英雄が嫌いな英雄がベルを支えていく物語 (ジャッジメント)
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プロローグ

はじめまして、ジャッジメントと申します。
初投稿で文才ないですがご容赦ください。
あとキャラ違うことあるかもしれないです。


ーとある廃墟の研究所ー

 

「師匠ー本当にこんなとこで危険な研究なんて行われたんすかー?」

 

1人の男がやる気のないような声をあげ尋ねる。

 

「そうよ。資料によればここで転移研究が行われてたんだって。ここが廃墟になったのも研究員全員が転移装置の事故によって異世界に飛ばされたって話よ」

 

師匠と呼ばれる女性がそう答えた。

 

「異世界なんてあるかよ。調査するだけ無駄でしょうよ。」

 

「うだうだ言ってないであんたもさっさと探しなさい!あたしだってこんな埃だらけの場所なんていたくないわよ」

 

「はいはい分かりましたよー」

 

ブツブツ言いながらも2人は調査を進めていく。

 

 

 

「はぁ...こんな面白くない調査なんてしないでBLEACHでも読んで卍解の取得でもしたかったあ...」

 

 

そう、戦場では英雄と称えられるこの男はマンガの技を見てそれを鍛錬することによって取得ができるチート能力を持っている。

そのせいかマンガを読むのに凝ってるが、仕事が忙しい故あまり読めていない...

 

 

 

 

 

 

しばらくして男は1つの古びた装置を発見する。

 

「なんだこりゃ?何かの装置っぽいが...壊れてるのか?」

 

ったく転移装置なんて非現実的だよなあ...と言いながらも装置を調べる。

 

 

「ちょっと!むやみに装置に近づかないでよ!あの話が本当なら作動すれば別世界に飛ばされる可能性あるんだから...」

 

師匠は怒るが男はそれをガン無視して調査を進める。

 

「何言ってんですか、そのための調査なんでしょ?そんなもんにビビってたらいつまで経っても終わらんでしょ。俺は早く仕事終わらせてBLEACH読みたい」

 

「あ、ちょっと!」

 

自分の言う事を聞かない男に師匠はため息をついた。

その時

 

 

 

ブオン!!

何かが作動したような音が響いた。

 

「「え?」」

 

ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

装置の周りに空間ができ、周囲を飲み込んでいく。

 

「「!!!」」

 

師匠は多少距離があったため咄嗟に避け、物陰に隠れることができたが、男は装置の目の前にいたため反応できず逃げ遅れてしまった。

 

「うわあああああああ!!!!!!」

 

「悠斗ーーーーー!!!!!」

 

悠斗と呼ばれた男は空間に吸い込まれてしまい、空間が閉じてしまった。

しばらく呆然としてしまったが師匠だったが

 

 

「悠斗...いやあの子なら必ず戻ってくるはず。それまでこの装置を徹底的に調べてあの子を探し出すわ。だから無事でいて!」

 

そう願わざるをえない師匠であった。

 

 

 

────────────

 

 

 

ーオラリオ廃教会前ー

 

「はぁアイズ・ヴァレンシュタインさんかあ」

 

ベル・クラネル。このダンまちの主人公である。

彼は今日、ロキ・ファミリア所属の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインにミノタウロスから助けてもらい一目惚れしてしまっていた。

 

「でも逃げちゃったしなあ...もし今度会えたらちゃんとお礼言わないと。...ん?誰か倒れてる!?」

 

自分の本拠である廃教会の前に1人の男が倒れていることに気づき、慌てて声をかける。

 

「あのーすみません。大丈夫ですか?」

 

ベルは声をかけるが、男は気を失っていて返事がない。

 

「大変だ。急いで運ばないと!」

 

ベルは男を肩に担ぎ、本拠の扉を開ける。

 

「おやベルくんお帰り!さっそく愛の抱擁を...ってその子誰だい?」

 

神ヘスティア。見た目は低身長の童顔で子供っぽいが、その身長からは想像できないほどの巨乳の神様であり、ベル・クラネルが所属するヘスティア・ファミリアの主神でもある。

 

「あ、神様!この人ホームの前に倒れてて...」

 

「...よし分かった。ベッドで休ませよう!」

 

2人は大急ぎで男をベッドに運んで休ませた。

 

 

 

 

ここから英雄と呼ばれた男と英雄を目指す1人に兎の物語が始まる...

 

 

 

 

 

 



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ファミリア入団

ー???ー

 

ひそひそ...

 

 

見ろ、あの人が英雄の神津さんだよ

 

カッコいいなあ、あの人がいれば俺たちの勝利も間違いないな

 

でもあまりに凄すぎて声かけづらい...

 

 

 

まただ...英雄と持ち上げられてるせいでみんな神様を見るような目で俺を見てくる...

俺は英雄なんて気にせず普通に接してくればいいのに何でみんなそんな距離をとっている...

 

 

 

ん?ようお前ら!どうしたそんなに集まって!今日はどっかでかけるのか?

 

あ、ああ英雄様...こんにちは..,

 

おいおいなんだよお前らまで、いつも通り普通に接してくれや!

 

いや無理だよ。お前凄すぎて一緒にいると俺たち変な目でいられるしさあ。英雄様と下っ端じゃ格が違いすぎるっていうか...みんな行こうぜ...

 

 

逃げるかのように悠斗の友人たちが離れていく...

 

 

おい待ってくれよ!俺を置いてくなーー!!!

 

 

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

ガバッ!

 

嫌な夢から醒め、起きるとそこは見知らぬ建物の中にいた。

 

「くそ、何であんな夢を...にしてもここはどこだ?」

 

辺りを見回しても誰もいない。だが建物内から人の気配は感じていた。

 

「見るからにボロボロの内装だなあ。でも何でだろう、ぼんやりとだが見覚えがあるなここ...もしかして何かのマンガの世界なのか?」

 

必死に思い出そうとするが何も出て来ない。そうこう考えてるうちに人が入ってきた。

 

「ああ、目が覚めたんですね!良かった...」

 

1人の少年が入ってきてその姿を見た瞬間悠斗に電気が走った。

 

「(こ、この子はベル・クラネルだと!!?じゃあこの世界はダンまちの世界ということなのか!?やべえ、ダンまちほとんど読んでないからこの先の展開とか全然分かんねえぞ...)」

 

はあ、とため息をつきながらも平静を取り戻し話を進める。

 

「あ、ああ。君が助けてくれたのか?ありがとう、君は命の恩人だよ」

 

「い、いえいえ!命の恩人なんてそんな!」

 

少年は慌てて否定する。そうか、確かこんな感じの子だったなっと軽く笑った。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ヘスティアも来たので一旦話し合うことになった。

 

「じゃあ自己紹介しますね。僕はベル・クラネル。このヘスティア・ファミリアの団員です」

 

「そしてボクはこのファミリアの主神であるヘスティアさ。これでも神様なんだぜ!」

 

「俺は神津悠斗。恐らくですが、別の世界から来た者です」

 

しばし沈黙が続いて...

 

「「えええーーーーー!!!???」」

 

教会全体に響き渡るほどの声を2人は出した。

 

「それは本当なのかい?」

 

ヘスティアが真顔になってそれを聞いてきた。

 

「恐らくですが。俺は別の場所である物の調査をしていたんですが、その時の事故に巻き込まれてしまい気付いたらここにいたんです」

 

「...嘘はついてないようだね」

 

神に嘘は通じない。それは知っていたし、悪いキャラではなかったので正直に話すことにした。

 

「別世界ですか。とんでもない話ですね」

 

「ボク自身も信じられない話だけど嘘はついてないし信じるしかないね」

 

「そういっていただけると助かります」

 

信じてもらえなかったら話が永久に前に進まないし、疑り深い連中じゃなくてよかったよ...

 

 

 

「それでキミはこれからどうするんだい?」

 

「とりあえず元の世界に戻る方法を探します。向こうに大切なものも残してきてますんで」

 

「そうか...じゃあ元の世界に戻れるまでボクのファミリアに入らないかい?」

 

「それいいですね神様!」

 

ファミリアか...確かに元の世界に戻るには情報が足らなすぎるし情報を仕入れるには丁度いいかもしれないな...

それにこのベル・クラネルは個人的にどう成長するか興味あるしな...よし!

 

「分かりました。じゃあ元の世界に戻れるまで限定でよければあなたのファミリアに入れて下さい!」

 

「やったーーー!!!眷属2人目だーー!!」

 

「やりましたね神様!」

 

2人して抱き合って喜びあっていた。それを見ると何故かほほえましくなってくる。

 

 

 

 

 

「それじゃあさっそく神の恩恵を刻もう!さあ、上着を脱ぐんだ!」

 

恩恵はたとえ同じファミリアであろうとも見てはならない。そんな決まりがあるのでベルが退室した後、そそくさと上着を脱いでうつぶせになる。

 

「...ユート君けっこう鍛えてるね。傷もそこそこあるし」

 

悠斗の筋肉質で傷ついた体を見てヘスティアは不思議そうに尋ねた。

 

「まあ修行や戦場を経験しちゃってますから。自然とついちゃったんですよ...」

 

そう、この体は師匠との鍛錬や戦場でついたもの。傷についてはほぼ師匠のせい。師匠は女性だけど超鬼畜のドSなんだもんなあ...それでいてチートクラスの強さだし...

 

「キミは相当の修羅場をくぐり抜けてきたんだねえ...」

 

「憐れんだような言い方やめてください...」

 

ヘスティアは悠斗とそんな言い合いをしながら背中に神の恩恵を刻み始めた。

 

「...よし!これでユート君は本当にボクのファミリアの団員となった訳だ!」

 

「...特に変化があるわけじゃないんですね」

 

「そういうものさ。じゃあステータスをってなんじゃこれはーーー!!!」

 

「ん??」

 

恩恵を刻み終わったと思ったら急にヘスティアが奇声をあげた。

 

「ちょっと紙に書くから待っててくれ」

 

そう言うとヘスティアは真剣な顔をして紙にステイタスを書き込んでいく。

 

「あのーどうしました?」

 

「すまないユート君。これを見てくれるかな?」

 

ステイタスを書かれた紙を渡されそれを拝見する。

 

 

 

~~~

 

 

 

神津悠斗

 

 

 

Lv.1

 

 

 

力:S999

 

耐久:S999

 

器用:S999

 

敏捷:S999

 

魔力:S999

 

 

 

《魔法》

 

【ファイヤーボール】

 

 

【ウインドカッター】

 

 

【スプラッシュ】

 

 

【ネガティブゲイト】

 

 

【レイ】

 

 

【バーンストライク】

 

 

【イフリートソード】

 

 

【サンダーフレア】

 

 

【ヒーリング】 

 

 

【破道の四 白雷】

 

 

【破道の九十 黒棺】

 

 

【縛道の八十一 断空】

 

 

【その他多数】

 

 

《スキル》

 

【英雄の力】

・全ステイタス大幅強化

 

・全ての魔法が詠唱破棄可

 

・精神枯渇無効

 

・精神異常完全無効化(常時発動)

 

 

 

~~~

 

 

 

「・・・」

 

「ユート君、キミのステイタスははっきり言って異常すぎる。レベル1とはいえ初めからカンストしてるし、人間でありながらレベル1で魔法が発言してる上に複数個以上発現している。おまけにスキルの【英雄の力】はレアスキルどころかもはやチートスキルと言ってもいいだろう。ユート君、キミはもしかして元の世界では英雄と呼ばれていたのか?」

 

「まあ...そうですね。望んだわけではありませんが数々の戦場を巡る内に勝手にそう呼ばれるようになりました。でも俺は英雄が嫌いです。ただ人々から畏れられ、避けられていく...そんな英雄を嫌悪します」

 

「ユート君...」

 

俺は英雄と呼ばれてからみんなが離れるようになった。英雄は常に孤独だと思い知らされた。だから俺は英雄が嫌いだ。だが、それでも師匠だけは英雄と呼ばれてる俺にも普通に接してくれた。それが何よりも嬉しかったんだ。だからこそここまでやってこれた。

 

「俺は英雄なんて柄じゃないんです。1人じゃ大して何もできない無力な人間だし、誰かに支えられなければすぐ壊れてしまう脆い男です」

 

「だったら!孤独な英雄じゃなく、常にかけがえのない仲間もいる強い英雄になれるようにベル君を支えてやってはくれないか?」

 

「え?」

 

「ベル君はおじいさんがモンスターに殺されたことがきっかけにみんなを守れる英雄になりたがってる!そんなベル君をここにいる間だけでいい。ベル君を支えてくれ!」

 

ヘスティアはそう言い頭を下げる。戸惑ったがここまでされたら引くわけにはいかない。

 

「分かりました。俺にどこまでできるかは分かりませんが、あいつが孤独な英雄にならないようサポートしますよ」

 

悠斗はそう微笑むように答えた。

 

「ありがとうユート君!!」

 

2人はがっちりと握手を交わした。

 

 

「あ、分かってはいると思うけど君のスキルはくれぐれも秘密にね?ほかの神々に間違いなく狙われるから」

 

「了解」

 

当然だ、俺は目立つのが嫌いなんだ。自分から爆弾投下するバカはいないんだよ。

 

 

 

 

その後、ベルに自分が英雄であることを話したら心底驚かれ、離れるどころかよりグイグイ来るようになった。

今までにないことだったので戸惑ったが、やはり面白い子だ。

俺は可能な限りの時間を使ってこの子を陰に日向に導いていてやるさ。

 

 

 

 

 

 



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人物紹介

神津悠斗(かみづ ゆうと)

 

所属ファミリア:ヘスティア・ファミリア

種族:ヒューマン

年齢:18歳

身長:177cm

好きなもの:マンガ・ゲーム、料理、平凡な生活

嫌いなもの:友をバカにする奴、目立つこと、孤独、英雄

所持品:小夜時雨、ジャッジメント

 

■武器説明

・小夜時雨・・・悠斗が愛用する刀。元々は師匠にもらったものである。

        見た目は黒い木刀で悠斗以外が使っても硬い木刀だが、

        悠斗が使えばオリハルコンですら傷つけられるほどの威力を持つ。

        そして壊れず、強力な酸や火に当たっても傷1つつかない。

 

