結月ゆかりの七変化 (link)
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結月ゆかりの七変化

私、結月ゆかりは最近人間関係で悩みができた。

それはもはや火急の事態であり、のっぴきらない状況でもあり、予断は許されない情勢だった。

詰まる所、どうしようもなく追い詰められており、この状況を打開するにはある事柄に託すしかないだろう。

 

今までならばそれは嫌な事の筈だった。

幼い頃から何度その事で悲しい思いをしてきたか。

 

親の仕事の都合で引っ越しなんて。

 

だけどそれは人間関係をリセットするということに関してはうってつけ、トランプのジョーカー並みの効力を発揮する。

人間関係のリセット、それは今の私に最も必要な事であった。

 

 

「いや、まあ、リセット出来てなかったから困っているんですけど、ね」

 

やれやれとため息ひとつ。ただし口元は笑みの形で。

嬉しくないわけじゃないのだ。ただ、それと同じくらい困っているだけで。

 

弛緩した肩に力を入れ、再びペンを取る。

 

 

さて、いつまでもぐだぐだと書いていると、日記のページが無くなるので簡潔に私の悩みを打ち明けようと思います。

 

私、結月ゆかりはある時を境に引っ越しの度にキャラを変える事になりました。

 

きっかけである同級生の金髪の女の子のときは少しあなたに甘えてる女の子でした。

 

次に訪れた北の地では友達の妹に対してすごく頼りになるお姉さんとして。

 

その次は関西という地にあまり馴染めず無口でクールな大人ぶった私です。

 

また別の県では透明感のある女の子と不思議な会話をしていたら中二病と思われて。

 

音が溢れる街では元気いっぱいな女の子に懐かれつられるように元気に笑ってました。

 

京の町……いや、なにもありません。

 

久しぶりに会った従姉妹に対して面倒見のいい姉として。

 

とにかく引っ越しを繰り返した私は、その都度他人への対応を変えていました。

昔なら、どうせ引っ越しするからと、親しい人を作らないようにしていましたが、あの人に踏み込まれ、連れ出された世界は広く、大きく、開放的で心地よくもあり、温かみに包まれ喜怒哀楽が芽吹き、毎日眼が覚める思いで夢心地でした。

 

そんな私が人々と交流を深めようとするのは当然のことでした。

 

けれども、やり方がわからなかった私は失敗しました。

引っ越しする度にキャラがぶれていくのです。

そのときはそれで良かったのに、今頃になってこんな状況になるとは…。

 

まさか。

 

まさか各地で親しくしていた人たちが、一つの町に集まってくるなんて思ってもいなかったのです。

 

若気の至りとして無かったことにし、素のままで接することができればいいのですが、いざその人達を前にすると以前接していたようにしかできませんでした。

 

そして全員から変わらないねとのお言葉をもらい、窮地に立たされました。

 

どうすればいいのでしょうか?

幸い、まだ友人達はお互いを知らない状況ですが、それも時間の問題でしょう。

頭の中で友人達が一堂に会した風景を思い浮かべると。

それは、まるで、私達は運命に導かれるがごとく、出会うべくして出会ったのではないかというほど、違和感が全くないそれが当たり前と言わんばかりに自然な一枚の絵になりました。

 

近いうちに私達は全員が面識を持ちます。

それは、必然的になるべくしてなるでしょう。

 

その時までに私は身の振り方を考えなければいけません。

どうしましょう。

 

 

「ととっ、電話ですか」

 

手元に置いていた携帯が震え、精一杯の自己主張を繰り返す。画面に表示された名前を見て、じんわりと頰があがる。もしもマナーモードにしていなかったら、太陽のように明るく、向日葵のように燦々とした歌声が響き渡ったでしょう。

私があの人に見た輝きのような。

そんな歌声が。

 

「もしもし、マキさん?」

 

「あっ、ごめんねゆかりん。こんな夜遅くに電話しちゃって」

 

「いえ、マキさんなら全然構いませんよ。それで、どうしたのですか?」

 

「いやー今度…………」

 

「その日なら大丈夫です。それより…………」

 

「うん、そうなの。それで…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「それでは、おやすみなさい。マキさん」

 

とりあえず、悩みのことは明日の私に任せましょう。

 

「このままじゃ暗いですね」

 

習慣となった日記にペンを置き、一文を書き加えた。

 

未来の私が、ふと、このページを見たときにそんな悩みもあったな、と笑えるようになることを祈ります。

 

「いい夢見れるといいな」

 

眠る前に一つの光景を思い浮かべる

 

それは

 

カラフルな色彩がまるで虹のような

 

夢みたいに綺麗で素敵な光景だった



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結月ゆかりの焦燥感

ちまちま書いて今日できたので投稿
書き始めてから滅茶苦茶時間が経っているので着地点は見失いました。



どうしてこうなった…。


「なあ、ゆかりさんって、いっつもコーヒー飲むときはブラックやんなぁ?美味しいん?それって」

 

「すごいよねー、私苦いの苦手だから、ブラックなんて飲めないよ」

 

とある休日の、とある街の片隅にある、とある喫茶店で、私、結月ゆかりは、いつものようにピンチに陥っていた。

 

「慣れればとても美味しいですよ」

 

「かっこええなー、うちも今度からブラック飲んでみよか」

 

ええ、いつものように、です。この街に引っ越してきてからというものの、休日が来る度に私はピンチに陥っています。

それは親しい友人といるときに、必ずと言っていいほど訪れる、私だけのピンチ。

 

「………茜って、そのカフェラテに砂糖何個足したっけ?」

 

「3個」

 

「カフェラテに砂糖?甘すぎませんか?」

 

「甘いんは幸せの味やからなー」

 

「絶対茜にはブラック飲めないよ」

 

「ええー、そんな事ないってー」

 

今も私の視界にチラチラと入り込んでは、じわりじわりと焦燥を掻き立てる、ゆらゆらたなびく名状し難き金色の細いやつ。

茜ちゃんの向こう側に見えるあれの正体は、ずばり!マキさんのアホ毛だあぁぁ!

