無色と灰色の交奏曲 (隠神カムイ)
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設定資料
無色と灰色の交奏曲 キャラクター設定資料『プロローグ~他バンド交流編』


陽だまりロードナイトのやつをやる前にこれまでの無灰メンバーの事の設定資料をあげようと思います。
今回は主に主人公の奏多とRoseliaメンバーの設定資料です。Roseliaメンバーは基本は原作「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」と同じですが奏多の介入で多少の変化はあります。そのため変化したところだけの紹介となりますので原作をあまり知らない方は「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」の方を見てから来ることをオススメします。


主人公 九条奏多

 

身長170cm 体重58kg

 

好きな食べ物 甘い物、緑茶、コーヒー

 

苦手な食べ物 納豆などのネバネバしたもの

 

得意なこと ネトゲ、音色の判定

 

苦手なこと、弱点 会話、方向音痴

 

イメージカラー 無色

 

本作の主人公。

生まれつき個性を表す《色》が無く、影が薄い。

 

小さい頃に母親に見捨てられ、父親があまり喋らないため家で会話がなくそのため会話が苦手。

 

話そうとすると緊張してしまい自然と敬語になってしまうが父親と叔父だけは敬語を使わずに話すことが出来る。(それは母親に見捨てられたせいで人に対する信用度が少し低く、心から信用できる人にしかタメ語で話すことが出来ないためである)

 

更に母親がいなくなったせいで女性の温もりや愛情を感じることが出来なかったため女性に対する関係の取り方がわからず、恋や恋愛などはからっきしダメ。

 

会話が苦手なため高校1年まで友達と呼べる存在が少なく、休日等はほとんど家に引きこもって遊んでいた。

 

そのためネトゲの腕はかなり上達し、プレイヤーの中では少し名の知れた存在になりつつある。(ユーザーネームはカナタ)

 

花咲川高校に転校してからは今井リサの影響もあってか人並み程度には話せるようになっては来ていて、友人(といってもほぼ女子)も増えてきている。

 

始業式の夕暮れに聞いた音色に感動し、音楽に少し興味を持ち始める。

 

Roseliaに入った理由は『湊友希那が目指す場所に自分の求める色が見つかるような気がした』からであるが楽器は引くことが出来ず、歌声も凡人以上なのでマネージャーとしてメンバーのサポートをしている。

 

湊友希那からはスケジュール管理と予算管理、新曲名の決定やカバー曲の選曲を任されている。

 

クラスやネトゲをやっている関係で白金燐子との関係が深く、CIRCLEからの帰り道もほとんど一緒なのでよく一緒に帰っている。

 

 

 

父親の仕事の関係で一人暮らしをしており、仕送りの他にコンビニでアルバイトをして生活費をやりくりしている。

 

そのコンビニには同じバンドの今井リサや今井リサの後輩の青葉モカがおり、シフトの関係でほとんど一緒に働いている。

 

 

 

 

 

Roseliaメンバー

 

湊友希那

Roseliaのボーカル。

 

基本設定は原作参照。

 

いつもはクールで音楽のことになると周りが見えなくなるが猫を見ると緩くなる。

 

宇田川あこのオーディションの時に今井リサに用があった奏多に不信感を抱いていたが奏多の才能に目を付けマネージャーとしてスカウト。

 

原作の『Roselia1章』の11話~のストーリーは奏多の介入のためそのルートは無くなっている。

 

 

 

LOUDER編では父親の曲を歌うことに迷いを持っていたが父親と奏多の叔父で父親の昔のバンドメンバーである九条茂樹に促され歌うことを決心。

 

仲間との馴れ合いはあまり好まなかったが、絆を深めることが完璧な音楽への1歩だと知り仲間との関係を深めていくようになった。

 

 

 

 

 

今井リサ

Roseliaのベース。

 

基本設定は原作参照。

 

湊友希那の幼なじみでギャルのような見た目だが人当たりがよく、面倒見が良い。

 

奏多とはバイトの先輩として出会う。

 

人と話すことが苦手な奏多に会話のレクチャーなどをしたりして仲を深めていった。

 

顔が広く、色々な友達や知り合いがいる。

 

 

 

 

 

 

氷川紗夜

Roseliaのギター。

基本設定は原作参照。

 

しっかりとした性格で学校では風紀委員をしており、奏多とは最初、校内紹介として話しかけた。

 

基本後ろ向き思考で安全にやることが多い。

 

『日菜』という双子の妹がいる。

 

奏多と出会ってからしっかりとした性格は変わらないものの少し丸くはなった。

 

 

 

 

 

 

宇田川あこ

Roseliaのドラム。

基本設定は原作参照。

 

元気な性格で常に「カッコいい」事を探しているため発言に所々厨二病っぽい言葉も入る。

 

奏多とは彼が道に迷った時に白金燐子が話しかけて言った時に出会った。

 

ネトゲでもパーティを組んでおり死霊魔術師としてトリッキーな戦い方をする。

 

奏多と出会ってから自分のミスが少なくなってきたので彼には感謝の気持ちがある。

 

 

 

 

 

 

白金燐子

Roseliaのキーボードで本作のメインヒロイン。

 

基本設定は原作参照。

 

引っ込み思案な性格。

奏多とは始業式の日に見ていて、その日の夕暮れに弾いたピアノが奏多に聞かれていた。

 

後日奏多が道に迷っていたところを見つけ、自分から話しかけに行ったことで奏多との関係を本格化させた。

NFO内で奏多と話してから学校で話すことも多くなり、今では一緒に帰るほど仲が良い。

 

Roseliaに入る時緊張していたが奏多の自分を変えたいという気持ちに自分もそうなりたいと思ってオーディションに挑み加入。

 

Roseliaのキーボードとしてステージに立ち始めた。

 

曲名制作で悩んでいる奏多に助言をしたり、氷川紗夜のポテト好きを見抜くなと目割によく気を配っている。




設定としてはこんな感じです。
他のメンバーはリクエストや時間があればやろうと思いますので!


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無灰設定資料集『5章~7章』編

はい、無灰の設定資料集の新規版です。
ネタバレ要素含むのでまだ本編読んでない方はそちらからがオススメ。
今回は『九条奏多』と『陰村炎』のこの作品限定の二人の設定となります。奏多は前回もやりましたが7章で成長したこともあり一からやることになりました。(どっちかと言うと補足に近い)
付け加え設定もありますのでそこんとこは新しく見るつもりで見てください。
インディーズメンバー等もやってほしい場合はリクエスト等で受け付けるのでメッセージいつでも待ってます!

それでは設定資料集どうぞ!


主人公 九条 奏多(くじょう そうた)

 

性別 男

 

身長170cm 体重58kg

 

誕生日 12月27日

 

年齢 16歳

 

好きな食べ物 甘い物、緑茶、コーヒー

 

苦手な食べ物 納豆などのネバネバしたもの

 

得意なもの ネトゲ 音色の判定 料理等の家事全般

 

苦手なものや弱点 会話 方向音痴 圧倒的ジャンケンの弱さ

 

イメージカラー 無色

 

 

 

本作の主人公。

 

4章までの設定は前回の資料集参考。

 

5章でわかるように人に頼むと断れないタイプ。

 

バイトで多少は付いてきたが基本の体力が人並み以下な為、激しいことや長時間何かをすると息が上がりやすい。

 

しかし好物の甘いものを食べるとすぐに回復する。

 

彼は無類の甘いもの好きでありスイーツバイキング等では自分の財布が許す限り買い込むこともしばしばある。(そのせいで八月の生活費がカツカツになってしまった。)

 

甘いものを目の前にすれば人が変わり少し女子っぽくなる。

 

その変わりようはリサが少し引くほどの凄さである。

 

 

 

6章においてリサとひまりに頼まれ海に行ったが体の傷を見られたくないために奏多は泳がずに荷物番をしていたが、リサ、ひまり、そして燐子の水着のインパクトに耐えられず気絶。

 

これは前の資料集でも記したように女性に対する免疫がものすごく低く、コンビニのバイト中に雑誌の陳列でたまたま水着の女性が表紙の雑誌を見た時でさえ顔を赤らめてしまうほどの弱さである。

 

その後にNFOとコラボをしていた海の家を手伝うことになったが奏多は父が料理できない(作ると絶望的に不味い)ため磨き続けた料理スキルを発揮する。

 

3年生から鍛え続けたスキルは凄く、レシピを見るだけで調理、更にアレンジも加えることが出来るほどである。店長曰く「もう少し経験積めば多分飯屋作っても繁盛する」ぐらいらしい。

 

 

 

7章で母親と会って心が砕け、挫折。

 

その時に他人を信じず、一人でいることが身を守れ、他人を傷つけないと思う感情が目覚めてしまい、奏多は一時的な二重人格障害となってしまう。

 

Roseliaメンバーとは初め裏の人格が話していたが炎と話した時に彼の言葉にに押し負けて基本の人格が前に出てくる。

 

その時基本の人格は砕け散り、無の人格になりつつあったが燐子の説得により元に戻り、裏の人格も自分だと認め、一時的な二重人格も元に戻った。

 

そこから奏多はRoseliaメンバーと炎にはタメ語で話すようになり、彼らには自分を助けてくれた恩を感じている。

 

 

 

本人は全く気づいてないが燐子といい関係になりつつあるのをRoseliaメンバー以外から暖かい目で見られつつある。

 

燐子とのいい関係雰囲気は恋愛に全く皆無なRoseliaメンバーは全く気がついてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

陰村 炎(かげむら ほむら)

 

性別 男

 

身長180cm 体重69kg

 

誕生日 1月9日

 

好きな食べ物 肉全般、奏多の作った料理

 

嫌いな食べ物 ピーマン、ニンジン

 

好きなもの 友達、運動

 

苦手なものや弱点 勉強、白鷺千聖

 

イメージカラー 虹色

 

 

 

本作で奏多と対になるように生まれたキャラ。

 

イメージコンセプトは「イケメンだけど天然バカ」

 

奏多が影が薄く、無色なキャラなら友達は派手で目立ちやすい多色なキャラってことで考えついたキャラ。

 

名前の由来は実は『病ンデル彼女ノ陰』の原作者のユーザーネームを少しいじったものであり「名前だけでもいいから出してくれ」とリアルで言われたので名前はこうなりました。

 

元々「友達の母親は昔自分を捨てた母親で母親と出会うことで奏多の心に亀裂を入れて砕かせる」というイメージは持っていて奏多の母親はとてつもないゲスキャラで行こうとの事。

 

炎は彼の母親でいう所の「自分が望んでいた子」であり、当時生まれてすぐ交通事故で母親を亡くし、男で一つで育てられた炎にとってとても優しく育ててくれた母親は「最高の母親」と言われるに等しい存在だった。

 

彼の父親は初め彼の母親がまだ離婚してなかったことに気が付かなく(しかも虐待していたことなんて全く知らなかった)、母親が完璧に離婚したことを期に結婚を申し込まれ結婚。

 

Roseliaや奏多と出会うまで母親が何をしてきたか知らなかった。

 

 

 

奏多とは彼の家に泊まってから無二の親友となり度々奏多の家に食事を振舞ってもらっている。(なお、Roseliaメンバーは奏多がいる時に家に行ったことはまだない)

 

白鷺千聖とは奏多が休んでいる時に同じ委員会に入れられ、自由奔放で天然バカな炎を止めるストッパーとして働いている。

 

何故出会って数日でここまで炎が怯えているのは「あいつの怒った時のオーラがめちゃくちゃ怖くて反抗できない」だそうだ。

 

ついでに千聖によれば「彩ちゃん以上にほっとけない存在」なのだそうだ。




奏多の方は設定資料集よりかは作品の補足に近いです。
炎の方は完全新規で多分細かい設定はここでしかやらないと思うんでこうなりました。
設定資料集も何かの拍子にやると思いますのでその日までお楽しみに!


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プロローグ&1話 ムショク ノ ジブン
プロローグ ムショク ノ ジブン


こんにちは!隠神カムイといいます!
小説制作は初めてながらも燐子との恋愛系の話を作って見ようと思い制作しました。まだまだ半人前ですが読んでくれると幸いです。


あと明坂さんに最大の敬意と感謝を。


プロローグ ムショク ノ ジブン

 

 

 

 

 

 

僕は無色だ

 

人にはそれぞれ個人の《色》というものがある。

 

簡単に言えば、熱血系の男の人なら赤、みんなを笑顔にする某ふわふわ系なアイドルならピンク等々それぞれが個性を出してそれぞれの良さがある。

 

 

 

そんな中、僕が生まれ持ってきたのは《無》だった。

別に身体障害や精神障害でもなく、生まれ持ってくるはずだった《色》がなく、成長した今では影が薄い存在になってた。

 

こんな体質のせいか友達も(ゼロではないが)少なく、後ろから話しかけるとめちゃくちゃ驚かれるのもよくある事だ。

 

 

 

そんな《無》の自分に変化が出たのは高校の2年の時だった。

 

それはある日の唐突な転校から始まった

 

 

 

 

 

 

九条奏多(くじょうそうた)は高校1年の一月頃、突然親父に転校しなければならない話をされた。

 

我が家は親父と僕の二人家族で、母は存在感のない僕に嫌気がさし、男を作って逃げてしまった。

 

親父は少々頑固者であまり転勤とかの話は断る人なのだが、ここ最近の家計状況と出世のチャンスに止む無く転勤することにしたそうだ。

 

僕が新しく行く高校は花咲川という高校で元々女子高なのだが来年度から名前が変わり、男子も引き受けることになったそうだ。

 

元女子高ということは女子が多いのだろうか。

 

あまり自分から喋りに行かない僕からしたら不安要素しかないが、三ヶ月後にはそこに通わないといけないのでどうにかするしかない。

 

そして、入学手続きと入学試験を通って「花咲川高等学校」の数少ない2年生の男子生徒となった。

 

 

 

 

 

 

新しい学校の先生に挨拶した後、僕は始業式で「この高校に転校してきた初めての男子生徒」として盛大に発表され、挨拶しなければならないそうだ。

 

正直めんどくさいがこれも仕方が無いことなので自分の番が来るのを待った。

 

校長先生の話が終わり、自分の挨拶の番が来た。

 

 

 

「さて、今日から2年生になんと男子生徒が入ることになりました!それでは一言挨拶を貰いましょう!」

 

・・・そんな盛大にされたら困るって。

 

そう思いながらも壇に立ち、挨拶をした。

 

「今日からこの学年に入る九条奏多です。まだ転校してきたばっかでこの街もこの高校のこともあまり良くわかってないですがよろしくお願いしましゅ・・・」

 

・・・噛んだ。

 

今思いっきり噛んだよな・・・

 

一瞬静けさが通った後笑われながらも盛大な拍手で帰ってきた。

 

めちゃくちゃ恥ずかしい転入劇だったがそこからのハチャメチャな転入初日はこれで終わらなかった。

 

 




最初なので1000文字ぐらいまでにしました
また改善点とかあればよろしくお願いします


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続プロローグ ハランバンジョウ

プロローグはまだ続きます。
小説制作は週一ペースでやると思います
あと時系列的にはRoselia結成のちょっと前ぐらいです


あの始業式が終わった後僕は自分のクラスに案内された。

 

担任の教師に挨拶した後、クラスでも挨拶するように言われた。

 

どうやら僕のクラスは2年B組でやはりと言うべきか男子生徒は僕だけのようだ。

 

1年生には男子生徒が3割ほどいるが2年生には僕しかいない上に3年生には男子生徒は来なかったらしい。

 

この時期に転校する3年生はそう居ないのでそれもそうだが、自分の学年に男子生徒1人は少々心細い。

 

そんな不安の中担任から紹介が入り、クラスの人たちに挨拶した。

 

 

 

僕「さっきも紹介しましたが、九条奏多といいます。これから1年よろしくお願いします。」

 

拍手のあと僕は自分の席に案内された。

 

どうやら窓側の一番後ろのようだ。

 

窓側なのは好きだが一番後ろはよく教師に目がつけられるのであまり好きではないが、仕方がない。

 

席に座ると隣の人から声を掛けられた。

 

「はじめましてっ!私、丸山彩っていいます!よろしくねっ!」

 

丸山彩と名乗った女子生徒が初めに声をかけてきた。

 

丸山彩といえば最近テレビで出てきたpastel paletteというバンドのボーカルの子ではないだろうか。

 

「九条奏多です。よろしくお願いします。」

 

間違いだと困るのでそこには触れず、軽い挨拶を返す。

 

軽い挨拶をしていると青髪の子が声をかけてきた。

 

 

 

「九条さんでしたか?私は氷川紗夜といいます。この学校で風紀委員をしています。この学校のことをあまり知らないと言うので良ければ案内しましょうか?」

 

氷川紗夜と名乗った女子生徒が案内をしてくれるそうだ。

 

自分から声をかける自信がなかった僕からしたら有難いことだ。

 

「ほんとですか?それじゃあお願いします。」

 

「わかりました。それでは終礼の後時間はありますか?」

 

「今日は特に予定何も無いから大丈夫です。」

 

「それではその時間に。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

放課後

 

休み時間という休み時間に転校生のお決まりというか大量の質問攻めを喰らった。

 

今日は始業式のため昼まで学校ということもあり、ほかのクラスからも盛大に来た。

 

その質問に一つ一つ答えながらもなんとか放課後、氷川さんを捕まえて案内してもらうことになった。

 

各学年の教室や調理実習室などの部屋などを案内された後、最後に図書室に案内された。

 

前の学校ではあまり友達も少なく、本ばかり読んでた僕からしたらこの学校の図書室は前の学校の比では無いほどの本の数があった。

 

氷川さんはこの後予定があるらしく、ここで別れたが僕はしばらくの間図書室にいた。

 

そこで気に入った本を数冊借り、家に帰って読もうとしていた帰宅路。

 

 

 

 

 

 

それは唐突な衝撃だった。

 

 

 

 

 

 

ピアノの音だ。

 

どこからかピアノの音がした。

 

距離があるのか音が少々小さかったがその音は澄んでいて、綺麗で、心に響く、そんな音だった。

 

僕は周りの音を気にせずその音だけを聴いていた。

 

心に響くこの音を、聴き逃さないために。

 

この音は何なんだ、誰の演奏なんだろうか。

 

もっと聴いていたい、もっと奏でてほしい。

 

音楽なんて乏しかった僕が心から感動した音色。

 

引いているのは誰だろうか?

 

 

 

その答えは思っていたより近くにあった。




てなわけで2人の対面はまだですが音色だけ対面となりました。
プロローグはこれで終わりです。
次からは本編に入ります。頑張って続ける気なのでよろしくお願いします!


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1話 デアイ ト シオリ

毎週日曜投稿にしようと思います
さてやっと初対面です


気がつけば僕は道の真ん中で30分ほど立ちすくんでいた。

 

あの音色は何だったのか、夢や幻ならばここまで立ちすくむはずがない。

 

そう考えていると後ろからの自転車のベルの音が鳴った。

 

その音で僕は我に返り、そのまま家に帰った。

 

 

 

 

家に着くと時間は4時半を過ぎていた。学校を出たのが3時半で家と学校は大体15分ほどの距離しかない。

 

それほど音色に夢中だったのかと僕は自分に呆れながらも自室へ行き荷物を置いた。

 

ふと、自分のスマホを見ると親父から今日は帰りが遅くなるから先に飯作って食べとけという連絡が来ていた。

 

最近、親父は大きなプロジェクトを任されたらしく、一週間前からこの調子だ。

 

「親父・・・体壊すんじゃねぇか?」

 

僕は心配しながらもカバンと財布を持って近くのスーパーに買い物に出かけた。

 

 

 

夕飯のメニューはどうしようか。

 

親父が帰ってからも食べれるように保存のきく食べ物の方がいいよな。

 

そんなことを考えながらスーパーに着いて材料をえらんでいると、そこには氷川さんがいた。

「あ、氷川さん。」

 

「あぁ、九条さんですか。あなたも買い物ですか?」

 

「はい。家の都合上親父が帰ってくるのが遅いんで。今日も夕飯は自分で作って食べとけって連絡が来たんです。」

 

「それは大変ですね。」

 

「いえ、もう慣れたんで。あっ今日はありがとうございます。」

 

「いえ、気にしないでください。元々こういう性格なの・・・」

 

「おねーちゃーん!」

 

突然大きな声がして後ろから氷川さんにそっくりな青髪の子が飛び出してきた。

 

「ちょっ・・・日菜!」

 

「おねーちゃんその人誰?もしかして彼氏?」

 

「違うわよ・・・今日うちの学校に転校してきた九条さんよ。」

 

「ふーん。確かに男女混合校になるって言ってたね。私氷川日菜!よろしく!」

 

「うっ・・・うん。九条奏多です・・・よろしく・・・。」

 

・・・姉妹でこうもテンションが違うものなのか?

 

僕には兄弟がいないからわからないがそういうものなんだろう・・・

 

「日菜・・・ところで何しに来たのよ?」

 

「ん~?暇だったのとアイス買いに」

 

「日菜・・・アイスばっか食べてると体壊すって何回も言ってるじゃない・・・」

 

「実際に壊したことないからだいじょーぶだって!」

 

はぁ・・・と氷川さん(姉)がため息をつく。

「話してる途中悪いけど、日菜さんだっけ?アイス持ってると溶けるよ?」

 

あぁー!っと日菜が叫んだ。

 

「ありがとうソータくん!じゃあおねーちゃんまたあとで~!」

 

バタバタと日菜が走ってレジに向かった

 

「・・・出会って数分でもう下の名前呼びなんだ。」

 

「すみません・・・妹がご迷惑をかけて。」

 

「いえいえ・・・気にしないでください。僕がこういうの慣れていないだけんで。」

 

「そうなんですか。失礼ですが人付き合いは苦手なんですか?」

 

「はい・・・そこまで得意ではないです。」

 

「私はそう思えませんが・・・あぁ、もうこんな時間ですか、私はこれで失礼します。」

 

「はい。それではまた明日。」

 

こうして氷川姉妹と別れ、僕は具材を買って家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・はずだったのだが。

 

「・・・ここ、どこだ?」

 

実は僕はかなりの方向音痴なところがある。

 

普段の生活ではこんなことは起こらないのだが、たまにこんな感じに道に迷う時がある。

 

幸い、買ってきた食品はすべて常温でも大丈夫なものだったので急いで帰らないといけないという訳では無いが時間も遅くなってきたので早く帰りたい所なのだ。

 

しかしこの街に慣れていないせいかどの道をどう進めばいいのか分からず、少々焦り始めた頃だった。

 

「あの・・・どうか・・・されたんですか?」

 

後ろを向くと黒髪でロングの女の子がいた。

 

「あっ・・・えっと・・・その・・・道に・・・」

 

「あっ・・・はい・・・その」

 

「りんりーんどうしたのー?」

 

黒髪の子の後ろから紫髪の恐らく中学生辺りであろう女の子が出てきた。

 

「あこちゃん・・・その・・・この人が・・・道に迷った・・・みたいで・・・」

 

「なんだその人に声をかけに行ったんだ~。りんりんがいきなりどっか行っちゃうからびっくりしたよ・・・」

 

あこと呼ばれた女の子が胸をなで下ろした。

 

「だいたいこの辺って分かる?」

 

「確かコンビニとスーパーの近くのところだけど・・・」

 

「スーパーならこの道を真っ直ぐだけど・・・」

 

「えっ?」

どうやらいつの間にかスーパーの前の道まで戻ってきていたようだ。

 

「見つかって・・・良かったですね・・・」

 

「あっ・・・はい・・・」

 

僕は少々赤面しながらも2人の案内に従った。

 

 

 

 

 

 

あこと呼ばれた少女の案内もあってなんとか無事に家に着いた。

 

荷物を置き、キッチンに立って料理をした後親父の分を残し、僕は自室へ向かった。

 

パソコンか借りてきた本を読むかで少々考えたもののやはり借りてきた本を読もうと思い本を読み始めた。

 

本を読み始めるとしばらくは止まらなく、本を読み終えると時刻は11時半を過ぎていた。

 

1冊を読み終えもう1冊は明日読もうと手にとって直そうとした時その本から何かが落ちた。

 

どうやら本のしおりのようだ。

 

そのしおりには鍵盤の柄が描かれていてリボンが付いている。

 

少々傷んでは入るがその様子からそれがとても大切に使われていたことがわかる。

 

このしおりをどうするか少々悩んだがやはり貰うわけにもいかないので明日図書室で持ち主に返してもらえるよう渡しに行こうと決め、その日は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

しかしあの音色綺麗だったな・・・

 

眠りにつきながらもあの音色がいつまでたっても消えずにいた。




初日編はこれにて終了です(まだ三話しかしてない)。
次の章は燐子やほかのキャラとの交流を多くするのとRoselia結成編に入ります。


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1章 メブク アオバラ ト ネイロ ノ ショウタイ
2話 トツゼン ト ハッケン


今週中にはあと2、3話上げるつもりです。
ざっとした流れが掴めてから週一ペースでやる(かも)。
さてRoselia結成編ですが今回の話はRoseliaの1章を見直してどこに主人公を入れ込むかなど色々試行錯誤してました。Roselia結成編のメインの山になると思います。


次の朝、僕は目覚まし時計の音で目が覚めた。

 

時刻は6時半、いつも通りだ。

 

起きた後は、いつも着替えずに朝食や弁当の準備をしている。

 

親父は昨日夜遅くに帰ってきていたため、まだ寝ているはずだ。

 

いつも出勤時間は9時半なのでまだ寝かせていて大丈夫だろう。

 

いつも通り、僕は準備に取り掛かった。

 

朝食と弁当を作り終え、親父を起こした後僕は早めに学校へ行くことにした。

 

氷川さんから教室の位置などは教わったが、まだいまいち覚えきれてない所もあるため早めに出て覚えようと思ったのだ。

 

うちの学校はいつも7時には校門が開くので早めに着いてもおそらく大丈夫だろう。

 

そう思って僕は朝食を食べ終え、すぐに準備して学校へ向かった。

 

 

 

午前7時40分過ぎに学校に着いた僕は荷物を置かずに学校の中を見回った。

 

朝も早いせいか人も少なく、部活の朝練をしている生徒や生徒会や委員会の生徒、教師ぐらいしか人はいなかった。

 

曖昧だった所や覚えてなかったところを覚えつつ、8時頃に自分の教室へ向かった。

 

教室の中には数人の女子生徒が授業の準備をしたり話し合ったりしていた。

 

その中にはこの前の黒髪の子がいた。

 

「えっと・・・君は昨日の?」

 

「あっ・・・その・・・はい・・・。」

 

「えっと、昨日はどうも。ええっと・・・」

 

「まだ・・・名前・・・言ってなかった・・・ですね。私・・・白金・・・燐子といい・・・ます。」

 

「あっ・・・九条奏多です。昨日はありがとうございます、白金さん。」

 

「いえ・・・昨日・・・帰っている時に・・・オロオロしている人がいて・・・多分・・・新しく・・・入った人じゃないかと思って・・・。」

 

「うん・・・本当に感謝しているよ。あのあこっていう子にもお礼を言わないと・・・」

 

「あこちゃんには・・・私から・・・言っておきます。」

 

「あぁ・・・うん、ありがとうございます。」

 

・・・会話が弾まない。

 

僕もそうだが彼女もかなり人と話すのが苦手なんだろう。白金さんの手元を見ると本があった。

 

「本・・・好きなんですか?」

 

「あの・・・えっと・・・はい。私・・・本ばかり読んでいるので・・・。」

 

「うん・・・本は読み始めると集中してしまいますよね。」

 

「はい・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

・・・まさかここまで弾まないとは。

 

どうしようかと呆然としているうちに氷川さんが教室に入ってきた。

 

「あぁ、九条さん、白金さん、おはようございます。」

 

「あの・・・おはよう・・・ございます。」

 

「えっと・・・おはようございます。」

 

僕は氷川さんが大きなケースを持っていることに気がついた。

 

「氷川さん、その大きな黒いケースは一体?」

 

「これですか?ギターです。今日、バンドの練習があるんですよ。昨日の予定もバンドの練習に行っていました。」

 

(氷川さんがバンドを!?)

 

僕はこの事実に衝撃を受けた。

 

まだ会って日にちは少ないが、いつも風紀委員の仕事や勉強などに集中して取り組んでいて他のことにはあまり興味を持たなさそうなイメージを持っていた僕にはとても意外に思えた。

 

「そんなに驚くことですか?」

 

「いえ・・・ちょっとイメージに無くて・・・。その」

 

キーンコーンカーンコーン

 

言い終わる前にチャイムが鳴った。

 

「チャイムも鳴ったので席に戻りましょうか。HRも始まりますし。」

 

「あっ・・・はい。」

 

最後まで言い切れず、もどかしい気持ちを抑えながらも僕は席についた。

 

氷川さんのバンドの話も気になるが今日は本のしおりの持ち主を探してもらう予定なので気持ちを切り替えて授業を受け始めた。

 

 

 

 

放課後

 

(授業も終わって終礼も終わったし、図書室へ向かいますか・・・)

 

そう思いつつ足を運ばせると携帯に通知が来た。

 

どうやら親父かららしい。

 

「親父から?こんな時間に?」

 

内容は『急だが話がある。とっとと帰ってこい。』というものだった。

 

いつもは仕事で忙しいはずの親父が今家にいるということに驚きつつ、僕は図書室に向かうのをやめ、家に帰った。

 

 

 

家に着くとそこには親父がかなり難しい顔をして座っていた。

 

「親父、仕事どうしたのさ。んでもって話ってなんだよ。」

 

「奏多・・・落ち着いて聞いてくれ・・・」

 

親父が静がながらもはっきりとした声で話し始めた。

 

「実は出張で1年ほど大阪へ向かうことになった。」

 

「えっ!?また転勤?」

 

「俺が引き受けたプロジェクトでどうしても大阪で働かなければならなくなった。規模が大きいプロジェクトだからどうしても断れなかった。」

 

「そんでいつ行くのさ。僕も準備しないといけな・・・「そこで話がある」・・・え?」

 

僕が喋り切る前に親父が話を持ち出した。

 

「お前も高校生だ。もうあらかた家事はできるよな。」

「・・・まぁそうだけど。」

 

「ならお前、一人で暮らせる自信はあるか?」

 

「えっ?ちょっと?突然そんな事言われても・・・。それに金はどうするのさ?あっちの滞在費とかめちゃくちゃかかるだろ?」

 

「金は仕送りも送る。しかも大阪には俺の実家があるからそこで何とかするつもりだ。俺の親にも話はつけてある。後はお前がどうするかだ。」

 

「・・・。」

 

何とも言えなかった。

 

突然こんな事言われて戸惑わない方がおかしいし、一人で何とかする自信もない。

 

しかし、新しい学校で話してきた人たちに会えなくなるし、あの音色の正体もわからずじまいになってしまう。

 

 

 

 

 

 

それだけは困る。

 

 

 

 

 

あの音色は、自分の心に響くものだったから。

 

 

 

 

 

 

「・・・わかった。やるよ。」

 

「そうか。無理させて悪いな。」

 

「そんでいつからなの?」

 

「明日からだ。」

 

「明日!?もし僕が一緒に行くって言ってたらどうするつもりだったのさ!?」

 

「お前なら了承してくれるって信じていたからな。」

 

はぁ・・・と僕は大きなため息をついた。

 

「んで、行くことはわかったけど大丈夫なのか?最近親父夜遅くまで仕事してただろ?体壊すんじゃねぇか?」

「俺を誰だと思ってる。このくらい大丈夫だ。俺は出発の準備に取り掛かるから先飯作っといてくれ。」

 

そう言って親父は居間を離れ、自室で準備を始めた。

 

親父の唐突な出張に驚きつつも僕は夕飯の支度を始めた。

 

 

 

・・・しかし何か忘れているような気がする。

 

音色のことではなく今日なにかする予定だったような。




Roselia結成編の最初はどうだったでしょうか?
まだRoseliaのロの字も出てないですが次の話辺りで『鳥籠の歌姫』を出す予定なので!
今週中にあと2話ぐらい出せたらいいな~


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3話 トリカゴ ノ ウタヒメ(前編)

お待ちかねのメインボーカル様の登場です。
しかも投稿日は10月!友希那さんと燐子の誕生月じゃん!(しかも押し2人の誕生日の中間あたりに作者誕生日という奇跡)

こんな雑談はほっといて本編始まります。


突然の親父出張問題から日が変わり、朝起きると親父はもう出発していた。

 

だが不思議と孤独感には見舞われなかった。

 

(いや、昔から自分は孤独で無色だったじゃないか。)

 

そう自嘲気味に受け流しながらも僕は一人で朝食の準備に取り掛かった。

 

今日は土曜日。

 

学校も休みで部活も部費を払う余裕もないので入っていない。

 

だから今日はのんびりとできる日だ。

 

窓の外を見ると、空は澄み渡るほどの青色。

 

外の眩しさに目をすぼめつつも、僕は今日することを考えた。いつも通りにネトゲで1日を潰そうかと考えたが流石にそれだけでは味気ない。

 

すると僕はふと、この前道に迷ったことを思い出した。

 

街に慣れていないならこういう日こそ街に出て覚えるべきなのではないか。

 

「・・・よし。外に出る準備をするか。」

 

朝食を食べ終え、外に出る支度をした。

 

まだ四月なので外は暑くもなく寒くもない。

 

薄い上着を羽織っていくべきか悩んだがあまり長く出る予定ではないので長袖のシャツと少し厚めのズボンで出ることにした。

 

しかし、いざ出発しようと思ったもののどこから回るべきかを決めていなかった。

 

大体家の近く辺りから覚えようと思ってもいざ考えると迷うものだ。

 

「・・・こんな時こそゴーグル先生だな。」

 

困った時のみんなの味方ゴーグル先生に頼ることにしてこの周辺で良さそうな所を検索した。

 

すると20分ほどの距離に商店街があることがわかり、まずはそこに行こうと思い商店街を目指した。

 

 

 

所々道を間違えながらもなんとか商店街に到着した。

 

商店街は思っていたより広く、休日とあってかかなり繁盛していた。

 

商店街の中心辺りにはピンク色のくまの着ぐるみが風船を配っていた。

 

この商店街のマスコットなのかと思いつつ、まずは近くの店に立ち寄った。

 

そこは「山吹ベーカリー」というパン屋で店の中には焼きたてであろう、いろいろな種類のパンが並んでいた。

 

どれも美味しそうだったが所持金もあまり多くはないので適当にメロンパンとチョココロネを選択してレジに持っていく。

 

そこには自分と同じぐらいか1個下ぐらいの女子が立っていた。名前を見るにこの店の子なのだろう。

 

その子にこの商店街でオススメの店を聞くと手前の精肉屋のコロッケが美味しいのとその隣のカフェがオススメだと聞いた。

 

どちらとも寄っても良かったが、全ての店を回ると流石に予算オーバーなので今回はカフェだけ寄ることにした。

 

支払いを済ませその女子に礼を言って僕はそのオススメの店の「羽沢珈琲店」という店を目指した。

 

 

 

 

 

中に入ると昼過ぎなのか人が少なく、すぐ案内された。

 

店にはバイトの子であろう茶髪と銀髪の2人と水色の髪でまとめてある子と金髪でロングヘアの子の2人組がいた。席に着くと茶髪の子がオーダーを渡しに来た。

 

「いらっしゃいませ。ご注文はどうされますか?」

 

「それじゃあコーヒーとクッキーのセットをお願いします。」

 

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 

注文を取るとすぐにコーヒーのいい匂いがしてきた。

 

そして数分後コーヒーとクッキーのセットが運ばれてきた。

 

「お待たせしました。コーヒーとクッキーのセットです。」

 

「ありがとうございます。」

 

持ってきてくれた子に礼を言って僕はコーヒーに口を付けた。

 

「・・・美味しい!」

 

「ありがとうございます!それ、うちのオリジナルブレンドなんですよ!」

 

道理でほかの店とは違う味がした。

 

苦味もありながらもコーヒーの旨みがとてもわかりやすく出ていて香りもとても良い。

 

確かにこれは勧められて満足しないわけがない。

 

コーヒーとクッキーを堪能したあと僕はその茶髪の子に声をかけた。

 

「あの、この周辺でおすすめな所ってありますか?僕この街に来て日が浅いので・・・」

 

「そうですね・・・イヴちゃんなんか思いつく?」

 

茶髪の子は考えながら近くにいたもう1人の銀髪のバイトの子に話しかけた。

 

「そうですね・・・ジンジャなんてどうでしょうか?」

 

「なるほど!あそこなら景色もいいしね!」

 

「あの・・・その神社ってどこにありますか?」

 

「大体この商店街を出て5分ぐらいです。鳥居と階段でわかると思いますよ。」

 

「それじゃあ行ってみようと思います。2人ともありがとうございます。」

 

「いえいえ、気をつけて行ってきてください!」

 

「困っている人を助けるのもブシの務めですから!」

 

「う、うん・・・そうだね。」

 

イヴという子のブシ発言に少々驚きながらもコーヒーのお金を払い、僕は2人に礼をしつつその神社に向かった。

 

 

 

神社には着いたのだがその階段はとてつもない長さだった。

 

僕は運動が得意な方ではないので上りきった頃には息が上がっていた。

 

しかし後ろを向くとそこには街が一望できた。

 

「・・・凄い。」

 

この言葉しか出てこなかった。

 

神社から見える景色はとても言葉で表すことが出来ないほどの壮大さだった。

 

昼はこうだから夕方や夜は違う顔を見せるのかと想像を膨らませつつ神社に参拝して僕はそろそろ帰ろうかと思い始めた。

 

あの長い階段を降りつつも僕はきっとあの景色は忘れないだろうと思った。

 

 

 

 

 

しかし、帰る途中僕は道に迷った。

 

同じ道を帰れば良かったのにあえて違うルートで帰ろうとしたのが間違いだった。

 

今更後悔しても遅いと思いつつ道を探した。

 

しかも不幸なことに携帯は古い型のせいかバッテリーの消費が激しくほとんど無い。

 

緊急用で残さないといけないため今は電源を切ってカバンの中にある。

 

そのため一人で何とかしなければならない。

 

あっちこっち道を聞けるところを探しつつ、僕はあるライブハウスにたどり着いた。

 

そのライブハウスは「CIRCLE」と言うらしく、ちょうど今色々なバンドがライブをしているそうだ。

 

道に迷って疲れたのもあり、僕はそのライブハウスで休息がてらライブを見ることにした。

 

 

 

 

 

まさかこんな偶然が起こるとは思わなかった。

 

僕がライブ会場に入るとちょうど前のバンドが終わって交代のタイミングだった。

 

しかも入ってきた3人組の1人はなんと氷川さんだった。

 

(確かにバンド活動しているとは言ってたけどまさかこんな所で会うとは思わなかった。ちょうどいいし見てみよう。)

 

そう思って僕は人混みから少し離れた所で氷川さんのライブを見ていた。

 

そして氷川さん達のライブが始まった。

 

メンバーはおそらく全員高校生なのだろう。

 

その年代の子が歌いそうな曲を歌っていた。

 

しかも氷川さんのギターはものすごく迫力と正確さがあり、とても素晴らしかった。

 

しかし、僕はその演奏に少し違和感を覚えた。

 

おそらく氷川さんのギターの演奏とメンバーの演奏がうまく釣り合ってないのだろう。

 

ギターばかりが目立ってしまい他のメンバーが置いていかれている感じがした。

 

そう思っているうちに氷川さんの演奏が終わり、僕は氷川さんに声をかけに行こうと席を後にした。

 

 

 

 

 

僕が氷川さんを見つけ話し掛けようと近づこうとすると何やらバンドメンバーと揉めているようだった。

 

僕は3人の会話を聞くことにした。

 

「あなたにはギター以外のことは頭にないの?私達は仲間なのよ!もっと他のメンバーに合わせてよ!」

 

「えぇ、私にはギターの事しかありません。第一、仲良くしたいのであればバンドなんかせずに高校生らしくカラオケやファミレスで騒ぐだけで充分です。」

 

おそらくギターばかり目立って他のメンバーに合わせなかったことで口論に発展したのだろう。

 

(しかし氷川さんかなり強い言い方するな。)

 

僕はそう思いつつ話を聞いていた。

 

「どうやら私達とあなたでは考えが違うようね。」

 

「そうですね、私は抜けますのでどうかあなた達でバンドを続けてください。今までありがとうございました。」

 

そう言って氷川さんと2人は別れていって氷川さんだけがその場に残った。

 

声をかけるのは今なのだろうと思い動こうとすると氷川さんの後ろから銀髪でロングヘアの子が話しかけていた。

 

どうやらバンドを組まないかとの誘いらしい。

 

声をかけた子は湊友希那というらしく次の次が出番だそうだ。

 

最初は否定していた氷川さんだったがどうやらその実力を確かめるらしくその子の演奏を見るために残るらしい。

 

2人とも別方向に去っていってしまったため氷川さんに話しかけるタイミングを逃した僕はその湊友希那という子の演奏が終わってから帰ろうかと思いライブ会場に戻った。

 

 

 

 

 

その頃ライブハウスの出入口にはとある2人が話し合っていた。

 

片方は湊さんの演奏を見ようと誘い、もう片方は人混みを嫌うので何とか帰ろうとしていた。




今回前編後編に分けた方が読みやすいかなと思い、分けました。
後編も本日中に出す予定なのでそちらも見てください!


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4話 トリカゴ ノ ウタヒメ(後編)

前編の続きです。
元々トリカゴ ノ ウタヒメは3話で全部書くつもりだったんですけど長々しいのは好きではないので分けることにしました。

それでは本編どうぞ!


僕が会場に戻るとちょうど湊さんの一つ前のバンドが始まったばかりだった。

 

そのバンドは人気があるのかファンが多く、熱気が凄いことになっていた。

 

服装が長袖と厚手のズボンのせいなのかいつも以上に暑くなり、ドリンクカウンターへ向かった。

 

 

 

 

 

ドリンクカウンターで適当に飲み物を買い、飲んでいると階段から見覚えのある2人が降りてきた。

 

「大丈夫だって!確かにりんりん人混み苦手なの知ってるけどあこが一緒にいるから安心してって!」

 

「あ・・・あこちゃん・・・その・・・引っ張らないで・・・私・・・やっぱり・・・」

 

「ドリンクカウンターの辺りなら人少ないから大丈夫だって!友希那を見た後すぐに帰るから!」

 

あれは白金さんとあこって言う子だ。

 

どうやら湊さんのライブを見に来たようだが白金さんはあまり乗り気ではないようだ。

 

するとあこがこちらに気づいた。

 

「あれ?この前の道に迷ってた人だ!ええっと確か名前・・・」

 

「この前の案内してくれた子ですね。僕は九条奏多って言います。この前はどうもありがとうございます。」

 

「私、宇田川あこ!この前のことは気にしないで!九条さんも友希那を見に来たんですか?」

 

「いや、道に迷ってたらたまたまこのライブハウスがあって休息ついでに見ているんです。」

 

「ええ・・・また迷ってたんですか?ねぇりんりんがこの前言ってたクラスメイトってこのひ・・・りっ、りんりん!?」

 

宇田川さんが白金さんに話し掛けようと振り向くとそこには顔が真っ青になって震えている白金さんがいた。

 

「わ・・・私・・・やっ・・・家・・・かえ・・・」

 

「し、白金さん!?大丈夫!?」

 

「りんりん!友希那を見るまで死んじゃダメぇ!」

 

「ちょっとあなた達少し静かに・・・九条さんと白金さん!?」

 

あまりの騒がしさに注意しに来た氷川さんがこちらに気付いた。

 

「ひ、氷川さん!その・・・すみません・・・」

 

「りんりん!大丈夫!?」

 

あこはすこし慌てすぎて周りの声が聞こえてないようだ。

 

「そこのあなた、少し落ちついて」

 

氷川さんが話切る前に湊さんの歌声が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは優しくも強く、深く、そして澄んだ歌声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

宇田川さんは慌てていたのが嘘のように止まり湊さんの歌を聴き入っている。

 

 

 

白金さんは震えていたのが止まり、落ち着きを取り戻している。

 

 

 

氷川さんは怒るのを忘れ、2人以上に湊さんの歌に感銘を受けているように思える。

 

 

 

そして僕はその澄んだ歌声に何も言えずにいた。

 

 

 

曲は「魂のルフラン」だろう。

 

昔からある曲だが今でも王道曲として歌われ続けている曲だ。

 

原曲も素晴らしいのだが湊さんが歌うと一層引き立って聴こえる。

 

湊さんの「魂のルフラン」が終わると盛大な拍手が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湊さんの出番が終わり僕と宇田川さんと白金さんはライブハウスの外の席で話していた。

 

「やっぱり友希那超超超カッコよかった!」

 

「うん・・・そうだね・・・」

 

「確かにあれはすごかった・・・」

 

「ねぇりんりん!ここで待ってたら友希那来てくれるかな?」

 

「ええっと・・・私・・・そろそろ・・・帰りたい・・・」

 

宇田川さんがここで待とうと提案している中、僕は白金さんに質問をした。

 

「ねぇ白金さん、なぜライブ会場に降りてきたとき真っ青になっていたんですか?」

 

「えっと・・・私・・・人混みが・・・大の苦手で・・・ああいう場所に行くと・・・怖くて・・・震えてしまうんです。」

 

「なるほど・・・」

 

「でも・・・あの人の・・・歌を・・・聴いていたら・・・不思議と・・・心が・・・落ち着いたんです。」

 

だから湊さんの歌の時はあれほど落ち着いていたのか。

続けて質問をしようとした時にライブハウスから湊さんと氷川さんが出てきた。

 

「あら?九条さんに白金さん、まだ帰っていなかったんですか?」

 

「紗夜、その人たちは?」

 

「クラスメイトです。たまたま一緒にいたんですよ。」

 

「そう、紗夜バンドを組むにあたって練習日時は」

 

氷川さんが湊さんの質問を返し話を続けようとするとあこが僕の前に出た。

 

「えっと・・・友希那・・・さん。バンド組むんですか?」

 

「えぇ、そうだけど。」

 

「わ、私!ずっと友希那さんのファンでした!だからえっと・・・友希那さんのバンドに入らせてもらえないですか?」

 

宇田川さんが思い切った質問をした。

 

これには僕も白金さんもとても驚いた。

 

「悪いけど遊びでやってるつもりは無いから。」

 

しかし湊さんは冷たく引き離した。

 

「えっ・・・うぅ・・・」

 

「紗夜、行くわよ。」

 

「え、ええ。」

 

宇田川さんは落ち込んだ様子だった。

 

その落ち込んだ様子を気にせず湊さんは氷川さんを連れてどこかへ行ってしまった。

 

僕は氷川さんと話をするため2人を追いかけた。

 

 

 

 

 

「氷川さん!」

 

「九条さん、どうしましたか?」

 

「あの・・・実は僕、氷川さんのライブから見ていたんですけど・・・」

 

「あぁ・・・今日はすみません、最後の方少しミスをしてしまいました。お見苦しいのを見せてしまいました。」

 

「えっ・・・その・・・」

 

そんなミス気がつかなかった。

 

確かに最後の方のテンポが少し早まったかなと思ったけど全然気にならないぐらいだった。

 

それをミスと言うならどこまで意識が高いのだろうか。

 

「紗夜、早く行くわよ。」

 

「それでは私は湊さんと打ち合わせなどをしに行くので。また学校でお会いしましょう。」

 

氷川さんはそう言うと湊さんの後を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

ライブハウス前に戻るとそこにはまだ白金さんと宇田川さんがいた。

 

「九条さん、あの2人と何話してたんですか?」

 

「えっと・・・氷川さんと話をしようと思ったんですけど少ししか話せなくて・・・」

 

「そう・・・でしたか。」

 

「あこ、何回でもお願いしに行きます!入れてくれるまで絶対絶対あきらめないんだから!」

 

宇田川さんがとても燃えていた。

 

凄いやる気に気圧されつつも僕は2人と別れ、帰ろうとした。

 

「えっと・・・九条さん・・・道・・・わかるん・・・ですか?」

 

あっ・・・

 

 

 

 

 

 

また2人のお世話になりつつ、何とか家に着いた。

 

家を出たのが11時ほどだったはずなのだが帰ってきたのは7時前だった。

 

居間に着くとどっと疲れが押し寄せ、そのままソファーにダイブした。

 

夕飯を作る気力もなく僕はソファーにもたれながらも今日あったことを思い出した。

 

パン屋のパンが美味しかったこと、コーヒーが美味しかったこと、神社からの景色が素晴らしかったこと、そしてあの湊さんの歌声が素晴らしかったこと。

 

すると僕はあのピアノの音色を思い出した。

 

あの澄んで心に響く音色と湊さんの歌が合わされば素晴らしいものができるのではないか。

 

そんなことは不可能だとわかっているが、いつかそんな演奏が聴けたらいいなと思いつつ僕はそのまま眠りについた。




本当はプロット1枚しか書けてないのですがまさかプロット1枚で2話も書けるとは思ってなかったです(笑)
次回はあの人気2人を出す予定!(タグ注目)


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5話 ハタラク ムショク

連続投稿と模写練と部活で疲れてきてますがやる気で頑張ってます!
この調子だとRoselia結成まで何話かかることやら・・・
あとまだ結成編終わらないと燐子との進展は鬼のように遅いです。


僕は今人生最大の問題を抱えている。

 

それは何を隠そうお金の問題だ。

 

あのライブから4日ほど経ち、水曜日の今日、親父から仕送りが来たのだが食費や光熱費を計算するとお金が少々足りない。

 

おそらくあちらもあちらで忙しいためこれぐらいが精一杯なのだろう。

 

親父にお金を増やすようにいうことをできず、こうして僕はバイトせざるを得なくなった。

 

 

 

 

 

日は変わり土曜日

 

「・・・いらっしゃいませ。」

 

「ダメダメ!ソータはもっと大きい声出さないと!」

 

「いらっしゃっせ~」

 

「はいそこ!モカはしっかりと挨拶する!」

 

ということで僕は家の近くのコンビニで働くこととなったのだが、どうやら同じタイミングでバイトの申請があったらしくこうして2人とも先輩に指導を受けている。

 

先輩の名前は今井リサと言い、見た目は少々ギャルっぽいのだがとても優しく、何かあれば助けてくれる同い年なのにとても頼りがいのある人だ。

 

同じタイミングに入った子は青葉モカというらしく見たところかなりマイペースなようだ。

 

仕事はしているのはしているのだがたまにその仕事をこちらに回してくる時がある。

 

こいつやる気あるのかと思う時も度々あるが適当ながらも仕事はしっかりやっているのでこちらからは何も言えない。

 

青葉さんは一つ下の高校1年で、今井さんも青葉さんも羽丘というもう一つの高校に通っているらしく2人はとても仲がいいようだ。

 

そんな中バイトの休憩中に今井さんが話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、ソータってなんで同い年でも年下でも敬語なの?」

 

「えっ?」

 

「いやさ、私やモカに話しかける時でもずっと敬語使ってるじゃん?それ、なんでかなーって思って。」

 

あまりそんなこと考えてなかったため、いきなりの質問に僕はしどろもどろした。

 

「ゴメン、突然言って驚かせた?」

 

「い、いえ・・・その・・・僕、昔から人と話すのはあまり得意ではなくて・・・なんかその・・・体がこわばるっていうか・・・」

 

「なるほどねー」

 

今井さんは頷くと僕に提案してきた。

 

「それじゃあ慣れちゃえばいいじゃん?」

 

「え?」

 

「私とかならまだ話しやすいと思うし?私、自分で言うのもなんだけど結構面倒見はいい方だよ?」

 

突然の提案に僕はかなり驚いた。

 

「その・・・いきなりは・・・」

 

「とっとと慣れた方がいいって!それじゃあ今から私のことリサって呼んでみて!」

 

強引に話を持っていかれ、僕は焦りながらも答えた。

 

「えっ・・・あっ・・・その・・・リサ・・・さん?」

 

「もっと大きな声で!あとさん付けはなし!」

 

「はっ・・・はい!・・・リサ?」

 

「そうそう!そんな感じ!そのうち慣れたらいいよ!」

 

少々強引ながらも今日から今井さん「リサ」・・・リサと話す練習をさせられそうだ。

 

こればかりは避けられそうにない。

 

「・・・あの、さらっと地の文読むの辞めてもらえますか?」

 

「ナンノコトカナー?さっ!休憩も終わったし仕事仕事~」

 

リサにとぼけられ僕は少し変な気持ちを感じながら仕事に戻った。

 

 

 

 

 

リサのシフトが上がり、レジには青葉さんと僕の2人が立っていた。

 

僕はあと2時間ほどでシフトが上がるのだが・・・

 

「・・・暇だ。」

 

「ですね~」

 

客が入ってこない・・・

 

おそらく客足が少なくなる時間帯なのだろうかそれにしても少なすぎる。

 

すると青葉さんが話しかけてきた。

 

「そう言えば九条さんってなんでバイト始めたんですか~?」

 

「えっ?あぁ・・・僕は今一人暮らししているんですけど、仕送りのお金だけじゃ足りなくて・・・」

 

「そうなんですか~」

 

「青葉さんは?」

 

「私は~まぁ色々と~」

 

曖昧な返事をされも答えに困る・・・

 

「お小遣いのほとんどがパンに消えるんで~」

 

「・・・はい?」

 

「山吹ベーカリーのパンがすごく美味しくて~大体10個近く買うんですけどお金が足りなくなって~」

 

(・・・そりゃそうだろ。)

 

僕は純粋にそう思った。

 

「・・・確かにあそこのパンは美味しいですけど、さすがに買いすぎでは?」

 

「いやいや~これぐらいだと足りないですよ~正直10個ぐらいなら余裕ですよ~」

 

・・・彼女の胃は化け物か。

 

口では言えないので心の中でつっこむ。

 

「2人とも~今日はもう上がっていいぞ~」

 

店の奥から店長の声がした。

 

「おぉ~もう終わりですか~」

 

「そうですね。」

 

「一緒に帰ります~?」

 

「いや、僕は少し買い物をして帰るので先に上がってください。」

 

「分かりました~お先で~す」

 

そう言って青葉さんは颯爽と帰っていった。

 

やはり不思議な子だ。

 

そう思って店長にレジを打ってもらい買い物を済ませコンビニを出た。

 

 

 

 

 

コンビニを出ると前の道をしょんぼりとした顔をして歩いている宇田川さんを見つけた。

 

「・・・宇田川さん?」

 

「・・・あれ、九条さん?どうしてここに?」

 

「そこのコンビニでバイトしててちょうどシフトが上がったんです。宇田川さん、何かあったんですか?」

 

「ええっと・・・今日また友希那さんに断られちゃって・・・。」

 

「えっ・・・またってあの後何回か行ったんですか?」

 

「うん、ほぼ毎日。」

 

「ほぼ毎日ですか!?」

 

逆に迷惑がられて入れてくれないのではないか?

 

「あこ、入れてくれるまで諦めないって決めたから!」

 

熱い・・・宇田川さんが燃えている・・・

 

そういえばいつも一緒にいるイメージの白金さんが今日はいない。

 

「あれ?白金さんとは一緒じゃないの?」

 

「うん、さすがに毎日はりんりんに迷惑かけちゃうから。」

 

今思えば白金さんと宇田川さんの共通点が思いつかない。

 

白金さんと宇田川さんの学校は違うらしく行動や性格も似ていない。

 

「そういえば、白金さんとはどこで知り合ったんですか?」

 

「えっとNFOっていうネトゲの中で知り合って、そこからリアルで会って一緒に話してやるようになったんだ~」

 

「えっ宇田川さんNFOやっていたんですか?っていうか白金さんも?」

 

NFOとはネオ・ファンタジー・オンラインの略称で壮大なスケールのフィールドと音楽、そして少しハードなゲーム性が人気のゲームだ。

 

僕も去年からやっており、今では少し名の知れたプレイヤーとして楽しんでいる。

 

宇田川さんがNFOをやるのは想像がつくがあの白金さんがやるのは想像つかなかった。

 

「うん!りんりんはめちゃくちゃ強くていっつもあこを助けてくれるんだ!もしかして九条さんもやってるの?」

 

「えぇ・・・去年からですけど。」

 

「だったら今晩、ゲーム内で会わない?今日りんりんとクエスト行く予定だったけどそのクエスト3人以上じゃないと参加出来なくて。」

 

「別に構いませんよ。今晩は予定もないですし。」

 

「やったぁ!なら始まりの村のショップ前で集合で!」

 

「わかりました。僕のアバターは白色の装備で背中に少し小ぶりの片手剣を背負ってるのでわかりやすいと思います。」

 

「わかった~あこは死霊魔術師でりんりんが魔法使いだから見た目も少し派手だしわかりやすいと思うよ!」

 

「それでは後ほど7時頃に、よろしくお願いします。」

 

「うん!よろしく!」

 

ここで宇田川さんと別れ僕は自宅へ帰った。

 

 

 

自宅について、コンビニで買ったものを軽く食べながら僕は時計を見た。

 

時刻は六時前、まだ集合時間に余裕がある。

 

しかし最近プレイしてなかったので操作になれるべく僕は早めにログインすることにした。

 

自室に戻り、去年の誕生日にもらった大きめのパソコンの前に座り僕はNFOを起動させてログインした。

 

2人のプレイングにドキドキしつつ僕は自身のアバターの「カナタ」を思うがままに操作していた。




バイト編のタイトルは某細胞擬人化マンガをベースにしてます(笑)
あとムショクは「無職」じゃなくて「無色」の方だから!
次回はNFO編!そこをどうするかが一番の問題なのだけど
・・・いつになったら五人集まるのだろ?←自分でこう編集してんだろ


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6話 ツルギ ト マホウ ノ コンチェルト

NFO編です!まだガルパの方じゃ描写が少ないので結構苦労しました・・・。
武器名までは考えたんですけど技名やスペルは流石に厳しかった・・・

それでは本編どうぞ!


時刻は6時40分になり、僕のアバター「カナタ」は約束の始まりの村のショップを目指し出発した。

 

僕が今いるエリアから始まりの村へは街から街へのワープを使っても5分はかかる。

 

そのため僕は、時間に余裕はあるが少し急ぎ目に始まりの村を目指した。

 

 

 

 

 

始まりの村に到着し、僕はショップを目指した。

 

その途中、僕は大事なことを思い出した。

 

(あれ・・・そういえば2人のプレイヤーネーム聞いてない!)

 

ネトゲは自由度が高い分トラブルになるとかなりめんどくさいことになる。

 

そのためプレイヤーの間ではあまりリアルの話をしない事が暗黙のルールとなっている。

 

宇田川さんには僕のアバターの特徴を伝えてあるので2人が僕を見つけてくれるのを祈るしかない。

 

そう考えながら僕はショップに到着した。

 

 

 

 

 

待ち始めて5分後。

 

僕の前に死霊魔術師の女の子のアバターが歩いてきた。

 

「失礼ですが、もしかして九条さんですか?」

 

「はい。宇田川さんですよね?」

 

「はい!えっとこっちの世界じゃあ聖堕天使あこ姫って名前だから!」

 

「わかりました。僕はこっちの世界ではカナタって名前でやってます。そういえば白金さんは?」

 

「りんりんならもう少しで来るはずだけど、あっ!いた!おーいりんりーん!」

 

宇田川さんのアバターが手を振った。

 

すると煌びやかな服装の魔法使いがこちらに走ってきた。

 

「こっちの世界でははじめましてですね九条さん。私はこっちの世界ではRinRinって名前でジョブは魔法使いをしています。今日は協力してもらってありがとうございます!」

 

・・・あれ白金さんってこんなに喋ったっけ?

 

「ええ・・・よろしくお願いします。白金さんもNFOやっていたんですね。」

 

「はい。あこちゃんともこの世界で初めて会って、一緒にプレイしていうちに仲良くなったんです。今日はあこちゃんが前からやりたいって言っていたクエストなんで一緒に頑張りましょう!」

 

「はい!頑張りましょう!」

 

「2人ともー!早く行こーよー!」

 

2人のことはあこ姫さんとRinRinさんと呼ぶことにして僕達はクエストの発注場所に向かった。

 

 

 

今回のクエストは三人以上が最低条件のクエストで、森に住む三つ頭の大蛇を倒してその牙を持ってきて欲しいというクエストだった。

 

三つ頭の大蛇こと「イービルスネーク」は、三つの頭で噛みつきや毒攻撃を仕掛けてきてたまに装備を腐敗させるブレスを吐いてくる。

 

僕は昔、このクエストをやったことがあるがかなり難しいボスだ。

 

これをマルチでやるのでおそらく難易度も上がっているはずなので注意して戦わなければならなさそうだ。

 

戦い方を考えているとRinRinさんが話しかけてきた。

 

「もしかしてカナタさんはあの両手剣使いのカナタじゃないですか?」

 

「でもりんりん?カナタさん片手剣装備しているけど?」

 

「はい。メインは両手剣ですけど今は片手剣を鍛えようと思って片手剣を使っているんです。」

 

僕は昔、このゲームのイベントで大型のドラゴンをどれだけ早く倒せるかというランキングイベントに参加して見事2位に入った。

 

1位の人は全身真っ黒の革コートの二刀流使いで僕と0.5秒の差で優勝した。

 

この日から僕は「両手剣使いのカナタ」として少し有名になり、周りから色々と言われるのが面倒なので片手剣と胸部アーマーと篭手を付けている。

 

「でも今回かなり強いと思いますけど。慣れていない武装で大丈夫ですか?」

 

「ボスは1度違うクエストで戦ったことがあるので攻撃パターンはわかりますし、この片手剣もメインの両手剣と同じぐらい強いので後は連携次第でなんとかなると思います。」

 

「そうだよ!あこ達の連携ならどんなボスでも倒せるよ!」

 

こんな感じで雑談しているうちにボスのエリアに到着した。

 

やはり前に戦った時より体力が多い。

 

2人には道中攻撃パターンを教えてあるのでどうにかなるだろう。

 

僕は片手剣「ガルムソード」を構え、イービルスネークに立ち向かった。

 

 

 

 

 

戦闘開始から15分が経過した。

 

2人との連携があってか、イービルスネークの体力は残り10%程になっていた。

 

イービルスネークが怯み、後ろへ下がった。

 

「よーし!最後はあこの最強技で決める!」

 

そう言ってあこ姫さんが詠唱を始めた。

 

名前はわからないが詠唱の長さからおそらく特大魔法を使うようだ。

 

するとイービルスネークの頭があこ姫さんに向き、大きく息を吸うモーションを始めた。

 

(あれは・・・腐敗ブレスの動き!)

 

特大魔法の詠唱中はダメージを受けるか詠唱を止めないと動くことが出来ない。

 

あこ姫さんもモーションに気づき、詠唱を止め、回避行動をとろうとするが、

 

(あれでは・・・間に合わない!)

 

そう思った時には僕はアバターをあこ姫さんの前に出して防御行動をとっていた。

 

腐敗ブレスが吐かれ、体力は残ったものの、片手剣、篭手、胸部アーマーは腐敗状態になっていた。

 

腐敗状態の装備は付けているだけで耐久値が激しく減り始め、使い物にならなくなる異常状態だ。

 

装備を外せば耐久値の減りは止まり、鍛冶屋で修復できるのだがイービルスネークのターゲットは明らかこちらに向いている。

 

まずいと思ったその時RinRinさんがイービルスネークの一つの頭に火炎魔法を放った。

 

「タゲはこちらで引き受けるので、あこちゃんとカナタさんは回復を!」

 

「う、うん!カナタさん大丈夫?」

 

「はい・・・装備は予備がありますので。」

 

「ごめんなさい・・・あこが特大魔法を放とうとしたばっかりに・・・」

 

「いえ、気にしないでください。それとあの蛇の行動には少しイラッと来ました・・・」

 

「カナタさん!?」

 

「少し本気を出します!」

 

そう言って僕は腐敗した装備一色をストレージに直し白の革製のロングコートと両手剣「純銀剣クラレント」を装備し、ターゲットを集めているRinRinさんのところへ向かった。

 

RinRinさんのところへ向かうと流石に時間をかけすぎたのか体力は少なくなっていた。

 

「すみません、お待たせしました!とりあえず回復を!」

 

「りんりん!回復魔法かけるから少し下がって!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

回復をあこ姫さんに任せて僕は愛剣をイービルスネークに向けて振るっていた。

 

RinRinさんが回復した頃にはイービルスネークの体力は残り4%になっていた。

 

「あこがバインドをかけるんで2人でとどめさしちゃって!」

 

そう言ってあこ姫さんはバインド魔法を唱え、イービルスネークの動きを止めた。

 

「私がアシストするのでカナタさん頼みます!」

 

RinRinさんが高火力魔法でイービルスネークの体力を削る。

 

「これで止めです!」

 

僕は愛剣を弱点である真ん中の首の付け根に刺した。

 

するとイービルスネークは断末魔の叫びを上げてポリゴン状になって消滅した。

 

「いやったぁ!」

 

「ふぅ・・・」

 

「お疲れ様です。カナタさん、あこちゃん!」

 

僕達はピンチになりながらも何とかイービルスネークを討伐した。

 

 

 

 

 

イービルスネークを討伐し、依頼主に報告するための帰り道、行きと同じように話しながら向かっていた時だった。

 

「ねぇ・・・りんりんあれって!」

 

「どうしたのあこちゃん?」

 

「どうしました?え?あれは!」

 

そこには、滅多に出てこない黒い毛並みでモフモフの体と翼が特徴のレアモンスター「ファーリドラ」がいた。

 

ファーリドラは他のモンスターに比べてかなり弱いのだが滅多に出てこないうえに逃げ足がものすごく速い。

 

しかし、倒した時にドロップする「ファーリドラの毛皮」は最高レア防具の素材の一つで売却価格は頭一つ抜けている。

 

「よし・・・ここはあこが!」

 

「・・・待ってあこちゃん。あのファーリドラ、こっちに近づいてきてるけど?」

 

「えっ?嘘?」

 

ファーリドラは2人を無視してこちらの方に近づいてきた。

 

すると僕の画面に『ファーリドラが友好的な眼差しを向けている』と出てきた。

 

「これってもしかしてテイムチャンス!?」

 

テイムチャンスとはたまに敵モンスターが仲間になるチャンスの事だ。

 

主に猫や狼、コウモリなどの弱めのモンスターにテイムチャンスが起こりやすいのだがまさかこんなレアモンスターにまで出るとは思わなかった。

 

「ファーリドラのテイムチャンスなんて初めて見た・・・!」

 

「カナタさん!頑張ってください!」

 

「は、はい・・・」

 

テイムするにはそのモンスターの好物をあげる必要がある。

 

他のモンスターならわかるのだがなにせファーリドラに会うこと自体初めてで好物などは聞いたことがない。

 

「・・・迷ったら負けだ!これでどうですか?」

 

悩んだ末、僕が選んだのは始まりの村で買ったビスケットだった。

 

「・・・カナタさん。流石に人の手で作られた物は食べないんじゃあ。」

 

『ファーリドラが仲間になりました!』

 

「嘘ぉ!テイムできてる!」

 

「おめでとうございます!カナタさん!」

 

「嘘だろ・・・本当にテイムできてしまうとは・・・」

 

あげた僕が一番びっくりした。

 

「カナタさん。その子の名前どうするの?」

 

テイムできたらまず名前をつけなくてはいけない。

 

考えていなかったのでとても悩んでいるとRinRinさんが提案してきた。

 

「あの、その子の名前ルナってどうでしょうか?ここからだと月が綺麗でその子の顔が良く見えるんで。」

 

「うん!いい名前だと思うけどカナタさんはどう?」

 

「はい、良いですね!今日からこの子はルナです!」

 

新たにファーリドラのルナが仲間に加わり、依頼主に報告を済ませに行った。

 

 

 

 

 

「2人ともありがとう!このネックレスカッコイイから欲しかったんだ~」

 

「お役に立てて何よりです。」

 

「うん、良かったねあこちゃん。」

 

報告が終わり、クエスト報酬の大蛇の牙のネックレスを貰ってご満悦なあこ姫さんに2人は笑って返した。

 

「そうだ!カナタさん、あこ達とフレンドになろうよ!」

 

「僕は構いませんけどRinRinさんはどうですか?」

 

「はい、こちらからお願いします!」

 

2人とフレンド申請を交わし、僕は先にログアウトさせてもらった。

 

 

 

 

 

NFOをログアウトすると一気に疲れが押し寄せた。

 

イービルスネーク相手に苦戦したからだろう。

 

夕飯を食べる気力も残ってないためそのまま隣のベッドにダイブした。

 

(白金さん達との連携良かったな。ソロでやるより楽しいかも・・・)

 

そう考えながら、僕の意識は夢の中へ落ちていった。




今回出てきたファーリドラのルナの名付け親は僕の師匠にあたる人につけてもらいました。

けどまさかここまで長くなるとは思わなかった!
次回はやっと4人集まります!奏多はいつになったら燐子のピアノを聴けるのだろう!


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7話 ボロボロ ノ スコア ト バンド ノ キセキ

燐子を除く4人のメンバーの結成編です!
奏多をどう絡ませるか悩みましたがなんとかさまになったので感想とかバンバン言ってもらえると幸いです!

それでは本編どうぞ!


NFOの協力から3日後、あの日から白金さんと少しずつ話すようになってきた。

 

主にNFOの話以外あまり話題が無いのだがお互いのプレイやクエストの話でほとんど尽きることがない。

 

リサとの会話の練習の甲斐があってか最近は少しずつだが緊張せずに話せるようになってきている。

 

「そういえば・・・ルナの様子は・・・どうですか?」

 

「はい、攻撃時のサポートやデバフ解除とかかなり役立ってもらってます。

 

けどまだわからないこともたくさんあって・・・」

 

「ファーリドラをテイムした人は・・・まだ九条さんしか・・・いないと思いますし。」

 

すると携帯に通知が来た。差出人はリサのようだ。

 

「どう・・・したんです?」

 

「あぁ・・・バイトの先輩からの連絡です。えっと?『今日バイトの事で相談があるから悪いけど羽丘まで来てくれない?』ですか・・・」

 

「大変ですね・・・場所は・・・わかりますか?」

 

「はい・・・わからなけれは調べますので・・・」

 

大まかな場所しかわからないがとりあえず放課後に羽丘へ向かうことになった。

 

 

 

放課後、少し急ぎ目に花咲川を出て羽丘に着くと門の前で何やらざわついているようだ。

 

そこには湊さんと宇田川さんとリサがいた。

 

「リサ!どうしたんですか?」

 

「あっ!ソータ!」

 

「九条さん!なんでここに?」

 

「いや、今日リサにバイトの話で呼ばれて・・・」

 

「あなたは・・・この前の。」

 

「はい・・・九条奏多と言います。とりあえず何があったか話してもらえますか?」

 

リサの話によると、湊さんと話している時に今日も宇田川さんが入りたいと申請しに来て、湊さんから聞きリサが宇田川さんを試してあげればと提案している時に僕が来たようだ。

 

「とりあえず1回!1回だけ合わさせてください!それでダメだったらもう諦めるから!」

 

「とりあえず友希那、試させてあげれば?あこはやる時はしっかりやる子だよ!」

 

「・・・仕方がない、1回だけよ。」

 

「は、はい!」

 

どうやらまとまったようだ。

 

「友希那、アタシも見学していい?」

 

「別に構わないけど・・・」

 

「やった!」

 

「すみません、僕もいいですか?リサとはまだ話がありますし、おそらく第三者からの声もいるかと・・・」

 

「・・・それもそうね、けど今回だけだから。」

 

「ありがとうございます!」

 

湊さんから許可を貰い、僕達はCIRCLEに向かった。

 

 

 

CIRCLEでは氷川さんが先に準備していた。

 

「九条さん!?どうしてここに?それと湊さん、その人達は?」

 

「どうも、アタシは今井リサ。友希那の幼なじみで今回は見学に来ました!」

 

「う、宇田川あこですっ!今回はオーディションに来ました!」

 

「僕は元々リサに予定があったんですけど、このオーディションの第三者からの意見として見学させてもらえることになりました。」

 

「オーディション?」

 

「ごめんなさい紗夜。今回は私がテストの許可を出したの。」

 

「テストということは、それほど実力のある方なんですよね。」

 

「努力はしているらしいわ。勝手に練習時間を使ってごめんなさい。5分で終わらせるから。」

 

そう言って湊さん達は準備を始めた。

 

「出来ればベースもいるとリズム隊として総合的な評価が出来るのですが・・・」

 

「こればかりは仕方がないわ。このまま・・・」

 

「あ、あのさ!アタシが弾いちゃダメかな?」

 

「えっ?リサ姉ベーシストだったの?」

 

「昔ちょっとやってたんだよね。ちょっと待って!ベース借りてくるから。」

 

リサがベースをしていたとは思わなかった。

 

湊さんの会話によると一応譜面を一通り弾くことは出来るらしいが氷川さんは少々不満そうだった。

 

リサが戻ってきて、あこのテストが始まった。

 

 

 

 

 

曲が始まってすぐに違いがわかった。

 

曲はこの前、湊さんが歌った「魂のルフラン」なのだが、この前とは明らかに違う。

 

ボーカルはこの前より声の張りが良く、ギターの音はこの前より正確で強く、そして久々に弾いたらしいベースの音でさえ今でも活躍しているベーシストと同じぐらいかそれ以上に感じた。

 

それは演奏しているメンバーも驚いているようでドラムとベースが入るだけでこれまで素晴らしくなるのかと驚いた。

 

 

 

演奏が終わると僕達は不思議な感覚に襲われていた。

 

「あの・・・さっきからみんな黙ってるけど・・・あこ・・・バンドに入れないんですか?」

 

「そ・・・うだったわね。ごめんなさい。いいわ、合格よ。紗夜の意見は?」

 

「いえ。私も同意です。ただ・・・その・・・」

 

「いやったぁぁ!けど凄かったですよね!体が勝手に動いて!」

 

「もしやこれって・・・」

 

「おそらく・・・その場所、曲、楽器、機材、メンバー・・・技術やコンディションではないその時その瞬間でしか揃い得ない条件下でだけ奏でられる『音』・・・」

 

僕も雑誌で売れっ子バンドのインタビューの時にそんな感じの内容の記事を読んだことがある。

 

バンドの醍醐味とでも言うのだがミュージシャンの誰もが体験できる訳では無い。

 

「なんか・・・キセキみたいだね!」

 

「その言い方は肯定できないけど・・・でも、そうね。皆さん、貴重な経験をありがとうございます。後はベースとキーボードのメンバーさえいれば・・・」

 

「えっ?ベースならここにリサ姉がいるじゃん!」

 

「えっ?アタシ?」

 

「今井さんは今回のオーディションの為だけに弾いただけ。そうですよね?」

 

「でもメンバーがいないんですよね?これだけいい演奏出来たのになんでメンバーにしないの?」

 

「はい・・・僕もいいと思います・・・。それよりもリサ、本当に経験者なだけなんですか?さっきの演奏、まるで弾き慣れているように見えましたが?」

 

「いやぁ・・・なんか体が勝手に動いて・・・」

 

「確かに技術的にまだメンバーとは認められないけど。ただ、足りない所はあるけど確かに今のセッションはよかった。紗夜もそれは認めるでしょう?」

 

「それは・・・今の演奏に限ればそうですけど・・・。そういえば九条さん、さっきの演奏の感想を貰えますか?」

 

氷川さんが突然こっちに話を降ってきた。

 

「えっ?」

 

「あなたは今回の演奏の第三者からの声として見学したはずでは?」

 

「あっ・・・はい。全体的なバランスはとても良かったです。ただ、湊さんは後ろの演奏と歌声が少しズレていた所がありました。氷川さんは正確だったのはよかったのですがはじめの方少しタイミングがズレていたように感じました。宇田川さんは周りに合わせてはいるんですけど、少しずつ早まっていたと思います。今井さんはやはり久々とあってか少しミスもありました。そんなところだと思います。」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

4人が黙り込んだ。

 

「・・・あの、僕なにか悪いこと言いましたか?」

 

「い・・・いえ、その、あまりにも的確だったので・・・」

 

「えっと・・・九条さんだっけ?あなた本当に音楽の経験無いの?」

 

「えっ?はい、そうですが・・・」

 

「それにしてもソータ・・・的確すぎだよ・・・」

 

「うん・・・あこも気が付かなかった・・・」

 

まさか僕がそんなに的確に言えるとは思わなかった。

思ったことをそのまま言っただけなのでこんな反応をされて少し戸惑った。

 

「九条さん・・・いえ、奏多と呼ばせてもらうわ。あなた、これからもこのバンドの演奏を見に来てその都度、感想を貰えるかしら?」

 

驚きだった。

 

湊さんからこんな誘いを貰えるとは思わなかった。どうするべきか悩んだが、もしかしたらこのメンバーと一緒にいると自分の《色》を見つけられるかもしれない。

 

「・・・はい!やらせてもらいます!」

 

「えぇ、よろしく、奏多。」

 

「お願いします、九条さん。」

 

「この5人でバンドを組めるんだ!あこめちゃくちゃ嬉しい!」

 

「え?・・・マジで?アタシも・・・入っていいの?」

 

「練習次第よ。リサ。」

 

「・・・うん!頑張る!」

 

「後は・・・」

 

「キーボードだけですね。」

 

こうしてキーボードを除くメンバーが決まった。

 

 

 

しかし、キーボードが決まるのは容易ではなかった。




とりあえず奏多にはベタだけどアドバイスを言ったりマネージャー的な立場についてもらいました。リサとの会話は次回に持ち越しで・・・←おい!
次回はキーボードメンバー探しです!燐子にはちょっと頑張ってもらいます!


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8話 モノクロ ノ ワタシ(奏多side)

昨日はこちらの都合で更新出来ずにすみません!
本日は二話連続投稿とさせてもらいます(元々分ける予定だった)
こちらは奏多sideでの「モノクロ ノ ワタシ」でもう一つは燐子sideでの「モノクロ ノ ワタシ」となります。

それでは本編お楽しみください!


キーボード以外のメンバー+マネージャー的な立場の僕が揃い、次の練習日を決めその日は解散となった。

 

僕は本来の予定を思い出してリサの所へ行った。

 

「リサ、今日呼び出したのはどんな予定立ったんです?」

 

「あ〜忘れてた!ソータ、バイトの日にち変えることできる?」

 

「別に大丈夫ですけど何かあったんですか?」

 

「アタシ、今週のバイトの日にどうしても外せない用事があって・・・。モカはその日バイトだからお願いできるのソータしかいないんだ~」

 

「それなら仕方が無いですね、わかりました。」

 

「ありがと!今度なにか奢るよ!」

 

「別に大丈夫ですよ。今日はお互い疲れていますし僕はここで失礼します。」

 

僕はリサと別れ、自分の帰宅路へ着こうとした。

 

すると「九条さ~ん」と名前を呼ばれた。

 

呼ばれた方を向くとそこには宇田川さんがいた。

 

「宇田川さんまだ帰っていなかったんですか。」

 

「九条さんに用事があって!ねぇねぇ、今日この後、7時ぐらいにNFOにログイン出来る?りんりんにあことリサ姉と九条さんがバンドに入ったことを伝えようと思って!」

 

「いいですよ。場所はこの前のショップ前でいいですか?」

 

「うん、りんりんにはあこから言っておくから九条さんは先に待ってて!」

 

「わかりました、後で会いましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

帰宅すると僕はすぐに夕食の買い出しに出かけた。

 

宇田川さんとの集合時間まで後1時間近くしかないので、今のうちに軽くつまめるものや飲み物などを買いに行こうと考えたのだ。

 

とりあえずプレイしながら食べれるようにサンドイッチと緑茶、そして明日のお弁当の食材を買い込んで帰宅し、その二つを持ってパソコンの前に座りNFOを起動させた。

 

 

 

 

 

NFOを起動させるとカナタとファーリドラの「ルナ」がカナタの肩に乗っているような感じでスタートした。

 

ルナが喉を鳴らして顔を擦り寄せてくるので撫で返し、約束の場所へ向かった。

 

おそらくファーリドラをテイムしているプレイヤーは僕しかいないのでほかのプレイヤーの視線などを感じながらも何とか5分前に始まりの村のショップ前に到着した。

 

するとそこにはもう「聖堕天使あこ姫」こと宇田川さんが待っていた。

 

「遅いですよ!くじょ・・・カナタさん!」

 

「5分前なんでセーフです、セーフ。ところで白金さんは?」

 

「りんりんは少し遅れてくるって。」

 

「それでは気長に待ちましょうか。」

 

僕はルナを撫でながら宇田川さんとこれからのバンドの話やクエストの話をしながら待っていると、白金さんのアバターの「RinRin」が少し走ってこちらに来た。

 

それに気がついて僕はフレンドのみで会話出来るモードに変更した。

 

「す、すみません!遅れました!」

 

「いえ、大丈夫ですよ。」

 

「ところで話ってなに、あこちゃん?」

 

「うん!りんりん実はあこと九条さんとリサ姉が友希那さんのバンドに入れることになったんだよ!」

 

僕は今日あったことを白金さんに手短に話した。

 

「そんな事があって、あことリサ姉と九条さんも加入してもいいよって言われたんだよ!」

 

「僕は成り行きというか、たまたま自分にそんな才能があるとは思いませんでした。」

 

「そうだったんですか。オーディション合格おめでとう!あこちゃんの努力が認められたんだね。」

 

「うん!今日のことは一生忘れない!でも努力だけじゃないかも。」

 

「どういうこと?」

 

宇田川さんは白金さんに演奏中に体が勝手に動いて他のメンバーもいつも以上にうまく演れたことを説明した。

 

「そうなんだ。バンドって凄いね。」

 

「うん!やっぱりバンドって最高!みんなで演るのって、楽しすぎる!ずっと1人で練習してたから超感動した!」

 

「みんなと・・・」

 

「はい、あのオーディションの宇田川さんは楽しそうでした。」

 

「・・・そうですか」

 

白金さんの返事が遅れてきた。

 

「白金さん、大丈夫ですか?」

 

「すみません・・・すこし体調が良くなくて・・・今日はここでログアウトさせてもらいますね。」

 

そう言って白金さんはログアウトした。

 

「りんりん大丈夫かな・・・」

 

宇田川さんがとても心配そうにしていた。

 

「わかりませんが僕達は僕達で楽しみましょう。」

 

「・・・うん!それじゃあさっき言ってたクエストしようよ!」

 

宇田川さんの気分を切り替えさせて僕達はクエストに出発した。

 

2、3個のクエストをクリアした後僕は宇田川さんと別れ、ルナを撫でた後ログアウトした。

 

パソコンを離れて明日のお弁当の下準備をして次の日に備えて僕は早めに眠った。

 

 

 

 

 

 

次の日、白金さんは学校を休んだ。

 

おそらく昨日の体調不良が原因だろう。

 

白金さんの体調が良くなることを願いながら僕は授業の準備をした。

 

 

 

 

 

白金さんは数日学校を休み、今日は金曜日である。

 

「燐子ちゃん、今日も休みだったね・・・。」

 

「そうですね・・・体調がかなり悪いのでしょうか?」

 

放課後、隣の席の丸山さんと話しながら担任を待っていると担任がこちらに話しかけてきた。

 

「九条、お前白金の家を知っているか?」

 

「いえ・・・どうして僕に?」

 

「いや、白金とよく喋るから知っているのかと思ってな。このプリント、提出が月曜日までで誰か白金の家に届けてもらえないかと思ったのだが・・・」

 

すると僕は宇田川さんの事を思い出した。

 

彼女なら白金さんの家を知っているのかもしれない。

 

「あの・・・多分白金さんの家を知っている友人がいるのですが。」

 

「そうか!なら九条頼んだぞ。」

 

「え?あっ、その?」

 

担任に押し付けられその担任はどこかへ行ってしまった。

 

「・・・九条くん?大丈夫?」

 

「えぇ・・・多分。」

 

丸山さんに心配されながらも僕は宇田川さんに連絡を取った。

 

宇田川さんから返事はあったものの今日のバンド練習前にダンス部の練習があるらしく位置情報だけ送ってきた。

 

僕はそのマップを頼りに白金さんの家を目指した。

 

 

 

 

 

・・・到着した。

 

白金さんの家は少し大きい白色の家だった。

 

僕は前の学校の頃から他人の家とか行ったことがない。その上相手は女子の家だ、無駄に緊張する。

 

震える手を動かしてインターホンを鳴らすと玄関から白金さんが出てきた。

 

「九条・・・さん?どうしてここが?」

 

「宇田川さんに聞いたんですよ。これ、月曜日提出らしくて担任に渡してこいって言われたんですよ。」

 

僕は苦笑しながら白金さんにプリントを手渡した。

 

「その・・・ありがとう・・・ございます。」

 

「いえ、では僕は今からバンドの練習があるので。お大事にしてください。」

 

僕は白金さんにそう言ってからCIRCLEに向かった。

 

 

 

 

 

CIRCLEでは氷川さんがもう準備をしていた。

 

それを手伝っていると残りの3人が到着し、練習を始めた。

 

僕は動画を撮って再生しながら悪い点をあげて良い点などを伝えた。

 

その後、湊さんにグループの方にその動画を送って欲しいと言われ、グループに送って今日の練習は終了した。

 

今日白金さんの様子を見たが顔色も良さそうなので月曜日には来られると思う。

 

そう思いながら僕は1人自宅へ向かった。




モノクロ ノ ワタシ奏多sideと燐子sideは少し短めです。
初めてのside切り替えなんでこれぐらいで勘弁してください・・・。
問題はあげた時間が11時20分だから1日2話投稿キツそう!


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8話 モノクロ ノ ワタシ(燐子side)

二話連続投稿の2話目!
こちらは燐子sideになっています
9話じゃないよ。まだ8話だよ。

それでは本編どうぞ!


体がだるい・・・。

 

九条さんと話してその後、図書室によって本を借りて少し探し物をした後の帰り道。

 

私は体の不調を感じていた。

 

何とか家に着いて熱を測ると少し熱を出していた。

 

私は体が弱い方なのでたまにこうして風邪をひいてしまう。その時に携帯に通知が来た。

 

差出人はあこちゃんからだ。

 

内容は今日NFOで話したいことがあるから来てくれとのことだった。

 

携帯のチャットで話せばいいのにわざわざNFOで話したいということはなにかあるのだろう。

 

パソコンの前に座り、私はNFOを起動させた。

 

 

 

 

 

始まりの村のショップ前に行くとあこちゃんの他に九条さんのアバターのカナタと使い魔ルナの姿があった。

 

九条さんがこちらに気がついて、フレンドのみの会話のモードにしてくれた。

 

内容は2人が友希那さんのバンドグループに入れることになったことだった。

 

あこちゃんの部活の先輩の今井さんも入れたらしく、後はキーボードだけとのことだった。

 

2人と話していると徐々にしんどくなってきたので先にログアウトさせてもらった。

 

 

 

 

 

パソコンの前から立つと私は部屋の中にあるグランドピアノに触れた。

 

 

 

 

 

 

ピアノ

 

 

 

 

 

 

 

1人で頑張ってきて昔はある発表会で賞もとったことがある。

 

昔は確かに楽しかった。

 

今でもたまに弾いて楽しいと思うのだが、昔の『楽しい』と今の『楽しい』は全く違う。

 

昔は頑張って練習し、それが色々な人に認めてもらえるのが嬉しかった。

しかし歳を重ねるにつれて周りの人の目線や人の数が怖くなってきた。

 

昔は少しまともに話せたのだが今では人と話すことが苦手になっている。

 

一時期はビクビクしすぎて喋れないということもあった。

 

そんな中、1人でも楽しめるNFOであこちゃんと出会い、一緒にやっていくうちに色々とかわっていったのだが、根本的な所は変わらなかった。

 

九条さんと出会って彼も話すのは苦手なのだそうだがここ最近、それを克服しようとしている。

 

しかし、私はどうだろうか。

 

そこまで努力して苦手を克服しようとしただろうか。

 

そんな深いことを考えていても体はだるさを訴えかけている。

 

私は考えるのを辞めてベッドの中へ入り眠りについた。

 

 

 

 

 

次の日、私は学校を休んだ。

 

熱が昨日より悪化し、今日は休むことにした。

 

体は昨日より悲鳴をあげているため一応病院に行くと診察結果は風邪だと言われた。

 

そのため私はしばらく学校を休むことにした。

 

 

 

 

 

 

学校を休んで数日後、体のだるさは消えないが熱も下がりだいぶ楽になった。

 

今、家には誰もいないため何をしようか考えているとインターホンが鳴った。

 

恐る恐る出てみるとそこには九条さんがいた。

 

「九条・・・さん?どうしてここが?」

 

「宇田川さんに聞いたんですよ。これ、月曜日提出らしくて担任に渡してこいって言われたんですよ。」

 

彼は苦笑しながら私にプリントを手渡した。

 

「その・・・ありがとう・・・ございます。」

 

「いえ、では僕は今からバンドの練習があるので。お大事にしてください。」

 

そう言って九条さんはこの前あこちゃん達といたライブハウスの方向に走っていった。

 

やはりバンド活動は忙しいのだろうか。

 

彼はマネージャー的な立場になったとは言っていたがマネージメントはかなり大変だったはず。

 

「九条さん・・・ありがとうございます。」

 

聞こえないだろうがお礼を言って私はプリントに目を通して記入を始めた。

 

 

 

 

 

その日の夜体の調子もかなり良くなり、いつも通りあこちゃんとチャットで会話していた。

 

「ちょっとは怒られたりするけど、みとめられるようにはなってきたんだ!」

 

「バンドとして息が合ってきたんだね。あこちゃんのドラムもどんどん上手くなってきてるんじゃないかな?」

「こんなこと造作もないことよ!」

 

ここ最近のあこちゃんはバンドの話一色で本当に楽しそうだ。

 

「では特別に、我が同胞、りんりんにだけ演奏中のバンドを見せてしんぜよう!」

 

するとあこちゃんから動画が送られてきた。

 

中身は友希那さん達の演奏でとても楽しそうに演奏しているあこちゃんの姿もあった。

 

そしてこの前見た友希那さんの演奏の時よりとても素晴らしくなっていた。

 

「ありがとう。すごいね!全員でひとつの音楽を作り上げてる。みんなでって、こういう事なんだね!」

 

「・・・」

 

「・・・あこちゃん?」

 

あこちゃんからの返事が来ない。

 

あこちゃんが自分からチャット落ちるなんて初めてだ。

 

おそらく今日の練習で疲れたのだろう。

 

私はあこちゃんから送られてきた動画を見直した。

 

この動画を見ると身体が引き寄せられる気がするのだ。

 

「例えば・・・もし・・・仮にだけど私のピアノをあこちゃんのように合わせてみると・・・どうなるんだろう・・・?」

 

私はグランドピアノの前に座り、あこちゃんから送られてきた動画に合わせて弾いてみた。

 

 

 

 

 

するとまるでずっと前からこうしてきたようにピアノの音が合わさっていく。

 

(凄く・・・楽しい・・・!)

 

この感覚は今までの『楽しい』とは違う。

 

この感覚は昔の頃の『楽しい』の感覚。

 

自分がまたこの感覚に戻れたことに驚いていた。

 

 

 

 

 

ピアノを弾き終わり、私は寝る前に本を読み始めた。

 

寝る前に本を読むのが私の日課だ。

 

本にはピアノの鍵盤の柄のリボンがついたしおりが挟んであった。

 

これは予備で前から使っていたしおりは前借りた本に挟んだままのようだった。

 

そのため落としたり本に挟まっていないか探しているのだがまだ見つかっていない。

 

(あのしおり・・・どこ・・・行っちゃったんだろう?)

 

そう疑問に思いながら私は本を読み続けた。




8話「モノクロ ノ ワタシ」はこれで終わりです。
結局間に合わなかった・・・。

9話はしっかりと今晩仕上げるのでお楽しみに!


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9話 ツナガル シオリ ワタシ ノ キモチ

Roselia結成編はあと2話続きます。
ちょっとは奏多と燐子を引き合わせれたらいいのだけど・・・
それと、最後に少しだけお知らせがあるのでそちらも見てもらえると嬉しいです。

それでは本編どうぞお楽しみください!


今になって大切なことを思い出した。

 

何を隠そうあのしおりのことだ。

 

確か親父が出張する前日に探しに行く予定だったのだがあの時のドタバタで忘れてしまっていたようだ。

 

うちの学校の本の貸出期間は3週間でそろそろ返しに行こうかと考えた矢先のこれである。

 

自分のうっかりに呆れながらも僕は支度を終わらせ学校へ向かった。

 

 

 

 

 

学校へ着くとそこには白金さんの姿があった。

 

「白金さん、おはようございます。体はもういいんですか?」

 

「九条さん・・・はい・・・おはよう・・・ございます・・・おかげさまで・・・良くなりました・・・」

 

白金さんは笑顔で返してくれた。

 

彼女は本を読んでいる最中だった。

 

「白金さん、なんの本を読んでいるんですか?」

 

「これは・・・夕暮陰炎さんの・・・『病ンデル彼女ノ陰』・・・です。」

 

確か最近図書室に入った本で、軽く読んでは見たが確か主人公が金髪の彼女に付きまとわれ、彼の友人の女の子や気になる子を次々と殺めていく話だったはず・・・

 

「そ、それ面白いんですか?」

 

「はい・・・確かに・・・怖い所もありますけど・・・内容自体はしっかりしていて面白いです・・・今日返す予定なんです。」

 

「それなら僕も本を返しに行く予定なので今日の放課後一緒に行きませんか?」

 

「いい・・・ですね・・・放課後・・・宜しく・・・お願いします。」

 

白金さんと本を返しに行く約束をして、授業が始まる前に自分の席に戻った。

 

 

 

 

 

放課後、白金さんと共に図書室へ向かった。

 

道中、本やNFOの話をしながらカウンターへ本を返しに行った。

 

すると本の隙間からあのしおりがひらりと落ちた。

 

するとそれを見た白金さんが驚いた様子で聞いてきた。

「く、九条さん?そのしおりって・・・」

 

「あぁ、この本を借りた時挟まっていたんですよ。今日、図書室に寄るついでにこのしおりの持ち主を探してもらおうと思って。」

 

「そ、それ・・・私の・・・です。」

 

「へ?」

 

予想だにしない返答に僕は変な返事しか出なかった。

 

「そ、そうだったんですか!?すみません、長々と持っていた上に少し使ってしまって・・・」

 

「いえ・・・そのままにしていた・・・私も・・・悪いですし・・・」

 

「いや、でも」

 

「しかもそのしおり・・・昔から・・・使っていて・・・結構・・・ボロボロなのに・・・大切に持っていてくれたんですね・・・本当に・・・ありがとうございます・・・」

 

白金さんにお礼を言われ、僕は少し慌てた。

 

「い、いえ、人の物を雑く扱っては行けないなと思って・・・それにこのしおり、確かに古くなってますけど大切に使っていないとこんなに長持ちしませんし、本当に大切なものだったんですね。」

 

そう言って本のしおりを返そうとした。

 

しかし白金さんはそれを受け取ろうとはしなかった。

 

「いえ・・・それは・・・九条さんが・・・持っていてください・・・これも・・・何かの縁かもしれませんし・・・」

 

「そうですか・・・では、有難く使わせてもらいます。」

 

その後図書室で互いに本を借り(僕は白金さんが読んでいた『病ンデル彼女ノ陰』を借りた)、僕はライブの練習があるためここで別れ、CIRCLEへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ふう・・・疲れたぁ・・・」」

 

いつも通り練習が終わり、宇田川さんとリサが声を合わせてぐったりしていた。

 

「すみません、次の予約をしたいんですけど。」

 

「そういえば友希那ちゃん、来月のこの日ににライブがあるんだけど1枠余っててさ、出ることできない?」

 

「!!」

 

その日にあるライブはメジャーのスカウトも来るイベントだったはずだ。

 

この地区のバンドにとっては登竜門と呼ばれているイベントだ。

 

湊さんと氷川さんは目指す所はもっと高いと言ったが、そのイベントのために何としても今練習中のオリジナル曲を完成させなければならなくなったが、そのためにはキーボードが必要不可欠だ。

 

短期間でこの5人が揃ったこと自体がすごい事なので一刻も早くキーボードを探すことになった。

 

 

 

 

 

その日から1週間が過ぎたがまだメンバーは見つからなかった。

 

湊さんは「私は妥協してまでメンバーを揃えたくない」とは言っていたが少し焦っているようにも見えた。

 

オリジナル曲はキーボードありきで作っているため、その曲をキーボード無しでやる訳にもいかないのだ。

 

そんな中リサと宇田川さんがピアノかキーボードの出来る人を友人や知り合いの中でいないか聞き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

私は九条さんと別れた後、家に着くと私はあこちゃんが送ってくれた動画を聞きながらピアノを弾いていた。

 

(・・・やっぱり、何度弾いてもあこちゃん達と合わせるの、楽しい・・・不思議な感覚・・・)

 

弾き終わると時間がかなり過ぎていた。

 

かなり熱中していたようだ。

 

すると携帯の音が鳴った。

 

相手はあこちゃんからだ。

 

いつもはチャットのあこちゃんが電話をくれたことに疑問を持ちながらも私は電話に出た。

 

「もしもし・・・あこちゃん・・・?」

 

『りんり~ん!助けて~~~っ!キーボードが見つからないんだよ~っ!ライブ決まったのに!りんりんの周りにいない?キーボードかピアノがめちゃくちゃ上手い人?』

 

「・・・!・・・そう・・・だよね・・・」

 

確かに私はピアノは弾ける。

 

しかし友希那さんのバンドはすごく真剣にやっている。

部屋で1人ピアノを合わせていただけの自分に出来るのだろうか?

 

『えっ、りんりん?そうだよねってことは誰か知ってるの・・・?』

 

「えっ?私・・・私は・・・」

 

またこんな感じに恐怖から逃げていいのだろうか。

 

すると私はふと九条さんの事を思い出した。

 

私と同じ苦手なことに自分から治そうとしている、彼みたいにチャレンジしなければ自分もかわらないのではないか。

 

『ーーってそんな上手い話ないよね。あのね、もしめちゃくちゃ上手な人いたらあこに教えて・・・』

 

「・・・ける」

 

『りんりん?』

 

「ひ・・・弾ける!・・・私・・・弾けるの!」

 

『えぇぇっ!』

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「えぇぇっ!」

 

宇田川さんがいきなり驚いた声を上げた。

 

「うん・・・うん・・・わかった・・・ちょっと待って・・・友希那さん!」

 

「どうしたの、あこ。」

 

「ピアノ・・・弾ける人いました!」

 

「そう、なら明日オーディションするから来るように言って。」

 

「はい、あ、ごめんお待たせ。明日オーディションするから来てほしいって・・・場所はこの前行ったCIRCLEってとこ・・・うん、宜しく!」

 

あこが電話を切った。

 

「それでさあこ、その子どんな子?」

 

リサが宇田川さんに話し相手のことを聞いた。

 

「うん、白金燐子って言うんだけど・・・」

 

「「白金さんが!?」」

 

僕と氷川さんが驚いた。

 

「紗夜、奏多その子って?」

 

「はい・・・湊さんと初めてあった時に宇田川さんと九条さんと一緒にいた子です・・・」

 

「まさか・・・白金さんピアノ弾けるとは・・・」

 

そういえばしおりもそうだし、筆箱やファイルも何かとピアノの鍵盤や柄が多かったような・・・

 

とりあえず明日のオーディションで決まるのだがまさか彼女がやるとは思わなかったので、僕は他人の事ながらとても緊張した。

 

 

 

全ては明日にかかっている・・・




途中に燐子sideとの切り替えがありましたが本編どうだったでしょうか?



なお今回出てきた『病ンデル彼女ノ陰』は後々小説出すつもりです。(友人に頼まれ出すことなった。)
なおこれはバンドリライトユーザーの友人がバンドリを初めたばっかの頃に思ったことなどをまとめて小説にしたものでヒロインは千聖さんです。
彼がバンドリを初めて秒で星4の孤高のウィザードの燐子を引き当て(もちろん鉄拳制裁)、その後にお泊まり会の千聖さんを2体被らせ、こいつヤンデレみたいだなーと思って嫌悪感を抱いてたらなんとこの前のドリフェスで3体目を引くという凄いことを成し遂げ、その腹いせに作った小説だそうです・・・
ヤンデレ系なので嫌な人とかいると思うのでそこはおまかせしますが、『病ンデル彼女ト陰』はRoselia結成編が終わった後辺りに友人がネタを送ってきたら出すつもりです。(つまり不定期)
ヤンデレ系が大丈夫だよって人はお楽しみください!


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10話 アツマル メンバー ネイロ ノ ショウタイ

記念すべき第10話です!
予定では、次話でRoselia結成編『メブク アオバラ ト ネイロ ノ ショウタイ』は終わりです。
なお、Roselia1章の11話~20話は奏多が加入した事で時の流れが変わり、そのルートが無くなったということになっています。
毎日投稿も明日まででその後のストーリーは週4投稿になりますので宜しくお願いします。

それでは本編お楽しみください!


次の日の朝、僕は学校に着いた瞬間すぐに白金さんの所へ駆け寄った。

 

「白金さん!ピアノ弾けるって本当ですか?」

 

「あの・・・はい・・・すみません・・・話すタイミングが無くて・・・」

 

「いえ・・・驚かせてすみません、でも大丈夫ですか?」

 

「はい・・・あこちゃんから演奏中の動画を送ってもらってたので・・・それで何度か練習しました・・・」

 

「それはいいのですが・・・」

 

すると氷川さんが話に入ってきた。

 

「おはようございます、九条さん、白金さん。」

 

「あぁ、おはようございます。」

 

「おはよう・・・ございます。」

 

「白金さん、あなたの経歴を少し調べさせてもらいました。あなた、発表会で賞をとったことがあるようね。」

 

そんなに凄いのか・・・

 

「いえ・・・賞をとったのは・・・昔の話で・・・」

 

「とにかく、今日の放課後CIRCLEでオーディションを受けてもらいます。課題曲は1曲、それで私達に合わなければ悪いけど加入してもらうのを辞めてもらいますから。」

 

「氷川さん・・・そこまでプレッシャーをかけなくても・・・」

 

「この程度でビビってしまっては意味が無いんですよ。」

 

「あの・・・精一杯・・・頑張ります・・・!」

 

「その意思はオーディションで示してもらいます。九条さん、HRも始まりますので私達も席に戻りましょう。」

 

「・・・はい。それでは白金さん、また後で。」

 

HRも始まるので僕は席に戻った。

 

しかし、宇田川さんの時もオーディションをしたのになぜ白金さんの時だけこんなに心配するのだろうか・・・。

 

 

 

 

 

放課後、僕は白金さんと一緒にCIRCLEへ向かっていた。

 

氷川さんは湊さん達と一緒に行って先に準備をしておくと言って先に行ってしまったので2人で向かっている。

 

しかし緊張のせいか白金さんとの間に会話がない。

 

自分から話しかけようかと思ったが彼女が物凄く集中しているので話そうにも話しにくいのだ。

 

そうこうしているうちにCIRCLEに到着した。

 

そこにはもう四人の姿があった。

 

「あ、来た!おーい、りんりーん!九条さーん!」

 

「すみません、待たせてしまいましたか?」

 

「そんなことないよ、ソータ。その子が燐子ちゃん?」

 

「はい・・・白金・・・燐子です。宜しく・・・お願いします。」

 

「燐子、紗夜と奏多から聞いていると思うけど課題曲は1曲だけ、わかった?」

 

「大丈夫ですよ!何たってりんりんはあこの大大大大大親友でネトゲでは最強なんですからっ!」

 

「宇田川さん・・・ネトゲは関係ないかと・・・」

 

「・・・とにかく始めるわよ。」

 

「・・・はぁ、大丈夫かしら?」

 

氷川さんが軽くため息をついたがそんなことお構い無しに僕達はCIRCLEの中に入った。

 

 

 

「ピアノとキーボードは少し違うけど感覚は同じだと思うわ。」

 

「・・・はい。頑張り・・・ます。」

 

白金さんはかなり緊張しているようだ。

 

今回の課題曲は今やっているオリジナル曲。

 

この曲の名前の命名権は僕にあって、まだ決めていないがこの曲はかなり難しい曲である。

 

白金さんの成功を祈りつつ僕はいつもの席についた。

 

「それじゃあ・・・いくわよ。」

 

宇田川さんのスティックの音が鳴ってリズムが刻まれる。

 

確か初めからキーボードが入るはず。

 

大丈夫か心配していたがその心配は一気に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白金さんのキーボードが音を響かせ始めた瞬間、僕はあの時の衝撃と全く同じ、いやそれ以上の衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの始業式の帰り道に聴こえた《音色》。

 

それと全く同じ音が響いているのだ。

 

(あの時の・・・音色!あの・・・僕の心を震わせ・・・初めて感動したあの音色・・・!)

 

僕は驚きすぎて本来の目的を忘れるほど衝撃を受けた。

まさかあの時の音色を響かせていた人の正体がまさかこんなに近くにいるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

これは後から聞いた話なのだが、メンバー達は僕とは違った衝撃を受けていた。

 

白金さん以外の4人は初めて合わせた時のあの《音》以上の感覚に驚いていた。

 

そして白金さんは1人でやるよりもみんなでやる楽しさに心から感動していた。

 

 

 

 

 

演奏が終わると全員があの時のように沈黙していた。最初に口を開いたのは宇田川さんだった。

 

「・・・あの、みんな黙っているけど・・・りんりん入れないの?」

 

「・・・ごめんなさい、そうだったわね。無論合格よ、ぜひ入ってほしいぐらい。」

 

「・・・!はい!」

 

「宜しくね!燐子ちゃ・・・燐子!」

 

「やったぁ!これで今週末のライブに間に合いそう!」

 

「・・・!こ、今週末!?」

 

今週末と聞いて白金さんの顔が青くなった。

 

「燐子!?・・・あのさぁあこ?燐子にどうやって伝えたの?」

 

「え?あこ達と一緒にバンドやらないって。」

 

「ん~それだけじゃあ言葉が足りないかな~。ソータからは聞いてないの?ソータ?」

 

僕はまだ意識が呆然としていた。

 

「ねぇソータ!聞いてる!」

 

「・・・!は、はいっ!」

 

リサの呼びかけで何とか意識がこちらに戻った。

 

「ねぇ、燐子に今週末のライブの事説明した?」

 

「・・・あの、タイミングを逃してしまって。」

 

「・・・あちゃ~」

 

「・・・今週末なんて・・・そんな・・・まだ心の・・・準備が・・・」

 

「なら、帰って。」

 

湊さんが冷たい声でそう言った。

 

「どれだけ技量や音が合っても、やる気のない人に用はない。また新しいキーボードをさがすだけよ。」

 

この言い方に僕が口出ししようとした時だった。

 

「・・・たいです。」

 

「えっ?」

 

「・・・ひ、弾きたいです!・・・あの・・・精一杯・・・頑張ります・・・ので・・・宜しく・・・お願い・・・します!」

 

あの大人しい白金さんが大声を出した。

 

その事に僕と宇田川さんはとても驚いた。

 

「白金さんが・・・大きな声を!?」

 

「りんりんの大声・・・初めて聞いた・・・」

 

「・・・なら、その意気込みはライブで示してもらうわ。頼んだわよ燐子。」

 

「・・・!は、はいっ!」

 

こうして5人目のメンバーが決まった。

 

その後湊さんに「バンド名は私が考えるからあなたは早くこの曲の名前を考えて。」と言われ、その日は解散になった。

 

 

 

 

宇田川さんは姉の和太鼓を見に行くと言って先に抜け、氷川さんと湊さんは自主練のため残ったので、僕と白金さんは帰り道が途中まで同じなので先に帰らせてもらった。

 

2人きりになり、今度は僕から話しかけてみた。

 

「とりあえず、オーディション合格おめでとうございます。」

 

「はい・・・ありがとうございます・・・」

 

「まさか宇田川さんが呼んだのが白金さんだったとは思いませんでしたよ。」

 

「ふふっ・・・そうですか。」

 

白金さんが微笑し、行きとは違う空気の軽さがあった。

「あの・・・白金さんの家ってピアノあるんですか?」

 

「・・・?はい・・・ありますけど・・・なぜわかったんですか・・・?」

 

「・・・実は、白金さんのピアノの音色を聴いたのはこれが初めてではないんですよ。」

 

「・・・!どこで・・・ですか?」

 

「それは・・・始業式の日、帰宅中にあるピアノの音色が聴こえたんです。・・・その音は澄んでいて、綺麗で、心に響く、そんな音でした。その音と全く同じ音が今日のオーディションの時にあなたの弾いたキーボードから聴こえたんです。」

 

「・・・そうだったんですか。確かに私はあの日、ピアノを弾いていました。窓かなにかが空いていて音が漏れ出たんでしょうか。」

 

「えっと・・・だからその・・・上手くは言えないんですけど、とにかくこれからもよろしくお願いします。」

 

「・・・ふふっ、九条さんって・・・面白い人・・・こちらこそ・・・お願いします。」

 

 

燃えるような夕焼けが沈んでいき、辺りは暗くなっていく。

 

黒くなった空には星星と月が映っている。

 

「・・・決まりました。オリジナル曲の・・・名前を。」

 

「それは・・・何ですか?」

 

「はい、それは・・・」

 

 

 

 

 

この曲の名前は『BLACK SHOUT』

 

黒き叫び。

 

色を求めた僕が初めて聴いた音の叫び。




あと1話でRoselia結成編は終わります。
結成編終了後は『病ンデル彼女ノ陰』(タイトル確定)の投稿と2章の制作です。

どちらも乞うご期待!


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11話 メブク アオバラ ワタシタチ ノ ネイロ

Roselia結成編の最終話です。
これが終わったら次の更新は土曜日となります。これの投稿後すぐに不定期更新小説『病ンデル彼女ノ陰』を投稿しようと思います!

てかYouTubeに運営様が上げてくれた5thライブのBLACK SHOUT神かよ、さすが神運営ですわ!

そんなことは置いときつつ

それでは本編どうぞお楽しみください!


ライブ当日

 

一週間という短い期間で練習をして、ライブ本番を迎えた。

 

今回のライブでの僕達のバンドの順番は最後だ。

 

演奏する曲は「魂のルフラン」と新曲「BLACK SHOUT」の2曲。

 

今、僕達はライブ会場であるCIRCLE内の控え室でチューニングや打ち合わせなどをしていた。

 

「・・・みんな、私達のバンドの名前・・・色々と考えた結果この名前にしたわ。」

 

湊さんは紙にすらすらと文字を書いて僕達に見せた。

 

僕達のバンドの名前その名は

 

 

 

 

 

 

 

『Roselia』

 

 

 

 

 

 

「・・・ロゼ・・・リア?」

 

紙にはそう記されていた。

 

「薔薇のroseと椿のcamelliaから取ったわ。特に『青い薔薇』・・・そんなイメージだから・・・」

 

後から白金さんに教えてもらったが『青い薔薇』の花言葉は「不可能を成し遂げる」なのだそうだ。

 

なぜ青い薔薇をイメージしたのかはわからないが僕達はその名前を心に刻んだ。

 

これから僕達が頂点を目指すバンドの名前だ、これを刻み込まないわけがない。

 

「・・・うん、とってもいい名前!」

 

「Roseliaの闇のドラマー宇田川あこ!うん、めちゃくちゃかっこいい!よーしこの5人で頑張るぞっ!おー!」

 

「「「・・・お、おー・・・」」」

 

宇田川さんの号令に氷川さんと湊さんはスルー、僕含め残りの3人は返したのだがとてもガチガチだった。

 

「友希那さんも紗夜さんも返してくださいよ・・・ていうかもしかして3人とも緊張してる?」

 

「・・・え?ええっと・・・そんな訳ないじゃん!燐子の方こそ大丈夫?」

 

「・・・えっと・・・その・・・私は・・・確かに・・・緊張・・・してます・・・けど・・・頑張るって・・・決めたので」

 

「馴れ合いはやめて。気持ちの整理は個人で済ませてきてもらわないと困るわ。それと燐子、口ではなく音での証明をお願いね。」

 

「・・・は、はい!」

 

そんな感じに話しているとCIRCLEで働いている月島まりなさんが入ってきた。

 

まりなさんは僕がRoseliaの練習の予約を初めてやった時に受付をしていた人でそれからはよく話をするようになった人だ。

 

「Roseliaのみんな~そろそろ出番だから入って~」

 

「は、はい!ありがとうございます、まりなさん。」

 

「うんうん、奏多君もその呼び方慣れてきたみたいだね。初のライブ、期待してるよ!」

 

「・・・行くわよ。」

 

湊さんの一言で僕達Roseliaは舞台裏に移動した。

 

演奏に出ない僕は舞台裏からの応援となるが、他のみんなは初の表舞台だ。

 

特に白金さんは沢山の人からの目線を浴びるはずだ。

 

青くなったりしなければいいのだがと祈りつつRoseliaの出番がきて僕を除く全員がステージに立った。

 

(絶対・・・成功しますように!)

 

僕は柄でもなく両手を握り合わせてRoseliaの成功を祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

私達は九条さんからのエールを背中に受け、舞台に立った。

 

照らすライトが熱く眩しく、多くの人の目線が私達に向けられている。

 

体の震えが止まらない、けど自分を変えるためには耐え抜き、演奏しなければならない。

 

緊張が体を固くしていく、そんな中私はふと舞台裏の方に目を向けた。

 

するとそこには九条さんが手を握り合わせて祈っていた。

 

「・・・ふふっ」

 

思わず笑みが漏れる。

 

すると体の震えや緊張は嘘のように消えていた。

 

恐らく笑ったことで緊張がほぐれたのだろう。

 

そんな中、友希那さんのMCが始まった。

 

「・・・はじめまして、私達はRoselia・・・まずは1曲、聴いてください『魂のルフラン』」

 

友希那さんの歌声に合わせて私のキーボードを合わせる。その歌声は練習以上に綺麗で透き通って聴こえる。

そして曲が進むにつれて観客の歓声がとても激しくなっていった。

 

(・・・凄い・・・これが・・・バンド!)

 

私は感動しながらピアノを弾いていた。

 

そして魂のルフランが終わり、歓声のあと静寂に包まれる。

 

「・・・次の曲で最後です。この曲は私達のオリジナル・・・もう1人のメンバーが名前を付けてくれた私達だけの曲です。聴いてください・・・『BLACK SHOUT』!」

 

BLACK SHOUTの始まりはキーボードからである。

 

私のキーボードからなる音色に合わせてみんなの音色を合わせていく。

 

激しくなるにつれ、観客の歓声も激しくなっていく。

私だけじゃない、今井さんも、あこちゃんもとても楽しそう。

 

(不思議・・・あんなに緊張していたのに・・・私・・・すごく・・・楽しんでいる・・・こんな自分がいるなんて・・・知らなかった・・・)

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

魂のルフランが終わって次はBLACK SHOUTの番だ。

 

白金さんがRoseliaに入った時、二人で帰った道で考えついたRoseliaの始まりの曲。

 

そんな中湊さんのMCが始まった。

 

「・・・次の曲で最後です。この曲は私達のオリジナル・・・もう1人のメンバーが名前を付けてくれた私達だけの曲です。聴いてください・・・『BLACK SHOUT』!」

 

(・・・!!)

 

湊さんがまさかそんなことを言ってくれるとは思わなかった。

 

舞台にはいない僕のことを出してくれるとは思ってもいなかったからだ。

 

「・・・湊さん。」

 

僕は湊さんの計らいに感謝しつつBLACK SHOUTが始まった。

 

舞台裏からだとメンバーの横顔が良く見える。

 

リサ、宇田川さん、そして白金さんはとても楽しそうに演奏している。

 

湊さんと氷川さんは相変わらずの表情だが音色はとても楽しそうだ。

 

観客のボルテージも最高潮になり、演奏が終わると大きな歓声と拍手が帰ってきた。

 

 

 

 

 

ライブ後、僕達はファミレスに来ていた。

 

本当はライブ終了後そのまま各自の課題を持って解散する予定だったのだがリサが「初めてのライブだったし反省会やらない?」と提案したのだ。

 

湊さんと氷川さんは反対だったのだが宇田川さんとリサに押され、渋々了承し、今ここに6人全員がいる。

 

「さて、注文とるけど何にする?」

 

「僕はドリンクバーでいいです。」

 

「私も・・・同じで・・・」

 

「私もふたりと同じでいいわ。」

 

「あこは、ドリンクバーと超特盛ポテトで!紗夜さん、一緒に食べましょ!」

 

「ちょ、なんで私が・・・」

 

「だってあこ1人じゃ食べきれないですし、みんなで食べた方が美味しいですよ!」

 

「・・・っ、仕方ないわね・・・」

 

「それじゃあドリンクバー六つと、超特盛ポテト一つお願いします!」

 

リサが店員を呼んで、注文した。

 

「僕、ドリンクバー取りに行きますけど何にしますか?」

 

「私はコーヒーを。」

 

「あこ、オレンジジュース!」

 

「私も・・・あこちゃんと・・・同じで・・・」

 

「私もふたりと同じでいいわ。」

 

「アタシも一緒に行くよ。私は見て選びたいし、ソータ1人じゃ持ちきれないでしょ?」

 

「ありがとうございます、リサ。」

 

僕とリサはドリンクバーにドリンクを選びに行った。

 

僕はアイスティーを選び、宇田川さんと白金さんのオレンジジュースを入れた。

 

リサはと言うと、氷川さんの分のオレンジジュースとコーヒー、そして烏龍茶を選んでいた。

 

「リサは烏龍茶ですか。」

 

「うん、ワタシこういうお茶系好きでさー」

 

「なんか意外です。リサはコーラとかジュースが好きだと思っていました。」

 

「アタシこう見えて和食とか好きだよ~」

 

そう言いながらリサは大量のガムシロップとミルクを準備していた。

 

「・・・あの、その大量のガムシロップとミルクどうするんですか?」

 

「あぁこれ?友希那ああ見えて苦い物苦手だからコーヒー飲む時これぐらいないと飲めないんだよね~」

 

衝撃の事実を知ってしまったような気がする。

 

今まで思っていた湊さんのイメージが少し崩れた。

 

「それとこの事教えたこと友希那に言わないでね。この事思いっきり隠しているつもりだから。」

 

「は、はい・・・」

 

コーヒーにガムシロップとミルクを入れ終えたリサにウインクされ、僕とリサはドリンクを持ってみんなの元へ向かった。

 

 

 

 

 

「・・・とりあえず落ち着いた所で、今日のライブは良かったと思うわ。この短期間でRoseliaのレベルはかなり上がった。だから、この6人で本格的に活動するなら、あこ、燐子、リサ、奏多・・・あなた達にもそろそろ目標を教える」

 

「湊さん・・・」

 

「・・・そうですね。私はそのために湊さんと組みましたから。たしかにここで意思確認をすべきだわ。」

 

「FUTURE WORLD FES.の出場権を掴むために、次のコンテストで上位3位以内に入ること。その為にこのバンドには極限までレベルを上げてもらう。練習メニュー等は後でメールする。音楽以外のことをする時間はないと思って。ついてこれなくなった人にはその時点で抜けてもらう。」

 

「ふゅーちゃー・・・」

 

「・・・わーるど・・・ふぇす?」

 

宇田川さんと白金さんがわからなさそうに首を傾げる。

リサと僕はそれがどれほど過酷で生半可な気持ちじゃたどり着けないものであるとわかっていた。

 

「・・・あこ、燐子。・・・リサ、奏多。あなた達、Roseliaに全てを賭ける覚悟はある?」

 

湊さんは最後の言葉を力強く言った。

 

それは生半可な覚悟ではなく、本当に全てを音楽のためにつぎ込める覚悟はあるかの確認だった。

 

言われた直後僕達は沈黙していた。

 

最初に口を開いたのは・・・僕だった。

 

「・・・えぇ、やりますよ!僕にだってこのバンドに入った目的はある。あなたが求める音色、それが見たい!」

 

「・・・あこも!お姉ちゃんに追いつくため!一番のカッコイイになるため!」

 

「・・・私も・・・自分を変えるために・・・みんなで・・・頑張るって・・・決めたから!」

 

「アタシも・・・このバンドで・・・みんなで続けたい!」

 

「・・・その言葉、音での証明をお願いね。」

 

 

 

こうして6人全員の意志が固まり、『Roselia』の頂点を目指す道は始まった。

 

これがきっかけか、無色の少年に初めての《色》の元が芽吹き始めたことに彼は知る由もなかった。




Roselia結成編『メブク アオバラ ト ネイロ ノ ショウタイ』はこれで終わりです。
次からは週4投稿となりますがもちろん続けるつもりです!
次は修学旅行編をやろうと思います!バンドリ本編にはないオリジナルストーリーですが精一杯頑張ろうと思います。
感想や評価などもバシバシ来て欲しいので宜しくお願いします!


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2章 オリジナルストーリー 沖縄修学旅行編
12話 ムショク ト オキナワ ハジケル パレット


初のオリジナルエピソード「沖縄修学旅行編」です。
Roselia結成編や修学旅行編の次に書くLOUDER編は主にRoselia1章やイベントなどをベースにしますが、こちらはキャラ以外は基本オリジナルストーリーで書かれています。

それでは「沖縄修学旅行編」スタートです!


「修学旅行か。」

 

あのライブが終わってRoseliaの本格的な活動が始まってからはや1週間、僕もマネージャーの仕事や感想などを伝えることに板がついてきた頃、修学旅行の時期がやって来た。

 

場所は沖縄で2泊3日、1日目は沖縄の歴史を学び、2日目は観光名所を巡ったりするフリータイム。

 

最終日は海のことを学ぶのだそうだ。

 

まだ5月のはじめの頃なのだが修学旅行まであと2週間もない。

 

アレルギーや薬の調査は入学当初に済ませてあるのでそこは大丈夫なのだが問題は移動班だ。

 

ホテルの部屋は男は僕1人のため流石に男女が同じ部屋は危ないとのことで特別に個室を用意されてある。

 

クラスの女子が和気あいあいとしている中、人混みが苦手な僕はRoseliaの次のスケジュールや新曲の名前、昨日のみんなの演奏の良点や悪点などを考えていた。

 

すると丸山さんが話しかけてきた。

 

「ねぇ、奏多くん。良かったら同じ班にならない?」

 

「はい、特に相手もいませんし。」

 

「よかったぁ・・・4人班だからあと2人いるんだよね~」

 

黒板を見るとほとんどの人が班を決めていた。

 

そんな中まだ氷川さんや白金さんが決まっていないことに気がついた。

 

「なら、氷川さんと白金さんを誘いませんか?見た所あの2人決まってなさそうですし。」

 

「いいね!そうしよ!」

 

僕と丸山さんは2人の元へ向かった。

 

氷川さんと白金さんは2人でなにか話していた。

 

「・・・はい、あそこのパートは・・・少し勢いを抑えた方が・・・」

 

「そうですね、その後テンポを上げていった方がこの曲に勢いが増しますし・・・」

 

どうやら2人は新曲の打ち合わせをしていたようだ。

 

「紗夜ちゃん!燐子ちゃん!良かったら同じ班にならない?」

 

「すみません、こちらで少し熱中していたようです・・・私は構いませんが、白金さんは?」

 

「はい・・・私も・・・大丈夫です。」

 

「決まりですね。」

 

「うん、精一杯たのしもー!」

 

こうして4人が決まり、楽しい修学旅行になる!

 

 

 

 

 

 

 

・・・はずだったのだが・・・

 

 

 

 

 

 

修学旅行初日

 

「丸山さんは今日、仕事で休むみたいです・・・」

 

なんと丸山さんが昨日からあるパスパレの仕事でこちらに来れなくなったらしい。

 

「・・・その・・・なんて言うか」

 

「気の毒ですね・・・観光が2日目で良かったですね。」

 

「2人とも、そろそろ向かいましょう。丸山さんとは2日目で合流出来るわけですし私達は私達だけで回りましょう」

 

こうして僕達の修学旅行は始まった。

 

 

 

 

 

「~っ!着いた・・・」

 

飛行機内でずっとRoseliaのスケジュール管理や次のライブの時にする曲の編曲などをしているうちに沖縄に到着した。

 

ここ最近ずっとRoseliaの事ばかりしている、たしかに湊さんの言う通り音楽以外の時間はないようだ。

 

「九条さん、早くしないと置いていきますよ。」

 

「は、はい。すみません。」

 

氷川さんに呼ばれ初日の予定である沖縄の歴史を学ぶため、僕達はまず歴史博物館へと向かった。

 

歴史博物館ではガイドさんが説明しながら館内を案内してくれた。

 

沖縄がまだ琉球王国だった頃の話や戦争時の沖縄の様子などを説明しているがA組からE組までいるせいで人(って言うかほとんど女子)が多い。

 

白金さんがこの人混みを見て顔が蒼白していたので僕達は一番後ろで見ているのでガイドさんの声が聞き取りづらい。

 

何とかメモを取りながら僕達は博物館を出た。

 

 

 

 

 

「ふう・・・人やばかったです・・・明日も人が多いんでしょうか・・・」

 

全員が泊まるホテルへ向かっている途中僕はため息をつきながらこの後のフリータイムのことや次の日どこへ向かうか考えていた。

 

「うぅ・・・人混み・・・やっぱり・・・怖い・・・」

 

白金さんはさっきからこの調子だ。

 

人混みが大の苦手な彼女だ、こればかりは仕方がない。

 

「次の日の日程を決めてきました。こんな感じでどうでしょうか?」

 

氷川さんはあらかじめ日程を考えてきてくれていたらしく、それが書かれたメモを見せてくれた。

 

そのメモには首里城や美ら海水族館などを効率よく回る日程が組まれていた。

 

「・・・すごい、あまり人が多くない時間帯を的確に狙って・・・」

 

「人混みが苦手な白金さんや、一応芸能人である丸山さんの事を考えた日程ですが、悪い点があればもうしてください。」

 

「これなら・・・私も・・・大丈夫そう・・・」

 

「凄いですよ・・・異論どころか悪い点が見つからない・・・」

 

氷川さんの日程に驚きつつ僕達はホテルに到着した。

 

荷物はあらかじめ空港で渡してあるので部屋に入るとしっかりと置いてあった。

 

手荷物と持ってきた物の整理をし、1日目の午後からのフリータイムをどうするか考えていた。

 

とりあえずメンバーがいないとどこに行くかも決められないので2人を呼び出し、どこに行くか相談している時だった。

 

話している時に氷川さんのスマホに電話がかかってきた。

 

「・・・すみません、え?日菜?」

 

どうやら日菜さんからの電話らしい。

 

「もしもし、日菜?あなた仕事は・・・え?沖縄に来てる?・・・しかもライブを?・・・そんな勝手に!・・・ちょっと、日菜?・・・切れた・・・」

 

「どうしたんですか?もしかして日菜さんがこっちに?」

 

「いえ・・・どうやらPastel palette全員が沖縄でライブをするようなんで・・・席を準備してあるから来てくれと・・・」

 

「日菜さんパスパレのメンバーだったんですか?」

 

まさか日菜さんがPastel paletteのメンバーで、そのメンバー全員が沖縄に来ているとは思わなかった。

 

どうやら番組でライブをすることを伝えられると突然目隠しをされ、目隠しを外されるとそこは沖縄だったそうだ。

 

沖縄に氷川さんがいることを知っている日菜さんはスタッフに頼み込み特別席を確保したようだ。

 

「・・・どうします?」

 

「私・・・人混みは・・・」

 

「勝手に頼まれてもこっちが困るのよ・・・」

 

「でもあちらのスタッフさんに悪いです・・・」

 

3人の間に沈黙が流れる。

 

しかし、考えた結果僕達はライブに向かうことにした。

 

 

 

 

 

ライブ会場ではたくさんのファンが押し寄せていた。

 

少し前色々あって活動休止まで追い詰められていたパスパレだったがここまで復帰しているとは思わなかった。

 

会場のスタッフに訳を話すとすぐに席を案内された。

 

そこは人もあまり多くない端の方だった。

 

「ここなら・・・大丈夫・・・です。」

 

「はぁ・・・私はあまり来たくないのですが・・・」

 

「他のバンドの演奏を見てすごい所を見るのもRoseliaのレベルを上げるひとつの方法だと思いますけど・・・」

 

「それなら・・・仕方ないわね・・・」

 

氷川さんを納得させると、数分後パスパレのライブが始まった。

 

「みなさーん!こーんにーちわー!まん丸お山に彩りを!pastel paletteボーカルの丸山彩です!今日は来てくれてありがとうございまーす!それでは聞いてくだしゃい!『しゅわりんどりーみん』!」

 

・・・今噛まなかった?

 

そう思いながらパスパレのしゅわりんどりーみんが始まった。

 

そこにはこの前、羽沢珈琲店にいた金髪の人やバイトの武士道の子がいた。

 

まさかあの2人もパスパレだったとは思わなかった。

 

しゅわりんどりーみんが終わると大きな歓声に包まれた。

 

すると日菜さんがこちらを向いて大きな声を上げた。

 

「いたいた!おねーちゃーん!」

 

「っ!日菜・・・」

 

氷川さんにスポットライトが当たった。

 

「こっちに上がって上がってー!」

 

「ちょっと・・・なんで私が・・・そもそもギターもないのよ!」

 

するとスタッフが日菜さんのギターと同じギターを持ってきた。

 

どうやらスペアのようだ。

 

「それ貸すからー!」

 

「・・・氷川さん・・・これ上がらないといけない流れです・・・」

 

「・・・お疲れ・・・様です。」

 

僕と白金さんと周りの空気に押され、氷川さんは渋々ステージに上がった。

 

「紗夜ちゃん・・・ごめんね!」

 

「いえ・・・私は・・・」

 

「おねーちゃんとダブルギターで演奏できるなんて私嬉しい!」

 

「日菜!そもそもあなたが・・・」

 

「紗夜さん、すみませんが宜しくお願いします。」

 

白鷺千聖と言った金髪の人が紗夜さんに楽譜を渡した。

 

氷川さんはそれを受け取り、一目通して準備にかかった。

 

「えっと・・・それでは、氷川姉妹のダブルギターで聞いてください!『そばかす』っ!」

 

氷川さんと日菜さんのダブルギターで演奏が始まった。

 

いつも弾いている曲調とは違うポップな曲に氷川さんも渋々ながらも楽しそうに演奏している。

 

演奏が終わるとさっきのしゅわりんどりーみんより大きな歓声が上がった。

 

 

 

 

 

ライブ後、僕と白金さんは氷川さんを迎えにスタッフに案内され、楽屋の方に向った。

 

楽屋に入ると氷川さんとパスパレのメンバーが和気あいあいとしていた。

 

「氷川さん、お疲れ様です。」

 

「九条さん・・・その・・・さっきのは」

 

「あっ!ソータくんだ!久しぶり!」

 

日菜さんが駆け寄って僕の手を取って上下にぶんぶん降っていた。

 

「ちょっ・・・日菜さん・・・お久し・・・ぶりです。」

 

「ちょっと日菜!」

 

「日菜ちゃん、九条さん困ってるから辞めてあげて?」

 

白鷺さんに止められ日菜さんは渋々手を離した。

 

「えっと・・・どうして僕の名前を?」

 

「あなたが始業式に言ってたじゃない?私も花咲川の2年生よ?私は白鷺千聖、宜しくお願いしますね?」

 

「宜しくお願いします。それとたしか君はブシドーの?」

 

「はいっ!お久しぶりです、私は若宮イヴです!立派なブシを目指して日々修行しています!」

 

「ジブンとは初めてですね。ジブン、大和麻弥って言います。日菜さんと同じ羽丘の2年生です。以後宜しくっす!」

 

「九条奏多です。宜しくお願いします。」

 

「九条さん・・・そろそろ・・・時間が・・・」

 

時計を見ると5時前になっていたフリータイムは5時半までだったはず。

 

「やばっ!氷川さん、そろそろ行きましょう!」

 

「そうですね、それではここで失礼します。」

 

「うん、今日はありがと!明日はよろしくね!」

 

丸山さんに見送られ僕達は何とか集合時間までにホテルに投稿した。

 

しかし波乱万丈な修学旅行はまだ始まったばかりである。




修学旅行編どうだったでしょうか?
予定では1日目、2日目、3日目で1話ずつに分けてやろうと思います!
次の更新は明日です!その日までお楽しみに!


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13話 グウゼン ト ヒツゼン アマカケル ネッショク

修学旅行編2話です!
ここまで思いついてるけど3話が思いつかない!!明日全力で考えねば・・・

作者の苦労はほっといて本編始まります!


