ロクでなし魔じゅ(ry……リィエルすこ (鈍足ハイカー)
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脳筋と保護者

一ヶ月に一回は更新予定

とりあえず

リィエルすこ


この世界には魔術が存在する。

魔術は主に戦争などに使われていて、その魔術を使える人間なら剣で一人を殺す間に10人の兵士を殺す事が出来ると言われている。

 

しかしその魔術師になれる人間は少なく、血筋的な問題、金銭的な問題などが挙げられる。

 

 

 

 

アルザーノ帝国。

この国は魔術師を多く育てる学院が数多く存在する魔術大国であった。当然戦争も強く国力で言えば最も強いと言っても過言では無い。

 

 

その国の魔術関係の事件を扱う部署。宮廷魔導師団、特務分室に主に二人組で活動をする存在がいる。

 

 

帝国軍の人間からは『イノシシと調教師』『アホコンビ』『こいつら突っ込んでおけば大抵なんとかなる』『敵が可愛そう』『作戦ブレイカーと作戦セイバー』『ちくわ大明神』とか言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日もそんな二人組に狙われる外道魔術師が余りの恐怖に震えながらも自らの研究施設から脱出を図ろうとしていた。外道魔術師の男は自分の研究施設に侵入し暴虐の限りを尽くした()()()()()()()()()を相手に逃亡の一手を取るしか無かった。

 

 

自分の研究施設でウーツ鋼の大剣を振り回し、研究の成果や器具を壊されるのはなんとも言いがたいが、あれほど破壊されればもう復旧など不可能。逃げるのが現実的だった。

 

 

 

 

男が自らの施設の扉を開けると()()()()()()()()()()()。男は自分の施設の前にいるこの青年は先程の襲撃者の仲間だと判断した。

 

 

「くそっ!何者だ!俺の研究所をめちゃくちゃにしやがって!この崇高な研究の理念が分からん訳ではなかろう!」

 

 

「知らねーよ。全く、国民の命にも手を出してまでやる研究か?何者かという質問にはこう答えよう」

 

ズハンッ!

 

男が逃げて来たドアが大剣によって破壊され青髮の少女が追いついて来た。見た目は可憐な少女であるが男が先程見た物を考えれば、もはや恐怖はホラー映画すら上回るものだろう。

 

「「アルザーノ帝国、宮廷魔導師団特務分室」」

 

息のあった名乗りは2人が長い間一緒に任務をしている事が見て取れる。側から見ればバカップルだが本人達はそのつもりは一切存在しないらしい。

 

「執行官ナンバー7『戦車』」

 

「執行官ナンバー8『剛毅』」

 

名乗りを挙げた2人のコードネームを聞いて男は驚いた。それは魔術師の世界では有名な宮廷魔導師団、最凶の二人組などと呼ばれ最近話題になっている名前だったからだ。

 

「しっかしリィエルから逃げ切るとは……割と実力はあったのかな?」

 

「ん………逃げるのは早かった。きっと前世はウサギか何か」

 

「随分きたねぇウサギだな。多分あれだよ……蚊とか蝿とかだろ」

 

本人を前にして愉快に会話を始める2人に男は苛立ちながらもどこからか逃走を図れないかと必死に思考を続ける。挟み撃ちにされたこの状況ではどちらかを撃破するしか無い。

しかし男の中ではあのイカれた少女に対する恐怖心があるのでどちらを選ぶのかは自ずと確定していた。

 

「《猛き雷帝よ》!」

 

男の指先から一節に省略された軍用魔術、『ライトニング・ピアス』一直線に放たれる、鉄さえ貫通する雷光。

通常は三節によって詠唱される呪文ではあるが、男の高い技量によって省略を可能にした事により不意をついた形で青年に魔術を放つことが出来た。

 

バチッ

 

しかしあろうことか青年は右手の甲で雷光を()()()()()()。人を殺せる威力のある軍用呪文を例え手袋があったとしても手で触るなど正気の沙汰では無い。しかし青年は特注品の手袋に三属のエネルギーを軽減する魔術、『トライレジスト』を付与している為何の外傷も無かった。

 

「ッな!」

 

男が驚いたのは青年が魔術を弾いた事では無かった。青年は攻撃魔術の中でも高い速度を誇る『ライトニング・ピアス』を確実に撃墜したのだ。三節詠唱による攻撃ならまだしも、至近距離から放たれた一節による高速の攻撃をだ。

 

「『ライトニング・ピアス』の一節詠唱。まぁその程度飽きるほど見てるし。それじゃあ…………」

 

男が驚いた隙をこの2人が逃すはずもない。少女は大剣で斬りかかり、青年は逃れられ無いように反対側から拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

結果、男の首は胴体と別れを言うことになった。もう起き上がることはないだろう。

 

 

 

 

青年はついでと言わんばかりにその死体に魔術を行使する。

 

 

「《吠えよ炎獅子》」

 

青年の手から放たれる灼熱の炎は男の死体を消し炭にした。魔術師の死体を研究する外道魔術師も存在する為死体処理は彼らの仕事では基本であった。

 

「さて仕事も終わったし飯でも行くかね」

 

「ん、タルト食べる」

 

「それは飯じゃないって言っただろ?」

 

「ん、じゃあ…………ケーキ?」

 

「はぁ……………わかったよ。ケーキバイキングな」

 

青年、アルト=マツバは少女の発言に頭を抱えながらも結局はケーキを食べる事にしたようだ。そもそもこの青髮の少女、リィエル=レイフォードには食事以外の娯楽があまり無いのでそれを抑制するのも少し不憫だと思ったからである。

 

そしてこの2人は4日連続でケーキバイキングに通っていると言う事実も語っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリカリカリ

 

リィエルはそんな可愛げのある音を立てながら驚異的な速度でタルトを食べていた。どうやらイチゴのタルトがお気に入りらしい。普段無表情なリィエルはこの時ばかりは少し嬉しそうな顔をしている。

 

アルトもリィエルを眺めながらショートケーキを何個も食べていた。

 

 

 

 

 

あまりの速度に新しくケーキを持ってきた店員も険しい顔をしている。しかしアルトはその店員を見て何かに気がついた様だ。

 

 

 

 

 

 

「…………何やってんすか、アルベルト先輩」

 

 

そう。

ケーキを持ってきた男はアルトとリィエルと同じ職場。宮廷魔導師団特務分室、執行官ナンバー17『星』のアルベルト=フレイザーであったのだ。彼は色々な技能に精通しているので変装などもそつなくこなせるのである。普段の真面目な雰囲気の役からチャラ男まで変装や演技の幅は広い。

 

しかし彼の同僚は彼の変装や演技が完璧な事に異様な違和感を覚えると言う。

 

カリカリカリカリ

 

「………明日緊急で任務が入った。場所はフィジテのアルザーノ帝国魔術学院だ。」

 

「魔術学院?………潜入ですか?」

 

アルトは自分とリィエルの年齢を見て魔術学院に通っていてもおかしく無い様な年の為、任務に選出されたと思った。

 

「違う。アルザーノ帝国魔術学院の魔術競技祭に女王陛下が見学をする予定だ。本来は王室親衛隊などが護衛をする筈なのだが………その王室親衛隊に不穏な動きがあると情報が入った。」

 

カリカリカリカリ

 

「あの王室親衛隊に?………謀反なんてするとは思いませんが…」

 

「不穏な動きと言った。何かしらの事情があるのだろう。それに………アルザーノ帝国魔術学院には産廃王女もいる。」

 

カリカリカリカリッ!

 

 

「関係ない。敵は切る………それだけ」

 

「「…………………」」

 

情報を集める任務の筈なのだが……どうやらリィエルにはそこの所が理解できなかったらしい。アルトの胸中にはふと、人選ミスと言う言葉が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

その日のケーキバイキングの料金はアルト持ちとなった。アルトは一面ではリィエルに厳しいがこう言った所で強く出れないのである。リィエルは心なしか勝ち誇ったような表情をしている。

 

「ん、おいしかった。」

 

「良く飽きもせず毎日食えるな………たまには別の食おうぜ」

 

「……レーションはいや」

 

「普通の!飯を食おうって!言ってるの!」

 

「………………タルト?」

 

「うがぁぁぁぁぁぁ!」

 

アルトの悲惨な悲鳴が住宅街に響き渡った。

近所の人ごめんなさい。

 

 

しかしアルトはそんなリィエルの事を心配して毎日のように料理を自炊している。ちなみにアルトはリィエルが料理中フライパンを曲げた時から料理を教えるのを諦めたらしい。

 

 

 

そして明日からの任務を機にアルトに更なる苦労が降りかかる事は今の段階では誰にもわからない事である。

 




最後に

リィエルすこ


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緊急停止イノシシ

このssを書いた理由としては今まで書いたssがヒロイン活躍しないなぁと思った為です。ヒロイン主軸にすればいい感じにラブコメ書ける……といいなぁ



リィエルすこ


そもそもアルトたちにこの任務が回ってきたのはただフィジテの近くの町に居たからに他ならない。王都からは馬車でも相当な時間が掛かるし、学院にある転移用の魔術陣も先日、学院で起こったテロリストの襲撃で壊されてしまったのだ。

 

その為アルベルトはともかく、全くもって任務に適していないリィエルとアルトを派遣するしかなかったのだろう。特務分室の()()()()()が胃を痛めながら命令書を書いているのがアルトの目に浮かんだ。

 

「これが魔術競技祭ですか……盛り上がってますね。」

 

「ああ。今回は陛下が見学に来ている。だから例年よりも盛り上がっているのだろう。」

 

「…………モグモグ」

 

リィエルはアルトの作った朝食のおにぎりを食べながら魔術競技祭の様子を物珍しそうに見ている。リィエルにはこういったイベントに参加した記憶が無い為、多少は興味があるのだろう。

 

「『精神防御』………中々キツそうな競技もやってますね。」

 

「………あそこにいるのがアリシア陛下の娘、エルミアナ王女だろうな」

 

参加者の屈強な男達の中に一人だけ可憐な少女が佇んでいた、競技も終盤に差し掛かっているのに全く堪えた様子はない。その様子を見てアルトは東方の修行僧の事を思い出した。

 

「流石はアリシア陛下の娘ですね。上の人間ももったいない事をしましたね。」

 

「……事情が事情だ。仕方がない事でもあったのだろう。」

 

「モグモグ…………あ、グレン」

 

「は?………グレン先輩?………本当だ」

 

アルトはリィエルの視線の先にエルミアナ王女を抱き留めるグレン=レーダスの姿を発見した。リィエルは無機質な目をしながらグレンに向けて闘志を露わにしている。

 

「俺達に何も言わずに去って行ったと思ったら……こんな所にいたとはな」

 

「リィエル………ステイだステイ」

 

「なんで?私はグレンと決着を付けたい」

 

「余計なことはするな。任務を忘れたのか?」

 

アルベルトが今にも動き出しそうなリィエルを鋭い眼光で睨んでいる。アルトが制止していなければ今にでも走り出していただろう。

 

「任務?女王陛下の…………グレンと決着を付ける事?」

 

「……………どうしてそこまで覚えていて、その発言が出るんだ?」

 

「………朝までは覚えてた」

 

「今覚えてなくてどうすんだ!………ハァ」

 

驚くべき事は朝まで覚えていた事だろう。元同僚であるグレンが見れば驚きのあまり失神してしまうに違いない。そこまでの成長を見せたのはアルトの血の滲むような教育の賜物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の任務は女王陛下の護衛を務める『王室親衛隊』の監視である。最近、王室親衛隊に不穏な動きがあると情報が入った。原因は異能者差別に対する新しい法案が円卓会で閣議されるようになったからだと思われている。

 

異能者とは魔術と同じく、人には出来ないような現象を起こす事ができる人間である、放電したり、水を操ったり、魔術の威力を上げたりと多岐にわたる能力がある。一般的には悪魔の生まれ変わりと信じられている。

 

その異能者に対する法案に関して、『王室親衛隊』が今回の訪問を機に何らかの行動を起こす可能性がある。

 

 

 

 

 

と言う事をアルベルトから説明されたのだが、リィエルが理解出来ているか分からない為アルトは確認作業をした。

 

「何をするかわかったか?」

 

「『王室親衛隊』を…………斬る?」

 

リィエルは途中まで自信ありげだったが途中で目的を見失ったようだ。アルトは頭を抱えた。これだけ騒いでいても周囲には気にされる様な様子はない。アルベルトがこの周辺に認識阻害の結界を張っている為だろう。

 

「このアホ!斬ってどうすんだ、監視だよ、監視」

 

「そう、…………でも私はグレンと決着を付けたい」

 

「…………アルベルト先輩。」

 

アルトは最早涙目で縋るようにアルベルトに泣きついた。しかしアルベルトはリィエルがアルトのお陰でかなりの成長をしている事を知っているので何も言う事はない。

 

「アルベルトとアルトはグレンに会いたくないの?」

 

「………知れた事を。あの男には色々と言いたい事がある。」

 

「……………確かにグレン先輩をボコしたい。」

 

リィエルの同僚の二人は内心グレンにかなりの恨みを持っていた。何故………何故リィエルを置いて行ったのか。今まではグレンとアルト、稀にアルベルトが面倒を見ていたのだが………グレンが居なくなってからその負担は一気に二人に降りかかった。どれだけの苦労を二人が感じて居たのかは想像し難い事だろう。

 

「そう。なら私とアルトでグレンをボコる。アルベルトは色々言いたい事を言えばいい。」

 

本人はその苦労を全く知らないかのようにグレンにとって死刑宣告に等しいその提案をした。

リィエルの技量はここ一年でありえない程に上昇していた。おそらく毎日の様に武術の達人であるアルトと組手をして居た為であろう。そんなリィエルをけしかければ流石のグレンをもってしても生きて居られるかは分からない。

 

「俺達はあいつに会わない方がいい」

 

「……なぜ?」

 

「久々、あいつの姿を見てわかった。あいつの居るべき世界は………やはり俺達が居るような血に濡れた闇の世界ではなかったらしい。」

 

アルベルトが目を向けた場所を見るとグレンは銀髪の女の子に土下座をしながら説教をされて居る。先程みたエルミアナ王女はそんな銀髪の子をなだめている。当然、グレンがまだ特務分室に所属していた時よりも楽しそうだ。

 

「あいつの居るべき場所は、彼処だ。眩い陽の光が当たるあの場所こそ、恐らくグレンという男が真に生きている場所なのだろう。」

 

その言葉にアルトはグレンが特務分室を出て行った時の件の事を思い出し納得しようとした時。

 

「女の子の足下が?それはなんとも面妖」

 

「「……………………」」

 

あまりに的確な指摘にアルトとアルベルトは押し黙るしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後危惧していた通り王室親衛隊が動いた。アルベルトが監視に放った使い魔達が王室親衛隊の動きを筒抜けにしていたのだ。王室親衛隊は女王陛下を自分達の監視下に置き、エルミアナ王女を抹殺すべく動いている。

 

そしてその肝心なエルミアナ王女は………

三人の元同僚グレンと共に王室親衛隊から逃げ回っていた。現在は王室親衛隊を撒き切っているようだ。三人は接触するには今しかないと思い近づいたのだが……

 

 

「《万象に希う・我が腕に・剛毅なる刃を》」

 

 

リィエルがこの機会を逃すはずもない。

リィエルの三節の詠唱によって地面がめくれ上がり、それを基としたウーツ鋼の大剣が錬成される。それをリィエルの細腕はなんら障害もなく握り。グレンに襲いかかった。

 

 

「いいいいやぁぁぁぁーッ!」

 

「リィエル!?ッちょま、だぁぁッ!」

 

 

ほぼ不意打ちにも等しいその一撃をグレンはなんとか避け切って『ウェポンエンチャント』によって自らの腕を強化する。素手であのウーツ鋼の大剣に対抗するのは流石に無理があったのだろう。

 

「はぁぁぁッ

《刃よ・再び我が腕に・宿り給え》!」

 

 

「なッ!?」

 

 

それはリィエルがこの一年間で新しく覚えた技、大剣の再錬成。グレンの腕を避けるように大剣が分解、グレンの腕を抜けた瞬間に再び大剣に戻る。それは余りに凶悪すぎる一撃だった。グレンにはそれに対処出来る手は無い。

 

 

 

 

 

 

「リィエル。………ッステェェェェェェイ!」

 

 

 

ピタッ!