 

「ええ香りやわ」

 

「大人ぶってるけど、この後の絵が容易に想像できるよ」

 

「あら?」

 

気分を落ち着かせようとコーヒーに伸ばした手が空を切る。いつのまにか、私の手元にあったコーヒーが茜ちゃんの手に渡っていた。

 

「茜さん、そのコーヒー」

 

「ちょい待ってな?飲んだらすぐ返すから」

 

「なぜ茜さんが?」

 

「ん?ちゃんともろてもええか聞いたで?」

 

「ゆかりさん、いいですよ…って返事してたよ」

 

「あっはは、葵ゆかりさんの真似似てへんなー」

 

「うるさい」

 

「じゃ、いただきまーす」

 

なんと、別の事に気を取られるあまり、無意識に返事をしていたようですね。

それもこれもマキさんが悪いんです。

季節が秋だからか、空調も弱いこのカフェの中で、どうすればそんな気ままにアホ毛が動くのですか。

動き方もなんだか嬉しそうですし…、何がそんなに嬉しいんですか?

私が必死の思いで、優雅さを失わない体勢をとりながら茜ちゃんの影に隠れているというのに、この体勢、ちょっと腰が痛いんですよ!?それなのにマキさんと来たら四人のお友達に囲まれて楽しくお喋りですか!?

 

「あら?」

 

気分を落ち着かせようとコーヒーに伸ばした手が空を切る。そういえば私のコーヒーは茜ちゃんが持っていることを忘れてました。

 

「あの、茜さん。コーヒーを…」

 

「アカンアカンアカンアカン、苦すぎるわなんやねんこれこんなんあったらあかんやろ、えっ?なに?拷問?ゆかりさんなんでこんなん飲めるん?顔色一つ変わってへんかったで?おかしいやん、アカン全然苦味とれへん、こんな世の中間違っとる、中和せな、カフェラテ、ない、砂糖、アカン、手が震えてもうて砂糖が摘まれへん、助けてアオイ、アオイ助けて、助けて」

 

虚空を掴もうとする自分の手から視線を外し顔を上げると、茜ちゃんがホラーゲームをした時のきりたんの如く全身を震わせていた。

反射的に吹き出しそうになるのを太腿を思いっきり抓る事で我慢する。

落ち着け私、この二人の前での私は、いつでも落ち着いていて、清楚で上品な大人の私です。だから落ち着けワタシィ。

 

「茜さんはどうしたんですか?」

 

……ふぅ。なんとか笑いの波が収まりました。

 

「コーヒーが苦すぎたみたい。すごかったよ、茜。ぐいって一気に飲んだと思ったら、カチーンって全身が固まって、ガタガターって」

 

なんとも可愛い状況報告ですね。そんな呑気な葵ちゃんとは裏腹に茜ちゃんは大変な状態です。手どころか全身が震えています。右手のコーヒーカップも左手のシュガートングも震えて、パチャパチャカチカチ鳴っています。茜ちゃんの必死な形相と相まって、なにかの禁断症状が出た人みたいですね。

私が目を離したほんの少しの間に、これだけの事が起こるなんて流石は関西人、というか茜ちゃん。事情がわかっていれば途轍もなく面白い状況なのですが、周りから見れば尋常じゃない状態。そろそろ助けないとまずいですね。主に周りの目が。

というか葵ちゃん。そんな呆れた顔で我関せずみたいな態度を取らないであげてください、茜ちゃんからコーヒー取り上げたのは感謝しますが、何故そのまま飲むんですか?しかも飲んだ後にちょっと舌を出して「苦っ」て、可愛いですね。じゃない、今は茜ちゃんです。

 

「ほら茜さん口を開けてください」

 

腰を上げてテーブルの上に身を乗り出す。しかし上半身を低くし茜ちゃんの影に隠れるように、顔をある程度近づけ下から茜ちゃんを覗き込むような状態で、人差し指と親指に摘んだ砂糖を差し出した。

 

どうですか?これなら角度的にマキさんの机からは私の姿が見えないはずです。

あっ、けれども茜ちゃんが動けば丸見えですから、空いてる左手を茜ちゃんの頬に当てて固定すれば完璧ですね。

 

「茜さん、あーん」

 

「あ、あーん」

 

「はわぁ」

 

「苦味は消えましたか?」

 

「……あまいわぁ」

 

「それは良かったです」

 

「はわわ」

 

赤らんだ顔を俯かせ、消え入りそうな声での返事でしたが、なんとか聞き取れました。

未だにもごもごと口を動かしているのは、幸せの味とやらを噛み締めているのでしょうか?

両手を頬に当て、えへへと口を緩めている茜ちゃんは非常に愛くるしいです。

 

ところで、人の目がある喫茶店の中で、あーんされた茜ちゃんが恥ずかしがるのはわかるのですが、どうして葵ちゃんまで顔を赤くしているのでしょうか?あれですか?双子特有のシンパシーみたいな感じですか?