修学旅行2日目、家とは違うフカフカのベッドの中僕は目を覚ました。

 

時刻は午前5時半、まだ日も登っていない時間だ。

 

昨日のパスパレのライブで絶対に疲れているはずなのに何故こんなに早く起きてしまったのだろうか。

 

(やはり枕が違うと眠れないのだろうか・・・)

 

そんなことを考えているとカーテンの隙間から光がさしてきた。

 

カーテンを開き、窓を開けると涼しい風が流れ込みんで来る。まだ空は薄暗い中、海から太陽が登ってきた。

 

「・・・綺麗。」

 

沖縄の朝焼けにそんな普通な言葉しか出てこなかった。

 

登ってくる太陽の光が暖かさを感じさせる。

 

それで僕は目がすっかり覚めてしまった。

 

朝の集合時間までにはかなり余裕がある。

 

着替えや身支度を済まし、余った時間で新曲のタイトルを考えていた。

 

しかし、あと少しのところまで出てくるのだがどうにも納得がいかない。

 

朝焼けをテーマに色々な単語を組み合わせ、考えてみたのだが、あの曲調だとどうしても合わないような気がする。

 

そうこうしているうちに集合時間が近づいてきた。

 

モヤモヤする気持ちを切り替え、僕は集合場所であるラウンジまで向かった。

 

 

 

 

 

学校全体で朝食を済まし、氷川さんと白金さんを見つけて2日目の予定である観光名所巡りを始めた。

 

丸山さんとは昨日、氷川さんが行く所を話していたらしく最初に向かう首里城で合流する予定だ。

 

ホテルへ集合する時間は7時ぐらいに設定されているのでかなり余裕がある。

 

午前は首里城で見学などで時間を潰し、早めのお昼ごはんを食べてから人が少ない昼飯時に美ら海水族館へ。

 

一通り見回った後は商店街でショッピングなどをする予定だ。

 

予定の確認をして、丸山さんの待つ首里城へ向かった。

 

 

 

 

 

首里城に着くと丸山さんがサングラスと帽子を被って待っていた。

 

「すみません、待たせましたか?」

 

「そんなことないよ、私も今さっきついたところだし!」

 

「丸山さん・・・その格好は・・・?」

 

「昨日、ライブやったんだから千聖ちゃんにここまで変装しなさいって言われちゃって・・・」

 

「・・・芸能人も大変ですね。」

 

正直あまり変装出来てるように思えないが人が少ない時間帯なのでこれぐらいでもバレないのだろう。

 

「と、とりあえずいこっ!」

 

この空気を変えるために丸山さんが3人を引っ張っていった。

 

 

 

 

 

 

首里城を見学しながら、僕はまだ新曲のタイトルを考えていた。

 

ここでのテーマを思いつく限り当てはめていったがどれもぱっとしない。

 

すると白金さんが話しかけてきた。

 

「九条さん・・・考え事・・・ですか?」

 

「え、えぇ・・・新曲のタイトルを考えていたのですがどれもぱっとしなくて・・・丁度いいスペルや語呂が思いつかなくて沖縄で色々見ればいいのがあるかなーって思いまして。」

 

「そうですか・・・別に・・・全部英語じゃなくても・・・いいんじゃないですか?」

 

「え?」

 

「その・・・たしかに・・・英語の方が・・・Roseliaにあってるようにも・・・思えます。けど・・・無理に英語にしなくても・・・良いものはあると・・・思います。」

 

確かに思いつかなかった。

 

無理に英語に合わせようとして逆にややこしくなっていたのかもしれない。

 

「・・・なるほど、ありがとうございます!また考え直してみます!」

 

「はい・・・けど・・・せっかくの・・・修学旅行です・・・もっと・・・楽しんだ方が・・・いいと思います・・・」

 

「たしかに・・・ここ最近ずっとRoseliaの事ばかり考えていました・・・肩の力が入ってはいいものも思いつきませんね。」

 

白金さんの話に少々苦笑気味に返した。

 

「奏多くーん!燐子ちゃーん!そろそろ次行くよー!」

 

丸山さんが僕達を読んだ。

 

「呼ばれましたね、行きましょう!」

 

「・・・はい!」

 

僕はその時の間Roseliaの事を考えるのをやめ、首里城を後にした。

 

 

 

 

 

少し早いお昼ごはんに沖縄名物のソーキそばを堪能した僕達は美ら海水族館へ向かった。

 

この水族館の名物である巨大水槽に目を奪われながら僕達は水族館内を見回った。

 

見回っている最中、クラゲのコーナーで見覚えのある金髪の人がいた。

 

「あれ?千聖ちゃん?」

 

「あら、彩ちゃん?それに九条さん達も?」

 

やはり白鷺さんだった。

 

それにどうやら1人だけではないようだ。

 

「ふええ・・・千聖ちゃん、勝手に行かないで~」

 

「あら、花音!ごめんなさい、置いていってしまって・・・」

 

「う、うん。その人達は?」

 

「ええ、昨日ライブに来てくれたB組の人達と・・・」

 

「えっと、千聖ちゃんと同じバンドのボーカルの丸山彩です!」

 

「B組の氷川紗夜です。」

 

「同じくB組の九条奏多です。」

 

「えっと・・・白金・・・燐子です。」

 

「えっと、A組の松原花音です。宜しくお願いします。」

 

松原さんと軽い挨拶を交わす。

 

「へぇー、千聖ちゃんもここに来たんだー。」

 

「花音がクラゲを見たいって言ったからよ。私もそれなりに楽しんでるけどね。」

 

「松原さんクラゲ好きなんですか?」

 

「はい・・・あの丸っこい形やふわふわした感じが好きなんです。」

 

意外な趣味に驚きつつ、白鷺さん達は他にも回るところがあるらしいのでここで別れた。

 

館内も大体回り僕達は美ら海水族館を後にして商店街へと向かった。

 

 

 

 

商店街に来るとそこは地元の人や観光客で賑わっていた。

 

今日は平日なのだがどうやらほかの学校の修学旅行も来ているらしくそこは別の学校の生徒でごった返していた。

 

「うわ~人が多いね。」

 

「まさかほかの学校も修学旅行とは・・・迂闊でした・・・」

 

「し、白金さん・・・大丈夫・・・です?」

 

「ひ、人混み・・・無理・・・」

 

白金さんの顔が青くなっていたので僕達は商店街内で人が少ない所を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・のだが

 

「はぁ・・・自分の方向音痴が嫌いです・・・」

 

白金さんと一緒にいるのだが気を使いながら進んでいたせいでどうやら氷川さん達とはぐれてしまったようだ。

 

「すみません・・・私の事を・・・気にしていたせいで・・・」

 

「いえ、そんなことは無いですよ。ただ始めての場所であることと僕が方向音痴のせいで・・・」

 

幸い、人の少ないところに来たおかげで白金さんはだいぶ落ち着いているようだ。

 

すると携帯が鳴った。

 

相手は氷川さんのようだ。

 

「もしもし、九条です。」

 

『九条さん、今どの辺にいますか?』

 

「えっと・・・こっちからはわからなくて・・・」

 

『そうですか・・・では商店街の入口あたりで一度集合しましょう。白金さんとは一緒ですか?』

 

「はい、一緒です。多分そこならマップを見ればわかると思います。」

 

『では後で。』

 

そこで通話は切れた。

 

「白金さん、最初に入った所で集合だそうですけど行けますか?」

 

「はい・・・なんとか・・・しかし・・・」

 

「問題は・・・あの人混みですね・・・」

 

2人が途方に暮れる時だった。

 

「あれ?ソータに燐子じゃん!?」

 

聞き覚えのある声がした。

 

後ろを向くとその声の正体はリサだった。

 

「い、今井さん!?」

 

「り、リサ!?どうしてここに?」

 

「何故って、修学旅行だけど?言ってなかったっけ?」

 

どうやら羽丘も今日から修学旅行だったらしい。

 

「リサ、どうしたの?あら、燐子に奏多?どうしてここに?」

 

後ろから湊さんも出てきた。

 

「あの・・・実は・・・」

 

リサと湊さんに事情を説明した。

 

「プッ・・・ハハハッ!えっと、紗夜と彩と一緒に行動してたらはぐれてしまって集合場所に向かおうにも人混みで通れない上にソータ方向音痴だって!」

 

「リサ・・・そんなに笑うことないですよ・・・」

 

「とりあえず紗夜も来ているって事ね。」

 

「とりあえず、一緒にいこっか!」

 

「す、すみません・・・ありがとう・・・ございます。」

 

リサと湊さんに助けられ、何とか氷川さん達のいる所についた。

 

 

 

「み、湊さん!?そして今井さんも!?」

 

「迷っているところにばったり会ってしまって、あれ?丸山さんは?」

 

「ええ、彼女なら」

 

話を聞くと、どうやら事務所から連絡があり昨日のライブとはまた別で沖縄ロケをすることになったらしくそのため先にホテルへ戻ったそうだ。

 

とりあえず僕達は近くに海があったので休憩がてら海の家へと向かった。

 

 

 

 

 

「結局あこ以外のRoselia揃っちゃったね~」

 

「私はあまりこういう店は、」

 

「氷川さん、ここ限定のフライドポテトあるみたいですよ。」

 

「フライドポテト!?」

 

実は最近知ったことだが、氷川さんは大のフライドポテト好きのようだ。

 

この前のライブの反省会の時に頼んだフライドポテトがすぐに無くなり宇田川さんが「そんなに量なかったねー」と言っていた。

 

他のメンバーは気づいてないがその殆どを氷川さんが食べていたことを見ていた僕は昨日のライブの後こっそり日菜さんに聞いたら大のフライドポテト好きということがわかった。

 

日菜さんからは「おねーちゃんの機嫌悪い時とか叱られる前にフライドポテト出したら落ち着くよー」と入れ知恵された。

 

「そ、そんなものに興味はないですがあるというなら試してみる価値はあります。」

 

湊さんは「歩き疲れたから丁度いい」と言って先に白金さんと席を探しに行ってもらってる。

 

それぞれのドリンクと氷川さん用のポテトを購入し、2人の待つ席へと向かった。

 

テラス席で4人と会話している中、追加のドリンクを購入しに、席を立つとみせの端にキーボードやギターが置かれていた。

 

それを見ていると店の人が話しかけてきた。

 

「坊主、それに興味があるのかい?」

 

「い、いえ・・・その海の家になぜベースやギターなどがあるのかなと思いまして・・・それとあなたは?」

 

「俺はここで店長やってるもんだ!それらは今度ここでライブするとき用で今日届いたもんなんだけれどよ、まだ試し弾きしてなくてよ・・・」

 

「そうなんですか、どれもこれもいいものを使ってますね。」

 

「おっ、わかってるねぇ!坊主、バンド組んでるのかい?」

 

「いえ、たしかにバンドは組んでいますが僕はマネージャー的なやつです。メンバーはあっちに・・・」

 

「そりゃいい!頼む坊主、試しで良いから弾いてくれねぇか?」

 

突然のお願いに僕は戸惑った。

 

「えっ、ちょっ、いきなり言われても・・・それに弾くのは僕じゃないですし・・・」

 

「頼む!ここには楽器弾けるやついなくて・・・礼ならする!ポテトやドリンクサービスするからよ!」

 

「ち、ちょっと待っててください!」

 

流石に僕だけでは決められないので湊さん達の所へ向かった。

 

湊さん達のところへ行き、訳を説明した。

 

「そんなこと言われてもね・・・」

 

「でも友希那、たまにはいつもと違う所で新曲を弾くのもRoseliaの成長としていいんじゃない?」

 

「そうですね、たまには違う場所、違う楽器で演奏するのもいいかもしれません。」

 

いつもこういうことは否定する氷川さんが珍しく賛同している。

 

やはりポテトの力が大きいのか・・・

 

「白金さんはどうしますか?」

 

「その・・・私は・・・やって・・・みたい・・・です。」

 

「でもドラムはどうするの?」

 

「ドラムの音は宇田川さんの音を録音していますけどそれで流すしかないと思います。」

 

「全員揃っていないのが残念だけど仕方ないわね・・・行くわよ。」

 

店長の元へ戻り、楽器を準備してもらった。

 

ドラムはまだ届いていなかったらしくキーボード、ベース、ギターそしてマイクが2本準備された。

 

「あれ?なぜ2本あるんですか?」

 

「そりゃ坊主、お前が歌え。」

 

「えっと・・・僕はマネージャー的な役割なんですけど・・・」

 

「いいじゃねえか!嬢ちゃん!別にいいか?」

 

「はぁ・・・お客さんの提案よ、早くステージに来て。」

 

まさか新曲をダブルボーカルでやるとは・・・

 

歌詞は今までずっと聴いてきたので完璧に覚えている。

 

歌詞名は・・・と考えているとぱっといいものが浮かんだ。

 

これなら曲調や歌詞にも合う。

 

「何しているの奏多、早く来て!」

 

「す、すみません!」

 

僕は湊さんの隣に立った。

 

初のステージからの景色に緊張しつつ湊さんのMCが始まった。

 

「Roseliaです。今回この場を借りて演奏させてもらいます。ここで私達の新曲を披露したいと思います。名前はまだ・・・」

 

「『熱色スターマイン』・・・」

 

「え?」

 

「この曲の名前は『熱色スターマイン』ですっ!」

 

「フフッ、それでは聴いてください。『熱色スターマイン』!」

 

唐突の命名にメンバーは少し驚きつつ、新曲『熱色スターマイン』が始まった。

 

今はいない宇田川さんのパートと湊さんのパートの一部を僕が歌い、他を湊さんが歌う。

 

ダブルボーカルに海の家の人達のテンションは最高潮まで達していた。

 

(楽しい・・・ここで歌うことがこんなに楽しいなんて!)

僕は歌いながらステージに立って演奏する楽しさを感じていた。

 

今回だけの特別なライブだがそれでもステージに立てたことに僕は喜びを感じていた。

 

 

 

 

 

ライブが終わると店長からお礼としてドリンクと大量のポテトを貰った。

 

その半分が気が付かないうちに氷川さんの所に行ったのは僕のみぞ知ることだった。




修学旅行編2話どうだったでしょうか?
この話の海の家の行はBanG Dream!のOVAのポピパの所をベースにしています。今回どうしても氷川さんのポテト事情を書きたかったのと奏多と湊さんのダブルボーカルを試してみたかったのもあります。
羽丘と花咲川が一日ずれて修学旅行なのは少し強引だったかな・・・と思いつつもいい作品ができたと思います。
1人だけライブに行けなかったあこちゃんと仕事で修学旅行をあまり楽しめていない彩ちゃんには心からドンマイと言わせて貰います・・・


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14話 ムショク ト アザラシ サラバ オキナワ

沖縄編3日目です。
これで沖縄修学旅行編はラストですが・・・

ネタが・・・思いつかん・・・!

って状況で海洋研究所を訪ねる日なんでわちゃもちゃぺったん行進曲の時をベースにしました。(ぱ、パクッてはないからね・・・)

そんな訳で半分ぐらいわちゃもちゃイベのやつですが本編始まります!←おい!


ライブ後、店長から貰った大量の差し入れを食べながら今回のライブの反省会をしていた。

 

日が暮れてきたため、互いの集合時間までに終わらせないといけないので今回は主に感想だけになりそうだった。

 

「まず聞いておく事があるわ・・・奏多、あの曲名はいつ考えたの?」

 

「えっと・・・ライブ始まる3分前ぐらいです・・・」

 

「3分前!?よくそんなタイミングで思いついたね~!」

 

リサが驚いていたがリサだけではない。

 

白金さんやしれっと大量のポテトをすごい勢いで食べている氷川さんも手を止めて驚いた顔をしていた。

 

「・・・えっと、あの曲名『熱色スターマイン』はどんな情景から思いついたの?」

 

「はい、あの夕焼けと東の方の空が暗くなってきていて星が少し見えたので夕暮れから夜への切り替わりの時って感じで思いつきました。BLACK SHOUTの時みたいに全て英語にしようかと思ったんですけど白金さんに無理に英語にしなくてもいいと言われたんで今回このような曲名にしました。」

 

「そんなことで思いつくなんて・・・奏多に任せて正解だったわね。」

 

「はい、しかし今回はタイミングが無かったとはいえ私たちに言わずに唐突に言われては困ります。次からはあらかじめ伝えてください。」

 

「はい・・・すみませんでした・・・」

 

氷川さんにそう言われ僕は少しへこんだ。

 

「でも・・・とっても・・・いいと・・・思います。」

 

「そーそー!燐子もそう言ってんだしアタシもいいと思うよ。それにソータの歌も良かったし!」

 

「そ、そんなことないです・・・あれは店長さんに言われて・・・」

 

突然褒められるとなんか照れる。

 

「私にしてみたら凡人以上程度だけど・・・楽しかったわ。機会はもうほとんど無いかもしれないけどまたやりましょう。」

 

「あっ、やばっ!友希那!時間時間!」

 

「そうね、今回はここで解散にしましょう。あなた達は明後日私とリサがいなくても練習するように。」

 

「それじゃまたね!」

 

リサと湊さんが海の家を後にした。

 

「私達も・・・そろそろ・・・ですね。」

 

「そうですね。このポテトどうしましょうか・・・」

 

テーブルの上には多くはないがポテトがまだ残っている。

 

知らない間に半分以上消えているがその御本人は「残すのも勿体ないですし、持ち帰りましょう。」と、後で食べる気満々である。

 

氷川さんが持ち帰り用の入れ物を取りに行ってると白金さんが話しかけてきた。

 

「あの・・・あのポテト・・・ほとんど氷川さんが食べてましたけど・・・もしかして氷川さん・・・」

 

「はい・・・日菜さんに聞いたら無類のポテト好きみたいです・・・」

 

白金さんも気がついたようだった。

 

「・・・フフッ」

 

「・・・ハハッ」

 

2人とも思わず笑ってしまった。

 

すると氷川さんが帰ってきた。

 

「2人とも楽しそうですね。何かあったんですか?」

 

「「い、いえ何も!」」

 

・・・ハモった。

 

氷川さんが不思議そうな顔をしながらポテトを入れ物に移し、僕達はホテルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行3日目

 

今日は海洋研究所を訪ね、見学しながら海のことを学ぶらしい。

 

場所は昨日行った美ら海水族館のすぐ隣にあるらしいので、ほとんどの生徒が準備を終えると荷物を空港へ運んでもらっていた。

 

僕も荷物を預け、携帯や財布などの貴重品を持ち海洋研究所へ向かった。

 

 

 

 

 

海洋研究所では主に傷ついたウミガメや魚の傷を治したり、沖縄の海の魚やサンゴの研究をしていた。

 

職員の人に案内されながら回っているが

 

「さっぶ・・・」

 

中の冷房がめちゃくちゃ効いていて寒い。

 

念のために持ってきた上着は今頃空港の荷物の中で、上半身半袖の服しか来ていない僕は羽織れるものが無い。

 

近くにいた教師をつかまえて外のベンチで休ませてもらうことにした。

 

「ふぅ・・・中寒すぎだろ・・・いくら沖縄とはいえ冷房効きすぎ・・・」

 

中の感想は後で白金さんや丸山さん達に聞くことにするとしていざ外に出ると暇である。

 

ベンチに座っていると沖縄の太陽が照りつける。

 

まだ5月下旬とはいえ気温は28度を超えてきている。

 

汗を少しかき始めた時、物音がした。

 

「・・・ん?」

 

聞き間違いかと思った時だった。

 

「・・・・・・キュイ・・・」

 

「な、鳴き声?カモメ?」

 

しかし聞こえてくるのはカモメの鳴き声ではない。

 

しかも聞こえてくるのは隣のベンチの辺りからだ。

 

(ベンチの上には何もいない、だとしたら下か?)

 

恐る恐る下を除くとそこには・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白くてモフモフしたものがあった。

 

「・・・なに・・・これ?」

 

手を伸ばすともぞもぞと動いた。

 

ビックリして手を引っ込めると謎のモフモフはベンチのしたから出てきた。

 

「これって・・・アザラシ?」

 

中から出てきたのはアザラシの子供だった。

 

アザラシはこちらを見ると

 

「・・・キュキュイ・・・」

 

と鳴いて後ろに下がっていく。

 

(なんでアザラシ?なんでここに?しかもここ沖縄だぞ?)

 

見る限りそのアザラシは怯えている上に少し弱っているように見えた。

 

「・・・とりあえず中に入れた方がいいな、ごめんよ!アザラシさん!」

 

アザラシをそっと捕まえ、僕は研究所の中へ入った。

 

僕がいた所からさっき皆といた所は少し距離がある。

 

しかもこういう時に限って職員が見当たらない。

 

アザラシは暴れる様子もなく大人しく僕の腕の中で抱かれている。

 

人を探しているとどこかわからない所に出た。

 

「・・・自分が方向音痴なの忘れてた。」

 

詰んだ、と思った時だった?

 

「・・・あれ、九条くん?」

 

後ろを向くとそこには松原さんがいた。

 

「ま、松原さん!よかったぁ・・・」

 

「どうしてここに?って、それってアザラシ!?」

 

「はい、外のベンチで休んでいたら隣のベンチの下にうずくまっていて・・・とりあえず皆がいる所知ってますか?」

 

「その・・・私、実は方向音痴で・・・道に迷って・・・」

 

嘘だろ・・・完璧に詰んだよなこれ・・・

 

まさか松原さんも方向音痴だったとは思わなかった。

 

「と、とりあえず一緒に行動した方がいいですね、とりあえず職員さんを探さないと・・・」

 

「う、うんそうだね・・・」

 

方向音痴な2人組は職員を探すため歩き始めた。

 

 

 

 

 

「あ、あの制服!あれって!」

 

適当に歩いているとなんとか花咲川のみんなのところに着いた。

 

「よ、よかった・・・」

 

少し小走りで走って追いついた。

 

「あれ?松原さん?それにあなたは転入生・・・ってそのふわふわなに?」

 

1人の女子生徒がこちらに気がついた。

 

すると一斉にこっちにむいてきた。

 

「すごい、もしかしてアザラシ?」

 

「めちゃくちゃ可愛い!触ってもいい?」

 

「私写真撮りたい!」

 

「私にも抱っこさせて!」

 

めちゃくちゃ寄ってきた。

 

アザラシの様子を見るとかなり怯えている・・・

 

「く、九条くん・・・アザラシさんが・・・」

 

とりあえずここから離れた方が良さそうだ。

 

「え、えっと・・・ごめん松原さん!アザラシさん!我慢してください!」

 

僕は人混みを掻き分け走り出した。

 

後ろから松原さんと他の女子生徒達の声がしたが悪いが気にしている余裕はない。

 

D組、C組の列を抜け、B組の列を抜けようとした時、

 

「九条・・・さん?」

 

白金さんがこちらに気づき声をかけた。

 

「し、白金さん!あの!職員の人、知りませんか?」

 

僕は肩で息をしながら白金さんに訪ねた。

 

「え、えっと・・・多分・・・先頭の方に・・・」

 

「すごい!九条、それアザラシ?」

 

「アザラシ?見てみたい!」

 

「なんで九条がアザラシ抱いてんの?」

 

やばい・・・人がアザラシに気が付き始めた。

 

「すみません白金さん、ありがとうございます!」

 

「は、はい!」

 

白金さんに礼を言ってA組の先頭の職員を探しに走り出した。

 

A組の列を抜けると先頭に入口で挨拶してくれた男の職員さんがいた。

 

「す、すみません・・・その・・・外にアザラシがいて・・・」

 

「ん?あっ!そいつ!ちょっと待ってて!」

 

職員さんがトランシーバーで連絡を取り始めた。

 

「はい、見つけてくれました・・・はい、わかりました、彼を通しても・・・はい、ありがとうございます。」

 

「あの・・・このアザラシさんって。」

 

「そのアザラシ、今日美ら海の方に行く予定だったアザラシなんだけど人見知りでどこかに逃げてしまってね・・・僕達が抱いたら嫌がって暴れ出すのにここまで落ち着いてるとはな・・・」

 

職員さんが不思議そうに見てきた。

 

アザラシを見ると

 

「キュイキュイ!」

 

と鳴いて落ち着いている。

 

さっきまで寒かったはずなのに走ったせいかかなり涼しく感じる。

 

「とりあえず、一緒に来てくれないかい?僕が抱くと暴れてしまうからね。」

 

「は、はい!」

 

アザラシを抱いたまま僕は「第五研究エリア」と書かれた部屋に案内された。

 

そこにはこのアザラシにそっくりなアザラシが3匹いた。

 

「そいつらはこのアザラシの兄弟でね、わかりやすいように腕に色々なバンドを付けているんだ」

 

アザラシの腕を見ると赤や黄色などのバンドが巻かれている。

 

話によるとどうやらこのアザラシはそのバンドをつけようとした時に電話がかかってきて、目を離している隙に逃げたしたようだ。

 

「良かったら付けてみるかい?」

 

職員さんが青色のバンドを渡してきた。

 

「はい!やらせてもらっていいですか?」

 

「もちろん。」

 

そのアザラシを作業台の上に置いてバンドを付ける。

 

アザラシは暴れずに大人しくしてくれた。

 

バンドを付けるとアザラシは

 

「キュキュッ」

 

と嬉しそうに鳴いた。

 

「アザラシを見つけてくれてありがとう!そうだ!お礼と言ってはなんだけどその子に名前つけてくれない?」

 

「名前・・・ですか?」

 

「そ、他の子には名前あるけどその子だけ名前ないからね。」

 

他のアザラシをよく見るとバンドにドッグタグが付いていて「まるお」なり「メアリー」なり付いている。

 

「そうですね・・・出会った時暑がっていたんで・・・冷房・・・レイ!この子の名前はレイでお願いします!」

 

職員さんがドッグタグに「rei」と打ち込んでレイに付ける。

 

「君、そろそろ時間だろ?レイのことは任せて、友達の所へ戻ってあげなさい。」

 

「はい・・・レイ、またね。」

 

「キュキュキュイ!」

 

アザラシのレイに別れを告げ、僕は皆がいる所へ戻った。

 

 

 

 

 

 

見学が終わり、空港に着くと丸山さんが話しかけてきた。

 

「奏多くん、さっきは大変だったねー。」

 

「丸山さんいつから?」

 

「大体皆が研究所の真ん中ぐらいにいた時に追いついたんだー。今日の朝も沖縄ロケがあって・・・あまり皆と観光出来なかったな・・・」

 

丸山さんが大きなため息をつく。

 

「お疲れ様です、アイドルって大変ですね。」

 

「ホントだよ~。でも、私がやりたいって決めたことだから頑張れるんだ!」

 

「九条、丸山、早くしないと置いていくぞ!」

 

担任が大きな声で2人を呼んだ。

 

「呼ばれましたね・・・行きましょうか。」

 

「うん!バイバイ沖縄!」

 

こうしてハチャメチャだった沖縄修学旅行は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

『さて、私は沖縄の美ら海水族館にきています!』

 

ニュースで美ら海水族館の特集をしていた。

 

「沖縄か・・・楽しかったな・・・」

 

『ここでは最近人気の動物の赤ちゃんが発表されたようです!それでは見に行ってみましょう!』

 

レポーターが歩き始め、ある水槽の前についた。

 

『その赤ちゃんとは、アザラシです!』

 

画面にアザラシが4匹映り出した

 

「・・・っ!レイ!」

 

そこには人にビビらず元気に歩いているレイと兄弟達の姿があった。

 

そして飼育員の人にインタビューを始めた。

 

『大盛況ですね!この子達のエピソードとかありますか?』

 

『はい、この中の青のバンドを付けているレイって子がいるんですけど。その子、人見知りで1度研究所から逃げてしまったんですよ。』

 

『えぇ!そんな事が?それからどうしたんですか?』

『その日見学に来ていた高校生が見つけてくれて連れてきてくれたんですよ。その時レイがとても落ち着いていたらしくて恐らく僕とその高校生以外が抱くと怖くて暴れてしまうんですよ。』

 

「・・・レイ、元気でよかった。」

 

僕はそのニュースを聞いてとてもほっとしていた。

 

次にレイに会える日はかなり先かもしれない。

 

けど必ずまた会いに行こうと僕は決心した。




沖縄修学旅行編はこれで終わりです。
ホントに半分がわちゃもちゃイベだわ・・・と思いつつなんとか形になったと思います。

さて、次からは「思い繋ぐ未完成な歌」をベースにLOUDER編やろうと思います!
次回の投稿日までお楽しみに!


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3章 ~LOUDER~オモイツナグ ミカンセイ ナ ウタ
15話 ハゲシイ シャウト


新章『~LOUDER~オモイツナグ ミカンセイ ナ ウタ』のプロローグ的な回です。
本当は投稿日じゃないのですがこの回は前からめちゃくちゃやりたかったので早めに投稿することにしました。

そして今回は新しく友希那sideが追加されます。主に奏多と燐子の目線で書くつもりですがこの回はやっぱり友希那さん目線が欲しいってことで追加することにしました。この3人の目線からのストーリーをお楽しみください!

てなわけで新章本編始まります!


Roselia結成から少し経ち、6月になった。

 

6月といってもまだ始めの方なので梅雨入りしておらず、外は快晴。

 

日曜でRoseliaの練習も珍しくオフなので僕は久々に外をぶらついていた。

 

「んー!たまには散歩も悪くないなぁ!」

 

体を伸ばしながら川沿いを歩いていた。

 

最近ずっとテスト勉強やRoseliaでの作業で座ってばかりいたのでこうしてのびのびと出来るのは久々である。

 

適当に歩いていると公園を見つけた。

 

「・・・ちょっと休憩するか。」

 

僕はそう思って公園に入った。

 

公園に入ろうとすると中に見覚えのある銀色の髪の人がいた。

 

「あれは・・・湊さん?」

 

背を向けてしゃがんでいるのでこちらには気がついていない。

 

声をかけようとしたがその光景に僕は思わず口を閉ざした。

 

そこには・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫だった。

 

しゃがんでいる湊さんの周りにたくさんの猫がいた。

 

しかもその猫達は湊さんに警戒することなく湊さんの周りに集まっていく。

 

(あの人、なんであんなに懐かれてんの?)

 

すると今まで黙っていた湊さんが口を開いた。

 

「・・・フフッ、にゃーんちゃん・・・お待たせ、今日はお菓子、持ってきたよ~」

 

(み、湊さんが!?に、にゃーんちゃん!?)

 

崩れていく・・・僕のいつも見ていた湊さんのイメージがものすごい勢いで崩れていく・・・

 

その湊さんは見たこともない緩い笑顔で猫達を撫でながら猫用であろうビスケットをあげていた。

 

(み、湊さんにあんな姿あったとは・・・このことリサ知ってるのかな・・・)

 

そんなことを考えている中、何のいたずらか突然くしゃみが出そうになる。

 

(あ、やばっ!)

 

思わず耐えようとするが

 

「・・・くしゅん!」

 

耐えたのだが音が漏れだしてしまう。

 

だがその小さな音でも湊さんが気づくのには十分だった。

 

「・・・誰?」

 

これは出ない方が逆に怪しまれると思い湊さんの前に姿を現す。

 

「そ、奏多!?」

 

「あの・・・ハハハ・・・」

 

「い、いつからそこに?」

 

「そ、その・・・に、にゃーんちゃん辺りから・・・」

「・・・っ!」

 

湊さんの顔がみるみる赤くなっていく。

 

猫達はそんなのお構い無しに湊さんの足に頬を擦り寄せている。

 

とりあえずこのままだと僕がストーカー扱いされそうな空気だったので無意味かもしれないがとりあえず話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「日曜で予定もなかったんでたまには散歩しようかなと・・・」

 

「そう、散歩ねぇ・・・」

 

湊さんは少し疑い気味に返す。

 

「そして川沿いを歩いていたら公園があって、その公園で休もうとしたら湊さんがいたんですよ。」

 

「・・・はぁ、そういうことにしときます。けど!」

 

湊さんがこちらをくわっと見てきた。

 

「は、はいっ!」

 

「あの・・・あのことは忘れてちょうだい!」

 

「あのことって・・・」

 

「その・・・ね、猫のこと・・・」

 

(あ、この人あれだ・・・普段はツンとしてるけど緩いとこ見られたら慌てて隠そうとするタイプの人だ!)

 

忘れてと言われても一度見てしまったものはそう簡単に忘れられない。

 

「は、はい・・・」

 

とりあえず相槌を打つ。

 

ここで忘れられないと言われても逆にめんどくさくなるだけだ。

 

すると1匹の猫が近づいていた。

 

「ニャー」

 

「あら、どうしたの?」

 

猫は身軽に湊さんの膝の上に乗ってきた。

 

「ニャァ・・・」

 

「そう・・・ちょっと待ってて。」

 

そう言って湊さんは自分の鞄からさっきの猫用ビスケットを取り出して猫に与えた。

 

「猫・・・かなり懐いてますね。」

 

「・・・えぇ。私、よくこの公園に来るから。」

 

湊さんはそう言って猫を撫でる。

 

猫も目を閉じて喉を鳴らして湊さんの膝の上に丸まった。

 

「そういえば奏多、次のライブのセットリスト考えている?」

 

次のライブは2週間後でそろそろ曲のセットリストを考えなければならない時期だ。

 

次やる曲は3曲、あらかじめ湊さんに言われていたので考えてはいた。

 

「えっと・・・1曲目を熱色スターマイン、2曲目をBLACK SHOUTの流れで行こうとは思うんですけど3曲目をそのまま勢いに乗らせるか、緩急をつけるべきかで考えているんですけど・・・」

 

「そう、はじめの2曲はいいセットだと思うわ。」

 

「はい。ここはあまり外したくないので残りの1曲は明日皆に聞いてみようと思います。リサや白金さん達の意見も聞きたいですし。」

 

「それでいいと思うわ。」

 

湊さんは納得したように相槌を打った。

 

「そういえば前から気になってたのだけれども。」

 

「はい?」

 

「奏多は何故ほかの人は名字なのにリサだけ下の名前で呼んでるのかしら?」

 

突然のその質問に僕はビクッとした。

 

とりあえずバイトであったことをそのまま話した。

 

「その・・・リサにバイト始めた日に話の練習するついでにアタシの事はリサって呼んでと言われて・・・」

 

「そう・・・リサらしいわね。」

 

今考えると僕が今下の名前で呼んでいるのはリサと日菜さんしかいないかもしれない。

 

「なら私の事は友希那って呼んで。」

 

「は、はい!?」

 

「話す練習をしているのでしょ?それぐらい慣れてもらわないとマネージャーとしてどうかと思うけど?」

 

「は、はい・・・ゆ、友希那さん?」

 

「さん付けは無し。」

 

「はい!その・・・友希那・・・?これで・・・いい・・・ですか?」

 

「はぁ・・・本当は敬語も直して欲しいけど、まぁそれでいいわ。」

 

みな・・・友希那が少しため息をつく。

 

「話がズレたけど私の方でも考えておくわ。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

友希那が移動するのを察して猫が膝から降りる。

 

「それじゃ、また明日練習で。」

 

「はい、また明日よろしくお願いします。」

 

友希那と別れ、時間もいい所なので僕はそのまま家に帰ることにした。

 

ライブの件は正直新曲を試してもいいとは思うのだが2週間で作詞からやるのはかなり難しい。

 

その上氷川さんなら「中途半端なものはライブで演奏出来ない」と言いそうなのでもし、新曲をするとしたらカバー曲ぐらいなのだ。

 

「あぁ・・・Roseliaに合ってアップテンポのいい曲無いかな~」

 

僕はそう考えながら来た道を帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

奏多と別れそのまま家に着いた私は鞄を置いて色々な曲のスコアを置いている棚の前に立った。

 

「奏多が言っていた曲で合いそうなもの・・・たしかこの辺りに・・・」

 

探していると黒い四角のものが入っていた。

 

「・・・なにこれ?」

 

それはカセットテープだった。

 

音楽配信が普通な今の世の中ではカセットテープはかなり古いほうだ。

 

見たところ10年以上前のものだった。

 

恐らく何かの拍子に入れてそのままだったのだろうか。

 

最近この棚の中を見ていなかったので何時頃から合ったのか覚えていない。

 

「この家にあるということは曲・・・なのかしら。」

 

悩んでいても仕方が無いのでそのカセットテープをラジカセに入れた。

 

私のラジカセは昔から使っているのでカセットテープに対応していた。

 

テープの巻取りが終わり、私は再生ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは私にとって衝撃的な音楽だった。

 

(何・・・この激しいシャウト?)

 

ラジカセから流れ出す激しいドラムとギターの音。

 

聴いたいるだけで心が揺さぶられる感覚に陥るしかし衝撃的なのはその歌い手の声だった。

 

(これは、お父さんの声!?)

 

その声は自分の父の声だった。

 

私の父は昔、インディーズというバンドを組んでいてボーカルをしていた。

 

しかし10年前あることがきっかけでバンドは解散してしまった。

 

曲の殆どのスコアは父が処分してしまったらしく私は父がバンドをしていたこと以外その内容をよく知らない。

 

しかしこの声は間違いなく父のものだ。

 

(お父さん・・・すごく楽しそう・・・。この曲から純粋な音楽に対する熱意が伝わってくる・・・。)

 

曲が終わりカセットテープを取り出した。

 

そのカセットテープの背面によく見ると題名らしきものが書かれてあった。

 

そこには

 

 

 

『インディーズ LOUDER』

 

 

 

と父の文字で書かれていた。

 

「LOUDER・・・この曲、私も歌ってみたい・・・!」

 

この曲なら今回のライブのセットリストに合うかもしれない。

 

しかし・・・

 

「私にこの歌を歌う資格は・・・あるのかしら・・・」

 

私の歌声に、この曲を重ねる資格・・・

 

私はその後、その有無をずっと考えていた。

 




今回、燐子は出てこなかったけど投稿日の今日は燐子誕生日なのでしっかり祝ってます!
次の友希那さんの誕生日は特別編やる予定なんでよろしくお願いします!


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16話 イガイ ナ セッテン ボーカル ト ベース

何気に投稿日じゃない昨日にさらっと上げてます見てない方はそちらからドゾ。

昨日は燐子誕生日だったのに前話は燐子出てない・・・!
てなわけで今回しっかり出るので!
まぁ最初は友希那sideから入るので出てくるの多分中盤辺りだと思うけど!
いい加減進展させないと面白みが薄れるな・・・タグ詐欺になりそうだし・・・←怖いのそこかよ

そういう事で未だ友達関係な本編始まります!


私は今CIRCLEの前に立っている。

 

練習の日ということもあるが、その鞄の中にはいつもは入っていないものも入れている。

 

それは昨日見つけたカセットテープだ。

 

昨日これを歌うべきかを悩んだ私はとりあえずみんなに聞いてもらうべきだと考えてこうして持ってきている。

 

 

 

『LOUDER』

 

 

 

父が残していた私が知る中で一つだけの父の曲。

 

まだ10年以上前、父がバンドに熱意を向けていた頃の曲。

 

この曲からは音楽に対する熱意と楽しさが感じられる。

今のRoseliaならこの曲を完璧に演奏できるかもしれない。

 

しかし、他のメンバーが演奏出来ても私が歌わなければ完成しない。

 

この曲を歌ってみたい気持ちはある。

 

しかし、私が『最高の音楽』を求める思いとこの頃の父の思いはどうもかけ離れすぎているような気がする。

 

この曲を歌う資格は私には無いのかもしれない。

 

昨日散々悩んでその結果持ってきているのだが、これを聴かせて皆はどんな反応をするのだろうか。

 

その反応に私はどう返せばいいのだろうか。

 

「・・・そんなこと考えても変わらないわね。」

 

この時間だと他のメンバーは揃っているだろう。

 

この件は練習の後みんなに話そうと思い私はCIRCLEの中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

僕はいつも通り集合時間の15分前には準備を始めている。

 

・・・といっても大体先に氷川さんが居るので、ほとんどは練習中に飲む水の準備や重い荷物の運搬などぐらいなのだが。

 

「そういえば氷川さんって何時ぐらいに来ているんですか?」

 

「そうね、大体集合時間の20分前ね。いつもこれぐらいですよ。」

 

「そんなに早く来て暇にならないんですか?」

 

「遅れて皆に迷惑をかけるぐらいなら早く来て待っていた方がいいと思いますけど。」

 

それもそうかと納得しつつドラムのセットを運ぶ。

 

すると僕の携帯にメールが来た。

 

「LINEじゃなくてメール?誰からだろう?」

 

僕は携帯を取り出して内容を見る。

 

差出人は・・・「九条茂樹」と書かれていた。

 

「え?シゲさん?」

 

シゲさんは僕の親父の弟で叔父に当たる人だ。

 

今、音楽雑誌の仕事をしているのでいつも忙しく、会うことが出来るのは正月ぐらいだ。

 

しかし小さい頃から母親がいない僕のことを可愛がってくれたので昔からシゲさんと読んでいる。

 

「シゲさん・・・とは?」

 

氷川さんが僕の反応に気づき、尋ねてきた。

 

「僕の叔父です・・・仕事で滅多にメール送ってくれないのに・・・」

 

とりあえず内容を読んでみた

 

『ひさしぶりだな奏多。突然で悪いが兄貴に頼まれてお前の様子を見に行くことになったから今からそっちに行くぜ。今日の夕方辺りに着くと思うから飯と部屋の準備よろしく! 茂樹』

 

いや、そんな唐突に言われても!?

 

僕はシゲさんが親父とは違いかなり自由人な性格をしているということを今更ながら思い出した。

 

「どうしました九条さん、顔がひきつってますけど・・・」

 

「え、えっと・・・叔父が今からこっちに向かうって言われて・・・」

 

「お、お疲れ様です・・・」

 

氷川さんもこちらの心境を察したようだ。

 

「しかし、それはそれこれはこれ。練習にはしっかり集中してくださいね。」

 

氷川さんがそう言って準備を再開する。

 

そろそろ他のメンバーも来る頃なので僕もシゲさんに『今日6時ぐらいまでバイトあるから早くついたら適当に時間つぶしといて』とだけ送って準備を再開した。

 

 

 

 

 

 

今日の練習が終わって片付けを開始しようとした時、

 

「・・・みんな、ちょっと集まって。」

 

と友希那に呼ばれた。

 

いつもこんなことは無いのでみんな不思議に思いながら友希那の前に集まる。

 

「友希那、一体どうしたの?」

 

「皆に聴いてほしいものがある。」

 

リサの問いかけに友希那はカセットテープを見せてCIRCLEにあるラジカセに差し込む。

 

(カセットテープ・・・どうしてあんな古いものが?)

 

準備がおわり、友希那が再生ボタンを押す。

 

そこから流れたのは激しいシャウトから始まる歌だった。

 

その曲に全員が驚き、その曲を聴き入っている。

 

激しくて、だけど繊細で胸がぎゅっと締め付けられるような感覚におちいる。

 

(こんな曲があったなんて・・・しかし誰が歌っているのだろう・・・)

 

そう考えているうちに曲が終わった。

 

「すごい・・・すごいすごいすっごーい!カッコイイ!超カッコイイ!ねぇりんりん!」

 

「う、うん・・・そうだね・・・すごく・・・カッコイイ。」

 

「確かにすごい曲・・・しかし誰が・・・」

 

「ね、ねぇ友希那・・・この声ってもしかして・・・」

 

リサが思い当たるような質問をする。

 

しかし友希那はそれに答えなかった。

 

「・・・ごめんなさい、やっぱりこの曲は私達には見合わない。余計な時間を取らせてしまったわね。」

 

「え、でも・・・」

 

「・・・宇田川さん、湊さんは考えていることがあるのだと思います。」

 

宇田川さんを氷川さんが静止した。

 

「ゆ、友希那!その曲、録音だけしていいかな?」

 

「・・・?別に構わないけど。」

 

特に意味もないかもしれないが、一応残しておいた方がいいと思いラジカセにパソコンを経由して曲を保存する。

 

保存が終わり、片付けを再開しようと後ろを向くと友希那を除く4人がびっくりした顔をしていた?

 

「ど、どうかしました?」

 

「あの・・・九条さんが、」

 

「友希那さんを・・・下の名前で・・・呼んでる・・・」

 

「ソータ・・・一体どうしたの?」

 

そういえばみんなの前で友希那を下の名前で読んだことない・・・

 

「えっと・・・実は昨日友希那とたまたま会って・・・その時慣れるために下の名前で呼んでって言われて・・・」

 

僕は少々あたふたした。

 

「・・・マネージャーがその程度で慌ててどうするのかしら。」

 

友希那がため息をつく。

 

「と、とりあえず早く片付けてしまいましょう!リサも次バイトでしょう!」

 

とりあえずみんなを急かして話を流しその日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

練習の後、私はあこちゃんと帰っていた。

 

いつも私と九条さんとあこちゃんの3人で帰っているのだが九条さんはバイトのため今井さんと先に行ってしまったので2人で帰っている。

 

「ねぇりんりん、あの曲良かったよね」

 

「そうだね・・・でも今の私達には見合わない・・・って言われたね。」

 

「見合わないってどういう事だろ・・・あこ達のレベルがまだまだなのかな・・・でも頑張って練習したらできるようになるんじゃないかな。あこ、あの曲に見合う演奏ができるようになりたい!」

 

「・・・うん、私も・・・同じ気持ち。でも・・・友希那さんがどう言うか・・・。」

 

2人で悩んでいると噂をすればと言うべきか友希那さんがいた。

 

どうやら自販機で飲み物を買っていたようだ。

 

もちろんあこちゃんも気づいた。

 

「ねぇ・・・あれって友希那さんだよね。・・・よしあこ、もう1回お願いしてくる!」

 

そう言ってあこちゃんが走り出した。

 

「ま、待って・・・あこちゃん!」

 

あこちゃんを追いかけるが運動は得意ではないので全然追いつけない。

 

追いついた頃にはあこちゃんは話を切り出していた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・あこちゃん・・・早い・・・」

 

「りんりんっ!りんりんもあの曲演奏したいよね!」

 

「・・・う、うん・・・私も演奏したい・・・どなたの曲なのかはわからないですけど・・・きっと・・・友希那さんの歌声にあう、素敵な歌だと思いました・・・!」

 

「私の・・・歌声に?」

 

「私、友希那さんの歌声が好きです・・・!強くて、繊細で・・・時には音楽を求めすぎるあまり、まるで恋焦がれているような焦燥感を感じる・・・そんな歌声をしています。先程の曲を聞いた時・・・友希那さんの歌声を初めて聞いた時のような感覚に陥りました。」

 

「・・・」

 

友希那さんは黙って聞いている。

 

「だから・・・その・・・友希那さんにあの歌を歌って欲しい・・・そう思います・・・」

 

「お願いします!友希那さん、あの曲演奏させてください!あこ達のレベルが合ってないなら皆で猛練習します!だから!」

 

「・・・私の歌声は、そんなに純粋なものではないわ。」

 

「えっ・・・!?」

 

「私には・・・今の私にはあの曲を歌う資格はない・・・」

 

「友希那・・・さん?」

 

「ごめんなさい、あなた達の熱意はたしかに受け取ったわ。ありがとう。けど、この件に関しては、少し考えさせて・・・」

 

友希那さんはそう言って帰っていった。

 

その時のあの人の表情はとても悲しそうな表情をしていた。

 

自分の歌声を否定し、あの曲に自分の歌声を合わせる資格はないと言ったものの本当は歌いたいから私達に聞かせたのではないだろうか。

 

「・・・ねぇりんりん、もしもここに九条さんやリサ姉がいたらどう言ってたんだろ。」

 

「・・・そうだね。」

 

もし、九条さん達がいたらこの状況は変わっていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「くしゅん!」

 

「ソータ、風邪?」

 

「いやそんなことはないと思います・・・」

 

誰かが噂したのかな・・・

 

練習が終わって僕とリサはこんなことを話しながらコンビニへ向かっていた。

 

この後、昨日のことをあれこれ聞かれたが後々怖いので適当に流し、コンビニに付くと着替えてレジの前に立った。

 

夕方頃なので人もあまり多くなく、そこまで忙しくなかった。

 

レジにたって2時間後、全然客入ってこないのでがボーッとしてると客が入ってきた。

 

「いらっしゃいま・・・!」

 

なんと入ってきたのはシゲさんだった。

 

「お、奏多!正月以来だな!お前ここで働いてたのか!」

 

シゲさんが笑顔で話しかけてくる。

 

「う、うん・・・ひさしぶりシゲさん。」

 

「ソータ?どうしたの?」

 

リサが奥から出てきた。

 

「え、えっと・・・」

 

「おっす!奏多の叔父の茂樹って言うもんだ!よろしくぅ!」

 

「よ、よろしく・・・お願いします・・・」

 

リサもかなり引いている。

 

「し、シゲさん!今バイト中だから後にして!後に!」

 

「お、そうか悪ぃ悪ぃ!」

 

シゲさんはとりあえず商品を選びにレジの前から立ち退いてくれた。

 

「えっと・・・すみません、僕の叔父が・・・」

 

「なんか、凄い人だね・・・ソータの叔父さん・・・」

 

「ええ、かなりの自由人なんで・・・」

 

そろそろバイトが終わる時間なのでシゲさんには待ってもらうことにした。

 

 

 

バイトが終わり僕とリサはコンビニを出るとそこにはシゲさんが待っていた。

 

「おう!お疲れさん!ほらよ、差し入れだ!」

 

シゲさんは僕に缶コーヒー2本を渡してきた。

 

1本をリサに渡す。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「ありがとう、シゲさん。」

 

「いいってことよ!そういえば、今井ちゃんだっけ?」

 

「そ、そうですけど、なぜ名前を?」

 

「いや、店員の胸に名札ついてるだろ?家どの辺?夜の道は色々危ないし送ってやるよ!」

 

シゲさんはどうやら車で来ていたらしい。

 

「シゲさん・・・それいきなり言っても困ると思うけど・・・」

 

「ん~まぁいいか。お言葉に甘えてお願いします!」

 

「あいよ!」

 

(いいのか!?それで!)

 

そう思ったがなんとも言えずに僕とリサはシゲさんの車に乗った。

 

そこで僕はさっき録音した曲を流した。

 

(そういえば曲名聞いてないな・・・)

 

と思って流し始めた時だった。

 

「お、おい奏多!その曲なんで知っている!?」

 

シゲさんがびっくりした顔でこちらを見てきた。

 

「茂樹さん!前向いて!運転中!」

 

「お、おう悪ぃ・・・」

 

リサがとりあえずシゲさんを前に向かせる。

 

「んで、奏多。なぜその曲を知っているんだ?」

 

「シゲさん、この曲知ってるの?」

 

「いや、知ってるも何もその曲俺が演奏してんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

え?今なんつった?

 

「・・・え?シゲさん、今なんて言った?」

 

「だーかーらー、その曲俺が昔演奏していた曲なの!」

「「えぇ~!!」」

 

僕とリサは車の中で大声で驚いた。

 

 

 

「なるほどね・・・湊ん所の嬢ちゃんとバンド組んでて今日その曲聞かされてやっぱ辞めると言われたのか・・・」

 

僕はとりあえずさっきの事をシゲさんに説明した。

 

シゲさんは納得したようで僕はそのまま質問した。

 

「ね、ねぇシゲさん。シゲさんはなんの楽器演奏してたの?」

 

「俺か?俺はベースやってた。」

 

「ベースですか?アタシもベースやってるんですけど!」

「そうか今井ちゃん!ベース仲間だな!」

 

シゲさんがニシシと笑う。

 

「けど、まさか湊この曲のカセット残してたんだな・・・」

 

「シゲさん、この曲の名前何ていうの?」

 

「この曲は『LOUDER』と言ってな、俺達が全盛期だった頃にやっていた曲だ。その後解散した時にスコアとかカセットとか全部湊が持っていってよ全部処分したとか言いやがるんだ。」

 

「友希那のお父さんがバンドやってたの知ってるけどまさかそのメンバーに会えるなんてね・・・」

 

「そうだ今井ちゃんよ、湊どこ住んでんか分かる?」

 

「どこってアタシんちの隣だけど?」

 

「え、友希那とリサって家隣だったんですか?」

 

「そうだよ、言ってなかったっけ?」

 

意外な事実に驚く僕を余所目にシゲさんが豪快に笑った。

 

「ハッハッハ!そりゃ丁度いいや!湊んとこ行くか!」

 

「え、そんな勝手にいいの?その人にも仕事あるでしょ?」

 

「えっと・・・今の時間なら多分友希那のお父さんいると思う・・・」

 

「よし!湊家に突撃だ!」

 

行き先が今井家から湊家に変更され僕達は強制的にシゲさんの自由人行動に付き合うハメになった。




微妙な終わり方ですが続きは次回です!(こういう焦らす系を試してみたいと思っただけ)
さて、いつになったら奏多くん全員下の名前呼びになるのかな~


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17話 ヨミガエル オト ヒキツガレル イシ

なんだかんだで続いてるな~これ
LOUDER編終わったら何やろ・・・
と思う作者であった。

作者ほっといて本編どうぞ!


友希那side

 

燐子達と別れて帰宅した私はベッド上でずっと考えていた。

 

『私、友希那さんの歌声が好きです・・・!強くて、繊細で・・・時には音楽を求めすぎるあまり、まるで恋焦がれているような焦燥感を感じる・・・そんな歌声をしています。』

 

「私の歌声・・・か。」

 

燐子に言われたことをずっと考えていた。

 

確かに音楽に対する熱意はほかの誰よりも上だということに自信はある。

 

しかし、燐子が言うような歌声で歌えている自信はない。

 

私は1度だけ、父のライブを見たことがある。

 

小さい頃だったので曲やメンバーはあまり覚えていないが、その時の父は本当に楽しそうにしていた。

 

しかし、父が引退した時から父の表情は変わってしまった。

 

昔とは違い、まるで昔のことをあまり思い出したくないように見える。

 

そんな父を超えるため、私は歌い始めたのだがそんな理由で始めた自分にやはり歌う資格はない。

 

やはり私はメンバーが増えて考えが変わってきたとしても、その始まり方の呪縛から離れなれない鳥籠の歌姫。

そう考えてしまうのだ。

 

「・・・もう1度、聴いてみましょう。」

 

私はもう1度、LOUDERを流した。

 

やはり音楽に対する愛情と熱意はこちらの方が上のように聞こえてしまう。

 

父はどのような気持ちでこの曲を歌ったのだろうか。

 

するとドアをノックする音が聞こえた。

 

「友希那、ちょっといいか?」

 

それは父の声だった。

 

「お父さん?えぇ、いいけど。」

 

ラジカセを止め、父を部屋に入れた。

 

「懐かしい曲が聞こえて、ついな。もう10年以上前の曲じゃないか。」

 

父が懐かしいそうな表情でそう言った。

 

「私、この曲を歌いたいと思ったの、でも・・・私には・・・」

 

「それなら歌えばいい、何をためらっているんだ?」

 

「それは・・・」

 

するとインターホンがなった。

 

「すまん、話は後で聞く。」

 

父が部屋を出て下へ降りる。

 

すると父の驚く声が聞こえた。

 

気になって下に降りるとそこには父の知り合いである人とリサと奏多がいた。

 

「リサ?それに奏多も?どうしてここに?」

 

「えっと・・・色々あって・・・」

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「えっと、その道を左で後は直進です。」

 

「おう、もうすぐだな!」

 

シゲさんがとてもワクワクした顔をしている。

 

今考えたら2人の家まで行くのは始めてだ。

 

家の近くで車を止めて、僕達は歩いて友希那の家の前に着いた。

 

「お、ここだな!湊なかなかいい家住んでんじゃん!」

 

「そして隣がリサの家ですか?」

 

「そ、昔は窓越しによく話したんだけどな~」

 

シゲさんがインターホンを押した。

 

すると中から男の人が出てきた。

 

「はい・・・ってシゲ!?」

 

「おう、湊!久々だな!」

 

「お前どうしてここに・・・ってリサちゃん?」

 

「こんばんは、友希那のお父さん!そそ、彼が」

 

「えっと友希那と同じバンドでマネージャーをしている九条奏多です。シゲさんの甥にあたります。」

 

すると玄関の奥から友希那が出てきた。

 

「どうしたのお父さ・・・リサ?それに奏多も?どうしてここに?」

 

「えっと・・・色々あって・・・」

 

リサが苦笑気味に返す。

 

「おっ、お前が湊の嬢ちゃんか!俺はこいつと同じバンドでベースしてた九条茂樹ってもんだ!奏多の叔父だ!」

 

友希那がそれを聞いて呆然としている。

 

「とりあえずここでもなんだ、とりあえず中に入れ。」

 

「おう、邪魔するぜ!」

 

「お邪魔しま~す。」

 

「えっと・・・お邪魔・・・します。」

 

友希那のお父さんが中に入れてくれた。

 

 

 

リビングに案内されて向かい合うように席に座らされた。

 

「・・・で、シゲ、何故リサちゃんや奏多くんを連れてここに来た?」

 

「いや、元々一人暮らししてるこいつの様子を見に来たんだけど、一緒に出てきた今井ちゃんを送ろうと思って場所聞いたら湊ん家の隣だと聞いてよ、そんでだ。」

 

それを聞いて友希那のお父さんはため息をついた。

 

「・・・お前のそういう所、昔っから変わってないな。」

 

「俺らしくていいだろ。それと」

 

シゲさんの声がいきなり低くなった。

 

「こいつら、LOUDERやろうとしてんだろ。何故お前が処分したはずのあの曲のカセットを持ってんだよ。」

 

「・・・本当は全て捨てるはずだった。過去の事を、あの時の事を忘れたいがために。」

 

友希那のお父さんはその質問にゆっくりと返した。

 

「けど、あの曲はLOUDERだけは捨てられなかった。この曲は俺達の魂がこもっている。俺や、お前や、他のみんなとの絆の曲だ。この曲を捨てたら、お前達の関係も消えそうだったから・・・」

 

「お父さん・・・」

 

友希那は心配そうにお父さんを見ていた。

 

「ふっ、やっぱりお前も昔から変わってないじゃん。」

 

「・・・え?」

 

「お前のその音楽に対する愛情、仲間を思う気持ちと優しさに惚れたから俺たちゃお前に付いてったんだよ!奏多が車ん中でこの曲流した時驚いてよ、湊との関係聞いた時俺は正直嬉しかった!お前がまだ音楽に対する熱意を持っていたこと、その意志が継がれていることにな。」

 

「シゲ・・・」

 

「それと嬢ちゃん!」

 

「は、はい!」

 

シゲさんが友希那に話を降った。

 

「アンタ、自分の歌声を合わせる自信がないって思ってるな。」

 

「・・・はい。あの曲から感じる音楽への純粋な情熱・・・それを私の歌声に載せて歌える自信がなくて・・・」

 

(だから友希那は・・・)

 

僕はまでの行動の理由に察しがついた。

 

「友希那・・・それで・・・」

 

リサも察しがついた様だ。

 

「なら嬢ちゃん、その思いをのせて歌えばいい。」

 

「・・・え?」

 

「今、誰も歌わなくなったこの歌は思いがないただの歌詞になってしまってんだ。別にこいつと同じように歌わなくてもいい、自分の思う通りにに歌えば自ずと自分の気持ちに気づくし、この曲も新たな思いをのせて蘇る。他人に合わせるんじゃない、自分の歌声を信じて歌ってみろ。」

 

シゲさんが自分の意見を伝える。

 

「九条・・・さん。」

 

「・・・ハハッ、お前らしい意見だな。」

 

「ニシシ、俺は難しいことわかんねぇからよ!だから我が道を行く生き方してんだ。」

 

するとシゲさんが何かを思いついた表情をした。

 

「そうだ湊!明日お前暇か?」

 

「あ、あぁ・・・仕事は休みだが・・・」

 

「なら、もう一度だけやらねぇか?こいつらに本物を見せるために!」

 

突然の提案だった。

 

「ちょ、シゲさん!そんないきなり!てか、もしいけても他のメンバーさんどうすんだ!?」

 

「え?今から呼ぶけど?」

 

「え?じゃないよ!」

 

僕がツッコミを入れる中、シゲさんは友希那のお父さんの方を向いた。

 

「安心しろ、お前がOKを言うだけであいつらは絶対来る。お前がやるかどうかだ。」

 

友希那のお父さんは無言のまま考えている。

 

「お父さん・・・」

 

「・・・わかった。1度だけやろう。」

 

「うっし!んじゃちょっと待てよ。」

 

シゲさんが連絡を送り始めた。

 

「ねぇ茂樹さん。そんないきなり送ってもすぐに返事は」

 

「よし湊!全員行けるぞ!」

 

「・・・嘘でしょ?」

 

リサがその速さに呆然とする。

 

「シゲは昔からそういうの早かったよな・・・他のみんなも返すの早いし・・・」

 

「お前が遅すぎるだけなんだよ!」

 

「ってことは・・・シゲさんそれって。」

 

「おう!インディーズ再集結!」

 

僕とリサと友希那が呆然としている中、友希那のお父さんは笑顔でシゲさんを見ていた。

 

 

 

 

 

この話が終わり、湊家から出ようとした時、

 

「ってかソータ、いつもそんな感じに話せばいいのに。」

 

リサにそう言わた。

 

「あぁ、こいつ昔色々あったせいでなれた相手じゃないと内側見せねぇからよ、めんどくさいと思うけど勘弁してやれ。」

 

シゲさんがリサにそう返した。

 

「昔って奏多。一体何が・・・」

 

「えっと・・・その・・・あははは・・・」

 

僕は曖昧に返すことしか出来なかった。




奏多の昔はプロローグの一番最初アレです。
その話は詳しくやる予定ですので。

てか今回インディーズの2人しか喋ってないし奏多ほとんどツッコミに回ってた・・・
奏多とシゲさんのイメージはFate/Zeroのイスカンダルとウェイバーだと思ってくだせぇ。(知らない人は見てね!)


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18話 LOUDER オモイツナギ ヒキツガレル ウタ

わーい投稿日(21日)誕生日だぁ!
ログボ燐子だぁ!
ガチャは渋いわぁ・・・

祝17歳ということで『~LOUDER~オモイツナグ ミカンセイ ナ ウタ』ラストです!(無論こうなるのは想定外)

今回は全員のsideが入ります!そのため切り替えが多くなると思う・・・そこはご了承ください。

次を日常パートにするか陽だまりロードナイトの回にするかで迷ってるけどそれはおいおい決めるとして

LOUDER編ラスト始まります!


友希那の家の騒動から夜が明け、CIRCLEにはいつものRoseliaのメンバーとインディーズのメンバーが揃っていた。

 

「まさかホントに揃うとはな・・・」

 

「だから言ったじゃねぇか!お前が呼べばいつだって集まるって!」

 

シゲさんが友希那のお父さんの背中を叩く。

 

その後こちらを向いた。

 

「えっとこいつらが昔のメンバー!自己紹介頼むぜ!」

 

すると長身の女の人が前に出た。

 

「シゲはやっぱり変わらないわね・・・私、キーボードをしていた黒木奈津子。よろしく。」

 

次に強面の男の人が前に出た。

 

「ギター担当だった、大山恭介だ。よろしく。」

 

次は背の低い優しそうな人が出てきた。

 

「俺、佐久間響!ドラムやってたもんだ!よろしくな、嬢ちゃん達!」

 

次はシゲさんが前に出た。

 

「んで俺が奏多の叔父でベースやってた九条茂樹だ!気軽にシゲって呼んでくれや!んで我らがボーカルの!」

 

シゲさんが友希那のお父さんに降った。

 

「ったく、気恥しいって。ボーカルで友希那の父の湊悠斗だ。いつも友希那が世話になってるな。」

 

友希那を見ると少し顔を赤くしている。

 

そんなことお構い無しにシゲさんは話を続けた。

 

「お前達が俺達の曲をやるって聞いてな!それなら本物を見せてみようってことになってよ!」

 

すると宇田川さんが友希那に顔をきらめかせて話しかけた。

 

「友希那さん!それってこの曲をやれるんですか?」

 

「えぇ、ようやく決心がついたわ。」

 

「湊さん、どうやら迷いが吹っ切れたようね。」

 

「友希那さん・・・表情が良くなってる・・・いつもの友希那さんだ・・・」

 

メンバーがいつもの友希那になったことに喜んでいた。

 

「まぁそういうこった!とりあえず俺達のLOUDER、聴いてくれや!」

 

インディーズのメンバーがそれぞれの位置について静まる。

 

メンバーの準備が終わると悠斗さんが話し出した。

 

「歌う前に言っておく。俺達のLOUDERを聴いたからと言ってそのまま真似る必要は無い。インディーズはインディーズの、RoseliaはRoseliaのLOUDERを奏でればいい。それだけは頭に入れといてくれ。では、聴いてください『LOUDER』!」

 

するとカセットで聞いた以上の激しいシャウトが流れ出した。

 

Roseliaのメンバーは静かに聴いているがその表情は始めてこの曲を聞いた時以上の感動した顔をしている。

 

インディーズの人たちもブランクを感じさせないぐらい凄く、そして楽しそうに演奏している。

 

演奏が終わると悠斗さんが肩で息をしながら話し出した。

 

「どうだ・・・これが俺達のLOUDERだ。この後、こいつら一人一人が担当のところへ行く。そこでこの曲のコツとかを叩き込んでもらえ。次のライブまで1週間ぐらいしかないそうだな。がんばれよ。」

 

「「「「はい!」」」」

 

友希那を除く全員がそれぞれの担当のところへ行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

私はあの演奏の後、黒木さんの所へ向かった。

 

「あなたがキーボードの子?黒木よ、よろしく。」

 

「えっと・・・白金燐子です・・・よろしくお願いします。」

 

「ふむふむ・・・あなた、人前に出るのは苦手なタイプね?」

 

「・・・!どうして・・・わかったんですか?」

 

「私、今は音楽学校でピアノを教えていてね。たくさんの生徒を見てると自然とわかってくるのよ。」

 

自分の特徴をひと目で見抜かれてかなりびっくりした。

 

黒木さんはそのまま話を続けた。

 

「けど心配しないで。あなたはお客さんを見なくていい。メンバーの背中を見て支えてあげればいいのよ。」

 

「え・・・?」

 

「恐らくあなたは人目が苦手なタイプなのよ。お客さんの方を見るとどうしても目線を感じてしまって固まってしまう。けどあなたには仲間がいる。その仲間の背中を見て、その手で、その音色で支えてあげれば自ずと自分の音色が良くなる。だから仲間の事をよく見てあげて。そっちの方があなたの成長に繋がると思うわ。」

 

「・・・は、はい!」

 

お客さんを見なくていい、仲間を見てあげることで私は伸びる。

 

そのことに自分を変える道が見えたような気がした。

 

「さ、話していても仕方が無いわ、さぁLOUDERを引いてみて!」

 

「はい!」

 

私は仲間を思う気持ちを載せてキーボードを引き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あこside

 

友希那さんのお父さんに言われたようにあこはあのドラムの人の所へ行った。

 

「お、君がドラム担当かい?佐久間響だ。よろしく!」

 

「えっと、宇田川あこです!よろしくお願いします!」

 

「お、元気のある子だ!こりゃ教えがいがありそうだな!とりあえず叩いてみろ。そっからだ!」

 

佐久間さんが笑顔でそういった。

 

あこは闇のドラマーの力を見せる時だと思い、ドラムを叩いた。

 

演奏が終わると佐久間さんが話し出した。

 

「うん、あこちゃんのドラムも悪くはねぇ。しかし、少し早まって演奏しているな。」

 

「う、そうですか・・・うぅ、どうしても早まっちゃうんだよな・・・」

 

いつものミスを言われてあこは少し気持ちが落ちた。

 

しかし、佐久間さんは慰めるように話を続けた。

 

「だが、あこちゃんの思いは伝わってる。ドラムは他のみんなのテンポを保つ土台でもあるんだ。自分がこの曲の土台を任されているって大きな気持ちを持って演奏したらいいんだ!そうすると自然と行ける!」

 

「あこが・・・土台を・・・」

 

自分がこの曲の土台を任されている、そう思うとめちゃくちゃやる気が出てきた。

 

「は、はい!あこ、頑張ります!」

 

「よし、その意気だ!もう1度!」

 

あこは自分が土台を任されている自信を持ってドラムを叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

私は大山さんの所へついた。

 

「ギター担当の氷川紗夜です。今日はよろしくお願いします。」

 

「あぁ、大山恭介だ。まずは引いてみろ。」

 

無愛想な人だなと思いつつ私はLOUDERを演奏した。

 

演奏が終わると大山さんは無言でこちらを見ていた。

 

「あの・・・どうでしょうか?」

 

「・・・悪くは無い、音もテンポもかなり正確だ。」

 

「はい、他には・・・」

 

「特に無い。」

 

「えっと・・・それじゃあ」

 

「しかし、音から楽しさが感じられんな。」

 

「・・・え?」

 

「正確で完璧な演奏もいい、しかしそればかりが音楽じゃない。正確さだけを追い求めるのは限度がある。その先を目指すなら音楽を楽しむ気持ちが大切だ。」

 

「なるほど・・・」

 

私が納得すると、大山さんは笑みを見せた。

 

「固くなってはダメだ。まずは笑って引いてみろ。その後はお前の場合感覚でわかるだろう。」

 

「は、はい・・・やってみます。」

 

「悪いな、元々口数は少なくてな。教えるってことが苦手なんだ。」

 

大山さんは苦笑気味に返した。

 

「フフッ、大丈夫です。やってみます。」

 

私は正確にではなく、音楽を楽しむことに集中してギターを弾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

リサside

 

アタシは茂樹さんの所へ向かった。

 

すると茂樹さんはもうベースを構えていた。

 

「お、来たか今井ちゃん!」

 

「はい、よろしくお願いします!そのベースは?」

 

「こいつは俺が昔から使ってるベースだ。俺は見てアドバイスを送るのが苦手でよ、一緒に弾いてその都度アドバイスを送る方がやりやすいんでな。」

 

「なるほど、わかりました。」

 

アタシは茂樹さんと一緒に弾き始めた。

 

「テンポが緩い!もっと上げる!」

 

「は、はい!」

 

「そうだ、そのままそのまま!」

 

シゲさんの教えは思っていた以上にハードだがわかりやすく、自分のミスや遅れをその都度教えてくれる。

 

そして曲のラストを引き終わるとシゲさんが話しかけた。

 

「今井ちゃんよ、お前はどう思いながらベースを弾いてる?」

 

「え?えっと・・・みんなに合わせて置いていかれないように・・・けど弾いて楽しいっていう気持ちです!」

 

「弾いて楽しいって気持ちは悪かねぇ。ただ『置いていかれないようみんなに合わせる』はちと違ぇな。」

 

「え?」

 

「多分お前は自分が一番下手だから置いていかれないようにしないといけないと思ってるだろ。」

 

「えっと、はい。アタシだけみんなと違ってブランクがあるので・・・」

 

「だったら俺もこいつを弾くのは10年ぶりだ。大事なのは『置いていかれないように』じゃなくて『仲間を置いていかないように』って気持ちだ。ブランクなんて関係ない。自分が仲間を引っ張ってそいつらを置いていかないように合わせるって考えが大事なんだ。」

 

「自分が・・・引っ張る。」

 

アタシは仲間を支えてばっかで自分から引っ張ったことは無いことに気づいた。

 

茂樹さんはそのことを気づかせてくれた。

 

茂樹さんはそのまま話を続けた。

 

「そ、だからもっと自信持て!自分が一番下じゃなくて自分が仲間と同じってことにな!」

 

「・・・はい!」

 

「んじゃもう一回やるぞ!」

 

アタシは自分の音に自信を持ってベースを弾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

私はその場に残って父の前に立った。

 

「友希那・・・」

 

「お父さん、私は何を」

 

「お前に言うことは一つだけだ。殆どは昨日シゲが言ってしまったからな。」

 

「・・・。」

 

昨日茂樹さんが言った『自分の思いを載せて歌う』ことと『自分の歌声を信じて歌うこと』。

 

それはもちろん覚えている。

 

しかし父からのアドバイスは貰えていない。

 

私は父からの一言を待った。

 

「楽しめ。」

 

父からのアドバイスはシンプルなものだった。

 

「・・・え?それだけ?」

 

「それだけだ。楽しめ、ただ純粋に音楽に対して楽しい思いを載せろ。自分が思うこと、それと一緒にな。」

 

「・・・ええ、わかったわ。」

 

その父からのアドバイスを受け取る。

 

まだ他のメンバーは練習中のようだ。

 

音がないとタイミングを合わせて歌いにくいので私は練習せずにみんなを待った。

 

みんなの思いと私の思い、そして楽しさをぶつけるために私は仲間を信じて待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

みんなが練習している中、僕は他のメンバーの練習を見ながら待つしかなかった。

 

仕事もほとんど終わらせてあるので見守ることしか出来ない。

 

そんな中、悠斗さんが僕の隣に座った。

 

「少し良いかな?」

 

「は、はい。何でしょう?」

 

「君にこれを渡そうと思ってね。」

 

悠斗さんは自分のカバンから大きな封筒を取り出して僕に渡した。

 

中身を見るとそれはLOUDERのスコアだった。

 

「・・・!これって、大切なものでは?」

 

「いや、君たちが持っていてくれ。この曲に新しい命を吹き込んでくれるお礼だ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

僕は素直にそれを受け取った。

 

「君は友希那のバンドのマネージャー何だってね。」

 

「は、はい。元々音楽に関しては全然でしたけど。」

 

僕は苦笑気味に返す。

 

「シゲがベースやってたことは?」

 

「全く聞いていませんでした。ほんとに知ったのは昨日です。」

 

「まぁ、あいつなら言い忘れそうだけどな。」

 

悠斗さんがそう言いながら笑った。

 

「君は彼女達の善し悪しを見つけるのが上手いそうだね。」

 

「はい、基本は良くないと思ったところを指摘しています。まさか僕にこんなことが出来るとは思ってなかったです。」

 

悠斗さんは頷きながら僕に提案した。

 

「なら、その悪い点にアドバイスを入れてあげるのはどうかな?」

 

「アドバイス・・・ですか。」

 

「あぁ、そこを指摘するだけじゃなくてもう少しどうすればいいと思うって自分の気持ちをぶつけてみたらどうだ?」

 

「・・・はい、やってみます!」

 

「お、全員終わったみたいだな。とりあえず集まるぞ。」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからRoseliaは1週間みっちりと練習を続けた。

 

インディーズのメンバーがそれぞれの仕事に戻った後も僕がアドバイス等を送って質を上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてライブ当日

 

メンバーが衣装に着替えている間、部屋の外で僕が待っていると

 

「よぉ!」

 

とシゲさんが後ろから声をかけてきた。

 

「シゲさん!来てくれたんですか?」

 

「俺だけじゃねぇよ!可愛い弟子のためにインディーズ全員で来た!」

 

後ろからインディーズのメンバー達が並んできた。

 

「弟子っていうか、まぁいいや。そういう訳だ。」

 

「そうね、あの子のキーボード、気になるしね。」

 

「あいつの音、どうなったかが知りたいだけだ。」

 

「ま、まぁそういうことだ。そうだ奏多くん、これを友希那に渡してくれないかい?」

 

僕は悠斗さんから銀のネックレスを渡された。

 

「あの、これは?」

 

「これは僕が昔ライブの時に身につけていたものだ。お守り替わりにと伝えといてくれ。」

 

「とにかく俺たちゃ客席で待っとく。いいライブ期待してるぞ!」

 

インディーズの人達が客席へ向かった。

 

僕は着替えが終わったらしい、みんなの元へ向かった。

 

「お待たせ、順番は?」

 

「これの次です。友希那、これを。君のお父さんからこれを渡すよう頼まれてね。」

 

「・・・!これは、お父さんが大切にしていた・・・」

 

「ライブの時に身につけていたものらしくて、お守り替わりにって言ってました。」

 

「・・・そう、ありがとう。」

 

話しているとまりなさんが声をかけてきた。

 

「Roseliaのみんな~そろそろだからステージ裏に来て~」

 

「・・・よし、行くわよ!」

 

みんながステージに上がって行く。

 

僕はそれをただ見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

ステージに上がると歓声が上がった。

 

この前より人が多くなっている。

 

「・・・Roseliaです。まずは1曲聴いてください。『熱色スターマイン』!」

 

奏多が考えたセットリストで私は歌い始めた。

 

 

 

 

 

熱色スターマインとBLACK SHOUTを終え、LOUDERの番が来た。

 

「次でラストです。この曲は私が・・・いえ、私達が尊敬するバンドから引き継いだ曲です。聴いてください、『LOUDER』!」

 

 

 

 

 

 

あこは『土台を任されていること』に自信を持って

 

燐子は『仲間を思う気持ち』を載せて

 

紗夜は『正確さだけでなく楽しむこと』に集中して

 

リサは『自分の音に自信を持ち、仲間を引っ張ること』を思って

 

そして私は『純粋に音楽に楽しい思いをぶつける』ために

 

全力でLOUDERを奏でた。

 

それは私達5人が初めて合わせた時以上の音を奏でた。

 

5人の思いを繋ぎ、引き継がれた歌は新たな思いを載せて蘇ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ライブ終了後

 

「みんな、お疲れ様です!」

 

「ええ、お疲れ様。」

 

「お疲れ様です。」

 

「お疲れ様!」

 

「おつかれ~!」

 

「お疲れ・・・様です。」

 

ライブが終わり、6人で楽屋に戻るとテーブルには6人分の飲み物と袋、そしてメモが1枚置かれていた。

 

メモには

 

『いいものを見させてもらった。それは俺達の思いを載せたアクセサリーが入っている。俺達が成し遂げれなかったことを託す インディーズ一同』

 

とシゲさんの文字で書かれていた。

 

「シゲさん・・・」

 

彼らの計らいに感謝し、その日からRoseliaの衣装にブレスレットが追加された。

 

それは思いを引き継いだ者達に送られる感謝のものだった。




これで『~LOUDER~オモイツナグ ミカンセイ ナ ウタ』は終わりです!何気に時間過ぎてる!21日中に終わんなかった!
次回からは他バンド交流編やる予定です!他のバンドとの交流お楽しみに!


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4章 他バンド交流編 ホシ ト ユウヒ ト エガオ
19話 Afterglow コーヒー ト パン ト オウドウロック


他バンド交流編です。
今更ながら思ったのはパスパレメンバー以外の交流が薄すぎる・・・との事で『他バンドの演奏を見てRoseliaの技量向上につなげる』との名目で交流編です。
今回はAfterglow編!何気にひまり(あだ名は疫病神)が誕生日だったのとモカがいるから交流させやすいとの事で
ひまりは悪くは無いんだ・・・ただあけしゃんの引退発表の朝に来たから・・・タイミングが悪かったんだよ・・・(ひまり推しの人すんません)

あと更新情報やお休みの時は基本Twitterで言っています。そちらもよろしくお願いします!→@kamuifantasy

ということで『他バンド交流編』始まります!


あのLOUDER初ライブから数日、六月も下旬となり雨が降り続く日々が多くなった。

 

雨が降っているということは客足が伸びず店は人が少ない。

 

しかし仕事は仕事なのでしっかり働いている。

 

今日はリサと青葉さんと僕の3人でレジ作業や商品の陳列などをしている。

 

僕と青葉さんがレジに立つ中、リサは届いた新商品の陳列をしようとしていた。

 

「お、新商品きたか~どれどれ?」

 

「私は美味しければどれでも~」

 

「いや、これ商品なんで・・・」

 

「すごい、このスイーツ猫の形だ!」

 

リサはこちらにそのスイーツを見せてきた。

 

見るとそれは猫を模したカップケーキだった。

 

「おお~すごいですね。」

 

「最近のコンビニスイーツってすごいですね・・・」

 

「うんうん、これ友希那喜びそうだな~」

 

「そうですね。」

 

僕が相槌を打つとリサが不思議そうにこちらを見てきた。

 

「あれ?なんでソータが友希那猫好きってこと知ってるの?」

 

「え、あっ、その・・・」

 

「九条さん言葉濁しちゃだめですよ~」

 

「じ、実は・・・」

 

僕は2人にあの日のことを伝えた。

 

するとリサがいきなり笑い出した。

 

「ハハハッ!友希那あれ見られたんだ~!」

 

「リサさん笑いすぎですよ~」

 

「いやぁ・・・友希那って猫のことになると物腰が柔らかくなるからね、本人は全力で隠してるんだけどさ!」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

どうりであんなに隠そうとするわけだ。

 

「とりあえずほかの人には言っちゃダメだよ。友希那あれでも頑張ってで隠そうとしてるから。」

 

「は、はい。それは本人にも言われましたので。」

 

「お、そろそろ終わりますね。九条さん、リサさん、この後つぐの家で珈琲でも飲みに行きませんか?」

 

「僕は大丈夫です。リサは?」

 

「アタシも平気だよ。よし、このあと3人で行くか!」

 

羽沢珈琲店にはあの日の後も度々通っているので羽沢さんと若宮さんとは話をすることも増えてきた。

 

僕達はシフトが上がるとそのまま羽沢珈琲店へ向かった。

 

 

 

 

 

珈琲店に着くと中にはあまり人がいなかった。

 

「つぐ~来たよ。」

 

「あ、モカちゃん!いらっしゃい。それにリサさんと九条さんも来てくれたんですか!」

 

「やっほーつぐ!おひさ!」

 

「羽沢さん、こんにちは。」

 

羽沢さんに挨拶をすると店の奥から声が聞こえた。

 

「つぐー、その人知り合い?」

 

「お、ひまりじゃん!やっほー!」

 

「ひーちゃんだ、来てたんだ~」

 

「あれモカじゃん。それにリサ先輩もいる!こんにちは!」

 

ひまりと呼ばれた桃色の髪の子がこちらに来た。

 

「それでつぐ、この人は?」

 

「うちの最近の常連さんの九条さん。」

 

「はじめまして、花咲川2年の九条奏多です。よろしくお願いします。」

 

「えっと上原ひまりです!よろしくお願いします!」

 

「ねぇひーちゃん、今日いるのひーちゃんだけ?」

 

「ううん、蘭と巴もいるよ。蘭~!巴~!」

 

上原さんがその2人を読んだ。すると奥から黒髪に赤のメッシュが入った子とワインレッドの髪色の子が出てきた。

 

「ひまりどうした?って、モカ?」

 

「なんだモカも来たんだ。」

 

「ほほぉ、Afterglow全員集合ですな~」

 

モカがそう言うとその2人が後ろのリサに気づいた。

 

「うおっ!リサさん!?」

 

「リサさんも来てる・・・」

 

「やっほー巴!蘭!」

 

どうやらリサも2人のことを知っているようだ。

 

「リサさん、その人は?」

 

「あぁ、2人ははじめてだったね。彼はうちのバンドのマネージャーの」

 

「九条奏多です。よろしくお願いします。」

 

2人にそういうとまずは赤メッシュの子が返してきた。

 

「美竹蘭です。よろしくお願いします。」

 

「私は宇田川巴です。よろしくお願いします。」

 

「宇田川ってまさか・・・」

 

「そうだよ、巴はあこのお姉さんなんだ。」

 

「いつも妹がお世話になっています。バンドでもネトゲでも。」

 

「いえ、こちらもあなたの事は妹さんから聞いています。『最高で最強の最も憧れるドラマー』って。」

 

「あ、あこ・・・」

 

「ともちん照れてる~!」

 

「う、うっせ!」

 

巴さんがそう言うと全員が笑った。

 

すると上原さんが思いついたかのように提案してきた。

 

「あ、そうだ!リサさん、奏多さん明後日に私たちのライブがあるんですけど、よかったら来てくれませんか?」

 

「ライブということはこの5人でバンドを?」

 

「はい、Afterglowって言います!」

 

「アタシは行けるけどソータは?」

 

「はい、僕も大丈夫です。」

 

「OK!ならひまり、私達も見に行くから!」

 

「やったぁ!よーし!リサ先輩と奏多さんに悪いとこ見せないように頑張ろう!えいえいおー!」

 

上原さんが号令をかけた。

 

・・・しかし全員乗らなかった。

 

「え、えっと・・・乗らなくていいんですか?」

 

「別に・・・いつも通りです。」

 

「そーそー、いつも通りいつも通り~」

 

「うん、いつも通りだな。」

 

「はは・・・いつも通りだね。」

 

「ちょっとぉ・・・たまには乗ってよ・・・」

 

とりあえず僕とリサは明後日ライブを見に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

NFO内

 

「ふぅ・・・お疲れ様。」

 

「お疲れ様です。」

 

「お疲れ~!やっぱりこの3人だと最強だねっ!」

 

僕はその夜、NFOにログインし、宇田川さんと白金さんと一緒に討伐クエストをしていた。

 

内容はゴブリン討伐と簡単そうなものだが、その数が1000体というものすごい数だった。

 

一体一体は弱くても数で押し寄せてくるので思ったより手間がかかった。

 

しかし何とか1000体討伐し終え、今はグループトークモードで話しているところだ。

 

「しかし、あの数はやばかったですね。白金さんの全体魔法が無ければやられていたかも知れません・・・」

 

「いえ、敵の体力は低めだったので全体魔法で吹き飛ばした方がやりやすいかなって。」

 

「それでも多かったね・・・あこクタクタだよ・・・」

 

「そういえば今日、宇田川さんのお姉さんに会いましたよ。」

 

「え!おねーちゃんに!?どこで?」

 

「羽沢珈琲店です、その時ライブに誘われました。」

 

「ホントに!?いいなーねぇりんりん、一緒に行こうよ!」

 

「え、えっと・・・」

 

やはり人混みが苦手な白金さんはたじろいでいるようだ。

 

「白金さん、無理に行かなくても大丈夫ですけど・・・」

 

「・・・い、行きます!」

 

「ホント?やったぁ!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい!その・・・みんなと一緒なら。」

 

少し心配だが白金さんと宇田川さんも行くようだ。

 

2人に集合場所を伝えてその日は解散になった。

 

 

 

 

 

 

ライブ当日

 

場所はいつものCIRCLEだがその日はうちの学生や羽丘の生徒などの学生層や若者が多かった。

 

「お、きたきた。ソータ!」

 

「リサ、お待たせしました。」

 

「リサ姉!やっほー!」

 

「こ・・・こんにちは、今井さん。」

 

「あこ?それに燐子まで?どうしたの?」

 

「僕が誘ったんです。ネトゲで話していたらこの話題になって。」

 

「そうだったんだ、けど燐子大丈夫?人多いと思うけど。」

 

「その・・・今井さんやあこちゃん、九条さんがいるので・・・」

 

「うーむ・・・とりあえずキツかったらアタシに言ってよ?」

 

リサも心配しているようだがとりあえず中に入った。

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、Afterglowです。まずは聴いてください。『That Is How I Roll!』」

 

美竹さんのMCが入り、曲が始まった。

 

曲調は王道ロックと言った所か。

 

青葉さんと美竹さんのギターや上原さんのベースがとても映えて見える。

 

宇田川さんは「おねーちゃんカッコイイ!」と言ってはしゃいでいる。

 

白金さんはビクビクしながらもそれなりに楽しんでいるようだ。

 

曲目が終わると盛大な拍手が起こった。

 

「ありがとうございます。続いて『アスノヨゾラ哨戒班』!」

 

次は『アスノヨゾラ哨戒班』だった。

 

ボーカロイドでかなり有名な曲で実演奏バージョンの『キミノヨゾラ哨戒班』もある人気の曲だ。

 

Roseliaとはまた違ったカバー曲のチョイスに最近新しいカバー曲をしようかと考えている僕にはかなり参考になった。

 

それにしても美竹さんかなり凄くないか?

 

ギターを弾きながらあの難しい音程差をほとんど完璧に歌っている。

 

友希那とはまた違った歌のうまさを感じた。

 

2曲目が終わると観客のボルテージはかなり高まっていた。

 

「ハァハァ・・・ありがとうございます。次で最後です。これは私達が最初に考えた私たちを繋ぐ曲です。聴いてください『Scarlet sky』!」

 

最後の曲が始まった。

 

さっきの2曲とは違った感じをした曲だ。

 

先程の2曲歌詞の内容とかで反逆とかそんな感じのイメージを感じたがこの曲だけ仲間との別れやその仲間達と繋がっていたいと言った意味合いを感じた。

 

僕はこの3曲の中でこの曲が一番好きだと思った。

 

 

 

 

 

ライブが終わり、Afterglowのみんなに差し入れでお菓子や飲み物を渡しに行った。

 

白金さんはこの後用事があるらしく先に帰ってしまった。

 

「みんなお疲れ!」

 

「リサさん!九条さん!それにあこちゃんも!どうでしたか?」

 

「よかったよーひまり!最高だった!」

 

「おねーちゃんおねーちゃん!最っ高だった!」

 

「あぁ、なんせあこの目標にならなきゃならないからな!」

 

「美竹さん、青葉さん、お疲れ様です。」

 

「九条さん、ありがとうございます。」

 

「九条さんどうもです~」

 

「あ、これ。みんなに差し入れ!」

 

「うわぁ!リサさん!ありがとうございます!」

 

「そうだ青葉さん、これ。」

 

僕は青葉さんに朝に買ってきた山吹ベーカリーのパンを渡した。

 

「こ、これは!」

 

「この前ここのパンが好きだと言ってましたよね、好みがわからなかったので適当に見繕ったのですが。」

 

「いえいえ、ありがとうございます~」

 

そう言って青葉さんは早速メロンパンを食べ始めた。

 

「モカ・・・早すぎ。」

 

その光景をみて美竹さんが笑う。

 

「今日はありがとうございました。僕もかなり勉強になりました。」

 

「いえ、私達は私達のためにやっているだけなんで。」

 

「また機会があったら見に来ようと思います。」

 

「その時は私達はもっと上達していますので、Roseliaの人たちより上になっているかも知れませんよ?」

 

そう言って美竹さんが笑を浮かべる。

 

「お、言うねぇ蘭!私達だって負けないよ?」

 

「そ、そうだよ!いつかおねーちゃんを超えるカッコイイドラマーになるんだから!」

 

 

 

 

お互いの気持ちを確かめ合い、意気投合した3人とAfterglowのメンバー達。

 

奏多が次に会ったのはホシノコドウで集まったあの5人組だった。




Afterglow編どうだったでしょうか?
次回はホシノコドウのワードでだいたいわかりますがあの5人組です(笑)
さて、友希那さん誕生日特別編を考えなければ・・・
という訳で二日連続投稿なると思うんでお楽しみに!


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20話 Poppin Party ホシノコドウ ト チョココロネ

祝20話です!
なんだかんだでここまで続いてきたな~
ただ自分が書きたいように書いているだけで結構読んでくれてるのが嬉しいです!
今回は本家BanG Dream!のメイン枠のPoppin Party編です!
他バンド交流編はポピパ終わったらハロハピやって終わる予定です。(パスパレは結構交流あるからいいかな・・・)
でもリクエストがあればパスパレ編もやろうと思います。
Afterglowは自己主張の強い子がいないのでモカから繋げるしかなかったけど残り二つはあのふたりがいるから多少強引でも違和感ない!←おい!

そんな訳で本編どうぞ!


Afterglowのみんなとの交流から数日、今日は土曜日で本当はRoseliaの練習の日だ。

 

しかし、氷川さん、宇田川さん、白金さんの3人が同時に体調不良で来れなくなってしまったので急遽休みになってしまった。

 

いつもなら2人ぐらいまでならいなくても練習するのだが流石にボーカルとベースだけでは厳しいのと、ギターの氷川さんまでいないのは流石に練習にならないと判断し、友希那が各自自主練という事で解散となってしまったのだ。

 

 

 

 

 

今日の予定が無くなってしまったので僕は買い物をしに商店街へ来ている。

 

生活用品や野菜などを購入し、僕は山吹ベーカリーへ向かった。

 

「いらっしゃいませ。あ、九条さん、こんにちは!」

 

あの散策の日から度々通っているので店主やその娘さんで僕の学校の後輩にあたる子に顔を覚えられている。

 

「こんにちは、沙綾さん。この前はありがとうございます。」

 

僕は店主のことを『山吹さん』その娘さんを『沙綾さん』と読んでいる。

 

2人とも山吹さんと呼ぶとややこしいので沙綾さんにそう読んでくれと言われた。

 

「ああ、モカのパンのことですか?あの子の好みはわかっているので。」

 

この前Afterglowのライブの時に青葉さんに渡したパンは沙綾さんが見繕ってくれたものだ。

 

メロンパン×3、クリームパン×3、チョココロネ×2、焼きそばパン×2が青葉さんがよく買う組み合わせらしい。

 

これを覚えている沙綾さんも凄いが、これを1日で平らげてしまう青葉さんの胃袋も恐ろしい。

 

「今日は何を買いに来てくれたんですか?」

 

「明日の朝食べる用の食パンと今食べる用にチョココロネを買いに来たんです。」

 

「知ってると思いますが食パンはそこです。それとチョココロネはあと少し待ってもらえたら出来立てが来ますよ!」

 

「そうですね・・・時間もありますし待たせてもらいます。」

 

僕はチョココロネが出来上がるまで気長に待つことにした。

 

 

 

 

 

5分後、店の奥からココアパウダーとチョコレートのいい匂いがしてきた。

 

「お待たせしました九条さん。チョココロネできまし」

 

「さーや!いるー?」

 

「うわっ!か、香澄!?」

 

沙綾さんがチョココロネが出来たことを伝えに来た時、入り口から恐らく沙綾さんと同じぐらいの年頃の猫耳(?)の髪型をした子が入ってきた。

 

その子だけではない。黒髪ロングの子やショートヘアの子、ツインテールの子の計4人が店に入ってきた。

 

どうやら全員沙綾さんの知り合いのようだ。

 

「ちょっと香澄!ほかの人に迷惑だろ?」

 

「そうだよ香澄、入る時はノックしてお辞儀してからだよ。」

 

「おたえ!そこまでしなくていいから!」

 

「ね、ねぇ沙綾ちゃん、この匂いって。」

 

「ん?たしかにいい匂い!」

 

「りみりん流石だね~!今さっきチョココロネが出来たばっかりなんだ!」

 

「流石沙綾、私たちが来るタイミングに凄いね。」

 

「いや、んなわけねぇだろ。」

 

5人で話していると沙綾さんがようやく話についていけずに呆然としている僕に気がついた。

 

「す、すみません九条さん!」

 

「い、いえ大丈夫です。」

 

「香澄、お前のせいだぞ。」

 

「えぇ!私のせい?」

 

「私は沙綾の焼きたてパンが私たちを引き寄せたせいだと思うけど?」

 

「おたえは少しだまってろ!」

 

「有咲ちゃん、落ち着いて・・・」

 

「そ、その・・・いくつにしますか?」

 

「えっと・・・Roseliaのメンバーのためにも6つください。メンバーが体調不良で休んでしまって御見舞に渡そうかと」

 

「え?あなたってRoseliaの人なんですか?」

 

猫耳ヘアの子が食いついてきた。

 

「は、はい・・・そうですけど。」

 

「えっと私、戸山香澄っていいます!Roseliaの友希那さんのことすっごく尊敬していて!そうだ、私たちPoppin Partyってバンド組んでいるんですけどRoseliaの練習メニューってどんな感じですか?それともし良かったら友希那さんと話がしたいんですけど」

 

「はい、香澄ストップストップ、九条さんビビってるから。」

 

戸山さんのものすごい食いつき様に押されてかなりビビっていた。

 

沙綾さんが止めてくれなければどうなっていた事か。

 

「えっとその・・・す、すみません。」

 

「だ、大丈夫・・・です。えっと、Roseliaでマネージャーをやっている九条奏多です。」

 

自己紹介をすると黒髪ロングの子が唐突に返してきた。

 

「私、ポピパでギター担当の花園たえです。よろしくお願いします。」

 

突然の反応に少しビックリした。そして残り2人が続けて自己紹介をする空気になった。

 

「えっと・・・言わないといけない流れか・・・その、キーボードの市ヶ谷有咲です。その、よろしく・・・お願いします。」

 

「その、ベースの牛込りみです・・・その、よろしくお願いします。」

 

どうやら市ヶ谷さんと牛込さんはかなり引っ込み思案のようだ。

 

しかし、さっきの市ヶ谷さんの的確なツッコミはすごいと思った。

 

2人の後に沙綾さんが続けて話した。

 

「そして私がドラムをやっているんです。」

 

「そうだったんですか。」

 

「九条さん!明日私達のライブあるんですけど来てくれませんか?」

 

「ちょっ、香澄!幾ら何でもRoseliaの練習とかで明日は厳しいんじゃ」

 

「別に大丈夫ですよ。」

 

「・・・え?いいんですか?」

 

「はい、たまたまメンバーの3人が体調不良で明日も休みにする予定でしたし。」

 

「やったぁ!それなら、友希那さんとかも誘ってもらえないですか?」

 

そのお願いに僕は少し戸惑った。

 

リサから聞いたが友希那はあまり人のライブを見に行くことが無いらしい。

 

「えっと・・・厳しいかもしれないですど一応聞いては見ます・・・」

 

「そっか・・・とりあえずお願いします!」

 

「九条さん、お待たせしました。」

 

沙綾さんにチョココロネと食パンが入った紙袋を渡された。

 

「予備で小さい紙袋が5つ入ってますので。」

 

「ありがとうございます、それではポピパの皆さん、また明日よろしくお願いします。」

 

そう言って僕は山吹ベーカリーを後にした。

 

 

 

 

 

「白金さん、大丈夫ですか?」

 

「は、はい・・・軽い熱なので・・・」

 

僕は体調不良のメンバーを見舞いに回っていた。

 

宇田川さん用のチョココロネはたまたま商店街にいた巴さんに渡した。

 

そして僕は白金さんの家を訪れている。

 

相変わらず大きな家だ。

 

「明日も練習をなしにするようなんでゆっくり休んでください。これ、見舞い品としては微妙なものですけど。」

 

「チョココロネ・・・ですか?ありがとう・・・ございます。」

 

白金さんは笑顔で受け取ってくれた。

 

これ以上無理をさせる訳にはいかないので僕は白金さんの家を後にした。

 

「さて、後は氷川さんだけだけど・・・」

 

そういえば僕は氷川さんの家を知らない。

 

日菜さんに聞こうかと思ったが仕事中だと失礼だしどうするか考えた。

 

「友希那なら知っているかな・・・」

 

Roseliaの初期からの付き合いだ、恐らく知っているだろう。僕は友希那に電話をかけた。

 

『・・・もしもし、奏多?』

 

「はい、九条です。」

 

『どうしたの急に?』

 

「友希那、氷川さんの家を知っていますか?見舞い品を渡そうと思ったのですが家を知らないので。」

 

『ええ、知っているわ。今どこにいるの?』

 

「えっと大体CIRCLEの近くです。」

 

『そう、なら私も行くわ。ちょうどCIRCLEにいるし。』

 

「わかりました、ではそちらに向かいます。」

 

僕は電話を切ってCIRCLEに向かった。

 

 

 

 

 

CIRCLEに着くと入り口に友希那がいた。

 

「お待たせしました。」

 

「じゃあ、ついて来て。」

 

僕は友希那の後をついて行った。

 

氷川さんの家は思ったより近いところにあった。

 

インターホンを鳴らし出てくるのを待った。

 

「はい?あ、ソータくんに友希那ちゃんだ!」

 

「どうも、日菜さん。」

 

「どうしたの?家なんかに来て。」

 

「これをお姉さんに渡してもらえますか?見舞い品です。」

 

「だったらおねーちゃん呼んだ方がいいんじゃない?」

 

「いえ、無理をすると悪いんで。」

 

「そうだ、紗夜に『明日は休みにするけど自主練は無理しないぐらいにやっておいて』って伝えといてもらえるかしら」

 

「わかった、ソータくんに友希那ちゃん、ありがとう!」

 

日菜さんにチョココロネを渡して僕と友希那は氷川さんの家を後にした。

 

帰っている途中に僕はさっきの山吹ベーカリーでの話を思い出した。

 

「そういえば今日ポピパの人達に会ったんですけど明日ライブがあって友希那に来て欲しいって戸山さんに言われたんですけど・・・」

 

「そう・・・戸山さんが。」

 

僕は多分拒否するだろうと思った。

 

しかし帰ってきたのは意外な返答だった。

 

「わかった、行くわ。」

 

「え?行くんですか?」

 

「誘ってきたのはあっちでしょう?予定もないのに断るのはどうかと思うけど。」

 

「は、はい、わかりました。僕も行く予定なんですけど・・・」

 

「わかったわ、マネージャーとしての仕事も忘れないように。」

 

「はい、わかっています。」

 

ということで友希那も来ることになった。

 

来てくれることに僕は安堵の息をもらした。

 

 

 

 

 

ライブ当日

 

観席は小さい子や大人まで賑わっていた。

 

とりあえず僕達は人の少ない後ろの方で見ることにした。

 

10分後ライブが始まりポピパのメンバーがステージに立った。

 

「こんにちは!私たちPoppin Partyっていいます!私達の曲を聴いてください!まずは『ときめきエクスペリエンス』!」

 

ポピパの演奏が始まった。

 

Afterglowとはまた違った青春ソングで聴いていて楽しい曲だった。

 

「続いて『千本桜』!」

 

沙綾さんが次の曲をコールした。

 

その曲は初音ミクでお馴染みの千本桜だった。

 

ボカロ基準なんでトーンは高めだがそれをしっかりと出来ているのがすごいと思った。

 

昔1人カラオケで歌ったことがあるが息が続かずに途中でミスを連発した記憶がある。

 

「これで最後です!この曲で皆さんもキラキラドキドキしてください!『STAR BEAT~ホシノコドウ~』!」

 

最後の曲はさっきの2曲とは違ったテンポの曲だった。

 

しかしポピパらしい雰囲気は残っているためとても楽しいライブだった。

 

 

 

 

 

ライブ後、ポピパのメンバーが僕と友希那の所へ集まっていた。

 

「友希那さん、来てくれてありがとうございます!」

 

「ま、まさか本当に来てくれるとは思わなかったです。」

 

「戸山さん、あなたの歌悪くなかったわ。でも、まだまだね。」

 

友希那が不敵に笑った。

 

「い、いえもっと頑張って上達しますので!」

 

「Roseliaを超えれるように頑張ります!」

 

戸山さんと花園さんが意気込みを言う。

 

「とりあえずこれ、差し入れです。」

 

僕はポピパの皆に差し入れを渡した。

 

「これうちのパン?」

 

「そうです。今日の朝にパンを買ったら山吹さんに差し入れとして渡しといてと言われたんです。」

 

「これ全部チョココロネ!?」

 

「ち、チョココロネ!」

 

牛込さんがパンを見た青葉さん並に顔をきらめかせている。

 

「とりあえずみんなで食べよう!」

 

「おいひい。」

 

「おたえ食べるの早すぎだろ!」

 

ポピパのみんなの光景を僕と友希那は遠目で見ていた。

 

「フフッ、仲がいいわね。」

 

「そうですね。」

 

「初め、なれ合いはなしだと思っていたけどなれ合いじゃなくて絆を深めることで音楽に磨きがかかる。そう実感したばかりだけど、こうみるとああして高校生らしく仲良くするのも悪くないかもね。」

 

「そうかもしれませんね。」

 

Roseliaがポピパのように仲良くなる日はそう遠くないかもしれない。

 

僕はそう思ってポピパみんなを見ていた。

 

 

 

 

 

「・・・アレが九条奏多。」

 

「お嬢様が言っていた面白そうな人ってあの人ですね。」

 

「とりあえずお嬢様のバンドに引き込ませればいいのですが・・・」

 

離れた場所で謎の黒服がこちらの様子を伺っている事に僕は全く気が付かなかった。




謎の黒服集団は一体何巻家の人間なんだろ・・・

なお現時点で演奏可能な曲は
ポピパ ときめきエクスペリエンス、千本桜、STAR BEAT~ホシノコドウ~

Afterglow That Is How i Roll!、アスノヨゾラ哨戒班、Scarlet sky

パスパレ しゅわりんどりーみん、そばかす、パスパレボリューションず

Roselia BLACK SHOUT、LOUDER、魂のルフラン、熱色スターマイン、シャルル

ハロハピ えがおのオーケストラ、ハピネスっ!ハピィーマジカルっ♪、ロメオ

といった感じです
次の更新は明日(って言うか日付変わってるから今日?)です!友希那さん誕生日特別編ということでお楽しみに!


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21話 ハロー、ハッピーワールド! ハッピー ラッキー スマイル イェーイ

他バンド交流編ラストはハッチャケ組のハロハピです!
おそらく一番ツッコミどころ多いと思いますが暖かい目で見てもらえると嬉しいです。

という訳であの掛け声で本編スタートしたいと思います!

ハッピー!ラッキー!スマイル!イェーイ!


遡ること数日前、僕が羽沢珈琲店を訪れた時だった。

 

「いらっしゃいませ~」

 

「こんにちは、羽沢さん。」

 

「九条さん!毎度ありがとうございます!」

 

すっかり常連となった僕はいつものカウンター席についた。

 

「ご注文はいつものですか?」

 

「はい、それでお願いします。」

 

僕は初めてここに来た時から注文しているコーヒーとクッキーのセットを注文した。

 

「あれ?九条くん?」

 

聞き覚えのある声がしたので声のした方向に向くとそこには松原さんがいた。

 

「松原さん、こんにちは。」

 

「こんにちは。九条くんもここの常連なの?」

 

「ええ、初めてこの街を散策した時からよく来るようになって。」

 

「それって始業式終わって数日たった日?」

 

「・・・?はい、そうですけど。」

 

「その時、多分私ここにいたと思うんだけど・・・千聖ちゃんと一緒に。」

 

思い返せばあの時店に松原さん似の人と白鷺さん似の人がいたような気がする。

 

多分、似じゃなくて本人だろう。

 

「たしかに・・・いたような気がします。」

 

「まだその時名前も知らなかったからね。私始業式の日休んでたし。」

 

話しているうちに注文したものが来た。

 

「お待たせしました。いつものコーヒーとクッキーのセットです。」

 

「ありがとうございます羽沢さん。」

 

僕がコーヒーに口をつけた時だった。

 

「いた!花音!」

 

扉が勢いよく開き、大きな声で松原さんを呼んだ。

 

僕はビックリして鞄を倒し、手に持っていたコーヒーを危うくこぼす所だった。

 

「こ、こころちゃん!?」

 

「花音、私とーってもいいことを思いついたの!今からハロハピのみんなでライブをしようと思うんだけど!」

 

「こ、こころちゃん・・・ここお店だから少し声小さくして。」

 

「それもそうね!あら、これは何かしら?」

 

こころと呼ばれた子が拾ったのは曲の楽譜だった。

 

それは明日Roseliaのみんなに渡すためのもので確か鞄に入れていたはず。

 

倒れた時に落としたのだろうか。

 

「す、すみません。それ僕のです。」

 

「そうなのね、はい!」

 

その子は素直に渡してくれた。

 

「あなたバンドでも組んでるの?」

 

「ええ、Roseliaというバンドでマネージャーをしています。」

 

「そうなのね!マネージャーって面白そう!そうだ、私弦巻こころって言うの!」

 

「く、九条奏多です。」

 

この子はかなり押しが強い方でグイグイくる。

 

そのため言葉を返すのに精一杯になる。

 

すると弦巻さんはじーっと僕のことを見てきた。

 

「あ、あの・・・何かついてます?」

 

「フフフッ、あなたって面白い人ね!」

 

「・・・へ?お、面白いってどこが・・・」

 

「ん~、何かしら?なんとなくよ!」

 

なんとなくで僕は面白い人と言われたのか。

 

「とりあえず花音!みんなを集めに行くわよ!」

 

「ふ、ふええ・・・こころちゃん、待って!」

 

松原さんは弦巻さんを、追いかけるため支払いを済ませて追いかけていった。

 

「その・・・なんて言うか。」

 

「やっぱりこころちゃん凄いね・・・」

 

僕と羽沢さんは苦笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてポピパのメンバーとの交流から日が変わり今日。

 

僕はRoseliaの練習が終わり、白金さんと一緒に帰るタイミングだった。

 

「今日は体調不良明けなのにみんながいつも通り練習出来て良かったです。」

 

「はい・・・昨日はありがとうございます。」

 

すると僕達の歩いていた道の隣に黒い車が止まった。

 

すると窓が開き、中から黒服でサングラスをかけた人が話しかけてきた。

 

「九条奏多さんですか?」

 

「は、はい・・・そうですけど。」

 

「こころお嬢様が今から会えないかと申しておりますのでお時間頂けますか?」

 

「こころ・・・って弦巻さんが?」

 

「はい、来て頂けますか?」

 

「別にこの後は用事ないですけど・・・そんないきなり言われても。」

 

「その事は申し訳ありません。では車に乗ってください。」

 

そう言うと後ろの席からもう1人の黒服が出てきて僕を席に案内させた。

 

「え、ちょ、し、白金さん!すみません、先に帰ってもらえますか?」

 

「く、九条さん・・・その・・・お気をつけて。」

 

白金さんは慌てながら僕を見送った。

 

扉が締まり、車が発進した。

 

 

 

 

 

車を走らせること15分、窓の外を見るとものすごい豪邸が建っていた。

 

「え?これもしかして・・・」

 

「はい、我が弦巻財閥グループの社長と奥様、こころお嬢様のご自宅であります。」

 

「・・・嘘だろ。」

 

まさかあの弦巻さんが財閥のご令嬢だとは思わなかった。

 

門で検査を受けてそのまま中へ入った。

 

ずっと続く木々の間を抜け、大きな家の入口前で車は止まった。

 

「到着しました。」

 

「そ、その・・・ありがとうございます。」

 

車から降りるとその家の大きさがよく分かる。

 

その家の大きさに見惚れているとドアが開き、弦巻さんが出てきた。

 

「あ、キタキタ!とつぜんごめんなさいね、どうしても話がしたくて!」

 

「そ、その・・・話って?」

 

「とりあえず中に入って!メンバーを紹介するから!」

 

なすがままに弦巻さんに引っ張られて連れていかれた。

 

連れていかれた部屋に入るとそこには松原さんとほか3人が居た。

 

「ま、松原さん!?」

 

「ごめんね九条くん・・・こんなことになってしまって。」

 

「あ、そーくんだ!こころが連れてきたかった人ってそーくんだったんだ!」

 

そういったのはオレンジ色の髪の毛の子だった。

 

彼女の名前は北沢はぐみ。

 

商店街にある北沢精肉店の店主の娘さんだ。

 

散策した日の後日、沙綾さんに勧められていたので行ったらそこで出会った。

 

北沢さんのお父さんにたいそう気に入られたらしく、店に行くとコロッケをおまけしてくれたり少し安くしてくれたりする。

 

初めてあった日に自己紹介してから彼女は僕のことを『そーくん』と呼び始めた。

 

「君が九条くんか。我がプリンセスに気に入られるとはなんと罪深い・・・」

 

そういったのは女性なのにとてもイケメンな人だった。

 

「申し遅れたね、私は瀬田薫。よろしく。」

 

「九条奏多です、よろしくお願いします。」

 

瀬田さんと挨拶を交わすと最後の1人が話しかけてきた。

 

「あーなんかすみません、うちのこころが無茶言って。あ、私奥沢美咲です。」

 

3人と挨拶を済ますと弦巻さんが本題を話してきた。

 

「今日ここに呼んだのは奏多、あなたに私達、ハロー、ハッピーワールド!のメンバーに入ってほしいからなの!」

 

そう言われて僕はかなりびっくりした。

 

「え!でも僕はRoseliaでマネージャーをしているんですけど・・・」

 

「知ってるわ。けど、あなたほどの面白い人を見過ごすわけにはいかないもの!」

 

「え、えっと・・・」

 

「ねぇこころん、そーくんにはぐみたちの演奏を聴かせてみたらどうかな?」

 

「それはいい提案ね!奏多、1度私たちの演奏を聴いてみて!」

 

そう言われてハロハピの人たちと僕は弦巻邸の演奏可能なところへ向かった。

 

 

 

 

 

1人席に座らされて、黒服たちが楽器を準備している。

 

部屋に入る前に奥沢さんに

 

 

「私の姿結構やばいんで」

 

と言われたがあれはどういう意味なのだろうか。

 

するとハロハピの人たちが衣装でステージに立った。

 

メンバーが出てくる中一番最後に出てきたのは奥沢さん・・・ではなくピンク色のクマだった。

 

(そういう意味か!)

 

僕は一人納得した。

 

すると弦巻さんが話し出した。

 

「それじゃあ奏多、聴いてちょうだい!『えがおのオーケストラ』!」

 

ハロハピの演奏が始まった。

 

衣装からしておそらくコミックバンドなのではないかと思っていたがその通りで楽しそうな音楽だった。

 

 

 

 

 

演奏が終わるとピンク色のクマが話してきた。

 

「えっと・・・奥沢美咲改めミッシェルです。」

 

「えっと・・・よろしくお願いします。」

 

とりあえずミッシェルと挨拶をする。

 

ミッシェルの隣から弦巻さんが来た。

 

「ミッシェルが来るといつも美咲がいないのよね~」

 

・・・え、この人たち気づいてないの?

 

後で聞いた話だがこの事は松原さん以外わかっていないらしい。

 

その事にどうにも言えない感情を持ちつつも弦巻さんは話を続けた。

 

「それでどうだった?私たちの演奏?」

 

「ええ、とっても良かったです。」

 

「それで私たちのバンドに入る気にはなった?」

 

「僕は・・・すみません、やはりあなた達のバンドには入ることは出来ません。」

 

「あら?どうして?」

 

「・・・あなた達の演奏は確かによかったです。心から音楽が好きって気持ちが感じ取れます。けど、僕にとってRoseliaがあなた達が音楽を思う気持ちと同じぐらい好きなんです。」

 

「・・・そう、でも諦めてはないわ!私達はいつでもあなたを歓迎するから!」

 

弦巻さんはすこし残念そうにしながらもまだ諦めてはいないと言った。

 

Roseliaのことを再確認した所で今日のところは帰らせてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・のだが。

 

「・・・ここどこだ?」

 

広い広い弦巻邸の庭の中で僕は一人さまよっていた。

 

20分後、黒服の人達が見つけてくれてその人達に案内されてなんとか家までたどり着いた。




他バンド交流編はどうだったでしょうか?
最後は方向音痴オチでしたがとりあえずなんとか家には帰れましたとさ(笑)
次回は『陽だまりロードナイト〜Don't leave me Lisa and Sota!!!〜』をする予定何ですが・・・
明日こちらの事情で更新できるかどうかが不明です。上げるかどうはTwitterにて報告するのでそちらをご確認ください。


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5章 ~陽だまりロードナイト〜Don't leave us Lisa and Sota!!!
22話 ムショク ト ヒダマリ ノ イナイ Roselia


はい、Don't leave me Lisaをベースにした陽だまりロードナイト編です。
陽だまりロードナイトは作者が一番好きな歌でイベントのキャラは星四の慣れない電話の燐子以外揃ってます(悲しみ)!
基本はリサ姉、奏多の奏多sideと友希那さん、紗夜さん、あこちゃん、燐子の燐子sideの二つで分ける予定です。
さーて今回も陽だまりイベ何回見直すんだろなー


ってことで本編スタートです!


他バンドの交流があった六月が終わり七月となった。

 

あのジメジメした感じから一転し、かなり暑くなってきた。

 

そんな中、最近僕達Roseliaは羽丘に集まってからCIRCLEに向かう習慣が出来てきて、今日も放課後に羽丘に集まっていた。

 

「あ、きたきた!りんりん!九条さん!紗夜さん!」

 

「お待たせしました、宇田川さん、友希那。」

 

「あれ・・・今井さんは?」

 

「リサはまだ来ていないわ。一体どこにいるのよ・・・」

 

リサが遅れるとは珍しいこともあるものだ。

 

基本的に集合時間には絶対来るリサだが遅れたのは初めてではないだろうか。

 

そう考えているとリサが走ってくるのが見えた。

 

氷川さんもそれに気づいたみたいで

 

「噂をすれば・・・ですね。」

 

とこそっと呟いた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ~、いやーごめんごめん!出る時に先生に捕まっちゃって!」

 

「今井さん・・・すごく息切らしているけど・・・大丈夫ですか?」

 

「リサ姉先生の手伝いしてるところよく見るけど疲れないの?」

 

「うーん体力は有り余るほどあるしな~。バイトにバンドにダンス部にテニス部に・・・」

 

思い返せばリサが本当に疲れている姿を見たことがない。

 

リサの体力は一体どうなっているんだ?

 

「とにかく、全員揃ったしそろそろ行きましょうか。」

 

氷川さんがそう言って向かおうとした時だった。

 

「・・・!あ、ゴメン電話出るね。」

 

リサに電話がかかってきた。

 

どうやら話し相手は僕も働いているコンビニの店長のようだ。

 

「・・・はい、・・・え?ソータですか?ここにいますけど・・・はい、少し待ってください。」

 

そう言ってリサがこちらを向いた。

 

「ソータ、店長から電話変わってって。」

 

そう言って僕に携帯を渡してきた。

 

とりあえず受け取って電話に出た。

 

「もしもし、変わりました九条です。」

 

『ああ、九条くん!休みの日に悪いけど今日3時間だけでいいからシフト入れないかな?本当はモカちゃんともう1人入る予定だったんだけどモカちゃんは風邪でもう1人は結婚式に招待されたって言って休んじゃってね。今井さんにも聞いてたんだけど折り返すって言われてね。』

 

「今日・・・ですか。」

 

今日はいつも通りRoseliaの練習がある。

 

店長にはいつもお世話になっているので行きたいのはやまやまだが練習の方に行きたい気持ちもある。

 

「僕もまた折り返すのでまた連絡させてもらいます。」

 

『わかった、突然ごめんね。』

 

電話を切ってリサに携帯を返す。

 

すると2人同時に着信音がなった。

 

送り主は青葉さんのようだ。

 

内容は

 

『九条さ~ん、リサさ〜ん、モカちゃんのお願い聞いてください~ 今日風邪でバイト行けなくなっちゃったんです・・・ 元々もう1人も来れなくなっちゃったのは聞いていたんですけど〜タイミング悪く風邪ひいちゃって・・・ あたしともう1人の代わりに入ってもらえませんか?また今度お礼するので』

 

といったものだった。

 

「奏多、リサどうしたの?」

 

友希那が尋ねてきた。

 

「はい、僕達がバイトしているコンビニの店長さんですけど・・・」

 

「今日2人に3時間だけシフト入れないかってお願いされちゃった・・・モカともう1人が来れなくなっちゃったみたいで。」

 

僕とリサが交互に返した。

 

「リサと奏多はどうしたいの?」

 

「僕は日頃の感謝もありますし行きたい気持ちはあります。」

 

「アタシも店長のお願いとモカの代わりなら行ってあげたいけど・・・やっぱりRoseliaの練習があるからダメだよね・・・」

 

そう言ってリサが店長に断りの電話を入れようとした時だった。

 

「なら行って来ればいいわ。」

 

「「え・・・?」」

 

予想外の回答に僕とリサはびっくりした。

 

「湊さん、いいんですか?元々2人が入っていたシフトではありませんし、断ってもいいのでは?」

 

「練習にはしっかりと集中してやってほしいもの。落ち着かないまま練習されても音が濁るだけよ。その代わり今日練習できなかった分は次の日2倍やってもらうから。」

 

リサがそれを聞いて苦笑いする。

 

あの練習を2倍と言われるとそれもそうだ。

 

「奏多には・・・そうね、全員の名前を下の名前で読んでもらおうかしら。」

 

「・・・え?」

 

次は僕が慌てる番だった。

 

「そ、その・・・なぜこのタイミングにそれを?」

 

「あなたにいい加減慣れてもらうのとタイミングがよかったからよ。」

 

そう言われると何も言い返せない。

 

「と、とりあえず友希那、ありがとう!」

 

「みなさんすみません、今日は僕達バイトの方に行かせてもらいます。早めに上がれたらスタジオに行って練習にも参加しますので!」

 

そう言って僕とリサは走ってバイト先のコンビニへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

九条さん達が走っていったあと私達はまだ校門の前にいた。

 

今考えてみれば2人がいない練習は初めてかもしれない。

 

「そっか~、今日リサ姉と九条さんいないんだ・・・」

 

「今井さんと九条さんがいない練習って・・・初めてだよね・・・」

 

「アルバイトが早めに終われば来ると言っていましたので私達は普段通り練習をしましょう。」

 

「そうね、リサと奏多がいなくてもやることは変わらないわ、私達はスタジオに向かうわよ。」

 

「そうですね。」

 

「はーい。」

 

「はい・・・」

 

「「「「・・・」」」」

 

周りの空気が何故か重い。

 

今井さんと九条さんがいないだけでこんなに変わるとは思わなかった。

 

黙り込む中あこちゃんが発言した。

 

「きょ、今日はあこがリサ姉と九条さんの代わりをやります!えーっとえーっと・・・そうだ、リサ姉の真似しよう!」

 

そう言ってあこちゃんは今井さんっぽい真似をした。

 

「や、やっほ~!ゆっきな~!元気~?」

 

「・・・」

 

しかし友希那さんはあこちゃんのそれを無言で返した。

 

「す、すみません・・・」

 

「・・・とりあえず行くわよ。」

 

そう言って友希那さんはスタジオに向って歩き出した。

 

「はぁ・・・こんなことでは先が思いやられるわね・・・」

 

「は、はい・・・」

 

とりあえず友希那さんのあとを追いかける。

 

この調子だと恐らくもっと悪くなるような気がする。

 

(練習・・・大丈夫かな・・・)

 

私は追いかけながらもそう思った。




本日は短め(ていうかいつもの半分程度)ですが今回はこの章のプロローグ的なやつのため次回はもうちょい長いと思います。
次は麻弥ちゃんイベか~燐子イベまだかな・・・
という訳でスタリラを楽しむ作者でした(なんかハロウィンの京都弁の有紗を引いた)


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23話 イツモドオリ ト イツモドオリジャナイ

はい、燐子イベ来ましたね。
ちょっと本気出して頑張ります。

頑張って頑張ってガチャ回して虹きた!勝った!と思ったらお花見の有紗でした・・・
そっちじゃなぁぁぁぁぁぁい!ちげーよ!ありがとー!す、好きなんかじゃないから!←これが言いたかっただけだろ!
はい、作者の嘆きはそれほどにして本編始まります。


燐子side

 

私達は重い空気のままCIRCLEに入った。

 

いつもは九条さんがスタジオの予約とかをしてくれているが今日は友希那さんがカウンターへ向かった。

 

友希那さんが帰ってくるとその手にはパンフレットのようなものがあった。

 

「友希那さん・・・それは一体?」

 

「機材の貸出のパンフレットよ。どうやら今半額のキャンペーンをやってるらしくてね。」

 

「色々な種類がありますね・・・」

 

氷川さんがそのパンフレットを覗き込んだ。

 

私もあこちゃんとのぞき込んでみるとそこには色々な種類の楽器や機材があった。

 

「うわぁ!ドラムのシンバルもいっぱいある!」

 

「電子ピアノに・・・シンセサイザーもあるんですね・・・」

 

「ギターやベースも、いろいろな種類があるみたいですね。今までずっとこのスタジオに通っていたのに知らなかったわ。」

 

スタッフさんによるとCIRCLEはライブハウス併設のスタジオなので品揃えはいいらしい。

 

そのため、定番のものから変わり種まで色々な種類の楽器がある。

 

「あこ、どれかやってみたいです!」

 

「もし借りるとしても、いつも通り練習をしてからよ。スタジオに向かいましょう。」

 

そう言って友希那さんは先にスタジオに向かった。

 

いつも先導したり盛り上げたりしてくれる2人がいないからどうしても空気が重く感じる。

 

本当に今日の練習は大丈夫だろうか。

 

 

 

 

 

いつもの機材を準備し、練習前のミーティングの時になった。

 

「奏多とリサはいないけど、いつも通り練習を始めましょうか。」

 

「「「はい!」」」

 

友希那さんに全員が返事を返すと友希那さんは少し困った顔をした。

 

「・・・何から始めようかしら。」

 

「「「え!?」」」

 

その発言に全員びっくりした。

 

「練習内容、決まっていないんですか?」

 

「いえ、やりたいことは決まっているんだけど、こういうのはいつも奏多がまとめてくれていたから・・・少し待って、考えるから。」

 

そう言って友希那さんは考え始めた。

 

確かにこういうことはいつも九条さんがまとめてくれていた。

 

やはりまとめ役がいないのが大きいかもしれない。

 

「・・・そうね、新曲のコードを決めてきたから、まずはメロディを決めたいわね。」

 

「では、それをベースに考えてみましょう。」

 

「「はい!」」

 

とりあえず練習が始まった。

 

 

 

 

 

練習開始から10分

 

友希那さんはさっきからずっとマイクの設定をいじっていて、氷川さんは自由に音を出している。

 

あこちゃんは周りの様子を見ていて、そういう私は同じフレーズばかりを練習していた。

 

やはりあの2人がいないのは本当に大きい。

 

すると今まで様子を見ていたあこちゃんが提案した。

 

「あ、あの!」

 

「・・・!なに?」

 

「せっかく集まってるんだし、一緒にメロディ考えながら演奏しませんか?なんか・・・みんなバラバラで個人練習みたいですっ!」

 

確かにこのままではここに集まっている意味がない。

 

あこちゃんの発言に私はホッとした。

 

「・・・そうね、確かにあこの言う通りだわ。全員で練習しましょうか。紗夜、どこからメロディを決めていくのがいいかしら?」

 

「そうですね・・・・・・すぐに浮かびませんね。」

 

「そう・・・あなた達、何か良い案ないかしら?」

 

私たちに話を振られ、考えているとあこちゃんが発言した。

 

「はい!じゃあ、あこ、提案があります!さっきのパンフレットの機材、借りてみませんか?」

 

あこちゃんがさっき受付カウンター前で見たパンフレットの機材の話を持ち出した。

 

「機材?何を借りたいの?」

 

「あこ、ドラムのハイハット変えてみたいです!次の新曲は、シンバルの音を長く響かせてみたいんですよ。」

 

私も使ってみたい機材があったのでお願いすることにした。

 

「私は・・・シンセサイザー・・・使って・・・みたいです。電子音・・・入れると・・・新しい音になるし・・・いいメロディも浮かぶかも・・・」

 

すると氷川さんもそれに乗るように発言した。

 

「借りるのであれば、私は新しいエフェクターを試してみたいですね。今よりもっと音を歪ませるとどうなるか確かめてみたいですけど、湊さん、どう思いますか?」

 

「悪くないわね。新曲に合わせて新しい音を模索してもいいかもしれないわ。」

 

そう言って友希那さんはさっき貰ったパンフレットを差し出した。

 

「紗夜、あこ、燐子。このリストの中から好きな機材を選んで。」

 

それを受け取ってしっかりと見てみるとシンセサイザーだけでも結構な種類があった。

 

聞いたことある名前の機材や本当にライブで使うのかといった造形のシンセサイザーもあったが私は少し有名なメーカーの機材を借りることにした。

 

「私は・・・決めました。」

 

「ん~悩むけど・・・うん、これだっ!友希那さん決まりました!」

 

「では、私はこちらにしましょう。」

 

全員の借りたい機材が決まり、友希那さんがそれをメモして私に渡してきた。

 

「燐子、受付に電話をお願いできる?電話はドアの横に備え付けてあるはずよ。」

 

「わ、私ですか!?は、はい。」

 

メモを受け取ったはいいものの、電話をかけることは人と話すことが苦手な私にとってかなり緊張することだ。

 

(電話するの・・・緊張するな・・・ドキドキしてきちゃった・・・まずは・・・大きく深呼吸して・・・)

 

私は落ち着かせるために大きく深呼吸をした。

 

するとあこちゃんが尋ねてきた。

 

「りんりん、何してるの?」

 

「あ、あこちゃん・・・私・・・電話するの・・・苦手だから・・・深呼吸して、落ち着こうと・・・思って。」

 

「そっか!りんりん、頑張って!」

 

「うん・・・!」

 

あこちゃんから激励をもらい、電話の前に立つ。

 

深呼吸して落ち着かせたもののやはり手が震える。

 

いつもこういうことは九条さんにやってもらっているため慣れないことをするのは緊張してしまう。

 

ふと私は

 

(九条さんならどうしただろう)

 

と思った。

 

あの人も話すことが苦手なのにこういう作業をしている。

 

彼の行動をよく考えてみると、確かに声は少し震えている時もあるが落ち着いてゆっくり話している。

 

とりあえず九条さんのようにゆっくり話してみることにした。受話器を手に取り耳に当てる。

 

するとすぐに受付に繋がった。

 

『はい、こちら受付です。』

 

「あっ・・・も、もしもし・・・きききき機材の・・・レンタルを・・・」

 

『はい、レンタルですね。どの機材に致しますか?』

 

私はメモに書かれた機材を声が震えながらも答えた。

 

『わかりました、すぐそちらにお持ちしますね。』

 

「は、はい・・・よろしくお願いします・・・」

 

受話器を元に戻して私は安堵の息を吐いた。

 

するとあこちゃんが後ろから話しかけてきた。

 

「りんりん、しっかり話せた?」

 

「う、うん・・・話せたよ、あこちゃん・・・すぐ・・・持ってきてくれるって。」

 

「なら、来るのを待ちましょうか。」

 

友希那さんがそう言って私達は機材を待った。

 

 

 

 

 

5分後、若いスタッフさんが機材を持ってきたのだが・・・

 

「お待たせしました、ご注文のウクレレとパーカッションです!」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

来たのは予想外のものだった。

 

「わ、わたし・・・ドラムのハイハットと・・・シンセサイザーと・・・ギターエフェクターを・・・頼んだつもり・・・だったんですが・・・」

 

「あれ?違いました?少しお待ちください、確認してきます。」

 

スタッフさんが困った顔をして受付に戻った。

 

「この楽器だと・・・ハワイアンのメロディが出来るわね・・・」

 

「・・・やります?ハワイアン・・・」

 

「・・・やらないわ。」

 

そもそもRoseliaの雰囲気にハワイアンが会うはずがない。

 

するとさっきのスタッフさんが戻ってきた。

 

話を聞くと、どうやらその楽器は隣のスタジオの人が借りる予定だったらしいものを手違えてこちらに持ってきたらしい。

 

その機材が来るまでまた待つことになったが場の空気は変な空気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「へっくしゅん!」

 

「あれ?ソータまた風邪?」

 

「いえ、そんなことは・・・え?」

 

「ソータ、どうし・・・うわ・・・」

 

友希那や白金さん達の元を離れ、僕とリサはコンビニに来たが、店が思ってた以上にお客さんが多かった。

 

たまたまそのコンビニのセールが始まったのと、うちの学校のソフトボール部がうちの学校で他3校との合同練習があったらしく駅から花咲川高校との中間にあるこのコンビニに飲み物やパンなどを買いに来たせいでこうなっているらしい。

 

店長が一人慌ただしくレジ打ちをしていた。

 

「あ、今井さん!九条くん!ごめんよ休みの日に!」

 

「て、店長!待っててください、今準備します!ソータ行くよ!」

 

「は、はい!」

 

リサが走って店裏に向かったので僕もそれに続いた。

 

急いで制服に着替え、リサはレジ打ち、僕は商品の補充を始めた。

 

 

 

20分後

 

他校の波が収まり、何とか捌ききった僕はかなり疲れていた。

 

「いや、本当にありがとう!一時はどうなることかと思ったよ。」

 

「い、いえ・・・今回は仕方ないですし・・・」

 

「そーですよ店長!日頃の恩もありますし!」

 

リサは少々疲れてはいるっぽいがそれっぽさを感じられない。

 

リサの体力はバケモノか。

 

「とりあえずあと2時間ほどだけどよろしく頼むよ!」

 

「「はい!」」

 

人が少なくなったコンビニもまたいつあのソフトボール軍団が来るかわからないので僕とリサはレジに立った。

 

するとリサは心配そうに呟いた。

 

「友希那達、大丈夫かな・・・」

 

「友希那なら何とかなりますよ。それに氷川さんもいますし。」

 

「うーん、でもさぁ・・・」

 

「とりあえず僕達は今の仕事に専念しましょう。」

 

僕も口ではそう言っているがやはりRoseliaのみんなが心配だ。

 

僕は立場上、周りをよく見ているからわかるがあの中でリサはかなり大きな役割を担っている。

 

周りの空気を盛り上げているし、提案事も大体リサが発端だ。

 

そのリサがいないRoseliaは恐らく空気が重くなっているかもしれない。

 

宇田川さんがいるから多少は大丈夫かもしれないが、あのメンバーの中だと宇田川さんにも限界があるだろう。

 

早く戻ってあげたい気持ちを抑えながら僕はバイトに専念した。




こう考えるとリサ姉って役割でかいな・・・
リサ姉の大切さを知ったところで次回へ続きます!
次は土曜日ですが恐らく朝早くの投稿となります!
つまり明日編集と作品制作をしなければならないこと・・・
さぁ、編集を始めようか!(ぶっちゃけこれが言いたかっただけ。)


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24話 キュウソク ト アワタダシサ

今までなんとか続いてきた無灰ですが、次から新しいことに挑戦しようと思います!
それはズバリ『九条奏多を描いてみる!』です!
僕自体絵を描くことは好きですが、人に自慢できるほど得意ではない上にアナログしか描けませんがやってみようと思います。
とりあえず30話までにはやろうと思うのでお楽しみに!
ということで本編どうぞ!


燐子side

 

ようやく機材が届き、私達はその機材をセッティングしていた。

 

そしてそれぞれの調整が終わり、準備が整った。

 

「正しい機材も届いたし、気を取り直していくわ。みんな、準備はいい?」

 

「バッチリです!」

 

「私も・・・大丈夫です。」

 

「私も問題ありません。」

 

「では始めるわ。どう音が変わるか楽しみね。」

 

そう言って私達は演奏を始めた。

 

曲はRoseliaの始まりの曲『BLACK SHOUT』。

 

しかし、いつもと違い私のシンセサイザーの電子音から入るとガラッと印象が変わった。

 

氷川さんもギターの音がいつもと違うし、あこちゃんのドラムもハイハットを変えたことでいつもより響きがいい。私が借りたシンセサイザーもかなり良く、私は結構好きな音だがみんなはどうだろうか。

 

そう思っているといつの間にか曲は終盤に差し掛かっていた。

 

私達はいつもと違う『BLACK SHOUT』を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ。どうやら借りてきた機材は正解だったみたいね。」

 

演奏後にいつもと同じ空気に戻り、私はとても安心した。

 

すると友希那さんは自分の意見を私たちに伝えてきた。

 

「紗夜、今の演奏は悪くないわ。もっと音に強弱をつけると良くなると思う。」

 

「はい。」

 

「あこ、力任せに叩いては無駄に体力を消耗するだけよ。最後までベストな演奏ができるように、配分を考えながら叩いて。」

 

「わかりましたっ!」

 

「燐子はあこと音を合わせることを意識して。」

 

「はい・・・!」

 

「細かい部分はまだ課題があるけど、全体的なまとまりは悪くないわ。その調子で行くわよ。」

 

「それにしてもさっきの紗夜さんのギター演奏は・・・こう・・・漆黒の闇より生まれし炎の弦楽士(ギタリスト)がアレして・・・炎と闇の封印が解かれし暗黒!って感じ!」

 

友希那さんが話した後あこちゃんがいつもの言い方で紗夜さんを褒めた。

 

「うん、そうだね・・・」

 

私にはあこちゃんの言いたいことがわかるのでそう頷いた。

 

「・・・湊さん、次の曲に行きませんか?」

 

「・・・そうね。」

 

褒められた本人である氷川さんはそれをスルーしてそのまま練習を再開させようとした。

 

あこちゃんは気づいてくれなかったことを諦めきれないのか次は友希那さんを対象として話し出した。

 

「ゆ、友希那さん!今の友希那さんの歌は、現世に蘇りし死霊魔術師(ネクロマンサー)が、闇の僕(しもべ)をアレして・・・ドーン!って感じですね!」

 

次も言いたいことがだいたいわかった。

 

「うん、すごくわかるよ、あこちゃん・・・」

 

しかし、やはり2人とも全然わかっていないようで氷川さんが尋ねるように聞いてきた。

 

「白金さん、宇田川さんはさっきから何を言っているの?さっぱり意味がわからないんだけど。」

 

1から説明すると難しいので私は意味の省略して簡単に話すことにした。

 

「あこちゃんは・・・氷川さんの演奏と友希那さんの歌を・・・すごく褒めててて・・・」

 

「そうなの?宇田川さんの言っていること、私には外国語のように聞こえるわ。」

 

私はRoselia結成前からあこちゃんと交流があるのでこういった言葉の意味はだいたいわかるようになった。

 

九条さんもNFOで一緒にプレイしているうちにわかるようになったと言っていたので恐らくこの中であこちゃんの言いたいことがわかるのは私と九条さんぐらいだろう。

 

「紗夜、あこ、燐子。練習中よ!無駄口叩くのはやめて。」

 

「は、はい。」

 

「「す、すみません・・・」」

 

友希那さんに怒られ、また少し空気が重くなってしまう。

 

盛り上げようとしたあこちゃんは少し落ち込んでいるようだ。

 

「さあ、練習を続けるわよ。」

 

そう言って私達は元の位置に戻り、演奏を再開した。

 

 

 

 

演奏を続けて2時間ほどがたった頃だろうか。

 

長時間の演奏でそれぞれの集中が切れてきてきた。

 

あこちゃんはずっとドラムを叩いているので腕が重そうだし、氷川さんはずっとギターを引いていて動く度に痛そうな顔をしている。

 

恐らく肩こりなどが酷くなってきたのだろう。

 

私も度々音を間違えるようになり演奏にボロが出てきた。

 

「ちょっと、3人とも集中力が切れてきているわよ。ちゃんと曲に集中して。」

 

友希那さんがそう言って注意してくるがそういう友希那さんも声の伸びが悪くなってきている。

 

みんなの疲れが出てきて、また空気が悪くなってきた時だった。

 

「あ、あの友希那さん!」

 

「・・・な、なに?」

 

「そろそろ休憩にしませんか?時計見てください!」

 

時計を見ると時刻は5時過ぎになっていた。

 

「あっ・・・結構時間経ってたわね。じゃあ休憩にしましょうか。」

 

そう言って休憩に入ったがいつもは賑やかな休憩時間が今回はとても静かだ。

 

こんな時どうすればいいだろうと考えた時に一ついい案が思いついたので友希那さんに提案してみることにした。

 

「あ、あの・・・」

 

「どうしたの?」

 

「よかったら・・・みんなで外のカフェに・・・行きませんか?のど・・・渇きましたし・・・甘い物でも・・・」

 

するとあこちゃんが便乗するように話し出した。

 

「りんりん、ナイスアイディア~!友希那さん、紗夜さん、みんなでいきましょうよ!ねっねっ!」

 

「どうしてもって言うなら・・・」

 

「湊さんがそう言うなら・・・」

 

2人とも口ではそう言っているがその表情は心做しかほっとしているようだった。

 

ということで私達はカフェに行くことにした。

 

 

 

 

 

「あ、Roseliaのみんな!いらっしゃい。」

 

外のカフェではまりなさんが店番をしていた。

 

ここはCIRCLEが経営しているカフェでもあるのでCIRCLEのスタッフさんもレジに立つらしい。

 

「ん~、何頼もっかな~♪あっ、今日のおすすめパイナップルジュースだって!おいしそう~!」

 

あこちゃんはわくわくして決めている。

 

友希那さんによるとここのソフトクリームがコクがあって美味しいらしいと今井さんから聞いているらしい。

 

「そうですね・・・私はこのイチゴのソフトクリームをいただきましょうか。」

 

「あっ、それもおいしそう~!う~ん・・・悩むけど・・・あこはこっちのゴマソフトにしよ!りんりんと友希那さんはどうする?」

 

「そうね・・・私はホットコーヒーと抹茶ソフトにするわ。」

 

「私は・・・ホットミルクが・・・あればいいけど・・・なかったら・・・紫芋ソフトにしようかな。」

 

「うん、ちょっと待ってて。聞いてくる。まーりなさーん!」

 

あこちゃんがまりなさんに聞きに行った。

 

待っている間友希那さんと紗夜さんの話を聞いていたがこのカフェはスナック系も充実しているそうだ。

 

メニューのカリカリポテトを見た時の紗夜さんの反応はすごく興味をそそられているようだった。

 

私は練習後に一息つく場所としてあこちゃんとよくここに来るので、常連客となりつつある。

 

話しているうちにあこちゃんが帰ってきた。

 

「りんりんお待たせっ!今の時期はホットミルクはメニューにないみたいんだけど、特別に作ってくれるって!どうする?」

 

「じゃあ、せっかくだから・・・ホットミルクと紫芋ソフト・・・どっちもお願いしようかな。」

 

「オッケー!じゃああこがまとめて頼んできますね~」

 

「ええ、よろしくね。」

 

そう言ってあこちゃんが注文を取りに行った。

 

5分後、まりなさんがお盆に乗せて頼んだメニューを持ってきてくれた。

 

「お待たせしました~。ソフトクリームは溶けやすいから早く食べてね。」

 

「はーい!これが友希那さんのホットコーヒーと抹茶ソフトで、こっちが紗夜さんのイチゴソフトでしょ・・・」

 

そう言ってあこちゃんは持ってきてくれたものを全員に分け始めた。

 

「全員行ったね!それじゃあ・・・」

 

「「「「いただきます。」」」」

 

私達はソフトクリームを食べ始めた。

 

さっきまでの重苦しい空気から一転、みんな和気あいあいとしている。

 

もうすぐ九条さんと今井さんが来る頃かなと考えつつ私はホットミルクに口をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

スタジオで、まだみんなが練習していた頃。

 

僕達はまだレジでレジ打ちをしていた。

 

あのソフトボール軍団が去った後も度々お客さんが来るので離れることが出来ずにいた。

 

「どうして今日はこんなにお客さんが多いんですかね・・・」

 

「まぁそろそろ夏だからね~ほとんどのお客さん買っていくの飲み物ばかりじゃん?」

 

確かに今日お客さんの買っていくもののほとんどは飲料水ばかりだ。

 

たしかに暑くなってきたのでこまめな水分補給が必要な時期なのだろう。

 

「たしかにここのお店品ぞろえいいですしね。」

 

「それを発注して店に並べてんのが私たちなんだからそう考えると少しすごく感じるね~」

 

そういった感じでほのぼのと喋ること30分、店裏から店長さんが顔を出した。

 

「2人とも~ありがとう!そろそろ上がってもらって・・・」

 

ザワザワ

 

店長が話切る前に聞き覚えのあるザワつく声がした。

 

「こ、これって・・・」

 

「あちゃー帰ってきたね・・・」

 

「・・・ごめん2人とも、あの子達の商品さばいてから上がってもらって良いかな?」

 

「「は、はい・・・」」

 

そろそろだとは思っていたがソフトボール軍団がこの店に帰ってきた。

 

しかも多分きつい練習のあとなので僕達が店に来た時よりも激しさを増すだろう。

 

僕とリサは軽く溜息をつきながら戦闘の準備をした。




そういえばお気に入り件数が100件を超えていました!ここまで読んでくれたことがとても嬉しいです!
これからも無色と灰色の交奏曲をよろしくお願いします!


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25話 カケガエノナイ タイセツ ナ ヒト

昨日投稿できなかったので本日投稿となります。
昨日はこちらの方で事情があったのと「ツナグ、ソラモヨウ」のCD買いに行ってました←おい!
なお特典のカードはモカちゃんでした。モカ推しの友達にいじり程度に自慢すると「殺してでも奪い取る」と言われました(笑)
強奪予告を友人にされたことは置いといて本編始まります!


