償いの代行者 (血糊)
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#1 理不尽すぎる出会い

ヘドロのところが終わってからの話
出久がオールマイトと再会する前にカービィのボス達の道端会議に出会ってしまった結果


(さっきまでは、ヒーローになりたいと思っていたけど、こうも現実を見せられちゃ、諦めるしかないか・・・)

緑谷出久は、全てを諦めきった顔で、家への帰路を歩いていた。

たった一つの、大きな夢。オールマイトのようなヒーローになりたいという夢。

でもその夢はかなわないと今さっき痛感した。

つらいいじめを受けても死のうと思わなかった理由が、消えてしまった。

無個性の人間は迫害されるような世知辛い世の中だ。

たたでさえボロボロであった心の唯一の支えがなくなった今、出久は今すぐにも死にたかった。

 

「・・・?」

ふと、誰かの話し声が聞こえた。声は右から聞こえる。

道端会議でもしているのだろうか、と帰路とは違う右の曲がり角を曲がった。

 

後に、出久は「この時気にせずにそのまま真っ直ぐ帰ってたらまだマシだった」と語る。

 

そこには冒涜的な風景が広がっていた。

ざっと二メートル位の高さの蜂

血管のような筋が張り巡らされた筒型の機械

黒い太陽に目が一つ付いた化け物

ほかにも説明しにくいような者達がそこに集っていた。

しかし、唯一つだけ分かることがあった。

 

これらは『本物』の異形で、この地球を滅ぼしかねない奴だと

 

「ヒッ・・・!」

「あ、いいカモ発見」

振り向いた一つ目の化け物が――口無さそうなのに――くぐもった声で喋った。

「あら、本当ね。見たところ個性は無いみたいだし、良いんじゃない?」

「ッ!?」

蜂が言ったことに出久は動揺を隠せなかった。

(見ただけで個性が無いって分かった・・・!?)

個性の有無なんて普通見ただけじゃ分からない。

時間をかけて見たら分かるかもしれないが、この巨大蜂は()()で見抜いた。

個性か、または元々の能力か。

だとしても、今は考えるより逃げることが最優先だ。

確かに自殺願望はあるが、せめて楽に死にたい。異形達に原型の無きまで嬲られて死ぬのは御免なのだから。

でも、体は言うことを聞かない。恐怖の鎖に縛られて、足が全く動かない。

「あ、あ・・・」

怖い。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイッッッ!!!!!!

いっそ、狂ったほうが楽になれそうだった。

「やだよ・・・殺されたくない・・・誰か助けてえっ・・・」

顔を手で覆う。それが、今の出久が出来る唯一の現実逃避だった。

 

 

その願いが届いたのだろうか。

なにかが空から落ちてくる音を聞いた。

 

「もう大丈夫だ、私が来t『五月蝿い』」

 

希望がぶち壊される音を聞いた。

「・・・・・・・・・・・・」

出久は絶句。

「あ・・・君の希望壊しちゃって御免ね♪」

ニコッと嗤って――多分――悪気の無い謝罪の言葉を口にする巨大蜂。

平和の象徴(オールマイト)が、なすすべも無く敗北したその事実を信じれなかった。

「あ、そうだ。君に朗報があるわよ!」

「えっ?」

「私達は、大きな罪を犯した。ここに居るのはその罪滅ぼしの為なの。けどもこの姿は、普通の人にとって恐怖を覚える姿。だから、誰かの体を借りて罪滅ぼしをしようと考えてたのよ。で、さっきその話し合いをしてたの」

「はあ・・・それで何ですか?」

「貴方は無個性で迫害されていたのよね?なら、私達の力で貴方に個性を与えてあげるわ」

「!!」

「良い話でしょう?だから、取引してほしいの」

「取引、ですか」

「ええ。貴方に個性を与えてあげるから、私達の罪滅ぼしの代行者になってくれるかしら?」

「!お願いします」

「あら即答。まあ都合が良いから気にはしないけど。取引成立、でいいわね?」

「はい!!」

なんという吉報。無個性である出久にとっては、即答もやむをえなかった。

先程までの恐怖すら感じなくなってしまった彼は気づかなかった。その答えがどれ程までに危険なのかということを。

「それじゃ、いくわよ!(パクッブチッ)」

巨大蜂は金色に光る糸らしきものを口に入れ、噛み切り、飲み込んだ。

(あれ、なんか見覚えあるような・・・)

腕の無い手からそれを振り払い、きらりと光ったのを見て、出久は既視感を覚えた。が、しかしそれを思考から追い出してしまった。

「【身は灰となり 灰は塵となり 塵は無へ還せ 我らの (ソウル)よ 今新しき器へその身を移し 器にその身の全てを捧げよ】」

巨大蜂たちの姿が淡く光ったかと思えば、突然金色の粒子となった。そして、それは吸い込まれるようにして出久の身へ入っていった。

「!?」

『さて、これからよろしくね、イズク。私のことは《セクトニア》って呼んでね♪』

「あ、はい」

『あ、思念で会話できるから、喋らなくてもいいのよ?』

『・・・分かりました』

このタイミングで、やっと出久は自分がやらかしたことに気づいた。そして、あることに気づく。

 

 

「・・・まってオールマイトは?」

 

 

『あっ』

やっと出久は気づいた。

セクトニアも忘れてたらしい。

『御免なさい・・・()()してなかったわ』

「わあああああ?!オールマイト大丈夫ですかぁぁぁっ!!!」

真っ青な顔で、出久はオールマイトが飛んでった先まで走っていった。

ちなみにオールマイトは気絶しただけだった。

ご無事で何より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういえばイズクって、女の子だったのね。体の起伏があんまり無かったから気づかなかったわ』

『ッ!?』

後で出久が、サラシを巻いてるのが判明した。そして女の子だということは、親以外にはばれていない事も分かった。




オールマイトやられ損。しかも厄介なことにここから原作どおり弱体化するという・・・
これからカービィボス+αが出久と話すようになります。αは、そのうち追加する予定のキャラです。カービィだけじゃないです。ほかのところのキャラも出します。
まあ、味方とは限りませんが。
ここに今のところ出久と関わるカービィボスキャラを↓

クィン・セクトニア  出久の主な話し相手。ボス達の指揮官&女王。媒介なしで具現化できる。  

ダークマター     闇があればそれを媒介にして具現化できる。いつもは向日葵。

星の夢        機械だけど魔術で出久の中に入れた。金属を媒介にして具現化できる。

ギャラクティックナイト
&ダークメタナイト  めっちゃ仲良し。媒介なしで具現化できる。

マホロア       参謀役。室内のみ具現化できる。クラウンをなぜか所持。

マルク        小一以下の頭脳&精神。大人の目が無いところでだけ具現化できる。

アミーボ・アモーレ  編み物大好き。火の無いところでだけ具現化できる。

ダークゼロ      暗黒一族の恥さらしなどとボロクソ言われるヒトデマン(酷い)媒介なしで具現化できる。

ゼロ&ゼロツー    悪戯大好き。たまにヴィランと手を組んで悪さをすることがある。その場合セクトニアにシバかれる。悪意のある人がいるところでだけ具現化できる。

破神エンデ・ニル   出久がブチ切れたときのブレーキ係。基本的に出久の中が定位置。

12体のボスたちですが、一部除いてよく好き勝手してることが多いです。セクトニアも何かあったとき以外は放置しています。
後、出久はヴィラン連合の中心人物たちと面識があります。理由は後々に。
次は雄英試験、といっても原作とあんまり変わらないのでそこはちょっとだけ書いて、今の出久の日常とオリジナル設定を書きます。


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#2 イツワラレタシアワセ

忠告します。
この先、ちょっとグロイのがでます。
それでもいいかた。
ゆっくりしていってください。


 ねえねえセクトニア

 『なになにデク君』

 セクトニアたちの力ってさ。加減できないの?

 『大まかな調節しか出来ないわよ。弱くしたら弱すぎちゃうしかといって強くしたら強くしすぎる。前から自重せずに力を使っていた弊害ね。ちなみにあの汗臭い男へはちゃんと最大限手加減したからね』

 じゃあ弱すぎちゃうって例えばどんな感じ?

 『そうね……威力だと拳銃以上スティンガー以下かしら』

 十分すぎるね。というかオールマイトそれに耐えたのか。これからは最大限手加減した状態にしよう

 『イヤよ。全力で手加減したら無駄に魔力消費するんだからすぐに疲れちゃうわ』

 マホロア。最低でどれほど動ける?

 『ボクはそんな経験無いから推定だけど、六時間カナ』

 十分

 『デモ、デメリットが半端じゃナイヨ?限界まで使ったらクールタイムが丸一日、あと筋肉がブッ壊れるから最低三日程療養が必要になると思うケド・・・』

 自重なしの場合は

 『魔力で疲労・肉体は常に回復するヨ。ボクら全員の魔力は破神もいるからホボ無限といってイイからクールタイムは打消しになるネ。制限時間はナシ。ズット動けるよ』

 『オールマイトって奴がゴミのようにあしらわれた時点で大体察してたでしょう』

 まあ・・・うん。ところでダクゼ。君はどれほど強いの

 『ウィスピーウッズよりちょっと強い程度』

 ダメタ。ごめんもう少し分かりやすく

 『熊と同程度って言えば分かるか』

 え・・・それ弱すぎないか

 『酷いよしいたけっ!俺そんな奴よりも全然強いもん!うわあああああん(T□T)』

 『ほらー!ダークゼロ泣いてんじゃない!謝りなさいよ男子ー!』

 『いやだってホントのことだろ。ってかしいたけ言うなコラ!』

 『なんでそんな俺のこと過小評価するんだよー!俺頑張ったらオールマイト位のザコ瞬殺できるもん!』

 『頑張ってあれを殺せる時点で雑魚なのだよヒト○マン。暗黒一族にとってのあれはあのクラナントカ以下の雑魚なのだぞ?アレくらい小指のみでラクラク消せんと話にならん。小指どころか手すらないがなww』

 『ヒト○マン言うなあああああアアアア!!!』

 

 わいわいと皆は僕の中で会話している。

 現在僕は、雄英試験が終わり、帰路についている。

 二つの試験の中にあった実技試験で僕はあることを知った。

 

 それは、セクトニアたちの力は()()()()()()だということだ。

 

 正直言って、僕はセクトニアたちの力を甘く見ていた。その力をすべて分かりきっていたつもりだった。

 今回の実技試験。僕は張り切ってエンデ・ニルの力を全力で使ってしまったのだ。

 

 そしてその結果は。

 

 試験開始直後の姿はもう見る影も無く。

 文字通り天変地異を起こしてしまった。比喩ではなく、そのままの意味だ。 

 

 そして僕は試験終了後、エンデ・ニルは破神であり世界を滅ぼすために生まれ、封印されていた邪神なんだということをギャラティックナイトに教えられた。よりにもよって本気出しちゃいけない奴の本気を出させてしまったわけだ。

 同じ試験会場だった受験生の人たちの目がコッチに集中してて冷や汗だらだら。

 もしも、本当にもしも合格したら・・・

 絶対印象悪く見えてる!

 あああああ・・・一週間後が怖い。

 

 

 

 

 

 「おいチビ。なに一人でこんなとこ歩いてんだぁ?」

 「あのね、お兄さんたちは今金がほしいの。だからくれないかな?」

 

 僕はいつの間にか人気がないところに入っていたようだ。なぜか五人の派手な服装をした男たちに囲まれていた。

 

 「あの。誰ですか?僕、貴方がたに何かした覚えはありませんが」

 「ん~?忘れちゃったんだ。そうかそうか。なら強引にでも思い出させようか」

 

 ぐ、とモヒカン頭の男が拳を握る。

 人には見られないものの、こんなとこでドンパチしないといけないとは。

 しかも良い大人が一人のか弱い女の子によってたかって手篭めにしようとはねぇ・・・

 

 『どこがか弱い女の子なのサ。むしろ人間兵器って言ったほうが合ってるのサ』

 

 マルク、ちょっと今いいところだから少し黙ってて。

 ・・・そっちから手をだしてきたんだからね。文句は言わないでよ。

 

 

 「それで、僕が何をしたんでしょうか。教えていただけませんかね?」

 「ンなもんテメエ自身が知ってんだろ」

 「そうだそうだ!」

 「あン時のこと、俺らは忘れてないぜ!?」

 

 男達の殴る蹴るを僕はバックステップを踏んだり横っ飛びをして躱しながら、リンチの理由を問いかけるが、応えは行動でしか示されない。

 ・・・おかしいな。僕、少なくとも誰かに喧嘩売った覚えは無いんだけど。

 

 『ワシもお前さんの周りを見とったが、誰かの癪に障っている様子なんぞ無かったぞい?』

 

 糸爺さんが困惑した様子で応えてくれた。

 それじゃあ、コイツらはやっぱり嘘をついてる。ま、言った時点で分かってたけど。

 

 『そうじゃろうな。あとワシはアミーボ・アモーレじゃ。糸爺じゃないぞい』

 

 名前が長い。糸爺さんでいいと思う。

 

