銀河酔人伝説 (悠久なる書記長)
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主人公と周辺の設定

文字数制限に合わせて暁とは若干順番が前後します。


主人公紹介

名前:グレゴリー・カーメネフ

生年月日:宇宙暦760年4月22日生まれ(アスターテ会戦時で36歳)

身長:198㎝

体重:99㎏

趣味:酒

特技:声が大きい、宴会芸

所属:自由惑星同盟議会代議員・国防委員会委員

この作品の主人公。エル・ファシル出身。幼い頃に両親を失い生きていく為に軍へ入隊。一兵卒として数年働くもとある戦いにて負傷、それが切っ掛けで軍を除隊する。その後は軍の紹介で故郷エル・ファシル宇宙港で労働者として過ごす。その際加入した港湾労働組合の青年部で頭角を現し若くして組合幹部に抜擢される。数年後、エル・ファシルに来たホアン・ルイに論戦(口喧嘩)を吹っ掛けた事が切っ掛けで彼に見出され、翌年行われた同盟議会代議員選挙にエル・ファシル選挙区から立候補し当選。社会改革党議員として国防委員会に所属し現在に至る。

性格はかなり大雑把で、法律や政策にも通じておらず、政治家としては落第点と評されている。しかし、良い意味で裏表がなくて人懐っこく、またタフで雄弁家の為、人気は高い。

元軍人という経歴から軍に好意的だが、最前線末端の地獄を見ている為、戦争継続には消極的である。

ホアン・ルイを親父と呼んで慕っており、ホアン・ルイの懐刀を自称しているが、周りからはホアン・ルイの鉄砲玉扱いされている。

良くも悪くも素直なので敵が少なく、党派を超えた親交を持っている。

酒好きで有名で誰に対しても「とりあえず酒飲んでから話し合おう!」と暇さえあれば飲み会を企画し誘うため、宴会芸はプロ級の持ち主。その為「宴会芸で地位を掴んだ男」と批判を受けることもある。

唯一の肉親として15歳年下の弟がおり兄弟間の仲は良い。

 

 

自由惑星同盟議会

自由惑星同盟における立法機関で最高評議会を内閣とするなら同盟議会は国会の役割を担っている。最高評議会の評議員は同盟議会代議員から選出される。最高評議会の決定を改めて審議するとしているが、殆どは最高評議会評議員達の意向を反映して行動しているだけにすぎず、「同盟市民を納得させる為のプロレス劇場」と呼ばれている。

 

自由共和党

アスターテ会戦時における第一党。中道右派の国民政党を標榜しているが、良い意味でも悪い意味でも多様な包括政党である。ヨブ・トリューニヒトや最高評議会評議員の大部分が所属している。

 

同盟民主党

ジョアン・レベロ等が所属している。「自由、自主、自尊、自律」を掲げるハイネセン主義を標榜するハト派自由主義政党。

 

社会改革党

主人公やホアン・ルイが所属している。外交的にはタカ派とハト派が混在しているが、内政においては民力回復と社会保障充実を唱える左派政党。

 

反戦市民連合

後にジェシカ・エドワーズ等が中心となって設立される新政党。帝国との和平推進と民力回復唱えるハト派政党。

 

 




次回から本編を投稿します。


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第1話 酔っ払い、エル・ファシルの英雄に突撃する

文字数制限の影響で暁で投稿している話を統合しています。


ヤン・ウェンリーは疲れていた。連日のように「エル・ファシル英雄」を称える為の催しに連れまわされていたからである。その日も「エル・ファシルの英雄を囲む官民交流会」なるパーティーに出席させられ聞きたくもないお世辞を何百回も聞かされたところだ。

 

「早く帰って寝よう」

 

ヤンはそう呟くと、少佐に昇進して新しく支給された宿舎に入ろうとした。

 

「すみませんが、ヤン・ウェンリー少佐で間違いないでしょうか?」

 

不意に声が聞こえたので振り向くと後ろに何やら瓶を持った大男が立っていた。

 

「どちら様ですか?」

 

ヤンが不機嫌な声を隠さずにそう言うと大男がいきなり土下座してきた。

唐突な行動にヤンが呆気にとられていると、

 

「弟を救ってくれてありがとうございました!!!」

 

大男が深夜にもかかわらず近所迷惑な大声でそう言ってきた。

ヤンは訳も分からず慌てるしかなかった。

 

 

これが後に自由惑星同盟の英雄である「魔術師ヤン」と、「民主主義の奇跡」「ワイドショー政治の英雄」「最も大衆に近い男」と数々の称号で評される自由惑星同盟議会代議員、グレゴリー・カーメネフのファーストコンタクトであった。

 

 

 

 

 

俺の名前はグレゴリー・カーメネフ。エル・ファシル港湾労働組合青年部局長を務めている。一応偉い人と分類される男だ。

そんな俺だが、今あの「エル・ファシルの英雄」ヤン・ウェンリー少佐に対して土下座を敢行している。我ながら美しい土下座だと思う。

え?何で土下座なんかしているんだって?そりゃあ俺の大切な同僚達や可愛い弟を救ってくれたんだからその感謝の気持ちを最大限に表現したわけだよ。

そうして土下座を敢行して少し経った後、

 

「参ったなあ・・・頭を上げてもらえませんかね?」

 

そう声が聞こえたので頭を上げた。

ヤン少佐は明らかに面倒くさそうな顔をしながら頭をかいた後、

 

「えっと・・・とりあえずどちら様ですか?」

 

そう言ってきた。

いかんいかん、自己紹介すらしてなかったか。お礼を言う事しか頭になかったわ。

 

「私の名前はグレゴリー・カーメネフ。貴方のおかげで弟と同僚達が助かりました。今回はそのお礼を言うためにずっとあなたを探していたんです。本当にありがとうございました!!」

 

俺がそう言いながらまた地面に頭をこすりつけると、

 

「頭を上げてください!」

 

そう慌てた声が聞こえたので頭を上げた。

 

「私は軍人としての責務を果たしたにすぎません。なので貴方からお礼を言われる筋もありません。お引き取りください。」

 

ヤン少佐がそのように答え宿舎に入ろうとした。

俺は咄嗟に彼の足を掴み、

 

「待ってくれ!ならせめてこれを受けっとってくれ!でないと俺の気が済まねえ!」

 

そう言って瓶を差し出した。

 

ヤン少佐は鬱陶しそうに俺を見た後に瓶を見ると目の色が変わった。

 

「失礼ですがこれは?」

 

「これは俺が一番気に入ってる最高級ブランデーでコニャックって言われる酒だ。あんた、酒好きか?」

 

俺がそう聞くと、

 

「これ同盟内じゃ殆ど出回ってない最高級品じゃないですか。本当に頂けるんですか?」

 

彼がそう言ってきたので、私は立ち上がり、

 

「勿論だ!本当は感謝してもしきれねえが、俺が考える一番美味い物を持ってきたんだ!さあ、受け取ってくれ!」

 

と答え、彼に酒瓶を渡した。

 

「ありがとうございます。」

 

ヤン少佐はそう俺に言うと宿舎に入っていった・・・

 

 

 

 

 

なので俺もそれについて行った。

 

「いや、なんで貴方が入ってくるんですか。」

 

「いいじゃねえか。俺もそれ飲みたいんだよ。一人で飲むより二人で飲んだ方がハッピーだろ?」

 

「はあ・・・図々しい人だな・・・まあいいですよ。どうぞ。」

 

そう言ったので俺は宿舎に足を踏み入れた。

 

「うっわ何だこれ!完全に汚部屋じゃねえか!」

 

「初対面の人間の部屋に図々しく入って第一声がそれって酷くありません?」

 

いやこれは誰だって汚いっていうだろ。完全に汚部屋だよ・・・

 

「まあいいや。勝手に座らせてもらうぞ。」

 

そう言って俺はごみをかき分けて足場を確保し座った。

ヤン少佐が奥からグラスを用意してきて、

 

「じゃあ早速飲みましょうか。」

 

そう言って瓶を開封し、ブランデーをグラスに注いだ。

 

「いい香りですね。」

 

「だろ?」

 

そう言い合い、私達はグラスを持ち乾杯した・・・

 

 

「わたしはねえ~ほんとうは~軍なんかに入りたくなかったんですよ!歴史家になりたかったんです!!」

 

「だよな~俺も一兵卒だったけど負傷して辞めちまった口だからわかるぞお~!戦争なんてない方が良いに決まってるよなあ!!」

 

「そうだったんですか~!私も早いとこ退役して年金貰って暮らしたいですよ!」

 

「はっはっはっは!若いうちからそんな枯れたこと言ってると禿げるぞ!」

 

「いいんですよ!私は髪は多い方ですし!!」

 

「はっはっは!!そうかそうか!まあどんどん飲め!!」

 

そう彼等は盛り上がり夜は更けていった・・・

 

 

 

 

 

ヤン・ウェンリーは頭痛に悩まされながら困惑していた。

 

「何故私は初対面の人と半裸になって寝ていたんだ・・・」

 

 

 

 

 

この出会いを通じて彼らは次第に友情を育んでいくのである。

 




1話と2話を統合して投稿していますので違和感があると思いますがご容赦ください。それとヤン・ウェンリーの性格に疑問を浮かべるかもしれませんが、二次創作という事で勘弁してください。申し訳ないです。


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第2話 酔っ払い、選挙に出馬する

ネタが早々に尽きてどうしようか悩んだのですが、急に天啓が下りてきました。


惑星エル・ファシル・・・銀河帝国との前線の近くにあるこの惑星は軍人とその関係者が多く在住していおり、その玄関口であるエル・ファシル宇宙港には現在、大勢の人だかりができていた。人だかりの前には仮設のステージが建てられており、大きな横断幕が掲げられていた。

しばらくするとステージに2メートル近くはあろうかという大男が現れた。我らが主人公グレゴリー・カーメネフだ。グレゴリーはマイクを持ち、聴衆に話しかけた。

 

「エル・ファシル宇宙港にお集まりの皆さん、おはようございます!!私が、今回実施される、自由惑星同盟議会代議員選挙に、このエル・ファシル大選挙区から出馬することになりました、グレゴリー・カーメネフでございます!!この場にいる幾人かはご存知かもしれませんが、私には国立中央自治大学の先生方のような学はございません!ハイネセンの大金持ち達のような財産もありません!お茶の間の御婦人達を魅了できるルックスも持ち合わせておりません!私にあるのはこの腕っ節と、エル・ファシルを!同盟を!市民を!支えたい!!この熱き想いだけであります!!エル・ファシルの市民の皆さん!!私は帝国との戦争を勝利に導こうとか、暮らしを今すぐに改善させるとか、そのような大それた約束をする事はできません!!しかし!これだけは約束させていただきます!!エル・ファシルの同盟市民の皆さんの生の声を必ず、ハイネセンの中央に届けると!!そして私は!皆さんと共に考え、歩むことを!ここに誓わせていただきます!!どうか皆さん!!このグレゴリー・カーメネフを!!同盟議会に送ってやってください!!私に!!仕事をさせてください!!よろしくお願いします!!ありがとうございました!!!」

 

グレゴリーがそう演説を締めくくると拍手が沸き上がった。彼がステージから降りて大衆に握手を求めに行くと、大勢が彼を囲んで、握手を求めていった。

この光景を遠くから優しく見守っている中年の男性がいた。

 

「やれやれ、何を喋って良いか分かんないから原稿を作ってほしいと泣きついてきたのに、全然見てないじゃないか。しかし完全にアドリブであそこまで喋れるとは・・・奴さん、政治家なんて頭が良くないと出来なそうな職業なんて柄じゃないし出来ないとか言ってたが、あの喋り方は間違いなく政治家向きだよ。」

 

そう男性は呟いた。

すると隣にいた秘書らしき青年が、

 

「書記長、そろそろお時間です。次のシャンプール選挙区へ行きませんと間に合わなくなります。」

 

と忠告すると、

 

「そうだな、ここは大丈夫だろう。次へ行こうか。」

 

と答え、その場を後にした・・・

 

この中年の男性こそ、グレゴリー・カーメネフを政治家の道へと導いた師である、社会改革党書記長であり、最高評議会人的資源委員会委員を務める、ホアン・ルイその人である。




次回は早めに更新しようと思います。


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第3話 酔っ払い、政治の師と出会う

今回は前回の話の過去編となります。
思った以上に酔っ払い描写が描けなくてタイトル詐欺になりかけてますがご了承ください。


宇宙歴788年12月、エル・ファシルを巡る戦いから3か月が経とうとしていた。帝国軍はエル・ファシルを一時的には占領したものの、同盟軍の反撃を恐れたのか、惑星を放棄し、退却していったのである。同盟軍はエル・ファシルを奪還し現地の治安を回復させ、避難民の帰還も順調に進んでいった。

しかし現在、エル・ファシルでは大きく揺れていた。自由惑星同盟の今後を占うと言っても過言ではない一大イベント、自由惑星同盟議会代議員総選挙が、来年1月10日に告示を迎えるのだが、先日のエル・ファシルを巡る戦いの影響で、候補者の立候補がまだ進んでいないのである。

何故かというと、選挙区から出馬するためには、最低3ヶ月の居住実績がなければ、選挙区からの出馬が出来ないようになっているため、同盟の有力政党は安易に落下傘候補を擁立出来ず、また前回選出された現職議員がエル・ファシル失陥の際、何も行動を起こさなかったことを、世論から咎められ失脚、引退を表明し、事実上エル・ファシルの政界から追放されたため、後継者もおらず、有力な候補者が不在という異常事態に陥ってしまったのだ。

 

