俺たち魔導師地上組 ~幼女戦記外伝~ (浅学)
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序話

 はいおはこんちわ。浅学です。あさいまなぶです。
 浸透するまで続けます。というわけでなまけ癖と度重なる改稿のために5000時のために1週間使った新作です。
 今回は少しばかり連載形式にしてみようと思います。
 というか連載形式じゃないと書けません。がんばれ。
 というわけで、今作は幼女戦記と銘打ったおっさん戦記です。おまえ戦争の描写できてねーぞ!という声をお待ちしております。学ばせていただきたい。
 とまれ、まずは本編をどうぞ。



 帝国、我らがライヒ。その強大な軍事力をもって、内線戦略で周辺の仮想敵国に対峙する軍事国家である。

 そして、ライヒの鉄壁の盾にして必殺の剣である帝国軍。敵国の侵攻には各方面軍による遅滞戦闘、維持した戦線を即座に即応集団による増援により打開、敵野戦軍を各個に撃滅することを基本とする戦闘マシーンである。

 国内に張り巡らせた鉄道網により、中央即応集団は縦横無尽に駆け巡り、方面軍と共同して戦闘に当たる。

 まさに戦争芸術といえるこの方針が、今、泥沼の世界大戦を生み出していた。

 

 そんな戦争の最中。今まさに、帝国陸軍機密試験コマンド大隊〝イカロス〟が、敵国の塹壕戦線へと強襲を仕掛けていた。

 

 側面を襲われないために、国境線もかくやと伸ばされた双方の塹壕、その敵側の塹壕にイカロスの部隊が浸透する。

 人数は少ない。中隊編成で十二名。それが三つ。うっすらと雪の降る夜に紛れて、それは堂々と侵入した。

 敵、連邦の兵士も、夜間の、それも冷え切った空気の中の任務である。途切れそうになる集中力を繋いだ連邦兵の一人が、塹壕から頭を出して帝国の塹壕線を覗いた瞬間である。

 いつの間にか、目の前に人影がいる。その人影、イカロスの大隊長にして第一中隊指揮官、アドルフ・ブラウンは手に持ったシャベルを振りかざし、今にも叫びだそうとした連邦兵にこう言った。

 

「やあイワン、遊びに来たぜ」

 

「敵」までは発した。しかし襲の言葉を言う前にその哀れな第一発見者の首は宙を舞う。

 鮮血を浴びながら侵入したアドルフの率いる小隊は即座に戦闘になった。

 連邦軍は大所帯で有名だ。それも夜間に響く敵の声に、即座に周辺で警戒に当たっていた他の兵士も音の発生源に意識を向ける。そして、首狩りが始まった。

 

「なんだこいつら! いつの間に!」

「機銃だ、機銃を使え!」

「間に合わない! 白兵戦――」

 

 口々に言葉を発する連邦兵を、一撃で屍に変えていくアドルフとその仲間たち。

 狭い塹壕の中、連邦兵は集まりはすれど敵の姿が味方に隠れて攻撃ができない。しかしアドルフたちは、前方の敵にシャベルを叩き込むだけでいい。襲撃開始から数十秒で周辺は鉄の匂いに包まれた。

 そんな中、声が響く。

 神経質そうなその声は、アドルフたちに向けられたものではなく、連邦兵たちに対しての叱責だった。

 

「何をやっている! 敵は少数だ! 味方もろとも敵を撃て!」

 

 ひときわ目立つ服装。威張り散らした態度に、味方ごと撃てとのたまう。腰には磨かれた拳銃、そして襟にきらめく連邦共産党の徽章。政治将校だ。

 その将校は他の兵士に担がせてきたのであろう機関銃を、あろうことか塹壕内に据え置いた。そして「撃て!」とその将校が発した瞬間に、機関銃が火を噴く。

 闇夜の中、銃口から飛び出した発砲炎が、巻き込まれて撃たれた連邦兵の血煙を明るく照らす。

 発砲炎が煌くたびに、あざ笑う政治将校の顔と、思考を停止して引き金を引く兵士の顔もよく見えた。

 今度は機関銃の掃射が数十秒続く。銃身が赤熱し、用をなさなくなったところで引き金から指が離された。

 先ほどまで銃弾と踊っていた連邦兵は永遠の休みに就き、立っているものはいない。いや、連邦兵で、立っている者はいないというべきだ。

 機銃の的であったはずのアドルフは、口の端をゆがめて、立っている。そして、驚きを隠せないというような顔で後ずさりする政治将校の方へと歩みを進めた。

 

「おいおい、随分手厚いおもてなしだな」

 

 そう言いながら、ゆったりと進むアドルフ。先ほどまでの鬼気迫る殺戮とは打って変わって、懐からタバコを取り出し、進んだ先の機銃の、焼けた銃身に押し当てる。

 赤熱した銃身の熱で火をつけて、それを口にくわえてひと吹き。

 

「タバコの火までくれるとは、イワンも随分人付き合いがうまくなった」

「黙れ! この化け物が!」

 

 そういいながら腰の拳銃を引き抜き、アドルフに向けて引き金を引く。

 しかし、その銃弾は目標の手前で見えない壁に阻まれたかのように弾かれていく。

 一本マガジンがなくなってから、将校は呟いた。

 

「貴様、魔導師、か……!」

 

 魔導士。古の魔法を、現代科学の粋を凝らした魔道宝珠でもって蘇らせ、使役する兵科。

 連邦がまだツァーリによって統治されていった頃は、存在していた。しかし、今の共産党が革命によって王政を打倒したとき、連邦魔導師はツァーリに味方したため、軒並みラーゲリ送りになったのだ。

 この戦争に際して、その魔導師も復権しつつあるが、それでもまだ充足とは言えなかった。

 そして、アドルフの胸元に目をやると、そこには懐中時計。

 否、それこそが、現代に魔導師を蘇らせた、演算宝珠。宝珠と王笏の現代の姿。

 

「俺たちは、そんな高尚なもんじゃない。劣化品、レプリカさ」

 

 そうつぶやいたアドルフは、一歩踏み出したと思った瞬間には、政治将校の前にいた。

 早業というにはあまりにもなスピード。そして相手が反応する前にアドルフは胸元にシャベルを突き立てた。ゾブリと肉を貫く感触。そして、一息に引き抜く。貫通していたシャベルの頭が人体の生命維持に必要な器官を引きずり出す。

 そして、それきり動かなくなった。

 

「こちら第一中隊、塹壕内占拠。状況知らせ」

『第二中隊掃討完了』

『第三中隊は戦利品を回収中』

「よし、今晩も迅速かつ的確なハラスメント攻撃だった。合流地点まで各中隊撤退せよ」

 

 我々も撤退する。アドルフの命令に無言でうなずき、速やかに闇に飲まれていくイカロスの隊員たち。

 アドルフは、先ほど亡骸に変えた政治将校の胸元から勲章をむしり取ってから、部下の後に続いた。

 そして、また迅速に戦域を離脱し、集合地点へと戻ると、すでにそこには他の中隊が着いたようだった。各々が警戒をしていたり、戦利品を仕分けたりしている。

 そこにたどり着いたアドルフに、二人の兵士が声を掛けてきた。

 

「「隊長殿、任務ご苦労様であります」」

 

 一人はマルコ・ブレンダン。第二中隊長、ひょうきん者。言われたことはこなすタイプだがさぼりがち。

 

「いい加減この地味な任務も飽きてきましたね」

 

 もう一人はヨハン・セバスティア。すぐに拾い物をするせいで一度死にかけたことがある。

 中隊長らの様子から見て、戦果は上々。

 そして中隊各員もこちらに気付いて各々自由に挨拶を返してくる。

 時間にして一時間、進軍撤退を差し引けば三十分程度の簡易な任務。実践的な訓練といっても過言ではない。陽気な連中の声を聴いて、アドルフは言葉を返す。

 

「こんなことで苦労したといえば、《白銀》のお嬢ちゃんは今頃三回は過労死さ」

「違いない」

「さて、俺たちは一体いつまでこんなお遊びをさせられるので?」

 

 そして、隊がそろっての帰還。

 素晴らしいことだ。お遊びの任務で給料も払われる。

 少し強くなった雪を受け、冷える装備に手をやる。軽い戦闘でも魔力を使えば身体は暑くなる。今はこの冷たさが心地よい。誰もがそう思った。

 

「地獄に遠征に行けと言われるよりマシさ」

 

 そして、戦場の夜にまた屍の山を築いて帰るイカロスの面々であった。

 

 

 

 イカロス大隊の行動は空からではない。陸路を匍匐なり、徒歩なり、隠蔽して保管してあるジープなりで行動する。

 理由は単純、飛べないのだ。

 帝国陸軍機密試験コマンド大隊。秘匿コード名はイカロス。空を目指して、堕ちた神の名を冠する部隊。彼らはただの魔導師ではない。

 そもそも、魔導師にすらなれるかもわからなかった兵士たち、だ。

 帝国の参謀本部は悩んでいた。かかる情勢の混沌に加え、連邦の参戦。日々消費される人的資源。

 数字として消費される人命。それを数字として処理するがゆえに、彼らは着々と自分たちがすりつぶされていると理解させられる。足りないのだ、兵士が。

 いつまでも終わらない戦争。長引けば長引くほど、消耗は加速する。しかし、補給は一定、いやそれ以下だ。

 今や徴兵適用年齢を引き下げ、正規の労働人口や、本来なら学生として勉学に励んでいなければならない、帝国の未来の種まで、戦場に蒔いている始末。帝国は急激にその力を衰えさせている。

 このままではいけない。しかし、急激に兵士の生存率を引き上げる方法なんてそうは存在しない。

 そして考え付いたのが「一般の兵士が死にやすいのなら、魔導兵の割合を増やそう」というモノだった。魔導士の適性が基準値に達していない兵士たちは、そのまま魔道兵科以外の兵科についていた。

 なので、適性の低い人間を無理やり魔道兵にできないものかといったのだ。

 普通は不可能。しかし、帝国には天才がいた。エレニウム工廠主任技師アーデルハイト・フォン・シューゲル。彼は白銀の使用する宝珠核の四発同調を成し遂げた稀代の天才技師、参謀本部は即座にこの計画を採用した。

 

 そして、出来上がったのが《エレニウム工廠製一〇〇式演算宝珠》。

 今までの宝珠よりも出力を落とし、魔力量の少ない人間でも扱える、いや吸い上げてでも起動する一種呪具のような代物。

 シューゲル技師はこれをほんのひと月程度で仕上げると、即座に他の研究に戻っていった。

 参謀本部は、一〇〇式演算宝珠の試験制作モデルを魔導大隊分先行量産し、機密指定のもと一つの試験部隊を作り上げた。これがイカロス大隊の誕生の経緯である。

 

 

 

 イカロス大隊が塹壕を超え、前線基地へと帰還した。

 といっても、彼らは試験運用の部隊かつ、なにかの拍子に情報が洩れてはならないので、前線基地にはデブリーフィングのために帰還し、彼らは本部直轄の施設へ帰営することになる。

 大隊が帰還し、各員が各々散った後に、アドルフは一人基地指令室の戸を叩いた。

 すぐに反応があり、「入りたまえ」という声に言葉を返すでもなく入室する。

 中にいるのは、東部方面の管区指令官。参謀本部からのお目付け役であり、このイカロスの監督権を持つ人間であった。

 

「やあアドルフ。上々かね」

「フロイト、俺たちはいつまでおままごとをしてりゃいい?」

 

 早々にしかめっ面でタバコに火をつけつつ、ヤジを飛ばすアドルフに、フロイトと呼ばれた大佐の階級章をぶら下げた男は答えるでもなく次の質問に移る。

 

「飛べないなりに、よくやっているようだな」

 

 飛べない。いつもこの言葉が胸によぎる。所詮、まがい物。普段は声を張って、雄々しく敵の懐に飛び込むアドルフにあって、無いもの。

 魔導士官とは、近年発展してきたばかりの兵科であった。しかし、時に敵の機甲師団を吹き飛ばし、時に観測主となり、時には潜水艇に爆雷を撒く。便利使いの良い彼らは、各国で積極的に研究がなされている。

 しかし、それは敵に上を取れる、という要素が多分に絡んでいる。

 上空からの攻撃は、なんとも恐ろしい。衝撃力をもって敵を撃つのだ。しかし、それがアドルフたちにはない。

 戦場で彼らが航空魔導師を見た時、隠れることによってやり過ごす。空の連中には、空でしか戦えない。

 

「ええ、地を這いずり回って、ハラスメントを繰り返してますよ。非常にやりがいがある。兵士冥利に尽きる!」

 

 だからか、アドルフはいつしか航空魔導師に愛憎交じった感情を抱いていた。数年前まで、塹壕の中で空を見上げた時、魔導師が飛んでいくのを見るのは何とも心地よかった。

 彼らが空へあがるとき、その眼は地上を見渡して、ライヒの砲兵たちが女神の鉄槌を打ち下ろす。

 前線は、砲兵の支援と共に敵に進撃する。その砲兵の目となる魔導師に、少なからず尊敬と畏怖を、感じていた。

 しかし、いざその魔導師、それも飛べない、早さもない、仰々しい術式も使えない、精々が防殻のおかげで硬い程度の陸戦隊もどきになれば、空を飛び回る彼らが妬ましくなっってしまった。

 

「フロイト、そろそろ……」

「アドルフ・ブラウン大尉、君に指令がある」

 

 突然のことに、反応しかねた。普段、こんなに煽られることもなかったのに、いきなり指令? 果たしていったいどういった風に吹きまわしだろうか。精々が塹壕線へのハラスメント。そして、一〇〇式のデータ取り。

 それが、変わるというのか。

 アドルフが、ねめつけるようにこちらを見据える基地司令に気付き、姿勢を正す。

 

「明後日より、イカロス大隊は一〇〇式演算宝珠の試験運用任務を終了、ヨセフグラード方面への配置替えとなる。おままごとじゃない、実戦任務だ、良かったな」

 

 指令の内容は、かねてより攻略の望まれていた工業都市方面への配置換え。

 すなわち、今までの様なハラスメント攻撃ではなく、名を上げうる機会のある場所での任務であった。

 思わず顔がにやけるのを抑えなければなるまい。これはフォーマルなやり取りなのだとアドルフは自らに言い聞かせる。

 

「謹んで、拝命します!」

 