 

っと、マズイ。

マキさん達が帰る準備をしていますね。椅子に座っている間は茜ちゃんが壁になっていて、マキさんが振り向いたとしても私の姿が隠れていましたが、立たれると丸見えになります。他所ではあまり見ない、様々な髪の色をした人がゴロゴロいるこの街でも、今のところ紫色の髪は私以外に見た事がありません。

マキさんは私がこの街にいることを知っています。というか昨日デパートに二人で買い物に行きましたし。

つまりマキさんの視界に入る紫の髪の毛=私という方程式が成り立つのです。

これが私一人の時なら、喜んでマキさんの視界に入って見つけてもらうのですが、茜ちゃんと葵ちゃん。この二人といる時では話が別です、どうにかして隠れないと。

 

「ゆかりさんさっきからどこ見とるん?」

 

失敗した、非常にまずいです。今すぐに二人の注意を引かなければいけません。後ろ姿ならまだ救いはありますが、マキさんの顔を見られると詰みです。何としてでも二人が後ろに振り返るのを阻止しなければ。

今この場にある物、今までの会話、今までの行動これらを使って二人をこちらに注目させるには…。

 

ああ、せいかさん。ありがとうございます。

 

「そういえば今日、後ろの方ちらちら見てたね。知り合いでも居るの?」

 

「あっ」

 

「どうしたん?」「どうしたの?」

 

「間接…キス、ですね」

 

コーヒーを飲んだ時、思わずと言った風に声を上げ、注意を引く。その後伏し目がちに相手を見て、人差し指を下の唇当てるなどのアクションを挟みつつ、最後に微笑みを浮かべる。

せいかさんの家にあった漫画での一コマですが、これで相手を釘付けに出来てましたから、二人にも効果があるでしょう。

漫画でも女性同士でしたし、その後もより親密になっていたので問題はありませんね。間接キスが嫌ならそもそも人のコーヒーは飲まないと思いますし。多分このやり取りは仲のいい女の子同士なら、皆んなするようなものなのでしょう。そういうのちょっと憧れていたので少し嬉しいですね。

 

そう言えばあの漫画、読んでる途中に、顔を真っ赤にしたせいかさんに取り上げられたので、最後まで読んでいませんでした。

あの時は余りにも必死なせいかさんに押されて読むのを諦めましたけど、今になって少し気になりますね。

最後に見たシーンではシャワーを浴びていたので、多分あの後はお泊まり会というものをするのでしょう。

 

お泊まり会。

なんて楽しそうな響きでしょうか。私もやってみたいです。丁度目の前に茜ちゃんと葵ちゃんが居るので誘ってみましょう。

 

「「あわわわわわわ」」

 

「話は少し変わりますが、葵さんと茜さん今日、家に泊まりに来ませんか?」

 

「いっ!いえぇっ!?」

 

「と、泊まりぃ!?」

 

二人ともどうしたのでしょうか?凄く顔が赤いですし、声も裏返ってます。二人共唇に指で触れているので、やはり、いくら仲がいいと言っても間接キスは恥ずかしいのでしょうか?

まあ、確かに私も改めて口に出すのは恥ずかしかったですが、それよりも仲のいい友達同士でしかしない、特別なやり取りが出来たので嬉しさの方が強かったですね。

思わず唇に指を当てて思い出し笑いをするくらいには。

 

「ふふっ」

 

「あ、葵!ゆかりさんってそっち系のひとなんかなぁっ!?」

 

「そ、そんなの、知らないよ!き、聞いてみたら!?」

 

「聞けるわけないやん!?葵が聞いてえな!?」

 

「わたしぃ!?」

 

「と、遠まわしでええから」

 

「そ、そんなの無理だよぉ」

 

二人はメニュー表で顔を隠して相談しているみたいですね。

 

そのアイデア貰いました。

私もメニューを見てるふりをしてマキさんをやり過ごしましょう。友達といる時に、別の友達を優先するなんて出来ませんからね。本当は四人で仲良く出来たら一番なのですが、私のバカ。後悔先に立たずとはよく言ったものです。

 

そうこうしている間にマキさん達が出て行ったので私もメニュー表を下ろしましょう。

二人の相談も終わったようですし、この後のことを考えるとドキドキしますね。顔が赤くなってないでしょうか?

 

「ゆ、ゆかりさん」

 

「なんですか?葵さん」

 

「泊まりって」

 

「ええ、お泊まり会です」

 

「おとまりかい」

 

「はい。一緒にご飯を食べたり」

 

「ごはん」

 

「お風呂に入って洗いっこしたり」

 

「…あらいっこ」

 

「同じベッドで一緒に寝たり」

 

「………どうきん」

 

「ゆ。ゆかりさん、なんで顔赤いん?」

 

やはり赤くなってましたか。

けど、それだけ楽しみにしていることを伝えれば、二人も来てくれるのではないでしょうか。二人とも本当に優しい人達ですし。

よし、少し子供っぽい理由なので恥ずかしいですが、私の本心を伝えましょう。

二人が持っているであろう、私のイメージとは少し違うかも知れませんが、大丈夫な範疇でしょう、多分。

 

「ええ、恥ずかしい話ですが、この後の(お泊まり会の)事を考えると(楽しみで)胸がドキドキしてますね。(お泊まり会は)初めてなので少し不安もあるのですが、お二人となら(ご飯とかお風呂とか)沢山のことを楽しめると思うんです」

 

ちょっと焦りすぎましたね。胸の内を明かした筈ですがいくつか単語が飛んでいるかもしれません。まあ、大した事ではないでしょう。

それよりも何故二人は、話してる最中に段々と顔を伏せていくのでしょうか?

泊まるかどうか迷っているのですかね?

それなら今が畳み掛けるチャンスですね。余り無理強いはしたくないのですが、話している間にもお泊まり会への期待値が高まり続けてます。

この機会を逃したくありません。

 

テーブルの上で握られている二人の手を解きほぐし、自分の指を絡めてから軽く引き、二人に顔を上げさせます。

そして目があったときに頼み込めば…。

 

「茜さん、葵さん(お泊まり会)しましょう?」

 

「「………はぃ」」

 

ほとんどの人が聞いてくれる。

流石はせいかさんの持っている漫画ですね。とても為になります。

それはそうと二人の了承も得たことですし、二人には一先ず家に帰って貰って、お泊まりセットを持ってきてもらいましょう。

 

「お二人は家に帰ってお泊まりの準備をしてきてください」

 

「「はい」」

 

「私も家に帰って色々と用意しておきますから、来てくださいね」

 

「「…はい」」

 

「それでは、ここを出ましょうか」

 

「「………はい」」

 