そんな混乱の中、一人の中年男性が、エル・ファシル宇宙港に降り立った。

彼の名はホアン・ルイ、自由惑星同盟議会の国政政党、社会改革党の書記長であり、最高評議会人的資源委員を務める政治家である。

 

「さて、それじゃあ組合事務所にお邪魔しようかね。」

 

と、秘書に話し、港湾労働組合事務所に向かった。彼の目的は、社会改革党の支持団体からエル・ファシル選挙区から立候補してくれる有力な人材を見つけることである。

 

「しかし書記長、本当にうまく人材は見つかるのでしょうか?」

 

秘書がそう尋ねると、

 

「それは私にもわからんよ。ただこの難局において重要な選挙区で不戦敗なんて話になったら我々社会改革党もその程度の政党だという事だろうな。まあ良い人が見つかることを願おうじゃないかね。」

 

そうホアン・ルイは答えた。

 

車が港湾労働組合事務所に到着し、中へ入ると、エル・ファシル港湾労働組合のトップである委員長が彼を出迎えた。

 

「ホアンさん、お久しぶりです。」

 

「ああ、久しぶりだね委員長。少し痩せたかね?」

 

等と、たわいもない会話をした後、エル・ファシルの状況について話し合った。

 

「そうか・・・ハイネセンではエル・ファシルの英雄殿のおかげで被害は殆どないというニュースばかりだったがやはり物的被害はそれなりに大きいようだね。」

 

「そうなんですよ!確かに民間人の被害はゼロでしたが、帝国軍の奴等は戦利品とばかりに持っていける物は片っ端から奪っていってしまったんですよ!おかげで私達はあれもないこれもないと四苦八苦しとるのです。」

 

「わかった。今度の人的資源委員会でこの事を取り上げるよ。それで委員長、以前話した候補者の件なんだが・・・良い人はいないかね?」

 

「それなんですがねホアンさん。私達は確かに組合として活動していますしお宅の党を支援しております。ですが元は労働者の寄合みたいなものですから、とても選挙を戦える人間はおりませんよ。まあ若い衆に一人面白い奴がいますが・・・」

 

委員長がそう話しているといきなり事務所の扉が勢いよく開け放たれ、

 

「お疲れ様でーす!只今戻りました!」

 

そう、バカでかい声が響き渡った。

 

「おいグレッグ!あんまりデカい声出すなといってるだろう!」

 

「すいません旦那!あれ?もしかして来客対応中でしたか?どうも!グレゴリー・カーメネフです!」

 

唖然としたホアン・ルイに対してグレゴリーは笑顔でそう挨拶した。

 

この出会いがグレゴリー・カーメネフを自由惑星同盟政界へ誘うことになるのである。

 

 




グレッグはグレゴリー・カーメネフの愛称になります。Googleで調べたら出てきました。
次回も過去編となります。思った以上に伸びたな・・・


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第4話 酔っ払い、啖呵を切る

難産の末やっと完成しました。酔っ払い要素があまりないな・・・


俺は今目の前のおっさんと対峙している。おっさんの名前はホアン・ルイ。自由惑星同盟議会の有力政党、社会改革党の書記長を務めている男だ。なんでそんな大物政治家がこんなしがない組合幹部の俺と対峙しているのかというと・・・、

 

今から一時間ほど前、

 

「初めまして!グレゴリー・カーメネフです!ここの組合の青年部局長を務めさせてもらっています!」

 

「おお元気な声だねえ・・・私はホアン・ルイ。よろしく頼むよ。」

 

「ホアン・ルイ?失礼ですが、社会改革党書記長のホアン・ルイ先生でいらっしゃいますか?」

 

「そのホアン・ルイだが・・・どうしたのかね?」

 

「なんだって!?旦那!なんでこんなハイネセンの分からず屋がここにきてるんですか!」

 

「おいグレッグ!なんてこと言うんだ!」

 

「だってそうでしょ?社会改革党は労働者の味方を謳っておきながら軍備予算の削減を訴えてるんですよ!ハイネセンの奴らは軍備を削減して民間に回せばそれで全てうまくいくと思ってる!でも国境に住んでる我々は逆なんですよ!軍のおかげで食べてるんです!旦那だってそれはわかってるでしょう!」

 

「グレッグそれは・・・」

 

「中々興味深いこと言うねえ・・・組合長。ちょっと彼を借りていいかな?」

 

という感じで俺はホアンのおっさんの目の前で啖呵を切って不満をぶちまけたらそのまま社会改革党の事務所まで連れてこられたのだ。

 

そして現在へ至る・・・

 

「さて、カーメネフ君。ここなら大声を出しても大丈夫だ。話の続きが聞きたい。」

 

話の続きが聞きたい?このおっさんは何を言ってるんだ?まあいい・・・それなら言いたいことは言わせてもらおう。

 

「私はねホアンさん。以前は軍にいたんですよ。ハイスクール時代に両親が死んで、食べるために入ったんです。仕事は大変でしたが、私のような学のない人間でも暮らしていける給料は貰えました。おかげで路頭に迷わずに済みましたよ。でもあの第4次イゼルローン攻防戦で負傷しましてね・・・脇腹を思いっきりやられました。今でも傷跡が残ってるんですよ。それで怖くなりましてね・・・軍を辞めたんです。それで軍の紹介を受けてこの港で働きだしたんです。幸い私は負傷したといっても働くことに支障はないので必死に働きましたよ。おかげで周りにも認められて今では組合の部門を任せてもらえるまでになりました。今の生活があるのは軍のおかげなんですよ。

ホアンさん。私は戦争が大嫌いです。戦争の怖さ身近で感じたから断言できます。そしてここに住んでる皆同じことを思っています。でもね、戦争が嫌いだと言っても帝国の連中は容赦なく攻めてくるんですよ。そしてそれから私達を守ってくれるのは軍なんです。民力回復と財政再建が必要なのはわかっています。でも私達には艦隊が、そして兵隊さん達がいてくれないと普通に暮らすこともできないんですよ・・・!」

 

俺が声を振り絞りながらそう主張すると、ホアンは反論することもなく、しきりに頷いていた。

するとホアンが口を開いた。

 

「なあ、お前さん・・・うちから立候補して見ないか?」

 

「はい?」

 

このおっさんはいきなり何を言ってるんだ?

 

「正直な話今回の同盟民主党との政策の擦り合わせには党内からの反発が強くてね。これも必要なことだからと押し切るつもりでいたんだが・・・エル・ファシルの現状とお前さんの話を聞いて考えを改めようと思う。」

 

「いやいやいやそんな重要なこと簡単に決めちゃダメでしょ!それに立候補なんて・・・ハイスクール中退の人間が立候補しちゃダメだろ。」

 

「同盟憲章にはあらゆる出自・学歴問わず被選挙権が認められている。」

 

「お金もないし・・・」

 

「党から助成金が出るし、私も出してやる。」

 

「法律も政策も詳しくないし・・・」

 

「そんなものは後から学べば良い。」

 

「・・・なんで俺なんだ?」

 

俺がそう聞くと彼は俺の目をしっかりと見据えながら、

 

「私も今でこそハイネセンのお偉方の一人だが若い頃はそれなりに苦労しててね。君の話を聞いてたら思い出したんだよ。何で政治家になろうと思ったかをね。それにうちには老人が多い。是非とも若い人材が欲しんだよ。グレゴリー・カーメネフ、私と一緒に同盟の未来を作ってほしい。頼む!」

 

そういうと彼は俺に向かって頭を下げた。

やめてくれ。俺はそんな立派な人間じゃない。今まで生きるのに必死で気づいたらこの地位にいただけなんだ。

俺が困惑していると彼は頭を上げ、俺の顔をじっと見つめてきた。

俺は彼の目を見た。何という目だろう。とても老人とは思えない力のある漢の目だ。それでいてどこか優しさを感じる。何というか・・・親父を思い出す・・・そうだな。やるだけの価値はあるか。

 

「分かりました。立候補の話、受けさせていただきます。」

 

そう言って俺は彼に頭を下げた。

 

「おおっ!ありがとう!これで君も私たちの同志だ!」

 

「よろしくお願いします。ですが私は無知な人間なのでこれからどうすればよいか見当もつきません。なのでこれからホアンさんを父と思い、ついて行きます!」

 

「へ・・・?父・・・?」

 

「はい!親父!これから世話になります!」

 

そういうと俺は親父の手を掴み思いっきり握手した。親父は困惑しているようだが、優しい目をしていた。

 

 




次回は早めに投稿したいです。


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第5話 酔っ払い、当選する

何とか投稿に漕ぎつけました・・・


・政界動揺、思わぬ焦点浮上か

同盟民主党と社会改革党はこれまでも財政出動の調整で衝突を繰り返しながら与党自由共和党に対抗するため選挙協力を行ってきたが今回はついに破綻をきたしたようだ。このニ半世紀以上に渡る、イゼルローン・キャンペーンとセットで行われてきた選挙ではおおむね軍事費削減、社会保障の微増と減税で妥協を重ねてきたが、今回は“国境”と称される星域の防衛体制の整備が問題となったのである。ホアン・ルイ書記長は『こうした地域ではエル・ファシルのような悲劇が繰り返されてきました。そして被害を最も受けてきたのはここでしか暮らせない労働者の方々です。我々はその現実と対峙しなければなりません』と正式に党の公式見解として意見を表明したが、選挙における盟友である同盟民主党筋からは『エル・ファシルの惨状から学ぶべきなのは半端な戦力を疎らに配置しても帝国軍ではなく我々の国庫に痛打を与えるだけだという事だ。補助金で票を買っても後が続かないだろう』と冷ややかな声があがっている。一方、これを歓迎する声も上がっている。自由共和党青年局長のヨブ・トリューニヒト氏は「共和党は国民の生活と自由を守る為なら実務を優先する政党であるべきです。痛ましい専制政治による戦災から復興する為なら政策の為の協力も視野に入れるべきでしょう」とコメントしている。イゼルローン要塞によって生まれた政局体制はイゼルローンよりも早く陥落するかもしれない。

――フリーダム・ミラー紙より

 

社会改革党の方針転換は同盟議会の政局に大きな波紋を呼ぶことになった。これまで同盟民主党との共通政策であった軍事費削減による社会保障充実を取り下げ、選挙協力の解消を発表したのである。これにより同盟民主党はエル・ファシル選挙区に独自候補の擁立を決定、野党第一党と第二党の対決が決定的となった。また自由共和党は現職追放の禊が済んでいないと主張していたヨブ・トリューニヒト青年局長の言を受け、後継者擁立を断念する事になった。これによりエルファシル選挙区は同盟選挙史上初の野党同士の一騎打ちが行われることになったである。

 

「エル・ファシルには、軍備充実も社会保障充実も財政再建も全て必要なんです!削って良い所なんかない!ハイネセンの先生方はそこが分かってないんです!財源が有限なのはハイスクール中退である私ですら理解しています!ですが!ここエルファシルでは何もかもが足りていません!帝国軍が持って行ってしまったからです!この状況をハイネセンは本当に理解しているのでしょうか!皆さん!私と共に起ち上がりましょう!今こそ声を上げましょう!」

 

グレゴリー・カーメネフか主張しているように、エル・ファシルは先の帝国軍の略奪によってあらゆる物資が不足しており、彼の主張は瞬く間に支持を広げた。だが彼の主張は非現実的で夢想主義であると反発する勢力も多数おり、情勢は拮抗していた。

しかしここへきて衝撃的なニュースが流れる。

 

「グレゴリー・カーメネフ君の主張は我々自由共和党と通ずるものがあり、彼は同盟にとって非常に有益な人材であります。我々国家革新同友会はグレゴリー・カーメネフ君を応援しています。」

 

自由共和党青年局長ヨブ・トリューニヒト氏を中心とする若手議員グループ「国家革新同友会」がグレゴリー・カーメネフの事実上の支援を表明したのである。更にこれに反発した自由共和党主流派が同盟民主党候補の消極的支持を表明するなど、野党の一騎打ちだけでなく、与党自由共和党内の派閥争いにまで発展したのである。

 

そして選挙は混戦のまま投開票日を迎えた。

 

総選挙の開票速報は自由惑星同盟中央テレビ放送にて放送された。

 

「さあ、総数2250議席を巡り激しい選挙戦が行われた今回の代議員総選挙、未確定選挙区もあと1議席となりました!これまでの確定議席数は与党の自由共和党が1150議席、野党の同盟民主党が575議席、社会改革党が424議席、その他諸派・無所属が100議席となっております。与党である自由共和党の単独過半数の確保が決定的となりましたが、今後の政局に・・・おっとここで最後の選挙区の当選者が決まったようですね!」

 

 

 

自由惑星同盟議会代議員総選挙エル・ファシル選挙区得票率発表

 

グレゴリー・カーメネフ 社会改革党 → 51%

レフ・ジノヴィエフ   同盟民主党 → 46%

ケン・スター      憂国地球党 → 3%

 

 

 

「グレゴリー・カーメネフ候補の当選確実となりました。おめでとうございます!開票開始から長時間の放送となりましたが選挙速報は以上となります。ありがとうございました。」

 

 

 

開票速報終了後、グレゴリー・カーメネフ選挙事務所では万歳三唱が行われていた。

 

「それでは、グレゴリー・カーメネフ君の当選を祝って、バンザーイ!(バンザーイ!)バンザーイ!(バンザーイ!)バンザーイ!(バンザーイ!)ありがとうございました!(パチパチパチパチ)」

 

拍手のなか、支援者達と抱き合うグレゴリー・カーメネフ。彼の政治家人生の第一歩が踏み出されたのである。

 

 