 その後は、言うが早いか席を立ち、大股で指令室から飛び出した。

 とうとう、飛べない自分たちが名を上げる機会がやってきた。軍人として、これほどうれしいことがあろうか。試験運用のためと、意味のない攻撃ばかりをやらされてきたイカロスが、飛び立つ日が来たのだ。

 

「大隊長より各員へ通達、ヨセフグラードで暴れてこいとのご命令だ。明後日には任を解かれる。明日中に準備を整え、列車の切符を受け取りに来い!」

 

 この命令を受けた兵士たちは、意気揚々と支度をはじめ、翌日の昼には酒盛りを始める程度には、歓喜していたのであった。

 

 

――――――――

―――――

――

 

 

 指令室では、嵐の様に去っていった男の背中に手を伸ばすフロイト司令官の姿。

 声を掛けることもかなわず、もう一つの指令があったのだが、めんどくさいとばかりにイスに深く腰掛け、葉巻に火を灯す。

 

「まあいい。駅のホームに向かうよう伝えておくか」

 

 そして、手元の書類に目を落とす。一人の少女が、緊張した面持ちで映っているのがわかる。

 名前の欄には、エレーナ・エスタークとある。

 所属部隊の欄には、イカロスの文字。

 

「子守りができる男だと、いいのだがな」

 

 そうして、嵐の前の静かな夜は、過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 はい、ここまで読んでいただきありがとうございます。
 こんな感じで、ゆるーく書いていきたいと思っています。
 ちまちま上げていきますので、どうか読んでください。時代背景が一次と二次の混成なのでなかなか難しいですが、ねつ造しながら書いていきたいと思います。
 決意表明として、週一から隔週の投稿を目指していこうと思うので、今後とも何卒よろしくお願いいたします。


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第一話 東部への道

 はいおはこんばんちわ、浅学な浅学(あさいまなぶ)です。
 祝二話と相成りました。まあ表記は一話ですが。
 初めてまともに描くことにした二次小説ですが、表現力の乏しさに心が折れそうです。でも楽しく書けてるから、もっとも筆も早く、質の良いものを掛けるようにしたいと思う次第です。あと今回戦闘無いんですよ。ゆるしてください。
 今回は旅編です。料理も出ます。描写できないんでちらっとですが。
 そしてねつ造された部局が出てきますよ! 変だな? と思っても別世界戦と思ってお楽しみください。それでは後書きでお会いしましょう。


 帝都ベルンの冬は、前線のそれとは変わって華やいだものだ。夜を通して降り続いた雪も止み、雲の合間からのぞく太陽を雪が反射して、まぶしくも煌びやかな光景を創り出している。帝都に軒を連ねる様々な店が、積もった雪を利用してより季節感のある店舗を演出している。

 街中では元気に駆け回る子供たちが雪玉を投げ合い、すれ違う知人に挨拶をして駆けていく。また付近の奥方や仕事へ向かうと思しき男性が、行きつけの店で談笑しながら軽食を買っていた。

 帝都は、前線の血だまりが幻であるかのように、平和な姿が見える。

 しかし、それでもその景色に、時折影が差すことがある。食事は少しばかり味が薄くなっただろうか。量も、減った気がする。記憶より少々、喪に服す人々を目にする機会が増えただろうか。些細な変化かもしれない。戦争の足音を、敵国の軍靴の音を知らない人々にとっては、些細な変化。しかし、軍服を纏う人間からしてみれば、それは明確な変化として目に映る。

 イカロス大隊が異動の指令を受けてから、四日が経った。ヨセフグラード近郊への鉄道は、一〇〇式演算宝珠の『試験運用地』からは直接伸びておらず、また参謀本部へと御呼び出しがかかったこともあり、アドルフ以下三六名の大隊員は、帝都ベルンへと帰還していた。

 戦地から寝台列車に揺られて一日と少し。東部の寒さとは打って変わって、ベルンの冬は敵意ではなく、隣人への善意に満ちていた。何故こうもライヒと連邦で隣人という言葉の意味に隔たりがあるのかは甚だ疑問ではあるが、やはり共産主義を奉じるイワンは隣人さえも敵足り得るのだろうとアドルフは黙考する。

 別に政治に興味があるわけではない。自分は軍人で、政治とは離れた位置にいるべきだとも思っている。しかし、共産主義とやらだけは、毒のように蝕む思想ではないかと、戦争を通してアドルフは学んでいる。故に、連邦に対して恨みはないが、共産主義者には慈悲を掛けない。それがアドルフの思想だった。

 しかし、朝一番からそんなめんどくさいことを考えていたものだから、アドルフは部下にして中隊長のマルコとヨハンに鬼の面だと面白おかしく騒がれてしまった。無論、大隊長が仏頂面でいては休まるモノも休まらないと気を利かせた、中隊長らなりの空気の読み方。アドルフも、自分の顔がどういう固まり方をしていたのかを確認し、やれやれと破顔しつつ「それが上官に対する口の利き方か!」と応戦する。しかしそれを言われた両中隊長は慣れた様に敬礼し「申し訳ありません! あまりにも空気が悪かったものですから!」と即座に反撃してくる。部隊員はそのやり取りに笑いながらヤジを飛ばし、引き際とみたアドルフが終戦の言葉を告げた。

 

「分かった、分かった。降参だ! 俺はこれからこのダメージレポートを参謀本部に伝えに行ってくるから、貴様らは凱旋でもしてこい! 何かあった場合は、中隊長か俺に連絡するよに。以上、解散!」

「軍法会議の折には、差し入れに海軍の糧食をお届けに上がりますよ」

「マルコ・ブレンダン中尉! 次の任地では背中に気を付けておけ!」

 

 アドルフが叫んだころには、皆は散り散りになって逃げていた。周囲の老若男女から生暖かい視線とほほ笑みをいただき、アドルフはバツが悪そうにコートの襟を立てる。

 そしてアドルフは、まだ朝食を食べていないことに気が付いた。汽車の中では相も変わらずのどんちゃん騒ぎ。それに付き合って酒は飲んでいたが、気付いた時にはベルン中央駅で、車掌の厳しい視線と声に揺り起こされた。そして、先ほどのどうでもいい思索につながるわけだが、どうして彼らはあんなに元気に駆け回れるのだろうか。いや、なぜ参謀本部に自分だけがはせ参じなければならないのか。無論、アドルフ自身イカロスの指揮監督をしているのだから、仕方ないものだが。

 何はともあれ、魔窟に潜るのに腹ごしらえもなしではやっていられないと、香ばしい香りを運んでくる風に従って歩みを進める。窓越しに見えるパンの数々に、やはり前線よりも後方にいる方が楽しいもんだろうかと思いながら、女店主に声を掛けた。

 

「やあ。なにか軽く食べられて、腹にたまるモノを頼むよ」

「いらっしゃいませ、兵隊さんの腹にたまるモノとなると、他のお客さんより多く見繕わなきゃね」

「すまないね。安く頼むよ、薄給なんだ」

「景気良いのはお上だけだよ、任せておくれ」

 

 そういって、店主はいくつかのパンを見繕ってくれる。朝方に来たおかげで、仄かな暖かさにふわりと小麦の香りがした。

 パンを受け取り、お金を渡してから歩き出す。行先は、帝国軍の総本山。帝国陸軍参謀本部、特殊作戦局。イカロスの生みの親である。

 かねてより、帝国の様々な特殊な編成、作戦の影には、この特殊作戦局が関与している。基本的には正規の作戦局が戦争の基本的な作戦を策定しているのだが、試験的な編成や作戦といったものは、この特殊作戦局が参謀本部にお伺い立てするか、参謀将校らが求めてきた実験的な案を使って正規の軍事行動に織り交ぜるように要求している。

 参謀本部のイカロス大隊の創設案も、この特殊作戦局への要請から成っている。

 この特殊作戦局、表立って大きな戦果は上がっていないが、様々な実験的部隊運用と、敵部隊の研究能力の高さから、参謀本部の力の入れようがうかがえる部局となっている。

 アドルフ自身、いくらか思うところはある。一陸軍兵から、飛べないとはいえ魔導兵にしてくれた上に、野戦任官ということで階級も大きく引き上げてくれた。無論、そこには多大なる打算と、ちょびっとの奉仕に対する慰労という成分が含まれていることは承知している。

 まあ、とアドルフは考えを変える。特殊作戦局にいる分には、多少贅沢をしても困らない程度には、俸給が支払われる。それに、前線におくられた時も、出来損ないの魔導師なりに、出来損ないの宝珠が守ってくれる。結果的には、収支は増だ。貨幣的にも、生命的にも、今のところは右肩上がりな人生だ。ならば、参謀本部へと足を運ぶくらいの労は、惜しまないでもいいだろうと。

 くだらなくも自らの精神に安定をもたらすことに成功した思案とはおさらばし、麗しの参謀本部へと踏み入れた。

 門のそばの衛兵が敬礼と共に迎え入れてくれる。「要件は?」との問いに、特戦局へ、と言えばすぐに「アドルフ・ブラウン大尉ですね。話は聞いております」とすぐさま反応が返ってくる。そしてこちらの宝珠から官姓名の照会が入る。そして、確認が取れ次第再び礼とともに送り出される。この間僅かに二分程度。煩雑な処理を的確に済ませる姿に、一応は本部付近は優秀な兵士がいるもんだと感心せざるを得ない。

 どうにも最近、若いばかりで仕事が雑な軍人が増えているとは、方方からのうわさが教えてくれる。ろくすっぽ事務処理もできず、伝令さえ内容が六割も伝わらないことがあるなら、まともに仕事もこなせないだろうと憐れみを覚えるものだ。

 参謀本部の絨毯の上を、速足にすすむ参謀将校たちを尻目に特殊作戦局へと向かう。ここにいる将校の、どれくらいが前線の混沌を知っているのだろうか。無論、アドルフがいた場所は、別段厳しい戦局というモノではない。無論、拮抗状態である、というだけで優勢でも何でもない。あくまで拮抗している、というモノだが。それでも、西部のライン戦線のような、空が三割血だまり七割、という程地獄の様相を呈しているわけではない。

 しかし、どうにも後方にはそいうった事情は伝わり辛いというモノだ。なれば、多少ずれた命令が飛んでくるのは、やはりそういうことなのだろうかと勘繰ってしまう。

 幾人かの将校とすれ違い、少しばかり人気の薄くなった頃、中心部からはなかなか逸れた寂しい位置に特殊作戦局の局室がある。扉を開ければ、幾人かの見慣れた面々から挨拶が来る為、それに答礼しつつ、局長室へと顔を出す。

 局長室の扉は開きっぱなしであった。アドルフが中を覗き込むと、書類とにらめっこしながらうんうんうなっている局長の姿が見える。名をエーリッヒという大佐、特殊作戦局局長の肩書を持つその男は、扉のそばに立って幾度かノックするアドルフの姿を認めると書類から手を離した。

 

「ブラウン大尉、遠路はるばるだな」

「ええ、まったくです。ですが、書記長の鼻っ柱を折れるとなれば話は別ですよ。それで?」

 

 実に和やかにやり取りする。別に敵同士ではない。まあ、ここの連中は性格がひん曲がった連中が多い、と一般にはオブラートに包んで話のタネにされているが、別にアドルフ自身まっすぐな性根をしているわけではないので嫌っているわけではなかった。だからと言って、好んで足を運びたいわけでもないのだが。

 どちらからでもなくタバコを取り出し、火をつける。肺腑に煙を流し込み、さっさと要件を言えと視線で訴えるアドルフと、胡乱げな表情で紫煙を吹き出すエーリッヒの視線が交錯する。

 そして、最初に口火を切ったのは、エーリッヒ。

 

「まあ、落ち着き給え。呼び出したのはほかでもない、貴官が猪突猛進であるがゆえにフロイトが伝え忘れたことがあると電報が入ったんだよ」

「ほう、それは大佐殿に失礼をしてしまいました。ぜひ、アドルフは心からの謝辞を述べていたとお伝えください」

「ああ、そうしよう。それでだ、君に副官が付くことになった。これが書類だ、確認しておいてくれ」

 

 そういって、エーリッヒから封筒を渡されたアドルフは、今更副官? と思いながら封を切った。中には、数枚の紙。軍人の経歴書と、恐らくはある程度の身辺情報。さらに、教導隊からの書類も入っている。

 経歴書には、おおよそ十代と見える少女の写真。幼さの残る顔は、端正な顔立ちをしている。そんな少女が、軍服を纏って、緊張しきった表情で軍の経歴書に乗っていることに違和感を覚えた。情報によると、魔導士官として任官しているとのこと。志願組で、優秀な成績を残して主席で教導隊を終えている。教官からの私見には、真面目すぎるきらいがあるが、基礎を抑えており、応用力も申し分なし。あとは実戦で経験を積めばよい魔導士官になるとのこと。

 名前は、エレーナ・エスターク。

 なるほど、これはわざわざどうもと、思った。よりにもよって、魔導師の子供を、副官に着けてくれるとは!

