夜明けへと向かう航路 (旧 クソッタレな世界の中で)休止中 (KP 八神)
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設定

「夜明けへと向かう航路」の設定等が書かれております。

基本的にリーダー視点でお話は進んで行きます。
技能はクトゥルフ神話TRPGがベースになっております。
また、技能の使用は<< >>内に使用した技能、その技能の値、ダイスの結果を書き入れますが、キャラは技能の使用を宣言しません。
使用したキャラシートはクトゥルフ神話TRPGのものです。
サタスペには存在しないオリジナルの盟約なども出てきます。
皆様が見たことがあるような盟約や武器、能力(ブラッドボーンなど)が出てきても何ら不思議ではありません、どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。


世界観的な物

 

本来のサタスペの世界ならば現実とは違った第二次世界対戦等の結果によって犯罪都市オオサカ等が出来上がりましたが、「夜明けへと向かう航路」の世界では我々のよく知る第二次世界対戦後の冷戦が三十年続き、その後に核が大量に使われてしまった第三次世界対戦が発生しております。

アメリカやソ連だけでなく色々な国が第三次世界大戦によって撃たれた核の被害によって荒廃しており地球上の土地の50%がネクロニカや北斗の拳などの世紀末、終末世界のようになってしまっています。

また、日本も復興こそできたものの当然ながら戦争の煽りを受けてしまい治安が猛烈に悪化してしまいました。それ故に自身の身を守るため日本全土で武器の携帯が許可されています。

それ以外は大体サタスペの世界と同じです。

ただ、お金のみわかりやすいように現在の価値と同じ日本円で表現します。

 

 

オリジナルの盟約の簡単な説明

 

新撰組

皆さんご存知の人斬り集団に銃火器が追加された、治安の悪化を憂いた天皇陛下の鶴の一声で再結成。

一応国家権力ではあるがノリが軽かったりする。具体的には銀魂3:史実7くらいの割合

オオサカ市警が主であるが五大盟約と大変仲が悪い。

 

教会

この腐った世界から迷える子羊たちを救うべく立ち上がった盟約。

修道士たちは一般の修道士、悪魔祓い、執行者の三つに分類されている。

五大盟約とソロモンと仲が悪い。

 

学会

知的欲求を満たすために、あらゆる事を追究し続ける変態どもの集まり。

派閥が百以上ある。

工房と犬猿の仲。

 

工房

武具や薬品などの実物を作るエキスパートの集まり。

学会と犬猿の仲。

 

狩人協会

ブラッドボーン世界の狩人達の流れを継いだもの達。

教会以外とあまり仲は良くない。

 

帝国

栄光の大日本帝国を取り戻すため日夜働いている集団。クローンやアンドロイドの技術が発展している。

新撰組と五大盟約が仇敵。

 

ドール

ネクロマンシーより送られてきてしまった可哀想な死した少女達、日夜オオサカの悪意から姉妹を守るために戦っている。

五大盟約と学会と大変仲が悪い。

 

ソロモンの指輪

ソロモン72柱の悪魔を自称する幹部達を中心に作られた盟約。

悪魔召喚や神話生物との接触も行なっているとか。

全ての盟約と敵対。

 

 

 

 

夜明けの幽霊船について

 

夜明けの幽霊船とは、初期のメンバーである八神修と紅麗麗、教会と狩人協会より選出された2名が所属している四人組の亜侠のチームである。

主に亜侠としての仕事だけでなく、盟約からの重要な依頼を受けることも多々ある。

 

所属メンバーの概要(一部)

 

リーダー

 

八神修<やがみ おさむ>31歳 男性

 

ハネ毛の黒髪で基本的にスーツを着ている。

主な武器は腰に下げた二丁の銀のリボルバー、彼曰く師匠のお下がりらしい。

どんな厳しい依頼でも生きて帰ってくるため死神やキャプテン・デスなどの二つ名がある。

魔法が使えるらしい。

割と高スペック。

 

STR13 DEX15 INT16

CON18 APP15 POW16

SIZ14 SAN40 EDU19

 

 

一番槍

 

紅麗麗<ホン レイレイ>22歳 男性

 

長身痩躯なイケメン中国人。

本人曰く中国拳法は大抵使えるらしい。

腰まで伸びた黒髪が特徴、服装はあまりこだわらない。

世話を焼くのが好き。

李書文の血族らしい。

女性だけでなく男性人気も高くて本人は困惑気味。

 

STR13 DEX18 INT10

CON12 APP18 POW15

SIZ16 SAN70 EDU9

 

 

小悪魔

 

リリィ 16歳

 

教会所属の悪魔祓い。

イギリス人らしいが詳しくは不明。

ボブカットの金髪に修道服が普段の服装。

猫が好き。

とある疑惑を持っている。

 

STR7 DEX13 INT13

CON14 APP17 POW18

SIZ 12 SAN85 EDU10

 

 

 

氷の乙女

 

ヴィクトーリア・ペンテジレーア・アレクサンドラ・アルブレヒト・ジャンヌ・ド・ロレーヌ=ドートリッシュ

19歳 女性

 

名前が長すぎるため仕事外ではヴィクトーリア、仕事中はペンテジレーアと呼んでもらうようにしている。

マリーアントワネットと同じ家の血をを引いている超が付くほどの名門貴族の出であるが、己の血に刻み込まれた記憶を思い出し、狩人に。

実はトロイア戦争で有名なアマゾーンの女王の血も継いでおり先祖返りしてしまっているとか。

幽霊船の中で一番設定が濃い。

 

STR20 DEX12 INT18

CON20 APP17 POW10

SIZ11 SAN50 EDU20

 

 



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第一幕 屍事変
第一幕 第一話 新人加入


ズキズキと痛む頭を抑え、布団を体から引き剝がしながらゆっくりと体を起こす。

霞む目を時計へ向けると時刻は9時30分、仕事を入れておかなくて正解だった。

 

ベッドからゆっくりと降りると鏡に向かい毎朝の日課である自己確認を始める。

「八神修《やがみ おさむ》、31歳男、好きなものは酒と煙草と珈琲。今現在は二日酔いで頭が痛い。毎日やってるこれはヤク中の妄言みたいで大嫌いだ。」

 

昨日の宴会の残骸で散らかっている部屋の惨状をどう片付けるか考えながら朝食の用意を始める。

今日はちょっと豪華にトーストとベーコンエッグにしよう。

そういえば昨日の依頼人は無事に帰れただろうか?今回の報酬はなんに使おうか、などと考えてるうちに朝食が出来上がってしまった。

いつもの通り両手を合わせ、感謝の言葉を口にした後食事を始める。

 

食事を終えるとほぼ同時のタイミングで携帯がやかましく自己主張を始めた、クソッタレこっちは久方ぶりの休日だってのに。

苛立ちを抑えながら電話を取り通話ボタンを押すと聞き馴染みのある明るい声が聞こえてきた。

 

『あ、もしもーし? リーダー? 昨日言ってた新メンバーの候補見つけたから11時にジェイルハウスのいつもの部屋に来てくんない?』

「冗談じゃねぇよリリィ、こちとら1週間ぶりの休日だってのになんでわざわざ仕事しなきゃなんねぇんだよ。」

『えー、使える人材探しとけって言ったのリーダーじゃん。それに面接みたいなことするだけだから、ね?』

 

自分が頼んだ仕事を部下がしっかりこなしてしまった以上こちらが何もしないというわけにもいかなくなった。面倒だが。

「あー、はいはい、りょーかい。11時にいつもの場所な、そっちは誰が来る予定なんだ?」

『レイレイは居るみたい。』

「あいよ、金はいつも通りでいいな?」

『オッケー、リーダーの進む道に主の導きのあらんことを。なんてね。』

 

終話ボタンを押し、大きく重い溜息を吐く。

どうやら休日はお預けのようだ。

 

 

家を出て馴染みの顔と挨拶を交わすと、銘が掠れてしまって読めなくなった煙草に火をつけ、煙を補給する。

「安かった割には悪くない香りだ、どこで買ったんだったかな。」

そう呟きジェイルハウスへと歩き始める。

 

<<幸運:80-->23 成功!>>

 

いつもの雑居ビルに入り、薄暗い地下行きの階段を3階分降りると、"Jail House"と書かれた小さな札のかけられた立て付けの悪い木製の扉が中の喧騒と光を漏らしながら出迎えてくれた。

腕時計を確認すると時刻は10時30分ちょうどで予定の時間よりは少し早かったが時間はいくら余裕があっても損をするものではない。

扉を開くと社会不適合者やその予備軍たちの馬鹿騒ぎが鼓膜を揺らす、二日酔いの頭にはなかなかに効くがやはり性根のせいか心地良く感じる。

 

しかしながら、せっかくの新人候補が「利き腕」みたいな面倒なやつらに潰されてしまっては困るのでリーダーの責任的に一応周囲を確認しておく。

 

<<目星:60-->50 成功!>>

 

目を凝らし周囲を見回すと、奥で「利き腕」が新しい女を口説いているのが確認できた、少なくとも今日1日は問題なさそうだ。

さて、後の問題は新人がどんな奴かってとこだが、まあ言葉さえ通じればなんとかなるだろう。

 

そう思い歩いていると目的の個室の前に緊張した様子で立っている女性を見つけた、年はだいたい18前後だろうか。

トップアイドルと言われても納得できるような整った顔立ちとスタイルをしている上に、レディーススーツにハイヒール、アクセサリには真珠のピアスと身なりからしてこの場には全くもって不自然な女性だが、もしや仕事の依頼か?それなら勘弁なんだがなぁ。

 

しかしその感情を顔に出さぬよう努めながら女性に声をかける。

「そこは夜明けの幽霊船の個室だが依頼かい?」

「あ、いえ、私はその夜明けの幽霊船に加入するために来ました。あなたはリーダーの八神さん、ですよね?」

 

まさかの新人だった。

 

「ああ、俺が夜明けの幽霊船のリーダー、八神修だ。とりあえず中入ろうか。」

そう言い、新人が何か言う前に個室の中へ連れ込む。

中へ入ると色白優男のへべれけがソファの上でいつも通り気持ちよさそうにくたばっているのが目に入る、近くのローテーブルには空の酒瓶が所狭しと並べられていた。

 