・ジャッジメント・・・悠斗が持つ銃。見た目はマグナムリボルバーであり、

           本人以外には撃つことはできない。

           名前からなんとなくわかると思うがD.Gray-manの

           クロス・マリアンが愛用していた銃であり、

           あまりにチートすぎる性能+ダンまちに銃は無いっぽいので

           出番はないかもしれない。

 

 

Lv.1

 

 

 

力:S999

 

耐久:S999

 

器用:S999

 

敏捷:S999

 

魔力:S999

 

 

 

《魔法》

 

【ファイヤーボール】

 

 

【ウインドカッター】

 

 

【スプラッシュ】

 

 

【ネガティブゲイト】

 

 

【レイ】

 

 

【バーンストライク】

 

 

【イフリートソード】

 

 

【サンダーフレア】

 

 

【ヒーリング】 

 

 

【破道の四 白雷】

 

 

【破道の九十 黒棺】

 

 

【縛道の八十一 断空】

 

 

【その他多数】

 

 

《スキル》

 

【英雄の力】

・全ステイタス大幅強化

 

・全ての魔法が詠唱破棄可

 

・精神枯渇無効

 

・精神異常完全無効化(常時発動)

 

 

 

 

本作のオリキャラで、事故によってダンまちの世界へと転移した。

両親は産まれてすぐに亡くなっており、そこで組織に拾われそこで師匠と出会った。

元の世界では、師匠とともに数多の戦場や危険場所への調査を行っていた。

剣や武術、魔法の達人でもあるが、それ以上にマンガやゲームのキャラの技を見て鍛錬すれば取得できるというチート能力もあるがそれは周囲には内緒にしている。

だが、それでも師匠には1度たりとも勝てたことはない。

彼が味方にいれば必ず勝利できると言われ、それゆえ味方からは英雄と称えられている。しかし、その雲のような存在となったことが原因で友人からも距離を空けられて孤独になっていき、目立つことや有名になることを極端に嫌うようになってしまった。だが、師匠や友のためならばその限りではない。

普段はちょっとめんどくさがりな部分もあるが温厚でノリは良く、基本的に女性子供にも優しいが、自分の敵対するものであれば冷徹に豹変し、誰であろうと容赦はしない。

また、そこそこ整った容姿をしておりモテるようだが鈍感なところがあり、師匠に想われてるが全く気付いていない。

もしかしたらダンまちのキャラにも想われる可能性もある...かもしれない...

 

 

 

 

 

 

 

 




師匠については詳細が分かり次第追記します。


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女性は恐ろしい...

悠斗の話が終わった後、ギルドに冒険者登録しにいくつもりだったが、ベルのステイタス更新があるということで部屋の外で待っていた。

 

 

すると部屋の中から

 

「ベル君の浮気者!超浮気者!!」

 

バシバシバシバシ!

 

「痛っ!?ちょっと神様急にどうちゃったんですか!?」

 

「ふん、知るもんか!」

 

 

 

「何してるんだあの2人は...」

 

悠斗はやや呆れながらも微妙に笑っていた。

 

 

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

 

 

道中...

 

「もう朝から酷いんですよ神様はー」

 

「ははは!仲が良くていいことじゃないか」

 

「笑わないでくださいよ!」

 

なんて他愛もない会話をしながらベルと悠斗はギルドへと向かっていった。

その途中

 

 

 

ジーーーーーー

 

 

 

「「!?」」

 

 

誰かに見られている気がした。それも近くではなくかなり遠い場所から。

 

「ベル、今視線を感じたか?」

 

「は、はい。わずかにですが寒気のする視線を感じました」

 

「俺もだ(誰なんだ?くそ、ダンまちを読んでいれば分かっていたんだが...だが殺気を感じられなかったということは暗殺者の類ではなさそうだな...)」

 

などと考えていると

 

「あのう」

 

「「!?」」

 

「きゃっ!」

 

声のした方に勢いよく振り向くと何やら緑色のメイド服のようなかっこうをした女性が立っていた。

 

「あ、えーっとどうされましたか?」

 

「あのーこれ落とされましたよ?」

 

そう言って女性は小さな魔石を差し出す。

 

「あーすいませんありがとうございます!」

 

礼を言ってベルは受け取った魔石をポーチに入れる。

 

「おいおい、貴重な財源なんだからしっかり管理しとけよ...」

 

「す、すいません。あ、僕はベル・クラネルって言います。こちらが神津悠斗さんです」

 

「よろしく」

 

「ベルさんと神津さんですね。私はシル・フローヴァと言います。よろしくお願いします」

 

挨拶を交わしたその瞬間

 

 

ぐぅぅ~~

 

 

「はぁ...お前というやつは...」

 

「あうぅ///」

 

急に腹が鳴ってベルは顔を赤くする。

すると女性は笑いながら包みを差し出す。

 

「大したものではありませんが、ぜひ食べてください」

 

「あ、いやでも...」

 

「ベル、せっかくの好意だ受け取っとけ。女性の好意は無碍にしてはならんって俺もよく言われたしな」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「いいえ。そのかわりと言ってはなんですが、今夜はぜひウチのお店に来てください!」

 

「「お店?」」

 

2人は不思議そうな顔をしてそう尋ねた。

 

「はい。私ここの豊穣の女主人というお店で働いてるんです。ダメ、ですか?」

 

女性は上目遣いをしてベルに尋ねる。

 

「わ、分かりました」

 

「(こ、この女あざとすぎる!ベルはすっかり手玉に取られてるし...師匠といいやっぱり女って怖い生き物だな...)」

 

 

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

 

 

ーギルドー

 

「ここがギルドだな」

 

今夜の食事代を稼ぐためにベルには一足早くダンジョンに潜ってもらい、悠斗1人で登録をしに来た。

 

「あ、すいません。冒険者の登録に来たんですが」

 

「冒険者の登録ですね。ではこちらの書類に必要事項を記載してください」

 

そう言われて出された紙に名前やファミリアやレベル等の基本事項を書いていく。

 

「神津悠斗さん。レベル1のヘスティア・ファミリア所属...ああベル君と同じファミリアですね!」

 

「む?ベルを知っているんですか?」

 

「はい。ベル君とこれからあなたの担当にもなりますエイナ・チュールと申します。さっそくですが、これから神津さんには冒険者の基本的な講習を"徹底的に"受けていただきます!」

 

「あ、ああはいよろしくお願いします(今"徹底的"を強調したような気が...)」

 

さっそく講習を受けるために別室に移動させられた。

 

 

 

------

 

 

3時間後...

 

「長かった...」

 

悠斗はエイナの地獄の講習からようやく解放され、満身創痍となってギルドを出た。

 

「くっそーベルの野郎知ってて教えなかったなあ...まあかなり為にはなったが...」

 

文句を言いながら悠斗は食事代を稼ぐためにダンジョンに初めて挑む。

 

 

「これがダンジョンかあ。ここら辺はなかなか狭いな...これじゃあ下手に上級魔法や鬼道も使えないか...ん?」

 

 

壁からズズズっとモンスターが数匹現れ、こちらに敵意をむき出しにしている。

 

「ダンジョンでは1番弱いと言われてるコボルトだったな。ならば!」

 

 

バキィ!!

悠斗はコボルトの1匹めがけてパンチを食らわせた。

 

「ぐぎゃあああ!!」

 

コボルトはあっさりと消え、魔石を落とした。

そのまま悠斗は素手と蹴りのみでコボルトたちを秒殺した。

 

「まあ上層程度なら小夜時雨を使う必要もないだろ。このまま十二階層まで行くか」

 

十二階層は上層最後の層であり、十三階層からは中層と言われ、今までの地形やモンスターは全く違うので念のため上層でとどめておくことにした。

 

 

 

 

 

--------------------------------

 

 

 

 

 

ーギルド前ー

 

「よーし!これでメシ代は稼げただろ」

 

「す、すごいですね悠斗さん。初日でそんなに稼げるだなんて...」

 

今日ベルは5000ヴァリス、悠斗は10万ヴァリス稼いだ。

しかし、このことはエイナにバレてこっぴどく叱られてしまった。

 

「よーし。じゃあ帰ってヘスティア様誘ってメシ行こうぜ!」

 

「はい!」

 

一旦ホームに戻り、ヘスティアを誘って豊穣の女主人に向かう。

 

 

 

-------

 

 

 

「ここが豊穣の女主人だな」

 

「入りましょう」

 

バタン!

 

「あ、ベルさん悠斗さん来てくれたんですね!」

 

「どうもシルさん。まあ約束しましたし」

 

「ふふ。ありがとうございます」

 

にっこり笑ってベルに顔を近づける。すると

 

「むむむ!ベル君早く離れるんだ!!!」

 

怒りだしたヘスティアは2人に割って入って引きはがす。

 

「きゃ!」

 

「うわわ神様!?」

 

「キミはシル君と言ったね!どういうつもりかは知らないが、ボクのベル君に色仕掛けするんじゃない!ベル君は純粋だからすーーぐ勘違いするじゃないか!!」

 

するとシルは笑顔で

 

「ふふふ、色仕掛けなんてとんでもないです。私は"純粋に"ベルさんに迫ってるだけですから」

 

ヘスティアにしか聞こえないほどの小声でヘスティアにそう告げる。

 

「くぅぅ!この泥棒猫!ベル君は絶対に渡さないからなあ!!」

 

「それはベルさんが決めることですからねえ」

 

バチバチバチ!っと2人の間に火花がはしる。

さすがにマズイと思い悠斗は止めに入る。

 

「と、とりあえず邪魔になりそうだし早く入りましょうよ!」

 

「そうですよ神様!」

 

何とか納得してもらったところで3人はカウンター席についた。

すると店の主人らしき大柄な女性がでてきた。

 

「おお、アンタらがシルのお客さんかい? ははっ、どっちも冒険者のくせに可愛い顔してるねぇ。そっちの方は二人の主神様かな? 」

 

「そうさ、よろしく頼むぜ!」

 

「あたしはこの店の主人ミア・グランド。それにしてもそっちの兄ちゃん...あんたは強いね。そんじょそこらの冒険者じゃ束になっても敵わないくらい」

 

「女将さんがそれを言いますか?」

 

確かに悠斗はそこら辺の冒険者とは比べ物にならないほど強い。だがこの女将は間違いなく有象無象の強さじゃない。恐らく第一級冒険者クラスだろう。現に力を抑えている悠斗の強さを察知していた。

 

「ほう。あんたも分かるクチだね。まああたしもこれ以上は詮索しないからあんたも黙っててくれよ?」

 

「了解です」

 

「よし、アンタら、なんでも私達に悲鳴を上げさせるほどの大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」

 

「「「......えっ?」」」

 

全員がシルを見る。

シルは、サッと視線を逸らした。

 

「シルさん?」

 

「えへへ☆」

 

シルは何かを誤魔化すような笑みを浮かべていた。

 

「(こ、この女どこまで計算高いんだ!)」

 

「この泥棒猫めえ!」

 

何とも底の見えないシルであった。

 

 

「...とりあえず8000ヴァリスくらい出すんでそれくらいの料理お願いします...」

 

「はいよ!中々気前がいいじゃないか!」

 

女将が豪快に笑いながらキッチンに居るスタッフに声をかける。

 

 

ヘスティア以外は酒が飲めなかったのでドリンクを注文する。

それで喉を潤していると、次々に料理が運ばれてくる。

パスタや揚げ物や炒め物、豊富な種類の料理がどんどん運ばれてくる。

 

「おお、店員はアレだったが料理は美味そうじゃないか!」

 

「はいどれも美味しそうです!」

 

「ぐぬぬ...こんなことでベル君を釣れると思うなよ...」

 

思惑は人それぞれだが3人手を合わせて

 

「いただきます!!」

 

それと同時に料理を口に運んでいく。

どれも美味であり、ドリンクも食事もどんどんと進んでいく。

 

 

「どうですかお味は?」

 

「あ、リュー!」

 

 

振り向くとシルとリューと呼ばれた金髪の女性店員がいた。

 

「あ、はい非常においしいです!」

 

「だな。俺はけっこう味にはうるさいがこんな美味いんなら文句なしだわ」

 

「むぅ...悔しいけど美味しい...」

 

「それはよかったです。あ、遅れましたが私はシルと同じ店員をやっていますリュー・リオンと申します」

 

「俺は神津悠斗。今日から冒険者になった男です。こっちが同じファミリアのベル・クラネル。そしてこっちがヘスティア・ファミリアの主神ヘスティア様です」

 

そう言って悠斗は握手をしようと手を出しだが、リューは何故か応じようとはしない。

 

「どうしました?」

 

「あ、その...」

 

「すみません悠斗さん。リューはエルフですので異性とあまり触れ合うことができないんですよ...」

 

シルは申し訳なさそうに謝る。

 

「そうでしたか!すいません、デリカシーに欠けてましたね...」

 

「いえ、お気持ちは嬉しいので大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 

そんなこんなで話を続けていると

 

 

「ニャー!ご予約のお客様ご来店ニャ!」

 

 

どこかの団体がこぞって入ってきた。

 



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英雄、怒り爆発

「ニャー!ご予約のお客様ご来店ニャ!」

 

その言葉とともに1つの集団が入店した。

その瞬間店にいた全員が入ってきた集団に注目する。

 

 

「おいあれは...」

 

「おおっ!えれぇ上玉!」

 

「バカ、エンブレムを見ろ!」

 

「げっ!ロキ・ファミリアか!」

 

「するとあれが【剣姫】だな...」

 

 

 

 

ロキ・ファミリアの団体はそのまま悠斗たちの背中側にあるテーブルに着く。

 

「げっ!あれはロキじゃないか!」

 

「なんかスゲー団体だなあ...ロキ・ファミリアって言うのか。ん?そういえばエイナさんの講義でロキ・ファミリアは最強ファミリアの一角とか言ってたな...おいどうしたベル?」

 

「あ、あ、ああ...」

 

ベルは悠斗の言葉を無視して固まっていた。

一方ヘスティアも何か隠れるような仕草をしている。

 

「何やってんだよ...」

 

悠斗1人わけもわからずため息をついていた。

そして、ロキ・ファミリアの主神らしき人物が立ち上がり、

 