燐子side

 

カフェでの休憩も終わり、私達は元のスタジオに戻った。

 

私は飲みきれなかったホットミルクをまとめてあるギターのシールドが置かれている机の上おいて借りてきてそのまま置いてあるシンセサイザーの前に立った。

 

「みんな、リフレッシュはできた?」

 

「はい、丁度いい気分転換になりました。やはり疲れている時に甘いものはいいですね。」

 

「ソフトクリーム美味しかったです!」

 

「みんなとカフェに来られて・・・良かったです・・・」

 

「そう、それは良かったわ。さあ、練習を再開するわよ。残り時間も少ないからあと2~3曲で終わりだと思って最後までしっかり気を抜かないでいくわよ。」

 

「「「はい!」」」

 

気持ちを整え、私達は練習を再開した。

 

しかし演奏を続けていても今井さんと九条さんが来る様子はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

練習が終わって最後のミーティングの時間となった。

 

「今日はそれぞれの音は悪くなかったと思う。けど、全体の調和が取れているとはいえなかったから音のバランスを調整しないといけないわ。あなたたち、次の曲に新しい音を使いたいならどうするのがベストなのか、それぞれ考えてきて。最後の演奏をベースにしてみて。」

 

「「「はい。」」」

 

時計を見るとそろそろ終わりの時間だ。

 

今回は借りてきた機材も多いので、そろそろ片付けなければならない。

 

「そろそろ終わりの時間ですが、片付けますか?」

 

氷川さんがそう言ったのは恐らく今井さんと九条さんの事を思ってのことだろう。

 

「ホントだー!もうこんな時間か・・・リサ姉と九条さんまだ来ないのかな・・・」

 

「まだ・・・来てない・・・みたい。」

 

「仕方ないわ、片付けましょう。」

 

そう言って私達は片付けを開始した。

 

いつもは九条さんが指示を出してくれるが今回は氷川さんが指示を出してくれた。

 

氷川さんの指示で湊さんがマイクケーブルを直そうとした時だった。

 

「きゃあっ!」

 

湊さんがギターのシールドに足を絡ませて転倒してしまった。

 

「友希那さん!大丈夫ですか?」

 

「いたた・・・ごめんなさい、ギターのシールドが足に絡まってしまって。」

 

「大丈夫ですか・・・って、なにか床にこぼれてますよ!」

 

床になにか白いものが広がっていく。

 

それは私が置いていたホットミルクだった。

 

恐らく友希那さんが倒れた時机にぶつかったのだろう。

 

「ああっ、すみません・・・休憩の時に・・・飲みきれなかったホットミルク・・・持って来ていたんです・・・」

 

「うわわわわ!床一面真っ白になっちゃった!・・・うわっ!」

 

あこちゃんが後ろに下がろうとしたらドラムのセットに足をつまずかせこけてしまった。

 

その時何かが倒れ、その衝撃でホットミルクが少し飛び散り被害が増えた。

 

「あこちゃん!・・・だ、大丈夫?」

 

「いったー・・・うっかりつまずいちゃった・・・」

 

倒れたあこちゃんを見ると今なお広がっているホットミルクがあこちゃんのスカートの端に付いてしまっていた。

 

「ううっ・・・スカート濡れちゃったよ~」

 

「機材にも飛び散ってます!早く拭かないと・・・」

 

今この場がパニック状態になりそうになったその時だった。

 

 

 

 

 

バタン!と扉が開いた。

 

「す、すみません!遅くなりました!」

 

「友希那ごめん!遅くなっ・・・ってなにこれ?どういう惨状?」

 

「リサ、奏多・・・これは・・・」

 

「と、とりあえず話は後!早く片付けるよ!ソータ、指示お願い!」

 

「はい!友希那と氷川さんは何か拭くものを、リサと白金さんで倒れた機材を立ててください。・・・っ!宇田川さんはこちらに来てください。」

 

九条さんが指示を出して私達はそれに従った。

 

このタイミングでこの2人が来てくれたことに私はとても安心感があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「あ、ありがとうございました!」

 

「うん、そーくんもお疲れ~」

 

「はい、また今度北沢さんのお店に行かせてもらいます。」

 

「うん、その時はコロッケいっぱい準備しとくね!」

 

「はい!ありがとうございました~・・・ふ、ふへぇ・・・」

 

「やっと終わったね~」

 

CIRCLEであの惨状が起こる少し前、あのソフトボール軍団の最後の客だった北沢さんと話をしたあと僕とリサは一息ついていた。

 

「北沢さんソフトボールやってたんだ・・・」

 

「ソータあの子知り合い?」

 

「はい、商店街の精肉店の・・・」

 

「あぁ!あのコロッケが美味しいところの!」

 

北沢さんの話をしていると店長が話しかけてきた。

 

「いやぁ、2人とも今日はありがとう!また今度お礼するから今日はもう上がって。待っている仲間がいるんだろ?」

 

「はい、すみません上がらせてもらいます。」

 

「お疲れ様でーす。」

 

僕とリサがコンビニを出てCIRCLEに向かおうとした時、僕の背中に悪感が走った。

 

「・・・!」

 

「ソータ?どうしたの?」

 

「何故かとてつもなく嫌な予感がするんです。早くCIRCLEに向かいましょう。」

 

「え、ちょっと!ソータ!」

 

僕はCIRCLEに向かって走り出した。

 

リサもそれに続いて走り出す。

 

スタジオの場所はグループで言われているので走っている途中にリサに抜かされながらもCIRCLEにたどり着いた。

 

「す、すみません!遅くなりました!」

 

スタジオに入ると悪い予感が当たってそこは凄いことになっていた。

 

「友希那ごめん!遅くなっ・・・ってなにこれ?どういう惨状?」

 

スタッフさんにスタジオに入ることを伝えていたリサが後から入ってきてこの惨状を目の当たりにした。

 

「リサ、奏多・・・これは・・・」

 

周りを見ると白いものが機材等にもかかっている。

 

これは早くどうにかしなければならない。

 

これを見たリサの判断は早かった。

 

「と、とりあえず話は後!早く片付けるよ!ソータ、指示をお願い!」

 

リサに指示され僕が指示を取ることになった。

 

いつもやっている事なので慌てたりはしなかったがこの惨状のため急がなければならない。

 

とりあえずみんなに指示を与えていく。

 

宇田川さんを見るとスカートが汚れてしまっているようだ。

 

「宇田川さん、こちらに来てください!」

 

「は、はいっ!」

 

宇田川さんがこちらに来る。

 

幸い汚れの大きさはそこまで大きくないようだ。

 

とりあえず汚れをタオルで拭き取った。

 

「宇田川さん、この汚れは一体?」

 

「え、えっとりんりんが持ってきてたホットミルクで・・・」

 

「えっとなにか着替えるものはありますか?」

 

「カバンの中にダンス部の時に使うジャージがあるけど・・・」

 

「すみませんが着替えてこれますか?早くしないとこの汚れが取れにくくなってしまうので。」

 

牛乳の汚れのとり方は昔から家事をしていたので大体わかる。

 

宇田川さんに更衣室で着替えてもらっている間僕は周りを見た。

 

他のメンバーはモップで床を拭いたり機材を拭いたりしている。

 

どうやら何とかなったようだ。

 

あらかた拭き終わったのでいつも通りの片付けに入った。

 

指示を出していると宇田川さんが着替え終わってスカートを渡してきた。

 

「九条さん、よろしくお願いします!」

 

「うん、少し待っててください。」

 

指示を氷川さんに任せ僕はスカートの汚れを水洗いで丁寧に落とした。

 

ここで乾かすことは出来ないため、袋に入れて宇田川さんに帰ったら洗濯に出すように伝えた。

 

片付けが終わると僕含めみんな疲れているようだった。

 

 

 

・・・ただひとりを除いては。

 

「うん、綺麗になった~」

 

「今井さんと九条さんが来てからすぐに片付いたわ・・・」

 

「指示が・・・的確でした・・・」

 

「九条さんが来てくれなかったらスカートに臭いが残ってたよ・・・」

 

「2人が来てくれて助かったわ・・・」

 

「そんな大げさな~」

 

「そうですよ、そんなことないですって。」

 

しかし4人からの視線がものすごく熱い。

 

しかも、氷川さんが蜂蜜飴をくれたり、友希那がリサの肩を揉んだりといつもは絶対しないことをしていてなにか怪しい。

 

「ちょっとちょっと!なんでみんないつもと違うの?」

 

「そうですよ、今日の皆さんはどこか変です。白金さん、これは一体?」

 

「えっと・・・その・・・」

 

白金さんまで言葉を濁すとは。

 

僕達に対してなにか変なことでもしたのだろうか。

 

「アタシにも話せないことなの?それじゃあ帰ろっかな・・・ソータ行こっ。」

 

「・・・え?は、はい。」

 

リサが僕を連れて帰ろうとした時だった。

 

「帰っちゃダメぇぇぇぇ!」

 

宇田川さんが全力で止めに来た。

 

「やっぱりRoseliaにはリサ姉と九条さんがいないとダメ!友希那さん、2人と話がしたいから今すぐファミレスへ行きましょう!」

 

「そうね、行きましょう。」

 

ということでいつものファミレスへ向かうことになった。友希那が即答するとは珍しい。

 

僕とリサの頭の上にハテナマークが飛び交う中、一行はファミレスへ向かった。




今日はここまでで続きは明日です。
この調子だと多分次かその次で陽だまりロードナイト編終わりそう・・・


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26話 陽だまりロードナイト ~アオバラ ヲ ササエル ヒダマリ ト カゲ~

バンドリの今のイベントも最終局面に入ってきた中、バンドリに全く関係ないFGOでまさかの星四確定交換の機会にパーリー状態の作者です。(アタランテ推し)
でもCV的に加藤段蔵も捨てがたいところ・・・(CV明坂さん)
さらっと全く関係ない雑談入ってますが『陽だまりロードナイト~Don't leaves as Lisa and Sota~』は今回でラストになります。
タイトルの意味はリサ姉がみんなを照らす陽だまりなら奏多はそれに照らされてしたから支える影かなと思ってこのタイトルにしました!

ということで陽だまりロードナイト編最終話始まります!


みんなと合流して僕達は今ファミレスに来ている。

 

今日何があったかを聞くためにここへ来ているがいつも渋々来ているような友希那や氷川さんが即答して来るとは思わなかった。

 

「いらっしゃいませ~ご注文はお決まりですか?」

 

「とりあえず頼んでから話そっか。アタシはオレンジジュースにするけど何にする?」

 

「僕はコーヒーで。」

 

「私もそうするわ。」

 

「私は・・・今井さんと同じで・・・」

 

「あこは超大盛りポテト!紗夜さん、半分こしましょう!」

 

「ちょっと・・・なんで私が・・・」

 

「・・・?だっていつもポテト食べてますしみんなで食べた方が美味しいですよ!」

 

今、宇田川さんさらっと氷川さんのポテト事情をばらさなかったか?

 

「・・・っ!ぽ、ポテトばかり食べてません!その・・・宇田川さんがそう言うなら・・・」

 

「ははっ!とりあえずみんな決まったね~注文とるよ~」

 

リサが店員さんに注文を頼み、こちらを向いた。

 

「ところで、今日は何があったの?みんな疲れた顔してるし。」

 

「はい、いつもとは違う疲れ方をしています。本当に何があったんですか?」

 

「色々あって大変だったのよ・・・あこ、代表して話してあげて。」

 

「はい、リサ姉、九条さんそれがね・・・」

 

宇田川さんが僕達がいない間のことを話し出した。

 

いつもとは違うRoseliaの行動に僕はハラハラしていてリサは笑いをこらえているようだった。

 

宇田川さんが話し終わるとリサはこらえ切れず笑い出した。

 

「あっはっは~!!そんな事があったの!?その場にいたかったわ~」

 

「今井さん、そんなに笑わなくても・・・」

 

「そうだよ!あこ達大変だったんだから!」

 

「僕は聞いててハラハラしました・・・」

 

「もうっ、みんなアタシがいないとダメなんだから~」

 

「そうだよ、リサ姉がいないと誰もツッコんでくれなくて寂しかったんだから・・・」

 

「そうかそうか~可愛い奴め!」

 

リサが宇田川さんをぐりぐりと撫でる。

 

「ちょっ!やめてよリサ姉~!あこほんとに寂しかったんだから~!次急にいなくなったら・・・」

 

「大丈夫大丈夫!アタシは急にいなくならない、今日はごめんね!」

 

「僕も本日はすみませんでした。」

 

とりあえず僕もリサに従って全員に謝る。

 

「謝ることではないですよ。しかし普段2人に助けられてるのがよくわかったわ・・・」

 

「さ、紗夜がそこまで言うなんて・・・ほんとに大変だったんだ。」

 

氷川さんがそこまで言うとは思ってなかったので僕とリサは心底驚いた。

 

「そうですよ、九条さんがいないと宇田川さんとの意思疎通や練習メニュー等の決定が遅くなりますし、今井さんは気づいているかはわからないけどRoseliaの雰囲気を良くしているのはあなたよ。2人とも次からは必ず練習に参加してください。」

 

「氷川さん・・・」

 

「紗夜・・・うん、次からはちゃんと練習に参加するって約束するよ。」

 

「私は・・・2人がいると・・・安心して、練習できているんだなって・・・思いました。」

 

「どうしてそう思ったの?」

 

「私・・・今井さんが・・・いつも楽しそうに・・・演奏しているの・・・見るのが好きで・・・多分、みんなも・・・同じだと・・・思うんです・・・そして・・・九条さんが楽しそうに聞いて・・・アドバイスしてくれて・・・それに応じて音を磨く・・・今日はそれが無かったのが・・・みんな変な感じがして・・・」

 

「そっか・・・燐子、ありがとう。」

 

「・・・はい、ありがとうございます。」

 

「2人がいないことで、みんな2人のありがたみがわかったのよ。Roseliaには2人がいないと困る。」

 

「友希那・・・みんな・・・そんなにアタシのこと思ってくれてたなんて・・・」

 

リサがそう言って目頭を押さえる。

 

僕もこの言葉にかなりジーンときた。

 

無色で何も無い自分がここまで必要だと言われるとは思っていなかったからだ。

 

「あっ、リサ姉ちょっと泣いてる~」

 

「だって嬉しいんだもん!バイト中もずっと気になってたんだからね!みんなどんな練習してるかなって。アタシがいなくてもいつも通り練習してるのかなって思うとちょっと寂しかったの!」

 

「・・・はい、僕も嬉しいです。実は度々思うんです。僕なんかがここにいていいのかなって。僕なんかがいなくてもみんないつも通り練習してお互いを磨きあっていけるんじゃないかって。」

 

「そんな事・・・ないです!」

 

僕の発言に白金さんが大きな声で否定した。

 

「し、白金さん!?」

 

「そんな事ないです・・・九条さんがいつも自分なりに・・・努力しているのは知っているし・・・九条さんがいないと・・・それぞれが気がつけていないところも多々あります。だから・・・今のRoseliaがあるのは九条さんのお陰なんですっ!だから・・・その・・・自分がいてもいいのかなって思わないでください・・・」

 

白金さんがここまで大きな声を出したのは彼女がバンドに入った直後の時以来だ。

 

彼女に力説され、僕は目頭が熱くなった。

 

「・・・っ!す、すみません・・・その・・・ありがとう・・・ございます・・・」

 

「あっ、ソータ泣いてる~」

 

「リサも・・・さっきまで泣きそうだったじゃないですか・・・」

 

「そ、それは・・・アハハ・・・」

 

「とりあえず、今日は2人がいなければこんなことならなかったのにってことばかりだったわ。」

 

「そうだそうだ!」

 

「今井さんは自分が思っていたより影響力があることを、九条さんは白金さんが言ったように自分がいてもいいのかどうかなんて思わないでください。」

 

「私・・・2人にいて欲しいです・・・」

 

「みんな・・・よーし、すっごくやる気出てきた!次はちゃんと初めから参加するからね!」

 

「はい、次からはしっかり参加させてもらいます。」

 

話しているうちに注文したものが届く。

 

しかし届いたポテトの量が多く、みんなで分けて食べることになった。

 

リサから渡された砂糖を大量にコーヒーに突っ込んでいる友希那がこちらに話しかけた。

 

「そうだ奏多、あのこと忘れてないわよね。」

 

「あのこと・・・それは一体?」

 

「みんなの名前をしたの名前で呼ぶこと。」

 

「・・・あ。」

 

これまであった事で完全に忘れていた。

 

しかし友希那はこのことを忘れていなかったらしい。

 

「えっと・・・どうしてもですか?」

 

「どうしてもよ。」

 

「そうですよ!いつまで経っても宇田川さんじゃあなんか堅苦しいです!」

 

「私はどちらでも構いませんが協調性を保つならそっちの方がいいわね。」

 

「氷川さんがそれ言いますか・・・」

 

「私はいいのよ。それと氷川さんって呼んでますよ。」

 

とりあえずこの空気は逃れなれないと察した。

 

とりあえず下の名前で呼んでみる。

 

友希那の事だ恐らくさん付けもなしだろう。

 

「えっと・・・紗夜?」

 

「はい。」

 

「そして・・・あこ?」

 

「はい!」

 

「・・・燐子?」

 

「・・・はい。」

 

「奏多、なんで最初に下の名前を呼ぶ時は疑問形なの?」

 

「ソータ、そこ直さなきゃダメだよ~」

 

「は、はい・・・すみません。」

 

次からは3人のことを紗夜、あこ、燐子と呼ぶことになりそうだ。

 

「後はその敬語さえ直せればね・・・」

 

「ソータ、茂樹さんが言ってたことって・・・いや、何でもないよ。」

 

リサが話そうとしたことを途中でやめた。

 

その事は僕が触れてほしくないところだと察したのだろう。

 

「とりあえず敬語は徐々に直していくとして、次のライブそろそろでしょ?新曲どうするの?リズムは決まってるんでしょ?」

 

「ええ、けど今回の件でいい歌詞が思いついたわ。奏多、今回は私が曲名を付けるわ。それでもいい?」

 

「は、はいそれはいいですけど・・・」

 

「歌は私で今日中に何とかする。みんなはそれぞれの音を完璧に仕上げるように。」

 

「「「「はい!」」」」

 

新曲の設定の基礎も仕上がり僕達はポテトがなくなるまで雑談を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ当日

 

新曲も完成して音も完璧にできている。

 

今日のセットリストはLOUDER、シャルル、そしてラストに新曲だ。

 

新曲のMCの内容は全く聞かされていない。

 

最初のLOUDERと新しいカバー曲として採用したシャルルが終わり、MCが入った。

 

「・・・ありがとうございました。次で最後の曲です。この曲は私達にとってかけがえのない存在であるベースとマネージャーの事を思って完成させた曲です。それでは聴いてください、『陽だまりロードナイト』」

 

Roseliaの新たな曲、『陽だまりロードナイト』が始まった。

 

初めて聞いた時からこの曲は僕にとってかけがえのない曲になりつつある。

 

曲が2番に差し掛かった。

 

友希那の歌声が響く。

 

『~励ます魔法のように 囁いたの「みんながいれば 怖くないよ」!』

 

あれ?「みんながいれば」って所は本当は「あなたがいれば」のはず・・・

 

もしかしてわざと変えた?

 

この曲は聞く人に伝わるようにかけがえのない人を思っている歌詞になっているので二人称のあなたを使っている。

 

それをわざと三人称に変えたのはリサだけでなく僕のことも思ってのことだろうか。

 

そう思うとまた泣きそうになる。

 

曲も終盤に差し掛かり、そろそろ終わる頃だ。

 

僕は涙を拭い、みんなが帰ってくるのを待った。

 

 

 

 

 

Roseliaのメンバーとして、彼女達にとって大切な存在としてあり続けられるように。




陽だまりロードナイト編どうだったでしょうか?
最後の「みんながいれば怖くないよ」って所はYouTubeでバンドリちゃんねるで陽だまりロードナイトが上がっていた時にあったフレーズです。
いつも陽だまりロードナイトを聴いて思うのは「神曲、異論は認めん。」です(笑)

さて、次はお待ちかね水着イベ(トコナッツパーク編じゃないよ)です!
トコナッツパーク編はいつやるか不明ですが多分無灰世界で1年後かと・・・

とりあえず次の更新をお楽しみに!


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6章 ムショク ト ハイイロ ノ ナツヤスミ
27話 ムショク ト ウミ マヨウ ハイイロ


はい、この11月というくっそ寒くなっていく中無灰世界では水着イベです。
夏だ!海だ!水着だ!って感じではありますが現実世界でくっそ寒い中考えるのはまあまあ難しかったです(作者はめちゃくちゃ寒がりで登校する時は完全防具)
ンなわけでテンションは常夏!外は寒気という中新章始まります!


『夏』それは学生にとって夏休みという一大イベントの一つである。

 

バイトに追われるもの、部活で汗を流すもの、家でのんびりするものと色々あるが我らがRoseliaはこの暑い中絶賛練習中である。

 

しかし、いくらCIRCLEの冷房が聞いているとはいえ外は気温30度に近く、熱中症の危険性があるため少し練習時間を短くしている。(友希那には熱中症で倒れては元も子もないと言って言いくるめた。)

 

さらに週末は基本休みにさせてあるのでそれぞれのメンバーが思い思いの時間を過ごすことが出来るためそのリフレッシュ期間もあってかメンバーの実力は前よりかなり上がっている。

 

そしてある日、練習していてそろそろ終わろうとしている時だった。

 

「・・・あの、友希那さん。」

 

「どうしたのあこ?」

 

「なんか・・・暑くないですか?」

 

「あこちゃん・・・大丈夫?」

 

あこを見るとかなり汗をかいている。

 

よく見るとあこだけじゃなく、他のメンバーをいつも以上に汗をかいていた。

 

「と、とりあえず一回休憩挟みましょう。」

 

そう言って僕は全員分のタオルとスポーツドリンクを準備した。

 

「なんかいきなり暑くなったね・・・」

 

「もしかして冷房が壊れたのではないでしょうか。」

 

「ちょっとスタッフさんに聞いてみます。」

 

「ええ、頼むわよ奏多。」

 

僕はスタジオを出て受付の方へ向かった。

 

受付にはまりなさんがいた。

 

「あれ、奏多くんじゃん。どうしたの、練習は?」

 

「すみませんまりなさん、冷房の調子が悪いようで見てもらってもいいですか?」

 

「うん、わかった。」

 

そう言ってまりなさんは受付の人を他のスタッフさんに任せてみんながいるスタジオについてきてもらった。

 

 

 

 

 

 

まりなさんに見てもらっている中、僕達は作業の邪魔になってはいけないと思いCIRCLEの待合スペースでミーティングをしていた。

 

10分後にまりなさんが帰ってきた。

 

「まりなさん、どうでした?」

 

「うーん多分故障したんだと思う。あそこの冷房そろそろ古くなってきてたからね・・・」

 

どうやらこの暑さでオーバーヒートしてしまい故障してしまったらしい。

 

中を見ると回線が焼けていたそうだ。

 

冷房の修理には1週間もかかってしまうらしい。

 

「うーん・・・どうしよっか、Roseliaのみんなの予約は全部あそこのスタジオだったし・・・他のスタジオで空いている時間ないか見てくるよ。」

 

そう言ってまりなさんは受付の方に戻った。

 

流石にこの暑さの中で冷房なしで練習するのはもちろんきついがかといって冷房が直るまで練習できないのはもっときつい。

 

戻ってきたまりなさんによると次空いている時間は明後日の朝からだけらしい。

 

「友希那、どうしますか?」

 

「そうね・・・明日は各自自主練にするわ。それぞれ各パートの練習をしておくように。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それじゃあ解散ね、また明後日に。」

 

そう言って友希那は颯爽と帰っていった。

 

紗夜も後に続き帰っていく。CIRCLEには僕、リサ、燐子、あこの4人が残っていた。

 

「ねぇ、三人ともこのあと暇?」

 

「あこは大丈夫だよ!」

 

「私も・・・大丈夫です。」

 

「僕もこの後特に予定はありません。」

 

「それじゃあさ、今からショッピングモール行かない?この前新しいカフェが開いたみたいでさ~」

 

「あこ行きたい!りんりん行こっ!」

 

「えっと・・・うん、そうだね・・・行こっか。」

 

「良いですね、たまにはそういうところへ行っても。」

 

そう言って僕達は駅前近くのショッピングモールへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングモールへ着くと平日とあってか人は少なめだった。

 

「よかったですね、人が少なくて。」

 

「はい・・・これなら安心できます。」

 

「燐子~ソータ~早く行くよ~」

 

リサに急かされ、僕達はカフェへ向かった。

 

カフェに着くと甘い匂いが漂ってきた。

 

その匂いの正体は入るとすぐにわかった。

 

「うわぁ!ケーキがいっぱい!」

 

「すごい品揃えだね、ケーキ屋さんみたいだよ!」

 

「確かに・・・すごい・・・」

 

「・・・まじですか。」

 

その品ぞろえの凄さはケーキ屋顔負けの種類だった。

 

僕は無類の甘いもの好きなのでこういうのには目がない。

 

僕の様子の変化に気がついたのはリサだった。

 

「あれ、ソータどうしたの?いつもと様子違うけど・・・」

 

「もしかして奏多さん甘いもの好きだったりして!」

 

「そうには・・・思えないけど・・・」

 

「・・・!す、すみません・・・ぼーっとして何も聞いてませんでした。さっきは何を話していたんですか?」

 

「・・・ほんとに甘いもの好きみたい。」

 

「とりあえず・・・注文しましょうか。」

 

「うんっ!あこは何にしようかな~奏多さんはどうする?」

 

「あ、はい僕は・・・」

 

とりあえずカウンターで適当な数のケーキとコーヒーを注文する。

 

みんなのオーダーを聞くと全員がケーキ一つとドリンク一つという組み合わせだ。

 

やはりケーキ複数買いは異質なのだろうか。

 

「ソータ、早くしないと置いていくよ~」

 

「あ、はい待ってください!」

 

気がつけばみんな先に行っている。

 

カウンターで注文したものを貰い、お金を払ってからみんなを追いかけた。

 

「・・・ん?今あこ僕のこと奏多さんって言わなかった?」

 

僕があこの呼び方の変化に気がついたのは初めて呼ばれてから5分後のことだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・美味しかった!」

 

「はい・・・とっても美味しかったです。」

 

「そうですね、どのケーキも美味しかったです。」

 

「そ、ソータあの量全部食べたの?」

 

リサが若干引きつった笑顔で聞いてきた。

 

「はい、そうですけど・・・甘いものは別腹って言いませんか?」

 

「九条さん・・・それ女の子が言う台詞だと・・・思うんですけど。」

 

「奏多さんが甘いもの好きって意外だよね~」

 

「そんなに意外ですか?CIRCLEでもよく甘いもの食べてますけど・・・」

 

「いや、ソータっていったらアイスコーヒーのイメージしかなくてね~」

 

「はい・・・そんなイメージです。」

 

確かにコーヒーもよく飲むがそんなに甘いもの好きが意外なのだろうか。

 

僕がコーヒーを飲みながら考えていると

 

「あ、やっぱりリサ先輩と九条さんだ!」

 

という聞き覚えのある声がした。

 

声のした方向を向くとそこには上原さんがいた。

 

「あれ、ひまりじゃん。どうしたの?」

 

「はい、ショッピングモールによってぶらついてたらリサ先輩と九条さんの姿が見えたんで声をかけに来たんですよ。」

 

「そうですか。あ、上原さんこの2人とは初めてでしたよね、まず彼女が」

 

「白金・・・燐子です。よろしく・・・お願いします。」

 

「宇田川あこですっ!いつもおねーちゃんから話は聞いてます!」

 

「宇田川って巴の妹!?初めて見たよ!よろしく!あこちゃん、燐子さん!」

 

初めて会う3人が挨拶を交わす。

 

すると上原さんは思いついたように話し出した。

 

「そうだ!このメンバーで海行きませんか?実は他のメンバーが行けなくて誰と行くか考えていたところなんです!」

 

「海か!いいね、行こうよ!」

 

「あこも行きたい!ねぇ、りんりん、奏多さん一緒に行こうよ!」

 

「う、海・・・ですか。訳あってあまり行きたくはないですけど・・・」

 

海はある事情があってあまり行きたくはない。

 

別に泳げないって訳では無いがあまり人前に肌を晒したくないのだ。

 

「お願いですっ!女の子だけじゃ何があるかわかんないですし!」

 

「そうだよソータ!アタシ達に何かあったらバンドとして困るでしょ?」

 

「そ、そこまで言うなら・・・泳がなくていいのであれば行かせてもらいます。しかし・・・」

 

燐子を見るとかなり青ざめていた。

 

海はやはり人が多い上に色々と危険がある。

 

「う、海・・・む、ムリです・・・海、こわい・・・」

 

これは本当に怖がっている時の声だ。

 

無理に行かせるのもかわいそうだ。

 

「り、りんりん無理しなくていいよ!」

 

「あこちゃん・・・ごめん・・・」

 

「ううん。謝ることなんかないよ、気にしないで!りんりん、いつかぜーったい海に行こうね!」

 

「そうだ燐子!代わりに新しい水着を見てよ!燐子ならいい水着見つけてくれるだろうしさ!」

 

「え、その・・・」

 

「そうなんですか?確かに燐子さんそういうセンスありそう!」

 

「だってRoseliaの衣装担当はりんりんだもんね!」

 

「そ、それくらいなら・・・大丈夫です。」

 

「よーし!それじゃあ水着コーナーへレッツゴー!」

 

「「おー!」」

 

上原さん、リサ、あこの3人はノリノリだが白金さんはまだ少し怯えているし僕はこのノリについていけなくなっている。

 

その上男子1人に女子4人で水着コーナーとかめちゃくちゃ行きにくい。

 

「ぼ、僕は適当に本とか見に行くので・・・皆さんで水着見てきてください。」

 

「えー、奏多さんも一緒に行こーよ!」

 

「いや、その、女子4人の中に男子1人は流石に・・・」

 

「ほーら!ソータ行くよ~!」

 

リサに腕を引っ張られ、そのままカフェを出ようとする。

 

僕はこの後のほかの人の目線を浴びながら移動しなければならない事に覚悟を決め、なすがままに連れていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、リサと上原さんに連れていかれ振り回されクタクタになった僕は部屋に戻るなりベッドに倒れ込んだ。

 

行くのは今週末でまだ3日もあるのにノリノリではないだろうか。

 

ふと気分でパソコンを開くと通知が来ている。

 

通知の内容はNFOの通知だった。

 

どうやら夏限定のコラボカフェイベントで一部の海の家に行くと特別な装備のコードが貰えるそうだ。

 

装備は夏らしく麦わら帽子に向日葵などの夏らしいアクセサリーが着いたものだった。

 

性能は配布としては悪くなく、見た目も悪くない。

 

僕はどこで入手できるか調べてみるとなんと今度行く海にある海の家で入手できるようだ。

 

(燐子ならこの装備欲しそうだな・・・)

 

そう思ったがコードはもちろん一人一枚限定だ。

 

僕が代わりに二つもらうわけにも行かない。

 

(燐子来てくれるといいけど・・・)

 

僕は叶えそうにないことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

今日は何かと振り回されてとても疲れた。

 

海はあこちゃん達と一緒に行きたいという気持ちもあったがやはり人混みは苦手だ。

 

出来れば行きたくないがよく九条さんは行くって言ったものだ。

 

ここ最近、あの日のことをずっと疑問に思っている。

 

それはこの前九条さん達が一時的にいなかった時ファミレスでの九条さんの発言に大きな声で反応してしまったことだ。

 

あの時の九条さんの考えは間違っている。

 

同じメンバーとしてその考えを変えて欲しいと思ったから反論したが本当に『メンバーだから』ってだけだろうか。

 

初めは同じクラスメイトとして、そして同じNFOのプレイヤーとして、Roseliaのメンバーとして関わってきたが今の私は九条さんの事をどう思っているのだろうか。

 

ふとパソコンを見ると何やら通知が来ている。

 

あこちゃんとよくチャットをするのでパソコンの電源はつけたままだ。

 

私はその通知がNFOからのものであることを知るとすぐに確認した。

 

内容は夏限定の限定装備のコードの事で装備のデザインを見るととても可愛らしいものだった。

 

「手に入れたいな・・・どこでやるんだろ・・・」

 

NFOの通知をよく見ると開催場所のマップが乗っていた。

 

しかし、その場所は海の家だった。

 

「ここって今度九条さんやあこちゃん達が行くところ・・・」

 

しかも今度九条さん達が行く所だった。

 

限定装備は欲しいが海に行かないとコードが貰えないことに私はとても悩んだ。

 

するとふとあこちゃんの言ったことを思い出した。

 

『ううん。謝ることなんかないよ、気にしないで!りんりん、いつかぜーったい海に行こうね!』

 

あの時のあこちゃんの表情は笑っていたけど寂しそうだった。

 

あの表情はもう見たくないし、いざとなれば今井さんや九条さんがいる。

 

私は決意を固めた。

 

「あこちゃんに・・・連絡・・・しよう!」

 

私はあこちゃんに海に行くことを連絡した。

 

コードのために、何よりあこちゃんの笑顔のために。




はい、水着イベ最初はどうでしたか?
ネタバレ(?)になりますが奏多が素肌を見せたくないという所は後々の展開に大きく左右されます。
そのため沖縄編でも海に入れていません!
それとそろそろ『九条奏多を描いてみる』の企画が終わりそう・・・(あと色塗るだけ)
なお、奏多の髪色は銀色か灰色にしようかと思います。
完成まであと少しなので乞うご期待!


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28話 クジョウソウタ ノ サイナン

タイトルが斉木楠雄のΨ難みたいになった作者こと隠神カムイです。
前のイベントからはや2日、新イベまさかのRoseliaとは・・・前のイベントを8989位で終わらせて今回息抜きしようかと思ったらガチらなあかんやつや・・・
とっとと九条奏多を仕上げないといけない中、水着イベ本編始まります!


上原さん企画の海に行く日の全日、僕はあことショッピングモールに来ている。

 

しかし今日は2人だけではない。

 

僕達は今回のメインの人の付き添いとしてきている。

 

その人とは燐子のことだ。

 

 

 

 

 

 

遡ること二日前、NFOにカナタとしてログインしていた僕はあこと一緒に経験値稼ぎに出ていた。

 

今度コラボカフェのイベントの時にNFOの中でも限定イベントが行われるのだが、そのイベントの高難易度がかなり難しく設定されているらしく今のあこのレベルでは厳しいかもしれないということで経験値稼ぎに来たのだ。

 

高耐久だが経験値豊富なドワーフ型モンスターを相棒のルナのバフを受けながら愛剣「純銀剣クラレント」を振るいながら狩っていた時だった。

 

「あ、奏多さん、メール来たんでちょっとの間よろしくお願いします!」

 

「はい、わかりました。」

 

あこがメールのために戦線を外す。

 

すると驚いた声を上げた。

 

・・・と言ってもチャットのため驚いたようなチャットなのだが。

 

「あこ?どうしたんです?」

 

「やったよ奏多さん!りんりん海に来てくれるって!」

 

僕はそれを見た瞬間飲んでいたコーヒーを吹きかけた。

 

(なお操作は片手でおこなっていた)

 

咳き込みながらチャットを返す。

 

「本当ですか!?」

 

「うん!それで今度水着を選んでほしいって!」

 

「・・・それ、僕も行かなきゃダメですか?」

 

「もちろんですっ!同じメンバーとして、同じパーティとして絶対絶対絶対来てください!」

 

呑気にチャットを返しているとカナタの体力はいつの間にか3分の1になっていた。

 

「あ、あこ!?そろそろ戻ってきてくれませんか?体力がちょっとやばいです!」

 

「す、すみません!なら、わらわの特大魔法で消し飛ばしてくれるわ!」

 

そう言ってあこ姫のアバターは詠唱を始める。

 

確か死霊魔術師のあの魔法は味方も巻き込んだはず・・・

 

「ちょ、退避するので、待ってくだ」

 

「くらえ!『デス・ザ・クライシス・デンジャラスパーティ』!!」

 

すると地面から「ヴァハハハハァ!」と高笑いを上げながら大量の白色のゾンビらしきものがドワーフ達に絡んでいく。

 

それは僕の方にも来たので僕は全力で逃げる。

 

あのゾンビは出てきてから10秒後に大爆発を起こすのだ。

 

しかも1度捕まるとめちゃくちゃしつこく絡んでくる。

 

「あ、奏多さんいるの忘れてた!奏多さ~んすみません~!」

 

(ンなこと今更言われても!!)

 

僕はチャットを返す余裕がなくとりあえず逃げる。

 

するとカナタの後ろで大爆発が起こり、ドワーフ達がポリゴンとなって消えていった。

 

どうやら何とか逃げ切ったようだ。

 

「あ、危なかったぁ・・・」

 

「奏多さん大丈夫?」

 

「は、はい・・・次からは僕がいるのを覚えていてくれると助かります・・・」

 

そう言った後、空からルナが何事も無かったように肩に止まったのを見て僕はものすごく疲労感が湧いた。

 

 

 

 

 

・・・と、そんな感じで経験値を稼いだ後、燐子とメールで行く日にちを決め今日に至る訳である。

 

「りんりんよく行くって言ったよね。この前はあんな嫌がってたのに。」

 

「えっと・・・その・・・」

 

「とりあえず早く決めましょう。」

 

「うん!りんりんにぴったりなヤツ探すぞ~!」

 

あこはノリノリで走っていった。

 

「あ、ちょっと・・・あこちゃん!」

 

「走っていきましたね・・・」

 

「そ、そうですね・・・」

 

僕と燐子が取り残された。

 

僕はおそらく行く原因であるであろう事を聞いた。

 

「燐子、もしかしてNFOの限定コードの件で行く気に?」

 

「・・・はい、あの装備強いし・・・とても可愛かったので。」

 

「けど、無理はしないでくださいよ。緊張して楽しめなかったら元も子もないですし。」

 

僕は笑顔でそういったのだろうか。

 

燐子が僕の顔を見て微笑み返した。

 

「・・・はい。今日はよろしくお願いします。」

 

水着を選ぶセンスがあるかはわからないがとりあえず頑張ろうと思った。

 

すると気がつくと水着のコーナーの前に着いていた。

 

「奏多さんにりんりんおーそーいー!」

 

「すみません、遅くなりましたね。」

 

「・・・き、緊張するな。」

 

「大丈夫だよ!あこがめちゃくちゃカッコイイの探してあげるから!」

 

「ちょ、あこちゃん・・・引っ張らないで・・・こける・・・」

 

あこが燐子の手を引いてコーナーの中に入る。

 

「・・・やっぱり入りづらい。」

 

置いていかれた僕はまだ水着コーナーへ入る抵抗感を持ちながら2人を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

この前来た時もそうだが最近の水着はかなりレパートリーが多い。

 

ビキニやワンピース型に競泳用っぽいやつ、布面積の少ないものまで色々ある。

 

「ん~・・・ねぇ奏多さん、どれがいいと思う?」

 

「どれがって言われても・・・」

 

年頃の高校2年生に聞くことだろうか。

 

変に想像すると変態扱いされかねないのに。

 

「燐子だと・・・白と黒のイメージですね。」

 

「白と・・・黒ですか・・・」

 

「確かに!まずはそれで探してみよっ!」

 

とりあえず色のイメージを言ったがこのコーナーだけでも白黒の水着は多い。

 

これを片っ端から探すのだろうか・・・

 

「あこちゃん・・・私・・・できればワンピース型に・・・」

 

「うん、わかった。それでさがそ!」

 

燐子が水着の型を選んでくれたのでだいぶ探しやすくなった。

 

「・・・これ僕いるの?」

 

ここに来てからずっと思っていることをまた思いながら僕は2人の水着探しに付き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

探し始めて30分後、燐子がレジから戻ってきた。

 

「燐子、いい水着が見つかったんですか?」

 

「はい・・・なんとか・・・」

 

「どんなものを選んだんです?」

 

「はい、それは・・・」

 

燐子が紙袋の中から出そうとした時だった。

 

「ダメ~!」

 

あこが止めに入った。

 

「あ、あこちゃん!?」

 

「りんりん、そういうのは海に行ってからのお楽しみってやつだよ!」

 

「で、でも・・・」

 

「奏多さんも!それでいいよね!」

 

「え、えっと・・・その・・・は、はい。」

 

あこの発言に押され、僕はそう返事した。

 

「うん、それでよし。すべては審判の時に明かされるであろう・・・」

 

燐子の水着を後回しにされ、僕はポリポリと頭をかいた。

 

実は2日前、リサや上原さん、あこにも同じ行動を取られているので僕は4人がどんな水着を選んだかを見ていない。

 

そういうのも海に行く楽しみなのだろうか。

 

今まで友人と何かをしたことが全然ないので全くわからない。

 

「えっと・・・今日はありがとうございます。」

 

「いえ、今日に至ってはほとんどあこが決めてましたし僕は何も。」

 

「明日・・・よろしくお願いします。」

 

「うん、みんなで海めいっぱいに楽しもー!」

 

「はい、また明日。」

 

僕はこの後バイトに行くので2人とはここで別れてコンビニへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

いつものコンビニについて制服に着替え、青葉さんとレジに立っているがコンビニ内はすごく空いていた。

 

この前のソフトボール軍団があってか最近は人が少し多くても対応できるようにはなってきた。

 

「九条さん九条さん。」

 

暇だったのか青葉さんが話しかけてきた。

 

「はい、なんでしょうか。」

 

「今度リサさんとひーちゃん達とで海行くらしいですね~」

 

「そうです、と言っても僕は付き添いなんですけどね。」

 

「ひーちゃんずっとあたし達に海行こうって言ってたんですけど、ともちんは祭りの打ち合わせでつぐは用事、蘭はバイトであたしは白いお肌がこげるのと暑さで溶けちゃうのが嫌なんで断ったんです~」

 

おい、ほかの3人は仕方ないとして青葉さんの断り方酷くないか。

 

「それで~九条さんは誰が好みなんです?」

 

青葉さんに唐突にそう言われ思考がフリーズした。そしてすぐに冷静になってゆっくり否定した。

 

「そんな、誰が好きだからって理由でついて行くんじゃないんです。上原さんやリサに『女の子だけじゃ不安』って言われたんで・・・」

 

「でも、それだけで行くもんなんです?」

 

「どうせその日は練習もなくて暇だったのとたまには違う場所に行ってみたいと思って。」

 

「あとはともちんの妹のあこちゃんと白金さんでしたっけ~?」

 

「はい、白金さんは最初断ったんですけどあることがあって行くって言ってくれたんです。」

 

「そ〜なんですか。」

 

青葉さんが少し興味無さそうに返す。

 

後日聞いたが、リサ曰く、青葉さんは「興味無い事はとことん興味無いが興味あることはすごく本気になるタイプ」らしい。

 

興味無さそうだったことをスルーして僕は話を続けた。

 

「それでみんなの水着を選びに行ったんですけど・・・」

 

「それ九条さんが全員分決めたんですか?」

 

「いえ、僕は振り回されただけで結局全員見せてくれなかったんですよ。」

 

「ああ、わかります~女の子ってそういうの良くやりますから~」

 

やはり女子ってそういうものなのか・・・やはり昔から女性ってよくわからない。

 

「あ、そろそろシフト上がりますね~」

 

「そうですね、もうこんな時間ですか。」

 

「あたしは先に帰りますけど~うちのひーちゃんをよろしくお願いします~」

 

「は、はい、わかりました。」

 

青葉さんに上原さんの親みたいな言い方をされ少し困惑したがすぐに返す。

 

今更ながらリサに鍛えられて成長している感はある。

 

着替えて外に出ると空は夕焼け模様だ。

 

「綺麗だな・・・」

 

日が沈み、夕暮れが夜へ移り変わり周りが暗くなる瞬間。

 

僕はそのタイミングが好きだ。

 

BLACK SHOUTが生まれた時間でもあるがそれ以上に色の移り変わりが激しく心を揺らす。

 

ほかの人からしたら当たり前なことでも色の無い僕にとってはその移り変わりがすごく響く。

 

(明日はどんな色が見られるだろうか。)

 

僕はそう思いながら自分の帰宅路へ向かった。




久々にルナ出したな・・・
次はついに海へ向かって4人が水着に着替えます。
その時奏多はどんな反応をするのか・・・お楽しみに!

あと『デス・ザ・クライシス・デンジャラスパーティ』の元ネタは無論、社長で神で今は王様のあの人です(笑)(デーンジャデーンジャ!ジェノサイド!デスザクライシスデンジャラスゾンビィ!ウォォォ!)


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29話 ウミ ト ミズギ ト アワテル ムショク

やべぇ・・・奏多の色塗ってねぇ・・・と慌てる隠神カムイです。
ほんとに次出すんで・・・それまで待ってくだせぇ・・・ってことで絶賛九条奏多を描いている途中であります。
これで将来大丈夫かねぇ・・・

そんな作者の心配は置いといてくっそ寒くなってきた今無灰世界で海行くってよ


上原さん企画の海に行く日当日。

 

僕は集合時間の20分前に駅前に到着していた。

 

海に行くということで水分補給用の塩分タブレットや日焼け止めクリーム、着替えにもしものための緊急用の包帯や医療用キットなど色々持ってきている。

 

僕はかなり心配性のためこういう物はいつも準備してあるのだが親父にはいつも『やりすぎ、もうちょっと少なめでいい』とよく言われる。

 

そこまでやりずきているのだろうか。

 

とりあえず待つこと5分、まずは上原さんとリサが来た。

 

「あ、九条さん!おはようございます!」

 

「おはよーソータ・・・って何その荷物!?」

 

「おはようございます。この荷物がどうかしました?」

 

「いや、そん中何入ってんの?」

 

「確かにすごい量ですね・・・」

 

「えっと熱中症予防の塩分タブレットやタオル数枚、着替えに日焼け止めクリームに緊急用の包帯やら何やら色々入ってます。」

 

「それ重くないの?災害避難用の持ち物じゃないんだし・・・」

 

「正直少し重いです。けどこういうのを持っておいた方が色々対応できるんで。」

 

「九条さんすごい心配性ですね・・・」

 

やはりやりすぎなのだろうか。

 

次からは少し減らした方がよさそうだ。

 

そうこう話しているとあこと燐子が来た。

 

「上原さん、今井さん、九条さん・・・おはようございます。」

 

「おはようございます!・・・って奏多さんその荷物何!?」

「ほーらやっぱりやりすぎなんだって!」

 

「・・・次から自重します。」

 

「よーし、これで全員揃いましたね!それじゃあ出発しましょう!」

 

「おー!」

 

そう言って上原さんとリサが改札へ向かう。

 

「僕達も行きましょうか。」

 

「はい・・・そうですね・・・」

 

燐子が返事を返すがやはり緊張しているようだ。

 

肩にすごく力が入っている。

 

するとあこが燐子に笑顔で話しかけた。

 

「りーんりん!今日は一緒に行ってくれてありがとう!今日は思いっきり楽しも!」

 

「あこちゃん・・・うん、そうだね。」

 

あこのお陰で肩の力が抜けたようだ。

 

それに僕はほっとした。

 

「おーい、早くしないと置いていくよー!」

 

「りんりん、奏多さん行こっ!」

 

「・・・うん、行こっか。」

 

「そうですね、行きましょう。」

 

僕達は目的地である海のある隣町へ向かうため改札を通り、電車に乗った。

 

電車には女子4人が向かい合う形で座り、僕は隣の席で通路を挟んで話していた。

 

隣街の海の近くの駅は結構遠く、急行に乗っても6駅ほど乗っていなければならない。

 

しかし、最近のバンドの近況やこれから何をするかなどを話しているうちに目的の駅に近づいていた。

 

トンネルを抜けると窓の外には海が見えた。

 

「うわぁ!すっご~い!」

 

「綺麗・・・」

 

「ホントすごいね!」

 

「すごく綺麗!写真写真~」

 

「すごく青い・・・」

 

海の青さに僕は心を打たれる。

 

海に来るのは本当に久々だ。

 

一番最後に来たのはまだ母親が親父と別れていなかった頃なのだがその頃の記憶が全然思い出せないし正直思い出したくない。

 

僕は頭を降って嫌なことを忘れ、これから行く海に柄でもなく心を踊らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

女子が着替えている中、僕は受付で借りたビーチパラソルと持参のブルーシートをひいて準備していた。

 

一応僕と荷物を置くために引いているのだが更衣室には鍵付きのロッカーがある。

 

しかし財布を取りに来たり、色々取り出す時に戻るのが面倒だということで海に来ても泳がない僕が一括管理をすることになった。

 

まだ女子が更衣室から帰ってこないので僕はパラソルの下で本を読んでいた。

 

しかしいくら日陰とはいえ暑さで汗が出てくる。

 

持ってきたタオルと塩分タブレットを取り出そうとカバンを漁ろうとした時だった。

 

「九条さんお待たせしました!」

 

その声は上原さんだろうか。

 

返事を返そうと声のする方に振り向いた。

 

「はい、荷物はこちら・・・に・・・」

 

後ろを見るとそこには当たり前だが水着の上原さんがいた。

 

どうやら上原さんはピンクのビキニにしたようだ。

 

そのため白い素肌や体型がしっかりわかってしまう。

 

しかも振り向いた時に上原さんは前かがみになっていたので大きな胸が強調されている。

 

女子の露出に慣れていない僕はおそらくすごく顔を赤くしているだろう。

 

そんな頭がごちゃごちゃになってきた時に追い討ちをかけるようにリサが来た。

 

「おっ待たせ~!いや~久々の水着に着替えるの苦労しちゃって。」

 

「リサ先輩!その水着とても可愛いです!」

 

「そう?ひまりも可愛いよ!ソータはどう思う?」

 

「い、いや・・・あの・・・その・・・と、とても・・・大人っぽく・・・」

 

リサの水着も同じビキニタイプだがこちらは色々と装飾が付いていてリサのギャルっぽさをとても強調している。

 

しかもスタイルがいいせいかとても大人っぽく見えて、いつも接しているリサとはまたイメージが違って見える。

 

「ええ~それっていつもは子供っぽいってこと?」

 

「い、いえ・・・そういう訳では・・・」

 

「あとはあこちゃんと燐子さんだけですね。」

 

こんなに頭がオーバーヒート寸前なのにまだ2人いるのか・・・その時聞き覚えのある中二病臭いセリフが聞こえた。

 

「ふっふっふ・・・わらわを呼ぶのは貴様たちか!」

 

「そ、その声は・・・!」

 

「え、リサ先輩?いきなりどうしたんです?」

 

「これがあこの水着姿である!」

 

どーんと言った掛け声とともにあこが僕達の前に現れる。

 

あこは紫色の水着にしたらしく編上げの入ったデザインとなっている。

 

しかしいつもと着ているデザインが変わっていからかまた別の原因があるのかわからないがあこをみると何故かほっとした。

 

「あとは燐子さんだけだけど・・・」

 

「あこ、燐子は?」

 

「りんりんなら多分そこに隠れてるよ。おーいりんりーん!」

 

そう言ってあこは更衣室方面へ走っていったと思ったらおそらく燐子であろう人影を引っ張ってきた。

 

確か白黒のワンピース型にしたと言っていたので露出は少ないだろう。

 

おそらくこの2人よりかはびっくりしないはず・・・

 

「じゃーん!これがりんりんの水着姿である!」

 

「あ、あこちゃん・・・恥ずかしいよ・・・」

 

・・・前言撤回、隠した方がやばい。

 

まさか燐子がここまでスタイルが良いとは思わなかった。

 

いつも着ている服ではわかりにくかったが水着を着るとここまで凶暴性が増すとは思わなかった。

 

水着は胸の中心に白色のリボンが付いて所々白のラインが入った水着なのだがその胸の大きさやスタイルの良さなどでとても映えている。

 

燐子の登場にビキニ2人組も絶句していた。

 

「あの・・・どこかおかしいですか?」

 

「いや・・・燐子って・・・脱ぐとすごいね。」

 

「・・・え!?それは・・・どういう・・・」

 

リサのその発言に燐子がめちゃくちゃ顔を赤くする。

 

それに畳み掛けるように上原さんが続く。

 

「初めて会った時から燐子さんスタイルいいなって思ってたけどここまでとは・・・いいな~私も燐子さんみたいになりたい!」

 

「スタイルよく・・・ない・・・ですよ。」

 

「ねー奏多さんはどう思う?りんりんの水着。」

 

「え!・・・あの・・・その・・・」

 

僕に話がふられ全員が一斉にこちらを向く。

 

燐子はずっと顔を赤らめている。

 

そんな中燐子が話しかける。

 

「その・・・似合って・・・ますか?」

 

その言葉にボン!って音とともに僕の意識は闇へ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

水着に着替えたはいいがやはり人前だと恥ずかしい。

 

いつもは胸を少しキツめに締めているように作った服も今はすべてカバンの中だ。

 

しかも水着はしっかりフィットするのでいつもとなれない感触に困惑する。

 

するとあこちゃんが私を見つけた。

 

「あ、いた!りんりん、奏多さん達待ってるよ。早く行こっ!」

 

「あ、あこちゃん・・・引っ張らないで・・・転んじゃう・・・」

 

そう言ってもあこちゃんは構わず腕を引っ張ってみんなの所へ引っ張っていく。

 

すると今井さんがこちらに気づいたようだ。

 

「キタキタ、おーい!燐子・・・」

 

「あ、燐子さ・・・ん・・・」

 

私を見ると2人ともフリーズしたように固まっていた。

 

「じゃーん!これがりんりんの水着姿である!」

 

「あ、あこちゃん・・・恥ずかしいよ・・・」

 

九条さんを見るととても顔を赤くしている。

 

暑さの影響なのかなにかほかに原因があるのかわからない。

 

「あの・・・どこかおかしいですか?」

 

そう言うと今井さんがフリーズが溶けたようで話し出した。

 

しかし開口一番に言ったのは思ってもないセリフだった。

 

「いや・・・燐子って・・・脱ぐとすごいね。」

 

「・・・え!?」

 

そう言われて私の顔が自分でもわかるぐらい赤くなる。

 

「それは・・・どういう・・・」

 

今井さんに聞こうとすると上原さんが続けて話しかけてきた。

 

「初めて会った時から燐子さんスタイルいいなって思ってたけどここまでとは・・・いいな~私も燐子さんみたいになりたい!」

 

そんなにスタイルなんて服を作る時以外気にしていなかったので困惑してくる。

 

「スタイルよく・・・ない・・・ですよ。」

 

とりあえず否定したがあまり効果はないだろう。

 

するとあこちゃんは残る1人に話を降った。

 

「ねー奏多さんはどう思う?りんりんの水着。」

 

「え!・・・あの・・・その・・・」

 

九条さんは顔を赤くしながらあわてたように返す。

 

視線が九条さんに集まる中、九条さんがこちらを見ている。

 

何も言わないのは失礼かもしれないのでとりあえず話してみた。

 

「その・・・似合って・・・ますか?」

 

すると九条さんは顔から湯気が上がるほど赤くなった後ボンっ!と音とともに後ろに倒れた。

 

「ちょっとソータ!?」

 

「九条さん!?」

 

「奏多さん!?」

 

「く、九条さん!」

 

全員が急いで九条さんの周りに集まる。

 

九条さんは顔を赤くして目を回しながら鼻血を出して気絶していた。

 

今井さんが揺すっても反応がない。

 

「あちゃー・・・ソータには刺激が強すぎたかな~」

 

「リサ先輩、それってどういう事ですか?」

 

「いや、ソータって女の子の耐性がめちゃくちゃ薄くてさ、この前コンビニで雑誌を整理していた時に水着特集が表紙の雑誌でめちゃくちゃ顔赤くしててさ~」

 

そう言いながら今井さんは笑っている。

 

このまま放っておく理由にもいかないので九条さんが目覚めるまで待った。

 

 

 

 

そして九条さんが起きたのは倒れてから10分後の事だった。




はい、設定資料集でも言ったように奏多はめちゃくちゃ耐性薄いです(笑)
てか初めての水着イベの時にまだノーマルしか出来なかった未熟な頃の僕が水着燐子欲しいがためにがむしゃらに頑張った頃を思い出した。
懐い・・・
そんな訳で早く奏多を描き終わらせるので次回までおまちくだせぇ!それでは!


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30話 ムショク ト ウミ ト フワフワピンク

や、やっと奏多出来た・・・
お待たせしました!『九条奏多を描いてみる』計画終了です!


【挿絵表示】


絵の上手い下手は置いといてやりきった感とやはり白黒すぎた感もあるけど作者は満足してます!

ということで本編始まります!


「んっ・・・」

 

なんだろう・・・頭がクラクラする。

 

僕は今まで何をしていた?

 

僕は今までの事を振り返ってみた。

 

(確か海に来てブルーシートとパラソルを設置して満足していたのは覚えている。その後確か・・・)

 

そこまで来て僕はある異変に気づく。

 

目の前が真っ暗で手足に力が入らない。

 

周りの音は微かに聞こえるぐらいだ。

 

(あれ・・・なんで倒れてんだ?熱中症?いや、そんなはずは・・・)

 

何とか指を動かすとガシャと音が鳴る。

 

恐らくブルーシートの音だろう。

 

ということはまだ海にいて病院ではなさそうだ。

 

すると声が聞こえた。

 

「・・・九条さんどうします?」

 

「このままだと・・・熱中症の危険が・・・」

 

「どうするリサ姉?」

 

「う~ん・・・海の水でもぶっかけてみる?ちょっと待ってて~」

 

今なんかやばいこと言わなかった?

 

そう思った瞬間意識がはっきりしだして体に力が入る。

 

ガバッと僕は勢いよく起きた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・僕は・・・一体・・・」

 

「あ、九条さん起きた!」

 

「よ、よかった・・・」

 

隣を見ると上原さんと燐子が安堵したように隣に座っていた。

 

顔、特に鼻の部分に違和感を感じ触ってみると両鼻にティッシュが詰められている。

 

通りで息がしづらいはずだ。

 

「これは・・・一体?」

 

すると2人に変わってあこが説明を始めた。

 

「奏多さんがみんなの水着を見たあとにりんりんが話しかけたら鼻血出して気絶したんです!みんな心配したんだから~」

 

今更だが雑誌の表紙の水着の女性で顔が赤くなる僕が海に来るとこうなるのを予想出来なかったのは何故だろうか。

 

すると水をいっぱい入れたビニール袋を持ったリサが帰ってきた。

 

「あ、ソータ起きたんだ~せっかく汲んできたのに・・・」

 

「辞めてもらえます!?」

 

リサの危うい行動に全力でツッコミを入れる。

 

まだ体に力が入りにくいのと鼻が塞がれているせいですぐに息が上がってしまう。

 

「ソータ大丈夫?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・大丈夫です。すみません、僕が迷惑かけて。」

 

「大丈夫ですよ!それじゃあ九条さんも起きたことだし!」

 

「海行こっか!」

 

女子がキャッキャ言って海に入っていった。

 

しかし燐子は海に行かず僕の隣に座った。

 

「燐子は入らないんですか?」

 

「私・・・泳ぐの苦手で・・・みんなが楽しそうにする姿見るの・・・好きだから・・・」

 

そう言って燐子は自分のカバンから薄い上着を取り出して羽織った。

 

さっき水着を見ただけでぶっ倒れた僕からしたら正直有難い。

 

「九条さんは・・・なぜ泳がないんですか?」

 

「いや・・・色々ありまして。」

 

燐子の質問に曖昧に返す。

 

燐子は不思議そうな顔をしながらもそれ以上聞かないでくれた。

 

とりあえず僕はカバンの中からタブレットを取り出した。

 

本当はもっと本を持ってこようかと思ったが潮風で傷んでしまう可能性があるので昔親父が買ったはいいものの使い方がわからないという理由で置いていった防水(しかも海水も平気)のタブレットを引っ張り出してきたのだ。

 

「九条さん・・・それは?」

 

「防水のタブレットです。本当はもう少し本を持ってこようかと思ったんですけど濡れるのと潮風が怖くてこちらを持ってきたんです。」

 

燐子が興味津々にタブレットをのぞき込む。すると肩と肩がぶつかった。

 

「ヒャッ!」

 

「わっ!」

 

お互いビックリして距離を開ける。

 

お互い何があったかわかってなく見つめあっていたがいきなり弦が切れたみたいに笑い合う。

 

するとタイミングが良いのか悪いのか海に行っていたメンバーが帰ってきた。

 

「あれ?りんりんと奏多さんどうしたの?」

 

「何か面白いことでもあったんですか?」

 

「あれ~?もしかしてお邪魔だった?」

 

「「ち、違いますっ!」」

 

最後のリサの発言に僕と燐子が否定しようとしたら偶然声が重なる。

 

リサはそれが可笑しかったみたいで笑い出した。

 

上原さんはリサの発言にキャーキャー言っているが1人理解出来ていないのかあこはポカンとしている。

 

「リサ・・・そんなに笑うことですか。」

 

「い、いや~ソータも燐子も顔赤くしちゃって。それにハモったから可笑しくってさ・・・」

 

燐子は顔を赤くして下を向いている。

 

リサにこれだけ言われたら流石に恥ずかしくなるだろう。

 

僕はとりあえず平然と返す事にした。

 

「と、とにかくリサ達はどうしたんです?別にこれが気になったわけでもないですよね。」

 

「ああ、そろそろお昼近いしご飯食べに行かない?って誘いに来たんだよ。あとはそのための財布とか色々取りに来た。」

 

「確かあそこに海の家ありましたよね。そこで食べましょうよ!」

 

上原さんが指す海の家とはおそらくNFOのコラボカフェの会場の店だろう。

 

上原さんの発言にさっきから下を向いていた燐子がピクッと反応した。

 

「いいねひーちゃん!りんりんも行こっ!」

 

「そうだね・・・行こっか。」

 

ということで僕達は昼ごはんを食べに海の家へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

海の家に着くとそこにはたくさんの人が列を作っていた。

 

「人でいっぱいですね・・・」

 

「あちゃ~やっぱりお昼時は混むな~」

 

「ひ、人・・・いっぱい・・・」

 

「やばい!りんりんのいつもの発作が!」

 

「り、燐子!落ち着いてください!」

 

燐子が顔を青くしだしたので僕とあこで全力でなだめていると聞き覚えのある声がした。

 

「いらっしゃいませ~!まん丸お山に彩りを!パステルパレットボーカルの丸山彩ですっ!本日はNFO特別コラボカフェへようこそ!限定ドリンクやゲームのアイテムをモチーフとした色んなメニューがたっくさんあるので皆さん楽しんでくださいね!」

 

声の主は丸山さんだった。

 

しかもテレビで見るパスパレの時の格好のような水着を来ているのでおそらく仕事関連だろう。

 

他のみんなも気づき、丸山さんに声をかけに行くことにした。

 

「彩さん!こんにちは~!」

 

「あれ、ひまりちゃん!それに・・・あこちゃんとリサちゃんに燐子ちゃんと奏多君まで!?なになにみんなどうしたの?」

 

「彩は仕事?ってそのネームプレート・・・『一日店長』!?」

 

「えへへ、そうなの!今回のコラボカフェで、この海の家の一日店長を任された丸山彩でーっす!みんなよろしく!」

 

まさかこんな偶然があるとは思わなかった。

 

道理で異様に人が多いわけだ。

 

「すごい!あや先輩が店長さんなんだ!だから、こんなにたーっくさんお客さんが来てるんだね!」

 

「そ、そうなのかな?えへへ、だったら嬉しいな・・・あ、でもコラボしているゲームの人気も凄いみたいだよ。ほら、見て。お客さん、みーんな展示の写真撮ってるでしょ?」

 

ネット情報ではゲームキャラが水着になったりカフェの壁紙がNFOの海ステージっぽくなっているらしい。

 

しかし来てみるとそれだけではなく再現された実物の装備やなんとキャラのラフ画まであった。

 

「あっ!このゲームあことりんりんと九条さんもやってる!九条さんはRoseliaに入ってからだけどあことりんりんはリリースの時からずっとパーティ組んでてねっ、それでね!」

 

すると店の奥から人が出てくる。

 

店の店員さんだろうか?

 

「彩ちゃん、彩ちゃーん!悪ぃまたホール手伝って欲しいんだが・・・」

 

店の奥から出てきたのはなんと沖縄で会った店長さんだった。

 

「お、沖縄の店長さん!?」

 

「お、誰かと思えば坊主じゃねぇか!それにベースの嬢ちゃんとキーボードの嬢ちゃんも久しぶり!」

 

「どうして沖縄にいた店長さんがこっちに!?」

 

「いやぁこの店の店長は俺の親友でよ!コラボカフェするのに人手足りねぇからって呼び出されたんだよ!けどまさか坊主達に出会えるとはな!」

 

日本って狭いな・・・

 

そんなことを考えていると店長さんが思いついたように提案してきた。

 

「そうだ!坊主達悪いけど店を手伝ってくれねぇか?」

 

「あ、アタシ達がですか?」

 

「ああ、頼めねぇか?今日彩ちゃん来るの知っていたかみたいに人が多くて人手が足りなくてよ・・・」

 

「私たちに出来ることならお手伝いしたいですけど・・・」

 

上原さんが悩む。

 

確かに今日はお客さんとして来ている訳だし手伝おうにも作業がわからない。

 

「そんなに難しい事じゃねぇ、基本的にはスタッフを手伝ってもらえればいいからよ・・・頼む!この通りだ!」

 

店長さんが深々と頭を下げる。

 

僕でもこの人の量はやばいと思う。

 

この前のソフトボール軍団の3倍はあるのではないか。

 

それを数少ないスタッフで賄おうというのは流石に無理があると思う。

 

しかもここまで頼まれているのだ、断ることなんてできない。

 

「・・・わかりました、任せてください!ここまで頼まれたら断れないよね!」

 

「はい、私も手伝います!料理とかは無理でも接客やホールぐらいなら出来ると思います!」

 

「僕もやります。バイトでこういうのは慣れているし料理もレシピさえわかれば出来ると思います。」

 

「あこも手伝う!お店で働くのなんで初めてだから、楽しそう!りんりんも一緒にやろー!」

 

「わ、私・・・裏方なら・・・出来ると・・・」

 

「ありがと!それじゃあよろしく頼むよ!」

 

そう言って店長はあらかじめ手伝ってくれるのをわかっていたかのように仕事を振り分けていく。

 

その結果、あこと上原さんと丸山さんがホールと接客で、僕と燐子とリサが裏方で料理をすることになった。

 

「それじゃあ頑張るよ!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

丸山さんの掛け声にみんなで答える。

 

僕達の海改め、僕達の海の家での手伝いとなった今、僕は与えられた仕事を頑張ることにした。




久々に登場沖縄の店長さん。
少々強引な出し方だけどこの人のキャラ好きなんで出てもらいました。(キャライメージはFateのクーフーリン)
次でラストかな?って所なんで水着イベ編の後の流れを大体作っている所です。っていうかそもそもここを大切なポイントにしようと思ってたので考えるのは楽。
次回もお楽しみに!


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31話 ウミ ト シゴト ト ユウヤケ ト

疲れてようが何であろうが極力投稿日にはあげるように頑張る隠神カムイです。
なんかこの前リアルの友人が小説オススメサイトかなんかで僕の小説見つけたらしいんすけど週4投稿とかいう馬鹿みたいにやっているせいでニートか何かの扱いされてたけどちゃんとした高校2年生の男子ですからね!?
クラブとか色々やってるけど空いた時間に小説の設定考えたりしてるからこんなこと出来るんです!(しかし勉強してるとは言ってない)
けどたまに9時ぐらいから突発的にやってる時もある。
そんな作者の制作事情や正体事情は置いといて水着イベ編ラストです。
冬場の今、夏のことやってるのなんか変な感じしてるけどお楽しみください。
それでは本編どうぞ!


店長に頼まれて店の手伝いをすることになった僕達は2つのグループに別れて手伝うことになった。

 

僕とリサは一番大変な厨房スペースを任されている。

 

なぜなら料理出来るのがリサと僕しかいなかったからだ。

 

今回のコラボカフェはドリンクがメインなので作るメニューはいつもの海の家のメニューでいいらしいのだが夏場の厨房だ、めちゃくちゃ暑い。

 

この暑さのせいで何人かのスタッフがバテてしまっているようだ。

 

しかしタフなリサはそんな暑さお構い無しに準備に取り掛かっていた。

 

「流石お店、調理器具が多いね~」

 

「そうですね。って言うかリサ料理できたんですか?」

 

「こう見えてアタシ結構やるよ?趣味とかで大体の料理作ったし。ソータは?」

 

「僕は今一人暮らししてるのと親父が料理出来なかったんで自然と身につきました。流石に毎日弁当とか買うのはお財布に厳しいですしね。」

 

「確かにそうだったね~」

 

「あ、あの・・・私はどうすれば・・・」

 

後ろで燐子が困ったように話しかける。

 

そう言えば燐子も調理場担当だったっけ。

 

「それじゃあ燐子はドリンク頼めますか?」

 

「ドリンク・・・ですか?」

 

「ドリンクならアタシも手伝うけど。」

 

僕はリサにメニュー表を突きつける。

 

するとリサは困惑していた。

 

「ど、ドリアードの涙?ま、マリカスの炎?な、なに・・・それ?」

 

「燐子はわかりますよね。」

 

「はい・・・おそらくこれと・・・これです。」

 

そう言って燐子は見本の写真を指差す。

 

緑のメロンソーダがドリアードの涙で赤のイチゴフロートがマリカスの炎だ。

 

「な、なんでわかったの?」

 

「ドリアードの涙は・・・ゲームだと・・・緑の回復アイテムですし・・・マリカスの炎は・・・使うと一定時間炎属性を付与できるドリンクなんで・・・」

 

「これ多分ゲームやってないとわからないと思います。僕と燐子とあこはこのゲームやっているのでわかりますが。」

 

「なるほど・・・だったら燐子頼むよ!」

 

「は、はい!」

 

「手が空いたら僕も手伝いますので。」

 

ドリンクを燐子に任せ、僕とリサは厨房に立った。

 

担当としては麺類はリサに任せ、僕は揚げ物や他の物を担当することになった。

 

「リサさん、ラーメン2つに焼きそば1つですっ!」

 

「奏多くん、カレー1つにポテト3つお願い!」

 

「りんりん、ドリアードの涙と解毒ポーション!」

 

流石お昼時、注文が多い。

 

カレーは温めるだけでなんとかなりそうだが問題はポテトだ。

 

揚げても揚げても時間が足りず、すぐに注文が入る。

 

ポテトを揚げている間にカレーやサンドイッチを作り、即座にカウンターへ。

 

ポテトが揚がるとすぐに新しいポテトを油の中へ突っ込んで揚がったポテトをさらに盛り付ける。

 

1回揚げるだけで7皿ほどに分けることが出来るがそれでも足りない。

 

ポテト頼む人多すぎだろ。

 

「ソータ!そっちどう?」

 

「ポテト地獄ですっ!そっちは?」

 

「店の人と協力してるけど焼きそばがすごい勢いで注文くる!」

 

え、あっちだけ手伝いいるのせこくないか?

 

「出来ればこっちも手伝いが欲しいです!」

 

「うん、無理そう!ソータ頑張って!」

 

即答で断られた。

 

あの声からしてリサが燃えている様だがいかんせん注文が多すぎる。

 

汗を流しながらテキパキと進めていると頼もしい声がした。

 

「おい坊主!大丈夫か?」

 

「て、店長さん!」

 

「流石にきついだろ!俺も手伝うわ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「この山乗り切ったら休んでいいからよ!それまで頑張ってくれ!」

 

店長が手伝ってくれることに感謝し、僕は最期までやり切ろうと決意した。

 

時々揚げ物スペースを店長に任せ、燐子の手伝いに行きながらなんとかお昼時を脱した。

 

 

 

 

 

 

 

「ご来店ありがとうございました~!」

 

「ふぅ・・・あれで最後のお客さんだね。くぅ~!アタシ達頑張ったぁ!」

 

「お疲れ・・・様でした。」

 

「つ、疲れた・・・」

 

最後のお客さんが帰っていった。

 

お昼時を脱してからも僕達は手伝いを続け、結局はコラボカフェの閉店時間の3時半まで手伝い続けた。

 

あの後お昼時を脱してからもポテトの売上がやばかったのと揚げ物の他にお好み焼きやクレープなどをやったため終わった瞬間疲労感がどっと来た。

 

「みんな、ありがとな!結局最後まで手伝わせちまったな。」

 

「いえいえ、お役に立ててよかったです!」

 

上原さんがそう言った。

 

おそらくここにいる全員がそう思っているだろう。

 

すると誰か知らないが腹の音がなった。

 

今思えば手伝いをしていたせいでお昼ご飯を食べるのを思いっきり忘れていた。

 

すると思い出したかのように空腹感に見舞われる。

 

「はっはっは!お前ら腹減ってんだな?待ってろ、なんか作ってやっから!もちろん金はいらねえ!」

 

「え、いや悪いですよ!」

 

「手伝ってもらったお礼だ!んなモン気にすんな!食べたいヤツがあればなんでも言ってくれ!」

 

「それじゃあお言葉に甘えて、あこは焼きそばでしょ!お好み焼きでしょ!それにかき氷!」

 

あこがそう言い出すとみんな遠慮なく注文しだした。

 

「アタシはラーメンでお願いしま~す!あ、あとクレープ追加で!」

 

「私は焼きそばとチョコパフェで!」

 

「えっとわたしは・・・サンドイッチと・・・オレンジジェラートをお願いします。」

 

「それじゃあ僕はラーメンとポテトで。」

 

「あいよ!ちょいと待ってな!」

 

店長が店の奥へ行くと丸山さんが声をかけてきた。

 

「みんな~こっちこっち!この席が海が一番良く見えるんだよ!」

 

丸山さんが指示する席に向かうとそこからは海が一望でにた。

 

「わ、すごーい!店内からこんなに海が見えたんだね~。料理作るのに必死で気が付かなかったよ。」

 

「凄いですね・・・」

 

丸いテーブルにみんなが適当に座り、今日あったことなどを話していると店長が料理を運んでくれた。

 

あれだけしんどい思いをしてこれらを作っているのだから店の人は改めてすごいと思った。

 

「それじゃあ料理も来たことだし!せーの!」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

「どうぞ、召し上がれ!」

 

まだ仕事中のため1人注文をしていない丸山さんがそう言った。

 

「そういえばリサ先輩と九条さんって本当に料理上手なんですね!私ホールしながら見てましたけど、とてもテキパキしてました!」

 

「そ、そんなことないよ~普通だって!」

 

「そうですよ、誰だって慣れればあれくらい出来ますよ。」

 

「そーそー!そういうひまりだってあんだけお客さんいたのにずっと笑顔だったじゃん!」

 

「あ、あれは彩さんやあこちゃんに助けられただけですって!」

 

「確かにあこちゃんずっと楽しそうだったもんね!」

 

「そ、そうかな~?」

 

ホール組が互いを褒めあっている。

 

そういうのを見ると自然と笑みが出る。

 

「そういえばりんりんも凄かったよね!」

 

「え・・・わたしは・・・ただドリンクを作っていた・・・だけだけど・・・」

 

「それが凄かったんです!途中からものすごく早くなっていましたし!」

 

厨房で仕事をしている時に何度か燐子の手伝いには行ったがその時の燐子の手は見えないぐらい早くなっていた。

 

こういう作業に素質があるのかもしれない。

 

「最初は自身なさそうだったけど慣れたらテキパキ作って、ほんとすごかったよ~!」

 

「そうそう!お客さん喜んでたし!特にホワイトドラゴンの鉤爪フロート!あれ写真で見るよりすっご~いって!」

 

「あ、あれは・・・やっぱり迫力が・・・大事かなって・・・思って・・・」

 

すると食後用のデザートを持って店長が来た。

 

「おっ、楽しそうな話してんな!ほらよ、デザートだ。」

 

「わーい、店長さんありがとうございます!」

 

「それと、坊主とキーボードの嬢ちゃんとドラムの嬢ちゃんにはこれ!」

 

店長は四角い厚紙のようなものを渡してきた。

 

よく見るとそれは今回のコラボカフェで貰える限定装備のコードだった。

 

「り、りんりん!奏多さん!これって!」

 

「げ、限定装備のコード・・・ど、どうして・・・欲しいって・・・わかったんです?」

 

「嬢ちゃんの動き見てたらわかった。作るのにめちゃくちゃこだわっていただろ?それと坊主が教えてくれたのもあるんだけどな!」

 

「く、九条さんが?」

 

「はい、2人で作業している時に。」

 

それは僕と店長が揚げ物をしている時に店長に僕と燐子とあこがこのゲームをやっていることを伝えていたのだ。

 

店長はコードをとっておくと言ってくれて仕事の終わったこのタイミングで渡してくれたのだ。

 

「店長さん、ありがとうございます。」

 

「その・・・ありがとう・・・ございます!」

 

「いいってことよ!お前らほんとにありがとな!」

 

日も傾き始め、僕達はそろそろ帰ることにした。

 

丸山さんも仕事がそろそろ終わるらしいのでそれまで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ!」

 

「あ、彩さん!」

 

丸山さんが普段着でこちらに走ってきた。

 

丸山さんだけではなく今は全員が着替えて普段着でいる。

 

「それじゃあ帰りましょうか。」

 

「そうですね・・・」

 

僕と燐子がそのまま後ろを向こうとした時だった。

 

右腕を誰かに掴まれた。掴んだ主はあこだった。

 

「奏多さん、りんりんストップ!」

 

「あ、あこちゃん?」

 

「最後にやることが残ってるよ!」

 

「やることですか?」

 

ふと上原さんを見ると手にはスマホが。

 

「記念撮影ですよ!こういうのはしっかり残さないと!」

 

「ソータ、燐子早く!」

 

リサが僕と燐子の背中を押す。

 

全員が上原さんの後ろに着くと上原さんはスマホのカメラを起動させた。

 

「それじゃあ撮りますよ!はいチーズ!」

 

パシャという音がする。

 

すると上原さんはスマホを下げて後ろを向く。

 

「今日は楽しかったですね!」

 

「そうだね!またこういうのもやろっ!」

 

「ひまり~宿題終わってるの?」

 

「お、終わってないです・・・」

 

「あこも終わってない・・・」

 

宿題は夏休み初日にすべて終わらせてある。

 

Roseliaの活動に支障が出るかもしれないので先に終わらせておいたのだ。

 

「楽しかったですね、こういうのも悪くないです。」

 

「そうですね・・・コードも貰えたし・・・」

 

「また来ましょうか。」

 

「・・・次は人の少ない日がいいです。」

 

「ははっ、そうですね。」

 

今日は久々に思いっきり笑った気がする。

 

泳がず、ただ手伝っただけなのに友達や仲間といるだけでこんなに楽しいとは経験がなかったので僕は初めて知った。

 

またこういう日が来ればいいのに、僕はこの時だけ幸せを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、こういう日が続くとは限らなかった。




水着編これにて終わりです!
最後の言葉の意味とは?度々出てくる奏多の秘密とは?
次回、急展開の『挫折編』お楽しみに!


って言うか時間すぎてる!


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7章 ~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ
32話 フオン ナ カゲ


新章『~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ』に入りました。
ある意味この章が無灰の大きな山となります。
作者が一番やりたかったところであり、この先の九条奏多の変化の起点となります。
この回では大きくは動きませんが次辺りは大きく動くかと。
それでは本編始まります。


 気がつくとそこは見慣れない場所だった。

 

 

 

(ここは・・・一体・・・)

 

周りを見るとどうやら部屋のようだ。

 

テレビにソファー、タンスに机など至って普通の部屋。

 

一見なんともないように思えたがチクリと頭が痛む。

 

周りをよく見ていくと頭の痛みが激しくなる。

 

しかし何故かその部屋から目が離せないのだ。

 

(・・・っ、なんでこんなに頭が痛む・・・別になんとも無い・・・)

 

僕はふと気づいた。

 

この部屋は見慣れない場所じゃない。

 

あのテレビの型にソファーに置かれているキャラクターのクッション、タンスの上に置かれた写真立てや机に刻まれた傷。

 

すべて見たことがある。

 

「そんな・・・ここって・・・」

 

 

 

 

 

 

認めたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ここがあの場所だって。

 

 

 

 

 

 

 

『僕が幼少期に過ごした家の中だって。』

 

 

 

 

 

 

「なんで・・・なんでここに・・・もう二度と来たくないって思ってた・・・ここに・・・」

 

足が震える。

 

しかし体は気がついてから首以外全く動かない。

 

するとガチャりと音がした。

 

その音の方向を見るとそこには女性が立っていた。

 

 

 

 

 

その髪色、服装、きつい香水の匂い、そしてその顔。

 

 

 

 

 

忘れたかった。

 

 

 

 

 

しかし忘れられるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

そこには自分を1度絶望のどん底に落とした母親がいた。

 

 

 

 

 

「なんで・・・何であんたが!」

 

震えながらも必死に声を出す。

 

しかし母親は何も話さない。

 

しかしその顔は気持ち悪いものを見たような引きつった顔をしていた。

 

母親はヌルッと動き出し僕の首を片手で掴む。

 

掴んだまま前に進むと僕は棒が倒れるように倒れる。

 

不思議と痛みがない。

 

しかしその指の細さからは考えられないほど首を絞められている。

 

そしてもう片方の手には何かを持っていた。

 

 

 

 

 

 

それは割れて先端が尖った酒瓶だった。

 

 

 

 

 

 

ふと脳裏に幼少期の記憶が思い出す。

 

子供の頃、常に気持ち悪いものを見たような顔をされること。

 

近寄るだけで怒鳴られたこと。

 

そして何も言わないことをいいことに服を脱がされ酒瓶で骨折をしない程度に殴られたこと。

 

気がつくと上半身の服が無くなっている。

 

そこには僕が小学二年生で母親が男を作って逃げるまで付けられた傷が痛々しく残っている。

 

母親が酒瓶を振りかざす。

 

体が言うことを聞かない。

 

早く逃げたい。

 

早くどうにかしなければ。

 

頭は動いても僕の体はもう声が出せないぐらい動かなくなっている。

 

母親の酒瓶が振り下ろされた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

体を起こすとそこはいつもの部屋のベッドの上だった。

 

「ゆ・・・夢?」

 

どうやらあれは夢だったようだ。

 

置時計を見ると今は9月1日月曜日の5時前。

 

始業式の日の朝だ。

 

体からは汗が滝のように流れていた。

 

「・・・最悪だ。」

 

朝から最悪の夢を見た。

 

思い出したくもない幼少期、しかも一番最悪な場面を思い出してしまった。

 

とりあえずこのままでは気持ち悪いのでシャワーを浴びに体を起こした。

 

 

 

 

 

風呂場に入り、いつも通りバルブをひねると暑いお湯が出た。

 

そのお湯は僕の体から汗を心地よく流してくれる。

 

僕は風呂場に付いている鏡を見た。

 

そこにはもちろん僕が映っている。

 

銀色か灰色か中途半端な色の髪、細いがバイトやトレーニングで付いた筋肉、そしてその筋肉の上に刻まれた数多い古傷。

 

僕はこの体が嫌いだった。

 

親父によるともっと綺麗な銀色だった髪色も暴力の恐怖かくすんでしまっている。

 

今でこそ児童虐待にあたるのだろうが親父が気づいた頃には母親は行方がわからず、暴力を振るわれ始めた5歳の頃からの傷は二度と消えなくなっていた。

 

親父の帰る時間が遅いせいか毎日のように暴力を振るわれていたし小学四年生までは僕は何も喋ることが出来ず、別室で授業を受けていた。

 

なんとか小学五年生頃からしゃべることが出来て中学生になると人並み程度には喋れるようになっていたが敬語は抜けなかった。

 

よく考えてみると敬語じゃなくタメ語で話せるのは親父と親父と一緒に育ててくれたシゲさんぐらいかもしれない。

 

深く考えていたせいで風呂場から出ると時間は5時半になっていた。

 

「・・・光熱費と水道代もったいないな。」

 

そんなケチ臭いことを考えながら僕は濡れた体を拭いて着替えてから朝食の準備を始めた。

 

 

 

 

 

いつも通りの時間に出ていつも通りの道を歩く。

 

いつも早めに出ているせいかこの時間だと花咲川の生徒の通りは少ない。

 

校門前に着くとそこには黒塗りの見たことある車が止まっていた。

 

「おはよう、奏多!今日こそはハロハピに入ってもらいましょうか!」

 

そこにはいつも通り元気な弦巻さんがいた。

 

「あの・・・だから僕はRoseliaに入っているんですけど。」

 

「知ってるわ、だから私考えたのよ!奏多がRoseliaとハロハピの2つのマネージャーをやってくれたら丸く収まるんじゃないかしら!」

 

確かにそれならまとまるかもしれないがそれだと体がいくつあっても足りない。

 

「やっぱり!ちょっと、こころ!」

 

そこに走ってきたのか息を切らして立っている奥沢さんがいた。

 

当たり前だがミッシェルじゃなくいつもの姿だ。

 

「あら、美咲おはよう!」

 

「お、おはようじゃないよ!あんたまた九条さん誘ってたの!?」

 

「そうよ。」

 

「あーもー!だから前からやめとけって言ってるでしょうが!嫌な予感したから走ってきたらこれだよ!」

 

嫌な予感とはそう簡単に当たるものなのか?

 

ある意味この2人はいいペアなのかもしれない。

 

「とにかくもう行くよ!九条さんほんっとうちのこころがすみません・・・」

 

「い、いえ・・・」

 

「奏多!ハロハピはいつでもあなたを待ってるわよ!」

 

「そんな事言わない!行くよ!」

 

奥沢さんが弦巻さんの襟首を掴んで引っ張っていく。

 

この状況を僕は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

始業式のお決まりといえば全校集会である。

 

うちの学校は体育館が広いためいつも体育館で集会や式をやっている。

 

お決まりの校長先生の長い話で眠たくなってきた頃だった。

 

「今日から新しい生徒がうちの学校に転入してきました。」

 

なんだ、この時期に転入してくる不幸なやつがいるもんだと思った。

 

しかしその考えはすぐに覆された。

 

「入ってきた生徒は2年生で2人目の男子生徒です!」

 

その瞬間一瞬で目が覚める。

 

今まで女子ばかりの中男子1人だったので男子が増えるのを少しばかり祈っていたのだ。

 

周りから「どんな奴だろ?」「イケメンだといいな!」「九条みたいに影が薄いかもよw」と声が聞こえる。

 

自分の影が薄いのはわかっているが、いざあまり知らない人に言われると気持ちが悪いものだ。

 

「それじゃあ挨拶してもらいましょう!」

 

校長が段から降りて代わりに男子の制服を着た奴が段に登る。

 

マイクを持ってそいつは挨拶を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、今日からこの学校に入ることになった陰村炎(かげむらほむら)だ。よろしく頼む。」

 

 

 

 

 

 

 

影村炎と名乗った生徒が頭を下げる。

 

簡素な挨拶だった(と言っても僕も人のこと言えない)が顔を見ると結構な美顔だ。

 

女子がものすごくざわめく。

 

教師の静止で収まるまで少し時間がかかった。

 

「えっと、陰村くんにはA組に入ってもらおうと思います。A組の皆さん、陰村くんと仲良くしてあげてください。」

 

そう言った後細かい連絡が終わり、始業式が終わった。

 

教室へ向かう途中、後ろから誰かにつつかれる。

 

後ろを見るとそこには燐子がいた。

 

「男子・・・入ってきましたね。」

 

「はい、やっとこの学年でも2人めですか。」

 

「九条さん・・・前から男子1人はきつい時あるって・・・言ってましたもんね。」

 

そうなのだ。

 

一学期の時、男子が僕しかいないということで2年の教師にめちゃくちゃ力仕事などを任されていたのだ。

 

しかも多い時は1日に3回も思い書類を運ばされ、家に帰ると筋肉痛ということもしばしばあったのだ。

 

「やっと力仕事地獄から解放されますよ・・・」

 

「ふふっ・・・でも九条さんの頑張ってる姿・・・凄くカッコイイと思います。」

 

「そ、そうですか?別にそんなことないと思いますけど・・・」

 

すると後ろから担任の教師が声をかけてきた。

 

「いた、九条!」

 

「は、はい。なんでしょうか。」

 

「手伝って欲しいことがあるんだ。転入生を手伝わせるわけにもいかないから頼む!」

 

「噂をすれば・・・ですね。」

 

「はい・・・行ってきます。」

 

僕は燐子と別れ、担任の所へついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの先何が起こるかを知らずに。




たまに見る怖い夢ってトラウマになる時あるよね・・・
ということで次回九条奏多をいい言い方で挫折、悪い言い方で絶望のどん底に叩き落とそうと思います。
明日試合(しかし作者は応援)で書けるかは不明ですがその時はTwitterや時事報告で連絡する予定です!


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33話 クダケル ココロ

昨日は色々あってすみませんでした!(バチが当たったのか知らないけど焼き鳥食べすぎて吐きそうだった)
お布団から出られない季節になりましたが実際お布団最強説。
しかし我が家はベッドなのであった。(そんな変わらん)

さて、雑談はここまでにしてここから九条奏多の精神を粉ッ粉のボロッボロにしようと思います!←鬼か!
九条奏多が絶望し、Roseliaがどうなるか。
それを暖かい目で見てくれると幸いです。
それでは本編始まります!


先生からの頼みは新しく入った陰村のために新しい机と椅子を運んでほしいとのことだった。

 

あらかじめ運んでおく予定だったが何を手違えたのか運んでいなかったらしく今はバタバタしているらしいので運んでくれとのことだった。

 

(なんで間違える!?それに理由も酷くない!?)

 

そう思ったがしかし口には出せないので適当に答えて机を運ぶ。

 

机も椅子も使い回しではなく新品のものだった。

 

A組に着き、扉を開くとA組生徒に不思議な目で見られた。A組担任が気づき話しかけてくる。

 

「九条くん、一体どうしたの?」

 

「あの、先生に机と椅子を持っていけと言われたんですけど・・・」

 

「あら、本当に!ごめんなさいね、私が持っていくはずだったのだけど急遽会議が入ってしまってね。」

 

あとから松原さんに聞いた話ではA組の担任はかなり天然でおっちょこちょいらしい。

 

しっかり者だが雑いうちの担任といいここの担任といいここの先生教えるのは上手いのだがその他がへっぽこすぎないか?

 

「それじゃあ中へ運んでもらえるかしら?まだ陰村くんも来てませんし。」

 

そんな失礼なことを考えてるとは知らずにA組担任はおっとりした口調で運ぶように言ってくる。

 

僕も頷いて席を一番後ろに置いた。

 

すると白鷺さんが話しかけてきた。

 

「九条さんも大変ね。断っても良かったのではないかしら?」

 

「別にこれくらいは平気です。流石にもっときつかったら断ってますよ。」

 

「でも頼られすぎるのも良くないわよ。たまにはほかの人にも頼ったら?」

 

「自分でできることはできるだけやりたいと思っているので。」

 

そうは言ったもののこの言葉に自分は不思議に思う。

 

よく考えてみると昔の自分なら結構すぐに人に頼っていたのに今じゃ一人でやろうとしている。

 

今と昔で変わってきていると思うと少し嬉しく思った。

 

「九条さんどうしたの?にやけた顔をして。」

 

白鷺さんが不思議そうに見てくる。

 

「あ、いや・・・人に頼るのも悪くないかな・・・って思いまして。」

 

「そう、無理はしないようにね。」

 

僕はA組を出て隣のB組へ戻る。

 

自分の席に座ると燐子が話しかけてきた。

 

「さっきは・・・何を手伝っていたんです?」

 

「はい、今日入った陰村くんのために机と椅子を運んでくれって言われました。」

 

そう言えば燐子から話しかけてくるのが多くなったような気がする。

 

海の時以来から練習の時やNFOでも彼女から話題を持ちかけるのも少しずつだが多くなってきている。

 

「九条さん・・・ずっと何かを手伝ってたり・・・働いていたりしているイメージがあります。」

 

「そうですかね・・・確かにバイトとか手伝いとか色々していますけど。」

 

「Roseliaのマネージャーもやってくれて・・・疲れてないんですか?」

 

「疲れですか・・・」

 

今思えば疲れてはいるが疲れが残る疲れをしたことがない。

 

自分があまり疲れが残りにくい体質なのかそれとも他にあるのか自分でもわからない。

 

「はーい、みんな席について。HR始めます。」

 

「この話は後でしましょうか。」

 

「はい・・・それじゃあ後で・・・」

 

燐子が自分の席に戻っていく。

 

全員が席につきHRが始まった。

 

しかし、燐子が戻る時に少し残念そうにしていたのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

ここ最近、自分の行動が変わってきていることに自覚し始めた。

 

それはあの海に行った日からだ。

 

今まで私は人と話すことを極力避けていた。

 

話すのが苦手であり人見知りで引っ込み思案なのは自分でもわかるがそれ以上に恐らく人と話すことに恐怖を抱いていたのかもしれない。

 

言葉は時折ナイフや刀より鋭い刃となる。

 

たった一言がその人の心に深く傷をつけたり、心境を変えてしまったり、最悪の場合その人を狂わせ自殺に追い込んだりその人が罪を犯すかもしれない。

 

かつて幼い頃の私は人が言葉で傷つくさまを少しばかりだが見てきた。

 

当時、親が同じ仕事場で働いており、お父さんはそこで部長をしていた。

 

そのため、小さい頃はよく親の仕事場に遊びに行った。

その仕事場では誰もが私に優しくしてくれて私はそこが好きだった。

 

しかし、ある日からお母さんの顔が弱っていくのが見えた。

 

お母さんに聞いても大丈夫と答えられお父さんに聞いても

 

「俺もわからない、俺もお母さんが心配だ。」

 

と答える一方だった。

 

ある日、私が仕事場に遊びに行くとそこにはお母さんと数人の同僚の人がいた。

 

私はお母さんの元に行こうと思ったが私は足を止めた。

 

 

 

 

 

 

そこでは母親がほかの同僚から暴言を吐かれていた。

 

 

 

 

 

仕事が悪かったのか彼女らの癪に触れたのかわからない。

 

けどお母さんが一方的に暴言を吐かれているのを私はただ見ているしかいなかった。

 

お母さんの元によるとお母さんは

 

「大丈夫だから・・・お父さんには言わないでね。」

 

と、辛そうに答えた。

 

私は何も言うことが出来ず、お父さんにも言えず、たまに仕事場に行ってはお母さんが暴言を吐かれているのを見てるしかなかった。

 

遂にお母さんがストレスで倒れてしまい、パワハラが発覚した頃には私は言葉や会話に対して恐怖を抱いていた。

 

お母さんはしばらく会社に行けなかったし、お父さんも気が付かなかった自分を責めていた。

 

小さかった私にも言葉の鋭さや危険性が悪い意味でわかってしまい、そこから人と話すこと、つまり人と関わることを避けていた。

 

大好きだったピアノも家でしか引くことが出来なくなり、唯一遊べるのがネトゲだけになってしまっていた。

 

けど、あこちゃんと出会って、Roseliaと出会って、そして九条さんに出会ってからはこの恐怖が薄れているような気がした。

 

 

 

 

 

あの人と話していると自然と笑顔になれる。

 

 

 

 

 

 

心があったかくなる。

 

 

 

 

 

 

話をしているともっと話したくなる。

 

 

 

 

 

 

話が終わると寂しく感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

あこちゃんやRoseliaのメンバーと話している時の安心感とはまた違う安心感。

 

話すだけで心臓がドキドキする。

 

この気持ちはなんなのか今日の練習後ぐらいに九条さんに聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私にはこの気持ちがなんなのかわからないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

HRが終わり、帰宅の準備を始める。

 

今日もいつも通りRoseliaの練習なのだがいつも大事に持ってきているRoseliaの活動を記したノートを家に置いてきてしまったのだ。

 

すぐに準備を済ませ、帰ろうとした時だった。

 

「九条、すまないが頼み事があるのだが・・・」

 

また頼み事かよ!

 

そう思いざるを得なかった。

 

「・・・次は一体どういうご要件で?」

 

「ああ、この書類の入った段ボールを職員室に持って行ってくれないか?本当は私が持っていかなければならないのだが生活指導の方で呼び出しをくらってな。」

 

珍しく担任が真っ当な理由で頼み事をしている。

 

明日は雪が降るのではないか?

 

「どうした九条。ぼーっとして。」

 

「いえ・・・わかりました、持っていきます。」

 

「いつもすまないな、頼むよ。」

 

僕は渡された段ボールを持って職員室へ向かった。

 

持っていくだけで済めばいいのだが・・・

 

 

 

 

 

職員室の前に来るとそこにはあの転入生、陰村くんがいた。職員室にようがあるのか扉の前で立っている。

 

「えっと・・・陰村くんでしたっけ?」

 

「う、うん・・・そうだけど。君は?」

 

「僕は九条奏多、同じ2年生でB組です。」

 

「そっか、君が俺と同じ学年の唯一の男子ってやつか。知ってると思うが陰村炎だ。炎でいいよ。」

 

「ええ、よろしく炎。」

 

段ボールを持っているため握手はできないが会釈で返す。

 

僕は本題を聞いた。

 

「炎は何故職員室の前に?誰かを待っているんですか?」

 

「ああ、母さんを待ってる。どうやら職員室の奥で書類の手続きやらなんやらやってるみたい。奏多は?」

 

「うちの担任にこれを持って行けと言われたんです。」

 

「大変だな、扉開けようか?」

 

「ええ、頼みます。」

 

炎に扉を開けてもらい、中の教師に事情を話して段ボールを担任の机に置いてもらう。

 

中にはさっき事情を話した教師と奥で炎のお母さんと話している教師しかいないらしい。

 

職員室を出ると炎が話しかけてくる。

 

「奏多ってさ、何かやってるの?部活とかその他のこととか。」

 

「部活はやってないです。今事情があって一人暮らししているんですけど仕送りが少し足りなくてバイトしながら生活してるんです。」

 

「へぇーすごいな、なら料理とか出来るんじゃねえか?」

 

「料理は親父がいる頃からやっているので人並み程度にはできます。これくらい覚えとかないと毎日コンビニ弁当だと家計が厳しくて・・・」

 

「ははっ、言ってることが親父臭いぞ。そうだ、今度飯食いに行っていいか?」

 

「ええ、構いませんよ。腕によりをかけます!」

 

「うっし!楽しみにしてるぞ!」

 

今思えば男子と話すのは久々で炎がフレンドリーなのか もしれないがここまで仲良くなれるとは思わなかった。

 

同じ年頃の男子と話すのがこんなに楽しいとは思わなかった。

 

するとガラガラと扉が開く音がした。

 

音がする方向を見る。すると女性が出てきた。

 

「あ、母さん。お疲れ。」

 

「待たせたわね炎、その子は?」

 

「ああ、この学校で初めての友達の九条奏多!」

 

「九条・・・奏多・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

その時僕は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

炎に友達と言われたからじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

話すのが苦手だからじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

炎の母親の顔を見たからだ。

 

 

 

 

 

 

 

その顔は見間違うはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

忘れたいと思っても脳裏にこびりついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎が母と言った人物は昔、男を作って僕の前から消えた僕の母親だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏多、どうした?」

 

「炎、あなたは先に行ってなさい。母さん彼と話してみたい。」

 

「・・・?わかったよ。奏多また明日な!」

 

炎が肩を叩いて走っていく。

 

廊下には僕と母親が残された。

 

「・・・まさかあんたがここの生徒だったとはね。」

 

「・・・なんで・・・何でここにいる。あんたは・・・」

 

「そんなのわが子の転校に付き合わない親はいないでしょう。あ、先に言っとくけどアンタを子供と思ったことないから。この不良品。」

 

体ががくがく震える。

 

冷や汗もかき、今すぐここから離れたい。

 

しかし体がいうことを聞かない。

 

「あんたの事はどうでもいいわ。とりあえず炎と絡むのは辞めてくれる?アンタの無色さが炎にうつると困るから。」

 

「・・・それを決めるのは・・・炎だろ。」

 

「あら、いっちょ前に口答えする気?あんたも成長するのね。」

 

僕の発言を鼻で笑い、炎の走っていった方向に母親は歩き出した。

 

そしてすれ違いざまにこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次、口答えしたら昔みたいに優しくは済まないわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カツ、カツとパンプスの音が遠のいていく。

 

遠のくにつれて僕の頭に昔された惨劇を思い出させる。

 

呼吸が荒くなる、心臓が不定期に荒れる、目眩がする、吐き気がする、頭が痛い。

 

何故人と話してはいけない。

 

何故反抗したらいけない。

 

 

 

 

 

 

 

そして何故僕は生きてはいけない。

 

 

 

 

 

 

様々な疑問が頭をよぎる。

 

そして限界をむかえ、僕の意識は闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は・・・一体・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう・・・すれ・・・ば・・・

 

 

 

 

 

 

 




次回、『ゼツボウ』


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34話 ゼツボウ

シリアスな回なので後書きは基本省略してます。
ということでこちらも短め。

ちなみにシリアス回長いです。(別に前書き後書きがめんどくさい訳ではない。)



それでは本編をどうぞ。


燐子side

 

「奏多さん来ないね~」

 

「来ないわね・・・」

 

「学校にいたのはわかるのですが・・・」

 

いつものスタジオに着いてみんなが揃ってから30分がたつがいつまでたっても九条さんがこない。

 

学校で先生に頼み事を頼まれているとしてもそれなら連絡が来るはずだし、それにしてもいつも時間を厳守している九条さんなら仕事があってももう来る時間だ。

 

「ソータの携帯に連絡してみる?」

 

「そうね、そうしてみましょうか。燐子、頼める?」

 

「わ、私が・・・ですか?」

 

「最近、仲が良さそうだったから奏多も話しやすいと思ったんだけど何か悪いことでもあるの?」

 

「い、いえ・・・そういう訳では・・・」

 

そんなに仲が良さそうに見えていたのかな?

 

たしかに最近話すことが多い気がするが・・・

 

「白金さん、頼みます。」

 

「頼むよ~燐子!」

 

「お願いね、りんりん!」

 

氷川さんに今井さん、さらにあこちゃんまでが頼んできた。

 

こんなに言われると断ろうにも断れない。

 

「は、はい・・・わかりました。」

 

私は携帯を取り出して九条さんの携帯に電話をかけた。

 

コール音が鳴る。

 

しかし一向に出る様子がない。

 

しばらく待っているとコール音が切れて通話できるようになった。

 

「あ、あのもしもし・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子が電話をかける数分前

 

廊下を1人の警備員が歩いていた。

 

今日は始業式で学校が早く終わる日で部活も教員会議ですべて休みにしてある。

 

そのため残っている生徒は受験のために残っているほんの少ししかいないはずだ。

 

そう思って警備員は廊下を歩いていた。

 

警備員が廊下の角を曲がる。

 

その先は職員室などがある道だった。

 

警備員がふと、なにかに気づいた。

 

「・・・なんだ?」

 

廊下にある黒いもの。

 

それはよく見るとこの学校の制服のようだ。

 

しかも男子の制服・・・

 

「まさか・・・!」

 

警備員は走ってそれに近づいた。

 

近づいてみるとそれは倒れた男子生徒だった。

 

意識はなくどうやら気絶しているようだ。

 

「ど、どうする・・・とりあえず救急車!」

 

無線で別の警備員に救急車と応援を頼んだ警備員はその男子生徒の様子を確認する。

 

目立った外傷などはなく他人による暴力で気絶させられていないことはわかった。

 

応援で呼んだもう1人の警備員が担架を持ってきてその男子生徒を保健室に運ぼうとした。

 

するとその男子生徒の懐から音が鳴る。

 

どうやら携帯からのようだ。

 

その警備員は電話に出るべきか迷った。

 

彼が倒れたことを知り合いに言ってご家族に話してもらうべきだとは考えたのだが見ず知らずの人にいきなり話すのはどうかとも考えた。

 

少し考えた結果その警備員は電話に出ることにした。

 

『つ、繋がった!あ、あの・・・もしもし・・・』

 

「も、もしもしこの携帯の持ち主の関係者ですか?」

 

『え、あの・・・九条さん・・・どうかしたんですか?それに・・・あなたは?』

 

「えっと私は花咲川高校で警備員をしているものです。彼は廊下で倒れていて今から救急車で病院に行くところですが・・・」

 

『そ、そんな・・・なんで九条さんが・・・うちの学校で・・・』

 

「あなたここの生徒なんですか?原因はわかりませんが気絶しているだけのようなんで恐らく大丈夫だと思いますが出来れば彼の親にこのことを伝えてもらえませんか?病院は恐らく総合病院だと思います。」

 

『は、はい・・・わかりました。』

 

「よろしくお願いします。」

 

そう言って彼は男子生徒の電話を切った。

 

するとちょうど救急車が到着する。

 

救急隊員が担架に男子生徒を乗せて救急車に乗せる。

 

そのまま救急車は病院へ行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

「はい・・・わかりました。」

 

『よろしくお願いします。』

 

そう言って警備員さんは電話を切った。

 

まさか九条さんは学校で倒れていたなんて・・・

 

「り、燐子どうしたの?顔がめちゃくちゃ青いけど・・・ソータに何かあったの?」

 

「く、九条さん・・・うちの学校で・・・倒れていたって・・・」

 

「「「「え!」」」」

 

全員が驚く。

 

当たり前だ、メンバーの1人でとても重要な人が倒れたのだから。

 

「そ、それで奏多さんは大丈夫なの?」

 

「気絶・・・してたって・・・」

 

「湊さん・・・」

 

「ええ、練習どころではなくなったわね・・・燐子、奏多が送られた病院ってわかる?」

 

「たぶん・・・総合病院だって・・・電話に出た人は言ってました・・・」

 

「わ、わかった。アタシがスタジオのキャンセルと別日に借りれるか聞いてくるからみんなは先に行ってて!」

 

今井さんが受付の方に走っていった。

 

昔の友希那さんなら練習を続けていたのかもしれないが九条さんの所に行くって言ってくれてよかった。

 

私達は荷物をまとめて九条さんが送られたであろう総合病院へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

移動中に合流した今井さんに九条さんの叔父さんを呼んでもらい、受付に説明して九条さんのいる病室へ案内してもらった。

 

そこには白衣を着てベッドの上で寝ている九条さんの姿があった。

 

そして、その病室内にいた医師に今井さんが尋ねた。

 

「あ、あの、ソータは大丈夫なんです?」

 

「目立った外傷もなく、恐らく何らかの負荷がかかって倒れたんでしょう。恐らく心や精神の問題なのでこればかりは彼が起きないとわかりません・・・」

 

「そうですか・・・ありがとうございます。」

 

医師はそれだけ言って病室を出ていった。

 

「奏多さん、何があったんだろ・・・」

 

「日頃のストレスや疲れの可能性は?」

 

「九条さん・・・確かそういうのは・・・大丈夫だったと思います。」

 

「ソータが気絶したのって海の時ぐらいだよね。女の子耐性ないからアタシ達の水着見て目を回して倒れたけど・・・」

 

「それじゃあ九条さんは誰かの水着を見て倒れたってことですか?」

 

「今回のは・・・あの時とは違うと・・・思います・・・」

 

「どうしてわかるの?」

 

「九条さん・・・海の時・・・鼻血や顔が赤くなってたりしてました・・・けど今回は・・・顔が青いし血も何も出ていません・・・」

 

するとガラガラガラと扉が開く音がした。

 

入ってきたのは九条さんの叔父さんだった。

 

「お、おう・・・おめーら先に着いてたか。ありがとな今井ちゃん、連絡くれてよ。」

 

「いえ、ソータの家族って茂樹さんしか思いつかなくて・・・」

 

「んで、奏多はどうなんだ。」

 

「気絶しただけらしいです。しかしなぜ気絶したのかがわからなくて・・・原因はストレスらしいんですが。」

 

「奏多にストレスか・・・そりゃ原因が思いつかねえな・・・」

 

「シゲさんわかるんですか?」

 

「こいつ、ストレスとか疲れはあんまりたまんないタイプなんだよ。けど一気に強いストレスや衝撃がくると弱いんだけど・・・そもそもそんなに強い衝撃なんてこいつの前に水着のねーちゃんが何人もいるぐらいの衝撃じゃないとこんなこと起こんねぇしな・・・」

 

「原因・・・なんでしょう・・・」

 

「それはこいつが起きねぇとわかんねぇ。」

 

「とりあえず待ってみましょう。起きたらその時聞けばいいわ。」

 

私達は九条さんが起きるまで病院で待つこととなった。

 

その場は明るい空気にはならずずっと暗い空気が漂うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦しイ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つライ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コワイ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウダ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コワイナラ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニゲレバイイ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コノ ウンメイ ト イウ クサリ ニ シバラレナガラ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレトモセッシナケレバイイ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モウ イタイノハ イヤダ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケド・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダレカ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タス・・・ケ・・・テ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の願いは

 

 

 

 

 

 

 

『九条奏多』という人の思いは

 

 

 

 

 

 

 

絶望の深淵に落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

届かないとわかりながら

 

 

 

 

 

 

 

助けを求めて

 

 

 

 

 

 

その少年の心に残ったのは

 

 

 

 

 

 

『絶望』と『逃亡』、そして『誰とも接しない』と思う気持ちだけだった。




次回、『フサグココロ ウラ ノ ムショク』


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35話 フサグココロ ウラ ノ ムショク

話はシリアスだけどここだけテンションの高い隠神カムイです。
あ、話の尺の関係上さらっとタイトル長くなってます。そこは前の次回予告いじるのでご勘弁を・・・←ダメな作者のやること
新イベ来たね~チョココロネ先輩新規きたね~ってヤン陰原作者に言ったらハイテンションな海馬社長となって返ってきました(笑)

さて、こんな感じにおちゃらけてますがめちゃくちゃ重い本編始まります。


燐子side

 

ここに来てから1時間が経った。

 

九条さんは一向に目覚める様子がない。

 

時折、今井さんやあこちゃんが話を切り出そうとしてもこの重苦しい空気の中では長くは続かない。

 

「・・・悪いなお前ら、今日はもう帰れ。時間も時間だ。」

 

そんな中九条さんの叔父さんが私たちに帰るよう促した。

 

そう言われて今井さんが反応する。

 

「いえ、私たちなら大丈夫・・・」

 

「この様子じゃ奏多が目覚めるのがいつになるかわからねぇ。しかもお前ら明日学校あるだろ、学生が学業に支障を出しちゃいけねぇ。」

 

「け、けど・・・」

 

「リサ、今日は帰りましょう。茂樹さんの言う通りだわ。」

 

「・・・わかった。けど茂樹さん、ソータが目覚めたら連絡ください。」

 

「おう、そんときゃ連絡する。」

 

「シゲさん・・・よろしくお願いします」

 

「あぁ、奏多の事は任せとけ。」

 

そう言って私達が帰ろうとした時だった。

 

「・・・んっ」

 

小さく、弱々しいけど聞きなれた声。

 

その声を聞いて全員が一つの方向を見る。

 

そこにいたのは意識が戻って体を起こしていた九条さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

 

 

 

体が重い

 

 

 

 

 

 

 

痛みはないが手足に力が入らず感覚がない

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえる

 

 

 

 

 

 

 

 

誰だ

 

 

 

 

 

 

 

「し・・・ん・・・ソータが・・・たら・・・らく・・・さい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

この声はリサ・・・?

 

何を言っている、途切れ途切れでわからない。

 

 

 

 

 

 

「シゲ・・・よろし・・・いします・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

あこの声・・・?

 

幻聴か?

 

でも途切れ途切れでも幻聴にしてはハッキリしすぎてる・・・

 

 

 

 

 

 

 

手足の感覚が戻ってくる。

 

 

 

 

この柔らかさ・・・ベッド?

 

 

 

僕は・・・今どこに?

 

 

意識を・・・ハッキリ・・・

 

起き・・・ない・・・と・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・んっ」

 

目をうっすら開ける。

 

そこには見たことのない白い天井。

 

軽く周りを見ると自分が今ベッドの上にいることがわかる。

 

病院でよく見るベッドだ。

 

(・・・ん?病院のベッド?)

 

そこでようやく自分が今どういう状況なのかを思い出した。

 

僕はどうやら『何かがあって』病院に送られたようだ。

 

体を起こす。

 

意識が落ちてから全く動かさなかった体は各関節の痛みを起こしながらもゆっくりと動き出す。

 

「く、九条さん!」「奏多!」「ソータ!」「奏多さん!」「九条さん!」「おお、起きたか奏多!」

 

聞きなれた声が一斉に来る。

 

そんなに言われても反応できないって。

 

「ここは・・・なんで・・・それに・・・シゲさん・・・みんな・・・」

 

「よかったぁ・・・行く前に起きてくれたぁ・・・」

 

「もう・・・ほんとに心配したんだからね!」

 

「し・・・心配・・・」

 

何が何だか全くわからない。

 

何故ここにいるのか、何故Roseliaのみんなが心配そうにしてるのか、そして何故倒れたのか・・・

 

「九条さん・・・なぜ倒れたのか話してもらえますか?」

 

紗夜がそう聞いてきたので考えてみる。

 

確か担任に仕事を頼まれてその後炎と話して・・・

 

 

 

 

 

 

『次、口答えしたら昔みたいに優しくは済まないわよ。』

 

 

 

 

 

 

全身に寒気が走り震え出す。

 

そうだ・・・思い出した・・・会いたくなかったあの人に会ってしまったんだ・・・

 

「そ、ソータ!?どうしたの?」

 

リサが心配してこっちに来る。

 

しかし今の僕はそれどころではない。

 

「・・・いで。」

 

「な、何か言った?もう一回言って!」

 

目は開いてるはずなのに前が見えない。

 

僕が何かを言ったのだろう、リサが心配して近づいている気配はする。

 

「・・・らないで。」

 

「ソータ!?震えがやばいよ!ホントに・・・」

 

 

 

 

 

辞めて・・・

 

 

 

 

 

 

ほんとに辞めてくれ・・・

 

 

 

 

 

 

今の・・・

 

 

 

 

 

今のボクニ・・・

 

 

 

 

 

 

 

チカヨラナイデ・・・

 

 

 

 

 

 

「近寄らないで!」

 

「!!」

 

無意識に出た言葉に全員がしんと静まる。

 

ふと我に返るとリサがびっくりした顔をしていた。

 

「・・・すみません、今日は帰ってもらえますか。今は・・・話したくないんです・・・」

 

「・・・うん、わかった。ごめんねソータ・・・」

 

Roseliaのみんなが病室を出る。

 

自分の言ったことに凄く後悔が残る。

 

すると一人病室に残ったシゲさんが優しく真剣に話しかけてきた。

 

「奏多・・・お前何があった。今の反応は異常だ。お前をそこまで追い詰めたのはなんだ。」

 

体が震える。

 

心臓の動機が激しくなる。

 

呼吸が荒くなる。

 

しかしそれをなんとか抑えて学校であったことを正直に話した。

 

「あの人に・・・僕の・・・母に会った・・・」

 

「!!」

 

それにはいつも能天気なシゲさんも驚きを隠せなかったようだ。

 

「・・・なぜお前の母親に会った。兄貴が別れた後行方わかんなかったんだろ?」

 

「炎の・・・転校生の・・・母親が・・・あの人だった・・・その後・・・話をした・・・」

 

「なんて言われた。」

 

「・・・『次、口答えしたら昔みたいに優しくは済まない』って。」

 

「・・・お前しばらく学校休め。それにバンド活動もだ。」

 

「それは・・・出来ない・・・みんなには・・・Roseliaには・・・僕が・・・いかないと・・・」

 

「今のお前に何が出来る。」

 

「っ!」

 

シゲさんに一喝されて言葉を失う。

 

「今のお前は人に対する恐怖と自分の存在を否定すること、そしてこれらから逃れたいとの事しか残ってない。そんな人間がまともに人を支えれるはずがねぇ。行っても逆に足でまといになるだけだ。」

 

確かにそうかもしれない。

 

今こうして話している自分は今の自分からしたら本当の自分ではないのだろう。

 

今の自分は『甘い物好きで優しく、自分の色を模索しているRoseliaの九条奏多』ではなく『人と接するのを恐れ、無色の自分を否定しその事を逃れようとしている九条奏多』なのだろう。

 

いつもの自分は今の自分にとってその身を隠す『側』でしかない。

 

そんな僕が練習に行ってもいつかのタイミングで今の『側』の心が砕けるかわからない。

 

迷惑をかけ、傷つけるかもしれない。

 

『最高の音楽を目指す』彼女らにとって今の僕は障害でしかない。

 

「・・・わかった。」

 

「悪いな・・・何もしてやれなくてよ。休む手続きとかは俺の方でやっとく。お前は大人しく寝とけ。それと手続きとかやるから家の鍵借りるぞ。」

 

そう言ってシゲさんが家の鍵をもって病室を出て、僕だけになる。

 

僕は毛布を頭まで被った。

 

「ったく・・・どうしたらいいんだ・・・」

 

毛布の中で頭を悩ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナラ、ニゲレバイイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえた。

 

しかもその声は毎日嫌という程聞いている自分の声だった。

 

「お前は・・・誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ボクハ、キミダヨ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい、お前が僕のはずがない。早く出ていけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイニク キミ ト ボク ハ イッシンドウタイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい・・・」

 

 

 

 

 

 

『コノ クルシミ カラ ノガレル ニハ』

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ココロ ヲ トザシテ マワリ ト カカワラナケレバ イイ』

 

 

 

 

 

 

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!それ以上言うな・・・頼むから言わないでくれ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ソウスレバ キミ ハ キズツカナイ ダレモ キズツケナイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「辞めてくれ・・・それ以上この心を蝕むな・・・」

 

 

 

 

 

『サァ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

「来るな・・・来ないでくれ・・・」

 

 

 

 

『ボク ト・・・』

 

 

 

 

 

 

 

「せめてこの心は消さないでくれ・・・」

 

 

『ヒトツニ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・これで、誰も傷つかない。僕が・・・僕がいなければ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

九条さんに病室を追い出された私達は病院のエントランスで座っていた。

 

「ソータどうしたんだろ・・・」

 

「奏多さんのあんな声・・・初めて聞いた。」

 

「九条さんのあの行動は異常でした。本当に一体何が・・・」

 

「奏多があそこまで変わった理由がわかれば・・・」

 

「しかし・・・それを知っている九条さんが・・・」

 

九条さんのあの様子は明らかおかしかった。

 

今井さんが近づいた時に大きな声を出したがあれは怒っているんじゃなくて怯えているような声だった。

 

人と話すのを拒むような・・・

 

ポーンと音がしてエレベーターから九条さんの叔父さんが降りてきた。

 

「茂樹さん!」

 

「お前達まだ帰ってなかったのか・・・」

 

「奏多はどうだったんですか?」

 

「あぁ・・・あの様子じゃ学校もバンドもしばらくは無理だな・・・」

 

「そんな・・・あこ達の力じゃなんにも出来ないのかな・・・」

 

「確かに九条さんのあの様子じゃマネージャー業は無理ですね・・・」

 

みんなの気持ちが落ちてきた時だった。

 

「あ、あの・・・茂樹さん!」

 

「なんだ、白金ちゃん。」

 

「九条さんの・・・過去を教えてもらえませんか?」

 

とっさにそんな考えが出た。

 

なぜこの言葉が出たのかはわからない。

 

しかしあの顔は『昔が原因でなにかに怯える』顔をしていた。

 

・・・昔の自分がそうであったように。

 

「ソータの過去を・・・?」

 

「なんでそう思ったんだ?」

 

「何故かは・・・正直わからないです・・・けど・・・今回の件は・・・九条さんの過去にも何かあると思って・・・」

 

「確かに奏多さんちょっとわからない所あったよね・・・」

 

「思えば九条さんはいつも親しんではくれていました。しかし、なんだかいつも一歩引いた感じでした・・・」

 

「茂樹さん、前にあなたはこう言いましたよね。『奏多は慣れた相手じゃないと内側を見せない』って・・・あれも関係があるんですか?」

 

茂樹さんは黙って私たちの質問を聞いた。

 

そして諦めたかのように息を吐いた。

 

「・・・長くなるが構わねえか?」

 

「・・・!はい!」

 

「まず湊の嬢ちゃんからの話だが・・・あの言い方は崩しすぎてわかりにくかったな。」

 

「それは・・・どういう事ですか?」

 

「あいつはな・・・『本当に信頼出来るやつしか心を開かない』のさ。今、本当に心を開いてんのはあいつの親父と俺だけだ。」

 

「もしかしてシゲさんだけタメ語で話してたのも・・・!」

 

「あぁ、あいつはお前達のことを信頼しているが心から信頼しきってねぇ。」

 

「それはどうして・・・」

 

「とりあえずここだと話しにくい。奏多ん家の鍵借りてるからそこで話そう。」

 

そう言って私達は九条さんの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

これから語られる九条奏多という人間の過去を知るために

 

 

 

 

 

 




次回『ムショク ノ カコ』


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36話 ムショク ノ カコ

昨日土曜日の気分すぎて急いでネタを考えてた隠神カムイです。
これだから金曜日の祝日は嫌いなんだよ・・・←小説書いてまだ一ヶ月ちょいしか経ってない
あと少しで2ヶ月か・・・なんだかんだ続けてるってすごいな。
作者の数日前の過去はほっといて今回は『九条奏多の過去』をメインとして書いていきます。

(ピロロロロロ・・・アガッタビリィー)九条奏多ぁ!
君が何故人を信用しきってないのか
何故信用してても敬語が抜けないのか(アロワナノー)
何故前回負の感情に取り込まれたのかァ!(それ以上言うな!)
(ワイワイワイワーイ)その答えはただ一つ・・・(やめろー!)
ハァァ・・・九条奏多ぁ!それは!君の幼少期に・・・関係があるからだぁぁぁ!
(ターニッォン)アーハハハハハハハハハアーハハハハ
(ソウトウエキサーイエキサーイ)ハハハハハ!!!


奏多「僕の・・・過去に・・・?」ッヘーイ(煽り)


すみませんこれがやりたかっただけです・・・
なお奏多の今までの感情のセリフは「」で、負の感情のセリフを『』で書こうと思います。

それではハイテンションな前書きから打って変わってめちゃくちゃ重くなる本編始まります!


燐子side

 

私達は茂樹さんの車に乗って九条さんの家に送ってもらっていた。

 

車の中で話を聞こうと思った人は一人もおらず、車内はずっと静かだった。

 

九条さんの家について茂樹さんが借りてきた鍵を使ってドアを開けた。

 

「さ、お前らは入れ。」

 

「「「「「お、お邪魔します・・・」」」」」

 

全員の声が緊張している。

 

これから九条さんの過去が明らかになるということでもあるが全員が同年代の男子の家に上がったことがないので何故か緊張するのだ。

 

「なんだお前ら、緊張してんのか?」

 

「だって・・・その・・・」

 

「アタシ達・・・同い年の男の子の家って初めてだから・・・」

 

「んなモン普通の家と変わんねぇよ。あいつの事だ、整理整頓されているし、ヤラシイもんなんて買ってねえよ。」

 

「そうだよ!早く入ろ!」

 

1人だけ男の子の家だろうと気にしないタイプのあこちゃんがみんなを促す。

 

あこちゃん曰く「おねーちゃんの部屋以外なら大体いける」だそうだ。

 

あこちゃんに急かされて私達はリビングへ入っていった。

 

 

 

 

 

 

リビングの中は整理整頓されていてとても綺麗だった。

 

床や机の上はしっかりと掃除されていてホコリやゴミが全然見つからない。

 

「ソータの家・・・めちゃくちゃ綺麗・・・」

 

「そういえば九条さん、学校でも整理整頓してますし彼が掃除した後はホコリ一つありませんでした。」

 

「だから言ったろお前ら。あいつはそういう奴なんだ。とりあえず座れ。」

 

そう言って私達は机を挟んで向かい合わせに置かれているソファーの上に半分に分かれて座った。

 

そして茂樹さんは別に置かれている椅子の上に座る。

 

後で聞いた話なのだがあそこは九条さんのお父さんの椅子なのだそうだ。

 

「ふぅ・・・さて、どこから話すべきかな。」

 

そう言って九条さんの昔の話が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九条奏多という人間はこの世に生まれてからずっと無色だった。

 

『人生を多くの色を束ねて奏でてほしい』という願いで『奏多』と名付けられたがそれとは正反対の感じで髪の毛は色素が足りないのか生まれつき銀色。

 

成長して4歳になった頃はまだ4歳児らしさはあった。

 

家には父親が仕事で毎日遅くにならないと帰ってこないので、常に母親と奏多の2人だけ。

 

幼稚園や保育園は家に母親がいるから大丈夫だろうとの事で行かせてなかった。

 

時々、叔父の茂樹が見に行っていたが至って普通の家族のような生活をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ある日を境に九条奏多の生活は激変した。

 

 

 

 

 

 

 

それはある日の昼食時の頃だった。

 

当時5歳だった奏多がいつも通りご飯を食べていた時、誤ってお茶の入ったコップを倒してしまい、隣で食事をしていた母親の服の上にお茶をこぼしてしまった。

 

その日、母親はどこかに外出予定があったらしく、いつもは着ない高いスーツを着ていた。

 

「あ・・・お母さん、ごめんなさい・・・」

 

奏多がすぐに謝る。

 

いつもは舌打ちして自分の服をタオルで拭いてから奏多に机を拭かせる程度で済んでいた。

 

しかし今日は様子が違っていた。

 

母親はなにかに取り付かれたようにゆるりと立って奏多の首を掴んで投げ飛ばした。

 

「あんたね!いつまで経てば言うことを聞くの!」

 

「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

奏多が謝っているのにも関わらず容赦なく両頬を叩く。

 

「いつまで!経っても!言うことを!聞かない!思い通りに!ならない!この!不良品が!」

 

日頃のストレスや疲れが出ていたのだろう。

 

普通の子なら抵抗したり父親や他人にこの事を言っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼は『九条奏多』という人間は無色、つまり『普通』では無かった。

 

 

 

 

 

 

彼は自分が原因で母親がこうなってしまったのだと思い、誰にも言わずこの罰を受けた。

 

彼は『何も無い』から『全てを受け入れる』人間だった。

 

今まで頼み事を断ったこともなく、抵抗もしたことがなかった。

 

そして誰にも受け入れた事を吐き出すことは無かった。

 

母親はこのことを知ってから何かあれば奏多に暴力を振るうことが普通になっていた。

 

初めは投げ飛ばしたり頬をぶったりした程度だったが腹を蹴ったり首を絞めたりなど次第にエスカレートしていった。

 

傷が残ると帰ってきた父親にバレてしまうため傷がつかないように、あるいは傷がわかりにくいため傷を付けるなら体にやるようになっていた。

 

奏多は時々こんな暴力から逃れたいと思った。

 

しかし逃れることは出来ないとわかると自分の思いを内側に閉じ、母親のなすがままになっていた。

 

そして小学生になる頃には『どうして自分はこんなにも無色で何も無いのだろう』と思い始めた。

 

 

 

 

 

小学校での体育の時間、奏多は自分の体の傷を隠すように着替えていた。

 

その頃には成長期の少年の体に母親から付けられた生々しい傷が古傷となって身体中についていた。

 

しかし、その傷を隠しきれるはずがなかった。

 

2年生になった頃、いたずら好きの男の子が着替え中の奏多の腕を掴んで引っ張ってみんなの前に出された。

 

奏多の傷を見た男の子達はその傷を気持ち悪がった。

 

奏多は「これは自分が悪いことしたから付いた傷だ」と言うといたずら好きな男の子達は奏多のことをいじめ始めた。

 

先生のいないうちに暴言を吐かれ、机の上には『きずだらけかいじん』『どっかいけ』などの落書きをされていた。

 

母親はどこからその情報を仕入れたのか「アンタらしい無様なお友達ね」と言って殴られた。

 

 

 

 

 

しかし、母親の暴力も長くは続かなかった。

 

 

いつも通り母親から暴力を受けている時に突き飛ばされた衝撃でボールペンが飛んで母親の顔に当たった。

 

その事に激怒した母親は奏多服を剥ぎ取り、首を掴んで倒し、近くにあった酒瓶をもって叩きつけようとした。

しかし、幸い頭に来ていて標準が狂ったせいか奏多には当たらず、床に当たって瓶が割れる。

 

その破片が奏多の腹部やが胸に刺さり、傷を作る。

 

その後、母親は瓶の破片を集め、奏多の血を拭いてから倒れた奏多を放ったらかしにして荷物をまとめて出ていった。

 

机の上には離婚届と「あなたとはやっていけないわ、親権はそちらにあげるからどうぞ勝手に暮らしてください。さようなら」と書かれたメモが置いてあったらしくその後の行方は分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「その後の奏多は人と話したり関わることを拒み続けた。そりゃイジメやあの母親からの虐待もあったからだ。だからあいつは小4まで別室で授業を受けていた。今のアイツは俺から見りゃ凄く成長しているぜ。なんせ中学に上がっても他の奴と全く喋ってなかったからな。今のあいつになったのはお前達のお陰だよ。」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

茂樹さんにそう言われたが私達は何も反応できずにいた。

 

まさか敬語や一歩引いた立場だったのはこの過去の経験があったからだなんて誰も思わなかったからだ。

 

「・・・その・・・九条さんが倒れたのって・・・まさか・・・」

 

「あぁ、学校であいつの母親にあったらしい。」

 

今の話の流れからして全員がやっぱりそうだったのかという空気になる。

 

そんな中、友希那さんが茂樹さんに質問をした。

 

「ねぇ茂樹さん、何故奏多は学校でお母さんと会ったの?あの後行方不明になったんでしょ?」

 

「どうやら今日転校してきた子の母親があいつの母親だったらしい。」

 

「それって陰村さんの事じゃないですか?」

 

「はい・・・多分・・・」

 

花咲川組は陰村さんの事だとわかったが羽丘組はわからなさそうだった。

 

「とりあえずその陰村って子はソータの父親違いの兄弟ってことになるの?」

 

「いや、奏多の母親は奏多を産んでから子供ができない体になっちまってるから子供はできないはずなんだ。だから恐らく再婚相手の子供だろう。」

 

「う~ん・・・あこ達に出来ることってなんだろう?」

 

その事で全員が静まる。

 

ここまで知ってしまったからには九条さんのために何とかしたいがいざ考えてみると良い案が思いつかない。

 

「・・・私と白金さんでその陰村さんと話してみます。」

 

「話すっていったって何を?」

 

「特に・・・思いつきません・・・けど・・・話してみないことには・・・わからないと思います・・・」

 

「・・・わかったわ、なら私とリサとあこでもう一度奏多に会ってみる。」

 

ということで花咲川組は陰村さんとのコンタクトを、羽丘組は九条さんともう一度話すことでまとまった。

 

「さ、お前ら今日はもう遅い。早く帰った方がいい。」

 

「そうね、そろそろ帰りましょうか。」

 

そういう事でここで解散となった。

 

九条さんの家は幸い花咲川に近かったので各々が自分の帰宅路に向かった。

 

(今まで・・・九条さんには・・・たくさん助けてもらった・・・たくさん支えてもらった・・・次は私が・・・私達が九条さんを助ける番・・・)

 

そう決心して私は自分の家に足を運んだ。




珍しく奏多sideがないストーリーとなりました。
なお陰村炎のキャライメージは奏多が『無色』なので炎は『多色』というイメージを持っています。
そこだけを言いたくてこの章に入って久々の後書きです。
次の更新は明日です。それまでお楽しみに!


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37話 ムショク ト タショク

久々に日曜日しっかり投稿してるような気がする・・・
ども、最近ヴァイスシュヴァルツというカードゲームでAfterglowデッキ作ろうか考え中の作者の隠神カムイです。
Roseliaデッキあるんだけどね・・・Afterglowも作ってみたい訳ですよ・・・(あ、浮気じゃないんで)なおサインカードはSPパックでたまたま当たった巴さんしか持ってないです()

作者のカードゲーム事情は置いといて今回も重い雰囲気の無灰本編始まんます~


燐子side

 

九条さんの過去を知ってから日が変わって、今は朝のホームルーム前だ。

 

九条さんは昨日のことがあってしばらく学校を休むこととなった。

 

家に着いてからLINEで氷川さんと話し合い、昼休み辺りに転校生『陰村炎』と話すことになった。

 

話す内容としては母親はどんな人とかそんな感じの話をしようかと思っているのだがどうやって話しかけるべきなのかを未だ思いついていない。

 

ホームルームが終わると氷川さんが話しかけてきた。

 

「白金さん、例の件なのですが・・・」

 

「はい・・・陰村さんと・・・どうやって話すべきなのでしょうか・・・」

 

「私も考えてはいたのですが・・・」

 

どうやら氷川さんもお手上げのようだ。

 

突然話しかけても怪しまれるだけだし仮に話しかけることが出来たとしても突然九条さんと彼の母親の関係を話しても信じないだろう。

 

そうやって悩んでる時だった。

 

 

 

ガラガラと扉が開く音がした。

 

次の授業の先生が早く来たのかと思い扉の方を見ると

 

「奏多~いるか~ここのクラスだったよな~」

 

それは陰村さん本人だった。

 

初めは九条さんを読んでいたことにびっくりしたが氷川さんと顔を合わせる。

 

これは願ってもないチャンスだ。

 

「九条さんなら今日は体調不良で休んでいますよ。」

 

「そうなのか?マジかー今日アイツんちで飯食わせてもらおうと思ったんだけどなぁ・・・」

 

「九条さんと・・・知り合い・・・なんですか?」

 

「んー?あいつとは昨日知り合ってよ、職員室で母さん待ってたら先生の手伝いかなんかで段ボール運んでてそん時話してダチになった!」

 

その事に私達はびっくりした。

 

まさか昨日九条さんが倒れる前に彼と出会っていたとは思わなかった。

 

「ところでアンタらは?奏多のことやけに気にしてるっぽいけどもしかしてダチ?」

 

「ダチ・・・よりかは同じバンドのメンバーですね。私は氷川紗夜と言います。」

 

「私・・・白金燐子って言います・・・」

 

「バンド!?あいつバンドやってたのか~!なあなあ、後で詳しく教えてくれよ。あいつが紗夜と燐子のバンドでどんなことしてるのかよ!」

 

「・・・!ええ、それでは今日の昼休み辺りに屋上とかでどうですか?今日は日差しが良いので屋上でも寒くないかと。」

 

「お、いいねぇ!それじゃあ昼休み頼むぜ!」

 

陰村さんが自分の教室に走っていった。

 

しかしこうも簡単に話をする機会を得ることができるとは思わなかった。

 

しかし陰村は九条さんとは正反対の活発で人当たりがよく、フレンドリーな人だ。

 

同じ母親に育てられた人だとは思えない。

 

「まさかこんなにも早く話すチャンスが来るとは思えませんでした・・・」

 

「はい・・・あの人が明るい性格で良かったです・・・」

 

とりあえず私達は陰村さんと話す昼休みまで待つこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

時が過ぎて昼休み。

 

私達は屋上にお弁当をもって上がっていた。

 

この学校は珍しく屋上を解放している学校である。

 

今井さん達によると羽丘も屋上を解放しているらしいがこの学校の生徒で屋上を使う生徒は少ない。

 

そんな屋上を選んだのは聞かれる人は少ないほうがいいのと単なる気まぐれだったと氷川さんは言っていた。

 

屋上に座っていると陰村さんが上がってきた。

 

「よっ、待たせたな紗夜に燐子!」

 

「はい、待ったと言っても私達も今さっき来たところですが。」

 

「まぁ立ち話もなんだし座って話を聞かせてくれよ!」

 

そういう事で私達は陰村さんに九条さんの話をした。

 

転校したはじめの方はあまり人と話せなかったこと、Roseliaにマネージャーとして入ったこと、九条さんと今井さんがいなくて大ピンチだったことなどRoseliaにあったことを大体話した。

 

「・・・とこんな感じ・・・です。」

 

「そっか、あいつすげー奴なんだな。あいつの事すげー気に入ったわ!」

 

陰村さんが話を聞いてすごく笑っている。

 

九条さんを、友達を心から尊敬しているような感じで本当に優しい人なんだなと私は思った。

 

すると氷川さんが本題を切り出した。

 

「そういえば陰村さんは転校した初日に九条さんと会ったと言ってましたが・・・」

 

「あー、入学手続きとかで母さんが職員室にいてよ、それを廊下で待ってたらあいつが荷物持って運んでたから話しかけたってわけよ。この学校ほとんど1年しか男子いないって言われたからな、2年で男子がいたのが嬉しくてよ。」

 

「陰村さんの・・・お母さんって・・・どんな人なんですか?」

 

「優しくて、しっかりしてて、めちゃくちゃ俺に甘い人でよ、この世で最っ高の母さんだぜ!」

 

その言い方に私達はすごく驚いた。

 

茂樹さんから聞いたイメージと陰村さんから聞いたイメージでは全くかけ離れていたからだ。

 

陰村さんは聞いた感じ嘘をつくような人ではない。

 

それでは何故こんなにもイメージに差があるのか・・・

 

「あれ、どうした?二人共難しい顔なんかして・・・」

 

「い、いえ・・・何も・・・」

 

「そ、そうです。陰村さんとお母さんは仲がいいんですね。小さい頃からそうだったんですか?」

 

「・・・?まぁ、いいや!母さんとは仲いいけど実は血が繋がってないんだ。俺が小学2年の時に父さんが再婚した相手でよ、そん時からめちゃくちゃ可愛がってくれてさ~この前奏多と話すって言って俺先に帰ってたけど後からどんな感じだったかって聞いたら『いい友達を持ったわね』ってさ!やっぱり見る目あるよ母さん!」

 

陰村さんがお母さんの事をベタ褒めする中、私達は疑問が確信に繋がっていた。

 

やはり陰村さんのお母さんは九条さんのお母さんであり、陰村さんとお母さんが出会った時期や九条さんと話したということも合っている。

 

「実は・・・今、九条さんは入院していて倒れていたのが学校の職員室前の廊下らしいんです。」

 

「なんだって!?それでなんで倒れたんだ?」

 

陰村さんが真剣に心配して聞いてくる。

 

やはり彼はこの件のことを全く知らなかったようだ。

 

「どうやらあなたのお母さんと会った後らしいのですが・・・」

 

「うーん・・・ダチの母さんと話して緊張してストレスで倒れたか?それで、奏多がいる病院は?」

 

「えっと・・・総合病院・・・ですけど・・・」

 

「そんじゃあ俺学校終わってから様子見に行く!・・・と言っても俺まだこの街慣れてないから2人とも着いてきてくれねぇか?」

 

「え、ええ・・・構いませんが。」

 

「ありがと!うぉっ!やっべ!」

 

陰村さんが屋上に掛けられている時計を見る。

 

あと5分で昼休みが終わる時間だ。

 

「俺、次移動授業なんだ!この話はまた後で頼むわ!」

 

そう言って陰村さんは走っていってしまった。

 

「・・・最後まで・・・言われませんでしたね。」

 

「でも・・・その方が良かったのかもしれない。彼、本当にお母さんのこと信頼してるみたいだから・・・」

 

私達も荷物をまとめて教室へ戻る。

 

戻る途中にお互いの携帯に通知が来た。

 

どうやらLINEのグループチャットの通知のようだ。

 

 

 

友希那『こちらは授業が終わったので奏多の様子を見に行きます 』

 

 

 

どうやら友希那さんからの通知のようだ。

 

そういえば羽丘は授業が午前に終わると言っていた。

 

 

 

燐子『こっちは陰村さんと話をしました。詳しい話は夕方の練習のあとに話します 』

 

リサ『りょうかいっ!紗夜も燐子も学校終わったら来れそうなの? 』

 

紗夜『それなんですが陰村さんも一緒に行くことになりまして、恐らく大丈夫だとは思いますが・・・ 』

 

友希那『そうね・・・一応気をつけて 』

 

あこ『それじゃあ先行ってまってまーす!』

 

 

 

羽丘組が出発したようだ。

 

「私達も出来るだけ早く見に行った方がいいですね・・・」

 

「そうですね・・・」

 

私達はまだ授業があるのですぐには行けないが、九条さんとしっかり話をしたいので我慢して授業を受けに行った。

 

 

 

 

 

 

しかしなんだろう・・・この胸騒ぎは・・・

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

授業が早く終わった私達はすぐに奏多のいる総合病院へと向かった。

 

受付に面会の許可を貰い、奏多のいる病室へ向かった。

 

「着いたね・・・」

 

リサが袋を持ちながらそう言った。

 

病室へ来るにも手ぶらでは不甲斐ないので適当に果物などを買ってきたのだ。

 

「は、入ろっか・・・」

 

あこが扉をノックする。

 

すると置くから「どうぞ」と声がした。

 

「私たちよ、入るわね。」

 

そう言って扉を開く。

 

奥には九条さんがベットの上で座っていた。

 

「また来たよ、ソータ。」

 

『はい、ありがとうございます、今井さん。』

 

「・・・えっ?」

 

奏多の言い方に私達は驚いた。

 

今まで「リサ」と読んでいたのに突然「今井さん」と言ったのだ。

 

『湊さんに宇田川さんもありがとうございます。』

 

「奏多さん・・・どうしちゃったの?」

 

『どうしたって・・・普通ですよ。』

 

奏多が軽く笑う。

 

しかしその笑顔はどこか普通じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

例えるなら・・・《色》がない様な・・・そんな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ソータ・・・まるで別人みたいに・・・」

 

『別人も何も、ぼくはぼくですよ。』

 

奏多が首を傾げる。

 

その目には光がともっておらず、表情もどこかぎこちなかった。

 

『今日はありがとうございます。しかし、せっかく来てもらったのは嬉しいんですが帰ってもらえますか?』

 

「で、でも・・・」

 

『すみません・・・しばらくは話したくないんです・・・』

 

「・・・そう、それじゃあ失礼するわ。突然来て悪かったわね。リサ、あこ、行くわよ。」

 

そう言ってわたしは病室を出る。

 

追いかけるようにあことリサが出てきた。

 

「ゆ、友希那・・・ホントにいいの?奏多をほっといて・・・」

 

「今の奏多は普通じゃない。変に触れると前の奏多に戻らない可能性があるから置いておく方がいいと思う。」

 

「友希那さん・・・」

 

奏多があそこまで変わってしまっては私たちではどうにも出来ない。

 

これは奏多が乗り越えるべき壁なのかもしれない。

 

そう思って私達は病院を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コレデ・・・ヨカッタノカナ・・・」

 

『当たり前だろ、実際あの3人は傷つかなかった』

 

「タシカニソウダケド・・・」

 

『とにかく君は引っ込んでいろ。』

 

「・・・ウン」

 

時折側の感情が表に出てくるようになってきた。

 

これを抑えなければまた傷つき傷つけるかもしれない。そうなるのはゴメンだ。

 

昔のように同じ過ちは繰り返させない。

 

他人のためじゃない、『自分』のために・・・




次回『アレル ウラムショク』


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38話 アレル ウラムショク

今の奏多の心を支配している負の感情の奏多を「裏奏多」と名付けたネーミングセンスが皆無に等しい作者です。
ということでタイトル通り裏奏多さん荒れます(笑)
どのように荒れてRoseliaとの間に亀裂を入れるか、そこの再現が難しかったです・・・
なお、いつもの奏多の一人称は「僕」、裏奏多の一人称は「ぼく」となっております。

それでは本編お楽しみください!


