはいけない。*1

 

もときが対魔忍時代に特に名門がどうのこうのと家格がものをいう対魔忍社会で聞いたことのない島本という名字ではあるし一族代々の対魔忍でなく菊世は才能があるためスカウトされた元一般人であろう。

そのことから察するに一般人時代に親しかった相手が行方不明になったので探してほしいという依頼であると思われる。

訓練漬けの対魔忍見習いが貴重な外出権利を使うとなると恋人や想い人の可能性が高いという推理である。

 

「い、いえ! 違います」

 

手をわちゃわちゃと振って否定するが顔が紅くなっている、真剣に自分の方をみるもときの顔を見たからかさもなければ脈アリの相手なのだろう。

伊熊武志という名前の少年は菊世と同時期に『力』に目覚めて暴れ回りどこかに行ってしまったそうだ。

ここ東京キングダムでどこかの団体にそれらしき人物がいると人伝に聞いてもときの元に来たという。

 

「ふーん、いつぐらいの話?」

「三ヶ月位前です……」

「多分死んでる」

 

あっけらかんともときは他の人間だったら面と向かって言いづらいことを告げた。

ここ東京キングダムという場所では特殊な能力に目覚めたと浮かれてそのまま暴れる程度の人間が長生きできるような場所ではない。

裏世界の様々な人種が入り混じっている混沌の坩堝とでもいう戦場で使われる弾丸よりも命の価値が安い場所なのだ。

 

しかし下手に嘘をついてもしょうがないこととはいえ容赦がない。

下手に希望を持たせてその後に味わう失望のほろ苦さを知り尽くした東京キングダムの住人としての判断なのかもしれない。

――面倒くさいから仕事になる前に説得で片付けようと思っていのでは?といわれたら否定はできない。

 

菊世は顔を青くした。

探している相手に訪れたであろう運命を思ってのことではない。

無論心配はしているが恐怖を覚えたのは春風のような雰囲気を持つ茫洋とした眼の前の人物がこの上なく恐ろしく思えたからだ。

自分の前にいる美しすぎる人は死神で、すでにそいつには死を与えたといわれたような気がしたのだ。

 

「しかし選ばれし者ね」

 

茫洋とした中にどこか確固たる凄烈さを感じさせる美貌を宙に向け、失踪するまえの依頼対象が言っていたという言葉をもときはぽつりと呟いた。

 

「そんないいものでもないと思うんだけど」

 

今となっては思い出すことも稀なこの世界に降り立つきっかけとなった始まりの出来事に思いを馳せた。

ほんのわずかな過去に対する感傷の影がよぎったが、春に降る雪のようにすぐさま溶けて痕跡もなくなった。

 

 

 

 

4、

「超イケメンと評判の所長を出せ! そして私の家に呼ぶんだ即刻ゥ! そして永遠になぁ! 

この要求が通るまで事務所の備品を十分ごとに、ひ と つ ず つ !

破壊していくことを宣言するッ!

要求が入れられないときは、私は迷うことなく、備品への攻撃を開始するだろう!十分に一つぅ!」

「だから所長は仕事で外回りしてるから留守だって言ってるじゃない!」

「だったらすぐに呼んで来いマヌケェ……」 

 

一度事務所で忙しくて目を回しているだろうさくらにサンドウィッチを手土産として渡すために戻ったら僕らの事務所が何者かに侵略されていた。

これは訓練でもリハーサルでない襲撃している変質者は目を覚ませ。

どうやら特別手当に関しては真面目に考慮する必要があるようだ。

何故かもときの身の回りに時々現れる変態は無駄に戦闘力が高い傾向にあるのであった。

 

「あのー営業妨害はやめてもらえます?」

「なんだ!―――う、美しい…ハッ! 」 

「隙あり!」

「アジズ!?」 

 

とりあえず変質者を呼び止めたら恍惚の表情で動きを止めた為さくらの攻撃をまともに受けて失神した。

今日は仕事にならないから店を締めて変質者を適当な場所に捨てたあとで部屋を片付けるようにさくらに指示してから倒れた変質者の財布を抜き取る。

 

さくらに差し入れと一緒に思いの外、中身が詰まって分厚い財布を手渡して、これで壊れた備品を買い直してお釣りは特別手当だと言ってそのまま変質者を踏んづけてから事務所を出た。

そしてさくらと出会うと説明が面倒という理由で外で待たせてあった菊世と一緒に娼館を経営している情報屋の元を訪ねることにした。

 

「Bamboozle Gangの下っ端ね、先日鉄砲玉として暴れまわった末に捕まったそうよ」

「捕まったってどこに?」

「『龍門』の残党」

「うわぁ」

 

そこで菊世が持つ写真を見せたらあっさりと情報が手に入った。

『龍門』とは中華連合政府の出先機関である。

表向き「龍門キャピタル」という企業名を使ってビルを構えているが、無法地帯と化している東京キングダムでは隠す必要もないのか、島の売春の元締めをしている末端のマフィア構成員までもが堂々と「龍門」と名乗っていた。

 

一時期は東京キングダムを支配していた組織であるがアサギの活躍やノマドの策略によって大幅に勢力を縮小しているがいまだに少なからぬ影響力を持っている犯罪組織である。

もときの予想よりも捜索対象は長生きしていたがどうやら一足遅かったようである。

着いてきた菊世にどうするか聞こうとしたら娼館の顔写真に釘付けになっていた。

 

「知り合いでも居た?」

「あ、はい、学園の資料で見かけた人が何人か。――なんでこんな所に?」

「こんな所とはご挨拶ね、……実際碌な場所ではないけど」

 

ピンク色の照明に照らされた店内にはアルコール臭と、すえた体臭と、青臭いわずかなに酸っぱいような精液の匂いが焚かれた香に紛れて嗅ぎ取れた。

 

「任務に失敗した結果」

「そんな、五体満足だったら戻ることだって……」

「一度挫折して再び立ち上がれるというのは稀よ、特別な力を持って特別な訓練を積んで特別な存在であると思ってた人間が一度の失敗でドン底まで落ちて尚立ち上がれるというのは特に」

 

元々自信に溢れていた人間ほど折れると脆いもの。

服が身体に擦れ呼吸をしただけで絶頂する等、日常生活に支障があるぐらいに性的に肉体改造され、調教光景をネットに配信され強制AV女優デビューetc. 完全に人間としての尊厳を根こそぎ奪いさるような調教を受けてしまうと身体を完全に元通りにしても余程の桁外れに強靭な精神力を持ってないと立ち直り再びそんな目に合うような過酷な任務に就くことなど不可能である。

 

「井河アサギなら出来たぞ? 井河アサギなら出来たぞ? 井河アサギなら出来たぞ?

ならば同じ対魔忍なら不可能なことなどこの世の何処にもありはしない……と思ってる対魔忍は多いけど実際は無理だよね」

「捕まって暴行され続け性的調教され続けても施設を脱出して黒幕殺して調教の後遺症を精神力で抑えて再び前線で戦うとか不屈にも程がある最強対魔忍基準は無茶振りが過ぎるわ」

「校長は尊敬してますけどあのくらいでなきゃ無理というのはちょっと……」

 

冗談めいた口調でアサギを例に出したもときだが正直真似できるとは自分でも思っていないしする気もない。

井河アサギはすぐ捕まってアヘるネタキャラ扱いされてるが分類としてはヒーローなのだ。

ヒーローが捕まってアヘられる作品の主人公なので用心深さと自信過剰と先入観に騙されやすいのはご愛嬌、捕まっても自力でなんとかなるのでOK。

技量と何よりその精神性はもときが本気で敬意を持っている人間の一人であるが、ちゃんと生徒に罠にかからぬよう慎重さや臆病さや用心深さを叩き込む教育をして人探しの依頼件数を減らして欲しいというのがもときの願いである。

……叶う見込みはないが。

 

「井河アサギの話は置いといて探している少年は多分もう魚の餌、運が良ければ顔の腫れ上がった死体が見れるかもといった感じよ?」

「……それでも生きている可能性があるなら行ってみます、場所を教えて下さい」

「地図に印を書いてある場所がアジトよ、ここのどこかにいるはずよ」

 

そう言って渡された地図を受け取り頭を下げると菊世は取るものも取り敢えず急いで駆け出した。

 

「――力に溺れた馬鹿な男を思い続ける健気な少女か、今どき珍しいくらいのいい子ね」

 

マダムの顔に翳がよぎる、性と暴力が煮詰まった東京キングダムの翳だ。

 

「けどこの街向きじゃない、碌な結末にはならないでしょうね。……だから忙しい時にあの子の依頼を受けたのかしら? だとしたら優しいところもあるのね」

「三倍の依頼料を払うと言われた」

「――正直な子ねぇ」

 

マダムの呆れた声を背に受けて後ろにひらひら手を振って菊世の後をもときは追いかけた。

 