 

アルトが大声でリィエルに呼び掛けをすると、グレンの顔の前でそんな効果音が聞こえる程の勢いで大剣が止まった。あまりの事にグレンは腰を抜かして倒れ込んだ。

 

「お久しぶりです。グレン先輩。元気そうですね。」

 

「ハァハァ、………訳がわかんねぇよ。死に掛けたぞ、今。」

 

「むぅ………」

 

リィエルはグレンとの決着を止められて少し不満そうだが、もう決着は付いていた様なものだった。収拾のつかないこの場を納めたのはやはりアルベルトだった。

 

「場所を変える。俺について来い。」

 

 

 




キャラ改変
止まる事を覚えたリィエル



そしてリィエルすこ


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被告人グレン=レーダス

裁判しようぜ
お前被告な!

それはともかく
リィエルすこ


グレン=レーダスは現在窮地に立たされていた。

自分が辞めた仕事の元同僚にまるで獲物を見るような目で見られながら人目のつかない場所まで連行され命を失いかねない状況に陥っている。

 

「被告人、グレン=レーダス。貴方はリィエル=レイフォードの教育係を放置し、そしてその間ニートでいた疑いが掛かっている。………何か弁明は?」

 

人も殺せそうな眼光で年上であろう男を睨む青年、アルトは怒り狂っていた。仕事を辞めるのはいい、ニートをやっていた事もまぁ許せる。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そ、それより今」ズガァッン!

 

「ヒィッ!?」

 

 

 

 

アルトの完全無詠唱による『フィジカルブースト』の掛かった拳がグレンの顔の横を通り過ぎ壁の一部を()()()()()。幽鬼の如く目でグレンを責め立てる様子を、2人の元同僚はただ見ているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……………まぁいいです。グレン先輩にはそれなりの事情と言うものもあったのでしょうから。俺からこれ以上言う事はありません。許すかどうかは別ですが………」

 

「は、はい。助かります。ほんとすいませんでした。」

 

グレンを見ると本当に反省をしている様だ、恐怖のあまり小動物の様に縮こまってしまっていた。最早アルトによる脅迫がトラウマになっていそうである。アルトもそれを見て必要以上に聞くことを辞めた様だ。

 

 

 

「……それよりグレン。私と決着を」

 

「いや、鬼かッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………話を戻すぞ。」

 

やはりこの収拾のつかない事態を納めたのはアルベルトであった。この様な事が起こる為、グレンが軍にいた時はこの集団で組む事が多かったのである。

 

「とりあえず今分かっているのは『王室親衛隊』にはそこの元王女のルミアさんを狙う理由があるって事ですね。ついでに女王陛下にもあり得ないほど厳重な監視を配備しています。」

 

「じゃあ女王陛下の周りは今、どんな感じだ?」

 

「陛下自身は普通に競技場の貴賓室にいる。陛下を取り囲んでいる王室親衛隊も上位幹部を中核とした先鋭だ。突破は至難の技だな」

 

難攻不落、例え戦闘行動になったとしても向こう側には奉神戦争を生き抜いた英雄、双紫電のゼーロスがいる。アルト達だけで相手をするのは少しばかり荷が重い。

 

「……………もういい。考えても仕方ないこともある。」

 

「「お前はもう少し考えろよ……」」

 

完全に思考を放棄したリィエルに主に保護者を務めていた2人が突っ込んだ。アルトは又か……と呆れ、グレンはこいつも変わってねぇなぁと感慨深くなっている。

 

「だから、私は状況を打破する作戦を考えた。」

 

「…………一応聞いてやるよ」

 

そう、リィエルは思いついたのだ、奴らの包囲網を突破して女王陛下の元にたどり着く為の作戦を。

 

「まず最初に私が敵に正面から突っ込む。次にアルトが敵に正面から突っ込む。最後にグレンが敵に正面から突っ込む。……そしてアルベルトが狙撃する。………どう?」

 

「「………………」」

 

「……………リィエルお前……成長し………いや待て、待て。流石に脳筋過ぎるだろ。そんなんじゃ突破なんて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

「は?」

 

その言葉を放ったのはアルトだった。余りにも脳筋過ぎる作戦、リィエルも作戦の中にアルベルトの狙撃と言う概念をねじ込む程の成長を見せたが作戦と言うにはお粗末過ぎた。だが……実行できてしまう、それが問題だった。

 

「まず双紫電は俺が抑えます。ほかの先鋭達もグレン先輩の『愚者の世界』があれば魔術を封殺出来ますし、弱体化させた奴も()()リィエルなら蹴散らせますし、アルベルト先輩の狙撃での援護もある…………確実とは言えませんが、成功する確率は高い。」

 

そう、問題とはリィエルの戦闘能力が成長し過ぎた為に、ある程度脳筋な作戦でも成功してしまうと言う点であった。戦力差からリィエルが高度な作戦を考えるより、脳筋作戦を実行出来る実力が付く方が早かった。

 

「さっき見たけど………今のリィエルってそんなに?」

 

「勝てはしませんけど、あのジジイの『魔闘術』と正面から打ち合えますね……」

 

アルトの言うジジイとは宮廷魔導師団、特務分室執行ナンバー9『隠者』のバーナードの事である。四十年前の奉神戦争の時に破壊魔人として恐れられた人間で、双紫電のゼーロスと共に英雄と呼ばれている。

 

「……………そ、そっすか。そのリィエルと決着付けないといけないの?死ぬよ、俺?」

 

「そう…………グレン、決着付ける気になった?」

 

「なる訳ねぇだろおおおおおおッ!?マジで何なの!?俺を殺したいの!?俺との決着に何でそんなに拘るの!?」

 

「………魔術師同士の決闘は勝者が敗者に要求を通せる。………そう聞いた。」

 

「ああ、そんなカビ臭い伝統があったな!それがどうした!?」

 

ちなみにこれはアルトがリィエルをグレンに嗾ける為に用意した情報だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………グレンに、どうしても帰ってきて欲しかった………」

それは()()()()()自分の人生で最も近しい人の1人と離れてしまった悲しみから生まれた願いだった。

 

 

 

 

 

 

「…………悪かったよ。いきなり居なくなって。………けど俺が死んだら本末転倒だろ?」

 

「……………確かに、グレン……鈍った?」

 

「お前が強くなり過ぎなんだよおおおおお!?」

 

確かにグレンが鈍ったと言う所もあるだろう。しかしグレンの最も冴えて居た時代のコンディションでも今のリィエルを正面から相手できるかと言うと首を傾げるしかない。

 

 

 

()()()。俺からも言う事がある。

お前が何も言わずに俺たちの元から去った理由、今は聞かん。帰ってこい、とも言わん。だが……いつか話せ。それがお前の通すべき筋だ。」

 

それはこの茶番を最後まで聞いていたアルベルトから、元同僚であるグレン、いや()()とも言える男へ向けた言葉だった。

 

「………ああ。」

 

 

 

 

「ふふっ、………先生の同僚の方、いい人達なんですね」

 

「…………」

 

グレンはルミアのその言葉に恥ずかしさからか曖昧に返すことしかできなかった。

 

 

「脱線させた俺が言うのはどうかと思うんですが……話を戻しましょう。」

 

「ああ。」「……ん」

 

「とりあえずリィエルの作戦は最終手段でいいでしょう。そもそも解決する手段を見つけなければいけませんからね。」

 

「………女王陛下に面会すれば、この状況の突破口になる筈だ。」

 

「根拠はなんだ?グレン」

 

「さあな?ただ、セリカがそうしろって言った。アイツはケチで意地悪だが、意味のない事は絶対に言わない。俺が女王陛下の前に立つ事に何か意味がある筈だ。」

 

セリカ=アルフォネア、四百年以上の年を生きた魔女、グレンの育て親に当たる人物だ。過去に神を殺したことさえあると言うこの国において最強の人物である。

 

「グレン先輩が………先輩。『玉薬』と『タロット』は?」

 

「『愚者の世界』はあるが………まぁ十中八九それだろうな」

 

『愚者の世界』それはグレン=レーダスの固有魔術、一定範囲内の魔術起動の完全封殺と言う、順当な魔術師相手には無双が可能な性能を有した魔術である。

 

「あとはどうやって陛下の元に行くかですけど……」

 

「俺に考えがある」

 

作戦立案者はグレンだった。

 




リィエルを布教し、ロリコンを増やすのだ
さされば日本は救われ(ないです)


それでも俺は
リィエルすこ


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作戦開始

リィエルで一句

アホっ子で
純粋無垢な
リィエルすこ
あ〜好き過ぎてたまらねぇ、あのリィエルの代名詞とも言える大剣で潰されるだ(ry

字余り沢山


グレンの考えた作戦、それは変装だった。

 

『セルフイリュージョン』と言う自分の周りの光を操作して変装する魔術によって、グレンとルミアをアルベルトとリィエルに変装させ、アルトとリィエルがグレンとルミアに変装する。

 

アルベルトは両者のサーポートとして両方が見える位置から狙撃での援護を行う。

 

グレンは現在魔術講師で学院の二組の担任教師である。しかしグレンはその身柄を追われているので向かう事は不可能。ならばそれ以外の人間に変装してクラスに入り込めばいい。グレンからの助っ人とでも言えばいい。

 

陛下の元に到達する事も可能だ、何故ならこの魔術競技祭での優勝クラスは女王陛下と謁見が可能、監督とする人間としていけば警備も抜けられるし、流石に謁見の時は陛下の体裁を保つためにその護衛を薄くしなければならない。

 

そして肝心の逃走する方の2人は言うまでもない、戦闘は最低限にそれでいて長く逃げればいいのだから。

 

優勝しなかったら?無論リィエルの作戦の出番である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたぞ!逃すな!?」

 

そしてアルトは現在、リィエルを脇に抱えて走っていた。抱え方に関してはアルトの主武装とも言える手を空けられる持ち方がこれだけだったからだ。

 

「止まれッ!止まらなければ、我らが魔導の威力を知る事になるだろうッ!」

 

しかし止まらない。それどころか警告をした騎士団に向かって走っているではないか。

 

「警告はしたッ!

《紅蓮の獅子よ・憤怒のままに・吠え狂え》!」

 

騎士団による魔術『ブレイズ・バースト』。前方に炎の様な爆風を起こすC級軍用魔術、殺傷性も高く魔術での防護をしていないと致命傷になりうるだろう。

 

「《我が手に鎧を》」

 

アルトが唱えた呪文、武器を強化する呪文でもある『ウェポンエンチャント』の改変魔術、『手甲』元の魔術から攻撃性をなくした分、持続力と強度を強化した魔術を腕にかける。

 

 

「なッ!?」

 

そして騎士達による爆風を()()()()()

 

『模倣東方武術 五の型 流転』

 

 

 

アルトの得意技の一つ、東方を武者修行して模倣を重ねた武術。本来は敵の得物や拳を受け流す技だが達人の域に至れは風すら受け流すことが可能な技だ。

しかし流石に爆風『ブレイズバースト』を受け流すのは魔術による防護が必要だが。

 

アルト曰く、自分が師事した人物なら防護もせずに魔術を受け流していたとの事らしい。

 

「くそッ!剣を抜けッ!」

 

敵の隊長らしき人間が出した命令に従い、向かってくる敵に向かって()()()()()()()()()()

 

「隊長!?剣が!」

 

リィエルによる超速の錬金術。どんな業物であろうとも錬金術によって刀身を失ってしまえば鈍らにすら劣ってしまう。悔やむべきはリィエルが錬金可能な金属で作られていた事だろう。

 

 

 

 

なす術もない騎士達をアルト達はすり抜けるように通り過ぎた。完全に敵の騎士をおちょくっているように見えるだろう。そしてアルトは敵に向かって振り向き。

 

「あるぇ〜?剣はどうしたんですか?忘れちゃいました?ダメじゃないですかぁ〜?ちゃんと持ってなきゃ。」

 

そう言いながらアルトは()()()()()()()()()()()。このインゴットの出所がどこであるか、など語るまでも無いだろう。アルトが言うにはグレン先輩の変装だから言動も本人を真似しないと。との事だ。

 

「貴様ぁ、ッ!?」

 

 

そして()()敵の隊長格の隣の騎士が倒れた。他の騎士達も同じ様に地に倒れ伏している。本人達にとっては原因不明だろう。敵が自分達を通り過ぎた瞬間に()()をしたとも思う筈だ。

 

 

 

まぁ実際はアルベルトによる魔術狙撃で気絶しているだけなのだが。顔を真っ赤にしてアルト達に注目していた騎士達がその可能性を考える事が出来なくても仕方がないと言ったところだ。

 

「ははははは!………さらばッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルト達の狙いは時間を稼ぐ事だ。グレンが陛下に謁見をする為でもあるし、()()()()()()()()()。アルトとリィエルはその別の件をアルベルトに任せている。適材適所といった所だろう。

 

騎士達を戦闘を続行不可能にならない程度に痛めつけ、増援を呼ばれる様に大袈裟な魔術や技を使う。陛下を守る護衛が少しでもこちらに回されればグレンの負担が減って御の字だろう。

 

『二組が優勝だぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

 

 

アルトは会場に響き渡るグレンの作戦が順調に進んでいる事を確認した。向こうにも増援に駆けつけた方がいいか迷っていると、リィエルの通信用の魔道具に連絡が入った。

 

「…………………わかった。」

 

「アルベルト先輩か?」

 

「ん、悪い奴見つかったって」

 

アルベルトからの報告、それは今回の任務の一つである帝国内部の内通者の発見である。前々からかなりの機密情報が筒抜けになっていたらしい。当然、特務分室による作戦なども筒抜けだったが三割はリィエルによって崩壊していた為、仕事への被害はあまり無かった。

 

アルトはグレンに今回の事件の解決を任せるのを迷った。凡百の魔術師ならグレン先輩が勝つが相手は英雄と呼ばれる人間だ。

 

「あー、まぁグレン先輩なら大丈夫か、多分」

 

「グレンは鈍ってるけど、負けないと思う。……多分」

 

本人は否定しそうだがグレンによる格上殺しは成功率が高い。危機的状況下においてグレンほど能力を発揮できる人間はそうそういないだろう。或いは悪運の強さと言う要因もあるかもしれない。

 

「じゃあ、さっさとアルベルト先輩と合流しよう」

 

「……ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

集合地点には既にアルベルトが待っていた。待っているアルベルトの雰囲気は険悪だ、余程宜しくない調査結果でも出たのだろう。

 

「来たか」

 

「はい、結果の方はどうでした?」

 

「………事態は深刻だ。内偵調査の結果、内通者を発見した。目標は既に離脱を始めている」

 

「やっぱり居たんですか、内通者。名前は?」

 

「女王陛下付きの侍女長、エレノア=シャーレットだ」

 

「は?」

 

「…………誰?」

 

リィエルは覚えて居ないが、帝国の女王陛下に近い立場にいる人間なら一度は見たことがあるはずの人間。侍女長という立場なら帝国の機密情報や作戦情報が漏れていたとしても不思議ではない。

まぁ作戦が漏れていたとしてもリィエルが参加すれば作戦など無くなってしまうのだが。

 

「…………もしかして天の智慧研究会(クソ野郎共)ですか?」

 

「………そうだ。殺しはするな、捕らえて組織の情報を吐かせる」

 

アルベルトはアルトの()()に染まった目を見て、一応窘めた。殺しはしないだろうがアルトの過去は彼らを復讐の対象としていても不思議では無いものだからである。

 