「・・・ネェ、ホントニ ソレデ イイノ?」

 

 

 

 

『うるさいな、黙って見ていてって言っただろ。』

 

 

 

 

「ケド、アレジャア リサ ト ユキナ ト アコ ヲ キズツケルノデハナイカ?」

 

 

 

 

 

『あれぐらい言っておけば近寄ってこないさ。人間という生き物はわざわざ自分から傷つきにこない生き物だからな。』

 

 

 

 

 

「シカシ アイテガ キズツケバ キミ ノ イウ タガイニキズツケナイ ト イウ イミ ガ ナクナル」

 

 

 

 

『ったく・・・わかってないなキミ(僕)は、この程度で傷つくようでははじめにきつく当たった時点で二度と近づいてこないよ。』

 

 

 

 

 

「ケド・・・」

 

 

 

 

 

 

『悪いけどしゃしゃり出ないでくれないかな。側のキミ(僕)が前に出ちゃうとまた傷つくよ。』

 

 

 

 

 

「・・・ウン。」

 

 

 

 

 

側の感情が内側に戻る。

 

あの感じだとしばらくは表に出てこないだろう。

 

あの母親から虐待を受け始めてから心に芽生え始め、側の感情と共に成長していた負の感情が覚醒したのはついこの間だ。

 

ぼくが覚醒すると側の感情は衰弱しており、側の記憶を読むとかつて虐待を受けていた母親に出会ったことがわかった。

 

ぼくはこれを好機だと思った。

 

今までの虐待やイジメの時に貯まる「恐怖」や「ストレス」は全てぼくに蓄積されていたので、恐怖やストレスに耐性のない側の感情からしたら母親に出会ったのはかなりのストレスだっただろう。

 

側の感情が気絶している間に側の記憶を読み取り、この体の感情の主導権を側から奪うことにした。

 

ぼくを否定する側の感情に負けるはずがない、その結果今の主導権はぼくにある。

 

時折、側の感情が前に出る時があるが言葉で押し着れば内側に勝手に戻るだろう。

 

『・・・せっかく前に出れたんだ、誰とも関わらせないし誰とも関わらない。他人なんて信用できない、信用できるのは・・・ぼくだけだ。』

 

後は紗夜ってやつと燐子ってやつを待つだけだ。

 

側の感情にとっては一番交流のある奴らだ。

 

こいつらを、Roseliaってバンドから側の感情を引き剥がせば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

側の感情は消えてなくなってくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぼくが僕を上回るのも時間の問題だ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

ようやく終礼が終わり、荷物をまとめる。

 

時間は3時半前といったところでここから病院へは30分ほどかかるので着くのは4時過ぎだろう。

 

スマホを見ると通知が来ており内容を見ると友希那さんからだった。

 

『奏多と面会した 私達は先にCIRCLEに行っておくから面会後に結果を教えて』

 

結果を教えてとはどういう事なのだろうか。

 

チャットでは言い難いことなのだろうかと考えていると誰かが私の肩を叩いた。

 

「ヒャッ!」

 

「し、白金さん?驚かせてしまいましたか?」

 

後ろを見るとそれは氷川さんだった。

 

様子を見るに行く準備は終わっているようだ。

 

「ひ、氷川さん・・・でしたか・・・」

 

「準備は終わりましたか?陰村さんが待っていますので早く行きましょう。」

 

「は、はい・・・」

 

私達は荷物を持って陰村さんを待つために校門前へ向かった。

 

 

 

 

 

 

校門前へ行くと陰村さんがそわそわした感じで待っていた。

 

「お待たせしました。」

 

「おう、早く行こうぜ。」

 

陰村さんが今すぐ走り出しそうな雰囲気で私達にそう言った。

 

「早く行きたいのはわかりますが・・・着く前にバテてしまっては・・・」

 

「・・・それもそうか。悪ぃな、奏多のために早く行きたくてよ!」

 

陰村さんは急ぎたい気持ちを抑えてはにかんで笑った。

 

やっぱり友達思いのいい人なのだと確認した後、私達は九条さんのいる総合病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

総合病院へ着くとまず受付の人に面会の許可を取りに行った。

 

「あの、205号室の九条さんに面会を取りたいのですが・・・」

 

「あ、はい大丈夫です。けど・・・」

 

受付の人は少し不安そうな顔をした。

 

「どうか・・・したんですか?」

 

「さっきも九条さんに面会したいって子達が来たんだけど10分ぐらいで出てきちゃってね・・・それにあの子うちの看護師たちにもあまり話さないみたいで・・・」

 

「あいつそんな人見知りだったっけ?俺が初めてあった時は普通に話してくれたけど・・・」

 

陰村さんが頭を悩ます。

 

確かに九条さんは話すのは苦手だが今井さんとの練習でかなり良くなっているはずだし恐らく先に面会に来たのは友希那さん達だろう。

 

何故そんなに早く出ていったのか全くわからない。

 

「・・・ここで悩んでいても仕方ありません。これは九条さんに会ってみないとわかりません。」

 

「そう・・・ですね・・・」

 

「んじゃ、あいつの病室に向かいますか!」

 

という訳で九条さんの病室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

『すみません、帰ってもらえますか。』

 

入って挨拶をすると開口一番これだった。

 

この態度に私達は戸惑いを隠せなかった。

 

「九条さん・・・どうしたんです・・・?」

 

『この前も言いましたがあまり話したくないんです。僕を気にかけてくれるのは嬉しいです。けど今はほっといてもらえると・・・』

 

「そういう訳にも行きません。私達はあなたの過去を知ってしまった。それを知ってしまった以上放ってはおけません。」

 

『けどこれはぼく自身の問題です。白金さんも、氷川さんも、Roseliaの人達には関係ないことです。』

 

「・・・っ!」

 

呼び方が違う。

 

今まで下の名前で読んでくれていたのに名字に戻っている。

 

彼は本当に私達の知る九条さんなのだろうか。

 

すると今まで黙っていた陰村さんが話し出した。

 

「・・・なぁ奏多、お前本当に九条奏多か?」

 

『本当・・・ってぼくは九条奏多ですよ。何を言っているんですか陰村くん?』

 

「いやさ、お前から感じないんだよ。昨日初めてあった時に感じたお前の個性を。」

 

『個性って・・・僕は元から・・・』

 

「いや、確かに感じた。なんか・・・こう・・・表現できねぇけどお前がお前だっていう感じは出てた。けど今はそれが無いただの屍みたいだぜお前。」

 

陰村さんがまくし立てていく。

 

それは今さっきまで見ていた明るく元気で友達思いの陰村さんとは全く違う冷静で落ち着いた陰村さんだった。

 

『屍・・・ですか・・・』

 

「倒れたのはストレスかなんかだって聞いた。けどその様子じゃあストレスより何かに怯えて逃げようとしてパニクって倒れたみたいだな。」

 

『なにを・・・言って・・・』

 

九条さんが強ばった笑顔を作る。

 

しかし様子からして図星のようだった。

 

「全く・・・お前に何があったか話してみろ。俺達に話せなくても親にぐらい話せるだろ。お父さんかお母さんにでも話してみろ。楽になるぜ。」

 

私と氷川さんはその発言にやばいと思った。

 

なんせ倒れた原因もこうなってしまった原因も全て自分の母親にあるのだから。

 

しかし陰村さんはそれを知らない。

 

「大体、親ぐらいきただろ?お父さんに話せなくてもお母さんにぐらい話せよ。あーあ、うちの母さんみたいに全員の母さんが優しかったらな~」

 

その発言を聞いて九条さんが下を向いて震え出す。

 

『・・・・・・れ・・・』

 

「ん、なんか言ったか奏多?」

 

『・・・・・・まれ・・・」

 

「なんだ?小さくて聞こえねえよ。もしかして話す気になったのか?」

 

「・・・黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!お前に何がわかる!親も!クラスメイトも!何もかもすべてから裏切られて!殴られて!傷つけられてきた!そんな人間に他人に話せだって!?ふざけるな!出来るもんならとっくに出来てる!」

 

初めての九条さんの怒声に全員が驚く。

 

しかし九条さんの顔には怒っているより苦しんでいるような顔で、その瞳には大粒の涙があった。

 

「そ、奏多・・・」

 

「確かにお前の母親は最高かもしれねぇ!ただ僕からしたらあいつは最低最悪の人間でしかない!」

 

「ちょっ、なんで俺の母さんが侮辱されなきゃいけねぇんだよ!」

 

「確かに今はお前の母親だ!けど昔は俺の母親でもあったんだよ!」

 

「なっ・・・!」

 

陰村さんが硬直する。

 

まさか自分の母親が昔友人の母親だとは思わなかったのだろう。

 

「嘘だろ・・・なぁ嘘だろ!?」

 

「陰村さん・・・事実です。」

 

陰村さんがそう言ってこっちを向いてきたので氷川さんが冷静に答える。

 

私はただ頷くことしかできなかった。

 

「・・・頼む・・・もう帰ってくれ・・・今は誰とも話したくないんだ・・・」

 

今までの勢いは消え、九条さんが泣きながら弱々しくそう言った。

 

「・・・陰村さん、白金さん。」

 

「・・・はい。九条さん、失礼します。」

 

「・・・悪かったな奏多。」

 

九条さんを置いて静かに病室を出た。

 

すると陰村さんが落ち着いて低いトーンでこちらに尋ねてきた。

 

「・・・なあ、奏多が言ってたことって本当なのか?」

 

「・・・はい・・・九条さんが言ってたことは・・・事実です。」

 

「私達は彼の叔父から全てを聞きました。しかし最初あなたのお母さんが彼のお母さんだとは思わなかったです。」

 

「俺だって初めてだ・・・母さんは昔のことを話すのが嫌いだった・・・その事は色々あるんだと気にしてなかったが・・・そんな事が・・・」

 

陰村さんが肩を落とす。

 

それもそうだ、今まで信じてきた人が今回の問題の原因だったのだから。

 

すると陰村さんは決心したような顔をして話し出した。

 

「・・・俺、母さんに昔のことを聞いてくる。」

 

「けど・・・昔のことを・・・話したがらないって・・・」

 

「何が何でも話させる。今回の件はうちにも問題があるみたいだし。」

 

「・・・では、よろしくお願いします。」

 

氷川さんがわかったような顔をして答える。

 

2人は連絡先を交換して病院を出たところで別れた。

 

私達は友希那さん達が待つCIRCLEへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クッ・・・マサカ ガワ ガ アソコマデ デテクル トハ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シカシ、ツギコソ ガワ ノ カンジョウハ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・黙れ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナニ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の僕に・・・誰も近づくな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マダ ソンナキリョク ガ・・・イヤ、チガウコレハ・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう・・・独りにしてくれ・・・みんなも・・・負の感情も・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ム ノ カンジョウ・・・ダト・・・?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そっか、そんな事が。」

 

CIRCLEに到着し、3人に今さっきまであったことを話す。

 

友希那さん達はそれを黙って聞いていた。

 

「奏多さん・・・そんなに重荷を抱えてたんだ。」

 

「話してる時の九条さん・・・とても苦しそうでした・・・」

 

「どうにか、彼の心を治さなければ・・・」

 

全員が悩んでいると今まで黙っていた友希那さんが言葉を発した。

 

「・・・みんな、聞いて。」

 

「湊さん・・・?」

 

「今の奏多には私達の言葉はどうやっても届かない。話しかけても恐らく心を閉ざしてしまっている。」

 

「ならどうすれば・・・アタシ達に出来ることなんて・・・」

 

「あるじゃない・・・一つだけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「歌うこと・・・それだけよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『ムショク ト ハイイロ ノ コンツェルト』


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39話 ムショク ト ハイイロ ノ コンツェルト

タイトル回収してるけどまだ最終回じゃないです。
最終回じゃないのにタイトル回収してるのは今回がこれからの無灰にとって大切な回になるからです。
あとから見直して赤面黒歴史になりそうな予感がしますがそこはどうか暖かい目で見てくださらると嬉しいですw

それでは本編お楽しみください!


燐子side

 

「歌・・・ですか?」

 

今の九条さんを助けることが出来るものは歌うことだと友希那さんは言った。

 

「歌と言っても何の曲をやるんです?」

 

「今までの曲だと全部ソータがいてできた曲だから悪いけど今のソータには届くとは思わないけど・・・」

 

「みんな、この前言った曲・・・覚えてる?」

 

友希那さんの一言に全員がハッとする。

 

実は1曲だけ九条さんがいない間に全員でやろうとしてた曲があるのだ。

 

「しかし、あの曲はそれぞれ個人練習でしかやって来ませんでしたしそもそも合わせたこともないんですよ!」

 

「そうだよ!確かにあの曲なら届くかもしれないけど合わせたことのない曲をやるのはリスクが大きいって!」

 

氷川さんだけでなく今井さんまでが友希那さんの意見を否定している。

 

しかし友希那さんは臆さず続けた。

 

「最高の音楽を目指すなら多少のリスクは乗り越えないといけないわ。それに今のRoseliaには奏多がいないと・・・いえ、奏多の存在がないと私達は最高の音楽を目指せない。それに、今から猛練習すれば出来るかもしれないわ。その可能性を捨ててしまっては前に進むどころか後退してしまうわ。」

 

「し、しかし・・・」

 

「・・・やりたいです。」

 

「え?」

 

「私・・・この曲をやってみたいです!九条さんの為でもあります・・・けど、私が・・・私達が前に進むためにもやってみる価値は・・・あると思います!」

 

気がつけば頭で考えるより先に言葉が出ていた。

 

するとそれに乗っかるようにあこちゃんも話し出した。

 

「あこもやってみたいです!奏多さんには色々お世話になってますしこのままどこかへ行っちゃうような気がして・・・何もしないままなんて、あこ嫌ですっ!」

 

「・・・そうだね。ここで臆病になっちゃソータに悪いもんね。」

 

「九条さんのためだけじゃなくて私達の成長のため・・・そのためにはものすごい集中力が必要ですが。」

 

「ふふっ・・・紗夜、何のためにここに集まったと思ってるの?」

 

CIRCLEの第3スタジオ。

 

ここはRoseliaがいつも練習していて色々なことがあった慣れ親しんだスタジオだ。

 

後でわかった話なのだが今日治ったばかりのスタジオを無理を言って借りたそうだ。

 

もしかして友希那さんは全員が賛同するのをわかっていてここにしたのだろうか。

 

「みんな、これから合わせる曲は私達にとって初めての曲調よ。それを完璧にするにはみんなの心を一つにする必要がある。昔の私達なら出来なかったでしょうね。けど今は違う。お父さんが、インディーズの人たちが、他のバンドの人たちが、そして奏多から・・・色々なことを教わった。その教わったことを今ここで発揮する時よ。今回の練習は本番の時より集中してやるわよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

全員の気持ちがリセットされる。

 

今からやるのは私達にとって未踏破の曲。

 

しかしこれをこなせないようではこの先前に進めない。

 

Roseliaにとっても、私にとっても。

 

「それじゃあ始めるわよ。」

 

あこちゃんがリズムをとり、私達が創る無銘の曲は奏でられ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九条さんが倒れてから4日が経った。

 

昨日は丸一日を使って『無銘の曲』を練習していた。

 

名前は友希那さんが九条さんに発表する前に決めるのだそうだ。

 

曲もほとんど完成し、私はその曲を聴いてもらうために九条さんがいる総合病院まで来ていた。

 

今の九条さんと話すなら集団で行くより1人の方がいいとの事で友希那さんに指名されて私が来ている。

 

本当はもう退院出来るらしいのだがあの様子だともう少しいた方がいいとのことで検査入院という形で入院している。

 

「あの・・・205号室の九条さんに面会を取りたいのですが・・・」

 

「はい、わかりました。けど・・・」

 

受付の人が口を濁す。

 

何があったのだろうか。

 

「どうか・・・しましたか?」

 

「いえ、九条さんなんかうちの看護師達のこと避けているみたいで・・・検査や食事の時間にもすぐに出ていくよう言われたみたいでね・・・面会するなら気をつけた方がいいわよ。」

 

どうやら今まで以上に人を避けているようだ。

 

恐らくこの前のことが原因だろう。

 

追い出されることを覚悟し、私は九条さんのいる病室へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の前につき、ドアをノックする。

 

「・・・はい。」

 

小さく、弱々しいが九条さんの声だ。

 

少し緊張してきたが声をかける。

 

「あ、あの・・・白金です。入っても・・・いいですか?」

 

「・・・どうぞ。」

 

そう言われたので部屋に入る。

 

九条さんを見ると様子が変わっていた。

 

いつもの九条さんでも無くこの前の九条さんでも無い。

 

例えるなら『無』・・・

 

「・・・どうしてまたここに来たんです。ほっといてって言ったはずですが。」

 

「あ、あの・・・九条さんに来て欲しい所が・・・」

 

「すみません・・・行きたくないです・・・」

 

案の定断られた。

 

しかしここで諦めては今までのみんなの頑張りが水の泡だ。

 

「お願いします・・・1度だけ・・・1度だけでいいんで。」

 

「やめてください・・・一人でいたいんです・・・」

 

九条さんが毛布にくるまって身を隠す。

 

この行動が原因かはたまたこれまでの九条さんの態度が原因か。

 

私という人間はその時だけ無意識となった。

 

「・・・逃げるんですか。」

 

「・・・逃げてないです。」

 

「いえ、逃げてます。一人でいたいから、傷つきたくないから、そして過去の傷を一人で抱えながらもそれを認めたくないから。」

 

「・・・っ。黙ってください。」

 

「それなのに人に話そうともしない。信用してもどこかで信用できないと思って話さない。あなたの場合は信用できないんじゃない、信用しようとしてないんです。」

 

「・・・黙って。」

 

「誰にも話そうとしないからそうやって逃げるんです。これでも逃げてないって言うんですか?」

 

「黙れ・・・黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!ならどうすればいいんだよ!どうせ僕の傷なんて誰にもわからない、誰にも伝わらない!嫌なことから逃げて何が悪い!だからもう・・・1人に・・・」

 

九条さんが涙を流しながら自分の想いを表にする。

 

九条さんが言い切る前に私の体は動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

誰とも話したくない。

 

誰とも関わりたくない。

 

他人と話すことなんて自分が傷つき損するだけの事だ。

 

しかし彼女はそれを思い切り否定した。

 

 

 

 

 

 

「・・・逃げるんですか。」

 

 

 

 

 

 

これは逃げているんじゃない。

 

自分の身を守るために当然のことだ。

 

それが自分の世話をしてくれている看護師や医者でも話しても損をするだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・逃げてないです。」

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、逃げてます。一人でいたいから、傷つきたくないから、そして過去の傷を一人で抱えながらもそれを認めたくないから。」

 

 

 

 

 

 

やめろ、そんなことを言うな。

 

こんなの人に話せるものじゃない。

 

信用できる人なんているはずも無いのだから。

 

それに今過去のことを話すな。

 

虫唾が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ。黙ってください。」

 

 

 

 

 

 

 

「それなのに人に話そうともしない。信用してもどこかで信用できないと思って話さない。あなたの場合は信用できないんじゃない、信用しようとしてないんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

信用できない訳じゃないんだよ。

 

確かに心のどこかでは信用しようとしてないのかもしれない。

 

わかったような口を聞くな。

 

僕の心に触れようとするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・黙って。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰にも話そうとしないからそうやって逃げるんです。これでも逃げてないって言うんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

お願いだ・・・黙ってくれ・・・もう・・・たくさんなんだよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ・・・黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!ならどうすればいいんだよ!どうせ僕の傷なんて誰にもわからない、誰にも伝わらない!嫌なことから逃げて何が悪い!だからもう・・・1人に・・・」

 

八つ当たりだとわかっている。

 

この前も今回も、他人にきつく当たってしまってることぐらいわかる。

 

しかし叫ばずにはいられない。

 

涙が止まらない。

 

そうでもしないと自分が自分でいられなくなる。

 

本当に何もかも無くなってしまう。

 

僕がいい切ろうとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が突然暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭に違和感がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

額の方は柔らかいのに側頭部から後頭部にかけて何かが絡んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それは凄く暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めはどうなっているか理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし今の状況がどうなっているかすぐに気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『燐子』が僕の頭を抱き抱えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その行動に思考が停止した。

 

「それなら・・・何故他人に一度ぶつけようとしないんですか!」

 

声が震えている。

 

頭に何かが落ちてきていた。

 

それは燐子の涙だった。

 

「燐・・・子・・・」

 

「もう一人で抱え込まなくてもいい!一人で逃げなくてもいい!だって・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が・・・私達『Roselia』がいるから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・!」

 

一人で・・・抱えなくていいのか?

 

この悪しき過去を・・・?

 

自分が・・・傷つくかもしれないのに?

 

「抱え込まなくても・・・いい・・・?」

 

「そうです!確かに私達はまだあなたの過去を詳しく知らない!話したくなかったのもわかる!その傷は深いかもしれない・・・けどそれを支えてくれるのが友達では!仲間じゃないんですか!」

 

「友・・・達・・・、仲間・・・」

 

本当にいいのか・・・他人を・・・友達を・・・そして仲間を信じても。

 

「無色だっていい・・・それがあなたの『個性』だから・・・だから・・・そんな重荷を一人で背負い込まないで・・・私を・・・私達を頼ってくださいよ・・・」

 

燐子の抱きつく強さが強くなる。

 

これが女性の暖かさなのか・・・

 

これが優しさなのか・・・

 

これが信用ってものなのか・・・

 

その抱擁が強くなったのをきっかけに心の何かがなくなった気がした。

 

こんな自分でも信用してもいいのだと。

 

他人を頼っていいのだと。

 

そしてこれが自分なんだと。

 

そう思うようになっていた。

 

 

 

 

 

気がつけば僕は泣いていた。

 

しかしさっきの涙じゃない。

 

これは嬉し涙というものなのか。

 

「信じても・・・いいんだよな・・・こんな自分でも・・・こんな過去を背負っていても・・・」

 

「・・・はい、信じて・・・頼ってください。」

 

「・・・ぐっ、ううっ・・・信じさせて・・・もらうよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供っぽいし情けないかもしれないけど彼女の胸の中で思いっきり泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女も泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと「大丈夫だから・・・大丈夫だから・・・」と呟きながら泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

しかしその抱擁はしばらく解かれることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これが無色の少年と灰色の少女の気持ちが重なり始めたきっかけだったのかもしれない。

 

しかし共に奏で始めるのはまだ先の話である




次回『~軌跡~ムメイ ノ ナマエ ユメ ノ ツヅキ』


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40話 ~軌跡~ムメイ ノ ナマエ ユメ ノ ツヅキ

はい、挫折編のラストです。
実は前回書き終わったあと次の日見直したらめちゃくちゃ恥ずかしかった・・・これが黒歴史というものなのか・・・
ということで今回その黒歴史の続きからです。
この小説書いてるおかげで作者が地味に成長してるところもあります。
おかげで座右の銘が『他人と違ってもいい、人生何事も楽しんだもん勝ち』になりましたw

カッコつけてないで『~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ』のラスト、お楽しみください!


気がつけば体が勝手に動いていた。

 

 

 

 

 

 

彼の思いを受け止めるために

 

 

 

 

 

 

彼の悲しみを背負うために

 

 

 

 

 

 

彼の頭をこの胸に抱きとめていた

 

 

 

 

 

 

もう一人で抱え込まないで

 

 

 

 

 

 

そのままの彼でいて

 

 

 

 

 

 

そんな気持ちでいっぱいだった

 

 

 

 

 

 

彼は私を信じてくれた

 

 

 

 

 

 

私の胸の中で泣いてくれた

 

 

 

 

 

 

気持ちが伝わった

 

 

 

 

 

 

今まで彼にどれだけ支えられていたのかを知った

 

 

 

 

 

 

そしてこんな自分でも人を助けられるのだと知った

 

 

 

 

 

 

奏多side

「・・・ありがと・・・落ち着いた。」

 

気持ちが落ち着き燐子にそう言うと燐子はその手を離した。

 

彼女の顔を見るとその瞳には涙は残っているが笑っている。

 

「よかった・・・信じてくれて。」

 

「うん、燐子のお陰。」

 

すると今さっきまでどういう状況だったのかが頭をよぎる。

 

(まって・・・僕、今さっきまですごく恥ずかしいことしてたんじゃ!)

 

女子の前で思いっきり泣いたこと、今まで彼女を、Roseliaのみんなを信じきってなかったこと、そして彼女の胸の中に抱かれていたこと・・・

 

(額の感触・・・あの柔らかさ・・・あれってもしかして・・・)

 

僕の頭が熱くなってきた。

 

恐らくめちゃくちゃ赤くなっているのだろう。

 

「・・・っ!あの・・・その・・・今さっきのは・・・体が・・・勝手に・・・」

 

僕が赤面していることに気がついたのか燐子も顔がみるみる赤くなる。

 

話を変えなければお互い何も喋れなくなりそうだ。

 

「あ、あの・・・来て欲しい・・・所って?」

 

「う、うん・・・CIRCLEの第3スタジオ・・・来てくれる?」

 

「わかった・・・けど先に行ってて。色々と用事済ませていくから。」

 

「うん・・・先に行って待ってるから・・・」

 

そう言って燐子は病室を出ていった。

 

僕1人になったところで僕はやることをしなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

「・・・いるか、『ぼく』」

 

 

 

 

 

 

『イマサラ ナンノヨウダ』

 

 

 

 

 

 

「話しておくことがある」

 

 

 

 

 

 

『ボク ヲ ミトメヨウト シナイ ゼイジャク ナ ガワノカンジョウ ノ ハナシ ナンテ キクキハ・・・』

 

 

 

 

 

 

「僕は・・・『ぼく』の事を認める」

 

 

 

 

 

 

『・・・ナニ?』

 

 

 

 

 

 

「確かにぼくの事は避けていたさ。嫌な思い、辛い思いを全部押し付けてそれを弱さだと思ってそんな自分は自分じゃないって思ってた。」

 

 

 

 

 

 

『・・・シッテルサ、キミハボクダ。キミノオモイナンテカンタンニ ワカル。』

 

 

 

 

 

 

「だったらわかるだろ。今の僕がどう思っているか。今の僕は人を信じて頼ることを知った。自分が変わるためには君を認めないといけない。」

 

 

 

 

 

 

『コノボクヲウケイレル・・・カ・・・ソノサキハ ジゴクダトシッテモカ?』

 

 

 

 

 

 

「もう地獄は味わったさ・・・それに今は信じられる人がいる。」

 

 

 

 

 

 

『・・・イイヨ、ケド マタザセツシタリシタラ コンドハボクガ キミノコトヲトリコムカラナ』

 

 

 

 

 

 

心の中の負の感情の気配が薄れていく。

 

過去にあった惨劇が霧が晴れたように思い出せる。

 

辛さ、悲しさ、怖さ。

 

それをすべて受け止めて今の僕という人間の糧とする。

 

もし挫折してもその時は支えてくれる仲間がいるのだから。

 

「・・・よし、行くか。」

 

明日には退院できるよう手続きをしてもらうようシゲさんにメールを送って白衣からパーカーとカーゴパンツという動きやすいラフな格好をしてみんなが待つ第3スタジオを目指した。

 

 

 

 

 

 

CIRCLEに久々に来た。

 

最後に来てから数日しか経ってないのにとても懐かしく思える。

 

「お、奏多くん!なんか久しぶりだね。」

 

声の主はまりなさんだった。

 

確かにいつもRoseliaの練習の時にカウンターに行くのは僕なのでそう思うとこうして会うのも久しぶりなんだなと思う。

 

「はい、お久しぶりです。」

 

「友希那ちゃんから聞いたよ〜体調崩してたんだってね。」

 

「え、えぇ・・・けどもう大丈夫です。」

 

「そうなんだ、よかった!そうそう、Roseliaのみんなは第3スタジオだよ。顔見せに行ってあげて!」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

友希那が上手いこと誤魔化してくれていたことに感謝して第3スタジオの前に立つ。

 

そこで手が止まる。

 

思い返せばみんなにかなり酷いことを言っている。

 

機嫌を損ねてなければいいのだが・・・

 

「し、失礼・・・します。」

 

部屋に入るとRoseliaのみんながなにか話し合っていた。

 

そして僕に気づくと一斉にこっちに来た。

 

「奏多、待っていたわ。」

 

「は、はい・・・遅くなった。」

 

「あ、奏多さん敬語抜けてる!」

 

あこに言われて今気づいた。

 

みんなに対して話す時使っていた敬語が抜けていた。

 

「ほ、ほんとだ・・・いつから・・・」

 

「奏多くん・・・病院で・・・話してた時も・・・そうだったよ。」

 

「り、燐子も敬語抜けてるよ!しかもソータのこと『奏多くん』って!」

 

「そ、そうですか?・・・そんなこと・・・ないと・・・思いますけど・・・」

 

「どうやら九条さんだけに対して敬語が抜けているようね・・・病院で何があったんです?」

 

あのことを話されると色々とやばい。

 

燐子が質問に答える前にやることをやってしまおうと思った。

 

「あ、あの・・・みんなに言いたいことがあるんだけど・・・」

 

そう言うと全員が静かになった。

 

僕は意を決して話し出した。

 

「まずは君たちに謝りたい、本当にごめんなさい。僕はたしかに君たちを信用していた。けど心のどこかでは信用できてなかった。そこは僕の未熟さであり弱さだ。そのせいで君たちを避けて傷つけてしまった。けど燐子に言われて心の霧が晴れたんだ。弱さから逃げてはいけない、向き合って受け入れなければならないって。だからもう1度君たちを信用したい。だから・・・」

 

「皆まで言わなくていいわ。」

 

「え・・・」

 

「私達があなたを信じなかったことってあった?」

 

そう言われて心にジーンとくる。

 

泣きそうになるがここで泣いてはだめだ。

 

「そうですよ。誰だって弱さや人に知られたくない面もあります。」

 

「それでもソータがこうやって帰ってきてくれたのがアタシ達は嬉しいんだよ。」

 

「あこ達はずっと奏多さんのこと信じてます!」

 

「だから・・・そんなに固まらなくていいよ。」

 

「・・・っ!みんな・・・ありがと・・・」

 

ほぼ泣きかけの僕の肩を友希那が掴む。

 

「次は私達の番よ。ここに呼んだ理由は一つしかない。あなたに聞いてほしい歌がある。」

 

肩を掴んだまま僕はステージの前の椅子に案内された。

 

そこに座らされるとRoseliaのみんながそれぞれの位置に立つ。

 

「これは本当はあなたの誕生日に送るはずの歌だった。けどこの歌は今のあなたに必要だと思ってみんなで完成させたの。」

 

そんな急ピッチで完成させたのか。

 

これでは彼女達に頭が上がりそうになさそうだ。

 

 

 

 

 

 

「それでは聞いて・・・『軌跡』」

 

 

 

 

 

 

『靴紐が解ければ 結び直すように』

 

 

 

 

 

 

ピアノの伴奏に合わせて友希那が歌を紡ぐ

 

 

 

 

 

 

『別れても途切れても また繋がる為に出逢うべく 人は歩んでゆく』

 

 

 

 

 

 

『バラード』

 

それはRoseliaが今までやったことのないレパートリー

 

 

 

 

 

 

『哀しみで 胸の中溺れそうならば 瞼閉じ迎えよう いつも変わらず 笑う貴方の瞳が ほらね…』

 

 

 

 

 

 

ほとんど時間がなかったのにこの完成度・・・

 

彼女達はどれだけ練習したのだろうか

 

 

 

 

 

 

『ただ綺麗で』

 

 

 

 

 

 

テンポが上がる。

 

恐らく次は・・・曲のサビ・・・

 

 

 

 

 

 

『“ありがとう”

歌をうたい ひたすら愛しさを告げ

溢れ出す想いは

ずっと星のように瞬くから』

 

 

 

 

 

 

僕はこの曲の名前が何故『軌跡』なのかようやく理解した。

 

バラードは基本別れなどを惜しみその人に感謝する曲、しかしこの曲はただ純粋な『感謝』の曲だった。

 

 

 

 

 

 

『“ありがとう”

廻る地球 貴方と私は進む

握る手離れても

終わらない絆がある

 

幾千も 永遠を重ね』

 

 

 

 

 

 

1分半ほどの短い曲、その曲が今終わった。

 

突如視界がぼやけ出す。

 

気がつけば僕は大粒の涙をポロポロ落としていた。

 

「練習時間が短くてこのぐらいしか完璧にこなせなかったけど・・・」

 

「・・・みんなと会う時は・・・絶対に・・・泣かないって・・・決めてたのに・・・止まんないじゃん・・・」

 

「それはソータがみんなの事大切に思ってる証拠だと思うな。」

 

「リサ・・・」

 

「多分この前のソータだったら泣かなかったと思うよ。けどソータすごく変わったじゃん。泣くって事は私達がソータのこと大好きな仲間だって思いが伝わったからだと思うよ。」

 

「大好きな・・・仲間・・・」

 

「そうだよ・・・奏多くんは・・・大切な仲間なんだから。」

 

「もう・・・泣かせないでよ・・・これ以上泣くと・・・涙枯れるじゃん・・・」

 

一人泣く僕の前にステージから降りた友希那が前に立つ。

 

「奏多、次からの練習・・・来てくれるわよね。」

 

そう言って手を差し出す。

 

僕は涙を拭い、その手を握った。

 

「・・・ええ、もちろん!」

 

「あなたの支えが私達の『色』を引き立たせる。奏多のこと、信用してるわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は無色だ。

 

 

 

 

 

 

 

しかし今はそれが青薔薇のバンドを引き立たせる。

 

 

 

 

 

 

自分の『色』を見つける

 

 

 

 

 

 

そんな『夢』は朧気となった

 

 

 

 

 

 

このバンドを引き立たせる『無色』でありたい、そんな夢になっていた。

 

 

 

 

 

 

他人が見たら笑うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

それでも僕はこの夢の続きを見たい

 

 

 

 

 

 

僕は初めて自分が無色であることを誇りに思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて『~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ』は終わりです。
あーやりたいこと全部やれた!次何しようか考えてないっ!(投稿日明日)
恐らくNFO編の前日譚やると思うんで!ひっさびさにファーリドラの「ルナ」を出す時がきたぞぉ!
それではまた明日!おたのしみに!


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エピローグ ムショクデアルカラコソ

この前ラストだと言ったけど大事なこと決着ついてないからエピローグです
なので流石に今回で終わると思います。

遂にお気に入り150件到達!これも皆さんのおかげです!評価バーに色もついて見た瞬間指震えましたw
今回はそれを記念して設定資料集のVer.2も仕上げようと思います。これが上がり次第作業に取り掛かります。

それでは『~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ』のエピローグお楽しみください!


『軌跡』の発表から日が明け、今日は月曜日。

 

久々に学校へ登校する日だ。

 

昨日病院で手続きを済ませ、無事退院した。

 

シゲさんはこれから忙しくなるらしく都心の方へ帰っていった。

 

実はシゲさんは丁度仕事の関係でこの辺りの人気バンドを取材していたらしく近くに支社があってそこで寝泊まりしていたそうだ。

 

昨日退院手続きのあと僕達Roseliaにも取材が来た。

 

インディーズを尊敬していること、FWFを目指していること、そしてこの6人で『自分たちだけの最高の音楽』を目指すこと。それを話した。

 

シゲさんに聞いたところPoppin PartyやAfterglow、Pastel Paletteにハロー、ハッピーワールド!の皆にも取材に行ったらしい。

 

編集が終わって出版されたら僕達に送ってくれるらしい。

 

それを楽しみにしながら僕は花咲川高校の門をくぐった。

 

 

 

 

 

教室の扉を開くと周りがざわついた。

 

久々の登校だ、無理もない。

 

「奏多くんおはよっ!久しぶりだねー!」

 

席に座ると後ろから丸山さんが声をかけてくる。

 

何度か席替えをしているはずなのだが何故か丸山さんとは席が隣前後になるという謎の引きをしている。

 

「おはようございます、丸山さん。」

 

「・・・奏多くん何か変わった?」

 

「変わった・・・?」

 

「うん、前よりなんか柔らかくなってる感じがする!」

 

自覚していなかったが多分この前の件で気が付かないうちに変わっていたのだろう。

 

するとドアの開く音がした。

 

入ってきたのは紗夜と燐子だった。

 

「紗夜!燐子!おはよー!」

 

「おはようございます、九条さん。」

 

「奏多くん・・・おはよう・・・」

 

燐子の言い方に何も知らない丸山さんは驚く。

 

「燐子ちゃん・・・その言い方・・・ねぇ、この土日に何があったの!?」

 

「えっ・・・その・・・色々と・・・」

 

燐子が誤魔化す。

 

僕も誤魔化し程度に笑って返す。

 

すると後ろから強い衝撃が来た。

 

「おーっす奏多!久しぶり!」

 

声の主は炎だった。

 

炎が僕の肩に腕を回していた。

 

彼はいつも通り元気そうだ。

 

「炎、おはよう。あとこの前はゴメンな、あんな言い方して・・・」

 

「あぁ、気にすんな。それとちょーっと来てくれ、話ある。」

 

炎が腕を引っ張って男子トイレに連れ込んだ。

 

「それで話って何?まぁ他の人に聞かれたくない事なんだろうけど・・・」

 

 

 

 

 

 

「母さんがお前に会いたいって。」

 

 

 

 

 

 

その言葉に一瞬体が固まる。

 

しかしすぐに平然を装って返す。

 

「う、うん、わかった。それでいつ行けばいい?」

 

「できれば今日。お前と会うことを条件に母さんから昔のこと色々聞いた。無理しなくていいけど・・・」

 

確かに母親と会うのは怖い。

 

しかし会って自分の気持ちを伝えなければ何も変わらないような気がした。

 

「・・・大丈夫、なんかあったら炎を頼るから。そん時は頼むよ炎。」

 

「わかった、とりあえず話したいことは色々あるから昼休み屋上に来てくれ。」

 

「了解。」

 

ということで男2人で屋上で話し合うことが確定した。

 

 

 

 

 

 

時は流れて昼休み。

 

僕は炎に言われた通り屋上に来た。

 

炎は先に来ていて待っててくれていたようだ。

 

「お待たせ、それで話したいことって何?」

 

「まずここに呼んだ理由だが・・・」

 

炎が真剣な顔付きをする。

 

僕は何故か緊張して生唾を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・弁当持ってくんの忘れて金もねぇ・・・だから奏多の弁当少し分けてくれ!」

 

 

 

 

 

 

炎が涙目で訴えかけてきた。

 

変に緊張したせいでガクッとなる。

 

「な、なんだ・・・そんな事か・・・」

 

「頼む~腹減って死にそうなんだよ~」

 

そう言って炎は僕にすがってくる。

 

「わかったわかった!だから服は引っ張るな!」

 

「奏多~ありがと~」

 

とりあえず座って弁当の蓋に適当なおかずを載せて炎に渡す。

 

それを炎はものすごい勢いで口の中に頬り入れた。

 

「は、早・・・」

 

「んぐっ!ぷはぁ~美味かったぁ!これ奏多が作ったのか?」

 

「そ、そう・・・だけど・・・」

 

「やっぱりお前の飯食いたくなってきた!この前の約束忘れてないよな!」

 

「当たり前じゃん。それは置いといて本当に話したいことって何?」

 

「・・・ああ、そうだったな。奏多、俺はお前の過去を聞いたけどそれでも今のお前のことをよく知らねぇ。今日母さんと話すにあたってもしかしたらもう二度と関わるなって言われるかもしれねぇ。それでも・・・それでもお前は俺のダチで・・・友達でいてくれるか?」

 

僕は炎の言うことを無言で聞いた。

 

少し間を開けて炎に返した。

 

「・・・昔の僕ならそのまま母親の言いなりになっていたのかもしれない。言うことを聞くことで母親から逃れようとしてたのかもしれない。けど今はもう違う。僕は僕で母親の奴隷じゃない。僕の生きる道を決めるのは僕自身だし、炎の生きる道も炎が決めることだ。それを親だろうと他人に言われる筋合いはないよ。だから炎はやりたいようにやればいい。炎がそう思っているのなら僕はそれに応える。ずっと友達でいるよ。」

 

「そっか・・・お前変わったな。だから初めて見た時からお前のこと気に入ってんだろうな・・・ありがとな奏多!」

 

「うん、気にしないで。その代わり今日何かあったら助けてよ~もうあの人に傷つけられるのはうんざりなんだからさ。」

 

「当たり前さ、例え母さんだろうと友達傷つけるやつは嫌いだからな!」

 

そう言ってお互い笑い合う。

 

すると屋上にある人が入ってくる。

 

僕は気がついたが炎は気がついていないようだ。

 

「・・・炎、昼休みなんか予定あったの?」

 

「ん?お前と飯食べる以外なんかあったっけ?」

 

「だったら何で・・・

 

 

 

 

 

 

後ろにいる白鷺さんは禍々しい笑顔で炎見てるの?」

 

 

 

 

 

 

炎の顔が固まる。

 

そのままゆっくりと後ろを向いた。

 

彼の顔には秋だというのに汗がダラダラ流れている。

 

「・・・ち、千聖・・・さん?」

 

「あら、炎くんは元気そうでゆっくりお弁当ですか?これから委員会の仕事があるっていうのに。」

 

白鷺さんの笑顔が怖い。

 

なにか良く分からない禍々しいオーラが僕達を襲っている。

 

「お説教が必要かしら?」

 

「そ、奏多・・・た、たす・・・」

 

「ごめん炎・・・こればかりは無理。」

 

「さ、行きましょうか。」

 

白鷺さんは炎の襟首を掴んで引っ張って行った。

 

炎は首を掴まれた猫のように大人しく涙目で引っ張られて行った。

 

炎の行く末を祈りながら僕は残った弁当を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

放課後、僕はRoseliaのみんなに『母親と話してくるから遅れていく』とLINEを送って炎と一緒に炎の家へ向かった。

 

炎が先に入ったのに続いて炎の家に上がる。

 

リビングに入ると母親が平然と座っていた。

 

「・・・母さん、ただいま。」

 

「おかえりなさい炎、そいつも連れてきたようね。」

 

「・・・話って何。」

 

「とりあえず立ったままでもこちらが話しにくい。座りなさい。」

 

言われた通り席に座る。

 

母親はコーヒーらしき飲み物を啜って話し出した。

 

「まずはあなた、うちの炎に近づかないでくれるかしら。あなたと炎が一緒にいたら炎にどんな影響が出るかわかったもんじゃないわ。」

 

「母さん・・・奏多を病原体みたいに・・・」

 

「炎は黙っていなさい。これはあなたの為でもあるのよ。」

 

僕は無言で聞いていた。

 

今話しても何も効果が無いと思ったからだ。

 

「炎はあなたと違って存在感や色々な才能がある。あんたは才能もない、存在感もない、極めつけはアンタを産んでから二度と子供を作れない体になった。あんたなんて産まなきゃ良かったわ。」

 

「母さん・・・そんな言い方」

 

「だから炎は黙ってなさい。」

 

炎もついに黙る。

 

こうなり始めた母親は止まらないことはわかっていた。

 

「アンタの人生はどうでもいいけど炎の人生は華やかで素晴らしいものにしてほしいの。だから二度と近寄らないでくれる?それとも昔みたいに体に刻み込んだ方がわかりやすいかしら。」

 

体が震える。

 

昔の惨劇を思い出す。

 

冷や汗が出る自然と拳に力が入る。

 

逃げ出したい。

 

傷つきたくない。

 

そんな思いが出てくる。

 

しかし逃げ出してはいけない。

 

だって・・・

 

 

 

 

 

 

今の僕には支えてくれる仲間がいるから

 

 

 

 

 

 

「・・・炎の人生は炎のものだ、あんたが決めることじゃない。」

 

「・・・何ですって。」

 

「あんたは炎に華やかで素晴らしい人生にしてほしいと言った。けどそれはあんたが炎に押し付けているだけのエゴに過ぎない。あんたの思う幸せが炎の思う幸せじゃあない。例えあんたが今の炎の母親だろうと炎の人生にとやかく言われる筋合いはない。しかもあんたと僕はもう赤の他人だ。僕こそあんたに誰と会おうが誰と友達になろうが言われる筋合いはないよ。」

 

「なん・・・ですって!この不良品!生きているだけで害悪な無色が!」

 

「無色か・・・今はその無色が誇らしく思えるよ。」

 

「・・・このっ!死んでしまいなさい!」

 

母親が激昂して隠してあった包丁を取り出して切りかかってくる。

 

「奏多!あぶねぇ!」

 

炎が止めにかかるが母親はもう僕の前に来ていた。

 

しかし僕は焦りはしたが怯えはしなかった。

 

なぜなら・・・

 

 

 

 

 

 

激昂した母親は標準を狂うからだ。

 

 

 

 

 

 

予想通り母親の包丁は標準が狂って左肩を浅く切り裂いただけだった。

 

左肩に痛みが走るが我慢して母親の足を払う。

 

すると母親はバランスを崩して近くの机の角に頭をぶつけてそのまま倒れ込んだ。

 

包丁は僕の座っていた椅子に突き刺さった。

 

「奏多!大丈夫か!」

 

「痛てて・・・大丈夫だよ。それより・・・」

 

僕は母親の方に視線を送ると炎は母親の脈を触った。

 

「・・・うん、脈はある。」

 

「そっか・・・とりあえず警察呼んだ方がいいかな、これは。」

 

「そうだな、面倒くさくなるけどこれは警察に任せた方がいいや。」

 

 

 

 

 

 

その後あったことをまとめると僕達は警察に連絡して母親は傷害容疑で逮捕、僕は怪我を見てもらうために警察病院へ、炎は何があったか言うため取り調べ室にに行った。

 

肩の傷は思っていたより浅く、数日で治るものだったが僕の体を見た医師は何があったか聞いてきた。

 

僕は昔の虐待のことを話し、母親は傷害容疑だけでなく虐待容疑もかかりかなり重い罪となり、刑務所行きが確定した。

 

炎は今日のことだけで済んだが僕は昔の虐待の件も何度も聞かれ気がつくと日は暮れていた。

 

炎によると父親は今日は帰ってこれないため僕の家に止めることになった。

 

炎に料理を振る舞い、談笑しながらその夜を過ごしたがRoseliaの練習に行けなかったのでこれから色々言われるだろう。

 

日が変わって僕達は一緒に学校へ向かった。

 

教室では先に燐子と紗夜がいた。

 

「おはよう、2人とも。」

 

「おはようございます九条さん。」

 

「おはよう・・・奏多くん。」

 

「昨日は行けなくてすみませんでした。」

 

「昨日の件は仕方の無いことです。それで・・・」

 

「うん、母親とは決着ついたよ。こうなったのはみんなのおかげ。本当にありがと。」

 

「よかった・・・奏多くん・・・優しい顔してる・・・」

 

「・・・こうなったのも君のおかげだからね、燐子。」

 

「昨日のことに関しては今日の練習できっちり話してもらいますからね。」

 

「それもそっか。わかったよ。」

 

 

 

 

 

 

彼は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

それは心からの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

この日、彼は昔の縛りから開放された。




エピローグがいつも書いてる量より多い・・・!
との事で『~軌跡~ムショク ノ ナミダ ト オボロゲ ナ ユメ』は本当に完結です。この後資料設定集Ver.2を仕上げるとして次は何をしよう・・・
次に何をすればいいかメッセージ等でリクエストあったらやるかも知れません!リクエストはいつでもお待ちしてますのでよろしくお願いします!


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8章 ~Determination Symphony~秋時雨に翡翠の姉妹
41話 ヒスイ ノ シマイ


新章「~Determination Symphony~秋時雨に翡翠の姉妹」です。Twitterのアンケートの結果NFOより先にこっちが先になりました。
今回恐らく氷川姉妹がメインとなります。今回はプロローグにあたるため少し短めとなります。
それに今回でプロローグ、番外編含めると50話になります!まさかここまで続くとは・・・

それでは新章スタートです!


私の妹は一言で言えは「天才」だった

 

見たものはすぐに覚え、自分の技術にすることが出来た。

 

私とは生まれた時間が数時間しか変わらないのにこの差である。

 

私は今まで妹、日菜から逃げるように生きてきた。

 

日菜が芸能事務所にスカウトされてからほとんど話さなくなってきた。

 

私は日菜と同じものにならないように違うことを極めようと思った。

 

それがギターだった。

 

私の中学生活はギターの素晴らしさに魅入られた。

 

高校受験の時も日菜とは違う学校を選び、花咲川に入学した。高校に入れは何かが変わると思っていた。

 

しかし日菜の芸能事務所がアイドル業をすることになり日菜がアイドルバンドでギターをすることになった時、私の人生は日菜から離れなれないことを悟った。

 

そのため私は高校人生の殆どをギターに費やすことを決めた。

 

あの子はどんな事でも自分のモノにしてしまう。

 

緩い気持ちでは越されてしまう。

 

最悪他のことは抜かされても構わない。

 

しかしギターだけは抜かされたくなかった。

 

そのためソロではなくバンドを組むことで技術が上がるのではないかと考えた私はたまたまギターを募集していたバンドに入ることにした。

 

しかしそこはただバンドというものを楽しむだけのバンドで私の技術に見合わないものだった。

 

楽しむだけでは技術が上がらないと思っていた私にバンドを組まないかと誘ってくれた人がいた。

 

 

 

 

 

 

それが湊さんと、「Roselia」との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

そこから今井さんや宇田川さん、白金さんに九条さんと出会い、そこで多くのことを学んだ。

 

そこで格段に技術を磨けたと思っている。

 

そして夏のある日、日菜は私にこう言った。

 

「おねーちゃん、夏祭り行かない?」

 

私は最初否定した。

 

けど考えているうちに日菜と話せなければこれまでと変わらない、自分が成長するにはまず日菜とまっすぐ向き合わなければならないと思うようになっていた。

 

しかし私はその時日菜と話すことはできなかった。

 

だが、七夕の日に母から頼まれた買い物をしている途中、日菜を見つけてその時日菜が書いていた短冊を鳥に取られてしまい取り返すために追いかけ、そのまま七夕祭りに行くこととなった。

 

祭りに行って本当のことを思えば楽しかった。

 

その時日菜が書いたように私も短冊に願いを書いた。

 

 

 

 

 

 

『日菜とまっすぐに話せますように』

 

 

 

 

 

 

それが私の願いだった。

 

願いだけでは変わらないことは知っていた。

 

けどこれがその時、頭の中で思ったことだった。

 

日菜とまっすぐ話すこと、それを願いだけで終わらせないように努力しようと決心した。

 

 

 

 

 

 

そして夏祭りから3ヶ月が経った。

 

九条さんの1件も終わり、私が家のリビングで本を読んでいる時だった。

 

「ただいま~あ、おねーちゃん!聞いて聞いて!」

 

日菜が仕事から帰ってきてすぐに私の所へ来る。

 

『日菜とまっすぐ話せますように』そう短冊に書いてから少しずつだが日菜との時間が増えてきたような気がする。

 

日菜と過ごす時間も悪いものではない。

 

それに、会話することで新しい発見もある。

 

「おねーちゃん、今、話聞いてなかったでしょ!」

 

「え・・・」

 

「おねーちゃんは、『考え事モード』に入るとピタッとして、んーってなるんだよね。だからすぐにわかるよ!」

 

「ピタッと・・・?私そんなに瞬きが減っていたかしら?」

 

「そーだよ~!ちゃんと話聞いてよ~!」

 

最近少しだけ、日菜の言う擬音が何を指しているのかわかるようになってきた。

 

「・・・まぁいーや。ねぇねぇ、今日さ、テレビでパスパレのライブが放映されるんだよ!一緒に見ようよ!」

 

「え・・・」

 

「この前やったライブが一部だけ放送されるんだって!まぁ、ローカル局なんだけどね。おねーちゃん一緒に見ようよ!」

 

そう言えば修学旅行でのライブ以降、日菜のライブ姿を見たことがない。

 

その上あの時は初めてやる曲に必死で日菜の演奏などろくに見ていなかった。

 

いや、見たことがないというより見ないようにしていただけだ。

 

「・・・ダメ?おねーちゃん、忙しい?」

 

日菜が少し寂しそうに顔を見てくる。

 

今日は特に予定もない。

 

これからも少しずつ変わるためには日菜の演奏を見てみるのもありだろう。

 

「いえ、今日は練習もないし、生徒会や風紀委員の仕事もすべて済ませてあるから時間はあるわ。」

 

「やったー!時間は・・・あと5分くらいで始まる!あたし、飲み物とか用意してくるね!おねーちゃんはテレビよろしく!」

 

「ひ、日菜!私はチャンネルわからないからあなたがチャンネルを合わせて!飲み物とかは私が用意するから!」

 

「そ、そっか。わかった、おねーちゃんよろしくね!」

 

チャンネルも伝えずに行こうとしたので引き止めて日菜にテレビのチャンネルを合わさせる。

 

私は冷蔵庫から紅茶を、棚からクッキーを取り出して持っていく。

 

「おねーちゃん早く早く!」

 

「わかったから少し落ち着きなさい。」

 

最近こういった会話をよくするようになってきた。

 

これはうまく話せている方なのかわからないが、私としては話せているように思える。

 

机の近くの棚からグラスを二つ取り出して紅茶を注いだ。

 

紅茶に口をつけた時にテレビの画面にパスパレのメンバーが映し出された。

 

「あっ!はじまった!!わあーっ、すごいお客さん!こうやって見るとすっごいな~!」

 

「日菜、少し落ち着きなさい。」

 

「だってだって!お客さんから見たらあたし達ってこんな風に見えてたんだなーって思って!」

 

今思えば日菜達はこうやってお客さん目線でライブをあまり見たことがないのだろう。

 

私達の場合は九条さんが動画を撮ってくれているので、楽屋での反省会の時に見ることが多い。

 

パスパレのあらかたな紹介は終わり、丸山さんのMCが入った後に演奏が始まった。

 

「あ!演奏はじまった!」

 

「もう、日菜ったら・・・」

 

日菜のはしゃぎ様に呆れながらパスパレの演奏を見た。

隣で日菜がその時の状況を説明する。

 

「この時さー、すっごく照明がギラッギラだったんだ!眩しいし、暑いし大変だったんだー。それにね、彩ちゃんがちょいちょい音外してさー。」

 

日菜の解説を他所に私は日菜の演奏をしっかり見ていた。

 

やはり私より技術は高い。

 

私より後に始めたのにここまで技術が高いとはさすが天才だと思った。

 

しかし、他のメンバーの演奏よりテンポが走りがちだし、主張が強い演奏をしている。

 

「あっ、ほらほら!次はあたしのギターソロだよ!」

 

日菜の言う通り、ギターソロに入って日菜が大々的に映し出される。

 

テレビの日菜の音は・・・凄く楽しそうな音をしていた。

 

日菜の表情、それに、はやるメロディーでさえ・・・

 

「おねーちゃん?大丈夫?」

 

日菜が心配そうに聞いてくる。

 

また日菜が言う『考え事モード』に入っていたのだろう。

 

「・・・!ごめんなさい、私、また・・・」

 

「うん。考え事?」

 

「いえ、大丈夫よ。大丈夫・・・」

 

日菜に言うより自分にそう言い聞かせながらパスパレの演奏を最後まで見続けた。

 

私の心に残ったのは・・・自分の音に対する疑問だった。

 

 

 

 

 

 

演奏が終わったあと日菜に少しやることを思い出したと言って部屋に戻ってきた私は壁にかけてある自分のギターを見た。

 

日菜に真似されたくない。

 

負けたくない。

 

その一心で私はギターの技術を高めてきた。

 

しかし日菜の音は技術力だけではなかった。

 

私とのもう一つの違い、それは『魅力』だった。

 

日菜の音は技術だけではなく魅力的な音をしていた。

 

テンポが走っていることでさえ日菜の個性であるように感じた。

 

それに比べて私の音は・・・

 

 

 

 

 

 

「私の音は、日菜と比べて、どんな音をしているの・・・?」

 

 

 

 

 

 

その事が私の心を揺さぶり始めた。




はい、本文を見るように文の書き方変えてみました。
これの投稿後にこれまでの全文をこんな感じに変えようと思います。
骨が折れるぞぉ!しんどいぞぉ!けど少し見やすくなるぞぉ!

てなわけで次回もお楽しみに!


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42話 ~Re:birthday~ウマレカワル キョク ト マヨウ ヒスイ

世間がスマブラで盛り上がってる中スイッチ持ってないので話でしか聞くことの出来ない作者の隠神カムイです。
突然ですが四日連続投稿やります。←ほんとに突然
理由としては活動報告でも伝えたように修学旅行で火曜、木曜分の更新が難しいと判断したためこうなっております。
久々の連続投稿ですが身体壊さない程度に頑張りますのでそこのところよろしくお願いします。

てなわけで何故かタイトルがRe:birthdayな本編始まります!


僕が挫折から立ち直る救いとなった曲の『軌跡』。

 

その曲とは別に僕を思う気持ちで創られた曲があった。

 

その曲の名前は『Re:birthday』。

 

『再誕の日』の意味を持つこの曲は元々軌跡のフレーズの没案を友希那が念のために取っておいたものを僕とRoseliaのみんなで再編させて創り上げた曲だ。

 

そして今は僕のために急ピッチで完成させたため、ショートバージョンでしか演奏できなかっためにフルバージョンの軌跡とその曲の没案を新たに生まれ変わって出来たこのRe:birthdayの二つをメインとして練習をしている。

 

軌跡は僕以外のメンバーが創り出したので僕からは何も言うことがないが、Re:birthdayは僕も編集に携わっているため各自のミスや改良点を指摘しやすい。

 

そして、1度全員で通してから休憩を入れるのが最近の練習のスケジュールとなっていたのだった。

 

「それじゃあそろそろ全員で通して軌跡とRe:birthdayやってみようか。」

 

今回も軌跡とRe:birthdayを全員で通し、休憩に入った。

 

「みんなお疲れー!休憩入れよっか。」

 

「ふぅー!疲れたぁ!」

 

「リサお疲れ。はいこれ。」

 

リサにタオルと水の入ったペットボトルを投げ渡す。

 

「よっと!ありがとソータ!」

 

「友希那にあこも受け取って!」

 

そう言って友希那とあこにペットボトルとタオルを渡す。

 

「ありがとう奏多。」

 

「奏多さん、ありがとー!」

 

「燐子はこれで、紗夜はこれ!」

 

続いて燐子と紗夜に渡そうとする。

 

「あ、ありがとう・・・奏多くん。」

 

「いつもの事だよ。後は紗夜だけだけど・・・」

 

紗夜の方を見るとめを開いてずっとぼーっとしている。

 

日頃、紗夜の事をよく見る僕は紗夜が今、考え事をしている事がわかった。

 

しかし受け取ってくれないのも寂しいので声をかける。

 

「おーい、紗夜ー?もしもし、紗夜さん?」

 

するとやっと気がついたのかハッとしたような顔をする。

 

「わ、私・・・また・・・」

 

「紗夜また考え事?とりあえずこれ。」

 

紗夜にペットボトルとタオルを渡す。

 

紗夜はそれを受け取った。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

いつもと様子がおかしい。

 

見た目は凛としてしっかりしているのだが、何故か違和感がある。

 

無理していつも通りを演じているような、どこかに迷いを持っているようなそんな感じだった。

 

「ソータ?どうしたの?」

 

後ろからリサが声をかけた。

 

「ん?何も無いよ?なんで?」

 

「いやさ、ぼーっとしてたからどうしたんだろうと思って。」

 

「ごめん、少し考え事してた。」

 

「何考えてたの?」

 

「いや、特に大したことはないよ。ほら、そろそろ休憩終わるよ。」

 

「むむむ・・・気になるけど練習優先だね。はいこれ。」

 

リサにタオルと中身が半分くらいのペットボトルを渡される。

 

僕はそれをいつも置いている位置に置いた。

 

「みんなー、そろそろ始めようかー!」

 

リサがみんなに呼びかける。

 

こういう呼びかける系はリサの方が向いていると思う。

 

全員が位置について僕が次の練習メニューを伝えた。

 

「えっと、そろそろ次のライブも近いのでメニューを組もうと思ってる。なにかリクエストとかある?」

 

「はいはーい!あこは新曲やってみたいです!」

 

「新曲か・・・悪くないけどまだ軌跡とかRe:birthdayも完璧じゃないのにやるのもどうかなー・・・友希那はどう思う?」

 

「確かに新曲も悪くないわ。けど新曲をするのであればどのようなテーマで行くか考えないと。」

 

「今回のライブは軌跡とRe:birthdayも入れる感じで4曲やろうと思う。だからあと2曲のうち仮に1曲を新曲をやるしたらあと1曲何にするか・・・」

 

考えていると燐子が手を挙げて提案してきた。

 

「あ、あの・・・軌跡は結構テンポが緩やかなのでそれで緩急をつけるとしたら・・・テンポの良い曲の方がいいと思う・・・例えば熱色スターマインとか・・・」

 

「熱色スターマインね・・・悪くないわ。もし新曲をするならそれを最後にした方がいいわね。」

 

友希那の言葉に僕は流れを考える。

 

もし最後に新曲をやるとしたら必ず盛り上がる。

 

なら、熱色スターマインを初めにして次にRe:birthday、緩急をつけるように軌跡を入れる方がいいだろう。

 

1通り考えて僕はみんなに提案することにした。

 

「なら、1番目を熱色スターマイン、2番目をRe:birthday、3番目を軌跡で最後に新曲って感じでどう?」

 

「うん!賛成!」

 

「それがいいわね。なら新曲はアップテンポな曲の方がいいわね。」

 

「結構ハードな流れだけどやる気出てきた!頑張るよ燐子!」

 

「は、はい・・・頑張りましょう・・・」

 

僕はふと紗夜の方を見る。

 

紗夜は話は聞いているようだが考え事をする状態に入りそうになっていた。

 

「紗夜はどう思う?このセット。」

 

「え、ええ・・・悪くないと思います。アップダウンもしっかりしてて面白そうだと思います。」

 

「そうね、紗夜のギター、今回も期待してるわよ。」

 

「は、はい・・・わかりました。」

 

紗夜の表情が少しだけ曇る。

 

やはり何かあるのだろうか。

 

「それじゃあその流れで一回やってみよ!」

 

リサの提案で全員が練習のスイッチが入る。

 

紗夜の様子も気になるがとりあえず練習を優先させた。

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

私は初め、今井さんが何故Roseliaに入ることを許されたのかわからなかった。

 

力量もお世辞にも上手かった訳でもなくただの経験者というイメージしかなかった。

 

確かに初めて演奏した時の一体感は素晴らしかった。

 

けど入ることを許されたのは湊さんが甘いのではないかと疑ったこともあった。

 

しかし彼女がいなくなって困ったことがあったのも事実だ。

 

実際、夏休み前に今井さんと九条さんがバイトで抜けた時、自分がしっかりしていればまとめられるだろうと思っていた。

 

しかし実際はそうもいかず、最後に2人が来なければパニックになっていた事だろう。

 

その時、私は何故、湊さんが今井さんをRoseliaに入ることを許可したのかわかった気がした。

 

彼女の強みは私達を支えてくれていることなのだと。

 

そしてその強みは九条さんも持っている。

 

2人が居て初めてRoseliaというバンドは輝き続けることが出来るのだと、そう思った。

 

湊さんはもちろん白金さんも、更に宇田川さんもそれぞれの強みを持っている。

 

私は音楽性に左右されずに評価されるからこそ高い技術や正確さを信じてやってきたつもりだった。

 

なので私はギターの技術やテンポは誰よりも優れているという自信はある。

 

しかしそれはすべて『日菜に負けないため』でもあった。

 

しかしこの前見た演奏・・・『日菜と比べて』テンポもリズムも私の方が正確なのにどこかが決定的に違うように思えた。

 

今の私の音はただ正確なだけのつまらない音だ。

 

私の音が『日菜の音』を超えることは出来るのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

演奏をフルで一度通してアドバイスを送ってからもう一度通すと時間もいい具合になってきた。

 

「そろそろ時間だ、今日の練習はここまでにしようか。」

 

張り詰めていた心地よい緊張感が抜け、いつもの緩やかな雰囲気に戻る。

 

「お疲れさま・・・です・・・」

 

「お疲れ様でーす!ううー、つっかれた・・・」

 

「あこ。このくらいで弱音を吐いていては先が思いやられるわね。特にドラムは体力が大事なのだから体力の使い方やペースを考えて叩くことね。」

 

「ううっ・・・」

 

「まあまあ。あこお疲れ!はい、クッキーどーぞ!」

 

リサが手作りのクッキーを渡す。

 

これもいつもの恒例となってきた。

 

「あ、今回僕も作ってみたからよかったら食べてみて!」

 

そう言って僕は鞄の中からタッパーを取り出した。

 

その中には昨日の夜に生地を寝かせて今日の朝に焼き上げたチョコマフィンが入っている。

 

タッパーを開けるとチョコの甘い匂いが周りに漂った。

 

「うわぁ!美味しそう!いっただっきまーす!」

 

あこがリサのクッキーを片手にマフィンの一つをとって口に運ぶ。

 

するとあこの顔が一瞬で輝いた。

 

「おいひぃ!こんな美味しいマフィン食べたことない!」

 

「ほんとに?どれどれ・・・」

 

あこの反応に興味をそそられたのかリサがマフィンをとって食べる。

 

「うわっ!ほんとに美味しい!ソータ料理できるって言ってたけどこんなに美味しいなんて!」

 

「でしょでしょ!奏多さん料理上手すぎだよ!」

 

喜んでくれてよかった。

 

すると燐子と友希那も近づいてくる。

 

「奏多。一ついただくわ。」

 

「奏多くん・・・いただきます・・・」

 

友希那と燐子もマフィンを口に運ぶと幸せそうな顔をする。

 

「美味しい・・・!」

 

「ええ、とっても。」

 

「今回のはかなり自信作なんだ!」

 

僕は唯一マフィンを食べていない紗夜に声をかける。

 

「紗夜ー!マフィン作ったんだけど食べる?」

 

「ええ、ですけど私は残って少し練習をしてから帰るので後でいただくわ。」

 

「わかった!袋に包んで置いとくから!」

 

僕は念のために持ってきていたラッピング用の袋にマフィンを一つ入れて紗夜のカバンの上に置いた。

 

「それじゃあギター周り以外は片付けといて。僕は受付に精算と次の予約をしてくるからよろしくね~」

 

僕はスタジオの現状復帰をみんなに頼んで受付に向かった。

 

しかし僕はまだ紗夜がなぜ顔を曇らせたのかを考えていた。




突然ですが無灰のメイン2人のCVイメージがつきました!
なお案には「陽だまりと剣と秋時雨」の作者のソロモン@ナメクジさんも絡んでます。

九条奏多・・・島崎信長
陰村炎・・・逢坂良太

という感じになりました!(ほとんど願望)
それでは次回もお楽しみに!


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43話 ツマラナイ オト

実はバンドリで一番最初に来た星4が七夕の日菜な隠神カムイです。
今ではスキルマになりながらもパスパレのイベント以外での使い道がなくて全然使ってない・・・(基本イベントは属性固めたバンドでやってるタイプ)
なお全話の改良が終わりましたので読むと少し変わっているところもありますので読み返してみるのもおすすめです!
それでは本編始まります!


紗夜side

 

みんなが九条さんの作ったマフィンを堪能している中、私は1人ギターの練習をしていた。

 

練習している所はRe:birthdayのサビの前。

 

ここで少し詰まるところがあるのでそこを練習している。

 

詰まりを微調整して一度フルで流す。

 

引き終わると宇田川さんが絶賛の声をあげた。

 

「今日も紗夜さんのギター超カッコイイですっ!リズムもテンポも正確で・・・弾いてる姿もバーンって感じで~!紗夜さんの右手にはこう・・・音楽を司りし聖なる・・・えっと・・・そういう感じのがいるんだと思いますっ!」

 

宇田川さんのいう事は未だに不明なところがある。

 

しかしこれも日菜の擬音語と同じようにわかってしまう日が来るのだろうか。

 

「あこの表現はよくわからないけど・・・紗夜。あなたの演奏はとても正確ね。今日の演奏も問題ないと感じたわ。これからもその正確さを持って精進して。」

 

「正確さ・・・」

 

「紗夜?どうかしたの?」

 

「え、ええ。そのつもりです。」

 

そう行ってる間にギター周り以外の現状復帰を終えたメンバーが帰る準備を始めていた。

 

「紗夜どうする?もう少しやっていく?」

 

「は、はい。あと少しだけやってから帰ります。」

 

「了解、今度マフィンの感想よろしくね~」

 

そう言って九条さんや湊さん達が帰っていく。

 

そして1人残ったスタジオでもう一度Re:birthdayのフルを演奏してみる。

 

「・・・ダメね。何度やってもしっくりこない。」

 

湊さんや宇田川さんはさっきの演奏を問題ないと評したが私にとっては全くしっくりこない演奏だった。

 

テンポもリズムも正確なはず。

 

しかしそれ以上でもそれ以下でもない『何か』が違うのだ。

 

その何かが足りない。

 

そのせいで『日菜と比べて』テンポもリズムも正確なはずなのに自分の演奏がつまらないものに聞こえる。

 

気がつけばそろそろ終わらなければいけない時間である。

 

私はギターとギター周りを元に戻し、自分の荷物をまとめた。

 

カバンの上には九条さんが作ったマフィンが置いてあった。

 

封を開けて中のマフィンを取り出す。

 

チョコレートの甘い匂いがする。

 

そのマフィンを口に運ぶ。

 

柔らかな食感とチョコレートの甘い味が疲れた体に行き渡る。

 

「・・・美味しい。」

 

私は今さっきまでのモヤモヤをマフィンの甘い味で押し込めていた。

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

マフィンを振舞ってから数日が経った。

 

3週間前になったライブを成功させるため、新曲以外の3曲を通しで練習している時だった。

 

「紗夜!また同じところミスよ!」

 

「・・・っ!すみません、もう一度いいでしょうか。」

 

「では、その二つ前のフレーズからやりましょう。」

 

二つ前のフレーズに戻って演奏を始める。

 

Re:birthdayのギターがメインとなる所で紗夜が同じ所でミスをする。

 

いつもの紗夜からしたら彼女らしからぬミスだ。

 

「どうする紗夜?休憩入れようか?」

 

「いえ、平気よ。もう一度お願いします。」

 

「紗夜・・・」

 

やはり無理をしているようにしか見えない。

 

しかし紗夜がそういうのでそのまま練習を続行した。

 

 

 

 

 

 

練習が終わった帰り道、リサはバイトで燐子とあこは新しい衣装のアクセサリーを買いに言ったので僕と友希那と紗夜で帰っている。

 

しかし紗夜は終始考え事をしているようだった。

 

「紗夜、今日は本当にどうしたの?あなたらしくなかったわよ。」

 

「うん、聞いてていつもの紗夜の演奏じゃなかった。本当にどうしたんだ?」

 

「私らしい・・・」

 

紗夜は少し考えると呟くようにこう言った。

 

「・・・私らしい、って何なんでしょう?」

 

「えっ?」

 

「いえ、何でもありません。今日は申し訳ありませんでした。今日のぶんは必ず取り戻しますから。」

 

紗夜はそう言って自分の自宅の方へ向きを変えた。

 

「紗夜待って!さっきのは・・・」

 

友希那が追いかけようとしたので咄嗟に腕を掴んで止める。

 

「奏多!なぜ止めるの?」

 

「友希那、これは多分僕達がどうこうして答えを見るけるものじゃない。これは紗夜自身の問題だと思う。」

 

さっきの『私らしいって何なんでしょう』と言った言葉。

 

その発言でようやく確信がつけた。

 

紗夜の音に違和感があったのは彼女が自分の音に迷いを持っていたから。

 

なぜこうなった原因はわからない。

 

けどこれは僕の時みたいにみんなが答えを見つけるものではないとわかった。

 

「今の紗夜は自分の音に迷いを持っている。このことは僕達が見つけても彼女のためにはならない。だから今は見守って、進んではいけない道に進もうとしたらこうやって止めてあげればいい。今はただ、それだけだよ。」

 

「奏多・・・」

 

友希那が納得したように力を抜く。

 

僕も掴んだ腕を離した。

 

「友希那、多分今の紗夜の気持ちを一番よくわかるのは友希那だと思う。だから友希那が紗夜を導いてあげて。」

 

「私が・・・紗夜を・・・」

 

「うん、だから一度自分がどうしたら立ち直れたのか考えてみて。友希那ならいいアドバイスをあげれるとおもうよ。」

 

「・・・わかったわ。とりあえず今は見守りましょう。」

 

友希那の瞳は決心がついたような瞳をしていた。

 

自分がこうやって説教臭いことをするのは珍しいが、今回の件は僕も経験があるので見守るのが先決だと思った。

 

(だから紗夜、自分で答えを見つけて・・・)

 

今の僕はただこう思うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

『私らしいって何なんでしょう・・・』

 

私はこの言葉を頭の中で繰り返していた。

 

湊さんと九条さんの前で出てしまったこの言葉。

 

他人に聞いてもわかるはずかないのに何故か二人の前で出てしまった。

 

湊さんも九条さんも困惑した顔をしていた。

 

当たり前だと自分の心で自嘲する。

 

自分がわからないものは他人にもわかるはずが無い。

 

いつも練習後に必ずしていたギターの練習もここ最近やっていない。

 

それは自分の音を聞きたくなかったこと以上に日菜に自分のつまらない音を聞いて欲しくなかった。

 

するとドアがガチャりと開く。

 

開けたのは日菜だった。

 

「ねえねえ、おねーちゃん!ギターの練習が終わったら一緒にテレビ見ようよ!今から動物番組の特番があるんだって!」

 

日菜が私の気持ちなんてお構い無しに話しかける。

 

他人の空気を読めないのが日菜の悪いところだ。

 

「・・・ギターの練習なんてしないわ。」

 

「えっ?でも・・・いつも家に帰ってから練習してたよね。」

 

日菜が私の行動を覚えていた。

 

しかし生憎その事は今の私の癪に障る事だった。

 

「・・・弾かない。」

 

「お、おねーちゃ・・・」

 

「ギターは弾かない!!弾きたくないの!!」

 

口に出してから初めて、今自分が何をしたのか気がついた。

 

日菜は驚いたような顔をしていた。

 

「・・・っ。申し訳ないけど今はあなたとも会話したくない。・・・一人にして。」

 

「おねーちゃん・・・どうして・・・?」

 

「ごめんなさい・・・お願いだから今は一人にさせて・・・」

 

「・・・わかった。」

 

日菜が寂しそうに部屋から出ていく。

 

日菜に強くあたってしまった。

 

これでは昔に逆戻りではないか。

 

「・・・どうすればいいの。」

 

ふと視線の中に自分のギターが映る。

 

私はギターから目をそらした。

 

今はギターというものを見たくない、聞きたくない。

 

今ギターを見てしまうと自分のつまらない音が、そして『日菜の音』を思い出してしまうからだ。

 

『日菜とまっすぐに話せますように』

 

そう願ったのは自分だ。

 

しかし今の自分はそれとかけ離れてきている。

 

『日菜と比べて』私は前向きじゃないし可愛らしさもない。

 

私にないものは日菜がすべて持っている。

 

しかし自分より劣っているはずの私のことを日菜は慕ってくる。

 

 

 

 

 

 

今の私はそれが不思議で不快だった。

 

 

 

 

 

 




前の章から挫折の話ばっかりだから重め・・・
次の投稿までお楽しみに!


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44話 シタウ イモウト シタワレル アネ

四日連続投稿と言いながら土日はいつもと変わらないことに気がついた・・・
前置きなんてほっといてとっとと本編入ります。(ただ書くネタが無いだけ)

それでは本編どうぞ!


この前のことから日が開けた。

 

紗夜はいつも通り練習には来ていた。

 

しかし昨日以上に浮かない顔をしていた。

 

「氷川さんの不調・・・まだ治らないですね・・・」

 

「そうだね・・・紗夜さんのギターなんかいつもより迫力がない・・・」

 

このまま不調が続けば次のライブにも影響が出るかもしれない。

 

そんな紗夜に友希那が話しかけた。

 

「紗夜、そんな状態で練習に参加されても困るわ。」

 

友希那がいつもの口調で話す。

 

実は昨日僕と友希那が別れる時に僕は友希那に「心配そうに話すんじゃなくていつも通り話してくれ」と頼んである。

 

紗夜の性格なら心配されると余計頑固になってしまうからだ。

 

「調子が悪いなら・・・」

 

「すみません。・・・すみません・・・」

 

「あ・・・ちょっと休憩入れよっか!良いよねソータ!」

 

「う、うん。それじゃあ30分ぐらいとろうか。」

 

「ってことでみんな今から30分休憩~!休むのも大事っ!」

 

リサにそう言われて今から30分休憩をとることになった。

 

「・・・すみません、少し出ます・・・」

 

そう言って紗夜はスタジオの外へ出ていってしまった。

 

「ちょっと紗夜・・・」

 

追いかけようとしたリサの腕を掴んで止める。

 

「ソータ・・・」

 

僕は無言で首を振る。

 

リサの性格上おせっかいをかけたくなるのはわかるが今は我慢してもらうしかない。

 

どうやらその気持ちは伝わったようでリサは我慢してくれたようだ。

 

今は紗夜自身が問題を解決するか、僕らに頼るのを待つことしか出来ない。

 

しかし心のどこかには紗夜を今すぐにでも助けに行きたいと思う自分もいるのも事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

スタジオに居づらくなってたまらずスタジオを出る。

 

弾けば弾くほど自分の演奏がつまらないものに聴こえる。

 

こんな状態で演奏を続けるなんて出来ない。

 

「あ、あの・・・っ!紗夜さん!」

 

後ろから宇田川さんが声をかけてきた。

 

「・・・なんでしょうか。」

 

「その・・・よかったらカフェに行きませんか?甘いもの食べたら、その、きっと・・・紗夜さんの右手に宿る聖なる力が・・・えっと・・・」

 

相変わらず宇田川さんのいう事はよくわからない。

 

しかし私をカフェに誘おうとしてくれているのはわかった。

 

「宇田川さん・・・ごめんなさい。あまり食欲がないの。」

 

宇田川さんの誘いを断ってしまう。

 

確かに甘いものを食べたら気分がスッキリするが食欲がないのと今は食べる気力がない。

 

「・・・そう、ですか・・・」

 

宇田川さんが寂しそうにする。

 

私はふと疑問が湧いた。

 

確か宇田川さんにはお姉さんがいたはずだ。

 

「・・・宇田川さん。」

 

「は、はい!」

 

「あなたは・・・まだお姉さんに憧れているの?」

 

それは純粋な疑問だった。

 

妹からして姉はどういうものに見えているのか、それが気になった。

 

「もっちろんです!おねーちゃんは世界一カッコイイですから!あこの永遠の憧れですっ!」

 

「永遠・・・」

 

やはり思った通りの反応だ。

 

宇田川さんはずっとお姉さんを目標にドラムを続けているがRoseliaに入り、技術が上達してからもずっと目標としているようだ。

 

「あ・・・す、すみません・・・あこ、また変なこと・・・言っちゃいましたか・・・?」

 

宇田川さんがさっきの反応をまた悪い癖が出たと思い反省する。

 

聞いたのはこちらだ、反省しなくてもいいのに。

 

「・・・ていうか、急にどうしたんですか?そんなこと聞いて・・・」

 

「いえ、何でもないわ。・・・そろそろ時間ね、練習に戻りましょう。」

 

宇田川さんの質問を濁し、スタジオに戻る。

 

つまらない音でも今は弾かなければならない。

 

ただそれだけが重荷だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこside

 

「たっだいま・・・」

 

「あこ、おかえり~」

 

練習が終わり、家に帰るとおねーちゃんが先に帰っていた。

 

「うん、ただいまおねーちゃん。」

 

「・・・どうしたあこ?なんかあったか?」

 

おねーちゃんに一発で見抜かれる。

 

家に帰るまで紗夜さんがなぜあんな質問をしていたのかずっと考えていた。

 

「・・・うん、あのね・・・」

 

あこは今日の練習であったことをすべておねーちゃんに話した。

 

おねーちゃんはそれをずっと静かに聞いていてくれた。

 

「・・・って感じで、紗夜さん、ここのところずーっと元気なくて。演奏もいつもの紗夜さんらしくないような気がするんだ・・・」

 

「へぇ、紗夜さんでもそんなことがあるのか。」

 

「うん。それで紗夜さんにね、『今でもおねーちゃんに憧れているのか』って質問されたの。あこは、おねーちゃんはあこの永遠の憧れですって答えたんだけど・・・どうして急にあんな質問してきたのかな?紗夜さんどうしちゃったんだろう?」

 

「うーん・・・アタシは紗夜さんとあまり話したことないからわからないけど・・・早く、紗夜さんの調子が戻ればいいな。」

 

「うん・・・あこも、そう思う。」

 

おねーちゃんが心配していると言ったのであこもそれに賛同する。

 

するとおねーちゃんは恥ずかしそうに笑った。

 

「・・・にしても、永遠の憧れかあ~。へへ、アタシはあこにそんな風に思ってもらえて嬉しいよ。あこのためにも・・・アタシもずっと、あこのカッコイイでいられるように頑張らなきゃな。」

 

おねーちゃんがそう言ってくれるたのはめちゃくちゃ嬉しかった。

 

「おねーちゃん・・・っ!やっぱり、おねーちゃんはカッコイイなぁ!」

 

「あはは!だろ~!アタシ、カッコイイだろ~?」

 

「うんっ!カッコイイー!」

 

おねーちゃんがそう聞いてきたので正直に答える。

 

やはり誰が何を言おうとあこの永遠の憧れはおねーちゃん以外ありえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

時は流れて日が変わり次の日の朝。

 

私は一人朝早くからCIRCLEへ向かっていた。

 

今日の練習で失敗したらもう許されない。

 

そのためにも事前に個人練習に来たのだ。

 

しかし向かう途中に足が止まってしまう。

 

今日もあの音だったらどうしようと怯えて足がすくんでしまう。

 

「・・・あれ・・・紗夜さん?」

 

呼ばれたので後ろを振り向く。

 

声の主は宇田川巴・・・宇田川さんのお姉さんだった。

 

「宇田川さん・・・?」

 

「・・・あ、あの、少し付き合ってもらってよろしいですか?」

 

宇田川さんに突然誘われる。

 

「・・・はい。わかりました。」

 

私はその誘いに乗ることにした。

 

なぜなら、同じ姉として妹とどう付き合っているのか気になったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇田川さんはこのあとCIRCLEでAfterglowの練習があるという訳でCIRCLEの前のカフェまで来て、向い合せで席に座った。

 

「・・・あ、あの!うちのあこがいつもお世話になってます。」

 

「え、ええ・・・」

 

宇田川さん・・・巴さんは少し戸惑っているようだった。

 

恐らく昨日、宇田川さんから話を聞いたのだろう。

 

「宇田川さん・・・いえ、巴さん。あこさんから私の話を聞いたの?」

 

「えっ・・・」

 

「巴さんの方から突然声をかけてくるなんて、他に理由が思い浮かばないですから。・・・私の演奏が上手くいってないと、そんな話を聞いたのでしょう?」

 

巴さんが少し慌てたような顔をする。

 

どうやら図星のようだ。

 

「あ、あっはは・・・ま、まあそんなところです・・・あこ、心配してましたよ。アタシも、あこにその話を聞いたから、声をかけずにいられなくって・・・」

 

「巴さん、気を使ってくれてありがとう。・・・そういうところも、あこさんの『憧れ』のもとなのかしら。」

 

「え・・・」

 

「あなたは、あこさんの『永遠の憧れ』なのでしょう?」

 

「あはは・・・まあ、そう見たいですね。」

 

私は巴さんに一番気になることを聞いた。

 

「あなたは・・・苦痛に感じたことはないの?ずっと憧れと言われ、追い続けられることが。」

 

巴さんは少し考えると思ったことを話してくれた。

 

「アタシは・・・あこがアタシを慕ってくれているのは純粋に嬉しいです。けど、時々ドラムもホントはあこの方がうまいんじゃないかって思うこともあります。でも・・・あこがアタシのこと慕ってくれている。それなら、アタシはあこの気持ちを大切にしたいし、応えたい。」

 

巴さんは一息置くと自分が思っている一番大切なことを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜなら、あこは・・・アタシのたった一人の大切な妹ですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に私は衝撃を受けた。

 

それと同時に私はそんな風に思うことが出来ないと思った。

 

「・・・なんて、ちょっとカッコつけちゃいましたね?すみません、紗夜さんの方がアタシより年上なのに・・・」

 

「巴さんは大人ね。私は妹からの想いをそんな風に受け止めきれない。」

 

「アタシだってプレッシャーに感じることありますよ?あこのヤツ、アタシのこと全知全能の神!みたいに言うことありますからね!」

 

確かに宇田川さんはお姉さんのことをそんな風に言うことがある。

 

巴さんは息を整えると話を続けた。

 

「アタシは紗夜さんの抱えているものを知らない。それに、アタシが深く立ち入れる筋合いもないです。・・・でも、紗夜さんの調子が戻りますようにって、願ってます。」

 

「巴さん・・・」

 

「すみません、なんだか急に。それじゃあ、アタシは練習があるのでこれで失礼します。」

 

そう言って巴さんはCIRCLEの中へ入っていった。

 

「・・・たった一人の、大切な妹・・・」

 

その言葉を聞いて私は巴さんが強い人だと思った。

 

そして巴さんは私が思う姉というものの理想形なのではないかと思った。




妹ねぇ・・・
兄からしたら妹って、ろくなもんじゃないよ・・・
お兄ちゃんな作者の愚痴は置いといて明日で四日連続投稿のラスト!その次から修学旅行!

ということで次回もお楽しみに!


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45話 ブツカラナケレバ ツタワラナイコト

今思えば「秋雨時に傘を」の衣装である通称(と言ってもそう読んでるだけ)「雨衣装」が初めてすべて揃ったイベスト衣装な隠神カムイさんです。
四日連続投稿の最終日!
明日からは修学旅行のため次の更新は土曜日となります。
修学旅行のせいでBRAVE JEWELを発売日に買いに行けない!悔しい!けど帰り道死んでも買いに行く!な覚悟です。

ということで死んだらフリージアが流れそうな作者が書く本編、始まります!


紗夜side

 

スタジオに入るとまだ誰もいなかった。

 

集合の一時間前である。

 

私の次に早く来る九条さんでも来るのは集合時間の20分前なので当たり前だろう。

 

ギターケースからギターを取り出そうとする。

 

しかしやはり腕が止まる。

 

やはり頭ではわかっていても体が動かない。

 

どうしようか立ちすくんでいた時だった。

 

ガチャりと扉が開く音がする。

 

入ってきたのは湊さんと九条さんだった。

 

「紗夜・・・!随分早く来ていたのね。」

 

「・・・ええ。しかし珍しいですね。九条さんが早く来るのはわかりますが湊さんまでも早く来るなんて・・・」

 

「次のライブの打ち合わせや新曲とかの相談をするために早く来てもらってたんだ。そういう紗夜こそどうしてこんな時間に?」

 

私はその質問に対してすぐには答えなかった。

 

湊さんと九条さん・・・一度挫折を経験している2人にならこの不調のことを話したら何か解決策が得られるのではなかいかと考えた。

 

私は腹を括って自分の思いを2人に話すことにした。

 

「・・・先日からの不調の分を取り戻そうと思って。だけど・・・見つからないんです。」

 

「紗夜・・・?」

 

「見つからないんです。私の音が・・・」

 

私は2人になぜ自分がこうなったのか話した。

 

2人は私の話を静かに、そして真剣に聞いてくれた。

 

 

 

 

「・・・そう・・・不調の理由は、そういう事だったのね。」

 

「日菜に負けないことでしか、自分を信じられなかったんです。でも、そのせいで私の音は、何にもなれない、つまらない音になってしまった。私は・・・私は、日菜のことも、音楽も、自分を信じようとする道具にしか使っていないんです。・・・最低、ですよね。」

 

自分の言葉を自嘲的に流す。

 

しかし2人はそんな私を否定しなかった。

 

「・・・紗夜、それは私だって同じことよ。初めはあなた達を仲間だとは言っても頼ったり信じようとしなかった。私の夢のためにあなた達を巻き込んでいいものか・・・そう考えたしそんな自分に自己嫌悪したこともあった。今でもたまにそう感じる時がある。こんな自分が歌を歌っていいのかと思って悩んだこともあったわ。」

 

湊さんの苦悩・・・それは今の私に似ているような気がした。

 

「けれど・・・そんな風に悩み、真剣に考える気持ちこそ、音楽と純粋に向き合おうとしているからだと教えてくれた人がいた。紗夜、あなたの演奏は正確で素晴らしい。それは間違いなく誇りを持っていいことよ。」

 

「・・・けど、そんな音・・・ただ正確なだけで・・・」

 

すると今まで黙っていた九条さんが口を開いた。

 

「紗夜、音楽は自分を信じる道具だと言ったけどそんな風に思っているのは君だけじゃない。僕も、初めは音楽を、Roseliaを自分の『色』を見つけるために始めたんだ。」

 

「九条・・・さん・・・」

 

「けど、無意識のうちに自分が音楽に対して真剣になってきていることがわかった。初めは誰だって気が付かない。それに君達のことを心から信頼していなかった。そのせいで1度は今の君より酷くなってしまった。けど、みんなに言われてわかったんだ。『ぶつからなきゃ伝わらないことだってある』って。だから今は信じることが出来てるし今もこうやって信じられてて相談を受けている。」

 

「ぶつからなきゃ・・・伝わらない・・・」

 

九条さんが言ったことを繰り返す。

 

その言葉は今の私にとって重すぎた。

 

「紗夜、私もまだ未熟だし、未だに音楽を好きだと言いきることが出来ないでいるからこそ、今の私の言葉を受け止めきれないことも、あなたの苦しみもわかるわ。」

 

「うん、だからこそその苦しみと向き合わないといけない、向き合わないと変わることができないんだ。」

 

「苦しみと・・・向き合う・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、だからこの苦しみと逃げずに向き合うことこそが何よりも大切で、とても尊いことなのだと、わかって欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げずに・・・向き合う・・・」

 

「・・・今日は練習に参加しなくていい。見放しているわけじゃない。あなたが自分で答えを出して、もう一度ここに来てくれることを・・・信じているから。」

 

「紗夜・・・日菜さんから慕われすぎるのも、大変だね。」

 

「湊さん・・・九条さん・・・」

 

 

 

 

『でも・・・あこはアタシのことを慕ってくれている。それなら、アタシはあこの気持ちを大切にしたいし、応えたい。』

 

 

 

 

 

私は巴さんの言葉を思い出す。

 

私が逃げずに向き合う相手。

 

その相手はたった一人しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「・・・これでよかったのかしら。」

 

「・・・これでよかったんだよ。」

 

紗夜が出ていったスタジオで僕と友希那が残る。

 

本当は紗夜が来る前に2人で相談してから話そうかと思っていたがまさか紗夜が先に来ていたとは思わなかった。

 

しかしお互いに伝えたいことは伝えることが出来たので結果オーライというものだ。

 

「今日の練習はギターなしでやらないとね。」

 

「今は紗夜が答えを見つけてくれることを祈るわ。」

 

時計を見るとそろそろリサや燐子達が来る頃合いだ。

 

「さて、僕達はそろそろ練習の準備に取り掛かりますか。」

 

「・・・そうね。」

 

いつも通り楽器などの準備を始める。

 

すると友希那が僕が着ているパーカーのフードを掴む。

 

「ぐわっ!ゆ、友希那ぁ!?」

 

「あ・・・その、ごめんなさい。えっと・・・」

 

友希那が言葉を詰まらせる。

 

一体どうしたのだろうか。

 

「・・・この前は・・・引き止めてくれてありがとう・・・」

 

「なんだそんな事か・・・気にしないでいいよ。あれは止めとかないと友希那、紗夜に聞きに行ってただろ?あれは止めるべきだと勝手に判断しただけだよ。」

 

「でも・・・」

 

「むしろ僕の方が友希那に感謝することは多いんだ。こんなぐらいで感謝されたら僕はどれだけ感謝しなくちゃいけないんだよ。」

 

友希那に笑って返す。

 

しかし友希那はそれを納得しなかったようだ。

 

「でも、今回は奏多のお陰よ。本当にありがとう。」

 

恐らくこれ以上言っても変わらないだろう。

 

これは大人しく感謝を受け取った方が良さそうだ。

 

「・・・うん、どういたしまして。」

 

「それでいいんだから・・・」

 

「さて、早く準備を済ませちゃいますか!」

 

「そうね。」

 

友希那も準備に手を貸してくれる。

 

これならみんなが来るまでに終わりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、何故友希那は顔を赤くしていたのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜が出ていってから30分後、紗夜を除くRoseliaのメンバーが全員揃った。

 

「さーて!今日も練習頑張るぞ~!」

 

あこが気合を入れる。

 

「あれ・・・?ちょっと待って、今日、紗夜は?」

 

しかしリサは紗夜がいないことに気がついたようだ。

 

「紗夜は・・・今日はいないわ。」

 

「何か、あったんでしょうか・・・?」

 

「・・・・・・」

 

友希那が口をつむぐ。

 

今、メンバーに紗夜の状態を言わない方がいい。

 

賢明な判断だ。

 

「最近の紗夜、チョーシ悪そうだったもんね。まぁ、少し休んでもいいんじゃない?」

 

「そう・・・ですね・・・」

 

「・・・紗夜は紗夜なりに自分の答えを探しているんだろう。だから僕達は答えを見つけた紗夜にいつでも合わせることができるようにしよう。」

 

「ええ、だから・・・私達は練習を始めましょう。私達だけでも、できることはあるはずよ。」

 

友希那の一声で全員の気が引き締まる。

 

今の紗夜が何処で何をしているかはわからない。

 

しかし、紗夜が自分の答えを見つけるために動いているのはわかる。

 

だから僕達は帰ってきた紗夜を暖かく迎えて、そのギターの音に合わせて演奏ができるようにしなければならない。

 

(だから紗夜、君は君だけしかできないことを成し遂げてくれ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕達が練習している中、空には暗雲が立ち込め始めていた。




はい、あれはユウキのセリフです・・・
なおSAO2のユウキ編のラストだけで5回ぐらい泣いてます。あのシーン弱いんだよ・・・

そんな訳で次回が一番大事なシーン!でも更新かなり先!
次の更新は土曜日です。それでは沖縄宮古島行ってきます!


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46話 アキシグレ ニ カサヲ

沖縄宮古島より帰ってきた隠神カムイです。
楽しかった!CD(限定版)買えた!ついでにクレーンゲームの蘭ゲットできた!
手なわけで3分の1しか沖縄の楽しさ表現出来なくなるぐらい買えたことが嬉しいです。
あと蘭の造形ヤバすぎィ・・・

ということで帰ってきてから久々の投稿でこの章の山場であります!
さて、久々の本編どうぞ!


湊さんと九条さんに言われて外へ出た私は商店街の中を歩いていた。

 

『この苦しみと逃げずに向き合うことこそが何よりも大切で、とても尊いことなのだと、わかって欲しい』

 

湊さんに言われた言葉を思い出す。

 

自分が向き合う相手はわかっている。

 

わかっているけど、でも・・・

 

「今の私には・・・そんな勇気・・・」

 

そう思っていると鼻先に冷たさを感じる。

 

何かと思い上を見ると曇天の空がさらに黒くなっている。

 

「あ・・・雨・・・?」

 

するとポツポツと雨が降ってきた。

 

さらに数分としないうちに勢いが増していく。

 

とりあえず適当に雨をしのげるところを探す。

 

この雨は今の私の心を表しているように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「うん、それじゃあ一度熱色スターマインから合わせてみようか。」

 

「「「「了解!」」」」

 

紗夜不在の中いつも通り初めに曲を合わせて一度フルで流そうとした時だった。

 

バタンと扉が開く。

 

そこに居たのは翡翠色の髪の色をした・・・日菜さんだった。

 

「お、おねーちゃん、いる!?」

 

「ヒナ!?どうしたの!?」

 

リサが驚きの声をあげる。

 

いつもはアイドル業で忙しそうな日菜さんが何故ここにいるのかわからない。

 

しかしその手には2本の傘があった。

 

そしてその片方はかなり濡れていた。

 

「外、すっごい雨降ってるの!だからおねーちゃんに傘もってきたんだけど・・・おねーちゃん、いないの?」

 

そう言われたのでスタジオの窓の外を見ると確かに雨が降っている。

 

しかもその勢いはかなり凄かった。

 

「紗夜は・・・今ここにはいません。でもまだ近くにいると思います。」

 

「ソータくん・・・ならおねーちゃんにこれ・・・」

 

すると今まで黙っていた友希那が口を開いた。

 

「いえ、日菜・・・あなたが紗夜に傘を渡してあげて。」

 

「・・・ん!わかった!リサちー、友希那ちゃん、ソータくん、ありがとー!」

 

日菜さんがそう言ってスタジオから出ようとする。

 

「日菜さん!」

 

「?どうしたの、ソータくん?」

 

僕は日菜さんを引き止めた。

 

何故引き止めたかはわからない。

 

けど一言だけ言っておきたいことがあった。

 

「その・・・紗夜のこと、よろしくお願いします。」

 

「私からも、紗夜のこと、頼んだわよ。」

 

「・・・?う、うん・・・じゃ、あたしその辺探してくるから!」

 

今度こそ日菜さんがスタジオから出ていった。

 

「・・・友希那さん、奏多くん・・・氷川さんがいない理由・・・2人は知っているんですか?」

 

「はい、さっきの口調からして知ってるような言い方でした・・・もしかして、あこ達が来る前に何かあったんですか?」

 

これは言わなければならない空気だとわかり、みんなが揃うまでにあったことと紗夜がなぜあんなことになったのかを話した。

 

するとリサが静かに、しかしハッキリと話し出した。

 

「・・・紗夜があんな状態になった理由はわかった。けど何でそんな紗夜の所に日菜を行かせたの?もしかしたら紗夜は日菜から傘を受け取らない可能性もあったかもしれないんだよ?」

 

「・・・今の紗夜に私たちの声は届きにくい。だから日菜に頼むしかなかった。私は日菜の言葉が1番紗夜に届くと思ったからそう頼んだの。多分この考えは燐子が一番わかると思う。」

 

「私・・・ですか?」

 

「奏多が私たちから離れた時、燐子に誘うように頼んだわね。あの時奏多に対して1番声が届くと思ったのは燐子だと判断したから頼んだ。だからこうして奏多はここにいてくれている。」

 

「だからあの時・・・友希那さんは私を・・・」

 

「私は誰かが挫折したりした時に一番声が届くのは一番親しみのある人だと思うわ。インディーズの時もそう、奏多のときもそう、いつだって身近で親しい人が助けてくれた。だから今回も紗夜の一番身近な人、日菜に頼んだのよ。」

 

「紗夜の苦しみや辛さは正直リサに燐子、あこより僕と友希那の方がわかると思う。だから僕も紗夜のことを日菜に託そうと思った。話すタイミングが無くて話せなくてごめん。でも今回のことは日菜さんに任せてみよう。」

 

「・・・うん、わかった。ごめんね、アタシも考え無しで聞いちゃって・・・」

 

「大丈夫よリサ。紗夜は必ず答えを見つけて帰ってくる。だから私達は練習を再開しましょう。」

 

そう言ってみんなが元の位置につく。

 

そうして練習が再開された。

 

みんなの演奏を聞く中、僕は窓の外を見る。

 

秋の時のこの雨・・・俳句とかでは「秋時雨」というのだろうか。

 

この様子ではしばらくやみそうにない。

 

紗夜がどこかで濡れていないか心配だがそこは日菜さんに頼むしかない。

 

僕は紗夜が答えを見つけて帰ってくることを願うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

私はあるお店の前で雨宿りをしていた。

 

外の雨は勢いを増す一方だ。

 

この様子ではしばらくやみそうにない。

 

「・・・そう言えばあの日もそうだったわね。」

 

私はあの日・・・七夕の日を思い出す。

 

その日も一時的にこんな感じに雨が降っていた。

 

やんだあとに買い物に出たら1人で七夕祭りを見に行っていた日菜と偶然であった。

 

しかも出会った場所もこの商店街だったはず。

 

『日菜とまっすぐ話せますように』

 

そう願ったのは自分であり、その願いを叶えるのは自分自身だとその時からずっとわかっていた。

 

わかっていたはずなのに・・・

 

「私・・・あの日から、何も変わっていないんだわ・・・」

 

そう思いざるを得なかった。

 

実際今もこうやって逃げてばかりいて九条さんや湊さん達を困らせてしまっているのだから・・・

 

「っ・・・」

 

悔しさ、辛さ、そして悲しさがこみ上げてくる。

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おねーちゃん・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声、そして私を「おねーちゃん」と呼ぶ存在。

 

そんな人はこの世にただ1人しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・日菜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げる。

 

やはり声の主は日菜だった。

 

「よかったあー、ここにいたんだ!雨がすっごいから傘渡そうと思ってスタジオに行ったんだけど、おねーちゃん、今日スタジオに来てないって言われてね、友希那ちゃんとソータくんにまだそのへんにいるはずだから傘、渡してきてって言われてさ。はい、これ。」

 

日菜が傘を手渡してくる。

 

私はその傘を・・・素直に受け取れなかった。

 

「・・・どうして・・・どうして・・・」

 

どうして、私が何度突き放しても、何度拒絶しても日菜が私のそばにいようとするのかわからなかった。

 

しかし、日菜がこんなに私のそばを離れずにいてくれたというのに、私はすべて日菜のせいにしていた。

 

私は・・・私はそんな自分が惨めで、悔しくなってきた。

 

「・・・うっ・・・ううっ・・・」

 

思わず嗚咽が漏れる。

 

そして・・・雨とともに涙が流れる。

 

「お、おねーちゃん!?大丈夫・・・!?ご、ごめん、あたし・・・また、おねーちゃんのこと・・・」

 

日菜が慌ててまた自分のせいだと思いそうになる。

 

しかし私は日菜の言葉を最後まで言わせなかった。

 

「日菜・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

私は・・・日菜に謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着きを取り戻した私は日菜が渡してくれた傘をさして日菜と一緒に自宅へ帰った。

 

家には誰もおらず、私と日菜は向かい合うように座った。

 

「・・・。」

 

「・・・さっきは、突然ごめんなさい。」

 

「う、ううん!おねーちゃん、もう大丈夫?」

 

日菜がまっすぐこちらを見てくる。

 

いつもの私なら目をそらしている。

 

しかし今は・・・

 

「・・・日菜、あなたと、あなたの目を見て、まっすぐに話をする時が来たわ。」

 

「えっ?それって、どういう・・・」

 

「私は・・・いつもあなたにコンプレックスを感じてきた。・・・日菜と比べられたくない。だから私は、あなたがやっていないギターをはじめた。けれど、あなたは私を追うようにギターをはじめて・・・あっという間に私を追い越していって・・・」

 

「おねーちゃん、そんなことないよ・・・っ!」

 

「いいのよ、日菜。あなただって気づいているはずよ。私より、あなたのほうが・・・」

 

そこまで言って言葉が詰まる。

 

・・・そして涙が出そうになる。

 

「おねーちゃん・・・っ!もう、それ以上は・・・!」

 

日菜が止めようとする。

 

しかしここで止まってはいけない。

 

ここで止まればその先にいる者達に追いつけないから。

 

「いいえ、ダメよ。言わないと・・・言わないと私は・・・変われないから・・・!」

 

「おねーちゃん・・・」

 

「・・・あなたの演奏する音が怖かった。自分への劣等感、それに・・・あなたへの憎しみが増していってしまうから・・・前に、一緒に七夕祭りへ行ったでしょう?」

 

「うん、覚えてるよ。」

 

「あの日の短冊に私はこう書いたの。『日菜とまっすぐ話せますように』・・・と。」

 

「・・・!」

 

「けど、その願いを、星が叶えてくれるはずがない。叶えるのは、私自身なのだと・・・そう自覚もしていた。だから、以前よりもあなたと一緒にいる機会を作ろうとした。そうすれば短冊の願いも叶えられると思ったから。・・・でも、あなたの演奏を聴くことだけは逃げ続けていた。沖縄の時も日菜の音より自分の音や他の楽器の音にだけ集中していた。そんな時、久しぶりにあなたの演奏をしっかり聴いて・・・あなたの音は技術にとらわれない魅力的な音をしていると、そう感じたの。『音楽を心から楽しんでいる』・・・私には無い、そんな音がした。あなたに負けないために、何にも左右されない評価を得たくて技術を磨いてきたけど私の音なんて・・・その程度の『つまらない音』なのだとはっきりと感じてしまった。あなたに負けたくない・・・ただそれだけのために磨いて、弾いてきた音なんて、つまらない音で当然よね。もう・・・もう全部嫌なのよ。『つまらない音』を奏で続けている自分も、短冊の願いからどんどん遠ざかっている自分も、全部・・・全部!」

 

自分の今思っていることをすべて話す。

 

すると日菜は下を向いて身体を震わせていた。

 

「・・・日菜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねーちゃんの・・・おねーちゃんの嘘つき!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・?」

 

日菜が滅多に見せない大きな声で私を叱りつけるようにそう言った。

 

日菜はそのまま話を続けた。

 

「おねーちゃん、約束してくれたよね?あたし達はお互いがきっかけだから勝手にギターをやめたりしないでって!あたし・・・それが、すっごく嬉しかったのに・・・!」

 

確かに日菜がギターをはじめたとき私は突き放すためにそんな約束をした。

 

日菜は泣きそうな自分を抑えてひとはく開けるとそのまま話を続ける。

 

「あたし、おねーちゃんの音、大好きだよ!前よりも今の方がもっとるんって・・・えっと・・・楽しそうな音、してるんだよ?おねーちゃん、自分で気づいてる?あたしはおねーちゃんの音がつまらない音だなんて思ったことないよ!おねーちゃんの音を聞いて、あたしはギターをはじめたんだよ!」

 

「日菜・・・!」

 

日菜が擬音ではなくわかりやすいように言葉を変えて話す。

 

私は日菜の言葉に驚きを隠せなかった。

 

「・・・あたし、知らないうちにおねーちゃんのことたくさん傷つけていたんだよね。本当にごめんね、おねーちゃん。でも、でもね・・・あたし、おねーちゃんにギターやめて欲しくないよ。どんな理由だっていい!苦しいこと、辛いことがあったらあたしのせいにしたっていいよ。おねーちゃんが・・・おねーちゃんがギターを続けてくれるんなら!・・・あたし、おねーちゃんと昔みたいに仲良くなりたいって思ってた。けど、そのせいでおねーちゃんが苦しい気持ちになるんだったら・・・いいよ。あたしの事、嫌いでも。それに・・・そんな風にギターをやめようとして・・・約束を破るおねーちゃんなんて、あたしだって・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしだって・・・大っ嫌いだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・!」

 

日菜がたまらず泣き出す。

 

私は・・・私の心には日菜の言葉が突き刺さった。

 

・・・しかしその言葉が私を『いつもの私』に戻してくれた。

 

「・・・あなたは・・・いつもすぐに私を追い越していくのに、私を待って立ち止まって・・・時には傘をさして、私を苦しみから守ろうともしてくれた。・・・私は、いつしかあなたの優しさに、甘えていたんだわ。でも・・・そうよね。あなたとの約束・・・そして、短冊に書いた願い事・・・どちらも違えては行けないわよね。」

 

「・・・!」

 

「私は・・・常にあなたが先に行くような現状を受け入れられるようなできた人間ではない。でも・・・いつか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたと並んで一緒に歩いていくことができるように・・・私はこの音・・・『つまらない音』でギターを弾き続けようと思う。そしていつか・・・自分の音に誇りを持てるようになりたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが今の気持ち、そして・・・精一杯の願いだった。

 

「おねーちゃん・・・!」

 

日菜が泣きながらも笑顔を見せる。

 

やはり日菜にはまだ追いつける気がしない。

 

「・・・また、あなたに先を行かれてしまったわね。・・・ありがとう、日菜。必ずあなたのもとへ向かうから、その時までもう少し・・・待っていて。」

 

「うんっ・・・うんっ・・・!あたしは・・・おねーちゃんが止まらない限りその先で・・・おねーちゃんを待ってるから・・・必ず・・・必ず来て!約束だよ、おねーちゃんっ!」

 

日菜に追いつくにはまだまだ時間がかかる。

 

しかし私はこの音を・・・このまだ『つまらない音』を『誇りある音』と思えるようににすることが先だと思った。

 

私は・・・ようやく前に進めるようになったと思った。




いつもより長い・・・そしてストーリー見直したら泣きそうになった・・・
さすがブシロードさん・・・神作を作る・・・
ということで次の投稿でこの章はラストになります。
次の更新は明日です。
それまでお楽しみに!


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47話 ~Determination Symphony~セカイデ ヒトツノ タイセツナ ヒト

こう見えて実は進路とかめちゃめちゃ考えてる隠神カムイです。
なぜ唐突にこんな話だしたかと言うと今日は専門学校のオープンスクールに行ったからです。
こう見えてしっかり考えております。

さて、今回で『~Determination Symphony~秋時雨に翡翠の姉妹』のラストとなります。
Roseliaのストーリーの中でも屈指の人気を誇るこの作品もラストとなります・・・見てて何回泣きそうになったか・・・
それでは8章のラスト、お楽しみください!


紗夜はその日、結構練習には来なかった。

 

しかし練習が終わり、外に出るとさっきまでの雨は嘘のようにやんで太陽の光が差し込んで空には綺麗な虹が出来ていた。

 

「うわぁ・・・綺麗!」

 

「さっきまでの雨が嘘のようだよ!まるで・・・悪天を払い舞い降りし・・・聖なる・・・その・・・ドバーんとしたなんかみたいな感じ!ね、りんりん!」

 

「そうだねあこちゃん・・・けど・・・本当にキレイ・・・」

 

雲の隙間から除く空の色がまた虹の派手な色を目立たせる。

 

しかし僕含む2名は虹の綺麗さよりほかのことを考えていた。

 

「ねぇ、友希那・・・これって・・・」

 

「ええ・・・多分・・・」

 

言わなくても伝わる。

 

恐らくこれは紗夜が日菜さんと正面から話し合い、答えを見つけたから。

 

そう思いざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の練習日、今日は学校が休みなので早めに家を出る。

 

スタジオに着くともう殆どのメンバーが揃っていた。

 

しかし、紗夜の姿が見当たらない。

 

「おはよう。・・・紗夜は?」

 

「紗夜はまだ来てないけど・・・」

 

「もしかしてまだ調子なおってないんじゃあ・・・」

 

「そんなことないですよ。」

 

「ほら、本人もそう言ってる・・・し・・・」

 

後ろにばっと振り返る。

 

そこには紗夜が何気ない顔をしながらそこに居た。

 

「「「「「さ、紗夜!」」」」」

 

全員が驚きの声をあげる。

 

当の本人は不思議そうな顔をしていた。

 

「お、おはようございます・・・どうしたんですか、一体?」

 

「い、いえ・・・氷川さん・・・いつもより遅かったので・・・」

 

「色々ありまして遅くなりました。しかし、九条さんまで驚くことないじゃないですか。私の言葉を返したのだからいた事に気づいていたのでは?」

 

「い、いや・・・あの・・・あれは・・・流れ的に・・・」

 

あたふたしていると友希那が前に出る。

 

友希那の顔はとても落ち着いていた。

 

「紗夜・・・調子は大丈夫?」

 

「・・・ええ、みなさん、ご迷惑をおかけしました。今度こそ、言葉通りこれまでの分を取り返します。」

 

紗夜の表情はとても落ち着いていて、そして覚悟を決めた顔をしていた。

 

どうやら答えは見つかったようだ。

 

「紗夜・・・!うんっ!よし、じゃあみんな練習はじめよっか!」

 

リサが嬉しそうに声を上げる。

 

それを聞いて紗夜はいつもより柔らかい表情をしていた。

 

「うん、ライブまであと少しだよ!新曲も、これまでの曲も、極限まで完璧にするよ!」

 

「「「はい!」」」

 

みんながいつもの位置につく。

 

新曲はギターのソロがあるため紗夜がいないと練習ができなかったのだがこれで練習ができる。

 

そして紗夜の弾くギターの音はいつも通り正確で、いつも以上にかっこよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

「ねえねえ!今日の紗夜さんのギター、かっこよくなかった?」

 

「うん・・・私もそう思ったよ・・・」

 

練習の間の休憩時間、私とあこちゃんと今井さんで外のカフェに来ていた。

 

氷川さんは昨日の分のギターの練習を、友希那さんと奏多くんは次のライブのための打ち合わせをしている。

 

「だよねだよね~!いつものチョーシ取り戻せた感じがした!」

 

「やっぱり・・・氷川さんの妹さんのお陰・・・ですかね。」

 

「友希那言ってたもんね。身近で親しい人の声ほどよく届くって。ソータの時もそうだったもんね!」

 

「うん、あの時はりんりんが奏多さんを連れ戻してくれたもんね!」

 

「あ、あの時は・・・必死で・・・奏多くんを・・・助けなきゃって・・・ずっと思ってて・・・」

 

「へぇ~、それでさ、燐子はソータのことどう思ってるの?」

 

今井さんが突然そんなことを聞いてきた。

 

びっくりしたけど少し考える。

 

私が・・・奏多くんをどう思っているか・・・

 

「・・・奏多くんは・・・私に、色々なことを教えてくれたんです。本人は・・・全然気づいていないと思います・・・でも、私にとって・・・奏多くんは・・・落ち着いて話せる人・・・あこちゃんと一緒で・・・私が持っていないものをたくさん持っている人・・・そんな人です。」

 

私が思っていることを話すと今井さんは微笑ましい顔をしていた。

 

「・・・そっか、燐子にとってソータは大切な人なんだ。」

 

「はい・・・だから・・・氷川さんの調子が悪くなった時に・・・奏多くんと友希那さんは気づいたんだと思います・・・どうすれば『今まで通り』じゃなくて『いつも通り』になるかを・・・」

 

1度挫折を味わった2人だからこそ今回の氷川さんの気持ちをわかってあげることが出来た。

 

そしてどうすればいつも通りに戻るかを。

 

『今まで通り』と『いつも通り』はちがう。

 

『今まで通り』は元には戻るが『元に戻ったまま』に、つまり後退してしまう。

 

けど『いつも通り』は元に戻るだけでなくそこから変わる、つまりいつもと同じように前に進んで行く。

 

それがわかったからこそ2人はあんな行動をとったのだと思う。

 

そんなことを考えているとあこちゃんが口を開いた。

 

「そういえばこの前、紗夜さんが元気なかった時にこのカフェに誘ったんだけど断られちゃったんだ・・・」

 

「あこ・・・あこは心配して紗夜をカフェに誘ったんでしょ?あこの気持ちはきっと伝わってると思うよ。」

 

今井さんがあこちゃんにそう言うとあこちゃんはいつも通りの元気を取り戻した。

 

「リサ姉・・・!うん、そうだよね。ありがとう!紗夜さん少し元気を取り戻したみたいだし、今日ならカフェに来てくれるかな?」

 

「うん・・・来てくれるかもしれないね・・・もう1度・・・誘ってみよっか。」

 

「そうだね!あこ、声かけてくる!!」

 

あこちゃんがそう言ってスタジオの方へ走っていく。

氷川さんがいない間、ずっとあこちゃんは元気がなかった。

 

話を聞くとどうやら元気がない氷川さんに『お姉さんを尊敬しているか?』と聞かれて、それに答えたせいでまた調子が悪くなったと責任感を感じていたらしい。

 

けど今は元気が戻って心から安心している。

 

離れそうになってもまた戻って成長していく。

 

これがバンドの楽しみであり良いところなのだと改めて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

休憩の間、僕と友希那と紗夜で新曲の合わせと次のライブの演出を相談していた。

 

そこで新曲のギターソロの部分を紗夜に演奏してもらっていた。

 

「・・・ふぅ。」

 

ギターの演奏が終わり、紗夜が軽く息を吐く。

 

そこに友希那が静かに声をかけた。

 

「紗夜。」

 

「はい、どこか悪い点でもありましたか?」

 

「・・・いえ、今更だけどあの日、日菜から傘を受け取ったの?」

 

紗夜は少し目を瞑る。

 

そしてその質問に静かに答えた。

 

「・・・ええ、受け取りました。」

 

「今日のあなたの音色を聴いてそう思っいたけど・・・やはり受け取ったのね。敢えて言うわ。今日のあなたの演奏は正確で素晴らしかった。」

 

「・・・私の演奏は、ただそれだけです。今はそうとしか思えません。」

 

紗夜が首を降る。

 

しかしその後しっかりと友希那を見つめて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ですが、いつかこの音を好きになれるよう・・・これが、『氷川紗夜の奏でる音』なのだと、胸を張って言えるようになるまで、私はギターをやめるつもりはありません。これが妹との・・・日菜との約束ですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜が自分の思いをはっきりと言ってくれた。

 

そして紗夜の覚悟や決意をしっかりと受け取ったような気がした。

 

「紗夜、私も父の曲・・・LOUDERを歌おうと悩んだ時、同じような事を感じたわ。何かを決断することはとても怖いこと。勇気のいること・・・その恐怖と立ち向かったあなたの音はこれからどうなっていくのでしょうね。」

 

友希那が微笑んでそう言うと紗夜も微笑み返す。

 

「ええ、湊さんや、メンバー全員・・・そして日菜も驚くような演奏ができるようにこれからも精進していくつもりです。」

 

「期待しているわ。」

 

するとバタバタと足音が聞こえる。

 

足音の主はあこだった。

 

「紗夜さーん!あ、友希那さんに奏多さんも!一緒にカフェで甘いものでも食べませんか?」

 

「悪くないですね、さっきまで弾きっぱなしでしたし。」

 

「ええ、行きましょうか。」

 

友希那が先にあこと一緒にカフェに向かう。

 

紗夜がギターを元の位置に戻すと紗夜は僕に話しかけた。

 

「九条さん。」

 

「ん?どうした?」

 

「九条さんは・・・今の自分をどう思いますか?」

 

その質問に僕はすぐには答えられなかった。

 

けど自分の思うことを素直に話した。

 

「・・・今の自分がどうかはまだしっかりとはわかってない。今でもまだみんなにきつく当たった暗い面が残っているかもしれないし、またあの時みたいになるかもしれない。けど、今は信じられる君たちがいるし今の自分色を・・・『無色』であることを誇りに思っているよ。」

 

紗夜は僕の言葉を聞いて話し出した。

 

「私も・・・私もこのただ正確な『つまらない音』を『誇れる音』に出来るでしょうか・・・」

 

「うん、今の紗夜なら出来ると思うよ。ゆっくりでもいい、確実に1歩ずつ進んでいけば、いずれね。」

 

「・・・はい、ありがとうございます。私達もカフェに向かいましょうか。」

 

そう言って紗夜は僕と共にカフェに向かった。

 

本音を打ち明けた紗夜はとても清々しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Determination Symphony』

 

決断の交響曲、これが新しい曲の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迎えたライブ当日。

 

今回は新衣装や新曲など色々てんこ盛りである。

 

「新しい衣装・・・どうでしょうか・・・」

 

「うん、今回もすごいよ燐子!」

 

今回のテーマは『青薔薇と雨』らしく色々な青がたくさん使われている。

 

「みんな、今回のライブは熱色スターマイン以外はどれも新曲ばかり。でもやることは同じよ。私達は・・・最高の演奏を目指すだけ、頂点に狂い咲くために。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「それじゃあ・・・行くわよ。」

 

友希那達がステージに上がる。

 

カメラはいつも通りセット済みだ。

 

後はみんなの、Roseliaのライブの成功を祈るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・Roseliaです。まずは聞いてください。『熱色スターマイン』」

 

燐子のキーボードから入り、『熱色スターマイン』が始まる。

 

テンポのいい曲のため観客のテンションが上がる。

 

そして最後のサビ前、実はここだけ少し変更点を加えた。

 

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・頂点へ狂い咲け!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中二臭いようだがこのセリフを入れることでテンションを上げれるようにしてある。

 

実際、観客のテンションはいつものライブよりテンションが高い。

 

そして熱色スターマインが終わる。

 

次のMCはリサだ。

 

「次から新曲3連発です!それでは2曲目『Re:birthday』」

 

そう言って『Re:birthday』の演奏が始まる。

 

流石新曲とあって歓声が物凄い。

 

『Re:birthday』の演奏が終わると新たにMCが入る。

 

しかも今回は珍しく燐子がMCをした。

 

「え、えっと・・・3曲目・・・いままでのRoseliaとは・・・少しちがう・・・初めての曲です・・・聞いてください・・・『軌跡』」

 

キーボードの演奏が入って観客の歓声がかなり収まる。

この曲はRoselia初のバラードだ。

 

この雰囲気に歓声が合わないのが観客はわかっているのだろう静かに聞いている。

 

この曲は僕にとって思い出深い曲だ、こうして静かに聞いてくれるのは正直ありがたい。

 

軌跡が終わると観客の拍手が上がる。

 

拍手がなり止むとMCを入れる。

 

このライブの最後のMCは紗夜だった。

 

「・・・次で最後の曲です。大切な人を思う曲です・・・聞いてください『Determination Symphony』」

 

ギターの音とともに曲が始まる。

 

観客はさっきまでの静けさが嘘のように歓声が上がる。

 

この完成の大きさははじめの2曲より大きかった。

 

 

そして2番のサビが終わる。

 

『セカイデ ヒトツノ タイセツナヒト ツナゲ ココロ フカク ツナゲ ユメヲ シナヤカニ・・・・・・紗夜! 』

 

紗夜のギターソロが入る。

 

その時のギターの音は確かに正確で素晴らしかった。

 

しかしそれ以外の音も入っていた。

 

その音は・・・音楽を楽しんでいる、そんな音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブが終わって楽屋。

 

僕達は反省会を行っていた。

 

「紗夜の演奏、今までより良かったわよ。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「とりあえずみんな着替え終わってるし、いつものところ行こうよ!」

 

いつものところ・・・つまりいつものファミレスである。

「そうですね・・・行きましょうか・・・」

 

「今、ポテト増量で20%オフらしいですよ!みんなでまた分けましょうよ!」

 

「ははっ!だって紗夜!」

 

「な、なぜ私に振るんですか!べ、別に・・・みなさんが食べるなら・・・私も・・・」

 

流石ポテトがあれば心が折れる紗夜、いつも通りの平常運転である。

 

すると通知音がなる。

 

「・・・すみません、少し失礼します。」

 

どうやらその音の主は紗夜のスマホのようだ。

 

すると紗夜はフフッと笑った。

 

「紗夜、どうかしたの?」

 

リサが紗夜に質問する。

 

すると紗夜はにこやかに、そして少し恥ずかしそうに話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の・・・世界で一つの大切な人からです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで『8章~Determination Symphony~秋時雨に翡翠の姉妹』はこれで終わりです。
次こそNFO編やります!
ということで次回をお楽しみに!


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9章~Opera of tha wasterland~NFOー猫とはじまりの歌ー
48話 ムショク ト ネコ


新章『~Opera of wasterland~Neo Fantasy Onlineー猫とはじまりの歌ー』のはじまりです!
Determination Symphonyより先にする予定が無灰世界の時間の関係とアンケートの奴で後になりました。

前置きはここまでにして本編始まります。


『猫』

 

それは数多の人間を『魅了』という技で虜にした動物の総称である。

 

今では様々なところで人間社会に対応していき、技を駆使しなから生きて、人間共を虜にしている。

 

更に猫には大きく二つの種類に分けられる。

 

『野良』と『飼い猫』だ。

 

この二つの決定的な違いはその生活にある。

 

『野良』は人間社会で餌となるものを探すため、日夜人々が行き交う街の中を動き回り、人間共の残した残飯や魚屋の魚などを奪って生活をしている。

 

そのため警戒心が強く、他の猫や人間にはあまり寄り付かない。

 

対して『飼い猫』は動ける範囲が制限され、時々動物病院等に連れていかれる場合もあるが、そのデメリットを上回る程に安全性と餌の保証がある。

 

更に人間に媚びることでさらなる餌を獲得できたり野良にはない『遊ぶ』という行動もある。

 

そのため人間に慣れているため人懐っこかったり人の前でも堂々としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・さて、なぜいきなりこういう話を出したかと言うと僕は今大量の猫達に囲まれているからだ。

 

ここは猫カフェ『にゃぴねす』商店街に最近出来たカフェだ。

 

なぜここに来ているかと言うとこの店の開店当初、告知無しで開いたため客が入ってこなかったこの店に初めて入った『お客様第一号』としてマスターに顔を覚えられており、その後、友希那のバースデイパーティ会場として使わせてもらったこともあるので、その日から常連客として度々この店に通っているのである。

 

さらに言えばこの店の名物の『肉球ロールケーキ』が絶品で、猫よりかはこちらを目当てに来ている。

 

なので純粋にコーヒーが飲みたかったら『羽沢珈琲店』、ロールケーキが食べたければ『にゃぴねす』と使い分けているのである。

 

「九条くーん!ご注文の肉球ロールケーキ出来たよ~!」

 

「あ、はいマスター!今向かいます!」

 

今では常連客なため、マスターとはこんな感じに緩い会話をしている。

 

僕は猫がメインでいるスペースから人間メインのスペースに移動する。

 

人間メインのスペースと言っても猫達はそんなことお構い無しで床でゴロゴロしているのだが・・・

 

僕は高い椅子に座ってマスターに注文していた肉球ロールケーキを受け取る。

 

「いや~悪いね九条くん。毎度来てくれて。」

 

「いえ、ここのロールケーキが絶品なので。マスターももっと宣伝すればいいのに。」

 

「いやぁ、広告宣伝は苦手でねぇ・・・インターネットもよくわからなくて・・・」

 

「まぁ、マスターはネット苦手ですもんね・・・」

 

ロールケーキを頬張りながらマスターと会話をする。

すると高い椅子をもろともせず、1匹の猫が膝の上に乗ってくる。

 

「んにゃあ」

 

「ん?なんだモカか。」

 

乗ってきた猫の名前は『モカ』

 

うちのコンビニで一緒に働いている脳内年中パン祭りと同じ名前だ。

 

『モカ』の名前通りカフェモカのような色をして、垂れ耳で尻尾が短い猫だ。

 

ここに始めてきた時に一番最初に触れ合ったのがこのモカで、今では僕が来ると真っ先に飛んでくる。

 

「モカは九条くんにベッタリだね~」

 

「むぅ・・・やはりモカって名前はあっちと被るな・・・」

 

「九条くんのお友達にモカって名前の子がいるの?」

 

「はい、友達ってよりかはバイト仲間ですけどね。」

 

「へぇ~仲いいの?」

 

「そこそこって所です。パンを見せれば尻尾振ってこっちきます。」

 

「食べ物に目がないところもモカにそっくりだねぇ。」

 

話をしているとカランと店のドアが開く音がする。

 

「あ、いらっしゃいませ。」

 

「こんにちは、マスター。」

 

聞きなれた声がする。

 

後ろを見ると入ってきたのは友希那だった。

 

「あ、湊ちゃんいらっしゃい!」

 

「あ、友希那。」

 

「奏多・・・来てたのね。」

 

「うん、今日はロールケーキ目当てでね。」

 

友希那が隣の席に座る。

 

すると友希那が来たことを察したように猫エリアから猫達が一斉に近寄ってきた。

 

「フフッ、みんな・・・お待たせ。」

 

「「「「「「「ニャアン!」」」」」」」

 

「ら、ライブの時より・・・メンバーの統一感がある・・・」

 

「ライブの時はライブの時、猫達の時は猫達の時よ。」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

キメ顔で友希那にそう言われる。

 

正直何を言ってるかわからないのでとりあえず流す。

 

「湊ちゃんはいつものでいい?」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「わかった、すぐできるから待っててね。」

 

マスターがカウンターで準備をする。

 

するとコーヒーのいい匂いがしてくる。

 

「はい、湊ちゃん。コーヒーとにゃぴねす特製猫用ビスケット。」

 

「ありがとうございます。」

 

友希那がコーヒーの入ったカップとビスケットの入った袋を受け取る。

 

友希那がいつも通り砂糖とミルクモリモリでコーヒーを飲むと猫達は待っていたかのように鳴き出した。

 

「こらこら・・・1匹ずつ順番に・・・」

 

友希那が猫を見る時限定で見せる緩顔で猫をあやす。

 

すると猫達は順番を守るようにその場に座った。

 

そして1匹ずつにビスケットを渡していく。

 

「・・・友希那、Roseliaのメンバーより統一させてるよ。」

 

「人は人、猫は猫よ。」

 

「そうだけど・・・将来歌姫兼猫トレーナーにでもなる?」

 

「・・・わ、悪くないけど・・・歌手でいいわ。」

 

友希那が苦し紛れにそう言う。

 

今絶対悩んだだろ。

 

モカを撫でながら時計を見るとそろそろ3時前である。

 

「マスター、お会計を。」

 

「あれ?いつもより早いけど九条くん今日なんか予定あるの?」

 

「はい、この後友人とネトゲで会う予定なので。」

 

「そっか、それじゃあレジまで来て。」

 

僕が立とうとするとモカがそれに合わせて膝から飛び降りる。

 

華麗に着地すると少し寂しそうに「にゃ~ん・・・」と鳴く。

 

「・・・また来るからね。」

 

そう言って頭を撫でる。

 

モカは目を閉じて喉を鳴らした。

 

「それでは友希那、僕はここで。」

 

「ええ、また明日の練習で会いましょう。」

 

友希那がキリッとした顔で言うが頭以外は猫だらけなので迫力がない。

 

変に言うと機嫌を損ねそうなのでニャンニャンパラダイスの中邪魔をしないように会計を済ませて外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩いて5分後、突然雨が降り出した。

 

それもパラパラじゃない本降り並みのやつ。

 

確かに天気予報ではにわか雨に注意とは言っていたが心配ないと思い傘を置いてきたのが間違いだった。

 

(次から天気予報士の話はしっかり聞いとこ)

 

という謎の決心をしながら雨の中を走っていると

 

「・・・にゃん・・・」

 

と弱々しい猫の鳴き声がした。

 

声のした方を向くとそこには段ボールが一つあるだけだった。

 

しかし確かにその辺から聞こえたため、段ボールに近づくと布で包まれてはいるがそこにはやせ細って弱っていた子猫がいた。

 

多分このままほおっておけば子猫は確実に死ぬ。

 

しかし家には猫用の用具なんて一切ないし、猫に対する知識も強い訳では無い。

 

「・・・んぁもう!悩んだら負けだ!ごめんよ猫!」

 

考えるのをやめて布ごと子猫を抱いて雨の中を走る。

 

すこしデジャヴを感じながら家に走り込んで急いでお湯(と言ってもあまり熱くない)を沸かす。

 

そして小さなバケツの中に子猫を入れてあまり体が浸らない程度にお湯を入れる。

 

優しくお湯をかけながら温めて、すぐに体を拭いてドライヤーで遠距離から軽く乾かす。

 

猫は嫌がる気力がないのかじっとしていた。

 

猫を乾かし終わると猫の毛はモフモフになっていたが体がやはり細い。

 

何も食べていなかったせいだろう。

 

「・・・いそいで買いに行くか。」

 

僕は猫を毛布に包ませて1人で僕の働いているコンビニへ向かう。

 

コンビニに着くとそこにはモカ(人間)がいた。

 

「あれ、九条さん。どうしたんですか~そんなに急いで~」

 

「も、モカ!すぐにレジ打ちできる?」

 

「?・・・わかりました~」

 

とりあえず猫缶を三つほど取ってモカにレジ打ちしてもらう。

 

「猫缶ですか~?湊さんにでもあげるんですか~?」

 

「その事はあとで話す!とにかくありがと!」

 

お金を渡し、モカから袋を受け取って家まで走る。

 

家に入ると子猫は動かずにじっとしていた。

 

「待たせたね、とりあえず食べて!」

 

皿をとって猫缶を開け、中身を皿に移す。

 

子猫の前に置くと子猫は少し警戒しながらもニオイを嗅いで猫缶を食べ始めた。

 

「良かった・・・食欲はあるみたいだな・・・」

 

ふぅとため息を吐く。

 

こんなに走ったのは沖縄でアザラシのレイを抱いて走った以来だ。

 

さっきのデジャヴはそれだろう。

 

するとスマホに電話の着信音がなる。

 

相手は燐子だった。

 

「もしもし、燐子?」

 

『奏多くんどうしたの・・・?時間・・・過ぎてるけど・・・何かあった?』

 

「ご、ごめん!子猫助けてたら時間忘れてた!」

 

『子猫・・・?何か・・・あったの?』

 

燐子に軽く事情を説明する。

 

その説明に燐子は納得してくれたようだ。

 

『・・・そんな事があったんだ・・・』

 

「うん、だからもう少し様子を見てからログインするけど・・・次イベ発表までには間に合いそう?」

 

『うん・・・あと30分ぐらいかな・・・あこちゃんには私から言っておくよ・・・』

 

「うん、ごめんありがとう。それじゃああとで。」

 

そう言って通話を切る。

 

子猫はまだ猫缶を食べていた。

 

この後、実はNFOで新イベの発表があり、新しいタイプのクエストらしいのでそのイベントに対応するために準備をしようということで燐子とあこと僕で集まる予定だったのである。

 

発表が遅くて助かったと思いながらも子猫を見るともう食べ終わっていた。

 

子猫はどうすればよいのかわからないように辺りを見回していた。

 

僕はそっと手を伸ばして子猫の顔の近くに手の甲を近づける。

 

子猫は少しビビりながらも手の甲を嗅ぐとチロチロと舐め始めた。

 

その行動に僕の心は一撃で射抜かれた。

 

「やばい・・・かわいい・・・」

 

子猫は温まってご飯を食べて満足したのか拭く時に使ったタオルの元に行きそこで丸まって寝てしまった。

 

僕はその子猫に触りたい衝動を抑えて自室へ向かう。

 

あの様子だとしばらくは寝続けるだろう。

 

「・・・そうだ・・・名前考えなきゃ・・・」

 

自室へ向かう途中にそう考える。

 

いつの間にか僕はあの子猫を飼うつもりでいた。




ということで名前はまだ無い()
期限は木曜日まででリクエストやTwitter等で募集しますのでよろしくお願いします!

