仮面ライダージオウ【ANOTHER AKASHIC RECORDS】 (レティス)
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START UPする物語

お久しぶりです。レティスです。
ジオウに便乗してまた手を出しました。


では、どうぞ。

OP[Blow out]



この世には“魔術”という概念が存在する。“マナ”と呼ばれる魔術の源を使って起動する技術。その力が存在する世界。だが、“イレギュラー”も存在する。

 

 

 

「はああああっ!」

「でやあああっ!」

 

それは、“ベルト”を着けた戦士…“仮面ライダー”と呼ばれる存在だ。二人は同じデジタル時計を模したベルトを着けており、その左側には懐中時計が取り付けられている。仮面ライダーは正義の存在だ。世界を征服しようと企む悪の組織から平和を守るために戦う“ヒーロー”だ。

 

 

 

 

カキンッ! カキンッ!

 

 

バキュン!

 

 

 

 

 

だが、“二人のライダー”は違う。思想の違い故に互いにぶつかり、殺し合う。その戦いに絶対的な正義は存在しない。絶対的な悪も存在しない。お互いが相対的な敵でしかないのだ。

肉弾戦になると思えば、武器を扱った戦闘を繰り広げる二人のライダー。

 

「お前を殺せば……忌々しい未来を変えられる…!」

 

赤きライダーは言う。彼は未来を変えるために戦う。

 

「何言われようとも…俺は未来に向かって進む!」

 

黒きライダーは言う。彼は未来を生きるために戦う。

 

「「はあああああああああああ!!」」

 

二人のライダーは高く跳ぶと、互いに飛び蹴りを放った。二人のキックがぶつかり合い、エネルギーがほとばしる。やがて起こったエネルギー爆発が、二人を包み込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ! ピピピピッ!

 

 

 

 

 

 

 

「う……うん……?」

 

俺は目覚まし時計のアラームで目を覚ました。体を起こし、右腕でタンスの上に置かれた目覚まし時計を止める。

 

「…また“あの夢”か…。」

 

俺の寝起きは毎朝悪い。原因は毎回見せられる“あの夢”だ。鎧を纏った二人の戦士が殺う夢…実に縁起が悪い。ただの悪夢ならそれで終わりだ。だけど、それじゃ終わらない。

 

「…二人共、やっぱりこの“時計”を着けてたな…。」

 

そう、よりによって俺が所持している時計が、夢に出てきた二人の戦士も身に付けていたからだ。この時計、俺達の世界には存在しないタイプだ。本来の時計は短い針と長い針で時間を指し示すものがほとんどだ。だけどこれは、発光する数字で時間を表す。しかも壁に立て掛ける必要がなく、タンスの上とかに置いておくだけでOKなコンパクトな造りだ。その割には時差は一切生じないし、大気中のマナを吸収してるか知らないけど壊れる事もないなど、いろんな意味でチートスペックだ。そしてもう一つ、その時計の両側には二人の戦士も取り付けていたのと同じ形状の懐中時計がある。左側には黒い戦士も取り付けていた白と黒、右側には赤と青のカラーリングの懐中時計がある。これはかなりコンパクトだし、鞄に入れて持ち運べる。おまけに充電みたいなのも大きい方の時計でできるから、俺にとっては便利だ。こんなレアな代物なんだ、聖遺物か何かだろう…それにしてはメカメカしいが。

 

「さて、そろそろ準備するか。」

 

俺はベッドから出ると、学院へ行く準備をする。寝起きは悪いが朝は早い方だ……ってか、遅刻したら同じクラスのアイツが喧しいからな…。

洗顔し、青を基調とした制服に着替え、教科書を詰めた鞄を持つ。今日の懐中時計は……白黒のやつにするか。

 

「よし、行くか。」

 

俺は支度を終えると、寮から出る。朝食は近くのカフェで取るか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

カフェ『カイロスの庭』。俺の行きつけの店で、朝食をとる時や休みの日は大体ここに寄っている。学院に登校する道と重なってるし、メニューの価格もそんなに値は張らない。

俺は店の扉を開けて、店内に入る。

 

「いらっしゃい…あら、トーマ君じゃない。」

「おはよう、サクヤさん。」

 

この店の店主、サクヤさんが笑顔で挨拶してきた。翡翠色の長い髪が特徴な美人さんで、その温厚な人柄は街の人からも人気を集めている。俺もサクヤさんとは小さい頃からお世話になっている。サクヤさんといっても、断じて某神殺しやカ○ーミソではないからな?………おっと、俺の名前を紹介するの忘れてたな。俺の名前は“トーマ=ホロロギウム”だ。

俺は適当なところのカウンター席につくと、メニューを開く…といっても注文するのは大体決まってるけどな。

 

「いつものモーニングセットで。」

 

俺はサクヤさんにモーニングセットを頼む。このセットの内容はその日よって変わるけど、大体はトーストとハーブティー、それから日替わりのサラダがついてくる。

 

「はい、トーマ君。ご注文のモーニングセットよ。」

「どうも。」

 

数分待つと、サクヤさんがモーニングセットをテーブルに置いてくれた。今日のサラダはポテトサラダのようだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「聞いて下さいよサクヤさん、今日ようやく非常勤講師の人が来てくれるらしいんですよ。」

「あら、そうなの?もしかして今まで自習続きだったの?」

「そうなんですよ。あのヒューイ先生が突然辞めて、俺達のクラスだけ授業についていけてないんですよ…こりゃテストが辛い。」

「仕方ないわ。魔術師を目指す者なら、四苦八苦は避けて通れないわよ。」

 

俺はサクヤさんと非常勤講師の話題を話す。二年生にあったある日、前任だったヒューイ先生が突然辞めてしまい、それからずっと自習が続いた。それ故に俺達のクラスは授業が間に合っていない。筆記なら何とかなるけど、実技は火の車待ったなしだ。

 

「そういえばトーマ君、学院はどうかしら?」

「うーん、俺はあんまり魔術は得意じゃないんですよね…使えない訳じゃないけど、略式詠唱というかなんというか…。」

「つまり“魔術のセンス”がないって事?」

「っ…それ言われるとキツい。」

 

俺は魔術はあんまり得意じゃない。使えない訳ではないけど、初等魔術の【ショック・ボルト】でさえ三節詠唱じゃないと使えない程だ。まあ、“ある系統”の魔術だけはその限りじゃないけど…。

 

「クラスの子達とはどうかしら?」

「編入当初から思ってたけど、真面目が多いですね。それでも上手くやり取りしてますよ。ただ…」

「ただ…?」

「一人だけハードル高いというか…厳し過ぎる子がいるかな?例の“ミスリルまみれのドSさん”が…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、誰が“ミスリルまみれのドSさん”ですって?」

「…え?」

 

突然背後から声が聞こえた。俺は恐る恐る後ろへ振り返る…

 

 

 

 

 

 

 

 

げ ん こ つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ“あ“あ“あ“……!」

 

…や否や、辞書で思いきり頭部を叩かれた……ってか、これ絶対拳骨じゃねぇだろ!?完全に殺傷力MAXの辞書チョップだろこれ!?

 

「いきなり何すんだよ“システィーナ”!?」

「うるさいわね!大体アンタが変な事を口走るからいけないのよ!」

「お前はユーモアも効かないのかよ!?」

「“ミスリル”の時点で悪口にしか聞こえないわよ!」

 

朝っぱらから何故かいたシスティーナと口論した。銀髪ロングにけもみみもどきがある見た目は可憐な美少女。だが中身はというと、生真面目故にルールに厳しく、生徒達や講師達の間から、【真銀の妖精】、【講師泣かせのシスティーナ】なんて二つ名で呼ばれているガリ勉だ。

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。」

「あ、はい…。」

 

その口論をサクヤさんが止めてくれた。こんなみっともないことやって申し訳ないばかりだよ…客がいなかっただけ運が良かったよ。

俺は懐中時計で時間を確認する…7時52分か…まだ早いけど、余裕もっていくか。

 

「とりあえず、ご勘定。」

 

俺はそう言って代金をカウンターに置いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それにしても、なんでストレートに学院に向かわなかったんだ?今頃の時間なら、もう到着しても可笑しくないのに。」

「ちょっと忘れ物をしちゃってね…。ルミアには先に行かせて、私は屋敷に戻ってたのよ。」

「それで屋敷を往復のついでに俺を見掛けたって訳か…。」

 

道中、そんな下らない会話を交わしながら通学する俺とシスティーナ。システィーナが忘れ物なんて、珍しい事もあるんだな……ん?

 

「ん?…あれって、ルミアか?」

「え?」

 

通学の途中でルミアの姿を見つけた。金髪が特徴の美少女で、システィーナとは家族同然の付き合い…というか、実際に同居している。ルミアのその天使のような優しい性格は学院内の男子達から大好評だ。ちなみにこれは学院内の女子生徒全般に言える事だが、外界マナに対する親和性は女性の方が高いと言われているがために、女子生徒の制服はかなり際どい。とくにルミアの場合……おっと、これ以上はやめておこう。また辞書チョップなんてのはご勘弁だからな…。

さて、あの様子を見る限り、どうやら怪我したお爺さんを【ライフ・アップ】で癒したらしい。しかも燃えてるバケツを見ると、【ファイア・トーチ】まで使ったようだ。校則では、学院外での魔術の使用は原則禁止になっている。だからもし使ったら罰せられる…といっても、俺も急ぐ時は路地裏ルートでこっそり【グラビティ・コントロール】を使うから人の事は言えない。

 

「ルミアー!」

 

ルミアの姿を見かけたシスティーナは、手を振りながらルミアに声を掛けた。ルミアはお爺さんに一礼すると、俺達のもとへやってきた。

 

「あれ、トーマ君もいるんだ。おはよう。」

「おはよう、ルミア。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

俺は基本的に一人で登校する事が多い。だけど今日という日は珍しく、システィーナとルミアの二人と一緒に登校する事になった。

 

「もう、ルミアったら律儀なんだから…先に行っててって言ったのに…。」

「そんな…お嬢様を置いて行ったら、しがない居候に過ぎない私は、旦那様と奥様に叱られてしまいますわ…。」

「冗談でも止めてよね?私達は家族なんだから。」

「あはは…ごめんね、システィ。」

 

仲良しで何よりである。実際にルミアはフィーベル家に引き取られた居候とは聞いているが、その経緯はわからない。

 

「それにしても珍しいね、システィが忘れ物だなんて…。」

「そのせいで屋敷を往復する羽目になったわ…。」

「ん?そういや、その“忘れ物”って?」

「これよ。」

 

そう言ってシスティーナが取り出したのが、“さっきの辞書”だ………ってそれお前、さっきチョップした際に使ってたよな!?忘れ物を凶器に使うんじゃねぇよ!?

 

「…。」

「…トーマ君…?」

「いや、何でもないさ。」

「う…うん……。」

 

青ざめた俺に苦笑いするしかないルミア。朝っぱらからグロい話をするのはよろしくない。

 

「まぁ、システィーナに隙が生じたのは、少なからず“アレ”が響いてるかもな…唐突な事だったし…。」

「もしかして、“ヒューイ先生”の事?」

「…かもね。」

 

俺達は未だに前任だったヒューイ先生の事を惜しんでいた。ヒューイ先生が行う授業は分かりやすく、魔術が苦手な俺にも親切に解説してくれたりと、とても素晴らしい講師だった。

 

「やっぱり残念でさ…ヒューイ先生、なんで講師を辞めちゃったんだろう?」

「仕方ないよ、ヒューイ先生にだって色々と都合があるんだし。」

「研究熱心な人だからな…どこかで魔術の研究に励んでいるだろうな。」

「そういえば、今日は代わりの人が非常勤講師としてやって来るみたいだね。」

「ああ、補習にならないぐらいの授業をしてれれば、俺はそれで満足だけどな…。」

「ヒューイ先生の半分でもいい授業をしてくれる事を期待するわ。」

「お前は相変わらずの過小評価だな…。」

 

ヒューイ先生から非常勤講師の話題へとシフトしながら学院までの道のりを歩く俺達………と、その時だった。

 

「やべぇぇぇぇぇ!遅刻だぁあああああああああああ!!」

 

突然、悲鳴にも似た声を叫びながら男性がダッシュしてきた。ボサボサの黒髪に白いカッターシャツ、白い手袋に黒ズボンというシンプルな容姿の青年が、仕事に遅れそうと血迷いながら職場へ急いでいる……ってこっち向かってきてねぇか!?

 

「そこをどけぇぇぇぇぇぇ!!ガキ共ぉぉぉぉぉぉ!」

「ええええっ!?」

「「きゃあっ!?」」

 

走り出したら急には止まれない。俺達も驚きのあまり硬直してしまう。

 

「お、『大いなる風よ』!」

 

咄嗟に動いたのはシスティーナ。一節詠唱で【ゲイル・ブロウ】を発動し、その吹き荒れる強風で青年を打ち上げた……って、高過ぎない?

 

「「「あっ…。」」」

「おっ、俺空飛んでるぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

いや、吹っ飛ばされてるだけですよ(汗)。

唐突な【ゲイル・ブロウ】で吹っ飛ばされた青年はそのまま近くの噴水に落下した。その際に飛び散った水飛沫が太陽に照らされ、虹を形成した…………って、高所から落ちて大丈夫なのか…?噴水とはいえ水位は浅いからな…。

 

「お前、魔術を放つのはやばいだろ…。」

「そうだよ、やり過ぎじゃないかな…?」

「そ、そうね……どうしよう…。」

 

撃った本人もどうしようか困っているご様子。システィーナよ、これでお前もワルだな。

そんな事はともかく、俺は噴水に落ちた青年を助けようとしたが、青年は自ら立ち上がって噴水から出た。い、意外と体が頑丈だったのか…?

 

「ふっ…君達、怪我はないかい?」

「いや、貴方の方が大丈夫ですか?」

 

青年は無駄にかっこいいポーズを決めながら言ってきた……けどすみません、ずぶ濡れが原因か知らないですけど悲しいくらい決まってないです。はい。

 

「あはは、道を急に飛び出したら危ないよ?」

「いや…急に飛び出してきたのは貴方だったような…。」

「だ、駄目だよシスティ!この人ばっかり責められないよ!システィだって、いきなり魔術を撃つなんて…一歩間違ったら大変な事になってたんだよ?」

「うっ………ごめんなさい。」

 

確かに飛び出してきたのは青年の方だが、今回ばかりはシスティーナに非がある。まず魔術を撃つなんて無礼以前に違反だし、噴水以外の所に落下したら最悪死だって有り得た。

 

「あの…本当にお怪我は無いんですか?」

「これでも、鍛えてますから。」シュッ

 

俺は恐る恐るもう一度怪我はないか確認したが、青年は清々しい表情を崩さず答えた………それも決まってないです。本当にすみません………けど、怪我が無くてホッとしたよ…。

 

「ほら、システィ。ちゃんとこの人に謝って。」

「うん。あの…本当にすみませんでした。どうかご無礼をお許し下さい。」

 

システィーナはルミアに促され、青年に謝罪した。すると青年は

 

「はんっ!全く親の顔が見てみたいね!一体お前はどういう教育を受けてんだ?あぁ?」

 

態度を大きくさせてシスティーナをまくし立てた。なんだこの掌返し…。

 

「…なんなのあれ…こっちが下手に出れば、途端にこの態度…。」

「システィ、抑えて抑えて。」

「ムカつくのは同情するけど、ぶっ飛ばしたこちらにも非がある…。」

「ううっ…。」

「本当に申し訳ありませんでした。私からも謝りますから、許してくださいませんか?」

「あの、もしよろしければこれをお使い下さい。」

 

青年の態度に若干引き気味だったルミアも謝罪し、俺はタオルを鞄から取り出し、それをお詫びとして渡した。

 

「ったく、仕方ないなぁ!俺はちっとも悪くてな、お前らが一方的に悪かったのは明確だけど、そこまで言うなら超特別に許してやらんでも………ん?」

 

青年は俺からタオルを乱暴に奪い取ると、体を拭きながら愚痴を溢し続けたが、ルミアを見た瞬間に愚痴を止め、おもむろにルミアに近付く。

 

「あの…私の顔に何かついてますか?」

「お前…どこかで…。」

 

青年は何かを思い出したかのように、ルミアに触り……

 

「アンタ、何やっとるかああああああああああああ!?」

「アバーーーーーッ!」

 

そしてシスティーナに蹴飛ばされた。こりゃ因果応報とか言いようがない。セクハラとか、そりゃ蹴飛ばされますって…。

 

「不用意にぶつかってくるのはまだいいとして、女の子の身体に無遠慮に触るなんて最っ低よ!」

「いやいやいや!俺はただ、学者の端くれとして、純粋な好奇心と探究心で「問答無用っ!!」あべしっ!」

 

更にシスティーナの拳が容赦なく青年の脇腹に突き刺さる!効果は抜群だ!

 

「ルミア、トーマ、この変態を警備官に突き出すわよ!」

「そ、それだけはマジでご勘弁下さい!」

 

さっきの態度はとうに消えたか、俺達のもとで土下座という情けない無様を晒した青年。

 

「まぁ落ち着けってシスティーナ、今回は大目に見てやったら?痛み分けって言うのも何だけど。」

「反省はしてるみたいだし、許してあげようよ。」

「本気なの?…はぁ、ルミアもトーマも、本当に甘いんだから。」

「ありがとうございます!この恩、一生忘れません!」

 

この話を聞いて、青年は感謝の言葉を述べた。本当にこの人切り替え早いな…。

 

「それより、見た感じ魔術学院の生徒だろう?今何時だと思ってる?急がないと遅刻するぞ?」

 

すると青年は俺達の服装を見て、急がないと遅刻するぞと言ってきた。

 

「遅刻…ですか?」

「授業開始は8時40分からだから、まだ余裕で間に合う時間帯じゃない。」

「そんな訳ねぇだろ!?もう8時半過ぎてるぞ!?」

「ちょっと時計いいですか?」

「あぁ…。」

 

俺は青年から時計を拝借すると、白黒の懐中時計を取り出して時間を比較してみる。青年の時計は8時半過ぎを指しているのに対し、俺の時計は針と光る数字が同じように8時丁度を示していた。あー、やっぱりか。

 

「これ、30分以上進んでますね。」

 

俺は青年の時計に時差が生じている事を伝えた。まだ時間に余裕があると理解した青年は…

 

「テッシュートになりますっ!!」

「「逃げたーっ!?」」

 

スー○ーヒ○シ君を没収されるのかは知らないけど、青年は素早く俺から懐中時計を奪い返すと、そのまま一目散に逃げ出した。その際「あの女、時計の針ずらしやがったなぁぁぁぁ!?」と聞こえたのは気のせいだ、多分。

 

「…何なの、あの人?」

「さぁ…?」

「でも、面白い人だったよね。」

「あれ面白いのか…?」

「面白いを通り越してダメでしょ…出来ればあの男には二度と会いたくないわね…。」

 

先程の青年に悪評を付けるシスティーナ。

 

「まぁ、“一期一会”だし、気にする事はないと思うぜ。」

「そうね。いつまでも気にしても仕方ないもんね。」

 

俺達は気分を入れ替えて、再び学院までの道のりを歩き出す。あの青年とは一期一会……この時の俺達は、そう思っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「…遅いっ!」

 

システィーナの怒りの声が教室内に響いた。俺達は学院に着き、教室に入って席についた。そして“アルフォネア教授”のホームルームで『優秀な非常勤講師が今日このクラスに来る。』という話を聞いた。ここまではいいとして、何故こんなにシスティーナが怒り心頭なのか。その理由は簡単。

 

「もう授業開始時間とっくに過ぎてるじゃない!どういう事なのよ!?」

「確かにちょっと変だよね…何かあったのかな?」

 

そう、例の非常勤講師が未だに来ていないのが原因だ。ホームルームから早一時間経過して尚、非常勤講師が来る様子もない。他のクラスはとっくに授業中だというのに…。

 

「あのアルフォネア教授が推す人だから少しでも期待してみれば…これはダメそうね。」

「そう決めつけるのはまだ早いんじゃないかな?何か理由があって遅れているだけもしれないし…。」

「甘いわよ、ルミア。どんな理由があれ、優秀な人物が遅刻するなんて絶対に有り得ないんだから。」

 

システィーナはそう言った。ここ、アルザーノ魔術学院に集まる生徒は概ね真面目さんが多い。遅刻欠席などもっての他だ。

さて、非常勤講師を待つ中、俺はこの暇な時間何してるのかというと…

 

「よし…ここは、これでいいか。」

「?…トーマ君は何してるの?」

「ん?“時計修理”。」

 

俺は壊れた時計を修理しながらルミアの質問に答えた。俺はある日、時計屋のおやっさんから懐中時計の修理を依頼され、その際に「暇な時間があれば直せ。」と言われた。だから非常勤講師が来ない合間に時計を直している。

 

「この前、バイトで時計屋行ったら「時間見つけて懐中時計直せ」って言われてね。」

「それって、今やる事なのかな?」

「おやっさんなら無茶苦茶言いかねないよ…「それか修理し終えた時計を“コップ一杯の水を一滴も溢さず配達するか”のどちらかにしろ。」とも言うくらいだからな。」

「それ、“時計”屋なの…?」

「俺でもあの発言は“豆腐”屋の間違いだと思った。」

 

おやっさんの無茶話を愚痴りながら俺は時計を修理する。何処の誰が馬車で荷重移動なんて出来るんだよ…。

それは置いといて、俺は懐中時計の内部を直してカバーを閉じた後、俺の白黒の懐中時計と見比べて針が動いているかどうか、示している時間が一緒かどうか確認する…………よし、正常に動いてるし、時間もぴったしだ。

 

「よし、一つ目終りょ「ちょっとトーマ!」…はいっ!?」

「アンタ何やってるのよ!?」

「み、見て分かるだろ?時計修理だよ。」

「ここへ来て今やる事なのかしら?」

「仕方ないだろ?まだ臨時の講師が来てないし、バイト先からも無茶言われてこれだし…まぁ居眠りよりは断然マシじゃないか?」

「同じよ!」

 

時計修理をシスティーナに見られて説教される俺。流石“説教女神”と呼ばれるだけある…俺はただ時間を有効活用しただけなのに……なんでさ。

 

「システィ、その辺にしておこうよ。トーマ君だって色々と忙しいんだから。」

「いいえ、こういうのはきっちり言っておかないと。トーマにはアルザーノ帝国魔術学院の生徒としての自覚が足りないんだから。」

「学業と時計修理を兼ねなきゃならないこっちの身にもなってくれよ…。」

 

俺は基本的に小さい頃から独り暮らしをしている。もちろん、全て自給自足という訳ではなく、俺に援助を申し出てくれたダイキさんが定期的に援助をしてくれる…けど最近連絡が一切来ない。だから現在もおやっさんのもとで時計修理のバイトを続けて生活費と授業料を稼いでいる。俺だって色々忙しいのに生徒としての自覚がないとか失敬だなオイ。俺がシスティーナから説教を受けていると、廊下の方から誰かがこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「おっ、やっと来たぞ。」

「え?」

 

俺はようやく非常勤講師が到着したと悟ると、工具と時計を仕舞って教科書を出す。足音は大きくなり、そして教室の扉が開かれた………って、あれ?

 

「悪ぃ悪ぃ、遅れたわ。」

 

教材を持って現れた非常勤講師、だがその格好は、ずぶ濡れで所々擦りきれてる酷い有り様。非常勤講師の正体、それは俺とシスティーナ、ルミアが先程会った“あの青年”だったのだ。

 

「あ、ああーーっ!貴方は!」

「人違いです。この世にはそっくりさんが二、三人いるんです。」

「貴方みたいなそっくりさんがいますか!」

 

システィーナの怒涛のツッコミ。教材を持っているのを見る限り、あの人が講師で間違いないようだ。

 

「えー、グレン=レーダスです。本日から一ヶ月間、生徒諸君の手助けをさせて頂くつもりです。短い間ですが、これから一生懸命頑張っていきま…」

「挨拶はいいですから、早く授業を始めてくれませんか?」

「そうだったな…かったるいけど始めるか…仕事だしな…。」

 

非常勤講師の名はグレンというらしい。自己紹介をするが、それを遮ってシスティーナが授業を始めるよう催促した。もう開始時間から一時間以上経とうとしてる中、グレン先生は素丸出しで呟いた。

 

「じゃあ早速始めるぞ。一限目は魔術基礎理論IIだったな…。」

 

グレン先生は欠伸をかみ殺すと、チョークを手にスラスラと黒板に書き始める。『優秀』という前評判が経っていたグレン先生。その授業の腕前はいかほどのものか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“自 習”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

誰が声を漏らしたかは知らないが、黒板に大きく書かれた文字、それは『自習』に二文字だけだった。

 

「えー、本日の一限目の授業は自習にしま~す…眠いから。」

「「「「「「…」」」」」」

 

突然の自習宣言、赴任早々授業をボイコットするというまさかの行動に、俺達は絶句する……

 

 

 

 

 

 

 

「って、ちょっと待てぇえええええええええええええええええ!!!」

 

その沈黙を我らが怒りの代弁者、システィーナが破り、辞書を片手にグレン先生に突撃していった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

グレン先生のダメっぷりは最初からクライマックスの一言だった。システィーナに辞書チョップを喰らって授業を再開と思ったら、説明はいい加減で、質問にもまともに答えないという有り様だ。ちなみに二限目は本来、錬金術の授業があったはずなのだが、“何故か”中止になった。

そして昼休み、俺は食堂に向かい、食べたい物を一通り注文する。ここの食堂、メニューが豊富で美味しい物が勢揃いだが、稀に一癖も二癖もあるメニューが出てくる場合がある。去年の夏に出てきた“冷製トロピカル・ラ・メーン”や冬の“オゾウニカレー”がそれだ。あれを考えた奴は頭がヤベーイ!

数秒待ち、木製のトレイに料理が置かれた。俺は給士の方に代金を払うと、料理の置かれたトレイを持って空いている席を探す。さーて、どこに座るか…。

俺が空いている席を探していると、システィーナとルミアの二人が食事しているのを見つけた。あのテーブルにはあと二人程座れるスペースがある。俺はいつもならカッシュ達のいるテーブルに座るところだが、生憎今日はそこは定員オーバー。こんな大人数だと他に空きが無さそうだ…よし、行くか。

 

「ここ座っていいかな?他に探したけど空きが無くて…。」

「ええ、いいわよ。」

「いいよ、一緒に食べよう。」

 

二人に許可をもらい、俺はルミアの隣に座る。視線(特に男子勢)が痛いが、気にせず食を進める。分かってるさ……この二人と食事する事が色んな意味で高嶺の花なのは分かってるさ…。

 

「それにしても、グレン先生の授業はロクなもんじゃないよな…ただでさえ魔術が苦手な俺にとっては、後のテストが心配でならないよ。」

「本当そうよ。さっきの時間だって、男として最悪な行為をしてたからね。」

「あれはビックリしたよね…。」

「えっと…何があった?」

 

システィーナとルミアの言葉に俺は思わず首をかしげる。

 

「あいつ、何の躊躇いもなく“女子更衣室に入ってきた”のよ。」

「え…。」

「グレン先生は昔と場所が入れ替わってたって言ってたけどね。」

「いやちょっと待て、まさか二限目の錬金術が中止になった原因って…。」

「まさしく“それ”よ。」

「いやアホ過ぎるだろ。」

 

ラッキースケベで授業中止ってそんな事あるの…?錬金術は薬品使うから制服から実習服に着替える必要あるけど、その際に更衣室を間違えるって…。

俺は二人から聞いた事実に苦笑いするしかなかった。すると

 

「おっ、噂をすれば。」

「失礼。」

「あ…貴方は…!」

「いや、人違いです。」

 

俺達がグレン先生の噂をしていると、その本人がやってきて、システィーナの隣に座った。グレン先生の顔にはあちこちに絆創膏が貼られており、先程の話が真実だった事を知った。ちなみにトレイには大量の料理が置かれており、どれも大盛り……食べきれるのかこれ?俺だってそんな量は食べれないぞ……これを完食できるのは沢山入る“ブラックホール”を備えている胃袋を持つ者だけだ。

 

「うめぇ~…なんつーか、この大雑把さが実に帝国式だよなぁ…。」

「あの、先生って食べるの好きなんですか?」

「ああ、食事は俺の中で数少ない娯楽の一つだからな…。」

「…ってか、この量を昼休みまでに食べれますか?」

「ああ、こう見えて健啖家だからな……えっと、お前は…。」

「トーマ=ホロロギウムです。」

「へぇ…変わった名前だな…特に苗字は。」

「俺に援助してくれた人が、“時計”にちなんで付けてくれたんですよ。」

 

俺の苗字はダイキさんが付けてくれたものだ。ホロロギウムっていう苗字は、ダイキさん曰く「“時計の星座”」から取ったものらしい。まぁ、俺も時計修理ができるからベストマッチしてるとは思っている。

 

「その炒め物、凄く美味しそうですね。」

「おっ、分かるか?この時期学院にキルアの新豆が入るんだ。香りがいいから、食べるなら今が旬だぜ。」

 

ルミアの質問にグレン先生が答えた。ただの質より量派の大食いかと思ったら、意外とグルメな一面があるようだ。グレン先生はルミアに、キルア豆の炒め物を食べてみろと勧め、ルミアはそれをスプーン一杯分すくって口に含んだ。

 

「キルア豆って、何かと料理に応用しやすいですよね。シンプルに炒め物にしたり、他の野菜と一緒に煮込んでスープにしたりとか。」

「トーマって言ったか、その話を聞く限り、お前は料理出来るのか?」

「一人暮らしが長いと、自然と料理スキルが身に付いてくるものなんですよ。」

「そうなんだ。実は私も料理は練習してるけど、あんまり上手く出来なくて…。」

「まぁ、積み重ねは大事だよ。俺なんて最初の頃は魚を炭にしちゃった事があったし。」

 

そんな感じで話が弾んでいく中、俺はふとシスティーナの方を向くが、当の本人はグレン先生が来てからずっと重苦しい空気を放ちながら沈黙を決め込んでいるようだ。

 

「お前、それだけで足りるのか?もっと食わねぇと大きくなれねぇぞ?」

「余計なお世話です。私は午後の授業が眠くなるから、昼はそんなに食べないだけです。まぁ、先生には無関係な事ですけど。」

 

システィーナはグレン先生に対し、若干挑発的な態度を取って言った。眠くなるからっていっても、流石にジャムを薄く塗ったスコーン二つだけじゃ確かに足りないだろ…。

 

「回りくどいな…言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ?」

「…分かりました。この際はっきりと言わせてもらいます。私は……」

「あぁ分かった分かった。降参だ。まさかここまで思い詰めていたとは予想外だ…俺の負けだ。」

 

グレン先生はシスティーナの言葉を待たず、両手を挙げて降参した。そしてグレン先生はキルア豆をスプーンで一粒すくい、それをシスティーナの皿に乗せた。

 

「お前も食いたいんだろ?“そんなに沢山あるんだから少しくらい分けろ”、だろ?まぁ、俺だって栄養失調で倒れられたら気分悪いからな、これは奢りだ。」

「ち、違いますっ!私が言いたいのはそんなんじゃなくて…!」

 

グレン先生の勘違いに屈辱感を募らせたシスティーナが論破しようとするが…

 

「代わりにそっちも少し寄越せ。」

 

そう言ってグレン先生はシスティーナの皿に乗っているスコーンの内一つをフォークで刺し、そのまま平らげてしまった。

 

「ああーーっ!?何、勝手に取ってるのよ!?」

「まぁ、“等価交換”ってやつ?」

「何処が“等価”なのよ!?もう許さないんだから!ちょっとそこに直りなさい!!」

「ちょっ!?暴力反対!暴力反対!」

 

ついに怒りが有頂天になったシスティーナが、グレン先生とフォークでチャンバラするという事態になってしまった。はぁ…グレン先生、これはフォロー出来ないからな。明らかに矛盾した発言だし、勘違いがなぁ…。

 

「あはは……これ、どうしよう?」

「はぁ…もう好きにやらせちゃえばいいんじゃない?“アレ”はひとまず置いといて食事を楽しもうぜ。」

「そ、そうだね…。」

 

チャンバラの光景を見て苦笑いのルミア、呆れた表情になる俺。カトラリーでチャンバラするのはいいけど、周りの視線は考えてくれよ…。

俺はライ麦パンを皿に置くと、次は地鶏の香草焼きを食べようとフォークに手を伸ばそうとするが

 

「…あれ?俺のフォークがない。」

「もしかして、地面に落としたの?」

「いや、ずっとここに置いてあったはずだけど…。」

 

俺のフォークがトレイから消えていた。ルミアの言葉を聞いて一旦足下も確認したが、やっぱりない。あれおかしいな……確かにサラダを食べてた時はあったのに……………………ん?