次回も早めに投稿できるよう頑張ります。


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第6話 酔っ払い、エゴイズムの怪物と出会う

遅くなりました。


総選挙から10日後、まだ日が出ていないにもかかわらず自由惑星同盟議会議事堂前には大勢の報道陣とスーツ姿の集団が集まっていた。自由惑星同盟議会恒例の議会人選びである。これは旧世紀の地球で行われたイベント福男選びを模倣したもので、総選挙後の初登院日に一番乗りを決めるという何ともくだらないイベントである。しかし娯楽に飢えた有権者の評判は上々でトトカルチョも開催されるくらい人気なのだ。

さて、初当選を果たしたグレゴリー・カーメネフは初登院一番乗りを果たす為、前日の夜から待ち続けていたのだが、彼と同じように前日から待ち続けていた男がいた。自由共和党青年局長のヨブ・トリューニヒトである。彼はこの議会人選びで3回連続優勝という経歴を持っており、今回の議会人選びトトカルチョでも1番人気になっている。

 

「やあ、君がグレゴリー・カーメネフ君だね?」

 

「貴方はヨブ・トリューニヒト先生!お疲れ様です!先日の選挙ではお世話になりました!」

 

「何畏まる必要はないよ。それに選挙の件だって私達の派閥争いの延長線で行われただけだからね。気にしなくていい。それよりカーメネフ君、随分と早い時間から待ってるんだね。」

 

「どうせやるなら一番乗りを果たしたいですからね。気合を入れるためにも早く来ましたよ!」

 

「はっはっは、いや~元気で良いことだ。まあ一番乗りを譲る気はないがね。私も4連覇が掛かっているんだ。勝たせてもらうよ。」

 

2人が話しているうちに続々と当選を果たした議員達とマスコミが集まっていき、遂にその時が訪れた。

 

「さあいよいよ自由惑星同盟議会恒例行事、議会人選びを開催します!それではスタート!」

 

係員の合図で正門が開かれた。それと同時に議員達が一斉に議事堂内へと駆け抜ける。

 

「うおおおおお!!!一番乗りは貰ったあああああ!!!」

 

前日からスタンバっていたおかげで最前列からスタートできたグレゴリーは先頭を走っていた。スタート地点である正門前からゴール地点である本会議場まで約460メートル。このまま決まるかと思われたが、後ろから猛烈な速さで追いかける者がいた。前回王者のヨブ・トリューニヒトである。トリューニヒトはグレゴリーの突破力を見るや否や、瞬時に彼の後方を確保し、機会を窺っていたのである。一番乗りは2人絞られた。

 

「あああああ!!!負けるかあああ!!!」

 

ゴール地点である本会議場が見えるとグレゴリーは最後の力を振り絞りトリューニヒトの追撃を振り払った。

 

「馬鹿な・・・!?この私が追い付けないだと・・・!?」

 

トリューニヒトはそう呟くしかなかった。

 

「取ったどおおおおお!!!」

 

そう叫びながらグレゴリーは本会議場へダイブを敢行した。

 

「決まったあああ!今回の議会人選び!一番乗りを果たしたのは!社会改革党のグレゴリー・カーメネフ議員だあ!ヨブ・トリューニヒト議員4連覇ならず!これはトトカルチョも大荒れでしょう!」

 

「いや~私が負けるとはね。中々やるじゃないかカーメネフ君。」

 

トリューニヒトは倒れているグレゴリーに声をかけながら彼を起ち上がらせた。

 

「いててて・・・トリューニヒト先生ありがとうございます!でも先生も凄かったですね。」

 

「まあね。さあ皆さん!今回の主役であるグレゴリー・カーメネフ議員に称賛を送ろうではないか!」

 

そう叫ぶとトリューニヒトはグレゴリーの手を取り報道陣にアピールした。たくさんのフラッシュが焚かれる中、グレゴリーは照れくさそうな顔をしながら報道陣のインタビューに答えた。

 

そして議会人選びが終わり本会議も何事もなく閉会した後、グレゴリーは議事堂内をうろうろしていた。

 

「やあカーメネフ君。こんなところでどうしたんだね?」

 

「あっトリューニヒト先生ちょうどよかった。トイレってどこですか?」

 

「トイレ?私も行こうと思ってたし一緒に行こうか。」

 

そう言ってトリューニヒトとグレゴリーはトイレで用を足した。

 

「ところでカーメネフ君。君は酒が好きだと聞いたんだが、結構イケる口なのかね?」

 

「よくご存じですね。まあ酒はよく飲みますよ。」

 

「それは良かった。実は駅前近くに美味い焼き鳥屋があってね。この後一杯どうだい?」

 

「いいですね!行きましょう!あのトリューニヒト先生と飲めるとは・・・自慢できますよ!」

 

「ははははは!私と君はもう同僚だろう。では行こうか。」

 

「はい!」

 

2人は街へ向かって行った。

 

その後2人は同じ酒が好きという事もあってか意気投合しグレゴリーはトリューニヒトの事を「ヨブの兄貴」と呼ぶようになり、党派を超えた友情を育むこととなる。

 




次こそ早めに投稿したいです。


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第7話 酔っ払いの役割

連続投稿となります。
なんか急にネタが降ってきたので一気にかけました。


自由惑星同盟議会代議員に初当選してから俺は必死に勉強した。なんたってハイスクール中退からまさかの政治家転身だからな。今までのように何もわかりませんでは有権者に申し訳がたたん。幸いホアンの親父は同盟政界きっての政策通だし親父の紹介で知り合ったレベロの叔父貴も頭が良い。まあ叔父貴とは思想柄対立関係にあるけど違う考えを知るという事は大切なことだって親父も言ってたしな。それに話してみると本当に紳士的で良い人だ。バカな俺でもわかりやすく話をしてくれる。ヨブの兄貴も俺に政治のイロハを教えてくれた。それだけでなくネグロポンディの旦那とアイランズの旦那まで紹介してくれた。2人共若造の俺にも優しくしてくれるしヨブの兄貴には本当に感謝している。

さて現在、同盟議会では第5次イゼルローン出兵案に対する決議を行おうとしている。これはイゼルローン要塞に対して5万隻以上の艦隊を動員するというものだが、この案には自由共和党だけでなく、我々社会改革党と同盟民主党も賛成している。まあそのバーターとして色々見返りがあるのだが、そこは妥協の産物という事で説明はしない。

しかしなんで単独過半数を持つ自由共和党が我々野党に譲歩をしてまで協力を仰いでるのか。それは同盟特有の政治事情がある。同盟の政党には所謂党議拘束というものが存在しないため、例え政党が賛成としても所属議員が造反する事態が良く発生するのだ。まあそれでも最高評議会議員の影響をかなり受けるので過半数が造反するという事はないのだが、今回の案件のような軍事作戦に関しては与野党問わず議員たちが独自の行動をとる。案の定今回の案件に関してはそれなり数の議員が反対しており、反対派は決議を取らせないため、本会議場を封鎖する所謂ピケ戦術をやってきた。俺の今回の役目はこのバリケードを排除し議長を議長席まで担いでいく事だ。

 

「オラァ!本会議の時間だオラァ!」

 

俺が叫びながら本会議場前のバリケードを排除していく。元々力仕事が得意だったこともあってあっという間にバリケードを排除し議長を担いで仲間と共に本会議場へ突入していく。

 

「どけどけぇ!議長が通るぞどけぇ!」

 

叫びながら邪魔をしようとする議員達を蹴飛ばして排除していく。もうすぐ議長席に着けることが出来る。そう確信した時、俺の顔面にいきなり飛び膝蹴りが飛んできた。

 

「うっ!誰だ!」

 

「ここから先は通しやしないよ!」

 

「お前はウィンザー婦人!」

 

奴はコーネリア・ウィンザー。ヨブの兄貴と同じ自由共和党の議員のくせに我々野党に妥協しているのが気に食わないとかいう頭のイカれた理由で出兵案に反対しているとんでもない婆だ。

 

「邪魔だぁ!」

 

「あんたがね!」

 

俺の拳と婆の右足が重なる。互角だった。その隙に俺は議長を議長席に投げる。そして議長席に待機していたネグロポンディの旦那とアイランズの旦那が議長を受け止め席に座らせる。

 

「ではこれより、自由惑星同盟議会本会議を開会する議員諸君は直ちに着席するように。」

 

採決は反対派が牛歩戦術などを駆使して妨害してきたが賛成多数で可決された。俺も職務を遂行できた。良かった良かった。

 

とまあこんな感じで政治家として必死に仕事をしているのだ。

 




もうすぐで原作に突入できると思います。


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第8話 酔っ払い、非常勤参謀と飲む

もうすぐ原作に突入できると思いましたがそんなことありませんでした。


第5次イゼルローン出兵案が同盟議会本会議で可決された数日後のある日の深夜、グレゴリーは行きつけのバー「レゴリス」にてある人物と酒を楽しんでいた。かつてエル・ファシルの英雄と呼ばれていたヤン・ウェンリーその人である。彼は以前グレゴリーがヤン邸宅に突撃を敢行して以降、酒好き歴史好きという共通の趣味を持つ友人となっていたのだ。

 

「どうだヤン。結構いけるだろ?」

 

「はい。ウォッカって割り材として使う物であってストレートで飲むものではないと思ってましたけど・・・凍らせるとまろやかになって飲みやすくなるんですね。」

 

「旧世紀の地球から伝わる伝統でな。寒い地域の人間はそれを常飲して体を温めてたそうだ。」

 

「先人達の知恵というやつですね。」

 

「そうだ。お前さんは酒というとブランデーばっか飲んでいるからな。ヤン、酒というのは人類の知恵と勇気が積み重なって出来た物だ。酒の数だけ人間の歴史がある。視野を広げる為にもっといろんな酒を嗜むべきだ。」

 

「非常に興味深い意見ですが、あまりそういうことばかり言ってるとまたアンドレイ君に怒られますよ。」

 

「言うなよヤン・・・アンドレイのやつ、兄さんに任せると生活習慣病まっしぐらになるから俺の健康を管理するとか言って家の酒をどっかに隠しやがったんだよ・・・おかげでこっちは晩酌も楽しめやしない。」

 

「それだけグレゴリーさんの事を心配してるんですよ。兄思いで良い子じゃないですか。」

 

「そりゃあ気持ちは嬉しいがな・・・まだ16歳なんだからもっと年相応に楽しんでもいいだろうよ。」

 

「今の同盟では16歳は立派な社会人だそうですよ。」

 

「そんなのはただの方便なのはお前さんも分かってるだろう。実際は大人が皆前線に行ってるからその代替として動員されてるに過ぎんよ。」

 

「まあその通りですね。」

 

「だからこそ今回のイゼルローン要塞攻略作戦は何とか成功してもらいたいのだがな。そのために財務委員会を説得をして5万隻を動員出来るように場を整えたんだからな。」

 

「グレゴリーさんは今回の出兵でイゼルローン要塞を攻め落とせると本気で思っているんですか?」

 

「思っているというよりはそうなってほしいという願望が殆どだがね。なんだヤン、お前さんは今回の出兵はやっぱり反対だったのか?」

 

「うーん、というよりそもそも正攻法であの要塞を落とせるかどうか疑問ですね。」

 

「正攻法で落とせないって・・・お前さんがそう言うってことは今回の作戦は厳しいものになるのか?」

 

「いえあくまで疑問に思っているだけなので・・・こういう予感はあまり当たってほしくないんですがね。」

 

「そうか・・・ならヤン、いやヤン・ウェンリー少佐。出兵案に賛成した私が言うのは筋違いなのはわかってる。だが言わせてくれ。君の力で一人でも多くの味方を助けてほしい。この通りだ。」

 

グレゴリーはヤンに向かって頭を下げた。

 

「止めてくださいよ。私はそんな優秀ではありませんし一介の少佐に過ぎません。」

 

「君が国家や軍隊に良い印象を抱いていない事はよくわかってるし君と私が思想的に対立関係にあることも承知している。だが私は君の事を誰よりも評価してるつもりだ。」

 

「貴方に真面目に言われるとどうもこそばゆいですね・・・まあ給料分はきっちり働かせてもらいますよ。私もこの社会にそれなりに愛着があるんでね。」

 

ヤンは頬をかきながらそう言った。

 

「ありがとうヤン!作戦が完了したらここでまた奢ろう。」

 

「まあ、期待してますよ。」

 

2人は勘定をして別れた。

 

それから1か月後の宇宙歴792年5月6日、シドニー・シトレ大将率いる同盟軍と帝国軍による戦いが始まった。後に言う第5次イゼルローン要塞攻防戦である。戦いはシトレ大将発案の平行追撃作戦と無人艦突入作戦によって、イゼルローン要塞陥落一歩手前まで迫るも、帝国軍が味方を巻き込んでトゥールハンマーを発射したため同盟軍は恐慌状態に陥り、撤退に追い込まれることになった。

しかし史上初めてあのイゼルローン要塞に大打撃を与えることに成功したため、シトレ大将の昇進が決まり、結果的に出兵案に賛成した議員達の支持率向上に繋がる事になったのである。




やっと設定だけ決めてた弟を作中に登場させれられました。(尚本人は登場してない模様)
ぶっちゃけ弟本人が登場できるかはまだ未定です。


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第9話 酔っ払い、宴会を企画する

本当は1話でまとめようと思ったのですが、長くなりそうだったので分割することにしました。


同盟軍屈指の大作戦、第5次イゼルローン要塞攻防戦が失敗に終わった後も、泥沼の戦いは続けられていた。ヴァンフリート星域会戦、第6次イゼルローン要塞攻防戦、第3次ティアマト星域会戦、第4次ティアマト星域会戦など、度重なる大規模な会戦が行われてたが、その何れも帝国軍を追い返したという事実だけでは済まされない損害を同盟軍は負うことになった。政治ではその場凌ぎの決定が乱発され、経済ではギリギリの崩壊は回避されながら衰退していた。長き戦争の影響は同盟社会そのものに及び、確実に蝕んでいったのである。