 

 

地図に記されたアジトに踏み入ったと同時に侵入者を排除すべくもときと菊世に高速で影が迫った。

秋もときを魔人と称するならこの瞬間であろう、飛びかかってきた六対の人影は一秒にも満たない次の瞬間に六体の肉片に変わったのだ。

そのまま何事もなかったように歩き続けるもときを見て驚いたのは菊世である。

 

彼を知っている大部分の人物からは『美しい』とだけ蕩けそうな夢見心地の顔で評する。

残り僅かな校長のアサギなどの人物は『美しい、そして敵に回したくない』と顔を赤らめて評する。

 

絶対的な美しさ故に戦いたくないからそう言ったと菊世は思っていたがこの伸びる影すら美しいであろう人物は実力に関してもこの世のものとは思えない程なのだ。

 

「ちわー」

「おお、早かった……なッ! なん…だ…おま…え」

 

もときがドアを開けようとすると電子錠がかかっていた、妖糸でなんとかした。

侵入者を排除して護衛が戻ったと思って声をかけた男は振り向いて目に入ったもときの顔を見て一瞬で表情が蕩けた。

こうなってはもう使い物にならない、顔を見せるだけで効果を発揮するので並大抵の催眠術よりもずっと強力である。

 

「この写真の人物に見覚えは?」

「あ…ああ…あるよ……」

 

手慣れたもので余計な面倒が減ったと前置きなしにもときは本題に切り込んだ。

 

「どこ?」

「死んだんで……死体は好事家に売った……」

「そんなッ!?」

 

すでに依頼対象は死亡した後らしい、菊世は衝撃を受けて目に涙を浮かべているがもときは質問を続けた。

 

「それでその好事家の居場所は?」

「わからねぇ…死体が入ったら……連絡をして…そうしたら向こうから…来るんだ」

「ふーん、どうする?」

 

もときは菊世に聞いた。 

好事家とやらに連絡をとって死体を取り戻すかという質問だ。

無神経ともいえる薄情な問いだが、この程度は本当によくあること(、、、、、、)なのだ。

ここ東京キングダムでは。

 

 

 

 

 

6、

目を開くと見知らぬ天上が目に入った。

体を起こすとかけてった毛布がぱさっと落ち、座布団二枚を布団代わりにして寝入っていたことに気づく。

汗ばんだ髪をかきあげて何故この場所にいるか思い出した。

 

幼馴染の武志がもうこの世に居ないと知らされたショックで頭が真っ白になりもときに手を引かれ秋DSM(デイスカバーマン)事務所の座敷で休ませて貰いそのまま寝てしまったのだ。

手を引いたもときの手の感触を思い出してぽっと顔が紅くなったが武志の死を思い出して気持ちは沈んだ。

 

普段は乱暴だが困ったときには必ず助けてくれたあの少年に二度と会うことができないと思うと目に涙が溢れてきた。

頭を振って気持ちを切り替えようとする。

座敷から出てみると事務所の隅に壊れた花瓶や菓子鉢がゴミ袋に入れてあった。

床には何らかの破片がまだ散らばっており、時間がないからとりあえず片付けた感がある。

 

壁に立てかけてある部屋箒とちりとりで片付けた後で雑巾でざっと埃を拭いておいた。

この手の細かい作業は好きなので落ち込んだ気分が紛れてちょうどいい。

作業をしながら事務所に連れてきたもときが言ってたことを思い出す。

 

「僕は仕事があるから出かけるんで鍵かけとくけど帰る前に連絡入れとけば鍵開けっ放しでもいいんで。 あと今日の受付は終了してるんで事務所の電話はでなくていいから」

 

面倒見がいい様に聞こえるが後でさくらが臨時収入で豪遊してから帰ってことを承知の上で言っているので、面倒くさくなったのが透けて見えた。

 

一通り掃除をすませて一息ついたので窓から見える街並みに目を馳せる。

様々な人妖入り交じっている姿は中々に新鮮で異様かつエネルギーに溢れている独特の光景だ。

その光景に探していた見慣れた姿の人物を見て菊世は部屋から飛び出した。

 

 

「あっ、ボス~! 今ボク、一人で暇なんだ。 遊んでよボス~♪」

「だれだっけ?」

「ひどい! あんなにあんなにアツイ時を過ごした仲なのに!」

「イタズラで火事になりかけたのを一緒に消し止めたから熱い仲とかないない」

 

菊世を事務所に送った後に残りの仕事を片付けるために依頼人に会いに行く途中でもときは声をかけられた。

黒い羽をはやした長い髪に着物をはだけたような服を着た能天気そうな少女は自称ヤタガラスの化身を名乗る魔族のミナサキだ。

とある仕事で偶然助ける形になって以来今はいないリリムという下級悪魔とセットで懐かれてたまに街で会うと遊べと絡んでくる。

 

ちょくちょく自分を人探しの職員にしろといってきて「上司ならやっぱり呼び方はボスだよね!」とこちらをボス呼ばわりしてくる。

一度見た物の場所を探知できるという地味に汎用性の高い「ハッピートレーサー」という能力があるため、雇用を真剣に考えたが普段の態度からするにすぐ飽きて遊ぶだろうと判断。

その話題が出るたびに次の仕事が見つかるようにお祈りの言葉を送っている。

 

「今仕事だからまた今度」

「えー、ぶーぶー」

 

子供っぽいセルフ擬音で文句をいうミナサキを無視してもときは依頼人の元に向かった。

 

 

7、

ドッペルゲンガー(二重存在)?」

 

もときは依頼主が告げた言葉をオウム返しした。

 

「もう一人の自分が現れて見たら近いうちに死ぬとかいうあれ?」

「それだ」

 

我が意を得たりと依頼主は頷いた。

 

「死者は蘇らない、条件が揃えば蘇生できるがあれは冥界に旅立つ前に腕を引っ張って連れ戻すだけで完全に旅立った者を呼び戻すわけではないのだ」

「はあ」

「かのドクターメフィストでさえも完全なる死者蘇生は不可能、ならばアプローチを変えてみることを思いついた。それについてまず――」

「そこでドッペルゲンガー?」

 

この手の碩学家の類は興が乗ると非常に話が長くなる。

まだ依頼が残っているので前置きは終わらせて本題に入らせるためにもときは話を急かした。

一瞬つまらなそうな顔になったが説明を続けた。

 

「そうだ! 死んだ人間が蘇らないなら死んだ人間から同じ記憶を人間を持った人間を作ればいい。 古典的SFではありふれた方法だが成功例は殆ど無い」

 

対魔忍世界ではクローン技術が成功しており、井河アサギのクローンが作られているが本人程の戦闘力は発揮されていない。

だからといって貴重なクローンを娼館送りにしているのはどうかと思うがそこらへんは変だよ対魔忍世界。

 

「思うに機械や魔術で記憶を転写するという方法をとっているため実際に体験したこととの差異が原因だろう、そ・こ・ですでに本体と同じコピーのような存在であるドッペルゲンガーに目をつけた!」

「はぁ」

「原理はまだわかっていないがドッペルゲンガーは本体とまったく同じ存在だ、ならば実際死者からドッペルゲンガーを生成できればそれは死者が復活したと同じではないか!?」

「はぁ、それで依頼の方は?」

 

そう言ってもときが質問すると依頼人はバツが悪そうな顔をして頬を掻いた。

困ったように視線を左右にキョロキョロと動かしている。

 

「あー、実は実験体に逃げられてしまってなぁ……」

「はぁ、逃げた実験対象の捜索ですか」

「まあ、その、なんだ、その通りなんだが……」

 

どうにも歯切れが悪い姿を見てもときはなんとなく察した。

 

「……既に作ったんですか死体からドッペルゲンガーを、それが逃げたと」

「そのとおりだ」

 

お手上げだとでもいいそうに両手を上げる依頼人。

こちらを伺うような視線を向けてくるがもときは平然としていた。

この街で人探し屋をやっているとこういう風変わりな依頼などよくあることなのだ。

 

「それで探しているのはどんな人物なんですか?」

「おお、受けてくれるのかさすが東京キングダムでも名うての人探し屋だ!」

 

こちらの人物なんだがと言って応接間から入って地下に入り金属で覆われたひんやりとした実験室に入れられる。

保存用のホルマリンの匂いがする部屋の奥に白いシーツをかけられた複数ある死体から一つを見つけ。

シーツを剥がした、そこに居たのは伊熊武志だった。

 

 

 

 

 

8、

「はぁ……、はぁ……。 俺に逆らいやがって!」

 

ドッペルゲンガーの武志は自分の足元に力なく横たわっている菊世にそういって悪態をついた。

馴れ馴れしくこちらに涙目で無事だったのか、心配したと触ってくる菊世に腹が立ち。

扇情的な格好を見て黒い欲望を抱いて廃墟に連れ込んで強引に迫ったのを拒絶されたのにさらに腹が立ち。

側に落ちていた石で頭を思いっきりぶっ叩いたら菊世は意識を失って大人しくなった。

 

