ゆずソフト全年齢版短編集 (タキオンのモルモット)
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策士⋯⋯?【因幡めぐる ヤンデレ】
────視線を感じる。
約三ヶ月前から貴方はどこからか見られている、と感じていた。どこに居てもだ。
学校、トイレ、登下校中は勿論、夏休みでもアパート(一人暮らしで両親は海外)や電車の中、街中でもずっと誰かに見られていると感じており、貴方の心は疲弊しきっていた。勉強嫌いなのに唯一視線を感じない授業中が楽しくなるほどには。
更に、偶にではあるが、アパートを出た時と帰った時で明らかに出た時と物の配置が違う、という事も起きた。空き巣を疑ったが特に無くなったものは無かったのが尚更不気味だった。
そんなこともあり、すっかり憔悴し切った顔でフラフラと歩いていると後ろから突然「大丈夫か?」と声をかけられた。
声をかけてきたのはクラスメイトの保科柊史だった。二学期に入ってしばらくして、突然学院の人気者である綾地寧々と付き合い始めた謎多き男である。
「顔色が悪いぞ、何かあったのか?悩みがあるなら相談に乗るぞ?」
そう、保科柊史は聞いてきた。
なんでお前に話さければならない、と問い返すと「オカルト研究部で悩み相談をしてるんだ、人に話せば楽になると思うし、力になれるかもしれない」と返してきた。ついでに「守秘義務は守るからさ」と付け加えてきた。
別にどうこうなるとも思えないが、色々と我慢の限界だった貴方はその誘いに乗り、放課後、オカルト研究部にお邪魔する運びとなった。
「視線を感じる⋯⋯ですか?」
放課後、オカルト研究部で貴方は今までの現象、感じ取ったこと全てをありのまま話した。
「⋯⋯なるほど、常に誰かに見られている、そんな気がしてならないと⋯⋯」
「それだけじゃなく家にある物の配置まで変わってた事があった⋯⋯って空き巣とかストーカーなんじゃないか?警察に相談した方が⋯⋯」
柊史の言うことは正しい。だが物が盗られていない挙句、実害が無いので立証のしようがなく、警察が動いてくれないのである。
その旨を話すと二人とも黙ってしまった。
まあしょうが無いだろう、困った人を助ける、みたいな事をしているようだが内容がアレすぎる。さすがに打つ手なし、と言ったところか。
相談に乗ってくれただけでも心は楽になった、ありがとう。と礼を言い部室を後にし、廊下に出たその瞬間、身体に衝撃がはしった。
「きゃっ!?」
どうやら誰かにぶつかってしまったらしい。直ぐに頭を下げ、謝罪すると、派手な髪の色をした少女は「いえ、こちらこそごめんなさい」と言って頭を下げてきた。それを見届け貴方はこの場を去った。
数週間後、貴方はそのぶつかってしまった女子生徒────因幡めぐるに告白された。
なんでも前々から好きだったとか。いきなり告白されて戸惑った。
取り敢えず、いきなり過ぎてとりあえず保留にした、その次の日から、ついに視線だけでは済まなくなった。
家や下駄箱にめぐるの顔に×がついてる写真に加え、やれ「この女は貴方を騙している」だの「私こそ貴方に相応しい、私は貴方のことをなんでも知っている」だの。
多種多様の嫌がらせが続き数週間、精神的にキツくなっていた時、傍で支えてくれたのはめぐるだった。
「大丈夫ですよセンパイ⋯⋯これだけ実害があれば警察は動いてくれます⋯⋯もう少しの辛抱です⋯⋯だから元気だしてください」
そう言って彼女は貴方の顔を胸に抱きとめた。
「大丈夫ですよ⋯⋯私がついてますから⋯⋯ね?」
────その時のめぐるの表情を、貴方は知らない。
「クソっ!!なんなのよあのチビ!!」
貴方のアパートの隣の部屋で、一人の女が荒れていた。髪はボサボサで伸び放題、肌も荒れていてとてもじゃないが美人とは言えない人物だった。
彼女は容姿が故に浮ついた話もなく、同性からは馬鹿にされ続けていた。そして三ヶ月前、好きな人に告白し、ものの見事に玉砕、理由も容姿がどうのこうの。荒むのも無理はなかった。
そんな事があって暫くしてこのアパートに引っ越して、隣に挨拶をした時、貴方がにこやかに対応され、一目惚れしたのだった。
初めて、笑顔で挨拶された。その後も会う度ににこやかに挨拶を返してくれる────などの要素から盛大に勘違い。そしてストーカーの始まりである。
「あの人は私の事が好きなのよ⋯⋯そうよ⋯⋯そうなのよ⋯⋯ぽっと出の娘に取られるもんですか⋯⋯!!」
一人でブツブツと闘志を燃やしていた時、チャイムの音がした。
「⋯⋯どちら様?」
『すいませーん、上の階の者なんですけど、何故か私の部屋の前にこちらの部屋の荷物が置いてありまして⋯⋯持ってきたのですが開けてくれませんか?』
なんだそれは⋯⋯親からの仕送りだろうか?