 

「なははははは!どうだ、これで二刀流だぁ!」

「なっ!?貴方卑怯よ!」

「卑怯なぞ知った事かぁぁぁぁあっはっはっはっ!」

 

俺は二人に視線を向けると、グレン先生の左手に俺のフォークが握られていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

この光景を見て、俺の中で“キレ”てはいけないものが“キレ”た。俺は一旦席から立つと、向かい側に座っているグレン先生のもとへ近寄る。

 

「グレン先生…。」

「ん?どうし…」

「喧嘩しようが勝手だけどよぉ…食事の邪魔をすんなぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

グサッ! アヒャヒャヒャヒャヒャ!

 

 

 

 

 

俺はグレン先生に怒号を浴びせながら親指をグレン先生の“首の右側”に突き指した。その際、変な笑い声みたいな雑音が響いた。

 

「ぶっはっはっはっはっ!w…おま、トーマw…何をしたんだっはっはっはっ…!」

 

ツボを押されたグレン先生は突如として大爆笑。左手のフォークを手放した。俺はフォークをキャッチすると、自分が座ってた場所に戻る。

 

「えっ…どうなってるの?」

「ちょっとトーマ、今何したの?」

「ああ、ちょっと“ツボ”を押しただけ。」

「“ツボ” を押しただけで笑わせるって…。どこでそんな技を身に付けたのよ…?」

「俺が最初にやったバイトがマッサージのバイトでさ、その時に偶然首の横側を揉みほぐしたら、突然マッサージ受けた人が爆笑しちゃったエピソードがあるんだ。俺はこれを【笑いのツボ】って呼んでる。」

「「わ、【笑いのツボ】…。」」

「っはっはっはっはっ…!それ、ある意味“固有魔術(オリジナル)”だろっははははは…!」

 

未だ笑い続けるグレン先生が【笑いのツボ】を“固有魔術(オリジナル)”と言った。安心してくれ先生、このツボは押されて爆発する代物じゃないから。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

授業という名の自習が一通り終わり、俺は学院から下校してある場所に向かっている。しばらく歩くと、馬小屋が隣に立てられた一軒屋の店が見えてきた。

時計屋『アキレス時計店』。俺のバイト先で、時計の売買や修理、そして馬車による配達を行っている時計屋だ。一般市民から貴族まで、あらゆる階層の人達が利用しているため、隠れた有名所だ。

現在俺は時計を修理、おやっさんこと“ベルモンド・アキレス”さんは貴族から依頼された時計の製作を行っている。

 

「ところで、お前のクラスようやく非常勤の講師来たんだって?」

「ああ…けど、はっきり行って酷いぞ。遅刻上等に授業を逆ボイコット。おまけにラッキースケベときた。」

「それはとてつもないナマケモノだな…。」

「これじゃ、後のテストは赤字かな…。」

 

俺はグレン先生の挙行を愚痴りながらおやっさんと会話する。

 

「その講師、なんて名前だ?」

「確か…グレンって名前だった。」

「“グレン”……懐かしいな。」

「え?」

「あいつとは昔、“仕事”をした事がある。昔は暗い奴だったのに、随分と陽気になったもんだ…。」

 

おやっさんは昔の話を語った。グレン先生と“仕事”したことがある……?そういや、グレン先生って昔は何してたんだろうか…?




ED[GHOST]


作者「ついに始まりました、ジオウとロクアカのコラボ!」
トーマ「唐突なスタートだよね…。」
グレン「前作だったら予告を流してたのにな。」
システィーナ「て言うか、このトークルーム、アニメ版の予告とほぼ一緒じゃない。」
作者「まぁ過去作みたく固苦しく次回予告するのも何ですし……一応シリアス回は普通に予告だけどね。」
トーマ「それ以外ではろくに予告せずこんなトークルームか。」
ルミア「でもいいんじゃないかな?こうしてトークすると気分もすっきりするし。」
トーマ「そう上手く作者が書いてくれるかどうか…どう思う?」
グレン「つまらないに一票。」
システィーナ「真面目にやってに一票。」
ルミア「期待してるけど期待してないに一票かな?」
トーマ「という訳で、満場一致で作者には何の期待もしてないから、これからも頑張れ。」(棒)
作者「いじられは俺の宿命か(涙)…あ、次回、[TOP GEARが掛かり始める]。」

NEXT→ [TOP GEARが掛かり始める]



全員「「「「「お楽しみに!」」」」」


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TOP GEARが掛かり始める

オリ主が使う呪文、どうしようか試行錯誤しております。

OP[Blow out]


グレン先生の授業は日に日に適当さを増すばかりだった。授業のほとんどが黒板に大きく書かれている通りの“自習”で、その二文字も日に日に雑になっていき、果てには文字なのかわからないものになっていった。もしこんな文字化け問題出されて、間違えたら一組のハーレイ先生が長定規片手にぶっ叩いてくるって展開が起きそうだ…。

まれに授業を始める事もあるのだが、それもぐだぐだとした説明と黒板に貼り付けられたページのせいで本末転倒。とても授業とは言えない代物だった。

そして一週間経ったある日、ついに事件は起こる…。

 

「いい加減にして下さい!!」

「ん?お望み通り“いい加減”にやってるだろ…?」

 

グレン先生のやる気のなさっぷりにとうとうシスティーナの堪忍袋が大爆発。怒りの形相で抗議し始めた。俺はこの時、ルーン文字の書き取りをやっていた……え、時計?今日の分ならもう“朝のうち”に修理し終えた。授業中の時計修理は禁止ってシスティーナに言われたからね…。

口論が続くうちに、システィーナは親の権限でグレン先生を解雇できると脅したが、グレン先生はそれを聞いて逆に喜ぶというクズっぷりを露にする。それを聞いたシスティーナは次の瞬間、とんでもない行動に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペチンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?おい嘘だろ…?」

 

なんとシスティーナは左手の手袋を外し、それをグレン先生めがけて投げつけたのだ。この光景に、自習していた皆が一斉に静まり返った。

 

「……お前、正気か?」

「私は本気です。」

「ダメ!システィ、先生に謝って、手袋を拾って!」

 

システィーナはグレン先生に“決闘”を挑むつもりだ。力ある魔術師達の争いに規律を入れるために作られた魔術儀礼で、生粋の魔術師の間では未だにこの決闘が行われている。

ルミアはシスティーナに決闘を止めるよう言い聞かせるが、それも叶わず話は進み、システィーナが勝ったら不真面目な態度を改めて授業を行う事、グレン先生が勝ったら説教禁止という勝利した際の条件を言い合った。互いがその条件を承諾したところで…

 

「その決闘、受けてやるよ。」

 

グレン先生は地面に落ちた手袋を拾い、それを頭上に投げてキャッチ…………しようとして失敗した。何で不慣れな事をするんだアンタは…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

教室から場所を移し、現在俺達は校庭にいる。そこでシスティーナとグレン先生が決闘のために互いに向き合う形で立っている。決闘のルールはただ一つ。黒魔【ショック・ボルト】を相手に当てた方の勝ちという、シンプルなものだった。【ショック・ボルト】は魔術学院に入学して初めて習う魔術だ。微弱な電気を飛ばして相手を痺れさせるという護身用の魔術だ。先に当てた方の勝ちというルール故に、この決闘ではいかに正確に、かつ素早く撃てるかが勝負のポイントとなる。

 

「なぁトーマ。お前はどっちが勝つと思う?」

「…システィーナは黒魔術に優れてるから、あの精度と略式詠唱のセンスが確かなら十分勝機はある。問題は…グレン先生の実力が未知数って事かな…。」

「へぇ…トーマってずいぶんと見る目があるんだな…。」

「まぁ、あくまで推測だけどね。そもそも決闘自体、生粋の魔術師同士ぐらいしかやらないし、今時毎回決闘で決めるなんて輩がいる訳でもない。」

 

大柄な男子生徒・カッシュと俺はどちらが勝つか予想を立てている。カッシュはクラスの中でも社交性のある奴で、俺も時折会話する事もある。

 

「まぁ、百聞は一見にしかずだ。」

 

俺は二人を見ながらそう言った。魔術詠唱の早さと正確さがポイントとなる今回の決闘、俺がもしグレン先生と決闘となったら負けてしまうだろう。理由は明白、俺には魔力操作の感覚と略式詠唱のセンスがないからだ……厳密に言うと、“何故か”上手く掴めない。それ故に【ショック・ボルト】すら一節詠唱で発動できず、先制攻撃が出来ない。

 

「さて、いつでもいいぜ。」

 

いよいよ二人の決闘が始まろうとしている。黒魔術に優れたシスティーナ、実力未知数のグレン先生、その対決はいかほどのものか……!

 

「『雷精の紫電よ』!」

 

先に唱えたのはシスティーナ。グレン先生に向けて電気の力線が真っ直ぐ飛んでいく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………はっ?

 

「…あ、あれ?」

 

命中させた本人もこの戸惑い様である。決闘がほんの数秒で決着してしまった。

 

「これって…。」

「システィーナの勝ち…だよな…?」

 

他の皆もこの光景に呆然としてるようだ。

 

「私…なんかルール間違えた…?」

 

いや、ルール通りだよ。それにしてもグレン先生、なんで【ショック・ボルト】の詠唱をしなかったんだ…?

 

「ひ、卑怯な…。」

「あ、先生。」

「こっちは準備できてないのに不意打ちとは…お前それでも誇り高き魔術師か!?」

「いや、でも、“いつでもいい”って…。」

「…まぁいい。この決闘は“三本勝負”だからな。一本くらいくれてやる。」

「は?三本勝負?そんなルールありましたっけ?」

「さぁ二本目いくぞ!いざ尋常に勝負だっ!」

 

強引にもう一勝負やる羽目になってしまったシスティーナ。グレン先生の言葉と共に二本目(リベンジ)が始まった。

 

「『雷精よ・紫電の衝撃以て・撃…」

「『雷精の紫電よ』!」

「グワッーーーーーーーーー!!」

 

また呆気なくやられてしまったグレン先生……ってか、先生のさっきの詠唱…明らかに三節だったよな…?

 

「や、やるじゃねぇか…。」

「あの…グレン先生?」

 

痙攣しながら立ち上がるグレン先生。あれは明らかに痩せ我慢だ。

 

「ふっ、いくらこの勝負が“五本勝負”だからって、ちょっと遊び過ぎたかな。俺、反省。」

「さっき、三本勝負って…。」

「あああああああっ!?嘘だろ!?あんな所に“女王陛下”がいらっしゃるぞーーっ!?」

「えっ!?」

 

グレンが明後日の方向に指差して“嘘”を言った。それに釣られて思わずシスティーナはその方向を向いてしまった。いや、いる訳ないだろ…………ん、気のせいか?“女王陛下”の言葉を聞いてルミアの表情が若干曇ったような…

 

「かかったなアホがっ!『雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒…」

「『雷精の紫電よ』!」

「アババババババババババババッ!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~数分後~

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、もう勘弁してください。これ以上やったら本当に大変な事になってしまいます。」

「はぁ…。」

 

“自称”、四十七本勝負と言い張った一戦が終わったところで、ついにグレン先生が土下座した。この曇天の空という決闘に相応しい天候の下、行われたのは“決闘”ではなく、【ショック・ボルト】を用いた“大喜利”だった。

 

「いやー、【ショック・ボルト】限定の勝負なんて俺に超滅茶苦茶不利な不公平なルールだからなっー!」

「貴方が自らルールを設けたじゃないですか…そもそも、グレン先生ってもしかして【ショック・ボルト】の一節詠唱出来ないんですか?」

「ふ、ふはは、な、なんのことかな?わわわ私にはジャp…サパーリ!?そもそも呪文を省略する一節詠唱なんて邪道だよね!先人が練り上げた美しい呪文に対する冒涜だよね!別にできないからそう言ってる訳じゃ…」

「つまり、できないんだ…。」

 

グレン先生が【ショック・ボルト】の一節詠唱が出来ない事実を知った。これは意外だった………ってか、今何かいいかけたよな?何か得意なフレ○ズしか連想できない。

 

「と、とにかく決闘は私の勝ちです!だから私の要求通り、先生は明日から…」

「は?何のことでしたっけ?俺達、何か約束しましたっけ?覚えてないなぁ~?」

 

決闘はシスティーナの勝ちだが、何故かグレン先生は約束を忘れてとぼけていた。

 

「先生…まさか魔術師同士で交わした約束を反故にするつていうんですか!?貴方はそれでも魔術師の端くれですか!?」

「いや、魔術師じゃねぇ奴に魔術師同士のルール持ってこられてもなぁ~。」

「貴方、一体、何を言ってるの…!?」

 

とぼけた態度に約束を反故にするというクズっぷりの姿勢を取るグレン先生に、システィーナは引いていた。一度交わした約束をいちゃもんつけて無しにするなんて…なんて野郎だ…。

 

「とにかく今日のところは引き分けって事に勘弁してやる!だが次はないぞ!さらばだ!」

 

グレン先生は立ち上がると、そう言って高笑いしながら去っていった……何十発も【ショック・ボルト】を喰らい続けた影響か、途中で何回も転倒したが。

 

「おい見たかよトーマ、あのクズっぷり…。」

「ああ…。」

 

俺はカッシュの言葉を簡素に返した。あのクズっぷりもそうだったけど…まさか俺と同じく“魔術のセンス”がないなんてな…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「は~い、授業始めま~す。」

 

決闘から3日経ち、すっかりグレン先生の評判は地に落ちた。いつも授業に大幅に遅刻しては死んだ魚の目で授業を始め、そして教科書を黒板に釘打ちするというとんでもない行為を行った。そんなグレン先生の態度に呆れたか、皆自ら自習をするようになった。元々真面目が多いアルザーノ帝国魔術学院の生徒なら尚更だ。

 

「さて、今日はこれやるかな…?」

 

もちろん、自習するのは俺も同じだ。自然理学の教科書を出し、そこから気になるところを勉強している。そうじゃないと、後のテストで絶対泣きを見る。

 

「あ、あの…先生。今の説明に対して質問があるんですけど…。」

「ん?」

 

ここで、眼鏡をかけた小柄な女子生徒・リンが教科書を持ってグレン先生のもとに近づき、分からないところを質問した。だがグレン先生はルーン語辞書をリンに渡すと、それで自ら調べろという適当な対応をした。

 

「無駄よリン。その男に何を聞いたって無駄だわ。その男は“魔術の崇高”さを何一つ理解していないわ。」

 

無関心を決め込んでいたはずのシスティーナが立ち上がり、リンにそう言い聞かせた。

 

「で、でも…。」

「大丈夫よ、私が教えてあげるから。一緒に頑張りましょう?」

 

システィーナはリンに微笑みかけながらそう言い聞かせ、席に戻ろうとすると

 

「魔術って…そんなに偉大で崇高なもんか?」

 

気に障ったか、グレンが魔術の崇高に関してそう呟いた。

 

「ふん、何を言うかと思えば。偉大で崇高なものに決まっているでしょう?もっとも、貴方みたいな人には理解できないでしょうけど。」

「ふーん…魔術ってのは何が偉大で何処が崇高なんだ?」

「魔術はこの世界の真理を追究する学問よ。この世界の起源、構造、この世界を支配する法則。魔術はそれらを解き明かし、自分と世界が何のために存在するのかという永遠の疑問に答えを導き出し、そして人がより高次元の存在へ至る手段なの。それは、言わば神に近づく行為。だからこそ、魔術は偉大で崇高な物なのよ。」

 

グレン先生に魔術の価値観を主張するシスティーナ。勤勉な彼女だからこそ、魔術について熱く語れるものだ。

 

「ふぅ~ん……で、何の役に立つんだ?」

「え?」

「いや、だから。世界の秘密を解き明かした所で何の役に立つんだ?」

「だ、だから言っているでしょう!?より“高次元の存在”に…」

「“高次元の存在”って何だよ?神様か?」

「それは…。」

「そもそも、魔術って人にどんな恩恵をもたらすんだ?例えば医術は病から人を救うよな?冶金技術は人に鉄をもたらした。農耕技術がなけりゃ人は餓死してただろうし、建築術のおかげで人は快適に暮らせる。この世界で術と名付けられた物は大体人の役に立ってる。けど“魔術”は例外だ。何の役に立ってるんだ?」

 

グレン先生は魔術が何の役に立つか訴えてきた。グレン先生の言葉も正しい。魔術は魔術師のみしか使えず、その恩恵も魔術師のみ与えられ、一般人に還元される事はない。それ以前に、魔術師達の大半は魔術を秘匿しようと考えている者が多い。

 

「魔術は…人の役に立つとか役に立たないとか…そんな次元の低い話じゃないわ。人と世界の本当の意味を探し求める…」

「でも何の役にも立たないなら実際、ただの趣味だろ?単なる娯楽の一種な訳だ。違うか?」

 

グレン先生の言葉が事実故に、言い返せず歯噛みしながら、その悔しさに震えているシスティーナ。すると

 

「悪かった。嘘だよ。魔術は立派に人の役に立っているさ。」

 

グレン先生は突然掌返しをした。システィーナはもちろん、皆や俺も目を丸くする。確かに魔術はあまり一般人に還元されるものではないが、人の役に立つ場面が必ずあるはずだ。だが次の瞬間、グレン先生が放った言葉が俺達に揺さぶりを掛けた。

 

「ああ、魔術ってのはすげぇ役に立ってるさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“人殺し”のな…!」

「「「「「!?」」」」」

「…っ!」

 

グレン先生はまるで人が変わったかの如く残酷な真実を吐き出した。

 

「剣で一人殺している間に魔術は何十人も殺せる。戦術で統一された一個師団を魔導士の一個小隊は戦術ごと焼き尽くす。ほら、立派に役に立つだろ?」

「ふざけないでっ!魔術はそんなんじゃない!魔術は…」

「お前、この国の現状を見ろよ。“魔導大国”なんて呼ばれちゃいるが、他国から見てそれはどういう意味だ?帝国宮廷魔導士団なんていう物騒な連中に莫大な国家予算が突っ込まれているのは何故だ?」

「そ、それは…」

「決闘にルールがあるのは何故だ?二百年前の『魔導大戦』、四百年前の『奉神戦争』で何をやらかした?外道魔術師の犯罪件数とおぞましい内容を知ってるか? 」

「…っ!」

「ほら見ろよ、魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ。何故かって?他でもない“人を殺すことで進化・発展してきたロクでもない技術”だからだ!」

 

グレン先生の極論に打ちのめされるシスティーナ。唖然としている皆。魔術は…人殺しの…技術…。

俺はグレン先生の極論を聞いたその時、ある姿が頭の中をよぎった…それは悪夢で何回も見た“黒い戦士”……いや、それに酷似した黄金の鎧を纏う戦士だ…炎と灰、夥しい量の血で汚れた荒野に立つ…“魔王”の如き存在……。

 

「全くお前らの気が知れねぇよ。こんな下らない術勉強するくらいなら、もっとマシな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パアンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレン先生が言い切る前に、システィーナがグレン先生の頬を叩いた。

 

「いっ…………てめっ…!?」

 

いまにも殴りかかりそうな形相のグレン先生。しかし、グレン先生は文句を発しようとはしなかった。理由は明白。システィーナの顔は涙で濡れていた。行きすぎた極論に打ちのめされてしまい、眼から涙をポロポロとこぼしていた。

 

「大っ嫌いっ!」

 

システィーナはそう言い捨てて、教室から出て行ってしまった。

 

「……ちっ…。」

 

グレン先生は頭を掻き乱して舌打ちをした。

 

「あー、なんかやる気出ねーから、今日の授業は自習にするわ。」

 

グレン先生も苛立ちながら教室から退室した。結局、今日この二人が教室に戻ってくる事はなかった…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

夕日に照らされた廊下、俺は赤と青の懐中時計を見つめていた。時計の形状はいつも持っている白黒の懐中時計と形状は同じだ。あれと大型の時計は幼い頃、いつの間にか所持していた。だけど今持っている赤と青の時計は“ある人”からもらったものだ。そう…俺を助けてくれた“命の恩人”から…。

 

「魔術が真理を求めるものか…それとも殺戮のためのものか…。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「魔術はこの世界の真理を追究する学問よ。」

 

 

「魔術ってのはすげぇ役に立ってるさ……人殺しのな…!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あの二人の言葉を思い出し、魔術の用途が何なのかを考える。グレン先生は魔術を“殺戮”によって発展していったロクでもない技術だと言っていた。確かに魔術という概念があるからには魔術を用いた戦争が過去に起こったけど、全ての魔術が殺戮のためにある訳じゃない。

一方、システィーナは魔術は“世界の真理を求める学問”だと言っていた。魔術という概念が何故この世界に存在するか、人と世界が何故存在するかという永遠の謎を解いていく魔術師も数多くいる。

この世界には各地に超古代の遺跡が存在する。特に有名なのは“メルガリウスの天空城”という浮遊している城。魔術師達の中にはその遺跡に眠る謎を求めて日々研究をしている考古学専門の魔術師がいる。だけど、システィーナも含めて、皆は魔術をあまりにも神聖視…表向きの世界を見過ぎている。裏の世界に目を見開いてしまったグレン先生とは対照的だ。

要約すると、二人の魔術に対する価値観は極論だ。魔術は真理を求める学問でもあり、殺戮のための兵器でもあり、そして困っている人々を助ける術でもある。はっきり言ってしまえば…

 

「そんなもの…“使い方次第”だろ……そうだよね…?」

 

俺は時計を見つめながら、遠いところにいる命の恩人に向けて言葉を漏らした……………さて、帰るかな…。

俺は時計をポケットに仕舞い、学院から出ようと歩き出そうとした時

 

「あ、トーマ君。まだ帰ってなかったんだ。」

「…ん?ルミア?」

 

俺の姿を見かけたルミアが俺のもとへやってきた。彼女の手には錬金術の教科書があった。

 

「どうしたんだ?」

「私、今から魔力円環陣の復習をしに行くんだけど、もしよかったらトーマ君にも手伝ってほしいの。」

「別にいいけど…魔術実験室の個人使用は禁止って言われなかったか?それに、あそこに入るには鍵が必要だったような…。」

「それなら問題ないよ。」

「え…?」

 

俺はルミアの言葉に首をかしげると、ルミアはポケットから魔術実験室の鍵を取り出した……って、マジかよ…?

 

「ルミア、それを何処から…?」

「こっそり事務室に忍び込んだの。」

「ははは…お前も“ワル”だな…。」

 

俺はルミアの意外な面に苦笑いした。忍び込んでまで…か。まぁ、授業が全く進んでないからという理由もあるからな…。

本来ならルミアはシスティーナに頼る予定だったのだろう…朝の出来事で出て行っちゃったけど…。

 

「早く行ってちゃちゃっと終わらせよう。」

「そうだね。あんまり遅くなると先生にバレちゃうもんね。」

 

 

先生にバレないうちに、俺達は西館の魔術実験室へ行く。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

魔術実験室に着いた俺達は、教科書で魔力円環陣の構図を確認し、まず水銀で床に円を描き、五芒星を描いていく。

 

「ねぇ、トーマ君にとって魔術は何なのかな?」

「ん?どうしたんだ急に…。」

「グレン先生が言っていた事を思い出しちゃって、その時のトーマ君の顔、“すごく険しかった”から…。」

 

俺が五芒星の内外にルーン文字を書き重ねていると、ルミアが俺にとって魔術は何なのか尋ねてきた………もしかして…あの時の“俺の顔”…見られてたのか…。

 

「そうだな…俺にとって魔術というのは…“未知の可能性”かな。」

「“未知の可能性”?」

「グレン先生が言ってたように、魔術というのは誰かを傷付けてしまうものあるし、逆にシスティーナが言ってたように、世界の真理を知る術でもあるって事。」

「?…つまり?」

「つまり、魔術は“使い方次第”で変わるものだ。魔術自体に善悪なんてない……この“時計”をくれた人がそう言ってたんだ。」

 

俺は自分の魔術に対する価値観を語ると、“あの人”からもらった赤と青の時計を見せる。白黒の時計が俺の存在証明だとしたら、この赤と青の時計は俺が魔術師を志すための御守りだと言える。

 

「だから頑張れるんだ。俺を助けてくれた人が語ってたように、魔術も科学も正しく使えば“人を幸せに”する事ができると…俺はそれを証明したい。魔術師を志したのは、そのためなんだ。」

「トーマ君って…すごく大きな夢を抱いているんだね。」

「ははは…まぁ、時間と空間の魔術以外は相変わらず苦手だけど…。」

 

俺は夢を語った後、妙にピーキーな魔術に特化している自分を半ば自虐気味に言いながら笑った。ルミアも俺の夢を聞いて微笑んだ。俺は魔術は苦手だが、その中で“時間魔術”と“空間魔術”だけは例外だった。本来この二つはピーキーなものが多いのだが、何故かこの系統だけは上手く扱える。これも俺の特殊過ぎる魔術特性(パーソナリティー)“【時空の干渉・顕現】”の影響なのだろうか。

話しているうちに、俺はルーン語を書き終え、ルミアも霊点に魔術触媒である魔晶石を設置し終えた。

 

「ふぅ…やっと完成した…。」

「後は詠唱するだけだね。」

 

法陣を完成させた俺達。後は教科書通りに魔力円環陣の五節詠唱を唱えるだけだ。

 

「『廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ』。」

 

ルミアは教科書に書かれている五節のルーン語を唱えた………しかし、何故か起動しない。

 

「…あれ?起動しない…。」

「おかしいな…確かに教科書通りのはずたけど…。」

 

俺は教科書を見直しながら、魔力円環陣が失敗した原因を探る。おかしい…教科書通りに法陣は完成させたはず…魔晶石にズレは無いし、ルーン語に間違いもない……だとすると……

 

 

 

 

 

 

 

 

バァン!

 

 

 

 

 

 

 

「「あっ…。」」

「相変わらずボロボロのまんまだな、ここは…。」

 

そうしてる間に、突然何者かがドアを蹴り開け、古びた室内を見てそう呟いた。グレン先生だ。なんてこった…法陣に手間取ってる間に見られてたのか…?これは…ヤベェェェェイ!(´・ω・`)

 

「……。」

「「……。」」

「あー…この後ナニをやるんだな。すまん邪魔し…」

「違います!これは断じて違う!…ってかそんな事したら後が怖い!辞書で叩かれるどころか土に埋められちゃう!」

「安心しろ。7年も経てば復活できるから。」

「俺は蝉かよっ!?」

 

グレン先生にとんだ誤解をされてしまった俺達は顔が真っ赤になった。そんな事したらシスティーナが鬼の形相で突撃してくるだろうが…。

 

「せ、先生…どうしてここに…?」

「そりゃこっちの台詞だ。生徒による魔術実験室の個人使用は禁止のはずだろ?」

「ご、ごめんなさい!実は私、法陣が苦手で最近授業についていけなくて…それでどうしても法陣の復習がしたかったんです。」

 

誤解しているグレン先生にルミアが事情を説明した。

 

「天使のような…実際天使な顔してとんだやんちゃだなお前…。」

「ごめんなさい、すぐに片付けます!後でどんなお叱りでも受けますから!」

 

ルミアはそう言って、片付けに取り掛かろうとするが…

 

「いーよ。最後までやっちまいな。」

「「え…?」」

 

グレン先生がそう言って魔力円環陣をするよう促した。

 

「ってか、もうほぼ完成状態じゃねぇか。ここへ来て崩すのは勿体ねーだろ?」

「それが、どうにも成功しなくて…。教科書通りに法陣を形成したんですけど…。」

 

グレン先生曰く、この法陣はほぼ完成状態らしい。だけど、何故か起動しなかった。俺はそう言って教科書を見直し、再び不足している点を探っていると

 

「“水銀”が足りてねーだけだ。」

 

グレン先生はそう答えると、水銀の入った壺を持ち、法陣に水銀を引き直していく。どうやら原因は水銀不足で魔力が通っていなかった事らしい。

 

「ちょっと慣れた奴は水銀ケチろうとするんだ。それで断線が起こって魔力が通らなくなるんだ。」

 

なるほど…あの時、俺は水銀の使用は最小限に抑えようと考えてたから、断線の事をすっかり忘れてたな…。

グレン先生は壺を置いて手袋をはめると、綻んだ法陣を修繕していく。慣れた手つきだ…。

 

「お前達は、見えないものには神経質なのに、見えるものには疎かだよな…よほど魔術を神聖視してる証拠だな…。」

 

グレン先生はそう呟きながら法陣の修繕を終えた。

 

「すげぇ…あっと言う間だ…。」

「すごい…。」

「お世辞のつもりか?…まぁ、とりあえずもう一度やってみろ。教科書通りの五節詠唱だ。略すなよ?」

 

そう呟いた俺達に、グレン先生は手袋を外して言った。ルミアは修繕された法陣の前に立つと、再び教科書に書かれている五節のルーン語を詠唱した。

すると鈴鳴りと共に法陣に魔力が流れ、輝きを放った。

 

「わぁ…綺麗…。」

 

この魔力円環陣自体は、魔力を流して法陣を輝かせるだけの専ら練習用の魔術だが、法陣から放たれる輝きはとても幻想的な風景を創り出す。これを見てると、自然と昔を思い出す……あの日の事を…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ねぇ……魔術って、こんな人殺しのためにあるものなの…?」

 

「それは違うよ。魔術というのは、人の幸せのために存在する一つの可能性なんだ。」

 

「人の…幸せ…?」

 

「ああ。魔術も科学も、正しい使い方をすれば人の役に立てる。俺は魔術師じゃないけれど、そう信じてる。」

 

「…僕、なってみせるよ。皆を守るヒーローに…人の役に立つ魔術師に!」

 

「ふっ…そうか。それは良かった。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…マ……ト…マく…………トーマ君!」

「…はっ!」

 

過去を思い出していた俺は、ルミアの声で目を覚ました。しまった、法陣に見とれてうっかり現実逃避してしまった…。

 

「大丈夫か?ずっとポケーっとしてたぞ?」

「あ、はい…。」

 

グレン先生にも指摘された。そうか。俺、法陣展開した時からずっと上の空だったのか…。俺は気がつくと、右手にあの時計をずっと握りしめていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

実験室の片付けを終え、俺達は学院から下校した。修理し終えた時計をおやっさんのところへ届けるため、門のところでルミアとグレン先生と別れた。

時計屋へ向かう道中、俺は夕焼け空に浮かぶメルガリウスの天空城を視界に映した。考古学の魔術師達…それこそ、天空城に強い憧れを持つメルガリアンが目指す目標…。

 

「俺、頑張ってるよ……“セント”さん。」

 

俺はそこに向けて赤と青の時計をかざしながら、命の恩人の名を呟いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~翌日~

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は、すまんかった。」

 

朝のホームルーム、そこにはシスティーナの前で深く頭を下げて謝罪するグレン先生の姿があった。

 

「まぁ、その、なんだ…俺は魔術が大嫌いだが…その…筋が違うというか…極論過ぎたというか…その…とにかく、悪かった…。」

 

グレン先生は言葉が行き詰まりながらも、己の発言が極論すぎた事を謝罪した。

他の皆は何があったのか分からず、困惑してる様子。それもそのはず、いつも遅刻上等のグレン先生が授業開始前からいるのも理由だ。俺が理解出来る事としたら、グレン先生がルミアから何か聞いたのだろう。それによって、心境に変化が見られたのだろう。そうしてるうちに、チャイムが鳴った。

 

「じゃ、授業を始めるぞ。」

 

教壇に立ったグレン先生は、そう言って呪文学の教科書を手に取った。

 

「さてと…これが呪文学の教科書…だったっけ?」

 

そう呟いてグレン先生は教科書のページをめくる………が、めくった内容を見る度に表情が苦しくなっていく。やがてポンッと教科書を閉じると、窓に向かっていき…

 

 

 

\3! 2! 1!/

 

 

 

「ソイヤッ!」

 

祭並の掛け声を発しながら、教科書を外に向けてスパーキングした。前言撤回。心境に変化など全くなかった。

他の皆はやっぱりかという気持ちのまま、自習の準備をしていたそのとき、グレン先生は再び教壇に立った。

 

「さて、授業を始める前に一つ言っておく事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前らって本当に(バカ)だな。」

「「「「「「「はあああああああああ!?」」」」」」」

 

とんでもねぇ暴言吐いたよこの野郎ぉぉぉぉ!?初っぱなから某自称サイキョー妖精みたいな事言いやがったよ!?