 『いいと思うのサ。あながち間違えじゃないし』

 『それでいいだろ。話し方もジジ臭いし』

 『賛成多数。そして証拠は十分なため、被告人は有罪。実刑はあだ名を糸爺に決定とする』

 『何故じゃあっ!!』

 

 謎の裁判が開かれ、判決が下された。セクトニアたちって人間の社会の常識とか知識にはかなり疎いし、多分聞きかじっただけの情報でやってるんだろうけど。

 そろそろ本気で集中しないとマジで食らっちゃいそうだ。

 

 「生憎ですがそのあン時のことというのに僕は心当たりがありません。一体なんのことかぜひご教授いただきたいのですが。――《偽り》ではなく、《真実》で応えてくれませんか?」

 「いい加減思い出せよ。お前のやったこと、嘘とは言わせねえぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――俺は偽りではなく真実で応えろといったはずだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひた、と一呼吸の間に俺はモヒカン男に肉薄し、顔に手を当てる。

 そのまま、アスファルトの地面に放射線状のヒビが入る位の勢いで叩きつけた。

 

 「――っぁ・・・!」

 

 頭を硬い所に叩きつけられ、意識が朦朧としているだろうモヒカン男は何が起こったのか分からないとでも言うような面持ちをしている。

 

 「あ、兄貴!?」

 「てっめ兄貴に何を――!?」

 「安心しろ。おまえたちも後で()()してやる」

 

 パチンと指を鳴らせば、アスファルトに出来たヒビからしゅるりと植物のツタが生えてきて、俺が叩きつけた男以外の取り巻きたちに絡みついた。

 「な、んだこれ。くそっ、振り払えねえ」

 

 「なら俺のマグマで、ってなんで燃えねえんだ!?」

 「それはただのツルじゃあない。世界の木(ワールドツリー)という植物のツルさ。ちょっとやそっとの力では千切れないし、焼き払えんよ」

 

 諦めろと言っても男達は無駄な抵抗を続ける。

 そしてついには拘束されてなお、こちらに個性を向けた。

 向けられた手の平からマグマが勢いよく噴射され、俺の右腕に吹きかかった。

 

 「ははは!痛いだろ!残りの手足もおんなじようにされたくなけりゃさっさとコレを解けクソガキ!」

 「!」

 

 右腕へ目をやれば、赤くなった炭と化した腕が目に映った。

 

 「これは・・・面倒だな。順番を変更だ。まずはおまえからにしよう」

 

 はあと溜息をつき、パチッとまた指を鳴らせば。マグマを噴射してきた男に絡まっていたツタは解け、他の三人はツタに絡まったまま、地中へと引きずり込まれた。

 

 「ヒッ!?」

 

 仲間が地中へと姿を消したのを見て、マグマ男はへたりとその場に座り込む。

 

 「さて。おまえ達には俺の問いに応える気はないようだ。なら、強引にでも応えてもらうぞ。・・・ああ、そうだ。こいつは、こうしておこう」

 

 足元に倒れたモヒカン男の右膝を――踏み潰す。

 

 「あがあああぁぁぁァァッッ?!!おおれ、のあしが、あああああ!!!」

 「その様子なら、()()()そうだな」

 「お、おい・・・それ俺にもすんのか?」

 「何を言っている。折ったのは逃げないようにする為だが。ククッ、そんな顔をするなよ火山放火(かやまほうか)。お前には()()()()()よりももっといいものがあるんだから」

 

 あのモヒカン男はおそらく資料に載っていた指名手配犯で間違いないだろう。

 桑原光雄(くわばらみつお)。連続少年拉致監禁暴行殺人事件の被疑者の一人。

 この火山放火という男も資料に載っていた指名手配犯の一人、というか俺を囲んでいた奴ら全員が資料に載っていて、指名手配されていた。

 もしも見つけたら尋問して、犯人だったら即通報しろとあいつからの御用達だ。

 今日はツイていたな。

 

 「なんで俺の名前を」 

 「おまえ、指名手配されてるの知らないのか?警察のなかでおまえの名前と顔を知らない奴はいないぞ」

 「警察・・・っていったってまだ世間にも俺らが指名手配されてるっていってねえぞ!?どうしてお前が知ってるんだよ」

 「そんなこと、わざわざ言わなくたっておまえには分かるんじゃあないか?」

 「――おい、まさかそんなことって」

 「そういうことだ」

 

 俺は火山の胸倉を掴み、路地裏へと引きずり込む。

 

 「この辺でいいだろう」

 「お、おい坊主!い一体これから俺になにをするんだあ!?」

 「さて。火山放火。これからおまえに痛みを伴う尋問を行う。俺の問いに真実で応えなければ――」

 

 路地裏へ入り込み、俺は火山の胸倉を放す。

 そして火山が倒れたところから突如、黒い質量のある何かが飛び出し、火山に巻きついた。

 そのまま黒い何かはひょいと火山を持ち上げ、下半身の服を一度に脱がした。

 「んあ!?」

 俺が指をまたパチンと鳴らす。すると、忽然と宙に居る火山の下に、ある玩具が現れる。

 

 それはキリスト教では【重荷を背負うもの】とも言われたモノ。

 日本でも戦国時代から存在し、室町時代から拷問として使われてきたモノ。

 そしてこの現代でもソレは今だ存在し、商売道具として使われているモノ。

 それは――

 

 

 

 

 

 「この三角木馬によって辛い責めが待っているぞ」

 

 

 

 

 

 

 「・・・ハイ?」

 

 火山はポカーンという擬音が似合う顔をした。

 

 「これはおまえの知っているような玩具とはちがう。その背は刃の如く鋭利で、そこへおまえを落したり、滑らせたりする。それこそ肉が裂けてしまう程、な?」

 「・・・ははははは!なんだ()()()()か!心配して損したぞ!そんなモノで俺がくたばるとでも思ったのか残念だな!」

 「そうかそうか。なら、ワニペンチにでも変えるか?あまり俺は使いたくはないが」

 

 そういうと、三角木馬は消え、虚空から忽然と、ワニの装飾がされたペンチが現れる。

 

 「ワニペンチ?なんだそりゃ?」

 「端的に言えば、肉を挟んで強引に引き千切る」

 「へーふーん。斬られるより痛くなさそうだな」

 「・・・・・・」

 

 言っては悪いが、こいつは馬鹿なのか?

 『肉を挟んで強引に引き千切る』これで俺が何をしようとするのか分かるだろうに。

 

 「俺自身が途轍もなくイヤって思うくらいの奴じゃなきゃあ俺はゼッタイに屈服しないぜぇ?」

 「じゃあ【男の象徴】が無くなることはおまえにとって途轍もなくイヤとは思わないのか。凄いな。俺なら泣くほど嫌なことだ」

 

 俺には無いけどな。

 

 「・・・え・・・いやウソだろ・・・?お前には血も涙もねえのか!?」

 「そんなものあったら尋問の邪魔になるだろ」

 「いやだああああああ誰か助けて――」

 「ストップストップストップ!!!!ソレは流石にやりすぎだからやめてあげなさい!」

 

 突然、背後から女の声が聞こえた。

 振り向く。

 黒髪を奔放に伸ばした二十代後半くらいの女が、こちらに走ってきていた。

 

 「ぜぇぜぇぜぇ・・・出久・・・貴方の尋問はやりすぎるとこっちが面倒を(こうむ)るのですよ。相手を屈服させるためとはいえもう少し手加減というのを覚えたほうが宜しいですわ」

 「もちろん脅しに決まっているだろう。そんなこと俺だってしたくない」

 「貴方の場合五月蝿いからとか臭いからとかでしょう!?」

 「よく分かってるじゃないか」

 

 ああああ・・・と頭を抱える彼女をみて思わず笑いが込み上げる・・・が今笑ったらおそらく切れるだろうからその衝動を耐える。

 

 「おいあんた・・・もしかして俺を助けてくれるのか?」

 「そんなこと、決まってますわ。助ける選択肢なんてあるわけないですわ」

 「へっ?」

 「(わたくし)は彼女の補佐ですのよ?補佐すべき方の仕事を妨害するなど、言語道断ですわ」

 「補佐、だと?逆じゃないのかそれは」

 「いいえ。逆じゃありませんわ」

 「これ以上の詮索はやめてもらうぞ。さて、最後に聞かせてもらおうか。

――選べ。去勢されるか、真実を吐くか」

 「ゴメンナサイゼンブハナシマス」

 「正直でよろしい」

 「やめなさい」

 

 いつもの笑みを浮かべたらなぜかつま先を思いっきり踏まれた。痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「火山はちゃんと連続学校放火魔ってことを認めましたわ。自供中、アレは居ないんだよなとか呟いてたそうですわよ」

 

 「はは。そんなにアイツ俺が欲しかったワケ?」

 

 「それはないですわ」

 

 「うわ断言された。ジョーダンに決まってんだろ。アイツなんかキモいから俺もう顔合わせたくなかったし」

 

 「・・・私伝えた覚えはありませんわよ。アレがマゾヒストだってことや、SMクラブに時折行ってるって事も」

 

 「アイツさー三角木馬見てその程度で俺はくたばらないっていったんだよ。俺アイツがそう言った瞬間にあ、コイツドMだって察せたもん」

 

 「それを分かった上で貴方、ワニペンチ持ち出したのかしら?」

 

 「まーな。でもアイツ、かのアルバート・フィッシュサマよりはMじゃなかったな」

 

 「その食人鬼と比較するのは酷と言わざるを得ませんわよ」

 

 「だよなー。あんな奴は極々稀にしか居ねーもんな」

 

 「当たり前じゃないですの。あのようなド変態がわんさか居たら怖すぎますわ・・・ああ、そうでした。桑原も連続少年拉致監禁暴行殺人事件の犯人だって認めましたわ。残りの三人も共犯だと桑原本人が吐きましたから私の仕事は意外と早く終わりましたわ」

 

 「ふーん。良かったねー」

 

 「全くですわ」

 

 「でさ。(イツキ)チャン。そのですわ言葉疲れるでしょ。もういんじゃね?」

 

 「・・・そうだな。結構疲れた」

 

 「もうすぐ雄英の教師やるからそのキャラ作りしてんだろーけどさー。・・・それは無いわー」

 

 「だよな・・・どうしよう。陰キャラはだめだよな。もう相澤(イレイザー)居るし」

 

 「樹チャン俺のほうがフツーに似合ってると思うけどなー男よりの顔だし」

 

 「いやいやいや、いい年した女が俺とか引かれるだろ。いっそ髪切るか?」

 

 「それはダメ」

 

 「じゃーどうしろっていうんだ」

 

 「髪結ぶのはどうよ?」

 

 「似合うと思うか?」

 

 「んー・・・ビミョー」

 

 「そういうぼんやりしたのじゃなくてはっきり言え。笑い事じゃないんだからな」

 

 「いやね。樹チャンの髪結んだトコ、人によって見え方色々違うからさ。断言できねーんだよ。というかさ。俺は樹チャンの好きな髪形にすればいいと思うよ。何事にも縛られず、樹チャンらしい髪型の方がいいと思う」

 

 「・・・そうか。ところで、出久」

 

 「ンー?何、樹チャン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「本当のお前は、誰なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー」 

 

 ちょっとしたアクシデントで時間を食ってしまい、五時過ぎに帰宅となってしまった。

 

 「お帰りー」

 

 暗そうな印象を受ける男の声が返ってきた。

 

 僕は靴を玄関で脱ぎ捨て、どたたたとリビングへと一直線。

 

 バーン!とドアを蹴り開け、ゴロ寝している義兄へ――

 

 「とおおおおーーーっ!」

 

 「え、ってうおわあああ!?」

 

 っち、逃げられた。

 

 僕のとび蹴りを間一髪でかいひされ、思わずむすっとなってしまった。

 

 「出久っいっつも帰ってきたときにとび蹴り放つんじゃねえ!!」

 

 「弔兄さんが僕に背中向けてたからこうなったんだよ」

 

 「俺のせいかよ!?」

 

 「そうだよ?」

 

 「んなわけあるかお前の方にゼンブ非があるだろ!」

 

 この言い合いが好きだからとび蹴りしてるっていつ気づくのかな?

 

 そんなことを思いながら、僕は義兄と喧々囂々(けんけんごうごう)

 

 こんな日がいつか崩れる――そんなことがないといいな。




ちなみに炭となった腕は魔力で治しました。

オリキャラの樹さん登場。俺っ娘、美人、緑眼。

出久と弔の関係は、義兄と義妹。
両親がヴィランにより殺害。その後に出久を庇護下にいれたのは弔。
出久には特殊な能力がある。それをヴィラン連合は偶然知ってた。
・・・後は分かるな?

ハイ次。ごーかくつーち。


誤字脱字あったら報告をお願いします。


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#3 執行者の補佐たち

唐突ですが。問題です。

少年「サッカーしたい」
サンタさん「やりたいなら、サッカーボールをあげよう」
少年「えっ・・・」 
 
少年はサッカーをしたかった。けどサッカーボールをもらったのに喜びませんでした。

さてそれは何故か?


