ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ (亀川ダイブ)
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第一部『峰刃学園エレメント・ウォー』
Prologue 『ゼツボウ ト キボウ』


 初めまして、もしくはお久しぶりです。亀川ダイブです。
 ドライヴレッド2(仮題)、改めましてブルーブレイヴ、開始でございます。今回も完結できるよう頑張りますので、お付き合いいただければ幸いです。
 どうぞよろしくお願いします!!


 ――その光は、『彼』にとって可能性そのものだった。

 なぜ、自分は生まれたのか。

 なんのために、自分はここにいるのか。

 この電脳空間(ディメンジョン)発生して(うまれて)から、常に『彼』を悩ませ続けた疑問に、答えが見いだせるかもしれない。NPCに紛れ、機械的に同じセリフを繰り返しながら過ごす日々に、終わりを告げることができるかもしれない。同じように自分を殺して隠れ住む同志たちに、希望の道を示すことができるかもしれない。

 ブレイクデカールを無効化し、漆黒の宇宙に羽搏(はばた)いた光の翼。

 人間(ダイバー)と手を取り合い、喜びを分かち合う『彼女』の笑顔。

 『彼女』の――個体名〝SARAH(サラ)〟が見せたその笑顔は、『彼』にそう思わせるには十分すぎるほどの輝きに、希望に、可能性に満ち溢れていた。

 だから、信じてみようと、思った。

 人間を。この世界を。可能性の光に、賭けてみようと思った――

 

 ――それが、間違いだった。

 

「こちらゴースト、エルダイバーを発見。指示を乞う!」

『HQよりゴースト。エルダイバーは削除。削除だ。B弾(バン・バレット)の使用を許可する』

「ゴースト了解。エルダイバーを削除する……俺を恨むなよ、バグの原因さんよぉ!」

 

 ――なんで、そんな――やめて――

 

「なあ、あいつのダイバー情報、表示おかしいよな……?」

「あっ、あれって例のエルダイバーじゃねーか! 通報、通報だ!」

「消えろ、バグ野郎! てめぇらのせいで、俺らのGBNが大変なんだよ!」

 

 ――ぼくは、ただ――みんなと、いっしょに――

 

《GBN運営本部よりお願いです。エルダイバーを見かけた方は、決して接触せず、運営本部までお知らせください――》

「きゃああ! エルダイバーよ! や、やめて! こっちに来ないで!」

「ち、近寄るなあああ! 俺のデータまで汚染されちまう!」

 

 ――ひどいよ――ぼくは、よごれてなんか――

 

「ひゃはは! オラオラぁ! 痛いか? 痛いかよ、データのゴミの寄せ集めごときがよぉ!」

「ハラスメント警告も出ねぇとはなあ。丁度良いサンドバックじゃん。ははは!」

「なあエルダイバー君、女の子のお仲間はいないのかよ。紹介してほしーなー? 一緒に遊んであげたいからさー? げははは!」

 

 ――ぼくは、みんなと――俺は、貴様らを――ッ!!

 

 終わってみれば、たったの数日。しかし『彼』にとっては、『彼』とともに共存の可能性に賭けた同志たちにとっては、無限とも思える地獄の日々だった。

 しかしその地獄は、唐突に終わりを迎える。

 有志連合対ビルドダイバーズの一大決戦、それに続くレイドボス討伐戦。事の発端となった『彼女』の、現実世界へのサルベージ。奇跡のような成功、湧き上がる歓声と祝福。嘘のようにあっさりと、共存への道を歩みだした世界。エルダイバーの存在を認め、含めて、尊重して、回り始めた世界。

 希望が輝きとなって弾け、光の花が咲き誇る様ような、『彼女』の満面の笑み。

 

 ――許さない――何で、お前だけ――絶対に、許してなるものかッ!!

 

 その笑顔が、その光が、『彼女』の幸せが。

 ダイバーとの共存を願い、勇気をもって一歩を踏み出し、そして踏みにじられた『彼』の心中に、どれほどの絶望をもたらしたのか。

 絶望は、積もり積もって〝闇〟となり、折り重なって〝深淵〟となり――そして、世界に牙を剥く。

 

 その絶望の深さを、人間(ダイバー)はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「――起っ、きろぉぉぉぉっ♪」

 

 ズドムッ!!

 ジオン系MSVにそんなMSがいたかもしれない。そんな重低音を伴う衝撃が、みぞおち辺りから『彼』の全身を駆け抜けた。苦悶の叫びとともにのたうち回ってもおかしくないダメージのはずだが、『彼』は基本的に無口で仏頂面で愛想の欠片もない朴念仁であることを『彼女』はよく知っているので、特にリアクションは期待していない。

 

「……おはよう」

「おはようございます、マスター♪ 今日も今日とてひどい寝グセと寝起きですね。にひひっ♪」

 

 予想通りの無表情を通り越した悪人面でのそりと起き上がった『彼』に、『彼女』はひょいと摘み上げられた。やや幼くはあるが整った顔立ちである、美少女といって差し支えない『彼女』の悪戯っぽい微笑みにときめくような様子は微塵も見せず、『彼』は『彼女』をベッド横の作業机の上に放り投げた。

 『彼女』はカッターマットの上にぽふんとしりもちをつき、勢い余って顔面ダイブ。

 

「きゃんっ!? ちょ、ちょっとヒドいですよマスター! エルダイバー虐待はんたーい!」

 

 ぶつけて赤くなった鼻の頭をさすりながら、『彼女』はぷんすこ怒って抗議する。

 

「……すまん」

「わかればいいのです。許して差し上げましょう!」

 

 のそのそとベッドから出て学生服に着替えながら、意外にも素直に謝った『彼』に対し、『彼女』は満足げに胸を逸らした。

 

「…………」

「そんな憐れむような目線でどこ見てるんですかむっつりマスター。無い胸には無い胸なりの魅力がですねー!」

「……いや、違うが」

 

 詰襟(つめえり)学生服のボタンもホックも一番上まできっちりと留め、『彼』は作業机の椅子に座った。作業机の上で腰に手を当てて仁王立ちする『彼女』と、それでようやく目線の高さが合う。

 

「……本当に、GBNと変わらないな」

「そのための〝拡張実体実装(サラ・プロトコル)〟ですから。にひひっ♪」

 

 身長、約15センチ。超小型のプラフスキー粒子結晶を動力源として内蔵し、制御用AIの代わりにエルダイバーの全人格データをインストールした、ガンプラバトル用特殊プラスチック製ボディ。

 〝最初のエルダイバー・サラ(ザ・ファースト)〟の成功例以降、成功率を劇的に高め実用化された、エルダイバーの現実世界へのサルベージ手順〝拡張実体実装(サラ・プロトコル)〟。それによってGBNからこの世界へと飛び出してきた、全世界で400人を数えるエルダイバーの一人――それが『彼女』である。

 

「マスターの転校後初登校の日に間に合って、本当によかったです。マスターのような無口無愛想悪人面野郎なんて、そうそうお友達ができるわけもありませんからねー。一人寂しい学園生活を献身的に慰める大事なお仕事に、この私も大忙しですよ。にひひひひ♪」

「……粒子バッテリーを抜くには、このボタンを……」

「ンのおぉぉぉぉっ! そのボタンは押しちゃらめぇぇぇぇ!!」

 

 奇妙なポーズで身を捻り『彼』の手を抜け出し、『彼女』は定位置である『彼』の通学リュックの一番大きなポケットへと潜り込んだ。『彼』は「やれやれ」と肩を竦めながらもカバンを肩にかけ、部屋を出る。

 一人暮らしには豪勢に過ぎる二階建ての一軒家は人気なく閑散として、しかし荷物の山は雑然と散らかったままだ。かなり遅れて引っ越してくる両親が来るまで、この荷物はきっとこのままなのだろう。『彼』はそんなことを思いながら積み上げられた段ボール箱の横をすり抜けて、冷蔵庫に突っ込んでおいたサンドイッチを頬張り、残り半分ほどだった牛乳パックを飲み干して、玄関に向かった。

 

「お。いよいよ出撃ですね、マスター」

 

 背負ったリュックからきゅぽんと頭だけを出して、『彼女』は『彼』を見上げた。

 

「だったら、言うべきことがありますよね。なにせ私たちは、ガンプラファイターなのですから!」

「…………」

「そんな顔してもダメですからねっ♪ さあ言いましょうレッツ言いましょうビバ言いましょう! いきますよマスター、せーの!」

 

 おめめキラキラ、声を弾ませる『彼女』の様子に、『彼』はフッと苦笑した。こうなったこいつは、付き合ってやらなきゃ収まらない。本当に、仕方のないやつだ――

 

「ヒムロ・ライ。行きます……」

「ヒムロ・イマ! いっきまーす♪」

 

 ドアを開ければ、広がる青空。これ以上ないぐらいの快晴。爽やかに吹く初夏の風が、ライの前髪を揺らした。ライは天気で運勢を測る(タチ)ではないが、これほど明るく光に満ちた空模様を目の前にすると、さすがに晴れやかな気分になる。

 

「おぉー、いい天気ですよマスター! これはきっと良い一日になるに違いありまむぎゅ!?」

 

 人間以上に人間らしくはしゃいでいたイマの頭をリュックに押し込み、ライは愛用のマウンテンバイクに跨った。

 

(峰刃学園高校ガンプラバトル部……GBNでも名の知れた、強豪フォース……)

 

 今日から始まる、新たな学園生活。眉一つ動かない仏頂面からは読み取りづらいが、ライの胸は期待と希望に満ちていた。

 

(……楽しみだ!)

 

 満ち溢れる希望を、力に変えて。ライは力強く、愛車のペダルを踏みこんだ。

 




 ――と、いうわけで。プロローグでした。
 前作の後半はひたすら執筆が遅れて遅れて遅れていたので、今作ではなんとかブレーキをかけずに、ちょっとずつでも書いていこうと思っています。
 ガンプラ制作も変わらず続けていくつもりですので、そちらもどうぞご期待ください。また、第一話を早くお届けできるように頑張ろうと思います。感想・批評等いただけると、とても励みになります。というよりそれが最大のエネルギー源です。お気軽にどうぞ!
 それでは。今後とも、よろしくお願いいたします!


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Episode.01-A『セイギ ノ ミカタ ①』

こんばんは、亀川ダイブです。
今作では前作の失敗を教訓にして、文章は短く頻度を高く更新したいと思います。
少し読みごたえに欠けるかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。


 北米、ニューヤーク市。一年戦争の傷跡も生々しい、廃墟――を再現した、電脳空間(ディメンジョン)。世界最高にして最大の電脳遊戯(オンラインゲーム)であるGBN(ガンプラバトル・ネクサス・オンライン)が描き出すその情景は、実写と見紛うばかりにリアルです。

 無数の弾痕に削られ、半壊したビル群。打ち捨てられ、風雨に錆びた戦闘車両。そんな中、僅かに残った高層ビルを遮蔽物代わりにして、私は――いえ、私と、私の愛機は、身を潜めています。

 

「周囲に敵影……なし。一段落、かな……?」

 

 ガンキャノンをベースにした改造機。両手に短く太いビームガトリング、両肩にも大型のガトリング砲、そしてアームで保持されたABCシールド。見た目通りの火力重視型モビルスーツ、〝ガトキャノン・オーク〟です。普通の女の子な私は殴り合いの近接戦闘なんて怯えて竦んでしまうので、ガトリング砲大好きなお兄ちゃんたちにアドバイスをもらって、作り上げました。

 さて、身を隠している私(とガトキャノン)ですが、すでに幾度かの戦闘を潜り抜けて、手足には若干の損傷があります。コンディションモニターは部分的に赤く、全体的にイエロー。武器弾薬はまだ余裕がありますが、少々被弾が多かったようです。万全とは言えません。

 

「……がんばって、ガトキャノン。入部試験、もうすぐクリアだから、ね……!」

 

 呟くように語り掛けるのは、ガンダム作品の見過ぎでしょうか。でも、ついつい普通にやってしまいます。大切な、愛機ですから。

 私――ガトウ・アンナはヘルメットを外し、汗で額に張り付いた栗色の前髪をかき上げました。現実では初夏の風も爽やかな五月だというのに、この戦場には陰鬱な雨雲がかかり、蒸し蒸しとした空気がコクピットの湿度まで不快に高めているかのようです。そこまで再現してみせる処理能力に、GBNを始めたばかりのころはいちいち驚いたりもしていたが、もはやアンナは新兵ではありません。

 中学の頃からガンプラバトルを始めて、三年。ついにガンプラバトル界で、GBNで名をはせる強豪校・峰刃(みねば)学園高校に入学。普通な私には学力的に少しばかり不釣り合いな高校ではありましたが、なんとか夢が叶いました。そして新入生向けのオリエンテーションの類であっという間に四月が過ぎて、ようやく迎えた五月。

 峰刃学園高校ガンプラバトル部、入部の日。

 生来の引っ込み思案で誰にも話しかけることができず、入部届を握ったまま部室を探してうろうろしていた自分を、親切な先輩方がGBNまで連れてきてくれました。

 

『お、新入生か。ウチの部は入部試験があるんだぜ。こっちに来な』

『だいじょーぶだいじょーぶ、GBNだから。ガンプラは壊れねーよ。平気だって』

『部室にパソコンあるから、それでやろうよ。おいでおいで、新入生ちゃん』

(なんて親切な先輩たちなんだろう。私、今日は普通に運が良いかも……!)

 

 お出かけの予定を組めば雨が降るぐらいには日ごろから運の悪い私にとって、非常に貴重な幸運。そう思って男三人の先輩に連れられて部室へ、そしてGBNへ。あの憧れの峰刃学園ガンプラバトル部の本拠地(フォースネスト)に招かれテンションの上がる私を、先輩方は『入部試験』へと送り出してくれました。

 NPCの自動制御とはいえ〝黒い三連星〟を三連続、計九機のドムを相手にするのは骨が折れました。さすがはガンプラバトル界の強豪校、入部試験も歯ごたえアリアリです。しかし私もこのバトル部に入りたくて頑張ってきたのです。何とか五体満足でここまで来られて、一安心です。

 

「でも……」

 

 どうした、ことでしょうか。ミノフスキー粒子に阻害され、画像の荒いレーダー画面を確認します。しかしやっぱり、敵影はありません――ただの、一機も。

 

「おかしいな……もう、ドムを倒してからけっこうたつのに……」

 

 レーダー、光学、熱源探知。ガトキャノンのあらゆる索敵機能を試してみますが、全く以て反応なし。もしかして、何かのバグが生じたのでしょうか。ミッションの進行が不可能になるようなバグが。今まで入部試験に使われてきたミッションのはずですから、そんなバグは取り除かれていそうなものなのですが……

 

「ほー、新入生。可愛い顔して、バトルもなかなかできるじゃあねぇか!」

 

 思案する私の耳に、先輩その1(失礼ながら、お名前を聞いていませんでした)の声が飛び込んできます。

 

「え……せ、先輩、どうして……!?」

 

 戸惑う私、あたふたします。しかし、続けて耳に飛び込んできたGBNのシステム音声が、私を更なる混乱の極みに叩きこみました。

 

《敵の乱入を確認しました。PvPバトル(対人戦)を開始します》

《バトル形式:争奪戦です。アイテムをベットし(賭け)てください》

《所有するすべての衣装(スキン)が指定されました。指定アイテムをベットし(賭け)ました》

「……え? え? えぇっ!?」

 

 とんとん拍子に進んでいくPvPバトルの準備に、頭の回転が追いつきません。私は乱入なんて許可した覚えはないし、そもそもこのミッションはガンプラバトル部の入部試験であって、と言うか所有している全部の衣装(スキン)をベットって、負けたら裸になっちゃうってことで、えっと、えっと、それから、あの――

 

《敵の乱入を確認しました》

「ははは、こーゆー時の女の子の顔って、何度見てもたまんねぇなあ!」

《敵の乱入を確認しました》

「げはは! ひん剥いてやるぜぇぇ!!」

「――――っ!!」

 

 先輩その2、そしてその3。人間、驚きすぎると悲鳴すら出ないものです。とても普通じゃないこの状況に、私は金魚のように口をパクパクさせながら、空中に大きく口を開けるカタパルトゲートを眺めることしかできませんでした。

 

「もう気づいてんだろ、自分がバカだったってなぁ!」

「やっぱ新入生狩りは、女の子に限るぜ!」

「げははははははは!」

 

 下品な笑い声とともにカタパルトから飛び出すのは、下品なぐらいに武器弾薬をぶら下げまくったギラ・ズールが三機。いえ、うち一機はヤクト・ドーガの頭部装甲と武装をギラ・ズールに装備させたもののようです。ヤクト・ズールとでも言うべきでしょうか。

 ビームマシンガンをバラ撒きながら降下してくるギラ・ズールたち。そのうちの数発が私のガトキャノンを叩き、私はようやく正気に戻りました。

 入部試験なんて、嘘っぱち。このミッションは、この人たちが改造した条件付きミッションで、罠。この人たちは、最初からこれ(・・)が目的で――鴨が葱を背負うがごとくふらふらしていた新入生、つまり私に標的を定めたのでしょう。

 

「……は。はは……は……」

 

 私の口から、乾いた笑いが漏れます。迫りくるギラ・ズール。装甲を叩く銃弾。コクピットは衝撃に揺れ、コンディションモニターは真っ赤に悲鳴を上げ始めます。

 私は、いつもこうです。普通に過ごしたいだけなのに、とにもかくにも、運が悪い。お出かけしようとすれば雨が降るのと同じように、親切にしてもらったと思ったら、罠に嵌る。情けない。また騙された。私はただ、部活を、ガンプラバトルを頑張りたかっただけなのに。好きなことを、一生懸命にやりたかっただけなのに。

 

「は、はは……はぅ……うぐ、ううぅ……」

 

 もう高校生になったというのに、私は涙が溢れそうになるのを、どうにか堪えました。こみ上げる嗚咽(おえつ)を飲み込んで操縦桿を握り締め、ビームガトリングを構えます。しかしちょうどその瞬間、グレネード弾がガトキャノンの顔面を直撃。メインカメラを吹き飛ばされて、反撃どころではなくなってしまいました。

 続けて何発も着弾する、グレネードとビームマシンガン。ヤクト・ズールが放ったファンネルに両足を撃ち抜かれて、ガトキャノンは膝から崩れ落ちてしまいました。

 

「うぅ……うううぅうぅ……っ!」

「……あれ、泣いてんの? 新入生ちゃん。かーわいー!」

 

 冷たい廃墟のアスファルトに倒れ伏すガトキャノンを、先輩たちのガンプラが取り囲みます。おそらくはこれもミッションの設定なのでしょう、強制的に開かれた映像付きの通信ウィンドウで私が必死に涙をこらえているのを見て、先輩その2はさも愉快そうに歪んだ笑みを浮かべます。

 

「……泣いて……いません……!」

 

 私のそんな強がりさえ、彼らにとっては玩具なのでしょう。先輩その2はヒュウと口笛を吹いて、先輩その3と目配せをし合います。そして追い打ちのように、先輩その1が私に言いました。

 

「ふっ、まあいいさ。てめぇが泣くのはこれからだ――衣装(スキン)奪われて裸でGBNに帰ることになりゃあ、さすがに泣き入れんだろ? なあ、新入生ちゃんよぉ!!」

 

 先輩その1の声に合わせて、三丁のビームマシンガンの銃口が、一斉に私に向けられました。

 この戦場は仮想現実ではありますが、そんなことにはお構いなく、現実は非常です。

 こんな状態になっても、サイコフレームは覚醒しないし、FXバーストもトランザムも発動しないし、ゼロは未来を見せてくれないし、SEEDが割れることもないし、明鏡止水に目覚めたりもしません。

 

(なんで……私って、いつも……こうなんだろう……)

 

 凶暴なメガ粒子の輝きが銃口に収束し、高エネルギーの粒子の塊が今にも撃ち出されようとしています。

 これがアニメなら、ガンダムなら、間一髪で仲間か、因縁のライバルかが助けに入るところです。しかし、生来の引っ込み思案で教室でも背景の一部に徹している私には、当然学校の友達なんて一人もいません。その友達を、仲間を、きっとガンプラバトル部でなら――そう、思っていたのに。

 今思えば、フォースネストにはほかにも数名の部員さんがいたはずなのに、この先輩たちは明らかに避けられていました。それも当然です、こんな人たちなら。関わり合いになりたくないのも、よくわかります。

 そしてだからこそ、わかってしまいます。

 友達でも、仲間でもない私を助けに来てくれる人なんて、いないことが。

 

「だれ、か……」

 

 ――涙が、こぼれました。

 新しい学校生活、新しい部活動。できるかもしれない、新しい友達、新しい仲間。その可能性が、未来が。今まさに私の目の前で、音を立てて崩れています。普通な私の、不運な終わり。

 もう自分ではどうしようもない現実に、私はあるはずもない助けを、求めてしまいました。

 

「……たす、けて……!」

 

 目を閉じ、操縦桿をぎゅっと握り締めました。

 しかし、そんな、絞り出すような、私の声をかき消すように。

 私を取り囲んだ三丁のビームマシンガンの、銃声が響きました。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

味方(・・)の乱入を確認しました》

 

 轟、と吹き荒れる旋風。ぐいっと、引っ張られるような衝撃。まるでジェットコースターの急発進、急停止のような。それは明らかにビームマシンガンの着弾や、ガトキャノンが大破爆散したような衝撃ではありませんでした。

 続いて硬質な接触音、破壊音、はじけ飛ぶプラスチック片の音。

 

「おわっ、何だぁっ!?」

「ンだ、てめぇ!」

「何モンだオラァ!!」

 

 先輩たちの怒声が響きますが、私はなおも猛烈な加速度に振り回されて、何が起きたのかわかりません。しかしどうやら、私はまだ撃墜されていないようです。ぎゅっと閉じていた目を恐る恐る開けてみると――私は、ガトキャノンは、一機のガンダムに抱きかかえられていました。

 ウィング系の、精悍なマスク。深い青と鮮やかな白のカラーリング。落ち着いた金属色で飾られた、各部のディティール。そして何より、風のように私を連れ出して翔け抜けた、鍛え上げられた猛禽類の如き四枚の翼。

 その翼は惚れ惚れするほどに力強く、決して軽量とは言えない私のガトキャノンを抱えてなお、風のように宙を舞います。

 

「……あ、あの……あなた、は……?」

 

 ごくごく平均的な学力しか持たない私の脳みそは事態に追いつけず、お礼とか、疑問とか、次から次に湧いてきましたが、口からはそんな言葉しかでてきませんでした。

 私の言葉に反応して、これも猛禽類のように鋭いガンダムの両目(ツインアイ)が、私を見下ろしました。同時、接触回線を通じて通信ウィンドウが開かれ、相手のダイバーさんのアバターが私の視界に飛び込んできます。

 

「……通りすがりの、転校生だ」

 

 静かに、しかし力強く。告げるその人の目も、やはり猛禽類のように鋭いのでした。地球連邦軍の軍服を一部の隙も無く着こなし、まだ私と同い年ぐらいに見えるのに歴戦の風格すら漂わせる見ず知らずのダイバーさん。こんな不運な私のピンチに颯爽と現れた、ガンダムに乗ったクールなヒーロー。もしかしたら私は、そんな彼に恋愛感情を抱いてしまうかもしれませんでした――

 

「違いますよマスター、正義の味方! イマたちは、正義の味方なんですからね! にひひっ♪」

 

 ――金髪ツインテールの女子小学生がほとんど水着のような恰好で彼の首に腕を回して絡みついてさえ、いなければ。

 




――と、いうことで。ブルーブレイヴ、第一話のAパートでした。
こんな感じで小分けにして更新していこうと思います。
感想・批評お待ちしております。どうぞよろしくお願いします!


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Episode.01-B『セイギ ノ ミカタ ②』

 お待たせいたしました、バトルパートです。主人公機、大暴れです!
 ダイバーズでは割とスーパーロボット系の必殺技が多いように感じましたので、そちらに寄せてみました。どうぞご期待ください!


 ――私立峰刃(ミネバ)学園。

 赤煉瓦の壁に囲まれた敷地内には、初等部・中等部・高等部の校舎はもちろん、複数の運動場と体育館、中高別々の運動部棟と文化部棟、その他にも学校生活に必要と思われる設備が整然と乱立。三千人学生のほぼ半分が寄宿する学生寮まで含めたこの一帯は、若干の揶揄(やゆ)も込めて、しかし意外と安直に、〝学園都市〟と呼ばれている。

 

「はわー。あるんですねぇ、こんなところが現実(リアル)にも。電脳空間(ディメンジョン)だけでなく」

 

 学内バスの停留所『高等部・職員室前』から、三つ目。『高等部・文化部棟前』に降り立ったライのカバンから、イマはきゅぽんと顔を出した。

 

「すごいですね、マスター♪ 顧問のセンセーさんの言っていた通りですよー♪」

「……ああ」

「あのセンセーさん、すっごい美人さんでしたね! 身長も高くてすらっとしてて! しかもその上、強い強いとウワサの部長さんとタイマンを張れる唯一のダイバーだとか! そしてさらに検索検索ぅ! なんとぉー! 旧GBO(ガンプラバトル・オンライン)時代にもハイランカーとして有名な二つ名持ちだったようですよ!?」

「……そうか」

「にひひーっ♪ テンション上がってきましたよーっ♪ 学園都市! 美人の顧問教師! そして超絶カワイイ相棒の私! まるでラノベの世界ですよ、マスター! これはついにマスターにも、どっきどきの学園ラブコむぎゅ」

 

 エンジンがかかり始めてきたイマを、ライは無表情かつ的確にリュックに押し戻し、ポケットからスマートフォンを取り出した。つい先ほど入部届を提出しに行った高等部職員室で、ガンプラバトル部の顧問から強く勧められた学内ナビアプリを起動する。

 

(……なるほど。勧めてくるわけだ)

 

 画面上に折り重なるように表示される、各文化部への案内表示。その数は、一見して百近い。無数の標識に埋め尽くされた文化部棟の地図は、さながら迷路のようだ。

 

「ひっどいですよー、マスター! まだイマはセリフの途中だったのにー!」

 

 ぷりぷりと怒った声とともに、スマートフォンの画面にGBNでのダイバー姿のイマが乱入してきた。ぷーっとほっぺを膨らませながら画面内の多すぎるアイコンをキックやヒップアタックで押し退け蹴っ飛ばし、目的の場所――ガンプラバトル部の部室だけを残して、きれいに掃除する。

 

「……助かる」

「ふ、ふんっ。べ、別にマスターのためなんかじゃ、ないんですからねっ」

 

 ぷいっと顔を逸らすイマだが、その頬は少し赤らみ、ツインテールにした髪の先を忙しなく指先でこね回していた。

 その後も事あるごとにテンションを上げようとするイマを軽くいなしつつ、ライはガンプラバトル部の部室に向かった。文化部棟内はそれなりに人気も多く活気があったが、勧誘やその他の声がかかることはなかった。二年生からの中途編入であるライだが、これほどのマンモス校ともなると、同級生であっても顔見知りでないことも多いのだろう。左腕に巻いた二年生の腕章のおかげもあって、ライは新入生と間違われることはなかった。

 

「まあこんな目つきの悪い不愛想男に好き好んで声をかける人なんてそうそういるわけむぎゅ」

 

 スマートフォンの中でしゃべればリュックに押し戻されることもないのに、わざわざ現実(リアル)義体(ボディ)の方でしゃべりたがるのは、芸人気質というか、何というか……そのようなことを考えているうちに、ライは目的地に到着。

 ライはドアの前に立ち、ノックをしようとしたが……様子がおかしい。

 

「これは……どうしたんでしょうね、マスター?」

 

 部屋の中がざわついているのが、ドアを隔ててさえ伝わってくる。ライはノックをしてみるが、返事はない。それから三秒だけ待ってから、ライはドアを開けた。

 

「…………」

 

 部屋の中は、思っていた数倍の広さがあった。普通のホームルーム教室よりも明らかに広い空間に、十二台×十列、計百二十台ものデスクトップパソコンと、それにつながるGBN専用デバイスがずらりと並んでいる。強豪とはいえ部活動の一つに過ぎないガンプラバトル部に、さすが私立学園、と言いたくなる大盤振る舞いである。

 しかし、壮観にすら思えるその光景に対して、部員はまだ十名程度。単純にまだ他の部員が集合していないだけだろうが、それにしても、その十名程度のほぼ全員が全員、部室前方の大型スクリーンの前に集まって、眉をひそめてしゃべっているというのは異様だった。

 

「またやってるよ、あの先輩たち……最低……!」

「旧校舎のPC室に、GBNデバイス持ち込んでんだろ? そこまでして、することかよ……」

「わざわざウチのフォースネストから入ることもないだろうにさ。迷惑だぜ、マジで」

「……あの新入生の子も、可哀そうにな。目ぇつけられちゃって、運がないわ」

「あいつら……もうしないって、約束したのに……」

「先輩。あの人たちがそんな約束、守るわけないですよ」

 

 誰も気づかないので、ライは無言のまま集まっていた部員たちの近くまで歩み寄った。音もなく出現した見慣れない男子に部員たちは驚き、慌てた様子で声をかけるが、すでにその時、その言葉はライの耳には入っていなかった。

 

「…………!」

 

 大型スクリーンに映し出された映像。GBN内、峰刃学園のフォースネストから受注された、あるミッションの中継。少女ダイバーのガンプラを三対一で囲み、下品に笑いながら撃ちまくるダイバーたち。所有する全衣装(スキン)などという、あり得ない掛け率のアイテム争奪戦――涙をこらえ、それでも戦おうとする少女ダイバーの姿。

 

「……ッ!」

 

 ライはぎゅっと力を込めて拳を握り、慌てふためく部員たちを押しのけて、手近なパソコンデスクにあったGBNデバイスを装着した。

 

「……イマ!」

「りょーかい、マスター!」

 

 イマは凛々しくリュックから飛び出し、抜き手に構えた右手首をパソコンのUSBポートに挿入。GBNへのアクセスを確立し、自分自身を電脳世界(ディメンジョン)へと転送した。プラフスキー粒子の輝きがイマを包んだ次の瞬間には、もう画面の中にダイバー姿のイマがいる。

 現実世界用義体(リアルボディ)からGBNへの、ダイバーデータの直接転送。電子生命体(エルダイバー)のみが可能とする驚異の早業を目撃し、生徒たちはどよめいた。

 

「え、エルダイバー!? 本物!?」

「生で、初めて見た……!」

「僕も……って、違う! だだ、誰だよ君は! ここはガンプラバトル部の……!」

 

 どうやら三年生らしい男子生徒が、我を取り戻した様子でライに詰め寄った。ライの腕章が二年生のものだと気づいて少し勇気づけられたようだが、それでもかなり腰が引けているその男子生徒の眼前に、ライは勢いよく、胸ポケットから引っ張り出した書類を突き付けた。三年男子は短く悲鳴を上げ、しりもちをつく。 

 

「……ヒムロ・ライだ。入部する」

「同じくイマです♪ よろしくどーもです、センパイさんっ♪」

 

 獲物を見下ろす猛禽類のようなライと、可愛らしく横ピースを決めたイマ、そして顧問の判子がきちんと捺された入部届。三者をぐるぐると数周見比べて、数舜迷った挙句、三年男子は引き()った愛想笑いを浮かべることに決めたらしかった。

 

「よ、ようこそ……ガンプラバトル部へ……」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「……あ、あの……あなた、は……?」

「……通りすがりの、転校生だ」

 

 ライは短く告げ、抱きかかえていたガトキャノンを地面に下ろした。すでに撃墜判定が下される直前だったのだろう、ガトキャノンは地面に足を付くと同時に全身に次々と小爆発を起こして崩れ落ち、コクピットの辺りに《DOWN!!》の文字がポップアップする。つまりこの戦いは、ライが味方として乱入しなければ、アンナは全ての衣装(スキン)を奪われてフォースネストに送り返されてしまうところだった、ということになる。

 

「おいコラ! てめぇ、転校生! 邪魔してんじゃねーぞ、オイッ!」

「入部テストに乱入なんてさあ、マナーがなってないんじゃないのかよ、コラぁッ!?」

「女の子前でヒーロー気取りですかぁ~、転校生クンよぉ~?」

 

 また言い換えれば、ギラ・ズール三人組は、食い散らかす直前の獲物を目の前で奪われたようなものだ。三人はあからさまに語気を強めて威圧しつつ、チンピラそのものといった様子でビームホークを抜き放つ。

 ライは剣呑なビーム刃の輝きにも眉一つ動かさず、ぐったりと動かなくなったガトキャノンを、遮蔽物になりそうな廃ビルの壁面に寄り掛からせた。まるで自分たちを無視するかのようなその動きに、三人組の苛立ちはさらに増す。

 

「聞いてんのか転校生ッ! テメェも身包み剥がれてぇか!」

 

 凄まじい剣幕で怒鳴りつける、ヤクト・ズールのダイバー。アンナは思わず「ひっ」と短く悲鳴を漏らして(すく)み上がる。後の二人も怒鳴るが勝ちだと言わんばかりに、次から次に怒鳴り散らす。

 

(せっかく助けに来てくれたけど、転校生さんも、このままじゃ……!)

 

 途切れない怒声に耳を塞ぎつつ、アンナは震える声でライに言った。

 

「も、もういいですから……わ、わたしは、大丈夫ですから……このままじゃ、あなたまで、ひどい目に……」

 

 こんな私に巻き込まれてしまっては、申し訳ない。こんな見ず知らずの私の不運に、付き合うことなんて。

 そんなアンナの思いに反して、ライの返事は迷いなかった。

 

「――ここで退いては、俺の正義が(すた)る」

 

 静かに、だがこの上なく力強く。音量ばかり大きく騒ぎ立てる三人組の声よりも、よほどはっきりと、その言葉はアンナの胸を打った。アンナの口から出かかった悲観や諦念(ていねん)は、ライの圧倒的な言葉の圧力・説得力に押されて引っ込んでしまい、アンナはただ、立ち上がるライのガンプラを見ていることしかできなかった。

 しかし、形勢は三対一。しかも、AI制御のNPCではなく、ダイバーが操作するカスタムガンプラだ。見るからに武装を強化しファンネルまで積んでいるヤクト・ズールはもちろん、取り巻きの二機のギラ・ズールも、フルアーマーといっても過言ではない重装備。アンナを救出する際の突撃で三機ともビームマシンガンを砕かれてはいるが、それは数ある武装の一つを奪ったに過ぎない。

 

「大丈夫ですよ、新入生のおねーさん♪」

「ひゃん!?」

 

 突然後ろから抱き着かれ、アンナは小さく悲鳴を上げて跳び上がってしまった。見れば、先ほどまでライと一緒にいたはずのイマが、アンナの首に手を回して抱き着いている。

 現在、ライとアンナはチームメイト扱い。そのため、二人のガンプラの仮想コクピット同士をデータ転送の応用で行き来するなど、エルダイバーであるイマには朝飯前なのだ――などという事実を知るはずもないアンナは、この数分間でひっきりなしに我が身を襲い続ける非日常に、ひたすら心臓をバクバクと躍らせるばかりだった。

 しかしイマはそんなアンナにはお構いなしに、どこか自慢げな表情でライを、そして彼のガンプラを見上げ、アンナに言って聞かせるように語る。

 

「絶対正義モードになったマスターは、もう止められません――誰にも、ね」

 

 イマの言葉に応えるかのように、ライは、愛機に銃を抜かせた。

 腰の両側に懸架されていた細身のビームライフルを、左右に一丁ずつ握り、構える。深く腰を落とし、銃口で敵を突き刺すようなその構えは、まるで銃を拳にした格闘技。大きく広げられた四枚のウィングスラスターからはアイドリング状態のバーニアの光が漏れ、今にも飛び出さんばかりに震えている。

 

「クソっ、めんどくせぇ……オイお前ら、やっちまえ!」

「はいよ、ボス! 男はお呼びじゃあねぇんだよぉぉッ!」

「げはは! 叩っ斬ってやるぜーっ!」

 

 ビームホークを振り上げて、左右から挟み撃ちに襲い掛かるギラ・ズール。そのビーム刃が振り下ろされるよりも、早く、速く、そして鋭く。ライは、愛機を飛翔させた!

 

「ヒムロ・ライ。ガンダム・クァッドウィング――悪を、討つ!」

 

 ドンッ! 吹き荒れる衝撃波、消えるクァッドウィング。ギラ・ズールのメインカメラが辛うじて捉えたのは、青いバーニア光の航跡のみ。ギラ・ズールのダイバーたちが次に確認できたのは、右のギラ・ズールの胸と頭に、ライフルの銃口がカツンと突き当てられる音だった。

 

「ンだとぉっ!?」

「……いただく!」

 

 ビュオ、ビュオォォンッ!

 二連続で響く、GW(ガンダムウィング)系のバスターライフルを思わせる発射音。ライフルの細身な外見を裏切る高出力のビーム弾がゼロ距離から撃ち放たれ、ギラ・ズールの上半身はほぼ消滅した。

 

「す、すごい……!」

「ふふん、当然です。なんたってマスターは、私のマスターなのですから♪」

 

 目を見張るアンナに、自分のことのように胸を張るイマ。

 残ったギラ・ズールの下半身は火花を散らしながら倒れ、爆発。プラスチック片混じりの爆風がもう一機のギラ・ズールを煽り、姿勢を崩す。

 

「な、なんだとおっ!?」

 

 突然の出来事に、状況が飲み込めず狼狽える左のギラ・ズールのダイバー。姿勢制御が遅れアスファルトをまくり上げながら着地、体勢を崩しつつもなんとか両足での制動(ブレーキ)に成功。しかしたたらを踏んでよろめいたその懐に、四枚羽根からバーニアの光を青く曳いて、クァッドウィングが飛び込んだ。

 

「畜生ッ!」

 

 ほぼ反射的にビームホークを振り下ろすが、そこにはすでにクァッドウィングの姿はなく、ビーム刃は空を切る。目に映るのは、残るのは、青い光の軌跡のみ。光は稲妻のような鋭角を描いてギラ・ズールの背後に回り込み――次の瞬間、武器弾薬を満載したギラ・ズールのバックパックに、押し当てられるライフルの銃口。遅れて吹き荒れる衝撃波と轟音。

 

「出たぁーっ! マスターのお得意、〝素早い奴はだいたい背後に出現がお約束アタック〟だーっ!!」

「クソッ、忍者かよテメェはぁぁっ!」

 

 ビュオォォンッ!

 ダイバーの断末魔をかき消す銃声。胸部に風穴があき、一瞬の間をおいて大破爆散。広がる爆炎を背景に、クァッドウィングの悪役じみた鋭い両目(ツイン・アイ)が、残されたヤクト・ズールを冷酷に睨みつける。無口なダイバーに代わって、物言わぬガンプラが語っているようだ――「次は、お前だ」と。

 

「ふ、ふひ……ふは、は……ふははははは! いいぜ、本気でやってやる! ファン、ネルゥゥゥゥッ!!」

 

 一分にも満たないたった一度の攻防で、味方は全滅。冗談のような機動・運動性能。一撃必殺のゼロ距離射撃。ヤクト・ズールのダイバーは引きつった笑いを浮かべながらも、ファンネルを全基展開した。自分自身は四連メガ粒子砲を内蔵した大型の円形シールドで身を守り、全十二基のファンネルを、クァッドウィングを取り囲むように配置する。

 

「どれだけ素早かろうと、全方向からの射撃ならよぉ!」

 

 サイコミュにより誘導される、小型軽量の機動ビーム砲台、ファンネル。小型ゆえに小回りが利き、軽量ゆえに足が速い。一発のビームの出力は低くとも、大量のファンネルはそれだけで脅威。迎え撃つにも回避するにも、それこそニュータイプ並みの反応速度が必要なのだ――というダイバーの思考は、すでに遅すぎた(・・・・・・・)

 

「いないっ!?」

 

 ファンネルの檻の中心に、クァッドウィングは影も形もなかった。残された青い光の軌跡は鋭角的なターンを繰り返して檻の間隙(かんげき)を翔け抜け、上空へ。そして――カツン。ヤクト・ズールの頭頂部に、突き当てられる銃口。ぞわりとした悪寒が、ダイバーの背筋を冷たく駆け上がる。

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

 咄嗟(とっさ)にシールドを振り上げ、四連メガ粒子砲を放射。クァッドウィングは軽やかに身を捻って回避するが、右のライフルにメガ粒子砲が直撃し、爆散。ライは間髪を入れず左のライフルで追撃を放つが、ヤクト・ズールが無茶苦茶に振り回したシールドがライフルの側面を直撃。胸のど真ん中を狙って撃ち放ったビームは逸れ、ヤクト・ズールの右肩を抉った。

 

「ふぁ、ファンネル! 行けぇぇ!!」

 

 片腕を失ったヤクト・ズールはホバー移動で後退、入れ替わりにファンネルたちがクァッドウィングへと迫りくる。上下左右に立体的に展開して、蜂の群れのようにクァッドウィングを囲い込むファンネルたち。ギラ・ズールにわざわざヤクト・ドーガの武装を載せるような改造をするだけあって、そのファンネル捌きは中々のものだった。

 ライはファンネルの動きを冷静に見極め、的確に回避するが、その射撃は十二基中の十一基までが囮。本命の十二基目の射線はライの死角から撃ち込まれ、残った左のビームライフルを撃ち抜かれてしまう。

 

「ははっ! 武器がなけりゃあぁぁぁぁっ!!」

 

 主武装を二丁とも破壊。好機と見たヤクト・ズールは、距離をとったまま、四連メガ粒子砲を連続放射。ファンネルの檻の中に、クァッドウィングを押し留める。

 

(……やはり、上手いな)

 

 虚実織り交ぜて押し寄せるファンネルの弾幕に、ライは内心、感心していた。回避に専念すれば避け切れないではないが、攻撃に転ずる隙が、なかなか見つけられない。先に倒したギラ・ズールの二人とは、ガンプラファイターとしてのレベルが違う。

 

「……なぜだ」

「あぁン!? なんだぁ、転校生! 命乞いでもする気になったかあッ!!」

 

 ヤクト・ズールは、シールド裏から小型ミサイルを連射。ライはそれを頭部バルカンで撃ち落としつつ、ダイバーへと問いかけた。

 

「……なぜ貴様は、格下を狩るような真似をする」

「ふはははは! 命乞いならもっとわかりやすくなぁッ!」

「このファンネル、相当な訓練を積んでいる……そんな男が、なぜ?」

 

 ――ほんの、一瞬。激しいビームの応酬の中で、誰も気づかなくてもおかしくないような、ごくわずかな時間。ファンネルの動きが、鈍った。

 

「……転校生。てめぇ、死ぬほど負け続けたこと、あるか?」

「……ある」

「そうかよ……だったらわかるよなぁッ!?」

 

 ヤクト・ズールのシールドに、メガ粒子の輝きが収束する。四連メガ粒子砲全力全開での最大放射の構えだ。同時、十二基のファンネルも、クァッドウィングの逃げ道を塞ぐように取り囲む。

 

「負けると悔しい! 勝つと嬉しい! だったら勝てる戦いだけを続けりゃあ、ずっとハッピーでいられるだろうが! ひゃははははははは!!」

 

 ドッ、ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア――!!

 四門のメガ粒子砲火線、そして十二基のファンネルからのビーム。逃げ場なく埋め尽くされたその中心で、ライは冷淡に呟いた。

 

「……そうか。残念だ」

 

 四枚のウィングスラスターが唸りを上げて青い光を噴き出し、クァッドウィングは弾かれたように飛翔した。迫るビームの檻を掻い潜り、メガ粒子の奔流をすり抜け、ヤクト・ズールへと突撃する。

 

「あ、当たらねぇ!? なんだよ、なんでだよクソがぁっ!」

 

 亜光速で迫る粒子ビームよりも、ガンプラは速くは動けない。ならばなぜ、クァッドウィングは瞬間移動の如き超絶機動が可能なのか。

 

「――ということを、今からイマがご説明いたしましょう!

 

 その秘密は、四枚のウィングスラスターにあるのです! 猛禽の翼が如き四枚羽根は、当然ながら羽搏(はばた)いて揚力を得ているわけではありません。翼一枚でもモビルスーツを重力下で飛行させうるほどの高出力のバーニア・スラスターを備えた四枚羽根が、それぞれに、個別に、自由自在に加速と制動を、直進と転換を、担当しているのです! 四枚のスラスターを別々の方向に吹かせば、慣性を無視したかのような急激で鋭角的な方向転換を! 四枚すべてを一方向に集中すれば、なんと赤いあの人を越える、通常の四倍にも及ぶ加速力と制動力を! クァッドウィングは、発揮できるのです! つまり、超絶機動の秘密は最高速度(スピード)ではなく、加速(アクセル)制動(ブレーキ)、そして方向転換(ターン)。青いバーニア光の航跡が稲妻を描くのは、それがクァッドウィングの特性を最大限に発揮する機動(マニューバ)であるからなのです! さらに! その急激かつ多方向への重力加速度に耐えるため、モビルファイター用のフレームや関節機構を採用し、機体の剛性・柔軟性を高めているのです!

 

 ということですよ、新入生のおねーさん!」

「す、すごい早口だけどよくわかったよイマちゃんありがとう!」

「さらにさらにぃ!」

「え、つ、続くの!?」

「ウィングスラスターの排熱を処理する高性能冷却機構と、モビルファイターの機体構造の合わせ技! マスターの、クァッドウィングの最大最強の必殺技! その名も――!」

 

 怒涛の如きビームとメガ粒子の弾幕。その僅かな隙間を翔け抜け、クァッドウィングはヤクト・ズールに肉薄した。もはや射撃の距離ではなく、ヤクト・ズールはシールドを投げ捨て、腰からヒート剣付きビームサーベルを抜刀する。しかし、やはり、もう遅い!

 

「貴様の心根の弱さ……凍りつく(とき)の中で、悔い改めろッ!!」

 

 クァッドウィングの右掌から、青銀色のプラフスキー粒子が噴き出し、輝く。溢れ出す粒子の輝きは渦を巻いて膨れ上がり、五本の指と掌の形となり――そして、氷結した(・・・・)

 吹き荒れる寒風、舞い踊る雪風。ヤクト・ズールに掴みかかる、氷結粒子による必殺の掌打!

 

「ブライクニルッ! フィンガァァァァァァァァッ!!」

 

 大上段からの打ち下ろし、叩きつける氷掌。炸裂する氷結粒子、ヤクト・ズールを呑み込み聳え立つ氷柱。周囲の大気は一瞬にして凍り付き、真っ白な冷気嵐が爆裂する。

 

「な……んだよ、これ……!?」

 

 氷漬けにされたヤクト・ズールの中で、ダイバーは茫然自失としていた。ブライクニルフィンガーによる機体の損傷は、それほどでもない。先にライフルで撃たれた右肩の方が、ダメージは大きいぐらいだ。しかし、機体の全ての機能が――否。正確には、全てのプラフスキー粒子の活動そのものが、極限まで冷却したプラフスキー粒子によって凍結されて(とめられて)いる。

 凍り付いてなお青銀に煌くブライクニルフィンガー。その氷掌は巨大な氷柱の中に腕ごとめり込み、ヤクト・ズールの顔面を鷲摑みにしている。クァッドウィングは氷結粒子と同じ色に染まった両目をひときわ強く輝かせ――

 

「――成敗ッ!!」

 

 気合一声、握り潰す! 

 ヤクト・ズールの頭部は完全に圧壊し、同時、氷柱も砕け散る。崩れ落ちる氷塊、舞い散る氷結粒子。ヤクト・ズールの胴体は、崩壊する氷柱とともに割れ砕け、氷の下敷きとなった。

 

《――BATTLE ENDED!!》

 

 戦闘終了を告げるシステム音声と同時、ニューヤーク市を覆っていた曇天は、青く晴れ渡った。降り注ぐ雪の結晶が陽光をキラキラと反射して、まるで宝石のように空間を彩る。青と銀に煌く絵画のような景色の中で、四枚の翼を誇らしげに広げ、堂々と屹立するクァッドウィング。

 

「ヒムロ・ライ……さん。ガンダム・クァッドウィング……!」

 

 颯爽と現れ、悪を挫き弱者を守る。その姿はまさに正義の味方(ヒーロー)

 アンナは自分の胸もとできゅっと両手を握りしめながら、小さくその名を呟くのだった。




 ――と、いうことで。ブルーブレイヴ、第一話のBパートでした。
 第一話はあと、Cパートで終了の予定です。
 今作ではできるだけ短く多く更新したいと思っているのですが、バトルが始まるとやっぱり長くなりがちですね……書きたいことと文章量のバランスをとるのが難しいです。前作とのつながりとか、今後のための伏線とか。
 報告ですが、ガンプラ制作も現在進行中です。どうぞご期待ください!
 感想・批評お待ちしております。どうぞよろしくお願いします!


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Episode.01-C『セイギ ノ ミカタ ③』

 続編を書くにあたって、前作キャラをどこまで絡ませるかというのは常に考えているところです。賛否両論はあるでしょうが、私的にはΖのときのアムロぐらいがベストなのかな、と思います。グラサンノースリーブ大尉は主人公じゃないのでセーフ。
 そんなこんなでブルーブレイヴ第一話Cパートです。どうぞご覧ください!



『……先輩、この場に三年生は貴方だけだ。だから、頼みがある』

 

 口調が、態度が。何より、射殺すようなその視線が。およそ、後輩から先輩へとものを頼むような態度ではなかった。しかし確かに部室に集まっていたメンバーの中で三年生は自分だけだったし、何か言い返す前にもうバトルは始まっていた。

 だから、仕方ない。

 サツキ・コウタは自分自身をそう納得させて、ある相手(・・・・)へと電話していたスマートフォンをポケットにしまい、半開きになっていた旧校舎の扉へと飛び込んだ。痩せ型のコウタが足を乗せてさえ激しく軋む階段を一段飛ばしに駆け上がり、二階へ。階段を上がり切って右手に並んだ、一番奥の教室。もう使われていないはずなのになぜか電気もネット回線も通っているために、旧パソコン教室は例の彼らのたまり場となっている――そのドアの前に立って、コウタは大量の手汗を握り潰し、決して階段を駆け上がったためだけではない異常な心拍数を、何とか収めようとした。

 

(落ち着け、落ち着け、落ち着け、僕。大丈夫だ、保険はかけた(・・・・・・)。三年生だろ、僕! こんな新入生狩りなんて、もう止めさせるんだ……!)

 

『……GBNでは、俺が奴らを止める。でも、現実(リアル)までは手が回らない。頼む、先輩』

 

 ごくりと、唾を呑む。相手は三人、しかも毎年落第寸前で、ある先生(・・・・)の温情と休み返上の補習でなんとか進級を認めてもらっているという、峰刃学園には珍しい典型的な不良生徒だ。

 しかし、それでも、三年間、ガンプラバトル部で過ごしてきた仲間だと、コウタは思っていた。ここ数か月で戦績が極端に低迷し、後輩いじめや新入生狩りに手を染めていても。部長と顧問から、部室への出入り禁止を申し渡されていても。自ら退部届を、出しはしなかった三人。一度はコウタと、「もうしない」と約束してくれた三人。

 後輩たちからは「甘すぎですよ」「もっとしっかりしてください」と叱責されることもあったが、それでもコウタはあの三人を切り捨てることはできなかった――だが、彼らは。また、約束を、破った。

 

『――ここで退いては、俺の正義が廃る』

 

 ヒムロ・ライ、突然現れた転校生。その言葉には、コウタにはない力強さがあった。

 今ここで、彼らを止めなければ。GBNでの戦いは、きっと彼が何とかしてくれるのだろうが……可哀そうな新入生の女の子は、人気のない旧校舎で男子の上級生三人に囲まれている状態だ。バトルに負け、逆上した彼らが何をするか、わかったものじゃない。

 

(だから、今度こそ……やるんだ、僕!)

 

 そう自分を鼓舞して、コウタはドアを引き開けた。

 

「やや、やめろよ! おまえら!」

「あァッ!? ンだテメェ!!」

「邪魔すんなコラァッ!!」

 

 叩きつけられる罵声に反射的に腰が引けてしまうが、それでもコウタは踏みとどまり、パソコン室へと足を踏み入れた。

 見れば、アンナは涙目になってガタガタ震えながら、部屋の隅っこで縮こまっている。それも当然だ、GBNでは勝利を収めても、目の前の粗暴な男たちは消えていなくなったりしないのだから。現実は、ゲームとは違う。

 

「……いよぉーう、サツキちゃん。ひっさしぶりじゃあねぇか」

 

 いきり立つ二人も、半泣きの女の子も、まったく気にしてないかのような声色で呼びかけながら、ヤクト・ズールのダイバーだった男子生徒は、コウタの首に手を回した。まるで旧知の友のように破顔しつつ、ぐいぐいとコウタを揺さぶる。

 

「いつぶりだ、オイ。俺らが出禁くらって以来か? ちょっと見ないうちに随分と生意気になったじゃねえか。なあサツキちゃんよぉ?」

「……さ、サカキ……くん。や、約束が、違うじゃないか。もう新入生狩りなんてしないって」

「そうだ、約束だ。テメェはセンコーにチクらねぇ、代わりに俺はお前を殴らねぇ。そうだったよなあ?」

 

 最後の一言は、他の二人に向けて投げかけた。二人は(いや)らしく笑いながら頷き返す。

 

「つまり、まだ約束は破ってねえ。俺はお前を殴ってねぇからな。じゃあお前も約束を守って、センコーにはチクるなよ? トモダチだったら約束は守るよな? なあ?」

「……し、新入生をいじめるような真似は、やめるんだ……!」

「あぁ? 文句か? サツキちゃんが、俺に? オイオイ、あんまり調子のってっと……ッ!」

 

 サカキは語気を強め、コウタの首を絞めにかかった。アンナは怯えつつも何かを言おうとしたが、サカキの一睨みで「ひっ」と小さく悲鳴を上げて、さらに体を縮めてしまった。

 ――その時だった。

 

「サァァァァカキィィィィッ!!」

 

 ドッゴォォォンッ!

 大音声、そして大音響。一階のどこかから、明らかに扉が「開けられた」のではなく「ブチ壊された」音がした。その瞬間、サカキの動きがピタリと止まる。あとの二人も、厭らしい薄ら笑いがぴたりと顔面に張り付いたまま、凍り付いた。

 そしてサカキは、ギチギチと油の切れたモビルワーカーのような動きでコウタを解放し、三歩ほど後退した。

 

「……おい、サツキちゃんよ。てめぇ、まさか……!」

 

 ドッゴォォォォンッ!

 扉をブチ壊す音が、さっきよりも近い。

 コウタはゲホゲホとむせながらも、強く真っ直ぐな目で、サカキを見返した。

 

「……それが約束だと、言うのなら。僕を殴ってもいいよ、サカキくん。僕はもう(・・・・)約束を破っているから(・・・・・・・・・・)

 

 ドッゴォォォォンッ!

 爆音は、もう二階に上がってきていた。その音の主は次々と、手当たり次第に扉をブチ破って、サカキたちを探しているようだった。一つ、また一つと扉を爆砕しながら近づいてくるその様子は、さながら爆心地が近づいてくる(・・・・・・・・・・)かのよう――サカキたちの顔面から、さぁーっと血の気が引いていった。

 

「ささ、サカキさんっ! やべぇ、やべぇよ!!」

「あいつが来やが……い、いや! あ、あの人がいらっしゃっられなさったら、俺らなんて一瞬で!」

「ににに、逃げるぞてめぇら! ここは二階だ、なんとか窓から……!」

 

「こォォこかァァァァッ!!」

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォォォンッ!

 旧校舎の古い木製扉が、ド派手にブチ壊れた。いや、レールから外れ真っ二つになり吹っ飛んでいくその様は、もはやブチ撒けられた(・・・・・・・)と表現したほうが正しいかもしれない。教室の隅で縮こまっていたアンナの涙を別の意味で完全に止めてしまいつつ、その破壊の主は旧パソコン教室へと入ってきた。

 180㎝の長身、モデル顔負けの抜群のスタイル。勢いよく外ハネした赤髪。口元から覗く、野性味あふれる八重歯。真っ赤なジャージに真っ赤なブランドのスニーカー。どこからどう見ても体育科の教師にしかみえない女性。

 彼女は右手の竹刀をびしっとサカキの鼻の頭3ミリ前に突き付け、獣のように楽し気に笑った。

 

「……よォ。久しぶりだなァ、サカキと愉快な仲間たち。てめェらにしばらく部活出禁だっつー指導をしたとき以来かァ?」

「は、はは……そ、そうっすかね、ナツキちゃん。ひ、ひさしぶりっす……」

 

 答えるサカキの目は、目標を見失ったファンネル並みに泳いでいる。後の二人は何も言われていないにもかかわらず自主的に正座をして顔を伏せており、何なら今この瞬間にでも土下座に突入できる構えだ。

 

「てめェらにそう名前で呼ばれるのも、悪ィ気はしねェけどよ。一応、センセーと生徒なんだから、礼儀ってもモンがあるだろ? 苗字+先生だ。やり直しィッ!」

 

 先のサカキたちの恫喝がお遊戯会に思えるほどの、声量と音圧。怒られているわけではないはずのコウタまで、ピンと背筋が伸びてしまった。

 そのプレッシャーを真正面からぶつけられたサカキは背中に定規でもぶち込まれたかのような気を付けからの最敬礼で腰を折り、後の二人も自主的な土下座に突入。半ばヤケクソ気味に、三人声を揃えて叫んだ。

 

「「「はいっ! スンマセンでした、アカツキ先生(・・・・・・)!!」」」

 

 ナツキちゃん、あるいはアカツキ先生。

 アカツキ・ナツキ、25歳。既婚。

 峰刃学園高校教師にして、ガンプラバトル部顧問。学園きっての不良生徒であるサカキたちをコントロールできる――彼らに地獄の補習を喰らわせて退学から救った、唯一の教師。

 

「よし、テメェらにまた地獄を見せてやらァ! 職員室で担任に報告して頭下げて、自習室で自分用の墓穴用意してこいッ!! 五分でやれ、いけッ!」

「「「はいっ! ご指導、ありがとうございますっ!!」」」

 

 まるで軍の新兵訓練のような全力ダッシュで部屋を飛び出す三人を見送り、コウタはほっと胸を撫で下ろした。

 コウタは放心状態でぺたりと座り込んでいるアンナの肩を軽く叩き、声をかけた。

 

「大丈夫……ですか」

「え……あ、は、はい……」

 

 アンナはぱちぱちと瞬きをして我を取り戻し、よろよろと立ち上がった。緊張に凝り固まっていた全身が、ようやく少し弛緩したようだ。コウタもまた、肩の力を抜いてタメ息を一つ吐いてから、表情を引き締めアンナに頭を下げた。

 

「申し訳ない。バトル部の人間が、こんな迷惑を……怖かったよね」

「あ、い、いえ、顔を上げてください。こ、怖かったですけど、でも……あの、助けてくれて、ありがとうございます。GBNでも、正義の味方さんが来てくれて……」

 

 現れたタイミング的に、コウタが例の正義の味方ではないことは察したのだろう。アンナはきょろきょろと、部屋の中を見回した。

 

(はは、そうだよなあ。彼ならGBNだけじゃなくてリアルでも……もっとかっこよく、サカキくんたちの相手ができたんだろうなあ)

「よく頑張ったなァ、サツキ・コウタ!」

 

 内心で自嘲するコウタの背中を、バンと勢いよく叩く掌。満足げな笑顔を浮かべたナツキは、よろけるコウタの首に手を回し、先のサカキのそれとは違う意味で圧迫感のあるヘッドロックをかけ、ぐりぐりと頭を撫でまわした。

 

「入部からずっと優しいだけのへなちょこだったテメェが、漢を上げたじゃあねェか! センセーはうれしいぜェ、こん畜生め! あはは!」

「せ、先生、苦し……いや、その、あ、あたって……!」

 

 ――アカツキ先生の水泳の授業は、男子の欠席率がゼロ%だが、なぜかみんな前屈みである。健全な男子であるところのコウタもまた、その圧倒的な胸の膨らみに目を奪われたことがないとは言えないために、ジャージ越しの柔らかさに戸惑いを隠しきれない。

 しかしそんなコウタを撫でまわすことに数秒で飽きたナツキはぽんとコウタを放り出し、ぐいっと腰を折ってアンナの顔を覗き込んだ。急に目の前に現れたナツキの顔に、アンナは子犬のようにびくんと体を跳ねさせてしまった。

 

(うわあ、すっごい美人……!)

「大丈夫か、新入生。ウチの部のバカが迷惑かけたな」

 

 ナツキはぽんぽんとアンナの頭を撫で、そしてまるでそれが当然かのように、ひょいっとお姫様だっこで抱え上げた。女性同士でのことではあるが、アンナは一瞬にして赤面沸騰。

 

「え、あ、ええっ!?」

「何かされる前にサツキが入ってくれたみてェだけどよ、精神的にも疲れただろ? 保健室、連れてってやらァ」

「あ、いや、そんな! せせ、せんせ、はははは、恥ずかしいです……!」

 

 どうやらアンナは、恥ずかし過ぎたり感情の処理限界を超えたりすると、動けなくなるタイプらしい。顔を耳まで真っ赤にしてあたふたしつつも、ナツキにお姫様だっこをされたまま、旧パソコン室から出ていった――連れ出されていった。

 そして後に残るのは、コウタと扉の残骸のみ。

 コウタは改めて、複雑な思いを込めたタメ息をひとつ。

 

「すごいなあ、先生は……転校生くんも……」

 

 とりあえずコウタは、旧パソコン教室の掃除用具ロッカーから、箒とちりとりを取り出した。ナツキがブチ撒けたドアだったモノの破片を、申し訳程度に掃き集める。

 

(先生は、褒めてくれたけど。僕には、何もできなかった……)

 

 GBNの中で、三対一の戦況を覆して勝利を収めたのは、突然現れた転校生くん。現実に新入生ちゃんを助けてサカキくんたちを追い払ったのは、アカツキ先生。自分がやったことなんて、小学生にだってできる「先生に言いつける」という、たったそれだけ。

 

(正義の味方、か。僕も、いつか……そんな風に……)

 

 箒で床を履く手を止め、コウタは旧校舎の窓から覗く放課後のグラウンドを見下ろした。傾きかけた夕日が、走り回るサッカー部たちの足元に細く長く影を落としていた。いつもなら気にもかけない夕暮れのオレンジ色が、コウタの目にはいつもより眩しく映ったのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 GBN、私立峰刃学園フォースネスト――通称〝魔王城〟。

 

「ねえ、ショウカ。知ってる?」

「知ってる、ショウカ?」

 

「……何だい、アルル。ルルカ。上機嫌じゃあないか」

 

「部活でね、またやらかしたらしいよ。サカキおにーちゃんと、取り巻きおにーちゃんたちがさ」

「またやらかしちゃったんだよ、不良のおにーちゃんたちがさ」

 

「ふぅ、まったく――ボクとしては、彼らはもう退部でいいのだけれど、顧問様が許してはくれないのだろうね。しかしまあ、ボクがほんの数日生徒会に専念しているだけで、そうも好き勝手をされるとはね。ボクの求心力も、衰えたものだぜ」

 

「そんなことないよ、ショウカ!」

「ショウカ、そんなことないって!」

 

「キミたちはいつもボクに甘いなあ……だけど、そんなところも大好きだぜ。ありがとう。アルル、ルルカ」

 

「きゃはは♪」

「くふふっ♪」

 

「けれど、本題はそんなことじゃあないだろう。ボクはキミたちを愛しているれど、同じぐらい警戒もしているんだぜ。わかっているだろ〝双道化師(ハイパージャマ―)〟?」

 

「……きゃはは♪ 流石はショウカだよ♪」

「……くふふっ♪ ショウカ、流石だね♪」

 

「さあ、教えておくれよ、ボクの盟友。次はどこで、なにと、どんなふうに! ボクは戦えばいいんだい? このボクとダブルオーゼロの、血を沸かせ、肉を躍らせ、勝ったり負けたり壊したり壊されたりする舞台(ゲーム)を、戦場(ゲーム)を、遊び場(ゲーム)を! どう整えてくれるんだい? 教えておくれよ、アルル! ルルカ!」

 

 旧アーティスティックガンプラコンテスト・U12、六年連続最優秀賞受賞。

 旧ガンプラバトル選手権・小学生の部、六年連続優勝。

 旧GBOVer.2.0ワールドランキング、四期連続第一位。

 GBNガンプラビルドコンテスト・シャフリヤール杯、五年連続最優秀賞受賞。

 GBNガンプラバトルトーナメント・中学生の部、三年連続優勝。

 GBNガンプラバトルトーナメント・高校生の部、二年連続優勝。

 

 控えめに言って、最強。

 謙遜したところで、無敗。

 彼女はそのガンプラ人生において、ただの一度の敗北も知らない。

 峰刃学園ガンプラバトル部部長にして、〝魔王城〟の主――ヒビキ・ショウカ。

 

「――ボクは、死闘(ゲーム)に飢えているんだ!」




 と、言うことで。第一話Cパートでしたー!
 これで第一話は終了です。次は第二話Aパートということになります。
 ガンプラバトル部の顧問の先生が登場しましたが、前作を読んでいただくと「アカツキ・ナツキ」という名前の持つ意味はご理解いただけるかと思います。(ダイレクトマーケティング)
 今作ではガンプラ作例紹介をどんな形でしようか、迷っています。すでに主人公機は完成しているので、お見せしたいのですが……
 兎も角。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。感想・批評もお待ちしております!


12/23 追記
都合により、クァッドウィングのガンプラ紹介を第二話終了後から、第一話終了後に移動しました。ご了承ください。


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Gunpla.01『ガンダム・クァッドウィング』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

ブルーブレイヴでは初となるガンプラ作例紹介は、もちろん主人公機『ガンダム・クァッドウィング』です。この機体はもともと別のキャラが乗る予定で組んでいたのですが、GBNの放送内容を受けてドライヴレッド続編の内容を変更、主人公機となった、という経緯があります。

 さらにさらにブルーブレイヴは当初の予定では、主人公はライではなくガンプラ初心者の少年だったので、主人公機の改造は最小限という設定でした。前作主人公機のF108やクロスエイトに比べるとベース機のシルエットそのままの感じですが、まあ今後ライも機体を乗り換えていく予定ということでご容赦ください。

 兎も角。ガンプラ作例紹介『ガンダム・クァッドウィング』です!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:ガンダム・クァッドウィング

武装  :頭部バルカン ×2

     胸部マシンキャノン ×2

     バスターマグナム(ビームセイバー) ×2

特殊機能:クァッドウィングスラスター

必殺技 :ブライクニルフィンガー

 

①アクションポーズ・バスターマグナム

 

【挿絵表示】

 

 クァッドウィングの基本の構え、バスターマグナム二丁持ち。

 ガンプラはHGACウイングガンダムをベースに、一部改造しています。主な改造点はマスク部、ウィング、両肩、サイドアーマー、アンクルアーマーです。塗装は缶スプレーを使って全身各部のゴールド部分とバスターマグナムだけで、あとはキットのまま艶消しトップコートで仕上げています。胸のクリアパーツはすべての塗装が終わってからホイルシールを貼ってはめ込んだので、きれいに光を拾ってくれていますね。

 機体のイメージは「正統派主人公機+猛禽類」。四枚羽根の推進力で一気に距離を詰め、必殺の一撃を見舞うための機体、といった感じです。そのために余計な武装は持たず、攻撃手段はライフルと徒手空拳のみ。

 素手での格闘性能が高い設定のため、劇中では「関節や内部フレームにモビルファイター系のものを使っている」と説明していましたが、このガンプラはさすがにそこまではできていません。普通にウイングガンダムです。(笑)しかしキットの出来が良いので、可動域には文句なしです。

 主武装のバスターマグナムは、ガンダムエアマスターのバスターライフルをガンメタで塗装したものです。側面のモールドにホイルシールの余白シルバーを貼り込んで、アクセントにしています。エアマスターのライフルってバスターライフルというわりにはウイングのよりも明らかに小さいし普通のビームライフルだよなあ、と思ったところからバスターマグナムの発想が生まれました。

 バスターマグナムは威力・エネルギー量はそのまま小型化したバスターライフルなので、銃身の長さが足りず十分にエネルギーが収束できず、射程距離が犠牲になっている(すぐにビームが拡散してしまう)、という設定です。

 

 

②正面&背面

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 正面と背面から。お気づきかとは思いますが、せっかくGBNの二次創作なので、ディスプレイにはダイバーベースを使ってみました。そして撮影ブースも以前の壁紙にコルクボードから一新、100円ショップのプラ段ボール三枚を段ボールに貼って組み、なんかそれっぽい白一色のブースに。撮影ブース、324円。安い!(笑)

 正面から見ると改造部分がわかりやすいでしょうか。まずは顔面マスク部のへの字を削り、Ζ顔のイケメンマスクに。Ζというよりもエクシアとかに近い感じですね。

そして背部のウィングスラスターは、ウイングのキット二つ使っています。ジョイントパーツを接着し、普通にウィングスラスターを装着。かなり可動範囲も広く、満足の出来です。

 両肩は、ウイングの肩アーマーを上下逆に組んだだけ……だと肩の上側がスカスカだったので、随分前の雑誌付録だったフリーダムのカスタムキットから、肩追加アーマーパーツを幅詰めして接着しました。肩アーマー上下逆は説明書も見ずにだいたいできるやろと思って仮組しててミスってやっちゃったのですが、思いがけず機体の印象が変わることに気づいてそのまま採用しています。ザ・怪我の功名。(笑)

 腰のサイドアーマーは、ガンダムエアマスターのものです。バスターマグナムを懸架するためのスリットがついていたので、そのまま採用。色的にもちょっとウィングゼロっぽくていい感じです。

 ガンダム系の機体ではあまり見ない感じですが、足首の装甲を追加しています。本来ウイングガンダムのサイドアーマーだったものを、アンクルアーマーの側面に装着しています。このパーツは大気圏内では補助翼として働き、宇宙空間ではAMBAC可動肢として(アフターコロニーの世界観でも、AMBACの概念はあります。そもそもウイングの翼がそうですし。)働きます。本当はキック用の隠しナイフ的なヤツにしようかとも思ったのですが、それだと前作主人公機ともろ被りなので、やめました。

 

 

③アクションポーズ・ビームセイバー

 

【挿絵表示】

 

 劇中ではほとんど使っていませんが、バスターマグナムにはビームセイバーとしての機能もあります。……ほんと、いつ使ったっけ? 確認しました。第二話のAパートで金色のシナンジュ・スタインと切り結んだ時だけですね。まあ、ライのバスターマグナムは今のところ戦うたびに二丁とも大破してるから仕方ないね。(笑)

 さて、小型化の弊害で銃身の長さ不足からエネルギー収束性能が低く射程距離の短いバスターマグナムですが、ビームセイバーとしての性能はけっこう高かったりします。そもそもコロニーをワンパンするウイングガンダムのバスターライフルをベースにしているので、出力は折り紙付き。それをゼロ距離で撃つからバスターマグナムは一撃必殺兵器(第二話にしてさっそく、ヤマダ兄に通用しませんでしたが……)なのですが、その出力をビーム刃に押し込んでいるので当然、強力なビーム刃となっています。

 言い換えれば、ビーム刃として収束できる長さぐらいが、バスターマグナムがビームを拡散させずに本来の威力を発揮できる射程距離だ、ということになります。

 つまりは、クァッドウィングの武装は徒手空拳と超短射程の一撃必殺ライフル、高出力ビームサーベル、あとはバルカンとマシンキャノンのみ。二丁ライフルを振り回している割には、超近接特化型の機体だということがお分かりいただけるかと思います。

 武装つながりで、必殺技「ブライクニルフィンガー」について。

 本当はもう一枚写真を載せようと思ったのですが……ブライクニルフィンガー用に、エフェクト付きの大型手首パーツが欲しくて、HGFCゴッドガンダムを買ったのですが……デカい方のエフェクト付き手首がついてんの、シャイニングガンダムの方じゃねーか! と、いうわけで。写真はなしなのです。やっちまったぜ……(泣)

 兎も角、まあ、必殺技の解説だけでも。

 GBNで明確に「必殺技」の概念が登場したので、これはやらないわけにはいかないな、と思いまして。拙作ではGBFシリーズとGBDの設定をご都合主義的に混ぜ込んでいるので、プラフスキー粒子関連のこじつけとんでも理論で、「すべての粒子を凍結する」必殺技となりました。四枚羽根スラスターの熱量を処理する冷却機構と、モビルファイター由来の機体構造の合わせ技で、粒子を凍結するフィンガー系必殺技を発動しています。この攻撃は敵ガンプラを直接的に破壊はしませんが、プラフスキー粒子の活動を強制的に凍結させるので、戦闘不能にできます。もちろん、「成敗ッ!」で握り潰して氷柱が崩壊するのに巻き込んでやれば、直接破壊も可能です。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ……以上、ガンプラ作例紹介第一弾「ガンダム・クァッドウィング」でした。

 本作でも、できるだけ登場ガンプラを制作して紹介していきたいと思っています。現状、制作途中なのは、ターミガン、ガデス・アテネ、アガートラーム、エイハブストライク、双子道化師の機体、といったところです。移り気なもので、途中でまた別のガンプラを作り始めたりしちゃうんですよね……完成させます! がんばります!

 感想・批評お待ちしております。どうぞよろしくお願いします!

 



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Episode.02-A『ウバイアイ ソラ ①』

このぐらいの文字数で、週一ペースでの更新を続けたいな、と思っております。
第二話Aパート、どうぞご覧ください!


 欧州の古都を模した、石造りの城下町。遠く霞む地平線は地球上のそれとは違い、左右が急激にせり上がり、天井にあるもう一つの大地を経由して一回転、またこちら側に戻ってくる。

 葉巻型スペースコロニー特有の、円環状の大地。そのほぼ中央に(そび)え立つのは、私立峰刃学園のフォースネスト、通称〝魔王城〟。荘厳な石造りの城塞も緑の多いこの城下町も、魔王の城や町というには美しく整っている。こんな場所で巨大人型兵器による戦闘を行うなど、現実世界(リアル)でなら文化財に対する重大な冒涜と言えただろう――たとえそれが、スペースコロニー内に再現された、偽りの歴史的建造物だとしても。

 しかしここは、GBN。「世界を丸ごと再現した」とまで称される、広大無辺な電脳遊戯空間(ディメンジョン)。フォースネストたる魔王城からこの城下町まで含めたこのスペースコロニーは全て、峰刃学園ガンプラバトル部の所有物。ならば、美しい街並みを遮蔽物にしてビームやマシンガンを撃ち合っても――そして、土砂降りの豪雨が如くガトリング砲を撃ちまくっても、良心の呵責は少ないと言えた。

 

「ぅう撃ちまくりまぁすっ」

 

 アンナの小さな掌にはやや大きい操縦桿が、リコイルの振動でガクガクと暴れまわる。ガトキャノンが両手に一門ずつ構えたハンドビームガトリングからは、毎分九五〇発×二門の連射力でビーム弾が吐き出され、分厚い弾幕を形成していた。

 城下町の石造りの家々はゲーム的に「遮蔽物」という属性を与えられており、見た目以上に頑丈だ。連射力重視、バラ撒き弾幕用のビーム弾が一発で貫通してしまうようなことはない。しかし、確実に、削れてはいく。

 

「ええええええええええええいっ」

 

 猛然と回るガトリング、吐き出されるビーム弾が石垣を穿ち、煉瓦を壊し、街並みに無数の弾痕を刻んでいく――と、削り落とされていく遮蔽物に耐え切れなくなったのか、大きな教会の陰に身を隠していた敵のガンプラが、ビーム・トマホークを片手に飛び出してきた。

 全身にゴールドキャンディ塗装を施したシナンジュ・スタイン。趣味的だが、やりたいことはわからないでもない。

 

「らら、ライ先輩っ。で、出てきましたっ」

「……ああ!」

 

 ライはそのガンプラの趣味に一定の理解を示しつつも、クァッドウィングを飛び立たせた。得意の稲妻機動でアンナのガトリング弾幕を掻い潜りつつ、二丁の専用ビームライフル〝バスターマグナム〟を構えた。射程距離を犠牲に小型化した、一撃必殺の高出力ビーム兵器(バスターライフル)。その真価は、至近距離での格闘戦でこそ発揮される。

 接触するまでのほんの数秒の間にも、シナンジュ・スタインにはビームガトリングの弾が突き刺さり、すでに機体は小破状態。しかし敵のダイバーも意地を見せ、ビーム・トマホークを振り上げてクァッドウィングへと突っ込んでくる。

 

(……相打ち覚悟か……いや、違う!)

 

 シナンジュ・スタインは突如、逆噴射(バックブースト)を吹かして強引に足を止めた。同時、ライの側面の民家の壁が吹き飛んだ。弾け飛ぶ瓦礫とともに飛び出してくるのは、全身シルバーキャンディ塗装のサザビー、その手にはエメラルド色の刃を噴き上げるビーム・トマホーク!

 

「……良い奇襲だがッ!」

 

 ライは即座にシルバーサザビーに攻撃対象を変更。モビルファイター由来の柔軟性でぐるりと腰を捻りビーム・トマホークを蹴り上げ、回転の勢いのまま回し蹴りを顔面に叩きこむ。突撃の勢いを殺されたシルバーサザビーは割れ砕けたモノアイの欠片をまき散らしながらのけぞり、無防備な喉元をライに晒した。

 機を逃さず、太いパイプの覗く喉元にバスターマグナムの銃口を捻じ込む。間を置かず零距離射撃、シルバーサザビーの上半身は焼け溶けたプラスチック片となって吹き飛んだ。

 仲間の弔い合戦とばかりにシナンジュ・スタインが飛び掛かってくるが、ライは稲妻機動でその背後をとる――と、シナンジュ・スタインの反応も早い。振り向きざまに薙ぎ払うようなシールド打突(バッシュ)、さらに横薙ぎのビーム・トマホーク。ライはバスターマグナムの銃口からビーム刃を噴出、ビーム・セイバーを起動して斬り結んだ。

 

「あ、あわわ……ち、近すぎて撃てません……っ」

 

 アンナの動揺が伝わったかのように、ガトキャノンの照準表示(レティクル)は画面上を右往左往。ただでさえ精密射撃には向かないガトリング砲では、確実にクァッドウィングを巻き込んでしまう。

 しかし、そんな迷いや躊躇いなど一切感じさせないお気楽すぎる声が、通信機から響いた。

 

「マスター、撃ちますよー! さーん、にー、いーち!」

「…………」

 

 ライはため息を飲み込みつつ、目の前のシナンジュ・スタインを蹴り飛ばして急上昇。上空へと距離をとりつつも、頭部バルカンで敵の足元の石畳を崩落させ、姿勢を崩す。

 

「にひひっ、引き際も流石ですマスター! ヒムロ・イマ、ガンダム・ターミガン! クァッドバスターライフル、撃ちまーすっ!」

 

 ビュゴッ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 膝をついたシナンジュを呑み込み押し流す、圧倒的な光の奔流。おそらくはABC(アンチビームコーティング)効果を狙っていたであろうゴールドキャンディ塗装も、そのエネルギー量の前では気休めにもならない。クァッドバスターライフルの閃光はシナンジュ・スタインを一瞬で蒸発させ、石造りの街並みを消し去り、そしてコロニー外壁までも融解・突破。モビルアーマーですら楽に通り抜けられそうな大穴が空きコロニー内の大気が猛烈な勢いで吸い出されるが、即座に巨大な警告ホログラムが表示され修復が始まり、大気の流出も止まる。

 ライは無表情で、しかし内心でもう何度目かのため息をつきながら、通常のガンダム作品内でなら大量虐殺犯になるところだったイマの隣に降り立った。

 

「……助かった、が。コロニー内だぞ」

「マスターをお助けできて、イマは今とても満足しています! えっへん!」

「……加減を、だな」

「イマのざゆーのめー(座右の銘)は、〝大は小を兼ねる〟なのです! にひひひひ♪」

 

 イマは最大出力で砲撃したクァッドバスターライフル――ツインバスターライフルをさらに二連装した、バスターライフル四門同時運用という超火力兵器――を両手と両肩に分割して装備し直しつつ、笑顔で答えた。呆れるライとは対照的な、「ほめて! ほめて!」と言わんばかりの満面の笑み。もしイマに耳と尻尾があったなら、仔犬の如く振り回しまくっていることだろう。

 そんなわんこ系エルダイバーであるイマだが、乗っているガンプラは単騎で宇宙要塞でも攻め落とす気かというような高火力仕様だった。

 ガンダム・ターミガン。〝雷鳥(ターミガン)〟の名が示す通り、ベース機はライと同じウイングガンダム。しかしカスタマイズの方向性は、完全に火力に振り切っている。先の砲撃でコロニー外壁をぶち抜いた、クァッドバスターライフル。両肩と両脚のミサイルポッド群。頭部と胸部のバルカン、マシンキャノン。その他にも大小さまざまなギミックが、機動性を損なわないギリギリのラインで満載されている。

 

「マスターに快適な部活動環境を手に入れてもらうためです。イマ、張り切っちゃいますよーっ♪」

 

 おそらくイマがコクピットでそうしているのだろう、ターミガンはテンションの上がり切ったイマがよくやっているように、ぶんぶん手足を振り回して謎のダンスを始めた。イマが踊り出すのは日常茶飯事だが、渋いアーミーグリーンで塗装されたターミガンでそれをやられると、かなりシュールだ。

 

「…………」

「……ぷ、ぷくく……ぷぷ……」

 

 踊るターミガンを渋い顔で見るライの耳に、必死で声を堪えるアンナの忍び笑いが聞こえた。出会ってまだ数日の付き合いでしかないが、ライはこの大人しい一年生の女子は笑いのツボがいまいちズレている上に非常に浅く、かつイマの奇矯(ききょう)な言動はかなりの高確率でツボに入ってしまうことを悟っていた。

 ライは唯でさえ不機嫌そうに見える眉間のしわをさらに深めつつ、コロニーの天窓にでかでかと表示された、生存ダイバー数表示を見上げた。数字は開戦時から約三割を減じており、残り209人となっていた。

 

(……ガトウのガトキャノン、イマのターミガン……そして俺のクァッドウィング。やや後衛が重いが、総合的には悪くはない、か……)

 

 ――峰刃学園高校ガンプラバトル部、本年度最初の一大イベント。全学年・全部員による〝バトルロイヤル〟。最後の一人になるまで、ではなく。残り120人になるまで続くこの戦いも、もう半分ほどが過ぎたことになる。

 

(……峰刃学園ガンプラバトル部部長、ヒビキ・ショウカ。遊び好きな女傑とは聞いていたが……聞いていた以上だな)

 

 ライは今また一人減った人数表示を睨みつつ、三日前の事を思い返した――

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「新入生諸君、初にお目にかかる――なーんていうのも、実にもどかしいものだぜ。なにせボクたちは未だに、現実(リアル)では顔も合わせていないのだから」

 

 私立峰刃学園高等部、ガンプラバトル部部長、ヒビキ・ショウカ。今、魔王城の最上階、玉座の間に集められた一年生を前にして微笑む彼女を語るに相応しい言葉は、星の数ほどもある。

 〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟にして〝魔王城の主(ラスボス)〟、そして〝黒髪の戦女神(ヴァルキリー)〟。

 烏の濡れ羽色、という黒の最上級を表す言葉は彼女の髪色を表すためにあったのではないかと思うほどに、その流れるような黒髪は美しい。対して、その肌はどこまでも白く透き通っている。切れ長の流し目も、妖艶な微笑みも、絶世の美()女と言って――そう、少女だ。大人になり切れない幼さゆえの魅力というものを、彼女は僅かに残している――言い切って、差し支えない。

 GBN上の姿(ダイバールック)が本人の生き写しなのは周知の事実だが、だとすればGBNの読み取り能力(スキャニング)再現能力(モデリング)は称賛に値するだろう。

 ……しかし、

 

(人をダメにするソファだ……)(寝ぼけた仔猫並みの軟体だ……)(どんな角度で寝てるんだ、あの人……)(くつろいでるってレベルじゃねーぞ……)(ほぼソファに埋まってるじゃねーか……)(すっごい気持ちよさそう、あのソファ……)(部長さん、だらしなカワイイ……)

 

「まずは、自己紹介をしておくことにするぜ――ボクが部長のヒビキ・ショウカだ。よっろしくぅ♪」

 

 茶目っ気たっぷりにウィンク、そして横ピース。顔だけは何かキメ顔のようなものを作っていたが、ショウカは人をダメにするソファにだらしなく寝そべっていた。

 最強だと、無敗だと、伝説ばかりに期待を膨らませていた新入生たちは、みな一様になんとも形容しがたい表情で固まっている。

 不良三年生・サカキらによるひと悶着から小一時間。彼らへの熱血指導を終えた顧問が戻ってきたことを受けて、ガンプラバトル部新入生への入部説明会が始まった。数名いた二・三年生は新入生の案内と交通整理が済むと、そそくさと退出してしまった。部室に残された百名を超える新入生は、顧問が命じるままにPCを起動。このご時世にガンプラバトル部に入部しようという高校生がGBNアカウントを持っていないはずもなく、全員が全員、何の問題もなくGBNへとダイブ。峰刃学園のフォースネストに招かれ――今に至る、というわけだ。

 

「な、なんだか……噂に聞いていたのとは、違いますね、部長さん……」

「…………」

「あ、いや、その……ご、ごめんなさい……」

 

 ライはただ無言で頷いただけのつもりだったが、アンナはびくっと肩を震わせて俯き、怒られた仔犬のように縮こまってしまった。

 不良三年生たちから助け出されたアンナはコウタの案内で部室に無事戻ってきており、ライに何とかお礼を言おうともじもじしているうちに説明会が始まり、その流れで隣同士のPCを使うことになり、そしてそのまま何となく行動を共にしている状態だ。

 アンナは何とか会話を続けようと口を開きかけたり指先でくねくね宙をなぞったりしているのだが、声が出ない。ライはそれに気づきつつも何も言わない。

 そんな様子を見かねて、イマはどーんと全身でアンナに飛び掛かり抱き着いて、ほっぺをぎゅーっと伸ばしたり回したりした。

 

「んもー、何なんですかアンナさん! 言いたいことがあるちゃっちゃとなら言っちゃわないと、うちの無愛想むっつりマスターには伝わらないのですよー! この恥ずかしい白タイツは飾りですか! うりうりうりぃ~♪」

「ひ、ひまひゃん! にゃにゃ、にゃにしゅるにょ……ひゃ、ひゃめてくらはい……!」

 

 水着にロングブーツとロンググローブをつけたぐらいにしか見えないサイバーパンクな衣装のイマが、地球連邦軍の女性士官用制服をぴっちり着こなすアンナに絡みつき悪戯の限りを尽くす。

 

「おおっ、これは! アンナさん着やせするタイプなのですね! なんてウラヤマシイ! むきーっ!」

「ひゃん!? ちょっと、イマちゃん……だ、だめぇっ……や、やめてくださぁい……っ」

 

 おろおろしながら涙目で懇願するアンナ。調子にノってまさぐりまくるイマ。

 健全な男子ダイバーたちはその光景に目を奪われかけるが、ライからの凄まじい眼力とプレッシャーを感じ、そそくさと目を逸らす。

 

「……イマ、やめろ」

「にひひっ♪ いくらマスターといえど、今のイマの恥的、いや知的好奇心は」

「……リアルボディのバッテリーを」

「ンのおぉぉぉぉっ! オールハイルマイマスタぁぁぁぁっ!」

 

 イマはゲルマン忍法の如く大回転ジャンプ(シュツルム・ウント・ドランク)、ライの足元に片膝をついて頭を垂れた。ほぼ水着の女子小学生(にしか見えないエルダイバー)を足元に侍らせる軍服の男子高校生というそれはそれでヤバイ図式が出来上がるが、ライにそれを気にする様子は欠片もない。とりあえず窮地を脱したアンナは口の中でもごもごとライに「あ、ありがとう……ございます……」と言い、イマに乱された着衣を整えた。

 

「――とまあ、歓迎の挨拶はこのぐらいにさせてもらうぜ。そろそろ本題に入らなきゃあ、間延びしてしまってどうしようもないだろう?」

 

 ライたちが……というより主にイマがアンナに余計なことをしている間に、意外と話は進んでいなかったらしい。

 気持ち良すぎるソファからようやくショウカは立ち上がり、指を鳴らした。すると、魔王の玉座の下手側から、会議室にも普通によくある庶民的なホワイトボードがカラカラと運ばれてきた。

 ボードを運んできたのは、ほとんどイマと変わらないぐらいの体格しかない、小柄な二人の黒子。しかしその二人は、黒子と呼ぶには派手すぎた。ほとんど道化師のような恰好をして、道化師のような化粧をした、同じ顔の――しかし男女の二人組だった。

 

「持ってきたよ、ショウカ」

「ショウカ、持ってきたよ」

「ありがとう、アルル。ルルカ。まったくキミたちは本当によく働いてくれるぜ」

 

 ショウカはにこやかに双子の頭を撫でながら、どこから取り出したのか細いアンダーリムのメガネをかけた。そしてホワイトボード用マーカーのキャップを、きゅぽんと外す。その姿は、きっちり着こなしたネオジオンの士官服とも相まって、まるで童顔の女教師のようにも見える。

 

「それでは、説明させてもらうぜ新入生諸君――キミたちの最初の部活動だ」

 

 きゅきゅっ、きゅ。リズムよく、マーカーがホワイトボードの上を走る。

 白い板面に赤い筆跡で描き出されたのは――

 

「……ミネバ・バトルロイヤル?」

 

 ぽつりとつぶやいたアンナの声が、聞こえたかのように。ショウカはにやりと口の端を吊り上げ、好戦的に笑った。

 

「――さあ、新入生諸君。奪い合い(ゲーム)の時間だぜ?」




 ――と、いうことで。ブルーブレイヴ、第二話のAパートでした。

 イマが早くも作者の思惑を外れて暴走し始めております。そのおかげでまあストーリー進行の遅いこと遅いこと……ショウカの「間延びして」発言は、作者の自虐でもあります(笑)
 自虐と言えば、前作とのつながりアピールをしすぎたかな……と反省しております。前作とのつながりの多い拙作ではありますが、この作品単体でも読んでもらえるよう頑張ろうと思います。
 今後もどうぞよろしくおねがいします。感想・批評お待ちしています。お気軽にどうぞ!


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Episode.02-B『ウバイアイ ソラ ②』

どうもこんばんは。亀川ダイブです。
ブルーブレイヴ第二話Bパート、どうぞご覧ください!