 

「昨日までの11日間、お前らの授業態度を見てて分かったよ。お前らって魔術の事、なーんも分かっちゃねぇんだな。分かってたら呪文の共用誤訳の質問や魔術式の書き取りなんてアホな真似しねぇもんな。」

 

傲慢な態度をとるグレン先生。お前が言うなという雰囲気が漂う。

 

「【ショック・ボルト】“程度”の一節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね。」

 

眼鏡を掛けた青年・ギイブルが呆れながら言った。彼は錬金術が得意分野で、システィーナに続いてNo.2の優等生である。

 

「ま、それを言われると耳が痛い。俺は男に生まれた割には魔力操作の感覚と略式詠唱のセンスが致命的までになくてね。学生時代は苦労したぜ。けど【ショック・ボルト】“程度”って言った奴、やっぱりバカだわ。」

 

グレン先生の煽りに、クラスのメンバーの殆どが苛立つ。もはやいつ“「皆、鉄パイプは持ったな?行くぞぉ!!」”と突っ込んでいっても可笑しくなさそうな雰囲気だ………あれ、ここ○岸島だったっけ?

 

「まぁ、いいわ。じゃ、今日はその【ショック・ボルト】の呪文について話そうか。お前らにはこれでちょうどいいだろ。」

 

グレン先生はそう言うと、黒板に【ショック・ボルト】のルーン語を書いた。もちろん、『雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ』の三節でだ。

 

「さて、これが【ショック・ボルト】の基本詠唱た。ご存知の通り、センスある奴は『雷精の紫電よ』の一節詠唱が可能だ。じゃ、そこで問題だ。」

 

グレン先生はそう言うと、【ショック・ボルト】の三節詠唱の『紫電の』と『衝撃以て』の間で区切った。

 

「さて、これを“四節”にしたら何が起こるか当ててみな?」

 

グレン先生の問いかけには誰も答えない。それもそのはず、皆の間では【ショック・ボルト】の詠唱は『雷精の紫電よ』の一節詠唱という固定概念ができてしまったからだ。もちろん、一節で唱えられない俺やグレン先生はその限りじゃないが…。

 

「おいおい、まさかの全滅か?」

「その呪文はまともに発動しません。何かしらの形で失敗しますね。」

「んな事は分かってるんだよ。俺が言いたいのは、その失敗が何の形で起こるかだよ。」

 

ギイブルは失敗すると断言するが、グレン先生は失敗前提で、その失敗が何の形で起こるのか問いかけた。その言葉にギイブルは黙り込んだ……

 

「そんなのランダムに決まってますわ!」

 

代わりに、ちょっと高飛車なツインテールの少女・ウェンディが答えた。

 

「ブッハハハハ!…いや、ランダムって、ありえないだろ…!」

 

それを聞いてグレン先生は思わず腹を抱えて笑い出した。

 

「もういい。答えは“右に曲がる”だ。」

 

笑うのをやめたグレン先生は、そう答えを出すと、【ショック・ボルト】を四節で詠唱した。すると放たれた電線は黒板に当たる前に右に曲がり、出入り口側の壁に当たって消えた。俺も含め、皆は驚きを隠せなかった。

 

「ちなみに、ここをこうすると射程が落ちる。」

 

さらに続き、グレン先生は先程の四節詠唱の【ショック・ボルト】の『雷』と『精』の間で区切って五節にし、それを唱えると、射程が3分の1にまで落ちた。

 

「さらに一部を消すと、出力が極端に落ちる。」

 

そしてグレン先生は一旦、呪文の節を戻し、ルーン語の『の衝撃』の部分を消し、それを一人の男子生徒に向けて唱えたが、説明の通り何の影響もなかった。

 

「まぁ、これぐらい出来れば“究めた”って言ってもいいだろ。要するに、魔術式ってのは超高度な自己暗示っつーことだ。お前らはよく魔術は“世界の真理”を求めるものとか言ってるが、それは間違いだ。魔術っていうのはな、“人の心“を突き詰めるもんなんだよ。」

 

グレン先生は魔術の本当の在り方を答えた。人の心か…それを突き詰めるのが魔術という一つの術なのか…。

俺は魔術が何なのかを改めて納得したが、他の皆はそうじゃないらしい。魔術をあまりに神聖視し過ぎているために固定概念ができてしまったようだ。

 

「例を出すならそうだな……おい、そこの“白猫”。」

「し、白猫って私の事ですか!?」

「お前以外に誰がいる?」

「失礼ですよ!私にはシスティーナって名前が…」

「愛してる。実は一目見た時から、お前に惚れていた。」

「……な、なななな、何を言って…っ!?」

 

動物扱いされたシスティーナが論破しようとしたが、グレン先生の告白(嘘)で思考が混乱し、顔が真っ赤になっていた。

 

「はい注目ー。白猫の顔が真っ赤になりましたねー?見事に言葉如きが意識に影響を与えましたねー?比較的制御の効く表層意識ですらこうなるんだから、理性の効かない深層意識なんて…」

「トーマ、“工具箱”貸して。」

「え……ってちょい待てお前!」

 

グレン先生のウザい解説と周りからの視線に怒りと恥ずかしさが有頂天に達したシスティーナが、俺の席の下に置いておいた時計修理用の工具箱を奪った。もちろん、何をしでかすか察した俺はシスティーナを止める。

 

「それ俺の工具箱だぞ!?お前それぶっ壊したら弁償だぞ!?分かってんのか!?」

「そんなの知ったことじゃないわ!」

「ルミア、システィーナを抑えて!早く!」

「う、うん!システィ、落ち着いて!ね?」

「ちょっ、馬鹿!?教科書ならまだしも、工具投げつけるのだけはマジでやめろよ!?重傷待ったなしだから!いや教科書もだめだけど…!」

「うるさい!馬鹿はアンタよっ!この馬鹿馬鹿馬鹿ーーーっ!!」

 

ご乱心のシスティーナ。工具箱の投擲を阻止する俺。システィーナを宥めるルミア、そして教科書で防御態勢をとるグレン先生と、教室内はカオスな状況になった。

 

 

 

*良い子の皆は真似しないでね

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ルミアのおかげで何とか落ち着いたシスティーナ。はぁ…よかった…。工具箱ぶっ壊されたらおやっさん黙っちゃいないだろうからな…。

俺はほっと一安心すると、工具箱を再び席の下に置く。

 

「…まぁ、やっぱり魔術にも文法と公式みたいなのがあるんだよ。これを知らなきゃ上位の文法公式は理解不能、なんて基盤があるんだ。ま、俺が説明する事が出来るようになれば………『まぁ・とにかく・痺れろ』。」

 

グレン先生はそう解説すると、変なルーン語を唱えた。すると何故か適当な詠唱でも【ショック・ボルト】が起動した。

 

「あれ?思ったより威力弱いな…。まぁいっか、こんな風に即興で改変できるようになるぞ。大抵出力落ちるからおすすめはしないが。」

 

適当なルーン語でも起動できるのか…これが心を突き詰めた結果って訳か…。慣れた者ならば、それこそ適当に切り詰めて呪文を発動できそうだ。

 

「つー訳で、今日はお前らに【ショック・ボルト】を教材にした術式構造と呪文のド基礎を教えてやる。興味ない奴は寝てな。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ダメ講師、グレン覚醒。その知らせは瞬く間に学院中に広まり、グレン先生の授業に興味を持った他のクラスの生徒達も参加し、10日後にはなんと立ち見する生徒や講師も現れるようになった。あれだけ地に落ちていたグレン先生の評判はV字回復に至った。

さて現在、俺は授業を終えて学院から下校し、時計屋にいる。いつものように時計を修理している。

 

「よし、こんなところかな。おやっさーん、終わったぞ。」

「んー。まぁ、今日はこれくらいでいいぞ。帰りな。」

「へいへい、相変わらずの無愛想どうも。」

 

業務終了時間になったため、俺は工具を片付け始める。さて、さっさと着替えて帰るかな。

 

「そういや、お前んとこだけ明日だって?」

「ああ。ヒューイ先生の辞任の影響でこっちだけ授業遅れてるから、その穴埋めだとさ。」

「ふーん、何と言うか、波瀾万丈だな。お前の人生みたいに。」

「言ってくれんなよ…こっちだって苦労してるんだから…。」

 

俺はそんな会話を交わしながら、工具箱を持って更衣室へ行こうとすると

 

「トーマ。」

「ん?」

「明日…気をつけろよ。」

「気をつけろって…ただの補習だぜ?もしかして、俺が後のテストで落ちる事がか?」

「違う…俺の勘が感じるんだ。何か、とてつもない“陰謀”みたいなのがな。」

「“陰謀”…?」

 

俺はおやっさんのいう“陰謀”という単語に疑問を抱きながら、俺は着替えて時計屋を後にした。

明日に“何か”起こるのか…………気のせいだろ…。

 




ED[GHOST]



作者「うーん、また台風が来るとはなぁ…せめて休日に来ればいいのに…。」(FF14をプレイ中)
システィーナ「ちょっと紙鳥(作者のあだ名)!あんた編集さぼって何やってるのよ!?」
作者「見ての通り、FF14。」
セリカ「とうとうその有名どころに手を出したか作者。」
作者「あ、パパrげふんげふん…セリカさんじゃないてすか。」
システィーナ「今言いかけたよね?絶対某暁の人の名前言いかけたよね?」
セリカ「中の人的には間違いじゃないんだけどな…しかも黒魔だし。」
作者「まあそれはさておき、次回はようやくトーマをジオウに変身させられるよ。あいつ、張り切ってるし。」
システィーナ「せめて強化フォームは出して上げなさいよ。見てあれ。」
作者「?…あっ。」
真遊「…。」ゴゴゴゴゴゴ…
セリカ「あいつ誰だ…?少なくともさっきまでいなかったはず…。」(汗)
作者「……細かい事は後々話しますよ。」


NEXT→[ライダータイム]


作者「あとシスティーナ、“救急箱の用意”はしておいた方がいいぞ。」
システィーナ「え、それってどういう…」


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ライダータイム

ようやくトーマ君がジオウに変身します!


OP[Blow out]




*10/10 文章を追加


俺の視界…いや、俺から見た誰かの視界には、炎に包まれた街だった。その視点の人物には、俺が持っているのと同じ時計が装着されていた。だけど、形状が若干違い、カラーは金色。その体には黄金の鎧、時計が沢山付いたベルト、時計の針を模したマントが装着されており、あの二人の戦士とは違う存在だと分かった。顔の文字こそ黒い戦士と酷似していたが、『ライダー』の文字は鳥の“絵文字”のように凝った工夫がされていた。

炎から逃げ惑う人々、黄金の戦士はそこに向けて左手をかざす。

 

「『虚無へと帰せ(ビョルゼドバゲゲ)』。」

 

その戦士は、ルーン語ではない“何かの古代語”を一節詠唱した。次の瞬間、戦士の左手から謎の波動が放たれた。その波動は逃げ惑う人々を元素レベルにまで分解し、跡形もなく消し去った。

奴は戦士じゃない…あの時見た、“魔王”だ…!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はっ…!?」

 

俺はあの悪夢から覚めた。酷い夢だ…“二人の戦士の決闘”から…今度は“魔王による蹂躙”かよ……相変わらず縁起悪い…。

冷や汗だくだくの中、ベッドから体を起こした俺は、時計を手にとって時間を確認する。時計には10時22分を指していた…………………え?10時22分?確か、補習開始は10時半……

 

「しまった寝過ごしたぁぁ!?」

 

俺は現在時刻を見てベッドから飛び出し、急いで制服に着替える。大丈夫、教科書類はあらかじめ鞄に入れてある…!後は時計…ええい、時間がないから“まとめて”持ってっちゃえ!コンパクトだから目立ちはしねぇだろ!

俺は制服に着替えると、鞄を持ち、懐中時計が二つ付いた据え置き時計をまとめて鞄に入れる。そしてリビングのパン一つをくわえ、靴を履いて外に出ると、素早く施錠して学院に向けてダッシュする。

 

「畜生、そういえば今日は補習だから開始時間違うんだった!なんで寝る前に設定しなかったんだ俺はぁぁぁ!?」

 

俺は昨日の夜に目覚ましの設定をやり損ねた事を後悔しながら走る。このまま行けば間に合うか…?いや、教室に入るまでが間に合わない!

 

「路地裏行くか、このままじゃ遅れちゃう!」

 

普通に行ったら間に合わないと判断した俺は、通常の道から路地裏にルート変更する。この路地裏は俺が万が一遅刻しそうな時に利用する最短ルートだ。この路地裏にはチンピラがたむろっており、普通の人はまず通らない…普通の人ならな。

 

「『三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし』!」

 

俺は【グラビティ・コントロール】を三節詠唱し、自身の重力を軽くする。俺は高く飛び上がり、上の足場を利用してパルクールを行う。

 

「よっと!」

 

俺は着地すると、広場に出る。ここから全力ダッシュすれば、何とか間に合う…!

俺は路地裏を出て、広場を全力疾走しようとする。しかし…

 

「っ!?」

 

俺はある違和感に気づいて思わず足を止めた。

 

「妙だ…路地裏もそうだったけど…人が見当たらない…。」

 

俺は遅刻しそうな道中、一切人を見掛けていない事に気づいた。本来この時間帯なら、まだ出勤する人や買い物に行く人が見えるはずだ。それすら確認できない……おかしい………。

 

「朝寝坊か?」

「!」

 

俺は何者かの声を聞き、思わず背後へ振り返る。そこには赤黒いコートを羽織った一人の青年がいた。よかった…ようやく人を見掛けた…って、遅刻しそうな事忘れてた!

 

「あっ、はい!お恥ずかしながら…すみませんが、俺急いでるんで…!」

 

俺はそう言って礼をすると、学院に向けてダッシュしようとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

「『吼えよ炎獅子』。」

 

 

 

 

 

 

ドガァァン!

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

突然の詠唱の声と共に俺の横を火球が通り過ぎ、その先の地面を爆発でえぐりとった。これ…軍用魔術の【ブレイズ・バースト】だよな…?しかもこの声、さっきの人じゃ…。

俺はもう一度後ろを振り返ったが、【ブレイズ・バースト】を放ったのはあの男で間違いない。しかも左手を構えている辺り、俺を本気で殺そうとしているようだ…!

 

「行かせると思うか?お前の行き先は地獄だ。悪く思え。」

「っ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「遅いっ!!」

 

もう聞き慣れたであろう怒号が教室内に響いた。システィーナだ。現在の時刻は10時50分。開始から20分経過している。

 

「あいつったら… 少し見直してやったら、これなんだから!もう!」

「でも、珍しいよね?最近、グレン先生、ずっと遅刻しないで頑張っていたのに。」

「あいつ、まさか今日が休校日だと勘違いしてるじゃないでしょうね?おまけにトーマもいないし…。」

「流石にグレン先生やトーマ君でもそんなことは…ない、よね?」

 

20分経っても、未だにグレンやトーマが現れる気配はない。皆は補習の事を忘れてるか、もしくは遅刻してるかと考えていた……あの二人が……命の危機に陥ってるとも知らずに…。

そう考えている内に、奥から足音が聞こえてきた。二人が廊下を歩く音…否、二人にしては妙に数が多い。

そうとは知らず、皆はグレンとトーマがようやく到着したのだと勘違いしていた。そして扉が開き…

 

「やっと来たわね…!先生、それにトーマ!二人して遅刻って何考えて………え?」

 

遅れてやってきたグレンとトーマに、システィーナはまた説教しようとした。しかし教室に入ってきたのはあの二人ではなく、チンピラみたいな格好の男とダークコートの男、そして赤いストールに魔術触媒を詰めたチェストリグを着けている青年が入ってきた。

 

「いやー、勉強熱心ご苦労様ー!がんばれ若人!」

 

チンピラ男は妙に高いテンションで言った。

 

「貴方達は何者なんですか?ここは部外者は立ち入り禁止ですよ?」

 

システィーナは席を立つと、謎の三人組のもとへ近づきながら警告する。すると

 

「ふんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

ベシィッ!

 

 

 

「きゃっ…!?」

「システィ!?」

 

突然、赤ストールの青年が道を遮るや否や、システィーナを回し蹴りで弾き飛ばし、壁に叩きつけた。強打したシスティーナにルミアが駆け寄った。

 

「下手に近づくんじゃねぇよ、アバズレ。」

「っ…!」

 

青年は余裕と残忍をもった凶悪な表情でシスティーナを威圧する。蹴られたシスティーナも反撃したいところだが、恐怖心で立ち上がれない。

 

「ちょっとちょっと~“エリック”君、ダメじゃないか女の子には優しく接しないと。」

「知ったこっちゃないな。俺は真の男女平等主義者なんでな。」

 

チンピラ男にエリックと呼ばれた青年。“真の男女平等主義者”を自称しているが、その思考は実際邪悪だ。

 

「まぁ、質問には答えてあげないとね。オレ達は“テロリスト”ってやつかな?女王陛下サマに喧嘩売るコワーイお兄さん達って訳。」

 

チンピラ男の言葉にクラス全体でどよめきが起こる。

 

「テロリスト…!?ふざけないで!それならこの学院に入れるはずが…!」

「入れてるからこの状況になってんじゃねぇか。魔術学会で多忙とはいえ、本っ当にあんな守りだけとはな…この国も世紀末待ったなしだな。」

 

魔術学院の守備が貧弱だと愚痴るエリック。魔術学院の護衛達は戦闘訓練を積んだ者達だ。そして学院を覆う結界は超一流の魔術師でさえ破るのは困難な代物。だがテロリスト達は、それをあっさり突破したのだ。皆が驚きを隠せないのも無理はない。

 

「…っ!…それ以上ふざけた態度を取るなら、貴方達を気絶させて警備官に引き渡します!それが嫌なら今すぐこの学院から出ていって下さい!」

 

驚きを隠せずとも、フィーベル家の誇りを胸に、それでも警告を言い渡すシスティーナ。

 

「ふーん…だとさ。」

「いやーん!オレ達つかまっちゃうの~?」

 

つまんなさそうに流すエリック、ワザとらしい演技をするチンピラ男。そして未だに動じないコートの男。三人組は逃げる気はない…それどころか余裕すら感じとれる。

 

「警告しましたからね…。『雷精の…』」

「『ズドン』。」

「『氷狼よ』。」

 

システィーナが詠唱する前に、チンピラ男が放った電撃と、エリックが放った氷の弾丸がシスティーナの横を通り過ぎ、壁を“貫通”した。

 

「今の…【ライトニング・ピアス】と…【アイス・ブリザード】…!?」

 

システィーナの言う通り、先程放たれた呪文は軍用魔術に分類する攻性呪文(アサルト・スペル)、【ライトニング・ピアス】と【アイス・ブリザード】だ。【ライトニング・ピアス】は一見【ショック・ボルト】と似ているが、性能はそれよりも完全上位版。感電死させることなど容易い殺傷力の高い魔術だ。そして【アイス・ブリザード】も、相手を凍結させて雹で粉砕する冷酷な魔術だ。これに対抗するには同じ攻性呪文(アサルト・スペル)しかない。それを覚えている学生などいない。殺傷力が高いために学生に習得させるのは禁じられているからだ。しかも二人はそんな殺傷力の強い魔術の詠唱をここまで切り詰めている。勝率は0どころか、もはやマイナスの領域に達する。

 

「抵抗したら、次は殺すからね。」

「跪け、ザコ虫。」

 

チンピラ男とエリックの脅しで完全に無力化されたシスティーナ。

 

「「「「「きゃああああああ!!」」」」」

「「「「「うわああああああああ!!」」」」」

 

当然、パニックになる生徒達。生徒達は一目散に逃げようと出口を目指そうとする。

 

「エリック。」

「承知。」

 

コートの男に言われたエリックは、【アイス・ブリザード】を放った時にも使った銃を、今度は天井に向ける。

 

「『雷帝よ』。」

 

 

 

 

 

バチィィィィィッ!!

 

 

 

 

 

 

エリックの放った【ライトニング・ピアス】が響き、この音でパニックになった生徒達が一斉に静まり返った。 

 

「喧しいんだよ、クズ共が。ミンチにされたいのか?」

 

エリックの威圧感に怯む生徒達…逆らったら殺される…その恐怖感に煽られてしまう。

 

「さて、一つ聞きたいんだけど、ここにルミアちゃんって子はいるかな?」

 

チンピラ男はルミアの名を口にした。三人組の目的はルミアらしい。

 

「君がルミアちゃんかな?」

「ち、違います…!」

 

チンピラ男はまず近くにいたリンに質問した。

 

「じゃあ、誰がルミアちゃんか知ってるかな?」

「し、知りません…!」

 

ルミアの事を売る気はないリン。そこへエリックが銃を突きつけた。

 

「ひっ…!」

「俺が痛めつけて吐かせてやる…。」

 

今にもリンを殺さんと脅しをかけるエリック。

 

「あ、貴方達…ルミアって子をどうするつもり…!?」

「ん?お前、ルミアちゃんを知ってるの?それとも君がルミアちゃんなの?」

「質問に答えなさい!」

「うぜぇよ、お前。」

 

システィーナは震える心に鞭を打つが、それが空回りした。チンピラ男は【ライトニング・ピアス】を放つべく左手を構える。

 

「もういい。お前から殺…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がルミアです。」

「!?」

「…へぇ。」

 

システィーナのピンチに、ついにルミアは自ら名乗り出た。その途端、チンピラ男は構えるのをやめ、ルミアの前に立った。

 

「へぇ…君がルミアちゃんか……前から知ってたけどね。」

「!?…じゃあどうして、最初から私を…。」

「そりゃ、君が名乗り出なかったら、無関係の人をオレとエリック君で一人ずつ殺しちゃうゲームにするつもりだったからさ。まあ、君が名乗り出てくれたおかげで殺る気なくなったから安心しな!」

「…外道…!」

 

チンピラ男の言葉に、普段は見せない怒りを露にするルミア。

 

「ジン、エリック。お前達は第二段階に移れ。私はこの娘をあの男に送り届ける。」

「え~?やっぱこいつらに【スペル・シール】かけるんですか~?こいつらが束になったところでオレ達に勝てる訳ないのに…。」

「それが当初の計画だ。手筈通りやれ。」

「へいへーい。」

「…了解。」

 

ジンと呼ばれた男とエリックは渋々了承した。

 

「ご足労、願えるかな?ルミア嬢。」

「拒否権はないんですよね…?」

「理解が早くて助かる。」

「…少し、彼女と話をさせて下さいませんか?」

「…妙な真似だけはするなよ?」

 

ルミアはレイクから許可をもらうと、システィーナのもとに近づく。

 

「…行ってくるね、システィ。」

「…ダメよ…ルミア…!」

 

システィーナは震えて上手く喋れないがそれでもルミアには伝わっていた。

 

「大丈夫。グレン先生やトーマ君がきっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、グレンという男なら、オレの仲間が殺したぜ?」

「「!?」」

 

ルミアの言葉を、ジンが遮って言った。

 

「それに、トーマという奴も、今ごろ俺の兄貴が殺しにかかってるだろうよ。」

「っ!?」

「…そんな…。」

 

エリックも続けていった。震えて恐怖心を募らせるシスティーナ、顔が青ざめたルミア。それはクラスの皆も同じだった。望みは…絶たれたのだ。

 

「さぁ来い。」

 

レイクはルミアに連行を促すと、ルミアを連れて教室を後にしようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うわああっ!?」

 

俺は目の前にいる男の攻性呪文(アサルト・スペル)を受けて吹っ飛ばされた。既に何発か喰らっており、制服はボロボロ、体中傷だらけ。くそ…おやっさんが言ってた陰謀ってこのことか…!

 

「やはり学生程度じゃ、こんなものか。」

「っ…!」

 

まずい…!ダメージで思うように体が動かない…!このままだと…!

 

「『雷精よ・紫電の…』」

「『吼えよ炎獅子』。」

「っ!うわああああああ!!」

 

俺は【ショック・ボルト】を詠唱するが、その前に【ブレイズ・バースト】をもろに受け、そのまま吹き飛ばされてしまった。その際、俺のポケットから赤青の時計が地面に落ちた。

 

「あ…!」

 

俺が落ちた時計を拾おうとするが、それより先にリドリーが時計を拾った。

 

「この時計…間違いない。例の“連中”がいってた“ライドウォッチ”か…。」

「“ライドウォッチ”…?」

「お前がこれをどこで手に入れたかは察してる。“お前を助けた男”からもらったのだろう?」

「なぜ…それを…!?」

「まだ思い出せないか、覚えていないのか?俺達はあの日、お前のいた孤児院を襲い、最後の生き残りであるお前だけは取り逃がした。“あの男”の妨害で…。」

「っ!?」

 

俺がもつ時計を“ライドウォッチ”と呼称する男。そして真実を聞いて驚愕する俺………取り逃がした…生き残り…?………………っ!思い出した…こいつ、襲撃の際にもいた…!それに、コートに刻まれた“短剣に絡み付く蛇のマーク”は…!

 

「“天の智慧研究会”…そうか…!お前…“あの時”の…!」

「今更思い出したか。俺の名はリドリー。天の智慧研究会に所属する外道魔術師だ。だが知ったところでもう遅い。前は逃がしたが、今度は必ず仕留める…!」

「ぐあっ…!」

 

俺は男の正体が孤児院を襲撃した奴と分かるや否や、リドリーに踏みつけられる…畜生、俺は…ここで…死ぬのか…!?

 

「安心しろ、お前のところの先生もクラスメートも、今頃“弟”が殺しているだろう。だからここで果てるがいい。」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが進む音が聞こえてきた。心臓の鼓動と時計の針が進む音だ。それと共に再び黒い戦士と赤い戦士、そして黄金の魔王の幻覚を見る。

悪夢で見たあの“黄金の魔王”…………俺は“魔王”なんかになりたくはない。そう思っていた。だけど、目の前には邪悪な存在がいる。それに、もしここで抵抗しないと…皆が殺されてしまう…ならば、殺られる前に殺る…………それが仁義だ…!

 

「黙れ…!」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙りやがれぇぇぇぇ!!」

「っ!?」

 

俺は力の限り、リドリーを弾き飛ばした。

 

「ここで死んでたまるか…!お前らみたいな外道なんかに、二度も居場所を…失ってたまるか!!」

 

その瞬間、俺の頭にある行動がよぎった。二人の戦士はあの据え置き時計を腰に巻いていた…あの夢が、本当に起こりえる事なら…!

俺は本能のままに落ちた鞄から白黒の懐中時計と据え置き時計を取り出すと、据え置き時計を腰に当てた。

 

『ジクウドライバー!』

 

すると時計から謎の声が聞こえると共に、時計からベルトが展開され、俺の腰に固定された。“ジクウドライバー”…それがこの時計の本来の名称か…!

 

「!?…そのベルト…まさか…!?」

 

リドリーは何か見覚えのある発言をするが、俺は気にせず白黒の時計のカバーを回転させる。すると白黒の時計にあの“黒い戦士”の顔が映った。俺は時計のボタンを押す。

 

『ジオウ!』

 

俺は時計…ジオウライドウォッチをドライバーの右側へ装填する。ドライバーに右の矢印が表示された後、俺はドライバー上部のボタンを押してロックを解除する。時計の針の音と共に、待機音が流れる。そして背後には時計のエフェクトが展開され、針が進んでいく。知らない内に持っていたドライバー、そしてライドウォッチ…そうか…俺は生まれた時から、運命は決まってたんだな…!ならば、なってやるよ!“黒い戦士”……ジオウに!