 いい魔導士官になると。実戦をを積めば、との但し書き付き。恐らく、どこかしらでの研修のようなものを受けた、速成栽培組だろう。おもわず心のヤジがこぼれた。

 

「こいつはいい、最高だね」

「参謀本部及び特殊作戦局では、本格的に魔導将校と一〇〇式演算宝珠使用部隊の混成部隊の運用を行い、データ収集を行うことを決定した。こちらは、改めて渡すが命令書だ。ここで開けたまえ」

「……どうも、ありがとうございますね」

 

 腑に落ちないものを感じつつも、命令書を開け、目を通す。内容は、フロイトが口にしていた通り、ヨセフグラードへの異動。そして、現地の軍に合流し、より奥へ進軍し情報を得ること。簡単なことだ。ふつうより硬いんだから、その分奥へ突っ込めと。そして、その折に魔導将校をつける為、協同し任務にあたるようにと。

 全く素敵な任務だ、素晴らしい! 子守をしながらイワンを殴るだけ! 帝国陸軍万歳! となるほど、アドルフはお人よしではなかった。有り得ない、心中で嵐が吹き荒れんばかりだ。

 そうなればアドルフはすぐさまエーリッヒに噛みついた。こればかりは、言わずにはいられないと顔に出して。

 

「局長、これは一体どういうことです?」

「貴官が常日頃から望んでいた、活躍の機会だが」

「それはいいんです。こっちですよ、この娘っ子は何なんです? いつから軍は任務におまけをつけるようになったので?」

「それも、記載の通りだ。そして、先ほど私が述べた通りでもある」

「百歩譲って、魔導師の随伴はいい。ですが、こんな、小娘。戦場では使い物になりませんよ!」

 

 アドルフは、仲間を信頼している。ひとえに、彼らも飛べない鳥だからだ。烏合の衆とは言うが、少なくとも飛べないなりに捕食者に集団でとびかかる術は心得ている。何より、多くが塹壕の中より戦場を見続けてきて、生き残った選りすぐりだ。新兵も、温かい指導により敵の血を浴びる方法を心得ている。

 背中を任せることができるというのは、なんとも心強いものだ。敵の御し方を知っているというのは、何物にも代えがたいスキルだろう。しかし、この度上が寄越したのは教導隊上がりの、巣立ちしたばかりの雛である。これでは、空はもとより、地上にいても上手に飛べというのは無理な話だろうと考えるのも道理。

 むしろ、こちらのアキレス腱になりかねない。たとえ小さな亀裂でも、通せば大穴のもとになる。

 ましてや、こちらは特殊な兵科になる。飛べない魔導師。空の風景を知っている人間には、アドルフたちの視点は慣れないモノだろう。それを、戦場で共に戦えという。見る景色が違えば、思考方法も変わってくる。やってられない、とばかりにアドルフは首を振る。

 

「もう少し、マシなのはいないんですか? ある程度、実地を回ってきた連中を。別に白銀をよこせとは言っていないんだ」

「大尉、これは決定事項だ。覆らない」

「ですが」

 

 だが、アドルフの些細な願いは、途中でエーリッヒの手に遮られる。

 

「何を言っても無駄だ。これは命令なんだ、これ以上言わせるな」

 

 命令? またこれだ! 軍令なので仕方ない。願いは願いのまま、軍の都合によって押し切られる。

 しばし、タバコの火が燃える音と、紫煙を吐き出す音のみが響く。時折、遠くのどこかから将校連の声の残滓が届く。今もせわしなく働く連中は、なにがしかの決定事項を定めては、紙にしたためて遠くの前線に届けているのだろう。

 今回、自分のもとに来たのは、その中でも指折りに不幸なものだと、アドルフはため息とともに諦める。

 

「……了解しました。失礼な言動があったと思いますが、どうかご容赦を」

「分かればいい。必要なことだ、何れはこうなっていた。そして、君にそれが訪れただけだよ」

「ええ、最善を尽くしますよ」

 

 小官はこれで、とアドルフは席を立つ。不愉快ではあるが、必要がそれを肯定する。しがない野戦任官の現場将校には、これが精一杯だろう。自分を慰めるのは、この部屋を出てからだと、迅速に行動する。

 アドルフが足早に扉まで行き、「では」と言い扉に手を掛けた時、エーリッヒはポツリと漏らす。

 

「子供を戦場に出すのは、まことに遺憾なことだよ」

「でしょうね。全く同感です」

 

 エーリッヒに当たるのは、間違っている。問題の根幹は、この戦争にある。本来、すでに平和であるはずなのだろう。別にアドルフ自身、戦争が好きなわけではない。しかし、こうなってしまっている以上、成すべきことは成さねばならない。

 思い直し、マナーに従って退出し、後ろ手に扉を閉じたアドルフは、改めて命令書に目を通す。エレーナ・エスターク航空魔道少尉は、イカロスが帝都を発つ日に、駅で合流とのことだった。

 

 

 

 

 

 

 参謀本部への出頭から二十時間程度経った。アドルフは、新人が入ってくる、と大隊に通達した後、翌日に残らない程度にやけ酒をして、すぐさまベッドにもぐりこんだ。目が覚めれば、あと二時間後にはプラットフォームにいなければいけない時間。眠れるときに眠っておけと叩き込まれた体は、しかし寝坊をするへまをやらかすほど馬鹿になってはいない。砲撃の音でも起きない程度に戦場に慣れているアドルフは、起こされることなく十二時間以上、惰眠をむさぼったことになる。

 何か部下からの緊急の報告があれば、宝珠ががなり立てて起こしてくることを考えると、何も問題は起こらなかったのだろう。

 適当に準備を整え、帝国中央駅へと向かう。

 基本的に現地集合を旨とするイカロスにおいて、遅刻する間抜けはいない。一応、中隊長らと共に点呼を取り、全員が集合していることを確認する。

 駅のホームは、始発であることも相まってほとんど人の姿は見えない。おおかた、軍服を纏った人間が数組いる程度だ。時折見えるスーツ姿は、恐らく政府の人間ではないかと見える。糊のきいた上等なスーツを着ている人間など、このご時世、枢要な機関に属しているに違いないとアドルフは思う。顔がやつれ切っているところから、きっと外交という仕事を満喫しているのだろう。

 さてあと十分もすれば列車がホームに入るという時間になったとき、一人の少女が慌ただしく走ってこちらに向かってくるのが見えた。

 見覚えのある顔だ。いくらか髪が乱れているのは、恐らく大急ぎで来たからだろうか。

 気が付いたヨハン・セバスティア中尉も、なにやら変な娘が来たことを報告してきた。

 

「大隊長、あれって例の新人では」

「だろうな」

 

 二人で髪を振り乱してきた少女を見やりながら、とりあえず少女に向き直る。

 なんとも言えない感じだ。恐らく寝坊でもしたのだろう。そして焦って出てきて、今に至る。こんなので本当に大丈夫なのだろうか。

 少女はアドルフの目の前に来るなり、肩で息をしながらも敬礼をしてくる。

 

「お、おはよう、ございます。エレーナ・エスターク、少尉でありま、うぉえ……す」

 

 それを言うなり彼女――エレーナは肩を上下させながら、膝に手を付く。片手はお口の前だ。

 どうやら、アドルフが思うより激しい運動をしたらしい。寒気の中、彼女の周囲だけほんのり湯気のようなものが見える。

 

「そんなに焦る時間に起きることもないだろう」

 

 思わず、アドルフがポツリと漏らす。

 

「まあいい。ようこそ、イカロス大隊へ。俺が大隊長のアドルフ・ブラウンだ。後ろで手を叩いて馬鹿笑いしているのがマルコ・ブレンダン中尉で、腹を抱えて笑っているのがヨハン・セバスティア中尉だ」

 

 アドルフが答礼しつつ、部下の紹介を手早く済ませる。その間に何とか持ち直したエレーナは、改めて赤いのか青いのか分からない顔で姿勢を正す。

 改めて見ると、ますますもって子供だなというのが第一印象だ。平均的な、ティーンのそれ。身長も突出して高いわけではなく、顔つきも、幼さが残る。敬礼も、まだ慣れ始めたというところか。時折背嚢の重さに足を取られている。まあ、それは単純に疲れからだろうが。

 

 

「君には俺の副官として第一中隊に入ってもらう。よろしく頼むよ」

「はい! こちらこそ、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」

 

 にこやかに笑って、握手を求める。エレーナも、上官の笑顔に好意的なものを見出したのか、少しばかり緊張を緩ませて手を握り返してくる。その時、アドルフはまだ柔らかい手だ、と感触から確かめる。

 何も下心からではなく、手の平の堅さを確かめていた。結果は、恐らく座学と短時間の飛行訓練、少々の研修が精々と思われるそれ。

 アドルフ自身、エレーナ個人に含むところはないが、やはり青二才の面倒か……と内心で辟易する。顔に落胆が出ないように注意しつつ、握っていた手を離し、それでと話を切り出す。

 

「君は、なかなか優秀な成績で来たようだが、この部隊の話はどの程度聞いているのかね」

「はい大尉。副官への任官と、それに伴い東部の中央戦線への異動、と聞いております」

「そうか。よろしい、列車のコンパートメントで、細かい話を詰めるとしよう。ここでいうのもなんだが、ようこそ東部戦線へ」

 

 手を広げ、ねぎらいの言葉をかける。後ろでざわついていた連中も、紅一点の存在に好意的な言葉を投げかけていた。

 そしてちょうどよく、列車の到着の音が聞こえた。部隊は、少数であることも相まって、始発の列車の一客車を独占。コンパートメントには中隊長らと、アドルフが各々個室をもっての、東部への長旅が始まる。

 しばらくは、歓談と相成った。なんだかんだと言ってはみたが、やはり同じ部隊の配属になったのだから、仲良くしておいて損はない。ましてや副官、これからしばらくは長い付き合いになるかもしれない。であれば、いろいろと親交を深めておいて悪い事はないだろう。

 微かに揺れる車体と、線路を擦る車輪の音を音楽に、初の副官とおしゃべりとしゃれこむ。

 エレーナは、よくある農村のちょっとした金持ちの家の生まれらしい。両親と、弟二人、姉一人の六人家族。ある時、課された魔力の検診で魔導師としての適性を認められ、自ら軍に志願。

 別に生活に困っているとか、そういい話ではなかったらしい。

 

「前線では、多くの兵士の方々が私たちのために戦ってくれているんだと、父は常々語っていました。弟たちは、将来軍に入るんだって意気込んでいましたね。それで、私に魔導適性があるのが分かって、人々のために闘う運命なんだって思ったんです」

 

 彼女は運命といった。もてる人間が、もてるモノを使って大衆に奉仕する。よくあるノブレスオブリージュの精神。このライヒにおいて、ある種そう言った義務感を持つ人間は一定数いる。別に悪い事だとは、思わなかった。

 エレーナは、少々恥ずかしそうにしながらもそう言った。割といい意味合いで貴族的な思考回路を持った少女だ。少々危なっかしいものは感じるが、アドルフは鍛えれば使い物にはなるのかもしれないと考える。この部隊にいる連中も、大なり小なり、いや基本的に小であったわけだが、魔導適性を見出されてここにいる。それにこたえてくれる物も、わざわざ与えてくれた。国家への、国民への献身の気持ちを、少なからず抱いて入隊した気がする。

 求めてくるところが大きすぎることを除けば、割合悪くない職場だ。であれば、彼女にとってここは案外いい職場足り得るのかもしれない。アドルフは、少しだけ彼女の評価にプラスを加える。

 途中、昼食後の簡単なデザートなんかを目にしたエレーナは、「こんな時でも、あるところにはあるんですね」としみじみと言っていた。まあ、今時珍しい甘味でも少量なら、これから戦地に赴く兵隊にサーブできる余裕はあるのが軍のいいところだ。多少の贅沢は許される。

 

「さて、少々実務的な話に入っても?」

 

 ここからが本番だと、アドルフは姿勢を正す。

 デザートの余韻に浸っていたエレーナも、また緊張した眼差しに変わる。上官の空気を読み取れる当たり、しっかりと将校としての職分を学んで来たか、いい教育をしてくれる家だったのだろう。

 

「エスターク少尉、君の研修はどこで?」

「東部戦線で、観測魔導師を主に。あ、エレーナで結構です。苗字は慣れなくて」

「そうか。ではエレーナ少尉、東部では観測魔導師、塹壕戦は?」

「一応、敵地の防衛線へ偵察で飛びました。塹壕戦は……」

 

 沈黙、ともすれば戦闘はしていない。少しばかり引っかかる。まあ、ラインのような塹壕戦線がなくなれば、それは仕方ない。しかし、人を殺せないのでは話にならない。

 

「では、君は人を殺したことがあるか?」

「は? あ、はい。重刑者の銃殺ではありますが」

「その時、どう感じた。そして、今人を殴り殺せと言われて抵抗はあるか」

「勿論、抵抗感はありました。でも、軍務です。割り切れていると思います」

 

 この場合どうとるべきかアドルフは悩む。観測員ということならば、ある程度の戦場は見たと考えられる。しかし、銃殺刑の執行のみで、ろくに兵士を殺したことがない。この少女に、シャベルで敵の首を叩き落とすことができようか? 正気の人間なら、まずノンと言う。アドルフも、正気を保っていると自負する側だ。

 

「そうか……少尉、イカロスがどういった部隊か、知っているかね」

「えっと、魔導師による試験大隊と聞き及んでいます」

 

 やはりか、と内心不機嫌顔。参謀本部も雑な仕事をする。いや、防諜的な面から言えば、仕方のないことかもしれないが。

 アドルフは「一本いいかね?」とエレーナに問う。了承を得たところで、タバコに火を灯し、一息。

 自分から本職に、俺たちは飛べないんだ、と説明するのは少々、いや多分に嫌気がさす。外を見れば、いつの間にか赤い夕陽がさびれた景色を照らしていた。見事なまでの赤、ラグナロクとは、こういう景色を見せてくれるのかもしれないと、柄にもなく誌的なことを考える。それくらいには、飛べないことに対するコンプレックスがストレスを産んでいた。

 はて、一体いつから、こんなにも空を熱望するようになったのだろうか? ふと疑問に思う。なぜこんなにも飛べないことがストレスなのだろう。別に自身が特別じゃないことは、ラインの塹壕で散々思い知った。参謀本部からの呼び出され、飛べない鳥にされた時も、一種の高揚感はあった。なんせ戦場を自由に飛び回る魔導師の仲間入りだったからだ。一体どうして、こんなにも飛べないことを、嫌がっているのだろうか

 

「あの、大尉? どうかされましたか」

「ん? ああ、すまない、少々、考え込んでしまった」

 

 目頭をもみ、何でもない、少し疲れているんだとばかりに手を振って見せる。余程険しい顔をしていたのか、エレーナはと言うと探るような視線だ。幾ばくか、おびえのようなものが見える。

 

「すまない、別に何もない。話に戻ろう」

 

 そう言って、吸おうとしたタバコはすでに半ばまで灰になっていた。「もったいないことをしたよ」と言いながら二本目に火をつける。

 

「このイカロス大隊は参謀本部の特殊作戦局が編成した大隊だ。どういうことかわかるね」

「何か、試験運用的な面が強いということは。そもそも試験大隊と聞いていますので」

「そうだったな。少尉、このイカロス大隊、一応は魔導兵科だ。だが、君と決定的に違う部分がある」

「それは、一体どういう……」

「我々は、君が学んできた魔導師たちとは違って、空を飛べない。航空魔導師ではなく、陸上魔導師なんだ」

「陸上魔導師、ですか」

 

 やはり、こういうあいまいな反応になるよなと内心でため息をついた。それはそうだ、魔導師なのに飛べないなんて、最初に聞いたら意味が分からないだろう。

 