新人を適当な席に座らせると壁にかかった内線で適当な酒と軽食を注文する。

さて、今回は当たりだといいが。

そう思いながら改めて新人へと視線を向ける。

 

やはりいきなり部屋に連れ込まれたせいか警戒はしているようだが、どうしてもへべれけのチャイニーズが気になって仕方ないのかチラチラとそちらへ視線を向けていた。

そんなあまりにも普通な反応に少し笑みを浮かべながら新人へと話しかける。

「改めて自己紹介といこうか、俺はこの夜明けの幽霊船のリーダーを務めている八神修、そっちでくたばってるアル中は紅 麗麗《ホン レイレイ》うちの一番槍だ。あんたは?」

 

そう問うと新人は驚いたようにびくりと肩を浮かせ口を開いた。

「私は新田飛鳥《にった あすか》といいます、面接があるのでここに来るようにとリリィさんに言われていたのですが。」

「なるほど、その服装は面接って聞いてたからか。随分と真面目だな? アンタ。」

「新田です。」

「はいはい、新田ちゃんね。年は?」

「今年で19歳になります。」

「へぇ、19か。学校は?」

「高校は卒業しました、大学にはいきません。」

 

その後もいくつかの質問をして、問題がないかの確認をする。

今のところはクソ真面目な女の子ってとこだ。

 

「じゃあちと早いが最後の質問といこうか。なんでここに所属しようと思ったんだ? リリィに誘われた程度なら断れるだろうし、断ったとしてもあいつも追及しねぇだろうさ。 」

 

そう聞くと新人は顔を暗くし、俯いてしまった。

しかし2〜3秒の沈黙の後、再び口を開いた。

「………お金が、必要だからです。」

「金ねぇ。新田ちゃんの顔ならアイドルなんて簡単にできるだろうし、下世話な話だが体つきも悪くねぇからそれを売っちまえば簡単に金なんぞ手に入るだろうさ。それなのにどうしてわざわざ危険な"これ"を選ぶのさ。俺としちゃそこがわかんねぇと首を縦には振れねぇ。 」

「………………………」

「だんまりかい、それじゃ面接は終「妹が……病気になったからです。」

 

そこから新人は少しどもりながらも事情を語り出した。

妹が難病にかかってしまい、それの治療にどれだけ体を売っても払えないほどの莫大な費用がかかる。というこの世界ではありふれた御涙頂戴にすらならない話だった。

 

「前々から私と仲良くしてくれていたリリィちゃんが、その話を聞いたみたいで私にここを紹介してくださったんです。 」

「………………………へぇ。 話は終いかい? 」

「……………はい。 」

 

正直言ってしまうと俺からすればクソほどどうでもいい話だった、だがリリィがここを紹介する程の人材をみすみす見逃すのも不味い。

 

どうしたものか、と考えていると注文した酒と軽食を店員が運んできた。

 

 

「まぁ、とりあえず飯食いな。なんも食ってなかったんだろ?」

「……ありがとう、ございます。 」

 

そう言うと新人は遠慮しながらゆっくりと食事を取り始めた。俺も運ばれてきた串焼きと強めの酒を手に持ち、先程の話を続けるべく口を開く。

 

「で、何ができるのさ。」

その問いに希望でも見つけたのか、新人はこちらに驚いたような顔を向けてきた。その間抜けな顔に笑いそうになりながらもう一度聞いた。

「何ができるのさ。 」

「えっと、基本的にはオオサカベン、日本語、英語、中国語、ドイツ語や他にも五カ国の言語の会話と読み書きができます!あとは数学と物理学、薬学が得意です。

なので多少ならドラッグや医薬品の調合も、機材さえあれば出来る筈です。」

 

正直驚いた、十個の言語を理解しているのもそうだが、まさか薬の調合ができるとは。これは逃すわけにはいかなくなってしまった。

 

「リリィへの報酬を増やしてやらないとな。」

「へ?」

「こんどこそ面接は終了だ、結果は合格。今日からよろしくな、新田ちゃん。」

 

そう言い新人の肩をポンポンと叩くと、彼女は声を上げて泣きだしてしまった。

困ったな、女を鳴かせるのは嫌いじゃないが泣かせるのは嫌いなんだ。

 



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第一幕 第二話 襲撃

"Jail House":ジェイルハウス オオサカの地下にある亜侠達の憩いの場、依頼をここで受ける亜侠も多い。出入り口はオオサカのいろいろな場所に隠されている。


「泣いてる暇はないぞ、次は契約の確認だ。」

 

そう言い空のグラスに酒を注いでやると、新人は涙を誤魔化すようにそれを一気に煽った。

おいおい大丈夫か、その酒はかなり癖が強いはずだったが。

などと心配していると、案の定新人は顔を青くし口を押さえ、トイレへと駆け込んで行った。

 

 

「んで?お前はいつまで死体ごっこを続けるつもりだ?」

「あれやっぱバレてた?いやー今回は割と自信あったんだけどなぁ。」

 

顔を真っ赤にした長身痩躯の美男は笑いながら体を起こし、机の上の酒に手を伸ばす。

 

「で、お前から見てどうだった。」

「そだなー、言葉通りの戦力としては微妙だろうなぁ。でもしっかり育ててやればあの子は化けるだろうさ、良くも悪くも将来性がありそうだな。」

「聞いてただろうが、調合ができるらしいぞ。」

「それが決め手だろ?」

「当然、まぁリリィが連れてきたって時点でほぼ確定してたがな。」

「人を見る目は良いもんなぁ。」

 

そんな話をしていると、新人が少し顔色を良くして戻ってきた。

 

「突然出て行った上に、お待たせしてすみません!」

「大丈夫大丈夫、俺も今起きたとこだからさ。リーダーから聞いてると思うけど俺の名前は紅 麗麗よろしくね。」

「はい!よろしくお願いします。」

 

「んじゃあ、あー……、どこまで言ってたかな。」

「えっと、契約のお話を始めるってところからだったはずです。」

「あぁ、そうだったな。じゃあまずは報酬金の話からいこうか。

「はい!」

新人は勢いよく返事を返すと、メモとペンを取り出した。

 

「まーじめー。」

「茶化すな、んで報酬だが基本的に依頼に参加したメンバーで山分け、前金は準備費用とかに消えるから俺たちの懐に入ることはないぞ。」

「あの質問よろしいですか?」

「何だ?」

「依頼の途中で怪我をしてしまった場合はどうなるんでしょうか?」

「依頼中の怪我に関しては全額こっちが負担してやる。まあ、体を機械化するとかは知らんがな。依頼の遂行が困難な程の怪我を負った場合は、その途中までの働きと依頼成功への貢献度をこっちで判断してそれに見合った金が払われる。不参加の場合はもちろんなしだ。」

 

「勝手な想像ですけど、もっとブラックなものを想像してました。」

新人はそう言いながら少し苦笑いを漏らす。

 

失礼な奴だ。

だがまあ、その気持ちも分からなくもない。

なんたって亜侠は世界で一番死傷率の高い仕事だからだ。

今日会話した亜侠が明日にはホトケ肉として売られてることなんてザラにある。

 

「まあ、うちは他のとことは違うからねぇ。なあ?リーダー。」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだ。うちは盟約が仲良しこよしするために構成された亜侠グループなんでな、多少の怪我は自己責任とはいえ、他とはかけられる金の桁が違う。」

「へー、リーダーとレイレイさんは何処の所属なんですか?」

 

「あー、俺たちは根っからの亜侠だ。どこにも所属しちゃいねぇ。」

「そうそう、元々幽霊船の乗員は俺とリーダーだけだったんだぜ、でも五大盟約以外の大きい盟約達が協定を結ぶとかなんとかで、その一つとして俺たち幽霊船が選ばれたってわけ。」

「餅は餅屋ってことだ、慣れてない奴らを集めてグループ作るより元々あるとこに入った方が色々と便利だろう?」

「成る程、リーダーとレイレイさんの他にはどのような方がいらっしゃるんですか?」

 

メンバーの紹介はもう少し後にやるつもりだったが、順番が前後するだけだし問題ないだろう。

 

「リーダーの俺、一番槍のレイレイ、情報担当で教会所属のリリィ、財布の紐を握ってる狩人協会所属のヴィクトーリア。この四人がさっきまでの幽霊船のメンバーだ。」

「リリィちゃんとは知り合いみたいだし説明はいらないよね。ヴィクトーリアの姐さんは仕事の時はザ・狩人って感じの人だけど実はスッゲェ乙女なんだよな。」

「言ってやるな、仮にもここに来るまでは普通の令嬢だったんだから不思議じゃないだろう。」

「そうなんですか?」

「うん。戦闘中は自分のモツが飛び出ようが、どんだけグロい虫相手だろうが冷静でさ、まるで機械なんだけど。オフの時は恋バナに花を咲かせたりお茶会開いたり、動物愛でたりとかまさに乙女って感じなんだよな。」

 

ありゃもはや多重人格だぜ、なんて言っているレイレイを横目に、静かにポケットで震えだした携帯を取りだす。

噂をすればなんとやら。ってやつだろうか、ヴィクトーリアからだった。

 

「もしもし?何か問題か?」

『リーダー、緊急なので手短に報告しますね。そちらに正体不明の武装勢力が向かっています。数はおよそ三十、武装に統一性は無し。性別等にも関連性は無し、目的は不明です。』

「了解、気をつけろよ。」

 

終話ボタンを押し、二人へ目を向けるとレイレイはすでに戦闘の準備を整えていた。

 

「新田ちゃん、悪いが早速の仕事だ。今ここに目的不明の武装集団が向かってきている。俺とレイレイは他の亜侠達と迎撃するから新田ちゃんは息の残ってるラッキーな奴を拘束してくれ。」

「ッシャァッ、久し振りの喧嘩だぁ!リーダー!見敵必殺でいいよな!?」

「一、二人生きてれば十分だ、いつも通り好きに暴れな。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!戦闘を行うのは仕方ないとして、せめて武器と拘束具をくださいませんか!?」

「俺の鞄の中に手錠と新田ちゃんでも撃てる銃が二、三入ってる、それ使いな。」

 

そう言い、腰のホルスターにさした二丁のリボルバーに指をかける。

しかし他の施設ならともかく"ジェイルハウス"に襲撃を仕掛けるとはとんだ命知らずな奴らだ、まさかとは思うがオオサカの外部からか?