ヒント・この問題はサイコパス診断テストの問題です。

次回に正解発表。

今回オリキャラ回です。


 ピロン♪

 

 「ん。出久からのLINE・・・・・・ふふ、そうか。おめでとう」

 

 俺は今尋問室で、テーブルに座り、スマホを眺めていた。

 出久は無事、雄英高校に合格できたようだ。

 ああ、良かった。もしも受からなかったら今後の予定がかなり変更していた。

 丁度俺の方も教師合格通知が届いてたし、返信ついでに報告するか。

 

 「江ノ島さん。今緑谷はいますか?」

 「出久は居ないが。どうしたんだ?」

 

 ガチャ、と尋問室のドアが開き、入ってきたのは俺と同じ部署の山村だ。

 

 「なら、すぐ呼んでください。依頼が来ましたので」

 「依頼か。それで、今回の被疑者は誰なんだ?」

 「・・・まさか、あくまで俺たちだけでやる気ですか?」

 「ああ。出久はもうすぐ高校に入学。それもかの雄英にな。ちなみに俺も教師として赴任することになった」

 「はぁ!?」

 

 バンッ!とテーブルに思い切り両手を叩きつけた。その衝撃で掛けていた眼鏡がずり落ち、驚愕で見開かれた裸眼が露になる。

 

 「待ってくださいよ!緑谷はともかく貴方まで留守になったら俺だけになるんですが!?」

 「え、他に居なかったっけ」

 「俺の個性なら緑谷から直接別人格を刈り取れますけど、全部制御できるか分かりませんよ・・・」

 「いや、大丈夫じゃないのか?あいつ、まだ人格あるみたいだし」

 「あるんですか!?っていっても何があるか分からないと刈り取ろうにも刈り取れませんよ」

 「確かにな。多重人格はあいつ自身の意思で変われるわけじゃないんだ。そう簡単にポンポン出すはずがない」

 「多重人格といっても、どれくらいあるんでしょうか・・・かのビリー・ミリガンは24もの人格があったそうですが」

 「多重人格・・・解離性同一性障害は幼少時に受けた大きな精神的な傷によった歪みにより起こる障害だ。ビリーは義父から虐待を受けていたことによって多重人格となったわけだが・・・トラウマで多重人格となる者も居るそうだな。おそらく昔のあれでそうなったのかもしれないんだが・・・もしもだとしても、それだけであんなに人格が分離するものか?」

 

 出久の補佐になってからずっと抱いていた疑問。

 出久の両親は目の前で惨殺された。

 両親の遺体はかなり悲惨な状態だった。まだ10歳にも満たない年齢だった出久にはより一層鮮烈に、そして残虐に見えたことだろう。

  あの時偶然俺が通りかかったから殺されかけてた出久を救けられたが、もしも通りかからなかったら今頃出久はこの世に居ない。

 だとしても、そこまで残酷で悲惨だった体験をしたとはいってもあんなに人格が分裂するものだろうか?

 

 「また思い出してるんですか。あの時の事」

 「・・・まあな。さて。もうこの話は置いといて、本題に戻ろうか。さ、今回の被疑者はどんな奴なんだ?」

 

 「今から連れてきますので、その間にこれに目を通しておいて下さい」

 

 と、書類を渡された。

 スマホを置き、記された文章をざっと読み通す。

 

 「・・・へえ。出久がいたら面白いと言いそうだ。シャルルはこいつのこと、どう思う?」

 「シャルルじゃなくて山村です。・・・はっきり言わせて貰いますが、真正(しんせい)のクズだと思います。更生するかどうか怪しいレベルの」

 「お前らしい答だな」

 「そうですか。それでは、準備をしておいてください」

 

 そういって、山村は出て行った。

 俺は、被疑者の情報が記された書類・・・一枚だけのB5サイズの紙を折り、紙飛行機を作り始める。

 

 「俺はシャルルって言うほうが好きなんだがな・・・それに、()()()()()()()()だろ」

 

 今、この世界には面白いことが起こっている。

 表舞台にいる者達は決して知れず、裏舞台にいる者達しか知らない異変が起こっている。

 出久と巡り会えたのは、きっと、運命というやつだ。

 

 その異変は何かは、まだ言わない。

 

 「だって、こんなに早く言ってしまったらつまらないだろ?」

 

 俺は虚空に向けて、人知れず呟く。

  

 「連れてきました」

 

 山村の声と共にドアが開き、被疑者が入ってきた。

 素直に椅子に座ったのを見計らい、俺は被疑者にばれないように個性を発動する準備をする。

 

 「初めまして遠山灯火(とおやまとうか)。俺は捜査一課13係の江ノ島樹だ。宜しく」

 「あんたが13係って奴か・・・意外と優男な顔してんな」

 「・・・優男?そうか、優男か。お前にはそう見えるのか」 

 

 俺は強面の被疑者に先程作り上げた紙飛行機を投げつけてやった。

 

 「あ痛てっ!おい何すんだ!」

 「お前の目は節穴なのかそうなのか。俺は女だ。男じゃない」

 

 なんで皆揃って男と見間違えるんだ俺の身体が貧相だからかそうなのか畜生(´;ω;`)

 

 「顔が男っぽいっていっただけだろうが・・・体つきというかスタイルはなんかエロイ女だろ」

 

 「・・・・・・ところでお前。()()1()0()()()()()()()んだな。犠牲者の魂がお前を酷い目に遭わせてやりたいと泣いているぞ?」

 「は?突然何言ってんだ」

 「俺は殺された人々の怨嗟が聞こえるんだよ。個性の影響でな。さあ、年貢の納め時だ。聞けばお前は昔、海で溺れかけた事があるそうだな。そして海やプールがトラウマになったとか。お前にぴったりな物を見せてやる

――さあ、復讐の時だ。俺に協力してくれよ?」

 

 パチンと指を鳴らすと、青白い光の線が椅子の背もたれごと遠山に巻きつく。

 線は上へと伸びて、先端はクレーンのようなものの形へと変化する。

 そして遠山の椅子の下に、ぽっかりと穴が開き、下水溝が顔を出した。

 

 15世紀から17世紀に渡ってイギリスで使われてきたモノ

 そして今でもそれは現存し、今だ使われているモノ

 それは――

 

 

 

 

 

 

 

 「ダッキング・スツール。まあつまり水責め椅子という拷問具だ」

 

 

 

 

 

 

 「ご、ごごご拷問具!?」

 「ああ、そうだ。これからお前にとってとてつもない苦痛を伴う尋問を行う。俺の問いに正直に応えなければ、その下水溝にドボン!だ」

 「ヒイイイイイイ!?」

 「イヤなら正直者になるんだな。さあ、開始(はじ)めるぞ」

 

 顔を真っ青にして遠山はカタカタを震え始める。それを見た魂たちはケラケラと嘲笑った。

 

 「新米ヒーロー連続殺人。50人もの新米ヒーローを鉈で惨殺した犯人は、お前か?」

 「は?違ゲーギョボボボボボボボボボボボボ」

 

 しれっと嘘を吐いたので、遠山は下水溝にinされた。言い切る前に落したので水の中で変な悲鳴を上げた。

 

 「そろそろ引き揚げないと溺れてしまうぞ。すぐに死なせてはつまらないだろ?」

 

 俺がそういうと、魂たちの怨念で作られた紐は遠山を引き揚げた。

 

 「ブハッ!ゲホッゲホッ」

 「だから言っただろう。正直に応えなければドボンだ、と」

 「フゥ、フゥ・・・クソが」

 「お前が言える立場じゃないだろうに」

 「はぁ!?人のトラウマ抉る奴をクソといって何が悪い!?」

 「それの否定はしない。だが、人を躊躇無く、それも悦びながら殺す奴のほうがもっとクソじゃあないか」

 「はあ!?俺は殺し何ぞしてなグョボボボボボボ」

 

 性懲りも無く遠山は嘘をついたので、ドボン。そして引き揚げる。

 

 「ぐじょっだれぎゃあ!うじょがどうぎゃなんじゃわぎゃらにゃいぐじぇに!」

 「分かるさ。嘘が分かるから俺は13係に所属しているんだよ」

 「にゃんだどおうっ!」

 「諦めろ。苦しい思いをこれ以上したくないなら正直に話せ」

 「ぢがう!おれじゃな゛グバビボボボボボ」

 

 呂律がろくに回らなくなって尚、否定し続ける。

 

 「ぐぐぐ・・・!」 

 「・・・遠山灯火。お前には、妹が居るな?」

 「ああじょれぎゃぢょうぢた!」

 「妹には最近、酷い怪我の治療暦があった。沢山の内出血の痕、あざ、ミミズ腫れ、切り傷。長い虐待の痕があった。そしてお前の両親は早逝。妹しか家族は居ない」

 「っ・・・あのやろっいいやぎゃっだのが!覚えでろ、あどでぐじゃぐじゃに――」

 「させるわけがないだろう。今お前は罪を認めた。それだけで十分だ」

 「ああじょうだ!おれぎゃやっだ!たのじがっだからやっだ!おれはぎゅうぜんぶろひーろー、ぞれもじんまいにあっだ!ぞいづはおれのことばがにじやがっだ!だがらぼごぼごにじでごろじだ!ぞのどぎのあいづのがおはぐるじぞうだっだ!おでのずぎながおをじでじんでいっだ!ぞれでひーろーをごろすごどにはまっだ!でもてだれのいーろーひゃぎょりょじにぎゅいぎゃら、じんまいをぎょろじだ!だのじいごとじでにゃにがわりゅい!!!」

 「・・・お前・・・・・・もういい。ちゃんと自白させられたからもう連れて行ってくれ」

 「はい」

 

 見ていられない。

 気分が悪い。

 もう視界に入れたくない。

 俺は遠山を拒絶するように、連行を命じた。

 ただ、遠山が自らと同じように苦しむ姿を見て殺された魂たちも満足してくれたようだ。遠山が自白している頃にはもう成仏して、とっくに姿を消していた。

 

 

 

 

 

 山村が遠山を尋問室から連れ出した後・・・

 ぽつんと俺は一人きりで天井を見上げていた。気分の悪さはもう無くなっていた。

 

 「本来、拷問は()()()()()()()なんだがな・・・どうして神様はこんな個性を持たせたんだか」

 

 出久に至っては個性ではなく生来の異能力という扱いだ。本当に、なんで個性という異能ではなくて生来の異能なのだろう。

 

 「うん?」

 

 そこで俺は違和感に気づいた。

 あいつは個性を持っていない。いわゆる【無個性】だ。ただ運動能力、戦闘能力は常人に比べては高い方なのだが、だとしても雄英試験を生来の身体能力だけでクリアできるほど秀でているというわけではない。

 ならば、なぜ緑谷出久は雄英試験に合格できた?

 

 「・・・あいつ、ついに個性が目覚めたのか?」

 

 随分遅咲きな個性だったようだ。・・・しかし、個性が発現したことをこちらに報告しないというのはどういう了見なんだろうか。

 

 「文句なしの一位通過だったらしいが、どれほど強い個性が目覚めたんだか」

 

 出久のことについてはもう調べている。あの事件の後、義理の兄となる男に引き取られ、とても慕っているとか、そのせいで兄の指示には大体従うこととか。

 そして、義兄のことも調べ済みだ。

 ()()()()()、速急に出久の個性を知っておかなければならない。

 なぜなら、その義兄はヴィランだから。

 おそらく義兄の素性を出久は知らない。義兄の言うことを聞いて、無意識にヴィランと同じ行為をしてしまう可能性がある。

 流石に本人も罪悪感とかも覚えるかもしれないが、おそらく義兄に対する信頼が上回ってしまうだろう。

 だからといってそのことを言ったら出久が怒る。あいつは義兄を悪く言われるとすぐに怒るのだ。

 ・・・急がないと、厄介だな。

 

 「聞いてみるか。『なあケッチ。お前、もしかして個性が目覚めたのか?もしそうならどんなのか教えてくれ』っと」

  

 俺はLINEでメッセージを送る。

 5分後、ピロン!と着信音がしたので確認。

 

 『よくそのこと分かったなシュミット。性格に言えば、個性が目覚めたというより、貰ったって言うのが合ってんだよな。そこんところは話すと長くなるからまた今度話すわ。そんでね、どういう奴かってのはな・・・ヒミツ!!』

 

 液晶画面を素早くタップし、即返信。

 

 『呪うぞ』

 

 『ヒエッ即レス』

 

 『分かったら話せ。もしもの時の対応が出来ん』

 

 『リョーカーイ。んじゃ、俺の個性についてだけど・・・ザックリいうと、カタストロフ』

 

 『天変地異? どういうことだ。もう少し詳しく言え』

 

 『個性全力で使ったら試験場の建物とかが全部吹っ飛んで更地になったのよ。そんでね、突然水と溶岩噴き出して大惨事になった。あこれ雄英試験の時の話ね』

 

 『何をどうしたらそうなるんだよ。お前の体に破壊神でも憑いたのか?』

 

 『シュミットってこういう時はスルドイ』

 

 『笑えない冗談はやめてくれ』

 

 『ゴメン。大マジ』

 

 『いい加減にしろケッチ。本当にそうだったら俺の手には負えん』

 

