開き直ってワンピ世界を楽しむ事にしました (歯磨き粉)
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明晰夢…じゃないです

数話程は書き溜めがあるので毎日投稿します。

何か致命的な設定ミスがない限りはそのまま投稿するのでよろしくお願いします。



 俺はある日気が付いた…気が付いてしまった。

 

「これ、明晰夢じゃなくて現実じゃね??」

 

 こんな電波受信しちゃった台詞を吐いてしまった経緯を説明するにはまず、数年遡る事から始まる。

 

 俺はある日目を覚ますと【ソーン】になっていた。

 このキャラはグランブルーファンタジー(以下グラブル)と呼ばれるソシャゲに出てくるキャラなのだが、その中でもソーンは作中設定でも最強格に位置する。

 というのも、グラブルは10種類の武器が登場するのだが、その10種類の武器ひとつひとつに対応した最強の使い手が十人存在していて、その十人を纏めたグループをグラブル内では十天衆と呼び、世界の抑止力として機能する程の戦闘能力を持つ集団となっている。

 そして、その中でソーンは弓を扱うキャラになっている。

 当然ながら全員ゲーム内性能も非常に高いので取得するにはそれに見合うだけの時間と労力を必要だ。

 

 そしてそんな10人の中では一番取得率が高いキャラがソーンであり、その理由は色々とあるのだが、今はそれを置いておこう。

 

 この時の俺はあまりの唐突さと非現実感に明晰夢だと断定し、夢ならば楽しもう!と思考を切り替え、自身の現状把握をした。

 俺が憑依したソーンの最大の特徴は魔眼の持ち主という点で、魔眼で視えた場所ならばどれだけ離れようと捉える事が出来るという、チート性能を誇る。

 その驚異的な視力に、魔法があるファンタジー世界なので、魔導弓と呼ばれる魔力で動く射程無限の弓を所持していて、その組み合わせにより、作中では弓使い最強として君臨しているわけだ

 当然身体能力も高く、飛翔術と呼ばれる超高難度の魔法も使いこなし、自由自在に空を翔ける事が可能だ。

 

 そして、和製ソシャゲといえば美少女、美女もしくは美男子、美男が出てくるのがお約束だ。

 その為、その例に漏れず、ソーンも絶世の美女と言うべき見た目をしている。

 明るく活発な印象を感じるオレンジブラウンの髪色を胸元より下まで伸ばし、黄緑色の瞳に整った目鼻立ち、服装は黒と白のマントを羽織り、黒を基調としたへそだしの露出度高めな服装に女性としては高身長だが出るべき所は出て引っ込む所は引っ込んだ男の理想を具現化したような見た目をしている。

 

 この時自分は一度も正しく使う事なく消えてしまったマイサンや何故ソーンになっているのか?という事に疑問やショックを受けたりはしたが、夢というのは大概突拍子も無い物だし、何より実は日頃から美少女に生まれ変わってみたいとも考えていた俺にとっては正に夢の体験だった訳だ。

 

 その後、原作通りの動きをできるのか色々と試してみれば、直ぐにまるで最初から使いこなしていたかのように空を飛び、魔法を使い、異常な視力をも平然と扱いこなせるようになっていった。

 

 この時点でいくら明晰夢といえど、度が過ぎているのではないか?とも思うべきだったのだが、非現実的過ぎる上に思った事全てが出来る楽しさから完全に失念してしまったのだ。

 

 ソーンとなり、その力を把握した俺はここが何処なのだろうかと思い辺りを探索する事にした。

 ソーンになっているのなら、ここはグラブル世界なのだろう。だとすればここは唯一海があるアウギュステか?と思ったのだが、いくら飛んでも先を見ても、島の端が見えることはなかった。水平線に隠れているにしては広大すぎやしないだろうか?

 

 代わりに見つかるのは海賊旗を掲げた船とカモメを掲げた船ばかり。

 

 次第に俺はある一つの作品を思い浮かべていたのだが、もう少し情報収集をしようと空を飛んでいると、遂に決定的となる証拠を見付けてしまう。

 

「これって、まさか赤い土の大陸(レッドライン)なのか!?という事はここはONE-PIECEの世界だったのか!何というナイスな夢を見ているんだ俺は!!覚めてほしくないなこれは!」

 

 好きなキャラで好きな作品の世界に来てる事に気が付いた俺はまたしてもテンションがMAXになっていた。

 

 ONE-PIECEといえば、弱肉強食の世界だ。一般市民は搾取され、海賊が我が物顔で暴れる世界。となればこの夢が覚めぬうちに海賊でも狩るか!やっぱりハッピーエンドでしょ!

 と、訳の分からない結論を出した俺はそれはそれは大変に暴れ回った訳だ。

 数えるのも嫌になるほどの海賊を狩ったせいで、多くの海賊達から恐怖されるのと同じくらいに恨みを買うだけに飽き足らず、休息時に立ち寄った島の海軍支部がモーガン大佐のように街に恐怖政治を敷いていた上に、海賊達とも癒着までしているという腐り切った支部に腹を立てた俺は、その支部を壊滅させてしまったのだ。

 当然のごとく懸賞金を懸けられたので、適当に迎撃しているうちに懸賞金はみるみるうちに上がっていったが、未だに夢だと思っていた俺はむしろ途中からどこまで上がるか試してみようかな?などと考え始めていた。

 そしてそんなある日の事、とある場所に向かう人物を見つけた俺はひと悶着ありながらも、一緒に襲撃もしてしまっていた。

 こうして散々暴れ回った後に唐突に賢者モードに入り、冷静に考えた結果、冒頭のシーンに戻る訳だ。

 

「いや、これ…おかしくね?ホントに今更だけど寝て起きたのに夢から醒めてないって変だよな?傷を負うとちゃんと痛いし、そもそも俺の想像力はこんな果てなき世界が見える程に高くないはず。…これ、現実じゃね!?!?」

 

 と、いった具合にホントに今更ながら、俺はソーンになってワンピ時空に転生していた事を自覚したのだった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 さて、ここで色々と問題が生じてくる。

 先程も言ったが俺は夢だと思っていたので、ソーンになりきりつつ、海賊や海軍を相手に暴れまわったせいで、海賊達から目の敵にされるだけでなく、更には海軍から賞金首として手配をかけられているのだ。おまけにその額が…2億ベリーだ。

 

 賞金稼ぎ擬きの行為をしていた最初でこそ、英雄視する人も居たが俺が賞金首になると手のひらを一転させてしまったのだ。

 まぁ、海軍支部を一つ壊滅させてしまったので、仕方ない事だとは思っている。

 だがしかし、俺はそれだけに飽き足らず、先ほども言ったようにある人物と一緒にとんでもない場所を襲撃していた。

 

 そう、俺はある日赤い土の大陸によじ登る人影を目視したのだが、その人物はなんとフィッシャータイガーだったのだ。

 最初は飛んでいる自分に驚いていたが、俺がマリージョア襲撃の援護をする。と言うと直ぐに気を取り直し、人間の手など借りるか!!と逆に追い返されてしまった。

 

 だが、その頃はまだ阿呆にも夢だと思い込んでいた俺は聞く耳を持たず、天竜人が嫌いだった俺は一泡吹かせてやろうとフィッシャータイガーが襲撃して奴隷解放をし始めた頃に再び捕まりそうな奴隷たちの援護をしたり、逃げ回る天竜人の付近にわざと沢山の矢を突き刺しまくったりしていた。

 当然タイガーには余計な手出しするなと怒られたが、それも無視して奴隷解放を手伝っていたのでそのうち呆れて、タイガーも解放に回っていた。

 

 そしてその途中にハンコック3姉妹を見つけたのだが、リアルで見ると更に感じる凄まじい美女っぷりに驚きつつも保護することにした。原作上グロリオーサ、レイリー、シャッキーによって保護されて安全に帰還できるとは知っていたが念の為に一緒に付いて行って送り届けるついでに、夢が覚めるまで女ヶ島で一緒にハンコックと暮らして居候するのもいいんじゃないか?と考えてから2年も経ってようやく気が付いたのだった。

 

「いや、ホントに…我ながら鈍すぎじゃない?最初の非現実感から夢だと思うのはいいとして、暴れまわった挙句2年も女ヶ島に居ついて初めて気が付くのはないだろ。それさえなければ海軍に追われる事も賞金稼ぎに狙われる事も海賊に目の敵にされる事もなかったんじゃないのか?」

 

 その虚無感から思わず独り言を呟いてしまい、深く深くため息をつき、木の上でこれからどうしようかと思い悩んでいると、後ろから人が来る気配を感じたのでそちらの方を向く。

 

「やっと見つけたのじゃ!!相変わらずソーンはどこに居るのか見当も付かぬ、このわらわ自ら探す人物などそなたくらいのものだぞ?」

「——あら、それは悪かったわね、少し考え事をしたかったから、ジャングルでひとりになっていただけよ?それで、もう皇帝にはなったのかしら?」

「それはこれからじゃ、だからこそ、そなたを探していたのだ。全くこのわらわに対してそんなぞんざいな扱いをするのは後にも先にもソーンくらいじゃな」

「それはどうかしら?もしかしたら、貴女に興味が湧かない男が現れるかもしれないわよ?」

「このわらわに邪心を抱かない男が現れるはずがなかろう?ソーンの冗談も上手くなったものじゃ」

「ふふふ…そうだといいわね?」

「ともかく、そろそろわらわの新皇帝就任式が始まる、見ていてくれるのだろう?」

「えぇ、勿論あなたの友達として盛大に祝わせてもらうわ、とっておきの武々を最後に見せてあげるわよ」

「そなたの武々は本当に美しいものじゃ、楽しみにしておるぞ?」

 

 そう言うとハンコックは踵を返して、九蛇城へと踵を返す。

 それにしても…最初はノリノリでソーンになり切ってたから抵抗を感じていなかったうえに、2年も経っているので自分が女性の肉体に変化している事にもすっかり慣れてしまったのだが、その二年遅れで自覚したせいで余計な違和感を感じてしまっていた。

 正直美少女になる、それもソーンという最高の美少女になるのは大変素晴らしい事なのだが、やはり元男としての最低限守りたかった部分が無くなってしまったのはかなり辛い物がある。

 とはいえ今の肉体にすっかり慣れたように、いつしか気にする事も無くなるだろう。

 ひとまず、ハンコックの新皇帝就任式に立ち並ぶとしよう。

 そう考えを纏めると、俺は魔力を巡らせて飛翔術を発動させ、九蛇城に戻るのだった。

 




ソーンさんは原作だと眼が良すぎるせいで海に乱反射する日光に非常に弱いんですが、こちらのソーンさんは特に問題なく海を見れます。だってそうじゃないと話が作りにくすぎるですよ…。すいません許してください!!なn

一応、言い訳するとポーチャーズデイが出る前からこれは考えてたんです!書きはじめたのは最近ですけどね!


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アマゾンリリー皇帝着任式

サブタイ考えるの難しい…


 どうも、ソーンになってしまった元男です。とりあえず自分の置かれた状況については置いておいて、ハンコックの新皇帝就任式に出てます。

 女ヶ島に訪れる際にはまだまだノリノリだった自分は早速「武々」に出て、バキュラをボコし、サンダーソニア、マリーゴールドもボコしたことで、新参ながらもハンコックの次に人気のある女傑となっていた。

 この頃のハンコックの強さはわからないが、少なくともフィッシャータイガーと一緒に戦ってマリージョアを火の海に変える事ができる程度には強いので、ハンコックにも勝てたとは思う。ただ、そうすると自分が皇帝になってしまい兼ねなかったので、夢の中とはいえ国の王になるのに抵抗を覚えたので、試合は辞退していたのだ。

 

 見聞色の覇気を習得している上位のアマゾンリリー達の戦士を相手にしても余裕で立ち回れるくらいのチートスペックを持つ肉体のお蔭で、今の所は精々かすり傷程度しか負っていなかったりする。

 

 そんなわけで、アマゾンリリーの中でも注目されている俺はハンコック達と一緒に並んで就任式に出ているわけだ。

 

「きゃ~~~!!蛇姫様~~!!」

「ソーン様も居るわ!」

「あの方が、ハンコック様の次に強いとされる御方ね!」

「その魔眼で私を撃ち抜いて~~!!」

 

 やはり男禁制の島だけあって、強く美しいとそれだけですさまじい人気だ。女子の運動系部活で部長が同性からモテるのと同じ意味だろうか。

 そのまま、歓声が鳴りやまぬままに、就任式は着々と進み、閉会となった時、ニョン婆が司会として声を上げる 

 

「それでは、魔眼の狩人ソーンと現皇帝ハンコックにニョる、二人の武々によって式を締めるニョじゃ!!」

 

とりあえず、今の自分の状況は置いといて、ここが、現実なのだとわかった以上ハンコックの信頼を裏切る訳にはいかない。

あのハンコックにも褒められたこの魔眼と弓の腕前を披露してやるぜ!