これは今考えても仕方ないと思考を切り替え、個室の外へと飛び出し周りの荒くれ達に聞こえるように声を上げる。

 

「敵襲!数三十前後!俺たちの憩いの場を荒らそうとする不届き者どもに礼儀を教えてやりなクソッタレども!」

 

そう言うと亜侠達は一瞬で各々の武器を構え、近くの出入り口へと穴が空く程の熱を持ちそうな視線を向ける。

そうして十秒ほど経った頃、一つの扉が爆散し、それが狼煙となり大乱戦が始まった。

 

 

 

俺は出来るだけレイレイのサポートに努め、相手の行動を観察するが、どうにも違和感を感じる。

 

<<アイデア:80-->3 クリティカル!>>

 

3度目のリロードの時にふと敵の一人と目が合い違和感の原因に気づいた。

やつら、統率が取れすぎているんだ。

装備から何からバラバラのくせに戦線のカバーや連携があまりにも完璧すぎる。

事前に入念に打ち合わせをしていた、と言われてしまえば終いだが、だからってこれはあまりにもできすぎている。

 

「花丸100点をあげたくなるような連携だな!リーダー!」

「全くだ、まるで帝国の連中を相手にしてる気分だよ。」

「まあ、この程度あいつらと比べるとなんてことないけどな!」

「違いない。」

 

その言葉の通りどれだけ統率が取れていようが数には敵わないようで、ゆっくりゆっくりと襲撃者たちが放つ弾丸は数を減らしていく。

 

「リーダー!新田ちゃん大丈夫かな!?」

「問題ないだろうさ、この程度で死んじまう目はしてなかった。」

「そっちもそうだけどさ!捕虜の方!」

「それこそ心配いらないな。」

「なんでさ?」

「さっき、ガキをひきずって連れて行ってるのが見えた。」

「じゃあもう気を使わなくても?」

「構わねぇ。」

 

俺の言葉を聞くや否や弾丸のような速さで敵陣のど真ん中へ飛び込んでしまった。

全く、誰がカバーすると思ってるんだ。

 

 

銃声や怒号が鳴りを潜め始めた頃を見計らってレイレイへ撤退の指示を出す、少し不満そうな顔をしたが直ぐにこちらへと来る。

 

「戻るぞ、もう俺たちがやる必要もないだろう。」

「ういうい。」

 

かなりの数の穴が空いてしまった扉を開き、個室へと戻ると新人がガリガリの捕虜を抱きしめ泣いていた。

 

「?????? どうなってんだこりゃ、新田ちゃん。説明くんない?」

「ゔぅ〜、リーダーざぁぁん、レイレイざぁぁん。この子保護じであげれまぜんかぁ?」

「とりあえず聞き出した話報告してくれや、処遇はそのあと決める。」

 

新人の話によるとこのガキは人間市場で買われた孤児らしく、解放されても行くあてがないらしく、このままだと確実に死んじまうだろうから保護したいらしい。

 

「新田ちゃんやい、そのガキがどう言う立場かはわかったがなんでここに襲撃かけたのかは聞けたのか?」

「うぅ、ごめんなさい。泣いちゃって聞けてないですぅ。」

「あちゃー、どうする?リーダー?俺たちが聞き出す?」

「いや、新田ちゃんに任せる。」

 

「新田ちゃん、今日中にその子から情報を聞き出しな、それができたら保護も考えてやる。」

「本当ですか!?頑張ります!」

「あくまで考えてやるだけだぞ。」

そう言い残し、レイレイを連れ部屋から出る。

 

 

これからどうするべきか考えていると急に視界がレイレイの顔で埋め尽くされた。

「リーダーどしたん?悪いものでも食べた?」

「何言ってんだ。」

「だってさぁ、いつものリーダーならどんな相手でも銃突きつけながら尋問するじゃん?それなのに今回はそれしなかったのが疑問でさぁ。」

「分かってんだろうに。」

「やっぱテスト?」

「そうだ、捕虜の選別及び確保、情報の聞き出し方から扱い方まで。色々見るつもりだが基本はこの辺だな。」

「やっぱリーダーはリーダーで安心したよ。」

「どう言うことだよ。」

 

「あ、あとさ。保護って本当にするつもりなん?」

「俺は嘘はつかんよ。」

「加入はさせんの?」

「能力と働き次第だな。だがまあ、心配はいらんだろう。」

「あ、また悪い顔してらぁ。」

 

レイレイの言葉を無視し、考えをまとめる。

「よし、だいたい決まった。」

「んじゃ、これからどう動くよ。」

「情報を聞き出し次第全員集める、ありったけ準備する様にヴィッキーに伝えておいてくれ。」

「りょーかい。」

 

「ところでよう。」

「どうした?リーダー?」

「俺そんな悪い顔してたか?」

 



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第一幕 第三話 移動

レイレイにヴィクトーリアへの連絡を頼み再び個室へと戻ると、新人が捕虜のガキを膝に乗せ飯を食わせてやっていた。

 

「新田ちゃん、移動するぞ。準備しな。」

「へ?移動ですか?」

「おう、アジトに招待してやる。」

「は、はい!急いで準備します!」

 

すっ転ぶように立ち上がり新人は荷物をまとめ始めた。

 

新人を待つ間改めて捕虜を観察する。

 

140に満たないであろう背丈に、ボサボサに傷んだ極めて白に近い金色の長髪、枝のような手足に片目は眼帯をつけている。

手足には縫い付けたような跡や一部皮膚の色が違うところもある。

 

部屋の隅に置かれたライフルは、銃剣こそ付いているものの何がベースになっているのかわからないほどのお粗末なコピー品だ、一目見ればわかるような捨て駒だ。

 

などと思いながら観察を続けていると捕虜と視線があった。

 

「殺さないの?」

「殺して欲しいのか?」

「………わかんない。」

 

そう言うとこちらを見たまま黙り込んでしまった。

溜息を吐きながら尋ねる。

 

「名前は?」

「……十五番。」

「クローンか?」

「わかんない。」

「何のためにここに来た。」

「いっぱい殺せばお母さんに会えるって言われたから。」

「誰に。」

「わかんない。」

 

再び大きな溜息を吐き、煙草に火をつけた。

いざ吸おうとした瞬間、携帯から明るい音楽が流れる。

 

「こちらリーダー。」

『リーダー、こっち車回してビル前いるからいつでもいいぜ。』

「ああ、もう少し待ってくれ。」

『姐さんとリリィも先に事務所に行ってるってさ。』

「了解。」

 

 

根元近くが灰になり始めた頃に、新人が荷物を持ちこちらに歩いて来た。

 

「お、お待たせしました。」

「いや問題ない、そのチビも連れて来な。」

「はい!行こっか、カレンちゃん。」

 

聞き覚えのない名前を疑問に思い新人へ顔を向ける。

 

「そのチビの本名か?」

「あ、いえ、私が勝手につけたんですよ。赤い靴履いてましたし、境遇も似てるみたいですから。」

 

はて、どこかで聞いた話だったがなんだったか。

<<アイデア:80-->52 成功!>>

 

「童話か。」

「ええ、どうしてかこの子を見た時からこの名前が頭にずっと残ってて。」

「悪くないんじゃないか、見た目もヨーロピアンっぽいしな。しかしよく童話なんぞ知ってたな。」

「小さい頃、母によく読み聞かせてもらってたので…」

「そうかい。」

 

個室の外へと踏み出すと、先程の襲撃なんて影すら見えない程になにもかも元どおりになっていた。

さすがと言うしかないな。

 

外に出ると気の沈むような真っ黒な雲が空を覆っていた。しまったな服を干しっぱなしだったかもしれない、降らないといいんだが。

などと考えながらカスタムし過ぎて原型のない装甲車へと二人を連れ歩く。

 

「これが俺たち幽霊船のフラグシップ、ゴライアスだ。まあ、船じゃねぇんだけどな。」

「なんというか、もはや戦車みたいですね。」

「ああ、説明は乗ってからしてやる。足下気をつけな。」

 

二人を後ろから持ち上げてやり、ゴライアスに乗せる。タラップを付けてやるべきか?