「俺は特別なんだよ、選ばれたものなんだ! 誰だって俺の言うことを聞くべきだし思い通りにならなければいけないんだ!」

「死体から作ったドッペルゲンガーは死ぬ前の思いを強烈に焼き付けてそれを原動力にするというけどそういうことか」

 

 

秋もときが現れた、依頼人の家の前で蟻で遊んでいたミナサキにダメ元で写真をみせたら見覚えがあると言ったので案内させたのだ。

もしやと思い念の為菊世に糸を巻き付けてあったのだが、ドッペルゲンガーとして蘇った伊熊武志と同じ場所にいた。

それを辿ってその危機に駆けつけたというのは本人以外には知らないことである。

 

突然現れたこの世の者とは思えないほどの隔絶した美貌の持ち主に武志は我を忘れるが、すぐに正気に戻った。

何故なら自分は特別な存在なのだ、どんな美貌の持ち主だろうが自分に劣るという強烈な自負があった。

 

「ひどいことをするね、本人ではないとはいえ心から彼女は君の事を案じてたっていうのに」

「ハッ、助けるとか何様だよ頼んでもしねぇことで感謝されたがったってか? こっちにとっては一文の特にもなりゃしねぇよ」

 

自分の身を危険にさらしてまで少年のみを案じた少女への返答はそんな侮蔑に塗れた悪意だった。

もときは顔を俯かせた、少女の報われない思いに哀れみを感じたのか?

否、そんな感傷的な感慨を持つような人物ではない。

これまでも、()この瞬間もだ。

 

 

少年はそんなもときの姿を見て冷や汗を掻いて後ずさった。

まるでいきなり目の前の人物が唐突に別人になったかのように見えたのだ。

もちろん何も変化した様子はない。

 

こいつは危険だから逃げろという本能を強烈な虚栄心が上回り攻撃を仕掛けた。

ドッペルゲンガーという人間ではない人間という矛盾により本物以上の能力を身につけた武志はその一瞬、音速さえ凌駕する速度を可能にした。

死の淵から蘇り新たな力を手にした彼は間違いなく何かに選ばれた者であると言えた。

 

しかしもときの操る妖糸は武志の身に纏う絶対の自信と誇りに支えられた速度を見掛け倒しで存在などしていないも同然とでも言うかのようにたやすく身体を十字に切り裂いた。

ドッペルゲンガーを探せという依頼は受けなかったのだ。

 

再び顔を伏せてから、顔を上げた。

いつもの茫洋な秋もときであった。

 

倒れた少女の方へと視線を向ける。

少年に会わせるという依頼は完了している。

少女の傷はほっといたら手遅れになるが今なら病院に運べば助かるだろう。

しかし助けようとした相手に裏切られ、裏切った相手はもういない。

助けたところでその後がどうなるかわからないが少なくとも明るい未来ではないのは確かだ。

これ以上の手助けは仕事のサービスの範疇を外れる。

 

「選ばれし者ね、――選べる者にはなれなかったみたいだ」

 

『特殊』と『特別』は似ているようで全く違う。

オリンピックで金メダルを取れるぐらい『特殊』な才能の持ち主でも車には速さでは勝てないように『特別』とはそもそもの前提が違うのだ。

選ばれるという『特殊』程度では自由に到れる『特別』になれないということを彼は分かっていなかった。

 

自由とは自分を守る鳥かごがないかわりに外敵などから自分を守りきれる強さを持つものだけが手にすることができる物だ。

自分を守り抜く強さを強いられる自由と狭い檻で守られる不自由とどちらが幸せなのだろうか?

 

 

もときはコートを翻した。

依頼主の生存が確認できればもう用は無い。

東京キングダムでは選ばれるより選ぶ自由の方が得難いと知っているもときはメフィスト病院に連絡を入れてから残りの仕事を片付けることを選び(、、)電話をしまい振り返らず部屋を出た。

*1

なおユキカゼ(と凜子)はそんな手を使わなくても行方不明の母親の情報がチラつくと自分から檻に入る模様。




対魔忍決戦アリーナ終了前に一本かきあげたくて書いたけど、久々の短編なのに前編、後編に分けてもいいかもと思うぐらいの文字数になってしまった……、まあいいよネ!
本当は武志くんが助けられて「もときさんパネぇ!」と尊敬して終わらせようと思ったが……。
そういう作品でもないからこうなったスマン。
多分世界が悪かった、来世は異世界に転生でもして触手として頑張ってくれ。




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淫獄都市ブルース<深者の章 完結編5>(長編)

一発ネタ 鬼滅の丸太(鬼滅の刃×彼岸島)

ハァ  ハァ ハァ
「ここは何処だ……」

顔に斜めの傷跡を残す青年は目を覚ましたら森のなかにいる自分に気付いた。
鬱蒼とした夜の森の中でなぜ一人だけでここにいるのだろうか?

「そしてなぜ俺は裸なんだ?」

衣服をまとっていない体は筋肉で覆われて鍛え抜かれているとわかる。
体に刻まれた様々な傷跡は歴戦の証であった。

「俺は……誰だ?」

なぜこんな状況に置かれているか思い出そうとして何も思い出せないことに気付いた。
一体何が自分に起きたのか?
何があったのか?

「名前は……そうだ、宮本…明…それが俺の名前だ」

唯一思い出せたのは自分の名前だけでそれ以外のことは思い出せなかった。
そして一陣の風が吹き、ぶるっと体が震えた。
ガチ ガチ ガチ
「さ、寒い! そりゃ裸なんだからあたりまえか。 このままじゃ凍えちまう!!」

このままここにいても思い出す前に風邪をひいてしまいそうだと移動することにした。
素足に砂利や枝や葉っぱを踏んでチクチクと痛むが我慢して歩き続ける。
あるいていくうちに何かキラリと光るものを見つけた。

「こ、これは!!」

木の上で糸が絡まった操り人形のようになっている死体が数体そこにはあった。
地面に倒れている死体もある。
皆黒い服を着て刀を持っており、首が体の反対側の方を向いて捻られて死んでいた。
周囲には蜘蛛の巣がある。

「一体何が、吸血鬼の仕業か? ……吸血鬼?」

思わず呟いた自分の言葉に疑問を抱く。
なぜ死体をみて吸血鬼などという言葉が出たのだろうか?

 ぶぇっくしょん!!

「さ、寒みぃ!! ……申し訳ないが死体から服を貰おう」
ヌギ ヌギ ヌギ
地面に倒れている死体から服を借用することにした。

「よし」

死体に向けて手を合わせて冥福を祈る。
まだ服が温かく、人肌のぬくもりがあった。
死んでからそう時間は立っていないようだ。


ドドドドドドン

「な、なんだ!! 雷か!!」

いきなり鳴り響いた轟音に驚き空を見ようとしたが鬱蒼とした森の木々により空は見えない。

「もしかしたら邪鬼(オニ)がいるのか? ……邪鬼(オニ)?」

再び口にした言葉に疑問を覚える。
どうやらこの森には記憶を取り戻す手がかりが転がっているようだ。

「この刀も悪いが借りるぞ……これだけじゃ心許ないな」

何かないかと周囲をキョロキョロ見渡す。

「おっ丸太が、超助かる持っていこう」

右手に刀、左手に森の木を切断したであろう丸太を手に先に進むことにした。


次回予告
「硬ェ!! なんて体してやがんだ!!」

「大丈夫か……斧神!?」
「斧…?」
「いや……すまない昔の知り合いもそんな風に毛皮を被ってたんでな……あっちは山羊だけど」

(そうか斧神の時のように!!)

「馬鹿野郎なんで刀を鞘に収めるんだよ!!」

我流 丸太の呼吸 両断の太刀

「くたばりやがれクソバケモノが!!」
ハァ  ハァ ハァ
「マジかよ…あれで死なないのか……」

「うわあああああああああ」
水の呼吸 肆ノ型(よんのかた) ()ち (しお)
「凄ェ!! 一呼吸の間にバラバラにしやがった!!」

鬼と戦い絶対絶命の明の前に現れた人物はいったい何者――?