 『ホントだよ。でもかなり殺しはしてるみたいだから、シュミットの個性で押さえこめるどころか殺すことも出来ると思うけど』

 

 『いやかなり殺してるっていったって、相手は神なんだぞ?』

 

 『シュミットは魂だけじゃなくて殺された人の怨霊とかも従えられるんだろ?虐殺とかで恨みかなり買ってるだろ』

 

 『まあ確かに』

 

 ガチャとドアの開く音がした。目を向けると山村がドアを少し開いて顔を見せていた。

 

 「今日の依頼はこれで終わりです」 

 「そうか。ありがとう」

 「ええ。執行お疲れ様でした。今日はまだ予定があるのでこれで俺は帰らせて頂きます。それでは」

 「ああ。またな」

 「俺、明日非番ですよ」

 

 そういい残して山村はドアを閉じ、姿を消した。

 

 「そういえばそうだったな」

 

 俺の言葉は誰にも届かず、虚空に消える。

 

 スマホに目を向けると新しいメッセージが受信されていることに気づく。不具合で音がならなかったようだ。

 

 『なあシュミット』

 

 『俺が間違ったことしようとしたら、アンタは止めてくれるのか?』

 

 何を言っているんだろうか。答はもう分かっているだろうに。

 

 『それが俺の役割だ』

 

 少ししてから『そっか』と返事が返って来た。




樹「なあシャルル。俺の体ってそんな男に見えるのか?」
安理「十分女性らしいですよ。顔が男よりの中性顔なだけで」
樹「そんな・・・」

樹は男よりの顔がコンプレックス。けっこうイケメンだからもてるほうなんだけど・・・
ちなみにかなり演技が上手い。嘘泣きはお手の物。

山村安理。眼鏡かけてる。前髪で右目隠れてる。男だけど合法ショタ(見た目は10代前半。年齢23歳)?。樹と同じく顔がいいけどカッコいいというより可愛いという感じ。とある体質上いろんな人に狙われやすいため護身術、武道全般が特技となった。
個人的にお気に入りなので設定が多い。

樹と山村の個性はまだ秘匿。

次は入学。体力テスト、多分前編。樹も出ます。

誤字脱字や可笑しいところがあったら報告お願いします。


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#4 雄英入学。そしてdisられる。

前回の問題。

各回答

出久「ボールはあって、専用の靴が欲しかったから?」
樹「ボールが新品じゃなくて中古だったからか?」
安理「少年の足が無かったからでしょうか?」


オリ主「安理ちゃんご名答」
安理「えっ」
出久・樹「はぁ!?」
オリ主「だってヒントでこれサイコパス診断の問題っていったでしょ」
安理「・・・・・・」
オリ主「無自覚サイコだったね・・・シャルル=アンリ・サンソン」
安理「シャルルじゃなくて山村です」


そのうちオリ主も出る・・・と思う。


 僕は自室のベッドの上で目を覚ます。

 ついに運命の登校日。

 教室に入ったら皆はどんな反応をしてくれるのだろうか。

 無視?

 挨拶?

 嫌悪?

 少なくとも。いい反応はあまり期待するべきではないだろう。

 

 壁にかけられた時計を見る。短針は5を、長針は6を指していた。

 5時半か。7時には出るべきだろう。

 

 

 

 

 

 一瞬視界が暗転した気がした。

 そして次に私がいたのは玄関前だ。

 ・・・ああ、またか。

 いつもの()()だろう。自分の服装をみると、寝間着姿ではなく、雄英高校の制服へと変わっている。久しぶりのスカートで、あまり足が落ち着かない。

 足元を見れば手提げバッグがあった。

 起きて時間を確認したところで交代になるのは一体なんでなのだろう。

 まあ、腕時計は丁度7時を指しているのだからいいか。

 

 「いってきます」

 

 返事は返ってこない。きっとまだ寝てるのだろう。弔兄さんの体内時計は昼夜逆転してるし、起きるのは多分昼くらいか。

 

 

 

 

 発車のアナウンスが流れる前に、電車に駆け込む。

 電車の中の席は全て満席。僕はぎゅうぎゅうの車内で、扉近くの手すりに寄りかかる。

 まだいつもの声は聞こえない。目的地の駅に着く頃には、セクトニアたちも起きてることだろう。

 

 ああ、こういう時に交代してくれたら嬉しいけどなあ・・・

 

 無意識にバッグを置き、スカートのポケットに手を突っ込むと、カサッと音がした。

 何か入ってるみたいだ。僕はポケットの中身を取り出す。

 

 入っていたのは、くしゃくしゃに丸められた拳大の紙切れ。

 破れないように開くと、しわしわの紙面に文章が綴られていた。

 

 『おはよう緑谷出久。緑谷出雲だ』

 『これを貴様が読んでいる時はおそらく雄英高校への初登校前だろう。』

 『さて貴様。ここからは真剣な話だ。』

 『おそらく雄英高校にはあの爆豪も合格しているはずだ。貴様のことだ、どうせ腐れ縁で同じクラスになっているだろうな。私には教室に貴様が入って早々爆豪に暴言を吐かれて落ち込む貴様が目に浮かぶぞ。』

 『ああそうだ貴様。安心しろ。まだ貴様への印象は完全に確定したわけじゃない。まだ巻き返せるはずだが、私は人と話すのは得意ではないからな。そこは貴様の努力次第だ。』

 『貴様が眠っている間に、色々調べておいたから、ここに記録してやる。感謝しろ。』

 『まずは【ウィッチ】・・・樹のことからだ。樹は貴様のクラスの副担任となった。姿はおそらくヒーローコスチュームだろうな。あの容姿は刑事ドラマの主人公にありそうだと思わないか貴様?』

 『次にオールマイトのことについてだ。あの男、教師に赴任したようだ。おそらく貴様と接触を図るだろうし、そのときは素直について行くべきだろう。』

 『最後に貴様の個性についてだ。さっき書いた、オールマイトが貴様に接触を図るというのは、おそらく貴様が個性を受け継いでしまっているからだ。見ただろう、あの大蜂が金色の糸らしきモノを口にしたところを。あれ、オールマイトの髪の毛だったんだろうな。髪の毛のDNAうんぬんであの大蜂が個性を受け継ぎ、その後に貴様の血肉となった。故に貴様へと個性が渡った可能性があるのだ。』

 『まだこの事については完全に調べきっていないから、概ねの情報を獲得した後に貴様に教えよう。』

 『色々調べたとはいっても、情報量が膨大すぎるから日に日に流すことにするぞ。一度に言ったって前世の貴様はバカだったんだからキャパオーバーするだろうしな』

 

 一瞬この紙を破り捨てたいという欲求が頭をもたげたが、ぐっとこらえる。

 

 『これで現時点で貴様にいうことは大体言ったぞ。』

 『最後に一言物申そう。』

 『私は朝の電車みたいなところは嫌いだ。』

 

 一言余計だっての・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないとは思わんのか!」

 「思わねぇよ! テメーどこ中だよ? 端役が!!」

 

 ついに雄英高校へと到着。

 僕の組は1年A組。今はその教室の前にいる。

 あーやっぱり居たか。聞きなれた声が、教室の外にも漏れていた。

 僕は意を決して扉を開き、中に入る。

 

 「なんで居やがんだよクソデク!!」

 「悪かったねここに居て!」

 

 あいさつより先にガン飛ばし。

 やっぱりいた爆豪は、机の上に足を乗せていて、いかにも真面目そうな容姿をした二人の男女に囲まれ、注意されている。にもかかわらず、体勢を崩そうとはしない。

 

 「んな体制してたらひっくり返るよ?ドーンって」

 「うるせぇ!余計なお世話だ、まな板デク!」

 

 まな板デク。

 ・・・・・・・・・・・・

 僕は静かに自分の席へ向かう。

 

 「うわ・・・爆豪くん最低・・・」

 「女子に向けてそれは無いんじゃないか・・・」

 「は?ホントのこと言っただけだろ。あいつの胸無いってこと。っていうかなんであいつ女装なんかしてんだ?」

 

 あいつの胸無い。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 泣くな、僕。今ここで泣いたらもっと言われる。

 

 「貧乳はステータスだよ!っていうかあれ女装じゃないでしょ」

 「はあ?あいつ中学まで男子の制服着てたんだからな?しかもあの体型で女って」

 「僕は女子だって言ったよ!でも信じてくれなかったんだよ!僕は諦めずに何度も言った!けど、嘘つくなって一蹴された!しまいにはそんな些細なことにネチネチ頓着してたら嫌われるぞって言われたんだよ!」

 

 思わず僕は口を挟む。そして返って来た返事は。

 

 

 

 

 「いやテメエの身体が貧相だったのが悪いだろ」

 

 

 

 

 一刀両断。

 かっちゃんのばかああああ!!(1回目)

 

 『あー・・・どんまい、デク君』

 

 慰めないでもっと虚しくなるから!

 

 「それは無いわぁ・・・絶対爆豪くん将来彼女できないわこりゃ」

 「ンだとコラまるがお!」

 「まるがお!?」

 「君は礼儀を知らないのか!?どう考えてもその言葉は酷すぎるぞ!」

 「嘘を()くくらいなら正直に言ったほうがいいだろ」

 「だとしても言い方というものがあるだろう!!」

 

 歯を食い縛って泣くのを耐える。

 ふと黒板側の扉を見ると、そこから顔を覗かせている樹の姿があった。なぜか眼鏡をかけている。

 樹はけっこう気まずそうな表情を僕に向けていた。

 

 〈助け舟、いるか?〉

 〈大丈夫じゃないけど大丈夫。いらない〉

 

 もうすぐ朝礼の時間だ。それまで耐えれば・・・

 

 

 

 

 「個性も身体もモブ以下のクソナードの何が間違ってんだよ!?」

 

 

 

 

 かっちゃんのばかああああああああああああ!!!!(2回目)

 涙腺が崩壊寸前の時、ついに救世主が現れた。

 

 「喧嘩をする元気があるなら先に進めてしまっても構わないか・・・?」

 

 『うわ!?』

 

 教室のドアの前。いつの間にか寝袋に入ったまま立っている男性がいた。

 

 男性は器用に壇上まで歩いていき・・・

 

 「ハイ。静かになるまで8秒もかかりました。時間は有限だ。君達は合理性に欠けるね」

 

 やっと全員静かになったので男は名乗りを上げる。

 

 「俺は相澤消太・・・このクラスの担任だ。よろしくな・・・さて、早速だが体操服を着てすぐにグラウンドに集合だ。急げよ? 時間はすぐに減っていくんだからな。あと爆豪。着替えたらちょっと来い」

 

 僕とかっちゃん以外の全員が何かを察したような表情をした。




またサイコパス診断テスト。

 「なにあれうそでしょ・・・!?え、なんで指をこっちに・・・・・・まさか!」
 

バルコニーにいたあなたは、外で男が人を殺すのを目撃してしまいました。
そのあと男はこちらを向いて指を一定方向に動かしています。
男の意図は何?





次回、正解発表。

体力テストは次に持ち越し。

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#5 爆豪勝己は地獄を見た。

前回の問題。

各回答

出久・樹「・・・・・・ほんと、あんた(きみ)趣味悪いよな(ね)」
安理「そうでしょうか?普通獲物と話すわけないじゃないですか。重要なのは獲物がどこにいるか、では」

オリ主「ねえねえ安理ちゃん。過去に何かあったの?」
安理「・・・・・・あんまり話したくないです」
オリ主「何かあったんだね。じゃなきゃそんな言い方しないもん」
出久「えーとつまりそれって」
オリ主「安理ちゃんご名答ってこと。さて唐突なんだけど、次安理ちゃん正解したら罰ゲームね」
安理「はぁ!?」


別人格登場。これが私の限界ですが楽しんでくれると嬉しいです。


 グラウンドに皆が揃う。

 遅れて相澤先生と樹が来た。その後を真っ青な顔をした爆豪がついてきて、列に並んだ。

 

 「ありゃよっぽど怒られたな・・・」

 「かっちゃんのあんな顔、初めて見た」

 「っていうか、眼鏡かけてはいるけど、あれウィッチじゃないか?」

 「本当ですわ!まさか会えるだなんて・・・噂どおり、綺麗な人ですわね!」

 

 ウィッチ。樹のヒーローネームだ。

 由来は単純にかっこいいからとか魔女っぽい見た目だからとか本当に魔法が使えるからとか、色々説がある。

 僕は真相を知ってる。だけど、こういうの勝手に言っちゃダメでしょ?