しかしまあ、二人ともとんでもなく軽い。

ガキの方は見た目からわかっちゃいたが新人がここまで軽いとは驚いた。胸もそこそこあるしもう少し重たいと思ったんだがな。

二人を後部に乗せてやった後助手席へと座る。

 

「おつかれ、リーダー、新田ちゃん。んじゃぁジェイルハウス発、事務所行きゴライアス発車しまぁーす。」

 

 

発車から数秒もしないうちにレイレイがガキの方をチラチラと見だした。

 

「お前の趣味じゃなかったと思うがな。」

俺がからかうようにそういうと、レイレイは口をへの字にしながら答える。

「いやそうじゃなくてな、そのチビ誰かに似てる気がしてさぁ。」

「カレンちゃんがですか?」

「お、早速名前聞き出せたのかお手柄だぜ新田ちゃん。」

「あ、いえそういう訳じゃなくてですね。カレンちゃん名前がないみたいなんで私が付けたんですよ。」

「そうだったかぁ、まあ呼びやすい名前でいいんじゃない?いやーでも誰に似てんだろ?どっかで見た気がするんだよなぁ。」

 

「その話は後でいいだろう、今はアジトについての説明だ。」

「あ、ちょっと待ってください。すぐメモを取り出しますんで。」

「メモを取るほどのことでもないが、まあいい。説明を始めるぞ。」

新人の元気な返事を聞き、説明を始める。

 

「今向かってるのは俺たち幽霊船のアジトだ。事務所って呼ばれることが多いな。」

「リーダーと俺はアジトって呼んでるぜ。」

「アジトには俺たちの使う武器や金、情報を保管してある。一応一人一つ部屋が用意されてるからそこで寝泊まりも可能だな。」

「足は今俺達が乗ってるゴライアスと超速いバイクのチーターがあるから好きに使って構わないぜ、ただリーダーのお気に入りの黒いバイクは使っちゃダメだぜ。万が一許可なく使っちまったらどうなるかは保障できないかもな。」

 

「そこまで酷いことはしねぇよ。」

「嘘つけ、俺ボッコボコにされたじゃんかよ。」

「お前が大きな傷こさえてきたからだろうに。」

「だからあれ俺悪くないって言ってるじゃんかよぉ〜」

 

「まあいい。足の説明だが、今乗ってるゴライアスはRPGを四、五発食らっても余裕で動ける装甲があるし、馬力も戦車を二台程度なら引き回せる程度にはあるから危険な仕事に向かう時に使うといい。チーターはケチャップが想定される時にぴったりだろう。」

「あの、質問いいですか?」

「どうした。」

「ケチャップってなんでしょう?」

 

ミスった、用語の説明を忘れていたな、最近は同業者ばかり相手にしていたものだから通じると勘違いしていた。

 

「ケチャップってのは追いかけっこをさすぜ。おっかない相手から逃げるときや、自分が相手を追い回すことを言う時に使うな。」

したり顔でレイレイが解説をする。

そういえばこいつは世話を焼くのが好きだったな。

 

「さて。アジトのほうの説明に戻るが、基本的にアジトにはレイレイかリリィが居るはずだから何かある時にはアジトに向かうといいだろう。」

「そうそう、大抵はアジトかジェイルハウスのさっきの部屋にいるぜ。」

 

「部屋はさっき言った個人の部屋と金庫室、会議室、資料室と尋問室に執務室、あとは依頼を受けるための応接室があるな。」

「依頼はジェイルハウスで受けるんじゃないんですか?」

「同業者や一般人からの依頼ならそっちだが、盟約やあまり表沙汰にしたくない奴らからの依頼は事務所で内密に受けることが多い。」

「なるほど。」

 

説明して初めて気づいたがアジトについて話すことがあまり多くない、というか殆ど話尽くしてしまった。

他に説明しておくことは何かあっただろうか。

次の話題を考えているとレイレイが思い出したかのように口を開いた。

 

「そういえばリーダー、新田ちゃんの仕事ってもう決まったのか?」

「一応は俺かリリィにつかせようと考えてるが、どうかしたか?」

「いや、それについては問題無いんだけど、カレンの方はどうするのかな〜、って思ってさ。」

「なんだ、やっぱり欲しいんじゃねぇか。」

「いやさ、そっちの意味じゃ無いからね?ただかなり"いいセンス"してそうだからさぁ。吐かせるだけ吐かせてポイはちょっともったいない気がするんだよ。」

 

レイレイからの戦闘以外の提言に驚きを覚える。レイレイの一生の憧れだという傭兵が言っていたという「いいセンス」を使ってまで捕虜の保護を求めたのだ、普段ならリーダーに任せるなんて言って全部丸投げするのに。

 

「やはり惚れたか?」

「リーダー、いい加減にしてくれよ、違うって言ってるじゃんかよ。とにかくぅ!そいつは新田ちゃんと同じで伸び代があるから俺らで育てたほうがいいって言ってんの!」

レイレイが肘で俺の脇腹を小突く。

 

「わーったわーったから、しっかり前見て運転しろ。」

「ったく。」

 

 

アジトまであと数分、と言ったところで唐突に新人が大声を上げた。

 

「ええっ!?そうなの、カレンちゃん!?」

「うおおっ!危ねぇ。急にどうした新田ちゃん、いきなりでかい声出されるとビビっちまうぜ。」

「ご、ごめんなさい。でも!カレンちゃんが大切な事を教えてくれたんですよ!」

 

興奮気味に話す新人の様子に、その大切な事についての期待を寄せる。

 

「なんと!カレンちゃん記憶喪失らしいんです。」

「ダメじゃねぇか。」

 

<<アイデア:80-->44 成功!>>

 

レイレイは呆れたようにそう言うが、俺はあることに気づいてしまった。

 

「いや、お手柄だ。チビ助の正体がわかった。」

「「え!?」」

 

「つぎはぎの体に記憶喪失と来りゃドール、だろうな。」

「ドール…お人形ですか?」

「あながち間違ってないだろうさ、悪趣味な奴らが自分の楽しみのために他人の体をいじくりまわして作ったお人形だな。」

 

確信を持ってチビ助に問う。

「チビ助、ネクロマンシーって言葉に聞き覚えがあるだろう。」

「…お母さんのこと。」

「やっぱりな。新田ちゃん、良くこのチビ助を捕まえたな、お手柄だぜ。予定変更、このチビ助も新人だ。レイレイ、スピード上げろ超特急だ。」

「良くわからんがりょーかい!全速前進だぁ!」

 

その言葉と同時に体全体に猛烈なGがかかる。

 

「うぅぅぅ、レイレイさん、圧が、圧が強すぎますぅ。潰れちゃうぅぅぅ。」

「おい、レイレイお前また増やしたのか。」

「おう、ロケットブースターとエンジンを一つづつ増やした!」

「新田ちゃん、チビ助、大丈夫か?」

「「………………………………」」

「あーらら、気絶してらぁ。」

 



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第一幕 第四話 依頼

数分もしないうちにアジトに着いた、地上ニ階地下一階の立派なアジトだ。

 

「とうちゃーく。ハンガーに停めてくるから先に行っててくれ。」

「ああ、頼む。」

一度ゴライアスから降り、二人を降ろそうと後部座席へ向かう。

扉を開けるとチビ助は自分で起きていたようなので脇を抱え降ろしてやった。

 

「ありがとう…」

「いい子だ。」

 

チビ助は頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める。

自分でもなぜチビ助の頭を撫でたのか分からず、勝手に動いた右手に困惑してしまうが、しかし悪い気はしないのでまあ、よしとする。

 

 

「新田ちゃん、到着だ。起きな。」

「う、うーん。…あれ?もう着いたんですか?」

「おう、ここが俺たち幽霊船のアジトだ。先に会議室行くぞ、他のメンバーは揃ってるみたいだ。」

 

 

 

アジトの中に入り新人とチビ助を会議室へと先導する。

 

会議室の扉を開けると、俺の苦手とする人物が出迎えてくれやがった。

 

「ああ、遅かったじゃないかい坊や。お茶いただいてるよ。」

「おかえりー、リーダー。ヴィッキーは今ハンガーに居るよー。」

 

リリィとヴィクトーリアは俺が招集したから当然だが

「なーんであんたがいるんだ、シスターミラー。今日は老人会の茶会じゃなかったのか?」

「なあに、爺婆のつまらん暇潰しなんぞ出てやる必要なんぞないさね。あれに出るくらいなら死ぬ方がよっぽど有意義さ。それより、新人を雇ったそうじゃないか、顔を見にきたんだよ。後ろの二人がそうかい?」

「そうだ。ほら二人とも、暇を持て余した婆さんに挨拶してやりな。」

 

そう言い俺の背に隠れてしまっていた二人を前に出す。

 

「は、初めまして。本日より夜明けの幽霊船に所属させていただきました、新田飛鳥です。よろしくお願いします。」

「……カレン。よろしく…お願いします。」

 

二人の自己紹介を聞くとミラーの婆さんは元々シワの多い顔を更にしわくちゃにして微笑んだ。ここだけ見れば聖母とも言えそうな見た目なんだがなぁ。

 

「飛鳥に、カレンだね?しっかり覚えたよ。私はミラー、この街でシスターをやってる婆さ、たまにここでリリィと茶を嗜んでるよ。」

 

そうなのだ、ミラーの婆さんはいつのまにかアジトに入り込んで茶を飲んでいる姿をよく見ている。リリィに何度か注意したのだが……

 

「そんで私が幽霊船のアイドル、リリィだよ!よろしくね!」

 

この調子だ、望み薄だろう。

 

「で?本題は?まさか本当に新人の顔を見に来ただけじゃないだろう?」

「なんだいそんなに急かしたって良いことないだろうに。まあいいさね。」

 

そういうとミラーの婆さんはリリィに合図を出して、紙束を差し出させてきた。

 

「"ドール及びネクロマンシーに対する盟約の動向"?」

「そうさ、カレンもそうだがオオサカでドールが確認されているだろう?」

「ああ、だが今に始まった話じゃないだろう。」

「そうさね、十数年前から確認される頻度が増えたのは確かだ。だがね、今回は異様なのさ。」

「異様だぁ?」

「まあ、全員揃ってから話そうかね。」

 

そういうとミラーの婆さんは茶を一口飲みゆっくりとため息をこぼす。

 

「はい、リーダー。お茶入ったよ。」

「おう。」

 

とりあえず一口茶を口に含む、欲を言うならコーヒーが良いが淹れてくれた以上文句は言えん。

珍しく紅茶ではなく緑茶だったがたまには悪くない。

 

 

 

数分程茶を嗜んでいると、会議室の扉が開いた。

 

「お待たせしました皆さん。」

「よーう、おまたせぇって。げぇっ!ババァ!」

「随分な挨拶じゃあないかいヤンチャ坊主、もう一回礼儀を叩き込んでやろうかい?」

 

ギャイギャイと喧しいレイレイを無視してヴィッキーに話しかける。

 

「お疲れさん、首尾は?」

「ダメね、貴方に頼まれた情報を全て洗い出したけれど何一つ引っかからなかったわ。」

「婆さんから話は?」

「聞いたわ、それについて説明するためにシスターが来てくださったみたいよ。」

「そうか、新人は後で紹介するつもりだがなかなか良さげだぞ。」

 

などと話しているとミラーの婆さんから声がかかる。

「揃ったみたいだからそろそろ話すよ、さっさと座りな。」

 

新人とチビ助に席を案内してやり、自分の椅子に座る。

相変わらず真剣な顔のミラーの婆さんの威圧感はこたえる。円卓を挟んで反対側にいるはずなのにブルッちまいそうなくらいだ。

 

「さて、本題の前に飛鳥とカレンに一つ聞こうかい。二人はドールとネクロマンシーについてどこまで知ってるんだい?」

 

「私は名前だけですね、内容は全く知りません。」

「……ドールは私や姉妹のこと……ネクロマンシーはお母さんのこと……」

 

「そのくらいかい、なら一から説明しようかね。まずドールだが、動く死体ってのが一般的な認識だね。」

「動く、死体、ですか。」

「そうさ、死体を組み合わせてゾンビもどきにされたのがドールさね。」

「と言うことは、カレンちゃんは、一度死んでるってことですか。」

「そうなるね。」

新人の目がチビ助を見る。

 

「…うん、私は……一回…死んでるよ…」

しかし、そう言うチビ助の顔に陰りはなかった。

 

「一度ドールになっちまうと首を刎ね飛ばされようが、心臓を潰されようが生きてるんだとさ。」

「うん、…そのくらいじゃ…私は…死なない、………多分……?……私って今…生きてる…の?」

「私に聞かれてもわかりゃしないよ、でもまあ生きてるで良いんじゃないかい?」

「じゃあ…生きてる。」

 

じゃあで決めて良いものなのか?