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなご苦労さん! 今日は宴やぁ! 飲めぇ!!」

 

 

と音頭をとった。

それを切っ掛けにロキ・ファミリアの面々が一気に騒ぎ出した。

 

「なあシルさん、ロキ・ファミリアってよく来るのか?」

 

悠斗は何気に質問をぶつける。

 

「はい!ロキ・ファミリアさんはウチのお得意様なんです。主神であるロキ様に、ウチの店がいたく気に入られてしまって」

 

「くそう...遠征の後だったとは何てタイミングの悪い...」

 

「あのーヘスティア様?もしかして主神と何かあったんですか?」

 

「ふん!大したことじゃないよ。あの無乳女がいつもボクをバカにしてきて気に入らないだけさ!無乳で絶壁の分際で!!」

 

「(ああ、もしかして犬猿の仲ってやつなのか...こりゃあ見つかったらひと悶着起きそうだな。それに目をつけられでもしたら完全に目立っちまうな...それだけは何としても避けねば!!)」

 

などとつい考えてしまった。

 

「それにしても...」チラッ

 

悠斗は1人の金髪の剣士に注目する。

 

「(あれがベルの言ってたアイズ・ヴァレンシュタインか。確かにそんじょそこらの冒険者とは格段に強さが違うな。まあ師匠の足元にも及ばんが...ん?)おいベル、お前まさかアイズ・ヴァレンシュタインに惚れてんのか?」

 

「!!?」

 

言われてベルは真っ赤になり固まってしまった。

どうやら事実のようである。

 

「ははは!いやー青春じゃないかー」

 

「(ぐぬぬぬぬぬう!あれがアイズ・ヴァレン何某かあ!!絶対にキミなんかにボクのベル君は渡さないぞーーー!!!)」

 

ヘスティアは黒いオーラを周囲に出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると

 

 

「よーしアイズ!そろそろあの話をしてやれよ!」

 

「あの話?」

 

そう言い出したのは、ベート・ローガだった。

 

「あぁ、帰る途中で何匹か逃したミノタウロスが居たろ?」

 

「うん、それがどうしたの?」

 

「最後の1匹を5階層で始末しただろ?そんで、ほれ、そん時にいたあのトマト野郎の!」

 

 

「!?」

 

「「ベル(君)?」」

 

悠斗とヘスティアはベルの異様な態度に気づく。

 

 

「ミノタウロスって確か、17階層で襲い掛かってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出して行った?」

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけたいったやつ!こっちは帰りの途中で疲れてたってのによ~」

 

「それで居たんだよ、いかにも駆け出しっていうひょろくせぇ冒険者が」

 

 

「(あ、ああ...)」

 

ベルの顔がどんどん青ざめていく。

 

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際までおいこまれちまってよ、それを間一髪ってところでアイズが細切れにしたんだ。なっ!」

 

「それでそいつよあいつのくっせー血を全身に浴びて……真っ赤なトマトになっちまったんだよ、くくくっ、ひーっ、腹痛てぇ!!!」

 

ベートは高笑いしながら続ける。

 

「それに、ソイツ叫びながらどっかいっちまってよ。くくくっ、うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんの!」

 

「それは傑作や!冒険者怖がらせるアイズたんマジ萌え~」

 

これをきっかけに連鎖のように笑いを堪えてた者、失笑してた者が笑いだした。

 

 

「(これが!強者が揃い揃って初心者をあざ笑って酒の肴にする...こんなクソみたいな連中が最強ファミリアなのか!?)」

 

悠斗は一気に怒りのボルテージを高めていく。

 

 

「野郎の癖に、喚くわ喚くわ久々に胸糞悪くなったわ。あぁいうヤツが居るから、俺達の品位が下がるっていうかよ。勘弁してほしいぜ」

 

「いい加減その五月蝿い口を閉じろベート」 

 

「おーおー、流石のエルフ様、誇り高いってこって。でもよ、そんな救えねぇヤツを擁護して何になるってんだ?それはテメェの失敗をテメェで誤魔化すための、ただの自己満足だろ?ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

「やめいベート。酒が不味くなるわ」

 

幹部たちが止めに入るがベートは全く止めようとしない。 

 

「アイズならどう思うよ?目の前で震えてるだけの情けねぇ奴が俺達と同じ冒険者を名乗ってるだぜ?」

 

「冒険者になりたてなら仕方ないと思います」

 

「何いい子ぶってんだ?冒険者になりたての雑魚だったら仕方ねえ?何を寝ぼけたこと言ってるんだよ?」

 

「ベート、君は少し酔い過ぎだよ」

 

「うるせえぞフィン!じゃあ質問を変えるぜ?俺とトマト野郎、番にするならどっちだ?」

 

 

「(やめてくれ!そんな質問のためにベル君を使うな!!)」

 

「(この犬コロめ!叩きのめしてえとこだがここで暴れれば店やヘスティア様に迷惑がかかっちまう...クソッ!)」

 

今にも飛び出したい気持ちを必死に抑えるヘスティアと悠斗。

 

 

「私は...そんなことを言うベートさんとはごめんです」

 

「無様だな」

 

「うるせえババア!じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「っ!?」

 

「そんなはずねえよなぁ。自分より弱くて軟弱な雑魚野郎に、他ならないお前がそれを認めねえ...」

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ!!」

 

 

 

 

ダン!!

 

 

「「「ベル(君)(さん)!!」」」

 

ベートの最後の言葉にベルはいたたまれなくなったのか、椅子を飛ばして、外へ飛び出していった。

それと同時にヘスティアもベルを追いかけていった。

 

「ああん?食い逃げかあ?」

 

「ミア母ちゃんの店でやるなんて身の程知らずやなあ(うん?今ドチビがおった気がするんやが...まあええか!)」

 

「(てめーらのせいだろうが!!)」

 

悠斗は今にもあふれ出しそうな殺気を必死に抑え込む。

 

「リューさん。あの犬コロは誰ですかね?」

 

「あの方はベート・ローガ。【凶狼】の2つ名を持つレベル5の第一級冒険者です。口や素行は悪いですが、オラリオでも上位に入るほどの実力者でロキ・ファミリアの幹部でもあります」

 

「そうですか。すいません、とりあえず今日はベルを探しにもう行きます。」

 

そう言って勘定を済ませる。

 

「はい。またベルさんを連れて来てくださいね?」

 

「了解」

 

そう言って扉を開けようとした時悠斗はベートを睨みつけ、

 

「(この駄犬が...殺しはしないがベルを貶めたことを後悔させてやる、必ずな!)」

 

そう言いながら外に出た。

 

「!?(今のはレベル4の私も震えてしまうほどの殺気...悠斗さん、貴方は一体何者なんですか?)」

 

リューは悠斗の一瞬の殺気を感じてしまい、震えていた。

 

「ああん?」

 

ベートも一瞬視線を感じたようで悠斗がいた場所を振り返った。

 

「ベートさん?」

 

「はん、何でもねえよ。さあってもう一杯飲mふが!?」

 

ベートは気を取り直して飲もうとした瞬間ガレスに抑え込まれてしまい

 

「お前は調子に乗りすぎじゃ馬鹿者!後でペナルティを与えてやるから覚悟せい!」

 

「ぐおお離しやがれー!!」

 

ファミリア総出で簀巻きにされてしまった。

 

 

一方で、

 

 

「リヴェリア、今の殺気に気づいたかい?」

 

「ああ。本当に一瞬だけだったが私も身構えてしまうほどの殺気だった。姿が見えなかったのが残念だが...」

 

「僕もだよ。でも一瞬だけ僕の親指が反応したんだよ。何かが起こりそうな予感がする」

 

フィンやリヴェリアは悠斗の殺気に感づいていた。

 

 

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

 

 

ーダンジョン内ー

 

「ったく、ベルはどこまで行った...」

 

ベルを追いかけていったヘスティアをダンジョンの入り口近くで見つけ、一旦ホームに帰してからベルの探索に出た。

 

「頼むから命を粗末にするなよベル...ん?あれはベル!」

 

そこにはモンスターに囲まれ、血だらけで満身創痍となっていたベルがいた。

 

「ちっ!どけ雑魚共!」

 

ドガガガガガ!!!

一瞬にして大量にいたモンスターを蹴散らしていった。

 

「ベル!大丈夫か!」

 

「あ、悠斗さん...すいません...」

 

「このバカが!無謀すぎんだろうが!」

 

「でも僕、あの人に何も言い返せなくて...本当のことだから悔しくて悔しくて...」

 

ベルは泣きながらそう言った。

 

「ベル。誰だって最初は弱いんだ。そこから悔しさや挫折を味わいつつ真っ当に努力に努力を重ねて強くなっていくんだ。あの犬コロに言われて悔しいんだったらそれをバネにして強くなれ。今のままがむしゃらに続けたって強くはならんし死ぬのがオチさ」

 

「悠斗さん...」

 

「こんなこと言いたくはないが、これでも英雄と呼ばれた俺の言葉だ。説得力あるだろ?」

 

「はい!」

 

「じゃあ今日のところは帰って休みな。俺はお前の傷を治すためにポーション買いに行ってくるわ。あーあと明日からダンジョンに行く前に俺と特訓するぞ」

 

「は、はい!」

 

悠斗の言葉を素直に聞いてベルはホームに帰って行った。

 

 

 

 

「さてと...行くとするか」

 

 

 

悠斗は黒いローブで全身を覆い、顔も見えなくなってしまった。

その姿のままどこかへと姿を消した。

 

 



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制裁の時間

悠斗が姿を消したのとしばらく後...

 

 

 

「クソが!買い出しとか...何で俺がこんな雑魚がやるようなことしなきゃいけねーんだよ!!」

 

ベートは今日の飲み会で好き放題はっちゃけたそのペナルティとして夜に買い出しをさせられていた。

 

「ま、まあまあベートさん。リヴェリア様が決めたことですから...」

 

それを慰めるのはレフィーヤ・ウィリディス。ロキ・ファミリア所属でレベル3でありながらも魔法力はファミリア内でリヴェリアに次ぐとされ、レア魔法も使える魔法のスペシャリストでもある。

今回はベートの目付け役として出された。

 

「クソあのババアめ!ったく、本当のことだろうがよ!モンスターとまともに戦えない雑魚はおとなしく引っ込んどけってんだ...」

 

「あはは...(突っ込んだら怒られる...)」

 

 

 

買い出しも済ませ、そのままホームに帰ろうとしたがベートが急に立ち止まった。

 

「・・・」

 

「ベートさん?」

 

「臭うな...」

 

「え!私そんなに臭いますか!?ちゃんとお風呂入ったんですけど!」

 

レフィーヤは慌てて自分を臭った。

 

「テメエのじゃねーよ!これは...血の臭いだ」

 

「え...」

 

レフィーヤはベートの真面目な雰囲気にたじろいでしまっていた。

 

 

 

「チッ。こそこそ隠れやがって...いるのは分かってるんだよ!さっさと出てきやがれ!!」

 

「まあさすがに気付かれるか...」

 

そこに黒いローブで全身を覆った悠斗が現れた。

 

「お前が【凶狼】ベート・ローガだな?」

 

「何だテメエは?」

 

尋ねられたが正体をばらすわけにはいかない。

 

「俺が何者かは重要ではない。ただ、トマト野郎を知っている者とだけ答えておこう」

 

「え、それって!」

 

「何だ、テメエあのトマト野郎の知り合いか?ははは!コイツは傑作だぜ。だったらトマト野郎に伝えとけよ!目の前のモンスターにもビビッてしまうような雑魚はダンジョンなんて潜らずにおとなしく家にでも引きこもっとけよってな!!」

 

ベートは高笑いしながら悠斗にそう告げる。

 

「無様なものだな」

 

「ああん?」

 

「わざわざ駆け出しの冒険者を貶めてそれを酒の肴にしなければ好きな女を口説くことすらできない...本当に無様な駄犬だなお前は」

 

「テメエ今なんつった!?」

 

悠斗の挑発にベートが今のもぶち切れそうな声で睨みつける。

 

「ベートさん落ち着いてください!貴方も命が惜しかったらこんな挑発するようなことは...」

 

「小娘、俺は事実を言ってるまでだ。そいつは自分より弱い奴を出さなければ女の1人も口説くことができない、ただの雑魚だ!」

 

 

ぶちん!!!!

 

 

「上等だこの雑魚野郎が!!テメエが何者か知らねえがこの俺様にケンカを売ったことを死ぬほど後悔させてやるよ!!!」

 

ベートの怒りが爆発し、戦闘態勢を取る。

 

「(ふん、あっさり挑発に乗りやがって。見た目通りのただの獣だな。こんな単純な獣ほど狩りやすいものもないがな!)」

 

「あわわ...」

 

レフィーヤはどうすればいいかわからず右往左往している。

 

 

 

 

 

「さっさとテメエの獲物を出しな!先手は譲ってやる。その後テメエがいかに雑魚かってことを嫌でも思い知らせてやるよ!」

 

「(やれやれ完全に舐めてやがるな...さてどうするか、あまり時間はかけたくないし"ジャッジメント"で一瞬で片づけるか?...いや、銃が無いこの世界でそんな未知の武器を出したら問題になるかもしれない...無難にこいつで叩きのめすか)」

 

悠斗はローブの中から1本の黒い木刀、"小夜時雨"を出した。

 

「木刀?」

 

「ははは!!そんな木刀程度で俺に傷つけられるとでも思ってんのか!まあわざわざ顔を隠すほどの腰抜けだ、外見と同じで獲物まで雑魚だな!」

 

「(見た目だけで判断するとはな。典型的小物だわこいつ...)」

 

そう思いながら悠斗は深く腰を落とし刀の切っ先を相手に向け、その峰に軽く左手を添えた状態に構えた。るろうに剣心の斎藤一の【牙突】である。

 

「な、何ですかあの構えは!?」

 

「ハン!何をしようと同じことだ!」

 

レフィーヤは今までに全く見たことのない構えに少し動揺したが、ベートはかなり余裕を見せている。

 

「行くぞ駄犬」

 

ドン!!

悠斗はとてつもないスピードで一気にベートまで接近する。

 

「!!?(はええ!!)」

 

ベートは体の中心部まで接近した刃を避けようとしたが回避が間に合わず右肩に突き刺さり、瞬時に皮膚と肉と骨を貫く。

 

ざくぅぅぅ!!