 

「変身!」

 

俺はそう叫ぶと、ドライバーを一回転させた。するとドライバーに流れるように【ZI-O】と表示された。その瞬間、背後の時計の針が一旦12時を差すと、すぐに針は10時10分を差した。

 

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

音声と共に時計に『ライダー』というカタカナが表示され、俺の周りに多数の銀色のリングが展開、俺の体に時計を模したアーマーが装着された。そして浮遊した『ライダー』のカタカナがマスクにくっつき、変身が完了した。

黒をベースに所々にピンクの部分があり、ドライバーに表示された【2018】という数字。そして何より時計の意匠がある姿…間違いない。俺は今、悪夢で見た黒い戦士になったんだ…仮面ライダージオウに!

 

「刻むぜ、時空のビート!」

 

俺はそう言うと、リドリーに向かって駆け出す。

 

「その姿…間違いない、お前は…!」

「はあっ!」

「ぐうっ!?」

 

ごちゃごちゃ喋っているリドリーに、俺はパンチをお見舞いした。すごい…変身したらこんなに力が溢れてくるのか…!

 

「くっ…『吼えよ…』」

「『時の流動よ』。」

「なっ…!?」

 

俺はリドリーが【ブレイズ・バースト】を放つ前に、【タイム・アクセラレイト】を一節詠唱し、リドリーとの距離を詰める。【タイム・アクセラレイト】は俺が最も得意とする魔術。魔術が苦手な俺がこれを一節で詠唱する事ができるのは、俺の魔術特性故だ。

 

「うおおおおおおおおおっ!はああっ!」

「ぐはっ…!?」

 

効果が持続するまで、リドリーに猛ラッシュを叩き込み、アッパーカットで吹っ飛ばした。そこで【タイム・アクセラレイト】の効果が切れた。

 

「…【タイム・アクセラレイト】の効果が切れればこっちのものだ…!『吼えよ炎獅子』!」

 

リドリーは隙を見て【ブレイズ・バースト】を唱えた。そう、【タイム・アクセラレイト】は一度効果が切れるとその加速した時間だけ減速してしまうデメリットがある。故に使い手が非常に少ない。俺は自分が加速していられる最大限の時間である10秒間加速した。だから今度は10秒間遅くなる…はずだった。

 

「ふっ…!」

「何!?」

 

だが、減速しているはずの俺は【ブレイズ・バースト】を難なく避ける事ができた。もしかして…“変身してる間”は【タイム・アクセラレイト】のデメリットが消えるのか…?いける…これなら、行ける気がする!

 

「ふっ! はっ! とりゃ!」

「ぐああっ!?」

 

俺はさらに格闘を叩き込み、リドリーを怯ませる。さあ、これで決める!

 

「タイムリミットだ、決めるぜ!」

 

俺はドライバーに装着されたジオウウォッチのボタンを押す。

 

『フィニッシュタイム!』

 

そして再びドライバーのロックを解除し、もう一度一回転させる。

 

『タイムブレーク!』

「はあああああああああ…!」

 

俺は右足にエネルギーを溜めながらリドリーに向かって駆け出し、途中で高くジャンプする。その際、地面には時計のようなエフェクトが表示され、長い針が短い針に向かって進んでいる。その先には、リドリーだ。

 

「とりゃああああああ!!」

「ぐあっ…!」

 

俺の飛び蹴りがリドリーに命中したその瞬間、時が止まった。俺は着地して確認すると、リドリーが吹っ飛ばされた状態のまま停止しているのが分かった。そして時計を模したエフェクトは、もうすぐ長い針が短い針にたどり着く。そして

 

「タイムアップ。」

 

俺がそう告げると共に、長い針が到達した瞬間、再び時が動き出した。

 

「…ぁあああああああああああ!!」

 

断末魔と共にふっ飛ばされたリドリーが地面に落下した瞬間、その地点で爆発が起こった。俺は確認しに行くと、そこには横たわって動かなくなったリドリーの姿があった。俺はリドリーの脈の有無を確認する………まだ体温はあるし、脈もある…大ダメージで気絶しただけだな。

 

「こいつは返してもらうぞ。」

 

俺は気絶しているリドリーにそう言って赤青のライドウォッチを取り返した………って、こんな事で道草食ってる場合じゃない!皆のところへ行かないと…!

気絶したリドリーを放置した俺は、素早く移動できる手段を考えていると、左腕のホルダーにある一つのライドウォッチに目がいく。

 

「…『バイク』?…何だろう?」

 

俺は左腕についたバイクライドウォッチを取り外すと、ボタンを押す。

 

「え?…あれ?」

 

突然、バイクウォッチが独りでに浮遊。すると巨大化・変形していき、やがて時計からバイク・“ライドストライカー”に変形完了した。時計モチーフで正面はジオウの顔を模しており、前輪には『カメン』、後輪には『バイク』と描かれている。

 

「ええええ!?何これ!?」

 

俺は時計がバイクという乗り物に変形してしまった事に驚きを隠せない。何だこの乗り物!?見た事ないぞ!?

 

「乗れるのか…これ…?」

 

俺は恐る恐るバイクに跨がると、両方のハンドルを握る。唯一の運転経験はおやっさんから借りた馬車だけだ…いけるか…?

 

「よし、いくぞ…!」

 

俺はバイクのハンドルを回す。

 

「うおおおおおおおおおっ!?」

 

するとバイクは急発進し、もの凄い加速で街道を突っ走っていく………

す、すげぇ速ぃぃぃ!?馬車の比じゃねーぞこれぇ!?

俺はあまりのスピードに運転がもたつく。だが次第に何故か運転方法が頭によぎり、運転が安定していく……何だろう?また変なビジョンと共に自然と運転が安定する……。

 

「これなら早く辿りつくかも…!」

 

俺はフルスロットルで街道を駆け抜け、魔術学院へ急ぐ。待っててくれよ、皆。必ず助けるからな!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方、二組の教室内ではエリックが生徒達を【スペル・シール】で無力化した後、監視を続けていた。

 

「はぁ…レイクの旦那はルミアをあの男に受け渡し、ジンは“銀髪のアバズレ”を連れてお楽しみ、俺は監視……はぁ、こうも余裕過ぎるとフラストレーションが溜まって仕方ねぇ…。」

 

エリックが監視をしながら愚痴を溢した。ジンが教室内にいないのは、システィーナを別の場所に連行していったからだ。

 

「じゃあ、俺も暇潰しといこうか。」

 

エリックはそう呟くと、カッシュのもとへと近づく。

 

「お前…何する気だ…?」

「ルミアって奴が自ら名乗り出ちまったせいで、俺はさっきからつまらねぇと感じてたんだよ。だから……よぉ!」

「ぐあっ…!?」

 

エリックは先程の事を愚痴りながら、カッシュを蹴り上げた。

 

「っ…何を…!?」

「この行為で分かるだろ?お前らまとめてサンドバッグにしてやるってことさ。」

 

エリックは残虐な笑みを浮かべてそう告げた。

 

「そんな…このまま監視し続けるんじゃなかったのかい!?」

「はぁ?何言ってるんだ?俺は最初からお前らクズ共は“駆逐”してやるって決めてんだよ。」

「っ!?」

 

小柄な少年・セシルはエリックの暴言で怯む。それは皆も同じだ。

 

「俺は任務に出たら一人二人は殺しておかないと気が済まねえ性格なんでな…お前らは拷問し尽くした上で惨たらしく殺してやるよ!」

 

エリックはそう言うと、生徒達を手当たり次第に殴り始めた。男女関係なく、身動きが取れない者達を一方的に棒で叩く…悲鳴と絶望が教室内に響く…!

 

「こ、こんな事が…許されると思っていますの!?」

「あぁ、そうだよ。」

 

 

 

 

ベキィッ!!

 

 

 

 

 

痛みに悶えるウェンディを蹴り飛ばし…

 

「君は…それでもなのか…!?」

「俺はただの人間を越えた存在だよ。それはお前らも同じだ。」

 

 

 

 

ドコォッ!!

 

 

 

 

エリックの人間性を疑うギイブルを“自身は化け物”と答えて膝蹴りを叩き込み…

 

「やめて……殺さないで…!」

「断る。お前含めて拷問し尽くして“あの世”行きにしてやるよ!」

 

 

 

 

バキィッ!

 

 

 

恐怖に震えるリンを掴み上げて殴り飛ばした。

 

「くっはっはっはっは…!楽しいぜ…やべぇよぉ!兄貴と一緒に孤児院のガキ共を殺しまくった過去が懐かしいぜ!はっはっはっは!!」

 

エリックは狂った高笑いを上げながら、孤児院を襲撃した過去を語った……それは、小さい頃のトーマがいたあの孤児院のことだろう…。

 

「よかったなぁ、お前らも“トーマ”と同じあの世へ行けるぞ?」

「っ…?何故、トーマの事を…知ってる…!?」

「決まってんだろ?俺と兄貴達は昔、“トーマ”って奴がいた孤児院を襲撃した事があってだなぁ、そこのガキ共や神父達を殺しまくってたからだ!」

「っ!?」

 

カッシュはエリックから聞いたトーマの過去に驚愕した。それは他の皆も同じだ。

 

「まぁ、あの時は“天才物理学者とかほざくカラフル野郎”の妨害にあったが、今度はしっかり兄貴が仕留めてるさ。」

 

エリックの言葉に皆は深い絶望を感じた……グレンも、トーマも殺された…もう、望みはないと…。

 

「遊びは終わりだ。そろそろ解体に入るか…!」

 

エリックはそういって銃を構え、生徒達を一人一人殺害しようとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォンブォン! パリィィィィィン!!

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

突然、甲高いエンジン音と共に、何者かが窓ガラスを砕いて教室内に侵入してきた。それこそ、ジオウに変身したトーマだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「死んでる…。」

 

魔術学院に到着した俺は、その門で門番の亡骸を見て呟いた……やっぱり学院にテロリストが侵入したようだ…早く皆のもとに向かわないと…!

俺は学院の門を通過しようとする。

 

「っ!?」

 

しかし、学院の結界は侵入を拒むかのように俺を弾き返してしまった。どうしてだ…?確かに学院の結界は超一流の魔術師でさえ突破困難な強固なものだ。学生や講師、門番といった学院関係者なら通過可能だ…にも関わらず、入れないという事は…

 

「まさか…裏切り者がいるのか…?」

 

俺は学院内に裏切り者がいる事を想定した。結界の設定にはそれこそ腕の立つ超一流の魔術師しか出来ない。それが今回の襲撃のために変更されているという事は、学院内に裏切った奴がいるとしか考えられない。テロリストが何かしら魔道具を用いて侵入したとなれば、リドリーが何か持っている可能性があっただろう。だが先を急いでいたために、取りに戻る時間はない…。

 

「……誰もいないな…?」

 

ならば手段は選んでいられない。こうなったら結界に穴を開ける呪文を放つしかない。それこそ、俺が隠している魔術で…。

俺は周囲に誰もいない事を確認すると、門から下がり、左手を構える。

 

「『剛き空神よ・虚空を斬り裂き・道を拓け』!」

 

呪文を唱えた俺は、前方形成された魔法陣に手刀を振り下ろした。次の瞬間、魔法陣から魔力で出来た三日月上の刃が発射された。その刃は結界に命中すると、強固であるはずの結界に人ひとり入れる裂け目を開けた。

【ヴォイド・ディバイダー】…C級攻性呪文(アサルト・スペル)に分類される軍用魔術で、本来軍用魔術は本来は学生に習得させることは禁止されている。だが俺が【ヴォイド・ディバイダー】を使えるのには訳がある。それこそ、あの悪夢でジオウがこの呪文を放つのを見たからだ。そして俺の魔術特性とこの呪文の相性がよかったから、俺はこの呪文が使えた。だが軍用魔術のため、これを使ったら怪しまれるに違いない…ジオウに変身してる時点で手遅れだけど。

結界に裂け目を入れた俺は再びライドストライカーに乗って学院に入ると、広場のところで停車する。そしてバイクから降りようとしたその時

 

「ん?…あれは…っ!?」

 

ちょうど自分の教室が見えるところから教室の窓を見てみると、そこには女子生徒の一人が何者かに拷問されているのが見えた……まさか、皆があの野郎に拷問されてるんじゃ…!?

どうすればいい…!?正面から行ったら他のテロリストと鉢合わせするのはまだいい…それだと間に合わずに死人が出る…!

 

「昇降口からじゃ間に合わない…!どうすれば…………!」

 

俺は苦悩していたその時、あるものを見つける。それは、教室の窓から見える隆起した岩だ。あの場所にある岩は殺風景らしく、後に岩を取り除いて花壇を設置する予定らしい………っ!そうだ、あの岩と【グラビティ・コントロール】を使えば……!

 

「一か八かだ!」

 

俺は岩のある場所へ向かうと、バイクを後退させて助走距離を取る。失敗すればこっちの存在がバレて一人ずつ処刑が始まる……落ち着け俺…!俺は出来る…!

 

「行くぞ…!」

 

俺はバイクを発進させると、さらに急加速させる……まだまだまだまだ………ここだ!

 

「『三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし』!」

 

俺はここぞのタイミングで【グラビティ・コントロール】を発動。そして最大限加速させたライドストライカーは岩を利用して大ジャンプ。俺はそのまま窓ガラスを砕き、教室に侵入。

 

「っ!?うわっ!?」

 

そして拷問を行っていたテロリストに突進。吹き飛ばした…成功だ…!

 

「っ…お前、何者だ…!?」

 

テロリストは立ち上がると、殺意を込み上げながら言ってきた。俺はライドストライカーから降りると、テロリストの顔を見る…………あいつは……そうだ、あいつは孤児院襲撃の際、さっき戦った男・リドリーと一緒にいたやつだ…!名前は確か……“エリック”だったな。

 

「よぉ…数年ぶりだな、エリック。」

「お前…何故俺の名を…!?」

「そうだな……“孤児院の最後の生き残り”って言えば察しがつくか?」

「っ!?…まさか、トーマ=ホロロギウムか!?馬鹿な…兄貴が殺したはず…!」

「もちろん返り討ちにしたよ。お前の兄貴を。」

 

俺がリドリーを倒した事を告げると、テロリストの青年・エリックは青筋を立てた。

 

「トーマ…。」

「カッシュ、無事…か…!?」

 

俺はカッシュの声を聞いて振り向くが、その状態を見て思わず絶句した。体中、打撲による怪我が見られ、口が切れて血が出ている。それはカッシュだけじゃない。ギイブル、ウェンディ、セシル、リンも、他の皆も同じ状態だ……。

 

「……お前…皆に何しやがった!?」

「決まってんだろ?拷問を行ってたんだよ。」

 

俺はエリックの話を聞いて頭に血が昇る…“拷問”…?俺が学院に向かってる間にクラスの皆を痛めつけてたのか…!?許さねぇ……!昔と同じ惨劇を繰り返そうとする外道め…!

 

「孤児院の皆を虐殺して、今度はクラスの皆まで……絶対に許さない…!」

「はっ、許さなくて結構だ。兄貴の仇は取らせてもらうぞ!」

 

エリックはそう言ってホルスターの銃を手に取る……武器を使うのか…。あの夢が本当なら、ジオウも武器があったはずだ…こっちにも武器を…!

俺がそう考えていた時、右手に時計のエフェクトが発生した。

 

『ジカンギレード!』

 

そして俺の右手にジカンギレードという剣が召喚された。腕時計を模した柄に黒いグリップ、時計の針のような刀身に『ケン』というカタカナ、そしてライドウォッチが取り付けられるボタン付きのスロット……あっちが得物を使うんだからいいよな?それに、カッシュ達を痛めつけた“礼”は倍返ししないとな…!

 

「それはこっちの台詞だ!」

「ほざけ! 『雷帝よ』!」

 

エリックは銃を構えると、そこから【ライトニング・ピアス】を発射した。どうやらあの銃は魔術の詠唱を補助する機能が組み込まれているようだ。

 

「はっ! てやっ!」

 

俺は負傷している皆に考慮し、放たれた【ライトニング・ピアス】を天井に向けて逸らしていく。

 

「なっ!?…『雷帝よ』!『雷帝よ』!『雷…』」

「はあっ!」

「ぐわああああっ!?」

 

俺は【ライトニング・ピアス】を逸らしながらエリックに近づき、そして剣で斬りつけると共に、銃を破壊した。

 

「俺の銃が…!?てめぇ!」

 

エリックは怒りで我を忘れて突撃してきた。キレたいのは、こっちの方だ…!

俺はジカンギレードを手放すと、エリックの拳を掴んでそのまま固めて動きを封じる。

 

「安心しろ、お前の兄は殺してない。気絶させただけだ。」

「…?」

「だから眠ってろ…!このド外道がっ!」

「っ!……ぐふっ…!」

 

俺はリドリーは殺していない事を告げると、そのまま扉まで蹴り飛ばした。エリックは魔術による施錠を施されてたであろう扉を突き破り、そのまま気を失った……こいつはクラスの皆を痛めつけた…直感では惨たらしく殺そうと考えてたが、ここで人を殺す光景を見せたら、皆が怖がってしまう。だから気絶させる事に思い留まった。

 

「殺さないだけ、慈悲深いと思えよ…。」

 

俺は気絶したエリックにそう呟くと、ドライバーに装着されているジオウウォッチを取り外す。するとアーマーが粒子化して変身が解かれた。

 

「皆、遅れてごめん。」

 

俺は怯えているであろう皆の方を振り向き、笑顔でそう言った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

俺は拘束された皆を解放すると、教室に設置された救急箱で応急処置を行った。本当なら【ライフ・アップ】を唱えたいが、一部を除いて魔術が苦手な俺が全員を治癒するには時間がかかる上に、全員に【ライフ・アップ】をかけるだけの膨大な魔力も持っていない。そして案の定、クラスの全員に【スペル・シール】が付与されていたらしく、この場には俺しか魔術を行使できる者はいない。

ちなみにエリックには逆に【スペル・シール】と【マジックロープ】を掛けておき、がっちりと無力化してやった。

 

「トーマ、お前が無事でよかった…。」

「いや、皆を助けられただけで本当によかった…ところで、ルミアとシスティーナ、それからグレン先生は…?」

 

俺はここにいない三人の場所を聞く。

 

「ルミアはレイクというコートを着た男、システィーナはジンというチンピラ男に連れていかれて、グレン先生は…。」

 

セシルは二人がどこに連れていかれたか説明するが、グレン先生の場合は答えなかった…。

 

「…そうか。」

 

俺は話を理解すると、ライドストライカーを再び時計状態に戻し、教室から出ようとする。

 

「なぁトーマ、何処行く気だ…!?」

「決まってるだろ?二人を助けにいく。」

「無謀だよ。相手は学院の守備を軽々突破したテロリスト達だ…返り討ちに遭うに決まってる…。」

 

カッシュにそう答えるが、冷静なギイブルはテロリストに敵うはずがないと言った……そんな事分かってるさ…だけど…こうしてる間にも二人は助けを求めてる…だから行かないと…!

 

「そんな事、百も承知さ。けど二人を見捨てたら、きっと後悔する…!」

「…。」

 

俺はジクウドライバーを見つめながらそう言った。これはいつの間にか持ってたけど、こんな力があるとは思いもしなかった。だからこれは皆のために使う…!

 

「…無事に二人を助け出せよ、トーマ。」

「ああ…行ってくるぜ。」

 

カッシュや皆にそう言うと、俺は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その際、セントさんからもらったライドウォッチが“一瞬だけ光った”のは、この時の俺は知らなかった。

 




ED[GHOST]



トーマ「刻むぜ、時空のビート!」
三人「「「…。」」」
トーマ「どうしたの?」
グレン「いや、何というか…ジオウの決め台詞そんなんじゃなかった気が…。」
トーマ「ああ、これはオリジナルの決め台詞なんですよ。原作の台詞は某詩吟芸人のネタっぽくて…。」
システィーナ「でもその響きだとジョ◯ョとほぼ同じよ。」
トーマ「じゃあお前が考えてみろよ。」
システィーナ「え?えーと…“私が世界のr”」
トーマ「アウトだよそれはぁぁぁ!?」


NEXT→[創造のベストマッチ]


ルミア「…もっと突っ込むところあると思うけど…。」


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創造のベストマッチ

今回の話でジオウ本編との違いが分かります。
詳しい詳細は後に設定集を投稿します。

OP[Blow out]


俺は教室を後にすると、ルミアとシスティーナを助けに向かう。俺は部屋をしらみ潰しに探していくが、なかなか見つからない。不運にも今日は魔術学会のせいで殆どの先生が不在。頼みのグレン先生も…あいつらに…いや、そんな事思ってても仕方ない…!俺が何とかしないと…!

 

「『我・迷家の路にて・生きし影を視ん』。」

 

俺は【スクウェア・ソナー】を唱える。この魔術は唱えた者の一定範囲内に特殊なフィールドを形成し、そのフィールドに他の人物が入ると、その人物がシルエットになってトラッキングされる。つまり、これで部屋の中に入っていてもシルエットとして映るため、探索が楽になる。ただし、これを使用してる間は魔力が徐々に消費されていくため、適度に解除しないといけない。

俺は廊下を歩きながら部屋を一つ一つ調べていく…。

 

「ここじゃない……ここにもいない…。」

 

やはり重要じゃなさそうな部屋に二人がいるはずがない……だとすると、実験室か…?

俺は魔術実験室を目指そうとする…

 

 

 

 

 

ドゴォォォン!

 

 

 

「!?」

 

突然、何かが吹き飛んだような音と共に、向こうから風が吹いてきた……これは【ゲイル・ブロウ】…?そういやシスティーナは風の魔術をよく使う…もしかして…!

俺は風の吹いた方向に向かって走り出す。【ゲイル・ブロウ】を使って扉か何かを吹き飛ばしたって事は、もしかしたら自力で脱出した可能性が高い。

しばらく走っていると、向こうからも足音が聞こえてくると同時に【スクウェア・ソナー】が二人のシルエットを捉えた……一人はシスティーナ、もう一人は……グレン先生だ!無事だったのか…………いや待て、その背後からどんどんシルエットが増えていく…?やっぱり追われてるのか…!?

俺は突き当たりを曲がると、そこでようやく二人の姿を目にした。二人の背後からは、大量のボーン・ゴーレムが追いかけてきているのが分かる。

 

「「トーマ!?」」

「こっち!」

 

俺は出会い頭に合流した二人を誘導した。ゴーレムの連中から距離を取り、何とか一時休憩出来る所に隠れた。

 

「お前、無事だったのか…?」

「はい、ちょっと厄介事ありましたけど、何とかたどり着けました。」

「…って事は、道中のテロリストは…。」

「いや、殺してはないです。一人は街中で放置。もう一人は教室に拘束してカッシュ達に見張らせてます。」

「はっ…意外とお前も甘ぇな…。」

 

グレン先生は敵を殺さない俺の慈悲深さに苦笑いした。そういえば…

 

「システィーナ、ルミアを見てないか?」

「ルミアは…“レイク”って奴に連れていかれたわ…。」

「っ…!」

 

俺はシスティーナから、ルミアはレイクという男に連れていかれた事を聞いた。さっきもそうだったけど…レイクという名を聞いた瞬間、あの過去を思い出す……!

 

「……やっぱり“あの時”の奴らか…!」

「“あの時”…?」

「あいつらは…」

「!…先生!トーマ!」

「「!?」」

 

俺が過去に孤児院を襲った連中の事を思い出して怒りに燃えていると、システィーナの声で我に返る。すると、ボーン・ゴーレム達がそこまで近づいてきた。もうバレたのか…!

 

「白猫!トーマ!下がってろ!」

「いや…聞けない話だな…!」

 

俺はグレン先生にタメ口で答えながら前に出ると、ジクウドライバーを取り出し、それを腰に装着する。

 

「!?」

「トーマ…それは何…?」

「俺もさっき使ったばかりだけど…これは、皆を守るための力だ!」

 

俺はシスティーナの質問に答えると、続いてジオウウォッチを取り出し、カバーを回してボタンを押す。

 

『ジオウ!』

 

ジオウウォッチをドライバーにセットし、上部のボタンを押してロックを解除する。

 

「変身!」

 

そしてドライバーを一回転させる。

 

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

俺はジオウに変身すると、ゴーレム達に向けて拳を構える。

 

「仮面…ライダー…?」

「…そういや、顔に本当に『ライダー』って書いてあるな。」

「あ、本当だ。」

「いやそこかい。」

 

グレン先生とシスティーナはジオウに変身した俺の顔面を見て天然発言をした。いや確かに『ライダー』って書いてあるけども……ってか、システィーナまでそっちに回らないでくれよ……はぁ、しまらねぇ…。

俺がしょうもない話でテンションが落ちていると

 

「っ!?」

 

ゴーレム達は容赦なく剣を振るってきた。俺は直前で気づいて何とかかわした。

 

「はあっ!」

 

俺はお返しに右ストレートをゴーレムの一体に叩き込み、頭蓋骨を砕いた……が、その瞬間、反動がダイレクトに右拳に響いてきた。何だこれ…?めちゃくちゃ硬ぇぞ…!?

 

「トーマ、そいつらは“竜の牙”を素材にしてつくられてる!」

「マジか…!」

 

グレン先生曰く、このボーン・ゴーレム達は竜の牙を素材につくられたものらしい……しかもこんな大量に……あの外道の集まりなら収集は容易いだろう…。いくら変身しているとはいえ、頭蓋骨を砕く度に拳に鉄骨を素手で殴ったかのような激痛が……どんだけ牛乳飲んだらこんなカッチカチな骨に仕上がるんだよ…。肉弾戦は無茶だな……だったらこれだ!

 

『ジカンギレード!』

 

俺はジカンギレードを召喚すると、剣を構えてゴーレムの群れに突撃する。

 

「たあっ! おりゃ! せやぁ!」

 

ジカンギレードの剣戟は、超硬質の竜の牙で出来ているはずのゴーレム達をバターを切るが如くいとも容易く切断した……これ、すごい切れ味だ…!

一方、グレン先生も徒手格闘でゴーレム相手に立ち向かっている。恐らくシスティーナから【ウェポン・エンチャント】の支援を受けたのだろう。後ろではシスティーナが魔術による援護を行っている。すると、システィーナの背後からゴーレムが数体近づいているのが見えた。

俺はジカンギレードの刀身をスロット側へ倒す。

 

『ジュウ!』

 

すると、それに連動して黒い銃身が起き上がり、『ジュウ』のカタカナの通り銃モードへ変形した。

 

「システィーナ、伏せろ!」

「えっ?…きゃっ!?」

 

俺はシスティーナが伏せたのを確認したと同時に、背後のゴーレム達に向けて発砲した。その銃弾はゴーレム達を簡単に破砕した。

 

「その武器、銃にもなるのかよ…。」

 

素手で戦っているグレン先生は羨ましそうな目で見ていた…すみません、俺だって素手でこいつらと戦うのはキツいんです。

俺達はある程度ゴーレム達を倒したが、それでも数は一向に減らないどころか、数が増えてきている。

 

「走れ!」

 

グレン先生はジリ貧になると判断したか、逃走を促した。俺達は廊下を走り、その端まで行ったら階段を駆け上がる。執拗に追ってくるゴーレムの群れは、俺の銃撃かシスティーナの【ゲイル・ブロウ】でノックバックさせる。

 

「先生、さっきの固有魔術で何とかなりませんか?」

「固有魔術…?」

「無理だ!俺の【愚者の世界】は魔術の起動を遮断するだけだ!既に起動済みの魔術には効かない!」

 

システィーナ曰く、グレン先生には【愚者の先生】という固有魔術が使えるらしい…が、既に起動済みの魔術には無意味…つまり今追っかけてきているゴーレムの群れを無力化する事は出来ないらしい。

 

「ああいう類いには【ディスペル・フォース】だな…。」

「それなら私、使えます!」

「マジか!?かなりの高等呪文だぞ!?」

「はい、お父様から手習ったものですけど。」

「…いや、魔力の無駄遣いだ。素材に戻るだけで、術者が魔力吹き込めば復活しちまう。」

 

付与された魔術を打ち消す【ディスペル・フォース】もだめか…どんどん策がなくなってきたな…。俺達は階段を駆け上がっていると…

 

「ちょっと待てよ?この先は確か…。」

「行き止まりだな…!」

 

とうとう階段を登り切ってしまい、この先は行き止まり……まずいぞ…!

 

『ケン!』

 

俺はその場で止まると、ジカンギレードを再び剣モードに戻し、ゴーレム達を足止めする。

その間にグレン先生は、システィーナに【ゲイル・ブロウ】をいくつか条件を加えて改変するよう依頼していた。

システィーナはそれを了承すると、すぐに廊下の端まで移動していった。俺とグレン先生でこいつらを足止めするって訳か…。

 

「なぁトーマ、その武器貸してくれねぇか?」

「え?」

「こっちだって素手で戦うのはキツいんだよ。ほら、交代だ。」

「…分かりましたよ、先生。」

『ジュウ!』

 

グレン先生、【ウェポン・エンチャント】付与してもらったとはいえ、ずっと素手で戦ってたからな…。

俺はジカンギレードを銃モードにすると、それをグレン先生に渡した。しんがりの時間は…システィーナが呪文を改変し終えるまでだ…!

俺はグレン先生と共にゴーレムの群れに突撃する。

 

「はっ! はあっ! たあっ!」

 

俺は拳をゴーレム達に叩きつけ、竜の牙でできた体を粉砕していく。殴る度に手に痛みが伝わってくるが、変身してる分マシな方だ。

一方、グレン先生もゴーレムに蹴りを食らわせると共に、俺から借用したジカンギレードの銃弾を的確に命中させていく……すごい、魔術はダメなのに格闘や銃撃のセンスはピカイチだ……この人、前職は一体何だ…?そういえば、おやっさんが過去にグレン先生と仕事したことがあるって言ってたな……確か、おやっさんの前職は宮廷魔術師だったはず…もしかして…?

俺がそう推測しながら足止めをしていると…

 

「先生、出来ました!」

「よし!…トーマ、行くぞ!」

「はい!」

 

システィーナが【ゲイル・ブロウ】の改変を完了させたようだ。俺とグレン先生はすぐにシスティーナがいる廊下の端に向かってダッシュする。

 

「今だ、やれ!」

「『拒み阻めよ・嵐の壁よ・…』」

 

グレン先生の合図でシスティーナは改変した詠唱を唱え始める……これは、ギリギリ間に合わないか……なら…!

 

「先生、舌噛まないように! 『時の流動よ』!」

「えっ?…うおおおっ!?」

 

詠唱完了まで間に合わないと判断した俺はグレン先生の腕を掴むと、【タイム・アクセラレイト】を唱えて一気に加速する。

 

「『ーーその下肢に安らぎを』!」

 

システィーナの詠唱が完了したと同時に、俺はグレン先生ごとスライディングしてシスティーナのもとへ滑り込んだ。すると、システィーナの両手から【ゲイル・ブロウ】とは比べ物にならない範囲の暴風が放たれた。名付けるなら、【ストーム・ウォール】って言ったところか。

 

「アチチチチチチッ!お前人の事考えろよな!?」

「仕方ないでしょ、これでもギリギリだったんですから。」

 

スライディングの影響で摩擦をもろに受けたグレン先生。俺は現状を見てみると、システィーナの【ストーム・ウォール】が見事にゴーレム達の足を鈍くさせた…しかし

 

「だ、だめ…完全には足止めできない…!」

 

広範囲の改変を優先したためか威力が弱く、ゴーレム達は暴風を凌いで前に進もうとしている。

 

「いや、上出来だ。しばらくそのまま耐えてろ。」

 

グレン先生はジカンギレードを俺に返すと、システィーナにそう言って懐から結晶を一つ取り出すと、それを左手で握って右手を開き、右腕に左拳を合わせる。

 

「『我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・…』」

 

グレン先生はゆっくりと詠唱を始めた………っ、これって…!?