 

「カレンも言っていたが、同じネクロマンシーに作られたドールは姉妹と呼び合ってお互いを守り合うそうだよ。カレンは姉妹がどこに居るかわかるかい?」

「……わかんない…」

 

<<心理学:???-->???>>

個人的にも気になっていた問題だが、チビ助の言葉に嘘はなさそうだった。いずれは見つけてやらんとな。

しかし、仕方ないとはいえ口を挟めずひたすら聞きに徹するのはつまらん。

 

「ドールについてはなんとなくわかりました、でもネクロマンシーはどうしてドールを作るんですか?」

「急かすんじゃないよ、ちゃんと説明してやるさね。」

 

懐から煙草を取り出そうとするが、婆さんに目で止められてしまう。

子供の前だからやめろってか。ちいさなため息が漏れる。

 

「さて、ネクロマンシーについてだね。ネクロマンシーは孤独に酔っちまった奴らのことさ。飛鳥はオオサカの外について知ってるかい?」

「たしかまだ復興できてない土地がたくさんあるとか。」

「そうさ、そこを箱庭にして自分で作ったドールや出来損ないで遊んでるのがネクロマンシーさね。ネクロマンシーは自分の欲のためにドールを使ってるってわけさ。」

 

「なるほど、ならどうしてオオサカにカレンちゃんみたいな子達が居るんですか?」

「"可愛い子には旅をさせろ"ってことらしいね、ネクロマンシーには自分の作ったドールを娘のように思う奴が多いらしいから経験を積ませる為に連れてくるそうさ。」

「私には、よくわかりませんね。」

「理解してやる必要はないだろう、結局は奴らの自己満足なんだ。」

 

そう言い切ると婆さんは一度喉を潤す。

 

「さて、簡単な説明はしたつもりだが分かったかい?」

「なんとか、大丈夫です。」

「……わかった……」

 

「なら重畳、本題に入ろうかい。」

 

 

その言葉を聞き、俺以外の幽霊船のメンバーの空気が張り詰める。

それを真似たのか、チビ助もすこし背筋をのばした。

 

「坊やには書類を渡したが、現在オオサカで一月に確認された新しいドールの数が三十倍になってしまっている。」

「今まではどうだったんですか?」

「一月にニ人出れば多い方だったね。」

 

「ってことは一月に三十人以上、ですか!?」

「入ってくるのは簡単とはいえ増えすぎだろ。」

 

「そうさ、増えすぎなんだよ。もっと緩やかに増えるなら納得はできたさ、だがこれは明らかに何かがある。」

「その何かを見つけて来いってわけか。」

「そういうことさね。」

 

そういう話なら先に言えば良かったろうに、などとレイレイは考えているだろうが、これはシスターの新人達に対する優しさだろう。

ここまで丁寧に教えてくれる依頼人はまずいないしシスターは教会の上位の幹部、情報はまず間違い無い。

老婆心ってやつだろうか。

 

「全く、いつまでたってもお優しいこった、シスター様々だな。」

「なんのことだかわからんね。」

 

 

「んで?前金と報酬は?」

「前金で六十、成功報酬で一人頭三百だ。」

「何をもって成功とするつもりだ?」

「そうさね、確たる裏がある情報を持ってきたら成功、下手人を連れてきたら百追加しようじゃないか。」

この言葉を聞き、俺は受けるつもりでいることをメンバーに目で伝える、すると新人二人以外はOKのサインを出してくれた。

 

「新田ちゃんとカレンはどうする。どっちでも良いぞ。」

「やります!」「やる。」

 

二人の返事を聞き、シスターに向き直る。

 

「我々夜明けの幽霊船はその依頼を受諾しよう。」

「そうかい、じゃあ成功を主に祈ろうかねぇ。」

 

そう言うとシスターは鞄の中から金を机に積み、部屋から出る。

 

「送らせようか?」

「いらんよ。」

 

バタン、と扉の閉まる音を背に皆に言う。

 

「さて諸君、お仕事の時間だ。」



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第一幕 第五話 物資調達1

「さて、仕事の話の前に、まずは「自己紹介しよう!」……新人二人は顔と名前をしっかり覚えておけよ。」

 

いざ始めようと口を開いた瞬間にリリィに言葉を重ねられてしまった。言おうとしていた内容だったので別に構わないが、一歩目を潰されるとやはり気分は良くない。

 

「はい!一番リリィ行きます!16歳で教会所属のエクソシストだよ、情報関連を主に担当してるよ!洗礼が必要な時はいつでも言ってね!今日からよろしくね!」

 

いわゆる横ピースを目元でキメながら、二人の新人へと挨拶をかましたリリィ。

高テンションに押されながらも、二人は会釈を返した。

 

「おいおい、一番槍は俺だろう?」

 

「へっへーん、遅い方が悪いのさ。」

 

不満そうにそうつっこむレイレイに対し、リリィはドヤ顔で答える。

「全く、仕方ないから二番手いくぜ!紅麗麗22歳、担当は荒事と運転手だぜ。大抵はここかジェイルハウスに居るから分からないことがあったらなんでも聞いてきな。」

「じゃあ、次は私が。

ヴィクトーリア・ペンテジレーア・アレクサンドラ・アルブレヒト・ジャンヌ・ド・ロレーヌ=ドートリッシュ、19歳よ。

名前が長いからヴィクトーリアやヴィッキーと呼んで頂戴、ただ仕事中はペンテジレーアと呼んでくださると嬉しいわ。

金銭の管理を主に担当しているけれど、戦闘もそれなりにできるつもりよ。必要なものがある時は私かリーダーに言ってちょうだい。これからよろしくね。」

 

「んで、俺がリーダーの八神修だ。担当は……まあ、色々やってる。」

 

少しそっけない挨拶になってしまったが一度してるしこんなものだろう。

 

 

「では次は私が、新田飛鳥19歳です。えっと、主に薬の調合と言語関係のお仕事ができると思います。戦闘はあんまり得意じゃないかもです。今日からよろしくお願いします!」

 

「……カレン……10歳…だと思う………調べ物は苦手………機械ならなんでも…動かせるはず………話すのが………難しい………でも……お話は……好き……よろしく…お願いします……」

 

二人の自己紹介が終わると三人からの拍手が送られる。その拍手が止むのを待たずに二人に何も彫られていない認識票を二枚ずつ渡す。

 

「その認識票は此処の電子鍵にもなっているから失くすなよ、片方は足にでも巻いておけ。」

 

新田は自分でつけたようだが、カレンの方は手が首の後ろまで届かなかったようでレイレイにつけて貰っていた。

 

 

「さて、これで正式に二人は幽霊船への加入が完了したわけだが、先達として二つほど、お節介だ。

自分の心の拠り所を決めておきな、物でも人でも場所でも構わねぇ、このクソッタレた世界で生きてくにはそれが必要だ。」

「あとは自分の目を信じてやることだ、この街には嘘も真もつけれやしねぇものばかりが溢れてる。だが、自分の目で見たものだけは疑いようのない真実だ、それは覚えておけよ。」

 

「目の無い亜侠に命は無いって標語もあるくらいだしね。」

「なんだそりゃ、聞いたことないぞ。」

「今作ったからね!」

 

「はい、覚えておきます。」「………覚えた。」

 

 

話しておくことも今のところはないだろう、そろそろ話を戻さんとな。

「うし、ちと話を戻して仕事の話を始めるぞ。」

 

「「了解」」

この一言で空気が締め上がる。

 

「婆さんからの依頼は下手人の情報の確保だが、仕事の内容上間違いなくそれだけじゃ済まんだろう。先手を取る為にもレイレイとリリィは情報収集、ルートは任せる。残りは俺とお買い物だ。今の時刻は…」

「十時三十分です。」

「なら五時に此処に再集合、一時間ごとの定時連絡は無しでいい。んじゃ一時解散」

 

「期待しててくれよ、リーダー。」

「しっかり良い情報持ってくるからね〜」

二人はそう言い、会議室を後にした。

 

 

二人を見送るとヴィッキーに金の用意を頼み、新人二人を連れハンガーに向かう。

チョッパーの店なら新人でも撃てるのを用意してくれるだろう、それにゾンビや化け物を相手にするにはレイレイやヴィッキーはともかくあまりに火力が貧弱すぎる。

 

「リーダー……買い物って………?」

「職業柄、戦闘が苦手でも避けることはできん。もちろんできるだけ避けるつもりだが、一度の依頼で必ず一回はドンパチ楽しくねぇパーティは開催されちまう、なら威嚇程度でも武器はあった方が良いからな。」

「銃ならリーダーに貸してもらったものや、カレンちゃんがもともと持ってたのはダメなんですか?」

「駄目だな、どっちも二人の体に適切なもんじゃねぇ、でも俺たちはあまりその辺の知識は無ぇからな。だからその道のプロのとこへ行くぞ。」

 