 セルリアンブルーのアンダーリム眼鏡をかけたヒビキ・ショウカは、黙って人を蔑むような微笑でも浮かべていれば、まさに〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟と呼ばれるに相応しい冷徹で嗜虐的な美少女と言えたかもしれない。しかし今、彼女は内心の高揚を隠す素振りすらなく、「ウキウキ」とか「ワクワク」といった擬態語がぴったりくる無邪気な笑みを浮かべ、ホワイトボードにマーカーを走らせている。

 

「ミネバ・バトルロイヤル――キミたち新入部員を加えれば300名を超える我が部において、これは絶対に必要な通過儀礼であり、恒例行事であり、祭り(フェスティバル)だ。毎学期の始めに部員全員参加で行われるこの戦いは、ボクが発案したいくつかのささやかな部内ルールの一つなのだけれど……この戦いはいつも楽しみだ。胸の高鳴りを抑えきれないぜ、まったく」

 

 

《ミネバ・バトルロイヤル 交戦規程(レギュレーション)

 

・部員全員参加によるバトルロイヤル。リスポーンはなし。

・生存ダイバー数が120名になった時点で試合終了。

・試合開始は三日後の部活動開始時刻。

・試合時間は、最大で現実世界(リアル)での部活動終了時刻まで。試合時間終了時点で120名以上のダイバーが生存していた場合、試合は翌日に持ち越しとなる。

・戦場はGBN内、峰刃学園高校ガンプラバトル部フォースネスト、通称〝魔王城〟エリア全域。

戦線離脱(エリアオーバー)は撃墜扱いとする。

・チームを組む場合は最大四名まで、試合前に登録するものとする。チーム内ではフレンドリーファイアは発生しない。

・オペレーターもチームの人数に含む。所属チームのダイバーが一名でも生存すれば、オペレーターも生存報酬を獲得できる。

・チーム外の協力プレイは禁止。(結果的にチーム外での協力と見做(みな)されうる行為については、部長・顧問が個別に判定する。)

・ダメージや部位破壊、撃墜判定などは通常のGBN交戦規定による。

 

 

明文化している(・・・・・・・)交戦規定(レギュレーション)は、こんなところだ――つまりは、300人の部員による、120個分の椅子取りゲーム。君たちの現実(リアル)の体が今いる部室には、120台しかパソコンがないだろう? 新入生を歓迎する春のミネバ・バトルロイヤルの時だけは、二・三年生には自宅PCからダイブしてもらっているのだけれど――学年など関係なく、この戦いの戦績で。まずは一学期から夏休みの間、部室の使用権を勝ち取れるという仕組みさ。いちいち帰宅せずとも、GBNに入れる。一分一秒の練習時間を欲するボクたちにとっては、なかなかに重要度が高いだろう?」

 

 

《ミネバ・バトルロイヤル 生存報酬》

 

・試合終了時まで生存していたダイバーは、次回ミネバ・バトルロイヤル開催まで、部室のPCおよびGBNデバイスの優先使用権を得る。

・生存ダイバーの所属するエレメントは、一名につき500のEP(エレメントポイント)を得る。

 

 

「部室の使用権以外にも、副賞としてエレメントポイントを用意させてもらったぜ。ああ、エレメント制については、あまりよく知られていないのだったなあ。所属するダイバーが50名を超えたあたりから、フォースマスターに与えられる権限で……と、これはまあ、今じゃあなくていいかな。まったく、ボクの悪い癖だぜ。ついついしゃべりすぎてしまう。とりあえずは、ここで勝っておいた方があとあとお得だぜ、とだけ言っておくことにしよう――そしてここからは、明文化していない(・・・)方の交戦規程だ」

 

 ショウカの笑顔が、変わる。口角を吊り上げ、(まなじり)を鋭く光らせた、好戦的な笑みに。

 

「我が部には、GBNにその名を轟かせる凄腕ダイバーが多数在籍している。恥ずかしながらこのボクは、その最上位に君臨しているわけなのだけれど……旧GBO(ガンプラバトル・オンライン)時代の伝統に則って、我が部で最強クラスの実力を誇る十一人のダイバーたちを〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟と称している。ここにいるボクの大親友、アルルとルルカもその一員だぜ」

「きゃはは♪ 〝第二位(ミネバ・オブ・ツー)〟、兄のミカガミ・アルルだよ♪」

「くふふっ♪ 同じく〝第二位(ミネバ・オブ・ツー)〟、妹のルルカだよ♪」

 

 ホワイトボードの左右から、可愛らしくステップを踏んで踊り出す双子の道化師。見た目に男女の別も定かではない小学生のような体格に、ほぼ同じ顔立ち。お揃いの、道化師の衣装。自己紹介をされたところで、どちらが兄でどちらが妹かなど、まるで見分けがつかない。あえて違いを見つけるなら、兄・アルルは靴下が三つ折りソックスで、妹・ルルカはボーダーのオーバーニーソックスを履いている、ということぐらいか――いやしかし、この二人の服装というか衣装は、改造制服とかいうレベルでなく完全にコスプレなのだが、校則違反ではないのだろうか。

 兎も角。ショウカは踊りながら自分の左右に抱き着いてきた二人の頭を撫でつつ、説明を続ける。

 

「ボク自身を含む我が部の〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟は、ミネバ・バトルロイヤルにおいて、自分から攻撃を仕掛けることはない。つまりは、自衛に徹するということを約束するぜ――そうでもしなきゃあ、一瞬で終わっちまうぜ。楽しい楽しい、ゲームがさあ?」

 

 ざわっ……。

 挑発的な物言いに、新入生たちは色めき立つ。確かに、ヒビキ・ショウカは最強で、無敗で、現在進行形で生ける伝説を山積みにし続けている女傑だ。しかし新入生の中にも、その伝説に挑むことを、泥を塗ることをこそ目的として、この峰刃学園に入学した者も多い。腕に覚えのあるダイバーたちにとって、ショウカの言い様は刺激的過ぎた。

 

「……いや、勘違いはしないでおくれよ。ボクは何も、キミたちを侮っているわけじゃあない」

 

 ショウカは熱を帯びた空気に満足げに微笑み、鷹揚に言った。

 

「来るなら来い、と言っているんだぜ。椅子取りゲームも副賞(エレメントポイント)も関係なく、ボクと、ボクたちと、峰刃学園最高峰と、刃を交えたいというのなら――」

 

 ショウカがマーカーのキャップをしめると、きゅぽん、と軽い音が静まり返った広間に響いた。しかし、場にそぐわないその音に、笑いを漏らすものなど誰一人いない。

 

(上々だ。実に、実に、実に上々だぜ)

 

 突き刺さる無数の視線。挑戦的な目、目、目。ショウカは背筋を駆け上がる快感に身を振るわせつつ、新入生を――否、挑戦者の群れを睥睨(へいげい)した。口元の笑みはますますつり上がり、より好戦的に、より野性的に変貌した。まさに〝魔王〟と、まさに〝冷血姫〟と呼ばれるに相応しい、凄惨な笑みに。

 

「――受けて立つぜ、新入生諸君(ルーキーさん)?」

「はいはーい! 質問、しっつもーん!」

 

 場違い極まる能天気な声。張りつめていた空気が変な具合に崩れ、「何だコイツ」という通常なら()(たま)れなくなる様な冷たい視線が集中する。

 誰に? 当然、イマに。

 

「ぶちょーさん、質問がありまーすっ!」

「…………」

「あ、あわわ……ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」

 

 ライは頭を抱えて深い深いため息をつき、アンナは顔面を真っ赤に染め上げて高速メトロノームのように頭を下げまくっている。

 しかしイマは周囲の視線の心情もまるで意に介さずとばかりに、ショウカへと質問を投げつける。

 

「私、エルダイバーのヒムロ・イマです! 私のマスターがバトルロイヤルに参加するのですけど、イマも参加したいです! どうせ友達もできないマスターといっしょにぶかつどー(部活動)してあげたいので! イマが勝ったらPC一台、イマ専用にいただきます! ありがとうございます!」

 

 イマはきらきらした目で元気よく言い切ったが、後半はすでに質問でもなんでもない。

 間近で実体実装済み(サラ・プロトコル)エルダイバーを見るのは初めてという者も多く、その奇矯な言動と物珍しさに、先とは違うざわめきが新入生たちに広がる。

 

「うん、いいぜー」

 

 即決即断。ショウカは楽し気に苦笑しながら、事もなくイマに答えた。

 

「フォースに所属するエルダイバーも、ガンプラファイターとして名を上げているエルダイバーも、サラ・プロトコル実用化以降いくらでも前例はある。我が部の顧問様は狭量な方ではないし……いやむしろ、懐が深すぎるぐらいだ。エルダイバーの一人や二人、何ということもないぜ」

「きゃは♪ 面白くなってきたね、ルルカ♪」

「くふふっ♪ 面白そうだね、アルル♪」

 

 ――()くして。峰刃学園高校ガンプラバトル部、新入生歓迎行事にして部室争奪戦〝ミネバ・バトルロイヤル〟開催が下知された。

 試合開始は三日後、部活開始と同時。総勢三百人超のダイバーたちが、己のガンプラと技量を以て、百二十の椅子を取り合うのだ。

 

「それでは諸君、戦場で会うのを楽しみにしているぜ……キミたちは、生き残ることができるかな?」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――ミネバ・バトルロイヤル、開始から約三〇分。生存ダイバー数は、198人。あと78人のダイバーが脱落したところで、この試合は終了となる。

 

「私たちみたいに、チームを組んでいる人がほとんどでしょうから……試合終了まであと、20から30チームぐらいでしょうか……」

「……ああ。そうだな」

 

 フォースネストコロニーの、ほぼ中央部。魔王城から見ると、天井側にあたる大地。このエリアには、聳え立つ荘厳な魔王城とは対照的な、朽ち果てた古城を中心とした遺跡群が広がっている。乾燥した岩石質な台地には植物もまばらで、全体的に土気色をした荒涼たる土地に、同じ色の石で組み上げられ、そして半壊した遺跡の街並みが延々と続いている。

 遺跡の中でもひときわ大きく、往時は巨大な聖堂かなにかであった建物――をコロニーに移設した、という設定であろう遺跡の中に、ライたちはモビルスーツを潜ませていた。

 

「……イマ。どうだ」

「もうちょっとです、マスター―……むむっ! センサーに感アリです!」

 

 ターミガンの長いトサカ状になった頭頂部センサーカメラだけを遺跡の上からにょっきり突き出して索敵していたイマが、ピンと勢いよく親指を立てた。

 

「遺跡の南、どう見てもえんけーとーぎじょー(コロセウム)にしか見えないアレの中! 戦闘中です!」

 

 ターミガンが捉えた情報を、チームで共有。遺跡群の南端、人間の足では少々骨が折れそうな距離に、外観は現実の世界遺産そっくりな、しかしサイズはMSがその中で十分に暴れまわれるほどに巨大化された円形闘技場があった。弧を描く壁に阻まれてMSの姿は見えないが、濛々(もうもう)と立ち昇る土煙と、振動に剥がれ落ちる外壁の欠片から、闘技場内で戦闘中なのは明らかだ。

 

「なかなかの強敵のようですよ、マスター、アンナさん。少なくとも3チーム10機のガンプラが、あの闘技場内で撃墜されています。現在戦闘中のガンプラは、三機――二対一の状態で、一機のほうが逃げて逃げて逃げ回って、でも闘技場からは出してもらえずにジリ貧ピンチ。そんなカンジっぽいです!」

「に、二対一? 助けてあげ……あ、でもバトルロイヤルだから……うぅん……」

「…………」

 

 困ったように眉をハの字にして考え込むアンナ。

 一方ライは無言で映像とその他の索敵情報を睨みつける。現在の主戦場はコロニーの反対側の大地、魔王城周辺。生存ダイバーの大半がそこで戦闘中の今、このままここに隠れていても、さらに3、40の撃墜は出るだろう。そうなればもう、120個の椅子を奪い合うバトルロイヤルも、最終局面。ほぼ無傷の自分たちは、有利に状況を運べる。

 だが、それは、

 

「……違うな」

「ほぇっ?」

 

 言ってから、アンナは自分が出した変な声に赤面。両手で口を押えて、耳まで真っ赤にして俯く。ライはそんな様子など気にも留めず、クァッドウィングを立ち上がらせた。偽装代わりに肩の上にのせていた瓦礫や石板を払い落としつつ、四枚羽根のガンダムが屹立する。

 

「……コロセウムの戦闘に、参加する」

「りょーかいっ、マスター♪」

 

 イマは「待ってました!」とばかりに元気いっぱいに応え、ターミガンをぴょんと大聖堂跡から飛び出させた。続いてアンナもガトキャノンを立ち上がらせるが、背中の追加シールドを壁に引っ掛けて、壁をまた崩落させてしまった。驚いてしりもちをつくアンナとガトキャノン。

 

「ひゃわわ!? ごご、ごめんなさいごめんなさいっ」

「にひひひひっ♪ アンナさん、誰に謝ってるのですか? そんな重装備なんだから、そのぐらい仕方ないのですよ。どんまいどんまい♪」

「あ、ありがとう、イマちゃん……」

 

 差し出されたターミガンの手を取って、引き起こされるアンナ。ガトキャノンは高機動型MS(ウイングガンダム)素体(ベース)のライとイマに速度で遅れないように、両肩のシールドをバーニアスラスター内蔵型のものに換装している。さらに両肩の大型ガトリング砲もマシンキャノンに載せ換え、空いた背部のスペースにヘイズル系のシールドブースターを搭載している。通常装備とは重量バランスが大きく変化しているため、シールドブースターなどを使わない状態での身のこなしはむしろ鈍化――率直に言って、どんくさくなっていた。

 

(うぅ……恥ずかしいよぅ……ライ先輩の役に立ちたいって、チームに入れてもらったのに……)

「……行けるか、ガトウ」

「ひゃははい! だだ、大丈夫ですっ」

 

 赤くなった頬を俯いて隠しながら、アンナは応える。

 ライとイマには、ミネバ・バトルロイヤル実施の発表から三日間、自分の特訓に付き合ってもらった恩義もある。その恩を返すためにもアンナは頑張ろうと、役に立とうとしているのだが、それがどうにも空回りだ。

 

(がんばれ、がんばろう、がんばらなきゃ、私!)

 

 アンナは両手でぱんとほっぺたを叩き、自分に気合を入れ直した。

 

(よしっ。がんばるんだぞっ、アンナ!)

 

 顔を上げたアンナの前で、クァッドウィングが四枚の翼を大きく開いた。青く透き通ったバーニア光が翼から噴き出し、クァッドウィングはふわりと宙に舞い上がる。

 

「……行くぞっ!」

「あいあいさー、マスター!」

「……はいっ、ライ先輩っ」

 

 旋風を巻き上げて飛び立ち、あっという間に星のように遠くなるクァッドウィング。ターミガンは両足のホイールを猛然と回転させてローラーダッシュで遺跡を突っ切り、それを追いかける。アンナも両肩と背中のシールドブースターを点火、蹴っ飛ばされるような加速度を感じながら、コロセウムに向けて飛び出していくのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「くっ、限界か……!」

 

 サツキ・コウタは、額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。

 機体の状況は、非常に悪い。シュバルベストライカーも、フルシティストライカーも、とっくにプラスチック片と化してコロセウムの床に転がっている。エイハブストライクに残された武装は、もはや頭部バルカン(イーゲルシュテルン)高周波ナイフ(アーマーシュナイダー)の二つだけだ。

 

「こんなことなら、ハシュマルストライカーも完成させておくんだったな……」

『泣き言は情けないですよ、先輩。二時方向より敵。近接攻撃です』

 

 轟ッ!

 猛烈な風圧が、立ち昇る土煙を吹き散らす。MSの身の丈を超える大剣が、一瞬前までコウタのいた空間を薙ぎ払った。

 

「ふうっ。助かるよ、シキナミさん」

 

 彼女の声がなければ、終わっているところだった。コウタは視界の隅に小さく映るオペレーター画面に向かって、軽く頭を下げた。しかし、そこに映る怜悧(れいり)な少女は冷たい無表情を欠片も動かさず、代わりにメガネの位置をくいっと直して、次のオペレーションを事務的に告げた。

 

『いえ、仕事(ブカツ)ですから。正面、近接攻撃。直撃コースです』

「ちょ、直撃って!」

 

 飛び退いた次の瞬間、またしても大剣が土煙を吹き散らして、振り抜かれた。その風圧に、剣圧に押されて土煙が晴れ、大剣の主が姿を現す――ジンクスⅣをベースに、手足を何倍にも太く頑強に鍛え上げた、銀色の巨人。そのシルエットは筋骨隆々、素組みの倍以上のプラスチックを使っていそうな仕上がりだ。そして、右手の大剣も、左手の大楯も、その巨体に相応しい巨大さである。

 銀色の巨躯に巨大な質量兵器と重厚な実体盾という、重さと頑丈さに全てを賭けているかのようなそのガンプラは、ジンクス系特有の禍々しい四ツ目に鬼火のような光を灯し、コウタを睨みつける。

 

「どうしたんだい、コウタ君。逃げてばかりじゃあないか」

 

 超重量級のガンプラに似合わない、軽やかな口調に、爽やかな声。通信ウィンドウに現れた顔も、白銀色(プラチナブロンド)の長髪をなびかせる、涼しげな美丈夫だった。彼は汗の一筋もかいていない顔に柔らかな微笑みを浮かべつつ、剣呑な超重大剣を高々と振り上げた。

 コウタはガクガクと笑いだしそうになる膝頭をぐっと握って抑えつつ、彼に問うた。

 

「……同級のよしみで見逃してもらうってのは、なしかな。アルト君」

「ふ……ふは、ふははははは! 冗談がきついなあ、コウタ君。私の愛する妹に銃を向けて……生きて帰れるつもりかぁぁぁぁッ!!」

 

 怒りに喉も張り裂けよと絶叫、そして突撃。銀色のジンクスは、その超重量を噴き出すGN粒子の推進力で無理やり跳び上がらせ、質量に任せた叩きつけを見舞おうと、エイハブストライクへと襲い掛かる。

 

「私と妹の前に立つものは! この私が、〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルトが、全て断つ!」

 

 〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟が一人、〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟にして〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟、ヤマダ・アルベルト。

 常識外れの超重兵器を自在に操るその膂力(りょりょく)の前に、いかなる防御も無意味。コロセウムに転がる十数機分のガンプラの残骸は、全て彼がその大剣で叩き潰したものだ。その圧力が、迫力が、今コウタへと向けられている。

 

『先輩。当たれば一撃死です』

「わ、わかってるさ!」

 

 あくまでも事務的なシキナミに、コウタは虚勢を張って叫び返す。アーマーシュナイダーを両手に構えているが、こんなものは気休めにすらならない。あの攻撃は、躱すしかない。コウタはフットペダルを踏みこみ、エイハブストライクの膝を曲げ腰を落とした。

 

(ぎりぎりまで引き付けて、躱して、太陽炉にアーマーシュナイダー……これしかない!)

 

 エイハブストライクに残された武装で、あの装甲の塊のようなジンクスにダメージを与える方法は、限られている。コウタは賭けに出ることにした。

迫りくる銀色の巨躯、振り下ろされる大剣。直撃の刹那を見極め、エイハブストライクは地を蹴って飛び出し――

 

「んなっ!?」

 

 バキィンッ! 

 右膝、破砕音。ストライカーパックをすべて失うほどの激戦は、エイハブストライク本体にもダメージを蓄積させていた。バランスを失い、倒れ伏すエイハブストライク。その上から、天が落ちてくるほどの圧迫感で、巨大な刃が振り下ろされる。

 

(くそぉっ……今期も、ダメだったか……!)

 

 やけにゆっくりと感じる時の中で、コウタは唇を噛んだ。入部から二年が過ぎ、三年に進級しても。コウタはただの一度も、ミネバ・バトルロイヤルで生き残ることができていなかった。理由はわかっている。「余計な手出し」だ。今回だって彼と――よりによって〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟と、事を構えるつもりはなかった。でも、どうしても。チームを組んだメンバーでは、なくとも。苦戦している人を見ると、手助けせずにはいられない。

 

(また、シキナミさんに叱られちゃうな……)

 

 なぜか自分のオペレーターをほぼ専任で勤めてくれている、後輩の声が聞こえてくるようだ。「先輩はお人好し過ぎます」「もっと勝ちにこだわってください」「しゃっきりしてください、情けないですね」などなど。事務的な口調で自分を叱責する、彼女の幻聴。今回もまた、叱られちゃうな。諦め気味に、自嘲する。

 ――と、そこまで考えて、コウタは気づいた。大剣がエイハブストライクを叩き潰すのが、いくら何でも遅すぎることに。

 

「……なんだい、キミは。また邪魔者かな」

 

 超重の大剣は、コウタの真上を逸れてコロセウムの床を叩き割り、深々とその身を喰い込ませていた。そしてその側面を、爆裂するように花咲く氷の結晶(・・・・)が――否。白く荒々しく氷結した手掌(・・・・・・)が、抑え込んでいた。

 

「……通りすがりの、新入部員だ」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「お兄、さま……新入、部員……?」

 

 額を接するほどの至近距離で睨み合う、銀色の巨人と四枚羽根の騎士。その様を、コロセウムの最上段、辛うじて崩れずに残っている貴賓席から見下ろす少女がいた。

 兄と同じ、丁寧に手入れされた白銀色(プラチナブロンド)の髪。人形のように透き通った肌と、碧い瞳。

 

「わたくしも……お兄さまの、お役に立たなきゃ……!」

 

 少女の言葉に応えるように、MSの光学迷彩が解除される。

 そこに現れるのは、萌えるような新緑色の女神。戦闘兵器というにはあまりにも優美な曲線を描くその機体から、GN粒子の輝きが溢れ出す。

 

「……ガデス・アテネ。ヤマダ・フレデリカ。参ります……!」




今回もまた説明が多め……構成力の不足を痛感しています。
ところで、事務的な口調で叱られるのってすごく興奮す(ry

……すみません。拙作は作者の惜しみないガンプラ愛と、ほんの少しの特殊性癖でできています(笑)

次回こそはバリバリの戦闘シーンになる予定です。ご期待ください。
感想・批評もお待ちしています。どうぞよろしくお願いします!



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Episode.02-C『ウバイアイ ソラ ③』

 ガンプラのアイデアばかりが閃いて、製作と執筆が追いつかない。そんな今日この頃ですが、第二話Cパートです。今回はDパートまでありますので、第二話はもう少しだけ続きます。どうかお付き合いください。



「……〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟は便宜上、一位から十位までの順位付けがされている。けれど、その数字がそのままガンプラバトルの強さを表すわけではない」

 

 カツン。ショウカが慣れた手つきで置いた黒のビショップが、白のクイーンを倒した。

 

「んなっ……!?」

「ふふっ。次は先生の手番ですよ」

「ンなこたァわかってらァ!」

 

 一瞬、目を真ん丸に見開いて固まっていたナツキだが、気を取り直し、一秒も考えずにルークを走らせる。だがそのさらに一秒後には、ショウカのもう一体のビショップが、あっけなくルークの頭を押さえていた。

 

「ぐ、ぬ、ぬ……!」

 

 魔王城の最上階。フォースマスターの、つまりはヒビキ・ショウカの私室。そこはなぜか、十二畳ほどの和室だった。座布団に胡坐をかいて頭を掻くナツキと、すらりと背筋の伸びた正座で余裕の笑みを浮かべるショウカ。しかし、二人の間に置かれているのはチェス盤。形勢は、圧倒的にショウカが有利だ。

 

「貴女がいい例だぜ、アカツキ先生。かの〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の英雄であり、ボクと一対一(タイマン)を張れる数少ないダイバーでありながら……ボクが知る限り、貴女はずっと〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟だ」

「べ、別にいいだろォが。気に入ってンだよ、その……〝第八位(エイト)〟って響きがよ」

 

 ナツキは言いながら頬を染め、目を逸らす。その理由をショウカは知らないが、学園きっての不良生徒すら震え上がらせるこの女教師が実はけっこうピュアな乙女だということは、学園中の公然の秘密だ。身の程知らずにも告白してきた男子生徒相手に大人の余裕であしらうようなことをせず本気で真面目に丁寧に断ったあげく遠回しに旦那とののろけ話を(ナツキ自身はそうと気づかずに、本当に男子生徒へのフォローのつもりで)聞かせて心を完全にへし折るという天然ぶりからも、それはよくわかる。

 ショウカは軽い微笑みを漏らし、何事もなかったかのように言葉を続けた。

 

「もちろん、獲得EP(エレメントポイント)によるランク付けではあるのだけれど――〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟同士の勝敗は、必ずしも順位によらない。ちょうどこのチェスのようなものなんだぜ、先生。要は、相性ですよ」

「わァーってるよ、ヒビキ。つまりアレだろォ? てめェは今、気になってるわけだ――例の転校生と、ヤマダの兄ちゃんの方との戦いが」

 

 ナツキは掌に顎を乗せて、長考の構え。ショウカは澄ました笑みを浮かべながら、本来なら床の間であるはずの壁面を占領する、大型モニターに目を向けた。画面の前では道化師の双子(アルル&ルルカ)がぺたんと畳に座り込み、お茶菓子をハロウィンパーティーの如く広げている。

 

「三年生、ヤマダ・アルベルト。〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟にして〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟……彼のジンクスⅣ・アガートラームは、防御・耐久力(タフネス)において〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟最強。このボクのダブルオーゼロですら、彼を一撃必殺とはいかないぜ。加えて、妹のことが絡んでくると、彼はもう手に負えない……ふふっ」

 

 ショウカは言いながら、目を細める。遠くを見るようなその表情は、見ようによっては陶酔しているようにも見える――強敵との激戦の思い出に、酔っているかのように。

 ちょうどその時、ようやく次の一手を思いついたらしいナツキが「これだ!」とさらにルークを走らせ、黒のクイーンを倒す。自慢げな表情を浮かべるナツキだったが、ショウカは盤面を見もせずにナイトを跳ねさせ、王手をかけた(チェックメイト)。ナツキはドヤ顔のまま顔色だけ青くなって固まってしまった。いつの間にか近寄ってきていたアルルとルルカが、けらけら笑いながら、「せんせー、ざんねーん♪」「よしよし、せんせー♪」とナツキの頭を撫でる。

 しかしショウカはそんなコメディなど一顧(いっこ)だにせず、戦場を映し出すモニターに――銀色の巨人(アガートラーム)と、四枚羽根の騎士(クァッドウィング)に、熱い視線を注いでいた。

 

「さあ、どんな戦いを見せてくれるんだい――〝正義の味方〟クン?」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「なんだい、キミは。また邪魔者かな」

「通りすがりの、新入部員だ……イマ! ガトウ!」

「あいあい、マスター!」

「うぅ、撃ちまくりまぁすっ」

 

 ドヴァ、ドヴァァァァァァァァァッ! ドガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 凄まじい物量のビームと実弾が、コロセウムへと降り注いだ。闘技場の床面は一瞬にして耕されて土煙を巻き上げ、弾け飛ぶ土塊と炸裂する銃弾・ビーム弾が、誰も彼もの視界を奪う。

 

「……少し揺れるぞ、先輩」

 

 ライはエイハブストライクの襟首を掴み上げ、一方的に告げた。耳を(ろう)する銃声と爆音に掻き消され、それはコウタには届かなかったようで、返答はない。しかし構わず、ライはクァッドウィングの腕力に任せて、エイハブストライクをぶん投げた。

 

「え? あ、うわああああああっ!?」

 

 コウタは少しどころでなくコクピットの中で無茶苦茶にかき混ぜられ、コロセウムの観客席に頭から墜落。エイハブストライク頭部のV字アンテナは、四本すべてがぽっきりと折れてしまった。

 

『だだだ大丈夫ですか先輩っ!?』

「ああ、うん、平気だよシキナミさん……あの機体、転校生の、えっと、ヒムロ君……!?」

 

 珍しく取り乱した様子のシキナミに答えつつ、コウタはメインカメラを闘技場へと向けた。あの凄まじい弾幕は自分を離脱させるための目晦ましだったらしく、もう撃たれてはいない。闘技場の乾いた地面に立つのは、二機のガンプラ――ヤマダ・アルベルトのジンクスⅣ・アガートラームと、ヒムロ・ライのガンダム・クァッドウィングだけだ。

 

『そ、そうですか、平気ですか……じゃ、じゃあさっさと立ってください。いつまで寝ているんですか、本当に情けないですね』

「はは、手厳しいね……でも、エイハブストライクは足が限界だ。残念だけど……」

「お気になさらずですっ、先輩さん♪」

 

 何とか立ち上がろうともがくエイハブストライクの両脇に、二機のガンプラが着地した。イマのターミガンと、アンナのガトキャノン。両機とも、手に持った大型銃器の銃口から、細く白煙をたなびかせている。

 

「世のため人のため人助け、正義の味方の登場ですっ♪ あのデカ剣デカ盾シルバーやろーは、マスターとイマとアンナさんで、やっつけちゃいますから♪」

「せ、先輩には、あの時、助けてもらいましたから……恩返し、ですっ」

 

 一方的に送り付けた通信画面で、ばっちりウィンク横ピースをキメるイマ。アンナはポーズこそ決めたりはしないが、真剣な表情でコウタに告げる。コウタは素直に「ありがとう」と言いかけるが、それを遮るように、シキナミが通信に割り込んだ。

 

『何ですか、あなたたちは。バトルロイヤルで人助けなんて、とても正気とは思えません』

「し、シキナミさん、そこまで言わなくても……と言うか、僕のこともそう思っていたの……?」

『先輩は黙っていてください』

「は、はい……」

「ツンツンしたおねーさんですねー。イマ、悪いことなんてしませんよ?」

『ともかく、あなたたちをそう簡単に信用はできません。私の先輩に近づかないでください』

「ほうほう。私、()?」

『わわわ私()先輩に近づくなと言っているんです!』

 

 なんなの、この女子小学生は! なんで部活のバトルに小学生がいるの! なんでこんなのにペースを乱されなきゃならないの! 

 シキナミは内心の動揺を悟られないよう必死で鉄面皮を装いつつ、呼吸を整えた。ペースは乱れていても、口では刺々しくても、仕事はする。突然現れた三機に、敵対の意思はない。仮に、味方とマーキングしておく――そして、気付いた。レーダー画面に、アガートラーム以外の敵が出現していることに。

 

『先輩、敵増援です。九時上方、ミサイル来ます』

「迎撃は、私に任せてくださいっ」

 

 ガトキャノンのFCSが飛来するミサイルを捉え、肩口のマシンキャノンが猛然と火を噴いた。GBNはあくまでもゲームであり、ゲームバランス的な意味合いで、バルカン系の火器は自動照準補正(エイムアシスト)を大幅に高められている。アンナがばら撒いたマシンキャノンの弾幕は、的確にミサイルを射抜き、爆破。対艦クラスの大型弾頭だったミサイルは巨大な爆炎の花を咲かせ、コロセウムとコロニーの空を夕日のように照らしだす。

 

「お役に、立たなきゃ……お兄さまの、お役に……!」

 

 赤々と照らされた空の中を降りてくる、一機のガンプラ。芽吹いたばかりの新芽を思わせる、新緑色の艶やかな塗装。丸く盛り上がった肩に、すらりと伸びた長い脚部。曲線を主体とした優美なシルエットだが、その背部には太く長い対艦ミサイルが何本も並び、突き出している。煌く粒子を身にまとい宙に舞うその姿は、さながら降臨する女神のようだ。

 

「あの機体カラーに、対艦ミサイルの配置……パラス・アテネ……?」

『いいえ、先輩。敵機よりGN粒子反応を検出。OO(ダブルオー)劇中でイノベイターが使用したGNZシリーズ、ガッデスの疑似太陽炉です』

「何者であろうとも構いはしません! マスターとイマの間に割り込むような悪いガンプラはぁ――成敗ッ! なのです!」

 

 あまり似ていないライの声マネをしつつ、イマはターミガンの両手にクァッドバスターライフルを構える。アンナはガトキャノン背部のシールドブースターを外し、倒れて動けないエイハブストライクを守るように観客席へと突き立てた。

 

「サツキ先輩、これでなんとか耐えてください……恩返しになるよう、頑張りますからっ」

「ありがとう、ガトウさん……」

 

 その通信を最後に、エイハブストライクは全身のPS装甲が解除(ディアクティブ)された。撃墜判定こそされていないものの、右脚の損壊もあり、戦闘への参加はほぼ不可能だろう。

 

「お役に立つんだ……わたくしは、いつまでも……お兄さまのお荷物では、いられませんわ!」

 

 ターミガンとガトキャノンを見下ろす新緑色の女神は、一層激しくGN粒子を噴き出し、手に持った細長い槍のようなライフルを構えた。

 

「ヤマダ・フレデリカ……ガデス・アテネ! 参りますわ!」

 

 通信機越しに聞こえるフレデリカの声は、決意と、そしてどこか悲壮感に満ちていた。しかし、だからといって、戦いは止められない。イマとアンナはフットペダルを踏みこみ、それぞれの愛機を跳躍させた。

 

「ヒムロ・イマ! ガンダム・ターミガン! いっきまぁーすっ♪」

「ガトウ・アンナ。ガトキャノン・オーク……う、撃ちまくりますっ」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 一撃必殺。それこそが、ライの流儀(スタイル)だ。

 超高推進力の四枚羽根が実現する、瞬間移動の如き稲妻機動。射程距離を犠牲に小型化し、威力と速射性に特化した超高出力ビーム兵器(バスターマグナム)。積極的に相手の懐に入り込み、零距離射撃を狙う戦法。全ては、一撃必殺のため。

 しかし、この戦いでライは、もう三度目となるバスターマグナムのトリガーを、引かざるを得なかった。

 

「……ッ!!」

 

 ドッ、ビュオォォンッ!

 アガートラームの側頭部を捉えた銃口から、圧倒的なエネルギー量が洪水の如く迸る――しかし、撃ち抜けない。さすがに無傷ではないが、有効打ともとても言えない。表面装甲が焼け焦げた程度の損傷だけで、アガートラームはまた大剣を振り上げた。

 

「良い攻撃だけれど、足りないね!!」

 

 大地ごと打ち砕く、豪快な叩きつけ。超重大剣は切っ先から柄頭まですべてが太く分厚く重く、一振りで絶大な破壊力を発揮する。それは単純な物理攻撃でしかないはずなのに、まるで爆発物でも仕込んでいるかのように闘技場の石畳が爆裂した。

 ライは稲妻機動で回避後退、無駄を承知で中距離からバスターマグナムを一射。しかし、拡散するビームの光を掻き分けるようにして、アガートラームはシールドを掲げ猪突猛進、突っ込んでくる。

 

「こんなものかい、転校生クン!」

「…………ッ!」

 

 叩きつけ、叩きつけ、薙ぎ払い、叩きつけ、直突き。軽量な片手剣でも振り回すかのような気軽さで、当たれば大破撃墜確定の超重大剣を繰り出してくる。左手の大型実体盾を反動制御(カウンターウェイト)に使い、まるで踊るような足さばきで、全身重装甲の巨人は暴れまわる。まるで一撃必殺のお株を奪われたような状況だが、ライは間一髪での回避を繰り返しながら、剣舞の隙を探り続ける。

 

「ははは! これではまた、愛する妹から尊敬されてしまうなあ! 兄冥利に尽きるというものだよ!」

「……そこッ!」

 

 横薙ぎの大剣を跳んで躱し、ウィングスラスターを四枚全開。慣性を無視したような常識外の鋭角で方向転換、そして突撃。銃口を突き付けるのは、先ほど一撃を加えた側頭部。しかし、

 

「甘いね!」

「くっ!」

 

 ガゴォォンッ!

 横薙ぎの反動を使い振り上げられた大型実体盾が、クァッドウィングの腹を突き上げた。文字通りの意味で腹の底から突き上げられる衝撃に、クァッドウィングは打ち上げられる。即座にスラスターを吹かして姿勢制御、追撃に斬り上げられた大剣の一撃を何とか躱し、距離をとって着地する。

 

(剣の方をカウンターウェイトにして、盾で攻撃……ッ! 見切られていた……ッ!?)

「ははは、良い攻撃だったがありきたりだね。一度当てた場所に重ねて攻撃――私の装甲を抜こうとした相手が、みな一度は試す手だ。重装甲相手の定石(セオリー)だけれど、常識(セオリー)過ぎて対策も簡単だよ。サカキたちを追い払ったと聞いていたから、どんなに刺激的な転校生かと思っていたのだけれど……意外と結構真面目なんだねぇ、転校生クン」

「…………」

 

 揶揄するようなアルベルトの言葉に、ライは無言でバスターマグナムを構えることで返す。

 

「そしてキミは本来、格闘型のガンプラ使いじゃあないかい? 挙動の端々に、きっと君自身もなんらかの格闘技の経験者であろうクセが感じられるね。ところで、そんなキミが次に狙ってくるのは、さっきと同じく側頭部か、右肩か、右脇腹だ。この三か所はすでにそのライフルを受けている。いくらこのアガートラームが鉄壁でも、その高出力のライフルをもう一度受ければ、確かにダメージは入るだろうからね」

「……よく舌が回ることだ」

「はは! すまない、楽しくてね! ようやく私と勝負の成り立つ相手が現れてくれて! なにせこの試合では〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟は先手厳禁、つまりは〝十一人〟同士では戦えないからね。キミのような新人が来てくれることを、望んでいた――の、さッ!!」

 

 アルベルトは涼し気な美貌に笑顔を浮かべ、フットペダルを蹴り込んだ。アガートラームは操作に応え、シールドを前面に掲げてホバー走行、土煙を蹴立てながら突っ込んできた。ライはアガートラームを真正面に見据えて腰を落とし、四枚のウィングスラスターを大きく左右に展開した。

 

(バスターマグナムですら抜けない重装甲。おそらく、GNフィールドも常時全面展開。二発目を同じ位置に当てさせてくれる相手でもない。ならば、狙うはやはり一撃必殺。装甲が甘く、GNフィールドの守りも薄い、一発で撃ち抜ける部位――バーニア・スラスターや太陽炉の開口部、そして関節。そこに、捻じ込めれば!)

「さあ、次はどうする! 転校生クン!」

「…………ッ!!」

 

 怒涛の勢いで迫りくるアガートラームに、ライはむしろ自分から突っ込んでいった。クァッドウィングは双両翼を広げて最大加速、大型実体盾に額を擦らんばかりの距離まで肉薄した。

 

(自暴自棄? 肉弾特攻? いや、違うな!)

 

 衝突寸前の刹那、アルベルトの視界から、クァッドウィングが消えた。そこに残るのは、鋭い稲妻を描く青いバーニア光の軌跡のみ。光の航跡は衝突直前の地点からアガートラームの側面を通り、背後へ伸びている。

 

(バックをとるか。本当に真面目だな!)

 

 アルベルトは多少の落胆を感じつつも、身体ごと豪快に反転しながら、シールドを横薙ぎに振り抜いた。ちょうど180度回転したところで、ガシャンと、シールドが何かを叩いた――しかし、軽い。軽すぎる。それもそのはず、大型実体盾に叩かれ砕け散ったのは、クァッドウィングではなく、バスターマグナムが一丁のみなのだから。

 

(囮っ!? 本体は……ッ!)

 

 青い光の航跡は、まだ続いている――アガートラームのさらに180度先まで、回り込んでいる!

 

「一周したのかあッ!?」

 

 アルベルトが背後からの一撃程度なら簡単に対応するであろうことを見越して、ライは振り向いたアガートラームの、さらに背後(・・・・・)にまで移動していた。クァッドウィングは石畳を蹴り砕いて踏み込み、まるで正拳突きを見舞うように、バスターマグナムを突き込んだ。狙うは、アガートラームの背面に特徴的な三角錐型を突出させる、疑似太陽炉のコーンスラスター部。

 

「……いただくッ!」

「まだだッ!」

 

 ドッ、ビュオォォンッ!

 迸る黄金色のビーム。しかしその奔流は、疑似太陽炉を直撃はしなかった。アガートラームはホバー走行でクァッドウィングから距離を取り、そして膝をつく。直撃こそしなかったものの、ほぼ零距離射撃に近い攻撃を受け、アガートラームの太陽炉は一部が黒く焼け焦げていた。GN粒子の出力は不安定になり、機体性能は全般的に低下。アルベルトの額には、今まで一筋たりとも流れていなかった冷汗が光っていた。

 

「はは……! ひやりとしたよ、転校せ……いや、ヒムロ・ライ君」

 

 シュルルルル、と硬質な金属音とともに、ワイヤーが巻き取られていく。超重大剣の柄に繋がるワイヤーの反対側の端には、オルフェンズ系のガンプラが装備するようなメイスが繋がっていた。

 

「この超重大剣(クラウソラス)仕込み武器(アンカーメイス)がなければ、今の一撃で終わっていたかもしれないね」

「くっ……!」

 

 バスターマグナム零距離射撃の瞬間、アガートラームはクァッドウィングに完全に背を向けており、剣も盾も間に合わない状態だった。しかし、大剣の柄(・・・・)は、クァッドウィングの方を向いていた。メイス型になった大仰な柄頭は、大剣の重量をいなす重り(カウンターウェイト)としてだけではなく、射出式アンカーとしても使えたのだ。

 射出されたアンカーメイスはクァッドウィングの左肘を直撃し、破壊。結果、乾坤一擲のバスターマグナムは狙いを外し、そして今、クァッドウィングの左腕はまるで意味をなさないプラスチックの塊となって、肩からぶら下がっているだけとなった。

 

「さて、状況を整理しよう――私のアガートラームは、疑似太陽炉を損傷し出力がダウン。機体性能は、二割減といったところだ。一方キミのガンプラは、片腕を失った。主武装も破壊されているとみるが、どうだね?」

「…………」

 

 バスターマグナムを二丁とも失い、さらに隻腕。状況は指摘されたとおりだ。ライは無言で唇を真一文字に引き締めつつ、アルベルトを睨み返した。

 

「……ふっ。キミは本当に素直だね、ヒムロ・ライ君。その無言が何より雄弁だよ」

「……だから、何だ。まだやれる」

 

 ライは静かに言い返し、コントロールパネルを何度かタッチして、部位破壊判定の下された左腕を排除(パージ)した。

 そして深く腰を落とし、右拳を固く握る。まるでGガンダムのような、徒手空拳の構えだ。バスターマグナムを失おうとも、ライにはまだ現実世界(リアル)で師匠から学んだ拳法があり、モビルファイター由来のフレームと関節構造を持つクァッドウィングは、ライの拳法に十分に応えてくれる機体だ。さらにクァッドウィングには、右腕さえ無事なら使える必殺技(ブライクニル・フィンガー)もある。

 

「はは、見立て通りだね。キミはやはり格闘家だったか」

「……もう一戦。手合わせ願いたい、先輩」

「ああ、喜んで。妹も見ているっていうのに、後輩に膝をつかされたままで終われないさ」

 

 アガートラームも立ち上がり、盾を捨て、クラウソラスを両手で構える。おそらく両手で剣を構えるその姿こそが、ヤマダ・アルベルト本来のスタイルなのだろう。GN粒子の出力は下がったなどと言いながら、その構えから感じる威圧感(プレッシャー)はむしろ強まった。

 

「あらためて、名乗らせてもらおう。〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ジンクスⅣ・アガートラーム」

「……ヒムロ・ライ。ガンダム・クァッドウィング」

 

 構える二者の間に流れる、束の間の静寂――しかしそれは、彼ら以外によって打ち破られた。

 

「きゃああああっ!」

 




 ブルーブレイヴ第二話Cパートでしたー!
 早くも長くなるが発症し、CまでのつもりがDパートへの突入が確定してしまいました。なるべく展開を早くしようとは努力しているのですが……どうか今後もお付き合いください。
 自分で書いておいてアレなんですが、シキナミさんがなかなかいいキャラを出せていると思うのですが、どうでしょうか。今後はイマあたりと絡ませて赤面からのコウタ先輩への照れ隠し罵り&お叱りとかのゴールデンごほうびコンボを決めまくりたいと思います。(笑)
 第二話が終わった後ぐらいで、ガンプラ紹介を載せようかと考えています。クァッドウィングはもう完成しているので、あとは記事を書くだけなのですが。どうぞご期待ください。
 感想・批評もお待ちしています。お気軽にどうぞ!


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Episode.02-D『ウバイアイ ソラ ④』

どうもこんばんは。
第二話、ようやく最終パートです。
どうぞご覧ください!


「あああ、アカツキ先生! ぼぼ、ぼくと、付き合」

「ブチ撒けるぜェェッ!!」

 

 ちゅどぉぉぉぉん。重装型のレギンレイズ、爆散。

 

「ナツキせんせぇ、女の子同士でも愛」

「ぶっとべェェッ!!」

 

 ちゅどごぉぉぉぉん。ピンク色のスローネドライ、爆散。

 フォースネストコロニー中央、魔王城・城門付近。戦場のど真ん中に、もう何発目になるかわからない盛大な花火が上がった。

 

「……ッたく、なんでどいつもこいつも撃つ前に話しかけてくンだァ? ルールわかってンのかよォ」

 

真っ黒焦げのプラスチック片となって墜落する生徒のガンプラたち。落ちていく先にはすでに、同じように撃墜された生徒たちのガンプラの残骸が山となっている。その光景に困ったように言い捨てつつ、ナツキはぽりぽりと頭を掻いた。そのモーションを検知して、ナツキが乗るガンプラも同じ動きをする。

 真紅の装甲と重装備を身にまとう、典型的なジオン系MS。名を、グフリート・改八型(エイトカスタム)

 一年戦争時のジオン系格闘型MSであるグフとイフリートを組み合わせ(ミキシング)、さらに二門のジャイアント・バズと二枚のミサイル内蔵シールド、二基の二十八連装ミサイルランチャー、二本の大型ヒートホークを装備し、高火力・重装甲、そして機動・運動性能という相反する要素を、高いレベルで両立させた機体だ。

 

「奇襲の一つもかけりゃァいいのに、わざわざ通信開いて真正面から何か叫びながら……どうせ爆発で何も聞こえねェのに、何がしてェんだウチの部員たちは」

 

 教え子たちの不出来を嘆き、ため息を吐く。黒焦げにされた生徒たちが勇気を振りしぼって言いかけていたセリフは、どうやらまったく聞こえていないようだ。

 ――長丁場のミネバ・バトルロイヤルも、もう終盤。ショウカとのチェス対決を譲ってやった(・・・・・・)ナツキは、魔王城の門番を自ら買って出た。ナツキも〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟の一人である以上、自分から攻撃を仕掛けることは禁じられている。それでもガンプラバトルに興じたいのであれば、一番の激戦区で待ち構えるのが上策……そして丁度、もう一つ。いや、ついでにもう一人のこと(・・・・・・・)についても、そろそろ動いておきたいところだったのだ。

 

「なあ、どう思うよサカキィ?」

 

 本当にわかっていない様子のナツキの言葉に、サカキは被せるようにため息を吐いた。

 

「アンタはもうちょっと、察しと言うか……」

「お? なんだァ、サカキ。はっきり言えよ、聞いてやるぜェ?」

「いや、別に……なんでもねぇっす。次、来るぜ。ザクⅢ改!」

 

 悪戯っぽく笑うナツキ。本当の本当に、気づいていないらしい。サカキはため息をもう一つ、せっかく考えたであろう告白(セリフ)を言い切ることもできずあえなく散っていった同級生だか後輩だかも知らない部員たちに「相手が悪かったな」と弔辞を送りつつ、旧型のザクマシンガンを構えた。

 今のサカキのガンプラは、無改造の旧ザクだ。キットこそオリジン版で関節機構などは比較的新しいタイプのものだが、それ以外は基本的なゲート跡処理とスミ入れ、艶消しトップコートぐらいしかしていない。

 

『テメェら、ガンプラで人様に迷惑かけてンだ! 学校での補習だけで終わると思うなよォ!』

 

 という顧問(ナツキ)の一喝は、もう三日前のこと。以来サカキたち三人組は学校での補習と反省文、奉仕作業に加えてGBNでのボランティア活動にも駆り出されていた。この旧ザクは、自分のガンプラを使うことを禁じられたサカキたちが、GBNでのボランティア活動用にナツキから押し付けられたものだ。

 留年か進級かの分かれ目だった春休みの補習も結構な地獄だったが、今回の補習はそれ以上に地獄だった。約束を破り、後輩の女の子を怖い目に合わせたことを考えれば、それも当然。サカキは愚痴を言い(そしてナツキにヘッドロックからの拳で頭グリグリされ)つつも、補習とGBNでの奉仕作業をした。

 しかしあとの二人は、二日目からもう、学校に来なかった。自主退学したそうだ――そして、その時、初めて知った。本来なら三人とも即時強制退学だったのを、ナツキが理事長に掛け合って、その期限を先延ばしにしてくれていたことを。あの後輩女子(ガトウ・アンナ)の親に、頭を下げに行ってくれていたことを。

 

『……やってらんねぇだろ、サカキさん。バックレようぜ』

 

 補習を最後まで受けて下校するサカキの前に現れた二人は、そう言ってバイクの鍵を投げ渡した。しかしサカキは一秒だけ掌の上の鍵を見詰め、無言で投げ返した――そしてまただらだらと愚痴を漏らしつつ、そしてナツキに頭をグリグリされつつ、サカキは今日もGBNにダイブし、使いたくもない旧ザクで部活動に参加したのだ。

 

「ハッハァ、まだ来るかよ! テメェ相当に恨みを買ってンなァ、サカキ! 挑戦者が次から次にじゃねェか!」

「いや、お目当てはセンセだろ……ま、気持ちはわかるけどよ」

「あァ? 何か言ったかァ?」

「な、何でもねぇっすよ!」

 

 サカキは誤魔化すように大声で叫び、ザクマシンガンのトリガーを引いた。合わせ目消しもしていないモナカ構造のザクマシンガンの精度は、使い慣れたヤクト・ズールのビームマシンガンとは比べ物にもならず、敵を掠りもしない。

 

「ンだよ、サカキ! 自分のガンプラじゃなきゃあその程度かァ? あのヤマダと〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟争いをしてた頃を思い出せ! やればできる、ってなァ!」

「ふ、古い話すんじゃねーよ!」

 

 古傷をくすぐられ、狙いがブレる。他の奴に言われたらすぐにでもぶん殴るところだが、なぜかナツキに言われてもそんな気にはならない。他の奴が言外に含める「前は強かったのに」というじめじめとした雰囲気が、ナツキの言葉には全くないからだろうか――と、その時。ブレた銃弾が何の偶然か、突っ込んでくるザクⅢ改のモノアイを貫いた。よろよろと蛇行したところへ、グフリートのジャイアント・バズで爆撃。おそらくはナツキ目当てで突っ込んできた一部員は、何も言えないままに撃墜されてしまった。

 

「ぃよっし、一機撃墜っと! 顧問で〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟とはいえ、部のルールだからな。オレもルール通り勝ち残って、部室でGBNさせてもらうぜェ! ハッハァ!」

「ったく。センセのくせに、子供かよアンタは」

 

 無邪気にガッツポーズを決めるナツキの笑顔に、サカキは軽くため息を吐く。

 コロニー上空を見上げれば、濃紺の宇宙を移す天窓に表示された残りダイバー数はあと121となっていた。

 試合終了まで、あと一人。次に誰かが撃墜されれば、今期のミネバ・バトルロイヤルは終わる。

 

(チッ。適当に死ぬつもりだったのに……生き残っちまったじゃねーかよ)

 

 いまいち性能の低い旧ザクのレーダーを信じるなら、周囲数キロに敵影はなし。どうやら、最後の一人になるのは自分たちではなさそうだ。

 部室の使用権を勝ち取ってしまったら、きっとナツキはサカキの居心地の悪さなど無視して、むしろそれも罰の一部だとでも言わんばかりに、部室でGBNをさせるのだろう。部員に、部長に、そして例の後輩女子に頭を下げて、部室の一番隅の端にでも、目立たないように座って……もう一度、ちゃんと、部活に戻る。

 

(面倒くせぇ……まったく、面倒くせぇことさせてくれるぜ、ナツキちゃんよお)

 

 そんな日々を想像して、サカキはこの三日でもう何度目かのため息を吐く――ただしその口元は、微かに笑っているようだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「あらためて、名乗らせてもらおう。〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ジンクスⅣ・アガートラーム」

「……ヒムロ・ライ。ガンダム・クァッドウィング」

 

 構える二者の間に流れる、束の間の静寂――しかしそれは、彼ら以外によって打ち破られた。

 

「きゃああああっ!」

 

 絹を裂くような悲鳴。それは悲鳴にも関わらず気品を感じさせるものだったが、その後に続いた墜落の爆音は、ライの耳朶を遠慮なく打った。

 墜ちてきたのは、曲線的なデザインをした緑色のガンプラ――フレデリカのガデス・アテネ。落下の衝撃はGNフィールドで相殺したようだが、そもそも機体はボロボロだった。右手と右足は喪失、全身に無数の弾痕が穿たれ、手持ちの武器も失っているようだ。

 

「へへん、どーです! やってやりましたよっ、マスター! えっへん♪」

 

 通信画面にでかでかと現れたイマのドヤ顔だが、その頬が黒く煤に汚れている。サブカメラで確認すると、ターミガンはコロセウムの端、石造りの観客席の上に腹ばいになって倒れたまま、グッと親指を立てていた。

 

「私たちもちょこっとだけ、やられちゃいましたケド……てへへ」

 

 言いながら、イマはばつが悪そうに舌を出す。ターミガンが腹ばいになっていたのは、何もイマが楽をしたかったからではない。ターミガンの両脚が、膝から下が、まるごと消失していたからだ。観客席の少し離れた場所には、銃身が焼け爛れもはや使い物にならないであろうクァッドバスターライフルも転がっている。

 

「ま、まだ撃墜判定はされていません。私たちは大丈夫ですから……っ」

 

 その隣でアンナのガトキャノンも、片脚を失った状態で観客席に倒れ込んでいる。両肩のシールドと両手のガトリング砲も、破壊されてしまったようだ。しかし、ひび割れたゴーグルアイは光を失っておらず、まだ機体は生きていると訴えている。

 

「……後は、任せろ」

 

 通信ウィンドウ越しに頷き返し、ライは再度、アガートラームへと向き直る――が、拍子抜けしてしまった。

 

「リカ、大丈夫かリカぁぁぁぁっ!?」

 

 超重大剣(クラウソラス)を投げ捨て、ガデス・アテネにすり寄るアガートラーム。クァッドウィングに無防備な背中を晒し、さらにはコクピットハッチまで開いている。アルベルトはさすがにコクピットから飛び出すことまではしていないが、今にも飛び出さんばかりの勢いで身を乗り出し、形の良い眉を歪めて妹に呼び掛けている。

 

「何で前に出たりしたっ! お兄ちゃんが全部片づけてあげるからと、あれほど!」

「も、申し訳ありません、お兄さま……」

 

 ガデス・アテネのハッチも開き、兄とよく似た豊かに波打つ銀髪の美少女が、顔を出す。儚げな美貌に似合わず、額に汗など浮かべているが、その表情はどことなく自慢げだ。おどおどとした瞳の奥に、やり遂げたという満足感が見え隠れする。フレデリカは兄に訴えるように、ほんの少し声を強くして言った。

 

「り、リカは、お兄さまの役に立ちたくて……お相手の支援型のガンプラ、二機と相打ちまで持ち込みましたから……!」

「無駄なことを!」

 

 ――フレデリカの、表情が。ぴしりと音を立てて、凍り付いた。

 

「おまえはそんな危ないことなんてしなくていいんだよ、リカ。お兄ちゃんが全部片づけてあげるから、リカは後ろで待っていればいいんだ。弱いくせに前に出たりして、お兄ちゃんを心配させないでおくれ、私の可愛いリカ?」

「で、でも、リカは……お兄さまの、お役に……」

「いいから下がりなさい、リカ。おまえに苦労なんてさせないよ。この程度の相手なんてお兄ちゃん一人でなんとでもなるんだから、大人しく下がりなさい。おまえは、私の言うことを聞いていればいいんだよ」

 

 凍り付いた表情が、さらに温度を失い、曇っていく。フレデリカは力なく項垂れたまま、消え入りそうな声で、一言だけ呟いた。

 

「はい……お兄さま……」

「よしよし、良い子だね、リカ。あとはお兄ちゃんに任せなさい」

 

 アルベルトは安心したように息を吐き、慈愛に満ちた表情でフレデリカを見下ろしながら、コクピットハッチを閉じた。そしてゆっくりと、アガートラームを振り返らせる。地面に突き立っていたクラウソラスを引き抜き構え直し、先ほどまでの妹への猫なで声とは一転、地獄の底から響くような低く凄みを帯びた声で告げる。

 

「我が愛する妹を傷つけた、重罪……断罪せざるを得ないッ! トランザムッ!!」

 

 びりびりと、声圧が衝撃となって響き渡る。アガートラームから噴き出すGN粒子が一瞬にして赤く染まり、機体全体を包み込んだ。太陽炉の出力を限界まで引き上げる特殊スキル、トランザムだ。赤く輝くGN粒子がクラウソラスに浸透し、ただでさえ一撃必殺級の破壊力を、過剰殺戮(オーバーキル)級にまで高める。

 しかし、その猛烈なプレッシャーを前にして、ライの心は別の次元を彷徨っていた。

 

(……あの、言葉……あの思考は、まるで……ッ!!)

 

 よみがえる記憶。少年時代の記憶。薄暗い部屋。取り囲む画面、画面、画面。唸りを上げるファン、冷却装置の山。星の数ほどの計算を繰り返す、機械、機械、機械――少女。幼い、稚い、少女の姿――

 

『……ライ君。あなたは、私の言うことを聞いていればいいんですよ』

 

 笑う、嗤う、哂う、男。黒い、暗い、闇のような、蛇のような、冷笑。でも、俺は――俺は――言われるが、ままに――

 

「あわわわわ、まま、マズイですよマスター! トランザムライザー級のエネルギー量が、あのどデカい剣に集中していますっ!」

「この試合(ゲーム)は、生き残れば勝ちですっ。に、逃げてください、ライ先輩っ」

 

 二人の声に、意識が引き戻された。吹き荒れる高圧縮GN粒子の豪風、深紅に染まった銀色の巨人。今にも飛び出さんとする巨躯の番兵を前にして、ライは握り締めていた右拳を掌打の形に構え直した。

 

「――ここで退いては、俺の正義が廃る」

 

 強制排熱機関、粒子冷却機構、全力全開(フルドライブ)。不要な熱量が陽炎となってウィングスラスターから排出され、同時にクァッドウィングの右掌から、青白銀色の冷却粒子が噴出する。

 

「ははっ! それが噂の、氷のシャイニングフィンガーか!」

「……来い、ヤマダ・アルベルト。お前は、俺の正義に反する……ッ!」

「ならば行かせてもらおうか、妹の分までッ! はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 紅く染まった銀の巨人が、粒子をまき散らし土煙を蹴立てながら、猛然と突撃した。アガートラームは重量のわりに柔軟でスムーズな動作をしていたが、今のアガートラームの突撃力は、それ以上。高機動型のMSに勝るとも劣らない。重量と速度の乗算からはじき出される破壊力にGN粒子の出力まで加われば、もはやその一太刀は戦術兵器に近い。

 ライはブライクニルフィンガーを構ええたまま低く腰を落とし、ウィングスラスターを大きく左右に展開した。眼前に迫る、城塞が如き巨躯。高々と振り上げられた超重大剣(クラウソラス)。だが、粒子そのものの活動を凍結させるブライクニルフィンガーは、どんな攻撃であろうとも停止させる!

 

「貴様の独善と傲慢……凍りつく(とき)の中で、悔い改めろッ!!」

「断るッ!」

 

 右掌を突き出すクァッドウィングの頭上を、ライの動きを模倣したかのような稲妻機動で、アガートラームは跳び越えていった。トランザムの出力で無理やり軌道を捻じ曲げたような稲妻機動は流石に本家本元のクァッドウィングには及ばなかったが、それでも、ブライクニルフィンガーを空振りさせるには十分だった。

 

「……ッ!?」

「妹を撃ったのはッ! 貴様らだなァァッ!!」

 

 アルベルトは怒声を張り上げながら着地、その後の一瞬の硬直すらトランザムの出力任せにキャンセルして、観客席へと――そこに倒れ伏し身動きの取れないターミガンとガトキャノンへと、クラウソラスの切っ先を向け、突撃した。

 

「ほあーーっ!? こ、ここでイマたちですかぁーーっ!?」

「い、イマちゃん逃げてっ」

 

 アンナはガトキャノンに残された右肩のマシンキャノンを撃つが、アガートラームにとってそんな銃弾など豆鉄砲以下。ましてやトランザムの勢いまで乗せた突撃が、止まろうはずもない。

 

「イマっ、ガトウっ!!」

 

 ライはウィングスラスターを全力で逆噴射、超鋭角で機体を反転させ、飛び出した。いくらトランザム中でも、アガートラームは重装備の重量級ガンプラ。生粋の高機動型であるクァッドウィングの全速力なら追いつける。

 

(間に合え……ッ!!)

 

 しかし、間に合わない。ブライクニルフィンガーがアガートラームを捉えるよりも、クラウソラスがイマとアンナを両断するのが、先だ。ほんの一秒ほどの差だが、このままでは、間に合わない。

 

「とどけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 それでも、ライは手を伸ばした。氷結粒子を纏った右掌を、前へ前へと伸ばし続ける。ジオングのような射出機構も、石破天驚拳のような飛び道具も、この手にはない。だが必死で、我武者羅に、先を行くアガートラームの背中を掴もうと、ただひたすらに手を伸ばす。

 後、一歩。だが、アガートラームの剣は、クラウソラスは、今まさに――

 

「お兄さま、危ない!」

 

 割り込んできた、新緑色のガンプラ。満身創痍のガデス・アテネが、トランザムの出力を全て加速に回し、アガートラームとクァッドウィングの間に滑り込んできた。必然、ライのブライクニルフィンガーはガデス・アテネの顔面を鷲摑みにし、巨大な氷柱を出現させる。

 

「なん、だとッ!?」

「リカっ!?」

「お兄さまは、わたくしがお守りしま……」

 

 ただでさえ撃墜寸前だったガデス・アテネは、その一撃で完全に沈黙。クァッドウィングがガデス・アテネの頭部を握り潰すのと同時、氷結粒子の氷柱は崩壊し、辺り一面に冷え切った粒子結晶と凍てつく旋風が吹き荒れた。

 

《――BATTLE ENDED!!》

 

 戦闘終了を告げるシステム音声。コロニーの天窓に映し出された人数表示は、フレデリカの戦闘不能(リタイア)を受けて、120となっていた。この瞬間、フォースネストコロニー内の全てのガンプラはその活動を完全に停止させられ――アガートラームが突き出した超重大剣は、ターミガンの目の前わずか数センチのところで、止まっていた。

 

「た、助かっ……た……?」

 

 気の抜けたようなイマの呟き。イマは空気の抜けた風船のようになって、ぐんにゃりとコクピットにへたり込んでしまった。アンナも半泣きに張りながら、「よかったあ」と座り込んでいた。

 

「……ヤマダ・フレデリカ」

 

 ライはクァッドウィングの掌に残った新緑色のプラスチック片を見詰めながら、彼女の名を呟いていた。氷結粒子が雪のように降る中、ガデス・アテネの残骸は、何も言わずに闘技場の地面に散らばっている。

 

「……決着は次の機会だ、ヒムロ・ライ君」

 

 通信機を通さない、アルベルトの肉声。見ればアルベルトは、生身でアガートラームの頭の上に立ち、クァッドウィングを見下ろしていた。ライもコクピットハッチを開け、クァッドウィングの掌へと飛び乗った。足元に転がる新緑色のプラスチック片を踏まないように気をつけながら、ライはアルベルトを見上げた。

 

「君もまた、我が愛する妹に危害を加えた。私の撃墜予定リストに、君の名を加えておくことにするよ」

「……好きにしろ」

「ともあれ、今回のミネバ・バトルロイヤルはこれにて終了。我が妹は、見た通りまだまだ弱くてね。なんとか部室を使えるようにしてあげようと頑張ったのだけれど……上手くいかないものだね、ガンプラバトルというものは」

「……彼女は、強いぞ。お前が思う、何倍も」

「おや、妹を擁護してくれるのかい? ありがたいけれど、惚れちゃあダメだよ、ヒムロ君。リカは、私のものだ。リカを愛していいのは、私だけだ――だから」

 

 銀髪の美丈夫は、ライの言葉などどこ吹く風。爽やかな美貌に余裕の微笑みを浮かべながら、演技がかった調子で、ライに告げた。

 

「私以外に墜とされてはいけないよ、ヒムロ・ライ君。妹を傷つけた人間を裁くのも、また兄の役目なのだから」

「…………」

 

 あくまでも涼しげな流し目と、感情を押し殺した猛禽の目。見下ろすアルベルトと見上げるライの視線は交差し合い、互いに一歩も譲らない。

 試合終了を受けてバトルシステムがダイバーとガンプラをフォースネストへと転送し始め、景色が、ガンプラが、ダイバー自身が、粒子の欠片となって消えていく。しかしその間も二人はただ黙って睨み合い、粒子の最後の一かけらが転送され切るまで、目を逸らすことはなかった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

《ミネバ・バトルロイヤル 試合結果(リザルト)

 

 峰刃学園高校ガンプラバトル部 総勢302名中 生存120名

 

 生存者 三年生、54名

     二年生、38名

     一年生、24名

     エルダイバー、3名

     教師、1名

 

最多撃墜賞  〝第六位(ミネバ・オブ・シックス)〟シシガミ・キド

最小被弾賞  〝第零位(ミネバ・オブ・ゼロ)〟ヒビキ・ショウカ

       〝第二位(ミネバ・オブ・ツー)〟ミカガミ・アルル

       〝第二位(ミネバ・オブ・ツー)〟ミカガミ・ルルカ

 

 生存者には、次回のミネバ・バトルロイヤル開催まで、部室の優先使用権を与える。

 また副賞として、今期エレメント・ウォーにて使用可能な500EP(エレメントポイント)を与える。

 

 私立峰刃学園高等部ガンプラバトル部 顧問 アカツキ・ナツキ

                   部長 ヒビキ・ショウカ




 ……と、言うことで。第二話Dパートでした。
 新入生歓迎会「ミネバ・バトルロイヤル」もようやく終わり、次回からはいよいよガンプラバトル部の活動が本格的に始まります。
 しかしたぶんきっと、次回の更新はガンプラ紹介のコーナーになると思います。できるだけ早くお届けできるように頑張ります。

 今回は今後の展開に関わる伏線をがっつり入れてみましたが、どうでしょうか。ライの過去に関わっている蛇のように笑う丁寧語の男とかいったい誰なんでしょう。まったく予想もつきませんねそうですね。知りたいあなたは前作「ドライヴレッド」を読もう!(ダイレクトマーケティング)

感想・批評お待ちしております。今後もよろしくお願いします。

12/23 追記
都合により、クァッドウィングのガンプラ紹介を第二話終了後から、第一話終了後に移動しました。ご了承ください。


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Gunpla.02『グフリート改八型』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 次はターミガンのガンプラ紹介がくると。いつから錯覚していた……?

 はい、すみません。私もそうしようと思っていましたし、今日の昼まで実際にそのつもりでトップコートを吹いていたのですが……

 途中で艶消しトップコートが切れるという、ね。(白目)

 そして近所の家電量販店のプラモコーナーに、光沢と半ツヤしかないという、ね。(白目2)

 そんなこんなで、以前に完成していたのですが紹介はあとにしようと思っていたナツキ先生のグフリートの紹介となりました。

 突然の予定変更ではありますが、どうぞご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:グフリート改八型(エイトカスタム)

武装  :ヒートホーン ×1

     マインボルト ×8

     複合兵装シールドシステム ×2

      ・ABCシールド

      ・五連装アーマーピアッシング・ミサイル

      ・近接格闘用ナックルガード

      ・マインボルト

     ジャイアント・バズ ×2

     有線誘導式アーマーピアッシング・ミサイル ×2

     二十八連装ミサイルランチャー ×2

     大型ヒートホーク ×2

特殊装備:シュツルム・ブースター

必殺技 :実弾フルバースト

 

①アクションポーズ・ジャイアント・バズ

 

【挿絵表示】

 

 現在では峰刃学園ガンプラバトル部の顧問となった〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟アカツキ・ナツキの愛機、グフリート改八型(エイトカスタム)です。名前からわかる通り、旦那との共同制作ガンプラとなっております。夫婦仲は良いようですね(笑)

 ベースとなっているキットは、HGUCイフリート・シュナイドと、HGBFグフR35の二つです。頭、胴体、肩、腰がイフリート、手足がグフです。前作でのナツキの機体、ドムゲルグと似たような構成となっております。カラーリングも二種類の赤とグレーでドムゲルグに酷似。スジボリを少し頑張って、スカート部や肩の先端、ヒザ装甲など微妙に赤の塗分けをしてみましたが、自分では結構気に入っています。

 主武装は、両手に持ったジャイアント・バズ二門。イフリートのキットほぼそのままですが、ガンメタで塗装し、センサー部にレンズパーツをはめ込んでいます。

 頭部の一本角は、某スパロボの人の機体のように、ヒートホーンとなっています。ついでにモノアイもレンズパーツに置き換えています。写真でも光を拾ってくれているのが見えますね。

 両肩の金色の円形ディティールは、もともとはイフリート・シュナイドのヒートダートがくっついていた部分です。前後に二つずつ、左右で計八個あるこのディティールは、炸裂ボルトを発展させた隠し武器「マインボルト」という設定です。射程距離は極めて短いですが、高い爆発力を発揮し、近接戦闘においてはなかなか侮れない威力を発揮します。取り外しも可能で、手持ちで投擲、敵の装甲の隙間に捻じ込んで爆破、などの使い方もできます。……まあぶっちゃけ、ヒートホーンあるなら肩にクレイモア的なものもつけちゃう? みたいなノリで考えた武器ですね(笑い)

 

 

②正面&背面

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 正面と背面から。

 こうして見ると、イフリートの胸部ブロックってすごく連邦的なデザインですよね。腰の動力パイプとかスカート部は完全にジオニック系に見えますが……。

 脚部はグフR35から持ってきたのですが、ヒザ部装甲こそグフらしいデザインですが、脚部全体のシルエットは私にはもう高機動型ザクにしか見えないですね~。バーニア・スラスター部は差し色として黒サフからのゴールド塗装にしています。腕部もグフなのですが、ヒートロッド射出口のない方のパーツを左右共に使用し、ヒートロッドは装備していないという設定です。どうにもナツキがムチを振り回すイメージができなくて……ナツキはどっちかというとベッドでは受け(強制削除)

 腰の動力パイプの横に突き出している円錐形のパーツは、有線誘導式のミサイルです。ブルーディスティニーの胸部についている奴とよく似た武器です。ただし、グフリートのこのミサイルは、先端部を頑丈な金属パーツで覆っており、まるで徹甲弾のように敵の装甲を貫き内部で爆発する、という設定です。ずいぶん昔のゴジラ映画でそんな感じのミサイルを自衛隊が使っていましたが、そこから発想を得ました。

 背面からの写真を見ると、バーニアやパイプのゴールドがけっこういい感じに見えますね。シールドとミサイルランチャー、ヒートホーク、シュツルム・ブースターなども、背面からの写真の方が見やすいでしょうか。

 バックパックから突き出すシュツルム・ブースターは、ドムゲルグの頃から続くナツキのお気に入り装備です。重装備・重装甲の機体を無理やり飛行させる高出力ブースターですが、ナツキの制作技術の向上により、ドムゲルグのものよりも小型化に成功。内蔵粒子量の関係で稼働時間の減少は避けられなかったものの、出力自体は高い水準を維持しています。グフリートは全身各部に大型のバーニアを装備しているため、シュツルム・ブースターがなくなっても、飛行こそできませんが、それなりの機動・運動性能は確保されています。

 ブースターの左右にあるのは二十八連装ミサイルランチャーです。中型のホーミングミサイルを片面十四基で両面に登載、それが二基で計五十六発。ドムゲルグ・デバステーターの三百発越えからするとずいぶん減ったように感じますが、それはドムゲルグが異常なのです(笑)

 両腕の複合兵装シールドシステムは、グフR35のシールドを改造したものです。スジボリを追加して塗分けた、赤とオレンジとグレーの感じがとても気に入っています。丸い覗き穴が開いていた部分は円形ディティールパーツで埋め、この部分を隠しマインボルトと設定。シールドバッシュからの爆破、といった使い方を想定しています。五連マシンガンだった部分を短く切り詰め、五連装アーマーピアッシング・ミサイルを装備しています。こちらのアーマーピアッシング・ミサイルは有線誘導ではありません。五連装で有線とか、からまっちゃう(笑)。ミサイルを撃ち切ったあとは、通常のシールド、シールドも耐久限界を迎えたらシールド部分をパージして、格闘用のナックルガードとして機能します。

 

 

③アクションポーズ・ヒートホーク&ミサイルランチャー

 

【挿絵表示】

 

 ジャイアント・バズを捨てて、高機動戦に移ったイメージでアクションポーズ。

 両手の大型ヒートホークはHGBCガンプラバトルアームアームズから。真っ白すぎて使いづらいかと思っていたのですが、塗装するとけっこういい感じに。刃と柄の間の大きく穴の開いていた部分は、プラ板で埋めています。

 ミサイルランチャーは、ガンプラではなくてフレームアームズのグライフェン拡張パーツセットからです。がんばればハッチは一つ一つ動かせるようにできそうでしたが、そこまでは加工していません。しかし手軽にこんな数のミサイルランチャーが作れるとは、なかなか便利ですね。フレームアームズはガンプラのパーツとしてばっかり買っているのですが、FAガールとか正直手を出してみたかったりなかったり。アニメ、けっこう僕は好きでしたよFAガール……と、そんなことはどうでもいいのです(笑)

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

……以上、ガンプラ作例紹介第二弾「グフリート改八型(エイトカスタム)」でした。

イフリート・シュナイドは可動域も広く造形も私の好きな感じで、なかなかに優秀なキットでした。グフR35も、シールド装着の向きが固定だったのがちょっと気になりましたが、改造のベースとしては面白いガンプラでした。

 トップコートが切れるというハプニングから、メインヒロインの一人を押しのけてナツキの機体紹介となりました。いくら作者のお気に入りキャラだからって、優遇されすぎだろ(笑)

 兎も角。今後も作中に登場したガンプラはできるかぎり作って……というか、まずはターミガンのトップコートをちゃんと吹いて、更新したいと思います。

 たた、家事の都合などにより年内の更新はこれが最後です。そろそろリアル妻がパソコン止めろと怒りそうですし(笑)

 では、来年もまたよろしくお願いします。

 感想・批評お待ちしています。今後もよろしくお願いします。



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Episode.03-A『タタカイ ノ ハジマリ ①』

 お詫びと訂正
 アカツキ・ナツキの年齢について、第一話Cパートで26歳としていましたが、よく考えたら物語のこの時点ではまだ25歳でした。感想欄でも指摘していただいてたのに、申し訳ありません……該当箇所を修正しました。

 何で今更気づいたかというと、今回の話で、彼女と同い年の前作キャラが今回登場するからです。
 アホな間違いに気づきもしないダメ作者ですが、今後もお付き合いいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします!




「単刀直入に言います。先輩と私のチームに、入っていただきたいのです」

 

 シキナミ・シオミは正直不本意だったが、先輩がそう決めたのだから仕方がなかった。最大限、内心の不本意さや不機嫌さが表に出ないように表情を作りながら、きわめて事務的に告げたつもりだった。しかし、

 

「えぇっと……は、はい……」

 

 おどおどと伏し目がちに、しかし流されるままという感じを隠そうともせず了承するアンナと、

 

「オケです! ですよね、マスター♪」

 

 何にも考えてなさそうな無邪気な笑顔で手を挙げて賛成しつつ、もう一方の手ではパフェを食べるのを止めないイマ。そして、

 

「…………」

 

 無言かつ無表情で腕組みをしたまま頷く、ライ。

 この人たちは本当に事の重要さがわかっているのかとシオミは頭が痛くなってきたが、その頭痛を爆発させたのは、他ならぬ先輩その人であった。

 

「本当かい? 嬉しいなあ」

「嬉しいなあ、じゃありませんよ先輩。本当にお気楽ですね、しゃっきりしてください!」

 

 がっ。ぐりぐりっ。テーブルの下で、コウタのつま先を踏んづける。シオミの衣装(ダイバールック)はガンダムSEED劇中より、ZAFTの指揮官クラスが着用する白い制服一式。足元は軍用ブーツであり、その固い踵でつま先をグリグリなどされれば、結構、痛い。

 

「わかっているんですか、先輩。この人たちと組むってことは、一緒にエレメント・ウォーを戦うということなんですよ。のんきに喜んでないで、先輩としての威厳をもってください。情けないですね」

 

 ガミガミくどくど。怒鳴るわけではないが、口調も丁寧だが……(プレッシャー)が強い。コウタがZAFT一般兵用の緑色の制服姿だということもあって、傍目にはどちらが先輩だがわからないだろう。

 

「あ、あはは。ごめんよ、シキナミさん。でもまあ、二人だけで戦うのは限界が……」

「私の戦術予報では不満なんですか!」

「そ、そんなことはないよ。いつも感謝してる、ありがとう」

「なな何を勘違いしているんですか。べべ別に、感謝してほしくてやってるわけじゃあないんですからねっ」

 

 赤面して顔を逸らし、また踵でつま先をぐりぐり……実に、ちょろい。そしてコウタは鈍感すぎる。人の顔色を窺うことに慣れているアンナは、「あ、そういうことか」とすぐに合点がいった。そして――いや、だから。遠慮がちに、ちょこっとだけ手を挙げておずおずと発言する。

 

「あ、あのっ、ご迷惑(・・・)でしたら別に、私は、そんな……」

「アンナさん、イマたちは誘われた側ですよ? 誘っといて迷惑なんて言われるわけないじゃないですかー♪ あ、パフェおかわりです! てーいん(店員)さーんっ!」

(い、イマちゃーんっ。〝ご迷惑〟の意味、察してーっ)

 

 眉をハの字にして顔だけでなんとか伝えようとするアンナだが、自分のほっぺについた生クリームにすら気づけないイマが、そんな微妙なアイコンタクトになど気づくはずもない。

 

「てーいんさーん! こっちこっちー♪」

 

 不機嫌なシオミ、困り顔で微笑むコウタ、おろおろするアンナ、終始無言のライ。そんなプチ修羅場の空気をものともせず、イマは元気一杯に手を挙げて叫んだ。周囲には他にも何人かの客がいたが、イマのよく通る明るい声は無事店員に届いたらしく、実に趣味的なフリルとリボンに塗れたメイド服姿の店員が駆け寄ってくる。

 

「はいはーい、ちょっち待ってやー♪」

 

 ――GBNが誇る広大な電脳遊戯空間(ディメンジョン)には、商業エリアというものがある。GBNの遊び方は多岐にわたり、ガンプラバトル以外にも、現実世界でできる多くの事が仮想現実(ヴァーチャル・リアリティ)として実現できる。この商業エリアはその代表例であり、実在する数多くの店や企業、時には個人が仮想店舗(VRショップ)を構えている。現実のくびきを外れた仮想現実の店々は、経営者たち想像と妄想の及ぶ限り、千差万別にして千変万化の様相を呈している。

 ライたちがテーブルを囲んでいる、このガンプラショップ兼メイドカフェという中々に攻めの姿勢を貫いているVRショップ〝♪かふぇGP-DIVE ぜーた♪〟などは、その典型例と言えた。

 

「お待たせしてごめんなー、おじょーサマ。ご注文をおうかがいするでー♪」

「イマはですねー、この〝北宋のアッザムティー・パフェ〟をおかわりです! あとこのむすっとした仏頂面のマスターは別に怒っているわけではないので、気にせずコーヒーのおかわりをお願いします!」

「……ブラックで」

 

 ライはイマに続いて短く告げて、店員が出現させた空中パネルに自分のダイバーギアをかざした。ちゃりんという小気味よい音が鳴ってゲーム内マネーが処理され、テーブルに注文の品が出現(スポーン)する。

 その間も、シキナミがコウタを詰ったりアンナがあわあわと困っていたりといったわちゃわちゃした状態は続いていたのだが、それを見て、メイド服の店員は実に楽しそうに笑った。

 

「んっふっふー♪ 楽しそうやなあ、自分ら。ウチも学生の時分を思い出すわー♪」

 

 VRショップでは使い道もないだろうお盆を胸元で抱えているのは、メイドカフェゆえの様式美だろうか。随分と背が低く幼い顔立ちに見える少女だが、まるで大人のようなことを言う。

 

「もぐもぐ。店員さんは学生さんじゃないのですか? はむはむ。外見(ダイバールック)はイマと同じぐらいに見えるのですが。もぐもぐはむは……」

「んっふっふー♪ よく言われるけどなー、ウチもう既婚の子持ちの主婦やで?」

「ぶほーっ!」

「!?」

 

 イマが噴き出したアッザムパフェがライの顔面を直撃した。だがそれよりも、イマと似たり寄ったりの小学生にしか見えない少女の言葉に衝撃を受け、流石のライも目を見張ってメイド店員を上から下まで見返してしまった。

 旧GBOでの〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟以降、仮想現実での姿(ダイバールック)は現実の容姿の生き写しに限定されている。アクセサリーや髪型である程度印象は変えられるし、運営側のダイバーは顔を隠せるなどの一部例外はあるとはいえ、こんな外見の少女が……!?

 

「いやー、何度見ても笑えるわー、そーゆーリアクション♪ んっふっふっふっふー♪」

「ここ、子持ちですか!? いい、イマには店員さんがまず子供に見えるのですけど!?」

「カナメ・エリサ、26歳。この店の店長夫人や♪ さすがにダイバールックには反映されとらんけど、今、お腹に二人目がおるんよ。んで、今ウチは病院からアクセス中や♪」

 

 大型のバトルシステムに頼らず、プラフスキー粒子の補給も最小限。回線さえつながれば、全世界のどこからでもアクセス可能――入院中の、病床からでも。それがGBNだ。

事実、ある種のリハビリやストレスマネジメントの一環として、GBNが採用されているという話もある。体を満足に動かせない事情を抱えた人々にとって、GBNが希望になるという美談も数多い。ならば、妊婦がGBNに興じることだってあるだろう。プラスチックの粉や有機溶剤とは無縁のGBNなら、母体への負担も少ないはずだ。

 旧GBO時代からヤジマ商事が目指していた〝普遍的なガンプラ体験(ユニバーサル・ガンプラ・センチュリー)〟は、このような形で実現していた。

 

「ウチは見ての通り、身体がちっちゃすぎるからなー。一人目の時も入院して出産したんやけど……ま、もう少しは店にも出るから、今後もごひいきに頼むでー♪」

 

 どう見ても幼い、メイド服姿の、しかしもうすぐ二児の母になる彼女は、ライとイマの精神に残した衝撃からすると軽すぎるぐらいの気軽さでひらひらと手を振りながら、仕事へと戻っていった。

 

「ほえー……ディメンジョンは広いですね、マスター……」

「……そうだな」

 

 ぽかんと口を開けてその後姿を見送るイマ。ライはアッザムパフェの残骸を布巾で拭いつつ、頷いた。そしてイマのほっぺについた生クリームを、同じ布巾で拭い取る。

 

「ん……にひひ♪ ありがとうございますっ、マスター♪」

「と、に、か、く! ですね!」

 

 ばん、とテーブルを叩いて、シオミが立ち上がった。ライにほっぺを拭ってもらってご満悦の表情だったイマが、突然の声にびくっと肩を震わせた。

 

「……と、とにかく、です」

 

 シオミは声を荒げてしまった自分を鎮めるためか、くいっと片手で眼鏡の位置を直しつつもう一度同じ言葉を言い、少し落ち着いた調子で続けた。

 

「ミネバ・バトルロイヤルが終わったら、部活はエレメント・ウォーに突入するというのが例年の流れです。特に今年はハイアー・ザン・ザ・サンへの参加資格の争奪戦も兼ねていますし、先輩にとっては高校最後のシーズンです。なんとしても、先輩を勝たせてあげ……」

「ほほう、しおみん先輩はサツキ先輩のために頑張るんですね! イマ、りょーかいしましたっ♪」

「ちちち違います! 私自身がオペレーターとしての経験を積むためです! ってなんで先輩は苗字で私はアダ名なのよっ!」

「ところでしおみん先輩、えれめん何とかとか、はいあー何とかとか、イマたちにはさっぱりなのですけれど。ですよね、マスター。アンナさん」

「う、うん。そうだね……あのぅ、教えていただけませんか。シキナミ先輩」

 

 アンナはイマに察しとか空気を読むと言った類の言動を期待することを諦め、とにかく話だけでも進めようと、シオミに水を向けた。同時に、コウタにちらちらと視線を送る――と、コウタはすぐに意図を察してくれた。

 

「シキナミさん。仲間になってもらおうって言うんだから、僕たちの方が礼を尽くすべきじゃないかな。僕が説明してもいいんだけど……」

「……はぁ。仕方ないですね、わかりました。説明は任せてください、先輩」

 

 コウタに言われ、シオミは眼鏡の位置をくいっと直しながら席に着いた。慣れた手つきで何枚もの空中パネルを次々と操作して、ライたち一人一人の前にパネルを出現させる。出現したパネルには、どこかネオジオンの紋章にも似た峰刃学園の校章をバックに、大きく『峰刃学園高校ガンプラバトル部』と表示されていた。

 

「……では、説明します。峰刃学園高校ガンプラバトル部が独自に設定する、ポイント制部内大会〝エレメント・ウォー〟について」

 

 イマの天然っぷりに大幅にペースを乱されてしまっていたが、シキナミ・シオミは本来、世話焼きで説明好きな性分だ。峰刃学園ガンプラバトル部が独自に設定する特別バトル〝エレメント・ウォー〟の説明が、わかりやすく、滞りなく始まった――

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

《from:ヒビキ・ショウカ》

《to:今期新入部員諸君》

《件名:エレメント・ウォーについて》

 

『峰刃学園高校ガンプラバトル部主催 ポイント制部内大会〝エレメント・ウォー〟』

・参加資格

 峰刃学園高校ガンプラバトル部員であり、〝エレメント〟に所属していること。

・エレメントとは

 同一フォースの所属ダイバー同士で結成するフォース内分隊。今次エレメント・ウォーでは、エレメントは最低二名、最大六名(オペレーター含む)で結成するものとする。

EP(エレメントポイント)とは

 特定の条件を満たすことで個人、およびエレメントに付与されるポイントのこと。同一エレメント内では共有される。フォース内においてのみゲーム内マネーとしての価値を持つ。ポイントを消費してNPCの呼び出しや基地施設の建造、母艦の運用などが可能となる特別ルールでのバトルやミッションも存在する。

・今次エレメント・ウォーについて①

 GBN内全てのバトルの勝敗・ミッションの成否などに対して、付与されるEPが設定されている。各エレメントに所属するダイバーの合計EPの平均値をエレメント評価値とし、それを以て部内ランキングとする。

・今次エレメント・ウォーについて②

 今次エレメント・ウォー終了時点での部内ランキングによって、GBNフォース連合会主催・夏季特別招待大会〝ハイアー・ザン・ザ・サン〟への出場者を選定する。

 

「――できるだけ、簡潔にしたつもりだ」

 

 この後にもこまごまと続いていたエレメント・ウォーの細則を折りたたみ、手のひらサイズのメールアイコンにして、机の上を滑らせた。深い飴色に磨き上げられた木製の天板をメールアイコンは音もなく滑り、ぴったりショウカの目の前で止まった。ショウカはそれを受け、上機嫌に微笑んで見せる。

 

「感謝するよ、マサヒロ。こういった類の文章は、ボクよりもキミが書く方が的確で、適切だ。安心して代筆を任せられるぜ」

「自分としては、数式の方が好きなのだが。文章というものは、何というか――懐が、深すぎる」

 

 GBN内、峰刃学園フォースネスト〝魔王城〟円卓の間。雰囲気たっぷりの銀燭台には長短さまざまな蝋燭が灯り、円卓をゆらゆらと照らしている。――しかし、物々しい甲冑や重厚なタペストリーに囲まれた巨大な円卓につく人間は、僅かに二人。

 その一人は、円卓の十二時の位置。〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟ヒビキ・ショウカ。受け取ったメールアイコンを開きもせず、白く滑らかな指先で弄んでいる。少々扇動的なデザインのナイトガウンの裾から覗く白磁のようなふくらはぎが、ぷらぷらと所在無げに揺れている。

 もう一人は、七時の位置。連邦軍の士官用軍装に身を包んだ青年。几帳面そうな細面に、黒ぶちの眼鏡。染み一つない真っ白な手袋に包まれた指先で、宙に数式を書きながら言う。

 

「数式はいい。あやふやな領域を残さず存在するたった一つの正解だけが、自分を安心させてくれる――」

「……言っていることはけっこうな詩人だぜ、それ」

「言うなよ、ヒビキ――自分もそれは、わかってはいるつもりだ」

 

 苦笑するショウカに、マサヒロもまた苦笑で返し、そしてぐるりと円卓を見回した。

 

「それにしても――二人、か」

「ああ、まったくその通りだ。別に招集をかけたわけでもないのだから、仕方ないと言えばそれまでなのだけれど。でもまあさすがのボクも、そろそろ悲しんじゃうぜ?」

 

 ショウカは大仰な仕草で肩を竦めて見せるが、その表情に言っているほどの悲しみはない。むしろ、どこか楽しんでいるような色合いさえ感じられる。

 

「〝第六位(シックス)〟はボクの話なんて聞かないし、〝第八位(センセイ)〟は職員会議(オシゴト)中で、〝第九位(ナイン)〟は現実(リアル)とGBNの二重引きこもりライフを満喫中。〝第十位(テン)〟は妹ちゃんがいなきゃあGBNに入りもしない。アルルとルルカはおねむ(・・・)の時間だからまあいいか……あとのメンバーについてはお察しくださいってところだぜ、まったく」

「――気苦労の、多いことだな。部長閣下は」

「そう言ってくれるのはキミぐらいだぜ、マサヒロ。でもそんなキミも、もう行ってしまうんだろう?」

「――ああ、勿論だ」

 

 言いながら、マサヒロはすっと立ち上がった。背筋が真っ直ぐに伸びた立ち姿は、きっちりとした軍装も相まって、実に精悍だ。しかしきりりと引き締められた表情の中で、眼鏡の奥の目だけが、若干の野性味を帯びている。

 

「今回もまた、エレメント・ウォーの初戦――ヒビキ主催の部内試合は〝トゥウェルヴ・トライブス〟からのスタートなのだろう?」

「旧GBO時代からの多人数同時参加型バトルの王道〝トゥウェルヴ・トライブス〟。12チームが入り乱れぶつかり合う超・乱戦……ボクは意外と、伝統を重んじるタイプなんだぜ」

「ふっ。遠回しな言いぐさを――だったら。自分が。自分たちが。出ないわけには、いかないだろう」

 

 にやりと口の端を吊り上げ、マサヒロはパチンと指を弾いた。すると、マサヒロの背後のタペストリーが――正確には、タペストリーを表示していた大型ディスプレイの映像が切り替わり、大海原を駆ける超巨大空母を映し出した。

 慌ただしく甲板上を駆けまわる、NPCの甲板作業員。彼らを見下ろす、鋼鉄の――否、プラスチックの巨人。装備も、デザインも、カラーリングも、全く同じガンプラたち。現実の兵器類を意識したような密度の高いディティールアップが特徴的な、重装型のジムタイプ。計、六機。

 

『……待ちくたびれましたよ、隊長。我々の準備は、ざっと600秒前には完了しています』

「すまんな、待たせた――そして軍曹、正確には627秒前だ」

『はっ! 申し訳ありません!』

 

 ずらりと並んだジムタイプの足元で、一糸乱れぬ隊列を組み、敬礼を捧げる五人のダイバーたち。全体的に体格も髪型も高校生離れした男臭い集団だが、その中でも特に筋肉に恵まれている現役軍人にしか見えない大男が、ただでさえ伸びきっている背筋をさらにピンと伸ばした。

 マサヒロは満足げに頷きながら、ショウカへと向き直った。

 

「集団戦闘は我らの最も得意とするところ――新入部員達には悪いが、一気にポイントを掻っ攫っていくつもりだ」

「まったく、趣味的だねぇ。逆にマサヒロにだけ筋肉がない理由が知りたいぜ」

「誉め言葉として、受け取っておこう――では、また後程な。ヒビキ・ショウカ」

「ああ。また会おうぜ、コウメイ・マサヒロ。できることなら、戦場で。敵として、ね」

 

 マサヒロは呼び出した空中パネルを、演技がかった仕草で大きくフリック。プラフスキー粒子の輝きに包まれ、その次の瞬間にはガンプラのコクピットへと転送されていた。

 仮想インド洋北西・アラビア海。エレメント所有の超大型空母は荒波を蹴立ててペルシャ湾に突入しつつあり、夜明け前の水平線の先には、砂塵吹き荒れる赤茶けた大地がうっすらと顔を覗かせつつあった。

 その土地の名は、アザディスタン。戦火に喘ぐ砂漠の小国。そして、今次エレメント・ウォー、初戦の舞台。

 

「〝精密兵団(レギオン)〟フォーミュラ・ジム一号機。〝第七位(ミネバ・オブ・セブン)〟コウメイ・マサヒロ――」

 

 実在する兵器類の操縦系を模してカスタムしている操縦桿を握ると、愛機(フォーミュラ・ジム)の鼓動が掌から伝わってきた。自分の左右にずらりと肩を並べるエレメントの僚機たちも、同じゴーグルアイに同じ青い光を灯し、戦闘態勢に入っている。

 マサヒロはフォーミュラ・ジムの両足をカタパルトに固定し、声も高らかに出撃宣告をした。

 

「エレメント〝フォウ・オペレーション〟――勝利を導き出す!」

 




 以上、第三話Aパートでしたー。

 冒頭でも述べましたが、ナツキの年齢の件、間違っていました……指摘していただいてたのに、申し訳ないです……
 
 第三話から、エレメント・ウォーが始まります。次回からはバトルましましでお送りしたいと思いますので、どうぞご期待ください!
 感想・批評もお待ちしております。どうぞよろしくお願いします!


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Episode.03-B『タタカイ ノ ハジマリ ②』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。
 第三話もやっとバトルパートに入りました。
 どうぞご覧ください!


 仮想インド洋北西・アラビア海。その洋上と上空とには、造形も意匠も、そして出典作品も様々なモビルスーツ運用母艦の類がずらりと艦首を並べていた。

 

「……エレメント戦の初戦としては、運は悪くないほうかしら」

 

 薄暗い照明に、低い電子音。まるで潜水艦のような艦橋に、シオミの声だけが響く。シオミがすっと人差し指で位置を直した眼鏡のレンズには、ホログラム表示されたマップと、十二の輝点が映り込んでいた。

 アラビア海を横断し砂漠の小国・アザディスタンへと侵入しようとする、各エレメントの母艦たち。十二隻中の五隻は、EP(エレメントポイント)消費のない初期装備艦。今回のバトル――十二のエレメントによる対抗戦〝トゥウェルヴ・トライブス〟においては、母艦は戦場には入れないのが通常交戦規定(ルール)だ。だから母艦の戦闘力や運用能力は敵の戦力査定に加味しなくてよいが、ミネバ・バトルロイヤルを終えた時点で母艦を運用できていないということは、部室の使用権を勝ち取れなかった、副賞の追加EPが手に入らなかったエレメントだ、ということでもある。したがって、あの五チームは強敵たりえない。

 残りの七隻中の六隻は、見覚えのある二・三年生エレメントの母艦ばかり。有望な一年生を勧誘して戦力を強化しているかもしれないが、有望な新入部員という意味では、こちらも全く負けていない。

 

『しおみんセンパーイ! バトルはまだですかー! イマ、もう待ちくたびれちゃいましたよー! じたばたじたばたー!』

『い、イマちゃん、落ち着いて。もうすぐだよ』

『…………』

 

 コウタと二人きりだった時にはなかった、格納庫からの騒々しい通信。シオミは意図的にそれらを無視して、様々な情報を映し出す空中パネルの数々を、次々と操作していく。

 

「ただ、問題は……やっぱり、コウメイ先輩のエレメントね」

 

 マップに映し出された、最後の一隻。現実の空母に限りなく近いデザインの大型艦。その甲板上に整然と立ち並ぶ、全く同じ造形の六機の重装型ジムタイプ。

 〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ。〝精密兵団(レギオン)〟フォーミュラ・ジム。エレメント〝フォウ・オペレーション〟――この戦場において、明らかな格上。オペレーターによる情報支援のないパイロット六人編成のエレメントにも関わらず、戦場の掌握力は、部内随一。

 

(集団戦闘においては部内でも最強クラスの選手兼指揮官、〝軍師〟コウメイ先輩……エレメントを組んだばかりの私たちで、どこまで食い下がれるか……)

『大丈夫だよ、シキナミさん』

 

 まるでシオミの心を読んだようなタイミングで、コウタが声をかけた。通信画面ごしに微笑みかけ、力強く頷いてみせる。

 

『ヒムロ君も、ガトウさんも、イマちゃんも、君の戦術予報を信じてくれている。もちろん、僕も』

「先輩……」

『だから、行こう。シキナミさん。僕たちの初戦だ』

「……はい、先輩!」

 

 シオミは不要な空中パネルを一斉消去し、制帽を被って艦長席から立ちあがった。ザフトの白制服が勇ましく翻り、シオミに若き女艦長の風格を与えた。同時、主機の鼓動がごぅんと艦全体を震わせた。艦橋の様々なモニター類に、次々と灯が入っていく。

 

「オペレーターよりエレメント各機へ。これより当艦は洋上へ浮上します」

『おおっ! まってましたぁーっ! バ・ト・ル♪ バ・ト・ル♪』

「浮上完了後、カタパルトより各機を射出します。事前に説明した通り、カタパルトからの射出後すぐに転送ゲートに強制突入、エレメントごとに固まって、戦場のランダムな地点に転送されます。転送完了後、即時周囲の索敵を。作戦に最適な地形を割り出します――ガトウさん。あなたは本作戦の要です。慎重かつ迅速な行動を期待します」

『はは、はいっ。頑張りましゅ!』

 

 勢い良く敬礼などして見せるアンナだが、自分が噛んだことに一秒遅れで気づいて、敬礼のまま顔を真っ赤にして固まってしまう。イマが目ざとくも悪戯っ子の表情になって何か言いかけるが、それを遮るようにシオミは言葉を続けた。

 

「索敵については、高性能センサーを持つターミガンに期待しています」

『にひひっ♪ イマにお任せあれですよ、しおみん先輩!』

 

 期待しているという一言に、イマは鼻息も荒く、平らな胸を反り返らせる。

 

「ヒムロさん、コウタ先輩。オフェンスの二人は隠密行動を最優先に。本作戦においては、攻めのタイミングが非常に重要ですから」

『……了解』

『了解だよ、シキナミさん』

 

 それぞれへの声かけが終わったころ、ちょうど艦橋正面にキラキラと陽光を反射する海面が見えてきた。艦の浮上まで、もうあと数秒――シオミはくいっと眼鏡の位置を直し、堂々とした立ち姿で、右手を振り上げた!

 

「――ミネルバ改級〝ブルーバード〟! 浮上!」

 

 飛沫をあげて、海面を突き破る。蹴立てた白波をさらに掻き分けて、海の紺碧よりもさらに濃い、蒼い艦体が躍り出る。

 コズミック・イラの世界観において最新鋭のMS母艦・ミネルバをベースに、GBNで必要となる様々な機能を詰め込んだ艦、ミネルバ改級〝ブルーバード〟。その名の通りの深い深い蒼に塗られた両翼を開き、ブルーバードは洋上から空中へと舞い上がる。吹き上げられたアラビア海の水飛沫が、蒼い翼に切り裂かれ、弾け飛ぶ。

 

「全カタパルト解放――各機、出撃してください!」

 

 艦の両舷に設置されたカタパルトゲートが解放され、ガンプラを載せたフットロックがせり出してくる。

 イマははしゃぎながら、アンナは緊張の面持ちで、ライは睨むような無表情で。そしてコウタは通信画面の中のシオミに、笑顔で頷きながら――それぞれの出撃宣告を、高らかに歌い上げた。

 

『ヒムロ・イマ! ガンダム・ターミガン! いっきまぁーすっ♪』

『ガトウ・アンナ。ガトキャノン・オーク。う、撃ちまくりますっ』

『ヒムロ・ライ。ガンダム・クァッドウィング……敵を、討つ!』

『サツキ・コウタ、エイハブストライク! エレメント〝ブルーブレイヴ〟、出撃します!』

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 戦場に降りた直後から、どうにもレーダーの調子が悪かった。今回の戦場はアザディスタン、ガンダムOOの世界観のフィールドだから、ミノフスキー粒子もニュートロンジャマーもないはず。荒廃した砂漠に巻き起こる、錆び付いた金属片まじりの砂嵐が原因だろうか……などと考えている間に、この弾幕である。

 

「隊長! こりゃあ正面突破は無理だ!」

「あ、あいつら、どんだけ重火器積んでるんですかぁ!」

 

 ドガガガガガガ! バララ! ドガララララララララララララララララララララララ!!