 

「それじゃ行くわよ?」

「当然、一つ残らず撃ち抜いてくれるのじゃろう?」

「勿論、狩人に失敗はないわ」

 

 そう、呟いてから飛翔術で空を飛び、魔力によってのみ扱える魔道弓を構える。すると自分の周りに多数の弓矢が浮かび上がる。

 そして、それを見たハンコックがメロメロの実で大きなハートを作り出し、大きく弓を引き絞るような動作をする。

 

「虜の矢!!!」

 

 同時に空中にばら撒かれた的に命中し、石化していくが、それがすべて石化した瞬間を狙って次々と矢を放ち、一つも取り残すことなく、すべて撃ちぬいていく。

 こうして、ハンコックと一緒に式を盛り上げたのちに、武々も終盤に差し掛かったあたりで少し高めに高度をとった俺は、再び魔道弓を構え、魔力を強く籠める

 そして、それを見たハンコックもひと際大きなハートマークを空に打ち上げる。自分を飛び越え、遥か上空に差し掛かった辺りで、その魔力を解き放つ。

 

「この眼で捉えた!射抜いて見せる!”アストラルハウザー”!!!」

 

大量の魔力を込めた事により、魔道弓から自分を覆うように巨大な光り輝く翼が現れる。そして、巨大な矢が放たれた直後、幾多の矢が同時に現れ、その全てが大きなハートマークに命中すると、空一面にハートマークが舞い散る。

そして最後の武々の興奮冷めやらぬままに、就任式は終了し、ハンコックは無事皇帝として君臨した。

 

「最期の武々どうだったかしら?ソニア、マリー」

「お見事の一言でした!姉様との武々はまたみたいわ!」

「最後のあの一矢が素晴らしかったです!姉様から聞きましたが、あれがソーン様の言っていた秘術なのですか?」

「えぇ、そうよ。この眼で捉えた獲物は誰であろうと逃さない。だからその圧倒的火力で殲滅するのがあのアストラルハウザーよ」

 

 先ほど最後に放ったのはいわゆる必殺技みたいなものだ。グラブルは王道ファンタジーRPGなので、その他にも色々とアビリティやスキルがある。

 

「さて、ハンコックが無事皇帝に就任したことだし、私はそろそろ旅に出ようかしら」

「…やはり、どうしても出ていくのじゃな?」

 

ハンコック達が寂しそうな顔をして、こちらを見つめてくる。

うっ…前世じゃこんな美人に見つめられる事なんてなかったから罪悪感が…!だが、しかしここが現実とわかりワンピースだとわかったのならば、やはり絶対にしたい事が俺にはあるのだ!

 

「そうね。…あなた達を”あの場所”から連れ出した時から私はここからいつの日か居なくなる(夢から覚める)って言ったでしょう?そんな悲しい顔をしないでちょうだい。私は空を飛べるから、この凪の帯にある女ヶ島でも問題なく戻ってこれるのよ?一生会えなくてなるって訳じゃないわ。」

「そうか…、本当にそなたは最初から最後までわらわを惑わしてばかりじゃな」

「あら、その台詞は貴女には言われたくはないわね?アマゾンリリー皇帝の蛇姫様?」

「全く、このわらわにそのような口の利き方をしていいのはソーンだけという事を本当に理解しておるのか?」

「えぇ、勿論よ?でもね、この私でも見通すことができない程にこの世界は広いのよ?だから、もしかしたら私以外にもそんな人が現れるかもしれないわよ?」

「最近のソーンはそればかりじゃ、まるで見てきたかのように言うのじゃな」

「私が未来をも見通す魔眼の持ち主って言ったら、信じるかしら?」

 

そう呟き、ハンコックを見つめる。いつかルフィというイレギュラーがやって来る。あと数年もすればハンコックは今以上に美しい乙女になる事は間違いないのだ。

 

「…ソーンならば、あり得ないとは言い切れないのが怖い所じゃ。」

「冗談よ、私も人の子よ?悪魔の実能力者でもないのだから未来を視ることなんてできないわ」

「悪魔の実の能力者でもないのに、そうして空を飛び、見たことも聞いたこともない力を使いこなすソーンならば信じたくもなるものじゃ。」

「酷い言われようね、いっそのこと"化け物"と呼んだらどうかしら?」

「そなた程の恩人相手にそのような事を言い放つ程わらわは傲慢ではないぞ?…それに、あまりそうやって自分を化け物と呼ぶのはやめるのじゃ。」

 

この"化け物"とはソーン自身がそう呼んでいたのだが、グラブルの主人公に会うまではその力ゆえに孤独だったソーンは自分を弓使い最強ではなく、一人の人間としてそして友達として見てくれる人を探していた。

主人公と会ってからは主人公達の仲間とも仲良くなり、その可愛さと尊さを感じさせる素晴らしいシーンがあったりする。——閑話休題

 

そしてソーンになりきっていた俺は以前からハンコックの前で時折自身を化け物と呼びからかっていたわけだ。

 

「ごめんなさいね、ハンコックをからかうのが楽しくて。貴女の前では言わないと約束するわ。」

「…まぁ、今はその事は置いておくとしよう。ソーンが出て行くのだと決めたならば、もう止めはせぬ。出立はいつなのじゃ?」

「そうね、今日の夕方には出ようと思ってるわ」

「随分と急じゃな!アマゾンリリーの戦士達も驚くに違いない。何か急がないといけない理由でもあるのか?」

「そういう訳ではないのだけれど、ハンコックも皇帝になったし、ニョン婆も居るでしょう?旅に出ようと思ってたからちょうど良かったのよ。」

「そうか、なら戦士達にはわらわから伝えておこう。」

「ありがとう、それじゃ最後にゆっくり雑談でもしましょう。」

 

こうして最後の数時間程、今後の旅路や予定、そしてソニアとマリー達にコッソリとよく伸びる男に気を付ける用に軽く言い含めた後、旅の準備をして、九蛇城から飛び上がる。

 

「それじゃ、たまにはここに戻って来るからハンコックの事よろしくね、ニョン婆」

「ソーンに言われんでもわかっておるニョじゃ、安心して行ってくるといい」

「戻ってきた時はまた武々をしましょう!」

「次はそう簡単には負けないわよ、ソーン様!」

「くれぐれも男には気をつけるのじゃぞ、ソーンよ!」

「その時は受けて立つわよソニア、マリー!それにハンコックもそんな心配は無用よ?」

「そなたは変に無防備だから心配なのじゃ…と言っても伝わらないのはもう承知しておる、だからいつでもここに戻ってくるといい、待っておるぞ!」

「ありがとう!それじゃ皆行ってくるわね!」

 

そう伝えると、飛翔術を発動させた俺は空へと舞い上がり、グランドラインを島伝いに進んでいくのだった。

 

 




ハンコックの性格が主人公に対してかなり柔らかいのは仕様です。恩人や妹に対しても尊大な態度を取るのがハンコックなのですが、作者の力量では扱い悪すぎて無理でした。


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オカマバー

 凪の帯(カームベルト)を抜けて偉大なる海路(グランドライン)に入った後、しばらく飛行していると島が見えてきたので、この先どうしようか落ち着いて考えるついでに腹ごしらえをするためにも俺はその島に向けて進路を変更する。

 

 人が周りに居ない事を確認してから降下して島の端に着陸した後に、先程空から確認した街に向けて歩いていく。

 

 さて…ハンコック達にあんな別れかたをしたのはいいが、勢いで出てきたのもあって完全にノープランなんだよなぁ。

 

 勿論最初はあのハーレム島に居続けることも考えた。

 以前にも言ったが、俺はこういったTS…性転換物が大好物なのだ。

 それも誰しもが認める美人、美少女になる奴である。

 そして同じく美少女達が暮らす空間に混じり、一緒にキャッキャッウフフをする作品が特に大好きだ。

 

 ここで重要なポイントなのが男になってその美少女達とハーレムを築く事ではないのが大事だ。

 そのような空間において男は淘汰されるべき存在であり、世界の異物と成り果てる。

 

 そして、ハンコック達のようなテレビですら見たことのない超絶美少女と一緒に暮らすことで生まれる美少女同士の華の空間…これ程までに清い空間がこの世にあるだろうか?いやない。

 二人で楽しく喋っているだけでアマゾンリリーの女性達ですらメロメロなのだ。かくいう俺も今まで夢見てきたシチュを文字通り再現できて非常に楽しかった物だ。

 

 しかし、それでもやはりここがONE PIECE世界である以上ハンコックはルフィに恋をし、海賊王となって帰ってきた以降も同じ美少女空間を維持できると考える程に能無しではない。夢の中だと思っていた当時ならまだしも、ここはもう現実と理解してしまっている。

 

 しかも俺は聖地マリージョアを襲撃した大犯罪者なのだ。政府の船が女ヶ島にやってくることは数十年ないだろうが、俺の知ってる原作はルフィがビッグマムとバトってる所までなので、それ以上先も政府の船が来ないとは言い切れない。事実原作では海軍の船が凪の帯を渡っていたしな。

 もし、その時俺を匿っているなどとバレたらハンコック達にも迷惑をかけることになるので、やはりここにずっと住んでいる訳にもいかないのだ。

 

 更に言ってしまえば自分はONE PIECEファンの一人だったので、ルフィ達の仲間に入れてもらうのもいいかもしれないし、逆にライバルになるのもいいかもしれない。純粋にこの世界を楽しみたいという気持ちもかなりデカかったりしたのだ。

 

 結局俺はかなり後ろ髪を引かれつつも女ヶ島を離れる事を決めたのだった。

 

 ただ少し問題なのが、ここがルフィが航海を始める時間軸ではない点だ。

 

 ハンコックが皇帝として就任したのは18歳なのだが、確かルフィと出会うのはハンコックが29歳でルフィが17歳だったはずだ。

 つまり、今から11年後に原作が始まる計算になる訳だ。

 女ヶ島に辿り着く日やルフィがフーシャ村を出て航海に出る正確な日付はわからないが、ルフィはなにかと話題に尽きない男なので、賞金首の手配書をチェックしたりすれば大体どのあたりまで原作が進んでいるのかがすぐにわかるだろう。

 

 せっかくだからその様子を見物するか、仲間に入れてもらったり、ライバルの海賊にでもなるのも悪くないと思ったが、11年も暇をつぶさなくてはならなくなってしまったので、その間にグランドライン以外の場所を旅するというのも悪くないかもしれない。

 

 最期の島ラフテルもこの眼と飛翔術を使えば不可能ではないかもしれないが、それでは面白くないし海賊王になる気もない。それなら原作だと過去編以外じゃあまり語られる事ない四つの海を見て回るのはどうだろうか。

 

 よし、そうと決まればまずはこのワンピ世界を旅して回ってみるとするか!