 

第4次ティアマト星域会戦後の宇宙歴795年10月、ハイネセンのとあるホテルの一室でパーティーが行われていた。

参加者には自由共和党のヨブ・トリューニヒト国防委員長、ネグロポンディ議員、ウォルター・アイランズ議員、同盟民主党のジョアン・レベロ財務委員長、社会改革党のホアン・ルイ人的資源委員長、そして新たに国防委員会委員に任命されたグレゴリー・カーメネフの他各党の議員達がいた。

 

「今日はアルコール類との健全な付き合いを推進する議員連盟の記念パーティーに参加していただきありがとうございます。私が会長を務めさせていただいているグレゴリー・カーメネフであります。今回のパーティーは、昨今問題となっている同盟社会の風紀の乱れの原因と叩かれていた、アルコール類に対する誤解の払拭と、健全な付き合いに対する認知度を高めること目的として企画しました。アルコールとは人間の堕落の象徴ではなく、人間が人間らしく生きるために不可欠な清涼剤であるという事、そして健全な付き合い方を広めることで風紀の乱れを正し、社会の活性化が成されると私は信じております。それでは同盟の更なる発展を願って乾杯!」

 

グレゴリーの乾杯の音頭と同時にパーティーは始まった。

 

「しかし、お前さんがトリューニヒト達が参加するパーティーに来るとは思わなかったよ。」

 

「私は政治家だ。個人の感情で物事を判断はしないようにしている。それにカーメネフ君から参加してほしいと請われたし、私も酒は好きだしな。」

 

「まあこの集まりは政策云々で集まったというよりは、グレッグの個人的人間関係から出来た超党派議連だからねぇ。彼奴らしい試みだよ。」

 

レベロとホアンが談笑しているとグレゴリーがやってきた。

 

「親父にレベロの叔父貴!こんな端っこにいたんですか。探しましたよ!」

 

「やあグレッグ、楽しませてもらってるよ。料理と酒もお前さんがチョイスしたんだろう?」

 

「いやぁ、この人数でしたからね。張り切らせてもらいましたよ!」

 

「その酒と飯に対する情熱をもっと政策に反映させてほしいのだがね。」

 

「叔父貴!そりゃあ言わないお約束ですよ!」

 

「まったく・・・」

 

そうグレゴリーを咎めているレベロも顔は笑っていた。

しばらく談笑しているとグレゴリーがレベロとホアンに顔近づけた。

 

「実は親父達に相談したいことがあるんです。ただここではあれ何で別室に来てもらえませんかね?」

 

「何か良からぬことでも企んでるのかい?」

 

「そんな事を考えられるほど頭がよくないことは親父も知ってるでしょう。こちらへどうぞ。」

 

グレゴリーがホアン達を部屋へ案内すると、

 

「やあ、グレゴリー君。先に飲ませてもらってるよ。」

 

「ヨブの兄貴、お待たせしました。」

 

ヨブ・トリューニヒトがビールを片手にフライドチキンを頬張っていたのである。

 

 

 




次回でようやく一区切りつきそうです。


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第10話 酔っ払いと親父達の宴会

更新が遅くなって申し訳ありません。
今話で区切りが着くと言ってましたが、まだまだ長くなりそうだったので分割することにしました。
今回から原作改変が入ってきますのでご了承ください。


グレゴリー主催のパーティーが賑やかに行われている中、VIPルームでは同盟内の政治通にとっては驚くべき光景が広がっていた。

与党自由共和党のホープであり国防右派の筆頭と目されているヨブ・トリューニヒト、野党同盟民主党代表であり非戦派の代表格ジョアン・レベロ、同じく野党社会改革党書記長でありバルカン政治家の異名を持つホアン・ルイ、現最高評議会の委員長達であり政界きっての大物政治家達がフライドチキンを頬張りながら酒を酌み交わしているのである。

彼等は立場的にもイデオロギー的にも対立関係にあり、本来であればあり得ないのだが、三人とも繋がりを持っているグレゴリー・カーメネフというイレギュラーな存在が、今回の酒盛りを実現を可能にしたのであった。

 

「流石はカーメネフ君だ。フライドチキンにビールとは最高に分かっているチョイスだね。」

 

「私はビールにはフィッシュアンドチップスの方が良いと思うがね。まあこれも美味いからいいけどね。しかしレベロ、お前さん揚げ物は大丈夫なのか。以前コレステロールがどうとか言ってた気がしたが・・・」

 

「いくら私が年とはいえそこまで老いたつもりはない。それに彼がせっかく用意してくれたものだ。味も一級品みたいだし無礼講といかせてもらおう。」

 

「それは良かった。しかしグレッグの奴、私達を案内だけしてどこに行ったんだか・・・」

 

「まあ彼ならそのうち来るでしょう。それよりどうですかホアン委員長、ビール注ぎますよ。」

 

「ありがとうトリューニヒト委員長。しかし君の所は相変わらず物騒な噂話ばかり聞くが本当の所はどうなのかね。」

 

「そうだぞトリューニヒト委員長。最近騒がれている憂国騎士団とかいう団体は君の所が援助してるという話を聞いたぞ。」

 

ホアンとレベロは最近巷を騒がせている憂国騎士団なる極右集団について聞いてみた。世間では裏でトリューニヒトが糸引いているという噂が囁かれていたが、彼らはトリューニヒトが国家革新同友会というタカ派系派閥の長ではあるが、極右ではないことは分かっており、何よりトリューニヒト自身はそこまで強硬派ではないことを、グレゴリーを通じて知っていたので純粋な疑問をぶつけたのだ。

 

「確かに私や同友会に憂国騎士団から接触があったことは認めますが、彼らを支援するだなんてとんでもないですよ。そもそも彼らの主張と私達同友会の主張は似ているようで全く違いますからね。私達は軍事と社会保障の充実を掲げていますが奴等は社会保障を削ってそれを軍事に充てろと主張してるんです。私はルドルフの亡霊達と妥協する気はありませんよ。」

 

そうなのだ。現にトリューニヒトが憂国騎士団との連携を拒んだ報復として国家革新同友会を支援している企業が憂国騎士団の襲撃に遭っており、彼らとは事実上の敵対関係となっている。

 

そんなこんなで彼らが話しているとようやくグレゴリーが大量のフィッシュアンドチップスとピクルスとビールをワゴンに載せてやってきた。

 

「お待たせしました!親父!フィッシュアンドチップス持ってきましたよ!」

 

「遅かったじゃないかグレッグ。パーティーは終わったのか?」

 

「はい!片付けも終了したのでスタッフに新しいつまみを作らせて持ってきましたよ!さあ二次会といきましょう!」

 

「やれやれカーメネフ君は元気だねえ・・・それでは改めて乾杯といきましょうか。」

 

「それでは自由惑星同盟の繁栄を願って・・・乾杯!」

 

4人の宴会が始まった。




まだまだ話は続きますのでお付き合いください。


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第11話 酔っ払いと親父達の誓い

ようやく一区切り着きました。
トリューニヒトとレベロの人物像が原作とかなり乖離してるように思いますが、そこは主人公の影響と二次創作という事でご容赦ください。


グレゴリーを含めた二次会が始まった。酒を飲んでおり、グレゴリーが得意の手品や宴会芸を披露した事もあって、賑やかに過ぎていった。皆日頃の対立関係を忘れて飲みあい、互いに笑いあった。

 

宴会が始まりそれなりに時間が過ぎたころ、いきなりグレゴリーが大声を上げた。

 

「ホアンの親父!レベロの叔父貴!ヨブの兄貴!今日は相談とお願いをする為に集まってもらったんです!」

 

グレゴリーは起ち上がると3人に対して頭を下げた。

 

「私は君の親父だ。話してみなさい。」

 

ホアンが促すとグレゴリーは話を続けた。

 

「親父も叔父貴も兄貴も第5次イゼルローン要塞攻防戦以降、同盟が大損害負い敗退を重ねていく現状をどう思っていますか?ヴァンフリートでは勝てましたが第6次イゼルローン要塞攻防戦で敗退しました。第3次・第4次ティアマト星域会戦では追い返したという事実だけで帝国軍以上の損害を同盟軍は負っています。その結果国境は荒廃し、軍備を立て直すために公債の増発と臨時増税と社会保障削減が乱発されています。私の選挙区では毎日陳情が来ます。何とかしてくれって。エル・ファシルだけじゃないんです。シャンプール、ネプティス、パルメレンド・・・私の選挙区じゃないところからも陳情が来るんですよ。何とかしてほしいって言ってきてるんです。こんな私や有権者でも危機感は持ってるんです。このままでは同盟そのものが崩壊してしまいます。」

 

三人は俯いた。それはそうだ。三人とも思想の違いや理想の差異はあれど同じく危機感は持っていたからである。しかし政局情勢が三人の身動きを取れなくしていた。トリューニヒトは与党自由共和党の所属であり自身の派閥を持っているとはいえ非主流派に甘んじている(最も彼の場合今後の政局の為に敢えてその立場に甘んじているという事情があるが)。レベロは野党同盟民主党のトップであり、ホアンは野党社会改革党の事実上のトップである書記長を長年務めている。更に党派は違えど彼らは現最高評議会の一員を務めているのだ。おいそれと動くことはできない。

 

「軍は新兵ばかり多くなり、社会は人員不足で混乱が生じています。数少ない資産はフェザーン資本に取られ、治安は乱れるばかりです。地方では宇宙海賊なんて時代錯誤な輩まで跋扈してるんですよ。これをどうにかしなくちゃいけない。そのためには御三方の協力が必要なんです。お願いします!」

 

そう言うとグレゴリーは土下座をした。三人は困惑した。グレゴリーは確かに頭の出来は良くないが、三人が公的には対立関係にある事を理解できない男ではなかった。だからこそ政策論議を行わず私的関係だけで人脈を広げていくグレゴリーを可愛がったのだ。

 

少し時が流れると、意外な人物が声を発した。グレゴリーが叔父貴と呼んでいるジョアン・レベロである。

 

「私はハイネセン主義者だ。だから労働組合出身者の君とは対立関係にある。だが君は私の政界の教え子であり、君のその素直な所を気に入っている。なにより同盟を救いたいという気持ちは私も同じだ。君に協力しよう。」

 

レベロがそう言うとトリューニヒトが続いた。

 

「親友であり弟分の君からそこまで頼まれて動かないようなら兄貴分の名が廃るだろう。今は出来ないことの方が多いが、協力は出来る。」

 

ホアンが口を開いた。

 

「君をこの世界に連れてきたのは私だ。君に未来を作ってほしいと言ったのも私だ。私には君に手を貸す道理がある。それに・・・この願いを叶えてやりたいと思うのが親というものだ。」

 

ホアンがグレゴリーの肩を叩く。

 

「親父・・・兄貴・・・叔父貴・・・!ありがとうございますうぅぅぅ!!!」

 

グレゴリーは涙と鼻水でぐしょぐしょになりながらホアンに抱き着いた。

 

「おいおいカーメネフ君、大の男が泣くんじゃないよ。」

 

「まあ彼らしくていいじゃないかレベロさん。それよりせっかくの酒の席なんだ誓いの盃といこうじゃないか。」

 

「君にしては中々の提案じゃないかトリューニヒト、ほらグレッグもいい加減離れろ。」

 

ホアンがグレゴリーを離し盃を持たせると4人は盃を掲げた。

 

「「「「我等4人、同盟救済をここに誓う!乾杯!」」」」

 

この誓いが自由惑星同盟にどのような影響を与えるか、今はまだ謎である・・・

 




次回はこれまでの設定と流れを説明しようと思います。


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設定紹介2

ようやく一区切り着いたので改めて設定を紹介します。
書いていくうちに勝手に生えてきた設定がたくさん出てきたので・・・


人物紹介

主人公:グレゴリーカーメネフ

同盟議会代議員議員であり国防委員を務める現在三期目の若手成長株。政策立案力は当選一年目に比べればかなりマシになったがそれでも落第生の扱いを受けるも、素直さと人懐っこさで党派思想を超えた人脈を築くコミュ力お化けのアル中。自覚はないが観察眼は鋭く、今後の同盟政界のカギを握る。

 

ヤン・ウェンリー

エル・ファシルの英雄と呼ばれる同盟軍人。元々コミュ障の権化のような人間だったが、コミュ力お化けのグレゴリーとの思想を超えた付き合いのおかげで最低限のコミュニケーション力は付いた模様。なので原作よりは多少の礼節は持っている。

 

ホアン・ルイ

最高評議会人的資源委員長と社会改革党書記長を務める政治家。グレゴリーを見出し、様々な教育を施すも政策立案力はあまり上がらず呆れている。しかし彼のコミュ力と行動力と実直さは高く買っており、なんだかんだで可愛がっている。

 

ジョアン・レベロ

最高評議会財務委員長と同盟民主党代表を務める政治家。「自主自立」を掲げるハイネセン主義の非戦派の代表格でグレゴリーとは対立関係にあった。しかし旧知のホアン・ルイの仲介で彼の教育の世話をする事になり、付き合っていくうちに蟠りはなくなっていった。彼の実直さを気に入っており思想を超えた関係を築く。

 