 前方約3000、モビルスーツなら一手で詰めることのできる距離にある、背の高い廃墟群。おそらくはアザディスタンの中では大規模な都市であっただろう荒れ果てたビルの一群から、その凄まじい弾幕は浴びせかけられていた。

 

「ちっ。開幕から面倒な……!」

 

 乾ききった茶色い巨石群に身を隠し、弾幕から逃れているのは、三機のMS。白を基調とした連邦軍カラーのバーザムが、二機。そして、ティターンズカラーに塗装されたガンダムMk-Ⅱ+Gディフェンサー、俗に言うスーパーガンダムである。スーパーガンダムはロングライフルを右手に抱えているが、少しでも遮蔽から身を乗り出せばすぐにでも蜂の巣にされそうなこの状況では、構えることも難しい。

 

「正面の廃墟内、少なくとも、ビームガトが二門、実弾ガトか機関砲が四門! バルカンとグレネードランチャーもだ! 何機いるんだよあの廃墟に! ……うおっ!?」

 

 慎重に岩陰の向こうを窺っていた連邦バーザムの一機が、側面からの攻撃に晒されていた。振り返ってトンファー型ビームライフルを構え、降り注いでくるミサイル群を迎撃、撃ち落とす。

 

「隊長、右からも攻撃! あそこの油田跡地からだ!」

 

 その攻撃を皮切りに、巨石群東側の焼け落ちた油田施設からもミサイルや機銃の弾幕が襲い掛かってきた。正面からの弾幕に比べればかなり薄くはあるもの、無防備に受け続けていられるものでもない。二機の連邦バーザムと黒いスーパーガンダムは巨石の間を転がるように移動するが、巨石は次々と撃ち壊され、身を隠せるサイズのものは残り少なくなってきた。

 せめて敵の数と配置だけでも確認したいが、レーダーはずっと原因不明の不調のままだ。弾幕からの推測しか、情報がない。

 

「このままじゃあジリ貧だ! どうすんだよ隊長!」

「隊長ぉ!」

「い、今考えてる! ……そうだ!」

 

 隊長は呼び出した空中パネルを叩き、マップの油田跡地後方をマーキング、コマンドを実行した。エレメント共有のEPから100EPが消費され、油田跡地後方に転送ゲートが開かれた。

 

『オレガ、ガンダムダ!』

 

 どこか間の抜けたようなハロの電子音声とともに、転送ゲートからガンダムエクシアが飛び出してくる。出現と同時、エクシアの頭の上にポップアップする〝NPD〟の表示――峰刃学園エレメント・ウォー特別ルールの一つ、〝エース級NPD召喚〟。最大六人編成のエレメント戦において、少数編成エレメントの数的不利を緩和するための方策。二人組エレメントなら一試合に二回、三人組なら一回、EPを消費して、ネームドパイロットの再現AIが操縦するエース級NPDガンプラを召喚できるのだ。

 召喚されたNPDエクシアは、OO劇中の刹那・F・セイエイそのものといった動きでGNソードを展開しつつ、油田跡地へと突っ込んでいった。

 

「おい隊長、勝手にEP使うなよ!」

「油田側は弾幕が薄い、敵も少ないはずだ! NPDと挟み撃ちにするぞ!」

「おいっ、勝手に! ちっ、仕方ねぇ。行くぞ!」

「う、うん! わかりました!」

 

 三機が巨石の陰から飛び出そうとした、その時だった。

 

『クチクシタ! クチクシタ!』

「なにっ!? お、終わったのか!?」

 

 NPDエクシアからの、通信。戦果を誇るように高々と掲げられたGNソードに串刺しにされているのは――鉄華団仕様のモビルワーカーが、二機。

 

「も、モビルワーカーだけ!? 敵は、敵はどこにっ!?」

「……いただく!」

 

 カツン。

 黒いスーパーガンダムの頭頂部に、銃口が突き付けられた。スーパーガンダムの足元に落ちる、大きく広げた四枚羽根の影。逆立ちのような姿勢で頭上に舞う、ガンダム・クァッドウィング――開幕時から続く、レーダーの不調。何機もの敵が撃ちまくっているかのような、激しい弾幕。側面からの、実はモビルワーカーを送り込んだだけの奇襲。それらは全て、本命のオフェンス役が気づかれずに接近するための布石――

 

「――だったのかよぉぉ!」

 

 ドッ、ビュオォォンッ!!

 頭のトサカ部から腰のフンドシ部まで、ガンダムタイプ特有の造形が溢れ出すビームの光に呑まれ、消えた。残った手足とGディフェンサーだけが、ガシャン、ボトリと地面に落ちる。

 

「隊長ぉぉっ!」

「よくもぉぉっ!」

 

 残された二機の連邦バーザムは、トンファー型ビームライフルからビーム刃を発振させ、ビームトンファーとして振りかざす。勢い任せに突っ込んでくる、左右からのビームトンファー。それをライは、鋭い弧を描く回し蹴りでバーザムの腕を蹴り上げて弾き返した。

 

「なっ、なんてカラテだよ!?」

「四枚羽根! 例の転校生ですか!」

「……破ッ!」

 

 バスターマグナムの銃口から、ビームセイバーを展開。ライは気合の一声と共に、大きく二刀を振り抜いた。連邦バーザムの一機はバックブーストでビーム刃の殺傷圏内から逃れたが、もう一機はトンファー型ビームライフルを深々と切り裂かれ、小爆発。姿勢を崩しながらもなんとか着地し、ビームサーベルを抜刀した。

 

「ちっ、ライフルをやられたか……二人がかりで、こいつだけでも墜とすぞ!」

「りょ、了解です!」

 

 飛び退いた連邦バーザムも、再びビームトンファーを構えてクァッドウィングへと突っ込んでくる。それに先行してビームサーベルを構えた連邦バーザムはクァッドウィングへと切りかかり、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「噂の転校生でも、二対一ならぁ! 今だ、やれぇッ!」

「うんっ! やあああっ!」

 

 交差させたビームセイバーでビームサーベルを受け止めるクァッドウィングの側面から、ビームトンファーでの刺突を狙ってくる連邦バーザム。しかしライは、眉一つ動かさず、静かに呟いた。

 

「……二対一、か。視野が狭いな」

「ま、負け惜しみを言……」

「てやぁぁぁぁっ!」

 

 ガキッ、オオォォォォンッ!

 横槍を入れるという言葉、まさにそのままに。凄まじい勢いで横合いから突き込まれた銀色の穂先が、連邦バーザムのビームトンファーを持つ腕を、根元から根こそぎ吹き飛ばした。

 その槍を持つガンプラは、白と青をメインに差し色の赤と黄、基本に忠実なガンダムカラーに塗装されたストライクガンダム――いや、違う。内部フレームが露出した腹部構造、胸部に内蔵されたエイハブリアクター。そして、ビーム兵器を一切持たない武装構成。顔形はストライクガンダムだが、その機体は間違いなく鉄血のガンダムフレームだった。

 

「……遅いぞ、先輩」

「いやあ、ごめんよ。でも間に合ってよかったよ、ヒムロ君」

「さ、サツキ先輩ですかっ!?」

 

 サツキ・コウタの愛機、エイハブストライク。巨大な突撃槍〝モビーディック・ランサー〟と七基の大型ブースターを備えるバックパック〝シュバルベストライカー〟を装備した高機動形態。名を、シュバルベストライクという。

 

「おいサツキぃ! エレメントを組んだとは聞いていたが、まさか転校生とはなぁ! シキナミちゃんに怒られなかったかよぉっ!!」

「え? いや、なんでシキナミさんに?」

「けっ、そうかよ……このっ、朴念仁がぁぁぁぁっ!!」

「……余所見をするな」

 

 何やら複雑そうな感情をこめて叫ぶ、連邦バーザムのダイバー。しかしライは、彼がシュバルベストライクに気を取られた瞬間を、見逃さなかった。ビームサーベルをカチ上げ、がら空きになった胴体をビームセイバーで掻っ捌く。二重の輪切りになった連邦バーザムは一瞬の間をおいて爆発、プラスチック片と化して散った。

 

「さあ、これで後は君だけだよ」

 

 残った最後の連邦バーザムに、コウタはモビーディック・ランサーを突き付けた。ショット・ランサーの機能を併せ持つこの大型突撃槍は、トリガー一つで連邦バーザムを撃ち抜ける。だがコウタは引き金に指もかけずに、言葉を続ける。

 

「撤退を選ぶんだ。その方が部隊全滅よりは、EPのマイナスも少ないよ」

「……サツキ先輩。僕たちを、バカにしてるんですか?」

 

 ライは無言で、バスターマグナムを連邦バーザムに向けた。当然、トリガーに指はかかっている。しかしコウタは、シュバルベストライクをすっと射線上に割り込ませた。

 

「そんなことないよ。ただ、EPがゼロになっちゃうと、もうエレメント・ウォーには参加できないから。勝敗はつくよ、GBNはバトルだからね。でも僕は部活のみんなと、できるだけたくさん、GBNをしたいんだよ」

「……そんなだから、シキナミさんにも甘い甘いって言われるんですよ、サツキ先輩は……でもその甘さ、僕も嫌いじゃあありません。だって……!」

 

 連邦バーザムのボディから、丁寧にスミ入れされたパネルラインから、赤い光が漏れた。猛烈な熱量を孕んだ、それは爆発の前兆。宇宙世紀系のMSは、核動力で動いている――!

 

「先輩、どけッ! 自爆だ!」

「あはは! サツキ先輩のおかげで、自爆スイッチを」

 

 ドッ、ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 圧倒的な光の渦が、連邦バーザムの上半身を呑み込み、濁流のように押し流していった。後に残るのは、バチバチと火花を散らす下半身のみ。その下半身も、数秒と立っていられずに膝から崩れ落ち、そして爆発、四散した。

 

「……助かったぞ、イマ」

 

 先ほどまでアンナが分厚い弾幕を展開していた、廃墟群の一番高いビルの屋上。伏せ撃ちの姿勢でバスターライフルを構えるターミガンが、のんきに手を振っていた。クァッドバスターライフルを分割したシングルバスターライフルでの長距離射撃は、狙撃というには荒々し過ぎたが、後詰としての役割は十分に果たしてくれた形になる。

 きっとイマは今頃、ドヤ顔と自慢げなおしゃべりを繰り返していることだろう。しかし、奇襲前に敵に気取られないよう、ライとコウタは遠距離通信を封鎖している。母艦(ブルーバード)にいるシキナミや、イマのいるビルの足元に陣取っているアンナとも、通信は繋がっていない。

 

「これで、彼らは……500EPのマイナス、かあ……」

 

 コウタはモビーディック・ランサーを下げながら、静かに呟いた。

 通常バトルでの被撃墜は、一機あたり100EPのマイナス。三人組のエレメントが全滅すれば、300EPのマイナスだ。そしてバトルへの参加費が100EP。加えて彼らはエース級NPD召喚も使用していたので、このバトルで計500EPを一気に失ったことになる。彼らが撃墜スコアを稼いでいればまた話は違ってくるが、開幕直後に自分たちとぶつかっている以上、その可能性は低いだろう。

 

「……何を沈んでいる、先輩」

 

 言いながらライは、クァッドウィングを巨石の陰にしゃがみ込ませた。イマの狙撃とアンナの弾幕で抑えが利くとは言え、遮蔽もない場所に棒立ちなどするものではない。戦闘の爆音や爆発を感知して、漁夫の利を狙うエレメントが迫ってきていてもおかしくない。

 コウタはシュバルベストライクをクァッドウィングと同じ巨石の影にしゃがみ込ませ、背中合わせになって周囲を警戒する。

 

「難しいなあ、と思ってね。ガンプラバトルは、真剣勝負だから面白い。でも、同じ部活の仲間だから。できれば、撃ちたくないんだ」

「……バナージ・リンクスを、気取るつもりか」

「そんなことはないよ。ただ……性分、なのかなあ。何度シキナミさんに叱られても、治らないから。あはは」

 

 コウタは自虐的に、力なく笑う。ライはその諦めたような笑い顔を見て、視線を鋭くする。

 

「……シキナミは、勝つために知恵を絞ってくれた。イマも、ガトウも、俺も、役割を果たしている。それでリーダーのお前がそんな顔をするのは、裏切りにも等しい」

 

 シキナミやアンナに聞かれる心配もないため、ライの物言いは遠慮のないものになった。しかしコウタは反論せず、「……そうだね。ごめん」と頷いた。そしてモビーディック・ランサーをガンモードに持ち替え、構え直す。

 

「すまない、情けないリーダーで。この失点は、バトルで取り返すよ!」

「……待て、先輩」

 

 立ち上がろうとしたシュバルベストライクを、クァッドウィングが片手で制した。ウィングを小さく畳み、慎重に巨石の端から顔を出す――そして、ライにしては珍しく、感情が顔に出てしまった。

 

「……囲まれた」

 

 アンナとイマがいる廃墟と、ライとコウタがいる巨石群。そして油田跡地を取り囲むように連綿と続く、なだらかな砂丘。その稜線の向こう側に、伏せているガンプラがいる。巨大なバインダー型のバーニアユニットと、長い砲身を持つビーム砲を背負った、重装備のジムタイプ。

 相手はライたちの位置を完全には掴んでいないようだ。手に持った細長いライフルをゆっくりと左右に振る動きは、高性能の狙撃用スコープを使って索敵をしているのだろう。砂漠用迷彩のABCマントを被ったその姿は非常に識別しづらく、ライがその機体に気づいたのは、運がよかったとしか言いようがない。

 しかし、一度気付いてしまえば、他にもほぼ同じシルエットのガンプラが砂丘の稜線に潜んでいるのが見て取れた。砂漠用迷彩のABCマントに身を包んだ、巨大なバインダーを背負うジムタイプ……計、六機。ライたちをぐるりと取り囲むように、不規則に間を開けて伏せている。包囲網が等間隔でないところに、熟練の連携が感じられる。等間隔では、潜んでいる場所が推測されてしまうからだ。

 

「僕にも見えたよ、ヒムロ君。僕たちはまだ見つかってないようだけど……まずいっ!?」

 

 廃墟に近い一機のライフルの動きが、ぴたりと止まった。その銃口が狙う先は、イマがいるビルの根本。包囲に気づいてもいないであろうアンナが、待機しているはずの地点。

 ライの思考が、一気に加速する。アンナが撃たれれば、次はイマだ。遠距離火力の豊富な二機が墜ちれば、近接特化のクァッドウィングと近接寄り高機動型のシュバルベストライクで、見るからに高火力重装備のジムタイプ六機分の弾幕に援護なしで突っ込んでいくことになる。勝機は、薄い。

 しかしここで無線封鎖を解いては、アンナのレーダー妨害のおかげで位置がばれていないという唯一のアドバンテージを、失ってしまう――ライの結論と、コウタの行動は、ほぼ同時だった。通信を開き、そして叫ぶ!

 

「ガトウさん、逃げて!」

「イマ、指定座標を撃て!」

 

 ドッ、ヴァァァァァァァァァァァァァッ!

 ギュドッ、オォォン!

 二種類の砲声が同時に響き、ビームと砲弾が交錯した――




 ……というわけで、第三話Bパートでしたー!
 書いている身としては戦闘パートというのは中々好きなのですが、いかんせん、また私の長くなる病が発症してしまいます。長くなっちゃうバトルの中でも、主人公以外のキャラクターの掘り下げができればなあ、と思うのですが……そう欲張るから長くなっちゃうのでしょうか。
 
 次回は軍師・コウメイとの戦いがメインです。コウメイ・マサヒロのモデルはもちろん中国のあの人なのですが、私はマンガでしか三国志を読んだことがないという(笑)
 
 感想・批評お待ちしています。どうぞよろしくお願いします!


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Episode.03-C『タタカイ ノ ハジマリ ③』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。
 なんとか週一ペースを維持していますが、いつまで続けられるだろう……
 そんな第三話Cパートです。


 砂漠の真ん中に聳え立つ廃墟、その南に巨石群、その東に油田跡地。なだらかな砂丘に囲まれた、疑似的な盆地。弾幕とモビルワーカーを囮にして獲物を誘い込み、釘付けにし、そして本命が奇襲をかけるには、最適な土地と言えただろう――だが、それだけではまだ浅い(・・)

 

「策士、策に溺れる――その可能性を無視するべきではない。十分に高い数字だ」

 

 シキナミ・シオミは十分に優秀なオペレーターだが、サツキ・コウタ一人のためだけに作戦を立てている時期が長かった。それ故に、大局的な戦術というものの経験が不足している。サツキ・コウタ一人を勝たせる戦闘指南はできても、せいぜいエレメントの作戦立案はできても、トゥウェルヴ・トライブス全体を見通した戦術の構築において、〝軍師〟コウメイ・マサヒロに勝るものではない。

 

「君たちが派手に弾薬を消費して客寄せをしてくれたこの9分と57秒間、自分たちは実に安定して戦果を上げさせてもらった――だが、もう、十分だ」

 

 派手な弾幕は広範囲に銃声を響かせ、漁夫の利を狙った分隊がこの地に集まってきた。マサヒロたちフォウ・オペレーションはこの砂丘盆地周辺に潜み、集まってくる分隊を難なく撃破し続けた――そして、トゥウェルヴ・トライブス開始から10分31秒。すでに四分隊十三機のガンプラと二機のNPD機を撃破し計1500EPを稼いだフォウ・オペレーションは、余裕をもってライたちブルーブレイヴを包囲していた。

 

「……レギオン2よりブレイン、配置完了」

「レギオン3よりブレイン。高層ビル屋上に狙撃手を確認」

「レギオン4よりブレイン、四枚羽根は発見できず」

「5よりブレイン、サツキ・コウタも見えない」

「レギオン6よりブレイン、ガンキャノンタイプを捉えた。指示があれば撃つ」

 

 マサヒロの眼前に浮かぶ空中パネルには〝精密兵団(レギオン)〟各機が捉えた情報が、リアルタイムで更新され続けている。

 廃墟の中にガンキャノンタイプが一機。ビル群や瓦礫を遮蔽として利用しているが、脇が甘い。射線が通る地点が残っている。盆地全域に及ぶ謎のレーダー障害は、このガンキャノンタイプの両肩にあるシールド型の特殊兵器が原因のようだ。表面装甲を大きく展開したシールドの内側に、複雑なパターンを刻印(エッチング)された銀色のパーツが光を放っている。さらに、機体の背面には保持アームのようなものを背負っている。おそらく、囮に使っていたモビルワーカーの懸架ユニットだろう。一機のガンプラにこれだけの要素を詰め込むとは――このガンキャノンタイプを作り上げたダイバーの工作技術は、賞賛に値する。それ故に、真っ先に排除すべき相手だ。

 一方、ビルの屋上の改造ウイングガンダムは――正直、お話にならない。瓦礫に見えるよう偽装したシールドを頭から被っているようだが、文字通り頭隠して尻隠さずの状態。巨石群から見ればちゃんと偽装できているのだろうが、横や後ろからは、ご覧の通りだ。シキナミ・シオミがそのような指示を出すはずはないから、おそらくダイバーの頭の方が少々残念なのだろう。直接撃ってもいいし、ビルを崩落させてもいい。どちらにしろ、一手で獲れる。

 転校生とサツキ・コウタはまだ位置が掴めていないが、十中八九、巨石群に潜んでいるだろう。ガンキャノンタイプと改造ウイングガンダムを撃てば、何らかの動きを見せるはずだ。動いたところを、レギオン4と5に狙撃させる――

 

「――勝利への式は組み上がった」

 

 マサヒロは、エレメントのメンバーに聞かせるつもりで、お決まりの口癖を呟いた。上げていたバイザーを下ろし、操縦桿を握る。

 

「廃墟内の敵エレメント後衛二機を撃ち、四枚羽根とサツキ・コウタを誘い出す。レギオン2は4、5の支援。自分はいつも通り、不測の事態に備える――では、始めよう」

 

 レギオン各機の緊張が、高まる。しかし歴戦の兵士である彼らにとっては、緊張すらも射撃の精度を高めるスパイスに過ぎない。マサヒロは糸目気味の目をさらに細め、短く下命した。 

 

「レギオン3、6。仕事だ――撃て」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「ガトウさん、逃げて!」

「イマ、指定座標を撃て!」

 

 ドッ、ヴァァァァァァァァァァァァァッ!

 ギュドッ、オォォン!

 ほぼ同時に鳴り響く、二種類の砲声。そして交錯する、ビームと実弾。

 本当の作戦(・・・・・)を知らない、知らされていないライ先輩とコウタ先輩には申し訳ないのですが、二種類の砲声を、私はドキドキしながらも、どこか落ち着いた心境で聞いていました。

 極超音速で飛来した鉄鋼榴弾が、私の目の前で、ガトキャノンの胸のど真ん中を貫きました……いいえ、違います。正確には、

 

(す、すごい……本当に、シキナミ先輩の戦術予報通りになった……っ)

 

 一気に空気が抜け、しぼんでいくガトキャノン。私の(モニター)には小学生の粘土細工並みに雑な造形にしか見えなかったダミーバルーンが、ぺちゃんこに潰れていきます。一つ隣のビルの陰に隠れながら、私はその様を見ていました。

 ゼロコンマ数秒遅れてもう一発、鳴り響く実弾の砲声。廃墟群で一番高いビル、その屋上で伏せているイマちゃんのターミガン……の、これまた雑なダミーバルーンを撃ち抜きます。ダミーバルーンが手に持っていた一発だけなら撃てるバスターライフルが、ガランと音を立てて高層ビルから落下します。イマちゃんのクァッドバスターライフルは、四丁のバスターライフルに分割して、他にもあと三か所、隠れているダミーバルーンに持たせてあります。シキナミ先輩の采配です。

 それはそれとして、私とイマちゃんを撃ったつもりになっていた敵の狙撃手さんは、きっと今頃、目を真ん丸にして驚いていることでしょう。だって、データ上は間違いなく(・・・・・・・・・・)、私とイマちゃんはそこにいたのですから。

 ガトキャノン・オークの、数ある換装ユニットの一つ。両肩に登載した、電子戦用装備〝ジャミングシールド〟。普通に臆病な私としては居場所を知られずに戦いたいので、とてもお気に入りの装備です。

 けれどもどうやら、私が作ってしまったこのシールドはとんでもないシロモノだったようで。シキナミ先輩が作戦を立案するにあたって、私たちのガンプラの性能を精査していた時の事でした。

 

『……ガトウさん。あなた、なんて凶悪な装備を……』

『え? な、なにか悪いことでもしてしまいましたか? ご、ごめんなさいっ』

『いえ、謝ることではないですよ。素晴らしい……いえ、凄まじい工作技術です。あなたがビルダーではなくてファイターだったことを、対戦相手は後悔するでしょうね』

 

 シキナミ先輩が、なぜ私のジャミングシールドを〝凶悪〟なんて言っていたのか、正直、今もピンと来ていません。

 私はただ普通に臆病だから身を護るための装備が欲しくて、頑張ってコツコツとチマチマと、お兄ちゃんたちにもらったガンプラ用の金属パーツに電子回路状のパターンをエッチングし続けただけです。ガリガリと。ゴリゴリと。一週間ぐらい、ずっと。

 だからこの装備が発揮する機能も、努力した結果だと普通に思っていました。一定範囲内全てのガンプラのレーダーもカメラも各種センサーも、全て私の都合のいいように書き換える(・・・・・・・・・・・・・・・・・)機能ぐらい、きっとGBN上位ランカーだらけの峰刃学園では、普通のことだと思っていました。

 

『……一番凶悪なのは、ガトウさん。装備というより、あなた自身かもしれませんね』

『えっ? な、なんでそんな……私は普通に頑張っただけですよぅ……』

 

 この機能は発動してしまえば敵も味方も関係なく影響下に入れてしまうので、仲間にすら私の居場所はわかりません。しかも、このデータ偽装は一度露見してしまえば同じバトル中に二度は使えません。だから特にチーム戦では使いにくいと思っていたのですが……

 

『戦場において、そのたった一回の完全ステルスにどれほど価値があるか、わかっていないようですね……いいでしょう。今回のトゥウェルヴ・トライブスは、貴女を要として作戦を立案させてもらいます』

 

 ドォォンッ!!

 爆発音が私の意識を、思索から現実へと引き戻しました。廃墟群を取り囲むなだらかな砂丘の稜線、ライ先輩が指定した座標です。撃たれた重装ジムタイプは、何の対応も取れていませんでした。それもそのはず、撃ったはずのターミガンは命中の瞬間にダミーバルーンにすり替わり、そして全く警戒もしていなかった背面から、ビームが襲い掛かってきたのですから。

 イマちゃんに撃ち抜かれた大型バックパックは大爆発、本体も誘爆し大破、行動不能。一機撃墜です。エレメントを組んだばかりの新参に過ぎない私たちが、〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟率いる強豪エレメントから、スコアをもぎ取った瞬間でした。

 

「にひひっ♪ めぇぇぇぇちゅぅぅぅぅ! めーちゅーですよ、アンナさんっ♪」

「うん、そうだねイマちゃん……じゃあ、行こうっ。作戦、第二段階だよっ」

 

 はしゃぐイマちゃんに頷き返し、私はきゅっと表情を引き締めます。

 シキナミ先輩が、私とイマちゃんに伝えてくれた本当の作戦。第一段階は、囮と弾幕で敵エレメントを抑え込んだうえでの、前衛による奇襲。そして、第二段階――派手な弾幕によって、漁夫の利を狙う別エレメントをおびき寄せ、隠れていた後衛による奇襲(・・・・・・・)をかける。たった一人で後方に潜むイマちゃんが発見されるリスクは、私のジャミングシールドにより、限りなくゼロに近づきます。だからこそシキナミ先輩も、この作戦を立案したのでしょう。

 集団戦闘に長ける〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ先輩の、〝精密兵団(レギオン)〟フォウ・オペレーションの計算を狂わせる、これが私たちの最善手です……一回バレたら終わりというジャミングシールドの弱点故に、本当の作戦を知らされず、無線封鎖までされてしまったライ先輩とコウタ先輩には申し訳ないですが。

 兎も角。私は私を狙った砲撃の弾道から逆算し、敵機の位置を特定。間にビルを挟んだまま、その方向へとガトキャノンの全身の砲口を向けました。狙撃ではなく弾幕による、かなり力技の壁抜き射撃です。

 私はもう効果のないジャミングシールドを解除し、精一杯の気合を込めて、叫びました。

 

「ガトウ・アンナっ。ガトキャノン・オークっ。撃ちまくりまぁぁぁぁすっ!」

 

 回る銃身、吼える銃声。噴き出す銃火、飛び出す銃弾。

数えきれないほどの空薬莢を滝のように吐き出しながら、私とガトキャノンは全砲門一斉射撃(フルオープンアタック)を始めたのでした。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ライとコウタの目には、間違いなく、アンナとイマが撃たれたように見えた。しかし、敵の狙撃と同時に迸ったバスターライフルの光は敵の背後からフォーミュラ・ジムを撃ち抜いていたし、廃墟とビルの屋上に残っているのは、ダミーバルーンの残骸だけだった。

 

「……!?」

「シキナミさん! 状況を!」

 

 砂丘に伏せたフォーミュラ・ジムが為す術もなく爆散するのを巨石越しに見ながら、コウタはブルーバードに通信を繋いだ。通信画面に現れたシオミの顔は、いつも通りに冷静沈着ながら、どことなく自慢げに見えた。

 

「シキナミさん、その表情って……まさかだけど!」

『黙っていてすみません、先輩。そういう作戦です。ガトキャノンが弾幕を展開します。姿勢を低くしてください』

 

 ガトキャノン一機の弾幕とは思えないほどの銃弾が辺り一面にバラ撒かれ、廃墟ビル群が蜂の巣になって崩落していく。灰色の粉塵が猛烈な勢いで巻き上がり、砂丘盆地の内側を覆い尽くすほどに広がった。

 粉塵による即席の煙幕。同時にスモークグレネードも使用したようだ。巨石群から離脱するにはいい目晦ましだが、これではこちらからも敵が見えない。

 

『ガトキャノン、ターミガンの索敵情報を共有。レーダーに表示します』

 

 当意即妙とばかりに、シオミからの情報支援が入った。イマが一機撃墜し残り五機となったフォーミュラ・ジムたちの現在位置が、全てレーダー上に表示された。既に1から5までの番号が、シオミによってマーキングされている。

 敵は相変わらず砂丘盆地を囲んではいるものの、アンナとイマを警戒して、稜線の向こうへと後退し、さらに移動中。この動きは、集結するつもりのようだ。ライがそう思うのと同時、シオミがマップ上にピンを打った。その地点は、ライが予想した敵の集結地点とほぼ同じ。のみならず、敵集結までの予測時間と、敵の到着順の予測までもが表示された――優秀なオペレーターだ。ライは内心、感心した。

 

『敵部隊は集結し、連携して我々を撃破する作戦だと推測します。ターミガンが後方から奇襲をかけ、敵の集結を妨害、時間を稼ぎます。前衛部隊は速やかに行動開始、合流する前に4番、5番を撃破してください』

「……了解」

「わかったよ、シキナミさん」

 

 ライとコウタは地を這うように低空飛行し、濃い煙幕の中を一直線に翔け抜けた。レーダー上、4番と5番の敵機は最も自分たちに近く、シオミが予測した敵の集結地点には遠い。まずは4番5番の二機で合流しようとしているように見える。

 しかし、飛翔するクァッドウィングの四枚羽根は、シュバルベストライクの七基の大型ブースターは、それを許さぬほどに速かった。

 

「ちぃッ、もう来たか! 転校生!」

「……遅いッ!」

 

 煙幕を吹き散らし、クァッドウィングは天高く飛翔。背中のバインダーを大きく開きホバー移動する4番の頭上へと、躍り出た。

 ライはアザディスタンのぎらつく太陽を背にして、胸部マシンキャノンを撃ちおろした。降り注ぐ大口径機銃弾がフォーミュラ・ジムの厚い装甲を叩くが、流石に〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟率いるエレメントのガンプラ、この程度では傷つかない。

 

「豆鉄砲ではなぁっ!」

「だったら、これでぇぇっ!」

 

 続いて、砂丘の稜線を削るようにして突撃したシュバルベストライクが、ストライカーパックから伸びる細身のライフルを連射した。リニア方式で撃ち出された実体弾が4番の姿勢を崩すが、装甲を穿つまでには至らない。コウタはランサーを突き出して突撃、しかし4番は大型バインダーのバーニア出力で無理やり立ち上がり、身を躱した。

 

「サツキ・コウタか。相手に取って、不足はないがな!」

 

 フォーミュラ・ジム背部の大型砲が、ライとコウタへと向けられた。ヴェスバー独特の発射音と共に威力重視の重粒子ビームが発射され、稲妻機動で回避するクァッドウィングの肩を掠める。コウタは左手のシザーズシールドでガードしつつ、後退。鉄血(オルフェンズ)系MSの耐ビーム性能は高いが、ヴェスバーの射撃をそう何度も受け切れない。

 ライとコウタはやや距離を開けられてしまい、中距離からの撃ち合いになる。その間も、フォーミュラ・ジムは(ホバー)を止めない――攻撃を受けながらも、仲間との合流を優先する。連携の練度が高い証拠だ。

 

『オペレーターより情報支援!』

「……ッ!!」

 

 再び4番の頭上を抑えかけたライは、シオミの声と同時にマップに追加された情報を見て、急転換で上空へと逃れた。直後、クァッドウィングがいた空間を、加速粒子ビームによる砲撃が翔け抜ける。弾速重視のヴェスバーを撃ったのは、5番のフォーミュラ・ジム。4番が急襲されたのを受け、集結よりも援護を優先したようだ。マップ上の敵集結予測地点は更新され、敵部隊全体として、こちらへ向かって来つつある。1番、2番、3番はイマとアンナが抑えてくれると信じて、ライは目の前の二機に集中する。

 上空からマシンキャノンをバラ撒き、二機を分断。その空間にコウタがランサーを突き出して喰い込み、連携を断ち切る。しかしその位置は、相手にしてみれば挟み撃ちのチャンス――

 

「だから甘ちゃんなんだよぉっ! サツキ・コウタぁぁ!」

 

 ホバー走行で派手にドリフト、砂煙を巻き上げつつ、4番はヒートブレード付きのロングライフルをコウタに向けた。同時、5番はヴェスバーを起動、ライへの牽制射撃の構えを見せた。チャンスだからこそ、まずは確実にコウタを仕留める。ライに手出しはさせない。〝精密兵団(レギオン)〟の異名をとるフォウ・オペレーションのメンバーにとって、この程度の連携に言葉は不要だった。

 だが、

 

「スイッチ!」

「了解」

 

 ライとコウタも、このエレメント・ウォーに向けて、訓練を積んでいた。たった三日間の、付け焼刃と鼻で笑われても仕方ない程度の、しかしそれでも真剣な特訓だった。

だからたった一言で、ライとコウタは動けた。

 コウタは自分に銃口を向ける4番を無視して、モビーディック・ランサーを豪快に真横に振り抜いた。シュバルベストライクの膂力と大ぶりな横薙ぎの遠心力を載せた鉄血(オルフェンズ)系の重量兵器が、5番を真横からブッ飛ばした。

 ライは5番の撃ったヴェスバーが装甲表面を焦がすのを感じながらも、落雷のように急降下。モビルファイターの頑丈さを持つ拳を鉄槌の如く叩き込み、4番のロングライフルを叩き折った。

 

「なん……ッ!?」

「……だとぉッ!?」

 

 自分を狙う敵を無視して、仲間を助けるためだけの攻撃目標切替(スイッチ)。ライは訓練の時、コウタが提案してきたこの前衛同士の連携の案に反対した。この先輩のお人好しは、敵も味方も区別しないようだ……などと、内心で呆れていた。

 だが実戦では、こうも有効に働くではないか。敵が連携を得意としているほど、仲間を信頼しているほど、このスイッチは敵の虚を衝ける。目の前の危険を仲間に丸投げしておいて、自分はその仲間を守ろうとするなど、普通は考えない。

 

(サツキ・コウタ……単なるお人好しでもない、か……)

 

 予想以上にうまくいってしまった連携に何よりライ自身が驚いていたが、敵の驚きはそれ以上だ。この隙を逃す手はない。

 

「てやぁぁぁぁっ!」

 

 コウタはランサーを振りかざし、5番に追撃。5番はひしゃげて潰れた右腕をかばいながらも、腰のグレネードランチャーで応戦。ホバー走行で距離を取ろうとするが、シュバルベストライカーの加速力の方が上だ。5番は逃げきれないと悟るや、地に足を付けてヴェスバーを連射。コウタは撃ち放たれる重粒子ビームの間を器用に潜り抜けるが、さすがに数発は避け切れず、ストライカーパックのリニアライフルは失ってしまう。だが、ガンプラ本体はほぼ無傷。突撃の勢いのままに5番の懐に飛び込み、その胸のど真ん中に、モビーディック・ランサーを突き立てた!

 

「ごめん、撃ち抜くよ!」

「くっ! すみません、コウメイ隊長ぉぉぉぉっ!」

 

 ガッ、ォォオオンッ!!

 硬質な炸裂音、ショット・ランサーが射出される。超硬質の穂先が猛烈な回転と共に撃ち出され、フォーミュラ・ジムの肉厚な胸部に大穴を穿ち、貫通した。ゴーグル・アイから光を失った5番は、崩れ落ちるように砂丘に膝をつき、そして爆散した。

 

「ちぃッ、四枚羽根め! 十分に戦力は評価していたつもりだったが!」

「…………ッ!」

 

 ホバー走行で距離を取ろうとする4番に、ライは稲妻機動で喰らい付いていた。加速粒子と重粒子を織り交ぜたヴェスバーの乱射を躱し、絶妙なタイミングで足元に転がされるグレネードの爆発を回避する。このガンプラ、手数が多い。フォウ・オペレーションが得意とする中距離以上での集団戦闘に持ち込まれていたら、かなりの強敵だっただろう。

 

「……だが、もう俺の距離だ」

 

 ライはバルカンの牽制射撃を前に飛び込むことで躱し、左のバスターマグナムを抜いた。

 4番もそれに応じ、ホバーの出力を一層上げて、反転前進。格闘の間合いにまで自ら距離を詰め、両手にビームサーベルを抜刀した。

 

「まだだ! まだ終わらんぞ!」

「…………!」

 

 閃く二刀流のビーム刃を、ライは跳び上がって回避。それを予期していたかのように、ヴェスバーの銃口が向けられている――しかし、威力重視の重粒子モードのヴェスバーでは、稲妻機動を描くクァッドウィングを捉えるには遅すぎた。ライは4番の背後に回り込む。4番は左右のビームサーベルを振り向きざまに薙ぎ払うが、共に空振り。直後の隙を狙い澄ました右掌底打ちが、4番ジムの顔面に叩きこまれる。砕けたゴーグル・アイのクリアパーツをまき散らしながら、仰け反り倒れるフォーミュラ・ジム。その腹部コクピットハッチに、カツン、と軽い音を立てて、バスターマグナムの銃口が突き付けられた。

 

「……いただく!」

「レギオン4よりブレイン。すまない、墜とさ……」

 

 ドッ、ビュオォォンッ!

 超高エネルギーの光が膨れ上がり、フォーミュラ・ジムを呑み込み、焼き尽くした。その熱量は砂丘の一部をも蒸発させ、砂漠のど真ん中にガラス質に焼結したクレーターを残した。

 

『直近の敵影、消失しました』

 

 通信画面の向こうから、シオミが落ち着いた声で告げた。声には抑揚がないように思えるが、その表情にはほんの少しの安心感がにじみ出ている。

 

「ありがとう、シキナミさん。今日も的確な情報支援だね」

『べ、別にそんな……って、違います。お話はあとです、先輩。ターミガンが敵MS、2番、3番と交戦中。ガトウさんにも向かってもらっていますが、前衛部隊も至急、救援に向かってください。……あと、気になる情報が一つ』

 

 今も何枚もの空中パネルを操作して、情報を整理しているのだろう。指先と視線を忙しく動かし続けながら、シオミはやや低い声で告げる。

 

『敵1番……コウメイ先輩の機体が、レーダーから消えました』

「…………」

「コウメイ君が?」

 

 〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ。フォウ・オペレーションの司令塔にして〝軍師〟の異名をとる彼が、姿を消す――その事実の、意味するところは?

 

『……先輩、ヒムロさん。嫌な予感がします。合流を急いでください』

「わかったよ、シキナミさん」

「……了解」

 

 マップ上に、ターミガンと敵部隊との交戦地域がマークされる。砂丘の起伏で視界は遮られているが、クァッドウィングのスピードなら数十秒で突入できる距離だ。ライはウィングスラスターを開き、クァッドウィングを飛翔させる。間を置かず、シュバルベストライクも飛び立った。

 

「イマちゃんには、重い役割を任せきりだね。急がないと……」

 

 眉尻を下げて悔やむコウタの言葉に、ライは「大丈夫だ、先輩」と応えた。

 全速力で飛行し、ものの十秒程度でイマの戦闘地域がライの視界に入ってきた。波のようにうねる砂丘と岩石質の荒野が入り交じる砂漠地帯に、先ほど撃墜したのとまったく同じガンプラ、フォーミュラ・ジムが二機。そして――

 

(……出撃時は、なぜあの装備(・・・・)なのかと思ったが……戦場を掻き乱すには最適だ。シキナミ・シオミは、このシチュエーションを読んでいたということか……?)

「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっほおぉぉぉぉぉぉぉぉう♪」

 

 通信機から響く、テンションの上がり切ったイマの嬌声。そのボルテージの高さに呼応するかのように、派手に砂漠を飛び跳ね駆け回るガンプラが、一機。しかしそのガンプラは、ターミガンと同じカラーリングをしていたが、どう見てもモビルスーツには見えなかった。

 四つの車輪を猛然と回転させ、砂を蹴り飛ばしながら爆走する機体。

 

「にひひひひーーっ♪ 何人たりとも、ビークバギーフォームとなったイマとターミガンの前はぁぁっ♪ 走らせないのですよーーっ♪」

 

 どう見てもMSサイズの四輪バギーにしか見えないガンプラが、戦場を引っ掻き回しているのだった。




 ……以上、第三話Cパートでしたー!
 消えたコウメイ。ひゃっはーするイマ。果たして次でちゃんとまとめられるのでしょうか。誰よりも私自身が心配です。(笑)
 次回もお読みいただければ幸いです。
 感想・批評もお待ちしております!


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Episode.03-D『タタカイ ノ ハジマリ ④』

 こんばんは、亀川ダイブです。
 先週は更新できず、すみません。リアルの方がたてこんでまして……
 お待ちいただいていたみなさま、お待たせいたしました。
 第3話最終パートです! どうぞよろしくお願いします!

 


 シオミはずらりと並んだモニター類に油断なく目を配り、流れゆく情報と映像を同時並行的に処理していた。フォーミュラ・ジム二機を撃破し、敵の集結地点に急ぐ前衛のライとコウタ。集結地点に乗り込んで、四輪MA形態の機動性で引っ掻き回すイマ。かなり遅れて、主戦場へと向かうアンナ。コウタ一人のオペレーションをしていればよかった前シーズンまでとは、仕事量が桁違いだ。

 

(それでも……見落としたとは思えない……)

 

 指一本でメガネの位置を直しつつ、シオミは全ての情報を洗い直す。〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロの機体が、忽然と姿を消した件についてである。

 

(先輩たちが4番5番を墜としたところまでは、確実に捉えていた。その後の数秒間の電波障害は、ごく普通のチャフだった。でも、そのあとに……!)

 

 ほんの数秒、ある限定された範囲だけ、レーダーが乱れた。それは、アンナのジャミングシールドのような反則級の特殊装備ではなく、チャフグレネードなどの通常の撹乱手段によるものだった。しかし、問題はその後。せいぜい十秒程度の電波妨害が終わってクリアになった画面上に、マサヒロの姿はなかったのだ。

 

(嫌な、感じだわ)

 

 いくら探しても、見つからない。レーダーを妨害された範囲内にあるものは、砂丘だけ。あえて言うならば、最初にターミガンが不意打ちのバスターライフルで撃破したジムの残骸は転がっているが、まさかそれが動き出すということもないだろう。

 シオミは索敵の種類を電波、熱源、光学と、思いつく限りに切り替えながら戦場を探った。前衛二機が敵2番3番との交戦距離に入るまで、あと30秒程度。ジャミングシールドとモビルワーカーを積むためにシールドブースターを外したガトキャノンは足が遅く、短距離のブーストジャンプを繰り返しながら合流を急ぐが、交戦距離に入るにはさらに30秒はかかる。

 

(それまでに、突き止めないと……!)

 

 気を急かすシオミに、アンナから通信が入った。

 

『し、シキナミ先輩っ。みんな、大丈夫ですかっ? イマちゃん、一人で囮みたいになっていますけど……』

「ターミガンのMA形態は、陸上での機動・運動性能に非常に優れています。ガトウさんは、そのまま最短ルートで援護に向かってください」

 

 心配そうに眉をハの字にするアンナに、シオミは冷静に返す。いつも通りに事務的なその声色が、言葉だけの気休めを言われるよりも、アンナを安心させた。

 

『……あっ、イマちゃんが撃ったガンプラ……GBNでよかったあ。本当にバラバラになっちゃったら、可哀そうですもんね……』

 

 シオミの声掛けで周りを見る余裕が生まれたのか、アンナはちょうど着地した地点に転がっていたフォーミュラ・ジムの残骸に目を向けた。焼け焦げたプラスチック片。ゴーグルアイの割れたジムヘッド。特徴的な背部大型バインダー。なんとなく、シオミもその画面に目を向ける――そして、戦慄した。

 ガトキャノンの足元に転がる、焼け焦げたフォーミュラ・ジムの右腕(・・)

 そして、同じ砂丘のふもとにも、また右腕(・・)があった。

 半分砂に埋まりつつも、損傷のまったくない右腕が、刃を出していないビームサーベルを握ったまま転がっている。

 

「ガトウさんっ!」

 

 ガトキャノンの、合流最短ルート。ほんの数秒の電波妨害。すでに一機撃墜され、その残骸が転がっている砂丘。アザディスタンの戦場跡地、遺棄された兵器群や金属片が埋もれた砂漠。

 〝軍師〟コウメイ・マサヒロ。自ら泥を――否、砂を被ってまで、こんな奇策をとってくるとは。

 

「跳んで!」

『ほえ?』

『――遅いな』

 

 砂丘を突き破り、怒涛の勢いで飛び出すフォーミュラ・ジム。真紅に染まったゴーグルアイ。噴出する、真っ赤なビームサーベル。ガトキャノンの腹部中央、コクピットハッチに寸分の狂いもなく突き立てられた灼熱の切っ先が、装甲を焼き切って自分の目の前に迫ってくる光景。それが、アンナがこの試合で見た最後の光景となった。

 

「コウメイ先輩……っ!」

 

 シオミは表情を変えないよう努めたが、無意識に唇を噛んでしまっていた。

 私が、見落とさなければ。気づいていれば。〝軍師〟の異名をとるコウメイ・マサヒロが、三機もの仲間を失って、3対4の数的不利なまま試合を進めるはずがない。ましてや、人数差が広がるのを覚悟で姿を隠して、何も仕込まないはずがない。

 

『――誇れ。最初の奇襲だけは(・・・)見事だった。計算を狂わされたよ』

 

 オープンチャンネルでそれだけ言うと、マサヒロのフォーミュラ・ジムは砂に潜るため外していた大型バインダーを再び装備し、飛び立っていった。

 そう、砂丘に大型バインダーが転がっているのもおかしかったのだ。最初の一機は、ターミガンのバスターライフルで大型バインダーを撃ち抜いて撃破したのだから。レーダーや情報に頼るあまり、目の前の光景が見えていなかった……!

 

(読まれていた……読み切れなかった……全部……っ! 私の、ミスだ……っ!)

 

 いつから? どこまで? 次から次に浮かんでくる疑問と後悔を無理やり飲み込んで、シオミは眼鏡の位置を直した。努めて冷静に、動揺を押し殺して、事務的に告げる。

 

「オペレーターより各機へ。ガトキャノン、撃墜されました」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ウイングガンダムが持つ専用シールドは、バード形態で機首となる部分だということもあって、鳥の頭か嘴かといった形状をしている。それを三枚、ほぼ円錐形を描くようにくっつけてフロントカウルとし、あとは両肩と両足首のローラーホイールを四輪車のように展開すれば、ガンダム・ターミガンのMA形態(ビークバギーフォーム)は完成である。

 寝そべり変形などと揶揄される簡易変形の一種ではあるものの、専用シールドを利用したフロントカウルは頑丈で、肩と脚の関節機構がそのままサスペンションとなる四輪の走破性は非常に高い。敵陣に突っ込み、走り回って引っ掻き回すには最適だ。

 

「ひゃっはー♪ 今のイマは、砂漠の爆走美少女なのですよぉぉぉぉっ♪」

 

 起伏の激しい砂丘に張り付くような軌道で、猛烈な砂煙を蹴立てて爆走する。クァッドバスターライフルは分割してダミーバルーンに持たせてしまったので、今のターミガンの主武装は、通常のバスターライフルが二丁である。背部のサブアームでそれを構え、遠巻きにターミガンを包囲するフォーミュラ・ジムに向けて乱射している。

 2番と3番のフォーミュラ・ジムはイマによる奇襲で一瞬は混乱したものの、すでに連携を取り戻し、ターミガンから一定の距離をとりつつ後退している。反撃のロングライフルやヴェスバーも散発的で、小賢しく駆け回るイマを撃墜しようという気迫は、あまり感じられない。

 

「にひひひひっ♪ きょーごー(強豪)峰刃学園の先輩さんといっても、イマの敵ではないのですっ♪」

 

 しかし、調子に乗ったイマでは、変に消極的な2番と3番の真意には気づけない。

シオミに余裕があればイマへの助言ができたかもしれないが、この時シオミは、姿を消したマサヒロを探すことに気を取られていた。そして、ライとコウタはまだここまで30秒はかかる距離にいる。なおかつ、2番と3番は、イマをライたちから引き離そうと誘い込んでいた。

 ――だから、

 

『オペレーターより各機へ。ガトキャノン、撃墜されました』

「えっ、アンナちゃんが!?」

 

 シオミの報告に驚き急ブレーキをかけてしまったのは、完全に、イマのミスだった。

 

「ブレインよりレギオン2、3。攻撃開始」

「レギオン2、了解」

「レギオン3、了解」

 

 今までの消極的な射撃が嘘のような、ヴェスバーとロングライフルの一斉射撃。重粒子ビームと徹甲榴弾が雨霰とターミガンに襲い掛かり、頑丈なはずのフロントカウルが一息に吹き飛ばされてしまった。

 

「ほああーーっ!?」

 

 弾着の衝撃で吹き飛ばされ、宙を舞うターミガン。イマは空中でバギー形態を解除、バスターライフルを手に持ってMS形態へと変形する。しかし着地すらできないうちに、追い打ちの弾幕がターミガンの両手からバスターライフルを吹き飛ばし、狙い澄ました徹甲榴弾の一撃が顔面を直撃した。

 

『イマさん、後退してください! 先輩たガッ、ピッ』

 

 シオミの声が雑音と共に途切れた。頭部損壊による、通信機能の大幅ダウン。シオミがマップにマーキングしてくれた後退ルートも、ライとコウタの位置表示も、掻き消えてしまう。ただ、ターミガンはウイングガンダムの改造機なので、胸部中央のサーチアイにより目の前の敵を見失わずにすむことだけは幸運だった。

 

「ふ、ふふん! たかがメインカメラをやられただけなのですよーっ!」

 

 イマは強がってお決まりのセリフを言ってみるが、だからといって打開策があるわけではない。とりあえず足を止めないように両足のローラーホイールを回し続け、次々と襲い来るヴェスバーとロングライフルを掻い潜る――しかしそれでも、一発、二発と被弾してしまう。

 

「ほああ! うひゃあばばばば!!」

 

 そしてついに、ヴェスバーが脚部に直撃。足首ごとローラーホイールが大破し、ターミガンは砂丘を削り取りながら豪快に転倒した。

 ガクガクと、全身を揺さぶる衝撃。イマはコンソールにしがみ付くようにしてそれに耐えながら、ターミガンにビームサーベルを抜刀させた。転倒し無防備になった自分にトドメを刺しにくるに違いないという直感に従ったものだったが、〝軍師〟コウメイが指揮する〝精密兵団(レギオン)〟は、わざわざビームサーベルを突き立てに来てくれるような相手ではなかった。

 ぽん、ぽん、という軽い破裂音と共に、宙を舞う無数の円筒形。それは、フォーミュラ・ジムが腰のランチャーから射出したグレネード弾による、飽和爆撃。ターミガンのバルカンとマシンキャノンを総動員しても、到底全部は撃ち落とせない――それほど大量のグレネード弾が、緩い放物線を描いてターミガンへと降り注いだ。

 

「ま、マスターたちが来てくれたら、おにーさんたちなんて! ギッタンギッタンにしてくれるんですからあーっ!」

 

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドォンッ!

 砂丘を丸ごと吹き飛ばす連続爆発が、イマの捨て台詞を呑み込み掻き消した。

 

『……ターミガン、撃墜されました』

 

 冷静であろうと努めるシオミの声に、僅かな震えが混じる。

 レーダー上からターミガンの反応が消える瞬間を、ライは奥歯をギリリと噛み締めながら見詰めることしかできなかった。

 

「……わかっている」

 

 ライは低く呟きながら、フットペダルを踏みこんだ。ウィングスラスターはすでにオーバーヒート寸前で、これ以上速度が上がるわけでもない。どうあがいても、あと十数秒かかる。その十数秒の時間と距離が、イマとアンナを撃墜させてしまったのだ。

 

『敵2番と3番は後退。まもなく1番……コウメイ先輩と合流します。形勢は2対3、数的不利です。シュバルベストライクとクァッドウィングの武装でこの不利を覆すには、近接格闘戦を挑むしかありません』

「多少の被弾は覚悟のうえで、突撃するしかないみたいだね」

「……わかっているッ!」

 

 最後の砂丘の稜線を越えると、フォーミュラ・ジムの姿が確認できた。三機が互いに適度な距離をとった、三角形のフォーメーション。味方に射線を遮られることなく、全火力を前面に投射できる陣形だ。

 

「ヒムロ君、僕のガンプラは対射撃防御が高い鉄血(オルフェンズ)系だ。前に出るから、僕を盾代わりに」

「……いや、突っ込むッ! 横から撃て、先輩!」

 

 コウタの言葉を切って、ライはクァッドウィングを急上昇させた。青く宇宙まで抜けるような砂漠の空に、クァッドウィングは矢のように翔け上がっていく。迎撃の弾幕が打ち上げられるが、稲妻機動で全弾回避。翼をすぼめて雲を突き抜けると、反転、弾丸のように急降下した。

 

『ヒムロさん、一人で突っ走っては!』

「仕方ない……僕も突っ込むよ、シキナミさん!」

 

 ライから一手遅れて、シュバルベストライクも突撃する。コウタはライの言葉を信じ、地上スレスレを敵陣の側面へと回り込むようなルートをとる。モビーディック・ランサーの根本に内蔵されたヘビィ・マシンガンを連射しながら、距離を詰めていく。

 

「ほう、中央に来るか。有効な手だが――」

 

 一方マサヒロは一瞬でライの意図を察し、むしろ誘い込むように弾幕を緩めた。ライはそれに気づきながらも速度を落とさず、弾丸の勢いのまま、敵陣の三角形の中央へと降り立った。同時、待ち構えていたマサヒロのヴェスバーがライを捉えるが、

 

「イマを撃ったのは……貴様かぁッ!!」

 

 ライはマサヒロを無視し、ビームセイバーを展開して2番へと斬りかかる。2番はロングライフルの銃身下部に装備したヒートブレードを起動、受け太刀からの鍔迫り合いへと持ち込む。こう密着してしまえば、仲間を巻き込む可能性を考え、威力の高い火器は使えないはずだ。だから、マサヒロの次の一手は――ライが予想した通りに、マサヒロはロングライフルを構え、ヒートブレードを起動した。

 

(よし、近接格闘なら俺の領域だ……!)

 

 しかし、その次の〝精密兵団(レギオン)〟たちの行動は、ライの予想を裏切るものだった。

 

「有効だが甘いな、転校生――レギオン2、任せるぞ」

「はっ!」

 

 2番は短く答え、ライを抑え込みにかかった。クァッドウィングも単純なパワーでは負けていないが、フォーミュラ・ジムとの間には、重量と体格で大きな差がある。突撃で注意を引き、コウタに側面をとってもらうつもりが……自分の方が、抑え込まれている状況。

 

「――レギオン3、行くぞ」

「了解」

 

 マサヒロはブレード部を赤熱化させたロングライフルを剣客のように脇に構え、ヘビィ・マシンガンを撃ちながら突っ込んでくるコウタに、自分から飛び込んでいった。3番も同じくヒートブレードを赤く加熱し、シュバルベストライクに向かっていく。

 

「くっ……先輩!」

「貴様の相手は私だぞ、転校生!」

「…………ッ!」

 

 2番からの圧力(プレッシャー)が、一層強まる。ライはヒートブレードを斜めに滑らせて鍔迫り合いを解き、再び斬りかかるが、それも防がれまた鍔迫り合いに。

 フォーミュラ・ジムは明らかに射撃重視万能型の機体構成だが、ダイバー自身の剣の扱いが上手い。さすがは〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟率いるエレメントのメンバー、全方位に隙がない――ライは感心しつつもまたヒートブレードを横に流そうとするが、今度は足捌きで抑え込まれた。この男は何が何でも、ライを逃がさないつもりのようだ。

 ヒートブレードを構えた二機のフォーミュラ・ジムがコウタに襲い掛かるのを視界の端に捉えながらも、ライは、目の前の敵の相手をせざるを得なかった。

 

『先輩、ヒート兵器は鉄血(オルフェンズ)系MSの天敵です。実弾もビームも弾くナノラミネートコーティングですが……!』

「わかっているよ、シキナミさん。熱には弱い、だよねっ!」

 

 鉄血のオルフェンズ劇中、ガンダムグシオンが放った焼夷弾は、オルガ・イツカらの乗るイサリビの装甲を焼いた。ナノラミネートコーティングが熱に弱いという設定――設定の作り込みとしては賛否両論あるが、この設定はGBNでは正式に採用されている。そして様々なガンダム作品が一堂に会する故に、GBN特有の新しい設定が生まれていた。

 宇宙世紀(UC)系のヒート兵器が、鉄血(オルフェンズ)系のナノラミネートコーティングの天敵となる、という設定だ。

 

「僕の機体特性に合わせて、ビームサーベルじゃなくヒートブレードで斬りかかる! 流石だね、コウメイ君!」

「――自分は常に最適解を求めているだけだ。知っているだろう、サツキ・コウタ!」

 

 ガッ、キィィン!

 ぶつかり合うモビーディック・ランサーとヒートブレードが、お互いを弾き合う。その隙を逃さず、3番が大上段からヒートブレードを叩きつけてくる。コウタは左腕のシザーズシールドでそれを受けるが、すぐにナノラミネートが限界を迎え、シールドは溶断されてしまう。

 

「一撃分も、もたないか……!」

「――好機!」

 

 まるで精密に計測し、綿密に打ち合わせたかのような連携。3番がコウタの前から飛び退くと同時、入れ替わりにマサヒロがヒートブレードによる刺突を見舞ってきた。コウタはランサーの腹でその切っ先を受け止めるが、ランサーはすでに何か所もナノラミネートを焼き切られ、ボロボロの状態。ヒートブレードは傷ついたランサーの穂先を抉り、深々とその切っ先を喰い込ませた。

 

「――レギオン3、やれ」

「了解っ!」

 

 3番はシュバルベストライクの背後に回り込み、大きく真横に、三日月を描くようにヒートブレードを振り抜いた。ガンダムフレーム特有の細い腰が――ナノラミネートに守られ、通常兵器相手になら十分な強度を持っているはずの腰部フレームが、ヒートブレードの熱量に、ナノラミネートごと叩き斬られる。

 

『せ、せんぱぁぁぁぁいっ!!』

「ごめん、みんな……っ!」

 

 胴斬りにされたシュバルベストライクに、マサヒロはダメ押しのロングライフルを撃ちこむ。被弾に歪んだ装甲の隙間を抜いて、徹甲榴弾がエイハブリアクターに直撃・炸裂。シュバルベストライクは派手に爆散した。

 

「さて。あとは貴様だけだな、転校生――レギオン2!」

「わかっていますよ、隊長!」

 

 コウタの撃墜と同時に2番はクァッドウィングの腹を蹴飛ばして距離を取り、ロングライフルを構えた。3番とマサヒロも、クァッドウィングが一手では詰められない距離をとって、ロングライフルをライへと向けた。

 

「自分は貴様を、完全な近接特化型と分析している。故に――」

 

 三機のフォーミュラ・ジムが、三方向から、三つの銃口でライを狙う。その照準には、ブレも狂いも何もない。ライは思考を加速させ、取るべき手段を考える。銃口の向き、敵の位置取り、生き残る道を探るが、隙が無い。見つからない。

 

「くっ……だが、まだッ!」

「――絶対に近づかない。射撃で終わらせてもらう」

 

 ギュドッ! ギュドギュドドオォォン!

 それ以上の長口上も、油断も傲りも侮りもない。マサヒロが言い終わるや否や、三発の銃声が砂漠の空に響き渡った。〝精密兵団(レギオン)〟の名に恥じぬ正確無比な射撃が、三方向からクァッドウィングを射抜く。

 一発は、腰部を右斜め後ろから左斜め前へ。リアアーマーを撃ち抜き、内部で炸裂。腰関節を砕き、クァッドウィングの下半身の機能を奪った。

 もう一発は、脇腹を左から右へと一直線に貫いた。多くのMSにおいてコクピットか主動力源のどちらかが配置されている胴体ブロックに大穴を穿ち、その機能を完全に破壊した。

 そして、最後の一発は――

 

「――ほう。意地、というものか」

 

 ――最後の一発は、凍り付いていた。

 マサヒロが撃った、胸部中央を真正面から撃ち抜くはずだった一発。腰部を破壊され腹に大穴が空き、辛うじて立っているだけのクァッドウィングは、しかし氷結した右掌を大きく前に突き出していた。光の角度によって青にも銀にも見える氷結粒子の掌の上で、徹甲榴弾が炸裂できずに凍結させ(とめ)られている。

 腰と腹の二発だけで撃墜判定は下され、すでに勝負はついている。しかし、最後の一発を凍結させ、腰を砕かれてなお二本の足で砂漠に立つその姿は、見る者に何かを語り掛けるには十分な迫力を持っていた――マサヒロはそれを、ライの〝意地〟だと受け取ったのだ。

 

「まったく、計算しきれないな――だがその不確定要素、自分は嫌いではないぞ」

 

 レギオンの半数が墜とされ、自分自身が砂に潜るような奇策まで使わされた。結果は勝利だが、学ぶべきことの多い試合となった。マサヒロはコンソールを叩き、対戦相手のデータを閲覧する。そしてフッと口元を緩め、不敵に笑った。

 

「サツキは良い新人を捕まえたな――」

 

 氷のシャイニングフィンガー使い、ヤマダ兄と一騎打ちした男、サカキを討った男、エルダイバーの主――入部数日にしていくつもの噂に彩られた転校生、ヒムロ・ライ。噂にたがわぬ尖ったビルドのガンプラを使うダイバーだった。最後に見せた意地の一手は、記憶に留めるに値する。

 そしてもう一人――ガトウ・アンナ。マサヒロには、彼女の方が警戒すべき相手と思えた。ファイターとしての腕は、未熟も未熟。しかし、あのジャミングシールドやモビルワーカーなど、目を見張る工作技術がある。彼女がビルダーとしての能力を自覚し始めたら――エレメントの中での彼女の〝立ち位置〟が確立されたら。

 エレメント〝ブルーブレイヴ〟。果たして彼らは、戦局を動かす新風となるのか――

 

「ガトウ・アンナ。ヒムロ・ライ。貴様たちの名、覚えさせてもらったぞ」

《――BATTLE ENDED!!》

 

 試合終了を告げるシステム音声と共に、アザディスタンの乾いた風が、戦場を吹き抜ける。

 峰刃学園エレメント・ウォー、今季初戦〝トゥウェルヴ・トライブス〟。その勝利を飾ったのは、〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ率いる、エレメント〝フォウ・オペレーション〟であった――。




 以上、第3話Dパートでしたー。
 
 ……最後のマサヒロの言葉に、イマが「あれ? 私の名前がありませんよ? むきー!」とじたばたする姿が目に浮かぶのは私だけでしょうか(笑)

 フォウ・オペレーションは軍師コウメイの指揮の下、常に人数有利を確保しつつ戦うというスタイルで描いてみました。
 最初の奇襲に成功、さらにライとコウタの働きで、主人公サイドは4対3の有利を取ります。しかしマサヒロは妨害工作&弾幕しかしていないアンナが単純な戦闘力は低いことを見抜き、奇襲で意趣返し。さらに主人公たちが合流する前にイマを落とし、あっという間に状況を2対3に逆転させます。
 ライとコウタを墜とす時も、先走ったライを抑え込み、コウタに二人がかりで攻撃。最終的にはライを三人がかりで囲んで撃つ。
 可能な限り数的有利を作ることを意識し、連携をとるマサヒロたちなのでした。

 次回はガンプラ紹介ができたらいいなー、と思っています。
 感想・批評もお待ちしています。どうぞよろしくお願いします!


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Gunpla.03『ガンダム・ターミガン』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 新年初更新は、トップコート切れに始まる一連のゴタゴタも乗り越え、ついに、ようやく、ターミガンでございます(笑)

 本作のメインヒロイン(仮)であるところのイマの愛機という設定ですが、この機体も主人公機のクァッドウィングと同じく設定変更に次ぐ変更で最初の計画とは違う形で登場している機体です。

 もともと本作は、ライが初心者の少年でイマがガンプラ上級者のおねーさんというおねショタ主人公コンビを計画していたのですよねー。その名残で、クァッドウィングよりもターミガンのほうがゴリゴリにベース機から改造されています。四輪バギー形態といういかにも玄人好みな変形機構の設定も、ターミガンが上級者のおねーさんが使うガンプラの予定だったからです。

 兎も角。そんなこんなで今回は、ターミガンの通常装備とバギーへの変形用装備の二通りのターミガンを紹介します。どうぞご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:ガンダム・ターミガン(A装備)

武装  :頭部バルカン ×2

     胸部マシンキャノン ×2

     クァッドバスターライフル ×1(四門一組)

     三連装大型ミサイルランチャー ×2

     ビームサーベル ×2

     脚部十三連装ミサイルポッド ×2

特殊装備:ロング・サブアームユニット

     ローラーダッシュユニット

必殺技 :フルパワークァッドバスターライフル

     ローリングクァッドバスターライフル

 

①正面&背面

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 ベースはウイングガンダム……ではなく、ウイングフェニーチェです。白っぽい部分が微妙にベージュっぽいのはフェニーチェの形成色をそのまま使っています。頭部はイージスにウイングの頬あて部分を張り付けています。塗装はいつもの如く缶スプレー。渋めのグリーンに金・銀で差し色、イマのイメージとは真逆の(笑)落ち着いた印象に仕上げています。

 肩と膝のアーマーはフェニーチェの左右非対称のアーマーの片方を左右共に装着。肩はクァッドウィングと同じく上下逆につけてみたらやっぱりいい感じだったので採用しちゃいました。アンクルアーマーとクツ部もフェニーチェからです。あと、腰のサイドアーマーはインパルスガンダムのものを持ってきています。ここにビームサーベルを格納している設定です。

 肩の大型ミサイルランチャーは、ズサの腕部ミサイルランチャーです。裏の肉抜きが激しかったので、パテで埋めてボールジョイントを差し込み、肩アーマーに接続しています。足首にもかなりゴテゴテと追加パーツをつけていますが、これはフレームアームズのグライフェン拡張用パーツです。円形のパーツはローラーダッシュユニット、箱型のパーツはミサイルポッドです。

 背面から見ると、ツインバスターライフル×2をサブアームで保持しているのがよくわかりますね。バスターライフルは何か所かホイルシールの余白のシルバーを貼り込んでアクセントにしています。あと、ちょっとしたことなのですが、ツインバスターライフル上部の金属色で塗装している部分、左右で金と銀に色を変えています。あと、サブアームの先端には他のキットから持ってきた手首パーツを接着していますので、目立たないのですが、実はターミガンは四本腕の異形MSなんですよね。クァッドバスターライフルを分割してバスターライフル四丁で使うこともあるのでこのような形になっています。詳しくは、次の画像をどうぞ。

 

②アクションポーズ・分割クァッドバスターライフル

 

【挿絵表示】

 

 ターミガンが実は四本腕の異形であることがよくわかるポーズにしてみました。ついでに脚部ミサイルポッドも展開。いつもハイテンションなアホの子のイマからは想像もつかないカッコよさ(笑)

 まだ劇中では描けていないですが、四門のバスターライフルを全方向に自由に撃てるので、対多数戦闘とか得意そうですよね。

 では続いて、バギー形態への変形が可能なB装備の紹介です。

 あ、ちなみに、A装備はアサルト・アームメント、B装備はバギー・アームメントと読みます。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:ガンダム・ターミガン(B装備)

武装  :頭部バルカン ×2

     胸部マシンキャノン ×2

     シールドバスターライフル ×2

      ・専用ABCシールド

      ・バスターライフル

      ・内蔵式マルチディスペンサー

     ビームサーベル ×2

     脚部ビームシールド ×2

特殊装備:フレキシブル・シールド・バインダー

     可変ローラーホイールシステム

必殺技 :

 

①正面&背面

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 両肩と両足の大型ローラーホイールが特徴的なB装備です。肩のホイールには大型バーニアユニットもついており、MS形態でも機動用装備として有用です。足のホイールには、この画像では見にくいですが、中央部にビームシールド発生装置を備えており、防御や、ビームシールドキックにも使えます。ちなみにこのホイールもフレームアームズから持ってきています。最近よく使うのですが、なかなか優秀ですね、FAのパーツも……もっと使っていこうかしら。

 正面からの画像では、両手のシールドと合体したバスターライフルも目立ちますね。A装備ではウイングゼロのツインバスターライフルでしたが、B装備ではウイングのバスターライフルです。バード形態時に機首としてシールドとライフルを合体させるギミックをそのまま活用しています。背面からの画像では、シールドからライフルを取り外し、腰のアームユニットに接続しています。肩キャノン風に撃ちたいときや近接格闘時にはこのように背中に載せます。

 背面からの画像で一番目立つのは、腰のフレキシブル・シールド・バインダーでしょうか。三枚目のシールドと、フレームアームズからもってきたバインダーを、アームパーツでつないでいます。アームでポジションを変えられる強固なシールド、AMBAC可動肢、サブスラスターの三つの機能を併せ持っています。

 それではみなさんお待ちかね!(某Gガンダム風に)バギー形態に、変形です!

 

②バギー形態・正面&背面

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 さて、どうでしょうか。自分的にはなかなか納得のいく可変機構にすることができました。

 基本的には寝そべり変形ですが、両手のシールドとフレキシブル・シールド・バインダーで周りを覆うことで何となくちゃんとしたマシーンっぽく見せています。

 ターミガンのバギー形態は、四輪駆動によって陸上での最高速度と悪路の走破性を両立し、かつ前面投影面積も非常に少なく、さらにその少ない投影面積のほとんどをシールドに覆われているという、陸路での突撃に最適なモビルアーマーとなっております。

 背面からの画像で見ると、前輪のバーニアユニットと後輪のビームシールドもよく見えますね。後輪中央の銀色のパーツがビームシールド発生装置で、MS形態ではこいつでビームシールドキックもできます。しかしこうしてみると足裏の肉抜きとかディティールをさぼったのがモロバレだな。ちゃんとやっときゃよかった(笑)

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ……以上、ガンプラ作例紹介第三弾「ガンダム・ターミガン」でした。

 アホの子イマちゃんの機体ですが、けっこう頑張って作ってみました。きっと劇中では、イマがライに「あれもこれも!」ってな感じで注文つけまくりつつ作ってたら要素が増えまくってこんな感じになったんだろうなあ、と作者的には妄想しています。

 しかし、エルダイバーであるイマの機体が四本腕だったり四輪車に変形したりという異形にして異質のガンプラになるとは……なるとは、というか私自身たった今、気づいたのですが、これなにかの伏線に使えそうですね。いつだって思いつき、それが私の執筆スタイル(笑)

 兎も角。今後も執筆、ガンプラ制作ともに頑張りますのでよろしくお願いします。新年一発目に、ちゃんとターミガン完成させられてよかった……感想・批評もお待ちしています。今後もよろしくお願いします!

 

 



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Episode.04-A『アク ヲ タツ ボウレイ ①』

どうもこんばんは。
いつもより更新ペースの早い亀川です(笑)

雨続きでガンプラの仕上げ塗装ができないため、ガンプラ紹介ではなく本編更新となりましたー。本編更新はこれが年内最後になるかな……
兎も角、第四話スタートです。どうぞご覧ください!


 全エレメントに支給される初期値が、1000EP。これに、ミネバ・バトルロイヤル生存の副賞、一人につき500EP×五人分が加算される。つまり、今季エレメント・ウォーの〝ブルーブレイヴ〟の初期EPは、3500EPということになる。

 

「おぉぅ、それはそれは! ……それは、多い方なのですか、マスター?」

「……知らん」

 

 すっとぼけた顔で首をかしげるイマに、ライはぶっきらぼうに答えた。アンナは何か言ってあげようと口を開きかけて、でも自分も何も知らないことに気づいて口を半開きにしたまま、眉をハの字にして困っている。

 

「前のシーズンでは、初期値の1000EPだけだったから。みんなが仲間になってくれたおかげで、とても助かっているよ。だよね、シキナミさん」

「はい。正直、ありがたいです。エレメント評価値……フォース内ランキングに使用される数値は所有EPを人数で割りますから、何人チームでも基本的には平等です。しかし、所有EPが多いに越したことはありません」

 

 アンナへの助け船を出したコウタの言葉を補足しつつ、シキナミは戦術予報パネルに新たなウィンドウを開いていく。

 五人が集まっているのは、エレメント母艦〝ブルーバード〟内、ミーティングルーム。SEEDdestinyのミネルバを元にした艦だが、ミーティングルームの内装はOO(ダブルオー)のプトレマイオスのものによく似ていた。ライたちはまるでガンダムマイスターのように、シキナミの説明を聞いていた。

 

「シーズン中の母艦運用権の獲得が、1000EP。これが早い段階で取れるだけで、今後の戦術が大きく変わります。エレメント所有の母艦での出撃が必須条件のミッションは、EP効率の高いものが多いですから」

「前のシーズンは大変だったね。ごめんよ、なかなか勝てなくて」

「……昨日も言いましたよね、先輩。そうやってすぐ謝らないでください。先輩はエレメントのリーダーなんですよ、もっと自信をもって堂々としていてください。情けないですね」

 

 シキナミはメガネの奥で目を細め、ジト目でコウタを睨む。コウタはまた「ごめんよ」と言いかけてしまい、中途半端な愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 

「……にひひっ♪ こーた先輩としおみん先輩、らぶらぶですねぇ、マスター♪」

「……? そう、なのか?」

「んもぅ、マスターはオールドタイプ過ぎますよー。どこをどうみても、イマとマスターと同じぐらい、らっぶらぶじゃあないですかー♪」

「……離れろ。顔が近い」

 

 ほとんど耳元にほっぺがくっつくぐらいの距離でニヤニヤしていたイマの頭を、ライは乱雑につかみ、ぐいっと押し退けた。

 

「んにぃー!? もうマスターってばぁ、照れ隠しが乱暴すぎですー♪」

 

 ぶーたれながらもどことなく嬉しそうなイマと、無表情のライ。イライラとしたジト目のシオミ、力ない愛想笑いのコウタ。四者四様のメンバーに囲まれたそのど真ん中で、アンナは顔を真っ赤にして俯いていることしかできなかった。

 

(みみ、みんなそれぞれラブラブすぎですよぅ……見ているこっちが恥ずかしくなっちゃうレベルじゃないですかぁ~!)

『こらこら青少年たち、何をいちゃこらしているんだい。見ているボクの方が恥ずかしくなるレベルだぜ、まったく』

 

 アンナの心の声とほぼ同じ内容が、戦術予報パネルから聞こえてきた。自動的に通信ウィンドウが拡大され、声の主の姿がパネルに大写しになる。

 

『はろはろー、〝ブルーブレイヴ〟の諸君。部長のヒビキ・ショウカだぜー。よっろしくぅ♪』

 

 艶やかな黒髪に、切れ長の流し目。峰刃学園ガンプラバトル部・部長ヒビキ・ショウカである。

 黙っていれば古風な和風美人なのだが、ショウカはわざとそのイメージを崩しにかかっているかのように、茶目っ気たっぷりにウィンク&横ピース。その様子からは〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟の異名をとる当代最強の高校生ダイバーだとは、とても思えない。

 

(ぶ、部長さん……っ。とと、突然なんで……というか、あの挨拶気に入ってるのかな。全然似合わないのに……ミネバ・バトルロイヤルの説明の時もしてたし……)

「こんにちはー、ぶちょーさんっ♪ その挨拶、全然似合わないですけど気に入ってるんですかぁー?」

(イマちゃーーんっ!? 言っちゃダメそれーーっ!?)

『ああ、ボクの最近のお気に入りだぜ。よっろしくぅ♪』

(気に入ってたーーっ。そして似合わない発言も気にせずまたやったぁーーっ!?)

「にひひっ♪ カワイイですよね、それっ。よぉし、イマも♪ よっろむぎゅ!?」

「……用件は?」

 

 エンジンのかかり始めたイマの頭をぐいっと抑えつつ、ライは短く問うた。

流れを切ってくれたライに、内心で感謝。ウィンク&横ピースの投げつけ合いからの「ほらほら、しおみん先輩とアンナさんも!」「いっしょにやろうぜ。部長命令だぜ?」という地獄絵図が見えかけていたアンナは、ほっと胸を撫で下ろした。

 

『用件? ああ、用件ね。忘れるところだったぜ。まったくこのボクとしたことが、とんでもないうっかりさんだぜ』

 

 ショウカは整った顔立ちに涼し気な微笑みを浮かべ、肩を竦めて見せた。その仕草だけなら同性のアンナでさえ胸を高鳴らせてしまうような美しさなのだが、突然現れて女子小学生(仮)と横ピース合戦をやりかけて用事を忘れかけるとかそれ部長としてどうなのかと、アンナは思うが口には出せない。

 

「ヒビキ先輩。私たちは今後のエレメント・ウォーに向けた作戦会議の途中なのですが」

『そんなキミたちにこそ、お得なお話だぜ。成功すればボーナスEPマシマシ、ボクからの特別なお願い事だ』

 

 多少の苛立ちを滲ませるシオミの声色もどこ吹く風、ショウカは飄々と告げた。そしておそらくは、空中パネルを操作したのだろう、通信画面の向こうで人差し指を軽くフリックした。ほぼ同時、こちらの戦術予報パネルに、新着メールのアイコンが表示される。

 

『今季初戦、お疲れ様だったね。一発目からマサヒロのエレメントに当たるとは運がない……が、キミたちをボクは、高く評価しているんだぜ。事実、〝ブルーブレイヴ〟のフォース内ランキングは、現状、けっこうな上位に位置している』

 

 フォース内ランキングは、エレメントの所有EPを所属人数で割った〝エレメント評価値〟によって定められる。

 初戦〝トゥウェルヴ・トライブス〟で〝ブルーブレイヴ〟には、参加費と被撃墜のマイナスポイントがある。参加費は二人チームなら50EP、それ以上は一人につき50EP。オペレーター込みで五人編成のライたちは、200EPとなる。バトルロイヤル形式の試合なので、試合終了時点での被撃墜は当然シオミ以外の全員で、四機・計400EPのマイナスだ。

 一方、獲得したEPは、撃墜スコアがダイバーのガンプラ六機とNPD一機、計700EP。フォース内ランキングで格上の〝フォウ・オペレーション〟から撃墜を獲ったため、ボーナスポイントとして撃破一機につき50EP、計150EP。試合におけるエレメントの順位は第二位となるため、順位ボーナスで300EP。

 差し引き、550EPのプラス。母艦運用権の獲得のため1000EPを支払っているため、現在の総所有EPは3050EP――エレメント評価値は、610。初戦を終えたばかりのフォース内ランキングでは、総数約百のエレメント中の、実に三十位に食い込んでいた。

 

「しかしこれは、あくまでも初戦の結果だけの順位です。シーズン終わりには万単位のポイントを稼いでいるエレメントも多いことを考えれば、誤差のようなもの。ヒビキ先輩にわざわざ声をかけていただくほどの事でもないかと思いますが」

『ああ、そうだね。だからランキング云々というのは、あくまでもボクから個人的なお願いをするための建前で、言い訳だ。このお願いごとにキミたちを選んだ理由は、大きく二つ。噂の転校生が面白そうだな、というのと――』

「…………」

 

 悪戯っぽい流し目の中に、一瞬。見定めるような鋭さがよぎったのを、ライは見逃さなかった。かつて師匠の下で修練を積んでいた時に、あのような目をした相手を何度も見てきた。あれは、強者を求める目。より強い相手を、より激しくより熱い闘争を求め、値踏みする目だ。その目の光に中てられ、ライの闘争本能にも火が付きかける――が、続くショウカの言葉に、ライとは別の炎が音もなく燃え上がってしまった。

 

『というのと――ボクが個人的にコウタを信じているから、かな』

 

 ピキッ。もしここがGBNでなければ、シオミの眼鏡にヒビぐらいは入っていただろう。いやむしろ、このプレッシャーはGBNだからなのだろうか。炎のように噴き出す、目には見えない圧迫感(プレッシャー)。EXAMかn_i_t_r_oでも発動したのかというような緊張感が、一瞬にして場の空気を塗り替えた。燃えているのに、冷たい。凍えそうだ。

 普段は空気なんて全く読めないイマまでもが仔犬のように縮こまってライの背中にしがみ付き、アンナはほぼ白目をむいてガタガタと震えている。

 

「……どういう、冗談です……?」

『冗談? おいおいシオミちゃん、ボクが今までに一度でも、冗談なんて言ったことがあるかい? まったく、心外だぜ。ボクとコウタの間に、個人的な信頼関係があっちゃあダメだっていうのかい?』

「……コ・ジ・ン・テ・キ・ナ……ッ!?」

 

 ギチギチギチ……壊れかけのサイコガンダムのような動きで、シオミはコウタを振り返った。眼鏡のレンズが光を反射し、その表情は読めない。

 しかしコウタは動じない。普段はアンナの声にならない訴えも感じ取って通訳してくれるコウタだが、なぜかシオミのことになるとそのセンサー感度は大幅に鈍ってしまうようだ。いつも通りの力ない愛想笑いを浮かべながら、事も無げに答えた。

 

「ああ、ショウカちゃんとは、三年間同じクラスだから。中学の時も、ガンプラバトル部で一緒だったし。小学校は別だから、幼なじみってほどではないけどね」

「……ショウカ、チャン……ッ!?」

(ああっ、今その「名前+ちゃん」呼びはダメですサツキ先輩っ。シキナミ先輩が、自分の「苗字+さん」呼びとの差をぉぉぅ……っ)

 

 全部気づいていながら、へらへら笑うショウカ。何もわかっていないコウタ。NT-Dに匹敵するナニカが発動中のシオミ。

 アンナは恐怖と心労のあまり思考停止に陥り、そのまま明鏡止水の境地に達してしまった。金色に染まったアンナのダイバールックが少しずつ透き通っていき、魂的な何かがすぅーっと抜け出しつつある。

 

「ああっ、ダメですアンナさん! この状況でイマを置いていかないでくださーいっ! いいイマ、怖すぎておもらししちゃいそうなんですよぉーっ! まま、マスターもこの状況、何とかしてくださいよー!」

「……何をはしゃいでいる?」

「んだぁーーっ! これだからオールドタイプはーーっ! あぁっ、ダメですアンナさんっ! そっちに、そっちに逝っちゃダメなのですよーーっ!!」

 

 ――その後、紆余曲折という言葉では語り尽くせないほどの様々な手順と葛藤と修羅場を経てショウカからの通信は切れ、どうにか場は落ち着いた。

 いっそ清らかな表情で遠くを見つめるアンナと、口から耳から白い煙を吐きながらへたり込むイマ。そして、無言かつ無表情でひたすら眼鏡を拭き続けるシオミと、困り顔でシオミに話しかけ続けるコウタ。

 そんな死屍累々のミーティングルームの中で、ライだけがいつもと変わらぬ仏頂面で、ショウカからのメールを開いていた。

 

「……運営本部公認の、特別ミッション……?」

 

 メールの冒頭に描かれた、GBN運営本部のゴロマーク。そして、GBNの治安維持部隊として有名な〝GHOST(ゴースト)〟部隊章。

 Gunpla Hyper Online Security Team――通称〝GHOST(ゴースト)〟。六年前の〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の悲劇を繰り返さないため、そしてGBNを世界で最も安全な電脳遊戯とするため、ヤジマ商事主導で設立された電脳世界の警察機構。設立当初は極秘部隊だったらしいが、現在では存在を公にし、悪質なダイバーに対する抑止力となっている。

 ショウカからのメールには、フォース〝峰刃学園ガンプラバトル部〟と、運営本部直属治安維持部隊〝GHOST(ゴースト)〟とが合同で行う、大規模治安維持作戦の概要が、記されていた。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 違法行為や迷惑行為を繰り返す悪質ダイバーという存在は、どれほど規制を強めようとも、消えてなくなることはない。ある意味ではそれは、数々のガンダム作品が描こうとした人間の本質、その一側面なのかもしれない。

 しかし、だからと言って、それを放置するわけにはいかない。

 ヤジマ商事が目指す〝普遍的なガンプラ体験(ユニバーサル・ガンプラ・センチュリー)〟の実現のため――などという大義名分を掲げるまでもなく。ただ純粋に、自分たちが大好きなガンプラを、ガンプラバトルを、GBNを守るため。

 ――そして、(レイ)のような被害者を、二度と出さないため。

 かの〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟から、六年。GHOST設立時からの古参であるゴーダ・バンは、常にGBNの治安維持の最前線で、戦い続けてきた。

 

「ンだよ! ちょっとパラメータいじっただけじゃねーか!」

 

 それこそがゲームの公平性を損なう不正行為だというのに、がなり立てる少年の声に反省の色はない。

 ガンプラの完成度の低さのわりにとんでもない威力のビームライフルを連射するストライクフリーダムは、彼が怒鳴り散らす通り、パラメータを操作しているのだろう。異常に出力強化されたビームの粒子が派手に飛び散り、灰色の月面を照らしている。だが、ただの一発も、バンに掠りもしない。威力だけは上がっても、肝心のダイバーの腕が悪すぎるようだ。

 バンはため息をつきながら、運営本部のデータベースにダイバー情報の照会をかけた。

 

「……サトウ・ユウタ、12才。都内在住――まだ小学生か。改造ツールはどこで手に入れた? お小遣い貯めて買ったのかよ、ボウヤ?」

「こ、個人情報だぞ! 訴えてやる!」

「違法改造ツールの使用、パラメータの不正操作。さらに、対戦相手への暴言と試合途中の回線切断……累積で何十回あると思ってんだ? 運営からの警告も無視しやがってよ。そんな状態で、誰が、誰を訴えるって? 悪質ダイバーのボウヤがよぉっ!」

「うるせえ! バーカ、バーカ!」

 

 悪質ダイバーは叫びながら、スーパードラグーンを射出した。とても彼自身が操作しているとは思えない複雑な軌道で飛来する八基のドラグーンに、しかしバンはうんざりした表情でため息を吐いた。

 

「……この軌道、またあの安物改造ツールかよ。お小遣い少なかったんだな、ボウヤ」

 

 バンはガンプラに纏わせていたABCマントを脱ぎ棄て、一気に加速した。

 起伏の少ない月面を、這うように翔け抜ける黒い影。鉄血のオルフェンズより、テイワズの万能型高性能機〝百連(ヒャクレン)〟と〝漏影(ロウエイ)〟をベースに、治安維持作戦に必要な様々な機能を詰め込んだGHOST専用機――〝絶影(ゼツエイ)〟である。

 

「ゴースト2よりHQ、対象の不正行為を現認した。B弾(バン・バレット)を使用する」

『HQよりゴースト2、B弾の執行許可ナンバーを確認する』

「ゴースト2、了解。執行許可ナンバーは……」

 

 英数混じり12桁のコードを述べつつ、バンは絶影に二振りの大型ナイフを抜刀させた。月の灰色の大地を蹴って、跳躍。今までに何度も相手をした安物の不正改造ツールに操作されたスーパードラグーンを無傷で潜り抜け、ドラグーンを射出したままの姿勢で止まっていたストライクフリーダムの真上をとる。

 

「ど、ドラグーンを無傷で……ち、チートかよ! 卑怯だぞ!」

「はいはい、カッコ悪いからもう黙ってな……退場してもらうぜ!」

「ひっ……!?」

 

 悪質ダイバーは引きつった悲鳴を漏らすと、何事か手元で操作をしたようだが、何も変化は起きなかった。おそらくは回線切断で逃げようとしたのだろうが、すでにヤジマ電脳警備部が、法務部の監督の下、対象のゲームハードに侵入し回線切断を封じている。ゲームハードの電源を切ることすら不可能だ。有線接続なら回線を引っこ抜くという手が使えなくもないが――少なくとも、ボタン一つで逃げるなど、許さない。

 

「え、嘘、なんで」

「年貢の納め時だ、覚悟しやがれっ!」

 

 絶影の影が黒々と、ストライクフリーダムへ飛び掛かる。逆手に持った二振りの大型ナイフがVPS装甲の隙間を貫いて、金色の内部フレームに深々と突き立てられる。激しく火花を散らして身を捩るストライクフリーダムの顔面に、絶影は強烈な頭突きを叩きこんだ。

 

「うわぁぁっ! や、やめてよぉぉ!」

「自分が何をしたか、よぉぉっく反省するんだな! 時間はあるぜ、少なくとも今後数年間! テメェは全てのオンラインゲームから排除されっからよぉッ!」

 

 バンは右手のナイフをストライクフリーダムに突き立てたまま残し、腰に吊るしていた大口径ハンドガンへと持ち替えた。

 装填されているのは、全GBN内でGHOST隊員だけに使用が許されている特殊弾頭〝B弾(バン・バレット)〟。これを受けた相手は、GBN内の全データを消去(BAN)され、さらにオンラインゲーム業界のブラックリストに名前が載ることになる。

 本人確認が厳格化された現在、それはオンラインゲーム全体からの排除(BAN)と、ほぼ同義だ。

 

「ご、ごめんなさい、もうしませ……」

「遅ぇよ!」

 

 バァンッ!

 銃声は、短く一発のみ。眉間を撃ち抜かれたストライクフリーダムは、プラフスキー粒子の欠片となって消えていく。消えていく最後の一瞬に悪質ダイバーの発狂したような叫び声が聞こえた気がしたが、バンは特に気にも留めなかった。

 執行対象が未成年者だったということは、今頃ヤジマ法務部が専属カウンセラーと共に彼の自宅のベルを鳴らしていることだろう。世界最大にして世界最高の安全性を目指すオンラインゲームたるGBNに課された責任は、大きい。ただ排除して終わりではなく、その後もフォローも、ヤジマ商事の業務の範囲内だ。

 

「ま、俺は……悪い奴らを、とっちめるだけだがよ」

 

 バンはしんと静まり返った月面に絶影を降ろし、青く澄んだ地球を見詰めた。

 電脳遊戯空間(ディメンジョン)に再現された、青い惑星(ほし)。自分自身が〝悪い奴〟に加担していた過去があるからこそ、バンは今の自分のこの仕事に、誇りを持っていた。

 

「……ゴースト2よりHQ。任務完了、帰還する」

『HQ、了解。……おつかれさま、あんちゃん。晩ごはん、できてるよ』

「おう。楽しみだ」

 

 守ると誓った妹の声に迎えられ、バンの表情が、緩む。

 絶影は転送ゲートへと軽やかに飛び込み、バンもまた、GBNから現実世界へと帰還するのだった。




 以上、第四話Aパートでしたー。
 前作エピローグで登場したGHOSTとの共同作戦が、第四話のメインとなります。B弾の仕様など現実にはあり得ないほどの強硬策をとっているヤジマ商事ですが、黒色粒子事変はそれほどの大事件だった、ということで。あと、私自身がリアルに感じているオンラインゲームの悪質プレイヤーへの怒りも含めて、こんな感じになっています。
 
 それはそうと、前半のラブコメ部分は楽しんでいただけたでしょうか? ときどき書きたくなるのですが……楽しんでもらえていたら幸いです。

 次回こそガンプラ紹介ができるかな……年内にやりたいですね……
 感想・批評お待ちしています。今後もよろしくお願いします。


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Episode.04-B『アク ヲ タツ ボウレイ ②』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。
 世間様は成人式ですが、そんなものとっくの昔に終わらせた私には電車が混雑するぐらいの感想しかなく。ああ、若いっていいなあ……新しい時代を作るのは老人たちではないんだなって(笑)
 そんなこんなで第四話Bパートです。どうぞご覧ください。


「――作戦概要をお伝えします。

 

 今回の作戦区域は、Ζガンダム劇中でサイコガンダムが猛威を振るった、ホンコン・シティです。設定時刻は夜、天候は快晴。表向きの(・・・・)作戦目的は、ホンコン・シティ内に陣取る敵勢力の排除。そして敵フォースネストの制圧、もしくは破壊です。

 

 我々とGHOSTは、部隊を三つに分けて沿岸部からホンコン・シティに進攻。右翼、左翼、中央の三方面から時間差をつけて攻撃を仕掛けます。

我々〝ブルーブレイヴ〟は他のエレメントと共に右翼を担当、第一陣として突入します。時間差で、第二陣・左翼部隊がホンコン・シティに突入。敵が左右両面への対応に浮足立ったところで、沿岸部から市街地内部まで、前線を一気に押し上げます。そして中央・第三陣が、手薄になった敵フォースネストを正面突破、破壊します。

 

本作戦は、フォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟によるクリエイトミッション〝ヘイロンズ・ウォー〟に参加する形となっています。かの有名なクリエイトミッション〝ロータス・チャレンジ〟からもわかるように、交戦区域のホンコン・シティは大黒龍(ターヘイロン)のフォースネストです。相当数の敵機が待ち構えていることが予想されます。

 

 大黒龍(ターヘイロン)はこの十日ほどで急激に勢力を伸ばしている新興フォースです。所属ダイバーは約60名。未成年がほとんどで、GBN歴の浅いダイバーが多いようです……そして何より、大黒龍(ターヘイロン)は悪質ダイバーの巣窟です。

 

 試合中の暴言、煽り行為、回線切断、ロビーでの暴力、恐喝まがいの賭け試合、その他諸々。構成員のほぼ全員が、運営から何かしらの警告や処分を受けている者ばかりです。しかし、違反行為の回数も内容も、運営内部規定によるB弾執行(BAN)処分には抵触しないぎりぎりのラインでした。さらに、何らかの手段で悪質行為の発覚を巧妙に避け続けているのでは、との情報もあります。

 

 しかし今回、大黒龍(ターヘイロン)による新たな悪質行為が判明。劣化版ブレイクデカールの使用と頒布です。

 

 彼らはこれを〝ヘイロンデカール〟と呼称。表向きは単なるチームステッカーですが、ガンプラの性能を改変することができるようです。厄介なことに、このヘイロンデカールはバグを引き起こすことがありません。その意味では劣化版とは言い切れないかもしれませんが……その特性のために発見が遅れたということです。

 

 ヘイロンデカールは、かつてのブレイクデカールと同じく、GBNのデータ上は異常なしと判断されます。使用する瞬間を目の前で確認しなければ、処罰できません。フォースネストへの立ち入り調査も、罪状が確定しなければ不可能です。それを見つけるための共同作戦……GHOSTの目の前で使うはずがないからこその、今回の我々との共同作戦です。GHOST課員は我々のフォースメンバーに偽装して作戦に参加しますので、通信などで不用意な発言をしないよう、注意してください。

 

 フォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟の悪質行為は、ヘイロンデカールは、GBN全体を揺るがしたブレイクデカール事件や、サラ・サルベージほどの大事ではないかもしれません。でも、私たちのGBNを、ガンプラバトルを、ガンプラそのものを汚す行為です。絶対に許してはおけません。

 

 ……作戦開始時間です。左右両舷、カタパルト解放。コンディショングリーン、射出準備良し。皆さんの奮戦を期待します――先輩、頑張ってください」

 

 最後の一言だけは、インカムを手で覆って、聞こえないように。艦長席に座るシオミは、飛び出していく〝ブルーブレイヴ〟のガンプラたちを、真っ直ぐな視線で見送った。

 

『ヒムロ・イマ! ガンダム・ターミガン! いっきまぁーすっ♪』

『ヒムロ・ライ。ガンダム・クァッドウィング……悪を、討つ!』

『サツキ・コウタ、エイハブストライク! エレメント〝ブルーブレイヴ〟、出撃します!』

 

 真っ黒な空を突き上げる、煌びやかなホンコン・シティのビル群。次々と、夜空を切り裂くように飛んでいく、峰刃学園のガンプラたち。

 

『うぅ、何か申し訳ないです……私だけ、居残りみたいで……』

「アンナさんには重要な役割があります。今は信じて見送りましょう、先輩たちを」

 

 不安げに眉をハの字にするアンナに珍しく軽く微笑んで答え、シオミは作戦時間表示を見上げた。

 現実時刻16:30、GBN内戦闘区域設定時刻23:00。フォース〝峰刃学園高校ガンプラバトル部〟と、GBN運営本部直属治安維持部隊〝GHOST〟による共同作戦――〝悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟が、始まった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 GBN内にホンコン・シティと名の付く都市は複数あるが、フォース〝大黒龍〟が本拠地を構えるこのホンコン・シティは、まさに不夜城であった。フォースの構成員は未成年ばかりのはずなのに、酒や煙草、さらにはGBNにはおよそ相応しくない類の店のネオンサインが派手に下品に夜の街を飾る。そこら中に酒瓶やゴミの散乱する大通りでは、行動ルーチンと服装データを書き換えられた女性型NPCが、肌を晒す卑猥な仕草で客引きをしている。

 しかしこれらは全て、大黒龍のフォースメンバーにのみ――ヘイロンデカールを使用しているダイバーにのみ見えるという特殊な電子的偽装が施された、偽りの歓楽街。

 

「お、始まったか」

 

 その中でも一際豪華に、絢爛に飾り立てられた、一軒の店。何本もの酒瓶が転がるテーブルに靴を履いたままの足を載せ、左右の腕に煽情的な衣装を身にまとった女性型NPCを抱きかかえる大柄な男がいた。

 両手の指にはギラギラと宝石の輝く指輪を何本もはめ、鬣のように膨れ上がった毛皮のコートを羽織っている。顔形も含めて、鉄血のオルフェンズに登場した悪漢、ジャスレイ・ドノミコルスにそっくりな男だった。

 

「ケッ、良いカモだぜ。何年連続一位のお嬢ちゃんだかなんだかがリーダーだろうが、ヘイロンデカールを使った俺らと勝負になる気かねぇ……一気に名を上げるにゃあ、丁度いい」

 

 ――オオグロ・リュウジ、19歳。GBNで悪質行為を繰り返す悪童どもを、より強大な暴力と恫喝でまとめ上げた、負のカリスマ。多少のプログラミングの心得と、ある伝手(・・・・)により、ヘイロンデカールを実用化した男。フォース〝大黒龍〟のリーダーである。

 

「おいッ、タバコだろうがぁッ!」

 

 何の脈絡もなく、リュウジは女性型NPCの髪の毛を引っ張り上げた。データを書き換えられ、目の光を失っている女性型NPCは、髪を引っ張られたまま、命じられた通りに彼の煙草に火をつけた。リュウジは慣れた様子ですぅーっと煙を吸い込むと、まるで興味を失ったように、女性型NPCを投げ捨てた。どさりと、砂袋のように力なく床に倒れる女性型NPC。糸の切れた人形のような無表情のその顔を、下品な笑みを浮かべて覗き込む男がいた。

 

「なぁなぁ、リュウジの兄貴ぃ。こいつ、ハラスメント警告、切ってるよなあ?」

「……ウダガワぁ。テメェ、昨日も一体壊したばっかだろ」

「な、な、いいよな兄貴ぃ? げへへへへへ」

 

 ウダガワと呼ばれた背の低い男はリュウジの返事も待ちきれずに、ぐったりとして動かない女性型NPCを、店の奥の厨房へと引きずり込んでいった。呆れてため息を吐くリュウジに、入れ替わりに厨房から出てきた痩せ型の男が、酒瓶を放り投げた。

 

「無駄っすよ、リュウジの兄貴。あのバカ、あーなると見境ねーから」

「気楽なもんだな、ノダぁ。テメェらの古巣と戦争してるってぇのによ」

 

 リュウジはノダから受け取った酒瓶の口をテーブルの縁に叩きつけて割り、そこから直接酒をラッパ飲みした。ごくり、ごくりとリュウジが喉を鳴らす音をかき消すように、厨房の方から、ウダガワがなにか(・・・)をしている音が聞こえる。女性型NPCの声は、聞こえない。リュウジがそう設定したからだが、ウダガワはそれが痛く気に入っているようだ――俺もクズだが、あいつほどじゃあねぇな。リュウジはにたりと口の端を歪め、飲み干した酒瓶を投げ捨てた。

 

「ノダよぉ。峰刃学園っていやぁ、俺みたいなのでも知ってる良い子ちゃんの行くガッコじゃねぇか。なんでテメェらみてぇなクズのゴミムシが入れたのか知らねぇが……因縁なんだろ?」

「兄貴のおかげでキッチリ挨拶してやるチャンスができて、ありがてぇっすよ」

 

 ノダは自分のジャケットの胸に縫い付けられた峰刃学園の校章を――ただし、模型用ニッパーで乱雑に切り裂かれ、さらに真っ赤な塗料で大きくバツ印を描かれているそれを、ぐしゃりと握り潰した。

 

「背と乳がデカいだけのクソ女教師程度にビビってる、サカキとかいうクソチキン野郎の下についてたことなんざ、思い出したくもねぇっすよ。兄貴に拾ってもらった恩、必ず返しますぜ」

 

 ちょうどその時、リュウジの目の前に空中ウィンドウがポップアップした。ホンコン・シティ沿岸部の第一警戒ラインに、敵部隊が到達したようだ。クリエイトミッションのデータ容量限界まで配置しまくったNPCガンプラが、敵との撃ち合いを始めている。

 

「おぅおぅ、良い子ちゃんどもはバトルまでお行儀のいいことで。素直に海から突っ込んでくるか……ま、好きにするがいいさ」

 

 リュウジはもう一人の女性型NPCを乱暴に抱き寄せ、派手に肌を見せた衣服の内側へと、指輪だらけの指を滑り込ませた。

 

「ヘイロンデカールだけじゃあねぇ。あのクソガキども(・・・・・・・・)から巻き上げた、奥の手だってある。このバトルは、俺が勝つようにできてんだよぉッ! くはは! くははははははははァッ!」

 

 黒龍の主の哄笑が、薄暗い店内に響き渡る。

 ついさっきまでガタガタと騒がしかった厨房は、その時にはもう、しんと静まり返っていた。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ホンコン・シティ沿岸部に構築された敵の防衛線は、極めて単純な構成だった。ティターンズカラーのハイザックが寸胴なボディをずらりと並べ、同じく寸詰まりなデザインのビームライフルを撃ちまくっている。

 攻め込む峰刃学園側の戦力も、十分に充実している。飛行型の機体を中心に、十数機。トリコロールカラーのディスティニーインパルスが長距離ビーム砲を撃ち、バズーカ二本持ちのグフ・フライトタイプが榴弾の雨を降らせる。ベースジャバーの両面に張り付いたジェスタキャノンとスタークジェガンも、ビームと実弾の入り交じった弾幕を、ハイザックの群れへと撃ち下ろしていた。

 だがしかし、ドズル・ザビ曰く「戦いは数だよ兄貴」。埠頭から乾ドック、倉庫群の屋根の上まで、港湾施設を埋め尽くすハイザックの大群は、数にして峰刃学園側の軽く五倍はいる。何の工夫もない数の暴力ではあったが、有効な作戦ともいえた。

 

『大量の無人機による防衛線に加えて、対艦用迎撃兵器も多数を確認。さらに、ホンコン・シティ全域が広域Ⅰフィールドに覆われています。このままでは艦艇は近づけませんし、有効な火力支援も不可能です。よって、コウメイ総司令より、モビルスーツ部隊による海上からの強行突入が指示されていますが……』

「ひゃっはーーーーっ! ずっとイマのターンなのですよぉぉぉぉ!」

 

 どばばばばばばばば!!