 

 さて、まず最初の目的地はどこにしようかと悩むうちに気が付けば人が多く行きかう街にたどり着いてしまったので、思考を切り替えて当初の予定通り腹ごしらえをすべく飯屋を探すついでに、宿をとって一日を使ってじっくり考える事にした。

 ワンピは原作で明確に描写される事が非常に少ないせいで、危険度に対しての死亡率が非常に低いが、危険な事には変わりがないので、慎重に行くのは大事なことだ。

 

「そこのお兄さん、少し聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」

「おう、どうした?」

「この辺りに、値段は気にしないからお風呂に入れて美味しいご飯が食べられる治安のいい宿屋はない?」

「あんた程の別嬪さんなら確かにそういうのは気にしてもおかしくはないが、この島にある街じゃそんな対した物は中々…いや、あったな。ただ少々問題があってな」

「問題?」

「そこはな…オカマバーなんだ。」

 

 ここが噂のオカマバー【カマバッカバー】か…何というかお店の外装からしてすでに色々とドギツイが、確かに女性にとっては一泊する上での安全性は確保されていそうだ、言っては悪いが変な男が近寄りにくそうだからな。

 

「ンゥいらっしゃァいませぇん!!…あら?あらあらァ!やだ、とーってもキューティなお客様じゃないィ!」

「こんにちは、街の人に聞いたら評判の宿屋だって聞いたの。一泊いいかしら?」

「勿論よォ!貴女みたいな子なら大歓迎!一泊1万ベリーよ!」

「話に聞いていた値段よりもかなり安いのね?」

「えぇ、普通のお客さんならそうだけど、貴女のような子猫ちゃんなら特別料金よォ!んふふ!」

「それは助かるわ、それじゃあ今日一日はここでゆっくりさせてもらうわ」

 

 そう言いつつ懐から1万ベリーを取り出す。これは昔、賞金稼ぎをしていた頃のお金だ。かなりの額を稼がせてもらったが旅をする際には邪魔になるので、最低額だけ持って残りは女ヶ島に置いてきてある。

 

「お風呂は言ってくれれば用意をしておくわァ、食事も同様よォ」

「それじゃ、さっそく一食頂くわ」

「腕によりをかけて作るから、待っててねぇん!」

 

 その後出てきた食事に舌鼓をうち、綺麗に清掃されたお風呂に入り、部屋に戻るとすでに、ふかふかのベッドが用意されていた。

 店主の見た目に反して話に聞いた以上の質の良さに驚いた自分は結局その宿屋で何泊かお世話になることを決め、その数日を使って、自分の今後の立ち回りを考えていた。

 

 最終的に自分が出した方針はせっかく過去のワンピ世界に来ているのなら主要人物達の過去を覗いてみるのはどうだろうか?という事だった。

 原作キャラ達には悪いが少しちょっかいをかけてみるのも面白そうだからだ。勿論ちょっかいと言っても少し話を交えてみる程度のつもりだが。

 

 賞金首である以上、七武海にでもならない限り海軍側にはあまり行けないが、海賊側なら四皇達に会いに行ってみるのはかなりの名案ではないだろうか。

 勿論カイドウやビッグマムのような危険度が高すぎる相手は例外だが、白ひげ、赤髪は手土産を持っていけば大丈夫だろう。

 

 そうして、今後の方針を決めた自分は、早速今日にでも旅立つべく、支度をしていると街中が何やら騒がしいことに気が付いた自分は宿屋を出て、屋根に飛び乗り、街に目を向けるとそこには港にジョリーロジャーを掲げた船が止まっており、そこから粗暴の悪そうな男達が暴れまわっているのが見えた。

 

 おぉ!これはまさしく海賊だな。ルフィ達はこういう事しないからあまり感じなかったが、本来の海賊たちといえば略奪者だもんなぁ。と思考するのと同時にこのままでは被害が大きくなる一方だという事に気が付く。

 自警団らしき武装した人物も複数見えるが、多勢に無勢らしくすでに壊滅寸前だ。よく見るとカマバッカバーの店主も戦っていて、口の動きでニューカマー拳法と叫んでいるのがわかった。

 まさかのカマバッカ王国出身だったようだ。あの人には一宿一飯の恩義がある事だし、加勢させてもらおう。

 

 背中に常に背負っている黒い魔道弓を構えると、弓の一部の場所から魔力を込めた事によって鈍い輝きを放ち始める。そして魔力で出来た弦を引き絞り、魔力で出来た矢を複数つがえ、住民達に切りかからんとする人物に次々と矢を放つ。

 一人も外すことなく、かつ急所をあえて外して当てた為、当たった海賊たちは地面に転がったまま悶絶しているがこのくらいの報いは受けて当然だろう。

 突然の攻撃に動揺した海賊達だが、この距離では普通の人間でも目視で屋根の上に立つ自分を見つけることは容易だった為、船長らしき人物が自分に向かって何か指示を出していた。

 しかし、数だけが取柄の海賊たち等、敵ではない。住人から近い海賊達を仕留めた後、少し魔力を込めて無数の矢を作り出しその全てを海賊達に放つ。

 

「追い詰めるわ!【ディプラヴィティ】!」

 

 命中したすべての海賊達に外傷はない。これはソーンの持つスキルの一つだからだ。ただしその代わりに…

 

「な、なんだ!?急に何も視えなくなっちまった!」

「あ、熱ィィィ!!か、体が燃えてるみてぇだァァ!!」

「急に眠く…zzz…」

 

 命中した海賊達は外傷がないにもかかわらず全ての海賊達が眠っていたり、火傷によって焼け爛れ、盲目状態に陥る者も居た。

 このスキルはソーンの代名詞の一つでもある、ダメージが一切ない代わりに多数の状態異常効果を与えるアビリティで、その数は優に10を超える。

 それらの状態異常に睡眠、暗闇、火傷があり、本来はその全ての状態異常が同時に罹る凶悪なアビリティだが、今回はその効果のみに絞って矢に魔力を乗せて放った為に海賊達は行動不能に陥ったわけだが、こういった手加減も過去にそこそこ戦った経験のお陰だったりする。

 

 さて、あとはあえて残しておいた船長に話を付けるとしよう。

 飛翔術を発動させて船長のすぐ上空で停止し、今なお状況を把握できていないのか間抜けな面を浮かべた船長に話しかける

 

「あなた達も運がないわね、私がこの島にいて、しかも私が世話になった人物を襲おうなんて。」

「そ、そんな…まさか貴様…なんでお前がこんな所に…」

「私を知っているの?やっぱり億越えにもなると有名人になるのね。」

「た、頼む!見逃してくれ!」

「それは無理よ。何もせず、ただこの島で滞在するだけなら私も何もしなかったけれど、あなたはこの島を襲った。ならそれ相応の報いは受けて当然じゃないかしら。私も賞金首の一人だけど、あなたは街の人に言って海軍に引き渡してもらうわ。」

 

 そう告げると、男は遂に観念したのかがっくりとうなだれてしまった。

 さて、街の住人には自分が魔眼の狩人として知られてしまった以上この街にはもう居られないだろう。

 なにより自分はマリージョアを襲撃した大犯罪者だ。その懸賞金の高さだけで恐れられてしまう。

 事実、自分の正体に気が付いたらしい何人かの住人は顔を青ざめていた。

 それに、こうなった以上海軍がここに来ることは間違いないし、なによりもあの海賊が自分の事を話さない訳がないので、さっさとここから離れるべきだろう。

 

 そう決めてそのまま飛翔術で空を飛び、次なる島に行こうとした瞬間だった

 

「待って、ソーンちゃん!」

「…ミレイさん?」

 

 自分を呼び止めたのはあの宿屋店主だった。数日程泊まっている間、色々と喋り相手になってくれたので、お互いに名前で呼び合うくらいにはなっていた。ミレイという名はいわゆる源氏名だったが、ああいう場所なら当たり前の事だろう。

 

「貴女がまさかあの魔眼の狩人だとは思わなかったけれどォ、それでも私のお客さんの一人なのは変わらないわァ。だから、もしまたいつかここに来た時は必ずカマバッカバーに来てねぇん!」

 

 なんと度胸のあるオカマだろうか。ボンちゃんといいこの世界のオカマはいい奴が多すぎると心の底から思わずにはいられない。

 

「勿論、約束するわ!いつか必ずここにまた戻って来るわね!」

「待ってるわよぉん!」

 

 約束を交わし、今度こそ島を離れるべく飛翔術によって空高く舞い上がり、大海原へと踊り出すのだった。




新イベ大変尊いです。実はソーンさんの次にシルヴァさんが好きなんですよねぇ!
それだけに今回の新ガチャで念願のシルヴァ×ソーンさんの戦闘掛け合いが実装されて滅茶苦茶嬉しいです。
もっともっとシルソン見たい…ホントはシルヴァさんも出したかったんですけど、憑依設定だとややこしくなるのでやみした。

なお、150連回しても光シルヴァさんはお迎えできませんでした。運命力が足りなかったようです…サプチケ早く来い


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タイヨウの海賊団

あの後からやはりというか案の定、海軍の追跡が始まった。

眼のお陰で相手に見つかる前にこちらが遥か先から捕捉済みなので、未だに姿すら見られていないのは間違いないのだが、今までずっと姿を眩ましてきた大犯罪者が急に姿を現したので、躍起になっているのかもしれない

 

だがしかし、こちらは空を飛び相手から視認されない距離から逃げることができるのだ。賞金首で居る限りそう簡単に見つかってやるつもりもない。

 

そんな風にうまく海軍の船を撒いてるうちに、向こうもこちらの痕跡を見失ったのだろう。気が付けばパトロールをする軍艦程度しか見なくなったので、再び海軍にバレない程度に観光しに回っていた頃だった。

海賊船と海軍が戦闘している場面に遭遇してしまった。

 

 

さて、どうした物か…と考えながら海に目を向けると、そこには数人程見覚えのある人物が戦っていた。

 

「あれは…まさかフィッシャータイガーか?という事はあれはタイヨウの海賊団か!なら戦ってる相手は海軍だな?帆にはカモメマークもあるから間違いないな」

 

思わぬところでまた再会したようだが、ここからざっと見て数十kmは離れているので、向こう側は自分を認識していないだろう。魚人達は海の上ならば負け知らずの強さだし、やられる事はないだろうが、適当に援護でもしておいてから、久々に会ったし挨拶でもするか。

 

距離が少し離れているので、少し強めに矢に力を込める。そして先ほど海賊達を撃退したのと同じ「ディプラヴィティ」を使用する。海兵達に目撃されるのを避けたかったので、今回は睡眠の状態異常のみに絞っている。

寸分違わず全ての海兵達に命中したが、直に治ってしまうので、その間に用事を済ませてしまうとしよう。

 

 

――――

 

 

「な、なんじゃあ…いったい…」

「向こうから飛んできたよな?何も見えねえぞ…?」

 

 奴隷解放運動の最中に海軍に捕捉されてしまった俺たちはジンベエとアーロン達を含めた船員で迎え撃つべく、戦闘中だったまさにその時だ。

 突然光る矢が無数に飛んできたかと思うとその全てが海兵に直撃したのだが、無傷にも関わらず全ての海兵が倒れ込んでしまっていた。

 どうやら皆眠っているようだが、いったい誰の仕業なんだ…?いや待てよ?

 

「全て正確に撃ち抜く光の矢、目の見えない場所からの攻撃…まさかこれは――」

「タイの御頭!これ誰がやったのかわかるのか!?」

「あぁ、恐らくあいつの仕業だ。海兵のみを撃ち抜いた所を見るに俺たちに用があるんだろう。」

「まさか、いったいどれほどの距離から攻撃してきたっちゅうんじゃ」

「逃げても無駄、とでも言いたいのだろう。…癪だが、待っていようじゃないか」

 

 そして、数十分後空から降りてきたのは予想通りの人物だった。

 

「お久しぶりね、タイガー。元気にしてたかしら?」

「ソーン!やはり貴様の仕業か…」

「人間に援護されるのは嫌がるとは思ったのだけれど、久々に話がしたくなったから、少しの間黙らせて置く事にしたの。やっぱり嫌だったかしら?」

「ふん…この程度の海兵達など敵ではない。礼も言わん。恩を売った等と考えるなよ?」

「勿論よ、さっきも言ったでしょう?ちょっと見かけたから、挨拶をしようと思っただけよ。」

「見かけた…か、相変わらず飽きれた視力だ。それで、まさか本当にただ挨拶をしに来たのか?」

「最初はそのつもりだったのだけれどついでに一つ、感謝している事があるのと、それ以外にも伝えたい事もあるわね。」

「感謝?伝える事?一体なんだ?」

 

俺が次の言葉を促そうしたのだが、ソーンは何やら周囲を見渡すと、少しの間をおいて一つの提案をしてきた

 

「その前にできれば貴方と二人で話したいのだけれど、いいかしら?」

「テメェ!さっきから黙って聞いてりゃ図に乗りやがって!下等種族風情がさっきから何様のつもり——」

「やめろアーロン、わかったいいだろう。」

「タイの御頭!?」

「大兄貴!せめてワシだけでも!」

「そうね。言っておきながらなんだけど途中までならジンベエは大丈夫よ」

「貴様、何故ワシの名前を!?」

「秘密よ。でも安心して、海軍に情報を流すつもりはないわ。…と言っても人間の言葉は信用できないかしらね」

「当然じゃ!大兄貴!コイツは今ここで始末すべきじゃ!」

「やめろと言っているだろ!何度も言ってるが俺達は不殺の海賊団だぞ!それにこいつが今どこからやって来たのかもう忘れたのか?そんな事をしても簡単に逃げられるだけだ」

「私も貴方達とは戦いたくないから、戦闘になるならすぐに逃げさせてもらうわよ。もし、トビウオの魚人が居ても結果は同じだと思うわ。」

「…チッ、わかった話を聞かせてもらおう」

「ありがとね、それじゃ向こうで話しましょう?」

 

