その日は、珍しいことに麒麟様、鳳凰様、鬼灯様がそろって薬を取りに来た。
「…という訳で、今白澤様はいないんです」
「まったく、あいつは相変わらずだな」
麒麟様は呆れたように言った。
まあ、あれじゃそう言われるのも仕方ないよな。
「ま、あいつにはいい薬じゃて」
「ええ。しかしまあ、瑞獣でも入院したりするんですね」
事の始まりは、本当に下らない事だった。
ぶっちゃけ、白澤様が中さんにぶっ飛ばされた。
それがいい感じに急所に入り、入院。
中さんは五道転輪王様に叱られたようだ。
「実際はただの検査入院で明日には帰ってきますけど」
「ふん、タイミングの悪い奴じゃ。ま、話し相手には事欠かんからいいがな」
「それって俺ですか?鬼灯様ですか?」
「両方じゃないかな?」
「はぁ、一応私は忙しいんですが」
「まあまあ、少しはこの年寄りの話しも聞いてゆけ」
という訳で、このお茶会は始まった。
「しかしまあ、鬼灯殿は白澤によう似ておる」
「その話ですか。いい加減やめていただけませんか」
「鬼灯様ってその話本当に嫌がりますよね」
「ええ、あいつに似ているなんて不名誉極まる。最早侮辱以外なにものでもない」
そ、そこまで…
「ん?どうした鳳凰よ?」
「んー、そういや昔にもこんな話を麒麟としたな」
「こんな話って、似てる似てないの話ですか?」
「ふむ、確かにあるの」
「どうせそれも私では?」
「鬼灯殿、やさぐれてますね」
「いや、その時は行動も含めて似てるなと」
あ、それは別人だわ。
「あれはどのくらい昔だったかの?あやつに人間の友人が出来たと聞いて、この鳳凰と見に行ったんじゃ」
「そしたら似た顔の二人が女の子をナンパしてて、麒麟と呆れた覚えがある」
そりゃ呆れるわな。
鬼灯様も不機嫌オーラ出してるし。
「まあ、その人間はその後身を固めて、嫁一筋になったらしいよ?」
「そりゃ、嫁に尻に敷かれたんじゃ?」
「さあのぅ、そこまでは知らんわい。まあその後も付き合いは続いたようでな、白澤の奴はその人間に子が出来た時、まるで自分に子が出来たかのように喜んでおったがの」
「へえ、そんなことがあったんですか」
「あったねそんな事。でもその後あいつすごい落ち込んだりしてなかったっけ?」
「え?何でですか?」
「さあのぅ、あやつはその事は一切話さなんだからの」
「大方仲違いでもしたんでしょう。では失礼します」
鬼灯様はそう言い残して帰っていった。
「やれやれ、もう少し位ゆっくりしてゆけばよいものを」
「まあ鬼灯様も忙しいんですよ。そういや、その人間の友人って何て言う名前だったんですか?」
「んー、何て名前だったっけ?」
「そりゃ儂も忘れたわ。じゃがそやつの子供の名前は知っておるぞ?白澤のやつがさんざん言っておったからの」
「言ってた言ってた。吉兆瑞兆の『兆』だって」
病院のベッドに寝転がりながら、ふと昔の事を思い出す。
かつてね友人の事。
そして、友人を賊に殺された事を。
「あの頃はホント荒れたよな」
暫くは部屋に閉じ籠ったし、その後は彼を忘れるように女の子達にアプローチしたっけ。そして、
「あいつに、会ったんだ」
僕に、そして友に似たあいつに。
「一発でわかったよ。あいつの子供だって」
だから僕は決めたんだ。
鬼灯が困れば手は貸してやる。だけど、
「絶対に教えない。それが僕のケジメだ」
それが、僕のひねくれた決意。
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