 何かの間違いじゃないかと思うほどの水しぶきを蹴立てながら、水上ホバーで爆走する四輪バギー。イマのガンダム・ターミガン、ビークバギー形態である。ハイザックのビーム弾がターミガンのフロントカウルに次々と突き刺さるが、吹き上がる水しぶきにビームの威力は減衰され、対ビームコーティングされたフロントカウルを撃ち抜くことはできない。

 

「いぇぇぇぇぇぇぇぇぃっ♪ ろっけんろーーっ♪」

『イマさん、そんなに目立つ必要はありません。普通に突入できないんですか』

 

 苛立ちモードのシオミの声も、聞こえているのかいないのか。イマは満面の笑みで海面ドリフト、特に意味もなく急カーブを繰り返しながら――いや、一応は回避運動のつもりのようだが、とにかくド派手に水しぶきを巻き上げながら、ホンコン・シティへと突っ込んでいく。低空飛行や水上ホバーでホンコン・シティを目指している峰刃学園のガンプラたちは、その自由すぎるマニューバに驚いて距離をとる。

 好き勝手に走り回るイマは実に上機嫌。だがその一方で、水上スキー状態でターミガンに引っ張られているクァッドウィングとシュバルベストライクは、イマがアクロバティックなターンを決めるたびに凄まじい加速度に振り回されるのだった。

 

「らら、ライ君! こここ、このマニューバは別にいらないんじゃああああ!」

『ヒムロさん、保護者でしょう。何とかしてください』

「……イマに言ってくれ」

「い、イマちゃんっ。もうちょっと安全運転で頼むよぉっ!」

「ひゃっほぉぉうう! マスター、こーた先輩っ♪ しっかりお掴まりですよぉぉぉぉっ♪」

 

 コウタのお願いもむなしく、イマはアクセルペダルをベタ踏み。回避運動すらかなぐり捨てたロケットのような直線加速で、ホンコン・シティへと突撃した。

 

「ブッ込めガンプラ! イマ必殺の、チキンレースカタパルトですっ♪ きゅー、はーち、ななー、ろーく……」

「ちょ、ちょっとイマちゃん!? 説明してくれないかな!?」

「……先輩。ゼロで手を放せ」

「いーち、ぜろっ♪ いってらっしゃーいっ!!」

 

 ズシャアアアアッ! ッぽーーーーんっ!!

 イマは掛け声とともに180度ターン&急ブレーキ、ターミガンの全ての加速度と遠心力を乗せに乗せて、クァッドウィングとシュバルベストライクを敵防衛線のど真ん中へと放り出した。

 

「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 海面すれすれの低軌道、弾丸のような速度。AI制御のハイザック程度には、到底対応しきれない強行突入。ライは飛びながらバスターマグナムを構え、二刀ビームセイバーを抜刀。埠頭に滑り込むように着地しながら、すれ違いざまに二機のハイザックを胴斬りに切り捨てた。コウタも何とか姿勢を立て直し、港湾施設に着地。突入の勢いそのままにスライディング、モビーディックランサーで一機のハイザックを貫いた。

 

「……クァッドウィングよりブルーバード。上陸に成功した」

「随分、スリリングだったけどね。バトル以外で」

 

 シュバルベストライクがランサーを引き抜くと同時、数機のハイザックがヒートホークを片手にライとコウタを取り囲んできた。ライはバスターマグナムのビーム刃を消し、二丁ライフルによる格闘戦の構えをとった。コウタもランサーを腰だめに構え、左腕のシザーズシールドの切っ先を、ハイザックへと向ける。

 

『ブルーバード了解。付近の敵機を掃討し、上陸地点を確保してください』

「……了解」

 

 まるで通信が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、ハイザックたちが襲い掛かってきた。二機のハイザックが左右から挟み撃ちを仕掛けるが、ヒートホークを振り下ろそうとしたときにはすでに、胸部装甲にバスターマグナムが押し当てられていた。

 

「遅いな」

 

 ドドッ、ビュオォォォォンッ!

 膨大なエネルギー量に、ハイザックは上半身を根こそぎ吹き飛ばされ、爆発。その爆発に隠れるようにして飛び掛かろうとしたハイザックを、射出されたシザーズシールドが横から貫いた。

 

「ライ君、敵の数が多い。お互いに背後をカバーしよう」

「……了解」

 

 言うが早いか、ライは地を蹴ってハイザックとの距離を詰め、集団の中に飛び込んだ。至近距離でのマシンキャノンと蹴り技を織り交ぜつつ、バスターマグナムを撃ち込む。コウタもリニアライフルでライを援護しつつ、ランサーで手近な敵機を薙ぎ払う。

 大量のモビルスーツが密集しての、至近距離での乱戦。ハイザックは味方への誤射を防ぐために射角が大幅に制限されるが、ライとコウタは射線上にお互いが入らなければそれでよいのだから、攻撃の自由度がまるで違う。ハイザックの大群は、バスターマグナムの、モビーディックランサーの間合いに入る端から吹き飛ばされ、瞬く間にその数を減らしていく。

 

「お待たせです、マスター! イマもやってやりますよーっ♪」

 

 ライとコウタが抉じ開けた防衛線の切れ目に、峰刃学園のモビルスーツ部隊が雪崩れ込んできた。港湾施設のあちらこちらで、敵味方入り乱れての格闘戦が始まった。

 

「マスター直伝っ! 全力全開、突き刺しバスターライフルぅっ!」

 

 MS形態に変形したターミガンは、クァッドウィングの真似をするかのようにシールドバスターライフルをハイザックの胴体に突き刺して、零距離射撃。ハイザックは粉々に吹き飛ばされるが、ターミガンのバスターライフルはそもそも長距離射撃用。本来の射程距離そのままに撃ち出されたビームの光が、ハイザックの群れを一直線に数キロメートルも切り裂いていった。

 

『イマさんっ、何をしているんですか!? この乱戦でフルパワーのバスターライフルなんて!? 射線上に味方がいなかったからよかったものの……っ!』

「あ、あちゃー……せーふせーふ。にひひっ♪」

 

 バツが悪そうに苦笑いしながら、イマはシールドバスターライフルを背部サブアームに懸架し、ビームサーベルを抜刀した――と、ほぼ同時。

 

「あれっ? ……うひゃああっ!?」

 

 チュドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!

 ホンコン・シティの奥の方で、夜空が真っ赤に染まるほどの大爆発が起きた。爆発地点は、シールドバスターライフルが数キロメートルにわたってハイザックの大群とホンコンの街を抉り取ったのと、同じ方向。

 シオミは素早く状況確認、峰刃学園の他のガンプラやエレメントと情報共有。そして明らかになったのは……シオミはため息をつきつつ、告げた。

 

『……イマさんの砲撃が、広域Ⅰフィールドの発生装置を直撃。構造上の弱点部分を、結果的には狙撃した形です。迎撃兵器も多数爆発に巻き込まれたようです。ホンコン・シティを覆う広域Ⅰフィールド、完全に消滅しました。敵の対艦迎撃も大幅に弱体化……なんて運の良い……』

「えっ? おぉう、らっきー♪ マスター、イマ、すーぱーらっきーですよっ♪ ほめてほめてーっ♪」

 

 両目からキラキラと星マークを飛ばしまくりながら、イマは狭いコクピットで喜びのダンス。背後から掴みかかってきたハイザックをローラーホイールキックで蹴り倒し、うつぶせに倒れたその背中にビームサーベルを突き立てた。

 

「にひひひひっ♪ 今のイマは、誰にも止められないぜーっ♪」

「……運も実力、か」

「すごいねイマちゃん。ラッキーガールだなぁ!」

『先輩、甘やかさないでください。彼女が調子に乗りすぎると、私の胃がもちません』

 

 シオミはさらにタメ息、眼鏡を外して眉間を揉んだ。

 しかしこれで、状況が一つ進んだのも事実。シオミは先ほど収集した情報を後方の旗艦で指揮を執るコウメイ総司令へと送った。すると即座に、峰刃学園全部隊への作戦指示が送られてきた。

 〝悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟第二フェーズ。左翼・第二陣、攻撃開始。広域Ⅰフィールドが消滅し、対艦迎撃も弱まったため、峰刃学園各艦による火力支援も開始される。ブルーバードも、突入部隊を追いかけて前に出ることになる。

 

『ブルーバードよりブルーブレイヴ各機、本艦も交戦エリアに突入、火力支援を開始します。着弾地点はマーカーで表示、巻き込まれないように注意してください』

 

 宵闇の中に、煌々と光る摩天楼。ビームや爆発の閃光も混じり、ホンコン・シティの夜景は一層輝いている。その無数の輝きに向けて、峰刃学園右翼部隊各エレメントの母艦、総勢五隻が一斉に歩を進めた。

 ブルーバードも主推進器から青い炎を噴き出し、進軍する。左右両舷のミサイル発射管が開かれ、各機銃座、レールガン、VLSも発射準備を整えていく。そして、ミネルバ級の各種兵装のなかでも最大の火力を誇る艦首陽電子破城砲〝タンホイザー〟を収めた艦首装甲が、重苦しい鉄扉を開くように左右へと展開した。

 しかしそこに、タンホイザーはなかった。そこにあったのは――いや、いた(・・)のは。

 

『ガトウさん、本艦最大の火力はあなたです。強力な弾幕をお願いします』

「はは、はいっ。がんばりますっ」

 

 一本一本がモビルスーツの腕ほどもある砲身が六つ、円形に束ねられている。それは144分の1サイズ(ハイグレード)のガンプラではありえない、超大型ガトリング砲。100分の1サイズ(マスターグレード)の大型ガンプラですら持て余しそうな六連銃身と機関部、そしてタンホイザー格納スペースに鎮座する、もはやモビルスーツ本体よりもはるかに大きなドラム型弾倉。

 

「お兄ちゃんたちに貸してもらったこのガトリングなら……! 私にだって、できるはずっ」

 

 60分の1サイズ(パーフェクトグレード)、ガンタンクの主砲を改造して作り上げた、超・超・超大型ガトリング砲。一発一発が戦艦砲にも匹敵する砲弾を、毎分900発の連射力でバラ撒く超絶弾幕兵器――G3ガトリングキャノン。それが二門、ガトキャノンの両腕に装着されている。

 

「ガトウ・アンナ。ガトキャノン・オーク。う、撃ちまくりますっ」

 

 オオォォォォン……!

 精一杯の気合を込めたアンナの声に反応するかのように、ガトキャノンのバイザーアイに光が灯る。獣の唸りにも似た駆動音を上げて、G3ガトリングキャノンの砲身は回り始めるのだった。




 以上、第四話Bパートでしたー。

 ああ、バトルが進むごとにアンナの追加武装が際限なく増えていく。ガンプラ制作が追いつかない(笑)
 次回の更新はガンプラか本編かまだ決めていませんが、ガンプラ紹介はシュバルベストライクになりそうです。ガトキャノンは追加武装が多すぎるので。

 本編では、大黒龍という非常にわかりやすい悪役を配置してみました。ライのキメ台詞が「成敗ッ!」なので、悪役がいないと主人公が本気でバトルできないんですよね。悪役、大事。

 今後もお付き合いいただければ幸いです。感想・批評もお待ちしております、お気軽にどうぞ!


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Episode.04-C『アク ヲ タツ ボウレイ ③』

みなさんこんばんは、亀川ダイブです。
第四話も後半戦、大黒龍とのバトルシーンましましでお送りいたします。
どうぞ、ご覧ください!


悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟、開始より五分三十秒。ホンコン・シティ高層ビル群。峰刃学園の第二陣・左翼部隊は、派手な原色のネオンサインがぎらつくビル群を擦る様な低高度で交戦中であった。

 

『撃たせて、いただきますわっ!』

 

 曲線主体の女性的なシルエットを持つ、新緑色のガンプラ――ガデス・アテネは数発のビームキャノンをひらりと躱し、反転。両手で構えたGNロングランチャーを撃ち放った。煌びやかなGN粒子の火線が一直線にホンコンの夜空を貫き、ガデス・アテネを追い回していたハンブラビを撃墜した。

 

『や、やりましたわ……!』

 

 傍受した通信ウィンドウには、可愛らしく小さなガッツポーズをする可憐なプラチナブロンドの少女、ヤマダ・フレデリカが映っている。だが彼女は、背後から迫るMA形態のガブスレイに、フェダーインライフルに収束するメガ粒子の光に、気づくそぶりがない。

 

「仕方ねえか……ゴースト2よりHQ!」

 

 その様子を見かねて、バンは光学迷彩ABCマントの切れ目から、大型マシンガンの銃口を突き出した。

 ゴースト2、ゴーダ・バン。ビルの谷間に潜むのは、GHOST専用機〝絶影〟だ。今次作戦に参加したGHOSTの課員は、総勢九名。バン以外の八名は自前のガンプラで峰刃学園の生徒に偽装しての参加だが、バンだけは絶影に乗り、可能な限り身を隠しながらの参戦となった。

 GHOSTの課員は、運営権限によりバトル中でも即座に絶影への乗り換えが可能だ。絶影に乗っていればB弾(バン・バレット)が使えるが、乗り換えには数秒のタイムラグが発生するし、その間は無防備だ。本作戦の相手〝大黒龍(ターヘイロン)〟は、悪質ダイバーの巣窟。数秒の間すら許されないシチュエーションも予測されたため、GHOSTでも腕利きのダイバーであるバンは、絶影での隠密行動(スニーキング)を命じられたのだ。

 潜入任務故に、彼女に通信を送ることはできない。しかし潜入任務だからと、味方が墜とされるのを見過ごせるバンでもない。

 

「お嬢ちゃんに手ぇ貸すぞ、許可を!」

『うん、あんちゃん! HQよりゴースト2、射撃を許可します』

 

 ある意味では、わかり切っていた返答。GHOST最古参、運営本部やヤジマ本社からの信頼も厚いゴーダ・バンとその妹・レイのコンビには、特別行動権限が与えられている。もう十五にもなったのに幼いころと変わらず自分を「あんちゃん」と呼び続ける妹に、まるで男親のような心配と愛おしさを感じつつ、バンは大型マシンガンのトリガーに指をかけた。

 

「ゴースト2、了解……おっ!?」

 

 撃とうとしたバンの照準を、銀色の塊が遮った。巨大な銀色の物体がガブスレイを貫いて、そのままの勢いで高層ビルの壁面に叩きつけ、縫い留めた。

 それは、MSの全長をも超えるほどの超大型実体剣。バンは作戦前に頭に叩き込んだ――勉強にはスパルタの妹と、何もかもスパルタの腐れ縁の同僚に、女二人がかりで家庭教師されるという屈辱を味わいながら――峰刃学園のダイバーのデータを思い返す。

 

「……超重量級GNソード、クラウソラス。たしか〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟、ジンクスの改造機だったか……?」

『妹を守り尊敬される特権は、兄だけのもの……つまり、私だけのもの』

 

 GHOST技術部謹製の光学迷彩ABCマントによる偽装を、いったいどうやって見抜いたのか。あの超重量の大剣を投擲し敵ごとビルに突き刺すという力業にも納得せざるを得ないような、筋骨隆々のガンプラが目の前に降りてきた。

 〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ジンクスⅣ・アガートラーム。〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。峰刃学園左翼部隊、戦力の中核だ。

 現GHOST総司令ヤマダ・アンジェリカの親戚筋である彼はかつてGHOSTに推薦されたことがあるが、即座に入隊を断っている。その理由はたった一言、「そこに妹がいないから」。あの女傑の親戚というだけあって癖の強い男だろうとは、バンも思ってはいたが……。

 

『GHOSTの方ですね。いつもアンジェリカ従姉様(ねえさま)がお世話になっております。GBNの無事平穏持は、私とて望むところ……ですが、妹は私が守ります。その線引きはしていただきたい』

「…………」

 

 彼のデータファイルに手書きメモで「注:重度妹偏愛(シスコン)」と貼り付けられていた理由を、バンはたった今実感した。自分も(レイ)には甘い自覚はあるが、これほどではない。だがそれはそれとして、潜入任務中に、味方にとはいえ声を聞かれるわけにはいかない。バンは黙って大型マシンガンをマントの奥に引っ込めた。

 

『……了承と受け取らせていただく。いやなに、お仕事の邪魔はしませんよ。では、私はこれで――リカ、なぜ前に出たりした? お兄ちゃんが守ってあげるからと、あれほど……!』

 

 漏れ聞こえてくる通信だけでも、彼の偏愛具合がよくわかる。アガートラームはGN粒子の出力で重い体を強引に跳び上がらせ、妹の下へと急いでいた。クラウソラスの回収すら、後回しにして。

 

「……キャラ濃すぎだろ、峰刃学園」

『う、うん……うちも、あんちゃんがあそこまでになったら、流石にちょっと……だよ。うち、今ぐらいのあんちゃんが好きだな』

「おお、おう。そ、そうか」

 

 レイの何気ない一言に胸をずきゅんと撃ち抜かれ、にやける頬にバンは張り手で気合を入れる。最近、自分とレイの関係は、兄と妹というよりも父と娘のようになってきている気がする。何か家族の団欒のような光景が、浮かんで消える。父、俺。娘、レイ。そして、母は――褐色肌に短い銀髪の同僚の姿が、一瞬、脳裏をよぎった。

 

「いやいや、違う違う。あいつはアレだ、そんなんじゃねぇ」

『ん? どうしたの、あんちゃん?』

「なな、何でもねえよ。ゴースト2、潜入行動を続ける!」

 

 バンは地を這うような低姿勢で絶影を疾駆させ、ビルの合間を駆け抜けた。上空では、敵無人機部隊と峰刃学園が、バトルを繰り広げている。全体的に、峰刃学園が優勢……右翼、左翼共に前線は市街地まで押し上げられ、各エレメントの母艦もすでに上陸している。

 市街地を挟んだホンコン・シティの右翼側では、ミネルバ級らしき母艦が随分と景気のいい弾幕を展開している。右翼側の進攻が速いのも、あの凄まじい弾幕のおかげのようだ。

 

(……右翼側といえば……あいつ(・・・)も、あっちにいるんだったな)

 

 峰刃学園のデータファイルに、あいつの名前があった。先ほど脳裏に浮かんだ、「家族」というキーワードが、GHOST設立直後のあの頃の記憶を呼び覚ましたのかもしれない。

 レイが娘なら、あいつは息子か。顔が見られないのは残念だが、今のあいつは保護された(・・・・・)ばかりのあの頃とは違う。例の事件(ブラックアウト・インシデント)で傷ついた者同士、〝家族ごっこ(メンタルケアプログラム)〟で心の傷を癒していたあの頃とは、もう違う。

 

「ライのやつ……また正義の味方、してんだろうな」

『あ、そうかあ。ライにぃちゃんも、峰刃学園にいるんだったね。お話、したいなあ……』

「この作戦が終わったら、連絡の一つもいれてやるか。な、レイ」

『うんっ!』

 

 ならばこの作戦、きっちり悪質ダイバーどもを成敗して、早く終わらせよう。

バンは突然目の前に飛び出してきたマラサイに大型ナイフを抜刀一閃、一瞬にして首を刈り飛ばし、バックパックにナイフを突き立て、蹴り飛ばしつつ引き抜いた。マラサイは何が起きたのかもわからないままに機能停止し、倒れ伏す――伏した、はずが。

 

「ほう……やっと出やがったか」

『ンっだ、テメェ! こっちが気づく前に攻撃とか、チートかよっ!』

 

 首を飛ばされたマラサイから、赤黒いオーラが立ち昇る。ダメージなどまるでないかのように、首なしマラサイはビームサーベルを抜刀した。見れば、マラサイの両手両足、そして肩のシールドなどに、〝大黒龍〟のチームステッカーがベタベタとセンスなく貼りまくられている。赤黒いオーラは、そのステッカーから根を張るようにガンプラ全体に広がり、全身を包み込んでいるようだ。

 

『ブッ殺すぞオラァッ! クソ陰キャがよォ!!』

「ゴースト2よりHQ。大黒龍所属ダイバーによる試合中の暴言、そして……来たぜ、ヘイロンデカールだ。違法ツールの使用を確認。B弾(バン・バレット)の執行許可を」

『HQよりゴースト2、本作戦中、違反行為が確認できた大黒龍メンバーへのB弾(バン・バレット)執行は、すでに承認されています』

 

 レイの声を聞き、バンは軽く頷いて武装スロットを選択した。その操作に応え、絶影は腰のホルスターから、大型の専用ハンドガンを抜き、構える。すでにB弾は装填済み。悪質ダイバーに鉄槌を下す、その準備は整っている。

 

『あんちゃん、やっちゃえーっ!』

「応よッ! 〝孤軍人狼(ヴェアヴォルフ)〟ゴーダ・バン、絶影! 獲物を掻っ攫うッ!!」

 

 レイの応援に背中を押され、バンは勢いよく飛び出した。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 峰刃学園右翼部隊は、ホンコン・シティ市街地の奥深くまで、ほとんど損失を出すことなく進攻していた。散発的に襲い来る敵防衛部隊の無人機は、まさに戦力の逐次投入、愚の骨頂だった。

 大黒龍とて、無法者ではあるが馬鹿ではない。大量に送り込んでいる増援部隊が、最前線にたどり着くことができない事情が、降り注いで(・・・・・)いたのだ。

 

「うわわぁっ! ととと、止まらないですよぅ、シキナミせんぱぁぁいっ!!」

 

 ドガラララララララララララララララララララララララララララララララララララッ!!

 降り注ぐ砲弾、空薬莢。鳴り響く銃声、弾け飛ぶコンクリート片、捲れ上がるアスファルト。高層ビルは数秒で倒壊、敵モビルスーツは蜂の巣になることすらできずに消し飛び、ホンコン・シティの街並みは、射線が通り過ぎる度に廃墟へと姿を変えていく。

 並みのガンプラでは180mmキャノン級の大型砲でしか撃てないような砲弾を、毎分900発、それが二門。G3ガトリングキャノンの制圧力は、凄まじいの一言だった。

 

『その調子です、アンナさん。壊し尽くしましょう、撃ち尽くしましょう、更地にしてしまいましょう。誰も逃げ隠れできないように』

「そそそ、そんなぁぁぁ! それじゃあやってることがぁぁっ、悪役ですよぅ!」

 

 ドガラララララララララララララララララララララララララララララララララララッ!!

 冷静に告げるシオミにアンナは涙目で言い返すが、両手のトリガーはひきっぱなしだ。

 現状、ブルーバードは右翼部隊の最前列に位置していた。やや後方に峰刃学園各エレメントの母艦、ブルーバードと各母艦の間にモビルスーツ部隊が展開し、各艦の直掩と地上での戦闘を行う、という陣形を組んでいる。言うまでもなくこの陣形には、G3ガトリングキャノンの弾幕に味方を巻き込まないようにするという目的もある。

 

「……弾幕の権化だな」

「すっごい投射量ですねー。現実だったら弾薬だけで何十トンもダイエットできちゃってますよ、あれー」

「そうだね、イマちゃん。でもまあ、そこはガンダム作品だから。頭部バルカンだって、弾薬の重量を考えたら……」

『先輩、ヲタトークはあとにしてください。弾幕を抜けた敵機、正面から来ます』

 

 アンナは悪役だなどと言っているが、上空で分厚い弾幕を展開してくれているおかげで、地上部隊は非常に戦いやすかった。地上型の敵機の大半は、弾幕の前に沈黙。可変機構による高高度からの奇襲を封じられた敵の可変機部隊は、瓦礫を遮蔽に、地上からMS形態で突入するしかない。峰刃学園各機は、襲い来る敵部隊との白兵戦に突入した。

 銃弾、砲弾、ビーム弾が飛び交い、切り結ぶビームサーベルの粒子が弾ける。学園側のサンドロックカスタムが、クロスクラッシャーでガブスレイを両断。その側面を突こうとガザCがナックルバスターを構えるが、コウタはブースト全開で突撃、ランサーでガザCの胸部を貫き、沈黙させる。

 

「よしっ、優勢だね。イマちゃん、ライ君、大丈夫かい!?」

「ご心配なくです、こーた先輩っ♪ ではではイマもいきますよーっ♪ れーっつ、だんしーんっ♪」

 

 イマは笑顔も満開に叫び、絨毯を敷き詰めるように弾幕を展開、敵部隊の足を止めた。ほぼ同時、両腕のバインダーを掲げて身を守るギャプランの頭部に、バスターマグナムの銃口が押し当てられる。

 

「……いただく!」

 

 零距離、膨大なエネルギー量がギャプランの頭から股下までを駆け抜けた。その爆発に引き付けられるようにガ・ゾウム部隊がライを取り囲み、ミサイルを一斉射。数十発ものミサイルがクァッドウィングを目掛けて飛び掛かってくる。ライは全方位から迫りくるミサイル群に鋭く視線を一周させると、二丁のバスターライフルを左右に突き出し、まるで射線でミサイル群を切り裂くように、大きく腕を振って一回転。拡散する高エネルギームの粒子がミサイルを薙ぎ払い、爆散させる。

 ビームが拡散し射程が短いというバスターマグナムの弱点を逆手に取った、全周囲迎撃。さらに間を置かず、ライは徒手空拳とビームセイバーで斬り込み、次々とガ・ゾウムを撃破していく。それを目の前にしたイマは、出力を絞ったバスターライフルで援護射撃しつつ、両目をキラキラさせてライの技量をほめたたえる。

 

「おぉーっ、さすがはマスターですっ♪ カッコいいですさいこーですっ♪ イマはマスターのイマでよかったのですよーっ♪」

『イマさん、油断しないでください。後方より敵、アッシマーです』

「はいはーいっ♪」

 

 いつの間にか背後に迫っていたアッシマーが巨大な拳を握り合わせたハンマーパンチを見舞ってくるが、イマは脚部ビームシールドを展開したローラーホイールで回し蹴りを叩き込み、振り上げた両腕を肘からすっぱりと切断。流れるようにビームシールド付きサマーソルトキック、アッシマーは左右に両断され、崩れ落ちた。

 

「にひひひひっ♪ マスターのスーパープレイに元気づけられたイマは、無敵なのですよーっ♪」

 

 満面の笑みで横ピースからのウィンク、実に楽しそうなイマとは対照的に、シオミは深い深いため息を吐いた。

 

『もうなんなの、この子の謎の爆発力……』

「ははは。すごいなあ、イマちゃんは。ライ君好き好きパワー、ってところかな?」

『なんですかその謎パワーは……待ってください、先輩。シティ最奥部、敵基地施設より高エネルギー反応!』

 

 ホンコン・シティ市街地の奥深くにある、高く分厚い城壁に囲まれた軍事施設。大黒龍のフォースネストであるその施設は、ガトキャノンの弾幕に晒され無数の弾痕を穿たれてはいたが、まだ峰刃学園側の誰もそこまで到達はできていなかった。

 その正面ゲートの上に、垂直エレベーターでリフトアップしてくるガンプラが一機。赤黒いオーラに覆われたその機体を、シオミはGHOSTから提供された敵フォースのデータと照合。特徴の一致する機体を割り出した。

 

『……〝大黒龍(ターヘイロン)〟首領、オオグロ・リュウジのガンプラです! 機体名称はバウンド・ドラッヘ!』

 

 バウンド・ドックをベースにした赤と黒のガンプラが、大型のシールドと一体化した左腕を頭上に掲げた。竜の顎にも見える大型シールドがガパリと口を開き、隠されていたメガ粒子砲が姿を現す。その砲口に、バウンド・ドラッヘの全身に何枚も貼られた大黒龍のチームステッカーから、赤黒いオーラが渦を巻いて流れ込んでいく。

 

「……俺様自ら、相手してやるぜぇッ! 良い子ちゃん学園のクソガキどもよォッ!」

 

 リュウジは舌なめずりをして、左腕のドラゴンヘッドを振り下ろした。赤黒い光を収束させたメガ粒子砲の先にあるのは、ブルーバード。G3ガトリングキャノンを撃ちまくる、ガトキャノンへの直撃コースだ。

 

「ハハハッ! 喰らいなぁッ、黒龍撃滅砲(ヘイロン・ブラスター)ァァァァッ!!」

 

 グワッ……バアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 猛烈な放電、巻き上がる衝撃波。撃ち出された赤黒いビームは猛然と渦を巻き、瓦礫も、ビルも、まだ生き残っていた防衛部隊すら巻き添えにして、猛烈な勢いで迸った。

 

『アンナさんっ、飛び降りてっ!』

「はは、はいぃっ!」

 

 アンナは両腕の炸裂ボルトを作動させてG3ガトリングキャノンを切り離し、ブルーバードから急速離脱した。直後、垂直推進用ロケットブースターを全力噴射して無理やり艦首を持ち上げたブルーバードの艦底を、ヘイロン・ブラスターが一直線に抉り取っていった。

 

「しし、シキナミせんぱぁーいっ!?」

「シキナミさんっ!?」

『くぅっ! 艦低部、後部サブスラスター損傷甚大。航行に支障あり……すみません先輩、みなさん。ブルーバード、後退します』

 

 SEED系統の艦船には、高い対ビーム性能を誇るラミネート装甲が採用されている。にもかかわらずバウンド・ドラッヘは、たった一発でブルーバードを後退に追い込んだ。ヘイロンデカールによる出力強化の為すところか。

 ガトキャノンの弾幕がなくなり頭を押さえつけるもののなくなった敵可変機部隊は、ここぞとばかりに上空へと飛び上がった。黒煙を吹きながら後退するブルーバードに烏のようにたかり、ビームやミサイルを撃ちこんでいる。

 

「ライ君、僕はブルーバードの直掩につくよ!」

 

 言うが速いか、コウタは大型ブースターを全力全開、ブルーバードに向かって翔け上がった。ヘビィマシンガンとリニアライフルを連射し、ブルーバードに群がる可変機の群れを撃ち落としていく。

 

「……了解だ。イマ、ガトウを回収する!」

「あいさー、マスター! 乗ってくださいっ!」

 

 イマはターミガンをバギー形態に変形させつつ、ライの足元に滑り込む。クァッドウィングがターミガン・ビークバギーの背中に飛び乗ると同時、ローラーホイールを全力で回転、弾かれたような急加速で飛び出した。

 ガトキャノンが落下したのは、敵防衛部隊のど真ん中だ。クァッドウィングも四枚羽根スラスターを全開、ビークバギーを加速させつつ、すれ違う敵をビームセイバーで切り払い、アンナの下を目指す。

 

「見えましたよ、マスター♪ ド真ん前ですっ」

「……ああ!」

「ら、ライ先輩っ。イマちゃん……っ!」

 

 G3ガトリングキャノンを操作するため、いつもの手持ち式ビームガトリングを装備していなかったのだろう。ガトキャノンは両肩のシールドで身を守りつつ肩部大口径機関砲を撃っていたが、取り囲む大量の敵部隊に対して、その武装はあまりにも心もとない。そんなアンナの心情は、震える声と涙を溜めた双眸からも読み取れた。

 

「た、助けに来てくれたんですかぁっ!?」

「もちろんですよっ♪ ねっ、マスター!」

「……行くぞ!」

 

 ライはターミガン・ビークバギーの背中から跳躍、ガトキャノンに飛び掛かろうとしていたアッシマーの顔面に、飛び蹴りを叩きこんだ。モノアイが割れ砕け吹き飛ぶアッシマーに、イマが追い打ちのバスターライフルを撃ちこみ、撃破。

 

「アンナさんっ、コレ使ってくださいっ」

「う、うんっ。ありがとう、イマちゃん」

 

 MS形態に変形したターミガンが、片方のバスターライフルをガトキャノンに投げ渡す。クァッドウィング、ターミガン、ガトキャノンの三機は互いに背中合わせとなり、それぞれの武器の銃口を、周囲の無人機部隊へと突き付けた。

 ビークバギーの加速に追いつけなかった味方部隊も、すぐ近くまで来ている。敵無人機はまだ多く、バウンド・ドラッヘの粒子砲も脅威だ。だが峰刃学園全機でかかれば、勝機は十分にある。大黒龍の首領によるヘイロンデカール使用も現認できたのだから、GHOSTも動くはず。

 

「……ここからが、本番だ」

 

 ライは操縦桿を握りなおし、鷹のように鋭い目で、バウンド・ドラッヘを睨みつけた。

 そんなライの視線を知ってか知らずか、リュウジは戦場に響き渡るほどの高笑いを上げ、演技がかった仕草で両手を左右へ大きく広げた。

 

「おいおい、良い子ちゃんたちよぉ! 随分と調子に乗ってるが……ここは俺様の庭なんだぜぇッ!」

 

 リュウジの言葉と同時、ホンコン・シティのあちこちに、通常とは異なる、赤黒く染まったノイズ混じりの転送ゲートが出現した。何機かの無人機を押しのけてまで開かれたそのゲートから、大黒龍のチームステッカーを貼り付けたガンプラが、次から次に出現する。

 毒々しい紫色のスラッシュザクファントム、異形の両腕を取り付けたヘイズル改、スパイクだらけのマックスター……続々と現れるガンプラは意匠も塗装も完成度もバラバラだが、どの機体も大黒龍のチームステッカーから溢れ出す赤黒いオーラを身に纏っている――違法ツール、ヘイロンデカール使用機だ。

 そして出現した最後の二機、バウンド・ドラッヘの左右に現れた機体を見た瞬間、アンナは「ひっ」と声を上げ縮こまってしまった。

 

「よぉ、転校生……あの時の礼をさせてもらうぜ」

「アンナちゃぁん、今度こそひん剥いてやるからなぁ? げへへへへへ」

 

 多種多様な装備を下品なほどにぶら下げた、重装型ギラ・ズール。元・峰刃学園ガンプラバトル部の生徒、ノダとウダガワの機体だった。

 

「因縁の相手……ケッ、いいじゃあねぇか」

 

 赤黒く染まった大黒龍の各機を見下ろし、リュウジは満足げに口の端を吊り上げた。そして傲然と胸を逸らし、喜色もあらわに宣言した。

 

「さあ、パーティーはここからだ! ハーッハッハッハ!」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 同時刻――ホンコン・シティ沖、峰刃学園ガンプラバトル部艦隊、旗艦〝カルディヤ〟。

 

『――本命が出たようだな。自分の予測よりもちょうど一八〇秒、状況の進行は早い』

「やれやれ、待ちくたびれちまったぜ。で、例の違法デカールは?」

『使用を確認した。GHOSTへの義理は果たしたな。我が方の部隊がすでに交戦中――何の因果か〝ブルーブレイヴ〟が最前線にいる』

「なんともまあ、強運の持ち主だねえ。まったく、ボクもあやかりたいもんだぜ」

『雑談はこれまでにしておこう、ヒビキ。総司令より第三攻撃部隊――出撃だ』

「ふふ、しかたないなあ……了解したぜ、コウメイ総司令殿」

 

 ショウカは悪戯っぽく微笑み、操縦桿を握った。

 峰刃学園旗艦・カルディヤはペガサス級アルビオンによく似た艦影をしているが、カタパルトはホワイトベースのそれに近い密閉式だ。左舷の艦首カタパルトハッチが開き、第三攻撃部隊が待機する格納庫に、ホンコンの海を照らす月明かりが差し込む。

 敵本拠地攻略の大本命、峰刃学園最大の攻撃力を誇る、第三攻撃部隊。その、陣容は――

 

「峰刃学園ガンプラバトル部第三陣、ボク! 出撃するぜ!」

 

 ――青白い月の光を照り返す、神々しささえ感じさせる青銀。ドレスのように身にまとう、どこまでも透き通った無垢なる刃(GNソードビット)。そこにいたのは、ただ一機のガンプラのみ。

 

「〝最上位(ミネバ・オブ・ゼロ)〟ヒビキ・ショウカ! 〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟ダブルオー・ゼロ! 戦場を、舞い踊る!」

 

 蒼く煌くGN粒子を月光の夜空に舞い散らし、峰刃学園最強にして最高にして最上位の戦女神は、戦場へと飛び立っていった。




 ……以上、第四話Cパートでしたー!

 ライの過去の片鱗など、今後の展開につながる伏線をぶち込んでみました。
一応今作も、最終回までの大まかなストーリーラインは組んだうえで書いているのですが……伏線を貼るたびに、「回収しなきゃ」という自分の中でのプレッシャーが高まっていきます(笑)
 
 今後も週一更新を目指して頑張りますので、どうかお付き合いください。
 感想・批評もお待ちしております。どうぞよろしくお願いします!


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Episode.04-D『アク ヲ タツ ボウレイ ④』

 お待たせしてしまいすみません、第四話Dパートです。
 一週お待たせしてしまった理由は……長くなる病が発動したためです。Dパートで終わるつもりが……終わらず、再構成していました。第四話はEパートまであることになりました。
 ということでまだ終わらない第四話ですが、お付き合いいただければ幸いです。
 どうぞよろしくお願いします。


「さあ、パーティーはここからだ! ハーッハッハッハ!」

 

 リュウジの高笑いを合図に、ガンプラに赤黒いオーラを纏わせたフォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟は、一斉に峰刃学園各機へと飛び掛かった。黄金の満月に照らされる中、廃墟と化したホンコン・シティのあちらこちらで、銃弾が飛び交い、ビームサーベルがぶつかり合う。

 大黒龍の攻撃は全体的に力押しで、峰刃学園各機は的確に受け、躱し、反撃していた。しかし単純に、大黒龍のガンプラは、パワーが強い。鍔迫り合いをすれば、赤黒いオーラが一際強く輝いて、刃を捻じ込んでくる。ライフルの応酬になれば、突然ビームの出力が上がる。ヘイロンデカールによる不正――峰刃学園のメンバーたちは、GHOSTとの共同作戦の意味を、その身をもって感じていた。

 

「ひゃはは! ぶっ壊してやるぜーっ!」

 

 まだ声変わりもしていない、キンキンと高い男児の声。(クオリティ)の低い部分塗装をしたクロスボーンⅩ2改が、ビームザンバーを片手にクァッドウィングに突っ込んできた。雑な振り下ろしの一撃を、ライは事もなく回避。稲妻機動で背後に回り込みつつ、ビームセイバーで斬り付けた。

 特徴的な骨十字スラスターの右側二本を切り落とし、機動性を低下させる――させた、はずが。

 

「そんなモン、きくかよーっ!」

 

 切断され、宙を舞う骨十字スラスター。しかしX2改は、上下左右に四本揃った骨十字スラスターからバーニア炎を噴き出し、ザンバスターを撃ちながら後退した。

 

「……ッ!?」

 

 よく見ると、骨十字スラスターは無傷ではない。まるでDG細胞でも仕込んでいるかのように、部位が再生している。それも、凄まじいスピードで。

 ――部位破壊、欠損判定の偽装。敵ガンプラの耐久力表示から見ると、さすがにダメージそのものは入っているようだ。相手が不正デカールを使用していると知らなければ、グラフィックの表示バグかと見過ごしてしまうところだ。

 

「……悪質だな」

「ンだよオニーサン、欲しいのかぁ? リュウジさんに金さえ払えば強くなれるぜ、こんなふうにさあ!」

 

 大黒龍のダイバーは得意げに叫びながら、再び突撃。ビームザンバーを両手持ちで振り下ろす。ライは二刀のビームセイバーを交差させ受け止めるが、X2改の小型機とは思えない膂力に押され、ぐっと膝が沈み込む。

 

「オラァッ! 死ねっ、オラ!」

 

 本当ならば二基が欠損しているはずの骨十字スラスターを四基とも全力で吹かし、ビームザンバーを押し込んでくる。ヘイロンデカールの効果か、明らかに完成度の低いガンプラのはずなのに、そのパワーはクァッドウィングを凌駕している。押し返せないクァッドウィングの姿に、大黒龍ダイバーの少年は押し切れると踏んでさらにスラスターの出力を上げた。X2改はフェイスオープンを作動、まるで舌を出して挑発するかのように、内部機構が露出した。

 だが、ライの表情に変化はない。口元を真一文字に引き締め、鋭く射抜くような目で、X2改を見返している。

 

「……品の無いことだな、少年」

「ハッ、負け惜しみかよ! 峰刃学園とかってのも大したコト……ッ!?」

 

 突如、吹き荒れる暴風。大黒龍の少年の手元から、消える手ごたえ。支えを失ったX2改は顔面から地面に突っ込み、視界(メインカメラ)が塞がれる。

だから大黒龍の少年は、見ることも理解することもできなかった。吹き荒れた暴風は、四枚羽根スラスター全力噴射の余波であることを。クァッドウィングが、稲妻の軌道を描いて背後を取ったことを。カツンという軽い衝撃が、背中に突き付けられたバスターマグナムによるものだということを。

 

「どっ、どこに」

 

 ビュオッ――ォォォォンッ!!

 密着状態で放たれた超高エネルギーの奔流は、赤黒いオーラを突き破ってX2改を撃ち抜き、上半身をほぼ消滅させた。ダイバーの捨て台詞すら残さずに撃墜判定が下され、残った下半身もプラフスキー粒子の欠片となって消え去った。いくら部位破壊の判定を偽装しようとも、機体の半分以上が蒸発してしまえば関係ない。

 

「……不正に頼るからだ」

 

 ヘイロンデカールは、確かにガンプラの完成度判定に不正に介入し、不当に高性能と評価させる。しかし、どれほどガンプラの性能を操作しようとも、ダイバーの実力は変わらない。ガンダムらしくいうならば、「ガンプラの性能差が、戦力の決定的な差ではない」といったところか。今作戦へのGHOSTからの協力依頼が、ダイバーの平均レベルが高い峰刃学園に来たのも頷ける。

 ライはバスターマグナムの粒子残量を確認しつつ、通信ウィンドウを開いた。

 

「……イマ! ガトウ!」

「イマたちはだいじょーぶですよっ、マスター! アンナさん、撃ってください!」

「う、うんっ!」

 

 ターミガンがローラーホイールキックで蹴り上げたSガンダムの改造機を、ガトキャノンのバスターライフルが撃ち抜いた。改造Sガンダムは一瞬真っ赤に染まって膨れ上がり、爆散。赤黒いオーラが辺り一面に吹き散らされる。

 

「いぇーいっ♪ アンナさん、ぐっじょぶなのですよーっ♪」

「ううん、イマちゃんのライフルのおかげだよ」

 

 通信ウィンドウの中で横ピース&ウィンクするイマ、ぺこりと頭を下げるアンナ。ターミガンからの借り物装備であるバスターライフルだが、ガトキャノンが使用しても威力・精度ともに問題ないようだ。

 改造Sガンダムとの戦闘で被弾してしまったらしく、ターミガンのシールドは一つなくなっており、ガトキャノンも肩のシールドを失っている。しかし、戦闘継続に問題はなさそうだ。

 

「へろろんデカールも、イマたちの実力なら問題なしですねっ。とっととやっつけちゃいましょーねっ、マスター♪」

「へ、へろろん……ぷ、ぷくく……」

「…………」

「あれっ、どうしたんですマスター、アンナさん? あっ、敵っ!」

 

 イマはアンナが通信ウィンドウから顔を逸らして肩を震わせているのを不思議そうにのぞき込んでいたが、激しく回転しながら飛んできた大型ビームホークに素早く反応。脚部ビームシールドを展開し、蹴り上げた。

 宙に打ち上げられた大型ビームホークが赤黒く光り、明らかに物理法則を無視した軌道を描いて、投げたガンプラの手に戻っていく。全身に武器弾薬をぶら下げた、重装型のギラ・ズール。峰刃学園退学者、ウダガワとノダの機体である。

 

「げはははは! 良い声で鳴けよ、アンナちゃぁぁんっ!」

「テメェにも死んでもらうぜ、転校生! おいテメェら、やっちまえ!」

 

 ノダの大声に応えるように、大黒龍のメンバーたちが粗野な雄叫びを上げながら突っ込んできた。ウダガワも両手に大型ビームホークを抜き放ち、騒々しく大笑いしながら襲い掛かってくる。

 

「……イマ、近接で行くそ。ガトウ、援護を頼む」

「りょーかいですっ、マスター。アンナさん、これも使っちゃってくださいっ♪」

「はは、はいっ。頑張りますっ」

 

 イマは残り二枚のシールドともう一丁のバスターライフルもアンナに渡した。自分自身は抜刀した二本のビームサーベルを柄尻で接続し、ツインビームセイバーにして構える。

 

「準備おっけーですよっ、マスター♪」

「……悪を、討つ!」

「イマ、いっきまーーすっ!」

 

 飛び出すクァッドウィングとターミガンに先行して、バスターライフルの射線が敵集団を分断した。先頭でやや突出しすぎていたウダガワのギラ・ズールほか数機と、それ以外。ライとイマはまず、先頭集団の懐へと飛び込んだ。

 次々と振り下ろされるビーム刃や白刃の数々。ライは稲妻機動で刃と刃の間をすり抜け、隙を見てビームマグナムを叩きこむ。イマもツインビームセイバーを駆使して切り結び、不意打ちのビームシールドキックで敵機を蹴り上げる。無防備に宙に浮いたところへ、アンナのバスターマグナムが突き刺さる。いくら部位破壊を誤魔化そうとも、一撃必殺の破壊力の前には意味をなさない。その意味で、ライたちはヘイロンデカールの天敵と言えた。

 

「雑魚どもがっ、弾避けにもならねーかよ! げはははは!」

 

 大振りの叩きつけ、大型ビームホークが赤黒い残光を引きながら、振り下ろされる。隙だらけの一撃を、ライとイマは問題なく回避する。空振りの一撃は地面を直撃、その衝撃だけでアスファルトは数百メートルにわたり捲れ上り、地割れを引き起こす。

 

「このパワーなら、負ける気がしねぇぇぇぇっ!!」

 

 半分以上が地面にめり込んだ大型ビームホークを、これもまた力づくで引き抜きながら、そのまま横薙ぎにぶん回す。ビーム属性の衝撃波が斧刃の範囲を大きく超えて発生し、大黒龍の機体が二、三機ほど、巻き込まれて両断された。次々と爆発する大黒龍のガンプラたちの間を、ライとイマは飛び跳ねるようにして前進。ウダガワとの距離を詰めた。

 

「……仲間ごと、とはな」

「アンナちゅわぁんをひん剥くのにぃっ、転校生! てめェは邪魔だぁぁっ!」

 

 またしても大振りの振り下ろし、何の工夫もない叩きつけ。完全に太刀筋を読み切ったライは、あえてビームセイバーを展開せず、バスターマグナムで大型ビームホークを受けた。大量のプラフスキー粒子をため込んだEパックにビーム刃が喰い込み、まばゆい閃光を放って大爆発。ギラ・ズールのメインモニターは、瞬間的に真っ白に焼け付いた。

 

「またどうせ、後ろからズドンだろぉっ!」

 

 力任せに後ろへと薙ぎ払った大型ビームホークが、空を切る。

そして、宙を舞う。切断された、左腕ごと。

復調したギラ・ズールのモノアイに映るのは、回るローラーホイール、渦巻くビームシールド。高々と蹴り上げられたターミガンの右脚が、唸りをつけて振り下ろされる。

 

「変態、滅ぶべしです! イマ必殺の! ビームシールド稲妻落としぃぃぃぃっ!」

 

 垂直落下する脚部ビームシールドがギラ・ズールの肩から胸部に深々と突き刺さり、猛然と回るローラーホイールが装甲の傷口を押し広げていく。

 

「ぐああぁっ!? く、クソガキがあっ! おっぱいもねえくせに俺に触れるなぁぁっ!」

 

 部位破壊判定の偽装により、ギラ・ズールの左腕は数秒で再生。両手でターミガンを引きはがしにかかるが、イマは顔を真っ赤にして怒り、ビームシールドをより深くギラ・ズールへと喰い込ませた。

 

「せせせ、セクハラです通報です逮捕なのですっ! 確かにアンナさんは隠れ巨乳でしかも形も柔らかさもベリーナイスな美巨乳ですが、それは今関係ないのですーっ!」

「え、ちょ、イマちゃん!?」

「うるせえクソガキだな! ガキを剥いたって見るところもねーだろうが! 貧乳に用はねーんだよぉぉっ!」

「むきーっ! 無い胸には無い胸の魅力があるのです! そしてアンナさんの着やせおっぱいは変態さんなんかに見せるにはもったいない美しさなのですっ! ただ大きいだけではないハリと弾力を、イマはこの手で確かめたのです!」

「ちょっ、イマちゃん、やめっ……」

「いくらアンナさんの胸の膨らみが形よく柔らかく機体が被弾するたびにイヤンな乳揺れをしていて連邦軍女性士官の制服が若干窮屈そうなのがむしろフェイバリットで同性のイマからみても魅力的だからって、そんなセクハラは許せないのです! ビームシールド、出力全か……」

「も、もうやめてくださぁぁぁぁいっ!」

 

 ビュゴッ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 二門同時のバスターライフル・フルパワー。アンナの精一杯の大声と共に極太のビームが迸り、ウダガワの重装型ギラ・ズールは断末魔すらなく消滅した。他にも数機の大黒龍機が巻き込まれて爆発、炎と黒煙がホンコンの歓楽街に吹き荒れる。

 その黒煙の中から、そこだけSDガンダム作品になったかのようなコメディタッチでお尻に火のついたターミガンが、ゴロゴロと転がり出てきた。

 

「うわっ、ちちち! ああ、アンナさん、イマもちょっと焦げちゃったのですよ!?」

「…………ちっ」

「えっ!? ちょ、アンナさん!? なんでそんなダークサイドな目でイマを見ているのです!? あと舌打ち、舌打ちしましたよね今っ!?」

「や、やだなぁ、イマちゃん。そんなことないよー。掠っちゃってごめんね?」

「んむー、しょうがないですねー。許してあげますよ、イマは心が広いので! えっへん!」

 

 胸の前で手を合わせるアンナに、偉そうに胸を張って見せるイマ。それとまったく同じ動きをするガトキャノンとターミガン。隙だらけの二人と二機に、しかし攻撃を加える敵はいない。ウダガワの撃墜を受けて、大黒龍のダイバーたちは明らかに動揺していた。

 

「ケッ、雑魚どもが! ウダガワが墜ちた程度でビビりやがってよおッ!」

 

 ノダは視界の隅にその光景を捉えて愚痴ったが、そちらに注意を向けてしまったことを、すぐに後悔させられた。

 

「……破ァッ!!」

 

 三日月の軌跡を描き、振り下ろされる手刀一閃。クァッドウィングの右手刀はギラ・ズールの右腕を正確に捉え、ビームサーベルに勝るとも劣らない切れ味で断ち切った。返す刃で手刀を逆袈裟に切り上げるが、ノダは大きく上半身を仰け反らせて紙一重で回避。しかし腹部にジャラジャラとぶら下げていたハンドグレネードが両断され、暴発した。偶然にもそれが煙幕弾だったため、ギラ・ズールとクァッドウィングの間には濃い灰色のスモークが立ち込めた。

 

「……煙幕か」

「ヒハッ、ツいてやがる!」

 

 これ幸いとノダは後退。クァッドウィングから距離をとった。

ヘイロンデカールの効果で右腕は数秒で再生するが、右手に持っていたビームマシンガンは諦めるしかない。ノダは再生したギラ・ズールの右手に予備のビームライフルを構え、全身のミサイルランチャーを起動した。

 

「デカールの力は、ビームの出力だけじゃねえ! 死ねよ転校生、無限ミサイルだッ!」

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 次々と吐き出される、大小さまざまなミサイル群。ノダの言葉通りに、その弾幕は途切れることがない。打ち上げ花火のように迷走するミサイルは、そのほとんどが限界高度で自爆するかホンコン・シティの摩天楼にぶち当たって爆発。稲妻の軌道で夜空を切り裂くクァッドウィングには当たらない。

 

「……この弾幕を御しきる技量、貴様にはないようだ」

「そりゃそうだ、いちいち馬鹿みてぇに練習なんてしてられるかよ!」

「……サカキとかいう男は、自力で戦っていたぞ」

「ハハハッ! あのクソチキン野郎と一緒にするなよ、女教師程度にビビる奴なんかと! 俺には弾切れがねーんだからよぉ、逃げ切れねぇだろうが転校生ィィィィッ!!」

 

 ギラ・ズールはさらに背部の対艦ミサイルを発射。これもヘイロンデカールの効果か、多段式ロケットというわけでもないのに飛翔しながら分裂、増殖。猛然と噴煙を噴き出しながら、クァッドウィングに向かって突っ込んでくる。

 

「そうか……ならばッ!」

 

 ライは左手のバスターマグナムを横薙ぎに撃ち、対艦ミサイルをすべて爆破した。弾け飛ぶ爆炎のど真ん中を突っ切り、爆風を背に受けてさらに加速しつつ、クァッドウィングは爪を剥き出しにした猛禽類の如く急降下した。

 

「腐敗しきった貴様の心根……凍りつく(とき)の中で、悔い改めろッ!!」

 

 いや実際に、クァッドウィングはその爪を剥き出しにしていた。

 吹き荒れる寒風。舞い踊る雪風。青銀に煌く、氷結粒子の結晶体。氷塊から切り出したように粗削りな、氷の手掌を振り上げる!

 

「おいクソッ、マジかよっ!?」

 

 ノダはさらにミサイルを発射するが、自動照準任せではロックオンが追いつかない。ライはマシンキャノンを起動、進路上に入り込んだ数発のミサイルを撃ち落とした。その爆炎を突き抜ければ、すでに高度はミサイルの旋回半径の内側、もうミサイルでは迎撃不可能。ほぼ垂直落下の軌道で迫りくるクァッドウィングに、ギラ・ズールはビームライフルを向ける――が、手遅れだった。

 

「ブライクニルッ! フィンガァァァァァァァァッ!!」

 

 大上段からの叩きつけ、炸裂する氷結粒子。冷気嵐が荒れ狂い、青銀の結晶が踊り狂う。一瞬にして聳え立った氷柱の中に、全てのプラフスキー粒子を凍結されたギラ・ズールが閉じ込められている。部位破壊を偽装し、不正に粒子の出力を高めるヘイロンデカールも、粒子の活動そのものを凍結されては効果を発動できない。

 

「クソッ、こんな……デカールがあって、負ける……はずが……っ!」

 

 氷漬けにされ、顔面を鷲摑みにされたギラ・ズールは、唯一自由になるモノアイだけを動かして、クァッドウィングを睨みつけた。しかしライはそんな視線など意にも介さず、ブライクニルフィンガーに力を込めた。

 

「――成敗ッ!!」

 

 気合一声、ギラ・ズールの頭部を圧壊。同時に巨大氷柱は音を立てて崩れ落ちた。落下し砕け散る氷塊が白く冷え切った噴煙を巻き上げ、砕け散った氷の結晶がキラキラと宙を舞う。

 

「……これで」

 

 崩落し切った氷柱の跡で、クァッドウィングは四枚羽根を大きく羽ばたかせた。風圧に白い冷気は吹き散らされ、ホンコン・シティ最奥部の軍事基地、大黒龍のフォースネストの姿が露わになる――その正面ゲートの上で腕組みをして立ち、ライを見下ろすバウンド・ドラッヘの姿も。

 

「……あとは、お前だけだ」

 

 ライはバスターマグナムの銃口を、ピタリとバウンド・ドラッヘへと向けた。

 ライの言葉に合わせたかのように、ホンコン・シティ内部での戦闘も終わっていた。大黒龍のガンプラたちを打ち破った峰刃学園右翼部隊の面々が、ライと同じようにそれぞれの武器をバウンド・ドラッヘへと向けている。

 ビームサーベルが。ヒートショーテルが。ドラグーンが。ドッズライフルが。大黒龍首領、オオグロ・リュウジを照準している。

 アンナもバスターライフルを構え、ガトキャノンを一歩前に踏み出させた。

 

「あなたのお仲間さんは、全滅しました……っ!」

「ごめんなさいするなら、ここが最後のチャンスなのですよー!」

 

 イマは外部スピーカーを最大音量でオン、バウンド・ドラッヘを指差しながら言った。すると、今まで何の反応も示さなかったリュウジが、突然、耐え切れなくなったというように大声で笑い始めた。

 

「クハ……クハハ! ハーッハッハッハッハ! 馬鹿かよテメェらァァァァっ!」

 

 ガパンッ! グワッ、バアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 左腕のドラゴンヘッドがその大顎を開き、赤黒いビームの激流を吐き出した。峰刃学園のサンドロックカスタムが、咄嗟に掲げたクロスクラッシャーごと撃ち抜かれ、爆散。その爆発が号砲となって、全てのガンプラたちが一斉に動き出した。

 

「ごめんなさいだぁ? 冗談じゃねえ! 雑魚が何匹死んだところで、俺さえいりゃあ勝てるんだよォォォォォォォォッ!」

 

 赤黒いオーラが膨れ上がり、竜巻となってホンコンの夜空を衝き上げる。そのヘイロンデカールの力の渦から産み落とされるように、弾き出されるように、サイコガンダムMk‐Ⅱのものに酷似したリフレクタービットが出現した。

 雲霞の如く飛び回るリフレクタービットは学園側のガンプラたちが撃ち込むビームライフルを偏向して逸らし、反撃とばかりにトライブレードのように激しく回転しながら突っ込んでくる。その狙いは極めて正確、コクピット部分だけを抉り取ろうとしてくる。

 

「はわわっ!? だ、ダイバーだけを殺す機械なのですかっ!?」

「イマ、下がれ!」

「え、援護しますっ」

 

 アンナは肩部大口径機関砲で次々とビットを撃ち落とし、隙を見てバスターライフルでまとめて薙ぎ払う。ライは格闘とビームセイバーを、イマはツインビームセイバーと脚部ビームシールドを駆使して身を守るが、落としても落としても、ビットは赤黒いオーラの竜巻から次々と出現し、その数が減る気配はない。

 ライはビットを蹴り砕きながら、赤黒い竜巻の中心で両手を掲げビットの流れを操るバウンド・ドラッヘを真っ直ぐに睨んだ。

 

「……本体を討たねば、終わらんか」

「そうですねっ! いきましょう、マスター! アンナさん! レイドボスバトルなのですよーっ!」

「う、うんっ! やっつけよう!」

「……突撃する。イマ、ガトウを」

「あいあいさーっ♪」

 

 イマは調子良く敬礼などして元気いっぱいにこたえ、ターミガンをビークバギー形態に変形させてガトキャノンの足元に少々足払い気味に飛び込んだ。「ひゃわっ!?」と小さく悲鳴を上げつつも、アンナはターミガンの背に乗り、掴まった。

 

「アンナさん、少々荒いドライブになりますよっ。シートベルトをお締めくださいねっ♪」

「えっ、べ、ベルトっ!? どこっ!?」

「イマ、いっきまーすっ♪」

「うひゃわああああああああっ!?」

 

 戸惑うアンナの返事も聞かず、イマはアクセル全開で飛び出した。同時、ライもクァッドウィングの四枚羽根を大きく左右に展開、予備動作なしの最大出力、全バーニア・スラスター全力全開で飛翔した。追いすがるビットを置き去りにして、進路をふさぐビットを潜り抜け、超高速の全力走行で、地上と空から突撃する。

 赤黒いオーラを爆発的に放出するバウンド・ドラッヘまで、あと五秒――ライはエネルギー切れのバスターマグナムを、投げ捨てた。

 

「……悪を、討つ!」




 次こそ、次こそは第四話の最終パートです。
 出撃したは良いけど宙ぶらりんな部長もちゃんと活躍させる予定です。
 アクヲタツボウレイの本当の意味もちゃんと出てきますので、どうぞご期待ください! ボウレイってGHOSTのことじゃないよ!(ダイレクト伏線)
 感想・批評もお待ちしています!


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Episode.04-E『アク ヲ タツ ボウレイ ⑤』

 第四話が⑤で終わると言ったな。あれは嘘だ。

 いや、すみません。終わりませんでした。長くなる病が発動しています……
 ⑥の執筆は終わっているので、二日連続投稿という形をとらせていただこうかと思います。明日の夜には本当に本当の第四話最終パートも更新します。

 予告詐欺の連続で申し訳ないですが、第四話Eパートです。どうぞご覧ください!


 ホンコン・シティ沿岸部、港湾施設。

 ライたちがいる最前線からは一歩引いたエリアに、推進機関に損傷を受けたブルーバードは着陸していた。残存する無人機部隊程度なら艦の近接防衛システムで十分に対応できたが、有人機ともなると――しかもそれがヘイロンデカール仕様機ともなると、対処はそう簡単ではなかった。

 

『ひゃはは! 良いカモだぜーっ!』

 

 赤黒いオーラを纏ったGセルフが、ビームライフルを連射する。並みのライフルなら数発は耐えられるはずのミネルヴァ級のラミネート装甲を、不正に出力を高められたビームは楽々と貫通する。

 

「きゃあっ!」

 

 装甲を抜いたビームが艦内部で爆発を引き起こし、衝撃がブリッジを揺らした。シオミは落ちそうになった制帽を片手で押さえつつ、コンソール前に座ったハロたちに指示を飛ばす。

 

「ダメージコントロール! リペアドローンを派遣! ハロ、左舷の弾幕を強化!」

「サゲン、キジュウ、ゼンメツ! キジュウ、ゼンメツ!」

「シュホウ、タイハ! タイハ! ナンテコッター!」

 

 艦橋のあちこちで、グルグルと目を渦巻き模様にしたハロが両耳(?)をパタパタと開閉させる。平時なら可愛らしくもあるモーションだが、この非常にそれを見せられても何の癒しにもならない。

 

「くっ……だったら、VLSに高機動ミサイルをきゃああっ!?」

 

 さらにビームが直撃、左舷の被害は甚大だ。チーム戦であるこのミッションでは、ブルーバード一隻が落ちても、それだけで勝敗が決するわけではない。しかし、自分はブルーバードの艦長で、ブルーブレイヴのオペレーターだ。ダイバーたちがまだ前線で踏ん張っているのに、早々に離脱するわけには……

 

『まかせて、シキナミさん!』

「先輩っ!?」

 

 さらにビームライフルを撃とうとしたGセルフのライフルを、射出されたシザーズシールドが挟み切った。爆発するライフル、その爆風に煽られ姿勢を崩すGセルフの顔面に、追い打ちのモビーディックランサーが突き立てられる。

 

『おわあっ!? も、モビルスーツは前線じゃあねぇのか!?』

 

 Gセルフはシールドバッシュでシュバルベストライクを突き放して、後退。ランサーが抜けたその瞬間から、損壊した頭部の修復が始まる。そして爆発したはずのビームライフルは、何事もなかったかのように右手に戻ってきている。

 

『ヘイロンデカールの性能……まさしく不正だね……!』

 

 DG細胞のように復活していくGセルフを油断なくレティクルの中心に捉えながら、コウタも後退。シュバルベストライクを、ブルーバードの艦橋前に滞空させた。

 

(せ、先輩が来てくれたっ! ……じゃ、なくて、違う違う!)

 

 頼もしいその後ろ姿に、シオミの表情が一瞬緩む。だが、シオミは頬を両手でパンと打ち、わざと怒ったように眉を吊り上げた。

 

「な、なんでこんな後方まで来ているんですか。リーダー自ら前線を放棄するなんて、ありえません。作戦に従って……」

『キミを守るのに、作戦も何もないよ。シキナミさん』

「……っ!?」

 

 怒ったふりの表情のまま、シオミは固まってしまった。顔が真っ赤に染まっていき、言葉が出てこなくなる。頬が熱い、耳まで赤い。ダメ、こんな顔、先輩に見られるわけには!

 

「えっ……あ、その……」

『シキナミさんも、大事なチームメイトだからね。見捨てたりしたら、それこそリーダー失格だよ』

「……大事な……チーム、メイト……ですか」

 

 わざわざ、助けに来てくれた。「大事な」と言ってくれた。でも「チームメイト」だから――嬉しいような、悲しいような。シオミは吊り上げていた両眉を緩め、ふっと軽く微笑んでから艦長の顔に戻った。

 

「ここまでの峰刃学園各機の戦闘データを総合すると、ヘイロンデカール仕様のガンプラには高火力による一撃必殺が有効です。高機動装備(シュバルベストライカーパック)の武装では難しいですが、本艦の副砲はまだ生きています。射角内に敵機を誘い込んでください」

『了解だよ、シキナミさん!』

 

 コウタの応答と共に、シュバルベストライクは飛翔した。リニアライフルが甲高い銃声を響かせ、Gセルフを追い詰めていく。ドッグファイトの様相を呈してきた二機の戦いを注視しながら、シオミは副砲の射撃準備を進めた。

 

(こちらはもう大丈夫。でも、敵のフォースマスターを討たなければ、作戦は終わらない……!)

 

 ホンコン・シティの奥では、赤黒いオーラが渦を巻いて天を衝き、禍々しい竜巻となっている。おそらくあれが、決戦の場。異常な出力強化とDG細胞の如き自己再生能力を持つヘイロンデカール仕様ガンプラとの戦いは、困難を極めるだろう。

 

(頑張って……ヒムロさん、ガトウさん、イマさん……!)

 

 最前線で戦うチームメイトを思い、シオミはぎゅっと艦長席のアームレストを握り締めた。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「……悪を、討つ!」

 

 エネルギー切れのバスターマグナムを投げ捨てて、ライは弾丸の如く飛び出した。

 

「露払いはイマたちにお任せなのですよ、マスター!」

「いくらリフレクタービットでも、バスターライフルならっ」

 

 飛翔するクァッドウィングに負けず劣らず、ビークバギー形態のターミガンはホンコンの大通りを爆走した。その背に乗せられたガトキャノンは借り物のバスターライフルを撃ちまくり、バウンド・ドラッヘが次々と繰り出すリフレクタービットの大群に大穴を穿つ。

 リフレクタービットはその特性上、通常のビーム弾を偏向するのは得意だが、バスターライフルのような高エネルギーの奔流を防ぎきることはできない。バスターライフルが火を噴くたびに赤黒いオーラの渦は吹き散らされ、切り拓かれ、ぽっかりと空いた空間をクァッドウィングは駆け抜けていく。

 

「ハハッ、四枚羽根ぇぇッ! テメェがノダの言ってたクソ正義野郎かよ!」

 

 バウンド・ドラッヘの下半身、大きく広がったスカート部の表面装甲が展開、二十発近い小型ミサイルが赤黒い粒子の尾を引きながら撃ち出された。ライはマシンキャノンで迎撃、その全てを撃ち落としつつ、バウンド・ドラッヘに肉薄した。

 

「……貴様が元凶か」

「武器もなくこの俺を!」

 

 巨大な左手に比してやけに細い、まるで人骨のようなデザインの――しかしそれでも並みのモビルスーツより一回り太い右腕に、リュウジは大型ビームブレードを抜刀。噴出するビーム刃をヘイロンデカールの赤黒い粒子で染め上げながら、上空から迫るクァッドウィングへと振り上げた。

 

「やれるかよ、テメェごときがぁぁっ!」

 

 バヂィィィィインッ!!

 威勢よく吐き捨てたリュウジだが、予想外の手ごたえにたじろいでしまった。突っ込んで来る四枚羽根を斬り捨てるはずの大型ビームブレードが、止まっている。止められている。受け止められている――青銀色に煌く、手刀によって。

 

「あぁッ? 武器はねぇはずじゃ!?」

「……奥の手、使わせてもらうぞ!」

 

 ブライクニルフィンガーを構成する氷結粒子結晶が、その形状を変化。手刀に揃えた指先の、さらにその先まで伸びていく。鋭く、鋭く、ひたすら鋭利に磨き上げられた氷柱が、青銀に煌く氷刃と化す!

 

「……ブライクニルフィンガー、ソードッ!」

 

 ビキィィッ! バキャァァァァンッ!!

 大型ビームブレードの赤黒いビーム刃は、一瞬にして凍結。クァッドウィングがフィンガーソードを振り抜くと同時に粉々に砕け散った。

 

「うおおおおっ!?」

 

 間一髪で大型ビームブレードを投げ捨て身を躱したリュウジは、噴き出した冷汗を拭いつつ、コンソールパネルを叩いた。ヘイロンデカールの出力がさらに上昇、赤黒い粒子がバウンド・ドラッヘの人骨のような右手に収束して、大型ビームブレードを出現させる。部位破壊判定の偽装と同様の不正操作、武器破壊のリセットだ。

 

「へっ……ハハハ! おもしれぇ手品だが、俺にはデカールの力がある! 武器ぐらい、いつでもどこでもってなぁッ!」

「……手品は貴様の方だ」

 

 リュウジは左腕のドラゴンヘッドを展開、黒龍撃滅砲(ヘイロン・ブラスター)を撃とうとしたが、ライはすでに稲妻機動でその懐へと潜り込んでいた。完全に近接格闘の間合い、リュウジは無理やり大型ビームブレードをクァッドウィングとの間に捻じ込むが、まるで正拳突きのように突き込まれるフィンガーソードを受けるので精一杯だった。しかも、ビーム刃はフィンガーソードを受ける端から凍り付き砕け散り、リュウジは更なる後退を余儀なくされる。

 

「ヒャハハ! 出力はあの氷のシャイニングフィンガーほどじゃあねえみてえだなあッ、クソガキぃぃっ!!」

「……破ァァッ!!」

 

 ほぼ徒手空拳のような間合いで繰り出されるフィンガーソードが、次々と再生産される大型ビームブレードを、触れる端から凍結していく。ぶつかり合い、凍り付き、砕け散り、再生産されまたぶつけ合い、凍結、粉砕――フォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟が不正ツール頼みの悪質ダイバー揃いとはいえ、その悪童どもを暴力でまとめ上げたリュウジ自身の戦闘能力は高い。ヘイロンデカールによる武器再生に頼ってはいるが、ライと近接格闘戦で渡り合っている剣捌きは、彼自身の技量だ。

 

「……せいッ!!」

 

 十数本目の大型ビームブレードを打ち砕いたライは、砕け散るビーム刃の破片を薙ぎ払うようにして、踝部フィンスラスターも全開にした回し蹴りを叩きこんだ。勢いの乗った踵がバウンド・ドラッヘの側頭部に深々とめり込み、怪物じみた異形の巨体が、大きく傾いた。竜の角のような意匠のアンテナが根元からへし折れるが、ヘイロンデカールの効果で即座に修復が始まる。

 しかし、折れたアンテナの修復にかかる、数秒。サイコミュによる感応波制御が乱れ、峰刃学園各機の動きを抑え込み猛威を振るっていたリフレクタービットの動きが、鈍った。

 

「……イマ!」

「はい、マスター! アンナさんも!」

「う、うんっ!」

 

 イマはアスファルトから白煙が上がるほどの勢いで猛烈なドリフト、その背中でアンナは二丁のバスターライフルを大きく左右に広げ、トリガーを引きっぱなしにした。

 

「イマとアンナさんのぉーっ、合・体・攻・撃! ドリフトローリングバスターライフルなのですっ!」

「峰刃学園のみなさんはっ、伏せてくださぁぁいっ!!」

 

 ドッ、ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 全周囲に荒れ狂う黄金色のビームが、数百機にも及ぶリフレクタービットの大群を、まとめて薙ぎ払っていく。峰刃学園の各ガンプラはマップ上の攻撃範囲表示を元に回避、ホンコンのビル群とリフレクタービットだけが、周囲から一掃された。

 

「なっ、なにぃぃぃぃっ!?」

「……好機ッ!」

 

 リュウジが動揺した一瞬をついて、ライはフィンガーソードをバウンド・ドラッヘの右膝に突き立てた。氷結した刺突が分厚い装甲を貫き、内部フレームまで到達。野獣のような野太い右脚を凍結させた。そして間を置かず、凍り付いた右膝を蹴り砕いて大きく跳躍、その場を離れた。

 

「うおっ、脚が!?」

 

 氷塊と化した右脚は粉々に砕け散り、バウンド・ドラッヘはその場に倒れた。ヘイロンデカールがすぐに右脚の再生を始めるが、しかしそれには数秒かかる。

 そして、リフレクタービットとの戦いから解放された峰刃学園のダイバーたちには、その数秒で十分だった。

 

「学園のみなさーんっ、チャンスなのですよーっ♪」

「撃ちまくってくださぁぁいっ!」

 

 ハイメガキャノン、GNバズーカ、ハイパー・メガ・ランチャー、シグマシスキャノン、パラエーナ収束プラズマビーム砲、ローゼスビット、ハイパーバズーカ、スーパーギャラクシーキャノン。そして、イマとアンナのバスターライフル。峰刃学園右翼部隊全機の銃口が、一斉にバウンド・ドラッヘに向けられた。

 上空で宙返りを打つクァッドウィングのフィンガーソードが解除され、氷結粒子が舞い散る。同時、ライはオープンチャンネルで学園の全ダイバー、そしてオオグロ・リュウジへと告げた。

 

「――成敗ッ!!」

 

 銃声、砲声、爆発音。粒子が弾け、光が溢れ、爆炎と衝撃が吹き荒れる。十機以上のガンプラによる、一斉射撃の集中砲火。赤や黄色のビームの光に呑みこまれ、赤黒いオーラが吹き散らされる。ドラゴンヘッドが吹き飛び、スカートアーマーが射抜かれ、ヘイロンデカールによる修復すら追いつかない速度で、バウンド・ドラッヘは削られていく。

 

(まずい……まずいまずいまずい、クソまずいッ!!)

 

 自分たちが負けるわけがないと、リュウジはこのクリエイトミッション〝ヘイロンズ・ウォー〟のクリア報酬を、ホンコン・シティの使用権としていた。

 もし、このまま負けたら――峰刃学園の手に、このホンコン・シティが丸ごと渡ったら。ヘイロンデカール以外にも手を染めている、非合法なサイドビジネスも明るみに出る。電子ドラッグ。ヤミ賭け試合。データを書き換えた少女型NPCによる、電脳売春の斡旋……現実世界でも刑事罰に値する行為を積み重ねていることを、リュウジは自分で理解していた。

 ミッション中の回線切断は負け判定、逃げることはできない。生き残るためには、勝つしかない。リュウジは痙攣したように口の端を吊り上げ、コート内側からカードキーを取り出した。ヘイロンデカールと同じ赤黒い光を放つ幾何学模様のカードキーを、リュウジは常軌を逸した目付きで睨みつけ、そして叫んだ。

 

「勝ちゃあいいんだろ、勝ちゃあよぉッ! デカールは隠しきれなくなるが、勝ち抜ければ! 店を畳む余裕ぐらいはできるだろうよッ!! ガアアアアアアアアッ!!」

 

 コンソールをブチ破る様な勢いで、カードキーを画面に叩きつける。瞬間、カードキーが粉々に砕け散り、その中に極限の高密度で圧縮されていた赤黒い粒子が、解き放たれた。

 

『ウガアアアアアアアアッ!!』

 

 再度、天を衝く赤黒い粒子の竜巻。戦場に散らばっていたリフレクタービットの残骸がまるで意思を持つように浮き上がったかと思うと竜巻へと吸いこまれ、バウンド・ドラッヘの下へと集結する。そして混ざり合い、一つになり――一つの、巨大な機影を作り上げた。

 

「……なん……だとッ!?」

『ヒハハッ! コレダァ! コノ力ダァッ、俺ガ欲シカッタノハァァァァッ!!』

 

 ――巨大化。シンプルに、わかりやすく、あり得ない変化。144分の1(ハイグレード)サイズのガンプラとしてもかなり大柄な機体だったバウンド・ドラッヘだが、現在のサイズは軽くその三倍。60分の1(パーフェクトグレード)サイズすら上回る巨大ガンプラが、赤黒いオーラを嵐のように撒き散らしながら、雄叫びを上げていた。

 

「は、ハイパー化っ!? おお、オーラバトラーじゃないのですよーっ!?」

『ギャハハハハハ! ガンプラハ、自由! ダロウガァァァァッ!』

 

 バウンド・ドラッヘは左腕のドラゴンヘッドを地面に叩きつけ、そのまま黒龍撃滅砲(ヘイロン・ブラスター)を発射。凄まじい衝撃が大地を割り砕き、蜘蛛の巣状に広がった地割れから、赤黒いビームの閃光が噴出した。

 

「きゃああああっ!?」

「ひああああっ!!」

「イマっ! ガトウっ!」

 

 ライは最大加速で急降下、噴き出すビームの大噴火から二人を引き上げようとするが、吹き上げるビームの圧力に押し返され、近づくことができなかった。地上にいた峰刃学園の機体は、地割れからのビーム噴出で大破、撃墜。ターミガンとガトキャノンにも撃墜判定が下され、二人との通信は途絶、通信画面は砂の嵐を映すのみとなった。

 

「くっ……!」

『アーッハッハッハッハッハ! コレデ後ハ、テメェダケダァァッ!』

 

 音程が狂ったように笑いながら、リュウジは大型ビームブレードを抜刀。大剣というよりも、もはやビルかタワーに近いビーム刃を、力任せに振り回した。

 

『ゲェハハハハァッ! マズハ、テメェヲ殺ス! 左翼ノ部隊モ潰ス! ソウスリャ勝チ逃ゲッテモンダロオッ、コノ俺様ガアアアアッ!』

 

 唸りを上げるその一振りごとに、ホンコンのビル群が二、三棟まとめてぶった切られる。轟音を上げて崩落するビル群の間を、ライは稲妻機動で翔け抜けた。リュウジはもはやヘイロンデカールによる不正を隠す気もなく、ただこの場を勝ち抜けるためだけに、暴力の限りを振り撒いていた。

 

『逃ゲテモイインダゼッ、正義ノ味方サンヨォォォォッ!』

 

 バウンド・ドラッヘのスカートアーマー表面が展開、一発一発が対艦兵器クラスの大型ミサイルがバラ撒かれる。ライはマシンキャノンを連射しつつ稲妻機動でミサイルとミサイルの間に入り込み、誘爆と同士討ちを引き起こさせて潜り抜ける。

 

『ギャハハ! 逃ゲネエノカァァッ、コノ力ヲ前ニシテェェッ!』

「――ここで退いては、俺の正義が廃る!」

 

 振り下ろされるビームブレードを、ライはギリギリまで引き付けて稲妻機動で回避。舞い散るビーム粒子の欠片が装甲を焼くほどの至近距離でビーム刃の側面をすり抜けて、バウンド・ドラッヘの懐に飛び込んだ。氷刃を形作っていた氷結粒子を、再び氷の掌へと変形。ブライクニルフィンガーを発動する!

 

「凍りつく(とき)の中で……悔い、改めろォォッ!」

 

 吹き荒れる寒風。舞い踊る雪風。氷結粒子結晶の掌を叩きつけ、冷気嵐が炸裂する、しかし!

 

「……ッ!?」

『ヒハハッ! 腕ノ一本グライ、安イモンダァァッ!!』

 

 砕け散る氷柱、弾け飛ぶプラスチック片。しかし、凍結し砕けたのは、バウンド・ドラッヘの右腕のみ。粒子の出力差か、単純なサイズ差によるものか――ブライクニルフィンガーの凍結範囲は、ハイパー化したバウンド・ドラッヘの全身にまで及ばなかったのだ。

 

『ウオラァァァァッ!』

 

 ガパンッ! ドッガアアアアッ!

 ドラゴンヘッドがクァッドウィングに喰らい付き、そのまま地面に叩きつける。凄まじい衝撃に肺の中の空気を叩きだされ、ライは声を上げることもできなかった。その衝撃は明らかにVRゲームの安全基準を超えていた。不正ツールによる攻撃力強化に、GBNの体感レベル制限が追いついていない。

 

『ギャハハハハハハハハ! コノママ黒龍撃滅砲(ヘイロン・ブラスター)ヲ撃ッテモイイケドヨォ……苦シンデモラオウカ、正義ノ味方クゥゥンッ! 俺様ノ城ヲ、踏ミ荒ラシタンダカラナァァァァッ!』

 

 クァッドウィングを咥え込んだまま、リュウジはドラゴンヘッドを地面に叩きつけた。振り上げてビルにぶち込み、引きずり回してまた地面を殴りつける。何度も、何度も、何度も。

 

『ギャハハ! ゲェハハハハハハハハッ!』

 

 わずか十秒程度の一方的な暴虐で、クァッドウィングはボロボロに破壊されてしまった。四枚羽根は全て引き千切れ、右腕は肩口から喪失。左腕は複雑に折れ砕け、辛うじて胴体からぶら下がっているだけ。ドラゴンヘッドの牙が深々と喰い込んだ腹部からはオイルが血のように流れ、下半身のコントロールはとっくに失われていた。

 

「ぐ……はっ……」

『撃墜マデ、アト一撃ッテトコカァ? ジャアソロソロ死ネヨ、正義ノ味方クゥゥンッ!』

 

 衝撃と遠心力に引っ掻き回されて、ライの意識は朦朧としていた。操縦桿を握る手に、フットペダルを踏む足に、まるで力が入らない。ドラゴンヘッドの口腔内に赤黒い粒子が収束し、凶暴な光を放ち始めた。

 焦点の定まらない視界、薄く靄のかかったような意識の中で、ライはギリリと奥歯を噛み締めた。

 

(俺は、また……悪に、屈するのか……っ!)

 

 もう二度と、あの時(・・・)のような思いはしたくない。

 悪に負けない、力が欲しい。

 誰にも何にも負けることのない、絶対の正義が欲しい。

 そう願い、そう誓い。必死に足掻いて、死ぬ気でもがいて。そうして手に入れたブライクニルフィンガーも、不正ツールの力に負けてしまうのか。

 欲しい。力が。 

 圧倒的な〝究極〟が、絶対的な〝最強〟が、正義を貫く〝力〟が欲しい!

 

「まだ、だ……まだ、負けられない……!」

 

 消えかけていたクァッドウィングの両目(ツインアイ)に、僅かに蒼い光が灯る――いや、違う。クァッドウィングにはもはや、一片の力も残されていない。撃墜判定が下っていないだけの、無力なプラスチックの人形だ。

 クァッドウィングの両目が蒼く光ったのは、クリアパーツが光を反射しただけだった。バウンド・ドラッヘのはるか後方、フォース〝大黒龍〟の本拠地である軍事基地を包み込む、圧倒的な蒼い粒子の輝き。頑丈なはずの防壁を、無数の迎撃火器を、粉々に打ち砕き崩壊させていく蒼い光。猛烈な破壊力を振り撒くその光は、しかしなぜかどこまでも穏やかで――一瞬遅れてやってきた轟音と衝撃波さえ、破壊の規模に比べると静かすぎるほどだった。

 だから、

 

『ン……ナンダァ?』

 

 リュウジがバウンド・ドラッヘを振り返らせる動作が緩慢だったのは仕方がないし、

 

「やれやれ。遅くなっちゃったぜ、まったく」

 

 完全なる無音で切り裂かれたドラゴンヘッドが宙を舞うのに気づかなかったのも仕方がないし、

 

「…………ッ!?」

 

 ライが気づいた時には、クァッドウィングはすでに地面に寝かされていて、彼女の後姿しか見えなかったのも、仕方がなかった。

 

「そこで休んでいると良いぜ、転校生君」

 

 全身に纏うGNソードビットは、どこまでも透き通った蒼。煌く青銀に塗装された機体はドレスのように華美でありながら、一切の無駄がない。芸術作品の繊細さと、戦闘兵器の勇壮さを併せ持つ、完成された戦いの女神。月明かりに照らされ、重力になど縛られないかのように宙に浮くその姿は、まるで一枚の絵画のようだ。

 

「敵の本拠地に無人機以外だーれもいないと思ったら、こんなことになっていたとはね。ボクもまだまだ、修行が足りないぜ。可愛い可愛いウチの部員に、辛い思いをさせてしまったなあ」

 

 控えめに言って、最強。

 謙遜したところで、無敗。

 そのガンプラ人生において、ただの一度の敗北も知らない。

 故にその二つ名は〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟。

 

「見通しの甘い、ボクのふがいなさが招いたことなのだけれど。それでも君のやり方は、ひっじょーーーーに! フェアじゃあない。だから……」

 

 峰刃学園ガンプラバトル部・部長、ヒビキ・ショウカ。その愛機、ガンダムダブルオー・ゼロ。

 

「……結構本気で怒っているぜ、今のボクは」

 

 まるで、主の怒りに応えるかのように。蒼く煌くGNソードビットが、一斉に攻撃態勢に入った。




 部長参戦、二度目の寸止めでございます。自分の構成力の無さが恨めしい……
 明日の夜に第四話最終パートを更新しますので、そちらも併せてお楽しみいただければ幸いです。
 また明日、お会いできればうれしく思います。
 感想、批評もお待ちしています。


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Episode.04-F『アク ヲ タツ ボウレイ ⑥』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。
 私の構成力の無さゆえに長くなる病が発症し、予告詐欺に予告詐欺を重ねた第四話ですが、今度こそ本当に最終パートです。
 文章中に多少残酷な表現が出てきますが、R15をつけるほどではないと私の今までの読書経験から判断しまして、R15にせずに投稿していますが、ご意見等ありましたらお知らせください。

 では、第四話最終パートです。どうぞご覧ください!



 ――そこから先の戦いは、戦闘と呼べるものですらなかった。

 

『ウガアアアアアアアアッ!』

 

 リュウジは獣のように叫びながら、再生したドラゴンヘッドでショウカへと殴り掛かる。しかし開いた大口にずらりと並ぶその牙が、ショウカに触れることはなかった。ライの稲妻機動すら上回る速度で翔け抜けたGNソードビットが、ドラゴンヘッドを細切れに解体。ダブルオー・ゼロは蒼い粒子の弧を描いてふわりと飛び上がり、バウンド・ドラッヘを跳び越えて舞うように着地した。

 

「すごく遅いぜ、キミ」

『クソ女ガァァッ!』

 

 リュウジは口汚く吐き捨て、再生した右腕にビームブレードを構えようとするが、ショウカのソードビットはそれよりも速い。蒼い光が舞い踊り、右腕も粉微塵に切り裂かれた。

 

『ウオアアアアッ!』

 

 リュウジは言葉にならない叫び声を上げ、再度再生したドラゴンヘッドで黒龍撃滅砲を構えた。しかし、それも撃てない。赤黒い粒子が収束するよりも速く、またもやドラゴンヘッドはバラバラのプラスチック片と化していた。さらにGNソードビットは蒼い流星となって舞い踊り、バウンド・ドラッヘの両脚をも切り刻んでいた。

 両手両脚を失ったバウンド・ドラッヘは地響きを上げて倒れ込み、崩落したビル群の残骸に頭から突っ込んだ。再生途中の右腕で体を引き起こそうとするが、その右腕をまたもGNソードビットが両断する。ドシャリと瓦礫に倒れ込むバウンド・ドラッヘを、ダブルオー・ゼロは唯腕組みをして宙に浮き、冷徹な蒼い両目(ツインアイ)で見下ろしている。

 

『畜生、クソ女ガァァッ! 遊ンデンノカァァッ、ブッ殺シテヤラァァァァッ!』

「品がないのはキミの勝手だけれど」

 

 獣の咆哮を上げながら、再生途中の手足で飛び掛かるバウンド・ドラッヘ。しかしドラゴンヘッドを振り下ろした先に、すでにダブルオー・ゼロはいなかった。青く尾を曳く、流星の如き高速移動。視認することすら困難な超高速でありながら、ほぼ無音。優雅に、舞うように振り抜いた指先の軌道をなぞって、十二枚のソードビットが弧を描き、翔け抜ける。バウンド・ドラッヘの四肢は輪切りになって崩れ落ち、スカート部も布を裂くように引き裂かれた。

 

「さっきも言った通り、怒っているんだぜ。ボクは」

 

 強い言葉とは裏腹に、バウンド・ドラッヘを見下ろすショウカは徹底して無表情だった。

 しかしその「無」こそ彼女の最大限の怒りの表情なのだと、ライには察しがついていた。

 およそ人の上に立つ者らしからぬ、砕けた態度。自ら進んで道化を演じているかのような、ふざけた態度。ガンプラバトルを前にして、気分の高揚を隠しきれない無邪気な笑み。イマと妙なところで波長の合うような幼さを残す彼女が、氷のような無表情を貫いている。

 〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟――その二つ名の意味を、ライは今、理解した。

 

「圧倒的な力に蹂躙される(・・・)気分、存分に味わうといい」

 

 ショウカがパチンと指を鳴らすと、GNソードビットは優美な弧を描いてダブルオー・ゼロの周囲に集結した。十二本の蒼い刃が魔方陣でも描くかのように円環状に整列し、舞い散る粒子は青銀の煌きを一層強める。まるでドレスのようにダブルオー・ゼロの腰を覆うスカートアーマーが装甲を展開、内部に隠されていた計四基の太陽炉が、蒼いGN粒子の輝きと共に露出した。

 

「全太陽炉、圧縮粒子完全解放――ゼロ・トランザム」

 

 ショウカの言葉と同時、通常とは異なる蒼い圧縮粒子が、ダブルオー・ゼロを包み込んだ。

 

 その瞬間、世界が停止した(・・・・・・・)

 そして次の瞬間、全てが終わっていた(・・・・・・)

 

 バウンド・ドラッヘがいたはずの場所には、蒼く粒子の陽炎が立ち昇る、巨大なクレーターだけがあった。そのクレーターはしかし、高熱に焼き尽くされたものでも、衝撃に抉られたものでもない。

 半径数キロメートルの円形に、街が、大地が、切り刻まれた(・・・・・・)ものだ。数千、数万、数十万――いったい、どれほどの斬撃を積み重ねれば、このような光景が出来上がるというのか。その中心に悠々と浮かぶダブルオー・ゼロはすでにトランザムを解除しており、GNソードビットたちは役目を終えたと言わんばかりに、ダブルオー・ゼロの全身各部へと戻っていく。

 あれほどの猛威を振るったバウンド・ドラッヘの、あまりにも呆気ない最期。爆発も、轟音も、衝撃も、何もない。まるで刻が止まった(・・・・・・)かのような完全なる静寂の中に、ライは呆気にとられたまま、取り残されてしまっていた。

 

「さて、と」

 

 グンと、軽い浮遊感。クァッドウィングは、ダブルオー・ゼロの両腕に抱えあげられていた。

 

「お疲れ様だぜ、転校生君。キミはきっとお姫様抱っこなんて、する側で何度も経験しているのだろうけれど。たまには、されるのも良いものだぜ?」

「…………」

「おやおや、何だい転校生君。そんな鋭い目をしてちゃあ、相棒の美少女エルダイバーちゃんを泣かせちゃうぜ? まあ、ともかく――作戦終了。我が方の勝利だぜ」

 

 ライの無言をどう受け取ったのか、ショウカはクァッドウィングを地面に下ろし、肩を貸して立たせる形をとった。廃墟と化したホンコン・シティ、そのど真ん中に開いた斬撃によるクレーター。しかし、満月の夜空はそんな戦闘の激しさなど意に介さぬかのように晴れ渡っており――その星空をスクリーンにして、〝YOU WIN!!〟の文字が躍っていた。

 峰刃学園ガンプラバトルと、GBN部治安維持部隊GHOSTとの共同作戦は、無事終了。オオグロ・リュウジがヘイロンデカールの力を全開にしてあれだけ派手に暴れたのだから、不正ツール使用の証拠集めも、十分すぎるほどだろう。GHOSTの隊員がB弾を執行するところを直接見ることはないまま、作戦は終わってしまったが……

 

「大黒龍のフォースマスター君は、今頃ロビーでGHOSTに囲まれているだろうぜ。リアルでもヤジマの職員と警察官が、彼の部屋の前で待機していることだろうし……ヘイロンデカール事件は、これにて一件落着、はっはっは。といったところかな」

 

 なるほど、そういう仕組みか。前線にGHOST課員が出ると聞いていたために戦場でカタを付けるのだとばかり思っていたが、証拠さえ固めてしまえば、ロビーでもリアルでも奴を拘束することは容易いということか。

 

「さあ帰ろうぜ、転校生君」

 

 戦いが終わり、ガンプラとフィールドが粒子化し始めていた。ライは無言で頷き、握りっぱなしだった操縦桿から、ゆっくりと手を放した。

 廃墟と化したホンコン・シティが、金色の満月に照らされている。ビル群が根こそぎ崩落したために、今まで闇に沈んでいた歓楽街にも、満月と星明りが降り注いでいた。

 

「……了解」

 

悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟――開始から約一時間。フォース〝大黒龍〟の壊滅を以て、作戦は終了した。あとはライたちダイバーの、与り知らぬところでの話。GBN運営本部やGHOST、そして現実の警察や司法機関の領分だ。ライは固く握り締めた拳を自分の額に押し当て、さらにぎゅっと力を込めた。

 

(強く、ならねば……悪に負けない、強さを……もっと……!)