渋々といった様子で了承したジンベエやアーロン達を置いて、俺達はそのまま未だに熟睡状態の海兵達を避けながら、軍艦の奥へと向かう。

 

「それで、話とは一体なんだ?」

「マリージョアの時、悪魔の実の能力者三姉妹が居たの覚えているかしら?」

「…いや、覚えてないな。」

「そう…その3人は私の友達なのよ。だからあの時に助けてくれてありがとね。」

「あの時はとにかく奴隷解放をする事だけを目的にしていたから、人も魚人も関係なしに解放しただけだ。それに、貴様も勝手にマリージョアを襲撃していたじゃないか。」

「それでも私やあの子達は貴方に感謝しているわ、あの時に解放された子は皆同じ事を思っているはずよ。」

「ふん、それで?もう一つ伝えたい事とはなんだ?」

 

まさかこれだけという訳ではあるまい、こいつは最初に会った時からも思っていたが秘密や謎が多過ぎて得体が知れないのは確かだ。だが、少なくとも何も知らない普通の人間ではなく、俺達魚人達に多少の理解はある人間だ。ならば話を聞く価値は十分にあるだろう。

 

「その前にジンベエ、貴方は白ひげ海賊団を知っているかしら?」

「…知らん。」

「あら、そう警戒しないで欲しいわね、私個人としては貴方達魚人海賊団――特にジンベエやタイガーはとても気に入ってるのよ?…とは言っても会ったこともないような人からそんな事言われても気味悪いだけかしらね。」

「話はそれだけか?」

「そうね、いつか必ずその海賊団の名前を覚える時が来る。とだけ言っておくわね」

「そりゃぁ、どういう意味じゃ?」

「その時が来たら自ずとわかるわ。さて、タイガーに最後に一つだけ言いたいことがあるけれど、それは貴方と二人だけにしてほしいわ」

「そうか、おいジンベエお前はみんなの所に戻っていろ。」

「大兄貴、コイツの得体の知れなさは異常じゃ、やはりワシ一人だけでも…」

「くどいぞ、コイツは信用できなくても、俺は一人でも大丈夫って所は信用してくれないか。皆にもそう伝えておけ」

「その言い方は卑怯っちゅうもんじゃ…わかったよ、大兄貴。」

 

尚も何か言いたげなジンベエだが、俺が意見を曲げる事はないと察したのだろう。かなり気にしながらも俺たちの船に戻っていった。

結局折れたジンベエは自分たちの船に戻っていき、十分離れたのを見た俺はタイガーに向きなおす。

 

「凄く慕われているのね、流石だわ」

「御託はいい、早く本題に入れ」

「過去に起きた事が原因であなたの中に鬼が住み着いた事を私は知っているわ。…そうでありながらマリージョアを襲撃して、昔も今も奴隷解放をしている本当の理由をね」

「なッ…何故貴様がそれを知っている!?」

 

どうやって俺が過去に天竜人の奴隷だった事を知っている!?まさかこいつは天竜人と繋がりがあるとでもいうのか?

酷く動揺している俺をよそにソーンは更に言葉を畳みかけてきた

 

「これも秘密よ。それを知ったうえでひとつだけ忠告させてもらうわ。コアラという少女を保護して、もし故郷に送り届けるとなったなら、帰りに気をつける事ね」

「…いったい何を言っている?」

「それじゃ、伝えたい事は伝えたわ。勿論この事は誰にも言わないから安心して。」

「待て!貴様は政府側の人間なのか?」

「いえ、違うわ。私も天竜人はとても嫌いなの。でも海賊側でもないわよ。」

「貴様の目的はいったい――」

「なにかしらね?少なくとも私は貴方の味方で居るつもりよ。じゃあまた会う機会があったら、その時はよろしくね!」

 

待て!まだ話は終わっていない!――そう話を続けようとするも、フワリと空に浮かびあがり俺の声を無視して飛び去っていってしまった。

政府側の人間でなければ知りえない情報を知っているというのに、何故アイツは政府を敵に回すような真似ばかりする?

しかも俺が人間を受け入れられないと分かっているのに味方だと…?バカにしているとしか思えん。

クソッ、次に会った時は問い詰めてやる。




ジンベエが賞金首になったのはコアラを保護する前ですが、正確な日付はなかったので、遭遇時はまだ無名ということになってます。

この辺の時系列は原作が二年経過後なので調べるときに混乱しますね…


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海軍の英雄と喧嘩しちゃいました

 あの後、フィッシャータイガーや若い頃のジンベエに会って話をした事にテンションの上がりまくっていた自分は飛行しながら、先程の出来事を振り返っていた。

 

 いやぁ〜若い頃のトゲトゲしてるジンベエもいいなぁ!まだ賞金首になっていないのに思わずジンベエって呼んじゃったから滅茶苦茶警戒されちゃって少しショックだったけれど、それでもやっぱりタイガーと居る時のジンベエはなんだか新鮮だ!

 まだ、コアラと出会っていなかったからなのか、人間に対して結構当たりが強かったけど、白ひげ海賊団やコアラとの関係性を持つ事で自分への警戒心も薄れてるといいなぁ。

 ルフィ達と合流した頃にまた会いに行くのもいいかもしれないな。

 

 個人的にはルフィとハンコックに次いでサンジとブルックが好きなので、今度はその二人と会いに行ってみようかと思考していると、またもや遥か先に数隻の軍艦が浮かんでいるのを視認する。

 タイガー達との距離は大体数十km程度しか離れていないので間違いなく追っ手だろう。タイガー達なら大丈夫だとは思うが念の為どの程度の戦力か視てみようかと、少し目を凝らすとそこには驚くべき人物たちが乗っていた。

 

 なんとあの海軍の英雄ガープ中将と将来大将となるが、現在は中将のボルサリーノだった。

 というか、ボルサリーノが乗っている時点で十中八九タイヨウの海賊団の追撃だ。ボルサリーノだけならともかくガープまで乗っているとなると、流石のタイガー達でも分が悪い。

 

 マズいな、原作じゃそんな描写はなかったが、当然といえば当然の対応だろう。あのマリージョアを襲撃したのだから、その追跡役としてボルサリーノが出張るのは納得だ。

 

 いざとなれば人間には絶対に追うことのできない水中に逃げれるタイガー達ならば捕まる事はないだろうが、危機的状況となる事は明白だ。

 ここは大人しく引き返してもらうべく、眠っておいてもらうとしよう。

 

 今度は盲目と睡眠の効果に絞ったディプラヴィティを放ち、甲板上に居る全ての海兵を狙う。今回は船の無力化が目的なので、睡眠から覚めたり抗っても、盲目状態によって行動不能になることを狙っている。

 寸分違わず、一部を除いて全ての海兵に命中し、その騒ぎを聞きつけて中に居た海兵達が甲板上に出てきたのでそれらも全て眠らせる。

 しかし、一部の海兵には避けられてしまった。それは勿論、ガープとボルサリーノだ。

 

 流石にこの距離じゃあの二人には当たらないか…とはいえ二人だけで軍艦という巨大船を動かす事は不可能だ。目的は無事達成だな。

 この攻撃方法で前から海軍を撃退していた事から、二人には誰の仕業か判明しているようだ。口の動きから、ソーンという単語が出ているのが見て取れた。

 

 更に念には念をと矢で帆を穴だらけにして完全に航行不能にしてから攻撃した理由について話すべく、近付いていく。

 

 当然、近付けば戦闘になるだろうが、逃げる気マンマンの自分を空中戦で追える人物は金獅子シキとトリトリの実を食べた能力者以外に居ないと自負している。

 なぜなら、常に空中を蹴る必要がある月歩や一部の悪魔の実、これら全ては確かに空中戦は可能だが、何かしらの制約が伴っているものだ。

 しかし、自分の使う飛翔術は魔力によって浮いているので魔力が尽きるまで浮ける上に速度も機動性も月歩やとは比べ物にならない程に高い。文字通り空を浮いてるからだ。

 

 グラブルでも公式に名言された飛翔術を扱えるキャラは二人しか居ない超高難度の魔法ゆえの性能に相応しいと言える。…なお、飛翔術としか思えない方法で空を飛ぶのは後数人ほど居るのは気にしてはいけない。

 

 こうした考えから近付いて軍艦の上空に到達したのだが、そこには鼻ちょうちんを出すガープと座って爪切りをしているボルサリーノの二人だった。

 確かに海兵達が回復するまでは軍艦を動かす事が不可能になった以上、何もする事がないかもしれないが随分とだらけきっている二人だ。いや、この二人ならこれがいつも通りなのだろう。

 そんな二人も流石に目の前に近付く頃にはこちらに顔を向けていたので、甲板に降り立ち、二人に向かって話しかける。

 

 

「こんにちは、初めましてかしら?私の矢をあっさり避けられてしまうなんて、流石は海軍の英雄様に将来の大将さんね」

 「ぶわっはっはっ!!なにやら飛んでくる気配を感じて躱した後に振り返ればこの様!やはり貴様の仕業だったか!」

「おっそろしい女だねぇ〜、あっしらでも見えない距離から正確に全ての海兵を撃ち抜くなんて、一体どんな眼と腕をしてるんだい?まさしく化け物だねぇ〜」

「あら、褒めても何も出せないわよ?」

「褒めてるつもりはないんだけどねぇ〜それにしても随分と好き放題してくれたんじゃァないかぃ〜?」

「ごめんなさいね、この先に進まれると個人的には困っちゃうのよ。でも言っても引き返すわけないでしょう?だから、行動不能にさせてもらったわ。でも安心して?海兵達には傷一つついてないはずよ。盲目状態もじきに治るわ。」

「おぉ!そうか!叩き起こしても目が見えぬと騒ぐので、ぶん殴ってもう一回寝てもらったんじゃが、勝手に治るんなら問題はないな!」

「問題しかないんですがねぇ〜ガープ中将?とはいえ、帆まで穴だらけにされちゃあこれ以上の追跡は不可能なのも事実だねぇ〜。」

「ぶわっはっはっ!!!見事にしてやられたという訳じゃなァ!こりゃあセンゴクにまたどやされるに違いないわい!」

「ということはタイガー達を追うのは諦めてくれるのかしら?」

「確かにィ〜、タイガー達を追うことはもう出来ないけどねぇ〜、あの事件の重要人物がここに新たに来た以上、そう簡単に見逃すわけにはイカンのよォ〜」

「それもそうね、でも私もそう簡単に捕まるつもりはないわよ?」

 

 そう言うと同時に飛翔術を発動させ、上空に飛び立つと、すぐにボルサリーノが反応して親指と人差し指で輪を作る。

 

「逃がさないよォ〜【八尺瓊勾玉】」

 

 上空に向けて広範囲に放つ事で逃げ場を無くすつもりなのだろう、しかしこちらも広範囲に矢の雨を降らせて相殺させる。

 すると、いつのまにかガープが自身のすぐそばまで近付いており、そのまま武装色で硬化した拳を振り下ろす。そして、それが当たる直前ーー

 

「【マーキュライト】」

「ぬおっ!?すり抜けた!?」

 

 まるで幻影かのようにガープはソーンの身体をすり抜けてしまう。更には複数人のソーンも同時に現れていた。

 

 極一部の攻撃を除く全てを完全回避し、更に攻撃力を上昇させるアビリティが今の【マーキュライト】だ。

 グラブル内だと正直言って微妙な性能なのだが、ワンピ世界に来てからのマーキュライトは完全回避な上に魔法による分身達の一斉射撃というチート性能に変わっていた。

 

「なんだァ〜これはァ〜?」

「月歩もせず、周囲に雲もないのに空に浮かぶなぞフワフワの実しか知らんが、こんな能力は知らんぞ?最初はシキがくたばった後にフワフワの実でも食ったかと思っとったが、違う悪魔の実かのぅ?おまけに武装色で殴ったのにすり抜けおったわ。ますます謎じゃな。」

 

 空を飛び、分身をするという超常の現象である以上、悪魔の実以外あり得ないのだが、武装色で攻撃したのにすり抜けるという矛盾した結果を生み出した相手の能力を測りかねる二人。

 

「「「さて、何の悪魔の実かしら。残念だけど敵にそう簡単に情報を渡すほど私もお人好しではないの。それじゃ今のうちに逃げさせてもらうわね。」」」

 

 複数の分身が同時に喋ったかと思うと、それぞれ別方向に体を向けて一斉に別方向にバラけて飛んでいく。

 

