とりあえずサクっと人理修復 (十六夜やと)
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序章 特異点F 炎上汚染都市 冬木
プロローグ


この作品には以下の内容が含まれております。

・作者の妄想から生まれた作品
・痛々しいまでの中二病表現
・拙い文章力
・達観したオリ主達
・実はコイツ等何も考えてないんじゃ……?

以上の要素が苦手な方はブラウザバックすることをお勧めします。
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大事なことなので六回言いました。
それでもよろしければ、ゆっくり楽しんでいってくださいm(__)m
なお、前作キチガイシリーズとは世界線を共有しておりません。しかし、前作読んでおくとコイツ等のキチガイぶりが一目で分かると思います。


 ──どこもかしこも燃えている。

 

 

 ──安全な場所などないと嘲笑うかのように。

 

 

 ──そこは地獄以外の何物でもなかった。

 

 

「おい、マシュ! マシュ! しっかりしろっ!」

 

「せん……ぱ……い……?」

 

 

 

『システム レイシフト最終段階に移行します 座標 西暦2004年 1月30日 日本 冬木』

 

 

 

 ──機械音が鳴り響く。

 

 

 ──警告音が鳴り響く。

 

 

 ──その音が耳にこびりつく。

 

 

 

「花子、この瓦礫どかせっ!」

 

「熱い」

 

「……あぁ、もう、クッソ……とにかく俺も手伝うから──」

 

 

 

『ラプラスによる転移保護 確立 特異点への因子追加枠 確立』

 

 

 

「うっせーなぁ! さっきからさぁ!?」

 

「マイケル、どいて。その壁の破片壊す」

 

「壊したらマシュごと御陀仏だろうがいい加減にしろ!」

 

 

 

『アンサモンプログラム セット マスターは最終調整に入って下さい』

 

 

 

「せんぱい……私はもう……助かりません……ですから──」

 

「助かる助からない以前の問題なんだよっ!? 生憎だが女の子見殺しにするような教育受けて育ってない身なんでねぇ! そこまで落ちぶれちゃいねぇんだよなぁこれがぁ!」

 

「上に同意」

 

 

 

『観測スタッフに警告 カルデアスの状態が変化しました』

 

 

 

『シバによる近未来観測データを書き換えます 近未来百年の地球において 人類の痕跡は 発見 できません』

 

 

 

『人類の生存は 確認 できません 人類の未来は 保証 できません』

 

 

 

「カルデアスが……真っ赤に、なっちゃいました……」

 

「そりゃこんな周囲燃えてりゃ真っ赤にもなるわなぁ! あぁ!? クッソがマジでふざけんなよ! こんなことならジョンもボブもダニエルも連れて来りゃ良かったわっ!」

 

「──よっこらせっと」

 

「ナイス脳筋! ついでに俺の上着引きちぎって紐状にしてくんねぇか!? 止血だけでもしとかねぇと大変だぞこれ!?」

 

「はや……く……にげ」

 

「ふんぬらばー」

 

「だぁれが俺の上着を木っ端微塵にしろっつった!?」

 

 

 

『コフィン内マスターのバイタル 基準値に 達していません レイシフト 定員に 達していません 該当マスターを検索中……………発見しました 適応番号47 ×××・×××××× 適応番号48 ×× ×× を マスターとして 再設定 します』 

 

 

 

「いけるっ! 俺の応急手当のセンスが輝いてるっ! ぶっちゃけ初めてだから詳しくは知らんけどワンチャンいけるっ! 生存フラグ立ったぞコレ!」

 

「あの……せんぱい……手を、握ってもらって、いいですか……?」

 

「ばっちこーい」

 

 

 

 

『アンサモンプログラム スタート 霊子変換を開始 します レイシフト開始まで あと3 2 1 全行程 完了(クリア) ファーストオーダー 実証 開始 します──

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「視界オールクリアっと」

 

「先輩、こちらも敵性生物となるような存在は確認されておりません。ひとまずは安全であると断言できます」

 

「こっちにもいなかった」

 

「フォーウ」

 

 

 ──どこもかしこも燃えている。

 

 

 ──安全な場所などないと嘲笑うかのように。

 

 

 ──そこは地獄以外の何物でもなかった。

 

 

 しかし、少し前までの空間とは違っていたのは、ここには密室による息苦しさのようなものがなく、その代償として不思議な生命体が闊歩している、まさに『魔境』とも呼べる場所だった。

 一見すれば現代日本の都市。廃墟でなければ人が盛んであったことが容易に想像できるだろう。

 

 俺は生真面目に報告する紫髪の少女──マシュ・キリエライトと、仏頂面を崩さない金髪の少女──花子の言葉に溜め息をつきながら、瓦礫の山から器用に飛び降りた。花子の頭には白いモフモフとした謎生物フォウ君までいる。

 マシュは若干エロい鎧を身に纏って大きな盾を装備し、花子は身長は小さいながら大きな胸を強調するような制服に身を包み、俺は上着を金髪女に木っ端微塵にされたため黒いジーパンに紺色のインナーを着ていた。これに白い制服姿だったんだけどなぁ。

 

「さて、こっからどうするよ。つかココどこよ」

 

「……おそらくではありますが、だいたいの想像はつきます。しかし、今の私には詳しい説明ができるほどの知識はありません。ただ、私たちの世界にも存在しないような生命体がいるため、ここが先輩の知る場所ではないのは確かです」

 

「死んで異世界転生する王道異世界物ラノベ展開だと思ったんだけどねぇ。まぁ、まだ世紀末覇者みたいな世界じゃなかっただけでも感謝するか」

 

 ここまで来る途中で、よくわからん生命体から姿を隠しながら逃げて来た背景もあり、俺は頭を掻いて大きく溜息をつく。

 らのべ?と疑問符を浮かべているマシュの姿に和んでいると、ふとマシュの目の前に青い画面が浮かび上がった。一瞬ブルースクリーンかと身構えたが、青い画面には最近どっかで見たことあるような冴えない青年の姿が映されていた。

 その男は反射的に叫ぶ。

 

〔あぁ、やっとつながった! こちらカルデア管制室だ、聞こえるかい?〕

 

「こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。特異点Fにレイシフトしました──」

 

 ここでマシュと画面の青年は軽い情報交換を行う。

 まず彼の名前がロマニ・アーキマン──通称『Dr.ロマン』だということ。ここが西暦2004年の日本の冬木市と呼ばれる場所であること。マシュは『デミ・サーヴァント』という存在となって一命を取り留めたこと。

 ロマンに告げられた新しい情報を吟味しながら、内心は引きつった笑みを浮かべるのだった。

 

〔──現在データを確認中ではあるが、これによるとマシュは金髪のキミ……えーと、花子ちゃんだったかな。キミの使い魔(サーヴァント)として成立している。キミ達にはサーヴァントの説明すらしてなかったから、戸惑うこともあるだろう〕

 

「そりゃそうだ。こちとらマクドナルドのバイト面接会場だと勘違いしてカルデアに来た一般人だからな。ぶっちゃけ過去に来たとか魔術とか英霊がどうのこうのだとか全然分からん。助けてくれ」

 

「へるぷみー」

 

〔……そう言えばそうだったね〕

 

 苦笑いを浮かべる画面内の青年だったが、その画像にノイズが走る。

 マシュはそれに気付いて表情を少し固くし、ロマンは早口で会話を切ろうとする。

 

〔……しまったな、予備電力に切り替えたばかりでシバの出力が安定していないらしい。三人とも、そこから二キロ移動した先に霊脈の強い場所がある。詳しい場所はマシュが分かるだろうから安心してくれ。そこなら通信が安定するだろう〕

 

「なぁ、これだけは教えて欲しいんだが、他の三人は無事なのか?」

 

〔他の三人……あぁ、キミ達と一緒に居た子達か。彼らなら無事だよ。今はカルデアの復旧に──〕

 

 そこで映像は途切れた。

 通信出来るだけの電力とやらがなくなったのだろう。

 こっちはこっちで時間旅行という名の面倒なことに巻き込まれている最中だが、被害に見舞われたカルデアの方も大惨事になっているのだろうか?

 

 ここに居ても始まらない。

 俺は肩をすくめながら指示を出した。

 

「というわけで、霊脈っつーのが何なのかは知らんけど、マシュちゃん案内よろしく」

 

「分かりました。もしかしたら戦闘になるかもしれませんが、その時は私がマスターと先輩を守ります!」

 

「頼もしい限りだけど今回はよしておこう。君もデミ・サーヴァントとかいう不思議パワーで強くなったらしいけど、本調子になってないのは確かだ。ここは時間をかけてもいいから敵に見つからないように移動しよう。花子もそれでいいな?」

 

「よくわかんないけどマイケルに任せる」

 

 わずかに緊張した面持ちで返事をするデミ・サーヴァントの少女と、思考を完全に放棄した仏頂面の少女+よくわからん白いモフモフを引きつれ、俺は周囲を注意深く見渡しながら移動するのだった。

 

 

 

 




【補足】

 ──西暦20××年、魔術(?)がまだ成立していた最後の時代。人類の営みを永遠に存在させるために秘密裏に設立された人理継続保障機関フィニス・カルデアで、『20××年を最後に、──約一年後に人類は絶滅する』という研究結果が()()された。
 人類滅亡の原因を調査するうち、カルデアの魔術サイドによって作り上げられた『近未来観測レンズ・シバ』とかいう変な機械は、突如として過去・西暦2004年の日本のある地方都市に観測不能領域の出現を検知する。普通ならばありえない事象にカルデア機関員達は、これこそ人類史が狂い絶滅に至る理由と仮定し、テスト段階ではあったが理論上は可能レベルになった霊子転移(レイシフト)とかいう不思議システムを用いた時間遡行を実行する。その目的は2004年に行われた『聖杯戦争』とかいうお祭り騒ぎに介入し、人類滅亡という狂った歴史を正す事であった。

 そのような説明をした方を、俺を含めた四十八人くらいの人間の視線が射貫く。
 大言壮語とも呼べるような内容を、何の恥ずかしげもなく説明し終えた同世代くらいの少女は、自分の言葉に酔いしれるように俺達を見据える。

「特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。貴方達は各国から選抜、あるいは発見された稀有な──」

「──すみません、質問よろしいでしょうか?」

 俺の中に生まれた疑問をそのままにして話を進められると困ると判断したので、話を遮るのは大変忍びないが、手を挙げて俺は彼女の発言を止める。
 若干の不機嫌さを含んだ表情を浮かべた少女は、渋々と俺の発言を許す。

「……えぇ、いいでしょう。この説明に何か不備でも?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど──」

 俺の中に生まれた疑問は彼女の説明に対する不満などではない。いや、もしかしたら何らかの間違いを犯している可能性も否定できないが、ともかく俺が言いたいのはそう言うことじゃないと明言しておこう。
 加えて、俺の隣には知人と呼べる存在が座って居るのだが、当の本人はウトウトと相槌を打っているため、彼女の不機嫌さが一気に増してしまう。早く俺の疑問を言わなければ、このまま彼女にココを追い出されてしまいそうだ。

 ひとまず発言を許された俺は立ち上がる。
 そして静かになった講堂らしき場所に俺の声が響いた。そりゃもう、良く聞こえるレベルで。





「ここマクドナルドのバイト面接会場じゃないんすか?」

「そこの二人を叩き出しなさいっっ!!」








 以上回想


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流石です、所長!

 評価のコメント文字設定を忘れてて辻低評価くらった十六夜やとです。私は悲しい。

 というわけで所長と合流します。
 次回は鯖召喚します。


「もうすぐドクターに指定されたポイントに到着します。……先輩は凄いですね。一度も敵と遭遇することなく到着しそうです」

 

「はははっ、褒められるのは嬉しいけどフラグなんだよなぁ、それ」

 

 良く言えば隠密行動重視で移動し、悪く言えば臆病者のようにコソコソ隠れながら移動した俺達は、目的のポイント近くまで、敵性生物と遭遇することなく現在に至る。その過程で闊歩してた骸骨みたいなクリーチャーにビビりもしたが、どうにかこうにか巻き込まれることなく来れた。

 屈んで歩いたり、転がって移動したり、物陰に隠れたり、石を投げて注意を逸らしたり、道中の木に擬態したり──どうして特殊訓練を受けた軍隊のような行動をしてるのか疑問に思う自分がいたが気にしない。『いのちだいじに』が最優先だったから仕方ないんだけど。

 

「しかし……見渡す限りの炎ですね。資料で見たことのあるフユキ市とは全然違います」

 

「そうなん?」

 

「資料ではフユキ市は平均的な地方都市であり、2004年にこのような大災害が起きた事はないはずですが……」

 

「2004年、か。ここ本当に過去なんだなぁ」

 

 あんまり気にせずマシュとドクターとの会話で流してはいたが、今ここに居る俺達は過去の世界にタイムスリップしたようなものだ。それよりもっと大変な目にあっているから仕方ないにせよ、空想上の体験に感慨深く思う。

 

 ……ん?

 俺そういえば過去の世界に来てるんだよな? タイムパラドックスとかその辺ってどうなってんの?

 

「ねぇ、マシュ──」

 

 俺がマシュにそこら辺の仕組みの解説を求めようとした瞬間、女性の金切り声のようなものを耳にして、マシュが盾を構えてすぐさま俺達を守る。

 瞬時に厄介事の気配を察知した俺は肩をすくめるのだった。

 

「女性の悲鳴です。急ぎましょう、マスター、先輩!」

 

「行かなくちゃ、ダメなんだろうなぁ……」

 

「りょーかい」

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 

「何なの! 何なのコイツ等! どうして私ばっかりこんな目に合わなくちゃいけないのよ! もう嫌! 来て、助けてよレフ! いつだって貴方が助けてくれたじゃない!」

 

 悲鳴のあった方へ行ってみると、何かショチョサンが骸骨兵と一戦交えている光景があった。

 何か指から弾丸みたいなの出してる姿は様になっているのだけれど、言ってることは情けないの一言に尽きる。そりゃ変な化物に襲われてたらそうなるのも無理はないけどさ。

 

 マシュは急いで所長さんを助けに行こうと赴くのだが、それを俺は片手で制止した。

 彼女は俺に理由を求める。

 

「このままではオルガマリー所長が──っ!」

 

「よく考えてみ、マシュちゃん。こんな大声出してたら敵が集まってくるのは明白なのに、どうして我等が麗しき所長さんが子供みたいに泣き叫んでいるんだと思う? というか()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「それはどういう……」

 

「つまり所長さんは自分の身を挺して囮役とし、他の誰かがこの特異点?ってのを修復するまでの時間稼ぎをしてるってわけさ。俺達はその意思を汲み取って、さっさとフユキ市の異変を解決するのが当然だと思わないか?」

 

「な、なるほど」

 

 マシュも敵が集まるリスクを犯して泣き叫んでいる所長の意思を汲み取ったようだ。考え込んでいたマシュは真剣に頷いて、彼女を救出するのを諦める。

 本当は面倒なの増えても困るから見捨てるだけである

 さて、さっさと霊脈ってところに行こ──

 

「ちょ、マシュ!? と……馬鹿二人組!? 何逃げようとしてるのよ! 早く助けなさ──あ、待っ、だずげでええええええええええ!!」

 

 と思ったけど無理だったわ。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「戦闘終了です。お怪我はありませんか、所長」

 

 骸骨兵を「盾で殴り殺す!」という戦法を真っ向から信じ込んだデミサーヴァントのマシュと、魔術使えないなら物理で殴ればいいじゃないの精神で何故か骸骨兵を無双した花子。それを唖然とした表情で見ていた俺と所長の図。

 戦闘後に骨を集めてる花子を他所に、マシュは所長の安全を確認した。

 

「……どういうこと?」

 

「所長? ……あぁ、私の状況のことですね。信じがたいことだとは思いますが、デミサーヴァントとして融合を果たすことが出来ました」

 

「そっちじゃなくて! いや、そっちも予想外だったけど! それ以上に私の演説で馬鹿な事言ってたそこの一般人!」

 

 花子と一緒に骨を拾ってた俺は、所長さんの言葉に首を傾げながらそちらの方を向く。何に使うか分かんないけど、なぜか必要になってくると思った俺と花子は律儀に紅い骨を回収していたのである。

 その様子を見て所長は更にキレる。

 

「なんでそこの一般人がマスターになってんのよ! サーヴァントのマスターになれるのは一流の魔術師だけ! あんな何考えてんのか分からない奴がマスターになれるはずがないじゃない! マシュにどんな乱暴なことして言いなりにしたの!?」

 

「おいおい冗談は錯乱状態だけにしてくれよオルガ所長。花子が無理やり言いなりにするとかいう高度な思考を持ち合わせてるわけないだろうが。フリージア流すぞ?」

 

「誠に遺憾」

 

「それは誤解です、オルガマリー所長」

 

 マシュはオルガ所長に俺達がここにレイシフトしてきた経緯、なぜマシュが花子と契約したかの事情を簡単に説明した。もちろん霊脈に向かいながらである。

 同時に所長のおかげで俺達がなぜレイシフトできたかの理由も知ることが出来た。

 ──レイシフトできたのが、ここに居るメンツだけということも。

 

「困ったなぁ。マスター候補者とかいうエリート共に厄介事全部押し付けて、こちとらフユキ市観光と洒落込もうと思ってたのに。これじゃあ俺達が特異点を攻略しなきゃいけないじゃないか」

 

「よくもまぁ崩壊した冬木市を観光しようって思うわね……」

 

「だって時間旅行とか中々にレアな経験だぜ?」

 

 とりあえず所長からの指示でベースキャンプを作ろうという話になり、霊脈に辿り着いたカルデア御一行は警戒しつつ馬鹿話に花を咲かせる。

 マシュの盾が何らかの装置になるらしい。

 ちなみに花子は白いモフモフを頭に乗せて彼女の仕事を仏頂面で眺めている。

 

「で、これでカルデアと安定した連絡が取れると」

 

「ついでに貴方のサーヴァント召喚のための媒介でもあるわね。見たところ貴方にも魔術回路があるわけだし、戦力が足りないのだから契約してもらわないと」

 

「……サーヴァント、ねぇ」

 

 英霊とは『英雄が死後、祀り上げられ精霊化した存在』のことであり、そのため世界の法則から解き放たれており、世界の外側にある『英霊の座』とか呼ばれてる場所から『世界の危機』に際して『世界からの要請』によって過去・現在・未来を問わずあらゆる時代に召喚される……らしい。そんで、人々に祀り上げられ英霊化したものを、魔術師が聖杯とかいう物の莫大な魔力によって使い魔として現世に召喚したものをサーヴァントと呼ぶのだとか。

 よくわからん。

 

 これでも所長が言ってたことを俺自身が要約してみたものであり、他の業界でもあることなのだが、専門用語を専門用語で解説しないでほしいと思うのは俺だけだろうか?

 特に彼女だけなのかもしれないが、知らないことに対しての蔑視が激しい。魔術師って連中特有のことなのか、単純に彼女の問題か。

 

 そうこうしているうちに召喚サークルは完成し、俺達はカルデアとの連絡に成功した。

 同時に──俺達はカルデアの惨状を知ることとなる。

 

 

 

 

 

〔カルデアで生存しているスタッフは20人にも満たず、レフ教授の生存は絶望的です。加えて、マスター候補者全員が危篤状態です〕

 

 

 

 




【現段階での簡単な登場人物紹介】

マイケル……主人公。純日本人。
花子……とりあえずヒロイン。ハーフ。
マシュ……デミサーヴァント。可愛い。
所長……今作のツッコミ担当。つまり活躍する。
ロマン……アドバイザー。ドルオタ。
レフ……杉田。


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この詠唱は恥ずかしい

 今回はあんまりキチガイ要素ないです。
 まぁ、序章はキチガイ要素少なめですからね。ほら、チュートリアルは真剣にやるでしょう? 逆に言えばチュートリアル以降は理性の枷が外れます。


「46人のマスター候補者は凍結保存、カルデアはレフ教授も失い8割の機能が動いていない状態、そして生き残ってるスタッフは二十人未満。いやー、言葉にしてまとめてみると悲惨な状態だな。これ詰んでね?」

 

〔こんな状況で君は本当に呑気だね……〕

 

「同じ場所どころか同じ時間軸にすらいないんだから、焦ったところで何もできないだろ? ただでさえ帰れるのかどうかさえも怪しいのに、他人の心配までする余裕はないぞ」

 

 責任がどうのこうの騒いでいる所長を無視して、俺は画面の奥にいるロマニと会話していた。責任も何も帰ったら責任追及してくる奴等が存在してるかも怪しいのに、ここまで今は亡き(不確定)レフ教授に助けを求めるくらい取り乱すとは、彼女は想像以上にポンコツなのかもしれない。マシュのマスターには敵わんがな。

 当方での目標が『特異点Fの調査』に定まったところで、俺は頭をかきながら「それはそれとして……」と話を切りだす。

 マシュは花子と文明的なコミュニケーションを図っている最中なので、聞かれることはないだろう。

 

「この一連の大事故は誰が原因なんだろうね」

 

〔……()()? ()()じゃなくて?〕

 

「『何か人類滅びそうなんで調査しようぜ』って段階での、大事故なんだぞ。人為的なものしか俺は感じないんだが? 俺は魔術に関しちゃド素人だから、不思議パワーを持つ未知の生命体が不思議パワーで何かしたんなら打つ手がないだろうが、完全にカルデアが崩壊してないことを鑑みるに、俺達と同等か想像の範囲内の高度な知性を持つ何かが仕掛けてきたって考えるのが妥当だろ?」

 

 犯人の詰めの甘さ。

 現在進行形で俺達に攻撃してこない現状。

 カルデア修復への追撃がない。

 

 以上のことから、俺は人為的な犯行であると適当に推測する。ぶっちゃけ合っても合ってなくても俺は困らないから、俺が考える限りの範囲内で考察を述べた。もしかして身内の犯行だったりして。

 真剣に考え始めたロマンに「まぁ、本当はどうか分からんけどねー」と言葉を付け加える。

 

「んな悲観的な話は置いといて……俺はどうやったらサーヴァントって奴を召喚できるんだ? なんか戦力不足だから一応マスター候補者の俺も駆り出されることになったんだけど」

 

「それは私が説明するわ」

 

「あ、所長。レフ助けて症候群(ヒステリック)は収まったん?」

 

「その物凄く理不尽な病名つけるの止めてくれない? ……ほら、これを使いなさい」

 

 不機嫌そうな所長から手渡しされたのは、角ばった金平糖のような虹色の石三個。大きさは普通の中華料理屋で出されそうなゴマ団子くらいの大きさで、手で転がしてみると石同士がぶつかり合ってカランと心地よい音が鳴る。

 良く言えば神秘的な石に、悪く言えば日本人の一部の心を狂わせそうな石に、俺はこれをどうすればいいのか所長に問いかける。

 いつの間にか花子とマシュも集まって来たようだ。

 

「その石──聖晶石を媒介として、カルデアの英霊召喚システムを用いて、貴方のサーヴァントを召喚するの。その際に詠唱が必要なんだけど……」

 

 英霊なるものを召喚する詠唱を忘れてしまった所長に代わり、ロマンが新しいウィンドウを出して詠唱の一節を画面に出してくれる。

 想定していた以上に長く、ある程度流し読みした俺は、率直な感想を魔術の造詣に詳しい二人に叩きつけるのだった。

 

「恥ずかしくない? この詠唱」

 

「あ、貴方、敢えて私たちも言ってなかったことを……」

 

 少なくとも人様の前で口ずさめるような文章ではなかったことに、英霊を呼び出せる事実に若干ワクワクしていた俺は萎えて、眉間を揉みながら所長が溜息をつく。

 この詠唱が生まれたのが数百年前だということで納得せざるを得なかったが、俺のテンションが下がってしまうのも理解してほしい。できればこの詠唱を昼休みの学校のグラウンドで大きな声で詠唱できるような猛者と代わって欲しいものだ。少なくとも花子ならできる。

 

 さっさとやれと足を蹴り始めた所長に流されるが如く、観念した俺は石を片手に例の詠唱を紡ぐ。

 もう二度としないことを心に誓いながら。

 

 

 

素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、

 

王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度。

 

ただ、満たされる刻を破却する。

 

――――告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

 

我は常世総ての善と成る者、

 

我は常世総ての悪を敷く者。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

 

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

 

 刹那──吹き荒れる暴風。

 それが自然現象で起こったものではないことは場にいる全員(除・花子)が理解し、腕で顔を覆いながら風が鎮まるのを待つ。特に発生源の間近にいた俺は、本能的にそれが俺の内に眠る()()が生み出したものであることを察する。

 

〔これはエクストラクラス……っ! アヴェンジャー!? マイケル君、そこを離れるんだっ〕

 

 ロマンが何やら大切そうなことを呟いていたが、急に暴風が何事もなかったかのように収まった今、俺の耳には聞こえてなかった。そして召喚の起点となった盾の前には、天使(マシュ)脳筋(花子)所長(お荷物)とは違う、正体不明の何かが顕現している。

 その姿に俺は目を見開いた。

 

 黒を基調とした軽甲冑にマント。真新しい衣装であるはずなのに、マントの端々がボロボロになっており、まるで()()()()()()()()風になっている。

 長い白い髪が靡く姿は見惚れるほどに美しいが、それ以上に印象に残るのは金色の瞳。まるで人類全てを憎んでいるかのようなドス黒い感情を、隠そうともせずに目前にいる(マスター)へと向けているのだ。その有様も彼女の美を際立たせているのだが。

 

 彼女が一歩歩くと軽甲冑の鎖が擦れる音が響く。

 手に持った大きい旗を地面へと突き刺す。それによって生じる鈍い音。

 

 

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。……どうしました。その顔は。さ、契約書です」

 

 

 

 アヴェンジャー。復讐者、か。

 

 我が友人ダニエル曰く、『美人というのは声までもが美しい。何故なら美人の美しい骨格が美声を奏でるからである』と。外見だけは美少女な花子と所長、言わずもがな可愛いマシュの例からするに彼の言葉は正しかったのだろうが、英霊である彼女は違うベクトルの美しさを醸し出す。

 ここまでの美女と言うのは中々お目にかかれない。俺は無意識に息を飲んだ。

 

〔えっと、失礼かもしれないけど、君の真名は何だい?〕

 

 本来なら俺が言うべき台詞をロマンが言う。

 画面越しだから彼女の威圧に当てられることがなかったのだろう。

 

「真名……そう、真名……」

 

 一瞬だけ美しい顔が歪む。

 だが本当に一瞬だった。彼女は卑屈そうに口を歪めながら、俺達を卑下するように名乗る。

 

「ジャンヌ・ダルク……の『贋作』かしらね。あの女の()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()。聖杯の力を受けて、本来在り得ることのない形に変転した反英霊。どう、幻滅したかしら?」

 

 自分はジャンヌ・ダルクの偽者である。

 堕ちた魔女であり、忌むべきフランスへの復讐者だ。

 どうだ。こんな()()()()()()()()()を引いた感想は?

 

 見ていて痛々しいまでに卑屈な彼女の歪んだ笑みに、俺は大きく息を吐いて所長へと顔を向ける。肝心の所長はジャンヌ・ダルクの偽者を名乗る英霊が求める答え……つまり『使えないハズレ』を見るような表情で彼女を眺めていた。

 

「所長」

 

「……何かしら?」

 

「何かジャンヌ・ダルクのパチモん召喚したんだけど、これどこに訴えたら石返ってくるん? 消費者庁?」

 

「ぶっ殺すわよクソマスター」

 

 

 

 

 

 




【前回よりはマトモな自己紹介】

マイケル……今作の主人公。勿論偽名で、純日本人。友人のダニエルの口車に乗って、カルデアをマックの面接会場と勘違いして、今回の事件に巻き込まれる。雪山上った先が会場とか馬鹿でもありえないと気づくだろうが、そこはキチガイなので仕方がない。アヴェンジャーなジャンヌ・オルタを召喚したマスターとなったので、コイツを使ってサクっと人理修復をするよ。


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南国育ちに雪山は辛かった

 原作の『年代が古いほど強い』論でいくか、FGOの『鯖相性&ゲーム内の性能』論でいくか悩んでいましたが、んなの度外視して頭おかしい一般マスターがいるので深く考えるのは諦めました。

 次回は例のアニキが出ます。可哀そうに。


 ジャンヌ・ダルク。

 農夫の娘として生まれ、神の啓示を受けたとしてフランス軍に従軍し、イングランドとの百年戦争で重要な戦いに参戦して勝利を収め、後のフランス王シャルル7世の戴冠に貢献した英雄。コンピエーニュ包囲戦で捕虜となり、『不服従と異端』の疑いで異端審問にかけられ、19歳で火刑に処せられた悲劇の聖人。

 ってwikiに書いてあった。

 

 火刑で殺されたことはジャンヌ・ダルク本人は恨んでいないらしく、つまり俺の召喚したジャンヌ・ダルクは『よくも魔女認定して殺してくれたなぁ? あぁ?』って考えるタイプのIFジャンヌ・ダルクということらしい。

 通常の聖杯戦争……というかカルデアの召喚システムでは、剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)の七クラスのいずれかで召喚するのが基本なのだが、今回のジャンヌさんはエクストラクラスと言われる特別なクラスなのだとか。

 聖人と謳われた彼女の暗黒面の擬人化ってわけね。

 

「つまり俺は君のことを何て呼べばいいん?」

 

「適当にアヴェンジャーとでも何とでも呼びなさいよ。こんな贋作の名前に意味なんて」

 

「よっしゃ言質とったぞ。後で正式に決めるとして、仮名は『荒川・ジョセフィーヌ・万次郎』って──」

 

「ジャンヌ・オルタ。おk?」

 

 新たな仲間としてジャンヌ・オルタ・荒川・ジョセフィーヌ・万次郎が加わった。

 所長はピリピリかつイライラしているが、どうやら俺と花子が無能である以外にも、彼女が精神的に情緒不安定である理由があるらしく、特に彼女のことは気にせずに探索を続ける。

 触らぬ神に祟りなしってコトだ。

 

「オルタ、あそこのモンスター倒してきて」

 

「はぁ? 何で私が」

 

「じゃあいいや。おーい、マッシュちゃーん。忙しいとこ悪いんだけど、ウチの穀潰しが働きたくないんだってさ。だから──」

 

「誰が働かないって言った!? あんな雑魚モンスターくらい私が瞬殺してあげるわっっ!!」

 

 基本的に命令すると反発する。だけど、プライドが高いので自分が無能扱いされるのは耐えられない。恐らくオリジナルの彼女に大きなコンプレックスを抱えてるのが原因かもしれないが、そこのところを上手く突いて、俺は危険因子となりうる目前のモンスターにオルタを突撃させる。

 黒い炎でモンスターが消し炭になっている様を満足げに頷いていると、どこか批難めいた表情を浮かべる所長が労いの言葉をかけてきた。

 

「……貴方、いつか彼女に刺されるわよ?」

 

「刺される理由が分からないんだが……」

 

 俺は別に彼女に命令を強要してるわけじゃない。実際マスターになった際に『令呪』と呼ばれる強制コマンドがあるので、無理矢理社畜にさせることも本来ならば可能なのだ。これは正式な聖杯戦争の令呪よりも強制力は弱いらしいが、それでもマスターである俺には絶対権がある。

 

 だが、俺はオルタに命令する理由で令呪を使おうとは今のところ思わない。今後どうなるか分からんから保留の段階だけど。

 ロマン曰く英霊との信頼関係というのは割と重要らしく、それを損なう可能性はできるだけ排除したいと考えているからだ。それやるくらいなら誘導させて騙して彼女に判断させる方が楽である。

 

 だから令呪の説明を聞いたときに俺は彼女に言った。

 

 

 

『俺は君に無理な命令はしないと約束しよう』

 

『……何馬鹿なこと言ってるの? そもそも信用できる訳が──』

 

『【令呪を以て命じる。そこでコサックダンスを披露しろ】』

 

『はぁ!? ちょ、身体が……!』

 

『【重ねて令呪に命じる。髭ダンスも追加で】』

 

『何乙女にアホなことさせてんのよおおおおおおお!!』

 

『これで俺の令呪は一つだ。これを失えば俺は君にコサックダンスと髭ダンスをさせた報復が待ってるから使えない。ほら、君に命令できないだろ?』

 

『アンタねぇ……!』

 

『あ、ちなみに令呪って回復するらしいんだけど、1画回復させる度に踊ってみた披露な?』

 

『クソマスターああああああああああああああああ!!』

 

 

 

「やっぱ俺が刺される理由が分かんないんだけど」

 

「……オルタよりも先に私が刺してやろうかしら、マジで」

 

 次はモリヤステップだな。知らない人は検索してみよう。

 スマホで面白そうなダンスを探してると、モンスター消し炭にしてきたオルタが俺を睨みながら帰ってきた。ちゃんとモンスターが落とした素材を持ってくるあたり、根は良い子なのかもしれない。

 

「お疲れさん。俺じゃあアレに対抗できないからね。助かるよ」

 

「……チッ」

 

「はい、報酬のアメちゃん」

 

「そんなんで私が喜ぶとでも? どうやら私のマスターは頭がお花畑のようね。いっそ燃やし尽くせば花畑よりも綺麗になるかしら?」

 

「いらんの?」

 

「……いる」

 

 不機嫌そうにオルタが受け取った飴を大事そうになめてる姿に苦笑しながら、今度は仕事を果たして来たマシュと花子にも飴を提供する。ここで我が友ボブから袋ごと押収した飴が役立つとは思わなかった。

 棒付きキャンディーが何気に世界を救ってるのだ。

 

「……ところでマシュ、貴方宝具が使えない?」

 

「はい……どうやらそのようです」

 

 先ほどの戦闘で何か思うことがあったのか、所長の問いに影を落とす。

 マシュが敵の攻撃を的確に防御し、花子が敵を殴り殺す連携は素晴らしいと思ったのだが、所長は『宝具』が使えないことに焦りを覚えているらしいのだ。

 

 『宝具』とは簡単に言えば必殺技。

 相手に弱点を悟られないためにクラス名で呼び合う彼等にとって、まさに伝承や偉業を切り札とする宝具は利点でもあり欠点でもある。マシュ自体は半ば強制的にデミサーヴァントとなったため、どの英霊と融合したのかが分からず、宝具が使えない状況だと語る。

 マスターたる花子が一人前の魔術師となれば情報を閲覧できるとのことだが……このアホタレが一人前になるより先に人類が滅びそうである。

 

「宝具が使えない程度、どうってことないだろうって思うのは俺だけか?」

 

「ちょっとはその小さい脳みそで考えなさい。自分の四肢が思うように動かなかったらどうなるかを」

 

「……あー、そういう感覚なのね。納得」

 

 オルタに指摘されて考えを改める。

 やっぱり花子にはマシュちゃんのためにもマスターとして精進してもらおう。望みは薄いが確率はゼロじゃない。

 

「まぁ、カルデアのレイシフト機能が回復すれば一流のマスターをシフトさせることもできるわ。そうなれば貴方達はお払い箱よ。魔術の素人はカルデアの隅で震えていなさい」

 

「マジかぁ。カルデア雪山の上にあるから寒いんだよなぁ。逆にココは暖かいから楽」

 

「アンタを暖めるために街が燃えてるんじゃないわよ!」

 

 とうとうアンタ呼ばわりである。

 近くの燃えてる一軒家で暖を取っていたら怒られた。

 

 だって雪山クソ寒いんだぞ? 何月だと思ってんだ?