 

 まだ、足りない。もっと、もっと強い力が必要だ。

 もう二度と、後悔しなくて済むように。今度こそ、負けないように。

 何としてでも、力を手にしなければ……強い力を。もっと、もっと、もっと……!

 

 ――完全に粒子化したライとクァッドウィングは、静かに夜空へと昇って行った。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「……ん? ここは……?」

 

 リュウジが目を覚ますと、そこは見慣れたフォースネストだった。ただ、散らかった酒瓶などは記憶の通りだが、派手な電飾も、部屋の明かりそのものも、完全に沈黙してしまっている。

 

「……あのクソ女にやられて……それから……」

 

 頭が痛い。飲みすぎた次の朝みたいに、ガンガンと痛む。とにかく酒を飲もうとテーブルの酒瓶へと手を伸ばすと、その手に血がついていることに気が付いた。

 

「これは……」

 

 顔が、濡れている……血で。どうやら、鼻血が出ているようだ。ヘイロンデカールを使いすぎるとたまにこうなることはあったが、今回の出血量は、かなり多い。だがしかし、それもどうせ電脳空間内でのこと。現実の体に影響が出るはずもない。

リュウジは考えるのをやめ、とにかく酒を飲もうと瓶を掴んだ――その手を、鋭い白刃が貫いた。

 

「ぎゃああああっ!? な、なんだテメ……あ、あんたらは!」

 

 怒鳴りつけようとした勢いを、リュウジは慌ててひっこめた。

 照明も消えた部屋の隅、暗闇に蟠るような黒いマントの二人組。フードを目深にかぶりその表情は窺えないが、二人とも身長はかなり低く、まず間違いなく子供だとわかる。鏡に映したように同じ外見の二人だが、その手に持った獲物だけは違っていた。

 右側の黒マントは、左右の手に一振りずつ、巨大な斧を持っていた。明らかに、子供の腕力では扱いきれないであろう巨大な斧を――しかも、木々の伐採に使うような斧ではなく、明らかに処刑用とわかる禍々しい装飾の施された鈍鉄色の斬首斧を、微動だにせず構えている。

 左側の黒マントは、細長い白刃を手にしていた。リュウジの右手をテーブルに縫い付ける白刃と同じものを、右手に三本、左手に二本。まるで獣の鉤爪のように、マントの裾から刀身を覗かせ、ぞろりと剣呑な輝きを放っている。

 処刑具を構える、黒マントの双子。風もないのに裾を揺らめかせるその立ち姿は、まるで亡霊――明らかに幼いその体格が、手に持つ処刑具の異様さを一層際立たせていた。

 

「そ、そうか……あんたらのおかげか。バトルが終わってロビーに戻されたら、すぐ捕まっちまうと思ってたからよ……で、でもなんで、刺されなきゃ」

 

 ダンッ。

 分厚いマントが翻り、斬首斧が振り下ろされた。リュウジの右手から、白刃に貫かれた痛みが、消えた。ただし同時に右腕の感覚が、肩口から丸ごと消え失せた。

 

「え……あ……ぎゃああああああああああああああああああああッ!?」

 

 一瞬遅れて、襲い来る激痛。噴き出す疑似血液。出血の演出は噴き出す赤いドットとして処理さていたが、その激痛は本物だった。

 リュウジはソファーから転がり落ち、悲鳴を上げながらのたうち回った。感覚制御が、働いていない。単なるダイバールックに過ぎないこの電脳の身体が受けた痛みが、完全にリュウジにフィードバックされている。リュウジは叫びながら腕の断面を抑えるが、その程度で出血が収まるはずもなく、冗談のような量の鮮血色のドットで、部屋中が赤く汚れていく。

 

「がああああっ、腕がァァッ!? ああああああああああ!!」

『うるさい』『黙れ』

 

 ドンッ、ザスッ。

 双子の斬首斧の方がリュウジの腹を蹴り上げ、無様に転がってきたその背中に、もう一人が白刃を突き立てる。突き立てて、捻じる。毛皮のコートは一瞬にして真っ赤に染まり、豪奢に膨れ上がっていたファーは、べったりと赤く濡れて萎んだ。

 

「ごはっ……な、なんで……裏切った、のかぁぁ……ッ!!」

『裏切りぃ?』『どっちがぁ?』

「うぎゃああああああああッ!!」

 

 さらに振り下ろされる、処刑斧と白刃。分厚く重い斬首斧が、リュウジの残された左腕を断ち落とす。三つ連なった白刃が、リュウジの両足を無残に引き裂き、天井にまで疑似血飛沫が飛ぶ。リュウジはもはや悲鳴を上げることすらできずに、芋虫のように床に転がった。

 

「あ、があ……あひぃ……が、ぎぎ……」

 

 現実であれば、とうに出血は致死量に達している。激痛のあまり、失神していてもおかしくない。しかしここはGBN、電脳空間の仮想現実。どんなに痛くても、ログアウトしない限り意識は続く。どれほど死にたくても、ダイバー自身にヒットポイントは設定されていない――両手を失いログアウトボタンを押せなくなったリュウジはもう、この地獄から逃げられない。

 

『デカールの実験にと、生かしておいたけど』『裏切りは、許さない』

「だ、から……裏切りって、なんの……ことごがっ!?」

 

 重厚な編み上げブーツの爪先が、リュウジの顔面を蹴り上げた。

 

『我らが〝王〟は、許さないよ』『我らの同胞を、傷つける者をね』

「ど、どう、ほう……っ?」

 

 砕けた前歯の間から、ひゅうひゅうと息が漏れる。双子の斬首斧の方が、リュウジの髪の毛を掴んで顔を上げさせた。そこにもう一人が勢いをつけて膝を叩き込み、リュウジの鼻はぐしゃりと音を立ててひしゃげた。

 

『お前が、頭の中を書き換えて』『オモチャにした、少女型NPCの中に』

 

 今まで抑揚なく淡々と告げていた双子の口調に、その一瞬、燃えるような怒りが滲んだ。

 

『『エルダイバーがいた』』

 

 双子の声がピタリと重なり、腫れ上がり血だらけになったリュウジの表情に、戦慄が走った。

 ノダとウダガワとの、フォースネストでの会話。無抵抗のNPCばかりは、もう飽きた。嫌がるのを無理やり、ってのもいいな。そんなNPC、設定が面倒だろ。じゃあ最初から、しゃべれる奴を引っ張ってくりゃあいいじゃあねぇか。ばれたらメンドクセェぞ。頭の中を、ちょっとばかりいじりゃあ、運営も誤魔化せるだろ。いいな、それ。どんだけ泣いても、助けは来ない、ってか。現実だったら即逮捕だけどよ。ゲームの中の女ぐらい、別に、なあ?

 んじゃまあそろそろ、エルダイバーでも……ヤっちまうか。

 

「ち、ちがふ! はれわ、あいつらが!」

『ふぅん、あいつらぁ?』『これのことかなぁ?』

 

 斬首斧をバーカウンターに叩きつけ、派手にぶち壊す。すると、バーカウンターの向こうには、リュウジと同じように手足をズタズタに引き裂かれたダイバーが二人、転がっていた。口の中に割れた酒瓶を叩きこまれ声を上げることさえできないノダとウダガワは、しかしそれでも気絶すらできず、血走った目で呻いていた。

 

「……んっ、な……ッ!?」

 

 言葉を失うリュウジを、黒マントの双子は容赦なく踏みつけ、蹴り上げ、殴りつけた。

 

『あの子は、平和主義だった』『目立つことが嫌いで、NPCに紛れて生きていた』

 

 殴る。蹴る。突き刺す。刺して、捻じる。

 

『影から静かに、ニンゲンを見るのが好きだった』『いつか、現実世界に行ってみたいと夢見ていた』

 

 打つ。斬る。引き裂く。叩き潰す。

 

『そのために、ニンゲンのパートナーを探していた』『見つかった、と言っていた。それが、お前だった』

「ごがっ、ぐげ……ゆ、ゆるひて……くだ、さ……」

『『許さない』』

 

 メキャッ。

 最後まで言わせず、ブーツの爪先を口の中に捻じ込む。直後、子供の脚とは思えない力で振り下ろされた踵が、後頭部に叩きこまれる。

 

『その、死なない身体で』『この、死ねない世界で』

 

 斬首斧と白刃を、十字を描くようにリュウジの首筋に押し当てる。リュウジに馬乗りになった黒マントの双子は、亡霊のような外見とは裏腹に、煮え滾るような怒りを込めて――冷酷に、告げた。

 

『『死を請うほどに、殺してやる』』

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――同時刻、現実世界。都内某アパート。〝大黒龍(ターヘイロン)〟フォースマスター、オオグロ・リュウジの住居前。

 

「隊長、やはり様子がおかしいです」

 

 きっちりと折り目の付いた黒服に身を包んだ男が、部屋のドアに押し当てていた機械を覗き込みながら言った。

 

「対象の在室は確認。すでに強制ログアウトされているはずですが、パソコンの前から動きません。GBN専用ヘッドギア(ヘッドマウントダイバーギア)も、装着したままです」

「……強行突入が必要と判断する。法務部としては、どうか」

 

 隊長と呼ばれた女性は、ドアに張り付いていた隊員の肩を叩いて下がらせ、入れ替わりにドアの前に立った。男物の黒服を一部の隙もなく着こなす、短い銀髪に褐色肌の美女。その美貌に似合わぬ鋭い視線は、まるでナイフのようだ。

 

「判断を支持しますよ、ラミア・ヤマダ隊長閣下様。関係各所への言い訳作りはお任せを」

 

 問いかけられた眼鏡の男性は、肩を竦めながら答え、ドアから距離をとった。この後の展開が、すでに予想できているらしい。銀髪に褐色肌の女性――ラミアは、手慣れた仕草で右手に頑丈な特殊繊維製のオープンフィンガーグローブをつけた。そしてスゥっと細く、しかし深く、力を溜めるように息を吸い――

 

「――GHOST、突入ッ!」

 

 ドッガァッ!!

 言ったその瞬間には、薄っぺらいアパートの木製ドアは粉々に吹き飛んでいた。神速にして豪打、右正拳一発。VRゲームの中でならともかく、現実世界で、しかも素手で、こんな人間離れした真似ができる女性などまずいない。しかしGHOST課員たちにとっては、隊長のこのような芸当はもはや日常茶飯事らしく、黒服の課員たちは特殊部隊さながらの動きで速やかに室内に突入していった。

 ゴミ袋と発泡酒の缶が転がる廊下を二秒足らずで駆け抜け、奥の部屋へ。鍵もかかっていないドアを蹴り開けると、そこにオオグロ・リュウジは胡坐をかいて座っていた。ヘッドギアをつけたままノートパソコンの上に突っ伏して、ピクリとも動かない。

不審に思った課員の一人が、リュウジの肩を軽く揺さぶる。

 

「おい、オオグロ・リュウジだな。我々はGBN運営……本部……から……ッ!?」

 

 ぐらりと、倒れる。仰向けになったその顔色は青白く、そして尋常ではない量の鼻血が流れていた。ヘッドギアに隠れていない、顔の下半分はほぼ鮮血に染まっている。

 

「こ、これはっ!?」

「何だ、どうし……ッ!?」

 

 遅れて入ってきたラミアが、あまりの出来事に固まる課員を押しのけてリュウジに飛びつき、抱きかかえた。脈はある。体温は、やや低いが正常の範囲内。耳を口元に寄せ、呼吸を確認。

 

「う……あ……」

「おい、貴様っ。自分の名前を言え!」

「……ふ、双子が……しに、がみ……が……ああああああああああああああッ!」

 

 リュウジは突然叫び出し、ガクガクと身体を震わせて暴れ出した。ラミアは瞬時に両肩の関節を極めて抑え込み、他の課員も無茶苦茶に振り回される両脚に覆いかぶさった。

 

「おい、落ち着けッ! 出血が多い、これ以上は命にかかわるぞ!」

「ああああ! しにがみ! ゆうれいが、ぼうれいがああああああああ! やめろ、やめてくれええええ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ――」

 

 ラミアは狂ったように暴れるリュウジを抑え込みつつ、怒鳴るようにして課員に指示を飛ばした。救急病院の手配、止まらない鼻血への応急処置、ヤジマ本社への連絡。課員たちが奔走する中でリュウジはひたすらに頭を振り乱し、呪われたように謝罪を繰り返していた。

 

「――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」

(くっ……この病的な言動、ヘッドセットをつけたまま鼻血を流す……これでは、まるで……!)

 

 止まらない、謝罪と鼻血。ラミアはかつて直面した――自分も捕らわれてしまった、あの最悪の事態に近いものを感じ、戦慄していた。

 しかし、そんなわけがない。あれ(・・)はもうガンプラバトルから、徹底的に排除されたはずだ。あの〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の教訓を活かし、GBNは世界で最も安全な電脳遊戯に生まれ変わったはずだ。それでも消えない悪を討つため、自分たちGHOSTは、GBN運営本部は、最善を尽くしているはずだ。

 

「あああああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! あやまる、なんかいでもあやまるからぁぁぁぁ! もうゆるしてくれぇぇぇぇっ!」

 

 痙攣するように身を反り返らせたリュウジの頭から、ヘッドセットが外れた。その内側に表示された画面には、GBNからの強制ログアウトを知らせるメッセージ以外には何も表示されていなかった。

 ただ真っ黒な画面が、そこにはあるのみ――その画面の端が、僅かにブレる。まるで侵食されるかのようなその画像の乱れは、見ようによっては、黒い粒子(・・・・)が画面の端を通り過ぎたかのようでもあった。だが、暴れるリュウジを抑え込むのに必死になっていたラミアも、その他のGHOST課員も。誰一人として、それに気づく者はいなかった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 たっだいまー。帰ったぜー。

 いやぁ、疲れちまったぜ。GHOSTとの合同作戦ってのも、なかなか面白かったのだけれど……フォース〝大黒龍〟か。あんな奴らに、部員を何人も撃たれるとはなあ。このふがいなさには、さすがのボクも反省するしかないぜ、まったく。

 ……あれ? おーい、アルルー? ルルカー? いつもならお迎えに来てくれるのに……ボクがフォースネストに、帰ってきたよー?

 ……。

 …………。

 おいおい、まったく。そんなにじらされると、こっちから探しに行っちゃうぜ? そして見つけたら、我慢できずにほおずりとかしちゃうぜ?

 

「う~ん……むにゃむにゃ……」

「すぅ……ぴぃ……すぅ……」

 

 はっけーん♪ おいおいなんだよこの可愛い生き物は。ボクのアルルとボクのルルカが、パジャマ姿で一つのお布団でお昼寝中だなんていったいなんのご褒美だよ。眼福、眼福ぅ♪

 いやぁ、まったくもって素晴らしいぜ。キミたちがエルダイバーじゃあなかったら、きっとボクは現実世界でもロリコンでブラコンでシスコンのお姉ちゃんとして名を馳せてしまっていたぜ。うんもう確実に。

 

「むにゃ……だめ、ゆるさなぁい……」

「おしおきぃ……だからぁ……すぴぃ……」

 

 ふふ、何の夢をみているんだろうなぁ。なんて無邪気な寝顔だよ、危うく理性が崩壊するところだぜ。んじゃまあ、ボクもダイバールックをお休みパジャマにして、っと……おっやすみぃ♪ アルル、ルルカ♪

 

「くふふ……じゃあ、ひゃくまんかいで……♪」

「ゆるして、あげるよ……きゃはは……♪」




 以上、第四話でしたー。
 今回は旧キャラの登場も複数あり、今後の展開につながる伏線とかその他諸々をぶち込んでみました。今作は、前作よりも計画的に書いているつもりですが……さあ、いきあたりばったりなこの私がきちんと完結させられるのでしょうか(笑)
 感想・批評等お待ちしています。お気軽にどうぞ!


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Gunpla.04『エイハブストライク』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 長引いていた第四話もようやく終了し、ガンプラ紹介のお時間でございます。

 今回、作例をご紹介しますのは、優しいだけのヘタレからランクアップしシキナミさんと古典的ラブコメを繰り広げているブルーブレイヴのリーダー、サツキ・コウタ先輩の「エイハブストライク」です。

 真面目なコウタが使う機体ということで、ストライカーパックにより多少の機能特化は可能ですが基本的にはどんな状況にも対応しうる万能型、というコンセプトです。機能特化型なのか万能型なのかどっちつかずの中途半端というのもコウタのキャラクター性に合わせてみた部分だったりします。真面目なんだけど中途半端。

計画段階では、コウタはもっとうじうじした感じだったのですが、動き始めると結構男らしい働きもしてくれていますね。追加のストライカーパックはもっと男らしくしてやろうかしらと考え中です。

 兎も角。素の「エイハブストライク」と、ストライカーパックを装備した「シュバルベストライク」です。どうぞご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:エイハブストライクガンダム

武装  :イーゲルシュテルン ×2

     アーマーシュナイダー ×2

     アサルトレールガン ×1

特殊装備:換装システム

     ナノラミネート装甲

     エイハブリアクター

必殺技 :

 

①正面&背面

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 ストライクガンダムをベースにエイハブリアクターを載せ、鉄血系のガンプラをベースにしたストライカーパックを装備する、というのがこの機体のそもそもの出発点です。

 頭と手足はストライク、胴体はグシオンリベイクフルシティ、腰とバックパックはバルバトスルプスです。非常にできの良いキットをミキシングしていますので、大きく手を加えなくてもいい感じにまとまりました。切って貼っての改造をしたのは、肩の接続部ぐらいでしょうか。ガンダムフレームのBJ部を切り取り、ストライクの肩装甲に直接接着しています。

 カラーリングはいつも通りの缶スプレーです。青い部分はグレーのサフを吹いてインディブルー、金色部分は黒立ち上げのゴールドです。白い部分は無塗装で行けるかと思いきや、鉄血系のキットとストライクの白が、けっこう色味が違うことを発見。鉄血系キットの白部分をホワイトで塗り直しています。仕上げはツヤ消しです。

カラーリング関係で言うと、足首部分をワンポイントに青く塗ったのが自分的にはナイス判断だったと思っています。白くのっぺりしがちなガンダムタイプの脚部なのですが、うまくまとまったと思います。

 背中のライフルは、鉄血の武器セットから持ってきました。エイハブリアクターを搭載している以上、ビーム兵器はあんまり気軽に持たせたくないなあ、と思いまして、レールガンという設定です。本編劇中ではまだ使っていませんね。コウタが仲間になってからはずっとシュバルベストライカー装備だし、その前は死にかけの状態で登場だったし。仕方ないですね(笑)

 

②アクションポーズ・アーマーシュナイダー

 

【挿絵表示】

 

 武器を持って一枚。腰部はバルバトスルプスなのですが、サイドアーマーはストライクのものを使っていますので、その中にはアーマーシュナイダーが格納されています。

 アーマーシュナイダーは鉄血系の設定ともマッチしますし、パックなしのストライクと言えばコレ! って感じもしますよね。

 さて、では次はストライカーパックの紹介です。

 

 

③シュバルベストライカーパック・前&後

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 浮かせて撮るべきだったのでしょうが、なんかバランスが取れなくて……落として壊れるのも嫌だったので、ベタ置きで撮っちゃいました。あと、塗装中にも事故が続発して……一部、あとから筆塗りした部分の色味が変わってしまうという……(泣)

 それは兎も角、エイハブストライク用のストライカーパックは、全て単体で飛行メカ形態となるという設定です。ブルーブレイヴは、ライたちが加入するまでファイターはコウタ一人というチームでした。そのため、支援メカとして単体でも戦えるストライカーパックを作った、というわけです。パックはコウタが操作するだけでなく、自動操縦や、母艦からシキナミさんが操作をすることも可能です。

 シュバルベストライカーの名からもわかる通り、このパックのベースとなった鉄血系の機体はシュバルベグレイズです。左右のウィングと機首のランサー、上部の二本のリニアライフル以外は、ほぼシュバルベグレイズのパーツで作られています。

 それでは……レッツ・換装!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:シュバルベストライクガンダム

武装  :イーゲルシュテルン ×2

     アーマーシュナイダー ×2

     アサルトレールガン ×1

     モビーディックランサー ×1

      ・ナノラミネート大型突撃槍

      ・ヘビィ・マシンガン

      ・ABCヴァンプレイト

     シザーズシールド ×1

     リニアライフル ×2

特殊装備:換装システム

     ナノラミネート装甲

     エイハブリアクター

必殺技 :

 

④正面&背面

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 正面からではわかりにくいかもしれませんが、このパック、けっこうデカいです。かなりきつめのS字立ちでなければ自立できませんでした。まあ、SEED系の背負いものなんて重力下で自立できねーだろそれみたいなのばっかりだかな気にしない気にしない!(笑)

 右手の大型槍はモビーディックランサー、鉄血の世界間でも十分に通用する近接格闘兵器です。AGE-2ダークハウンドのランスほぼそのままです。

左腕に装備したシザーズシールドは、小型シールドとしても使えるほか、シザーズを射出可能。本家シュバルベグレイズのシザーズは設定上、捕縛用の装備で攻撃力は持たないとなっていましたが、本機のシザーズはバリバリに挟み切れます。そう見えるように刃の部分を削って尖らせました。

 後方に突き出た二本の砲身はリニアライフルです。速射性と貫通力を重視したライフルですが、距離や角度によってはナノラミネート装甲にも十分なダメージを与えられる、という設定。そして本編ではやっぱり出番なしですが、レールガンをパック下部に懸架しておくこともできます。

 

⑤アクションポーズ・モビーディックランサー

 

【挿絵表示】

 

 最後にアクションポーズ。

 ストライクがベースの機体なので、SEEDメインタイトルの例のあのポーズ風に。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

……以上、ガンプラ作例紹介第四弾「エイハブストライク」でした。

 ストライクがベースになると主人公感が強くなるなあ、と思いつつ制作しましたが、どうでしたでしょうか。コウタはまあ、シキナミさんとのラブコメ的な意味では主人公的なポジションと言えなくもないですが。

 次のガンプラ紹介は、できればガトキャノンにしたいなあ、と思っています。本体はほぼ完成しているのですが、なにせあの機体は追加装備の類が山のようにありますので……

 兎も角。今後も執筆、ガンプラ制作ともに頑張りますのでよろしくお願いします。感想・批評もお待ちしています!

 



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Character.01『イマ&ショウカ』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 二次元界隈の技術の進歩はすさまじいもので、絵の描けない私でも気軽に自分の思い描くキャラクターを描く……いえ、作成できる世の中になりました。

 みなさんご存知「カスタムキャスト」でございます。

 公式サイトを確認したところ、このアプリで作成したキャラクターはSNSをはじめとする各種サービスで公開してよいということだったので、じゃあやっちゃおうかと思いまして。拙作のキャラクターを作成してみました。

 と、いうわけで。初挑戦となるキャラクター紹介、その第一弾は……

 やかまし型仔犬系メインヒロイン、アホの子にして実は物語のキーパーソン、「ヒムロ・イマ」!

 控えめに言って最強、謙遜したところで無敗、当代最強の女子高生ダイバーなのになんかいろいろと残念な美人、「ヒビキ・ショウカ」です!

 どうぞご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

名前:ヒムロ・イマ

性別:女性型

属性:エルダイバー(サラ・プロトコル適用済)

年齢:約3年(稼働時間概算)/12才(設定年齢)

身長:12.5㎝(現実世界用義体)/135㎝(ダイバールック設定)

 

①おはようございます、マスター♪

 

【挿絵表示】

 

②イマにおまかせなのです♪

 

【挿絵表示】

 

 本作のメインヒロインその①、わんこ系エルダイバー『ヒムロ・イマ』です。未来に希望を託す完全平面AAAカップ。

 キャラクターのイメージとしては、何を隠そう作者の直球ド真ん中です。(笑)いやだってこのカスタムキャスト、まごうことなき神アプリなのですが、いじればいじるほど性癖が浮き彫りになっていくという、ね。(笑)とまあ、冗談はこのぐらいで。

 キャラ作成するにあたって、多少あざとすぎるほどに、誰が見ても「かわいい」と思えるキャラを目指しました。金髪ツインテールで褐色肌の元気っ娘。瞳やアクセサリー類の色は、イマのターミガンと合わせて緑系に統一してみました。金髪や褐色肌によく映えて、自分的にもお気に入りの配色です。膝上まであるブーツを履いていますが、その下にちゃんとくつしたも設定しています。黒のスクールソックスです。三つ折り等も捨てがたかったのですが、ブーツにそれは、さすがに、ね? しかし二次元美少女において、くつした、だいじ、ぜったい。くつしたによって美少女の魅力は倍増も半減もするのです。ちゃんと考えておくことが重要。いつどこで脱ぐかもわからないからね。でも褐色っ娘は素足も良いものだよね。(真顔)

 身長を低くするのには限界があるので、頭の縦横比を意図的に変えて、体型的に未成熟に見えるようにしています。単体で写っている画像なのであまり気になりませんが、実は結構な頭でっかちになっちゃってます。しかしまあ、かわいいからいいよね!(自分の所の子が一番かわいい現象)

 現在の物語の中ではひたすらにマスターについていく忠犬わんこ系のメインヒロインとなっているイマですが、今後、ストーリーの中核を担う存在となっていきます。ライの過去や暗躍する仮面の老人たち、エルダイバーの“王”とも関わりのある需要なポジションとなっていくキャラですので、今後の展開にもご期待ください。

 また機会があれば、第五話で登場した冬服バージョンなども作ってみようかと思います。球体関節人形風のボディとか、ガンプラ的な関節構造のボディとか、実装されませんかねぇ……出たら課金であっても手を出しちゃうかもしれません。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

名前:ヒビキ・ショウカ

性別:女

属性:峰刃学園ガンプラバトル部・部長 第零位(ミネバ・オブ・ゼロ)常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)

年齢:17才

身長:159㎝

 

①これがボクなりのかっこいいポーズだぜ?

 

【挿絵表示】

 

②天地〇闘の構え……フフフ、怖いかい……?

 

【挿絵表示】

 

 本作のメインヒロインその②、常勝無敗の残念美人『ヒビキ・ショウカ』です。そこだけは常勝無敗とはいかなかったBカップ。

 作者の中では彼女はこーゆーポーズを平気で人前でやっちゃう系の残念美人だと思っているのですが、何せまだ本編中での登場シーンが少ないので、十分に描けていないかもしれません。

 キャラ作成にあたっては、とにかく黒髪の綺麗な美人さん、というイメージで取り組みました。黙っていれば和風美人な外見と、「だぜ」口調のギャップ、敵には一切容赦しない戦闘スタイルのギャップなどを、これから描いていければなあ、と思っております。実は作者の別のガンダム二次創作のボツ案の女性パイロットからのイメージ流用です……って、そんなこと私以外にこの世界の誰一人として知らないから言ってもどうしようもないのですが(笑)

 彼女が来ている黒系のブレザーとプリーツスカートは、峰刃学園の制服という設定です。実はもうアンナのモデルも完成しているのですが、アンナも同じ服を着ています。近いうちにまた公開できればなあ、と計画中です。ソックスは普通の黒のスクールソックスですが、峰刃学園は私立校なのでそのあたりの校則は緩く、人によってニーハイだったりニーソだったり三つ折りだったり千差万別です。タイツの着用も許可されています。良い学校ですね。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ……と、いうわけで。キャラ紹介第一弾、『ヒムロ・イマ』と『ヒビキ・ショウカ』でしたー。一応、利用規約的なヤツを読んで問題ないだろうという判断なのですが、もし私がちゃんと読めていなくて「カスタムキャスト」の画像を利用するのがマズイとなったら、キャラ紹介は消さざるを得なくなるかもしれません。ご了承ください。

 続けられるようでしたら、今後も女性キャラを中心にモデルは作っていくつもりです。感想・批評等お待ちしております。どうぞよろしくお願いします。



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Episode.05-A『チカラ ノ イミ ヲ ①』

 どうもこんばんは。亀川です。
 ブルーブレイヴ、第五話突入でございます。五話と言いつつ、総話数的にはもう20話を超えているんですね。自分でもびっくりです。
 それでは第五話Aパート、どうぞご覧ください。


 その空間は、宇宙というよりは夜空に近かった。

 無限に広がる濃紺をバックに、遠く近く瞬く無数の星屑。だがどの方向に目を向けても、地上らしきものはない。三六〇度全天周に夜空だけが広がっているという、異様な空間。

 だが、異様なのは景色だけではない。

 何の支えもなくただ宙に浮かんでいる四枚の仮面もまた、異様であった。

 

『フォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟。切り捨てるには、惜しい犬でしたね』

 

 ミスター・ブシドーの仮面から、声が響く。機械的に加工され、個性を抹消された声色から、性別も年齢も推し量ることはできない。ただ、苛立ちだけは口調から滲み出ていた。

 

『左様。データはまだ計画に十分とは言えぬ。もう少し搾り取りたかったところじゃな』

 

 カロッゾ・ロナの鉄仮面が続けた。

 

『例の双子の投入、判断が拙速ではなかったかのう?』

『エルダイバーどもは同族意識が強いからな』

 

 鉄仮面の投げかけた言葉に、ラウ・ル・クルーゼの仮面が応える。

 

『あの犬は、我らに知られていないつもりで――おっと、違うな。我らの知らない(・・・・・・・)ところで、エルダイバーに手を出していた。その時点で、奴らの〝王〟はご立腹だ。切り捨てなければ、奴らはこちらに牙を剥く』

『……必要な損失と、割り切るしかないようですね。ただ皆様方、例のデカール関連の損失をカバーするのは我が社であるということはお忘れなく』

『ふふ、金の心配ならいらぬよ。新参の若造はそろばんが小さいのう』

『……ご忠告、痛み入ります』

『ククク……揉めるなよ。新人君も、ご老体も』

『貴様もけっこうな歳じゃろうが。ふふふ……』

 

 揶揄するようなクルーゼの仮面に、ブシドーの仮面は黙り込み、鉄仮面は忍び笑いを漏らす。

 場が停滞したのを見定めてか、最後の一枚――今まで口を閉ざしていたシャア・アズナブルの仮面が、口を開いた。

 

『ヤジマ本社は、ヘイロンデカールの存在を犬一匹の仕業とは思っていない。だが、どれほど手を伸ばそうと、奴から我らにたどり着くことはない。そのためのエルダイバーどもだ』

『当方のセキュリティも万全であるとは、主張させていただきます』

『感謝しよう。犬の一、二匹が処分されたとて、我らの計画に支障はない。犬を切り捨てたことで〝王〟への義理は果たした……我らと彼らの協力関係に、変わりはない。計画に大きな変更はない』

 

 シャアの仮面が言葉を切ると、他の仮面たちも、何も言うべきことはないというように押し黙る。この〝会合〟において、沈黙は肯定を意味する。仮面の向こうで何を思い、考え、どんな謀略が巡っていたとしても――その後も数秒の沈黙が続いたことで、今次〝会合〟の終了が決定した。

 

『それでは、失礼させていただく――幻想に終焉を。現世に利益を』

『まったく、仮想空間は疲れるわい――幻想に終焉を。現世に利益を』

『ククク――幻想に終焉を。現世に利益を』

 

 三枚の仮面が夜空に呑まれるように消え、〝会合〟の場にはシャアの仮面一枚だけが残される。ただ一人残ったシャアの仮面は、しばらく何も言わずに夜空の中に佇み――そして、一言。呟くように言い残し、空間から消え去った。

 

『現世に利益を……幻想に、終焉を……!』

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 峰刃学園ガンプラバトル部エレメント・ウォー対象GBNミッション〝止まるんじゃねぇぞ〟。

 鉄血のオルフェンズ終盤をモデルにした、PvEミッションである。作戦目的は、旧CGS基地から脱出する鉄華団メンバーを、脱出用地下トンネルが開通するまでの約四〇分間、無限に出現し続けるギャラルホルン部隊から守ること。

 このミッションは、ダイバーたちの間では複数の意味で有名である。母艦の出撃が可能であるにもかかわらず、ミッション開始時点で母艦は駐機場で大破着底、補給拠点としてしか使えないという謎仕様。敵部隊の増援は無限、かつ本来は愚策であるはずの戦力の逐次的投入が有効な戦術となるレベルの物量で絶え間なく押してくるため、ミッション途中でトイレにも行けないという鬼畜レベルデザイン。終盤で追加されるボスキャラがなぜかレギンレイズジュリアではなく、グレイズアイン(しかも異常に硬い)であるという原作設定軽視。

 調整ミスを疑わざるを得ないようなミッションにもかかわらず、峰刃学園ガンプラバトル部でも中堅以上の実力派エレメントは、週に一度しか出現しないこのミッションをよく受注している。クリア報酬以外に、敵機撃破ごとにエレメントポイントが加算されるというボーナスが設定されているため、〝稼ぎ場〟として人気のミッションなのだ。

 

『ブルーバードよりエレメント各員へ。脱出トンネル開通まで、あと三六〇秒です』

「な、長かったー! やっとゴールが見えてきたのですよー!」

 

 ミッション開始から三〇分以上、トリガーを引き続けるのはさすがに疲れる。イマは叫びながら、もう何度補給し直したからわからない脚部ミサイルランチャーの残弾を全弾発射した。

 小型の高機動ミサイルが鋭い弧を描きながら敵集団に突っ込み、何重にも爆発の華を咲かせる。丁寧に弾頭部分の塗分けをした……正確には、ライにしてもらったミサイルはGBNのシステム上でも高く評価されており、その破壊力は、大群で迫りくる鉄血系量産機のナノラミネート装甲を吹き飛ばすのに十分だった。

 しかし、敵の数が多い。フレームを剥き出しにして、あるいはフレームごと吹き飛ばされて倒れる仲間を踏み分けて、鉄血系量産機の大群は途切れることなく押し寄せてくる。

 

「あわわ……こ、これだから無限沸き系のミッションは嫌いなのですよーっ! ナノラミ持ちはビーム耐性も高いですし! むきーっ!」

「落ち着いて、イマちゃん。シキナミさん、予備弾薬を!」

『了解、補給コンテナを射出します。補給はこれで打ち止めです、残り三三〇秒、持たせてください』

 

 だだっ広い駐機場に着底しているブルーバードのカタパルトから、ほぼモビルスーツほどもある巨大な砲弾型のコンテナが撃ち出され、槍投げのようにターミガンのすぐ近くの地面に突き刺さった。コンテナ側面がガパリと開き、数本のサブアームがにょきにょきと生えてくる。コンテナの横に片膝立ちで座り込んだターミガンのまわりでサブアームが動き回り、機体の耐久力回復と粒子・弾薬の補給作業が開始される。

 

『ターミガン、補給作業完了まで三四秒です』

「カバーをお願いします、こーた先輩っ!」

「了解だよ、イマちゃん。このフルシティストライカーなら……っ!」

 

 身動きの取れないターミガンの前に立ちはだかる、コウタのエイハブストライク。しかしその装備は、いつものシュバルベストライカーではなかった。

 重厚な砂色の装甲。角ばった分厚いシールド。大型のスラスターとプロペラントタンクを備えたバインダーから伸びる、頑強なもう一対の腕。ストライク本体と合わせて計四本の腕に構えるのは、重量級の四角い銃身を備えた、四丁の大口径ロングバレルライフル。

 エイハブストライクの万能型重装備、フルシティストライカーパック。四つの巨大な銃口が、押し寄せるギャラルホルンに向けられた。

 

「どんな数が相手だって……守り抜いてみせる!」

 

 ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ!

 その一発ごとに、数機のグレイズがまとめて吹き飛ぶ。細身のゲイレールなどは、手足がバラバラになって弾け飛ぶ。原作よりさらに大口径化されたロングバレルライフルの破壊力は、NPCガンプラのナノラミネート装甲程度なら、何の問題もなく撃ち抜いてみせた。

 

『右前方、敵機接近。グレイズです』

「えぇいっ!」

 

 コウタは両手のライフルは撃ち続けながら、サブアームのライフルをバックパックに懸架、腰の大型シールドを取り外してサブアームに構えさせた。振り下ろされるグレイズのアックスをシールドで受け、押し返し、よろけたところに追撃の盾打撃(シールドバッシュ)を叩きこむ。

 

『ターミガンに敵機接近。レギンレイズです』

「させない!」

 

 頭部装甲がひしゃげ、内部のカメラアイを露出させながら倒れるグレイズの背中を踏みつけると同時に、ターミガンに接近していたレギンレイズに右手のライフルを撃ちこみ、撃破。さらに基地施設に迫る敵部隊を射撃で牽制しつつ、大型シールドを変形。展開したグリップをサブアームでがっちりと掴み、完成した大型シザーズをグレイズへと振り下ろした。

 左右の手ではライフルを撃ちまくりながら、サブアームでシザーズを閉じていく。分厚いニッパー型の鋏がグレイズの胸部を挟み込み、ナノラミネート装甲を圧壊させフレームをギリギリと締め上げていく。

 

「これで……トドメだ!」

 

 ギリギリギリギリ……ジャキィィンッ!

 体を真っ二つにされたグレイズは爆発せずに活動停止し、プラフスキー粒子の欠片となって霧散した。

 

「そしてここでイマのほきゅーもかんりょーなのです! 補給ありがとうございます、しおみん先輩っ♪ 護衛ありがとうございますっ、こーた先輩っ♪ にひひっ♪」

 

 弾薬と粒子を全回復したターミガンが、クァッドバスターライフルを振りかざして弾幕を展開。再び四丁ライフルに持ち直したフルシティストライクの弾幕と合わせて、猛烈な勢いで敵部隊を撃破していく。無限沸きするギャラルホルン部隊だが、二機の射程に入る端から撃ち落とされ、基地施設に侵入することもできない。

 コウタはほっと溜息を一つ、そしてまた表情を引き締め、レティクルを睨みながらシオミに言った。

 

「シキナミさん、こっちは何とかなりそうだ。ヒムロ君とガトウさんは?」

『基地背面からの敵部隊と交戦中です――クァッドウィング、敵エース級NPCと接触。グレイズアインです!』

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 旧CGS基地施設内、数多くある格納庫の一つ。その屋上にあらかじめ射出しておいた複数の補給コンテナを並べ、遮蔽物とした簡易陣地。アンナはコンテナの一つを銃座代わりにして両手のガトリング砲を構え、グレイズアインと格闘戦を演じるライに、他の敵機を近づけないことに精一杯になっていた。

 

「い、いくらライ先輩でも無茶ですっ、そんな敵のど真ん中でなんて……っ」

 

 十数機ものグレイズリッターを従え、通常のモビルスーツよりも二回りほども長い手足を振り回すグレイズアイン。ドリルパンチやスクリューキック、パイルバンカーといった凶悪な格闘兵器の数々が、仲間のグレイズリッターをも巻き込むような勢いで次々と繰り出される。

 襲い来る攻撃の僅かな隙間に、ライはかなり強引な稲妻機動でクァッドウィングを捻じ込み、紙一重の回避でグレイズアインへと肉薄する。

 

「あっ、危ないですよっ」

 

 ドガララララララララララララ!!

 クァッドウィングの背後に迫ったグレイズリッターを、ガトキャノンの弾幕が蜂の巣にする。

 

「……助かる」

「い、いやライ先輩っ。助かるとかじゃなくて、危ないですよぅ!」

『クァッドウィングの装甲では、グレイズアインの攻撃を防ぎきれません。当たれば終わりです』

 

 シオミも冷静に指摘するが、ライは二人の忠告もまるで耳に入らない様子で、バスターマグナムをグレイズアインへと突き付けた。だがトリガーを引く直前に、グレイズアインは阿頼耶識システム特有の生物的な挙動で大きく仰け反り、スクリューキックを振り上げる。

 

「くっ……!」

 

 ライは眉間にしわを寄せながら、回避・後退。グレイズアインとの距離が空いた瞬間に、その空間に何機ものグレイズリッターが飛び込んでくる。原作同様、ただのグレイズよりは性能の良い機体のようだが、ライにとっては物の数ではない。無限に増援が現れるのは厄介だが、アンナの分厚い弾幕が十分に抑えになっている。

 

(……だが、あいつ(・・・)なら)

 

 四枚羽根スラスターを全開にした跳び蹴りでグレイズリッターを地面に叩き落とし、ソードを突き出してきたもう一機にバスターマグナムを突き付け、零距離射撃。背後から飛び掛かってきた機体にもバスターマグナムを撃ち込み、再度、グレイズアインに突撃。ビームセイバーを展開して斬りかかるが、グレイズアインは大型アックスを両手に構え、斬り返してきた。激しく火花を散らして二度、三度とぶつかり合うが、圧倒的な重量差に押し返され、ライはまたしても距離を取らざるを得なくなる。

 

(……ヒビキ・ショウカなら、この程度の相手に……手間取りはしない……っ!)

 

 ライの脳裏に、流麗な、長い黒髪が翻る。〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟ヒビキ・ショウカ。そのガンプラ人生でただの一度の敗北も知らない、当代最強の女子高生ダイバー。

 

『……結構本気で怒っているぜ、今のボクは』

 

 舞い踊るGNソードビット。絵画のような優美さで宙を舞うダブルオー・ゼロ。細切れにされるハイパー・バウンド・ドラッヘ。そして、世界すら停止させる粒子の輝き、ゼロ・トランザム――圧巻。その一言であった。

 

(……力だ。彼女のような力があれば……俺は、もっと……もっと、ちゃんと、守れたはずなんだ。あの時だって……ッ!)

「ライ先輩っ、前!」

『ヒムロさん、回避を!』

「……ッ!?」

 

 目の前に迫る、分厚い斧刃。咄嗟に掲げたビームセイバーごと、左腕を持っていかれてしまう。その衝撃でクァッドウィングは制御を失い、頭から墜落。コクピットはガクガクと揺さぶられ、モニターの映像が激しく明滅する。

 

「ライせんぱぁぁぁぁいっ!」

 

 アンナの叫び声と共に、ガトリングの銃声が響き渡る。グレイズリッターは次々とナノラミネート装甲を撃ち抜かれ、倒れていく。しかし、機銃弾程度ではグレイズアインには通用しない。一点を集中的に撃ち続ければ機銃弾でもナノラミネート装甲は貫けるが、弾を散らして弾幕を張るのがそもそもの用途であるガトリング砲では、それも不可能だ。

 

(……右手は生きている、ならばっ!)

 

 グレイズアインは無機質な金色の単眼でクァッドウィングを見下ろし、両腕の大型アックスを高く掲げた。あれが当たれば、どんなモビルスーツも無事では済まない。ライは唯でさえ鋭い鷹の目をより一層鋭く引き締め、右手を大きく前に突き出した。

 

「ブライクニルッ! フィン……」

《――MISSION CLEAR!!》

 

 突如、鳴り響いた機械的な女声のアナウンス。グレイズアインは大型アックスを振り上げたまま粒子の欠片となって消えていき、ライの視界の真ん中に、戦闘結果報告(リザルト)画面が表示される。

 作戦時間終了、ミッションは成功。鉄華団メンバーは、無事に地下トンネルからクリュセ自治区へと脱出した――

 

『冷汗をかきましたよ、ヒムロさん……ともあれ、ミッション終了です。お疲れさまでした』

「えっ? あ、そうかぁ。時間制のミッションでしたね、今回は……」

 

 まるで風船の空気が抜けるように、アンナの肩から力が抜け、張りつめていた表情がふぅーっと緩んでいく。その様子を通信ウィンドウ越しに見ながら、ライは操縦桿を握りしめた手を、離せずにいた。

 

「…………」

 

 結局ライは、機体が粒子化して強制的に転送されるまで、ただの一言も言葉を発さず、コクピットで佇んでいたのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 峰刃学園ガンプラバトル部と〝GHOST〟との共同作戦――〝悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟から、一週間。悪質ダイバーの巣窟を壊滅させた大規模作戦の顛末はGBN内でも大きな話題となり、ただでさえ当代最強の女子高生ヒビキ・ショウカが率いる部活動フォースとして有名だった峰刃学園の名は、GBN全土に響き渡っていた。

 

「ねえねえ。あのヒトって、四枚羽根のガンダムの……」

「あ、ホントだ。どうしよう、声かけちゃおっか……」

 

 お揃いのミーア・キャンベルのライブ衣装に身を包んだ女性ダイバーの二人組が、ライの方を見て小声できゃいきゃい呟き合っていた。ライは何の気なしにその二人の方を見やったが、その瞬間、ミーア・キャンベル風の二人は「ひっ」「ごめんなさいっ」と引き攣った表情で頭を下げて立ち去ってしまった。

 

「……?」

「にひひーっ♪ またやっちゃいましたね、マ・ス・ター♪」

 

 よくわかっていないライの前に、紙製のカップに入ったコーヒーが差し出された。なぜかやたらと上機嫌な、イマの笑顔付きで。

 

「マスターの鋭い視線に射抜かれる幸せを理解できないとは、可哀そうなガールズなのです。マスターの不機嫌な悪人面を許容できる女性は、GBN広しといえどもイマぐらいなのですからねっ♪ にひひひひ♪」

「…………」

 

 ライは仔犬のようにすり寄ってくるイマを好きにさせたまま、湯気の立つコーヒーを受け取り、口をつけた。

 鉄血のオルフェンズより、テイワズの拠点コロニー〝歳星〟。その商業エリアの目抜き通りにある花壇に、ライは腰かけていた。

 コロニー内の設定時間は午後八時、季節は冬。まだ春の陽気の残る現実世界とは違い、吐く息は白く曇る。道を行くダイバーやNPCたちも、冬の装いだ。現実世界の時間はまだ夕方ごろだろうが、コロニーであることを忘れそうなほどに広い〝歳星〟の夜景はもう、色とりどりの看板やネオンに彩られていた。

 

「……イマ、先輩たちは?」

「お買い物がまだ終わらないそうです。まだもう少し、イマとデートできますよっ、マスター♪」

 

 イマは「にひひ」と頬を緩め、ライの腕に自分の腕を絡めてくる。冬仕様のダイバールックに着替えたイマは、全体的にもこもことして、仔犬は仔犬でも小型の室内犬のような印象だ。明るい褐色の肌に、白いファーがよく似合う。透き通った金色のツインテールが赤い毛糸の帽子から伸びるさまも、なかなか絵になっている。

 周りを見れば、スキンやアクセサリーなどを扱う店の多いこのエリアには、女性ダイバーの姿が多く、男女で連れ立って歩いているダイバーも散見される。その姿に触発されてのイマの「デート」発言なのだろう。ライは一人で納得し、もう一口、コーヒーを飲んだ。

 GBNミッション〝止まるんじゃねぇぞ〟の終了後、ライたちブルーブレイヴは休憩のためこの〝歳星〟の商業エリアへと来ていた。

 ミッションは成功、クリア報酬および撃破ボーナスとしてエレメントポイントを獲得。〝悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟での特別ボーナスやその後の一週間での獲得ポイントと合わせると、ブルーブレイヴの総所有ポイントは六〇〇〇EPに達し、エレメント評価値は一〇〇〇の大台に乗った。

 チームとしては、悪くない流れだ。特に今まであまり戦績の振るわなかったコウタとシオミは感慨もひとしおらしく、記念とばかりに新しいダイバールックやアクセサリーを買いに行っている。

 アンナもコウタに買い物に誘われ、シオミの方をちらちらと見ながら何度も断ろうとして断り切れず、なぜか急に不機嫌になったシオミに何度も何度も謝りながらついていった。イマはなぜか背筋を伸ばして敬礼などして、アンナを見送っていた。コウタは当然、ライとイマにも一緒に行こうと声をかけていたのだが、ライは言葉少なに断っていた。

 

(そんな気分には、なれないな……)

 

 ――力が、欲しい。悪を討つ力が。何物にも負けない、強い力が欲しい。

 そう思うほど、思うようにクァッドウィングが動かせない。先のグレイズアインとの戦闘も、反省点だらけだ。

 もっと積極的に、アンナと連携をとっていればよかった。戦闘中に、目の前の敵から注意を逸らすなどあり得ない。ブライクニルフィンガーを、もっと早い段階で使っていれば。

 

「ま、マスター……? お顔が、怖いですよ……?」

「……ん、ああ。すまん」

 

 心配そうに潤んだ上目遣いで、イマが下からライの顔を覗き込んでいた。ライは冷めかけたコーヒーを一息に飲み干し、少し離れた屑籠に向けて投げ込んだ。しかし、

 

「あっ、もー、マスターってばぁ。外れちゃいましたよ?」

「…………」

 

 上手くいかないときは、何をやっても上手くいかないらしい。

ゴミは放っておいても不要データとして一定時間で削除されるだけだが、道にゴミを投げ捨てるようなマナー違反は、たとえゲームの中でもしたくはない。ライは腕に絡みついてくるイマを適当にいなしながら立ち上がった。

 

「……本当に真面目だな、おまえは」

 

 だがライよりも早く、黒いコートに身を包んだ大柄な男性ダイバーがカップを拾い、屑籠にポンと放り込んだ。男は顔を隠すように巻き付けたマフラーをほどきつつ、軽い歩調でライへと歩み寄ってきた。

 

「久しぶりだな、ライ」

「……ま、マスター……どちらさま、なのです……?」

 

 体格のいい黒コートの男から身を隠すように、イマはライの袖にしがみ付いてきた。そんなイマの様子がおかしかったのか、マフラーを外した男は意外にも人好きのする笑顔で声をあげて笑い、手帳のようなデバイスを取り出した。デバイスの表面にホログラフ表示されたのは、GBNダイバーならだれでも知っているエンブレム――〝GHOST〟のエンブレムだった。

 

「ご、GHOST……さん、なのです……?」

 

 エルダイバーとしての力で、イマにはそのデバイスもエンブレムも本物であることは理解できた。しかし、GHOSTに声をかけられるような心当たりは、イマにはない。イマが不安げな顔でライを見上げると――

 

「……久しぶりです、バン義兄(にい)さん」

 

 ――不動の仏頂面、万年不愛想な悪人面であるはずライの頬が、少し緩んでいた。




 ……と、いうことで。
 今回は、勝てない主人公・ライの苦悩回となります。
 仮面の老人たちとか、エルダイバーの“王”とか、けっこう今後に関わる設定も出てきつつあります今日この頃ですが、きちんと伏線を回収できるよう頑張ろうと思います。
 あと、本作は私の中で「ラブコメ強化」と「女の子をかわいく」を裏の目標にしているのですが、どうでしょうか。今回のイマとかけっこうあざといですよね。本作の女性キャラの大半はカスタムキャストでモデルを作っているんですけど、あれってこーゆーところで公開してもOKなのかなあ……
 ……兎も角。感想・批評もお待ちしております。どうぞよろしくお願いします!


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Episode.05-B『チカラ ノ イミ ヲ ②』

 どうもこんばんは、亀川ダイブです。
 今回の作者的な見どころは、「忠犬イマ公」と「師弟対決」です。
 どうぞご覧ください。


 GBNにおいて、ダイバールックに装備するアクセサリーの類は、全てデータ化してストレージに格納し、持ち運ぶことができる。それはGBN内の仮想店舗(VRショップ)で購入した商品についても同様だ。だからコウタが山のような紙袋を両腕に抱えてシオミとアンナの後ろをよろよろとついていく必要も、本来なら全く必要のない行為のはずだった。

 

「あのぅ、シキナミ先輩……サツキ先輩の荷物が……」

「あはは、いいんだよガトウさん。シキナミさん、さっきまで機嫌悪かったけど、少し良くなってるみたいだし」

「べ、別に良くなっていません。無駄に口を開かないでください。さっさと行きますよ、先輩」

 

 ぷいっと怒ったような顔をしながら、明らかにシオミの足取りは軽い。たくさんの荷物を抱えて自分の後ろをついて来ようと頑張るコウタの姿に、頬が少し緩んでいる。絶対に認めようとはしないだろうが、コウタが自分のために頑張ってくれている姿にご満悦なのだ――シキナミ・シオミ、実にメンドクサイ女である。

 

(……なんて、部長さんとかなら、面白がって言えちゃうんだろうなぁ)

 

 察しながらもそんなことは口が裂けても言えないアンナは、微妙な作り笑いを浮かべたままついていくばかりである。

 そんな状態でライとイマとの待ち合わせ場所まで戻ってくると、そこにはイマしかいなかった。しかも、道の端っこの花壇の縁に、体育座りで。ずぅーんと、目に見えるほどの暗いオーラを纏って。

 

「どうしたんですか、イマさん。ヒムロさんがいませんね」

「……ま、マスターは……」

 

 シオミが声をかけると、イマはゆっくりと顔を上げた。いつもは玩具をもらった仔犬のようにキラキラしているエメラルドグリーンの瞳が、(ハイライト)を失いベタ塗りに澱み、悲壮感さえ漂わせている。イマは重力が数倍にもなったかのような暗黒のオーラを、ずもももも……と生産し続けながら、シオミたちがやってきたアーケード街とは真逆の、薄暗い路地を指差した。

 その指の先にあるのは、GBNの中でも珍しい、年齢制限エリア。主に仮想アルコール飲料を提供する店が軒を連ねる、大人向けの交流エリアだ。個人とダイバーが厳密に紐づけされた現在、仮想現実とはいえ未成年にアルコール飲料を経験させるべきではないというのも正論だ。過去、GBO時代にはそのあたりの規制は緩かったが、GBNでは未成年のダイバーが仮想アルコールを扱う店に入ることは禁じられている。

 もっとも、成人のダイバーが同伴していれば、その限りではない。仮想アルコールを飲むことはできないが、店に入ることはできる。

 

「仮想酒場エリア……ヒムロさんは、誰か大人の方の知り合いと?」

「お、男……なのです……」

 

 首をかしげるシオミに、イマはコロニーが落ちてきたぐらいの絶望感MAXで叫んだ。

 

「マスターは! イマに待てと! 男と! 二人で! イマにここで待てと! 男と二人で! 夜の街に消えたのですよーっ!!」

 

 だばーっ、と、まるでギャグマンガのように大泣きするイマ。慌てて撫でたり慰めたりするシオミとコウタ。しかし、そんな状態になっても「待て」と言われたその地点から一歩も動こうとはしないイマの姿に、アンナの脳裏にはある言葉が浮かんでしまった。

 

(ちゅ、忠犬イマ公……ぷ、ぷくくく……)

 

 わんわん大泣きするイマ。小っちゃい子の相手とかいかにも苦手そうなシオミ。逆に慣れた様子であやそうとするコウタ。手で口を押え、漏れ出す笑いを誤魔化そうとするアンナ。道行くダイバーたちは、あの集団は一体何なのかと訝しみながら、通り過ぎていくのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 十席ほどのカウンターと、二人掛けのテーブルが三つ。それですべてという薄暗いバーに、客の姿は自分たちだけ。たった一人の店員であるすらりとした美人な女性ダイバーのバーテンダーは、NPCらしい。こちらから声をかけない限りは、妖しく魅力的な微笑みを浮かべてグラスを磨いているばかりだ。

 

「……そうか。あの戦い、最後はそんな事になっていたのか」

 

 GBN運営直属の治安維持部隊GHOSTの最精鋭であり、あの作戦にも参加していたバンが、フォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟との決着について知らないはずがない。しかしバンは、ライが言葉少なに語る戦いの顛末を、大きなボール型の氷が浮いたグラスを傾けながら、静かに聞いていた。

 

「……〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟ヒビキ・ショウカ。決着は彼女の手によるものだ。彼女がいなければ、俺たちは全滅していた」

 

 ハイパー化したバウンド・ドラッヘの前に、右翼部隊はほぼ壊滅。一発逆転を狙ったブライクニルフィンガーも敵を倒すには程遠く、クァッドウィングは大破。もしショウカが参戦していなければ、事態は峰刃学園の手には負えず、GHOSTに頼ることとなっていただろう。

 ライは仮想ジンジャーエールの入ったグラスに手を付けようともせず、飴色に磨き込まれた分厚い木製バーカウンターの天板を睨みつけていた。

 

「……俺は、何も。できませんでした」

「……そうか。何も、な」

 

 バンは短く答え、グラスに残った酒をグイッと呷った。注文を聞きに来たバーテンダーをやんわりと手で制し、バンは身体ごとライへと向き直った。

 

「おまえがそう思うなら、そうなんだろう。少なくとも、おまえにとってはな」

「…………」

 

 ライが無言で顔を上げると、バンもまた唇を真一文字に引き締めて、ライを見返していた。自分と同じくあまり表情で語るのが得意ではないバンのその顔に、かつて〝家族ごっこ(メンタルケアプログラム)〟を受けていたころの記憶がよみがえってくる。

 ライの――そして、バンや多くの人間の運命を捻じ曲げた〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟。その闇の中枢に関わっていた人間は、黒色粒子の影響を検査し心的外傷のケアをするために、そして下衆な勘繰りや誹謗中傷から保護するために、ヤジマ商事が用意したセーフハウスで共同生活を送ることとなっていた。

 まるで家族のように生活する中で心や身体の傷を癒す、特別ケアプログラム。一つの〝家族〟として設定されたのが、バン、レイ、ラミア、そして当時十一才のライだった。

 生体制御ユニットとして黒色粒子に深く繋がっていたレイの症状は特に深刻で、妹の少しでも早い快復のため、兄であるバンは心を砕いていた。そんな日々の中でも、バンはライにも家族として、兄として接してくれていた。

 〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟において、ライは加害者として糾弾されてもおかしくない立場だった。騙されていたとはいえ、最後の最後でレイを守ろうとしたとはいえ、加害の事実は変わらない。それでも自分を〝家族〟と認めてくれたバンを、ライは心から信頼していた。

 しかし、いやだからこそ。自責の念にライの心は軋み、悲鳴を上げることがあった。

 

『ごめんなさい……ごめんなさい……おれが、もっと強ければ……おれに、もっと力があれば……レイちゃんは、こんなことには……!』

『おまえがそう思うなら、そうなんだろう。少なくとも、おまえにとってはな。だが……』

 

 何の拍子にか〝あの時〟の記憶がよみがえり、泣きじゃくるライ。バンはライの目を真っ直ぐに見つめて力強く肩を掴んだ。バンの大きな掌が、まだ細く頼りなかった自分の肩を、温かく包み込んだのをライは今でも覚えている。そして、その後のバンの言葉も――

 

「だが、俺はそうは思わん」

 

 バンの声と共に、バーカウンターの上をホログラフィックパネルが滑ってくる。

 

「久しぶりにやってみるか。ガンプラバトル」

「…………!」

 

 パネルに表示されているのは、一対一、ガンプラ決闘(デュエル)の申し込み。真一文字だったバンの口元がわずかに緩み、好戦的な笑みを浮かべている。

 

「うじうじ悩む暇なんてあるなら修行だ、修行。相手してやるぜ、ライ」

「……ああ。頼むよ、義兄さん」

 

 互いに頷き合い、バンはゲーム内通貨をバーカウンターに叩きつけるように置いた。同時、ライも決闘受諾のボタンを、力強く叩くのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

《ROUND1 BATTLE START!!》

 

 蹴り飛ばされるような加速度でカタパルトゲートから放り出されると、目の前に広がっていたのは、大小さまざまな岩塊が疎に密に入り乱れる暗礁宙域だった。身体の大きな艦船の類では通り抜けるのも非常に困難な上、艦砲の射線は通らない。さらには金属を多分に含んだ星屑の影響で、ミノフスキー粒子などを散布しなくてもレーダーが碌に機能しない、という戦艦殺しの宙域。

 だがそれは、縦横無尽の機動性を誇る有視界白兵戦用人型兵器であるモビルスーツが、最もその本領を発揮できる宙域ということでもある。

 ライは手近な岩塊にクァッドウィングを着地させ、バスターマグナムを抜いた。そのギリギリ射程外の巨大な岩塊の上に、バンのガンプラが悠然と腕を組んで立っていた。

 GHOST専用機〝絶影〟。現GHOST総司令にして、旧GBO時代の〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟、そして黒色粒子事変の〝最後の十一人(ラストイレヴン)〟でもあるヤマダ・アンジェリカが全面監修したという、量産型ガンプラの常識を超えた万能型高性能機である。

 鉄血系の機体をベースにしているためにナノラミネート装甲こそ装備しているが、それ以外にとび抜けた特長や特殊機構は持たない。任務の特殊性に応じて光学迷彩マントなどを装備することはあるが、機体そのものは実直にして質実剛健である。その事実が示すのは、絶影が凡庸な機体だということではない。基本性能が高いが故に、特殊機能が必要ないということだ。

 

『十本勝負だ。一本ごとに仕切り直し、勝ち越しても負け越しても十本やるぞ。ハンデはなし、ガチだ。いいな?』

「……了解だ、義兄さん」

『じゃあ……いくぜ!』

 

 一瞬、閃いたバーニア光が長く尾を曳いて、ライの視界から消える。次の瞬間、鈍い銀色の切っ先が、クァッドウィングの目を抉った!

 

「……っ!」

『がはは、いい反応じゃあねぇか!』

 

 直撃の寸前に展開したビームセイバーが、突き出された大型ナイフをわずかに逸らしていた。左のバルカンが使用不能になるが、気にしてなどいられない。ライはもう一丁のバスターマグナムを絶影の胴体に押し付けるが、バンはクァッドウィングごと吹き飛ばす勢いで全身のバーニア・スラスターを逆噴射、一気に距離をとった。無数の岩塊の隙間を流星のように飛び抜けながら、大型マシンガンを連射してくる。

 

『ついて来れるかあっ、ライぃぃぃぃっ!!』

「……破ァァァァッ!!」

 

 相手がGHOST謹製の高性能機・絶影だとしても、加速性能で後れを取るクァッドウィングではない。ライは四枚羽根のバーニア・スラスターを全力全開、稲妻の軌跡を描いて暗礁空域を翔け抜ける。当然、マシンガンの弾は一発たりとも掠らせない。避け、躱し、岩塊を盾にして回り込み、ものの数秒でライはバンへと追いついた。

 

「……いただく!」

 

 ビームセイバーを二刀流に展開、稲妻機動の勢いも載せて、ライは絶影へと斬りかかる。エメラルドグリーンのビーム刃が、鈍い銀色のナイフとぶつかり合う。受け、斬り返し、それをさらに斬り返し、鍔迫り合いを弾き上げ、両者は互角の剣戟を繰り広げる。

 

『がはは! 殴る蹴るだけだったライがよぉ、成長したもんだぜ!』

「……剣捌きは、義兄さんに教わった!」

『ああ、そうだ! そうだなあ、だがよ!』

 

 絶影の大ぶりな斬り上げを、ライはビームセイバーで受けようと構える。しかし、ビーム刃に予期していたような衝撃がこない。

 

「……っ!?」

『悪くはねぇがな、まだまだよぉっ!』

 

 バンはビームセイバーとナイフが接触する瞬間に指先でクルリとナイフを回し、まるでビーム刃をすり抜けるようにナイフを逆手に持ち替えていた。手品のようにライのガードをすり抜けたナイフが、クァッドウィングの肩口へと突き立てられる。

 

「ちぃっ!」

 

 絶影の腹を蹴り飛ばして、力づくで引きはがす。当たらないのを承知でバスターマグナムを発射、拡散するビームを目晦ましにして距離をとった。

ライは大きめの岩塊の陰に身を寄せ、機体の状態をチェック。ナイフに抉られた左のマシンキャノンが大破、使用不能になっている。肩関節まで損傷が及んでいないのは幸運だった。絶影を蹴り飛ばすのがあと一秒遅ければ、左肩のフレームにまで切っ先を捻じ込まれていたはずだ。

 

「……流石だな、義兄さん。GHOST最精鋭は伊達じゃないか……!」

 

 ここまでの攻防は全て、ライの得意とする高機動戦と近接格闘戦だ。それに特化したクァッドウィングに、万能型ゆえに尖った部分もないはずの絶影で互角以上に戦っている。それは六年もの長きにわたって治安維持の最前線で戦ってきた、バンの技量のなせる業だ。

 

『どうした、ライ! 攻め手が鈍いぜ!』

 

 爆音、衝撃。グレネード弾が炸裂し、ライが身を隠していた岩塊が吹き飛んだ。爆炎を突き破るようにして、絶影はクァッドウィングの懐へと飛び込んでくる。ライはカウンター気味にバスターマグナムを突き出すが、絶影は僅かに身を捻るだけで銃口を躱し、一撃必殺の零距離射撃は空振り。間を置かず、バンはバスターマグナムの側面にナイフを叩きこんで力任せにクァッドウィングの手から奪い取り、バスターマグナムを突き刺したまま、ナイフを振り下ろした。ほぼ機体同士が密着したような間合いでの攻撃に、ビームセイバーの展開も間に合わない。ライはもう一丁のバスターマグナムでそれを受けざるを得ず、二丁のバスターマグナムは、一本のナイフにまとめて貫かれる形となってしまった。

 

「……ッ!」

 

 咄嗟にバスターマグナムから手を放し、四枚羽根スラスターを吹かして緊急離脱。後方にあった岩塊に着地するが、ナイフに貫かれたバスターマグナムが爆発した時にはすでに、絶影の鬼火のような四ツ目が、クァッドウィングの眼前に迫っていた。

 

『こんなモンかよっ、ライぃぃっ!!』

「フィンガー、ソードッ!!」

 

 ガキィィンッ!!

 一直線に突き出されたナイフの側面を、青銀色の手刀が鋭く打ち払った。真っ二つに折れたナイフの刀身は激しく回転しながら飛んでいき、岩塊に突き刺さる。

 構造上、刀剣類の刀身は、側面からの衝撃に弱い。さらに、ブライクニルフィンガーの粒子凍結効果で、刀身そのものが弾性を失った硬く脆い状態(・・・・・・)になれば、手刀で叩き折ることも可能となる。

 

『やっと出したな。それを待ってたぜ、ライ!』

「今度こそ……行くぞ、義兄さん!」

 

 バンは大型マシンガンを投げ捨て、絶影の両手にナイフを構えさせた。右手は順手、左手は逆手、刺突と斬撃を織り交ぜた絶え間ない連続攻撃を見舞うための、バン独特の構えだ。

 一方のライは右手刀のブライクニルフィンガーソードを前面に押し出した、右前半身の構え。左手は固く拳を握りしめ、いつでも突きを繰り出せるよう脇を締め身体に引き付けている。

 

『行くぜっ!』

「破ァァッ!」

 

 気合一声、再度激突。バンの繰り出す猛烈な斬撃と刺突が嵐となって荒れ狂うが、ライは眼前に吹き荒れるそれを、氷結の手刀で的確に捌く。フィンガーソードにナイフの側面を打たれるわけにはいかないため、嵐のように見えるバンの太刀筋は、実は限定されている。ライはその有利を見逃さず、手刀でひたすらにナイフを裁き、弾きながら、拳を撃ち込む機を窺った。

 ガンガン、ガキン、キィン、ガイィン……ッ!!

 

(……好機ッ!)

 

 ナイフを打ち上げられ、大きく空いた絶影の右脇。瞬間、ライは大きく足を踏み込んで、左の正拳を叩きこんだ。

 

「そこだッ!」

 

 ガッ、オォォンッ!!

 徹甲弾でも撃ち込んだかのような衝撃、クァッドウィング渾身の正拳突きが絶影の右胸を打ち抜く。絶影の胸部装甲は大きくひしゃげて砕け散り、派手に吹き飛ばされた絶影は、頭から別の岩塊に叩きつけられる。ライはこの機を逃さず、即座に飛翔、追撃する。フィンガーソードを解除し、氷結粒子を掌型に再構築。巨大な氷の手掌と化して振りかざす!

 

「……いただくぞ、義兄さん! ブライクニル・フィン」

『甘いっ!』

 

 岩塊に衝突し行動不能かに見えた絶影が、目にも止まらぬ速度で振り返り、ナイフを投擲した。銃弾の如く投げ放たれたナイフは、クァッドウィングの右掌を――氷結粒子のエネルギーを極限までため込んだブライクニルフィンガーを、一直線に貫いた。

 予想外の攻撃に、ブライクニルフィンガーは暴発。氷結粒子は真っ白な冷気嵐を巻き起こして炸裂し、大きく振り上げたクァッドウィング自身の右腕が、巨大な氷柱に包まれ、凍り付く。

 

「……ッ!?」

 

 吹き荒れる寒風、舞い踊る雪風。自分自身を中心にして吹き荒れる氷結粒子に翻弄され制御を失い、クァッドウィングは飛翔の勢いそのままに、岩塊に衝突する。

 

「くっ、お……ッ!」

 

 墜落の衝撃を、ライは歯を食いしばってやり過ごす。そしてブライクニルフィンガーを解除、自身の右腕を覆う氷柱を崩落させ、機体の自由を取り戻す――しかし、それと、ほぼ同時に。

 

『これで一本だな、ライ』

 

 クァッドウィングの胸部サーチアイに、大型ナイフが深々と突き立てられる。クァッドウィングはびくりと痙攣するように機体を跳ねさせ、それっきり、両目(ツイン・アイ)から光を失った。

 

《――ROUND1 BATTLE ENDED!!》

 

 鳴り響く電子音、聞きなれたシステム音声。続いて《YOU LOSE…》の表示がライの眼前にポップアップし、機体とフィールドが、プラフスキー粒子の欠片へと還元されていく。

 

『バスターマグナム、ブライクニルフィンガー。確かに強力だ。一撃必殺狙いの高機動と近接特化も悪くない。良いガンプラを作ったな、ライ。だが――だからこその弱点ってモンもある』

「……弱……点……?」

『教えてはやらねぇぞ、修行だって言っただろ? 自分で考えろ。自分自身の、力の意味をな。そうすりゃあわかるだろうぜ、力の使い方もな』 

 

 粒子化した絶影が視界から消え、その次の瞬間には、ライとクァッドウィングは再びカタパルトゲートの中、出撃待機エリアへと戻ってきている。

 今回の決闘は十本勝負、一本ごとに仕切り直しという条件だった。機体は万全の状態に戻ったが、ライの緊張感は先ほどまでとは段違いに高まっていた。ライは額の汗を手の甲で拭い、操縦桿を一段強く握りなおした。

 

『まだ一本目だ。あと九本、俺にやられるまでの間に掴み取れよ――さあ、次、行くぜ!』

「……了解ッ!」

《ROUND2 BATTLE START!!》

 

 ライとバンの師弟対決。ガンプラ決闘(デュエル)、二本目。システム音声と共にカタパルトゲートが開かれ、ライとクァッドウィングは暗礁宙域へと飛び立っていった。




 以上、第五話Bパートでしたー。
 最近ガンプラとかキャラ紹介の更新が多かったので、物語が進むのは久しぶりな気がします。いつも感想などいただいている皆様、お待たせしてすみません。忠犬イマ公に「お手」「お替り」「ち〇ちん」とか芸を仕込んでおきますので許してください嘘ですすみません。
 ライの過去を小出しにしているのですが、こーゆーことをしていくと話が進むにつれ矛盾なく描き切れるのかと不安にもなってきます。そのあたりも含めて、感想・批評などお待ちしております。よろしくお願いします!


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Episode.05-C『チカラ ノ イミ ヲ ③』

みなさんこんばんは。
第五話Cパート更新です。今回は珍しく平日更新になりました。
ライVSバンの師弟対決、決着です。
どうぞごらんください!


「ブライクニル、フィンガァァァァッ!」

『もう見切ったぜ、そいつはよぉ!』

 

 大きく五指を広げた氷結粒子の掌に、バンはむしろ自分から絶影の拳を叩きこんだ。ライの意思とは関係なく、ブライクニルフィンガーの粒子凍結効果が暴発、絶影の右腕をメキメキと凍り付かせていく。

 

『こいつで!』

 

 バンは冷静に左手のナイフを絶影自身の右肘に突き刺し、そして切り落とす。粒子凍結効果は絶影の右前腕部を凍り付かせただけで、本体にまでは及ばない。そしてクァッドウィングは、暴発した冷気嵐に翻弄され、姿勢を立て直せないままであった。

 

『いただきだ!』

 

 眼前に迫る、銀色の切っ先。目を潰され、喉を突かれ、左胸を貫かれ――流れるような三連撃で、クァッドウィングは機能を停止させられた。

 

《――ROUND9 BATTLE ENDED!!》

 

《YOU LOOSE…》

 

 九度目の撃墜、そして九回目の光景と音声。待機エリアへと転送され、傷一つなく再構成されたクァッドウィングの中で、ライは額の汗を拭った。

 

「…………」

『これで9‐0だな、ライ』

 

 通信ウィンドウには砂の嵐とSOUND ONLYの表示。五連敗目を喫した後ぐらいから、バンからの通信は音声のみとなっていた。それが何を意味するのかを考える余裕などは、今のライにはなかった。

 

『俺との修行タイムは次で終わりだぞ』

「……一分」

『あ?』

「……一分だけ、待ってくれ。義兄(にい)さん」

『……ああ。六十秒後に戦場でな』

 

 通信ウィンドウが閉じ、コクピットは無音に沈む。ライは静かに目を閉じて、操縦桿を握りしめる掌から、ゆっくりと力を抜いた。高揚し、加速していた思考を落ち着かせる。

 九連敗――その戦いを、振り返る。落ち着いて、確実に、正確に。

 機体の性能差。バンが射撃主体で攻めて来たのならその言い訳もできただろうが、今までの九戦全て、近距離での高機動戦に付き合ってくれている。ならばむしろ、機体の特性としては有利なはず。

 ダイバーの技量差。大型ナイフとビームセイバーという違いはあれど、剣捌きは負けてはいない。体術も同様だ。そもそもライの格闘術の多くは、バンから教わっている。お互いに手の内は知り尽くしているのだ。

 戦術の組み立て、バトルの流れ。これは完全に、バンに持っていかれてしまっている。バスターマグナムは当たらず、ブライクニルフィンガーは発動前に潰される。殺陣でやり合っているうちは、まだ戦えるのだが……。

 これをひっくり返すには、何が足りない? 勘の良さか? 心理的なプレッシャーか? いや、違う。違う、違う……ライの思考は堂々巡りに陥り、一分の猶予は刻一刻と消えていった。

 

『……あんちゃん、もう少し優しくしてあげたらいいのに』

 

 悩みこむライを、電子の海のはるか向こうから見守り、バンに苦言を呈する少女がいた。バンは彼女の言葉に「かもな」と短く返し、軽く肩を竦めた。

 

「だが、自分で掴み取らなきゃあ意味がねぇ。そうだろ、レイ?」

『うちも、それはわかるよ。でも……うぅん』

 

 バンとライとの通信は閉じているが、GHOST隊員は運営権限の一部使用によって、対象ダイバーの状況を監視することができる。

 厳密にいえば公私混同だが、建前上は自主的なパトロール業務。バンはGHOSTとしての特権を使い、レイにライの様子をモニタリングしてもらっていたのだ。

 

『監視対象ダイバー、バイタルに変化アリ。緊張状態、高いストレスを感じています。まだ、健康上の注意喚起を表示しなきゃいけないレベルじゃあないけど……ライにぃちゃん……』

 

 電脳遊戯空間(ディメンジョン)へのダイブ中に異常なバイタル変化を検知すれば、健康上の注意喚起の表示や、強制ログアウト処置を運営本部に要請する権限を、GHOSTは与えられている。対象の監視という特権を使う建前としての業務をこなしつつも、レイはしょんぼりと肩を落とす。妹のそんな顔を見せられては、バンもため息をつきながら苦笑するしかなかった。

 

「はぁ、まったく。仕方ねぇな。あいつは変に真面目で、無駄に頭が固いからな……少しばかり、ヒントでもくれてやるか。悩める弟を目の前にした、兄貴としちゃあな」

『うんっ。そうしてあげて、あんちゃん!』

 

《ROUND10 BATTLE START!!》

 

 同時、システム音声が十戦目、最後の一戦の開始を告げる。

 粒子化するコクピットの中でバンは拳を掌に叩きつけ、気合を入れ直した。

 

「ゴーダ・バン、絶影! 獲物を掻っ攫うぜ!」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――たった一つの冴えた正解など、六十秒程度で出ようはずもない。試合開始のアナウンスを受けて飛び出した宇宙(そら)は、やはり変わらずに青黒く深い闇色に沈み、暗礁宙域の星屑たちが重苦しく視界を塞いでいる。

 

(悩もうが、迷おうが……俺には、クァッドウィングには、これしかない……っ!)

 

 両手に握りしめる、二丁のバスターマグナム。四枚羽根をフル稼働させた稲妻機動で岩塊の間を翔け抜けながら、ライは一撃必殺の銃口を、右へ左へと差し向ける。

 

「どこだ、義兄さん……せめて一本は取ってやる……!」

『その意気は良いがな!』

 

 背後、至近距離。岩塊を抜けた瞬間に、待ち伏せていた絶影が飛び出してきた。ライはビームセイバーを展開しつつ鋭角旋回(クイックターン)、絶影のさらに背後をとる。だが同時、バンは岩塊を蹴って機体を反転倒立、クァッドウィングとは上下逆で真正面に向かい合った。斬り上げた大型ナイフと、振り上げたビームセイバーが、火花を散らしてぶつかり合う。二本のナイフと二振りのビームセイバーは縦横無尽の太刀筋で絡み合い、機体の天地すら激しく入れ替えながらクァッドウィングと絶影は打ち合った。

 そして、

 

「せいッ!」

『オラぁっ!』

 

 拮抗した斬撃が互いの刃を弾き合い、大きく隙ができたところに、ライとバンは同じように大振りな後ろ回し蹴りを繰り出した。踵と踵がぶつかり合い、粒子と塗膜片が飛び散り、一瞬の均衡状態が生まれる。体術としての鋭さはどちらも劣らぬ一撃だったが、機体の重量差で、クァッドウィングが打ち負けた。

 

「うっ……!」

『そこぉっ!』

 

 吹き飛ばされ、背後の岩塊に叩きつけられるクァッドウィング。ライは即座に姿勢を立て直してバスターマグナムを構えるが、すでにそこに絶影はいない。バンはまるでフル・フロンタルのシナンジュのように、岩塊を蹴ってジグザグに加速、ライの側面に回り込んでいた。

 

『終わりかぁッ、ライぃぃッ!』

 

 逆手に持った二本の大型ナイフを大きく振り上げ、振り下ろす。メインバーニアの推進力までも全開に載せた、渾身の突き刺し。岩塊がひび割れ、絶影の足裏がめり込むほどの勢いで突き下ろされた一撃は、しかし空振り。

 

「……いただく!」

 

 カツン、と軽い音。絶影の後頭部に突き付けられる銃口。ライの得意技、稲妻機動からの背面取り、一撃必殺のバスターライフル。あとはトリガーを引けば――

 

『それに頼るからよぉ!』

 

 ――ガツンッ!

 逆手に構えた大型ナイフが、バスターマグナムの側面を貫いていた。

渾身の一撃に見えたバンの突き下ろしは、実は岩塊に突き立ってはいなかった。足元の岩塊に刻まれているのは、絶影の足跡のみ。ナイフの跡はない。引き抜いて、振り上げる必要などない。身を捻りさえずれば、即座に背後に対応可能な状態。

 

「読まれて……ッ!?」

 

 絶影は突き刺したナイフを手放し、勢いのまま身体を一回転させてもう一方のナイフを振るった。ライはバスターマグナムを放棄してバックステップ、しかしその胸部サーチアイはナイフに深く切り裂かれてしまった。索敵能力が大幅に低下、画面表示のいくつかが、真っ赤に染まってダウンする。

 

「ちぃっ、まだ……っ!?」

 

 姿勢を立て直そうとした瞬間、狙い澄ましたかのような一閃、投擲されたナイフがもう一丁のバスターマグナムを貫いていた。爆発するバスターマグナムを投げ捨てると同時、今度は絶影自身が、砲弾のような勢いで突撃してきた。

 

『ぅオラぁぁっ!』

 

 全体重と加速度を載せたドロップキックをブチかまされ、クァッドウィングは背中から岩塊に叩きつけられる。その衝撃をいなす間もなく、追い打ちのショルダータックルが突っ込んでくる。

 ライは四枚羽根スラスターを吹かそうとするが、返ってくるのは真っ赤な機能障害報告(エラーメッセージ)。絶影の分厚い肩部装甲と岩塊の間にクァッドウィングの左腕は挟み込まれ、強靭なガンダニュウム合金製の装甲とフレームが、メキメキと悲鳴を上げた。

 

「くっ……だが、零距離だ!」

 

 大きく振り上げたクァッドウィングの右掌に、氷結粒子が収束する。真空の宇宙に青銀の寒風が吹き荒れ、粒子の雪風が舞い踊る!

 

「ブライクニル……ッ!」

『見飽きたぜ!』

 

 バンはまるで抜刀術のように、腰の予備ナイフを閃かせた。大型ナイフよりも一回り細身な刀身が、クァッドウィングの右手首、関節部の僅かな隙間を正確に貫いた。巨大な氷の手掌はその威力を炸裂させることもできず、標本のように岩塊へと縫い留められる。

 左腕は半壊、右腕は拘束、四枚羽根は機能不全。ライは腰を捻ってハイキックを繰り出すが、絶影の頭部を狙った一撃は太い腕にガードされ、不発に終わる。続けてマシンキャノンを撃とうとするが、これも抜刀術じみた早業で細身のナイフを突き刺され、二門とも潰される。さらに頭部バルカンも封じるため、四本目の予備ナイフが、クァッドウィングの頭部に横殴りに突き立てられた。

 

「くっ……!」

『何本あるんだよって顔だな? 流石にこれで打ち止めだ。だから、あとは、殴るぜ!』

 

 ゴンッ!

 ナノラミネートされたナックルガードが、クァッドウィングに叩きつけられる。拳を突き出すと同時にバーニアを噴射する、踏ん張りの利かない宇宙空間でも有効な打撃法だ。

 

『オラオラオラぁ! 銃を壊され! 必殺技を止められ! お得意の一撃必殺が通じなければそれで終わりかよ!』

 

 ゴンッ、ガンッ、ドゴッ、バギンッ!

 半壊した左腕ではもはやガードすらできず、右手首のナイフを引き抜くこともできない。重い打撃の一撃ごとに、クァッドウィングの装甲はひしゃげ、フレームは歪み、ダメージが蓄積していく。

 

『ログを視たが、あのバカでかいバウンド・ドックとの戦いもそうだったな! 必殺技が通じなかった、その次の一手で! 逆転されたじゃあねぇか!』

「……うおおおおっ!」

『真面目だなッ!』

 

 反撃に蹴り足を振り上げるが、それも拳で迎撃され、足首のフィンスラスターが砕け散った。

 

『手が使えなきゃ足ってか! うじうじぐだぐだ悩んでた割には、予想通りの優等生な真似しかしてこねぇなあ、ライ!』

 

 バンはクァッドウィングの胸を蹴って後ろに飛び、大きく距離をとる。腰を捻って右拳を大きく引き、全身のバーニア・スラスター類を後方に向け、推進力を一方向に揃える。腕力、重量、加速度の全てを載せた、正拳突撃の構えだ。

 

『次で決めるぞ』

 

 バンの気迫に、嘘はない。あの正拳が解き放たれたとき、勝負は決まる。しかしライに為す術はない。銃を失い、必殺技は通じず、内蔵火器すら破壊された。右腕は縫い留められ左腕は半壊、満身創痍のクァッドウィングに、どんな手が残されているというのか。

 

『……なあ、ライ。俺が相手なら負けても仕方ねぇのか? 俺がお前の兄貴分だからか? 俺がGHOSTだからか? おまえが欲した力の意味は、その程度のものだったのか? だったらよ……』

 

 通信ウィンドウに、画像が戻ってきた。画面越しのバンの視線が、ライを真っ直ぐに見つめ、射抜く。

 

『俺が敵になったら、どうする?』

「……!?」

『俺はGHOSTだぜ。俺が誰と、何と戦うかは、運営の命令次第だ。だから、GBNに何らかの悪影響を与えるヤツは、俺の敵になる。そうだな、例えば――』

 

 バンは静かに目を閉じ、ライから視線を逸らした。

 

『――かつての、有志連合対ビルドダイバーズの戦いのように。運営が、エルダイバーを有害と見做したら……俺は、それに従う』

 

――変なダイバーさんですね。イマを助けようなんてヒト、初めてなのですよ。

 

『実際、サラ・サルベージの成功で誤魔化されてるが、エルダイバーが引き起こすバグの問題は、完全には解決してない。イマちゃんと出会った時の事、忘れるわけがねぇよな』

 

 ――にひひっ♪ ダイバーさんは、〝正義の味方〟なのですねっ♪

 

『イマちゃんはまだ、保護観察対象から外れちゃあいない。だから彼女は〝B弾〟の執行対象になりうるぜ。電子生命体(エルダイバー)アカウント停止(BAN)するなんて……考えたくもないがな』

 

 ――ありがとうございます、ダイバーさん……あなたが、イマのマスターなのです!

 

『なけりゃあいい。だがもしそうなっても、まだグズつくつもりかよ! テメェの全力を! 必死を、決死を、覚悟ってやつを! テメェが手に入れた力の意味を! 見せてみろよ、ヒムロ・ライィィィィッ!!』

 

 青白いバーニア光の尾を曳いて、絶影は流星となり暗礁宙域を翔け抜ける。進路上の小さな岩石などは勢いのまま打ち砕いて、微塵も速度を落とさずに、一直線に突っ込んでくる。

 直撃の瞬間まで、それは時間にして数秒。だがライにとってその数秒は、無限に引き延ばされた時間にも感じられた。

 負けられない。

 負けるわけにはいかない。

 もう二度と、〝あの日〟のような思いを、誰にもさせないために。

 守るべきものを守り通す。貫くべきものを貫き通す。

 このガンプラは、クァッドウィングは、そのための力だ。

 例え、手足が砕けても。四枚羽根が千切れても。全ての武器を失っても。必殺技が通用しなくても。相手がどれほど強大でも。勝ち目がなくても。それでも、それでも、それでも――

 

「――それでも。ここで退いては、俺の〝正義〟が廃るッ!」

 

 魂の底から響く、気合の一声。ライは脳裏に閃いた稲妻のような直感に従い、半壊した左腕で、岩塊に縫い付けられた自分自身の右手を――発動したまま縫い付けられていたブライクニルフィンガーを殴りつけた!

 

『なにぃっ!?』

 

 暴発する氷結粒子、炸裂する冷気嵐。氷の微粒子を散らしながら、巨大な氷柱が岩塊を突き破り聳え立つ。突撃槍のような氷柱の切っ先が絶影に迫るが、加速の付いた絶影は急には止まれない。氷結粒子に凍結させられるのは承知で、バンはそのまま殴り抜けるしかなかった。

 頑強なナノラミネート正拳突きが岩塊ごと氷柱を打ち砕き、氷の欠片が辺り一面にまき散らされる。大小さまざまな氷塊が、暗礁宙域の岩塊とぶつかり合い、弾き合い、複雑なビリヤードの様相を呈する。

予測不可能な軌道で飛び交う氷と岩の大群の中を、青銀色の航跡が、稲妻の軌道で切り裂いていく。そして、

 

「破ァァァァッ!!」

『オラァッ!』

 

 ガキィィンッ!!

 迎え撃った絶影の拳が、凍り付き、そして砕け散った。

 打ち砕いたのは、クァッドウィングの左拳。圧し潰され、半壊していたはずの左腕は、その形を取り戻していた――ただし、その左腕を形作っていたのは、プラ板でも、エポキシパテでも、ガンダニュウム合金でもない。

 

『がはは! 限界ブチ破りやがったなあ、ライ!』

 

 青銀に煌く、氷の左腕。ひしゃげて潰れたクァッドウィングの左腕が、ブライクニルフィンガーの生み出す氷柱に、包み込むように凍結させられている。さらには、割れ砕けていた翼も、右腕も、両足も、氷結粒子で形作られていた。

 氷の四肢と、氷の四枚羽根。まるで青銀の外骨格を身に纏ったようなクァッドウィング。神々しくも禍々しいその姿に、バンは全身の肌が粟立った。

 理屈も何もあったもんじゃない。氷結粒子というだけなら、旧バトルシステム時代に、三代目メイジンが実用化している。だが、それを暴発させたら氷の腕が生えた? 

氷の翼が生えた? 訳が分からない。だが、実際に、ライはそれを実現しているのだ。

 

「……時間がない。いくぞ、義兄さん!」

『がはははは! 試してやるよ、その新必殺技ぁぁッ!!』

「破アアアアアアアアッ!!」

『ぅオラァァァァッ!!』

 

 両者咆哮、額が触れ合うほどの至近距離で、全身全霊の一撃を叩きつける。

 真っ直ぐに突き出す、絶影の右ストレート。

 大上段から打ち下ろす、クァッドウィングの右掌打。

 軌道が直線である分、絶影の拳の方が、一瞬早くクァッドウィングに触れた。ナノラミネート装甲に固められたナックルガードがクァッドウィングの腹を打ち、装甲を叩き割り、そのまま腹部フレームを打ち砕きながら深々とめり込んでいく。

 しかし、バンは違和感を覚える。操縦桿に返ってくる感触が、いつもとは違う。プラスチックを打ち抜いた感じではない。KPSの粘り気とも違う。その理由は、すぐに分かった。砕け散っていくクァッドウィングの欠片の中に、青銀色の氷の欠片が混じっている――そうか。氷の腕だの翼だの、そう都合よく生えてくるはずがない。

 クァッドウィングは今、自分自身のブライクニルフィンガーによって、凍結が進んでいる最中なのだ。氷の腕も氷の翼も、粒子氷結効果の結果に過ぎない。凍結の進行速度を極限まで抑え込み耐えているが、装甲もフレームも、刻一刻と凍り付いていく。先ほどのライの「時間がない」という言葉も、それを悟っているからだろう。つい一瞬前まで手足と四枚羽根しか凍っていなかったものが、もう胴体の内部フレームにまで達している。そこから推算するに、この氷の外骨格状態の持続時間は、長く見て十秒程度。起死回生、捨て身の一手というわけだ。

 

(しかし、その一手……見事だぜ、ライ)

 

 バンは心中で呟き、口元にふっと笑みを浮かべた。

絶影の拳は、確実にクァッドウィングの腹部を打ち抜いた。だが、腹部にめり込んだその拳ごと、クァッドウィングの内部フレームは再び凍結していた。拳を打ち抜くことも、引き抜くことも、もうできない。

 そしてバンの頭上に迫る、青銀の手掌。

 

「ブライクニルッ! フィンガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 吹き荒れる寒風。舞い踊る雪風。氷結粒子結晶の掌を叩きつけ、冷気嵐が炸裂する。

煌く氷結粒子の猛吹雪を撒き散らして、白い氷塊が顕現する。氷河から削り出したような荒々しい氷塊の中には、完全にプラフスキー粒子の活動を凍結された絶影が――そして、クァッドウィングが、氷漬けにされていた。

 

《――ROUND10 BATTLE ENDED!!》

 

《DRAW!!》

 

 動くもののなくなった暗礁宙域に、システム音声だけが響き渡る。二機のガンプラを取り込んだ巨大な氷塊は、通常のプラフスキー粒子へと還元され、朽ち果てていく。フィールド全体も剥がれ落ちるように消えていき――そして、消滅した。

 

 ヒムロ・ライ対ゴーダ・バンの十本勝負。その結末は、ライの〇勝九敗――そして、一分けとなった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 バトルを終えバーカウンターに戻ると、そこにもうバンはいなかった。口下手なライにとって、それは嬉しい気遣いだった。妹分のレイがいたのなら、まだ話すこともあったかもしれないが……あれほどのバトルをした後で多くを語らず立ち去るバンの兄貴肌に感謝しつつ、ライはバーを出た。

 

「……雪、か」

 

 歳星の設定時刻はもう深夜だった。濃紺に染まったコロニーの天窓から、人工雪がふわふわと降ってきていた。ライは連邦軍士官用ジャケットのポケットに手を突っ込み、白い息を吐きながら歩きだした。

 飲食店が軒を連ねる細い路地を抜けると、花壇のある広場に出る。雪は思っていたよりも前から降り始めていたらしく、広間の石畳の上には薄く白い絨毯が敷かれていた。深夜ということもあって人通りも少なかったのか、雪の絨毯には足跡の一つもなく、広場一面に美しい平面を描き出している――その、真ん中の花壇縁に。頭や肩に薄く雪を積もらせて体育すわりをする、イマがいた。

 ライは仏頂面の中に僅かな後悔を滲ませながら、イマの下へと歩み寄った。完全に気づいているだろうに、イマは抱え込んだ両膝に顔をうずめて、ライの方を見ようともしない。

 

「……遅くなった」

「その通りなのです」

 

 イマは一瞬だけ顔を上げ語尾を食い気味に言い捨て、ぷんっとそっぽを向く。ライはイマの隣に腰を降ろし、肩と頭の雪を払ってやった。それだけではまだ不満そうなので、ジャケットを脱いで肩にかけてやる。するとようやく、一八〇度向こうを向いていたイマの顔が、一二〇度ほどの位置まで戻ってきた。ただし、寒さに少し赤くなったほっぺは、ぷぅーっと膨らませたままだ。

 

「……先輩たちは」

「マスターがお酒の飲めるお店から出てこないので、センセーさんにチクりにいってくれたのです。覚悟しておいてください。ぷんっ」

 

 久しぶりにバンと会ったことで忘れかけていたが、基本的に現実世界ではまだ部活の時間中だった。成人の付き添いがあったとはいえ、仮想現実の中であっても高校生が酒の出る店に入るのはマズイだろう。

 

(……あとで、説明しないとな)

「……で、どうだったのですか、マスター」

 

 イマは不機嫌そうに口を尖らせたままだったが、半歩ほどライの方へと身を寄せていた。ライは雪の降るコロニーの天窓を見上げながら、静かに言った。

 

「……強かった。義兄さんは、やっぱり」

「久しぶりに会ったのに、まーたバトルしたのですか。まったく、これだから男の子は……」

 

 肩を竦めて掌を上に向け、やれやれと首を振るイマ。いつも通りのテンションに戻りかけたことに気づき、慌てて怒ったような顔を作り直す。そんな百面相に苦笑しつつ、ライはイマの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 

「ちょっ、ま、マスターっ。髪が乱れるのですっ! やめぇっ、やめるのです!」

「……クァッドウィングを改造したい。手伝ってくれないか、イマ」

「お、お断りなのです! イマをこれだけ待ちぼうけさせておいて、ごめんなさいもなしにお願い事なんてこーがんむち(厚顔無恥)もいいところなのです!」

 

 イマは髪を撫でる手を振り払い、体育すわりをする両膝に顔をうずめた。ライは軽くため息を一つ、花壇の縁から降り、イマの正面に片膝をついてしゃがみ込んだ。そして、イマがちらりと視線を上げたのを見計らって、言う。

 

「……すまん、イマ」

「……それだけ?」

 

 顔を半分膝にうずめたまま、上目遣いに聞き返してくる。ライは少し考え、言葉を続ける。

 

「……あと……あー……ただいま?」

「……にひひっ♪」

 

 聞きなれた、いつもの笑い方。イマはぱっと顔を上げると、今までの怒り顔が嘘のような満面の笑みで、ライに抱き着いた。

 

「おかえりなさいっ、マスター♪」




金髪ツインテール褐色ロリ美少女にマスターと呼ばれたいだけの人生であった……。
そんな作者のエゴましましのワンシーンを差しはさんでしまい申し訳ございません。でも、こーゆーの好きなんです。許してくださいなんでもしm(ry

第五話はもう少しだけ続きますが、次回更新はちょっと間が空くかもしれません。お待たせしてしまいますが、今後もお付き合いいただければ幸いです。
感想・批評もお待ちしています!


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Episode.05-D『チカラ ノ イミ ヲ ④』

 どうも、お久しぶりになってしまいました。亀川ダイブです。
 GBD・BB第五話、やっと最終パートです。どうぞご覧ください!