 

「ぐあああーーー!!!!」

 

「ベートさん!!(うそ、ベートさんが反応できないなんて!?)」

 

「ぐうぅ!こ、こんの野郎めえ!!」

 

「おっと!」

 

バッ!!

 

何とかベートは右肩を貫いた剣を離し、間合いをとった。

 

「よく反応できたな。だてにレベル5ではないか?」

 

「痛ってえ...なんだこれは、ただの木刀の切れ味じゃねえな...チッ、クソが!今度はこっちの番だオラア!」

 

「ふん」

 

ベートが反撃に入り、キックとパンチのラッシュ攻撃を繰り出す。

しかし、百戦錬磨の悠斗には全く当たらない。

 

「クソ何でだ、何で当たらねえ!」

 

「見え見えの攻撃だな。お前はこの程度なのか?」

 

悠斗はそう吐き捨て剣を振り下ろしたが

 

ガキィン!!

 

足で受け止められてしまった。

 

「おや?」

 

「なめんなよ!俺の武器"フロスヴィルト"はミスリルでできてるんだ。そんな簡単に斬れるもんかよ!!」

 

「ふーん、ミスリルねえ...」

 

「隙ありだ!死ねやゴルァ!!」

 

「阿呆が、せいっ!」

 

ベートは僅かな隙をついて勢いよく蹴りを放ってきた。

そこにすかさず悠斗は左の拳を"フロスヴィルト"に直接打ち込んだ。

その瞬間

 

パァァァァン!!!!

 

「「なっ!!!?」」

 

2人して驚いている。

それもそのはず。ベートが装備していた"フロスヴィルト"が壊れるどころか粉々に砕け散ったからだ。

 

「(これが【二重の極み】だ。この世界でも通用するとは思わなかったが...)」

 

「え...?こ、粉々になったの...?」

 

「い、今何しやがったんだテメエ...!?」

 

「敵に解説すると思うか?これで終わりだ」

 

「テ、テメエは...」

 

悠斗はベートの左肩に人差し指を当て

 

「【破道の四 白雷】」

 

ドン!!!

小さな声で唱え、指先から一条の雷を放った。

 

「がはっ!」

 

左肩に穴が空き、ベートは大量に血を吐く。

すかさず悠斗はベートの頭をつかんで

 

「寝てろ」

 

ドゴーン!!!

地面に思い切り叩きつけた。

ベートは生きてはいるが気を失ってしまった。

 

「(そ、そんな...あのベートさんが手も足も出ないなんて!この人剣だけじゃなくて魔法も強い!私なんかじゃ勝てない...で、でも!)」

 

レフィーヤは悠斗の強さに怖気づいたがこっそりと呪文の詠唱を唱え始めた。

 

「(レベル5はこんなものなのか...いやこいつが弱いだけなのか...まあいいや。さて、終わったことだしさっさと帰るとするか)」

 

そう考えながら用事が済んだので帰ろうとすると

 

「【アルクス・レイ】」

 

ドゴーーン!

光の太い矢が悠斗に命中した。はずだったが...

 

「え?」

 

「後ろから不意打ちをかけるとは随分とえげつない小娘だな」

 

全くの無傷で悠斗は立っていた。

 

「うそ、無傷!?」

 

「魔法力自体は悪くないようだが、いかんせん使い手は未熟ではあるな。おまけに殺意もこもっていない。そんな中途半端な攻撃じゃ俺には傷一つつけられん」

 

「あ、ああ...」

 

「お前を叩きのめす理由は無いし、本来女子供は相手にはしたくなかったんだがな...俺の敵として立つんなら容赦はしない!【バーンストライク】」

 

悠斗が魔法を唱えた瞬間複数の灼熱の火球がレフィーヤに降り注ぐ。

 

「うそ、詠唱無しで...きゃーーー!!!」

 

レフィーヤは避けられず火球が直撃する。

 

「う、うぅ...(な、なんて威力...こんな人がオラリオに存在するなんて...)」

 

「諦めろ。お前では俺には勝てん。今なら見逃してやるからさっさと帰りな」

 

「わ、私はロキ・ファミリアのレフィーヤ・ウィリディス。誇り高きエルフ族でありロキ・ファミリア「長い」はぐっ!」

 

言い終える前に悠斗はレフィーヤに膝蹴りを食らわせ気絶させた。

 

「今日の俺があんま言えることじゃねえが敵を前にベラベラ喋るもんじゃねえ。もし戦場ならその時点でお前の死は確定だ。戦場で獲物を前に舌なめずり、三流のやることだ」

 

悠斗は気絶したレフィーヤにそう言い捨てる。

今度はベートの方を見て

 

「今回はこれで勘弁しといてやる。だが今度またベルを貶めるような真似してみろ。その時は確実に殺してやるよ。...さて、時間を無駄にしたな。急いで帰らねえとヘスティア様に怒られてしまう...」

 

 

急いでホームに戻った悠斗であったが、そこには般若と化したヘスティアが仁王立ちして待っていた。

逃げようとしたが即座に捕まえられ、数時間におよぶ説教を受けてしまい、結局寝ずに朝を迎えることになってしまった...

 

 

 



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警戒される英雄

お気に入り100件突破!皆さまありがとうございます!
こんなに読んでいただけるとは思ってもいなかったので驚いています。
これからも頑張って書いていきますので、温かい目で見守っていただけると幸いですm(_ _)m



悠斗がベートとレフィーヤをボコボコにしたその数時間後...

 

ー黄昏の館ー

 

「おかしい...いくら何でも遅すぎる!」

 

リヴェリアが不安そうな声で言う。

 

「まさか何かにあったんちゃうんか?あのベートが寄り道するとは思えんし...」

 

「レフィーヤだけならまだしもベートがいるんだ、さすがにそれは考えにくいが...僕の親指も反応してるしさすがに心配だな。探しに行ってくる」

 

「あ、団長私も一緒に行きます!」

 

「あたしもあたしもー」

 

あまり大勢で探してもしょうがないので、結局フィン、ヒリュテ姉妹でベートとレフィーヤを探しに行くことにした。

 

 

 

--------------------

 

 

 

「二手に分かれよう。僕はこっちから探すから君たちは反対側を探してくれ」

 

「本当は団長と2人きりで行動したかったけど...分かりました団長!」

 

「もーティオネったらー。了解だよー」

 

二手に分かれ、急ぎ行動した。

 

 

「でもさあ、本当にどうしちゃったんだろうね?また喧嘩でもやっちゃったのかなあ」

 

「ベートだけならまだしもレフィーヤがそんなことするわけないでしょ。まったく、団長に心配かけたんだからきっちり説教しなきゃ!」

 

「ティオネはほんとフィンのことしか頭にないね!」

 

「なっ!?そ、そんなわけないでしょ!私はこれでも2人を心配して...ん?」

 

「あれ?こんな時間なのに人がたくさんいるよー。何かあったのかな?」

 

しばらく探し続けているとその先で人だかりができていた。

事件か何かと思い近づく。すると1人の野次馬がヒリュテ姉妹に気づき

 

「あれ?お、おいあれは【怒蛇】と【大切断】じゃねーか!」

 

「や、やべーぞこれ...」

 

どんどんヒリュテ姉妹に気づき始め、野次馬はたじろいでしまう。

 

「はいはいそれはいいから!で、何かあったの?」

 

「い、いや何かあったってそりゃあこっちが聞きてえくらいだよ...ほら」

 

野次馬が指をさした方を見た瞬間

 

「!!?」

 

「ベート!?レフィーヤ!?」

 

悠斗がやったベートとレフィーヤが気絶した状態で放置されていた。

2人は一目散に近づき起こす。

 

「ベート!レフィーヤ!しっかりしなさい!!何であんたたちがそんな傷だらけなのよ!?」

 

2人を揺さぶるが全く起きない。

 

「だめだよティオネ、完全に気絶してる。レフィーヤはまだ大したことなさそうだけどベートはボロボロだよ...」

 

「そうね、急いで運びましょ。ほらどいたどいた!!」

 

 

野次馬をはねのけてヒリュテ姉妹は気絶した2人を黄昏の館に運び、その後フィンを呼び出して合流した。

 

 

 

-------------------

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

2人を部屋に運んだ後、ロキ・ファミリアでは緊急の幹部会議が開かれた。

出席者はロキ、フィン、リヴェリア、ガレス、アイズ、ヒリュテ姉妹。

 

 

「何やねん一体!どこのどいつか知らんがウチのファミリアにケンカを売るとはええ度胸しとるやないか!」

 

自分の大切な眷属がやられた姿を見てロキは憤慨する。

 

「ロキ、落ち着くんだ。とにかく今は情報を集めるのが先決だ。どこのファミリアなのか、何人でやったのか、その目的、全てが分からない状態でがむしゃらの動くのはあまりに危険すぎる...」

 

「しかし、ベートとレフィーヤがここまでやられてしまうとはのう...考えられるとしたらフレイヤ・ファミリアか?」

 

フレイヤ・ファミリア。ロキ・ファミリアと並ぶ最強のファミリアであり、レベル6も複数いながらオラリオ最強と呼ばれるレベル7の【猛者】オッタルが所属するファミリアである。

 

「その可能性もゼロではないが...いや、神フレイヤがこんな無意味なことをするとは考えにくいな」

 

あーでもないこーでもないと話は続いていく。

 

 

「とにかく、相手は2人を倒してしまうほどの実力者。明日レフィーヤに話を聞くつもりだけど正体をつかむまでは出すぎた行動はしないようにね?」

 

「はーい団長!」

 

「アイズもね?強い人だろうから気になるとは思うけど」

 

「...うん」

 

 

そんなこんなで会議は終了した。

 

 

 

 

 

----------------------------------

 

 

 

 

 

翌朝...

 

傷が回復して何とか立ち上がれるようになったレフィーヤを含め、再び会議が開かれる。

 

「ごめんねレフィーヤ。病み上がりなのにこんなことさせてしまって」

 

フィンが申し訳なさそうに謝る。

 

「い、いえ。そこまで大したケガではありませんし、向こうは手加減もしてくれたみたいなのでもう大丈夫です」

 

「ありがとう。さっそくなんだけどレフィーヤ、昨日何があったのか話してもらえるかな?」

 

「はい。昨日ベートさんと買い出しに行った帰りなんですけど、突然全身を黒いローブで覆われた人が現れたんです」

 

「では顔も分からなかったというわけか...」

 

「はい、その人は黒い木刀を武器に見たこともないスキルと魔法らしきものでベートさんを圧倒して、ベートさんは傷一つつけられないまま倒されました...」

 

レフィーヤは悔しそうに答える。

 

「木刀というのも驚きじゃが、魔法まで使えてしまうのか...ではオッタルという可能性は低いかのう...」

 

「はい、体型的にもベートさんとあまり変わらないくらいだったので【猛者】ではないと思います。そして、ベートさんや私も殺さずに見逃してくれたのを見ると、暗殺者や"闇派閥"の類の可能性も低いと思います」

 

「じゃあ一体誰やねん。あのベートを一方的にボコれる奴なんてそうそうおらんやろうし、もしかしてもう1人のレベル7か?いや、あいつは確か今オラリオにはおらんかったか...」

 

「黒い木刀に見たことのない技や魔法の類を駆使する冒険者か...そんな人物見たことも聞いたこともないな...」

 

「私もだ。それにそんなに強いのに今の今まで話題にすら上がってないというのも不可解だ」

 

「じゃあずっと隠してるとか?」

 

「このオラリオで冒険者やっててずっとレベルやスキルを隠し通すなんてほぼ不可能に近いわよ...」

 

「もしかして最近外からやってきたとか?」

 

「その可能性も否定できないが、外はせいぜいレベル3で異質と言われるくらいじゃ。レベル3じゃベートにはまず勝てんじゃろ」

 

 

会議は難航していく。

 

 

「す、すみません大した情報を持っていなくて!」

 

レフィーヤは必死に頭を下げる。

 

「いや、相手の特徴が分かっていただけでも十分だ。レフィーヤ、相手は何か喋らなかったか?どんな些細なことでもいいんだが」

 

「しゃ、喋ったことですか...えーと、そうですね.......あっ!」

 

レフィーヤは何か思い出したかのように声をあげた。

 

「そういえば、最初に会った時に"トマト野郎を知っている者"って言っていました」

 

「何やそれは?」

 

レフィーヤの言葉にティオナは何か思い出したようで

 

「それって昨日豊穣の女主人で飲んでた時にベートが言ってたことじゃないの?」

 

「「「!!!」」」

 

全員が反応した。

 

「まさかあの子が?」

 

アイズが口を開く。

 

「アイズ、その子見たんだよね?どんな子だったの?」

 

「名前とかファミリアは分からない。白い髪に赤い目をした男の子。兎に似てる可愛い感じの子」

 

「ま、まさかアイズたん...その子に惚れてしまったんか...!?」

 

ロキは肩をわなわなと震わせてアイズに問いかける。

 

「ロキ、こんな時にふざけないで?」

 

アイズは少し怒ってしまう。

 

「ふざけてるつもりはないぃ!...とはいえ、名前もファミリアも分からんとはお手上げやな...(ん?そういえばあの時ドチビもおったな。関係あるかは分からんが、ちょっと問い詰めてみるか)」

 

「もしかしたらアイズが言うその子がカギを握ってるかもしれないね。僕の方でも調査してみるけど、くれぐれも出すぎたことはしないようにね?」

 

フィンがそう釘を刺し会議は終了した。

 

 

「(しかし、ベートを圧倒する程の強さをほこり僕の親指が反応するほどの人物か...本当に一度会ってみたいものだ。もしその人物が善人である場合は...)」

 

などとフィンだけは考えてしまっていた。

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

「ぶぇっっくしょん!!」

 

「風邪ですか?悠斗さん」

 

鍛錬中にベルは豪快なくしゃみをした悠斗に問いかける。

 

「何を言ってる俺はもう10年以上も風邪はひいたことないんだ。ほら、そんなことよりも早くこい!」

 

「わ、分かりました!せやあ!」

 

ベルの攻めを涼しい顔をして受けながしていく悠斗。

 

「甘いぞ!」

 

ドゴッ!!