 氷点下なんて数えるほどしか体験したことのない南国育ちには辛すぎる環境なのだ。気温マイナスとか舐め腐ってるとしか思えない自分がいる。

 

「マシュは戦闘大丈夫?」

 

「はい、マスター。武器は上手く使えませんが……」

 

〔ごめん、話は後! そこから逃げるんだ! 新しい敵性反応だ……しかもこれはっ!〕

 

 次から次へと問題が生まれるとは、どうやらこのパーティメンバーの中に不運の女神に愛されてる奴がいるようだ。さては所長オメーだな? 特に、ロマンが唐突に通信を開いて撤退を促した瞬間、ズシンと重い地響きが聞こえた瞬間に、今回のは「あ、これはヤバいやつだ」と直感的に感じる。

 黒い霧のようなもので正しく認識できないが、それが人型をしたものなのは薄っすらと理解できる。そして聖杯戦争の後に起こったのが現在の特異点だという情報から察するに──

 

〔サーヴァントだ! マイケル君と花子ちゃんにはサーヴァント戦は早い……!〕

 

「いっちょ殺ったりますか……」

 

「ウォーミングアップには飽きた」

 

〔どうしてそんな君達は好戦的なんだい……!?〕

 

 ポキポキと指の関節を鳴らしながら向かうマスターと、

 

「が、頑張ります!」

 

「クソマスター、いちご味とオレンジ味を用意しときなさい」

 

 従順なサーヴァント達の初めての対サーヴァント戦が幕を開けた。

 

 

 




【前回よりはマトモな自己紹介】

花子……今作のヒロイン枠のような何か。もちろん偽名でハーフな帰国子女。ぶっちゃけ今作における『暴力と思考放棄』を司るキチガイ。行動原理が主人公に依存するのと、マシュのマスターなので全特異点に参加して悪いサーヴァントを腕力を以てシバき倒す予定。人類悪以上の人類悪。ロリ巨乳の美少女。


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新しい武器を手に入れた

 さっさと序章終わらしたいですね。
 まぁ、作品のタイトル通り時間かけて人理修復なんてしませんが。

 そして優秀なキチガイシリーズ読者の方々なら大体の予想がつきますね、今回の話は。


 対サーヴァント戦に入った瞬間の俺の指示は個人的に早かったと思う。俺より早く的確な行動が出来る魔術師様がいるのなら代わって欲しいものだ。

 目の前に現れた黒いサーヴァントに対し、俺から見て右側にいつも不機嫌そうなジャンヌ・オルタ、左側に緊張で表情を強張らせたマシュと、いつも通りの仏頂面を崩すことなく八極拳の構えをする花子。俺の後ろに青ざめながら隠れてる所長のフォーメーションである。

 

「オルタ、攻撃に徹しながらマシュのサポート。出来るだけ敵の攻撃はマシュに受けさせろ」

 

「……ふん」

 

「マシュは防御だけに徹してくれ。タンクの君が倒れたら後方が崩壊するから、とにかく耐えて」

 

「わ、分かりました!」

 

「花子は殴れ。とにかく殴れ」

 

「あいあいさー」

 

 そろそろ花子は『魔術師はサーヴァントに勝てない』という理論を理解してほしいんだが。何で俺の指示に疑問を抱かずにサーヴァントへ特攻してるのだろうか?

 各自行動を始める姿を確認した俺は、少し遠目に敵であるサーヴァントの正体を見極める。サーヴァントの真名さえ知ることが出来れば、その攻撃手段や宝具の効果などを予測できるとロマンが言っていたからだ。魔術師としての知識が皆無なのだから、オルタの魔力タンク以外で魔術に頼らない貢献をするべきだろう。

 とは言っても俺に英雄の知識があるわけじゃないんだが。

 

 外見は紫色の髪をした眼帯をしている女性の英霊。衣服は人前で気軽に言えなさそうな仕事をしている人みたいな服装。鎖を巧みに使いながらオルタとマシュの攻撃を受けている。

 全く分からん。どこの偉人だよ。

 かろうじで理解できるのは、彼女が『蛇』に関する英霊だということ。服装や眼帯に鱗のような装飾を施していることから推測──

 

「打つべし、打つべし、打つべし、打つべし」

 

「……っ! ……っ!?」

 

 ──する必要はあるのだろうか?

 敵対してるはずのサーヴァントに馬乗りになった花子が、リズミカルに顔面フックを決めている姿に唖然とするカルデア御一行。しかも容赦もクソもないから逆に敵サーヴァントが可哀そうに見えてくる。

 あ、敵が光の粒子になって消えたわ。

 

「──っ! ──っ!? ──っ!! ──っっっ!!??」

 

「分かった分かった。とにかく声にならないほど驚いたのは分かったから落ち着け。何でアレが無双してんのか俺も知らんから落ち着け」

 

「……私を呼んだ意味って」

 

「オルタも落ち込むな。俺だって想定外なんだから」

 

 涙目で花子を指差し声にならない声で今だに叫んでる所長と、若干不機嫌そうに拗ねているオルタを宥める。あれ見て最初は『サーヴァントはサーヴァントでしか倒せない』という所長の理論そのものが間違ってると思ったが、どうやらアレがおかしいだけらしいな。うん。

 当の話題となっている本人は呑気に背伸びをして、マシュは周囲の警戒を怠ることなく見渡している。

 

「マシュちゃん、敵はいない?」

 

「はい、恐らくは──先輩っ!」

 

「オルタっ!」

 

 ガキンっと鈍い金属がぶつかり合う音がした。

 オルタが寸でのところで奇襲してきた新しいサーヴァントの攻撃を旗で受け止めたのだ。異様に右手だけが大きい黒色のサーヴァントは、片言ではあるが口から言語を紡ぎ出す。

 

「──見ツケタゾ、新シイ獲物。聖杯ヲ、我ガ手ニ!」

 

「ひいいいいいいいいいいい!!」

 

 さっきは敵サーヴァントが距離を取ってたから正気を保っていた所長も、金切り声を上げながら俺の背中にしがみつく。役得感よりも先に鼓膜が再起不能になりそうである。

 

〔マイケル君! それはアサシンのサーヴァントだ! ……いや、ランサーのサーヴァントも来たぞ!?〕

 

「チッ、こりゃ所長の日頃の行いって相当悪いな」

 

 加えて多量の武具を背負ったサーヴァント(ランサー)も現れたことにより、状況がさらに悪化の一途を辿る。これは所長のお祓いに行っている場合ではなさそうだ。

 とりあえずお望みのままに所長の盾となりながら、盾のサーヴァントと俺の相棒に大声を投げかける。

 

「マシュとオルタはアサシンを足止めしてくれ! 花子は槍持ってる奴をシバき倒せ!」

 

 とは言っても状況が悪い。

 さっそく花子は敵ランサーに仰向けの体勢を取る相手に馬乗り(マウント)状態となり、反撃を許さず顔面を一方的に殴りつけている。しかし、戦闘そのものに慣れていないマシュと魔力供給素人を主と仰ぐオルタは、暗殺者を生業とする敵に苦戦している様子である。

 そりゃ相手は『英霊』と称される程の腕を持つ存在。今回初サーヴァント戦の少女と旗ブンブン丸な元聖女が勝てる要素の方が少ない。

 

 せめて花子が早くランサーにトドメを刺せれば、彼女等が一気に優位になるのだが、流石は三騎士と持て囃されるクラス。あの神話生物モドキの攻撃を耐えていることを称賛するべきなのか、苦痛が他サーヴァントより続くことを憐れむべきなのか。まだまだ時間がかかりそうである。

 俺達カルデア御一行の主戦力が素人マスターなのは気にしない。しちゃダメだ。

 

「まだ耐えられるかマシュ!?」

 

「せん……ぱ……い……っ!」

 

「面白イ! 殺シタイイイイイタイイイイイイ! タノシイ!」

 

「クッソ……こっち向けっての……っ!」

 

 目に見えてマシュの負担が大きくなっていることを見兼ねたオルタは、注意を自分に引きつけようとする。しかし、アサシンは一点集中でマシュを狙う。実に合理的で厄介だ。

 さっき回復した令呪でオルタの魔力をブーストさせようと口を開こうとした瞬間、

 

 

 

「ったく、見てられねぇぜ」

 

 

 

 突如アサシンの真上から業火球が飛来し、暗殺者の猛攻を中断する。

 俺は声のした方を振り向くと、そこには蒼色の髪をした杖を持つ青年が立っていた。俺の知らない国の文字を周囲に浮かび上がらせながら、猛犬を彷彿とさせる笑みを浮かべた。

 

「貴様、キャスター!? ナゼ漂流者ノ肩ヲ持ツ……!?」

 

「あぁ? んなの言うまでもねぇ。テメエらよりも嬢ちゃん達の方がマシだからに決まってんだろうが。それとまぁ、見どころのあるガキは嫌いじゃない。つーわけで加勢するぜ!」

 

 気前の良いアニキ肌の魔術師(キャスター)の英霊は、さっそく呪術らしきものを口ずさみながら、先ほどの業火球を出現させて攻撃を再開しようとした。

 しようとした。過去形である。

 実際には()()()()()()()()()()

 

 

 

 死の縁から青い騎士を召喚するように。

 月の王が己が英霊と出会うように。

 素人の魔術師が復讐者と契約するように。

 

 

 

 人にはそれぞれの『運命(fate)』がある。

 そして彼女には──これが運命の夜(stay night)だったのだろう。

 

「見つけた」

 

「んぁ? どうしたちっこいガキ」

 

 まだ彼女が美少女の皮を被った未確認生命体だと知らないキャスターは首を傾げる中、ランサーを仕留めた花子は有無を言わさずキャスターの胸倉を掴み、力を込める。

 バチバチと紅い稲妻が彼女の周囲を迸り、キャスターが紅く輝き始めた。

 

「アサシン、その心臓を貰い受ける──」

 

「は、え、ちょ、テメエ待」

 

「真明封鎖、疑似宝具展開──」

 

 もはや人間かどうかすらも怪しくなってきたアホの子は、大地を踏みしめ助走をつけ、

 

 

 

 

 

「──刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)っっ!!」

 

「それ俺の宝具うううううううううううう!!」

 

 

 

 

 

 直立不動の姿勢のままのキャスターをアサシンにブン投げ、螺旋状に回転をしながら、アサシンに迫る。どれだけ逃げようとも『心臓に槍が命中した』という結果を作ってから『槍を放つ』という原因をもたらすチート宝具を疑似的に再現している(?)ため、何人たりとも逃れることはできない……のか?

 そんなわけで花子の新しい宝具は、アサシンの心臓を理不尽に貫くのだった。

 

 

 

 




【新しい自己紹介】

冬木のキャスター……真名はクー・フーリン。アイルランド神話『アルスター伝説』に登場する大英雄。ゲリラ戦の達人にして、1対多の戦闘に特化した槍の名手。しかも知名度も神秘もクソ高いから、ランサーで召喚された場合、『神性』というデバフを除けば最強角に匹敵する英霊。花子の宝具。


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宝具使用講座~基本すっ飛ばして実践編~

 ようやく引っ越しが完了しました。
 まだ就活終わってないんですけどね_(:3」∠)_

 次回は冬木のオカンが登場します。
 可哀そうに。


「……もう座に帰っていいか?」

 

「何を急に」

 

「急にじゃねぇだろ!? さっき思いっきり武器にされたんだが!?」

 

 クーフーリンことフユキのキャスターは化物でも見るような感じで、ボーっと何考えてんのか分かんない仏頂面で俺の後ろをトコトコついて来る花子を指差した。

 俺達は今回の特異点の黒幕とも呼べる『セイバー』のサーヴァントを討伐するため、キャスター先導の下に大聖杯のある場所へと向かっている。燃えている冬木市を歩いていたカルデア御一行+αだったのだが、キャスターは頑なに花子へと近づこうとしない。分からんでもない。

 

 あの後アサシンとランサーを仲良く(当社比)討伐し、(表面上の)同盟を締結させたキャスターは冬木市で起きている惨状を語った。

 前に所長が語った通りに『聖杯戦争』という魔術師同士のお祭りが開催されたまでは情報通りだった。しかし、街は燃えて人がいなくなるという異常事態、急に強化されたセイバーのサーヴァント、黒い()()に汚染されたキャスター以外のサーヴァント達。イレギュラーばかりが起こる中、汚染されたサーヴァントは何かを探しているらしい。

 キャスターは早くこのトチ狂った聖杯戦争を終わらせたい。でも、他6騎を相手にするには荷が重すぎる。

 そんなわけでキャスターは俺達に同盟を持ちかけてきたわけだ。

 

「しっかしクーフーリンねぇ。まさかケルトのビッグネームと早々にお知り合いになれるなんて光栄の極みだな。後で握手してもらっていい?」

 

「お、おう……小僧は魔術師なんだよな? 普通の魔術師なら俺達みたいな本体の写し身(サーヴァント)なんて道具みたいなもんだろうに、随分と変わった奴なんだな」

 

「魔術師って自覚はないけどね。歴史上の英雄と出会えるなんて中々にない経験だろ? いくら『座』とかいう場所に登録されてる奴のコピーだろうが、俺は個人的に敬意を払うべきだって考えてる」

 

 あと男女比率が極端な我等がカルデアチームに、男のサーヴァントが加入してくれるのは実に素晴らしい。よくつるんでる悪友共の男とチンパンジーの比率が4:1だったため、あえて言葉に出してないが非常に肩身が狭いのだ。女子と接したことのない童貞のチキン力をナメるなよ。

 要するにクーフーリンは神。マジ神の子。

 

 んな反応をしていると、横から俺の方を引っ張ってくる英霊ジャンヌ・オルタ。

 ジト目で明らかに不機嫌そうだ。彼女が機嫌がいいところを見たことはないが。

 

「……じゃあ、私は」

 

「ジャンヌ・ダルクのパチもん」

 

「消し炭をお望みの様ね」

 

「え、じゃあ『ジャンヌ・ダルク』として認識してほしいの?」

 

 痛いところをつかれたのか押し黙る元聖女様。

 あの聖女様と一緒にすんなと本人が口にしていたため、俺は自分のサーヴァントをフランスの救世主とは見ていない。

 そもそも本物に出会ったことないから、彼女を偽者と見るには少々難しいところではあるが。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「先輩、敵性勢力の排除完了しました」

 

「おう、お疲れさん。マシュは頼りになるなぁ」

 

「上に同じ」

 

 やっぱマシュってすげぇよ!

 非戦闘員の俺と、マシュをタンクとして敵をフルボッコにしてきた花子はマシュを称賛するが、当の彼女は表情に陰りを見せていた。どうもアサシンとランサー戦の時以降からこれだから、宝具云々かんぬんで思うことがあるのだろうか?

 最初は俺の思い違いかと考えもしたが、キャスターが様子を見ては嘆息したり、アヴェンジャーがチラチラ確認したりと、思い違い疑惑は確信へと変わる。

 

 ……どうして主従関係ではない俺が心配しているのだろうかと、マスターたる花子が相変わらずボケーっと何も考えてなさそうな仏頂面をしている姿を横目に考えなくもない。

 しかし、俺のことを先輩と慕ってくれる健気で天然な後輩が困っているのだ。久しぶりにキチガイじゃない人間と接したのが後押しするかのように、主従関係がなくとも何とか力になりたいと俺は思うようになる。

 

「……おい、カルデアのマスター」

 

「ん? どしたのキャスター」

 

 冬木のキャスターは俺を手招きし、そっと耳打ちする。

 その内容を吟味して俺はあまり乗り気じゃなかったが、あの様子からすると荒療治も致し方なしと判断する。

 

 俺は財布のポケットから日本円を出すと花子に握らせる。

 

「喉乾いたから近くのコンビニで何か買ってきてくれ」

 

「え? こ、こんびに? というか買うも何もこんな廃墟じゃ──」

 

「俺はコーラでいいや。マシュは無難にお茶かな? オルタはおしるこ。所長は……醤油でいいんじゃね?」

 

「ちびっ子、俺は酒だ。酒なら何でもいい」

 

 余計なことを言いそうになった所長の発言を遮って、荒廃した冬木市にあるはずもないコンビニへのおつかいを頼む。正直買って来るものは何でもいい。

 普通の良識ある人間だったら信じなさそうな注文だが、チンパンジーを引き合いに出すのすらチンパンジーに失礼なレベルで知能の低いマシュのマスターは、自信満々に頷いてコンビニを求め走り出す。どこから来るんだろう、あの自信。

 

 魔物を蹴散らしながら姿の見えなくなった花子を確認したキャスターは、「よし、んじゃ始めっか」とマシュ(と彼から見て後ろにいる所長)に杖を構える。

 俺は邪魔にならないようにオルタを連れてキャスターの背後へと回る。

 

「俺は今から殺す気で盾の嬢ちゃんと騒がしい嬢ちゃんにルーンをぶっ放す。勿論生半可な防御じゃ受け止められねぇ攻撃だ。いいか、宝具ってのは英霊に自然と備わってるもんだ。つまりはまぁ……宝具なんて気合で何とかなるってわけだ」

 

「な──!?」

 

「ちょっと、え、はぁ!? 待って待って待って、そんなの聞いてな

 

 最近みんなの所長の扱いが雑になっている気がすると、いきなり四大元素全てのルーンをバ火力でマシュにぶつけるキャスターを見て思った。

 キャスターの提案した『土壇場なら宝具発揮できるんじゃね?作戦』だが、その是非を英霊じゃない魔術使いモドキな俺は知らなかった。宝具なくても何とかしそうな花子には退場してもらった。

 しかし、キャスターの作戦を信じてマシュを任せたのだが、時間経てどもどうも上手くいっている様子がない。

 むしろマシュが物理的にマジで潰れそうである。所長は精神的にマジで潰れそうである。もしかして効果ないんじゃ?

 

 仕方ないので仮契約を結んでいるキャスターに見える位置で令呪をこれ見よがしに振る。

 最後の手段だ。俺のキャスターへの魔力供給が追い付かない。

 

 

 

「キャスターさんや。もしこれでマシュが宝具使えなかったら、聖杯回収するまで『みさくら語』で話してもらうからな?

 

 

 

 一瞬何だそれはとキャスター他全員が怪訝な顔をしたが、聖杯は英霊に現代の知識をサポートする機能が備わっている。つまりはそういうことである。

 クーフーリンは意味を理解した刹那で顔が真っ青となり、ジャンヌ・オルタは逆に顔を真っ赤にする。ぶっちゃけ令呪を使った場合の未来は誰も幸せにならないが、俺も泣いて馬謖を斬ることにしよう。間違って自分ごと斬りそうだが。

 

「早く宝具を使ってくれ盾の嬢ちゃあああああああああああああああああああああんっっ!! そうしないと俺が死ぬううううううううう!! コイツ目が冗談言ってねぇんだよおおおおおおおおおお!?」

 

「は、はい! ──はあああああああああああ!!」

 

 これ本当に気合で何とかなんの?

 そう思った矢先に──()()は現れた。

 

 爆発的な魔力を開放させたマシュは地面に盾を刺す。

 すると背後に白銀の要塞を顕現させた。いや、あれは城なのか? どちらにせよ純真無垢な少女が発動させるに相応しい、どんな攻撃をも跳ね返せると確信させるような素晴らしい建物だ。

 美しき白の女王は社会的危機に立たされたキャスターの攻撃を難なく防ぎ、攻撃の終わりと同時に城は跡形もなく消失した。

 

「よく頑張ったな、マシュ!」

 

「嬢ちゃ……いや、マシュ。本当にありがとう……!」

 

「ふんっ、やるじゃない」

 

「ましゅうううう! じぬがどおぼっだああああああ!」

 

「──ただいま。言われたもの買ってきた」

 

「「「「ゑ?」」」」

 

 こうしてマシュは宝具を手に入れることが出来たのだった。

 

 

 

 




【前回よりはマトモな自己紹介】

ジャンヌ・オルタ……ジャンヌ・ダルクのIF設定を持つ復讐者。本来ならば召喚されるはずのない英霊の偽者だが、不幸なことにキチガイな主人公に召喚された。卑屈で自虐的で毒舌だが、なんかチョロインとか呼ばれてる。今作では復讐に燃える彼女が回を重ねるごとに残念美少女になっていくのも見どころの一つとなる。


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おっと心は硝子だぞ?

 ちっす、三河屋でーす。
 じゃなくて十六夜やとです。

 今回は対アーチャー戦です。
 次回は特異点とのボス対決ですね。彼女視点となります。

 可哀そうに。


 花子がコンビニから買ってきたコーラを飲みつつ、安心と信頼を七割くらい誇るWikipediaで調べ物をしながら、俺は聖杯があるとされている洞窟を目指して歩いていた。スマホがなぜ使えるのかというツッコミは受け付けない。ドコモの電波が未来からココまで届いてんだろ。

 あー、このシュワシュワ感がたまらん。

 

「こんな廃墟でもコンビニ経営してるとか社畜の鑑だなぁ」

 

「その感想はどう考えてもおかしいでしょ!? 冬木市滅亡してるのよ! あとアンタの飲んでいるそれを寄越しなさい! これ尋常じゃないほど塩辛いの!」

 

「人類の生命力舐めんなってコトだろ。つか醤油飲んだん?」

 

 醤油のボトルを大事に抱えながら俺のコーラを要求する所長。カルデアが半壊しているので、食糧になるものはたとえ調味料でも確保しておきたいのだろう。

 マシュは人生初の『お~いお茶』にご満悦し、オルタは甘ったるい小豆にほっこりし、キャスターは度数の低い酒にご機嫌な様子。オルタって甘いものが大好きなのだろうか? そもそも彼女の生きていた時代に甘いものが出回っているイメージがないため、仕方ないと言えばそうなのだが。

 

 それにしても……と俺はスマホの画面を見る。

 画面には『キャメロット-Wikipedia』と。

 

「マシュに力を貸した英霊はイギリス出身の英雄だったのか。でもキャメロットって単語だけじゃ特定するのは難しいかも。もうちょい他の情報ない?」

 

「す、すみません。ふと頭に浮かんだ言葉だったので、それ以外の情報となると……」

 

「あぁ、別に怒ってるわけじゃないよ? これするのだって本来はそこでカルピス原液をラッパ飲みしてる花子がやることなんだから」

 

 甘いものが気に入ったオルタでさえ噴き出したカルピス原液を、ゴクゴクと腰に手を当てて一気飲みする姿は異様に見えた。俺としては普段こんな感じなので特に気にしないが。

 しかも数十箱買いした原液をリヤカーで引いている。どこで手に入れてきたんだろうね。

 

 歩くこと数十分。

 俺達は聖杯があるとされている寺──柳洞寺を訪れた。

 本来ならば普通のお寺なのだが、長い階段を上った先にある本堂の前に、一つの影が居座っていた。俺達を視認した瞬間に黒い影は俺をピンポイントで睨む。

 

「──来たか」

 

「……顔黒たまごちゃんの擬人化!?」

 

「私はNHKのキャラではないぞ?」

 

 あ、よく見れば浅黒い肌はいいとしても、髪は銀髪じゃないか。全然似とらん。

 反対にキャスターとアヴェンジャーはしゃがんで地面をバシバシ叩くぐらいにはツボったらしい。昔の人の笑いの基準ってよく分かんないわ。

 

 その空気を変えたいのか影は咳払いをする。

 ……というかNHK?

 

「……もしかして近現代の日本人の英霊?」

 

「英霊などという大層なものではない。世界に酷使される守護者の成れの果て……とでも言うべきか。叶わぬ夢を追い続けた愚か者……も正しいかもしれん」

 

「なるほど。ただの厨二病か」

 

「魔術師など皆そういうものだろう?」

 

 それもそっか、と俺は妙に納得してしまった。

 所長の自分に酔っていた演説然り、俺が半強制的に唱えさせられた黒歴史ポエム然り、キャスターの意味不明かつ無駄にカッコいい詠唱然り。世間一般では『痛い』と称される言動も、魔術師の間では普通の言動なのだろう。

 場所が変われば文化も変わる。価値観も思想も変わる。頭ごなしに否定するのは失礼だな。

 俺は魔術師の厨二臭い言動を『ウナギをゼリーにぶちこむようなもの』と言い聞かせる。どちらも日本人にとっては理解できないものだ。

 むしろ中学二年生男子のロマンとも呼べる文化を楽しむのも一興かもしれない。

 

 情報量が多すぎて軽くスルーしていたが、よくよく考えてみれば俺達を襲ってきた汚染された英霊の中では初めて意思疎通が可能なのが彼(?)だ。しかも俺の『日本人の』という部分も否定しなかった。

 ダメ元でも交渉を試みることが出来ないだろうか?

 

「できれば同じ日本人のよしみで見逃してくれると嬉しいんだけどなぁ」

 

「……君の名前は?」

 

「My name is Michael」

 

「本当に日本人か?」

 

「それ最大のブーメランじゃね?」

 

 外見や名前云々はお互い様だろう。

 褐色肌の英霊に、名前が英語圏の俺は肩をすくめる。

 

「ふむ……まぁ、いい。君の提案についてなのだが、悪いが私も仕事なのでね。どうしてもこの先に行きたいのならば、力づくで押し通ってもらう他ない」

 

「暴力は趣味じゃないんだけど……」

 

 俺は、な。

 他は知らんが。

 

「さーて、マシュは安定のタンクをお願いするよ。相手は弓兵だが近距離もイケるクチらしいから、オルタとキャスターは花子の援護を。花子は以下略」

 

「はいっ!」

 

 返事して答えてくれたのはマシュちゃんだけだった。マジ天使。

 キャスターは詠唱に入ってるし、花子は無言で頷くだけだから仕方ないか。オルタは安定の無視。

 

 目の前に居る影──アーチャーは、キャスターによると『いけ好かない近距離遠距離こなせる器用貧乏』らしい。良く言えば手数の多いサーヴァントなので、花子以外はマシュのサポートを受けられるような配置を取る。たぶん俺の思考はマスターとして非常識だろうけど。

 隣の所長が何か言いたそうにしているが気にしない。

 

 自分の小柄な体格を生かした俊敏な動きでアーチャーの顔を狙った花子の殴打は寸での所で回避されたが、バーサーカーよりバーサクしている人外の化物は勇猛果敢に攻撃を繰り出す。彼の英霊は双剣で応戦しようとするが、ことごとく花子に手刀で破壊される。時には握り潰す。どういう構造してるんだろ、あの手。

 しかし、破壊されたはずの武器は次の瞬間に手元へと戻っている。キャスターの言っていたのアレだったのだろう。どこの英霊だろか?

 

 少なくとも彼の英霊は『格上との戦闘に慣れている英霊』だと理解できる。

 マスターの方がサーヴァントより格上って事実もおかしな話だが、ランサーを一方的に殴り殺した花子の猛攻を耐えているのがその証拠だろう。

 素人の喧嘩のようで洗練されている化け物マスターの動きを紙一重で避けているのだ。

 

 こうなると俺達の仕事はなくなる。

 悟空とセルの戦いを見守る一般人の気持ちだ。下手に援護なんて出来やしない。

 

「はいドロー4。マシュ4枚引いて」

 

「えっと……あ、私も同じのがありました! ドロー4です!」

 

「げっ、嘘だろオイ。せっかく後2枚だったのによぉ……」

 

「幸運Eがざまぁないわね……って、何リバース出してんの!? 私に出番回しなさい! 燃やすわよ!?」

 

「……手札が全部消えたら勝ちなのよね。……この38枚の手札を使い切れば勝ちなのよね」

 

 だからUNOするしかないだろう?

 とうとう猛攻に耐えきれなくなったアーチャーが花弁みたいな盾を展開し、それを何食わぬ顔で破壊していく花子を横目に、所長が新しく27枚引いていく。

 もうデッキと見間違えるレベルで所長の手札が増えていく様をみんなで笑っていると、ボケにも耐えきれなくなったアーチャーが叫ぶ。

 

「貴様等真面目にやる気あるのかっ!?」

 

「あるわけないだろうが弓兵の英霊さんよ。つか、よそ見してる余裕があるの?」

 

「──っ!? しま」

 

 それがアーチャーの最後の言葉であった。ツッコミ気質の浅黒近代英雄が、対立している化物から目を逸らしてしまったのが最大の敗因だろう。

 彼の鳩尾を蹴り上げた容赦のない小柄の少女は、いつの間にか右手でキャスターの胸ぐらを掴んでいた。

 

 やることはただ一つ。

 

 

 

 

 

「──刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)っっ!!」

 

「またかよおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 UNOのカードを舞い散らせながら、紅い閃光は弓兵の身体を貫いた。

 

 

 

 




【前回よりはマトモな自己紹介】

所長……『人理継続保障機関カルデア』の所長。 フルネームは『オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア』で、魔術協会の総本山『時計塔』を総べる12人のロードの一角、アニムスフィア家現当主。現段階ではプライドの塊みたいな人物。原作ではこの後色々とあるキャラなのだが、今作品において終始キチガイの餌食となる。


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寡兵だと奇襲するしかないっしょ

 新しいキチガイですよ~(エサを振りまく仕草)
 どうも、十六夜やとです。
 キチガイ他三人にそれぞれ鯖契約させるか、それとも二人目召喚してマシュ・オルタ・三人目で特異点攻略を目指すか悩んでます。ちなみに今作ではフレポの鯖は召喚できない設定となっております。人類のフレンズが焼却されてるんで。

 今回はボス視点のボス戦となります。可哀そうに。
 次回は杉田大活躍。可哀そうに。


 私は静かに聖杯に背を向けて俯く。

 淡く、そして強く輝く金色の杯は、薄暗い洞窟を鈍く照らすが、私はあえて万能の願望器に背を向けていた。アーチャーが消滅したのは既に知っているため、洞窟前で待機しているであろう外来の異邦人を迎える形を取っているのだ。

 地面に刺した聖剣の柄を握る力が強くなる。

 

 聖杯戦争に水を差し、聖杯に毒を入れた人ならざる者は語った。

 この時代に特異点を作り、人理を焼却せよ、と。

 

 所詮は聖杯に招かれた英霊の現身のため、供給源そのものに毒を入れられた私達サーヴァントに抵抗するすべはなかった。加えて監視もされている。

 キャスターを除く他のサーヴァントは闇に染まり、私でさえも自我を保つのがやっと。せめて今の特異点を維持し、来訪者に望みを託そうとし、カルデアのマスターがレイシフトして来たことで私の目的の半分は達成している。

 

 問題はカルデアのマスターが『グランドオーダー』を達成する器であるかどうか、だ。

 生半可な人間では──それこそ『英雄』たらしめる存在でもなければ、()()()()の計画を阻止することは困難だろう。

 それこそ私を討つことすらままならない惰弱には不可能だ。

 

 故に私は聖杯の前で待つ。

 異邦の者を迎え撃つために。

 

 さて、カルデアのマスターはどのように来るだろうか? 搦め手を使ってくるのか、真っ向勝負を挑んで来るのか。

 

 そう考えていると洞窟の入り口から一組の少年少女が現れた。

 盾を持つ小娘と黒髪の小僧だ。

 

 ……ほう、面白い。

 彼の湖の騎士の息子を宿した小娘か。汚れ無き円卓の騎士を彷彿とさせる。

 

 そのような感慨深い気持ちに浸っていると、マスターらしき小僧が懐から何かを取り出す。それは折り畳まれた紙のようなもので、開きながら小娘に何か耳打ちをする。何を書いているかまでは読むことが出来ない。

 しかし、私の直感が不思議なほどに警報を鳴らしている。ただ紙を出して広げただけ、ただそれだけなのに、どうしてこうも不安になるのだろうか?

 

 小僧は咳払いをした後、大きな声で紙に書かれた内容を読み上げる。

 それは洞窟によく響いた。

 

 

 

「──それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷──顕現せよ、『 いまは遙か理想の城 (ロード・キャメロット)』!」

 

「えーと、マーリン監修『王の話を語るとしよう~私生活の秘密を丸裸編~』」

 

エクスカリバー・モルガ(約束された勝利の剣)アアアアアアアアアアアアアアン!」

 

 脳が理解するよりも先に私は宝具を使用する。

 カルデアのマスターの力量を試すだとか、己のかつて抱いた願いだとか、小僧が宝具を撃ってくることを予想して防御を固めていただとか、んなのはどうでも良かった。

 とにかく口を開こうとしている小僧を宝具で跡形もなく吹き飛ばすことこそが最優先事項であると判断したからだ。自然と自分が持ちうる全魔力を聖剣へと注ぎ込んでいた。

 

 なぜカルデアのマスターが知っている!?

 思い当たる秘密が多すぎて、カルデアのマスターが何を口にするかが全く予想できなかった。

 もしやマーリンのアホが直々に教えたのか!?……十分あり得る。だからこそ、私は()()()()()()()()()()()()()()()を微塵も考えはしなかった。

 

 非力な小娘の外見と相反するように、かつてはバラバラとなった円卓は、砕けることなく聖剣の魔力を受け止める。それは反転した私への壮大な皮肉とも呼べるが、同時に私が渇望したものだったのかもしれない。

 細い腕は確かに星の一撃に耐えていた

 

「頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるって、やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る、北京だって頑張ってるんだから!」

 

「は、はいっ……うああああああああああ!!」

 

 やがて魔力は尽き、肩で呼吸する私の前には、盾の少女と諸悪の根源たる小僧が健在であった。しかし、盾の少女は小僧に支えられて立つのがやっとという具合だ。

 奇襲は素晴らしかったが、所詮はその程度だ。

 これでは人理の修復どころか、特異点の解決すらおぼつかない。

 

「──っ!?」

 

「へぇ……! 天下のアーサー王様にしては、ちょっとばかり隙が多すぎるんじゃない……!?」

 

 直感のスキルの御蔭だろう。

 とっさに反応したことで致命傷は免れたが、大きく弾き飛ばされる。

 追撃を防ぐために受け身を取って態勢を立て直すが、奇襲を仕掛けてきた白髪の英霊の顔を目視したことが最大の敗因だった。

 

「はっ──!?」

 

「笑ってる余裕があんの? あぁ!?」

 

 それを()()()()()()()()()に言われるの腹が立つ。

 互いに剣を出して鍔迫り合いが起こる。本来ならば星の聖剣の前に生半可な武具などないに等しいのだが、鼻眼鏡の無様な顔をちらつかせているせいなのか、聖剣を握る力が上手く入らない。

 あと個人的にその胸も気に入らない。

 

「貴様には恥じらいという概念が存在しないようだな……!」

 

「生憎だけど恥じらいとかそんなもん気にするようなマスターじゃないんでね……! アンタのようなスカした王様ボコれるんなら、あのクソみたいな令呪に意味があるってもんよ! 勝てば官軍じゃあああああ!」

 

 自暴自棄にも受け取れる攻撃ではあるものの、鼻眼鏡を見る度に力が抜けてしまうためか、上手く目の前のクソ女を屠ることが叶わない。

 その結果が何十合と続く打ち合いであり、ついには腹に蹴りを入れられる始末。

 こんな()()()に出し抜かれるなど一生の不覚だ。

 

「確かにこりゃ『騎士の果たし合い』じゃなく『戦争』だわな。同情するぜ、心から、な。焼き尽くせ木々の巨人――『 灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!」

 

「──っ!? 貴様キャスターかっ!」

 

「じゃなかったら何だってんだよ!」

 

 直後、私の足元から無数の細木の枝が生え、拘束するかのように形作り、やがてそれは植物で構成された構成された巨人へと変貌する。形を成した巨人は炎を纏い、檻状になった胸部に拘束される私を有しながら荒れ狂う。

 この宝具はドルイド信仰における人身御供の祭儀が大本となっており、ルーン魔術ではなく、キャスターを『ケルトの魔術師』たらしめるものなのだろう。

 つまりキャスターは光の御子だと推測する。

 

 抜け出そうと檻を切り刻もうと試みるが、どうにも上手くいかない。盾の少女との戦闘で想像以上に魔力を使ったようだ。

 ケルトの魔術師は鼻で笑う。

 

「いつものテメェならまだしも、嬢ちゃんに全力出した奴に俺の檻は壊せねぇぞ? 不本意ながらキャスターしてるとはいえ、何も弱くなったわけじゃねぇ!」

 

「だが私は対魔力が高い。貴様の宝具で燃やし尽くせると思っているのか?」

 

「んなわきゃねぇだろ。──だが()()()()()()()()()()()()()

 

 キャスターの意味ありげな言葉の真意を理解するよりも早く、この戦闘において何度も発揮した直感が新たな脅威を察知する。しかし、この狭い檻の中ではどうしようもなかったが。

 顔を上げるとキャスターの宝具を粉々に粉砕する拳を持つ金髪の小娘が映った。

 この描写だと助けに来たように思えるが、神代の魔術師が創造した檻をいとも容易く破壊した拳は、私の鳩尾めがけて振り下ろされた。

 

 なるほど。カルデアのマスターに注意を引きつけ、宝具を打つ最中に三人が洞窟内部に移動、鼻眼鏡の英霊が奇襲することで私を再度誘導し、キャスターが私の動きを封じ、最後に天井に張り付いていた摩訶不思議な小娘が仕留めるわけだ。

 

「あんぱーんち」

 

 気の抜けた言葉と共に、小娘の拳は私の身体を貫通させ、ついでに大地を穿つ。

 洞窟を破壊しかねない衝撃は余波ですら災害となり、聖杯ですら後方に吹っ飛んでしまう。私の下には若干のクレーターが形成され、洞窟の壁に無数の亀裂が生まれる。そもそも初撃で身体に穴の開いた私には関係ないことだが。

 

 あぁ、これは文句のつけようがないだろう。

 謎なことが多かれど、カルデアのマスター達は人理を守るに相応しい力があったのだ。これで満足せずして何とする?