「なぜお前は<深者の章>を完結させずに別の話を書くのだ、旦那様は知らぬふりをしてくださっているが私が許せんこれから奉行所に行く」
作者「儂が悪いのではないこの手が勝手に!?」

奉行「別の作品でも貴様は投稿と更新停止を繰り返していたそうだな同情の余地もなし」
作者「滅相もない儂には無理ですこの通り執筆する時間もなく……」
奉行「貴様アンケートが見えているだろう、以前別の作家は儂が声を掛けるまで読み切り作品を書いていたぞ」

作者「いえ、FGOの話は書いているんですが古いスマホなんでゴーストタッチが発生して勝手にいろんなボタンが押されてしまってFGOがまともにプレイできないし先日まで古戦場を走っていまして残りの時間は手が勝手にこの作品を……」
奉行「手が悪いと申すか!! ならばその両腕を斬り落とす!!」

無惨「明日打首とは可哀想に私が助けてやろう」

と心の中の半天狗が無惨様によって鬼にされたからなんか出来ました。
いやーアンケート結果を気にしてたら並行作業でいろいろ書いて遅くなってしまいましたわー
さすがに一月何も書かないとアレなんで一番進んでた深者の章を投稿します。

それはさておき鬼滅の刃をみんな観よう面白い!
アニメも絶賛放映中だぞ!(ダイレクトマーケティング)


じゃあ本編へ


壊れた窓から海風が流れ込む夜の廃船で執事は射殺すような眼差しでこちらを睨みつけていた。

執事は手に長さ20センチ以上の肉厚のナイフをこちらに向けている。

佐兵衛の技術力ならいくらでも優れた兵器を持ってこれるというのにナイフを持ち出すのが逆に不気味である。

 

執事の目が妖しく目が煌めくともときの背後に深き者が出現したのを『探り糸』が感知する。

恐らく執事が使う空間操作の異能であろう。

すでにもときの敵ではない深き者達をわざわざ呼び出したのは退路を塞ぐためであろうか?

 

考察するもときを見て隙きがあると感じたのか空間を縮めたかのような歩法で振るわれた執事のナイフの軌道は左に居た背の低い深き者の肩から首、もときの左脇から右肩の位置を通り過ぎた。

間合いが明らかに足りなく届かないと思われたが光が伸びて来て両断した。

執事の怒りに燃えた顔から表情が消える。

 

もときの後ろにいた深き者の首が落ちた。 

もときは無事だった。

次の瞬間、廊下の床から金属音が鳴った。

ナイフが根本から切断され刃が床に刺さったのであった。

 

無言で後ずさり深き者達に目配せすると背を向けて逃げ出した。

もときはチタン鋼の糸を巻き付けると場に残った自分を囲む魚人達に対してもとき本人にしかわからない程度に指を曲げた。

口内から頭にかけて深き者達は両断された。

深き者たちが倒れ込む前にもときの視界に執事がこちらに打ち込んだであろう小型ミサイルが迫ってくるのが入る。

 

あっ、これは逃げれないなともときは悟った。

糸で退避しようにもすぐ曲がり角の壁にミサイルの弾頭がぶつかり生じる爆炎がもときを焼き尽くす方が早い。

同様に深き者の死体を操り盾にしたり糸鎧でも爆炎は防げない。

その数秒後、紅蓮の花が廃船に咲いた。

 

 

「で、大口叩いた結果はどうじゃった?」

 

幼体とは言え邪神の一柱がいるため電波障害が起きているため船の墓場の状態がわからない佐兵衛は執事に結果を聞いた。

 

「小型ミサイルを囲まれて逃げ場のない廊下に打ち込みました。 なんらかの防御をとっても回避をしても焼き尽くして灰になるで――」

 

言葉を続けようとした執事の首がぽとりと落ちた。

ちょうど切り口はナイフで首を切断された深き者と同じ場所をなぞっているということは佐兵衛にはわからない。

 

「……失敗じゃな、儂は思ったよりもとんでもない奴を敵に回してしまったのかもしれんな」

 

どのような方法をとったのかもときは生存しており、たった今執事の首を切り落としたのだと分かって佐兵衛の頬に冷や汗が流れた。

人界に存在しえない魔性の美貌を持つ少年は害をなす者に死を告げる美しくも恐ろしい死の天使だ。

 

「これは手段を選んでる場合ではないな」

 

そう言うと佐兵衛の顔が邪悪な笑みが浮かんだ。

神に反逆する悪魔はこんな表情をしているのかもしれない。

 

 

2、

「ヘローエブリワン、グッドイブニング」

「なぜ英語?」

 

幽霊を追いかけて先に行った二人に追いついてもときは声をかけた。

周囲には深き者達が黒焦げになってプスプス音を立てていて焦げ臭い。

視線を床の死体に向けていると声がかかる。

 

「先程すごい音と一緒に明るくなってましたけど何があったんですか?」

「ミサイルが爆発した」

「ふぁっ!?」

「大丈夫、核ミサイルじゃないから」

「いやいやそれも重要ですけど、ミサイルが爆発ってなにが!?」

「なんだか執事が現れて僕にぶっ放してきた」

「……よく無事でしたね」

「当たらなければどうということはない」

 

先程ミサイルを撃ち込まれて逃げる隙もないと判断したもときは咄嗟にチタン鋼の糸を使いミサイルの射線をずらして割れ窓から外に逃がした。

そのままミサイルは隣の廃船に着弾して爆発。

そして次に執事がどこに逃げたのか反応を探ったところ空間転移して別の地点にワープしたのを感じて、移動する乗り物の類や隠し通路がないとわかったのでそのまま首を落としたのである。

 

「それで奥様は?」

 

門土は部屋の隅を指さした、その方向へ視線を向けると門土の上着を下に敷いて渡したトランクを枕に眠っている美沙子の姿があった。

 

「先程まで何かと会話していたのですがその直後こうやって糸が切れたように眠りについて……」

「ふーん」

 

よくみると枕にしているトランクはもときが渡した核兵器が入っていたトランクであった。

 

「大丈夫なのあれ?」

「中身はあちらです」

 

自分で被爆しかねない危険なトランクを渡すもときももときであるがさすがに枕にするのはどうなのと異を唱えた。

ジト目でもときを見た門土は美沙子とは反対の方向を指差す。

再び視線を別方向に向けると弾と銃砲がそれぞれ別に置いてあった。

 

「奪われて核弾頭をソロモンの海に撃たれたりしない?」

鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)ですか?」

「いや星の屑作戦的な」

「?」

 

どうやら門土はサブカルチャーには疎いようだ・

――そもそもガン○ムはこの世界にあっただろうか?

 

「まあそれはさておいてこの先はどうなっているか確認はした?」

「いえ、奥様がこの通りなのでまだ」

「ふーん、でこの焦げた死体はおたくがやったの? 雷遁あたり?」

「ええ、まあ。 ……元対魔忍だとしっていたのですか?」

「こういうことができるのは魔族か対魔忍か強化兵士ぐらいだから消去法でそうかなーって」

 

門土の見た目が三十代前半から三十代半ばぐらいの年齢であろうことから考えてアサギ世代の人間であろう。

アサギを売った祖父である井河家の御大を生還したアサギが自らの手で処罰した。

その結果生じた組織内のゴタゴタでアサギ世代の人間の大部分は死ぬか対魔忍の組織から離れるかした。

門土も組織から離れた人間の一人であろう。

 

そこらへんの背景事情は興味はないので今はこちらの足を引っ張らずに役に立つかどうかだ。

周囲に転がっている死体から自分と奥様の身を守れる程度の自衛力があるようだ。

面倒が減るのもときとしても助かるのでガンガン敵を倒して欲しい……楽だし。

 

「それでこの先はどうなってる?」

 

もときの言葉に門土の顔がこの廃船の下にある月に照らされた青ざめた海のように変わった。

どうやらこの先には幽霊の類がいるらしい、魚人にゾンビに幽霊となんでもありである。

次は狼男やフランケンシュタインの怪物あたりであろうか?

 

「わわわわ、私はおおおお、奥様の容態が心配なななので、おおおおおまかせします!!!」

 

もときはものすごい早口で採掘機のように震えながらこちらの背を押してくる門土に渋々とドアを開けて次のステージへと進んだ。

 

 

3、

 

部屋に入ると人形の影が居た。

シルエットだけがそこにあり糸を巻くと手応えがあった。

 

「ひゅー、どろろ。」

 

霊的存在だといいたいらしい。

耳をすますと影が何事かぶつぶつと独り言を言っているのが聞こえた。

 

「俺が……あの時…鍵をなくさなければ……」

 

なんのこっちゃともときは首をかしげるが反応がない、周りを見回すと似たようなシルエットが複数いる。

 

「だめだ…おしまいだ……やつは伝説の……」

「沈む……沈んでしまう……」

「脱出しなきゃ…逃げなきゃだめだ……逃げなきゃだめ…」

 

影たちはこの船の乗客の幽霊か何かだろうか?

こちらに害をなす様子もないので脱出艇などがないか探すことにした。

甲板に出るとクレーンで何かシートをかけてあるそれらしきものが吊り上げてられていた。

 

「これかな? 」

 

漆黒の美影が宙をふわっと浮かび上がり目標に乗っかるとシートをめくった。

もときは顔を顰めた。

期待通りの脱出用の小型艇はあったが破損していて使えそうにない。

何か巨大なものに挟み潰されたような壊れ方だ。

 

「うーむ」

 

もときは唸った。 先程のミサイルで別の船が破壊された為に他に移動出来そうな物がありそうな場所がない。

 

「残念、僕の冒険は終わってしまった! 14へ行け」

 

流石に帰るわけにもいかずどうしたものかと考えるが特に良い案は浮かばない。

どこかに入るとワープする土管や池がないものか?