 あんまり表舞台には出ないけど、容姿とかで結構有名なのだ。

 

 「全員そろったようだな。まず、遅くなったが副担任を紹介する」

 「副担任になりました。江ノ島樹です。よろしくお願いします」

 「次に進むぞ。ここからが本題だ。これから個性把握テストを始めるぞ」

 『個性把握テスト!? 入学式とかは!?』

 「ヒーローになるならそんな悠長な行事なんて時間の無駄だよ」

 「・・・本当は準備うんぬんが結構面倒なだけむぐ」

 「黙ってろ」

 

 しれっと茶々をいれる樹。本音を隠さずに言って、先生に口を塞がれる。

 

 「ゴホン。雄英は自由な校風が売り文句だ。当然、それは先生側にも適用される。覚えておく事だな」

 

 それから先生が話す個性把握テストの内容。

 ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横飛び、上体起こし、長座体前屈。

 この八種でどういう個性かを測定していくそうだ。

 

 「そんじゃ、試しに主席入学の緑谷。個性を使って円の中から投げてみろ」

 「あ、はい」

 

 呼ばれた僕は前に出る。それと同時に声が上がった。

 あの子が主席入学なのかとか、あんな華奢な子に負けるなんてとか・・・

 人は見た目によらないというが、これはその典型的な例だな。

 

 「人は見かけによらないという奴ですよ。今回は結果が1位だったっていう話です。そういうこと言うんだったらこれから頑張って超えればいいだけの話でしょう。緑谷は気にせずに全力で投げてください」

 

 樹が僕を弁護?してくれた。ここではあくまでも敬語でいくのか。

 ・・・これ失敗したら大恥かくよね・・・

 とてつもないプレッシャーがのしかかる。

 自分の呼吸が、心臓の音が煩い。

 落ち着け。落ち着け。

 落ち着かなきゃ・・・

 

 

 

 

 ――そんなことしたって落ち着けるわけがないだろう?

 

 ――それだけで落ち着けたらたいしたもんだ。

 

 ――肉親の死体を目の前にして、なあ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はあ。出久のヤツ、フラッシュバックでオチてしまうとは。

 仕方が無い。私が出久の代役を務めてやるとするか。

 

 『私の人格』は『緑谷出久の人格』と入れ替わる。

 

 「すーはー・・・・・・ふんっ!」

 

 一度深呼吸して、投げる。

 ・・・まあまあ飛んだか。

 

 「――――――」

 

 おそらく測定結果でもいったのだろうな。私には聞こえんが。

 こちらを見る他の奴らも何事かを言っていた。

 

 「――――――!」

 

 生徒らが居るほうからほんの少しの空気の震えと熱を感じとる。

 見れば、爆豪が手から爆発を起こして向かってきていた。

 迎え撃とうと私は構えるが、それよりも先に相澤が布を爆豪に巻きつけ拘束した。

 

 「この個性・・・まさか、イレイザーヘッド・・・?」

 「――――――」

 

 相澤の反応からして、おそらく当たっていたか。

 相澤がなんらかのことを言い切った後、生徒らがもったいない!というようなかんじの表情をしていたが、一体何のことだ?

 

 「――――――」

 「――――――!?」

 「――――――」

 

 短い会話の後、拘束が解かれた爆豪は、すぐに引き下がった。

 

 「――――――」

 「――――――!」

 「――――――」

 

 突然生徒らの表情が引きつった。

 

 「――――――――――――」

 

 いかん。なんていってるか分からんせいで事態が全く把握できん。

 と、私が焦っていると、そこで樹が補足してくれた。

 

 「まあつまり、手加減とかなしで全力でやれってことですね」

 

 樹の声は聞こえるからこういうときは本当に助かる。

 

 「――――――」

 

 生徒らが動き始めた。私もそれについていく。

 そうして、本格的に個性把握テストはスタートしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・セクトニアとかいう奴らの力はかなり強大な上、以前の説明からデメリットはなさそうに思える・・・

 強大な力には必ず代償が付きまとう。それはこの世界の不変のことわり。

 50m走で確認した。やはりこの力に代償はあった。

 外傷こそすぐに治療できる。だが、()()()()()()()は並ではなかった。

 全力で地面を蹴ると、爆発音のようなものが響き、地面が大きく捲れ上がっていた。

 2歩目を待たずに50mをひとっ飛びしていた。

 威力は申し分ない。が、地面を蹴った右足がいかれかけていた。

 思わず膝をついてしまうほどの激痛。一度で筋肉が壊れる寸前にまで追い込まれていた。

 やはり、身体はついていけていなかったようだ。だが、魔力の効果だろうか。痛みはすぐに引いた。

 しかし、内側の肉体の傷はすぐには回復するわけではないようだった。本気を出し続ければ確実に脚は壊れていただろう。

 

 ・・・面倒な。肉体強化とかいう力でもあれば色々小手先くらいの攻撃のレパートリーも増えるというのに。

 

 私も、出久も強くなることを望んでいる。私がこの世に生まれたあの日を、繰り返さない為にも。

 一朝一夕という奴だ。少しずつでも、この力を最大限使えるようになるために、身体を慣れさせなければ。

 

 補足だが、一応5位以内には入れた。長座体前屈が一番悪かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――」

 「・・・・・・」

 

 テスト終了後。さっさと着替えようと靴箱へ向かおうとしたときだ。

 背後から肩をつかまれ、私は振り向く。

 

 「何の用?」

 「・・・――――――」

 

 朝から素で出久を精神的に満身創痍にした(爆豪)が居た。

 なんか申し訳なさそうな顔をしている。奴らしくないが、まあそれで大体の用件は把握した。

 

 「―――――――――――――――」

 

 ほかの生徒らの視線が集まる中、奴はおそらく謝罪を口にして、頭を下げた。

 ああ、やっぱりか。

 こんなことを奴にされてはきっと出久は許してしまうだろう。謝らなくても次の日までには水に流すとは思うが。

 なんだかんだで奴も出久とは長い付き合いだ。それを分かった上でこうやっている。

 おおかた表面上での、自分はちゃんと出久に謝ったというような印象でも付ける狙いなんだろうな。

 いつもなら、このまま許して和解ムードにでもなるんだろう・・・

 ()()()()()、だが。

 

 「・・・今朝の事はまあ水に流すよ。でも、私は君の思っているよりは器、広くないから」

 

 これ以上はダメだ。

 止まらなくなってしまう。

 今まで心の奥底に沈めてきた憎悪が溢れてしまう。

 そんなことにでもなったら、もう取り返しがつかなくなってしまうから。

 溝は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ・・・出久が完全に爆豪を嫌うまでは。

 私は、だっと逃げるように走りだす。

 

 「――!」

 

 自然に呪詛が口からこぼれそうになる。

 あふれ出ないように、私は手で口を塞ぐ。

 私まで冷静を失えば誰が出久の代わりになるんだ? 誰もいないだろう。

 私の代わりの人格があれば・・・私は壊れることができる。

 そのうち、また辛いことが起こるだろう。それでまた人格が出来るまで・・・耐えるんだ。

 中学生になってからずっと、出久の代わりに耐えてきただろう。耐え続けることにはもう慣れたんだ。

 あと少し我慢さえすれば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――くたばれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 朝礼後、先生に呼び出されたときは、なんか叱られるんだろうな、くらいにしか思っていなかった。

 デクへの言動。自分でもあれは言いすぎたかなとは思ったから。

 まああいつのことだ。多分次の日には何事も無かったかのように接してくるだろう。

 ・・・そう気楽に考えていた。

 

 「別に、叱る気はないです。あの子のことだし、あれくらいの事は流せるでしょうから」

 

 相澤先生かと思ったけど、違った。

 話をしたのは、副担任という江ノ島樹先生だった。

 

 「まあだとしても、これからクラスで行うテストの後に、彼女に謝ってあげてください。話はそれだけです」

 

 それだけいうと、江ノ島先生は踵を返し、靴箱の方へ向かい始める。

 拍子抜けだった。なんだ、それだけだったのかと。

 そう、思っていた。

 先生がふと足を止め、俺の方へ目をやる。

 

 「・・・お前の罪を自覚するいい機会になるだろうな」

 

 底冷えするような声だった。俺に向けてきたその目は、確かに侮蔑が含まれていた。

 先生が歩みを進めるのを見ながら、俺は寒気を感じていた。

 

 今あの言葉の意味を理解した。

 俺が今まであいつにしてきたことは、予想以上にあいつを傷つけていたことを知らされた。

 

 走っていったあいつを俺は追わない。追うことは、許されない。

 いままでやらかしたことは、もう取り返しがつかない。

 埋められない溝が、出来てしまった。

 ・・・違う。もうとっくの昔から、出来ていたんだ。

 

 「――あんたのことだ。身をもって体験しなきゃ、ちゃんと理解できないだろ?」

 

 背後から、嘲笑うような声。ひたりとうなじに冷たい感触がした――

 

 「あッ・・・ぐぁァ・・・ッ!!」

 

 その瞬間だ。俺がデクにやってきた行為が、俺にもなされた。

 暴力。暴言。悪意に満ちた行為が俺に返ってくる。

 とてつもない苦痛で俺はその場にうずくまる。

 

 「君っ彼に何をしたんだ!?」

 「今まで緑谷にしてきたことを追憶させてるだけだ・・・さぁて、サディストは痛みには弱いと聞くが、彼はどれくらい耐えられるのかなぁ?」

 「なっ・・・!?」

 

 やめてくれ。ごめんなさい。

 そんなこと俺に言える資格なんて、無い。

 これは甘んじて受けるべき罰だ。

 そう理解していても、その苦痛は耐え難かった。

 これをあいつはずっと受けてきていたのか。耐えていたのか。俺はもう心が折れそうだ。

 

 「相澤先生。個性を使ってくれますか?」

 「そ、れは・・・」

 「これ以上は駄目です。爆豪が発狂しかねない」

 「っ分かった!」

 

 ぶつっと何かが途切れ、今までの光景が目の前から消えた。

 

 「ぁ・・・」

 「間に合ったか。良かった・・・」

 「なんで、止めたんですか」

 「もう理解しただろう。自分の罪を。やりすぎとは言わんが、これ以上は危険だったから止めただけだ」

 「そう、ですか――」

 

 江ノ島先生が介抱してくれていた。でも、その目にはまだ、若干の嫌悪が残っている。

 精神的にどっと疲れてしまった俺は途轍もない眠気に襲われ、意識を手放してしまった・・・




またまたサイコパス診断テスト


 「見・い・つ・け・た♪」


あなたはある人を恨んでいます。
ある日あなたは家に忍び込むことに成功し、その人を殺害することができました。
しかしそれだけでなく、全く無関係なはずの子供とペットをも殺しました。
何故恨みのないある人の子供とペットも殺したのか?





次回、正解発表。

なにがあったかわからない出久と戦闘訓練。爆豪に悪夢を見せた人の正体も。
・・・初登場じゃないし、勘のいい人は、誰だか分かるかも。

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#6 樹の秘密を感づきかけてる平和の象徴

各回答


出久(ある人の家が一軒家そして住宅街のなかだったら・・・子供やペットなら声を出せば隣近所の人は気づくよね)
樹(何も悪くないのに殺した・・・いや、見たから殺したのか・・・?)
オリ主「二人とも好奇心でサイコパスならどんな答出すのか考えてるっぽいねぇ(チラ)」
安理「分かっていますよ。今度は絶対サイコパスは言いそうにない答ですから」
オリ主「どうだか」


オリ主「回答お願いしまーす」
出久「殺されたのは騒がれて隣人に気づかれたら不味いから!」
樹「顔とか特徴見られたから、もしくは証拠隠滅のため!」
安理「お別れすらいえなかったから、あの世でまた会わせてあげようとしたから! これは流石に違いますよね・・・!」


オリ主「ハイ安理ちゃん罰ゲーム決定」
安理「なんだと・・・っ!?」
出久「罰ゲームはシャルルって呼び続けることにする?」
オリ主「いや、それは罰ゲームにはならないと思う・・・じゃあ後書きを任せる?」
樹「いっそ本編に影響与えるくらいのことでもするか?」
出久「そうするにしてもね・・・何にしよう。そっちで決めてないの?」
オリ主「ごめん・・・決めてない」
出久「これ読んでくれてる方々にでも、頼んでみる・・・?丁度、ユーザーじゃない方も感想書き込めるようにしてるし」
オリ主「そうしようかな・・・」


というわけで。なんか希望があるなら書いて欲しいです。


戦闘訓練。しかし直前まで。


 セクトニア一体何があったか教えて頼むから。

 『・・・・・・』

 ねえ!どうしてだまるの!?

 『いやね・・・かなり気まずい』

 いやどういうこと!?

 『私らがいってどうにか出来ることじゃあないんだよ。これは』

 事情くらい話して! じゃないとどうすればいいか分かんないから!

 

 授業を行う樹チャンの声しかしない、まるで誰もいないかと思ってしまうほどの生徒らの沈黙。

 今は四時間目。数学の授業。

 皆真剣に受けてるってのは感じられる。

 でもいま僕が言いたいのはもう少し肩の力抜けってことじゃない。

 

 この沈黙。朝礼前から続いているんだよね・・・

 

 最初教室入ったとき、直前は程ほどにざわついていたのには気づいていた。

 けど、僕が入った瞬間シン・・・と一気に息苦しさを感じるくらいの静寂が訪れた。

 今日は出雲からの連絡がなかったし、なんかあったのかとは思っていたけども。

 まあ最初はこりゃ出雲なんかやらかしたなっては察した。多分やらかしたことは結構大きいことだろうなとも。

 だからなにがあったんだってセクトニアたちには聞いてみたけど、なんにも答えない。

 これ以上は僕が耐えられない。勇気出して何があったか聞いてみないと。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 あああああだめだ! 喋ってはいけないっていう謎の強迫観念で喋れない!