 

「え? 嘘…?」

「この術…まさか…?」

 

システィーナもこの“術”の詠唱を聞いて何かを察したようだ……間違いない、あれは…!

 

「『其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・…』」

 

グレン先生が詠唱を続けていると、ゴーレム達は盾を持つゴーレムを先頭にして前進し始めた。システィーナが放つ暴風は威力が弱いため、盾で遮断されてしまう…しかもこんな袋小路だ、ファランクス態勢は有効打だ…。

 

「っ!あれじゃ、詠唱が終わる前に近づかれちゃう!」

「任せろ!」

 

俺はジカンギレードのスロット部にあるボタンを押す。

 

『タイムチャージ!5、4、3、2、1…ゼロタイム!』

 

カウントダウンと共に、銃口にエネルギーが溜められる。この先は“傘差し厳禁”だぜ?

 

『スレスレ撃ち!』

「喰らえ!」

 

俺はチャージされた光弾を、盾を構えたゴーレム達に向けて連射した。弾幕に耐えきれず、ノックバックしたゴーレム達は、そのまま暴風の影響を受けて吹き飛ばされていった。そしてこれにより、ゴーレムの群れは一気に減速した。

 

「『いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに』…っ!」

 

ちょうどそのタイミングで、グレン先生の詠唱が完了した。気がつくと、いつの間にかグレン先生は俺達より前に出ていた。七節もの長大な詠唱、いざやろうとすればすぐに反撃を食らうのがオチだろう…だが、その長い詠唱も俺とシスティーナの援護で唱える事ができた。

 

「ええい!ぶっ飛べ、有象無象!黒魔改【イクスティンクション・レイ】!!」

 

グレン先生は握っていた左拳を開くと、それを前に突き出した。その瞬間、グレン先生の左掌からエネルギー波が放たれた。その波動は袋小路の廊下を一直線に駆け抜け、ゴーレムの群れはおろか、廊下の壁へ天井を跡形もなく分解していった。

 

「凄い…こんな高等呪文を…。」

「…。」

 

俺とシスティーナはこの光景を見て唖然とするしかなかった。【イクスティンクション・レイ】…それはセリカ=アルフォネアが編み出した、対象を跡形もなく根源素にまで分解する固有魔術にも似た神殺しの術だ。これを扱えるのは編み出した本人かさっきのように術を放ったグレン先生………もしくは、悪夢で見た…“黄金の魔王”だけ…。

 

「…いささかオーバーキルだが、俺にゃこれしかねぇんだよな………ごほっ…!?」

「先生!?」

 

突然、グレン先生が血を吐いて跪いた。システィーナは慌ててグレン先生のもとに駆け寄る。グレン先生の身体は蒼白かつ傷だらけで、冷や汗が流れている…。

 

「もしや…さっきのでマナ欠乏症に…!?」

「まぁ…分不相応な術を、“裏技”で無理矢理使っちまったからな…。」

 

どうやらグレン先生はあの結晶を触媒にして無理矢理放ったらしい…“神殺し”とも呼ばれる術だ…欠乏症になってもおかしくない。

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

「これが大丈夫に見えたら病院行け…。」

 

重篤な状態故に減らず口にもキレがなくなっている…これは治療しないと不味いな…。

 

「『慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を』。」

 

システィーナは【ライフ・アップ】を唱えてグレン先生の治癒を始める…が、そのスピードはルミアより劣る。システィーナは黒魔術や錬金術はピカイチだが、肉体や精神を扱う白魔術の腕前は平均的だ。完全に治癒するには時間を要する。

 

「馬鹿、やってる場合か…。」

「とりあえず身を隠そう…先生、肩貸すよ。」

 

俺はグレン先生に肩を貸すと、立ち上がって安全な場所に移動しようとした………その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう…三流魔術師の魔術講師が【イクスティンクション・レイ】を使えるとはな…少々見くびっていたようだ。」

「っ!?」

「…!」

 

その声と共に、何者かが俺達に近づいてきた。ダークコート姿に背中には五本の剣が浮遊している………あいつは…!

 

「あー、もう、浮いている剣ってだけで嫌な予感が…って、うおっ!?」

「ちょっとトーマ!?いきなり先生を手離すなんてっ……トーマ…?」

「……。」

 

俺はその男を見てグレン先生を無理矢理下ろした……間違いない…あいつは……昔、孤児院を襲った男…レイクだ…!

 

「…そのベルトと時計…そうか、貴様は“あの時”の生き残りだったか。姿が変わっているとはいえ、はっきり覚えているぞ。」

「…。」

「…この私を忘れてはいないだろうな?」

「あんな惨い光景見せられて、忘れたなんて言う馬鹿はいねぇよ…!」

『ケン!』

 

俺はレイクの言葉に怒りを煮えたぎらせながらジカンギレードを剣モードにする。

 

「トーマ、あいつと面識あるのか…?」

「あいつは…昔、俺がいた孤児院を襲撃した奴らの一人だ…!」

「えっ…!?」

 

俺はグレン先生とシスティーナにレイクとの因縁を語る。あの日、孤児院を襲ったのはレイク、リドリー、エリックの三人。この三人が容赦なく殺しをしていた光景は未だに覚えている…リドリーとエリックは倒した…後はこいつだけだ…!

 

「…その様子だと、三人はやられたようだな…。」

「ざけんな、一人はお前が殺ったんだろうが。」

「命令違反を犯した罰だ。聞き分けのない犬に慈悲を与える程、私は聖人じゃない。」

 

レイクの発言にグレン先生が突っ込んだ。ジンというチンピラ男のことはセシルから聞いたが、どうやらレイクの支配していたボーン・ゴーレムに粛清されたようだ…。

俺は怒りを一旦静め、現状を整理する。レイクは五体満足かつ背中に五本の剣を浮遊させている。一方、グレン先生は【イクスティンクション・レイ】を放った反動でマナ欠乏症、システィーナもレイクと張り合える程の実力はない。ならば、レイクと張り合えるのはジオウに変身している俺だけだ…!

 

「二人は隙を見て逃げてくれ。こいつは…俺が引き受ける!」

 

俺はジカンギレードを構えると、二人に逃げるよう言った。

 

「いや、誰一人逃がさん。貴様はあの日の生き残り、そしてその講師は三流魔術師ながら【イクスティンクション・レイ】を放てる者だ。もう一人は無関係だが…ここで全員始末する。」

 

レイクは皆殺しを宣言すると、懐から時計を取り出した……っ!?

 

「…!?」

「…あれは…。」

「トーマと同じ時計…?」

 

俺達はその時計を見て驚いた。あれって…ライドウォッチ…!?いや、あんなに不気味じゃないはずだ…。

 

「…“例の連中”が何を企んでいるかは知らんが、これを使う時が来たようだ…出し惜しみは無しだ。」

 

“例の連中”…?さっきも聞いたような…。

レイクはそう呟いて謎のライドウォッチのカバーを回転させる。その絵柄は、ライダーではない“何か”。角の生えた化け物だった。続けてレイクはボタンを押す。

 

『ゲムデウス!』

 

ライドウォッチ…いや、“怪人ウォッチ”からドスのきいた音声が流れた…“ゲムデウス”…?あの絵柄に描いてある化け物の名前のようだが…?

 

「培養。」

 

レイクはそう呟くと、ゲムデウスウォッチを胸に当てる。ウォッチは禍々しいオーラとなって体内に取り込まれた。

その瞬間、レイクの身体はオレンジ色の病原菌のようなものに包まれ、【2016】というエフェクトと共に、その姿を変貌させた。

白い一本の大角に金色の輪がついた頭部、背中に生えた金色の翼、ドラゴンの頭部を模した両肩の金色の鎧、ドラゴンを素材にしたかのような片刃の剣と爪のついた盾、そして変身前から操っている五本の剣もレイクの背中で浮遊している。

 

「…変身した…!?」

「おいおい、素のままでも強そうなのに更に強化かよ…!?」

 

グレン先生とシスティーナはこの光景に呆然としている。当然だろう…レイクはゲムデウスという怪人に変身して強化を施している。下手に戦えば致命傷は避けられない。

 

「さぁ、始めよう。」

「お前を倒して…孤児院の皆の仇を取る…!」

 

お互い剣を構える俺とレイク。こいつを倒して…8年前の因縁に決着をつける…!

 

「うおおおおおおおお!!」

 

俺はジカンギレードを構えてレイクに突撃する。途中、浮遊する剣が迎撃してきたが、俺はそれを弾いていく。

 

「はっ! てやっ!」

「ふっ!」

 

俺のジカンギレードとレイクの剣・デウスラッシャーの刃がぶつかり、火花が散る。そこへ五本の剣が俺に向かって襲いかかってきた。

 

「っ! はあっ!」

 

俺は一旦下がると、襲いかかる剣を弾く…一本、もう一本と弾き、残りはあと二本。

 

「っ!? うわっ!?」

 

しかし、ここで残り二本の剣が不規則な動きでジカンギレードを避け、俺の脇腹と右肩に命中した……何だ今の挙動…!?

俺が油断していると、レイクが剣を降り下ろしてきた。俺は剣を弾いた…が

 

「ふんっ!」

「ぐはっ…!」

 

レイクはすぐさま左手の盾・デウスランパートを突き出した。咄嗟の事だったために対応できず、俺は腹部に喰らって突き飛ばされた。

 

「もしや、二本は手動か…!」

「ご名答。この剣には手慣れの剣士の挙動を模しているが、自動化すればその技術は死ぬ。かといって全て手動にしようとすれば真の達人より劣る。私も魔術師だからな。」

 

グレン先生の分析にレイクが答えた。どうやら五本の剣の内、三本は自動、二本は手動で成り立っているらしい……何が魔術師だ…今のお前は“魔術師”じゃなくて“怪人”だ…!

 

「違う…お前は魔術師じゃない…ただのクソったれだ!」

「…無駄話は終わりだ。 『炎獅子よ』。」

「っ!」

 

レイクは【ブレイズ・バースト】を唱え、盾を持つ左手から火球を放った。その際、レイクの胸部には赤いトンガリ帽子を模した頭部が映っていた。

俺は二人に配慮して、破壊された廊下の外へ受け流した。外に出た火球は通常の倍の範囲の爆発を起こした。そして、火球に隠れてたであろう五本の剣が俺に向かって飛んできた。

 

「『時の流動よ』!」

 

俺は【タイム・アクセラレイト】を唱えて加速。五本の剣を弾いてレイクに近づく。ジオウに変身しているおかげでこの呪文のデメリットは解消される。これなら…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ!」

「うわっ!?」

 

レイクの剣戟は加速していたはずの俺を捉えた……なんで…!?

俺はレイクを見ると、今度は胸部に黒子を模した頭部が映っていた。俺はレイクの剣戟を咄嗟にガードする。

 

「ほう…使い勝手の悪い【タイム・アクセラレイト】を使いこなすとはな…だが、そこまでだ。」

「っ…心眼か…!」

 

どうやら胸部に出現した顔によって特殊な能力を発揮する仕組みになってるらしい。トンガリ帽子なら魔術の性能向上、黒子なら心眼による剣術向上と見切り……何でもありかよ…!

そうしてる内に、五本の剣が俺に向かって飛んできた。

 

「っ……はっ! とりゃ!」

 

ここで、マナ欠乏症に陥ってたはずのグレン先生が復帰。俺に襲いかかる剣を【ウェポン・エンチャント】で強化された拳で弾いていく。システィーナによる【ライフ・アップ】である程度治癒してもらったのか、多少顔色は良くなったようだ。それでも全ての攻撃を弾ける訳ではなく、二本の手動剣で身体中に傷を負ってしまう。

 

「何してんだ先生!?下がっててくれ!」

「馬鹿野郎、大分苦戦してんのにそんな事言ってる場合か! 『紅蓮の獅子よ・憤怒のままに・…』」

 

グレン先生が【ブレイズ・バースト】の詠唱を始めた。俺はその間に時間を稼ぐ…が

 

「ふっ!」

「があっ…!?」

 

盾で攻撃を受け止められ、斬り上げを喰らって吹き飛ばされた。だが、これで時間は稼げた。もうすぐ詠唱が終わる…しかし

 

「『吼え…』」

「『霧散せよ。』」

「っ!?」

 

レイクが瞬時に唱えた瞬間、グレン先生の【ブレイズ・バースト】がキャンセルされた。あれは【トライ・バニッシュ】という炎熱、冷気、電撃といった三属エネルギーを打ち消す対抗呪文(カウンター・スペル)だ。

 

「遅いぞ?魔術講師。ふっ!」

「くそ…!」

 

レイクは剣を構えてグレン先生に突撃する。グレン先生は再び傷だらけになった身体でよけていくが

 

「はっ!」

「ぐふっ…!ぐああああっ!」

 

レイクの斬り上げでグレン先生は血を撒き散らしながら打ち上げられた。さらにそこへ追い打ちと言わんばかりに五本の剣が飛来し、グレン先生の身体を斬りつけた。

レイクの猛攻を受けたグレン先生が地面に落ちた。

 

「せ、先生っ!!」

 

グレン先生のもとへシスティーナが駆け寄った。そしてすぐさま【ライフ・アップ】を唱えようとした。

 

「休む暇は与えん。」

 

しかしレイクは、システィーナごとグレン先生を仕留めようと、デウスラッシャーにエネルギーを溜める。まずい…二人は動ける状態じゃない…!あれを食らったら確実に死ぬ…!

 

「っ…させるか…!」

 

俺はドライバーからジオウウォッチを取り外し、ジカンギレードにセットする。

 

『フィニッシュタイム!』

 

俺はジカンギレードを構えると、動けない二人を守るようにして立つ。

 

「はっ!」

 

レイクの剣から剣圧が放たれた。

 

『ジオウ! ギリギリスラッシュ!』

「はああっ!」

 

俺はこちらに向かってくる剣圧に、エネルギーを纏わせたジカンギレードをぶつける。くそっ……相殺し切れなくても…二人への被害は止めないと…!

 

「うわあああああああああああ!」

 

俺は剣圧を相殺し切れずに喰らい、その場で倒れる。レイクはこちらに近づいてくる。

 

「これで勝負は決した。少年、まずは貴様から始末する。」

「…っ!」

「あの日、貴様を助けた“あの男”はもういない。命運は…ここで尽きる。」

 

レイクはそう言って剣を突き立てようとする……くそ…満身創痍で身体が動かない…!このままじゃ………!

 

「ここで…死ね…!」

「「トーマ!」」

「…っ!」

 

二人の声が響く中、レイクの剣が迫る………俺は…セントさんのおかげで今日まで生きてこられた……だけど、それはあの日だけ。奇跡がいつも起こるとは限らない。ここで…命尽きるのか…?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が証明するんだ。魔術が、人を幸せにするという証明を…“希望の明日を創っていくんだ”。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「っ! はあっ!」

「ぐっ!?」

 

俺はレイクの刺突を避け、渾身のパンチを叩き込んで怯ませ、後退させる。

 

「……こんなところで死んだら……!孤児院の皆や…セントさんに…顔を合わせられない…!こんなんじゃ、終われない!!」

 

俺は力を振り絞って立ち上がる。その時だった。突然、右腕のホルダーにある赤青のライドウォッチが光り出した。

 

「「?」」

「…それは…。」

 

この反応に、グレン先生やシスティーナ、レイクも注目した。セントさんから貰ったライドウォッチ……使えって事なのか…?

俺はホルダーから赤青のライドウォッチを取り出すと、カバーを回す。

 

「!…これは、あの時の…?」

 

その絵柄は、セントさんが変身していた姿と同じ顔の絵柄だった。俺はライドウォッチのボタンを押す。

 

『ビルド!』

 

“ビルド”…セントさんが変身していた仮面ライダーの名前…。そういえば、ドライバーの左側にスロットがもう一つある…ここにはめろって事か…?

俺はビルドウォッチをドライバーの左側にセットする。すると、ドライバーの表示が赤と青になり、再び待機音が流れる。そしてドライバーのロックを外し、一回転させる。

 

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

すると、俺の前にボトル状のエネルギーが出現し、その中から仮面ライダービルドの姿を模したアーマーが出現した。ドライバーには【ZI-O】、【2018】と表示された後、流れるように【BUILD】と表示される。

 

『アーマータイム!』

 

俺はそれに触れると、ボトル状のエネルギーが消え、中のアーマーが俺のもとに浮遊し、体中に装着されていく。

 

『ベストマッチ! ビルド!』

 

俺の体にビルドアーマーが装着された。赤と青が基調で、両肩には赤と青のフルボトル、右手に装着された黄色いドリル、顔には『ビルド』というカタカナ、そしてドライバーには【2017】と表示されている。

 

「変わった…!?」

「…重ね着…だと…?」

「その姿は…。」

 

姿が変わった事に驚くシスティーナ、これを重ね着と満身創痍ながら減らず口を叩くグレン先生、ビルドの姿を連想するレイク。今の俺は、ビルド…セントさんの力を身に纏っている……これならいける…!

 

「…勝利の法則は、決まった!」

 

俺は時計の針と兎の耳を模したアンテナを左手でなぞり、そう言った。

 

「姿が変わっても同じだ!」

「それはどうかな?」

 

再び剣を構えて突撃してくるレイク、俺は右手のドリルを構える。

 

「ふっ!」

「たあっ! おりゃ!」

「ぐうっ…!?」

 

俺はドリルで剣を受け流し、レイクの肩に突き刺す。ドリルの回転で持続ダメージを与えていく…が、やはり五本の剣が飛んできた。

 

「はっ!」

 

俺はそこから離れると、剣の防御に専念する………ん?なんだ?俺の頭にたくさんの数式が流れてくる…?自然とアイデアが流れてくる…まるでコンピュータみたいに…。

俺は五本の剣を防御しながらレイクの弱点を探る……そういえば、“二つの手動剣を操ってる時”、レイクの動きが止まってたな…?動きが一定の自動剣と変幻自在の手動剣………っ!そうか!

 

「はっ! たあっ! そりゃあ!」

 

俺は最初に飛んでくる三本の自動剣をドリルで砕く。そして次は回避困難な手動剣…いや、回避する必要はない!

 

「ふっ!」

「何…!?」

 

俺は飛んでくる手動剣を両手で受け止める…っ、やっぱり変身してても刃物掴むのは痛ぇ…!けど、今なら…!

 

「今だ、【ディスペル・フォース】を!」

「え、ええ…! 『力よ無に帰せ』!」

 

システィーナは【ディスペル・フォース】を唱え、俺の掴んでいる手動剣の魔力を打ち消した。これでこの剣はただの剣になった。

俺は二本の剣をレイクに向けて投擲すると、再びドリルを装備して突撃する。

 

「手動剣を攻略したか…だが…『炎獅子よ』。」

 

オールレンジ攻撃の手段を失ったレイクは投擲した剣を盾で防ぐと、胸部に再びトンガリ帽子の頭部を出現させ、【ブレイズ・バースト】を唱えた。こんな袋小路で発動されれば、俺達はひとたまりもないだろう……

 

「…何…?」

 

しかし、【ブレイズ・バースト】は発動しなかった。理由は簡単だ。

 

「!?…しまった…!?」

「へっ…ざまーみやがれ…。」

 

そう、このタイミングでグレン先生が固有魔術【愚者の世界】を発動したのだ。これで魔術は使用できない…後は、近接戦闘のみだ!

 

「ふっ! はっ!」

「ぐっ…!」

 

一時的に魔術の使用が封じられた中、俺はドリルによる猛ラッシュを仕掛ける。回転するドリルは鍔迫り合いを無視し、レイクのもつ剣を砕いた。

 

「タイムリミットの時だ!」

『フィニッシュタイム!』『ビルド!』

 

俺はジオウウォッチとビルドウォッチのボタンをもう一度押し、ドライバーをもう一回転させる。

 

『ボルテックタイムブレーク!』

「はっ!」

「っ…!?」

 

ドリルが高速回転すると共に、数式を模したエネルギーが数多く展開される。俺が高くジャンプすると、放射状のグラフを模したエネルギーがレイクを挟み込んで拘束するが、レイクは拘束される直前でデウスランパートを構えた。

 

「はああああああああああ!」

「ぐっ…!」

 

俺は放射状グラフに乗って滑走し、高速回転するドリルをレイクに向けて突き立てた。ドリルは金属音を立てながらデウスランパートを削っていく……そんな盾で、俺の一撃を防げると思うな!!

 

「貫けぇえええええええええええええ!!!」

 

ドリルは勢いを増し、盾の装甲を抉っていく。そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ……!?」

 

俺のドリルは盾を破り、レイクの腹部を貫いた。俺はドリルを抜き取る。

 

「ぐっ……ああっ…!」

 

レイクがそのまま倒れた瞬間、その場で爆発が起こった。煙が晴れると、そこには元の姿に戻ったレイクがいた。そして横にはゲムデウスウォッチが落ちていた。

俺はレイクのもとへ近づく。グレン先生とシスティーナも同じく俺のもとにやってきた。レイクの腹部にはドリルで抉られた刺創が出来ており、いつ死んでもおかしくない状態だった。

 

「…見事だ……あの日から……成長したというのか…。」

「…お前にそれを言う資格はない。」

 

虫の息であるレイクの言葉を、俺はばっさり切り捨てた。

 

「…ふっ……そうか……流石は……“あの男”の…。」

 

それがレイクの最期の言葉だった…………“あの男”…?誰の事だ…?少なくとも、セントさんの事じゃないと思うけど……まぁ、今は深く考えなくてもいいか…。

俺はレイクの亡骸からゲムデウスウォッチに視線を向ける。俺はそれを拾おうとした…そのとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ! ピキピキ……パリィィィン…!

 

 

 

「「「!?」」」

 

突然、ゲムデウスウォッチに亀裂が入り、やがて粉々に砕けた。その代わり、そこからピンク色の光が現れ、俺のもとに寄ってくると、右腕のホルダーにあるブランクウォッチに宿った。

 

『エグゼイド!』

 

すると、音声と共に真っ黒だったはずのウォッチに色彩りが生じ、ピンクと黄緑色の“エグゼイドライドウォッチ”になった。俺はカバーを回転させて絵柄を確認する。それにはピンク色のイカした髪型に、オレンジ色の瞳のあるライダー・仮面ライダーエグゼイドの顔が映っていた。

 

「何だこれ…?」

 

俺はエグゼイドウォッチの誕生に首をかしげる。レイクの持ってた怪人ウォッチからエグゼイドの光が現れたって事はもしかして、エグゼイドはレイクが変身していた怪人・ゲムデウスと対を成すライダーって訳か…?

俺は新たなライドウォッチが誕生する法則性を考えていた。

 

「…っ、ごほっ…!」

「…考えるのは後だな…。」

 

俺は重傷を負ったグレン先生の状態を見て、とりあえず考えるのは後回しにした。俺は変身を解除すると、グレン先生のもとに近づく。システィーナから【ライフ・アップ】による治癒を受けているとはいえ、レイクの猛攻を受けたダメージは、システィーナだけではとても癒やし切れない。おまけに治癒の魔術には“治癒限界”という概念もあるため、使い過ぎは負傷者を蝕む。ここは保健室に運んで、包帯などによる止血も行わないといけない。

 

「ここから医務室までどれぐらいだ?」

「確か…そんなに距離はないはずよ。」

「OK…俺が先生を担ぐ……っ!」

 

俺の掌に痛みが走る。自分の掌をよく見ると、切り傷で出血が起こっていた。素手で手動剣を掴んだからか…。

 

「トーマ、その手…。」

「…後で俺にも治療を頼むよ。」

 

俺はポケットにあるハンカチを千切って両掌に巻くと、システィーナにそう頼みながら、再びグレン先生に肩を貸す形で担ぎ、医務室へ向かった。

 




ED[GHOST]


トーマ「仮面ライダービルドの力を使い、ついに因縁の仇敵・レイクを討ち取ったトーマ。」
システィーナ「しかし、未だ連れ去られたルミアは行方知れず。そんな中…」
グレン「ちゃっかり次回予告するんだな、お前ら。」
システィーナ「茶番ばかりじゃ、このコーナーが成り立たないじゃないですか!」
グレン「あの時もこんな雰囲気だったし、いいんじゃね?」
システィーナ「よくないです!」
グレン「まあ、気にするなよ。どうせこの作品もあと数話で終わるし、これで家でゴロゴロやれる…」
?「そんなことしたら僕の出番が無くなるじゃないか。」
トーマ「だ…」
システィーナ「だ…」
グレン「だ…レン・モーラン。」
三人「「「」」」ガタッ

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BE THE ONE

かなり遅くなってしまい、申し訳ありません!学校とか何やらで多忙でしたので…。
それではどうぞ!

OP[Blow out]


~トーマ視点~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は一旦医務室に着くと、そこでグレン先生の治癒を行う。システィーナが【ライフ・アップ】をかけている間に、俺はグレン先生の体に包帯を巻く。グレン先生を保健室に運ぶ時や治療を行っている時の影響で、俺の体中はあちこち血で汚れている。もちろん、俺の場合もリドリーとレイクとの戦いで、体中に傷を負っている。グレン先生の治療を行った後、俺はシスティーナから【ライフ・アップ】による治療を受けた。

 

「ねぇトーマ、さっき使ったあの“時計”は一体何なの?」

「分からない。少なくとも、グレン先生が持ってるタロットと同じく魔導器だと思う。あれは小さい頃から持ってたけど。」

「小さい頃から…?けどそんな魔導器見たことないわよ。」

 

俺はシスティーナにジクウドライバーやライドウォッチについて尋ねられた。あの時、皆を守る力だと豪語したが、ジオウが魔術とは異なる力であることは俺も分かっていた。深くは理解してないとはいえ、無言を貫き通す訳にはいかない。生真面目なシスティーナ相手なら、尚更だ。

 

「俺だってさっぱり分からない…普段は“時計”として使ってたのに、まさかこんな力があったなんて…。」

「じゃあ、どうやって使い方を覚えたのよ?」

 

俺はシスティーナにドライバーの使用方法を問い詰められながら、椅子の上に置いてあるジクウドライバーとライドウォッチに目を向ける。

 

「毎回夢で見るんだ…あれを身に付けて戦う人達の夢…そして一方的に蹂躙を行う人の夢を……“あの悪夢”から俺は使い方を知ったんだ。」

 

俺は悪夢の内容を思い出しながら呟いた。ジオウが“赤いライダー”と戦う悪夢、そしてジオウに酷似した“黄金の魔王”が一方的に蹂躙する悪夢…。悪夢の内容が現実に出てきたなんて誰が予知したか…。

 

「言ってる意味がよく分からないわよ…。悪夢から使い方を知るなんて…。」

「俺もまだ詳しくは理解出来てない。けど一つだけ確信するなら、あれが無かったら俺は今頃生きてはいないと思う。」

「…。」

 

ドライバーとウォッチはお守りだった…今の俺はそう確信できた。システィーナはまだ納得してはいないだろうが、俺が回答できるのはこれが限界だ。

俺は立ち上がると、椅子にドライバーとウォッチを手にする。

 

「俺はここを見張ってる。システィーナはグレン先生に【ライフ・アップ】を。」

「…分かったわ。」

 

俺はシスティーナにグレン先生の治療をお願いすると、保健室の外に出る。俺もまだ完全に癒えきってはいないが、俺よりもグレン先生の方がダメージが大きい。二人が動けない間にテロリストが襲ってきたらまずい。グレン先生の傷が癒えるまでは警備をしてた方がいい。

俺はジクウドライバーを装着し、何時でも変身できるようにしておく。辺りを見張っている間、保健室から二人の話声が聞こえてきた。テロリストが来る気配がないとはいえ、油断はできなかったため、会話の内容は頭に入らなかった…けど、これだけは聞こえた…“正義の魔法使いになりたかった”というグレン先生の呟きだけは。俺は魔術はあまり得意じゃないし、“魔法”はそもそも大昔の概念だ……だけど、皆を守る正義のヒーローになることはできる…だから、正義のヒーローになってみせる…皆と、そう約束したから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あれから数時間経過したが、一向にテロリストが襲ってくる気配はなかったため、俺は一旦保健室に戻ってきた。グレン先生はもちろん、システィーナも寝ている。【ライフ・アップ】を使い続けたためか、システィーナにも疲労が溜まっていたようだ。

それにしても、ルミアは一体何処に拘束されているんだ…?【スクウェア・ソナー】を使っても、ルミアの姿は見当たらなかった…もしかしたら、校舎ではなく別の施設に囚われている可能性がある……何処だ?改変された結界の影響で外には出られないはず…テロリスト達は例外かもしれないけど…。

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ!

 

 

 

 

 

 

 

突然、グレン先生の懐から着信音が聞こえた。俺はグレン先生の懐から一個の宝石を取り出す。この宝石から着信音が鳴っている事から、これが通信用の魔導器なのだろう。俺はそれに魔力を流す。

 

『グレン、聞こえるか!?』

 

どうやら通信相手はアルフォネア教授のようだ。グレン先生を呼んでいるが、グレン先生は寝ている。無理に起こすのは身体に障るし、ここは俺が出よう。

 

「アルフォネア教授ですか?」

『…誰だ?』

「二年のトーマ=ホロロギウムです。」

『トーマか……グレンはどうした?』

「今、保健室で治療を受けてます。テロリストとの戦いで怪我を負ったので…。」

『…そうか…。』

 

負傷しているグレン先生の代わりに、俺がアルフォネア教授と通話する。テロリスト襲撃の報告を受けたために、慌てた様子だ。

 

『グレンが目覚めたら伝えてほしい。奴に頼まれた件だが、点呼を取ってみたものの不自然に姿を消したような者は一人もいなかった。』

「つまり、職員の中に裏切り者はいないと…………けどそうとは限らないですよね?」

『ああ、結界の術式の情報を流して、後は実行犯に任せるって手もある。全員がまだ白って確信できた訳じゃない。』

 

アルフォネア教授が言うには、魔術学会の最中に姿を眩ました者はいないらしい。とはいえ、こうも学院の結界が突破・改変された以上、何者かが情報をテロリストに流出した可能性も否定できない。

 

『それと、時間はかかるだろうが、軍の奴らがようやく腰を上げてくれたよ。今、宮廷魔導師団のそちらの支部が対テロ用部隊を編成してそちらに向かわせている。』

「そうですか…。」

『私もそっちに行ければよかったのだが…案の定、学院の法陣は潰されてたよ。あれ相当の金と時間と素材が必要なんだぞ、全く…。』

 

対テロ部隊もようやく動き出したようだが、やはりというか、転送用の法陣は潰されたらしい。アルフォネア教授がここに来れば全て解決できるのだが、テロリストも馬鹿ではない。アルフォネア教授は法陣を潰された事に愚痴を溢した……なんか、その辺は何処となくグレン先生と雰囲気が似てるな…。

 

『それから、帝都のモノリス型魔導演算器から魔力回線を通してそっちの結界を調べてみたんだが、妙な事が分かったんだ。』

「妙な事…?」

『外からは特別な術式を刻むか、呪文を唱えれば入れるが、内部からは一切出られないようになっている。』

 

内部からは一切出られない…?つまりそれはテロリストも同じくだよな…学院の結界を改変できる空間系統に優れた者がどうしてこんな欠陥を残したか分からない。テロリスト側は何かしら脱出手段を用意してると思ったけど、結界の改変が確かならその手段は皆無か…でも目的は何だ…?ルミアを連れ去ったとはいえ、自分達も出られないような結界の中で何するつもりだ?俺達がテロリストを無力化した以上、今更奴らが対テロ部隊と殺り合うなんて考えられない………まさか…

 

「考えられるとしたら…“自爆”…?」

『確かに考えられなくもないが、それなら人質を取る意味がない。』

 

テロリストの狙いが結界内…学院の自爆だと推測したが、自爆が目的ならルミアを連れ去った意味がない。おまけに未だルミアも見つかっていない。校舎にはいない、結界から出られないとすれば、後は地下…もしくはあの“白亜の塔”………ん、待てよ?そういえば白亜の塔には“転送法陣”があったよな…そして学院の結界を弄れる者は、それこそ学院関係者。“講師だった人”も含むとしたら………!