「…………………了解」

 

「………アルト、怒ってる?」

 

「ノーコメント」

 

「いたぞ。あそこだ」

 

人の出入りが少ない路地裏、逃走経路としては上出来そうだ。見つかってしまったのはアルベルトの追跡能力の高さからだろう。そもそも彼に狙われて凡百の魔術師が逃げ切れる訳ないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、見つかってしまいましたか?」

 

「天の智慧研究会の外道魔術師、エレノア=シャーレット。はっきりとした出自、あまりにも優れた経歴、卓越した能力……今思えば、その素性に何一つ傷が無いからこそ怪しいと疑うべきだった」

 

路地裏に居たのはアルベルトの報告通りの人物、女王陛下付きの侍女長、エレノア=シャーレット。最早内通者である事も隠す気もないのか、普段は見せない様な不気味な気配を漂わせている。

 

「今回の件の首謀者はあんたか。全くクソ共は訳の分からない事をしやがる」

 

「お前達は、一体何が目的だ?以前、学院で起きたテロ事件ではエルミアナ王女を誘拐しようとしたが、今回は殺害しようとした……行動に一貫性がない。お前の組織は一体何を企んでいる?」

 

「…………『禁忌教典(アカシックレコード)』」

 

「またそれか…………」

 

天の智慧研究会に所属する魔術師が口を揃えて言う言葉、禁忌教典。それが何なのかは頑なに話さないが、天の智慧研究会の奴はこの言葉だけは話す。ロクでもない物であるのは確かだろう。

 

「そう、我々が目指すは大いなる天空の智慧、そのため王女……とでも言っておきましょうかしら?」

 

「生死は問わない……と?」

 

「もちろん生きていらっしゃる方が良いのですが、急進派とでも言いましょうか……組織の中にはせっかちな方も居ますので、ふふっ」

 

エレノアは笑いながらも多少は情報を漏らした。いや態とである事は確実だ、知られても良い情報若しくは、知られた方が都合の良い情報だったのだろう。

 

「アルベルト先輩………なんかコイツ今のうちに殺した方が良い気がしてきました」

 

「待て、殺すな。捕らえて組織の情報を吐かせるべきだ」

 

「……………どちらにせよ、斬る」



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学院へ

うーんリィエルが薄い

最も濃くリィエルを活躍させなくては……
さもなくば……リィエルすこ


アルト=マツバの朝は早い。

 

彼の朝は自作した目覚まし用の魔術によって始まる。彼の魔術の専門は人体に関する白魔術、それも自身の肉体に魔術をかける事に適性がある。寝ている時に長時間詠唱を待機させ、一定時間後に発動させる。高等技術の無駄遣いに帝国の士官が見れば卒倒しそうな光景である。

 

「ふわぁ〜……………飯作るか」

 

アルトは東方で武者修行をしていた事がある為、朝食は米になる事が多い。米を炊くのは自分の分、そして自分の同僚の分だ。アルトがこの仕事を始めてから少しした頃に知り合った……いや、拾った少女の事である。

 

「♪〜〜〜」

 

彼に家族は居ない。正確には()()と言うのが正しいが、既に死んでしまっている。それが原因で彼の心には()()()()を抱えているが今は話す必要も無いだろう。

 

ガチャ

 

「リィエルー!起きろー、朝だぞー」

 

部屋の扉を開けると彼の同僚の青髮の少女が眠そうにしていた。ありがちなラブコメ展開では少女に追い出されそうだが、この少女、リィエル=レイフォードにはそんな乙女の様な思考は存在しない。

 

「………………ん、おきた」

 

「おはよう。ほら、こっち来い」

 

アルトはリィエルを目の前に座らせ、その荒れまくった髪を櫛で梳く。リィエルの髪は質はいいが寝癖が酷い。しかしその髪質から真面目に手入れをすればそれ相応の物になるだろう。生憎本人は興味が無い様だが。

 

アルトも毎日やっている訳ではない。例えば勲章の授与式、陛下への謁見。潜入任務の時など必要な時にしかやらない。

まぁ、任務の内容からこれから毎日やらなければいけないのだが。

 

「今回の任務は長期の護衛だ」

 

「……ん」

 

「対象はルミア=ティンジェル。グレンのクラスの生徒だ」

 

グレンの名前を出すとリィエルは少し反応した。髪を弄られているので余り動く事は無かったが自分を拾った人間のうちの一人、グレンには思うところがあるのだろう。

 

「……決着を」「つけんで宜しい」

 

「……?なんで」

 

髪を弄るのも終わった為、大幅に首を傾げたリィエル。表情筋は動いていないがこう言う感情表現は多彩になっている。

 

「護衛をする為に、グレンのクラスに編入するからだ。平日は毎日の様に会えるぞ」

 

「わかった」

 

アルトはリィエルの世話をしながら手元の資料に目を通す。あの学院の情報である。食堂があり、弁当を作る必要が無いのは事前に確認済みだった。確認すべきは学院の構造や生徒、教授についての情報だ。不審人物を特定したり、逃走経路を確保したりするのには必須である。

 

 

 

 

 

 

「いいか?自己紹介では軍属である事を話すなよ?」

 

「……ん」

 

「あとグレンに斬りかかるのもダメだ」

 

「ん」

 

「ハンカチ持ったか?」

 

「ん〜…………ん」

 

「クラスの奴らとは仲良くしろよ?」

 

「ん」

 

「後は………」

 

「アルト」

 

「何だ?」

 

「覚えた」

 

「…………ならよし」

 

 

 

 

 

 

 

 

フェジテの中心部から少し離れた所にある割と上等な住宅街。貴族などの屋敷が並ぶ場所の中にある借家。アルトが新しく住もうと借りた場所だ。護衛対象のルミア=ティンジェルが住んでいるフィーベル家も近く護衛には丁度良い物件だ。

 

アルザーノ魔術学院の制服に着替えた二人は家を出てその通学路を確認する。無論その道筋は護衛対象と同じになる様にしている為、最近ルミアの護衛を自主的に始めた人物に会う事は必然だった。

 

「おはようグレン……先輩?先生か」

 

「おお!アルトか。お前が来てくれるのは頼もしいな。頼むぞ」

 

「まっ、その前に一発」

 

アルトによる割と全力の拳がグレンを掠めた。

アルトは完全に当てる気だったのだが、この至近距離で回避されたのはグレンの格闘術に対する非凡な才能の為だろうか。

 

「あぶねッ!?今完全に当たったら首が逝ってたコースだよ!?」

 

「やだなー、軽い挨拶ですよ」

 

「挨拶!?お前そんな非常識な事やらないだろ!完全に嘘だよな!?」

 

「ん、私もグレンに挨拶する」

 

「やめて!?」

 

 

 

 

「あの〜、その子は?競技祭の時の……」

 

すると護衛対象であるルミアの友人システィーナ=フィーベルはリィエルの事を少し覚えていたのかグレンに質問した。

 

「ああ、白猫はリィエルの顔ぐらいしか知らないよな。こいつらは俺の宮廷魔導師団時代の同僚だ。」

 

「アルト=マツバです。よろしく」

 

「ん、リィエル=レイフォード」

アルトとリィエルは二人に軽く挨拶をした。仮にも美少女である事からアルトの二人に対する印象は上々である。顔には出ていないが、リィエルは護衛対象に興味がある様だ。

 

「改めて自己紹介しますね。私はルミア=ティンジェルです。で、この子が私の友達のシスティーナ。宮廷魔導師団の方達が来てくれるなんてとても心強いです。これからよろしくお願いしますね?」

 

「ああ。よろしく」「ん、任せて」

 

グレンは前々から疑問だった事を聞く事にした。何故、何故よりにもよってこの二人なのか。確かにリィエルはアルトがいれば多少は暴走しないとはいえ、護衛任務に向いてるとはお世辞にも言えなかった。

 

「そもそも、何でお前らなんだ?言っちゃ悪いが…………」

 

「あー、ほんとはクリストフとかが適任なんでしょうけど………人手不足ですかね。それで突撃任務以外で暇を持て余している俺達が護衛を」

 

アルトは自分が配置された理由を意図的に曖昧にして伝えた。そもそもアルトが送られたのはルミア=ティンジェルの護衛として送られたのもあるが、別の任務の為という面が強い。

 

「安心して………斬るのと壊すのは得意」

 

「いや、安心できないから。マジで」

 

「……?」

 

リィエルは自信満々に言い放ったが、言っていることは確実に狂戦士のそれである。帝国軍の最終兵器とか呼ばれている二人を護衛任務に回すのはお門違いもいい所だ。グレンもドン引きである。

 

「まぁ、マジレスするとグレン先輩と共同で護衛をするなら俺らが妥当な所ですね」

 

「お前ら俺を酷使する気満々かよ………」

 

「魔術師相手ならグレン先輩、切り札的な存在ですし」

 

グレンの『愚者の世界』と言う固有魔術は対魔術師戦において最大の切り札と言ってもいい。そしてアルトとリィエルはその『愚者の世界』による影響が少ない。

 

迂闊にこの布陣に飛び込めば、魔術も発動出来ない状態で殴られ、蹴られ、殴られ、斬られ、斬られ、殴られて完全に再起不能コースに送られる事は確実である。

 

「まぁ、グレン先輩は鈍ってますから……勘を戻して貰わないと」

 

「……………それってやっぱり?」

 

グレンは確かに凡百の魔術師よりは強いが、天の智慧研究会の先鋭や幹部陣を相手取るには少し足りないとアルトは思っている。

 

「俺かリィエルと模擬戦ですね。」

 

「やめて!ボク死んじゃう!?」

 

「グレンなら大丈夫。………多分」

 

「マジで何なの!お前らの俺に対する異常な期待は!?」

 

「グレン先輩の生命力はG並ですから。割と死なない事は周知の事実ですよ」

 

「………それ、褒め言葉?」

 

茶番はともかく、学院へ向かったアルト達。

グレンが毎日のように美少女二人を連れて登校している事への嫉妬の視線や、見知らぬ生徒がいる事への好奇の視線に晒されてながら歩いている。

 

「あっ、ティンジェルさんとフィーベルさん。俺がいない時はリィエルの事頼みますね。甘い物で釣れば大体何とかなるから」

 

アルトは思い出したかのように特大の地雷を落とした。このイノシシを止める役目をか弱い少女に託すのは正気の沙汰では無いが、そもそも止める人間がいなければどんな事が起こるのか予想も出来ないだろう。

 

「………?大丈夫、私に斬れない物はない。」

 

「「………………」」

 

「ほんと、いつもこんな感じなんで。流石に斬りかかる事は無い………筈、です。……多分」

 

アルトは話していながら自分の言っている事に不安を持ち始めた。しかしこんな事を頼めるのはこちらの事情を知っているこの二人だけなのだ。

 

「いいわよ。……ね、ルミア。」

 

「うん。任せて」

 

「あなた達が神か…………リィエル、二人の言う事は聞いておけよ?」

 

「ん、二人ともよろしく」

 




自己紹介やろうとしたけど区切った方がいいなこれ。
というわけで
リィエルすこ


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事故紹介(誤字に非ず)

リィエルすこ

主人公の名前適当に決めすぎたので少し修正しときます、アルト=マツバ

下の名前もアルベルトと被ってて面倒なんだよなぁ、そこは変えないけど。



今朝方、見知らぬ生徒がグレンと共に登校してきた事から、もう新しい編入生、若しくは転入生がこの学校に来る事が噂となっていた。

 

「はーい!今日はお前らの予想通り、編入生が来る。それもこのクラスに二人だ。なんだウェンディ?」

 

「二人ともこのクラスに来るのですか?」

 

「あー、なんだ。二人とも俺の知り合いなんだよ、だから俺に任せるんだと」

 

確かに、編入生が二人同じクラスに振り分けられるのはおかしい。アルトはこの質問を予想していたので、グレンに対応するように助言していた。

 

「後の質問は編入生にしてくれ。入ってこい。」

 

グレンに促され教室に入ったアルトとリィエル。

リィエルは丁寧に手入れされた海のように青い髪を靡かせ、無表情な顔さえ気にならない程の美少女だ。その小柄な体格からは平時の力強い戦闘なんて一切想像出来ない。

 

「か、可憐だ……」

 

「守ってあげたくなるタイプの…」

 

一方アルトは黒髪の美男子である。リィエルより少し大きいぐらいの体格で、同い年の男子と比べて少し小さいぐらいだ。しかしその体格からでもどこか力強さを感じる。

 

アルトはリィエルに反応した男子を要注意人物として目を付けた。色恋などの感情では無く、リィエルの教育に悪そうぐらいにしか思っていないが。

 

「じゃあ自己紹介を頼む。」

 

「ん、リィエル=レイフォード。出身は不明、好きなものは甘いもの得意なのは錬金術。趣味は……………………」

 

リィエルは自分の趣味を言おうとしたが特に趣味と言えることが無かった。そこで助けを求める為にアルトを見るが。

 

「何故そこで俺を見るんだ?……………」

 

アルトはリィエルが自発的に自己紹介をして欲しいと思っているのであまり助言をしようとは思っていなかった。

 

「むぅ……………………」

 

「…………………………、甘い物を食う事とでも言っとけ」

 

リィエルは上目遣いを覚えた。

 

一体何処の誰が教えたのかは分からないがアルトへの効果は抜群だった。教えられるのは特務分室の女性だろう。そうなると上司の赤髪女か、もしかすると元同僚でグレンにゾッコンだった方かもしれない。

 

「ん、その手があった。」

 

「はぁ……全く。あー、俺はアルト=マツバ。一時期東方に住んでた事があるね。趣味は格闘と料理。得意なのは白魔術だ」

 

「よし、じゃあ二人に何か質問ある?」

 

これも転入生や編入生の定番と言える。答えられる範囲なら何かを質問する。今のアルト達の会話を見て何が気になったのかは聞くまでも無いだろう。

 

「じゃあ俺が、二人はどんな関係なんだ?」

 

「…………難しいな、俺は家族だと思ってるよ」

 

「ん、それが妥当」

 

「「「………………」」」

 

熟年夫婦。二人を表すならこの言葉が一番近いだろうか、恋人同士より進んでいるのに何故か冷めた関係に見えてしまう様なものだ。互いの距離が近すぎて恋愛感情が生まれない。

 

リィエルはその感情を持っているのかが怪しいが。

 

「えーと、グレン先生とは何処で知り合ったんですか?」

 

「ん、拾われた」

 

「え?」

 

その質問にはリィエルが真っ先に答えた。特に理由は無かったのだろう。ただ自分が覚えている事だから口に出たのかもしれない。ほぼ反射的なものだろう。

 

「グレンとアルトに拾われた。だから私がいると思ってる。」

 

「あー、なんだ孤児的な奴だよ。それを俺とアルトで見つけたんだ。」

 

グレンの苦し紛れのフォローに生徒達も信頼している先生の言葉である事から一応納得した様だ。

 

「す、好きな異性のタイプとかは?」

 

「ノーコメント」

 

「?私はアルトが好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

リィエルによる衝撃発言はこのクラスに一瞬の沈黙を齎した。余りにもあっさりと答えた事でその場の全員が理解するのに数秒は掛かったのだろう。一番最初に復帰したアルトも混乱していた。

 

「「「何ぃイイイイ!」」」

 

「きゃああああ!大胆〜!」

 

「イケメンな事さえ許せねぇのに、すでに編入生も………体育館裏を借りなきゃいけねぇなぁ!」

 

「ちょっと待て!リィエル、この質問は恋愛対象について聞いてるわけで……………よく考えて答えてくれ頼むから」

 

「?よくわからない。アルトが好きじゃダメなの?」

 

アルトは弁明したが理解はできなかった様だ。当然であろう、リィエルに教育しているアルトが教えていないのだから。リィエルは教えた事を実践するのでアルトが意図的に後回しにしていたのだ。