ヨブ・トリューニヒト

最高評議会国務委員長を務める自由共和党所属の政治家。国家革新同友会という右派系派閥を率いており、世間からの人気も高い。しかし敵対者達からは「タカ派のドン」と見られており、反発も強い。本人はその立場を活用して権力を握ろうと画策していたようだったが、グレゴリーと付き合っていくうちに手段を切り替えた模様。現在は極右勢力との差別化を図っている。ある意味主人公の影響を最も強く受けた存在。

 

ネグロポンディ、ウォルター・アイランズ

自由共和党所属の政治家。国家革新同友会に所属しておりトリューニヒトからの信頼も厚い。グレゴリーとは選挙区も近いこともあって共同歩調をとることが多く、党派を超えた同志ともいえる。

 

コーネリア・ウィンザー

最高評議会情報交通委員長を務める自由共和党所属の政治家。自由共和党主流派でありながらスタンドプレーが多く批判は多い。しかし弁舌が上手く、サンフォード政権の後継者とみられているため味方も多い。グレゴリーとは同盟議会で幾度も激論(物理)を交わした宿敵ともいえる存在。

 

政党紹介

自由共和党

長年にわたり与党に君臨する中道右派政党。数は多いが派閥も多いため統制は取れていない。しかし個々の議員が選挙に強いため第一党を維持し続けている。現在は主流派とトリューニヒト派による対立が起きている。

 

同盟民主党

野党第一党。過去には与党経験もあるが、ハイネセン主義的政策に拘るあまり地方からの反感に遭い、長期低迷に陥っている。同盟内の政党の中では比較的統制は取れているが現体制に不満を持つ層が一定数存在する。

 

社会改革党

野党第二党。同盟民主党とは対自由共和党で共同歩調を取っているが社会保障や国防で対立することもあり現在は亀裂が生じている。しかしレベロとホアンが旧知の仲であるため最小限で済んでいる。左翼政党を標榜しているが対帝国戦略を巡り統一した行動はとれていない。

 

憂国地球党

新興宗教である地球教と憂国騎士団が共同で設立した新興政党。地方ではそれなりの勢力を持っているが、あまり過激なため人気はない。

 

制度紹介

最高評議会

同盟内における最高機関。メンバーは同盟議会代議員から選出され、委員長ポストには野党枠(現政権ではレベロとホアンが該当)が存在する。そのため評決は多数決で決められ、結果は公表される。

 

同盟議会

同盟内における立法機関。任期は4年だが解散総選挙が頻繁になされる。最高評議会の決定・法案を改めて協議するとしているが実体は評議会のカーボンコピーであり「同盟市民を納得させるプロレス劇場」と揶揄される。一応議員立法な提案できるが殆どなされない。

 




本編を書いていてかなり説明不足な所もありますが、その辺はそういうもんだとご了承ください。
次回から原作本編に突入します。


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第12話 酔っ払い、バカを病院送りにする

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
いよいよ今回から原作の話に繋がります。



グレゴリーの仲介(懇願)により、ホアン・レベロ・トリューニヒトの盟約が成されてから数ヶ月の宇宙歴796年2月、フェザーンからの情報で再び帝国軍が同盟侵攻を察知したトリューニヒト国防委員長は、迎撃作戦の作成を統合作戦本部に命じた。

後日、統合作戦本部より作戦案が提示され、その可否を決める国防委員会が開かれた。普段なら緊急性の強い迎撃作戦の場合、決断の速さが求められるため、あまり紛糾せずに可決されるのだが、今回は珍しく国防委員であるグレゴリーが作戦案に対して異議を申し立てたのである。

 

「統合作戦本部長であるシトレ元帥と宇宙艦隊司令長官のロボス元帥にお聞きしたい!あなた方はこの作戦案で本当に帝国軍を撃退できると思っているのですか!」

 

「と言いますと?」

 

ロボス元帥がグレゴリーに問いかけた。

 

「総数2万隻の帝国軍に対し第2艦隊・第4艦隊・第6艦隊の3個艦隊からなる計4万隻を動員しアスターテ星域にて迎撃する。これは国防委員会の指令通りなので問題はないです。しかし!この三方から同速度で帝国軍艦隊に迫り、防御戦を選択し密集隊形をとるであろう帝国軍を厳重な包囲下においてその交戦能力を削り取り、かつてのダゴン星域会戦の再現を目指すとありますが、こんなお粗末な作戦が本当に通用すると思っているのかと聞いているのです!」

 

グレゴリーの追及の声にシトレとロボスが沈黙していると別の席から声を上げた人物がいた。

 

「ほう!お粗末な作戦とは随分な言いがかりですな!いったいどこがお粗末なのか是非とも小官にご教授願いたい!」

 

「君は確か・・・アンドリュー・フォーク准将だったね。今私はシトレ元帥とロボス元帥に聞いているのだが。」

 

「本作戦案を作成したのは小官です。国防委員殿の疑問に最も適切な回答が出来ると思い発言をいたしました。」

 

「なるほど、ならば聞こうか准将。この作戦を本当に実行する場合、味方との連携が重要になるという事は分かっていると思うが、敵が同盟軍を攪乱させるためにジャミング工作を実施した場合、どのように対策が行われるかが書かれていない。これはどういうことなのだ?」

 

「これは不思議なことを言われますな!同盟軍の通信技術が帝国軍のジャミング如きに劣るわけがないのです!」

 

周りはざわついた。

 

「・・・質問を変えよう。次に帝国軍が防御戦を選択肢し密集陣形を取るであろうとあるが、いったい何を根拠に帝国軍はその戦術を取るであろうと考えたのか?また、帝国軍がこちらの思惑に乗らず想定外の行動をとって場合の対応はどうするのか?」

 

「文民である国防委員殿には想像がつかないでしょうが、地の利と数の利はこちらにあります。帝国軍もそれを悟るでしょう。軍事的常識を考えるならば防御戦か撤退のどちらかになりますが、奴らも軍人である以上、撤退はあり得ません。ならばとれる方法はただ一つ!防御戦を選択し密集隊形以外ありえないのです!」

 

周りは更にざわついた。

 

「いったい何時の時代の話をしているんだ?経過したと思ってるんだ?回廊出入口の星域など帝国軍も把握しているに決まっている。」

 

「そもそもイゼルローン要塞が帝国に存在している時点で回廊出入口の地の利なんてあってないようなものだ。」

 

周りがフォークの説明でざわついてる中、グレゴリーが口を開いた。

 

「最後の質問だ・・・准将は本当にこの作戦案で帝国軍を撃退できると考えているのか?」

 

「無論です!これはダゴン星域会戦の再現であり、必ずや同盟軍に勝利をもたらしてくれるでしょう!」

 

フォークがそう断言するとグレゴリーは溜息をついた。

 

「もういいよお前・・・帰れ。」

 

「は?」

 

「聞こえなかったか?帰れと言っているんだ。君の戯言は聞き飽きた。」

 

「っ!?しょっ・・・小官を侮辱なさるのですか!?」

 

「侮辱?むしろこんな作戦案を平気で出せる君の方が国防委員会、いや同盟軍を侮辱していると思うがね。いいか、同盟軍と帝国軍は貴様の玩具じゃない!何もかもが思い通りに事が運んでいくなら同盟はこんな苦境に陥っていない!軍事の素人である私ですらダメ出しできる作戦で帝国軍が撃退できるわけないだろう!そんなことも理解できないのか!」

 

グレゴリーがそう怒鳴りつけるとフォークはプルプルと震えだし倒れた。

 

「おっ・・・おい!?直ぐに医務室に運ぶんだ!」

 

フォークは職員達によって運び出され医務室へ連れていかれた。

 

騒ぎが落ち着き、中断されていた会議が再開されるとグレゴリーはシトレとロボスに噛みついた。

 

「シトレ元帥、ロボス元帥もう一度お聞きします。あなた方は本当にこの作戦案を了承されていたのですか?」

 

シトレとロボスは沈黙したまま答えようとしなかった。

するといままで沈黙を貫いていたトリューニヒトが、

 

「まあまあグレゴリー君、彼らも不本意だったんだ。ここからは私から説明しようじゃないか。」

 

と落ち着いた口調で宥めた。

 

「兄貴・・・いや委員長。それはいったいどういう事で?」

 

グレゴリーが催促するとトリューニヒトは今回の顛末を語り始めた。

 




想定より話が長くなりそうなので話を分割します。


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第13話 酔っ払い、ヤンに愚痴る

話を書いていくうちに当初の予定よりかなり改変する羽目になりました・・・


ヤン・ウェンリーの邸宅で飲んでいたグレゴリーは荒れていた。彼は国防委員会での会議終了後、ヤン邸宅に押しかけ酒を飲みながら只管不満をぶちまけていたのだ。

 

「それで、国防委員長殿はなんて言ったんです?」

 

「それがな、ヤン、あの作戦提案者のフォーク准将なんだが・・・どうやらサンフォード議長との関係が深いらしいんだよ。」

 

「サンフォード議長?それが今回の件と何の関係があるんです?」

 

「今回の作戦案作成の際に、統合作戦本部と宇宙艦隊総司令部にサンフォード議長から注文があったそうだ。アンドリュー・フォーク准将を是非とも使ってやってほしい。作戦参謀の彼なら素晴らしい作戦を提案してくれるだろう・・・ってね。」

 

「おかしくないですか?国防委員長が命令するならともかく、最高評議会議長が国防委員会を通さず直接注文を付けてくるなんて・・・」

 

「だからこそ命令ではなく、あくまで注文という形で言ってきたのだろうよ。相手は自由惑星同盟のトップである最高評議会議長だからな。無視するわけにもいかなかったらしい。」

 

「宇宙艦隊総司令部は止められなかったんですか?」

 

「フォーク准将は士官学校を首席で卒業して以来、ロボス元帥の子飼いとして可愛がられていたみたいなんだが、彼はそれを笠に着て色々独断専行をやらかしていたみたいなんだ。それでさすがのロボス元帥も激怒して叱責したようなんだが、どうやら逆効果だったみたいで、彼はロボス元帥の下を離れ、以前から懇意にしていたサンフォード議長を頼ったようだ。」

 

「統合作戦本部は何も言わなかったんですか?」

 

「シトレ元帥とグリーンヒル大将は完全に蚊帳の外に置かれていたみたいだ。サンフォード議長からの注文が来てからあれよあれよという間に話が進んでいたようだね。」

 

ヤンは呆れていた。帝国軍が間近に迫っているこの状況で身内が私欲の限りを尽くし、権力争いに明け暮れているのだから。

 

「それで結局作戦はどうなったのですか?」

 

「ヨブの兄貴の裁定で基本はフォーク准将の案に沿って動くことになった。」

 

ヤンは啞然とした。

 

「本気ですか?あの作戦を?」

 

「安心しろそれはない。あくまで基本はだ。もし何らかの原因で味方との通信が取れなくなった場合、当初の作戦遂行を断念し、味方との合流を第一とする。その後は防御戦に移行し、敵の撃破ではなく撃退に力を注ぐようにする。要は無理して戦果を稼がなくていいってやつだな。」

 

「それは安心しましたけど・・・本当に大丈夫なのですか?」

 

「この作戦案は統合作戦本部と宇宙艦隊総司令部が承認し国防委員会が正式に決定したものだ。外野が何を言おうが変わらんから安心しろ。だからな、ヤン、今回もお前さんの力が必要なんだ。よろしく頼む!」

 

グレゴリーはそう言うと頭を下げた。

 

「まあ、出来る限りのことはさせてもらいますよ。私としてもユリアンを置いて死ぬつもりはありませんからね。」

 

「そうか・・・ありがとう。」

 

彼らが会話を終えると見計らったかのようにユリアンが入ってきた。

 

「グレゴリーさん!アンドレイさんが迎えに来ましたよ!」

 

「おお、もうそんな時間か。それでは帰るとしよう。ユリアン君、いつもありがとうね。」

 

「いやいやこちらこそ。またいらしてくださいね。」

 

「ああ、楽しみにしてるよ。ヤン!ユリアン君!また会おうな!」

 

グレゴリーはそう言うと弟のアンドレイが運転する車に乗り込んだ。

 

この数日後、同盟軍はハイネセンを出撃、アスターテ星域で帝国軍と激突した。戦況は包囲しようと分散していた同盟軍に対し、帝国軍が各個撃破を試み第4艦隊を撃破、帝国軍が優勢になる。しかし合流に成功した第2・第6艦隊による背後からの奇襲に遭い戦況が逆転する。しかし、不幸にも流れ弾が第6艦隊旗艦ペルガモンに直撃しムーア中将が負傷、戦況が押し戻される。その後は消耗戦になるも、ヤン准将の発案により別動隊をイゼルローン回廊に向かわせ、出入口の封鎖を行うふりをさせる。それに動揺した帝国軍が撤退、同盟軍も撤退に移り、アスターテ会戦は終了した。

同盟軍の被害は、第4艦隊が壊滅しパストーレ中将が戦死、第6艦隊が3割の損害で済むもムーア中将が重傷を負い予備役編入となった。第2艦隊は1割の損害で済み、また撤退戦における功績を認められたヤン准将は少将に昇進することになった。

 

アスターテ会戦は同盟軍が帝国軍にそれなりの損害を与え、追い払ったという意味では同盟軍の勝利といえるが第4艦隊の壊滅という大きな損害を払っており、これまで通り実質敗北といえるだろう。

しかし、実情を知っている者たちにとってはこの程度の損害で済んで安堵したことも事実なのである。

この結果が今後どのような影響を与えるか、それは誰にもわからないのだ。

 

 

 

 

 

 




本当は前回の会議を続けていくつもりだったのですが、予想以上に長くなり、グダグダになる可能性が非常に高かったため、このような形になりました。
やっとアスターテ会戦までかけたぞ・・・!