 

 致命傷を受けながら消えゆく意識と肉体の中、私はひそかに笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これ誰?」

 

 

 やっぱ不満が大きい。

 

 

 

 




【前回よりはマトモな自己紹介】


マシュ・キリエライト……『Fate/GrandOrder』に登場する『人理継続保障機関(カルデア)』の少女。要するにFGOのヒロイン。本来ならばマスター候補として選ばれた主人公がカルデアで最初に出会う人物って設定。性格は礼儀正しく真面目で温和、たまに天然。他人を思いやり、気遣う心を持つ優しい少女……なのだが、今作ではキチガイと触れ合っていくうちに色々と成長(劣化)する予定。神話生物にはしないよ?


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キチガイの前に死亡フラグは無力

 どうも、十六夜やとです。
 そろそろ序章が終わりそうなんですが最近書き始めたクソ小説(卒論)が大変で更新遅いです。

 次回は特異点の裏でカルデア側の描写です。
 その後に序章最終回です。


 特異点の原因となるアーサー王を討伐したことにより、聖杯戦争そのものが終了してしまったようだ。

 ついでと言わんばかりにキャスターも消滅してしまい、去り際に「次があるんならランサーとして……でも勘弁だわ。今の言葉は忘れてくれ。マジで呼ぶのは勘弁な。な?」とか言ってた気がする。呼んだ方が面白そうなんだけどな。

 残ったのはカルデア組の面子のみ。

 あと転がっていった聖杯。

 

「これで特異点は修復された……って扱いになるんかね?」

 

〔あぁ、みんなよくやってくれたよ!〕

 

「えぇ……そこの鬼畜マスターの非道な手の内を知れてよかったわ。どんな脳みその構造してたら、あんなゲスなこと思いつくのよ」

 

「さぁ? 生んだ親に聞いてくれ」

 

 まったく、非力でか弱い素人マスターの俺が、無い知恵振り絞って考えた作戦だったってのによ。手札も情報も時間もないんだから、突貫で見栄えが悪い作戦になるのは仕方ないだろう?

 つか作戦指揮とか本来なら所長の役目でしょ。

 給料分の仕事はして。

 

「ジャンヌ・オルタちゃん。あのクソ小生意気な騎士王様を出し抜いた感想をどうぞ」

 

「お前を殺す」

 

「人理修復が終わったらね」

 

 とりあえず彼女の刃から逃げる方法を探さないとな。

 まったく、カルデアがアパマンショックしてから考えることが多すぎて嫌になってくる。同郷のアホ共と行動するよりかは幾分かはマシだが、今のメンバーは頭脳面で信頼できる対象が少ないのがいただけない。

 個人的にはもっと楽して人類史を救いたいんだけど。

 

「先輩、私は聖杯の方を回収してきますね」

 

「……ん? あぁ、お願い」

 

 マシュに聖杯をまかせて、俺は情報を整理しようと思考の海に沈もうとした瞬間、

 

 

 

「──いや、まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容の許容外だ」

 

 

 

 マシュが回収しようとしていた黄金の器は突然浮遊し、声が聞こえる方角に飛んで行く。もちろん飛んでった方を振り向くと、()()()()()()()()()()()()()()()()、ここに居るはずのないカルデアの者が立っていた。

 俺は彼の姿を確認した刹那、大きく溜息をついて肩を落とす。

 今日は溜息をつくことが多い。溜息をつくごとに幸せが逃げていくのなら、今頃俺の幸運はEだろうと現実逃避するくらいには。

 

「47・48人目のマスター適性者。まったく見込みのない子供だと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

「レフ、教授……」

 

 深緑の帽子にスーツ、ふっさふさのマフラーみたいな髪型、穏やかそうな表情の裏に潜む言いしれぬ不気味さ。カルデアで俺と花子を案内してくれた、所長の保護者みたいな人物、レフ教授がそこに立っていた。

 マシュは彼の言葉に、様々な感情が入り交じった状態で名を呼ぶ。

 

 いや、それだけじゃない。

 所長やモニター越しのロマン、カルデアで彼と共に過ごしてきたであろう面々も青ざめていた。

 想定していた反応とは違ったのだろう。レフ教授は嘲笑うかのように口元に笑みを浮かべる。

 

「その反応だと……もしかして私の正体に気づいていたのかな? クズ共に感づかれるとは私も詰めが甘かった」

 

〔僕も教授を疑いたくありませんでしたよ……〕

 

「レフ、そんな……どうしてっ!?」

 

 確かに普通なら疑わないであろう。

 彼らにとってレフ教授というのは、人理を守るために共に過ごした家族みたいなものだから。

 だから今まで半信半疑だった。

 

 

 

『──なぁ、ロマン。カルデアの修復は終わったんだよな?』

 

〔まだ完全とは言い難いけど、七割くらいかな? 管制室と重要な場所はあらかた片付けたって言っても過言じゃないよ。不安定だけど君達のバックアップはできるから安心してほしい〕

 

『……管制室に散乱していた死体は片付けたんだよな?』

 

〔え、あぁ、まぁ。うん〕

 

『そこにレフ教授の死体は?』

 

〔なかったけど……それがどうしたんだい?〕

 

『なるほどなぁ。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()の可能性もあるわけだ』

 

『アンタは何を言ってるのよ! レフがそんなことをするはずないじゃない!』

 

『だけど彼が犯人じゃない証拠もない。自爆して死体が残らなかった可能性、そもそも内部犯じゃない──考えられることは多いが、俺は内部犯の可能性が高いと睨んでる。俺的にはこの際犯人なんざ誰でもいいんだよ。確固たるアリバイがない限り、俺はレフ教授を犯人から除外する気はないぞ』

 

〔確かに死体がないのは不自然だ……管制室が爆破されたのに、肝心の指令室にいた教授の痕跡がないのはおかしい〕

 

『まぁ、これも予想の域に過ぎない。だけど、今後レフ教授を始めとするカルデアの誰かが立ちはだかる可能性が極めて高いのは覚悟しといてくれ』

 

 

 

 なんて一幕もあったからなぁ。

 できれば外れていて欲しかったが、悪い予想ほどよく当たる。

 

「ほう……本当に消すべきは君だったのかもしれないね。ゴミの分際が」

 

「それはどうなんだろうな。どうせカルデアを使えなくするんだったら、きちんと一匹残らず始末するべきだったんじゃないか? アンタのは善意じゃなくて怠慢だよ。記憶したか?」

 

「ふん、人間の癖に口ばかりは達者なようだ」

 

「達者で結構。というか図星だった程度で達者と抜かすんなら、どうやら人類の敵は大した存在じゃないらしい。良かったな、所長」

 

 肝心の所長は目に涙を含んでいるが。

 ちょっと酷だっただろうか? 現実だから受け入れてもらうほかないけどさ。

 

「それにしても一番の予想外は君だ、オルガ。どうして足元に爆弾を設置した君が生きているんだい?」

 

「「「……は?」」」

 

 おっとこれは急展開。

 

「いや、生きているのとは違うな。君はもう死んでいる。肉体的にはね。トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念となった君を、この土地に転移してしまったようだ。レイシフト適性のなかった君が、死後に適性をてにいれるなんて皮肉な話じゃないか」

 

 まさかの所長死んでた説。

 魔術師って死んでもレイシフトできるんだね。

 

「そ、そんな……私、し、死んで……え? う、嘘……」

 

〔あー、そのことなんですが〕

 

 ここで申し訳程度にロマンが申し開きしてくる。

 

 

 

〔所長の肉体生きてます〕

 

 

 

「……は?」

 

 今度は唖然とするのはレフ教授だった。

 さっきまでの悪役っぽい笑みは鳴りを潜め、瞳孔が開いたまま顎が落ちるという間抜け面を晒す。

 

 ロマン曰く所長の肉体が死んでいた……否、死にかけ寸前だったのだが、どうやら外的要因で治療は完全成功。このままレイシフトして帰っても、所長が死ぬことはないらしい。

 魔術師って死んでも簡単に生き返るのか。すっげー。

 そのことを黙っていたロマンだったのだが、現在進行形で所長にめっちゃ怒られてる。給料半減で済めば恩の字であろうと考えるくらいには怒ってる。

 

「っ! まだだ。君達に今のカルデアの様子を見せてあげよう。何、聖杯さえあれば時空をつなげることだって可能なんだよ」

 

 聖杯を掲げたレフの頭上にバキュームみたいな空間が生まれる。

 あれが特異点と現在を繋げているのだろう。奥にはカルデアで見た地球儀みたいな装置『カルデアス』を見ることが出来た。

 

 しかし、それは俺が見てきたものとは様子が違った。

 確かに俺はレイシフトする前にカルデアスをマシュと花子と見た。

 それは瓦礫が撤去されて綺麗になった部屋に向けてではない。そう、カルデアス本体は──

 

 

 

 

 

 ──業務用冷蔵庫の中でキンキンに冷やされていた。

 

 

 

 

 

「「カルデアスううううううううう!!??」」

 

「お、カルデアスが一部青になってんじゃん。冷蔵庫で冷やしてる御蔭かな?」

 

「……先輩が想像している方法では青くはならないんですが」

 

 まだ赤いところが目立つけれど、カルデアスは確かに一部青さを保っていた。

 レフ教授なんて予想外の連続で思考が停止してんじゃん。

 

 だが──これはチャンスだ。

 俺は所長の腰を抱きかかえて、オルタとアイコンタクトで頷き合い、花子に指示を出す。

 

「花子! やれ!」

 

「えいっ」

 

 花子は隙を見てカルピスの一本をレフに投げる。

 ただの人間の投擲であれば効力はないに等しいが、ライダーやランサー、セイバーをシバき倒した花子の投擲は弾丸の速度を軽く超える。

 ちょうど聖杯を持つ手に当たったカルピスは、ついでに聖杯を弾き飛ばし、こちらに落ちてくる。

 

「ロマン! 例のアレよろしく!」

 

〔君は本当に何なんだい……? 千里眼でも持ってるの?〕

 

「んなわきゃねぇだろ! 最低を想定してたら悉くすべて当たってんだよ察しろ!」

 

 事前にレイシフトできるよう手配していたので、すぐさま特異点から脱出しようと試みる。

 俺は去り際に大声でレフを煽る。

 

「レフ教授! 残念だが俺達はここでお暇させてもらうぜ! アンタ等の親玉に伝えとけ! 地べた這いずり回っても人類史なんざ消させねぇってな! 俺以外の誰かが

 

 レフ教授は何か言葉を吐こうとしたのだろう。

 けれどもタイミングが悪かった。俺が落ちてきた聖杯を所長を抱えていないほうの手でキャッチした瞬間、レイシフトの光に飲み込まれた。

 

 

 

 




【前回よりはマトモな自己紹介】

杉田……本名はレフ・ライノール。人理保障機関カルデアの顧問を務める魔術師。近未来観測レンズ『シバ』の開発者であり、天才的な技術力を持っている。 そんでカルデア爆破事件の犯人であり、現在以降の人類史を焼却した張本人。本当ならこの後めっちゃトラウマレベルのことを起こすんだが、キチガイのせいで色々と計画が狂う。


所長が生きてるとか、業務用冷蔵庫『カルデアス』については次回判明する。
ヒント・残されたキチガイ


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裏舞台でキチガイは舞う

 どうも、十六夜やとです。新年あけましておめでとうございますm(__)m
 なんかハーメルンで面白い作品がありましたね。展開が全てぶっ飛んでいて、私の作品のキチガイが常人に見えるレベルでした。まだまだキチガイ力が足りませんね。精進せねば(`・ω・´)

 次回を持ちまして序章終了とさせていただきます。
 待ってろよ特異点。


 通信が終わり、僕は画面から視線をそらす。

 まだまだシバは安定しないが、どうにか所長たちへの最低限のサポートを行うことは可能となった。管制室にはカルデア内で生き残ったメンバーが交代でフル稼働している。それでもカルデアの管制室を中心的に爆破された影響は少なくなく、思うようにサポートを行うことが出来ない。

 ひとまず他の職員に復旧を頼んで管制室を出ようとする。

 

 理由は分かっている。

 僕が現段階で生き残っているカルデア職員の最上位だからだ。

 

 このような非常事態に上手く指示を出すことが出来ない自分が嫌になると同時に、心を蝕むやるせなさで思わずため息をついてしまう。

 どうしてこうも自分がやることは上手くいかないんだろう。

 今すぐにどうこうすることが出来ないだけに、なら今までの時間を僕は何をしていたんだろうと思考の悪循環に陥る。

 

「──まったく、君らしくない顔だよ。鏡でも見たらどうだい?」

 

「……やっぱり?」

 

 出ようとした扉の横で腕を組みながら待っていたのは、彼の有名な絵画『モナ・リザ』を彷彿とさせる──いや、()()()()()()()()()()()姿()()()()美女だった。

 

「無理をするな……なんて今の状況下でそれを言うのは無理があるのかもしれないけど、そう自分を追いつめるような自虐は止めたほうがいいと思うよ? 自分にも他人にも良い影響は与えない」

 

「あはは、確かに分かっているんだけどね。それが出来たら苦労はしないよ」

 

「努力ぐらいは見せて欲しいね」

 

 僕は彼──レオナルド・ダ・ヴィンチその人の厳しい評価に肩をすくめる。

 その反応を不審に思ったのか、レオナルドは声を潜める。

 

「……もしかして彼の言葉を気にしているのかい?」

 

「もしかしなくても気にするよ。さっきからそのことしか考えてないくらいだ」

 

 ここで僕達が共通の話題として出す『彼』は、四十八番目のマスター適正としてレイシフトしてしまった彼だ。どう考えても彼の経歴にある『マイケル』という名前は偽名だが、肝心の本名を確認しようにも情報もないし、外部にも連絡できない。なので僕達は彼を『マイケル君』と呼ぶことにする。

 それに今重要なのは彼の素性じゃない。

 彼が僕たちに残した警告とも受け取れる言葉だ。

 

 

 

『この一連の大事故は誰が原因なんだろうね』

 

『明らかに人為的なものしか俺は感じないんだが?』

 

『俺は内部犯の可能性が高いと睨んでる』

 

 

 

 魔術師として素人同然の、今回偶然に巻き込まれた普通の少年は、鋭い洞察力と冷徹なまでの疑惑で、僕達カルデア職員の心を大きく揺さぶった。戯言と切り捨てるには理にかなっている推理である上に、その口から発せられる提案は無視できないものである。

 カルデアに勤める者としては否定したい内容であったけれど、肝心の反論が思いつかないくらいだ。

 だから今のカルデア職員の仕事は、緊急時にレイシフトしたメンバーを確実に呼び戻す調整を行っている。

 

「……彼は本当に何者なんだろうか?」

 

「一般人じゃないのかな? 彼はそう言ってたが」

 

「少なくとも十代後半の少年が、唐突に過去にレイシフトしても動揺せず、戦闘で自分の役割と限界を理解し、司令官さながらの命令を的確に出して、黒幕の推測を行うことが普通だとは言わないよ。彼の友人曰く『悲観主義のチキン野郎』らしいけどね」

 

「僕も前に同じようなこと言われたなぁ。まぁ、僕は彼ほど有能ではないけど」

 

 あそこまでテキパキと他者に指示を出し、自分のやることを精一杯している人間に、羨望や嫉妬に近い感情を覚える。彼が今ここに居て指示を出してくれたら、レフ教授のいないカルデア職員にどれほどの希望を与えてくれるのだろうか。もしかしたら所長以上に適任かもしれない。

 一方でレオナルドは彼のことを疑っているようだ。どうにも年相応の人間がするような言動じゃないと勘繰っているのだろう。

 

「有能かどうかは別として、確かに君は有能ではないね。未だにオルガマリーに例のことを話していないんだからさ。どうせ近いうちに知ることになるんだから、言うべきじゃないのかな?」

 

「……そう、だね」

 

 嫌なことから逃げ続けると、大抵後には取り返しがつかなくなる。

 そう自分では分かっていても、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()ことを打ち明ける勇気を持ち合わせていなかった。あの理不尽な上司ではあるが、決して悪い子ではない彼女に、自分が既に死んでいるとどうして告げられようか。

 損傷の激しい彼女の身体はかろうじで医務室に保存してあるが、恐らく数日で遺体に変わるであろう。

 現実逃避に現実逃避を重ねた結果がコレだ。

 

 レオナルドは自己嫌悪のループに陥っている僕に、今思いだしたと言いたげに話題を変える。

 

「あぁ、そうだ。私が君に言いたかったのはその件じゃなくてね。ダニエル君達の掃除が完了したらしいんだけど、その確認をしてほしいとのことだ」

 

「ダニエル……あぁ、あの黒髪の彼か」

 

 あの笑顔が胡散臭い黒髪で長身の青年の顔を思い浮かべ、無理なことを頼んだと苦笑する。

 現在特異点で活動しているマイケル君の友人達の一人であり、幸いにも爆破されたカルデア内の生存者である。ダニエル君はマイケル君と花子ちゃんの送迎、他二人はノリと勢いでついて来たんだとか。色々とおかしなことが多すぎるが、今はそのことは指摘しない。

 彼等は崩壊寸前のカルデアを復旧している際に、自分達にも何かできることはないかと手伝いを買って出てきたのだ。管制室関係は彼等には専門外だろうと、カルデアの住居区画や崩壊している部分の掃除をお願いした。

 

「三人だけに掃除を頼んだのは申し訳なかったかな? 彼らにも一通り目途がついたらお礼がしたい」

 

「もちろんだとも。というか君達カルデア職員生存組が自室に戻らないから、掃除も頼んでしまったぐらいだ。まぁ、住居区画に戻る余裕すらなかったけどね」

 

 何人かは管制室に寝袋を持って来てるぐらいだ。

 何時間寝れるかと時間を確認しながらレオナルドと管制室を出た僕は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「──は?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新品同様の真っ赤な絨毯の敷かれた通路と、数メートル間隔で置かれた調度品、頭上に煌めく高価なシャンデリア、真っ白に塗装された壁に言葉を失った。静かで穏やかなオーケストラのBGMが僕の心を癒し、極寒だったはずの通路は適温に設定されている。

 一見すると高級ホテルの通路と間違う。

 そこに機能のみを追求したカルデアの通路はどこにも存在しなかった。

 

「……僕は夢でも見てるのかな? え、ちょ、これ何?」

 

「──あぁ、ここに居ましたか。探しましたよ」

 

 脳が正常に働かない僕に声をかけたのは、作業着に身を染めたダニエル君だった。どちらかというと燕尾服が似合いそうな彼だが、なぜか作業着も完璧に着こなしている。

 

「内装に関しては特に指示を受けなかったんで、このような形に改装させて頂きました。あ、ここにタブレットがあるのですが、住居区画、食堂、医務室……他多数の改装はこのようになっておりますが、ご確認いただけますか?」

 

 医務室は最先端技術の結晶とも呼べる機器が元々揃っていたが、住居区画はスイートルーム、食堂はお洒落なレストラン……改装というよりは改築とも言える変化を遂げていた。

 あまりにも全ての部屋が見違えるように改装されていたので、「カルデアスと呼ばれていた機械も、熱かったようなので業務用冷蔵庫に保管しておきました」というダニエル君の発言を聞き逃す。後から考えるとやっぱりおかしい。色々と。

 

「──以上となります。これでよろしかったでしょうか?」

 

「いやいやいやいや、よろしいとか言うレベルじゃないよ!? これどうやって改装したんだい!?」

 

「とりあえず、ここにあるもので適当に見繕ってみました。もう少し材料があれば、カルデア周辺に作物を作れる場所もできたんですがねぇ……。まぁ、非常事態なので無理は言いますまい」

 

 無理とか言う次元の話じゃないんだけど。

 呆然としている僕とレオナルドだったが、それだけでは終わらなかった。

 

 タブレットの画面が切り替わり、ダニエル君と一緒の作業着を着た、灰色の髪をした少年が映し出される。いかにも不良少年っぽい彼の背景は雪山だった。

 

『オイ、ダニエル。洗濯モン関係の部屋はどンぐらい広くする』

 

「ジョンですか。そうですね……食堂と同じぐらいにしましょう」

 

『材料が足りねェんだよゴミカスが』

 

「Amazonにでも注文しなさい」

 

『テメェ名義で注文すっからな?』

 

 そこで通信は終わる。

 次に映し出されたのは白髪の少年だった。僕と同じような白衣に身を包んだ彼のエプロンには多数の血が付着している。マスクを外しながら笑う彼は、メスを回転させながらダニエル君と会話を始める。

 

『こちら医務室のボブ。所長さんの手術終わったよー』

 

「お疲れ様です。まさか貴方の医師免許がこのようなところで役立つとは思いませんでした。人生何が起こるか分かりませんね」

 

『ユーキャンで資格取ってて正解だったね』

 

「どうやら所長さんは魂が特異点にいるようです。このようなケースは初めてでしょうが、ボブの判断で所長さんの本体をお願いします」

 

『りょーかい』

 

 唖然とした僕とレオナルドを他所に、ダニエル君はタブレットを僕達に見えるように構える。

 

「えーと、次に発電システムの完全自動化ですが──」

 

「君達本当に何者なんだい!?」

 

 

 

 

 

 ──後に時計塔では今回の改築劇を「新しい魔法か何かか?」と議論されたとか、しなかったとか。

 

 

 

 




【来るであろう質問への回答】

Q,改装した道具はどこから?
A,カルデア内部から拝借。なければAmazonで注文。

Q,人類いないんじゃないの?
A,カルデアス一部青いじゃろ? 日本人に休みなんてない。

Q,ボブは何してんの?
A,増築。土木関係のバイトの経験が生きている。

Q,カルデアスって冷蔵庫に入るの?
A,メイドインジャパンを侮るなかれ。

Q,医師免許ってユーキャンで取れるの?
A,fate作品ならできるでしょ。

Q,発電システムの自動化って?
A,文字通り。発電からメンテナンス、外的攻撃からの防衛まで全てをこなす発電システム。


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俺たちの戦いはこれからだ!

 どうも、十六夜やとです。
 卒論終わったので、久方ぶりの最新話をどうぞ。

 あと、カルデアが召喚する英霊はあと一人です。本当はオリキャラ勢にも召喚してもらおうかと思いましたが、収集つかなくなるので、マシュ・オルタ・あと一人・次の特異点の一人で人理を攻略します。
 次回召喚回です。キチガイ共の天敵を召喚します。


 起きたら見知らぬ天井だった。

 というか、やけに豪華な内装の部屋で、凄くふっかふかなベッドの上で横になっていたと言うのが正確だろう。混乱している記憶を整理して、面影が微塵も残っていないが、ここがカルデアであることを確認する。

 ついでに俺が最後に記憶していたカルデアの一室は、ここまでスイートルームさながらの設備を兼ね揃えていたとは記憶していない。さては他のガイジ共が何かやらかしたな?

 

「フォーウ」

 

「お、白モコモコやんけ。お前も生きてたんか」

 

 白モコモコことフォウ君の確認もあり、ようやく特異点にレイシフトした組が全員帰還できたことを実感する。一般人の俺と動物の白モコモコが生きているのなら、デミサのマシュや死んでも生き返る所長、謎生物の花子も生きていることだろう。

 俺は適温に設定された室内で微睡む。

 

 つかココめっちゃ暖かいやん。

 加えて白モコモコが絶妙にフワフワしている。

 これはもう寝るしかない(確信)。

 

「んなこと言ってないで起きろっての」

 

「あ、オルタ居たんだ」

 

「あ゛? ここに私がいたら悪いの?」

 

 やけに不機嫌なオルタ。

 俺が寝ているベッドの端に腰掛け、俺を蔑むように腕を組んでいる。

 

「そりゃ俺の自室らしき場所に超絶美女がいたら困るだろう? 俺だって思春期真っ盛りの男子なんだぜ?」

 

「……ふん」

 

 俺の言葉にオルタは立ち上がった。しかし、さっきの不機嫌さは一瞬にして霧散したようだ。

 コイツ感情の揺れ幅が激しいなぁ。

 

 ……え、まだ確定してないけど俺の部屋なんだよな?

 万が一にも俺の部屋がオルタと兼用だと仮定するならば、ベッド一つしかないって時点で嫌な予感しかしないんだが。まさかのオルタと添い寝パターンですか? まぁ、起き上がった拍子にソファー見えたから、場合によっては俺がそこに寝るんですけどね。

 

「クソマスター、ロマニとかいうアホが呼んでたわよ。管制室まで来てって」

 

「了解。オルタも一緒に行く?」

 

「………」

 

「んじゃ行くか」

 

 オルタが用意してくれた上着(最初で花子に破かれたアレ)を羽織り、フォウ君を胸に抱えて、オルタを伴い管制室へと向かった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「あ、おはようございます、先輩。無事で何よりです」

 

「よっ」

 

「そっちもね。いやー、大変だったなぁ」

 

 業務用冷蔵庫の前で待っていたのは、純真無垢で若干天然のマシュ、画面越しでしか会ったことのなかったロマン、画面越しですら会ったことのない謎の美女、脳筋金髪幼女がいた。マシュがいち早く気づいて挨拶をしてきたので、笑いながらそれに応える。花子は無視。

 そして先の特異点でサポートを請け負ってくれたロマンとも軽い握手。表情を鑑みるに、相当心配されていたらしい。

 

「そんなわけで、俺の名前はマイケルだ。以後お見知りおきを」

 

「特異点の修復、本当に感謝しているよ。私の名前はレオナル・ド・ダヴィンチ……と言えば知っているかな?」

 

「……あぁ、所長が言ってた召喚例か。なるほどなぁ。えっと、俺はどう接すればいい?」

 

「私のことは気軽に『ダヴィンチちゃん』とでも呼んでくれたまえ」

 

「りょーかい、ダヴィンチちゃん」

 

 アーサー王が本当は女性だったという事実を先に知っているためか、ダヴィンチが女性であることに違和感を抱かない自分がいる。聞くところによると、美を追究するために自分を『モナ・リザ』に似せているんだとか。

 つまり中身は男。

 変態だね。友人に同じようなの居るから気にしないけど。

 

 ところで他のアホ共はどうしているのだろうかと周囲を見渡すと、管制室の自動扉が開く。

 そこに居たのは車椅子に乗っている所長だった。最後に見たときより若干痩せており、彼女の精神が肉体と解離していたことによる結果だということは、魔術に詳しくない俺でも察することが出来た。つまり、オルガマリー所長は本調子ではないのだろう。

 車椅子を押しているのは白髪の少年。俺達はコイツのことを『ボブ』と呼んでいる。ボブらしい見た目ではないが。その後続に胡散臭い紳士な見た目をしたダニエル、髪を灰色に染めている不良少年のジョン。

 

 管制室の扉が完全に開──

 

「所長を業務用冷蔵庫ににシュゥゥゥーッ!!」

 

「「超!エキサイティン!!」」

 

「ロ゛マ゛ニ゛だずげでええええええええ!!!!」

 

 いた瞬間にマイページな性格のボブは、車椅子に乗っている人間のことを顧みず、思いっきり助走をつけて車椅子をこちらに転がしてくる。時速二十キロは出てるのではないだろうか? もしかして所長がやつれている理由は、単純にコイツ等に遊ばれたからでは?

 某水の駄目神様みたいな顔面作画崩壊させながら、ちょうど冷蔵庫の前にいた俺の方に突進してくる所長を見て、俺は瞬時にロマンを盾にする。

 

「卑遁・身代わりの術」

 

「ちょ、マイケル君!?」

 

 ロマンに当たる直前に花子が車椅子の車輪に足を引っかけ、所長は面白い具合に前のめりで転ぶ。つまり、所長はドクターの胸にダイブする形で倒れ込むわけだ。羨ましいですね。

 思わぬ形でラッキーをつかみ取ったロマンなわけだが、彼女が彼に対して当たりが冷たいのは知っている。ロマンからしてみれば「この後何言われるんだろう?」って気持ちが強いのだろう。というか女性の上司の身体を支えるとかセクハラ案件じゃないか? 南無三。

 

 だが、そんなドクターを所長が責めることはなかった。

 逆に涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃである。

 

「……ロマニ、貴方は今日から給料100%アップね」

 

「はい!?」

 

「私気付いたわ! 目覚めたわ! あの頭のネジのはずれたキチガイ共に比べたら、ロマニは聖人だって! というか私を車椅子で押してくれるのは別にいいけど、カルデア内で爆走するって何なの!? ドリフトで火花が散るって何なの!?」

 

 そらキチガイ三人衆に比べたら誰だって聖人だよ。特に、マシュとか何なんだって話だ。恐らく人類が持ちうる言語じゃ表現することのできない、とても尊い存在になるはず。

 この言葉に三人は微笑ましく眺めている。反省せんかボケナスが。

 荒んだ現代社会に舞い降りし純真無垢な天使の化身マシュは訳も分からず首を傾げ、ダヴィンチちゃんは察したように溜息をついた。全然興味のない花子は業務用冷蔵庫からカルピスの原液を取りだしてラッパ飲みしている。カルデアスがカルピスの原液のボトルに囲まれている姿は滑稽だ。

 

 彼女を安定させること数十分後。

 危険なドライブにより錯乱していた所長は正気を取り戻した。彼女は俺とマシュ、ついでに花子に頭を下げる。

 

「特異点を修復してくれてありがとう、ございます。貴方達の御蔭でカルデアは救われたわ」

 

「……所長、熱でもあるんですか?」

 

「おいおいマジかよ。おいこらボブてめぇ全然治ってないじゃねぇか」

 

「あっれー? パーツはちゃんとつなぎ合わせたんだけどなぁ」

 

「マシュにマイケル! 別に熱なんて出てないわよ! 特に、そこの白髪はグロテスクなこと言わないで!」

 

 所長は咳払いして話の流れを戻す。

 

「未だに外部との連絡が取れないことから、恐らくレフの言ってたことは本当よ。……なぜかカルデアスが一部青いけど、これが真っ赤になってるってことは人類が滅んだってこと。カルデアは通常の時間軸にないから、かろうじで存続できていると推測するわ」

 

「そう簡単に歴史を変えたところで未来は滅亡しない。歴史には修正力ってのがあるからね。でも特異点を回復させてもカルデアスが赤いままってことは、他に要因があるってことだ。僕等が調べた結果──七つの特異点が発見された。どれも人類のターニングポイント(変えてはいけない歴史)だ」

 

 冷蔵庫カルデアの真っ赤な部分が消え、今度は青い放射線の光がカルデアに満ちた。これが時空の歪みってものであり、これを正さなきゃ文字通り人類は終わるのだろう。

 もう終わってるけど。

 

 ここで手を挙げたのは不良少年のジョン。

 年上にも敬語を使わず、ナメた口調でロマンに質問を投げかけた。

 

「あァ? つまり七つある特異点を修復しろってか? カルデアの人材不足を考慮すりゃ……そこのマイケル(アホ)花子(脳筋)にレイシフトしろって言うンじゃねェだろうな? 素人同然のガキを?」

 

「……えぇ、そうよ」

 

 それは苦痛に歪めたオルガマリー所長の返答だった。

 人類と未来の存亡がかかってるのだ。そう答えざるを得ない。

 だから、俺は溜息をついて承諾するのだった。

 

「このままじゃ帰っても何もないんだろ? ったく、選択しないとか笑えない冗談だ。──いいぜ、とりあえず世界でも救ってみようか」

 

「上に同じ」

 

「改めてお礼を言うわ。ありがとう」

 

 拳をきつく握りしめたオルガマリー所長は高らかに宣言する。

 その小さな身体にどれだけの重圧がのしかかっているのかは俺に走る由もない。それでも、彼女は腹をくくったのだろう。

 

 世界を救うために。

 人類を救うために。

 

 

 

「これより、カルデアはオルガマリー・アニムスフィアの名において、人理継続の尊名を全うする。目的は人類史の保護・及び奪還。探索対象は各年代の原因となる聖遺物及び聖杯。私達は人類を救うために、人類史に挑む! 魔術師最高位の使命──

 

 

 

──これより、人理守護指定グランドオーダーを開「ぶぇっくしょい!!」今いいところなのにっっ!!!」

 

 

 

 やっぱ雪山は寒いわ。

 

 

 

 




【残りのオリキャラ勢の簡単な自己紹介】

ボブ……白髪。マイペース。ドクター。
ダニエル……胡散臭い。紳士。リフォーマー。
ジョン……不良。無礼。クリエイター。


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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
抑止力の英霊(対キチガイ用)


 どうも、十六夜やとです。
 今章からオルレアン編となります。さて、ガイジ共がアップを始めましたね。あと、知っている人は知っている後書きシリーズも始まります。

 今回は召喚回です。キチガイの天敵が出ます。
 次回はオルタの日常回です。既に残念英霊になってます。














 
 ヒント・出身地





 外界の人類は滅亡している。

 現段階で生き残っているのはカルデアの数十人のみ。

 

 これが人類史が滅亡しかけている俺達の現状である。もうすでに救うべき人類のフレンズが滅亡しかけているのに、一般人の俺がどうしろとって話である。

 カルデアにレイシフトシステム……タイムマシンみたいなものがあって本当に良かったと思う。なかったら既に詰んでるじゃん。こういう人類の逆転のチャンスを残しているあたり、今回の黒幕の能力がある程度推し測ることが出来るだろう。

 それとも余裕の表れだろうか? まぁ、ナメてくれるならそれに越したことはない。

 