腕を組んで思案しようとすると胸ポケットに何かが入っているのに気付いた。

 

取り出してみると捨てたはずの謎時計だった。

これを捨てるなんてとんでもない!とテロップが出てきた気がする。

呪われていそうなアイテムだ。

海の藻屑にしようと振りかぶると激しい光が溢れて空間がブォンと揺さぶられるような音がしてもときは目眩に襲われた。

 

 

目を開けると甲板の上は霧に包まれており船が大きく揺れていた。

月が綺麗な穏やかな夜の海が見えていたはずがいきなり霧が出て。

荒れた海の上にいるという急激な環境の変化に『また』なんか変なことを起こしたなと。

もときは手の中のオブジェクトを睨みつけた。

これがないとまた元の場所に戻れるかどうかわからないので正直嫌だが懐にしまいこみ。

『探り糸』を放ち船を調べると門土や美沙子以外の『人間』の気配を感じた。

甲板から船内に移動すると船窓があることに気づく。

船内も長い風雨にさらされカビと錆に覆われていたはずだが塗装がしっかりしてある。

 

「『時間』か」

 

この謎時計は時間を巻き戻す力があるらしい。

自由に使えるなら便利だが勝手に発動するなど使いみちに困る道具である。

あの胡散臭い魔術師とやらの差金だろうがどのような意図でこんな場所に飛ばしたのであろうか?

 

「おい! 誰だお前……」

 

てくてくと船内をあてどなく歩いていると救命具らしきものを身に着け銃を構えた人間に出くわした。

黒いコートを着た見覚えのない人間を警戒して銃を構えたがその顔を見て蕩けた。

顔を見るだけで発動するいつものもときマジックである。

 

「なにがあった?」

 

救命具を着ていることに対する質問である。

 

「あ、ああ……レーダーを見たら突然現れた『何か』にぶつかりそうなんで避難準備を……」

「何かって?」

「わからねぇ…俺は……避難誘導を頼まれただけだ……」

 

 

何人かに出くわして問いただしても似たような情報しか得られなかったもときは再び甲板に出た。

脱出艇に乗って脱出しようと甲板には船員たちが集団で居た。

 

「あ、あれはなんだ!?」

「ば、バケモノだ!!」

「あ、あれは伝説の海神に違いねぇ!?」

「もうだめだ、おしまいだぁぁ!?」

 

遠くを見渡すのを遮るほどの濃霧の向こうに巨大が影が見えた。

大きさは数十メートル、二足で直立している。

二本の腕からはヒレらしき者が生えていた。

 

ヴォオオオオオオオオオオオオ!

 

この世のものとは思えない音が周囲に響いて窓ガラスが次々に割れた。

咄嗟に耳を抑えられなかったものは目と耳から血を出してその場に倒れた。

 

「なるほど、前に見たのは『アレ』か」

 

魔術師がいっていた堕慧児(おとしご)とやらであろう。

一度見ただけで意識を失ってしまった程の異形だが。

霧から見えるシルエット程度ではさすがに意識を失うほどではないらしい。

確かあの魔術師は『アレ』を倒すにはなんと言っていたか?

 

「ボンジュール」

「なぜフランス語?」

 

怪物が迫り怯えている船員の一人を捕まえて声を掛けると緊急時に腕を掴まれたことにより一瞬怒気を発するがもときの顔を見たことで怒りの炎は鎮火してしまってありきたりな返答しかできなくなった。

 

「武器ないの、武器。 怪物に通用しそうな奴」

「ああ……武器庫の中にいくつか……でも鍵が…」

「場所は?」

「一番…下の階が…倉庫に」

「どうも」

 

惚けた顔でこちらをみる船員を用がすんだと放置して船内に移動する。

廊下にある船内のマップをみて糸を使い高速で移動してエレベーターを使い降りる。

武器庫にたどり着くと糸を使い鍵を開けようとすると開けてあることに気付く。

そのまま扉を開けるとまだ年若いであろう青年が武器庫を探っていた。

 

「だめだ、これでも…これじゃ…あった……! っ、だめか!?」

 

☢のマークがあるトランクを発見して箱を開けようとして青年は鍵がかかっていることに気付いた。

 

「だめか! バケモノを倒せそうな武器はこれぐらいなのに鍵を見つける時間がない!!」

「あのー」

 

落胆してへたり込む青年に声を掛ける。

この緊急時に声をかけられると思っていなかった青年はビクッとするとこちらを振り向き当然のごとく惚けた。

もときはいつもの反応に気にせず言葉を続ける。

 

「鍵が開けばいいの?」

「ああ……お前は天使か…死神か……そうだよ…あとは弾を入れて引き金を引くだけさ…でも探す時間が…」

「開けたよ」

「はぁ!?」

 

妖糸を使いあっさりとケースの鍵を開けたと告げ一人でにケースが開いた。

それを見て青年の目が点になった。

 

「いかないの?」

「お、おお!」

 

トランクの中身を確認してから閉じて脇に抱えて全力疾走して去っていく青年に手を振った。

 

「さてさて、どうなるのか」

 

しばらくして轟音が鳴り響くと来たときと懐から光が発せられて同じように目眩と共に景色が歪んだ。

 

 

4、

もときが目を開くと武器庫の中にぽつんと立っていた。

部屋の様子を見るとガランとしており部屋の壁を見ると年月を感じさせた。

どうやら元の時間に戻ったようだ。

エレベーターを使おうとしたが電源が入っておらずにしょうがないので歩いて上の階に上がる。

 

「チャオ」

「今度はイタリア語ですか?」

 

甲板に出る前の通路に居た門土に声を掛ける。

先ほどと違い何故か美沙子に膝枕をしている。

 

「甲板に言ったのになぜ背後から?」

「色々あって」

 

話していると美沙子の目が覚めたようで目をこすりながら起き上がった。

 

「おはよう」

「……すいません、こんな状況なのに」

 

起き上がると謝られたがもときは特に気にせず疑問に思ったことを聞いた。

 

「トランクは?」

「なんの話ですか?」

 

あれ? と、もときは首を傾げた。

美沙子の枕代わりにしていたケースがなくなっており部屋の隅においてあった筈の核兵器がなくなっている。

 

「それより何かありましたか?」

「うーん、ちょっとまってね」

 

そう言って扉を開けて甲板に出た。

甲板にあったシートの方へ行き再び宙にふわっと浮かび上がり乗っかるとシートをめくった。

 

「ふぅん?」

 

脱出用の小型艇がそこにはあった。

今度は年月を感じさせるが壊れていない。

使用には問題はなさそうだ。

門土を呼んで使えそうなので降りるのを手伝わせようと甲板を向いたもときの目が細められた。

 

『ありがとう美しき天使』

 

フランス(、、、、)語でそんな言葉が甲板に書いてあった。

 

 

 

 

-<深者の章 完結編6>へ続く-




というわけで深者の章 完結編その5でした。

作者「投稿するまで間が空いたな今は平成何年の何月だっけ?」
読者「……今は令和時代だ」
作者「アァアアア 『年号』がァ!! 『年号』が変わっている!!」

ということになりそうだったのでとりあえず一番書き進めていた深者の章を投稿しました。

アンケートのご協力ありがとうございます。
とりあえず一番投票が多かったFGOの話を書くことにしますが。
幕間の物語風の話で下記進めてますが本編時空のネタも浮かんできたのでどちらにしようか悩みとりあえず両方書いていますので少々お待ちを。


しかしポルノ13意外と人気高くてびっくりです性春姫の方が多くなるとおもったのですが不思議!