「ぶわっはっはっ!!こりゃあもう追えんなァ!またしてもしてやられたというわけじゃ!」

「全く、本当に得体の知れない女だねェ〜、海賊を片っ端から潰したかと思えば、支部を壊滅させたり、更にはマリージョア襲撃時に便乗して、奴隷解放を行なったりと全く目的が見えてこないなァ〜、しかもタイガーを追うのを妨害してきたんならァ〜魚人海賊団側だとは思うんだがねェ〜、あの魚人達は人間嫌いなはずだよォ〜。一体どういう関係性なのか気になってしょうがないよォ〜」

「ああいう輩の目的の予想は見当も付かないものだ、気にするだけ無駄だわい!」

「ガープ中将が言うと説得力ありますねェ〜、それにしてもセンゴクさんにはなんて報告するかだけど、ホント困ったもんだよォ〜」

「ぶわっはっはっはっ!!まぁ、なるようになるわい!!」

「またセンゴクさんにどやされたくないしィ〜、今後はストロベリー少将に任せようかねェ〜」

「部下どもが起きるまで煎餅でも食っとるか!ボルサリーノ、お前もどうじゃ?」

「ホント破天荒なお人だよォ〜、センゴクさんがいつも頭抱えてるのも納得だねェ〜」

 

  困ったといいつつ、まるで顔に出ていないボルサリーノに、いつのまにか寝ているガープ達は、部下達が動けるようになるまで偉大なる航路(グランドライン)を漂流するのだった。

 




更に正確に言うとグラブルで名言されてるのはメーテラさんだけだった気がしますが…ソーンさんや同じ十天衆のニオとウーノも普通に浮いてるんで、多分飛翔術だと思います。

マーキュライトは使用時に分身って出るんで分身して避けてることにしました


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バスティーユ少将の苦難

 とある海賊船が航行している航路の名は偉大なる航路(グランドライン)。非常に危険度が高い海域ゆえに常に船員が目を光らせるのが常識なはずだというのにその海賊船では何故かほぼ全ての船員たちが眠っていた。

 そんな船の上でわが物顔でくつろぐ人物こそが、その犯人だった。

 

 

 ふぅ…流石にマーキュライトを使用した後に長時間の飛行は疲れるな。ちょうどいいところに海賊船があって助かった。

 流石のチート肉体と言えど、人間であることには変わらないので当然疲労もするし、眠気も襲ってくるので時々休憩をするのだが島から島へと移動するには数日間はかかる。

 しかし海上で休憩するには船以外にないので、こうして適当な海賊船を襲って休んでいるのだ。襲われた海賊船側はたまったものではないだろうが、そこは運がなかったと諦めてもらうしかないだろう。

 自前の船があればとは思うが、せっかく飛べるのに船で航行するのでは面白くないので、そこは諦めている。

 

 それにしてもあの二人に喧嘩を売ってしまったのは少々早計だったかもしれない。

 別に航行不能にした時点で終わらせてもよかったのだが、原作キャラに会ってテンションが上がっていた所を更に追い打ちをかけられたようなものだったのだ。

 あそこで我慢できずに勢いで行ってしまったので、反省はしているのだが後悔はしていないぜ!!

 この結果また賞金首が上がったとしてもすでに世間を騒がしまくって億越えしているので今更感もあったりする。

 

 そして、黄猿とガープ達と一戦を交えたあの日から数日ほどは再び海軍からの追跡を逃れるべく警戒していた自分だったが、次第に妙だと思い始めていた。というのも、前に姿を見せた時は増えていた海軍の船が特に増えるという事もなくいつも通りのパトロール体制を取っていたからだ。

 

 最初はただ船を増やすだけでは意味がないことに気が付いたのかと思ったのだが、たまに見る海軍船のマストに変な事が書いてあることに気が付いてからはそれが勘違いだった事を知る。

 そこに書いてあることは要約すると「海軍本部に来い」と書かれた文字が遠距離では明らかに魔眼でしか読み取る事のできない大きさでソーンの名前が書かれていた事から、自分宛にあてられたものだった。

 

 当然、これはそのままの意味での出頭命令ではないだろう。逃げ回り続ける賞金首がそんなことで自首すると思っている程、海軍もバカではない。

 となると、恐らくは単純に自分に話したい事があるとみるのが自然だ。遥か先から捕捉し、自由自在に空を飛び回る自分に対しては最も効果的な方法だろう。

 勿論そこまで深読みした罠の可能性もなくはないが、先ほどの戦い方で原作最強クラス二人を相手にしても逃げるだけなら容易だった事から罠だとしてもそこから逃走することは可能だろう。

 

 問題は何故わざわざこんな方法で呼び出しているのか?という事だ。勿論、マリージョア襲撃の件だとは思うが、捕縛ではなく出頭命令のような形に方針を変えてきたのかが気になる所だな。

 う~~む…考えていてもわからんな!とりあえず海軍本部に向かえばわかる事だ。さっそく海軍本部に向かおうと思い空に飛びあがってから、ある事に気が付いた。

 

「海軍本部の永久指針持ってないじゃん…?」

 

 今迄は水平線には隠れない程度の距離にある島伝いに観光してたので問題はなかったが、流石に水平線に隠れる程に遠い距離にある島を見付けることはできない。

 そもそも海軍本部がどこにあるのかがわからないので、島伝いに海軍本部に向かうのは非効率すぎる。

 

 仕方ない、適当な海軍の軍艦にお邪魔して海軍本部に案内させてもらうとしよう。

 水平線を目安にぐるっと一周して眼を凝らすと、一隻の軍艦を見付けたので早速そちらに向かって飛行する。

 

 しばらくしたのちに、軍艦の上空に到着したのだが甲板上には慌ただしく海軍が動き回り、多数の大砲や小銃がこちらに向けられた厳戒態勢だった。

 当然といえば当然の対応であり、この程度ならば問題なく避けられるが落ち着かないのは確かなので、早く武器を収めてもらえないだろうか?と思いながら、甲板に降り立つ。

 すると一人の海兵が警戒心たっぷりの声色で前に出てくる。

 

「…俺の名前はバスティーユ少将だら。貴様は魔眼の狩人ソーンだら?あのマストの文字を見てやってきたんだらァ?」

「えぇ、そうよ。だから危害を加えるつもりはないわ。落ち着かないから銃口を下げてもらってもいいかしら?」

「例え本当に戦意がないとしても、目的不明の海賊相手に警戒態勢を解く訳には行かねんだら。要件だけさっさと伝えるんだら!」

「確かにあなたの言う通りね、それじゃあ早速だけど、海軍本部に案内してくれないかしら?場所がわからなくて困っていたのよ。案内が嫌なら別に海軍本部の永久指針でもいいわよ?それを頼りに向かうわ」

「わかっだらァ、案内するだら。…いや、貴様なら永久指針の方が早いだらァ?」

「そうね、帆船よりは早く着くわ。」

「それなら、海軍本部の永久指針を貸すだら。返すときは俺の名前を出すといいだらァ。」

「助かるわ、それじゃあ近いうちに海軍本部に行くと連絡してもらえるかしら?海軍本部に近づいた瞬間攻撃されたりするのは避けたいわ。」

「いいだらァ、連絡しておくだら。…おい、永久指針を持ってくるだら。」

 

 バスティーユが部下の一人に命令した後持ってきた永久指針をこちらに渡してきたので、それを受け取る。

 

「それじゃあ、お邪魔したわ。…もしまた会うときがあったらその時は海軍本部かもしれないわね」

「それはいったいどういう――」

 

 もしかしたら、ルフィ達と一緒に頂上戦争に来るかもしれないので、最後にわざと意味深な言葉を言ってからバスティーユを無視して空へと飛び立ち、永久指針の指す方角めがけて飛んでいく。離れてから軍艦に目を少し向けると、気が抜けたのかどっと疲れたかのように多くの海兵達が座り込んでいた。

 

 過去に散々やらかしておいてなんだが、あれだけでそんなに精神力を使うほどに警戒していたなんて少しかわいそうだったな。などと思いつつ、速度を上げて本部に向かうのだった。

 

 

 ――――――

 

 

 ソーンが見えなくなるまで警戒態勢を続けていた海兵達はようやく息をつく。

 すると一人の部下がバスティーユに話かけてきた。

 

「海賊に海軍本部の永久指針を渡してもよかったのですか?バスティーユ少将」

「不本意だが仕方ないだらァ。あれ程の実力者を乗せたまま、何日も航行していては部下の気が休まんだら。…にしても海賊が自ら海軍本部に向かうだけでも異常だらぁ。それなのにまるで観光でもしにいくかのような余裕っぷり…まさしく化け物だらぁ。」

「そうですね、私では50mも離れればただの海軍旗にしか見えない程の小さな文字を遥か数十kmも先で認識するなんて一体どんな視力をしているのでしょうか」

「マストの上で望遠鏡を使って監視していた海兵が認識した時には、すでにこちらに向かっていただら。…つまり、あの女が本気で俺たちを攻撃していたら全員ここには立っていなかった。という事だら…」

「…ッ!」

「(更にはあの中将お二方が乗っていた軍艦すら無力化されたと聞いているだら。そんな脅威度の高い海賊を本部に呼び寄せるなんて、一体何を考えているだら?…いや、そうか!そういう事か、しかしあの女がそう簡単になるとは思わないんだら…。)」

 

 もうすでに見えなくなってしまったソーンが居たであろう方向を向きつつも、深くため息をつくのだった

 



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海軍本部

 

 とある日、正義の象徴たる海軍本部の会議室に数人の海兵達が緊張した面持ちで会議の様子を見守っていた。

 というのも、敵であるはずの海賊達4人が我が物顔で椅子に座っており、その海賊達は全員が世間にその名を轟かし、恐れられている海賊達だった

 

 そして、そんな海賊達が集められる原因となった二人の女性はまさに絶世の美女と言うべき美貌ではあったが、その二人から感じられる覇気はまさに強者そのものであり、このような場において威風堂々としている事から胆力も相当な物と取れる人物だった。

 

 ――――

 

「私の名前はソーン。新しく王下七武海の一人としていれさせてもらったわ、よろしくね?貴方達とは仲良くしていきたいわ」

「わらわはハンコックじゃ。だが、男にわらわの名前を呼ぶ権利なぞないと知れ!」

「フッフッフ!こりゃまた豪胆な女達だな!」

「………」

 

 海軍本部に呼び出されたので、観光ついでの軽い気持ちで来たら王下七武海になっちゃいました。

 最初は何事かと思ったが、まさか七武海勧誘とは予想外だった。

 海賊を潰し回ってた頃ならまだわかるが、海軍支部やマリージョア襲撃をした自分が政府側に付くことになるとは思いもしなかった。

 確か七武海に入るには「強さ」と「知名度」だったはず。夢だと思い込んで暴れまわってたせいで賞金が1億を超えてるんだから、十分加入条件を満たしてるな。

 当然クロコダイルやドフラミンゴみたいに国家を乗っ取るつもりもないので、七武海としての恩赦もほとんど意味がないのだがそれでも七武海になった理由は面白そうだったからに尽きる。

 

 やらかす前に現実だとわかっていた頃なら考えたが、すでに開き直ってやりたいように生きていく事にしたので面白そうな事は率先してやっていくことにしているのだ。

 チートスペックを誇るこのソーンの肉体なら自衛程度ならできるしな!