 

「…アルフォネア教授、聞きたい事があるんです。」

『何だ?』

「あの人は…“ヒューイ先生”は本当に講師を辞めただけなんですか?」

『!?…お前、まさか奴の事を疑っているのか?』

「ヒューイ先生が空間系魔術に優れているのは知ってます。以前、個別で魔術を教わった事がありますから…。」

『確かに奴は空間系魔術の専門家だが…。』

「それを前提に聞きます。ヒューイ先生は、“本当に”講師を辞めただけなんですか?」

『…それは表向きの理由だ。生徒達を心配させないためのな。本当は“理由不明の失踪”だ。』

 

俺はアルフォネア教授からヒューイ先生が講師を辞めた本当の事実を聞き出した。空間系魔術に優れるヒューイ先生、理由不明の失踪、連れ去られたルミア、内側からは絶対出られない結界、そして転送塔……………………

 

「繋がった…!」

 

俺はある結論に至ると、宝石を置いてすぐに転送塔で向かおうとする。宝石からはアルフォネア教授が俺を呼び止めようとしているが、構っていられない。

 

「待て、トーマ…。」

 

すると、今度はグレン先生が俺を呼び止めた。どうやら話し声を聞いて再び目が覚めたようだ。何かメモをしたのか、近くの机に紙とペンが置かれていた。

 

『グレン、目が覚めたのか!今すぐトーマを止め…』

「どうせ止めても行くんだろ?……これを持ってけ。お前がこれを使えるか知らねぇけど…。」

 

そう言ってグレン先生は俺にメモを渡してきた。それには何かの呪文の詠唱が書かれていた。

 

 

 

『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に解放すべし』

 

 

 

「これは…【イレイズ】…?」

「少なくとも、役に立つはずだ…。」

 

それは魔術を解呪する際に行う黒魔儀【イレイズ】の呪文だった。恐らく解呪作業が必要な事を暗示しているのだろう…。

 

「…行ってこい。」

「…はい!」

 

グレン先生に背中を押された俺はメモを懐に仕舞うと、保健室から出てすぐに転送塔へ駆け出す。俺は全力疾走の中でジオウウォッチを取り出す。

 

『ジオウ!』

「変身!」

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

俺はジオウに変身すると、校舎から出てすぐにライドストライカーを起動し、アクセル全開で転送塔へ向かう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

塔へ続く最後の並木道には、防衛用のガーディアン・ゴーレムが集結していた。

 

「やっぱりここか。」

 

俺はライドストライカーから降りると、ウォッチ状態に戻して左腕に取り付ける。

このゴーレム達は普段はバラバラになって同化しているが、異常事態になると巨人を模した姿になって排除にかかる。やはりセキュリティが掌握されたがために、ゴーレム達は塔を守るように立ち塞がっていた。ゴーレム達は俺の姿を捉えると、横一列になってゆっくりと近づいてきた。これは俺が動いた瞬間全力でとびかかってくるだろうな…。

 

「早速これを使ってみるか。」

 

俺はそう呟くと、レイクとの戦いで手に入れたエグゼイドウォッチを取り外し、カバーを回してボタンを押す。

 

『エグゼイド!』

 

俺はエグゼイドウォッチをドライバーの左側にセットすると、ドライバーのロックを解除して回転させた。

 

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

俺の目の前に仮面ライダーエグゼイドを模したアーマーが召喚された。ドライバーには流れるように【EX-AID】の文字が表示される。

すると、俺が動いたためにゴーレムが一斉に排除しにとびかかってきた。

 

『アーマータイム!』

「とりゃあ!!」

 

俺は迫ってきたゴーレム達に目がけてエグゼイドアーマーを蹴飛ばした。バラバラになったアーマーはゴーレム達を弾き飛ばした後、俺のもとへ浮遊してきた。

倒れたゴーレム達を跳び越えていく俺にアーマーが装着されていく。

 

『レベルアップ! エグゼイド!』

 

俺の体にエグゼイドアーマーが装着された。こちらはピンク主体で、両型にはライダーガシャット、両腕に装着されたA、Bボタンのついたハンマーを模したナックル、胸部に表示されたゲージ類、顔には『エグゼイド』というカタカナ、そしてドライバーには【2016】と表示されている。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

 

俺は両腕のナックルを構えながら塔へ向かう。当然、目の前にはまだゴーレム達の群れがおり、一斉に迎撃してきた。

 

「はあっ! おりゃあ!」

 

俺は迎撃してくるゴーレムにナックルを叩きつける。インパクトの瞬間、『HIT!』のエフェクトが入ると、ゴーレムのその巨体のバランスを崩した。ハンマーがモチーフなだけあって、硬い敵には有効打らしい。

俺は次々と迫り来るゴーレムを殴り倒していくが、ゴーレム自体は石で構成されたもののため、倒しても再生する。おまけにルミアが連れ去られるのと学院が吹き飛ぶのも時間の問題。

 

「お前らに構ってる暇はないんだよ!」

 

今は一刻も要する。ゴーレム達と戯れている暇などない。まとめて一掃するまでだ。

俺は一体のゴーレムを踏み台に高くジャンプすると、二つのウォッチのボタンを押す。

 

『フィニッシュタイム!』『エグゼイド!』

 

俺はドライバーのロックを解除し、再び回した。

 

『クリティカルタイムブレーク!』

「おりゃああああああああ!!」

 

俺は両腕にエネルギーを溜め、それを着地と同時に地面に叩きつける。その瞬間、衝撃波が俺の周りに発生した。衝撃波を受けたゴーレム達に『HIT!』『GREAT!』というエフェクトが発生し、やがて『PERFECT!』というエフェクトも出てくると、ゴーレムの群れは石つぶてになって砕け散った。

 

 

 

 

 

 

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俺はすぐに塔の中に入る。どんな罠があるかは知らないが、今はとにかく突っ走るだけだ。

俺は長い階段をひたすら駆け上がる………だが、ゴーレムやトラップが出てくる様子はない。召喚魔術に優れたレイクを倒したとはいえ、先程のボーン・ゴーレムが出てきてもおかしくないはずだが…。

そんな事を思っている内に、転送法陣のある最上階に着いた。俺は正面の扉をこじ開けて中に入る。

 

「っ…誰…?」

 

ビンゴだ。そこには法陣の中央に拘束されたルミアの姿があった。だが、俺がジオウに変身しているからか、誰なのか警戒してしまった。

 

「助けに来たぞ、ルミア。」

 

俺はそう言いながらドライバーのウォッチを外し、変身を解除した。

 

「トーマ君…!?」

「遅くなってごめん。でもすぐに助け……!」

 

俺はルミアのもとへ近寄ろうとしたが、何者かの気配を察してすぐに足を止めた。暗い視界の中、その人物は姿を現した。

 

「やっぱり、黒幕はあんただったのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ヒューイ先生”。」

「臨時講師の方が来ると思ってましたが、まさか君がここに辿り着くとはね。」

 

そこにいたのは、俺達の前任の講師であるヒューイ先生だった。

 

「お久しぶりですね、トーマ君。」

「…お久しぶり…と素直に言える雰囲気じゃないですけどね…。」

 

ヒューイ先生は久々の再開を口にしたが、今更こんな言葉を掛けられても喜びなんて湧かなかった。ヒューイ先生が一ヶ月前に姿を眩ましたのは、全部この計画のための準備だった。俺達はてっきり別の仕事に就いたと思っていたが、始めからテロリストの仲間だった事に、俺とルミアはショックを隠せない。結界の細工、転送法陣の転送先の変更…これを始めから計画していたのか…。

 

「どうしてこんな事をするんですか、ヒューイ先生!貴方は立派は先生でした!そんな事をするような人じゃないのに…!」

「残念ですがルミアさん。僕は始めからこういう人間だったんです。」

 

悲痛な叫びを上げるルミアに、ヒューイ先生は申し訳なさそうに言った。ルミアの周りにある法陣には、0を目指してカウントダウンが進んでいる。それは、ヒューイ先生の足下にある法陣も同じだ。そしてルミアの転送法陣とヒューイ先生の法陣は魔力路で直結されていた。

白魔儀【サクリファイス】…換魂の儀式とも言われ、自らの魂を莫大な魔力に変換、その魔力を以て範囲内を粉々に吹き飛ばす…まさに“人間爆弾”。

 

「…いつからなんですか?」

「十年以上も前からです。僕は王族、政府要人の身内がこの学院に入学された時、その人物を自爆テロで殺害するための人間爆弾なんです。」

 

そんなに前から潜伏してたって訳か…!?だとしたら、結界の改変や転送先の変更も、皆が気づかないところで着々と準備を進めてたのか…?入学するかも分からないのに…待てよ?

 

「それじゃあ、何のために転送法陣まで…?自爆が目的なら、転送法陣の転送先の変更はいらなかったはず…。」

「本来ならそのつもりでした。しかしルミアさんという方の立場や特性は少々特殊なんです。組織の上層部はルミアさんに大層興味を持たれています。だから直前に計画が変更されたんです」

 

ルミアを拐ったのは、計画のために必要だからって訳か…ルミアにどんな事情があるかは俺には分からないけど、天の智慧研究会が目をつける程だ…何か重要な訳があるのに違いない。

 

「“自爆してまで送り届ける”…なんて馬鹿げた話だ…。」

「全くです。ルミアさんがいなければ、僕は今でもこの学院でのんびり講師を続けていられたんですが…。」

「何だよそれ…それじゃあんたは、全部ルミアが悪いって言いたいのか!?」

「トーマ君!私は…」

「もちろん、ルミアさん自体に罪はありません。ですが、組織がルミアさんに目をつけてしまったからには、僕にはこうするしか方法がありません。」

 

ルミアが何か言おうとしたが、それを遮ってヒューイ先生が答えた。

 

「もし臨時講師の方もここに連れて来れば、転送法陣の解呪は出来たでしょう。ですが、君に制限時間内に解呪できる程の力があるとは思えません。」

 

そうやり取りしてる内に、残り時間は14分を切った。やはりあらかじめ計画していたとなれば、殆どは起動するだけで後は時間を待つだけと、精密に準備を進めていた事が窺える。

 

「本当なら君の選択肢は学院の地下へ逃げる事、ただ一つ…でしたが、君にだけ特別に“もう一つの選択肢”を与えます。」

「もう一つ…?」

「トーマ君、“天の智慧研究会に来ませんか”?」

「……は…?」

 

唐突に提案されたもう一つの選択肢…それは、組織への勧誘だった。

 

「…どういう事だよ…?」

「組織の上層部から提案を受けましてね、トーマ君を勧誘して欲しいとの事なんです。」

「勧誘…どうして…?」

「君もルミアさん同様、特殊な立場でいる事を聞いたんです。この話に便乗するつもりはありませんか?」

「便乗だって…?そんな馬鹿げた話があるか!現にレイクやリドリー、エリックは俺を殺そうとしたんだぞ!?」

「彼らは君を危険視した上で殺害しようと行動していました。一方、上層部の方は“君の力”に目をつけたんです。」

「俺の…“力”…?」

「“仮面ライダージオウ”…それは、時空を操る“魔王”の如き存在。その力を得れば世界はもちろん、過去も未来も望むがままに出来るもの…それこそ、君が持つ力です。」

「っ!?」

 

ヒューイ先生の言葉を聞いて、俺はあの“黄金の魔王”を連想し、激しい目眩と吐き気に見舞われた。

過去も未来も望むがまま……それじゃあ、一種の魔導兵器じゃないか…!それこそが魔王の証って事なのか…………?ジオウが…俺が……魔王と同じ存在…………?

 

「まだ力は弱いですが、天の智慧研究会に入れば、君の力はより強大になります。私自身が君を強くする事は出来ませんが、それでも君は私が認めた一人の生徒です。君は組織の中で力を増し、やがて“魔王”に至る事ができるでしょう。」

 

ヒューイ先生らしくない発言だ……そんなの絶対に嘘だ…解体されて標本にされるのに違いない…天の智慧研究会自体が魔術を究めるためにどんな犠牲をも止さない外道集団だ……だけど……………。

今までお世話になったヒューイ先生の言葉に、俺は惑わされそうになる。あの組織はやばいと分かってる…なのに……お世話になった恩を仇で返すような感覚に苛まれてしまう。俺は………何の為にここまできた…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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自身を見失い、絶望に打ちのめされようとしていた俺の心に映ったのは、二ヶ月前の光景だった。そう、ヒューイ先生が失踪する数日前の出来事だ。

 

「はぁ…はぁ…どうして上手くいかないんだ…?」

 

あの頃の俺は、いくらやっても魔術が上手く出来ず、皆と比べて遥かに劣っているという劣等感に苛まれ、魔術師の道を挫折しようとしていた。

バイトが休みの日の放課後、いつも学院の庭で一人で魔術の練習をしていた。だけどグレン先生と同じく【ショック・ボルト】程度すら三節で唱える事が出来ない程の無能だ。俺の数少ない取り柄としては、それこそ時間と空間の魔術だけだった。

 

「まだ帰ってなかったんですか、トーマ君。」

「あ、ヒューイ先生。」

 

そんなある日、たまたま近くを通りかかったヒューイ先生が声を掛けてきた。

 

「また魔術の自主練習ですか。なかなかに勤勉ですね。」

「ははは…全然上手くいかないんですけどね…。」

「上手くいかないというと、やはり成果が出ていないという事ですか?」

「そうですね…俺自身、魔術学院の生徒なのに魔術が苦手でして…皆は初等呪文の【ショック・ボルト】位なら一節で唱えられるのに、俺だけは三節じゃないと唱えられない。どうにか頑張って、皆に追い付こうと必死なんですけど……やっぱり思ったようにいかなくて…。」

 

俺は自らの才能の無さをヒューイ先生に語った。皆に追い付こうと必死で、それが空回りして焦っていた。

 

「焦っていても、上手くはいきませんよ。魔術というのは、魂の在り方によって得意不得意が変わっていくものなんですよ。闇雲に鍛練しようとしても、結局は水の泡。君は君のまま、自分の得意な分野を中心に進んでいけばいいんです。」

「!」

 

ヒューイ先生の言葉が、諦めかけていた俺の心に炎を灯してくれた。あの時は嬉しかった。皆と同じでなくとも、“俺は俺のまま”、魔術の道を進めばいい。その言葉が今の俺を築く切っ掛けになった。

 

「ところで、君には何か得意な分野はあるかな?」

「…時間と空間の系統なら、俺も上手く出来ます。」

「なるほど、僕は空間系魔術を専門にしています。もしかしたら、君の成長を手助け出来るかもしれません。」

「本当ですか!?」

「はい。そのための時間を設ける事は難しいですが、個別指導で長所を伸ばす事はとても良いことです。不定期ではありますが、君の個別指導を行いましょう。」

「…ありがとうございます!」

 

ヒューイ先生からの個別指導を受けれると聞いた俺は、喜びに満ち溢れていた。確かに不定期ではあったけど、その個別指導は俺の長所を伸ばすのに最高な時間だった。ヒューイ先生が失踪するまでのわずかな期間だったけど、その時間は…決意は…間違ってはいなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「…!」

 

そうだ。ジオウが…魔王の如き存在であるなんて限らない…俺が魔王になる必要なんてない…!俺は…俺のまま進めばいい!………だったら、やるべき事は一つ…ルミアを……学院の皆を救う事だ!

 

「…決めたよ。」

「そうですか、では「断る。」…え?」

「俺の…ジオウの力が魔王の如き存在だったとしても、それに流される必要はない。仮面ライダーは決して魔導兵器なんかじゃない。天の智慧研究会の力なんか借りない。“俺は…俺のまま強くなる”!」

 

俺はヒューイ先生の勧誘を拒否すると同時に自身の決意を語った。

 

「これは、他でもないあんたが教えてくれた言葉だ。周りに流されず、己を見失わずに長所を伸ばしていく…今の俺を創ってくれたのはあんただ。闇に染まって爆ぜるというのなら、俺が闇から引きずり出す!」

「そうですか…残念です。」

 

勧誘を断られた事を残念に思うヒューイ先生。外道な…しかも俺の命を狙おうとした組織の仲間に加わる程、俺の心は腐ってはいない。今はそんな事よりも転送法陣を解呪するのが先決だ。

残り時間は11分、話で大分時間を無駄にしてしまった。普通に解こうとすれば時間切れで全てが水の泡。

 

「では、君はすぐに地下へ退避しなさい。」

「いいや、逃げる気なんてない!」

 

俺はそう言い返しながらジオウウォッチとビルドウォッチを取り出す。セントさん、力を貸して下さい…!

俺はセントさんにそう願いながらカバーを回し、ボタンを押す。

 

『ジオウ!』『ビルド!』

 

俺はそのまま二つのウォッチをドライバーにセットし、ドライバーのロックを解除する。

 

「変身!」

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

『アーマータイム! ベストマッチ!ビルド!』

 

俺はジオウに変身すると、ビルドアーマーを装着する。

 

「トーマ君、逃げて…!」

「何言ってんだよ、ここまで来てそんな事出来るかよ!学院にはまだグレン先生やシスティーナ、皆がまだ取り残されてるんだぞ!?」

「もう間に合わないよ…!皆ここで死んじゃうのなら、せめて…貴方一人だけでも逃げて…!」

「…。」

「たとえ逃げたって、貴方を責める人なんて誰もいないよ…。」

 

ルミアは間に合わないと言って、俺に地下に逃げる事を薦めた………責める人は誰もいない…か………確かに誰もいないな…だけど、それじゃ犠牲になった人の想いはどうなるんだ?踏みにじってしまうような気がしてならない。

 

「…俺さ、小さい頃は“空っぽ“だったんだよ。家族も記憶も目指す道も無くて、孤児院に引き取られて…けど、時間が経つ内に愛着が湧いて、次第に馴染んでいったんだよ……それなのに、テロリストに全てを奪われて…居場所を無くして…。」

 

俺は自分の過去を自虐気味に語る。得たものを全てかっさらわれていった波瀾万丈な人生…それが俺だ。

 

「この学院に入学してやっと生きていく実感を得たというのに、またこうして奪われていくだなんて…そんな屈辱、もうごめんだ!」

 

俺はドリルを左手に持ち替えると、ドリルの刃で右掌を傷付ける。すると掌部分のスーツが破れ、そこから血が滴り出てくる。俺はレイクの手動剣を握った際の傷口を再び開いた……折角システィーナに治してもらったけど、今は一刻も争う。

 

「『原初の力よ・我が血潮に通いて・道を為せ』!」

 

【ブラッド・キャタライズ】…自らの血液を魔力処理、簡易的な魔術触媒に変える呪文。俺には魔力でルーン文字を書き込むのは無理だ。ならば己の血を以て解呪する他ない。ビルドアーマーを装着してる間は解析能力や演算処理が飛躍的に高まる。それを活かして解呪ルートを素早く構築すれば…行ける…大丈夫、俺なら出来る!

俺はドリルを外すと、素早く解呪術式を法陣の上に書き込んでいく。

 

「『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に解放すべし』!」

 

解呪術式を書き終えたところで、すぐに【イレイズ】を唱える。第一層の法陣が粒子になって消滅した。

まずは一層…この転送法陣は五層で構成されている。所要時間は約一分…この調子なら、ギリギリ間に合う…!

 

「何してるのトーマ君!?私に構わず早く逃げて!」

「っ…!」

 

ルミアに逃げる事を促されながらも、俺は第二層の解呪術式の書き込みに移る……っ、さっきよりも法陣の構造が複雑になってる…!恐らく進む度に術式の書き込みに時間を要する仕組みだ…!

 

「早い…まさか、ここまで上達していたとは思っていませんでした。」

 

ヒューイ先生はジオウに変身した俺の解呪の手際を見て心服していた。実技は苦手だが、その分は筆記で補っている。ルーン文字の書き取りは比較的素早く行うよう努力してきたが、それが今回の解呪作業で実った。

 

「トーマ君、このままじゃ貴方まで死んじゃうんだよ!?」

「そんな事分かってるよ!だからこうやって、今を生きるために必死に解呪をしてるんじゃないか!」

 

今頃逃げたって、どうせ地下には辿りつけない…いや、始めから逃げる気はない!

涙を流しながら叫ぶルミアに、俺は解呪術式を書きながらそう答えた。術式を書き終えたらすぐに【イレイズ】を唱える……これで二層…次は三層だ……っ…!

 

「くっ…!」

 

俺の意識は魔力と血液の消費で一瞬朦朧とする。そしてさらに複雑化する法陣。間に合うのか…?いや、絶対に間に合わせる!

 

「どうしてここまで…?ここで逃げても、貴方を責める人は誰も…」

「ああ…責める人なんて誰もいないだろうな…!だけど…俺を残して死んでいった孤児院の皆と……セントさんと約束したんだ……“皆を守るヒーローになる”…って…!」

「皆を守る…ヒーロー…?」

「始めから何もなかった俺が…“初めて抱いた夢”……いや、“生まれた時から決めていた気がする夢”だ…ここで諦めて逃げたら…あの世で…皆に会わせる顔がない…!だから…皆の想いを背負って…夢を果たす!」

 

死んでいった孤児院の皆のためにも…そして、俺を助けてくれたセントさんのためにも…夢を夢で終わらせる訳にはいかない…!

俺はそう叫びながら術式を書き終え、また【イレイズ】を唱える……次は……四層…!

 

「それに、お前の帰りを待ってるんだよ…グレン先生も…システィーナも…皆も…そして俺も…また楽しく学院生活を送りたいんだ…ルミアだってそうだろ…?」

 

俺は術式を書きながらルミアに問いかける。これからも皆で、何気ない学院生活を送りたい…それはルミアも同じはずだ…。

 

「私には…そんな資格は…」

「逃げるな!!」

「っ!?」

「昔のお前に何があったか…知らないけど…それを生きる事からの逃げ道にしていいはずがない…!お前を助けるためにグレン先生も、システィーナも、俺も傷つきながらも必死に頑張ってるんだ…!その想いを蔑ろにしていいはずがない!」

 

自らの命はどうでもいいと考えるルミア。そんなルミアに俺は檄を飛ばしながら術式を書き込む………段々と、意識の混濁が…魔力と血液の消費で……次第に頭が回らなくなっていく………。

 

「もう一度聞くぞ……お前は、どうしたいんだ…?」

「…生き…たい…。」

「聞こえないぞ!」

「生きたい!システィと色んな事を見たい…!もっとグレン先生の授業を聞きたい…!また皆と…一緒に過ごしていたいよ!」

 

涙を流しながら、張り裂けそうなくらいに溜め込んでいた願いを叫んだルミア。その願いを聞いた俺の表情は仮面の中で“くしゃっと”なっていた。

 

「…なら、答えは一つだよな…!」

 

ルミアを助けて、皆のもとに帰る…!

俺はそう言いながら術式を書き終え、すぐに【イレイズ】を唱える…………残り時間は…あと2分……そしてあと一層……!

 

「もう…すぐだ…!」

 

これを解呪すれば、転送法陣も【サクリファイス】も無効になる……最後の踏ん張りどころだ…!

俺が残り一層の解呪術式の書き込みに入ろうとした……その時だった。

 

「…っ…あ…!」

 

マナ欠乏症と貧血による影響で俺の体は力を無くし、地面に伏した。その証拠にドライバーからは警告音のようなものが鳴り響く。俺は確認してみると、ドライバー上部の緑色のランプが赤く点滅しており、液晶にも流れるように【WAINING】と危険状態を知らせている………くそ…こんな…ところで……!

 

「トーマ君っ!!」

「…ぁぁ……。」

「どうやら、先に君の方が持たなかったようですね。確かに君の実力には驚かされましたが、魔力と血液を大量に消費しては、まともに動く事は出来ませんからね。」

「黙……れ……!」

 

マナ欠乏症と貧血の両方を発症し、まともに動く事が出来なかった俺にヒューイ先生が呟いた…………ああ……視界が、段々ぼやけていく……ここで………終わり…なのか…?

揺らいでいく視界の中、ルミアは倒れた俺に手を差し伸べようとしていた。転送法陣が結界の役割を兼ねているために、一瞬阻まれる…だが、ルミアは力を振り絞って…自らの右手を結界の外へ突き出した。

 

「っ…!」

 

俺も満身創痍の身に鞭を打って身体を起こす。少しずつ近づいてくるルミアの手に向かって、俺は左手を差し伸ばす。お互いの手が触れ合った…その時

 

「…!」

 

突然、ルミアの身体が発光すると同時に、俺の身体に魔力が満ち溢れてきた。ルミアは既に【スペル・シール】を掛けられているはず…にも関わらず、一切の詠唱無しで俺の魔力を回復させる力を持つ…もしや…!

 

「“感応増幅”…ルミア…もしかしてお前…!?」

「うん…私は“異能者”なの…受け取って、トーマ君!」

「…ああ!」

 

異能者…それはごく稀の確率で魔術に依らない奇跡の力を体現できる特殊能力者の事だ。ルミアのような感応増幅者は、触れた相手の魔力、魔術を自らの意思で何十倍も増幅させられる。

だが異能者は悪魔の生まれ変わりとも言われ、迫害対象になっている…ルミアが悪魔の生まれ変わりだって…?いや、俺には“天使”に見える…。

ルミアの感応増幅によって俺の魔力が増幅されていく。だが残り時間は15秒。これでは解呪術式を書き込んでも間に合わない…どうすれば……?

俺が最後の一層を解呪する方法を模索していた時、俺の頭の中に沢山の数式が流れてくると共にイメージが浮かび上がる……数式を解呪術式に変換して…それを収束させて……法陣に……っ!これだ!

 

「ルミア、下がってろ!」

「うん…!」

 

安全のため、俺はルミアに下がるよう指示すると、右手にドリルを装着する。続けてドライバーの二つのウォッチのボタンを押す。

 

『フィニッシュタイム!』『ビルド!』

 

俺の周りにあらかじめイメージしておいた数式が出現。それらが俺の周りを旋回しながら解呪術式へ変換されていく………そうか、セントさんも力を貸してくれているのか…皆を守るために…!

俺はドライバーのロックを解除して360度回した。

 

『ボルテックタイムブレーク!』

「はあああああああああああああ!!」

 

俺はドリルに数式になった解呪術式を収束させ、それを転送法陣に叩き付けた。螺旋状に収束された解呪術式が音を立てながら残り一層の転送法陣を削っていく。残り5秒………!勝利の法則は、決まった!!

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

法陣を削る勢いは増していき、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリィィィィン……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の一層が消滅した。それと同時に転送法陣は強制停止し、【サクリファイス】発動も阻止する事が出来た……間に合った…。

 

「はぁ…はぁ…。」

 

一気にのしかかる疲労に見舞われる中、俺は変身を解除する。

 

「まさか…解呪を成し遂げてしまうとは…成長しましたね、トーマ君。」

 

法陣の解呪を成し遂げた俺に、ヒューイ先生は褒めた。レイクに言われた時はばっさり切り捨てたが、ヒューイ先生の場合は複雑な気分になる…当然だろう、今まで先生と慕っていた存在が、今はテロリストとなって俺達と対立していたのだから…。

あの僅かな残り時間では、たとえルミアの感応増幅で魔力が回復しても解呪術式の書き込みは間に合わなかった。だからさっきの方法を行使した…不確定故に一か八かの賭けだったけど…。

 

「僕の負けです…不思議ですね。計画が失敗したというのに、何処かほっとした自分がいる。」

「やっぱり、未練が溜まってたじゃないですか…。」

「それもありますが、生徒達が“無事”でよかったです…。」

 

敗北を宣言したヒューイ先生。その心には、やはり講師だった頃への未練が溜まっていた……生徒達が“無事”……なはずがない。本当はエリックが皆を拷問した。皆心身共に傷付いた……けど、今の俺にそんな事は言えなかった…。

俺は立ち上がると、ヒューイ先生のもとへ近寄る。

 

「一つ、尋ねたい事があるんです。」

「何ですか?」

「僕は…どうすればよかったのでしょうか?組織に従って死ぬべきか、もしくは逆らって死ぬべきだったのか…自分でもよく分からないんです。」

「…自分で選択しなかったあんたが悪い。他に方法はいくらでもあったはずです。なのにあんたはそれを全部無駄にした。」

 

俺はそう吐き捨てると、ヒューイ先生の腹部に全力の拳を叩きつけた。全力を出し切った後のため、力は弱かったが、それでも気絶させるには十分だった。

 

「…それから、もう一つ…。」

「…?」

「…“リベレイター”には、くれぐれも気を付けて下さい…。」

 

ヒューイ先生が俺の耳元で小声で囁いた……“リベレイター”…?何の事だ…?もしかして、リドリーやレイクが呟いていた“例の連中”って訳か…。

 

「…今まで、ありがとうございました。」

「…ふっ…なかなかに……手荒い別れ…です…ね…。」

 

ヒューイ先生はその言葉を最後に完全に気を失い、力なく崩れ落ちた………はぁ…俺も…疲れてきたな…。

疲労が溜まり、俺の身体もふらついてきた。やがてそのまま身体は無意識に傾斜し始めた。だが、俺の身体は地面に叩きつけられる事はなく、何者かが受け止めてくれた。

ルミアだ。拘束から解放されて自由の身になった彼女が、満身創痍の俺を倒れ込む直前で受け止めたのだ。ルミアは俺の身体をゆっくりと横に倒した。

 

「…ありがとう、トーマ君。」

 

瞳に涙を溜めたルミアだが、俺の意識が途切れる前、確かにその顔には笑顔で一杯だった…。

 

 

 

 

 

 

セントさん……………今の俺の顔、嬉しくて……“くしゃっと”なってるんですよ…………誰かの力になれたから……。

 

 

 

 

 




ED[GHOST]
挿入歌[Be The One]




戦兎「てぇんさい物理学者の桐生戦兎は…。」
セラ「あれ?おかしいなぁ…本来だったらここの話はグレン君が活躍するはずなのに。」
戦兎「まあ、この作品にはオリ主タグあるし、何よりトーマが主役だからしょうがない。」
セラ「そういえば、トーマ君の“トーマ”って、この世界では“7月”を意味してたような…。」
戦兎「そこは後々分かるはずさ。それよりもセラさん、早い段階で貴女が出て大丈夫なの?」
セラ「大丈夫。アニメ版(三話)の回想でも姿だけ出演してたから。それに、大人の事情に突っ込んだら馬に蹴られてゴートゥヘルってどこぞの倒錯一角獣も言ってたから。」
戦兎「それ俺の台詞…いや若干違う…ってか、流石にあの一角獣はそんな事言わないから。」
セラ「でも、筋肉の人なら言いそうだよね。」
戦兎「ああ、確かにあいつなら言いそうだ。」
セラ「誰が上述の台詞を言うと思う?」
戦兎「“万丈”だ。」

NEXT→[事件後とこれからと…]

万丈「解せぬ。」


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事件後とこれからと…

まず一言、何ヶ月も放置してしまいまして大変申し訳ございませんでした!
リアルの方で忙しくて手がつけられずにいました。
長らくお待たせいたしました。それではどうぞ!