ハンガーに着くとヴィッキーがトランクを二つゴライアスに積み込んでいるところだった。

「いくら用意した?」

「今回の依頼は嫌な予感がするから千ほど用意したわ、足りるかしら。」

「ちと多い気もするが。」

「備えあればってやつよ。」

 

「千って…一千万…ですか?」

 

ヴィッキーと話していると新田が顔を青くしながらそう尋ねてきた。

 

「ええ、そうよ。本来ならもう少し出したいのだけれど、今は少し控えめにしたわ。」

「リーダー……一千万って……多いの?」

「まあ、二人の武器を揃えるだけなら過剰すぎるくらいだろうが、今回の依頼を鑑みるとちと多いくらいだな。」

「ヒェッ」

「飛鳥……鳥みたいな…声…」

「名前通りだな。」

「ね。」

 

カレンと笑っていると怪獣の唸り声のような爆音がハンガーに響く。突然の音に驚いたのかカレンは眠そうに半目だった目を見開き、新田は腰が抜けてしまったようでぺたりとへたり込んでいた。

 

「リーダー、いつでも出れるわよ?」

「おう、んじゃ行くか。ほら、新田ちゃん、とっとと立ちな。」

「リーダー、立てませぇん。助けてくださぁい。」

 

まったく仕方のないやつだ。手を貸し立たせてやるように見せ、新田が手を出した瞬間、その手を引っ張り無理やり俵のように担ぐ。

 

「ちょっと!?リーダー!?こんな体勢嫌です!下ろしてくださぁい!」

 

抗議の声を無視して後部座席に叩き込む、カエルの潰れたような声が聞こえてきたが無視だ無視。両手を万歳のように上げたカレンを抱き上げ乗せてやり、自分も助手席に乗り込む。

俺が乗り込んだのを確認するとヴィッキーはアクセルを踏み込み、ハンガーから公道へと出た。

 

「リーダー!もう少し優しくしてくれてもバチは当たらないと思いますよ!」

「しるかよ、それに悪いが俺は神も仏も嫌いなんだ。」

「リーダー…神様…嫌い?」

「リーダーは神に嫌な過去しかないもの、あんなことがあればどんな敬虔な信者でも嫌いになるわ、私は絶対にごめんね。」

 

ああ、思い出すだけでも憂鬱になりそうだ。

あの蛸、落とし子だがなんだか知らんが次に会ったら絶対にぶっ殺してやる。

 

「って言っても一応信じてる神もいるんだがな。」

「え!?いるんですか!?」

「おう、スパモン教だぜ。」

「ジョークじゃないですか!」

 

ラーメン、ってな。

 

 

 

三十分ほどだろうかそうこう話していると、とある店の前に着く。

その店は、大きな豚が血まみれのエプロンを纏いサムズアップを決めている豚の看板を掲げた肉屋だった。

 

「着いたわ、降りて頂戴。」

「肉屋チョッパー……?」

「おう、とりあえず中入るぞ。」

 

店の中に入るとオオサカじゃ珍しく合成肉やホトケ肉だけでなく、上質な純正国産肉や信頼のある外国産の肉が並んでいた。

俺たちに気づいた大柄な店長、肉屋チョッパーの兄弟店主の弟であり表の顔を担当する、主にチョッパーと呼ばれる方、ジェイソン・チョッパーが笑顔で出迎えてくれた。

相変わらず爽やかな笑顔をしてやがる。

 

「よーう!キャップ!久しぶりだな、今日は何をお求めだい?」

「チョッパー、いつものは入ってるか?」

 

誰にでもわかるような簡単な合言葉をチョッパーに言う。

常々思うのだが、こんな簡単な合言葉でいいのだろうか。

 

「おう、いい豚肉が入ってるぜ、奥へ来な。バイトぉ!ちと任せるぞぉ!」

 

チョッパーに案内されいつもの店の奥へと進んでいく。

 

「キャップ、その二人が例の新人か?」

「そうだが、随分耳が早いじゃないか。」

「そりゃぁそうさ、なんたって幽霊船に新人だぜ?色めき立たねぇ奴はいねぇよ。」

「なら、来た理由はわかるな?」

「任せな、さっきも言ったが今日は良いのが入ってるんだ。兄貴も大興奮で昨日からずっと部屋に篭ってらぁ。」

「それは期待できそうだ。」

 

奥の部屋に続く扉を開けると肉屋とは思えない光景が広がる。

四方には木製の長方形の箱が山のように積まれ、壁にはありとあらゆる国のありとあらゆる銃がかかっている。

 

「兄貴!客だ!」

 

その声に反応し、部屋の奥から身なりの整った背の低い男が出てきた。

 

「おや、これはキャプテンにヴィクトーリア様。ようこそおいで下さいました、御新規の御二方もご一緒のようで。私肉屋チョッパーの店主、マリオ・チョッパーと申します。」

「んで、俺がその弟ジェイソン・チョッパーだ、ご贔屓によろしくな!」

 

「どうも……カレン……よろしく」

「新田飛鳥です、よろしくお願いします。」

 

「してキャプテン、本日はこのお二人のを見繕えば?」

「ああ、よろしく頼む。ヴィッキー、付いていてやってくれ。」

「ええ、私も少し見たいものがありますから構いませんわ。」

 

「ではお三方、こちらへどうぞ。」

 

三人がマリオに別の部屋へと案内され、部屋に残ったのは俺とジェイソンだけになった。

 

 

「んで、キャップは何をお求めで?」

「化け物狩りに適した物を見せてくれ。」

「あいよ、じゃあまずはアメリカ製のピクニックハムだ。」

 

そう言い、木箱を一つ机の上におく。

「中々の上モノだ、"豚嫌い"が特に好む。」

開かれた木箱に入っていたのはカスタマイズされたバレットM82だった。

「こいつはアメリカで直接俺が買い付けたから真贋については心配いらねぇ、もちろんしっかりカスタムしてあるぜ。口径は12.7のままだが銃身長は736.7から800.0へと伸ばしてある、その分重さも増したが安定感と精度は元の三倍以上だ。弾は12.7ミリチョッパーリロード弾、勿論炸裂弾もあるぜ、弾倉も拡大して15発入る。並の装甲車なら一マグで4、5台は余裕でぶっ壊せらぁ。」

「あとで試射させてもらおう。」

 

手に取ると、ズッシリとした重量と新品特有の謎の冷たさが伝わってくる。

それに、相変わらず良い仕事をしたようで自然と手に馴染む。

これは買いだろうな。

 

「じゃあ次はスペアリブだ、こいつは食らえば頬が落ちること間違いなしだぜ。」

 

次に取り出されたのはMG4だった、ドイツ製か。

「こいつはまた随分良いブランドじゃねぇか。」

「おう、こいつを仕入れるには苦労したぜぇ?こいつもしっかり見てあるから安心しな。」

「それで?どういう下味がつけられてんだ?」

「基本的な部分はあまり弄っちゃいないが、チョッパーカスタムって事でレートを上げたな。毎分7〜850発から毎分950以上になってるから、こいつが二丁あればビルだって一瞬で穴あきチーズさ。口径は特に変わってないが弾は勿論チョッパーリロードの徹甲弾、有効射程が1200まで伸びたぞ!」

「重さは?」

「こいつだけなら9kgジャストだな。」

「悪くない。」

 

 

他の肉の説明も聞き試射も終わらせ、一時間程経った頃、三人がマリオと共に戻ってきた。

新田の手にはワルサーだろうか?小さめの銃が一丁、対してカレンは自身の身長の倍ほどもありそうな鉄塊を両手で満足そうに抱えていた。

 

「まぁた随分なモノを勧めたもんだなぁ兄貴は。」

「私だって、ヴィクトーリア様以外にこれを撃てる方がいらっしゃるとは予想外でしたよ。」

 

苦笑いとも取れるような表情を浮かべるマリオとは対照的に、カレンの顔は少し嬉しそうな表情をしている。気がする。

 

「あれは?」

「ああ、キャップにも見せたバレットあったろう。あれを俺たち兄弟が酒の勢いでフルカスタムしちまったのさ。」

 

それにしてもデカすぎだろう、3メーターはあるぞ。銃自体の厚さも俺が見たものの二倍ほどはある。ヴィッキーはあれ撃てるのか、たまげたものだ。

 

「なんだ?ドラゴンでも相手にするつもりで作ったのか?」

「いやぁ、俺たちもまさかあそこまで興が乗るとは思わなくてよぉ〜、気がついたらあの姿だ。思わず笑っちまったよ。」

 

「リーダー…私…これに決めた…」

「私もこの子にします!」

二人は笑顔でそう宣言する。片方は笑顔かわからんが、多分そうだ。

 

「キャプテンには私から説明しましょう、新田様がお選びになったのはワルサーP.38、言わずと知れた名銃にございます。カスタムはマガジンのみでしっかりと素の味が楽しめるようになっております。

カレン様がお選びになったのはバレットM82チョッパーカスタム、ジェイソンから聞かれた通り我々兄弟が全力で組み上げた芸術品でございます。全長3000ミリ、口径は.905、約23ミリの特製のライフル弾を使用します。

本来なら特注の専用ライフルで撃ち出す物ですがそこはチョッパー兄弟の腕の見せ所、既製品のバレットM82をカスタマイズすることによって射撃を可能に致しました。」

「とんでもない化け物だな。」

「私も試射したけれど、肩が外れそうになったわ。少なくとも人が撃つものじゃないわよ、アレ。」

 

肩が外れそうになるだけのヴィッキーも大概だと思うが言うとややこしくなるだけだ。

 

「よくそんなの撃てたなカレン。」

「よゆー……」

「私もまさかこれを立射するとは思わなかったわ。」

「「立射ぁっ!?」」

 

ため息をつきながらぼやくヴィッキーの言葉に、思わずジェイソンと声が重なる。

この体のどこにそんなパワーが詰まってるのやら、ドールってのは無茶苦茶だな。

 