 俺は所長に呼ばれてカルデアの廊下を歩いていた。

 外側はガラス張りになっており、雪が深々と積もる様子が見れる。へぇ、雪ってこんなに積もるんか。

 

「──おう、人類最後のマスター様じゃねェか」

 

「それなら人類最後のアルバイター様とでも呼べばいいのか?」

 

 T字路でばったり会ったのは、灰色の長髪を後ろで束ねた、少し俺より身長の低い、ガラが物凄く悪い少年。もちろん外見通りの粗野で野蛮な言葉使いから、コイツがどのような人物かは察することが出来るだろう。

 こんなのを()()()()()()()()()として雇わなければならないところからも、カルデアがどれほど切羽詰まった状態なのか容易に想像できるだろう。カルデアの職員の制服すらまともに着こなせないようだ。上着の前のチャックが全開である。

 学校の制服感覚かよ。

 

 俺の皮肉が同郷の人間に効くことはない。

 その言葉に不良職員は鼻を鳴らすだけだった。

 

「はン。田舎のクソバイトよりゃ時給がいいンだぜ? 最低賃金スレスレのコンビニバイトの店長を殴りたくなるレベルにはなァ。人類最後のアルバイトにしちゃ最高じゃねェか?」

 

「え、うっそマジかよ。そんじゃ俺の時給も高いんかな? 今度所長に聞いとこ」

 

 もしコイツより低かったら、どうしてくれようか。

 密かにオルガマリー所長の処遇を考えながら、俺はスマホを操作しつつ、ジョンと廊下を歩く。俺が向かっている場所と一緒だと聞く。

 カルデアの要を同じ地域に置くのはどうなんだろう? 確かに何かあった時に向かいやすい反面、爆撃されたら前のように麻痺してしまうのではないか? さすがにドクターも所長も馬鹿じゃないから、そこら辺は対策を講じていると信じたい。既に改築工事をダニエルに頼んでいるかもしれない。

 

「つか、マイケル。テメェ何スマホを睨んでやがンだ?」

 

「……確かカルデア以外の人類って滅んでるんだよな?」

 

「馬鹿かテメェ。じゃなきゃ人類史救う理由にならねェだろうが。オレ達は何と戦ってるんだ、あァ?」

 

 俺はスマホをジョンに見せた。

 

 

 

 

 

「妹から『醤油買ってきて』ってLINE来たんだけど」

 

 

 

 

 

「………」

 

 これにはジョンも絶句する。

 そして急いで自分の携帯端末を確認し始めた。

 

「……まぁ、電波繋がってる時点でお察しなんだけどな。あ、Twitterも確認しとこ」

 

「オレもLINE来た」

 

「何て?」

 

「『モンスターハンターなう』って」

 

 どうやら写真付きで送られてきたらしい。LINEに添付された画像には『灰色の髪の美少女が血まみれの笑顔でデーモンとツーショットしている写真』という、情報量が多すぎる上に思考が追いつかない一幕が収められていた。ちなみに写真に写っているグラマラスな美少女はジョンの妹である。遺伝子が仕事していない。

 そして、写真のデーモンが冬木市で見た魔物と酷似しており、これ等が人類滅亡の原因であると推測した。

 なんかジョンの妹は死んでないけど。

 

 Twitterを確認しても『紅い月珍しい』だの『蛮神の心臓何に使うの?』とか『変な魔物と会った。とうとう一日七十八時間労働してたら幻覚見えてきた』などと、不可思議なことが起こっているのに、日本は今日も元気なようだ。

 俺等のやってるソシャゲのTwitter救援もいつも通り流れている。

 

「何か海外はTwitter動いてねェようだなァ。日本は存命だが」

 

「……そりゃ死んでも仕事は減らないからな」

 

 日本の社畜精神と異世界耐性の前に、人類滅亡程度じゃ母国は揺るがない。

 俺は「お母さんがワイバーン狩って来たんだけど、今日の晩飯どうする?」という新しい通知に、思わず遠い目をするのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「先輩、おはようございます。急にお呼び出しして申し訳ございません」

 

「マシュ、おっはー。あれ、所長いないん?」

 

「司令塔管制室でダニエル先輩とジョン先輩に仕事のご指導をしているようです。詳しいことまでは分かりませんでしたが……」

 

 中央管制室であるココには、いつもより機嫌が良さそうに見えるマシュと、おまけで白髪のマイペース野郎がニコニコと笑いながら鎮座していた。話によると、花子は司令塔管制室に遊びに行ったようだ。所長とドクターが可哀そうではある。

 裏を返せば俺達は安全なわけだ。それを今は喜ぶとしよう。

 

 心の中でロマンと所長に南無阿弥陀仏を唱えていると、マシュがキラキラした瞳で言葉をまくしたてる。

 興奮を押さえられないと顔が言っている。

 

「先輩、私は昨日自室のベッドで寝たのですが、とってもフワフワでぐっすり眠ることが出来ました! 他の職員さん達も大満足だったようです!」

 

「そ、そうなんだ。……御礼なら長身で胡散臭くて眼鏡かけてる奴に言うんだよ?」

 

 もしかしなくてもダニエルである。

 数十分ほどベッドの凄さを語ったマシュは、思い出したように要件を述べる。

 

「所長に頼まれて、先輩の英霊召喚のサポートを任されました。ちゃんと石も用意してあります」

 

 マシュが特異点で見たような聖晶石(ガチャ石)を取りだすのを見て、おとなしく業務用冷蔵庫から取りだしたカルピスの原液を水で薄めているボブが口を開く。

 

「あ、それでサーヴァント?ってやつを召喚するんだね。そっかそっかー」

 

「何か思うことでもあるのか?」

 

「ダニエルがそれを自室で育ててたよ」

 

「「育てる」」

 

「植木鉢に生ってた」

 

「「植木鉢に」」

 

 思わずマシュとボブの言ってることを復唱してしまった。

 マシュから渡された石をまじまじと眺めてしまう。ダニエルが自室の鉢に水をやる光景を想像しながら、これって木から生えるんだ……と呻く。この石にはサーヴァントの魔力供給やマスターの魔力ブーストにも使えるが、カルデアで所持する石は数個程度しかないと説明を受けたので、ダニエルのアホは何をしでかそうとしているのだろうか?と疑問を持つ。

 この石だってカルデアに残ってる最後の三個だ。それが生ってるって……お前……。

 

 ボブの衝撃のカミングアウトを一旦置いといて、俺は改めてマシュが用意してくれた召喚サークルの前で石を握る。あの恥ずかしい詠唱をするモチベーションは限りなく低いが、戦力は俺の供給ができる範囲内で多ければいい。感覚で理解しているのだが、俺がかろうじで供給できそうなサーヴァントの数は、カルデアのサポート込みで三体程度。

 残念だが今は魔術師としての格を上げている余裕はない。

 自分の不甲斐なさを痛感しながらも、俺は例のポエムを詠唱するのだった。

 

 

 

素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、

 

王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度。

 

ただ、満たされる刻を破却する。

 

――――告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

 

我は常世総ての善と成る者、

 

我は常世総ての悪を敷く者。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

 

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

 

 またもや吹き荒れる暴風。

 前回は目を閉じていて目視することはできなかったが、俺の魔力がガクッと持って行かれる感覚と、手の石から糸の様に召喚サークルへ流れていく光景を映す。

 その虹色に輝く繊細な糸は、徐々に俺の魔力と混じり合うかのように人の形を形成していき、『英霊の座』から英霊たらしめる存在の現身を顕現させる。その形となる英霊の周囲には虹の輪がクルクル回り、魔力が循環していく。

 

 限りなく色彩の薄い桜色の髪に、凛とした佇まい。

 物腰が柔らかそうな大和撫子……という印象を見受けられるが、その瞳にはオルタとは別方向の意思の強さを感じ取れる。濃い桜色の着物に、鮮やかな紅色の袴は、大正時代の女学生みたいな出で立ち。ここまでハイカラな服装の似合う人物も居まい。

 開かれた薄い琥珀色の瞳は俺を捉える。

 若干頬を染めながら、英霊として召喚された彼女は口を開くのだった。

 

 

 

 

 

「新選組一番隊隊長、沖田総司推参! あなたが私のマスターです──え、ちょっと!? マスター何で逃げてるんですか!? いやいや、待っ──」

 

 

 

 

 

 『新選組』

 『沖田総司』

 

 この単語を聞いた瞬間。

 俺とボブは脱兎の如く中央管制室から逃げ出した。

 

 

 

 




外見のモデル

マイケル……『銀河英雄伝説 die neue THESE』のヤン・ウェンリー。作者的にはCVは旧作の方が好き。
ジョン……『戯言シリーズ』の零崎人識がモデル。知らない人は調べてみよう。これがカルデア職員とか終わってんな。
ボブ……『刀剣乱舞』の鶴丸國永をイメージしよう。あの外見に白衣とか上から下まで真っ白やんけ。
ダニエル……『黒執事』のセバスチャンが元ネタ。これに眼鏡かけている。何でもできるイケメンを想定しているが、後に性癖がこじれている事実を皆は知るだろう。
花子……『BLAZBLUE(XBLAZE)』のEsがモデル。検索してみて。めっっっっっっっっちゃ可愛いから。


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影響されやすいお年頃

 どうも、十六夜やとです。
 確か英霊召喚のシステムって、遠坂の魔法『並行世界の運用』とか何とかのシステムが用いられていると聞きました。つまり、召喚された英雄が主人公たちの世界の歴史に生まれた人間ではない可能性があることを明言しておきます。
 じゃないとマジでカオスになる。もうカオスか。

 今回はオルタ視点の回です。原作オルタの性格から既に崩壊しているので、キチガイ思想に染まった読者の方々だけ読み進めることをお勧めします。
 次回はオルレアンにレイシフトする前の話です。


 私は祖国に殺された。

 私は政治のために殺された。

 私は──国民に裏切られた。

 

 熱かったのに。

 痛かったのに。

 謝ったのに。

 

 許してくれなかった。

 みんなの前に殺された。

 

 

 

 

 

       どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

  どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

 

 

 

 

 

 だから私は復讐したいと思った。

 私を見捨てた祖国を、私を処刑した執行人を、私の処刑を決定した連中を、私の処刑を野次馬根性で見に来やがった国民を、私を殺す要因となった宗教を、私の国に攻めてきた敵国を、私を生んでくれなかった各国を、私を助けてくれなかった人々を、私を拒絶した全人類を──

 

 いつからだろうか。

 何もかも信じられなくなったのは。

 

 愛なんてくだらない。私が求めるのは血だ。

 友情なんてまやかしだ。私が求めるのは復讐だ。

 絆なんて脆く崩れやすい。私が求めるのは怨嗟の声だ。

 

 そんな私が、どうして──どうして──

 

 

 

『カイリ 俺はずっとそばにいるよ これからも ずっと 必ず帰るから』

 

『約束だよ』

 

~宇多田ヒ〇ル 『光』~

 

「ゾラ゛ア゛ァ!! ガイ゛リ゛イ゛ィ!!」

 

 

 

 ──たかがゲームで号泣しているのは。

 

 マスターと共有している自室にて、テレビと呼ばれる機械の前。ハーフパンツに赤いTシャツを着て、背中に『ばすたー』と書かれた黒いジャージを羽織り、『人をダメにするクッション』を抱きかかえるようにコントローラーを握りしめる自分。床にはふかふかのマットが敷かれており、テレビに繋がっているゲーム機と『キングダムハーツ』と書かれた箱。

 私はゲームのヒロインの住んでいる島がBGMと共に復活していく画面を見せられながら、濁音が混じった声で主人公とヒロインの名前を叫んでいた。

 もはやそれ以外の感想しか出てこない。

 

 冬木市からカルデアに戻ってから一週間程度。

 他の連中が次のレイシフトする準備を進めている間、戦うことしか能のない私は暇の極みだった。

 そんなときクソマスターが持ってきた「なんか感動する神ゲー」と、暇を潰すために始めたゲームを借りた。最初は何か主人公がクソ甘っちょろい幻想を抱いていると鼻で笑っていたのだが、いつの間にか感情移入してしまっている自分がいた。この奇妙な動物たちにも愛着がわいてきた。

 

 ひたすら光だの絆などを連呼する主人公。

 スカした中二病気質のライバルみたいな奴。

 ぶっちゃけゲームにほとんど出てこないヒロイン。

 

 そんなんで物語が進んでいくのに、途中から寝ることすら忘れてプレイしていた。

 主人公が動物と戯れているときは鼻で笑った。主人公とライバルが対立した時は嘲笑った。主人公が仲間を失ったときはザマァと思った。仲間が助けに来てくれるシーンは何か涙が出た。ライバルがボスを食い止めるシーンは名前を叫んでしまった。扉を閉めるシーンでは涙が止まらなかった。エンディング始まった瞬間にトドメを刺された。

 そして現在進行形でタオルなしにエンディングを見れない。

 

「……なんで全員島に帰れないのよぉ」

 

 何だこのシナリオは。

 決してハッピーエンドではない。いつもならそれで喜ぶのに、どうしてこうも胸が締め付けられるほど苦しいのだろう。

 

「何でソラみたいな奴がフランスにいなかったのよ……」

 

 そうすれば少しは私の運命も変わったのに。

 いつもなら絶対思わないようなことを、何故か口に出してしまう。

 

 最後にムービーが入る。

 未来を感じさせるような最後だ。彼等の旅はまだ続いていくのだろう。

 丁度終わってセーブをしたので、クソマスターに教えてもらった通りにゲームの電源を切り、おもむろに立ち上がって涙をぬぐう。自分が考えるよりも先に鬼畜クソキチガイマスターに会いたくなったのだ。

 

「……あっちか」

 

 魔力のラインでマスターの居場所を検索し、重い足取りで部屋を離れるのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 クソマスターの自室を出て、職員用居住区画の一室の前で足を止める。あのクソマスターにくっついて来た3人……名前を覚えてないから『馬鹿共』って呼ぶか。あれの同類だし。そいつ等の誰かの自室の前だったはず。

 

 鍵もかかってなかったので私は何の躊躇もなく扉を開ける。

 礼節とかどうでもいいし、気にするような相手じゃないし。

 

 ただ、入った瞬間に部屋の中にいた全員が警戒したように腰を浮かせたのは驚いた。馬鹿共が化物を見るような目をしていたことに対して一瞬イラッとしてしまったが、後に「何だよ……ビックリさせんな……」みたいな表情になったのもイラッとする。

 部屋にはクソマスター、脳筋マスター、馬鹿3人組、盾女、白いモフモフが輪を作るように座って居た。

 おもむろに一番反応が大きかった黒髪のマスターが口を開く。

 

「──っ!? ……何だよ、オルタか」

 

「あぁ?」

 

「んなカッカすんなよ。こちとら命の危険性孕んでんだから、それくらい見逃してくれ。ほれ、こっち座りな。ジュースと菓子あるぞ」

 

 状況を正確には理解していないが、こいつ等は誰かから隠れているらしい。

 内心ザマァと嘲笑いつつ、私はマスターの隣に座った。白髪の奴から紙で作られたコップを貰い、胡散臭い奴からジュースを注いでもらう。

 聖杯からの情報供給で、適当に手に取った菓子が『ポテチ』と呼ばれるものであることを知る。芋に塩振りかけたものを菓子と呼ぶのかと訝しむが、口に入れた感想は悪くなかった。パリッとした食感や、塩の旨みが自分の食欲を満足させる。

 さすがに脳筋のアレみたいに『ポテチ』と『コーラ』という飲み物を馬鹿食いしたりはしない。

 

 他のお菓子もと手を伸ばしていると、クソマスターは話を進め始めた。

 あんまり興味がないけど耳だけは傾ける。

 

 

 

「つわけで奴が来たらオルタを囮に使って逃げる算段でOK?」

 

「「「異議なし」」」

 

「待って」

 

 

 

 私の知らないところで私が贄にされていることが決定されている。私の処刑だってもうちょっと当事者も関与していたはず。この馬鹿共はフランスの外道共以下か。

 制止の言葉に灰色の奴が「あァ」と思いだしたようにクソ外道マスターへと提案する。

 

「コイツ来たばっかだから、話しぐらいはしといた方がいいンじゃねェの? 理由や事情も分からず座に帰りたくはねェだろ」

 

「一理ある」

 

「違う、そうじゃない」

 

 何か納得したようにしているクソ畜生マスター。

 別に理解したからって死ぬことに肯定しているとは思わないでほしい。

 

「さっき俺が新しい英雄を召喚したんだけどさ、とんでもない化物を呼んじまったんだよ。主に俺達の命を狙ってくるようなタイプの化物」

 

「アンタ等殺しても死ななさそうな連中なのに。ってかソイツ誰よ」

 

「──史上最悪の戦闘殺戮集団『新選組』の一番隊隊長・沖田総司」

 

 言葉を引き継ぐように白いのが語り始める。

 この白いのいっつもヘラヘラしてるイメージがあるが、この時は真剣な表情をしていた。

 

「江戸時代末期の旧幕府軍で反幕府勢力を取り締まる活動をしていた連中、その中でも剣豪ひしめく一番隊の隊長ってんだから、沖田総司の強さは分かるよね? 日本でも割と人気の高い幕末の侍なんだけど……」

 

 ここで言いよどむ。

 そんな強い奴のどこに不満があるんだろうか?

 

「新選組は旧幕府軍との戦い──戊辰戦争にも参加している。まぁ、相手は反勢力の権化そのものだからね。あ、戊辰戦争で新選組が戦ったのは、薩摩・長州・土佐などの藩だよ。薩摩藩……今で言うところの鹿児島県。僕達の出身地だ

 

「オレ達の状況は、ピエール司教の前にテメェが現れるようなモンだ」

 

「あー……」

 

 あのクソハゲジジイの前に召喚された日には、やることはたった一つだ。

 聞くところによると、新選組にとってコイツ等の住んでいる『薩摩』は敵以外の何者でもないらしく、「薩奸死すべし慈悲はなし」という名言も残っているという。

 

 そして頭を抱え始める馬鹿男4人組。

 

「これは非常に困りましたねぇ。英霊召喚には縁のある者、または本質が似ている者が召喚に応じると聞きますが、このような形の縁があるとは……」

 

「ダニエルの言う通りだな。よりにもよって俺等の祖先のジジイ共ですら手を焼いた化物とか洒落にならんぞ? 田ノ浦のじいさんをひよっ子呼ばわりする連中と、ガチの殺し合いしてた侍集団の筆頭とか悪夢かよ。熊をタイマンで殺した近所の田ノ浦のじいさんがだぞ?」

 

「というか江戸末期の薩摩兵子とか奇跡の世代じゃん。あのドリフターズの豊さんがノンフィクションのレベルだった時代でしょ? 当時は刀一振りでビーム出すのが当たり前って、近所のばあちゃんに聞いたよ、僕」

 

「つか縁あるなら『島津豊久』だろうが。何で仇敵寄越してきたンだよ」

 

 ちょっと待って。

 私の生きていた時代の少し後の日本って、そこまで人外魔境の巣窟だったの?

 

 召喚された英霊と、コイツ等の祖先に恐怖を抱く私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな化物に私ぶつける気なのかコイツ等。

 

 

 

 




オリキャラ勢の口調の特徴(誰が喋ってんのか分かんないとき用)

マイケル……一人称が『俺』。よくあるラノベ主人公の口調。「~だ」「~さ」「~だな」みたいな。時々ネタで口調が変わる。あと非常識な発言をする。
ジョン……一人称が『オレ』。台詞の「ん」「ぁ」「ぇ」がカタカナ。地の文が少なくても判別できるよう、コイツ等の台詞には極力どれかを入れてる。あと非常識な発言をする。
ボブ……一人称が『僕』。マイペースっぽい口調を意識している。コイツと主人公の台詞の違いが分かりにくいかと。あと非常識な発言をする。
ダニエル……一人称が『私』。基本敬語だから一番判別がつきやすいと思う。あと非常識な発言をする。
花子……一人称が『私』。一人称が上と同じだが、判別はつくと思う。口数が少なく、長文は喋らせない。あと非常識な発言をする。



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お前が新選組になるんだよっ!

 どうも、十六夜やとです。
 今回はかなり強引に終わらせた感がりますが、沖田総司が誰が呼んだサーヴァントなのかをもう一度確認すれば納得するかと思います。どーせマシュ以外のサーヴァントはガイジになる。

 今回はマイケルVS沖田。なんだこの字面。
 次回はオルレアンに遊びに行きます。


 俺は歴史というものを学んで、一つ理解したことがある。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、例外が多少あれども、たいていの英雄は非業の死を遂げている。ジャンヌ・ダルクの異端者の烙印を押されての火刑は言わずもがな、沖田総司も新選組局長の斬首を知ることもなく病気で死去している。ダヴィンチちゃんは割とマトモな最後だったはずだが、彼女を『英雄』のカテゴリーに入れていいのだろうか?

 ともかく、ヘラクレスもクーフーリンもアーサー王も、英雄と称賛される人類の宝は、何らかの形で悲劇が付き纏っている。それを『願いを何でも叶える』というエサで、聖杯戦争というものが成り立っていたらしいから、英霊として召喚される者達は、生前に何らかの心残り(悲劇)があったのだろう。

 なんと歪なんだろう、英霊召喚ってシステムは。

 

 所長は何も考えずポンポンと、キャパシティのギリギリまでサーヴァント召喚しようぜ!って意気込んでいたが、どうにかロマンとダヴィンチちゃんが止めてくれた。

 魔術師としては英霊なんざ『魔力の塊』、または『従順が下僕』として考えるのが当然らしいので、考え方が歪んでいるのは彼女だけのせいじゃない。いや、サーヴァントと一個人として認識している俺の方が異端なんだろう。火刑待ったなし。

 

「………」

 

「………」

 

 ところで俺は何か悪いことでもしただろうか?

 レイシフトするために中央管制室に集まったのだが、現在進行形で祖先たちが残した遺恨の炎と対峙させられている俺は、やんちゃしてたジジババ共に呪詛の一つや二つ呟きたくなった。険しい表情で沖田総司は俺を睨んでいる。

 この状況を見れば、容易に英霊を増やしちゃいけないと、オルガマリー所長も理解してくれるだろう。今後の教訓にでもしてほしい。

 ちなみにアホ共は司令塔管制室に逃げた。クソが。一緒に死ねや。

 

「……マスター」

 

「……はい」

 

「マスターは──薩摩の人間なんですよね?」

 

 さて、この状況をどうしようか。

 俺の出身地が看破されるのは想定の範囲内だ。よくわからん感覚だが、マスターとサーヴァントは記憶というものを一部共有するらしい。実際に俺はオルタの処刑前の記憶を夢で見たし、オルタも俺の記憶を一部夢という形で知っていた。そして記憶は本人に影響を与える。オルタは憎悪以外の感情が出るようになり、俺はフランスとピエールが嫌いになった。

 そんな形で、沖田総司も俺の記憶から、俺の出身地を知ったのだろう。ちなみに沖田総司から共有した記憶は、全体的にR-18指定だった。グロい方面で。さすが人斬りと呼ぶべきか。

 

 令呪で何とかしようとも考えたのだが、冬木市で行われた聖杯戦争とは異なり、カルデア産の令呪に絶対的拘束力というものが存在しない。せいぜい簡単な命令であり、かつ英霊側も納得している命令じゃないと、効力が十全に発揮されないのだ。いくら画をつぎ込んでも、たった三回である。沖田総司を三回で止められる自信はない。

 それ以前に俺が令呪を信じていない面もある。絶対権という言葉に魅力を感じるが、これに固執するのも危険だと判断したからだ。

 ……オルタは何で『踊ってみたシリーズ』をやったのかは考えないでおこう。

 

「あぁ、俺は確かに鹿児島──薩摩の人間だ。君の新選組が命を賭して戦った相手の子孫であり、余談だが俺の家系は島津の血も流れてる。もう取り繕う余地もなく、俺は君の仇だな。残念ながら」

 

「それを知ってて私の前に現れたんですか?」

 

「じゃあ逃げるってか? この既に滅んでいる世界の、どこに?」

 

 新選組一番隊隊長の刀より鋭い言葉に、俺は肩をすくめて皮肉を交えた。

 これを見守っているマシュは盾を構えて俺を守る準備をし、オルガマリーは「マジかよ、こんなケースあんのかよ」と顔を青ざめている。オルタは俺の後ろに控えている。どんな表情をしているのかまでは分からん。

 ちなみに花子は既に俺と沖田の間に入っている。身長ちっさいから、俺の視界に入らなかったけど。

 

 俺は両手を広げた。

 すしざんまい。

 

「ぶっちゃけレイシフト前で時間が押しているから、単刀直入に聞こう。君は俺をどうしたい? 下手に遺恨を残したまま共闘なんざ死んでもごめんだ。ただの足枷になる。俺を殺す気ならさっさとしてくれ。もちろん俺と花子は抵抗させてもらうが」

 

「先輩!? 何を言ってるんですか!?」

 

「とは言ってもねぇ。マシュは彼女を止められる? 対人のプロフェッショナルだよ?」

 

 死ぬのは確かに怖いが、もう目の前に人間より数百倍強いサーヴァントがいる時点で、ある程度の覚悟はしている。そもそもライン繋がってるから、逃げるにしても、もうどーしようもない。

 

 桜のサーヴァントは刀をつきつける。

 あまりにも早い抜刀だった上に、牽制であることは明白だ。俺を助けようとした者達全てが動くことが出来ない。俺自身でさえも抜刀動作が見えなかった。

 さすが、日本屈指の剣豪だ。

 

「貴方そのものに怨みはありませんが、貴方が『薩摩』である理由だけで、私は貴方を殺す動機になる。私はたとえ人類の危機であろうと、仇敵の命令に従うつもりはありません」

 

「さすが、新選組のサーヴァント。反論が何も思いつかねぇ」

 

「薩摩死すべし、慈悲はない」

 

「……うーん、どうしたものか」

 

 俺だって言いたいことは山ほどある。

 だが、彼女の言い分も理解できる。そうなると、衝突でしか解決しないだろうし、力のない俺が物理的に折れる道しか残ってない。

 

 でも俺は困る。

 解決の糸口を探そうとも、相手が会話の通じる類の人間じゃないし、最後の最後まで脳みそをフル稼働しているが、全く持って全然思いつかな──

 

「……あれ?」

 

 ふと彼女の表情が和らぐ。

 目を見開き、何かをひらめいたような表情だ。

 

「マスターは薩摩人……それだけで斬る理由になる。でも、その点を除けば、人斬りだと怯えることもなければ、一緒に居るとなんか安心しますし、マスターとして仕えるに値する? というか主としては最高なのでは? うん?」

 

 ぶつぶつと何かつぶやいている。

 

 

 

 

 

「マスターが新選組になれば解決するのでは?」

 

「お前それでいいんか?」

 

 

 

 

 

 いや、めっちゃ名案みたいな顔しているけど、それ暴論に近い何かだぞ? 俺を斬らない理由というものを、自分なりに考えてくれていたのは嬉しいけど、根本的なものは解決してないからね? 新選組入れば、お前にとって全員友達なの?

 セイバーとして召喚された日ノ本の侍は、興奮したように花子をどかし、俺の両肩をがしっと捕まえる。そして整った綺麗な顔を、ぐいっと俺に近づけた。

 どう考えても強引だとは思うが、彼女は本気で名案だと信じ込んでいるらしい。

 

「ま、マスター! 唐突ではありますが、幕府を守護するお仕事とかに興味はありませんか!? 今なら私が稽古もつけますし、薩摩とかいう蛮族狩りも楽しくできますよ!?」

 

「俺その蛮族出身なんだけど……」

 

「有給も取れるアットホームな職場ですよ! あと給料が高い! 福利厚生もしっかりとしてます!」

 

「え、給料高いんですか?」

 

 ちなみに鹿児島の最低賃金は日本でも三本の指に入るほど低い。

 しかも、ド田舎だから最低賃金以下のバイトも普通にある。

 

「あ、羽織りは後で送らせていただきます! ってか私の羽織もどっか行ったんですよね。どーこになくしちゃったんでしょう? いやー、私もうっかりしてました。そっかそっか、マスターが新選組の一員になれば薩摩とか長州とか関係ないですよね──」

 

「はいはいはい、そこら辺後にしてー。さっさと次の特異点行って頂戴」

 

 パンパンと手を叩きながら、所長がもう見ていられないと空気を切り変える。

 一話半を使った壮大な茶番の結末がコレかよと、俺は肩透かしを食らった気分なんだろう。俺達なんかノリが完全にキチガイな英霊に翻弄されただけじゃねぇか。このキチガイさが似ているとでも言いたいのか、英霊の座さん

 

「さーて、気を取り直して特異点行ってくるかぁ」

 

「マスター頑張ってくださいね! 新選組の件は後ほど……」

 

「てめぇも来るんだよ人斬り」

 

 ちゃっかり留守番しようとしている沖田を、花子がラリアットで引きずる。

 マスターの俺と花子、デミ・サーヴァントのマシュ、ポンコツサーヴァントのオルタと沖田による、最初の特異点修復の旅が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が薩摩なのは全部ダニエルって奴の仕業なんだ」

 

「許せませんねソイツ!」

 

 

 

 




【サーヴァントのステイタス】

・ジャンヌ・ダルク〔オルタ〕
クラス アヴェンジャー
属性 混沌/悪

筋力A 耐久C
敏捷A 魔力A+
幸運C 宝具A+

クラス別スキル
復讐者:B
忘却補正:A
自己回復(魔力):A+

保有スキル
自己改造:EX
竜の魔女:EX
キチガイの従者:A+


・沖田総司
クラス セイバー
属性 中立/中庸

筋力 C 耐久 E
敏捷 A+ 魔力 E
幸運 B 宝具 C+

クラス別スキル
対魔力:E
騎乗:E

保有スキル
心眼(偽):A
キチガイの従者:A+
縮地:B



キチガイの従者……常識の範囲外の思考回路を有するマスターを持つサーヴァント。幸運に補正がかかり、ステータスの(+)作用が働きやすくなる。ついでにマイナス補正のスキルが何故か消える。


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黒歴史の上でタップダンス

 十六夜やとでーす。
 本格的に就職活動が始まったので、亀更新が続きます。投稿した場合は「まーた現実逃避してるぞこの作者」とでも思っといてください。
 あと余談なんですが、感想して下さった方々には、次話投稿する前に返信しております。ようするに感想戻ってきたら「投稿するんかー」と思っといてください。


 今回はオルレアン到着しました。はい、それだけです。
 次回は黒幕の正体を知ります。タイトル通り、サクッと攻略します。


 レイシフト先は、のどかな田舎道だった。

 何か空がやけに禍々しい色に染まっていたが、それ以外の点を除けば、日本の辺境のド田舎を彷彿とさせる風景が広がっていた。鹿児島みたいだ。ここは草原というクソミドリが広がっているけれども、鹿児島の知覧は茶畑というクソミドリが広がっているからな。もしかしてココ鹿児島か?

 

「マシュ、ここ鹿児島じゃないの?」

 

「マスター、残念ながら鹿児島ではないようです」

 

「え~、残念です……」

 

 花子の疑問にマシュが答える。

 ところで沖田は何を残念がっているのだろうか? 聞いてはいけない気がした。

 まぁ、ここが我等が故郷ではないのは明白だろう。だって寒いもん。

 

「──先輩。時間軸の座標を確認しました」

 

「さっすがマシュちゃんは頼りになる。で、今何年?」

 

「1431年です。百年戦争の真っ只中です」

 

「へぇ、日本だと戦国時代より少し前くらいかぁ。ふーん……ん? あれ?」

 

 百年戦争、という単語が引っかかった。

 割とごく最近にそのような単語を耳にしたことがあるし、自分でもその内容を検索した記憶がある。しかし、肝心のその単語を検索した理由が思いだせない。

 ちょうどその時期は、花子と所長の講義を受けていたはず。魔術師としての知識が圧倒的に不足しているため、とりあえず遺憾の意案件で不本意だけど、所長を師事していた。専門用語を専門用語で解説する教授並には分かりやすかった。高校時代の先生って教え方が上手かったんだなと、今さらになって痛感する。

 

 百年戦争はどこで行われた?