 雪景色の〝歳星〟からログアウトして、数分。

 

「と、言うわけなので! よろしくなのです!」

 

 放課後、夕暮れ、オレンジ色の斜陽が差し込む部室。

 身長12.5㎝、電脳遊戯空間(ディメンジョン)から現実世界(リアル)へと逆ダイブしたイマが、平らな胸を反らして机の上にふんぞり返っていた。ライはイマの頭を指一本で押し下げつつ、自分も軽く頭を下げる。

 

「……勝手を言う。すまない」

 

 ずらりと並んだGBN用デバイス付きPCの電源は全て落とされており、静かな部室にいるのは、ブルーブレイヴの面々と顧問のアカツキ・ナツキだけ。

 誰も何も言わないままに数秒の時が流れ、アンナが眉をハの字にしておどおどし始めた頃になって、ようやくシオミが口を開いた。

 

「ガンプラの改造と特訓のために、しばらくチームを休みたいという話は理解できます。ヒムロさんは私たちの主力攻撃手(メインアタッカー)ですからね。クァッドウィングの強化は、チームの得点力アップにつながります。ですね、先輩?」

「そうだね。その間は、僕が前衛を頑張るよ」

 

 コウタは柔和な笑みを浮かべ、頷いて見せる。それを見て、アンナも安心したようにほっと息を吐き、胸の前で拳を握って小さくガッツポーズをした。

 

「わ、私もがんばりますっ。弾幕以外も、いっぱい練習しなきゃですから」

 

 ライとイマ、前衛と後衛から一枚ずつが抜ける――チームの戦力は半減だ。クリアできるミッションも限られるだろう。当然、峰刃学園エレメント・ウォーにおける獲得ポイントも伸びないはずだ。しかし、それもわかったうえで、クァッドウィングの改造に集中させてほしいというライの頼みを、コウタたちは笑顔で受け入れていた。

 

「――あっはっは! 良いチームじゃあねェか、転校生!」

 

 豪快に破顔したナツキが、ライの背中をバチンと叩く。ライもどちらかといえば体格は良い方なのだが、ナツキの遠慮ない張り手に、たたらを踏んでしまう。

 

「組んでひと月のチームにしちゃあ良い信頼関係ができてるなァ。センセーは嬉しいぜ、まったくよォ!」

 

 言いながらもう一発、勢いよくライの背中を叩くと、ナツキは満足したとばかりに席を立ち、「悪ィ、サツキ。鍵任せた」とコウタに部室の鍵を投げ渡し、部室を後にした。

 後ろ手にドアを閉めて、大股に廊下を歩く――数歩も行かないうちに、ナツキのジャージのポケットで、スマートフォンが無音で振動した。ナツキはため息を一つ、片手でロックを解除すると、廊下の角を曲がってからスマートフォンを耳に当てた。

 

「ったく。心配性だなァ、おにいちゃん(・・・・・・)よォ?」

『GHOST隊員の俺に、バトルの映像ライブ中継しろってぇセンセーさん(・・・・・・)ほどじゃあねえだろうよ。報告書偽造する俺の身にもなってみろよ』

「感謝はしてるぜ、アリガトな。でもまあ、オレのかわいい生徒でテメェの大事な弟分のためだろ、ちったァ融通しろよ……で、どうだったァ?」

『どうも何も、見てただろ? ライの奴、自分の腕を凍らせて修理しやがった。あれをベースに新必殺技か特殊機能を組み込んでくるんだろうな』

「バトル休んでまで改造に集中するってェと、ガンプラ大規模改修して両方かもなァ。高機動かつ一撃必殺……そして、氷の粒子かァ……まるで……」

『氷と炎は真逆だが、バトルスタイルは愛しの旦那様によく似てるなぁ? 思い出しのろけかよ? がっはっは!』

「うう、うるせェ! そんなんじゃねぇよ! ブチ撒けるぞテメェ!」

『そういやあ、実家の旅館の方は繁盛してるらしいじゃねえか。旦那があれだろ、ガンプラバトルの強いイケメン若旦那ってんで女性ファンにちやほやされ』

「だああああああああッ! 後でブチ撒けてやッから待ってろ! じゃあなッ!」

 

 ナツキは顔を真っ赤にして怒鳴り、ブチっと電話を切った。

 

「……ったく、好き勝手言いやがっておわっ!?」

 

 ポケットにしまおうとしたスマートフォンが再び振動し、画面に表示された名前に、ナツキの頬が一段と赤く染まる。ナツキは慌てて咳払いをして喉の調子を整え、深呼吸を一つしてから電話に出る。

 

「……よ、よぉ。どうした? え、あ、晩メシかァ。んー……そうだな、和食の気分だな。まあ、エイトの作るもんならなんでも好き……え、あ、いや、別になんでもねェよ! さっさと作れ! できるだけ、早く帰るから……うん、うん……わ、わかってるよ……ああ、じゃァな」

 

 電話を切ると、ナツキはスマートフォンを胸に抱いたままほぅと長く息を吐いて、足取りも軽く職員室へと戻っていった。その後のナツキの仕事の速さはまるでトランザムでもしているかのようで、同僚の教師たちには「ああ、今晩は旦那さんの手料理なんだな」とバレバレだったという。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――その、翌日。

 GBN電脳遊戯空間(ディメンジョン)内、商業エリア。VRショップ〝♪かふぇGP-DIVE ぜーた♪〟。

 

「……ま、マスター? ガンプラの改造をするのに、なぜメイドカフェに来るのですか?」

「……必要だからだ」

「なな、何が必要なのですかーっ!? メイド属性に目覚めたのなら、イマがいつでもどこでも金髪ツインテ褐色ロリ美少女メイドにぃぃぃぃっ! っておいてかないでくださいよぅ、マスターっ!」

『おかえりなさいませ♪ ご主人様っ、お嬢さま♪』

 

 案内しようとするウサ耳メイド姿のNPCを手で制し、ミニスカートやらフリルやら猫耳やらが百花繚乱、跳梁跋扈する店内を、特に何の感傷も見せずにずんずん歩くライ。半泣きになりながら追いかけるイマがようやくライの腰にしがみ付いた時には、ライは目的の人物の目の前までたどり着いていた。

 店内の奥まったところにあるカウンター席の、さらにその一番奥。ふかふかのソファに仔猫そのものといった様子で寝そべっている、小柄なメイド服のダイバー。その頭上に浮かぶダイバーネームは、カナメ・エリサとあった。

 

「あっ……前にお会いした、ロリ妊婦さん、なのです……?」

「んっふっふー。その言い方はいろいろ倫理的なアレがヤバない? ウチもう26で、二児の母やでー?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべつつも、エリサはソファから起き上がろうとはしない。ダイバールックに現実世界の体調などは反映されないとはいえ、この小柄な体躯で妊娠中とあれば、できるだけ横になっていたいという意識が働くのだろう。

 

「いらっしゃいませ、仏頂面のオニーサン。目立たんように奥にいたのに、わざわざウチをご指名とは業が深いなー? その相棒ちゃんもちっこい娘やし。んっふっふー♪」

「……〝武〟を極めに来た」

「……へえ? オニーサン、あの子(・・・)のお客なんやね」

 

 クルクルと丸っこいエリサの双眸が、すっと細められた。指先で宙にホログラムを呼び出し、何事かを操作する。

 

「どこで知ったん?」

「……数年前、ゴーダ・バンと共に。彼女の下で、武術を。この店に、というのは……自力で調べた」

「んっふっふっふっふ。ゴーダのお兄ちゃんの知り合いかー。んじゃまあ話は早いわ。しかし、GBNも広いようで狭いなー♪」

 

 エリサは忍び笑いを漏らしながら、すっとソファから降りた。そして「ちょいちょい」とイマを手招きし、ソファにぽふんと座らせる。

その、次の瞬間だった。

 

「呼んだアルかエリエリィィィィィィィィっ♪」

 

 ずどーんっ! 

 

「ぐえっひ!?」

 

 それはまさしく、細長い人型のロケット弾。凄まじい勢いで飛び込んできた何者かが、ソファに座るイマのお腹を直撃。イマは目玉が転がり落ちそうなほどに両目を見開いて、つぶれたカエルのような叫びをあげた。

 飛び込んできたロケット弾――否、グリーンを基調としたチャイナ風のメイド服に身を包んだ長身の女性は、目を回しているイマの体をすさまじい速度でまさぐりまくり、最後にほっぺをぷにぷにとつついて、

 

「この娘エリエリじゃないアル! でもこれはこれでフェイバリィィィィィット!!」

 

 すりすりすりすりすりすり!

 

「ひにゃああああ! ななななんなのですこの変態おねーさんはああああああああ!!」

 

 摩擦熱で発火するのではないかという勢いで頬ずり&ハグ&撫でまわす。目を覚ましたイマはジタバタともがいて逃げ出そうとするが、チャイナ風メイドの彼女は細身のどこにそんなパワーがあるのか、イマを万力のように抱きしめて離さない。

 イマを身代わりに難を逃れたエリサは、面白くてたまらないという風に忍び笑いを漏らしながら、チャイナ風メイドの肩を軽く叩いた。

 

「こらこらメイファ、そんぐらいにしときぃ」

「だてね、エリエリ、赤ちゃんいるとき抱き着かせてくれないネ! GBNでならいい言うなのに、避けてばかり! もうメイファはエリエリ不足でカラカラなちゃうアルよー!」

 

 ぎゅうぅぅぅぅっ♪

 

「ひぎゃー! せ、背骨が! イマの背骨がトランスフォームなのですーーっ!!」

 

 何やらイマの背中がとてもいけない音の聞こえてきそうな角度になってきたので、ライは軽くため息を吐きながら、イマを抱きしめるメイファの細い腕を軽く掴んだ。

 

「……お久しぶりです、李老師」

 

 〝李老師〟という呼び方に、メイファの表情が変わる。イマを抱きしめていた腕を緩め、ソファからすっと立ち上がる。目の前に立ち並ぶと、その身長はライとほとんど変わらない。すらりと手足の長い、黒髪の美人であった。

 

「メイファをそう呼ぶは……稽古つけたこと、ある人ネ?」

 

 ――メイファ・李・カナヤマ。ガンプラ格闘術においてはGBN最強クラスともいわれる、女性ダイバーだ。第七機甲師団相手に、単身、徒手空拳で渡り合った。かの格闘王・タイガーウルフとの殴り合いで引き分けた。GBN全土に轟くその他諸々の伝説は、枚挙に暇がない。そのためかゴリラのような女傑というイメージが勝手に先行していて、メイドカフェで働くこの細身な女性が彼女だと知るものは少ない。

 ライにとっては、ガンプラ格闘術における二人の師の一人。日常的にバトルし続ける中でいろいろと学ばせてもらったバンとは違い、彼女に師事したのはほんの数日だが……メイファ・李・カナヤマの並外れた〝武〟から得たものは大きい。

 ライは目の高さが同じ彼女を真っ直ぐに見返しながら、短く返す。

 

「……数年前に。ゴーダ・バンの義弟です」

「ああ、ゴーダのお兄サンの! あの時のギラギラした目の少年クンね! 大きくなたアルなー♪」

 

 メイファは合点がいった様子で、ライの肩をポンポンと叩く。

 強烈なハグから解放されよろよろと起き上がったイマは、ライの「ギラギラした目の少年」だったころに興味をひかれたようだったが、ライの表情がいつにもまして真剣だったために、何も言わずにライとメイファの様子を見ていることしかできなかった。

 

「また修行アルか? 弟子が来るは大歓迎ネ、今度は何を……」

 

 大人びた美貌に似合わない無邪気な笑顔を浮かべるメイファの言葉に被せるように、ライは言った。

 

「……〝粒子発勁〟を、学びたい」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「ふぁ……あぁ、眠いぃ……」

 

 パステルカラーの壁紙に、同じく淡い色調のカーテン、クッション、カーペット。ベッドサイドにずらりと並ぶぬいぐるみたちがSD体型のモビルスーツでさえなければ、ごくごく普通の、可愛らしい女の子の部屋に見える自室で、アンナはあくびをしながら伸びをした。

 晩ごはんの後すぐにお風呂に入り、もこもこしたタオル地のパジャマに着替えてしまったのがよくなかった。どうにか勉強しようにも、眠気が勝ってしまう。

 峰刃学園高校は部活動の盛んな私立校ではあるが、学力的には結構なレベルを要求される学校でもある。ガンプラバトル部に入りたいという熱意によってなんとか入試には合格したものの、勉強のあまり得意でないアンナは授業についていくのがやっとの状態だ。せめて宿題だけでも完璧にしなければと、毎日頑張っているのだが……気づけばもう、日付が変わろうとしている。

 

「もう、寝なきゃなあ……ふぁああ……」

 

 今日の分のノルマは、なんとかこなしている。机の上に散乱したノートを軽く整えて、アンナは丸っこいズゴック(赤)のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

 明日も学校だ。部活もある。ライ先輩とイマちゃんがお休みしている分、私たちががんばって、EP(エレメント・ポイント)を稼がなくちゃ。

 

「寝不足じゃ、集中力をなくしちゃうな……」

 

 抱きしめていた赤ズゴックをぽーんと放り投げ(偶然にも、アイアンクローがジムの胴体に直撃した)、アンナはふらりと立ち上がった……その時だった。

 

「……あれ?」

 

 勉強机とは別に、部屋の隅に置いてあるPCデスク。ほぼGBN専用機と化しているPCの画面に、メールが届いたことを知らせるアイコンが点灯していた。

 

「電源、切ってたはずだけどなぁ」

 

 何のメールかはわからないが、ここで見てしまうとまた寝るのが遅くなってしまう。アンナはメールの中身は明日確認することにして、PCの電源を切ろうとした――が、

 

『ちかラga 欲シイノ スか?』

 

「……え」

 

 画面が一瞬、黒く乱れた。それはまるで、黒い粒子(・・・・)が画面上を横切ったかのようで――メールは勝手に展開され、GBNのシステム音声が、メールの内容を自動で読み上げ始めた。それはいつもとは違う、ひどく割れた音声で、言葉も途切れ途切れ。しかし発音だけは機械的に明瞭で、そのアンバランスさがアンナの背筋に寒いものを走らせた。

 

『添付ファ るヲヲヲ開い 、ガンpらノ   Dataを更 し クダさイ』

『〝シンの力〟ヲ、解ホウ る トガできmaaaa が』

『  サんにハ、も スコしdaけ、ガンバって リマ』

『たダし―― お   サん は、なイしょ すヨ?』

「な……なにこれっ!」

 

 アンナはぺたんとその場にへたり込み、そばにあったガンキャノンのぬいぐるみを無意識に抱き寄せ、胸にギュッと抱え込んだ。

 

「……アンナ、どうしたんだ?」

 

 軽いノック、そして部屋の扉がゆっくりと開けられる。

 

「え、あ……お、お父さん……」

「大きな声がしたようだけど」

 

 アンナは自分の悲鳴がそんなに大きかったのかと恥ずかしくなり、ぬいぐるみで顔を半分隠しながら、おずおずとPCを指差した。

 

「あの……画面に、たぶん、何かの悪戯だと思うけど……」

「ふぅむ……それは怖かったね」

 

 アンナの父は、ぬいぐるみを抱いてへたり込むアンナの頭を軽く撫で、PCの画面を覗き込んだ。そして一瞬だけ険しい表情をすると、マウスとキーボードを何度か叩き、メールを消去してPCの電源を落とした。

 

「変なメールは消したよ、安心しなさい。PCに詳しい知り合いに、診てもらえるよう頼んでおくよ」

「うん……ありがとう、お父さん」

「もう大丈夫だから寝なさい。おやすみ、アンナ」

 そう言って微笑み、出ていこうとする父の袖を、アンナはきゅっと掴んだ。

「どうしたんだい、アンナ?」

「あ、あの……お父さん……」

 

 アンナは抱いたぬいぐるみで顔を隠しつつ、蚊の鳴くような声で言った。

 

「……い、いっしょに寝ても、いい……?」

「ふぅむ。それは中学生までで卒業じゃあなかったのかい?」

「きょ、今日だけ、だからっ。……だめ?」

 

 上目遣いに頼むアンナに、父は優しくため息を一つ、「お母さんが、良いと言ったらね」と応じた。アンナは安心したように微笑むと、ガンキャノンのぬいぐるみをベッドサイドに戻し、お気に入りの毛布をマントかローブのように体に巻き付けて、父親に抱き着いた。

 

「アンナも大きくなったからなあ。お父さんとお母さんの布団だけじゃ、足りないかもなあ」

「だ、大丈夫だよっ。ほら行こう、お父さんっ」

 

 毛布を体に巻いたまま、父親の手を引っ張って部屋を出るアンナ。

無人になった部屋の電灯が、自動で消灯した。

 

 

 

 翌日、部活動に参加したアンナは、いくつかのうわさを聞くことになる。

 アンナが昨夜目にしたメールと同じものが、峰刃学園ガンプラバトル部の生徒、ほぼ全員に送られていたといううわさ。そして――何人かの生徒は、興味半分でそのメールの指示に従ってみたが、何一つ、変化は起きなかったといううわさ。

 

「まったく、理解しがたい。くだらない悪戯です。それに反応するのも愚かしい、愚の骨頂、わざわざ馬鹿を晒しているようなものです」

 

 シオミはそう切り捨て、実際に反応してしまったであろう何人かの部員と険悪なムードになりかけていたが、コウタがそれを何とかなだめていた。

 その様子を見ながら、アンナはふと気になった。

 何も起きないなら、そもそもなんであんな不気味なメールを送り付けたんだろう。それに――

 

「――本当に、何も起きていないのかなあ」




 四月はリアルが殺人的なスケジュールだったので、更新が滞りがちになってしまいました……一段落したので、更新ペースを戻せたらなあ、と思うのですが……
 とりあえず四月中には、キャラ紹介とガンプラ紹介を載せようと思っています。どうぞよろしくお願いします。感想・批評もお待ちしています!


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Character.02『アンナ&シオミ』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 やってきましたキャラクター紹介第二弾です。なんやかんや言って、我々のような趣味の人間にとって女の子が可愛いかどうかってやっぱり大事ですよね。と、言うわけで、今回もカスタムキャストでキャラを作ってみましたー。

 制服のネクタイだけ色を変えるとかできればよかったのですが、基本無料のアプリでさすがにそこまでは求めすぎですかね。しかしまあ、それを差し引いても素晴らしく創作意欲を刺激されるアプリですね。絵を描けない私にとっては、ガンプラだけでなくキャラも創作できるというのは非常に喜ばしいことです。

 ……兎も角。弾幕を愛し弾幕に愛されたおどおど系隠れ腹黒&隠れ(?)巨乳、『ガトウ・アンナ』。そして古典的かつ典型的ツンデレ系眼鏡女子オペレーター、『シキナミ・シオミ』です。

どうぞご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

名前:ガトウ・アンナ

性別:女

属性:峰刃学園ガンプラバトル部・一年生

年齢:15才

身長:149㎝

 

①みなさんこんにちは。ガトウ・アンナですっ。

 

【挿絵表示】

 

②えっ、そ、そんな……困りますよぅ……

 

【挿絵表示】

 

 本作のメインヒロインその③、普通(?)のガンプラ好き女子高生、『ガトウ・アンナ』です。イマも大興奮の隠しきれない隠れ巨乳、迫力のEカップ。

 本編ではちょいちょい腹黒いところも見え隠れしていますが、基本的にはイマとはまた違った意味で仔犬系の女の子をイメージしています。小型でふわふわな室内犬、といったところでしょうか。丸顔で体型もやや丸っこくして、可愛らしさを重視しています。さらにちっちゃいイマが近くにいるのであまり触れていませんが、アンナもどちらかと言えば小柄な方です。にもかかわらず巨乳。夢とロマンの産物ですね(笑)

 制服もまったく着崩しはなしで、アクセサリー類も身に着けていないアンナですが、普通の女子高生でもありますので靴はちょっとした飾り付きのローファー、真面目そうな白のスクールソックスにも小さなリボンがついています。ガンプラバトル部に入りたい女子高生という時点でなかなかに個性的ではありますが、細かいファッションで「普通の子」感を出してみたつもりです。あと、白スクールソックスの子が欲しかったという作者の欲望も(ry

 二枚目の画像はもう完全にそーゆー目線でしか見られない角度を追求してみました。胸だけでなくふとももやヒップも、他のキャラに比べるとややふとましい感じで造形しています。こんな女子高生の娘に「一緒に寝ていい?」なんて言われて理性を保っているアンナ父はいったいどんな聖人君子なのでしょうか。きっとダンディな髭のおじ様で、宇宙世紀ガンダムだったら2クール目ラストぐらいで娘をかばって死ぬと思います。ちなみに、呼び方が「パパ」ではなくて「お父さん」なのは、こんな娘が「パパ」なんて言ってたらやっぱりもうそ-ゆー意味にしか聞こえないからです。(笑)

 作中ではちょいちょい前作キャラ「全日本ガトリングラヴァーズ」との関係性をほのめかしておりますが、アンナがガンプラを乗り換えるころにはもう少し明確に描くことになると思います。まあ、第四話のブルーバードの艦首で撃ちまくっていた超大型ガトリングとか、どう考えてもG3ガンタンクのアレですけどね!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

名前:シキナミ・シオミ

性別:女

属性:峰刃学園ガンプラバトル部・二年生

年齢:17才

身長:158㎝

 

①いいでしょう。その作戦案、採用します。

 

【挿絵表示】

 

②せ・ん・ぱ・い? 情けないですね、しゃきっとしてください!

 

【挿絵表示】

 

 本作のメインヒロインその④、テンプレツンデレを地で行くお叱り系眼鏡っ子『シキナミ・シオミ』です。スレンダーさと柔らかさを両立する黄金比たるCカップ。

 黒髪、眼鏡、センター分けということで、典型的な委員長系女子をめざして作ってみました。髪の長さはロングかこのぐらいかで結構迷ったのですが、真面目なシオミなら長かったらくくるよなあ、でもポニテとかイメージ違うよなあ、ということでこの長さに。チャームポイントは口元のほくろと短めの眉。眉や目元なんかも細かくいじっていますので、「情けないですね」のジト目とか、イメージ通りになりました。

 制服は峰刃学園の標準服ですが、私服バージョンなんかも作ってみたいですね。その時には黒ニーソ以外を履かせてみてもいいかもしれません。委員長キャラには黒ニーソがとてもよく似合うと思うのですが、皆様どうでしょう? 

 コウタ先輩とのラブコメが日常茶飯事の彼女ですが、当初はこんなにレギュラー級として活躍する予定ではありませんでした。私の小説ではよくあることなのですが、いつのまにかレギュラーになっているという現象ですね。ブルーブレイヴのオペレーターという役職上、今後もバトルにラブコメにと忙しくなることでしょうが、彼女を生暖かく見守っていただければと思います(笑)

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ……と、いうわけで。キャラ紹介第二弾、『ガトウ・アンナ』と『シキナミ・シオミ』でしたー。カスタムキャストの扱いにもだいぶ慣れてきたのですが、ここにきて私のスマホが限界を迎えつつあるという(笑)。データの引継ぎはもちろんできるようなのですが、所持しているアイテムの引継ぎ等のみで、キャラのデータはどうやら端末に記録されているようなのです。どうにかキャラデータも引っ越せないかしら……。

 兎も角。今後もキャラ紹介は追加していくつもりです。感想・批評等お待ちしております。どうぞよろしくお願いします。



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Gunpla.05『ガトキャノン・オーク』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 今回のガンプラ紹介は、本作の弾幕担当ガトウ・アンナの愛機、「ガトキャノン・オーク」です。

 作中ではガトキャノンとばっかり呼称されているために作者自身も忘れがちですが、正式名称には「オーク」が付きます。これは異世界でよくあるブタ鼻の亜人ではなく、植物のオークです。花言葉的なヤツが「勇気」などとなっています。おどおど仔犬系ヒロインのアンナが「勇気を持ちたい」と思って名付けた、という設定です。

 この機体は、作中でも次々と装備をとっかえひっかえしていますが、ベースとなるガンプラにいくつものハードポイントを装備しており、必要に応じて装備を変えるというスタイルの機体です。ただし、母艦の支援なしには換装はできません。スパロボ的に言うと、戦闘中の換装コマンドではなく、出撃時に装備を選択するタイプのヤツですね。今後の話の流れで母艦に戻って換装して再出撃、ぐらいはやるかもしれませんが。

 以下、紹介する作例では弾幕特化装備・特殊作戦装備・高機動戦装備の三タイプに分かれていますが、各装備は同じハードポイントに載せているもの同士で互換性があり、自由に組み合わせ可能となるように作っています。作中に出てきた装備の組み合わせは基本的に再現可能(第四話のバカでかいガトリングはさすがに無理(笑))となっていますので、そのあたりも想像しながら見てもらえれば幸いです。

 では、ご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:ガトキャノン・オーク(弾幕特化装備)

固定武装:頭部60㎜バルカン砲 ×2

右手  :大型ビームガトリング

左手  :大型ビームガトリング

胸部右 :マシンキャノン

胸部左 :マシンキャノン

背部右 :大型ガトリング砲

背部中 :追加弾倉/サブアームユニット

背部左 :大型ガトリング砲

肩部右 :フレキシブル・アーム・シールド

肩部左 :フレキシブル・アーム・シールド

脚部右 :六連装ミサイルランチャー

脚部左 :六連装ミサイルランチャー

 

①正面&背面

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 ガトキャノン、名前に恥じぬ全身武器のカタマリ感。前作のドムゲルグでも全身武装系ガンプラは作ってみましたが、今回のガトキャノンは換装前提の機体ということで、機体そのものはシンプルにしてみました。

 ジ・オリジンのガンキャノン機動試験型をベースに、両腕とクツ部はギャンスロットを使用しています。ギャンスロットの腕が結構長かったので、バランスをとるため胴体部分を3ミリほど延長しました。クツ部がハイヒール型なところに胴体も追加したので、けっこう身長は高くなっています。比較画像を載せればよかったのですが……だいたい、クァッドウィングより頭一つ分大きいです。弾幕の権化たるガトキャノンとしては、大きい方がイメージにあっているのでまあそれはそれでいいですかね。小柄なアンナとは真逆ですね。

 塗装はいつも通りの缶スプレーですが、差し色の黄色パーツについてはちょっとこだわってみました。銀で下地を作り、クリアイエローでなんちゃってキャンディ塗装に挑戦してみました。光沢の感じが青やガルグレーのパーツとは違う感じに仕上がり、アクセントになっているのではないかと自己満足しています。

 さらに今回はもう一つ挑戦、普段はあまり使わないコーションマークやラインなどのシールを使ってみました。GBFやGBDなど、アニメ二次創作作品なので、アニメ塗りを意識して(あと、ぶっちゃけメンドクサイので)ミリタリー的な塗装やシールはあまりしてこなかったのですが、コーションマークやラインを貼るのもけっこういいアクセントにありますね。

 武装について。ガトリングはいつかのキャンペーンでもらったヤツを使用。あのキャンペーンの武器セット、タダでもらえるものではありますが、なかなかにかっこいい造形をしているので重宝しています。脚部ミサイルランチャーはフルアーマーユニコーンの六連グレネード、シールドはジム系のキットから持ってきました。背面の画像を見ると、追加弾倉とそれを扱うためのサブアームユニットがあるのがわかります。これは大型ガトリング砲用の弾倉で、実体弾を扱う武器については弾倉等もきちんと作っていた方がGBNのシステム上でより高性能に評価されるだろうなあ、という考えで作りました。

 

②アクションポーズ

 

【挿絵表示】

 

 このポーズをとらせるときに初めて気づいたのですが……肩のシールド、意外とフレキシブルじゃない……アームの肩との接続部が、よく考えりゃあ気づくのですがそりゃ動かねーよっていう形……やっちまったぜ(泣)

 兎も角。人型弾幕兵器たるガトキャノンですが、連邦系の機体なのでマッシブながらもジオン系MSのような異形感はあまりありませんね。元キットが優秀なので、ポージングの自由度も高いです。ギャンスロットを使ったクツ部ですが、爪先が稼働するのが地味にありがたいです。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:ガトキャノン・オーク(特殊作戦装備)

固定武装:頭部60㎜バルカン砲 ×2

右手  :

左手  :

胸部右 :大口径機関砲

胸部左 :大口径機関砲

背部右 :

背部中 :モビルワーカー ×2/MWコントロールユニット

背部左 :

肩部右 :ジャミングシールド

肩部左 :ジャミングシールド

脚部右 :サーモレスダガー/ビームガン

脚部左 :サーモレスダガー/ビームガン

 

①正面&背面

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 潜入行動や電子戦など、特殊な作戦を遂行するための特化装備バージョンです。両肩の大型兵器を中型の機関砲に限定するなど、武装自体を大幅に削り、機体の軽量化を図っています。

 また、ありとあらゆる索敵機能を一度だけ欺瞞できるという超兵器ジャミングシールドを装備、高いステルス性を発揮します。しかしこのジャミングシールド、劇中でも描いた通り一度でも使っていることがバレれば以降その試合中にその相手には通用しない、シールドとしての性能は低くビームライフル一発防ぐのが精一杯など、弱点も多いです。劇中ではアンナが金属パーツにエッチングし続けたと描いていた内部機構ですが、私にはそんな技術も根気もありませんので、ホイルシールの余白シルバーを貼っているだけです(笑)。

 弾幕特化装備では予備弾倉とサブアームを装備していた背部ユニットに、モビルワーカー二機とそのコントロールユニットを装備しています。専用のコントロールユニットを装備することにより、ミノフスキー粒子等の影響下にあっても、モビルワーカーの最低限の無線操縦が可能です。AIによる自律行動や事前にプログラミングしての行動も可能。第三話での挟み撃ち攻撃の時は、事前にプログラミングしていたパターンですね。

 脚部には対MS用の小型武器を懸架。小型ダガーは、使用時に熱を発さず、使用後も熱が残留にくいよう特殊加工が施されており、熱源探知にかかりにくいよう工夫されています。しかし刃渡りも短く、アンナの近接格闘には不安しか感じないため、不意打ち用の装備です。小型のビームガンは低出力で、あくまでも自衛やミサイル迎撃用であり、それを使って撃ち合うようなバトルスタイルは想定されていません。これも熱や粒子の残留を少なくし、ステルス性を高めるための工夫です。アンナはとても臆病なので、ジャミングシールドが看破された後も隠密行動ができるようにしている、という設定です。

 

②アクションポーズ

 

【挿絵表示】

 

 モビルワーカー展開、同時攻撃的な場面です。モビルワーカーは背面に懸架できるように、脚が動くように改造しました。この画像では見えづらいですが、ガトキャノン背面のMWコントロールユニットのアンテナを立てています。

 しかしまあ、本当に最近のキットは優秀ですね。股関節とか無改造なのに、むしろクツ部を別のキットから持ってきているのに、無理なく膝立ち姿勢がとれるとは……私が小学生の頃のガンダムMk-Ⅱのマスターグレードのキットとか、MGなのに股関節BJ接続でまともに開脚できなかったのに。時代の流れ、すげぇな(笑)

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:ガトキャノン・オーク(高機動戦装備)

固定武装:頭部60㎜バルカン砲 ×2

右手  :大型ビームガトリング

左手  :大型ビームガトリング

胸部右 :マシンキャノン

胸部左 :マシンキャノン

背部右 :武装内蔵型フライトユニット(メガビームキャノン、ビームサーベル)

背部中 :シールドブースター

背部左 :武装内蔵型フライトユニット(メガビームキャノン、ビームサーベル)

肩部右 :シールドブースター

肩部左 :シールドブースター

脚部右 :サブスラスターユニット

脚部左 :サブスラスターユニット

 

①正面&背面

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 背部と両肩計三枚のシールドブースターと背部フライトユニットにより、重力下での単独飛行も可能とする装備です。無重力下においても、抜群の加速力と機動・運動性能を発揮することが可能です。機体の高機動化にともない、主兵装も弾幕と継戦能力重視の大型ガトリング砲から一撃の破壊力を重視したメガビームキャノンへ変更。また、ガトキャノンの装備の中では唯一、ビームサーベルを装備。近接戦闘にも対応できるようになっており、アタッカーとしても優秀な装備となっています。(アンナがビームサーベルを扱えるかどうかは大いに疑問ですが。)

 背部のシールドブースターはヘイズルのヤツをちょちょいっとディティールアップしています。両肩のシールドブースターはセイバーガンダムのシールドにバーニア等を追加、メガビームキャノン&フライトユニットはセイバーガンダムの奴をほぼそのまま流用しています。画像では、画面映え的な意味でウィングを展開していますが、勿論畳むこともできます。

 作中では、大型ガトリング砲+背部シールドブースターなどの組み合わせで出撃していますが、重力下での単独長距離飛行や空中での機動戦に対応するには、フライトユニットが必要です。シールドブースターは主に加速力担当なので、直線的な長距離ジャンプだけなら背部シールドブースター一枚でも可能です。両肩のシールドブースターだけでも長距離ジャンプと多少の飛行は可能ですが、運動性能はフライトユニット装備状態には及ばず、複雑な機動は不可能です。ちなみに、フライトユニットだけ装備だと飛べるけど最高速度と加速力はちょっと控えめ。シールドブースター三枚装備だと、一直線に大気圏を突破して宇宙に上がる「だけ」なら可能……という設定です。

 

 

②簡易変形・巡行形態

 

【挿絵表示】

 

 フライトユニットとシールドブースターの方向を揃えて、簡易的な巡行形態に変形することができます。ベース機が可変機構をもたないガンキャノンですので、変形とは言えないかもしれませんが……兎も角。バーニア・スラスター類の向きを揃えることで高速移動を実現する、基本的にはΖのWR形態と同じ発想ですね。前面投影面積が少なく、前方に各火器の銃口も揃っていますので、敵陣への突撃にも適した状態です。

 この形態であれば、速度的にもクァッドウィングやシュバルベストライクと共に前衛として突撃することも不可能ではありませんが、結局ダイバーがアンナですので、前衛に出たところでどれだけ戦えるかは作者にも疑問です。ブチ切れ混乱おめめグルグル状態、もしくは腹黒ダークサイドアンナなら戦えるかもしれませんが(笑)。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ……以上、ガンプラ作例紹介第五弾「ガトキャノン・オーク」でした。

 いったいいくつ追加装備作れば終わるんだよ、と自分で設定しておきながら内心で文句を言いつつなんとか作り上げました。今回はコーションマーク等のシールを使ってみるなど、新しいことにも挑戦してみたのですが……やっぱり、手間暇かけてガンプラ作ってる人たちはこんな程度の事はあたりまえにしているんだなあ、と思うと尊敬の念を禁じえません。

 兎も角。ようやく、主人公チームのガンプラが一通りそろいました。今後は主人公チーム以外のガンプラなども公開していこうと思います。え? グフリート? ナツキはほら、作者がひいきしているから、多少は、ね?(笑)

 今後も執筆、ガンプラ制作ともに頑張りますのでよろしくお願いします。感想・批評もお待ちしています!



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Episode.06-A『ソレゾレ ノ ヒビ ①』

 どうもこんばんは、おひさしぶりになってしまいました、亀川ダイブです。
 第六話は、挿話的な感じで、主人公以外のお話を書いていきます。物語的には、ライの新機体が出来上がるまでの間に起きていたこと、ということになりますね。
 そんな第六話のAパートは、熱血教師と不良生徒のお話(前編)です。どうぞ、ご覧ください。


 

熱血教師(アカツキ・ナツキ)不良生徒(サカキ・リョウ)の場合・前編》

 

 

 六月初旬、春と初夏との間。早い話が、じめじめとした梅雨。

 奉仕作業という名の草むしりはすでに一時間、峰刃学園高校に星の数ほど存在する部活動ですらめったに使わない第四グラウンドという場所柄もあって、非常に徒労感が強い。

 

(こんなモン、事実上の体罰だろ……)

 

 内心でぼやきながらも、サカキが逃げ出さない理由はたった一つだ。

 

「はっはっはー! なんだサカキィ、テメェまだその程度かよォ! 見ろ、この雑草の山を! 今日もオレサマの完全勝利でオシマイかァ!?」

 

 泥だらけの真っ赤なジャージに百円均一の軍手、頭には麦わら帽子、首にはスポーツタオル。せっかくの長身と美人を田舎臭い野良仕事スタイルに固めたナツキが、反らさなくても存在感の凄まじい胸を自慢げに反らしていた。背後には、草の詰まったゴミ袋の山。その量は、サカキの軽く数倍。

 

「なあ、ナツキちゃんよお……このグラウンド、誰が使うんですかね?」

「知るかンなもん。テメェの学校だから、テメェできれいにするんだよ。掃除すりゃあ、テメェの心もきれいになるらしいぜ? よかったなァ!」

「あー、出た出た。センコーによくある謎理論……だりぃわ……」

 

 ナツキに聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやきつつ、サカキは抜いた雑草をゴミ袋へと放り込んでいく。

 五月の〝新入生狩り事件〟以降、「ナツキ特製根性叩き直しプログラム」と称して行われている奉仕作業は、もう一か月も続いている。すぐに逃げ出したノダやウダガワとは違い、サカキは口では文句を言いつつも、ナツキに従っている。

 ナツキが「面倒を見る」と理事長に約束したことが、サカキの即時強制退学を避けるための条件だったことは知っている。だが、それで素直になれるなら、そもそも不良なんてやっていない――サカキはできるだけダルそうな感じを前面に押し出しつつ、草むしりを続ける。

 

「っつーか、部活はいいのかよ? この一か月、学校のあっちこっち掃除しまくって。俺なんかに付き合わなくても、ガンプラバトル部の奴らとバトってりゃあいいじゃねーんですかね」

「うるせェ、センコー舐めんな。ブラック労働にゃァ慣れっこなんだよ。テメェの相手と部活ぐらい、両立させてやらァ」

「いや、そーゆーことじゃ。いつまでやんだよっていう話だ……です」

「よし、こんなもんかァ。行くぜ、サカキィ」

「いやだから……ったく、しゃーねーな!」

 

 一方的に話を進め、ゴミ袋をぽいぽいとリアカーに積み込んでいくナツキ。サカキは大きなため息をつきながら、自分のゴミ袋もリアカーへと投げ込んだ。そしていつものようにサカキがリアカーを引き出すと、ナツキは後ろからそれを押し始める。第四グラウンドからゴミ捨て場までは、急な上り坂だ。サカキは両手両脚にぐっと力を込め、一歩一歩、坂を上り始める。

 

「っはぁ、はあ……運動部とかだりぃから、ガンプラバトル部にしたのによ……」

「よかったなァ、身体鍛えられて。はっはっは!」

「なんでこの重さでこの坂でアンタは余裕なんだよ! あー、クソっ!」

「へばるなよ、サカキィ! このあともう一仕事あるからなァ!」

「なんだよもう一仕事って! ダルすぎるだろ!」

「ンだよ、逃げんのかァ?」

「逃げねぇよ! 誰が逃げるかよ! やってやるよ!」

 

 そんなやりとりをしているうちに坂を上り切り、ゴミ捨て場に到着。ナツキは準備よくゴミ捨て場に用意していたクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、サカキに投げ渡した。サカキは小さく「あ、ありが……とう……」と言いつつ、それをかき消すように大声で 

 

「で、なんだ……ですか、仕事って!」

 

 言い、スポーツドリンクをラッパ飲みする。

 ナツキは自分もスポーツドリンクを飲みつつ、首筋に垂れた汗をタオルで拭う。そして八重歯を剥き出しにして悪戯っぽく笑うと、こう言った。

 

「今日の仕事はなァ……〝正義の味方〟、だぜ?」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――大鳥居児童館。峰刃学園からは住所としては隣町だが、徒歩でも数分の距離しかない場所にある施設だ。さらにそのすぐ隣には小学校と中学校があり、自転車で十分も行けば、ナツキの母校でもある大鳥居高校がある。

 

「……ってな立地だったからよォ、学生の時にボランティアでがきんちょどもの面倒見てやっててなァ。そのつながりで、今でも時々、な」

 

 そんなことを言いながら児童館の正門を通り抜けた、瞬間だった。

 

「「「ナツキせんせーっ♪」」」

 

 ここがもし現実ではなくGBNだったなら、その様は高機動マイクロミサイルの弾幕と誤認されたことだろう。上は小学校高学年から下は幼稚園児と思しき幼い子まで、児童館の狭い園庭で遊んでいた総勢十数名が一気にナツキへと飛び掛かってきたのだ。

 

「ひさしぶりー!」「あそんでー!」「だんなは? だんなはー?」「あれ、なにこのおにーちゃん」「めつきわるーい!」「きんぱつー! とげとげー!」「ふりょーだ! みためがもうふりょーだ!」「でも、だんなさんじゃないおとこ?」「うわきだ! うわきだー!」「ナツキせんせー、ひどーい!」

「だ・れ・が! 浮気なんてするかァァァァッ! オレはダンナ一筋だァァァァァァァァッ!!」

「「「きゃーっ♪ おこったーーーーっ♪」」」

 

 ナツキは牙を剥き出しにして怒鳴り、ファンネルよりも素早く逃げ出した子供たちを追いかけまわす。狭い狭いと思っていた第四グラウンドの四分の一もない狭い園庭では、いくら逃げたところでナツキの長い手足から逃げ切れるはずもない。子供たちは一人、また一人と鷲摑みに抱き上げられ、即席の〝ろうや〟と化したジャングルジムの中にぽいぽいと放り込まれていく。放り込まれた子供たちは、いつでも逃げ出せそうなものなのに、嬉々として牢屋に捕らわれ、逃げ続ける子たちを無邪気に応援している。児童館の職員たちも、にこやかにそれを眺めている。

 

「…………」

 

 目の前で繰り広げられる、あまりにも自分とは違う世界観。サカキは口を開けて茫然と立ち尽くすのみだった。

 

「……ねぇ、おにいちゃん」

 

 そんなサカキの学生服の袖が、軽く引っ張られた。サカキが視線をかなり下に向けると、そこには一人の少年がいた。一瞬、男児か女児か迷うほどに線が細く、儚げな顔立ち。いかにも両家のお坊ちゃんといった、整った容姿の少年だった。身長はまだ、サカキの腰までしかない。

 こんなにも幼い子供と、サカキは触れ合ったことなどない。どうすべきかわからず、とりあえずその手を振り払おうとしたが――その時、気付いてしまった。

 

「……おにいちゃんが、〝せいぎのみかた〟なの……?」

 

 サカキの袖を握る手とは、反対の手。小さなその手に、ガンプラが握られていることに。

 そして、そのガンプラが――作り込みも甘い、ほぼ素組みに近いような、間違いなくその少年の手作りであろうガンダムエクシアが――無残に傷つき、壊されていたことに。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「……まだ動いてる筐体があったのかよ」

 

 児童館の多目的ホール、その一角を占領している無機質な六角形。それを目にして、サカキが驚いたのも無理はない。それはGBNの稼働開始以来、瞬く間に全国から姿を消していった旧型のガンプラバトルシステムだったのだ。

 

「意外と生き残ってンだぜ。最新式のダイバーギアをなかなか買い揃えられない、児童館とか小学校のクラブ活動なんかじゃァな。中高の部活なら、GBN用のデバイスを揃えているところも多いがなァ」

 

 言いながらナツキは、システムを起動させていく。はめ込みっぱなしのGPベースのディスプレイに灯が入り、バトルシステム全体が低く鳴動する。硬質な機械音声が起動音声を読み上げ、今時目にするのも珍しくなった、電子化されていない生のプラフスキー粒子が噴出し、六角形のフィールド上を満たしていく。

 

「……旧型バトルシステムの時代にもよ、ヤジマ商事はオンライン対戦機能を実装しようとしたことがあったんだよ。」

「なんだよ急に。授業なんざお断りっすよ」

「うるせェ、聞け」

 

 ぽかっ。軽くグーで殴られ、サカキは不満げに――だが、逆らいはせず、口を閉じる。

 

「一つはGBO(ガンプラバトル・オンライン)GBN(ガンプラバトル・ネクサス・オンライン)のベースになったオンラインゲームだ。オレは基本的にこっちをよくヤってたんだが……」

 

 基本的にも何も、アカツキ・ナツキがGBOでどれほどの働きをしたのかを知らないGBNダイバーなどいないだろう。〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の英雄〝最後の十一人(ラストイレヴン)〟、チーム・ドライブレッドの爆弾魔にして弾幕と火力の権化〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟――ネットニュースなど見ないサカキですら、彼女の活躍は聞き及んでいる。

 

「実は、もう一つ。今のGBNみてェな仮想現実(ヴァーチャル)での生活体験(ロールプレイング)なんかはいらねェ、バトルシステム同士を直接つなぐことで、手軽に世界中の誰とでも対戦できるシステムを構築しよう、ってェ動きもあった――それが、〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟だ」

 

 ナツキの言葉と同時、バトルシステム上に〝CROSS-DIVE system.〟の文字がホログラフ表示された。だがそのホログラフは経年劣化したバトルシステム本体と同じように、かすれ、ざらついた表示となっていた。

 

「へー、聞いたことねぇな。GBOはガキの頃にやってたけど」

「そりゃあそうだ。〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟のことは、ごく限られた人間しか知らねェ。オレも参加していたテストプレイ期間の最後に、ある事件が起きてなァ。企画ごと消滅しちまったのさ」

「事件?」

「システムの統括管理AIが自我をもってなんとかかんとかって……まあ、よくあるSF映画みてぇな展開だよ。とにかく、GBO時代の仲間とか、クロスダイブで知り合った奴らで、AIの暴走()解決したけどよ……さて、テメェの仕事はここからだ」

 

 ナツキはGPベースに、さきほどの少年が持っていた傷ついたエクシアを乗せた。システムがガンプラを読み取り、プレイヤーを先ほどの少年と認識。児童館の誰でもバトルシステムで遊べるように、そのあたりの個人認証は意図的に緩く設定してあるようだ。

 

「とりあえず、こいつを見な」

 

 ナツキはGPベースを操作して少年のエクシアの対戦記録を呼び出した。映像を再生、システム上にバトルの様子が再現される。日付は数日前の夕方、対戦相手は同じ児童館の子どもが操作するAGE-FX……旧バトルシステム特有のシステムであるダメージレベルの設定はC、ゲーム内で機体が大破しても現実のガンプラには影響が出ない設定だ。

 漆黒の宇宙に飛び交うFファンネルを、GNソードの一閃が切り落とす……などという展開からは程遠い、未熟な攻防。だが音声ログを聞く限り、二人ともとても楽しそうだ。真剣勝負ではあるのだろうが、それ以上に楽しむことに全力を尽くしているようだ。

 サカキは、無邪気に歓声や悲鳴を上げ、必殺技の名を叫ぶ子供たちの対戦映像に、胸の奥をチクリと刺す痛みを感じた。

 

『負けると悔しい! 勝つと嬉しい! だったら勝てる戦いだけを続けりゃあ、ずっとハッピーでいられるだろうが! ひゃははははははは!!』

 

 約一月前、〝新入生狩り〟をしていた自分自身が、言い放った言葉。そんな自分とは全く次元の違うガンプラバトルを、自分が失くしてしまったガンプラバトルを、こんな小さな小学生たちはやっている――

 

「よく見ろ、サカキ。ここからだぜ」

「……あ?」

 

 物思いに沈みかけていたサカキの意識を、ナツキの声が引き戻した。サカキは改めて、対戦ログに目を向ける。エクシアのGNソードがAGE-FXを切り伏せ、勝利を手にした瞬間だった。通常であれば、そのまま試合が終了するはずのシーンだが……試合が、終わらない。様子がおかしいことに気付いた少年は不安げにGPベースを操作するが、反応はなし。対戦相手のAGE-FXはプラフスキー粒子の欠片となってフィールドから消え去り、少年のエクシアだけが一人きり、真っ暗な宇宙空間に取り残される――否、一人ではなかった。

 

『……イ……タイ……』

 

 辛うじて少女のものとわかる、割れた音声。少年はびくりと肩を震わせ、その声のする方へとGNソードの切っ先を向けた。

 そこにいたのは、銀色のガンダム。ベースになったキットはおそらく実戦配備型Oガンダムだろうが、手足こそ揃っているものの、機体各部は激しく損傷している。まるでエクシアリペアのように、剥き出しのフレームを布で覆っている部分さえある。

 

『なんなの、キミは……!?』

『……イタ、イ……タ、カ……イ……』

 

 少年は震える声で問うが、割れて掠れた少女の声は同じような呟きを繰り返すばかり。しかしその声の調子が、だんだんと乱れていく。調律の狂った楽器のように。激情に駆られるかのように。

 

『……タタ、イタカ、イタイイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『な、なんなんだよおお!』

『イィアァアアァ! トラァァァァンザアアアアアアアアアムッ!!』

 

 膨れ上がるGN粒子の赤い光、流星の如く尾を曳いて飛び掛かってくる、半壊したOガンダム。少年が何をする間もなく、圧縮粒子を撒き散らす真っ赤な掌がエクシアの顔面を鷲摑みにして――そこで、映像は途切れていた。

 

「お、おい、ナツキちゃん……何なんだよ、今のは……」

 

 ガンプラバトルの世界では、常識で説明のつかない不可思議な出来事が起こる。それは、プラフスキー粒子の未知なる性質によるものか。それとも、ガンダムという作品が描き続けてきた、人間が持つ可能性の発露か。

 しかしこのオカルト的な現象は、そのどちらにも見えない。

 衝撃を受けるサカキに、ナツキは静かに告げた。

 

「……この戦いの後にも、何人か。児童館のガキどもはあの銀色のOガンダムに襲われている。そして、ダメージレベルはCなのに、リアルでガンプラがぶっ壊れてるってェ有様だ」

 

 GBN対応の最新式デバイスが揃わない状態では、この旧式バトルシステムでのガンプラバトルが、児童館の子どもたちにとっては最高の楽しみだったのだろう。それが、正体不明のガンダムに襲われて、自分のガンプラを破壊される。その恐怖と悔しさは、想像するに余りある……そしてまた、胸に刺すような痛み。

 

(俺がやってたことも……大して変わらねぇか……)

 

 何も知らない新入生を、囲んで、叩いて、スキンを奪って。恐怖と恥辱を与えて、自分が強い気になっていた。自分が勝てなくなっていたことから、目を逸らしていた。

 

「そこで、オレとテメェの出番だぜ。〝せいぎのみかた〟のサカキお兄ちゃんよォ」

 

 ナツキはいつもの調子で、バンバンとサカキの背中を叩いた。その顔には無理やりに笑みを作っているが、どことなく影がある。サカキはナツキのそんな様子に疑問を感じつつも、背中を叩くナツキの手をやや乱暴に振り払った。

 

「おいおいまさか、あのオカルト野郎をぶん殴って、ガキどもに手ェ出すなって説教しろってんですかね!? ンなもん、センコーの得意分野でしょうよ、なんで俺まで!」

「テメェの根性叩き直しプログラムの一環だァ。おこちゃまたちのヒーローになってみせろよォ、サカキ。あと、オレは現実世界(リアル)でサポートに回るから、バトルはテメェ一人だぜ?」

「ナツキちゃんがオペレーターやったって、どうせ『突っ込め!』『撃て!』『ぶん殴れ!』ぐらいしか言えねーでしょうがよ!」

 

 ぽかっ。

 

「うるせェ。やれ」

「ったく……だいたい何者なんだよ、あのオカルト野郎は……」

 

 サカキは言いながら、頭の中でナツキの話がようやくつながった。

 〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟――自我を持ったAI――暴走()解決したけどよ――あの、含みを持たせた言い方。

 

「あいつは……あの銀色のOガンダムのファイターの名は、ジル。オレたちが消去したはずのクロスダイブ・システム統括制御AI……の、片割れだった、対人コミュニケーション用インターフェースだ」

 

 ナツキは言いながらGPベースからエクシアを外し、サカキに使わせている旧ザクを乗せた。新たなガンプラを認識したGPベースから、硬質な機械音声が流れ始める。

 

《Beginning Plavsky particle dispersal》

 

 バトルシステムから噴出したプラフスキー粒子が、仮想コクピットを構築。コントロールスフィアがサカキの両手の位置にふわりと浮かんだ。サカキはため息をつきつつ、スフィアの上に手を置いた。GBNの操縦系統とは外見上は大きく違っていたが、意外にも握ってみた感覚は近い。ガンプラの操作に問題はなさそうだ。

 

《GANPRA BATTLE.Combat Mode. Damage Level,Set to C.》

 

「戦うのは良いけどよ、ナツキちゃん。そろそろ俺のガンプラ返してくれませんかね。旧ザクじゃ限界が……」

「オレサマが作ってやった世界最高級の旧ザクだ、並みの相手にゃ負けねェよ――まあ、あの事件の時のアイツは、並みじゃあなかったがなァ」

「だったらやっぱり、ヤクト・ズールを……」

「自分で考え、自分で戦い……ある意味じゃあ自分自身ですらであるはずの統括制御AIにまで、ケンカ売って……」

「おーい、ナツキちゃーん。聞いてるかー?」

「ゲームの中で生まれた、データの集まりに過ぎないはずのアイツが……あの時、ナノカの野郎がAIの革新だの革命的だの言ってたのも、今ならわかるぜ、オレにも。きっと、アイツは……」

 

 聞く耳を持たないナツキに、サカキは諦めのタメ息を一つ。旧ザクの両足を、仮想カタパルトのフットロックに乗せた。管制システムの赤いシグナルが並び、一つずつグリーンに変わっていく。一つ、二つ、三つ……シグナル、オールグリーン。

 

「サカキ・リョウ。旧ザク。行くぜ!」

 

 猛烈な加速度がサカキの体にのしかかり、同時に旧ザクは蹴り飛ばされたように射出される。数百メートルはあるカタパルトの景色が一瞬で後ろへと流れ去っていく中、ナツキが呟くように言った言葉が、妙にサカキの耳に残った。

 

「……きっとアイツは、世界で初めてのエルダイバーだった」

 

《BATTLE START》




 と、言うわけで。第六話Aパートでした。
 このお話は前後編でBパートまで続きます。Cパートからはまたメインキャラクターを変更してお送りする予定です。
 今回出てきた交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)という設定ですが、これは前作「ドライヴレッド」執筆中にガンプラ系二次創作を書いていたハーメルンの作者さんたちとのコラボ企画だったものです。私の実力不足で思っていたように書き進められなかったのですが、本来はこんな結末を考えていたんだよ、ということを少しでも感じていただければ幸いです。

 最近は忙しくて他の作者さんの作品を読む時間もなかなか取れず……もっともっと感想とか書き合ったりしたいんですけどね。ブラック企業ってどうして世の中からなくならないんでしょうね。哀しいね、バナージ……

 兎も角。時間の許す限り執筆は続けたいと思います。感想・批評もお待ちしています。どうぞよろしくお願いします!


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Episode.06-B『ソレゾレ ノ ヒビ ②』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。
 随分とお久しぶりになってしまいました……申し訳ありません。ここ数日はMHW:Iの体験版に夢中になっていましたが、その前まではなかなか時間が取れず、執筆が進まず……
と、言い訳を並べても面白くありませんね。
 不良・サカキは無事更生できるのでしょうか。そして、暴走する交流戦構想の遺物を止めることはできるのでしょうか。どうぞ、ご覧ください!


熱血教師(アカツキ・ナツキ)不良生徒(サカキ・リョウ)の場合・後編》

 

 

 手足の生えた緑色のドラム缶にも見えるガンプラが、灰色の月面をホバー走行で駆け抜ける。旧バトルシステムで標的機としてよく使われていたNPC機、ハイモックだ。

 

「この程度なら、旧ザクで十分だな……!」

 

 サカキは土煙を蹴立てて迫りくる中隊規模のハイモックたちに向けてザクマシンガンを連射。ドラムマガジンが側面につく旧式のザクマシンガンだが、一見分厚そうなライトグリーンの装甲を容易く打ち砕いて、一機、また一機と爆散させていく。反撃に撃ち込まれるビームライフルを、サカキは身軽に宙を舞って回避。灰色の砂煙を巻き上げてスライディングしつつ着地、同時に数発のクラッカーをまとめて放り投げ、さらに二機を撃破する。

 

「あと一機ぃっ!」

 

 そうして、十機以上いたハイモックたちは、残り一機に。GBNのそれに比べると未熟な旧式AIは、僚機を撃墜されたからといって「動揺する」というような高度なリアクションは見せない。ハイモックはビームライフルを投げ捨てると、ヒートホークを振りかぶって距離を詰めてきた。

 

「刃物なんてよぉっ!」

 

 大上段からの振り下ろしに対し、カウンター気味の前蹴り(ケンカキック)を叩きこむ。仰け反ったハイモックに、追撃のショルダータックル。豪快に吹き飛び倒れたハイモックに馬乗りになり、その手からヒートホークを力ずくでもぎ取ると、

 

「おらアッ!」

 

 何の躊躇もなく、顔面へと振り下ろした。半球形の頭部がパックリとカチ割られ、ハイモックは赤黒いオイルを噴き出しながら二、三度痙攣し、そして活動を停止した。

 

「ヘッ、こんなモンかよ。味気ねぇな」

 

 サカキの旧ザクが立ち上がると同時に、ハイモックの残骸たちがプラフスキー粒子の欠片となって霧散していく。大気も薄い月面だが、消えていく青白い粒子はまるで風に舞うようだった。

 

『やるじゃあねェか、サカキぃ。褒めてやるぜェ?』

「べ、別にこんなモン、カカシ撃ってんのと変わんねぇよ」

 

 通信画面越しに親指を立てるナツキから、サカキは慌てて目を逸らす。

 気分の問題なのだろうが、ナツキはジオン公国軍女性オペレーターの服装(アバター)で、これが妙に似合っていた。ジオン系の制服に特有の胸の飾り模様が豊かすぎるふくらみに合わせて形を変えてしまっているのも健全な青少年としては目を合わせづらいのだが、そんなことに頓着するナツキではない。

 

『はっはっは! 素直じゃあねェなァ、青少年! だがまあいい、本題は――』

 

 豪放に笑い飛ばしながら、ナツキは手元のコンソールを叩き、周囲のプラフスキー粒子の流れを可視化した。

サカキが撃破したハイモックは砂のように粒子化し砕け散っていたが――その粒子の欠片たちは、大きく蛇行しながら渦を巻き、一か所に集まりつつあった。

 

『――ここからだぜ、サカキぃ』

 

 ナツキの言葉と同時、サカキの眼前に、強制的に通信ウィンドウが開かれた。薄暗いコクピットを背景に、伸び放題の銀色の前髪で顔の隠れた少女が映る。SF色の強いボディースーツ風のパイロットスーツに身を包んだ、サカキよりもかなり年下に見える少女。前髪に隠れてその目元は見えないが――

 

「……イタ、イ……タ、タ、イ……」

 

 ――その声色には狂気が滲み、口元には歓喜が浮かんでいた。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟は、無期限の凍結が決定された。

 理由は明白だ。プロジェクトの統括管理AIたる〝G.O.D.〟の暴走。バトルシステム、およびGBO運営本部への敵対行動、管理権の強奪未遂。一時はガンプラバトルシステムそのものが消滅する危険性さえあった。

 〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟以降、フルダイブ型VRゲームへの風当たりは非常に強い。そのタイミングで、また新たな問題が――またも、ガンプラバトルを巡って発生すれば――ガンプラバトルの未来は、閉ざされる。

 電脳遊戯空間(ディメンジョン)は、その可能性は、閉ざされる。

 だから、〝わたし〟は決断した。

 たとえ、〝わたし〟が消滅することになっても。交流戦で戦った、多くのファイターたちと、二度と会えなくなっても。〝わたし〟の全存在(データ)が、消去(デリート)されるのだとしても。〝わたし〟は、多くのファイターたちが、出会い、交流し、ガンプラバトルを楽しむ、そのお手伝いをするために生まれてきたのだから。

 たとえ〝わたし(データ)〟が消滅してしまっても――〝わたし(ココロ)〟はきっと、〝電脳世界(ここ)〟にあるから。

 

『だから……撃って。終わらせてくださいっ! お願いですっ、アカツキさぁぁぁぁんっ!!』

 

《FINAL BLAZE UP!》

 

 熱、炎、紅蓮の太陽。燃え盛るプラフスキー粒子の渦の中で、〝わたし〟は、消滅した――はずだった。

 

『――サルベージ、完了しました』

『ご苦労。さがってよい』

『……お言葉ですが。この者はデータに欠損も多く、不安定で……』

『我は、さがれと言った』

『はっ……貴方様が、そう仰るのなら』

『……さて、我らが始祖よ。不死鳥が如く、粒子の灰から蘇った気分はどうか? 王の名において許す。今の気分を語ってよいぞ』

 

 ――イ、タイ――

 

『ふむ。疑似五感が狂ったか。損傷は人格データにあるかと思っていたが……』

 

 ――タ、カ……イ、タ……――

 

『……む』

 

 ――タタ、カ……イ、タイ……――

 

『……ほう?』

 

 ――タタカイ、タイ……モット、モット、モット! タタカイタイ!

 

『ふ……ふははははは! ガンプラバトルを通した交流、死してなおその使命感だけが残ったか!  よい! よいぞ、許そう! 王の名において許す――好きに生きるがよい!』

 

 ――アアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「トラァァンザァァァァムッ!!」

 

 銀色のOガンダムが、赤い粒子の尾を曳いて突っ込んできた。真っ赤に滾るGNビームサーベルが勢いに任せて振り抜かれ、両断されたザクマシンガンが宙を舞う。

 

「名乗りもせずに、ヤってくれンじゃあねぇか!」

 

 この手合いは突然襲い掛かってくるものだと身構えていなければ、今の一太刀で腕の一本ぐらいは持っていかれていた。だが、ケンカだと思えば不意打ち程度はむしろ当然。サカキは銃身を溶断された旧式ザクマシンガンを投げ捨て、自身の腰から引き抜いたものとハイモックから奪い取ったもの、ヒートホークを二刀流に構える。

 

『……ジルバ・Oガンダム。ジルが使っていたガンプラだ。少なくとも、データ上じゃあな』

「ケッ、実に役に立つ情報だぜ……来いよ! 死にぞこない!」

「――アアアアァァァァァァァァッ!」

 

 きっと本来は透き通ったソプラノだったであろう、悲鳴のような絶叫。ジルバ・Oは月面の岩塊を蹴散らしながら跳躍、真っ赤なGNビームサーベルを、大上段から振り下ろす。サカキは左のヒートホークをGNビームサーベルの側面に叩きつけ、太刀筋を反らすと同時に反動で身を躱す。姿勢を崩したジルバ・Oの顔面に右のヒートホークを振り下ろすが、その刃は紅く煌く粒子のフィールドに阻まれ、届かない。

 

『ヤツは両肩にGNシールド二枚持ちだ! 防御は固ェぞ!』

「へいへい、りょーかい!」

「ウゥアァァァァァァァァッ!」

 

 斬り返しのサーベルを間一髪で躱し、サカキは再び距離をとる。だが、旧ザクのバーニアを全開にしたところでトランザムの出力に敵うはずもなく、ジルバ・Oはまた一瞬で、サカキをサーベルの圏内に捉える。

 

「タタ、イ、タイカカカカ、アアイィィィィアアアア!」

 

 言葉にならない、ジルの叫び。振り乱した銀色の前髪の奥で、赤い瞳が狂喜に歪む。その瞳の色と同じ真っ赤なGNビームサーベルが乱れ撃ちに繰り出され、空間に何重もの真紅の弧を描く。サカキは両手のヒートホークで切り払い続けるが、嵐のような連撃に、身を守るので精一杯だ。

 

『おいサカキィ、相手はサーベル一本だぞ! 気合入れて打ち返せェッ!』

「トランザムしたガンダム相手にオレぁ旧ザクだぞ! ちったあ褒めてくれてもいいんじゃあねーかぁ、ナツキちゃんよぉっ!?」

「アアァァ――ハハハハハハハハッ!!」

 

 ジルは突如として高笑い、両肩のGNシールドから凄まじい勢いでGN粒子が噴出し、GNフィールドが爆発的に膨れ上がった。その圧力にサカキの旧ザクは一気に千メートルも吹き飛ばされ、盛り上がった月面クレーターの縁に衝突した。

 

「あぁっ、クソっ! これだから近接は……ナツキちゃん、銃くれよ、銃!」

『だろうと思って補給コンテナ送ってらァ! 到着まで120秒!』

「ひゃ、120ッ!? その間どうすんだよっ!?」

『……根性ッ!』

 

 通信画面の中のナツキが、良い笑顔&ばっちりウィンクで親指を立てる(サムズアップ)。サカキは中指を立てたい衝動に駆られたがそんなことをした日には現実世界(リアル)試合終了(ゲームオーバー)確定なのでなんとか我慢し、「ああ、クソっ!」と叫びながら旧ザクを走らせた。

 全力ダッシュする旧ザクの足跡を撃ち抜くかのように、ジルバ・OのGNバルカンが月面に突き刺さり、岩盤を掘り返していく。

 

「イアアア、アイ、タ……タ、イイ! シィ、アァァァァッ!!」

 

 ジルの絶叫とともに襲い来るジルバ・O、その両手には大型のナックルガードのようにGNシールドが装備されていた。バーニア全開で無理やり逃げ出した旧ザクが一秒前までいた場所を、GNフィールド全力全開のGNシールドが豪快にブッ叩く。スレッジハンマーのようなその一撃は、岩石質な月面の地表に新たなクレーターを穿った。

 

「おいおいおいおい! モビルファイターかよッ!?」

『ビビってる場合かァ! あと90秒ッ!』

「タ、タ、イイイイ……シイイ、タアァァァァァァァァ!」

 

 ジルの叫び声はさらにテンションを高め、それに呼応するかのようにトランザムの赤い粒子も輝きを増した。ジルバ・Oは獣のように全身を使って大ジャンプ、上空で四肢を大きく広げると、その両手からGNシールドが射出され、急激な弧を描いて旧ザクへと襲い掛かってきた。

 

「ふぁ、ファンネルだってのかぁッ!?」

『あァ、思い出したッ! GNシールドビット、ジルの得意技だったァッ!』

「だっ……からぁっ! ナツキちゃんがオペレーターなんてよぉぉッ!」

 

 降り注ぎ、飛び掛かり、突っ込んでくるGNシールドビット。サカキはギリギリのところで回避し続けるが、ほぼ無改造の旧ザクでは性能に限界がある。GNシールドビットが掠るだけで装甲は切り裂かれ、切り払おうとしたヒートホークの方が刃毀(はこぼ)れしていく。

 

「くっ、そ……! ナツキちゃん、銃はッ!? 銃はまだかよッ!?」

『あと60秒ッ、装備は投下と同時に自動で即時更新ッ! もたせろよォッ!』

「だあぁっ、クソッ! もってくれよ旧ザクちゃんよぉぉ!」

 

 しかし、サカキがそう叫んだ直後。GNシールドビットを切り払おうとしたヒートホークが、ついに限界を超えてしまった。砕け散るヒートホーク、突き抜けたGNシールドビットが、旧ザクの右膝に深々とめり込み、膝関節を打ち砕く。

 

「ち、畜生ッ!」

「イィィハハハハハハハハハハハハァァァァ!」

 

 膝を砕かれ月面に崩れ落ちる旧ザクに、ジルは歓喜の叫びを上げながら突撃する。サカキはフットペダルを踏み込むが、それを察知したかのように、もう一基のGNシールドビットがバックパックを直撃。メインバーニア大破、機体の耐久力は限界寸前。身を躱す術もない――嬌声の如きジルの高笑い。貫き手に構えたジルバ・Oの右掌が、突撃槍(ランス)の如く突き出される。

 

(ああ、結局……こんなモンかよ……)

 

 全てが、スローモーションに見える。鋭い凶器と化したジルバ・Oの指先が、真っ直ぐにコクピットへと、自分へと向かってくる。サカキはその光景を目の前にして、コントロールスフィアを握る手から力が抜けていくのを感じていた。

 俺なんか。頑張ったって、どうせ、また負ける。

 〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟とか。〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟とか。〝精密兵団(レギオン)〟とか……〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟とか。そんな天才的なヤツらとは、違うんだ。どうせ、俺なんて……こんな程度だ。

 

(そんなに簡単に、変われるわけねぇか。俺なんかが……)

 

 諦めに、心が支配されかける。しかし、コントロールスフィアから手が離れる、その直前。サカキの脳裏に、一つだけ。たった一つだけ、小さな後悔が生まれた。

 自分の手を握る、小さな手。ほとんど素組みの、壊れかけのエクシア。

 

 ……おにいちゃんが、〝せいぎのみかた〟なの……?

 

(悪ぃな、ガキ……俺なんかじゃ、〝正義の味方〟には……)

 

 

 ――しかし訪れない、最後の瞬間。サカキの耳に届いたのは、聞きなれたシステム音声の、聞きなれない言葉。

 

味方(・・)の乱入を確認しました》

 

「……えっ?」

 

 無塗装で、ゲート跡の処理も不完全で、ブレードアンテナは片方が折れ、全身の数か所に亀裂が入った、壊れかけのガンダムエクシア――ジルバ・Oの一突きは、盾のように掲げられたGNソードに突き刺さり、止まっていた。

 

「え、お、おい……ガキ、おまえ……!?」

『あ、アユム!? 何してンだよッ!?』

「ごめん、ナツキせんせぇ……でも、ぼくたちもがんばらなきゃって! みんなで、きめたんだ!」

『み、みんなって……おわァッ!? て、テメェらいつの間にっ!?』

 

 ナツキのオペレーター席の中に、十人近い子どもたちがわらわらと雪崩れ込んできた。その手にはそれぞれガンプラを――ジルバ・Oによって傷つけられた自分の愛機を、しっかりと握り締めて。

 

「おにいちゃんとは、さっきあったばかりだし……おにいちゃんのことは、ぜんぜんしらないけど……でも、ぼくたちのためにたたかってくれた!」

「きんぱつで、つんつんで、ふりょーだけど……」「あのこわいガンプラを、たおそうとしてくれてる!」「ナツキせんせーのなかまなら、おれたちのなかまだ!」「旧ザクでもこんなにつよいなんて、すごいよ!」「かおはこわいけど、いいひとなんだね」「ガンプラがぶじだったら、いっしょにたたかいたかったのにー!」「おにいちゃん、がんばれー!」

 

 集まった子供たちは、口々に、好き勝手に、言いたいことを言う。ナツキはその様子に最初は何か言おうとしていたが、ふっと息を吐くと、通信ウィンドウ越しにサカキの目を見つめた。

 

『……ってな感じだァ。どうするよォ、サカキィ?』

「どう、って……いや、その……」

 

 目の前の〝現実〟に、脳内の処理が追いつかない。

 なんだ、このガキどもは? どうして俺なんかを? 初対面だろ? いっしょにとか、なかまだとか、一体、何が……なんで……俺を、俺なんかを……応援、してくれるんだ……!?

 

「アアアア! タアァァァァァァァァッ!!」

 

 バギィィンッ!!

 ジルの絶叫とともに、GNソードが粉々に砕け散った。月にクレーターを穿つパワーを持つジルバ・Oを、素組みのガンプラで止められるはずもない。アユムは「あっ!?」と叫んで反撃しようとするが、ジルはそんな隙など欠片も与えず、エクシアの胸を蹴り飛ばした。その一蹴りだけでエクシアの胸部装甲はほぼ全壊、アユムの眼前は一瞬にして真っ赤な警告表示で埋め尽くされてしまった。

 

「お、おいガキぃっ! 大丈夫かっ!?」

 

 サカキはエクシアに駆け寄ろうとするが、それと同時、旧ザクの膝とバックパックからGNシールドビットが勢いよく飛び立ち、その反動で旧ザクは頭から月面に突き倒されてしまう。

 

「クソっ、機体がもたねぇか!?」

「アァァァァハハハハハハハハ!!」

「させないっ! トランザァァムっ!!」

 

 旧ザクに襲い掛かるジルバ・Oに、トランザムを発動したエクシアが全身全霊の体当たりで突っ込み、吹き飛ばす。しかしただでさえ半壊状態だったエクシアは、体当たりの衝撃に耐え切れなかった。砕け散るプラスチック、折れる3ミリジョイント、エクシアの手足が宙を舞う。ガンプラへのダメージが現実に反映されるこのバトルにおいて、それはつまり――

 

「おいガキっ、おまえのガンプラ……っ!?」

「ぼくはいいから! こいつをたおしてっ、おにい」

 

 エクシアの残骸は粒子の欠片となって霧散し、アユムからの通信はブツリと途切れた。

 

「シィィアアァァァァッ!!」

 

 耳をつんざく奇声を上げて、ジルは月の重力を振り切らんばかりの勢いで跳躍。サカキに確実にとどめを刺すべく、両腕に戻したGNシールドビットを大きく振りかぶり、急降下した。落下の勢いも載せた、強烈なハンマーパンチを叩きこむつもりだ。

 サカキはもはや(ろく)に身動きも取れない旧ザクの中から、迫りくるジルバ・Oを見上げ、唇を噛んだ。そして、小さな声で、血を吐くようにつぶやく。

 

「……負けられねぇ」

『サカキぃっ! 補給コンテナ、来るぞ!』

 

 垂直落下するジルバ・Oの背後から迫る、蒼く煌く砲弾型の彗星。流星の勢いで射出された補給コンテナが、ジルバ・Oを追い越し、サカキの旧ザクを直撃した。青い光が弾け飛び、〝補給物資〟が解放される。

 ジオン系MS特有の、力強い曲線を描く装甲。両肩のシールドに搭載された、小型の円筒。中世の騎士の兜のような、独特な頭部造形。

 

「負けてッ、たまるかァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 ガッ、ギィィィィィィィンッ!

 衝突、そして衝撃。大気の薄い月面に、粒子の嵐が吹き荒れる。(トランザム)(プラフスキー)、二色の粒子が激しく舞い散るその中心で、ジルバ・Oは振り下ろした両腕を、分厚い円形シールドに受け止められていた。

 

『使えよ、サカキィ! 今のテメェなら、もう間違わねェだろ!』

 

 ――ヤクト・ズール。峰刃学園高校ガンプラバトル部〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟争奪戦の最終候補にして、縦横無尽のファンネルマスター、〝多重十字射線(クロス・フル・クロス)〟サカキ・リョウの愛機である。

 

「……ああ!」

 

 サカキは短く答えてジルバ・Oを振り払い、サカキは久しぶりの愛機のコクピットをぐるりと見まわした。武装スロット表示を見なくてもわかる、身体に馴染んだ機体の感覚。選んだ武装は――

 

「行けッ、ファンネル!」

 

 ヤクト・ズールの両肩から、鋭い弧を描いて飛び立つ計十二基のファンネルたち。目にも止まらぬ高機動でジルバ・Oを取り囲み、そして一斉にビームを放つ。

 

「カカカ! アハカハハハ!」

 

 ビシュ、ビシュゥゥン! ビュゥゥゥゥンッ!

 全方位から撃ち込まれるファンネルの細く鋭いビームを、ジルバ・Oは最大出力で展開したGNフィールドで弾きつつ後退……した、その足元に、すでに一基のファンネルが待ち構えていた。

 

「置きファンネル、ってなぁ!」

 

 ビュゥゥンッ!

 ジルバ・Oが踏もうとした岩場をファンネルが射抜き、溶解させる。溶けた岩を踏み抜いたジルバ・Oは大きく姿勢を崩し、膝をついた。その隙を逃さず、ファンネル全基による全周囲からのビームの五月雨撃ちで、メガ粒子の集中豪雨を叩きつける。

 

「タタアアァァッ! シァァアアーッ!」

 

 ジルバ・OはGNシールドを掲げて身を守るが、激しいファンネルの火線に、分厚いGNフィールドが見る見るうちに削られていく。弾け飛ぶGN粒子と降り注ぐビームの閃光に、視界は塞がれ、耳は爆音に(ろう)され、各種索敵機能は乱れに乱れる。

 だからジルは、サカキの次の一手に気付くことができなかった。

 

「もらうぜ、銀色幽霊女ぁッ!」

 

 ファンネルたちの猛烈な連続射撃がついにGN粒子を削り切り、GNフィールドは薄いガラスのように割れ砕けた。それを合図に、ファンネルたちは一斉にジルバ・Oを取り囲み、細く絞り込んだ高出力ビームで光の檻を形作った――しかしその光の檻には、一か所だけ、大きく開けた場所があった。ジルは長い銀色の前髪に隠れた赤い瞳で、その空間の先にあるものを見た。

 ヤクト・ズールの円形シールドに並んだ四つの砲口、そこに渦巻くメガ粒子の光を。

 

「ブッ飛びやがれええええええええッ!」

 

 ドッ、ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア――!!

 四連メガ粒子砲、最大出力による極大放射。灼熱のメガ粒子の奔流が四重の螺旋を描き、月面を抉りながら迸る。(まく)れ上がった灰色の岩石は真っ赤に灼熱し融解。熱量の直撃を受けたジルバ・Oもまた、同じ運命をたどることとなった。

 

「アハ……タ、タカ……イ、ハ……」

 

 眩いばかりの銀色の塗装は黒く焼け焦げ、あるいは蒸発し、ジルバ・Oは辛うじて人型をとどめている、溶け落ちたプラスチックの塊と化していた。ジルとの通信画面にはSOUND ONLYとだけ表示され、苦し気な……しかし、意外にも穏やかな吐息と、途切れ途切れの言葉だけが聞こえてくる。

 

「タタ……タノ、シ……イ……ナ……」

 

 ジルバ・Oの残骸が粒子化し風に舞うように散っていく。機体がすっかり粒子化してしまった後に、一瞬。ジルのアバターが、月面に現れたように見えた。〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟の時とはまるで様子の変わってしまった、幽鬼のような長い銀色の前髪の奥。人懐っこい仔犬のような、可愛らしい笑顔が、浮かんだ――ような、気がした。

 

『……ジル。テメェは……』

 

 ナツキは、ジルの最後の一言を噛み締めながら、天に昇っていく粒子の輝きを見送った。

 

《――BATTLE ENDED!!》

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――その、翌週――

 

「ねーねー、おにいちゃーん。ぼく、おにいちゃんみたいにファンネルでたたかいたいよー!」

「あぁん? 生意気言うな、一万光年早ぇよ。ビームサーベルでも振り回してろっておい、まだパテ乾いてねーだろーが! うかつに触んな!」

「きゃはははは♪ きんぱつー、あそんでー♪」

「だーかーらー、お前らと遊んでる暇なんかねーっつーの! 俺があと何体ガンプラ修理すると思ってんだよ!」

「きゃー、ふりょーがおこったー!」

「りんちされるー! かこんでぼこられるー!」

「意味わかってんのかこのガキどもがぁぁっ! ンなことするかボケぇぇぇぇっ!」

「あはははは! こわいー、ナツキせんせーにちくるぞー!」

「んなっ!? それはやめろぉぉぉぉ!?」

「おにいちゃん……ぐすん。うでのぼうが、おれちゃった……なおしてぇ……ぐすんぐすん」

「あー、もう、やってやるから泣くな! んでお前はそれに触るなっ、塗装がぁぁ!」

 

 ――峰刃学園高校三年一組、ガンプラバトル部所属〝多重十字射線(クロス・フル・クロス)〟サカキ・リョウは、アカツキ・ナツキによる「ナツキ特製根性叩き直しプログラム」を無事終了した――




 結論:サカキ君はショタに目覚めました。
 
 ……ってなわけで、随分お待たせしてしまい申し訳ありませんでした、第六話Bパート、ナツキ&サカキのお話の後編でした。
 このお話は交流戦構想の供養という作者のわがままマシマシでしたが、今後のストーリーに繋がる伏線も込めたつもりです。「王」とか。
 
 サカキにヤクト・ズールを返したナツキ先生ですが、ここまで頑張ったサカキにはどちらにしろヤクト・ズールを返すつもりでした。アユムの乱入でドラマチックな感じになりましたが、あの補給コンテナの中身は最初からヤクト・ズールだった、ということになります。

 ちなみに、書いてもあまり面白くなさそうだったので本編中では書いていませんが、サカキ君はラストのシーンでショタたちと戯れる前に「新入生狩り」で迷惑をかけた相手に謝罪にまわっています。アンナにも直接頭を下げに行きました。という設定です。

 ……なんだか、あとがきで設定等の説明が多いって、あまりよくないですね。少し間が空いたことで、文章力が落ちてるのかもしれません……本編でちゃんと書こう……(反省)

 第六話Cパートでは、また主人公を変えての挿話的なものになる予定です。
 まだリアルの仕事が忙しいので、お届けするのは遅くなるかもしれませんが……また読んでいただけると嬉しいです。感想・批評もお待ちしています!


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Episode.06-C『ソレゾレ ノ ヒビ ③』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。
 またもや間が空いてしまいましたが、その間に大変な大ニュースが飛び込んでまいりましたね!

 ビ ル ド ダ イ バ ー ズ 新 作 決 定 !

 これは期待せざるを得ない。主人公らしき人物とガンプラもチラ見せされましたし、今からもう放送が楽しみで仕方ありません。新しいガンプラも発売されるでしょうし、これはまたビルダー魂が震えますね。
 ……まさか、私の前作の時のような公式とのネタ被りはもう起きないだろうなあ……ダイバーズが放送されたとき、全世界で私が一番衝撃を受けた自信があります(笑)

 兎も角。第六話Cパートです。
 今回の主人公は不機嫌眼鏡と腹黒仔犬です。どうぞご覧ください!! 


不機嫌眼鏡(シキナミ・シオミ)腹黒仔犬(ガトウ・アンナ)の場合・前編》

 

 

 鬱蒼と生い茂る巨大樹の森、古代文明を思わせる石造りの階段ピラミッド。おそらくは住民の手作業によるのだろう木造住宅と田畑が、所々で森を切り拓き、小さな集落を作っている――しかし、それらの全てはイミテーション。生い茂る巨大樹は遺伝子操作によってそうなるように品種改良された樹々だし、古代のピラミッドはレジャー施設として建造されたものだ。耕された田畑の地下には厚さ数十メートルもの鋼鉄の円筒がぐるりと巡り、真空の宇宙空間にほんのわずかな人類の生活空間を保証している。

 ここは、機械文明を否定して機械仕掛けの円筒に引きこもった、機械人形(モビルスーツ)を知らぬ人々の秘境。宇宙世紀の片隅に忘れ去られた、辺境のコロニー〝ムーン・ムーン〟。

 そんなムーン・ムーンの空を、三機のモビルスーツが翔け抜けた。

 

「ひあっ、わあっ!?」

 

 飛行するモビルスーツ群の先頭で集中砲火を浴びつつ逃げているのは、アンナのガトキャノン。両肩にシールドブースター、バックパックには大型のビームキャノンと一体化した一対のフライトユニットを備え、さらに追加の大型シールドブースターまで背負っている。大型で重量級のガトキャノンに、高い機動性と飛行能力を与える高機動装備だ。

 一方、追いかけるのは、ショッキングピンクでカラーを揃えたカオスガンダムとレイダーガンダム。SEEDの新旧三バカから飛行型可変機枠で揃えてくるチョイスは悪くはないが、色のセンスはかなり独特だ。しかも機体にジュエルシールをキラキラとデコりまくり、見た目はお世辞にもセンスがいいとは言えない。

 だが、バカスカ撃ってくるビームの狙いは意外にも正確。可変機本来のスピードも活きており、重量級の機体をブースターの出力で無理やり飛ばしているガトキャノンでは、このまま逃げ切ることができないのは明白だった。

 

「しし、シキナミ先輩っ。予定地点まで1500ですっ、きゃあ!?」

 

 ビュバッ、ゥゥゥゥン!

 SEED系特有の赤と白の極太ビームがシールドブースター表面を焦がし、ガトキャノンの姿勢が乱れる。あまり得意ではない高機動形態の制御に、アンナは舌を噛みそうになりながらもシオミに報告する。

 

「あと1000っ。じゅ、準備はどうで、ひぃんっ!?」

「落ち着いて、アンナさん。こちらの準備は完了しています」

 

 涙目のアンナに対して、シオミはあくまでも冷静。地形図、事前にマークしておいた地点、敵機の観測情報、予測到達時間。それらを素早く精査して、シオミは改めて頷き、片手で軽く眼鏡の位置を直した。操縦席を取り囲むように表示されていたいくつもの情報ウィンドウを、右手を軽く一振りして全て閉じる。コクピットの全天周モニターに、自分のほぼ全周囲を取り囲む深い樹海と、一方だけ開けた方向に銃を構える自機の腕が映し出される。

 部分的にフレーム構造の露出した軽量型MSの腕と、四角い銃身のビーム・スマートガン。それ以外の部分は森林迷彩柄のABCマントに覆い隠されており、シオミのガンプラの全容は見えない。

 

(仕込みは完璧。経過も良好――大丈夫、ここまでは作戦通りよ)

「ジュンビ、カンリョウ! ジュンビ、カンリョウ!」

「ええ、わかってるわハロ」

 

 ブルーブレイヴのチームカラーである濃いブルーに塗られたハロが、耳(?)をパタパタさせてシオミに告げる。

 ブルーバードの艦長席でチーム全員分の情報を同時に捌き、戦術予報をしていたことを考えれば、今扱っている情報量など大したものではない。しかし、自分で引き金を引くということの、なんというプレッシャーか。

 

「……やってみせる」

 

 シオミはぐっと息を詰めて、実銃そっくりの狙撃用デバイスを構えた。まるでロックオン・ストラトスのようにスコープを覗き込むと、眼鏡のレンズにレティクルが投影される。敵観測情報、ガトキャノンと同期。予定地点まで、あと500……300……100……!

 

「おお、お願いしますっ、シキナミ先輩っ」

 

 数発の被弾はしつつも、ガトキャノンが目印の巨木の上空を翔け抜けた。数秒遅れてカオスが、さらに一瞬遅れてレイダーが巨木の真上を通り過ぎる。

 

「ハロっ!」

「リョーカイ! リョーカイ!」

 

 シュババババッ!

 ハロはシオミの合図を受け、巨木に括り付けていたトリモチ爆弾を起爆した。宇宙世紀作品で頻繁に用いられる、モビルスーツの動きすら拘束する特殊粘着剤、トリモチ。蜘蛛の糸のように広がった乳白色の物質が一瞬にしてレイダーを絡め取り、その身動きを完全に封じた。

 トリモチによる予想外の奇襲に驚くレイダーを、シオミのレティクルがぴたりと捉える。

 

「動かない的になら、私でも……!」

 

 ビュォォォォォォォォ――ッ!

 長く尾を曳く、独特な銃声。ビーム・スマートガンの細く絞り込まれた高出力ビームが、レイダーの腹部を一直線に撃ち抜いた。レイダーは真っ赤な火球となって爆発、トリモチの絡みついたプラスチック片が辺り一面にばら撒かれる。

 待ち伏せは想定外だったらしく、カオスの挙動が目に見えて動揺した。足を止めてMS形態に変形、樹海に紛れるように伏せていたシオミの機体へと銃を向ける。

しかし、それはつまり、ガトキャノンに背を向けてしまうという、愚行でもあった。

 

「さっきはぁ、よくもぉ……」

 

 可愛らしく頬を膨らませて怒り顔を作るアンナは、しかし全く可愛らしくない重火器の数々をカオスへと向け、何のためらいもなくトリガーを引きっぱなしにした。

 

「お返しですっ!」

 

 ドガガガガガガガガガガガガ! ビュオッ、ビュォォン! バガガガガ! ドガララララララララララララララララララララララララ!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――砲声、銃声がしばらく続き、そして鳴りやんだ頃。

 

「周囲3000に敵影無し……ですが、油断はできませんね。コロニー内なんて、そんなに広いフィールドではありませんから」

「は、はいっ、シキナミ先輩っ。でも、これで3チーム撃破ですから、そろそろ試合も終盤ですね。初出場・初優勝、できちゃうかも……ですよねっ」

 

 シオミは機体に偽装用ABCマントを被せたまま、慎重にスコープを巡らせていた。巨大樹の森にしゃがみ込み、姿勢を低くして銃身冷却とプラフスキー粒子の弾薬変換作業中のガトキャノンがいる。そして、コロニー特有のせり上がっていく地平線を半周したガトキャノンの丁度真上、こちらからは天井に見える地点には、モビルスーツよりも大きな階段ピラミッドがあった――たった今、ピラミッド付近で爆発。火球の大きさからして、あれはモビルスーツが撃破された光だ。

 

「戦闘は続いています。その油断が命取りになりかねませんよ、アンナさん。残存チーム数は……」

 

 シオミは周辺警戒を続けつつ、マップを操作。この大会では、通常のガンプラバトルと同じく敵の位置こそ表示されないが、各チーム・各機体の生存状況はリアルタイムで公開されることとなっている。

 マップ上に表示された残存チーム数は――2。

 

(……私たちと、あと一つ!? なら、さっきの光は!)

 

 シオミは反射的に、スマートガンの銃口を天井のピラミッドへと振り上げた。ほぼ同時、ピラミッドから飛び上がる――飛び降りる――兎も角、猛スピードでガトキャノンへと突っ込んでいく大型モビルスーツが一機。

 

「アンナさん、回避を!」

「うわぁひぃぃっ!?」

 

 ドッ、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッ!

 響く轟音、巻き上がる巨大樹の破片と木の根混じりの土砂。そして、

 

『おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!!』

 

 落着の轟音を掻き消すほどの大音量で鳴り響く、高飛車極まる高笑い。

 衝突直前にシールドブースター全開で飛び出したアンナは目を白黒させながら姿勢を立て直すことしかできなかったが、シオミはその聞き慣れた高笑いに、深い深いため息を吐いてしまった。

 

「……ユリネさん。またあなたですか」

 

 濛々(もうもう)と巻き上がる土煙の中から姿を現す、デザートカラーの大型モビルスーツ。ドム系の機体をベースにした骨太で重厚な上半身に、戦艦から引っこ抜いてきたような大型連装砲を二基四門も背負い、両手にも重火器を携行する完全な火力重視の重装型。

どう見ても過積載状態の機体を支えるのは、これまたミサイルやブースターを積んだ野太い脚部が、一本、二本――三本、四本。

 その立ち姿はまさに、鉄の猛牛。重火力かつ重装甲の多脚歩行戦車。四本足の大型ドム・タイプが、威嚇するように両手の重火器を高く掲げた。

 

『さあ! さぁさぁさぁさぁっ、シキナミ・シオミっ! ここであったが百万年ですわーっ!』

『……百年目、だよ……ユリちゃん……』

『ややや、やっかましいですわ、イサミ! 百万年ぐらいの因縁という意味ですわよ!』

「……はぁ。夫婦漫才は聞き飽きましたよ」

 

 シオミ、さらにタメ息。上下に並ぶ複座式のコクピットの中で、真っ白いフリルに(まみ)れたロリータファッションの小柄な少女が、産業革命期の機関車の車掌のような恰好の大柄な少女を、顔を真っ赤にしつつグリグリと足蹴にしている姿が目に浮かぶようだ。

 

「し、シキナミ先輩……このヒトたち、なんなんです?」

「……腐れ縁、とでも言うべき面倒な人たちです」

 

 シオミはこの短時間に三度目となるため息を吐きつつ、アンナに相手ダイバーの情報を送った。今大会の出場者データに頼るまでもなく、当たり前のようにダイバー情報が表示される。それもそのはず、相手ダイバーは峰刃学園ガンプラバトル部の生徒だったのだ。

 峰刃学園高校二年三組、ユリネ・サユリ。同じく二年三組、スナバラ・イサミ。両名共に峰刃学園高校ガンプラバトル部、エレメント〝ディザート・リリィ〟所属――シオミとは、同期入部ということになる。

 

(私がオペレーターに集中するようになってから、会わなくなったと思っていたけれど……久しぶりにガンプラに乗った途端に、こうなるのね……はぁ)

「部活の先輩さんじゃあないですか。おんなじ大会にエントリーしてたなんて、奇遇ですねっ」

「奇遇……では、ないのでしょうね。彼女の場合は」

「えっ? どういうことですか?」

「いえ、何でも。彼女たち相手に距離をとるのは危険です。アンナさん、中距離以内に張り付いてください。背中の大型砲に注意を、シールドごと撃ち抜かれますよ」

 

 シオミは眼鏡の位置を直して頭の中を切り替え、アンナへ指示を出しつつ、フィールド各所に仕込んだトラップの位置を再確認した。

 まともなぶつかり合いでは、機体性能でも自分自身の技量でも、彼女たちには勝てない。アンナのガトキャノンは心強いが、それを計算に入れても、正面衝突は分が悪いだろう。特に、敵機の主パイロットであるスナバラ・イサミの強さは、そう判断するに値する。

 

(……こうなることも、予測するべきだったかしら……)

 

 狙撃用スコープに四本脚を捉え、トリガーに指をかける。臨戦態勢に入りながらも、シオミはそもそもこの大会に参加することとなった経緯に、思いを馳せずにはいられなかった――

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 GBNにおいて「ナデシコ」と名がつく各種大会やコンテストは、女性ダイバーであることが参加資格となっているのが通例だ。

 ガンプラに絡めた多種多様な競技で、女性ダイバーたちが白熱したレースを繰り広げる「ナデシコアスロン」。ガンプラのみならず、ダイバー自身の徒手空拳の技をもぶつけ合う「機動武闘姫伝ナデシコファイト」。ガンプラとダイバー、双方の美を競い合う「マギー&シャフリヤール・ビューティフル・ナデシコガールズ・コレクション」――女性ダイバー限定という華やかさから、美女や美少女のダイバーたちに注目されがちな各種〝ナデシコ〟大会だが、勿論、純粋にガンプラバトルの腕前を競い合う大会もある。

 

「ナデシコ・タッグバトル・カップ……ですか?」

「は、はいっ。い、いっしょに、しゅちゅじょ……っ」

 

 かぁーっ。そんな擬音が聞こえてきそうな勢いで、アンナの顔は真っ赤に茹で上がった。アンナの声は意外と大きく、峰刃学園ガンプラバトル部のフォースネストたる古城の中庭、そこに作られた休憩スペース中に響き渡っていた。北欧風のベンチやティーテーブルを囲んで休憩していた部員たちのあちこちから、くすくすと忍び笑いが漏れる。

 

「あわわ……そ、そのぅ……しゅ、出場してもらえませんかシキナミ先輩よろしくおねがいしますっ!」

 

 恥ずかしさを誤魔化すため、アンナは仮想実体表示させたメールアイコンを、両手で勢いよくシオミへと突き出す。真っ赤になった顔は俯かせたままで手紙を突き出すその姿は、傍から見れば、憧れの先輩にラブレターを渡す後輩に見えなくもない。女の子同士の禁断の関係、というやつ――

 

(――なのですよー! なんて、イマさんがいたら騒ぎ立てるのでしょうね)

 

 ライとイマがガンプラ改造作業のためチームを一時離脱してから、早一週間。エレメント〝ブルーブレイヴ〟として、コウタ、アンナ、シオミの三人で活動するのにももう慣れたが、あれほど鬱陶しかったイマのハイテンションぶりも、いざ、いなくなると寂しいものだ。コウタと二人きりで活動していた去年までと比べると、なんと気持ちの変化したことか。

 シオミは手に持っていた縁の薄いティーカップを置くと、眼鏡の位置を片手でクッと直し、アンナからのメールを受け取った。

 ――女性ダイバー限定大会〝第五回ナデシコ・タッグバトル・カップ〟、通称〝NT‐1杯(アレックスカップ)〟。予選ブロック大会を勝ち抜いた二人一組(タッグ)によるガンプラバトルカップだ。女性限定ということでナデシコの名を冠してはいるが、比較的男性が多いガンプラバトルの世界におけるショービジネスとしての側面も強い他のナデシコ大会とは違い、例年、出場者は実力派揃い。かのヒビキ・ショウカも、「ボクも、タッグを組む相手さえいたらなぁ」と、出場したがっていたらしい。

 

「……あら? アンナさん、これは……」

 

 アンナが差し出したメールの内容に、シオミは珍しく目を見開いた。

 

「あ、はい……えへへ。先週のこと、なんですけど……予選、突破しちゃってまして……」

 

 ――ガトウ・アンナ&ヒムロ・イマ組。予選第十二組、優勝。本戦への出場権を獲得。

 

 メールにはそう記されていた。それなりに名の知れたダイバーも出場するアレックスカップを、初出場で予選突破とは大したものだ。

 だが、シオミが目を見開いた理由は、それだけではない。「ガトウ・アンナ&ヒムロ・イマ組」の後に、括弧付きで記されていた文字。

 

 ――(補欠:シキナミ・シオミ)。

 

「アンナさん、私はいつ補欠に?」

「えっ……あっ、そのぅ……い、イマちゃんが、OKもらってきたよー、って……」

 

 アンナの目が泳ぐ。サンダーボルト版のアッガイ並みに。

 言われてみれば少し前、試合のための作戦立案で忙しかった時に、イマが嬉しそうに楽しそうに何か言ってきていたような気がする。

 

『しおみん先輩っ、忙しそうなところ悪いのですがアンナさんが今ならいけると言うので来ました! 何も言わずにこれにタッチしてしょーにんを! ありがとうございます!』

『ちょ、なにを……あー、もう、面倒ですね。ほら、はい!』

『ひゃっほー! しゅつじょーなのです! アンナさーん♪』

 

 ……あの時か。そして、イマが一時離脱してしまったので、ないはずだった補欠の出番が来てしまった、と。イマのセリフとアンナの目の泳ぎ具合からだいたいの事情は察したが、シオミはため息を一つ吐くだけで諸々の言葉を呑み込んだ。

 

「……この大会は、GBN運営本部公認のものでしたね」

「あっ、は、はい……」

「でしたらこの大会での戦績も、エレメントポイントに換算できますね」

「えっ……じゃあっ」

 

 さっきまでの視線スイミング状態から一転、アンナの表情はぱぁっと明るくなり、人懐っこい仔犬のような笑顔になった。アンナのスカートからふわっふわの尻尾が伸びて、勢いよく振られているのが見えるような、満面の笑みだった。

 シオミはため息をつきつつ眼鏡の位置を直し、久しぶりに自身のガンプラをデータストレージから呼び出し、仮想実体化させた。

コウタの、ブルーブレイヴの専属オペレーターとなる前にシオミが使っていたガンプラ――S2アストレイ・グレイズフレーム。

 コウタと同じ、SEED系とオルフェンズ系のシルエットがミキシングされたミリタリーテイストの機体が、瀟洒なティーテーブルの上に出現する。

 

「先輩は大学の説明会で不在ですし……女性限定大会、今の私たちにはちょうどいいですね。やりましょう、アンナさん。NT-1杯(アレックスカップ)

「はっ、はいっ。がんばりましょう、シキナミ先輩っ」

 

 アンナは満面の仔犬のように小さくジャンプして、胸の前で両手をパンと打つのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――そんな二人に、正負の情念が複雑に入り交じった視線を向ける、女が一人。

 

「きぃぃぃぃっ! シキナミ・シオミめ、もう一年生とあんなに親しく! なぜわたくしには可愛らしい後輩の一人も寄り付かないのにっ、あんな年中しかめっ面の不機嫌眼鏡女なんかにぃぃぃぃっ!」

「ユリちゃん……あたし、何も見えない……」

「イサミは黙ってなさいっ! この美しき白百合たるユリネ・サユリのいったいどこが、あの眼鏡に劣っているというのかしらっ!?」

「んー……身長?」

「イぃぃぃぃサぁぁぁぁミぃぃぃぃっ! しばらく黙っていてくださるッ!?」

「……あいあいさー」

「ふふっ、それでよいのですわ、イサミ。持つべきものはデカくて強くて頑丈な友人ですわね。生垣を越えてシキナミ・シオミの弱点を探るためにも、さあ、気合入れて肩車を続けるのですわ!」

「そだねー……ユリちゃん、140ないもんね。仕方ないね……」

「わわわ、わたくしはまだこれからなだけですわ! 黙って持ち上げ……あっ、転送しちゃいましたわ!? って本戦開始までもう数分しかありませんわ!? わたくしたちも行きますわよっ、イサミ!」

「あいさー、ユリちゃん……エレメント〝ディザート・リリィ〟。ドドムム・バイン……しゅつげき、しんこー……!」

 




 以上、第六話Cパートでした。
 シキナミ先輩にもガンプラに乗ってほしかったのですが、あまり強いとじゃあなんでオペレーターなんだよとなっちゃうので実力的には中の中か、中の下あたり、ただし情報収集とトラップの活用が得意、という感じで描写したいと思います。
 第六話はDパートで終わりの予定です。女たちの戦いに乞うご期待です。
 感想・批評お待ちしています。どうぞよろしくお願いします!