「リーダー…これ良い…」

「まあ、本人がいいって言うなら何も言わねぇけどよ。ジェイソン!ピクニックハムを一つスペアリブを二つ頼む、それと二人の合わせていくらだ?」

「毎度ぉ!ピクニックハム一つにスペアリブ二つ、ドイツソーセージにワイルドステーキ肉だから……下味諸々含めて600ってとこだな。兄貴、包装頼むぜ。」

 

ヴィッキーからトランクを受け取り、ピッタリ600を机の上に積む。

ジェイソンはそれを確認すると木箱を三つ差し出してくる。

二人は包まんようだ。

 

 

商談を終え、再び表の肉屋へと戻りチョッパー兄弟に見送られる。

「また必要なもんがあればいつでも来な!なんでも揃えてやるぜ!」

「またのお越しをお待ちしております。」

 

見送られた俺たちはゴライアスに乗り込み、つぎの目的地を目指す。

「リーダー、次は何処に行くんですか?」

 

その問いに満面の笑みを浮かべて答える。

「工房だ。」



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第一幕 第六話 物資調達2

今回少し短めでございます。


目的の工房の前に着いた俺は1人ゴライアスから降り、玄関へと歩く。

 

「ヴィッキー、そっち頼むわ、時間と場所はさっきの通りでよろしく。」

「使いっ走りだなんて、レディに対する礼儀を学び直した方がいいのではなくて?」

「悪いが少し気分が乗り始めちまってる、冷めたらまた優しい紳士に戻ってやるから我慢してくれや。」

「悪い癖ね。」

「お前が言うかよ。」

 

流石にこの顔は二人に見せるにゃ早すぎるからな、もう少し慣れてからじゃねぇと。ああ、クソ、ダメだな、かなり落ち着いたつもりだったがなぁ。

こんなんじゃ師匠に笑われちまう、あんな本読むんじゃあなかったぜ。

 

 

離れて行くゴライアスへ後ろ手に手を振り、工房の玄関へと歩く。

いつも通りの、手入れが行き届いた庭園を抜け、馬鹿でかい外れてしまっている門を超え、やっとの事で玄関の戸を叩く。

 

「おーい、大和の爺ぃ、八神だ、来たぞぉ。」

 

2、3度叩くと中から一人の女中が顔を出した。また新顔かよ、あの爺いい加減枯れねぇかな。

 

「大変お待たせいたしました八神様、旦那様は工房にてお待ちでございますので御案内させていただきます。」

「ああ、頼むわ。」

女中の案内に従い屋敷の中へ入る。

 

<<目星:60-->20 成功!>>

 

女中の後ろに着いて歩いていると首筋に巻かれた包帯が目に入った。

「おいあんた、その首大丈夫なのか?場所はわかるから俺一人で行くが?」

「いえ、お気遣いなく。」

「そうかい。」

 

よくよく見てみると首だけでなく、肩の方まで包帯が巻かれているのが見えた。まさかあの歳でハードプレイに目覚めやがったか。

 

2分ほど歩くと、あらゆるものを拒絶するようなクソ分厚い鉄の扉の前に着く。

すると、女中がピッタリ45度に頭を下げ言う。

「私はここに入る事は許されておりません故、大変申し訳ございませんがここからはお一人でお願いいたします。」

「おう、ここまでありがとな。」

そう答え、去る女中の足音を聞きながら重たい扉を開ける。

 

 

扉を開けた瞬間に感じたのは、サウナかと勘違いしそうな程の熱風であった。中は酷く暑く、壁にかかった温度計を見てみると50度を超えようとしているところだった。

出来るだけ扉に近い場所で、最近耳が遠くなり始めた爺のために出来るだけ声を張り呼ぶ。

 

「おーい!爺!八神だ!来たぞ!」

 

呼びかけてから数秒ほど待ったものの返事はなく、干からびさせに来ているとしか思えない熱気が漏れ出すだけだった。

冗談だろ?この地獄の中に入らないといけないのか?くそッこんな事なら後回しにすれば良かった。

後悔先に立たずとはよく言ったものだ。シャツのボタンを緩めながら覚悟を決め、地獄へと足を踏み入れる。

 

馬鹿みたいな暑さに辟易しながら、爺を探し工房内を歩き回る。たった数秒でシャツが肌にピッタリと張り付く程の汗をかき始める。あまりの不快感に、上がり始めていた気分がジェットコースターの如く一瞬で急降下する。

 

しかし、ここはいつ見ても魔女の釜の底のように物が溢れているな。鉄塊やハンマーから、何に使うのかわからないような揺り籠まで置いてある。他の工房員のアジトも大抵滅茶苦茶に散らかっているが、爺の工房は特別に酷い。ここを掃除しなきゃいけない女中達に思わず同情してしまう程には酷い、悪臭がしないだけまだマシだが。

 

<<聞き耳:75-->35 成功!>>

 

迸る熱気に顔をしかめながら五分ほど歩いた頃だった。この部屋のどこからか俺の名前を呼ぶ、聞き覚えのある声が聞こえて来たのだ。その声の出どころを探すと、大量の革で出来た山の下敷きになった手を見つけた。

 

「八神、儂はここだあ。」

「なんだ?自分で墓を作ったか?そりゃあいい、女中供の手間も省けるってもんだ。」

 

軽口を叩きながら爺を山から掘り起こす。

 

掘り出してやると爺は、服をパンパンと叩き埃を払い、笑いながら礼を言う。

「いやあ、助かったわい、急に上から革がふってきてな!死ぬかと思ったぞい。」

「どうせ酒飲みながら作業してたんだろ?」

「それはいつものことじゃろう。いやな、今作っとるモンが常温のとこに置いとくとぶっ壊れちまうもんじゃから部屋の気温を上げとったんじゃが、どうも熱中症になっちまったみたいでなクラッときてそのままぶっ倒れたんじゃよ。いやぁ酒じゃ水分補給にゃならんかったわ。」

「阿呆め、そんなわかりきった事すんじゃねぇよ。」

 

今この爺に死なれるのは大変困る、オオサカ一の偏屈で変態だが腕は超一級品なのだ。俺が引退するまでは頑張ってもらわねぇと。

 

「まあ、爺が阿呆だって事は今更どうでもいい、依頼のはどこにあんだ?」

「おお、そうじゃったな、ほれ付いて来い。」

 

爺に連れられ、さらに工房の奥へと進む。奥へ奥へと進むに連れ少しずつ気温が下がってきた。やっと人が過ごせる空間へと来れた。

 

「しっかしあれじゃな、八神、お前かなり汗臭いぞ。そろそろ加齢臭の出始める頃じゃろ?もっと気を配った方が良いぞ?」

 

その一言に俺の額には青筋が走り、口角が引き攣る。この爺、今すぐぶち殺してやろうか。

ホルスターから二本とも抜き、爺のこめかみにピッタリとくっつけてやる。

 

「死にたいらしいな。」

「冗談じゃよ、そうカッカするな。それより、ほれ着いたぞ。」

 

爺が指す方へと視線を向けると、漆黒の"ソレ"が、机の上に陰陽の形で飾られるように置いてあった。

 

「お前の依頼通りに仕上げたが、本当にこんなじゃじゃ馬でええのか?」

 

爺の声を背に"ソレ"の片方を右手に持つ。見た目通りのズッシリとした重量、ツヤが消された、ふと覗けば飲み込まれそうな真っ黒なボディ、あまりの美しさに下品にもよだれが滴りそうになる。

もう片方も左に持ち正面に構える、ああ、やはり手に馴染む。体の一部のよう、なんてものではない、パズルの最後のピースがピッタリとハマったような、言葉にできない快感を感じる。

 

「ああコイツはこれで、いやこれが良い。」

 

師匠のお下がりでも十分以上にやれるが、やはり"コレ"じゃないと落ち着かない。もはや自身の片割れとも言える"コレ"がない間は、まるで想い人を待つウブな童女のような気分だった。

 

「最高だ!完璧だ!やはり俺はコイツじゃないと!」

「まったく、お前の依頼だからこそ槌を握ったが"ソレ"の相手は二度とごめんじゃ。」

 

爺はそう言うとふと、思い出したように尋ねてきた。

 

「そういえば今更じゃが、その二丁の名前は決まっとるのか?」

「お?教えてなかったか、コイツらはな。」

 

名前を口に出そうとした瞬間、先程案内してくれた女中が工房に飛び込んできた。

 

<<目星:60-->48 成功!>>

 

酷く息が乱れており、先程まで立派で瀟洒な雰囲気を醸し出していた女中服も所々煤けてしまっている。

 

「おい、どうしたんじゃ。」

 

爺の問いかけに息も整えず、吐き出すように声を絞り出す。

 

「敵襲でございます!」

 



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第一幕 第七話 襲撃

「敵襲でございます!」

 

女中がその言葉を発した瞬間、目の前の鉄扉が吹き飛ばされ、五人の男女が中へ入って来る。

女中と爺を隠れさせてやる余裕もないので、次の一手を打つために不審者達の観察を始める。

先頭は右手に青竜刀を持った切れ長の目をしたチャイナドレスの女。

後ろに続くのは黒のスーツに黒のサングラス、黒のネクタイと全身真っ黒な護衛のような男達、武器は全てmp5だろうか。

 

あれ、コイツらどこかで見た気がするな

 

<<アイデア:80-->81 失敗>>

 

どこで見たんだったか、忘れてしまったな。

 

「へー、オオサカ1の男の工房って言ってもこんなものなんだ。これなら私達のとこの方がよっぽど良さそうね。」

「いきなり人の家に乗り込んできて家主への一言目がソレか、随分と教育がなっとらんようじゃな。」

「これはこれは大和の翁、あんまりにも貧相な姿をしているものだからてっきり迷い込んだ浮浪者が何かだと思ってたわぁ。あら、それにボロ船の船長サンまで居るじゃない、手間が省けるわぁ。」

 

ボロ船とは言ってくれるなぁ。安い挑発と分かっていながらも、小憎たらしい顔も含めて少し苛立つ。

 

「手間だあ?」

「ええ、貴方達にはここで死んでもらうわ。」

 