OP[Blow out]



*2/28 次回予告の内容を一部修正。


side:トーマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん?…ここは…?」

 

俺が目を覚ました時、そこはカフェの店内だった。けどそこはいつも通う『カイロスの庭』ではない。店内の装飾を見てみるに、誕生を意味する“『nascita』”というのが店の名前のようだ……どうしてこんなところに…?

 

「俺は確か…ルミアを助けて、そのまま気絶したような…。」

 

俺は気絶するまでの経緯を思い出す。転送法陣と【サクリファイス】を止めるために無理をしたんだったな。テロリストの目的を阻止してから気絶したから、恐らく精神世界か何かだろう…それにしても、俺がこの場所に立っているのにはどういった関係があるんだ?確かにサクヤさんの店にはよく通うけども………ん?

 

「あれ…ウォッチが光ってる…?」

 

俺はふと何かに気付き、懐からビルドウォッチを取り出すと、何故かウォッチが光っていた………もしかして、ビルドウォッチがこの場所と何か関係があるのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、トーマ。」

「!」

 

この声……もしかして……?

俺は“聞き覚えのある人”の声を聞き、後ろへ振り返る……。

 

「セント…さん…?」

 

そこには紛れもなく、俺を救ってくれた命の恩人・“桐生戦兎”がそこにいた。

 

「久しぶりだな、あの時以来か。」

 

実に8年ぶりの再開…もしかして、セントさんがくれたビルドウォッチが俺をここに…?

 

「俺があげた“それ”、随分と役に立ってるようだな。」

「はい。俺、仮面ライダーになって皆を守れたんです。もちろん、仲間達やセントさんの力もあってですけど、俺はこの力で必ずヒーローになってみせます。」

 

俺はジオウになってテロリストが起こした事件を阻止できた事をセントさんに語る。

 

「その意気だトーマ。けど気をつけるんだ。“力ある者には大きな代償”が伴う。仮面ライダーになった以上、それはトーマもその責任を負わなければいけない。力を持ち過ぎる事は、それこそ正義が悪に傾いてしまう事にも繋がるんだ。」

 

セントさんが言い放った警告。力にはそれ相応の責任を背負っていく必要がある。幼き頃から持っていた“仮面ライダージオウ”という力、使い方を誤ればそれこそ世界の破滅を招く未知の可能性にして危険性。魔術の存在するこの世界でジオウの力を使う事は魔術の世界へのアンチテーゼのようなものだ。だけど、与えられた力の使い方は決して間違ってはいないと思う。現にジオウの力が無かったら、俺は生きてはいないだろうし、何より皆を守ることは出来なかったのだから。

 

「分かってます。たとえ生まれながらに不条理を背負わされたとしても、俺はこの力を使います。ラブ&ピースのために!」

「!…トーマ…。」

 

俺の決意を聞き、セントさんは感銘を受けた。するとセントさんは右手を俺の頭に置いた。

 

「ずいぶんと“背が伸びた”な。」

 

俺はその言葉を聞いて自然と笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……ん…。」

 

再び目が覚めると、俺は病室のベットに横たわっていた。やっぱりあれは夢だったか…いや、夢じゃない。あの感覚は確かに現実だった。

起きた時、夜になっていたために病室の視界は暗かった。隣には同じく入院したグレン先生が熟睡していた。

俺はベッドの横のテーブルにドライバーとウォッチが置いてあるのが見えた。俺は起き上がると、そこからビルドウォッチを手にとって見つめる………背が伸びた…か…。

 

「ふっ…見た目だけですよ…今はまだ…。」

 

俺は誰にも聞こえないようにポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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side:?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイムマジーン!』

 

時空転移システムでこの時代にやってきた俺は、街外れの草原にタイムマジーンを着陸させる。ウィンドウを操作して機体のハッチを開くと、俺はタイムマジーンから降りる。この街に、この時代にオーマジオウがいる……俺のいた世界を荒廃させた…最低最悪の魔王が…!

 

「首を洗って待っていろ…オーマジオウ…!」

 

俺はオーマジオウに対する憎悪を抱きながら、フェジテに向かって歩き出す……オーマジオウを殺して、絶対に歴史を変えてやる……“どんな事”をしてでも…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:トーマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔術学院の自爆テロ未遂事件から一週間の月日が流れた。今回の事件の首謀者であるヒューイ先生、リドリーとエリック…もとい“ディブロス兄弟”を含めた四人が逮捕された。これは後にグレン先生から聞いたけど、どうやらグレン先生も学院に向かう途中でテロリストの襲撃を受けたらしい。グレン先生の場合は【愚者の世界】で魔術を封殺。その後“カラテ”でメッタメタにして亀甲縛りにして放置したらしい。だからグレン先生は俺よりも先に学院に到着したのか。ジオウに変身するまで一方的にやられていた俺とは対照的だ………けどやる事がえげつないな…。

俺は事件の後、グレン先生と共に病院に搬送された。グレン先生はシスティーナから【ライフ・アップ】による応急処置を受けていた事もあり、すぐに快復したが、俺はマナ欠乏症と貧血の反動で1週間の安静を余儀無くされた。そりゃそうだよな…【ブラッド・キャタライズ】で自分の血を解呪用の触媒に変えた事、【イレイズ】による大量の魔力消費とか…これでぶっ倒れないはずがない。以上の理由から、俺は言う通り安静にしていた。もちろん、システィーナやルミア、カッシュ達やサクヤさんも見舞いに来てくれた。おやっさんは多忙で来れなかったようだけど…。

エリックから拷問を受けていたカッシュ達も、事件後に一斉に診てもらったが、全員軽傷で済んだらしい。もしあの場面で侵入に失敗していたら、それこそ大惨事だったのだから。

俺が入院してる間、ルミアは授業用のノートを俺に見せに来てくれた。件の恩返しなのだろう。彼女の献身的な態度には見とれたの一言だ。

ある日、俺とグレン先生、そしてシスティーナは帝都に呼び出された。俺は重傷で無理に歩く事はできないため、車椅子に引かれながら帝都に行くことになった。

そこで聞いたのは、ルミアの素性だった。ルミアは…3年前に流行病で病死した“エルミアナ王女”だったらしい。だが病死というのは表向きの話。本当は彼女が異能者だからという理由だ。“感応増幅者”を含め、異能を持って生まれた者は悪魔として迫害される。王女様が異能を持っている事を世間が知ったらどうなるか、想像するのは難しくないだろう。そういった様々な政治的事情が絡み、彼女は帝国王室から捨てられ、フィーベル家に引き取られたらしい。

確かに異能を持つ者の中には、その力に溺れて悪事を働く輩だっている。けど異能者全てが完全に悪って訳じゃない。現に俺はルミアのおかげで皆を守る事ができた…けどぱっとしない点もある…あれは本当に“感応増幅”だったのか…?マナ欠乏症と貧血で倒れた俺が、ルミアから“感応増幅”を受けた時、俺の中で“何か”が動いた気がした。まるで長く放置されて古びた時計が“その時だけ動いたのような感覚”が………あれは一体何だったのだろうか…?

あの時の謎を考えながらも、俺達は自爆テロの顛末を聞かされた。襲撃者の目的、ヒューイ先生の裏切り、エリックによる拷問など、あの日起きた事を話した。けどあの場ではジオウの力に関しては話さなかった。ジオウはまだ俺でも完全には把握していないのと、信憑性が薄いからだ。これを話すのはしばらく先だ。

俺達は真実を知る数少ない人物となり、今後ルミアを守るために協力するよう要請された。断る理由なんてない。俺だって、ジオウの力を持つ者として天の智慧研究会に狙われている存在だ。だから俺は、魔王と謳われた力を…皆を守るために使う。ヒューイ先生が呟いていたリベレイターって連中も気になるけど、それは後回しだ。

怪我を治して退院した俺は後日、魔術学院の学院長室に呼び出された。部屋には俺、グレン先生、システィーナ、ルミア、アルフォネア教授、そして学院長がいた。その要件はもちろんジオウの力に関する事だった。

俺は皆にドライバーとライドウォッチを出してその機能を説明した後、実際に変身し、ビルドアーマーやエグゼイドアーマーの姿も見せた。

これを聞いて皆は当然驚いた。俺自身記憶がないとはいえ、魔導器を持っているのだから当たり前だろう。だけどアルフォネア教授だけはドライバーとウォッチを一目見た時、“思い当たるような反応”をしていた。

それはともかく、あの場で分かった事がいくつかあった。まず一つはジクウドライバーは“俺だけしか装着できない”事だった。グレン先生やアルフォネア教授が試しに装着しようとしたが、ドライバーが反応しなかった。この事から、ジクウドライバーは俺にしか装着できないようだ。

次に、ドライバーとウォッチが“今の時代では作れない代物”だという事。最初は超古代文明の遺産かと思っていたが、アルフォネア教授曰く「構造も材質も何もかも新し過ぎる。」と言った。光る数字で時間を示す時点でただの時計じゃないとは察していたが、超古代のものでも、現代のものでもない。そうなると、“未来の技術”の産物かもしくは平行世界の物という事になる。

そしてもう一つは、ドライバーとウォッチは“魔導器ではない別の何か”という可能性だ。その証拠として、グレン先生が発動した【愚者の世界】の範囲内にいるにも関わらず、ドライバーとウォッチが機能したからだ。ジオウに魔術を強化する機能があるとはいえ、本来の用途は別にあるという事だ。

俺自身もジオウに関してはよく分かっていないが、話せる範囲は全て話した。ドライバーやウォッチを孤児院に預けられる頃から持っていた事もだ。

……と、以上のように、大分快復した俺は入院から退院後もいろんな意味で忙しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの朝、俺は制服に着替え、タンスの上に置いてあるジクウドライバーとライドウォッチ各種を忘れずに鞄に入れる。

 

「よし、行くか。」

 

俺は支度を終わらせると、自宅の外へ出る。道路に向かい、そこでライドストライカーを起動する。ジオウに変身できるようになってから、移動手段が楽になった。“バイク”という新しい乗り物をこのウォッチ一つで召喚・具現化できるからだ……魔術全然関係ないけど…。

俺はライドストライカーのハンドル部に出現したヘルメットを被ると、バイクに跨がる。ヘルメットのズレを直すと、エンジンを噴かして発進させる。

まずはサクヤさんの店へ行くか。見舞いのお礼を言いたいし、何より腹が減っては戦は出来ぬ…だしな。

数分走り、『カイロスの庭』に到着した。俺はヘルメットを外し、ライドストライカーから降りると、ウォッチ状態に戻す…………ん?

 

「あれは…バイク…?」

 

俺はふと見ると、店の横にバイクが停車されているのが見えた。俺のようにコンパクトに持ち歩けるようなものではないらしいが、スマートなデザインから走破性能は良さそうだ。全体的に銀色だが、所々“青い稲妻”のようなラインが走っている……それにしても、俺以外にバイクに乗る人がいるんだな…。

ライドストライカー以外のバイクを目の当たりにした俺は店内に入ろうとすると

 

「…。」

 

内側から扉が開き、そこから一人の青年が出てきた。旅人の服装に身を包み、金髪の長髪を三つ編みにして、灰色のリボンで結んでいるが、何故か三つ編みの先端が紫色に変色している。染めたのか、もしくは遺伝的なものなのかは分からない。

青年はそのまま俺の横を通り抜けると、店の横に停車してあるバイクに乗ると、ヘルメットを被り、バイクを起動した。どうやら彼が持ち主だったようだ。

青年はエンジンを噴かし、そのまま走り去っていった。

 

「っ…?」

 

俺はその青年を見届けた際、“何かの幻影”が青年についていくのが見えたような気がした………空腹のせいでとぼけているのかな、俺…?

それはさておき、俺は店内へ入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでサクヤさん、さっきの人は?」

「ええ、普通の旅人だったわ。トーマ君達と同い年っぽかったけども。」

「俺達と同い年…?」

 

いつものモーニングセットを注文し、サクヤさんと雑談する俺。先程すれ違った青年の話をしていた。俺達と同い年なのか…旅人とはいえ、滅多にないバイクを所有してるなんて…。

 

「それにしてもさっきの子やトーマ君は変わった乗り物に乗っているわね。」

「あぁ…あれはつい最近手に入れたものなんですよ…俺自身あれがなんなのか詳細が分かってないですけど。」

 

サクヤさんは俺が所有しているライドストライカーや、さっきの青年が乗っていたバイクについての話題を話してきた。バイク自体、俺やさっきの青年以外に持ってる者は恐らくいない。たとえ古代のものだと推測しても、その構造は新しいものだ。

 

「もしかして、それも“ダイキさん”からの贈り物だったりして?」

「未だ音信不通なのにそれはありえないですよ…。」

 

ダイキさん、今何処にいるんだ?あの人、収集家として各地の遺跡で探検する仕事をしているらしいが、よく奇妙なものを土産として俺に見せてくる。

 

「あ、いらっしゃいませ。」

 

そう雑談していると、別のお客さんが来店したため、サクヤさんが業務に戻っていった。さて、俺も朝食を済ませて学院へ行くか。

俺が紅茶に手を伸ばそうとした…その時だった。

 

「っ!?」

 

突然、謎の波動と共に周囲の時間が止まった。物体の動きやサクヤさん達の動きが止まっているが、ライドウォッチを所持しているおかげなのか、俺だけはその影響を免れた……何だこれ…?誰かが時間停止の魔術を唱えたのか…!?けど魔力が一切感じられない……だとしたら異能か…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、せっかく“ゲムデウスの力”を与えたのに、やられちゃうとは情けないなぁ~…ま、試作ものだから仕方ないか。」

「!?」

 

俺の背後から少女の声が聞こえた。俺はすぐに立ち上がって後ろへ振り返ると、そこには黒と紫を基調としたパーカーとワンピースに身を包み、紫色の短髪には“懐中時計のような髪止め”が二つ付けられている少女がいた。

 

「誰だお前…!?」

「ん?私は“メルディ”。はっきり言うなら、“リベレイター”の一員ってところかな?」

 

そう気楽に名乗るメルディ……“リベレイター”…だって…!?

「リベレイター……ヒューイ先生やレイク、リドリーが言ってた連中か…!」

「ピンポーン!…という事は君がジオウなんだね。」

 

憤りを感じている俺とは対照的に、やけにテンションが高いメルディ。やはりというか、ジオウに関して何か知ってるんだな…。

 

「何故レイクにウォッチを…?」

「私達はある目的のために行動しているのさ。全てを破壊しかけた時空の魔王・“オーマジオウ”に代わる新しい魔王を擁立するためにね。」

 

メルディは目的を語った。新しい魔王を擁立するために動いている……いや待てよ、“オーマジオウ”…?

 

「オーマジオウ…?それは一体「君の事だよ。」…っ!?。」

「未来の君は、世界を支配する魔王になってるんだよ。だから私達は君に代わる魔王を擁立するために動いているんだよ。」

 

メルディは途中で険しい顔になってオーマジオウが誰なのかを語った……俺が…未来で魔王になってしまってる…!?ジオウが魔王の如き存在であること……ヒューイ先生は…レイクは…天の智慧研究会はこの事をリベレイターから聞かされていたのか…?

 

「…俺はお前らの言う“魔王”への道は進まない。俺は“正義のヒーロー”になる。何を言われようとも、俺はジオウの力を皆を守るために使う!」

「へぇ~…だといいけどね。」

 

俺の決意にメルディはそう言うと、俺のもとに近づいてくる。

 

「君がどんな風に力を使うか、見せてもらうよ。」

 

メルディはそう言い残すと、そのまま回れ右して出口に向かっていく。メルディが店から出ていくのと同時に、時は再び動き出した。

 

「…。」

 

未来では魔王となっている俺、その代わりとなる魔王をつくるために動くリベレイター……短期間のうちに関係が複雑になっていった。天の智慧研究会もそうだけど、これからはあのリベレイターにも気をつけないとな…。

俺は戦うべき相手が2つに増えた事を心の中で苦悩する。だけど俺はまだ知らなかった……もうすぐ、“3人目の相手”が現れる事を…。

 

 

 

 

 

 

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俺は朝食を終えて店から出ると、今度は徒歩で学院に向かう。このままバイクで学院へ直行したいという気持ちもあったけど、ルミアの護衛という任務を依頼されたからそういう訳にはいかない。しかも俺とさっきの青年以外にバイクを所有している者がいないため、非常に目立つ。とはいえ、バイクを手にしたから馬車に頼る必要がなくなったため、バイトや長距離の移動は多少楽になったのは間違いない。“あの場所”へ行くのに馬車代が必要なくなるのは嬉しい事だ…同時におやっさんの馬車に乗る機会も減るけれど…。

噴水のところまで歩いていくと、そこには眠そうな表情のグレン先生の姿があった。

 

「おはようございます、グレン先生。」

「ん?ああ、トーマか…おはよう…。」

 

欠伸をしながら挨拶を交わすグレン先生…といっても、もうすぐ非常勤講師としての期間が終わるから、グレン“さん”と呼ぶのが正しいか…。

 

「そんな眠そうな顔してると、またあの時のように遅刻しかねないですよ?」

「んなこた分かってる…というかお前、ついこの前まで重傷だったじゃねぇか。無茶しやがって全く…。」

「そりゃ、無茶をしなかったら全て消えてましたからね…。」

「…どうしてなんだ?」

「…はい?」

「どうしてそこまでして今回の事件に首を突っ込んだんだ?いくら巻き込まれたとはいえ、無理に関わる必要はなかったはずだぞ?」

「…。」

 

皮肉の言い合いから一転、グレン先生は真剣な表情で、俺が事件に関わった理由を尋ねてきた。グレン先生の言っている事も正しい。普通だったらここまで関わる必要はない。リドリーに襲われたら、その時点で逃げ出してしまえばいいだけの話だ。けど俺は違う。奴らは俺から大切なものを奪った。住む場所も、家族同然だった孤児院の皆も、何もかもだ。今回の事件だって、ルミアを連れ去ろうとしたり、学院の皆を消し飛ばそうとしたり、そして俺自身のジオウの力を奪おうとしたりと、魔術を極めるために外道の限りを尽くしている。だから俺は事件に自ら首を突っ込んだ。

 

「…無駄にしたくなかったんです。俺に生きる意味を教えてくれた皆や、俺を助けてくれた恩人の想いを。」

 

俺はそう言いながらビルドウォッチを取り出すと、それを見つめる。

 

「これ以上皆が犠牲になるのなら、俺はこの力を使って皆を守りたい。孤児院の皆と約束した、正義のヒーローになるために。」

「そうか…けど、この世界じゃお前が抱いてる夢は、ただの幻想に過ぎないぞ?」

「そうだとしても、俺は常に理想に向かって突き進む…託された想いがある限り。」

 

魔術の世界は表裏一体。理想が通用しないなんて百も承知だ。けど、俺は皆から託された想いを背負って突き進む。皆を守るために。

 

「それに、嬉しいんですよ。」

「…何がだ?」

「誰かの力になれると、心の底から嬉しくなって、顔がつい“くしゃっと”なるんですよ。」

「…まぁ、気持ちは分からなくはないけどな…。」

 

グレン先生はそう言い返すと、小声で何か呟いていた。誰かの力になれるとくしゃっとなる気持ち、これはセントさんが教えてくれた言葉だ。

 

「そう思いますよね、グレン先生…あ、そうか…もうすぐ先生じゃなくなるんだったっけ…。」

 

俺はグレン先生がもうすぐ非常勤講師じゃなくなる事を思い出しながら立ち上がる。

 

「あんたの授業は殆ど成り立ってないものばっかりだったけど、まあまあ楽しかったですよ。学院から去っても、元気にやってる事を願ってますよ。」

「いや、俺“講師続ける”ぞ。」

「…え?」

 

突然の発言に首をかしげる俺。

 

「あれ、けどもうすぐ一ヶ月の期間が切れるんじゃ…。」

「だから、正式に魔術講師になる事にしたんだよ。まぁ、セリカの奴が自分の金が自分で稼げってうるせぇからな。」

 

どうやら正式な魔術講師として続けていく決意をしたらしい。そうか、やっぱりグレン先生も正義の魔法使いを諦めていないって事か。

 

「これからもよろしく頼みますよ、グレン“先生”。」

「おう、これからみっちりしごいてやるから覚悟しとけよ。」

 

それはまたぐだぐだな授業のフラグかな?いや、もう十分慣れっこだな。

俺達がそんなやりとりをしていると…

 

「グレン先生、トーマ君、おはよう。」

「ん?ルミア、それにシスティーナも。おはよう。」

「ええ、おはよう。トーマ。」

 

ルミアとシスティーナがやってきた。俺は二人に挨拶を交わす。今までは一人で登校していたが、あの事件を機に、これからはこの四人で登校する事が多くなる。まぁ、人数が多い方が楽しいに越した事はないけどね。

 

「そういえば、さっきまで二人で何を語ってたの?」

「え?…別に?何でもないよな?トーマ。」

「あ~、はい。ただ世間話してただけですよね。」

「怪しいわね…。」

 

やっぱり生真面目なシスティーナは怪しんでいた。言えない…正義のヒーローを目指す夢をグレン先生と語り合ってたなんて恥ずかしくて言えない。

 

「あ~強いて言うなら、白猫のあまりの喧しさをトーマと語ってた。だよな?」

「あ~、そうですね。」

「何ですってぇ!?」

 

話をごまかした俺とグレン先生。だが、その内容はシスティーナの怒りを買うものだったため、当然システィーナは辞書を構えて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

げ ん こ つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉぉぉ……!」

「ぁぁぁぁぁ……!」

 

例の如く辞書チョップを放った…だからこれ、拳骨じゃないって…。

俺とグレン先生は強打した頭部を両手で押さえて悶絶した。この光景を見て苦笑いするルミア。

 

「自業自得です。大体、あれは二人がふざけた行動をとるのがいけないのよ。」

「そうか?…時計修理をしてた俺を“自覚なし”って言うのはちょい理不尽さを感じたけど…。」

「あれは学院に来てまでやる事じゃないからよ!」

「Oh…前にも言っただろ?学業と時計修理を兼ねないといけない身にもなってくれって…。」

 

朝っぱらから説教女神モードのシスティーナ。多忙にも関わらず理不尽を喰らう俺。多忙になったのは大体おやっさんが悪い…うん…。

 

「え?トーマって時計修理のバイトやってるのか?」

「あ、はい。時給そこそこ良いし、何より小さい頃からお世話になってますからね。まぁ、仕事内容忙しいけど…。」

「い~なぁ~、どうせならそっちに就きたかったなぁ~。」

「ちなみに先生、“時計修理”は出来ますか?」

「え?出来ないけど。」

「じゃあ無理だ。」

「( ´・ω・`)」

 

俺がきっぱり答えた瞬間、グレン先生はしょぼんとした顔になった…何処にも楽な仕事なんてないんだよ、グレン先生。

 

「えーと、そろそろ学院に行かないかな?」

「あ、そうだったわ!ほら、二人も早く行くわよ!」

「そうだな…ほらグレン先生、いつまでもしょぼんな表情にならないで、行きますよ。」

「( ´・ω・`)」

「“これ”で目を覚ます?」

「なっ!?お、俺は目覚ましてるぞー!?あはは!?」

 

俺が親指を立てると、グレン先生は汗を流しながら立ち上がり、すぐに歩き出した…【笑いのツボ】…相当トラウマになったのか…。

 

「あ、あんたも黒い所あるのね…。」」

「まぁ、俺なりの渇の入れ方かな。」

「あの様子、グレン先生すごくトラウマ持ってそうだけど…。」

 

システィーナとルミアも【笑いのツボ】の効能に引き気味なご様子だ…安心してくれ、二人には絶対やらないから…ってか、もしツボを突いたらそれこそ大変な事になりそうだから…。

そんなこんなで俺達は学院に向かって歩き出す。色んな災難に巻き込まれたけど、こうして学院生活を送っているのが何より心地いい。時は短いとはいえど、その短い時間で沢山の思い出を築きたい。俺はそう思っている。

だけど運命はそれ許さないだろう。魔王と謳われた仮面ライダージオウの力、それを持つ俺に幾度となく災難は立ちはだかるだろう。だけど俺は負けない。俺は皆を守るために戦うんだ…ラブ&ピースのために…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かくしてジオウは目覚めた。彼自身は否定しているが、彼の魔王への道は始まったばかり。我が魔王、そしてその仲間達に天の智慧研究会やリベレイターは牙を向くだろう……ん?私が誰かって?名前の方はまた次回お教えしましょう。おっと、私が出たからといってまだ終わりではないですよ。あと少しだけ話が続くので、どうか読み忘れなく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

いつもの授業が終わり、俺は学院からバイト先である『アキレス時計店』へ向かって歩き出す。それにしても、錬金術でのグレン先生の“あれ”、やば過ぎるだろ…錬金術で石ころをニセ金に変えてそれを悪徳商人に騙し売るなんて…グレン先生だから思い付く事だろうけど、いくら何でもダメでしょ…。もしかしてグレン先生も金銭面でピンチなのかな…?まぁ、そんな事したら捕まるのは火を見るより明らかだけどな。現にシスティーナの父親が魔導監察官やってる事を聞いた時のグレン先生、焦り具合が尋常じゃなかった訳だし…まぁあれだ、ご利用は計画的にって奴だ。

俺は今日の錬金術の授業の内容を思い出しながらバイト先に向かおうとすると

 

「トーマ君。」

「あれ、ルミア?それにシスティーナも…どうしたの?」

「トーマ君が通ってる時計屋、一緒についていっていいかな?」

「別に構わないけど、どうして突然?」

「実はこの前、家の時計が一つ壊れちゃったのよ。だから今日はルミアと一緒に時計屋に行く事にしたの。」

 

どうやら二人がついていく理由は、家の時計が一つ壊れたかららしい。修理を依頼するか、もしくは新しい時計を購入するかのどっちかだろう。

 

「なるほど…分かった、一緒に行こうか。」

「うん。」

「ええ。」

 

俺とルミア、システィーナの三人でおやっさんの時計屋へ向かう事にした。夕焼けの空、街の通りを歩く俺達。あの事件からこの二人と絡む機会が多くなった気がする。他の男子からは絶対に嫉妬買われそうだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけたぞ、“オーマジオウ”。」

「「「!?」」」

 

突如、後ろから声を掛けられた俺達は背後を振り返る。そこにいたのは黒と赤の強化服にハーネスをつけた青年がいた……ちょっと待てよ…?今あいつ、俺の事を“オーマジオウ”って言わなかったか…?

 

「…誰?」

「名乗る必要はない。俺はお前を殺しに来たんだからな。」

 

青年は冷徹にそう言うと、“ある物”を取り出す……っ!?それは…!

 

「あれって…?」

「ドライバー…?」

 

青年が取り出したのは、俺と同じジクウドライバーだった。青年はドライバーを装着すると、左腕に装着されているホルダーから赤いライドウォッチを取り外す。赤いライドウォッチのカバーを回し、ボタンを押した。

 

『ゲイツ!』

 

青年はゲイツウォッチをドライバーの右側に装填。ドライバーに右の矢印が表示された後、ロックを解除する。電子音の音と共に、青年の背後に同じく時計のエフェクトが出現するが、俺とは違い数字で現されている。

 

「変身!」

 

青年はそう叫ぶと、ドライバーを両腕で抱え込んで一回転させた。ドライバーには流れるように【GEIZ】と表示された。

 

『ライダータイム! 仮面ライダーゲイツ!』

 

音声と共に時計に黄色い『らいだー』という平仮名が表示され、青年の周りに多数のリングが展開、青年の体に時計を模した赤いアーマーが装着された。浮遊した『らいだー』の平仮名がマスクにくっつき、変身が完了した。

赤をベースに胸部、指に黄色い部分があり、ドライバーには【2068】という数字が表示されていた。

 

「嘘…?」

「変身しちゃった…。」

「……っ!」

 

二人が驚いている中、俺もその光景にいつも見る悪夢を思い出す………悪夢の中でジオウと赤い戦士・仮面ライダーゲイツが戦っていた光景を……同じドライバーを持つ者は惹かれ合うって事なのか…!?

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

ゲイツは考える時間を与えず、俺達に向かって突撃してきた。

 

 

 




ED[GHOST]







トーマ「突如俺達の前に現れた仮面ライダーゲイツ。俺の事をオーマジオウと呼んで容赦なく襲いかかってきた。未来で魔王になっている事実に動揺を隠せない俺。そんな中…」
システィーナ「た、大変よ!ルミアが!」
トーマ「何だよ予告中だぞ…ってええ!?」
ルミア「皆、どうしたの?」(狐のお面着けてモザイク)
トーマ「…なぁルミア。お前今、絶対放送出来ない状態になってる…。」
ルミア「え…あれ、どうして私こんなにモザイクかかってるの?」
トーマ「俺も分からない…お面つけただけでこんなになるものなのか…?」
システィーナ「言ってる場合じゃないわよ!早く元に戻さないと!」
トーマ「そ、そうだなっ!…なぁ、お前も手伝ってくれ!」
?「ん?」(豹のお面着けてモザイク)
二人「「なんでさぁぁぁぁぁぁ!?」」



NEXT『舞い降りるG/蒼きF』


幽一「なんだこのカオスな図…。」
進也「分かんない。」


*この後、お面外したら元に戻りました。


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舞い降りるG/蒼きF

今回、ゲイツと“あるライダー”が登場します。ちなみに変身者はオリジナルとは違う人物です。


ウォルター「私はウォルター。この本によれば、魔術学院に通う青年、トーマ=ホロロギウム。彼には魔王にして時空の王者・オーマジオウとなる未来が待っていた。そんな彼に未来からやってきた仮面ライダーゲイツが襲いかかる。そしてもう一人、フェジテの街に青いファi…おっと、ここから先は未来の話でしたね。」


OP『Over“Quartzer”』



side:トーマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

突然俺達の前に現れたゲイツは、俺に向かって一直線で突撃してくる。リベレイターの一人・メルディからオーマジオウの存在については聞かされてはいるが、言及だけでいまいち信憑性がなかった。だけどあのライダー…ゲイツは俺のことを“オーマジオウ”と呼んだ。もしその存在が本当なら、あいつの目的は恐らくオーマジオウ誕生の阻止する事であるのは間違いない。でも俺は自ら魔王になる道は選ばない。

 

「くっ…!ルミア、システィーナ、下がって!」

 

だけど今は説得できる状況じゃない…いや、説得の効く相手じゃない。今は戦うしかない…!