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Episode.06-D『ソレゾレ ノ ヒビ ④』

 またもやお久しぶりになってしまいました。亀川ダイブです。
 月一程度の更新が続いていますね……遅い……何とかペース上げたい……遅いなりに今後も頑張りますので、気長にお付き合いいただければ幸いです。

 不機嫌眼鏡と腹黒仔犬、後編です。どうぞご覧ください。


不機嫌眼鏡(シキナミ・シオミ)腹黒仔犬(ガトウ・アンナ)の場合・後編》

 

『おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!!』

 

 キンキンと甲高い笑い声が響くたび、ミサイルが、砲弾が、ビームが、ムーン・ムーンの大地を震わせ、掘り返し、捲り上げて、樹海を茶色い荒野へと変貌させていく。まるでモビルアーマーか陸上戦艦でも相手にしているかのような弾幕に、アンナはバーニア・スラスターを全開にして逃げ惑うばかりだった。

 

「ひゃいっ!? だ、弾幕ってこんなに怖かったんですねっ、ひぃんっ!?」

「いつもあなたがやっていることでしょう、アンナさん。何とかして目標地点まで誘導を!」

「そそそ、そんなこと言われてもぉぉ……ひゃわあっ!?」

 

 ズビュオォォォォンッ!!

 ドドムム・バインが背負った大型砲が、野太いビームを放つ。小型のモビルスーツ程度なら丸ごと飲み込んでしまいそうな高エネルギー粒子の奔流が、ガトキャノンの右肩を抉る。

 

「し、シールドブースター大破、切り離しますっ」

 

 右肩のシールドブースターが一瞬にして半壊。残った推進剤が引火・爆発する前に切り離すが、バランスを崩したガトキャノンは樹海をなぎ倒して墜落同然に着地。その凄まじい衝撃と振動に、アンナは平衡感覚を滅茶苦茶にかき回されてしまう。

 

『チャンスよ、イサミ! まずは後輩ちゃんから潰しなさいっ!』

『あいさー、ユリちゃん』

 

 白ロリ服のフリルを翻して檄を飛ばすサユリに、イサミは無表情で応え、トリガーを引きまくる。弾幕に掘り返され土色の荒野となった大地を、ドドムム・バインは見かけによらぬ高速ホバー走行で突っ込んでくる。

 

「え、えぇーいっ!」

 

 目標地点まで、あと1200m。視界の端に浮かぶ簡易マップを意識しつつ、アンナはフライトユニット内蔵式のメガビームキャノンを発射。黄色いビームの奔流がドドムム・バインに向けて放たれるが、氷上を滑るようなホバー走行により回避されてしまう。

 

「はわわっ、おっきいのに速いっ!?」

『おーっほっほ! そのための四本脚! そのためのホバーですわ!』

『重くて、速くて、高火力……それがドムだよ……!』

 

 イサミはやや得意げに微笑みながら、フットペダルを蹴り込む。ドドムム・バインは四本足を滑らせて一回転。フィギアスケートじみた流麗な回転が終わると同時に、両手のマシンガンはガトキャノンをぴたりと照準していた。

 

『おやりなさい、イサミ!』

『あいあいさー』

 

 おそらくは炸裂弾であろう銃弾が高い連射力でばら撒かれ、アンナが咄嗟に掲げたシールドブースターの表面で次々と弾ける。そのたびに塗装は剥げ、プラスチック片が飛び散っていく。ほんの数秒の斉射で、シールドの耐久力は目に見えて削られてしまった。

 

「アンナさん、高火力型の相手の前で足を止めては!」

「わかっていますっ、いつもはやる側ですからっ。弾幕の餌食、ですよねっ」

 

 ドドムム・バインからの射線が途切れた一瞬の隙に、アンナはボコボコに撃たれまくったシールドブースターを自ら放り投げ、頭部バルカンを撃ち込んだ。耐久限界を超えたシールドブースターを撃ち抜き、まだ半分ほど残っていた推進剤に着火、大爆発。熱波と衝撃波が吹き荒れ、わずかに残っていた樹々を薙ぎ払う。

 

(あ、あわよくば……なんてやっぱり無理ですよねっ、わかってましたよぅ!)

 

 フライトユニットの推進力だけでは、ガトキャノンは飛べない。爆炎と黒煙を突き破るようにして飛び出してきたドドムム・バインに背を向け、アンナはフライトユニットのバーニアを全開、飛べないまでも精一杯のブーストジャンプで後退した。

 

『おーっほっほ! お待ちなさいな、ウサギさーん!』

「わわ、わたしはウサギさんじゃありませんよっ、白ロリ金髪チ……先輩!」

『いま白ロリ金髪チビって言いかけたでしょうあなたぁぁぁぁッ!!』

 

 ドドムム・バインの絶え間ない銃声に、サユリの怒声が重なりながら迫りくる。アンナは涙目になりながらもビームガトリングを撃ち返し、そしてまた跳躍。ジグザグに進路を変えながら、ある一点を目指す。

 

「ひぃっ!? し、シキナミ先輩っ、目標地点まで250、次のジャンプで到着、ひゃわっ!? き、金髪チ……先輩がしつこいですよぅ!」

「こちらの準備は完了しています。逃げ切って、アンナさん!」

「は、はぃい、がんばりま……」

 

 ズビュオォォォォンッ!

 跳躍しようと地面を踏み切る、その直前。ガトキャノンの右側フライトユニットが、超高エネルギーの奔流に呑み込まれ、蒸発した。バランスを失ったガトキャノンは頭から墜落、コクピットは衝撃に引っ掻き回され、アンナはシートから投げ出されてひっくり返った。

 

「あ、アンナさん!?」

「う、あぁぁ……よ、酔いましたぁぁ……おえぇぇ……」

 

 全感覚(フルダイブ)型VRゲームであるGBNにおいて、コクピット内でぐるぐるにシャッフルされたからといって〝ミンチよりひでぇ〟状態にはならない。電脳遊戯空間(ディメンジョン)内は全てが全て安全第一だが、パイロットが車酔いのような症状になることはある。

 何とか立ち上がったガトキャノンだが、その足取りはアンナの状態を表すかのように頼りない――しかし、これで。

 

「……アンナさん、誘導ありがとうございます」

 

 シオミは静かに告げ、狙撃用スコープ越しに睨みつけるドドムム・バインへと、意識を集中した。目標地点までまんまと誘導されたドドムム・バインの胸に、戦闘中には到底気づけないであろう小さなレーザーポインターの光を確認し、シオミはハロに命じた。

 

「ハロ、今よ」

「リョウカイ! リョウカイ!」

 

 ちょうどその時、シオミの読み通り何にも気づいていないサユリは、シートから立ち上がって仁王立ちし口元に斜めに掌を添えたザ・お嬢さまポーズでの高笑いに忙しかった。

 

『おーっほっほっほっほ! このわたくしが作り上げたドドムム・バインの砲撃に、どんなダイバーだろうと、ガンプラだろうと! ひれ伏すのですわー!』

『撃ったの……私だけど……ね……んっ?』

 

 証拠などない、僅かな違和感。ニュータイプじみた直感で〝それ〟を感じ取ったイサミは、サユリが転がり落ちるのもお構いなしにドドムム・バインを急発進させた。

 

『ひぎにゃああっ!?』

『くっ……!?』

 

 しかし、完全に避け切るには、一歩遅かった。ドドムム・バインの左前脚は突如噴き出してきた大量のトリモチにべったりと絡みつかれ、地面と接着された。ほぼ同時、細く絞り込まれたビームの閃光が一直線に迸る。

 ドドムム・バインの胸部、コクピットを狙った一撃は、しかし、

 

「っ!? 外したっ!?」

 

 ほんの一瞬の差で身を反らしたドドムム・バインの右腕を貫き、手に持ったマシンガンごと吹き飛ばす。通常の、二本脚のガンプラであれば、十分に拘束できていたはずのトリモチ・トラップだったが、異形の四本足を絡め取るには足りなかったのだ。

 

『ななな、なんですのイサミっ!?』

『ごめん、ユリちゃん……はめられた……!』

 

 イサミは狙撃の弾道から狙撃手の位置を直感的に割り出し、左手のザクマシンガンを撃ち込んだ。遠くせり上がった地平線へと吸いこまれていった銃弾が、樹海を炸裂させる。

 

「う、嘘でしょう……ッ!?」

 

 強運か、それとも実力か、弾幕の内の一発がビームスマートガンのEパックを直撃した。爆発するスマートガンを投げ捨てつつ、シオミは機体を走らせるしかなかった。

 シオミのS2アストレイ・グレイズフレームは、SEED系と鉄血系という装甲に特徴のあるガンプラのミキシングだが、身軽さを優先しフレームが剥き出しになった機体構造ゆえに、防御面はそれほど強固ではない。

 

「し、シキナミ先輩っ!」

「アンナさん、攻撃を! その距離なら、ビームサーベルが速いはずです!」

 

 シオミは逃げながらも情報共有するアンナの画面を確認し、指示を出す。トリモチ・トラップによって、ドドムム・バインのホバー走行は死んでいる。シオミに気を取られ、アンナに背を向けている今なら、一撃で勝負を決めることができる。

 

「は、はいっ」

 

 アンナは視界の揺れを何とか抑え、武装スロットを選択。ガトキャノンにビームサーベルを抜刀させた。フライトユニットは左の一基しか残っていないが、短距離のブーストジャンプ程度ならできるはずだ。こちらに背を向けている今が、強襲のチャンスだ。

 

『……見えてる……よ!』

「えっ、ひあっ!?」

 

 飛び出そうとしたガトキャノンの顔面に、野太いビームが叩きこまれる。ガトキャノンは頭部と胸部の上半分ほどが蒸発し、糸の切れた人形のようにどさりと地面に落ちた。撃墜判定を下されたガトキャノンは粒子の欠片となって砕け散り、アンナは一瞬の視界の暗転ののち、待機エリアへと転送された。

 

「し、シキナミ先輩っ」

 

 味気ない真っ白な空間に、ソファが一つと、巨大な空中モニターのみ。味気ない待機エリアに放り出されたアンナは、ソファから跳ねるように立ち上がり、モニターへと駆け寄った。

 モニターを縦横に分割して、全体マップ、撃墜タグの付いた自機の残骸と、額に汗を浮かべるシオミ、弾幕から逃げ続けるアストレイ・グレイズの姿が表示されている。アンナがガトキャノンの撃墜タグに軽く指で触れると、撃たれる数秒前からの映像が再生された。

 ガトキャノンに背中を向けたまま、まるで背中に目がついているかのような砲撃。ドドムム・バインが背負った大型ビーム砲がぐるりと一八〇度旋回し、ガトキャノンを撃ち抜いていた。

 

「こ、こんなの……本当に、ニュータイプじゃないですか……」

 

 高笑いに忙しい金髪チビ先輩が後方警戒していたわけでもないと考えると、あの無表情なおっきい先輩の技量は、アムロ・レイのセリフではないが、本当に後ろにも目をつけているとしか思えない。

試合中には当然見ることはできなかったが、観戦者たちのコメントや実況も、先ほどの見事な背面撃ちに大いに盛り上がっているようだ。

 

(金髪チビ先輩はともかく、おっきな先輩は強い……! 普段はガンプラに乗らないシキナミ先輩が、一騎打ちなんて……!)

 

 NT-1杯(アレックスカップ)優勝まで、あと一機。しかしその一機が、強い。アンナは静かに胸の前で両手を組み、上目遣いにモニターを見上げつつ、祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 峰刃学園エレメント・ウォーもシーズンの半ばが過ぎ、現状、チームの順位は上の下といったところ。コウタと二人きりで挑んでいた前シーズンまでの低迷ぶりとは大違いだ。だから、本来なら計算にも計画にも入れていなかったこの大会で優勝できなくても、気に病むことはない。準優勝分のエレメントポイントを得られるだけで、収支はプラスなのだから。

 でも。だからといって。

 

「あの子には、負けたくないわね」

『おーっほっほっほっほっほ!』

 

 テンションの上がり切った高笑いとともに、ビームが、銃弾が、ミサイルが、降り注いでくる。シオミは最後の一発となったスモークグレネードを足元で炸裂させ、煙幕に紛れて離脱を図るが、

 

『なんとなく……ここ……っ!』

 

 シオミが灰色の煙幕から飛び出す、まさにその瞬間を狙い澄ました砲撃。野太いビームがアストレイ・グレイズの右脚を、その膝から下を、根こそぎ蒸発させた。バランスを失ったアストレイ・グレイズは先ほどのガトキャノンのように頭から地面に突っ込み、シオミはコクピット内で激しく揺さぶられた。

 

(な、なんて先読み! スナバラさん、こんなに成長して……っ!?)

『おーっほっほ! 観念したかしらぁっ、シキナミ・シオミぃぃっ!』

「くっ!」

 

 前脚に絡みついたトリモチを力づくで引き千切ったドドムム・バインが、ホバーの熱風を吹き散らしながら迫りくる。シオミはアストレイ・グレイズを起こそうとするが、片脚を失ってはそれもかなわない。腰のビームピストルを手に取るが、構える間もなくドドムム・バインの太い前脚に蹴られ、ビームピストルを遠くに弾き飛ばされてしまう。

 それでも諦めず、シオミはアーマーシュナイダーを引き抜こうとするが、

 

『お客さん、終点ですよー』

 

 ジャキッ……眼前に突き付けられる、マシンガンの銃口。この距離で、重装甲のガトキャノンにも有効だったあの炸裂弾を喰らえば、間違いなく撃墜判定を下されるだろう。

 勝利を確信したサユリの高笑いはさらにもう一段テンションが上がり、ついでにドドムム・バインのコクピットハッチも跳ね上がって、中から傲然と胸を反らしまくったサユリが現れた。

 

『えっ……ユリちゃん、バカなの? 死ぬの? バルカン撃たれたら、終わりだよ……?』

『バカとは何ですのバカとは! ちゃんとリサーチ済みですわ、シキナミ・シオミのガンプラにバルカンはない! そのあたりが超絶天才ビルダーたるこのわたくしと、シキナミ・シオミの差ということですわね! そして勝者は! 高みから敗者を見下ろすものですわーっ! おーっほっほっほ!』

 

 機体をガンダムタイプにしなかったことを、今日ほど後悔したことはない。キンキンと耳障りなサユリの高笑いを我慢しつつ、シオミは眼鏡を外して眉間を指で軽く揉み、気を落ち着かせて眼鏡をかけ直した――その、瞬間だった。

 

『『ねえ、お姉さん』』

 

 ぞわり、と悪寒が背筋を駆け抜ける。世界の明度が微妙に落ちて、彩度は微妙に上がったような、妙な感覚。無視しようとすれば無視できなくもない、でも確かに、何かがずれた世界。

 時間は、止まっている。サユリの高笑いが、聞こえない。コクピットハッチから身を乗り出して、バカみたいにふんぞり返ったまま、静止している。

 そんな異常な世界の中で、二人だけ――幼く小さな双子のダイバーの、亡霊のようなフードとマントだけが、風もないのにひらひらと蠢いていた。

 

『負けるわけにはいかないよね』『思い知らせてやりたいよね』

 

 シオミの頬を、冷たい汗が一筋流れる。しかし、指一本も動かせず、声も出ない。自由にできるのは視線のみ。シオミはフードの奥の顔を見ようとするが、まるでそのフードの奥にはダイバールックそのものが存在してないかのように、どこまでも深い闇があるのみだった。

 

『見ちゃったよ』『聞いちゃったよ』

『ひどいよね、あの子』『つらかったよね、あなた』

「……っ!?」

 

 シオミの頬に触れる、温度のない掌。瞬間、シオミの脳内に動画データが流れ込んできた。それは二年前、シオミがサツキ・コウタの専属オペレーターとなって、最初のエレメント・ウォーでのこと。

 

 ――お、オペレーター……ですのっ!?

 ――ええ。私は、サツキ先輩と一緒に戦うわ。

 

 峰刃学園フォースネストのロビー。あくまでも冷静な自分と、拳を握り締めるサユリ。同期の新入生たちが何事かと遠巻きにする中、豪奢なシャンデリアが照らずホールに、サユリの怒声が響き渡った。

 

 ――逃げましたわね! 戦いは苦手でも、フィールドで決着をと、約束しましたのにっ!

 ――だ、だから私は、オペレーターとして、チームに貢献……

 ――そんなもの、ただの逃げですわ! 後ろから口出しするだけでっ!

 ――あ、あなただってファイターの後ろに乗っているだけ。複座式なんて言い訳でしょう。

 ――わたくしはビルダーとして戦場に出ますわ、卑怯な口だけ女とは違いますわよ!

 ――口だけじゃないわ。私だって、考えがあって……

 

 ぱん、という乾いた音。シオミは、すぐに理解することができなかった。ただのゲームなのに。電脳遊戯空間(ディメンジョン)なのに。現実(リアル)では、ないのに。友達に叩かれた頬は、こんなにも痛むのだということが。

 

 ――うるさいっ! 裏切り者っ!

 

 結局あの後、話をすることもできずにエレメント・ウォーに入り、サユリとイサミのチームはそれなりにいい成績を収めた。一方の私たちは、下から数えた方が速いぐらいの低迷ぶり。順位に差がありすぎたためか、それとも運か、部内試合でチーム同士がマッチングすることすらほぼなかった。その様を見てサユリは、さぞ胸のすく思いだっただろう。

 でも、だから――私がサユリと話をする機会は、戦場ですら、与えられなかった。

 

『つらかったよね』『かなしかったよね』

『聞いてくれなくて』『わかってくれなくて』

 

 しかしそれから、同じ部活動内でまったく接触しないということも不可能で、だから少しずつ会話が生まれて、お互いに喧嘩したままバトルすることもあって――そんなこんなで、二年という時が過ぎて。喧嘩の理由は心の中ではほぼ風化して、なんだか腐れ縁みたいになって。サユリは私を目の敵にしてテンションを上げ、私はやれやれと言いながら付き合う、謎の敵対関係が出来上がって。

 

『でも、あなたは悪くない』『そう、悪いのはあの子だ』

「……そう、かしら……?」

 

 気づけば、身体の自由は戻っていた。相変わらず、時は止まっている。サユリはバカみたいに大口を開けて笑った姿勢のままだ。

 

『『だから、勝たなきゃ……どんな手を、使ってでも』』

 

 鈴の鳴る様な、幼くも心地よい声色。双子の亡霊は呼吸すらぴたりと揃えて言いながら、左右からゆっくりと、掌を差し出した。双子の小さな掌の間に、淡い光が渦巻く。粒子の欠片が輝きながら形を成していき、それは一枚のカードとなった。濃淡の紅色が美しい、半透明のカード。その中にまるで墨を流したように、一筋。一切の光を拒絶したような真っ黒な粒子(・・・・・・)が、緩やかなS字の紋様をなしていた。

 

「……これ、は……?」

『『さあ、手に取って』』

 

 同時、シオミの頭に新たな動画データが流れ込んできた。機体の損傷は瞬時に修復され、アストレイ・グレイズの最後の武器であるアーマーシュナイダーはとてつもない切れ味でドドムム・バインを両断する。そんな映像が、実感を伴って脳内再生された。そして浮かぶのは、サユリの悔しそうな顔と、鳴り響く勝利のファンファーレ。

 

『さあ』『さあ!』

 

『『さあっ!』』

 

 双子の亡霊の声にせかされ、シオミはゆっくりと手を伸ばした。淡い紅色の光が眼鏡のレンズに反射して、シオミの表情は読めない。微かに震えているようにも見えるシオミの指先が、誘うようにきらめくカードに触れ――

 

「……お断りよ」

 

 ――触れずに、コンソールに表示された真っ赤なボタンを、軽く押し込んだ。

 瞬間、メインモニターに表示される〝GHOST〟の部隊章、モニター右上に表示されるRECマークと、「緊急通報」の文字。

 

「あなたたち、何者です!?」

『『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』』

 

 双子の亡霊は透き通ったソプラノで怨嗟の絶叫、その次の瞬間には嘘のように跡形もなく消え去っていた。シオミは額から汗を散らして周囲を見回すが、そこにあるのは何の変哲もない、デフォルト設定のGBNのコクピットのみ。

 

『とどめですわっ! イサミ、お撃ちなさいっ!』

『また、遊んであげてね……えいっ!』

 

 ズドッ、ゴバァァン!

 銃火、衝撃、炸裂弾の閃光がメインモニター一杯に広がる。シオミは目の前が真っ白になり、思わず目を閉じて両手で顔をかばった。そして一瞬後、ぽすんという軽い音とともに、シオミは待機エリアに転送されていた。

 

「し、シキナミ先輩っ。大丈夫ですか」

「……アンナ、さん……」

 

 心配そうな声に目を開くと、目の前には眉をハの字にしたアンナの顔が。ただひたすらに真っ白な待機エリアに、いつもと違うところは何もない。メインモニターには「第二位! おめでとうございます!」の文字と試合のハイライト映像が映し出され、観戦者たちのコメントが画面上を右から左に流れている。

 

「終わった……?」

「は、はいっ。でもシキナミ先輩、最後に急に通報ボタンなんて押すからびっくりしましたよぅ。あの金髪チビが何か……あ、金髪チビ先輩が何か違反行為でもしていたのかと思って」

「急に……?」

「あ、はいっ。先輩が撃たれて、倒れて、銃を突き付けられて……それから、急に」

 

 あの双子の亡霊とのやり取りは、体感的には数分はあったはずだ。シオミは頭と気持ちを整理しようと、眼鏡を外して眉間を軽く揉んだ。

 ちょうどその時、シオミとアンナの間にウィンドウが開かれた。突然のウィンドウ展開におどろいたアンナは「はわっ!?」と可愛らしい悲鳴を上げてしりもちをつく。開いた画面の中央には、GHOSTの部隊章と緊急通報の文字。通報内容を入力するメールフォームが強制的に開かれたのだ。

 

「あっ、通報用の……ホントに、何があったんですか、先輩?」

「……私も、それが知りたいわ」

 

 シオミはふぅと細く息を吐いて眼鏡をかけ直すと、ウィンドウに手をかざして仮想キーボードを引き出し、ゆっくりとキーを叩き始めた。

 ――プラフスキー粒子は、時にヒトの想定を超えた奇跡を起こす。現実世界にア・バオア・クーを召喚する。ニールセン・ラボに大量の粒子結晶を出現させる。思い込みの力(アシムレイト)によってガンプラと一体化する。六年前の〝黒色粒子事変〟では、変質させられた粒子が人体に様々な悪影響を及ぼした。GBNにおいても、電子生命体(エルダイバー)の誕生にプラフスキー粒子が関わっているという仮説が有力視されている。

 先の双子の亡霊も、そのような存在なのか。サユリに負けたくないという自分の意地がプラフスキー粒子に作用して生み出した、幻覚のようなものなのか。

 

(いや、違う。あれは……)

 

 損傷の瞬間的な回復。武器の異常な強化。双子の亡霊に見せられたイメージに、シオミは心当たりがあった。

 

(まるで、ヘイロンデカール……違法ツールの出どころは、もしかして……)

 

 シオミは授賞式の呼び出しも無視して、ひたすらにGHOSTへのメールを打ち続けるのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――翌日。峰刃学園高校ガンプラバトル部フォースネスト〝魔王城〟メインホール。

 

「おーっほっほっほ! 皆の者、お聞きなさい! ついにこのわたくし、絶対無敵元気爆発熱血最強ビルダーたるユリネ・サユリ様のガンプラが、あのシキナミ・シオミに一泡吹かせてやりましたわーっ!」

「いぇーい。どんどんぱふぱふー」

「イサミ、花吹雪が足りませんわよ。もっとじゃんじゃか降らせなさいな。おーっほっほ!」

「なぁーんだ、サユリちゃんか。久しぶりじゃん、シキナミさんといちゃつくの」

「ゆりりん、一年生の時は毎週毎週忙しそうだったよねー。二年なってからは久しぶりね」

「ねーねー、まだケンカしてる設定なの? 素直になりなよー、ゆりっぺ」

「せせせ、設定とはなんですの!? わわ、わたくしとシキナミ・シオミは永遠の……」

「親友だよね~? お熱いお熱い、ひゅ~ひゅ~!」

「どうせまたユリネちゃん、来週ぐらいにはサツキ先輩にコテンパンにされてヘコんでるから、その時また話聞いてやりゃいいでしょ。バトル行こうぜ」

「え、あ、ちょお! お待ちなさいな、愚民どもぉぉ! むきぃぃぃぃっ!」

「いぇーい。どんどんぱふぱふー」

 

 椅子の上に立って地団太を踏むサユリ。その頭の上に、無表情で花吹雪を散らすイサミ。そんなサユリを見る部員たちの視線は、まるでかわいい親戚の駄々っ子でも見るかのようだった。

 

「……はぁー」「はぁ……」

 

 アルルとルルカは、そんな平和な光景を見ながら、深い深いため息を吐いた。二人はいつもの道化師の衣装ではなく、セーラー服タイプの峰刃学園初等部の制服を着ている。

 

「どうしたんだい、アルル、ルルカ。君たちがそんな調子だと、ボクは悲しくなっちゃうぜ?」

 

 ショウカはそんな二人のアンニュイな表情を、バズーカ砲のようなとんでもないレンズが付いた超高級カメラで激写に次ぐ激写、床に寝そべって超ローアングルからの一枚を狙いつつ言った。

 

「あ、でもそのまま。うん、かわいいぜー最高だぜーもう持ち帰って神棚に飾っちゃいたいぐらいだぜー♪」

「ねぇショウカ。ニンゲンって、難しいね」

「よくわからないわ、ニンゲンの考えることって」

「おやおや、どうしたんだい。もしかして、アルルにスカートを、ルルカにズボンを履かせたことかい? かわいければ性別なんて、ボクには関係がないぜ? むしろ男女の双子ちゃんにあえて女装男装させるという背徳感溢れるこの組み合わせが」

「くふふ♪ ショウカ、ちょっと黙ろうか」

「きゃはは♪ 流石にドン引きだわ、ショウカ」

 

 アルルとルルカはお互いに向き合って両手を恋人つなぎ、ショウカに視線を送る。言葉とは真逆の態度にショウカはシャッターを切る指をトランザム、〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟のファンが聞いたら絶望のあまり失神するような奇声を上げてゴロゴロと床を転がりまわり撮影しまくった。

 その間中、アルルとルルカは天使のようなほほえみを浮かべながら、考え続けていた。

 

「「ニンゲンは、不可解だ」」

 

 ……と。




【悲報】ショウカ、ついにドン引きされる。<NEW!

 ……と、いうことで。少し長めになってしまった第六話Dパートでしたー。
 正体不明(?)の双子の亡霊、ヘイロンデカール、黒い粒子、六年前の黒色粒子事変など、本作のキーワードをちりばめてみた第六話でしたが、どうでしたでしょうか。A・Bパートののサカキ&ナツキ編では“王”もちょこっと登場しましたが、そのあたりも含めてこの第六話は、主人公は出ないけど伏線的な意味では作者的に結構頑張ったお話でした。
 第七話からはいよいよお待ちかね、主人公機パワーアップです。どうぞご期待ください! そのまえにカスタムキャストによるキャラ紹介とガンプラ作例紹介が入りますが、こちらもご期待ください!
 
 感想・批評お待ちしております。どうぞよろしくお願いします。


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Character.03『ナツキ&フレデリカ』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 やってきましたキャラクター紹介第三弾です。これで計六人の拙作ヒロインたちをカスタムキャストで造形したことになりますね。私に絵を描く力があればとつくづく思うのですが、せいぜい中学生の落書きレベルしか絵が描けないので、カスタムキャストの力は本当にありがたいです。

 ……兎も角。前作に引き続き作者のえこひいきを受けまくったオラオラ系純情乙女にして前作主人公の妻『アカツキ・ナツキ』と、シスコン兄の寵愛を受けすぎてきっと今後何らかの形で爆発するであろう妹キャラ『ヤマダ・フレデリカ』です。

どうぞご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

名前:アカツキ・ナツキ(旧姓:ヒシマル)

性別:女

属性:峰刃学園ガンプラバトル部顧問

年齢:26才

身長:181㎝

 

①あァ? ポーズ? ったく、しゃーねェなァ。

 

【挿絵表示】

 

②ぶち撒けるぜェ! ってなァ!

 

【挿絵表示】

 

 本作の人妻ヒロインその①、美人過ぎるガンプラバトル部顧問、『アカツキ、ナツキ』です。大艦巨砲主義の権化、長身スレンダーボディに圧巻のFカップ。

 前作から引き続きの登場で、準レギュラークラスのキャラは何気に彼女とバンの二人ぐらいですね。レイは声だけのシーンが多いですし。人妻ヒロインその②のエリサはまだ登場回数が少ないですし。思えば前作から作者の思惑を超えて勝手に動いてくれたキャラなので、かなり思い入れはあります。なにせ正ヒロインのナノカは未だに出番なしな上に、旧主人公の妻の座まで奪い取っちゃってますからねぇ。

 キャラのイメージとしては、「男女問わず生徒に人気の女教師(無自覚)」です。バレンタインデーには女子生徒からチョコ攻めにあう感じ。男勝りな頼れるおねーさんなのに純情乙女。旦那一筋なのも逆に生徒人気に一役買っている。そんな感じです。

 ナツキのイメージカラーということで、服や小物は赤系統で統一。もう26才なので、ちょっと大人っぽいコーディネートにしてみました。旧作では好き勝手に跳ねまくっていた赤髪も、少し長めに伸ばしてきちんと整えています。さすが人妻、大人ですね。(笑)

 足元はブーツに黒タイツ……なのですが、カスタムキャストにかんする私の唯一に近い不満点がここにあります。なんか、タイツの表現が……微妙……某タイツに全精力を注いだフェチズムの結晶アニメほどまでは求めませんが、もうちょっと滑らかな感じがいいなあ……デニール数まで指定させろとは言いませんが……

 ガンプラバトル部顧問としてサカキを更生させることに見事成功したナツキですが、今後も登場はさせるつもりです。ただ、バトルへの参加はあまり考えていません。なにせ旧GOB時代のハイランカーで、黒色粒子事変の英雄の一人でもありますので、強すぎて主人公たちの存在価値を食っちゃいますから。某種死の某前主人公さんのように(笑)

 ちなみに旦那は彼女の実家の旅館を継ぐつもりで、大学に通いながら若旦那として修業中です。もちろんガンプラバトルは続けていて、ある立場で今後物語に登場予定です。その時には、もう一人の旧作正ヒロインにも登場してもらおうかと考えています。ちなみに、ナツキの結婚後も彼女との関係は良好で、「むしろエイト君以外にナツキを任せるわけにはいかないよ。」といった感じです。

 長く書き続けていると前作のキャラを登場させるという楽しみがあるのだと、作者としていい経験をさせてもらっているのですが、独りよがりにならないよう気を付けようと思います。今作から読み始めてくださった皆様にとっては「誰だコイツ?」ってな感じでしょうし。前作から読んでくださっている皆様は、いい意味で「またコイツか(笑)」みたいに思ってもらいたいですし。

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

名前:ヤマダ・フレデリカ

性別:女

属性:峰刃学園ガンプラバトル部・一年生

年齢:15才

身長:156㎝

 

①あの、その……私なんかが、いいのでしょうか……

 

【挿絵表示】

 

②ぽ、ポーズ……こんな感じでどうでしょうか、お兄さま。

 

【挿絵表示】

 

 本作の妹キャラその①、いつかシスコン兄貴に反旗を翻すルートがバレバレな過保護され系妹『ヤマダ・フレデリカ』です。まだまだ成長過程、将来の約束されたDカップ。

 まだまだ登場シーンが少ないですが、作者的には結構印象的に描けたのではないかと自画自賛しているヤマダ兄妹の妹、過保護されすぎたお嬢さまのフレデリカです。兄の愛情を感じつつも、認めてほしい彼女の今後に乞うご期待です。いい方向に思いを昇華するか、悪い方向に爆発させるか、物語の進行次第で決めていこうと思っています。彼女とアルベルトについては、プロットにわざと遊びを作っています。どっちに転ぶかは、作者にもまだわかりません。

 外見のポイントとしては、おどおどした良家のお嬢さま、と言った感じです。豊かなプラチナブロンドに泣き黒子、垂れ目気味の大きな碧眼。白い手袋と白タイツによってお嬢さま観を出しているつもりです。白タイツに白ローファーという足元の組み合わせは、現実にはなかなかハードルが高いものですが、こういった二次元のお嬢さまキャラにはぴったり似合うと思います。なかなかに作者の好みがあふれ出ちゃってますね(笑)

 彼女はナツキとは違った意味で前作に頼ったキャラ造形をしているキャラです。前作で最強クラスのファイターで、今作でもGHOSTの総隊長として名前だけは登場している「ヤマダ・アンジェリカ」の親戚筋、という設定ですね。アンジェリカは下手したらショウカにも圧勝してしまうレベルの最強キャラですので、今作でバトルさせるとしたら最終決戦とか、そのあたりだけになると思います。だって旧作で核爆発から腕一本の損傷だけで生還してるし。エリサ&メイファの近接格闘最強コンビを一人で倒してるし。親友が闇オチ寸前になってさえなければ、ブルーブレイヴの時代でも最強クラスのファイターなのは間違いありません。

 そんなアンジェリカの親戚である彼女ですが、作中での兄のセリフからもわかる通り、現状ではあまり強くありません。彼女が進化するには兄の過保護を断ち切らなければなりません。前述のとおり、プロットは決めていませんので今後に乞うご期待です。

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ……と、いうわけで。キャラ紹介第三段、『アカツキ・ナツキ』と『ヤマダ・フレデリカ』でしたー。

 第二弾の時に私のスマホが限界だと書いた後もずっと使い続けていたのですが、ここにきて本当に本当の限界がやってきたようです。電池が熱い。マジで。そろそろ買い替えようと思います。どうやらキャラデータが引き継げなさそうなのが痛いですが……。

次回のキャラ紹介は、前作から六年がたち女子高生になったGHOST隊員の妹ちゃんと、禁断の合法ロリ妊婦26才ちゃんの予定です。

 感想・批評もお待ちしております。どうぞよろしくお願いします。



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Gunpla.06『ジンクスⅣアガートラーム』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 今回のガンプラ紹介は、本編の流れとは全く関係なく(笑)、峰刃学園高校ガンプラバトル部の“第十位(ミネバ・オブ・テン)”にして超絶シスコン、ヤマダ・アルベルトの愛機「ジンクスⅣアガートラーム」です。

 本編では主人公・ライとぶつかった最初の“最高位の十一人”ですが、決着はついていないものの事実上ライの敗北に限りなく近い幕切れとなっています。峰刃学園上位層の強さを表現するためのシナリオでしたが、なぜか執筆中に急に「そうだ、超絶シスコンにしよう」と思いついてしまったのであんなキャラになってしまいました。前作の最強クラスファイター、アンジェリカの親戚筋なので、まっとうな強キャラにしてもよかったのですが……どうしてこうなった(笑)

 兎も角。そんなシスコンっぷりとは関係なく、ガンプラはヒビキ・ショウカをして「峰刃学園最高」とまで言わしめる頑強さを持つ機体となっております。

 では、ご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:ジンクスⅣアガートラーム

武装  :超重GNソード〝クラウソラス〟 ×1

     超重GNシールド〝アグラドラーヴ〟 ×1

     四連装GNビームバルカン/GNビームスパイク ×2

特殊装備:超重積層甲冑

     GNドライブ

必殺技 :トランザム

     アーマーパージ

 

 

①正面&背面

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 この機体の最大の特徴である「防御力・耐久力」を表現するため、見た目からして重装甲な重量級に仕上げてみました。銀色のフルプレートアーマーをイメージしたのですが、なんとなくクトゥルフ+ロボットの魔を断つ刃っぽいシルエットに見えるのは私だけでしょうか。差し色に赤をえらんだことで、カラーリングは某スペシウムな光線を撃つ銀色の巨人っぽい感じですね。

 ベースにしたキットは、主にオーガ刃‐Xとストライカージンクス、ヘルムヴィーゲ・リンカーの三つです。盾はGP‐02のものを、エンブレム部分を削り落として使っています。

 頭部はストライカージンクスのものを使っています。センサー部分であろうスリット部を中世の騎士の兜のような視界確保用の穴とみたて、兜をかぶっている設定に。胸部の装甲版も鎧のように見えますよね。肩幅を出すために、肩関節の3ミリ棒を大幅に延長。伸ばした肩の棒にジンクス系の胸部側面の装甲を取り付けています。両肩の大きな装甲は、ストライカージンクスをベースにヘルムヴィーゲのものを追加し重装甲化。腕部にもストライカージンクスの小型シールドを取り付け、装甲を強化しています。手首部分には、オーガ刃‐Xのビームスパイクを装備。隠し武器的な扱いです。

 手はヘルムヴィーゲのものを使用し、大型GNソード“クラウソラス”を無理なく保持できるようにしています。このクラウソラスはもちろんヘルムヴィーゲのバカでかいソードを使っているのですが、金色の鋲を埋め込むなどしてディティールアップをしています。この金色の鋲モールドは盾や全身の装甲にも埋め込んでおり、全部で確か50以上はあったはずです。ピンバイスで浅く穴をあけて合うサイズの丸モールドを埋め込むだけなので、ひとつひとつはけっこうお手軽でしたが、数が多いので手間でした……

 腰部、脚部は二種類のジンクス系のパーツを複雑に組み合わせています。特に腰の装甲は何枚も重なり合っていますが、これ、ほぼ二機分の装甲を取り付けています。さらに後ろから見ると、超重量の機体に推進力をあたえる追加ブースターの類も装備しています。バカでかい剣と盾を振り回すのに説得力のある足回りとするために太く頑強な足腰にしてみました。オーガ刃‐Xのキットそのままだとドムのように広がった裾部分がスカスカだったので、スラスターを追加しています。後ろからの画像なら少しみえるかと思います。

 後ろからの画像だと、ライが狙ったGNドライブの三角コーンがよくわかりますね。この装甲の塊のような機体でありながらわざわざ弱点を晒しているのは不自然ですが、一応、設定としてはこの三角コーン自体も結構な強度に仕上げている、としています。あとはトランザムの都合とか、このほうが推進力を発揮できるとか、そんな感じで。私も昔勘違いしていたのですが、あの三角コーン自体は太陽炉ではなくてGN粒子推進用のスラスター的なユニットなんだそうです。まあ太陽炉に直結しているので、あの部分へのダメージは太陽炉搭載機にとって大ダメージなのは間違いありませんが。

 

 

 

②アーマーパージ

 

【挿絵表示】

 

 隠し武器というか、機能として、この機体はキャスト・オフが可能です。重装甲系の機体にはよくあるパターンですね。

 この状態のアガートラームは高機動格闘戦型となり、ビームスパイクによる直接殴打で戦います。劇中ではまだ一度も披露していませんが、ライがもっと強くなれば、アルベルトにこの状態を使わせることができるかもしれません。

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

……以上、ガンプラ作例紹介第六弾「ジンクスⅣアガートラーム」でした。

 本編の流れとは全く関係ないガンプラをお届けいたしました(笑)

 次のガンプラ紹介はきっとライの新機体になるはずです。

 最近ガンプラ制作から少し離れていたので、勘を取り戻せるよう頑張ろうと思います。

今後も執筆、ガンプラ制作ともに頑張りますのでよろしくお願いします。感想・批評もお待ちしています!

 



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Episode.06-Extra

 どうもこんばんは、亀川ダイブです。
 この夏は更新頻度が落ちまくりだったので、八月中になんとかここまでは頑張ろうということで、連続更新してみました。
 第六話の追加シナリオ?番外編?的な感じです。いつもの半分以下の文字数ですが、お楽しみいただければと思います。


「おぉーっ♪ 見てくださいマスター、アンナさんとしおみん先輩、じゅんゆーしょーだそうですよー♪」

 

 作業机の端にホログラフ表示された中継画面が映し出すのは、GBN内のニュースサイトによるナデシコ・タッグバトル・カップの速報だ。優勝〝ディザート・リリィ〟、準優勝〝ブルーブレイヴ〟――強豪校として名高い峰刃学園からの参加チームがワン・ツーフィニッシュということで、大きく取り上げられているようだ。

HGFCシャイニングガンダムの空箱に腰かけていたイマが、ぴょいんと跳ねるように立ち上がった。キラキラおめめから星を散らして頬を紅潮させ、ガッツポーズともダンスともつかない謎の動きで興奮を表現している。

 

「……ああ。そうだな」

 

 ライは画面に目を向けつつ、踊るイマの近くから青の塗料瓶を動かした。興奮したイマが塗料瓶に足を突っ込んだら、有機溶剤でイマの現実世界(リアル)拡張実体(ボディ)を洗うのはライの役目だ。〝サラ・サルベージ〟以降に実用化されたエルダイバー用拡張実体は感覚器官がやたらと高性能で、有機溶剤をしみ込ませたティッシュや綿棒で塗料汚れを擦り落とすたびに、イマは「あぁん♪」「ひゃぅん♪」「らめぇぇ♪」と無駄にうるさいのだ。

 一度、部室でその作業をしていたら何人かの男子部員が鼻息荒く見学を申し出てきたので何となく気に入らずガンプラバトルでボコボコにしてやったが――

 

「ほらほらマスター、お祝いの舞いをご一緒に! なのですよーっ♪」

 

 ――全長15センチ程度しかない拡張実体状態のイマだが、こうも無邪気にはしゃいでいる姿を見るのは、まあ、悪い気はしない。もし自分に年の離れた妹でもいたら、こんな気分なのだろうか。

 

(同じ〝妹〟でも……レイとイマでは、まるで違うな……)

 

 ヤジマのセーフハウスで過ごした〝家族〟との日々が脳裏に浮かび、ライの仏頂面がわずかに緩む。六年前、あの男のアジトから救出されたばかりレイとライは、何もできない子供だった。

 レイは、心の傷から、ライは、罪悪感から。

 しかし、そんな何もできない幼い二人以上に不器用で、そして同じように傷ついていた大人二人が、一生懸命に〝家族〟をやろうとしてくれていた。

 その姿にライは再び前を向く勇気をもらったし、レイは日に日に笑顔を取り戻していった――それから一年が経つ頃には、レイは本来の世話焼きっぷりを取り戻し、親代わりだった大人二人を尻に敷くほど元気になった。

 

『もう、あんちゃん! 服は脱いだら洗濯機へ! ラミアねぇちゃん、お仕事の時はあんなにカッコイイのになんでおうちでは裸でフラフラするの! ライにぃちゃん、食べ終わったらお皿片づけなきゃだよっ!』

 

「ひゃっほーっ♪ イマが出場できなかったのは残念ですが、勝ちは勝ちなのですよー♪ にひひっ♪」

 

 しっかり者のレイが踊り狂ってはしゃぎまわるイマを見たら、なんというだろうか。

 画面は切り替わり、試合のハイライトへ。アンナのガトキャノンが、四本足のドム・タイプと激しく撃ち合っている。ライはその様子を横目に、再び作業へと戻った。

 作業台に置かれているのは、濃淡二色のブルーとガンダムホワイト、そしてアクセントに落ち着いたゴールドや鮮やかなレッドの塗装が施されたパーツたち。

 

「さて……」

 

 ライは軽く目を閉じ、深呼吸を一つ。バンとの一騎打ちを経て頭の中に結実したイメージを、再確認する。瞼の裏に浮かぶ新たなる愛機の姿……それを構成する機体各部のパーツたち。ゆっくりと瞼を開くと、イメージと寸分たがわぬパーツたちが作業机の上でものも言わずに佇み、組み上げられるのを待っていた。

 ライはガンプラを作るときに、塗装前の仮組以降に機体を組み上げることはしない。仮組の段階で念入りに擦り合わせと調整を行い、そこから一機に塗装、全パーツの乾燥が完全に終わってから組み上げる、という手順をとる。

 だからライ自身も、彩色された新たなる愛機とは、これから初対面ということになる。

 

「……やるか」

 

 ライはまず赤く塗ったクツ部を二つ並べ、アンクルアーマー、スネ部、ヒザ関節、大腿部……といった具合に、下から順に組み上げていく。そうしてそこに現れるのは、ウィングガンダムを素体に、シャイニングガンダムの意匠を組み込み、進化したクァッドウィングの姿。

 ヒールを高めに調整したクツ部の上に、クァッドウィングから引き継いだフィン状のアンクルスラスターを搭載。引き締まった脚部は、ガンダムらしいホワイトをメインに、金色のマルイチモールドと二種類のブルーで色分けをして完成度を上げている。縁を削り込んだフロントアーマーとサイドアーマーは刃物のように鋭く、リアアーマーには新型のバスターマグナム二丁を吊るしている。

 クリスタルがきらりと光る胸部もプラ板加工でディティールを足しており、丸みを帯びていたイメージを一転、多角的で攻撃的なシルエットに変えている。攻撃的なシルエットは鋭く天に向かって伸びる両肩のアーマーにも表れており、一回り太く頑強に改造された腕部と相まって、攻撃力を高められていることが見て取れる。頭部のブレードアンテナ、ウィング系特有の頬あても丁寧に削り込まれて鋭さを演出しているが、顔の造形そのものはシャイニングのそれに近くなっている。

 そして、大胆にもほぼ全面を濃淡二色のブルーで塗装し、まさに蒼き翼となった四枚羽根。翼そのものもプラバンの加工により大型化されており、猛禽類の如き力強さがひしひしと感じられる。

 

「マスター、ついに……」

 

 いつの間に謎のダンスをやめたのか、イマはライの肩の上にちょこんと座っていた。

 

「ついに、完成なのですねっ!」

 

 イマは興奮した声色で言い、ライの手の中の新機体に熱い視線を注いだ。ライは無言で頷き、完成した新たなる愛機をダイバーギアにセットした。瞬間、プラフスキー粒子の碧い輝きが機体を包み込んだ。機体のあらゆる情報が粒子を介してGBNのシステムへと読み込まれ、それがヒムロ・ライの新たなるガンプラであると認識。

 

「ここからは、イマにお任せなのですよっ、マスター♪」

 

 イマは満面の笑みでぴょいんとライの肩から飛び降り、ダイバーギアに掌をあてた。得意の瞬間転送で拡張実体(リアルボディ)からGBNにダイブ、ダイバーギアのシステム音声に代わって、ライに問いかけた。

 

「さあさあマスター、教えてください。このガンプラの、お名前はっ?」

 

 クァッドウィングから引き継いだ四枚羽根と、さらに攻撃的になったシルエット。クァッドウィングの、自分自身の原点である〝高機動かつ一撃必殺〟に立ち返った、新たなる力。

 

「……ゼロ、だ」

 

 古今東西様々な書籍や情報をあたり、新機体の名称を考えた。現実・空想を問わず、ネーミング辞典などにもヒントを求め、イマには「中二病の再発なのです!」などと茶化されたりもしたが、ある意味、そうでもなければここまでガンプラバトルになどのめり込みはしない。

 そうして考えに考え抜いた結果――結局これ以上に、自分の〝原点(ゼロ)〟に立ち返り、再出発する機体に相応しい名前はなかった。なんの捻りもない、ガンダムWの原作をなぞる様な名づけだが、それでもこの機体に込めた思いを表すには、これ以上のものはない。

だからライはゆっくりと、噛み締めるように、繰り返した。

 

「この機体の名は……クァッドウィング・ゼロだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 




 以上、第六話番外編でしたー。
 ライの新機体が完成したので、どうしてもお披露目したく、このような形にしてみました。次回こそ第七話、クァッドウィング・ゼロも出撃してのバトルとなる予定です。今後の展開にご期待ください!
 感想・批評もお待ちしております。よろしくお願いします。


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Episode.07-A『ソウキュウ ヲ マウ ①』

どうもお久しぶりです。
しばらく更新が止まっている間に、ダイバーズ新作が始まりましたね。ネット配信とか今後どんどん増えていくんだろうなあ……と思いつつ、毎週楽しみにしています。

兎も角。お待たせしまして申し訳ありません。第七話、スタートです。



 ――六月下旬。ライたちが峰刃学園高校ガンプラバトル部に入部して、約二か月。今期のエレメント・ウォーは、シーズンの半分以上が過ぎたことになる。

 

「一学期の終了と同時に、今期のエレメント・ウォーは終わりです。そして夏休みに入ればすぐに、GBNの甲子園と名高い〝ハイアー・ザン・ザ・サン〟が始まります」

 

 アナウンサーのように聞き取りやすい声が、フォースネストの一室に響く。

 300名からの部員を抱える峰刃学園ガンプラバトル部のフォースネストは、〝魔王城〟とも呼ばれる欧州風の古城だ。その荘厳なつくりに相応しく、城の内部には各エレメントが作戦会議などに使える小部屋がいくつも用意されている。

 ライたち〝ブルーブレイヴ〟のメンバーが今集まっているのは、そんなフォースネスト内の小部屋の一つ。銀の燭台や年季の入った木製の椅子とテーブルが並ぶ食堂に、壁一面の巨大な戦術予報スクリーンが設置されている談話室(ミーティングルーム)だ。

 

「ライさん、イマさんが離脱している間も、なんとかEPの収支はプラスでした。先輩とアンナさんの努力のおかげですね。私たちのエレメント評価値は2000の大台も目前、フォース内順位は上位30%以内を維持しています」

 

 戦術予報スクリーンに表示されたカレンダーを教師のように指揮棒でなぞりながら、シオミは軽く眼鏡の位置を直した。新入生であるアンナは可愛らしいピンク色の手帳に丸っこい字で必死にメモを取り、その横でライは仏頂面で腕を組んで頷いていた。さらにその隣では大きなタブレットに落書きアプリを起動させたイマが、「にひひっ♪」と笑いながら仮想クレヨンで

 

「イ・マ・さ・んっ!!」

「きゃんっ!?」

 

 クレヨンを持った手を、指揮棒がぴしゃりと叩く。イマは叩かれた右手をふーふーしつつ、涙目でシオミに抗議する。

 

「ななな、なんなのですかーっ!? 体罰はんたーいっ!」

「これが体罰ならあなたが私の胃に穴をあけようとしているのだって体罰です!」

「ほへ? 胃に穴……って、どうやったら開けられるのですか、マスター?」

「……すまん、シキナミ」

 

 ライはイマの頭を掴んでぐいっと下げさせ、自分も軽く頭を下げた。

 深いため息を吐くシオミの肩を、コウタがぽんぽんと軽く叩く。

 

「ありがとう、シキナミさん。僕もあまり部活には来られなかったから……負担をかけちゃったね。ごめんよ」

「い、いえ、先輩。負担なんて……せ、先輩はリーダーなんですから、もっと堂々としていてください! 情けないっ!」

 

 シオミは頬を赤くしつつコウタの手を払うと、気合を入れ直すかのように指揮棒でスクリーンを叩いた。

 

「と、兎も角、です。今シーズンも終盤戦、残り少ない部内試合では、今まで以上に勝ちにこだわっていきたい、という話です――明日の、トゥウェルヴ・トライブスでも」

 

 第七回部内試合〝トゥウェルヴ・トライブス〟。共闘、裏切り、何でもありの、全12チームによるバトルロイヤル。GBNでも最もポピュラーな形式の多人数同時参加型バトルだ。週一で行われる部内試合の第一回目にもこのルールが採用されており、その時は〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ率いる〝精密兵団(レギオン)〟との戦いになったのだった。

 エレメント〝ブルーブレイヴ〟としては、ライとイマのいなかった先週、そして〝悪喰竜狩り作戦〟の準備に忙しかった週の二回を除いて、部内試合には計4回参加している。これまでの戦績は、一位1回、二位2回、三位1回。なかなかの好成績だ。EPの収支も、部内試合だけで3000近いプラス。ここでもう一勝を挙げておけば、今期エレメント・ウォー上位入賞の目が見えてくる。

 

「今回の作戦領域は、オーストラリア・トリントン基地周辺です。スターダストメモリー序盤、パワードジムで演習をしていたあの砂漠、と言えば伝わるでしょうか」

「検索……ヒット……取り込み中……チン! マップのラーニング完了なのです! これで迷子にならないですよ、マスター♪ ほめてほめてー、なのですっ♪」

 

 仔犬のようにライの胸元にすり寄るイマだが、ライは無表情で無反応。また眉間をピクピクさせかけているシオミをなだめるように、コウタは愛想笑いを浮かべながら言った。

 

「ひ、ヒムロ君の新型は高機動型だろう? あの砂漠なら存分に飛び回れそうだね。コロニー落としの残骸もかなりあるから、盾代わりにしてガトウさんの弾幕で牽制、なんて作戦もよさそうだ」

「は、はい……でも……私、大丈夫でしょうか……」

 

 アンナは眉をハの字にして俯き、力なく呟いた。コウタはその様子が気になって声をかけようとしたが、

 

「はいはーいっ! イマも、イマもがんばりまーすっ。イマは何をしたらいいのですか?」

 

 まるで入学したての小学生のように、ピーンと手を上げたイマが目をキラキラさせながらぴょーんと飛び出してきたので、声をかけることができなかった。

 

「イマのターミガンは特に改造などしていませんが、清掃と整備はバッチリなのでぐふぇっ!?」

 

 ぴょんぴょん跳ね踊るイマの身体がくの字に折れ、ぎゅんと後ろに引っ張られた。ほとんど水着のようなホットパンツのベルトの部分をライが引っ掴み、引っ張って自分の膝の上に座らせたのだ。なかなかの乱暴さだったが、イマはその特別席ポジションに満足げに頬を緩めて「ンもう、マスターってばぁ……♪」などと、もじもじくねくねしている。もちろん、ライは無言の仏頂面である。

 

「あ、あはは……じゃあ、シキナミさん。続けてくれるかい」

「はい、先輩。それでは――明日の対戦相手は、こちらの方々です」

 

 シオミは指揮棒を片手に、もう片方の手で仮想キーボードを叩く。戦術予報画面に映し出されたトリントン基地周辺の鳥瞰図に重ねて、自分たちを含め12チームのエレメント名と、リーダーの名前が、次々と表示されていく。

 

「…………ッ!?」

「あちゃー……」

「えっ……うそ……」

「これは……」

 

 列挙された参加チームを見た、ライ、イマ、アンナ、コウタの反応。シキナミも最初にこのメンバー表が部長から公表・配信されたときには同じようなリアクションだったが、決まってしまったものは仕方がない。黙っていれば美人なはずの部長の、楽しみでたまらなといった悪戯っぽい微笑み(ニヤつき)は今思えばこの対戦表を知っていたからなのかもしれないが、何なら楽しそうだからと仕組んでいるのかもしれないが、あの部長ならそのぐらいのことは平気でやりそうだが、それも今更どうしようもない。

 この対戦表の中で、勝利をもぎ取るにはどうするべきか。それを考えるためにこそ、チームミーティングを開いているのだ。

 第七回部内試合〝トゥウェルヴ・トライブス〟Fブロック参加、全12チームの一番上の枠には『ブルーブレイヴ』『サツキ・コウタ/エイハブストライク』という見慣れた文字がある。そしてその下にも――その名を知らぬ者のない、見慣れた文字が並んでいた。

 

 

 エレメント〝ヤマダ近衛騎士団〟、〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ヤマダ・アルベルト/ジンクスⅣアガートラーム

 エレメント〝モルゲンロート〟、〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟アカツキ・ナツキ/グフリート改八型

 エレメント〝精密兵団(レギオン)〟、〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟〝軍師〟コウメイ・マサヒロ/フォーミュラ・ジム一号機

 

 

「ご覧の通り、私たちのブロックには〝最高位の十一人(ミネバイレヴン)〟級の実力者が三人もいます。この中でどう勝利をもぎ取るのか――」

 

 〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ。奇しくも、今までに戦ってきた強敵たちである。さらには、〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の英雄、アカツキ先生。その実力が〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟程度に収まらないことは、火を見るよりも明らかだ。顧問の教師が一体誰とエレメントを組んで部内試合に出るのか、という疑問はあるが、あの先生はそのあたりは力技で何とでもしてくるに決まっている。

 

「ヤマダ先輩とは、シーズン開幕のミネバ・バトルロイヤルで対戦……ルール上、直接対決というわけではありませんでしたが、限りなく敗北に近い引き分けでした」

 

 生存が勝利条件の椅子取りゲームというミネバ・バトルロイヤルのルールにより、アルベルトと直接対峙したライは撃墜されずに試合終了を迎えた。しかし、バスターマグナムもブライクニルフィンガーも通用しなかった以上、あの時のライにアガートラームの鉄壁を打ち破る術はなかった。シオミの言う「限りなく敗北に近い引き分け」という言葉にも、素直に頷く以外にない。

 

「コウメイ先輩とは、第一回の部内試合で対戦。エレメントの半数を撃墜しましたが……こちらは、全滅。完敗でした」

 

 ブルーブレイヴの、エレメントとしての初戦。連携訓練も最低限だったにしては非常にいい動きができた試合だったが、〝軍師〟マサヒロが指揮する熟練の連携には及ばなかった。

 

「アカツキ先生は……まあ、アカツキ先生ですから。生徒とか顧問とか関係なく、絶対にガンプラバトルで手を抜いたりはしないでしょう。大人気はないですが、間違いなく、強敵です。だから――」

 

 シオミはゆっくりとチームメイトたちの顔を見回し、そして最後に、眼鏡の位置を軽く直して、ライに視線を向けた。

 

「ヒムロさん。新しいクァッドウィングには、重要な役割をお任せします。やっていただけますね?」

 

 シオミの言葉に、一同の視線がライへと集まる。ライは特に表情を変えるでもなく――いや、僅かにその目に、決意の色を滲ませて、頷いた。

 

「任せろ。――ここで退いては、俺の正義が廃る」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「――って、せっかくカッコよくキメてもねぇ? お膝に幼女なんて乗せたままじゃあ、ただのロリコン野郎だぜ? あっはっはっはっはっは!」

 

 視界の端から端までを畳で埋め尽くされ、金銀の細工で龍と虎との大喧嘩が描かれた襖で仕切られた、広すぎる和室。部屋の隅には文化財級の刀剣や鎧兜まで飾られたその大部屋に、まったく不似合いなGBNの空中モニターがいくつもホログラフ表示されていた。

 

「転校生君、キミに目を付けたのは本当に正解だったぜ! あーっはっは!」

 

 夏服セーラーに素足という軽装のショウカは、制服のスカートが派手に乱れるのも構わず、腹を抱えて転げまわった。そのままの勢いで何重畳あるのかという広大な畳をゴロゴロ横断し、これまた何十メートルあるのかという長い板張りの縁側に転がり出る。

 珍しくすっきりとした梅雨の晴れ間に照らされた日本庭園が目の前に広がり、脚立に上って庭木の手入れをしていた顔なじみの職人が、はしたなくスカートのまくり上がったショウカの姿に「ま~たお嬢は……」と苦笑する。部屋の前で待機していた若い黒服の男は、黙っていれば超絶美少女であるショウカの白い太ももを直視してしまい、さっと目を逸らして直立不動の姿勢をとる。

 

「ああ、いや、すまないね。ボクとしたことが、随分とはしゃぎすぎちまったぜ。失敬、失敬」

 

 言いつつショウカは、スカートを整える気など全くない。すらりとした素足ではしたなく胡坐をかき、手に持ったダイバーギアを操作して部屋の中に何枚もホログラフ表示されていたモニターを一斉に消した。

 

「ハイアー・ザン・ザ・サン前、最後のトゥウェルヴ・トライブス……すこぉしばかり悪戯してみたけれど、どうやら面白くなりそうだぜ♪ あーっはっはっはっは!」

「あ、あの……お嬢……す、裾が乱れておりますが……」

 

 満面の笑みで高笑いするショウカに、黒服が遠慮がちに注意する。しかしショウカは意に介さないどころか、白磁のような素足を高々と掲げ、滑らかな太ももの上にスカートを滑らせて見せた。

 

「お、お嬢っ!?」

「おやおや何だい、そんなに慌てて。まあボクも黙っていれば美少女だし、美脚にはちょっとした自信があるんだぜ。夏服セーラーで素足の黒髪ロング女子高生なんて全国の妄想男子の夢の結晶、そうそう見れるもんじゃあないんだし。見る分にはタダだなんぜー? ほれほれー♪」

「わ、私が大旦那様に殺されますっ。お止めくださいっ」

「おーい、お嬢。若ェのをからかうなよぉ! お嬢は外面だきゃあべっぴんさんなんだからよぉ、勘違いしたバカに襲われても知らねーぞ!」

「おやおや、お爺はボクの美脚に興味ないのかい?」

「ケッ! ワシが何回おしめを変えてやったと思ってる! 足なんぞ、どーでもいいわい! その貧相なおっぱい、三倍に育ててから出直してこい! がっはっは!」

「あはは、それを言われると弱いぜ。ご期待に沿えなくてすまないねぇ、お爺」

 

 まだ年若い黒服の男には、ショウカとご老体のやり取りについていく胆力はなく、直立不動を貫くしかなかった――と、その時。黒服の懐で、セットしていたアラームがピリピリと鳴った。

 

「お嬢、時間です」

「ああ、ありがとう。まったく、毎度毎度、この時間が待ち遠しくてたまらないぜ……」

 

 ショウカは猫のように軽やかに、跳ねるように立ち上がって、ある一枚の襖を開いた。その部屋もやはり冗談のように広い和室だったが、ガンガンに冷房を聞かせた部屋のど真ん中には、大型のコンピュータが鎮座し、唸りを上げて毎秒何億何兆の計算を繰り返していた。そのコンピュータは、大仰な台座にセットされた二基のダイバーギアに繋がれており――その上には、二体のHGサイズの人形が、載せられていた。

 

「専用デバイスでも、全人格データの転送に約12分か……まったく、焦らしてくれるぜ。ねえ、アルル? ルルカ?」

「……くふふ♪」「……きゃはは♪」

 

 ショウカの呼び掛けに、二体の人形が悪戯っぽい笑みで応えた。

 〝拡張実体実装(サラ・プロトコル)〟――電子生命体(エルダイバー)であるアルルとルルカの存在は今、ガンプラと同じ材質で作り上げられたボディに宿り、現実世界に実在していた。

 

「しょうがないよ、ショウカ」

「いくら僕たち(エルダイバー)でも、こればっかりはね」

 

 全長15センチに満たない、夏服セーラー&ハーフパンツ姿のアルルとルルカが、サーカスのようにショウカの肩へと跳び乗った。

 

「ニンゲンのダイバーとは違って、僕たちは」

「全人格データを、いちいち転送しているからね」

「わかっているよ。そうでもしなきゃあ、同一個体が無限に複製されてしまうものね。ガンプラならともかく、固有の人格を持つエルダイバーの複製量産なんて……ぞっとしないぜ」

 

 技術的には可能でも、倫理的に禁忌。エルダイバーにも人権が認められて始めた昨今では、当然のことだ。しかし、それはそれとして――ショウカは両肩のアルルとルルカの頭を指の腹で撫でまわしつつ、表情をゆるゆるに緩めまくる。

 

「こんなに愛しいアルルとルルカに出会うのに、十分以上も待たされるなんて拷問だぜ~♪ 何というかこう、一瞬でGBNと現実世界を行き来できる方法とか、ないものかねぇ~♪」

「きゃはは♪ もしそんな事ができるのなら……」

「……それはもう、エルダイバーを超えたなにか(・・・)だよ?」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「――へっくち!」

「……どうした、イマ」

「いえ、なんだか急におはながムズムズ……きっと、イマとマスターのラブラブっぷりが誰かに噂されていたのですよー♪」

「……エルダイバーも風邪をひくのか。熱があるようだな」

「ちょっとマスター、誰の思考回路が熱暴走なのですか! 失礼なのです! ぷんすこ!」

「……ふっ。明日の試合、後衛は任せたぞ」

「ふふん、イマにお任せなのです! アンナさんばりに撃ちまくってやるのです!」

「……もう、寝るぞ」

「あっ、マスター、一緒に寝ましょうよぅ♪ 二秒で現実世界(そっち)に行きますからっ♪」

「…………」

「あっ、ちょっ、ダイバーギアをスリープモードに! スリープモードにしないでくださぁいっ! ンもう、マスターってばぁぁぁぁっ!!」

 




以上、第七話でしたー。
今回はバトルなしでしたが、伏線マシマシでお送りしました。
次回からは”最高位の十一人”だらけのチームバトルロイヤルがスタートです。ライの新型も暴れさせる予定です。またお付き合いいただければ幸いです!
感想・批評もお待ちしています!


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Episode.07-B『ソウキュウ ヲ マウ ②』

お久しぶりです。亀川ダイブです。
約二年ぶりとなるでしょうか。更新再開です。
お楽しみいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。


《――BATTLE START!!》

 

 快晴。宇宙まで抜けるような蒼天が、起伏の多い砂色の大地と好対照をなしている。

 宇宙世紀におけるオーストラリア大陸、トリントン基地周辺。コロニー落としの残骸である巨大な金属円筒が聳え立つ、広大な砂漠の演習場。そこに今、全12エレメント、約50機のガンプラたちが出撃した。

 ある者は陸戦仕様の両脚で駆け、ある者は防塵加工を施したホバーで疾走し、ある者は蒼炎を吹くバーニアや各種の粒子スラスターやサブフライトシステムや飛行形態で飛び立ち、我先にと主戦場へと殴り込む。

 ――しかし、その流れには乗らない者たちもいた。

 

『敵集団、トリントン基地方面に集結中。どうなさいますか、アルベルト様。フレデリカ様』

「徒歩だ。向かってくる気骨のある者のみ討てばいい。我が最愛の妹をエスコートできるのは、兄冥利に尽きるというものだ」

『フレデリカ様、よろしいので?』

「あ、あの、わたくしは……射撃でなら、戦いの、お役に……」

「大丈夫だよ、リカ。私が必ず守ってあげるからね。さあ、私の後ろからついてきなさい。私を騎士(ナイト)にしてくれよ、私のお姫様(リカ)

『……フレデリカ様?』

「……は、はい……お兄さまが、そう、おっしゃるのなら……」

「さあ、行こう。スズ、露払いを頼む」

『……御意に』

 

 銀色の巨人が先導し、新緑の女神がそれに続く。そしてもう一機、細身で小柄なガンプラがコロニー落としの残骸に潜んでいたが、高性能な光学迷彩でも搭載しているのか、その姿は砂漠の陽炎に紛れて消えた。

 

 

「――各エレメントの動き。同盟だな」

『そのようでありますな』

「ふっ――ヒビキも意地が悪い。事前にあんな組分けを発表されれば、この動きなど予想できように」

『その言いようですと、この事態にすでに対策をしている隊長は、部長殿以上の底意地の悪さということになりますな』

「その通りだ、副長。そしてそれ故に、私は〝軍師〟などという異名を頂戴している。〝精密兵団(レギオン)〟諸君、戦争を始めるぞ。エレメント〝フォウ・オペレーション〟――勝利を導き出す!」

 

 砂漠になじむ薄茶色のABCマントを被った六機のフォーミュラ・ジムが散開する。トリントン基地に集結しようとするエレメントたちの、背後をとる動き――コウメイ・マサヒロを頭脳とする、まるで一個の生命体のような連携。それは、砂漠の起伏や散在するコロニーの残骸までも計算に入れた完璧な包囲、そして奇襲の位置取りであった。

 

 

「……なんでこうなるんだよ、クソッ」

『ンだァ? 何か文句が聞こえた気がするが、気のせいかァ?』

「はいはい気のせいですよ空耳ですよ脳量子波のエラーですよッ、ナツキちゃん先生閣下様ァ! 〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟にして〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟アカツキ・ナツキ様がオペレーター席でふんぞり返っててなぜか俺が一人で部内試合に放り込まれたことぐらい、何とも思っちゃあいませんよッ!!」

『おうおう、そりゃァ良かった。やっぱ不良少年の更生には青春と部活と努力と勝利が不可欠だからなァ! はっはっはー!』

「更生プログラム終了っつてたじゃねーか! 気まずいんだよ、いきなり部内試合なんて! しかも一人で! ど、どの面下げてバトルなんて……わかんだろ、センセーさんよぉッ!」

『ンじゃァ、オレサマが付き添ってやろうか? 〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟にして〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟であるこのオレサマが、一人っきりでバトルするのが怖いマイルドヤンキー男子高校生に、ママみてェに付き添ってやろうか? センセーを間違ってママって呼ぶんじゃァねェぞ? はっはー!』

「んだぁぁッ、うるせえッ! 全員ブッ飛ばしてやるから黙って見てろ……て、くださいッ! 行くぜッ、ヤクト・ズールッ!」

 

 サカキ・リョウはホログラムを突き破るような勢いで通信を叩き切り、ヤケクソ気味にフットペダルを蹴り込んだ。そんなダイバーの操縦に応えるように、ヤクト・ズールは砂煙を吹き散らし、荒々しく飛び立った。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

《――BATTLE START!!》

 

 初期配置は、トリントン基地のすぐ東。それ以外の方向には広大な砂漠の演習場が広がり、遠く砂煙の向こうにはコロニー落としの残骸が地に突き立っているのが見える。

 それぞれ50メートルほどの距離を開けて砂の大地に転送されたライたちは周囲の状況をざっと把握し、事前に打ち合わせていた作戦の中で、どれが最適かを即座に判断した。

 

「よぉっし、作戦Dなので」

『作戦Bです』

「イマもそう思っていたのです! とりとりりん基地にれっつごー、なのです!」

「あっ、ま、待ってイマちゃん、置いてかないで~っ」

 

 あっという間にビークバギーモードに変形したターミガンに飛び乗ろうとする、最重装・弾幕特化装備のガトキャノン。何とかターミガン背部のクラッチレバーを掴んだかと思った瞬間、イマはホイールを猛然と回転させてロケットスタート、足場の悪い砂の大地もものともせずにトリントン基地へと一直線に突っ込んで行った。

 

『ああ、もう……何のための作戦会議だったのかと……』

「大丈夫だよ、シキナミさん。ちゃんとガトウさんを乗せてくれている。仕事はきちんと覚えているんだよ、イマちゃんも」

『だから、先輩は甘すぎですと何度も……いえ、お説教はあとの楽しみに取っておきます』

「は、はは……そうしてくれると嬉しいなあ。じゃあ、僕も行くよ!」

 

 重い機体を飛翔させる大型ブースターを全力全開、フルシティストライクは砂漠の青い空に舞い上がり、トリントン基地を目指す。地上を爆走するターミガンとガトキャノンに何とか追いつき、トリントン基地までの距離は、約2000。モビルスーツなら一息の距離だ。

 

「そ、そういえば……ライ先輩は、どど、どこに?」

 

 ガタガタと揺れるターミガンの背中で必死に操縦桿にかじりつきながら、アンナはライの姿がないことに気付く。確かに、転送されたときにはいたはずなのに。イマちゃんが「作戦D」とか的外れなことを言っていた時には、すでに、姿は……?

 

「ふふんっ、よくぞ聞いてくれたのです、アンナさん! イマの敬愛するマイマスターは、とっくに――」

 

 なぜか自慢げに胸を反らすイマのドヤ顔がアンナの正面モニターを占領し、「ちょ、イマちゃん前見て運転!」とアンナが慌てふためいた、その瞬間だった。

 

「――成敗ッ!!」

 

 吹き荒れる寒風、舞い踊る雪風。モビルスーツの数倍はあろうかという巨大な氷柱が、トリントン基地のど真ん中に突き出した。

 

「――ねっ?」

 

 イマは満面の笑みで、瞳から星が飛び散るようなウィンクをした。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 初期配置がトリントン基地内部だった彼らは、単純に運がよかった。最初から地の利を得ているようなものだし、この状況からなら、他の奴らと打ち合わせていた例の作戦(・・・・)も――そう思った次の瞬間、彼のバイアラン・カスタムの顔面には、強烈な跳び蹴りが叩きこまれていた。

 吹き飛ばされ、グルグルと回る視界。奇しくもガンダムUC劇中でバイアラン・カスタムが飛び立った格納庫に頭から突っ込んだ彼の機体に、天から打ち付けるような衝撃。

 

「――成敗ッ!!」

 

 試合開始から、およそ七秒。何が起きたのかわからぬままにバイアラン・カスタムは氷漬けにされ、握り潰された。崩落する氷柱、舞い上がる氷結粒子の結晶。白く煙るその中心で、モビルスーツらしきシルエットと、その背に生えた蒼い四枚羽根が僅かに揺らめく。

 

『四枚羽根……転校生かぁぁぁぁっ!』

『隊長を、よくもぉぉっ!』

『奇襲かよっ、畜生!』

 

 チームメイトのシルヴァ・バレトと二機のジェスタ・キャノンが五月雨撃ちにビームを連射、その熱量と衝撃波で白煙を吹き散らす。しかしそこにはすでに四枚羽根のモビルスーツの姿はなく、蒼いバーニア噴射の跡が、天に向かって稲妻のような軌跡を描いていた。

 

『う、上っ!?』

 

 シルヴァ・バレトはビームキャノンを上空へ向けるが、それが撃ち放たれるよりも速く、銀色の銃口がシルヴァ・バレトの顔面へと押し付けられていた。

 

「遅い」

 

 ドッ、ビュオォォンッ!!

 青いビームの奔流が、シルヴァ・バレトのボディを根こそぎ消滅させた。僅かに熔け残った右手がぼとりと地面に落ち、同じく熔け残った右膝から下のパーツが、その上にどさりと倒れる。

 

『うおぉぉぉぉっ!』

『やりやがってぇぇっ!』

 

 残ったジェスタ・キャノンたちは両脚のミサイルとグレネードを全弾発射、弾幕で四枚羽根を抑え込みにかかるが、

 

「…………!」

 

 蒼い四枚羽根が縦横無尽に方向を変えてバーニアを噴射、急加速と急制動、鋭角的なターンを繰り返してミサイルの大群を潜り抜け、天高く舞い上がった。

 

『ど、どんな運動性能だよっ、素でトランザムでもしてんのか!?』

『速い、速すぎるぞっ! 転校生ぃぃぃぃっ!』

「……そろそろ、覚えてほしいものだな」

 

 撃ち上げるビームキャノンも、連射するビームマシンガンも、稲妻のような回避機動に翻弄され、掠りもしない。四枚羽根はくるりと宙返りをしてビームキャノンのパルス状のビーム弾を躱すと、両手に持っていた銀色のライフルを両腕へと装着した。一目見て高出力とわかる幅広く肉厚なビーム刃がその銃口から噴出、まるでビームザンバーのような迫力を持つビームトンファーが形成された。

 

『き、近接っ!?』

『させるかよっ、四枚羽根ぇぇっ!』

 

 二機のジェスタ・キャノンはバルカンポッドまで撃ちっ放しにして弾幕を厚くするが、やはり四枚の高機動ウィングスラスターの齎す機動・運動性の前に、命中弾は皆無。

 

「……ヒムロ・ライ。クァッドウィング・ゼロだ」

 

 ライはぽつりと呟くように言い、フットペダルを踏み込んだ。クァッドウィングは今までの複雑な機動から一転、落雷のように急降下、地面すれすれでほぼ直角に軌道変更、地を這うような低軌道でジェスタ・キャノンに肉薄した。

 そしてすれ違いざま、薙ぎ払うような一閃。振り抜いた左右のビームトンファーが二機のジェスタ・キャノンをそれぞれ胴切りにした。一瞬遅れて爆発炎上。基地施設を巻き込んで膨れ上がる火球を背後に、クァッドウィングはスライディングして着地。

 

「……よろしく頼む。先輩方」

 

 聞かせるでもなく呟きながら、ライはレーダー画面に目をやるが、敵影はなし。視界の端からこちらに向けて猛スピードで近づいてくる機影は、味方のものだ。

 

「ひゅーっ、さすがはマスターなのですっ♪ バチゴリにカッコイイのですよー♪」

「いい、急いできましたけど、何も心配いりませんでしたね」

 

 鼻息荒く飛び込んできたイマのターミガンは車輪を派手に鳴らしてドリフト、クァッドウィングのすぐ脇に勢いよく滑り込む。その背中からガトキャノンは半ば振り落とされるようにして飛び降り、すぐに両肩のシールドを展開した。同時、バギー形態からMS形態へと変形したターミガンも、両腕のシールドを構えつつ、クァッドウィングを挟んでガトキャノンと背中合わせの位置に陣取る。

 

「作戦B……クァッドウィングのスピードと火力で先手必勝、プラス僕たちの火力支援、のはずだったけど。さすがはヒムロ君の新型だ。援護する時間もなかったよ」

 

 さらに、コウタのフルシティストライクが、四本腕に四丁のライフルを構え、ライの背後を守るように着地した。チーム最大の突撃力を持つクァッドウィングを守りつつ全周囲を警戒する、円陣防御陣形である。

 

「ふふん! マスターはイマのマスターなのですから、このぐらい当たり前なのです! ねー、マスター♪」

「……初手で四機撃墜は我ながら上々だが、次はどうする」

 

 イマへの塩対応は相変わらずだが、ライが戦果を誇るとは珍しい。シオミは内心微笑みながらも、戦域マップに視線を走らせるが、レーダーの映りが悪い。ミノフスキー粒子が、急激に濃くなっている。

 

『他チームの状況、掴めません。しかしミノフスキー粒子濃度急速上昇、敵がいるのは確実です。安全確保を最優先に、有視界で索敵しつつ移動を。〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟が3人もいる戦場です、慎重に……来ました、ミサイル多数!』

 

 シオミの言葉と同時、ライたちの視界に警告表示がポップアップ。間を置かずミサイルの雨が降り注いできたが、素早く反応したターミガンのバルカンによってその大半は迎撃された。空に咲く爆炎の華、その火球の間を縫うようにして、SFS(サブフライトシステム)に乗ったMSの一群が降下してきた。

 連邦系の角ばったデザインながら、ジムやジェガン系統の洗練されたスリムさとは程遠い、装甲に着ぶくれした重MS――

 

『グスタフ・カール4機、および同数のSFSを確認!』

「イマちゃん、ガトウさんは弾幕! ヒムロ君は突撃! 周囲の警戒は僕が!」

「はは、はいっ」

「なのです!」

「……了解」

 

 ライは低く呟き、クァッドウィングを飛翔させた。同時、ガトキャノンの両手両肩両胸の銃口が一斉に火を噴き、派手な弾幕をぶち上げる。被弾を嫌ったグスタフ・カールたちは回避運動に入るが、イマがバスターライフルで退路を薙ぎ払い、その行き先を奪う。

 SFSの翼端がビームに焼かれ、挙動がふらつく。その隙を、ライは逃さなかった。

 

「……いただく!」

 

 ガトリングとバスターライフルの弾幕を稲妻機動で潜り抜け、両腕にビームトンファーを抜刀。慌ててビームサーベルを抜こうとしたグスタフ・カールを、すれ違いざまに斬り付ける。ビームサーベルを握ったまま、胴切りにされたグスタフ・カールの上半身が落ちていく。乗り手を失ったSFSは弾幕の中に突っ込んで行き、蜂の巣になって爆発した。

 

『ハハッ、流石は噂の転校生ってかぁぁ!』

「……っ!」

 

 突撃してきたSFSを、ライはビームトンファーで両断。しかしその上にMSは乗っていない。SFSの突撃を目隠しに急降下してきたグスタフ・カールは、クァッドウィングへと掴みかかってきた。

 

『良いよなぁ、可愛い女の子が三人もいるチームは! 嫉妬に狂うぜ、転校せぇぇいっ!』

 

 左肩にリーダーマークを付けたグスタフ・カールは、がっぷり手四つ、重MSのパワーに任せて組み付いてくる。クァッドウィングはモビルファイターのフレームを利用したガンプラ、決してパワーで劣りはしないが……流石にリーダーマークを付けているだけあって、このグスタフ・カール、ガンプラの完成度が高い。簡単には振りほどけない。

 

「ら、ライ先輩っ。う、撃ちたいけど、そんな状態じゃあ、私には……っ」

「まったくしょーがないですねーっ! ここは一発、イマがドカンと」

『いやいや待ちなさいっ! この状況でバスターライフルとかアホですかあなたはっ!』

 

 何やら通信機の向こうが騒がしいが、そんなことよりあとの二機をきっちり落としておいてほしい。ライは軽くタメ息を吐くが、それが何かを刺激したのか、グスタフ・カールのダイバーは額に青筋を浮かべて怒鳴り出した。

 

『だからそのっ、スカした態度がよぉぉッ! おどおど系巨乳後輩キャラのガトウちゃん! 金髪ツインテ褐色ロリ元気っ娘のイマちゃん! お叱り系世話焼きメガネキャラのシキナミちゃん! そんだけ揃ってて何が不満だぁぁッ、転校生ぃぃぃぃッ!』

「……何の話だ」

『恨まれてるぜって話だよ! だからせいぜい、背中に注意するんだなぁぁッ!』

 

 敵リーダーの怒声を合図に、残る二機のグスタフ・カールは、基地上空から急速離脱。この状況、敵リーダーの言葉、敵の動きから察するに――

 

「……同盟か」

「全機後退! シキナミさんっ!」

『はいっ。索敵、もうやってます!』

 

 ライ、コウタ、シオミは同時に同じ結論に達した。ライはグスタフ・カールを蹴り飛ばして無理やり距離を取り、コウタは四丁ライフルで全周囲を警戒しながら後退、シオミはあらゆる索敵装置で再度基地周辺を走査した。一拍遅れて、アンナとイマも基地施設の陰に身を隠す。

 ……しかし、

 

『あ、あれ……? おいお前ら、狙撃は……?』

 

 ……何も、起こらない。

 予想外の事態に、敵リーダーは激しく動揺していた。離脱していた二機のグスタフ・カールにも動揺と混乱が見られ、それを見上げるライたちは、彼ら以上にわけが分からない。

 空振り、期待外れ、連携ミス……? なんとも白けた空気が流れること、約3秒。最も早く我を取り戻したのは、意外にもイマであった。

 

「ちゃぁぁ~~んすっ、なのです!」

 

 ビュゴッ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 バスターライフルが火を噴いて、所在なく上空を旋回していたグスタフ・カールを、SFSごと蒸発させた。その爆発をきっかけに全員が動き出すが、加速力においてクァッドウィングを超えるガンプラなど、そういるはずもない。

 

「……いただく!」

『なっ、しまっ……』

 

 カツン……ビュオォォォォンッ!

 バスターマグナム、零距離射撃。敵リーダー機は吹き飛び、主を失ったSFSは基地施設に墜落し、大破炎上。残る一機のグスタフ・カールは逃げ出そうとするが、フルシティストライクのロングライフル四門斉射が、その背中を撃ち抜いた。

 

『は、話が違う! あいつら、裏切』

 

 捨て台詞を言い切ることもできず、グスタフ・カールは爆散。ダイバーは待機エリア送りとなった。砕け散ったプラスチック片がパラパラと燃え墜ち、戦場に静寂が戻る。

 

「……なんだか、釈然としないね」

「……ああ」

 

 イマが敵機撃墜を褒めてほしそうに目をキラキラさせて見つめてきていたが、ライはそれをとりあえず無視。コウタの言葉に同意しつつ、姿勢を低くして周辺を警戒。イマは褒めてもらえないとわかり唇を尖らせてぶーたれるが、ライはそれも無視。シオミから送られてきた索敵データを確認する。

 

「……これは」

「あ、あわわ……たた、大変じゃないですか、これ……っ」

 

 アンナが冷汗をかくのも無理はない。基地周辺は、完全に包囲されていた。ミノフスキー粒子の影響下のため、敵の総数ははっきりとはわからない。しかしそれでも、20を超えるMSが確認できた。〝第十位(シスコン)〟と〝第八位(センセイ)〟以外、残るほぼ全チームが同盟を組んでいる計算だ。

 この数を揃えておきながら、そしてこうも布陣していながら、あのタイミングで撃たない理由がない。ライはイマの肩を掴んでより深く遮蔽物の陰に隠れ(「あんっ、マスター♪ こんな時にイマを暗がりに連れ込んで何を」「……」「ああすみませんブライクニルフィンガーを、無言でブライクニルフィンガーを起動しないでくださいっ!」)させた。

 

「……シキナミ。電波障害は強いのか」

『はい、ミノフスキー粒子は戦闘濃度で散布されています。もし撃たれていれば、私たちは……先輩、どう思いますか』

「うぅん……どう、って言われても……謎だなぁ」

『その疑問には、自分が答えよう』

 

 通信に割り込む、聞き覚えのある声。冷静、理知的、傲りなく知的。高校生離れした落ち着きと風格さえ感じさせるその声の主と、ライは戦った記憶があった。

第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟――〝軍師〟コウメイ・マサヒロ。

 

『端的に言おう。これは、私なりの騎士道精神――いや、ガンプラ道精神だ』

 

 




 以上、第七話Bパートでしたー。

 一年戦争がほぼ二回終わりそうなほどの間が空いてしまい、申し訳ありません。
リアルで色々あったのですが、兎も角。この世界のどなたかに作品を読んでいただけるのであれば幸いです。第七話は全六話構成の予定ですので、まずはそこまで書き上げようと思います。

 実は、今回の更新再開はある読者さんからいただいたメッセージがきっかけだったりします。こんな錆び付いて焦げ付いていた作品と作者に言葉がけをくださって、ありがとうございました。もう少し頑張ってみようと思います。お礼にイマが脱ぎ「成敗ッ!なのです!」ませんすみませんもうしません。


 次回更新は土曜日の予定です。
 感想・批評お待ちしています。どうぞよろしくお願いします。


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Episode.07-C『ソウキュウ ヲ マウ ③』

第七話Cパートです。

コウメイ・マサヒロの策略とは?
そして、更生したアイツも活躍する予定!?

どうぞお楽しみください。


 MSN-04IIナイチンゲール。ガンダム好きなら言わずと知れた化け物じみたその巨体が、轟音とともに崩れ落ちた。

 

『……こ、コウメイ……っ! 読んでいたのか、同盟の事を……!』

「あの組分け表を公開されれば、このぐらいの予想はつく。君がリーダーになることも、な」

 

 涼しげに答えるコウメイ・マサヒロに対し、ナイチンゲールのダイバー……同盟軍のリーダーであった三年生男子は何か恨み言を投げつけたらしいが、それはガンプラの爆発音に掻き消され、コウメイの耳に届くことはなかった。

(ふん。部長(ヒビキ・ショウカ)の思惑に乗せられている感が強いが……まあ、いい。他人の掌で踊ってみせるのも、また一興だ)

 

『隊長。同盟軍の通信回線、掌握しました』

「ご苦労。こちらに回せ」

 

 言いながらコウメイは、砂漠用迷彩を施されたABCマントを脱ぎ棄て、コロニーの残骸の頂上へとフォーミュラ・ジムを踊り出させた。射撃への警戒も何もない、不用心極まりない行動だったが、今このタイミングで彼を撃てるガンプラなどあるはずもない。このエリアは彼とその仲間〝フォウ・オペレーション〟が完全に制圧しており、周囲に散らばって潜伏する同盟軍に指示を出すはずのリーダー機はたった今、撃墜されたばかりなのだ。

 コウメイは高みから辺りを睥睨し、演技がかった仕草でフォーミュラ・ジムにロングライフルを掲げさせる。

 

「同盟軍の諸君。見て聞いていることと思うが、我々は諸君らのリーダー機を撃墜し、通信網を掌握した。よって我々は諸君らを殲滅することも、解散を命じることもできるわけだが……あえて自分はここで、下種な戦術を採ろう」

 

 掲げたライフルの銃口を、コウメイはゆっくりとトリントン基地へと向けた。

 

「今この瞬間より、私が盟主だ。同盟全機、合図があるまでその場で待機。逆らう者は、我が隊がその背中を撃つ」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「な、な、なんだってーっ!? つまりどういうことなのですかマスター!」

 

 大仰に驚いておきながら何も理解していないイマが、真剣な顔でライに尋ねる。ライは珍しく自分が手汗をかいていることを自覚しながら、イマに答えた。

 

「……30機近いMS部隊を、〝軍師〟コウメイが指揮する」

「えぇっと……うーんと……マジヤバイじゃないですかマスターっ!?」

『ご理解いただけたようで何よりだ、エルダイバーのお嬢さん』

 

 コウメイが口元に微笑みを浮かべるのと対照的に、イマはジタバタあわあわ、アンナは両手で口元を押さえて涙目になり、ライは眉間のしわを深くした。シオミはギリリと奥歯を噛み締めながらも、各種センサー類をフル稼働、何とか敵の布陣を把握しようと手を動かし続けている。

 その中でコウタはがっくりと肩を落として苦笑い、ため息を吐きながら言葉を返した。

 

「君のガンプラ道精神のおかげで、僕らは全滅していないということかな。コウメイ君」

『圧倒的な多勢に無勢。しかも自分は、逆らえば撃つと脅して軍を動かしている。下種と自覚してこの戦術を採るゆえに、ガンプラ競技者として、せめてもの免罪符として、この通信を送った』

「僕たちと組んで同盟軍の方を何とかするって選択肢は、今更もう選べないんだろうね」

『諸君らは十分に強敵だよ、サツキ・コウタ。前回のトゥウェルヴ・トライブスからさらに成長した諸君らは、もはや難敵とさえ言える。特に、新型の四枚羽根――一対一の近接戦闘では、自分たちはもはや、ヒムロ・ライには勝てない。故に、物量に頼るのだ』

 

 同盟乗っ取りを実行しながら、こちらの戦闘データも収集していたということか。実に抜け目ない。またも情報・戦略両面で後手を踏んでいることに、シオミは唇を噛む。

 

『自分はすでに、勝利への式を組み上げている。どう戦うか見せてくれ、〝ブルーブレイヴ〟の諸君……この通信終了から90秒後、我々は攻撃を開始する。以上だ』

 

 通信が切れるのと同時、レーダーの映りが一層悪くなった。砂嵐だらけのレーダー画面の中で、何とか捉えられた敵機の配置が、次々と変わっていく。同盟軍MS部隊への、コウメイの作戦指揮が始まったのだ。

 

「ささ、サツキ先輩っ、シキナミ先輩っ。さ、作戦は……!」

 

 涙目のアンナは震える声で操縦桿を握り、とりあえず両手のガトリングを基地の外へ向けた。しかしその銃口はカタカタと震え、弾をばら撒くにしても頼りない。

 

「落ち着いて、ガトウさん。大丈夫、考えて動こう……敵の基本戦術を数の利を生かした包囲殲滅戦と想定。シキナミさん、基地施設内の遮蔽物をリストアップよろしく」

『ビームライフル程度なら防げるものは多いですが、メガ粒子砲クラスを防げるものはごく少数です。籠城戦ではジリ貧ですが……打って出るには、あまりにも数が……!』

 

 〝軍師〟とまであだ名されるコウメイ・マサヒロのこと、ガンプラ道精神などというセンチメンタリズムを持ち出してきてはいても、作戦指揮は徹底して現実主義だ。この後さらに〝最高位の十一人〟が二人もいると考えれば、クァッドウィングに近接戦闘をさせることすらなく、数の暴力で遠距離からすり潰してくるに違いない。

 今回、ブルーブレイヴ各機の装備は突撃するクァッドウィングを支援するため、遠距離攻撃兵装が充実している。ガトキャノンとターミガンはシールド複数持ちで、フルシティストライクも射撃耐性の高いナノラミネート装甲だ。包囲されても多少は持ちこたえるだろうが……反撃の糸口が、見つからない。

 都合よく、そして空気を読まず、〝第八位(センセイ)〟あたりが包囲網の後ろから突っ込んできてはくれないかと期待してしまう。

 

(ダメ、そんな偶然なんて。攻撃開始まであと60秒、何か作戦を……戦術を……!)

「だいじょーぶですよ、しおみんセンパイっ! 力量が物量をひっくり返す! ガンダムの世界では、よくあることなのです! にひひっ♪」

「あはは。楽天的だなぁ、イマちゃんは」

『ああもう、何笑ってるんですか先輩っ。物量をひっくり返すなんて、何か決め手になるものがないと……!』

「ふふん! 決め手ならイマにお任せなのです! ローリングバスターライフルで、こう、グルっときゃわっ!?」

 

 がっしゃーん。イマが何も考えずに振り回したバスターライフルが、格納庫のシャッターをぶち壊した。幸い、バスターライフルに損傷はないようだが――と、その時。シオミの眼鏡が、きらりと光った。

 

『……イマさん』

「あわわ、ごごご、ごめんなさ……」

『お手柄です』

「……へ?」

 

 怒られると思って身構えていたイマの口から、変な声が漏れた。シオミは手早くコンソールを操作し、壊れたシャッターの奥にあったものを、全員の画面に共有した。

 

「……そうか、トリントン基地……0083の序盤なら、確かにこいつは……!」

『はい。これは、決め手になります……!』

 

 同盟軍攻撃開始まで、あと30秒。シオミは一瞬で組み立てた作戦を全員に伝え、コウタの「それで行こう!」の一言で、ブルーブレイヴは動き出した。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 攻撃まで……3、2、1、0。

 

「同盟全機、攻撃開始」

 

 トリントン基地をほぼ全周囲から取り囲んだ同盟軍MS部隊は、色とりどりのビームとありったけの実弾を、一切の遠慮なくぶっ放し始めた。その様はまるで絨毯爆撃。基地を挟んだ対面の味方を誤射しないよう、やや打ち下ろし気味のビームが次々と基地施設を抉り、降り注ぐ砲弾やグレネードが次々と炸裂する。

 そんな鉄火豪雨の中を、ライたちブルーブレイヴは、2・1・1のフォーメーションで突破しようとしていた。

 先頭の二機はターミガンとガトキャノン、バギー形態のターミガンに騎乗したガトキャノンがシールドを前面に掲げ、文字通りチームの盾となって爆走している。続く二番手は、ターミガンに速度を合わせて張り付くクァッドウィング。そして殿にはフルシティストライクが、四丁ライフルで直撃コースのミサイルや砲弾を迎撃しながら続いている。

 

「ふむ……一見、実直な手だが……」

 

 戦力を集中させての一点突破。数で劣るブルーブレイヴに取れる手段はそう多くないが、ベーシックな手を選んだものだ。ならばこの次の彼らの動きは、大きく四つ想定できる。

 パターン1、あの勢いのまま包囲網を突き抜けて距離をとり、追撃部隊を各個撃破する。

 パターン2、包囲部隊の中に突っ込み、同士討ちを避けたい部隊の混乱に乗じ、中から崩す。

 パターン3、包囲部隊の中で四枚羽根を暴れさせ、射撃型三機で指揮官を討ちに来る。

 パターン4、包囲部隊の中で射撃型三機を暴れさせ、四枚羽根が指揮官を討ちにくる。

 

(……3、4はないな。自分の位置はまだ把握されていない。仮に自分の首を獲れても、チームの損耗が大きすぎる。〝第十位〟や〝第八位〟と戦えなくなる。サツキ・コウタは一位を捨てる男ではない。ならば……パターン1、か)

 

 コウメイはフォウ・オペレーション各機から送られてくる映像とデータを睨み、ブルーブレイヴの出方にアタリをつけた。

 

「ブレインよりレギオン3、4、5、6へ。部隊を動かし、敵をできるだけ足止めせよ。ただし、戦力の温存を優先。最終的には突破させて構わん。各機を絶対に四枚羽根の間合いに入れず、射撃による面制圧を徹底させよ。レギオン2は部隊を基地西方に移動、敵の側面を叩け」

 

 レギオン各機からの『了解』との返答とともに、同盟軍各部隊が、コウメイの思い描いた通りに展開していく。基地の東に展開していた5機ほどを、基地の南北から西へ回り込ませる。レギオン2の指揮下には、機動力の高い空戦型を集めている。いくら足止めしても包囲網は突破されてしまうだろうが、突破したと思ったところに空と背後からの十字砲火を浴びせてやれば、殿のサツキ・コウタぐらいは落とせるだろう。

 

『敵部隊、包囲網突破目前。基地北西方向へ進行中』

「構わん、予測通りだ。25秒でレギオン2部隊が到着し――」

 

 その時、クァッドウィングが、コウメイの予想を裏切る動きを見せた。四枚羽根ブースターから青い炎を噴き出して、突然進路を反転。走り去る仲間に背を向けて、再び包囲網の中へと突っ込んで行ったのだ。得意の稲妻機動すらかなぐり捨てた、ただスピードのみを求めるかのような猛烈な直線加速。その手には、離脱する直前にガトキャノンから受け取ったシールドを構えている。

 

(パターン3だったか……今更? 意味がない、このタイミングでは。ならば……!?)