 どうやらオルタも俺と同じ顔をしている。

 

「現在位置とか把握できる?」

 

「フランスですね」

 

「オルタ、とりあえずオルレアンとイングランドを焼き討ちすっぞ」

 

「魔力を回しなさい。決めに行くわよ、マスター!」

 

 場所は理解した。

 年代も理解した。

 やることも定まった。

 

 俺と竜の魔女の闘争心に火がつく中、誠の羽織を持たない新選組一番隊隊長が焦る。

 この空気についていけないのだろう。

 

「ま、マスター!? いきなりどうしちゃったんですか? 沖田さんは全くこの展開についていけてないんですがっ!?」

 

「この時代のオルレアンとイングランドは日本の薩摩と長州みたいなもんだ。古事記にも書いてある(大嘘)」

 

「なるほど、つまり敵だと」

 

 おちゃらけた空気が一瞬にして、鋭い刃と化す。

 沖田も俺達の気持ちが通じたのだろう。

 サーヴァントの敵は主の敵。とりあえずシャルルって野郎と、ピエールっていうハゲは殺さないと気がすまない。ついでにフランスも火の海にしよう。イングランドってイギリスだよな? んじゃイギリスもバーニングだ。

 

 そんな固い結束が固まる中、水を差す声が。

 純真無垢な我等がアイドル、マシュ・キリエライトだった。

 

「あの、私達は特異点を解決するために聖杯を探さないといけないんですが……」

 

「大丈夫、大丈夫。その聖杯ってやつもシャルルってキチガイが持ってるはずだから。そいつシバいて聖杯ゲットすりゃ特異点も解決するやろ。オルタも満足して、聖杯も手に入るとか、素晴らしい展開だと思わんかね? なぁ、花子?」

 

「よくわかんないけど、マイケルに任せる」

 

 俺のヒトラー並の素晴らしい演説に、花子も感銘を受ける。仏頂面で何考えてるのか分かんない脳筋娘だが、長い付き合いのある俺には分かる。

 コイツ話そのものを聞いてないな。

 

「『許す』や『許さない』は被害者本人が決めることであり、他者から強要されるものじゃない。そして『自分を害する行為を許さない者は器量が小さい』と言われがちだが、そりゃ大きな間違いだ。復讐や報復は被害者が有する立派な権利であり、()()()()使()()()()()()()()()()を考えているならば、ぶっちゃけ俺は何をしてもいいと思っている」

 

「……ですが、それだと復讐の連鎖が止まりません。どこかで止めないと」

 

「なるほど、マシュが被害者になった時に『許す』って思うのならば、それは君の自由だ。誰も君を止める権利は持ち合わせていない。だけど、これだけは忘れないでくれ。誰もがみんなマシュみたいに許せるわけじゃない。特に、理不尽に処刑されたオルタなんかはね」

 

 政治的に仕方がなかったのだろう。

 確かに、ジャンヌ・ダルクを殺した背景には納得できる。

 

 だが、俺は復讐を許容する。

 ある意味、俺のその思想がジャンヌ・ダルクの負の面を召喚させたのだろう。オルレアンの復讐者の主たる者は、やはり復讐を肯定する者なのだ。

 「復讐は何も生まない」とか「許すことも大切だ」とか言う連中は多いけど、その言葉を吐く何パーセントが、その言葉の重みを理解しているんだか。俺は残念ながら、復讐否定派の偽善者しか会ったことがない。偽善は大いに結構だが、偽善は時として巨悪となることを理解してほしい。

 もちろん、復讐した側は報復される覚悟を持つべきだ。ちゃんとそこら辺は、オルタも承知しているだろう。

 

 マシュは俺の厳しい持論に言葉を亡くし、オルタは驚いたように目を見開く。

 俺にオルレアンとの共通点はない。ないけれど、オルタの主として復讐をサポートする以外にも、シャルルとピエールを許せない理由がある。これは、オルタの復讐する単位が国家という点だが──

 

「まぁ、俺は権力を持った人間や権力に媚びを売る人間が、安全な場所に隠れてオルタを批判し、他人には信仰心や異端思想を強制して、処刑台送りにした行為が激しく気に食わない。ただそれだけだよ」

 

 非常に自分勝手極まりない理由だったりする。

 

「マシュは霊脈を設置して帰還システムと通信システムの確保。花子はマシュの護衛をお願い。俺とオルタと沖田は近くの街や集落を見つけに行って情報取集。場合によっては焼き討ち。これでいい?」

 

「「「異議なし」」」

 

 マシュ以外が了承して、行動開始。

 ──とはいかなかった。

 

「──すみません、それをされると非常に困るんです」

 

 何故か聞き覚えのある、凛とした声に止められたことで。

 俺が後ろを振り返ってみると、そこには一体のサーヴァントが佇んでいた。

 

 純白の鎧からは清楚な在り方を伺わせ、大きな旗を携えた女性。金髪の長髪は後ろに大きな三つ編みとして束ね、澄んだ薄い蒼色の瞳は硬い意思を物語る。

 サーヴァント、なのだろう。敵意は見えない。

 だが、他のサーヴァントとは違い、何かが圧倒的におかしい。俺の直感がそう囁いている。

 

「あ、アンタっ……!」

 

「……まさか、貴女が来るとは思っても見ませんでした。もう一人の私」

 

 オルタは恨めしそうに目前の女性を睨む。

 確かに()()()()()姿()()()()()()()()()()が居れば、当然か。

 この場を代表して彼女を見た感想をボソッと述べた。

 

 

 

「……オルタの2Pカラー?」

 

「「違います」」

 

 

 

 つか姉妹か。

 息もぴったりだし。

 

 冗談はそれくらいにして、オルタとカラーリングが違うだけの存在であり、黒の魔女対極の印象を覚える相手。実際に少し話しただけで、オルタとは姿以外が似ても似つかないな。

 俺は史実の彼女の姿を知らなかったが、これだけの情報を与えられれば、どんなキチガイでも察することが出来るだろう。

 

「……誰?」

 

 花子以外は。

 

「私はルーラーのサーヴァント。真名はジャンヌ・ダルクと申しま──」

 

 敵意がないことを証明しながら近づいて来る彼女だったが、突然よろけて前のめりに倒れようとした。あまりにも突然のことだったため、俺はとっさに支えようとする。

 どうやら儚げなのは印象だけではないらしい。具合が悪いようにも見える。

 

 手を出した俺はルーラーのサーヴァントの肩を支え──

 

「「あ」」

 

 ようとして、思いっきり彼女の胸を鷲掴む。

 小ぶりのメロンのように大きく、マシュマロよりも柔らかく、しかし美しい形に比例して弾力のある感触を、俺は両手の神経経由で理解する。

 ToLOVEるなら顔面でダイブしていたであろう。

 

 よく見るとオルレアンの乙女は首まで赤面させている。これはフォローしなくては。

 

「……ありがとうございます」

 

「え、あ……え、どういたしまして?」

 

「寝言は寝て言えクソマスター」

 

 刹那、礼を受け入れた声とは同じような声と共に、顎に強烈な痛みが走るのだった。

 

 

 

 




性格

マイケル……客観的で悲観的に考えるタイプ。他者の意思を尊重する分、自分の意志は基本的に曲げない。あんまりエロいことに興味はないけど、ジャンヌの胸は柔らかかった。
ジョン……基本的に相手を舐め腐った態度で煽る不良少年もどき。だが、根は優しいため、中途半端な悪役になり切れない善人。土木関係の作業が得意。
ボブ……マイペースを極めたマイペース。しかし、親しくない人との関係はドライ。医療関係の仕事を目指しているから、5章のあの人と会った時に化学変化が起こる。
ダニエル……紳士。胡散臭い見た目をしているためか、中身も胡散臭くなってしまった。性癖がめっちゃ歪んでいる。
花子……何も考えてない。主人公の言うことには素直に従う。仏頂面。脳みそを介さずに脊髄で物事を考えるタイプ。


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行動力のあるキチガイは面倒

 どうも、十六夜やとです。
 勘違いされやすいのですが、私自身はキチガイではありません。なぜかキチガイシリーズ執筆してると勘違いされやすいんですよね。
 もう一度言います。
 私はキチガイではありません。

 今回は異変の説明回みたいなものですね。
 次回、キチガイ共の本性が現れます。さようなら、原作のシリアスシナリオ。


「『黒は女性を綺麗にする』っていう言葉があるんよ。これダニエルに言ったら『黒が女性を綺麗にするのではなく、美しい女性が黒を着てやっているだけでしょう』って言われたけどさ。何かこう、黒が似合う女性は大人なイメージが個人的にあるんだ」

 

「な、なるほど……勉強になります。ダニエルさんって予想以上に紳士だってことが分かりました」

 

「そんで同じく完全に俺の持論なんだが、黒は『濃艶』で、反対の白は『清楚』ってイメージがあるんだな、これが。何にも色がついてない=何にも染まらず純粋……って方程式が、勝手に脳内で作られてるからなんだろうけど。もちろん色のイメージってのは個人差があるよ?」

 

「ほぇ……マスターは難しい事考えてますね」

 

 フランスで野良のジャンヌ・ダルクに会った俺達は、ひとまずカルデアとの通信環境を整えようという話になり、ちょうど霊脈の強かった森を拠点とした。マシュが盾を使って通信環境を整えている間、くっそ暇だった俺は雑談を行う。

 どうせならカルデア側の意見も交えながら話を進めたいという思惑があったからだ。今聞くより、後で談議した方が効率がいい。

 暇つぶしの内容はジャンヌ二人組を見て思いついた『イメージカラー』について。マシュは盾を操作しながら俺の話に耳を傾け、沖田は何もわかってないような反応を示す。その沖田に抱きかかえられて、マスコット的扱いを受けている花子。ぶっちゃけ鹿児島県民な俺達の中では、花子が一番薩摩兵子の血を受け継いでる気がするんだが。

 

 俺はジャンヌsに視線を向ける。

 カルデア所属のジャンヌは不機嫌そうに地べたに座り込み、「私全然気にしてませんけど?」風を装って、明後日の方を向いている。……が、時折オリジナルの自分を横目でチラチラと確認している。

 一方の特異点側のジャンヌは、オルタより相手を気にする頻度が多い。どちらかと言えば、具合が悪そうにしている彼女の方が心配だ。さっきから身体そのものがフラフラしているし、何か要因でもあるのだろうか?

 

「けどジャンヌシリーズは白い方がエロく見えるよなぁ」

 

「あ゛?」

 

 どうして黒い方が怒るのだろうか?

 情緒不安定過ぎない?

 

 なんて伏線どころか脈絡さえ持ちえない雑談に花を咲かせていると、マシュが盾のセットアップを完了させたようだ。カルデアの性格的に頼りなさげなトップと、精神的に頼りなさそうな次席がスクリーンに映し出される。

 これが人理修復の最後の砦を司る二人なんだよな。

 心配になってきた。

 

〔マシュから話の流れは聞いてるわ。サーヴァントに情報を吐かせなさい〕

 

「あ、紹介するよ。今それに映っているアレが、俺達人理修復を目的として活動している機関の長。オルガマリー所長だ。俺達の間では畏怖と畏敬を込めて『オルガ・イツカ』って異名で慕われてるよ」

 

 カルデアが何を目標として動いているのか、どうしてフランスの地にやって来たのか、俺達がどこから来た魔術師なのか。白いジャンヌ・ダルクが疑問に思いそうなことを、俺は代表として説明した。というか現在進行形で俺以外に説明できそうな奴がいない。

 オルガ・イツカは「え、そ、そうなの……悪くないわね」と納得している。名付け親はジョン。理由は人理修復終わるまで止まらなさそうだから。

 

 そして、今度は白ジャンヌが持ちうる情報を提供してくれた。

 ──けれども、それは俺たちにとって衝撃的なものだった。

 

「フランス国王シャルル七世とピエール・コーション司教が殺害され、フランス全土は突如現れた竜によって壊滅状態。それを行ったのは黒い魔女ジャンヌ・ダルク。……つまりそこの黒いの、みたいな奴が今回の黒幕って考えればいいんだよね?」

 

「……はい」

 

「表出ろやクソマスター」

 

「ここ表なんだけど。うーん、随分とややこしいことになってるなぁ。つか、フランスのシャルル殺したことが特異点になる理由って何なの? そう易々とは人類の転換期って生まれないって話だよね?」

 

 俺の素朴な疑問に答えてくれたのはロマンだった。

 

〔フランスは人類史上において、人間の自由と平等を謳った最初の国家なんだ。この権利が生まれるのが遅れれば、それだけ文明は停滞してしまう。フランスという国家がなければ、今の私達は中世と同じような生活を送っていたんじゃないかな?〕

 

「……オルタが殺したから、特異点になった?」

 

〔花子ちゃんが差しているのが、この世界に生まれた黒いジャンヌ・ダルクなのであれば、その認識は正しいよ。彼女曰く、この世界で生まれたもう一人の黒いジャンヌ・ダルクは、フランスという国そのものを憎んでいるんだろう?〕

 

 ただロマンは現在の状況をまとめただけである。

 しかし、オルレアンの乙女と謳われた聖女様は、自分とは違う思考を持った自分の現状を指摘され、ただでさえ具合が悪そうな表情をさらに歪める。

 

「どうして……復讐なんて」

 

「そりゃ自分を殺した相手は憎いですよ。薩摩死すべし」

 

「人斬り侍と同感ってのは癪だけど、私モドキの気持ちは分かるわ。オルレアンなんて救うんじゃなかったって、今でもマジで思ってるわよ。アンタ甘すぎ。コーラの数千倍くらい」

 

 例え方が俗物過ぎるが、おおむねオルタに同感だ。

 やはり聖女と呼ばれるだけはある。こういう考え方の持ち主が世界を救い──そして滅ぼすのだろう。何とも皮肉な話だ。

 

 彼女は黒いジャンヌと一度だけ対峙したらしい。

 その時は他に呼ばれた野良サーヴァントの助けで脱出できたらしいが、今頃そのサーヴァントたちは果たして無事だろうか? ファフニールっていう竜もいたって話だし、生存は絶望的と考えたほうがいい。

 味方サーヴァントもいない。相手は聖杯を持っている。相手側にサーヴァントが多数。正直、俺達の到着がなければ、比喩表現なしでフランスの特異点は詰んでいただろう。彼女も本調子には見えないし、第一特異点でこの惨状じゃ、先が思いやられる

 

「さて、シャルルとピエール死んじまったし、こりゃ本格的にフランス救う理由がねぇな。どうするよ、復讐者さん」

 

「あぁ? んなの私モドキを殺すに決まってるでしょう? 生意気に竜なんか召喚してやがるし、聖杯持ってるのは絶対そいつよ」

 

「竜の召喚って、魔術の中では難易度が高いんだっけ? そんじゃパッとジャンヌ・オルタ・オルタがいる『監獄城』ってところに行って、パッと黒幕叩き潰して、パッと帰りましょか。あんま長居したところで、いいこと何一つないわけだし」

 

「こんなクソみたいな場所に長居するわけないでしょ。馬鹿なのアンタ? 私早くキングダムハーツのCOMやりたいんだけど」

 

 オルタは復讐の対象を『国王とハゲ司教+欧州』から『復讐対象ぶっ殺しやがった私のそっくりさん』へとシフトチェンジしたようだ。

 俺が復讐許容したのは裏の理由として、特異点攻略に協力してくれる彼女のモチベーションを保つためって面もある。人類救ってくれるんだから、これぐらいの役得はあってもいいよね?って感覚である。対象を変えることでオルタが渋々納得してくれるんなら、こっちとしても願ったり叶ったりだ。

 

 そんなわけでカルデア御一行は黒幕の本拠地『監獄城』という目的地へと向かう準備をする。

 俺は「そういえばさー」と軽い気持ちで、白いジャンヌ・ダルクへと話題を振った。

 

「そういやジャンヌ・ダルクさんは具合悪そうだよね。大丈夫?」

 

「か、かろうじで大丈夫。現在の私はルーラーなのですが、ルーラーとしての機能がほとんど使えません。ステータスも大幅に弱体化しており、つい先日に魔力の供給も止められました」

 

「……え、それ相当まずいんじゃ」

 

「も、もう一人の私のところまで案内するまでの魔力はあります。その後はお手伝いさせていただくことはできませんが、どうか、フランスをお願いします」

 

 花のように可憐な笑みを浮かべる白の聖女。

 俺は目を見開いた後、少し脳みそを回転させる。

 打算と損得勘定、現状のカルデアが抱える問題と、魔術師として得た知識をパズルのように組み合わせ、俺は一つの結論を導き出した。

 

〔なら大丈夫ね。マイケル、すぐに監獄城へと向かいなさい〕

 

「……なぁ、所長。一ついいか?」

 

〔また何か面倒な事考えたわけ?〕

 

「ジャンヌと俺が契約したら、彼女は消えないよな?」

 

〔「はぁっ!?」〕

 

 所長とオルタの声が重なる。

 現在カルデアの戦力は少なく、召喚を行うだけの余裕も聖晶石もない(除・ダニエルの栽培)。そして、召喚したとしても沖田の二の舞になる可能性もある。土方歳三とか呼んだ日には第二次戊辰戦争勃発である。その点、ジャンヌ・ダルクなら性格上問題もないし、既に一匹飼ってる。

 次に、ルーラーとしての機能。もしかしたら召喚の不備としてルーラーのスキルが、マスターが居ない故に正常に発動しない可能性を考慮し、『真名看破』や『神明裁決』は今後役に立つと考えられる。

 最後に案内途中で消えられても困る点。俺達は監獄城がどこか知らん。

 以上の点から、俺はジャンヌ・ダルクを俺が契約する最後のサーヴァントとして推薦した。あとエロくて綺麗で可愛いし。

 

 俺の巧みで素晴らしい説得に、ちょろさで右に出るものはいない所長は俄然乗り気になる。

 オルタはソウルイーターのエクスカリバー見たときのような表情をしているが、面白いゲームを紹介することを条件に渋々……本当に渋々……くっそ渋々に頷く。

 よし、蒼の少女と赤いトカゲが出てくる周回ゲーを紹介しよう。

 

「つわけで、すまないが君にも人理修復に付き合ってもらうぞ。──告げる、汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に――聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば―――我に従え。ならばその命運、汝が『旗』に預けよう!」

 

「……えぇ、分かりました。──ルーラーの名に懸け、誓いを受けます……貴方を我が主として、認めましょう」

 

 こうしてカルデアに最新にして最後の英霊が加入したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔ところで……マイケルは監獄城に乗り込む準備はしてあるの?〕

 

「あぁ、城を壊す用意はしてある」

 

〔壊すの!?〕

 

 

 

 




今作でのお仕事

マイケル……マスターとして特異点を修復する仕事。現場の司令塔としての役割も兼用し、花子の首輪も握っている。
ジョン……次回判明。やらかします。
ボブ……医療室の番人。死者の蘇生以外は大抵治せる。ロマンの仕事を奪う形になるが、おかげでロマン過労死フラグは免れた。
ダニエル……次回判明。やらかします。
花子……マスターとしてマシュをサポート。マシュがサポート。基本的にサーヴァントを倒す係。グランドクラス以外なら苦戦はしない。


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ジャンヌ二人はややこしい

 十六夜やとなのです。
 一話分で5000字超えたので分けました。
 個人的にキチガイシリーズは『サクッと読める分量』として平均文字数3000字を目標としています。

 今回は雑談回です。
 次回は(ある意味)コラボします。


「……あれが監獄城ね」

 

 どっかの誰かが提唱した『馬鹿とキチガイは高いところが好き』という名言に準え、俺達カルデア一行は高台から敵の根城を見下ろしていた。望遠鏡で姿を確認した俺は、マシュに望遠鏡を手渡して、カルデアの連中と連絡を取る。

 こうも敵の本拠地がむき出しだと勘ぐってしまう。

 

「ロマン、監獄城の様子は?」

 

〔ちょっと待っててね……うーん……えーと……これは少し難しいな。城の周囲に強固な結界が張ってあるね。この魔力量は完全に魔術やサーヴァントが張れるような結界の域を超えている。間違いなく聖杯を使ってるとみていいよ〕

 

「データ収集ありがと。やっぱ一筋縄じゃいかないかぁ」

 

 敵が守りに入った。この事実に俺は表情を歪める。

 聖杯を持っており、尚且つ戦力は相手が上。挙げ句の果てに籠城戦と洒落込む当たり、カルデアの面々があちら側に認識されてると見て間違いないだろう。

 フランスを壊滅させる目標はある程度達成されており、戦力を十分に補充した状態で城に籠る。シャルル王が死去しているからフランスが完全に自然と消えるのは時間の問題だ。彼女等が手を下さなくとも、特異点を修復しなければ、文明の停滞は決定する。

 

 黒幕たるジャンヌ・ダルクが復讐心を露わにし、強欲にも他の集落をゲリラっていただければ、こちらにも勝機はあっただろう。だが、下手に防衛に回れると手が出しにくい。

 城や要塞を攻撃するには、相手の三倍以上の兵力を以て、十倍の損害が出ると言われている。

 ジャンヌ・ダルク……じゃねぇな。バックに有能な参謀が居ると見た。

 

「ジャンヌ」

 

「なんでしょうか」「なによ」

 

「………」

 

 手遅れ感が半端ないと思うのだが、これはややこし過ぎではないか?

 俺の呼びかけにジャンヌsが反応するので、思わず頭を掻く。俺は白い方のジャンヌ・ダルクを呼んだのだが、監獄城を親の仇のように睨んでいたオルタも反応したようだ。

 

 返事をした白い方のジャンヌ・ダルクは、俺が困り顔をした理由に気付いたのだろう。苦笑しながらも代替案を提示する。

 マシュといい白ジャンヌといい、なんか周りの女性達が健気過ぎない? オルタも何だかんだ良い子だし、花子や妹しか女性を知らない俺達にとって、御淑やかな女性は珍しい生き物だった。鹿児島の女性は花子や沖田さんよりもヤベェ奴等しかいないし。

 

「私の姿は『レティシア』という少女の姿を借りております。よろしければ、今後は彼女の名で呼んで頂ければ、混乱することがないと思うのですが」

 

「いや、『ジャンヌ・ダルク』って名前は君のものだ。むしろオルタの方が贋作だろう? なのに君が名を偽る必要はないと思うけど」

 

「はいはい、どうせ私はクソ聖女のパチモんですよ」

 

 鼻を鳴らしながら捻くれ、しかも若干涙目のオルタに苦笑しつつ、言葉を続けた。

 マスターの俺が自分を『贋作』と呼んだことが、何気に堪えられなかったのだろう。でもお前は俺達のこと『キチガイ』って言うじゃん。

 

 実際に俺はオルタを貶めるために言ったわけじゃない。

 キチガイ共相手なら遠慮なく貶め罵り蔑むのだが。

 

というわけでオルタの新しい名前をつけよう。あ、マシュは監獄城に張られた結界の規模と正確な座標をカルデアに送ってくれない? 他の人にはできないからさ」

 

「はぁっ!?」

 

「分かりました!」

 

 ぴしっと敬礼したマシュは、即座に仕事へと取りかかる。

 花子は沖田とスマホのカメラ機能で遊んでいる。二人で自撮り写真を収める姿は微笑ましい。

 オルタは『何言ってんの馬鹿なの?』の意味を込めた「はぁ?」を、全力で自分のマスターにぶつけたが、俺的には今までがおかしかったと説明する。

 

「考えりゃオルタ(黒化)オルタ(黒化)言ってるのが不思議なんだよ。贋作なんて言い張る方がアホみたいだ。ないなら名付けりゃいい。今ここに居る贋作のお前は、『ジャンヌ・ダルク』ではない別の物語を紡いでるんだからさ。どっかの人の言葉を借りるんなら、『これは誰でもない、お前の物語だ』ってこと」

 

 お、これ魔術師(中二病)ポイント高い台詞なんじゃない?

 どうせならサングラスかけて言いたかったなーと考えを他所に、オリジナルの彼女は俺の提案に乗り気なようだ。わざわざ手まで挙げて候補を上げる。

 

「はい! はいはい! それこそ『レティシア』にしましょう!」

 

「どうしてアンタの姿の元ネタの名前にしなきゃいけないのかしら? 脳みそオルレアンなの? 私は贋作という立場に満足しています。それに、今さら、あ、新しい名前……だ……なん……て……」

 

 前半は気丈に振る舞っていたが、伝説のガードの名言である『自分の物語』って部分に、思った以上に魅かれているようだ。意外と承認欲求と主人公願望のある彼女は、『ジャンヌ・ダルクではない、新しい一個人の名前』を、失笑を以て斬り捨てることはできなかったのだろう。

 俺はオリジナルの考えた名前は良いと思った。

 純粋に『レティシア』って響きが良いのもあるが、他にも理由がある。

 

「俺も白いジャンヌの名前がいいと思うな」

 

「……アンタも白い方の肩持つわけ?」

 

「いや、実は前から『オルタって名前はあんまりだよなぁ』って、麗しき友人達に募集かけてみたんだが……」

 

 

 

 

 

 ひょっとこオル太郎(マイケル)

 

 メタモン(ジョン)

 

 オル・レアン(ボブ)

 

 ゼアノート(ダニエル)

 

 ポチ(花子)

 

 

 

 

 

「俺達のネーミングセンスって壊滅的なんだよなぁ」

 

「花子ちゃんの『ポチ』とかどうですか。沖田さん的にポイント高いです」

 

「荒川・ジョセフィーヌ・万次郎は?」

 

「私のっ! 名前はっ! レティシア、です!」

 

 例え決められた名前だとしても、彼女は自分の名を手に入れた。

 オルタ改めてレティシアは、新しい人生の一歩を踏み出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は存在しない英霊。

 実際にそうだ。『ジャンヌ・ダルク・オルタ』という名前は存在しない。

 

 故に──彼女には帰る場所はない。

 サーヴァントは消えたら英霊の座に還るのだが、イレギュラーで生まれた彼女は本体がないのだから、消滅されたら再度召喚はされない。記憶にも残らず、喜怒哀楽の感情すらも消え失せる。

 

 だから、後に人理修復した世界で、彼女の名前は残ることはなかった。

 カルデアに召喚された記録も抹消され、名前も残ることなく、英雄として祭り上げられることもない。

 だって──ジャンヌ・ダルク・オルタは存在しなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、英霊の座の代わりではあるが、後に鹿児島市役所で『レティシア・ダルク』って名前が戸籍に登録されるんですけどね。

 

 

 

 

 




オルタ改めレティシアへの印象

マイケル……ツンデレにしてチョロイン。行動が分かりやすいけど、時々思考が分からないことがある。
ジョン……生意気な女。けど、この前密かに文字の練習をしていたので、努力家の面も認めている。
ボブ……これもしかして彼女はマイケルのこと好きなのでは? これは面白くなってきたぜ引っ掻き回したろ。
ダニエル……微笑ましい存在。割とジャンヌダルクの歴史を一番知っている人物なので、彼女には幸せになってもらいたい。だから受肉させよう。
花子……仲間。ポチ。


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これは何の二次創作ですか?

 十六夜やとです。

 分割した分の後半部分です。
 皆様は『FGOでコラボするとしたら何とコラボしたい?』みたいな話が『Fate/ぐだぐだオーダー』であったのをご存知でしょうか?
 つまりはそういうことです。
 できれば他作品ネタも存分に使いたいですね。

 今回はロマン視点です。やりたい放題です。
 次回、沖田さんが生き生きとします。


 僕はマシュから送られてきたデータを眺める。

 監獄城と呼ばれる城の結界が数値化されていたのだが、読み上げるのも馬鹿らしくなるぐらい高い数値が載っていた。さすが魔力の炉『聖杯』とでも言うべきか。

 ちょうど所長も僕のモニターに近づいてくる。

 数値に眉をひそめるのは同じだった。

 

「これ、どうやって突破するのよ……」

 

「マイケル君は何とかするつもりですが、これ一介の魔術師に何とかなるものなのかなぁ?」

 

「どうせ邪道で突破するんでしょ」

 

 彼女の言葉は皮肉に近いものだったが、僅かに信頼とも呼べる何かも含まれていた。しかし、前までは下位の魔術師に信頼すること自体しない人間だった。

 これも成長なのだろうか?

 昔からの知り合いであるオルガマリー所長の姿に感慨深く思っていると、隣でコンソールを弄っていたダニエルから情報提供を促される。

 冬木市の特異点修復から、オルレアンの特異点にレイシフトするまでの約一週間。たった数日でカルデアの精密機器を自由自在に弄るだなんて、彼のポテンシャルの高さを嫌というほど理解させられる。これが『ニホンのサツマ人』なのか。

 

「──ふむ……予想以上に大きい」

 

〔何とかなるか?〕

 

「想定以上でしたが、まぁ、何とかなるでしょう。試作段階ではありますが、何事もチャレンジしなければ結果は出ません」

 

〔んじゃ任せた。通信だけは繋いどいてくれ〕

 

 ダニエル君は頷き、何やら僕の知らないデータを操作し始める。

 尋常ではない速さでモニターに文字が打ち込まれる。

 ……待って待って待って、そのデータはカルデアの最重要機密(ブラックボックス)だよね!? というか他の人間には進入できないシステムなんだけど!? ……え、セキュリティが甘い? そ、そうなの?

 

 すると、ダニエル君が操作するモニターに新しいウィンドウが開き、レオナルドが映し出される。姿が見えないと思ったら、どうやらカルデアの動力機関室に居たようだ。ダニエル君が修復してくれた発電所の部分だ。

 しかし、レオナルドが絡んでいるだけで、凄く嫌な予感がする。特に改築の鬼であるジョン君も一緒に居るようなので、彼等のやらかし案件の相乗効果は大変なものだろう。

 

「こちら司令塔管制室。準備はよろしいでしょうか?」

 

『準備バッチリさ。まさか、こんなことを考えつくとはね。日本人が未だに焼却されていない理由が分かったよ。私も随分と調子に乗ってしまった』

 

『不具合は全くねェ。さっさと起動しろ』

 

 ウィンドウが消えたのを確認すると、ダニエル君は所長に向き直る。

 ダニエル君の真摯な姿勢に、腕を組んで彼のやり取りを眺めていた所長はたじろく。

 

「所長、監獄城の結界破壊の許可を」

 

「……はぁ。ここでNOって言っても無理矢理やるでしょ、貴方達は。早くマイケル達のサポートをしなさい」

 

「了承しました」

 

 所長は『何をどうやって監獄城の結界を破壊するのか』を詳しくは聞かなかった。ダニエル君が()()()()()()()()()()()が、彼女の動きを鈍らせたのだろう。

 オルガマリー・アニムスフィアは誰からも認めてもらえなかった。実際にカルデアの機能は僕に一任されており、職員も僕に指示を求めている。彼女は今まで所長という立場でありながら、基本的にレフ教授の傀儡のような存在だったのだ。つまり彼女そのものは必要とされていなかった。

 けれども、アルバイトのダニエル君は所長に確認を取った。わざわざ『上司である所長に確認を取る』ことで、彼女を上の人間として認めていることをアピールしたのだ。承認欲求の強いオルガマリーは、さぞかし内心喜んでいるのだろう。

 

 彼はモニターに無数のウィンドウを展開させ、チェックを行う。

 そして、ちょうど足元にやって来たフォウ君を頭の上に乗せ、椅子から立ち上がり、管制室に響き渡るような大声で全職員に伝達する。

 

 

 

 

 

「これより、カルデア防衛機能、システムコード『イゼルローン』起動。主砲により、監獄城の結界を破壊する」

 

「「は?」」

 

 

 

 

 マイケル君の言葉が終わった瞬間、カルデアの足場が大きく揺れる。

 僕は倒れそうになった所長を咄嗟に支えたが、頭の中は混乱の嵐だった。また敵が攻めてきたのか?という疑心暗鬼に駆られたが、爆発や停電が起こる気配がない。

 しかも、ダニエル君おろか、他の職員は突如の揺れに動揺することなく職務を全うしている。まるで今から起きることを知っていたかのように……いや、ダニエル君の指示で何かをやっている?

 

 

 

「聖杯の起動を確認。カルデアの上昇と同時に魔術結界の再度構築を行います」

 

「雪山との接続解除完了。指定域までの浮上が完了しました。カルデア動力に伝達。防護壁の形成を」

 

『動力機関室より、魔術流体金属の形成を開始。終了まで20秒』

 

「浮遊砲台全八十門、ステルス監視衛星全機を外部へ展開。動力機関への接続許可を」

 

「供給安定化を確認次第、主砲への電力供給を行ってください。主砲を指定座標に固定します」

 

 

 

 それに、僕が聞いたことのない単語が飛び交う。どれもすべてが物騒だ。

 忙しそうにコンソールで動かすダニエル君に、さりげなく質問を行ってみる。 所長はパニック状態だ。

 

「えっと……これは?」

 

「前に発電システムに防衛機能を取り付けたと言いましたよね? それを起動させているだけなので心配ありません」

 

「全然安心できないんだけど。そもそも『イゼルローン』って何だい?」

 

「マイケルが愛読してる小説に出てくる施設の名前です。とりあえず設定と名前を引用しました。カルデアはどうも秘匿性は完璧なのですが、防衛機能が不十分だとダヴィンチちゃんに相談されまして、彼の防衛システムを真似てみたんです。ほら──」

 

 カルデアの司令塔管制室にある大きなスクリーンに、カルデアの今の状態が大きく映し出されていた。高度6000に埋まった地下工房『カルデア』──はそこにはなかった。

 淡いシャボン玉みたいな流体に包まれ、カルデアは雪山から離れて浮上していたのだ。流体には所々に小さな機械が動き回っている。重力に逆らいカルデアは空中に停滞し、吹雪をものともせず空中浮遊に成功した天文台カルデアはそこにあった。

 

「その小説の施設の名前は『イゼルローン要塞』だったので、システムコードの名前として用いました。さしずめ『カルデア要塞』でしょうか? 地下から襲われる心配もなく、停滞し続けているため磁場の影響下にある。浮遊砲台は液体金属の中で自由に移動できるので、どの方向からも迎撃可能になってます」

 

「この液体金属は……もしかして魔術が使われているのかい?」

 

「そうです。イゼルローンは現代技術では再現不可だったので、魔術を用いて作れたことに感動すら覚えます。液体金属には衝撃を緩和する効果と、隠密面の効果があります。ちなみにステルス機能の偵察機も展開しています。まず外部から攻撃されても墜ちることはないでしょう」

 

 まさに難攻不落。

 天文台だった機関の基地は、日本の少年達によって軍事要塞へと変貌したのだった。

 

「ほら、レフ氏が聖杯を用いて、過去の冬木市と現在のカルデアを繋いでいたではありませんか。つまり──我々が制作した主砲を()()()()()()()()()()()()()()()ことになりませんか? それをダヴィンチちゃんとの合作の下、できてしまったんです」

 

「ダニエル要塞防衛指揮官。主砲の充填が完了しました」

 

「そうですか、では始めましょう」

 

 すでに職員から役職で呼ばれている!?

 ワクワクしながら『要塞のメンバー』を演じている職員からの言葉に、ダニエル君は大きく頷く。何気に職員たちも楽しんでるのだろうか?

 

 なんて考えていると、液体金属を悠々と動く機械のの中でも一番大きい砲台の前に、大きな時空の歪みが生まれる。レフが出したものに酷似しており、歪みの先にはマイケル君たちがレイシフトしているオルレアン……その監獄城が見えた。

 主砲らしき機械に莫大な魔力が集まる。職員たちから歓声が上がる。

 

 

聖杯の鎚(カルデアス・ハンマー)、撃てっ!」

 

 

 ダニエル君の指示の下、主砲から放たれた光が、結界を意図も容易く破壊し、轟音と共に監獄城を跡形もなく粉砕した。

 ついでに僕の常識も粉砕した。

 

 

 

 




銀英伝で好きなキャラは?

マイケル……アレクサンドル・ビュコック
ジョン……フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト
ボブ……ウォルフガング・ミッターマイヤー
ダニエル……ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ
花子……何それ知らない。


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どんどんしまっちゃおうねー

 面接近いのに何やってんだ俺は。
 どうも、十六夜やとです。古戦場と就活で大忙しです。

 簡単に人理修復進んでいるように見えますが、実際には原作よりもハードモードとなっております。現地の味方サーヴァントがジャンヌ一人だけって時点でお察しでしょう。
 ただ、キチガイが黒幕の想定を遥かに超えるキチガイだった。それだけです。

 今回は前座です。
 次回は決戦です。


 崖の下の城を眺めていた俺達は、次元の裂け目みたいな空間から放たれた眩い光に視界を染められる。

 なぜか白く塗りつぶされた視界に『心か』の二文字が見えたような気がしたが、きっと幻覚だろうと無理矢理納得する。

 視界だけじゃない。光の束は俺の鼓膜にもダイレクトアタックを仕掛け、一時的にだが音も聞こえなってしまった。そりゃ強固な結界を貫通するようなバ火力を城単位にぶち込めば、騒音被害は尋常なものではないだろう。ジャンヌが何か言っているようだが、俺には聞こえん。

 

 視界が晴れると、そこには()()()()()()

 ジャンヌに案内され、実際に監獄城をこの目で確かめなければ、隕石が落下した跡地ぐらいの感想しか出ないであろう有様だ。

 そりゃ監獄城跡地にクレーターしかなければ当然か。中央にヤムチャが転がってそう。

 

「おっしゃ、計画通りだな」

 

「あの、先輩。監獄城の結界どころか、本体が消え失せたんですが」

 

「誤差の範囲内だ」

 

 実際に監獄城の結界は跡形もなく消えたのだ。

 彼女等を守る防壁もなく、膨大な魔力を生み出す聖杯の一撃を受けたサーヴァントは、かなり弱体化しているだろう。ダヴィンチちゃんと構想を練っていた際に、主砲の威力を数値で打ち出した彼女が、「……理論上は並のサーヴァントが消滅するね」と述べていた。

 かなり攻略しやすくなったと推測する。

 

 俺は双眼鏡でクレーターを確認し、カルデアに連絡を取る。

 所長とロマンは思考回路がショートしてるだろうから、消去法でダニエルだけが頼りだ。

 

「要塞防衛指揮官、敵の数は?」

 

〔魔力反応を示す個体は五。ジャンヌさんからの情報と照らし合わせて、黒ジャンヌ・ダルクとジル・ド・レェ、バーサク個体三騎でしょう〕

 

「……お前、先に計測してやがったな? 先に情報寄越せや」

 

〔はて? 何のことやら〕

 

 しらばっくれているダニエルとの情報を断ち、俺はサーヴァント四騎と未確認生命体一匹を引きつれて崖を降りる。このパーティメンバーの中には自力で崖を降りれない非力な面子もいるので、そこら辺はサーヴァントに何とか助けてもらう。

 簡単に描写すると、俺はジャンヌにお姫様抱っこされながら、崖から落ちている。笑いたきゃ笑え。自力で崖から落ちようものなら、ミンチになること確定である。

 あと聖女の胸の感触を堪能できる。羨ましいだろう?