 

 それにしても、ハンコックも同じように七武海勧誘を受けていたんだな。七武海入りはわかっていたが、時期がちょうど被ってしまったせいであんな風な別れ方をしておきながら、あっさりと再会してしまった。

 

 だが、ここで自分とハンコックが前から知り合いだとバレてしまうとどのような関係性なのか疑われてしまい、最悪ハンコックのあの過去がバレてしまいかねない。

 ハンコックも最初に顔を合わせた時点でそれを察したのか、こちらを見て一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたがすぐに取り直していた。

 

 しかし、いつも通りの男嫌いだ。それによく見れば何人かの海兵はハンコックに見惚れて鼻の下を伸ばしているな。

 そんなんだから余計男嫌いが加速するんだと思いつつ、自分がそっち側だったら同じリアクションをしているのは間違いないので大目にみるとしよう。

 ハンコックの過去は原作内でも中々の胸糞エピソードだから、早くルフィと出会って救われて欲しいものだ。

 

  こうして顔合わせも終えたところでひとりの将校が今回の会議事項を話し始めた。

 

「今回新たに二人の七武海が決まったが、後一人に関してはもう少々待っていてもらいたい。また決まった時に連絡をする。」

「それよりもう顔合わせは終わった。女ヶ島に帰るゆえ、会議で決まった事だけ知らせるがよい!恩赦の件忘れるでないぞ!」

 

 話の流れをぶった斬ったハンコックは見下しすぎて見上げるあのポーズを決めた後、制止しようとした海兵達を蹴り飛ばして会議室から出て行ってしまう。その際一瞬だけ自分を見ていたが、後で話をするからと目で訴えていたのでとりあえず納得してくれたようだ

 

 いやはや、流石はハンコックだな。自分が言うのもなんだがやりたい放題だったぞ。

 

「…そ、それで政府公認の海賊になったのならば海賊行為をした収穫の何割かを政府に納める事、そして緊急時の招集命令に応じる事の二つが恩赦の条件となる。これに従わなかった場合は協定決裂となり、称号は剥奪となる」

「政府公認の海賊なのに随分と緩い協定なのね?」

「フッフッフ!公認とはいえ海賊である事には変わり無い。信頼関係なんぞあってないようなものだからな。」

「的を射ている」

「それもそうね、それじゃ私も自由にさせてもらうわ。でも、新しい七武海には興味があるから、決まったらまた軍艦のマストに書いてもらえるかしら?」

「それは構わないが、電伝虫ではダメなのか?」

「私は船を持っていないから電伝虫だと携行するには大きすぎるわ。でも子電伝虫だと今度は念波が狭すぎるのよ、だからマストに書くのが一番いい連絡手段だと思うわ」

 

 恐らく最後の七武海はジンベエだ。

 原作でもう一人の七武海だったモリアは魔の海域で影の軍団を作るために仲間集めをしている最中に七武海勧誘があったのかもしれないが、その枠に自分が入ったのでそのまま魔の海域に篭ってしまうので、残りの候補としてジンベエが選ばれてもおかしくはない。

 

「それなら、貴女が出した恩赦の【軍艦を休憩所として利用可能にする】を使用した時に、その軍艦にも連絡が伝わっていればその時に報告でも構わないな?」

「それでいいわよ。」

「それにしても噂には聞いてたが、マストに書かれた文字を遥か彼方から認識するなんて馬鹿げた視力をしているなァ。」

「色々と便利なのよ?例えば、今貴方が私にちょっかいかけようと糸を近付けているのが見えたりするわね。」

「フッフッフ!女が二人も七武海に入るなんて政府も随分と腑抜けたと思ったが、最低限はやるようだな」

「あの天夜叉に褒めてもらえるなんて、光栄ね」

「フッ、ホントおもしれぇ女だな。」

 

 ドフラミンゴもまさに悪のカリスマが似合う好きなキャラだから、普通にうれしかったんだが皮肉に取られてしまったか。交友を深めれるとは思っていないが、同じ七武海同士で少しは仲良くなりたかっただけに残念だ。

 

「それにしても、七武海なのにここに居るのは4人なのね?一人は欠員だとしても後二人居るはずだけれど、欠席かしら?」

「さっきも言っただろう?俺たちは海賊だ。七人全員が揃うなんてことはまずねぇのさ。今日来たのは気分にすぎん。そこのくま以外はな」

「……」

「それは残念ね、クロコダイルとミホークにも会ってみたかったわ。…ねぇ、海兵さん別に私からその二人に会いに行っても問題ないのよね?」

「最初に言っておくが七武海同士での争いは禁止だぞ。」

「そんなことしに行くわけないじゃない、本当にただ挨拶に行くだけよ。だめかしら?」

「…クロコダイルはアラバスタ王国に居る。ミホークの正確な位置はわからない。だがいくつかの候補地は教えておく」

「助かるわ、それじゃ私もこれで失礼するわね。…そうだわ、バスティーユから借りてた永久指針(エターナルポース)はお返しするわ。」

「バスティーユ少将から?」

「最初は船で案内してもらおうと思ったのだけれど、コレの方が早いと伝えたら貸してくれたのよ。バスティーユには助かったと伝えておいてちょうだい。」

「そういう事か、バスティーユ少将が本部に戻った際には伝えておこう」

 

 最後にミホークの居る候補地やアラバスタ王国の永久指針(エターナルポース)を借りてから、会議室を出た自分はそのまま空に飛び立つべく、飛翔術を発動させようとした瞬間とある人物に話しかけられる。

 

「おぉ?お主はもしやソーンか?ここに居るっちゅうことは七武海に入ったんかのう?」

「あら、ガープ中将。これからよろしくお願いするわね?」

「ぶわっはっはっ!まさか本当に七武海に入るとはのう!」

「七武海といっても、以前とはそんなに変わらないのよね。あ、でも軍艦を休憩所に使えるようになったのは便利かしら」

「海軍の船を休憩所呼ばわりとは言ってくれるではないか!」

「実際、ずっと飛んでいるのは流石に疲れるのよ?ガープ中将も何日間も月歩しっぱなしは疲れるでしょう?」

「そうじゃのう、若い頃に比べて体力が減ったせいで1日中くらいしか飛んでいられんな!年は取りたくないもんだ!」

「それでも丸一日は飛んでいられるのね…流石は海軍の英雄様かしら、貴方から逃げられたのは運が良かっただけね。それじゃ私はこれで失礼するわ」

「あの時お主を捕まえられなかったのは残念だったが、もし七武海を脱退した時は覚悟しておくんじゃな!」

「それは怖いわね、その時は私も本気で相手するわ。」

 

 最後にそう言い残してから今度こそ飛翔術で海軍本部を離れていく。

 

 さて、先程も言ったが完全に気分で七武海に入っただけだから、七武海加入時に提出した協定条件は非常に緩いものだ。

 まず一つが先ほど自分が言っていた【軍艦を休憩所として利用可能にする】これは休憩したいときに軍艦が居れば便利なので条件として出した訳だ。

 

 次に【とある特定の海賊団との無期限休戦】勿論この特定の海賊団とはルフィ達の事だ。モリアを打倒した際に政府がくまに対して抹殺指令を下していたのを覚えていた為、先に先手として打っておくべく出した条件だった。

 

 当然、どんな海賊団なのかと聞かれたのだが、いつの日か名を上げる海賊団なのでその時に指定させてもらうと伝えてある。

 政府側にとって四皇の海賊団でなければ——その海賊団が世間を騒がす強大な海賊団になるのだが——一つの海賊団くらいなら問題ないと判断したようだ。

 

 気分で入った為、同じく気軽に脱退できるように恩赦もあったら便利だな程度に抑えた訳だ。七武海脱退となれば世間的には大ニュースだろうが、

 とはいえ、七武海の仕事は最低限やるつもりなので、今後は定期的に適当な海賊団を襲って自分の糧になってもらうつもりだ。こうした収穫の何割かを政府に献上することになっている。

 

 おそらく今後は七武海入りしてしまった事で、自分を倒して名乗りを上げようと考える海賊達がやってくると予想できるのでそういう意味では多少動きにくくなってしまうだろう。その代わり海軍から追われる事が無くなった為、本来の目的である原作主人公達の過去を覗き見たり、ワンピ世界の観光巡りがしやすくなったので結果オーライと言えるな。

 

 向かってくる海賊達もその辺の有象無象程度であれば蹴散らせる自信はあるし、頂上戦争あたりでは適当なタイミングでバックレるつもりだ。

 それじゃ、さっそくアラバスタ王国に行ってみるとするかな!




書き溜めを全て消化したのでこれからは大体週一くらいの更新になります。
気長にお待ちください。

そろそろ麦わら一味と会わせたいですね。


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魔眼の狩人【ソーン】

短いですが、なんとか書きかけていた話ができたので、再び投稿です!
今度こそ次からは週一更新になります。


 偉大なる航路に浮かぶ一隻の海軍の軍艦に、一人の海賊が乗り込んでいたのだが、何故かその海賊は捕縛されておらず、それどころかその軍艦内に備え付けられた入浴施設でお風呂に入って寛いでいた。

 その海賊はかの女帝と同レベルの絶世の美女ともいうべき美貌であった為、邪な考えを持った何人かの海兵達が覗きにやってきていたのだが、ほんの少し開けようとした瞬間に壁越しに矢に貫かれる事で、その場に倒れ込み、火傷で苦しむものや盲目状態で壁にぶつかるもの達の犠牲によって海兵達は恐怖を覚えていた。

 

「おい、また性懲りもなく覗こうとした奴が居たみたいだぞ」

「またか。それで、今回はどんな症状なんだ?」

「それが今度は毒だったみたいだ。物凄い腹痛に襲われたらしく、今医務室に駆け込んでたな」

「いい加減だれか止めてやれよ、被害がどんどん大きくなってるじゃないか」

「まぁ、気持ちはわからなくもないな。…かく言う俺だって覗きに行こうとしたら同胞が一人苦しそうに転がっていたんだ。アレを見なければ俺も同じように転がってたさ。」

「お、お前な……それは一人で行こうとしたのか?」

「あぁ、勿論そうだが…まさかお前!」

「そのまさかだ。俺たちは一緒に航海する仲間じゃないか!」

「死ぬときは一緒に。そうだな?」

「そうだ。さぁ俺たち男の夢を叶えに行こうぜ!」

 

 入浴施設のある前まで来た二人は最後に互いに顔を合わせる。

 

「(覚悟はいいな…?)」

「(勿論だ兄弟!!)」

 

 そして、二人同時に突撃しようとドアに手をかけた瞬間に二人を襲ったのは凄まじい吐き気だった。

 まるで全身が腐敗したかのような吐き気だ。

 

「う…うぉぇッッ…!」

「き、気持ち悪い…な、なんで急に…」

 

 あまりの気持ち悪さに倒れ込み、視線が下に向いた事でその原因があらわになる。二人の身体には矢が突き刺さっていた。

 

「くっ…まだだ…まだ諦めるわけには!」

「ぬぐおおおお!!!」

 

 吐き気抑え込み、力を振り絞って立ち上がろうとした瞬間、今度は二人の視界から一切の光が消える。

 

「今度は暗闇に…!も、もうダメか…」

「クソッ…俺たちの夢もここまでか…」

 

 非常に無念そうに倒れた二人の海兵は、その後救護室に運ばれて同じように苦しむ海兵達の仲間入りを果たすのだった

 

「全く、海賊とはいえ淑女の身体を覗こうとするなぞ…今回覗こうとした海兵達にはキッチリと話しを付けておくとしよう。」

 

 そうつぶやく男は、縦じまのスーツを身にまとい、丁髷に立派な口ひげとインパクトのある見た目をした彼の名は海軍本部少将のモモンガだった。

 

「ふぅ…さっぱりした。お風呂まで貸してもらっちゃったけど、よかったのかしら?」

「お前との協定の一つだ。俺たちに拒否権はない気にするな。」

「なら良かったわ。…何人か不届き者が居たから医務室送りにしたけれど、かまわないわよね?」

「当然だ。俺からも後でキツく言っておこう」

 

 そう言ってソーンに向き直るモモンガはその姿に目を見開く。風呂上りゆえの色香だけでなく、衣服も少々着崩しており、どう見ても男しか乗っていないこの軍艦内で女性がしていい恰好ではなかったからだ。

 

「頼むわね。今後もこうやって海軍の船を休憩所に利用させてもらうから、そのたびにああやって覗かれてはいい気はしないのよ。」

「…貴様も少々無防備すぎる所もあるのではないか?せめて衣服くらいはキチンとしておくべきだろう。ただでさえお前は露出が多いんだ」

「あら、見苦しい物を見せたかしら。安心して、すぐこの船から離れるわ。」

「そういう意味で言ったわけではないが…まぁ、いい行くならさっさと行くがいい」

「それじゃお邪魔したわ。また会うときがあったら、その時はよろしくね。」

 

 そう最後に言葉を残し、ソーンは空に飛びあがり去っていく。

 

「壁越しでも正確に射抜いてくるか…しかも明らかに手加減されていた。全く末恐ろしい女だな。海賊に頼るのは不本意ではあるが、確かにあれほどの人物ならば海賊達の抑止力となるのも納得か。」

 

 ある日、世界政府から王下七武海に新たに加入した二人の人物が発表された。

 王下七武海は海軍と共に四皇達や他の海賊達の抑止力となる為に生まれた制度だ。

 そんな七武海に加入するだけあって、この大海賊時代の中でも特筆して強大な力を持つ海賊だけが選ばれている。

 その為、今回新たに加入する二人もまた話題に尽きない海賊達だった。

 

 海賊女帝【ボア・ハンコック】

 彼女はその美貌と初頭手当8000万ベリーという規格外の金額によって、その実力を世に知らしめていた。

 

