ご注文はカクテルですか? ~ティッピーはシェーカーを振れません~ (赤山グリテン)
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~お客様、天々座 理世様~

登場人物
 香風 智乃
 ラビット・ハウスの看板娘で、この小説では22歳の設定。父のタカヒロが早逝し、小柄なバーテンダーがバータイムを切り盛りします。

 ココアは既に高校を卒業しているので、現在ラビット・ハウスには住んでいません。ココア卒業後のifストーリーです。

 「シロクマはシェーカーを振れません」(佐倉色)とのクロスですが、その作品の舞台・世界観をごちうさに持ってきているだけですので、「シロクマ…」のキャラは登場しません。

 その他、独自設定あり、1名オリキャラがいます。

 それでは、お楽しみいただけるとありがたいです。


 喫茶店ラビット・ハウスは、夜はバータイムとして営業しています。亡くなった父に代わり、今は私チノがバータイムの営業もしています。

 

 20歳になったら、父からバーテンダーとしても勉強した方がよいと直接指導を受け、また父が修行していた木組みの街にあるバーでも、通いで勉強させてもらい、氷の使い方からカクテルの知識、シェーカーの振り方まで、1年間みっちり仕込まれました。

 

 そして、これからという時、突然父が亡くなり、私がバーテンダー兼ミストレスとして、ラビット・ハウスのバータイムを仕切ることになったのです。

 

 高校時代から私、あまり背は伸びていません。バータイムの制服は、亡き父からプレゼントされた、特注品です。それを纏い、ラビット・ハウスのバータイム、開始です。

 

 そんな中での、今日のお客様は…

 

 

 ~天々座 理世様~

 

 

 「チノ、またお邪魔させてもらうぞ」

 「リゼさん、いらっしゃい」

 「チノはいつ見ても変わらないな」

 「む~どういう意味ですか」

 「ははは、チノはいつも元気だな、ということだ」

 

 結局、高校時代で背も胸の成長も止まってしまった私にひきかえ、さらに美しさに磨きがかかった感じの、リゼさんが羨ましいです。

  

 「チノ、そんなに卑屈になることはないじゃろ」

 「おじいちゃん…」

 「チノだって、美人だしかわいいぞ…」

 「ありがとうございます」

 

 白いアンゴラウサギの毛玉から、おじいちゃんの声が聞こえます。ティッピーです。

 

 「へんな腹話術も快調だな、チノ」

 「は、はい」

 

 もうすでに皆さん「ティッピー=(イコール)私の祖父」の図式は気づいているのですが、リゼさんも含め、わかんない振りをしてくれています。

 

 「もうリゼさんも立派な小学校の先生ですよね」

 「ああ、子供たち、かわいいぞ」

 「正真正銘『リゼ先生』ですね」

 

 リゼさんも、もう小学校の先生です。リゼさんの進路希望通り、木組みの街にある小学校で教鞭をとってます。

 でも、まだ先生としても若手なので、いろいろ苦労はあるようです。

 

 「ああ、大変だぞ。まだ下っ端だから、雑巾掛けとか、お茶入れとか、先輩の先生の関係とか」

 「なんか軍学校みたいですね」

 「良い意味でも悪い意味でも体育会系な職場だからな」

 「やめたいと思ったことはないんですか?」

 「つらいと思ったことはあるけど、子供たちの顔を見ると、ふっとぶんだ。辞めたいと思ったことはないぞ」

 「さすがリゼさんですね」

 

 わたしもリゼさんみたいに強い気持ちでいられるといいな。

 すでに常連となっているリゼさんは、いつも通りビールからスタートです。

 と、その時…

 

 ガチャ…

 

 「Staff Only」と書かれた、居住スペースとつながる従業員専用ドアが、静かに開きました。たぶんお義母さんかな?