 

「ぐふ!?」

 

隙を逃さずベルに思いっきり手加減をした蹴りを打ちこみ、吹っ飛ばした。

 

「い、いたたたた...」

 

「大まかに動きすぎだ。お前は速さがウリなのにそんな隙の多い動きをしては攻撃してくださいって言ってるようなもんだぞ。もっと肩の力抜けや」

 

「は、はい!でもやっぱり難しいですね...」

 

「そりゃそうだ。普通は楽して力なんざ得られないさ。こういった地道な努力の積み重ねによって初めてそいつの力となっていくんだからよ。それに、お前はあのアイズ・ヴァレンシュタインに追いつきたいんだろ?なら、もっともっと努力しねえとな」

 

「!」

 

そう、ベルが追いつきたいのはそこらへんの冒険者じゃない。オラリオの中でも上位クラスにいるアイズ・ヴァレンシュタインなのだから。生半可な努力では到底追いつかない。そのために彼はアイズよりも強い悠斗に戦いを教えてもらっているのだ。

 

「僕は...アイズさんに追いつけますか?」

 

ベルは真面目な顔で悠斗に問いかける。

 

「それはお前次第だ。お前が本気でやろうとしているなら時間がかかろうとも自ずと結果はついてくるさ。だが強くなるには壁や挫折というものは必ず出てくる。それをどうするか自分で考え、時には誰かを頼ってもいいさ。悩み苦しみ、それでも懸命に食らいついていった者だけがそれらを乗り越え、初めて強さを得るんだ。ここで言えばレベルは良い例だな」

 

「・・・」

 

「だから決して焦るなよ?焦ってがむしゃらにやって死んだ奴、楽に力を得ようと飛びついて死んだ奴、そんな奴らを俺は今まで何人も見てきた。お前はそんな奴らにはなるな。お前は筋は良いしなかなか見込みはあるんだ。俺が保証してやる」

 

ポンポンとベルの頭をたたいた。

 

「ありがとうございます!やっぱり悠斗さんって本物の英雄ですね!」

 

「よせよ。俺は英雄が嫌いだ。さて、そろそろ朝飯の支度しないとヘスティア様が怒ってしまうな...行こうぜ!」

 

「はい!!」

 

 

鍛錬を切り上げると2人はホームへと戻っていった。

 

 

 

 

「しかし、ユート君のご飯はホント美味しいね」

 

「そうですね。美味しいし食卓も豪勢になってほんと嬉しいです!」

 

食卓には簡易ではあるが、パンとスープとサラダにベーコンエッグが並べられている。

前まではジャガ丸くんのみというのがザラだったが悠斗が来てからは見違えるくらい変わった。

 

「まあ俺は戦場を渡り歩いた影響でけっこう食にはうるさいからな。そんな奴が料理もできないなんて笑い者だろ?」

 

「戦場で食って関係あるんですか?」

 

「もちろんだ、1番大事と言っても過言じゃない。考えても見ろ、自分がいざモンスターと戦って疲れて腹が減ってる時に不味い食事なんて出されでもしたらどうだ?力もつかないしやる気も起きんだろ?」

 

「あっ...」

 

「食は兵士の力と士気を上げてくれる重要な役割がある。だからこそ俺は食を何よりも大切にしてるんだ。二の次なんて考える奴は三流以下よ」

 

「うんうん!じゃあユート君がいればボクは毎日美味しいご飯にありつけるんだねえ!僕は最高に幸せ者だよ!」

 

「「ヘスティア様(神様)...」」

 

2人は思い切り呆れ、ため息をついた。

 

 

 



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神会

祝!UA1万人突破!!
皆さんここまで見てくれてありがとうございます!
頑張っていきますよー


朝食を終え、ベルのステイタスの更新に入った。

 

 

 

ベル・クラネル

 

 

Lv.1

 

 

 

力:E489

 

 

耐久:D578

 

 

器用:E458

 

 

敏捷:C642

 

 

魔力:I0

 

 

 

《魔法》

 

 

《スキル》

 

【英雄願望】

 

・早熟する

 

・自分が英雄を目指し続ける限り効果持続

 

・強敵と戦う際全ステイタス大幅強化

 

・英雄に鍛錬を受けることによりステイタス上昇率アップ

 

・魅了効果を無効化

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------

 

「!!?」

 

「どうしました神様?」

 

「(な、何だこの成長率は...異常にもほどがある!まだ半月ほどしか経ってないのにもう魔力以外が全部E以上...原因は恐らくこのレアスキル【英雄願望】。やはりボクの目に狂いはなかったよ。ユート君が入団したことがベル君の大きな成長につながりつつあるようだ!)」

 

ヘスティアは満足そうにうんうんと頷きながらそう考えていた。

 

 

「ええー!そんなに成長してるんですか!?」

 

「ああ。キミは大きな成長期に入っている。それはきっとキミが努力してるからだろう。そんなキミをボクはこれからも支えていきたい。だからこそキミに言いたい。無茶だけはしないでくれ。成長してるからと調子に乗って強敵に挑んで倒れるなんてそんな悲しいことはボクは1番嫌だ」

 

「神様...大丈夫ですよ?僕は決して無茶なんかしません。僕も神様と死別するなんて絶対嫌だしそれに悠斗さんにも焦らず地道な努力の積み重ねこそが英雄の道ってさんざん言われてますから」

 

「ベル君...うん!」

 

 

しばらくして悠斗が入ってきた。

 

「更新は終わったか?」

 

「おー丁度終わったところだ。そうだベル君、ユート君。今日から数日間留守にするからちょっとホームのことお願いね?」

 

「何かあるんですか?」

 

「まあちょっとお呼ばれしちゃったんだよ...面倒だけど行くしかないから頼むぜ!」

 

「全くこの神は...」

 

「あはは...」

 

 

 

 

 

-----------------------------

 

 

 

 

 

ー豊穣の女主人ー

 

「すみませんでした!」

 

ダンジョンに行く前に豊穣の女主人に寄った。

昨夜のことを謝罪するためである。

 

「わざわざ戻ってくるとは殊勝な心掛けじゃないか。まあ今回はそっちの兄ちゃんにお代は貰ってるから別に良かったけど、もし払わなければ取り立てに行くとこだったがね!」

 

「ヒィ!」

 

ミアは悪そうに笑いながらベルを威圧する。

 

「(この女将、やっぱ只者じゃねえ...昨日の犬コロよりはるかに強いだろ!)」

 

「はいベルさん悠斗さん、今日のお弁当です」

 

シルは包みをベルに渡す。

 

「ありがとうございますシルさん」

 

「わざわざありがとうな?」

 

「いえいえ、お気を付けて」

 

シルはウキウキで厨房に戻っていった。

 

「さてと。坊主、冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初のうちは生きることに必死になっていればいい!」

 

「あっ...」

 

「惨めだろうが笑われようが、生きて帰ってきた奴が勝ち組なのさ!」

 

そう言ってミアはベルの肩を掴み

 

「あたしにここまで言わせたんだ。簡単にくたばったりしたら許さないからね。さあ行った行った、店の邪魔になるよ!」

 

「はい!行ってきます!!」

 

ベルは外へと駆け出していった。

 

「女将さん。深いこと言いますねえ...」

 

「なーに、ただの人生経験の差って奴さ。あの歳くらいの坊主はすーぐ無茶ばっかりするからねえ。一人前になるまではあんたが支えてやんなよ?」

 

「無論そのつもりです。じゃあ行ってきます!」

 

悠斗も外へと飛び出し、ベルを追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

 

 

 

ー神会ー

 

「こんばんわヘスティアー」

 

つまみ食いをしているところにフレイヤがヘスティアに声をかけた。

 

「なんだフレイヤか、ボクはキミが苦手なんだよ...」

 

「あら、随分な言い方ね。私は貴方のこと好きよ」

 

からかうように笑いながらフレイヤは答える。

 

「まあキミはまだましな方なんだが...」

 

すると

 

「おーーい!フレイヤーードチビーー!!」

 

ロキが遠くから叫びながら走ってきた。

 

「あらロキじゃないの」

 

「げ、来やがったか...いや丁度いい、キミに聞きたいことがあったんだ」

 

「何や?」

 

「キミのところにアイズ・ヴァレン何某という眷属がいるだろ?その子に特定の異性との付き合いはいるのか?」

 

「はあ?何言うてんねん。アイズたんはウチの自慢の眷属や。もしも誰かが近づこうものなら遠慮なくこの手で八つ裂きにしたるわ!」

 

「チッ!」

 

ヘスティアは残念そうにわざとらしく舌打ちをする。

 

 

「そういえばヘスティア、貴方最近眷属ができたんですって?」

 

フレイヤが何気なく問いかける。

 

「そうさ!ベル君って言ってね、兎のような見た目の可愛い子なんだ!」

 

「へえそうなの?ぜひ会ってみたいわあ」

 

「ダメに決まってるだろ!特にキミはダメだ!ボクの大事な大事なベル君に近づこうとするんじゃない!」

 

「あらあ、つれないわねえ」

 

「(兎のような見た目...)ん?もしかしてその子って白髪に赤い目をした少年のことか?」

 

「な、何でキミが知ってるんだ!?」

 

 

ヘスティアがロキにかみつくように問いかける。

途端にロキの目の色が変化した。

 

 

「なあドチビ。お前さん黒いローブを着た人物の知り合いはおるか?」

 

「はあ?何を言ってるんだキミは、そんな怪しげな知り合いなんているわけないだろ」

 

ヘスティアはバカにした感じで返答する。

 

「どうやら嘘はついてないようやな...」

 

「というか急に何だその質問は?」

 

「あらヘスティア、貴方昨夜の事件を知らないの?」

 

「昨夜の事件??何の話?」

 

ヘスティアは頭にはてなマークを浮かべながら質問する。

 

「昨夜、ロキの眷属である【凶狼】と【千の妖精】がその黒いローブを着た人物にやられたのよ」

 

「何だって!?」

 

「しかもレフィーヤの発言から"トマト野郎を知っている者"、つまりは昨日豊穣の女主人でベートが言ってたお前さんとこのベルって少年の知り合いやっちゅうことや!!」

 

ロキが一気に憤慨しながら問い詰める。

しかし、悠斗が勝手にやったことをヘスティアが知るはずもなく

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!ボクはベル君がそんな怪しげな人物の知り合いがいるなんて聞いてないしそれは考えられないって!」

 

「まだシラを切る気か!調べはついとるんや!それに、お前さんとこにその少年とは別にまた新しい眷属が1人できたやろ!!」

 

「ああ、そういえばそうだったわね」

 

一体どこで調べたのか...さすが最強ファミリア、恐ろしい情報収集力である。

 

「(もうユート君の存在に気付いたのか!確かにユート君の実力なら【凶狼】くらい倒せそうな気はするけど...)ま、待ってくれ!確かにボクのところにまた1人眷属はできたけど、その子はその日に冒険者になったばっかり、つまりはレベル1の下級冒険者だぞ!レベル1がレベル5に、ましてやあの【凶狼】を相手に不意打ちをかけたって倒すなんてできるわけないじゃないか!」

 

確かにチートクラスの強さをほこり、レベル5も圧倒する力を持っているが事実悠斗は冒険者になったばかりの下級冒険者、レベル1。何も嘘はついていない。

 

「...嘘やないやと!?」

 

ロキは驚愕している。

 

「まったく、ろくに調べもしないで決めつけるのはどうかと思うぞ?(いや、でもやったのは十中八九ユート君だ...何やってるんだよ...)」

 

「ぐぎぎぎ...悔しい!ドチビごときに正論を言われた...」

 

「ふん!その胸と同じで頭の中まで大層貧相なことだな絶壁女!」

 

「なんやとーーーー!!!!」

 

「やるかーーーーー!!!!」

 

お約束のいつもの争いが勃発した。

 

 

「(嘘はついてなさそうだけど...でも肝心のステイタスやスキル、戦闘技術はどうなのかしら?あの時少ししか見てなかったけどますます興味が出てきたわね。オッタルに頼もうかしら)」

 

フレイヤだけは悠斗に対して疑惑を深めていき、何かを企んでいるようだった。

 

 

 

 

 

----------------------------------------

 

 

 

 

 

一方...

 

ざわざわ...ざわざわ...

 

「あれ?やけに騒がしいくないですか?」

 

「そういえばそうだな...ん?なになに怪物祭??」

 

壁に貼ってあった紙にでかでかと書かれていた。

 

「ガネーシャ・ファミリア主催で、年に1度観客の前でモンスターを調教するギルド公認の祭典か。へえ面白そうじゃねえか」

 

「だからこんなに活気が出てるんですね!」

 

「だなあ」

 

 

ベルと悠斗がそう納得しようとした時、別の話も聞こえてきた。

 

「なあ知ってるか?ロキ・ファミリアのところの【凶狼】と【千の妖精】が謎の人物にやられたって話だぜ」

 

「何!?百歩譲って【千の妖精】はレベル3だからまだ分かるが、【凶狼】って言えばレベル5の上位だろ?そんな実力者がマジでやられたのか?」

 

「ああ。俺の知り合いが倒れてるのを発見したらしいんだよ...」

 

「誰がやったんだ?レベル5を倒すなんてこのオラリオにもそうはいないハズだろ...やっぱフレイヤ・ファミリアなのか?」

 

「その説が1番濃厚だろうけど、一部ではまた違う誰かって話も出てるぞ」

 

「いやあこえーなあ...【凶狼】を倒すくらいの強者で、もし通り魔みたいな奴だったら俺たち確実に瞬殺だぞ...」

 

「ああ、しばらく夜間の外出は控えた方がいいかもな...」

 

 

そんな会話が悠斗とベルの耳にもしっかり聞こえてきた。

 

「聞きました悠斗さん?あの【凶狼】がやられたんですって...て悠斗さん?」

 

「あ、ああそうだな。第一級冒険者ですらやられてる事件か...俺たちも十分に気をつけないとな?」

 

「そうですね!」

 

「(もうここまで広がっているのか。さすがに痕跡を残しすぎたか...せめて隠しておくべきだったな。チッ、やっぱり夜襲っていうのはどうにも苦手だな...それにあの2人にもヒントを与えすぎたし、これは割とあっさりバレてしまうかもな...あー目立ちたくねえ...)」

 

悠斗はやれやれ...と頭を押さえてしまった。

 

 

 

 

 

--------------------------------

 

 

 

 

 

「二度とそのうっすい胸板をひけらかすなー!!」

 

「うっさいわボケー!!」

 

2人のレベルの低い争いが収束し、そこに1人の女性がまた現れた。

 

「またやってたのねあんたたち...」

 

「ん?あーヘファイストス!」

 

「変わらないわねヘスティア」

 

神ヘファイストス。ヘファイストス・ファミリアの主神であり、鍛冶師系のファミリアでその規模はオラリオ内だけでなく世界クラスを誇る。武具の強さも当然トップクラスではあるが、非常に高価で並みの冒険者にはまず手は出せない。しかし、中には安価で強い武具、いわゆる掘り出し物もあるという噂もある。

 

「丁度良かったー!君に話したいことがあるんだ!」

 

「私に?」

 

 

そうして時間は過ぎていく...