 

 ……ところで、マシュはまだデミ・サーヴァントだから、崖からの着地も難なくできるのは分かる。でも、花子が当たり前のように崖の側面を走っているのは、そろそろ誰かツッコんだ方がいいのではないのだろうか? コイツだけ出る作品違くないか? NARUTOじゃねぇんだぞ?

 何華麗に着地決めてんだよ。

 

「ジャンヌありがとう。……マジでありがとう」

 

「いえいえ、マスターと契約してから何故か身体が軽いんです! これぐらいなら、ルーラーのサーヴァントとして当然ですよ」

 

「あ、沖田さんも何故か生前より気分がいいんですよねー。だから不思議と安心するというかなんというか」

 

 ジャンヌは俺を地面に下ろして、力こぶを作る仕草をする。それに便乗して、沖田もピョンピョンと元気であるアピールをしてくる。俺としては「ふーん」程度の感想しか出てこない。

 まぁ、俺は歩くアロマセラピーだから仕方ないか。存在するだけで周囲に癒しと温かみを提供するマスコットキャラクターなのだから。これは日本に帰ったら『ゆるキャラグランプリ』にでも出場してみようか。「ジャンヌ・ダルクと沖田総司を癒したゆるキャラ」とか凄くない?

 

「ボケるのも大概にしたら?」

 

「レティシアは構ってくれなくて寂しいって言ってますよ、マスター」

 

「だぁれがそんなこと言ったぁっ!? ほらっ、そこで間抜け面晒してないで、さっさと行くわよっ!」

 

 レティシアにラリアットされながら、俺は監獄城跡地まで赴く。

 魔術師見習い以下の一般人なので、ラリアットされながらサーヴァントの速度で走られたため、何度か三途の川が見えたが、そこは気合と根性と次のソシャゲのイベントのモチベーションで乗り切る。

 サーヴァントの皆さん、俺が貴様等の生命線であることを忘れるな。

 

 引きずられること数百メートル。

 俺はラリアットしてるレティシアの腕をバシバシ叩く。

 

「止まれ止まれ、ストップストップ」

 

「あぁ?」

 

「まさか馬鹿正直に連中へ突っ込むつもりか?」

 

「……チッ」

 

 舌打ちされたが俺は解放された。木陰で遠くに見えるサーヴァント達を双眼鏡に入れつつ、同じように木蔭に隠れる英霊と小声で意思疎通を交わす。

 最初に言葉を発したのはマシュだった。

 

「……怒ってます?」

 

「よくよく考えてみ。いきなり自分の城が木っ端微塵に吹き飛ばされたんだぞ? どんだけ温厚な人間でもブチたって不思議じゃない」

 

「なるほど……確かにそうですね。カルデアを吹き飛ばされたら、確かに所長なら怒りそうです」

 

 失神するんじゃねーかな、オルガ所長なら。

 何やらレティシアのそっくりさんが地団駄を踏んでおり、近くのローブの男性らしき人物がそっくりさんを宥めている。他のサーヴァントには特に動きはない。

 

 他のサーヴァントを観察してみよう。

 白い長髪のおじさん、猫耳の弓兵、仮面のおねーさん。

 ……わっかんねぇ。何というか並の英霊じゃないのは確かなのだが、「どこの誰なの?」って話になると検討もつかない。猫の耳つけてる英雄なんざ聞いたことねぇぞ。

 

「沖田さん的にアレって殲滅できる?」

 

「沖田さん的には厳しいですね。いや、人斬りとか剣豪とか呼ばれてる身ですが、一騎当千の強さを誇った時期は一度として在りませんよ」

 

 剣豪が必ずしも一騎当千の武者とは限らない。

 日本の剣豪として知られる佐々木小次郎や宮本武蔵も、日本人なら『剣豪』と聞いて思い浮かべそうな偉人だが、来る敵の山をバッサバッサ切り倒したという逸話はない。実際問題存在していたかどうかは別として。

 というか剣豪って一対一のプロフェッショナルみたいなイメージがある。多対一で無双を誇る英雄など、それこそ神話の時代の連中ぐらいじゃないか? それほど『数の暴力』は強力であり、少数の兵で数倍の軍勢と渡り合ったスパルタクスや、数年間もゲリラ戦で戦ったクーフーリンが不朽の英雄譚として語られるのだろう。

 

 何より沖田さんのモチベーションが低い。

 さて、どうしようか──あ、

 

「なぁ、沖田さん。俺分かっちゃったんだけどさ」

 

「うーん、あれはちょっと厳しいですねー。弓兵ってのがいただけません。飛び道具とか反則でしょう? まったく、英霊なら剣を使ってナンボじゃないですか──ん? どうしましたか?」

 

「あれ島津貴久(しまづたかひさ)島津義久(しまづよしひさ)島津義弘(しまづよしひろ)じゃね?」

 

「首置いてけえええええええええええ!!」

 

 島津の鉄砲隊の基盤を作った貴久、九州制圧手前まで勢力を広げた義久、家康すら「やべぇ」と恐れた義弘の名前を出すと、どこぞの島津のバーサーカーみたいな奇声を上げながら、三体のサーヴァントに特攻する。聖杯の知識の恩恵が恐ろしい。

 俺は新選組のバーサーカーに魔力を回すことへ集中したいため、マシュ達に迂回するジェスチャーを見せる。黒幕とローブのサーヴァントを押さえて欲しいって意味である。意図を汲み取ったマシュは、いつもの仏頂面な花子と、黒幕を睨んでいるレティシアを引っ張っていく。

 

「死ねえええええええええええ!!」

 

 まず沖田さんが狙うのは弓兵。

 奇襲に対応しようと弓を構える猫耳だったが、俊敏性で沖田を上回るのは非常に難しい。刀は吸い込まれるように首を切り落とした。

 

「マスター!」

 

「はいはい、【令呪を以て命じる。宝具を使用せよ】」

 

 

 

 

 

「これは私の生きた証……誠の旗の下、共に時代を駆けた我らの誓い。ここに──旗をたてる」

 

 

 

 

 

 俺が令呪の一画を使用した瞬間、沖田総司の持つ宝具の中で、俺が魔力をブーストしないと使えない宝具を解き放つ。彼女が赤地に黒字で『誠』と刻まれた旗を地面に刺すと、旗を中心に一陣の風が舞う。

 蒼い光を纏った神秘的な風だ。

 

 ゆらりと空間が歪む。

 旗が周囲に掲げられる。

 『誠』の羽織りが集う。

 

 沖田総司が所有する三番目の切り札──対軍宝具『誠の旗』。かつて、この旗の元に集い共に時代を駆け抜けた、近藤勇などを始めとする新選組隊士達が一定範囲内の空間に召喚される最終宝具。

 これは予想外だったのだろう。白髪の老紳士(ランサー)仮面の美女(アサシン)は顔を歪める。彼等が全員サーヴァント並の強さを誇るわけではないが、隊士の中には宝具を放てる者もいる。これで数の不利は消え失せた。──だが、まだ足りない。

 

 

 

「──我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

 

 

 俺の背後で解放されるジャンヌ・ダルクの宝具。

 天使の祝福によって味方を守護する結界宝具であり、宝具を含むあらゆる種別の攻撃に対する守りに変換する。展開中は彼女は動けないが、果たして今の彼女は動く意味はあるのか? 数の優位は得ているのに?

 沖田総司の対軍宝具。

 ジャンヌ・ダルクの結界宝具。

 オルレアンの聖女に守られながら、俺は笑みを堪えられなかった。「あの消滅寸前の裁定者(ルーラー)が、どうして!?」という顔を見て、笑わずにはいられないだろう。

 

 なぁ、絶対的な有利を崩された気分はどうだ?

 勝てる戦いに敗北しようとしている今をどう思う?

 レフ教授、貴方が夢見る人理焼却とは、この程度のものなのか?

 

「まぁ、今はそんなのどうでもいっか。──沖田総司、最後まで共に戦い抜こう。ジャンヌ・ダルク、手始めに世界を救おう。なに、どうせ懸かっているのは所長の胃痛だ。個人の自由と権利に比べりゃ、対して価値のあるもんじゃないさ」

 

 俺は確信した。

 この人理修復の旅は『勝利か、死か』ではなく、『勝利か、より完全な勝利か』を得るための戦いだと、今さらながらに理解したのだから。

 

 

 

 

 

「──さぁ、そろそろ始めるとしよう」

 

 

 

 




コイツ等の筋力

マイケル……成人男性の平均より少し低い。
ジョン……男組の中では一番高い。物理的な喧嘩なら一番強い。
ボブ……もやしっ子。マイケルよりやや低い程度だけど。
ダニエル……割と高い。ギャグ補正だともっと高くなる。
花子……ヘラクレス程度が薩摩兵子に勝てると思うな。


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オルタVSオルタ

 明日は面接っ!
 どうも、十六夜やとです。

 今回はオルタ視点の圧倒的シリアス回です。彼女がクソみたいなマスターをどう想っているのか、申し訳程度の主人公の過去が垣間見えます。そしてタイトル詐欺はしません。
 補足ですが主人公の回想パートは、もし前作を読まれているのなら、何を示しているのか分かると思います。分かんなくてもそのうち伏線入れます。

 次回、帰る。


 アイツは良くも悪くも普通だった。

 もちろん聖杯の知識で得られる『普通の人間』というカテゴリーに入るわけではなく、あの神代よりも神話してるアイツの故郷の住人と比べたらの話だ。確かに、あの町で暮らしていたのなら、こんなキチガイが生まれるのも無理はない。

 私の知らない異国の地『日本』は想像以上の魔境らしい。

 

 マイケル──××××は引き連れてきたキチガイと比べるとマシな存在であり、アイツ等以上に厄介な思考回路を持つキチガイだと、クソマスターの記憶を共有して知ることとなった。

 この能天気なマスターは幸せで恵まれた環境で育ち、温室育ちの御坊ちゃまは、周囲を引っ掻き回すように生きていた。

 

 

 

『目には目を、歯には歯を、復讐には復讐を……ってな。ハンムラビ法典万歳、報復最高。そんなわけで地べた這いずり回って、適当に死んでくれ』

 

『なら「虐められる方が悪い」って考えを尊重してみよっか。というわけで、こっちも「虐め返される余地を作ったお前等が悪い」って考えで動くから』

 

『相手を平気でサンドバックにするくせに、自分がいざ殴られる立場だと、「暴力だ!」とか喚く輩が多いのなんの。反撃しない相手を嬲るのは実に楽しいんだろうな。羨ましい限りだ』

 

『聞いたか? 俺は奴等にとって「慈悲のない卑怯者」らしいぜ? 暴力だの法律だのうるさいから、正規の手続きをとって、法に基づいて社会的に殺してやったってのによ。……弱者が国の法を守ることは、寄ってたかって一人の女の子を虐待することよりも卑怯で卑劣な行いのようだ。やっぱ他人の考えていることなんて、よっくわっかんねぇなー』

 

 

 

 あぁ、本当に()()()

 私の根本的なものを許容してくれる。私の偽りを面倒臭そうに受け入れてくれる。世界を敵に回そうとも、このクソで鬼畜で外道なマスターは()()()()()()()()

 

「は──ははははは、はっははははははははははははっはは。ははははははははははははあはっは!!」

 

「──馬鹿な」

 

 狂ったように笑う贋作の英霊(もう一人の私)

 唖然とするジル。

 

 今回の元凶となる二騎の英霊を前にして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を前にして、私は気づいてしまった。今さらながらに気付いてしまったのだ。

 あの『マイケル』を詐称するマスターは言った。

 この特異点にレイシフトする前に、無駄に料理スキルの高いクソマスターの料理を口にしている最中、まるで明日の天気を語るように言った。

 

 

 

『オルタ、お前が復讐したいのはフランスの全国民なのか?』

 

『老若男女関係なしに、それが対象なのか?』

 

『お前の裏切りや処刑に携わった人間だけじゃ足りないのか?』

 

『……そうか。まぁ、お前がそう考えるのなら別に構わん。それを遂行するだけの力があるんなら、止める必要性も権利も俺は持ってないからな』

 

『だが、これだけは覚えておいてくれ』

 

『全く関係ない人間に復讐することは、お前が想像する以上に──

 

 

 

 

 

「──楽しくない』」

 

 

 

 

 

 あの腐れキチガイに共感するのは不本意だ。

 だが、フランスを滅ぼした『もう一人の私』を、シャルルでもピエールでも私を殺した兵士でもない『もう一人の私』を見て、自分が想像する以上に拍子抜けしてしまっていたのだ。

 クソマスターが言った通りのことが、今ここで起こってしまったのだから。

 

 私がコレを殺す?

 復讐対象の代わりに?

 こんなのを殺すの?

 

 

 

 

 

 ──何が楽しいの?

 

 

 

 

 

 私の霊基が壊れてしまったのか。キチガイ共に汚染されてしまったのか。復讐に苦楽もないだろうに、この空虚なサーヴァントを前にして、憤怒や憎悪よりも『落胆』を覚えてしまったのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、私は自分でも驚くほどにモチベーションを失っていた。あのクソ王でもハゲ司教でもない、この偽者を殺して()()()()()()()()()()()()

 

「ホント、ばっかみたい……」

 

 故に理解した。

 マシュに復讐の価値観を語っていたマスターだったが、それ以前に『復讐問答』は幾度となく行ったのだ。しかし、復讐を許容すると言っておきながら、なぜかクソマスターが私の『全人類に対する復讐』を、強制とはいかないまでも止めようとした。

 最初は甘っちょろいガキの戯言だと嗤った。

 でも、あのマスターの言いたいことを今理解した。そして──今の私なら受け入れられる。

 

「あぁ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「ジル! 私は狂ってしまったのかしら!? もう一人の私が存在するなんて! ……で、私に何の用でしょうか?」

 

「用、ねぇ。ここまで来るのにアンタをブチのめす理由なんて、数え切れないほど用意してきたのだけれど、もう意味を成さなくなったわ。でも……そう、ねぇ。しいて言うなら──」

 

 フランスへの正当な復讐者ではなく、ただの殺人鬼もどきに成り下がっている自分を見て、私はドヤ顔で口を弧に歪める。

 こうすると効率的に相手を挑発できる。

 あのキチガイ共から学んだ。

 

「──シャルル7世とピエール・コーションの敵討ち、かしらね?」

 

「「はぁ!?」」

 

 あ、確かに面白い。

 他人にこんな面白い表情を作れるのなら、あのキチガイの煽りも悪くない。

 私としては『王と司教をご丁寧に私よりも先に殺しやがった』という意味を込めたのだが、それを知らない二人には狂人に見えるだろう。

 

「……気でも狂ったのでしょうか? もう一人の私は」

 

「それはこっちの台詞なんだけど。さっきまで神に祈りを捧げてたじゃない。あの詐欺師よりも詐欺臭い神に祈り捧げるとか()()()()()()()? 私からしてみれば神も私の敵よ。つか居ないわ、神なんて」

 

「おかしなことを言うんですね。神は言いました。『この存在そのものを間違えているフランスを滅ぼせ』と。だから私は正しい」

 

「……ふぅん、そう。そういうことね」

 

 何故か同じ存在のはずなのに、会話が全然噛み合わない。その理由を自分なりに考えてみたのだが、キチガイマスターの斜め上から切り込む推測法に影響されたのか、割とすぐに答えを導き出すことが出来た。

 同時にマスターへの恐ろしさを覚える。もう一人の私の正体を把握して、私をコレとぶつけているのなら、やっぱりアレは真性のキチガイよ。脳みそ何で出来てんの?

 

「マシュ、さっさと盾構えなさい。あの私と聖女様を足して二で割ったような不良品をシバき倒して、聖杯回収するわよ」

 

「それはジャンヌであろうと聞き捨てなりませんね。これはまさしくジャンヌ・ダルク! フランスを憎み、神の名の元に正義を下す存在! 人は皆等しく、裁かれる運命にある!」

 

「あっそ」

 

 マシュは私を守るように盾を構え、同時に敵も各々の得物を構える。

 私は黒い剣を抜いて、もう一人の私へと向ける。

 

 アイツは私を正してくれる。

 例え、私が間違った道を歩んだとしても、あの男は頭を掻いて面倒臭そうに諭すのだろう。私が真に望んでいる願いを共に夢見て、あの外道な思考回路で導き出すのだろう。マイケル……いや、××××なら、地獄の底まで共に死んでくれるだろう。

 クソマスター。アンタはこう言いたいのでしょう?

 

 

 

「要するに、『復讐者()の純粋な復讐を異物(関係ないもの)で穢すな』」

 

 

 

 復讐する先は私を辱めた者。

 フランスとか人類とかどうでもいい。それはただの八つ当たりに過ぎず、私の正しく清く美しい復讐劇には似合わない。ジャンヌ・ダルクの怨念ではなく、レティシアの名を持つ私が夢見るは、何者にも文句を言わせない復讐だ。

 

「偽物がっ! 私の前から消えなさい!」

 

「えぇ、私は偽者よ! 覚悟は当の昔に決めてるわ! 他の誰でもない、これは私の物語よ!」

 

 贋作(レティシア)贋作(ジャンヌ・ダルク)

 マシュとジル。

 

 もう言葉を交わす必要はなく、互いが互いを殺すために駆け出し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔」

 

「「があああああああああああああ!!??」」

 

「何してんのよおおおおおおおお!?」

 

 ──理不尽を具現化した少女に鳩尾をブチ抜かれる。

 合間から割って入ったキチガイマスターその二は、振り向き様に衝撃波を伴った拳を叩きこむ。駆け出していた私とマシュは、風圧に耐えられず数メートルくらい滑り、直撃した二人は訳も分からず座に還る。

 

 座に還る。

 座に還る。

 座に、還る。

 

 カランと小気味良い音を鳴らして転がる聖杯。

 万能の願望器を何のためらいもなく拾った金髪のマスターは、いつもの仏頂面で私たちに声をかけるのだった。

 

「終わり」

 

「こんな終わり認められるかああああああああああ!!」

 

 

 

 




コイツ等の耐久

マイケル……とりあえずマスターとして最低限の耐久はある。
ジョン……スポーツは一通りできるので耐久は高い。
ボブ……紙装甲。打たれ弱い。医療班に耐久を求めるな。
ダニエル……割と高い。ギャグ補正だと毎ターンガッツ付与&HP回復くらいしぶとくなる。
花子……マシュの宝具よりは堅い。近所のババァには劣るけど。


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共に地獄へ参りましょう

面接官「へぇ、小説書いてるんだ。ジャンルは何?」

俺「……ふぁ、ファンタジーを少々」

面接官「凄いなぁ」

 まさかキチガイシリーズ(この作品)だとは思うまい。
 どうも、十六夜やとです。

 今回をもちまして、オルレアン編を終了とさせていただきます。
 次回からはセプテムですね。


「お帰り、マシュ、マイケル君に花子ちゃん! お疲れ様! 補給物資も乏しい、人員もいない、そして実験段階のレイシフトという最悪の状況で、君たちはこれ以上ない成果を出してくれた。生存している全カルデア職員を代表してお礼を言うよ。本当にありが──」

 

「クロネ〇ヤマトから注文した物資が届いたよー。これどこに置いとけばいーい?」

 

「………」

 

 特異点から帰ってきた俺達は、ロマンから手厚い出迎えを受ける。

 が、ロマンの感謝の言葉の大半を、フォークリフトトラックに乗って物資を運ぶボブに邪魔された。補足だが、カルデアの廊下はフォークリフトが余裕で操作できるくらい拡張されている。白衣姿で手慣れた運転で、ボブが巨大な段ボールを乗せたフォークリフトを動かす姿は大変シュールだった。

 フォークリフトが過ぎ去った後、遠くからカルデア職員からの歓声が上がる。

 

 ところで今のカルデアって浮遊要塞だよね?

 クロ〇コヤマトさんは、どうやってココまで運んできたの?

 

「ま、まぁ、本当にありがとう。初のグランドオーダーをたった一日で攻略するなんて驚いたよ」

 

「それはココにいる期待の新人、ジャンヌ・ダルクさんの御蔭だな。あとレイシフトした先が黒幕の本拠地が近かったのもある。運が良かったってことさ」

 

 あとカルデア要塞(ここ)だな。

 俺はレティシアにほっぺたをむにむに引っ張られている花子から、特異点で回収した聖杯を強奪する。

 

「……ところで花子ちゃんは何で顔を弄られているんだい?」

 

「見せ場を奪われたからだろ。……これが聖杯か。ふーん、えっちじゃん」

 

「先輩、その聖杯に何の性的要素があるんですか?」

 

 一見すると金で作られた器。

 しかし、魔術師の端くれである俺には、聖杯から漂う魔力の塊を感知する。

 この『聖杯』ってのは神話的に何が由来なのだろうか? キリスト教に出てくる聖杯か? でもキリスト以前の英霊も呼べるよな? 今度所長にでも聞いてみるか。

 

「あ、忘れてました! マスターは新選組に加入するんですよね!? いやー、マスターの采配は近藤さんや土方さんもニッコリでしたよ! これはますます薩摩に置いておくのは惜しい人材だと! というわけで加入は書類と血判で簡単なので──」

 

「あ、ダニエルやん」

 

「薩摩死ねえええええええ!!」

 

 少し沖田さんの瞳がハイライトになり始めたので、ちょうど中央管制室を通りかかったダニエルに押し付ける。沖田さんにとってダニエルは薩奸なので、なぜか霊基がバーサーカーになった人斬りは、薩摩の血を求めて縮地を用いて追いつめる。

 一方のダニエルも負けてはいない。己の危機を悟った胡散臭い紳士は、魔改造したセグウェイで脱兎の如く逃げる。

 カルデア一物騒な鬼ごっこだ。

 

 俺は沖田が出ていった方向を指差す。

 他四人に向けてだ。

 

「ほら、マシュもアホも早く物資貰いに行けよ。所長なんか奇声上げながら柿ピー貰いに行ってるぜ」

 

「私の……分もですか?」

 

「レイシフト前に補給物資で欲しい物のアンケートをボブに出しただろ? アイツがAmazonで注文したものが今日届いたってわけよ。ロマンも、な」

 

「え!? あれ本当に届いたの!? あー、もうちょっと本気で書けばよかったなぁ」

 

 何を書いたのかは本人とボブしか知らないが、余程自分が必要なものだったのだろう。

 ロマンはスキップしながら中央管制室を出て、マシュは花子と共に並んで歩く。

 ちなみに所長が書いたものが分かった理由は、奇声が「柿ピいいいいいいいいいいいいいい」だからである。これで目当てのものが柿ピーじゃなかったら何だって話だ。それを柿ピーだと思い込んでいる精神異常所長だな。

 

 俺も管制室を出ようとする。

 ……が、それは「クソマスター」という呼び声に止められた。俺はジャンヌに花子を追いかけるよう指示し、呼び止めた声が聞こえたほうを振り返る。俺のことをクソつけてマスターと呼ぶサーヴァントは一人だ。

 

「何だよ、レティシア。俺も早くスルメイカ欲しいんだけど」

 

「………」

 

「……レティシア?」

 

「………」

 

 頬を掻いたり、明後日の方向を向いたり、視線を泳がせたり……いつものレティシアらしくない動きに、俺は眉をひそめた。あの彼女に瓜二つの黒幕を倒したことで、何か異常をきたしたのかとも考えたが、どうにも理由は他にあるらしい。

 明後日を眺める彼女の表情は見えない。

 だが、ようやく決心したのか、黒の復讐者は頬を赤く染めながら言葉を紡ぐ。

 

「あ、ありがと……」

 

「……俺達の最後の希望(カルデア)も、敵に対しては難攻不落のまま、ついに内側より潰えさる、か」

 

「何言ってるのか分からないけど、とにかく馬鹿にしていることだけは理解したわ。表出なさい。首と胴体に今生の別れを与えるから」

 

 え、だってカルデア墜落するんでしょ?

 あのレティシアが感謝の意を述べたのだから、天変地異が起きてもおかしくはない。

 

 堕ちた聖女は腰に手を当てながら大きく溜息をつき、ジト目で理由を語る。自分の言葉に変な勘違いを起こさせたくないが故の行動だろう。

 別に「ありがとう」って言われたら「あ、うん」程度の感慨しか思い浮かばんから、勘違いもクソもありゃしないんだけどね。

 

「アンタが言ってたことの意味を理解しただけよ。ほら、復讐云々の件」

 

「うん? ……あぁ、アレか。『復讐』って行動に決まった形はないってコトを、俺の実体験からアドバイスしただけだ。個人的に経験則を全面にアテにするつもりはないし、レティシアの復讐に比べたら微々たるものだろうが」

 

「復讐に大きい小さい関係あるものですか。まぁ、私の存在意義(復讐)を苦楽で考えるのもどうかと思うけど。アンタのキチガイ思想に染まっちゃったせいかしら?」

 

「せっかくの復讐なんだぜ? 楽しまなきゃ、やってられねーっての」

 

 少なくとも俺の復讐は代理的なものであり、レティシアがフランスを滅ぼした今回の黒幕を倒す構図と非常に似ていた。一般的に復讐に『楽しさ』なんざ必要ないだろうが、俺は楽しもうとした。復讐に「絶対苦痛に満ちた顔で、血反吐を吐きながら、相手を呪い殺すかの如く存在しなくてはならない」という決まりもないし、それが復讐の重みに直結するとは俺は考えない。

 俺の人生に嫌なことをする暇はない。だから、俺は復讐代理という面倒を、せめて楽しもうとしてたわけだ。

 その心理思考を覗いたレティシアは、己の存在意義に少なからず影響してしまったのだろうか。もしそうなら、水を差してしまったかもしれない。

 

 俺の言葉にレティシアは首を横に振る。

 気にしてないと言わんばかりに。

 

「最初は『何してくれちゃってんの、このクソガイジマスターは』って心底思ったけど、今は気にしてないわ。だって、『過去に私の死刑に携わった連中への復讐』は、『神の名の下にフランスへ裁きを下す』ことに固執してた黒幕とは違う、私が自分から思い描いた復讐なんでしょ?」

 

「……そう考えることもできるな」

 

「まぁ、黒幕(あれ)はジルが思い描いた私なんだけどね」

 

 え、そうなの?

 衝撃の事実にビックリする俺だが、黒い聖女はまるで俺が予知してたかの如く語るので、表向きは「や、やぱそうやったんやな……」と言葉を濁す。

 あれジャンヌ・ダルクの負の面じゃなかったんだ……。なんか違和感あるなーって思ってたけど。

 

「それに……もし私が真に復讐する対象を間違おうとしても、アンタが正してくれるんでしょ? 一緒に地獄へ落ちてくれるんでしょ?」

 

「え、嫌だけど」

 

「は?」

 

 今の「は?」はガチトーンの「は?」だった。

 だって俺死にたくないし。

 

「お前俺の記憶知ってんだから、この答えは予測できるだろ……」

 

「ここで嫌って言えるアンタの神経を疑うわ」

 

「つか、お前現在進行形で復讐しとるやん。シャルルとピエールに」

 

 どういう意味?とレティシアが首を傾げるので、俺は苦笑いをしながら説明する。これは完全にこじづけなのだが、俺は割と本気でそう思ってる。

 

「オルレアンの連中は魔女だと断定して殺したのに、今のお前は世界を救いながら日常を謳歌してる。今のアイツ等は地面の下で眠ってんのに、ジャンヌ・ダルクはゲーム遊んで第二の人生を楽しんでる。これって最高の復讐じゃないか?」

 

「……それ復讐って言えるの?」

 

「さぁ? でも、クソ国王とハゲ司教は俺達に文句は言えず、俺達は堂々と馬鹿共に唾を吐きかけられるわけだ。それで許すつもりは毛頭ないが、『お前が幸せになる』ことも復讐の一つの形だと思うぜ。何より──」

 

「何より?」

 

 そう、これは俺の行動理念の一つ。

 俺が考えつく言動は、全てこの一言に集約してるといっても過言じゃない。

 

 

 

 

 

「──()()()()

 

 

 

 

 

 一瞬唖然としたレティシアは噴き出す。

 この言葉の反応を、彼女は語らない。だが、顔には「確かに」と書かれていた。

 

 つか、こんなこと話し合ってる場合じゃない。

 だって──俺とレティシアの人生に、しなくていいことをする時間の余裕など存在しないのだから。

 

 俺は彼女に手を伸ばす。

 彼女は俺の手を取る。

 

「んなことより物資漁りに行こうぜ。ゲーム頼んだんだろ?」

 

「はいはい、分かりましたよ。ご主人様(クソマスター)

 

 さぁ、今日も人生を楽しもう(復讐をしよう)

 俺とレティシアの復讐劇は、今日も面白おかしく始まるのだった。

 

 

 

 




コイツ等の敏捷

マイケル……『島津の退き口』を忘れたか? 素早きこと風の如し。
ジョン……笑止、新幹線など恐るるに足らず。
ボブ……目的地を思い描いた瞬間に、そこに立ってなければ、鹿児島県民に非ず。
ダニエル……新選組のサーヴァントに負けるならば、薩摩兵子の恥さらしよ。
花子……──ついて来れるか?


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第二特異点 永続狂気帝国 セプテム
これが私の日常


 どうも、お久しぶりです。十六夜やとです。
 就活も無事に終了し、卒業もできることになりました。首の皮一枚つながった。

 基本的に各章では日常パートと特異点パートを4:6程度の割合で展開したいと考えてます。ついでに人理修復してる感を出したいからですね。
 あと今後グラブルネタも出します。はい、あのグラブルです。
 もちろん、どちらか片方を徹底的にディスることはしません。両方やってた民からすれば、どっちも鬼畜周回ゲーです。

 今回はレティシア視点の日常回。
 次回も適当に日常回です。


 アホから携帯電話をもらった。

 最初は構造が不可解な板で何が出来るのかと思ったが、そういえば何かとキチガイ共はコレと同じようなもので遊んでいるのを目にした。

 この携帯は遠くの相手と連絡を取れるだけでなく、ゲームをしたり、音楽も聞けるとか。あの分厚い機械(PS4)でゲームが遊べるのだから、あそこまで小型化もできるのだろう。私の生きていた時代には考えられないことだ。建物が浮いているのだから、今さら驚くこともないわね。

 

 というか使い方を説明されたけど、どうして機械というものは複雑で使いにくいのだろう。まずこちらが言語を理解できていないのに、そう簡単に使えるはずがない。

 学のない田舎娘を舐めるな。

 

 

 

「──はぁ? また虹出なかったんだけど。私の幸運値Cに上がってるのよね?」

 

 

 

 とか思っていた時期もありました。

 人間であれサーヴァントであれ、慣れるときは慣れるものだと学んだ私。とりあえず聖杯の加護で言語の壁は乗り越えたのだが、聖杯ではサポートされない造語はクソマスターに教えてもらう。

 そのような形で携帯電話──スマホを使い続けること一週間。ある程度は思い通りに動かせるようになった。

 

 現在遊んでいるのは『スマホアプリ』の中でもゲームに分類されるもの。

 これは片手で操作できるのがいい。現に、食堂へ向かいながらも遊ぶことが出来る。

 

「周回しなきゃ……素材全然足りないんだけど」

 

 蒼い女とトカゲの物語をオススメされて、最初は「何が楽しいの?」と鼻で嗤ってたが、少しずつだが成長していく過程が面白い。レイシフト(リアル)で訳の分からん素材を集め、ゲームでも周回している自分がいる。どうやら私は、こういう単純作業が好きらしい。

 人斬り侍は性に合わなかったようで、アクション系やFPS系のゲームが好きだと言ってたが。

 努力が報われるのは楽しい。あのキチガイ共が「現実はクソ」と吐き捨てるのも理解できる。

 

 そこまで考えたところで、私は思わず苦笑する。

 本当の聖女ならゲーム狂いにはならないと断言できよう。つまり、今の私は頭のおかしい女(ジャンヌ・ダルク)とは全くの別物という証拠にならないだろうか? 不純すぎる証明ではあるが、自分は自分であるという確信が嬉しい。

 私は無駄に豪華な食堂へと入る。

 

 

 

 

 

「──あ、レティシア、ちょうどいいところに来ました。武器欲しいんでマグナ手伝ってください」

 

「………」

 

 

 

 

 

 まぁ、その聖女もゲーム狂いに堕ちているんだけど。

 青いTシャツに、カルデアのサーヴァント全員に配布される黒いジャージ(背中に『アーツ』の文字)、ハーフパンツを着用したオルレアンの聖女は、食堂の椅子で体育座りをしながらスマホを弄っていた。同じくクソマスターから支給されたものだ。

 そして目当てのドロップが落ちなかったらしく、悲痛な面持ちで天を仰ぐ。

 

「──主よ、どうして私の願いを聞き届けてくれないのですか……?」

 

「アンタの願いが不純過ぎるからじゃない?」

 

 まさか神なんぞに同情の念を抱く日が来るとは思わなかった。

 その願いはアンタが信仰する神じゃなくて、KMRにするべきでしょう? というか何で『万人に博愛をもたらす紛れもない聖人』と称されるコイツが、全力でゲームに愛注いでいるわけ? 最近は愛だけじゃなくて金も貢いでるらしい。

 おかげさまで、カルデア職員たちからは『ゲーマー姉妹』って言われてんだけど。

 

 しかもコイツは元々が鉄壁の自尊心、鋼の如き信仰を持つ精神キチガイ女。それがゲームに傾倒してしまったら……お察しの通りである。何で始めて一週間でグラシ編成作ってんのよ、頭おかしいんじゃないの?