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第14話 酔っ払い、魔術師に肩入れする

1年近く更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
なんとかこれをきっかけに執筆速度を取り戻したいと思います。


同盟首都星ハイネセンの首都ハイネセンポリス。ここでは現在、先のアスターテ会戦の戦没者の慰霊祭が行われていた。

会場には政府首脳陣や軍関係者、戦没者の遺族だけでなく、マスコミや大勢の野次馬も詰めかけており、若干混雑しながらも慰霊祭は粛々と行われていた。

そして政府代表としてトリューニヒト国防委員長の慰霊の演説が始まった。

 

「お集まりの市民諸君、兵士諸君。今日我々がこの場にはせ参じた目的は何か。アスターテ星域にて散華した100万の英霊を慰めるためである。

彼らは尊い命を祖国と自由を守らんがために捧げたのだ!彼らはよき夫であり、よき父であり、よき息子、よき恋人であった。

彼らは幸福な生活をおくる権利があった。だが、その権利を捨てて死んだのだ。

市民諸君!私はあえて問う。100万の将兵はなぜ死んだのか!その解答はただ一つ。彼らは祖国と自由と市民を守るために命をなげうったのだ!これほど崇高な死があるだろうか!

私は一人の同盟市民として彼等の献身を誇りに思う!だが同時に政治家であるが故に彼等を死地に送った責任が私には存在する。

だからこの場を借りて謝らせてほしい!全ての市民諸君、兵士諸君、そして100万の英霊諸君!申し訳なかった!

そしてこの祖国を、自由の祖国を、守ってくれて、ありがとう。同盟万歳!共和国万歳!英霊たちに栄光あれ!」

 

トリューニヒト委員長がそう締めくくると、会場は拍手で包まれ、同盟国歌の斉唱が始まった。

その中には少将に昇進が決まり、不機嫌になりながらも国歌を口ずさむヤン・ウェンリーと、トリューニヒト委員長の演説に感動し、涙を流しながら大声で国歌斉唱をするグレゴリー・カーメネフ国防委員の姿もあった。

 

大きな混乱もなく盛況に終わった慰霊祭から数日後、命令により統合作戦本部へ出頭したヤン・ウェンリー少将はシドニー・シトレ統合作戦本部長と面会していた。

 

「ヤン・ウェンリー【中将】。君は新設される第13艦隊を率い、イゼルローン要塞の攻略を行ってもらう。」

 

「・・・・・・失礼ですが本部長閣下、私は先のアスターテ会戦後に少将に昇進したばかりだったと思うのですが・・・・・・」

 

「現時点ではな。だが本作戦終了と同時に君は正式に【中将】に昇進することが内定している。仮にイゼルローン要塞が攻略に失敗したとしてもな。」

 

「ですが今の私は少将に過ぎません。一個艦隊を率いるには中将クラスの方を任じるべきではないでしょうか?」

 

「第13艦隊は新設されると言っても、元は壊滅した第4艦隊と少なくない損害を受け指揮官不在の第6艦隊に新兵を補充して結成された、言わば敗残兵と新兵の寄り合い所帯だ。

それにこの人事は国防委員会の肝いりで決定されたものだ。問題はない。」

 

「・・・・・・それで国防委員会と本部長は、私に敗残兵と新兵の寄り合い所帯の一個艦隊でイゼルローン要塞を攻略しろと仰るのですか?」

 

「君にしかできないと私も渋る委員たちを必死に説得して回ったカーメネフ議員も確信しているよ。」

 

「・・・・・・承知しました。」

 

ヤンはそう答えると早々と統合作戦本部を後にしたのであった。

 

 

 

その日の夜、シトレとグレゴリーに嵌められたと愚痴を言いながら酒を飲んでいるヤンに、アレックス・キャゼルヌ少将とグレゴリーがやって来た。

キャゼルヌとグレゴリーは以前にヤンを通じて知り合っており、これまた酒好きが高じて仲良くなっているのである。

ちなみにグレゴリーはキャゼルヌの妻であるオルタンス夫人とも知り合っており、ちょくちょくキャゼルヌ宅にもお邪魔しているようである。

 

「ようヤン、初っ端から酔いつぶれてるとはお前さんらしくもないな。」

 

「これはキャゼルヌ先輩に・・・・・・よく顔を出せましたねグレゴリーさん。」

 

「まあそう睨むなヤン。今日はお詫びに上物のコニャックを持ってきたぞ!」

 

「グレゴリーさん!あんまりヤン提督に高いお酒を飲ませないでください!アンドレイさんに言いつけますよ!」

 

「まあそう言うなよユリアン。此奴らが飲み過ぎないよう監視するために俺がいるんだからな。」

 

「さっすがキャゼルヌ君は分かってる!さあヤン!グラスをとれ!乾杯だ!」

 

グレゴリーがそう言うと皆我先にと酒を飲み始め酒盛りが始まった。

酒盛りが佳境に向かうと、ヤンはグレゴリーに疑問をぶつけた。

 

「そういえばグレゴリーさん、何故私にここまで肩入れをしてくれるんです?」

 

「なんだヤン唐突に。もう酔っぱらってるのか?」

 

「私は真面目に聞いてるんですよグレゴリーさん。貴方には確かに色々と教えてもらっていますし便宜も図ってもらってます。ですが貴方は政治家だ。

本来なら軍人である私や、キャゼルヌ先輩とここまでズブズブな関係になるのはキャリア的にマズいのでは?」

 

「なんだそんなくだらん事をか。それはだな。ヤン、お前の事が好きだからだよ。」

 

周りの空気が一瞬で凍り付いた。

 

「・・・・・・グレゴリーさん。申し訳ないが私は同性愛者じゃないんだ。」

 

「違うわい!【 と も だ ち 】として好きだって言ってんだよ!友人が戦地に行くってんだから出来るだけ便宜を図ろうとするのは当たり前の話だろう?」

 

「相変わらずだなお前さんらしい単純な思考だなグレッグ。」

 

「単純で悪かったな!それに俺は確かにバカだが、人を見る目にはちょいと自信があるんだ。お前さんたちに賭けてれば同盟は大負けはしないだろうし死人も少なく済む。おらぁそう思ってるのよ。」

 

「・・・・・・買い被りですよグレゴリーさん。私にはそんな力はありません。」

 

「買い被りで結構じゃねえか!ヤン!お前が自分の力を信じられないなら、お前の力を信じる俺を信じろ!お前にはそれだけの価値がある!だろう?キャゼルヌ君、ユリアン君!」

 

「そうですよヤン提督!僕は提督を信じています!」

 

「まぁお前さんになら袖の下なしで協力はしてやれるぞ。」

 

「・・・・・・全く・・・・・・分かりました。出来る限りに最善を尽くしますよ。」

 

「おう!その意気だぞヤン!要はいつも通りお前さんらしく、出来る範囲で仕事をしてくれればいいのよ!今回の作戦もよろしく頼んだぞ!」

 

そう言うとグレゴリーはボトルを飲みほし、新しいボトルに手を付けたのだった。

 

 

 

数日後、第13艦隊は正式に設立し、ヤン・ウェンリー少将は司令官として任命された。

そして宇宙歴796年4月、ヤン少将率いる第13艦隊はイゼルローン要塞攻略の為ハイネセンを出撃、なんと味方の血を一滴も流さずに難攻不落イゼルローン要塞を陥落させるという未曾有の大勝利となった。

この知らせは同盟、帝国問わず銀河中に広がり、同盟市民はヤン・ウェンリーを「魔術師ヤン」「ミラクルヤン」と称賛し熱狂した。

また同盟政府の支持率も低支持率からV時回復を遂げ、一時期は政権支持率90%を記録するなど、同盟は久しぶりの朗報に皆酔いしれた。

 

だがそれは、後に起こる同盟の大政変への、単なる序曲でしかなかったのである・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとイゼルローン要塞陥落まで書けました・・・いよいよ終盤に入っていきます。


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第15話 酔っ払いの裏で

今回は主人公が出てこない上、元々短い話がさらに短くなっています。


それは、ハイネセンポリスの一角にある高級ホテル「ホテル・ユーフォニア」の、とある一室で行われた密談から始まった。

 

「サンフォード議長閣下!今が好機なのです!どうかご決断を!」

 

「しかしだねフォーク君・・・既に統合作戦本部から出された新たな戦略計画案が国防委員会で採択をされている。

その決定を覆すという事は、憲政の常道に反する行為であり、同盟社会にいらぬ混乱を引き起こす事に繋がりかねない。」

 

「それでは議長閣下は、この【イゼルローン要塞帝国側出入口に対し威力偵察と小規模攻勢を繰り返すことにより帝国に出血を強いる】などという、妥協的且つ玉虫色の消極的作戦をお認めになるというのですか!?」

 

「それは・・・」

 

「既に議長閣下の足元に綻びが生じていることは誰の目にも明らかです。確かにミラクル・ヤン効果が無くなったとはいえ政権の支持率は未だに50%を超えてはいます。

ですが、それはトリューニヒト国防委員長個人に対する人気や、レベロ財務委員長率いる同盟民主党、ホアン人的資源委員長率いる社会改革党に対する支持が殆どです。

事実、先の疑獄事件でクライン情報交通委員長が辞任に追い込まれて以来、自由共和党の政党支持率は3ヶ月前と比べて12.3%も下落している。

後任に有権者の人気が高いウィンザー議員を据えた事で下落自体は止まりましたが、そこから支持率回復には至っていない。

このままでは来年の総選挙で自由共和党は歴史的大敗を喫することになるでしょう。

そして議長閣下はスケープゴートとして全ての責任を取らされることになり、党はヨブ・トリューニヒト国防委員長に奪われることになる・・・議長閣下は本当にそれを認めるのですかな?」

 

「私だってただ座して死を待つつもりはない・・・だがフォーク君、君が持ってきたこの作戦、仮に【帝国領侵攻作戦】とでもしておこうか。私は軍事に関しては素人だから専門的なことはわからんが・・・本当に成功できるのか?」

 

「無論です議長閣下!むしろ今だからこそ、実現可能と言えるでしょう!

イゼルローン要塞を奪取し、帝国が混乱している今こそ、帝国に対し大攻勢をかけるチャンスなのです!

この機を逃せば、再建された帝国軍によるイゼルローン要塞奪還作戦が始まるでしょう。イゼルローン要塞は確かに堅牢ですが、帝国軍は我々より数が多い。

もし要塞が奪還されてしまえば我等の苦労は水泡に帰すでしょう!そうなる前に、迅速に帝国領奥深くまで進出し帝国軍を完膚なきまで叩きのめし、我等の軍事的優位性を確固たるものにしなくてはならないのです!」

 

「なるほど、我々としても帝国領に侵攻すれば帝国憎しで固まる強硬派の支持が得られ、トリューニヒト君に不満を持つ主流派の支持も繋ぎ止められるという事か。」

 

「まさにその通りです議長閣下!

それにフェザーンからの情報でも、イゼルローン要塞が陥落したことで貴族諸侯と軍首脳部の対立が表面化し、それを収めるべき皇帝は仲裁する能力すら持たないとのことです。」

 

「・・・よかろう。近いうち最高評議会を招集する。幸い我々はまだ多数派だ。ウィンザー君も賛成してくれるだろうし、簡単に可決されるだろう。」

 

「ありがとうございます議長閣下!」

 

こうして歴史の歯車が静かに動き出した。

 

 

 

 




次は何とか早めに投稿したいです。何とか安定して2000字以上は書けるようになりたいなぁ・・・


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第16話 酔っ払い、荒れる

お久しぶりです。だいぶ更新が遅れましたが、ようやく投稿できました。


その日、ハイネセンポリスのとあるホテルの一室で、グレゴリーは荒れに荒れていた。

 

「帝国解放作戦?兄貴!これはいったいどういう事ですか!知らん間にとんでもない作戦が可決されてるじゃないですか!」

 

グレゴリーはそう言いながら、ショットグラスに入ったジンを飲み干し、フィッシュアンドチップスを頬張った。

 

「我々はしてやられたんだよグレゴリー君、まさか主流派の連中が私と君が前線に視察に行ってる事を利用して国防委員会を緊急招集するとはね・・・国防委員会全体を掌握しきれないのが仇になったか・・・」

 

トリューニヒトはそう言いながらビールを飲んだ。

 

「またサンフォード議長の差し金ですか?」

 

「どうやらそのようだね。サンフォード議長はロボス元帥と統合作戦本部次長のグリーンヒル大将を抱き込んで軍部を動かしたようだ。」

 

「シトレ元帥は?」

 

「我々と同じだよ。シトレ本部長は完全に蚊帳の外に置かれたみたいだね。」

 

「すまない、遅れた。」

 

「お邪魔するよ。」

 

グレゴリーとトリューニヒトが話してるとレベロとホアン・ルイがやってきた。

 

「親父に叔父貴!よく来てくれました!」

 

「早速だが本題に入りたい。何やら軍部から帝国領に対する出兵の提案があるから最高評議会を緊急招集するとサンフォード議長から通達があったのだがこれはどういうことだ?」

 

レベロは厳しい口調でトリューニヒトとグレゴリーを問い詰める。

 

「簡単なことだよ。私達が前線へ視察に行ってる間に全てが決まってたんだ。事実上のクーデターのようなものだよ。」

 

「ほう、お前さんが出し抜かれるとは、サンフォード議長も相当な狸のようだな。」

 

ホアン・ルイがそう茶化すとレベロは不機嫌そうな顔をした。

 

「それで、親父と叔父貴は今回の出兵案をどうお思いで?」

 