「我々は、魔導師の割合を増やそうという意図のもと、本来であれば航空魔導師に慣れるだけの魔力適性のない人間たちで編成されている。君が教導隊で習ったような、術式による攻撃もできないものは多い。基本的には通常の弾丸と術弾による射撃戦闘、近接戦闘における銃剣、シャベルが主力だ」

「な、なるほど。この大隊では、私はある種異端の存在なのですね」

「そういうことになる。そして、俺は地上戦しか指揮を執ったことがないから、君に出す指示も、地上戦専門の将校からの命令となる。恐らく、君からしたら訳の分からない命令もすることがあるかもしれない。まあ、君もまともな実戦で、ルーキーみたいなものだと考えている。初めて同士、気楽にやろう」

 

 空にはすでに星が見え始めていた。これだけ言うのに、どれだけ時間をかけているのだと馬鹿馬鹿しく思いながらも、最後におどけて見せたお陰か、エレーナからも「こちらこそ、実戦で学ばせていただきます」と笑顔と共に返ってきた。

 この夜が明ければ、任地へすぐに着くことになるだろう。現地の帝国軍へと情報を参照したり、地図を受け取ったりとやることなすことが多くなる。夕食を食べた後は、すぐに寝るのがよさそうだ。

 

「少尉、長々と付き合わせて悪かったな。最後に、夕食でもどうかね?」

「はい、お供します」

「明日からは副官としてこき使うことになる。現地の飯はひどいもんだろう、ここでうまいもんを食い貯めておけ」

「了解しました」

 

 二人はコンパートメントから食堂車へと向かって歩いて行く。東部へは、あと半日といったところだ。

 

 

 

 




 はい、需要があるのか?と思いながら書き連ねる後書きです。
 今回は女の子が出てきます。やったね! 幼女戦記に恥じない美少女(脳内作画)だよっで事で、副官が増えました。
 なんか人数オーバーしてると思われているそこのあなた。ぶっちゃけ妥協して増やすだけ増やしたっていうのは後付けで、特殊作戦局の特異編成だから仕方ないんだってことで理解を示していただきたく。
 三人称の文章、というか幼女戦記のような文章を目指して書いておりますが、カルロ・ゼン先生のような瀟洒な文章になかなかたどり着けずに悶々としております。
 私も何か奉じるべきでしょうか、養蚕主義とか。まあそんなことはさておき。
 意外と忙しい身の上ですので、なにかと都合通りにはいかないかもしれませんが、これからもちまちま書いていきますので、よろしくお願いいたします。それでは、第二話にてお会いしましょう。さよなら!


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第二話 連邦の城

 


 東部までしかれた鉄道へ乗れという命令。それはある意味地獄への片道切符だろう。こと連邦にとっての要所であるならば、ラインとは別種の地獄を見ることができる。

 道中に乗り込んだ兵士たちはなんとなしに嫌そうな表情で列車から降りる。共に終着点で降りる同業者たちは、帝都やその道すがらでさんざん見たであろう雪を恨めしそうに睨む。

 ベルンとは違い、東部の冬は刺すような寒さだ。ましてや、かぐわしい小麦の香りはなく、ひたすらに冷気が鼻腔から肺腑へと流れ込んでくる。足りない防寒着のツケは、士気の低下という形で現れることが容易に想像できる。その点、防寒装備を支給されたアドルフたちは、恵まれた部隊だと言えた。

 アドルフたちイカロス大隊は、楽しさという要素を削った旅路を終え、連邦の交通の要所、ヨセフグラード近郊へとたどり着いた。しばらくは、満足な食事とはおさらば、再び腹を満たすだけの食糧事情だろう。文化的生活とは、争いの中からは生まれない良い例だろう。闘争は、理性をはぎ取り野蛮さを競うことを強いてくる。

 多くの陸軍兵たちは、現地の将校に率いられて各々が命じられた任務へと就く。ある者は攻勢のための部隊へ、ある者は防衛線の維持のための部隊へ。そして、イカロスは他の兵たちの間をすり抜けて、前線基地中央へと足を運ぶ。

 比較的落ち着いた雰囲気を保った帝国軍ヨセフグラード方面前線基地は、連邦軍防衛線から十キロ程度離れた場所に位置している。しかし、緊張した雰囲気は伝わってくるものの、どうにも音が少なすぎる。アドルフは、部下たちを待機所に向かわせ、中隊長と副官を伴って司令部の天幕へと入る。

 司令部は多くの帝国軍人が流動的に出入りしているが、中央にある地図とにらめっこしていた、恐らくはこのヨセフグラード方面の管区指令官と思われる人物が、アドルフの姿を見て声を上げる。

 

「やあ、待っていたよ。君がアドルフ・ブラウン少佐(・・)だね。私はここの司令官をやっているトッド・ベルナー大佐だ」

 

 恰幅の良い、典型的な帝国人の貴族的な姿の軍人は、豊かに蓄えた髭を撫でながら立ち上がった。胸には複数の略綬をつけており、なるほどこういった重要拠点の攻略を任せられる戦績を積んでいることがうかがえる。しかし、それとは別に、アドルフは聞き流せない単語を思わず繰り返す。

 

「少佐? いや、ええ。イカロス大隊、アドルフ・ブラウン大尉であります、ベルナー大佐殿。後ろは、副官と中隊長です」

 

 少佐、とベルナーは言った。それに気を取られつつも、慌てて敬礼の姿勢を取る。紹介したエレーナとマルコ、ヨハンも続いて敬礼をする。

 ベルナーは答礼を返して早々にアドルフに右手を差し出しながら言った。

 

「ああ、よろしく頼むよ。喜びたまえ少佐、昇進だ。中央からだ。君の別戦線でのイカロス大隊試験運用の功績を認めてのな」

「そうですか……それは、献身が認められて、喜ばしい限りです」

 

 しかしアドルフは内心で、また将校が減ったのかと勘繰る。軍は、戦争が進むにつれて生き残りが昇進していく。それは、数合わせであったり、部隊運用に際しての書類上での矛盾を消すために、減った分を補充しているに過ぎない。

 勿論、功績に対しての正当な昇進があることも確かだ。しかしアドルフ自身は、別段大きな功績を残したわけでもなく、戦争のまねごとで、連邦兵の前線に夜のお散歩に行っているだけで功績と言われれば、下種な勘繰りもしたくなるというモノ。もしこれがラインなら、士官の歩兵部隊が元帥の将校団によって指揮されていることだろう。

 しかし、そんな考えはおくびにも出さず、笑顔で昇進の報を受ける。「謹んで拝命いたします」と形式上のやり取りを終え、早速本題に入る。

 

「さて、イカロスは何をすれば? 生憎、偵察としか聞いていないもので」

「そうだろうな。この戦線はこの通り、膠着状態でね。一穴を穿とうにも、連邦の親玉の都市だ、なにぶん防衛線が厚い」

 

 道理で攻撃音がないとアドルフは思った。恐らく、機銃陣地と狙撃手が厚い防御層をなして、帝国軍の攻撃に備えているのだろう。無為に兵士を死なせて、中央に増援をと言えない今、うかつに攻撃の指令を飛ばせないのだろう。できることと言えば、

 

「では、我々はヨセフグラードの手薄な防衛箇所を探ればよろしいのですか」

「そう考えていたのだが、少々君らの運用法を変えようと思ってな」

「はっ、と言いますと」

「君たちは、隠密行動が得意だそうだね」

 

 アドルフたちは、隠密行動を主としていた。しかし、別に隠密行動を主としている訳ではなかった。イカロス大隊は飛べない。そのため陸路で行くしかなく、身体強化があるとはいえ、所詮地上での二次元的な移動しかできない為、結果として魔導反応を隠蔽して敵地に忍び込むようになったというだけの話であった。

 しかし、どうやらそれは隠密行動が得意な部隊として認識されているらしかった。アドルフは何か厄介ごとの気配を感じつつ、ベルナーの口から何が飛び出すのかと身構えながら続けた。

 

「ええ、まあ結果的にでありますが」

「そこで、今回君たちに行ってもらいたい任務だが……ヨセフグラードへ侵入、強襲偵察だ」

「わかりました」

「そしてもう一つ、これが大切だ。宝珠通信で情報を本部へ伝達後、君たちにはヨセフグラード内で暴れてもらいたい」

「はい?」

 

 聞き間違いかと思った。まさか、敵地のど真ん中で、少数で暴れて来いというのかこの髭面は。

 

「それは、一体どういった意図で?」

「貴官のもたらした情報をもとに、防衛線力の比較的薄い部分に戦力を集中させる。それに際して、貴官らにはその薄い防衛線から兵力を抽出させるように、もしくはその穴事態を拡張するように攪乱工作をしてもらう」

「要するに飛べない我々が強襲偵察、陽動、攪乱を一通りこなせと」

 

 無茶苦茶だと叫びたい。たかだた三七名で敵の戦線を混乱させろ? 勿論、いきなり防衛線の内部からボギーの反応が出れば、混乱してくれるだろう。しかしそんなものは一瞬に過ぎない。戦力比率的に、こちらが連邦軍人にすりつぶされる未来がありありと脳内に浮かぶ。

 ましてや、こちらは実戦をまともに戦っていない新米少尉を抱えて、そいつに慣れない地上戦をさせようとしている。最初は、普段の通りハラスメント攻撃によって敵の反応力を見極めようと考えていた。ついで、エレーナに実戦の空気を、地上の景色を感じてもらえればいいと考えていた。しかし、その現場に着いたとたんに敵の城に忍び込んで、その城門付近で火遊びをして門を開けてくれと言われている。無茶苦茶にもほどがある。

 

「ベルナー大佐殿、それはあまりにも」

「不可能、かね?」

「いえ、不可能とは申しません。ですが、少しばかりこちらにも時間をいただきたい。イカロスは雛を預かったばかりです」

「雛、と言うのはそこの若い副官のことだろう。話は聞いているよ。少尉だったね、君はどう思う」

 

 いきなり階級が天ほども高い人間に呼ばれて、エレーナは一瞬反応が遅れた。

 

「は、はい! 私は大変良い案だと思います!」

「副官、落ち着け。作戦の話じゃない。貴官自身のことだ」

「は、わ、私は、いえ小官は帝国のために身をささげる覚悟はできております」

「ほっほっほ、なかなか肝が据わった娘じゃないか」

 

 エレーナは本格的に動転して恐らく自分でも何を口走っているか分かっていないだろう。無論、ベルナーはそれを分かって面白がっているのだが。

 そして、一通り笑った後にアドルフを見やる。

 

「少佐、事態は一刻を争うとは言わん。しかし、長引くことが良い影響を与えないのは君も理解していることだろう」

「ええ、冬なのに、防寒着を着せられないモノの気持ちはわかりたくありませんがね」

「現在、冬季戦闘用の装備の充足率は六割、と言ったところだろう。これも希望的な観測にのっとっている。そんな最中、何もせずに寒空の下に出ずっぱりと言うのは心を萎えさせるには十分だ。彼らに、戦いを与えねばならんのだ」

 

 そういって、ベルナーは懐から兵隊タバコを取り出す。

 そうか、もうここにはお高いタバコを持ってくる余裕もないのか。アドルフはベルナーの吸うたばこと、先の兵士たちの装備品から現状を把握した、いやさせられたと言うべきか。あるところにはあるのだとのエレーナの言葉を思い出す。既に、そう言った場所こそが希少になりつつある。

 思えば最後に本物の珈琲を飲んだのもいつだったか。既に香りさえ思い出せなくなったそれが、急に恋しくなってくる。帝都ではうっかり飲むのを忘れてしまった。今度、帰ったときには香りのいい奴を一杯飲みたい。

 しかし、それをするには今目の前の問題を片付けなければならない。

 

「分かりました。五日ほど、時間をいただきたく」

「三日だ、それ以上は利子を取ることになる」

「……了解しました。これよりイカロスは作戦行動に入ります。本格的な攻勢前のウォームアップの時間が取れたことを幸いと思います」

「頼むよ。いい加減、この景色も見飽きたものでね」

 

 イカロスの四者はそれぞれが敬礼をして司令部の天幕から寒空の下へと舞い戻る。

 とりあえず、三日は確保した。この時間で、最低一回は連邦の防衛線へとアタックを仕掛ける。そして、エレーナがどの程度動けるのかを確認しなければならない。

 

「中隊長」

「「はい少佐」」

「非常にいい気分だ。日程は先の通り、様子見のハラスメントは中日に仕掛ける。それまで装具の点検と、足りないものを手に入れておけ」

「「了解」」

 

 中隊長らは足早にかけていく。こういう時、あのお調子者たちは職分を全うしてくれるから頼もしい。

 今度はエレーナに向き直る。

 

「副官」

「は、はい少佐」

「副官としての書類仕事はしばらくは無しだ。明後日、敵防衛線にハラスメント攻撃へ向かう。思う存分羽を伸ばせる戦場だ。期待している」

「了解であります!」

「よろしい、では中隊長らと共に、足りないものはここから分捕っておけ。指揮官待遇だ、多少は横柄に言っても許されるさ」

 

 言うことは言った、出すべき指示も出した。あとは戦地に出て、結果を見るのみ。タバコを取り出し、火をつける。エレーナの駆けていく背中に視線を投げながら、兵隊タバコの安くて辛い煙を口腔に満たす。それを肺腑に流し込み、一時の慰めとした。明後日には、初の本格的な実戦である。

 ラインの塹壕から空を見上げて、既に三年ほどか。その頃から付き合いのあるイカロスの中隊長らと、この安タバコ。すっかり癖のある連中にも慣れてしまったものだとアドルフは思う。

 おまけのように戦場にも慣れてしまった。戦地で吸うタバコの味は、後方で吸うのとは一味違う。命の駆け引きは、それだけ生きている時間を輝かせる。

 

「ああ、ならば今度も帰ってこなければな」

 

 アドルフは誰にでもなく呟く。武功を上げたいとは思う。だが、それが二階級特進というのはアドルフ的には格好がつかない。参謀本部のお墨付きの特務を背負った大隊長だ、相応の戦果でもって名前を歴史に刻むのも悪くない。

 吸い切ったタバコを捨て、アドルフは自らも必要な物を調達するために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「大隊、休め」

 

 東部について二日目の夜、イカロスは装備を整えて整列をする。三十七名、装備は万全。あとは、敵地へ出向くのみ。

 アドルフが一声かければ、慣れた感じで大隊は敬礼を解く。今まで散々こなしてきた動作。

 