 

今回はそれが仇になったと見える。

 

「………………あー、リィエルは恋愛に興味が無いっぽいので、あくまで家族として!家族として!好きなんだよな。うん。」

 

「…………ん、そうかも」

 

「なら、いいのか?」

 

「いや待て、そのまま発展しないとは限らない。早めに芽を摘むべきでは?」

 

アルトの起死回生?の一手によって周囲の反応は一応収まった様だ。肝心な部分を弁明できたかは首を傾げざるしかないが。

 

こんな事もあり教室内では二人は無自覚バカップルという認識に収まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後()()()()適当に授業をこなしながら昼食の時間になった。そして案の定リィエルは授業で大暴走したのでクラスの人が話しかけづらい状況になっている。

 

「むぅ、潜入って難しい」

 

「いやいやいや、普通にリィエルがムキになって暴れただけだろう、流石にアレを投げるのはアカンよ」

 

「ん、気をつける」

 

「じゃあリィエル。女友達を作ってこい。今朝の二人でいいから飯にでも誘え。俺は別で食うから」

 

「…………わかった」

 

アルトはリィエルの友人関係を広げさせる為に護衛対象を利用する事にしたらしい。別にアルトがやってもいいのだが、編入生がやるより元からいる人間に頼る方が効率的だと考えたのだろう。

 

 

 

 

リィエルを見送り、自分も昼食に行く友人でも探そうかと周囲を見渡す。…………だが今朝の事故紹介のせいだろうか、敵意の篭った視線を感じる。

 

「グレン先……生。飯いきましょうよ」

 

「おま、リィエルは?どうした。一人にして大丈夫なのか?」

 

どうやらグレンは先程授業で壊した機材の件で絞られたらしい。完全にとばっちりとも言えなくもない。アルトは静かに同情して飯を奢ることにした。

 

「少し友達でも作らせようかな?と。敵がいないなら問題は起こしませんよ」

 

「さっき問題になったんですが………」

 

「それは偶然、若しくは事故ですね、お詫びに飯を奢りますよ」

 

「おお!マジかよ助かるわ」

 

そう言ってグレンは意気揚々と学生達の列に並んだ。リィエルが大量のタルトを机に持っていく所を見たが、アルトは幻覚を見た事にしたらしい。

 

「A定食とB定食を大盛りとこのサラダを頼む」

 

「遠慮が無いですね、まぁいいですが。俺はC定食の大盛りで」

 

「しっかし、お前が来てくれて助かるわ。流石にリィエルが成長したって言っても潜入は難しそうだからな」

 

「そうですね。止まる事は覚えさせたんですが、その他の事はね………まぁこの護衛任務で覚えてくれるといいなぁ」

 

アルトはリィエルの成長を願っているがそこまで過度な期待はしていなかった。精々少し友好的になってくれればなぁと思っている。それだけでも帝国軍でやっていくには十分だろう。

 

「あ、そういえば俺、白猫に魔術戦の駆け引きを教える過程で拳闘をやってるんだが、手伝ってくれないか?」

 

「白猫?ああ、フィーベルさんですか。帝国式じゃなくて大丈夫ですか?」

 

「ああ。想定外の技を使ってくる敵を対応させる訓練になるだろ?」

 

アルトが使うのは帝国式格闘術ではなく、東方で培った全ての流派のいいとこ取りとも言える複合格闘術だ。同じ様な事が出来る人間もいない。

 

「成る程、じゃあその時にでもグレン先輩を鍛え直しますか」

 

「…………え"」

 

「リィエルも最近暴れ足りなそうですし、良いかもしれませんね」

 

「ちょ、マジ?おれ俺を殺す気か?」

 

「大丈夫ですよ。()()()俺がグレン先輩に合わせます」

 

「なら、いいのか?」

 

しかしグレンは翌日地獄を見る事となる。

あくまで、最初は、合わせるので後にどうなるかは語るまでもない。

 

 

 




リィエルはアルトへの好意を持っているが自覚はしていない。
家族としての好意ならグレンとアルトになる筈ですし。その辺を今後どうして進めるかが、……リィエルすこ


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悪夢(尚グレンのみ)

なんかランキングに上がってる………

しかしそれよりリィエルすこ


「《万象に希う・我が腕手に・十字の剣を》」

 

明け方、フィジテの高級住宅街の空き地に対峙する青年と少女。少女の手には今し方、錬成された鋼の大剣が握られている。

 

一方青年は完全に無手だ、しかしその目には闘志を宿らせ、敗北なんて微塵もするつもりは無い。

 

「ッ!いいいいゃああああッ!」

 

二人の人間が息を飲んで見守る中、最初に動いたのはリィエル(少女)だった。大地を削る様な踏み込みと共に青年に斬りかかる。その速度は並みの魔術師では対応出来ないだろう。

 

「よっと」

 

アルト(青年)はその一撃に真っ向から向かい合うつもりは無い。あのアホみたいな力で振られる剣を素手で対応するのは得策ではない。例え迎撃出来たとしても、再錬成されるのがリィエルの怖い所であろう。

 

「ッ!」

 

「《鎧よ》」

 

リィエルの振り下ろしから、止まる事のない連撃が始まった。技術も技も無い、ただ力のまま脅威的な速度で振るわれる大剣を前にして、青年も魔術の使用を強いられる。

 

ギャリッ

 

魔術によって防護を作った腕で大剣を踊る様に受け流す。しかしリィエルは、ほぼ毎日こうやって対処されている。それ故に対応も出来上がっていた。

 

「《我が腕手に、ッ!」

 

リィエルは剣を振り上げながら魔術の詠唱を開始した。その振り上げも容易く避けられるが、リィエルの目的は当てる事では無い。

 

 

リィエルは()()()()()()()()

 

「ッ!?」

 

「十字の懐剣を》」

 

そして空いた手によるボディブローを叩き込みながら詠唱を終えて、空いた手に短剣を錬成した。ボディブローは防がれたが短剣を防御する()()アルトには無い。

 

「脚は空いてんだよ!」

 

そこからのアルトの反応は早かった。リィエルに脚を掛けて重心を崩させ転がし、距離を取らせ……

 

「《功》ッ!」

 

『ウェポンエンチャント』の改変魔術、効果時間を一瞬に、威力だけを求めて改変された魔術式。完全に玄人向けの魔術である事は言うまでも無い。

 

忘れた頃に()()()()()()()()()()()殴って壊す。

 

それだけの攻防を繰り広げても二人の闘志は揺るがない。勝利を得る為に次なる策を巡らせ様としたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、

お前ら怖すぎるんですけどおおおおおッ!?」

 

そしてグレンの心からの叫びが二人の()()()を中断させた。

 

「そうですか?」

 

「ん、いつも通り」

 

「いつも通り!?こんなのを毎日やってんの!?バカなの?アホなの?死ぬの?」

 

グレンの言うことも最もだ。こんな激しい模擬戦を毎日の様に繰り返す人間は帝国軍、いやこの国には存在しないだろう。何より驚くべき事は魔術師だと言うのに騎士よりも数倍は激しい近接戦をしている事だ。

 

「でも、グレン先輩にはこの中に入って三つ巴の戦闘をして貰うつもりなんですが……」

 

「殺す気か!いや死ぬぞ!?絶対死ぬぞ!?」

 

「またまた〜。全盛期のグレン先輩なら1分はいけますよ。」

 

無論フル装備での話だが。グレンは()()の教えを受けているので非常に引き出しが多い。拳銃、飛針、鎖、拳闘、魔術の封殺、そして必殺の魔術が()()

 

最後の二つに限っては当たれば絶対殺せる様な性能がある。

 

「1分しか生きられ無いじゃないか……」

 

「俺達からすれば1分()なんですけどね」

 

「ったく……白猫、こいつらの真似はするんじゃねーぞ。魔術師として絶対異常だからなこいつら……」

 

「大丈夫。グレンも相当ゲテモノ」

 

「私、ここにいるのが不安になって来たわ……」

 

誰一人として、真っ当な魔術師がいない。これでどうやって魔術戦を教えると言うのか。だが安心してほしい、この集団は特務分室の中でも特に魔術師してない奴ら筆頭である。他はちゃんと魔術師している。

 

「まぁ、魔術戦を学ぶより戦闘センスを磨くのが先ですね。それならこのゲテモノ集団が最も上手く教えられますし」

 

「そうだな、リィエルはともかく。俺は拳闘を、アルトは東方の武術を教えられる」

 

「むぅ………」

 

リィエルはむくれているが、本人は何も考えず類稀なる戦闘センスに全てを委ねて戦っているのである。完全に感覚に身を任せている為に、何かを教えるのに向かないのはリィエルも理解していたので何も言えなかった。

 

「俺も白魔術のスペシャリストを名乗ってますから怪我の心配も必要ないですし。とりあえずグレン先輩は………」

 

「ま、待ってくれ!猶予が欲しい。俺には無理だ!」

 

「大人しくリィエルによって三途の川を渡りましょう」

 

アルトによる死刑宣告が通達され、待ってましたとばかりに執行者(リィエル)がグレンににじり寄る。

 

「ヒィッ!やめて!許してください!いやぁぁあああああ!」

 

グレンの悲鳴が響いているが安心して欲しい。

 

 

 

 

既に騒音を遮断する結界を張っているので近所迷惑にはならない。ちなみにグレンには安心する要素は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワ

 

「…………あー、これからお前らが行く『遠征学修』のガイダンスを始めます………グフッ……」

 

「……おい、グレン先生なんか様子がおかしくね?」

 

「ああ、いつにも増して何かを()()()()()()様な……」

 

「それだけダラけているのに、あのシスティーナでさえ何も言わないなんて、一体何が?」

 

グレンは今朝の事で全ての気力を使い果たしてしまった、模擬戦ではあるが今までで一番生命の危機を感じたかもしれない。グレンはそんな事を考えながら自らの体に鞭を打って授業を始めた。

 

「このクラスが行くのは、あー『白金魔導研究所』か」

 

「えー、別の場所が良かったぜ。な?アルト」

 

「んー、俺はどこでもいいんだけど………」

 

アルトは魔術の研究にそこまで興味はない。魔術を使うのだって便利だからと言う理由だし、既に固有魔術(オリジナル)も完成しているので魔術に関する研鑽の必要性を感じていなかった。

 

「フッ……甘いぞお前ら」

 

「うわっ、急に元気になったよこの人」

 

「シャラップ!お前らこの『白金魔導研究所』がどこにあるのか知ってるか?」

 

「………確かサイネリア島ですね」

 

「サイネリア島…………リゾート地として有名なッ!?」

 

サイネリア島は霊脈の関係で水が綺麗でありリゾート地としてもかなり有名である。『白金魔導研究所』がこの場所にあるのも、この地の綺麗な水を実験に使用する為だと言う。

 

「そうだ、自由時間も多めに取ってある………そしてこのクラスの女子は総じてレベルが高い。何が言いたいのかわかるよな?」

 

「先生!あんたに一生ついて行くぜ!」

 

グレンが男子生徒達と交流を深めているが、女子生徒達はその様子を見て冷ややかな視線を送っていた。

 

「ん、海に行くの楽しみ」

 

「そう言えばリィエルはまだ行った事なかったか」

 

「アンタ達も偶には息抜きすればいいんじゃない?」

 

「そうですね……最低限の護衛以外は()()に丸投げしようかな」

 

リィエルが楽しみにしている旅行先でさえ仕事に追われるのはあまり良くないだろうとアルトは考えた。最近は外道魔術師の襲撃はリィエルとアルトをメインに対応しているのでリィエルも疲れているだろう。

 

「ていうかリィエル水着持ってたっけ?」

 

「ん、イヴに貰ったのがある」

 

「イヴさんが?………なら大丈夫か」

 

アルトはあの真面目上司が何故リィエルに水着を渡したのか疑問に思いながら、あの人が渡したならまともだから安全だと考えた。

 

その判断を後々後悔することになるが。

 




感想評価ありがとうございます。

これでリィエルが好きな人が増えてくれたらいいなぁ……





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水着回ではない(スク水はある)

おや……不穏な流れが……

そしてリィエルすこ


アルザーノ帝国魔術学院、その近郊。

人の寄り付かない裏路地に二人の男がいた。一人はアルト=マツバ、学院で護衛任務をしている帝国軍の暗部の一人だ。

 

「特に情報は無いですね。向こうも使い捨ての手駒を送りつけてるみたいですし」

 

「そうだな。奴らは情報の制限を徹底している。襲撃自体も組織の末端の処分だと思っているのだろう」

 

もう一人はアルトの同僚である帝国軍特務分室に所属している魔術狙撃の名人。コードネーム《星》のアルベルト=フレイザーである。

 

二人が話し合っているのはリィエルとアルトが学院に潜入してから、天の智慧研究会の襲撃が多くなった事についてで、どうやら組織は我慢の効かない不穏分子をこちらに送り込んで処分させているらしい。

 

「面倒な奴らですね、流石は天の智慧研究会(クソ共)だ」

 

「……………情報を吐かせるまで殺すなよ」

 

「これでも公私混同は()()()()しないタイプですよ」

 

「公私混同している所が問題なんだがな………まぁいい。()()はお前に任せよう」

 

アルベルトの言う公私混同とは言わずもがなリィエルの事なのだが、アルベルト本人もそこまで問題視していないらしい。何かあってもアルトがどうにかすると思っているのだろう。

 

「まぁ、何かあったら()()()()()ケジメはつけるんで………」

 

「フン、少なくとも()()()()()()安心できるな」

 

アルベルトはそう言って去って行った。

その背中を見るアルトは何処か悟った顔をしていた。

 

「遺書でも書くかなぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ただいま〜」

 

アルトは現在住んでいるアパートに戻ってきた。アパートと言ってもかなり高級な部類に入るが、あまり金を使わないアルトとリィエルは給料が有り余っているので特に問題はない。

 

「ん、おかえりアルト。……これ、どう?」

 

「………………………」

 

帰宅したアルトを出迎えたのは()()()()()()に身を包んだリィエルだった。アルトはあまりの衝撃に言葉を失った。同居人がスク水で出迎えてくればこんな反応になっても仕方ないのかもしれない。ご丁寧に名札の所にリィエルと名前まで付いている。

 

「………それ、なんて言って渡されたんだ?」

 

「?イヴは私なら似合うって言ってた」

 

「…………クソアマめ」

 

真相は《隠者》のバーナードの策略によりリィエルへと回って来ただけなのだが………アルトはそれを知らないので自然に上司にヘイトが向かった様だ。

 

「…………似合わないの?」

 

リィエルの往来の体型もあって、アルトは不覚にも似合っていると思ってしまう程だ。しかしそれを公衆の面前に出すのは非常に宜しくない。

 

「ッ………似合っては、いる。が別のを探した方がいいぞ」

 

「なんで?アルトはこれ嫌い?」

 

リィエルはかつての同僚に教わった上目遣いを駆使してアルトに詰め寄る。アルトは理性が削られそうな状況の中、正しい答えを見つけ出そうと躍起になっている。

 

「あー、あれだよ。…………倫理的によろしくない、です。」

 

「…………そう」

 

折角貰った物を使えない事にリィエルがあからさまに落ち込んでいる。アルトはそれを不憫に思いつつ、妥協案を提示することにした。

 

「そうだな、幸い『遠征学修』まではまだ時間がある。今度あの二人とでも水着を買いに行ってきたらどうだ?」

 

「ん…………そうする」

 

「………俺も準備を始めるとしますかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやって来た『遠征学修』当日。

そこには大量の荷物を持ったアルトとリィエルの姿があった。

 

「お前ら………なんだその荷物?」

 

グレンは呆れながらも実は護衛の為の道具だったりするのだろうかと淡い期待を持った。しかし年相応に遊ぶ為の道具を大量に持ってきただけである。

 

「ん、浮き輪とか、ボートとか持って来た」

 