 

 

 



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怪物祭-前編-

「で?いつまでそうやってるつもり?」

 

ずっと土下座をしているヘスティアにヘファイストスは問いかける。

 

「頼むよヘファイストス!ベル君のために武器を作ってくれ!」

 

ヘスティアの必死な頼みにヘファイストスはため息をついた。

 

「どうしてそこまでするの?」

 

「ベル君の力になりたいんだ!あの子は一つの目標のに向かって高く険しい道のりを走り出そうとしている!それは命も落とすかもしれない危険な道のりだ。だからあの子を手助けしてやれる力が欲しい。あの子が自分の道を切り開ける道が!」

 

ヘスティアは続ける。

 

「ボクはあの子に助けられてばっかりだ。それなのにあの子にはまだ何もしてやれてない...嫌なんだ、何もしてやれない自分が...だから頼むヘファイストス!」

 

「変わろうとしてる、か。ベルだけじゃなくてあんたもなのね...」

 

ヘファイストスは微笑みながら答えた。

 

「いいわ、作ってあげる。でも、ちゃんと対価は支払ってもらうわよ?」

 

「ありがとうヘファイストス!もちろんだよ、たとえどれだけ時間がかかっても必ず払うよ!」

 

ヘスティアの嬉しそうな顔にヘファイストスも思わず嬉しそうな顔をした。

 

 

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

 

 

「おーいそこの白髪頭と美青年ちょっと待つニャー!」

 

「「え?」」

 

街中を歩いていたら急に豊穣の女主人の店員に呼び止められた。

 

「えっと、何かご用ですか?」

 

「この財布をシルに届けるニャー」

 

「急になんだそれ...」

 

「アーニャ、それでは説明不足です。クラネルさんと悠斗さんが困っています」

 

「リューはアホだニャ。店番サボって怪物祭に出かけたシルに忘れた財布を届けるなんて、一々言わなくても分かることニャ」

 

「(分かるわけねえだろこの猫娘...)」

 

悠斗は心の中で突っ込んだがあえて口にはしない。

 

「そういうわけです。もちろん店番をサボったわけではありません。休暇をもらってでの怪物祭の見学です。クラネルさん、悠斗さん申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 

「オーケーオーケー、それくらい任せてください」

 

悠斗はついリューの頭をポンポンとしてしまい、リューは顔を赤くしながら払いのけてしまった。

 

「あ、やべ...すいません。エルフは異性との接触は嫌な種族でしたっけ...」

 

「い、いえ...ちょっと驚きましたが大丈夫です。すみません払いのけてしまって...」

 

「いやいや、忘れてた俺が悪いんですから気にしないでください」

 

笑顔で悠斗は答えた。

 

「おやおや~?リューにもとうとう春が来たのかニャ~?ニャーは嬉しく思...ふぎゃ!」

 

言い終わる前にリューはアーニャにパンチを食らわせた。

 

「あ、あの~リューさん?」

 

「私のことは気になさらずに!さあ早く行ってください!」

 

「お、おう...じゃあ行ってくる...」

 

リューの得体の知れない威圧感に悠斗とベルは引きつった顔をしながら怪物祭に向かった。

 

 

「何をするニャリュー!図星を突かれたからと言って...ふぎゃ!」

 

「まだ言いますか?」

 

「す、すみませんニャ...」

 

 

 

 

「はあ...怖かったですね悠斗さん」

 

「ああ。あの人絶対冒険者だったろ...しかも高レベルの...」

 

改めて女性の恐ろしさを思い知らされた悠斗とベルだった。

 

 

 

 

 

---------------------------------

 

 

 

 

 

「貴方がいいわねえ」

 

とある場所でとあるモンスターにフレイヤが言った。

 

「オッタル」

 

「はっ」

 

大柄の猪人が現れた。【猛者】オッタル。フレイヤ・ファミリアの現団長でレベルは最高ランクの7。

個人の戦闘力ではロキ・ファミリアの精鋭達を凌駕し、彼らがまとめて相手にしたところでようやく渡り合えるといわれてるほどの圧倒的力を持つオラリオ最強の冒険者。

 

「この子を解放するから貴方の方も準備をお願いね?」

 

「もう1人の男、神津悠斗はいかがいたしましょう」

 

「そうねえ。あの子に邪魔をされてはベルの成長を見られないし...丁度いい機会だからあの子を足止めしつつ試してきてちょうだい」

 

「御意。しかし、あの男は本気の片鱗も見せず【凶狼】を圧倒した実力者。そう長くは足止めできないことをご了承ください」

 

「あら、貴方がそんなことを言うなんて初めてじゃない?ふふふ、でも貴方も随分と楽しそうな顔をしてるわね」

 

「お戯れを...」

 

フレイヤのからかいに少したじろいでしまったオッタルだった。

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

「さーてついたのは良いけどすんげえ人だかりだなあ...」

 

「これじゃあシルさん見つけられないですよ...」

 

さすが年に一度開催される大規模な人気の祭典。人の多さも尋常ではない。

 

「仕方ねえ...ここは手分けして探そう。2時間後にここに集合ということにしようぜ?」

 

「は、はいわかりました!」

 

2人は分かれてシルの探索に向かった。

 

 

 

 

「やれやれ、人が多すぎて困るな...何だ?」

 

ドーン!!

大きな音と人の悲鳴が聞こえてくる。

 

「これは何かのイベント?...いや、それにしては様子がおかしい!くそ、ベルと分かれたのは失敗だったか...」

 

何か胸騒ぎがする悠斗はただ事じゃないことを確信して走り出した。

 

 

 

「あ、あなたはもしかして神津悠斗さん!?」

 

突然声をかけられて振り向くとエイナがいた。

 

「エイナさん!一体何があったんですか!?」

 

「そ、それが突然モンスターが街中で暴れだして!普段は檻の中に閉じ込められてて街中に出ることはあり得ないはずなんですが...」

 

「(檻の中にいるはずのモンスターが突然街中で暴れだす...普通ならありえない...誰かが意図的にやったと考えるべきだな)」

 

「分かりました。エイナさんはこのまま住人たちを安全な場所に避難させてください。俺はこのままモンスターの討伐に向かいます」

 

「む、無茶ですよ!逃げ出したモンスターの中にはシルバーバックのような中層モンスターだっているんです!レベル1の貴方では勝てるはずが...」

 

「大丈夫ですよ、いざとなったら逃げますから。さ、無駄に口論してる場合じゃないです。早く行動しましょう」

 

「...分かりました。でもいいですか?生き残ることが第一です。危なくなったら必ず逃げること。これが守れずに大けがでもしたら貴方には私の特別講義6時間スペシャルを強制的に受けていただきます!」

 

「うげ...それは嫌だな...了解です。ではまた!」

 

エイナの講義に軽くトラウマがある悠斗は青ざめてそれを約束し、再び走り出した。

 

 

 

 

 

「どけえ雑魚ども!」

 

ズバン!ドガ!ザシュ!

次々とモンスターを切り捨てていく悠斗だったがいかんせん数が多い。

 

「ちっ。これじゃベルと合流できねえ...大通りはガネーシャ・ファミリアあたりに任せて裏の通りを進むか」

 

回り道にはなるが、人とモンスターが少ない裏通りを通ることにした。

 

 

 

「よし、これならベルと合流できそうだな.........上か!!?」

 

ドゴーーーーーン!!!!!

突然上方からの急襲に間一発で避けた。

 

「よく今のを避けたな」

 

声がした方を向くとそこには2m以上の高身長で大剣を背負った猪人の男が立っていた。

 

 

「!!お、お前は!【猛者】!!」

 

「そうだ。フレイヤ・ファミリア団長、【猛者】オッタルだ」

 

「そうかい。で?その最強ファミリアの団長さんが"ただの下級冒険者"相手に一体何の用事だ?」

 

「ヘスティア・ファミリア所属、神津悠斗。貴様があの方の寵愛を受けるに相応しいかどうかを見極める!」

 

「(寵愛?何言ってんだこいつ)ああん?おいおい今どんな状況か分かってるのか?それに俺はレベル1だ。とても最強ファミリアに試されるレベルじゃないんだが?」

 

「今の状況など知ったことではない。あの方が決めになったことを俺はただ遂行するだけだ」

 

「(ということはつまり、今回の騒動の首謀者はこいつらか!?自分たちの目的のためなら他人の迷惑も厭わないその考え、気に入らんな...)」

 

「それに、貴様がただのレベル1じゃないこともすでに調査済みだ」

 

「は?」

 

一瞬悠斗はぎょっとしてしまう。

 

「貴様がレベル1というのは事実だろうが、そのレベルには似つかわしくないほどの強さがある。あの【凶狼】を圧倒していたほどだ。おまけに俺の先ほどの一撃も難なくかわした。これだけ揃っていて"ただの下級冒険者"で片付けるのはさすがに苦しいだろう」

 

「なん...だと...?」

 

まさかもうそこまで調べられていたかと悠斗は落ち込んでしまう。

 

 

 

「お喋りは終わりだ...行くぞ」

 

そう言った瞬間にオッタルは悠斗の懐に斬りかかった。

 

「くっ!」

 

ガキィン!!

何とかそれをガードする悠斗。

 

「少しはやるな。ではこれならどうだ」

 

その体型と剣の大きさからは想像できないほどの速さがある剣のラッシュ攻撃。

ベートよりもさらに速く重い、【猛者】の斬撃である。

 

キンキンキンキンキンキン!!!

 

「(さすがオラリオ最強と呼ばれてるだけあって、手加減しながらもあの犬コロよりも速くて重い攻撃だ...だが師匠に比べれば!!【稲妻斬り】)」

 

バチバチバチ!!!ブン!!!

 

「むっ!」

 

悠斗は速い斬撃の中にわずかな隙を見て反撃する。

オッタルも完全には避けきれず、体に切り傷と焦げ跡が残った。

 

「(ちっ!さすがに犬コロのように簡単にはダメージは与えられねえか...)」

 

「(まさか魔法まで使えるとはな...)ふっ。面白い...ならば俺も少し本気を出そう!」

 

ゴォ!っとオッタルの闘気一気に膨れ上がる。

 

「来るかオラリオ最強...」

 

「行くぞ」

 

ドン!!

キィーーーン!!!

 

「(クソ、バカでかい図体してなんて速さだよ!)」

 

先ほどよりも速い斬撃を受けてできた悠斗の隙を突き

 

「ふん!」

 

ドゴ!

オッタルの渾身の蹴りが悠斗に炸裂する。

 

「ぐっ!」

 

「まだ終わらんぞ...ぬうん!」

 

ドガガガガ!!ズバン!!

すかさずオッタルの打撃と斬撃を数発撃ち込んだ。

悠斗は回避と防御ができず直撃した。

 

「がは!!」

 

バゴーン!!!

そのまま悠斗は壁に吹き飛ばされた。

 

「痛ててて...ったく化け物が...」

 

耐久力もある悠斗は今の連撃でそほどダメージは受けておらず、そのまま立ち上がる。

 

「ほう...俺の連撃を受けて立っていられるとはな。貴様は実力だけ見れば明らかにレベル6以上…やはりあの方の目に狂いはなかったようだ」

 

「何上から目線で勝手なこと抜かしてんだよ?さすがにもうキレたぜ。てめえにはとっておきの鬼道を食らわせてやるよ!【縛道の六十一 六杖光牢】」

 

「何!?」

 

六つの帯状の光が胴を囲うように突き刺さりオッタルの動きを奪った。

 

「(ぬ...体が動かん!?何だこの技は...俺の力をしても解けないのか!)」

 

「続けて食らえや化け物!【破道の九十 黒棺】」

 

黒い直方体のような棺がオッタルの周りに出現し、一気に潰しにかかった。

 

「な、なんだこれは...ぐうう...うおおおお!!!」

 

グシャ!っと嫌な音が鳴り、

オッタルはそのまま全身の骨ごと潰されたが、かろうじて意識があった。

 

「とんでもねえ化け物だな。これを食らって立っていられる奴はそうはいないぜ...」

 

「はあはあ、まさか俺がここまで追い詰められるとは...いいぞ神津悠斗。貴様ならあの方の寵愛を受ける資格がある」

 

「冗談じゃねえ、さっさと帰ってフレイヤとやらに伝えな。あほか、こんな痛いあんたの愛なんてごめん被るってな!」

 

「ふっ...いいだろう。今回は俺の負けだ。神津悠斗、貴様と再び剣を交える日を楽しみにしているぞ」

 

そう満足そうに言い、オッタルはその場から去っていった。

 

 

 

「痛てて...ったくあの化け物め、とんでもない奴に目をつけられたな。いかんな、今回は鬼道で勝ったようなもんだが実力で勝たんと...」

 

悠斗は深くため息をついてそのままベルの探索を再開した。

 

 

 



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怪物祭-後編-

ヒロインもぼちぼち決めてかないかんかなあ...


一方その頃ベルは...

 

「はあ!」

 

ズバン!

1人魔物と戦っていた。

 

「はあはあ...数が多い...」

 

周りは上層でも出てくる雑魚モンスターばかりだったがいかんせん数が多くベルも苦戦していた。

その時

 

グォアアアア!!