ところで鬼滅の丸太の続きって需要ありますかねこれ?
『鬼滅の妖糸』でもよかったんですがさすがに芸がないなぁと思ってこうなりました。

・善逸「俺に特訓しろなんて人殺しが! この人殺しがぁ!……すまない明さん母乳が欲しくて」

・善逸「あったよ饅頭!」
明「善逸でかした!」

・明「丸太は持ったな!! みんないくぞぉ!!」
善逸「ひぃぃぃぃぃ! わけがわからねぇ!?」

という善逸ネタとか

・明「俺が覚えているのは……血塗れでニヤニヤこちらを見ている男、こいつは何が何でも絶対に殺さなければ(ギリィ!)」

『頭から血をかぶったような鬼だった』

『にこにこと屈託なく笑う 穏やかに優しく喋る』

しのぶ「――他にどんな特徴がありました?」
明「え? 確か……鉄扇を武器に使っていた」

『その鬼の使う武器は鋭い対の扇』

しのぶ「……もしかしたら私、記憶を取り戻す手助けができるかもしれませんよ?」
明(凄い顔してる)

というしのぶさんの勘違いネタとか一応やりたいシーンは色々ありますがしっかりやるとかなり長くなるなこれ……。
そのまえに深き者の章終わらせなきゃ(義務感)
この続きは無惨様が猗窩座殿の寿退職を阻止できたらすぐ書くかもしれません。
また次回お会いしましょうではではノシ


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淫獄都市ブルース<愁鏡の章> その1

久しぶりの淫獄都市ブルースです
リハビリなので今回の話は鬱成分控えめです
今回も短めを何回かの連載形式ですがおつきあいください


「秋くんってロリコンなの?」

「は?」

 

あまりにも人聞きの悪いセリフに「お前何いってんの?」という視線をもときは向けた。

少し怒ったぞと唇を尖らせるが春風駘蕩な雰囲気のせいでまったく怖くない。

 

「だってしょっちゅう女の人に言い寄られて袖にしてるのに、子供には優しいじゃん。

こないだも角の生えてる女の子とあやとりして遊んでたし」

 

ぷくーと頬を膨らませて自分とは遊んでくれないのにと文句をいうさくら。

ひどい誤解をされている気がする。

 

「言い寄ってくる女性を断ってるのは大体仕事中だからだし、さくらとは今遊んでる」

 

そういって机の上の札をめくり、ゲームマット代わりの座布団の上にある札に叩きつけた。

 

「赤短ね」

 

花札である、なかなかに渋いというか年寄り染みているが昔から残ってるだけあってなかなかおもしろい。

 

「また連続で役じゃん、イカサマしてない?」

「ソンナコトナイヨー」

 

 

もときが負けそうになると不思議といい札がくることが多いが偶然である。……偶然である。

 

「そうじゃなくて外で遊んでよ~、買い物に付き合うとかさ」

「外で一緒だと多分さくらが刺されたりすることになるからやめたほうがいい」

 

忘れられがちだがもときは転生者である、前世から縁がない女の子とのデートには非常に興味があるがこの顔である。

下手に外で一緒に女の子といるともときの側にいることに嫉妬した女性の憎悪が、一緒にいる女性に向くのでしたくてもできないのであった。

 

気にせず手を出して捨てるくらいに図太ければ色々楽なのだろうが、そういう事をするのはどちらかというと自分ではなく、この体の大元の人物の幼馴染の方だろう、メフィストがいるのだからもしかしたら転生者としているかもしれない。

 

「じゃあちっちゃい子と外で遊ぶのはなんでよー」

「遊び相手になってくれる同じくらいの子がいないんだってさ」

「それでなんで秋くんと遊ぶのよ」

「まあ…、暇だったから」

 

もときはそう言ってはぐらかした。

たまたま一人で歩いている時に寂しさで泣く子供に手作りの濡れ煎餅をあげたら喜んで泣き止んだのがきっかけで情が移ったとはわざわざいわなかった。

 

後で聞いた話によるとその子は母親と二人暮らしで、母親は娼婦で父親はわからないらしい。

食事などは作ってくれるが夜の仕事の為、食事の用意をしたら昼まで眠り夜は仕事で殆ど構ってくれないと言っていた。

食事を欠かさず毎日ちゃんと作るだけでも、この街の住人にしては愛が深い方だがあの年頃の子供にそう説くのは酷であろう。

 

この数日後に市内で銃撃戦が行われた。

ギャング組織の下っ端が揉めたことを発端としたこの事件は十数分。

正確には十四分三十八秒で当事者全員が死亡したことで終結した。

 

事件に巻き込まれて出た被害者は重軽症者四名、死者一名。

もときがこの事件で出た死者があの少女と知ったのはさらに数日後である。

 

2、

五車学園は夕刻の日が沈みはじめ学生達が一日の授業を終えて帰宅し校内に残る人間が僅かになった頃に来客を迎えた。

迎えた妙齢の美女は過去に婚約者を殺され妹と妹分を凄惨な調教と陵辱され自身も体を感度3000倍に改造されても窮地から自力で脱出しその手引きをしたのが自身の祖父だと気づいたことで一族を粛正した烈女、井河アサギである。

 

混沌の時代に対応するために対魔忍を政府傘下の組織として再編したが「対魔忍はどこの勢力にも媚びず独立独歩の中立であるべし」として反発した対魔忍御三家の『ふうま』による反乱がおきた上に残りの御三家の『甲河』は魔族への大攻勢の情報を漏らされてノマドを率いるエドウィン・ブラックにより『甲河アスカ』を残して全滅。

 

『ふうま』の反乱はなんとか鎮圧したが残ったのは内部抗争でガタガタになった上、腐敗した上層部による権力維持のため血統と実力至上主義の愚民教育を施された脳筋の若手ばかりでベテランは死亡か逃亡、過去の正式な人材育成ノウハウも失われ『甲河』頭領である甲河アスカは一族の復讐のため単騎でエドウィン・ブラックに挑み敗北し四肢を切断され生死不明のまま消息を絶ち*1

『ふうま』の次期頭領はまだ学生のため残った御三家『井河』として最強の対魔忍の威光で若手を束ね不向きだと自覚しながらも組織を率いることを強いられている苦労人である。

 

 

自身も愚民教育の被害者であるが歴代でも最強の呼び声高い実力者のために自力でなんとかできてしまうので彼女に憧れた人間が自身を真似て力業一辺倒で捕まることが多いのが悩みの種である。

その捕まった人材を回収すべく呼ばれたのが秋もときであった。

 

自分とアサギの二人だけの部屋で依頼対象のプロフィールやどのような任務かを聞きながらもときは視線を部屋にあった姿見に向けるとソファーに座っているアサギと自分と顔の部分が黒塗りつぶされたように影で見えない小さな子供の姿が写っている。

 

「どうしたの?」

 

鏡を見ているもときをみて鏡の方を見たアサギが視線をもときの方へと戻す。

アサギには鏡には今部屋にいる自分と世にも美しい少年の二人が映っているだけだ。

 

「いえ、なんでも」

 

もときには鏡に相変わらず自分とアサギ以外に子供が映っているが視線をアサギの方へと戻す。

鏡に映っている自分にしか見えない子供は数日前に死んだあの子がよく着てた服と一緒だった。

 

 

 

 

淫獄都市ブルース<愁鏡の章> その2へ続く

*1
米連に所属して手足をサイボーグ化して元気にミサイルやビームをぶっ放している模様




没ネタの<恩讐の章>だと弱って子狐状態で瀕死の所を助けられた狐の魔族が恩返しをしようとしてもとき君に恩人捜索の依頼を受けて見つけるんだけど、助けてもらった狐と嘘をついた悪役狐が恩返しに見せかけた吸精行為で恩人を瀕死になるまで利用しているのを発見。

激昂して悪役狐を殺すんだけど「よくも自分の恋人を殺したな!」と恩人に刺されて、弱っていた狐は死亡、生気を使い果たした恩人の男も死亡という話でした。

思い人に気持ちが届かず思い人によって傷つくというのは<精選の章>と展開が被るのが没理由です。


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淫獄都市ブルース<愁鏡の章> その2

<愁鏡の章>その2です


その女性は青白い肌と青白い肌と尖った耳をしていた。

魔族の中でもダークエルフと呼ばれる美男美女揃いと名高い種族だ。

普段は真っ赤な肌に張り付くように薄いドレスからうっすらと見える胸の起伏が呼気と吐息で交互に美しく動く様子へ男たちの助平な視線を吸い寄せているのを薄く微笑んで返すであろう美女が今はそのドレスに負けないくらいに紅く火照らせていた。

目はもときの顔に引き寄せられ意思の光はどこにもない、本来なら胡蝶蘭の様に華やかな美貌へもときの問いかけに虚ろな声で応じている。

 

「ええ……はい…ここで働いてました…子供をなくして……休業するって…」

「彼女の家を訪ねても見つからなかったのですが居場所に心当たりはありますか?」

「いえ……すいません…オーナーなら……わかるかも」

「オーナーの連絡先は?」

「携帯番号も……自宅も……従業員には教えてないです…」

「ここで待ってたら会えます?」

「今日は……無理です明日の二十一時に様子を見に来るって…」

「どーも」

 

この瞬間が永遠に続けば、いえ今この瞬間に生が終わってくれないかと思い始めた美女はもときが外へ歩き出したのを見てへなへなと崩れ落ちてしまった。

 

「女の敵……ロリコン…黒ずくめ……なんちゃって対魔忍…」

「人聞きが悪い、ロリコンじゃないしそれに対魔忍はもうやめてる」

 

もときの横を通り過ぎる人間は耳をすませると足下の影からぶつぶつと若い女の声が聞こえることに気づくだろう、もっともその前に天使の顔を見て魂を吸い寄せらない人間に限定されるが。