子猫のイメージ
白と黒の毛並み
フワフワ
種類は雑種


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49話 Neo Fantasy Online ーシンテンチー

という訳で猫の名前は『レイン』に決まりました!
名付け親の零七さんありがとうございます!
ほかの方々もたくさんの意見ありがとうございます!

という訳でNFOメインの回となります。
それでは本編どうぞ!


ここは剣と魔法とロマンの世界がテーマのゲーム『Neo Fantasy Online』

 

数多のネットゲーマーがログインしているその世界にまた1人ログインする者がいた。

 

その者の名は『カナタ』、『両手剣使いのカナタ』として少し有名なプレイヤーだったが、相棒であるレアモンスター『ファーリドラ』のルナをテイムしてから『ファーテイマーのカナタ』と異名が変わり、初のファーリドラをテイムした人として有名となったプレイヤーである。

 

今日も仲間と共にモンスターを討伐しに行く・・・はずだったのだが・・・

 

「る、ルナ・・・?」

 

「キュ!」

 

ルナの御機嫌がめちゃくちゃ悪い。

 

撫でようとしたり好物のクッキーを上げようとしてもそっぽを向くのだ。

 

「・・・別にテイマーじゃなくなった訳でもないしな・・・」

 

ユーザーインターフェイスを見てもハッキリとテイムモンスターとして表示されている。

 

今までは撫でろと言わんばかりに顔を擦り寄せてきたしクッキーを与えるとほんの数秒で袋の中をカラにするほど大好きなはずなのに・・・何故今日に限ってこんなに機嫌が悪いのだ?

 

「でももし感情があるなら凄いよな・・・」

 

たかだか敵mobであるファーリドラ1匹にここまで感情をつけるとは考えにくい。

 

テイムモンスターは基本プレイヤーのサポート(と言っても指示通りには動きにくいのだが)やこういったたまに起こるお触りイベなどがメインなのだが僕のルナは指示は聞くしこういった『感情』のようなものがある。

 

「レアモンスターをテイムしたからかな・・・」

 

時計を見ると集合時間の5分前である。

 

「うわやばい!とりあえずルナ、行くよ!」

 

「・・・キュイッ」

 

ふてくされている様子を見せながらもついてくる。

 

ルナのことをしっかり知ることはまだ先になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか今回の集合場所『都市キャメロット』に到着する。

 

ここはNFOの中でもかなり大きな都市で、品物が豊富、そしてこの都市は高難易度クエストが多いせいで『ハイレベルプレイヤーの都市』とも言われている。

 

しかしこの都市は『NFOサーバーに最も近い都市』とも言われていてこの都市が一番早くNFOの新イベントの発表や更新の早さが他のところに比べて早いのだ。

 

という訳で新イベントの発表のためこの都市に来たのだ。

 

「あ、カナタさーん!こっちこっち!」

 

死霊魔術師の女の子のアバターが手を振る。

 

あのアバターの名前は『聖堕天使あこ姫』名前でわかる通りあこのアバターである。

 

「奏多くん遅かったね。やっぱりあの猫となにかしてたの?」

 

赤い服の魔法使いのアバターが話す。

 

彼女の名前は『RinRin』お馴染み燐子のアバターネームである。

 

「うん、ご飯食べさせたり寝床作ってたら時間遅くなった。」

 

「カナタさん猫の名前決めたんですか?」

 

燐子から事情を聞いたあこが質問してくる。

 

「名前・・・そうだな・・・雨降ってたし・・・うん、今決めたわ。」

 

「それで名前は?」

 

「猫の名前は『レイン』にするよ。」

 

自分でもなんだが相変わらずのネーミングセンスである。

 

レイの時といい何かのもじりや簡単な名前ばかりだ。

 

何故曲の名前を決める時以外はここまで酷いのか・・・

 

「レインかー!うん、いい名前じゃない?ね、りんりん!」

 

「そうだね!とってもいい名前!」

 

どうやら2人はそうは思わなかったようだ。

 

今頃レインはリビングに作った寝床でぐっすりと眠っていることだろう。

 

『運営よりNFO新イベントのお知らせです!』

 

電子声のアナウンスで都市全体に広がった。

 

待ちに待った新イベントの発表である。

 

「あ、発表始まった!」

 

「もうちょっと難しくてもいいのにな。」

 

「燐子、君に合わせるとみんなしんどいと思うけど・・・」

 

そう話しているとアナウンサーが本題に入った。

 

『さて、次のNFOのイベントですが・・・今回は古参の人から新人さんまで楽しめるイベントとなっております!それは最後のお楽しみとしてまずは新しいキャンペーンのお知らせです!』

 

まさか新イベントの発表と新キャンペーンの発表を同時に行うとは思わなかった。

 

RinRinも聖堕天使あこ姫も静かに聞いている。

 

『そのキャンペーンとは・・・友達紹介キャンペーン!NFOをやったことが無いリアルのお友達にNFOを紹介して一緒にクエストをクリアすると限定装備をプレゼント!』

 

すると画面に装備の画像とステータスが映される。

 

装備名は隠されているがどこかで見たことのある装備だ。

 

しかし今まで様々なクエストをやって来たせいでそのクエストがどのクエストか、そしてどんな使われ方をしたのか思い出せない。

 

しかしステータスとしては悪くない方だ。

 

耐久に最大魔法力にMP最大値アップなどと剣士の僕には合わないが魔法使いや死霊魔術師などにはうってつけのアイテムだ。

 

そして見た目がかなりカッコイイ。

 

これはあこ好みの装備だなと思いあこ姫を見るととても顔を輝かせていた。

 

しかし問題は誘える人がいるかどうかだ。

 

NFOユーザーは今や国内だけでもかなり多い。

 

僕の周りでは探すのは難しそうだ。

 

しかしどこか嫌な予感がするのは僕の気のせいだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、いつも通りの練習が終わり、珍しくカフェにてくつろいでいる途中である・・・僕以外は。

 

メンバーのみんなはカフェにいるが僕はCIRCLEの受付でまりなさんと話していた。

 

内容としては次の予約日の相談であった。

 

いつも使っている時間はその日CIRCLEで大きなことをするらしくCIRCLEがその日中支えないので別日の相談である。

 

「どうする?スタジオは違うけどここならいつもの時間で行けるよ?」

 

 

「むむ・・・その日しかいい時間なさそうだな、はい、その日にします。」

 

「わかった、その日に予約入れとくね~」

 

「ありがとうございます、まりなさん!」

 

「気にしないで仕事だからね!」

 

まりなさんがその日に予約を入れる。

 

僕はそれを確認して外に出るとカフェでメンバーが談笑していた。

 

話を聞くとどうやら今日の練習の反省会のようなものをしているようだ。

 

「お待たせ、次の予約取れたよ。」

 

「ええ、いつもありがとう奏多。それと今日のあこの演奏、走りがちだったと思わない?」

 

それは僕も思った。

 

聴いていて少し走りがちだったので度々アドバイスを入れるが直してもすぐに走りがちになるのだ。

 

「うん、あこ今日どうしたの?」

 

「あ、あの・・・」

 

「あこ、アタシ達に話してみてよ!楽になるかもよ。」

 

「そうですよ。そのための私たちです。」

 

ということであこは僕達に昨日のNFOのキャンペーンのことを話す。

 

友希那はわからなさそうだったので僕が時々補足を入れた。

 

「・・・なるほど、そういう事ね。」

 

「だから・・・お願いします!」

 

「悪いけど断るわ。」

 

「私も湊さんと同意見です。ゲームとバンドは関係ないですし。」

 

やはり予想通りの反応だ。

 

しかもリサも「アタシはやってみたいけど正直パソコン操作苦手だからな・・・」と言っていた。

 

こうなれば奥の手を使う時が来たようだ。

 

「友希那、今NFOじゃあ新しいイベントで『猫大量発生!?ニャンニャンイベント』とかいうイベントやっているんだよね~現実世界にいそうな猫やそれこそゲーム限定の猫とかいっぱいいるんだけどな~」

 

まさか次の新イベントが猫祭りだとは思わなかった。

 

しかし難易度は少し高めなので面白そうだとは思ったがまさかこんな形で使うとは思わなかった。

 

「ね、猫・・・限定種・・・」

 

「あ、あと最近ネカフェがポテト大盛り半額フェアしているんだよね、ゲームしながら食べるポテトってまた格別なんだよな~」

 

「ぽ、ポテト・・・」

 

ここまで来たらおとせる。

 

ここで一気に畳み掛けた。

 

「けど今回のイベント時間短いしポテト半額も明後日までなんだけどな~」

 

「「行くわ!」」

 

ふたりが食いついた。

 

残すは・・・

 

「ゆ、友希那が来るならアタシも行く!」

 

「やったぁ!ありがとうリサ姉、紗夜さん、友希那さん!」

 

こうして新人3人がNFOにログインすることご確定した。

 

これは・・・ハチャメチャになる予感がした。




さて、今回レインちょっとしか出てこなかったけど。
そこは気にしないで!

という訳で次の更新日までCiao!


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50話 Roselia ト レイン

祝50話!
これからも『無色と灰色の交奏曲』をよろしくお願いします!(話すネタないので・・・)

ということで本編どうぞ。


友希那と紗夜が私欲に負けてNFOをすることになった。

 

時間としては練習にそのままネットカフェへ赴き、NFOをプレイする予定だ。

 

友希那、紗夜、リサの3人はネトゲ初心者なのであこはリサに、燐子は紗夜に、そして僕は友希那について色々教えることとなった。

 

まずは練習との事で日付が変わった今日、いつも通りCIRCLEへ向かうはずだったのだが。

 

「・・・レインさん。」

 

「ミャア」

 

「あの・・・どうしてもそこから動く気がありません?」

 

「ンミャ」

 

「僕、今からバンドの練習行くんですよ。流石にスタジオに猫はダメだと思うんすよ・・・なので・・・出てくれません?」

 

「ミャン」

 

この前の雨の日に拾ってそのまま家族の一員(もちろん手続きには行った)となった猫の『レイン』が頑固として動かない。

 

そのままほっといて行けばいいと思うのだがレインがいるのはなんと僕が今着ているパーカーのフードの中なのである。

 

まだ子猫のため体が小さいレインはパーカーのフードの中がたいそう気に入ったらしく、僕が着る瞬間にタイミングを見計らってフードの中に飛び移ったのだ。

 

 

 

 

 

・・・さて、今更だが生活費が足りないためアルバイトまでして一人暮らしをしている僕が余計金がかかる猫を飼い始めたのか、それは少し前に遡る。

 

僕が母親と決着をつけ、母親が逮捕された後の裁判にて僕は十数年ぶりに母方の祖父母に出会った。

 

そこで2人はこれまでの虐待や今回の件の慰謝料として300万円を受け取ってほしいと言われた。

 

僕は最初それを断った。

 

悪いのは僕を虐待し、その後音信不通となった娘である母親であって親である祖父母ではないのであなた方から受け取ることは出来ないとそう言った。

 

しかし2人はその反対を押し切ってあの子を育てたのは私達だ、それに私達はあなたの成長を見守る義務があったはずだったのにそれが出来なかった。

 

その後悔を罪を償わせてくれと頼まれたので断りきることが出来ずに受け取ってしまった。

 

僕は全額を銀行に預け、もしもの時やなにか困ったことがあった時に限ってそのお金を頼ることにしようと決心した。

 

そして昨日、にゃぴねすのマスターから猫と暮らすのに必要なものを聞いて、そのお金を使って猫のトイレやゲージ、餌におもちゃに猫タワーなどを買い込んだ。

 

 

 

そしてレインは昨日買った猫タワーのてっぺんからフードの中に飛び移ったわけである。

 

まさか買って一晩で制するとは思わず、餌を与えたあとなんかレイン見つからないな~と思っていたらいきなり衝撃とともに首がしまったのである。

 

「・・・少し苦しいんすよ、出る気ない?」

 

「ニャゴ」

 

「・・・はぁ、仕方ない。まりなさんに説明したらなんとかなるかな・・・」

 

こうなれば仕方がないのでそのままレインをフードの中に入れながらCIRCLEに向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フードの中に異常がないかチマチマ確認しながら(レインは移動中ずっと寝てた)CIRCLEに到着した。

 

中に入るとまりなさんは受付にいた。

 

「あ、奏多くん。今日予約の日だったよね。」

 

「はい、そうなんですけど・・・」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「あの・・・実は・・・」

 

話そうとするとフードの中からレインが顔だけ出す。

 

どうやら起きたようだ。

 

「うわっ!ね、猫?」

 

「あの・・・絶対にここから出さないので連れ込み大丈夫ですか?」

 

「え、えっと・・・少し待ってて!」

 

そう言ってまりなさんは受付裏に行く。

 

まぁライブハウスに猫を連れ込む人間なぞ僕しかいないだろう。

 

するとすぐにまりなさんは帰ってきた。

 

「店長に確認したけど楽器とかコードとかに触れさせなければいいよって。それと猫の写真撮らせてって・・・」

 

まりなさんの手には恐らく店長から借りてきたのであろうデジカメがある。

 

ここの店長は猫好きなのだろうか。

 

「あ、はい、ありがとうございます。レイン~ちょっとゴメンよ~」

 

そう言ってフードの中を開ける。

 

レインはその中で丸まっていた。

 

「撮るよ~」

 

と言ってまりなさんはレインの写真を撮る。

 

幸いレインはカメラに驚かなかった。

 

「ありがとう!スタジオはいつものところだからね。」

 

「はい、すみませんお手数をお掛けしました。」

 

僕はいつものCIRCLE第三スタジオへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レインの落下に気をつけながら先に機材の準備をしているとガチャりとドアが開く。

 

入ってきたのはRoseliaの僕以外のメンバー全員だった。

 

「あ、おはよう。みんな一緒って珍しいね。」

 

「今日やることを色々教えてもらおうと思ってあこと燐子に色々聞いてたんだ~」

 

「私はだいたい理解しました。白金さん、本日はよろしくお願いします。」

 

「はい・・・こちらこそよろしくお願いします・・・」

 

みんながわいわいする中、友希那はじっと僕のことを見ていた。

 

「友希那・・・?なにか顔についてる?」

 

「いえ・・・けど奏多の方から猫の匂いが・・・」

 

友希那の猫センサーはバケモノか。

 

そう思うとフードの中からレインが顔を覗かせた。

 

「ね、猫ぉ!?」

 

「そ、ソータ!?その猫どうしたの?」

 

「え、えっと・・・今日からうちでお世話になるレインでーす・・・」

 

「その子が・・・この前言ってた猫・・・」

 

「九条さんどうしてここに猫を連れてきたんですか?」

 

「じ、実は・・・」

 

僕は今さっきまでの出来事を手短に話した。

 

「・・・ということで・・・まりなさん達には許可はもらってる。」

 

「なるほどね・・・そんな事が・・・」

 

「しかしライブハウスに猫を連れ込むのはダメでは?」

 

紗夜以外のメンバーは納得してくれたようだ。

 

「だいたい猫なんていたら練習にならないじゃないですか。ねぇ湊さん。」

 

紗夜は友希那に同意を求める。

 

友希那はキリッとした顔で紗夜の言葉に答えた。

 

「もちろん構わないわ。」

 

「ですよね・・・って、構わないんですか!?」

 

紗夜は驚きの声をあげた。

 

この反応には僕も驚いた。

 

「ここがOKを出したならそれに従うべきだわ。それにそのにゃ・・・猫は大人しそうだし多分練習の音も平気だと思うわ。」

 

そう言って友希那はスタスタと僕の方まで近づいてフードの中からレインを抱き上げた。

 

レインは特に暴れる様子もなく大人しくしていた。

 

「名前はレインと言ったわね。」

 

「う、うん・・・そうだけど・・・」

 

「レイン、あなたは私達の音聴いてくれる?」

 

「・・・ミャ」

 

「そう・・・なら奏多と一緒にいてね。」

 

「ンミャ」

 

友希那がレインを僕に渡してくる。

 

僕がレインを受け取るとレインはそのまま服をよじ登ってフードの中に入っていった。

 

「それじゃあ練習始めるわよ。」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

「奏多、先に一度音合わせをしてからフルで通していい?」

 

「う、うん・・・良いけど・・・」

 

「ありがとう。」

 

そう言ってメンバーが所定の位置に動く。

 

「みんな・・・今日はお客さんのレインが来てくれている。だから最高の音を届けましょう。」

 

友希那の気迫がいつも以上に強い。

 

やはり猫が絡んでくると友希那は強い。

 

「それじゃあ・・・始めるわよ。」

 

友希那がいつも以上にやる気がある。

 

やはり猫がいる時の友希那はとても強いと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

結果から言うとライブはこの前のライブの時より良くなっていた。

 

特にボーカルが1人無双していたのは置いておくがこれまで以上の完成度だった。

 

「友希那の・・・猫パワー恐るべし・・・」

僕はそう思わざるを得なかった。




今回は珍しくストーリーよりかは日常目線です。
それでは次回もお楽しみに!


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51話 Neo Fantasy Online-ハジマリノトキ-

最近忙しすぎてギリギリ投稿時間間に合ってない作者の隠神カムイです。
12月後半に予定つまりすぎぃ・・・しんどい・・・
そんなことお構い無しに本編はしっかりやってます。

それでは今回はRoselia in Neo Fantasy Onlineということであのネタ使って本編始めようと思います。

それでは・・・リンクスタート!(やりたいだけ)


練習が終わりあこお待ちかねのNFOをするためにネットカフェ行きの時間である。

 

僕はというと流石にネットカフェにレインを連れ込む訳にはいかないので一度家に帰りレインを置いてから行くつもりである。

 

そういう事で先にCIRCLEから出た僕は今家にいるのだが・・・

 

「レイン・・・今だけでいいから出てくれない?」

 

「んミャ!」

 

レインがパーカーのフードの中から出てくれない。

 

本当にここが気に入ってしまったみたいだ。

 

「・・・こうなったら着替えた方が早いか。」

 

ということでレインが落下しないように慎重にパーカーを脱ぐ。

 

パーカーを脱ぐとレインはスッとパーカーのフードの中から出ていった。

 

「・・・結局出るんかい!」

 

「ミャーオ」

 

レインは呑気に鳴き声を鳴らす。

 

レインはかなりの気まぐれなようだ。

 

僕はフードの無い服を選んで着替えるとすぐに外へ出て自転車に跨りみんなが向かっているネットカフェへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネットカフェに着くと他のみんなは既に店内へ入っていた。

 

「ごめんお待たせ!レインがなかなか離れなくて・・・」

 

「奏多さん服装変わってる!もしかしてレインを置いてくることできたのは・・・」

 

「はい、パーカー脱ぎました。・・・お気に入りだったんだけどな・・・」

 

あのパーカーは本当にお気に入りだったので正直悲しい。

 

「あはは・・・お疲れ・・・それであこ、アタシ達は何をすればいいの?」

 

「ここのブースに1人ずつ入って、同じ場所にログインして遊ぶ感じ!ここのパソコンには最初からNFOが入っているから簡単だよ!」

 

「別々のパソコンで一緒に遊べるの?」

 

「オンラインで・・・同じ空間を冒険するんです。」

 

「まぁやってみた方が早いよ。とりあえずログインしてみよっか。」

とりあえず初心者組全員パソコンの前に座った。

 

「あ、職業どうしよっか・・・」

 

「ゲームの中に職業があるんですか?」

 

「役割を・・・決めるんです・・・私は、魔法使い(ウィザード)・・・あこちゃんは、死霊魔術師(ネクロマンサー)・・・そして奏多くんは剣士(ナイト)なんですけど・・・」

 

「パーティを組むならなるべく色々な職種の方がいいよね・・・どうしよっか?」

 

「リサ姉は・・・なんかヒーラーっぽいよね?」

 

「確かに。」

 

経験者組が頷く。

 

しかし初心者組は全くわからなそうだった。

 

「へ?ヒーラー?・・・って何?」

 

「みんなを回復させたりしてサポートする役割の人だよ。」

 

「そうそう!めちゃくちゃリサ姉っぽい!」

 

「へぇ・・・アタシってそういうイメージなんだ。オッケー!それやってみる!」

 

「友希那さんは・・・なにかやってみたい職業・・・ありますか?」

 

友希那は色々な職業を見ているが剣士や魔法使い以外にも僧侶や忍者、侍など和の要素がある職種もあるのでどれにするか悩んでいるようだった。

 

「種類が多くてよくわからないわ・・・なにがいいかしら?」

 

「ん~・・・ビーストテイマーとかもありじゃない?」

 

「いや、友希那さんは歌が上手いから吟遊詩人だよ!」

 

「ぎんゆう・・・しじん?」

 

「歌で・・・みんなを元気づけてサポートする役職の人です・・・」

 

「歌を歌う職業があるのね・・・ならそれにしようかしら。」

 

これで友希那も決まった。

 

残すは紗夜だけだ。

 

「ん?あれ、奏多に燐子・・・え?紗夜までいるじゃん!」

 

聞きなれた声がする。

 

そっちを向くとそこには炎がいた。

 

「あ、炎!こんにちは。」

 

「陰村さん・・・こんにちは。」

 

「陰村さん、お久しぶりです。」

 

「なんでお前らがいるんだ?来そうなイメージないのに。それにほかの3人は・・・この前言ってたRoseliaってバンドのメンバー?」

 

「あなたが陰村さんね、話は奏多や燐子から聞いてるわ。あなたが言った通りRoseliaのボーカルの湊友希那よ。よろしく。」

 

「ベース担当の今井リサでーす!」

 

「Roseliaの闇のドラマー・・・宇田川あこ!」

 

「オッケー、友希那にリサにあこね!知ってると思うけど陰村炎だ!宜しくな!」

 

羽丘組と炎が挨拶を交わす。

 

すると炎は僕の席の画面を見た。

 

「お、NFOじゃん!奏多もやってたんだ。」

 

「え、もしかして炎も?」

 

「あぁ、自慢じゃないが、このゲームは結構やり込んでるぜ?」

 

まさか炎もやっているとは思わなかった。

 

後々フレンド登録したいところだ。

 

「陰村さんは・・・何の職業をしてるんですか・・・?」

 

「俺か?俺は拳闘士(ファイター)!」

 

「そうだ、紗夜の職業を今から決めるんだけど何がいいか考えてくんない?」

 

「うーん・・・紗夜なら意外と槍使い(ランサー)とか弓使い(アーチャー)とかいいと思うけどな。」

 

確かに紗夜は弓道部なので弓使いとかは相性が良さそうだ。

 

しかし紗夜は画面を指差すと僕達に聞いてきた。

 

「この職業って難しいんですか?」

 

紗夜が示した職業。

 

それはタンクだった。

 

「タンク?それは敵の攻撃を守りながら戦う職業。タゲを集めてみんなに攻撃が行かないようにしないといけないし体力調整をしないといけないから初心者には難しいと思うけど・・・」

 

「でも・・・やるのは今回のキャンペーンのやつなんで・・・大丈夫・・・と思います。」

 

「なるほど、それなら行けるか。」

 

「では私はこれにします。」

 

紗夜の職業が決まり、これで全員の職業が決まった。

後で何故タンクにしたか聞くと「防御が高くて安心できたから」だそうだ。

 

すると炎が僕に話しかけてきた。

 

「なな、俺もそのパーティに入っていいか?パーティの上限は7人までだろ?」

 

「みんな、大丈夫だよね?」

 

「私は・・・大丈夫です。」

 

「あこも賛成!」

 

「みんなでやった方が楽しいしね!」

 

「私は構いません。」

 

「私も・・・」

 

「うし!それじゃあ宜しくな!」

 

ということで炎が新しくパーティに加わった。

 

これは心強い味方ができた。

 

初心者組の初期設定も終わり、全員がログイン可能になった。

 

「それじゃあ職業も決まったしNFOプレイ始めますか!」

 

「うん、みんな準備はオッケーですか?」

 

「ええ。」

 

「うーなんか緊張するねー!」

 

「みなさん・・・ゲームが始まったら・・・最初の場所に・・・いてください・・・私達が迎えにいくので・・・」

 

「わかりました。」

 

「それじゃあ・・・NFOスタート!」

 

画面に『welcome to Neo Fantasy Online』と表示されて僕達7人はNFOへとダイブした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NFOへダイブするとそこは旅立ちの村の宿屋だった。

 

確か最終セーブポイントがここだったのでここにログインしたようだ。

 

するとすぐにメールが届く。

 

相手はRinRin(燐子)だ。

 

『カナタさん今どこにいます?』

 

「旅立ちの村の宿屋だよ。どうする?多分初期ログイン地点はあの広場だよね。先に行こっか?」

 

『はい、私とあこちゃんは一緒にいるので陰村さんと合流してから行きます。』

 

炎とは先に2人と合流しておくよう先に言ってある。

 

「キキュイ!」

 

鳴き声とともにルナが肩にとまる。

 

どうやらさっきまで飛んでいたようだ。

 

「それじゃあ迎えに行きますか。」

 

僕はカナタを走らせて初期ログイン地点である『噴水広場』へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広場に向かうとそこにはタンク、ヒーラー、吟遊詩人のアバターがいた。

 

恐らく紗夜とリサと友希那だろう。

 

プレイするのは今回だけなので3人のアバターネームは本名にしてある。

 

「お待たせ、奏多です。」

 

「あ、ソータ!それがソータのアバター?」

 

ヒーラーが話し出す。

 

リサのアバターの『リサ』は白い服装をしている。

 

「あ、もうチャット会話に慣れたんだ。」

 

「なんかノリで行けたんだ!」

 

「・・・なるほどこうやって会話をするんですか。これはタイピングに慣れないと・・・」

 

青い鎧を身にまとったアバターは紗夜のアバターの『サヨ』。

 

どうやらチャットのやり方を模索していたようだ。

 

「後は友希那だね、おーい喋れる?」

 

「nnn・・・」

 

英語が三つ並ぶ。

 

友希那のアバターの『ユキナ』は茶色と紫をベースにした軽装備のアバターだ。

 

「ゆ、友希那?」

 

「nihongo ga syaberenai」

 

「あ、ちょっと待ってて。」

 

どうやら日本語切り替えができていないようだ。

 

リアルの方で友希那の席に出向いて日本語切り替えのキーを押す。

 

「これでどうかな?」

 

「あああ・・・ええ、喋れるわ。」

 

「よかった、後は燐子とあこと炎だけだね。」

 

2人には炎を迎えに行ってもらっているのでしばらくかかりそうだ。

 

それまで僕達4人は待つことにした。




変な所で切りましたが続きは次回です。
炎の装備とアバターネーム考えなければ・・・
ということで次回もお楽しみに!


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52話 Neo Fantasy Online -いざ迷宮(ラビリンス)へ-

メリークリスマス!
本編のサブタイトルに初めて漢字を使ってみました。
基本はカタカナだけどこれからはたまに漢字を入れます。
なおクリスマスは師匠と大人しくヴァイスしてました()
クリスマス特別編はやろうか考えましたがクリスマスはやっぱり色々させたいということで後々本編として出そうと思います。(なお無灰世界の季節は11月)

ということで本編お楽しみください!


待つこと5分、燐子のアバターの『RinRin』とあこのアバターの『聖堕天使あこ姫』がもう1人拳闘士(ファイター)のアバターを連れて広場に来た。

 

恐らく拳闘士のアバターは炎のアバターだろう。

 

「あ、あこちゃん!みんないたよ!」

 

「ホントだ!おーい!」

 

「RinRin!あこ姫!こっちこっち!」

 

「いやぁー待たせちまったな!」

 

「これが炎のアバター?」

 

「そっ!名前はburning!まぁ見たとおり名前を英語にしただけだけど宜しくな!」

 

「僕はこっちではカナタって名前。宜しくburning!」

 

炎ことburningと挨拶を済ます。

 

ここではあまりリアルの世界を出さないのが暗黙のルールだ。

 

「宇田川さん・・・その名前・・・」

 

「ふっふっふー、深淵の闇より出でし悲哀の翼。ええっと・・・生命の理を超えてババーンと舞い降りた聖堕天使・・・あこ姫!」

 

「へぇ~カッコいいね、あこ!」

 

しかしそのルールを知らない初心者組は普通に名前で呼んでいる。

 

・・・まぁここにはこのメンツしか人はいないのだが。

 

「みんな、ここでは基本リアルの話はあまりしてはいけないルールだから他のユーザーがいる時は基本ユーザーネームで読んでね。」

 

「りょーかい、カナタ!でも今はソータでいいんだよね。」

 

「ま、まぁほかの人がいない時はね。」

 

「そ、それより、ここはどこで、私達は何をすればいいの?」

 

ゲーム初心者の友希那がぎこちなく喋る。

 

まだタイピングに慣れていないようだ。

 

すると燐子が説明に入る。

 

「あ、そうですよね。説明します(`・ω・´)ゞここは旅立ちの村といってNeo Fantasy Onlineの始まりの場所で小さな村なんですけど初めてゲームをする人が絶対に通る思い出の場所で、この大陸、あ、フライクベルト大陸って言うんですけど、その最東端にあるので通称最果ての村とも呼ばれている場所です(’ω’∗)フライクベルトは大陸中央でいつも戦争をしていてそこに近づくほど危険な場所が増えてくるんですけどそういう意味では旅立ちの村はゲームの中で一番安全な憩いの場所って言うかのどかな場所で、外に出ても危険なモンスターはほとんどいないし受けられるクエスト、これはゲーム内のお仕事みたいなものなんですけど、それも簡単で安全なものばかりだしゲームをあまりやったことがない人でもNFOの世界を楽しく体験できるようにちゃんと村の構造とかも考えられていて凄くいい所なんですよね(´ω`)実はこの村の村長のダンケインさんは元々この世界では超有名な一騎当千の勇者だったんですけど彼がモンスターと戦ううちに大陸の至る所で人間同士でも争いが始まってしまって、それに巻き込まれる形で大ケガをして戦えなくなってしまったんです(=ω=.)それでも悲願だったモンスターのいない平和な世界を作るためにこの小さな村からわたし達のような冒険者を何千、何万人と送り出して支援していて、あ、わたし達は今回そのダンケインさんの屋敷で下働きをしているジェイクさんという人から手紙を預かって、この村から西に少し進んだロゴロ鉱山のリンダさんに届けるのが目的なんですけど、さっきも言った通り村の近くは安全でも鉱山の奥にはちょっと危ないモンスターもいたりなんかするのでちょっとだけ気をつけてみんなで頑張りましょうね(оゝД・о)ノ」

 

燐子が説明を終える。

 

僕、炎、あこは頷きながら聞いていたが初心者組はかなり驚いた顔をしている。

 

チャットの速さに驚いたのだろうか。

 

「りんりんはキーボード打つのが上手くて、チャットがめっちゃ速いんだよっ!」

 

「そ、そんなことないよ(*ノノ)」

 

「まぁ慣れたりしてると速いわな。」

 

「多分ピアノに慣れてるから打つイメージが少し似てるんじゃない?」

 

「あれ?みんな、どうしたんですかー?」

 

初心者組はまだ驚いた顔をしている。

 

チャットの速さではないのなら恐らく・・・

 

「いえ・・・白金さんがこんなにたくさん話すのは珍しかったので・・・」

 

「う、うん・・・アタシもびっくりした・・・」

 

「え、ええ?(;゚ロ゚)」

 

やはりそうだ・・・初めは僕もこの代わり様に驚いた。

 

「うん、僕も初めてここで燐子とあった時はびっくりした。」

 

「そ、奏多君まで・・・そんなに変わってるかな

(๑• . •๑)?」

 

「いるよなーゲームで人格変わる人!」

 

「うんうん!奏多さんもたまに人格変わるしね!」

 

「え、僕変わります?」

 

「だってこの前ゴブリン大量討伐のクエストした時めちゃくちゃ荒れてましたもん!なんて言うか・・・漆黒の闇に包まれし狂乱の暗黒騎士!みたいな!」

 

そ、そんなに荒れていたのか・・・次から気をつけなければ・・・

 

「そ、それで私達は何をすればいいのかしら・・・驚きすぎてわからなかったわ・・・」

 

「えーっと・・・なんちゃら鉱山のリンダさんに手紙を渡しに行くんだっけ?」

 

「そうそう、それが今回のキャンペーンの対象クエ!」

 

「ジェイクさんから手紙を受け取ってロゴロ鉱山のリンダさんに届けに行きましょう

ヽ(*゜∀゚ *)ノ」

 

「キュイ!」

 

気がついたらどこかへ行っていたルナが帰ってきた。

 

どうやら燐子とあこ以外のメンバーを警戒していたようだ。

 

「も、モンスター!?」

 

「うわっ何それカワイイ!」

 

「そ、それを倒せばいいの?」

 

初心者組が驚いて戦闘態勢みたいなのをとろうとする。

しかし村や街などは特別なイベント以外は装備を実体化できないためそれっぽいポーズにしかならない。

 

「あ、安心して。この子はルナ、僕のテイムモンスターです。」

 

「て、テイム・・・モンスター?」

 

「一部のモンスターは運が良ければ仲間になってくれるんです。今回のキャンペーンと同じ時期に始まったイベントでは猫系モンスターの出現率とテイム率が上がっているんですよ。」

 

「私も実は黒猫のモンスターをテイムしています

( *´︶`*)今は私のプレイヤーホームに住んでいるんですよ(∗•ω•∗)」

 

そう言えばこの前そんなことを言っていたような気がする。

 

魔法使い(ウィザード)に黒猫とはベストマッチな組み合わせだ。

 

「く、くろね「うぉぉ!すげぇ!それファーリドラじゃん!」

 

友希那が何かをいう前に炎がルナを見た瞬間寄ってきた。

 

ルナはびっくりして僕の頭の後ろに隠れる。

 

「あ、炎こいつ実は人見知り・・・」

 

「あ、悪い・・・でもまさかファーリドラをテイムしたプレイヤーってお前だったんだなー」

 

「運が良かったんだよ運が。」

 

「へぇ、モンスターってなんかこうごついのとかキモイの想像してたけどこんな可愛いモンスターもいるんだー」

 

リサが近寄ってルナに手を伸ばす。

 

ルナははじめ警戒していたが安全だとわかると顔をすり寄せた。

 

「わっ!凄いこれがほんとにモンスター?」

 

「実は僕もルナの事よく分かってなくて・・・ホントこいつは謎が多いんです。」

 

「それってどういう事ですか?ゲームの中ならそのモンスターの情報とかあるんじゃないですか?」

 

「ファーリドラはすーっごくたまにしか出なくて出てもすぐに逃げられちゃうんです・・・それにテイムチャンスなんてたまにしか起こらないからこうしてテイムできたのは奇跡に近いです!」

 

するとポロンポロロンと音が鳴る。

 

これは・・・歌スキル?

 

「ねぇ、この音何?」

 

「これは歌スキルか?」

 

「この中でそのスキル使えるのって吟遊詩人だけだから・・・」

 

全員が唯一の吟遊詩人、友希那の方を見る。

 

友希那はスキルを発動中だった。

 

「ゆ、友希那さん!?どうして歌スキル使っているんですか?」

 

「し、知らないわ!ボタンを押したら勝手に出たのよ・・・」

 

僕がリアルで席を立って友希那の席に行ってスキルを止める。

 

「あ、ありがとう奏多・・・」

 

「まぁ気にしないで。操作とかはこの冊子に書いてるから。」

 

そう言ってパソコンの隣においてある冊子から『NFO操作ガイド』と名のついた冊子を友希那に渡す。

 

友希那は軽く読んで「だいたいわかった」と言って元に戻した。

 

僕は席に戻ってカナタに戻る。

 

「・・・ふぅ、これで行けるはずだよ!」

 

「もうーなにやってんの。」

 

「さっき操作はわかったわ。これで何とかなるはずよ・・・多分・・・」

 

「と、とりあえずジェイクさんのところ行きましょ!」

 

「そうだな!」

 

ということで一行は村長ダンケインさんの屋敷へ向かった。

 

これから始まる珍道中を誰も予測することは無かった。




なお、燐子の説明だけで738文字ありました・・・打つの疲れた・・・
燐子の早口もいいけどいつもの燐子も儚い・・・
ということで次回もお楽しみに!


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53話 Neo Fantasy Online -ハジメテ ノ オツカイ-

タイトルが某子供おつかい番組みたいになってる今回のストーリーはわかる通りクエストの進行です。
そして祝お気に入り200件越え!
何気に続けてきた無灰も折り返し前(?)となります!
読者の皆さん本当にありがとうございます!
これからも「無色と灰色の交奏曲」をよろしくお願いします!
それでは本編どうぞ!


僕達Roselia+‪αはこの旅立ちの村で一番大きな屋敷の「ダンケインの屋敷」に到着し、そこで下働きしているジェイクさんに話しかけた。

 

ジェイクさんの頭の上にはクエストロゴが出ているのでひと目でわかるのだ。

 

「よく来てくれました・・・旅の方。実は、折り入ってお願いしたいことがあるのです。この手紙を、鉱山のリンダに届けてくれませんか?私は、ここの仕事があるので中々私に行くことができないのです・・・」

 

NPCは基本しゃべることが出来ないので頭の上の吹き出しに言葉が並ぶ。

 

それを見てリサが興味津々に話し出す。

 

「へぇーこの人がジェイクさん?」

 

「そうだよ!」

 

「ジェイクさんはこの場所からリンダさんに何万通も手紙を出し続けているんです。」

 

「そんなに手紙を書いてどうするのかしら?」

 

「たくさんのプレイヤーがこのクエストを受けるからそれだけ数がいるんだよ。1通だけだと初めてやった人しかこのクエストをクリアできないからね。これはゲームの使用上仕方が無いことなんだよ。」

 

これはゲームあるあるでもある。

 

仮に病気の子供に薬を届けるクエストをクリアしてもクリアしていない別のプレイヤーがその子を見るとその子は病気にかかったままである。

 

そのためこの子供は病気を直してはかかり、直してはかかりとエンドレスに病気になるがこれは使用上仕方の無いことなのである。

 

「手紙を受け取るにはどうすれば?」

 

紗夜がそう質問してくる。

 

答えたのは炎だった。

 

「今目の前に『クエストを受注しますか?』って出てると思うからそれの『手紙をリンダに届ける』を押して。そうすると手紙を受け取りましたって出るから。」

 

「わかりました。」

 

全員が同じ動作をしてクエストを受ける。

 

これでジェイクさんは3通の手紙を渡して、リンダさんは3通もの手紙を受け取る羽目になる。

 

いつも思うのだが、いずれリンダさんは手紙を受け取るのを拒否する日が来るのではないだろうか。

 

そんなことお構い無しにジェイクさんは話を続けた。

 

「本当ですか!?ありがとうございます!リンダは村を出て西に進んだ先の鉱山にいるはずです。どうかよろしくお願いします・・・」

 

画面に『リンダに手紙を届ける クエスト開始』と出る。

これでクエスト開始である。

 

「これでオッケーだね!」

 

「しかし目的地の位置が随分曖昧なんですね。もっと話を聞いて場所をしっかり教えてもらいましょう。」

 

紗夜はジェイクさんにもう1度話しかけた。

 

「本当ですか!?ありがとうございます!リンダは村を出て西に進んだ先の鉱山にいるはずです。どうかよろしくお願いします・・・」

 

しかしジェイクさんは同じことを繰り返して言った。

 

紗夜はとても不思議そうにしている。

 

「・・・どうしてこの人は同じことしか言わないんですか?」

 

「NPCは同じことしか喋らないですよ?」

 

「NPC・・・?」

 

「ノンプレイヤーキャラクターの略だよ。NPCはこの世界の登場人物で人が動かさないから思考が固定されているんだ。だから何度聞いても同じことしか喋れないんだよ。」

 

「1人1人人が動かしてたら手間もかかるしお金と時間もかかる。だからコンピューターにやらせることで作業を効率化させてんだよ。」

 

「なるほど、そういう事なんですね。」

 

「まぁとりあえず、その鉱山に行ってみようよ。」

 

ということで鉱山に続く道である『アゼミチ村道』を通ってロゴロ鉱山に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇここから鉱山までどのくらいで着くのかしら?」

 

「すぐそこですよっ!最初のダンジョンだからすぐ近くっ!」

 

「ここからだと本当に3分もないよ。この道もモンスター出ないから安心して進めるし。」

 

ロゴロ鉱山は誰もが通る最初のダンジョンで、中には色々な鉱石の他にコウモリ型モンスターや小さなゴーレムなど低級モンスターしか出ないので初心者が最初に戦闘なれするところとしてよく使われるダンジョンでもある。

 

「あれ?ねえ、なんか光ってる草があるんだけど?」

 

リサが指を指すとそこには確かにチカチカと点滅する草があった。

 

しかし経験者組はそれがなにか人目でわかった。

 

それは全てのプレイヤーがお世話になるアイテムの原型であるからだ。

 

「これは薬草ですね。」

 

「薬草ってことは薬になるの?」

 

「そ!回復ポーションの元になるアイテムだよ。」

 

「へぇ!これってその回復なんたらにできるの?」

 

「できますよ。これをこうすると・・・」

燐子が的確な手さばきで「メニュー」→「アイテム」→「調合生成」の順で薬草を回復ポーションに変換させる。

 

正式名は「HP回復ポット」というのだがみんな回復薬やヒール瓶など色々な呼び方で読んでいる。

 

「はい、出来ました!」

 

「えー!すごいすごーい!」

 

リサがめちゃくちゃはしゃいでいる。

 

僕らにとっては見慣れた光景でも初心者にとっては凄いのだろう。

 

経験者組が暖かい目でリサを見る。

 

「これはタンクの氷川さんに渡しておきますね。もしHPが減ったら使ってください。」

 

「あの・・・HPというのは?」

 

「生命力のことですよ。モンスター攻撃を受けちゃうと減っちゃうので( ̄ω ̄;)」

 

「タンクは移動速度は装備をしている間少し遅いけどそのHPの減りが少ないんだ。その耐久性を活かして味方のHPを減らさないように味方を守りながら戦うのがタンクの仕事だよ!」

 

「だからタンクは難しいんだよな・・・」

 

炎が少し肩を落とす。

 

どうやら炎は一人で突貫して蹴散らすタイプのプレイヤーのようだ。

 

明らかタンクとは相性が良くない。

 

「なるほど・・・ゲームは覚えることが多いんですね・・・」

 

するとリサが燐子に話しかけた。

 

「ねえねえ、そのHP回復ポットってアタシでも作れる?」

 

「一番簡単なものなら大丈夫ですよ。やってみます?」

 

そう言って燐子が作り方をレクチャーしている。

 

あっちはあっちで楽しそうだ。

 

すると後ろでものすごい勢いで調合音が聞こえるので後ろを向くとリサがすごい量の回復ポットを生成していた。

 

「り、リサ!?作りすぎじゃない?」

 

「ええー?たくさんあった方がいいじゃん!みんなにもあげるね!」

 

「あ、ありがとうございます。ポットでアイテムスロットがいっぱいです(;°▽°)」

 

そう言ってリサが回復ポットをみんなに配る。

 

初心者組はまだまだアイテム容量がいっぱい空いているが経験者組は装備品や他のアイテムなどがあるのでかなりキツキツだ。

 

「ありがとうリサ!丁度回復ポット切れてたんだ!」

 

・・・一部を除いては。

 

「いや、炎・・・アイテムぐらいちゃんと見とこうよ・・・」

 

「たまにやっちまうんだーこのミス。基本かすりは気にせずに戦ってるから体力の減りが早くてよ、回復ポット結構使うんだわ。」

 

「拳闘士使ってるんだったらそこはこまめに見ないとすぐに死ぬよ・・・」

 

「わ、わかってらい!」

 

炎が意地を張ってそう言う。

 

しかしわかってないからこうなるのでは・・・

 

「それより、これから私達はそのアイテムを使わないといけないような場所に行くのね。」

 

友希那がそう言う。

 

すると初心者組は少し緊張しているようだった。

 

「まぁ、僕達がいるからモンスターぐらいはすぐに倒せるよ。」

 

「そうだな!」

 

炎が拳を手のひらに打ち付ける。

 

こうみると炎はやはり拳闘士っぽい。

 

「そう言えばあそこにはキラぽんも出るよ、あこちゃん。」

 

「えっ、そうなの!?」

 

「あー確かに出たね。僕は一度エンカウントしてすぐに逃げられちゃったけど。」

 

「キュイ」

 

飛ぶのが疲れたのかルナが頭の上に乗る。

 

キラぽんはルナことファーリドラと同じくらい出現率が低いモンスターで倒せば非常にレアなアイテムをドロップする。

 

しかしその素早さはファーリドラ以上で見つけても遠距離攻撃での闇討ちでしか倒すことが出来ないと言われている。

 

不思議そうしている初心者組にあこがキラぽんの説明をする。

 

なお、キラぽんはファーリドラとは違ってテイム率0%(これは運営が予め公表しているらしい)なのでルナの時のようにテイムすることは出来ない。

 

「とりあえずクエスト進めながらそのキラぽんってモンスターも探しながらいこっか!」

 

話しながら歩いていたがもうすぐロゴロ鉱山に到着する。

 

ストレージの容量はキツキツだが、正直な話ここで入手できるアイテムはほとんど必要ないので今日は愛剣を存分に振るうことが出来るだろう。

 

僕は背中に愛剣の『純銀剣クラレント』を実体化させて僕達一行は鉱山の入口まで進んだ。




炎の戦闘スタイルは脳筋突貫です。
つまり回復しないと死にます()
次回更新は土曜です。
次回もお楽しみに!


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54話 Neo Fantasy Online-ロゴロ鉱山の怪物-

こんにちは、隠神カムイです。
昨日、新小説『Fate/Rider Order』を始めたので無灰の更新ペースは火曜日と土曜日になります。
楽しみにしてる読者の方々には申し訳ありませんがご了承ください。

ということで無灰の方はようやく中盤です。
それでは本編どうぞ!


道中なんだかんだいろいろあったが一行はロゴロ鉱山に到着した。

 

中に入ると鉱山らしくレールとトロッコ、そして色々な鉱石があった。

 

「ここが鉱山かー、なんか薄暗くてちょっと怖いね。」

 

「大丈夫大丈夫〜!」

 

「けど入口の看板に・・・」

 

実は入る前に立ってある看板を見たのだがその看板には「この先モンスター出現!ロゴロ鉱山の怪物に注意!」と書かれていた。

 

「その怪物って確かこの鉱山のボスモンスターじゃなかったっけ。」

 

「うん、確かでっかいドラゴンの形を模したゴーレムだったはず。」

 

「そのモンスターってどのくらい強いんですか?」

 

「初心者組ならワンパンです( •́ㅿ•̀。 )」

 

「「「・・・」」」

 

初心者組が黙り込む。

 

経験者組がパーティを組んで倒せるぐらいなので出くわすとかなりしんどい。

 

するとカラカラと音とともに何かが近づいてくる。

 

「まって、あれはなんですか?」

 

その正体はスケルトン、低級のかなり弱いモンスターだ。

 

しかしそれを知らない初心者組は初めての敵モンスターにびびる。

 

「わわわわわっ!こっち来た!!」

 

「abunai・・・」

 

初心者組が元来た道に走って逃げる。

 

しかし炎が前に出てスケルトンに攻撃を加える。

 

スケルトンは打撃属性の攻撃を受けると一撃で倒せる上にレベル制ではなく完全スキル制なNFOで炎は筋力をメインに上げているので攻撃力が高い。

 

その上拳闘士というジョブの補佐もあってスケルトン系モンスターに対しては無敵の強さを誇る。

 

炎はスキル技も何も使わずただ軽くスケルトンの眉間にデコピンをくらわせる。

 

するといとも簡単に頭が飛んでいき、スケルトンはポリゴン状となって消滅した。

 

「そんなに逃げなくても大丈夫!こいつめちゃくちゃ弱いから!」

 

「そうだよリサ姉!」

 

「び、びっくりしたんだよー!いまのは何?」

 

「スケルトンという弱いモンスターですね。外と違って、鉱山には突然襲ってくるモンスターもいるんですよ。(°-°;」

 

「そうなんだ・・・助かったぁ〜ありがとう、炎!」

 

「いやいや、初心者を守るのが今回の仕事だし!な、奏多!」

 

「うん、だからモンスターとか出てもあまり逃げたりしないようにね。道に迷うかもしれないから。」

 

ボディガードとしての仕事はしっかり出来そうだ。

 

するといきなり紗夜が盾を構えた。

 

「氷川さん?盾を構えて、どうしたんですか?」

 

「いえ、まだ敵が残っているのではないかと思って・・・」

 

「大丈夫大丈夫!この鉱山の上級者向けのダンジョンにいかない限り強いやつは出ないって!」

 

「ちょっと待っててください・・・むむむ・・・うん、この辺りにはもうモンスターはいませんよ!」

 

あこが索敵スキルを使う。

 

魔法使いや死霊魔術師など魔法をメインに使うキャラが使える便利スキルだ。

 

これを使うと自分の周囲にモンスターがいるかどうか確認することができる。

 

するとリサがあることに気づく。

 

「あれ・・・友希那は?」

 

「「あ。」」

 

ボディガード失格のお知らせである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友希那ー!友希那ーー!」

 

「ゆーきーなーさーーーん!」

 

リサとあこがずっと呼びかける。

 

ダンジョン内では一定の範囲を離れるとそのプレイヤーとチャットで話せなくなってしまう。

 

なので探しながらこうやって呼びかけるしかない。

 

「だめだ・・・全く反応ないよ・・・」

 

「一体どこにいったんでしょうか・・・」

 

「たしかこの先は上級者向けの高難易度ダンジョンだったはず・・・」

 

「げげ・・・大丈夫かな、友希那・・・」

 

上級者向けのダンジョンに初心者が向かえばどうなるか、答えは簡単、ワンパンでゲームオーバーである。

「あ、あれは・・・湊さんじゃないですか?」

 

紗夜が指を指した先にいたのは吟遊詩人のアバター、間違いなく友希那だ。

 

「ホントだ!友希那さーー・・・ん!?」

 

「あら、あなた達どこへ行っていたの?」

 

「友希那・・・とそれ何?誰?」

 

「「「へ、ヘルスケルトンソルジャー!?」」」

 

友希那の後ろにいたのは上級モンスターである『ヘルスケルトンソルジャー』だった。

 

まさかこのダンジョンにいるとは思わなかった経験者組が驚きの声を上げる。

 

なぜならヘルスケルトンソルジャーの出現率はまあまあ低いが、そのパワーと剣さばきはとてつもないものであるからだ。

 

「みんな落ち着いて!ヘルスケルトンソルジャーは視界に入らなければ襲ってこないから!」

 

幸いヘルスケルトンソルジャーは友希那にターゲットを向けていないようだ。

 

大きな甲冑兜を被っているので視界(目はないが)が悪いので正面に入らない限り襲ってこない。

 

「ゆ、友希那さーん・・・そのままそーっと・・・そーっとこっちに来てもらえます?」

 

「・・・?わ、わかったわ・・・」

 

友希那が行動を開始する。

 

ヘルスケルトンソルジャーがこっちを見ないことを祈るしかない。

 

初心者組は後ろに下げているのでいざとなったら飛びかかる準備は出来ている。

 

すると不幸なことに天井が少し崩れ、近くにあったトロッコに石が当たって大きな音が鳴る。

 

しかもそれは・・・友希那の隣だった。

 

友希那のアバターはビックリしてその場に止まってしまう。

 

さらにヘルスケルトンソルジャーが音に気づいてこちらを振り向き、友希那を見た瞬間カラカラ音と共に襲ってきた。

 

「友希那!逃げて!」

 

友希那に逃げるように急かす。

 

友希那のアバターが走り出して逃げる。

 

ヘルスケルトンソルジャーは装備が重い分動くのが遅い。

 

友希那が安全圏まで逃げるとターゲットは僕に移行、僕めがけて剣を振り下ろす。

 

僕はそれを愛剣『純銀剣クラレント』で受け止める。

 

攻撃が重い、流石上級モンスターだ。

 

「・・・っ、悪いけどっ!アンタの同類は!何度も倒してるんだよっ!」

 

剣を払い、腹を蹴ってヘルスケルトンソルジャーを吹っ飛ばす。

 

僕は相手の剣を蹴っ飛ばして鎧と鎧の隙間めがけて剣を振り下ろす。

 

装備は固く、防御力が高いが中身は所詮スケルトン、鎧と鎧の隙間を狙えばいつものスケルトンの耐久力である。

 

剣は腕を吹き飛ばし、胴をぶった切って、首を断つ。

 

するとヘルスケルトンソルジャーはポリゴン状となってあっけなく消滅した。

 

ドロップ報酬でいろいろと目の前に出る中、それを無視して後ろを向く。

 

「さ、終わったし行こっか!」

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

後ろを向くと僕以外の6人が少し引き気味になっている。

 

モンスターを倒す以外何かしただろうか?

 

「ん?どうした?」

 

「何か・・・そういう所ですよ、奏多さん・・・」

 

「へ?」

 

「お前、さっきの戦い方見てわかったけどゲームすると性格変わるタイプか?」

 

「さっきのソータなんか凄かったよ・・・いろいろと・・・」

 

「九条さんのそういう姿・・・始めてみました・・・」

 

「ええ、人は見かけによらないわね・・・」

 

そんなに変わっていたのか・・・しかしこんなに言われることないんじゃないか?

 

「え、ちょ、ちょっと・・・ねえ、燐子ぉ!なんか言ってくれよ!」

 

「えっと・・・お疲れ様、奏多くん( ・ㅂ・)و ̑̑」

 

「り、燐子まで!酷いよ・・・」

 

これは結構グサッとくる。

 

これからは戦い方に気をつけなければならない。

 

「じ、冗談だって!みんな行こう!」

 

「リサ、それ絶対そう思ってない・・・」

 

ぐだぐだしても仕方が無いので僕達はリンダさんがいる所まで歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かう途中、モンスターが出なかったので僕達は雑談をしていた。

 

「ところで白金さん、さっきのモンスターはどういったものなんですか?」

 

「ヘルスケルトンソルジャー・・・さっき陰村さんが倒したスケルトンの上位種でかなり危険です。多分・・・今の皆さんでは、一撃で・・・(ノДノ)」

 

「・・・!!」

 

「んで、それを豪快にぶった切ったのはここの奏多ってわけ!」

 

炎は多分フォローしたいのだろうがその言い方だと煽っているようにしか聞こえない。

 

やはり炎はしっかりしているのはしっかりしているのだがどこか抜けていたり、天然だったりするところがある。

 

まあ、これも炎の個性なのだろう。

 

しかし紗夜はさっきの燐子の一言で盾を構え続けている。

 

「紗夜さん・・・もう来ないから大丈夫ですよ。」

 

「そ、そうですか?もしも、ということもあるかと・・・」

 

「そん時はここにいる奏多がぶっ倒してくれるって!」

 

「は、はい・・・」

 

やはり改めて思い返すとかなり恥ずかしい。

 

するとリサが友希那に質問をした。

 

「ところで友希那はあそこで何をしていたの?」

 

「あなた達がいなくなってしまったからさっきの人?に聞こうと思ったのよ。まさかモンスターだとは思わなかったけど。」

 

「そ、そうだったんですね・・・」

 

やはりここでも友希那は友希那だ。

 

音楽以外はまるでポンコツだ。

 

「友希那さん、もうちょっとでリンダさんの所につくので、あまり離れないで一緒に行きましょう。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

友希那はそう言って後ろに下がると最後尾にいる僕に話しかけた。

 

「さっきはその・・・ありがと・・・」

 

「・・・うん、これが僕の仕事だからね。」

 

少しだけ心が回復した気がする。

 

さっきは引かれた目で見られたがこう言われると嬉しいものだ。

 

「さ、離れないように早く行こ。」

 

「ええ、そうね。」

 

僕達は離れないように燐子達のいる所まで走って追いかけた。

 

クエストクリアまで・・・あと少しである。




ダンジョン内では燐子との会話は少なめです。
ということで奏多くん、バーサークお疲れ様でした(笑)
次回は火曜日!そして始めたての『Fate/Rider Order-19の世界を巡る物語-』もお楽しみください!
それでは次回もお楽しみに!


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55話 Neo Fantasy Online-怪物とクエスト-

新年明けましておめでとうございます!
お正月特別編とかやらず普通にストーリーを書く隠神カムイです!
なおドリフェスは今の所怪盗ハロハッピーだけという渋さ・・・早く新キャラ欲しい・・・
そんなこと置いといて本編どうぞ!


ヘルスケルトンソルジャーの討伐から数分がすぎて鉱山の中腹辺りまできた。

 

恐らくあと5分ほどで目的地であるロゴロ鉱山の祭儀場に到着するだろう。

 

さっきいたのはこのロゴロ鉱山の奥地で上級プレイヤー用の高難易度ステージとなっている。

 

そのためヘルスケルトンソルジャーなどの高レベル上級モンスターがいたのだがここにはスケルトンや小さなゴーレムしかいないのでほとんど炎がデコピンや頭突きで倒してしまう。

 

そのため護衛としてはあってないようなものなのでずっと雑談しながら進んでいた。

 

そして気がつけば話題はゲームミュージックになっていた。

 

「そういえばステージが変わったり戦闘になったりしたら音楽が変わるわね。」

 

「音楽を帰ることでその場の冒険感や臨場感を引き立たせるんですよ(。•̀ᴗ-)و ̑̑✧」

 

「確かに戦闘の時の音はかなりアップテンポな曲ですね。」

 

「さっきの旅立ちの村だっけ?あそこは少しポップだったもんね。」

 

「ねぇねぇ友希那さん!次の新曲はこのゲームミュージック風にしてみませんか!戦闘の時の曲ならRoseliaの雰囲気にあってると思うんです!」

 

「・・・そうね、確かにこの曲の雰囲気なら合うかもしれないわね。考えておくわ。」

 

「いやったぁ!」

 

「なら、それっぽいタイトル考えなくちゃ・・・」

 

「キュイ!」

 

洞窟内では天井が低く空を飛べないので頭に乗っているルナが賛同するように鳴く。

 

すると突然頭を左右に降ると何かを察したように暴れだした。

 

「うわっ!ちょっ!る、ルナ!?」

 

「どうした、奏多?」

 

「る、ルナが暴れだして!」

 

「奏多くん、それってもしかして敵を感知したんじゃないかな?それも大きなやつ。」

 

ルナは確か『敵感知能力(大)』を持っていて敵感知能力は特定のモンスターを感知することが出来る。

 

しかしルナが感知出来るのはボスクラスのモンスターのみ、ということは・・・

 

「・・・?」

 

「紗夜?どうしたの?」

 

「いえ・・・何かあちらから大きなものが近づいてくるのですが・・・」

 

するとズシン・・・ズシン・・・と足音が鳴り響く。

 

すると通路の奥から何か大きな影が出てくる。

 

「ホントだ・・・って!でっか!なにあれ!」

 

「「「「!!!!!!!!」」」」

 

「そ、奏多くん・・・あこちゃん・・・あれって・・・

((((;゜Д゜))))」

 

「ルナの反応・・・そしてあの名前のカーソル・・・間違いないよ・・・」

 

鋭い爪に大きな尻尾、そして開かれた口から見える大きな牙・・・しかもそれは全て鉱石で出来ている。

 

グルルル・・・と鳴いたそのモンスターは『ロゴロ鉱山の怪物』ことこの鉱山のフィールドボス、『ドラゴニックゴーレム』だった。

 

「「ふ、フィールドボスだーーーーー!」」

 

炎とあこが同時に叫ぶ。

 

しかしその脅威をいまいちよくわかっていない初心者組代表の友希那が質問してくる。

 

「フィールド・・・ボス?何なのか説明して。」

 

「この一帯の主みたいなものです。さっきのヘルスケルトンソルジャーよりも危険なモンスターで・・・」

 

「看板に書いていた『ロゴロ鉱山の怪物』がアイツ!多分俺と奏多が頑張っても多分勝てない!」

 

「マジ!どうすんの!?」

 

この道は一直線で隠れる所はほとんど無い。

 

しかし対処法は無くもない。

 

「多分大丈夫です。とりあえずゆっくり近づいて足元をそっと歩けば見つからないので・・・」

 

このモンスターの弱点は体の構造上下を向くことができず、足元がとても疎かなところだ。

 

世に言う『灯台下暗し』というやつだ。

 

「なるほど・・・ゆっくり進めばいいんですね。」

 

ということであこを先頭にゆっくりと進んでいく。

 

あこ、友希那、リサ、紗夜、燐子とドラゴニックゴーレムの足元を進んでいく。

 

残すは炎と僕だけだ。

 

炎が先に進もうとした時、ドラゴニックゴーレムが上をむきだし、少し走り出した。

 

すると突然岩盤が崩れて燐子達と分たれてしまった。

 

「あ、やば!」

 

「な、なんで今!?」

 

するとドラゴニックゴーレムが後ろを振り向く。

 

ドラゴニックゴーレムは完璧に僕と炎をターゲットとして認識したのか大きな叫び声を上げる。

 

「そ、奏多さん!炎さん!」

 

「あこ達は先にリンダさんの所に!僕達はなんとか逃げて別ルートで行く!」

 

「わ、わかりました!必ず戻ってきてください!」

 

「りょうか・・・うわっ!」

 

ドラゴニックゴーレムがその強靭な爪で引っ掻いてくる。

 

ドラゴニックゴーレムは動きが遅いぶん受けるダメージがものすごく高い。

 

弱点は額の宝石なのだが頭を下げるのを待つか遠距離攻撃でどうにかするしかない。

 

剣士と拳闘士の2人ではそれは無理だ。

 

さらに言えば通路のためスペースが狭い。

 

前に回れば爪で、後ろに回ってもその大きな尻尾で叩いてくる。

 

まずは広い所にでなければならない。

 

「炎!とりあえず広いところ行くよ!」

 

「ああ、ここじゃあ戦いにくい!」

 

ドラゴニックゴーレムの足元をすり抜け、尻尾を躱して一目散に逃げる。

 

たしかこの先には少し開けたスペースがあったはず。

 

しかしドラゴニックゴーレムはその身体の大きさとは思えないほどのスピードで追いかけてくる。

 

「は、速い!」

 

「ゴーレムってこんな速かったっけ!」

 

「いや、そんなことないけど・・・」

 

「けどこいつものすごく速いじゃん!」

 

「キュ!」

 

逃げている間ルナは僕の頭にしがみつきながら後ろに泡を吐く攻撃『バブルブレス』をしてもらっている。

 

バブルブレスは低確率で相手をひるませることが出来るので使ってもらっているが一向にひるむ様子がない。

 

するとドラゴニックゴーレムは負けじと口から岩石弾を繰り出してきた。

 

狙いが曖昧なのか上を通ったり足元に刺さったりしたがたまに当たりそうになったりかすったりしてめちゃくちゃ怖い。

 

「「な、な、な・・・なんでさぁぁぁぁぁぁ!」」

 

僕と炎はそう叫ぶしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

天井が崩れて奏多くんと陰村さんがフィールドボスと同じ所に残されてしまった。

 

するとあこちゃんが懸命に呼びかける。

 

「そ、奏多さん!炎さん!」

 

「あこ達は先にリンダさんの所に!僕達はなんとか逃げて別ルートで行く!」

 

「わ、わかりました!必ず戻ってきてください!」

 

「りょうか・・・うわっ!」

 

奏多くんの声が途中で途切れる。

 

恐らくフィールドボスが攻撃をしているのであろう。

 

「ねぇ、燐子・・・ソータ達は・・・?」

 

「リンダさんのいる所には別ルートでも来ることが出来るのでそちらで来ると思いますけど・・・2人ともダメージは受けていないようなので大丈夫だと思います。」

 

「な、何故2人が無事だとわかるんですか?」

 

「同じパーティを組んだら味方のHPバーを見ることが出来るんです。ここに奏多さんと炎さんのHPバーがあると思います。」

 

あこちゃんが氷川さんのウィンドウのパーティの部分を指して教える。

 

2人とも経験者なのでどうにかなると思うがいざ戦闘となれば勝つことは難しいだろう。

 

「燐子、私達はこれからどうすればいいの?奏多達を向かいに行けばいいの?」

 

「・・・奏多くんに言われた通り、私達はクエストを進めましょう。2人がいなくても友希那さん達がいたらクエストを進めることが出来るので。」

 

「奏多さんと炎さんは絶対に帰ってきます!だからあこ達は言われた通り進めましょう!」

 

「わかりました。ここからだとあとどのくらいで着くのですか?」

 

私はマップを開いてリンダさんのいる祭儀場を探す。

ここからだとあと2分ほどと近い。

 

「あと少しです。だから皆さん頑張りましょう(๑•̀o•́๑)۶ 」

 

ということで私達はリンダさんのいる祭儀場に向かった。

 

(陰村さん・・・奏多くん・・・2人なら・・・大丈夫だよね・・・)

 

私はそう思うことしか出来なかったが今やるべき事に専念しようと皆のあとを追いかけた。




久しぶりの燐子sideです。
なお原作本編で登場した燐子の魔法『ブラインドカーテン』とあこちゃんのスキル『アンデットプレイ』は後々出す予定です・・・
ということで次回もお楽しみに!


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56話 Neo Fantasy Online-蹂躙せし滅龍の剣-

めちゃくちゃ中二病臭いサブタイトルな今回のストーリーですが簡単に言ってバンドリの要素めちゃくちゃ薄くなってます(だってNFOだし・・・)
そもそも歌要素がNFOでは吟遊詩人しかないのが問題なんだよな・・・
てなわけでほとんど別小説なバンドリ小説をお楽しみください!


燐子side

 

奏多君達と別れてから3分ほどでリンダさんのいる祭儀場に到着した。

 

当のリンダさんは祭儀場にある部屋の前でなにか準備をしていた。

 

「いたーー!リンダさんっ!」

 

「ホントだ!やっと見つけたー!」

 

リンダさんの頭の上にはクエストマーカーとリンダさんの名前が浮かんであるためわかりやすい。

 

「それじゃあ、あこちゃん。」

 

「うんっ!『手紙を渡す』!」

 

するとクエストが進んでリンダさんとの会話が始まる。

 

「あなた達は・・・え?ジェイクから手紙・・・?まぁ・・・ありがとう、そうだちょっと待って。」

 

そう言ってリンダさんが部屋の奥に行って戻ってくると何かを渡された。

 

それはさっきと同じような手紙だった。

 

「申し訳ないのだけれど、この手紙をジェイクに渡してほしいの。私は・・・まだ帰れないから・・・よろしくね。」

 

そう言って私達は手紙(5人分)を受け取る。

 

今度はこの手紙をジェイクさんに私に行くのだ。

 

「次はこの手紙を村に持って帰るのね。」

 

「まるで伝書バトですね・・・」

 

氷川さんがそう言って苦笑いする。

 

確かに言っていることは間違ってはいない。

 

すると今井さんが私に質問してきた。

 

「にしても、こんな近くなのにどうしてジェイクさんはリンダさんに会いにこないの?」

 

「それには深い事情があって・・・」

 

すると変わりにあこちゃんが説明する。

 

「リンダさんはここに強いモンスターを封印するために来ているんだ!でも、ジェイクさんみたいな旅立ちの村に住んでいる人はしきたり?で、この鉱山に入っちゃいけないんだって!」

 

「ジェイクさんとリンダさんはこうやって何万回も手紙のやり取りをしているのに絶対に会えないんです(TДT;)」

 

「そっか・・・なんか切ない感じなんだね・・・」

 

「そんなことより、ここでの用事はこれで終わりなんでしょう?」

 

「はい、あとはこの手紙を持って村に戻るだけです。」

 

「オッケー!あとちょっとだね!」

 

「はい、しかし・・・九条さん達は・・・」

 

確かに今頃奏多君達はどうしているのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ぁぁぁああ!どんだけおってくるんだこいつ!」

 

「ゴーレムだからしつこいんだって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると聞きなれた声が聞こえてくる。

 

声の主は奏多君と陰村さん、そしてさっきいたここのボスモンスターのドラゴニックゴーレムだった。

 

「そ、奏多君に陰村さん!?」

 

「あ、あこ!?奏多・・・もしかして・・・」

 

「い、1周してきてる!?」

 

「な、なにやってるんですか!」

 

「と、とりあえず燐子、カーテンはって!その間にあこは死んだフリ!」

 

奏多君が的確に指示を出す。

 

ここで友希那さん達を死なせる訳にはいかない。

 

「はい!『ブラインドカーテン』!」

 

奏多君が頼んだカーテンこと『ブラインドカーテン』は姿を少しの間、対象のプレイヤーを消すことができる魔法だ。

 

しかしその時間は短く、すぐに終わってしまう。

 

そこで使うのはあこちゃんのスキル、『アンデットプレイ』だ。

 

一定時間動けなくなる代わりに敵に感知されなくなるスキルで、簡単に言うと死んだフリである。

 

アンデットプレイは一定範囲のターゲットをつけられていない味方に効果があるので、奏多君と陰村さんには効果がないが私達には効果がある。

 

2人とボスが通り過ぎるのを見届けるとスキルの効果が消えて動けるようになった。

 

「い、今のって・・・」

 

「もしかしてずっと追いかけられてるの!?」

 

「そ、そうみたいだね・・・」

 

「燐子、2人のHPだっけ?大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですけどさっきよりは少し減っています・・・」

 

逃げている途中に奏多君の相棒のルナがバブルブレスをしているのが見えたのでボスもほんの少しではあるがダメージを受けていると思うがまだまだボスは元気なようだ。

 

「・・・あこちゃん、3人を頼んだよ。」

 

「りんりん・・・まさか・・・!」

 

「私、2人のところ行ってくる!」

 

「あ、あこも・・・」

 

「あこちゃんはクエストを優先させて。それにあこちゃんも行ったら3人を守る人がいなくなるよ。」

 

「燐子・・・」

 

「あ、アタシ達も・・・」

 

「残念ですが、今井さん達のレベルではあのモンスターにはかないません。今はあこちゃん達とクエストの方を優先してください。これはあの2人と私のお願いです。」

 

「・・・わかったわ。」

 

「み、湊さん・・・」

 

「これは燐子の決断よ。このゲームのことはまだ良くわからないけど・・・燐子の本気はよくわかるわ。」

 

「・・・うん、頼んだよりんりん!」

 

私はあこちゃんに3人を頼むと2人の所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

ステージを一周し、燐子達の前を通り過ぎると今度はさっきと違って広いことろに出た。

 

「やっと広いところに出た!」

 

「うん・・・けど・・・」

 

広いことろに出たのはいいが周りを見回すとさっき入ってきた道以外の道が無い。

 

つまりここは行き止まりということだ。

 

そして入ってきた道にはドラゴニックゴーレムが立ちはだかっている。

 

「炎・・・」

 

「しゃあねぇ!やるしかない!」

 

炎が戦闘態勢をとる。

僕も愛剣を構えて戦闘の準備をする。

 

僕達はドラゴニックゴーレムに向かって果敢に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘開始から10分。

 

僕達の体力ゲージは半分ほどになっていた。

 

互いに弱点の額の宝石に届くような攻撃はないので攻撃をかわしながらチマチマと体力を削っていたがやはり体が大きいのでかわそうとしても当たってしまうことが多い。

 

なので今は炎が殴っている間、僕は回復し僕が攻撃している間は炎は回復するという行動をしている。

 

ゴーレムは打撃属性の攻撃に弱いが斬撃属性の攻撃には強い。

 

僕の武器は両手剣のため打撃属性の攻撃はないことは無いのだが元々が斬撃属性のため剣の耐久力の減りが激しく、耐久値が0になるとその武器は壊れてしまい、二度と使えなくなってしまう。

 

そして僕の愛剣の耐久値はもうレットゲージになっていた。

 

「炎!こっち耐久値がやばい!」

 

「わかった!少し下がれ!」

 

僕が下がって炎が前に出る。

 

拳闘士のジョブは近接攻撃しか攻撃方法がない代わりに拳を使って闘うので耐久というものがない。

 

そのため攻撃を繰り出していくのだが武器とは違って己の肉体のためどうしても武器よりダメージが少ない。

 

そして攻撃を受けやすいのだ。

 

「なにか・・・代わりの剣・・・」

 

僕はウィンドウを出して代わりの剣を探す。

 

しかしこの剣と同等の剣は僕のストレージにあったかどうか覚えていない。

 

すると炎が飛ばされて僕と衝突する。

 

ウィンドウが消えて僕も一緒に飛ばされた。

 

「や、やばい!」

 

ドラゴニックゴーレムが大きく息を吸い込む動作をする。

 

あれはさっきから繰り出していた岩石弾より威力の高い技の『ストーンブレス』の動作だ。

 

このままでは2人ともやられる。

 

そう思った時だった。

 

ドラゴニックゴーレムの顔がいきなり爆風に見舞われる。

 

「2人とも大丈夫ですか!」

 

そこに居たのは燐子だった。

 

「り、燐子!どうしてここに!」

 

「2人が心配で・・・間に合ってよかった・・・」

 

燐子が回復魔法を使って僕と炎の体力を回復させる。

 

「あ、ありがとう燐子!これでもう1回殴りに行ける!」

 

するとさっきから空でバブルブレスをはいてもらっていたルナが降りてきた。

 

「キュイーッ!」

 

するとウィンドウに『ルナとの絆がMAXになりました。報酬が出ます。』とでる。

 

テイムモンスターは連れていくと絆が溜まっていき、MAXになると報酬が貰える。

 

基本はインテリアとかなのだが・・・

 

「貰えたのは・・・な、何これ!」

 

ウィンドウに出ていたのは武器で両手剣。

 

武器名は・・・『蹂躙せし滅龍の剣(グラム・バルムンク)』、このゲームの中では最高レアに当たる武器で効果は「龍特攻」やその他「攻撃力増加」や「HP自動回復」などものすごい性能だった。

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

「こんな武器・・・初めて見た・・・!」

 

しかし一応ドラゴンのルナからこんな龍特攻の武器をもらっていいものなのかは考えたが今は目の前の敵に集中する。

 

ドラゴニックゴーレムはさっきの爆風で怯んでいたがその怯みが回復し、咆哮をあげる。

 

「みんな・・・行くぜ!」

 

炎の威勢に合わせて燐子は杖を、僕はさっき手にした剣を構える。

 

ゴーレムとはいえドラゴンはドラゴンだ。

 

おそらく特攻範囲に入るだろう。

 

僕達3人はドラゴニックゴーレムに向かって攻撃を開始した。




龍から貰えたのはものすごい龍特攻な武器でした()
なおグラム・バルムンクの名前は伝説で邪龍を倒したジークフリートとシグルドの剣の名前から来ています(ただくっつけただけ)
ということでNFO編の終盤です!
次回もお楽しみに!


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57話 Neo Fantasy Online-剣の力-

イベントサボり気味な隠神カムイです!

NFO編も残すとこあと2話となりました。
ということで本編どうぞ!


燐子のお陰で全回復した僕と炎はドラゴニックゴーレムに向かって攻撃を再開した。

 

後ろでは燐子が支援魔法や遠距離魔法で援護をしてくれている。

 

いつもみたいに突貫した方が早い。

 

さっき手にした剣、『蹂躙せし滅龍の剣』は装備可能ステータスがかなり高く、何とか装備できた代物だ。

 

しかしその分一撃一撃の威力や武器ステータスは最高クラスだ、ドラゴニックゴーレムだろうと倒せるかもしれない。

 

ドラゴニックゴーレムの爪攻撃をかわして腕の付け根に攻撃を当てる。

 

するとドラゴニックゴーレムの右肘から先が吹っ飛んだ。

 

「・・・え?」

 

「な・・・!」

 

「すごい・・・!」

 

その状況に全員が驚いた。

 

NFOには『肉体破壊』という敵がかかる異常状態があり、特定の部位を当てることでものすごい低確率でその部位を破壊し、その攻撃を不可能にできる。

 

実際に見たのは二回目で、最初は僕が名を馳せる原因となったドラゴンのタイムトライアルイベントでドラゴンの尻尾を叩ききったことだけだ。

 

お陰でそのランキングでは2位という凄い結果を上げることができた。

 

余談だがその時の報酬で入手したのが前の愛剣の『純銀剣クラレント』である。

 

その剣の代わりに今使っているこの剣がまるで純銀剣クラレントの意志を継ぐようにその偉業を成し遂げたのだ。

 

最初に我に帰ったのは燐子だった。

 

「み、右腕が無いならあの爪攻撃も来ません!右から回り込んで攻撃してください!」

 

「「り、了解!」」

 

ドラゴニックゴーレムが腕を断ち切られたことに怒り狂うように攻撃をする。

 

しかしさっきよりふりが大きく見えて交わしやすくなっていた。

 

「これならやれるぞ奏多!」

 

「うん、でも落ち着いてやるよ!」

 

「援護は任せてください!」

 

燐子が氷魔法の『アイスアロー』を撃ち出す。

 

氷で作られた魔法の矢は弱点である額の宝石と同時に首の付け根に直撃した。

 

するとドラゴニックゴーレムは頭を垂れて頭を降り出す。

 

「・・・もしかして!燐子、もう一度氷矢!首の付け根に!」

 

「は、はい!」

 

燐子がもう一度アイスアローを撃ち出す。

 

もう一度首の付け根に当たるとドラゴニックゴーレムは攻撃動作を中断して頭を垂れて降り出す。

 

どうやらあそこが頭を下げさせるポイントのようだ。

 

「燐子は首の付け根を狙って氷矢!炎と僕で額を叩く!」

 

「うん!」

 

「おっしゃあ!行くぜ行くぜ行くぜ!」

 

炎が攻撃スキルの『天元裂破』を繰り出す。

 

天元裂破は1点に連続で拳を叩きつけて攻撃する拳闘士の上位スキルだ。

 

もちろん攻撃するのは額の宝石。

 

その攻撃を受けてドラゴニックゴーレムのHPは残り5分の1となっていた。

 

「奏多ぁ!」

 

「キュイ!」

 

「あとは頼みます!」

 

燐子がアイスアローを撃ち出す。

 

味方のゲージを見ると燐子のMPは0になっていた。

 

これが最後の攻撃である。

 

ドラゴニックゴーレムが頭を垂れて宝石が目の前に来る。

 

「ここだ!くらえ!」

 

僕は両手剣の最上位スキルの『超究覇激斬』を繰り出した。

 

剣に力を貯めて勢いとともに相手の中心を叩ききる僕が使える中で一番威力の高い技。

 

炎、ルナ、そして燐子の想いをのせて僕は剣を振るった。

 

剣はスキルモーションとともに見事に額の宝石に直撃するとそのままドラゴニックゴーレムの頭を真っ二つに叩ききった。

 

するとドラゴニックゴーレムは断末魔をあげることもなくバラバラに崩れ去ってそのままポリゴン状になって消滅した。

 

「・・・い、い、いよっしゃあ!ドラゴニックゴーレム撃破ぁ!」

 

「よ、よかった・・・倒せた・・・」

 

「つ、疲れたぁ・・・」

 

一気に疲労感が押し寄せた。

 

ウィンドウにはドロップ品や経験値などが映し出されるがそんなこと無視して僕は剣の耐久値を見る。

 

あれだけ振るったのだ、半分ぐらい削れていてもおかしくないはずなのだが・・・

 

「う、嘘・・・ほとんど減ってない・・・」

 

「なんだって!?最初の剣はめちゃくちゃ削れたんだろ?」

 

「うん・・・クラレントもこれには劣るけどかなり高クラスな剣だよ・・・なんで・・・」

 

「奏多くん、武器のスキル見てみたら?」

 

そう言われてスキルを見てみる。

 

龍特攻や攻撃力増加、自動回復にスキル発動時間短縮などかなり強いスキルが揃う中、その中に『暴食』という謎のスキルがあった。

 

「『暴食』?何じゃそりゃ?」

 

「えっと・・・『プレイヤーがこの武器を装備してモンスターを倒した時、体力、耐久値、MPを回復する。回復量は倒したモンスターによって変動する』・・・!?」

 

「なにそれ・・・そんなスキル・・・」

 

「バケモンだ・・・」

 

僕はものすごい剣を手にしたのかもしれない。

 

しかしこれでルナの事が少しはわかったかもしれない。

 

これでファーリドラの希少性もかなり上がることだろう。

 

「奏多くん、そろそろあこちゃん達の所に戻ろう。」

 

「そうだね、待たせると悪いし。」

 

「いやーボディガードの予定がまさかドラゴニックゴーレム撃破になるとはなー」

 

炎がお気楽に返す。

 

それが炎らしいのだが。

 

「あこちゃん達には先に行ってもらっているので私達は出口に向かいましょう。」

 

そう言って僕達は出口へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出口に近づいて来た頃だった。

 

「・・・やっぱり村で待ってた方が良かったんじゃない?」

 

「で、でもりんりんや奏多さんが心配だし・・・」

 

「いざとなれば逃げたりしたらいいでしょう。」

 

聞きなれた声が聞こえた。

 

声の主はあこ達だった。

 

「あこ!それにみんなも!」

 

「奏多?討伐は終わったの?」

 

「そりゃもうバッチリよ!」

 

「うん、何とか倒せました(。•̀ᴗ-)و ̑̑✧」

 

みんなほっとしていたようだ。

 

すると友希那が何かを指さした。

 

「あれは何?なにか光ってるけど・・・」

 

「また薬草じゃないの?」

 

「リサ、洞窟に薬草は生えないよ・・・」

 

それじゃあなんだろうと思って指さした方を見るとそこには丸くてモフモフで長い耳と尻尾の生えたウサギのような生き物がいた。

 

「なんだ、キラぽんか〜・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「あーーーーーー!キラぽん!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

経験者組が驚きの声をあげた。

 

まさかレアモンスターのキラぽんを見つけられるとは思わなかった。

 

「ええ!?あれがあこの探していたレアモンスター?」

 

「そう!そうだよ!!」

 

「ウサギのような形をしているんですね。」

 

「ホントだ・・・ピカピカしててカワイイ〜」

 

「しっ!静かに!」

 

あこがみんなを静止する。

 

キラぽんはこっちに気づくとものすごい勢いで逃げるので後ろからそっと近づかないといけない。

 

「あこちゃん、頑張って!(o`・ω・´)o」

 

「よ、よーっし・・・あこの最強スキルでやっちゃうからね!」

 

「えΣ(・Д・;|||あこちゃん、それは・・・」

 

調子に乗ったあこは止まらない。

 

あれは死霊魔術師が使える中で高威力の魔法の『デッドリー』だ。

 

しかし詠唱が終わった瞬間にキラぽんはあこに気づいて逃げてしまった。

 

「あーーーーー!」

 

「逃げた!」

 

「そ、そんなぁ・・・」

 

「・・・前置きのあれは必要だったんですか?」

 

「スキルの発動自体には必要なんですけど・・・キラぽんは強いモンスターではないのであのスキルそのものが必要ないというか・・・」

 

「つまり後ろから軽く叩くだけで倒せたんだよキラぽんは。」

 

その言葉があこに突き刺さった。

 

「だって・・・カッコよく決めたかったんだもん・・・」

 

「そんなことしているうちに攻撃すればよかったのに・・・」

 

とりあえず逃げたキラぽんを追いかけることになった。

 

 

 

 

 

キラぽんを探してみたが全然見つからない。

 

一体どこに行ったのやら・・・

 

すると曲がり角に当たった。

 

「たしかこの先は行き止まり・・・」

 

「もしかしたらこの先にいるかも!」

 

「キラぽん・・・出てこい!」

 

全員が曲がり角の前に出る。

 

そこに居たのは大きなモンスターだった。

 

「・・・へ?」

 

鋭い爪に大きな尻尾、口から見えた大きな牙、そして全部が鉱石で作られた体・・・そこに居たのはフィールドボスのドラゴニックゴーレムそのものだった。

 

「さっきの・・・フィールド・・・ボス・・・!?」

 

「マジ!?なんでここにいんの!?」

 

「奏多さん、さっき倒したって!」

 

確かにドラゴニックゴーレムは倒した。

 

しかしモンスターは倒して消滅した後は決まってある現象を起こす。

 

「奏多・・・もしかして・・・!」

 

「り、再出現(リポップ)したぁ!」

 

「り、再出現?」

 

「ボスモンスターは倒した後、一定時間が経ったら再出現するんです!」

 

「と、とりあえず入口まで逃げろぉ!」

 

もう一度ドラゴニックゴーレムと戦えるほどの体力はない。

 

僕達は全力でドラゴニックゴーレムとの追いかけっこを開始した。




リポップって怖いよね()
地道に今までの話を改良しているので気が向いたら読み直してみるのはいかがですか?
さて、次回でこの章もラストです!
次回もお楽しみに!


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58話 〜Opera of wasterland〜荒野に咲かす6輪のバラ

昨日は更新出来ずすみません!
ということで本日はFROと無灰のダブル更新となります
しかもどちらも最終章!ゾクゾクするねえ〜
ということで今回で9章~Opera of wasterland~NFOー猫とはじまりの歌ーはラストとなります。
次回は無灰世界の時期的にクリスマスやら年末年始編をやると思います。
このためにわざわざ特別編をやらなかったのだー!
それでは9章ラスト、お楽しみください!


再出現してしまったドラゴニックゴーレムから逃げているうちに入口に出た。

 

どうやら逃げきれたようだ。

 

「はぁはぁ・・・出られた〜。はぁ・・・」

 

「外までは追ってこないんですよね?」

 

「はい、ここまで来れば大丈夫ですよ(q´∀`o)」

 

「フィールドボスってのはそのフィールドの主みたいなもんだからその範囲外に出ちまったら追いかけてこれないんだよ。」

 

炎が補足説明を入れる。

 

まさか再出現時間がこんなに早いとは思っていなかった。

 

「うう〜でも結局キラぽんには逃げられちゃったよお・・・」

 

「仕方ないよ・・・また探そう?」

 

「そうそう、僕達で探せばまた出てくるよ。」

 

「うん・・・」

 

「キュイ」

 

ルナが肩にとまる。

 

確かルナにはレアモンスター遭遇率アップのスキルがあったはず。

 

今度行く時に手伝ってもらおうか。

 

「とにかく全員無事でよかったな〜!あとはジェイクのおっさんに手紙渡すだけか!」

 

「うんうん!早く行こ、友希那・・・ってあれ?友希那は?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

そう言えばさっきから姿が見えない。

 

もしかして・・・

 

「まさか・・・また?」

 

「友希那さんとはぐれちゃった!?」

 

「ど、どうすんだ!?」

 

「みんな落ち着いてください!フィールドボスにやられていなければ、まだ鉱山の中にいるはずですから!」

 

「やられていたら・・・?」

 

すると燐子が口を閉ざす。

 

そして燐子が次に発した言葉は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・(。-__- 。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チーンじゃないよ!」

 

気がつけば僕は的確なツッコミを入れていた。

 

こんなツッコミを入れたのはシゲさんの時のようである。

 

「ま、まぁまぁもうちょっと待って、来なかったら探しに行こうよ、ね?」

 

「そうだな・・・」

 

「友希那さん・・・」

 

そしてもう1度ボディガード失格のお知らせであると男勢は自覚したのであった。

 

 

 

 

 

友希那とはぐれてから10分が経過した。

 

未だ友希那は入口に帰ってこない。

 

「友希那さん・・・来ないね・・・」

 

「やはりフィールドボスに・・・」

 

「そ、そんなことないって!さっきはぐれた時も大丈夫だったじゃん!」

 

「ヘルスケルトンソルジャーというオマケはいたけどな。」

 

「ぐむむ・・・」

 

「しかし・・・やはり遅すぎますね・・・」

 

すると入口からスタスタと歩いてくるアバターがいた。

 

そこにいたのは吟遊詩人のアバター・・・正しく友希那だった。

 

「あら?みんなここにいたのね。」

 

「「「「「ゆ、友希那(さん)!」」」」」

 

全員の声がかぶさる。

 

何とか無傷で帰ってきたようだ。

 

「よかった〜。また迷子になったかと思ったじゃん!」

 

「そんなに何度も迷ったりしないわ。」

 

友希那が腕を組む。

 

すると何か光った。

 

友希那の手に何か光っているものがあった。

 

「え・・・?」

 

「友希那さん、手に持っている光ってるヤツって・・・っ!?」

 

「ああ、これは・・・」

 

 

 

 

 

 

友希那によると、ドラゴニックゴーレムはたまたまそのフィールドにいた黒コートの人や侍みたいな服を着た人、弓矢を持っていた水色髪の人などがいたパーティを見るとそっちの方にターゲットを向けて追いかけたらしい。

 

しかし僕達とははぐれてしまい、画面に映っているマップを見て入口に向かっているとたまたまキラぽんと遭遇、それにびっくりした友希那はキーを押してしまったらしい。

 

それがたまたま攻撃ボタンだったらしく、その攻撃がキラぽんにあたって倒せたらしい。

 

「・・・フィールドボスがほかの人のところに行った後、友希那さんはキラぽんを仕留めたんですか!?」

 

「攻撃力がジョブの中で一番低い吟遊詩人でよく一撃で倒せたな・・・」

 

「キーを押したら攻撃してその時派手なエフェクトが出たのだけれども・・・」

 

「・・・クリティカル・・・友希那、運良すぎ・・・」

 

「ソータ、クリティカルって?」

 

「攻撃の中で運が良ければダメージが倍になる事のことだよ。友希那はキラぽんに攻撃した時にクリティカルが発生して一撃で倒したんだよ。」

 

「つまり、湊さんが持っているその光ったものは・・・!」

 

「キラぽんの尻尾だよ!めちゃくちゃレアなアイテムなんだよ〜!」

 

「キラぽんの尻尾」は同じレアモンスターのファーリドラがドロップする「ファーリドラの毛皮」と同じくらいレアなアイテムだ。

 

プレイヤー間の取引では1000万フライクコイン(ゲーム内でのお金)以上である

 

「そんなに凄いものだったの・・・はい、あげるわ。」

 

「え!?いいんですか!?」

 

「ええ、私には必要ないもの。」

 

「や、やったーーーーーっ!ありがとーーーーーございますっ!友希那さんっ!!!」

 

「よかったね〜あこ!」

 

あこがめちゃくちゃはしゃいでいる。

 

その気持ちはよくわかるし、僕も人からこんなレアアイテムを貰えばこんなにはしゃぎそうだ。

 

気がつくと時刻は夕方となり、現実時間と同期しているNFOでも夕方となり夕日が沈む。

 

夕日はロゴロ鉱山の近くの荒野に沈んでいき、幻想的な景色を生み出す。

 

これがゲームとは思えないほどのグラフィックだ。

 

「・・・綺麗だね。」

 

「ですね・・・これがゲームとは思えません。」

 

「この景色にグラフィック、モンスターのデザインにそしてBGM・・・ゲームって様々な芸術が重なり合って出来ているものなのね。」

 

「そうなんです!だからあこ達はNFOが好きなんです!」

 

「ゲーム性もいいし、そしてこのクオリティだ!不満点が少なすぎる!」

 

「これが・・・私達がいつも見て、楽しんでいる所です。」

 

「かっこつける気はないんだけど、初めにこれを言っていなかったね。遅れたけど改めて言うよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Welcome to Neo Fantasy Online、ようこそ、僕達が好きなNFOの世界へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでNFOのプレイから数日が経った。

 

僕達はこの経験を生かして新たな曲を作成した。

 

曲の完成から練習を重ねて11月最後のライブ、その曲の初披露となる日だ。

 

「みんな、今まで以上の成果を出して僕達が目指す『Roseliaが創り出す最高の音楽』の1ページを刻もう!」

 

「おー!NFOの日からもう練習を重ねたあこの力、見せてやるぞ!」

 

「確かに宇田川さんあの日からの練習への熱は物凄かったですしね。」

 

「友希那さんに約束したんですもん!キラぽんの尻尾を貰ったし、頑張らないとって!」

 

「あこちゃん・・・すごく嬉しそうだったもんね・・・」

 

「そうそう!それにソータもその日からすごく詩人っぽくなったしね。さっきも『Roseliaが創り出す最高の音楽の1ページにしよう』なんてさ〜!」

 

「アハハっ!リサ姉、奏多さんのモノマネ似てる〜!」

 

「う、うるさいな・・・友希那〜そろそろ行こう!」

 

当の友希那はさっきからレインを撫でている。

 

あの日からずっと練習についてきたレインは僕のフードの中とねこタワーと同じくらい友希那の膝の上がお気に入りだ。

 

フードの中から出すと嫌がるレインも友希那の膝の上だと落ち着いてまるまるのだ。

 

「・・・そうね、レイン奏多と一緒に待っててくれるかしら。」

 

「ニャン」

 

「フフッ、私たちが奏でる音楽、しっかり聴いていてね。」

 

「ミャン!」

 

友希那は僕にレインを託すといつも通りのクールな友希那に戻る。

 

「みんな、今日は新曲の発表と新しいカバー曲の発表の日、いつも以上に全力で行くわよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

すると扉がノックされてまりなさんが入ってきた。

 

「Roseliaのみんな〜そろそろ出番だから上がって〜」

 

「行くわよ。」

 

そう言って友希那達はステージの方へ向かった。

 

 

 

 

 

「・・・Roseliaです。まずは新しいカバー曲を聴いてください。『名前のない怪物』!」

 

今回のセットリストは3曲、新しいカバー曲の「名前のない怪物」で次に「Determination Symphony」、最後に新曲である。

 

「名前のない怪物」と「Determination Symphony」が順調に終わって最後の新曲に入った。

 

「・・・2曲続けて披露しました。次で最後の曲です。これは、私たちが最近経験したあるゲームをプレイしてから作り出した新曲です。それでは聴いてください。・・・『Opera of the wasterland』・・・!」

 

「Opera of the wasterland」、直訳すると「荒野のオペラ」である。

 

オペラのようなゲームミュージックとあの時見た荒野の景色から連想させたタイトルである。

 

今までの雰囲気とは違う新しいRoseliaの曲、僕は動画を撮りながらもその演奏の素晴らしさに見入っていた。

 

 

 

 

 

ライブと反省会が終わり、僕、燐子、あこの3人は二次会としてNFOにログインしていた。

 

「今日のライブ楽しかった〜!りんりんも楽しかったよね!」

 

「うん!今日のあこちゃんとてもかっこよかったよ(。•̀ᴗ-)و ̑̑✧」

 

「えへへ!今日のライブのために一生懸命練習したもん!あの時の恩返しもあったし!」

 

「『リンダのサイス』の使い心地はどうなの?」

 

「もう最高だよ!今まで近接戦闘はあまりしてこなかったけどこの武器なら近接も魔法も使えるし!」

 

キャンペーンの報酬として上がっていた武器、それは『リンダのサイス』という大鎌だった。

 

その事でその武器があの手紙クエストの最後に出てくるリンダさんが体を乗っ取られ、魔女となって襲ってきた時に持っていた武器なのだとわかった。

 

そのクエストはNFOを初めてまだ日にちの経っていない頃にやったクエストなので通りで覚えていないはずだ。

 

「とにかく、この調子であこはもっともっとかっこよくなる!おねーちゃんみたいに最高のドラマーになってみせる!」

 

「うん、その調子だよあこちゃん!」

 

その2人を微笑ましく見守る。

 

やはり2人は最高のパートナーなのだろう。

 

NFOの時間はもちろん夜。

 

空を見上げると満天の星空が出ていた。

 

「・・・普段見慣れたこの景色も、友希那達からしたら凄いものなんだな・・・」

 

「・・・そうだね、普段私たちが見慣れているものはとても素晴らしいものでいっぱいなんだよね。」

 

「うん、だからこれからも沢山素晴らしいものが見つかると思う。」

 

「・・・そうだね。」

 

僕達3人はしばらくその星空を見続けていた。




これにて『9章~Opera of wasterland~NFOー猫とはじまりの歌ー』は終わりです。

それでは次回、新章をお楽しみに!


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10章 星輝く夜と新たなる年
59話 クリスマス ノ ハジマルツキ


最近、掟上今日子の備忘録シリーズにハマりつつある隠神カムイです。
珍しくライトノベル以外を手に取りました。
いや、推理ものっていいね。

ということで推理とは全く関係ないクリスマス&年末年始編です。
最初に言っておく!この章はかーなーりー黒歴史になる気がする!
多分7章以来の黒歴史章となるでしょう!

ということで黒歴史の始まり、『10章 星輝く夜と新たなる年』始まります!


『クリスマス』

 

それはキリストの誕生日でサンタクロースがプレゼントを運び、子供たちに夢を与えたり、家族でケーキやチキンなどを食べたり、街中にカップル達が溢れかえる日である。

 

この前のライブから日がたって月が変わり、12月となった。

 

街中はクリスマスムード一色である。

 

そしてそんな中でもいつも通り平常運転でやるのが我らRoseliaである。

 

「〜心のまま 選べばいい

宿命 超えて

Final Showdown!

 

決して 負けないわ」

 

曲が終わり、緊張感が緩む。

 

さっきの曲は「-HEROIC ADVENT-」、Roseliaの新曲である。

 

CIRCLEがクリスマスイブに行う予定の「CIRCLEクリスマスライブ」にて発表予定で、そのライブにはRoselia以外にもPoppin PartyやAfterglow、ハロー、ハッピーワールド!にPastel Paletteが出演する。

 

前に交流して以来度々関わるバンドが勢揃いである。

 

「みんなお疲れ〜昨日やった時より格段に良くなってるよ。」

 

「そうね、でもそれぞれがまだ残っている課題があるはずだから今日はここまでにして各自その課題を直してきて。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それじゃあ片付けに入ろうか、僕と紗夜とリサで機材の運搬を、あこと燐子と友希那でコードとかの整理を頼むよ。」

 

「わかったわ。」

 

「はい!」

 

「わかった〜!」

 

「わかりました。」

 

「うん・・・」

 

それぞれがスタジオの整理をする。

 

ついこの間までは色々あったのに今はこうやって練習していることがなんか良く感じる。

 

「九条さん?手が止まってますがどうかしましたか?」

 

「あ、ううん、なんでもないよ。」

 

「そうですか、それではしっかりと片付けに集中してください。指示したのはあなたなんですから。」

 

「うっ・・・ごめん・・・」

 

僕はとりあえず片付けを再開した。

 

 

 

 

 

スタジオの現状復帰が終わり、次の練習の予約を入れてから僕達はそれぞれの家に帰るところだった。

 

CIRCLEの外の街路樹にも装飾がされており街一体でクリスマス感を醸し出してる。

 

「そっか〜もうクリスマスの時期か〜みんなは何をするの?」

 

Roseliaのみんなに聞いてみる。

 

真っ先に答えたのはあこだった。

 

「あこはおねーちゃん達と一緒にクリスマスパーティーするんだ!おねーちゃんはAfterglowのみんなともパーティーするって言ってたけどね。」

 

「私は日菜と一緒にクリスマスを祝うって約束されました。全く、あの子ったら押す力は強いんだから・・・」

 

紗夜はそう言ってるが満更ではないようだ。

 

「アタシは友希那と一緒にクリスマスを過ごす予定!友希那のお母さんが作るケーキがめちゃくちゃ美味しいんだ〜!」

 

「もう・・・お母さんはリサに甘いんだから・・・」

 

家が隣同士の2人は仲良くクリスマスを過ごすみたいだ。

 

しかし思ってもなかったことを言われた。

 

「その・・・奏多も来る?お父さんがまた会いたいって言ってたけど・・・」

 

その言葉に心底驚く。

 

しかしクリスマスの日は・・・

 

「・・・ごめん、クリスマスはバイト入ってんだ・・・。友希那のお父さんにはまた会いたいけど、また別の機会に誘ってよ。」

 

「そう・・・奏多も大変ね。」

 

「うん、今家にいるのは僕1人だけじゃなくなったから。親父も年末年始は帰ってこれなさそうだし、今年のクリスマスと年末年始はレインと暮らすことになりそうだな〜。」

 

「うわ〜バイトしている独り身の男子高校生がクリスマスにバイト入れるみたいな事になってんじゃん・・・」

 

「ぐっ・・・!」

 

リサの言葉が深々と心に刺さる。

 

バイトが入ったのは故意ではないが、傍から見ればそう見えてしまうのだろう。

 

そう思うと悲しくなってくる。

 

「・・・いいもん、今年はNFOに潜りきって年越しするもん・・・」

 

「ゴメンゴメン!あ、そう言えば燐子は何をするの?」

 

「え、あ、その・・・私は・・・特に何も・・・おそらく家には誰もいないので・・・」

 

「りんりん、またお父さんとお母さんは仕事?」

 

「うん・・・クリスマスのこの時期は特に忙しくなるって・・・」

 

「そう言えば燐子の両親って2人とも同じ会社って言ってたよね。どんな会社で働いてるの?」

 

「お父さんは・・・蔵太グループの常務取締役を・・・お母さんは部長をやっています・・・」

 

「「「「な!?」」」」

 

僕含むあこ以外の4人が驚きの声をあげた。

 

あこはよくわからないようだ。

 

「ねぇ、みんなどうしたの?蔵太グループってそんなに凄いところなの?」

 

「すごいも何も蔵太グループって超有名企業だよ・・・」

 

蔵太グループとは4年前に急成長を遂げ、今の日本でかなり上位になるほど有名な企業で超エリート企業だ。

 

入社試験や面接などが特に厳しく、しかしそこに入社できた人はとても稼げるという。

 

燐子がその大グループの専務の娘だとは思わなかった。

 

通りであんなに家が大きい訳である。

 

「両親は・・・まだそんなに有名じゃなかった頃からの社員なので・・・そこの会長さんとは中がいいんです。」

 

「だから燐子は衣装代はいらないって言ってたのね・・・」

 

「はい・・・家には色々揃ってるのと私が服作りが好きなので・・・」

 

「え?衣装のお金って全部燐子が負担してたの!?」

 

「そうだけど・・・まさかソータ知らなかったの!?」

 

「うん・・・今知った・・・」

 

今明かされる衝撃の真実である。

 

まさか衣装代が全部燐子が負担しているとは思わなかった。

 

「まぁ、それは置いといて・・・燐子はご両親いないから1人で?」

 

「そう・・・なるかな?」

 

「・・・ねぇ、燐子。このあと時間ある?」

 

「・・・?ええ、ありますけど・・・」

 

「だったら少しアタシに付き合ってくれない?色々と話したいことがあって!」

 

「は、はい・・・わかりました。」

 

「よし!それじゃあみんなまた明日〜!」

 

「あ、その・・・お疲れ・・・様でした!」

 

リサが燐子の腕をもって走っていく。

 

取り残された僕達の頭の上にははてなマークが浮かぶだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

私は今井さんに連れられて商店街にある羽沢珈琲店に連れられた。

 

「いらっしゃいませ〜って、リサさん!それに燐子さんも!」

 

「どうも・・・」

 

「やっほーつぐ!テーブル席空いてる?」

 

「はい、案内しますね。」

 

そう言ってテーブル席を案内される。

 

そこに今井さんと向かい合わせになるように座った。

 

「ご注文は何にしますか?」

 

「とりあえずコーヒー2つで。」

 

「わかりました、すぐに持ってきます!」

 

そう言って羽沢さんは店の奥に行った。

 

今井さん聞きたいこととは一体なんだろうか。

 

そう思っているとすぐにコーヒーが出てきた。

 

羽沢さんが「ごゆっくり」と言って自分の元いた位置に戻った。

 

今井さんはコーヒーを少し飲むと話を切り出した。

 

「燐子ってさ・・・ソータのこと異性としてどう思ってるの?」

 

「・・・!」

 

突然の質問に危うくコーヒーを吹きかけた。

 

奏多くんのことを・・・異性として・・・!?

 

「え、あ、その・・・奏多くんは・・・」

 

「あ、無理に答えなくていいよ!でも最近の燐子はソータに対して敬語を使わなくなったりなんかこう・・・ソータといると楽しそうっていうか、そんな感じだから気になってさ!」

 

たしかに最近奏多くんに対して敬語を使わなくなった。

 

確か奏多くんの入院のあたりからこうなっているのは自覚している。

 

けどその前から奏多くんに対して思うことはあった。

 

その気持ちはよくわからないが今井さんならわかるかもしれない。

 

「その・・・奏多くんと話していたら・・・心があったかくなって・・・自然に笑顔になれるんです。ドキドキするけど・・・とても安心して話せて・・・けど話し終わったりしたら少し寂しく感じたり・・・私、この気持ちがなんなのかよくわからないんです。今井さんは・・・この気持ちがなんなのか・・・わかりますか?」

 

今井さんは少し驚いたような顔をすると表情がとても柔らかくなった。

 

そしてこう話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燐子・・・その気持ちは多分、『恋』ってものなんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に私は驚いた。

 

私が・・・奏多くんに・・・恋?

 

私は『恋』というものがよくわからない。

 

けどこの気持ちが『恋』ならば

 

私は奏多くんのことが友達としてではなく異性として好きなのだろう。

 

私はようやく、自分の本当の気持ちに向き合えたような気がした。




あーなんかこう・・・書いてて尊い。

ということで続きは次回に持ち越しです。

次回もお楽しみに!


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60話 ムショク ノ オモイ ハイイロ ノ オモイ

インフルではないけど頭痛と吐き気に襲われてグロッキーな隠神カムイです。
みなさん体調管理には気をつけましょう・・・熱でない方がしんどいから・・・
と、言うことで熱が出るぐらい熱くなりそうな展開ですが書いてる方は余計顔が熱くなってきます・・・

てなわけで本編どうぞ!


『私は奏多くんのことが好き』

 

今井さんのお陰でその事実が確認できた。

 

すると今井さんが微笑ましく話しかけてくる。

 

「燐子。」

 

「は、はい!」

 

「顔、めちゃめちゃ赤くなってるよ。」

 

「え・・・あ・・・その・・・!」

 

そう言われてあたふたする。

 

その様子を見て今井さんはとても笑っていた。

 

「アハハッ!燐子落ち着いて〜全く可愛いんだから〜」

 

「そ、その・・・は、はい・・・」

 

少し深呼吸して落ち着く。

 

しかしまだ顔が熱い感じはする。

 

「そ、その・・・今井さん・・・」

 

「なーに、燐子?」

 

「この気持ちって・・・奏多くんに・・・伝えた方がいいんでしょうか・・・?」

 

「・・・それは、燐子が決めることじゃない?伝えたいなら伝えたらいいし、まだその時じゃないなら少し先に伸ばせばいいし。」

 

「私が・・・決めること・・・」

 

今まで私はそういった選択を確かにしてきた。

 

Roseliaに入ること、心を失いかけた奏多くんを助けたことなど・・・

 

それには全て『九条奏多』という人間が関わってきた。

 

奏多くんがいるなら私は・・・自分の気持ちに対して強くなれる。

 

「・・・私、伝えたいです・・・奏多くんに・・・私の・・・私が奏多くんを・・・好きだって気持ちを!」

 

「フフッ、だったらもっと自分に自信を持ちなよ〜!あーアタシもこういう恋してみたいな〜!」

 

今井さんが少し大きな声を出す。

 

幸い店の中には私達以外はいなかった。

 

「い、今井さん・・・その・・・声が・・・」

 

「ああ、ゴメンゴメン!あ、それじゃあクリスマスの日に奏多を誘ってみたら?」

 

「え?でも・・・奏多くんその日はバイトだって・・・」

 

「確かソータのシフト見たけど6時ぐらいには終わるはずだよ。バイトの後なら誘っても問題ないと思うよ?」

 

「な、なるほど・・・あ、ありがとうございます!」

 

「伝わるといいね、燐子の気持ち。」

 

「は、はい!」

 

時計を見ると午後4時半。

 

入ってきたのが確か3時半頃だったから1時間も話していたのか。

 

「もうこんな時間か〜、アタシ5時半からバイトだからそろそろ出よっか。」

 

「は、はい・・・その・・・ありがとうございます!」

 

「いや〜いいっていいって!アタシこういうお節介結構しちゃうタイプだからさ!」

 

私達は店を後にしてそれぞれの帰路に帰った。

 

・・・あとは、クリスマスの前までに奏多くんを誘えるかどうかだ。

 

 

 

 

 

 

 

リサside

 

アタシは今までずっとRoseliaの音楽の他にメンバー達のことをよく見てきた。

 

演奏中はソータが見てくれているがそれ以外の場所では正直ソータ以上にメンバーのことをよく見ていると自慢できるほどだ。

 

だから・・・燐子がソータに対する思いもわかっていた。

 

アタシ自体は本当のところを言うとソータに恋愛感情を抱いたことは無い。

 

どちらかと言うと頼れる相棒よりかは頼れる弟みたいに思っている。

 

だからこそソータの事は自分で言うのもなんだけどソータのお父さんや茂樹さんの次にわかっているつもりだ。

 

つまりを言うとソータは尋常ではないほど鈍感なのだ。

 

それぞれ口には出さないがアタシや紗夜、それにあこまでも燐子がソータに対する気持ちをわかっていた。

 

だからアタシはあえて燐子からソータを誘うように言った。

 

そうでもしないとソータは気づかないと思ったからだ。

 

しかしアタシ自身これでよかったのか今でも悩んでいる。

 

なぜならソータに思いを寄せているのは燐子だけではなく・・・

 

「・・・さ、・・・リサ、もしもーし、リサさん?」

 

「う、うわっ!なんだ・・・ソータか・・・」

 

「なんだって・・・バイト中だよ?ぼーっとしちゃダメじゃない?」

 

ソータがずっと呼びかけていた。

 

どうやらお客さんがいないからずっと考えていたみたいだ。

 

「あ、あはは・・・ゴメンゴメン。」

 

「何か考え事していたの?とてつもなく真剣な顔をしていたけど・・・?」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん、だって練習の時より真剣な顔してたもん。」

 

「そんな失礼な!練習の方が真剣にやってます!」

 

「いや、練習中はどっちかと言うと楽しそうにやってるけどな〜こっちからはよく見えるし。」

 

そうだ、バンドの練習中ではソータの方がアタシ達のことをよく見ているのだ。

 

話を変えるためにアタシはソータに考えていたことを聞いてみることにした。

 

「・・・ソータってさ、バンドのみんなのことどう思ってるの?仲間じゃなくて異性としてさ。」

 

「・・・!え、あ、その・・・!」

 

ソータが燐子と全く同じ反応をする。

 

恋愛感情を良くわかっていない人はこうなるのだろうか?

 

「あ、突然ゴメン!ちょっと気になってさ!」

 

「お、驚かさないでよ・・・うーん・・・紗夜は頼れる先輩みたいなイメージであこは妹、リサはどちらかと言うと頼れる姉さん?みたいな感じだし・・・」

 

「まぁ、アタシも頼られがいのある弟だと思ってるしね。」

 

「むぅ・・・確かに誕生日はこっちの方が遅いけど・・・」

 

ソータが頬を膨らます。

 

確かソータの誕生日は・・・

 

「あれ?ソータの誕生日っていつだっけ?」

 

「あれ?言ってなかったっけ?」

 

「うん、言ってない。少なくともRoseliaの中では聞いてないと思うよ。」

 

「うーん・・・あ、誕生日を言ったのは炎か。確か泊まりに来た時に言ったと思う。」

 

「なんだ、言ってなかったじゃん!」

 

「ゴメンゴメン。僕の誕生日は・・・12月25日だよ。」

 

・・・え?

 

確か12月25日って・・・

 

「・・・ええっ!そ、ソータ、クリスマスが誕生日だったの?それで誕生日にバイト入ってるの?」

 

「う、うん・・・今まで誕生日とクリスマスを同じにされて誕生日っていう実感が湧かなかったし。」

 

「・・・話は聞いたよ。」

 

すると店裏から店長が出てきた。

 

「九条くん、誕生日がクリスマスなんだってね。」

 

「は、はい・・・っていうか履歴書に書きませんでした?」

 

「・・・もし、九条くんが雇い主だとして履歴書の誕生日の欄をしっかり見る?」

 

「あー・・・見ないですね・・・」

 

「だろ?まぁ、それは置いといて折角の誕生日だ。その日のシフトはなしにしてあげるよ。」

 

「え?そんな悪いです!働くからにはしっかりと・・・」

 

「モカちゃん達の代わりにシフトに入ってもらった日を覚えてる?」

 

その日は確かアタシとソータがモカともう1人のバイトの子の代わりに入った日だ。

 

アタシはその日バイトした分別の日を休みにしてもらっている。

 

「は、はい・・・覚えてますけど・・・」

 

「今井さんは別の日を休みにしてもらったんだけど君の分がまだなんだ。だからその日を休みにしてもらうのはどうだろうか?これならキミも納得してくれるはずだ。」

 

「・・・はい、そこまで言ってもらえるならその日休ませてもらいます!」

 

「・・・よし!」

 

まさか予定が開くとは想像以上だ。

 

これなら燐子の誘いも許可してもらえるだろう。

 

「そろそろ時間だ。2人とも上がっていいよ。」

 

「はい、それでは失礼します。」

 

「お疲れ様でした〜」

 

アタシ達は制服を脱いでコンビニから出た。

 

 

 

 

 

 

コンビニを出て数分後、アタシはさっきの質問を続けてみた。

 

「・・・さっきの続きだけどさ、ソータはどう思ってるの?友希那と・・・燐子のこと。」

 

「友希那と燐子・・・か・・・」

 

アタシや紗夜、あこの時とは違いかなり考えているようだった。

 

「・・・2人は・・・特別かな。」

 

「特別?」

 

「うん、友希那は僕にRoseliaという場所と僕に存在価値を教えてくれた。それに・・・燐子は僕を必要としてくれて・・・頼ってもいいことや生きる価値をくれた。ゴメンだけど正直リサや紗夜、あこより特別な存在だよ。」

 

「特別な存在・・・」

 

「うん、恋ってモノがどういうものかは女性の暖かさを知らない僕にはわからない。けど特に2人には辛い思いを・・・悲しんで欲しくないんだ。」

 

「そうなんだ・・・」

 

「うん・・・って、恥ずかしいこと言ってるね。これを言えるのもリサだけなんだから・・・」

 

ソータが赤面している。

 

ソータもかなり丸く、感情深くなったものだ。

 

「ソータは変わったね・・・昔よりも・・・」

 

「変わった・・・?」

 

「うん、昔はなんかこう・・・どこか他人行儀で、表情が硬かったけど・・・今は表情豊かでアタシ達のことを信じてくれている。それだけでもアタシは凄いと思うよ?」

 

「・・・うん、これもみんなのおかげだよ。あ、僕は夕飯の買い物をするからここで。また明日〜!」

 

「うん、また明日〜」

 

ソータがスーパーの方向に向かって行った。

 

1人になった所でアタシは考えた。

 

ソータの言った『友希那と燐子・・・特にこの2人には悲しんで欲しくない』という言葉。

 

アタシは燐子の気持ちと・・・友希那の気持ちも知っている。

 

友希那を昔から見てきたアタシなら分かる。

 

友希那はソータに好意を寄せている。

 

ここ最近の友希那はソータに対して甘えているような話し方をしているのだ。

 

そしてソータがどちらか片方に付くということはもう片方が悲しむということだ。

 

ソータは昔、人間不信で絶対に恋人なんて作れないし燐子もそういうタイプじゃない。

 

友希那に至っては音楽以外はからっきしで好意を寄せられるのは嫌いなので全員が初恋となるのだ。

 

初恋の失恋のダメージはかなり大きい。

 

これはソータの思う『2人とも悲しんで欲しくない』という願いとはかけ離れてしまうのだ。

 

「燐子や友希那には自分の気持ちを伝えてほしいけど・・・それじゃあソータの思いを無視することになる・・・あぁ!気持ちがモヤモヤする!」

 

アタシは道路の真ん中で幼なじみと同じ仲間の恋愛事情に一人悩まされていた。




はい、しれっと出ました奏多の誕生日初公開です。

クリスマスが誕生日というロマンチックでクリスマスケーキと誕生日ケーキを同じにされがちな悲しい誕生日となりました(笑)

そして恋のキューピットとして悩むリサ姉を書いてみたかったのもある()

ということで次回もお楽しみに!


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61話 無色と灰色の交奏曲

今日やることが無さすぎてゲリラ投稿に至った隠神カムイです。

あらすじにも書いてあるとおり基本は火曜と土曜更新ですがたまにゲリラやります。

ゲリラで唐突すぎてよくわからないと思いますが内容としては良いものだと思います。
っていうか今回は多分無灰史上すごく良いものだと思います。(タイトル回収してるしつまりこれが最高の黒歴史の可能性)
あ、それと今回後書きないんで。

それでは本編お楽しみください!


今井さんから奏多くんの誕生日がクリスマスのひであることを知った。

 

更にその日に入っていたアルバイトが休みになったことも知った。

 

これならちゃんと思いを告げれるかもしれない。

 

次の練習の終わりに伝えられるといいな・・・

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

リサと話した日が変わって翌日、僕はいつも通りRoseliaの練習に参加していた。

 

まさか誕生日に入れていたバイトが無くなったのは予定外だけどこれはかなり嬉しい。

 

これでクリスマスをゆっくり過ごせるし、この前リサに言われた『クリスマスにバイト入れた独り身の高校生』に見られずに済む。

 

・・・まあ、バイトが無くなっただけで家で1人と猫1匹で誕生日を祝うことに変わりはないが。

 

そんなことは置いといてRoseliaは今、絶賛CIRCLEクリスマスライブのための最終調整を行おうとしている。

 

クリスマスライブに行う楽曲は2曲。

 

最初に陽だまりロードナイト、そして新曲の-HEROIC ADVENT-である。

 

Roseliaは今回クリスマスライブの最初を担当するので各バンドの曲をしっかりと聞くことができる。

 

その点、他のバンドを見て勉強ができるので正直かなりありがたい。

 

「ライブ本番まであと2週間切ってるわ、本番だと思って本気で行くよ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

友希那を筆頭にメンバーが良い意味の緊張を持っている。

 

今回のライブはかなりいいものになると僕は感じていた。

 

 

 

 

 

 

練習が終わって帰る前、僕は友希那、燐子、リサと帰っていた。

 

紗夜とあこはそれぞれ用事があるらしく先に帰ってしまったのでこの4人である。

 

「そう言えば奏多、クリスマスの日、アルバイトを休むことにしたそうね。」

 

「あ、うん・・・そうだけど・・・」

 

「ごめーん・・・アタシが話しちゃった・・・」

 

リサが反省0で謝る。

 

別に知られたぐらいどうといったこともないが。

 

「それってつまり燐子と同じでクリスマスの日は用事が無くなったって事よね。」

 

「まぁ、そうなる・・・かな?」

 

「なら2人ともクリスマスの日に私の家にこない?お父さんもあなたに会いたいって言っていたし。」

 

予定がなくなっては断る理由もない。

 

「・・・うん、行かせてもらってもいいかな?」

 

「もちろん、燐子はどうするの?」

 

「私も・・・行かせてもらいます。」

 

こうしてクリスマスの楽しみが増えた。

 

僕は初めてクリスマスの日を楽しみになった。

 

そしてもう一つ、あることをやろうと決心した。

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

友希那さんに誘われてから話すタイミングを無くしてしまった。

 

その日から何度か話しかけてはいるがどうしても尻込みしてしまって伝えられない。

 

そのまま伝えられないまま日が流れ、クリスマスライブ当日となってしまった。

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

やって来たクリスマスライブ当日、お客さんもたくさん来て大盛況である。

 

いつも通り掛け声を合わせ、Roseliaは早くもステージに立っていた。

 

「Roseliaです。今日はCIRCLEクリスマスライブに足を運んでくださってありがとうございます。まずは聞いてください・・・『陽だまりロードナイト』。」

 

陽だまりロードナイトの演奏が始まった。

 

陽だまりロードナイトはRoseliaの楽曲の中で軌跡の次に思い入れのある曲なので、いい曲を聴くのはやはり良い。

 

いつも通りフードの中にいるレインはこの曲が一番のお気に入りのようだ。

 

「・・・ありがとうございました。続いて新曲です。聞いてください・・・『-HEROIC ADVENT-』!」

 

紗夜のギターソロより曲が入り出す。

 

練習の成果か練習以上に素晴らしいものに出来ている。

 

そして今までと変わっていたことは・・・Roseliaのみんなの表示が、鋭くはあるがとても柔らかいものとなっていた。

 

「ありがとうございました・・・Roseliaでした・・・」

 

Roseliaが退場していく。

 

ここから先は僕の仕事であった。

 

 

 

 

 

 

そこからは各バンドの新曲祭りだった。

 

続くAfterglowは「Y.O.L.O!!!!!」を、Pastel Paletteは「天下トーイツA to Z」、ハロー、ハッピーワールド!は「ハイファイブ∞あどべんちゃっ」を初公開した。

 

弦巻さんが僕を見た瞬間、勧誘しようとした事件はあったがそれ以外は予定通りに動いていた。

 

そして大トリのPoppin Partyである。

 

「こんにちは!私達、Poppin Partyです!まずは聞いてください!『ときめきエクスペリエンス』!」

 

ポピパの面々がハイテンションでライブを始めた。

 

会場内の熱気もやばいことになっているので最後にポピパを入れたのは間違いではなかったかもしれない。

 

そしてときめきエクスペリエンスが終わって最後の1曲である。

 

「次の曲で本日のCIRCLEクリスマスライブはおしまいです。だからクリスマスライブに相応しい曲を作ってきました!CIRCLEクリスマスライブ、最後まで盛り上がっていこー!」

 

戸山さんの掛け声に合わせて会場が盛り上がる。

 

こういった掛け声をRoseliaはしないのでそこがやはりポピパとRoseliaの違いだと思える。

 

「よーし!それでは聞いてください!『クリスマスのうた』!」

 

ポピパが最後にクリスマスらしい曲でラストを締める。

 

今回のクリスマスライブは大成功だった。

 

そして5バンドで行った打ち上げは物凄いことになったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

そして日が変わってクリスマス当日、友希那との約束の日である。

 

僕と燐子は予め待ち合わせをしていた。

 

そしてその待ち合わせ場所に『あるもの』で向かっていた。

 

「燐子お待たせ。」

 

「うん・・・私も今来たとこ・・・って!ば、バイク・・・!?」

 

燐子が驚く。

 

まぁ、無理もない。

 

僕はこの日のために免許を取って、今まで貯めに貯めたバイトのお金を使ってバイクを購入したのだ。

 

単に昔からバイクに憧れていたのもあるが、バイクがあれば移動も便利だと考えたからだ。

 

花咲川へのバイク通学は禁止されているがそもそも家が近いためそこは影響がない。

 

しかし今まで少し遠いと思っていたCIRCLEへはこれから楽して向かえそうだ。

 

予備として購入済みのヘルメットを燐子に渡す。

 

「かぶり方わかる?」

 

「ご、ごめん・・・わからない・・・」

 

そう言うので髪をまとめてもらい、ヘルメットを被ってもらって僕が顎紐を締める。

 

「・・・これで、よしっと。さぁ、乗って!」

 

「う、うん・・・」

 

僕が跨ってから燐子がバイクに跨る。

 

「しっかり捕まってて。スピード出るから。」

 

「・・・うん。」

 

燐子が腰に手を回してギュッと捕まる。

 

背中に柔らかい感触があるが煩悩を振り切って僕は友希那の家にバイクを向かわせた。

 

 

 

 

 

 

ということで湊家に到着した。

 

バイクは近くの駅の有料駐輪場に止めさせてもらった。

 

僕がインターホンを押した。

 

『はーい』

 

「あ、九条です。燐子も一緒に来ました。」

 

『了解〜ちょっと待ってて!』

 

どうやらインターホンに出たのはリサのようだ。

 

そして扉が開いた。

 

「やっほー、お待たせ〜!」

 

「・・・ここ友希那の家で間違いないよな?」

 

「確か・・・お隣さん・・・でしたね。」

 

「いやいや、間違ってないって!とにかく上がりなよ!」

 

「「お邪魔しまーす・・・」」

 

そう言って僕達は友希那の家に上がった。

 

僕自体ここに来るのは2回目である。

 

リビングに行くと友希那とその御両親がいた。

 

「こんにちは、それと・・・お久しぶりです悠斗さん。」

 

「ああ、九条くん。また話したかったよ。それに白金さん、あの時以来だね。」

 

「は、はい・・・!その・・・お久し・・・ぶりです・・・」

 

するとキッチンの方から友希那と同じ銀色の髪色をした女性が出てきた。

 

「2人とも初めまして、友希那の母です。これからも友希那の事をよろしくね。」

 

「「は、はい!」」

 

「もう・・・お母さんったら・・・」

 

「とにかく2人とも座って!そろそろ料理が完成するから!」

 

その後、僕達は友希那のお母さんの料理を堪能した。

 

聞いた話によると友希那のお母さんは料理研究をかじっているらしく、その料理は絶品だった。

 

僕は友希那のお母さんに料理のことを色々教わっていた。

 

1通り話した後、悠斗さんが僕を呼んだ。

 

「こうやって話すのも、あの時以来だね。」

 

「はい・・・あの時もらったスコアは大切に使わせてもらってます。」

 

「・・・やっぱり、君は変わったね。そして強くなった。」

 

「まだまだ強くはなっていません・・・僕はまだみんなに助けられてばっかりです。」

 

「けど、助けてもらったから他のみんなを助けるんじゃなくて君は助けるのを当たり前だと捉えてみんなを頼りながらもそれに報いるようにしている。それだけでも立派な強さだと、僕は思うよ。」

 

「悠斗さん・・・」

 

「さあ、友希那達の所に行ってあげて。シゲから聞いたよ、今日が誕生日だってね。今日ぐらい楽しまないと。」

 

「シゲさん・・・はい、楽しませてもらいます!」

 

僕はその後、友希那の家でのパーティをめいいっぱい楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

リサside

 

「私・・・そろそろ帰ります。」

 

燐子が突然そう言った。

 

時間的にはまだまだ余裕がありそうだが・・・

 

「燐子、ソータのバイクで来たんじゃなかったっけ?」

 

「私は・・・電車で帰ります。今日はありがとう・・・ございました・・・」

 

そう言って燐子は家を出てしまった。

 

ソータはさっきから友希那のお母さんと話している。

 

友希那のお母さんの料理は絶品なため、そのコツなどを聞いているのだろう。

 

すると友希那がソータに声をかけた。

 

「・・・奏多、燐子先に帰っちゃったけど大丈夫なの?」

 

「え、ホント!?」

 

「早く追いかけた方が良いわ、また明日練習で。」

 

「う、うん!友希那のお母さん、話はまた今度お願いします!それと皆さん、ありがとうございました!」

 

そう言ってソータは燐子を追いかけていった。

 

アタシは友希那と一緒に玄関の外に出た。

 

「・・・友希那、あれで良かったの?」

 

「・・・良かったのって?」

 

「友希那・・・何年も付き合ってきたからわかるよ・・・友希那がソータに対する気持ちぐらい・・・」

 

「そう・・・やはりわかっていたのね・・・」

 

「うん、だから聞くけど・・・なんで燐子を追いかけるように言ったの?燐子が先に言ったなら思いを伝えることが出来たんじゃ・・・」

 

「私では・・・ソータの思いに届かない。」

 

「・・・!!」

 

「私も、燐子が奏多に対する気持ちぐらいわかっていたわ。だからこそ自分から引いたの。燐子の気持ちを尊重したいのと・・・言ってしまったら・・・私が私ではなくなるような気がしたから・・・」

 

友希那が俯いてアタシの胸に額を当てる。

 

「友希那・・・」

 

「だからリサ・・・少しだけ・・・少しだけ・・・泣いてもいいかしら・・・」

 

そう言い終わる頃には友希那は泣いていた。

 

アタシはそれを頭を撫でることしかできなかったが自分の幼馴染は自分から引くことの出来る強い人間なのだと再確認した。

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

友希那さんの家を出てから数分が経った。

 

私は自分の情けなさに失望していた。

 

今までいくらでもチャンスはあったはずだ。

 

しかしそのチャンスを今までずっと無駄にしてきた。

 

そしてパーティーの中では話しかけるタイミングが無く、自分がなぜそこにいたのか違和感を覚えるほどだった。

 

やはり私は弱いままなのか、そう思って帰っている矢先だった。

 

「おーい!燐子ー!」

 

後ろから聞きなれた声がした。

 

とっさに振り返る。

 

そこには奏多くんが息を切らしてそこにいた。

 

「そ、奏多くん・・・!?」

 

「やっと追いついた・・・友希那に追いかけるように言われてさ・・・」

 

その言葉に私はハッとした。

 

友希那さんは私のために奏多くんを追いかけさせたのだと。

 

このチャンスは・・・絶対に無駄にはできない、私はそう思った。

 

「そ、奏多くん!」

 

「り、燐子!?どうしたの?そんな大きな声出して・・・?」

 

「そ、その・・・わ、私・・・」

 

呂律が回らない。

 

私は大きく深呼吸した。

 

奏多くんは少しびっくりしていたがすぐに落ち着きを取り戻した。

 

伝えるのは・・・今しかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ず、ずっと!奏多くんのこと・・・す、好きでした!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

追いかけて、追いついて、僕は燐子にこう言われた。

 

「あなたが好きだ」

 

と。

 

僕は初めその言葉の意味がわからなかった。

 

しかしその言葉を一文字ずつ噛み締めることでようやく意味がわかった。

 

そして様々なことが頭をよぎる。

 

そして僕はようやく一つの答えを導き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特別で、大切で、心から守りたいと思える人がいること。

 

それこそが僕にとっての『恋』であったということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その・・・だめ・・・ですか?」

 

燐子がそう問いかけてくる。

 

その言葉に僕は首を横に降った。

 

「ううん、その気持ちを伝えてくれてありがとう。多分、その気持ちを伝えてくれなかったら僕はこの気持ちをわからないままになっていたんだと思う。僕も・・・燐子のことが好きだ。」

 

燐子の顔が赤らみながらもぱあっと明るくなる。

 

この顔がとても愛おしく思える。

 

これが恋を自覚したということなのかと理解する。

 

「だから・・・その・・・燐子、僕と・・・僕と、付き合ってくれませんか?」

 

僕は精一杯の気持ちを燐子にぶつける。

 

すると燐子はホロホロと涙を流し出した。

 

「そんなの・・・きまってるよ・・・こちらこそ、よろしくお願いします・・・!」

 

燐子が涙ぐみながら笑顔を見せる。

 

僕はこの笑顔を守りたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして僕は燐子の顎を引いてその艶やかな唇に自分の唇を重ね合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『フタリ ノ ネガイ』


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62話 フタリ ノ ネガイ

前回投稿したあと我に返って読み直したらその恥ずかしさに1日燐子の顔を見ることの出来なかった隠神カムイです。
あげた後読み直したらどれだけ恥ずかしくてベットの上を暴れ回ったか・・・
ということでその続きです。
書いてて恥ずかしいところではありますがその恥ずかしさと向き合って楽しみながら投稿を続けます。

ということで本編どうぞ!


燐子side

 

 

 

 

 

 

『僕も燐子のことが好きだ』

 

 

 

 

 

 

奏多くんにそう言われた時嬉しさで涙が止まらなかった。

 

好きな人に思いを伝えられた。

 

相手もその思いは一緒だった。

 

それだけでも嬉しかった。

 

そして付き合ってほしいと言われた時はもう何を言っていいのかわからなくなるぐらい感情が溢れかえっていた。

 

そんな中、私は精一杯の言葉を伝えた。

 

『そんなの・・・きまってるよ・・・こちらこそ、よろしくお願いします・・・!』

 

うまく伝えられたと思った。

 

けどその後、奏多くんは予想外の行動にでるとは思わなかった。

 

奏多くんは少しはにかむと私の顎を持ち上げて私の唇の上に自分の唇を重ね合わせたのだ。

 

その時私の頭の中は真っ白になってパニックになっていた。

 

奏多くんがこんな大胆な行動をするとは思わなかったしとても恥ずかしさがこみ上げてきた。

 

けど嫌な気持ちではなくむしろ嬉しさがこみ上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

『わ、私・・・ず、ずっと!奏多くんのこと・・・す、好きでした・・・!』

 

燐子にそう言われた時は本当に驚きだった。

 

けど燐子のお陰で自分の中に眠っていた『恋』という感情を初めて自覚することが出来た。

 

自分が燐子に対する態度や感情が変わっていたことは自分でも気づいてはいた。

 

友希那の誕生日の時やNFOの時でもドキッとすることはあった。

 

それがどういうものなのかが今までわからなかった。

 

けど何時かリサが言っていた『ソータには大切な人がいる』の理由がようやくわかった。

 

僕にとっての『大切な人』、それが燐子であったこと。

 

・・・そしてそれに気づいて僕や燐子の鈍感さにじれったい思いを感じていたリサの気持ちもようやくわかった。

 

それは置いといて、とにかく僕は自分の内面に眠っていた感情を解き放つことが出来たのだ。

 

それもこれもすべて燐子のお陰である。

 

これで何度目かわからなくなるぐらい燐子に助けられてばっかりだ。

 

それに自分の想いを伝えることが苦手な彼女が精一杯気持ちを伝えてくれたのだ、僕もそれに答えたい。

 

 

 

 

 

 

燐子のことを・・・ずっと好きでいたいから。

 

 

 

 

 

 

 

『その・・・燐子、僕と・・・僕と、付き合ってくれませんか?』

 

途切れ途切れの言葉だが、たしかに僕はそう伝えた。

 

その言葉に燐子は涙を流して了承してくれた。

 

嬉しかった、そして本当に愛おしかった。

 

そして気がつけば僕は燐子に近寄って彼女の唇の上に自分の唇を重ね合わせていた。

 

燐子は目を大きく開き、顔をとても赤らめていたが嫌がる様子もなくなすがままになっていた。

 

僕はようやく理性を取り戻して慌てて燐子の顔から離れた。

 

「そ、その!ご、ごめん!」

 

「い、いえ・・・!そ、その・・・!」

 

燐子も顔を赤らめてあたふたしている。

 

両方ともパニック状態だ。

 

「そ、その・・・なんて言うか・・・愛おしすぎて感情が爆発したと言うか・・・」

 

「い、愛おしい・・・」

 

「い、いや!燐子には悪いことしたなって!あの・・・その・・・とにかくごめん!」

 

「い、いえ・・・!わ、私も・・・嫌じゃなかった・・・その・・・!」

 

このままでは状況が悪くなる一方だ。

 

とにかく話を変えなければいけない。

 

「と、とにかく・・・バイク乗ってく?その・・・家まで・・・送るけど・・・?」

 

「え、えっと・・・よろしく・・・お願いします・・・?」

 

両者とも疑問詞になる。

 

そして少しの間が空き、何かが弾けたように僕達は笑った。

 

この寒い冬の夜の中、僕達二人の心はとても暖かかった。

 

そして僕達はバイクの置いてある駅前の駐輪場へ向かった。

 

幸いさっきいた所は駅からかなり近くすぐに着いたが夜の帰宅ラッシュ過ぎなので人通りが少なかった。

 

ヘルメットを燐子に渡して燐子の家に向かっている中、僕はずっとさっきの事を人に見られずに済んで良かったとずっと思っていた。

 

 

 

 

 

 

友希那の家の近くの駅からバイクを飛ばして30分程で燐子の家に到着した。

 

運転中はあまり話せずにいたが降りてからも少しぎこちない空気は残っていた。

 

黙っていてもあれなのでとりあえず話しかけた。

 

「あ、あの・・・!」

 

「は、はい・・・!」

 

「その・・・こ、これからよろしくお願いします!」

 

自然と敬語になる。

 

自分でもわかるくらい心臓がバクバクいっている。

 

「こ、こちらこそ・・・ふ、不束者ですが・・・よ、よろしくお願いします・・・!」

 

対する燐子も緊張感でガチガチになりながらも頭を深く下げた。

 

ここまで来るとどう返せばいいのかコミュ力皆無の僕は慌てふためく。

 

とりあえず深呼吸してから話を続けた。

 

「え、えっと・・・ま、まぁそういう事だから・・・また明日。おやすみ燐子。」

 

「う、うん・・・おやすみ、奏多くん・・・。」

 

燐子が門の中に入っていく。

 

それを確認した僕はバイクに跨り、家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

家に到着してバイクから降り、ヘルメットを脱ぎ捨てて上着を着たまま自分のベットに倒れ込む。

 

レインがご飯をねだりに「ミャーオ」と寄ってくる。

 

しかし今の僕にはそんな余裕はなかった。

 

「・・・ぅ・・・う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

大きな声を出してベットの上で暴れまくった。

 

レインがビックリして体を引かせていた。

 

「なにあれ!!なんであんなことした!?何カッコつけてんだ、くっそ恥ずかしいんだけど!!」

 

さっきの行動を行った自分に対してめちゃくちゃ攻める。

 

帰って我に返って振り返るとめちゃくちゃ恥ずかしいのだ。

 

一通り暴れたあと枕に顔をうずめた。

 

あの時の燐子の笑顔とかキスした時の驚き顔などめちゃくちゃ頭に浮かぶ。

 

頭はオーバーヒート寸前である。

 

暴れたせいなのかそれともまた別に原因があるのかさっきから心臓が破裂しそうなぐらいバクバク動いているのである。

 

すると背中の上に何かが乗ってきた。

 

「ミャオ!」

 

と鳴き声が聞こえ、それがレインなのだと理解する。

 

レインのお陰で少しだけ落ち着いた。

 

「ごめんごめん・・・驚いたよね・・・とりあえずご飯・・・」

 

リビングへ向かうとそれに続いてレインが着いてくる。

 

しかし部屋の移動中もレインにご飯をあげている時も頭の中は燐子の事でいっぱいいっぱいだった。

 

けど燐子と恋人関係になったことは僕にとってのクリスマスプレゼント・・・又は誕生日プレゼントみたいである。

 

『家族以外から誕生日プレゼントを貰う』

 

それは僕が昔から抱いていた願いだった。

 

それが今日、最高なものとなって叶ったのだ。

 

今日という日は僕にとって掛け替えのないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

奏多くんに送ってもらってそのまま家に入るとお父さんとお母さんが珍しく早く帰ってきていた。

 

「お父さん・・・お母さん・・・その・・・ただいま・・・?」

 

「おかえり燐子。・・・どうしたんだい?そんなに顔を赤くして・・・熱でも出した?」

 

そこでようやく私はさっきから赤面しっぱなしだということに気づく。

 

さっきまでのことを知る由もない親は熱でも出したのかと心配してくる。

 

「う、ううん・・・何でもない・・・少し暑いところにいたから・・・」

 

「そう、なら今日はもう遅いし早く寝なさい。私達はもう少しだけクリスマスの日を楽しませてもらうから。」

 

テーブルの上を見るとシャンパンが置かれている。

 

どうやら楽しみの真っ最中だったようだ。

 

「うん・・・おやすみなさい・・・お父さん、お母さん・・・」

 

そう言って私は自室に向かった。

 

 

 

 

 

 

私は自室についた瞬間ベットに倒れ込んだ。

 

そして今日あったことを思い返した。

 

(奏多くんがバイクに乗って送ってくれて・・・その後友希那さんの家でパーティーして・・・その後一人で帰ろうとした所を奏多くんに止められて・・・気持ちを伝えて・・・その後・・・奏多くんと・・・キ・・・キ・・・キ・・・!)