 そして、もう一人、魔眼の狩人【ソーン】。これが海賊達にとっては最悪な人物の加入だった。

 

 ある日突然現れたその人物は、大小問わず無差別に数多の海賊達を一方的に狩り続けた事で、世界最強の賞金稼ぎとして名を馳せていた。

 彼女に狙われたが最後、双眼鏡を使用しても認識できぬ程の距離から、光り輝く矢によって正確無比かつ無慈悲なる矢の雨に晒され、それらに射抜かれた者は一人残らず、抗う事が不可能な睡魔、身動き一つできない程の身体の痺れ、眼を開けているのに光が一切入ってこなくなる、猛毒によって走る激痛、火に焼かれていないのに全身に現れる火傷、強烈な倦怠感が襲ってくる。といった様々な状態異常に罹り、無力化されてしまう。

 

 そんな海賊達の中には船内に立てこもることでその矢から逃れられる者達も居たが、すると今度は帆を穴だらけにして逃げられなくした後に、最初の攻撃は小手調べだったと言わんばかりの無数の矢で船体を穴だらけにして沈没させてしまうのだ。

 

 抵抗しようにも矢を放ってくる本人は双眼鏡でもどこに居るか探せず、反撃は不可能。船内に立て籠れば船ごと破壊されるという一方的すぎる攻撃方法から海賊達からは魔眼の狩人と恐れられていた為、当時彼女は世間からも大きな注目を集めていた。

 

 しかし、ある日彼女は海軍支部の一つを壊滅させてしまう。世間からはこの突然の狂逸した行動に驚かされていた。

 賞金首を狩り続けていた事で英雄視すらしていた者も居たのだ。

 

 実際の所はその海軍支部が腐りきっていたのが原因なのだが、当然ながらその事実は隠され、更にはその海軍支部の行いの一部までも濡れ衣として着せられていた。

 民衆の英雄から突然海賊に堕ちたソーンを世間は叩きまくっていたが、海賊達にとってはまさに朗報だった。

 賞金首になってしまうと賞金を貰えなくなるので、名声を上げる以外には賞金首を狩る必要がなくなるからだ。もう魔眼の狩人に恐れる必要はない!そう思い、再び数多くの海賊達が名乗りを上げ、民衆の被害は再び大きくなっていた。

 

 しかし、その数年後にそんな彼女が七武海入りをしたことで、手のひらを返すように今度はソーンを持ちあげるような報道が数多くされるようになっていった。七武海は海賊達への抑止力として働く為、再びあの魔眼の狩人として海賊を潰してくれると期待されたからだ。

 裏切り者と叩いていた者たちは再び彼女を英雄視するようになっていた。

 

 そして、同じく七武海に加入という知らせを受けた海賊達は再び訪れるその一方的な蹂躙を恐れて、その場で解散してしまう海賊団も少なくなかった。

 

 七武海に強力な海賊が入った事で、世間は海軍の力がより強大になったと報道し、民衆もまたより一層海軍へ強い期待を抱くようになる。

 だが、そんな当の本人は世間の話題が自分に集中していることなぞまるで気にしておらず、自由気ままに空を飛んでいたのだった。

 

 

 




ソーンの二つ目のアビリティ【ディプラヴィティ】に腐敗という状態異常があるので、それを軽めにかけたので、海兵は吐き気に襲われています。

この【ディプラヴィティ】はゲーム内じゃそこそこ性能なんですけど、ワンピース世界に落とし込んだら超凶悪なアビリティに変化しちゃいました。


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なお、中身は

 七武海に加入してから、しばらくの間は自由に行動していた。

 

 クロコダイルに挨拶するついでに、ロビンを一目みようとアラバスタ王国に行ったら、まだバロックワークスは設立しておらずクロコダイルが海軍の信用を得るために海賊を狩っていたので、それに便乗したり、七武海として海賊達を襲撃しまくったり、海軍の船を休憩所として利用させてもらったり、様々な春夏秋冬の訪れる島々を巡ってワンピ世界を満喫していた。

 ただ、その際に立ち寄る島の街の殆どで、まるで祭りのように島中の人間から歓迎されるのは予想外だった。

 

 確かに賞金首として顔が知れ渡る前までは、襲撃されていた街の住民から感謝される事もあったが、それでもその島内で収まる程度だったのだ。

 時々耳ざとい記者が取材に来たりもしたが、面倒だった為、視認した瞬間からすぐ逃走していた。そんな記者達も自分が賞金首になってからは、裏切り者の英雄として好き放題叩いていたらしい。

 当時は夢だと思っていたから派手に暴れ回っていて、海軍だろうとお構いなしに襲っていたので、仕方ないだろう。

 

 ちなみに何故他人事なのかというと、これらの情報はたまたま近くに休憩に寄った島が過去に海賊の襲撃から救った島で、その島民たちから聞いたからだ。

 世間は自分を叩いておきながら、七武海に加入した瞬間に英雄として持ち上げるとはなんて恥知らずだ!と島民たちは怒っていたので、あれらの記者達の手のひらはドリルで出来ているので、仕方ない。と窘めるのは大変だったものだ。

 

 この大海賊時代は悪がもっとも勢力を強め、市民達はその脅威に怯えて生きている。そんな中に現れた海賊を潰しまくる【魔眼の狩人】に期待を寄せるのも仕方ないのだろう。

 とはいえ、その当人である自分からすると、非常に落ち着かないのでやめてほしいものだ。

 

 七武海に加入したら、社会的に動きにくくなるだろうとは思っていたがまさか海賊から狙われるのではなく、パパラッチから追われるとは思わなかった。

 彼らの情報網はすさまじく、近くで海賊を潰して海軍に受け渡してから、少し街で休憩しようかと思うと、数日のうちに大量の記者達が泊まっている宿に殺到してくるのだ。お蔭で最近はますます逃げ足に磨きがかかってしまった。

 

 それでも街中で不意に遭遇した記者に突撃取材された事があったので、七武海に加入した以上そういった事も多少は受けようと思い、素直に取材に受けたのが間違いだった。

 最初は当たり障りのない取材内容だったのが、次第に私生活に関する話題に変わっていった辺りで、自分はやめるべきだったのだ。

 あの手の記者達というのは人を乗せるのが非常に上手い。もう本当に上手いのだ。気が付けば何故か自分の写真集が出ていた。

 

 本当に訳が分からなかった…確かに、乗せられるがままに色々と写真撮影には応じたが、まさかそれを写真集として売り出すのは予想外だ。

 ソーンが美女なのは紛れもない事実だが、今の中身は自分なのだ。元男としては非常に複雑な気持ちだった。

 

 とはいえ、出てしまった以上もはやどうすることもできないのだ。割り切って生活していくとしよう!

 そんな風に考えていたある日だった。

 

「貴女に惚れました!付き合ってくれないでしょうか!!」

「…お断りするわ。」

「つ、次は私だ!私も「それ以降に控えている男性も含めて全てお断りするわ」

「「「「そ、そんな…!」」」」

 

 何故だ、何故俺はこんな目に遭っているんだ…名前も知らんモブ男から告白だと…?寒気しかしねぇわ!!!

 あの日、調子に乗って写真撮影に応じて色々と撮られたのがすべての原因だ!!何故あんなことをしたんだ過去の俺!

 

 とにかくこの場から一刻も早く逃げようとしたのだが、残念ながらまだここの宿屋の料金を払う前だった。窓から飛んで、受付に行こうにもその外にも男達は待ち受けていた。

 そんな光景に鳥肌が立ち、思わず【ディプラヴィティ】をしそうになったが、流石に一般市民に使うのはまずいだろう。

 …いや、待てよ?あの状態異常ならワンチャンあるんじゃないか?なんかこう…恋にシビれた的な!…あとは眠らせたり盲目にさせても凝りなさそうだしな!よし、そうしよう!

 

 さっそく、窓から飛び立ち、目につく男達にめがけて【ディプラヴィティ】を放つ。勿論ダメージはナシだ。その代わり…

 

「アヒィッ!!!」

「ウヒィッッ!!!」

「アババババ!!」

「な、なんだこの痺れ…そうかこれが!恋…ウッ…」

 

 男達は全員身動き一つ取れずに倒れ込んでいく。しかし何故か男達の眼はハート状態だった…気持ち悪い。

 先ほど男達に使用したこの状態異常は【麻痺】だ。

 

 実はこの【麻痺】こそがソーンが十天衆の中でも取得率No.1となる一番の理由だ。

 麻痺は多くのゲームでも登場する非常にポピュラーな状態異常で、多くの場合は確率で行動不能になる物だが、グラブルはそんな生易しい性能ではない。

『3ターン完全行動不能』もしくは『1分間完全行動不能』となるのだ。

 この1分間が非常に重要で、グラブル内で終盤に1分間殴り放題となれば、大体の場合は決着がついてしまう。それほどまでに圧倒的な性能を誇るのがグラブルの【麻痺】だ。

 

 この【麻痺】の為だけに取得する価値があるほどで、数多くの状態異常があるグラブル内でもダントツで最強の状態異常だ。

 あまりに強すぎるがゆえにゲーム内でバランス崩壊を起こしているので、この麻痺に対して完全耐性を持っていたり、非常に耐性が高かったりする敵も居るのだが、そこはご愛敬だろう。

 

 ちなみにこの麻痺をかけるには【ディプラヴィティ】の他に、女ヶ島で武々をした時に使用した【アストラルハウザー】という奥義を使用する必要がある。

 

 この奥義を使用すると殲滅の鏑矢というバフが付与されて、その状態で三つ目のアビリティ【クリンチャー】を使用することで麻痺が入るようになっている。

 こちらの麻痺はより効果時間が長くなっている。

 

 そんなゲーム内でチート性能を誇る麻痺はワンピ世界でも健在で1分どころか相手によっては半日も身動きがとれない性能になっていた。

 相手の実力が高い程、麻痺の効果時間は下がっていったが、今の所は完全耐性を持つ相手には出会っていない。

 

 今回は手加減して数十分で解けるだろう。地面に転がる男達を唖然とした表情で見つめている受付に、宿代を払った後、次の島へと向かっていくのだった。

 

 

 




週一更新とかいっておきながらアレなんですけど、気分転換で書いてるんで、あくまでも目安なので、遅れても怒らないでね!

この【ディプラヴィティ】が一番扱いが難しい…まだまだ登場していない状態異常があるんですけど、ワンピ世界に落とそうとすると凶悪すぎるんですよねw

11/1追記
すいません、次の更新は結構遅れると思います…

次の更新も古戦場前にはやらないと更に遅くなるので、もう少しお待ちください。


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要塞ナバロン

お久しぶりです!すいません!ホントは11月中に書きたかったんですけどね…気がついたら闇古戦場始まってました。
今後もこのくらい間隔あくと思いますが、のんびり待ってくだされば幸いです。多分きっと恐らくメイビーで次話は早いです。


 あれからというもの、行く先々の島で歓迎と同時に多数の男達が言いよってくるようになってしまった。

 どうやら、例の写真集はとんでもない売れ行きらしく、今でも再販と同時に売れ切れてるらしい。そのせいで記者達の追撃も更に厳しくなってしまっていた。

 最近はもはや取材等ではなく、その写真集の第二弾をどちらが先に出すかの戦いと化しているのは気のせいではないはずだ。

 

 このような状態になってしまったのは間違いなく自重せずに好き放題暴れ回っていた過去の自分のせいではあるが、もはやこれでは海賊などではなく、ネズミ小僧のような義賊になってしまっているような気がする。

 確かに、元は世界一平和な日本出身なだけあって、気に入らない奴以外の略奪行為もしていないし虐殺行為などは趣味ではない。なんなら、実はこのワンピ世界に来てから殺人すら一度もしていないのだ。

 勿論必要ならば殺す事も厭わないと考えてはいるし、覚悟もできている。

 ごく普通の日本人だった自分は、人を殴った事もなければ、その殴るのさえ強い拒絶感を覚える程度には喧嘩嫌いで争い事は非常に苦手だった。

 

 それなのに、躊躇なく人に矢を射かける事ができるのは憑依転生ゆえの特性だろう。肉体に精神が引っ張られている奴だ。

 それでも日本人としての感性は残っているので、なるべく相手を傷付けないようにしている。

 その為、相手を無傷で無力化できるソーンの能力は非常に優秀だ。

 おかげで最近は海軍からも信用されてしまっている。海賊はなるべく生け捕りにして、見せしめとして公開処刑するのが海軍の方針だからだろう。

 そのせいで驚いた事に近頃は海軍の若い海兵からも求婚されるようになっていた。当然全てバッサリ切り捨てたが、それでいいのか海軍…。

 

 さて、どうした物か…自分の予想以上に知名度が上がってしまったせいで、最近は島中から沢山の贈り物をされるのだが、自分は船を持っていないので、そのたびにその全てを断っている。

 本当は女ヶ島に贈りたいが、それはできないので諦めるしかないだろう。

 

 ここまで市民や海軍からの期待が高くなると、気軽に七武海を辞めにくくなってしまうので勘弁してほしい。

 確かに、市民に対して略奪行為を行う海賊は嫌いだし、あの支部のような腐った海軍も嫌いなのは事実だが、べつに正義の味方になるつもりもなければなったつもりもないのだ。

 例えばだが、カイドウやビッグマム本人や幹部が一般人を襲っていたとしても、見て見ぬふりをするだろう。理由は単純にリスクが高すぎるからだ。

 

 原作最強格のキャラとガチバトルなんて今の所はするつもりは全くないのだ。自分の今の目的はあくまでもこのワンピ世界を観光したり過去を覗き見て満喫する事だ。周りの雑魚を蹴散らす程度の手助けはするが、それ以上は踏み込むつもりはない。

 もし、今以上に敵を増やしてしまえば更に動きにくくなるだろう。それだけは避けなければならない。

 そういえば、四皇で思い出したが白髭や赤髪に会いにいくつもりだったのをすっかり忘れていた。

 この二人ならば手土産を持っていけば問題ないだろう。

 赤髪はルフィが小さい頃に出会っていることは覚えているので、今ならフーシャ村に居るかもしれない。

 よし、さっそくフーシャ村に行くか!