 

 「おや、リゼちゃん、いらっしゃいませ~♪」

 「ゲッ モカさん…ラテちゃんの世話は大丈夫なんですか?」

 「いま、ラテはよく寝てるわ」

 「そ、それで…モカさん?…」

 「リゼちゃん、もふもふしちゃうぞ~」

 「ひえ~」

 

 ドタバタ…

 

 申し遅れました。いまお店に入ってきたのは、おなじみココアさんの実姉、香風 モカ(旧姓保登)さんです。私の亡き父と結婚して、いまでは私のお義母さんです。

 お義母さんは当時コーヒーに興味があるのに、泥水よりひどい、超不味いコーヒーしか淹れられなかったんです。

 それで過去にカフェアートを父と秘密特訓したことを思い出し、私の父にまた教えを請いに、サプライズでラビット・ハウスに来襲。泊まり込みで父から教わっているうちに、お互い恋の火がついたようです。

 その時は私が高校1年、ココアさんは高校3年でウチにホームステイしていたのに、私もココアさんもその関係までは、全く気づかなかったんですよね。父から再婚の報告があった時は本当に驚きました。

 今ではお義母さん、コーヒーを入れるのは、喫茶店の昼の部をお願いできるレベルに上達。おじいちゃんも誉めていましたが、努力家です。

 

 「ほら~つかまえた~もっふもふ~」

 「うわ~」

 

 リゼさん、顔が真っ赤です。でも嫌がってません…というか、楽しんでますよ、これ。お義母さんも、リゼさんともふもふ出来て、満足な顔してます。

 このやりとりは、リゼさんがラビット・ハウスに来ると恒例行事(他にお客様がいないとき限定)なので、あたたかく見守ってます。

 

 それと、さっき名前の出たラテちゃんの紹介、してませんでした。香風 ラテ、私の父とお義母さんの間に生まれた、私の義弟です。父のDNAを受け継いで、父にそっくりで、すごく可愛いです。

 実は私もおねえちゃんになっていたんですよ。

 結果ラビット・ハウスの中に、「カフェラテ、カフェモカ、カプチーノ」全員そろっちゃいました。

 それと、ココアさんはもはや「おねえちゃん」ではなく「お伯母()ちゃん」にレベルアップですね。ふふ…

 

 

 「チノ、さっきの騒ぎで体が熱い。ジントニックを作ってくれ」

 「わかりました」

 

 お義母さんはラテちゃんのところに行ったみたいで、もふもふごっこも終わりです。

 ライムを搾り、ジンとトニックウオーター、手順通りフルアップ、ステア(かき混ぜ)して、涼しげなジントニックをリゼさんにお出しします。心を込めて。

 

 「ああうまい、チノのカクテルは安心して飲めるんだよな」

 「ありがとうございます」

 「満足してほしい、ゆっくりしてほしいって、おもてなしの心が伝わってくるんだよな」

 「リゼさん、その言葉嬉しいです」

 

 リゼさんは私のカクテルをいつも喜んでくれます。私までリゼさんから、いつも元気がもらっているようです。

 

 と、その時…

 

 カララン…バシャ…

 

 3分の1ほど残っていたリゼさんのグラスが、突然倒れ、中のカクテルがテーブルをぬらしました。

 

 「チノ、この酒、私に攻撃を仕掛けてきたぞ」

 「リゼさん、普通にこぼしただけでしょう」

 「勝手にグラスが倒れたんだぞ」

 

 誰かが罰を下すように祈ったんじゃないか、なんて、リゼさん考えすぎです。

 

 「代わりの酒を」

 「別料金ですよ」

 「なら吹き矢で勝負だ。もし私が勝ったら、チノのおごりだぞ」

 「いいでしょう。でも私が勝ったら、リゼさん、5倍の料金をいただきます」

 「よし、受けてたつぞ」

 

 ひょんなことでリゼさんと吹き矢勝負が始まってしまいました。

 勝つのは私ですよ、リゼさん。

 

 ~お客様、天々座 理世様~ 完ー 




 クロスにした、「シロクマはシェーカーを振れません」は、次回(2018年9月現在)で最終回になってしまい、終わってしまいます。せっかく他誌に移籍したのに、単行本3巻の壁は超えられなかったのが残念です。(第2巻が11月に出る)

 リハビリで1話完結になるように書いたので、更新速度は超不定期で、超遅いと思います。ご迷惑をおかけします。

 このような稚拙な作品をお読み頂き、ありがとうございました。
 
 


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