 

そこまできて脳裏にはっきりとその行動が思い返される。

 

どうやら脳裏に焼き付いてしまったようだ。

 

自分の顔から湯気が出るぐらい真っ赤になる。

 

嬉しいこと、悲しかったこと、恥ずかしかったこと・・・今日は色々あったが確かに言えることが2つある。

 

一つは奏多くんと恋人関係になったこと。

 

もう一つは・・・自分の思いを伝えることができたこと。

 

小さい頃から私は『クリスマスに願いが叶う』ということをあまり信じてはいなかった。

 

願いなんてそんな都合よく叶わないし今まで願いが叶ったことは無かった。

 

けど、ようやく願いが叶った。

 

私は、今日という日を絶対に忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心を閉ざし、人を心から信用出来なかった『無色』の少年

 

 

 

 

 

人と接することを苦手とし、自分の思いを伝えられない『灰色』の少女

 

 

 

 

 

おたがいがその欠点を克服し、『恋』というものを手に入れた。

 

 

 

 

 

2人の願いは今ここにかなった。

 

 

 

 

 

2人にとって『12月25日』という日は掛け替えのない者となった。




はい、クリスマス編はこれで終わりで次は年末年始編となります。

ということで次回もお楽しみに!


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62話 Roselia ノ キセキ

ココ最近初めからやってたカタカナサブタイトルが崩れつつある隠神カムイです。
あとすり抜けで星4の天体観測の時の紗夜さん来ました!
けどピュアの星4紗夜さんもう先客がいるんだよね・・・
それに引いて2日後に正月燐子のピックアップ来るというやばさ・・・
無いよぉ・・・石無いよぉ・・・

ということで今回はある意味クリスマスの後日譚みたいになります。
ということで本編どうぞ!


晴れて付き合うことになった僕と燐子だが、その事はあまり他人に伝えないことにした。

 

人に言う事でもないし言ったところで後々痛い目にあいそうなのは目に見えていたからだ。

 

なのでクリスマスの次の日に練習へ向かう時に燐子の家にバイクで迎えに行ってその時に話し合い、そうすることにしたのだ。

 

・・・しかし、その事はリサに1発で看破された。

 

というのもスタジオに入った途端思いっきりクラッカーを鳴らされたのだ。

 

当然、僕と燐子はビックリした。

 

「わっ!な、何!?」

 

「ソータ、燐子、カップル成立おめでとう!」

 

「い、今井さん・・・!?それに氷川さん、友希那さん・・・あこちゃんも・・・!?」

 

「な、なんでその事を・・・?」

 

「昨日奏多を燐子の元に向かわせて私と少し話した後にリサが様子を見に行ったのよ。」

 

「え、てことは・・・!」

 

リサを見るとリサはウィンクしながら親指をぐっと立てた。

 

(あ、あのこと見られてたー!)

 

その事を察した僕と燐子は赤面する。

 

ある意味一番弱みを握られたくない人に見られたような気がする。

 

「しかし・・・あなた達どれほど鈍感なのですか・・・今までずっと二人の様子を一番近くで見てきましたが、見てるこっちがはらはらしましたよ・・・」

 

「そうだよ〜!あこですら気づいていたのにりんりんは前に出ないし・・・奏多さんは自分の気持ちにすら気づいてなかったし・・・ここ最近のりんりんの様子みてたら丸わかりだったよ!」

 

「あ、あこちゃん・・・そんなにわかりやすかった・・・かな・・・?」

 

「「「「バレバレです!」」」」

 

4人が言葉を合わせる。

 

他のメンバーはわかっていたのに自分はわかっていなかったと思うと自分の鈍感さに情けなさが出る。

 

「2人とも、わかっているとは思うけど練習中は恋人ではなくRoseliaのキーボードとマネージャーの関係であることを忘れないように。」

 

「は、はい・・・!」

 

「さ、流石に練習への私事は入れないよ!」

 

「まーまー、練習後は存分にいちゃついて構わないから!」

 

「「い、いちゃつきません!」」

 

・・・と、練習前に赤面しっぱなしな事はあったがすぐに切り替えて僕達は練習を開始した。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、年末の年の切り替わりにみんなで会わない?」

 

練習後リサがそう提案してきた。

 

「年の切り替わりって真夜中の12時に?」

 

「そうそう!みんなで集まって来年のRoseliaの目標を祈願しにさ!」

 

確かにそれはいい案だと思う。

 

しかし真っ先に紗夜が反対した。

 

「高校生が真夜中に出歩くのは危険です。私はやめた方がいいと思います。」

 

「えー!一番乗りで祈願しに行きましょうよ!」

 

「もし仮に行くとしても冬の真夜中だから寒いわよ?」

 

「そうだよね・・・ど、どうしましょうか・・・?」

 

「あ、だったら家くる?みんなに料理を振舞ったことなかったし年越しそばなら出せるよ?」

 

この際みんなを誘ってみる。

 

すると最初に食いついたのはあこだった。

 

「行きたい!この前のマフィンもめちゃくちゃ美味しかったし、奏多さんの料理食べてみたいっ!」

 

「確かに陰村さんは九条さんの料理を絶賛していましたしね。夜に高校生が男子の家に集まるのもどうかと思いますが、九条さんなら白金さんがいますしそもそもそんなことを出来るはずがないので大丈夫でしょう。」

 

紗夜のこの言葉は僕を褒めているのか貶しているのかわからないため少しモヤモヤする。

 

紗夜か友希那が許可した瞬間だいたい流れは掴める。

 

「友希那にリサは?」

 

「アタシもソータの料理する姿は見たことあるけど食べたことないから行きたいっ!」

 

「私も家の中のレインが気になるし・・・お母さんの教えを受けた奏多の料理を食べてみたい。」

 

「燐子、来てくれる?」

 

「も、もちろん・・・!行きたい・・・!」

 

ということでRoselia年越しパーティーは我が家で行われることになった。

 

 

 

 

 

 

時は流れて年末、我が家にRoseliaのメンバーが揃った。

 

本当は炎も誘いたかったのだが最近炎はパスパレのメンバーと交流が深く、芸能事務所のスタッフと意気投合したみたいで丸山さんに誘われてそちらの年越しパーティーに行くらしい。

 

そういった人当たりの良さは炎らしいと言うかなんというか。

 

代わりに年始のおせち料理は食べに来るらしく、話しているとそれを聞いた弦巻さんが現れて弦巻家に5バンド交流で盛大にパーティーを行うこととなった。

 

僕は黒服さん達に『当日のメインシェフ』として(半強制的に)雇われ済みである。

 

まぁ、それは置いといて友希那はレインの相手を、その他のメンバーは倉庫にどんな意図で買ったかわからない大型コタツの餌食になっている。

 

そんなメンバーを横目に僕は年越しそばの準備である。

 

クリスマスに友希那のお母さんから少しだけ教わったことを思い出しながら昨日から準備を進めていたのである。

 

昆布や鰹節から一から出汁をとったりエビの天ぷらを揚げるなど手間をかけ、年越しそばを完成させた。

 

今回は手間をかけたためかなりの自信作である。

 

「みんなー蕎麦できたよー!」

 

「やっと出来た!」

 

「これは・・・随分と手間がかかってますね。」

 

「でもめちゃくちゃ美味しそう!」

 

「うん・・・いい匂い・・・」

 

「今回は自信作だよ!友希那〜レインの相手ありがとう!」

 

「随分時間がかかったのね。」

 

「まぁまぁ食べてみてくださいよ!」

 

「よし、それじゃあ・・・」

 

「「「「「「いただきます。」」」」」」

 

全員で手を合わせ、蕎麦をすする。

 

最初に感想を言ってくれたのは紗夜だった。

 

「これは・・・!出汁が効いているけど決してしつこくなく、かといって薄くもない・・・それにそのスープが蕎麦に絡まってまた味わいを増す・・・」

 

「お、美味しいっ!こんな美味しいお蕎麦食べたことないよ!」

 

「うん・・・天ぷらも身がプリッとしていて衣のサクサクした食感もいい・・・」

 

「この味・・・お母さんの出汁の味に似ている・・・1晩浸け置きした昆布と少し荒く削った鰹節を使ったわね。」

 

「さ、さすが友希那・・・師匠の味をわかっている・・・!」

 

「ね、ねぇソータ!今度このレシピ教えてよ!」

 

「うん、後で教えるよ。だからとにかく今は食べよっか。」

 

こんな感じに年越しそばは大盛況だった。

 

 

 

 

 

 

・・・しかし人間とは、腹が膨れると眠くなる生き物なのである。

 

「・・・すぅ」

 

コタツには食後のメンバーがコタツにうもって夢の中である。

 

その光景があまりにも珍しかったので失礼ながら1枚撮らせてもらって僕は今ベランダに出ている。

 

時刻は10時過ぎ、あと30分したら起こしてお参りに行く予定だ。

 

その事を頭の片隅に起きながら僕はこれまでのことを思い出していた。

 

高校1年の3月、突然の転校で来た花咲川高等学校での生活。

 

そこからであったピアノの音色に紗夜や友希那、あこにリサにそして燐子との出会い。

 

 

 

そこから結成された『Roselia』と僕が名付けたはじまりの歌『BLACK SHOUT』

 

 

 

修学旅行でタイトルを完成させた『熱色スターマイン』

 

 

 

友希那の苦難を乗り越えてインディーズから引き継いだ曲『LOUDER』

 

 

 

リサや僕が1日だけいなくなってその時に他のメンバーが普段頼りにしている2人の大切さを改めてわかり、作り出した『陽だまりロードナイト』

 

 

 

僕が心を閉ざしかけた時にみんなが精一杯助けてくれて、作り出した『軌跡』とその曲の制作中にできた没案を再誕させた『Re:birthday』

 

 

 

僕と友希那が支えながら紗夜自身がが日菜さんと向き合うことで自分の音と見つめ直すことが出来たので完成できた『Determination Symphony』

 

 

 

NFOでの体験でその壮大なグラフィックと音楽に影響されて出来た『Opera of Wasterland』

 

 

 

どれもこれもRoseliaが進み続けることで完成した『Roseliaの軌跡』である。

 

「今年はいろんな事があったな〜」

 

「・・・そうね。」

 

声がしたので後ろを向くと友希那がいた。

 

どうやら起きたようだ。

 

「友希那、起きたんだ。」

 

「えぇ・・・あなたがベランダでたそがれていたから・・・」

 

「今年のことを振り返ってたんだ。僕にとって今年はいろんな事があって僕自身が変わることが出来た年だったから・・・」

 

「そうね・・・」

 

僕と友希那は空を見上げた。

 

澄み切った冬の空気は都市部の住宅街でも星が見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私は・・・あなたの事が好きだった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え?」

 

友希那から衝撃の告白を受ける。

 

僕はその言葉に驚いた。

 

「い、いつから・・・」

 

「紗夜が挫折した時辺りから奏多に対して恋心を持っていることに自覚し始めたのよ。まぁ、鈍感なあなたは気づかなかったと思うけど。」

 

「だ、だったら何でクリスマスの日に燐子に追いかけるように言ったの?その時に気持ちを伝えることができたんじゃあ・・・」

 

「・・・私には、自信がなかったのよ。奏多にこの気持ちを伝えた後、自分が自分でいられないと思ったから・・・伝えることが出来ずにその覚悟を燐子に託した・・・だから奏多と燐子が付き合うことになったのを聞いた時は嬉しさより悲しさというか・・・そんな感情が湧き出たわ。」

 

「友希那・・・」

 

「でも、ここで挫けては・・・Roseliaのリーダーが挫けてしまってはRoseliaはRoseliaでいられなくなる・・・だから私はその真実を受け止めて前に進むことに決めた。・・・けど、この気持ちがあったということだけは奏多に伝えたかったのよ・・・」

 

友希那が少し寂しく笑う。

 

彼女は・・・やはり強い。

 

ほかのどんな人よりも、Roseliaという最高の音楽を目指せるものがある限り友希那は前に進み続けることが出来るだろう。

 

「・・・うん、ありがとう友希那。伝えてくれて。」

 

「えぇ・・・だから、絶対に燐子を悲しませちゃダメ。もし燐子を悲しませたら・・・その時は私がしっかり怒る。」

 

「うん・・・そんなことが起こらないように頑張るよ。僕を助けてくれた・・・大切な人だから・・・」

 

すると友希那は「フフッ」と笑った。

 

友希那も友希那なりに覚悟を決めたのだろうか。

 

「とにかくみんなを起こしましょう。そろそろ初詣に行きましょうか。」

 

「・・・そうだね。」

 

僕と友希那はみんなを起こしにベランダから部屋に戻った。




次回 『NEXT YEAR'S Roselia』


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63話 NEXT YEAR'S Roselia

結局お正月の燐子が出なさそうな隠神カムイです。
もう無理・・・石足んない・・・
ということでようやく無灰世界も現実世界の月に追いつきました。
この先やること決まってるんだよな~
でもその前に番外編を1つ2つ入れようと思いますので奏多と絡ませたいキャラがいたら感想やメッセージ等でリクエストよろしくお願いします。

ということでお正月編のラストです!
では本編どうぞ!


友希那と話した後、部屋に戻った僕と友希那はこたつの魔力に負け夢の中にいるほかのメンバーを起こしに来た。

 

「紗夜、リサ、そろそろ起きて。」

 

「もしもーし、あこー、燐子ー、起きてくださーい。」

 

軽く叩いたりゆさったりすると燐子達は眠そうな瞳を擦りながら起きた。

 

「ふ・・・ふぁい・・・?」

 

「あれ・・・私達・・・」

 

「おはよ二人とも。そろそろ神社に行くから準備して。」

 

「あれ・・・寝てた・・・?」

 

「・・・どうやらそのようですね。」

 

「奏多と私が起こさなかったら一番乗りでお参りに行けなかったわね。とにかく準備を始めて。」

 

メンバーがぞろぞろとこたつから出る。

 

スマホで外の気温を調べると5度という寒さである。

 

コートやマフラーなど寒さ対策をした方が良い。

 

時間を見ると11時過ぎである。

 

ここから神社までは20分ほどで着くので少しぐらいゆっくり行っても12時には間に合いそうだ。

 

「みんな準備は終わったわね。そろそろ行きましょうか。」

 

全員が寒さ対策をして僕達は神社へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「ふぃー・・・寒いね~」

 

リサがはぁっと息を吐くと真っ白い息が出る。

 

結構寒がりな僕からしたら身を刺すような寒さである。

 

「手が冷える~!そうだ紗夜さん!手繋ぎましょうよ!」

 

「な、なんで私が!?」

 

「だって紗夜さんとても暖かそうな格好してますしさっきポケットの中にカイロが入ってたの見えましたもん!お互い寒い時は温め合いましょうよ!」

 

「・・・仕方ないわね、ほら。」

 

紗夜があこにすっと手を差し出す。

 

あこはそれを嬉しそうに握った。

 

「やったぁ!やっぱり温かい!」

 

「そんなに握らなくても温かさは伝わるわよ・・・」

 

紗夜が少し照れる。

 

日菜さんとの一件があってから最近あこと紗夜の仲が良い。

 

何かあったのだろうか?

 

「ゆーきなっ!アタシ達も手繋ご!」

 

「リサ・・・私は別に・・・」

 

「ほらっ!昔みたいにさ!」

 

リサも友希那に手を差し伸べる。

 

友希那は少しため息を吐くとリサの手を掴む。

 

「やっぱり冷たくなってるじゃん!」

 

「手袋なんて持ってきてないもの。」

 

「あー、ちょっとまってて。」

 

リサは友希那の手を離すとさっき友希那と繋いでいた右手の手袋を脱ぐと友希那に差し出した。

 

「ほらっ、右手につけて!」

 

「でもそれじゃあリサの手が・・・」

 

「友希那と繋いでいたら温かくなるから!」

 

友希那は勘弁したのか手袋を受け取ると右手にはめた。

 

リサは友希那の手を取るとその手と自分の手を自分のポケットの中に入れた。

 

「ほらっ、こうすれば温かいでしょ?」

 

「・・・そうね、温かいわ。」

 

友希那の様子を見るとまんざらでも無さそうだ。

 

・・・てか流れ的にこれは手を繋げはならない状況なのでは?

 

燐子もそれを察したようでこちらを見て目が合う。

 

「・・・繋ぐ?」

 

僕はすっと燐子に手を差し伸べた。

 

「うん・・・!」

 

燐子は微笑むとその手を握った。

 

「燐子の手、温かいね。」

 

「奏多くんの手・・・かなり冷えてる・・・」

 

「寒がりで冷え性だからね・・・そこだけが難点・・・」

 

「でもいい・・・奏多くんの心の温かさは感じるから・・・」

 

燐子が寄りかかってくる。

 

最近の燐子はかなり積極的というか甘えているというか行動が少し大胆になってきている。

 

これも恋心が原因なのか・・・

 

そう考えている途中にふと前を向くと4人がこちらを見ていた。

 

リサはにやけた顔でスマホでパシャッと写真を撮った。

 

「り、リサさん・・・?いま写真撮らなかった?」

 

「ゴチソーサマデス」

 

「い、今井さん!?」

 

僕と燐子が赤面している中リサがニシシと笑う。

 

こう思うとリサにあの時の写真を撮られている可能性がある。

 

僕はこれからどんどんリサに弱みを握られそうなことを悟った。

 

「とにかく早く行くわよ。そろそろ12時だわ。」

 

あたりを見るとあと数分ほどで神社に到着する。

 

神社には少し長い階段があるがそれを含めても間に合うだろう。

 

お参りするなら願い事を考えなければ・・・

 

僕は何を願うか考えながら歩いていた。

 

 

 

 

 

 

神社の鳥居をくぐって階段を上がり、僕達は神社に到着した。

 

手を繋いでいるため、運動の苦手な燐子に合わせてゆっくり階段を登っているうちにリサや紗夜に抜かされて1番最後だった。

 

「ふぅ・・・到着・・・」

 

「時間は・・・58分、ギリギリだね。」

 

「ごめんね奏多くん・・・私に合わせてくれて・・・」

 

「間に合ったからいいじゃん。とにかく一番乗りだね。」

 

周りを見ると年の切り替わり前なのか神主さんが鐘をつく準備をしていた。

 

「こんばんは、もう初詣の準備かい?」

 

「はい、一番最初にお参りしようって話してたんで!」

 

「そうかそうか、なら儂が鐘をついたらお祈りしたらいい。少し暗いから気をつけなさい。」

 

そう言うと神主さんは鐘のある方へ向かっていった。

 

年の切り替わりまであと少し・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーン・・・ゴーン・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

低く重い音が鳴り響く。

 

年が切り替わった合図である。

 

「・・・あけましておめでとう、みんな。」

 

「ええ、あけましておめでとうございます。」

 

「あけおめーっ!」

 

それぞれが年明けの挨拶を済ませる。

 

「それじゃあお参りしよっか。」

 

ということで参拝堂へむかって10円硬貨を投げ入れて手を合わせる。

 

願うことは階段を上る時に決めていた。

 

「・・・お参り完了!みんな何をお願いしたの?」

 

「あこは今年は去年よりもっともーっとカッコよくなるってお願いした!」

 

「私は今年も無病息災であるようにと。」

 

「私はこれからもRoseliaがRoseliaでありますようにって・・・それを決めるのは私達なのにそういう願いをしてしまったわ。」

 

確かに友希那なら「そういう事は願うんじゃなくて自分で努力しなさい」とか言いそうである。

 

「燐子は?」

 

「私は・・・自分に正直でありますようにって・・・願いました・・・」

 

「そう言えばリサは?」

 

「アタシはみんなと仲良くいれますようにって!残るはソータだけだよ?」

 

リサにそう言われる。

 

いざ思い返すと少し気恥しい願いではある。

 

「僕は・・・大好きなRoseliaと、そしてみんなと繋がっていけますようにって・・・さっき手を繋いでた時みたいに。・・・すごく気恥しい願い事だけどね。」

 

「奏多らしいわね。けど、いい願いだわ。」

 

誰も笑わないで聞いてくれた。

 

それだけでもかなり安心である。

 

「それじゃあ帰ろっか。僕はこの後少し寝てから弦巻さんの家でパーティーの食材の準備があるので・・・」

 

「そうね、私達も帰って寝ましょうか。弦巻さんの家でのパーティー中に眠くなっては困りますし。」

 

ということで僕達はそれぞれの願いを胸に抱きながら自分の家に帰った。

 

僕は少し寝てから弦巻家で準備である。

 

弦巻家の調理場は凄かったのでまた調理するのが楽しみである。

 

僕はそれを楽しみにしながら家に帰った。




ということで正月編は終わりですが弦巻家正月パーティーは次回にやる番外編でやろうと思います。

ということで次回『無色と多色の交奏曲』、お楽しみに!


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11章 〜Neo-Aspect〜モウイチド ツナゴウ
64話 オトズレタ チャンス


はい、久しぶりに無灰に帰ってきた隠神カムイです。

書きだめと言いながら書けてなく、どっちかとネタ補充と休息期間みたいになりました。
ということで第2の山場、『Neo-Aspect編』です。
主にRoselia2章をベースに無灰仕様に仕上げたいと思っています。

ということで本編に入る前に今回のイベントのことを一言だけ話してから入ります。




・・・ロリ化燐子くっっっっっっそかわいい・・・!(Neo-Aspect関係ない)


正月も何やかんやあったが、それも過ぎて1月中旬初めとなった。

 

我らがRoseliaは『自分達が奏でる最高の音楽』を目指していつも通り練習中である。

 

『ーHEROIC ADVENTー』以降、新曲を2つ完成させたのは良いが今はこれまでの楽曲を磨くために、過去曲の向上をメインに練習をしている。

 

新しいものばかりにとらわれず、過去の軌跡にも目を向けることでその時にダメだった点や気づけなかった点に気づくことが出来るので、どの曲も常に最高の状態で演奏できるようになるのだ。

 

『自分達が奏でる最高の音楽』を目指すためには必要不可欠である。

 

『・・・共に往こう 果てに

全て賭けた 覚悟抱いて・・・!』

 

さっきまで練習していた新曲の1つ『ONENESS』が終わり、雑談に入る。

 

「今回の演奏はそれなりにまとまりがあったと思えます。湊さん、いかがでしたか?」

 

「ええ、それなりによかったわね。奏多、ちょうどいい時間だし今日はこの辺にしましょうか。」

 

「うんわかった。みんなお疲れ~」

 

「お疲れ様・・・でした。」

 

「お疲れ様でした。それでは片付けましょう。」

 

「はーい!」

 

「それじゃあ僕は来月分の予約入れに行くから、紗夜とリサと友希那で機材の移動を、燐子とあこは床の掃除をお願い!」

 

そう言って僕は1人スタジオを抜けて受付に行く。

 

受付にはいつも通りまりなさんともう1人スーツを着た人がいた。

 

サングラスをかけていないから弦巻家の黒服さんではなさそうだ。

 

「・・・あ、奏多くん!ちょうどよかった!」

 

「・・・?まりなさん、どうしたんですか?」

 

「盛岡さん、彼がRoseliaの・・・」

 

「おお、君がRoseliaのマネージャー君かい?私はこういう者です。」

 

「は、はぁ・・・」

 

スーツの男性が名刺を渡してくる。

 

そこには『SWEET MUSIC SHOWER 運営事務局担当者 盛岡 浩司』と書かれていた。

 

「すぃーと・・・みゅーじっく・・・しゃわー・・・?」

 

どこかで聞いたことがある。

 

それを必死で思い出そうとしている中、盛岡さんは話を続けた。

 

「はい、我々が主催する音楽のイベントです。今日はRoseliaの皆さんに、このイベントに出演していただきたく、こちらに伺いました。」

 

「は、はい・・・・・・って、思い出した!SWEET MUSIC SHOWERってあのSMSですか!?」

 

SWEET MUSIC SHOWER、略してSMSとはRoseliaが目標のひとつとするFURTHER WOULD FES.に出たことのあるバンドも多く出演しているイベントである。

 

確かシゲさんに雑誌を送って貰った時にその記事を見てFWFの一通過点として目印をつけていたかなり大きなイベントである。

 

まさかそんなイベントに呼ばれるとは思っていなかった。

 

「出演していただけますか?」

 

「ち、ちょっと待っていてください!これは僕の一存だけでは決められないので!」

 

僕はダッシュでみんなのいるスタジオに戻った。

 

扉を開くとみんなが驚いたような顔をしていた。

 

「そ、ソータ!?どうしたの急に?」

 

「ら、ライブ出演の話が来ていて・・・」

 

「それはいつも九条さんに任せているはずでは?」

 

「い、いつものライブじゃないんだ・・・SMS・・・SWEET MUSIC SHOWERのオファーが・・・」

 

「・・・とりあえず行ってみましょう。」

 

僕の焦り具合を察した友希那が真面目なトーンで皆を引連れてきた。

 

「も、盛岡さん。お待たせ致しました・・・」

 

「おお、君がボーカルの子だね。私はSMS運営事務局の盛岡というものです。Roseliaの皆さん、ぜひ我々のイベントに出演していただけませんか?」

 

盛岡さんが資料を手渡す。

 

それに目を通したみんなは驚いた顔をしていた。

 

「す、凄い・・・」

 

「こんなライブに・・・私たちが出てもいいのでしょうか・・・」

 

「・・・紗夜、ネガティブになっちゃダメ。盛岡さん、ぜひ出場させてください。」

 

「わかりました!開催日時はその資料の通りです。当日はよろしくお願いいたします。」

 

それを言うと盛岡さんはカバンを持ってCIRCLEを出ていった。

 

少しの間、静けさが辺りを包んだ。

 

「と、とにかく外のカフェ行こ!飲み物でも飲みながらさ!」

 

「さ、さんせーっ!こんな重い空気じゃ予定を決めようにも決めれないよ!いいですよねっ、友希那さん!」

 

この緊張をほぐそうとリサとあこが提案する。

 

友希那は平然とした態度で返した。

 

「そうね・・・私はともかくあなた達の落ち着かせる為にも、ライブの設定を考えるのにもちょうどいいわね。行きましょうか。」

 

ということで僕達はCIRCLEの外のカフェに向かった。

 

 

 

 

 

そしてこのライブがこれから起こることのきっかけになるとは誰が予想しただろうか。




ということで今回はプロローグということでかなり短めに仕上げてあります。

次回からしっかりと更新していくのでよろしくです。
それでは次回もお楽しみに!


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65話 カイギ ト クッキー ト Roselia

スマホがお逝きになるという緊急事態はあったものの何とか帰ってきた隠神カムイです。
ということで久々の更新となります。
最近この小説書いてなかったせいでネタが全然浮かばなくなってきたのでいつもの火曜、土曜更新にプラスしてゲリラ更新をする予定です。
なお、FROの方は通常更新の予定なのでゲリラ更新するのは無灰のみです。

ということで久々の本編どうぞ!


SWEET MUSIC SHOWER、略してSMSの出演依頼を受けた僕達は沸き立つ興奮とそのライブについての会議を行うためにCIRCLE外のカフェに向かった。

 

各々が適当な飲み物を注文して座席に着いた。

 

とりあえず話を切り出してみる。

 

「・・・ということでライブの件だけど・・・」

 

「さっき軽く調べて見たんだけどさ、このイベントかなり大きいイベントみたいだね・・・」

 

「FURTHER WORLD FES.に出たことのあるバンドも多く出演しているイベントよ。」

 

リサの言葉に友希那が返す。

 

そういえば友希那だけはかなり落ち着いている。

 

「Roseliaでこういうイベントに出るのは初めてだけど・・・友希那かなり落ち着いているね。」

 

「だってこのイベントもRoseliaの目標への通過点に過ぎないもの。これぐらいでびびっているようでは目標にたどり着くことが出来ないわ。」

 

「確かに・・・湊さんの言う通りですね。」

 

紗夜が納得した反応を示す。

 

紗夜もああ見えてかなり緊張していたようだ。

 

それを見たリサが少しいたずら気味に話しかける。

 

「あれれ〜紗夜もかなりびびってたんじゃん!いつもなら本番は練習のように、練習は本番のようにって言うのにさ〜」

 

「なっ・・・!び、びびってはいません!湊さんの言葉に納得を示しただけです!」

 

「けど紗夜さん、顔赤いですよ?」

 

あこがそこに追い打ちをかけるように話しかける。

 

しかしあこの場合は悪気があって言ったのではない・・・と思う。

 

「う、宇田川さん!」

 

「だ、だってホントのことですしぃ〜!」

 

こうして紗夜とあこが楽しく(?)会話しているが、今思えばRoselia結成当初はあこのことをしっかり認めていなかった紗夜がここまで話すようになるとは・・・日菜さんの1件があってから紗夜もかなり変わったと思う。

 

「そういえば紗夜、来週一緒にクッキー作るって話してた件だけどさ・・・」

 

・・・え?

 

今なんて言った?

 

紗夜がクッキーを作る!?

 

それもリサと一緒に!?

 

「「ええっ!?」」

 

僕とあこが同時に声を上げる。

 

あこもこのことにかなり驚いたようだった。

 

「紗夜さんがお菓子作り!?」

 

「そ、それもリサと一緒に!?」

 

「い、今井さん・・・!その話はあまり大きな声でして欲しくないと言ったはずです!」

 

紗夜がまた顔を赤らめる。

 

後で燐子に聞いた話によると11月辺りに羽沢珈琲店でお菓子作り教室を開いていたらしく、たまたま燐子と2人で商店街を歩いていた紗夜がそれを見つけ、参加したらしいのだ。

 

そこからちょくちょくお菓子を作っている・・・らしい。

 

僕も自慢ではないが料理は上手い方なのでお菓子作りもするはするがクッキーだけはリサに劣るのである。

 

どうしてもリサのクッキーのようなサクサク食感と風味、そしてあと一つの「何か」が足りないのだ。

 

いずれリサにクッキーの作り方を教わりたいのだがこの間までドタバタしていたのと1度リサに聞いたら

 

「えぇ〜ソータに教えると料理上手だから直ぐに抜かされそうだし・・・また今度ね!」

 

と言われウィンクしながら舌を出されたのだ。

 

あれは教える気がないなとその時悟った僕は何としてもあのクッキーを超えようと努力してみたのだがその努力も呆気なく打ち負かされたのだ。

 

そして紗夜が辱めを受ける原因となった当のご本人はというと。

 

「あれ、そうだっけ・・・ゴメンゴメン。けどさ、もうバレちゃったしいーじゃん?」

 

この通り反省する気ゼロである。

 

しかし2人でクッキー作りとは・・・紗夜も変わったものだ。

 

そしてこのバンドの中で一番リサのクッキーの味に関して詳しそうな人が口を開いた。

 

「あなた達の作るクッキーにはRoseliaの練習パフォーマンスをアップする効果があるような気がするの。楽しみにしているわ。・・・けど、今はライブについて話しましょうか。」

 

「あ・・・ご、ゴメン・・・」

 

「すみません、大事なライブの話し合いだというのに・・・私としたことが・・・」

 

「あはは・・・」と燐子が苦笑いする。

 

確かに今回集まったのはクッキーの件ではなくSMSの件だ、話を戻さなくては。

 

「とりあえずさっきの資料をサッと見たけど、僕達が出演するのはSMSの中のジュニア枠みたい。会場の大きさとかも調べたけどそこは何回か前のFWFの会場にもなったかなり大きな会場だよ。」

 

「ジュニア枠・・・プロのバンドの前座とはいえFURTHER WOULD FES.に匹敵する規模の会場。気を引き締めなくては・・・」

 

「そうね、でもただこのライブに出るのではなくてFURTHER WOULD FES.に繋げられるような演奏をしましょう。」

 

友希那がそう言った。

 

確かにここはRoseliaの目標の通過点に過ぎない。

 

ただライブで演奏するだけではなく大きな会場でどれだけ伝わるかを知っておく必要がある。

 

するとさっきまで資料に目を通していた燐子が話し出した。

 

「開催日が月末だから・・・ライブまであと2週間・・・そこに標準を合わせるなら・・・練習量を増やした方がいいかもしれません・・・」

 

「白金さんの言う通りですね。今井さん、クッキーの件はこのライブが終わったあとにしましょうか。」

 

「まー、しょうがないよね。りょーかい!終わったらゆっくりやろ♪」

 

「そうしてくれると助かるわ。楽曲等については奏多、頼めるかしら?」

 

「わかったよ、今夜中に決めてグループに送るよ。」

 

「ええ、よろしく頼むわ。」

 

時計を見ると6時半を過ぎたところである。

 

この時期だとかなり暗い。

 

「そろそろ帰りましょうか。あたりも暗くなってきていますし。」

 

「そうだね。さて、僕はバイクを取りに・・・」

 

「そうだ!ねえソータ、良かったらバイク乗っけてくれない?」

 

リサがそう言った。

 

ヘルメットは自分用ともう1つ予備があるのであと一人なら問題ない。

 

「別にいいよ、あのバイク2人までなら乗れるから。」

 

「あー!リサ姉ずるーい!あこも奏多さんのバイクに乗ってみたい!」

 

リサの発言にあこが反論する。

 

好奇心旺盛なあこのことだ、言い出すとは思っていた。

 

「宇田川さんに今井さん、あまり九条さんを困らせてはいけませんよ!ねぇ、湊さん!」

 

「私も奏多のバイク乗ってみたい。」

 

「ですよね、私も乗ってみた・・・って、湊さん!?」

 

友希那から予想外の言葉が出た。

 

あの友希那がこういうとはかなり驚きである。

 

「私もバイクというものがどんな感じなのか気になるのよ。」

 

「で、ですが・・・」

 

「あれれー?紗夜もさっき乗って見たいって・・・」

 

「い、言ってません!別に乗ってみたら気持ちよさそうだなとは思っていません!」

 

「紗夜さん本音出ちゃってますよ?」

 

「ぐぬぬ・・・はい、私も一度乗ってみたいですよ!」

 

紗夜が吹っ切れて本音を打ち明ける。

 

軽く燐子に目線を送るもそっぽを向かれた。

 

(そ、そんな〜助けて燐子〜!)

 

あの様子からすると自分も乗ってみたいのとたまには譲る方がいいのではないかという気持ちが葛藤しているのだろう。

 

そしてこの状況で言い出せず、気持ちがモヤついているのだろう。

 

燐子と付き合うことになってから彼女のことがよくわかったような気がするがそれとは別に燐子も感情を内に秘めるのではなく外に出すようになってきた。

 

それは嬉しいことなのだがこの状況では少し悲しい。

 

「・・・あ〜やっぱりアタシはまた今度でいいや!」

 

何かを察したようにこの騒動の原因のリサがそう言った。

 

「どうしたのリサ姉、さっきまであんなに乗りたがってたのに・・・?」

 

「だってさ、ソータが乗せるべき相手がこの場にいるからさ。」

 

リサがそう言うと全員が察したように燐子の方を見る。

 

燐子は少し慌てた。

 

「み、皆さん・・・その・・・なんですか、その暖かい顔は・・・?」

 

「りんりん、無理しなくても乗りたいなら乗りたいって言えばいいのに。」

 

「そーそー!今じゃソータは燐子のものなんだしさ!」

 

リサの爆弾発言に僕と燐子の顔が紅潮する。

 

リサには色々と弱み的なものを握られていそうなので敵(?)に回すとめんどくさい。

 

もうこの人怖い・・・

 

「そ、その・・・私は・・・別に・・・」

 

「白金さん、乗りたいって顔に書いてます。」

 

「乗りたいならそう言えばいいじゃない。誰もあなたのことなら拒否しないわ。」

 

「ええっと・・・はい・・・」

 

燐子がどんどん小さくなっていく。

 

ここは助け舟を出さなければいけない気がした。

 

「そ、その・・・燐子、乗る?・・・一緒に帰ろ。」

 

「・・・!う、うん!」

 

燐子の顔がぱぁーっと輝く。

 

その笑顔に自然と笑みが出る。

 

「そういう事だから先に失礼します。みんな、おつかれ。」

 

「二人ともお疲れ様。」

 

「バイバイ奏多さんにりんりん!また明日!」

 

「お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。」

 

「おつかれ〜また今度乗せてね!」

 

みんなの言葉を背に燐子と一緒にバイクを取りに向かう。

 

最近のRoseliaの練習はこんな感じに結成当初より格段に技術が上がり、雰囲気も良くなっている。

 

BLOCK SHOUTから始まったこのバンドだが今ではカバーを抜くと11曲とかなり増えてきた。

 

その中から選ぶのは3曲、かなり悩む。

 

「奏多くん・・・?」

 

「・・・あぁ、ごめん。早く帰ろっか。」

 

「うん。」

 

燐子にヘルメットを渡してバイクに跨る。

 

考えるのは後だ、まずは安全運転で燐子を送り届けることが最優先だ。

 

そう思って僕はバイクを前に進めた。

 

しかし僕はまだ知らなかった。

 

この雰囲気が長く続かないことを。




久々の投稿で誤字脱字も多いかもしれませんので誤字報告とかあればよろしくお願いします。

ということで次回もお楽しみに!


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66話 ミチビク チカラ

なんだかんだ前回のイベントに体力を使いすぎて今回のイベントが疎かになりつつある隠神カムイです。

せめて100000位には入らないと・・・

特に話すことが思いつかなくなってきたので本編どうぞ!


次の日、いつも通りの練習の前に僕は次のライブのセットリストを確認した。

 

「昨日の夜にグループに送ったからわかると思うけど今回のライブはBLACK SHOUT、Legendary、ONENESSの順番で行こうと思います。やる曲が少ないから緩急はつけずに一気に駆け抜けるような構成にしてみたんだけどどうかな?」

 

Roseliaの代名詞とも言えるBLACK SHOUTと新曲2曲、どれもハイテンポな曲である。

 

初めて見たお客さんもRoseliaのことを気に入って貰えるようにこの選択にしたのだ。

 

「はい!あこ、すっごくいいと思います!超かっこいいRoseliaを見せちゃいたいです!」

 

真っ先にあこが反応した。

 

LegendaryとONENESSはあこがRoseliaの曲の中でもかなり気に入っている部類の曲である。

 

1番最初に反応するのはあこだろうと思いはしていた。

 

「私も、問題ないセットリストだと思います。」

 

「悪くないと思うわ。あなたに任せて正解ね。」

 

「うんっ!アタシも超いいセットリストだと思う!3曲の中にアタシ達がつまってるって感じ!」

 

続いて紗夜、友希那、リサの順にこのセットリストの感想を伝えてくれる。

 

紗夜、友希那が好印象ならこのセットリストは正解なのだろう。

 

しかし、そんな中1人だけ心配している人がいた。

 

「ハードな曲が続くけど・・・あこちゃん・・・演奏、大丈夫・・・?」

 

燐子があこに対して心配を抱く。

 

今思えばどれもドラムに対しての負荷が大きい曲ばかりである。

 

メンバーの体力まで目に入っていなかったのは迂闊だった。

 

「どうする?今ならまだ変更できるけど・・・」

 

「いえ!大丈夫です!・・・たぶん。それでも、全力で駆け抜けれるようあこがんばるっ!」

 

「あこちゃんがそう言うなら・・・でも、無理しないでね・・・あこちゃん。」

 

燐子が了承したことでこのセットリストでいくことが確定した。

 

なら今日の練習はこの曲を1曲1曲見直すのが得策だろう。

 

「なら、今日の練習は演奏する曲を1曲ずつ丁寧に見直そう。多分どこかにまだ改善点があると思うんだ。」

 

「そうね、では始めましょうか。」

 

それぞれがそれぞれの楽器を構え、SMSに対する練習が始まった。

 

皆が輝き、僕がそれを支え、導く。

 

今回の練習は僕が思うにRoseliaの練習の中で1番理想的な練習になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習開始から数日が経った練習後、僕達はさっきの練習内容等を話しながら帰っていた。

 

今日は日曜日なのでバイクではなく歩いて来た。

 

「日曜日ぐらい乗せてくれてもいいじゃん!」というのがリサの弁解だが、あのバイクは結構大食らいで燃料を買うお金も厳しい時がちまちまあるので休日は余程のことがない限りバイクを使わないのだ。

 

話は戻るがその帰り道、いい加減練習の話に飽きたのかあこが僕と燐子に話しかけてきた。

 

「りんりんと奏多さん、帰ったらクエスト付き合ってくれない?」

 

「うん・・・たしか、期間限定クエスト・・・今日までだったもんね。」

 

「僕は一応全部終わらせてあるけどあこはなにか残ってるの?」

 

「うん、あこまだ3つぐらいクエスト残ってて・・・」

 

話していると紗夜が不思議そうに話しかけてきた。

 

「あなた達、あんなに練習をしたのに、まだゲームをする体力が残っているの?・・・九条さんは残ってそうですが。」

 

紗夜の最後の一言がグサッと刺さるものの、確かにごもっともである。

 

そしてその質問にはあこが答えた。

 

「はい!練習とゲームは別腹ですっ!」

 

「あこ・・・それスイーツに対して言うものだと思うけど。」

 

「えっと・・・その・・・いっ、意味が伝わればいいんですっ!」

 

友希那のツッコミにあこがしどろもどろに返す。

 

その隣でリサが「フフっ」と笑っていた。

 

「なんで笑うのよリサ・・・」

 

「ゴメンゴメン!・・・けどさ、アタシなんか嬉しくって。」

 

「嬉しい?何が?」

 

リサの言葉に質問をする。

 

その質問にリサはすんなり答えた。

 

「いやさ、昔なら友希那は音楽の話以外興味ないって感じだったけど今じゃさっきみたいにあこのことつっこんだりすることなんてなかったじゃん?それにSMSみたいな大きいライブに出られたのもこうして雰囲気が変わってきた時だったし・・・アタシ達、だいぶいい感じになってきたんじゃないんかな〜って。」

 

リサの言葉に周りが暖かい空気に包まれる。

 

実はとあるライブでRoseliaの演奏を録画している時、FURTHER WOULD FES.の関係者の人に声をかけられたのだ。

 

その人は様々なライブ会場をまわって良さそうなバンドに声をかけるのが仕事のようで、話しかけられた時は心底驚いた。

 

あいにく出場依頼ではなかったが、評価だけは残してくれた。

 

「あなた達はまだ若く、伸びしろがある。今回、オーディションの依頼はしませんが来年、またこの会場に来た時に出演依頼をさせてください。あなた方にはオーディションに一位通過で通って欲しいと私は思いました。」

 

Roseliaが周りに認められつつある。

 

僕はこのことをあえてみんなには伝えなかった。

 

伝えてしまうといつその人が来るかと変に意識してしまう可能性があったためである。

 

しかし、それもいつか話す日が来るだろう。

 

するとポケットの中が振動した。

 

恐らくスマホのバイブだろう。

 

手に取ると親父の実家からの電話だった。

 

「・・・?ごめん、電話出るね。・・・おじいちゃんからとは珍しい・・・もしもし?」

 

みんなと少し離れて電話に出る。

 

電話をかけてきたのはおじいちゃんではなくおばあちゃんだった。

 

『あ、もしもし奏多?ばぁちゃんやけど!』

 

「ど、どうしたの切羽詰まったような話し方して?」

 

『いいか!落ち着いて聞きや!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんたの・・・あんたの親父が死にかけとるんや!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、おばあちゃんが何を言っているかわからなかった。

 

けど直ぐに落ち着きを取り戻して電話を続ける。

 

「・・・死にかけてるってどういうこと?」

 

『なんか仕事場で突然ぶっ倒れて救急搬送されたみたいなんや!とにかく今から大阪来れるか?交通費は後で負担したるから!』

 

僕はすぐに「行く!」とは言えなかった。

 

今はRoseliaにとって大事な時期だ、それをほおって行けない。

 

「・・・行きなさい。」

 

後ろを振り向くと友希那がいた。

 

「・・・友希那。」

 

「電話の内容は聞いてない。けどその表情からしてかなり切羽詰まっているのでしょう?Roseliaのことは気にしないで。私達は昔みたいに弱くはないから。」

 

「・・・ごめん、ありがとう。・・・もしもしおばあちゃん?今からすぐ行くよ。」

 

通話を切って後ろを振り向く。

 

手短にも内容を伝えた方が良さそうだ。

 

「・・・父が瀕死で今から大阪に行かなきゃならない。SMSの前には必ず帰ってくるから・・・その・・・」

 

「あとは私達に任せて。あなたが帰ってくるのを待っているから。」

 

気がつけばRoseliaのメンバー全員が揃っていた。

 

ここは彼女らに任せるしかない。

 

「・・・ごめん、行ってくる。」

 

みんなを背に僕は駅まで走り出した。

 

ここから大阪まで新幹線を使っても3時間半ほどかかる。

 

お金に関しては途中でおろせばいいだろう。

 

「・・・親父・・・死ぬなよ・・・!」

 

僕は急いで大阪に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・思えばこのことが原因だったかもしれない。

 

『Roselia』という歯車に異常が起き始めたのは。




次回、『ヒゲキ ト セキニン』


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67話 ヒゲキ ト セキニン

最近バンドリの腕が落ちつつある隠神カムイです。
いい加減鍛えなきゃ・・・

今回の話とこれからの話の関係上、前回の話を『SMSのための練習開始一日目』→『SMSのための練習開始から数日後』と少しばかり改変しております。
こうでもしないとこれから先のお話に面白みがなくなってしまうと思ったので、こうさせてもらいました。
その辺ご了承ください。

ということで本編どそ。



自宅付近から走り出してから2時間が経った。

 

僕は未だ新幹線の中にいる。

 

路面電車などを乗り継ぎ、東京駅へ着いた僕はお金を下ろしたあと新幹線のヒカリに乗車。

 

たまたま1番早いヒカリの座席が空いていたのともうすぐ到着予定だったのが幸を呼んだ。

 

しかし東京駅から新大阪駅までは3時間ほど待たなければならない。

 

それがたまらなく憤りを感じていた。

 

「・・・早くつかないのか。」

 

新幹線に文句を言っても仕方が無い。

 

これでも平常運転をしているのだろうし日本の電車のダイヤは完璧だ、僕個人が怒りを立てても変わることなんてない。

 

しかし人が、それも血をわけてくれた実の親父が死に瀕しているのだ、憤りをぶつける所がそこでしか無かったのも仕方ない。

 

僕はスマホを開いて予定を見る。

 

今日が日曜日、数日前に出演依頼を頼まれたSMSのライブまであと5日しかない。

 

本番の前日とその前の日にはいつもの街にいておきたいのでできれば大阪にいる時間は3日ほどに抑えたい。

 

しかしそれも親父の体調にもよるのだ。

 

そう言えば先月に炎が『祖母が亡くなったからしばらく休む』と言った時には丸々1週間休んでいた。

 

肉親は確か葬式などで5日ほど休むのだったと思う。

 

もし、もしも親父が手遅れだったら・・・

 

そこまで考えようとしたが僕は頭を振り思い直す。

 

あの親父のことだ、過労で倒れても数日経てばケロッとしているはずに違いない。

 

それに自分の体の頑丈さに自信のある親父だ、死の淵からでもたちなおれるはずだ。

 

『次は〜新大阪〜新大阪〜』

 

車内アナウンスが新大阪駅に到着することを告げた。

 

僕は荷物をまとめると降りる準備をした。

 

ここから先の病院へは金はかかるがタクシーを拾った方が早い。

 

金のことを考える余裕がなかった僕は新幹線から降りると改札を過ぎ、タクシー乗り場へと走った。

 

その後タクシー内でその時だけ、あの大阪人ですら迷いそうになる新大阪駅を迷わず走り抜けれたことに驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は親父が入院したという病院に到着した。

 

時計を見ると時刻は9時を回っていたので祖父の携帯に電話をかけた。

 

すると祖父はまだ病院内にいたらしく、すぐに病院内から出てきた。

 

祖父と会うのは久方ぶりである。

 

「おお、奏多!久しいのう!」

 

「お久しぶりです、おじいちゃん。」

 

「いや、なんとか間に合ったかもしれん・・・とにかく病室について来ぃ、ばぁちゃんも茂樹も待っとる。」

 

シゲさんのいることに安心感を覚える。

 

祖父祖母とは会うのが本当に正月ぐらいなので血が繋がっているとはいえ今でも敬語が抜けない。

 

慣れていない相手にはどうしても一歩引いて敬語を使ってしまうのはどうやらまだ抜けていないようだ。

 

病室に案内されるとそこには祖母とシゲさんがいた。

 

「お久しぶりですおばあちゃん、それにシゲさんも。」

 

「よう来たなぁって言いたいけどなぁ・・・ホンマに危なかったわ・・・」

 

「・・・なにがあったの?」

 

「兄貴は1時間前に1度心臓が止まったんだ・・・応急処置でなんとか脈は戻ったけど次はないってよ・・・」

 

シゲさんのこんな暗い姿見たことがない。

 

とりあえず親父と顔を合わせなければ。

 

「・・・親父、僕だ、奏多だ・・・!」

 

親父の顔を見て言葉がつまった。

 

久しぶりに見た親父は働きに行く前の少しいかつく、男らしさがあるがどこか優しげのある顔だったが、今では頬の肉は痩せおち、髪もてっぺんがはげ、白髪が多くなっていた。

 

それに目の下にはクマができていて、あのころの面影はない見るも無残な姿になってしまっていた。

 

「・・・奏多か。」

 

親父がうっすらと目を開けた。

 

様子からして喋るのも精一杯のようだ。

 

「・・・親父、あまり無理はしないで。あとからしっかり聞く・・・」

 

「おい茂樹・・・俺とこいつの二人きりにさせてくれ・・・」

 

「・・・あいよ、行くよ父さん、母さん。」

 

シゲさんが祖父と祖母を連れて病室の外へと出る。

 

室内には僕と親父の二人きりとなった。

 

「・・・こうして話すのも久しぶりか。」

 

「うん・・・」

 

「悪いなぁ・・・お前の将来を見届けられなくてよ・・・」

 

「何言っているんだ親父、少し休めば・・・」

 

「自分の死が目の前に来ていることぐらい自分が一番わかる・・・その前に言っておきたいことがある・・・」

 

親父が命をかけて伝えようとしている。

 

それを僕は親父の手を握り、大人しく聞くとこにした。

 

「・・・すまなかったな・・・こんな親でさ・・・お前にはひどいことばかり体験させちまってる・・・」

 

「・・・そんなことない、今は満足している。」

 

「それでもあの時は生きているだけで苦しいような顔をしていた・・・それをずっと謝りたかった・・・」

 

「親父は悪くない・・・だから・・・」

 

「時折茂樹から話は聞いている・・・マネージャーとしてバンド始めたんだってな・・・影から支えるのはお前が一番得意だからな・・・」

 

「あぁ・・・お陰でたくさんの友達が、大切な人ができた・・・」

 

「お前に友達か・・・それだけでも俺は嬉しい・・・俺がいなくても・・・一人じゃない・・・ってことが・・・」

 

親父の目から涙が流れる。

 

そして次第に握る力が弱くなってきた。

 

「最後に・・・1度だけ聞きたかった・・・お前の・・・バイオ・・・リ・・・ン・・・」

 

ピ――――――

 

脈拍を図る機械が電子音を鳴らした。

 

この音は心臓が止まった時になる音だった。

 

「親父・・・親父ぃ!」

 

親父のことを呼んでも、親父は二度と目を開かなかった。

 

しかしその顔はどこか幸せそうだった。

 

「・・・馬鹿・・・死んだら・・・バイオリン聴かせられないじゃん・・・」

 

そう呟きながら、親父の亡骸を横に僕はずっと泣いていた。

 

『親父の死』

 

それは悲劇と、親父に任せていたことも全て背負わなければならない責任が僕にのしかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『父が亡くなりました。葬式のため、月末まで練習にはいけませんがSMSには必ず行くので』

 

そうグループに送ると、喪服に着替えた僕はあるものを持って式場に向かった。

 

焼香とお経が読み終わると、親父の親戚や知人の前に立った。

 

「はじめましての方が多いと思います。九条遥輝の息子の九条奏多です。」

 

僕は挨拶をすると足元のケースを開けてあるものを取り出す。

 

それはボロボロのバイオリンだった。

 

「・・・これは、親父が子供の頃虐待で心身ともに傷を負った僕にくれたバイオリンです。話すことができなかった僕はこれで気持ちを伝えてました。これが無かったら今の僕はいないでしょう。そして父は独学で覚えた僕の弾くバイオリンが好きでした。そして死に際に『最後に僕のバイオリンの音が聴きたかった』と言い、この世を去りました。なのでこの場を借りて、父に鎮魂歌を送りたいと思います。」

 

僕はモーツァルトのレクイエムを奏でた。

 

これが最初にして最後の親父の前で弾くバイオリンのフルバージョンだった。

 

しかしこの時僕は気づいていなかった。

 

親父の死が自分のある才能にダメージをあたえていたことを




次回、『オトズレタネイロ』


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68話 オトズレタネイロ(前編)

バンドリは滅多なことない限り10連ではなく単発教の隠神カムイです。
この前怪盗ハロハッピーの薫さんと夜語りの星4ミッシェルを連続で引くという神引きを起こしたのでしばらく引けなさそ()

ということで小説本編ですが今回は前の話で奏多と別れたRoselia側(主に燐子side)メインで2作別れとなります。

ということで本編どうぞ!




「・・・ごめん、行ってくる。」

 

彼は・・・奏多くんはそう言い残すと駅の方へ向かって走り出した。

 

彼が言うにはなんと実の父親が命の危機に瀕しているらしい。

 

私達は何も言えずにそのまま見送ることしか出来なかった。

 

「・・・ねぇりんりん、ここから大阪までって何時間かかるの?」

 

「よくわからないけど・・・たぶん・・・3時間ぐらいじゃないかな・・・?」

 

「前に九条さんから彼のお父さんのことを聞いたことがあります。彼に似て疲れをあまり感じないタイプで九条さん以上に責任感の強い方だったみたいです。」

 

「そこから考えると・・・おそらく倒れた原因は働きすぎかな・・・」

 

氷川さんの説明に対して今井さんの言葉はここにいる全員に刺さった。

 

『九条さんに似て疲れをあまり感じない』ということは『奏多くんはお父さんに似て疲れを感じず、責任感が強い』ということになる。

 

だから奏多くんもお父さんと同じようにいつかのタイミングで倒れるかもしれないのだ。

 

「奏多・・・間に合うかしら・・・」

 

「・・・そこはアタシ達が心配してもどうにもならない事だよ、友希那。今は奏多のためにもSMSのための練習に集中しよ?ソータもすぐに帰ってくるって言ってたしさ。」

 

「そ、そうですよ!奏多さんが帰ってきた時にあこ達が元気なかったら奏多さんも元気でないですよ!」

 

「そうですね、私達は私達のできることをしましょう。」

 

「・・・そうね、明日も練習があるし今日はここでかいさんしま・・・」

 

すると全員の携帯から通知音が鳴った。

 

送り主は奏多くんだ。

 

「そ、ソータから!?一体何が・・・」

 

「もしかして何かあったのでは・・・!」

 

全員が息を飲んで携帯を見る。

 

そこには

 

『いきなりとび出たので言い忘れました。

 

どなたかうちのレインの世話をお願いします。

 

家の鍵に関しては燐子が預かっているので、世話のできる方は燐子に鍵を借りてください。

 

よろしくお願いします。

 

九条奏多』

 

と、書かれていた。

 

「なんだ・・・驚かさないでくださいよ・・・」

 

「っていうかりんりん奏多さんの家の鍵預かってたの!?」

 

「う、うん・・・もしも何かあった時にって・・・」

 

お正月のあの日の帰りにそう言われて奏多くんから預かっていたのだ。

 

まさかこんなすぐ使うとは思わなかった。

 

「ソータの家の猫の世話か・・・」

 

「猫の世話なら私がやるわ。昔買っていた時の道具は残っていると思うし。」

 

友希那さんがそう言った。

 

確かそんなことを前に言っていたっけ。

 

「リサ、出来ればついてきてくれないかしら?奏多の家から猫用の物を色々持っていきたいのよ。」

 

「わかった!」

 

「友希那さん・・・これを・・・」

 

私は鞄の中から奏多くんから預かった鍵を渡す。

 

本当は私の家で世話をしてあげたいのだが私の部屋にはなんせパソコン機材一式だのグランドピアノだのあるので猫を飼うには向いてない。

 

ここは諦めるしかなさそうだ。

 

「それじゃあアタシ達はレインちゃんを迎えに行くから!また明日!」

 

友希那さんと今井さんが奏多くんの家の方向に向かって行った。

 

なので残った3人で帰ることにした。

 

「そういえば紗夜さんNFOにたまにログインしてますよね?」

 

「・・・っ!何故そのことを!?」

 

「フレンド登録をしていたら・・・いつログインしたのか、プレイヤーレベルはいくらなのかなどを見ることが出来るんです・・・」

 

「紗夜さん少しの間に結構レベル上がってましたけど結構やりこんできてますね!」

 

「・・・別に、息抜き程度でやるだけよ。」

 

息抜き程度であれほど上がるわけないのだが、そこはあえて言わないでおいた。

 

代わりに別のことを言ってみた。

 

「なら・・・今度一緒にクエスト・・・行ってみませんか?・・・今井さんみたいに・・・何かを作るってことは・・・できませんが・・・」

 

「いいねりんりん!紗夜さんやりましょうよ!」

 

「そうですね・・・考えておきます・・・」

 

氷川さんが少し真面目な顔をする。

 

もしかしたら行けるかもしれない。

 

「そうですか・・・行く気になったら言ってください・・・氷川さんと・・・私と・・・あこちゃんと・・・そして奏多くんとでやりましょう・・・」

 

(氷川さんだけではなく友希那さんや今井さんともまたNFOが出来ればいいな)

 

あの日のことは忘れることは出来ない。

 

また、あんなふうにめいっぱい笑ってみんなで何かを出来たらいいのに・・・私はそう思った。




今回めちゃくちゃ短いですがここまでです。

次回はいつもより多く書こうと思ってますのでお楽しみに!


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69話 オトズレタネイロ (中編)

はい、前回の続きです。
少し予定を変えて前中後編にしようと思います。
そしてSMSには次回出場してもらう予定です。
それまでの前日譚(?)の友希那sideとなります。

前書きはこの辺にして本編どうぞ!


奏多が大阪に向かってから数十分後、私たちのグループに奏多からメッセージが届いた。

 

それは奏多の家の猫のレインの世話を頼めないかという事だった。

 

()()()()()()()なのだが私は大の猫好きである。

 

昔飼っていたのもあるが、あの見た目から何もかも全てが可愛い。

 

最近この街の商店街に猫カフェが出来てから週5の割合で通っている。

 

私が猫好きだと知っているのは奏多やリサなどの極わずかな人間だけ・・・なはず。

 

もちろん、奏多の家のにゃーんちゃ・・・猫のレインもふれあい済みである。

 

なので出来れば私の家で世話をしたい。

 

「猫の世話なら私がやるわ。昔飼っていた時の道具は残っていると思うし。」

 

「猫の世話をするなら経験者の方がいいでしょう。ここは湊さんに任せた方がいいかもしれません。」

 

紗夜が賛同する。

 

ここでの紗夜の賛同は王手に等しい。

 

「鍵は燐子が預かっているのよね。」

 

「は、はい・・・お正月の日に・・・念の為にって言われて・・・持っていました・・・」

 

燐子が奏多の家の鍵を持っていたことは驚きだったが、今奏多が一番信用しているのは燐子だ、妥当な判断である。

 

「そうだリサ、出来れば奏多の家についてきてくれないかしら?奏多の家から猫用のものを色々持っていきたいのよ。」

 

レインをいきなり違うところに連れていったら絶対に怯えてしまう。

 

なにか馴染みのあるものがあった方がレインも落ち着くだろう。

 

「わかった!」

 

リサが快く受け入れてくれた。

 

おそらく1人では持ちきれないのでありがたい。

 

「友希那さん・・・これを・・・」

 

燐子が鍵を差し出す。

 

私はそれを受け取った。

 

「ありがとう燐子、明日返すわ。」

 

「それじゃあアタシ達はレインちゃんを迎えに行くから!また明日!」

 

私とリサは奏多の家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆と別れた地点が良かったのか、奏多の家には10分もかからず到着した。

 

こうして奏多の家に来るのは3回目である。

 

「こうしてここに来たのは3回目だけど・・・そのうち2回は奏多いなかったよね。」

 

「そうね・・・でも、最初来た時とは違うわ。最初は茂樹さんの独断だったけど今回は彼に頼まれてここに来ている。とりあえず入るわよ。」

 

燐子から預かった鍵で奏多の家の扉を開く。

 

「おじゃましまーす・・・」

 

「お邪魔します。」

 

するとタタタッと何かが走る音が聞こえた。

 

その正体は白と黒の毛並みの猫、レインだった。

 

「ミャオ」

 

「フフッ、久しぶりねレイン。」

 

「ミャン!」

 

レインは撫でろと言わんばかりに足元に頭をすり寄せてくる。

 

「ぐっ・・・!」

 

「友希那〜やることあるでしょ〜」

 

「そ、そうねリサ。とりあえず餌や皿、毛布などを借りましょうか。・・・ごめんねレイン、あとで遊んであげるから・・・」

 

レインは言葉の意味がわかったのか諦めてどこかへ行った。

 

賢いが自由人(?)な猫である。

 

家にはまだ猫用のゲージや猫用トイレ、猫用のおもちゃ等があったはずだ。

 

飼っていた猫が亡くなってしまってからは使い物にならなかったが処分するのも勿体なく、家の倉庫にしまっているはずだ。

 

とりあえず家に電話をかける。

 

『もしもし、友希那?どうしたの、あなたが電話をかけるなんて珍しいわね。』

 

「お母さん、この前来たうちのマネージャーのこと覚えてる?」

 

『奏多くんね、もちろん覚えているわよ。自分の気に入った子をそう簡単に忘れるもんですか。』

 

確かこの前奏多とお母さんは料理の話をしていた。

 

奏多は飲み込みが早いからそれで気に入ったのだろう。

 

『それで、その奏多くんがどうしたの?』

 

「彼は少し訳あって今は大阪に向かっているの。それで奏多が大阪にいる間、猫を預かって欲しいって言われたのよ。だから倉庫にあったアレ、出しておいてくれないかしら?」

 

『その訳は後で聞くわ。とりあえずわかったわ、出しておく。メルの使ってたもの残しててよかったわね。』

 

「・・・そうね、ありがとう。それじゃあ家に帰ってから話はするわ。」

 

そう言って通話を切る。

 

「通話終わった?」

 

そうリサが話しかけてきた。

 

リサの方を見るとその手には色々なものがあった。

 

「えっと、お皿に餌にタオルでしょ?これでいいかな?」

 

電話をしている間、リサがあらかた準備してくれていたようだ。

 

さすがリサである。

 

「ええ、ありがとうリサ。あとはレインだけど・・・」

 

「あ〜その〜レインなんだけどさ、少し来てくれない?」

 

リサが言葉を濁すのでリサの案内する方について行く。

 

リサが案内したのは奏多の部屋だった。

 

「レインがさ、ここから出なくて・・・」

 

それは大きな猫タワーだった。

 

確かレインはこれがお気に入りと言っていたはず。

 

でもさすがにこれは持っていけない。

 

「レイン、奏多はしばらく帰って来れないの。だから私の家で面倒見るのだけど・・・そこから出てくれないかしら?」

 

「ミャ!」

 

レインが顔を出すもすぐに猫タワーの奥に隠れてしまう。

 

無理やり出すのもあるがそれはレインが嫌がるのでやりたくない。

 

「・・・あ!そうだ友希那!」

 

隣でリサが大きな声を出した。

 

それに私とレインは驚いた。

 

「どうしたのリサ、大きな声を出して・・・」

 

「あるじゃん!猫タワー以上にレインちゃんのお気に入りのところ!」

 

「・・・?」

 

リサがニヤリとニヤつく。

 

私は少し嫌な予感がした。

 

・・・が、もう遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ〜っ!なんとか帰ってこれたね〜!」

 

「ミャン!(特別意訳:あれもいいけどやっぱりここ最高!なかなかいこごち良かったよお姉ちゃん!)」

 

「・・・結構疲れるのね、これ。」

 

なんとかレインを連れ出して来れたのだがその連れ出し方がすごかった。

 

「でも結構似合ってるよ?奏多のフード付きコート!」

 

「奏多はいつもこうしてレインを連れてくるのね・・・」

 

奏多の家でリサが手にしたのは奏多のフード付きコートだった。

 

リサは目にも止まらぬ速さでコートを着せるとレインはそれを見てフードの中に飛び込んできたのだ。

 

いきなりのことに驚いて倒れそうになるもリサが腕を引いて止めてくれたおかげでなんとか転けずに済んだ。

 

そしてフードに入った途端レインは寝静まってしまった。

 

時間帯的にあまり人の以内時間帯だったのも幸いし、電車もバレずに乗ることが出来たのである。

 

しかし子猫とはいえフード内にいると結構重たい。

 

「けど悪いわねリサ、奏多の家から持ってきたものを全て持たせてしまって・・・」

 

「いいよいいよ、友希那はレインちゃんを預かってるんだからさ!それに・・・フフっ」

 

リサが話の途中で笑い出す。

 

何かおかしいところでもあるのか?

 

「なぜ笑うのよリサ。」

 

「だってさ!友希那が燐子より先に奏多のコート着てるのがすごく意外でさ!」

 

「なっ・・・!」

 

その途端顔が赤くなるのがわかる。

 

奏多への気持ちは実は捨てきれてない。

 

奏多と燐子が付き合っているのはもちろん知っている。

 

それでも影でもいいから彼のことを好きでいようとする自分がいるのが事実だ。

 

そんな中私は()()()()()()()()()彼のコートを羽織っているのだ。

 

そう思うと燐子にはわるいが嬉しいやら気恥しいやら複雑な気持ちになる。

 

「ごめんごめん!とりあえず早く帰ろ?」

 

「・・・リサのバカ。」

 

「ミャーオ(特別意訳:ごしゅじんはモテモテだね〜)」

 

私はそのコートの襟を顔に寄せながらリサと共に家に帰った。

 

 

 

 

 

そして私はこの気持ちを歌にしてもいいかと考えるようにもなっていた。




『レインのことは私に任せて。けどあなたの家から猫用の皿、餌、タオルとあなたのコートを借りていくわ。帰ってきたら返す。』

新幹線の中でスマホを見るとそう返信が来ていた。

友希那はかつて猫を飼っていたと言っていた。

それにレインも友希那のことを気に入っているのでおそらく大丈夫だろう。

まぁ、レインを放ったらかしに無我夢中で走った自分も悪いのだが。

しかし・・・

「・・・なんでコートも借りてった?」

それが実に不思議だった。

To be continued・・・


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70話 オトズレタネイロ(後編)

70話まで来て行き詰まりながらも頑張っている隠神カムイです。

祝バンドリ2周年!

運営マジ神!これからも一生ついていきます!

そしてドリフェスで何としてもすり抜けで燐子を狙う・・・!

小説本編ですがここに来てようやくNeo-Aspect本編に入れる・・・前日譚が長すぎた・・・

そういうことでやっとRoseliaの方々にはSMSに出てもらいます。

それでは本編どうぞ!


『父が亡くなりました。葬式のため、月末までそちらに帰ることが出来ず、練習にはいけませんがSMSには必ず行くので』

 

私が家に着いてから1時間後、奏多がグループにそう送ってきた。

 

それは私達にも衝撃を与えた。

 

彼が曲の最終調整まで居られないのもあるがこれで彼が事実上両親をなくしてしまったことになる。

 

その悲しみはかなり大きいだろう。

 

「ミャーオ・・・」

 

レインが寂しそうに私の膝の上に乗ってくる。

 

私はレインの頭を優しく撫でた。

 

「・・・奏多が帰って来れないのは残念だけど、彼が帰ってきてから自信を持って演奏できたと報告できればいいわね。」

 

「ミャン」

 

レインが膝から降りて床に置いてあるクッションの上で丸くなる。

 

どうやらここに来て1時間でうちに慣れたらしい。

 

「フフっ、奏多と違ってふてぶてしいこと・・・」

 

私はグループにメッセージを送った。

 

『奏多、お父さんのことはお悔やみ申し上げるわ。レインはその間うちで預かるから帰ってきたら道具諸共取りに来て。それと他のみんな、奏多は来ることが出来ないけど練習はいつもと変わらず、それと奏多が帰ってきても胸を張って演奏できるように。』

 

と、そう送った。

 

他のみんなからは奏多に対するお悔やみの言葉と私の言葉に対する返事が返ってきた。

 

すると数分後、奏多からも返事が返ってきた。

 

『大阪を出るのがSMS当日ですが、おそらく午前中には会場に着くと思います。出番は午後なのでおそらく間に合うかと。楽屋には演奏終了後に戻りますので演奏楽しみにしてます。』

 

どうやら演奏の時間には間に合うようだ。

 

これを見てメンバーのやる気が上がったと思う。

 

そしてこのライブを何としても成功させなければならないという責任感も同時に生まれていたことを私達はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、昼過ぎのCIRCLEに奏多を除くメンバーが揃った。

 

しかしこの前と違って少し雰囲気が重い。

 

まぁ、昨日のあのことを知ってしまってはそうなるだろう。

 

「気を重くしても仕方ないわ。奏多がいなくてもやることは同じ、1曲1曲確かめるようにやるわよ。」

 

「・・・そうですね、本番は練習のように、練習は本番のようにです。いつも言っていることですが今回はいつものライブとは違う、この気持ちをしっかりしましょう。」

 

「そうだね、気を重くしても演奏に支障出るだけだもんね!」

 

「奏多さんがいなくても頑張れるってところを見せましょう!ね、りんりん!」

 

「う、うん・・・そうだね・・・」

 

燐子のテンションが少し低い。

 

しばらく奏多と会えないのだ、燐子にとってはかなり寂しいだろう。

 

「燐子、あなたの気持ちはわからなくもないけど、前にも言ったけど練習ではあくまでキーボードとマネージャーとしての立場をわかっていてほしいの。」

 

「は、はい・・・すみません・・・」

 

「・・・練習が終わったら、奏多に電話かけてみましょうか。多分夜なら奏多も空いていると思うの。だから練習頑張りましょう。」

 

「・・・はい!」

 

燐子の気合を取り戻させる。

 

今折れてしまっては困るのだ。

 

「それじゃあみんな位置について。ライブまであとすこししかない、本番の気持ちで行くわよ!」

 

昔の私なら励まさずに一喝していたかもしれない。

 

今でも馴れ合いは良くないとは思っている。

 

しかし馴れ合いとコミュニケーションは違うことを色々なバンドを見て知った。

 

これも全て私たちが最高の音楽を目指すための一つである。

 

ライブ当日まであと四日・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

親父との最後の別れを済まし、日は経ってライブ当日の日である。

 

祖父からは「あっちで1人暮らすのは大変やろ?どうや、儂らと一緒に大阪で生活せえへんか?」と誘われた。

 

しかし僕はそれを丁重に断わった。

 

まずRoseliaや他のみんなと別れたくなかったのもあるが親父と暮らした最後の家をずっと守りたかったのだ。

 

親父の遺骨を大阪の実家の仏壇に送るとシゲさんから親父が使っていた腕時計と葬式の時に使ったバイオリンを貰った。

 

実家にあったバイオリンは親父が高校時代の部活で使っていたものらしい。

 

親父が高校時代にバイオリンを引いていたことには驚きだがそれで合点がいった。

 

親父がバイオリンを小さい頃の僕に渡した理由を。

 

マネージャー活動を通して知ったことだがピアノやベース、ギターなどの弦楽器は気持ちがそのまま音に出る。

 

嬉しい時は嬉しい音、悲しい時は悲しい音が流れるので音を聞くだけでその人の気持ちが大体わかるのだ。

 

母親の虐待で当時ほとんどの感情を殺されかけた僕に唯一感情を知り得る方法としてバイオリンを渡したのだろう。

 

「・・・やっぱり親父には敵わないや・・・」

 

「兄貴には俺が後で言っておく。お前は早くRoseliaの所に行ってやれ。」

 

シゲさんが肩を叩く。

 

今は悲しさの余韻に浸ってる暇はない。

 

「・・・うん、行ってくる。」

 

僕は実家を後にし、新大阪駅へと向かった。

 

確かライブ会場は渋谷の近くだったはず。

 

早く行かなければならない。

 

「間に合うか・・・いや、間に合わせる!」

 

ライブ会場へ行くこと、それが今の僕にできる精一杯のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バス、新幹線、山手線を乗り継ぎ3時間ほどで渋谷へ到着した。

 

袖をめくり、親父から受け継いだ腕時計を見る。

 

時刻は11時35分、Roseliaの出番は55分からで後20分程である。

 

山手線の電車内で駅から会場までの時間を調べると徒歩で20分なので走ると10〜15分で到着するだろう。

 

ライブ前に激励を送ることは出来ないが見ることぐらいはできるだろう。

 

荷物は大きいものは全て宅配で送ってもらっているので手持ちには必要最低限のものしか持っていない。

 

走るのに大きな荷物がないのはかなり大きい。

 

「さて・・・走るか・・・」

 

スタミナには自信が無いが走るしかない。

 

僕は改札を出て直ぐに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

会場入りから2時間がたった。

 

いまだに奏多ここに来ない。

 

「遅いですね、奏多さん・・・」

 

「東京と大阪はかなり離れてるからね・・・かなり時間かかると思うけど・・・」

 

「でも・・・奏多くんは来るって言ってました・・・!」

 

「そうですね、今は彼を信じて待つしかないですね。だから私達はこれからのことに対して集中しましょう。」

 

楽屋に備え付けの時計を見る。

 

時刻は11時半、あと少しで舞台袖に移動しなければならない。

 

「・・・来た!ソータからの通知!」

 

リサが声を上げると全員がそちらの方を見た。

 

やはりみんな奏多のことが心配なのだ。

 

「えっとなになに・・・『あと少しで渋谷に到着します。会場には走って向かうので楽屋には向かえませんが会場から応援するので頑張ってください』だって!」

 

「よかった・・・」

 

「なんとか・・・間に合いそうですね・・・」

 

するとドアをノックする音が聞こえるとガチャりとドアを開く音が。

 

どうやらスタッフの方のようだ。

 

「Roseliaの皆さん、次の次なので舞台袖の方に上がってください!」

 

「さぁ、行くわよ。」

 

みんなを引連れて舞台袖へと向かう。

 

このライブが私たちを大きく変えるかもしれない。

 

しかしここも通過点に過ぎない。

 

私たちの目標はもっと先にあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・これがきっかけだったのかもしれない。

 

私たちの『機転』の訪れと『音のズレ』の始まりは




次回、『Answer』


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71話 Answer

ドリフェスは結局太鼓の巴姐さんしか出なかった隠神カムイです。

あ、ローソンコラボのグラス購入とリサ姉のクリアファイル貰いました。
ベース組はリサ姉好きだけどひまりが苦手・・・(前々から言ってる奴)

ということで今回から重くなりますが本編どぞ。


走る

 

 

 

 

 

走る

 

 

 

 

 

走る

 

 

 

 

 

駅から走り出してどのくらい走っただろうか。

 

自慢では無いがスタミナは女子並みなので、すぐに息が上がってしまう。

 

それでも人をかき分け、信号待ちでイライラしながらも僕は会場を目指した。

 

そしてついに会場が見えてきた。

 

「つ、着いた・・・!」

 

腕をまくって時間を見る。

 

時刻は11時50分、あと5分しかない。

 

今から楽屋に向かってもみんなは今舞台袖だろう。

 

なら、観客席から見るしかない。

 

とりあえず入場券を買いにそのコーナーへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チケットカウンターの人によれば席は満席なのだそうだ。

 

なので本来は入場出来ないのだが、関係者である盛岡さんの名刺を見せると確認を取ってくれて入場はさせてくれた。

 

しかし、確認を取ったせいで時間がかかってしまい、55分となってしまっていた。

 

もうBLACK SHOUTが始まってしまっているだろう。

 

幸い、入場ゲートから観客席入口まであまり距離は無かった。

 

なので入ろうとしたのだが、どこかおかしい。

 

なぜなら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出入口から次々と人が出ていっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥からは確かにRoseliaのみんなの演奏が聴こえてくる。

 

つまり演奏中という事だ。

 

なのに人が続々と出ていってしまっている。

 

通り過ぎる人は

 

「さっきの演奏よかったよな〜今のうちに飲み物買いに行こうぜ!」

 

「トイレトイレ・・・どっちだっけ・・・」

 

「次のバンド目玉らしいよ?楽しみだわ〜」

 

など、Roseliaの演奏そっちのけである。

 

「なんで・・・観客の人出ていくんだ・・・?」

 

だんだん心配となってきたので観客席に入る。

 

中に入るとみんながしっかり演奏していた。

 

BLACK SHOUTが終わってLegendaryが始まった。

 

見た感じ、何も違和感はない。

 

みんなはノリに乗ってはいるようだし、ミスも感じられない。

 

演奏としては今までの中なら最高峰だろう。

 

しかし、強いて言うなら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『演奏は』上手い、で終わってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんで・・・演奏は確かに良くなってるのに・・・なんでそれだけで終わってしまってるんだ・・・?)

 

それにもうひとつの違和感があった。

 

それはRoseliaの演奏でも、観客の人達でもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音が・・・皆の『音色』が聴こえないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までは皆の音色がしっかりと聴こえていた。

 

友希那の歌、紗夜のギター、リサのベース、あこのドラム、そして燐子のキーボード・・・それぞれの音色を聞いて善し悪しを見分ける。

 

それが僕の才能・・・得意技であった。

 

しかしそれが全く感じられず、聴こえないのだ。

 

「なんで・・・なんで聴こえないんだよ・・・!みんなの音が・・・みんなのことが・・・!」

 

僕は左手で頭を抱えた。

 

走った汗ではない変な汗をかいているのがわかる。

 

それほど焦っているのがわかる。

 

『・・・ありがとうございました。』

 

気がつくといつの間にか演奏は終わっていた。

 

とりあえずみんなの元に向かった方がいいだろう。

 

チケットカウンターの人から関係者用の通行証を貰っているので楽屋に向かうことは出来る。

 

僕はみんなのいる楽屋へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽屋に着く。

 

しかし入口前に立ってみてわかるが中は静まり返っている。

 

しかし、電気はついているのが見えるのでおそらく中にいるのだろう。

 

変に緊張しながらも扉をノックした。

 

「・・・はい。」

 

「九条です、失礼します。」

 

扉を開けて中に入る。

 

着替えが終わっていたのかみんなは私服で、中は静まり返っていた。

 

「奏多・・・」

 

「うん・・・見てたよ、演奏。それに観客達のことも。」

 

「・・・私たちの中では悪くない演奏だと思いました。」

 

紗夜がそう言った。

 

皆も自分たちの『演奏のみ』はよかったことを感じてはいるようだ。

 

「けど・・・どうしてお客さんがどんどんいなくなっちゃったんですか?あこ、何回も間違えていたところも、今日はちゃんとできました。なのに・・・」

 

するとノックの音が聞こえ、扉が開く。

 

入ってきたのは盛岡さんだった。

 

「Roseliaさん、お疲れ様でした。」

 

「あっ・・・お、お疲れ様でした!」

 

咄嗟に返事を返す。

 

すると盛岡さんは少し不思議そうな顔をした。

 

「すみません、緊張していましたか?以前聴いた時と印象が違ったような・・・」

 

その瞬間、場の空気が凍りつくのがわかった。

 

皆が言葉を失う中、なんとかリサが対応してくれた。

 

「あ、あははは〜!すみません、緊張しちゃってたかもしれません・・・!」

 

「ま、まぁ高校生ですからね。まだまだこれからですよ。よければ、このあとの演奏も自由に聴いていってください。それじゃ、今日はありがとうございました。お疲れ様でした。」

 

盛岡さんは少し苦笑いしながら楽屋を出ていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

場に沈黙が流れる。

 

誰も言い出せない中、リサが頑張って話を切り出してくれた。

 

「このあと・・・どうする?」

 

「・・・今日は、ここで解散にしましょう。」

 

友希那がそう言った。

 

いつもならこの後反省会をしているのだが・・・

 

そう考えていると紗夜がその質問をした。

 

「反省会はどうしますか?」

 

「別の日にしましょう。今はあまり冷静に振り替えれるとは思えないわ。・・・それじゃあ、私はここで。」

 

そう言うと友希那は自分のカバンを持って楽屋を出ていってしまった。

 

「あっ・・・友希那さん・・・!」

 

燐子が呼びかけるも友希那はそれを聞かずに出ていってしまった。

 

残されたみんなもあまり話せる空気じゃなさそうだ。

 

「・・・私達も帰りましょう。今の状況では他のバンドの演奏を聴いてもためになりません。」

 

「・・・そうだね、僕の方から帰ることを伝えとくからみんなは帰る準備を進めてて。」

 

そう言って楽屋を出て事務所の方へ向かう。

 

Roseliaにとってライブの失敗はこれが初めてである。

 

しかも初の失敗がこんな大きなライブだと後々必ずどこかで変化が起きてしまう。

 

それが良い変化になるか悪い変化になるか・・・その先は神のみぞ知ると言ったところか。

 

一番怖いのはRoseliaの解散だが、友希那のことだ、たった一度の失敗程度では解散はしないだろう。

 

しかし僕はこの先の展開が怖くて仕方なかった。




今回は短めとなります。

明日は日菜紗夜の誕生日、ということでやります特別編。

ということで次回もお楽しみに!


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72話 ウシナワレハジメタオト

単発教のあまり10連に馴染みがない隠神カムイです。
本日はチョココロネ先輩こと牛込りみ先輩の誕生日です!
皆でチョココロネを食べるのだァ!

さて、そんなテンションを覆す本編ですがここから重い道まっしぐらです。

そんな本編、お楽しみください!


後片付けを皆に任せ、先に帰宅した私は今回のライブのことをずっと考えていた。

 

それはもちろんオーディエンスがいなくなってしまったことだ。

 

いつもの演奏ならこんなこと絶対にない。

 

私達は以前より確実に演奏は上手くなっているはずだ。

 

それぞれ個人の課題をクリアし、乗り越えようとしている。

 

それに今回の演奏は今まで演奏してきた中でもトップクラスに良いものだと思っている。

 

しかし現実は違う。

 

舞台上から観客席はよく見えるのでオーディエンスがどのような行動を取っているのかはボーカルの私が1番よくわかる。

 

その結果からして目の前でオーディエンスが次々といなくなっていくのがはっきり分かったし、 残っていた人達もRoseliaの音楽にあまり耳を傾ける様子はなかった。

 

おそらく店や街中で流れるBGM程度に聴いていたのだろう。

 

それは興味を示さないことと一緒である。

 

それに盛岡さんが言ったあの言葉・・・

 

『すみません、緊張していましたか?以前聴いた時と印象が違ったような・・・』

 

それは以前と今回では私達の音は違っていたという事だ。

 

あの人がいつ私達のライブに来たかはわからない。

 

しかし他のバンドと見比べる必要があるのでそう最近では無いはずだ。

 

「以前と・・・何が違うの・・・」

 

『以前』のRoseliaと『今』のRoselia、その違いを私はずっと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

やはり聴こえない。

 

音が、その一人ひとりの個性が。

 

あの後みんなが帰った中、僕は1人だけSMS会場に残って他のバンドの音を聴いていた。

 

最近注目のバンドから人気トップクラスのFWF常連バンドまで色々な音を聴き分けていた。

 

しかし結果から言うとすべて『凄い』の一言で終わってしまっていた。

 

今まであまり音楽に触れてこなかった人が初めてライブ会場に来た時ぐらいの感覚しか無かったのだ。

 

「・・・どうしちゃったんだろ僕・・・疲れてんのかな・・・」

 

ココ最近ずっと動きっぱなしだったのだ、いくら疲れにくい僕でも疲れが溜まるだろう。

 

これは帰って寝ることが得策である。

 

「あっ、そうだレイン・・・」

 

そういえば友希那にレインを預けっぱなしである。

 

明日返して貰いに行くか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が代わり次の日

 

SMS後の初練習である。

 

いつもならもう少し賑わう練習も、昨日のことがあってか空気が重い。

 

「・・・では、さっきの二つ前から。」

 

そして友希那もこの通りいつもより冷たい。

 

「・・・・・・」

 

「あこ?カウントお願い。」

 

「・・・あ、は、はい・・・!」

 

いつもテンションが高いあこでさえこのテンションである。

 

昨日のライブはかなり刺さっているようだ。

 

「・・・・・・」

 

そしてその中でも燐子が1番不穏そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習開始から数時間が経った。

 

僕の方は結論からいえば昨日と全く変わらなかった。

 

疲れだけかと思ったらそうでも無いらしい。

 

ため息が出そうになるがまだ演奏中だ、抑え込む。

 

そして演奏が終わり、時計を見るとそろそろ終了時間である。

 

「・・・そろそろ終わりの時間だけど・・・」

 

「・・・それぞれつまづいた所を次までに必ずつぶしておくこと。それじゃあ、今日はここまで。片付けましょう。」

 

「「「お疲れ様でしたー」」」

 

それぞれが挨拶を返す。

 

重い空気が少しだけ軽くなった気がした。

 

そしてリサはいつも通りアレを持ってきていた。

 

「ゆーきなっ!お疲れっ!友希那もクッキー食べない?」

 

「今井さん、一緒にクッキーを作る約束していたのに・・・1人で作ってしまったの?」

 

リサの手作りクッキー。

 

紗夜は残念そうにしているが恒例行事といえば恒例行事である。

 

「あはは〜・・・ごめんごめん。でもこれは、ちょっと別って言うか?SMSではさちょっと・・・上手くいかなかったけどさ、アタシ達もまだまだなんだなって改めてわかったし!これからも頑張っていこー!っ的な?」

 

リサがそう言った。

 

リサなりの気配りなのだろう。

 

「そういうことなら、なおさらバンドメンバーの私も参加したかったというか・・・」

 

「ううっ・・・あこ、どうしてSMSが上手くいかなかったのか、未だにわからないんです・・・」

 

あこが自分の気持ちを伝えた。

 

そこから流れはSMSの反省会へと移っていた。

 

「うーん・・・アタシは、自分の技術がまだまだなのかなって思ったよ。うまくノレて演奏はできたけど、技術がさ・・・」

 

「技術的なブレがあるなら練習あるのみです。今井さん、付き合いますよ?」

 

本当にそうなのだろうか。

 

個人的には演奏技術より別のところにあるような・・・

 

「紗夜さんも、やっぱりあこ達が上手じゃなかったから、お客さん達がいなくなっちゃったと思っていますか?」

 

「そうね・・・一概にそれだけじゃない気もするのだけど・・・ただ、技術を磨くことは損ではないはずだから、まずはそこを、というところかしら。」

 

「わかるまでは・・・まずは練習、ということでしょうか・・・」

 

「そうですね、考える時間は大切ですが、考え続けて時間をつぶしてしまうのはもったいないですから。」

 

紗夜らしい意見だ。

 

原因はわからなくともまずは己を磨くという所は賛成である。

 

「あははっ、紗夜らしいね?それじゃあ、練習付き合ってもらおうかな!」

 

「ええ。それではスタジオの時間を延長しましょう。九条さん、大丈夫そうですか?」

 

「ええっと・・・確かこの後ここを使うところはなかった・・・はず。」

 

記憶が確かならさっき予約確認した時にこの後ここを使う人はいなかったはずだ。

 

最悪ここが使えないならまりなさんに頼んで空いているスタジオを借りればいい。

 

「オッケー☆それじゃあ、一旦解散したら、あとは個人練だね。友希那はどーする?」

 

「今日はこのまま帰るわ。それからリサ。」

 

「え?どうしたの?」

 

友希那が真剣な眼差しをする。

 

そして友希那が発した一言にその場が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もう、クッキーは作ってこなくていい。必要ないわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

あのまま考えても拉致があかなかった。

 

ならば1度音を合わせて見ればわかると思って練習に来たが、みんなと合わせても全くわからなかった。

 

何故、SMSの演奏は受け入れられなかったのか、そして以前と何が違うのか・・・

 

私は練習後の風景を黙って見ていた。

 

「ゆーきなっ!お疲れっ!友希那もクッキー食べない?」

 

リサがいつもの調子で私に声をかける。

 

いつもなら受け取るのだが、今回は受け取りにくい。

 

(あ・・・)

 

リサのクッキー

 

それはRoselia結成当初にはなかったもの。

 

いつしかRoseliaのものとして浸透していたものだ。

 

Roseliaの音が変わった原因、それはもしかするとこれなのかもしれない。

 

各々がSMS失敗の原因を話し合う中、気がつけば私はこれが原因だと思い込み始めていた。

 

こんな小さなものが原因になるはずがない、それにリサのクッキーがあったからこそこのメンバーの絆が深まってきたのだ。

 

・・・いや、()()()()()()()()()()()()なのかもしれない。

 

Poppin’PartyやAfterglow、Pastel*Paletteにハロー、ハッピーワールド!のバンド演奏を通じて絆の必要性はわかっていたはずだった。

 

しかし、Roseliaは()()()()()()()()()()()()であり、あのバンド達とは違って技術の足りないものは抜けてもらうなどの厳しい規則とかもあったはずだ。

 

しかしそれもいまや消え去っている。

 

私にとって原因がそれらだと思い込んでしまっていた。

 

1度思い込んだものはそう簡単に書き換えられない。

 

もしこの仮説が違っていたかもしれなくても試す価値ぐらいはありそうだ。

 

「一旦解散したら、あとは個人練だね。友希那はどーする?」

 

リサがそう尋ねてくる。

 

私は覚悟を決めてその事を伝えてみることにした。

 

「今日はこのまま帰るわ。それからリサ・・・もう、クッキーは作ってこなくていい。必要ないわ。」

 

「友希那・・・さん・・・?」

 

「あ、あれ?ゴメン、なんかアタシ、空気読めなかったかな・・・?」

 

燐子が驚きの声を上げて、リサは反省気味に返す。

 

多少の罪悪感は湧くがこれもRoseliaのため、心を鬼にするしかない。

 

「それじゃあ、これで・・・」

 

「あ、ちょっと友希那!」

 

奏多の声がするがそれを無視してスタジオを後にする。

 

私達は取り戻さなくてはならない。

 

私達の歌を、私たちの張り詰めた思いをーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

「それじゃあ、これで・・・」

 

友希那はそう言ってスタジオを後にしようとする。

 

「あ、ちょっと友希那!」

 

必死で静止するも、友希那はそのまま行ってしまった。

 

「あちゃー・・・行っちゃったか・・・どうしたんだろ・・・友希那・・・」

 

「友希那さん・・・どうしちゃったんだろ・・・」

 

リサとあこが心配そうな声を上げる。

 

「奏多くん・・・なんで友希那に声を・・・?」

 

「うん、友希那にレイン預けっぱなしだからさ・・・いい加減迷惑かなって。」

 

「確かにレインは湊さんが預かっていたはずですね。」

 

「うん、でもあの状況だと言い出せにくいよね・・・」

 

「どうする?アタシから言っておこうか?」

 

リサが自分が聞こうかと勧めてくる。

 

しかしこれは僕の問題だ、リサに任せるわけにはいかない。

 

「・・・いや、明日も練習あるし明日言うよ。とりあえず僕からまりなさんに言っておくからみんなは練習続けて。僕はこのあと・・・用事あるから!」

 

本来は用事なんてない。

 

しかし今ここに僕がいても特にアドバイスを送ることが出来ない。

 

壊れたものなぞそこにいても邪魔なだけだ。

 

なので退いた方が良いと判断したのだ。

 

僕は荷物をまとめ、スタジオを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして友希那と僕、この2人の変化が原因でRoselia解散の危機に瀕するとは誰が予測しただろうか・・・




次回、『クルウハグルマ、チリハジメルアオバラ』


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73話 クルウハグルマ、チリハジメルアオバラ

サブ垢が神引きしすぎて本垢全く引けなかった隠神カムイです。
サブ垢で探偵こころと2周年モカ引きました。
なんだよ・・・結構当たんじゃねぇか・・・

あと最近デジモンtry見始めたけど3章でボロ泣き・・・このまま6章まで持たなさそう・・・
てかこのままバンドリの方のButter-flyやったら出来なさそう・・・

ということで作者の涙腺が弱いことを踏まえながらの本編ですがここから重さMAXで行きます。

では、本編どうぞ。


ひとり家に帰った私はこれからのことを考えていた。

 

音が変わった原因は予測が着いた。

 

ならこれから私はどういつものRoseliaの音に戻すのか。

 

「・・・みゃーおー」

 

レインが足元にすり寄ってくる。

 

「・・・ごめんなさいね、今は構ってあげられる余裕が無いの。・・・あっ。」

 

ここで私はあることを思い出した。

 

そういえば奏多が帰ってきたからレインを返さなくてはならない。

 

つまりレインと生活できるのも今日でラストという事だ。

 

「・・・こうして猫を世話するの、何年ぶりかしら。」

 

少し昔の余韻に浸る。

 

・・・もし、昔の私ならこの状況をどうしただろうか。

 

「・・・そんなの、決まってるじゃない。」

 

私は私、今も昔も湊友希那のままだ。

 

ならやることはひとつ。

 

「一度・・・引き返す必要もあるかもしれない。」

 

Roseliaの音を昔のようにする方法、それはまだわからない。

 

けど間違ったっていい、模索し続ければいずれ元のRoseliaになるはずだ。

 

「・・・まずは、明日の練習ね・・・」

 

明日の練習の様子を見てこれからの方針を考えた方がいい。

 

たとえそれが・・・皆の意見と別れても・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

次の日、練習のためにCIRCLEに集合した。

 

しかし、昨日練習で残っていた人もあまり調子が出ていないようだった。

 

今の僕は音を聴き、判断することは出来ないが場の空気でわかる。

 

正直あまりいい気はしない。

 

「・・・ストップ!今、テンポが崩れたわ。・・・あこ、前回の練習で、今日までに苦手な箇所を潰しておくことと言ったはずよ。」

 

「・・・すみません。」

 

曲が途中でとめられ、友希那があこに注意をする。

 

しかしいつもよりキツめだ。

 

「この間のライブのこと、覚えているでしょ?私達にはまだまだ足りないものがあるのよ。足らないなら埋めるまで。あこ、あなたは特にもっとスキルを磨かなければ、振り落とされるわよ。」

 

「・・・は、はい!すみません・・・っ!」

 

「このまま上達しなければ、抜けてもらうこともある。その覚悟を常に持って演奏して。」

 

「はい・・・」

 

友希那があこを突き放すように言う。

 

違和感を感じた僕はさすがに口を挟んだ。

 

「ちょっと友希那どうしたんだよ。さすがにそこまで言わなくてもいいよね?」

 

「いいえ。基準にみたなければ抜けてもらう。これは前から言っていることでしょ。そのくらいの危機感をもって練習に取り組まなければ、FURTHER WOULD FES.にはいつまで経っても出られないわ。」

 

「けどさ、その言い方だと・・・」

 

「そもそも演奏中の注意をするのは奏多、あなたの仕事でしょ?」

 

「・・・っ!ええっと・・・その・・・」

 

正直1番言われると困ることを言われ、動揺する。

 

すると紗夜が口を挟んだ。

 

「確かに今の演奏は、少し緩んでいたかもしれません。緊張感をもって演奏しなければ。宇田川さん、もう一度やりましょう。それに九条さんも作業があるとはいえ、仕事は仕事です。よろしく頼みますよ。」

 

「うう・・・」

 

「はい・・・」

 

正直紗夜が口を挟んでくれなかったら何も言えなくなっていただろう。

 

「・・・それじゃあ、二つ前のパートから。」

 

友希那は練習を再開させる。

 

しかしどれだけ聴いても、どれだけ頑張っても音を聴きとることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・送ってくれてありがとう。少し待ってて。」

 

友希那を家まで送り、レインを連れてきてもらう。

 

練習後から全く話すことも無く、そのまま着いてしまった。

 

エサはちょうど使い切ってしまったそうなので持って帰るのは皿とタオルと何故か持って行っていたコートである。

 

「皿と・・・タオルと・・・コート・・・よね。お待たせ。」

 

「うん、ありがとう。」

 

その3つが入ったコートを受け取り、抱かれているレインを受け取る。

 

「ミャン」

 

「ひさしぶりレイン・・・この前はごめんね・・・」

 

「ミャー」

 

バイクに乗ってきているのでいつも通りパーカーのフードや肩には乗せられないがその代わりにペット用の移動用キャリーバッグを持ってきている。

 

これなら落ちずに済む。

 

「今日まで世話ありがとう。それじゃあ・・・」

 

「・・・ちょっと待って。」

 

バイクを発進させようとした時に友希那に呼び止められた。

 

慌ててブレーキをかける。

 

「・・・っと。どうしたの?」

 

「・・・あなた、この前の練習からそうだけど、音が聴こえてないんじゃない?聴力の問題じゃなくて・・・あなたの得意な善し悪しの聞き分けが出来ないんじゃない?」

 

核心を突かれ、それまで考えていたことが全て真っ白になる。

 

「・・・もし、そうだったらどうするのさ。」

 

「私はあなたの才能をかってRoseliaに入ってもらった。けど、それが出来ないようじゃ抜けてもらうこともありうる。私達も昔とは違ってあなたの作業もそれぞれができるようになっている。今更あなたが抜けたところで『私達の負担が増える』だけでRoseliaをやり続けるのに支障はないわ。」

 

友希那が突き放すように言う。

 

やはり最近の友希那はどこかおかしい。

 

「・・・大丈夫、たしかに今は聞こえてないけど一時的なものだと思う。すぐに感覚を取り戻すと思う。」

 

「『思う』じゃ困るのよ。もっと確実にしてもらわないと。」

 

「・・・っ!・・・もう行くよ。それじゃあ。」

 

バイクを発進させる。

 

友希那の言葉に言い返すことが出来ず、ただ言われるままだった自分がとても悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が変わって2月に入った。

 

月の代わりたてである2月1日、練習はよりハードになっていた。

 

・・・技術面ではなく、指導面で。

 

「・・・あこ!またテンポが乱れているわよ!」

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

友希那が怒ってあこが謝る。

 

前回も同じ風景を見たが今日はより強くあたっている。

 

「前回もそれぞれつまずいた箇所を克服するようにと言ったはずなのに、何度も同じことを言わせないで。」

 

「ま、まあまあ!ちょっと今回の練習には間に合わなかったかもだけどさ、ダメなら練習すればいいじゃん?あんまり焦ってもいいことないし、友希那もそこまで言わなくても・・・」

 

リサが止めに入る。

 

友希那は少し不満そうにしながらも練習を続けようとした。

 

しかし、あこも黙ってばかりではなかった。

 

「・・・何度やったって、できないと思います。」

 

「宇田川さん?」

 

紗夜が不穏な空気を感じ、あこに声をかける。

 

しかし、あこの堪忍袋の緒はとっくに切れたようだった。

 

「何度やったって、どうせあこ、失敗します・・・っ!!だって、どうやったら上手になるのか、もうわかんないし・・・!」

 

しかし、それを黙って聞く友希那ではない。

 

当然のように反論した。

 

「甘えたようなことを言わないで。ダメならできるようになるまで繰り返すしかないでしょう。」

 

「なんのために上手になればいいんですか!!」

 

「それは・・・!」

 

友希那の言葉が少し止まる。

 

あこはそのまま自分の思いを友希那にぶつけた。

 

「SMSで失敗したのに、反省会もやらないで!みんなわけもわからないまま、ずっと練習してて・・・FURTHER WOULD FES.に近づいているのか遠くなっているのかもわからないし・・・っ!」

 

「遠のいているわよ。今のあなたは。」

 

友希那が落ち着いてあこの言葉を返す。

 

その言葉に対してあこは言葉をぶつける。

 

「・・・っ!なんでですか!?あこが上手じゃないからですか?」

 

「そうよ。それに、こんなことで音をあげているようじゃ先が知れているわ。そんな甘えた様子で、このバンドにいる資格はない!」

 

友希那がトドメを指すように話す。

 

さすがに酷すぎるのではないか?

 

そしてその言葉はあこに深く突き刺さった。

 

「・・・っ!!!・・・こんなの・・・こんなの、Roseliaじゃないっ!!!!」

 

「あ、あこっ!!!」

 

あこはドラムスティックを投げ捨てるとスタジオから走り去ってしまった。

 

リサが制止の声をかけるもそれを無視して走り去ってしまった。

 

「・・・友希那さん・・・」

 

「4人だけでも練習を続けましょう。」

 

友希那があこのことなんてなかったかのように練習を再開させようとする。

 

さすがに口を出そうとした時、僕より先に口を挟む人がいた。

 

それは1番予想外な人、燐子だった。

 

「どうして・・・あこちゃんにそんなこと・・・言うんですか・・・?」

 

「燐子・・・?」

 

「きっと・・・わたしたち・・・どれだけ練習したって・・・音なんか・・・あいません・・・!こんな演奏・・・誰も・・・振り向いてくれません・・・!だって・・・誰も・・・みんなの音、聴いてないから・・・っ!!」

 

燐子はそれだけを言うとあこと同じように走り去って行った。

 

普段ここまで言うことの無い燐子が頑張ってここまで自分の思いを伝え、苦しみ、そして泣いていた。

 

「燐子!!!」

 

リサが制止の声をかけるもあこと同じように止まることは無かった。

 

友希那は少し驚いた顔をしつつも落ち着こうとしていた。

 

「友希那、どうしちゃったの?この間の練習の時から、なんかヘンだよ?」

 

「私は、Roseliaを取り戻したいだけよ。」

 

『Roseliaを取り戻したいから』と友希那は言った。

 

・・・Roseliaを取り戻すためなら、仲間すら切り捨てるのか。

 

目的のためならどんなことでも言えるのか。

 

そう思ってしまった途端、僕の中の何かがふっ切れた。

 

「・・・Roseliaを取り戻したいって何。」

 

「・・・奏多?言葉の通りよ。私は・・・」

 

「なら、自分の考えを否定した仲間すら切り捨てることが取り戻すってことなのか?」

 

「私はただ私達の音を取り戻したい。ただ、それだけよ。それに技量が足りなければ抜けてもらうのは前々から言っていたことよ。」

 

「こっちからしたら別にあこは甘えたことなんて言ってない。自分で頑張って、努力して、それでもわからないから人に聞くことになんの甘えがあるんだよ!」

 

「それが甘えなのよ。自分の音ぐらい自分で見つけられないと自分のためにならない。人の音なんて参考でしかないわ。」

 

「人の音を聞いて初めて自分の音を見つけられることもある!友希那だって、1度はそれを感じたんじゃないか!」

 

「感じたから言っているのよ。でも、音を見つけるのは自分自身。あこはそれをしようとしなかった。しようとしていたら今回の音のズレだって直せるはずだもの。」

 

「それは友希那基準での話だろ?友希那みたいに変われる人もいたらあこみたいに変わるのが遅い人もいる。だからああやって頑張っていたじゃないか!」

 

「努力だけではRoseliaの音楽に合わない。だからこうして・・・」

 

それでも切り捨てて言い訳じゃない!!

 

久しぶりにこんな大声を出した。

 

僕を除くここにいる全員が驚いたような顔をしていた。

 

「・・・僕だってさ・・・怒るんだよ。仲間を怒鳴ったからじゃない、彼女を泣かせたからじゃない、そのあり方が間違っているから怒ってるんだよ。」

 

「あなたが怒った所で私達の音が変わるわけじゃない。あの二人が現実に向き合わず、逃げたことに変わりはないもの。」

 

友希那がそう言い放つ。

 

その言葉に対してさらに怒りが沸き立つ。

 

「現実を見ていないのは友希那じゃないか!反省会もせず、前みたいに完璧な音を取り戻したいからと言って昔に戻ったような練習をして・・・振り返ることと後退は違う、君のはただ後退してその現実から遠のいているだけだ!」

 

「なら、あなたにはRoseliaの音を取り戻す最善策があると思うの?」

 

友希那が強くそう言った。

 

その言葉に対して僕は言い返せなかった。

 

「それは・・・」

 

「ろくに音も聴くことが出来ないで、偉そうな口を叩かないで!」

 

その言葉が深く突き刺さる。

 

僕の怒りは次第に呆れへと変わっていた。

 

「・・・もういいよ、どうなっても知らないから!」

 

ドアを開け、スタジオを後にする。

 

リサの制止の声が聞こえるが今の僕にそれは届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサside

 

「・・・もういいよ、どうなっても知らないから!」

 

「奏多っ!!」

 

あこ、燐子までもなく奏多までもスタジオを出ていく。

 

「友希那・・・」

 

「湊さん、さすがに言い過ぎでは・・・」

 

紗夜が話しかけるも友希那は自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「私達の音を取り戻すために、Roseliaに馴れ合いは必要ない。クッキーはもう、いらない。」

 

「ちょっと待ってよ!そんな、どうして昔に戻っちゃったみたいなこと言うの?」

 

「・・・そうでなければ、私たちの音は取り戻せないからよ。私達、少し仲良くなりすぎてしまったんじゃないかしら。」

 

「・・・!」

 

友希那はそれだけ言い残すと出ていってしまった。

 

その場にアタシと紗夜が残された。

 

「湊さん・・・っ!・・・行ってしまったわね。」

 

「・・・・・・」

 

胸が苦しくなって思わずため息のようなものが出る。

 

それを紗夜は心配してくれた。

 

「今井さん、大丈夫?」

 

「あ・・・ご、ごめん・・・なんか、驚いちゃって。」

 

自分を落ち着かせる。

 

紗夜は少し下を向いて話し出した。

 

「・・・湊さんの言っていたこと・・・少しわかるような気がしました。」

 

「分かる、って・・・?」

 

「私達は、バンド、それから個人としても色々な経験をしました。その結果、私個人としては成長出来ましたし、バンドの空気も以前よりかなりよいものになっていると思います。ですが・・・それ自体が、Roseliaにとって大きな問題だったのでは、と思ったんです。私達が無意識的にまとっていた張り詰めた空気が消え、いつしか、『いい雰囲気』が音に乗っていたのではないでしょうか。それによってRoseliaのサウンドは以前と比べて迫力が失われてしまったのかもしれません。」

 

「昔の迫力を取り戻すためには、前みたいにならないといけないってこと・・・?」

 

紗夜にそう質問した。

 

それに対して紗夜は首を横に振った。

 

「・・・以前の私たちに戻ることが正しいとは私には思えません。ですが・・・どうすれば私達の音を取り戻せるのかは、わかりません。」

 

「そんな・・・!」

 

紗夜ですらわからないことなんてアタシがわかるわけがない。

 

もしかしてアタシがいままでやってきたことって、バンドにとってすごくダメな事だったのかもしれない。

 

「「・・・・・・」」

 

2人だけになったスタジオには不穏な空気が残るだけだった。




次回、『ココニイルワケ』


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74話 ココニイルワケ

なんだかんだ言って気がついたらガチャで引いたことないキャラが燐子だけになってしまった隠神カムイです。

どうして・・・推しに限ってでないんだ・・・っ!

ということでNeo-Aspectの続きですが時間が足りずに3000文字程度になってしまいました・・・5000文字ノルマは少しばかり時間がかかるな・・・

ということで本編どうぞ!


今日の練習で私と今井さんを除くメンバーが出ていってしまった。

 

湊さんのいう『仲良くなりすぎてしまったから音が昔に比べ悪くなった』という考えはわからなくもない。

 

しかし、だからといって昔に戻ったような練習をしていいとは思えないが、それ以外の方法は私でもわからない。

 

出ていってしまった人達のほとんどはそれが嫌だと思ったから出て行ったのだと思うが、私が見た様子だと1番傷ついていると思うのは隣にいる今井さんだ。

 

「・・・・・・」

 

いつもの様に明るくなく、ずっと俯いて考え事をしているようだった。

 

「・・・あの、今井さん・・・?」

 

今は声をかけないほうがよかったのかもしれないが、試しに声をかけてみる。

 

「あ、うん・・・なんか、アタシっぽくないよね。ごめん。なんか、アタシ・・・何してたんだろって思ってさ。みんなよりも演奏は下手だから、少しでも役に立てること考えてさ、みんながいい感じに演奏できるようにって色々やってきたのに、全部、Roseliaの為になってなかったんだよね。友希那の夢が叶うように、ってやってたのに・・・」

 

自嘲気味に話し、目には涙をうかべる。

 

そんな彼女を私は慰めの言葉をかけず、別の言葉をかけた。

 

「・・・あなたは、Roseliaのベーシストです。」

 

「えっ・・・?」

 

「技術は足りていませんが、私はあなたをベーシストとして認めています。あなたの存在意義は、ちゃんとこのバンドにあります。」

 

その言葉に対して今井さんが驚いたような顔をしたあと、クスッと笑った。

 

「紗夜・・・っ!はあ、もう・・・優しいなあ。けどさ、これからどうしていったらいいんだろう?」

 

「緊張感のある私達の音・・・たしかに、これは取り戻すべきですね。ですが、今より未熟だった頃に戻る必要はないはず。」

 

「うん。そう、だよね・・・?友希那だってこんな形で取り戻したいなんて、本気で思ってないよね。あこや燐子に言ったことだって、本心じゃないはず・・・アタシ、友希那にもう一度話を聞いてみようかな?あこ達のことも気になるし・・・」

 

今井さんのその提案を私は否定した。

 

「・・・今井さん。それでは今と変わらないじゃない。私達は変わらなければならないのよ。」

 

「だ、だってさ〜・・・やっぱり、みんなのこと心配だし。アタシ、今までみんなの間、取り持ってたじゃん?」

 

「あなたがこのバンドの精神的支柱になっているのは確かだけど、だからって、全部のトラブルをあなたが引き受けることはないわ。むしろ・・・その状態が、バンド全体を甘やかしていた可能性も・・・」

 

そこまで言って言葉を止める。

 

今はどれが原因だというのを探るのはやめておいた方がいい。

 

しかし今井さんは頭を抱えた。

 

「う〜・・・ホント、アタシってどこまでおせっかいなんだろ。全部ダメダメだよね?」

 

「精神的支柱としてのあり方は考えるべきだと思うけれど、何もかもがダメだったわけではないと思いますよ。」

 

そこまで言うと今井さんがすごく意外そうな顔をした。

 

別に変な事は言っていないと思うが・・・

 

「紗夜、なんかホント変わったよね。まさか紗夜にこんな風に言われるなんてな〜・・・」

 

その言葉に自然と笑みがこぼれる。

 

変われたのはみんなの協力があったからだ。

 

「変われた一因には、あなたも含まれているのよ。だからこそ、ダメたなんて言わないでほしいだけ。この問題は、あなただけに任せることじゃない。全員がそれぞれ向き合わなくては、Roseliaを取り戻すことはできない。」

 

「うん、そうだね・・・!紗夜、ホントにありがと。」

 

「まだ、何も始まってないわよ。」

 

この問題はまだ始まったばかり、感謝の言葉にはさすがに早すぎる。

 

「それでも言わせてよ!紗夜がいなかったらアタシ、もっとボロボロだったと思うし!だから考えなくちゃいけないってこともわかったし。アタシがここにいる理由を、アタシなりの向き合い方で。」

 

今井さんが決意の言葉を話す。

 

いつもの今井さんに戻ったようで何よりだ。

 

・・・今なら、この疑問を話してもいいだろうか。

 

「そう言って貰えるならあなたはもう大丈夫でしょう。・・・しかし、今日のことで一つ気になることがあるんです。」

 

「気になること?」

 

「湊さんが九条さんにかけた言葉・・・『ろくに音も聴くことが出来ないで、偉そうな口を叩かないで』」

 

「確かに言ってたけど・・・その言葉に気になることが?」

 

「はい、湊さんが宇田川さん達にかけた言葉は本心じゃないと今井さんはさっき言っていました。もしそれが本当だとしたらこの言葉だけはどうもそう感じないんです。言い返す際、つい本音が漏れてしまった、そんな感じがして・・・それに『ろくに音も聴くことが出来ない』とはどういうことなんでしょうか?」

 

「確かに・・・友希那のあんな必死な顔初めて見たし・・・」

 

今井さんも顎に手を当てて考える。

 

練習後からずっと考えていた。

 

湊さんが九条さんに怒られ続け、押され続けていた。

 

湊さんも負けじと返していたが、こちらからしたら九条さんだけではなく湊さんも必死なようだった。

 

自分の考えをずっと否定され続けたことに怒ったからなのか、それとも自分の考えが間違っているのを知っているからああ返したのか・・・

 

にしても『ろくに音も聴くことが出来ない』とはどういうことなのだろうか。

 

恐らく恐らく九条さんの身体的問題ではないだろう。

 

耳が聞こえないなら普通に会話もできるはずがない。

 

だったら・・・

 

「・・・ねぇ、紗夜。多分だけど友希那が言った『音を聴くことが出来ない』って奏多の才能の問題なんじゃないかな?」

 

今井さんがそう言った。

 

「才能・・・ですか?」

 

「うん、奏多がRoseliaに入った最初の理由って私達の演奏を1回聞いただけで私達のミスやズレを指摘したからでしょ?そこから友希那が奏多の才能を見つけてRoseliaのマネージャー兼監督としてやっているじゃん?もしかしたらその才能が上手く働いていないんじゃないかな?原因は・・・」

 

「・・・SMS・・・でしょうか。しかし九条さんはその日・・・」

 

「うん、演奏が終わるまでアタシ達のそばにいなかったし、1週間音楽と触れ合えなかった程度じゃ才能なんて衰えないと思う。」

 

九条さんの才能は私のように努力で手に入れたものではなく日菜のように天性的にあるものだろう。

 

天性的才能は努力で手に入れるものとは違い日を開けても衰えることは少ない。

 

10年以上使わないぐらいではないと衰えることはまずないため、1週間程度その才能を使わなかっただけでは九条さんの才能が衰えたとは考えにくい。

 

では何時からだ?

 

九条さんのお父さんが亡くなられた時?

 

それともお正月から?

 

もしかしてもっと前から・・・?

 

・・・少なくとも年越し前ではないだろう。

 

「・・・もしそうだとしたら原因はなんなのでしょうか?」

 

「多分奏多も音が聴こえないことを自覚はしていたんだろうけど・・・アタシ達じゃ何時からそうなったのかわからないし今の奏多には聞にくいし・・・」

 

「九条さんのことです、周りには話すことが出来ず溜め込んでいたんでしょう。九条さんの性格からしてこれほどのことならもっとも信頼している人にしか話すことが出来ないでしょう。」

 

「1番信頼してるのって燐子だけど・・・燐子も話しにくいし・・・あっ!彼ならどうかな、炎!」

 

今井さんが陰村さんを提案してきた。

 

彼なら九条さんと仲がいいので話を聞き出すことが出来るだろう。

 

「確かに陰村さんなら話せそうですね。では明日学校で彼に・・・」

 

するとスマホにメールの着信音が鳴る。

 

グループチャットアプリ等が普及した今、メールなんてあまり来ないはずだが・・・

 

「・・・すみません、失礼します。」

 

スマホを取り出して確認する。

 

送り主は学校からだった。

 

『本日、インフルエンザの生徒が一定数を超えたので2月7日まで本校は休校となります。』

 

・・・最悪のタイミングで休校のお知らせが来た。

 

これでは陰村さんにコンタクトをとることができない。

 

今井さんがスマホを覗き込んで苦笑いした。

 

「あ〜・・・最悪のタイミングだね。」

 

「はい・・・」

 

「とりあえず今日のところはこの辺にしようか。あこ達にはアタシから聞いてみるから。」

 

「よろしくお願いします。」

 

次の練習は二日後である。

 

それまでは私達のRoseliaを取り戻すためにどうすればいいのか動く期間でもあった。




次回、『トオザカル ユメ』


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75話 トオザカル ユメ

千聖さんの誕生日特別編やろうかと考えましたが別日に番外編としてやろうと考えた隠神カムイです。
さすがに連続番外編はキツイ・・・
ということでようやく主人公目線で話を進められます・・・

てなわけで本編どうぞ!


「・・・もういいよ、どうなっても知らないから!」

 

怒りのあまりそう言って飛び出してしまった。

 

しかし今のは絶対友希那が悪い。

 

あこのことを切り捨てたり昔に戻ろうとしたりと明らかあちらに非がある。

 

それでも自分の考えが正しいみたいな態度を取られては誰だって怒るだけ損だと思う。

 

「・・・1回現実を見ろって。」

 

そう呟きながらCIRCLEを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその5分後。

 

「・・・でも少し言いすぎたかな・・・あんな言い方したら誰だってムキになるし・・・でもあれはあっちが・・・けど・・・」

 

たった5分で心が揺らぎ始める。

 

人は怒りから冷め始め、落ち着き出すと色々反省しだすものだ。

 

でもあれは誰だって怒るだろうし・・・

 

「いやいや、あっちが悪いんだから・・・」

 

そう思い込むように僕は足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そしてその2分後。

 

「あぁ・・・もうホント僕ってバカ・・・あんな言い方したら謝りにくいし帰りにくいじゃん・・・」

 

心が折れて自分を責め始めた。

 

『お前は優しすぎるから怒るのに向いてない、怒るだけ自分を責めるだけだぞ』

 

確か昔親父に言われたっけ。

 

ほんの10分前ぐらいはめちゃくちゃ怒っていた僕だが今では反省点を考えまくるほど弱気になってしまっている。

 

本当に怒るのに向いていない人だ。

 

「あんな口叩いちゃったら誰だってムキになるよ・・・友希那だってRoseliaのためにどうやったら元に戻るか模索していただけかもしれないし・・・」

 

そうぶつぶつ呟いているといつの間にか商店街の方まで来てしまっていた。

 

家とは思いっきり反対方向の場所である。

 

「変に来ちゃったな・・・」

 

今の気分的にあまり知っている人に会いたくない。

 

時計を見ると11時過ぎ、人が多い時間帯である。

 

でもどこかで1人考え事をしたい。

 

「・・・なら、あそこなら行けるかな。」

 

僕はひとつ思い当たるところに足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、その場に居づらくなって思わず出て行っちゃって気がついたら商店街に来ていたからここに来たと。」

 

「はい・・・すみませんマスター、突然お邪魔しちゃって・・・」

 

「いやいや、九条くんなら大歓迎だよ。話し相手がこの子達とおじさんだけだけどしっかり聞いてあげるからさ。」

 

やってきたのは猫カフェ『にゃぴねす』

 

ここの開店時間は11時なので、開店した瞬間はお客さんがいない。

 

しかもここの利用客が来る時間はだいたい3時ぐらいが多い。

 

なぜならここは『食事』を求めるのではなく『癒し』を求めるために来るところだからだ。

 

というわけでここに来たのだ。

 

いつもはこの時間に来ないのと、マスターは人柄的に話しやすい人なので少し相談に乗ってもらおうと思ったのだ。

 

「まぁゆっくりして行ってよ、はい、これサービス。」

 

注文したコーヒーと一緒にこの店名物のロールケーキをサービスしてくれた。

 

ここのロールケーキは本当に絶品なので、ここに来た時は毎回注文している。

 

しかし今はそういった状況ではないので注文しなかったのだが気を利かせてサービスしてくれるようだ。

 

「すみません、ありがとうございます。それとごめんなさい・・・突然押しかけて勝手に悩みをぶつけちゃって・・・迷惑ですよね・・・」

 

「いやいやそんなことないよ。君も知っている通りこの時間帯はお客さん来ないから暇だし、君にとっておじさんが良き相談相手として思われているのは嬉しいよ。」

 

マスターが立派な口ひげを触りながらそう言った。

 

見た目も中身も本当にイケメンなお方である。

 

「いやでもねぇ〜あの湊ちゃんがねぇ〜」

 

「はい・・・昔みたいに人に冷たいっていうか・・・己の夢のためならなんだってする!みたいな感じになってしまって・・・」

 

「確か大きなライブに出ることを目標にしているんだっけ?たしか・・・ふゅーちゃー・・・わーるど・・・なんとか?」

 

「FURTHER WOULD FES.っていう大きなライブに出て頂点に立つことが友希那の夢で・・・いつの間にかRoseliaの大きな夢みたいになってます。」

 

「ん〜おじさん素人だから音楽のこととかインターネット並にわからないけど・・・これだけはわかる。それ絶対夢から遠ざかってるよね?」

 

マスターが真面目な顔でそう言った。

 

やはりマスターもそう思うのだろう。

 

「僕もそう思います・・・けど今の友希那はそのことをわかってやっているのか、どうやって元に戻せるかと模索しているのかがわからなくて・・・」

 

「人って調子のいい時と悪い時があるから原因はそれだと思うんだけど・・・聞いた感じだとそういう訳じゃなさそうだねぇ。SMSってライブが原因だとすると何かしらの変化が起こってたのかな?」

 

「それはわかりません。でも僕もそのせいか音っていうか・・・音色っていうか・・・いつもはその善し悪しみたいなのが聞き取れていたんですけどライブの日からそれが全く聞こえなくなって・・・マスターはそういった自分の才能ってものが上手く働かなくなった時ってどうしていますか?」

 

それを聞くとマスターは「ん〜・・・」と顎に手を当てて考え始めた。

 

そして答えを見つけだしてくれたのかゆっくり話してくれた。

 

「・・・おじさんもね、昔コーヒーの修行をしていた時にいつも通りコーヒーを淹れることができなくなってしまった時があるんだよ。何度やってもいつもの味にならない、どう試行錯誤してもこれって味にならないって時がね。でもね、おじさんの師匠が突然紅茶を淹れなさいって言い出したんだよ。」

 

「コーヒーから・・・紅茶?淹れ方が違うはずでは?」

 

「そうそう、その時はおじさんも絶対違うって答えたんだけど早くやりなさいって言うから渋々紅茶を淹れたんだよ。昔コーヒーだけじゃなくて紅茶も修行していたからね。師匠はそれを1口飲むと次は緑茶を、次はほうじ茶をって色々なことをやらせてきたんだ。緑茶なんて初めてだったしそりゃあ緊張したよ。あらかたやってみてついにおじさんも師匠に言ったんだ『なんでこんな意味の無いことをやらせるんですか』って。師匠はそれを聞いたあと、いつもと変わらずにコーヒーを淹れなさいって言ってきたから淹れてみたらこりゃまたびっくりコーヒーがいつもより美味しくなってた。」

 

その事に驚愕を受けた。

 

なぜマスターの言う無駄なことをしたら味が良くなったのだろうか。

 

「なぜ味が良くなったんです?紅茶とかにコーヒーの淹れ方のコツとかがあったんですか?」

 

「おじさんも不思議に思ったから師匠にそう聞いたらニコって笑って『いや、どれもコーヒーと関係なし』って言うんだよ。だったら何故良くなったのか聞いてみたら『あなたはひとつのことにこだわりすぎている。だから1度視野を広げ、そのこと以外のことをすることで気分を切り替えすことが大切なんです。あなたもやったことの無い緑茶を入れる時緊張したはずですがそれと同じくらい楽しかったでしょう?初めてやった時の緊張感とひとつのことにこだわりすぎないことが大切なんです』・・・ってね。」

 

マスターはどこか懐かしい顔をしてそう言った。

 

「緊張感とこだわりすぎない・・・」

 

「まぁ、おじさんの時がそうなだけで誰しもそうなるとは限らないけどね!今は悩んで答えを見つけ出すことが大切だとおじさんは思うな。若いうちはさんざん悩んで、考えて前に進めってね!」

 

マスターがハハハッと高笑いする。

 

やはりマスターに相談してよかった。

 

「ありがとうございます。マスターの言う通り今はさんざん悩ませてもらいます。あなたのアドバイスも試してみます。」

 

「ハハッ!そりゃよかった!また困ったことがあればまたおじさんの所に来なさい。猫達と共にコーヒーとロールケーキ作って待ってるからさ。」

 

マスターが優しい笑みをむけてくれる。

 

やばい・・・この人本当にイケメンだ・・・

 

「本当に・・・ありがとうございました!」

 

お礼とお代を置いて店を出る。

 

店を出た途端、見たことある人達に出会った。

 

「あら!奏多じゃない!」

 

「あ、そーくん!やっほー!」

 

「あーちょっと二人とも走らないでよ!あ、九条先輩、どうもです。」

 

弦巻さん、北沢さん、奥沢さんの3人。

 

ハロー、ハッピーワールド!の方々だ。

 

「皆さんこんにちは。」

 

「奏多、ハロハピに来てくれる気になったかしら!」

 

「ちょっとこころ、いい加減しつこい!すみません九条先輩、うちのこころが迷惑かけて・・・」

 

奥沢さんが必死に謝る。

 

・・・さっきマスターに言われたこと、試す機会かもしれない。

 

「・・・1週間。」

 

「・・・へ?」

 

「い、1週間だけ、僕をハロハピのメンバーにしてくれませんか?」

 

「もちろん!大歓迎よ!」

 

「わーい!そーくんがハロハピになったー!」

 

弦巻さんと北沢さんがめちゃくちゃ喜ぶ。

 

そんな中、奥沢さんは固まっていた。

 

「・・・奥沢さん?」

 

「・・・え」

 

「・・・あの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その叫びは商店街中に響き渡った。




次回、『キミがいなくちゃ!』


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76話 キミがいなくちゃ!

次のイベントが蘭と聞いてめちゃくちゃやる気な隠神カムイです(燐子の次に蘭推し)

しかし誕生日にイベントの顔って・・・蘭運営に愛されすぎだろ・・・

明日書くかは少し考えます。

ということで今回はさっきまでの話題のAfterglowではなくハロハピメインです。

まぁ、タイトルでわかる通り2章なのですが無灰の場合Roseliaの2章が時系列的に1番最後(ハロハピのラストと少し被るぐらい)にしています。

まぁ、バンドリ本編でその辺の大まかな時系列語られてないのでこうさせてもらいました。

ということで本編どうぞ!


「い、1週間だけ、僕をハロハピのメンバーにしてくれませんか?」

 

「もちろん!大歓迎よ!」

 

考えることも無く弦巻さんはそう言った。

 

やはり彼女ならこういうと思っていた。

 

その事に対して北沢さんはとても喜んでいたが奥沢さんは驚きの声を上げていた。

 

「そ、そんなに驚くことです?」

 

「当たり前ですよ!確かに九条先輩がハロハピに入ってくれたらまともな人が増えて三バカを抑えられるかなって思ったこともありますけど!そんなことよりRoseliaはどうするんですか?2バンドのマネージャーをやるのはしんどいって言ったのあなたでしょ?!」

 

一気にまくしたてられ、少し引いてしまった。

 

しかし奥沢さんの言うことも確かである。

 

「Roseliaに関しては・・・また後で話させてもらいます。それに1度他のバンドのマネージャーをすることで今の僕に何が必要なのか掴めるような気がしたんです。」

 

そう言うと奥沢さんは「むぅ・・・」と顔を顰めながらも諦めたようにため息をついた。

 

「はぁ・・・そこまで言われては仕方ないですね。その代わりあとでRoseliaについて明日、あたしと花音さんの前でしっかり話してもらいますから。」

 

「明日どこで練習を?」

 

「そうよ!私の家に集まってハロハピみんなで練習するの!ミッシェルもあとから来るって言ってたわ!」

 

「今の時期のミッシェルはモコモコで暖かいんだ〜!」

 

その事で練習風景を察することが出来た。

 

奥沢さんも大変だ。

 

「お、奥沢さんも・・・大変ですね・・・」

 

「あはは・・・もう慣れましたんで・・・」

 

この先の練習がRoseliaよりかはハードでないことを祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで弦巻邸に到着し、とりあえずハロハピの演奏を聞いてみることにした。

 

聞いた話によると明日『花咲川スマイル遊園地』という所で盛大にパレードを行うらしい。

 

花咲川に住み始めてそろそろ1年になるのに全く知らないその場所は閉園間近の遊園地でその遊園地に笑顔を取り戻すためにそこでライブをするなど試行錯誤し、最終的に盛大にイベントを行うことになったそうだ。

 

そこにある遊具全て直した弦巻家の財力と黒服さんの腕には驚かされるがそれ以前にそこまで思い立った弦巻さんの凄さである。

 

本当に真似できない。

 

「お待たせしましたーミッシェル入りまーす。」

 

着替えを終えた奥沢さんことミッシェルが弦巻家スタジオに入る。

 

これでハロー、ハッピーワールド!の5人が揃った。

 

「九条くんにはもう渡してあると思うけど、明日私達はそのセットリストで演奏するからサポートよろしくね。」

 

松原さんに言われたセットリストを見る。

 

これは弦巻邸に着いた途端黒服さんに渡されたものだ。

 

おそらく商店街でのやり取りを見ていたのだろう。

 

「あ、1曲目から新曲なんですね。」

 

「そうさ、その曲にはこの遊園地を彩るための全てが込められている。その時の楽しさ、嬉しさ、儚さの全てが込められている・・・あぁ、儚い!」

 

「ご、ご説明どうも・・・」

 

正直未だに瀬田さんの儚いの基準がわからない。

 

とりあえずこの曲がいい曲だということはだいたい分かった。

 

「それじゃあ始めるわ!『キミがいなくちゃ!』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサside

 

紗夜との『Roselia復帰作戦(仮)』が開始してからとりあえず一日が経った。

 

いつもの練習日にCIRCLEに来ても私と紗夜の二人しかいない。

 

友希那は今日、元から予定が入っていたらしく来ることは出来ない。

 

燐子とあこは昨日から適当なことは返してくれるものの練習のことになると濁されてしまう。

 

なので来ないのではないかと思ったら案の定来ることは無かった。

 

おそらくソータも似たようなものだろう。

 

連絡しても返事はないしバイトもソータは今週シフトが入っていないので確認をとることが出来ない。

 

ということで今日はベースとギターのみでの練習である。

 

紗夜が言うなり「おそらく今の私たちに出来ることはバラバラになったRoseliaを元に戻すことと己の技量をあげるのみ」だそうだ。

 

確かにRoseliaの中ではアタシが一番下手なので一番技量を磨かなければならない。

 

紗夜の言うことは最もだ。

 

SMSでの3曲とその他にDetermination SymphonyとLOUDERのハイテンポな2曲をやって休憩を入れた。

 

「ふぅ・・・疲れたぁ。」

 

「今井さん、お疲れ様です。この前よりミスがかなり少なくなっていると思います。」

 

「ありがとう紗夜。でもまだミスはいっぱい残ってたからもっとミスを無くさないと・・・!」

 

「あまり焦らずに一つ一つしっかりやりましょう。焦ってしまってはいい演奏も出来なくなりますよ?」

 

紗夜がそう言った。

 

確かに今焦ってしまえばSMSの二の舞だ、冷静にならなければ・・・

 

「ところで今井さん、あの3人とは連絡が取れたんですか?」

 

「あー、あこと燐子はちょくちょく返信してくれるけど練習のこととなると言葉濁しちゃうんだよね・・・ソータに至ってはまるでダメ。 連絡つかないしバイトもソータ、今週シフトが入っていないから話すこと出来ないんだ・・・」

 

「九条さんのことです、どこかで自分の答えを見つけているのでしょう。」

 

ソータならきっと自分の答えを探しているのだろう。

 

茂樹さんによれば『根がめちゃくちゃ優しすぎて怒るのにむいてない。もし怒ったとしても数分後にやりすぎたと自分を責めるタイプ』らしいので昨日もそんな感じだったのだろう。

 

それから考えるとソータはこの前自分が怒りすぎてRoseliaに帰りにくくなったと考えているはずだ。

 

相変わらず他人第一な人だ。

 

それでもソータは他人の幸福が自分の幸福みたいに楽しそうに笑っていた。

 

そこまで来てアタシはあることに気づいた。

 

昔のソータと今のソータ、何が違うのかを。

 

「・・・今井さん?」

 

「紗夜・・・多分だけどさ、ソータが音聴けなくなった原因かはわからないけどそれっぽいものを見つけたかも。」

 

「それは・・・?」

 

「今のソータってさ、SMSの時から・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

『キミがいなくちゃ!』、『ゴーカ!ごーかい!?ファントムシーフ!』、『えがおのオーケストラ』とハロハピの新曲から定番曲まであらかた聴き終えた。

 

しかし、結果からしてこの前と変わらずに音を聴き取れなかった。

 

Roseliaとハロハピはテーマも雰囲気も全く違う。

 

だからもしかしたらほかの音を聴けばなんとかなるのかと思っていたのだがどうやら無意味だったらしい。

 

「どうしてだ・・・何が違う・・・?」

 

「そーくん?どうかしたの?」

 

「あ、いえ・・・なんでも・・・」

 

変に気を使わせては明日が本番のハロハピのメンバーに悪い。

 

ここは平然を装わなければ・・・

 

すると弦巻さんは不思議そうな顔をした。

 

「ん〜・・・ねぇ奏多、なにかあったの?」

 

「え、いや別に。特にはないです・・・」

 

「だったらなんで・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「笑ってる所見た事ないんだよね」

『笑っていないのかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弦巻さん(今井さん)がそう言った。

 

「笑っていない・・・ですか?」

 

「ええ、さっきからなんか難しい顔しているわ!」

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

「笑っていないですか?」

 

「うん、SMSの後からソータが練習中に笑ってるところ見た事ないなって。いつもなら練習中に真剣に聴きながらも口ずさんだりリズムをとったりしてたけどそれがこっちから見てると全くなかったしずっと厳しい顔してた。だからもしかしたらって・・・」

 

「確かに楽しむことは大事ですが・・・」

 

紗夜が少し考え込む。

 

しかしソータが笑わなくなったのは何もSMSだけが原因では無い。

 

「考えてみて、ソータはSMSの前にお父さんのお葬式に行っていたから笑う機会なんてなかったんだよ。その後にこのことが起きたからどんな音も楽しめないから聴くことができないんだと思う。」

 

「なるほど・・・」

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

今考えれば確かに笑っていなかった。

 

そもそも親父の葬式やSMSでの出来事、その後の練習で笑うことなんてできなかった。

 

『楽しめないからどの音も響かない』だから最近音を聴けなくなったのだろう。

 

「笑うためにはどうすれば・・・」

 

「そんなの、簡単じゃないか!」

 

瀬田さんが前に出て肩を叩いた。

 

「え・・・?」

 

「だってはぐみ達はみんなの笑顔のために活動してるんだよ?そーくんだって笑えるよ!」

 

「みんなが笑顔になれるためにバンドをする。これが私たちの中で1番の活動内容ですから。」

 

「九条くんが元気なさそうなら私たちの音楽で元気づけてあげるから!」

 

「だから笑って!奏多!」

 

弦巻さんが満面の笑みで手を差し伸べた。

 

そのことに少し呆然としたが、思わず込み上げるものもあった。

 

「・・・ふふっ、弦巻さん、あなたは僕を面白い人って言ったよね。」

 

「そうよ!あなたは面白そうな人だもの!」

 

「僕にとってはあなたの方が面白いよ。だって今こうして笑えているんだから!」

 

今の僕にとって1番程遠かったものが今こうして戻ってきた。

 

このことが後にどうなって行くのか、まだ予測できなかった。




次回、『燃えるScarlet』


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77話 燃えるScarlet

CoCo壱でカレー食べてきた隠神カムイです。

見事1発で燐子のクリアファイルを引き当てました!
(なお、食べたのは巴さんおすすめのカツカレー)

だって、部活終わりだったし・・・燐子のカレーだと絶対足りないし・・・

もう一度行く予定なのでその時は注文すると思います!