 

 すぐさま旅支度をして、宿代を払い、島を出ることを伝えると、それなら島の住人全員で送りたいと宿屋の主人が言い出してきた。

 だが、自分はあくまでも海賊だ。いつものようにそんな物はいらないと伝えた後、フーシャ村の場所を教えてもらう為に海軍支部へと向かう。

 

 協定は軍艦を休憩所として利用するだけのはずだったが、海軍の信用を得てからは、様々な島の場所も教えてもらえるようになっていた。

 本当ならば、海軍が海賊に島の場所を教えるなんてしないだろう。教えた先で市民が襲われてしまえば、海軍の責任となるからだ。

 しかし、自分の場合は行く先々で海賊を捕らえまくっているのだから、教えない理由がない。むしろ海賊の被害が大きな島の場所を積極的に教えに来るほどだ。

 一応、教えてもらった場所が近ければ、観光ついでにそこにも向かうが、遠かったり、興味が惹かれなければ無視している。どちらにせよ、海軍が被害を把握しているなら遅かれ早かれ鎮圧されるはずだ。

 

 あまり海軍にいいように利用されるのも癪なので、島の住人には悪いが海軍が来るまで我慢してもらうしかない。

 実際、たまに勘違いした将校が、自分を駒のような言い方をしてくるのだ。勿論、そういう奴には容赦なく【ディプラヴィティ】で黙らせている。

 自分は海兵ではなく海賊だ。…海賊っぽくないのは確かだが、それをまるで自分が海賊掃討専門屋みたいにいうのはお門違いというものだ。

 そして、軍艦で休憩してる時に教えてもらった近場の海軍支部に向かうと次第に巨大な島が視えてきた。

 その島は、真ん中の島は塔のように聳え立ち、その周囲を囲むような形で湖があり、更にその周囲にも陸地がある島だった。

 ドーナツ状の陸地にはまるでハリネズミのように張り巡らされた多数の砲台で固められていて、まさに鉄壁の要塞の名にふさわしい強固な見た目をしていた。

 飛行機や飛行船もなければ気球すらないこのワンピ世界ではこのような要塞は大きな脅威となるだろう。島の出入り口もたった一つしかないので、守るにはうってつけだ。

 この要塞の形どこかで見たような記憶があるな…恐らく原作で出てきた所だろう。

 それに原作云々関係なく、単純にこの特徴的な島に興味が惹かれたので、訪ねる事にした。

 ただ、海軍から信頼されはじめた七武海とはいえ海賊が侵入してしまえば、大騒ぎになりそうだったので、その門扉に立つ海兵に話しかけようと空から話かける。

 

「こんにちは、海兵さん。」

「上から…?うわぁっ!?」

 飛翔術で飛んでいる状態で話しかけたせいか、海兵は自分を見た瞬間に驚きのあまり尻餅をついていた。

「大丈夫?上から突然話しかけてごめんなさいね。」

「ま、まさか貴女は…!ソーンさんですか!?」

「そうよ。それで、さっそくで悪いのだけれどここの支部長さんと話を…」

「恥ずかしながらじ、自分ソーンさんのファンなんです!海賊でありながら海賊を討伐する…海兵の身でありがならも、その行いに感動しています!」

「ありがとう。で、ここの…」

「もし、よかったらサインとか!もらえないでしょうか!!!」

「それは構わないのだけれど、それより…」

「本当ですか!!!な、何に書いてもらおうかなぁッ!」

 

 …どうやら自分に会って舞い上がっているようだ。肝心の話をまるで聞いてくれない。とりあえず正気に戻すためにももっと近づいてから話かけるべきだろう。

 あたふたと服のポケットを弄っている海兵にグイッと近づく。

 

「か、書くもの…は自室か、すいません、いま取ってきま…ッッ!???!」

「それよりも!私の話を聞いてくれるかしら?」

「は、はは、はいィィッ!!」

「ここの支部長さんに話をしたいから、それを伝えてきてからにしてちょうだい?」

「か、かかかか、かしこまりましたァ!!!!」

 

 素早い動作で敬礼をしてから、凄まじい速度で建物に向かっていく海兵。

 はぁ、これでやっと話が通じそうだ。それにしてもどんだけ緊張していたんだ、顔真っ赤だったぞ?…いや、でもソーンさんに詰め寄られたら自分もめちゃくちゃ緊張する自信があるぞ?

 どうにもまだ人と話す時は男の頃の感覚で接してしまうな。これではワンチャンあると思われてしまう、気を付けないといけないな。

 

 しばらくすると、あの海兵がすっ飛んできたので、案内してもらったが、その道中は海兵達からの視線が物凄かった。…果たして、どういう原理で目がハートの形に変化しているのだろうか??

 

 同時に、自分が案内をお願いした海兵は冷や汗をダラダラと流し、動きはまるで錆びついたロボットのようにギクシャクと動いていた。

 大きな島なだけあって、支部長が居るという部屋に到着するまでに、それなりの時間がかかったので先ほどの海兵に適当に世間話でもしようかと思ったのだが――

 

「随分と大きな島ね、ここはどういう島なのかしら?」

「ひゃいッ!こッ、ここッ、ここは要塞ナバロンという場所でしてッ!」

 

 要塞ナバロン?そうか、ここがあのナバロンか。ルフィ達が最初にやってきた海賊だったけど、自分が前例を作ってしまったな。

 

「一度も海賊から攻められた事のない難攻不落の要塞として有名ですッ!!」

「確かに、これほどの規模の要塞となれば、海賊達にとっては大きな脅威でしょうね。」

「ひゃいッ!!!ソ、ソソソッ、ソーンさんにそう言ってもらえるのは大変うれしく思いますッ!!!」

「…えっと、それで、さっき言っていたサイン?は海兵として色々と大丈夫なのかしら?」

「ひゃいッ!!!!なッ、なな、内緒でお願いします!!!!」

「ふふっ、いいわよ。誰にも言わないでおいてあげるわ。」

「ひゃいィィッッ!!!!」

 

 それにしても、大丈夫かこの海兵?ものすごく挙動不審なんだが…。そんな風に考えているうちにようやく支部長の居る部屋に着く。

 すでに連絡は行き届いているらしく、多くの海兵に迎えられながら、支部長に対面する。

 

「私はジョナサン少将だ。それで、王下七武海の中でも話題の君がこの要塞ナバロンになんの御用かな?」

「フーシャ村…いえ、ゴア王国の場所を教えてほしく訪ねたわ。」

「ゴア王国に?何の目的で?」

「それはナイショね。私は海兵でもないのだから、答える必要はないでしょう?」

「ごもっともだ。君の申し出ならば仕方ない。ゴア王国までの地図を渡したいのだが…その前に一つ提案がある。」

「なにかしら?」

「それを言う前に、全員この場から退出してもらえないかな?

「「「「はっ!」」」

 

 随分と聞き分けのいい部下だな、普通に考えて海賊と海軍のお偉いさんが一対一で話し合うなんて明らかにおかしいだろ…果たして何の話をするのだろうか

 

「訓練に付き合ってもらえないだろうか?」

「訓練に?どのような?」

「この要塞ナバロンは、鉄壁の要塞だ。あまりの頑強さにほかの支部のように海賊が襲ってくることがない程にだ。」

「それはそうでしょうね。私や一部の人以外は空を飛べないもの。」

「それゆえに、この内部に勤務する海兵達は少々だらけてしまっているのだ。そこで、その海兵達の意識を変えさせる為に訓練をしたいという訳だ。」

「それは構わないけれど、見返りはあるのかしら?ゴア王国の場所を教えてもらうだけでは不釣り合いよ?」

「当然の要求だな、何が望みかね?」

「そうね…それじゃ、もしもその訓練の成果を見せる時が来ても、海賊を一度だけ見逃してくれないかしら。」

「どういう事だ?」

「言葉通りよ?海賊が侵入してきたら、一味全員の島内脱出だけは保証してほしいの。それ以外は特に何しても構わないわ。そうじゃなきゃ訓練の意味がないでしょう?もちろん、襲撃だけしにきた海賊じゃなくて、更に島内に侵入してきた海賊だけが対象よ。」

「…わかった、いいだろう。」

「あら?言っておいてなんだけれど、随分あっさりと引き受けるのね」

「正直、訳がわからない要求だが一度だけ脱出の保証をして、それ以外は何をしようと構わないのだろう?それなら私が後で秘密裏に逃がしてしまえばいい話だ。」

「それ程に貴方にとってこの訓練は重要な物だと考えているのかしら?」

「この要塞ナバロンを攻める事のできる海賊など数えるほどしか居ないのは事実だ。そのせいでここが出来てから一度も攻められていない。その為少々まずいことになってしまうのだ。それを回避する為にも今回の訓練をお願いしたわけだ」

 

 恐らく、この要塞の実用性を本部に訴えるのだろう。軍である以上必要のないものは切り捨てられしまうからな。

 

「とりあえずその訓練自体は私としては特に問題はないけれど、訓練って何度もして身体に覚えさせる物でしょう?一度だけで大丈夫なのかしら?」

「ごもっともだ。なのでどちらかといえば演習だろう。日頃の訓練だけでは如何に不十分か思い知らせてほしい。」

「随分スパルタなのね?それほど慢心しているのかしら?」

「否定はしないでおこう。それで、早速だが始めてほしい。」

「わかったわ。それで私はどう動けばいいのかしら?」

「そうだな…とりあえず超長距離狙撃と深い傷を負うような攻撃はやめてもらいたい。一応演習だからな。それ以外は特に制限はない。」

「という事は、眠らせたり、見えなくしたり、装備品を破壊してもいいのかしら?」

「もちろんだ、海兵でもない上に海賊相手にそこまで要求はせんよ。とはいえ装備品の破壊も程々にして欲しいがな。それで、そちらの勝利条件は最深部の保管庫にあるゴア王国の地図というのはどうだ?そして、敗北条件は海楼石入りの網に捕らえられたら負けだ。」

「わかりやすくていいわね、それでいいわよ。」

「では、今回は襲撃を予想した演習なので、少々準備させて欲しい。それが終わり次第、こちらからわかりやすい形で合図をしよう。それまで門の空中で待機してもらいたい。」

「わかったわ、私は空で待ってるわね。先に言っておくけれど容赦はしないからそのつもりでよろしくね。」

「望むところだ。」

 さて、つい勢いで受けてしまったが、なんだか楽しそうだし、ここまでの数と規模を相手にするのは初めてだからな、いい特訓にもなりそうだ。

 それじゃあ、準備が終わるまで——どういう配置になるのかじっくり観察させてもらおうかな!!

 




最初、永久指針渡そうと思ったんですけど、ゴア王国ってグランドラインにはないですから永久指針とかないですよね?


後、闇古戦場は個ラン15万位目指してまったり頑張ります。
光古戦場までにソーンさんをアレ状態にしたいけど、流石にインターバル短すぎてキツそうですね…


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