「俺は釣竿と銛で魚でも獲って焼こうかなと思いまして……その辺の道具を一式」

 

「お前ら遊ぶ気満々じゃねぇか…………まぁいいんだけどよ。偶には羽を伸ばすのもいいだろうな」

 

グレンも流石に遠征先では奴らは襲ってこないと思っているのだろう。リィエルも今回は任務をまともに遂行するつもりは無かった。

 

「遠征先でも鍛錬はやりますよ?」

 

「…………マジで?」

 

「ん、グレン七割ぐらい戻った。これから倍はいける」

 

「そんな修羅の世界入りたくねぇえぇぇぇぇ!」

 

「大丈夫ですよグレン先輩。修羅コースなら蘇生の魔術も使いますから。まだ優しい方ですよ」

 

「お前らは不死身か何かなのか!?」

 

実際アルトが帝国軍に入る前、東方で武者修行していた頃はかなりの回数、自作の蘇生魔術のお世話になったのだ。教わった人間?が悪かったのもあるが、アルトの中では東方は修羅の国だと言う認識だ。

 

 

 

 

 

 

 

そして一行は馬車にて1日を過ごしてから、船に乗って目的のサイネリア島へと到着した。

 

「おー、観光地と言うだけあって景色が良いですね」

 

「……あぁ……うぷっ」

 

「先生、しっかり……」

 

グレンは船旅で完全に酔っていた。馬車は大丈夫だった様だが船は苦手らしい。アルトもここまで酷いと鍛錬も出来ないと思ったのかグレンに施しを与える様だ。

 

「はぁ……《その身に調律を》《意識よ・均衡を保て》」

 

アルトによる基本の白魔術『ライフアップ』と『マインドアップ』を改変する事で、グレンの自律神経を正常に戻し、崩れた平衡感覚を正常に戻した。

 

「お……ありがとな。割と良くなったわ」

 

「今のは?」

 

グレンの船酔いが治ったのを見て白魔術が得意なルミアも知らない魔術に興味を持った様だ。当然だろう、船酔いを治す魔術なんて存在しないのだから。

 

「あー、魔術における裏技の一つですね。本来の効果を制限して浮いた分のリソースを目的効果に使うんですよ。今回で言うとライフアップを自律神経にマインドアップは平衡感覚を強化させました」

 

「へー、そんな事も出来るんだ」

 

「まぁ、でかい怪我ならそれ相応の魔術を使わないといけないんですがね。軽い症状だったらマインドアップかライフアップで割とどうにかなったりするんですよ」

 

「ふぅ、アルトはそこらの法医術師より腕が良いからな。色々参考にするといいぞ」

 

グレンが言うようにアルトは白魔術が得意で、魔術特性もそれ向きである。武者修行時代から無駄に怪我も多く自分で治す機会も多かったのでそれ相応の技量が身に付いたのだ。

今では粉砕骨折した腕をおよそ10分で完璧に直せるのだと言う。

 

「おーいアルトー!早く行こうぜ!」

 

「あいよー!じゃあリィエル任務は頼んだぞ。」

 

「ん、任せて」

 

クラスメイト達が旅館の部屋に移動し始めたのでアルトは護衛対象と一旦別れることになった。例え別れたとしても大抵の襲撃はリィエルがなんとかしてくれるだろう。

 

グレンも旅館の手続きなどがある為その場を離れる事となった。

 

 

 

 

アルトと男子生徒達の仲は良好だ。最初こそリィエルの爆弾発言のせいで嫉妬、怨念のこもった目で見られていたが、一定の時間を過ごしているとアルトの立場が最早、保護者である事がありありと理解できる。

 

「おおっ!このベッド滅茶苦茶柔らけぇ!?」

 

グレンの担当するクラス二組の生徒、カッシュがベッドで転がりながらその感触を楽しんでいる。

 

「ったく……うるさいやつだな、君は。はしゃがないでくれよ」

 

「あんまり暴れると怒られるよ、カッシュ」

 

それに呆れた視線を送るギイヴルと苦笑いを浮かべるセシル。

 

「グレン先…生って怒るっけ?」

 

アルトはグレン先生という言葉に違和感を感じながらも、根本的な疑問を持った。

 

「さあ?逆ギレは良くしてるな。それよりこれから予定はなんだっけ」

 

「確か……今日、明日は日程が空いてそれから遠征学修じゃなかったか?」

 

「四日目から研究所見学で、五日目が終日講義。六日目は自由行動で七日目にはフィジテに帰還だ。」

 

アルトが思い出したと言った感じで口に出し、それにギイヴルが補足する様に説明を加えた。

 

「明日は自由かー、釣り具の準備でもしとこ」

 

「何を釣るんだ?」

 

「さあ?でも霊脈とかの関係で結構いい魚はいそうだな」

 

そう言いながらアルトは釣り具の整備を始めた。




スク水と普通ので悩むなら両方出してしまえばよかろうて。

水着リィエルすこすこのすこ
狂おしいほどすこ

ちょっと区切る


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裏切りの親バカ

残念ながら水着回では無い

だが、それでもリィエルすこ


帝国魔術学院のグレンが担任を務める二組がサイネリアの旅館に到着したその日の夜中。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「それでは……作戦を開始する!」

 

二組の男子の中心、カッシュの立案した。

『第一次女子の部屋進行作戦』

 

その作戦は学生が考案したとは思えないほど巧妙で、誰にも見つからず、作戦を遂行できる事が約束出来るレベルの物だった。

 

「俺……リィエルちゃんと徹夜で双六するんだ……」

 

「な!?ずるいぞ俺も混ぜろ!」

 

「俺はルミアちゃんとトランプで遊ぶぞッ!」

 

「ウェンディ様に『この無礼者!』って罵倒されたい……」

 

「システィーナは……別にいいや。多分説教うっさいし」

 

「「「うんうん」」」

 

男達は己の欲望を思い思いに口にした。その欲望が叶うのもあと少しの所まで来ている。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう、()()()()()

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な!?何故貴方がここに………グレン先生!?」

 

男達の前に現れたのは、担任のグレン=レーダス。この学院の秩序………いや自らの給料を守る為に男達の前に立ちはだかったのだ。

 

「お前ら………甘い。甘すぎるぞ!お前ら程度の浅知恵なぞ俺にはお見通しだ。見つかったからには………部屋に戻れ」

 

グレンの目は優しい。自分にも同じ様な時期があった。そんな理由からその状況を懐かしんでいるのかもしれない。

 

「………断る!俺は『理想郷(エデン)』に辿り着くんだ!」

 

カッシュは覚悟を決めた男の顔をしていた。何があってもここを突き進む………そんな不退転の意思を感じさせる強い光を目に灯している。

 

「お前ら…………」

 

グレンはカッシュの強い瞳にその『覚悟』を感じ取った。そして理解できた。諦めさせる事など既に不可能だと言う事を。

 

「…………仕方あるまい。お前らは可笑しいとは思わなかったか?お前らの作戦は完璧だった。ルートも手引きの後回しでさえ完璧だった。なのに俺が目の前にいる…………どうしてだか、わかるか?」

 

グレンはまるで子供に諭す様に、優しい声で言い放った。そしてその言葉を聞いてカッシュは気づいてしまった。ありえない……そんな事あるはずがない………男なら、そんな事出来る筈がない。

 

「まさか…………内通者……?」

 

「そうだ。…………お前らの中にどうしてコイツ来たんだ?と思う様な奴はいなかったか?」

 

ザワザワ

男達は隣の人間、周りの人間を疑った。まさかお前が、そんな疑いの目で互いを見る。先程までの統率など見る影もない。

 

「待て!これは精神攻撃だ!動揺させるのが先生の目的だ!」

 

カッシュは仲間達を落ち着かせようと周囲に声をかける。内通者なんて最初からいないのだ。同志達の意思なんて曲げる事は不可能なん----

 

ズドン!

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

カッシュの背後からとてつもない音がした。まるで()()()()()()()()()()()()()……日常生活では全く聞かない類の音が鳴り響いた。

 

「残念だったな…………リィエルの保護者であるアルトが来た時点で引き返していれば、犠牲者は出なかった筈なのに……」

 

グレンの言葉を聞く前にカッシュは衝撃の光景を目にした。さっきまで元気に夢を語っていたクラスメイトが一人………頭から地面に埋まっていた(犬神家していた)のだ。

 

「全く愚かだ…………リィエルの元に行きたいなら……」

 

カッシュの前に出てきた青年の顔色は伺えない。ただ声色から非常に不愉快だと言う事が伝わってきた。

青年の足音が妙に響き渡り、クラスメイト達の恐怖を掻き立てる。

 

「俺より強くなってからにしやがれ」

 

青年の名はアルト=マツバ。リィエル=レイフォードの保護者的………いや、過保護な保護者だった。

 

「アルト………まさかお前最初からッ!?」

 

「当たり前だろ?リィエルもお前らも、もう寝る時間だぜ?全員意識を飛ばして明日まで起きれない様にしてやるよ」

 

アルトは準備運動は終わった、と言わんばかりに腕を回す。

だが、クラスメイト達はアルトの実力を把握していなかった。だからこそ…………まだ逆転のチャンスがある、そう思ってしまった。

 

「クソッ!相手はたかが二人だ!いくらグレン先生でも大人数で相手をすればッ!」

 

「お前ら………俺が助っ人にアルトを選んだ時点で気づけよ。そいつは…………」

 

 

 

 

 

 

 

まずは弱い方から、そんな考えから一人の生徒がアルトに飛びかかった。

 

「……甘い!」

 

アルトは飛び掛かって来た生徒の手を掴み、そのまま背負う様に流れる様な動作で生徒を投げ、地面に叩きつけた。

 

東方の武術の一つ、背負い投げ……アルザーノ帝国でも名の知れた技だった。

 

「…………俺より強いぞ」

 

投げられた生徒は泡を吹いて気絶していた。

 

「ヒェッ……」

 

男達は思わず後ずさる。あいつの、アルトの攻撃には容赦というものが感じられない。当たりどころが悪かったら確実に死んでしまう様な威力を躊躇いも無く……

 

アルトの達人的な技量のお陰で致命傷には至っていないが()()()()()()()()()()()()()()()。そんな現実が学生である男達に突きつけられた。

 

「全員床に寝かしてやる(物理)。早く寝たい奴から前に出ろ」

 

「…………ッ!………お前ら、散開しろ!」

 

このままでは全員奴に殺られる……ッ。カッシュはもう全員で理想郷(エデン)に辿り着く事が不可能である事を感じ苦肉の策を出した。

 

「カッシュ…………お前……」

 

男達は自らのリーダーが出した結論を理解した。同じ志を目指す者だからこそ理解できる。

 

「一人でも多く理想郷(エデン)に到達するんだ……!そしてッ後の世代に伝えるんだ……理想郷は存在するんだって!」

 

「「「おう!!!」」」

 

男達の決意は固まった。例え目の前にいる悪魔(アルト)に阻まれたとしても、絶対に理想郷に辿り着く。もう男達には迷いや恐れは無くなっていた。

 

「これ以上俺の給料を減らされる訳にはいかない!お前らを必ず止めて見せる………アルト、やるぞ」

 

「誰一人としてリィエルの元に行かせる訳にはいきませんね」

 

 

 

 

 

 

 

その後、理想郷に辿り着けた者がいるかは皆さんのご想像にお任せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………なにあれ」

 

その日女子の部屋からは木の上に干される数多の男子生徒の姿が確認できたと言う。

 

 

 

 

 




妙に長くし過ぎた
次回は水着回です(マジ)

それより今回リィエルが出てねぇぞ………

ならば次で二倍のリィエルを出すしか無いじゃ無いか…


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真 水着回『副題:狂気のビーチバレー』

やったー水着回だー!

リィエルの水着をどんなのにするか四日ぐらい迷いました。
やっぱリィエルは最高やで………(リィエルすこ)

期間が空く言い訳
1、fgoでイリアちゃんが出なかったので少し萎えた
(尚ジャックがすり抜け)
2、リィエルニウムを絞り過ぎた副作用



 

太陽がある程度昇り、空色の海と白い砂浜を照らしている。流石にリゾート地と言うだけあって、このサイネリアの砂浜の景色は美しく、夏のシーズン前であっても、ある程度人の姿が見える。

 

「……………あ"あ"」

 

「……クッソ、アルトお前許さねーぞ」

 

「自業自得って言葉、知ってる?」

 

砂浜を水着を着て動く死体(ゾンビ)の如き、弱々しく活力の見られない歩き方で歩く男子生徒達と、その前で男子生徒達の怨念を向けられる水着の上からパーカーを着た青年、アルトが集合場所に向けて歩いていた。

 

「まったく……お前らが魔術なんか使ったせいで、アルトの自重が消えたんだぞ。最後には軽く《魔闘術》まで……」

 

「やだなぁ……軽い脅しですよ、当たってないからセーフ、セーフ」

 

「みんな、おはよう!どうかしたの?」

 

そんな集団に話しかけてきたのは。学校で大天使と呼ばれるルミア=ティンゼルだった。

 

「おお…………理想郷(エデン)はここにあったのか……」

 

「天使が舞い降りたのか………」

 

男子と同様に水着を着用していて、男子達はその恵まれた肢体を目にした事で一瞬にして活力が戻ったようだ。

ルミアはアルト達の護衛対象である為、当然同じ仕事をしているリィエルも近くにいる筈だ。

 

 

「お、リィエル。おはよう」

 

「ん、おはようアルト」

 

リィエルの水着は空色のフリルの付いたセパレートの水着を身に纏っていて、リィエルの青い髪色と陶器の様な白い肌によく合って清楚な雰囲気を感じさせる。

 

「おー、似合ってるじゃん。選んでもらったのか?」

 

「ん!自分で選んだ」

 

アルトはリィエルの印象とよく合った水着をリィエルの友達の二人が選んだのだと思ったが、実際はリィエルが選んだ物だったらしい。いつも通りの無表情な顔だが、長年一緒にいるアルトからすればドヤ顔をしている事がよく分かった。

 

「?………まだ髪が跳ねてるじゃん。梳かしてやるよ」

 

「ん、おねがい」

 

アルトはリィエルが髪を梳かしていない事に気付いた。そもそもリィエルが自分で髪の手入れをする事は無いのだが。

また友人の二人が手入れをしようとしたがリィエルはアルト以外に髪を弄られるのは嫌いらしくそのままの状態だった。

 

「偶には自分でやってくれよな……」

 

「嫌……アルトにやってもらう」

 

髪を梳かされるリィエルは気持ちよさそうに目を細めている。アルトもその表情を見て文句を言うのをやめた様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ………なんだあいつら」

 

「アルトめ……自分だけいい思いを……」

 

「あはは………どっちかって言うとあれは違うんじゃ無いかなぁ…」

 

ルミアの言う通り側から見ればあの様子は年の近い兄妹か、若しくは母親と娘を連想させる。アルトの手際は手馴れていて、リィエルのボサボサだった髪も瞬く間に慣らされている。

 

「リィエルが髪を梳かすのを断ったのも分かるわね……手際が一流の美容師並みじゃない……」

 

「私も………やってもらおうかしら……?」

 

結局今の二人の邪魔をするのも無粋かと思った女子生徒は頼む事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルト、死ねッ!」

 

カッシュの恵まれた体格から放たれる強烈なスパイクが暴言と共にアルトに向かう。

 

「おっと、あぶない!リィエル。上げろ」

 

「ん!」

 

アルトはそれを物ともせず完璧なタイミングでレシーブに成功、同時にペアのリィエルにボールを上げるように指示を出した。リィエルも最初から分かっていた様でアルトの前のネットに軽くトスを上げた。

 

「《破ァ》!」

 

アルトの無駄に高度な詠唱改変による『ウェポンエンチャント』と無詠唱による『フィジカルブースト』によるスパイクがカッシュに向けてお返しとばかりに放たれる。

 

「えっえぇぇぇぇ!?グハッ………」

 

カッシュは避ける事も返す事も出来ず、その殺人的な威力を誇ったバレーボールが顔面に直撃してしまった。あまりの衝撃に周囲の人間もボールが直撃したカッシュを二度見した程だ。

 

「安心しろ…………峰打ちだ」

 

「か、カッシューーー!?」

 

 

 

魔術学院の生徒達が熱心に取り組んでいるのはビーチバレーであった。しかし只のビーチバレーではない()()()使()()()()()()()()()ビーチバレーである。当然殺傷性の高い魔術は使っていけないし、相手に直接干渉するのも禁止である。

 

まぁそれでも武術の達人であるアルトが魔術による強化を入れてスパイクを放てば殺人的な威力になる事は必然だ。ただアルトが峰打ちと言うからにはおそらく生きているのだろう。たぶん………

 

「えーと………カッシュ君が昏倒したのでアルト、リィエル組の勝ちです」

 

「ん!やった!」

 

「え……勝ちでいいんだ」

 

審判のルミアによる采配にアルトは疑問を持ったが気にしない事にした。現在勝ち抜きルールでやっているが昨日の恨みからアルトのペアに向かってくる男子達がひしめき合っていた。

 

このままでも十分見ている方にも娯楽にはなるが別の人にもやらせた方がいいと思ってかルミアは次のペアを指名した。

 

「次は……アルト、リィエルペア対先生とシスティペアでお願いします」

 

「俺ぇぇぇぇえ!?」

 

「嘘でしょ……?」

 

当然、グレン達にとっては死刑宣告に等しい采配だった。

 

「……絶対勝つ!」

 

「リィエルがやる気なら……まぁ成長結果の確認には丁度いいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この試合の結果は一目瞭然であった。

例えグレンが元軍人であり強いフィジカルを持っていたとしても、現肉体派軍人のアルトとリィエルと比べれば下位互換に過ぎない。

システィーナも魔術に関して非凡な才能を持っているとはいえまだ成長段階であり、既に戦術の確立された二人に勝つ事は難しい。

 

「……やぁっ!」

 

ズゴム!