そして来ちゃいましたね、燐子イベ。

蘭イベでライフブースト枯渇しかけですが根性入れて頑張ります。

なお、ガチャは虹演出からの初期星四のおたえが来ました。

・・・なんでさぁぁぁぁぁぁぁぁ!(ポピバ累計9人目)

これで残すはチョココロネ先輩だけに・・・


長々と話すのもあれなんで本編どうぞ。


「笑って、奏多!」

 

弦巻さん・・・いや、こころにそう言われて僕はハロハピの演奏をただ集中して聴くのではなく楽しんで聴くことにしてみた。

 

ハロハピの皆にもう一度『キミがいなくちゃ!』を演奏してもらう。

 

するとだんだんそれぞれの奏でる音がわかってきたような気がした。

 

前みたいにしっかりとはわからない。

 

けど確実に僕の才能が戻ってきている感触はあった。

 

そして練習後、こころ達(奥沢さんが言う三バカの3人)は音合わせをすると言って練習場に残り、僕と奥沢さんと松原さんは別室に来ていた。

 

約束通りRoseliaの今の状態を話すためである。

 

僕は今のRoseliaを2人に話した。

 

2人はもちろん深刻な顔をしていた。

 

「・・・そっか、そんなことがあったんだ。」

 

「なんかすみません・・・そんな話を話させちゃって・・・」

 

「いえ、多分これはRoseliaだけじゃまとめきれない問題になってきてる可能性もあります。実際にあなた達のおかげで僕は音を聴く感覚が戻ってきている感触はありましたし。」

 

ハロハピのみんなのおかげで才能が戻ってきつつあるのは事実だ。

 

だから多分この問題はRoseliaだけで抱え込むのは無理に等しいと思った。

 

「確かに他の人が言った一言で何かが変わるって言いますけど・・・」

 

「完全には戻り切ってない・・・んだよね。」

 

「お恥ずかしながら・・・すみません、せっかくマネージメントを引き受けたのに。」

 

僕が基本Roseliaでやっている仕事はハロハピでは黒服さん達が担当している。

 

こっちは高校生に対してあちらは大人でなんでも出来るプロ集団だ、僕が行ったところで効率低下に過ぎない。

 

ならば黒服さん達には出来ない事としては音を聴くことぐらいなのだがそれも今完全には使えない。

 

一体どうすれば・・・

 

「話は聞かせてもらったよ!」

 

声のするほうに向くと扉に持たれる感じにたっている瀬田さんがいた。

 

「か、薫さん?」

 

「奏多、君の、Roseliaの悩みは全て聞かせてもらった。君はその悩みを他の人に話して助けてもらうっていう儚い判断をした。それは正しいことだ。」

 

「は、はい・・・」

 

正直『儚い』の使うタイミングが微妙にズレているような気がするがそこはスルーしておく。

 

すると瀬田さんは口元は笑顔のまま、真面目な目をしてこう言った。

 

 

 

 

 

「だからこそ、君はここにいては行けない。」

 

 

 

 

 

 

「は、はい?!」

 

「ちょっと薫さん!?散々九条先輩をこころと一緒に勧誘しようとしといていざ入ったらお払い箱っておかしくない!?」

 

奥沢さんが慌てて瀬田さんを問い詰める。

 

しかし瀬田さんはその話を聞いた上で話を続けた。

 

「奏多がハロハピに入って欲しいのは変わらないさ。けど今の彼はそんなことをしている暇はない。『バンド分裂の危機』・・・までとは行かなかったけど美咲、君にもこの間そういったことがあったんじゃないかい?」

 

「うぐっ・・・」

 

奥沢さんが口を閉ざす。

 

ハロハピにも何かあったのだろうか。

 

「何か・・・あったんです?」

 

「実は美咲ちゃん、ハロハピにいる意味ってことがわからなくなっちゃって、バンドから離れそうになっちゃったんだ・・・その後色々あって自分のいる意味を見つけて、その集大成として今度の遊園地ライブなんだ。」

 

「ちょっと花音さん・・・恥ずかしい・・・」

 

奥沢さんが顔をあからめる。

 

普段そんなことがなさそうなハロハピもこう言ったことがあったのか・・・

 

「君も思っていると思うけど普段そんな喧嘩とか悩みとかが少ない私たちでもこういったことは起こるんだ。それでもみんなで、人の力を借りてでもこうしてまた集まってバンドを続けている。これは私たちだけではないよ、Poppin’Partyも、Afterglowも、Pastel*Paletteも経験している。今回はたまたま君たちがそれを経験するのが遅かっただけさ。」

 

「他のバンドも・・・」

 

正直以外だった。

 

仲間である以上、意見のぶつかり合いぐらいはあるだろうとは予測していたがまさかどのバンドも散り散りになりかけたのは全く持って予想外だった。

 

「そうさ、だからこそ君は()()()()()()()()()()()()()()。他のバンドも見て、仲間ともう一度確認して、他のバンドより大きく成長できる権利が君たちにはあるんだ。君たちRoseliaは正直なところ、私たちより技術も雰囲気も上だ。だからこそ私たちはその背中を追っていける、その背中を目指して上がって行ける。だから私はRoseliaに()()()()()()()()()()()()んだ。」

 

瀬田さん・・・いや、薫さんが肩を叩く。

 

どおりで上原さんや牛込さんが惚れる訳だ。

 

この人は見た目だけではなく心の芯から美しいのだ。

 

「瀬田さん・・・いえ、薫さん。その、ありがとうございます。」

 

「私もついに下の名前で呼んでくれたか。話は聞いているよ、君は心を開いた人にしか下の名前で呼ばないってね。」

 

「だ、誰情報だ・・・それ・・・」

 

犯人が気になるが今は犯人探しをしている暇はない。

 

今は大人しく薫さんの言うことに従った方が良さそうだ。

 

「こころやはぐみには私から言っておくよ。君は、君の信じる方へ進むといい。」

 

「・・・すみません、それとありがとう!」

 

僕は弦巻邸を後にした。(もちろん案内はつけてもらった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・しかし、出てきたはいいとしてどう他のバンドに話せばいいのだろうか。

 

悩んで歩いていると、いつの間にか変な道に出る。

 

このままでは迷ってしまいそうだ。

 

「・・・1度引き返すか。」

 

その道を引き返そうとした時、聞き覚えのある声がした。

 

「・・・っと・・・いて・・・・・・とおり・・・」

 

「この声・・・美竹さん?」

 

この声は恐らく美竹さんのものだろう。

 

しかしどことなく嫌がっているような声だ。

 

「・・・行ってみるか。」

 

とりあえず声のする方に駆け寄ってみる。

 

そこは路地裏近くだった。

 

そしてそこに美竹さんともう1人ガラの悪い男の人が。

 

「な、いいじゃんか!ちょっとそこでお茶しよって!」

 

「別にする気もないし興味もないです。早くどいてください。」

 

「興味無いこともないって!絶対楽しいって!君も不良ならわかるだろ?」

 

「不良じゃないですし。」

 

「ならなんで高校生が赤メッシュなんて入れてんだよ!」

 

「これは・・・」

 

これはどう見てもナンパである。

 

まさか今の時代こんな昼間にナンパをする奴がいるなんて思わなかった。

 

とにかく止めに入った方がいいだろう。

 

「嫌がってるじゃないですか、辞めましょうよ。」

 

「あ?なんだお前?」

 

「・・・!九条さん!」

 

美竹さんがこちらに気づいて後ろに隠れる。

 

普段は気が強い美竹さんも、さすがに1人は怖かったのか少し小さくなっていた。

 

「あぁ?お前この子の彼氏か何かか?」

 

「・・・いや、ただのバンド仲間だ。」

 

「バンド仲間のくせにしゃしゃり出るんじゃねえよ!痛い目合わせんぞ!」

 

男が襟を掴んで引き寄せる。

 

その衝撃で第二ボタンが外れた。

 

「全く、影薄いくせしてイキるんじゃねぇ・・・つうの・・・」

 

男が少し引いたような顔をする。

 

その目線は襟元より下、僕の体の傷を見たようだ。

 

ここで僕は一か八かの賭けに出た。

 

「・・・か、数はこなしてきたつもりですが?」

 

すると男は襟を離して、後ずさりした。

 

「普通そんな傷つくはずねぇし・・・こいつマジモンかよ!くそっ!引き下がってやるよ!覚えてやがれっ!」

 

そう言って逃げるようにどこかに行った。

 

どこかへ行ったのを確認すると僕はへたり込んだ。

 

「ふ、ふぅ・・・こ、怖かったぁ・・・」

 

「それ、こっちのセリフなんですけど・・・」

 

美竹さんが苦笑する。

 

それもそうだろう、さっきまで変なやつに絡まれていたのだから。

 

「あ、あはは・・・」

 

「とにかく、ありがとうございます。おかげで助かりました。」

 

美竹さんが律儀に頭を下げる。

 

そこで僕は思った。

 

これ・・・Roseliaのこと話すチャンスじゃね?

 

「あの、美竹さん。相談に乗って欲しいことがあるんですけど・・・この後時間ありますか?」

 

「・・・?ええ、さっきバイトも終わったところでつぐみん家のコーヒーでも飲もうかって・・・あたしでよければ構いません。」

 

「すみません、ありがとうございます。」

 

そうして僕は美竹さんとともに羽沢珈琲店に向かった。

 

 

 

 

 

……To be continued




次回『燐子の悩み』


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78話 燐子の悩み

投稿時間がめちゃくちゃ遅れつつある隠神カムイです。

今回は燐子目線となります。

前書きは短めにしますので本編どうぞ!


「だって・・・誰も・・・みんなの音、聴いてないから・・・っ!!」

 

あこちゃんに対する友希那の対応に思わず大きな声を出して出ていってしまった。

 

流れ出る涙をそのままにスタジオを出て道の真ん中で立ち止まる。

 

涙を抑えて1度冷静になる。

 

「うぅ・・・あんなこと・・・言っちゃった・・・」

 

あんなことを言ってしまってはスタジオに戻りにくい。

 

それにあの様子では戻ったところで変わらないし、あこちゃんもしばらくは練習に参加しないだろう。

 

それにあこちゃんのことだ、家に帰って自室でこもっている可能性が高い。

 

「1度帰って・・・反省しよう・・・」

 

1度落ち着いてから見直した方がいいかもしれない。

 

私は1人自宅へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に着くと私はベッドに顔をうずめた。

 

「はぁ・・・何やってるんだろ・・・」

 

いつもならこんなこと家の中で呟かないが今日は両親がいないので呟いた。

 

両親は会社の都合で三日前に名古屋へ向かった。

 

聞くところによると3週間は帰って来れないそうだ。

 

なのでしばらくは1人で何とかしなければならないのだが今日に限っては1人でよかった。

 

なんだかんだ両親には心配を掛けさせてばかりだ。

 

なのでこういった1番心配かけそうな時にいなくて助かったのだが誰かにこの気持ちを話したいという気持ちもある。

 

「あこちゃん・・・繋がるかな・・・?」

 

体を起こして椅子に座る。

 

するとちょうどあこちゃんからメールが来ていた。

 

私が『今家に居るからボイスチャットで話したい。』と送るとすぐに返ってきてボイスチャットを開けた。

 

『もしもし、りんりん・・・?』

 

「うん、聞こえてるよ・・・あこちゃん。」

 

やはりあこちゃんの声に元気がない。

 

私も繋げたはいいが、どう話せばいいのかわからなくなり、つまる。

 

「『はぁ〜・・・』」

 

ため息をつくと、ちょうどあこちゃんと被った。

 

『あっ・・・』

 

「被っちゃった、ね・・・」

 

するとその事が引き金となったのかあこちゃんが話し出した。

 

『今日のあこ、最低最悪だったと思う・・・急に大きい声出したり、飛び出して行ったりして・・・何やってるんだろ・・・』

 

「それは・・・私も同じだよ・・・」

 

『えっ・・・りんりんも?』

 

あこちゃんが驚いた声を上げる。

 

普段の私を知っているあこちゃんは普通私がそんな事しないことを知っている。

 

「あこちゃんが飛び出していった後・・・私も・・・つい、大きな声を出して・・・出て行っちゃったの。」

 

『りんりん、そんなことしたんだ・・・』

 

「はぁ・・・反省、しなくちゃ・・・」

 

『でもね、今日のRoseliaはなんか変だったと思う。友希那さん、どうして急にあんな厳しくなっちゃったのかな・・・』

 

あこちゃんが悩んだ声を上げる。

 

私はあこちゃんに今の私の考えを話した。

 

「あこちゃんがね、『こんなのRoseliaじゃない!』って言った時に思ったの・・・Roseliaって、なんだろう?って。」

 

するとあこちゃんはたてまくるように発言した。

 

『Roseliaは超、超、超かっこいいバンドだもん!!!だからね、SMSでお客さんが帰っちゃった時、すごく悔しかった!こんなにかっこいいバンドなのにどうして聴いてくれないの?って。』

 

「・・・友希那さんや、みんなも・・・同じこと、考えているのかな・・・?」

 

『どうして聴いてくれないのかなって?』

 

「ううん、そうじゃなくて・・・SMSの結果・・・みんなはどういう風に受け止めてるのかな、って・・・SMSの後の練習・・・空気が違っただけじゃなくて・・・演奏も違う風に聴こえたんだ。」

 

キーボードという立ち位置の関係上、みんなの背中がよく見えて、音も聴こえる。

 

なので奏多くんまでとはいかないが、私にも多少の聴き分けぐらいできる。

 

『それって、うまく演奏できなかったからかな・・・』

 

「それもあるかもしれないけど・・・なんだか・・・みんなが違ったこと考えているような感じに聴こえて・・・私達・・・FURTHER WOULD FES.っていう大きな目標はあるけど・・・それだけで・・・本当に同じ方向を向いているのかな・・・」

 

今のところ1番大きな悩みをあこちゃんに話す。

 

あこちゃんは『うーん・・・』と唸ったあと、自分の考えを話した。

 

『あこ、そういった難しい話はまだわからないよ。でも、りんりんの言いたいことはわかるし、SMSでみんながどう感じたのかっていうのも全部って訳じゃないけどわかる。みんな、絶対絶対ぜーったい悔しいって思ってると思う!・・・でも、それぞれが自分の気持ちを話せてないからみんなバラバラになっちゃったって、あこは思う。』

 

あこちゃんが、あこちゃんなりの解釈でそう話した。

 

確かにあの後ろくに反省会もしていない。

 

「自分考えを話す・・・か・・・」

 

『うん、でもさ・・・あんな出て行き方したら・・・』

 

「行きにくい・・・よね・・・」

 

やろうとしても、そのことが原因でとても行きにくい。

 

そして少しの沈黙の後、あこちゃんが話し出した。

 

『・・・あこ、もうちょっとだけ考えてみる。自分に何が足らなくて、何が必要なのかって。』

 

「・・・うん、私も・・・少し考えてみるよ。」

 

『うん、それじゃあね、りんりん。』

 

ボイスチャットが切断されて、また一人に戻る。

 

私は椅子に深くもたれかけた。

 

「自分の気持ちを伝える・・・か・・・」

 

それは私にとって1番難しいことだ。

 

そもそも話すことが苦手な私はそういった自分の気持ちを伝えることができない。

 

Roseliaや、他のみんなと出会ってからは徐々に良くはなってきているが、苦手なことには変わりない。

 

昔、ピアノの先生に「ピアノは音で自分の気持ちを伝えられる」と言われたが、今のRoseliaに私の音は届きにくいと思う。

 

「どうすれば・・・いいんだろう・・・」

 

私はそのことについてずっと悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日になっても改善策は見つからなかった。

 

時折、今井さんからチャットは来るのだが雑談ならまだしも練習の話となるとどうしても濁してしまう。

 

今日の練習も行きにくいので初めてサボってしまった。

 

良心がチクリと痛むが今行っても練習にすらならないだろう。

 

適当に時間が過ぎて、昼過ぎ。

 

「・・・外に出よう。」

 

気分転換に軽く外に出てみることにした。

 

 

 

 

 

軽く散歩してある公園のベンチに腰を下ろす。

 

この先のことを考えていると頭がぼーっとしてきた。

 

「・・・あれ、燐子?」

 

聞きなれた声がするのでそちらを向くと今井さんがいた。

 

「今井・・・さん・・・?」

 

「よかった〜今日練習来なかったから心配したよ〜!」

 

「すみません・・・その・・・昨日のあれで・・・行きづらくて・・・」

 

「そりゃそうだよね・・・でも、これだけは聞いて欲しいことがあるんだけどさ・・・」

 

「聞いて欲しいこと?」

 

「うん、あこと燐子が出て行った後、実はソータも出て行っちゃったんだ。それもかなり怒って。」

 

「奏多くんが・・・怒った?!」

 

信じられないことだった。

 

あの奏多くんが怒るなんてよっぽどの事がない限りありえない。

 

「びっくりだよね、今まで練習や日常で怒ったところを見たことがなかったからアタシと紗夜は驚いちゃってさ。その後友希那と口喧嘩して負けて出て行っちゃったんだ。」

 

「あ、あはは・・・」

 

口喧嘩で負けるところも奏多くんらしい。

 

彼は根が優しすぎるせいで喧嘩や荒事にはとことん向いてない。

 

「それでさ、友希那が『音も聴こえないクセに偉そうな口を叩くな』って言ったんだけど・・・」

 

「音が聴こえない・・・ですか?」

 

「うん、多分それってソータの才能のこと指しているんだと思うけど多分それの原因が・・・」

 

「笑ってない・・・ですか?」

 

「う、うん・・・なんでわかったの?」

 

今井さんが驚いた声を上げる。

 

別に話さない理由もないので話す。

 

「私からだと・・・みんなの背中と奏多くんの顔がよく見えるんです・・・それでSMSの練習の後から彼の様子を見てもずっと難しい顔をしてて・・・」

 

「そっか・・・確かにキーボードの立ち位置だと周り良く見えるよね。でもさ、なんでソータはアタシ達に音が聴こえなくなったこと話さなかったのかな・・・もしかしてまだ信用されきってない・・・?」

 

今井さんの心配を私は否定した。

 

「そんなことないと思います・・・彼、自分の問題は自分で解決させようとする癖があって・・・多分私たちに話さなかったのは信用していないんじゃなくて・・・自分の問題に巻き込みたくなかったからなんだと思います。」

 

「確かにそうだね。この前も自分のことを溜め込みすぎてあんなことが起こったし・・・懲りないよね・・・」

 

「奏多くんはそういう所・・・変に頑固ですから・・・」

 

今井さんが苦笑する。

 

すると思い出したかのように話した。

 

「そうだ、昨日から奏多と連絡取れないんだけど燐子から連絡取ることできるかな?多分1番信用している燐子からなら出るかもしれないし。」

 

「は、はい・・・ちょっと待ってください・・・」

 

スマホを取り出して奏多くんに電話をかける。

 

しかし、スマホは『この携帯は電源が入っていないか、電波の届かない・・・』と、言った。

 

「ダメです・・・どうやら電源を落としているみたいで・・・」

 

「そっか・・・って、こんな時間か。アタシはこの後バイトあるから連絡繋がったら教えて!」

 

今井さんがその場を立ち去った。

 

私は公園のベンチに座りっぱなしだった。

 

「・・・奏多くんに・・・会いたいな・・・」

 

気づけばそう呟いていた。

 

 

 

 

 

……To be continued




次回、『ツナグ、ソラモヨウ』


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79話 ツナグ、ソラモヨウ

前書きを書き忘れて、次の日に急いで書いてる隠神カムイです。
見直しはしっかりしましょう()

校外学習にて京都に行ってきたんですが鉄道博物館が楽しすぎて帰りの電車でグロッキーに・・・体調管理はしっかりしないと・・・

ということで話すことそれぐらいなので本編どうぞ


燐子とリサが話していた頃、僕は美竹さんと羽沢珈琲店に来ていた。

 

扉を開ける時になる「カラン」の音と羽沢さんの元気な声が聞こえた。

 

「いらっしゃいませー!あれ、蘭ちゃんに九条さん?珍しい組み合わせだね。」

 

「こんにちは、羽沢さん。」

 

「確かに珍しいかな、ちょっとさっきトラブルに巻き込まれたのを助けてもらったんだ。」

 

さっきのことをめちゃくちゃ簡潔にまとめる。

 

それでも羽沢さんは慌てた。

 

「と、トラブル?!大丈夫、怪我とかしてない!?」

 

「つぐみ・・・慌てすぎだよ。」

 

「お、つぐがつぐってる〜」

 

聞きなれた声が聞こえた。

 

店の奥を見るとそこにはモカがいた。

 

「モカ、いたんなら声掛けてもよかったじゃん。」

 

「いやいや〜蘭と奏多さんの大切な時間にお邪魔しちゃ悪いし〜」

 

「も、モカ!そんなんじゃないから!第一、九条さんには燐子さんがいるじゃん!」

 

「み、美竹さん!?」

 

「おお〜蘭顔赤くなってる〜」

 

「これだけ大きい声だしたら顔も赤くなるよ!」

 

「ちょっと蘭ちゃん落ち着いて!ここ店の中!」

 

モカが煽って慌てるメンバーを羽沢さんが抑える。

 

確か巴さんが「これもAfterglowのいつも通りですよ!」と言っていたような気がする。

 

羽沢さんの必死の静止により、なんとか落ち着きを取り戻した美竹さんは息を整えたあと羽沢さんに話しかけた。

 

「・・・ありがとう、つぐみ、落ち着いた。あと、コーヒー2つお願い。」

 

「うん、わかった。」

 

羽沢さんが店の奥に行った。

 

美竹さんは僕に話しかけた。

 

「それで、相談ってなんですか?普段あまり交流のないあたしに何か出来るとは思えないんですけど・・・」

 

「美竹さん、ココ最近でバンドがバラバラになりかけたことってありませんでした?」

 

「「!!」」

 

美竹さんだけでなくモカまで驚きの顔を見せた。

 

「・・・はい、確かにありました。でも九条さん、なんでそんなこと聞くんですか?」

 

「立ってもなんですし、座りましょうか。これはモカにも聞いて欲しい。」

 

「・・・はい、わかりました。」

 

僕と美竹さんが向かい合うように座り、モカが美竹さんの隣に座った。

 

「実は・・・」

 

僕は今のRoseliaの状態とその原因となったこと、そして今バラバラになりかけていることを話した。

 

「・・・そんなことが・・・湊さんらしくないですね。」

 

「それで、ハロハピの薫さんにPoppin’Party、Afterglow、Pastel*Palette、そして自分達も1度こういったことになりかけた。だからそのバンドの今を見てこいって言われたんです。」

 

「今さっきまでバイトでリサさんと同じだったんですけど〜なんか悩んでいる感じはしていました〜・・・」

 

「そっか、リサが・・・」

 

今思えばリサや紗夜にまで迷惑をかけている。

 

今度謝りに行かなければならない。

 

「・・・あたし達は、なんて言うか・・・元々このバンドはあたし1人だけ違うクラスになって、それでもいつでも一緒にいれるようにバンドやろう!って、つぐみが提案したのがきっかけなんです。」

 

「それでみんなで1から練習して、色々あったけどみんなそれぞれ成長して、それで気がついたらあたし達と蘭の距離がどんどん離れていたんです。あたし達が置いていかれて、蘭だけ先に進んじゃって、そこから、蘭の歌詞に対する認識のズレがあたし達をバラバラにしかけて・・・そこからまた屋上でみんなの思いを再認識して、歌唱を一からみんなで作り上げてって感じでしたね〜」

 

モカが平然とそう言った。

 

Afterglowが幼なじみで出来たバンドなのは知っていたし、メンバー全員が仲が良いのも知っている。

 

でも、そんな彼女らでもここまですれ違ってしまうことに驚きを隠せなかった。

 

「仲のいい皆さんがここまですれ違ってしまったなんて・・・正直驚きました。」

 

「仲が良くても喧嘩とかいざこざは日常茶飯事ですよ。でも、それがあたし達の『いつも通り』なんです。」

 

「蘭が先に行ってもあたし達はすぐに追いつこうとしなくていい、蘭の背中を信じてついて行って、いつか追いつけばいいってみんなで思ったんです。」

 

先に行ってしまった美竹さんの目線と置いていかれてしまったモカ達の目線、それぞれの目線からの思いを聞いて彼女達の絆の強さを改めて思い知った。

 

「・・・Afterglowは凄いですね、こっちはすれ違いが大きすぎるって言うか・・・なんて言うか・・・」

 

「同じですよ。」

 

「・・・え?」

 

「Roseliaの絆もAfterglowと同じぐらい強いはずです。そう簡単に切れるものじゃないはず。逆に、絆が強いから自分の思ったことをぶつけられるんだと思います・・・まぁ、今回の湊さんは少し様子がおかしいとは思いますけど。」

 

美竹さんがさっきの話の結論みたいなことを言った。

 

その言葉は大切なことであって、今のRoseliaには眩しすぎるものでもあった。

 

「・・・ねぇ、蘭。百聞は一見にしかずって言うしさ〜今みんなを集めて聞いてもらおうよ、『ツナグ、ソラモヨウ』。」

 

「え、マジで言ってる?」

 

「マジのマジ、大マジだよ〜どうせこの後CIRCLEでみんなで練習するしお客さんいた方がいいかもよ〜?それに奏多さんなら悪い点とか教えてくれるかもね〜」

 

「いまは、その才能があまり上手く働いてないんですけどね。出来れば聴かせてください。」

 

「・・・わかりました、それじゃああたし達についてきてください。」

 

「つぐ〜お勘定と今からCIRCLE行くよ〜」

 

「うん、わかった〜」

 

羽沢さんがエプロンを置いてレジの方に向かう。

 

僕はモカが持っている伝票を奪い取った。

 

「ここは僕が払います。」

 

「おお〜奏多さん太っ腹〜」

 

「そんな、悪いですよ!」

 

「いえ、さっきの話のお礼とこれから曲を聴かせてくれるお礼として払わせてください。」

 

僕が支払ったあと、羽沢さんを連れてCIRCLEへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CIRCLEに到着すると既に上原さんと巴さんが音を合わせていた。

 

「お、きたきた!って九条さん?!」

 

「ね、ねぇ蘭?!なんで九条さんがここに?」

 

「あー・・・ちょっと色々あって。」

 

美竹さんがこっちを見てきた。

 

恐らくさっきのことを話していいのかアイコンタクトで聞いてきているのだろう。

 

「・・・大丈夫ですよ、話してください。」

 

「わかりました、実は・・・」

 

美竹さんはさっきのことを説明した。

 

すると巴さんは思い当たるような顔をした。

 

「なるほど・・・だからあこが最近元気なかったわけだ・・・」

 

「あこ、今どうしていますか?」

 

「昨日、突然帰ってきたかと思ったら部屋に閉じこもっちゃって・・・あたしが話しかけても元気ないって言うか・・・さっき軽く様子見に行ったらネトゲしているようでした。」

 

あこのやるネトゲは基本NFOなので、あこに対してはそっちで話した方がいいだろう。

 

とりあえず今はAfterglowの成果の結果が見たい。

 

すると突然ドアが開いた。

 

「モカ〜用事って何?・・・ってソータ!」

 

「リサ?!」

 

正体はリサだった。

 

しかし何故リサがAfterglowの練習の場に?

 

「ふっふっふ〜実はモカちゃんが呼んでいたのだ〜」

 

「モカ、用事があるって言うから駆けつけたけど・・・ありがとう。」

 

リサがモカに感謝を述べる。

 

とにかくリサに昨日のことを謝らないと。

 

「リサ・・・その・・・ごめん、突然出て行ったりして・・・」

 

「うん、そのことは気にしてないから。今の状態だと練習も行きにくいしね。」

 

「・・・でも、今は自分なりの答えをみつけようとしてる。音も、徐々に聴こえて来てる。」

 

「ソータ・・・そっか、ならばよし!」

 

リサが笑って肩を叩く。

 

それにつられて僕も笑った。

 

「とりあえずみんな、そういう事だからあたし達がまた()()()()()になった時の曲を今度はRoseliaに繋げたい。だからまずは二人に聴いてもらおう。」

 

「だな!」

 

「よし、やるぞー!」

 

「うん!」

 

「いっちょやりますか〜」

 

Afterglowがそれぞれの位置について楽器を構える。

 

「それでは聴いてください!『ツナグ、ソラモヨウ』!」

 

Afterglowが『ツナグ、ソラモヨウ』を演奏し始めた。

 

その歌詞と音は迫力があって、Afterglowの新たな()()()()()を作り出していた。

 

ーーーーあたしの背中を信じてついてきて

共に居たいと願う理由を抱いて

 

1番のサビが終わって間奏に入る。

 

そこでリサがボソッと呟いた。

 

「・・・アタシ達、Afterglowみたいにまた繋げられるかな?」

 

その問に対してすぐには答えを出せなかった。

 

でも意気込みは言えた。

 

「繋げてみせる・・・もう一度。」

 

それが今の僕の本心であった。




次回、『紗夜なりの答え』


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80話 紗夜の悩み

平成最後の投稿となる隠神カムイです。
読者の皆様、令和からも無灰こと『無色と灰色の交奏曲』をよろしくお願いします。

ちなみに燐子イベですが、何とか5000位に入り切りました!
その後単発でご褒美なのか金からの虹昇格で薫様来てくれました!
正直燐子が良かったぞちくしょう!ありがとう!

ということでNeo-Aspect編ですがようやく5分の3と言ったところ・・・
無灰史上最長のお話かと・・・
書いてて思う、長い。

ということで長ったらしいお話に付き合ってもらっている読者の皆様に感謝しつつ、本編どうぞ。


Afterglowのみんなに感謝を告げ、僕とリサはスタジオの外に出ていた。

 

本当は残ってAfterglowの練習を見る予定だったのだが、美竹・・・いや、蘭さんに断られた。

 

「九条さん・・・いや、ここはあえて奏多さんって言わせてもらいます。あなたは自分なりの答えを見つけろって瀬田さんに言われたんですよね。なら、ここにいては自分の答えを見つけられないと思います。Roseliaは・・・あたし達Afterglowみたいに幼なじみじゃないから、それぞれの深いところまで知らないと思うし・・・だから、香澄達や日菜さんたちの経験も聞いてきて欲しいんです。」

 

・・・と、こんな感じに断られたのだ。

 

こんな感じに言われては断りにくい。

 

リサも隣で「・・・こりゃ、断れないよね〜」と呟いていた。

 

ということでお言葉に甘えて(?)僕とリサは出てきたわけなのだが。

 

率直にいえばすごく気まずい。

 

なんせさんざん怒鳴り散らして逃げていったことを知っているのだ、恥ずかしいやら申し訳ないやら気持ちがこんがらがっている。

 

「なーに固くなってんの?別にあんなことで怒ったりしないって!」

 

「いや・・・だって・・・僕があんなことするの見られたし・・・我に帰ったらめちゃくちゃ恥ずかしかったし・・・もしもそれで怒って『ソータとはもう二度と関わらないから』って言われるの怖かったし・・・」

 

「乙女か!アタシは別にそんなことで縁を切りたくないし!」

 

「乙女・・・そんなに女々しいかな・・・」

 

『乙女』と言われたことに肩を落とす。

 

中性的な顔つきの関係上昔から「女っぽい」とか「女装似合いそう」とか言われてきたので古傷が痛む。

 

「ご、ごめん!まさかそんなに傷つくとは思わなくて・・・でも、燐子とかなら綺麗に女装してくれそうだけど・・・」

 

「うん、1度だけ燐子に言われた。『奏多くん、女装したら綺麗に出来そう・・・あ、でも私の心が持たないかも・・・』って。」

 

「・・・最近、燐子ってソータと付き合ってから我が出てきてるよね・・・なんか自分に正直になったって言うか・・・今日話してた時もそんな感じだった。」

 

「え、燐子と話したの!」

 

咄嗟にリサの両肩を持って揺さぶる。

 

リサは苦笑いしながら「ストップ、ストップ〜」と言っていた。

 

はっと冷静になって手を離す。

 

「ご、ごめん・・・でも、昨日は燐子と話してないから・・・」

 

「さっき電話かけたけど電源入れてなかったの?」

 

「あ、さっきまで弦巻邸にいたからかな。僕が今こうして動き回ってるのって薫さんのおかげだし。」

 

「薫が?なにがあったの?」

 

「実は・・・」

 

僕はリサに弦巻邸のことや何故Afterglowの練習にいたのかを話した。

 

リサはその話を真剣に聞いていた。

 

「・・・で、今に至るって感じかな。」

 

「そっか、ソータはソータなりにRoseliaのことを考えて行動していたんだ。」

 

「練習に行かなかったのはごめん。でも、薫さんの話を聞いていたら今やるべき事はなんだろうってすごく考えて・・・ほら、今って練習がどうこうっていう状態じゃないから、僕は僕なりの答えを見つけ出そうって思って。」

 

「それを言ってくれたらアタシだって心配せずに済んだのに・・・まぁ、それがソータらしいしね。」

 

リサが笑って納得してくれた。

 

多分、リサや紗夜、燐子やあこも自分なりにRoseliaのことを考えていると思う。

 

ハロハピとAfterglowを見てきて、少しずつではあるがRoseliaというバンドの取り戻し方がわかってきているような気がする。

 

「燐子とはまた後で連絡とるよ。そう言えば紗夜は?」

 

「紗夜はいつも通りって感じ。紗夜も自分なりの答えを探してる。」

 

「今おねーちゃんの話してた?」

 

「「うわっ!」」

 

突然僕とリサの間に割り込んできたのは日菜さんだった。

 

さすが姉好き(シスコン)、紗夜のことに関しては地獄耳だ。

 

「ひ、日菜?!」

 

「やっほーリサちー!それにソータくんも!」

 

「あはは・・・いつも通りですね。」

 

日菜さんのいつも通りの突発性に苦笑いする。

 

すると日菜さんは思い出したかのように話し出した。

 

「そーそー、最近Roseliaの仲悪いんだって?おねーちゃんもそう言ってた。」

 

「紗夜がそう言ったんです?」

 

「うん、あたしに相談したいことがあるって言われて・・・確か〜」

 

それは昨日に溯る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事務所でパスパレの今後の予定を聞き終わったあたしは颯爽と家に帰っていた。

 

今日はおねーちゃんの練習日だけどおねーちゃん早く帰ってくるって言っていた。

 

大好きなおねーちゃんと長くいられるのってるんっ!てする!

 

自宅で色々と終えたあたしはおねーちゃんが帰ってくるのを待っていた。

 

するとおねーちゃんが帰ってきた。

 

「ただいま・・・日菜、先に帰っていたのね。」

 

「おかえり、おねーちゃん!・・・あれ、Roseliaで何かあった?」

 

「・・・!」

 

おねーちゃんが驚きの表情をする。

 

なんかおねーちゃんいつもと違ってドヨーンとした感じだった。

 

「・・・何故Roseliaで何かあったと思ったの?」

 

「ん〜最近パスパレでもおねーちゃんと同じドヨーンとした空気になって、みんなとバラバラになりかけたことがあったんだ〜明後日おねーちゃんがライブに来てくれるって言ってたでしょ?それ、パスパレがまた新しい気持ちでやろうっていう決心みたいなものなんだ〜」

 

「そんな大きなものだったの・・・」

 

おねーちゃんが驚きと共にため息をついた。

 

とりあえずここはおねーちゃんの話を聞いた方がいいかも。

 

「おねーちゃん、Roseliaで何があったの?」

 

「・・・あなたになら話してもいいわ。実は・・・」

 

おねーちゃんがRoseliaであったことを話してくれた。

 

その内容はライブの失敗が原因でそれぞれがバラバラになりつつあるということだった。

 

「そんなことあったんだ〜」

 

「・・・ねぇ、日菜。私はどうすればよかったのかしら・・・私達は変わらなければならない、でも変わりすぎて昔の威厳を失いつつある。戻ればいいのか、そのまま突き進めばいいのかわからないのよ・・・」

 

おねーちゃんが悩みを打ち明ける。

 

昔のおねーちゃんなら絶対にしなかったことだ。

 

「ん〜・・・あたしは、昔のおねーちゃんの音より今のおねーちゃんの音の方が好きだよ?あたしはそのまま突き進めばいいって思うけど・・・」

 

あたしはそこで1度言葉を区切った。

 

擬音ではなく、相手にわかる言葉であたしの考えをおねーちゃんに伝えないと。

 

「あたしってさ、台本とか楽譜とかって見ただけで覚えちゃうじゃん。他のことだってそう、やろうと思えば直ぐにできる。でも、出来ることをたくさん増やしてもおねーちゃんみたいにひとつを極限にまで極めることって出来ないと思うんだ。おねーちゃんみたいに『今までの努力』ってものが無いからさ。おねーちゃんが言ってる状況で後ろに下がっちゃったら、その『今までの努力』ってものが無駄になると思うんだ〜、おねーちゃんはその努力を無駄にしたいの?」

 

そこまで言うとおねーちゃんは慌てて返した。

 

「そんな訳ないじゃない!私はRoseliaに入ったことで変わった・・・技術や、接し方や・・・あなたとの関係も。それを全部なかったことにしたくない・・・!」

 

「なら、それをぶつけてくればいいんじゃない?」

 

するとおねーちゃんははっとした顔をする。

 

どうやら自分のやりたいことを見つけたっぽい。

 

「・・・ありがとう日菜・・・私のやりたいこと、見つけられたかも。」

 

「うん、今のおねーちゃん、るんっ!てする笑顔してるよ!」

 

その時のおねーちゃんはいつも以上にメラメラして、キラキラしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ってな感じだったんだ〜」

 

「紗夜・・・そんなに変わってたんだ・・・」

 

「紗夜は気が付かないうちにどんどん変わっているんだよ。昨日もアタシのこと励ましてくれたし!」

 

紗夜・・・かっこよ過ぎない?

 

紗夜も答えをみつけようとしているんだ、僕も負けられない。

 

「そうだソータくん!明日のライブ見に来てよ!ソータくんいたらるんっ!ってきそう!」

 

理由はむちゃくちゃだが、願ったり叶ったりである。

 

これを断る理由がない。

 

「はい、行かせてもらいます!」

 

「オッケー!それじゃあ明日会場着いたら連絡して〜!それじゃあね〜!」

 

すると日菜さんは颯爽と帰っていった。

 

ほんと、嵐みたいな人だ。

 

「日菜・・・ホントに激しいね・・・」

 

「そうだね・・・でも、これでパスパレの答えを見ることが出来る・・・!」

 

「そっか・・・燃えてるね、ソータ!」

 

「リサは違うの?」

 

「えっ?」

 

そう言うとリサは固まった。

 

「リサはどう思ってるのかなって。Roseliaのこと。」

 

「アタシは・・・答えを探してるけど見つからないって言うか・・・みんなみたいにできないって言うか・・・」

 

「なら、リサなりのやり方で答えを探したらいいよ。」

 

「アタシなりの?」

 

「うん、別に他人に合わせなくていい、自分なりの答えの見つけ方をすればいいよ。」

 

「・・・うん、やってみる!」

 

リサが決心をする。

 

今、Roselia全員がそれぞれの答えをみつけようとしている。

 

Roseliaがまた集まるのも、そう遠くないのかもしれない。




次回、『もういちどルミナス』


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81話 もういちどルミナス

デカ寝そべりぬいぐるみの友希那をゲットした隠神カムイです。

更新が遅くなってすみませんでした!
次回からしっかり更新できるよう最善を尽くします!

ということで本編どぞ!


CIRCLEでリサと別れて家に着いた僕は、早速燐子に連絡を取ることにした。

 

いつもならチャットで話すのだが、今回はあえて電話で連絡をとってみる。

 

コール音がなり始める。

 

燐子は電話に気づいても電話で話すのが苦手なので出るのに時間がかかる。

 

なので気長に待つことにした。

 

 

 

 

 

 

〜2分後〜

 

 

 

 

 

 

『・・・も、もしもし!』

 

気長に待つこと2分、ようやく電話に出てくれた。

 

「もしもし燐子?ごめん、電話の電源切ってたから出ることができなくて・・・」

 

『ううん・・・こっちも電話に出るの苦手だから・・・出るの遅れちゃって・・・待たせちゃったね・・・』

 

「燐子が電話に出るの苦手なの知ってるから、でも今回は燐子の声聞きたくて。」

 

『っ〜〜!』

 

燐子が電話の奥で悶絶したのを聞いて僕もさっきめちゃくちゃ恥ずかしいこと言ったのを自覚する。

 

顔が熱くなるのがわかるが、そのまま話を進めた。

 

「・・・こほん、それよりも大丈夫?その・・・あの日出て行っちゃったこと。」

 

『大丈夫・・・までは行かないけど・・・自分の中でどうしたらいいか迷ってる感じ。あこちゃんとNFOやっている時・・・あこちゃんが楽しそうにRoseliaの話をして・・・何としてもまたみんなで演奏できるようにしなきゃって思ったんだ。』

 

燐子が決意のこもったことを言う。

 

やっぱりみんなそれぞれ今やっていることは違っても、『もういちどみんなのRoseliaを取り戻す』という気持ちは変わらないようだ。

 

『奏多くんはどうなの?今井さんに聞いた話だと・・・奏多くんもあの後出て行っちゃったって・・・』

 

「あー・・・うん、あの後ハロハピの薫さんに諭されていろんなバンドに『バラバラになりそうになった時どうやってまたひとつに戻ったか』って言うのを聞き回ってる。」

 

『奏多くん・・・かなり大きいことしているんだね・・・』

 

燐子が驚いたような声を上げる。

 

しかし、実際問題答えを掴めそうで掴めないもどかしい所なのである。

 

「そんなことないよ、僕もまだ答えを見つけられてないし。」

 

『でも、私ならそこまで行動的になれないよ・・・だからみんなのために自分から動ける奏多くんが羨ましい。』

 

「ん〜別に行動だけでみんなの役に立てる訳では無いと思うよ?」

 

『え?』

 

電話の奥で燐子が首をかしげているのが言葉からわかる。

 

とりあえず燐子に自分の思いをぶつけてみる。

 

「人には得意不得意ってあると思うし、僕はたまたま行動できるようなタイプだっただけで、燐子はそういうタイプじゃないし。燐子ならもっと違うことで伝えられると思うよ?」

 

『違うこと・・・?』

 

「うん、Roseliaの中で燐子にしか出来ない事探してみるのも、Roseliaを取り戻すために大切なことだと僕は思う。」

 

『私に・・・出来ること・・・』

 

「まぁ、口喧嘩に負けて出て行った僕が言えることじゃないんだけどね。」

 

『ううん・・・それだけでも・・・なにか掴めるような気がするよ。ありがとう・・・奏多くん。』

 

「うん、また何かあったら相談して。力になれるかはわからないけど。」

 

『うん、それじゃあね。』

 

燐子との通話を切る。

 

声だけでも聞けてよかった。

 

これは自分も負けてられない。

 

・・・まぁ、そもそも勝ち負けなんてないのだが。

 

「とりあえず明日・・・か・・・」

 

明日はPastel*Paletteのライブの日。

 

予想が正しければ日菜さんがスタッフさんに頼み込んで席を無理矢理開けてもらっているのだろう。

 

とりあえず会場についたらまずスタッフさんに土下座した方がいいのかもしれない。

 

とにかく明日のために僕は早く寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

会場に着くとそこにはPastel*Paletteのファンの人で賑わっていた。

 

まだチケット販売1時間前なのにこの人の数とはさすがアイドルバンドである。

 

「とりあえず連絡入れようか・・・」

 

実は沖縄の時に連絡先を交換していた日菜さんに連絡を入れると沖縄の時に案内してくれたスタッフさんが来てくれて控え室へと案内してくれる。

 

どうやら僕と紗夜のために特別に控え室を取っていたらしい。

 

とりあえずスタッフさんにお礼を言って、控え室でのんびり待っているとドアが開き、日菜さんと丸山さんが入ってきた。

 

「九条くん!来てくれてありがとう!」

 

「てか1時間前って早すぎだよ〜」

 

「こんにちは、日菜さんに丸山さん。今回は呼んでくれてありがとうございます。」

 

2人に深々と頭を下げる。

 

「そんな、頭下げなくていいよ!」

 

「そもそも呼んだのあたしだしね〜おねーちゃんもそろそろ来るって言ってた!」

 

紗夜がそろそろ来ると言った瞬間、扉が開いて紗夜が入ってきた。

 

「あら、丸山さんに日菜・・・って九条さん?!どうしてここに?」

 

「あ、こんにちは紗夜。日菜さんにお呼ばれされて・・・」

 

「なんかなんか、ソータくん来たらるんっ!ってくるかなって思って呼んでみたんだ〜」

 

「そんな理由で・・・」

 

紗夜が頭を抑える。

 

まぁ、気持ちはわからなくもない。

 

「・・・少し二人で話したいから二人とも戻ってくれるかしら?」

 

「え〜もっと話したいんだけ「わ、わかった!日菜ちゃん、私達はリハ行こ!リハ!」

 

「ち、ちょっと彩ちゃん引っ張らないで!あたし1度やったらリハなんて要らないし!」

 

「私がいるの〜!お願いだから〜!!」

 

そう言って2人が退席する。

 

少し間が空いてから紗夜は話しかけてきた。

 

「・・・羽沢さんから聞いたわ。色々なバンドに話を聞き回っているらしいわね。」

 

「う、うん・・・今の僕にできることを探そうって思って・・・迷惑だったかな?」

 

「いえ、あなたらしいと実感しました。・・・九条さん、練習には来られそうなんですか?」

 

僕はその質問にすぐに答えられなかった。

 

確かに今の僕なら練習の方に行っても自分の才能を存分に使えるかもしれない。

 

でも、自分の成すべきことはまだあるような気がする。

 

「・・・たぶん、今の僕なら練習に行っても大丈夫かもしれない。でも、今の僕にはまだやるべきことがあると思うんだ。」

 

紗夜に自分の考えを伝える。

 

紗夜はその話を聞くと静かに瞳を閉じた。

 

「・・・紗夜?」

 

「・・・ぶつからなければ伝わらないこともある。」

 

「え・・・?」

 

「あなたが言ってくれた言葉です。私も・・・どうすればまた昔の威厳を保ちながらも今の音でRoseliaでい続けるかを考えていました。でも、日菜や他の皆さんから色々言われてどうすればいいのかわかったような気がするんです。私はRoseliaで培った苦労や努力を無駄にしたくない。だから、後ろには下がらず前に進んでいきたい・・・そう思ったんです。私はこの思いを、湊さんにぶつけてみます。あなたがそうしたように・・・」

 

紗夜が笑顔でそう言った。

 

紗夜の笑顔、それは昔の紗夜なら絶対に見せない表情だった。

 

するとドアがノックされる。

 

ドアが開くとそこには案内してくれたスタッフさんがいた。

 

「そろそろ本番20分前なので席に案内させていただきます。」

 

「わかりました、すぐに行きます。」

 

「行きましょうか。」

 

僕達は控え室を出て座席に案内される。

 

座席は前列の1番中央だった。

 

「・・・日菜・・・ここまでしなくても・・・」

 

「ははは・・・スタッフさんの苦労がわかるかも・・・」

 

周りにはパスパレを待つお客さんでいっぱいだ。

 

そして本番、周りが暗くなってステージに光が灯る。

 

そこにはPastel*Paletteのメンバー全員が立っていた。

 

「みなさーん!こーんにーちはー!私達、Pastel*Paletteでーす!」

 

ボーカルの丸山さんがMCを担当する。

 

今回は噛まずにやっているので驚きである。

 

「・・・というわけで、最後まで盛り上がっていきましょー!聞いてください!『Y.O.L.O!!!!!』」

 

曲が始まった。

 

1曲目は『Y.O.L.O!!!!!』、Afterglowが作曲した曲であることをさっき教えてもらった。

 

そして流れるようにライブは進んでいき、ついにラストの曲となった。

 

本番前、日菜さんは「ラストの曲はPastel*Paletteの今を詰め込んでるから、ソータくん達の言うあたし達なりの答えみたいなもの!」と言っていた。

 

ハロー、ハッピーワールド!の『キミがいなくちゃ!』、Afterglowの『ツナグ、ソラモヨウ』のようなそれぞれの答えをまとめた曲、それは・・・

 

「・・・それじゃあ、次が最後の曲になりますっ!今はまだ、届かないかもしれないけど・・・私達、もっともっと光り輝く存在になっていきたいと思います!聴いていてください、『もういちどルミナス』!」

 

Pastel*Paletteの答え、『もういちどルミナス』が始まる。

 

この曲を演奏しているパスパレのみんなはとてもイキイキしていた。

 

「これが・・・Pastel*Paletteの答え・・・」

 

「今は届かなくても、いつか届くよう今を輝かせる・・・そういった感じですかね・・・」

 

紗夜がそう言った。

 

その言葉に今のRoseliaを重ね合わせる。

 

多分今まで見てきた中で1番似ているのかもしれない。

 

僕はRoseliaがまたひとつになるための答えが着実に近づいていることを実感していた。




次回、『友希那の葛藤』


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82話 友希那の葛藤

実際問題Neo-Aspect編がまだ5分の2ほど残ってることに驚きを感じる隠神カムイです。
この回で累計99話目になります。
次回の更新はちょっと違うことをやる予定なので・・・

ということで本編どぞ!


ひとつ

 

またひとつ

 

またひとつと

 

花びらのように私の手からこぼれ落ちる

 

けど、私は止まれない

 

止まることなんて出来やしない

 

今の音ではなく、昔の威厳ある音を

 

それを取り戻したいなら信じた道を進め

 

自分の信じる道が正しいと思うなら

 

それを信じて進まなければ

 

私は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

日菜が誘ってくれたPastel*Paletteのライブから2日ほど日が経ち、Roseliaの練習日。

 

CIRCLEに集まったのは私と今井さんの2人だけだった。

 

「おはよー紗夜。・・・今日も2人だけ?」

 

「白金さんと宇田川さんはまだ来れる状態ではないでしょう・・・九条さんはこの前日菜に誘われたライブの日に話をしたんですけど、九条さんの才能は帰ってきているそうですが、まだ答えを見つけられていないので見つけてからここに帰ってくると言っていました。湊さんは・・・連絡がつかなくてまだわかりません・・・」

 

「友希那、アタシが出る時もう出てるって友希那のお母さん言ってたしな・・・」

 

今井さんがわからないのなら私にもわかるはずがない。

 

湊さんはこの前みたいな用事はないのでおそらく来るはずなのだが・・・

 

「はぁ・・・あ、でもさ。こういうこと言ったら怒られちゃうかもしれないけど、アタシ、ちょっと嬉しくって。」

 

「何を言っているの、こんな時に・・・」

 

こんな時に言うセリフではないのはわかる。

 

しかし今井さんの事だ、なにか裏があって言ったのだろう。

 

「バンドを始めたての時ってこんなふうにバラバラになったことなかったじゃん?バンドとかチームを組んでると考えの違いから絶対に衝突はするし喧嘩もする。でもその後に大体元に戻って技術や絆がぐっと成長するでしょ?Roseliaに今までそんなこと無かったから、そう考えるとやっとなんだな〜って思って。」

 

「まぁ・・・わからなくもないけど・・・」

 

「アタシもさ、バンドを始めた頃は友希那や、紗夜、ソータ達と必死に向き合おうとしてた。音楽経験の薄いアタシなりに考えてくらいつこうとしてた。でもさ、こうやってアタシ自身が弱音を吐いたりできる相手って今までいなくてさ・・・」

 

「あ、あの時は私も、個人的な悩みがあって・・・それどころではなかったのよ・・・」

 

正直あの頃は日菜に向き合えず、どうやって自分の音を磨くかしか考えていなかった。

 

しかしそう考えると私にとってRoseliaという存在は大きい。

 

「あーなんだろう、そうじゃなくて・・・アタシ自身が勝手に抱え込んでたのかもなって。こんな風に、友希那やRoseliaのことについて相談できる相手がいることってアタシにとってはすごく嬉しい。それって、お互いに心を開いたからこそなのかなーって。えへへ・・・」

 

「今井さん・・・」

 

今井さんの言葉に感動する。

 

しかし、現状は感動している暇なんてないのだ。

 

「こ、こういう話は全てが解決したあとにしましょう!今は目の前の問題に真剣に取り組まないと・・・」

 

「そうだよね、ごめんごめん。・・・紗夜。」

 

「何?」

 

「一緒に、がんばろ」

 

「最初からそのつもりよ。」

 

そこまで言った時、扉を開く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉の奥から話し声が聞こえる。

 

声や気配からして奥にいるのは紗夜とリサ・・・

 

恐らく燐子、あこ、奏多は来ていないのだろう。

 

来ないものはほおって置く、最初にそう決めたではないか・・・

 

今更未練なんて残しても仕方ない。

 

私は・・・()()()()()()()()・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタジオに入ってきた銀髪の女性。

 

見間違うはずもない。

 

湊友希那・・・Roseliaのボーカルだ。

 

時間を見るとちょうど集合時間だった。

 

「2人とも、お疲れ様。」

 

湊さんが少し低いトーンでそう言った。

 

今井さんが慌てて返す。

 

「ゆ、友希那・・・!おはよ!」

 

「練習を始めましょう」

 

しかし湊さんは挨拶を返すことなく冷淡にそう言った。

 

「あ、あのさ・・・友希那・・・」

 

今井さんがぎこちなく話す。

 

そんな今井さんを黙ってみることは出来ず、私が口出しすることにした。

 

「湊さん、1つよろしいですか?」

 

「何かしら?」

 

「Roseliaの音を取り戻さなければならない。それはわかります。ですが・・・昔のような未熟な状態に戻る必要はないのではないでしょうか。私たちは成長しました。それを無下にすることは・・・」

 

「・・・からない・・・」

 

その途端、湊さんの様子が一変した。

 

「友希那・・・?」

 

「わからないのよ!!」

 

湊さんは今まで溜め込んでいた思いを爆発させるように大きな声を出した。

 

「他にどうしたらいいか、わからないのよ!見つからないから・・・こうするしか・・・っ!!こうするしか・・・ないじゃない・・・!」

 

「・・・っ!」

 

湊さんが自分の思いをぶつけた。

 

なら私も自分の思いをぶつけるしかわかり合えないと悟った。

 

「私だって、わからないですよ!でも、こんな形でこれまでの経験をなかったことにしたくないんです!!個人的な話ですが・・・私は、バンドに入ったからこそ、成長することが出来ました。妹と約束したんです。彼女の隣を並んで歩けるようになると・・・前に進んでいくと・・・湊さん・・・あなただって同じはず。お父様の大切な歌を歌ったこと。それも全部なかったことにするんですか?」

 

「・・・それは・・・」

 

湊さんが動揺する。

 

そして逃げ出すようにスタジオを出ていってしまった。

 

「あっ、友希那・・・!」

 

「・・・・・・」

 

今の発言で湊さんを傷つけてしまったかもしれない。

 

それでもこれだけは伝えないと取り返しのつかないことになりそうだったから。

 

彼女が・・・湊友希那という人間がこれがきっかけでひとつの答えを見つけだすこと、それを祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わからない

 

わからない・・・!

 

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからなイわからナイわかラナイわカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイっ!!

 

後戻りすれば昔の音を取り戻せても今までのこと全てなかったことにしてしまう。

 

かと言ってこのまま進めばRoseliaはRoseliaでなくなってしまう。

 

自分の道を否定されてしまっては自分は自分でいられなくなるかもしれない・・・

 

本当に・・・どうすれば・・・

 

『振り返ることと後退は違う』

 

確か奏多はそう言っていた。

 

奏多や紗夜の言う『別の道』

 

それがなんなのか私にはわからなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那side

 

「・・・っ!」

 

CIRCLEから逃げるように出ていき、気がつけば駅前まで来ていた。

 

逃げる途中もずっと目頭が熱くなっていた。

 

そして駅に着いた途端、溢れるように涙がこぼれ落ちた。

 

「・・・っ・・・うっ・・・うう・・・っ・・・!」

 

わからない・・・自分が何をしているのかも、なぜこんなやり方しかできないのかも・・・!

 

どんどん、遠のいてる・・・このままじゃ、何もかも失ってしまうかもしれない・・・

 

「・・・友希那・・・先輩?」

 

聞いたことのある声。

 

そっちを向くとそこには花咲川の制服。

 

その正体は戸山香澄、Poppin’Partyのボーカルだった。

 

「戸山さん・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は落ち着きを取り戻すと近くのベンチに腰をかけた。

 

「・・・ごめんなさい、見苦しいところを見せてしまって。」

 

「い、いえ・・・友希那先輩、大丈夫ですか?」

 

戸山さんが心から心配してくる。

 

Poppin’Party

 

演奏技術も、パフォーマンスもまだまだ甘く、まだ半人前としか見ることのできていないバンド。

 

Roseliaを結成して2回目ぐらいのライブの時に一緒に出てからグイグイ来るようになったのがこの戸山さんだ。

 

最初は冷たく接していたがいつの間にか普通に話す程度には親しくなっていた。

 

「ええ・・・落ち着いたわ。」

 

「・・・あの!ライブ、来てくださいっ!」

 

「は、はぁ!?おい香澄!なんでそうなるんだよ!?」

 

いつの間にか合流していた市ヶ谷さんが戸山さんを追求する。

 

その追求に戸山さんはすぐに答えた。

 

「友希那先輩の力になりたいけど、私、上手にアドバイスとか、無理だし・・・」

 

戸山さんは視線を市ヶ谷さんから私に変えた。

 

その瞳は輝いていた。

 

「あの、私達の演奏、Roseliaの皆さんみたいに上手じゃないですけど、観てくれたら、きっと元気になると思いますっ!」

 

「戸山さん・・・」

 

すると市ヶ谷さんがすまなさそうに話しかけた。

 

「あの、すみません・・・ホント、無理言っちゃって・・・無理だったらいいので・・・で、あなたはどうするんですか?そこに隠れている九条先輩?」

 

「・・・バレてましたか・・・ちゃんと隠れてるつもりなんだけど・・・」

 

「そりゃ、顔隠せてないですもん。」

 

「奏多・・・!」

 

奥から奏多が顔を出した。

 

さっきの泣き顔を見られたと思うとめちゃくちゃ気まずい。

 

「・・・友希那、一緒に行かない?僕も僕なりの答えを探している途中だし。それにほら、こんなに真剣に戸山さん言っているのに断りにくいと思うけど?」

 

「いや、九条先輩それ無理やりいけって言っているようなもんですけど・・・あの、無理だったらほんっといいので・・・」

 

「・・・行くわ。」

 

気がつけばそう呟いていた。

 

その言葉に真っ先に反応したのは戸山さんだった。

 

「やったぁ!それじゃあ、明日、この時間にCIRCLEでライブやるのでよろしくお願いします!」

 

そう言って私にチケット2枚を渡す。

 

おそらく1枚は奏多用だろう。

 

「ちょっ、香澄!・・・本当にいいんですか?無理しなくても・・・」

 

「行くと言ったら行くわ。」

 

「は、はいっ!」

 

「有咲ぁ〜ひびってる?」

 

「び、びびって・・・るわな・・・」

 

「お、珍しくデレた。」

 

「デレてねー!・・・ですっ!」

 

奏多が突っ込んで市ヶ谷さんがいつものノリで返して後に敬語を付け足す。

 

花咲川は仲がとても良いと聞いたので多分その結果だろう。

 

「では、明日はよろしくお願いします!」

 

「よ、よろしくお願いします・・・」

 

そう言って戸山さんと市ヶ谷さんが帰っていく。

 

この場には私と奏多が残された。

 

「奏多・・・その・・・」

 

すると奏多は私の手からチケットを抜き取った。

 

「・・・みんな、自分なりに答えを探してる。自分で考えるだけじゃなくて人に頼りながらも。友希那も、自分だけで考え込むんじゃなくて人に頼りなよ?僕にそう言ってくれたのは友希那達なんだからさ。」

 

奏多は笑顔でそういうとその場から去っていった。

 

人に頼ること、そして明日のPoppin’Partyのライブ・・・

 

これが私なりの答えであることを祈るしかなかった。




次回、『二重の虹(ダブル レインボウ)』


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83話 二重の虹(ダブルレインボウ)

最近本格的にシンフォギアにハマり始め、新開拓ゲームとしてクラフィを始めた隠神カムイです。
まだまだ初心者ですのでコメントなどで色々教えてくれたら嬉しいです。

ということでやっとここまで来ました。
Poppin’Partyの楽曲で初めて買ったのが二重の虹(ダブルレインボウ)なので結構思い入れある曲です。


ということで本編どぞ!


Poppin’Partyライブ当日。

 

この前の流れで断れず来てしまった。

 

いや、断れなかったのではなく、おそらく自分の何処かでここに答えがあるのではないかと思っていたのかもしれない。

 

今回Poppin’Partyが選んだスタジオはCIRCLEの中にあるライブステージだった。

 

座席はなく、立ってライブを見るタイプのステージだ。

 

中にはPoppin’Partyのファンがもう何人もいたが、その中に奏多は見当たらなかった。

 

どうやらまだ来ていないようだ。

 

「・・・・・・」

 

適当な位置につき、ライフが始まるのを待つ。

 

確かにPoppin’Partyは私からすればまだまだ半人前のバンドである。

 

しかし半人前だと思うのは演奏技術などであってPoppin’Partyは『何か』を持っている。

 

Poppin’Partyとはこれまで4回ほど同じライブを共にしてきた。

 

確かに初めは演奏技術や盛り上げ方などがまだまだ半人前なバンドとしか見てなかった。

 

しかし数を重ねるごとに技術はもちろん、また別の『何か』を感じとることが出来た。

 

今でもその『何か』がなんなのかわからない。

 

しかし私は今のRoseliaのために必要な答えがそこにあるのかもしれないと思った。

 

だから私は、ここに来ることを決めたのだろう。

 

答えを探して、無意識にここに来てしまったと考える方が正しいのかもしれない。

 

すると気がつけばライブの開始時間になっていた。

 

「奏多は・・・」

 

気がつけば私の後ろにまでお客さんが来ており、周りをよく見渡すことが出来ない。

 

でも彼のことだ、おそらくこの会場のどこかにはいるのだろう。

 

するとPoppin’Partyのメンバーが舞台に並んだ。

 

「みなさんこんにちは〜〜!私達、Poppin’Partyですっ!それじゃ早速、1曲!いっきまーっす!!」

 

Poppin’Partyが演奏を始めた。

 

確かこの曲は『Happy Happy Party!』といったか。

 

以前見た時より、技術は上がっている。

 

まとまり方も悪くない。

 

そしてやはり感じる。

 

Poppin’Partyの魅力を最大限まで上げる『何か』を。

 

そして『Happy Happy Party !』が終わり、続けて『ときめきエクスペリエンス』が始まる。

 

2曲目から必死に答えを探す。

 

Poppin’Partyに感じる『何か』とは何か。

 

ライブの演出?いや、Poppin’PartyとRoseliaではどうしてもコンセプトが違うため、真似をするだけ無意味だ。

 

なら盛り上げ方はどうだ。

 

・・・いや、やはりそうでは無い。

 

なら一体どこに・・・どこにあるのだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

Poppin’Partyのライブ会場に着くとそこには友希那がもう居た。

 

話しかけようとするが、話しかけるのをやめた。

 

そもそも友希那とは喧嘩してまだ謝ってもいないのにいつも通り話しかけても気まづいだけなのもある。

 

しかし今の友希那はめちゃくちゃ考え事をしている。

 

むやみに話しかけない方が良いだろう。

 

僕は友希那のいた所の一番後ろの壁越しに立ち、いまさっき市ヶ谷さんにこっそり渡されたセトリを見る。

 

流れとしては『Happy Happy Party!』、『ときめきエクスペリエンス』そして休憩を挟み、『STAR BEAT〜ホシノコドウ〜』、そして最後に『二重の虹(ダブルレインボウ)』の4曲。

 

最初の3曲は聞いたことのある曲だ。

 

しかし最後の曲、『二重の虹(ダブルレインボウ)』だけは聞いたことない。

 

どんな曲なのだろうか・・・

 

するとPoppin’Partyのライブが始まった。

 

いつの間にかお客さんは友希那を覆い隠していた。

 

友希那のことは後で話すことにし、素直にライブを楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ときめきエクスペリエンス』までが終わり、休憩に入る。

 

僕は人の波を押しのけて友希那の元に向かった。

 

「・・・友希那っ!」

 

「奏多・・・いつから?」

 

「友希那が来てた後。なんか考え事してるみたいだったから話しかけにくくて・・・」

 

「そう・・・」

 

話がそこで途切れる。

 

やはりお互いあのことを根に持っているのかもしれない。

 

「・・・友希那はなんでポピパのライブに?今までの友希那なら来なかったから気になって・・・」

 

「・・・私も、私なの答えを探しに来たのかもしれない。」

 

「・・・何かあった?」

 

この前までの友希那らしからぬ発言に疑問を抱く。

 

友希那は少しためてから呟くように話した。

 

「・・・私は、なんとしてもRoseliaを取り戻そうとしていた。でも、やり方がわからなくて・・・考えた末に一度戻ることでなにか見えてくるんじゃないかと思って昔みたいな行動をとったけど・・・この前紗夜に否定されたのよ。『これまでの経験を無駄にしたくない』って・・・」

 

「紗夜・・・」

 

紗夜がしっかり自分の気持ちをぶつけられたことにほっとする。

 

紗夜の思いはしっかり友希那に響いている。

 

しかしこの様子からして響きすぎているようだ。

 

「戻れなくて、かと言って進めばまた私が私でなくなるような気がして・・・でも、答えを見つけなくちゃ何もかも失ってしまう。そんな時に戸山さんに出会って・・・Poppin’Partyが持っている彼女達なりの『何か』。それがRoseliaを救う鍵になるんじゃないかって思って私はここに来たんだと思う。」

 

「・・・そっか、ならやっぱりあれは本意じゃないんだ。」

 

やはりあれは本意ではなかったことに安堵する。

 

「確かに本意ではなかったわ。でも・・・あなたにぶつけた言葉だけは本当にそう思ってしまった。あなたが悩んでいるのに、自分が否定されたくないからという理由でひどいことを言ってしまった。本当にごめんなさい・・・」

 

「うん、今はもう気にしてないよ。確かにあの時友希那にそんなこと言われてなかったら今でも音が聞こえないままだっただろうし、その時もしあのまま否定し続けてたら君は絶対壊れていた。あの時は多分あれが1番正しかったんだよ。」

 

「それでも、あなたを傷つけてしまったことに変わりは・・・」

 

そこまで言わせまいと友希那の肩を叩く。

 

友希那は驚き、言葉が止まる。

 

「そうやって内に秘めようとしないで。僕は・・・君に僕みたいになって欲しくない。」

 

「っ・・・!!」

 

そう、あの時僕は人に自分の苦しみや辛さを伝えようとしなかったために壊れた。

 

だから、そんな経験を友希那達にはして欲しくない。

 

それを察した友希那は俯いた。

 

「・・・ごめんなさい。」

 

「もう謝らなくていいよ。そろそろライブも再開するよ。探すんでしょ?Roseliaのための答えを。」

 

「・・・ええ。」

 

友希那が顔を上げる。

 

するとPoppin’Partyのメンバーが帰ってきた。

 

衣装が変わっている・・・どうやら新衣装のようだ。

 

「それでは後半も盛り上がっていきましょう!」

 

そしてPoppin’Partyの演奏が再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『STAR BEAT〜ホシノコドウ〜』が終わり、最後の曲に入る。

 

最後の曲、『二重の虹(ダブルレインボウ)』という曲だ。

 

「楽しかったライブも、これで最後です!この曲は、思いがすれ違って、キラキラドキドキを失いそうになってしまった時、またみんなで集めて、新しい私たちになっていった。どんな暗い思いも、晴れて空には虹がかかる!そんな思いをまとめた曲です!聞いてください、『二重の虹(ダブルレインボウ)』!!」

 

『二重の虹(ダブルレインボウ)』が始まった。

 

さっき戸山さんが言っていた内容をポピパらしい感じにまとめた曲だ。

 

そして、その曲は今の僕達に何より響く曲だった。

 

「そうか・・・そういう事か・・・!」

 

そして薫さんの言葉の意味。

 

それがようやくわかったような気がした。




次回、『ブツケルオモイ』


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84話 ブツケルオモイヲカタチニ

昨日は気圧変化による頭痛で死にかけていた隠神カムイです。
タイトルが多少変わってますが、それはいつも通りと流してくだせぇ・・・

あ、ファミマのクリアファイルは今のとこPoppin’Partyだけ貰ってきました。
最近のポピパ熱がやばいんすよ。

ということで本編どうぞ!


Poppin’Partyのライブが終わり、観客たちが続々と出て行き始める。

 

奏多は「ごめん!やる事あるから香澄さん達によろしく言っといて!」と言って出ていってしまった。

 

奏多が戸山さんのことを『香澄さん』と呼んだのはなにか信頼にあたる何かを掴んだからだろう。

 

結局のところ、私は最後の演奏まで戸山さん達が持つ『何か』を知ることは出来なかった。

 

そうこうしているうちに戸山さん達がステージ衣装のままこっちに来た。

 

「友希那せんぱーい!来てくれてありがとうございまーす!」

 

「バカっ!声が大きい!」

 

市ヶ谷さんが戸山さんを制止させる。

 

・・・まぁ、いつもの戸山さんならそんなことで止まるはずはないのだが。

 

「戸山さん、お疲れ様。」

 

「私たちの演奏どうでした?キラキラドキドキしてもらえましたか?」

 

「うん、したよ!とーっても楽しかった!」

 

「なんでおたえが答えるんだよ!おたえに聞いてるんじゃねーっつうの!」

 

戸山さんの質問を何故か花園さんが返す。

 

本当に自由なバンドだ。

 

「でも、私たちがキラキラドキドキしてなきゃ、絶対お客さんや聴いている人達に伝わらないと思う。だから、大切なことだよ。」

 

花園さんの言葉に驚く。

 

『自分達がそう思う』なんて考えたこと無かった。

 

「自分達が・・・・・・あなた達、いつもどんな気持ちで演奏しているの?」

 

「ほ、ほら!お前らがふざけるから、友希那先輩怒ってるじゃねーか!」

 

別に怒ってはいないのだが、自分でも言葉が少しきついと気づく。

 

それほど焦っているのだろう。

 

「怒ってないわ。気になっただけよ。」

 

そう言うと間伐入れず花園さんが答えた。

 

「ポピパが、大好き!・・・って思って弾いています。」

 

「うんっ!私も同じです!みんなのこと大好きって気持ちで、私はキラキラドキドキできて・・・その大好きって気持ちが歌に乗って、届いたらいいなって思って・・・みんなに、私たちポピパのキラキラドキドキ、感じて欲しいなって!」

 

「有咲もそうでしょ?ポピパが、大好き!」

 

「ま、まぁ・・・」

 

「えへへ、みんな同じっ!」

 

「あっ・・・!」

 

やっとわかった。

 

どうして誰も私たちの歌に振り向いてくれなかったのか。

 

どうしてこんなにバラバラになってしまったのか。

 

そしてどうしたら元に戻せるのか・・・

 

「友希那先輩?」

 

「いえ、なんでもないわ。今日はいいものを見せてもらった。ありがとう、戸山さん。」

 

「は、はい!また、Roseliaの皆さんのライブも見に行きたいですっ!」

 

「ええ・・・そうね。」

 

そこまで言って私はCIRCLEを後にした。

 

辺りはもう暗くなっていた。

 

考えたこともなかった。

 

みんなが、どんな気持ちで演奏しているのかなんて。

 

さらに言えば同じ気持ちで演奏しているかなんて、なおのこと気にしたことがなかった。

 

しかしようやくわかった。

 

Roseliaにはなく、Poppin’Partyに対して感じていた『何か』はそれなんだって。

 

私たちの音を取り戻すこと・・・それは、私たちがRoseliaである誇りを取り戻すことなのかもしれない。

 

ひとまず解決法になりそうなことは見つかった。

 

しかし、答えは見つかってもそこにたどり着く方法がわからない。

 

「あと少し・・・あと少しなのに・・・」

 

しかし、何かを掴んだような感覚は確かに残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこside

 

Roseliaの練習をサボり始めて数日が経った。

 

りんりんと話したあと、あこなりに考えてみたけど全くわからないままだった。

 

この前NFOで奏多さんとも話したけど、奏多さんもあの後友希那さんと喧嘩して出て行っちゃったみたいで、その後猫カフェのマスターさんに言われて今はRoseliaのために動き回ってるって言っていた。

 

あこもRoseliaの中じゃ行動班みたいな立場だけど奏多さんみたいに動くことはできない。

 

だからずっと悩んでいた。

 

そして、いつもみたいに悩んでいると玄関のドアが開き、おねーちゃんが帰ってきた。

 

たしか今日はAfterglowの練習だったっけ。

 

「ただいま〜!ふぅ、今日も疲れたぁ〜!」

 

「あ、おねーちゃん。おかえり・・・」

 

「・・・なぁ、あこ。Roseliaの話よく聞かせてよ。」

 

「えっ?どういうこと・・・?」

 

おねーちゃんが突然そんなことを言うのはおかしい。

 

確かに「今日の練習どうだったー?」程度には聞いてくるけど今回の言い方は今Roseliaで起こっていることを知っているような口ぶりだった。

 

「いや、今日九条さんが練習を見に来てくれてさ。そこで話を軽く聞いたんだ。」

 

「そっか・・・奏多さんが・・・」

 

「あぁ、でも深く話してくれなくてさ。だから帰ったらあこに聞こうって思って。」

 

「うん、わかった・・・実はね・・・」

 

私はおねーちゃんにRoseliaであったことを話した。

 

おねーちゃんはそれを真剣に聞いてくれた。

 

「なるほどな〜。それで練習に行きづらいってわけか。」

 

「うん・・・ホントはこんなことしてたらダメだなってわかってるんだけど・・・」

 

おねーちゃんは「うーん・・・」と少し考えるとあこに質問してきた。

 

「あこ、Roseliaは好きか?」

 

「え・・・?」

 

そんな質問をしてきた。

 

そんなの当たり前だ。

 

「う、うん、大好きだよ!」

 

「メンバーのみんなもか?」

 

「うん、もちろん!おねーちゃん、どうしたの?」

 

おねーちゃんの質問の意図があこにはわからない。

 

その質問におねーちゃんはケロッとした顔で答えた。

 

「んー?いや、確認しただけ。」

 

「か、確認しただけって・・・」

 

「いやさ、アタシ達Afterglowもさ、お互いのことを、バンドのことが好きすぎて、そして知りすぎて上手くいかないことがあったなって。もしかしたら今のRoseliaもそんな感じなんじゃないか?」

 

「みんな・・・Roseliaが好きってこと?確かに、Afterglowのみんなみたいに背中で語り合えるー!みたいにはいかないけど、多分みんなRoseliaのこと大好きだと思う!」

 

「せ、背中で語り合うか・・・アタシらが喧嘩したのそれが原因というか、なんというか・・・まぁ、そんな感じ。大好きすぎて、みんなそう思ってるって考えちゃうからすれ違ってしまうんだと思う。みんながそれぞれ、バンドのことを大切に思ってて、自分たちの大切な場所だって言い合えたら、きっとバンドは自然に戻るって。」

 

「そういうもの、なのかな・・・?」

 

バンドがそんなふうに戻るなんて到底考えにくい。

 

けど、実体験したおねーちゃんが言うのであればそうなんだろう。

 

「そういうものだって!・・・そうだ!もし、言葉で伝え切れる自信がないなら、そうだな・・・何か、気持ちを形にしてみるっていうのはどうだ?うちの蘭ってさ、ものすごい口下手だから、よく歌や詩でその時の気持ちを伝えてくれるんだ。だからそういう感じでどうかなって思って。」

 

「あこ、作詞作曲なんてできるかなー・・・?」

 

実際問題あこは楽譜を読めない。

 

いつもりんりんに訳してもらっている。

 

さらに蘭ちゃんみたいに作詞できるとは思えない。

 

「別に作詞作曲じゃなくてもいいと思うけどな・・・そうだ!燐子さんと一緒に衣装作ってみるのはどうだ?」

 

「衣装、かぁ〜!」

 

衣装なら多分大丈夫だろう。

 

それに衣装に関してはりんりんがいるなら百人力である。

 

「そうとなれば今すぐりんりんと話してくるっ!」

 

「おう!頑張れよあこ!」

 

こうなればあこもあこなりに頑張るしかない。

 

「あこは・・・あこはやっぱり、かっこいいRoseliaが大好きだから!」

 

この思いは誰にも負けない。

 

そうあこは確信していた。




次回、『ミツケタモノ』


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85話 ミツケタモノ

連続投稿確定した隠神カムイです。

投稿遅れてすみません!
ということでひっさびさの連続投稿です。

というわけで本編どぞ。


奏多くんと電話してから1時間が経った。

 

今でも練習には行けてない。

 

しかし、電話した時から・・・いや、その前からもずっとRoseliaのことばかり考えていた。

 

悩んで考えて、そして私がたどり着いた場所。

 

それは衣装だった。

 

さっき、衣装のほつれがあったことを思い出して手に取った時に気がついたのだ。

 

私なりに『Roselia』を表現したものがすぐ近くにあったことを。

 

これまでの衣装は全て私が手作りしたものだ。

 

さらにそれぞれのメンバーにあわせて同じ衣装でも多少違いをつけている。

 

例えばあこちゃんの衣装ならドラムを叩く時に邪魔にならないよう動きやすさを重視して袖などを短くしている。

 

私なりにRoseliaのことを見て、考えた結晶がこれらの衣装なのだ。

 

私たちがRoseliaでいられる大切なもの。

 

「また・・・着たいな・・・」

 

そう呟いた時、パソコンにメッセージが届いた。

 

パソコンの前に座って画面を見るとあこちゃんからだった。

 

「あこちゃんから・・・?どうしたんだろ・・・」

 

メッセージを開く。

 

チャットではなくメッセージなので長文を送ることは出来るのだが、そこには1文だけしかなかった。

 

『りんりん!Roseliaのこと、取り戻そう!』

 

単純で、それでも簡潔な言葉。

 

そして今の私たちに必要な覚悟。

 

その言葉だけであこちゃんが何を言いたいのか長い付き合いの私にはすぐわかった。

 

「あこちゃん、私、今・・・あこちゃんと同じこと考えてるよ・・・」

 

パソコンの横に備え付けたカメラを起動させ、ボイスチャットを起動させる。

 

するとパソコンの画面にあこちゃんの顔が映し出された。

 

『りんりん!』

 

「あこちゃんの言いたいこと・・・わかったよ。」

 

『うん!あこ、りんりんと一緒に衣装作りたい!』

 

「うん・・・なら、まずはデザインからだね・・・」

 

ということであこちゃんと衣装を作ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それなら・・・こういうモチーフは・・・どうかな・・・?」

 

『うーん・・・それだと可愛すぎるきがする・・・もっと、リサ姉っぽいかっこいいやつ、ないかな・・・』

 

それからずっとあこちゃんと衣装のことを話し合っていた。

 

大まかなテーマは決まったものの、それぞれのモチーフがパッとしない。

 

いつも衣装を制作する時もこんな感じなのでいつもとあまり変わらないが、今回は私よりあこちゃんの方が考えてくれている。

 

Roseliaのことを考えている時のあこちゃんはとても楽しそうだ。

 

『あれ、りんりんどうしたの?』

 

どうやらその思いが顔に出ていたようでそれに気づいたあこちゃんが聞いてきた。

 

「あこちゃん・・・ずっと、みんなのこと・・・カッコイイって言ってるなって・・・」

 

『だ、だって〜!メンバーはみーんな超カッコイイもん!だから、そのカッコよさを全面に出した衣装にしたい!』

 

「うん・・・そうだね・・・」

 

あこちゃんは難しい言葉をあまり使えないのでこういった単調な言葉になることが多い。

 

でも、簡単だからこそRoseliaにぶつける気持ちは強く、楽しそうだ。

 

そして私も、こうやってみんなのことを考えている時は好きだ。

 

「こうやって・・・一緒に・・・バンドのことや・・・メンバーのみんなのことを考えている瞬間・・・すごく、好き・・・とっても・・・心地いい・・・」

 

『うん、あこも!』

 

「あこちゃん・・・私たちで・・・Roseliaのこと・・・取り戻そう・・・!」

 

『うん!』

 

いつの間にか私はこんな正直に自分の思いを伝えられるようになっていた。

 

これも、Roseliaがあったから・・・Roseliaのお陰である。

 

そして、そんなRoseliaを早くとりもどしたい。

 

その思いでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、Poppin’Partyのライブから翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサside

 

あこ達や友希那達の行動など露知らず、アタシと紗夜はいつも通りCIRCLEで己の技術を磨いていた。

 

しかしこれが本当に正しいのかわからなくなってくる。

 

「ねぇ、紗夜〜・・・アタシ達、本当にこうやって練習しているだけでいいのかな?」

 

「宇田川さん達や湊さん、九条さんが戻ってこない以上、私たちでRoseliaの音を守らなければならないでしょう?今、誰もRoseliaの楽曲を演奏しなくなったら、今度こそ崩壊してしまうような気がして・・・たとえ今の音に、以前のような迫力がなかったとしても・・・これが、私の音だから・・・やるしかないのよ・・・」

 

紗夜がアタシに、そして自分に言い聞かせるようにそういった。

 

アタシは素直に紗夜のことを感心していた。

 

「紗夜、ホントに変わった。ヒナとの約束はかなり大きかったみたいだね?」

 

「まあ、そうね・・・だから、私個人がここで立ち止まるわけにはいかないのよ。」

 

「立ち止まると・・・」

 

するとアタシの中で何かがはじけたような感覚が来る。

 

今まで別れていたものがひとつに繋がり、ひとつの答えが出てくる。

 

「そうか・・・そういうことだったんだ・・・!紗夜・・・っ!!アタシ、わかったかもしれないっ!」

 

「わかったって・・・何が?」

 

突然の大声に紗夜が驚いた顔を見せる。

 

しかし今は謝っている余裕はない。

 

何故なら、アタシが今わかってしまったのは・・・

 

「Roseliaを取り戻す方法!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜side

 

「Roseliaを取り戻す方法っ!!!」

 

今井さんが確信を得たかのようにそう言った。

 

突然の事で何がなんやらまだ理解できない

 

「ぐ、具体的にはどうするの?」

 

「紗夜はさっきこういったよね、『私個人がここで立ち止まるわけにはいかない』って。」

 

「え、ええ・・・日菜との約束ですし・・・」

 

「でもさ、それって『紗夜個人で』であって『Roseliaで』ってわけじゃないと思うんだ。」

 

「それってどういう・・・?」

 

「紗夜だけじゃない、アタシもそう、友希那もそう・・・多分みんなひとつを目標にしながらも『Roseliaで』目標を目指すんじゃなくて『個人で』目標に向かっているって感じがしてさ。」

 

ここまで来てようやく今井さんの言いたいことが理解できた。

 

私たちは『Roselia』というバンドにいながらも、それぞれ個にとらわれすぎていた。

 

たぶん今井さんはそう言いたいのだと思う。

 

「なるほど・・・つまり、私達はRoseliaというバンドにいながら、個にとらわれていたと。」

 

「なのかな?アタシ達、Roseliaっていうバンドでさ、FURTHER WOULD FES.を目指していたつもりだったけど・・・それって、本当に目指せてたのかな?・・・って。みんな、Roseliaの中でそれぞれの目標にしか向かえてなかったような気がしてきてさ。Roseliaにいるのに、もしかして誰もRoseliaのことを見てなかったんじゃないかなって・・・」

 

「・・・・・・」

 

今井さんの言うことに思わず絶句する。

 

確かに今井さんの言う通りかもしれない。

 

「紗夜?ごめん、アタシこういうのうまく説明するの下手で・・・」

 

「いえ、その通りだと思ったの。私は、自分の音を探すために、妹との約束を違えないために、ギターを続けているけれど・・・はたして、Roseliaという集団を意識できていたかしら?と・・・」

 

「アタシもさ、Roseliaの為とか言いながら、友希那のことしか見てなかったんだよ、実際は・・・きっと、Roseliaにいるのにみんな見てるもの、目指しているところが違ったんじゃないかなって。燐子が飛び出して行った時に言っていた『みんな誰の音も聞いてない』ってそういう事だったのかも。それにソータも『そのあり方が間違っているから怒る』って言ってたじゃない?あの時は友希那に向けてだったけど、あれってRoselia全体に向けても言われたんじゃないかな。アタシ達だけじゃなく、自分自身にもさ。」

 

今思えばバラバラになったあの日になるまで、九条さんはずっと自分に怒っているようだった。

 

音の聞こえない自分自身に苛立っても仕方ないことを知っていたから、そうなってしまっている自分に。

 

「一番集団を意識できていたのはひょっとすると、白金さんと九条さんだったかもしれませんね。」

 

「それから、あこも。あこは『Roseliaは超カッコイイ』ってずっと言ってた。アタシ達5人が出す音を、そしていつもの6人での練習を、一番大切にしてくれているのかも。」

 

「Roseliaを取り戻すためには、その3人の力が必要みたいね。」

 

「うん、ソータは多分今連絡したら通じると思うけど・・・あこと燐子はどうしよっか・・・」

 

この前今井さんが連絡をとってみたところ、練習の話ははぐらかされてしまうのだそう。

 

なら、九条さんを通じて連絡を取れば多分繋がると思う。

 

そう考えていると、突然扉が開いた。

 

そこにはくすんだ銀髪で、中性的な顔立ちの見慣れた少年がいた。

 

その少年はもちろん・・・

 

「そ、ソータ!?」

「く、九条さん!?」

 

「や、やっほー・・・二人と話したくてさ。」

 

 

……To be continued




次回、『キズキアゲタモノ』


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86話 キズキアゲタモノ

連続投稿2日目の隠神カムイです。

6月から週一投稿となります。
理由としては・・・隠神カムイさん、AO入試に入ります。
ということで進学の関係で書く時間が極端に減るんすよ。
なので、週一投稿になります。
投稿日は水曜日にしようかと思っております。
もうひとつの方は後々そっちの方で連絡する予定ですが、本決まりしたら活動報告で報告します。

ということで本編どぞ。


ポピパのバンド演奏が終わって僕は一目散に家に帰っていた。

 

香澄さん達に挨拶もせず出ていったのにはもちろん訳がある。

 

見つけたのだ、Roseliaの音に誰も振り向かなかった理由が。

 

まず大きな理由としてはそれぞれがFUTURE WOULD FES.という大きな目標をめざしながらも、お互いを意識しきれてなかったところ。

 

簡単に言えばそこばかり見すぎて『Roselia』というものにしっかり向き合えてなかったところだ。

 

燐子が叫んだ『誰も皆の音を聴いてないから』は恐らくそういった意味だろう。

 

あの時、恐らくRoseliaのことを一番見ていたのは燐子だろう。

 

あこもあの後話したけど、あんな辛いことがあったのに『それでもRoseliaは超カッコイイから』と言っていた。

 

多分今のRoseliaに2人の存在は必要不可欠だ。

 

そのためにも2人と話をしなければならない。

 

多分電話やチャットは今の2人に効果を示さない。

 

僕と燐子とあこ、この3人が1番繋がれるのはそう、ネットである。

 

巴さんは『ずっとネトゲをしているみたいでした』と言っていたし、実際あこと話をしたのもネットの中だ。

 

だから今の2人にはネットの方がしっかり話せると判断したからこうして帰っているのである。

 

久しぶりにまたがる愛車『黒叫号』(宇田川あこ命名)をかっ飛ばし、家に着いた途端ダッシュで自室のパソコン前へ。

 

パソコンを起動して燐子に『今から話せる?』とメッセージを送った。

 

するとすぐにビデオチャットが開かれた。

 

『奏多くん・・・?どうかしたの・・・?』

 

『りんりん、誰から?あ、奏多さん!』

 

画面の奥には燐子とあこがいた。

 

まさか2人が燐子の家に揃っているとは思わかなった。

 

「あれ、あこも一緒なんだ。」

 

『うん!あこ達でRoseliaを取り戻すために衣装作ってる!』

 

『私たち・・・自分の気持ちを言葉にすること苦手だったから・・・衣装でみんなをまた繋げようって思って・・・』

 

なんとも彼女ららしいやり方だ。

 

『それでどうしたの?』

 

「あ、うん。今度会えないかなって思ったんだけど・・・」

 

『うん・・・じゃあ、私の家に来てくれないかな?私の部屋で話したい。』

 

「わかった・・・・・・・・・( ;゚Д゚)エッ!?」

 

燐子の家に?それも中で??

 

『どうしたの?』

 

『あれ、奏多さん、りんりんの家来たこと無かったっけ?』

 

「げ、玄関というか・・・門の前までしか・・・」

 

『りんりん、奏多さんのことりんりんのお母さんとかに説明したことあるの?』

 

『えっと・・・したことない・・・かも・・・』

 

それもっと緊張するやつ!!

 

自分にとって見ず知らずの男が自分の娘に会いに来たとかめちゃくちゃ怪しまれるし!

 

「・・・あのさ、出来れば僕とだけじゃなくて紗夜やリサとも話をして欲しいんだ。」

 

『今井さん・・・達と・・・?』

 

「うん、今のRoseliaに必要なのはRoseliaのことを1番見ていた2人だから・・・僕は・・・いや、僕達はRoseliaでありながらRoseliaを見てなかった。だから、せめて2人だけでも話して欲しい。」

 

『・・・どうしよう・・・あこちゃん。』

 

やはり少しばかり抵抗はあるようだ。

 

あこに救いを求めるように聞いている。

 

『あこは・・・出来れば紗夜さんやリサ姉、友希那さんと話したい。あって、やっぱりみんなRoseliaのこと大好きなんだって気づいて欲しい。それにこの衣装も明日で完成しそうだし、あこはそれをみんなに着て欲しい!』

 

あこは強くそう言った。

 

やっぱり、あこが一番Roseliaのことを大好きでいてくれている。

 

いてくれるからこうして取り戻そうと動いてくれている。

 

「燐子・・・頼めるかな?」

 

『・・・わかった、明日お昼に私の家に来て。そこで・・・私も話がしたい・・・出ていっちゃったことや、練習に行かなかったこと・・・謝りたい・・・』

 

「・・・うん、わかった。明日2人を連れてくるから・・・会えるのを楽しみにしてるから・・・それじゃあ。」

 

そこまで言ってチャットを切る。

 

とりあえず・・・明日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ということで時は流れて次の日。

 

約束の時間まであと30分ほどなのだが、僕は今CIRCLEに向かって走っていた。

 

燐子の家は少しばかり遠いのでいつもはバイクで行く。

 

定員問題も、この間家の地下倉庫(親父が買ったはいいものの使わずに残していったものが大量にある)で何故かバイク用のサイドカーが見つかった。

 

なぜバイクを持ってなかった親父がサイドカーなんて買ったのかてんでわからないが、幸い黒叫に取り付けることは可能だったので昨日の夜に取り付けたのだ。

 

しかし肝心のガソリンが残り少なく、ここからガソリンスタンドまではかなり遠い。

 

なのでそこによる時間も余裕もなく、こうして走っているわけだ。

 

走ってCIRCLEにたどり着き、いつものスタジオに入る。

 

そこにはやっぱりリサと紗夜がいた。

 

「そ、ソータ!?」

 

「く、九条さん!?」

 

2人が驚きの声を上げた。

 

それもそのはず、連絡なんて全く入れてないからだ。

 

「や、やっほー・・・二人と話したくてさ。」

 

「とりあえず・・・落ち着きましょうか。」

 

「まだ2月なのに汗ダラダラじゃん!走ってきたの?」

 

「う、うん・・・バイク使えなくて・・・」

 

ということで少し休憩を入れてから、本題に入った。

 

「あのさ、Roseliaがばらばらになったのってさ・・・」

 

「うん、さっきアタシ達もその事話してた。」

 

「私達はRoseliaというバンドにいながら、個にとらわれていた、だからそのためにもあなたと白金さん達の力が必要不可欠・・・そう話してました。」

 

まさか自分と同じ答えにたどり着くとは思わなかったがこれなら話が早そうだ。

 

「だったら話が早い、燐子とあこに会ってくれないかな。」

 

「「えっ!?」」

 

2人が同時に声を上げた。

 

2人にとっては願ったり叶ったりと言ったところか。

 

「昨日、燐子とあこと話そうと思って連絡したら2人とも燐子の家にいるから今日来てくれないかって言われてさ、燐子にお願いして2人と話をしてくれることになった。だから僕と一緒に来て欲しいんだけど・・・」

 

「今井さん、すぐに準備を。」

 

「わかってる!ソータナイスタイミング!!」

 

2人がそれぞれの楽器を直して準備をする。

 

どうやら本当にタイミングがよかったみたいだ。

 

「よし、準備できた!」

 

「なら、行きましょう。九条さん、ありがとうございます。」

 

「お礼はこの件が終わってからにしよう。とりあえず行こう。」

 

僕達は燐子の家に向かうため、CIRCLEを後にした。

 

そして歩きながらもお互いの意見を交換し、どうするべきかを考えていた。

 

「今までのRoseliaを築き上げてきたもの・・・音楽でもない、何か決定的なものを見落としている気がする・・・」

 

「紗夜もそう思う?アタシも普通に再認識するだけじゃ何か足りないと思ってさ・・・」

 

そう、恐らくお互いのことを再認識し、僕達はRoseliaであることを証明できても、その後がダメならまたバラバラになってしまうかもしれない。

 

そのために、何か再認識の他にもっと必要なものがあったはず。

 

あったはずなのだが・・・

 

「・・・だめだ、思い出せない・・・何か、何か大切なものがあったはずなんだよ・・・Roseliaをつなぎとめてた何かが・・・」

 

なんかこう・・・全員が共感できて、お互いに楽しめたもの・・・

 

身近にあって、慣れ親しんで、その大切さに気づかなくなってしまっていたもの・・・

 

全員で考えながら歩いているといつの間にか商店街付近まで来ていた。

 

時刻はお昼時なので1番繁盛する時間帯だ。

 

そして当然のごとくパン屋の袋を抱えた脳内パン祭りがパン片手にする時間でもある。

 

「あ、モカじゃん。相変わらずすごい量食べてるなー・・・」

 

「九条さん、悪いけど今は青葉さんに話しかけてる余裕は・・・」

 

こっちがそんな感じなのをお構いなく、こちらに気づいていないモカはメロンパンを取り出していた。

 

・・・・・・ん?メロンパン?

 

メロンパン・・・メロンパン・・・

 

「「「あーっ!!!」」」

 

3人同時に声を上げる。

 

やっとわかった、やっと気づいた!

 

何が足りないと思ったのか、何が必要なのか!

 

「リサ・・・紗夜・・・!」

 

「はい、わかってます!」

 

「帰ったら・・・やるよ!」

 

そう、Roseliaで大切なもの。

 

僕達はそれにやっと気づけたのだった。




次回、『Roselia』


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87話 Roselia

6月になっての初投稿です。

これから暑くなるので体調管理は気をつけましょう。

ということでラストまであとすこし!本編どぞ!


Roselia再興の兆しとなったものは見つけたがそれは後回しにし、僕達はついに燐子の家に到着した。

 

さっき確認をとったところ、あこはもう来ているらしい。

 

「着いたねー、じゃあ押すねー」

 

「あっ、ちょ」

 

僕の静止も聞き受けられることも無く、リサがインターホンを鳴らす。

 

まだ心の準備というものが出来てないって言うのに!

 

するとインターホンからは燐子ではない声が聞こえた。

 

『はーい』

 

「あ、はじめましてー、今井リサって言いますけど燐子さんいますかー?」

 

『ああ、言ってた燐子のお友達ねー、ちょっとまっててねー』

 

インターホンがブツリと切れる。

 

(今の絶対燐子のお母さんじゃん・・・やばいめちゃくちゃ緊張するし・・・身分なんていえば・・・)

 

めちゃくちゃ冷や汗が流れる。

 

紗夜はそれに気づいた。

 

「九条さん?どうしたんですか、汗なんてかいて・・・まだ2月ですよ?」

 

「いや・・・燐子のお母さんと会うの初めてで・・・どう身分を伝えたらいいか・・・」

 

「そんなのお友達でバンド仲間でいいじゃん!気楽に行こうよ気楽にー」

 

リサがバシバシと肩を叩く。

 

しかし緊張するものは緊張するのだ。

 

「九条さん、白金さんと付き合っているならいずれ合わなければならないのですから、覚悟を決めた方がいいですよ。」

 

「ううっ・・・」

 

そんなこんなしているうちに玄関の戸が開き、燐子と同じ黒髪の女性がでてきた。

 

「いらっしゃい、あなた達が燐子の言ってた子たちね。私、燐子の母です。」

 

「こんにちは、燐子さんのクラスメイトでバンドメンバーの氷川紗夜と申します。」

 

「同じくバンドメンバーの今井リサでーす。」

 

「え、えっと!同じくバンドメンバーでクラスメイトの九条奏多でしゅっ!その・・・燐子さんにはお世話になってます・・・」

 

緊張しすぎて呂律が回らない。

 

それを見て燐子のお母さんは「ふふっ」と笑った。

 

「そんなに緊張しなくて大丈夫よ。燐子のお友達であるだけで私からしたら信用にあたる人だから。とりあえず入って。」

 

「「「おじゃましまーす」」」

 

とりあえず家に上がらせてもらい、燐子の部屋に案内される。

 

「燐子ー、お友達来てるわよー」

 

「うん、入れて・・・」

 

「そういうことらしいから、あとはゆっくりしてって。」

 

燐子のお母さんがその場をあとにする。

 

僕は燐子の部屋の扉を開いた。

 

「ど、どうもー・・・」

 

「おじゃましまーす。」

 

「お邪魔します。」

 

久々に燐子とあこと顔を合わせた。

 

2人は今しがた衣装を作り終えたところのようだった。

 

「こ、こんにちは・・・氷川さんに・・・今井さん・・・」

 

「ごめんね、急にソータを通じて押しかけちゃって。でも、こうでもしなきゃ話せないと思って。」

 

「九条さんや巴さんから話を聞きました。2人が最近衣装を作っていると。」

 

「は、はい・・・その・・・」

 

「その・・・私たち・・・っ!」

 

やはりあこと燐子はどうにも緊張しているようだ。

 

自分で言い出したくても言い出せない雰囲気を出している。

 

「あこ、燐子、落ち着いて。」

 

「「えっ・・・?」」

 

「二人が練習飛び出して行っちゃった理由がやっとわかったの。」

 

「だからこそ、力を貸して欲しい。」

 

「・・・どういうことですか?」

 

あこが聞いてきたので、二人に自分たちの気づいたことを話す。

 

二人はそれを聞いて少し驚いた顔をしていた。

 

「集団を・・・意識していた・・・?」

 

「ええ、あなた達2人が唯一、私達5人の中でずっとRoseliaを見ていてくれていた。」

 

「アタシ達が、もう1枚Roseliaを取り戻すためには、みんな全員、Roseliaであることをもう一度意識しないとって思って・・・ほんと、今更恥ずかしいことなんだけどね。今までもずっと、バンドをやってきたつもりなのにさ。」

 

「わ、私たちもずっと・・・Roseliaを取り戻す方法を・・・考えていたんです・・・」

 

「そうだったんですか?」

 

紗夜が少し驚いたようにそういった。

 

「はい・・・これからもRoseliaでいたい・・・そのために奏多くんに相談して・・・あこちゃんと2人で衣装を作って・・・」

 

「作っている時、ずっとRoseliaのことを考えていたんです!それが、すごく楽しくて・・・もっともっとRoseliaでいたいって思って・・・Roseliaのことを考えて、楽しい気持ちになるのって、ホントはダメなのかもしれない。もっと真剣に考えなきゃ・・・でも、あこはRoseliaが大好きだから!」

 

「ダメなんかじゃない。ダメなんかじゃないよ・・・あこ。」

 

「えっ・・・」

 

「あなたのその気持ち、これからのRoseliaにとってとても大切なものになると思うわ。その気持ちは、Roseliaに誇りを持っているってことだから。」

 

紗夜がそう言うとあこはパァーっと顔を輝かせた。

 

「はいっ!そうなんだと思います!あこ、Roseliaに誇りをもってます!」

 

「わ、私も・・・あこちゃんと同じくらい、Roseliaのこと・・・大切に思ってます!」

 

燐子が珍しくすこし大きな声を出す。

 

その思いだけでも十分だった。

 

「あこ、燐子。大切なことに気づかせてくれてありがとう。」

 

「い、いえ・・・私たちは、何も・・・それに・・・氷川さんや今井さんがRoseliaを取り戻したいと思ったのは・・・きっと、Roseliaのこと大好き、だからだと思います。」

 

「そっか・・・そうなのかも。きっと、それに気づけなかったのも、Roseliaのことをしっかり見れてなかったからなんだよね。反省、反省・・・」

 

「私も反省しなくては・・・」

 

二人の気が少し落ちる。

 

燐子がそれを「まぁまぁ・・・」と慰める。

 

「でも・・・私たちにそれを気づかせてくれて・・・Roseliaを取り戻そうとみんなを励ましてくれたのは・・・奏多くんだから・・・」

 

「いや、僕は何も・・・」

 

「そんなことないですよ!」

 

燐子の言葉を否定しようとするとあこがそれを止めた。

 

「あこ・・・?」

 

「きっと、奏多さんが動いてくれなきゃ、Afterglowのみんなと話さなければあこはこうしてりんりんと衣装作ってないです!きっと今でも考えっぱなしだったと思います!」

 

「・・・うん、ソータが『自分なりに考えて行動すればいい』って言ってくれなきゃ、アタシずっと何をすればいいかわからなかったし。」

 

「九条さんがいなければ、湊さんと話す決心ができなかったと思います。」

 

「私も・・・奏多くんが励ましてくれたから・・・こうしてまたみんなと話せてる・・・Roseliaが大好きって再確認できてる・・・奏多くんは、何もしてなくないよ・・・」

 

「みんな・・・」

 

そこまで言われて少し目頭が熱くなる。

 

しかし、今は泣く暇なんてない。

 

一層、Roseliaを取り戻したいという決心が強まる。

 

「ね・・・友希那もさ、Roseliaのこと、好きかな?」

 

「きっと好きだと思います!理由は、わからないけど・・・きっと、好きです!友希那さんはすごく厳しいけど・・・厳しいのって、Roseliaのことを信じているからですよね!Roseliaなら、もっとやれる!って思っているからですよね!」

 

「だからポピパのライブにも顔を出してくれた。Roseliaのために自分から動こうとしてくれた。きっと・・・Roseliaが好きだから。」

 

そうでなければ自分から動かない。

 

そうでなければあんな厳しい態度をとろうとした理由がわからない。

 

「みんなで・・・友希那さんともう一度・・・話してみませんか・・・?私たちは・・・既にRoseliaの『誇り』を持っているんだって・・・」

 

燐子の提案に乗らないものはいなかった。

 

恐らく今のRoseliaで、1番悩んでいるのは友希那だ。

 

彼女は「Roseliaのボーカルとして、折れるわけにはいかない」といつかの日に言っていた。

 

そして今、1番折れそうになっているのも友希那だ。

 

それを支えるのが、僕らの・・・メンバーとしての役割だと思っている。

 

「友希那は・・・今度、僕が呼ぶ。だから・・・」

 

「みんなで話をつけましょう。」

 

「あこ達は」

 

「既に」

 

「『Roselia』であるってことに・・・」




時間も時間なので、みんなは私の家をあとにした。

今井さん、氷川さん、奏多くんはなにやら話していたが、それも後に知ることになるだろう。

だが、共働きで同じ会社に行っているのにまさか母だけ休みなのは少し驚いた。

まぁ、これといって困ることではないので気にしてはないが・・・

するとドアがノックする音が聞こえた。

「誰だろ・・・はい?」

「燐子、私。入るわね。」

声の主は母だった。

母は私の部屋に入ってきた。

「素敵なお友達ね。」

「うん・・・突然ごめんね。来る前日に突然友達が来るなんて言っちゃって・・・」

「いいのよ、気にしなくて。あこちゃん以外に仲のいい友達が増えることに、お母さん嬉しいんだから。」

母はにこやかにそう言った。

すると母は突然肩を組んで顔を近づけてきた。

「もしかしてあの子?燐子の好きな子って・・・」

「ひゃっ!あ、あの・・・その・・・えっと・・・」

突然そんなこと言われて頭が真っ白になって慌てる。

母はそれを見て笑っていた。

「やっぱりかー!燐子、あの奏多くんって子に対してめちゃくちゃ明るい顔してるからさー」

「えっと・・・はい・・・」

「で、どうなの?あの子、なかなか可愛い顔してるじゃない?」

「えっと・・・クリスマスの日から・・・お付き合いしていて・・・」

「あらやだ、もうそんなところまでいってたのかー!なになに?お母さんやお父さんにはまだ内緒だったの?」

「だって・・・恥ずかしいし・・・奏多くんも、今日来るのとても緊張しているようだったし・・・」

「確かにガッチガチだったわねー、でも」

そう言うと母は私の両肩に手を添えた。

「あの子、心から優しい子ね。」

「・・・うん」

母にそう言って貰えて、私は心から嬉しかった。


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88話 ワタシ ノ ショウタイ

リサイベでハイテンションで10連回したらY.O.L.O!!!!!の蘭がすり抜けてきてハイテンションな隠神カムイデース。

これでY.O.L.O!!!!!衣装コンプリート!Determination Symphony衣装並に嬉しいデース!

しかし、今回は少し短め。
次回にドカーンと持っていきたいデース!

てなわけで本編どうぞ!



本当のことを言えば・・・私は私のために歌っていた。

 

きっかけは父が影響していた。

 

幼かった頃はそんな父が、歌が大好きだった。

 

そして父がバンドを解散してから、大好きだった歌はいつの間にか使命へとなっていた。

 

父の無念を晴らすため。

 

FURTHER WOULD FES.という大きな舞台に立ち、その中の頂点になるため。

 

無論、1人でなれるなら苦労しない。

 

そのためにバンドを組んだ。

 

もちろん、個々の技量が足りなければ意味が無い。

 

力が足りなければ蹴落とし、それより優れた逸材をスカウトする。

 

そうして作ったのが私のバンド・・・Roseliaのはずだった。

 

リサや紗夜、あこ、燐子、そして奏多・・・それぞれを認め、最初のメンバーとして向かい入れた時も当初の考えは揺るがなかった。

 

しかし、次第にその気持ちは薄れ、その代わりに色々なことを経験した。

 

初めてRoseliaで演奏をしたことから始まり、父の曲を歌ったこと。

 

次に私に・・・いや、Roseliaにとってかけがえのない存在がいること。

 

仲間が道を見失い、消えそうになった時に必死に助けようとしたこと。

 

たぶん、その時から当初の考えは消え失せていた。

 

けど、その時もRoseliaは上手くやっていけていた、だから必要ないと考えていた。

 

仲間の大切さを知った

 

大切な人の存在を知った

 

仲間を助けたいという思いを知った

 

自分の経験を人に伝え、同じ思いをして欲しくないという考えを知った

 

普段やらないようなことにも自分たちの音楽をみつけだせることを知った

 

そして・・・恋と、失恋を知った

 

Roseliaでの日常が、いつの間にか私という存在を変えていった。

 

なら、今の私は何?

 

当初の目的も消え、Roseliaの音の迫力も消え、そして今は仲間も消えそうになっている・・・

 

仲間のことを知ってきたつもりだった。

 

けど、そんなこと思い過ごしに過ぎなかった。

 

実際、私は私のために歌い、みんなの考えなんて考えようとしなかったのだ。

 

だから昔に戻れば元に戻るなんてありえないことを考えた。

 

そんなこと、あるわけないのに己の責任を他に押し付けようとしていた。

 

自分の考えを、仲間に押し付けようとしていた。

 

だから、気が付かない。

 

仲間のことを考えようともしない。

 

Poppin’Partyが奏でる『何か』の正体に言われるまで気づけない。

 

所詮、私はそれだけの人だったのだ。

 

仲間がいなければ歌えない、鳥籠の中で空を飛んでいると錯覚した、『自分』と言う名前の鳥籠の中に囚われたままの鳥だったのだ。

 

ドラマや本では『失ってから初めて気づいた』などと表現されることがある。

 

私はそんなの迷信だと思っていた。

 

けど、今そのことを実際に体験している。

 

失ってからでないと気づけない仲間の大切さを・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと目を覚ます。

 

目に映るのは私の部屋の天井だった。

 

どうやら私は寝てしまっていたらしい。

 

寝ている暇などないというのに。

 

時刻は午後の8時、そろそろ夕食の時間なので下に降りなければ。

 

ベッドから起き上がり、動き出す。

 

するとスマホが鳴った。

 

メッセージが届いたようだ。

 

「・・・メッセージ?」

 

おもむろにスマホを手に取って確認する。

 

差出人は奏多だった。

 

「奏多・・・!」

 

慌ててメッセージを確認する。

 

そこには

 

『明日、午前10時にCIRCLE第3スタジオに来て』

 

と書かれていた。

 

それ以外にはなんにもない簡素なメッセージだった。

 

こんな時に奏多が理由もなく私を呼ぶはずもない。

 

きっと何かあるのだろう。

 

「行ってみるしか・・・なさそうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、私は言われた通りにCIRCLEの第3スタジオにやってきた。

 

しかし、何を間違えたのか来たのは集合時間の一時間前、まだ誰もいない。

 

誰もいないスタジオで、1人孤独に私は立っている。

 

それは今の私の現状を映し出すかのようだった。

 

特にやることも無い私はスマホをスピーカーに繋げて適当な曲を選曲し、歌ってみた。

 

しかし、何度歌ってみても何もわからない。

 

どうすればRoseliaを取り戻せるのか、どうすれば誇りを取り戻せるのか・・・

 

本当に暗闇に迷い込んでしまったみたいだ。

 

「先に1人で練習・・・ですか?」

 

聞き慣れた声。

 

扉の方を見ると紗夜がいた。

 

「・・・別に練習、というわけじゃないけど・・・奏多に呼ばれたから・・・」

 

「知っています。でも、あなたはこんなに早く来る人ではないはずです。」

 

紗夜は平然とそう言った。

 

確かに私はこんな早くからスタジオに入ったことは無い。

 

「・・・答えをみつけようとして、自分なりに考えて、歌ってみて・・・それでも答えは見つからない。だから、なにか見つけようと早く来たのかもしれない。」

 

自分でも何を言っているかわからないが、思ったことを口にした。

 

それを紗夜は黙って聞くとゆっくり話し出した。

 

「あなたは・・・あなたと私は、似ていると思います。あなたは私の背中を押してくれた。今度は、私があなたの背中を押せる時かもしれません。」

 

「あなたと・・・私が・・・?」

 

確かに私と紗夜はどこか似ている雰囲気があるのかもしれない。

 

しかし何故それを今・・・

 

「この問題を考えている時に自分の中の変化に気がついたのです。きっと以前ならここまでバンドの問題に向き合わなかったかもしれない。それがなぜ、あなたを説得したり、バンドのことを考えるようになったのか・・・それは、私が『Roseliaの氷川紗夜』だから。」

 

「Roseliaの・・・」

 

「そうしてくれたのは、あなたが背中を押してくれたからです。妹と比べない私・・・自分の音を持つ、私・・・妹を見返そうとしている私から、Roseliaのギタリストの私へと変わっていったんです。・・・あなたも同じ。」

 

「私も・・・?」

 

紗夜に疑問の声をあげる。

 

紗夜はそれを静かに聞いて、答えた。

 

「あなたもきっと・・・もう、お父様の影を追いかけるだけの湊友希那ではないはず。」

 

「あ・・・!」

 

確かに最初は父の影を追いかけ、歌い始めた。

 

そして父の影を追いかけるのではなく、Roseliaの音としてあの曲を歌う・・・そう父と約束したはずだった。

 

何故それを忘れていた・・・それが・・・それが私にとっての誇りではなかったのか・・・!

 

「・・・あなたは何者なのか。もう一度考えてみれば、答えは見えてくるはずです。では私は、また時を改めて来ます。」

 

そう言うと紗夜はそのまま出ていってしまった。

 

それまでのことを全て振り返ってみても、私の正体は昔から変わらない。

 

「私は・・・」




次回、『ホコリタカク カナデタイ』


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89話 モウイチドツナグテ

生徒会の演説のせいで胃が物凄いことになってる隠神カムイです。

なんだかんだで高校生活のラストに生徒会に立候補しましたが、少しばかり燐子の影響もあると思う(正直自分でもわからんが、1度やってみたいと感じていた)
まぁ、燐子みたいに生徒会長になる気は無いから多分良くてつぐみ副会長かなー?
私は人を率いる器ではないので・・・

まぁ演説ってかなり勇気のいることだし、聞いてくれるだけでもありがたいって感じたからそれを頑張ってやりきった燐子にはあらためて惚れ直しました(笑)

皆さんも人の話をしっかり聞いてあげてください。
話している方も聞いてくれるだけでも嬉しいものです。


ということで残すとこあと2〜3話(で終わらせたい!)

では本編どうぞ!


紗夜に言われた『湊友希那の正体は何か』の答え。

 

考えても考えてもその答えはひとつでしかない。

 

けどその答えをどう伝えれば良いのかがわからない。

 

自分が思ったことを伝えるだけで本当にみんなに伝わるのだろうか。

 

逆に傷つけてしまうのではないだろうか。

 

私はそれが怖かった。

 

けどこのままでは変われない、変わらなければ前に進むことすら出来ない。

 

あと少しで紗夜や奏多達が来る。

 

それまでに・・・それまでに『自分なりの言葉』を考えないと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多side

 

集合時間の15分前に僕・・・いや、()()はCIRCLEへ到着した。

 

そこにはもう紗夜が先に来ていた。

 

「おはよう、紗夜。早かったね。」

 

「おはようございます、九条さんに()()()()。」

 

「おはよー紗夜!いやぁ、バイクっていいね!」

 

そう、今日は何かあったらすぐに移動できるようバイクで向かっていた時に偶然リサと鉢合わせた。

 

リサは「この前の約束ってことで〜乗っけて?」と言ってきたので断る理由もないため乗せてきたのだ。

 

しかしそんなことを知らない紗夜は怪しそうな眼差しを向けてきた。

 

「さて、まずなぜ今井さんが九条さんのバイクから降りてきたのか説明を貰えますか?事によっては白金さんに報告させていただきますので。」

 

「ちょ、待ってください!それだけはご勘弁を!変に誤解されるとせっかくしっかり話せるようになってきたのに、また話せなくなるから!」

 

「えっと・・・紗夜?別にソータは悪くないよ。たまたま鉢合わせてアタシがソータに乗せてって頼んだんだよ。」

 

リサが代弁してくれる。

 

下手に誤解されてしまってはRoseliaを元に戻せても僕の今後が危うくなる。

 

紗夜はその言葉に対して少し間を開けるとクスッと笑った。

 

「冗談ですよ。あなたがそういう人ではないのはわかってますから。」

 

「お、驚かさないでよ・・・ただでさえココ最近悪いことが起こりすぎる上に走り回ってるから心臓に悪いよ・・・」

 

体調管理はしっかりしているつもりだが9月の件もあるためその月から本当に気遣っている。

 

勘弁して欲しいものだ・・・

 

「湊さんは先に1人で練習していました。あとは白金さんたちを待つだけですが・・・あ、来たようですね。」

 

紗夜の視線の先を見ると燐子とあこが一緒に来ていた。

 

さっきチャットで聞いた時『あこちゃんと衣装の確認をしてから行く』と言われたので多分それで一緒にいたのだろう。

 

燐子とあこの手には紙袋があった。

 

「2人ともおはよー、衣装完成したの?」

 

「おはよーリサ姉!」

 

「おはようございます・・・衣装は・・・あと少しって感じなんですが・・・少し手を加えたいなって思って・・・でも、ほとんど完成しているので・・・一応持ってきました・・・」

 

「衣装の件については後にしましょう。まずは湊さんとしっかり話をつけなければ。」

 

「うん・・・行こう。友希那が待ってる・・・」

 

僕達はCIRCLEの中に入っていく。

 

CIRCLEの、いつものスタジオの扉を開く。

 

そこには友希那が1人座っていた。

 

「奏多・・・それにみんな・・・」

 

「友希那・・・おはよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずみんなの荷物を置いて、僕達は友希那と向かい合うように立っていた。

 

友希那も立ち、僕達の前に立った。

 

「みんな・・・・・・っ・・・・・・」

 

友希那がなにか話そうとするが行き詰まったような顔をする。

 

まだ自分のことを話す決心がついていないのかどうかはわからない。

 

でも、僕達は友希那が話し出すのをずっと待っていた。

 

途中、リサが口を出そうとするのを紗夜が止めながも待っていると、ようやく決心が着いたのか友希那はゆっくりと話し出した。

 

「・・・SMSの失敗から、ずっと考えていた。なぜ、お客さんが離れていってしまっていたのか。昔の私たちと違うところはどこなのか。・・・昔に戻れば、昔のような雰囲気で練習をすれば、昔のような音が取り戻せるんじゃないかと思った。でも、それは間違いだった。音を取り戻すこと・・・それは、Roseliaを取り戻すこと。そう思ってずっと考えてきたけど・・・わからなかった。・・・誇りを取り戻すまで、あなた達に顔向けできない、そう思ってた。けど・・・私は・・・私は・・・Roseliaの湊友希那だから・・・!誇りを失おうが、惨めだろうが、私はRoseliaの湊友希那でいたい・・・!その為に、ここにいさせて欲しい!私は・・・ここで歌を歌うことしか・・・できないから・・・!」

 

友希那が声を絞り出すようにそう言った。

 

友希那の思いが、友希那の考えが、そして友希那の悲しみが僕達の心を貫いた。

 

そして一番最初に口を開いたのは燐子だった。

 

「友希那さんは、惨めなんかじゃない!・・・そんなこと、あるわけない・・・っ!!友希那さんは・・・そうやってRoseliaのことをずっと・・・考えて・・・一人で悩んで・・・誇りを取り戻そうとして・・・そうやって一人で悩み抜いた友希那さんが・・・惨めなわけ、ない!・・・でも・・・」

 

燐子はそこで区切ると自分の思いを大きな声で友希那にぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『私達』は『Roselia』です・・・!わからないなら・・・一緒に・・・探せばいい・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時みたいに燐子が友希那に大きな声で思いを伝える。

 

しかし、あの時とは違いその声の響きは違うものだった。

 

「Roseliaの湊友希那でありたいって言う気持ち・・・そこに、友希那の『誇り』はあるんだよ・・・!」

 

「あなたは一度だって誇りを失ったことなんかない。ずっと、誇りを持ち続けていたからこそ、こうやって悩み続けていたんです。」

 

「あ、あこ!Roseliaのこと、やっぱり誰よりもかっこいいバンドだって思ってます!Roseliaがカッコイイバンドでいるために、この6人の誰が抜けてもダメだと思いますっ!!」

 

リサ、紗夜、あこが友希那に言葉をかける。

 

それを聞いて友希那の体は震えていた。

 

「・・・ごめんなさい・・・こんな私を・・・もう一度受け入れてくれて・・・」

 

声も震えた友希那に、僕が声をかけた。

 

「何言ってるんだよ。誰も友希那のことを受け入れないわけないよ。だって・・・『Roselia』は友希那が創り上げたものじゃないか。」

 

「私が・・・」

 

僕の言葉に友希那は顔を上げて言葉を返した。

 

「うん、みんな友希那の思いを感じなかったらこうやって今までついてきていない。バンドのことで本気で悩んだりしない。それに・・・僕達も至らぬ点はあったんだから・・・」

 

「そんな・・・そんなこと・・・!」

 

僕の言葉を否定しようとする友希那を、リサが優しく話しかけた。

 

「ううん、友希那。アタシ達だって、ずっと『Roselia』を見てこなかったのは同じことなんだよ。」

 

「私たちは・・・今・・・ようやく『Roselia』になれたんです・・・!」

 

「うん・・・うん・・・っ!あこ、Roseliaが大好きです!!」

 

あこがそう言うと友希那は膝から崩れ落ちた。

 

そしてその瞳には大量の涙を浮かべていた。

 

「・・・こんな私を・・・受け入れて・・・私についてきてくれるなら・・・今だけ・・・今だけ泣かせて・・・」

 

「うん・・・泣きたかったら・・・泣いていいんだよ」

 

リサが友希那を優しく抱きしめる。

 

誰も友希那を否定するものはいなかった。

 

「ううっ・・・ううっ・・・うわあああああああああああ!!!」

 

友希那は溜め込んだ思いを吐き出すように大声で泣いた。

 

リサは自分の服が涙に濡れようとお構いなく友希那をずっと抱きしめていた。

 

すると僕の頬になにかつたうものが流れる。

 

それは涙だった。

 

気がつけば僕も涙を流していた。

 

僕だけじゃない、リサも、あこも、紗夜も、燐子も涙を流して泣いていた。

 

そして、この涙をきっかけに僕達は初めて『Roselia』になることが出来たのだった。




次回、『ウゴキダス トケイノハリ』


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90話 Neo-Aspect ウゴキダス トケイノハリ

今までのストーリー読み直してNeo-Aspect編の長さに驚いた隠神カムイです。

なにこれ!4ヶ月もやってんの!?

でも、長かったNeo-Aspectもようやく終わり!

前書きなぞ不要!本編どうぞ!


あの後、練習を行える状態ではなかったのでその日は解散となった。

 

学校も再開し、いつもと同じ・・・いや、それ以上に周りと、Roselia内での関係が良くなったせいか僕自身周りと話す機会が増えてきた。

 

学校での生活でいろいろあったのだが、学校での出来事は後に語るとして・・・

 

Roselia再結集して初の練習日、久しぶりの全員での練習だ。

 

そしてその日に友希那が持ってきたもの、それは新曲の歌詞だった。

 

それを見て全員が驚きの声を上げた。

 

「この曲・・・友希那がこの短期間で作ってきたの!?」

 

「ええ・・・私たちがRoseliaでいられるように。その気持ちを曲にしたかった。」

 

歌詞から感じ取れる思いや葛藤、そして何より今までで1番の完成度を誇る迫力。

 

友希那がまだ歌ってすらないのに曲の迫力を感じ取ることが出来た。

 

「わぁ・・・っ!カッコイイ!!あこ、今すぐ演奏したいっ!」

 

「素敵な曲ですね。珍しく私も宇田川さんと同じく、今すぐに演奏したい気持ちです。」

 

「ええ〜!?珍しく、なんて言わなくても〜・・・」

 

あこが頬を膨らます。

 

しかし、紗夜がここまで言う曲なのだ、みんな思うことは同じなのである。

 

「あっはは!紗夜、照れてるだけだって。これ、頑張って次のライブまでに間に合わせようよ!」

 

「はい・・・!ライブまで、あまり時間はありませんが・・・新しい・・・私たちを象徴する曲になりそうですし・・・」

 

「なにより、私たちには奏多がいてくれてる。アドバイス、できるわよね。」

 

友希那がじっとこっちを見てきた。

 

僕はその視線をまっすぐ返した。

 

「・・・任せて、僕はそのためにここにいる。だからみんなは己の技術を信じて演奏して欲しい。」

 

自分の思いを友希那にぶつける。

 

友希那はそれを聞いて「ふふっ」と笑うといつもの練習の時のクールな表情に戻った。

 

「今日からライブに向けて、集中していきましょう。」

 

「はーーーい!!」

 

あこが元気に反応した。

 

・・・そろそろ頃合だろうか。

 

「・・・あの、さ。みんなにこれ、食べて欲しいんだけど。」

 

そう言うとリサはカバンからクッキーを取りだした。

 

あの時、燐子の家に向かう途中に思いついたことがこれだ。

 

その日から入念に計画し、僕とリサと紗夜の3人でそれぞれ作ってきたのだ。

 

真っ先に反応したのはあこだった。

 

「わぁ・・・っ!クッキーだ!」

 

「これは・・・リサが作ってきてくれたの?」

 

「ううん、アタシと、紗夜と、ソータの3人で作ったの!」

 

「・・・前から一緒に作る約束はしていましたし・・・味はまだわかりませんけど・・・」

 

「大丈夫だって!アタシとソータと作ったんだから、味は折り紙付きだって!」

 

リサにそう言われるが、実際リサの方がクッキー作りは上手い。

 

しかし、味に関しては問題ないのは確かだ。

 

「クッキー作りはリサに負けるけどね、でもRoseliaにはやっぱりこれが必要かなって思ってさ。出すタイミングはリサに一任してたけど・・・」

 

「いや〜、いつ出そうかってすごく迷ったんだけどさ。なんとなく、今がいいかな〜って思ってさ・・・」

 

「クッキーには練習パフォーマンスを向上させる効果が見込めますので、練習前に食べるのがいいかと。」

 

なんか紗夜が評論家のような言い方で解説するが、みんなそれを気にせずクッキーを手に取った。

 

「それじゃあ頂くわ。・・・うん、美味しい。」

 

「はい・・・今まで食べた中で・・・1番美味しいです・・・」

 

「うん、すっごく美味しい〜!あこ、またこうやってみんなでクッキー食べられて嬉しいよ〜!リサ姉、紗夜さん、奏多さん、ありがとうっ!」

 

みんなが嬉しそうに食べる。

 

これは作りがいがあった。

 

「だってさ。やったね、紗夜!」

 

「さぁ、クッキーの効果が切れないうちに、早く練習を始めましょう!」

 

紗夜が赤面して急かしてくる。

 

やはりかなり心配していたのだろう恥ずかしさの中に安堵も見て取れた。

 

「はい・・・っ!」

 

そして今日の燐子はいつもよりいきいきしているようにみえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後

 

「友希那さんっ、今日のあこの演奏、どうでしたか?」

 

「ええ、悪くなかったわ。でも、奏多が練習中に言っていたようにいくつか問題点もあって・・・」

 

練習が終わり、その帰り道。

 

あこが友希那と練習のことで話している。

 

そしてその後ろで紗夜とリサがそれを見ながら談笑している。

 

そして隣で燐子と一緒にこの光景を見ている。

 

うん、『いつも通り』のRoseliaだ。

 

「いつも通り・・・だね。」

 

「ふふっ・・・Afterglowのマネ?」

 

どうやら口に出してしまっていたようで、燐子にそう言われた。

 

少し気恥ずかしくって頭を搔く。

 

でも、この『いつも通り』は『Roseliaのいつも通り』だ。

 

「そうかもしれないけど・・・僕達はAfterglowみたいな『いつも通り』じゃないよ。」

 

「わかってるよ。私たちは・・・Roseliaなんだから。」

 

「うん、でもこうやって帰れるのが懐かしく感じもついこの間までこんな感じだったような気がしてさ。なんて言うか・・・ついさっきまで時が止まって、今前に進み出した・・・みたいな?・・・ははっ、あこみたいにカッコイイ感じに言えないや。」

 

「時・・・前に・・・進む・・・」

 

燐子を見ると何やらボソボソ呟いていた。

 

燐子が突然こうなるのって珍しい。

 

「あれ、燐子?もしもーし?」

 

「そ、そうだ・・・!」

 

「うわっ!」

 

燐子が突然大きな声を出し、ビックリする。

 

その声に全員がこちらを見た。

 

「り、燐子・・・?」

 

「白金さん・・・?どうかしましたか?」

 

「あ、あの・・・あ、明日!新しく作ったみなさんの衣装・・・一度、回収させてもらえませんか・・・?」

 

燐子が突然そんなことを言った。

 

なにか不具合があることに気づいたのだろうか。

 

「何か問題があったの?」

 

「い、いえ!その・・・アクセントになるものがもう一つ欲しいと・・・思っていたんですけど・・・今・・・それが頭に浮かんで・・・」

 

燐子がスマホを取り出して時間を確認する。

 

ちらっと除くと6時半ほど、いつも燐子が通うアクセサリーショップは7時閉店だったはず。

 

「時間やばいよね、ここからだとすぐ僕の家だ。バイク使って行こう。」

 

「う、うん。ありがとう!こ、ここで・・・失礼します・・・!」

 

僕と燐子は急いで僕の家に向かい、バイクを使って商店街のアクセサリーショップに向かった。

 

向かう道中、僕は燐子に質問をした。

 

「燐子、何を買うの?」

 

「うん・・・時計や・・・歯車のアクセサリーが欲しくて・・・」

 

「あれ?Roseliaのテーマにしては珍しいね。」

 

確かにクールなイメージではあるが、Roseliaのテーマに少しズレているような感じはする。

 

でも、確かにあの新衣装には合うかもしれない。

 

「私たちの時は・・・一度止まってしまった・・・でも、こうして今再び、時計の針は進もうとしてる・・・これからも、『私たち』で進み続けたい・・・そんなモチーフで入れようと思って・・・」

 

「友希那が作った『Roseliaで奏でる曲』と燐子の『私たちで進み続けたい』という願いの籠った衣装。これなら、次のライブ凄いことになりそうだね。」

 

「うん・・・みんなで取り戻した『Roselia』だから・・・今まで以上のものにしたい。」

 

「うん、ライブ本番は僕は影から見ることしか出来ないけど・・・しっかり応援するからね。」

 

「・・・うん。」

 

僕はバイクを前に進める。

 

ライブ本番はもうすぐそこに迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてライブ本番。

 

場所はいつものCIRCLEのライブステージ。

 

SMSの会場と比べるとかなり小さいが会場の大きさは今関係ない。

 

今回のライブには今までお世話になった人を誘っている。

 

もちろん友希那の了承を得てる。

 

燐子が衣装を渡し、僕が着替えるのを待っていると一番最初に着替えを終わらせた燐子が出てきた。

 

「どう・・・かな・・・?」

 

「うん、似合ってるよ。今までのRoseliaのイメージを感じながらも新しいRoseliaの雰囲気も入ってる。何より燐子が作ったものなんだ、素晴らしくないわけがない。」

 

「っ〜〜〜!」

 

少しオーバーに褒めると燐子は顔を赤くした。

 

その表情の可愛さにこっちも顔が赤くなる。

 

「そ、そうじゃなかった・・・こ、これ・・・」

 

燐子はポケットから袋を取りだした。

 

それを受け取って中身を見る。

 

中に入っていたのはブレスレットだ。

 

「これは?」

 

「奏多くんに・・・付けて欲しくって・・・私が作ったんだ・・・」

 

「僕のために・・・!」

 

そのデザインをよく見ると薔薇や歯車が描かれていた。

 

「奏多くん言ったよね・・・『自分は本番では影から見ることしか出来ない』って・・・でも、私たちは6人でRoseliaなんだから・・・誰一人かけてほしくないから・・・それは、私たちがずっと繋がっていれる証であって欲しいって思って・・・」

 

すると燐子は袖をめくった。

 

そこには同じデザインのブレスレットがあった。

 

「時間が無くて2つしか作れなかったけど・・・友希那さんに相談したら奏多くんに渡しなさいって・・・それでもうひとつは私がつけてって・・・」

 

「友希那・・・」

 

友希那の計らいに感謝する。

 

すると扉が開き、あこが顔を出した。

 

「2人とも〜準備終わったから円陣組もうって!」

 

「うん、わかった。」

 

僕はブレスレットをすぐに腕につけると控え室に入った。

 

全員が衣装に着替え、統一感があった。

 

「あ、きたきた!円陣組むよ〜!」

 

みんなで円陣をくんで右手を真ん中に集め、小指だけ突き出す。

 

「今日のライブはいつものライブじゃない。私たちの・・・Roseliaの新しい旅立ちの、その1ページとなるライブ・・・いつも通り、全力で行くわよ!」

 

「「「「Roselia!ふぁいてぃ〜ん!」」」」

 

その掛け声とともに手を上にあげた。

 

これが、Roseliaの掛け声だ。

 

 

 

 

 

「・・・本当にこれ、変える気ないのかしら・・・」

 

・・・そして、いつも通り友希那が突っ込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・BLACK SHOUT、軌跡・・・2曲続けて聞いてもらいました。次でラスト・・・新曲です。『私たち』で作った新しい曲・・・どうか、聞いてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Neo-Aspect』──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜──────

 

リズムを刻むギターの音が・・・思わず走りそうになる・・・

 

・・・でも、今はただ、思いに任せて演奏したい・・・!

 

今までのことを無駄にしないために・・・

 

そしてこれからも成長し続けるために・・・!

 

 

 

 

 

リサ──────

 

友希那の横顔、すごく凛々しい。

 

アタシはこれからも、この5人のステージで・・・いや、6人で、この横顔を見ていたい。

 

他のどこでもない・・・アタシ達のステージで・・・!

 

だから、アタシはみんなを信じる!

 

信じて一緒に前に進むんだ!

 

 

 

 

 

あこ──────

 

あこ、カッコイイドラマーをめざしてたけど、これからは、そうじゃない!

 

あこは、『カッコイイRoseliaのドラマー』になりたいっ!!

 

この、超超超カッコイイ音楽を、これからもみんなと一緒にやりたいっ!!!

 

だからあこは、『カッコイイ』を追い求める!

 

だって、あこのカッコイイは、Roseliaのカッコイイに繋がると信じてるから!!

 

 

 

 

 

燐子──────

 

時計の針が、進んでいくのがわかる・・・

 

私たちの歯車が、噛み合って、音にのって・・・

 

これが・・・『私たち』の音・・・!

 

もう二度と離したくない・・・

 

もう一度繋ぐことのできたこの手を、絶対に離さない・・・!

 

それが・・・私たちが『Roselia』であれることだから・・・!

 

 

 

 

 

友希那──────

 

歌うことに罪悪感を感じた日・・・

 

未熟でも、歌っていいと赦された日・・・

 

それでも、私はまだ自分を好きになれなかった!

 

いつか好きになれたら・・・そう思って歌い続けていた。

 

でも、道は見えなかった。

 

ずっと、心の片隅に引っかかったままだった、歌への気持ち・・・

 

今なら・・・少しだけ好きと言えるかもしれない。

 

この、6人で作り上げ、5人で奏でる音を・・・

 

その音にのる、私の歌を───!!!

 

 

 

 

 

奏多──────

 

正直、ずっとこころで居場所というものを探していたんだと思う。

 

みんながここが居場所だと言ってくれても、心のどこかではまだ『孤独』だったんだと思う。

 

だから音も聴けなくなった・・・いや、聴こうとしなかった。

 

でも今は・・・『Roselia』が僕の居場所だから・・・!

 

それを貫きたい、自分に正直でいたい。

 

Roselia以外のみんなが、僕を信じてくれたように、僕もみんなのことをずっと信じていたい!

 

もう二度と手放せはしない。

 

僕の・・・みんなの暖かい居場所を・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブが終わって控え室。

 

その中は静まり返っていた。

 

そんな中、最初に口を開いたのは紗夜だった。

 

「・・・なんだか、信じられません。今日の私たちの演奏・・・」

 

「はい・・・わたしも・・・」

 

「あこ、まだ手が震えています・・・!」

 

「聴いているこっちも・・・全身が震えたって言うかなんて言うか・・・」

 

「なんだろう・・・この感じ・・・」

 

今まで感じたことの無い感覚。

 

未だに体が、心が震えているのだ。

 

そんな中、友希那が口を開いた。

 

「・・・本当は、本番直前まで怖かったの。『Roselia』と名乗ることが。・・・本当に私はRoseliaでいられている?また、離れて言ってしまわないか?・・・けど、歌ってみて思ったわ。私たちは『Roselia』なのだと。だから・・・これからもその熱を・・・誇りをもって演奏をし続けていきましょう。」

 

「〜〜〜〜〜〜っ!友希那ぁ〜〜〜!!」

 

すると張り詰めた糸が切れたのかリサが泣きながら友希那に抱きついた。

 

「り、リサ?!ど、どうしたの、急に抱きついて・・・!」

 

「だ、だってぇ・・・ごめん・・・アタシ、友希那のこと、本当に心配で・・・っ!変わらなきゃダメだって・・・ずっと友希那のこと、甘やかさないようにしてたんだけど・・・ほんとにほんとに、ずっと心配で・・・!」

 

「リサ・・・」

 

リサが友希那のことをとても心配していたのは見て取れていた。

 

友希那を助けたい、でも今は甘やかしてはいけないとわかっていたから、気持ちを抑えていた。

 

だからこうして今、リサは泣いているんだと思う。

 

「本当に本当に・・・戻ってきてくれて、よかったぁ・・・っ!また、6人で集まれて、本当によかったと思ったら・・・我慢できなくって・・・!ううっ・・・!」

 

「あこも、嬉しいですっ!こんなにカッコイイみんなと、カッコイイ演奏ができて・・・あこ、すっごくすっごく誇りに思っています!」

 

「二人とも・・・」

 

友希那が優しい目で2人を見る。

 

そして切り替えるようにいつもの友希那の顔に戻った。

 

「あまり、泣いてばかりでも困るわ。これから、反省会をしなくちゃ。」

 

「ええ、そうね。私たちの課題はまだまだあります。」

 

「今回の演奏、バッチリ撮れてるから!それ見て課題点を見つけよう!」

 

「ふふっ・・・はいっ・・・!」

 

「ビデオ見るならソータの家でいいよね。それじゃあ行こっか、いつもの場所に。」

 

「まずは片付けましょうか、それからです。」

 

みんながテキパキと片付けを開始する。

 

それを傍から見ていると燐子がすっと隣に立った。

 

「・・・戻ってきたね、私たちの居場所。」

 

「・・・うん、なら僕はこう言うべきなのかな。・・・おかえり。」

 

「・・・うん・・・ただいま・・・なんてね。」

 

たとえ新しくなっても、Roseliaが僕の居場所なのは変わりない。

 

ここが、無色の少年の、1番輝ける場所なんだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長い電車の旅から、ようやく解放された。

大阪から、新幹線、電車、路面電車を乗り継ぎようやく到着した。

「・・・ふふっ、ようやく着いた・・・まっててね、()()()




……To be continued


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第1部最終章 〜RingingBloom〜ボク ガ ボクデ ワタシ ガ ワタシデ アルタメニ
91話 オニイサマ


今回のイベントで10連回したら生徒会の有咲が出た隠神カムイです。

なんだよ、そんなに私をキラキラドキドキさせたいのかッ!!!(Poppin’Party累計10人目)

しかもなんでかすありがそれぞれ3人ずつ揃ってるんだよっ!

香澄はクール、有咲はパワフルで全タイプ揃っちまうじゃん!


まあ、そんなこと置いといてこの章で無灰第1部「高校二年生編」ラストとなります!
この章終われば2章の「高校三年生編」やる予定です。

多分ネタの原案制作のため、この章終了後お休みをもらう予定ですが、それまでお付き合いしてもらえると幸いです!

では本編どぞ!