この後滅茶苦茶お泊まり会した。




意味深ではない


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結月ゆかりの因果律

続きましたー
携帯で最初のひと段落開けれないの辛み
最近聞いたIAのGirlって曲がいい感じでしたので興味があればアップルミュージックで聞いてみてください。

では、本編へどうぞ

天丼は2回までなら許されるはず


「……久しぶり」

 

「……ゆかり」

 

その人を初めて見たとき、ただただ神秘的だと思った。

光の当たり具合により色が変わる灰色の髪に、透き通ったマリンブルーの瞳。視線はどこを見ているのか見当もつかず、私とは違うものをぼんやりと捉えていた。

光の粒子がこの人の周りを踊っているのを幻視したほど、あの日、学校の屋上で、月に照らされ、宙を見上げていた姿は、同じ人間とは思えないほど、ただただ、神秘的だった。

 

「お久しぶりです、IAさん」

 

とある街のとある商店街の片隅で、久しぶりにこの不思議な生物と再会した。

 

 

 

 

 

「お久しぶりです。IAさん」

 

「……ゆかり」

 

「……今何してるの?」

 

この特徴的な会話の間、変わってませんね。

IAさんとの会話で気をつけることは、彼女は言い回しが独特というか、言葉の意図が少しずれているというか、なんといいましょうか、必ずしも言葉の通りの事を言っているわけではないということです。

例えば今の言葉は、ええと、これはIAさん的には今暇ですか?と聞いた筈。

 

「ええ、時間は空いてますよ」

 

口角が少し上がりましたね。どうやら当たっていたようです。

 

ああ、段々とどんな会話をしていたか思い出してきました。

しかし、あれですね。昔を思い返してみると、私と IAさんが教室等で交わしていた会話は、側から見ると控えめに言って意味不明ですね。

なぜ休日に会う約束をするのに、月の満ち欠けの話が出てきていたのでしょう?

 

「……そっか」

 

 

「……コーヒーの匂い」

 

おっと、過去に思いを馳せるのはまたの機会にしましょう。今は久しぶりに会えたIAさんの相手です。

 

なるほど、コーヒーの美味しいカフェに行きたいと。

 

「それでしたら、この近くに」

 

「……輝きが」

 

インターセプト!?コーヒー以外にも要求があるのですか?輝き?一体何を指しているのでしょうか?

 

「……もうすぐ頂点に来るね」

 

頂点?輝きが頂点?輝き、光、陽の光、お昼、ランチ!ランチも食べたいと?相変わらずこの人は。言い回しが独特すぎて解読するのにも一苦労です。同級生だった頃から変わりませんね。そんなんだから流行っていた漫画の影響もあってか私達、宇宙姉妹なんて呼ばれていたんですよ!

 

まあ、そんなあだ名で呼ばれても、IAさんとの謎の会話を辞めなかったのは、私なのですけど。

だって仕方ないじゃないですか!この人ちょっと寂しがり屋な部分があって、時々間違えたりすると悲しそうな表情になって、眉なんてへにょんってするんですよ!?そんなのあだ名が嫌だからって、見捨てられませんよ。

 

って、私は誰に言い訳をしているんでしょうか。

 

まあ、過ぎ去ったことはもういいです。それよりもお昼ですか。それなら…。

 

「それならいいお店を知っています。一緒に行きますか?」

 

「……うん」

 

あ、笑った。可愛い…。

ほんと、この神秘的な雰囲気の中にある幼げな表情はずるいです。何度この不思議生物の無自覚な我儘をこれで許してきたか。

 

「……世界は」

 

「……移ろっていく」

 

「まあ、時々苦労することもありますが、概ね慣れましたね」

 

「……そう」

 

「はい。IAさんはどうですか?」

 

「……もうすぐ」

 

「……声が」

 

「……この街にも響くから」

 

「本当ですか?」

 

「……うん」

 

「おめでとうございます。私も聴きに行きますね」

 

「……ありがとう」

 

「……案内は?」

 

「そうですね、一人で大丈夫です」

 

「……そう」

 

「いつも言ってますけどチケットは自分で買いますよ?」

 

「……私の」

 

「……願い」

 

「ありがとうございます」

 

IAさんと取りとめもない会話をしつつ、喫茶店へ向かっていますが、どうも先程から跡をつけられていますね。最初はIAさんの追っかけかと思いましたが、どちらかというと私の知り合い、いえ、知ってる人ですね。

あの目に毒な蛍光グリーンのスーツに、赤いネクタイという特徴的な服装は間違いなく京町セイカさんです。

 

あの人も IAさんとは別ベクトルで変な人です。

自己紹介の時に、自分の事を未来から来たエージェントと名乗ってしまう人は十分以上に変人ですからね。

あの時、引越したマンションの隣の部屋が、せいかさんだった事で私の京都ライフは暗黒に包まれました。

考えてもみてください。隣に人のことを特異点だとか、因果の収束地だとか、未来がどうのこうの言ってる人がいたら、どんな噂がたつか。

1日1回は私の目の前に現れましたからね、あの人。

次第にまともな人は減り、せいかさんのお仲間が集まってきましたよええ。

何故かその内、噂の内容が真実だと信じられる様になりましたし。

 

「本当、いい迷惑です」

 

「……?」

 

「せいかさん、出てきなさい」

 

「久しぶりね特異点」

 

「それ、やめなさい」

 

「いいえ、貴方には自覚が足りない。今日も星屑の巫女を連れているというのに」

 

「そういう貴方は自覚がありすぎです。あとIAさんを変なあだ名で呼ばないで下さい」

 

今日のせいかさんは面倒な仕事モードの時ですね。

スイッチがオフの時のせいかさんは…まあ、ちょっと変ですけど付き合いやすい、いい人なのでどうも邪険にしにくいです。

 

「……ゆかり」

 

「……へん」

 

………………あ、あなたがそれを言いますか!?

 

いや、確かに人の事を特異点と呼んでる人は、控えめに言って頭がおかしいんじゃないかとは思いますけど!IAさんも十分変ですからね!?