「当然反対だ。現状ですら財政状況がギリギリだというのに、これ以上の戦火の拡大は同盟の財政に致命的打撃を与えかねんからな。」

 

「私も反対だね。人材の問題はどうにもならん段階まで来てるし、これ以上の人材枯渇は看過できないね。」

 

「まあ二人ならそう言うと思っていたよ。だが最高評議会で明確に反対するのは我々3人だけだろう。サンフォード議長は当たり前だが、ウィンザー夫人は今や私を差し置いて対帝国最強硬派のトップになりつつあるし、何より彼女は議長の事実上の後継者だからね。他の主要ポストは議長とウィンザー夫人の派閥が占めてるし、中間派の連中を今から抱き込むことも難しいだろう。棄権に持ってこれれば御の字だよ。」

 

トリューニヒトはそのように言いながらビールを飲んだ。

 

「ならばどうする?いっそ我々だけでピケでも張るか?」

 

「ピケ張るなら私も出ましょうか!」

 

レベロとグレゴリーがそう言うと、

 

「そんなことで時間稼ぎをしても無意味だろう。我々は解任されてサンフォード議長が全ての職を臨時で兼ねればそれで終わりだよ。」

 

トリューニヒトは2人の意見を却下し、フライドチキンを頬張った。

 

「となると残る手段は同盟議会で否決に持っていくことか・・・難しいぞ?」

 

ホアン・ルイはそう問いかけるトリューニヒトは笑みを浮かべて

 

「だがこれは同時にチャンスでもある」

 

と言った。

 

「チャンス?」

 

「政界再編のだよ。」

 

「!?なるほど・・・確かに否決と同時にサンフォード議長に不信任決議を持ち込んで解散総選挙に追い込める。」

 

「そして私は派閥を率いて自由共和党を離党。君達と新党を結成して選挙に挑む。」

 

「だが今選挙をやって勝てるのか?下手したら政権批判票を反戦市民連合にとられるだけに終わるぞ。」

 

「逆だよ。我々が新党を結成して政権と対峙すれば自然と反戦市民連合は埋没する。連中には組織も金もないからな。」

 

「金がないのは我々もだがな。」

 

「フェザーンと繋がって後で身ぐるみはがされるよりはマシだろうよ。」

 

「違いない。」

 

そういうとホアン・ルイはウイスキーを飲み干した。

 

その日、4人の男たちは酒を酌み交わしながら、長時間話し合った。彼等の行動が今後どのような影響をもたらすか、誰も知る由はない・・・

 

 

 

 

 




次こそは早めに投稿したいです。


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第17話 酔っ払い、主役に選ばれる

相変わらず短いです。


「賛成6票、反対3票、棄権2票、よって本案は可決されました。よって本案は3日後の同盟議会本会議に送付され改めて審議されます。以上をもちまして本評議会を閉会いたします。」

 

サンフォード議長がそう宣言し評議会は閉会となった。

 

 

 

ハイネセンポリスのとあるレストラン、そこではトリューニヒト、レベロ、ホアン、ネグロポンディ、アイランズ、グレゴリーの6人が会食をしながら今後の話し合いをしていた。

 

「6対3か・・・厳しい結果だな。」

 

レベロが苦虫を嚙み潰したように言うと

 

「2人が棄権に回ったんだ。むしろ上出来だと私は思うがね。」

 

ホアンが宥めるように言った。

するとトリューニヒトが

 

「最高評議会の面子はサンフォード議長の派閥が過半数を握っている。だからこうなることは想定の範囲内だろう。むしろここからが勝負どころだよ。」

 

そう言った。

 

「やはり同盟議会本会議での採決にかけるしかないのか・・・だが本会議まで僅か3日しかないぞ。事前に根回しするのは難しいだろう。」

 

レベロがそのように言うと

 

「それがサンフォード議長の目的だろう。数の劣る私達に時間を与えず、一気に採決へ持ち込もうという算段だろう。」

 

とホアンは答えた。

 

「現時点で出兵案に賛成するとみられるのが、サンフォード派とそれに追従する主流派に極右系を含め1051名となっています。」

 

ネグロポンディがそう発言すると

 

「反対で固めているのは我々国家革新同友会と同盟民主党・無所属クラブに社会改革党、それと反戦派無所属の合計989名です。」

 

アイランズがそれに追従し発言する。

 

「という事だ。つまり残りの210人の風見鶏たちが政局のキャスティングボードと同盟の命運を握っているというわけだな。」

 

トリューニヒトがそう茶化すように言った。

 

「それでどうします?いっそ昔のようにピケ張ってフィリバスターと牛歩でもやりますか?」

 

グレゴリーがそう問いかけると

 

「止めといた方が良い。今回は通るか通らないかの瀬戸際だ。そんなことをやったら逆に反感をよんでいらぬ離反を招くことになるぞ。」

 

そうホアンが言い放った。

 

「となると純粋な演説勝負になるな。」

 

レベロがそう言うと

 

「そう言うわけだな。それで、誰にする?私達三人は委員長職に就いて参加できない以上、誰か他の人を出す必要があるぞ。」

 

ホアンがそう問いかける。

すると、トリューニヒトが

 

「グレゴリー君がいいんじゃないかな?」

 

と言い放ち

 

「えぇっ!?わっ私でありますか!?」

 

「何を驚いてるんだグレゴリー君、別に初めてではないだろう。」

 

「たっ確かにそうですが・・・こんな重要な局面に私でよろしいでしょうか・・・」

 

グレゴリーがそう不安がると

 

「グレッグ、君はもう青二才じゃない。一端の政治家なんだ。ここで辞退するというのは男が廃るんじゃないか?」

 

ホアンがそう問いかける。

 

「・・・・・・・・わかりました!やりましょう!男グレゴリー!一世一代の大舞台だぁ!」

 

グレゴリーがそう答え、ビールを一気に飲み干した。

 

「はっはっは!それこそグレッグだ!ガンガン飲め!明日っから忙しくなるぞ!」

 

それから会合はそのまま酒宴へ変わり夜は過ぎていった。運命の時まであと少し・・・・・

 

 

 

 

 




もう少しうまく文章を書きたいな・・・


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第18話 酔っ払いの反対演説

早めに投稿できてよかったです。今回は我ながらよくできた方かなと自画自賛してます。


最高評議会で帝国領への出兵案が可決されてから3日後、遂に同盟議会本会議の開催日を迎えた。既に議場には議員達が着席しており、議席後方では衛視の他、ハイネセン警察の警察官たちも待機していた。

 

「なんで警察の連中がいるんだ?」

 

「対策の一環だろ?もし野党の連中が議長席に駆け寄ったらまとめて連行させるつもりのようだ。」

 

「それは衛視の仕事だろう?なにも警察まで動員しなくても・・・」

 

「それだけ今回の出兵案に本気なんだろう。現政権の支持率は下がり続けてるし、史上最大規模の軍事的大勝利によるV字回復を狙ってるんだろうな。」

 

「サンフォード議長も必死だな。」

 

「だが警察の動員はウィンザー議員の入れ知恵らしいぞ。あの女傑は顔は良いくせにやることはえげつないな。」

 

議員達がそのように話してると議長が着席し、

 

「只今より同盟議会本会議を開催いたします。今回は先日最高評議会より送付された銀河帝国領への出兵案について審議いたします。」

 

議長がそう宣言し、本会議が開かれた。

 

 

 

遂にこの日が来てしまったか・・・後ろには警察がいる。やはりホアンの親父が言ってた通り、ウィンザーの婆の差し金か・・・下手に議事妨害に走れば即刻退場、全く何時の時代の議会だよ・・・これでレベロの叔父貴の言う通り、俺たちは正々堂々と答弁で反対票を取らなくちゃならねえ。だが本当に出来るのか?俺はついこの間まで国対族の陣笠議員だったぞ!そんな俺がまさか会派を代表して反対答弁をする事になるとは・・・それに親父から「お前さんは原稿を前もって作って読むよりその場で喋らせた方が良い」って言われるとは思わなんだ・・・叔父貴もヨブの兄貴もネグロポンディとアイランズの旦那たちからも「君の思ったように話せばいい」としか言わなかったし・・・ええい!悩むな!俺らしくない!親父達は俺を信じてくれたんだ!だったら俺らしく、いつも通り思った事を口に出せばいい!こんなクソったれな案はさっさとぶっ潰す!そして一気に解散総選挙で政界に嵐を吹かせてやんよ!

 

グレゴリーがそう意気込んでいると、

 

「・・・以上をもちまして、私の帝国領への出兵案に対する賛成演説を終わります。各位の賛同を心よりお願いします。」

 

おっ賛成討論が終わったか・・・よし!行くか!

 

グレゴリーは気合を入れて壇上へと登った。

 

 

 

「私グレゴリー・カーメネフは、社会改革党および同盟民主党・無所属クラブを代表いたしまして、ただいま議題となりました銀河帝国領への出兵の提案に対し、反対の意を表明せんとするものであります!

 

宇宙歴796年5月14日、その日は我々自由惑星同盟に住まう市民にとって、忘れられない日となりました。ヤン・ウェンリー提督率いる同盟軍第13艦隊が、難攻不落と言われたイゼルローン要塞を攻略に成功したからです!それまで幾度も行われる帝国軍の侵略に怯え続けた市民に、ようやく安心して生活を送れる日が訪れました。先ずはそのことに対し、【国境】出身者として同盟市民を代表して、改めてヤン提督及び同盟軍の勇士たちに感謝いたします。

しかし!今回の出兵案は、その偉大なる戦果を台無しにしてしまうどころか、我々の愛する自由惑星同盟の国益に甚大な損害を与える可能性があるものと、私は断言せざるを得ません!この後、出兵案に対する反対の理由を述べて、各位の賛同を求めたいと思います!

 

まず第一は、今回の出兵案の採決経緯が正規の手続きを得ず、非民主的手段によって採決がなされた事であります。

この出兵案、国防委員会で採決がなされたとありますが、実はヨブ・トリューニヒト国防委員長の決裁がされておりません。確かに各委員会では、膨大な案件を処理するために、委員の過半数の賛成があれば、専決処分という形で処理することが慣習として認められております。しかし!それは国家にとって重要な案件は除く事が前提だったはず!それが守られてないのです!この演説を聞いている全ての方に問います。国家の大事を決める軍事作戦が、重要な案件ではないと思いますか?そんなわけはないんです!これは法の抜け穴を利用したクーデターと言わざるを得ません!これを認めるのは、自由と民主主義が国是である自由惑星同盟の存在意義そのものが揺らぐことになるでしょう!私達はそれを断じて認めるわけにはいきません!

 

そして第二には、この出兵案が現実性に乏しく、作戦実行は不可能であると判断したからであります。

この出兵案に基づいて計画を立てた場合、実際にどれだけの規模になるか、統合作戦本部に問い合わせたところ、シドニー・シトレ本部長自ら試算して回答してくれました。

その規模は、正規艦隊だけでも8個艦隊、総艦艇数20万隻以上、総兵員数3000万人以上の動員が必要であり、必要経費は約2000億ディナールにのぼるとのことです。これは同盟の国家予算の5.4%、軍事予算の10%を超えるとんでもない数値です!しかもこの数値はあくまで想定の範囲であり、追加の戦力、経費を含めたらもっと増えるだろうとのことです。

これでは財政は途端に破綻し、社会システムはズタズタになることは誰の目にも明らかであります!故に私達は本出兵案に強く反対いたします!

 

さらに第三点は、この出兵案自体に、あまりに問題が多過ぎるからであります!

そもそもこの出兵案自体が、統合作戦本部で議論されて作成されたものではなく、軍の私的ルートから提案された案が、何故かそのまま決裁されたという信じられない代物とのことなのですが、議場に出席している皆さんの手元の端末に、今回の出兵案の要綱が出されていると思いますが、それを印刷したものが私の手元にあります。見てくださいこの枚数の少なさ!ハイスクールの学生レポート以下ですよ!

更にその書かれている内容も酷い!作戦目的が[大軍をもって帝国領土の奥深く侵攻し、帝国人どもの心胆を寒からしめること]となっており、更に作戦内容が[高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する]と書かれております。たったこれだけです。こんな中身のない案でどのように作戦を立てると?目的も内容も曖昧なのに?人をバカにするのもいい加減にしろ私は言いたい!

 

最後に申し上げたいことは、銀河帝国との戦争が始まって既に150年以上が経過し、イゼルローン要塞が建設されて以降、戦いは同盟領で行われてきました。しかし、ヤン・ウェンリー提督と同盟軍の活躍によってイゼルローン要塞は攻略され、情勢は大きく変化し、それに合わせた新たな戦略が必要となりました。だがこんなお粗末な案を通すために、クーデターまがいの手法を用い、まともな議論もせず数の論理を押し通すような政権に、新たな国家戦略を描くことが出来ると可能でしょうか?私は思いません!故に現政権には退場してもらい、しがらみのない、新政権を樹立することが、この現状を打破する最適解であると、私はそう信じております!

 

以上をもちまして、私の帝国領への出兵案に対する反対演説が終わるものでありますが、各位の賛同を心よりお願いいたす次第であります。」

 

グレゴリーがそう締めくくると議場は拍手で包まれた。

 

 

 

「それではこれより採決へ移行します。各位、賛成又は反対のボタンを押してください。」

 

いよいよ採決か・・・大丈夫だ!感触充分!自分を信じろ!

 

グレゴリーがそう思いながら反対ボタンを押した。

 

 

 

「それでは開票結果は発表したします・・・賛成1075票!反対1113票!棄権62票!よって本案は否決されました。」

 

やった!やったぞ!俺たちの大勝利だ!