「諸君、ついに我々イカロスは東部の大地を飛ぶに至るだろう。しかし、それにはまだ下準備が足りていない。華々しく舞うために、今一度雪と泥にまみれてもらいたい」

 

 大隊連中からは静かな笑い声。これから戦場に向かうとは思えないほど、軽い空気が流れる。

 ここの連中との慣れ親しんだやり取り。これを聞くだけで、この戦場も生きて帰ってこれると実感する。

 

「この度入った新人のエレーナ少尉は、未だに本番というモノを体験していないらしい。初めてが甘美なものとなるか、痛みの記憶となるかは諸君の腕の見せ所だ。ぜひ、その手技を発揮してもらいたい」

 

 途端にドッと笑い声が沸き上がる。中には指笛を吹いてはやし立てる者もいた。

 名指しされたエレーナは、顔を赤くしてアドルフに噛みついた。

 

「ちょ、少佐殿! その言い方はあまりにも、アレですよ!」

「おいおい、その様子だと生娘のようだぞ少尉。それとも、まさか本当に」

「あーもう! 今はそれ関係ないじゃないですかぁ!」

 

 即興の漫才に、一気に大隊は笑いの渦に覆われる。見事に笑いを得たエレーナは真っ赤な顔で引き下がったが、固まっていた肩から力が抜けている様子から、緊張はほぐれた様子だ。

 

「大隊の空気が朗らかで大変よろしい。諸君、今夜は楽しくイワンと夜間デートだ。気楽にいこう」

「「「「了解であります、大隊指揮官殿(Jawohl HerrKommandant)!」」」

 

 大隊長のそして大隊は、軍靴の音を響かせて東部の大地を行進する。

 行く先はヨセフグラード防衛線。鉄条網と機関銃の城を拝見と行こう。

 

 

 

 

 闇夜に紛れてうごめく集団。イカロスは、地を這いながら防衛線を目指す。宝珠は使えない。魔道兵科をほぼ失くした連邦とはいえ、観測機器くらいは残しているだろう。

 この時代、魔導兵を警戒しないというのは自殺行為に等しい。空を飛べないイカロスは、連邦の大地をひたすらに這って行く。

 身振り手振り、ボディタッチで状況を報告し合い、彼らは防衛線へあと数百メートルというところまでたどり着く。

 視界に映るのはうずたかく積まれた土嚢に規則正しく据え置かれる機関銃。そして光度の高いライトが地面を、空を照らしている。完全な警戒態勢。

 双眼鏡を覗き込んでいるアドルフは、この地点以上に匍匐で進むのは危険であると判断した。

 アドルフは手ぶりで第一中隊に命令を伝える。

 

 これより宝珠の封鎖を解除。大隊長の宝珠の起動と共に各員宝珠を起動せよ。

 

 サインに返答が返ってくるなり、アドルフは宝珠を起動した。そしてアドルフは各中隊に無線を飛ばす。

 

「大隊各員、宝珠起動! これより戦闘に入る、各中隊は防衛線を食い破れ!」

『第二中隊了解!』『第三中隊了解!』

 

 そして、アドルフは副官に別の指示を出す。

 

「エレーナ少尉、貴官は空から攪乱しろ。我々が防衛線に到達するまで魔導師が空からくると思い込ませてやれ!」

「了解! エレーナ少尉、先行します!」

 

 エレーナが宙を舞い、急速に空へと消え行く。微弱な魔導反応は、連邦の防衛線に少なからず動きを与えていた。連邦のサーチライトが、魔導反応に呼応して空へと向かう。

 魔導反応があるということは、空から攻撃が来ると考えるのが通常の反応。反応の強度から、恐らくかなりの高度にいると思うだろう。そして、その中から一つの突出した反応にライトが集中した。

 一瞬の間をおいて、対空射撃が開始される。多くの火線が宙へと舞う。その中を、エレーナは泳ぐように飛んでいる。

 時折被弾しているようだが、それでも彼女はなかなかの飛びっぷりだった。

 

「ほう。なかなかやる、か」

 

 地を駆けながらアドルフは呟く。それに反応してか、マルコが通信を飛ばしてきた。

 

『少尉、いい飛びっぷりですな。あの分なら及第点は与えられるのでは?』

「まだわからんさ。攻撃こそが我々の本分だからな」

 

 そう返した時、空の少女は一発の魔弾を放った。それは防衛線、アドルフらが突っ込んでいる部分の鉄条網と機関銃を吹き飛ばす。

 さらに二度、空を舞いながらの爆裂術式。恐らく吹き飛ばした位置は各中隊が目指す地点だろうか。

 

『こちらハンス中尉、目標地点に穴が開きましたぜ』

『第二中隊同じく。エレーナ少尉、的確な援護に感謝する』

『は、はい! この調子で攪乱します』

 

 なるほど、魔導反応を追ってそれがぶつかる防衛線の障害を排除したのだろう。きちんと戦場の俯瞰も出来ている。

 そして、エレーナの爆裂術式は順調に対空機銃をも吹き飛ばし、着々と火線を減らしていく。

 アドルフたちはその光景に舌を巻く。これは拾い物をしたかもしれないと感じた。

 

「第一中隊、防衛線へ到達。これより制圧に入る!」

 

 先陣を切って突っ込むアドルフの目の前に、爆発地点への補給とみられる連邦兵がわらわらと走りこんでくる。一様に鬼のような形相で集まってくる彼らは、アドルフたちを見るなり連邦語で何かを叫びだす。何を言っているかは分からないが、友好的なものではないだろう。

 連邦兵が銃を構えてめったやたらに発砲する。無論、下手な鉄砲もというくらいだ。的も少なからずいる状況、面白いように被弾報告が上がる。

 最も、彼らは面白がって被弾と叫んでいるに過ぎない。イカロスの面々が展開する防殻は連邦兵の銃弾を例外なく弾き、傷一つ付けさせることはない。

 銃弾を弾く軽快な音の中、連邦兵達もおかしい事に気が付いたのだろう。敵は倒れるどころか、銃弾を受けながら近づいてくる。防殻の光が瞬き、連邦兵達も相手が魔導兵であると気が付いた様子だった。

 連邦兵の顔つきが、一瞬で闘争をする人間から獅子を見る非捕食者の目に変わった。

 

「大隊長オォ! 突貫します!」

 

 そして、堪えきれなくなった第一中隊の面々が敵の群れの中に突っ込んでいった。手に取るのは魔導兵様にカスタムされた騎兵銃。アドルフも負けじと突っ込み、彼らに指示を飛ばす。

 

「中隊各位、斉射三連! 貫通術式を込めて風通しを良くしてやれ!」

 

 そして、アドルフの射撃に合わせて音のそろった射撃が三度。連邦のお得意技、数で押してすりつぶすという攻撃が、見事に仇となった。貫通術式を纏った弾丸が十三本、うっすらと魔力の光を纏って音速を突き破り飛翔する。

 連邦兵たちの縦列に突き刺さった弾丸は、容易く人体を貫き後方の土嚢や外壁に突き刺さる。三度の射撃で最初の増援は全滅してしまったようだった。この程度か、連邦の城よ。

 その後も幾度か散発的な抵抗があれど、どれも烏合の衆、というより、よもやろくに指揮系統が働いていないのか、とさえ錯覚するほどお粗末な逐次投入。程なくして、連邦軍の組織的抵抗は終了した。弾切れどころか、シャベルを振るう暇もなし。

 

「こちら第一中隊、防衛線を制圧した」

『第二中隊、同じく』

『第三中隊は弾薬庫を発見した! いっちょ花火を上げますぜ!』

 

 武器庫で花火。これは盛大なものが見れそうだ。素敵な報告を聴けたとばかりにアドルフの顔が獰猛に笑う。戦場での武器庫への攻撃は一種のストレス発散である。すぐさまアドルフは火種の追加とばかりにエレーナにも指示を飛ばす。

 

「エレーナ少尉! 貴官も火種を追加してやれ、射撃タイミングは中尉に合わせるんだ」

『了解!』

『中隊各位、爆裂術式。照準、連邦防衛線弾薬庫……撃てェー!』

 

 軽快な射撃音が響き渡り、直後に盛大な爆発音がする。夜空に大きな爆炎が上がり、暗闇をなめるように照らし出す。離れた位置からでも感じる熱気が、動かしてなお冷える体を撫でるのが心地よい。

 無線機越しにはハンスらの歓声が聞こえてくる。思えば、ここまで派手に戦闘をしたことはなかったかもしれない。ラインばりに大きな爆炎を見ていると、防殻に微かに衝撃。空から雪の代わりに連邦の武器の欠片が降ってきたのだろう。

 

「大隊に通達、エレーナ少尉の試験飛行を終了。これより撤退だ。少尉、敵影は?」

『まだ来てはいない様子です、後方で慌てているようですね』

「イワン共が湧いてくる前に撤退だ! 宝珠を起動したままで構わん、味方陣地まで駆け足!」

 

 そう言って、アドルフたちは走り出した。結果は上々、得られた情報は大変に良いもの。エレーナの飛行、戦闘能力は想定していたよりも良いもの。そして連邦の対応能力は非常に低いものとみた。

 防衛線だけの状態なのでまだ分からないが、これなら強襲偵察も上々の成果を持って帰れるだろう。攪乱といわず、ヨセフグラードに帝国の旗を掲げる部隊となれるやもしれない。

 白銀の、モスコー襲撃のように。

 

 アドルフたちは、童のように笑いながら夜闇の中を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 アドルフたちは、帰投してから盛大に乾杯した。無論、大隊の許されたスペースで、であるが。エレーナは見事にもみくちゃにされている。酒癖の悪いおっさん連中だが、まあ悪い奴はいないからほっておいても大丈夫だろうとアドルフは判断する。

 口々にエレーナの戦いぶりをほめそやし、どこからか分捕ってきた菓子をわらわらと与えられている。紅一点だ、存分に可愛がられるのもいいだろうと、アドルフは大隊の天幕から一人出てくる。

 寒い東部だが、その寒さはタバコをいっそい旨くする。それも一仕事終えた後のタバコだ。身体にしみこむタールとニコチンが疲れをいやす。

 一日置いたら、今度こそ本格的な攻勢計画だ。それも出来損ないの魔導師を中核とした強襲偵察から始まる、前代未聞の作戦。まだどうなるかは分かったもんじゃないが、期待に胸を膨らませるには十分なことだろう。

 

「少佐ー! この酔っ払いたち何とかしてえええぇぇぇ!!」

 

 エレーナの悲鳴が聞こえてくる。

 戦争前、いや戦争中だというのに、陽気な連中だ。しかし、それが今は頼もしい。背中を預ける人間が笑顔なら、自然とこちらも笑えるというもの。信を置いた古参なら、尚更だ。

 アドルフは、火をつけかけていたタバコを箱に戻し、天幕の中に戻っていく。やれやれと言いながらも、アドルフの顔には微笑みが浮かんでいる。

 イカロスが飛び立つまで、二日を切っていた。

 

 

 

 




お久しぶりです、浅学です。
なかなか書くのに苦労しておりますが、やはり二次創作は面白いと実感する日々でございます。
さて、本格的に戦闘が前面に押し出されることになると思います。
つたない文章でありますが、精いっぱい表現していこうと思いますので、ここ話をこういう風な表現してもええんじゃぞ! と意見がいただけると期待している次第であります!
これから彼らはヨセフグラードで何を見ていくのでしょうか?
次回でお会いしましょう! それでは!


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第三話 襲撃

 ヨセフグラード防衛の任を受け、シルドベリア方面軍から抽出され、対帝国戦線へと投入された将兵たちは、帝国軍の夜間急襲に混乱の様相を呈していた。突然現れた魔導反応。反応の強度からして、高高度からの空挺降下ではないかと分析官は情報を飛ばす。

 しかし、空からやってきた魔導師は、一人。そう、たったの一人であった。用意された対空機銃の弾幕をすり抜けるように飛ぶ魔導師に翻弄され、地上はまさに混乱の極みにあった。たった一人の魔導師も落とせないのか! と響く政治将校の声は、次の瞬間には爆裂術式でかき消される。

 そして、一向に降りてこない魔導反応は、いつの間にか地上への攻撃を開始していた。空を睨み、駆けつける兵士たちは亡霊のように突然現れたその一団になすすべもなく狩られていった。地上を駆る魔導兵達の情報は、通信記録の断片的な情報から連邦軍将校にもたらされることとなる。

 夜もすがら、帝国軍急襲の報を受けて駆け付けた連邦軍将校が見たモノは、徹底的に破壊された防衛線にうずたかく積まれた連邦軍将兵だったものの山。

 魔導兵力のみだ、市街地への浸透もせず、こちらの砲撃に臆することもなくやってきたのは。大隊規模程度の魔導兵。陸軍兵士に変えれば中隊にも満たない人数。残された魔導反応の記録からして、ネームドにも達していない無名のソレ。しかしその一団は連邦軍にとって看過できない問題を残していった。

 彼らにとっては、きっとハラスメント攻撃であったことだろう。しかし、連邦側からしたらたまったものではなかった。

 食い破られた防衛線も、兵力も、それこそ損失した武装も問題ではない。それは連邦労働者たちの絶え間ない努力と、党の元に集った国土防衛の志に燃える若者という革命闘士によっていくらでも挽回できるのだから。損失なんかではない。問題は、そこではなかった。

 たかだか一個大隊程度の魔導戦力に対して、精鋭とされる狙撃師団をもってして太刀打ちすることができなかった。ヨセフグラードを守る、その栄誉にあやかったのは革命の動乱を乗り切ったコミュニストの精鋭たち。しかして勝利を得たのは精強をもって鳴る帝国軍の精鋭将校集団である魔導部隊。それが、次回の攻勢時にはさらに数を増やして防衛線を攻め立ててくることだろう。その際は、恐らく抵抗も出来ずに都市を明け渡すことになる。

 それだけは、断固として阻止しなければならない。この都市を何もせずに明け渡せば、代わりに管区司令官以下多くの首が飛ぶこととなるだろう。

 選択を迫られた一人の将校は、上級司令部と直通の電話を手に取る。

 

「同志、夜分に申し訳ありません。都合して頂きたいモノがあるのです」

 

 既に選択の余地はない。ここで判断を一つ誤れば、自分の首が飛ぶのだから。であれば、帝国との戦争に全力を尽くしていることを、党に見せなければならない。

 故に、ヨセフグラード防衛戦線司令官のドミトリ・ベラントフ大佐は戦力をよこせという。

 昔から言われるものだ。

 