懐からもときがコンパクトを取り出すとその鏡に写っている子供も女の敵だというさくらの意見には同意しているらしくコクコクとうなずいていた、ロリコンと黒ずくめとなんちゃって対魔忍は否定しないらしい。

 

「――とりあえずこの店のオーナーについて調べるか」

 

わずかな時間なにもせずに日の光に全身をさらしてから彼は面倒くさそうにコンパクトを閉じて歩き出した。

 

 

東京キングダムで銃撃戦があった翌日のことである。

たまの休日でアナログゲームの勝負はこちらに不正疑惑があると抗議したさくらが持ち出した自身の給料で購入した新世代ゲーム機で朝まで勝負をして二人して昼過ぎまで寝坊するという夏休みの学生みたいな休日の使い方をした日のこと。

目が覚めたもときはつけっぱなしのテレビとゲーム機の電源を切って顔を洗いに洗面所で顔を洗おうとした時に鏡に映る自身の背後に誰かがいることに気付いた。

 

そのまま背後を見ても誰もいないが鏡を見ると顔の見えない子供が映っており、魑魅魍魎の類かと思い霊体すら縛り切断する妖糸を用いて鏡に映っている場所を調べても何の手ごたえもない。

洗面所に入ってきたさくらが来るまで鏡とにらめっこしていたがその間にこちらに危害を与えようとする様子もなしであった。

さくらにその事を伝えたが鏡には別に変なものが映っていないとの反応からどうやら自分以外には見えないらしい。

別に害がないならいいかと放置することにした。

 

最初は無視していたもときだが二、三日経つと普通の手段じゃ気にするような相手ではないと思ったのか鏡以外の反射するものすべてにもときの前に出てピースサインをするなど修学旅行中の小学生並みにアグレッシブな映り方をするようになりさすがにちょっと気になったがスルーした。

 

朝、洗面所に入ったら洗面台の鏡に赤い字でなにやらよくわからない文字がかかれており鏡の中にいる子供が何やら下を指差していた。

指先を視線でたどると流しの中にコンパクトが置いてある、それを取れとジェスチャーしているので手にとった。

顔を上げ文字を見たもときは何かを思いついたのか洗面台の鏡に背を向けて反対側をコンパクトの鏡で文字を見ると

 

『おねがい ままさがして』

 

と書かれていた。

 

「ママをさがして?」

 

もときは怪現象に驚いた風もなくいつも通り茫洋とした顔で文字を読み上げると鏡の中のなんでこんなに手間をかけさせるんだといわんばかりに手をぶんぶんとふりながら子供はコクコクと頷いた。

 

「おはよ~う、……え、なに、これ、心霊現象!?」

 

ゲームをやって夜ふかしをしていたさくらが眠そうに洗面所に入ってきて騒ぎ出した、そういえばこいつホラー好きだったなとキャーキャー朝っぱらからはしゃいでいる寝間着姿の同居人兼自称助手冷めた目で眺めた。

 

 

 

 

その日の夕方、仕事帰りにあやとりをした子供と遊んだ場所へと足を運んだ、東京キングダムは大通りには一般の客向けのナイトクラブやカジノ、風俗店が立ち並んでおり、夜になると本土から訪れた観光客によって活気に満ち溢れるが、港湾地区に近づくほど治安は悪く、大小の犯罪組織に加えて米連や中華連合、ノマドなど様々な勢力の出先機関がひしめき合う危険な場所だ。

 

子供が遊んでいられるような場所は限られているので出会うのはいつも同じ場所であった、そしてもときが訪れたその場所にはこの街に似つかわしくない花束が置いてあるのを見つけた、黄色い花束を見ているとそっと東京湾から吹く海風がもときの頬に砂をばら撒く。

 

「鏡に映る子供の幽霊が依頼者か――引き受けたらロリコンだのなんだの文句言われそうだ」

 

自分のつきまとう鏡に映る子供は死んだあの子供だと思い至った黒衣の影は妖々とその場去った、死と隣り合わせの街を彩る喧騒とネオンのジャングルに呑み込まれてもその美貌は夜光虫の様に輝いてみえた。

 

 




というわけで第二話ですあんまり話が進んでないのはご愛嬌、これも全部台風ってやつの仕業なんだ(責任転嫁)


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淫獄都市ブルース<愁鏡の章> その3

前回までのあらすじ

宇宙世紀0079年に地球統一政府である地球連邦に対して宇宙移民の独立国であるジオン公国が宣戦布告し人類史上初、地球と宇宙を戦場にした未曾有の大戦争が幕を開けた。

後に一年戦争と呼ばれたこの戦争はジオン有利に進み人類史上最大の会戦と呼ばれるルウム戦役が生起しこの戦闘で連邦は敗北し連邦軍艦隊は戦力の80%を喪失し、総司令官レビルをもジオンに捕縛されたことによりジオン有利で和平条約を結ぼうとしたが直前でレビルが脱出し「ジオンに兵なし」との内情を暴露されたことにより和平を取り消し徹底抗戦を決めた連邦とジオンの戦いは続くと思われた……『それ』があらわれるまでは。



『それ』は26世紀の人類が生み出した惑星級の星系内生態系破壊用兵器のなれの果てであった。

銀河系中心域に確認された、明らかに敵意を持った外宇宙生命体との接触に備えて建造されたそれは、反応兵器や次元兵器と異なり空間を汚染することなく、その効果範囲における全ての生態系を破壊する局地限定兵器であった。

月とほぼ同じ大きさのフレームの中に満たされた、すべてを侵蝕し、取り込み、 進化して、自分以外の生命体すべてを喰い尽くすまで活動を続ける人の手による絶対生物、それは、生体物理学、遺伝子工学、魔道力学までも応用して合成した人工の生ける悪魔だった。

質量のある物体でありながら、波動としての性質も併せ持ち、
あらゆるものに伝播する。
時には人の思念にさえも干渉し、そして貪る。

『BYDO(バイド)』と呼ばれる邪悪な生命体群の出現である。


敵の星系に空間転送する前に誤動作し、暴走した末に次元消去型兵器によって異次元の彼方に葬り去られたが、飛ばされた異次元の中で生き続け、全てを取り込み進化して行った結果、暴走した末に次元消去型兵器によって異次元の彼方に葬り去られたが、飛ばされた異次元の中で生き続け、全てを取り込み進化して行った結果、平行世界の宇宙である宇宙世紀0079にたどり着いてきたのだ。


ジオンの地球からの独立戦争として行われた戦争はバイドという共通の敵が現れたことによりに一年で終結しアースノイドとスペースノイドの融和を促すこととなった。





――それから14年後、0079、0083、0087、過去大規模なものだけでも3度に渡ったバイドとの戦闘は、その都度人類の勝利で終わった。

しかし、バイドは3度現れ、3度葬られ、そして3度復活したのだ。
バイドの完全な根絶は不可能なのか?

戦いに終止符を打つべく、対バイド最終兵器の開発が計画された。
それは、「バイドをもってバイドを征する」を旨とするための部隊『ロンド・ベル隊』。
そして発動される作戦名『∀(ターンエー)』
対バイド最終決戦が始まるその中には「アムロ・レイ」と「シャア・アズナブル」の姿があった。



Rx-TYPE FINAL逆襲のバイド-宇宙世紀0093 公開予定!-












キガ ツク トフ タツ キイ ジョ ウタ ッテ イタ 
ワタ シハ ネタ ヲモ トメ テサ マヨ イツ ヅケ 
イツ ノヒ ニカ トウ コウ デキ ルト シン ジテ


対魔忍RPGで毎日10連ガチャイベントが開始したのでガチャしたら赤一点のほぼ向日葵だったけど昇格でSRイングリッドが重なったので投稿します。


<メフィスト病院>に一人の患者が訪れた。

東京キングダムに存在するこの病院は廃棄された商業施設を改造しており島内に点在している闇市場や娼窟や観光地などある中で貴重な医療施設というだけではないある種異様な存在感を帯びている。

 

曰く抗争でビル一つ吹き飛ばす量の爆薬を搭載したドローンが墜落した衝撃で爆破しても傷一つつかなった。

曰く地上げに押し寄せた弱小ヤクザの組員全員が患者たちへの手足や臓器に採用された。

曰くこの魔都にお忍びで観光に来たとある世界的に有名な建築家は、この病院を見学して「奇跡だ!」と叫んで発狂し病院から笑いながら走り去って消息不明になった。

 

などなど逸話に事欠かない場所であり『魔界医師』ドクター・メフィストを院長とする個人病院であり内科や外科など通常医療の他に、心霊療法や魔術や呪術などの科が存在しており狐憑きや人面瘡に応声虫、現代では精神病や無知故の怪異扱いされ実在しない筈の病魔に侵され祈祷師や坊主や神が祓うのに任せるしかないような病気すらも治すことができる病院である。