 

「くっ!取れねぇ。つーか砂にめり込むとかどんな力で打ってんだあいつは……」

 

リィエルもアルトのスパイクと同じく、殺人的な威力を出している。何処から見てもまともに取る事は出来ない。

なんとかしなくては一矢報いる事すら不可能だ。

 

グレンの中に明確な作戦も浮かばないままアルトのサーブが放たれる。アルトのサーブもまた狂った威力がある。グレンの顔面に一直線にボールが向かっていく。

 

「《大いなる風よ》!」

 

「ッ!白猫……これなら!」

 

アルトのサーブはシスティーナの『ゲイルブロウ』によって威力が減衰され、グレンもなんとかレシーブする事が出来た。

 

「先生、お願い!《その剣に光あれ》」

 

グレンのレシーブによって浮いた球をシスティーナがトスを上げ、同時にグレンの腕に『ウェポンエンチャント』の魔術を行使する。ここが好機と見たグレンが飛び上がる。

 

「ッ、うおおおおおおおぉぉ!オラァ!」

 

ズパンッ

 

グレンのスパイクはアルト達のコートの白線に落ちた。アルトやリィエルもこのスパイクは不意打ちとなり拾う事が出来なかった。

 

「やりますね……先輩!」

 

「ん!楽しくなって来た!」

 

 

この後もめちゃくちゃバレーした。

 

 

 

 




不定期更新の名に恥じない所業

だが、媚びぬ、謝らぬ、リィエルすこ。


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そうだ情操教育しよう

ここからの流れを五通りぐらい書いては消して書いては消して、最近忙しいのもあってか投稿期間が一ヶ月空きそうに……

今月からは暇な時間が増えるからばんばん書きましょうねー

久々にリィエルすこ


アルザーノ魔術学院の生徒たちが海岸で自由に時間を過ごした日の夜。学生たちが泊まる旅館から出てくる生徒達がいた。

本格的に夜も更け街の明かりと輝く星のみが辺りを照らしている。

 

「ねぇ、やっぱり辞めとかない?」

 

「すぐに戻れば大丈夫だよ。ね、リィエル?」

 

「ん、敵は全てぶった斬る」

 

この女子生徒三人、システィーナ、ルミア、リィエルはリゾート地であるサイネリアの夜景や星空を見る為に宿泊している旅館を抜け出していた。

 

アルトがいれば流石に護衛対象が迂闊に外に出るのを避けさせるのだろうが、生憎学生として潜入している為男女別である時は指摘する事も出来ない。

 

「ふふ、ちゃんと夜景が綺麗なところを調べてきたんだよ」

 

「……ハァ。わかったわよ。偶にはこういうのもいいかもね」

 

システィーナも有名な夜景というのが気になったのかもう戻ろうとする気は無いらしい。

 

日中遊び回った海岸を歩く三人は岩礁で見知った人物を見つける事になった。

 

その人物はこんな夜中に灯りもつけずに持参した椅子に座り込んで海に釣り糸を垂らして海岸線を眺めている。

 

「アルト?」

 

「ん?……………え?」

 

アルトは護衛対象や同僚との遭遇に混乱した。門限なんてとうに過ぎていると言うのにどうして外にいるのか?自分の事は棚に上げて旅館に帰らせるか思考するが。

 

「………まぁいいや、早めに戻るんだぞ」

 

「ん、アルトも気をつけて」

 

「………それだけでいいの?」

 

あまりに簡単に外出を許した事にシスティーナは驚くが、こんなリゾート地の何処に人が居るのかも分からない所での襲撃は無い筈だとアルトは思っている。それに……

 

「お前らを帰したら俺も抜け出した事がバレちゃうし……魚もまだ一匹も釣れてないからこのまま帰ると負けた気分になる」

 

そもそも今は夜なので魚も睡眠に入っていて、この付近には夜行性の魚が生息していないと言う事は誰が指摘するのか。

当然、女子三人は釣りについて詳しくもなく、この辺に生息している魚に詳しいわけでも無いので指摘は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルト君って意外に負けず嫌いなのかな?」

 

別れた後、アルトが食い入る様に浮きを見つめている事からそれだけ魚を釣りたいという強固な意志を見て取れた。

 

「ん、アルトは負けるのが嫌いみたい。前バーナードに負けた時も凄い悔しがってた」

 

「バーナード?アルトってすごい強いのに………」

 

システィーナはバーナードという名前に聞き覚えがあったが、リィエルの口から出た言葉なのでリィエルの同僚の人間であるのだろうと当たりをつけた。

 

まさか暴走少女であるリィエルから出た名前が四十年前の英雄の名前であるとは思い至らなかったらしい。

 

「そのあとアルトが山籠りして一週間行方不明になって、帰ってきてからバーナードをボコしてた」

 

リィエルはその時のアルトが余りにも精神的な何かを削っているだろうという狂気に囚われた顔をしていた為によく覚えていた。

 

「うわぁ……… それって、かなり度が過ぎた負けず嫌いなんじゃ」

 

三人は知らないがアルトは別れた後、少ししてから余りにも魚が釣れないので復讐とばかりに海に潜って手掴みで魚を乱獲した様だ。

 

 

 

 

 

そして目的地点に到着した三人はその場に座り込んで他愛ない会話をし始めた。ルミアとシスティーナの二人は年頃の少女であるのでリィエルからアルトの話を聞き出そうとしている。

 

「へ〜やっぱりお兄さんみたいな感じなんだ、アルト君は」

 

「ん、でも最近そこまで一緒にいる事が無くなった………なんでかはわからないけど」

 

リィエルは少し前のグレンの様に自分の前からアルトが消えてしまうのでは無いかと不安になっていた。根拠は無いし、原因もわからないので対処する方法も無いのでどうする事も出来ないが。

 

「うーん、親離れして欲しい……とかかな?」

 

ルミアにはあの過保護なアルトがリィエルから離れる理由などそれしか思い至らなかった。無論そういう面で距離を置いているという理由もあるが、()()()()()()()()()とリィエルは思っている。

 

「……じゃあアルトと何処かに出掛けたりとかするの?」

 

答えが出ない質問を続けても意味がない、システィーナは新しく興味のある事を聞いてみた。

システィーナ自身が秘密裏に書いている小説のネタにするつもりである為、頭の中で淡々とメモを取る準備をしている。

 

「ん〜、仕事が終わった後はスイーツバイキングを奢ってくれる。後は……………こういう景色がいい場所に連れて行ってくれる事もある」

 

リィエルは海の景色と星空を見ながら呟いた。

 

「ふーん、デート……なのかなぁ」

 

「でも景色のいい場所か、アルトは結構ロマンチストみたいね」

 

「ロマンチスト?よくわかないけど、アルトは月を見るのが好きみたい」

 

「!?」

 

「どうしたの?システィ」

 

システィーナはアルトが月が好きなのではなく有名な文学的言い回しで言外に好意を伝えているのでは?と下世話な想像をするが真実は……誰にもわからない。

 

 

 

 

-----------------------

 

翌日

 

一行は白金魔術研究所に見学に来ていた。

アルトやリィエルが専門とする白魔術や錬金術を複合した学問で、生命の神秘やその深淵に迫るかなりマッドな部分もある。

無論学生に見学させるぐらいなのでそんなに真っ黒な研究をしている筈が無いというのがグレンの予想である。

 

所長であるバークスさんの案内も終わり、各々が自分の見学したい場所を見て回っていた。

 

「白金術……か」

 

「やっぱり白魔術が得意だと興味がある事が多いの?」

 

遠い目をしながら周囲を見渡しているアルトを見つけたシスティーナはそんな事を言いながら話しかけた。

 

「いいや。俺がするのは所謂戦場の医術。こういう生命の神秘とかを追求する事はしない……というよりしたくないかな?」

 

「ふーん、よくわかんないわね。誰だって神秘的な物は気になると思うんだけど………」

 

将来『メルガリウスの城』という謎の建造物の正体を掴みたいと思っているシスティーナからすれば余り心当たりが無い感情なのだろう。

 

「別にわからなくてもいいよ。でも気になったからってやり過ぎると俺達みたいな奴に消されかねないから折り合いはつけようね」

 

「…………わかったわ」

 

苦笑しながらもアルトが放った言葉には様々な感情が込められていた。外道魔術師への怒りや憎しみ、少しだけの間でも友人となった人物を手にかけたく無いという思いが混ざり微妙な表情をしている。

 

そして極少数だけが知っている事だがリィエルと言う存在が産まれたのもこの白金術の深淵……一般的に外法と言われる存在の恩恵である事もアルトが顔を顰める原因であろう。

 

「おーいアルトー!こっちに面白そうな物があるぜー!」

 

「わかった!今いくよー!………じゃあまた、フィーベルさん」

 

先程まで意味深な表情をしていたアルトを見ながらシスティーナはあの過保護な保護者は一体どれだけ濃い人生を送っているのかと心配になった。

 

 

 

 

 




次回予告

『次回アルト死す!デュエルスタンバイ!』

俺のターンドロー!手札から『リィエルすこ』を発動する!デッキからリィエルをサーチ!そのまま攻撃表示で召喚だオラァ!

リィエル
効果
このカードは必ず攻撃表示で存在する。

守備表示?知らない子ですね



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親離れ

今回から………あのどう進めるのか悩む場所
主人公の陰が薄くなるけどまぁいいや

今日からリィエルは主人公である。
リィエルをすこるのだ!

戦闘描写は苦手、感情描写も苦手。


ほんの2年と少し前。

 

件の組織から亡命したいと願った兄妹がいた。

 

当時任務についていたのは、俺とグレン先輩とアルベルト先輩で、俺はその任務にそこまでやる気は無かった。

 

まさか両親を殺した組織から亡命するのを助ける事があるとは………任務最初期は酷かっただろう。彼らに対して敵意すら持っていた気がする。自分の中では復讐は完結していた為に、流石に手を下すという事は無かった。

 

 

 

 

 

それでも自分はあの言葉に好意的になってしまった。

 

『もし……よかったら、家族にならない?』

 

自分にとって家族という言葉は失った最も大切な物で、他の物では到底埋め合わせする事なんて出来なかった。だから自分は家族という言葉に乗せられたのか………いや、これはただの言い訳だな。

 

彼らは善良とは言えずとも気のいい人間で少なくとも心の何処かで気に入っていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

『あなたが迷惑じゃ無ければ………あの子のこと、お願いね』

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

昨晩と同様に釣り糸を垂らすアルトは来訪者の気配を察知した。

アルベルトの忠告通りリィエルが自分に牙を剥くと言う事実に少なからずショックを受けるが、こんな事も最初から想定のうちであった。

 

想定していた通り寝返った組織も例の『天の智慧研究会』であろう。そもそもリィエルの出自はその組織が関わっているが故に、他の可能性は考えづらい。

 

「…………アルベルト先輩の言った通りになったか。全く………怖いなあの人は」

 

「…………………」

 

リィエルは口を開かなかった。これから殺す相手に対して交わす言葉なんて必要ないのか………または別の要因か。そんな考察もこれから意味をなさなくなるのだが。

 

 

アルトは自らの手袋を外してリィエルの足元に投げた。

 

「魔術師同士の決闘で勝者は相手に言う事を聞かせる事が出来る。当然知ってるだろ?俺が教えたから………な」

 

「…………わかった」

 

目を見開いたリィエルが手袋を拾い上げる………それが決闘を承諾する方法故に。

 

「俺が勝ったらリィエルはいつも通り俺たちの仲間。リィエルが勝ったら………敵でも家族の元でもどこにでも行くといい」

 

 

 

「……………ん、《(けん)よ》」

「ふぅ……………《(けん)よ》」

 

互いのことをほぼ知り尽くした二人はこの決闘に緊張感を持つ事が無かった。互いの間合い、呼吸の間隔、攻撃のリズム………全て()()()()()

 

いつもはアルトが勝利するが今日に限ってはそうではない。互いに譲れない物がある。()()()を晒す事になろうとも全力で勝ちに行く。

 

「ーーーーーーーーッ!」

 

「いいいぃぃぃゃゃゃッ!」

 

ここに特務分室のエース同士の対局が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中の海岸線で鈍い音を響かせながら戦う二人。どちらも互いの手を知っている為に決め手を切ることが出来ない。

 

この二人は同じ近接戦専門の魔術師として対極に位置していた。

 

天才的な戦闘感による極限の速さを誇る剣線を繰り出すリィエル。

 

驚異的な経験、リィエルには無い技を使い反撃の目を狙うアルト。

 

 

肉体のスペックに限って言えば魔術によって作られた肉体を持つリィエルが優っている。それでもアルトがその速度についていけるのはリィエルの数倍の戦闘経験を持ったアルトの先読みの恩恵であろう。

 

 

「ッぐ…………!」

 

 

しかしどんなに上手く受け流してもリィエルの振り回す大剣のダメージを消す事は出来ない。アルトの肉体の耐久、体力はリィエルと比べて加速度的に削られる一方だ。

 

戦闘時間が長引く程アルトには不都合な事が増え、リィエルに負ける可能性は高くなる。

 

 

 

そもそもこの戦闘はアルトにとっては異常な程不利な対局であったのだろう。

 

アルトはリィエルを無力化、敗北させる事を目的としているがリィエルはアルトを殺す事を目的とし。リィエルは高い記憶力によってアルトの技を覚えているが、リィエルの剣はそもそも戦闘勘によって繰り出される変幻自在の剣、アルトにとっては全てが初見。

 

故にアルトの出せる答えは一つ、リィエルの知らない技……所謂()()()を使わざるを得ない。

 

 

 

 

 

 

アルトはリィエルの連撃に耐えきれず体制を崩す。リィエルがそれを見逃す筈も無い。

 

「やぁぁぁぁあッ!」

 

リィエルの渾身の一撃がアルトの()()を捉え、当然の如く大剣は空を切る。

 