「魔導兵の部隊が必要なのです。どうか、大至急で師団規模の都合をつけていただきたい」

 

 『目には目を、歯には歯を』と。 

 

――――――――

――――

――

 

 他方、その悲壮感極まる連邦軍前線へのアタックを敢行し、その対応能力の低さを体感し、ねじ伏せ、蹂躙したイカロス大隊の指揮官であるアドルフ・ブラウン少佐は、本格的攻勢に関しての作戦会議の場へと足を運んでいた。 

 エレーナとの試験攻勢から一日経ち、時刻は正午。

 前線基地中央の作戦司令室と銘打たれた天幕内では、ヨセフグラード方面攻略のために召集された様々な兵科将校の姿がある。機甲科、砲兵科、歩兵科、航空兵科に空を飛ぶ方の魔導兵科。ヨセフグラードを攻めるための戦力の統率者たちが一堂に会している。

 その中でも、どの兵科にも属さず、特殊作戦局の機密部隊となっているアドルフらは異端な存在として認識されていた。一応は航空魔導師の兵科色の服に身を包んでいる。しかし、ここの将校らは彼が率いる部隊の全容を知っている訳でなく、特殊作戦局付の部隊ということで妙な注目を浴びていた。

 居心地の悪い、探るような気配を振り払うようにアドルフはタバコに火を灯す。

 そんな将校団の中央で、ヨセフグラード方面軍の前線指揮官、トッド・ベルナー大佐は作戦会議の開始に際しての訓示を述べていた。蓄えられた顎髭が、口の動きに連動して上下する。

 

「さて諸君、冬がやってきてしまったのはまことに遺憾なことだ。本来であれば、参謀本部ももう少し早くに決着をつける手はずだったのだろう。それが今、我々の手を凍えさせる結果となっている以上、事が順調に推移していないことは察せられる。恐らく参謀本部もさぞ苦心されていることだろう」

 

 遠巻きに参謀本部へと飛ばされる皮肉。最初から飛ばしているなとアドルフは感じ取った。ほかの参加者たちも、頷くなり笑うなりしているあたり、彼らの総意であることが見て取れる。

 そして逆に言えば、それほどまでに彼らは待たされたのだ。この凍える大地で、少なくない兵士の命をすり減らしながら、攻勢計画までの時間を絞り出していたのであろう。

 連邦の帝国への宣戦布告は衝撃的であった。突然の攻撃に、現場と後方司令部は大わらわとなっていたのも鮮明に記憶に残っている。それほどまでに、彼らの参戦は不可解な点が多かった。分析官も手を焼き、帝国は外交ルートから停戦に持ち込めないものかと苦心していた。

 そして、結果は今の通り。冬の大地でにらめっこというわけだ。未来ある若者の命と、優秀な将校の命を糧に生み出した時間は雪となって帝国軍の頭上を舞っている。トッドが皮肉の一つを言いたくなるのも分かるというモノ。

 

「しかし、この度の冬季攻勢計画書にサインした参謀本部の判断は今までで一番の英断だったことだろう。我々は全軍の先鋒として、この要所の攻略を命じられる栄えある最戦線と相成った」

 

 そして、司令室内に集まる将校を順繰りと見回す。一様に集まる彼らは、国防のために集まった戦士たちだ。改めてその顔を刻むように見るトッドの心中は如何様な物だろうか。

 静かに見渡し、トッドが作戦内容の説明に入る。

 アドルフは一歩引いた位置から作戦会議に参加していた。全体的な作戦は実に簡単、砲兵たちが夜を徹して連邦前線に砲弾の雨を降らせる。イカロスはそれに紛れて上空から落下傘で侵入し、連邦軍の後方から主要な攻撃地点を作戦指令室へ報告する。そしてイカロスが後方で攪乱工作を行い前線からの地上部隊への攻撃を支援する。典型的な浸透戦術のソレは帝国軍の得意戦術だ。

 

「魔導兵の諸君には砲撃の観測と前線司令部の防衛にあたってもらう。絶対数が少ないため、君らには防衛を主任務に立ちまわってもらうこととなることを深く詫びたい。そして喜べ地上部隊の諸君、連邦軍と殴り合いだ。盛大にあの鷲鼻に、誇りと鉄拳を叩き込んでくれ」

 

 長引いた戦争は、帝国の戦力事情に多大なる圧迫を与えていた。それは貴重な魔導戦力にも表れている。既に限界を突破してなお戦力を絞り出す参謀本部に前線将校は感嘆の息を漏らしている。しかし、それとともにどこも足りない戦力をやりくりしている為、どうしても前線に魔導師がいないという事実には現状を見せつけられる思いを抱く。

 それでも、ここに集まったのは『帝国軍の将校』という名誉を受けた人間たち。上が求める以上、誇りにかけて作戦を遂行するという意思が瞳に宿っている。防衛に重きを置いてもらうと言われた魔導将校も、それは例外ではない。

 お得意の方法で連邦軍を殴りつけてやれと言われた彼らは、疑義を一切挟むことなく了承する。作戦会議というそれは実に短い時間で完結する。画一的に教育された彼らは、その共通認識のもとに足並みをそろえて行動を開始する。

 

「質問はないようだな。作戦開始は本日の二四〇〇、各部隊の将校らは定刻をもって状況を開始されたし。以上」

 

 打てば鳴る鐘の如く、反応は即座に。了解の声を同時に響かせ彼らは颯爽と天幕から退出していく。その波に乗てアドルフも天幕を後にした。幕をくぐり終えるまで背中に感じられた視線は、この作戦の要となるイカロスへの期待を重く感じさせるそれ。各々が持ち場へと行く背中を見ながら、アドルフも自らが指揮する大隊の元へ行く。

 作戦開始まで、残り十一時間。

 

 

 

 

 時は過ぎ、時刻は午後十一時五十分を回っている。バタバタと装備やら何やらを整えていたイカロス大隊は、空挺地点へと連れて行ってくれる友軍の飛行場へと集結していた。

 せわしなく動くスタッフを見やりながら、アドルフは整列した部下たちを睥睨する。

 戦意の高揚が見て取れる三十六名の姿が、これから始まるイカロスの闘争はまさに彼らにとって英雄譚にも等しいのだと無言で語る。特に中隊を率いるマルコとヨハンは、塹壕の中からこの戦争を見つめてきた古参兵だ。であれば、まさに名を上げうるこの戦場は理想郷にさえ見えていることだろう。

 

「全部隊、隊員装備共に万全であります」

 

 副官からの報告に頷き、アドルフは口を開いた。

 

「諸君、ついにこの時が来た。我々イカロス大隊が、一つの戦線において枢要たる任を与えられたのだ。我々が行うのは、常日頃から行っているようなちゃちな塹壕浸透ではない。連邦の要塞ヨセフグラードに空からもぐりこみ、その中で前線部隊の作戦支援のため、内側から奴らの防衛線を崩す。喜べ、我々もついに空を飛ぶ日が来た」

 

 アドルフのジョークに含み笑いが起こる。

 

 

「……これから起こる戦闘は、今まで体験した一過性のモノではないだろう。どちらかが倒れるまで続くことになる。もしかしたら、我々の中からもヴァルハラに向かう者が出るかもしれない。それでも、勝利を求められている帝国軍の軍人として、我々は死地に赴かねばならない」

 

 帝国にとっての今時大戦は、まさに亡国の危機となりうるものであった。大陸中央の、四方を仮想敵国に囲まれた立地は、必然的に強力な武力を生み出すに至る。こと拡張主義の蔓延する現代では、弱者は強者の下につくか植民されるに至る。強力にして精緻な軍事力を持つ帝国の立地は、そんな強者がはびこる魔境の中央であった。帝国軍が他国の軍より頭一つとびぬけた強さを持っているのは、つまるところ『必要であったから』である。

 そんな罰ゲームのような立地で起きた周辺諸国を相手取った戦争の、さらに一番手を出されたくなかったであろう連邦との戦争だ。まさしく死地と呼ぶにふさわしいだろう。

 

「最も、先の防衛線へのアタックによって、彼らの魔導兵への対応能力はすこぶる悪い事が発覚している。なおかつ、理由は定かではないが連邦には魔導兵がいないようだ。我々がたとえ出来損ないの代物だったとしても、イワンの兵隊を捌いて回るのはラインでタコツボに潜っているより安全なことだろう」

 

 しかし、とイカロスの誰もが思う。それがどうしたと、死地が如何様なものだと。ヴァルハラに向かうことの何よりも恐ろしいのは、何も成さずに消えることだ。失意もなく、感嘆もなく、ただ無為に塹壕の中で臥せっていたがために、一瞬のうちに敵の砲弾に消し去されていたかもしれなかった。それが、今や最前線のその先、正真正銘の最先鋒だ。

 故に彼らは渇望する。アドルフの下で、死地に向かうことを。

 

「大隊長、俺とマルコ、それにコイツらも死ぬのなんざ怖くありませんぜ。俺らがくたばるよりも先に、連邦がぶっ倒れるのが先なんですからね」

「ヨハンの言う通りです。俺たちがジャラジャラ勲章ぶら下げられるように取り計らってくれた大隊長には、感謝してるくらいです」

 

 副隊長組はニヒルな笑顔を携えながら言った。

 心底戦いを楽しむような顔だ。誰一人として悲壮な顔をせず、ただ口角を上げてアドルフに視線をよこしている。 

 訴えかけてくるものはただ一つ、俺たちは戦場で何をすればいい? というそれ。

 

「筋金入りの馬鹿どもが……俺が貴様らに要求するのはただ一つだ。―――――イワンの兵隊をぶっ殺せ!」

「「「了解!」」」

 

 今回の任務は味方の所へ帰ることもできない、いわば生きるか死ぬかの戦場。

 それを彼らは笑顔で往く。

 求めるのは勝利とそれに伴う名誉。

 与えられるのは憎悪と弾丸の飛び交う戦場。

 意気揚々とそれらを飲み下さんとするイカロスは、まるでハイキングに行くかのような足取りで航空機へと乗り込んでいく。

 彼らを運ぼうと唸りを上げるエンジン音やプロペラの切る風の音は、イカロス大隊にとって一足早い凱歌のように聞こえるのであった。 

 

 

 

 そして、時刻は午前零時を迎えた。イカロスが空の上を飛んでいるその瞬間、地上では一斉に帝国軍の火砲が唸りを上げていた。大小様々な火砲が統率されて砲声を響かせる光景は、それだけで一つの大戦争の様相を呈しているように見える。しかし、一か所に集めるにはあまりに贅沢な量の火砲は一つの都市の防衛線を耕すためだけに運用している。

 空を数瞬飛翔する暴力の意思を封じられた鉄の塊は、そのまま連邦軍防衛線に突き刺さり破壊力を開放した。

 突然連続的に起こった爆発音は防衛線を混乱させる。積まれた土嚢は用をなす前に消え去り、機銃の群れは鉄の欠片になる。

 空を見上げていた運の無い連邦兵は、一瞬視界に何かが映ったと思った時には、既に意思を持たぬ肉の塊に変じていた。

 

「帝国軍の砲撃だ! 退避、退避ー!」

 

 連邦軍士官が声を上げる。ただ砲撃を受けるだけでは意味がない、それは無為に兵士をすり減らすだけ。

 しかし反撃をするにも、先手を打たれてはままならない。そもそも、彼らに命じられたのは『防衛』であって『反攻』ではない。党の意向に沿わないことをすれば、指揮官といえども政治将校の餌食である。

 先日のイカロスの攻撃から一日経つか経たないかという時間経過。焼かれた防衛線を緊急補強して、それでもなお足りない防衛用の土嚢や、弾避けにはそこらへんに転がる亡骸を用いて築かれている部分も散見される防衛線末端部にも、帝国軍の砲火は届いている。

 急ごしらえで何とか立て直した防衛陣地は砲撃に溶け、小クレーターを形成するパーツになり果てる。

 士気はお世辞にも高いとは言えない連邦軍の兵士たちであったが、それでも生きるという本能に従っての逃走には目を見張るものがある。一応、ただ逃げるだけでは特戦隊に撃たれるのが関の山であるため、タコツボや瓦礫の後ろに隠れるのは、これまでの仲間の犬死をみてきた彼らなりの成果であった。

 

 唸りを上げる砲声に負けじと、帝国軍陣地では将校たちが声を張り上げる。

 

「弾薬制限は限定的に解除されている! 連邦の陣地に備蓄の限界まで砲弾をお見舞いしてやれ!」

 

 皆が異口同音に発しているのは、砲兵にとってはうれしい命令だ。

 自らが叩き込まれた訓練の成果を、限界まで発揮できる。

 ひとえに帝国の防衛のために、帝国の名誉のために。

 

 

 

 そんな戦場の女神の声援を受け、上空のアドルフたちは降下態勢に入った。

 派手な爆発音と、それに伴う防衛線の混乱が、上空を飛ぶアドルフたちの乗る航空機の存在を闇夜と共に隠蔽する。

 防衛線を超えて少ししたくらいで、ハッチが開きイカロスの面々に合図が出る。順次降下とのこと。

 普段空を飛ばない彼らの、宝珠に頼らないパラシュート降下での一味違った隠密浸透である。この特殊大隊に入隊して、一通りの特殊技術の習得は行っている。しかし、実戦での空挺降下は初であった。

 アドルフらは、機内のスタッフの指示に従って順次航空機から飛び降りていった。

 連邦の冷えた空気が、高高度ということもあって皮膚を裂くような強烈なモノであった。それが急速な落下という要素も相まって、まさしく狂気じみた寒気の刃となってイカロスを襲った。

 急速に空から地上に迫る。

 広大なヨセフグラードを見回していたと思ったら、いつの間にかその街の細部までが見えそうな位置まで降下してきていた。眼下に広がるのは、人の気配を感じない街並みが広がる。

 アドルフはパラシュートを開くためにひもを引く。

 この為に作られた最新式のパラシュートとのこと。

 闇夜に紛れて、イカロスが連邦軍後方に着々と降下していく。無風であることも彼らに味方し、アドルフたちは大きくばらけることなく開けた大通りに着地した。

 上空から見た限り、降下地点には兵士の類も見当たらなかった。落ち着いて行動できる。

 

「大隊長より各位へ、状況を知らせよ」

 

 アドルフは即座に大隊に安否を問う。初の空挺降下に、一抹の不安がかすめる。

 