 これを現代のフランス人が見たら何を思うだろうか。私よりもオルレアンのゲーマーの方が、存在するだけでピエールに復讐している気がする。

 最近では『キチガイ共』の中にコイツも含めてるわ。

 

「こんにちは、レティシアさん!」

 

「……えぇ、マシュ。こんに──」

 

 元気な挨拶で現実に戻された私は、声のする方を振り向く。

 カルデアに所属するサーヴァントの中では、一番の古株であり、特異点での戦闘においてメイン盾を司る少女。前は純真無垢で私と正反対の性格をしており、どちらかといえばゲーマーに近いマシュが苦手だった。しかし、今はキチガイが跋扈(ばっこ)するカルデア内で、唯一無二の癒しとも言えよう。マシュの存在が私の心労を癒す。

 特異点に行かない日は、午前中に脳筋女(花子)と戦闘訓練をしていると聞いた。アレの猛攻を防ぐ練習をするだけで、相当な経験になるんだとか。私なら三秒も持たない。

 

 カルデアの天使は笑顔でスマホの画面を見せていた。

 そりゃもう、満面の笑みで。

 

「朝にガチャを引いたら、凄く強い召喚石を当てたんです! 先輩に聞いてみたところ、『凄い幸運なことだから、皆にその幸せを共有してもらうといいよ』って言われて──」

 

「シヴァ煽り、ダメ、絶対」

 

 ガチャ結果報告するだけで、持たない者VS持つ者の戦争へと発展するレベルの人権を掲げるマシュに、私は涙目になりながら諫める。たしかクソマスターも持ってなかった筈なので、その苦しみを拡散させるつもりだったのだろう。

 ちなみに聖女は持ってる。自力で引き当てたらしい。

 

 マシュにシヴァ煽りの危険性を解説していると、徐々に食堂の座席が埋まりつつあることに気付いて、慌てて席を確保しようとする。

 聖女の前なのは不服だが、知らない職員の前に座るのも気が引ける。

 

 マシュを含めた三人でゲームの共闘を進めていると、隣に人斬り侍が腰を下ろす。

 手に携帯ゲーム器を携えて。

 

「丁度良かった。レティシアさん、夜の十時からレースのゲームやりません?」

 

「まだ(ゲームの)日課終わってないからパス」

 

「サーヴァントチームVSキチガイチームって考えてるんですけど……」

 

「前言撤回。フルボッコにしたるわ」

 

 日頃からキチガイ共に弄られ、物理的に制裁しようとも逃げ足だけは超一級品の薩摩民。

 そんな連中でもゲーム内なら堂々と仕返しが出来ることに気付いたので、何かと理由をつけてはキチガイ共とオンライン対戦をする機会を作るようになった。スマブラとかマリカーとかスプラとかガンダムVSとか。

 胡散臭い眼鏡男や、マイペースサイコパス医師には歯が立たないが、クソマスターとは接戦になるから、報復が割と可能なのである。

 

 いつもできる日課よりアイツ等との対戦が最優先だ。

 どのキャラを使うかを脳内で計画を練っていると、食堂にカルデア職員に就職したキチガイ三人衆が入ってくる。基本的にカルデアの本物の職員は、私達へ不用意に近づこうとしないが、薩摩の国生まれの洗練されたキチガイ共は話が別である。

 ケラケラ笑いながら、白髪の医師が私の席に近づき、人斬り侍とは反対の椅子に座る。

 

「ボブ君はマグナ消化しちゃいました? 自発お願いしたいんですけど……」

 

「アンタさっきからソレしか言わないわよね……」

 

「僕の自発は残ってるからいいよー。でも共闘三十連部屋入ったほうが良くない?」

 

「もう済ませちゃいました」

 

 騎空士共が武器掘りを再開し、

 

「クッパの使い方を教えて下さーい、ジョンさーん」

 

「うっせェな、人斬り侍。んなの重量の暴力で雑魚を落とすに決まってンだろ」

 

「割とコースにも左右されますよねぇ。私としては沖田嬢にキノピオを推したい」

 

 夜のマリカーに備える者もいる。

 

 あれこれ雑談をしていると、厨房からクソマスターと脳筋マスターが姿を現す。

 手には並々注がれ、香ばしい匂いで胃袋を刺激する、特製カレーの姿。

 

「ほれ、飯が出来上がったぞー。大盛り希望は先に言えー」

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 私も他人に負けじと手を挙げる。

 こうでもしないと無くなっちゃうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、私の日常。

 

 

 

 




【コイツ等の魔力】

マイケル……そこそこ。
ジョン……まあまあ。
ボブ……それなりに。
ダニエル……ある程度は。
花子……聖杯よりは。



【解説】
蒼い女とトカゲの物語:グラブルのこと。

「武器欲しいんでマグナ手伝ってください」:FGOはキャラのステが大事だが、グラブルだと武器が割と重要になってくる。

課金:素材を日本に輸出することで、今のサーヴァント達は生計を保っている。自分で稼いだ金で課金してるので問題ない。

シヴァ煽り:Twitterで新キャラに50万課金して出なかった人間に、FF外から「呼符で来ました!」とスクショをぶら下げるレベルの煽り。

クッパ:マリオのライバル。姫。


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魔術師とはキチガイのこと

 どうも、十六夜やとです。
 最近ですが実の父親と縁を切りました。HAHAHA。
 え、何でこんな話題を持ち出したかって?
 今回唯一のシリアス要素です。

 冗談はそのくらいにしまして、今回は『魔術』に関する話です。若干ですがFate世界のことが分かるかと。
 次回は考えてません。次々回辺りにレイシフトしましょうか。


「ほら、所長。さっさと石回収(ログインボーナス)しに行くぞー」

 

「アンタそれ本気で言ってるの!? この状況で私に行動選択権があると思ってるの!?」

 

「ないだろうな」

 

 そりゃ花子が車椅子押してりゃそうなる。

 しかし、まだ本調子ではない所長の車椅子を押している花子は楽しげで、仏頂面で鼻歌を奏でながら、カルデアの壁を勢いよく爆走している。重力が仕事してないね。

 

 現在俺と花子、所長はダニエルの部屋へ向かっている。

 特にこの人選に意味はなく、暇してそうな奴を適当に引きつれているだけである。

 ボブはロマン、ジョンはダヴィンチちゃんにそれぞれ用があると言い、朝から姿すら見かけていない。レティシアと沖田さんは、今日は非番である職員の方々とスプラ大会してるって聞いた。ジャンヌはガチャで爆死して、当分は俺の部屋から出てこないと思われる。

 

「……人類史の危機だってのに、ちょっと呑気過ぎないかしら?」

 

「次の特異点を観測するには時間がかかるんだろう? 職務放棄してるってわけじゃねぇんだから、少しくらい大目に見たらどうだ? 部下の体調管理も、上に立つ者の仕事だぜ」

 

 本来ならば、俺達が第一特異点を修復している間に、同時並行として第二特異点の観測を行う予定だったと、レオナルド・ダ・ヴィンチは語った。

 それが今だに成されていないのは、単純に()()()()()()()()()()()()()だけである。故に、特異点レイシフト組や、レイシフトしてる俺達をバックアップする担当の職員は、休暇という名の暇を与えられているわけだ。もちろん、現在も特異点の観測を行っている職員もいるし、今休憩している面子と交代制で、ゆっくり確実に仕事をこなしている。

 

 所長を宥めながら、俺達はダニエルの部屋の前に辿り着く。

 アイツが『育った石を回収してほしい』と言っていたので、こうして赴いてやったわけだが。

 

「ダニエルいるか? いるな? お邪魔しまーす」

 

「……日本のことわざよね? 『親しき中にも礼儀あり』って」

 

「別に親しくも何ともないから問題ないな」

 

 カルデアの個室は内部の人間の承認によって開くので、面倒だから花子が物理でこじ開ける。たった今ダニエルん部屋の扉がお釈迦になった。

 部屋の作業机で本を読んでいたダニエルは、唐突な来訪に頭を上げる。

 

「あぁ、もうこんな時間でしたね」

 

「聖晶石を回収しに来たで」

 

「それならベットの横に置いてあります。ちゃんと石が100個あるかどうか確認してください」

 

「……魔術関連の資料?」

 

 聖晶石がちゃんと使えるかを確認しながら、品質確認と個数管理を花子と行っていると、ダニエルの机の上に散乱している資料に目をつけた所長。それは、カルデアの書庫で管理されている、割と希少性の高い魔術の研究資料だった。

 特に魔術関連の書籍は厳重な管理をしていると耳にしたが、コイツにセキュリティ対策は意味を成さない。なので、所長は「何でコイツこの本を読んでいるの?」という意味での疑問なのだろう。

 

「えぇ、少々魔術のお勉強をと思いましてね。今回の人理修復が終わったとき、魔術師の家系でも築いてみようかと考え、今のうちに見聞を広めているというわけです」

 

「あー、んなこと言ってたなぁ」

 

「正確には『魔術使い』の家系ですけどね」

 

 俺も最近学んだ話なのだが、『魔術師』とは『根源』に到達することを目的とする連中の総称だ。『根源』を目指す過程で魔術を用いているため、魔術師と呼ばれているのだとか。

 『根源』とは全ての始まりであり、その結果である世界の全てを導き出せるもの。ぶっちゃけそれ何?って話なのだが、『根源』に到達した例はないとされているため、魔術師にも『根源』が何なのかは知らないんじゃないだろうか。

 

 そして、ダニエルが言い直したのは、コイツが『根源』に何の興味もないからだろう。他の目的のために魔術を扱う者は『魔術使い』と呼ばれる。 そして『根源』への研究対象ではなくツールとして魔術を使う者は、魔術師からは軽蔑の視線を向けられるらしい。

 だから俺も正確には魔術使いだな。もしかして根源に一番近い存在なんじゃね?って感じの花子も、彼ら基準で言えば単なる魔術使いである。

 

「でも一子相伝の魔術って、基本的に魔術師しかしないよな? 魔術使いの家系って珍しくないか?」

 

「一代では決して到達できない根源に行くために何代も技を継承していくのが魔術師ですからね。ふと気になったのですが、アニムスフィア家の命題って何なのでしょうか?」

 

「柿ピーの製造、販売」

 

「「………」」

 

 亀田製菓は既に魔法の域へ到達していた──?

 日本が誇る柿ピーの製造会社と、柿ピーに命題を乗っ取られたアニムスフィア家に、畏怖の念を抱いていると、ダニエルが俺に資料の束を寄越してきた。

 

 俺はパラパラと紙を捲る。

 内容は『聖杯戦争』に関してだ。

 

「2004年での冬木市が最初にして最後の開催地とされている聖杯戦争の記録です。サーヴァント七騎で行われた魔術儀式であり、セイバーが勝者となったと記されていました」

 

「……今更だけど、聖杯戦争って面倒だよなぁ。わざわざ異なるクラスで召喚する意味が分からん。アサシンとかライダーとか誰召喚すりゃいいのって話。セイバーなら適当に七騎くらいパッと思いつくだろうに」

 

「セイバー、ランサー、アーチャーの三騎は最優のクラスとされています。この聖杯戦争自体は御三家が関わってますので、外来の参加者との優劣をつけるためかと」

 

「俺なら喜々としてアサシン呼ぶけどな」

 

 御三家が最優を呼ぶのなら、わざわざ真正面からぶつかることはしない。サーヴァントよりもマスターを暗殺した方が確実だろう?

 

「で、この記録が何だってんだ? お前が聖杯戦争に興味を示すとは到底思えないんだが」

 

「肝心なのは御三家の一つ。アインツベルン家の情報です。私はこれが欲しかった」

 

「アインツベルン? あの錬金術の名家の?」

 

 パッと分かるくらいの家門なのか、それとも所長ともつながりがあるのか。アインツベルンと言う単語に、所長はいち早く反応した。

 俺にはそれが分からないし、花子なんて完全に聞いてない。聖晶石でタワーを作っているくらいだ。

 

「所長はアインツベルン……だっけ? そこを知ってるん?」

 

「知識程度には、ね。ドイツに居城を構える、千年以上の歴史を持つ魔術師の家系よ。錬金術を修めていて、人造生命体(ホムンクルス)や貴金属の製造を得意としてるわ」

 

「錬金術ときたか……」

 

 まさか人生で錬金術の存在に関しての話を聞くとは思っていなかった俺は、真面目な顔で錬金術のあれこれを語る所長に苦笑いを浮かべた。ぶっちゃけ、それ以外の表情が出来そうにない。

 

 錬金術ってあれでしょ?

 人体錬成ダメなんでしょ? 扉の向こうに持ってかれるんでしょ?

 

「でも、ダニエルは何で錬金術の勉強なんかしてるんだ? 本気で人造生命体を作ろうとか思ってんの?」

 

Exactly(その通り)!」

 

 人造生命体の話を持ち出した瞬間、ダニエルは興奮したように机を叩く。

 いつもは紳士的な物腰の彼が、魔術の一分野で豹変する姿を見て、所長は目を見開いた。錬金術のどこに彼が希求する物があるのだろうかと、割と真剣に考える程度には。

 

 しかし、俺はダニエルがこんな感じになる傾向を知っている。ダニエルの興奮具合と、ホムンクルス云々の話だけで、コイツが何をしようとしているのを理解しただけだ。

 俺は溜息をつく。

 

「アインツベルン家のホムンクルスの情報は一通り目を通しました。実に素晴らしい! 最高とも言っていい! 確かに錬金術で作った人型の生命を『人間』と定義するのは難しいでしょう。ましてや、生命の創造など、現代社会では大罪と忌避される行為です。ですが、そんなのは関係ない! 私はホムンクルスをこの手で創造したい! そう──」

 

 喜々として掲げるのは方眼紙のノート。

 そこにはダニエルの執念を感じ取れるほどに、ノートびっしりに文字が書かれていた。

 

 

 

 

 

「──妹系幼女を作り出す……!」

 

「やっぱりか、このロリコンが」

 

 

 

 

 

 それはロリコンを拗らせ過ぎた変態紳士の姿だった。

 良く目視すると、ノートには彼が思い描く幼女を事細かに記した、言わば犯罪記録と呼べる代物だった。

 身長や体重、髪の色から、瞳の色。それだけだったらギリアウトだったのだが、口調や学歴設定、好きな食べ物、スリーサイズ、太腿の大きさ、性格などがパッと見ただけで知ることが出来る。

 

 しかもノートはそれだけじゃない。

 机には広辞苑数冊分のノートが積まれている。

 

 そしてロリの素晴らしさを小十時間語りだすダニエルを他所に、俺達はひっそりとダニエルの部屋から退避する。幸いにも妹系幼女のジャンルを語る変態には気づかれなかった。

 車椅子を引く俺に、所長はジト目で睨んできた。

 

「……別にアンタ達が魔術の道を目指すのは勝手だけど、それが一般人に露呈することだけはしないでよ。神秘の度合いが下がっちゃうし、粛正の対象になるんだから」

 

「お気遣いどうも。ところで所長」

 

「何?」

 

「そこで聖晶石を食ってる花子を、『まだまだ青二才の未熟者』と評価する連中が闊歩してる鹿児島県民を、果たして『一般人』とカテゴリーしてもいいんだろうか?」

 

 答えは返って来なかった。

 

 

 

 




【コイツ等の幸運】

マイケル……若干低い。コイツが悲観主義な理由もそれ。
ジョン……週に一回茶柱が立つレベルには幸運
ボブ……幸運の化物。十連ガチャ引いたら☆5サーヴァントが最低でも5.6体は必ず出る。
ダニエル……「──私的には『のじゃロリ』という分野にも好感を持てます。数千の時を生きながらも、その在り方は幼子のよう。特に外見が背伸びしているようにも見えて、大変微笑ましい。私の幼女に対する愛は体型が主であり、私がホムンクルスを創造する際には体型が成長しないよう──」
花子……過去が不幸の塊。そのうち分かるよ。


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マシュ・キリエライトの歴史教室

 どうも、お久しぶりです。十六夜やとです。
 いやー、社畜していて投稿できなかったことを、深くお詫び申し上げます。土日祝日休みなんだから投稿しろやボケナスがって話ですからね。

 そんな感じで今回まで日常回。
 次回はレイシフト会議ですね。


「何か妹からLINE来たんだけどさ、鶴丸城の御楼門が復活するらしいんよ。工事中の門を背景に『復元なう』って言われても、どう応えればいいのか分かんないけど」

 

「いまさらかよ。ンなことすンなら、城そのものを直せってハナシ」

 

「でも黎明館あるから無理じゃね?」

 

 食堂での何気ない会話。

 人理継続保障機関『カルデア』改め人理継続保障要塞『カルデア』には、大人数で集まれるような部屋が幾つか存在する。これは人理修復が終わった後にも、カルデアが人理を見守る拠点として機能させるために、ジョンとダヴィンチちゃんで設計したものだ。

 しかし、曲がりなりにもカルデアは所長をトップとする機関のため、その大部屋を借りる手続きは非常に面倒臭い。

 

 なので複数人で遊ぶ時は食堂を利用することが多い。

 食堂は最低でも50人は入れるようになっているので、カルデアの施設の中でもそれなりに広い部類に入る。

 だからマリオパーティしてる俺たち以外にも、少し離れたカルデア職員集団が人生ゲームで盛り上がっていた。何気にロマンも入っているし。

 

「鶴丸……城? 黎明館……ですか?」

 

「そそ。鹿児島にある城」

 

 マシュは聞き慣れない言葉に首を傾げる。日本人でも県外の人間が知らない単語なので、俺とジョンはマシュの反応を気にすることはなかった。当然の反応だろうって感じ。

 沖田さんが年頃の女の子がしちゃいけない表情をしているのは無視する。

 

「鶴丸城は江戸時代初期に『島津忠恒』が築いた、上山城跡の城山と、その麓に築かれた鶴丸城で構成された平山城だな。ちなみに鶴丸城は通称で、今んところの正式名称は『鹿児島城』だね。現在では城の代わりに、歴史資料館的な『黎明館』と、市立図書館や美術館が建てられている……ってwikiに書いてあった

 

「つまり鶴丸城を復元するには、黎明館を取り壊さなければいけない……ということでしょうか?」

 

「おぉ、マシュちゃんは呑み込みが早いなぁ」

 

 俺は純粋にマシュの頭の回転を称賛し、ジョンは鼻を鳴らしながら懐から飴を取りだしてマシュに渡す。さすが『力のマスター、知のサーヴァント』と揶揄されるわけだ。

 当の力のマスターは何も考えずにコントローラーで適当に遊んでいる。

 

 既に歴史資料館として機能している黎明館を取り壊すことは、事実上不可能なので、鶴丸城が現世に蘇ることはないだろう。そもそも現物を見たことがないので、復活しようが二度とお目にかかれないことになろうが、俺にはさして問題はない。

 すると、『くいっく』のパーカーを着たセイバーが俺のプレイを妨害する。俺のパーカーを引っ張る形で、だ。無理やり着せられた『誠』の漢字を背負ったパーカーが着崩れる。

 

「どーせ薩摩の城なんてハリボテ以下に決まってるんですー。復元する必要のないくらいちゃっちい城なんですー。税金の無駄なんですー」

 

「さすがに沖田さんでも、その言葉は感心しないな。いくら鶴丸城がゴミカスだからって、言っていいことと悪いことがあるぞ」

 

「なンの擁護にもなってねェがな」

 

 頬を膨らませた桜の少女のほっぺたをプニプニ突いてると、マシュが再び首を傾げて、俺に質問を投げつけてきた。好奇心旺盛な女の子である。

 俺達が知らないレベルの世界史の知識を持っているマシュだが、日本の一地方の歴史までは把握していない。ましてや、自分のマスターが生まれ育った、悪鬼羅刹が跋扈する土地だ。盾のサーヴァントは興味を持ったのだろう。

 

 俺もその期待に応える。

 内心あまり言いたくない部類の話だけど。

 

「いや、まぁ、天守閣や高石垣がない城を、城と呼んでいいのかは謎なんだけどさ。薩摩って鶴丸城が建築される当時は77万石の大名だったんよ。けど城はお世辞にも立派とは言えなかった」

 

「補足だが、石高ってのは日本独自の数え方だなァ。当時の日本は米の生産性で測ってっから、領土を面積は関係ねェ。島津の77万石は日本でも有名な『加賀100万石』に次ぐ規模……要するに日本でも三本の指に入る大名だった」

 

 米の生産量を石で測ってたから『石高』と言われている。77万石の規模を有する島津の城が、どうして天守閣も大きな石垣もない城になったのかは不明であるが、諸説では『江戸幕府に対する恭順の意味があった』や『城をもって守りと成さず、人をもって城と成す』などと言われている。むしろ家臣の外城の方が立派だった。

 でも77万石の大名なら、もっと立派な城を築いてほしかったよなぁ。

 お隣の県にある『熊本城』の方が、防御力もあって立派じゃん。噂によると波動砲や重核子爆弾、空間磁力メッキにハイパー放射ミサイル、反射衛星砲が完備されてるとか。

 

「おかげさまでイギリスとの戦争では寺が天守と間違われて砲撃されたしさぁ」

 

「え、江戸時代に日本はイギリスと戦争してたんですか?」

 

「幕末だけどね。薩英戦争って呼ばれてるんだけど、マシュは知らない? 当時最強とも呼ばれてた大英帝国と、一地方に過ぎない薩摩藩との戦争なんだけど。ぶっちゃけ国と州の戦争って珍しいよね」

 

 それに長州も四国相手に戦争してるし。

 薩摩の蛮勇をオブラートに包んでみたが、

 

「国に喧嘩売るとか、やっぱキチガイですね」

 

「何を今さら」

 

 新選組の一番隊隊長が許してくれなかった。

 控えめに言って戦力差を考えて欲しい。英国がグレート・パンジャンドラムさえ使わなければ勝てたんだけどなぁ。

 

 俺と不良少年と人斬りは笑い合う。

 ジョンは鼻で嗤うような感じで。沖田さんはにこやかに笑っていて可愛いが、目が笑っていなかった。なので俺の笑いは必然的に乾いた笑い声となる。

 一方のマシュは思案するようにうつむいていた。どうしたのか尋ねてみると、

 

「いえ……そのカゴシマというところに私も行ってみたいです」

 

「来なよ、来なよ。くっそド田舎だけど、それなりに観光する場所はあるからさ。パパッと人理修復なんて面倒なモン終わらして、みんなで鹿児島行こうぜ」

 

 ロマンからの情報ではあるが、マシュは一度もカルデアから外に出たことはないらしい。理由は聞かなかったし、あんま聞いちゃいけない類の話だろうと尋ねもしなかったが、盾の少女が外の世界を望むのならば歓迎するのが正解だろう。

 当然、その話はジョンも花子も知っている。二人もマシュの願いに肯定的だ。

 

「はン。あそこに来るくらいなら東京や京都行く方が遥かに有意義だと思うが……来たいってンなら止めはしねェ。地元の美味いラーメン屋教えてやるよ」

 

「マシュと旅行。楽しみ」

 

 勿論、彼女だけじゃないがな。

 

「聖女sは確定として、ロマンと所長も強制的に拉致るか。沖田さんも来る?」

 

「…………………………………………行きます」

 

 苦虫を三千匹噛み潰しても、ここまで歪にはならないだろうと断言できるほどの表情を浮かべながら、かすれるような声で新選組の志士は了承する。

 元敵地に観光で乗り込むなんざ死んでもごめんだが、何か楽しそうだし着いて行きたい。あぁ、でも新選組の仲間たちに合わせる顔がないのでは? けど、現代の薩摩は敵じゃないから問題ないよね? でもでもでも、そんなの副長が許す筈が。あー、でも美味しいラーメンは食ってみたい。──みたいな顔してる。

 

「後で観光スポット調べてみるか。俺達は地元民だから、逆に行ける場所知らんのよね~。桜島登る?」

 

「黒豚……黒牛……じゅるり」

 

 花子の呟きは聞かなかったことにして、俺達は来るであろうその時の楽しみに心躍るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンで、今さら鹿児島の歴史語るなンざ、どういう風の吹き回しだテメェ?」

 

「いや、ね? 鹿児島への風評被害が激しいって話だから、ここらで媚びておこうかと」

 

「火葬後の心臓マッサージよりも効果ねェよ」

 

 

 

 




【コイツ等の礼装による所有スキル】
※マスターとしてクソ雑魚ナメクジなので、スキル一つしか使えない。

マイケル……『コマンドシャッフル(コマンドカードを配り直す)』
ジョン……『瞬間強化(味方単体の攻撃力を30~50%アップ)』
ボブ……『応急手当(味方単体のHPを1000~3000回復)』
ダニエル……『予測回避(味方単体に回避状態を付与)』
花子……『薩摩兵子(自身の攻撃性性能100%UP、自身の防御性能100%UP、各カードの性能100%UP、宝具性能3倍、回避付与、無敵付与、必中付与、NP80%UP、HP5000回復)(CT1)』


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つまり薩摩もローマ

 どうも、現在進行形で仕事が繁忙期な十六夜やとです。
 5月と月始めが繁忙期なので、そろそろある程度落ち着くんじゃないかなーっと。

 話は変わりまして、俺TUEEEE小説を書きたいと思ったことはありませんか? でも、俺TUEEEEをすると、大半は「努力せずに最初から強い」「普通の人間なら人を殺すのに嫌悪感を抱くはずだ」「普通ならそれ無理じゃね?」と批判を受けることがあると思います。
 そんなお困りの作者様に朗報です。
 主人公の苗字を『島津』にしましょう。それですべて解決します。「首を取ることしか頭にない、戦馬鹿のキチガイ野郎」というデバフが付与されますが、これで俺TUEEEEの主人公批判の大半が来なくなります。島津ですから。

 今回はレイシフト会議。
 次回は例の皇帝が登場します。



 約一か月ぶりとなるレイシフト。

 集まったのは所長やロマン、ダヴィンチちゃん。そしてサーヴァントの面々。いつものキチガイ共。しかし、マスターとして現地に赴く俺に、ロマンが放った一言は最悪とも呼べる事実だった。

 

「──は? ごめん最近難聴系主人公目指していてさ。もう一度言ってくんない?」

 

「君達が今度レイシフトするのは中世ヨーロッパ。場所はローマ。けれども、()()()()()()()()()()。」

 

 難聴系&鈍感系で乗り越えてみようとしたが、現実は非情で残酷であった。冬木市といいオルレアンといい、なんか普通なら詰んでいる状況多くないか?

 二つの特異点が攻略できたのだって、お世辞にも自分達が優秀だったからだとは言えない。双方とも単に運が良かっただけで、一つ対応を間違えれば奴さんの思惑通りになっていただろう。今回は万全を以て特異点に臨もうとしていた手前、この知らせは俺のモチベーションを最低限まで下げる。

 

 そのあとも五回くらいはロマンと同じ問答を繰り返してみたのだが、最終的にカルデア団長に止められることとなった。

 

「そろそろ現実逃避は止めなさい」

 

「あ、柿ピー」

 

「柿ピぃぃぃぃいぃぃいぃぃいぃいっぃぃぃいぃぃぃぃいいいいいい」

 

「所長こそ現実見ろや」

 

 魔改造して、縮地している沖田さんレベルに速い動きをするようになったルンバに、柿ピーのファミリーパックを積んで爆走させる。

 所長はいつものように奇声を発しながらそれを追い回す。カルデアではいつもの光景だ。

 

 俺は「あんなに逞しくなって……」と涙するロマンに詳細を求める。

 まさか何の根拠もなしにローマが滅んだとは言わんだろう。

 

「本来ならば転移先は首都ローマになる予定だった。ちゃんと座標軸を固定し、安全に、そして確実にマイケル君と花子ちゃんをレイシフトさせる……はずだった。けど、僕達が観測した首都ローマは既に敵性サーヴァントに占領されていたんだ」

 

「ドクター、一つ質問をしてもよろしいでしょうか。カルデアは特異点を観測した時点で敵性サーヴァントの位置まで把握できるようになったのですか?」

 

「あんまりオレ達をなめンなよマシュマロ。人類だって十数年前までガラケーだったのに、今ではスマートフォンなンざ握ってンだぜ? カルデアの観測システムも進化すンだよ」

 

 盾の少女の質問に答えたのはカルデアの臨時不良職員だった。自分の自信作にケチをつけられた技術者のようにふて腐れたアホは、そもそも外に出たことすらない少女に吐き捨てる。

 これが出会って数日の関係なら、か弱い少女を罵るクソ野郎にしか見えない。しかし、長年付き合いのある俺達には分かる。これは「カルデアのシステムは自分が強化したから安心して攻略してくれ」と翻訳するのが正解だ。何でコイツこんな難儀な性格してんだか。

 

 男のツンデレに何の需要がある?

 それが許されるのはCV釘宮だけである(偏見)。

 

「実際には観測した時点で敵性サーヴァントの集団と、史実側のローマ帝国軍が衝突している最中でした。情報を集めている間に、残念ながらローマ軍は壊滅。ローマ側についていたと推測される味方サーヴァントも最後まで粘っていたのですが……」

 

「こちらが準備完了する前に首都が占領されちまった、って訳か。そりゃもう仕方ないってもんだ。下手に不安定な状態で放り出されても、こっちがマジで困る」

 

 ダニエルが珍しく申し訳なさそうにしているところを鑑みるに、スタッフの方々も力を尽くしたのだろう。誰を責めることもできないし、今回は()()()()()()としか言いようがない。

 

「しっかし、こりゃ困ったなぁ。ロマンの滅んでいる発言は言い過ぎだとしても、既に首都が陥落しているとなると、巻き返しは絶望的ってもんだ。そもそも俺達がレイシフトする予定のローマ帝国の皇帝って誰?」

 

「ローマ帝国の第五代皇帝ネロ・クラウディウスだね」

 

「ネロ……あぁ、あの暴君と呼ばれたローマ皇帝ですか」

 

 ネロ……ネロ……誰だっけ?

 何か名君だったけど、壮年期に暴君になった皇帝って習った記憶があるのだが、それ以上にそのローマ皇帝の知識を持っていない。仕方ない、後で天下のWikipedia様のお力をお借りするか。

 

 ……ちょっと待って。

 俺は今から狂ってるオッサン助けるために無謀なことをするん?

 

「うっわ、くっそヤル気でねー。何が楽しくてローマ人のオッサンの国を救うために、積んでる特異点に赴かねーといけねーんだか」

 

「アンタねぇ……」

 

「沖田さん的には戦国無双できればそれでいいです」

 

 モチベーションが底辺どころか腹滑り状態な俺に、腕を組みながら俺達の小会議を傍観していたレティシアは呆れ、視線をゲーム画面から離さずに沖田総司は自分の意見を主張する。

 ん? 聖女様がいないって? 今古戦場中だから来ないよ?

 

「あぁ、くっそめんどくせぇけど……ロマン、俺達がレイシフトする場所の地図くれ。地図」

 

「ちょっと待ってね……えっと……あ、これだ。敵本拠地のど真ん中だよ

 

「控えめに言って頭おかしいんとちゃう?」

 

 確かに()()()()()()()()()()()()()()だけで、()()()()()()()()()()()するとは一言も言ってないんだよなぁ。ローマが陥落してるから首都に舞い降りるわけにはいかないが、敵の大将の前も相当頭おかしいからな?

 場所は城の近くの森の中。周囲は敵性サーヴァントと配下の人間が布陣しており、敵を示す赤い点がイクラ丼みたいに密集している。

 

 これは所長に希望を見せすぎたかな?と俺は肩をすくめる。なんもしてないのに所長のせいにする。

 聖杯砲で吹っ飛ばした後の奇襲作戦。被害をこれ以上増やさない上に、最短で特異点を攻略するために準備したが、これが所長に「人理修復簡単じゃね?」と思わせてしまったのだろう。こんなことなら時間をかけて挑むべきだった。

 そもそも今回の特異点なんか絶望的ってレベルじゃねぇぞ?

 寡兵が多兵に勝つなんざ、用兵の基本を逸脱し──?

 

「……あ」

 

「なんか物凄く嫌な予感がするんだけど」

 

 察しの良い竜の魔女が嫌な顔がしてるけど、俺は地図を睨みながら顎に手を当てる。

 物凄く頭の悪い作戦を思いついたが、もし成功したら起死回生の一手となるだろう。成功する確率はかなり低い。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「こうなった以上、たいへん不本意だが第二の特異点もパパッと解決しよう。今回はレティシアの出番は少なるかもしれんが、代わりに沖田さんに大活躍してもらうからな? マシュも要だ」

 

「え、人斬ってもいいんですか!?」

 

「あぁ、おかわりもあるぞ」

 

 できれば聖女様にもご同行願いたかったんだがな、とは口が裂けても言わない。聖女様を引き合いに出すと、決まって魔女様が不機嫌になるからだ。

 加えて、沖田さんにも我慢してもらわなきゃならないことがあるから、その分新選組こと弱小人斬りサークルの面々には存分に腕を振るってもらう。

 

 それに、今回の作戦の要は花子だ。

 一ヶ月ぐらい練習してきたアレを、お披露目する機会がこんなに早いとは思わなかったが、むしろこんな機会がめったにないのだから、出し惜しみする理由はない。

 

「……浮かない顔をしているが、君らしくないな。大丈夫かい? おっぱい揉む?」

 

「ダヴィンチちゃんや、この状況で浮かない顔しないほうが無理ってもんじゃない? いや、俺も何だかんだ考えて動いているつもりだったけど、根本的にはキチガイだったんだなぁってさ」

 

「そんな自明の理を今さら?」

 

「おい天才表出ろ。あとおっぱいお願いします」

 

 この後レティシアにスカイアッパーをかまされたが、それ以外は特に問題がなかったので、三個目の特異点を修復する旅が始まったのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「本当にいつものように、あんな無理難題を抱えてレイシフトしちゃったなぁ。やっぱマイケル君は凄いね。……僕とは全然違う」

 

「そんな心象に浸ってる君に朗報だ」

 

「うん? レオナルド、どうしたんだい?」

 

「回収した聖杯が一つ行方不明だ」

 

「……はい?」

 

 

 

 




【コイツ等の元々所持してる所有スキル】

マイケル……『軍略C(味方全体の宝具威力をアップ)』
ジョン……『人間観察C(味方全体のクリティカル威力アップ)』
ボブ……『他者回復B(味方単体に毎ターンNP獲得状態を付与)』
ダニエル……『他者進化B(味方単体のスター集中度をアップ&スターを獲得)』
花子……『功名餓鬼EX(自身の攻撃性性能200%UP、自身の防御性能200%UP、各カードの性能200%UP、宝具性能5倍、無敵貫通付与、防御無視付与、弱体無効付与)(礼装とは別枠)』


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暴君とキチガイ

 どうもお久しぶりです十六夜やとです。

 風邪引きました。
 だから投稿します。

 次回は決戦前夜です。
 某暴君と主人公の会話です。


「──レイシフト完了っと」

 

「敵のど真ん中」

 

「言うなよ脳筋マスター。悲しくなるから」

 

 不吉な言葉を残してうま〇棒を頬張る花子を諫めながら、俺は周囲に気を配る。それは一緒にレイシフトしてきたマシュは勿論のこと、ゲーマー姉妹の片割れたるレティシアや、早く人を斬りたくて仕方がない沖田さんも、同じように警戒を解かない。

 俺達がレイシフトしたのは、ひらけた森の中。若干だが木の生えていないスペースであり、野宿やら何かをするには適した広さを持つ場所だった。あまりにも不自然な空間だったため、俺は勝手に『当時のローマ軍が何らかの軍事目的で使用していた』と邪推する。兵などを隠すにはぴったりの広さだしな。

 野営にぴったりな場所を選んで転送してきたあたり、新生レイシフトシステムの正確さを伺える。

 

 それにしても、これが約2000年前の森林かぁ。

 我等が故郷のド田舎の森と大して変わらんな。若干だが空気が澄んでいるくらいか?