あと人を指差ししてはいけません。

 

「IAさんももう少し自覚して下さい」

 

「……ゆかり」

 

「……あなただけ」

 

それはどういう意味ですか、IAさん?

まさかその、独特の間が空いてる変な話し方をするのは私だけだと?

確かにライブのときのMCは一言一言が短いですけど、ちゃんと喋ってますし、本当は普通に喋れる?

 

「IAさん?」

 

「……なに?」

 

まあ、たとえそうだとしても、このふんわりとした微笑みを見せられては追求できませんね、昔から。

 

「それは光栄ですね」

 

「……うん」

 

「キマシタワー」

 

せいかさん?今、素が出てましたよ。

マンションに住んでたころ、せいかさんの部屋から時々深夜に聞こえてくる鳴き声がばっちり聞こえました。

 

あの鳴き声、聞こえてくるたびにどういう意味か調べようと思うんですが、深夜に聞こえるせいで起きてから調べようとして、そのまま忘れてしまうんですよね。

今日帰ってから調べてみましょう。

それはそうと…。

 

「せいかさん。私達は今から喫茶店に行くので、お帰りください」

 

「いいえ、私も付いていきます。いいですか?星屑の巫女」

 

「何を勝手に…」

 

「……いい」

 

「IAさん!?」

 

どうしたのですかIAさんふるふると首を振って!?まさかこの蛍光グリーンのスーツを着て赤いネクタイを付けてる、自分の事を未来人と自称して、人の事を特異点と呼ぶあぶない人に何かされたのですか!?

 

「……星屑の」

 

「……巫女」

 

「気に入ったのですか!?」

 

頷かないで下さい!!私嫌ですよIAさんの事を変なあだ名で呼ぶの。

 

「では、案内をお願いしますね」

 

「まあ、IAさんがいいのならいいでしょう。こっちです」

 

「ありがとう。ゆかりちゃん、星屑の巫女」

 

「……星屑の」

 

「……巫女」

 

「呼びません!!そんな顔してもダメです!」

 

あからさまにしゅんとされても、恥ずかしいものは恥ずかしいです。

 

それにしてもこのメンバーで喫茶店ですか。

 

私、自称一般人、他称、特異点。

IAさん、自称星屑の巫女、他称、宇宙人。

せいかさん、自称未来人、他称、あぶない人。

 

…………普段とは違う意味で知り合いとは会いたくないですね。

 

というか、あとこれ、超能力者がいたら完璧ですね。

まあ、私の知り合いに超能力者はいませんから、大丈夫でしょう。

 

…………吉田くんは島根から出ないでしょうし、いけるはずです。

 

「っと、着きました。ここです」

 

「……コーヒーの香り」

 

「はい。ここのコーヒーはとても美味しいですよ」

 

「新たな因果を観測」

 

「喫茶店でも変な事を言い続けたらぶっ飛ばします」

 

せいかさんが変な事を言うからちょっと不安になってきました。大丈夫ですよね?顔色が悪い紫色の菩薩峠君とかいませんよね!?あの人怖いんですよ!眼力とか凄くて!

 

「……ゆかり?」

 

「ゆかりちゃん?」

 

ええい、いざ!南無三!!

 

 

 

「待っていましたわよ。ゆかりちゃん」

 

霊能力者入りましたー!!

 

この後めちゃくちゃお茶会した。




その後の喫茶店での会話

「IAさんは何にしますか?」
「……ふわふわ」
「……自然の」
「……甘露」
「飲み物はどうします」
「……闇夜の」
「……貴婦人」
「メープルホットケーキとコーヒーのモカですか、いいですね」

「これは!?」
「どうかいたしました?」
「因果が薄くなっている!?」
「気づきますの?」
「では、あなたが?」
「ええ。時々、厄を払ってあげないといけませんの」
「成る程、どおりで」
「元々、あなたもそのつもりですわよね?」
「ええ、そのつもりでしたが、今日はお願いします」
「任されましたわ。ですがこう見えても私、忙しいので」
「ええ、その時は私が」

((それにしても))

(さっきから一体何の話をしているんでしょうか?せいかさんとイタコさん)
(さっきから一体何の話をしていますの?ゆかりちゃん達)


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結月ゆかりの人生観

いいサブタイが思い浮かびませんでした。
どうして漢字三文字にしてしまったのだろうか。

あと、あらすじを変えて小説の形態を連載にしました。


 噴水の前にあるベンチに座り、手に持っている本を読み進める。

 待ち合わせ相手が来るだろう時間より15分ほど早く来たため、手持ち無沙汰になることは必然だった。

 時間をつぶすために持って来たのは先日、せいかさんから借りた本。これがなかなかに興味深い内容です。

 すばり、女の子同士の恋愛についてですね。

 

 以前から気になっていたキマシタワーの意味を調べると、どうやら女の子同士の恋愛描写が出たときに発せられる言葉らしいです。

 度々せいかさんがこの言葉を使っていたのはそういう本やテレビなどをよく見ていたからだとか。

 

 この前のお茶会でIAさんと私が恋仲同士であると勘違いしていたようなので、それを訂正しに行ったときに聴き出しました。

 その際、せいかさんに日頃の恨みもあってか、女の子同士の恋愛が好きなのかとか、私とIAさんは恋人では無いことをからかうように耳元で言ってしまったのは反省点ですね。

 せいかさんが真っ赤になって顔を伏せてしまいました。

 

 よくよく考えてみれば、世間一般的に受け入れられ難い趣味なのでしょう。

 以前、マンガを読んでいたときに慌てて止められたのも、趣味を露見させたくなかったからでしょうし。

 せいかさんには悪いことをしましたね。

 

 今度、本の感想といっしょに一言謝りましょう。

 

 けれども、変な空気を変えたくて、せいかさんにお勧めの小説を借りたのは我ながらグッジョブです。

 せいかさんの安堵したかのような笑顔を思い出します。

 

 

(「まあ、私的にはせいかさんがどんな趣味を持っていても構いませんし、付き合い方も変わりません」

「それよりせいかさんのお勧めの作品をおしえてくれませんか?」

「せいかさんが好きなものなので、少し興味が出てきました」)

 

 

「……ぁぁぅ~」

 

 いやいやいやいや、そちらは思い出さなくても…。我ながらクサイ台詞ですね。

 けど、紛れも無い本心ですし、それによってせいかさんが元気になったのも事実。

 何を恥じる必要がありますか!