 しかし、その心配は杞憂に終わる。即座に中隊ごとに点呼がとられ、中隊長らから報告が上がる。

 

「第二中隊、異常なし」

「第三中隊同じく」

 

 そして、第一中隊も欠員無し。

 

「エレーナ少尉、無事であります」

 

 空を飛ぶことに慣れたエレーナに至っては、他の興奮している男連中とは違って冷静に返答してくる。

 やはり俺たちとは成り立ちが違うな。そう思いながら、アドルフは作戦を考える。

 部隊をそれぞれ展開させ、一応見張りに立たせる。近くの廃墟の中に指揮官を集め、作戦会議と相成った。複雑な思考にはお供が必要と、タバコに火を灯す。

 

「大隊長、こんな所で吸ってるとばれますよ?」

「少尉、こんな時だからこそ吸いたくなるってもんだ」

 

 煙を吸い込み、静かに長く吐き出す。冷えた空気は、熱い煙を吸った後の口腔を冷ましてくれる。

 頭に栄養が回ってくるような感覚と共に、思考も冴えわたってくる。

 まあ、別段冴えわたらなくても、やることは偵察に変わらないのだが。

 

「ふぅ……まあ、作戦といっても、偵察するしかない。要は一服したかったんだ」

「えぇぇ」

 

 エレーナが何とかしてくださいよと言わんばかりに振り返れば、マルコとヨハンもちゃっかり吸っている。

 味方はいないようだ。

 

「ああっもう! 私も吸う!」

 

 こうして、むせながらタバコを吸うエレーナを含めて三人での喫煙会となった。

 空から降ってきて、連邦最前線の後ろに降り立って十分程度だろうか。最初の喫煙は降りしきる砲弾の音を聞きながらのモノとなった。

 実は部隊内の無線はオープン回線になっている、そのため今のやり取りは大隊員に筒抜けなのだ。今頃、歩哨に立ってる連中以外はみんなスパスパやっているころだ。

 ひとしきり兵隊タバコを灰に変え、周囲の状況も特に大きな変化に見舞われなかったアドルフはヨセフグラードを調査することにした。今現在は、連邦軍は前線に兵士を集めることに注力している。後方にいるのは、精々が戦闘準備をしていない兵士と偉そうな政治将校、それに媚びる司令部付き参謀将校あたりか。

 まとまって移動するのは得策ではない。さっさと発見して、司令部を叩くためにイカロスは分散して行動をとるのが得策だ。

 そう決めて、アドルフは大隊に無線を飛ばす。

 

「大隊長より、大隊各員に伝達。これより各中隊の指揮権をマルコ、ヨハン両中隊長に委任する、それぞれ状況に応じて判断されたし。指令所を発見したものは、直ちにその座標を通達、他中隊が到着するまで監視に移れ。早まるなよ」

「「了解」」

 

 そして、三つの中隊は連邦領ヨセフグラード内でうごめき始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おはこんばんちわ、浅学です。
今日も今日とて難産に苦しみながら投稿しますが、一つ注意をば。
私、これは史実の内容を元に魔改造して投稿しております。
故に、史実通りでない場所も散見されますし、もしかしたら目に余るような会話、戦闘もあるかもしれません。スターリングラードの資料が見つけるのがめんどうなもので。
ですので、これからはある種完全な幼女戦記のifストーリーとなります。
彼らの戦場を綺麗な落としどころで蹴りをつけられるよう頑張りますので、それでも読むぞ、という方はこれからもよろしくお願いします。
これから先でちょっと……となられた方も、ここまで読んでいただいたこと、感謝の念に堪えません。もし縁があれば、お会いいたしましょう。
さて、また誤字脱字に怯えつつ次話に移りたいと思います。
それでは!


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第四話 敵地浸透

「……なんだかなあ」

 

 アドルフは軽い調子で声をあげる。

 時刻は深夜の一時手前。本来なら空虚な静寂があるはずの時間帯であったが、遠くない位置で盛大な爆発音が響き渡っている。

 現在、アドルフの率いるイカロス大隊の第一中隊は、ヨセフグラードの大通りを見まわしていた。第一中隊の総員十三名での敵中行軍である。周囲を立派な建築の家屋に囲まれた通りでおそらくはここがヨセフグラードの住居街なのであろう。マルコとヨハンの率いる中隊は既に街の右翼、左翼に分かれて前進を開始している。

 帝国のそれとは異なる建築様式ではあるが、さすが連邦の最高権力者の名前を戴いているだけあって、煉瓦造りで頑丈そうで、見栄を張れる街……元も子もない言い方をすれば金がかかっていそうな街だと感じる。しかし、最前線であるこの街には今、一般人の気配はない。

 街の路肩には自動車はおろか馬車すら止まっておらず、深夜だというのにカーテンさえ引かれていない。そして、ちらりと部屋の中を覗いてみればひっくり返したおもちゃ箱のごとく、タンスやら台所やら、ことごとく全てがひっくり返され、中身だけがなくなっている。用をなしていない収納が寂しい姿をさらしていた。きっと、家人は慌てて持っていけるものを集めて、どこか連邦の奥地へと引っ込んで行ったに違いない。

 アドルフがその景色を眺めていてふと感じたのは、連邦の哀れさではなく帝国の精強さであった。四方を敵国に囲まれ、あまつさえ連合王国の影までちらつく世界規模の戦争。その戦争の中で、アドルフはつい数日前に軍務のためとはいえ首都のベルンに舞い戻り、そこで前線の戦闘糧食とは比べ物にならないくらいの旨い食事をとった。住人と話をし、威厳のある参謀本部へと顔を出し、そこで聞いたエレーナ少尉の件でやけ酒までして一晩ぐっすりだった。

 ベルンは未だ戦時を色濃く匂わせるほどの悲惨な姿をさらしていない。人が住み、文化的な生活を営み、家に帰って眠ることができる。

 ヨセフグラードは、建物の様子からも、名前からも予想される通り発展する都市であろう。しかし、それは今やもぬけの殻となり、両軍が死体を作り合う屍肉工場もかくやとう様相だ。

 お互いに戦争をしている。この事実は変わらないというのに、ここまで都市のありように差が見える。それも、本来このルーシー連邦という国はライヒに対する侵略者であった。唐突な宣戦布告からの砲撃。当初は帝国の情報部も慌てていたことだろう、なにせ開戦に至る理由がわからないのだから。そんな不透明ななにがしかの理由で、警戒していたとはいえ攻撃された我が帝国軍は最初こそ混乱した。しかし時は過ぎ去り、今こうして先端部とはいえ、連邦の領土に食い込んで戦争をしている。

 帝国は、確かに度し難い状況にいる。四方を敵に囲まれ、そしてそのことごとくが列強諸国だ。そんな連中のために生贄になるまいと、帝国は必死に力を蓄えた。その結果が世界を敵に回した戦争。海を隔てた権謀の国さえ敵対しているであろうという状況だが、しかし我々は戦争をリードするに至っている。やはり、帝国という国家は強大で、ある意味では恵まれた国である。アドルフは改めてその事実を噛み締めた。

 

「強い軍で、勝てる戦争ができるならいいもんだ」

 

 その精強な帝国軍の、もっとも突出した位置でイカロスは戦っている。自国の領土ではなく、敵国の領土で戦争ができている。きっと我々は恵まれている国の、恵まれた兵士なのだろう。連邦の主要都市を見て、そう思わざるを得ない。

 

「少佐」

 

 そんな風に一人で帝国軍に所属できていることに安堵していると、副官であるエレーナが話しかけてきた。その声はひそめられてはいるものの、張り詰めた気配までは纏っていない。

 

「どうした」

「いえ、少々気になることが」

「ほう? それはこの街に関することか」

「はい。ここから一本隣の通りにですね、前線へ向かったと思われる大量の足跡があったんです」

「ふぅむ、大量の足跡ね」

 

 なんの気無しに周辺の調査を命じたのだが、どうやら一発目からあたりを引いたようだ。前線へ伸びる大量の足跡の元など、それこそこの時期には一つしかない。

「連邦軍の後方拠点、か」

「その可能性が高いです」

「どうせアホみたいに規模のでかい連中だ、ただの集積地なり兵士の受け入れ拠点の可能性も否めないが……まあ、探る価値は大いにありだな」

 帝国軍は機動性を主体にしているために、司令拠点も移動しがちだ。しかし、現在は双方ともに陣取り合戦の前線で苛烈な撃ち合いをしている。帝国軍はもとより、連邦軍もそうそう司令部を移動してはいないだろう。

 何より、今回の作戦はアドルフたちが潜入しての作戦。他中隊がなにがしかの痕跡を探っているであろう今、アドルフたちは素直にこの連邦軍の残したヒントを頼りに探し物を行うのも悪くない。

「諸君、朗報だ。少尉がイワンの巣への足がかりを掴んだ可能性がある。第一中隊はこれよりその手がかりを頼って連邦軍後方への偵察を敢行する」

 散らばっていた連中から応答があり、アドルフの元へと集う。滞りなく集まったところでアドルフたちは前進を開始した。

 警戒しつつ、街中を進む。敵兵士の姿が見えない今は宝珠を起動せずに進んでいるが、いつどこで敵に出くわすかもしれないという状況は通常精神を大きく摩耗させる。しかし、イカロスの部隊員は各々が塹壕上がりの古参兵たちである。これしきのことで疲弊を表に出すようなものはいなかった。唯一懸念のあるエレーナも、アドルフが見ている限りは問題なく付いてきているようにみえる。案外、歳の割に肝が座っているのかもしれない。

 しばらく街を歩いて進んでいると、街並みにも変化が訪れていた。煉瓦造りは変わらないが、人が住む場所という気配が薄れていく。部屋ごとにも設けられていた窓は大きなものとなり、建物も集合住宅のようなソレから大きな空間を中に持っているだろうと予想できる形へと変わっていく。

 

「この建物は……工場か」

「そういえば、連邦は大規模な工業化のモデル都市をいくつか持っているようでしたね。この街も、恐らくは大規模な工業化のために整備された街なのでしょうか」

 

 アドルフのつぶやきにエレーナが反応する。

 エレーナの言った通り、工業化のモデル都市の一つとしてヨセフグラードは整備されていた。もっと言うならば、この街こそが最先端の街でもある。民需、軍需工場双方が建てられ、戦火に飲まれるまではこの街で多くの装備品も作られていた。しかし、ソレも今では後方の安全な都市群に疎開しており、アドルフたちがのぞいている工場跡の中にはただ埃が積もっているばかりであった。帝国の進撃能力が、この街をもぬけの殻にしたといっても過言ではない。

 

「まあいい、何もないなら後で改めて調べればいい。今は連中の住処を見つけるのが先だ」

 

 そんな連邦の都合はしかし今は関係なく、ガラ空きになった廃屋には興味もないとばかりにアドルフは再び歩き始めた。何もないのならば関係がない。今は敵がいる場所を叩くのが先決である。

 静かに敵地を歩くのは、普段の任務とは毛色が違う。普段は戦争をするための場所にもぐりこみ、戦争をして帰ってくる。侵入すれば一〇〇式宝珠の性能試験のために即座に戦闘に入り、防弾性能や対人戦闘時の出力を記録するために、常に火薬の炸裂音や怒号に包まれて戦っている。それに対して、今回は以前に比べ物にならない程の大規模な作戦に参加しているというのに、イカロスは未だ一発も発砲せず、返り血を一滴も浴びずに敵地を奥へ奥へと進んでいる。

 観光気分で無いのは確かだが、少しばかり高揚しているのは否めない。本格的な作戦への参加は歩兵として塹壕にこもっている時でもしてこなかった。それが今や空挺兵の真似事をするに至っている。散々上官に苦言を呈してきたとはいえ、やはり歴史に名を残すかもしれない戦闘に選抜兵として参加するのは男として嬉しいものがある。

 アドルフは常々犬死はごめんだと考えてきた。しかし、魔導兵の衣を纏い、歩兵のそれとは一線を画す火力を

得たイカロスであれば、無茶な任務であっても武功を上げることができる。ともすれば、やはり軍に身を置き国を守る一兵士としては心躍ることは仕方のない事であった。

 

「――――敵兵発見、歩哨と思われます」

 

 浮かれているアドルフの耳に飛び込んできたその報告が、彼の精神状況を瞬時に切り替える。

 火照っていた思考が瞬時に冷え、逆に跳ね上がった心拍は寒空の下で冷えていた体の末端までを一気に熱していく。

 

「人数と方向、距離は?」

「歩兵が二名、我々から見て三時方向、距離およそ二〇〇」

「見られてないのか」

「建物二階の窓から確認したのですが、あいつら前方しか見てません。こちらのことは察知すらしていないでしょう」

「よろしい、そいつらに挨拶をして奥へ向かおう。近接戦闘準備」

 

 いよいよだ。敵地に降下して一時間程度。警戒しながらの牛歩であったが、それでも三キロ程度は歩いているだろう。敵は大分前線付近に居を構えているらしい。歩哨がいるのであれば、そろそろ敵の陣地が張ってあるはず。とうとう目的地にやってきたというわけだ。

 

「これより小隊ごとに分かれて移動する。第一小隊と少尉は俺と来い。第二小隊、第三小隊は裏道から警戒に当たれ。第一小隊で始末する。表から堂々とな」

「そんな堂々と行かれるのですか?」

 

 エレーナがまさかと言わんばかりに声を上げる。まあ、隠密で行動しろと言った本人が、正面から殴り込みを開けると言っているのだ。無理からぬ話だろう。しかし、アドルフは続ける。

 

「確かに、俺は他の連中には見つけたら、報告して待機していろと言った。しかしいまだに報告はない。多分だが、他の中隊もあてどなくこの街をさまよっていることだろう。であれば、真っ先に見つけたかもしれない拠点で騒ぎを起こせば、他に拠点があればざわつくだろう。それだけ連邦の拠点発見率が上がる。見つからなかったとしたら、連中は一箇所に全てをまとめていると言うことだ。ここを叩けばこの街を落とせる」

「それはそうですけど、やはり危険では。我々は分散しているのですよ」

「案ずるな、どうせ歩哨なんて拠点とは離れた位置に配置されてるもんだ。大騒ぎするにしても、しばらくはかかる。連中をどついてもしばらくは猶予があるんだ、だからもし藪蛇を突いたと分かったら逃げればいいのさ。連邦にとって、俺たちが防衛線の後ろに忍び込んでいると言う事実が圧力になる。どちらに転んでも、俺たちは仕事が果たせるってことだ」