 僕は休み時間の時に幾度か一つ前の席にいる峰田くんへ話しかけようとするけども・・・

 このときだけならひそひそとだけど話し声はする。けど、謎の緊迫感は抜けない。

 うう、話しかける勇気が出ない・・・!

 

 そして僕が謎の強迫観念を振り切る前に、ついにヒーロー基礎学の時間が来てしまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・わ――た――し――が―――!

 

 教室に迫ってきているこの声。あーと俺は察せた。

 

 

 「普通にドアから来た――・・・・・・」

 

 

 やっぱり来てくれたオールマイト。いつものとちょっと違うパターンで笑わせようとか考えたんだろうけど・・・

 生徒らは若干驚いた顔をしたものの、効果はほとんどない。

 平和の象徴、約1年ぶりに撃沈。

 

 「き、君たち、まだ昨日のこと引きずってるみたいだね・・・」

 「・・・入学初っ端からですからね・・・」

 「うむむ・・・だが朝からその調子じゃあこのあとも辛いだろう! 気分転換というのもかねて! これから君たちに戦闘訓練を行ってもらう!」

 

 生徒らの顔がぱっと輝いたように見えたのは気のせいじゃないと思う。

 やっぱり大半は息苦しいとは思っていたらしい。

 こっそりかっちゃんの顔色を伺ってみる。

 ・・・まだ沈んだ表情をしていた。

 1年A組の生徒らのなかで特にかっちゃんは今にも倒れそうなほどに顔色が格段に悪かった。良くも悪くもあの無神経な彼が、だ。

 

 いやほんとになにがあったの?

 

 身動きにそんな違和感とかはないから単に体調が悪いというわけではないのは分かる。

 どっちかというと、何かに苛まれている・・・って感じ。

 かっちゃんがあんな状態ってよっぽどの事が無けりゃあんなにならない。

 

 ・・・安理チャンの個性に影響されたっていうんなら話は別だけども。

 

 今日、初めてを見たとき、違和感を感じた。

 かっちゃんの様子が、安理チャンの個性が作用した後の被疑者らと重なった。

 いやいくら安理チャンが学生って見間違えられることが多くても、流石に入学してるってことは・・・ナイよね?

 

 「それに着替えて順次グラウンド・βに集合だ! 待ってるぜ!」

 

 オールマイトの声で、思考の海から引き揚げられる。

 ふと気がつけば、教室の廊下側に生徒全員分のいろいろな服が現れていた。

 ・・・確か、戦闘服だっけ。

 僕のは総監のくれたあれをもう少し改造してもらった奴のはずだ。

 ・・・あれの戦闘用の加工まであの人してくれたんだよね。不味いことになってなきゃいいけど・・・

 一抹の不安を抱えながらも、その服を手に取り、僕は移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「江ノ島くん。今だから問わせてもらうけど、どうして君は、この雄英高校の教師になったんだい?」

 「・・・なぜ、そのようなことを言わなければいけないので?」

 「昨日の放課後、君が山村少年と話しているところを見せてもらった。・・・少なくとも、君は山村少年と何らかの繋がりがある。顔見知りとかじゃなくて、別の。それも、あまり良くない繋がりが、ね」

 「繋がり、ですか。なんのことです?」

 「分かってるくせに。そうやって隠してたら、余計怪しく思われるものだよ。今のうちに、()()()()()を、話してもらおうか」

 「・・・話さないと、いったら?」

 「ほう・・・? それは、君がなんらかのスパイと認めるということかい?」

 「さあ?」

 「最後までとぼけるというつもりなら、こちらも少しばかり手を使わせてもらうぞ。君はあまりにも怪しい。君の素性からも、信用するのは難しいからね」

 「・・・いつの間に私の事を・・・そうですか。その手というのは、どんなものなんです?」

 「場合によれば、警察にも頼んで、()()()()()()()にも聞き出すのを手伝ってもらうぞ」

 「ふうん。それ専門の部署、ねえ・・・・・・ああ、もしかして〈13係〉?」

 「な!? なぜそれを君が知っているんだい!? やはり君は――」 

 「――話はここまでです。皆さんが来ましたので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちは(多分)憂鬱な気持ちを切り替えて、ついにヒーロー基礎学の時間が始まった。

 内容としては屋内での対人戦闘訓練。

 ヒーロー組とヴィラン組に二人ずつ分かれて2対2の屋内戦をするというものなんだそう。

 勿論これは『基礎学』なのだから基礎訓練も必要だろうが、それも踏まえた上で全員の戦い方を学んでおく、という名目もあるのだろう。

 

 「勝敗のシステムはどうなるのですか?」

 「ぶっ飛ばしてもいいんスか?」

 「また除籍とかないですよね?」

 「分かれるというのはどういう分かれ方でいいのですか!?」

 「このマントかっこよくない?」

 「んんん~~聖徳太子ぃぃぃ!!!???」

 

 一度に質問を投げかけられたオールマイトは、樹チャンがいつの間にか用意していたカンペを見ながら、一つ一つ答えていく。

 一通り答え終わったので、班分けに突入。

 

 「緑谷ちゃん! 一緒になったね!」

 「そうだね。よろしく」

 

 麗日お茶子さんとペアになった。以前の試験で個性は攻撃系統ではないことは確認しているが、それは問題じゃない。

 問題なのは、これ。

 

 『緑谷・麗日VS爆豪・飯田』

 

 ちょっと待て。

 なんでよりにもよって。

 かっちゃんも青通り越して白い顔・・・あれ、なんか違う。

 顔色がもう復活して、顎に手を当てて神妙な顔でなんか考え込んでる。

 ・・・なんにせよ、容態が良くなってなによりだ。

 

 

 さて、相手はかっちゃんだ。油断は禁物。全力で戦わないとすぐ負けるだろう。

・・・とはいったって、まだ僕はセクトニアたちの力を完全にコントロールできるようになったわけじゃない。

 加減を間違えれば、目の前の物が一瞬で消し炭になってしまう。

 だから、今回はエンデ・ニルの武器を使う。

 全てを打ち壊す破神の武器――両刃の斧。

 手に馴染みやすいように小さくして、刃を潰した状態にする。殺すわけじゃあないからね。

 本当は片刃の方がいいけども。

 元死刑執行人(エクスキューショナー)としての斧の扱いは一番、とも言い難いけども。

 それでも、基本的に人を殺めるということには、特に抵抗感はない。

 殺してしまうかもしれない、じゃない。殺す気で迎え撃つ。

 そうじゃないと、ろくに太刀打ち出来ないだろうしね。

 

 

 

 さあ、時間だ。戦闘を開始(はじ)めよう。




かっちゃんすら暗くなる程に強い個性。
ハイ、山村くんプロフィール。


山村安理 23歳 警視庁捜査一課『13係』所属 

個性・悪夢(ナイトメア)

相手に悪夢を見せられる。本人が自分の意思で解除するか、効果を消されるかしないと悪夢は続く。
発動条件は、相手の露出部分への接触。強さは気分が悪くなる位から、精神崩壊、そして死亡まで調節可能。しかも後遺症として軽度の鬱を引き起こせる。副作用として、敬語が崩れて、性格が豹変する。
全力で使ったり使い続けたりしてると本人まで悪夢を見始める。使いすぎると体調も悪化する。
ちなみに個性を使うと、対象の記憶を視れる。そして、記憶内の恐怖の対象を記憶から刈り取り、現実に具現化させることもできる。



またまたまたサイコパス診断テスト。


「あら、意外とイイ男がいるわね。○○さんのお友達だったのかしら・・・」


ある日、彼女は最近事故に遭い、亡くなってしまった親戚の葬式に妹と出席した。
その時、親戚の友人だったのだろうか。黒髪で黒服を着た黒い靴の男を見かけ、彼女はその男に興味をもった。
その男は彼女の妹にとって理想の男だった。
そして、その夜。彼女は妹を手に掛けた。
彼女が妹を殺した動機は一体何?


ちょびっと改変をしてます。
次回、正解発表。

申し訳ないけども、戦闘訓練は書かないつもりです。
樹の昔話を、ある人に話してもらう予定です。
して、その聞き手はなんと・・・!


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#7 江ノ島樹という執行者

各回答
・・・の前に

安理「・・・罰ゲームは進行役をすること、ですか」
オリ主「ちょうど仕事がかなり舞い込んできちゃってね。たちが悪いわけではないでしょ?」
安理「まあ・・・確かにそうですが。俺の席はどうなるので?」
オリ主「次までにはどうにかする。今日は二人だけでお願い」
安理「分かりました」

各回答

出久「独占欲・・・みたいなのこじらせた結果かな?」
樹「男をかっさらわれたくなかったからからじゃないのか? だって妹のタイプって分かっていたんだし」


安理「正解はその人にもう一度会いたいがために、妹に手を掛けた、です」
出久・樹「あーそういうこと」

安理「・・・二人は、ゲストは誰がいいと思う?」
出久「兄さんの言う先生って人」
樹「オールマイト」
安理「修羅場を作るのはマジでやめてくれ俺が倒れる」


緑谷らの戦闘訓練が開始する同時刻。

 

場所は、警察署本部の執務室。光を吸い込むような、黒いデスクに置かれた数枚の資料を、頬杖をつきながら眺める男の姿があった。

 

その男の名は氷室 玲(ひむろ れい)。現警視総監であり、樹の叔父だ。

 

警視総監は警察のトップ。故にその地位に立てるのはかなりのキャリアを積まないといけない。

必然的にそこまでの地位にこぎつけられた時には、かなり齢をとっているはずなのだが・・・

樹の黒髪とは正反対の白髪を、腰の長さにまで伸ばした上で、一つ結びにくくっており、樹の人形のように整った男よりの中性顔とは正反対の女よりの中性顔。唯一そっくりなのは、突き刺すような眼光を放つその細い眼か。色は赤と樹の緑とは違うが。

それでもってその外見は、樹の従兄(いとこ)といっても違和感がないほどの若作りだ。

このひとホントに警視総監かとよく言われている男である。

 

そんな男の横・・・デスクの上の端っこらへんに座り、シュレッダーにかける予定だった書類の裏に、握り締めた万年筆でグリグリ何かを殴り書きしている、文字通りの桃色の丸いボールのような体型をした者の姿があった。

 

 「はあぁ・・・眠い」

 「ぽよ~・・・」

 「アナタはいつも寝れるでしょうが。というか、なんですか、その絵。カオスの一言で言い表せるような絵じゃないですか怖いですよ。あと私の万年筆くん5号を乱暴に扱わないでくれませんか。またすぐに壊れますから」

 

 謎めいた可愛らしい溜息をつく桃球に、玲は髪をぐしゃりと掴みながら、悪態をつく。

 最近仕事がたくさん舞い込んでくるのだ。何徹したのかもう覚えていない。もうやだ。疲れた。

 

 目に濃い隈を作りながらも、ブラックコーヒーをちびちび飲んで、玲は仕事をこなし続ける・・・

 愚痴って一時間後。突如、玲がデスクに、がん! と額をおもいきり叩きつけるようにして突っ伏した。

 思わず桃球も万年筆を思いっきし握って折り、沈黙が一人と一・・・匹? の間を支配する。

 

 「・・・気分転換です。私の一人話に付き合ってもらえますか、いや絶対付き合いなさい」

 「ぽよ?」

 

 何事も無かったかのようにむくりと起き上がる。額に赤くなり、しかも流血している痛々しい傷跡がどれほどの勢いで錬が突っ伏したのかを物語っていた。

 真顔で桃球の方をみて、気分転換と称した暇つぶしに付き合えと言い出した。

 この瞬間。やっと仕事が一通り片付いたのだ。しかし、カフェインの取りすぎが玲から睡眠欲をかっ攫っていた。

 やることがない。玲にとって退屈は最も嫌うことの一つだ。

 だから、暇つぶしをする。

 いつもなら、何かのデッサンをしたり個性で遊んだりするが・・・今日はいつもとは違う。

 目の前に、最高のおもちゃ(桃球)があるのだ。そんな魅力的なものを前にして、使わないという選択肢がどこにある?