 と、いうことにしましょう!!

 

 

 人の心というのは中々、わかってもらえないものです。

 目と目を合わせて、言葉を尽くして、想いを告げる。

 それだけしても伝わらない事が何度もありました。

 

 それでも、黙っていては何にも伝わらないのです。好きなことや楽しいことは共有したいですし共感したい。嫌なことはやめて欲しいしやって欲しくも無い。

 自分から動かないとわかってもらえないのです。

 それが面倒だからって周りを切り捨てることも出来ません。

 

 人は一人では生きていけませんから。

 

 孤独は、つらいものだから。

 

「……来ましたか」

 

 周りに居た人達が風に煽られる木々ように騒ぎ出す。

 視線が公園の入り口に停まった、テレビや漫画でしか見たこともないような長い車に注がれる。

 あの中に私の待ち人がいるのでしょう。

 自然と足がそちらに向かっていた。

 

 だんだんと距離が近づいていく。

 ドアを開けようとしているお手伝いさんの顔が見える。

 周囲の視線が私にも集まり、何故か私と車の間に道ができた。

 車との距離が元いたベンチから半分ほどになった。

 

 今日こそは言うんだ、嫌なことは嫌だと。

 そうしないと伝わらないから。人は、言葉を尽くす事ができるのだから。

 

 たんたんと距離を詰めていく。

 お手伝いさんが開けようとしたドアが勢いよく開き、白い少女が弾丸のように飛び出した。

 私の足は止まった。

 

「………お……さま!」

 

 今日こそは言うんだ、嫌なことは嫌だと。

 目と目を合わせて言えば、わかってもらえる娘なのだから。

 

「ゆかり……ー…ま!」

 

 どんどんと距離が近づいてくる。

 その娘は凄く嬉しそうな顔をしている。

 釣られて私も笑みがこぼれた。

 

「ゆかり…ねー…ま!」

 

 今日こそは言うんだ、恥ずかしいものは恥ずかしいと。

 そうしないといつまでもその呼び方をするだろうから。

 

「ゆかりおねーさま!」

 

 そうして、距離がゼロになった。

 その娘は強く抱きしめてくる。

 心を込めて優しく抱きしめ返した。

 

「あかり。おねーさま呼びは…」

「会いたかったです!ゆかりおねーさまっ!!」

 

 やめて欲しいのですが。

 そう続けようとして、敗北した。

 それを言えば、このひまわりのような笑顔が曇ってしまうから。

 だから、また今度、言うことにしましょう。

 

 そう思うのも何度目だろうか。

 

「ええ、私も会いたかったですよ…あかり」

 

「はい!」

 

 私より背が小さいあかりのおでこに、自分のおでこをくっつけて笑顔を見せる。

 そうすれば、また目の前で大輪の花が咲く。

 

 これもいつも通り。

 

 そうして、何故か巻き起こる周囲の拍手も、遺憾ながらいつも通りのこと。

 

 けど、巻き起こる歓声に包まれ、沸き起こる羞恥心を必死に押し込める私の表情は、それでも笑っていた。

 

 

 

 

 …………さて。

 ここからどうしましょうか。

 未だに周囲は私達を見ていますね。拍手こそ鳴り止みましたが、ここからどうなるのだろうかと、まるで舞台を観ているかのような眼を向けられています。

 あかりは全く気にすることなく頭を擦り付けて来てますし、今日の目的であるショッピングに行こうという素振りもありません。

 ほんと、どうしましょうかこの娘。

 

「お嬢様、忘れ物ですよ」

 

「セバスチャン!」

 

 決して大きくはない、けれど何故か耳にスッと入る声が目の前から聞こえた。

 白く染まった髪を後ろに流し、柔和な笑顔を浮かべ、モノクルを掛けている。燕尾服には埃一つ付いておらず、純白の綿手を着けた初老の男性が、いつのまにか私達の2メートル程離れた場所で、閉じられた日傘を片手に微笑ましいものを見るかのような目でこちらを見ていた。

 

 彼は紲星家に代々仕える執事の斎藤さん、格好や立ち振る舞いが凄くらしいですが、断じてセバスチャンという名前ではない。

 周囲の人も「凄え、本物だ」とか「生セバスチャンだ!」とか言っていますが彼はセバスチャンではありません。

 たとえ斎藤さんがセバスチャンよりセバスチャンセバスチャンしていても、彼はセバスチャンではなく斎藤さんなのです!

 

「お久しぶりです、斎藤さん」

 

「ほっほっほっ、お久しぶりですな、ゆかり様」

 

 出ましたね斎藤さんのセバスチャン笑い。この人は外見だけではなく言動ですらセバスチャンのようなのです。

 たから過去の私はあんな過ちを犯したのだ。

 

「ところで、ゆかり様はセバスチャンと呼んでくれないのですかな?」

 

「いや……あの…」

 

「せっかくゆかり様から頂いた名前なのですが…」

 

「ほんと…ごめんなさい」

 

 消え入りそうな声で謝ることしか出来なかった。

 ほんと、穴があったら入りたい気分です、鏡を見なくても顔が真っ赤になっているのが分かります。

 未だに抱きしめ合ったままのあかりの肩口に顔を埋めて呻くことしかできません。

 そうですよー、私が最初に彼をセバスチャンという渾名で呼んでいました。それをあかりが真似して、今では紲星家では誰もが彼をセバスチャンと呼ぶようになりました。

 過去に戻れるならあの日の私を何をしてでも止めたいです。

 