チャイナドレスが、こちらへ青竜刀の切っ先を向けると、背後に控えていた男達が一斉に銃口を向ける。

こんなところでやる気かよ、随分と血の気が多い事で。

 

「へ?なんじゃと?すまんのぉ、最近耳が遠くなってしまって聞きづらいんじゃ。

なあ、八神やわしの聞き間違いじゃ無ければ、わしらを殺すとか聞こえたんじゃが。聞き間違いかの?」

「ああ、ここまで清々しい宣戦布告は久し振りに聞いたなぁ。」

 

殺害宣告をされたと言うのに笑顔を浮かべるほど余裕な態度の俺たちに、思わず困惑し、苛立った様子でチャイナドレスが口を開く。

 

「何故笑っていられるの?貴方達は私達にここで殺されるのよ?まさか気でも狂ったのかしら?」

 

その言葉に爺は堪えきれなくなったようで、腹を抱え、目に涙を浮かべる程に笑う。

爺の様子にチャイナドレスだけでなく、後ろの男達にも困惑が広がる。まさかとは思うがこいつら、誰に喧嘩を売ったのか理解していないのだろうか。

 

「ここに来たのが私たちだけだから油断でもしているのかしら、今この屋敷には私たちを含めて50人が貴方達の命を狙っているのよ?それでも笑っていられるのかしら。」

「50人かそりゃあ良い、たった5人じゃ退屈しないか心配してたんだ。」

 

その言葉で頭に血が上ったのか、顔を真っ赤にして、男達へと射撃の指示を出そうとした瞬間、工房に4発の銃声が響き渡った。

 

仁義なき戦い発動!

先制0ターン目

二丁拳銃により技能値-20%

<<拳銃:75-->01 クリティカル!>>

以降3発全て成功にて命中

 

顔に新しい穴を開けられた黒服四人は、銃声の出所が俺の手に握られている二丁の"ソレ"だと気づくこともできず、糸が切られたかのように床に倒れ赤い水溜りを作る。うん、やっぱりこの二丁が一番だな。

 

突然の攻撃にチャイナドレスは目を丸くし、口をパクパクと開くだけで何もできなくなってしまっている。最近襲撃者の質が下がってる気がしてならない。

 

「おお、さすがじゃなぁ全部眉間のど真ん中じゃった。」

「これでもガンマンやってるんでね、このくらいは出来ないと。さて、メイドと自分の安全は頼むぜ。」

「どこへ行くんじゃ?」

「決まってんだろ?殲滅戦さ、今回は特別にタダでいいぞ。」

 

新しい弾を二丁の"ソレ"に装填し直していると、ふと視界の端で何かが動いた。

 

<<目星:60-->21 成功!>>

 

おいおい、冗談だろ?なんで眉間をブチ抜かれた人間が動けんだ?

まさか未来から来た殺人ロボットじゃあるまいし。まあ、今更死体が動いた程度で動揺したりはしないが、それでも驚くものは驚く。

爺や女中も気づいたようで、黒服へと警戒の視線を向けると、その隙を見計らったようにチャイナドレスは即座に工房から出て行こうとする。

 

「逃すかよ。」

 

<<拳銃:95-->65 成功>>

 

逃げる足を潰すために膝を狙い引き金を引いたが、黒服がチャイナドレスを庇うように立ち上がり防いでしまった。

 

「なんだぁ、ありゃ?まさか機械仕掛けだったりせんじゃろうなぁ。」

「それはそれで面白そうだが、血が出てるから多分違うぞ。さてどう殺したもんか。」

 

まあ、打つ手は大体決まっているんだがな。

チャイナドレスは諦め、改めて黒服達に意識を100%向けると爺達にしか聞こえないような声量で呟く。

 

「気が狂いたくなけりゃ、30秒くらい目と耳塞いどけ。」

「あ?なんじゃと?聞こえんぞ、もっと大きな声で言ってくれんか?」

「旦那様、八神様は目と耳を塞げと仰られました。」

「おお、そうか、ならしっかり塞いどくかの。」

 

二人が目と耳を塞いだのを確認すると、自分でも理解できない言語を紡ぐ。

確かこれは違う世界の化け物を呼び出す魔法だったはずだ、間違ってないといいが。

黒服達がゆっくりとこちらに距離を詰め、後数メートルで手が届く、と言ったところで床に大きな魔法陣のようなものが神々しくも禍々しく浮かび上がった。その魔法陣の中には黒い球体が浮いており、その球体はまるで心臓のように脈動している。

 

<<眷属の招集>>

MP:16-->8

召喚クリーチャー二体。

 

体から何かが抜ける感覚を覚えた瞬間、魔法陣は消え、球体がごとりと床に落ちる。

 

まるで魂が欠けたかのような感覚に襲われ、常人ならば悲鳴を上げながら嘔吐していただろうほどの恐怖感が脳を支配する。

自分が知らないはずだが知っている世界の人々が、人間の理解を超えた、生命体とは言い難い姿をした化け物に蹂躙され、虐殺され、凌辱されているイメージがいくつも、何度も、視界に浮かび上がってくる。

 

だが、それだけだ。

 

SAN:40-->39

 

視界が元に戻り、全身の感覚がハッキリとしてくると、黒い球体は脈動をやめ、ゆっくりと形を変えてゆく。

円柱に近い形の胴体に二本一対の腕、丸みを帯びた頭と、ここまでならば人間と言えなくもない形だが、そこからさらに醜悪で見るに耐えない姿へと変質する。

一対の腕の両肘からは新たな腕が三本ずつ生え、頭にはブーメランのような形をしたツノのような何か、胴からは10本程の蛸のような足が直接付いている顔のない二体の怪物が歓喜のように聞こえる産声を上げた。

エルドラージのドローンだとか何とかいう種族だったはずだ、時計塔で師匠にそう教えてもらったはずだ、多分、おそらく。

 

「さあ、そこの餌どもを親分達に持って帰ってやりな。」

 

そう言ってやると、二体の怪物は黒服へと腕を伸ばし二人ずつ拘束すると、まるで鯖折りかのようにギリギリと締め付ける。

 

<<キャッチ:50×2-->25,49 成功!>>

<<キャッチ:50×2-->34,6成功!>>

 

黒服達は必死に逃れようと対抗するが、力の差がありすぎるのかビクともしていない。

ミシミシと黒服達の体が軋み始めた頃、黒服の一人が口を開いた。

 

「貴様、"ウィザード"だったのか。」

「なんだお前、話せたのか。てっきり地獄で閻魔様に舌抜かれてるもんだと思ってたぜ。」

「なぜ"ウィザード"が工房にいるのだ、貴様らは相容れぬ存在ではなかったのか。」

「何か勘違いしてるようだな、俺は"ウィザード"じゃなくて"メイガス"だぞ、"ウィザード"は師匠の方だ。」

 

これ間違えると時計塔の奴らが顔を真っ赤にして罵倒してくるからなぁ、あいつら品性だの何だの言ってるくせにえげつないくらいの差別主義だし。ここ、テストに出てきたぞ。

 

「何が違うというのだ。」

「"ウィザード"というか"ワイズマン"は今こそ魔法使いって意味で使われてるが、本来は賢き者って意味だからな。

あいつらは過去、今、未来、あらゆる知識を持ってる奴らのことだよ。」

「俺たち"メイガス"とは全くの別物さ、"メイガス"は"ウィザード"の知識や技術から学んで新しい知識を生み出す魔法使いのことだ。まぁ、この説明だと俺は"メイガス"とは言えないんだけどな。」

 

ここまで教えてやる必要は無いのだろうが、俺を見ているのが黒服達だけじゃあ無い以上油断しているように見せてやるのが最善の手だろう。

覗き見とは趣味が悪いな、どうせなら堂々と乗り込んで来りゃあいいのに。

 

「おっと、喋りすぎたかな。そろそろお前達のお仲間も探さにゃならん、と言うわけで。死んでくれや。」

 

俺の一言に二体の怪物は黒服達を締め上げる力を強める。

黒服達は必死に抵抗をするが骨の折れる音とともにその抵抗は終わる。が、一応念のために、全ての黒服の眉間と心臓と股間に1発ずつ撃ち込んでおく。

 

「もう持っていっていいぞ。そいつらで足りないようなら、そいつらと同じ服の奴らは好きなだけ持ってきな。」

 

幸い、ここには爺の趣味で女中しかいないから巻き込まれる心配はないだろう。多分。

 

 

怪物達が黒服を担いだまま工房を出るのを見届けると、爺達の方に向き直る。

あいつらまだ目と耳塞いでやがる。

女中に至ってはしゃがんで嗚咽を漏らしながら、ガタガタと震えてしまっている。

 

さては、呪文を聞いたな?せっかく忠告してやったのに酷いやつだ。

というか、俺30秒って言ったはずなんだがな何でこいつらまだ目と耳塞いでんだ。

 

爺に声をかける前に、先に女中を正気にしてやったほうがいいだろうか。

そう思い、女中の前まで歩きしゃがみこむ。

女中は目の前まで来た俺に気づいたのかゆっくりと目を開いた。その目には俺が映ってはいるが、俺が見えてはいないようで目線はあらぬ方向に飛んでしまっている。

 

「いあ、我は、我は、いあ、いあ、……」

 

おっとこれはマズイ、急いで女中に落ち着くように暗示をかける。

 

「いあ、い、あ?あれ?私は一体?」

「まったく、耳塞いでろって言ったのに。大丈夫だったか?」

「あ、はい、ありがとうございます。大丈夫です。」

「そりゃよかった、爺は頼むわ、今度こそ外の潰してくるから。」

 

女中の返事を待たず、鉄扉の破片を蹴り飛ばし、工房から飛び出す。

 

すると、聞き覚えのある不愉快な声が俺の耳を撃つ。

 

「よおぉ、兄弟、久しぶりだなぁ、お前に会いたくて地獄から戻って来てやったゼェ?」

「おいおい、今日は厄日か?まさかテメェが出てくるなんてなぁ。」

 

そこにいたのは、俺が殺したはずの最悪の男、"黒髭"だった。

 

 

 

 



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