 

「!?今の叫び声は!」

 

ドゴォ!!!

 

「ゴフ!」

 

瞬時に反応して持っていたナイフで防御したが簡単に折られ、ベルの華奢な体が軽々と吹っ飛ぶ。

明らかにそこらへんにいる雑魚モンスターではない。

 

「がは!...こ、こいつはまさかシルバーバック!?何で中層モンスターがこんなところに!?」

 

ナイフを折られた今のベルに勝ち目などなくそのまま逃げていく。

 

 

 

「はあはあはあ...このままじゃ追いつかれる!どうすれば...どうすればいいんだ!」

 

などと考えてる時に

 

ドゴォーーーン!

 

「!?」

 

シルバーバックがベルに追いついてしまった。

 

「くっここまでなのか...悠斗さん...神様....アイズさん!」

 

 

「おいおい!ボクの前でヴァレン何某の名前を出すなんてホントキミは節操のない浮気者だね!」

 

「え?」

 

そこには前に逃がしていたはずのヘスティアが立っていた。

 

「かみ...さま...?」

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

その数十分前...

 

「くそ!ベルはどこにいるんだ...ここ無駄に広すぎて迷うんだよ!」

 

オラリオに関しての地理が無い悠斗は広大な都市の中で絶賛迷子中であった。

 

「あれ!?こっちはさっき通った道だったか?クソ、地図でも用意しとくべきだったか...ん?あれは...」

 

 

 

 

「かった~い!何なのこのモンスター!」

 

「まさか新種!?こんなモンスター見たことないわよ...」

 

悠斗から数百メートル以上距離がある場所、そこにはロキ・ファミリアのヒリュテ姉妹、レフィーヤ、アイズが緑色の花のようなモンスターと対峙していた。

どうやら打撃耐性がある上に耐久力もあるようで苦戦中。

 

「あーもうこんなことなら"大双刃"持ってくるんだったー!」

 

「文句言ってるんじゃないの!レフィーヤ、詠唱に集中しなさい!」

 

「は、はい!【解き放つ一条の光 聖木の弓幹 汝 弓の名手なり 狙撃せよ 妖精の射手 穿て 必中の矢 アルクス・レイ】」

 

ドーーン!!

 

何とか迎撃していくがあまり手ごたえはない様子。

 

 

 

「ロキ・ファミリアの連中か。見た限り苦戦してるな、こりゃ加勢しないとマズイかもな...っと"小夜時雨"を持ったままじゃあの小娘に正体ばれちまうか...よし、別の武器にしよう」

 

そう言うと悠斗は詠唱を唱え、何もない空間から1つの刀を出現させた。

 

「"菊一文字則宗"(自作)、まあこれなら大丈夫だろ」

 

悠斗はそのままロキ・ファミリアのメンバーのところに向かっていった。

 

 

 

「レベル5の私たちの攻撃に耐えられるなんてかなりの耐久力だわ...レフィーヤ、詠唱を始めなさい!」

 

「は、はい!」

 

「!レフィーヤ危ない!!」

 

「え?」

 

ドスドスドスドス!!

アイズの言葉にレフィーヤが反応したがすでに遅く、モンスターの触手が数本レフィーヤの体を貫いた。

 

「か、は...」

 

ドサ...

そのままレフィーヤは崩れるように倒れた。

 

「「「レフィーヤ!!」」」

 

慌ててティオナとアイズが慌ててレフィーヤの方に駆け寄った。

 

「レフィーヤしっかり!回復アイテムは!?」

 

「今はポーションもエリクサーも誰も持ち合わせてない...」

 

「ど、どうしようこのままじゃレフィーヤが!」

 

「!!ティオナ!アイズ!よそ見しない!!」

 

「「しまっ!?」」

 

狙ったかのようにモンスターたちが前後からアイズとティオナに向けて触手を飛ばしてきた。

距離的に防御、回避不可能。絶体絶命と思ったその瞬間

 

 

「おいおい、女相手に触手プレイをしようとするとは随分と変態なモンスターだなあ」

 

ズバババン!!

アイズとティオナ向けて放たれた触手が全て斬り落とされた。

 

 

「間一髪だったな?」

 

悠斗はそう優しく語り掛ける。

 

「あ、ありがとう...き、君は誰?」

 

「そんなこと聞いてる場合じゃないだろ?今は目の前のモンスターを片づけることが先だ」

 

「ま、待って!あのモンスターはレベル5のあたしでも全然ダメージ与えられないんだから君ではとても倒せないよ!」

 

「君は確かロキ・ファミリアの【大切断】だったな?倒せるか倒せないかじゃないだよ...倒すんだよ!」

 

悠斗はそう言いながらモンスターを1体1体素早い斬撃で確実に斬り捨てていく。

 

「す、すごい...」

 

「レベル5のあたしたちでも苦戦したモンスターをあんな簡単に...」

 

「あの人強い...どうやったらあんなに...」

 

ますますロキ・ファミリアから注目されつつある悠斗だった。

 

 

 

「後はお前だけだな?お前は小娘たちを不意打ちにしたその卑劣さに免じて、特別に焼き殺してやるよ?【火炎斬り】」

 

ボウ!ズバン!

 

「キシャーーー!!!」

 

燃えさかる剣がモンスターを切り裂き、一気に焼き殺す。

モンスターは苦しみの悲鳴をあげながら絶命した。

 

 

「ふぅ。さて、これで終わりだな?(いくら目の前に困った人たちがいたからといって...またしても目立つことをしてしまったな...)」

 

「ありがとう!そ、そうだレフィーヤが!」

 

ティオナは今にも泣きそうな声をあげていた。

 

「回復アイテムは持ってないのか!?」

 

「こんなことになるとは思わなかったから何も持ってきてないよ~」

 

「...仕方ねえ、【ヒーリング】」

 

悠斗はヒーリングを使うと、レフィーヤの傷がみるみるふさがっていった。

 

「か、回復魔法!?」

 

「これで処置は大丈夫だろう。だが、念のため安静にな?」

 

「うん!ありがとう!!」

 

ティオナは思わず悠斗に抱き着いた。

 

「おわっとっと!一応こっちもけが人なんだから勘弁してくれ...」

 

「あ、ごめんごめん!」

 

ティオナはでへへっと笑いながら謝った。

 

 

「とりあえず助かったわありがとう。ところであんた...一体何者なの?」

 

「ん?ああ"ただの下級冒険者"。名乗るほどの者じゃないさ!」

 

目立ちすぎたと後悔しながらこれ以上目立たないようにするため悠斗は苦しい言い逃れをする。

 

「ふざけないで、レベル5の私たちでも苦戦したモンスターをそんな傷だらけの状態で簡単に倒すし、さらには炎系と回復系の魔法まで使える"ただの下級冒険者"なんているわけないでしょ?」

 

ティオナは厳しい目つきになる。

しかし、悠斗は平然とした顔で

 

「そんなこと言ったって俺は数日前に冒険者になったばっかりのレベル1だしなあ...」

 

「え...?」

 

「まだそんなこと「じゃあ聞くが...」??」

 

「俺のことを知ってるのか?もしも俺がレベル2以上なら二つ名だってあるだろうしどこのファミリアかも知ってるはずだろ?」

 

「そ、それは...」

 

確かにレベル2以上なら二つ名もつき、個人差はあるが有名にもなる。

だが、ティオナもアイズも当然ティオネも悠斗のことを全く知らなかった。

 

「だから俺は嘘はついていないんだよ。正真正銘のレベル1」

 

「じゃああなたはなんでレベル1なのにそんなに強いの?」

 

今まで黙っていたアイズが急にそんな質問をしだした。

 

「俺はレベル1の中では強い方であって、別に自分で強いと思ったことはないぞ?」

 

「嘘!だってそんな...」

 

「すまねえな【剣姫】。今は人を探してる途中だからのんびり喋ってる場合じゃないんだ。じゃあなー!」

 

このままだと永遠に終わらなさそうなので無理やり話を切り上げ、そそくさと逃げた。

 

 

「あ、逃げやがった!あんのクソ野郎...次見かけたら縄でふんじばってしょっ引いてやる!!」

 

「結局名前も強さも聞けなかった...」

 

「でも顔は覚えたしきっとまた会えるよ~」

 

「あんた嬉しそうねえ...」

 

「うん。なんかすごくカッコよかった~。それに、隠し事はしてるみたいだけどあたしたちやレフィーヤも助けてくれたし絶対悪い人ではないよ」

 

ティオナはこの時今までに味わったことのない感情が芽生えつつあった。

 

 

「あの強さでレベル1なんて嘘だ...絶対にあなたの強さを見つけてやる!」

 

アイズは別の意味で悠斗に注目をしていた。

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

 

 

「ど、どうして戻ってきたんですか神様!?」

 

「それは壁を乗り越える手助けをしようと思ってね!」

 

「ど、どういうことですか!?ってその前に逃げないと!」

 

ベルは大慌てでヘスティアを抱えてシルバーバックから離れた。

 

「(こ、この抱え方はーーー!?やったやったーーー!!!)」

 

ヘスティアはお姫様抱っこをされ興奮していた。

 

 

 

シルバーバックからある程度距離をとってから

 

「それで神様、さっきの手助けとはいったい...」

 

「ふふん!これを見ろベル君!」

 

と、ヘスティアは持っていた包みを取り出してベルの前に出した。

 

「これは...ナイフ?でも普通のナイフとは違うような...」

 

「そうさ、これはボクの神友に頼んで作ってもらった特別なナイフさ。これにボクの血を混ぜることによってその真価を発揮する。そしてこのナイフは使用者の、つまりはキミの成長に合わせて攻撃力が上がるんだ。だからベル君、このナイフを使ってキミはあのモンスターを倒すんだ!そして、さらなる上を目指してくれ!!」

 

「神様...はい!」

 

 

そう言った瞬間まるで待っていたかのようなタイミングでシルバーバックが再び現れた。

 

「来たな。今度は逃げない、行くぞ!」

 

キィィィィン

ナイフに刻まれた神聖文字が白く光った。

 

「うおおお!」

 

ズバン!

初めてシルバーバックに傷を入れる。

苦しみながらもシルバーバックは反撃をする。

 

「くっ!痛いし怖いけど...こんなことで逃げるわけにはいかないんだーー!!」

 

ズババババン!

ベルの連撃が入ってシルバーバックはもだえ苦しむ。

さらにベルは間髪入れず

 

「これで終わりだーー!!!」

 

ナイフを顔から胴体に向かって一閃を入れた。

その瞬間シルバーバックから大量の血液が吹きだし、そのまま倒れて動かなくなった。

 

「やった...の?」

 

「ベルくーーん!!」

 

「うわわ神様!?」

 

「やったよ!やったんだよベル君!!キミが勝ったんだ!!!」

 

いつの間にかギャラリーもいたようで、あっちこっちから歓声と拍手が送られた。

 

「ははは、良かった...勝てて...」

 

ベルは満足そうな顔をしてヘスティアを抱きしめた。

 

 

 

「よくやったなベル。これで英雄に一歩前進だ」

 

悠斗も少し離れた場所から微笑みながらベルを称えた。

 

 

 

 

 

------------------------

 

 

 

 

 

「そうよその調子よベル。ああ、早く成長した貴方を私のもとに置きたいわあ」

 

「フレイヤ様」

 

「あら、お帰りなさいオッタル。!!そう、その様子では神津悠斗は十分な手ごたえだったわけね?」

 

「はっ。フレイヤ様の寵愛を受ける資格は十分にございます」

 

「分かったわ。ありがとうオッタル。もう体ボロボロでしょ?今はゆっくり休みなさい」

 

「...申し訳ございません。では失礼いたします」

 

そう言ってオッタルは下がっていった。

 

「あのオッタルに重傷を負わせるなんて...いいわ神津悠斗、貴方もぜひ手に入れてあげる。それにしても、こんなに素敵な眷属を持っているヘスティアが羨ましいわあ。けっこう妬けちゃうかも」

 

フレイヤは怪しげな笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

 



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サポーターと拉致

怪物祭から約一週間後...

 

「ベル!そっちは任せたぞ!」

 

「はい!せえや!!」

 

ベルは素早い連撃で目の前にいた複数のモンスターを蹴散らしていく。

 

「ほいほいっと!」

 

悠斗も軽い身のこなしでモンスターを全て刈り取った。

 

 

 

「よーし、10階層のモンスターも余裕になってきたな!」

 

悠斗は魔石とドロップアイテムを拾いながら言う。

 

「はい!エイナさんにプレゼントしてもらえたこの"グリーン・サポーター"もありますし、もう少ししたら中層にまで手が届きそうです!」

 

「まあそう焦るな。中層はレベル2に上がってからだ。じゃないとエイナさんが今度は魔神と化してしまいそうで...」

 

「あはは!悠斗さんこの間エイナさんにたんまり怒られてましたからね」

 

そう。悠斗は怪物祭の時に負った怪我をエイナに見られて本気で怒られ、しかもそれがオッタルとの戦闘で受けた傷とは言えるはずもなく、結局エイナの地獄の講義6時間スペシャルを受ける羽目になってしまった。

 

「ああ...思い返すだけでもあれは地獄でしかなかった...生きた心地がしなかったぜ...(終始目だけ笑ってない笑顔でたんたんと講義してんだもんなあ...正直【猛者】との戦闘よりもダメージでかかったわある意味...)」

 

悠斗は青ざめながら、トラウマを語った...

 

 

「とりあえずエイナさんにも10階層までしか許可出てないですし、帰りましょう?」

 

「だな...はあ、オラリオの女ってみんな怖い...」

 

 

 

 

 

------------------------------------------

 

 

 

 

 

「すっかり遅くなっちまったなあ...」

 

「そうですね、こっちの裏道を通った方が近いので行きましょう」

 

「おう!」

 

 

そのままベルは悠斗と話をしながら通りを歩いていると、路地裏との交差点に差し掛かったところで

 

 

ドン!