「セバスチャン!ゆかりおねーさまを虐めないでください!!」

 

 あかり…。庇ってくれるのは嬉しいのですが、あなたが彼をセバスチャンと呼ぶたびに申し訳なくなりますし、おねーさま呼びもできればして欲しくないので逆効果です。ダブルパンチになってます。

 

「これはこれは、怒らせてしまいましたかな?」

 

「怒ってません!もう…いきましょう、ゆかりおねーさま」

 

「ほっほっ。どうやら私の役目はここまでのようですな。それではごゆるりと」

 

「ありがとうございます。斎藤さん」

 

「あの…ほんとに怒ってないですからね?日傘、ありがとうございます」

 

 日傘を受け取り、恭しく腰を折る斎藤さんにいろいろな意味でお礼を告げ、そのままあかりの腕を取り、噴水の向こう側に見えるデパートに向かって歩き出す。

 助け舟だったとしても、もう少しやり方を変えて欲しかったですね。

 

 私達が歩き始めたことで周りに造られていた人垣が崩れ、さながらモーゼの奇跡のように道が出来る。

 なんだか、公園で待ち合わせをしただけなのにどっと疲れました。

 

「本当、前途多難です」

 

 それでも、隣であかりが楽しそうにしているだけで気分が良くなるのですから、我ながら現金なもの。

 

「あかり」

 

「なんですか?」

 

「今日は楽しみましょうね?」

 

「はい!!」

 

 ああ、今日は長い1日になりそうです。




この後一緒に買い物をする話を書いて2話構成にするか迷ってます。

どっちにしろ次の話はまだ一文字も書いてないのでしばらく先になるとは思いますが…。
どうか長い目で見てください。


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結月ゆかりの羞恥心

デパート編終わらなかったんですが!?
なんというか、毎度のことながら前置きみたいなのが長すぎるんですかね?今回もデパート前の公園で千四百文字くらいはいちゃついてますし。
次に投稿しようと思っていた話でも、東北家の廊下でゆかりさんが一人で歩いているだけなのに千文字くらい使ってますし。
まあ、作者はこの書き方しかできないのでどうしょうもないんですけどね。

たぶん次の話もデパート編になります。
ああ、きりたんが遠のいてく。


 紆余曲折あったものの無事にデパートへ向かうことが出来ましたがここで問題が一つ。あかりが日傘を渡してくれません。

 私が日傘を開こうとしたら「私がさします!!」と張り切り、それ以降「大丈夫です!」とか「私がゆかりおねーさまを守ります!」などと言って私に渡してくれません。

 

 とっっっっても可愛くないですか? 私の従姉妹。さっきからにやけそうになって大変です。

 あかりの声が大きく元々通りやすいのも合わさって、未だに私達は遠回しに見られていますがそれももう気になりませんし、それに、無理もないことかも知れませんね。

 なにせとっても可愛い格好をした私の従姉妹がいますからね!

 

「っと、そうでした」

 

「どうしたのですか?」

 

「あかり、今日の服装とっても似合ってますよ」

 

 危ないところです、服装を褒める事を忘れるところでした。

 今日のあかりはバックフリルが可愛らしい無地のカットソーに上品な黒いフレアスカート、靴もアンクルストラップタイプのサンダルと全体的に見て落ち着いた服装をしています。髪型もいつもは編んでいる髪を解いてストレートにしていますね。緩くカールをつけているので印象がいつもと全然違って見えます。凄く愛くるしいですね。

 ちょっと今日の服装とは合ってなさそうなブレスレットも昔私がプレゼントした物なので、それを着けて来てくれたのも嬉しいです。全体的にあかりの可愛いところを損なわず、いつもよりちょっと大人っぽい感じに仕上がってますね。

 

「髪も似合っていて素敵です。おしゃれさんですね、あかりは」

 

 けれど、いくら大人っぽく見えてもあかりは可愛い私の従姉妹です。顔を真っ赤にしてこちらの肩に額を押し付ける姿はとっても愛らしく、頭を撫でてあげたい衝動に駆られますが、せっかくのセットが崩れてしまうので出来ません。

 仕方がないのであかりの腰あたりに腕を回し、ぐっと引き寄せて抱きしめることにします。

 

「少し見ない間に大きくなりましたね。あかりはいつまでも可愛い私の従姉妹だと思っていたのですが」

 

「……………………」

 

「誇らしいような、寂しいような、少し、複雑な気持ちです」

 

「ぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅ」

 

 こういうところは変わってませんね。

 昔から少し褒めれば大袈裟に喜んで、褒めちぎると真っ赤になった顔を見せたくないのか、痛いほどこちらに押し付けてくる。

 昔はその反応が可愛くてわざと褒め殺しにしたりもしましたね。若気の至りというやつです。

 

「ずっと、こうしていてもいいですが、せっかくのお出かけです。そろそろ行きましょうか」

 

「そそそそそうですね!いきましょう!」

 

 顔を赤らめたあかりの背を軽く押して止まっていた足を動かす。

 

 心地よい風に暖かい日差し。

 作られた日陰の中、側に有る人の温もりが一層感じ取れる日傘は、澹蕩とした世界に私達だけを招待してくれる、素敵なアイテムなのかも知れません。

 

「ゆかりおねーさま」

 

「なんですか? あかり」

 

「ゆかりおねーさまも、とっても素敵です」

 

「ありがとうございます」

 

 私の服装は……まあいいでしょう、穏な感じの服です。それより、思いどおりの反応を得られなかったあかりが頬を膨らましていますけど、甘いですね。

 あかりに褒められたのは凄く嬉しいですが、今まで年上として接して来ましたし妹として見ていますから、微笑ましく思うばかりです。私を照れさせるのには百年早いです。

 

「ほら、行きますよ」

 

「……はーい」

 

 頬をぷっくら膨らませたあかりはデパートに着けば機嫌も治るでしょう。

 それはそうと、あかりの付けている香水の香り、私の好きなタイプの香りですね。後で香水のブランドを教えてもらいましょう、私も欲しいです、これ。

 