「ッ…………かかったな!」

 

最初に隙を見せたのはリィエルだった。アルトが東方にて忍者に習った忍術…………空蟬。リィエルは残像を残す程の緩急によって敵の目測を誤らせる技に完全に掛かってしまった。

 

「《いっぺん寝とけぇぇぇぇぇッ》」

 

そして隙を晒したリィエルに『フィジカルブースト』で加速、背後から拳を叩き込もうと接近…………そしてアルトの目が捉えたのはリィエルによって()()()()()()()()()

 

しかしアルトを切り捨てるには遅すぎる。そう判断した故にアルトは躊躇わず踏み込み。

 

「ッ!?」

 

リィエルの罠に掛かった。

アルトによって錬金術の理を叩き込まれたリィエルは自身の剣の錬成、正式名称『隠す爪』の術式改変が可能になった。

アルトからすればその改変は剣の形状を変化させる程度だと認識しているがリィエルが直感によって導き出した利用法は完全にアルトを想定とした改変だった。

 

()()()()()()()()()

 

今までいたずらに地面を削り作り出していたのだが、素材をアルトの踏み込む場所に指定する事で簡易的な落とし穴を作り出した。

 

「ッぐぅ…………」

 

拳はリィエルに届いた。

しかし足場が崩れた事によって威力は減衰、致命傷になり得なかった。そして当然アルトは無防備、万策が尽きた。

 

 

 

アルトの胸を大剣が貫く。

 

「ーーーーーーッ」

 

「…………アルト、今まで……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

アルトが最後に見たのは涙を流すリィエルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

海岸にて決着がついた時、丁度良いタイミングでグレンがそこにやってきた。やってきた理由は只の下世話な老婆心でアルトの元に行ったリィエルを追ってきただけなのだが。

 

まさか殺し合いをしているとは夢にも思わなかっただろう。

 

「ッ…………リィエルお前………」

 

グレンもアルベルトから裏切りの忠告はされていた。しかし完全にアルトによって制御されているリィエルに問題など見つかる訳もなく信じていなかったのだろう。

 

「………………グレン」

 

リィエルはアルトから血に濡れた大剣を引き抜き正面に構えた。当然リィエルからすればグレンは敵だ。しかし()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんでアルトを…………」

 

グレンから見てアルトの生存は絶望的だ。例え白魔術の達人といえど意識がなければ魔術など発動できないし、アルトの出血は多く相当厳重な治療をしなければ助けられない。

 

「命令………された。一番大切な人を殺せって」

 

「…………ッ誰だよ。お前に命令した奴ってのは!」

 

リィエルに命令出来る人間なんてそれこそ上司であるイヴかアルトぐらいしか思いつかない。となると………精神操作系統の術を()()()()()()()か。

 

「………………兄さん」

 

「…………そういう訳かよ。殴ってでも止めるべきなんだろうな…………」

 

グレンは事情を理解した。リィエルの出自を考えれば想像がつく、本来は止めるべきではあるが、グレンはリィエルに勝つ事が出来ない。それが純然たる事実であった。

 

「…………じゃあね」

 

去り際にグレンの側頭部に一撃を入れ意識を落とす。

アルトの技術を形だけでも模倣しているので手加減も容易かった。

 

 

海岸に残されたのは倒れ臥す二人の男とアルトの釣り具だけだった。

 




今回もとばっちりグレン
最早ノルマ

リィエルちゃんはお礼を言える偉い子なんだよ!

ところでバトルシーンが対ヒロインしかない小説があるみたいなんですがどれか知ってる?(すっとぼけ)


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番外編 クリスマスミッション

まさかクリスマス編とか書く日が来るとは思ってなかった。

リィエルすこ(メリークリスマス)


本格的に冬が始まり寒くなってきたこの季節。

年末前のこの時期にはあるイベントがあった。

 

このイベントの為にアルトとリィエルは何故か上司に有給を取らされたので家でくつろいでいるのだが………

 

「アルト………クリスマスって何?」

 

リィエルは自分と同じくこたつの中でくつろいでいる家族の少年に疑問に思ったことを聞いた。

 

「クリスマス……まぁ元は偉い人の誕生日だったっけな。今はただの祭りってイメージが強いよ」

 

「んー、どんな祭り?」

 

アルトはリィエルに聞かれた事を頭の中で思い返してみる。以前の自分はクリスマスに鳥を獲って来て丸焼きにし、家族みんなで食べた事を思い出した。

 

「ローストチキンを食べたり、子供にプレゼントを渡したり………後はその年いい子にしてればサンタクロースって奴が夜中忍び込んで枕元にプレゼントを置いてくんだよなぁ」

 

昔、一晩中張り込んでサンタクロースを襲撃……そこから父との本気の魔術戦になって母に怒られた事はいい思い出である。

 

「夜中に忍び込む…………」

 

「どうかしたか?」

 

リィエルはアルトの言葉を聞いて考え込んだ。何を考えたかと言うなら子は親に似ると言えばよく分かるだろう。

 

「私にもサンタ………来るかな………」

 

「ッ………リィエルはいい子だから。きっと来るさ」

 

「ん!待ってる」

 

リィエルは特殊な出自で、親はいない。きっとクリスマスと言う行事も体験した事が無いのだろう。そんな事を思った一人の親バカは当然今日やる事を思い付いた。

 

「ところでリィエル。欲しいものある?」

 

「…………いちごタルト?」

 

「食品かよ」

 

「ん?」

 

「いや、いいんだ。来るといいなサンタクロース」

 

アルトは近所のケーキ屋に用事が出来た。

後は例の格好も用意しなければならない。夕食の準備という名目で少し出かけるとしよう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その夜自分の家に忍び込むという謎の状況に違和感を覚えながら何故かバーナードが所持していた例の赤い礼装を受け取り作戦を実行に移す。

 

この礼装、温度調整や壁への張り付きなど便利な効果が付いていて無駄に高性能である。煙突から入って落ちても大丈夫な様に耐衝撃のルーンまで…………

 

 

 

何故ここまで高性能なのか。それはバーナードのサンタクロースとしての対象が余りに高度過ぎたからであった。バーナードには孫や子はおらず独り身だが面倒を見ていた子供がいた………若き日のイヴ=イグナイトであるのだが。

 

彼女の家はクリスマスを祝うほど真っ当な家とは言えずイヴの元には当然のようにサンタクロースは来なかった。この事を不憫に思ったバーナードは名門であるイグナイト家の人間に気付かれずプレゼントを置きに行く必要があった。

 

イグナイト家に気付かれず侵入する事なんて普通は不可能なのだがそこは英雄。自身のスペックと作り出したこの礼装でなんとかしてしまったのだろう。

 

イヴもサンタクロースという年でもないのでバーナードはこの礼装の扱いに困っていたのだ。そこで丁度娘?が出来たアルトの手に渡ったのだろう。

 

 

 

先ずは一キロ離れた所から遠視の魔術で対象の状態を確認する。窓から見た部屋にいたのは帝国魔導師団の礼装に身を包み大剣を出し待機しているリィエルだった。

 

「あいつ……サンタクロースを殺す気か?」

 

何故いちごのタルトを枕元に置くのに命を賭けなければならないのか?この理不尽にアルトは親という生物の偉大さを感じた。

 

しかし諦める訳にはいかない。

昔取った杵柄、アルトは隠形の類いも得意であった。教えてくれた忍者の師もこんな平和的な使い方なら眉をひそめる事もないだろう。

 

 

夜の街の屋根を赤い人間が跳ね回る。

素早く、それでいて音もなく、着実に気配を殺し対象に近づく。しかしどんなに隠形に優れていてもあんな風に見張られていたら見つかる事は必然である。

 

何か手を考えなくては………そしてアルトはポケットの中からバーナードに託された謎の薬物を取り出した。あの英雄が言うには「吸った瞬間ゾウでも爆睡。翌日にスッキリ目覚められる」らしい。

 

一体何に使ったのだと聞いた時は、疲れた顔をしながら「イヴちゃんサンタ捕まえる為に『イーラの炎』や『第七園』使ってくるから……」と嘆いていた。

 

サンタとはどれだけ隠形を極めなければならないのか。さらなる疑問が深まる。

 

 

 

 

しかし作戦は決まった。

事前に準備していた屋根裏に繋がる隠し扉を使いリィエルの部屋の上に潜む。リィエルは今も剣を構えたまま動かない。

 

「メリークリスマス」

 

アルトはそんな言葉と共にバーナード作の薬品をリィエルの部屋に散布………恐ろしい事に無臭で煙も出ないらしい。これではリィエルも抵抗出来ないだろう。

 

リィエルは流石に耐えられなかったのかその場で意識を失い倒れそうになるが

 

「おっと……」

 

アルトが慌てて部屋に侵入し、リィエルの体を支えた。

未だに薬品は残っているが無駄に高性能なサンタ礼装のつけ髭にはガスマスクと同様の効果がある。特に問題はなかった。

 

リィエルを布団に寝かせて毛布を被せた後、上流階級の人間が食べる高級ケーキ屋で買ってきたいちごタルトを枕元に置いた。寝相が悪い訳でも無いのでベッドから落ちる事は無いだろう。

 

「ぅ………アルト………」

 

「?寝言か………」

 

アルトはリィエル頭を愛おしそうに撫でた後部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

「…………サンタ……侮れない……」

 

「どうした?」

 

翌朝リィエルはサンタクロースに謎の対抗心を燃やしていた。

 

「サンタはきっと凄腕の暗殺者………戦ったら殺されていたのは私の方………」

 

どうやらサンタクロースの幻想?は守ることが出来たらしい。また別のところで勘違いが起こっている気もするが……

 

「そもそもサンタは待ち構えるものじゃ無いから。何を貰ったんだ」

 

「ん!いちごのタルト。とっても美味しそう」

 

アルトはリィエルの嬉しそうな顔を見て自分もプレゼントを用意していたのを思い出した。昨日買い物中に見つけた物だ。

 

「メリークリスマス。これプレゼント」

 

「いちごのタルト?」

 

「まだ欲しいのか?まぁタルトじゃないよ」

 

アルトが渡したのはいちごを催したネックレスだ。アルト自身もいちごのショートケーキが好きだったりするのでプレゼントには丁度良かった。

 

「俺とお揃い。食べ物の方が良かった?」

 

「嬉しい………大切にする」

 

リィエルがネックレスを大事そうに抱え込んだ。

アルトもそれを見ていちごのタルトを買わなくて良かったと心底思った。

 

「アルト」

 

「?」

 

「メリークリスマス」

 

「ああ、メリークリスマス」

 

 

そして当然のごとく今日の二人の朝食はいちごタルトだった。

 

 




急造ですが中々の出来だと自負している
番外だと後先考えなくていいから楽。
このネックレス今後も自分の作品に登場しそう。

いちごタルトのネックレスと思ってたけど主人公がショートケーキ好きなの思い出してお揃い路線に切り替えました。


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姉妹の対話

リィエルメイン

姉妹って………イッタイダレノコトナンダロウナー

今回短め


アルトがリィエルによって倒されてから数刻、リィエルはよく見知ったケーキ屋の前に居た。()()()()()男からのお願いでアルトを殺し、そして友人であるルミアを攫った事を思い詰め辺りを歩いていた筈だ。

 

「………………」

 

そもそもこのケーキ屋は王都の近くの先程の場所から相当離れた場所にある筈。()()()()()の近辺は森と海である為に似た様な店にたどり着いたという事もあり得ない。

 

日中であるのに辺りに人影一つ存在しない状況に訝しみながらもリィエルはそのケーキ屋の中に()()()()()()()()()()、そう感じた。無論あんな事をしてしまった後であるので何かを食べる気は無かった。

 

 

このケーキ屋はアルトとリィエルがここ数年良く通っていたケーキ屋で、一定の料金を払えば食べ放題と言う画期的な商法で人気である。昼時ともなれば多くの人で賑わっている筈である。

 

しかし中に入っても誰も居ない。

ケーキは置いてあるが店員すら存在しなかった。

 

 

「…………甘いもの好きなんだ?」

 

「ッ!誰!」

 

 

背後から掛けられた声に反応してリィエルは瞬時に距離を取って振り向いた。いつでも無詠唱で剣を錬成出来るように構え相手の顔を伺うと------

 

「!?……………私?」

 

リィエルが見たのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() だった。その事を不気味に思ったリィエルは即座に大剣を錬成しようと魔術を発動しようとするが、

 

「ッなんで…………」

 

一向に魔術が発動する気配すらしなかった。それを見ていた赤髪の女性が口を開いた。

 

「此処では魔術を使えないわよ」

 

「……………貴方は誰?」

 

リィエルの質問に赤い髪の女は少し悩む仕草をして決心した様に自分の名を語ろうとした。

 

「私の名前は■■■■----うーんこれはダメか。取り敢えず貴方の姉だからお姉ちゃんって呼んで?」

 

リィエル何故か名前を聞き取れなかった。そして女はそれを予想していたかの様に自分を姉と呼べと言った。

 

しかしリィエル自身、先程まで兄を自称している人間に命令されて------

 

リィエルはそれ以上考えたくは無かった。わかるのは兄を名乗る男のせいで身内と自称されたとしても不愉快な気持ちになる事だけだ。

 

「……………」

 

「やっぱり呼んではくれないのね………それも仕方ない事ね。所であなたの名前は?」

 

「…………リィエル」

 

「……そう。少しお話しない?」

 

赤髪の女はリィエルの名前を聞くと少し悲しそうな表情を見せた、しかしそれをリィエルに悟られない様に明るく近くにあったテーブルの椅子を引いた。

 

「………ん」

 

返事とは言えない様な反応だったがリィエルが椅子に座ったのを見て、肯定と受け取った様だ。赤い髪の女はいつの間にか持っていたいちごタルトが大量に乗った皿を机に置き一口口にした。

 

「………美味しいわね」

 

「ん、当たり前」

 

二人で見つけた店である為に、作ったわけでも無いのにリィエルは少し誇らしく思った。

 

「なんでも聞いていいよ。答えられる事なら答えるわ」

 

赤髪の女性は少し微笑ましそうにしながら本題に入った。

 

「……………ここは何処?」

 

「うーん。夢の中………かな?リィエルの心の中でもあるよ」

 

「心の……中」

 

リィエルは自分の少ししか無い記憶を掘り返す。

確かにこの店はよく来るし自分の楽しみにしている事の一つであるので納得できる部分もあった。

 

「そう、心の中。だから式があっても魔術は成立しないわ。代わりにこんな事は出来るけどね」

 

赤髪の女はテーブルの上に紅茶の入ったティーカップを作り出した。魔術を唱えた様子も無い。想像すれば物が手に入るのだろうとリィエルは納得した。

 

「…………私は………私はどうしてあの男の命令に逆らえないの?」

 

この赤髪の女性が知っている。

その理由を………名前も知らない人間である筈なのに。だがリィエルの勘がそう言っている。

 

「あの男には貴方に対する命令権限があるの………他にも二人は命令できる人間が()()わ」

 

「…………………?」

 

 

 

 

「そうね……………精神操作の魔術に掛かっていると思えばいいわ」

 

 

「…………わかった」

 

つまり自分はあの男の命令に逆らうのは難しいという事だろう。しかしそれはアルトを手にかけた事への免罪符にはならない。理由がどうであれリィエルは大切な人を殺してしまったのだから……リィエルは自分の無力さが嫌になった。

 

 

 

そして………聞かなければならない事がある………気がする。根本的な疑問で最も知るべき事だと勘が訴えかける。

 

 

「………………あなたは、『何』?」

 

 

彼女は………人では無い。

その仕草、表情、声、思考はどれを取っても人間である。疑いようもなくそう思えはするが………人では無いと()()()()()()()()

 

 

「…………私は貴方の姉よ。既に死んでしまったけどね………他の見方をするなら私は--------」

 

 