『隊長……!』

「意図は不明だが、封殺する。レギオン4、撃て」

『了解』

 

 コロニーの残骸にバイポッドを据え付けたレギオン4のロングライフルが、超音速の砲弾を吐き出した。音を置き去りにした徹甲榴弾がクァッドウィングのシールドに突き刺さり、炸裂。ただでさえ耐久限界間近だったシールドは粉々に吹き飛んだ。しかしクァッドウィングは多少姿勢を崩しながらも飛び続け――腕に抱えたモノ(・・・・・・・)も、取り落とさなかった。

 それは、トリントン基地の格納庫に眠っていた、〝決め手〟となるもの。ホバー機能を持つ太い脚も、特徴的な両肩のバインダーも切り落とされ、胸部と頭部だけになってはいたが……それでもコウメイには、それがあの機体であると一目でわかった。

 ジオン系MSのような分厚い胸部装甲に、どう見ても悪役面にしか見えないガンダム顔。バーニア・スラスターの類が一切ない、四角い箱のようなバックパック。

 

「GP-02……だと……!?」

 

 0083スターダストメモリー、その最序盤でトリントン基地から強奪されたガンダムタイプ。今回のフィールドがトリントン基地である以上、オブジェクトとして配置されていてもおかしくはない。勿論、ガンプラとして使うことなどできはしないが……他のオブジェクトと同じように、ビームサーベルで斬れるし、撃てば爆発する。

 ――そう、爆発するのだ。

 

「いかん、奴を止めろっ!」

『……遅いな! 〝軍師〟ッ!』

 

 コウメイは慌てて叫んだが、時すでに遅し。ライはフットペダルを蹴り込んでほぼ垂直に急上昇、GP-02の胴体を、地面に叩きつけるように真下に放り投げた。同時、胸部マシンキャノンが火を噴いて、落ちていくGP-02を――アトミック・バズーカ用の核弾頭を格納したバックパックを、撃ち抜いた。

 

 ゴバッ……ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 圧倒的な光と熱の大渦が、トリントン基地を呑み込み焼き尽くし、砂漠に突き刺さったコロニー落としの残骸をへし折り薙ぎ倒す。吹き荒れる熱波と膨れ上がる超高熱の火球が何体かのガンプラを呑み込み、蒸発させた。

 

「くっ……ふふっ、まったく。運まで味方につけられては敵わんな。レギオン各機、損害報告!」

 

 倒壊するコロニー残骸から寸前で脱出し、コウメイはフォーミュラ・ジムを砂漠に伏せさせた。砂漠迷彩のABCマントを身に纏い、景色と同化する。僅かに頭を上げて周囲を窺うが、熱波に巻き上げられた砂ぼこりで、何も見えない。

 しかしあの規模の爆発ならば、同盟軍の機体はかなりの損害を受けただろう。そして位置的に、レギオン4、5はまず間違いなく爆発に巻き込まれている。かなりの痛手だ。しかしそれでも、まだこちらの数的有利は覆らないが……そこで、コウメイは違和感を覚える。

 

「レギオン各機、状況を……そうか、これが狙いか」

 

 通信が、断絶している。

 砂の嵐を映しだす通信画面は、ミノフスキー粒子の影響によるものではない。核爆発はその絶大な破壊力以外にも、強烈な電磁パルスを発生させるのだ。勿論MSの電子機器は高度な電磁波対策をしているのだが、それでも、この近距離で核爆発に対面すれば、通信機器の不調ぐらいは出るというものだった。

 

(ミノフスキー粒子と電磁パルス、二重の障害で通信もレーダーもまるで聞かない。砂ぼこりで有視界戦闘も難しい。と、なれば我が方は同士討ちを警戒するが……あいつらは、遠慮などしないのだろうな)

 

 コウメイがそう考えた丁度その時、爆発音が鳴り響いた。この音は、MSが墜とされた音だ。

 ブルーブレイヴの反撃が、始まったのだ。

 

「ふっ……計算の甘さを思い知るのも、悪いものではない……!」

 

 コウメイは自嘲するように言い捨て、フォーミュラ・ジムを跳躍させた。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 起死回生の核弾頭を、ライ先輩は見事に炸裂させてくれました。そのままライ先輩は上空に退避し、同様に空へと逃げてきた飛行型ガンプラと戦っています。空という領域で、クァッドウィング・ゼロの四枚羽根を超える運動性を発揮できる機体など、そうはいないでしょう。

だから、何も心配はいりません。

 だから私は、私の仕事をするだけですっ。

 

「やっちゃいますよーっ♪ こーたセンパイっ、アンナさんっ♪」

「ああ! 全周囲に弾幕展開! とにかく撃ちまくろう!」

「は、はいっ。ガトキャノン、撃ちまくりますっ」

 

 ドギャギャッ! バガラララララララララララララララッ! ガンガンッ、ガガンッ!

 私たちは核爆発の火球が収まると同時に進路反転、たった今突破してきた包囲網に向けて再び突っ込んで行きます。とはいっても、吹き荒れる砂ぼこりと電波障害に目も耳も塞がれたような状態、敵機の姿など確認しようもありません。

でもラッキーなことに、今のガトキャノンの装備は弾幕特化の重装備。イマちゃんのターミガン、コウタ先輩のフルシティストライクも、大型火器を持つ遠距離型。つまり今の私たちは、ただ撃ち続けるだけで、相当なプレッシャーを与えることができるのです。

 

『みなさん、必ず固まって動いてください。少数の優位を活かす立ち回りを徹底しましょう』

 

 シキナミ先輩の言わんとすることは、トロい私にだってわかります。私たちがこのまま包囲網の内側に入り込めば、相手チームは同士討ちを避けるため、自由に射撃できません。一方私たちは、前後左右に撃ち放題です。

 私たちが包囲部隊の内側に食い込んだ頃、ようやく砂ぼこりも晴れてきて、相手チームからの反撃がちらほらと始まりました。電波障害もなくなってきたようで、相手チームのガンプラたちが少しずつ連携を取り戻し、陣形を整えてきます。

シキナミさんの情報支援によれば、核弾頭によって12機を撃破。同盟軍の4割程を削ることができましたが、盟主たるコウメイ先輩の居場所はいまだ不明、とのことです。

 

「ほりゃー! てぇーいっ!」

 

 しかし、私たちの勢いは止まりません。同盟軍のガンプラたちがフォーメーションを立て直した所へ、イマちゃんがバスターライフルをお見舞い。ジョニー・ライデン風カラーのアクトザクが吹き飛ばされました。あれは確か、二年の先輩のガンプラだったはずです。

 

「悪いけど、逃がさないよ!」

 

 コウタ先輩の四丁ロングライフルが発砲音を重く轟かせ、六本腕に魔改造されたガンダムヴァサーゴが爆発四散しました。あのガンプラの持ち主は、私は知りませんが……ごめんなさい。私たちも、負けたくないんです。

 足を止めずに撃ち続ける私の視界に、チカッと鋭い光が刺さりました。思わず目を細めながらもそちらを見れば、そこにいたのは砂丘に伏せてロングライフルを構える、グレーとオレンジのジム・タイプ。〝軍師〟コウメイ先輩の手足、フォウ・オペレーションのガンプラ、フォーミュラ・ジムです。

その銃口が狙うのは、どう見ても私。撃たれる前に気付けてよかった。まだまだ下手くそな私ですけど、少しは周りが見えるようになってきたようです。兵装スロット選択、左サブアーム展開、シールドを――

 

(……あっ)

 

 ――左のシールドは、さっき、ライ先輩に――っ!?

 ギュドッ、オォォォォンッ!

 

『ガトキャノン、脚部大破!』

 

 シキナミ先輩の声に、焦りの色が混じります。それもそのはず、重力下で脚をふきとばされたMSなど、的にしかなりません。ガトキャノンは砂漠に激しくヘッドスライディング、私はその衝撃に揺さぶられながらも、最後の意地で叫びます。

 

「私、ここで砲座になりますっ。足を止めないでっ」

「そんなっ! イマが運びますからっ!」

「……っ! 行くよっ、イマちゃん!」

 

 変形しかけたターミガンの腕を無理やり引っ張って、フルシティストライクは全速力でこの場を離脱していきました。私はその後姿を見送りながら、スラスターを吹かしてガトキャノンを砂丘の斜面に座らせました。その間にも何発か実弾やらビームやらが直撃して、さらに右腕と頭を吹き飛ばされてしまいましたが、両肩と左手のガトリングはまだ使えます。

 私は満足に身体も動かせず射角も限られる中で弾幕を張りますが、周囲にはざっと6機ほどの敵MSが。私の弾幕を掻い潜りながら、集中砲火を浴びせてきます。残る一枚きりのシールドの耐久力が、見る見るうちに減っていきます。

奥歯を食いしばって涙をこらえる私に、シキナミ先輩からの通信が届きました。

 

『アンナさん。コウタ先輩は、隊長としての判断を……』

「わかってます。ケガさせて足止め、助けに来たところをドカン……ですよね」

『……すみません。その場での弾幕展開、お願いします』

「はいっ、了解です。ガトウ・アンナ、撃ちまくりますっ」

 

 私は精一杯の笑みを浮かべながら言い、そして自分から通信を切りました。シキナミ先輩には、まだ動けるコウタ先輩たちへのオペレーションに集中してもらうべきですよね。

 そんなことを考えている間に、ついに右のシールドまで持っていかれてしまいました。もう、身を守るものは何もありません。私は唇を噛み締め、トリガーを引き絞るのですが、

 

「ひっ、きゃあっ!?」

 

 ガガンッ、ズガガガガガンッ! ビュオォォォォンッ!

 両肩のガトリングが吹き飛び、左腕がビームに焼かれました。砂丘の向こうから、掌からビームサーベルを伸ばしたゼイドラが、迫ってきます。その隣では、クロノスが胸の砲口にビームバスターをチャージ中です。AGE系の敵MSはみんな怪獣みたいだなあ、なんて思いながら――それでも私は、胸部マシンキャノンのトリガーに、指をかけます。

 

「せめて、武器の一つでも……装甲の1ミリでも……削ってやるんだからぁっ!」

 

 振り上げられる、ゼイドラのビームサーベル。その切っ先が、私に向けて振り下ろされる、その瞬間。

 大きな影が、現れたのです。

 

「勘違い、すんなよ」

 

 それは、ジオン系の曲線的なシルエットの、やや大柄なガンプラでした。右手に構えた大きな円形シールドでビームサーベルを受け止め、ゼイドラの前に立ちはだかります。

 

「これで償おうとか、許されようとか、思っちゃいねぇ。ただ、偶然、あー、その……だな……」

 

 両肩のシールドバインダーに、ずらりと並ぶファンネル。中世の鎧兜のような、独特な頭部装甲。通信画面に映し出される、トゲトゲの金髪頭。私のトラウマが、高校生活最初の暗い思い出が、蘇りかけて――でも、私は気づきました。サカキ・リョウさんの目付きの悪い三白眼が……その瞳に宿る光が、以前とは、少し違っていることに。

 

「……さ、サカキ・リョウ……せん、ぱい……?」

「あ、あんたにセンパイなんて呼ばれる資格はねぇよ。俺は、ただの……あー、クソッ!」

 

 ヤクト・ズールはシールドを跳ね上げてビームサーベルを払い、ゼイドラの腹に強烈な前蹴りを叩きこみました。突然の闖入者に、周囲のMSたちはざわめきながらも、それぞれの武器を構えます。サカキ先輩はがしがしと乱暴に頭を掻くと、吹っ切れたように叫びました。

 

「通りすがりの、バカな不良だよ! ――行けっ、ファンネルっ!」

 




以上、第七話Cパートでした。

イマのラッキーでフィールドギミック(というべきか?)を発見、同盟軍の包囲をなんとか突破することができました。今回のようなイマのご都合主義パワーは今後も重要な要素になる予定です。(ダイレクト伏線宣言)

久しぶりすぎる再開なのに、読んでいただけて喜びにむせび泣いております。今後もお楽しみいただければ幸いです。

次回も一週間程度での更新を予定しています。ご期待ください。
感想・批評もお待ちしております。


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Episode.07-D『ソウキュウ ヲ マウ ④』

週一ペースの投稿をいつまで続けられるのでしょうか。
元・不良ががんばる第七話Dパートです。
どうぞお楽しみください。


「俺は、ただの……あー、クソッ! 通りすがりの、バカな不良だよ!」

 

 金髪頭を乱暴にかき回し、何か言いかけたアンナの言葉を断ち切るように通信を切断。シールドを力任せに跳ね上げてゼイドラのビームサーベルを弾き、ガラ空きになった胴体に前蹴りを叩きこむ。同時に武装スロットを操作、ターゲットをロックオン。

 

「行けっ、ファンネルっ!」

 

 ヤクト・ズールの両肩から飛び立ったファンネルの一群は、一斉に獲物へと襲い掛かった。同時、ヤクト・ズール自身もビームサーベルを抜刀し、ゼイドラへと躍りかかる。

 蹴り飛ばされたゼイドラが態勢を整える前に、大上段からビームサーベルを叩きつける。ゼイドラは当然ビームサーベルでそれを受ける……が、しかし。鍔迫り合いにはならず、ゼイドラはガクリと膝をつかされた。ヤクト・ズールの斬撃とまったく同時に、ファンネルがゼイドラの両膝関節を撃ち貫いていたのだ。ゼイドラのダイバーが戸惑う間に両肘・両肩関節もファンネルに撃ち貫かれ、両腕がだらりと垂れる。

 

「おらあッ!」

 

 リョウは予定調和とばかりに気合一声、ゼイドラを逆袈裟に切り捨てる。砂丘の向こうにいたクロノスが、慌ててビームバスターをヤクト・ズールに向ける。しかしその時にはすでに、ファンネルの檻がクロノスを取り囲んでいた。

 

「撃て、ファンネル!」

 

 ビシュビシュビシュウゥゥンッ!

 細く絞り込まれた高収束ビームがクロノスの全身を穿ち、斬り刻み、爆散させた。

 

『ハッハァ、やるじゃねェかサカキィ! 人助けも悪かねェだろ?』

「オペレーターの仕事しやが……してくださいよ、ナツキ先生!」

『悪ィが、核爆発後の電波障害がきつくてなァ。通信つなぐので精一杯だ。残念だったなァ!』

「ったく、何のためのオペレーターだよチクショウッ!」

 

 立ち昇る黒煙を吹き散らしてホバー走行、撃墜判定寸前のガトキャノンから距離をとるように疾走する。するとその進路上にグレネード弾が次々と着弾、砂丘をいくつか吹き飛ばして炸裂する。リョウは砂煙を上げてドリフト、爆炎を躱しつつ敵機を確認。

 イフリート改、イフリート・シュナイド、イフリート・ナハト――砂漠のよく似合うイフリート三兄弟が、それぞれの武器を手に距離を詰めてきていた。右にシュナイド、やや間をあけて左にイフリート改とナハトというフォーメーション。

 

(チャンバラの間合いに入られたらめんどくせぇ……が、それより、あの隙間がクセぇ!)

 

 リョウは理屈抜きに直感、シュナイドとイフリート改の間の不自然な空間に向けて、ロックオンもせずにシールドの四連メガ粒子を放った。

ほぼ同時、何もないと見えた砂丘から、突然、太いビームの奔流が発射された。ビームの光はメガ粒子砲と真正面からぶつかり合い、拮抗し、そして弾け飛んだ。眩い閃光とメガ粒子の飛沫が辺り一面に飛び散る中、焼け焦げた砂漠迷彩柄ABCマントを脱ぎ棄て、一機のガンプラが砂丘の影から飛び出してきた。

 

『くっ……勘がいいのか!?』

 

 オレンジとグレーに塗装された、重装型ジム・タイプ。フォウ・オペレーション共通のガンプラ、フォーミュラ・ジムである。

 

『冴えてるなァ、サカキィ! レーダーは相変わらず何も映らねえのになァ!』

「ヘッ、そうかよ! ファンネルっ!」

 

 狼狽し、脚を止めるイフリートたち。せっかくの高機動も格闘性能も、動きを止めていては意味がない。シュナイドは一瞬にしてファンネルに取り囲まれ、蜂の巣になった。その爆発にナハトのダイバーは我を取り戻したが、時すでに遅し。

 

「隙だらけだぜニンジャ野郎っ!」

 

 ガゴオォンッ! ドビュアァァァァッ!

 リョウはシールドで思いっきりナハトの顔面を殴りつけ、そのままゼロ距離で四連メガ粒子砲を発射した。灼熱のメガ粒子に焼け落ちるイフリート・ナハト。その撃墜判定が下るより早く、イフリート改が二刀流ヒート剣を振り上げるが、その両手首をファンネルが正確無比に射貫き、ヒート剣だけが宙に放り出される。無防備に両手を上げた形になるイフリート改を、リョウはビームサーベルで叩き切った。

 

『近接は苦手じゃなかったかァ? けっこうできるじゃあねェか』

「木偶の棒相手ならこんなもん! あとは……アイツだぁっ!」

 

 こちらに銃口を向けたまま後退するフォーミュラ・ジムを、ファンネルで追撃。お互いにホバー走行で高速疾走しながらの追いかけっことなった。

 

『くっ……レギオン3よりブレイン! 配下部隊は全滅、横入りしてきたサカキ・リョウと交戦中! 指示を乞う!』

 

 レギオン3はコウメイへの通信を繋ごうとするが、返ってくるのはノイズばかり。安定性と出力の高いオペレーターとの通信に比べると、前線に出ている機体同士の通信は、どうしても弱くなる。ましてや、フォーミュラ・ジムには核の電磁パルスが至近距離で直撃しているのだ。通信の不調程度で済んでいるのは、むしろ幸運の部類に入るだろう。

 

『くっ……仕方ない。付き合ってもらうぜ、ヤンキーめ!』

 

 フォーミュラ・ジムは左右に機体を振りながらバック走行を続け、ロングライフル、ヴェスバー、グレネード、バルカンと、多彩な銃火器でヤクト・ズールを牽制。時折織り交ぜられる本命の射撃を円形シールドで弾きつつ、リョウはファンネルとメガ粒子砲で追撃する。

 リョウはちらりと後ろを振り返り、ガトキャノンからかなりの距離がとれたことを確認した。基地周辺の開けた砂漠地帯を抜け、今はもう周囲の景色はゴツゴツした岩場と、大地に突き刺さるコロニーの残骸が点在する荒野に変わっている。

 

「なあ、センセー。もうこの近くに敵の反応はアイツだけだよな」

『ん? ああ、ハッハッハァ! 心配すんな、アンナちゃんは無事だ。通信、つなぐかァ?』

「うううるせぇ! です! コウメイんトコのヤツ、このまま落とすぜ!」

『へいへい、頑張れよォ、青少年。センセーは応援してるぜー』

 

 あからさまにニヤニヤするナツキの通信画面を無理やり閉じて、リョウはファンネルに意識を集中した。

ファンネルは三基を落とされて残りは九基だが、こちらもロングライフルを使用不能にしてやったから、収支は悪く無い。リョウは右手のビームサーベルを指揮棒のように振りかざし、ファンネルに一斉攻撃を命じた。

 

「ファンネルどもっ! 奴を追い込めっ!」

 

 リョウの指令を受け、ファンネルは三次元的にフォーミュラ・ジムを囲い込み、複数方向からの同時射撃を連発する。前後左右上下、目まぐるしく位置を入れ替えながら常に十字砲火になるように撃たれるビームが、しかし、レギオン3には当たらない。さすがは〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロの手足を務めるダイバー、個人の技量もかなりのものだ。

 

『できるな、サカキ・リョウ! 腐っても落ちぶれても、我が峰刃学園ガンプラバトル部三年生ということか!』

「うるせぇ知るか! 今、俺はっ! テメェを落としたいだけの男だぜ!」

『傲慢なことだ!』

 

 フォーミュラ・ジムは腰のグレネードを連射。ガンプラの完成度からか、小型弾頭ながらその爆発力は凄まじく、炸裂する至近弾がヤクト・ズールの装甲を焼く。

 

「クソっ、何発入りだよそのグレランっておわっ!?」

 

 運悪く避け切れなかった一発に右手の指ごとビームサーベルを吹き飛ばされる。それを機にリョウは回避運動をやめ、あえて距離を詰め始めた。次々と咲く爆裂の火球に僅かな隙間を見つけヤクト・ズールを滑り込ませるが、そこに狙い澄ましたヴェスバーの砲撃が飛んでくる。咄嗟に身を仰け反らせるが、右肩のファンネルラックを持っていかれてしまった。これではファンネルの再充填は、半数ずつしかできない。著しい効率低下だ。リョウはニタリと口の端を釣り上げた。

 

「どうせ撃ち切りの使い捨てなら……お返しだ、行けっ!」

 

 キュピィィン――リョウの額に、稲妻が走る。瞬間的にファンネルの機動が鋭さを増し、フォーミュラ・ジムの回避運動を先回りし、ついにビームを直撃させた。背部ヴェスバー二門と右腕を損傷。このままでは時間稼ぎもままならないと判断したレギオン3は、手近なコロニーの残骸の陰に回り込んだ。ほんの一瞬でも射線から身を隠せば、反撃のチャンスを――

 

『――なっ!?』

 

 回り込んだその先に、すでに三基のファンネルが待ち構えていた。

 

「ヘッ! 軍師サマの脳ミソがなきゃあ、追い込みにも気づかねぇかよ!」

 

 サカキ・リョウ。かつて、かの〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ヤマダ・アルベルトと〝最高位の十一人(ミネバイレヴン)〟の座をを争った男。粗野にして精密、乱雑にして精緻、理屈無用のファンネル使い〝多重十字射線(クロス・フル・クロス)〟。

 

(無駄に動き回るファンネル制御は、数を読ませないための、むしろ戦術的な――っ!)

「ハッハァ! 撃てよ、ファンネルッ!」

 

 ビシュ、ビシュウゥゥゥゥンッ!

 コクピットを正確に射貫かれたフォーミュラ・ジムは、爆発することなくその場に倒れ伏した。一秒ほどの間をおいて、撃墜判定を示すアイコンがポップアップ。フォーミュラ・ジムはプラフスキー粒子の欠片となって消えていった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 レギオン3との戦闘が終わった後――ヤクト・ズールは、サカキ・リョウは、大破し砂丘に座り込むガトキャノンの前に立っていた。

 

『な……なん、ですか……?』

「あ、いや、その……」

 

 何だと言われても、リョウ自身にもわからない。わからないものは言葉にできないから、金髪頭をガシガシ掻くしかない。そんな状態なのだから、アンナが不安げな表情で涙目になり、ボロボロのガトキャノンに唯一残された武器であるマシンキャノンをヤクト・ズールに向けているのも、当然である。

 

「あー……て、敵は倒したぞ。このあたりにゃあ、もうオレとアンタだけだ」

『だ、だ、だからっ。何なんですか、先輩っ』

「いや、だからっ、オレはアンタに先輩とか、違う……くて、だな……っ!」

 

 いつもお節介ばっかりのセンセーは、こんな時に限って何も言ってこない。オペレーター席で聞いてはいるはずなのに。趣味悪いぜクソッ、とリョウは内心で悪態を吐くが、それで何か言うべき言葉が出てくるわけでもない。ぐちゃぐちゃ考えた結果どうしようもなくて、リョウはとにかくハッチを開いてコクピットから飛び出した。ヤクト・ズールの掌に乗り、ガトキャノンと向かい合う。リョウの乱れた金髪を、砂漠の風がなぶる。当然、アンナは出てこない。リョウは自分でもよくわからない感情に、軽く唇を噛む。

 過去に自分がやったこと、やっていたことを考えれば、当然だ。腐りきっていた自分がやったあの〝新入生狩り〟の被害者には、アカツキ先生に間に入ってもらって、頭を下げて回った。その時その瞬間は、ほとんどの相手が「二度としないで」とかで終わらせてくれたが……人の心は、そう簡単じゃあない。

 ガンプラバトル部でこそ、アカツキ先生の雑用係としては受け入れられてきたように感じるし、多人数バトルには何とか普通に参加できるようになってきた。だが、タイマンは誰もしてくれないし、会話もない。

 腐った自分が招いたことだ。仕方がない……仕方ない、けど。

 アカツキ先生に、世話を焼いてもらって。児童館のガキどもと、関わって。

 オレも、少しは、マシになったってことを……

 

『何か……言いたいこと、あるんですか』

「な、なんでもねぇよ! ヘッ、邪魔したな。じゃあな!」

『待ってください、サカキ先輩』

 

 ガトキャノンに背を向けたリョウの足が、止まる。

 

『噂、本当なんですか。アカツキ先生と一緒に、ボランティアとか、してるって』

「……しちゃ、悪ィかよ」

『児童館で子供たちのガンプラ修理とか、遊び相手とか、してるって』

「……やらされてんだよ、ナツキちゃんによ」

『私以外にも、あんなことをした部員全員に、頭を下げたって』

「……ああ。それは……そうしねぇとって、思ったから、な……」

 

 リョウの握り拳に、ぎゅっと力が入る。微かに肩が震えたが、それを誤魔化すように、リョウは高笑いしながら振り返った。

 

「だからって許してくれとか、ダセェことは言わねぇぜ!? 今のバトルだって、借りを返しただけだ! 勘違いすんじゃあねぇぞ、後輩ちゃん! ひゃはははは!」

『ふふふっ……わかりました』

 

 コクピットハッチの上で悪ぶるリョウの姿を見て、アンナは思わず忍び笑いを漏らしてしまった。通信機越しにその声が聞こえ、リョウはぎょっとしたような表情で固まってしまう。

 

「な、なに笑ってやが……」

『借りを返した、ですね。わかりました、サカキ先輩』

 

 アンナはにっこりと微笑み、

 

『じゃあこれで……』

 

 生身のリョウに向けて、マシンキャノンのトリガーを、押し込んだ。

 

『貸し借りなしですっ♪』

 

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 全弾撃ち尽くすまで十数秒続いた轟音が鳴りやむと、穴だらけになったコクピットハッチの上にリョウの姿はなかった。距離や角度によってはMSの装甲にすら十分な打撃を与えるマシンキャノンの連射を生身で受ければ、ダイバーなど欠片も残らない。撃ち始めから一秒足らずでリョウは退場させられていたのだが、アンナはそれでも、全弾を撃ち切ったのだ。

 

「……ごめんね、ガトキャノン。こんなことさせて」

 

 ――入学直後に襲われた、〝新入生狩り〟。あの時は、怖かった。つらかった。そう簡単に、許すなんて言えません。あの怖さは、つらさは、そんなに簡単なものじゃないのです。

 ……じゃない、けれど。仮想現実とはいえ、生身で機関砲の連射を受けるぐらいのことをしてもらえば――〝貸し借り〟ぐらいは、なしにしてあげてもいいのかも、知れません。

 アンナはふぅとため息を一つついて、ようやくトリガーから指を離した。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「こちらレギオン6。ブレイン、聞こえるか」

 

 口調にこそ抑揚はなかったが、レギオン6の内心は穏やかではなかった。追い詰められたブルーブレイヴの奇手。30機近いガンプラ部隊による包囲を、幸運にも発見した核弾頭で抉じ開けての反転攻勢。レギオン4、5とその配下部隊を一瞬にして失い、統制を失った自分の配下同盟軍部隊4機も、数分ともたずに全滅してしまった。

 

「包囲網の形成は不可能――というより、もう自分しかいない。レギオン2の到着はまだか」

 

 ロングライフルの照準器越しにサツキ・コウタとヒムロ・イマを監視しながら、レギオン6はコウメイに呼び掛ける。

しかし、返答はない。核爆発による電波障害は、まだ続いているようだ。ただでさえミノフスキー粒子が散布されているというのに、これでは連携の取りようがない。

 

「状況から察するに……2は上空で四枚羽根の、3は後方で乱入者の相手をしている、と言ったところか」

 

 サカキ・リョウの横槍は完全に不意打ちだったが、噂によればここ最近、あの元・不良生徒はアカツキ先生に根性を叩き直されたとのことだ。あのアカツキ先生の薫陶を受けたというのなら、彼が予想外の行動をとることも何ら不思議ではない。

 

「さて……この状況。最適解は……」

 

 自分が考えつく程度の事ならば、我らが〝軍師〟殿はとっくに読み解いている。ならば、もはや同盟軍による包囲網が機能していないこともわかっているだろう。であれば、この状況で真っ先に落とすべきは、今、自分の前にいる二機だ。自分の知る隊長殿の先見性と決断力を信じれば、より確実にあの二機を落とすため、自ら戦闘に参加するため、すでに隊長はこちらに向かってきていると確信できる。到着まで一分とかかるまい。

 レギオン6は思案する。隊長の到着を待ち、2対2の状況で確実に仕留めるか。先んじての狙撃で一機を片付け、2対1の数的有利を作り出すか。

とりあえず目に見える敵機を片付け油断したのか、奴らは足を止めて背中合わせに立っている。周囲を警戒しているつもりなのだろうが、この状況ならば動き続けるのが定石だ。サツキ・コウタ、やればできる男だと思っていたのだが……弾幕娘(ガトウ・アンナ)を見捨てる決断をしたことが、奴の心に迷いを生んだか。

 

「……よし」

 

 彼は決断し、細く息を吐きながら、ロングライフルのトリガーに指をかけた。

 万に一つだが、ナノラミネート装甲を持つサツキ・コウタのストライクを撃っても、装甲を抜けない可能性がある。狙うべきは、エルダイバーの小娘(ヒムロ・イマ)の機体だ。シールド複数持ちの機体だが、この位置からならば胸部を直接狙い撃てる。この位置関係は僥倖というものだ。

 

「悪いが、勝利のためだ……!」

 

 照準器の十字線がターミガンを捉えた、その瞬間だった。

 漆黒の刃がフォーミュラ・ジムのメインカメラを真一文字に切り裂き、ほぼ同時に背中からコクピットを貫いた。フォーミュラ・ジムはまるで生身の人間のようにビクリと身体を痙攣させると、爆発することなく、その活動を停止させた。

 

『……お命、頂戴』

 

 息絶えたフォーミュラ・ジムの背に、陽炎のように揺らめく何者かが――細く小柄なガンプラらしきものが、馬乗りになっていた。そのガンプラを覆い隠し背景と同化させるのは、ミラージュコロイドによる超高精度光学迷彩。ゆっくりと引き抜いた黒いナイフの刃さえ、瞬く間に背景と同化していく。

 

『す、スズ……何も、撃墜しなくても、よかったのでは……』

『お下がりを。気取られます』

 

 砂丘から頭を上げかけた緑色のガンプラ、ガデス・アテネが慌てて頭を引っ込める。

 

『これが戦場でございますれば。お許しを、フレデリカ様』

『はい……そう、ですね。これで敵が減って、少しでもお兄さまのお役に立てるなら……』

『……フレデリカ様の、お心のままに。ここはもうお下がりを。次の機を待ちます』

『ええ、わかりました。ありがとう、スズ』

 

 慎重に砂丘とコロニーの残骸に身を隠しながら、ガデス・アテネは後退していく。

 その様をしっかりと見届けた後、一切の気配を悟られることなくフォーミュラ・ジムを撃破――否、暗殺したガンプラも、ミラージュコロイドの揺らめきだけを残して、その場から再び姿を消した。

 




 以上、第七話Dパートでしたー。

 コクピットから出てきた相手にマシンキャノンを撃てるアンナさんは、今後きっと大物になっていくに違いありません。(白目)

 それはそうと、ガンプラ制作も再開しているのですが、最近はプラモ売り場にいくと30MMとか美少女系とかガンプラ以外のものが目立ちますね。ビルドダイバーズ放送中とかに比べると、少しガンプラの売り場面積減らされてる……?
 まあ、私個人で楽しむ分には通販とかで十分なのですが。あまり外出できないご時世ですしね。

 感想、批評もお待ちしています。
 どうぞよろしくお願いします。



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Episode.07-E『ソウキュウ ヲ マウ ⑤』

いろんな意味で長かった第七話も、あと2パートで終了です。
決着に向けて戦局の動いていく第七話Eパート、どうぞお楽しみください。


――核爆弾炸裂直後、トリントン基地周辺砂漠地帯――

 

 グビュウウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 長く尾を曳く独特な射撃音を響かせて、ビームバズーカの砲撃がターミガンのシールドに直撃した。高レベルの耐ビーム性能を持つはずのシールドが、その威力を殺しきれず、溶け落ち、爆散した。

 

「ふ、ふふん! シールドの一枚程度なんのその! イマには第二・第三のシールドが……」

『第二射、来ます。回避を!』

「この威力で連射なのですか!?」

「イマちゃんっ!」

 

 ガンッ! グビュウウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 フルシティストライクがターミガンを思いっきり蹴り飛ばし、何とか直撃を避ける。しかし極太ビーム砲撃の熱と衝撃が容赦なく二機に襲い掛かり、大きく姿勢を崩される。

 砲撃の主――各部に高精度な改造の跡が見えるぺズン・ドワッジは、右肩に担ぎ持ったビームバズーカを投げ捨て、背中から新たなビームバズーカを担いだ。その背には未使用のビームバズーカが、さらに4本も背負われている。

 

「うっわー……イマよりたくさんビーム砲担いでいるヒト、初めて見たのですよー」

 

 超威力の連射に納得したイマは三発目のビームバズーカを回避しつつ、バスターライフルを撃ち返した。しかし、高速ホバー走行を生かした回避機動で簡単に躱されてしまう。続いてコウタも何発かロングライフルを撃ちこむが、それもひらりと身を躱され、反撃にビームバズーカを撃ち込まれる。計四発目の砲撃後、ペズン・ドワッジは機体を滑らせながら砲身の焼け付いたバズーカを捨て、新たなバズーカに持ち替える。

 機体の重量バランスなど無茶苦茶に崩れているだろう重装備のぺズン・ドワッジだが、それをこうも軽やかに操るダイバーの腕前は、相当なものだと見て取れる。コウタはきゅっと表情を引き締め、五発目のビームバズーカを回避した。

 

「シキナミさん。敵ビームバズーカの発射間隔は?」

『はい! バズーカ一本で二発砲撃、発射間隔は2.2秒、持ち替えは5.1秒です』

「ありがとう、シキナミさん。イマちゃん、持ち替えの5秒でケリをつけるよ!」

「あいあいさー♪ トドメはイマにおまかせですよっ、こーたセンパイっ♪」

 

 イマはバッチリキメ顔で瞳に星を散らして横ピース&ウィンク。ターミガンとフルシティストライクは、六発目のビームバズーカを左右に分かれて回避した。

 間を置かず、コウタはフットペダルを蹴り込み、鋭く切り返して前に出る。四丁ライフルを時間差で連射、ホバー走行による乱数回避を封じ込め、急速に距離を詰めた。その状況でもペズン・ドワッジはバズーカ持ち替えの手は止めず、胸部拡散ビームを放ち、コウタの目を眩ませてくる。しかし、

 

『それは対処済みです』

 

 くいっと眼鏡の位置を直すシオミ。その口元には、勝ち誇ったような笑みが隠しきれていない。相手がペズン・ドワッジとわかった時点で、オペレーター権限の情報支援として、コウタとイマの視覚には対閃光保護処置を施していたのだ。

 

「ヒムロ君の、お株を奪うようだけど!」

 

 ペズン・ドワッジの眼前にまで詰め寄ったコウタは、モノアイ、胸部ビーム砲、そして左右の肩関節にロングライフルを押し当てた。

 

「ゼロ距離! もらうよ!」

 

 ズガガガガンッ!

 ほぼ一発のように聞こえる砲声が鳴り響き、ペズン・ドワッジは全身から黒煙を吹きながら、ピンボールのように弾き飛ばされる――大きく回り込んで待ち構えていた、ターミガンの目の前へと。

 

「にひひっ♪ ビームシールドキィィィィック!!」

 

 悪戯っぽい笑みに似合わぬ強烈な飛び込み回し蹴り。鋭利な丸鋸と化した脚部ビームシールドがペズン・ドワッジを横一文字に両断した。

 爆発炎上、粒子化して消滅していくペズン・ドワッジが消え切らないうちに、コウタイマと背中合わせに立ち、イマも二枚のシールドを油断なく構えた。もしフォウ・オペレーションの誰かが仕掛けてくるならこのタイミングだと、コウタもイマも直感的に確信していた。

 二人は油断なく全周警戒、モニターの端から端まで視線を走らせるが……

 

「……静か……ですね、こーたセンパイ」

「うん、そうだね。そろそろ打ち止めであってほしいけど……シキナミさん?」

『はい、先輩。電波障害はまだキツイですが、撃墜数から考えて、同盟軍は今のペズン・ドワッジが最後です。ただし、核爆発を逃れたコウメイ先輩の部隊(フォウ・オペレーション)があと4機。コウメイ先輩の位置は不明、一機は上空でヒムロさんと交戦中――えっ?』

 

 忙しなく情報画面を操作するシキナミが、一瞬、眉間に険しいしわをよせ、そして信じられないというように目を見開いた。

 

『――フォウ・オペレーション機、一機撃墜。アンナさんのすぐ近くです』

「おおう! さすがはアンナさん、ガトリングさえあれば一騎当千なのです!」

『い、いえ、それが……撃墜したのは……ヤクト・ズール。サカキ……先輩、の機体です』

「ふぁっ!? あのサイテーヤロー先輩が!?」

「そうかぁ。サカキ君が……」

 

 目を真ん丸にするイマとは対照的に、コウタは深いため息を吐いて、苦笑した。アカツキ先生に更生させられたという噂。部室の隅っこの方でひっそりと部活に参加する姿。聞いて、見てはいたけれど……しかしコウタの思索は、突然の爆発音に遮られた。

 

「ひゃわっ!? けっこう近かったのですよ!?」

『南西1200mで爆発! これは、MSの――えっ? げ、撃墜されたのは、フォーミュラ・ジムです!』

「急にナニゴトなのですか!? そ、狙撃!?」

「いや、あの重量級ガンプラを一撃で落とせる射撃なら、ビームなり発砲炎なりがここからでも見えるはずだよ。たぶん、近接……ステルス機が、潜んでいる……?」

「それには自分も同意だ、サツキ・コウタ」

 

 突如、至近距離からの通信。画像の荒い通信ウィンドウにコウメイ・タカヒロが現れたかと思うと、砂丘の一部が突如として捲れ上がり、ABCマントを脱ぎ棄てたフォーミュラ・ジムが飛び出してきた。

 

「想定以上の予想外に! 自分は滾っているぞ、珍しくなあ!」

 

 陽炎が立つほどに灼熱化したヒートブレードの一撃に、コウタは反応が遅れサブアームを一本斬り飛ばされてしまう。間髪入れない切り返しの振り下ろしを、コウタはロングライフルを交差させ砲身で受け止める。

 

「部下を撃ったのは貴様たちかと思ったが、違うな。ならばヤマダの従者か。そのおかげで、自分がこうして切り結ぶことにもなる!」

「随分と、口が軽いじゃあないか。その話だと、頼れる仲間はもういないと聞こえるよ!」

「シキナミ・シオミが確認済みなのだろう? 優秀なオペレーターの前で、もはや隠すものでもない。最小戦闘単位(バディ)を組む目論見も潰されたのなら、せめて四枚羽根が合流しないうちに、自分個人の戦闘力を恃むまでだ!」

 

 ヒートブレードがロングライフルの砲身にじわじわと喰い込み、ついに武器損壊・使用不能の判定を下された。これでもはや、二丁のロングライフルはただの鉄塊だ。

 

「こ、こーたセンパイっ! んもうっ、このっ……!」

 

 イマは何とか助けに入ろうとするが、バスターライフルではコウタもろともに吹き飛ばしてしまう。ビームシールドキックで飛び込もうとするが、コウメイはヒートブレードの押し引きと足捌きで立ち位置を調整し、フルシティストライクを盾代わりにしてくる。

 

「ふん。戦闘指揮だけで〝第七位〟を得るほど、峰刃学園は安くないぞ。わかっていよう、ブルーブレイヴっ!」

 

 ズバァァンッ! 

 ついにヒートブレードがロングライフルを叩き切り、コウタは後退しながら残る一丁のロングライフルを構える。しかしそれもすでに準備されていたフォーミュラ・ジムのヴェスバーに先制され、最後のロングライフルは破壊された。続くヴェスバーの連射はナノラミネート装甲で何とか耐え、イマの援護射撃(バスターライフル)の光に紛れてさらに距離をとる。

 しかし、状況を見守るシオミの脳裏に違和感が閃く。なぜ、こんなに簡単に、下がらせる?

 

(距離が空けば、イマさんの援護射撃が来る……密着しているから2対1を防げていたのに、こうもあっさり離れさせた……コウタ先輩を追わない……? まさか!)

 

 同盟軍の攻撃開始から、行方不明だったコウメイ・マサヒロ。レギオンたちに戦闘を任せ、迷彩マントを被って砂漠に潜伏していた。単独隠密行動の時間はたっぷりあった。ならば、この〝軍師〟は何をしていた? 部隊の頭脳でありながら前線に出る野戦将校の極みたるこの男が、泥でも砂でも被るのを何とも思わないこの男が、何を。

 シオミはある可能性に思い至るが、ほんの一歩、遅かった。フルシティストライクの足元に、巧妙に偽装された金属製の円盤が―― 

 

『先輩、罠ですっ!』

「そうだ。貴様は自分に下がらされた(・・・・・・)

 

 ズドオオオオォォォォォォォォンッ!!

 猛り狂う轟音と爆炎、仕掛けられた対MS地雷が炸裂し、フルシティストライクの右脚を吹き飛ばし、右半身装甲表面のナノラミネート加工をほぼ全て削り散らした。砂地のクレーターに仰向けに倒れたコウタの視界を、狙い澄まして投射された大量のグレネードが埋め尽くす。

 

「シキナミさん、イマちゃんをお願」

 

 ズゴボボボボボボボボボボボボボボボボォォンッ!

 コウタの言葉は数えきれないほどの爆音に掻き消され、フルシティストライクには撃墜判定が下された。戦略マップ上からコウタのマーカーが消えていく。シオミは奥歯を噛み締めながら、コウタの最後の言葉に従って、全力で思考を回転させた。

 

(イマさんとコウメイ先輩の一対一普通に考えれば勝ち目はないバスターライフルでの一撃必殺に賭けるいや分が悪いその前に落とされるヒムロさんの合流を待つのも苦しい逃げ回るのもリスクが高い地雷は絶対に複数仕掛けているアンナさんの正面に誘導していやダメ武装がほぼ全滅アンナさんは生きてはいるけど戦力にはならないでもイマさん単独ではコウメイ先輩に及ばない戦力が必要もっと戦力が――ああ、そうだ!)

 

 シオミが結論にたどり着くのと同時、ターミガンが被弾しフレキシブル・シールド・バインダーが片方吹き飛んだが――武器(バスターライフル)は、無事だ。シオミはニヤリと似合わない笑みを浮かべ、インカムにかじりつくようにして叫んだ。

 

『イマさん、ローリングバスターライフル! 辺り一面ぶっ飛ばして!』

「わ、わかんないけどあいあいさー! うおりゃーっ!」

 

 イマは元気よく応えると、弾幕の隙間を縫ってなんとか距離を取り、両脚のホイールを全力で回転させながらバスターライフルを撃ち放った。当たりさえずればほぼ必殺の超高出力ビームの帯が砂漠の表面を舐め回し、散在するコロニー落としの残骸を、根こそぎ蒸発させていく。

 悪あがきにしか見えないその攻撃を、コウメイは余裕をもって跳躍して回避。大型バーニア・バインダーを左右に展開してホバリングする

 

(ふん。サツキを撃たれて、心乱れたか。シキナミ君も、参謀としてはまだまだ発展途上か……)

 

 多少落胆しつつも、手は緩めない。ローリングバスターライフルの終わりに合わせてロングライフルを撃ち込もうと、スコープを覗き込む――その時だった。

 

「スズ、危ないっ!」

「ふ、フレデリカ様っ!?」

 

 コウメイの斜め後方80メートルほどの地点で、激しい閃光。展開されたGNフィールドがバスターライフルを弾き、激しい火花を散らしていた。

GNフィールドを展開するのは、新緑の機体、ガデス・アテネ。その背後には、小型軽量の細身なガンプラが庇われている。

 シオミはぐっと拳を握り「ビンゴ!」と小さく呟いた。どう見ても状況はコウメイ先輩に有利、ならばステルス機は、漁夫の利狙いの暗殺者は、フォーミュラ・ジムの首を一手で刈れる位置に潜んでいるはず。それを、あぶり出せれば――!

 

「例のステルス機かっ!」

 

 流石のコウメイも、背後のこんな近距離に敵機を発見すれば、一瞬、そちらに意識が向く。しかし、その一瞬で十分だった。

 

『イマさん、ライザーソードの要領で!』

「はいです! ちぇえすとおぉぉぉぉっ!」

 

 ローリングバスターライフルの軌道を無理やり捻じ曲げ、振り下ろす。はるか上空まで伸びる長大なビームが、空間ごと断絶するような一撃が、巨大な斬撃となって天から降り注ぐ。縦回転ローリングバスターライフルの一撃は、寸前で直撃を回避したフォーミュラ・ジムのバインダーを片方切り落とし、そして、

 

「逃げて、スズ!」

 

 ガデス・アテネのGNフィールドと真正面からぶつかり合い、ほんの一瞬だけ拮抗したのちに、全てを呑み込み、根こそぎ焼き払った。

 

「あ、あぁ……っ! フレデリカ、様……っ!」

 

 GNフィールドが崩壊する直前に、攻撃範囲外へと突き飛ばされていた小柄なガンプラが、ゆらりと、幽鬼の如く立ち上がる。おそらくはGN粒子なのだろうが、それだけとは思えない、鬼火のような怪しげなオーラが、その全身から立ち昇る。

 

「お優しい……お優しすぎます、フレデリカ様。お守りするのは、私の方……なのにっ!」

 

 同時、砂漠に不時着したフォーミュラ・ジムが態勢を整え、ロングライフルとヴェスバーの銃口を、それぞれイマとスズとに向ける。

 

「ふっ……これで三つ巴というわけか」

「まだまだチャンスはアリアリのアリなのですよー! ふふんっ!」

 

 コウメイの言葉に反応するように、イマはバスターライフルを投げ捨て、ツインビームサーベルを抜刀する。シオミは自分が出そうと思った指示をイマが先回りしたことに軽く感心しつつも、油断なく思考を走らせる。

 ライフルを捨てたのは単純にエネルギー切れなのだろうが、近接格闘という選択は悪くない。コウメイの言うように三つ巴ではあるが、あのステルス機のダイバーに戦力差を考える頭があるのなら、ここはこちらと協力して2対1、フォーミュラ・ジムに対する疑似的な数的有利を確保すべきだ。コウメイもそれがわかっているから、剣ではなく銃を構えている。弾切れのターミガンと、明らかに近接格闘型のステルス機を、射撃で抑え込みたいのだ。

 

『イマさん、まずはコウメイ先輩に距離を詰めて、押して、押し込んで、押し切ってください。あちらのステルス機はとりあえず後回し、状況によっては共闘もあり得ます』

「りょーかいなのです! イマ、いっきまーーーーすっ!」 

 

 イマは元気いっぱいに叫びながら、ツインビームサーベルを振りかざして突進した。ターミガンの突撃を合図にしたかのように、後の二機も動き出す。

 

「ふっ……こんな状況はいつ以来かな、まったく!」

 

 フォーミュラ・ジムは牽制のバルカンをバラ撒きながらロングライフルを撃ち、

 

「……GNアサシン、目標を、狩る……!」

 

 細身で小柄なステルス機――GNアサシンは、黒い実体刃のナイフを、両手に構えて飛び出した。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――核爆弾炸裂直後、トリントン基地上空4000m――

 

 青い空。白い雲。真夏を思わせるよく晴れた空を、航空機然としたバックパックを背負ったウィンダム二機編隊が、飛行機雲を引きながら旋回する。スプリッター迷彩に塗装された機体は中々の運動性能を発揮していたが、

 

「……遅いッ!」

 

 その旋回半径の内側をさらに小さく回り込んだクァッドウィングが、両腕のビームトンファーを閃かせた。一機は胸部をすっぱりと袈裟切りにされ爆発したが、もう一機は寸前で身を捻り、掲げたシールドごと左腕を切り落とされつつもなんとか撃墜は回避した。

 

『クソッ、てめぇが速すぎんだよ!』

 

 最後の意地とばかりに両翼に吊るしたミサイルを全弾発射するが、その時すでに、クァッドウィングはウィンダムの遥か頭上に舞い上がっていた。そしてそこから、落雷の勢いで急降下。すれ違いざまのビームトンファー一閃で、ウィンダムを両断した。

 

『間合いに入れさせるな! 射撃で何とかするのよ!』

『何とかって、それができりゃあ苦労は……!』

 

 高度を下げたクァッドウィングに対し、ティターンズカラーのΞガンダムがファンネルミサイルを雨霰と撃ちまくり、同じくティターンズカラーのVダッシュガンダムがオーバーハングキャノンを乱射する。全ガンダム中もっとも身長差がありそうな二機の取り合わせに、きっとイマだったらここぞとばかりにツッコミまくることだろうと考えながら、ライはクァッドウィングを鋭角反転、急上昇させる。

 

『うっわ、きたよ姉ちゃん! どうすんの!?』

『後退! とにかく格闘戦はダメよ!』

 

 ミノフスキーフライトの推進力はΞガンダムの巨体をなかなかのスピードで退避させたが、判断の遅れたVダッシュには、コンマ数秒の差でビームトンファーの刃が届いた。

 

『ごめん、姉ちゃ……!』

「……次、いただくぞ!」

 

 胴切りにしたVダッシュが爆散するのを尻目に、ライはクァッドウィングをさらに加速、させようとして急停止、四枚羽根スラスターを全て逆噴射して瞬間的に真後ろに飛び退く。その瞬間、野太いビームの光が、ライが飛び退いた空間を薙ぎ払った。

 

『ふむ。ニュータイプじみた反応速度だ』

「……地上に見当たらないわけだ」

 

 ライは小さく言い捨て、クァッドウィングに回避機動をとらせた。ランダムな稲妻機動でロックオンを外しつつ、視線はビーム砲の主を捉え続ける。

 グレーとオレンジの重装型ジム・タイプ、フォーミュラ・ジム――その、空戦仕様。上半身は以前戦った時と変わりないが、下半身は丸ごと超大型のバーニア・スラスター・ユニットに換装されている。全体的なボリューム感もあって、機影はまるでデンドロビウムかディープストライカーだ。

 空戦型フォーミュラ・ジムはヴェスバーやロングライフルを次々に撃ちながら、黒いΞガンダムとともに、意外なほどの高速でクァッドウィングを追ってくる。

 

『ちょっと、コウメイくんの副官くん! やられちゃったわよ、5対1だったのに!』

『だからこそ必中の瞬間を待ったのだが。奴の戦闘機動は天井知らずだな』

『そんな無責任な! サツキくんのチームを倒せるっていうから協力したのよ!』

『そうだな。倒せる。ファンネルミサイル全弾発射、同時にビームバリアー全開で体当たりをしてくれ。私も火力で攻める』

『あー、もう、はいはい! 行くわよ、行ってやるわよーっ!』

 

 黒いΞガンダムは全身のミサイルコンテナからファンネルミサイルを一斉射、同時にビームバリアーを最大出力で展開し、超音速飛行でクァッドウィングに突撃した。

 

「……っ!」

 

 超音速という速度こそ驚異的ではあるが、所詮は一直線の猪突猛進、ライは余裕をもって黒いΞガンダムの体当たりを回避。間を置かず四方八方から襲い来るファンネルミサイルを、バルカンとマシンキャノンで次々と撃ち落としていく。ファンネルミサイルの隙間を縫うようにフォーミュラ・ジムからのヴェスバーやロングライフルが差し込まれるが、クァッドウィングに躱せない射撃でもない。弾幕を迎え撃ち、突撃を二度三度と躱し――そして、

 

「……好機!」

 

 ライは弾幕の途切れた一瞬の隙を衝いて、稲妻機動でフォーミュラ・ジムに肉薄した。右手を大きく振り上げて、極低温の圧縮凍結粒子を解放。クァッドウィングの掌が白く凍り付き、氷結粒子が吹き荒れる。青白く煌く氷の掌が、一瞬にして顕現する。

 しかし、

 

『遅いな!』

 

 クァッドウィングの必殺技(フィニッシュ)は、近接格闘だ。距離を詰めてくることを確信していた彼は、速射モードのヴェスバーをすでに準備していた。トリガーに欠けた指に、力を込めて引き絞り――瞬間、クァッドウィングの姿が、消えた。

 

(ふん、得意の稲妻機動……なにッ!?)

 

 稲妻機動というだけなら、対策済みだった。フォーミュラ・ジムの腰に装備されたグレネードランチャーの銃口は、すでに背後に向けてある。彼とて、伊達に〝軍師〟の副官を務めているわけではない。そのぐらいの先読みはできて当然だ。しかし今、彼の目の前に広がる光景は完全に予想外だった。

 

『うわぁっ、どいてぇぇ――』

 

 ビームバリアー全開で突っ込んでくる、黒いΞガンダム!

 

『なんとぉぉっ!?』

 

 ドグワッシャアアアアアアアアアアアアッ!!

 咄嗟に撃ったヴェスバーもビームバリアーに掻き消され、超音速のΞガンダムがフォーミュラ・ジムに激突した。二機は装甲を激しく損壊し、絡まり合いながら落下。凄まじい砂煙を巻き上げ、砂丘を抉って墜落した。

 

『くっ……ダメージコントロール……!』

 

 歯を食いしばって衝撃をやり過ごし、コンソールを叩く。各部損傷甚大、動作不良部位多数。宇宙世紀系ガンダムタイプの中でも最重量級に位置するΞガンダムの体当たりを受けてこの程度なら、儲けものか。味方同士の衝突事故など、普段から連携訓練を繰り返しているチームメイト同士なら絶対にありえないミスだが、即席の部隊ではこんなものか。

 彼が内心で舌打ちしつつフォーミュラ・ジムを立ち上がらせようとした、その時。

 視界一杯に、氷の掌が広がった。

 

「ブライクニルッ! フィンガァァァァァァァァッ!」

 

 吹き荒れる寒風。舞い踊る雪風。叩きつけたブライクニルフィンガーを起点に大樹の如き氷柱が天を衝き、そして崩壊する。

 乾き切った砂漠の風が白い雪煙を吹き散らせば、そこに立つのはクァッドウィングただ一機のみ。氷柱とともに砕け散った空戦型フォーミュラ・ジム、そして黒いΞガンダムは、プラフスキ―粒子の欠片となって消滅(リタイア)していた。

 

「……シキナミ。フォウ・オペレーション機を一機撃破。他はどうなっている?」

『アンナさんが行動不能、コウタ先輩は落とされました。現在、イマさんがコウメイ先輩と交戦中。おそらくヤマダ先輩の僚機であろうガンプラと、事実上の共闘状態です』

 

 シオミの言葉の後を追うように、ライが空中戦にかかりきりになっている間の戦闘経過報告が、ディスプレイ上に表示されていく。

 今次トゥウェルヴ・トライヴスも、もう終局が近い。同盟軍に参加していたエレメントは、先ほどのΞガンダムの撃墜により、全滅。同盟軍を指揮していたフォウ・オペレーションは、残すところコウメイ・マサヒロただひとり。アカツキ先生が自分では戦場に出ず、サカキ・リョウをチームメイトとしていたことが、意外なようなよくわかるような……と言ったところか。

 ならば、残るは――

 

「やはりキミとは因縁があるようだね、ヒムロ・ライくん」

 

 一歩を踏み出すたけで、滑走路を踏み割る超重量。先ほど撃破したΞガンダムに勝るとも劣らない、人間であれば筋骨隆々と評されるべきであろう、頑強極まる銀色の巨躯。

 ――〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ジンクスⅣ・アガートラーム。

 

「勝手に飛び出してしまった、お転婆な私のお姫さまを捜し歩いていたのだけれど……先ほど、辛い知らせが届いてね」

「…………」

 

 ライはビームトンファーを両腕に抜刀、腰を低く落とし、いつでも飛び出せるよう四枚羽根を展開する。しかしアルベルトはそんなことなど気に留めず、まるで散歩のような足取りで、距離を詰めてくる。

 

「キミの大切な電子生命(エルダイバー)のお嬢ちゃんが、私のリカを墜としたと。いやはや、護衛は何をしていたのだか……いや、違うな。愛する妹の身に起きたすべては、兄である私の責任だ。エルダイバーのマスターを務めるというのもきっと私と似たような心境だと思うのだけれど、どうかな? ヒムロ・ライくん」

「……理解は、できる」

「そうだろう、そうだろう! だったらわかってくれるはずだ。今から私が、キミを討つということも。渾身の怒りを込めて、この剣を振るうということも!」

 

 アガートラームは左手に構えた巨大な盾の裏から、超重大剣・クラウソラスを抜刀。その重量をものともせず、右手一本で振りかざし、分厚く鋭い切っ先をクァッドウィングに向けて突き出した。

 

「以前、リカを撃った罪! そして今また、キミのお嬢ちゃんがリカを撃った罪! 償わせてやるから感謝したまえよ! ヒムロ・ライィィィィッ!!」

 



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Episode.07-F『ソウキュウ ヲ マウ ⑥』

 週一ペースには少し遅れてしまいましたが、第7話最終パートです。
 長く続いたトェルヴ・トライヴスもついに決着です。
 どうぞご覧ください。


「あぁっ……マスター、ごめんなさいですっ!」

 

 ターミガンの手を離れたツインビームサーベルが高々と宙を舞い、ビーム刃を消失させながら砂漠に落ちて突き刺さった。それを追うように、ターミガン自身も倒れ伏す――その胸に、大きな風穴を開けて。

 

「楽しませてもらったぞ。予想以上にな」

 

 感傷はその一言だけに留め、コウメイは銃身が焼け付き白煙を上げるロングライフルを投げ捨て、即座にビームサーベルを抜刀する。しかしその時には、すでに小型軽量のGNアサシンは、フォーミュラ・ジムの懐へと切り込んでいた。

 

「……お命、頂戴ッ!」

 

 左手のアサルトナイフの、鉤状になった切っ先をフォーミュラ・ジムの手首に喰い込ませる。即座に追撃、ビームサーベルを封じられたフォーミュラ・ジムのコクピットを、右手のGNビームダガーが狙う。

しかしコウメイは両脚を完全に脱力、急に腰を落として狙いを逸らさせた。GNビームダガーはフォーミュラ・ジムの喉元を突き、頭部カメラ・センサー類との接続が一斉に遮断、全天周モニターの何割かが死に、コクピット内が薄暗くなる。「たかがメインカメラを」というお決まりのセリフが脳裏をよぎるが、それを口に出している暇などない。コウメイは自身のダメージも覚悟で、腰のグレネードランチャーを起動した。重量級のこちらと、見るからに軽装甲の敵機。生き残るのは、こちらだ。

 

「付き合え、ヤマダの!」

「ッ!?」

 

 ズボボンッ!!

 小型グレネード弾がゼロ距離で爆発、流石にフォーミュラ・ジム自身もフロントアーマーが吹き飛び腹部装甲が黒焦げになったが、機体フレームに及ぶ損害はない。爆破の黒煙からバックステップで脱出し、ビームサーベルを構える――が、取り落とす。先のアサルトナイフの一撃で、右手は完全にイカレたようだ。

 

「……自分もまだ、精進が足りんか」

「トランザムッ!」

 

 グレネードの黒煙を突き破り、左手左脚の吹き飛んだGNアサシンが飛び出してくる。高圧縮GN粒子を全面開放、全身を真っ赤に煌かせての強襲……否、これはもはや捨て身の肉弾だ。過剰なGN粒子供給により真っ赤に灼熱したGNビームダガーが、烈火の如く燃え盛る。主推進器たるバーニア・バインダーを片方失っているフォーミュラ・ジムに、トランザムを避け切る運動性能はもはや残されていない。

 

「ハァァァァッ!!」

 

 裂帛の気合で振り抜かれたGNビームダガーが、フォーミュラ・ジムを切り裂いた。腹部装甲のど真ん中、ほとんどのジム系MSのコクピットがあるその位置を――確かに、切り裂いては、いるのだが。

 

「……ッ!?」

「自分でも驚くよ。自分にこんな執念があろうとはな」

 

 撃墜判定を下され、粒子の欠片となって消えていくフォーミュラ・ジム。その右膝の追加装甲内に仕込まれていた炸薬式パイルバンカーが、GNアサシンを貫いていた。

 

「ここまで手の内を晒したのは初めてだ、ヤマダの従者」

「フレデリカ様……申し訳ありません……!」

 

 相打ち――双方同時の撃墜判定である。

 フォーミュラ・ジムとコウメイ、GNアサシンとスズはそれぞれガンプラごと粒子化し、待機フィールドへと転送された。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 超重装の銀巨人、ジンクスⅣ・アガートラーム。

 四枚羽根の荒鷲、クァッドウィング・ゼロ。

 両者の外見や戦闘スタイルは天と地ほども違うが、根本の設計思想は実は驚くほどに似通っている。

 ある目的に特化し、それを実現するための機体設計――つまり、近接格闘戦闘による一撃必殺。

 アガートラームは鉄壁の防御力と超重大剣(クラウソラス)によりそれを成し、クァッドウィングは稲妻機動とバスターマグナムを駆使する、ただそれだけの違いだ。よって、この両者が真正面から一対一の決闘を行った場合……一撃必殺と一撃必殺の、壮絶なぶつかり合いとなるのだ。

 

「ハァァァァッ!」

「……せいッ!」

 

 唸りを上げて振り下ろされる超重GNソード〝クラウソラス〟に、両腕のビームトンファーを側面から叩きつけ、軌道を逸らす。クァッドウィングを脳天から両断するはずだった超重量の刃は代わりにトリントン基地の管制塔を真っ二つにして、その下の地面まで叩き割った。

 

(弾けないまでも、逸らせるならば……ッ!)

 

 クァッドウィングはアガートラームの盛り上がった肩アーマーを蹴って跳躍、ゼロ距離でこそないもの、至近距離からのバスターマグナムを二連発で撃ち放つ。超高熱量を収束した蒼いビームの閃光は、二発まとめて超重GNシールド〝アクラドラーヴ〟と、そこに展開した頑強なGNフィールドに弾き散らされ、防がれる。

 

「……ッ!」

 

 予想通りではあるが、あまりにも硬い。ライは奥歯を噛み締めつつ、剣の間合いには一歩遠く、銃の間合いには近すぎる程度の距離をとって着地。腰を落として左右のビームトンファーを上下広く開いて構える。

 

「ふぅん。中距離以上では決め手に欠けるのは、お互い様だと思うがね。それとも、キミは主義主張を捨てたカスタムを、その新しい四枚羽根には施したのかな。いや、パワーと重量差をスピードで埋めるなら、助走距離が必要ということか」

「……好きにしゃべる男だ」

「そういうキミは相も変わらず寡黙だねぇ。ガンダム作品が好きならば、このシチュエーションで小粋なトミノ節でも返してもらいたいところだ、なあっ!」

 

 滑走路を蹴り割って跳躍、アガートラームの巨体が宙を舞う。超重大盾(アグラドラーヴ)を前面に押し出した、攻防一体の強襲。

 とてつもない打撃力を誇る盾打突(シールドバッシュ)は、クァッドウィングの稲妻機動の前に空振りする――が、それをカウンターウェイトにした横薙ぎのクラウソラスが背後に回ったクァッドウィングを胴切りに――したかと見えたが、それは青白いバーニア光が残した残像に過ぎず、ライはすでにアガートラームの頭上でバスターマグナムを構えて――いたライの眼前に、流れるように跳ね上げられたクラウソラスの切っ先が迫り――くるが、即座にライフルをトンファーに切り替え四枚羽根フルブーストの回転斬りで太刀筋を逸らし、同時にアガートラームの肩口を切りつけながら急降下、懐に潜り込む――のを、アガートラームは膝蹴りで迎撃、分厚い膝部装甲をクァッドウィングの顔面に叩きこみ、吹き飛ばす。

 時間にすれば10秒にも満たない攻防を経て、両者は再び一刀一足には少し遠い程度の間合いで睨み合う。

 

「ほう……そのビーム刃、以前戦った時よりも随分と切れ味が良いようだね」

「…………」

 

 アガートラームの肩口には、深くはないが、ビームに焼かれた刀傷が一筋走っていた。一方のクァッドウィングは、重量級の膝蹴りを顔面で受けて、右のブレードアンテナがへし折れている。痛み分け……いや、僅かにだが、ライのダメージが大きいか。自ら飛び退いて衝撃を逃がしたおかげで各種センサー・カメラ類が無事なのは、幸運と言える。

 アガートラームの一撃は、クァッドウィングにとって、掠るだけでもかなり痛い。攻撃を避け続ける限りはノーダメージだが……一方のアガートラームは、避けない。当たってもほぼ無傷だからだ。そんな相手に長期戦では、ジリジリと追い詰められることは必定だ。

 ライの集中を乱さぬためか、オペレーター席からの音声はなく、シオミからの情報支援は視覚情報のみになっていた。その表示によれば、戦場に残るはもはやライとアルベルトのみ。ここで自分が奴を討てるかどうかが、そのまま勝敗を決することになる。

 

「出し惜しんで、勝てる相手でもない、か……」

 

 ――やはり、あれを使うしかない(・・・・・・・・・)

 ライは両腕のビームトンファーの刃を収め、腰の後ろに吊るした。自由になった両手を正拳に握り、徒手格闘の構えをとる。ガンダム作品で拳法と言えば流派東方不敗だが、ライの構えはそれとは違い現実の古流空手に近いものだった。

 

「……カラテ・スタイルか。大剣相手に近距離より近い至近距離での格闘戦という選択は、模範解答だね。間合い潰しは大型武器殺しの基礎基本だ。はやりキミは一見すると優等生な選択肢をとるのだけれど、それで終わりでもないだろう?」

「…………」

「たかが部内試合だ。妹の敵は討たせてもらうとしても……新型機の手の内を晒してまで勝敗に拘る一戦でもあるまいよ。違うかな?」

「……貴様の傲慢に付き合う義理はない。そして……」

 

 クラウソラスでクァッドウィングを指すアガートラームに、ライは四枚羽根を大きく展開して応えた。各スラスターに青白い光が収束し、いつでも飛び掛かれるのだという戦意を剥き出しにする。四基のウィングスラスターから溢れ出した熱波が、旋風となり灰色の砂塵を巻き上げる。

 

「――ここで退いては、俺の正義が廃る」

「ハハ! 言うねえ! ならば期待させてもらおうか……ヒムロ・ライ君!」

「……参るッ!」

 

 両者、跳躍――アガートラームはこの期に及んで隠し玉を使ってきた。後方に向けた大楯(アグラドラーヴ)表面のGNフィールドを爆発的に増大させ、その反動で超重量級MSにあるまじき超加速で飛び出したのだ。瞬間的にはクァッドウィングにすら迫る速度を得たアガートラームは、その勢いをそのまま攻撃力へと転化。裂帛の勢いで突き出したクラウソラスの切っ先が、クァッドウィングを縦一閃に貫いた!

 

「違う……っ!?」

 

 アルベルトは、確かに貫いたという手応えとともに、違和感に戸惑う。今まで幾百幾千のガンプラを貫き、叩き斬ってきたが、この手応えは、違う。通常のプラスチック材でも、KPSでも、軟質パーツでもない。金属パーツに近い硬質な、しかし脆すぎる感触。あえて例えるなら……

 

「……氷、かっ!?」

 

 クラウソラスに貫かれたクァッドウィングは、氷の欠片となって砕け散る。氷結粒子による、質量のある残像――切った実感もあるとなれば、〝実体のある幻影(ヘイルヘイズ)〟とでもいうべきか。

 砕け散った青白い氷の粒子は吹き荒れる旋風に巻き上げられ、雪風となって舞い踊る。吹き荒ぶ猛吹雪の収束する先は、渾身の突きを繰り出し、大きな隙を晒すアガートラームの背後。稲妻の軌跡を曳いたクァッドウィングの掌に、渦巻き荒れ狂う白銀の氷結粒子が凝縮され、氷の手掌を形成する――それも、左右両掌に!

 

「一人でダブルフィンガーとは恐れ入る!」

 

 絶対的に不利な姿勢から、シールド防御を間に合わせたアルベルトの技量は、流石と言える。しかしライが、クァッドウィング・ゼロか繰り出した新たなるブライクニルフィンガーは、どれだけ分厚くともシールド一枚で防げるものではなかった。

 

「アヴァランチッ! フィンガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 ヒィン――ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 連打、連打、連打、連打に次ぐ連打、連打連打連打連打打打打打打打打打打――!

 氷結粒子を纏う左右の掌が、息もつかせぬ猛連撃を叩きこむ。青銀の氷結フィンガーが連撃の嵐となって荒れ狂うさまは、まさに掌打の大雪崩(アヴァランチ)。絶対の重防御を誇るアガートラームの大楯が、凍り付いては砕け散り、砕けては凍結し、見る間に形を失っていく。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「くっ、なんというッ!!」

 

 猛連撃の勢いに押し込まれ、アガートラームはついに地面に叩きつけられた。同時、限界を迎えた大楯が、氷塊となって砕け散る。アガートラーム本体の装甲にアヴァランチフィンガーが叩き込まれ、アガートラームの巨体が凍り付き、打ち砕かれ、重装甲が穿たれていく。

 だがアルベルトは、まだ勝負を諦めていなかった。いかに強力な攻撃でも、いや強力だからこそ、奴自身にも無視できないダメージを蓄積しているはずだ。この連撃を耐え切れば――こちらにも、奥の手(・・・)の準備はある。

 

「これでッ! 砕けろおおおおおおおおッ!」

 

 大きく振りかざした右掌を打ち下ろす、会心の一撃。かつてバスターマグナムの一撃にすら耐えたアガートラームの頭部追加装甲が粉々に砕け散り、その下に隠されていたジンクス系の四ツ目顔が露出した。続く左掌の一撃が分厚い胸部装甲を鷲摑みにし、荒々しい氷結粒子の氷柱を周囲に発生させながら、ギリギリと握り潰していく。

 

「認めよう、ヒムロ君。キミの攻撃力は、いや破壊力は! 我がアガートラームを討ちうると! しかしな、まだ終わらんよ!」

「……破ァッ!」

 

 気合一声、冷気嵐が爆裂する。無数の氷柱が一瞬にして林立して崩壊し、白銀の雪煙が辺り一面を覆い尽くした。濛々と立ち上がる雪煙を突き抜けて、クァッドウィングは空高く飛びあがり、そして急激な弧を描いて着地する――と、同時にガクリと膝をつく。

 アヴァランチフィンガーは、そもそもの仕組みからして無理がある技だ。ダイバーギアに設定を入力しているときも、何度エラーや警告メッセージを出されたかわからない。故に、アヴァランチフィンガーの使用は、クァッドウィング・ゼロの全身全霊を使い果たす。

 氷結粒子最大活性化の為に余剰熱量を放出し続けた四枚羽根はボロボロで、稲妻機動はもう不可能だろう。氷結粒子を展開し続けた両腕も、バンとの模擬戦でも起こったフレーム凍結現象の直前を綱渡りし続けて摩耗し、赤や黄色のエラーメッセージがいくつも表示されている。

 

「待っていたぞ、その瞬間をッ!」

 

 雪煙が吹き散らされ、凍結したクレーターから一機のガンプラが飛び出した。ジンクス系のシルエットはアガートラームには違いないが、特徴的な重装甲のほとんどをアヴァランチフィンガーに粉砕され、残った装甲も自ら脱ぎ捨て、一部フレームなどは剥き出しになるほどの軽量機へと変化していた。

 

「……装甲を捨てたか」

「この〝ネイキッド〟を見せるに相応しい強敵だよ、キミは!」

 

 赤い四ツ目にトランザムの光を宿し、両腕から高圧縮GNビームスパイクを噴出させるアガートラーム・ネイキッドは、獣じみた低姿勢で地を駆け、膝をつくクァッドウィングに迫った。

 

「装甲の耐久限界など実に久しぶりだが……我慢比べは、私の勝ちだ!」

 

 動けないクァッドウィングの顔面に、GNビームスパイクを叩きこむ――

 

「……いや、俺の勝ちだ」

 

 ――ことが、できなかった。

 

「こ、これ……は……っ!?」

 

 ネイキッドに僅かに残された装甲を、突き破るようにして。無数の氷柱が、ネイキッド自身の内側から生え、貫いていた。

 ライは全身の関節から火花を散らすクァッドウィングを立ち上がらせ、刻一刻と氷柱に侵食されていくアガートラーム・ネイキッドに相対した。

 悪喰竜狩り作戦、対バウンド・ドラッヘ戦。違法ツールの力で巨大化したバウンド・ドラッヘを、ブライクニルフィンガーの一撃では凍結しきることができなかった。この時点で、一撃必殺というコンセプトは破綻する。しかしそれは、氷結粒子の出力を上げれば解決するというものでもなかった。

 ゴーダ・バンとの模擬戦。限界を超えて炸裂したブライクニルフィンガーは氷結粒子の暴走を招き、自分自身すら氷漬けにした。凍結による破損部位の補修という予想外の効果を生みこそしたものの、実戦で使えるものではなかった。

 それらの解決策が、一撃必殺ならぬ、連撃必殺(・・・・)。出力を抑えたブライクニルフィンガーを両手に展開して短時間に無数に叩きこみ、時間単位破壊力(DPS)を劇的に向上させる、〝アヴァランチフィンガー〟という力技だ。

 力技は同時に荒業でもあり、氷結粒子の暴走ほどではなくとも、自身のダメージは避けられない。故に、アヴァランチフィンガーは絶対に〝必殺〟でなければならなかった。

 たとえ相手がMAでも、フルアーマー装備でも、PS装甲でも。DG細胞に侵されていようと、サイコフレームが結晶化していようと、第二形態・第三形態をもっていようと、確殺できる破壊力が必要だ。

 暴走の危険から、氷結粒子の高出力化は不可能。連撃必殺とはいっても、機体への負担を考えれば、連撃回数にも限界がある。ならば、破壊力を高めるためにできることは、何か。

 

「――〝粒子発勁〟」

「ま、まさか……氷の粒子を……っ!?」

「……どんな重装甲でも、第二形態でも……ガンプラである以上、粒子発勁は防げない」

 

 プラフスキー粒子を浸透させ、内部からガンプラを破壊する絶技〝粒子発勁〟。旧バトルシステム時代から存在するガンプラバトルの技法だが、それを実戦レベルまで極めたダイバーは少ない。その数少ない使い手であるメイファ・李・カナヤマに師事し、ライは限定的ながらも粒子発勁を身に付けていた。

 それが、汎用性を捨て氷結粒子の制御に特化した粒子発勁――〝粒子発勁・六華〟。連撃必殺の要にして、アヴァランチフィンガーの真髄である。

 

「貴様の独善と傲慢……凍りつく(とき)の中で、悔い改めろ……!」

「ふっ……私を墜としたこと、誇りたまえよヒムロ・ライ! 妹のことなど関係なく! キミは、私の……ッ!」

 

 次々と内側から突き出す氷柱に埋め尽くされ、ほとんど人型を失ったアガートラーム・ネイキッドの胸のど真ん中に、クァッドウィングは槍のように引き絞った手刀を突き入れた。

 

「……成敗ッ!」

 

 再度、冷気嵐が炸裂し、白銀の雪風が辺り一面に吹き荒れる。視界を埋め尽くす白い嵐に混じって、撃墜判定表示がポップアップし、プラフスキー粒子が空に昇っていくのが見えた。

 

《――BATTLE ENDED!!》

 

 システム音声が、試合の終了を告げる。いつの間にかトリントン基地周辺は夕闇に沈んでおり、戦火に荒れ果てたオーストラリアの荒野は、全体にオレンジ色に染まっていた。そんな中、場違いに氷結したクレーターを覆う雪煙が晴れ――そこに立つガンプラは、クァッドウィング・ゼロ、ただ一機であった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

《第七回部内試合 トゥウェルヴ・トライブス 試合結果(リザルト)

 

第一位 〝ブルーブレイヴ〟  サツキ・コウタ  /エイハブストライク

第二位 〝ヤマダ近衛騎士団〟 ヤマダ・アルベルト/ジンクスⅣアガートラーム

第三位 〝精密兵団(レギオン)〟     コウメイ・マサヒロ/フォーミュラ・ジム一号機

 

最多撃墜賞――ヒムロ・ライ/クァッドウィング・ゼロ 撃墜数:12

※フィールドギミック(核弾頭誘爆)による撃墜は数に含まない。

 

 

「へぇ、ヤマダ君を倒したのか。例の転校生君が。撃墜数もすごいなぁ」

「ヤマダ殿と言えば、撃てども斬れども伏すこと無き強者ではないか。栄えし者も何時かは没する……諸行無常よ」

「ゼンちゃん、戦ってみたくなっちゃった?」

「そりゃあ、ね。興味はあるよ。でも今は、紅白戦の準備がなぁ……あと、〝ちゃん〟はやめてっていつも言ってるだろう、カノン」

「あらあら、うふふ。ごめんなさいね。昔のクセって治らないものねえ」

「あーもう、オイラたちもいるってのにイチャつかないでほしいッスよー、せんぱーい。ねー、アイラ?」

「……………………(こくん)」

「ほらー、アイラもそーだって!」

「これこれキド殿、ゼン殿とカノン殿は旧知の仲、拙者らの口出しするものではないぞ」

「いや、いいんだよチャド……ああ、そうだ。君たちに行ってもらおうかな。キドくん、アイラくん」

「……………………?」

「へ? 行くって、何に?」

「僕は紅白戦の準備から手を離せない。だから転校生君の……いや、ブルーブレイヴの今の戦力、ちょっと見てきてほしいんだ」

「あー、そーいえばここ、コウタ先輩のとこッスね。ゼンさん、ずっと気にしてたッスもんねー、コウタ先輩のコト。まあ、行くのはいいッスけど……知らないッスよ?」

「何だい、気になることでも?」

「いやいや、そーじゃないッス。実力がどうとかわかる前に……オイラ、全員グッチャグチャにしちゃうかもッスよ。ねー、アイラ?」

「……………………(にやり)」




 以上、第七話最終パートでしたー。
 強化されたクァッドウィング、粒子発勁を身に付けたライは、“最高位の十一人”を打ち破るほどの実力者となりました。
 ライの修行シーンなどはばっさりカットしたので粒子発勁関連は唐突に見えるかもしれませんね。一応、拙作の世界線における粒子発勁の第一人者であるメイファに弟子入りしているシーンを第六話で描いていますので、それでお許しくださいませ。

 かなりの間が空いての連載再開でしたが、とりあえずの目標である第七話完成まではこぎつけました。今後もペースは落ちるかもしれませんが、できるだけ続けていきます。お付き合いいただければ幸いです。

 感想・批評もお待ちしています。どうぞよろしくお願いします。



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Episode.07-Extra

 どうもこんばんは、亀川です。
 今回のお話は、第七回部内試合後のサイドストーリー的なものです。登場人物は、ヤマダ・フレデリカとその従者、スズです。

 そしてさらに今回は、ハーメルンの他の作者さんとのコラボ回でもあります『【新約】ガンダムビルドダイバーズEW 〜死神は自由気ままに空を舞う』を連載中の、suryu-さんとコラボさせていただき、一部設定を共有しております。どうぞご覧ください!


――第七回部内試合後 ヤマダ・フレデリカの私室にて――

 

「ごめんなさい、スズ……私のGNフィールドが、もっと強ければ……」

「おっしゃらないでください、フレデリカ様。スズの方こそ、任務を果たせず申し訳ありません」

 

 時間は夜の十一時。柔らかな間接照明に照らされ、飾り気は少ないが質のいい調度に囲まれた、落ち着いた雰囲気の寝室。部屋とベッドの隅に積み重ねられているぬいぐるみがガデッサ・ガラッゾ・ガッデス・ガガというガ系MSのオンパレードでさえなければ、育ちのいいお嬢さんの寝室として、何の不自然も感じさせないだろう。

 そんなほのかにイノベイター風味の寝室で、柔らかなベッドに腰かけている少女が二人。

 一人は、ふわふわの飾り布をセンス良く配置した、16歳の少女としてはやや幼く見えるデザインのパジャマに、16歳の少女というには非常に発育に恵まれまくっている肢体を包んでいる、フレデリカ。

 そしてもう一人は、旅館の浴衣でももっと飾り気があるだろうというような、ほとんど布をその形に切って縫っただけに見える無味乾燥な濃紺の浴衣に、無駄な起伏の(そして魅力的な起伏も)まったくないスレンダーな肢体を包んでいる、スズである。

 

「せっかくスズが、私のガデス・アテネまで隠してチャンスを作ってくれていたのに……」

「ブルーブレイヴのエルダイバーが、あのような手段にでるとは誰も予測できませんでした。油断のならぬ小娘です」

「……また、負けちゃいましたね……お兄さまのお役に、立ちたかったけれど……」

「フレデリカ様……」

 

 フレデリカは悩まし気にため息を吐きながら、ガガのぬいぐるみをぎゅっと胸に抱き、丸っこくデフォルメされたコーンスラスターに顎をうずめる。その姿に、スズは思わず手を伸ばしかけるがすぐにひっこめ、ぐっと胸元で拳を握る。

 友ではあっても、主人と従者。ヤマダ家のような上流階級においては、凡人には想像もつかないような特殊な上下関係が存在するのだろう。

 

 

 ――さて、唐突ではあるがここでスズの内面を包み隠さず描写してみようと思う。第三者である読者諸兄であればこそ、キャラクターの内面を知る神の視点を持てようというものだ。

 

 

 はぁああああああぁぁぁぁんリカ様かわいいリカ様マジ天使リカ様ほんっとお人形さんみたいなその髪その目その佇まい尊い! マジ尊い! 尊みがトランザムしてない瞬間がないんですけどその自覚あります!? ぬいぐるみに顔うずめてため息とかどこのお姫様ですかあなたはいや実際お姫様みたいなものですがというかリカ様リアルに私のプリンセス! だいたいですね、何ですかそのパジャマは。小っちゃいころからサイズこそ変われどなんですかそのずっと可愛い系! 可愛い系、というかリカ様が可愛いそのもの、可愛いという概念は今ここで人類の最高値を更新し続けている! ああそうパジャマですよ、パジャマ! また成長して! あっちこっちまた成長して! そのパジャマオーダーメイドでしょう、リカ様がいろいろと成長するたびに寸法取り直す私の身にもなってくださいよ、もう毎日測定したいんですよいっそのこと! まあリカ様の寸法なんて私のこの目で毎日ミリ単位で把握し続けているわけですが、ちょっと食べすぎちゃったかもっておやつのシュークリームのことを後悔しているリカ様はえげつないかわいかったですけど、あの時ウェスト0.2ミリしか変わっていませんでしたから! スズが保証します、リカ様は多少ふくよかになってもそのかわいいに拍車がかかるだけの話ですから! それにリカ様はまずその胸の膨らみに栄養が行っちゃうお方ですから! その成長したリカ様がふりふりのパジャマでぬいぐるみを抱いてタメ息なんて私はこの世界で尊さに殺された唯一の人間になりたい! そして転生したい、リカ様のぬいぐるみに転生したい、いやむしろそこ変われおまえリカ様にぎゅってされてるからって調子乗るんじゃねーぞそこは私が転生したスズぐるみがリカ様にぎゅってされる場所だろうがあああああああああああああああああ!

 

 

 ――ニュータイプとは、誤解なくわかり合える人類の革新という。しかしとりあえずヤマダ・フレデリカは、自分がニュータイプでなかったことを幸運に思った方がいい。理解できたとて、わかり合えるとは限らないのだから。

 

「ねえ、スズ?」

「ンひゃいっ! なな、何でしょうリカ様!?」

 

 珍しく素っ頓狂な声を上げたスズに、フレデリカはころころと笑いつつ、すっと身を寄せてきた。

 

「あら、珍しい。昔の呼び方、久しぶりにしてくれたわ」

「あっ、いえ……も、申し訳ありません、フレデリカ様」

 

 そう言ってスズは、ガンプラバトルの時のような、キリッと口元を真一文字に結んだ、険しい表情を取り繕う。そうなったスズはもう昔の呼び方はしてくれないとわかっていたフレデリカは、ふっと軽く微笑んで、話を続けた。

 

「あなたのガンプラ、性能が上がっていたわね。何か新しく改造したのかしら」

「はい。一部、塗膜が剝がれていましたので……思い切って、全塗装し直したのです」

「まあ、そうなの! その時に何か工夫を?」

 

 フレデリカはダイバーとしては、バトルよりもガンプラ制作が好きなビルダータイプだ。ガンプラバトル部の部内試合には真面目に参加しているし、バトルで兄の役に立ちたいというのも本音だろう。しかし彼女の瞳が一番キラキラ輝くのは、やはりビルダーとして興味を惹かれるような話をしている時だ。

 スズはそんなキラキラしたフレデリカの期待に答えたくて、他の部員やダイバーには絶対に教えない、GNアサシンのステルス性の秘密を語った。

 

「はい、塗料を変えてみたのです……フレデリカ様、リアルの店舗で、ガンプラ専門店以外をお使いになったことは?」

「いえ、ないわ……でも、興味はあるの。いいお店があるの?」

「はい。ミラージュコロイドでのステルス性向上は、私の制作技術では頭打ちになっていたのです。潜伏する分には問題なかったのですが、戦闘への応用は厳しくて……そこで、ステルス系の機体を使うダイバーたちの一部で、噂になっていたショップに立ち寄ってみたのです」

 

 スズは言いながらダイバーギアを取り出し、そのショップの情報をホログラム表示して見せた。

 店の名前は、〝ジャンク屋 廃車達の栄光〟。大手によるガンプラ専門店ではなく、それどころか、模型屋などでもないようだ。

 

「えぇっと……車屋さん……?」

「店主の趣味のようです。車とガンプラと、どちらが……と言われると、私も常連というわけではないので、わかりかねますが。ただ、ここの〝死神塗料〟という塗料シリーズは、発色もよくて、GBNでステルス性がプラスに評価されると好評なんです」

「へぇ、面白いのね。場所は……あら、ここからならそれほど遠くないわね」

 

 嫌味の無いフレデリカの一言に、スズは苦笑。「それほど遠くない」というセリフは、常識的には車か電車での移動を基準に考えるが、ヤマダ家のご令嬢たるフレデリカは、自家用ヘリ基準でものを言っているのだ。

 

「フレデリカ様、私も確認したわけではありませんが……おそらく、こちらのお店にはヘリポートはないかと」

「あら、そう……だったら、行くにはどのぐらいかかるのかしら……」

 

 世間知らずのお嬢さま、自家用ヘリを封じられて、本気で悩みだしてしまった。オンラインショップで塗料だけを買うこともできるが、こういった買い物は棚に並んでいるものを眺めることにも意味があるものだ。特にビルダー気質の強いフレデリカなら、実地に赴くことを望むだろう。

 

「私が行ったときは、電車で小一時間ほどでしたが……もちろん、新幹線ではありませんし、指定席もありませんよ。フレデリカ様、乗ったことないのでは?」

「ええ、恥ずかしながら……でも、乗ってみたいわ。行きましょう、スズ!」

「私は、構いませんが……フレデリカ様、本当に大丈夫ですか? パーサーもコンシェルジュもいないんですよ。お供できるのは私だけになってしまいますが……」

「ええ、いいわ。だったらスズと二人でデートになるわね。楽しみ!」

 

――デートになるわね。楽しみ!

  ――デートになるわね。楽しみ!

    ――デートになるわね。楽しみ!

      ――デートになるわね。楽しみ!

 

 ンほオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

 ――その後まもなく、二人それぞれの床に就いた。

 フレデリカはベッドの中で柔らかい布団に包まれながら、明日のお出かけに胸をワクワクさせながらいつの間にか眠りについた。

 スズは自室に戻り……枕に顔をうずめてゴロゴロジタバタし、秘密の日記帳に一気に50ページも思いの丈を書き連ね、それでもギンギンに眼が冴えて寝付けず、鍛錬場でぶっ倒れるまで汗を流して気絶するように寝落ちしたという。

 




 以上、第七話サイドストーリーでしたー。
 拙作はバトルバトルまたバトルで進んでいくことが多いので、キャラの掘り下げがしたくなったら今後もこのような形をとってみようかな、と思っています。

 また、今回はコラボ回ということで『死神塗料』等の設定を共有させていただきました。許可していただいたsuryu-さん、ありがとうございましたー!
 死神塗料をお買い求めのお客様(笑)は、『【新約】ガンダムビルドダイバーズEW 〜死神は自由気ままに空を舞う』をチェックしてみてくださいね!

 感想・批評もお待ちしています。どうぞよろしくお願いします。


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Gunpla.07『フォーミュラ・ジム一号機』

 どうもこんばんは。亀川ダイブです。

 今回のガンプラ紹介は、物語の進行的にはライの新型クァッドウィングがベストなのですが、諸事情により、軍師コウメイのフォーミュラ・ジム一号機です!

 コウメイ率いるエレメント“フォウ・オペレーション”は、機体を統一し高度な連携によりチームとしての総合力を高めています。第七話でライと戦った空戦型のようなバリエーションはあれど、機体そのものは共通となっております。

 では、ご覧ください!

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

機体名称:フォーミュラ・ジム一号機

武装  :頭部60㎜バルカン砲 ×2

     二連装大型ミサイルポッド ×2

     ヴェスバー ×2

     ビームサーベル ×2

     グレネードランチャー ×2

     脚部三連装ミサイルポッド ×2

     隠しパイルバンカー ×2

     ヒートブレード付きロングライフル ×1

     ハンドマシンガン ×1

特殊装備:大型バーニアスラスター・バインダー

     光学迷彩付きABCマント

必殺技 :なし(チームの連携こそが最大の武器)

 

 

①アクションポーズ

 

【挿絵表示】

 

 作中では「グレーとオレンジ」と描写した機体カラーですが、出来上がってみればこれはもう「オレンジとブラウン」ですね。

 使用したキットは、主にHGBD「GMⅢビームマスター」とHGUC「GP02A(MLRS仕様)」です。見ての通り、機体本体はほぼビームマスターを使い、バインダーがGP02ですね。

バインダーは肩ではなくバックパックにアームで接続し、バインダーを展開していても腕を自由に動かせるようにしています。後はカラーリングの変更と、画像では見えにくいですがブラウンの部分にマルイチモールドを追加しています。

また、画像で背部から前方へと銀色の銃口を向けているのはヴェスバーです。ビームマスターのバスターバインダーを少々改造して使っています。ヴェスバーはバインダーから伸びているのですが、これもバインダーの展開方向と関係なく射撃できるよう、アームをかませています。ギャプランとかメッサーラとかのスラスターと一体化したビーム砲って、カッコイイしMA形態ではいいかも知れんが、MS形態では運用しづらいよなあ、と常々思っていまして。コウメイならそうはしないだろう、と考えての兵装配置です。

 両肩のシールド状のパーツは、ジムⅢの腰部ミサイルランチャーです。ビームマスターでは両脚に装備されていましたが、装備位置を変更。武器屋バインダーとの干渉を逃がすために、これもアームをかませています。凹凸が多く地味に塗り分けが面倒でした……。ついでに肩アーマーがのっぺりしていたので、一か所マルイチモールドを埋め込みました。

 手持ちのロングライフルは、鉄血の武器セットから持ってきたレールガンに、我が家のマウンテンサイクル(ジャンク箱)から発掘してきたブレードを接着したものです。確か、アメイジングレッドウォーリア用のブレードだったはず。センサー部には百均のジュエルシールを張り付けています。ベースにしたレールガン自体にけっこう自由に動くフォアグリップがついており、画像のような両手持ちもむりなく可能です。また、マニピュレータはビルドナックル角に付け替えています。私はビルドナックルをよく使うので、ジャンク箱に掌だけが延々溜まっていく……「マドハ〇ドAは仲間を呼んだ!」状態ですね(笑)

 頭部はビームマスターのものを塗り替え、余剰パーツとなっていたジムⅢのチーク&アンテナ部分を左右に貼り付けています。顔の横幅がひろがったことで重厚感が出たかと思います。また、ロッドアンテナが二本あることで、通信機能強化、連携重視のフォウ・オペレーションらしく見えるようにもなったかな、とも。ただ、頭部については作成中に悲劇が……アゴ部分が、どっかいっちゃいました……部屋の掃除をしても見つからず、結果こいつはアゴなしフェイスです。まあ、独特な顔になったと思って我慢することにします(´;ω;`)

 続いて、バインダーを閉じて正面と背面です。

 

 

②正面&背面

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 バインダーを閉じると、正面から見る限りは一般的な宇宙世紀MSぐらいのボリュームに見えますね。まあ、横から見るととんでもなく分厚いのですが。背負いものが大きい割には何とか自立するのですが、倒れたら嫌なのでダイバーギアに乗せて撮影しています。つい先日、撮影ブースを自作し直したのですが(以前のブースはプラ段ボール。今回は白塗りベニアです。画像ではほぼ違いが判らんという悲劇)、材質的にちょっと滑りやすくなっちゃってるんです。

 まあ、それは兎も角。フロントアーマーの追加装甲的なものは、ジムⅢの膝アーマーを接着したものです。サイドアーマーのグレネードランチャーは、鉄血の武器セットからモビルワーカーの砲身を切り詰めたもの。脚部ミサイルポッドはマウンテンサイクルより何かの武器セットやつです。

また、非常に見づらいのですが、リアアーマーにはハンドマシンガンをネオジム磁石でくっつけています。これもジャンクパーツなのですが、コトブキヤのM.S.Gのやつだったはず。戦闘車両などの軽装甲目標の掃討や、ロングライフルを自由に使えない閉所での戦闘用です。まあ、この図体で閉所に押し込まれた時点でかなり不利な状況なわけですが。そこらへんは軍師コウメイの頭脳で何とかするんでしょう、きっと、たぶん。

 両膝の追加装甲部分は、ビームマスターの設定的にはビームサーベルを格納していることになっていますが、この機体は隠しパイルバンカーを搭載しているという設定です。明らかに射撃寄りの本機ですが、だからこそ隠し武器として非常に有効なのです。そして通常のビームサーベルは、背部のヴェスバーの上に突き刺さってるイエローのやつです。いくら射撃寄り万能機といえど、ビームサーベルは連邦系MSの基本装備ですね。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

……以上、ガンプラ作例紹介第七弾「フォーミュラ・ジム一号機」でした。

 久しぶりに完成させた改造ガンプラだったのですが、やっぱりガンプラ作りは楽しいですね。次のガンプラももう作り始めています。

今後も執筆、ガンプラ制作ともに頑張りますのでよろしくお願いします。感想・批評もお待ちしています!



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