 

 ・・・実を言うと、玲が暇なうえ、とてつもなくストレスが溜まっている時、室内に誰かがいたら、必ず「暇つぶしに付き合え」といわれ、強制的におもちゃがわりにされるが、まあその話は置いといて。

 

 「樹の話ですよ。あの子の昔、そして、正体」

 

 ()()()()拷問による聴取を専門とした〈13係〉という部署。

 元々は、樹自身が13係だった。

 けども、13係となった時の彼女は、まだ12歳。思春期真っ只中の未成年のうえ、拷問という法律で禁止された行為をする故に、社会的には存在しない部署となっている。

 

 どうして彼女は13係となったのか。それが、今ここで、本人の許可なく語られようとしていた。

 

 「ちょうど、真冬の夜でしたか。大病院で彼はこの世に生まれ落ちた。・・・女として」

 「ぽよぉ?」

 「そこらへんは後ほどに。・・・彼は、最初から両親が決めていた名前として、樹と名づけられました」

 

 大樹のようにおおらかな人へとなる願いを込めた、名前だった。

 名前の通り、彼女は12年間、とても優しい性根をもち、ヒーローに憧れる、ごくごく普通の少女として、生きてきた。

 

 ・・・あの悲劇が起こるまでは。

 

 「15年前に。あるヴィランの組織が、大規模な暴動を起こしたんですよ。そのヴィランの組織は、数は100人以上もの規模の上、その一人一人が、かなりの実力者だったんです」

 

 夜の街は、瞬く間に火の海へと変貌した。当然、沢山のプロヒーローたちが駆り出され、沢山の人々はヴィランから必死に逃げていた。

 

 「その夜、樹は両親と共に、ファミレスに行ってたんですね。で、彼女たちが食事中に、ヴィランが現れ、あっという間にファミレスを半壊させました」

 

 ファミレス内にいた客達は、皆怯えていた。体中に返り血をたっぷりと浴びて、歪で凄惨で、それでいて屈託のないヴィランの笑顔を前にして、何も出来なかった。

 ・・・たった一人を除いて。

 

 「樹だけは、臆することもせずに、平然と対峙しちゃってたんですって。店を簡単に壊せるくらいの力をもつヴィランを目の前にしてですよ。・・・彼は個性を使って、そのヴィランの首を絞めて気絶させました」

 

 荒事は苦手なはずだった彼が、いかにも不味そうなヴィランを相手に、怖じ気づくことなく対応して、無力化した・・・

 

 「本人も違和感を感じたそうですが、そんな事より今すぐにここから逃げ出すべきだと言うことは百も承知でした」

 

 ――母さん、父さん。急いで逃げないと、きっと殺されちゃうよ。はやく、逃げよう?

 ――・・・そう、ね。お父さん、急ぎましょう。

 ――ああ。皆さん! もうすぐここは倒壊します! 急いで逃げてください!

 

 子供らしくない雰囲気は、両親のほうを振り向いた時には霧散していて、少しばかり怯えが滲む表情を浮かべながら子供らしく両親を急かした。

 晩御飯を食べている時に突然ファミレスが壊されたこと。荒事とは全く無縁なはずの娘がヴィラン相手に、平然と対峙し、あまつさえ倒したこと。その他いろいろ、衝撃的なことの連続で呆然としていた両親は、愛しい一人娘の声で現実へと引き戻された。

 彼らは、客達の避難誘導をしながら、ファミレスから脱出した。

 

 外は火に包まれていた。燃え広がりも異様なほどに早い。このままだと、まだ残っているはずの逃走路すらも塞がれるのは時間の問題だった。

 

 そして、最悪なことに、逃走路を探しているうちに、いつの間にか彼は両親とはぐれてしまっていた。

 

 「樹は必死に探しました。ですが、当然といわざるを得ないのでしょうか。結局、火に囲まれてしまいました」

 

 瞬く間に身の回りを舐めるようにして侵食していく焔。

 それを見て絶望に打ちひしがれながらも、彼はその炎は『聖なる焔』だと認識していた。

 前世で犯してきた罪。どんな理由でも、赦されることはないだろう残虐な行為。

 それの報いなんだと、思っていた。

 

 「炎を起こしたヴィラン・・・個性は『浄化の焔』 宗教での炎は、不浄を清浄へと浄化するものでもあります。炎に触れた対象がどれほどの罪を犯したか。罪の穢れを焼き尽くすまで、対象を生かしながら贖罪させ、断罪する・・・それが、浄化の焔」

 

 この炎は、自分の穢れを焼くものだ。それを理解した時、彼は――()()()

 

 あらゆる罪人を手に掛け、どうしようもなく穢れたこの身。

 

 

 

 

 ――このくらいじゃあ、俺は綺麗になぞ、ならんよ。

 

 

 

 

 そう思った途端。熱さが、息苦しさが、痛みがふっと遠のいた。

 火柱のなかへ足を踏み入れても、何も感じない。

 その代わりなのか。彼の脳裏には、前世の記憶がフラッシュバックしていた。

 

 

 父親が社会から疎まれる処刑人となり、それを継いで、罪人をし損ねることなく処刑してきた日々。

 

 それだけではなく、治療士として人々を癒してきた日々も。

 

 全ては、一族の名誉を取り戻す為に。

 

 

 「自分の前世は何だったのかを彼は理解しました。ですが、そのことについて思いをめぐらせるよりも、まだやることが残っていることを彼は覚えていました」

 

 ――母さんは、父さんは、どこにいるの?

 ぱちぱちという炎が弾ける音や、人々の悲鳴、戦闘音がごっちゃになって、どこに何がいるのかが、分かたなかった。

 ・・・だがそれが、行動をしないという理由になるものか。

 火の海を渡り、彼はとにかく走った。今の時点で最も音が大きく聞こえるところまで。

 そこまで近づき、曲がり角を曲がり、目の前に広がった光景に、彼は一瞬固まった。

 

 視界の大半を占めていたのは、テレビで何度も見た筋骨粒々な後ろ姿を見せて、立ち尽くしていた平和の象徴。

 その視線の先には、暴動を起こしたヴィランの一人が、見覚えのある男性を抱き寄せ、鋭利な刃物のような爪を首にぴたりと突きつけていた。

 樹にとって見覚えのある男性。というよりも、ついさっきまで一緒にいた男・・・

 そう、父親だ。樹の父親である玲人(れいじ)が、人質にされていたのだ。

 

 「すでに肌に付けられていた状態で、少し引けば、確実に頚動脈は切れるだろう状況では、樹もうまく動くことはできませんでした」

 

 サスペンスドラマとかで人質が悪人に首をナイフとかで切り裂かれた直後、傷口から血を勢いよく噴き出しながら斃れるのを見たことがある樹は、迂闊に動くことが出来なかった。

 でも、その時まで樹はまだ『余裕』を残していた。

 

 ――大丈夫だ。きっとオールマイトが救ってくれる。

 

 自分が助けなくても、そう、今まさに動かんとしている英雄が父親を助けてくれるだろう。

 そう、思いを馳せていた。

 

 でも英雄は、青年の純粋な思いを、信頼を、見事に裏切った。

 

 父親を人質にしているヴィランの後ろ。避難中の人々を今まさに襲わんとしているヴィランの姿。

 それを見た途端、英雄は目の前の命を、見捨てた。

 動いたせいで、即座に父親の首が切られて、大きな血しぶきをあげた。

 最期、驚愕に目を剥いた父親の口がかすかに何事かを呟いたのを彼は見逃さなかった。

 

 「樹は叫ぶことはしませんでした。呆然としていて、ただそこに突っ立って、父親を殺したヴィランが近づいてくるのをただ見ているだけでした」

 

 ヴィランが下卑た笑みで手を伸ばしてきたところでやっと、樹は我に返った。

 

 

 

 「彼はどうしたのかというと・・・おや」

 

 

 

 天井からぶら下げられていた電灯から目線を外し桃球を見ると、彼は口から涎をたらしながら呑気そうな、幸せそうな寝顔を晒していた。

 彼には、昔話は寝物語として聞こえていたのだろうか・・・ふと腕時計で時刻を確認すると、短針は3を指していた。

 

 「もうお昼寝の時間になってしまっていたようですね。・・・そろそろカフェインの効果も切れてきましたし、私もこの辺で」

 

 デスクに置いた腕を枕代わりにして頭を乗せ、目を閉じる・・・前に。

 桃球は今、どんな夢を見ているのだろうか。

 無邪気な寝顔に、樹とは真反対の黒い手袋を付けた手を伸ばし、触れるか触れないかのギリギリで止めた。

 彼が今見ている夢の『中身』は多分、美味しい食べ物をお腹いっぱい食べているんじゃないだろうか。

 そうでなくともきっと、とても平和な夢を見ているに違いないか。

 玲は手を引っ込め、今度こそ、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っは」

 「デク!」

 「緑谷!」

 「あ、れ・・・ここは、っ!」

 「保健室だ。傷はふさがったわけじゃないから、しばらく安静にしてないと直りかけの傷も開くぞ」

 「そ、ですか・・・僕は、負けたんですか?」

 「勝ったよ。ちゃんと」

 「認めたくはねえが、俺はテメエに負けた。覚えてないのか?」

 「・・・ごめん、覚えてないや。かっちゃんが倒れた所で、記憶が途切れちゃってるから」

 「途切れてるのも、無理は無い。爆豪が倒れた直後に、あんな事が起こってしまったんだからな」

 「あんな事?」

 「・・・あんなものを喰らってよく死ななかったな」

 「シュミットがそこまで言うレベル・・・!?」

 「あ? シュミットだと?」

 「あ」

 「シュミットって、あれか? 死刑執行人の『フランツ・シュミット』」

 「「・・・(顔を背ける)」」

 「おい待てどういうことだ」




戦闘訓練は結果だけを書きました。原作のような激戦の末の、辛勝です。



またまたまたまたサイコパス診断テスト・・・またが長いですね。


「うーん。サイトに載せるサムちゃんの写真、どんな感じにしようかな・・・?」

 
あなたは可愛い猫を一匹飼っています。
あなたは動物愛護を訴えるサイトを作りたいと思い、まず自分の猫の写真を載せることにしました。
さて、猫のどんな写真を載せますか?





次回、正解発表。

諸事情によりUSJ編に移行。玲総監も出ます。

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余談ですが、もちろん桃球はあとで万年筆を弁償させられました。バイバイ5号。初めまして6号。


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#8 USJへ そして襲撃

各回答
の前に。

安理「・・・あの、総監」
玲「はい? なんでしょう」
安理「仕事は」
玲「休憩時間を使っていますのでご安心を」
安理「そうですか・・・って、あの、本編中のは」
玲「尚文サンにお願いしておきました」
安理「ああ・・・」


各回答

出久「寝てる姿とか」
樹「成長過程とか」
玲「弱った猫が元気になっていくまでとかでは?」
出久・樹・安理「弱った猫・・・」
玲「尚文サンを思い出しますねぇ」
樹「今度尚文を構い倒そう」
安理「それいいですね。何しましょう」
出久「食べ歩きはどう? 尚文さん、甘いの好きだったよね」
玲「最近出来たカフェにでも行きます?」

オリ主「話、脱線しすぎ! 答えは元気な猫を弱らせていく写真を、逆に載せてゆく、です!」

委員長決めはもうなんもかわらんだろうな・・・と。
その話については、別作品から見て欲しいです・・・ごめんなさい。

前書きの新キャラはまだでない。


 「おーい、爆豪」

 「あ? んだよクソ髪」

 「クソ髪!? ああってそうじゃなくて、何かいてんだ? えーと、フランツ・シュ」

 「勝手に読むな」

 「え!? なんで閉じんだよ、なんだよフランツ・シュミットって!? 教えろよ爆豪!」

 「えーなになにどうしたの切島君?」

 「爆豪がなんか書いてるんだよ! フランツ・シュミットの意味って言う題名で!」

 「え、物語?」

 「物語じゃなくて多分考察だな」

 「おい勝手に言うんじゃねえ!」

 「え、フランツ・シュミットって確か昔実在したっていう外国の処刑人ですわよね」

 「「「処刑人!?」」」

 

 

 「妙に騒がしいな」

 「・・・これは完全に私の失態です」

 「それは、あいつらのいってるシュミットについて、なにか知ってるってことか」

 「・・・はい。いろいろあって爆豪は知っちゃっただけですので、言えませんが」

 

 聞きたいのは山々だったんだが・・・本人ががっくりとうなだれ、か細い声で言ってるあたり、あんまり掘り下げるのはやめといたほうがよさそうだ。

 さて、もうすぐ朝礼の時間だ。あんな状態のあいつらを静かにするのは、少々骨が折れそうだな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・」

 

 大型バスのなか。前の所に座る俺は、反対側の席にいる副担任の異様な機嫌の悪さを気にしていた。

 今このバスはUSJ(ウソの災害や事故ルーム)へと向かっている。あいつらは後ろの席で、どんなところなんだろうかなどと雑談している。そんなに面白いものじゃないと思うが。

 

 「そんな深刻な顔をしなくてもいいじゃないですか。肩の力抜いて楽になったらどうです?」

 「余計なお世話だ」

 「逆に疲れて、なにかあったとき対応できないかもしれませんよ」

 

 バスに乗って、運転手に会ったときから、江ノ島はこの調子だ。なにか不味いことでも起こったかのように、真剣な顔つきで考え込んでいた。

 何を考えてるのかは知らないが、何も用はないのにわざわざ思考を中断させるのはやめておこうと俺は話しかけないのと対照的に、なぜか運転手の方は江ノ島のほうによく話しかけていた。

 二人を眺めていて一つ気づいたのだが、運転手の容姿は、白い長髪に赤い目をしているが、容姿が対照的なはずの江ノ島とどこか似ている気がする。なぜだろうか。まあそこまで気にする必要はないか。

 