俺は二人を下がらせると、ドライバーを取り出して腰に装着する。

 

「はあっ!」

「っ…!」

 

俺はゲイツの放った右ストレートを左に転がって避けると、ジオウウォッチを取り出し、カバーを回してボタンを押す。

 

『ジオウ!』

「でやあっ!」

「っ…!」

 

俺はゲイツの執拗な攻撃をかわしながらドライバーにジオウウォッチを装着し、ロックを解除する。

 

「変身!」

『ライダータイム! 仮面ライダージオウ!』

 

実体化した『ライダー』のカタカナがゲイツに向かって飛んでいき、少し時間を稼いでいる間に俺はジオウに変身し、マスク部に『ライダー』のカタカナを付けた。

 

「はあっ! たあっ!」

 

俺はゲイツに対して肉弾戦を挑む。一般的な魔術師は呪文の詠唱、威力、範囲などを強化するために精神的な鍛練を積む事が多い反面、肉体的な鍛練は一部を除いてあまりしない傾向がある。俺は昔、おやっさんから格闘術の手ほどきを受けた事があり、そのおかげである程度は格闘も出来るようになっている。そのため至近距離でも十分に格闘で対抗できる。

 

「甘い!」

「ぐっ…!」

 

だがそれはゲイツも同じ。魔術が基本となるこの世界で格闘戦を主にするのは同じで、あちらは恐らくライダーとしての実戦経験もある。ジオウの力を“使える”俺に対して、あっちはゲイツの力を“使いこなしている”。それはまさに、“無限の剣”と“究極の一”のようなものだった。

 

「貴様が生きているせいで、世界は荒廃する。全部貴様のせいだ…未来のためにここで死んでもらう!」

「っ…!俺は、魔王になんかなるつもりはない!」

「黙れ…!」

「うぐっ…!」

 

ドスの効いた声を発しながら俺を殴り飛ばすゲイツ。いずれ俺がオーマジオウになると合理的な理論をつくりだしているであろうその憎悪は計り知れないものだ…。

 

「…俺は…このまま大人しく死ぬつもりはない…!」

『ジカンギレード!』

 

俺はジカンギレードを装備する。

 

「なら惨たらしく、貴様を地獄に送ってやるまでだ!」

『ジカンザックス!』

 

一方、ゲイツは右手にジカンザックスという斧を装備した。全体的に赤く、『おの』という平仮名、ボタン付きのスロットなど、いくつかジオウとの類似性が見られる。

 

「はあああっ!」

「でやあああっ!」

 

俺の剣とゲイツの斧がぶつかり合い、火花が散る。だが徐々に押されていっている。理由は明白。ゲイツにはあるだろうが、俺にはゲイツと戦う理由がないからだ。可能ならせめて引き分けに持ち込みたい。

武器をぶつけ合っていく最中、俺はバックステップでゲイツから距離を取る。

 

『バーストモード』

「はっ!」

「うわあああっ!?」

 

しかし、ゲイツはすかさず左手に“小型の拳銃”を構えて連射してきた。ジャンプしていたために避けることが出来ず、そのまま全弾喰らい、地面に叩きつけられた。その際、ジカンギレードが手元から離れてしまった…くっ…もう一つ武器があったのかよ…!

 

「覚悟しろ、ジオウ。」

「くっ…!」

 

勝負あったと確信したゲイツは“拳銃”を折り畳み、ジカンザックスを手離すと、俺のもとへゆっくり迫ってくる…くそ……このままじゃ…殺される…!

俺は再び立ち上がると、すぐに身構える。

 

「…!」

「待って、ルミア!」

「え…!?」

 

その時、この戦いを見守っていたルミアがシスティーナの制止を振り切り、俺のもとへ駆け寄ってくると、俺を庇うようにゲイツの前に立ち塞がった。これを見たゲイツは一旦足を止めた。

 

「やめて下さい!」

「…。」

「何してるんだルミア、下がるんだ!」

 

俺はルミアに下がるよう言った。しかし

 

『フィニッシュタイム!』

 

ゲイツはゲイツウォッチのボタンを押してロックを解除し、そのままドライバーを一回転させた。

 

『タイムバースト!』

「はあっ!」

 

ゲイツは赤いエネルギーを纏いながら高くジャンプする。これを見たルミアは両手を広げて俺の前に立ち尽くす。

 

「っ!?」

 

その際、俺の隣には“ゲイツの攻撃でやられる俺”のホログラムが映し出された…まさかあいつ、俺がルミアを庇う事を先読みして……くっ…今はそんな事考えてる場合じゃない!

 

「ルミア!!」

「っ!…ルミア、伏せろ!」

「トーマ君…!?」

 

ルミアとは正反対に、ゲイツの殺気に怯んで身動きが取れないシスティーナ。俺はすぐにルミアを伏せさせ、ルミアを守るように体を覆う。【フォース・シールド】の展開は間に合わない。攻撃を喰らうと分かっていても、せめてルミアにあの攻撃が当たらなければそれでいい…!

 

「はあああああああああ!!」

 

跳び蹴りを放ち、接近してくる“赤き復讐者”。それと同時に、ルミアを守るように覆いつくす俺に“その先の結末”が迫ってくる……その時だった。

 

『タイムマジーン!』

「ぐわっ…!?」

 

ゲイツの攻撃が当たる事はなかった。何故なら、その間に一体の“ゴーレム”が割り込み、ゲイツの攻撃を弾いてくれたからだ。黒と銀をベースにライドウォッチ型の頭部のゴーレムだ。

俺とルミアがこの光景に立ちすくんでいる時、システィーナが駆け寄ってきた。

 

「無茶しないでよ!一歩間違えたら死んじゃうところだったのよ!?」

「ごめん、システィ…。」

 

飛び出していったルミアに涙を溜めながら駆け寄るシスティーナ。その件を謝るルミア。ルミアの正体を知ってなお、システィーナは彼女を家族同然の仲のようだ。だが今は無事を確認してる場合じゃない。

 

「“セレーネ”、何故…!?」

 

ゲイツはタイムマジーンの妨害にあって身動きを封じられている。ゲイツは“セレーネ”と呼んでいるらしいが…。

 

『ジオウ、貴方は早く二人を連れて逃げなさい!』

「っ!?…ああ…!」

 

セレーネと呼ばれた人物に逃げるよう促された。どうやらあのタイムマジーンの中に乗り込んでいるらしい。

 

「二人共、今はここから逃げよう。」

「…そうね。」

「うん…。」

 

俺はセレーネの言う通り、二人を連れて路地裏に逃げる。ゲイツの方は、恐らくセレーネという人物が足止めしてくれるだろう…。

 

「ねぇトーマ、あいつは一体誰なのよ!?」

「俺だって分からない。あいつは俺のことをオーマジオウとか言って……ああ、もう何が何だか…!」

「とにかく、今は安全なところに逃げよう!」

 

システィーナにさっきの件を問われるが、そんな事を俺が説明できる訳がない。それ以前に説明できる状況じゃない。セレーネという人物がゲイツを足止めしてはいるが、突破されるのも時間の問題。ルミアの言う通り、ここは急いで安全な場所に逃げるのが先決だ。

俺達は急いで路地裏を抜け、表通りに出た。とにかく、おやっさんのところへ向かおう。あそこに隠れてゲイツの追跡を…

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォォォォォオオオオオオン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

刹那、抜けた路地裏の方から甲高いエンジン音と共に、バイクに乗った“復讐者”が再び現れた…ゲイツだ。やはり同じジクウドライバーを持つ者として、ライドストライカーを所有している。もうこんなに早く足止めをすり抜けてきたのか…!

 

「…システィーナ、ルミアを連れて逃げろ。」

「トーマ、あんたはどうするの!?」

「あいつの注意を引く。あいつの狙いが俺ならば丁度いい。」

 

俺はシスティーナにそう言いながら、ライドストライカーを起動する。二人が安全に逃げられるよう囮になってゲイツを引き付ける。最も、ゲイツの狙いは俺なのだから。

 

「…トーマ君…。」

「安全しろって。そう簡単に俺は死なないよ。」

 

俺はルミアにそう言うと、ライドストライカーに乗り、ハンドルを捻って発進させる。

 

「さぁ、ついてこい…!」

 

俺はアクセル全開でゲイツの横をすれ違う。ゲイツはそれを見ると、バイクの車体を反対側に向けさせて俺の後を追ってきた…よし、とりあえず注意は引いた。次はこいつの追跡を撒く事だな…!

俺は街の通路をバイクで駆け抜ける。ゲイツも逃すまいと執拗に後を追う。夕暮れの街並み、買い物客や仕事帰り、下校している者がいる中、そんな光景に真っ向から反して疾走する黒と赤のライダー、困惑しない者などいない。

 

「うおおおっ!?何だぁ!?」

 

その中には、偶然とはいえグレン先生もいた…なんかすいません…。

俺はバックミラーを確認すると、ゲイツが加速してこちらとの距離を詰めてきているのが見えた。やがて俺とゲイツは並列した。

 

「はあっ!」

「っ! とりゃっ!」

 

横からゲイツの拳が飛んでくる。俺はそれを受け止め、反撃する。騎乗中に格闘していると、前方から馬車がやってきた。

 

「たあっ!」

「っ…!」

 

俺はゲイツを蹴り、右側へ寄せる。俺もすぐに左側に寄って馬車の道を空ける。

ニアミス。俺とゲイツが馬車をすれすれで回避すると、再びバイクチェイスは再開される。

 

「このまま逃げてもキリがないな…。」

 

バイクでひたすら逃げてはいるが、俺を殺す事べく執拗に追いかけてきているゲイツをスピード勝負で振りきれる自信がない。何処かで機転を作らない限り、復讐者の追跡は永遠と続くだろう。

俺はバイクを走らせていると、前方にカーブしている道が見えた。外側は身を低くすれば十分隠れられる段差があり、内側は壁がある……ここだ!

 

「はあっ!」

 

俺はアクセル全開でカーブ道に突入する。緩やかなカーブをある程度曲がったところで

 

「ふっ!」

 

俺はカーブ道の外側へ飛び、ライドストライカーをウォッチ状態にして芝生に着地する。そしてすぐに段差に身を寄せて屈む。数秒後、俺が隠れている事に気づいていないゲイツが走り去っていく音を確認すると、変身を解除して反対側へ逃げる。

 

「はぁ…はぁ…。」

 

緊張感がほぐれ、一気に冷や汗が流れる。殺さそうだったが、何とか撒いたようだ…。

俺は汗に濡れたままおやっさんの時計屋へ向かう…バイトがあるとはいえ、おやっさんなら上手く匿ってくれるだろう…バイト代減らされるのは確定事項だろうが、この際そんな事はどうでもいい。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ゲイツに見つからないよう気をつけながら、俺は路地裏を利用して歩く。バイクの音が聞こえなくなったため、【スクウェア・ソナー】を唱えながら進む。また見つかるかどうか不安だったが、ようやく『アキレス時計店』にたどり着いた。俺は店内に入る。

 

「おう、遅かったじゃないか。出勤時刻からとうに過ぎてんぞ?」

「ああ…ちょっと遅れた…。」

俺は先程の出来事で心の中が整理しきれてないままおやっさんに謝罪する。

 

「…その様子だと、何かあったようだな。」

「ついさっき何者かに命狙われたんだよ…そいつから逃げるのに必死で…。

「…一難去ってまた一難ってか…それはとんだハプニングだったな…。」

 

何でもお見通しなおやっさん…これがハプニングで済む事じゃねぇけどな…。

 

「まぁとりあえず着替えろ。なんかあった時の保険にはなるからよ。」

「分かった。」

 

俺は着替えるために奥の更衣室へ向かう…二人は無事だろうか…ゲイツが街中を徘徊している以上、迂闊におやっさんの店を出る事は出来ないけど、ゲイツの狙いが俺なら少なくとも“今は”無事だろう…。

俺は店員用の服装に着替えると、カウンターの方へ向かう。ちなみにおやっさんは明日届ける用の時計を修理しているため、現在工房にいる。俺がカウンターにつくと同時に、店の扉が開き、そこから白いローブを羽織った黒髪ロングの女性が来店してきた。

 

「いらっしゃいま「無事だったのね、“ジオウ”。」…え?」

 

俺の声を遮って、女性は俺の事をジオウと呼んだ…あれ、もしかしてこの人って…さっきのゴーレムに乗ってた人…?

 

「えっと…君は…。」

「私はセレーネ。数十年後の未来から来たの。」

 

セレーネは自らの名前を語った…数十年後の未来…?ゲイツと同じ世代だというのは分かるけど…。

 

「まずはこれを見て。」

 

セレーネはそう言って“板のようなもの”を取り出すと、それをタッチして操作する。

 

「何だこれ…未来の魔導アイテム…?」

 

俺が呟く中、セレーネは“板”を操作して、あるものを俺に見せた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

それに映っていたのは、俺が悪夢で見た光景だった。ビルドやエグゼイド、そしてジオウを含めた“20人の仮面ライダー達の石像”が円陣を組んで並び立つ聖地、周りの荒野には“街だったもの”が瓦礫となって山積みとなっており、横土色の空に硝煙が立ち昇る。

その聖地に黄金の魔王・オーマジオウ…未来の俺が立っていた。

 

「突撃ぃぃぃぃぃぃ!!」

 

聖地に独り立つオーマジオウに対して、その時代におけるレジスタンス達が銃を持って突撃していく。この時代では環境マナが目に見えて枯渇しているためか、オーマジオウが魔術を独占しているためか、レジスタンス達の装備は銃火器になっている。そして今の時代には殆どないバイクをレジスタンス達の数名が乗っている辺り、魔術が廃れ、逆に科学が発達したのが目に見えて分かる。

レジスタンス達はオーマジオウを取り囲むように突撃していく。

 

「ふん!」

「「「「「「「うわあああああああああ!!」」」」」」」

 

しかし、強大な力を持ったオーマジオウには無意味。爆発を起こし、レジスタンス達を群がる蟻を駆除するかの如く吹き飛ばしていく。

蹂躙しているオーマジオウに対し、大量のミサイルが接近してきた。するとオーマジオウは懐からオレンジ色と黒のライドウォッチを取り出し、カバーを回してボタンを押した。

 

『ゴースト!』

 

すると、オーマジオウの“視界に入ったミサイルが停止”した。続けて、セレーネが乗っていたのと同じタイムマジーンが数十機突撃してきた。この荒廃した未来だ…オーマジオウが有していたものをミサイルも含めてレジスタンス達が鹵獲したに違いない。

 

「ふんっ! はっ!」

 

しかし、オーマジオウはその場から一歩も動かず、タイムマジーンの巨体を物ともせずに軽々と攻撃を受け流した。時折、“力を増幅させた黒い雷”を落とし、軽々と持ち上げたタイムマジーンを他の機体、もしくはミサイルに投げつけていく。更に“16体の幽霊を召喚し、それらを使役する”。そうしている内に、タイムマジーンの一機が巨大なレーザーを放った。

 

「はっ!」

 

だが、オーマジオウが手をかざした瞬間、そのレーザーは“徐々に威力が落ちていき”、オーマジオウに当たる前に消滅した。

そうしてレジスタンス達を一方的に痛めつけた後、オーマジオウは時を止めてタイムマジーン達を停止させた。

 

「お前達に私を倒すことは不可能だ。何故か分かるか?私は“生まれながらの王”である。」

 

オーマジオウはレジスタンス達にそう告げた瞬間

 

「『朽ち果てよ』。」

 

オーマジオウは【イクスティンクション・レイ】を放った時と同じく“謎の古代語”で詠唱し、左手から波動を放った。するとその波動を受けたレジスタンス達やタイムマジーンが次々と“風化して消滅していった”。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「これが未来の貴方…“最低最悪の魔王”。」

「俺が…未来の魔王に…?」

 

凄惨な映像を見せられた俺は動揺を隠せずにいた。未来の俺が人々を蹂躙する光景…あれはただの悪夢じゃなかった。遠い未来、外道に堕ちた俺がやってしまう予知夢だったのか…!?

 

「私と“チアキ”は、歴史を変えるためにこの時代に降り立ったの。」

 

セレーネは自分がこの時代に来た理由を改めて言った。オーマジオウが支配する歴史を変えるために…。

 

「…なぁ、チアキって…もしかしてゲイツの事か?」

「そうよ。仮面ライダーゲイツ…あれはチアキが変身した姿なの。」

「…じゃあ、セレーネも俺を殺すために来たのか…?」

「いいえ。目的は一緒だけど、私は貴方がオーマジオウにならないよう導きたいの。」

 

どうやらセレーネはゲイツ…もといチアキのような強引なやり方じゃなくて、俺が魔王にならないよう導きたいらしい。俺はそれを聞いてとりあえず一安心した。

 

「そうか…俺だって魔王にはなりたくない。だけど“これ”を使う度に、俺が魔王に近づくって訳だよね?」

 

俺はそう言いながらドライバーやウォッチを取り出す。

 

「ええ…。それは貴方にとてつもない力を与えるの。」

 

ジクウドライバーとライドウォッチ…これが俺をオーマジオウへと導く力なのか…セントさんも似たような事言ってたな…力を持ち過ぎたら正義が悪に傾くって…でも、それは間違った方向に使った一つの結果だ。正しい方向に使えば、きっと未来は変えられる…はずだ。

 

「…悪いけど、これは使い続けるよ。」

「!?…どうして…?」

「これが無かったら俺は確実に生きてはいなかったし、学院の皆が死んでた。これが魔王へ至るための力だとは分かってる。けど俺はこれを皆を守るために使うよ。」

 

俺は自分の決意をセレーネに言った。

 

「でもそれは、貴方がオーマジオウになる事に繋がるのよ!?」

「分かってる。でも天の智慧研究会やリベレイターが何か企んでいる以上、俺が守らなくちゃいけないんだ。」

 

俺はそう言った。もう“あの悲劇”を繰り返したくないから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:セレーネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分かったわ。でもそれを使い続ける事は魔王になってしまう事を肝に免じておいてね。」

「ああ。」

 

私はトーマにジオウの力を使う事の危険性を警告すると、店から出る。すっかり陽が落ち、辺りは暗くなっていた。私はチアキと合流するために街の通りを歩く。それにしても、リベレイターまでこの時代に来てたのね…でも天の智慧研究会って何かしら?

 

「セレーネ!」

 

私が歩いていると、反対側から“朝霧・チアキ・ルーズベルト”…もといチアキが歩いてきた。先程の件でかなり憤っていたらしい。だけど私はトーマをオーマジオウにならない方向に導きたい。それにあの時止めていなかったら、“ルミア”と言った少女まで一緒に殺してしまう可能性があったから…。

 

「どうして邪魔をした!?」

「あの時、無関係な人も一緒にいたから…。」

「多少のタイムパラドックスなんてどうでもいい。それに無関係の人間だと?ジオウを庇った時点で“殺すべき敵同然”だ。」

「っ!チアキ、いくら何でもそれは…!」

「次は止めるなよ。奴は俺の手で殺す。」

 

チアキは冷酷に切り捨てると、そのまま行ってしまった。トーマを殺すためなら、他の人を巻き込むのも止さないっていうの…?それじゃあ、オーマジオウやリベレイターとやり方が同じよ…!

私はチアキの冷酷さに引いてしまった…トーマ、気をつけて。チアキは貴方を殺すために貴方の身近にいる人を巻き込むわ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はバイク・“オートバジンC-TYPE”を引きながらフェジテの街を歩いている。

僕は気がついたらファンタジーものと縁が深い世界にやってきた。電子機器などとは無縁な世界…とはいっても、僕が所持しているものは“例外”だ。

あれから恐らく二年程は経っているだろう…“彼女を守れなかった事”、“信頼していた組織に裏切られた事”、そして“化物になって生き返った事”……生きているのが嫌になってくる…。

 

「…。」

『大丈夫…私はずっとここにいるから…。』

 

そう語りかけてくるのは精神だけの存在となった彼女だ。肉体を失った今でも、僕の心の中で生き続けている。

今までは二つの組織から逃げる日々を送っていたが、“銀色のオーロラ”を通過してこの世界に来てから、追っ手は来なくなった。僕がこの世界で出来る事、それはこの体が朽ち果てるまで悠久の時を過ごす事だけだ。

 

 

 

 

 

「見つけたわ。」

 

…いや、最近僕達に絡んでくる者達がいた。リベレイターだ。彼女達は突然現れては、“新しい魔王”を擁立しようと暗躍している集団だ。これで出くわすのは三度目だが、彼女と会うのは初めてだ。いつもならパーカーを着た少女・メルディが近づいてくるのだが、今回は違う。

彼女は黒と白を貴重とした巫女服に身を包み、茶髪を赤いリボンで結んでいる。そして巫女服は何故か袖と腋が離れている。

 

「…誰なんだ?」

「私はリベレイターの“ジュディ”。貴方の事はメルディから聞いてるわ。」

「…何度も言うけど、僕は“王”とかには興味はない。放っておいてくれ。」

 

ジュディの名乗りを聞き、その次の言葉で僕はこの後言われる事を大体察して否定した。王になれと………こんな台詞を二年前にも聞いた気がする…。

 

「“そんな力”を持っておいて、今更否定なんて出来るのかしら?」

「……。」

 

僕は構わずバイクを引いて歩く。だがジュディも付いてくる。

 

「そんなに化物になったのがショックなのかしら?」

「…。」

「組織に裏切られたのも。」

「…。」

「それとも、“愛する人”を守れな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ready』

 

頭に血が昇った僕は、“携帯電話”についていたメモリーをバイクの左ハンドルに装填し、それを抜刀術の如く引き抜き、ハンドルから生成された光の刃をジュデイに突きつけた。

“フォトンブラッド”と呼ばれる強い毒性をもつ光子。それは棒状に集まり、“僕の能力”の影響で“荷電した青い刃”となっている。

 

「…しつこいぞ。」

「…。」

 

僕は光線剣…“ファイズエッジ”を突き付けながら威圧する。不必要な殺生は好まないが、執拗に僕を魔王にしようものなら、容赦はしない。

 

「もう僕に関わらないでくれ。」

 

僕はジュディにそう言うと、ハンドルからメモリーを抜き取り、バイクに戻す。そして再びバイクを引いて歩き出す。

 

『ハアッ!』

「っ!」

 

刹那、僕に向かって何者かが襲いかかってきた。黒をベースにオレンジ色の装甲を備えている。そしてベルトのバックル部には『SMART BRAIN』のロゴがあった。

僕はそれを受け流すと、逆に蹴飛ばした。

ジュディの方を見ると、更に3体の兵士…ライオトルーパーが現れた。どうやらジュディが手にしている“馬の怪人が描かれた懐中時計”を使って召喚したらしい。

 

「そうはいかないわ。まぁ、これで小手調べさせてもらうわ…“仮面ライダーファイズ”。」

 

ジュディはもみあげに触れてファイズの名を言うと、そのまま姿を消した。ライオトルパー達は僕を包囲するように立ち塞がる。

この世界に来ても結局同じか…戦いからは逃れる事など出来ない。それは定めなのだろう。

僕はバックの中に入っている“アタッシュケース”を取り出して開ける。中に入っているドライバーに“トーチライト”、“カメラ”を取り付けると、それを腰に装着する。続けて携帯電話・ファイズフォンを開き、5のボタンを三回押してからENTERを押す。

 

『standing by』

 

待機音が流れるファイズフォンを折り畳む。

 

「変身。」

 

僕はファイズフォンをドライバーに挿入し、そのまま横に倒した。

 

『complete』

 

その音声が流れると同時に、僕の体に赤いフォトンストリームが走っていく。それと同時に、“モルフォ蝶の群れ”が出現した。夜間の街に赤く輝くフォトンストリームにモルフォ蝶が溶け込んでいくと、それは“青く変色した”。そして僕は眩い光に包まれ、その姿を変化させた。

黒をベースに銀色の胸部装甲、ギリシャ文字のφを模した頭部に黄色い複眼、蝶を模したアンテナ、そして体中に青いフォトンストリームが走っている。

 

『『『『はああああああっ!』』』』

 

ライオトルーパー達が一斉に突撃してきた。

 

『ready』

 

僕は再びハンドルにメモリーを挿入し、それを引き抜く。ファイズエッジを構え、向かってくるライオトルーパーを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:トーマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、後は向こうの一軒だけだ。」

「OK。」

 

俺とおやっさんは馬車に乗って時計配達をしている。今日は俺一人でやるはずだったが、徘徊するチアキの事を考慮し、おやっさんと一緒にかつコートを羽織って配達している。今のところはチアキに遭遇する事なく配達が進んでいる……残るは最後の一軒…このまま何事もなく終わってほしいけど…。

 

「トーマ、さっきの少女と何話してたんだ?」

「…俺の力って、本当に魔王になっちゃう代物なのかなって…。」

「何を今更。」

「皆を守るためのジオウの力が、本当に未来で邪悪に染まっちゃうのかって…。」

 

俺はセレーネの忠告を未だに引きずっていた。“皆を守るためのジオウ”、それが未来では“全てを殺すためのオーマジオウ”へ変貌を遂げてしまう。実際の映像を見せられて、動揺を抑えられずにいた。

 

「いつものお前らしくないな。お前はお前のまま進めばいいだろ。自分の人生だし。」

「…え?」

「時計の針ってのは進むだけじゃない。止めたり巻き戻したり出来る。でもな、人生はそうはいかねぇ。」

 

おやっさんはそう言った。人生と時計…その関係はかなり似ている。自分自身の人生を進めるのは己自身。どんな未来を辿るかもまた己自身。チアキ達の事情を否定するつもりはない。でも、出来る事なら俺の意思で未来を変えたい。

俺はそう思いながら配達先へ向かっていた…その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチィィィィィッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐあああっ!?』

「「!?」」

 

右側から何者かが吹き飛ばされてきた。俺は一旦馬車から降りると、その人物のもとへ駆け寄る。黒をベースにオレンジ色の装甲、そして『SMART BRAIN』のロゴが入ったバックルを着けている…これは、“仮面ライダー”…?

俺がそう考えていると、その人物の変身が解けた。

 

『ガッ…ァァ……』

「!?」

 

変身していたのは、人ではない“灰色の化物”だった。化物は動かなくなると、やがて青い炎を出しながら灰になって崩れ落ちた……路地裏で誰かがこいつらと戦っているのか…?

 

「おやっさん、そこで待ってて!」

 

俺はおやっさんにそう言うと、何時でもジオウに変身できるようジクウドライバーを装着し、ジオウウォッチを片手に路地裏へ走る。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふっ…! はあっ…!」

『グアッ!?』

『ガッ…!』

 

俺が路地裏に駆けつけると、そこには化物達と戦っている“青いライダー”の姿があった。シンプルなデザインの頭部に、体中に青い線が走っている。腰にはいくつかのデバイスを収納したベルトが装着されている。

三体の化物の内、右ストレートと蹴りを喰らった二体が同じく灰化した。残りは一体。

青いライダーは右腰にある“円柱状の何か”を取り外すと、ベルト中央のデバイスにあるプレートをそれに移し替えた。

 

『ready』

 

音声と共にデバイスが伸びた。青いライダーはそれを右足に取り付けた。そしてベルト中央のデバイスを開き、ボタンを押した。

 

『exceed charge』

 

音声と共にベルト中央から右足を青い線を伝ってエネルギーが送られていく。

 

「はっ!」

『ぐっ…!?』

 

エネルギーが右足にデバイスに充填されると、青いライダーは右足を化物に向けた。すると右足のデバイスから一本の光線が発射され、それが化物に当たると、青い円錐状のマーカーとなって化物を補捉・拘束した。

青いライダーは少し助走をつけて高くジャンプした。その際、俺は見た……“蝶の翅を生やした少女の幻影”が青いライダーに重なっていくのを…。

 

「はあああああああ!!」

『グゥゥアアアアアアア!?』

 

蝶の翅を生やした青いライダーは、稲妻と七色のオーラを纏いながら飛び蹴りの姿勢でマーカーに飛び込んでいく。マーカーはドリルの如く化物の体を抉っていく。やがて青いライダーはマーカーと一体となって化物の中に入っていくと、化物の背後から青いライダーは実体化した。

すると化物に青いφの文字が浮かび上がると、青い炎を発しながら灰化していった。

 

「…。」

 

青いライダーと目が合った。だがチアキの時とは違い、青いライダーは自ら踵を返して去っていく。どうやらあの化物達を迎撃していただけらしい。

 

「なぁ、お前は誰なんだ?」

 

俺は去っていく青いライダーに声を掛ける。

 

「…“ファイズ”…それが僕の名前だ。」

 

ファイズと名乗ったライダーは、そのまま歩き出し、やがて闇夜に消えていった。

俺はこの日、二人のライダーと会った……俺を殺すべく現れたゲイツ、目的の分からないファイズ…俺はこれからも二人のライダーと関わっていく事になるだろう…特に、ゲイツとは。

 




ED『Can You Keep A Secret?』



トーマ「ついにゲイツ、そしてまさかのファイズが出てきたよ。ファイズは意外だったな…。」
システィーナ「ファイズに変身してた人どっかで見た事あるような…。」
グレン「それにチアキの名前が完全にア○カ・ラ○グレーなのは気のせいか?」
トーマ「紙鳥、エ○ァ観てたから意識してんじゃないかな?ゲイツも赤いし。」
ルミア「それよりも、チアキとセレーネならまだしもなんであの二人は来てないの?確かあの二人って“別作品”からの参戦なんだよね?」
トーマ「仕方ないさ。あの二人は最近盾○○者とかRos○○iaとかで忙しいから。」
グレン「お前隠す気ないだろそれ。」
システィーナ「それ以前に容姿とか作品タグとかでもうバレバレですけどね…。」
トーマ「あのタグは伏線だった…?」
ルミア「伏線…なのかな?」


NEXT『競技祭へ向けて』


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