 

 

 

「あら」

 

「お久しぶりですね、ゆかりさん」

 

「……ええ、お久しぶりですね、ずん子さん」

 

 デパートに着いた後、あかりとウィンドウショッピングを楽しんでいたらずん子さんとばったり会いました。

 気品に溢れる着物を着たずん子さんが、ビニール袋片手にデパートにいる姿がどこかちぐはぐに映ります。

 東北に住んでいた頃は、袴を履かない太腿を大胆に露出させた弓道着姿が印象に残っているので、尚更ですね。

 

 ですが。

 

「綺麗な着物ですね。とってもよく似合ってます」

 

「ありがとうございます。そういうゆかりさん達も素敵な装いですよ?」

 

「ありがとうございます」

 

 いやいや、本当に綺麗でまるでお姫様のようです。化粧もきっちりと仕上げていて、いつ見ても美人なずん子さんがさらに美しくなっていますね。見惚れて少しばかり挨拶が遅れました。

 

「今日は何かあったんですか?」

 

 流石のずん子さんも家の中ならともかく、外に出かけるときは普通の洋服を着ていますからね。四六時中着物姿なのはずん子さんの姉であるイタコさんくらいです。あの人は着物姿に狐の耳まで付いていますから、この町ではちょっとした有名人です。

 

「今日は結婚式にお呼ばれしてまして」

 

「なるほど……それはおめでたいですね」

 

「はい!……ところで、そちらの可愛らしい方は妹さんですか?」

 

 そういえばあかりの紹介がまだでしたね。

 

「この子は紲星あかりと言いまして、私の親戚で従姉妹にあたりますね。あかり、こちらは東北ずん子さんです。私の大切なお友達です」

 

「初めまして、紲星あかりです。東北家の皆さまには家族共々お世話になりました」

 

「初めまして、東北ずん子です。こちらこそ、紲星家の方々にはこの地に居を構える際、色々と便宜を図っていただき感謝の念に堪えません」

 

 んんん?

 一瞬にして別世界が形成されたんですが?

 なんですか?あかり。そのもの凄く品のあるカーテシーは。私そんなあかり見たことありませんよ?

 ずん子さんはまあ所作は割といつも通り、ですが格好が格好ですから、和洋それぞれのやんごとなき人達の会談のような感じになっているんですよね。

 それはいいんです。二人とも大きな家の娘ですから色々とあるのでしょうし。

 けれど問題は私が普通の家に生まれた一般庶民で、ここが大勢のひとがいるデパートの中だということです。

 

 私、どうすればいいんでしょう? 場違い感が半端じゃないんですが。二人の会話はまだ続いていますし、私は微笑んだまま佇むことしか出来ません。

 何か、現状を打破できることは……あっ!マキさんだ!マキさーーん!助けてマキさーん!!私をここから連れ出して下さい!

 

 ああっ!!違うんですマキさん!この手はサヨナラとかじゃなくてらこっちに来て欲しくて降っているんです!

 顔を引きつらせてどこか行こうとしないで下さい。

 あと、私はマキさんに手を振っただけなので、周りの人達は振り返さなくてもいいのですが…。

 いや「挨拶されちゃった」って何ですか?違いますからね?何か色々と間違ってますよ?

 

「そういえばゆかりさん」

 

「あっはい、なんでしょうか?」

 

「最近、家に遊びに来てくれませんね?きりたんが寂しがってましたよ?」

 

「そうですね。久しぶりにきりちゃんの顔も見たいですし、今度のお休みお邪魔してもいいですか?」

 

「もちろん大歓迎です。そのまま家に泊まっていきませんか?私もゆっくりとお話ししたいですし」

 

「ええ、喜んで。その時は一緒にお料理しましょう」

 

「それは素敵ですね」

 

 とんとん拍子に話が進んでいく中、袖が遠慮がちに引かれたのでそちらを見ると、あかりがあからさまに膨れていた。

 くりっとした目で精一杯こちらを睨み、柔らかそうな頬を膨らませていますが、微塵も怖さは伝わらずただただ可愛いだけですね。

 

「どうしました?」

 

「むー……ずるいです!」

 

「お泊まりなら今日あかりもするでしょう?」

 

「それでも、ずるいものはずるいんですっ!」

 

「あらあら」

 

 くっそかわいい。

 

「それじゃあ、今日のご飯はあかりの好きな物を作りましょう」

 

 いやまあ、最初からそのつもりでしたけどね。

 

「ほんとですか!?」

 

「はい」

 

「じゃあ私、ハンバーグがいいです!」

 

 やっぱりあかりの好物であるハンバーグですか。

 そう言うと思って食材はもう家に用意してます。

 

「じゃあ、今日のご飯はハンバーグにしましょうか」

 

「うわあぁい!!ゆかりおねーさま大好きぃ!!!!!」

 

「きゃっ…ちょっ、あかり!?」

 

 ちょっと、みんな見てます!みんな見てますから!!こんなところで全力のハグなんてしないで下さい!!

 

「あらあら、ゆかりさんでも顔を赤くすることがあるんですね?」

 

 ずん子さんそんなこと言ってないで助けて下さい!ああっ!どこに行くんですか!?

 

「私もきりたんの顔が見たくなったので、そろそろ帰りますね?」

 

「この状況で帰らないで下さい!」

 

「それではまた今度。楽しみに待っていますから」

 

「行かないで!ずん子さん、ずん子さーん!」




小説の次話投稿も遅いのにDEATH STRANDINGのボイロ動画を作り始めた屑作者がいるってマ?

という訳なので次の投稿は遅れまーす。
ごめんなさい。

というか話のネタがあんまり無いのでリクエストとか募集したいのですが

匿名辞めましょうかね?
もしくはTwitter?
けど、Twitterはやってない人も居るでしょうし、匿名ですかね?

……その内決めときます。


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