 

 

「院長急患です、患者は頭部、脊椎、心臓部以外を残して――ありません」

『部位消失理由は?』

「魔獣に食べられたと思われます」

『すぐ行く』

 

 

病院に訪れた男、……名前がないのもなんなのでジョンと仮に名付けよう性はドゥでもスミスでもいい。

ジョンは訓練によって鍛えた落ちた針の種類さえ聴き分けられる聴力にはそんなやり取りが聞こえた。

そしてすぐに外から担架運ばれてそのまま廊下を通り過ぎていった。

乗っていた人物の顔だけチラッと見えたがすでに顔色は冥界に旅立ったそれである。

 

あの患者の死亡手続きで自分の診察はしばらく来そうにないと男は染みひとつない純白の天井を仰いだ。

そして暫し空目しているとジョンは自分の名前を呼ばれおや早いなと思いながら看護師に返事をして隣の席に置いてあった荷物を片手に診察室まで歩いていった。

 

 

「おまたせした」

 

そう言って診察室の椅子で待っていたジョンの表情が弛緩した治療する前の心配や苛立ちは春の日に舞い降りた雪のようにあっという間に溶け去った本当の美しさとはそういうものだろう。

 

「傷を見せたまえ」

 

ひと目で患者の状態を見極めた白い医師は治療に必要な動作を支持して一瞬にしてトランス状態に陥ったジョンはいわれるままに行動した、下手な暗示など比較にならない視界に入った時点で我を忘れさせる美しさはこの医師の治療をスムーズにする道具としても非常に有効である。

 

「ほう」

 

傷口を見たメフィストの顔が愛し子を見つめるような表情が浮かぶ。

 

「残念だが君の腕を切断した男が作り出した傷は誰であろうと繫ぐことはできん私でさえも」

「……これを誰がやったか分かるんですか?」

「このような芸術的とさえ言える滑らかな切り口を作ることが出来るのは一人しかおらんよ」

 

名高い剣豪が名剣・妖刀を持ったとしても作り出せないであろうその傷はまるで最初からそのように作られたかのようように体液すらも滴り落ちない異様な傷口を作り出していた。

 

「しかしまだ『あの男』が作った傷ならばつなげるのは無理だが治療は可能だ」

 

そういいながら傷口を触診しているメフィストは不思議な言い回しをした、この切り口を作れるのは一人だけと言ったのに治療が不可能な傷を作れる男がもう一人いるかのような?

しかしジョンは世にも美しい存在が自分に触れてくれているという法悦の瞬間に浸っていたために気付かなかった。

 

 

「ふむ、問題なのは傷口だけかと思えば――それだけではないようだな。念のために『コレ』を飲みたまえ」

「……はぁ…『コレ』、……え、ええッ、こ、これを、本当に飲まなきゃいけないんですか!?」

 

 

はてジョンが手渡された飲んでおけといわれた『モノ』とは一体なんなのだろうか?

 

 

「お大事に」

 

一日がかりになると思った治療を短時間で鮮やかに処置を済ませ腕を落とされる切っ掛けになった仕事の前金が吹き飛ぶ治療費を覚悟していたが予想以上の料金――この病院はどうやって採算を取っているか心配になる破格の安さを支払い用が終わったら早く帰れと無言で訴える病院のスタッフの視線を浴びながら病院のロビーの椅子に座ってジョンは今後のことを考えていたら人とぶつかった。

 

「おっと、失礼」

「いえ大丈夫です」

 

頭をさげてからぶつかった相手の顔を見てジョンの顔が蒼白になった。

入院着を着ている患者であろうその人物はジョンの横を通り過ぎて今は受付で入院の手続きをしているが間違いなくジョンが診察前に死亡した思った人物だったからだ。

 

死者の蘇生以外ならどんな患者でも治せると評判のこの病院の噂が事実であると分かり、その院長が治療は不可能だと言っていた傷をつけた人物、いかなる手段でかわからないが自分の腕をいとも容易く切り落として去っていったあの美しい少年のなんらかのきまぐれで奇跡的に命拾いしたということに気づいて背筋が凍りつき汗が吹き出た。

 

 

「……国に帰ってまともに働こう」

 

 

2、

同じ頃

「街で銃撃戦が起きて一般人が巻き込まれて死んだ」

「うん」

 

もときが足元の影に話しかけると明るく溌剌さを感じさせる少女の声が答えた。

 

 

「それで死んだ子供が自分の知り合いだった」

「まあこの街じゃよくあるね」

「その子供は街の娼婦の娘で死んだ後に幽霊になって会いに来て自分の母親を探してほしいと依頼を頼んだ」

「うーん、まあなくはない…かな珍しいけど」

 

怨霊や悪霊などは任務で関わることがあるし中には霊などを操る術は対魔忍にも使い手がいるし、魔族の中にはレイスという死者に一時的に生命を与え操る力を持つという高位魔族も存在し、その中でもレイスの王である屍の王<レイスロード>は魔界で吸血鬼と抗争を広げながら地上を侵略しようと死霊騎士<レヴァナント>と呼ばれる強力無比な戦士たちを地上に派遣している。

なので対魔忍にとって霊的存在はまったくの無縁というわけではない。

 

「その依頼を受けたら殺し屋を何人も差し向けられた」

「うーん、これだけ重なると偶然とはいえないかなー」

 

最初にナイフを持った浮浪者、次に薬代目当てのジャンキー、次に理由はなんでもいいのでとにかく暴れたいといいたげなチンピラ、次に銃を持って現れた鉄砲玉、そして軍人崩れ、仕事上色々と恨みを買うことが多いのでたまに襲撃されるがこれだけ連続して襲い掛かられる心当たりは最近では幽霊少女から受けたこの依頼だけである。

さすがに訓練された人間まで出てきたら偶然とは思えない意図的なモノを感じたので情報屋に聞いてこっそり撮っていた顔写真を見せて照合したところ先ほどのすでに記録上死んでいるという答えに繋がるわけである。

 

「探すものを殺そうとすでに死んでいる人間を使うか、一体死んだ女の子の母親って何者?」

 

仕事の過程で怨みは腐るほど買ってる。

偽の依頼で罠にはめ、抹殺しようとした例はすでに枚挙に遑がない。

しかしどうにも今回の件はそれらとどうにも性質が別なようである。

もときはさきほど聴いた話を思い返した。

 

 

 

「調べた所によるとあなたが見せた写真の男性は記録上死んでるわね」

「別の死体を用意して死を装って脱退したとかそんな感じ?」

「いえDNA鑑定で本人だと判別しているわデータ改ざんの痕跡もなし」

 

襲われて腕を落とされて意識が飛んだ男の顔をスマホで撮って情報に持っていって何か手がかりを掴めるかと情報屋のもとに言ったもときにそんな答えが返ってきた。

 

特殊部隊では遺伝子操作をして兵士達の性能を均一にしてさらに意識の統一を促しより公的な軍隊にして群体にするという試みが米連の一部で行われており各部隊員のDNAを管理しているため肉体の一部でもあればたとえ黒焦げで顔が見えなくなっていようが判別は可能になっている。

 

 

「じゃあクローン?」

「あなたが懇意のお医者様が作ったダミーの可能性もあるわね、――なんのために対魔忍でもないただの一般兵士の複製を作るかという話になるけど」

「ふうん」

 

情報屋の女性に礼を言って外に出た。

現在の時刻は午後四時、暇と忙しさが拮抗する時間だ。

つまり人が増えてくる時間帯である。

今日が終わるまでにあと一つ用事を済ませられるかなと思ったが正直終わる自信はまるでなかった。




ゆきかぜ「八歳の時も九歳の時も十歳の時も十二歳と十三歳の時も私はずっと、待ってた!」
不知火「な、なにを?」
ゆきかぜ「クリスマスプレゼントだろ!」
不知火「ああっ!?」
ゆきかぜ「カードもだ、お母さんのクリスマス休暇だって待ってた! あんたは娘にクリスマスプレゼントの代わりにNTRビデオレターをふうまにくれるのか!」
不知火「そんなに忘れてる……」


というわけでお久しぶりです色々あったので間が空いたらすっかりかけなくなってましたorz
積本していたメイドインアビスを見て創作意欲がようやく生えてきたので短いですがお送りします


答えは得た、大丈夫だよボ卿、俺もこれから頑張って行くから……

(|)『それは素晴らしいですね』

ちなみに先程の小ネタはなんだかサンタを変なふうに勘違いしているっぽいクリスマスゆきかぜを見て不知火のクリスマスは多分仕事だったんだろうなと思ったらこんなネタを思い浮かべていました。

㍆㌋㌉㌏㌉㌸㌾㌋㌞㌹㌅でおなじみの巨人の星ネタでもよかったかな?


ではまた次回お会いしましょうメリークリスマス
アクション対魔忍は本日10時から!


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