女は自分がここに存在できる事情、どう言った経緯でリィエルが生まれたのか………様々な事をリィエルに話した。リィエルは多少驚きはしたものの落ち着いて聞いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

「これで伝えなきゃいけない事は伝えたわ。()()()()()()()()()

 

「…………さようなら………お姉ちゃん」

 

()()()()は最後にリィエルが姉と呼んだことに驚きはしたものの思い残す事はもう無い様でリィエルの心の中から消える様に存在が薄れていった。

 

 

 

 

 

「…………あ、アルト君にはよろしくいっといてね」

 

「…………?」

 




イルシアの口調がわからない
まぁなんでもいっか。(適当)

自己会解釈設定
まぁリィエルを作った人間にはリィエルに対する命令権限があるのでは無いかなぁと。人造人間ですし。作る際にはセーフティとしてそんな魔術を組み込んでいたとしてもおかしくないですからね。
まぁ簡単に言えばイルシア、シオン、ライネルは一方的にリィエルに命令する事が出来るという設定です。




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ふっかつのじゅもん

二ヶ月ぶりぐらいの更新
狂気のスランプ地獄と他のを書きたくなる病気にかかってた。
にじさんじという沼にはまって抜け出せない。
(ロリ組すこ)


ふっかつのじゅもん?もちろんリィエルすこだよ。


最初に目を覚ましたのはグレンだった。

グレンは弾けた様に起き上がり自分が殴られる直前に起こった事を思い出した。リィエルの手によってアルトが殺された。

 

「ッ………クソ!」

 

グレンは自身の警戒の無さを嘆いた。リィエルに精神的な問題は無かった。それは確かである。だがもっと根本的な所でリィエルに問題があったのだ。

 

「……………起きたか」

 

グレンの側には頼れる元同僚アルベルトが佇んでいた。どうやらあの後自分はアルベルトに回収されたのだとグレンは理解した。

 

「アルベルトか…………俺は……どれくらい寝てた」

 

「半刻ほどだ。その間にリィエルはエルミアナ王女を連れ去った様だな」

 

だった1時間それだけの時間でリィエルは事もあろうにアルベルトを出しぬき、ルミアを連れ去った。平時であるならば勲章ものの活躍であろう。

 

「…………………」

 

言うまでもなくグレンの気持ちは最悪の域に至っていた。小生意気でいつもこちらをからかっていたあの後輩の死と言う事実は、かつての事件を思い起こす程に深刻だった。

 

「………()()()()()()()

 

アルベルトは焦りも感じさせない様に冷酷に呟いた。

 

()()()()()()?ふざけんな!()()()がアルトが死んだんだぞ!テメェ今度と言う今----」

 

()()()()()()?」

 

グレンの焦燥などまるで知った事ではないと言う様な態度でアルベルトが呟いた。その余りの態度にグレンは一周回って冷静になった。

 

「…………何を?」

 

「フン………コイツを見ろ」

 

アルベルトは引きずっていた()()をグレンの前に投げ捨てた。人の形をした物体。いやそれはグレンが先程殺される所を見た男……アルトの体だった。

 

「!…………傷が無いだと」

 

アルトの体からは活発に活動していた時の色を失い生きている様には見えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。制服は貫かれた跡と血痕が残っている。

 

「コイツの礼装だ。最後に発動したのは………四年前俺が殺した時か」

 

「四年前?………!お前が特務分室にコイツを連れてきた時か!」

 

グレンが特務分室に入って間もない頃。

アルトはアルベルトによって重要参考人として連れてこられていた。当時のアルトの瞳は狂気に囚われ、グレンですら話しかけるのを躊躇った程だ。

 

「当時俺はコイツを危険だと判断した。復讐に囚われ目的の為ならどんな事にでも手を染めていたからな」

 

「だが当時の室長との司法取引の果てに一年後、特務分室入った………か」

 

「ああ。心臓を貫いて()()()()()()()事に驚いた記憶ある」

 

「心臓を………『白魔儀 リヴァイヴァー』か?」

 

心臓を貫いて尚生きている。そんな事は不死者でもない限りはあり得ない。しかしアルトが不死者である可能性は無い。ならば蘇生されたと考えるのが妥当だろう。

 

「そうだ。心臓の停止を条件とした条件起動式によって『リヴァイヴァー』を発動させている。必要なマナは両親の形見である礼装の魔結晶に日頃から溜め込んでいるらしいな」

 

「両親の形見……か」

 

「両親による物だからか、親族以外には発動出来ない欠点があるらしいがな」

 

アルトを再び見ると先程まで色を失っていた体に生命力が戻ってきている様に見える。これ程の事を勝手に行う礼装。最早固有魔術(オリジナル)と言っても過言ではない。

 

「……そろそろ起きるな」

 

「…………………ッ!」

 

アルベルトの言葉と共にアルトの指が少し動き、そして跳ねる様に飛び上がった。額に汗を浮かばせているのはやはり魔術の反動なのか。それともリィエルによって命の危機に陥った事による焦りなのか。

 

「…………やりやがった」

 

グレンはアルトが顔を歪ませ笑みを浮かべているのを見て目を疑った。今まで死体の様に寝ていた男の態度とは思えない。

 

「おい、アルト?」

 

「は、ははははははは!アイツ俺に勝ちやがった。最近妙に成長してると思ったら……もう追い抜かされてたか」

 

狂っている。親族に殺されかけた事を理解して更に愉快に笑う様は道化の様だ。アルトは真っ当な人間には理解出来ない感情を抱えていた。

 

「チッ………正気に戻れアルト。責任は取ってもらう」

 

()()()()()()()アルベルト先輩」

 

「待て、アルト!お前リィエルを()()()()?」

 

グレンがアルトの真意を問う。

例え一年前逃げてしまった身だとしてもアルトがリィエルに手を掛ける事を見逃す事は出来なかったのだ。

 

「僕がリィエルを?そんなまさか。連れて帰るだけですよ。僕に勝ったご褒美もあげないといけないので」

 

「…………そうか」

 

グレンはその言葉を聞いて安心した。

家族同士の殺し合いなどグレンが許容出来る問題では無い。

 

()()()()()()

 

「ええ、()()

 

「……………なら何も言わん」

 

 

 

 

「それはそれとして………()()()()()()

 

アルトは小声で呟く。グレンは安心しきっているがアルベルトは気づいていた。アルトは家族を奪われる事が逆鱗なのだと。

 

 

控えめに言ってアルトは………ブチギレていた。

 




保護者スイッチオン!

チラッと出てくるアルトの過去。
そんな事よりさっさと終わらせてギャグ書きたい。
シリアスは嫌なのん。


無論、前書き後書きはギャグとリィエルすこで満ちていますけど?

因みにアルトくんの自己蘇生は三ヶ月に一回発動可能。余剰分のストックは出来ません。


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殺意MAXお兄ちゃん

リィエルに負けた事で自重が消えました。
精神性はそのままに戦い方が昔に戻ります。

まーた日間に載ってた………沢山の人に駄文を見られる恐怖で新たな扉を開きそう。

扉を開いてもリィエルすこ。

就活ナウなんでクオリティ低い希ガス。


グレンは疑問を持っていた。

 

アルト=マツバの配属は司法取引の末に行われたけれども、正面戦闘に明るく、白魔術での治療も高い精度を誇っている。彼の職の適性は専ら要人警護に向いている。

 

素人が聞いたとしても同様の事を思うだろう。

そして帝国軍の中で配属するのなら何処に行くべきか、と言われれば真っ先に女王親衛隊が挙がる。

 

老いたとはいえ国の英雄と正面から殴り合える戦闘能力は帝国の頂点である女王を守るのに十分、いや最適と言ってもいい。

 

しかし所属は帝国軍の暗部として名高い帝国軍魔導師団特務分室。イグナイト家との交渉の為に分野が違った特務分室に所属しているのだろうとグレンは予想していた。

 

 

 

目の前には惨劇が繰り広げられていた。

 

 

 

突入した研究所内で現れた異形の生物(キメラ)

皮膚には高い魔術への耐性を持ち魔術を使って倒すのは無理とは言わないが難易度が高い。

 

しかしアルトはそんな生物相手にも物怖じせず突撃し、舞う様に()()()()()()()

 

正面から向かってくる異形には貫手が魔術を阻む装甲を引き裂き心の臓を握り潰す。異形が敵を噛み砕かんと口を開けば開いた顎を腕を振るって断裂する。背後に寄った異形は踵によって頭部を果実の如く叩き割られる。

 

アルトの足元には数えるのも億劫な程、肉塊が転がっていた。その返り血を浴びアルトの制服は赤く染まった。

 

 

 

 

 

おそらく1日前のアルトが事に当たったならば首を締め落とし殺すだけで済んだのであろう。実際グレンが知るアルトの魔獣に対する対応はそんな所だ。

 

しかしグレンは不思議とこの戦い方が不自然とか、らしくないとは思わなかった。

 

寧ろその振る舞いにはなんの()()もない解き放たれた獣。グレンはアルトの命をなんとも思っていない様な戦いこそ特務分室に引き入れられた要因なのだと感じた。

 

 

 

そしてグレンはそれを見てアルトが言いそうな事を思い付き………ある事に気付いた。

 

『まさかこいつ、リィエルへの教育に悪いからこの戦い方を封印してたんじゃ………』

 

気のせいだと思いたい。

家族のリィエルが奪われて気が立っているから多少は乱暴になっているだけだと………しかしグレンの勘が限りなくその推測が正しいと納得していた。

 

 

「……ふぅ、行きましょう。日の出までに帰れば何事もなく旅行を楽しめます」

 

「 流石だな、衰えもなく更に研ぎ澄まされている」

 

「そうですね、あれだけリィエルと立ち合っていれば、衰えると言うことはないでしょう」

 

「嘘だろ、まだ成長するつもりなのかよ………」

 

「もちろん。それに合わせてリィエルも成長するでしょうし、グレン先輩ももっと向上心を持たないと……死にますよ?」

 

「………ガンバリマス」

 

グレンは確信(絶望)した。

今、この事件を解決しても自分に平穏など訪れない。リィエルを連れ帰るのはいい。大切な仲間だから助けたいとは思う。だが、その後どんな仕打ちが待っているのか…………頭の中をアルトの「致命傷まではセーフ」と言う有難い言葉がぐるぐると回った。

 

 

 

 

一向は更に研究所内部を進み、ある部屋に辿り着いた。

無数の水槽が立ち並び、水槽の中の()()を生かそうと稼働している。薄く光が灯る水晶の光源が照らしているのは………()()()()()()()()

 

「…………………」

 

「どうかね、私が選り好んた実験材料達は?」

 

不気味な実験室の中央に待っていた男。

この白金魔導研究所の所長。

バークス=ブラウモンが待っていた。

 

「お前……人をなんだと思っていやがるッ」

 

「彼らの事かね?私の崇高な研究に貢献出来たんだ、寧ろ光栄に思って欲しいね」

 

「ッ………」

 

余りの物言いにグレンは口を噤まずにはいられなかった。

水槽を暫く見ていたアルトがバークスに目を向けた。

 

「『感応増幅者』『生体発電能力者』『発火能力者』……異能者の研究ですか……」

 

「私の研究に興味があるのかね?ならば教えてくれよう!どうせ貴様らはここで死ぬ定め。研究成果を教えたところで誰かに話す事すら出来んからな!」

 

「……………」

 

バークスは懐から注射機を取り出して、自らに突き刺し中に入っていた薬物を注入し、その後バークスの体がメキメキと音を立てて膨れ上がっていく。

 

「ハハハハハ!これこそ我が研究の成果!魔術を遥かに凌ぐ性能を見せる異能者達の能力をこの身に再現したのだ!」

 

「……………無能ですね。心配して損しましたよ」

 

許せない行為ではあるけれども、アルトの想定する最悪には達していない。

 

「何?この私が無能?やはり所詮は軍の犬か。この崇高な研究を理解できないとはなッ!」

 

 

 

 

「……どれだけ減らず口を叩こうがお前は■■■以下だよ」

 

「……ッそれならばその身をもって我が魔導の威力を見るがいい!」

 

アルトが小声で口にした言葉に反応しバークスの肉体から極大の炎が放たれ、着弾と共に爆発。三人はその場から飛び退く事で回避を行い、物陰に隠れた。

 

 

 

 

「チッ、面倒だな【愚者の世界】じゃあ、無効化出来なそうだ」

 

【愚者の世界】は一定範囲内の発動する魔術式を停止させる魔術。すでに発動した魔術、魔術薬による体質の変化などは防ぎようもないのだ。

 

「確かに、今回はグレン先輩をメタって来たみたいですね……アルベルト先輩」

 

「何だ?」

 

「…………()()()()?」

 

「…………構わん」

 

「じゃ、一人でやりますね」

 

二人は物陰から出て行くアルトを引き止めなかった。相手が誰であろうと、アルトが出来ると思って申し出たなら手を出す必要は無い。三年間一緒に働いた上で勝ち得た一種の信頼だった。

 

「作戦会議は終わったかね?出てきたのが一人……不意打ちでも狙っているのか?」

 

「いいえ?アンタを殺すのは俺一人で十分だと判断しただけですよ」

 

「ッこのガキ一々感に触る言い方をしおって。そんなに殺されたいなら望みどおり!」

 

安い挑発にのったバークスはアルトへ向け、研究の成果を放つ。紫電が、冷気が、爆炎が室内を埋め尽くした。

 

 

-----------------------

 

以前までならバークスとアルトの戦術上の相性はバークスが有利だったのであろう。どれだけ傷を付けようとも元通りになってしまう再生能力はアルトにとって面倒である事は確実、長い長期戦に持ち込めば近接メインのアルトが例え勝ったとしても傷を負うのは必須だった。

 

二度、アルトがバークスに接近し頸動脈を掻っ切った。

けれども再生能力は衰えを見せない。アルトは『生体発電能力』によって左腕が動かなくなった。

 

「…………()()()

 

爆炎がアルトの()()位置を包み込むと同時にアルトは姿を消し…………バークスの正面に降り立つ。

 

「フンッ!無駄だ。焼け死ね!」

 

バークスが動くより先にアルトが自らの左腕を切り裂きながら駆け抜け、自身の血液をバークスの眼球に直撃させた。

 

水滴で小さな斬撃を作り出す武術、バークスにとっては直ぐに再生出来てしまう様な小さな傷だ。だがその一瞬、目を潰された一瞬が命取りだ。

 

バークスはアルトに二度接近され傷を負わされた。

()()()()()()()()()()()()()。その事実が油断を仰ぐ、例え接近されようと殺される事はないと慢心していた。

 

 

背後からバークスの脳髄を右腕が貫く。

この程度では再生出来てしまう。そんな事実は二度の接近で証明済だ。だから更なる手を加える。

 

 

「………………()()()()()》」

 

黒魔『ブレイズ・バースト』その爆炎がアルトの()()()炸裂する。その技術は確かにかつての英雄が使った技術。魔術を拳に乗せて放つ技『魔闘術(ブラッドアーツ)』だった。

 

頭部が破裂し凄惨な模様を描く。返り血がついたがアルトは気にした様子もない。

 

「終わりましたよ?」

 

「……うん、ヤベェ………ザマァとか思ってだけど普通にグロすぎる」

 

「気にする必要無くないですか?そんな事」

 

殺せば生物は只の肉塊だ。利用価値もない奴なら尚更である。

 

「(コイツ、リィエルの為にどんだけ制限してたんだよ)」

 

グレンは今後の生活でもアルトが変化する事に、また給料が減る事態になる恐怖に震えていた。

 




Q、つまりどう変わったの?
A、アルト君は暗殺者じゃけぇ………
A、ver保護者。ハァ……ハァ…暗殺者……?
(教育に悪いから)取り消せよ……!今の言葉ァ!
A、ver保護者卒業。そうだけも、何か?


主人公の【固有魔術】が出るのはいつになる事やら……
因みに予定は13巻


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