 

「あうっ!」 

 

路地裏から走ってきた誰かとぶつかって、走ってきた人は転んでしまう。

ベルは慌てて転んだ人に近寄り

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

と声をかける。

 

「ん?この子やけに体格が小さいなあ...子供か?」

 

その子はヘスティアよりも小さな身長で、見た目では7、8歳児程度という特別な体格をしていた。

ベルはとある一つの種族を思い浮かべた。

 

「...小人族?」

 

身を捩ってその小人族パルゥムが身体を起こす。

ボサボサの栗色の髪をしており、大きく円な瞳が印象に残る女の子である。

 

 

ベルがその子に手を差し伸べようとした時、

 

「やっと追いついたぞ!このクソ小人族が!!」

 

路地裏から抜き身の剣を持ったヒューマンの男が走ってきて、そのまま剣を振りかぶった。

ベルは反射的にその小人族の女の子の前に立ちはだかって、迫りくる剣をナイフで軽々と受け止めた。

 

「んなっ!?何なんだてめえは!もしかしてそのクソ小人族の仲間か!?」

 

剣を止められた事に驚いた後、ベルと悠斗を睨みながら聞いてくるチンピラ男。

 

「いや、初対面ですが...」

 

「じゃあ何でそいつを庇ってんだ!?」

 

「おいおい、目の前で女の子がピンチになってたらそら助けるだろうよ」

 

悠斗はあきれながらそう言った。

 

「てめえふざけてんのか!?」

 

「はあ...なんか典型的小物って感じだなあんた...」

 

「な!?上等だ!ならまずはてめえらから殺してやるよ!」

 

男は憤慨しながらベルに向かって剣を振り下ろす。

ベルは即座に反応してナイフで剣を受け止め、

パキィンっと剣を軽々と折った。

 

「お、俺様の剣が!?」

 

「(見るからにレベル1の冒険者だな。剣もかなりのなまくらだ。おまけに技術もろくに磨いてないド素人の動き、それじゃあ同じレベル1でもベルには傷一つつけられねえよ)」

 

「こ、このガキよくも!!」

 

今度は殴りかかってくる冒険者。ベルは呆れながら反撃に移ろうとしたとき

 

 

 

 

「やめなさい」

 

「!?」

 

突然した声に全員が振り向く。

 

「次から次へと...今度は何だあ!!」

 

「「リュ、リューさん!?」」

 

突然目の前に豊穣の女主人の店員、リュー・シオンが現れたことに驚く二人。

リューは構わず続ける。

 

「あなたが危害を加えようとしているその少年は将来、私の同僚の伴侶となられる方です。手を出すのは私が許しません」

 

「ええ!?」

 

「ベル...お、お前はもうそこまで進んでいたのか...」

 

悠斗はそこまで進んでいたと思い込んで、若干ショックを受けていた。

 

「クソが!どいつもこいつも意味のわからねえ事を...てめえもぶっ殺されてえのか!?」

 

「吠えるな」

 

「!?」

 

「(この威圧感は...やっぱリューさんは只者じゃねえな...)」 

 

突如出された威圧、冒険者の男は圧倒され固まっている。

 

「手荒なことはしたくありません。私はいつもやり過ぎてしまう......」

 

その言葉に冒険者の男は冷や汗をかきながら後ずさる。

更にリューは最終通告と言わんばかりに威圧を強めた。

 

「ち、ちくしょう!」

 

さすがの男も確実に勝てないと分かったのか、吐き捨てるように言うと一目散に逃げていった。

 

 

 

「ありがとうございますリューさん、助かりました」

 

「いえ、差し出がましい真似をしてしまったようで...悠斗さんもいましたしあの程度の輩ならどうという事はないでしょう...」

 

「いえいえ。俺もベルもあのまま続けば叩き潰すことしかできなかったんで。まったく手を出さずに威圧だけで追い払う戦法、見事でした」

 

「い、いえ...そのようなことは...」

 

突然悠斗から褒め称えられてリューは顔を赤くしながらしどろもどろになった。

 

「と、ところでクラネルさんと悠斗さんはこんなところで何をされていたんですか?」

 

リューは慌てて話題を切り替え質問した。

 

「何ってさっき女の子が襲われて...てあれ?」

 

さっきまでいた女の子がいない。どうやら今の騒動の隙に逃げたようだ。

 

「い、いなくなってる!?」

 

「逃げたのか?ったく、いくら怖がってたとはいえ礼儀知らずなガキだな...」

 

礼の一言も言えない非常識な少女の行動にやや憤りを感じる悠斗。

 

 

「まあいいか。ん?リューさんはひょっとして買い出しの帰りですか?」

 

「え、ええ。その通りですが...」

 

リューの手には買い物袋をいくつか持っていた。

悠斗の思った通り店の買い出しの帰りだったようである。

 

「そうだリューさん。助けてくれたお礼にその荷物を持ちますよ」

 

「えっ!? そんな、悠斗さんとクラネルさんの手を煩わせるようなことでは...」

 

「俺らのことは気になさらずに!ほらベル、お前も持て」

 

悠斗はそう言いながらリューの持っている荷物に手を伸ばす。

 

 

リューは強情で少し抵抗気味に悠斗の手を掴んでしまった。

 

「あ.......」

 

「ん?」 

 

突然リューの抵抗が弱くなり、悠斗はその隙に荷物をひょいと取り上げた。

 

「どうしました?」

 

「あ...い、いえ何でも...それではお願いします」

 

「はいよ!行き先はお店でいいんですよね?」

 

「は、はい...すみません...」

 

リューが急にしおらしくなった様子を見て悠斗はおかしいと思ったが気にせずに店の方へと歩いていった。

外は薄暗かったので2人は気付かなかったが、リューはしばらく顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

 

 

「あの人なら...」

 

先ほどの少女が陰からこっそりと覗いて呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、リューおかえりってベルさんと悠斗さん!?」

 

「あはは、どうもシルさん」

 

リューとともに帰ってきたベルと悠斗に驚きを隠せないシル。

 

「ええまあちょっと色々ありまして」

 

「そうだったんですか。...リューどうしたの?」

 

先ほどから一言もしゃべらずもじもじしてるリュー。

 

「何でもないです。それでは荷物を運びますんで私はこれで...あっ!」

 

普段のリューなら絶対しないであろう油断。それによって床の出っ張りに足を引っかけてしまった。

 

「危ない!!」

 

倒れる瞬間、間一髪で悠斗がリューを抱きかかえた。

 

「リューさん大丈夫ですか?」

 

悠斗が心配そうにリューに声をかけた。

 

「.........!!?」

 

何かに気づいたようでリューは顔を真っ赤にして慌てて悠斗から離れる。

 

「あ、ありがとうございます悠斗さん!私は荷物を運びますのでこれで失礼します!!」

 

リューは大慌てで店の中に入っていった。

 

「...俺何か悪いことしちゃったのかな...」

 

恋愛に鈍感な悠斗は完全にショックを受けてしまっていた。

 

「(悠斗さんも鈍いんですね...)大丈夫ですよ悠斗さん。リューはちょっと照れてるだけですから」

 

「そうですかねえ...」

 

シルの慰めに微妙に納得のいってない悠斗であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日...

 

「じゃあ神様、悠斗さん。行ってきます!」

 

「う~ん...いってらっしゃいベルく~ん...」

 

「ほいほい、まあ今日は1人でどの程度行けるか試してきてみな。間違っても中層には足を踏み入れるなよ?」

 

「はい!」

 

ベルはそう返事すると、勢いよく飛び出していった。

ここ数日は鍛錬と探索で悠斗が付きっきりだったので、今日はベルがどの程度行けるか試してきてもらうことにしたのだった。

 

「さあて、俺も街の地理を覚えるために買い物がてら探索に出るか」

 

正直、ほとんどダンジョン探索と鍛錬ばかりであまり歩く機会が少なかったために今回は一日街中を歩いてみることにした。

 

 

 

 

 

----------------------------------------

 

 

 

 

 

朝日が昇り、バベルの塔の前の中央広場には今日もたくさんの冒険者が行き交っていた。

パーティを組む者、サポーターを連れてる者、しかしソロはほぼほぼいなかった。それほどにダンジョンにおいてソロ探索は危険ということである。

 

「サポーターかあ...どうしようかなあ...」

 

などと悩みこんでいた。知り合いもいないのでそうそう見つかるものではない。

 

「悩んでてもしょうがない。今度エイナさんに少し相談してみよう」

 

そう言ってダンジョンに入ろうとしたとき

 

「お兄さんお兄さん。そこの白い髪のお兄さん」

 

背後から呼びかけられた声に足を止めた。

後ろを振り向くと、身長1mほどの小さな身体に似合わぬ大きなバックパックを背負い、クリーム色のフード付きローブを身につけた少女が立っていた。

 

「あれ...君は...」

 

ベルはこの少女が昨日いた小人族の少女に似ているように感じていた。 

 

「えっと状況を把握できませんか?簡単な話ですよ。冒険者さんのおこぼれに預かりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」

 

「いや状況はもちろん分かってるけど...君は昨日の小人族の女の子だよね?」

 

「小人族?何のことですか?リリは犬人なんですが...」

 

女の子はそう言いながらフードを外すと、栗色の髪の頭にぴょこんと犬耳が付いており、ローブの下から尻尾も生えていた。

 

「えっ犬人なの?」

 

ベルは思わず確認する。

だ体型や雰囲気そして瞳がそっくりだった。

自然に手が伸び、少女の耳に触れる。

手触りは本物......作り物じゃない。

 

「んんっ...お、お兄さあん...」

 

ベルは喘ぎ声を上げた少女に我に返り、慌てて手を離す。

 

「あ!ご、ごめん!人違いだったみたい!」

 

ベルは素直に謝り、詳しく話を聞くことにした。

 

 

噴水の淵に腰掛け、少女に話を聞いた。

彼女はソーマ・ファミリア所属のリリルカ・アーデという名前だ。

 

「それでどうですか? サポーターは要りませんか?」

 

リリは人懐っこそうな笑みを浮かべ、元気よくアピールをしている。

そんな彼女にベルは

 

「じゃあ、今日一日お願いするよ」

 

「はい!よろしくお願いしますねベル様!」

 

 

リリは笑顔で言った。その笑顔に裏には別の目的を持ち合わせていたことにこの時のベルは気付くはずもなかった...。

 

 

 

 

 

----------------------------------

 

 

 

 

 

「さーてどこから行こうかなあっと!」

 

まだ見ぬ地でウキウキ気分になってる悠斗であった。

 

「食べ歩き、服、食料品、でもいいな。まあ欲を言えばゲーセンで太鼓の達人でもしたかったがな...」

 

この世界にはゲームという概念は無い。ゲームセンターも無ければ当然ながら太鼓の達人も無い。

 

「今なら幽玄ノ乱やカオスタイムを全良できる勢いがあるってのに...ってそう言えばポーションが切れたんだったな。いつもならミアハ・ファミリアに買いに行くんだが、こっからだとディアンケト・ファミリアの方が近いか...しゃあねえ買いに行くか」

 

 

 

忘れる前にポーションを買いにディアンケト・ファミリアの店に訪れた悠斗。

 

「いらっしゃいませ」

 

女性の店員が出てきた。アミッド・テアサナーレ。ディアンケト・ファミリアの団員のレベル2で【戦場の聖女】の二つ名を持つ。

 

「あ、すいません!ポーション×10お願いしたいんですが?」

 

「畏まりました。全部で4万ヴァリスになります」

 

ここの世界の回復アイテムは非常に高く、一番安いポーションでも4000ヴァリス(本作の設定)、エリクサー(万能薬)に至っては50万ヴァリスもする。

悠斗は回復魔法が使える+魔力枯渇無効というチート性能を持っているためそこまで回復アイテムはいらないが、本来の貧乏ファミリアならば回復薬1本買うのにもかなりの出費となる。

 

 

 

「ポーションバカたけーよったく...。さて、ポーションも買ったことだし次は食料品でも見てこようかなあ!」

 

ルンルン気分で外を出ようとしたその時

 

「やっほーアミッド!」

 

「あ、ティオナさん。それに皆さんも」

 

「(ゲッ!あれはロキ・ファミリア!?)」

 

何とタイミング悪くロキ・ファミリアのヒリュテ姉妹、アイズ、レフィーヤが来店してきた。

 

「今日はどのようなご要件で?」

 

「えーっとこの紙に書かれてる素材を取り寄せたいんだけど?」

 

「はい、これはまた...随分と大量ですね?」

 

「まあ、遠征でだいぶ資材も使っちゃったしねえ...それに昨日なんか...」

 

ティオネたちは談笑中していた。

どうやらロキ・ファミリアはこの店の常連客であり、アミッドとも交流が深いようだ。

 

「(お、これはもしかしてチャンスじゃね?今あいつらが話してる隙にこっそり外に出れば...)」

 

音を立てないようにこっそりロキ・ファミリアの後ろを抜け、外に出ようとしたとき

 

 

 

 

「どこに行こうとしてるのかなあ??」

 

悠斗の肩をガシッと背後からティオネが掴んで言った。

 

「逃げようたってそうはいかない」

 

「やっほー!また会えたね!」

 

「あ、えーっとこれは...」

 

「(ば、バカな!俺の隠密スキルが効かないだと!?)」

 

いつの間にか三人に囲まれていた。

どうやらレフィーヤ以外にはとうに気付かれていたようだ。

三人の目がどことなく怖い。

 

「い、いやあ君たちが楽しそうに話してるのを見て邪魔しちゃ悪いと思ったんだ!」

 

「お気遣いなく~こっちは君にも用事があるから!」

 

「ティオネさん。一体どういうことですか?」

 

「それは後で説明するわ。あんたちょっと付き合いなさい」

 

「断る!!お、俺はこれから街中を探索するという大事な...」

 

「ああん!?てめえ女の子の誘いを断る気かゴルァ!!!」

 

今度は悠斗の胸倉を掴み上げる。

これは明らかに誘いではなく脅迫である。

それを突っ込むと本気で殴られそうなので

 

「(む、無茶苦茶な女だなこいつ!)わ、分かりました分かりましたから!」

 

「ふん!最初から素直にそう言えばいいのよ」

 

「やったー!よろしくねー!」

 

「今日こそは...!」

 

「あわわ...」

 

「はあ...不幸だ...(さらば俺の平穏な1日よ...)」

 

悠斗の今日1日街中を探索できるという有意義な時間はあっけなく幕を閉じたのだった。

 

 

 

 



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