「どうにも行き当たりばったり感が否めませんが……」

 

 エレーナはなおも不安そうな顔をしている。しかし上官が心配するなと言っている以上、何か口を挟むことはしない。上意下達の世界であることを、若くともエレーナはわきまえている。

 それに、アドルフの言うこともあながち間違ってはいない。本来は歩哨など歩き回り、拠点より遠くの方を巡回して敵襲を警戒するもの。前線拠点であることを踏まえれば、歩哨の巡回経路から少なくとも一キロ程度は距離をとっているとしてもおかしくはない。であれば、彼らが帰ってこない、もしくは何かしらのアクションを起こすことが異変が起こっていることを伝える。逆説的に、何かをされる前に制圧してしまえば、異変を気取られるまでの時間稼ぎができる。そのまま的拠点まで偵察ができるとアドルフは考えたのだ。

 

「さてと、では諸君。しばしのお別れだ、ほんの五分程度だがね。敵への挨拶は部隊長の特権だ、邪魔してくれるなよ」

「了解しました、大隊長殿」

「さて、では行こう」

 

 そう言って、アドルフらは静かに動き出す。アドルフの大規模作戦での初戦闘は、思いのほか静かなスタートを切ったのである。

 

 

 

 一方、間近に敵を控えた連邦兵の二人組は緊張していた。今この瞬間にも、前線へ迎えと将校に命じられるかもしれない。行かなければ抗命罪で死が待っている。行けば、帝国軍の嵐のような砲撃だ。そこで翻って逃げようとすれば、政治将校殿の機関銃が逃亡兵に襲いかかる。戦争が始まった時点で、連邦兵には死というのは睡眠と同じような感覚で迫ってくるのである。

 運良く哨戒の任にありつけたこのペアも、そう言った現実を噛み締めながら歩んでいた。

 

「なあ、後どれくらいだ」

「……何が?」

「巡回だよ。どれくらいで終わる」

「あと十分もすれば、戻らなきゃいけない時間だ」

 

 この二人は、巡回ルートをちゃんと辿ってはいたが、極めてゆっくりと巡回していた。死地に向かう仲間たちの悲壮な顔を見ないために。そして、自分らがその顔を浮かべないために。逃げるというてもあるが、どのみちこの戦争中に逃亡したとあってはまた前線へ叩き返される。

 そして、もちろんのことであるが職務怠慢がバレれば何が起こるか分かったものではない。良くて収容所送りであろうか。酷いと抗命罪と言われ、略式裁判でその場で銃殺されるかもしれない。

 しかし、それでも一時の間陰鬱とした空気から遠ざかりたい。その思いで、何とか延ばし延ばし巡回を続けていた。

 

「……そうだ、いいものがあるぞ」

 

 そう言って、少しばかり軍務に慣れていそうな、歳を食った方が懐から何かを取り出す。それはスキットルであった。極寒の土地でスキットルと言えば、中身は酒と相場が決まっている。それもアルコール濃度の高い、飛び切り旨いウォッカなのが常だ。

 

「少しばかりあったまろうや」

「良くそんなものを」

「何、政治将校殿はいいものを持っていらっしゃる」

「くすねてきたのか、バレたらマズイぞ」

「はっ! 連中は威張ることに夢中で、酒瓶の中身にまでは気が回っちゃいないさ。なにせ酒を飲むよりも権力を振りかざす方が面白いんだからな」

 

 そう言って、スキットルの中身を一口煽る。凍ってしまいそうだと感じる土地で作られた酒だ、高いアルコール度数で無理やり体温を上げてくれる。

 

「今のうちにやっとけ、次はねえかもしれねえぞ」

「……ありがとう」

 

 一言礼を言って、酒を煽る。ろくなものを食べていなかったのもあるが、故郷の味はやはり安心する。続けてもう一口、冷えているはずの酒だが、喉を通る時は焼けるような感触を与えてくれる。胃に落ちたそれは、体を芯から徐々にあたためてくれることだろう。

 

「美味かった。またこいつをやりながら、うまいボルシチが食べたいもんだ」

 

 スキットルを返しながら呟く。寒さで口から出る白い吐息を見つめながら、これからのことに思いを馳せた。急に戦争が始まった。帝国はそもそも戦争をしていたのは知っている。しかし、連邦が突然参戦したのがわからない。この戦争に、一体そういう意味があるのだろう。

 

「なあ、俺たちって何で戦って……」

 

 横を見ると、見知らぬ男が立っていた。手には先ほどのスキットルを持っており、それを一口煽って満足げな表情でそれを拭った。思考が一気にフリーズし、何が起こっているのかを理解するために周囲を見回す。

 足元を見た時、先ほどまで会話していたはずの仲間が倒れているのを知った。うつぶせに倒れているので、どういう顔をしているかはわからない。しかし、喉に当てられているであろう手の隙間から血を流している。時折空気が漏れるような音と、うめき声じみた異音が耳に届くが、意味を知るまでは届かない。そのことからも、今時分は敵と相対していることを遅まきながらに理解する。

 そして、肩に下げた銃を手に取ろうと動いた瞬間、喉に熱いものが侵入してきた。

 

「は……、へ……?」

 

 彼が自らも、仲間と同様喉を裂かれたと気がつくことは無かった。喉元を襲う激痛と、それに伴う熱い感覚のみを記憶に焼き付けて、その若者はのたうち回り、死んだ。

 

「クリア、特に障害なし」

「少佐殿、手際がいいですね……」

「塹壕でモグラ叩きしてりゃ、誰でもできるようになるさ。それよりもうまい酒、良い拾いもんだ」

 

 そう言いながら、アドルフとエレーナは今殺した人間の服を漁る。なにか持っていないかという淡い期待を込めて。

 しかし、やはりなにも持ってはいない。相手は下士官ですらないだろうから、別にそこまで期待度が高かったわけではないが。

 

「まあ、これでここいらはしばらくは安全だ。行こう」

 

 アドルフの判断は早い。なにもないなら奥へ。奥へ奥へ、そして、ものを見つけて暴れる。

 

「相手は何だ? 物資か、歩兵か。できれば物資だと、腹ごしらえもできていいんだがね」

「大隊長殿、それは高望みしすぎでは?」

「それもそうだな。イワンの兵士で遊んで、帝国で飯を食えばいいか」

 

 くだらないやりとり。だが、それはあくまで部隊を気遣ってのこと。今でこそ笑いながら死体の処理をしている仲間であるが、いつ骸になるかわからない。そういう場所に今はきているのだ。

 血を払い、上から適当にそこら辺の残骸をかぶせて隠蔽。死体も目の前にある店らしき場所に入れておいた。これで彼らは、発見されるまでは行方不明だ。

 手際よく処理を終え、アドルフらは歩き始めた。敵拠点をその肌に感じながら。

 

 

 

 歩き始めて三十分ほどだろうか。アドルフたちがヨセフグラードに降下して、二時間近くが経とうとしている。砲撃は日が昇るまでは続くだろう。それまでに司令部を叩きたい。

 そう思っていた時、通信が入った。

 

『こちら第二中隊、第二中隊! 不意遭遇戦に突入、敵は歩兵のみ!』

 

 それが聞こえた瞬間、遠くで銃声がなりだした。散発的なものではなく、幾重にも重なった連射音。

 

「こちらアドルフ! マルコ、状況を伝えろ。なにが起こっている!」

『第二中隊は現在、連邦兵歩兵群の中心で近接格闘中! 心配は無用、敵は少数、小隊規模と推定。こんな入れ食いじゃシャベルが曲がっちまいますよ!』

「わかった、そっちは任せる。大隊長より大隊に通達、第二中隊は戦闘に突入した。宝珠の使用制限を解除、暴れてやれ。第三中隊は念のために第二中隊と合流せよ。我々は引き続き奥へ向かう。司令部を叩いたら、返す手で連邦軍前線を叩く、弾は残しておけよ」

「いいんですか少佐!? 私たちも駆けつけた方が」

「あいつが心配むよと言った時は大丈夫だ。今までマルコが心配無用と言った時、何事もなく帰ってきた。砲弾にさらされていた時も。ヨハンも向かわせたし、我々は敵の探られたくない腹を殴りつけてやるのが、あいつらにとって援護にもなる」

 

 反応は火を見るよりも明らかだ。どこからともなく怒号が聞こえてくる。陣地の中で敵を見つけたのだ、初の巣をつついたような騒ぎになるのは当たり前。あとは、その大元を特定して、殲滅する。 

 

「第一小隊も宝珠の使用を許可! これよりエレーナ少尉を飛ばして、一気に敵の司令部を叩くぞ!」

「分かりました、上空より敵陣地を索敵、隊を誘導します!」

 

 言うが早いか、エレーナは即座に舞い上がる。周囲の雪を巻き上げて、連邦の都市を見回すために本物の魔道士が飛び立ったのだ。その影は見る見る小さくなっていく。恐らく高度限界まで駆け上がっていったのだろう。

 

「はあ、俺も飛べればよかたんだがな」

『はっ、何か?』

「何でもない、それより敵はどこから沸いてる?」

『各所に分散しているようですが、一箇所大きく灯りがついてる場所があります、二時方向へまっすぐ向かってください』

「聞いたか小隊、身体強化術式を展開。そこの建物の屋上から屋根伝いに誘導地点まで走るぞ!!」

 

 アドルフは言いながら宝珠に魔力を流す。懐中時計のようなソレは流されたアドルフの魔力を即座の術式に変換し、魔術としてアドルフへと還元する。

 身体強化術式が肉体の動きを超人のモノへと変え、身体保護術式はアドルフの体を様々な衝撃から守るプレートとして機能する。そこにさらに様々な脳内物質の供給術式を展開し、いつでも敵の群れの中へと飛び込めるように準備をする。飛行をしないアドルフたちの一〇〇式宝珠はさらに術式を展開するキャパシティがあるが、状況に応じて他の術式を展開できるように余裕を持たせておく。

 戦闘の準備を整え走り出すアドルフの背中を他の小隊員が追う。各々展開した術式によって一流のアスリート以上の身体能力を得た第一小隊は、背の高い建物を外壁から登っていく。レンガの凹凸、窓枠、配管を伝って路面を走るように外壁を駆け上がり、到達した屋上から誘導を受けた方向へ跳ぶ。

 本職の魔導師とは違う、跳躍による高速移動。アドルフが望むモノとは違う力であったが、しかし魔導兵力のいない連邦市街を駆け巡るには十分であった。雪の降るヨセフグラードの空を十二人の兵士が(はし)る。ひらひらと舞う雪片を荒らしまわり、獲物へと駆ける猟犬のようにまっすぐ、群れとなって走っていく。肌を切り裂くような冷気、人のいない街の静寂、作戦成功の可否を背負うという不安、諸々の要素を引き裂きながら宙を舞うイカロスの姿は、もし地上から見れば本当に空を飛んでいるようにも見えたことだろう。

 

『そのまま真っ直ぐに、もう三つ屋根を超えたところに広場に大規模な集積拠点があります!』

「少尉、貴官は一発爆裂術式をぶち込んでやれ! そこに俺たちが強襲をかける」

『了解、撃ちます!』

 

 エレーナの言った屋根の一つ目へ足をかけた瞬間、空から彼女の魔導反応を感じた。

 二つ目の屋根を超えた瞬間、空高くから一発の銃声が鳴り響く。

 そして三つ目の屋根の上へと降り立った瞬間、地上から大きな爆発音が響き渡る。見下ろさずとも分かる、盛大な爆発、連邦兵はさぞ驚いていることだろう。アドルフたちはソレを見て立ち止まることはしない。術式で強化された陸戦魔導師たちは、その爆心地へと何のためらいもなく飛び降りて行った。

 地上四階程度、高さにして十五メートル程を落ちていく最中、彼らが見たのは混乱する連邦軍の姿。突然の爆発によって多くの将兵が混乱の最中に陥っており、慌てふためく姿が見て取れた。爆発地点の付近にいた兵士たちは血を流し叫ぶか、無言を貫く肉塊と化している。エレーナの放った術式の成果を流し見ながら、飛び降りた建物の傍に大きな音を立ててアドルフたちが降り立つ。術式によって強化された人間の強引な着地は、人間が出してはいけないような、一種爆発のような音を立てる。

 その豪音が今の爆発とリンクしてか、連邦軍兵士が一斉にアドルフたちの方へと視線を投げる。

 彼らが最初に頭に思い浮かべたのは「誰だこいつらは?」という至極単純なモノ。今の今までいなかったはずの場所に、なぜか帝国の軍服を纏った連中が居る。想定もしていない出来事の連続に、現場の人間の思考は一気に混乱の最高潮へと押し遣られる。

 しかし、事態はすでに連邦にとって悪い方へと傾き切っていた。敵が市街地へと浸透しているという情報を得た彼らが警戒体制に移行しようとした矢先の襲撃は、完全な奇襲となった。

 放心する者、事態を理解した者、逃げ出そうとあがく者、様々な反応を見ながらアドルフたちは吊り下げていた銃を取り出し構える。そして、宝珠へと魔力を流し、銃に込められた鉛の玉に術式を与えてやる。

 

「貫通術式三連、撃てェ!」

 

 固まる連邦軍へ向けられた十二の銃口。そこから放たれた魔弾は、連邦軍の兵士たちへと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 




はいおはこんばんちわ、浅学です。
お待たせしました、諸君! ということで、二週間と数日ぶりの初投稿です。
……投稿遅れてすいませんでした! ちょっとさぼってしまいました!
オリジナルの設定寝るのにかまけて気が付いたら二週間がたっていたんです……アドルフおじさんに銃剣でぶったたかれて気が付きました。刺されなくてよかったです。なので遅まきながら投稿させていただきます、はい。
最近執筆活動が疎かになりがちでしたが、ようやっと小説楽しい!モードに戻ることができました。これもBluetoothキーボードの力です。科学は偉大です。
さて、本編はようやく本格的な戦闘に入っていきます。毎度毎度戦闘しろや! な場面で終わって申し訳ないです。戦闘描写から逃げる癖がうごごごご。
というわけで、次回はアドルフさんたちがアカい人たちと戯れます。これからいろいろ勉強しながら書いて行こうと思いますが、どうなるんでしょうね……私にもわかりません。
というわけで、また次回でお会いしましょう。それでは!


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