と思いドアを開けた瞬間────
「────え?」
首から血が噴き出していた。
「────ッ!!!!」
声を上げることすら許されなかった。
薄れゆく意識の中、彼女が最後に見たものは────
「────ふう、こんなもんでしょうかね?」
因幡めぐるは目の前に転がる女だったものを、ゴミのような目で見つめていた。
「⋯⋯まったく、まさか他にもセンパイをストーキングしてる人が居るとは⋯⋯夢にも思いませんでしたよ⋯⋯」
そう、彼女、因幡めぐるもストーカーだった。
彼女は数ヶ月前、たまたま街で出会った貴方に一目惚れをした。そしてそこから、主に彼女は学校と通学路でストーカー行為に及んでいた。もっとも、主にと言うだけで、貴方の部屋に盗聴器などを付けたりしているのだが⋯⋯。その通学路でたまたま、この女の存在を知ったのだ。そしてセンパイに害を為していることを知り、処理しに来た。それだけだった。
「確かにセンパイは魅力的で世界一カッコイイから好きになるのも仕方ありませんよ、それはしょうがないです。」
でも────、と区切り、彼女は明かりの消えた目で女だったものを見下し、言葉を吐く。
「センパイを一番わかってるのは私だけです。私だけで充分なんです。朝起きる時間、起きた後にする行動、家を出る時間、通学路、学校での行動、お昼ご飯の傾向、何から食べるか、苦手な教科に得意な教科、癖、睡眠サイクル、将来の夢、趣味、特技、長所、短所、悩み、思考⋯⋯全部全部めぐるだけが知ってるんです。いえ、ここまで詳しく知っていいのはめぐるだけなんです。めぐるだけのものなんですよ、センパイは。」
グシャッ、とその女の頭を踏み潰し、彼女はスッキリした顔でこう言った。
「────さて、明日からこの女のせいで憔悴してたセンパイを元気づけなくっちゃ!!」
そう言って因幡めぐるは、完全に自分の居た痕跡を消し、自分の家へと戻って行った。
めぐるの勧めでオカ研に相談し、取り敢えず保科柊史の家に泊まった次の日。
学校に警察の人間が来て、貴方のストーカーが死んだという事を伝えられた。
そのストーカーは自分のアパートの隣の部屋の人物で、首を鋭利な刃物で切断されていたらしい。付近の防犯カメラには誰も写っていなかったそうだ。
最初は疑われていたが、その日は柊史の家に泊まっていて、そのマンションの防犯カメラから、アリバイが証明され事なきを得た。
「セーンパーイ!!こっちですよこっち!!」
警察署を出ると、めぐるが手を振って門の前でぴょんぴょん跳ねていた。どうやらずっと待っていたようだ。
歩み寄ると飛びかかり、腕を絡めて「じゃあ帰りましょう!!」とそのまま歩き始めたので少しもたつきながら遅れて歩き始めた。
「そう言えばセンパイ」
暫く歩いて、駅の近くのイルミネーションが眩しい場所まで来た時、めぐるは思い出したように話し始めた。
「色々あって今まで言ってませんでしたが、まだセンパイから告白の返事を貰ってないんですけど」
確かに、保留しっぱなしであった。
無理もない、ずっとあんな事件に巻き込まれていたのだ、完全に頭からすっぽ抜けていても無理はない。
しかし彼女からしたらそういう訳にもいかないだろう、現に「私不満です!」と頬をふくらませている。
「全く⋯⋯女の子との約束を忘れるって⋯⋯確かに最近色々ありましたけどこれくらい覚えておいてくださいよ!!本当に仕方ないセンパイですねぇ⋯⋯」
ジトー、っと数秒見つめ、そんなことをぼやいた後、彼女は貴方の腕から手を離し、こちらを向き、姿勢を正した。
「そんなどうしようもないセンパイにチャンスをあげます」
と一言放ち、こちらを真っ直ぐ見つめて、再びその言葉を口にした。
「私、因幡めぐるはセンパイのことが大好きです、私と付き合ってください」
辛い時に自分を支えてくれた彼女に惹かれているのは貴方も同じで────
「⋯⋯えへへ、これからよろしくお願いしますね?セーンパイ♪」
彼女を抱きしめて、その愛に応えた。
「ふふふ、センパイは私のものです⋯⋯誰にも渡しませんからね⋯⋯」
抱きしめられた彼女の笑顔には、喜びと狂気が混じっていた。
うーん、スランプ!!
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