 

「……マシュは通信機器の調整を。レティシアは寝床の確保」

 

「了承しました、先輩!」

 

「要はテントを立てろってことでしょ? ……普通女の子にやらせる?」

 

 俺の指示にマシュはピシッと敬礼し、レティシアは不満を表す。後者はブツブツ愚痴を零しながらも、ちゃんとテントを立てるための骨組みを用意するんだから、生粋のツンデレ少女ここに極まれりって感じだ。

 

 紳士なら女性に力仕事を押し付けないだろうが、俺は自他共に認めるクズ野郎なので、立っている人間は親でもサーヴァントでも躊躇なく使う。

 俺は厚めの皮手袋をはめながら、竜の魔女を煽る。

 

「別に俺がテント立てるのやってもいいんだぜ? 元聖女様が日曜大工やってくれるんならな。お前だって俺が乗るための荷台を作りたくはないだろう?」

 

「……テント立てる」

 

「納得してくれたのなら結構」

 

 俺は作業を始めたレティシアを横目に、手の空いている二人にも指示を出す。

 というか、二人のが一番重要な仕事だったりする。

 

 

 

「よし、二人はバーベキューの用意よろしく」

 

「「はーい」」

 

「ちょっと待ってや、クソ雑魚セクハラ変態マスター」

 

 

 

 謂れのない誹謗中傷を浴びせてくる、テント立て係。失礼な、俺がセクハラしたのは後にも先にも白い方の聖女様だけだぞ。しかも合意の上だ。

 俺は黒いのを無視して、二人に詳細な指示を伝えた。

 

「沖田さんはそこの野菜を洗って来てくんない? 確か近くに川があったし、それ採れたての野菜だから泥も少しついてるからさ。野菜のつまみ食いも許す」

 

「マスターの作った、あのタレをつけて食べるんですよね? つまみ食いなんてしませんよ。もったいないじゃないですか」

 

「花子は動物を狩って来い。そういうの得意だろ?」

 

「わかった」

 

 近所のババアより継承された秘伝のタレの虜になってしまった沖田さんと、よく狩猟会のジジイ共と素手で熊狩りしてた花子は、俺のお願いを喜んで引き受ける。スキップしながら川へ向かう新選組の人斬り侍と、残像を置いて走り出す花子を見送り、作業に戻る俺。

 レティシアは何か言いたそうにしていたが、複雑な表情を浮かべながら作業に戻る。

 何を呑気にバーベキューしてんの!?というツッコミ魂と、でも炭火の肉を食いたいという欲望がせめぎ合い、後者が勝利したのだろう。竜の魔女様の心境の何と読みやすいことか。ちょっろ。

 

 とは言っても俺の作業は、最初の二人よりも重労働であり、物凄く時間がかかる。

 先に仕事を終えたマシュとレティシアは、設置したカルデアとの通信システム経由で、狩りゲームを楽しんでいた。ちなみに参加プレイヤーは盾の後輩と竜の魔女、暇を持て余した医療チームのホープや技術班の不良少年だ。

 

 何やら所長の怒号が聞こえるが気にしない。

 俺は彼女等の笑顔を背景に、黙々と作業を続けるのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「花子、俺は食える動物を狩って来いって言ったな?」

 

「うん」

 

「つまり、お前は俺が女を(性的に)食うと思ってるわけだな?」

 

「うん」

 

 何断言してやがんだ、この脳筋クソマスターが。

 俺は花子が狩って来た(と本人は言っている)獲物を前に、怒りを通り越して呆れるしかなかった。

 

 足元に転がってるのは金髪の女性。現地の方なのは明白として、赤を基調とした服を身に纏う綺麗な人だった。割ときわどい衣服なので娼婦か何かかと思ったが、それにしては服の素材が上等すぎる。まぁ、その服もボロボロであり、さらにエッチ度が増しているんだが。

 しかし、ボロボロであっても彼女の美しさは損なわれない。

 コイツ本当はどっかの貴族の令嬢でも攫って来たんじゃないだろうな?

 

 彼女の扱いに困っていると、野菜を洗ってきた沖田さんが帰還する。

 幕末の少女は俺と花子と今日の肉(仮)を交互に見て、首を傾げた。

 

「……? 私に人肉を食す趣味はないですよ?」

 

「俺にもないけどね」

 

 あってたまるか。

 さすがにカニバリズムを掲げるほどのキチガイじゃない。

 

 沖田さんもそれを分かってて冗談を言ったのだろう。……本当にそうだよな?

 洗った野菜の入ったかごを地面に下ろし、ついでに汲んできた水入りバケツの一つを掲げた彼女は、何の躊躇もなく中身を気絶した女性にぶちまけた。

 

「うわっ、いきなり水かけんじゃねぇよ! 涼しいけど」

 

「これで水も滴る良いマスターにな──」

 

 花が咲いたかのように楽しそうな、年相応の笑みを浮かべた侍少女は、いきなり目を見開いた。漫画なら集中線が描かれていただろうと考えるくらいには。

 俺も思わず「うっわ……」と表情が引きつった。

 

 そりゃ人斬り侍も注視するだろう。

 水に濡れた赤服の女性は、同性異性問わず見惚れるほどの美しさを醸し出していたからだ。純金色の髪に、陶磁器のように白い肌。整った顔立ち。元々の素材が綺麗というのもあったが、肌に張り付く水滴は彼女の美を際立たせる宝石に相当する。

 これは純真無垢な俺には刺激が強すぎる。えっちすぎます。

 

「つかふと思ったんだけどさ。この人の顔って沖田さんに似てね? というかジャンヌsもそうだけど、英霊組の顔パーツって似たり寄ったりだよなー」

 

「え、それ今言います?」

 

「一理ある」

 

 かなり失礼なことを言った気がするが、遠回しに英霊組の顔面偏差値が高いと言っているのだから許してほしい。綺麗だなーとか、エッッッッッッッッとかいう感想より先に、花子が持ってきた彼女を見た感想は「ジャンヌの3Pカラーかな?」だ。めっちゃ可愛いから不満そのものは感じていないが。

 俺の素朴な疑問に、沖田さんは困惑し、花子は同意する。

 人の顔を覚える記憶力のない花子にとっては、顔が似通っているというのは、俺達が思っている以上に苦痛だろう。この前聞いた話によると、花子は英霊組を色で覚えているとか。ジャンヌは白、レティシアは黒、沖田さんは水色、マシュは茄子色らしい。レティシアが黄色い服を着ていた時に、彼女を「所長」と呼んでレティシアを泣かし、その光景を見ていた所長も泣いていた。

 

 そんな下らない話に花を咲かせていると、今日の夕食(仮)が呻きながら目を開ける。

 エメラルドを淡くしたような瞳を俺達へと向ける。

 

「──っ!? き、貴様等は何だ!? まさか連合の者か!?」

 

「連合って何? ……あぁ、俺はマイケル。そっちが花子で、それが沖田さん。貴女の名前を教えて下さいな」

 

 とりあえず敵意がないことと、簡単な自己紹介をする。連合という単語に引っかかったが、まずは彼女がどこの誰なのか、そして俺は花子のやらかしをどこに謝らなければならないのかを確認することが優先だ。

 

 彼女はバッと立ち上がって高らかに名乗る。

 左手を自分に向け、右手を羽のように広げる姿は、どこかのオペラ歌手のようだ。

 

「余がっ! 余、こそがっ! ローマの全てにして、ローマそのもの! ローマ皇帝・ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスであるっ!」

 

「」

 

 皇帝かよおおおおおおおおおおおおおおお!!??

 

 

 




【コイツ等の知ってるカルデア小ネタ集】

マイケル……カルデアで開設している食堂『マイケル処』の職員で一番人気なメニューは「鶏飯」
ジョン……カルデアには全員にそれぞれ個室があるが、所長の部屋が一番小さく、所長の部屋だけWi-Fiが届いてない。
ボブ……カルデアの地下に『ボブ・ポッターと秘密の部屋』と称した実験施設がある。実験内容は「魔力をポテトフライで確保する方法」
ダニエル……ロマンの推しのネットアイドルとメル友。
花子……この前間違えて冬木で獲得した聖杯を握り潰したので、紙コップに魔力を注いで聖杯代わりにしている。


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皇帝は聞く相手を間違える

 どうも、十六夜やとです。
 まだ風邪が治りません。どういうこっちゃ。
 とりあえずスローペースなこの作品ですが、私が運転免許証を取得したら多少投稿スピードが上がるかと。

 今回は決戦前夜。
 次回は……その、はい。お祭りです。


 草木も寝静まる丑三つ時──訂正、大体23時ちょい過ぎくらい。

 明日の作戦決行前に十分な睡眠は必要。そのため、カルデアのマスター&サーヴァントはレティシアの設置したテントの中で英気を養う。簡単に言うと寝てる。テントそのものが物凄く大きく、10人寝ても余裕があるレベルなので、各々が自分の布団などを敷いて寝ているだろう。

 そりゃ、バーベキューであんなに馬鹿騒ぎしてたら寝るのも早い。

 

 肝心の俺は荷台の調整を行っていた。

 今回の特異点でしか使わないアイテムだが、使い捨てだからこそ調整が必要なのだ。

 

 俺は黙々と作業する。

 ひっそりと、静かに。

 彼女等の眠りを妨げるのは酷だろう。

 

 

 

 ウィイイイイイイイイイイイイイイイイガガガガガガガガガガガガガガガガウィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイガガガガガガガガガガガガガガガウィガガガガガガガガッガガガ

 

 

 

「ん? 皇帝陛下おはよう。まだ寝ててもいいぞ?」

 

「それを本気で言っておるのか? え、マジで? え?」

 

 荷台作りに飽きた俺がチェーンソーアートで遊んでいると、自称皇帝陛下が恨めしげに起きてきた。『余だよ♡』と日本語で書かれた白いTシャツ、黒のハーフパンツ、カルデアから至急取り寄せた『ばすたー』のパーカー……要するに『カルデア英霊だらだらセット』に身を包む皇帝は、一見するとめっちゃ可愛い女子高生にしか映らないだろう。

 皇帝は俺が用意した光源の近くに腰を下ろす。

 光源はただの古びたカンテラにしか見えないだろうが、これはボブのポテトフライ実験の副産物で誕生した『半径五キロ以内に虫を寄せ付けないライト』である。魔術ってスゲー。

 

 荷台側面にチェーンソーアートで薔薇をほどこした俺は、そこそこの出来栄えに満足しながらチェーンソーを地面に置いて、紅いペンキで色付けを開始する。

 只の荷台じゃ面白くない。

 

「──余は、間違ってしまったのだろうか?」

 

「ん? 何が?」

 

 薔薇が掘られていない部分に金箔を貼りつけていると、体育座りで俺の様子を見ていた皇帝陛下が、力なくボソッと呟くのが耳に入った。今日出会っただけの関係ではあったが、その短時間でも『自分がめっちゃ大好き』という印象を抱くほどの人物だと記憶していただけに、正直彼女の発言は予想外だった。

 さっきまで、バーベキューの光景に歓喜乱舞し、俺の分の食事まで平らげた少女だとは思えん。

 

 俺は荷台のタイヤにイルミネーションで使う豆電球をつける作業を続けている。

 そのため彼女の顔は見えない。あえて見ないと言った方が正しいか。

 

「話したであろう? 余のローマを簒奪した連合、その王は……」

 

「ロムルス、だっけ? ローマ帝国を建国した凄い人……って認識しかないんだが」

 

「何おうっ!?」

 

 ロムルス誰それ美味しいの?

 荷台の中に45口径51cm連装砲を取り付けながら、適当に返した俺の反応が気に食わなかったのだろう。一転してネロ・クラウディウスはロムルスという人物についての歴史を語る。さすがに作業しながら聞くのは無礼だと思ったので、道具を置いて彼女の言葉に耳を傾けたが、それが間違いだと後になって気づく。

 俺が相槌をうったり、時折質問したり、素直な感想を述べるものだから、皇帝陛下のロムルス話はヒートアップしてしまった。ついでに連合に所属しているカリギュラやカエサルの話にも飛び火する。

 

 話は長かった。

 俺が荷台の後方にジェットエンジンを設置する作業に戻るのは日付が変わった後だった。

 

「そんで? その建国の王がどうしたって?」

 

「……余は、負けてしまった。ローマを奪われてしまった。せっかく余を支えてくれた者達──スパルタクスや呂布、荊軻……そしてブーディカ。そのような者たちまで失ってしまった。余はロムルスに会った。……あぁ、彼の建国王は偉大であった。余は──連合に下りたいとさえ思ってしまったのだ」

 

「そんな凄い人と今から戦うのか。面倒臭ぇ、俺も下っていいか?」

 

 俺は荷台側面の片方に丸十字の旗を掛けながら嘯く。俺の言葉は冗談半分であったが、それは赤の皇帝を笑わせるには不足していた。

 いや、さらに自虐的にしてしまったというのが正しいだろう。また作業に戻っているため皇帝の顔は見えないが、小さな体をさらに小さくしているに違いない。

 

「逃げながら連合の街を転々とした。連合の民には笑顔がない。それは余には許せぬが、ロムルスの統治は完璧であった。許せぬという感情は変わらぬが、国を奪われた余が言う資格が果たしてあるのだろうか? 敗者である余が、ロムルスの統治を批判する資格があるのだろうか?」

 

「知らんがな。確かに、今の陛下が批判したところで、その統治すら出来なかった奴が何言ってんの?……とは思われるだろうがな」

 

「そう……だな……。連合に負け、ローマを失い、惨めに逃げて、余は考えてしまった。余は、余のしてきたことは、間違いだったのではないか、とな。マイケルよ、余は間違っていたのだろうか? 偉大なるロムルス王に抵抗した余の判断は、間違っていたのか?」

 

 あの自信家の彼女にここまで言わせるロムルスという王は、確かに偉大だったのだろう。負けて、奪われて、逃げて、逃げて、逃げて。彼女は自分のしてきたことそのものに、彼女の人生そのものに自信が持てなくなってしまった、と。

 見ず知らずの、信用に置けるとは到底思えない俺に、そんな弱音を吐いてしまうほどには。それとも誰でもいいから聞いてほしかったのだろうか? 自分がしてきたことが全て無意味だった──まぁ、誰だって気落ちしてしまう事実なのは否定できない。

 

 俺としては聞く相手を間違えていると思うが。

 連装砲の上に紅白歌合戦で使われた小林〇子像をこしらえながら、溜息交じりに肯定の問いに答えた。

 

「それを民主主義の信奉者である俺に聞くこと自体間違ってると思うけどね。陛下の良し悪しなんざ、後世の歴史家が決めることであって、俺や陛下が疑問に思うことじゃねぇと思うが。それに──」

 

「それに?」

 

()()()()()()()()()()。それに、口ではなんだかんだ言っているけど、皇帝陛下も諦めてちゃいないだろう? まだロムルスん所言って膝突いてない皇帝陛下の弱音には、あんまり説得力がないと思うがなぁ」

 

「──っ!?」

 

「んー、あれ何の漫画の台詞だったけ? ──皇帝陛下、アンタは敗者じゃない。何故ならまだ皇帝陛下は 諦めきれずにそこに座って居るからだ。いいか? 陛下が連合という強大な敵に対して、一歩でも立ち向かおうとしている限り、人間の魂ってのは真に敗北する事など断じて無い、ってことよ」

 

 俺は小〇幸子像の目にビーム兵装を取り付けながら、似合わないキメ台詞を放つ。言葉的にはマジで格好いいのだが、どうも俺が言うと型落ちしてしまうのが悲しいな。

 

「まぁ、安心しなって皇帝陛下。俺達と陛下の目的は大半が一緒だ。カルデアメンバーがアンタの味方なんだよ。ローマ帝国復興は目の前だぞ」

 

「……連合軍を前にその台詞。可能なのか?」

 

「おいおい、可能とか言うレベルじゃないぜ?」

 

 皇帝の言葉に弱弱しさが見えたが、俺はオプションを付け過ぎて目的を見失った荷台を眺めながら笑う。

 平和ボケしてしまった現代日本の若造の一人だと思っており、自分の祖先がやらかしてきた無謀かつ頭のおかしい言動を嘲笑ってきた俺だが、どうやら俺達の本質というものは変わらないらしい。それがおかしくもあり、尊敬する先達者もこのような気持ちだったのだろうかと考えるほどには。

 

 

 

「──確かにローマの兵は強いだろうよ。だが、こっちは寝ても覚めても殺し合うことしかしなかった島国の侍の末裔ぞ? 今も昔も、薩摩兵子(さつまへご)の目的は何一つ変わっちゃいない。御大将(ロムルス)の首を()る、ただそれだけさ」

 

 

 

 それは、島国の一地方が強大な帝国に放つ宣戦布告と同義だった。

 いつも通りだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。ローマは世界、世界はローマ。実質、薩摩もローマじゃん」

 

「いや、薩摩はいらん」

 

 

 

 




【Fate/stay nightを見たコイツ等の感想】

マイケル……士郎も十分キチガイだし、俺達実質普通じゃね?
ジョン……キャスターマッマでオギャれる。
ボブ……セイバーかなりまな板だよコレ!
ダニエル……英雄王絶対許しません(イリヤの場面を視聴しながら)。
花子……英霊ってそこまで強くないんだ。


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集え! 我等が夢想の軍勢よ!

 どうも、十六夜やとです。私は帰ってきたああああ!
 PCが逝ったり、自動車免許の技能試験で2階落ちたり、古戦場があったり……まぁ、そんな感じで投稿がかなり遅れました。2ヶ月投稿ナシとかマジかよ。
 次回以降は投稿ペースが早くなるといいなぁ。

 あと自業自得なのですが、シリアス成分が少ないと言われることがあります。
 ……え、シリアスいります? ガチシリアスな特異点作ります? とりあえず構想しているオリジナルシナリオのシリアス特異点な『亜種特異点 分岐絶望世界 カルデア(仮)』みたいなのありますけど。その代わり7つの特異点のどれか消えますけど。

 今回はロムルスに会う前まで進めます。
 次回はボス戦です。


「よっし、準備完了っと」

 

〔……マイケル君、本当にやるのかい?〕

 

「いや、これ以上にスマートな攻略方法があれば教えて欲しいんだけど」

 

 荷台前方に座る俺の言葉に、ロマンは反論なく押し黙る。時間さえあればもっと安全かつ確実な策を実行しただろうけど、如何せん俺等には時間も人材も余裕もない。

 荷台後方にちょこんと顔を出す皇帝をさっさと復権させなければならない理由がある。超簡単に説明すると、連合の政をローマ市民が良しとさせる時間を与えないわけだ。下手に時間をかけると市民が「お、ロムルスの政治ってマジ良くね?」と思ってしまうからだ。

 そうなると連合が消えても、ネロの政治に不満が出るものが現れる。

 

 MF(ミッドフィルダー)が俺とマシュ。DF(ディフェンス)が沖田さん、レティシア、皇帝陛下。そしてFW(フォワード)に花子を配置した超攻撃的フォーメーション。要するに荷台を花子が引っ張るだけである。

 とりあえず移動準備は終わったので、最後の仕上げとして花子に指示を出す。

 

()()()()をやっちまいな」

 

「りょーかい」

 

 脳筋マスターは無駄にデカい胸の谷間に手を突っ込み、目的の物を公にする。

 自分でもちょっと何言ってるか分かんないっすね。

 

 現れたのは黄金の器。

 膨大な魔力を内包した万能器の成れの果て。

 人はそれを『聖杯』と呼ぶ。

 

「じゃじゃーん」

 

〔じゃじゃーん……じゃないよ! どうりでカルデア内を虱潰しに探したのに見つからないと思ったら、花子君が持ってたの!? というかそれで何するの!? 僕物凄く嫌な予感がするんだけど!?〕

 

「ん? そんなの簡単じゃん」

 

 ロマンが嫌な予感と言ったのは、花子が聖杯を持っていることと、沖田さんが物凄く嫌そうな顔をしているからだろう。しかも嫌そうな顔が、今までの比じゃない。レティシアでさえ明後日の方向を眺めている。

 俺だって同じような状況なら不安になる。主に前者の理由で。

 

「このローマにロムルスがいること自体が理不尽で不条理な現象だぜ? それを正攻法で何とかしようってのがそもそも間違いじゃない? なら、攻略法は簡単だろう。理不尽には──もっと理不尽な存在をぶつけんだよ」

 

 もっと理不尽な存在。

 そりゃもう俺達の中では一つしかない。

 

 花子は硝子のように透き通った声を紡ぐ。それを女神の歌声と認識するか、悪魔のささやきと解釈するかは、人によってさまざまだろう。いや、どう足掻いても後者やろ。

 それは魔術の最奥。術者の心象風景で現実世界を塗りつぶし、内部の世界そのものを変えてしまう結界──を花子の理解不十分によって作りだされてしまった『空想具現化』の亜種。

 

 

 

「──首を奪れ。手柄を挙げよ。死を恐れるな。いにしえの武士(もののふ)共よ、帰るまでが遠足です──『島津ノ引口(しまづののきぐち)』」

 

 

 

 魔術に携わったことのあるものならば、その凶悪さに吐き気を催すほどの爆発的な魔力が、花子の詠唱によって放出され、それは一瞬にして霧散する。

 そして一陣の風が舞い、そこに現れたのは300の兵。日ノ本の武者だと外見上判断できるが、一般的な武者とは出で立ち若干が違う。足軽の装備が足りない部分があるし、乗馬している武者も軽装に近く、全体的に防御力に難がありそうな格好なのだ。

 しかし、その紙装甲に反比例して、兵の一人一人の目は殺意に満ちている。日本における戦国時代の足軽は農民などの一般人であり、少なくとも招来された足軽のように全てを喰い殺すと言わんばかりの狂気はないはず。ましてや甲冑武者に至っては、その在り方が殺気の塊だ。

 強大なる連合に立ち向かうには数が少なすぎるだろうが、目前の砦一つ落とすには十分な戦力である上に、ただの雑兵とはわけが違う。

 

 その化物じみた殺気には、花子が冷や汗を流すのだ。

 もう皇帝なんか半泣きの状態である。

 

「なななななななな、何なのだ貴様等は!? あれか、スパルタか!? スパルタなのか!? 少しは殺気をおさめよ! 余は泣くぞ!?」

 

「うーん、史実的にはスパルタの方が殺意高いよなぁ」

 

 さすがにスパルタのように20万の敵を7000で、30万の敵を10000で……みたいな経歴を見ると、花子が呼び寄せた日ノ本の兵の経歴は見劣りしてしまうだろう。さすがに薩摩民でもスパルタはやべぇわ。

 だからと言って、花子が招来した化物共の格が落ちるはずもなく。

 

 俺は前方の荷台正面に足をかけながら、大声で兵を鼓舞する。

 まさか自分が──日ノ本一のキチガイ帰宅部を指揮する日が来るとは思わなかったが。

 

「場所ん変われど、薩摩兵子の目的ば同じ! 狙うは神祖ロムルスば首が一つ! 全軍、手柄ば討ち取れぇい!」

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」

 

 かつて主君を逃がす為に命を賭した、我等が祖先。

 総大将・島津義弘(しまづよしひろ)を筆頭とし、島津豊久(しまづとよひさ)中馬重方(ちゅうまんしげかた)長寿院盛淳(ちょうじゅいん もりあつ)などの錚錚(そうそう)たる面子を取り揃えた、薩摩兵子のドリームチームである。

 俺の下手な薩摩訛りの号令と共に、今か今かと待ち構えていた島津兵は、奇声と共に進軍を開始する。一見すると只の蛮族、もっと悪く言うと賊の類かと思う人もいるだろう。だが、その足取りは統率を成しているのが分かる。指揮してみないとこれは分からないだろう。

 

 指揮している俺も内心ウッキウキである。

 語彙力が低下するオタクレベルに興奮しているのが自分でも理解できるのだ。いや、マジでこれヤバいって。ただでさえ世界各地の偉人と出会得る旅ってだけで心躍るのに、自分の推しが目の前にいるのだ。

 

「……うわぁ」

 

 ドン引きしているレティシアを乗せた荷台も、島津兵に遅れんとばかりに動き出す。

 作戦とか言ってるけど、簡単に説明すれば敵陣中央突破である。後世の歴史家どころか、小学生ですら正気を疑う、作戦とも呼べない代物だが、なんと不思議なことに敵陣中央突破に近い脱出劇を繰り広げた経験者が300人もいるのだ。

 控えめに言って頭おかしいでしょ。

 

 そんな増殖されたキチガイ共は森を越え、連合軍拠点までの平坦な道のりを進軍する。場所は知ってたが本当に城が目視できるくらい近い。ほぼ近所じゃん。

 

 もちろん重要拠点なだけに、防衛のための人員はいるようで。

 城門から統率されたローマ兵が出撃し、城壁から弓兵が矢の雨をこちらに浴びせてくる。

 

「レティシアっ、幸〇砲用意」

 

「え、ちょ!? いきなり言わないでよ! ……これ? このボタン?」

 

「撃てっ!」

 

 確か背面辺りにボタンがあったはずだが、レティシアはボタンをちゃんと押してくれたようだ。全長30メートルの像の目からビームが発射され、敵軍の矢を全て焼き捨てる。

 

「「「………」」」

 

 その様子に英霊組は絶句する。

 皇帝陛下は既に泡を吹いて倒れてる。

 

〔……待って待って待って、え?〕

 

「あぁ、これ? ボブのポテトフライ実験の副産物で誕生した『小〇幸子砲EX』らしいぜ? いやー、城攻めに便利だよなぁ」

 

〔そろそろ実験の副産物が実験結果を大きく超えそうな気がするんだけど!?〕

 

 手段が目的化しないことを祈るばかりだ。

 

 さて、進軍に関してなんだが、順調過ぎて怖いレベルで進んでいる。

 そりゃ地の利や数的にはローマ兵に軍配は上がるだろう。しかし、こちらにはキチガイじみた思考回路と、種子島(火縄銃)などのオーパーツがある。

 火縄銃特有の安全性皆無な殺意の高い銃弾と、二発目以降は死の象徴ともなる爆発音が、ローマ兵の士気を大いに低下させる。爆発音がしたら隣の人間が死んでいる……なんて現象が起きているんだ。逃げ惑う敵兵さんには同情を禁じ得ない。

 

 敵の進軍を防ぐために城門が閉まるが、それを45口径51cm連装砲で吹き飛ばす。間違えて城壁も一部吹っ飛ばしてしまったが。

 俺はマシュ達と共に荷台から降り、沖田さんと島津兵の皆様に指示を出す。

 

「沖田さんと御先祖は城門前を守ってくれ! 援軍来た時にはローマ兵を一匹たりとも入れないでくれよ!?」

 

「……はーい」

 

「おう、坊主! きばいやんせ(頑張れ)よ!」

 

 この状況は『捨て奸(すてがまり)』に近い状況であり、要するに「死ぬまで足止めよろしく」の意に近いが、祖先の皆様は笑顔で応じてくれる。

 まぁ、〇子像と連装砲あるから足止めはかなり楽なんですけどね。

 

 気絶している皇帝陛下を背負い、脳筋マスターと盾の天使、竜の魔女を引きつれ、俺は拠点内部に待ち構えているであろう神祖とやらの元へ向かうのだった。

 なんか総大将も同伴してくれた。

 

 

 

 




【Fate/Zeroを見たコイツ等の感想】

マイケル……切嗣の顔芸しか覚えてない。あとイスカンダル好きだわ。
ジョン……アイリママはバブみが高い。
ボブ……常wにw余w裕wをwもwっwてw優w雅wたwれw
ダニエル……イリヤたんハァハァ。
花子……やっぱ英霊ってそこまで強くないんだ。


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さらば、レフ・ライノール

 おっひさっしぶっりでーす。十六夜やとです。
 今回この回を執筆させていただきましたが、ぶっちゃけあんまり納得してない終わり方となりました。鉄血のオルフェンズ48話の最後は万能だな、と。つか皇帝あんま活躍してないじゃん。
 そんなわけで次回の沖田さん回でお茶を濁します2章を終了とさせていただきます。

 補足ですが、今回のあとがきであるサーヴァント紹介で、ジャンヌ(白)の紹介は保留にしています。理由は後に判明します。


「来たか、(ローマ)こそが」

 

「えええええええええええええいいいいいいいいいいっっっ!!」

 

 城塞の最奥。

 必要最低限のそうしょくが施された大広間に、その巨躯な男は存在していた。どちらかと言えばアマゾンの原住民族の長老と言われても納得してしまいそうな服装の男は、俺達を──特に皇帝陛下に視線を注ぐ。彼の瞳には優しさは慈しみを内包しているにもかかわらず、なぜか本能的な恐怖を覚えてしまう。いや、これは恐怖じゃなく『畏怖』なのだろうか?

 俺の人生では出会ったことのないタイプのサーヴァントだ。

 さっき鬼島津に吹っ飛ばされたけど。

 

「「神祖おおおおおおおおおおおおお!?」」

 

 縮地した沖田さん以上の速度で、義弘公はロムルスの懐に入り、手に持った大槍を神祖の首に振り下ろす。結果だけで推測したから他に工程があったかもしれないが、義弘公が槍を振りおろしたモーションで止まっており、ロムルスが壁にめり込んでいるから、あながち間違ってはいないだろう。

 薔薇の皇帝はダッシュで建国王の神祖に駆け寄る。敵に無防備に近づくなど愚の骨頂だが、状況が状況なだけに俺は止められなかった。

 

 本来ならば皇帝が神祖を止めるはずだったのだ。

 ウチのバーサーカーが名前通りに暴走しただけなのだ。本当にすみません。

 

「神祖ロムルスよ、大丈夫か!?」

 

「いや、どう見ても致命傷だろソレ」

 

「……案ずるな、我が子よ。あれもまた、キチガイ(ローマ)なのだから」

 

 ローマって単語便利だな。

 自分を介抱する皇帝陛下にかけたロムルスの言葉に、俺は呆れ半分で溜息をつくのだった。

 

 しかし、さすがは建国の祖。ローマの礎となった偉人だ。

 花子のバーサーカーの首を狙った一撃は致命傷だったと思うが、未だにロムルスの首はつながったままだ。島津のバーサーカーも、その事実に首を捻っている。

 

「……ろむるす生きてる? トドメ刺す?」

 

「良かど! 首ば捥ぐ──」

 

「オーバーキルは止めなさい」

 

 皇帝陛下のようにロムルスへ駆け寄る二人を止める俺とマシュ。

 やはり花子の奥の手は間違いだったか?

 

「……ねぇ、クソマスター」

 

「んだよレティシア。俺は脳筋×2を止めるのに忙しいんだよ」

 

「アンタの忙しそうな面でメシウマだけれど、そうも言ってられないお客様の登場よ。ほら、現時点での黒幕ね」

 

 俺達の立ってる場所を接点として、ロムルスたちとは逆の空間に、その人物は立っていた。

 モスグリーンのタキシードとシルクハットを着用し、ぼさぼさの赤みがかった長髪の紳士。不自然なほどにこやかに微笑む人物は、手に黄金の杯を握っていた。

 

 俺は一瞬誰か分からんかったが、ロマンと所長の言葉で思いだす。

 レフ・ライノール。カルデアがこんなにも苦労して人理修復している原因を作った張本人であり、現段階で俺達の敵性勢力側の魔術師。コイツがそもそもの原因なのか、他にも仲間が居るのか定かではないが、紳士風の魔術師が現れたのだ。

 過去にいる俺達が警戒色を示す中、未来にいる所長が声を絞り出す。

 

〔レフ……〕

 

「やあ、オルガマ」

 

「ちぇすとー」

 

「ぐぎゃぶれお゛お゛お゛お゛お゛おあああああああああ」

 

 所長の何とも言えない切なさを含んだ言葉に、紳士風の男──レフ教授は皮肉の一つでも飛ばそうとしたのだろう。その証拠に、にこやかな微笑みは残虐な笑みに変わっていたのだから。

 しかし、それは小柄な一人の少女に阻まれる。

 高速で相手の懐に潜り込んだ花子は、レフの腹部めがけて光速で殴打を何千発も繰り出す。ワンパンマンのサイタマを実写で見ているような気分だった。レフはキチガイの猛攻を受けて壁にめり込む。

 

 聖杯は連続殴打でレフの手を離れ、空中にとどまっている間にレフを片付けた花子が、落下と共に格好良くキャッチする。

 そして俺に差し出す。

 

〔〔「………」〕〕

 

「はい、聖杯」

 

「はいじゃねぇよ!? お、おいレフ教授! お、お前大丈夫か!?」

 

 まさか彼を心配する日が来ようとは思わなかったが、花子を無視してレフ教授の元に駆け寄ろうとするが、何かレフの身体が黄金の粒子となって消え去ろうとしている。

 いくら不意打ちとはいえ脆すぎないか? それとも花子が馬鹿力なのか?

 

「教授? 何やってんだよ、教授!」

 

「ぐっ……、く、くそぉぉおおああああああ──」

 

「うっさい」

 

 死亡フラグ満載の呼びかけを行ってみたが、オルガマリー所長殺害未遂の容疑者はこんなところで諦めるほど貧弱ではなかった。彼の目はまだ死んでいない。彼は迫真の表情を浮かべ、最後の力を振り絞ろうとする。

 よろよろと立ち上がった彼は、喉から力を絞り出して叫ぶ。刹那、彼の周囲は禍々しくも濃厚な魔力を纏う。聖杯とはまた違ったベクトルの暴力的な魔力であり、それこそオルレアンに出たと言われている悪竜を彷彿とさせる歪さだ。あのドラゴンはカルデア砲で木っ端微塵に吹き飛ばしたが。

 つまり幻想種とかと類似する存在なのだろう。

 

 しかし、そのような悪あがきは神話生物を打倒するには至らなかった。

 花子はレフ教授を黙らせるために、今回の成果である聖杯をレフ教授に投げつける。只の投擲じゃない。オルレアンの黒幕だったキャスターを一発で座に還すレベルの威力だ。瀕死のレフ・ライノールでは耐えることはできないだろう。

 鳩尾に聖杯を受けたレフは、せき込むように倒れ込んだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。なんだよ、全然歯が立たないじゃないか。クソっ……」

 

「きょ、教授……あっ……あぁ……」

 

「あ、私この流れ知ってる」

 

 そんな重症でもなお、教授は立ち上がる。

 光の粒子を撒き散らしながら。

 

 そして竜の魔女は何かを悟ったように自分のスマホを操作している。

 

「なんて、声、出してやがる……キチガイィ」

 

 ~BGM:フリージア~

 

「だって・・・だって・・・。」

 

「私はレフ・ライノール・()()()()()、七十二柱の魔神が一人、魔神フラウロスだぞ。我が王の為、このくらいなんてことはない……っ!」

 

〔……フラウロス?〕

 

 何か伏線やら何やらを詰め込んだ発言を聞いた気がするが、それは今重要なことではないだろう。せっかくレティシアが最高に面白い感激できる舞台を用意してくれたのだから、俺はそれを演じるべきだ。

 皇帝は消えゆく神祖と会話しているし、花子と義弘公は邪魔する気配はない。

 

「そんな……(誰かは知らんけど)王様なんかの為に……」

 

「人類史を壊すのが私の役目だ」

 

「でもっ!」

 

「いいから行くぞ。我が王が、待ってんだ。それに……。(我が王よ、やっと理解しました。神殿から離れていて力を出し切れなかった──何て関係ありません。この下等生物共は何やっても止まりません)」

 

 ちなみに()の部分もレフは口にしている。

 確かに俺達は何があっても止まる気はないし、花子のせいで止まる要因が思い浮かばない。というか花子がダメだったら何やってもダメだろう。

 

 レフの脳裏には彼が忠誠を誓う王の言葉がよぎる。

 

 

 

『お前何やっとんねん。連中シバくまで戻って来んな』

 

 

 

「えぇ、分かっております」

 

 レフは俺達を睨みつける。

 最後の最後まで下等生物と見下していた連中に、最後の言葉を残すのだろう。

 

 彼は膝から崩れ落ち、俯せになって倒れる。

 左腕を上げて、人差し指で前を差しながら。

 

「我が王は止まんねぇからよ、貴様等が止まんねぇかぎり、その先に我等が王はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねぇぞ……

 

 止まるんじゃねぇぞ。

 その言葉を口にした瞬間、レフ・ライノール・フラウロスは光の粒子となって消えた。ぶっちゃけレフ・ライノールって結局は何だったのか、何をしたかったのか俺は知らんけど、最後の彼は何かを悟ったかのように満足していた。

 彼は何に満足したのだろう。それともキチガイに感化され狂ったのか。

 

 俺は粒子となって空へ消えた彼を見上げる。

 特異点を解決した証として、時空が歪んでいく現象を眺めながら、俺は小さく呟いたのだった。

 

「……オルガ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え、何? 何で私呼ばれたの?

 

 お前じゃねぇよ所長。

 

 

 

 




【サーヴァントのステイタス】

・島津 義弘
クラス バーサーカー
属性 混沌/悪

筋力B+++  耐久B+
敏捷B++  魔力E
幸運C   宝具E

クラス別スキル




保有スキル
薩摩兵子:EX
軍略:C
鬼島津:A


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