 「あんたが居る時点でもう色々と可笑しいだろ・・・」

 「おや? 最近ちゃんとバスの運転免許証を取ったことを伝えたはずですが」

 「それは知ってるさ。だが、なんでよりにもよってあんたがこれを運転してるんだ」

 「江ノ島サン」

 「・・・なんだ」

 「アナタのお察しの通りなんですから、それは愚問というものですよ。そんな質問をする視点で疲れてるんじゃないですか? アナタの事です徹夜でなにか調べ物でもしてたんでしょう。すこしは寝たほうがいいですよ」

 「あんたにだけは言われたくは無いがな・・・」

 

 江ノ島が(まぶた)をとじて数秒後。彼女の呼吸が静かになった。

 というか、こいつ徹夜してたのか。通りで若干隈が出来てたわけだ。

 

 「それにしても運転するのが知り合いだったにしては、妙な反応だったな・・・」

 「ははは。自分を育ててくれた親がなぜか自分の乗るバスの運転手になってたんですから、あんな反応も、しょうがないとも言い切れますがねー」

 

 何の突拍子もなく爆弾が落され、俺の思考が一時的に硬直した。 

 

 「・・・・・・は?」

 「あとでとことん尋問されそうですね。私が」

 「おい待て、どういうことだ」

 「はい? なんでしょうか」

 「なんでしょうか、じゃないだろう。江ノ島の親だと?」

 「ええまあ。肉親ではなく、育ての親という感じですが」

 「はあ? 親じゃなくて従兄弟の間違いじゃないのか?」

 「ははは、よく言われます」

 

 思考が復活してから言われた事情にも、色々と現実味がないというか、信じがたいようなものでもあった。

 まじか。通りであんな反応をするわけだ。通りで姿が似てるわけだ。

 運転手は、クククと笑いながら話し続ける。

 

 「あの子は、昔両親を15年前の事件で亡くしてしまったんですよ」

 「・・・〈東京ヴィラン暴動事件〉か」

 「ええ」

 

 現代のなかでも、最も最悪とされている暴動事件。

 5年前のも大概だったが、15年前のその暴動は、熾烈を極めるような有様だった。

 暴動を起こしたヴィランの全体は100人を超え、その一人一人が、凶悪犯罪を犯した脱獄犯や、指名手配犯など、かなり危険な人物ばかり。

 ヒーローも含め、およそ200人以上もの死傷者が出た、史上最悪の事件だった。

 彼女も、その被害者の一人だったようだ。

 

 「あの子の個性が目覚めたのは、その暴動に巻き込まれた時にです。実は暴動を起こした奴らの中心人物のひとりでもあった『長倉有二(ながくらゆうじ)』を倒したの、彼女なんですよ。凄いでしょう?」

 「・・・自慢話ではないだろう」

 「ええ勿論。それは置いといて、倒した後にすぐ避難したんですけどね、途中で両親とはぐれてしまったんですよ。火の海の中、命からがらなんとか合流はできましたが・・・」

 「手遅れ、だったのか」

 「まあ、間違ってはないですね。母親は骨も残されずに食人鬼に食べられ、会えたのは、人質にされた父親。迂闊に動けばすぐに死んでしまうように、首に刃物みたいなかぎ爪を突きつけられていたそうですよ」

 

 涼しげな口調とは裏腹に、熾烈極まりない状況が、話される。

 おそらくまだ幼かっただろう江ノ島のその非情な境遇。想像に難くない、地獄だっただろう。

 

 「人質に向かい合っていたヒーロー・・・誰だったか、当ててみてください、相澤サン。彼女が最も嫌悪して、味方と見なしていない、意外な人ですよ?」

 「江ノ島が嫌っているうえに、信頼していない・・・?」

 

 最初に浮かんだのは、爆豪だった。入学初日から、江ノ島が嫌悪を向けていた人物だからだ。

 だが、あいつはヒーローではない。というか15年前なのだから、まだ赤子の時期だ。

 あとは・・・

 

 「いや、まさか・・・」

 「ま・さ・か?」

 「・・・・・・・・・・・・オールマイト、か?」

 「その通り(That's right!)

 

 人質と向かい合っていたヒーローが、オールマイト。

 それを知った時、自分でもはっきり分かるくらい、顔から血の気が引いたのを感じた。

 

 オールマイトに対する人質が死亡している。

 そして人質の子供がオールマイトを嫌悪、敵意を向けている。

 そこから推測できることは、二つだ。

 ひとつは、助ける前に殺害されたか。

 もうひとつは――

 

 「ありえん。15年前なんてまだ全盛期真っ只中だ。たとえヴィランが普通の奴より強かったとしても助けることは容易だろうし、あの人は普通そんなこと」

 「普通は、でしょう?」

 

 思わず身を乗り出しかけた俺の視界に、信じがたいものが映りこんだ。

 バスのバックミラーに映っていた運転手は、嗤っていた。

 最悪の予想を、肯定するかのように。

 

 「人質の後方。そこには、たくさんの逃げ惑う人々の姿。そして、それを()()()焼き滅ぼさんとするあるヴィランの姿・・・あとは、分かりますね?」

 「・・・そこまでするほどに、余裕が無かったのか?」

 「なんの前触れもなく放たれましたからねー。突然のことに、余裕があったつもりの彼も、とっさに動いたんでしょうね。溜める時間(チャージタイム)が見えたら腹を決めるつもりだったのかもしれませんが、そんな余裕が突然なくなっちゃったモンですから」

 

 目の前の人を助ける時間を割いてしまえば、後方は間に合わなかった。

 だから、彼は。

 

 「油断していた彼も彼です。ですが、多数の為に少数を切り捨てる判断は、合理的とはいえるでしょう。・・・残酷なほど、ね。

 ですが彼女はどうでしょう? 合理的というのにもとづいた判断が完全には出来ない、ごくごく普通の子供には、どう見えたと思います?」

 「・・・どう見えたかなんて、自明だろ」

 「ええ。だから、彼女はオールマイトの事を、嫌っている。救えなかった命なんて無かったかのように見える振舞いをする彼を、嫌悪している」

 「そうか・・・どうして、それを俺に話した?」

 「話した理由(ワケ)ですか? だって――」

 

 

 バシャッ!

 

 

 突然、フロントガラス全体が真っ黒に染まった。

 というかバスの窓全てが、真っ黒へと染まった。

 

 『うわ!?』

 「な!?」

 「ッ!? これは一体・・・」

 

 流石というかなんというか、真っ先に正気に戻った運転手は、ワイパーを起動し、黒い液体を落す。

 拭いた後こそ残ったものの、周りの障害物を判別できるくらいには視界は回復した。

 

 「ヴィランか!?」

 「ち・・・このタイミングで来るのは予想外でしたね。――少し飛ばしますので、皆さん車内のゆれに注意してください!」

 『え、っうわあああ!?』

 

 舌打ちをした運転手がそういった直後、ガクンとバスの中が大きく揺れ、後ろから悲鳴が上がる。

 おそらく先程のゆれで起きたのだろう。江ノ島があせった表情を浮かべて腰を若干浮かせていた。

 

 「!? おい氷室、今のは・・・!」

 「おそらく襲撃、ですね。しかし、これは不味い・・・USJに着くにはあと5分も掛かるというのに、このまま妨害が続くようなら、事故を起こすかも・・・」

 「なら、今すぐバスを止めて、俺を降ろしてくれ。そいつを俺が止める!」

 「それは却下です。おそらくアナタではこの妨害者は止められない」

 「何故だ!」

 「私の勘です」

 「・・・そうか。なら、どうするんだ」

 「アナタの個性で、事故が起こらないように手助けしてくれればいいです。相澤サンは学校へ救援を!」 

 「了解した」 

 「分かった」

 

 すぐに俺はズボンのポケットからスマホを取り出す。

 電話帳から誰にかけようかの一瞬の逡巡のうちに、

 

 

 

 ガシャアアアン!

 

 

 

 後ろから甲高い、ガラスが派手に割れた音がした。

 

 『うわああああ!?』

 『きゃああああ!?』

 

 先程とは比較にならない、生徒達の悲鳴。

 俺は反射的に立ち上がり、後ろを見る。

 

 「なんだあれは・・・!?」

 

 紫を基調としたローブを着込み、大きな同じく紫のいかにも魔女が被りそうな帽子を被った、丸々とした背景をした女。

 濁ったような水色の長髪を伸ばし、長い前髪と桃色のスカーフで顔の大半を覆い隠して、そこから見える満月のように爛々と光る黄色い眼は、彼女が人間ではないと本能的に理解させた。

 

 人ならざる、『本物の異形』が、生徒達の間近に佇んでいた。

 

 

 「・・・アンシンしろ。わたしはおまえたちをガイするきはない。ただ、これからわたしがゆうことにしたがってもらう」

 「聞く義理は無いよ。今すぐに、ここから出て行って」

 

 平坦だが、おおよそ人とは思えない声でいった事柄へ唯一返答したのは、敵意をむき出しにした緑谷だった。

 戦闘訓練の時に持っていた斧を構え、臨戦状態になっていた。

 

 「・・・? おまえ、なぜそのオノをもっている?」

 「答える気は無い」

 「それははるかムカシにフウインされしハジンがつかっていたブキだ。なぜイッカイのニンゲンであるおまえがジンギといってもさしつかえないようなそれをもっている? ・・・どこからかうばったというなら、かえしてもらおう。あまりテアラなマネはしたくない。スナオにそれをわたしにわたしてくれ。ソレはイッカイのニンゲンにはてにあまるようなシロモノだ」

 「誰がお前みたいなのに渡すもんか」

 「・・・メンドウな」

 

 ふっと女のすがたがそこから掻き消えた。

 その直後、緑谷がものすごい勢いで吹っ飛んだ。そのまま背後にあった窓を突き破り、外へと放り出されてしまった。

 

 「ガッ――」

 『緑谷!!』「デク!?」

 

 「な・・・!」

 

 運転手が急ブレーキをかける。緑谷がそとに投げ出されてから最初に動いた山村が外に出ようとするが――

 

 「させん」

 

 出口が桃色やら青やら黄色やらが混ざったマーブル模様の壁らしきものが、窓も含めた出口を全て塞いだ。

 足をとめた山村が、キッと女を忌々しそうに睨む。

 

 「く・・・」

 「・・・そのメはなにかを、わたしはしっている。ヒトをコロシたもののメだ。おまえはとおいムカシに、タクサンのドウゾクたちをテにかけているんだろう。わたしをみるそのメは、コロシをカクゴしたものの、メだ」

 「意味の分からん憶測をしても、何も変わらないぞ。まずはお前の身柄を拘束させてもらう。よろしいですね?」

 

 いつもの柔らかい物腰は身を潜め、まるで殺人鬼のような雰囲気を纏った山村が、なぜか江ノ島に確認を求める。

 

 「ああ、頼む」

 「了解です」

 

 許可を出された山村は手首を口元へ近づけると、歯を使って仕込まれていたらしいワイヤーを引き出した。

 そして腕を振り、そのワイヤーを女へと飛ばす。

 

 「ふん」

 「なに!?」

 

 が、突如女の前に現れた大筆が、ワイヤーを叩き落す。

 ワイヤーは吸い込まれるようにして山村の手の内へと戻った。

 

 「なんじゃありゃ・・・!?」

 「〈マホウのフデ〉だよ、あかいかみのおまえ。やろうとおもえば、これをヒトフリするだけで、おまえたちをミナゴロシにだってできる。だがわたしはこれイジョウギセイシャをふやしたくはない。それはおまえたちもおなじだろう。わかったなら、おとなしくして、わたしのゆうことに、したがえ」

 「おまっ・・・! あいつを殺しやがった上に大人しくしろとかふざけんじゃねえ!」

 「やめろ爆豪!」

 

 女に掌をむける爆豪を俺は個性を使って拘束する。

 

 「なにすんだ先生!」

 「これ以上そいつを刺激するな! 緑谷の二の舞になるぞ!」

 「ッ・・・クソが」

 

 渋々といった様子で、爆豪は下がった。

 また女を刺激すれば、あの筆でこの中の誰かが本当に殺される。それだけは絶対に避けなければ。

 

 「モノわかりのいいヤツがいてくれて、たすかった」

 「状況最悪だな・・・おいヴィラン。さっさとお前のゆうこととやらを話せ」

 

 意識して殺気を女に向けるが、とくに変わった様子はない。素人なのか、それとも慣れているのか。多分後者だろう。

 

 「アア、はなすさ。タントウチョクニュウにいわせてもらおう。ここにいるんだろう、〈ジュウサンガカリ〉? コドモタチをミナゴロシにされたくなければ、いますぐにトウコウしろ」




初めてのフォント使用・・・難しい。

化け物相手にまず反応できんの修羅場になれた奴じゃないとできんよね・・・と。
13係は動いてもらいました。

謎の女の正体は、一体・・・?



いつものサイコパス診断テスト。

「ひっ・・・! やめてくれ、まだ死にたくない!」
「その願いを聞く義理はない(黒笑)」

あなたが殺さなければならない敵が、目の前で断崖にぶら下げられて、棒の様なものにつかまってようやく生きています。
敵を断崖の下に落とすとき、あなたならどうやって落とす?



次回、正解発表。

まさか緑谷が・・・!?
桃球も出ます。誰なのかは・・・いわなくても分かるね?

誤字脱字あったら報告お願いします。


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