 

「続いて先程から同盟民主党・無所属クラブから提出された最高評議会不信任決議案に関する審議を行いたいと思います。」

 

流石は親父達だ、もう次の手を打ってたのか。これで反対票は一気に不信任へと流れるぞ。そうすれば解散総選挙だ!

 

グレゴリーの予測通り、不信任決議案は野党全会派が賛成し、与党自由共和党からも、トリューニヒト派である国家革新同友会が造反し可決された。不信任決議案の可決を受けて、サンフォード議長は同盟議会の解散権を行使、急遽総選挙が実施されることとなったのである。

 




ようやくここまで書くことが出来ました。物語はいよいよ終盤に突入します。


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第19話 酔っ払い達の新党結成

なんとかここまで漕ぎ着けました・・・もっとうまく文章書きたい・・・


自由惑星同盟の首都星ハイネセン、そこにあるホテル・カプリコーンでは、ヨブ・トリューニヒト、ジョアン・レベロ、ホアン・ルイ、グレゴリー・カーメネフ等による、新党結成の記者会見が開かれていた。

 

「私達は今ここに、新たなる政党【進歩党】の結成を宣言いたします!我々は自由惑星同盟新時代の政党として万民の理想国家建設のために、邁進してまいります!」

 

「それでは進歩党の勝利を祈願して!勝つぞぉー!」

 

「「「おぉー!」」」

 

「勝つぞぉー!」

 

「「「おぉー!」」」

 

「勝つぞぉー!」

 

「「「おぉー!」」」

 

「ありがとうございましたー!」

 

これによって、自由共和党を離党したトリューニヒト率いる国家革新同友会、同盟民主党、社会改革党の三党派が合流し、新政党【進歩党】が結成された。党執行部には、

 

総裁:ヨブ・トリューニヒト

総裁代行:ジョアン・レベロ

副総裁:ホアン・ルイ

幹事長:グレゴリー・カーメネフ

総務会長:ネグロポンディ

政策調査会長:シャノン

議会対策委員長:ウォルター・アイランズ

 

以上が選出され、旧三党派の首脳部による挙党体制が敷かれた。

また結党理念として、

 

我々は【自由】【公正】【連帯】を基本理念とし、民主共和主義の原理に立ち、勤労者市民すべてを代表し、あらゆる人びとに開かれた市民政党である。

党は絶対君主主義と左右の全体主義とに対決し、一切の抑圧と搾取から社会の全員を解放して、個人の尊厳が重んぜられ、人格の自由な発展ができるような社会を建設しようとするものである。

 

とする党綱領が制定され、

 

①自由惑星同盟憲章を尊重し民主共和制を堅持する

②行財政改革を断行し持続可能な財政制度を確立する

③旧態依然とした国家総力戦体制を改め、国際情勢に基づいた新たな安全保障体制を構築する

④銀河帝国への軍事作戦は情勢に基づき慎重に対応する

⑤社会保障制度の抜本的改革と税制改革を通じて、富の再分配の強化と社会正義に基づいた公正な社会を実現する

⑥民生回復を第一とし、公的資金の投入や新産業の育成、辺境惑星の開発などあらゆる景気対策に取り組む

⑦地方惑星活性化の為のあらゆる政策を推進する

⑧首都機能分散を推進し副首都の選定を実施する

⑨宇宙海賊やテロ組織等には断固とした対応をとり、犯罪防止の為の治安回復に取り組む

⑩戦災被害者及び帝国からの亡命者等、社会的弱者の救済に取り組む

 

以上を選挙の【10大政策】として掲げ、今選挙では過半数の候補を擁立すると明言し、与党自由共和党との対決姿勢を鮮明にした。

 

一方トリューニヒト派との合流に反発し、新党に参加しなかった一部の旧同盟民主党、旧社会改革党議員達は、ジェームズ・ゾーンダイク代表率いる無所属クラブ、著名な反戦運動家のジェシカ・エドワーズと【反戦市民連合】を結成。銀河帝国との即時講和、被災地復興を掲げ、多数の候補擁立を宣言した。

 

さらに反戦市民連合の結成を受けて同盟議会内の対帝国過激派が地方政党【憂国地球党】に参加。銀河帝国の打倒及び地球の信仰地化を掲げ、全選挙区に候補者の擁立をする事を宣言した。

 

自由共和党、進歩党、反戦市民連合、憂国地球党の4党派による同盟の運命をかけた熾烈な選挙戦が、いよいよ幕を開けたのである。

 

 

 

 




もっとうまく描写する方法がないかなと悩んだのですが、とりあえず完結を優先しました。


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最終話 酔っ払い達の明日

かなり駆け足気味ですが、今回で最終話となります。
駄文でしたが、読んでくださった方々には感謝しております。ありがとうございました。


「宇宙海賊なんてものが野放しなのは、政府与党の怠慢と言われても仕方ないでしょう。辺境の地方惑星ばかり狙われてるのを見て、興味が薄れているのでしょう。すぐに超党派の会合をもって対策を講じさせていただきます。

私はこの件に、使命感を抱いているんです。全力で取り組む所存ですよ!市民の皆様の関心にすぐに応えるのは、政治家として、当たり前の使命でしょう!

内には政治家の不祥事、外には宇宙海賊が野放し。悲しいかな、これが我等が同盟の惨状です。一日も早く立て直さなくては。市民の皆様に、ここでお誓い申しあげます!」

 

「現在の同盟の人口統計は悪化の一途です。だからこそ我々大人が若い命を育てる使命があるのです!子供が産めないのなら、産める国に変えましょう!子供が産めないのなら、育てる国に変えましょう!

国の力は人の力!わが国の未来は、若き力にかかっているのです!」

 

「銀河帝国が正義を気取ってやりたい放題など、放置して良い問題ではありません!与党はイゼルローン要塞を奪取した今になって対策を講じるなどといってるが、対策が遅すぎる!

自由共和党は、今の時代に取り残された。もはや時代遅れです!しがらみに縛られ、沈んでしまう船ならばいっそ壊してしまえばいい。

私自らの手で、皆さんの手でこの混乱に終止符を打とうではありませんか!」

 

「前途ある若者が、未来を見据えられる、そんな社会を実現するために、私グレゴリー・カーメネフは起ち上がりました!

皆様からご意見を頂戴し、それを即、実行する・・・その【当り前】を実現するために、私は邁進してまいります!」

 

 

 

選挙戦は熾烈を極め、候補者達が各地で選挙活動を行っていた。ヤン・ウェンリー中将の官舎がある、ここシルバーブリッジ街でも、連日演説やチラシのポスティング等が行われていた。

 

「ヤン提督!グレゴリーさんから通信ですよ!」

 

ヤン提督の実質的保護者であるユリアンは、そう言って寝ているヤンを起こした。

 

「やれやれ・・・あの人は相変わらず朝から騒がしいようだね。」

 

ヤンはそう呟きながら端末を起動した。

 

「おはようヤン!なんだ、まだ寝てたのか?」

 

「グレゴリーさん・・・私は今日は貴重な休日なんですがね・・・いったい何の用です?」

 

ヤンがそう言うと、

 

「そうか、それはちょうどよかった!実は今夜、ハイネセンポリスの中心街で街頭演説会があるんだ!是非ともお前さんにも来てほしい!」

 

「は?いやグレゴリーさん、私は軍人ですよ。軍の人間が応援に来ちゃまずいですよ。」

 

「いやいや応援演説をしてくれというわけじゃないんだ!今日私が話す演説を是非とも生で聴いてほしいんだよ!」

 

「はぁ?なんでわざわざ聴く必要あるんです?」

 

「まぁいいじゃないか。今日暇なんだろ?それじゃあよろしく頼むわ!」

 

グレゴリーはそう言って通信を切った。

 

「はぁ・・・全く・・・仕方がない。行くか。」

 

そう呟くとヤンはユリアンが用意した朝食を食べ始めた。

 

 

 

その日の夜、ヤンはユリアンを連れて、グレゴリーに言われた通り、ハイネセンポリスの中心街へとやって来た。辺りは聴衆でごった返しており、誰もこの冴えない男が同盟軍の魔術師ヤン・ウェンリー中将であると気づいてなかった。

しばらく時間が経つと、腕章を付けた人間がヤンの下へ駆け寄り、グレゴリーが控えている場所へ案内した。

 

「おぉっ!よく来てくれたヤン!ユリアン君も来てくれてありがとうな!」

 

グレゴリーはそう言いながらヤンとユリアンに向かって熱い抱擁を交わした。

 

「それで?今日はいったい何を話すんです?」

 

ヤンがそう聞くと、

 

「グレッグ、まだ始めないのかよ!」

 

そう聴衆の声が聞こえてきた。

 

「おっとまさか演説を催促されるとはな。ヤン、今回の演説、是非聴いていってほしい。それじゃあ行ってくるよ。」

 

グレゴリーはそう言うと、壇上へ上がっていった。

 

「全く仕方がないな・・・ユリアン、私達も行こうか」

 

ヤンはそう言い、党職員の案内を受け、演説会場へ移動した。

 

 

 

「お、グレッグの演説が始まるぞ・・・!」

 

「なんとか間に合った・・・仕事切り上げてきてよかった・・・!」

 

「私、これ見るために、デート切り上げて来たんだから!」

 

 

 

「大変長らくお待たせいたしました。今回の選挙で進歩党幹事長を拝命しました。グレゴリー・カーメネフです!

さて突然ですが・・・皆さんには【やりたいこと】や【やるべきこと】があるでしょうか?私は十数年前、ある若者に出会いました。彼は、私と違い物静かな青年でリーダーシップをとるような性格ではありませんでした。ですが彼は、他にやりたいことがあったのにもかかわらず、自身の【やるべきこと】を自覚し、数多くの人々を救ってきました。

私は・・・彼のような【英雄】にはなれませんでした。・・・ですが、私は歩みを止めません。いつか、彼とは同じ頂上で出会うはずだから!

彼は【やるべきこと】を必死でやっています。皆さん、やるべきこと、やりたいことを見つけてください。私が支えます!それが、政治家の【やるべきことであり】、私の【やりたいこと】です!」

 

 

 

「いいぞぉ、グレッグ!」

 

「期待してるわよぉ!」

 

「「「グレッグっ!グレッグっ!グレッグっ!」」」

 

会場は溢れんばかりの拍手がなされ、グレッグコールが飛び交った。

 

 

 

「全く・・・私は早く年金暮らしがしたいだけなんだけどなぁ・・・」

 

ヤンは苦笑いを浮かべながらそう呟くと、

 

「グレゴリーさんはヤン提督が大好きなんですよ。でもヤン提督もこれで簡単に引退することが出来なくなりましたね。皆ヤン提督には軍にいてほしいと思ってるし、僕も嬉しいです!」

 

「そのようだね・・・じゃあ市民の権利を行使するために早速期日前投票にでも行こうか。」

 

ヤンはそう言うと、ユリアンを連れて会場を後にした。

 

 

 

 

各惑星の選挙区で熾烈な選挙戦が展開された。進歩党執行部の面々も各惑星に精力的に演説を行い、自身の選挙区入りすらままならなかったほどである。そんな長きにわたる選挙戦も終わり、投票日を迎えた。最終投票率は80%近くまで上り、ここ30年間で最高を記録した。そしていよいよ開票結果が速報で発表されようとしていた。

 

「まもなく速報が流れます・・・開票出ました!

 

自由共和党 :383議席

進歩党   :1328議席

反戦市民連合:395議席

憂国地球党 :134議席

無所属・諸派:10議席

 

以上です。圧勝です!各党横並びの激戦との予測を覆し、進歩党が単独過半数を獲得し勝利しました!」

 

「えーここで見事、宇宙歴796年度同盟議会代議員総選挙に勝利を果たした、進歩党本部より中継がつながっています。」

 

 

 

「「「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」」」

 

「今回の大勝利は、同盟市民の皆々様のお力添えの賜物と、身に染みる想いでございます!

私達進歩党は、同盟議会で単独過半数を獲得いたしました。ですが、この国難と呼ぶべき情勢の中、我々単独では些か心許ないのも、恥ずかしながら事実でございます。よって私達は挙国一致政権の樹立を各政党に呼び掛けていく所存です!」

 

このヨブ・トリューニヒト進歩党総裁の宣言通り、後日各党との連立交渉が行われ、その結果、帝国に対する捕虜交換の申し出及び交渉の呼びかけと、大規模公共事業の実施を条件に、自由共和党と反戦市民連合が妥協、サンフォード前最高評議会議長の後継者となったコーネリア・ウィンザー自由共和党総裁と、新人ながら反戦市民連合の代表幹事となっていたジェシカ・エドワーズ議員の閣僚入りが決まった。

 

その数日後、同盟議会の指名選挙により最高評議会議長にヨブ・トリューニヒト進歩党総裁が選出され、進歩党、自由共和党、反戦市民連合の三党による連立政権が発足した。

 

 

 

この政権交代が今後の自由惑星同盟において、どのような影響を及ぼすかはわからない。しかしイゼルローン要塞を奪取したことによって、これまで永遠に続くかに思われた同盟側国境宙域の戦いが終わりを迎え、同盟も新しい国家戦略が求められる以上、これまでにない新しい風が吹くことになるのだろう・・・それが吉兆なのか、凶兆なのか、それは後世の人間にしかわからない事なのだから・・・

 

 

 

                                   END

 

 

 




本当はもっと色々書きかかった話があったのですが、これ以上話を広げて収拾を付けられる自信が全くなかったので、これで完結とさせていただきます。
今までありがとうございました。


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