Roselia分裂危機からはや数日が過ぎた。

 

2月も中間を過ぎ、冬の寒さが緩み暖かくなってきた。

 

そして僕達学生には、この時期ある行事がある。

 

そう・・・学年末テストである。

 

本来テストというのは日頃から勉強しておけば、なんとかなる(?)ものなのである。

 

Roseliaも本職は学生なため練習時間を少しばかり減らし、勉強の時間にあてている。

 

練習が終わり、Roseliaみんなで仲良く勉強会・・・のはずだったのだが・・・

 

「これより、『Roselia強制勉強会』を始めます!」

 

どうしてこうなった・・・・・・!

 

原因は数日前へと遡る・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ学年末テストが始まる。2年生の勉学の集大成でもあり、追試、留年がかかった最後のテストだ。みんな頑張るようにな。それではこれでホームルームを終わる。解散!」

 

期末テスト開始の1週間前の前日となったこの日、テストの範囲と提出課題一覧を配られた僕は軽く目を通したあと、練習のため学校を出る準備をしていた。

 

燐子は何やら最近学校でやることがあるらしく、遅れてくるのが増えてきている。

 

この前気になって尋ねたのだが、「えっと・・・その・・・あはは・・・」と誤魔化された。

 

正直追求しようか迷ったのだが、変に追求して困らせたくないので辞めた。

 

なので今日は紗夜と一緒にCIRCLEへ向かうことにした。

 

「紗夜〜そろそろ行こ〜」

 

「わかりました、私も準備を終えましたので行きましょう。」

 

ここまではいつも通りだった。

 

しかし、今回のあれの原因となったのはこの後からだった・・・

 

それは道中に話しているときだった。

 

「そういえば前々から気になっていたんですが・・・九条さんって成績の方はどうなのですか?」

 

「うっ・・・!!」

 

何気ない一言が、無色の少年を傷つけた。

 

「どうなのです?」

 

「はい・・・実は・・・」

 

僕はこれまでの成績を素直に話した。

 

こういう反応をしている時点で察しているとは思うが、僕は勉強が苦手である。

 

というか、得意教科と苦手教科の点差がヤバすぎるのだ。

 

得意教科は余裕で75点以上をキープ出来ている。

 

しかし、苦手教科はとことん苦手で多分平均すると45点あるかないかぐらいの危うい点数である。

 

赤点の教科も少なくなく、留年はないにしても追試がやばいかもしれない点数だ。

 

点数を伝えるうちにみるみる紗夜の表情が変わっていくのが見えた。

 

「・・・以上が僕の成績です・・・はい・・・」

 

「まさかそこまでとは・・・これは、1度徹底的に勉強会をした方が良さそうですね。」

 

「で、でもさ!勉強って本人がやる気を出さなきゃ身につかないって昔テレビで見たような・・・」

 

「でもやらないよりはマシですね。」

 

「ぐふっ・・・」

 

ド正論を言われて何も言い返せない。

 

すると紗夜はさらに話した。

 

「白金さんは大丈夫として・・・ほかの皆さんは大丈夫なんでしょうか。今井さんや宇田川さんは点数が少し低いイメージがありますが・・・」

 

確かにそんなイメージはある。

 

あこは今中学生だが、羽丘は内部進学ができるのでおそらく進学の面は大丈夫だろう。

 

けど進学出来てもそのあとの勉強が危うそうだ。

 

「とりあえず今日の練習の前に1度全員の成績を調べた方が良いですね。あなた以外に勉強させなければならない人もいそうですし。」

 

「は、はい・・・」

 

CIRCLEに足を進めるにつれ、僕の気は落ちる一方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CIRCLEに着き、全員が揃った瞬間紗夜は全員の成績を聞き始めた。

 

紗夜、燐子、そして以外にもリサは成績がよく、全然大丈夫だった。

 

しかし、問題となったのは僕、あこ、そして友希那だ。

 

あこは悪い話想像通りだったが、友希那は予想外だった。

 

というか僕より酷い。

 

僕は得意教科は点が取れるため、ある程度のカバーは効く。

 

しかし友希那は、全体的に低いというやばいラインギリギリの所にいるのだ。

 

羽丘と花咲川では授業の進み具合も違う。

 

しかし、なんの偶然か今回のテスト範囲は羽丘も花咲川も似たような内容が出ることがわかった。

 

すると紗夜はみんなを座らせる(なお僕、あこ、友希那は正座である)と、話し出した。

 

「・・・ということで全員の成績を聞きましたが、そこの正座している3人の成績が危ういです。」

 

「はい・・・」

 

「ううっ・・・」

 

「・・・なんで私達、正座させられているのかしら・・・」

 

「・・・コホン、ということで次の練習の後、3人には強制的に勉強をしてもらいます。もちろん、私たち3人の監視の元に。」

 

・・・マジデスカ?

 

紗夜の考えに正座組は驚いた。

 

確かに成績は悪い、でも強制的にってキツくないです?

 

「まぁ〜こればかりはアタシも甘やかせれないかな〜・・・さすがに成績が危ういのはキツいしね〜」

 

「わ、わからない所があれば・・・教えますので・・・」

 

「ということで覚悟していてください。あ、1番成績が危うい湊さんは、私と個人授業を受けてもらいますので。」

 

「ううっ・・・」

 

「はい、わかりました・・・」

 

「・・・なぜ私だけ個人授業なのかしら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・てなことがあって、今に至るわけである。

 

場所は図書館、紗夜と友希那だけは別の机で個人授業中である。

 

あこと僕はそれぞれリサと燐子にわからない所を教えて貰っている。

 

僕は国語系が苦手なので、この中で1番国語の成績が良い(というか国語だけなら校内トップクラス)の燐子に教えて貰い、あこは「中学の範囲ならアタシひとりで何とかなる!」ということでリサに付きっきりで教えて貰っている。

 

国語の中でも僕は古典だけ本当に無理なのである。

 

基礎から全くわからないせいか、どう足掻いても理解することが出来ないのだ。

 

「そこは、原文だけで覚えるより・・・現代語訳と重ねて覚えた方が・・・」

 

「なるほど・・・」

 

燐子の説明はめちゃくちゃわかりやすい。

 

授業ではちんぷんかんぷんな所も燐子なりに噛み砕いて教えてくれるので、理解はしやすい。

 

でも、いざ問題を解けるかと言われたら多分解くことが出来ない気がする。

 

しかし、どうにか頑張らなければ・・・っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強制勉強会一日目が終了した。

 

結論からいえば、少し理解した程度だった。

 

燐子には、悪いけど覚えられる気がしないのだ・・・

 

「ごめんね燐子・・・全然理解が追いつかなくて・・・」

 

「うん・・・苦手教科って覚えるのしんどいと思うから・・・ゆっくり覚えていこ・・・」

 

「ううっ・・・」

 

燐子の期待には応えたい。

 

でも答えられる気がしない・・・

 

そして荷物をまとめてみんなで帰る途中にあった出来事が、2年生最期の波乱になるとは思わなかった。

 

それぞれの帰り道の道中にみんなは必ず僕の家の前を通る。

 

そこでいつも解散するのだ。

 

「あれ、奏多さんの家の前、誰か立ってますよ?」

 

あこにそう言われて家の方を見ると、確かに珍しく家の前に誰か立っていた。

 

見た感じあこぐらいの年齢の女の子だ。

 

けど・・・どこかで見たことあるような・・・

 

「・・・え、あ!もしかして・・・!」

 

そう言うと女の子は声に気づいたのかこちらを振り向く。

 

そして僕の顔を見るなり顔を輝かせてこちらに走ってきた。

 

「・・・お、お、お兄様ぁ!

 

走った勢いそのままに、女の子は僕の首めがけて飛びついてきた。

 

女の子がそのまま抱きついてきて、僕はその衝撃を受け止めきれず、倒れてしまった。

 

「「「「「お、お兄様!?」」」」」

 

この子のことを知らないみんなが驚く。

 

まぁ、無理もない。

 

「お兄様ぁ〜キリは会いたかったです〜!」

 

「久しぶりだね、キリちゃん。あ、みんな紹介するよ。この子は九条桐花(くじょうきりか)、僕の親戚でシゲさんの娘さん。」

 

「はじめまして、九条桐花です!キリって呼んでください!」

 

するとみんなの表情が固まっていた。

 

「あれ・・・みなさん?」

 

「し、し、シゲさん結婚してたの!?

 

どうやらみんなの驚くところはそこだったみたいだった。




次回、『セイトカイ』


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92話 同居生活は突然に

宝塚を見に行ってスタァライトに再熱中の隠神カムイです。

遅れた上にタイトルが変わってる?
い、いつも通りなんで許してください(´;ω;`)

ではさっさと本編にどうぞ!


「えっと・・・九条さん?状況が上手く飲み込めないので、もう一度1から説明して貰えますか?」

 

今の状況を飲み込めないでいる紗夜がもう一度説明を求めてきた。

 

さっきの言葉で十分わかるとは思ったのだが、しっかり説明した方が良いか。

 

「じゃあ改めて紹介するよ。この子は九条桐花ちゃん。シゲさんの娘さんで今は中学三年生・・・だっけ?」

 

「はい、キリは中学三年生です!」

 

「あこと同い年だ〜!あこは宇田川あこって言うんだ〜!よろしくキリりん!」

 

「キリりんですか〜!なかなかいい響きですね!よろしくですあこちゃん!」

 

同じ妹キャラのせいなのか、あことキリちゃんがすぐ意気投合する。

 

仲良くするのは良い事だ。

 

「それで桐花ちゃんだっけ?君は何があってソータの所に来てたの?見た感じ一人で来たみたいだけどさ。」

 

「はい、キリは明後日に羽丘を受験しに来たのです。でも大阪からここまでは距離があるのですが、ちょうどお兄様がこの辺りに住んでいるとパパに言われたのです。『あいつの家に泊まれば羽丘も近いから通えるぞ?』と言われましたので今日お伺いに来たのです!」

 

そっかーこれからキリちゃんここに住むんだ〜

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・へ?

 

「・・・ね、ねぇキリちゃん、今なんて言ったかな〜僕しっかり聞こえなかったんだけど・・・」

 

「はい、これから一緒に住めとパパに言われたのでお伺いに上がりましたっ!これからよろしくお願いしますね、お兄様っ!」

 

「ちょっと待って!そんなの聞いてないし準備もしてない!」

 

慌てる僕を見てキリちゃんはキョトンとした顔をする。

 

さらに僕はある人に目線を移す。

 

目線の先にいる人、それは燐子だ。

 

燐子は慌てすぎてどうすれば良いのかわからない顔をしている。

 

よくよく考えてみれば自分の好きな人の家に親戚とはいえ女の子がこれから一緒に暮らすのだ、誰だって慌てる。

 

そしていちばん怖い人がこちらに冷たい視線を向けていた。

 

「そ、その・・・紗夜・・・さん?」

 

「いくら身内とはいえ、いきなり男女が共に同じ屋根の下なんて風紀的にどうかと思いますけど?」

 

「いや、まだ僕一緒に住もうなんて言ってないし!ね、キリちゃん。キリちゃんも高校生になるんだったら下宿先とか色々探せるし・・・」

 

「キリはお兄様の所で大丈夫ですよ?」

 

ダメだこの子、シゲさんと全く同じで自由人(人の話を聞かない)だった・・・

 

「いや、そういう事じゃなくて・・・キリちゃんが良くても僕の方にも色々あるし・・・」

 

「キリは気にしないのですが・・・お兄様、ダメですか・・・?」

 

キリちゃんが半分涙目で訴えかけてくる。

 

最初に言っておくが僕はシスコンではない。

 

けど、女の子にこんな表情されたら誰だって困る。

 

というか断りにくい。

 

「奏多、泣かせたわね。」

 

「あーあ、ソータが妹分泣かせたー。」

 

そしてこの女子ならではの団体攻撃。

 

何故か便乗してきた友希那とリサの追い打ちに為す術もなかった。

 

「わかった!わかったから泣かないでください!」

 

「わーい!やったぁ!それじゃあキリは先に荷物を上げさせてもらいますので!それじゃあまたね、あこちゃん!」

 

「キリりんまったねー!」

 

キリちゃんが荷物を家に上げに行った。

 

とりあえず、今の僕がやることはひとつだ。

 

「え、えっと・・・燐子・・・?」

 

「は、はい・・・その・・・」

 

神に誓って何もしないので今日1日泊まって貰えませんか!

 

「ええ・・・えええっ!!!」

 

「な、なんでそうなるんです!?」

 

紗夜に的確なツッコミを入れられる。

 

普通ここは『神に誓って何もしないのでキリちゃんとの同居を許して貰えませんか?』と言うところなのだろう。

 

しかし正直に言うとあの子、なにしでかすかわからないのである。

 

だから僕が誓ったところであの子が何をするかわからない以上このことは言い難いのだ。

 

なので証人として1晩泊まってもらい、これから先の生活の安全性を確かめてもらいたいのだ。

 

なお、あの子は他人が来たっていつもの生活リズムが変わることは無い。

 

お盆の日とかに親戚が集まった日にでもあの子はそんなことお構い無しに友達を招き入れたような子だ、たとえ燐子1人だけではなくRoselia全員、いや、ガールズバンドパーティーのみんなが来ても己の生活リズムを外さないだろう。

 

燐子の回答次第である。

 

・・・の前に紗夜が口を出した。

 

「九条さん、私さっき言いましたよね!高校生の男女が共に同じ屋根の下にいるのはどうかと思うって!」

 

「今回だけ!ほんとこれからの生活が安全だという証人になってほしいのと、純粋に燐子に誤解して欲しくない!」

 

「逆にそっちの方が誤解される気がするわ。」

 

友希那がそういった。

 

というか最近の友希那めちゃくちゃ的確にツッコミ入れてくるな・・・

 

「あ、あの・・・」

 

「どうしたの燐子?やっぱりこんなこと突然言って無理だよね・・・ごめんね、変な事言っちゃって・・・」

 

「ううん、泊まるのはいいんだけど・・・着替えとか色々家にあるから・・・取りに行きたいなって・・・」

 

「ほんとに!?」

 

「白金さん!?私の話聞いてました?」

 

「は、はい・・・でも、奏多くんと話したいことありますし・・・考えてみてください・・・奏多くんですよ?なにかすると思いますか・・・?」

 

「「「「・・・確かに。」」」」

 

なんかサラッとディスられた気がする。

 

いや、信じてくれているからだと信じる・・・信じていいよね?

 

「・・・まぁ、本人が大丈夫なら私も深くまでは言いません。」

 

「燐子、なんかされそうになったらすぐにアタシ達呼んでね!ソータもこう見えて男の子だしな〜」

 

「神に誓って何もしないので・・・信じてください・・・」

 

「あははっ!おちょくっただけだって!」

 

「とりあえず・・・取りに行っていいかな・・・?」

 

「わかった、バイク出すからちょっとまってて。」

 

1度家に戻ってバイクの鍵を取り、バイクのエンジンをかける。

 

ヘルメットを燐子に渡して先にバイクに乗って燐子の準備を待つ。

 

思わずして燐子に泊まっていかないか聞いてみたが、まさかOKを貰えるとは思わなかった。

 

あと燐子の言っていた『話したいこと』って一体なんだろうか・・・

 

「準備できたよ。」

 

燐子がそう言ったのでバイクにまたがる。

 

燐子が乗ったのを確認すると僕はRoseliaのみんなに声をかけた。

 

「それじゃあまた今度!」

 

「くれぐれもおかしなことはしないように!」

 

紗夜に念押しされた。

 

わかっている、わかっているつもりだ・・・

 

そう心で思いながら僕はバイクを進めた。




・・・さて、いつもはあとがきなんて書かないけど今日だけ。
みなさんも知ってるとは思いますが京アニ放火事件、そこでたくさんの制作陣の方々と貴重な資料が亡くなられました。

資料等は貴重ではありますが、また複製すれば良いことです。
しかし、人の命がたくさん亡くなってしまったのはとても心を痛めました。
痛めたから自分に何ができると言われたら、多分何も出来ないと思います。
なので亡くなられた方のご冥福をお祈りすることしか出来ませんが、ご冥福をお祈りします。





さて、暗い話もここまでにして、感想や意見等いつでもお待ちしております!


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93話 セイトカイ

延期祭りだった隠神カムイです!

すんませんしたっ!!!

バリバリ予定入ってて書く時間がちょくちょく削れてました・・・
あ、部活引退したのでしばらくはゆっくりかけるかと・・・
それにジオウ映画公開日に見に行きましたが面白かった・・・
これはまたもうひとつの方でしっかり感想言います。


てなわけで本編どぞ


バイクを進め、燐子の家に到着する。

 

「荷物取ってくるから・・・ちょっとまってて・・・」

 

燐子はそう言って自分の家の中に入っていった。

 

今更だが燐子には燐子の生活があり、突然泊まりに来て欲しいと言ったのでご両親にも今日僕の家に泊まりに行くことを話していない。

 

突然「今日彼氏の家に泊まりに行く」とか言ったら普通絶対に反対される。

 

燐子はどうご両親に言うのだろう。

 

そうこう考えていると燐子が出てきた。

 

カバンをバイクのシートの中に入れ、僕は燐子にそのことを尋ねた。

 

「ねぇ、燐子。ご両親にはどう話したの?」

 

「お父さんとお母さんは・・・まだ仕事でいなかったから・・・『友達の家に泊まりに行きます』とだけ書き置きして・・・黙ってきちゃった・・・」

 

「なっ!?」

 

燐子が「えへへ・・・」と可愛らしく笑って誤魔化す。

 

それあとからやばくない!?

 

くそっ・・・燐子が可愛すぎてなんも言えない・・・!

 

「と、とりあえず・・・行こっか?」

 

「わ、わかった・・・」

 

燐子がヘルメットを被ってバイクに乗ったことを確認すると僕は自宅へとバイクを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に到着してリビングに入るとキリちゃんがもうソファで寝転がってスマホをいじりながらくつろいでいた。

 

「あ、お兄様。おかえりなさいですー。」

 

「も、もうくつろいでるんだ・・・さすがキリちゃん・・・」

 

「お兄様の匂いがして落ち着くんです!」

 

キリちゃんの我の強さには呆れを通り越して感心するほどだ。

 

するとキリちゃんは後ろにいた燐子に気がついた。

 

「あら、そちらはさっきあこちゃんと一緒にいた・・・」

 

「し、白金燐子です・・・その・・・」

 

「今日だけ泊まってもらうことになったんだ。これからキリちゃんとの生活が安全なのかを確認してもらうために。」

 

「そうなんです?キリはなんもしませんけど?」

 

「わかってるんだけどうちの風紀委員様がね・・・」

 

「あはは・・・」

 

燐子もつられて苦笑いする。

 

僕やキリちゃんがわかっていても見ないと伝わらないものは伝わらないのだ。

 

「まぁキリは気にしないので!」

 

「まぁ、キリちゃんならそう言うと思ったよ・・・」

 

「そうだ、気になったんですけどお二人はお付き合いされているんです?」

 

「「!!??」」

 

キリちゃんの突然の発言に顔がめちゃくちゃ熱くなる。

 

燐子も顔が真っ赤だ。

 

「いや〜お兄様昔と違って表情が豊かになりましたし、さっきから燐子さんと一緒にいてるとにこにこしてますし!キリの勘は当たるのです!」

 

「そ、その・・・えっと・・・」

 

「はい・・・クリスマスから・・・」

 

隠すことでもないのだが改めて確認するとすごくドキドキする。

 

自分がこんなにも燐子にぞっこんで、ずっと幸せオーラを出していたのをわかるとめちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「やっぱりですか!なら、燐子さんは・・・お姉様!燐子お姉様です!」

 

「いやいやお姉様って・・・ねぇ燐子。・・・燐子?」

 

燐子を見ると下を向いて軽く震えている。

 

様子が明らかおかしい。

 

「ちょっと燐子!?どうしたの!?」

 

「・・・・・・ま・・・」

 

「・・・燐子?」

 

「お姉様・・・わたしが・・・?」

 

「いや、気にしなくて大丈夫だよ!とつぜんお姉様とか言われて驚いたのはわかるけど・・・」

 

私に・・・妹が出来たっ・・・!

 

燐子が大声とともに顔を上げる。

 

顔は赤く、息を荒らげている。

 

どう見ても普通じゃない!

 

「はいっ!これからキリを妹のように可愛がってくださいませ!お姉様っ!」

 

キリちゃんが燐子に抱きつく。

 

元々人懐っこい性格でこういうこと普通にやらかすのだが、一人っ子の燐子には今のセリフは効果抜群のようで・・・

 

「うん、よろしくね・・・キリちゃん・・・!」

 

反対に抱き締め返す有様である。

 

こんな燐子見たことない・・・

 

とりあえず話を進めるためにはこの謎の空気をどうにかするべきか・・・

 

「ハイハイ!そこまでにしましょうか!」

 

2人には悪いが無理やり引き剥がさせてもらう。

 

すると僕はキリちゃんの服装が変わっていることに気づいた。

 

色合いや基本の形は今日の夕方出会った頃の服装にそっくりなのだが所々微妙に違っている。

 

「あれ、キリちゃん着替えた?」

 

「あ、はい。大阪からの長旅でしたし疲れていたのでお先にお風呂に入らせてもらいました!」

 

「そうなんだ。あ!脱いだ服とかそのままにしてないよね!」

 

「もちろんですよ!ちゃんと服は洗濯機の中に、下着はネットに入れて同じく洗濯機に入れさせていただきました!私だってもう高校生なんです!」

 

キリちゃんが常識だけはしっかりしてて助かった・・・

 

それに昔とは違い、ちゃんとレディの嗜みを身につけていたことに感動する。

 

「そっか・・・奏多くんそういうの苦手だったもんね・・・」

 

「あはは・・・あ、キリちゃん。」

 

「なんでございますか?」

 

「その・・・燐子がお風呂入る時も洗濯物頼むよ。僕じゃ・・・その・・・やりにくいからさ。」

 

「わかりました!お姉様の世話はこの不肖キリが務めさせていただきますっ!」

 

キリちゃんが目を輝かせてピシッと敬礼する。

 

それを見て燐子は少し慌てた様子で話した。

 

「え、えっと・・・それくらいなら自分で出来るから・・・そんなに尽くそうとしなくても・・・」

 

「いえ!お姉様は立派なお客様ですっ!お客様に働かせるわけには行きませんし、これも立派な妹であるキリの務めですっ!」

 

「うん、燐子は今日はこちらからしたらお客さんなんだ。だから今日くらいこっちで面倒みさせて欲しいな。」

 

燐子にそう言うと燐子は少し考えたあとニコッと笑った。

 

「それじゃあ・・・お言葉に・・・甘えようかな・・・」

 

「はいです!キリに任せるですよお姉様っ!」

 

そう言うとキリちゃんが燐子の背中を押して風呂場に連れて行く。

 

燐子は困りながらも笑顔でキリちゃんに身を任せていた。

 

「・・・あんな笑顔の燐子・・・初めて見たな・・・」

 

今考えてみると燐子は結構強引な子に引かれる性質があるのかもしれない。

 

あこやキリちゃんだけではなく、最近では上原さんや薫さんと話しているところをよく見る。

 

燐子は人と話すのは苦手だ。

 

でも、最近それを克服しようと頑張って見える。

 

けど・・・他の人とよく話すようになってきた・・・か・・・

 

その事を考えると何故か胸の中がモヤモヤする。

 

この感覚・・・一体なんだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子がお風呂から上がり、みんなで夕飯を食べるとキリちゃんは「今日は少し疲れが出てますのでお先に寝させていただきます。おやすみなさいお兄様、お姉様!」と言って先に客間(これからキリちゃんの部屋になる部屋)へ戻って行った。

 

リビングには僕と燐子が残され、僕は燐子の隣に腰を下ろした。

 

「・・・キリちゃんのこと、どう思ってる?」

 

「うーん・・・初めてお姉様って言われた時に・・・なんだろう・・・電気のようなものが走って・・・そしたらキリちゃんが本当の妹みたいに可愛く見えて・・・」

 

「あはは、キリちゃんそういう所あるから。」

 

「うん・・・でも、私って結構強引な子に惹かれやすいんだと思う・・・あこちゃんも・・・初めて出会った時私の手を引いてくれたし・・・」

 

「確かに、あこってグイグイ引っ張るからなぁ〜」

 

「でも、あこちゃんがいてくれたから・・・今の私があって・・・Roseliaの私がいる・・・だからあこちゃんには・・・とても感謝してるんだ・・・もちろん、私の音を好きでいてくれて・・・私が変わるきっかけをくれた奏多くんにも。」

 

「そんなことないよ。僕自身は何もしてない。こっちの方が感謝することは多いんだから。」

 

「ふふっ・・・そう言うと思った。奏多くんらしい・・・」

 

そんな他愛のない会話をしていると、僕はあることを思い出した。

 

そう言えば燐子は何か話したいことがあると言っていた。

 

「そう言えば燐子、何か話したいことがあると言っていたっけ?」

 

「あっ・・・うん、そうなんだけど・・・」

 

すると燐子は軽く下を向いた。

 

けど、すぐに顔を上げて話し出した。

 

「奏多くんは・・・鰐部さん知ってるよね・・・」

 

「あ、うん。結構手伝いとかさせられるしねー」

 

燐子の言う鰐部さんとは鰐部 七菜(わにべ ななな)さんのことだ。

 

今までの生徒会長で、しっかり者だが何かあるとちょくちょく手伝いとして僕を駆り出した御方だ。

 

「Glitter*Green」というバンドでキーボードを務めており、Roseliaが参加するライブでちょくちょく共演したためその辺でも交流はある。

 

同じキーボードとして燐子と鰐部さんが話すのも見る。

 

しかしなぜ今鰐部さん?

 

「で、鰐部さんがどうしたの?」

 

「うん、奏多くんは知らないと思うけど・・・花咲川の生徒会長って、前年度の生徒会長が次の生徒会長にふさわしいと思う人を指名するんだ・・・」

 

「え?そうなの!?初めて知った・・・」

 

1年生の時にいた高校は初めに立候補した人の中から投票で生徒会役員を決め、その中で相談して生徒会長や書記などの係を決めていた。

 

付近の高校もそんな感じだったのでてっきり花咲川もそうだと思っていた。

 

「・・・ねぇ燐子、その相談をしてきたってことは・・・もしかして・・・」

 

「えっと・・・鰐部さん・・・私を次の生徒会長に指名して・・・生徒会長やらないかって・・・」

 

あの人マジで言ってます!?

 

さっきも言ったが燐子と鰐部さんはちょくちょく交流がある。

 

そしてあの人は燐子が人混みを嫌うのを知っているはずだ。

 

・・・でも、僕があの人に抗議しても意味は無いだろう。

 

だから僕は落ち着いてから燐子に尋ねた。

 

「確かにあの人すこし押し付けるくせはあるけど・・・これだけは聞かせて。燐子はどうしたいの?」

 

「私?・・・私は・・・私は・・・」

 

 

 

 

 

 

……To be continued




次回『ワタシノオモイ』


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94話 ワタシノオモイ

ついにポピパ12人目の星4でポピパ全員が星4になった隠神カムイです。

ドリフェスにてうさぎのパジャマのおたえを引き、イベント後に調子に乗って単発を引いたらHome streetのりみりんを引きました。
・・・そんなにキラキラドキドキして欲しいのか貴様らァ!
今度特別に番外編作ってやるからゆるしてくれやぁ!(´;ω;`)

さて、そんなことはさておきお伝えしていたように、アルバイトを始めましたのでしばらくは無灰もFRO共々不定期更新となります。
その点に関してはご理解の方よろしくお願いします。

さて!本編どうぞです!


「私?・・・私は・・・私は・・・」

 

奏多くんの質問に対して私は俯いた。

 

奏多くんが私に問いたいことは分かる。

 

これは人に頼るべき問題ではなく、自分自身がどう思うかの問題だ。

 

でも、その問に対するしっかりとした答えが見つからない。

 

「えっと・・・その・・・私は・・・」

 

奏多くんは私が答えるのを静かに待ってくれていた。

 

その時だった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

突然二階の方から悲鳴が聞こえた。

 

この声はキリちゃんの声だ。

 

「悲鳴!?」

 

「い、行ってみよう・・・!」

 

私と奏多くんは急いで二階のキリちゃんの部屋に向かった。

 

すると部屋の扉の前でうずくまっているキリちゃんを見つけた。

 

「キリちゃん!どうしたの?」

 

「お、お兄様ぁ・・・お姉様ぁ・・・」

 

「と、とりあえず落ち着いて・・・何があったの?」

 

キリちゃんは涙目で奏多くんにしがみついてなんとか落ち着くと、震えた声で話し出した。

 

「やつが・・・やつが出たんですぅ・・・!」

 

「えっと・・・キリちゃんの言う『やつ』って?」

 

「決まってます!黒光りして・・・高速で動き回る・・・人類の敵、ゴキブリが出たんですぅ!!!」

 

その一言で場の空気が一気に張り詰めた。

 

私は虫は苦手なほうだ。

 

というかゴキブリを見て悲鳴をあげない女の子の方が少ないかもしれない。

 

とりあえずどうにかしないといけない。

 

おそらくこの中で一番頼りになるであろう奏多くんを見る。

 

すると奏多くんはキリちゃん以上に顔を青ざめ、涙目となってわなわな震えていた。

 

「そ、奏多・・・くん・・・?」

 

「む、無理・・・ホントに・・・虫だけは・・・無理・・・!」

 

「そ、そうでした・・・お兄様、昔から大の虫嫌いでした・・・」

 

そんなの初耳である。

 

ということはこの中でゴキブリに対応できる人がいないわけである。

 

時間は夜の八時半、人を呼ぶにも迷惑のかかる時間だ。

 

しかしこればかりは致し方ない。

 

「奏多くん、誰か呼ぼう・・・!そうじゃないと・・・誰もゴキブリ駆除できない・・・!」

 

「その名前呼ばないでくださいっ!!!無理なんですっ!!!」

 

奏多くんはいっそうパニックになって蹲る。

 

私に対して敬語になっちゃっているのは本当にパニックになっている証拠だ。

 

私はどうにかしようと1度下に降りて、奏多くんのスマホを取った。

 

パスワードのロックは聞いているのでスマホを開けてこの中で一番頼りになる人を選択し、電話をかけた。

 

『もしもし奏多?珍しいなこんな時間に。』

 

「か、陰村さん?私・・・白金です・・・」

 

電話をかけたのは奏多くんの親友の陰村さん。

 

この前の冬、大掃除の時に教室の窓のところで冬眠していた大量のてんとう虫を素手で捕まえて別のところに移動させてたと白鷺さんが言っていたので多分虫は大丈夫だろうと思い電話したのだ。

 

『あれ、燐子?なんで燐子が奏多のスマホから?』

 

「実は今私奏多くんの家にいるんですけど・・・家にゴキブリが出て奏多くんパニックになってしまって・・・なので今からゴキブリを駆除して貰えませんか?」

 

『わ、わかった!すぐ行く!』

 

そう言うと電話が切られた。

 

おそらくすぐに来てくれるだろう。

 

私はもう一度二階にいる奏多くんとキリちゃんの所に戻った。

 

上に戻ると奏多くんは少し落ち着いたのかキリちゃんに支えられながらも立っていた。

 

「奏多くん・・・」

 

「・・・ごめんね、さっきは見苦しい姿見せちゃって・・・」

 

「お兄様、無理はしないでください・・・」

 

「ありがとうキリちゃん。それとごめんね、頼りないお兄ちゃんで・・・」

 

「いえ、お兄様が虫を嫌っているのを知っていながらも叫んで呼んでしまったキリにも責任はありますし・・・」

 

奏多くんが壁とキリちゃんを支えにこちらに歩いてくる。

 

いくら虫が苦手な人でもここまではならない。

 

何かあったのだろう。

 

いや、今はそんなことどうでもいいか。

 

「えっと・・・さっき陰村くん・・・呼んだから・・・すぐに来るって・・・」

 

「わかった、ありがとう。炎なら何とかしてくれる。とりあえずアレが部屋から出ちゃまずいから・・・キリちゃん、1階のキッチンの横の棚の奥にゴキブリ用駆除剤スプレーあるから取ってきてくれないかな?」

 

「わかりました、すぐに取ってきます!」

 

キリちゃんが下へタッタッタッと降りていく。

 

2人きりになった所で私は奏多くんに尋ねた。

 

「奏多くん、昔に何かあったの?その・・・奏多くんの虫に対する反応がとても大きかったから気になって・・・」

 

「あーえっと・・・昔、親父と母と暮らしていた時にね・・・夏に山に行ったんだけど虫のたくさんいた穴に誤って落っこちちゃってね・・・その時から虫が苦手になっちゃって、今でもそのトラウマが虫を見る度頭をよぎっちゃってああしてパニックになるんだよ・・・」

 

想像するだけでゾッとする話だ。

 

確かにそんなことがあれば誰だってトラウマになるだろう。

 

「お兄様お待たせしました!取ってきましたー!」

 

「うん、ありがとう。それじゃあドアの隙間にふきかけとい・・・」

 

最後まで言い切る前にインターホンが鳴った。

 

恐らく陰村さんだろう。

 

「それじゃあ迎えに行ってくるよ。」

 

彼はそう言って降りていった。

 

そしてその五分後に陰村さんがあっという間にゴキブリを駆除してしまったことは、あまり触れないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか奏多、虫苦手だったなんてな。」

 

「昔色々あってね・・・」

 

「とりあえず俺は帰るわ。またなんかあったらいつでも呼べよ〜」

 

陰村さんはそう言って帰っていった。

 

キリちゃんは「ゴキブリは1匹見かけたら50匹は近くにいると聞きました・・・なので、お兄様のお部屋で寝かせて貰えませんか?」ということでキリちゃんは奏多くんの部屋でレインと一緒に寝ている。

 

なお、奏多くんは一階のソファで寝るらしい。

 

正直私のベットは一緒に使ってもらっても構わないのだが、一緒に寝ようなんて言う勇気は全くない。

 

仮に一緒に寝て、氷川さんにその光景を見られたら、なんと言われるかわかったものでは無い。

 

そんなことを考えているうちに陰村さんを見送っていた奏多くんが帰ってきた。

 

「おつかれ、大変だったね・・・」

 

「うん・・・やっぱり昔のトラウマって、そう簡単になくなるものでは無いからさ・・・」

 

「昔のトラウマ・・・か・・・」

 

確かに人は1度トラウマを経験してしまうとそう簡単に無くならない。

 

私もずっと心にトラウマを持っているから・・・

 

「燐子?」

 

「あっ・・・ごめん、ちょっと考え事して・・・」

 

「ううん、気にしないで。それと燐子、さっきの話なんだけどさ。」

 

「生徒会の・・・話・・・?」

 

「うん、燐子は生徒会長やりたいの?」

 

そう言われて言葉が詰まる。

 

でも、相談してもらうには自分の胸の内を明かさなければならない。

 

私は詰まり詰まりになりながらも自分の考えを伝えた。

 

「えっと・・・私は人前に出るの苦手だけど・・・苦手だからこそ克服しなきゃって・・・でも・・・私にそんな資格あるのかって・・・人に迷惑かけちゃうんじゃないかって・・・」

 

「・・・燐子、自分には生徒会長になる資格なんてないって思っちゃってる?」

 

「・・・ええっと・・・その・・・」

 

奏多くんにそう言われて何も言えなくなった。

 

本当のことを言うとそう思っているという方が正しい。

 

でも、『はい、そうです』と口には出しづらい。

 

すると奏多くんは優しく話し出した。

 

「燐子はさっき僕が虫に怯えて何も出来なかった時に、自分で考えて動いて助けを呼んでくれた。Roseliaがバラバラになりそうだった時もそう、自分で考えてRoseliaのこと取り戻そうと動いてくれていた。燐子はたぶん『人のためなら頑張れる』んだと思う。それって充分生徒会長の資格あると思うな。鰐部さんもその事わかって燐子に生徒会長やらないかって聞いたんだと思うよ?」

 

「人の・・・ために・・・」

 

「うん、だからあとは燐子がやりたいようにやればいい。僕はそう思うかな。」

 

私のやりたいこと。

 

やりたいことに当てはまるかはわからないけど、私は今の私を変えたい。

 

Roseliaに入って変わりつつある私をもっと変えていきたい。

 

だったら・・・

 

と、考えていると突然右肩に重さがかかった。

 

びっくりして右を見ると奏多くんが肩に寄りかかって寝ちゃっていた。

 

・・・ここ最近の奏多くんは昔と比べて色んな意味で丸く、大胆になった。

 

彼は強くなった。

 

でも、今日みたいに何かの衝撃でその強さは簡単に崩れそうになってしまう。

 

まるでダイヤモンドのような・・・強くはあるが、大きな衝撃でガラスのように砕け散ってしまう人。

 

彼はその脆さを自分でどうにかしようとする癖がまだ残っている。

 

だからそのカバーを私が・・・私たちがしなければならない。

 

「私も強くならなきゃ・・・」

 

私は生徒会長を引き受ける。

 

そしてもうひとつ・・・昔の・・・あることへのケジメをつける。

 

多分それが今の私が成長するために必要なこと。

 

「取りに帰らないと・・・昔の・・・()()()()()()()()()()()・・・」

 

そこまで考えたあと、急激な眠りが私を襲った。

 

右肩には彼がよりかかっている、動こうにも動きにくい。

 

「・・・いいや、大好きな奏多くんが横にいるなら・・・それで・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ・・・」

 

意識を覚醒させ、重い瞼を開く。

 

目の前の時計を見ると午前7時半、いつもより少し遅めの起床だ。

 

燐子とキリちゃんにベットを渡したため、1人ソファで寝ることになったが、案外悪いものでもなかった。

 

・・・なんか両腕に違和感がある。

 

目を擦ろうと腕を動かそうにもがっちり握られたように動かない。

 

正体を知るために頭を動かして左右を見る。

 

そこには燐子とキリちゃんが両腕を抱き枕のように抱きしめながら眠っていた。

 

・・・・・・・・・はい!?

 

(なんで2人がここで寝てるの!?というかこの状況なんなの?というか2人にがっちり掴まれて動けないし、なんか柔らかいの当たってるし!!!)

 

こんな感じに頭はパニック状態である。

 

すると鍵が開けられた音がして、誰かが入ってきた。

 

「おはようございます九条さん。失礼します。」

 

声の主・・・間違いない、紗夜だ。

 

そしてこの状況・・・どうにも出来ない。

 

そしてここはリビング、みんなが集まる場所。

 

予測があっていれば・・・

 

「寝ているかもしれませんし、リビングで待っていた方が良さそうですね。白金さんはああ言ってましたが、やはり気になりますし・・・」

 

紗夜は予測通りリビングに入ってきた。

 

さらに不幸なことに廊下からリビングにはいる扉の真正面にソファが、僕らがいるのである。

 

「あれ、九条さん。起きていた・・・ん・・・」

 

突然紗夜の声が途切れ、代わりにとてつもない威圧感が背中を襲った。

 

「・・・九条さん、詳しく説明して貰えますか?」

 

「あはは・・・僕が知りたい。」

 

このことに僕は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued




そろそろ設定資料集更新しなきゃなー
今回の虫嫌いみたいに追加設定多すぎだからな・・・

それに第2部からはRASも追加しなきゃいけないワケだ・・・

ご意見ご感想いつでもお待ちしております!


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95話 リソウヘノ ダイイッポ

前回までの次回予告風あらすじっ!

やめて!!白金燐子と九条桐花の行動によって氷川紗夜に怒られちゃったら!

現状を理解出来ていない九条奏多の精神が燃え尽きちゃう!!!

お願い!(精神的に)死なないで奏多!!

あんたが居なくなったら燐子との約束はどうするの!!?

怒られるまでの時間はまだ残っている!これを乗り切れば何とかなるんだからっ!!!

次回!
『九条奏多死す』
デュエルスタンバイ!!!














奏多「・・・いや、死なないから!」

Kai『たまには面白いだろ?』

「いやいやなんでいるのよ。本授けて消えたんじゃないの?」

『あいにく僕は作者だ。君に物語の進行はさずけたけど別に消えてはないさ。どこかのグランドキャスターみたいに君の物語を見させてもらうよ。さぁ、君の話をするとしよう。』

「爆死したからってマー○ンのモノマネしないでください。」

『(´;ω;`)』

「早く本編初めてよ。ここでぐだぐだしてたら読者に悪い。」

『仕方ないなぁ奏多くんは。さて、本編どうぞ!』












・・・さて、そんな謎の前書きがあった訳だが現状はその通りと言っても過言ではない。

 

片方に燐子、片方にキリちゃん、そして背後にはものすごい覇気を纏った紗夜。

 

はっきり言おう、大ピンチである。

 

両手に華となったこの状況がどうやって作られたのかわからない。

 

昨日燐子と話してから記憶が無いので恐らく寝落ちしてしまったのだろう。

 

そこまでは考えられるし、紗夜も燐子が気遣って動けなかったとわかってくれるはずなのでもし燐子と一緒に寝ていたのならそれで話が済んだのかもしれない。

 

そう、『それだけなら』話は済んだのだ。

 

しかし僕の右側には何故かキリちゃんがいる。

 

キリちゃんは確か僕の部屋で先に寝ていたはずなのだ。

 

それなのに何故か今はここで寝ている。

 

これでは僕にその気がなかっとしても普通こんな状況を他人に見られたら普通如何わしいことをしたのではないかと怪しまれる。

 

実際僕の背後にいる紗夜の覇気が物語っているのだ。

 

さて・・・どう言い訳しよう。

 

2人を起こすにもなんか気が悪いし、2人に余計な責任は押し付けたくない。

 

とりあえず話すことが先決か。

 

「それで九条さん、これは一体どういう状況なんです?」

 

「さ、紗夜こそなんでこんな時間に?確かにいつでも来ていいとは言ったけど早すぎやしないかな?」

 

「やはり心配になって昨日湊さんに無理を言って鍵を借りたんです。それに昨日の夜確認をとったはずですが?」

 

「え?そんなの僕知らないよ?」

 

「あれ?昨日の深夜に既読がついて『了解』とスタンプが送られてきたのですが?」

 

紗夜がスマホの画面を見せる。

 

確かに僕の所に紗夜がメッセージが送っていて、それに僕が『了解!』とスタンプを送っている。

 

しかしスタンプが送られた時間を見るとその時間はもう寝ていた頃だし、そもそも僕はあまりスタンプを使わないタイプだ、明らかおかしい。

 

「僕これ送ってないよ?」

 

「けどこれは九条さんとの会話ですよね。」

 

「いや、全く身に覚えがない・・・」

 

すると右側で僕によりかかって寝ていたキリちゃんが目を覚ました。

 

「むにゃぁ・・・あ、おはようございますお兄様。」

 

「えっとキリちゃん?僕の部屋で寝ていたはずの君がなんでここに?」

 

「えっと、夜に喉が渇いてお水飲んだらお兄様とお姉様がここで寝ていて・・・写真を一枚撮ったあとお兄様のスマホに通知が来ていたので適当に返して羨ましかったのと部屋に戻るのがめんどくさかったのでここで寝させてもらいましたぁ・・・もうちょっと寝まぁす・・・」

 

そう言ってキリちゃんはこてんとまた僕の肩によりかかって寝てしまった。

 

・・・うん、全てが繋がった。

 

僕はキリちゃんが1度起きたことで自由になった右手を使ってゆっくり燐子が掴んでいた左手を引き抜くとキリちゃんの顔に左手を当てて指に力を入れた。

 

そう、世にいう『アイアンクロー』である。

 

「あいたたたたっ!痛いですお兄様ぁ!!」

 

「うん、やめて欲しかったらとりあえず起きて事情説明してもらおうかな?」

 

「わかりましたぁ!わかりましたからぁ!!」

 

「・・・九条さん、結構大胆なんですね・・・」

 

紗夜が呆れてそう言った。

 

昔からキリちゃんはこうして暴走しがちなので、シゲさんが暴走を止められないせいなのもあって、こうやって止めるのが昔からの役目だった。

 

昔自閉的だった僕でも親戚だったからこそ出来た所業である。

 

「とりあえず白金さんも起こしましょうか。このことをしっかり説明してもらいますので。」

 

「は、はーい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで燐子にも起きてもらって(起きた瞬間の状況に少しパニックになって落ち着くのに時間はかかったが)全員紗夜の前で正座している。

 

世にいう『お説教タイム』である。

 

「さて、ことの経緯を教えてもらいましょうか。」

 

「はい・・・昨日の夜、キリちゃんが寝たあと・・・私と奏多くんと話していて・・・ 」

 

「その途中にある事があったせいで精神的に疲れちゃってた僕が寝落ちしちゃって・・・」

 

「お姉様も動けずじまいで寝てしまわれたようで、キリが水飲みに起きて来た時には寄り添いあって寝ていました!なので写真を一枚撮ったあとお兄様のスマホに通知が来ていたのでキリが代表して返信してお兄様に寄り添って寝てました!」

 

キリちゃん反省の色ゼロである。

 

さっきまでの悪かったことをすぐ忘れることが出来る。

 

彼女の良い点でもあり、欠点でもある。

 

「聞いた話だと今回の件は全員に非があるようですね。」

 

「「「は、はい・・・」」」

 

「あと白金さん、あなたから見てどう感じましたか?」

 

「は、はい・・・!えっと・・・確かにキリちゃんは少し危なっかしいけど・・・女の子としての嗜みはしっかりしてたし・・・大丈夫だと思います・・・」

 

「いずれは立派なレディーになるでぃすてぃにーですか!」

 

「うん、キリちゃんすこしだまってよか。」

 

キリちゃんの流れに乗せられては話が進まないからね。

 

とりあえず燐子の意見を聞いたうちの風紀委員は少し考えたあと軽くため息をついて結論を出した。

 

「まぁ、やましいことも起きなさそうですし、九条さんも桐花さんに対しての対処法はしっかり出来ていそうですから大丈夫でしょう。今回のことは目を瞑りますが、今後こういったことが起きないように気をつけてください。」

 

「「はーい」」

 

僕とキリちゃんが返事を返す。

 

まぁ紗夜も朝早くから来てくれたわけだし、朝食でもご馳走するか。

 

「とにかく僕達は朝ごはんだね。紗夜も食べていきなよ。」

 

「そうですね・・・お言葉に甘えさせてもらいます。」

 

「よし、待っててすぐ作るから。」

 

僕は吊るしてあるエプロンを着るとキッチンの前へ向かった。

 

・・・キッチンに経つ直前、紗夜が「写真後で送って貰えますか?」と言っていたのは空耳だろうか・・・空見であって欲しい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、調理するのはいいのだが昨日キリちゃんが来る前にシゲさんからあるものが送られて来ていた。

 

受け取ってすぐ勉強会に出たので中身は確認していなかったが、昨日の夜見てみると中には何故か夏野菜類が入っていた。

 

添えられていた手紙を見ると『沖縄来ててなんか気分が乗ったから送るわ!それとうちの愛娘をよろしく!!』と書かれていた。

 

今は3月とはいえ、沖縄の方では暖かくなる頃なのだろう。

 

かと言ってこちらでは季節外れの夏野菜を送られてどうしようか悩んでいたところ、ちょうどゴーヤがあったのでこれで簡単なごはんのお供を作ることに。

 

まずはゴーヤをみんながよく知るあの形に切りそろえ、塩を降って揉み込む。

 

この時に出るアクが苦味の原因となるのだが、取りすぎるとゴーヤ独特の苦味が薄れてしまう。

 

しかし今回はしっかりと搾り取り、軽く茹でて水洗いする。

 

そして水を切ってそこにツナ缶、マヨネーズを入れてよく和える。

 

これで完成。

 

名前は特に考えてなかったが・・・まぁ、仮として『ツナマヨゴーヤ』と名付けておこう。

 

ツナマヨと和えることで苦味を感じなくさせつつ、ゴーヤの食感や風味を味わうことが出来る。

 

そしてこれが何より白ご飯と合うのだ。

 

そういえば友希那はゴーヤ苦手と言っていたので、今度やるのありだな・・・

 

まぁ、そんなこんなであとは白ご飯、味噌汁、卵焼きなど適当なものを作ってみんなの前に出した。

 

「とりあえず出来たよ。後片付けとかするから先食べてて。」

 

「私も手伝いま・・・」

 

「氷川さん・・・ここは有難くいただきましょう・・・奏多くん、こういうところ変に頑固なので・・・」

 

「そうです!お兄様は昔から変なところだけ頑固なところあるんです!とにかくいただきましょう!うわぁ〜お兄様のご飯久しぶりだ〜!」

 

「・・・ですね、いただきます。」

 

「いただきます。」

 

「うん、素直でよろしい!ゆっくりしててね〜」

 

とりあえず僕は調理器具を軽く洗い、キッチン周りを簡単に整備したあと自宅ポストを確認する。

 

シゲさんに「マネージャーたるもの音楽関連には目を通すべきだぞ」と言われてから音楽系の雑誌やこの周辺で行われるコンクールなどのチラシが届くようにしている。

 

ポストの中身を全て取り、部屋に戻ってから確認する。

 

今日は五通ほどで、4通はあまり関係の無いことだった。

 

そして最後の1通はコンクールの開催のお知らせだった。

 

かなり大きなピアノのコンクールで、とても大きい会場で演奏するようだ。

 

ピアノといえば燐子だが、燐子は人混みが苦手だ。

 

バンドの演奏中もほかのメンバーがいるのと、客席をあまり意識しないようにしているため演奏出来ているがピアノコンクールは基本ソロでやるため、お客さんの視線が一気に集まる。

 

まぁ、今までの感じなら拒否するだろうが一応聞いてみるべきか。

 

「ねぇ燐子。」

 

「どうしたの?」

 

「ピアノのコンクールのチラシ来ててさ、これ。」

 

燐子が橋を置いてチラシを受け取って内容を確認する。

 

いつも通りならすんなり返して「まだ私には早いかも・・・」と苦笑いして返すのだが・・・

 

今回は様子が違っていた。

 

燐子は驚いたような顔をしていた。

 

チラシを持つ手も震えている。

 

「このコンクールで・・・この曲・・・あの時とおなじ・・・」

 

「燐子?どうしたの?」

 

すると燐子は決心した顔をするとこっちに振り向いた。

 

「私・・・このコンクール出る・・・!」

 

突然のその発言に思わず言葉が詰まる。

 

紗夜も驚いて箸を止めていた。

 

「出るって・・・その大会かなり大きいコンクールだけど・・・」

 

「うん・・・しってる・・・私・・・昔このコンクールに出たことあるから・・・」

 

「白金さんが昔ピアノのコンクールで多くの賞をとってきたのは知っていますが・・・まさかこのコンクールまで出たことがあるとは・・・」

 

「はい・・・このコンクールに出たいと思ったのは理由があって・・・」

 

燐子はゆっくりと、その理由を話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued




予告
これより無灰は9月までに1期を終わらせるため、怒涛のほぼ連続投稿期間に入ります。

今まで長らくお待たせした分取り戻そうと思いますのでよろしくお願いします。


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96話 コンクール

連続投稿の感覚がズレている隠神カムイです!

あ、前話で出てきたツナマヨゴーヤめちゃくちゃ美味しいのでおすすめですぞ

ということでさくっと行っちゃいましょー!


燐子が大きなコンクールに出たいと言い出した。

 

かなり前にコンクールにはまた出てみたいと言っていたので、今までコンクールのことはちょくちょく話してはいたがどれもやんわり断ってきたので今回も断ると思っていた。

 

「確かにコンクールにはいつか出たいとは話していましたが・・・随分前の話じゃなかったかしら?」

 

「うん、それでちょくちょくコンクールのこと言ってはやんわり断られてきたから今回も断るものだと思ってたよ。」

 

「うん・・・ごめんね、でもコンクールに出る時は・・・このコンクールにしようって決めてたから・・・」

 

「お姉様、昔出ていたと言ってましたよね。このコンクールや楽曲になにか思い入れがあるのですか?」

 

みんなが燐子に夢中になって食事を止めている中、自分の食事をあらかた終えたキリちゃんが口を挟んだ。

 

この子、結構な早食いなのである。

 

「えっと・・・思い入れとは違うんだけど、その・・・」

 

燐子が表情を暗くして言葉を詰まらせる。

 

言いにくい事情でもあるかもしれない。

 

「しかし白金さん、コンクールは人が沢山来るので苦手と言っていませんでした?」

 

「それにこの会場、前に入ったことあるけどかなり大きい会場だったよ。あとから調べたらこの街でトップクラスに大きい会場だったし。」

 

大ガールズバンド時代と言われている現在、その流れに乗っかって古いホールの建て替え工事や新造ホールの建築、ライブハウスの新設が徐々に増えている。

 

つい最近も商店街の近くにGalaxyというライブハウスが開いたばかりだ。

 

そんな中、この会場は昔からあるもので歴史あるホールなんだとか。(ゴーグル先生調べ)

 

とにかくすごく大きな会場なので当然大量のお客さんも来るわけなのである。

 

「はい・・・参加する人も沢山いますし・・・このコンクールは公開審査なんです・・・かなり有名なコンクールで・・・それを聞きに来るお客さんやプロへのスカウトの人も沢山いるんだ・・・」

 

「そ、それは凄いですね・・・」

 

「大勢の前で1人でなにかするなんて・・・キリには不可能ですぅ・・・」

 

「燐子、本当に大丈夫?平気なの?」

 

「平気じゃないけど・・・でも・・・」

 

燐子はそこで1度言葉を止めて、落ち着いてから自分の意思を話した。

 

「でも私は・・・挑戦したい・・・挑戦してみたいんだ・・・ずっと逃げていたことにも・・・今なら向き合えるような気がするから・・・これもそう、生徒会の話もそう・・・1歩ずつ、でも確実に私自身を変えていきたいって思ったから・・・」

 

燐子の決意がここにいる3人に深く伝わった。

 

こんな燐子、久しぶりに見た気がする。

 

「・・・そう、上手くいくといいわね。」

 

「氷川さん・・・はい、ありがとうございます・・・!」

 

「僕も応援する。頑張って、燐子!」

 

「私もお姉様を応援します!よーし!私も受験頑張らなきゃです!」

 

燐子がこんなにも頑張ろうとしているのだ。

 

応援しなきゃ彼氏でも友達でもない。

 

とにかくこのあとは練習をして、勉強会の後に学校である。

 

今日花咲川では午前になにか行事ごとがあるらしく、一般生徒は午後からの授業らしい。

 

「とりあえずこのあとは練習ですね・・・友希那さん達にコンクールのこと・・・話さなきゃな・・・」

 

「今日は練習の後、ここで勉強会を開きましょうか。桐花さんが受験となれば私たちで見ることが出来ますし、同じ学年の宇田川さんも同い年の子がいれば勉強しやすいでしょうし。」

 

「うん、わかった。」

 

「ほんとですか?ありがとうございます!」

 

「長ばなし・・・しすぎちゃいましたね・・・」

 

「あー・・・ご飯冷めちゃってるかな・・・まぁいっか、食べよ食べよ!」

 

というか朝ごはんまだ食べてないので結構空腹なのである。

 

食べ終えたキリちゃんはともかく僕と紗夜と燐子はまだ残っているのだ、残さず食べなきゃ勿体ない。

 

「それと〜あの〜紗夜?さっきキリちゃんに撮った写真送ってって言ってなかった?」

 

「なんのことでしょうか?この写真を見て喜ぶのはあなた達ぐらいですし、何かあった時の脅迫材料にはなりますが。」

 

「ちょっと紗夜さん?怖くないです?」

 

「冗談ですよ、早く食べましょう。」

 

そう言うと紗夜は自分の箸を手に取り、ご飯を口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ白金さんは写っていますが、湊さんに送っても問題ないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終え、練習のためいつものCIRCLEへ。

 

CIRCLEにはもう友希那、リサ、あこが来ていた。

 

「おはようございます。皆さん珍しく早いですね。」

 

「まぁね〜ちょっとは気になっちゃって・・・」

 

「紗夜に鍵は預けたけど気になるものは気になるのよ。」

 

「あこも気になっちゃって!あ、キリりんと話したいから今度泊めてください!」

 

「僕は構わないけどまずは紗夜の許可取ろうか。」

 

「ちょっと、なんで私がわざわざ許可を与える役をしないといけないんですか?」

 

「氷川さん・・・もしかしたら今日みたいなことするかもしれないから・・・じゃないですか?」

 

というか許可取ろうが取らまいが来そうなのだがそこは置いておく。

 

というかこのままだと練習始まりそうにないし燐子のコンクールの件も話せないから話をそらさなければ。

 

「とりあえずこの件は置いといて練習しよ。次のライブまで結構時間はあるけど新曲含めてやることは沢山あるんだからさ。」

 

「そうね、やることは沢山あるわけだし新曲もいい感じに仕上がっては来ている。」

 

「『BRAVE JEWEL』・・・まだそれぞれ完璧とは言い難いですが完成すればかなりのものになると思います。」

 

今Roseliaで練習している曲『BRAVE JEWEL』

 

これからのRoseliaの進歩と決心を形にした曲である。

 

それぞれにパートがしっかり分けられており、今までやってきた曲の中でも難易度はかなり高い方だ。

 

しかしその分Roseliaらしい重厚感と壮大さはかなり高い。

 

完成すればこれからのRoseliaを担う曲になるかもしれない曲だ。

 

「今日はそれぞれミスが多かったところを重点的にやるわよ。」

 

「はーい!」

 

「あ、あのっ!」

 

ここで燐子が友希那を呼び止めた。

 

多分コンクールのことを話すのだろう。

 

「どうしたの、燐子?」

 

「あの、実は私・・・これに出ようと思って・・・」

 

そう言って燐子はうちから持ってきたコンクールのパンフレットを友希那に見せた。

 

友希那はそれを見ると少し驚いたような顔をした。

 

「これってコンクール?それにこれ・・・かなり大きいコンクールよね。」

 

「あー、確かにりんりんコンクールにいつか出たいって言ってたよね。でも大丈夫?人たくさんいるんでしょ?」

 

「うん・・・でもいつかは挑戦しないと前に進めないし・・・今なら向き合えるかなって。」

 

「そう・・・燐子が決めたことなら否定はしないわ。でもコンクールの準備を進めなきゃ行けないわね。課題曲の練習はどうするの?この曲、確かクラシックの曲だったわよね。」

 

友希那がそう言うと燐子の顔が途端に暗くなった。

 

家で話していた時もそうだった。

 

昔出ていたことやコンクールの楽曲の話をするととたんに表情が暗くなる。

 

昔何かあったに違いない。

 

「この曲は・・・その・・・昔、このコンクールに出場した時・・・演奏した曲なんだ・・・」

 

「ええっ?燐子がコンクール出てた時って・・・確か小学生の頃って言ってなかったっけ!?」

 

「その頃から、高校生向けの課題曲をやっていたの?」

 

「あ、あの・・・昔通っていたピアノの先生が・・・これぐらいの曲なら弾けるはずだからって・・・」

 

「すっご〜い!その頃からピアノ上手だったんだー!」

 

「そ、そんなことないよ・・・」

 

燐子は否定しているがこれは本当にすごいことなのだ。

 

燐子が昔賞を取ってきたのも納得出来る。

 

「りんりんよかったね!弾いたことある曲なら余裕だよ!!」

 

「頑張ってね燐子!応援してる!」

 

「は、はい・・・ありがとうございます・・・」

 

燐子は笑ってそう返したが、結構無理に笑っているように見える。

 

その燐子の表情がどうしても気がかりで、過去の自分を見ているよううで、不安だった。




まだまだ続くぞ連続投稿〜

一応ペースはひとつの話につき、1〜2日出やりたい


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97話 テンサイ ト カイチョウ ト ヤサシサ ト

ほぼ毎日投稿出来てないじゃないですか()
・・・とつくづく思う隠神カムイです。

フィルムライブ見てきました!
あれ最っ高・・・応援上映じゃないと無理だわ()
色紙はさーやが出てめちゃくちゃ嬉しかったです!
パスパレも取りに行く予定・・・てか5週全部行きそう。

ということで本編どうぞ!


燐子の様子が優れない中、次のライブに向けての練習が始まった。

 

燐子の様子が多少・・・いや、かなり心配だが今はRoseliaの練習の時だ、燐子ばかり気にしていられない。

 

次の新曲『BRAVE JEWEL』は結成してそろそろ1年を迎えようとしているRoseliaにとって、かなり大切な曲である。

 

難易度が高いため周りを気にしていかなければマネージャーとして適切なアドバイスを送ることが出来ない。

 

一通りBRAVE JEWELを演奏する。

 

やはり聞いた感じ全体的にブレを感じてしまう。

 

やはり難しいため、個人個人のミスもあると思うがそれ以上のなにか悪い所があるような気がするのだ。

 

「うーん、聞いて見た感じやっぱりまだ個人個人のミスは多いように思える。あこはテンポ早くなる癖がまだ振り切れてないしリサは逆に置いていかれつつある時がある。燐子は少し迫力が薄くなってたよ。紗夜もサビ前からサビ中腹にかけて所々テンポズレてたりしてた。紗夜にしては珍しいミスだね。友希那もみんなにあわせてうたってはくれているんだけどかなり無理してるように思えた。ひとまずは楽器隊のミスを減らしていくことからかな?」

 

「「「「うっ・・・」」」」

 

と、ひとまず辛口意見を言ってみるとこういう反応なのである。

 

というか基本どんな曲でも2、3回やれば一通り弾ける紗夜が連続してミスをするような曲なのだ、それだけ難しいということだ。

 

というか少し言いすぎたかも・・・

 

「みんな、落ち込んでばかりいられないわ。確かにBRAVE JEWELは難しい曲かもしれないけど私たちが前に進むための曲でもある。奏多もサポートしてくれている訳だし、パートに分けて繰り返し練習するしかないわ。」

 

「・・・ですね!ドラムもネトゲも何事も繰り返しやってレベルアップするものですから!」

 

「宇田川さんの言う通りですね。何事にも繰り返すことが大切です。ギターも頑張らないといけないですしNFOももうすぐランク125ですし・・・頑張らなければ。」

 

え?紗夜もうそんなレベルまで来てるの!?

 

僕や燐子のランクは200台なのでまだ上位ランカーとは言えないがあと少しで162のあこに追いつきそうな勢いである。

 

NFOに基本ランクに上限はないと聞いているが100以上となると高難易度クエストが参加可能となり、NFOプレイヤーの中でも100を超えたら充分やりこんでいる証拠でもある。

 

この人確か10月ぐらいから始めたはずなのに4ヶ月でここまでやり込むか・・・

 

「ゲームの話はわかんないけど、確かに繰り返してやること大切だよねー。練習も、もちろん勉強も。」

 

「「うぐっ!」」

 

(僕含め)約2名ほどがダメージを受ける。

 

1人平然とした顔をしているけどあなたもですよ、友希那。

 

「残す時間も僅かですし今日はこの辺にして切り上げましょう。羽丘は休日のようですが花咲川はこの後授業がありますので。」

 

「そうね。どうせこの後勉強会もやるわけだし、早く引き上げるわよ。奏多、いつまでもダメージ受けてないで指示をちょうだい?」

 

「り、了解・・・とりあえずいつも通り片付けよ。」

 

とりあえずテキパキと機材やコードなどを直していく。

 

現在時刻は11時前、学校は1時半からなのでざっと2時間ぐらいはある。

 

準備や食事を含めても勉強時間は1時間ほどありそうだ。

 

とにかく早く片付けて苦手なものも片付けようと僕は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらかた片付けを終え、僕達は勉強をしに家に集まった。

 

キリちゃんが待ってましたかのようにあこに抱きつくトラブルはあったものの、その後普通に勉強会を始めた。

 

それぞれ必要な科目を勉強する中、僕は古文とにらめっこである。

 

「えっと・・・ここがウ音便になって・・・?それでこの語が未然形?あれ、連用形?どうだったっけ・・・」

 

「奏多くん、そこ連体形・・・」

 

「あ、そっか。ありがと燐子。」

 

うん、教えてくれてはいるものの全くもってわからない!

 

そんな僕を紗夜が不思議そうに見つめてきた。

 

「・・・紗夜?顔になにかついてる?」

 

「いえ・・・普段本をよく読んでいる九条さんは国語が得意かと思っていましたので・・・今思うと不思議だなと思って・・・」

 

「お兄様は現代文は得意ですが中学の頃から古典や歴史は苦手分野ですからねー。あ、あと英語も苦手でしたっけ?」

 

「キリちゃん、余計なこと言わなくていいから・・・」

 

これ以上やる教科増えたら頭パンクするぞ僕・・・

 

なお、そんなこと言うキリちゃんはと言うと

 

「数学と古文終わりましたー!リサ姉様、燐子お姉様、採点をお願い出来ますか?」

 

「よーし、ちょっとまってて・・・って凄い!こんな難しい問題集全問正解してる・・・!それにこの式、中学生の問題なのに高校生のアタシでもわかんないよ・・・」

 

「これ本当にすごい・・・ちゃんと文の内容を全て把握しながら・・・自分なりの解釈でしっかりと、わかりやすく解答してる・・・まるで模範解答みたい・・・」

 

「凄いキリりん!めちゃくちゃ頭いい!」

 

「ふふーん!大阪の中学校首席は伊達じゃないです!」

 

そう、我が義妹は世にいう『天才』なのだ。

 

シゲさんが親バカなので時々メールでキリちゃんの成績表が送られてくるのだが成績オール5とかいう化け物である。

 

「・・・奏多の家族って色々と凄いのね。」

 

「特徴があるっていうか・・・癖が強いっていうか・・・そんな人しかいないからねうちは・・・」

 

「妹キャラ・・・天才・・・天然・・・うっ頭が!」

 

紗夜が既存感あるキャラ設定に頭を痛めている!

 

一体どこの天才少女と被せたんだ・・・

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

どこぞの天才妹「へっくしゅん!あ、このくしゃみはおねーちゃんが噂してる時のくしゃみだ!何話してくれてるんだろな〜」

 

〜〜〜〜

 

 

 

 

 

まぁそんなことでぶっちゃけると羽丘ぐらいの高校ならこの子楽々受かるのだ。

 

もっといい高校もあっただろうに羽丘を選んだ理由は未だ不明である。

 

というか聞いても教えてくれない。

 

昔からだがキリちゃんは本当に謎が多い子である。

 

「とりあえずキリはノルマ終わったのであこちゃんの指導にはいるです!人にわかりやすく教えるスキルも勉強には必要ですしあこちゃんも助かるです!」

 

「ホントに!ありがとーキリりん!」

 

「おやすい御用です!」

 

そう言ってキリちゃんがあこの隣に座って教鞭をとった。

 

あそこは任せて大丈夫だろう。

 

「私達はそろそろ学校がありますし、それぞれ準備をしましょうか。」

 

「そうですね・・・」

 

紗夜と燐子は制服を持ってきていたらしく、鞄の中からそれを取りだした。

 

僕は2階の自室にあるので取りに行かねばならない。

 

「客間空いてるからそこ使って〜リサ達も僕がいない間も自由に使っていいから。」

 

「りょうかーい!」

 

家のことは羽丘組に任せ、僕達花咲川組は着替えて学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後からの授業・・・と言っても2時間だけなのだが、正直な話をいうと羽丘みたいに休みでよかったのでは?と僕は思う。

 

しかし、テスト前というのとあとから担任に聞いた話だが、休みにしてしまうと授業日数が足りない教科があるらしく、午後から授業ということになったのだそうだ。

 

授業日数の問題となってくると致し方ないのか。

 

まぁ生徒がどうこう言って変わることではないので大人しく授業を受けた。

 

そして放課後、僕は燐子と共に生徒会室へと来ていた。

 

燐子の付き添いというのもあるが、あの生徒会長になぜ燐子を選んだのか問いただす必要があるとおもったからだ。

 

燐子がドアをノックして開けた。

 

「し、失礼・・・します・・・」

 

「おー燐子ちゃん、来てくれたんだー。それに九条くんも一緒とはねぇ。」

 

「どうも・・・って、またなにか調べてたんですか?その資料。」

 

「ええ、ちょっとね。」

 

机の上に資料等が散らばっている。

 

鰐部さん1度調べ物をすると資料などを結構雑に置くのだ。

 

まぁ、多分調べてたのは学校の事じゃなくて・・・

 

「ちょっと失礼します。」

 

「あっ、えっと・・・」

 

資料を掻き分けると中から本がでてきた。

 

「『ブロガーが勧める美味しいラーメン屋2018年版』・・・会長・・・またラーメン屋のこと調べてたんですね。」

 

「あの・・・えっと・・・あはは・・・」

 

そう、この人大のラーメン好きなのである。

 

これまで人に資料のまとめを任せておきながら自分はラーメン屋のこと調べてたことがどれだけあったことやら・・・

 

「今度また有咲ちゃんに教えてあげようと思って〜」

 

「あの、調べるのは構いませんがせめてお仕事終わって後片付け済んでからにして貰えませんか?」

 

「その時は九条くんが請け負ってくれるじゃない?」

 

「その『当然じゃない?』みたいな顔やめて貰っていいですか?」

 

「だって九条君、頼まれたこと断れないタイプじゃない?それにこの前有咲ちゃんより先に美味しいラーメン屋に連れて行ってあげたじゃない。私の奢りで。」

 

「奏多くん、それってどういう・・・」

 

「あ、えっとその・・・この前Roseliaの練習無かった時に『いつも無理やり仕事付き合ってもらってるお礼だから〜』って言われて・・・」

 

「そう・・・なんだ・・・」

 

燐子さん、そんな悲しそうな顔しないでください。

 

罪悪感がものすごくなる。

 

そんな中鰐部さんはメガネを拭くとさっきとは違ってしっかりとした顔で燐子に話しかけた。

 

「燐子ちゃん、ここに来たってことは引き受けてくれるのね、生徒会長。」

 

「・・・はい、引き受け・・・ます・・・!」

 

「それじゃあこれ。今度の集会で前に出てスピーチしてもらうための原稿書くようの紙と仕事一覧。あなたに引き受けてもらえて嬉しいわ、頑張って!」

 

「は、はい・・・!がんばり・・・ます!」

 

燐子が多少慌てふためきながらも紙を受け取った。

 

そして近くにあった椅子に座って資料をじっくりと読み始めた。

 

待っている間に僕は鰐部さんになぜ燐子を会長候補に選択したのか聞いてみた。

 

「会長、なぜ燐子を次の生徒会長に?燐子がこういうこと苦手なのあなた知ってるはずでしょ?」

 

「そうねぇ・・・簡単な理由としてはキーボードやっている子ってこういったこと得意な人が多いのよ。基本しっかりとした子がキーボード演奏するからね。それと彼女、弱い自分をどうにかしたいってこの前合同でライブした時に話してくれたし、多少荒治療になるかもしれないけど人前に慣れるのにちょうどいいんじゃないかって思ったのよ。後輩の望みを叶えてあげたいって思うのが先輩の優しさよ?」

 

鰐部さんがニコッと笑ってそう言った。

 

しっかりとした理由があったことに少し驚いたけど『燐子がそう望んでいたからその手助けをしてあげたかったから』ということに僕は改めてこの人がすごい人だと思い知らされた。

 

「それに。」

 

「それに?」

 

「もし彼女が追い込まれても、あなたや紗夜ちゃんがいてくれてるでしょ?だから大丈夫って思えたのよ。だからあの子が手一杯になった時、助けてあげて?」

 

「もちろんです。僕にとって燐子は大事な人ですから、彼女がしんどい時は僕が助けないと。」

 

「そう考えてくれてるだけでも十分よ。でも、気をつけなさい。」

 

「何がですか?」

 

「あなたと燐子ちゃんはお互いのことを意識しすぎている。それは時に相手に迷惑をかけるかもしれないから、それだけは心に留めておきなさい。」

 

「?わ、わかりました・・・」

 

最初はこれがどういうことかわからなかった。

 

でも、後にこの事が本当に起こるだなんて僕は予想すらしてなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……To be continued




この章だけアンケート取ろうと思います
今後の方針に関わりますのでよろしくお願いします


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98話 ケンカして考えて

ども、お久しぶりです、隠神カムイです。

隠神カムイ氏ついに星四燐子ゲットしました!

しかもずっと欲しかった『わたしとピアノ』の燐子!!!

金の力ってすごい!!!(星四交換チケガチャ)

そして副産物でピュアRoseliaが揃う奇跡、ホント運命っすわ・・・

そしてその後購入した5th Day2 Ewigkitのライブで人生でこれほど泣いたのいつ以来だと思うぐらい泣きました。

あのライブほんっと神・・・


ということで本編どぞ!


鰐部さんの言葉の意味がわからないまま、数日が過ぎていた。

 

その間、テスト勉強、ライブに備えての練習をこなしながら過ごしてきたが、ずっとその言葉が引っかかっていた。

 

『互いを意識しすぎるあまり、その相手に迷惑をかける』

 

それの何がいけないのか正直わからないのが本音だ。

 

互いを意識し合うことは人と関わる中で必要不可欠である。

 

自分より相手のことを気遣って行動することで衝突を避け、いざこざを避けることが出来ると思っている。

 

自分の気持ちをぶつける大切さも知っているがやはりいつもそうしていたせいか、自分の事を二の次に考えがちなのである。

 

このまま行くと話が変わってしまうのでそれは置いといて。

 

そんな心境のままテストが終わってほかの学校より少し早めの終業式である。

 

3年生の方々は実は二月末に卒業しているのだが、生徒会の方々は跡継ぎや終業式のスピーチ制作などで来ていたのだ。

 

段に登ってそれぞれの学年の代表がスピーチしていく中(1学年代表に上がった香澄さんが演説の後ライブ宣伝に移ってしまったハプニングはあったが)、ようやく生徒会によるスピーチである。

 

壇上には『前』生徒会長の鰐部さんが上がっていた。

 

「皆さん、お久しぶりです。『前』生徒会長の鰐部です。生徒会の方で1部の3年生はちょくちょく学校に来ていたので私が来るのを知っていた生徒もいると思います。でもこれで私達もお別れとなります。まずは皆さん、いままでありがとうございました。」

 

ぺこりと頭を下げる。

 

そこに大きな拍手が上がった。

 

ちょくちょく泣いてる生徒も見かけたので、鰐部さんがどれだけすごいカリスマ性を持っていたのかがわかる。

 

こうして見るとすごい人である。

 

「ありがとうございます。さて、皆さんは来月から1つ学年が上がって2年生の皆さんは学校を引っ張っていく3年生に、1年生の皆さんはこれから入ってくる後輩の手本となる2年生になります。今は少ない男子の方々にも、これからもっともっとたくさんの男子生徒も入ると思います。だから皆さん、良い先輩であれるよう頑張ってください。」

 

さて、ここから新生徒会長の発表である。

 

燐子は舞台裏の方でスタンバイしていると式前に紗夜に聞いたが、めちゃくちゃ心配である。

 

ライブの時はキーボードに集中してるため大丈夫だが、ここはライブの場ではなく壇上である。

 

「大丈夫かな・・・」

 

こっちまで緊張してきた。

 

変な汗がやばい。

 

そしてついに鰐部さんが新生徒会長の発表を始めた。

 

「さて、これから皆さんを引っ張っていく新しい生徒会長の発表です。さぁ、上がってきて。」

 

鰐部さんが舞台袖に向かって手を招く。

 

そして舞台袖から燐子が姿を現した。

 

ここから見ても分かるぐらい震えているが、何とか壇上までたどり着くと鰐部さんからマイクを受け取った。

 

「え、えっと・・・その・・・新しく・・・生徒会長になりました・・・白金・・・燐子・・・です・・・」

 

話すにつれて言葉が小さくなっていく。

 

燐子の表情は青ざめて、とてもきつそうに見える。

 

今すぐ補助に行きたいが、頑張ってこらえて燐子を見守る。

 

すると鰐部さんが燐子の肩を叩いて軽く微笑んだ。

 

燐子は深呼吸するとスピーチを続けた。

 

「その・・・前会長みたいにはできないと思います・・・でも・・・自分を変えるために、そしてみんなとこの花咲川を良くしていくために精一杯頑張りますので・・・よろしくお願いします・・・!」

 

そこまで言って燐子が頭を下げる。

 

少しの静寂の後、大きな拍手が起こった。

 

そこには「頑張ってください!」や「一緒に頑張ろ!」などの掛け声があった。

 

燐子の表情を見るとほっとして安心してるようだった。

 

進行役の紗夜が「これで生徒会からの報告、そして終業式を終わります。一同、礼!」と言ってからそれぞれの教室に戻った。

 

教室に戻ると燐子がクラスのみんなに囲まれていた。

 

「白金さん生徒会長やるんだ〜!」

「スピーチよかったよ!」

「ちょっと意外だけど頑張って!応援してるから!」

「燐子ちゃん、何かあったら相談してね!私、力になるから!」

「鰐部さんもよかったけど燐子さんは燐子さんなりの生徒会長やればいいから!」

 

などなど、多方向からの質問攻めで戸惑い気味になっていた。

 

止めに行きたいが、この空気だとめちゃくちゃ行きにくい。

 

しかし、担任が教室に入ってきたので何とかその集まり解散され各自席に着いた。

 

「はーい、このクラスも今日で最後となります。なんだかんだ楽しい一年でした。白金が生徒会長になったのはおめでたい事だ。彼女は気が弱いところがあるからみんなで手助けしてやってくれ。以上、解散!」

 

担任が簡素ながらもしっかりと挨拶をしてこのクラスは解散となった。

 

色々とこき使われてきた記憶しかないが、案外楽しかったクラスであった。

 

しかし、さっきからこう胸のわだかまりというのだろうか、モヤモヤしたものがずっとここにある。

 

この前も感じたこの感覚・・・一体何なのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳ではあるが、練習はしっかりやらなきゃいけない。

 

セトリとしては初期段階だと『LOUDER』『BLACK SHOUT』『Neo-Aspect』『BRAVE JEWEL』の4曲の予定だった。

 

しかし、あこの「あこ、新曲やりたいです!!」の一言でさらにもう一曲増えることになったのだ。

 

これだけハイテンポな曲ばかりだとこちらもお客さんも疲れてしまうので最初はバラードやその辺の曲にしようかと考えていた。

 

けど、『ハイテンポならハイテンポらしく、緩急をつけずに一気に駆け抜けるほうがいいわ』と友希那に言われたため、アップテンポ系の曲を作ることが確定した。

 

曲は完成したものの、肝心の歌詞と曲名がまだ決まりきってないので未だ仮の歌詞と演奏練習のみではある。

 

一通り演奏が終わって、僕の評価を言う前に友希那が口を開いた。

 

「燐子、今日の演奏、あなたらしくない音が出ていたけど大丈夫?」

 

「えっ・・・あっ・・・その・・・」

 

「それは私も感じました。みなさんはどう思いますか?」

 

「あ、あこも・・・いつもと違うなぁ〜っては思ってましたけど・・・」

 

みんなそう言ってるが、今回ばかりは僕もそう思った。

 

いつも燐子が奏でるような優しくて心を温めるような音じゃなかった。

 

例えるのは難しいけど・・・なんかこう・・・迷ってるような無理してるような?そんな感じの音・・・

 

「ま、まぁまぁ・・・ほら?新しい曲の練習だし、燐子もまだ掴めてないだけだって!アタシも何ヶ所か上手く弾けなかったとこあるしさー」

 

「たとえ新曲でも、燐子はいつも曲の雰囲気を掴めてたと思うけど?」

 

友希那がいつもながら厳しい言葉を語りかける。

 

正直リサみたいに燐子のサポートに回りたいが、それだと今は逆効果になりかねない。

 

「えっと・・・そ、その、曲の理解が・・・足りなかったのかもしれません・・・」

 

「・・・・・・」

 

友希那は少し黙り込むと態度を崩さずに燐子に話した。

 

「原因がわかっているなら、私から言うことは無いわ。次までに曲の理解を深めておいて。」

 

「は、はい・・・」

 

燐子がガクッと俯く。

 

やはりいつもの調子じゃない。

 

気がつけば幸か不幸かそろそろ練習を終わらせて片付ける時間である。

 

今日の練習はここまでにしておいた方がいいか。

 

「と、とりあえず時間も時間だし片付けようか。燐子はまだ残って練習するの?」

 

「う、うん・・・コンテストまで、あまり時間ないし・・・」

 

「それじゃあキーボード以外の機材なおそうか。」

 

とりあえずみんなでスタジオの状態を練習前に戻す。

 

それに今後のCIRCLEの利用予約も今日はしないといけないので、燐子と一緒に残ろうと思った。

 

燐子の音を聞いて、アドバイスぐらいはできるだろう。

 

僕は片付けながらそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんながスタジオから出て、ここには僕と燐子が残った。

 

「あれ・・・奏多くん帰らないの?」

 

「今日は今後のCIRCLEの利用予約もしなきゃいけないからね〜。それに燐子の音最近調子良くないよね、多分アドバイスぐらいなら出来ると思うよ?」

 

「う、うん・・・ありがとう・・・」

 

僕はスタジオにある椅子に座って燐子の演奏を聴いていた。

 

この曲のことをその手の音楽関連に詳しいシゲさんに聞いたところ、この曲は曲としてはかなり難易度が高い方で高校生が演奏するには少し難しすぎるのではないかという程の難易度である。

 

それほどの難易度の曲を昔演奏したことがあるという程だから燐子の腕前は相当凄い方なのだ。

 

しかし、燐子はさっきから同じところでつまづき、それを繰り返して直そうとしている。

 

しかし、焦っているのか何度も同じミスを繰り返すばかりかほかの所までミスが出始めている。

 

一度止めたほうがいいかもしれない。

 

「燐子、一度止めて。音がブレブレになってきてる。」

 

「ううん、大丈夫・・・次しっかりやるから・・・」

 

「でもさっきから同じところでつまづいてる。そんな状態でやっても絶対進歩しないよ。ここは1度落ち着いてからゆっくりやり直そう。」

 

「でもコンクールまで時間が無いし・・・ミスが多いならそこを詰めて練習しないと・・・」

 

「燐子、冷静になって!なんか今日の燐子いつもと違う!」

 

「大丈夫だから・・・気にしないで、私頑張るから・・・」

 

「そんな無理に頑張っても絶対いい音なんてでないよ!昔演奏した時どうだったかわかんないけど今のままじゃ昔の音に絶対負けるよ!お願いだからいつもの燐子に戻って!」

 

すると突然燐子の体がビクンと揺れた。

 

さらに突然雰囲気が変わった。

 

そして静かに、低い声で僕に語り掛けた。

 

「・・・ねぇ、『いつもの私』って・・・なんなの・・・?」

 

「燐子・・・?」

 

「奏多くんから見える『いつもの私』ってなんなの?私は・・・私は・・・あなたが思ってるほど強くもなんともない!!過去に囚われたままずっと理想論を述べてるだけの弱い人間でしかないの!誰だって・・・あなたみたいに乗り越えられる訳じゃない!!」

 

燐子が大きな声でそう叫んだ。

 

その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

そして彼女の気持ちを、僕は受け止めきれず、何も言えずにいた。

 

そして燐子ははっと我に返ると下を向いて小さな声で話した。

 

「ごめんなさい・・・今日は1人にさせて・・・」

 

「・・・うん、力になれなくて・・・ごめん・・・」

 

僕は荷物を持って、スタジオを後にした。

 

心のわだかまり、さらに燐子を怒らせてしまったことへの後悔の念。

 

そのふたつだけで今の僕の心はズタズタになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば私は奏多くんに怒鳴りつけていた。

 

我に返ればそこにはとても困惑して、青ざめていた奏多くんの姿があった。

 

奏多くんは悪くない。

 

悪いのは自分の弱さなのに・・・

 

そんな気持ちでも今は自分のすべきことに集中しなければならない。

 

指を鍵盤に当てて、もう一度あの曲を弾く。

 

鍵盤の上に指を走らす。

 

しかし、いつも同じところで『あの頃』の記憶が頭をよぎり、指が止まってしまう。

 

「やっぱり・・・ダメ・・・今なら・・・向き合える気がしたんだけどな・・・」

 

ココ最近ずっとこの調子である。

 

弾きたくても『あの頃』の記憶が頭をよぎり、手が止まる。

 

今日も含めてこれまでもこの曲を一度も最後まで弾くことが出来ていない。

 

正直、ピアノを弾くのが全く楽しくない。

 

どうすればいいのかもわからない。

 

私を助けようとしてくれた人も私が追い出してしまったし・・・

 

「はぁ・・・」

 

軽くため息をつく。

 

彼の言う通り、この調子だと何も出来ずに終わってしまいそうだ。

 

「・・・今日は・・・帰ろう・・・」

 

キーボードを片付けて荷物をまとめる。

 

カバンを持って外に出ると、そこには見慣れた銀髪の人がいた。

 

「友希那・・・さん・・・?」

 

「燐子、今から帰るの?」

 

「ええっと・・・その・・・何故友希那さんはまだここに?」

 

「今回の新曲、もっと煮詰めようと思って。曲の音だけ完成しても、歌詞が完璧に仕上がらなかったら意味ないから、歌いながら考えていたの。」

 

「そう・・・なんですか・・・」

 

話が止まってしまう。

 

まるで、Roseliaに入る前の自分みたいに話す言葉が見つからずに黙り込んでしまう。

 

そんな私を見て友希那さんは自分から話しかけた。

 

「今回のコンクールの曲、そんなに難しい曲なの?課題曲の話をした時、戸惑っているように見えたけど。」

 

「・・・・・・曲は難しいけど・・・弾けない曲じゃないんです・・・ただ、弾いてると・・・小さい頃を思い出してしまって・・・どうしても、途中で指が動かなくなってしまって・・・」

 

「燐子・・・」

 

友希那さんは少し黙り込むと、近くにあったフロントのソファに腰掛けた。

 

「燐子の昔の話、聞かせて貰えないかしら。」

 

「は、はい?」

 

「気になったのよ、あなたの過去聞いたこと無かったから。それに、誰かに話した方が気が楽になるかもしれないわ。」

 

私は少し考えた後、友希那さんに自分の過去を話す決意をした。

 

私は友希那さんの隣に腰かけ、自分の過去を語り出した。




燐子バースデーまでのこり1週間・・・その間に2話ぐらい上げなきゃ・・・!


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99話 トワレルコタエ トドケコノテ

燐子の誕生日目前に慌てつつある隠神カムイです。

最悪間に合わなければ誕生日のやつだけごり押します()

問題は明日5回目のフィルムライブ行くから時間危ういことだぞい!

さて、今回は燐子と奏多の他に2人しかメインキャラが出ない珍しい回になりました。


それでは本編どぞ!


始まりは両親に連れられて見に行ったピアノコンサートでした。

 

演奏が始まった時に幼い頃の私は衝撃を受けました。

 

周りに人がいっぱいいて怯えていた私を、ピアノの音が包み込んでくれて、とても安心できて、私もこんな演奏ができるようになりたいと思ってピアノを始めました。

 

たくさん練習して、コンテストに出て賞をとると両親やピアノの先生がとても褒めてくれて、それが嬉しくて楽しくて、私はいつの間にかピアノの虜になっていました。

 

「すごい、燐子ちゃん!そんな難しい曲、もう弾けるようになったの!?」

 

「はい・・・たくさんれんしゅうしました・・・」

 

「ふふっ・・・燐子ちゃんは本当にピアノが大好きだね。楽しそうに弾いてる燐子ちゃんを見ると、先生もなんだか楽しくなっちゃうな〜」

 

「えへへ・・・」

 

「その曲が弾けるなら、もっと大きいコンクールにも出られるよ。ね、よかったら挑戦してみない?」

 

「こ、コンクールは・・・えっと・・・」

 

「大丈夫。燐子ちゃんはいろんなコンクールでも賞を取ってるし、大きなコンクールでも上手にピアノを弾けるよ!」

 

「は、はい・・・」

 

・・・そんな感じで、もっと大きなコンクールに出ることになったんです。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

そこまで言うと、今まで黙って聞いていた友希那さんが少し驚いたような顔をして発言した。

 

「少し意外ね。燐子なら、コンクールはもっと嫌なものだと思っていたわ。」

 

「嫌じゃなかった訳では無いです・・・人がたくさんいるので・・・あの頃も、ずっと怖い場所だと思っていました・・・でも、コンクールに出て頑張ると、みんな喜んでくれたんです。お父さんやお母さん・・・それに、ピアノの先生が・・・それが嬉しくて・・・あの頃は苦手だったコンクールにも、よく出場していました。」

 

「そういう事だったの。」

 

友希那さんが納得したような顔をした。

 

けど、ここまではまだ余興に過ぎない。

 

私の暗い過去は、ここからが本番なのである。

 

「・・・でも、その頃の私は・・・まだわかっていなかったんです・・・大きいコンクールに出るということが・・・一体どういう事なのかを・・・」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

その会場は、昔両親に連れられて行ったコンサートのホール程の大きな会場でした。

 

今まで行ってきたコンクール会場よりも広くて大きく、そしてそれに比例してお客さんも多い会場でした。

 

(人たくさんいる・・・みんな、こっちを見てる・・・)

 

「・・・金さん?白金燐子さん?」

 

「えっ・・・」

 

「審査が始まってますので、演奏よろしくお願いします。」

 

「は、はい・・・すぐひきます・・・」

 

私の頭の中はずっと『みんな応援してくれてるんだから頑張って弾かなきゃ』と『お客さんは気にしちゃダメ』の2つでいっぱいでした。

 

しかしそれしか頭にないせいで、冷静さが失われてしまっていました。

 

いつも弾けているところをミスしてしまったり、次はどうすればいいか迷ってしまったせいで頭の中はパニックになっていました。

 

(どうしよう・・・どうしよう・・・だめ・・・わかんなくなっちゃった・・・)

 

結局、その曲を弾ききることは出来ませんでした。

 

周りの人は「まだ小さいから仕方ないよ。次頑張ろ!」や「今回のミスを次やらなきゃ大丈夫」と励ましてくれましたが、私の心はその言葉を全く受けいることが出来ず、沈んでいく一方でした。

 

 

 

 

 

 

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「・・・そう。そんなことがあったの・・・」

 

「あれから怖くなって・・・コンクールに出るのを辞めてしまったんです・・・でも、Roseliaに入って・・・わたしも少しずつだけど・・・変われてる気がしたんです。今なら・・・コンクールにもちゃんと向き合えることが出来る・・・そう思ってたんです・・・でも・・・コンクールに出るのは・・・まだ早かったみたいです・・・」

 

「燐子・・・」

 

私はこのコンクールのことを友希那さんにしっかり話すことにした。

 

「私、このコンクールに出たことあるって言いましたよね。」

 

「ええ、それに今回の曲も弾いたことあるって言ってたわね。」

 

「実は・・・このコンクール、私が昔失敗したコンクールなんです・・・」

 

「なんですって・・・!」

 

友希那さんが驚きの表情をあげる。

 

まさかさっき話したコンクールと今回のコンクールが同一のものだなんて誰も思わないだろう。

 

「もう一度・・・あのコンクールに出て・・・最後まで自分の音を演奏できたら・・・ひとつ・・・何かを乗り越えられる気がしてたんです・・・でも、あの曲を弾いてると・・・あの頃のことを思い出してしまって・・・たくさんの人の・・・がっかりした顔・・・今も覚えています・・・」

 

演奏中にずっとその事が頭をよぎるのだ。

 

悲しそうな顔、軽蔑する顔、「小さい子の演奏だ、こんな物だろう」と蔑む顔・・・どれも幼い少女からすればとても辛く、恐ろしいトラウマになるものだ。

 

「・・・私・・・全然変われてないですね・・・私事を気にして手伝ってくれた人の気持ちまで踏み躙って・・・傷つけて悲しませて・・・昔と・・・変われてない・・・」

 

私は今の自分を振り返ってみて自嘲した。

 

みんなの思いを託されて、台無しにして、怖がって、逃げて・・・そんな自分が嫌で変わろうとして、勝手に変われたと勘違いして・・・

 

しかし、そんな私に友希那さんはそっと話しかけた。

 

「・・・そんな事情があるなら、今回は見送ることも出来たと思うわ。あなたは今回のコンクール、見送るの?」

 

「そ、それは・・・したくありません・・・」

 

「どうして?また、あの時のように失敗するかもしれないのよ?それなのに何故あなたは今回、このコンクールに向き合って、出ようとしているの?」

 

「そ、そうかもしれません・・・今まで、それを理由に自分から逃げてきました・・・でも・・・自分から逃げても、このコンクールからは逃げたくなくて・・・これからも逃げてしまったら、何も変わらず・・・ずっと今のままだから・・・」

 

友希那さんはそれを静かに聞き遂げると首を横に振った。

 

「・・・あなたは、自分は変われていないと言ったけど、それは大きな間違いね。」

 

「えっ・・・?」

 

「逃げないことを決めた。それだけでもあなたは十分に変わったわ。」

 

「そ、そうでしょうか・・・」

 

「ええ、それも勇気がいることだもの。」

 

「・・・!!」

 

友希那さんの言葉が心に突き刺さる。

 

こんな自分でも変われていたと思うと、少しだけ勇気が湧いてくる。

 

私は友希那さんに一つ質問をすることにした。

 

「あの、友希那さん・・・ひとつ質問をしても・・・いいですか?」

 

「ええ、構わないわ。」

 

「友希那さんは・・・ステージに立つ時・・・プレッシャーを感じたりしないんですか?上手にパフォーマンスできるのかとか・・・お客さんをがっかりさせないかとか・・・ステージの上には、いろんなプレッシャーがあると思うんです。」

 

その質問に対し、友希那さんはすぐに答えた。

 

「そういうものを感じたことは無いわ。オーディエンスの目を意識してないわけじゃないけど・・・誰かの期待のためにステージに立っている訳でもない。自分自身の・・・Roseliaの音楽をするために私はステージに立っているの。ただ目の前にあるそのことを集中してやっていれば、ほかのことは自然と見えなくなるわ。」

 

友希那さんの言葉に思わずハッとなる。

 

いつかの日、氷川さんが教えてくれた『正射必中』の考え・・・

 

友希那さんはそれが自然にできる人なのだ。

 

だから友希那さんはステージの上でも、迷わずに自分を貫くことが出来る。

 

だから友希那さんは堂々と、そして雄々しく歌うことが出来る。

 

すると今度は友希那さんから質問が帰ってきた。

 

「燐子、私からも質問をさせて。」

 

「はい・・・なんでしょう・・・」

 

「あなたは、なんの為にピアノを弾くの?」

 

「・・・!それは・・・その・・・」

 

考えてみるものの、これと言った答えが浮かんでこない。

 

仕方ないのでそう答えるしかない。

 

「えっと・・・すみません、すぐには・・・答えが出ません・・・」

 

「すぐに答えを出す必要は無いわ。ただ、もっと自分の気持ちに寄り添ってみて、正直になってみて。きっと、あなたが探している答えはそこにあるはずよ。」

 

「友希那さん・・・!」

 

自分の気持ちに寄り添い、答えを見つけること。

 

多分これが今私がすべきことであり、コンクールを乗り越える最大の答えであると、私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子に追い出され、行くあても特にない僕は適当にその辺を歩いていた。

 

自分の言った言葉が燐子を傷つけてしまったのは確かだ。

 

燐子が叫んだ「いつもの私って何?」

 

これがずっと引っかかっていた。

 

僕からしたら、燐子は大人しくて、本が好きで、人混みが苦手で・・・けど、心の真はしっかりしていていつもみんなを見守ってくれる優しい・・・暖かい人だ。

 

でも、その認識が間違っていて、彼女を傷つけてしまったのか?

 

それに恐らく僕が触れてしまった燐子の逆鱗「燐子の過去」・・・

 

彼女は「誰だってあなたみたいに過去を乗り越えられるわけじゃない」と言った。

 

正直な話をすると、僕だってあの忌まわしき過去を乗り越えれてるわけじゃない。

 

未だに体の傷はお風呂の鏡を見る度に嫌悪するし、たまに昔の夢を見てうなされる時もある。

 

でも、今はみんながいるからこうして暗い過去を無理に乗り越えようとせず、そういった過去があったことをふまえて前に進んでいる。

 

・・・まぁ、僕の場合は『もう1人のボク』が心に現れたのがあったのだが。

 

ともかく、自分基準に考えすぎたことが今回の反省すべきところだ。

 

燐子に謝りたいけど、今謝りに行ってもな・・・といった感じでずっと考えながら歩いているわけである。

 

気がつけば商店街の方まで来ていた。

 

引き返すべきかと考えた時、突然目の前が真っ暗になった。

 

「はてさて〜一体どこの美少女なんでしょう〜?」

 

「パンの匂い・・・それにこの言い方・・・多分モカ」

 

「すぐバレちゃいましたか〜」

 

視界がクリアになって、後ろを見ると私服姿のモカが立っていた。

 

「奏多さんやほ〜・・・あれ、なんかありました?なんかいつもの幸せそうなオーラがないんですけど・・・」

 

「・・・いつもそんなに幸せオーラ出てる?」

 

「そりゃもうこのままエネルギーになってスーパーサイヤ人になるのではないかってぐらいに。」

 

マジか

 

次から気をつけよ・・・うにもどう気をつけたらいいのだ?

 

まぁ、それは置いといて・・・

 

「まぁ、ちょっと色々あってね・・・」

 

「その様子だと燐子さんと喧嘩でもしました?」

 

「うぐっ・・・」

 

「やっぱり・・・モカちゃんには全てお見通しですよ〜」

 

「はい・・・喧嘩と言うよりかは・・・逆鱗に触れたというか・・・」

 

「まぁ、あたしで良ければ話聞きますよ。あたしも気になりますし〜とりあえずつぐの家までれっつごー」

 

「・・・拒否権は?」

 

「ないです。」

 

「あ、はいお願いします。」

 

ということで半強制的な雰囲気ではあるが、モカに話を聞いてもらうことにした。

 

羽沢珈琲店はたまたますぐ近くにあり、話しやすいよう店の端のほうの席を用意してもらった。

 

とりあえずコーヒーをひとくち啜ってから、モカにこれまでの経緯を話した。

 

「・・・ということなんだ。」

 

「そうですか・・・そんなことが・・・」

 

話を聞いたモカの表情が少しくらい。

 

いつもならもうちょっと明るいようなイメージなのだが。

 

するとモカは静かに質問してきた。

 

「奏多さんは、燐子さんが今どの辺にいると思います?わかりやすく言うと・・・その・・・なんだろう・・・自分が今立っているところから見て、燐子さんはどのくらい離れていますか?」

 

「えっ・・・?」

 

モカからの質問にすぐ答えることが出来なかった。

 

燐子が今立っているところ・・・少なくとも後ろではない・・・なら・・・一体どこに・・・

 

そんな僕を見兼ねたのか、モカは1人、語りだした。

 

「奏多さん、Afterglowはね。中学の頃1人だけクラスが離れ離れになってしまった蘭と『一緒にいられる場所』として出来たのが始まりなんです。そこから1年ぐらい経って、みんなで横1列で走り続けてきたと思ったら気がついたら蘭だけ1人先を走っていて・・・蘭の『いつも通り』の歌詞が、あたし達には理解できなくなっていたんです。」

 

Afterglowが幼なじみ5人で組んだバンドであることは知っている。

 

しかし、そんなことがあったのは初耳である。

 

「それでケンカして、みんなで考えて、笑って、仲直りして、夕焼けをみて、みんなで歌詞を考えて、朝焼けを見て・・・そこから生まれたのが『ツナグ、ソラモヨウ』なんです。みんなでまた居られるように、それぞれの思いを繋いで新しい『いつも通り』になれるようにって・・・」

 

「あの曲・・・そんなことがあって・・・」

 

Roseliaがバラバラになった時に、Afterglowのみんなに聴かせてもらった曲、『ツナグ、ソラモヨウ』

 

その曲がそんなに深い意味があったとは知らなかったのでとても驚いた。

 

「・・・それに、実はあたし、蘭の横でこっそり泣いてたんです。」

 

「も、モカが!?」

 

「しーっ・・・声が大きい・・・つぐに聞こえます・・・」

 

「あ、ごめん・・・」

 

「でも、そこであたしは誓ったんです。これからも5人は一緒に歩けるけど、でもこれからは隣を歩くんじゃなくて背中を追いかけようって。せめて、その背中は見失わないように。届かなくならないように・・・って。」

 

ここまで来て何故モカがこの話をしたのかわかった。

 

彼女達が経験したことと今回のこと、類似点が多いのだ。

 

だから、モカはこの話をしてくれたんだと思う。

 

「モカ・・・」

 

「いやはやしみっぽいお話になりましたな〜モカちゃんその手の話あまりしないからどう言えばいいかわかんなくて〜」

 

モカがいつもの調子で話し出す。

 

でも、その瞳はまっすぐ僕を見つめていた。

 

「奏多さん、あなたに起った事の詳しい話まではあたしにはわかりません。でも、それでも燐子さんのことを見失っちゃダメです。過去の燐子さんに何があったかはともかく、奏多さんのすべきことはそれを受け入れてなお、その手の届くところにまで追いかけて、そっと燐子さんの背中を押してあげることだと思います。」

 

「モカ・・・」

 

モカはそのまま自分の考えを伝え続けた。

 

「奏多さんが燐子さんを見失っては支えるどころか何も出来なくなってしまう。そうなる前にもう一度話し合って、正しい方へ導いて欲しいんです。1人で頑張るんじゃなくて一緒に頑張ってあげてください。」

 

モカはそれを言い切ると机にくたァと倒れ込んだ。

 

「も、モカ!?」

 

「もうダメ・・・シリアスな展開になれてないから疲れた・・・どこかにここの美味しいパンケーキを奢ってくれる優しい方はいらっしゃいませんかぁ〜」

 

「・・・話聞いてくれたお礼に今回は僕が持つよ。」

 

「わ〜い、つぐ〜注文いい〜」

 

全く・・・現金なヤツである。

 

けど、これで僕のやることは決まった。

 

明日、もう一度燐子と話し合う。

 

そして彼女に想いをしっかり伝えるには言葉よりもっと効率的なものを僕は知っていた。

 

 

 

 

 

……To be continued




あと2話程になるかと・・・

頑張るぞい


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100話 旋律

・・・待たせたなぁ!!
なんか色々あって全く出来なかったけど隠神カムイ、帰ってきたぞ!!
あ、専門学校へ進学してカムイさんデザイン頑張ろうと思ってます()
さぁ・・・記念すべき100話、でっかくやろうじゃないですか!!


キーボードの鍵盤をひたすら叩き続ける。

 

狂ったように、その曲をひたすら演奏し続ける。

 

叩いて、叩いて、叩き続け、最後のパートに来る。

 

友希那さんや、氷川さんに教わった正射必中の考えを貫き通す。

 

今のところ完璧に演奏出来てきている。

 

あとは最後の、1番の難所だけ・・・

 

しかしそこである言葉が頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたは、なんの為にピアノを弾くの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで突如思考が途切れ、指がズレて違った音が鳴る。

 

「・・・はぁ。」

 

いったい何度目のミスなんだろうと私は考える。

 

指もかなり疲れてきて限界に近い。

 

これ以上やるとあとの練習に支障が出てしまうかもしれない。

 

自分の気持ちに正直になれないまま、私は未だこの問の答えを見つけることが出来ていない。

 

昔の私ならすぐ答えられたのだろうか・・・いや、今も昔も変われていないからこうやって悩み続けているのだろうか。

 

「・・・ダメだな・・・私・・・自分の気持ちに正直になれなくて・・・こんな音じゃ誰も振り向いてくれない・・・いつもの私じゃだめなの・・・いつもの私だと・・・怖くて弾けない・・・けど・・・逃げたくない・・・」

 

思わず弱音が漏れてしまう。

 

今は弱音を吐いている暇ではないというのに。

 

するとドアが突然ガチャっと開いた。

 

まだ練習には1時間も早いと言うのに誰だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それが君の今の気持ちなんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はコンテスト前の期間はずっとこうやって誰よりも早く来て練習している。

 

だからこうやって早くCIRCLEに来てみて正解だった。

 

フロントに居たまりなさんに軽く挨拶を交し、スタジオの前まで行く。

 

部屋の外からでも聞こえる音・・・間違いない、燐子はもう練習を始めている。

 

いつもより少し力強くなった音。

 

この前別れた後に何かあったのかもしれない。

 

しかし音にはまだ迷いやブレが生じている。

 

そして最後の局面で音がズレて演奏が止まってしまう。

 

やっぱりこの曲をしっかりと演奏できないみたいだ。

 

スタジオに入ろうとドアノブを握った途端手が止まる。

 

この前の件があるため、ここまで来て入ろうか入らないか迷う。

 

僕の手は震えていた。

 

「・・・ははっ・・・やっぱり覚悟決めれてなかったじゃん・・・」

 

冷や汗が止まらない。

 

すると扉の奥から震えた声が聞こえてきた。

 

「・・・ダメだな・・・私・・・自分の気持ちに正直になれなくて・・・こんな音じゃ誰も振り向いてくれない・・・いつもの私じゃだめなの・・・いつもの私だと・・・怖くて弾けない・・・けど・・・逃げたくない・・・」

 

燐子の、いつも見せることの無い掠れて震えた声。

 

いつも見せることの無い燐子の本当の気持ち。

 

彼女はずっと今の自分のままではダメだと言ってきた。

 

生徒会長になったのも、Roseliaに入ったのも、全て新しい自分になるためだと言っていた。

 

燐子は自分の課題を乗り越える時、必要最低限の手助けがあったとはいえだいたい1人でやってきた。

 

自分のことで誰にも迷惑をかけたくないから、自分の試練は自分で乗り越えたいから。

 

燐子の悩みなんかと比べると、僕の悩みなんてちっぽけなものだ。

 

そこでとるべき選択など、ひとつしかない。

 

扉を開けて、燐子と向き合うこと。

 

これが今、九条奏多に課せられた使命だ。

 

扉を開き、燐子に声をかけた。

 

「・・・それが今の君の気持ちなんだね。」

 

「・・・!・・・奏多くん・・・」

 

「・・・この前はごめんなさい。燐子の気持ち考えずに自分の考えばかり押し付けて。」

 

「そんなことない・・・私こそ・・・奏多くん悪くないのに・・・いきなり怒鳴っちゃって・・・」

 

「いや、怒るのも無理ないよ。君はずっと過去の自分から変わりたいと言ってた。こうやってコンサートを受けたのも昔の自分から逃げたくないから。それを一番傍で見てきたのに一番わかっていなかった・・・そりゃ、今まで通りに戻ってなんて言ったら怒るよね・・・」

 

「嫌でも・・・あの時の私は冷静じゃなかったし・・・お陰で少し助かったところもあったから・・・」

 

このままお互い引き合ってしまってどうしようもないため、話をもちかけた。

 

「・・・燐子さ、いつも自分の課題に立ち向かう時は一人で頑張ってきたよね。」

 

「・・・自分の決めたことは自分でやり遂げたかったから・・・もちろん、奏多くんやあこちゃん・・・友希那さん達に頼る時もあるけど・・・」

 

「ずっと今まで考えていたんだ。燐子のやることに積極的に手を貸す方がいいのか、それとも見守った方がいいのかって・・・」

 

「・・・・・・」

 

「その答えはまだ見つかってない。だからここで見つけたい。だからお願いがあるんだ。」

 

「お願いって・・・?」

 

僕は今日のためにあるものを持ってきていた。

 

モカが教えてくれたことを僕なりのやり方で燐子に伝えるために。

 

「僕と音を合わせて欲しいんだ。」

 

そう言って僕はバイオリンを取りだした。

 

使い込まれ、たくさんの傷が目立つが、美しさと威厳は失っていない父のバイオリンを今日このために持ってきていたのだ。

 

「そのバイオリン・・・確か奏多くんのお父さんの・・・!」

 

「音は正直だ。だから重ねて始めて相手の本音がわかる。音を感じることしか出来ない僕だからこそこれが一番相手の気持ちを受け取れる。そして確かめたいんだ・・・今君がどこにいて、僕からどれだけ離れているかを・・・」

 

「・・・うん・・・音、合わせてみよう・・・曲は何がいいかな・・・」

 

「今回の課題曲、一度合わせていいかな?」

 

燐子の表情が暗くなる。

 

やっぱり抵抗はあるようだ。

 

「嫌だったら別の曲にするけど・・・」

 

「私はいいけど・・・この曲難しいよ・・・?」

 

「大丈夫、何度も聞いたしそれっぽくは演奏できるさ。」

 

バイオリンを取り出し、構える。

 

それに合わせて燐子もキーボードの前に立った。

 

「それじゃあ1、2、3(one two three)でやるよ。」

 

「うん・・・わかった」

 

「いくよ・・・1、2(one two )・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

言われるまま課題曲を演奏し始めた瞬間、世界が変わった。

 

最初、私から奏多くんに合わせようとした。

 

けどそんなことは余計だった。

 

彼の音を聴いていると勝手に指が動き、自分の弾くべき音の道が見える。

 

奏多くんの音が、私を導いて、背中を押してくれている・・・!

 

鍵盤の上を楽しそうに指が踊る。

 

奏多くんの音と私の音が重なり合い、ひとつとなり、輝き出す。

 

(聞こえる・・・聞こえるよ・・・!奏多くんの音・・・奏多くんの思い・・・奏多くんの気持ちが・・・!!)

 

まるで奏多くんと私の心と体がひとつになったみたい・・・!

 

そしてひとつだけ、この旋律の波の中で私が思うことはただ一つだけだった。

 

それは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女のピアノに合わせてバイオリンを弾き、音を重ね合わせる。

 

今思えばこうやって燐子の音に自分の音を重ね合わせるのは初めてかもしれない。

 

そして初めてわかる今の燐子の気持ち、思い、そして自分との距離感。

 

(やっぱり、近いようで・・・遠いなぁ・・・)

 

手を伸ばせば届きそうで、それでも掴めないような、そんな所に今燐子はいる気がする。

 

(モカはその背中だけは見失わないような道を選んだ・・・だけど・・・だけど僕は・・・

 

 

 

 

 

 

 

燐子と同じ道を、同じ距離で・・・隣り合わせで進んでいきたい・・・っ!!!)

 

 

 

 

 

 

その想いが通じたのかどうかはわからない。

 

でも確実に燐子のピアノの曲調が変わった。

 

これまでの悲しみや辛さから一変して、まるで音を楽しむような音になった。

 

燐子の音が僕の音とぴったり重なり合い、とてつもないシンフォニーを醸し出す。

 

まるで僕と燐子の心と体が一体化したように、互いの音が互いの音をひきたて合ってひとつの音色へと変わっていく。

 

(今ならわかる・・・燐子の気持ち・・・!)

 

多分・・・いや、確実に今燐子はこう思っている。

 

なぜそう言い切れるか、それは僕もこのことしか頭になかったからだ。

 

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「今、この時が一番楽しい!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば1曲まるまる演奏しきっていた。

 

肩で息をしているが、不思議と疲れは感じてこない。

 

私はいまさっきの演奏がどんなものだったのかをハッキリとは覚えていない。

 

でもひとつ確実に言える。

 

「・・・とっても・・・とっても楽しかった・・・!」

 

「僕もだよ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・今まで演奏してきた中で・・・一番っ・・・!」

 

すると突然横の方で拍手が聞こえた。

 

そこには今井さん、氷川さん、あこちゃんの3人がいた。

 

「とても素晴らしい演奏でした。」

 

「みんな・・・どうしてここに・・・」

 

「あこ達、りんりんが元気ないからみんなで早く来てこうして励まそうって思ってきたんだけど、先越されちゃったんだよ!」

 

「みんな来てるなら声掛けてくれれば良かったのに・・・」

 

「あんな状況でどうやって声かければいいのよ!燐子とソータ、2人の演奏が凄すぎてなんかこう・・・入りにくかったんだよ!」

 

「あの演奏の中入りに行くような人はいませんよ。」

 

それほどさっきの演奏は凄かったのだ。

 

私と奏多くん、2人がまさに一心同体になった演奏だったのでそれも当然かもしれない。

 

「だから、今度はあこ達も入れて演奏しよ!」

 

「・・・うん、やろう・・・!」

 

いつにもなくノリノリで答えた。

 

柄にもなくはしゃいでいる自分がここにいる。

 

「よし、ちょっと待ってね。アタシらすぐ準備するから!」

 

そう言ってリサ達はそれぞれの楽器の準備に取り掛かった。

 

するといつの間にか横に奏多くんが来ていた。

 

「どう?自分なりの答えは見つかった?」

 

「・・・なんとも言えないや。でも、とても楽しかった・・・!」

 

「多分それがもう答えなんだと思う。」

 

「え・・・?」

 

「『ピアノを弾くのが楽しいから』これだけでも立派なピアノを弾く理由だと僕は思うな。」

 

「楽しいから・・・」

 

「僕もさっきの答えは何となくでしか掴めてない。でも、大まかでもそれが確かなものなら、それが答えでもいいんじゃないかなって僕は思う。」

 

その言葉で私は昔を思い出した。

 

小さい頃、どうしてピアノを始めたのか。

 

すごい演奏を見て私も弾けるようになりたかったのは始めたきっかけであって本当の理由じゃない。

 

私がピアノを続けてこられたのは・・・

 

ピアノを弾くのが楽しくて、技術が上がる度に褒められるのが嬉しかったから・・・!

 

「まぁ、僕が偉そうなこと言える立場じゃないんだけどね。」

 

そう言って彼は顔をクシャッとして笑った。

 

その顔がとても優しくて、愛おしいと、心から思った。

 

「ううん・・・そんなことない・・・こうやって理由、見つけられたから・・・ありがとう、一緒に演奏してくれて。」

 

「ううん、まだこれからもう一曲やるみたいだし、次も楽しんでやろう!」

 

「おーいソータ!燐子!準備終わったよー!」

 

今井さんから私たちを呼ぶ声が聞こえた。

 

「呼ばれたし行こっか。」

 

「うん・・・!」

 

私はキーボードの前に、奏多くんはいつも友希那さんがいる所に立った。

 

「曲は何をやりますか?」

 

「あこ、オペラやりたい!!」

 

「Opera of the wasterland・・・私もやりたいです・・・」

 

「じゃあそれね。ソータできそう?」

 

「何回みんなの音聞いてきたと思ってるのさ、感覚で合わせるから何とかなるよ。」

 

「奏多さん、そこ本当に凄いですよね・・・」

 

「そう?バイオリンぶっちゃけ今まで感覚だけで弾いてきたから・・・」

 

「まぁいいじゃん!今回はやりたいように演奏するだけだしさ!」

 

「それじゃあ・・・始めましょう・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




演奏が終わって、今日の分の練習も終わった。

終わって片付けが始まった瞬間、友希那に肩を叩かれて話しかけられた。

「燐子、どうやら答えを見つけたようね。」

「・・・そうみたい。」

「この前少しだけ話をして、燐子のことずっと心配してたけど杞憂に終わったようね。」

「燐子と話をして、どうだった?」

「そうね・・・燐子は確かに昔と向き合えきれてないところはあると思うわ。でもそれはみんな同じ、それでも向き合おうとするあの子は・・・強い。」

「・・・・・・友希那がそういうなら間違いないね。」

「新曲の歌詞、未完成の部分をあなたに任せようと思う。」

「え?」

突然の提案に言葉を失った。

今まで曲のタイトルはあれど歌詞などやった事なかった。

「この曲は、燐子のための曲にしたい。だから、この中で一番燐子をわかってる奏多に任せたい。1度音を重ねて、互いをわかりあったならいい歌詞が書けると思うわ。」

「・・・わかった。やってみる。」

「あなた達が積み重ねてきた絆と信頼が、どのような歌詞を創り出すのか、楽しみにしているわ。」

「おーい友希那〜!サボってないで片付け手伝って!」

「・・・任せたわよ。」

友希那はそう言って片付けの方に向かった。

「・・・・・・やり切ってみせる。この曲を、最高の曲に・・・!」














……To be continued


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特別編&番外編
燐子誕生日特別編 ハイイロ ノ バースデー


投稿日の今日は燐子誕生日ってことで特別編です!
特別編なんで文字数は少なめですがそこんとこは気にしないで盛大に祝ってあげてください!
あと、10月ぐらいにはこのぐらいまで進展してるであろうって所までやってるのでその辺はご了承ください。

そして本編始まる前に


燐子、誕生日おめでとう
Roseliaにいてくれてありがとう
初めてガチャで来てくれてありがとう
うまく言えないけど燐子って存在がいてくれる事に心からの感謝を


10月17日燐子を抜く僕達RoseliaはCIRCLEの一室を借りていた。

今日は燐子の誕生日ということで主にリサとあこが主軸でサプライズの準備をしている。

燐子にはあらかじめ遅い時間を伝えており、入ってきた所を祝う予定だ。

「ソータ、そこ抑えて~」

「うん、わかった。」

「湊さん、ここの飾り付けはどう思いますか?」

「悪くないと思うわ。」

「奏多さん!こっち手伝って!」

「あこ、ちょっと待ってて!」

唯一の男手ということで色々働かされながらもパーティーの準備はほとんど終わった。

後は燐子を待つだけだ。

「少しお手洗い行ってくるから。」

そう言って僕は部屋から出てトイレに行った。

トイレを出るとそこには予想外のことがあった。

「あ、奏多・・・くん。こんにちは。」

「り・・・燐子!?こ、こんにちは。」

まさか燐子がこんなに早く来るとは思わなかった。

「他の・・・みんなは?」

「あ・・・み、みんなでコンビニ行って水とか買ってくるって言ってたよ。」

「・・・?そう・・・なの?私も行った方が」

「べ、別に燐子は行かなくても大丈夫じゃないかな?外のカフェで待っとこうよ。」

自分でもかなりあたふたしながら燐子がこれ以上中に入れないように先導する。

燐子も不思議そうな顔をしているが特に疑わずに従ってくれた。

「あ、ちょっと電話。此処で待ってて!」

「あ、そ・・・奏多くん?」

僕は燐子を席で待たせリサに電話をかけた。

『もしもし、ソータ?どうしたの?』

「やばい!燐子来ちゃってる!」

『え?まじで?そんで今燐子は?』

「なんとか外のカフェで待ってもらってる。そっちの準備は?」

『ほとんど終わってるけどあと5分ほどかかる!なんとか持ちこたえて!』

ブツッ ツーツーツー

切れた・・・

そんなことは置いといて燐子の所へ戻った。

「奏多くん・・・誰から?」

「えっと、リサからあと少し時間がかかるって。」

「そう・・・なの?ここからコンビニまでそう遠くないはずなのに・・・」

やばい・・・燐子が怪しんできている。

「そ、そう言えばそろそろ次のライブあるけどどんな感じ?燐子目線では!」

「は、はい・・・バンド全体としては・・・今の調子でいいと思う。次のライブは大きなライブの関係者も見に来るらしいし・・・」

そう、次のライブはFWFなどの大きなライブの関係者が見に来るライブでそのライブのために今Roseliaは全力で練習している。

「ここから気合入れていかないと・・・これからも頑張ろ!」

「はい・・・!」

互いに気持ちを再確認すると、僕の携帯に通知が来た。差出人はリサで用意が終わったとのことだ。

「今井さんから?」

「うん、先に中入って待っててって。」

僕は燐子と一緒に皆が待つ部屋に向かった。

 

 

「ここ・・・いつもとは違う部屋?」

「うん、今回だけここだよ。さ、中に入って!」

燐子の背中を押し部屋の中に入れると。

「「「「ハッピーバースデー!!」」」」

中から全員の声とクラッカーの音が盛大に鳴った。

「ひゃっ!!こ、これは・・・いったい?」

「なにって、バースデーパーティーに決まってんじゃん!」

「燐子、全員で誕生日プレゼントを探したんだけどこれでいいかしら?」

スッと友希那が1冊の本を手渡した。

「こ、これは!NFO設定原画集完全版!しかも・・・これ初回10000冊限定生産盤の特別な装備のコードが付いている本当にレアな・・・こんなレア物・・・どうしたんですか?」

実はこの本発売前の先行予約でなんとか2冊(1冊は僕が保管する用)入手したのだ。

かなりの倍率で2冊入手するのは奇跡と言っても過言ではないほどだ。

「これ、あこが選んでくれてソータが入手してくれたんだー。」

「白金さんがこんなに喜ぶ姿・・・始めてみました。」

「そうだったんですか・・・ありがとうあこちゃん、奏多さん!」

「ふっふっふー!りんりんの事なら大体わかるからね!」

「うん、喜んでもらえて良かった。」

一生分の運を使い果たしたような気がするが燐子がこんなに喜んでいるので良しとする。

「さっ!せっかくアタシが腕によりをかけてケーキ作ったんだからみんなで食べよ!」

リサがそう言ってケーキを出したのでそれをみんなで食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

盛大にはしゃぎ終わって夕方、皆と別れた後僕は燐子と一緒に帰っていた。

「いや、今日はハチャメチャなパーティーだったね。」

「はい・・・けど、あんな楽しいパーティー初めて・・・」

「フフッ、そりゃ準備した甲斐があったわ。」

「うん・・・この本もとても嬉しい・・・本当にありがとう・・・」

「うん、それじゃ改めて言うよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Happy Birthday 燐子

 

君が生まれたことに盛大な祝福を




最後は奏多の気持ちと僕の気持ちが半分半分となっています。


くどいようですが

Happy Birthday 燐子


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友希那誕生日特別編 ネコカフェ ノ ウタヒメ

Happy Birthday友希那さん!
ということでまたまたやります特別編。
特別編なのでいつもより短めですがやることは変わらないのでいつも通りの無灰ストーリーでお送りします。

前置きはさておき、僕のガルパにいるんですよ星4の雨衣装の友希那さん。
しかも初めてイベント衣装が揃ったのも雨衣装という凄さ!
そして安定のスキルマである。
これからも愛用するのでよろしくお願いします!

作者の勝手な自慢は置いといて本編始まります。


本日は10月26日、僕達のバンドのリーダーである友希那の誕生日である。

本人を除くメンバーでその計画は密かに進められていた・・・

 

 

 

 

 

 

友希那side

今日もいつも通りの練習をこなし、ミーティングの時間となった。

今日は私の誕生日のため、燐子の時みたいにお祝いしてくれるらしい。

荷物を整理していると突然目の前が真っ暗になった。

「え、ちょっと?」

「ゴメン友希那!悪いようにはしないから!」

耳元でリサの声がした。

「り、リサ?これは一体・・・」

「と、とりあえず・・・移動するので気をつけてください!」

次は燐子の声だ。

そう言われると両腕を抱えられ、私は連行されるように連れていかれた。

 

 

 

歩き続けて5分、目隠しして歩いていると前が見えないのでかなり怖い。

「ね、ねぇリサ、私達は一体どこに向かってるの?」

「あと少しだからもう少し我慢して!」

とりあえずリサに従って歩き続けた。

歩き続けていると人の声やざわめく音が聞こえるが聞こえてきた。

どうやら商店街の辺りに来ているようだ。

するとカランと音が鳴った。

どうやらどこかの店の扉を開けたようだ。

「友希那さん着きました・・・目隠しを外すので目を閉じてもらえますか?」

燐子がそういうので従って目を閉じる。

すると目隠しが外された。

「友希那、そのまま目を閉じてて!」

リサがそう言うと周りから2人の気配が消えた。

「友希那、開けていいよ!」

許可が出たので私は目を開けた。

するとそこは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャー」

「ニャーオ」

「ゴロゴロッ」

猫カフェだった。

「「「「「友希那、誕生日おめでとう!」」」」」

後ろからそう声がした。

後ろを向くとRoseliaのメンバーがいた。

「り、リサ・・・これは?」

「何って、誕生日パーティーだけど?」

「けど・・・ここって・・・」

周りに猫達がいるせいか私は声が震えていた。

「これ、奏多の提案なんだ~」

「奏多が?」

「友希那、猫好きだっただろ?それなら、誕生日ぐらい好きなものに囲まれてもいいんじゃないかなって思ってさ。」

「そ、その・・・」

「あこ達は先にここに来て準備とかさせて貰ってました!」

「湊さん、今日の主役はあなたです。思いきり楽しんでください。」

反論したいことは色々あったがそれより猫達のところへ駆け込みたいという気持ちを抑えられずにいた。

「あ、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ。」

私はみんなのことを忘れ、猫達のいるスペースへ駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

奏多side

練習が終わると僕とあこと紗夜は急いで猫カフェへ向かっていた。

手筈ではリサと燐子に友希那を任せ、その間に僕達で猫カフェで準備などをさせてもらうということになっている。

「宇田川さん、必要なものとかは?」

「はい!もちろん準備しています!」

「とりあえず店に入ろう!」

僕達は店に入った。

「いらっしゃいませ~ああ、九条くんか。」

「はい、マスター。今日はありがとうございます。」

「いや、君達の友達のためだろ?このぐらいお易い御用だよ。しかもその子はかなりの猫好きと聞いた。同じ猫好きとして話をしたいところだね。」

この店は最近出来た店で、友希那も来たがっていたのだがRoseliaの練習や家庭の事情で来れていなかった。

僕はお客さん第一号としてマスターに覚えられて今でもたまに来る。

「そろそろ来るみたいです!」

「わかった、急ごう!」

僕達は友希那が来る前に準備を終わらせるため各自準備を始めた

 

 

 

準備が終わった直後、リサと燐子が友希那を連れて入ってきた。

「お待たせ!」

「うん、危なかったけどなんとか間に合ったよ!」

「ありがと!それじゃあ友希那呼ぶね!」

リサが友希那に声をかけた。

友希那が目を開けると猫達が友希那を見て鳴いた。

すると友希那はあの猫を見た時のゆるい顔になった。

友希那と話している間も友希那は猫のところに行きたそうにしていた。

紗夜が猫達のところへ行くように促すと友希那はものすごいスピードで猫のところへ行った。

「・・・友希那のあんなスピード見たことないよ。」

「湊さん、運動苦手って言ってましたよね。」

「でもさっきからずっとりんりんがこの前の限定本渡した時みたいな顔してましたよね。」

「私・・・そんなにわくわくしてたんだ。」

燐子が少し恥ずかしがる。

その表情に少しドキッとしたが自分を落ち着かせて友希那のところへ向かった。

「どう?猫と過ごす誕生日は。」

「そうね・・・悪くないわ。」

友希那はクールにそう言っているが猫が頭の上に乗ったり膝の上に乗ったり周りを囲まれていたりと全身猫まみれになっていた。

「と、とりあえずマスターが話をしたいって。同じ猫好きとして。」

「・・・そう、マスターとは気が合いそうな気がするわ。」

「それにはその猫達をどうにかしないとね。」

「フフッ、そうね。」

友希那は微笑みながら返す。

「プレゼントはまた後で渡すから僕からお祝いの言葉だけ言わせて。」

 

 

 

 

 

Happy Birthday友希那

今日という日を楽しい1日にしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ

友希那の部屋にはこれまでのRoseliaの功績や出来事を飾る棚がある。

その棚の上には父から貰った銀のアクセサリーやみんなで撮った写真、修学旅行の時にみんなでやった特別ライブの時に貰ったものなどが飾られている。

その横に今日奏多に貰ったものが飾られていた。

それはRoseliaを象徴するものである青薔薇の花束だった。




友希那誕生日特別編どうだったでしょうか?

最後にもう1度言わせてもらいます


友希那さん、Happy Birthday これからもRoseliaのリーダーとして、メンバーを引っ張って最高の音楽を僕達に聴かせてください。


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番外編 無色と陽だまりの交奏曲

次に「秋時雨に傘を」を書くに当たって今回はそれとは全く関係ない番外編となります。
今回のメインはタイトル通り奏多とリサです。作者の策略によって同じバイトをしている2人の何気ない一時を書こうと思いました。(なおリサには奏多に対しての恋愛感情はありませんので浮気じゃないことをあらかじめお知らせします)
てか奏多は女子に対しての抗体ないから恋愛系はもっぱらアウトだからそもそも恋なんてできるのかねぇ・・・(と言いながらも恋愛小説書いてる人)
なお時系列的には奏多がバイト始める前辺りの『ハタラクムショク』の前日譚からそこからのリサとの交流を書こうと思います。
ということで今回だけ「無色と灰色の交奏曲」改め「無色と陽だまりの交奏曲」始まります!


『アルバイト』

それは全国の高校生が部活動の次にやることが多い(かもしれない)ことである。

僕はこの街に来て初めてアルバイト募集の検索をした。

前の学校では部活もアルバイトもしてこなかった。

部活もアルバイトも人と関わったり話したりすることが苦手なためいつも帰宅してネトゲばかりしていた。

そんな僕が何故バイト募集の検索をしているのかと言うと親からの仕送りが微妙に足りないのだ。

親父は会社の都合で僕に家を任せて大阪まで稼ぎに行っている。

そこから仕送りをしてもらっているのだが1ヶ月の光熱費や水道代、食費などを計算した結果このままではどれだけ節約しても苦しいことがわかった。

そのためバイトをせざるを得なかったのだ。

 

 

 

「できれば近くで・・・あまり難しくないこと・・・」

そんなことを考えながら検索しているとこの前行ったライフハウスのバイトやあの美味しかったコーヒーの羽沢珈琲店などがあった。

行き先がわかるところへ行ってもよかったのだが考え直す。

顔を知っている人が来るのもなんか困るし珈琲店やライブハウスのアルバイトはかなり難しいのではないだろうか。

考えていると腹の音がなる。

気がつけばもう夕飯時である。

「・・・なんか買いに行くか。」

いつも行っているスーパーまで行くのも面倒なので今回はコンビニで済ますことにした。

財布とスマホを持って僕はまだ少し寒い外へ出た。

 

 

 

 

コンビニに着くと人はかなり少なかった。

平日の夜なのでそれもそうだろう。

中にいたのは早帰りのサラリーマンや子連れの親子ぐらいだった。

適当におにぎりと緑茶をかごの中に入れる。

めぼしい商品がないか見回ると茶髪の恐らく僕と同じ年頃の女子が商品の補充をしていた。

(コンビニバイトか・・・)

コンビニでアルバイトも悪くないかもしれない。

多少接客もするが補充や注文、掃除ぐらいなら僕にもできるだろう。

レジに商品を持って行って会計をする。

その間に隣を見ると「アルバイト募集!学生OK!」と書かれた張り紙があった。

時給や時間を見ると部活に行く気がない僕には丁度いいかもしれない。

「あ、あの・・・すみません。」

「はい、どうされました?」

「アルバイト・・・募集しているんですよね。」

「お、もしかしてアルバイトの募集見てくれたの?どうかな、人手が足りなくて欲しかった所なんだよ~」

その店員のネームプレートを見るとその人は店長さんらしい。

人当たりもよく、優しそうだ。

「は、はい・・・ですけど具体的にどんなことをするのか・・・」

「レジ打ちとか商品の補充、あとは掃除とかかな~制服の貸出もあるし、ほかの人達も優しい人ばかりだからさ。無理に来てってわけじゃないけどバイトやったことないんだったらやりやすいと思うよ?」

「・・・はい。やってみます・・・」

「よし、だった履歴書渡すからそれに記入して今度持ってきてね。面接も少しするけど多分入れるから。」

店長さんがレジの下から履歴書を取り出して商品の入った袋と一緒に渡してくれた。

それから僕は面接を通してこのコンビニで働くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今日からアルバイトとしてみんなの仲間となる九条奏多くんと青葉モカちゃんです。みんな、二人はまだまだ知らないことも多いと思うから色々教えてやってくれ。」

店長から紹介を受けて拍手をもらう。

店員とアルバイトを含めると17人。

確かにこれでは24時間営業のコンビニでは厳しいのかもしれない。

それで僕の隣にいるのほほんとした顔をした女子は僕が履歴書を出しに行った時にたまたま一緒に提出した子で僕より一つ下の高一らしい。

「青葉モカでーす。精一杯頑張りまーす。」

「九条奏多です・・・よろしくお願いします。」

(やばい・・・かなり緊張する・・・)

人が多いためかなり緊張する。

そんなことお構い無しに店長は話を続けた。

「それじゃあ・・・今井さん、2人に色々教えてあげて。」

「あ、アタシですか?わかりました!」

この人はこの前見た茶髪の子だ。

この前は後ろ姿だったからわからなかったが見た目は少々ギャルっぽい雰囲気がある。

「九条さんでしたっけ~これからもよろしくお願いしま~す。」

「は、はい・・・よろしくお願いします。」

(これ、僕は本当に大丈夫だろうか・・・)

この期に及んで僕はバイトをすることにかなり心配し始めた。

 

 

 

 

「えっと、アタシが2人の教育係的な立場になった今井リサです!九条奏多くんに青葉モカちゃんだっけ?よろしくね!」

「よろしくお願いしま~す。」

「よ、よろしくお願いします。」

ということで今井さんによるレクチャーが始まった。

レジの説明や商品の陳列方法などをメモを取りながら覚える。

「・・・ってことで内容とかはだいたいわかったかな?」

「私は大丈夫で~す。」

「僕もだいたいわかりました。」

「よし!覚えが早くて助かる!あとアタシが思うに一番大切なのは声だと思うんだよね~」

「声・・・ですか?今井さん、それって・・・」

「挨拶の事ですか~?」

「そう!挨拶!挨拶がしっかりしてないとお客さんも来ないでしょ?だから二人共挨拶だけはしっかりしてね。」

「はい、了解です。」

「わかりました~」

「それじゃあやってみようか。」

「・・・へ?」

僕は初め今井さんがなんと言ったかわからなかった。

「だから、挨拶やってみようか!アタシに続いてね、いらっしゃいませー!」

「い、いらっしゃい・・・ませ・・・」

「はい、声が小さい!次はモカ!」

「いらっしゃっせ~」

「も、モカはしっかり挨拶する~!次から2人ともアタシがいる時はしっかりチェックするからね!」

「は、はい・・・」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

これが今井さん改めリサとの出会いだった。

このバイトを機に色々変わった。

リサのお陰で僕は話すことにも慣れ、地の文を読まれてまで呼び方をリサに直された。

それにリサと会わなければRoseliaに入るどころか自分の才能ですら気づけなかったかもしれない。

もしかしたらリサがいなければ僕の人生は全く変わらなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・た」

 

 

 

 

 

僕は僕なりに彼女に感謝することが多い。

 

 

 

 

 

「・・・・・・た?」

 

 

 

 

 

バンドの練習の時も彼女に助けられることが多いし

 

 

 

 

 

「お・・・・・ータ?」

 

 

 

 

 

みんなは2人がいなければダメだというけど正直Roseliaには僕よりリサの方がいないと困る

 

 

 

 

 

「もしもー・・・ータ?」

 

 

 

 

 

だからいつかリサに感謝を伝えればいいのだが・・・

 

 

 

 

 

「ねぇソータ!」

「うわっ!」

気がつくとリサが少しふてくされた表情でこちらを見ていた。

「り、リサ・・・どうかした?」

「どうかしたじゃないよ!そろそろシフト上がる時間だよ!何度呼びかけても返事ないんだもん、心配するよ!」

「そ、そっか・・・ありがとリサ。」

時計を見るとあと3分でシフトが上がる時間だ。

昔のことを考えていたせいで全く気が付かなかった。

「もぉ・・・最近のソータなんか気が緩んでる気がするんだけど・・・」

「みんなを信用してるから・・・かな?」

「・・・まぁいいや!ソータが戻ってきてくれたことが嬉しいし!」

リサと僕が笑っていると丁度モカが入ってきた。

最近Roseliaのメンバーと炎とモカだけは下の名前でタメ語で話せるようになっている。

「おお~お邪魔でしたか?」

「違う違う!そんなことないって!」

「そ、そうだよ!て言うかソータにはもう大切な人いるし!」

「い、いないって!リサ?まだいないから!」

「ほほぅ・・・リサさん、また後で聞いてもいいですか?」

「わかった、後でLINE送るから~」

「ちょ、リサ!?」

大切な人?

そんなものまだ居ないのに僕は全くわからない。

なぜリサはあそこであんな嘘をついたのだろうか?

「とりあえずリサ、時間だし上がろう。」

「そうだね、それじゃあモカ後はよろしく!」

「はいは~い、モカちゃんにおまかせで~す。」

そう言って僕とリサはコンビニを出た。

「り、リサ?さっき言ってた大切な人って誰のこと?」

「え?もしかしてソータ気づいてないの?」

頭の上に?が浮かぶ。

するとリサは呆れたような顔をした。

「ま、まぁいい。とりあえずソータまた明日ね~」

リサがそう言って自分の帰宅路へ向かった。

僕はリサが言ってたことを考えながら自分の家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まさかソータがあんなに鈍感だったなんて。て言うか燐子も気づいてないような言い方してたし・・・ってことはあの2人全く気づいてない?それに他のメンバーもあの2人の様子に気づく様子ないし・・・あぁ!もう焦れったい!」

僕と別れた後リサがそう叫んでいたのに僕は全く気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




久々の番外編どうだったでしょうか?
多分次からは「秋時雨に傘を」をやると思いますが次に番外編やるとしたら友希那かあこか紗夜のどれかになると思います。
なお、奏多と燐子のいい関係は本人もリサ以外のRoseliaは全く気づいていません。
それでは次回お楽しみに~


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10章番外編 無色と多色の交奏曲(前編)

今のイベントで燐子が配布なため一日で取りに行ったらランキングが凄いことになっていた隠神カムイです。
今でもネタ募集してますのでメッセージ等でよろしくお願いします。
(なお今来てるのはモカだけです。)

ということで久々の番外編です。
時系列的にはクリスマス後となってます。
そしてこの話は前編と後編に分かれています。
あと、この小説を上げたあとお知らせがあるので活動報告の方をご覧下さい。

ということで本編どうぞ!


大晦日から遡ること数日前、クリスマスの次の日の出来事である。

 

 

 

日曜日だったクリスマスがすぎ、次の日に終業式が行われるために僕は今学校に来ている。

 

最近、先生の手伝いばかりしているせいか生徒会長にも目をつけられて終業式の手伝いをさせられている。

 

しかしそんなことはどうでもよかった。

 

なんせ僕は今寝不足で何も考えられないからである。

 

昨日、燐子に対してとった大胆な行動が思い返せば返すほど恥ずかしいやらなんやらで眠ることが出来ず、結局午前3時半にやっと寝付けたと思えば起きたのは4時半、つまり僕は今日1時間しか寝ていないのである。

 

元々滅多なことがない限り疲労を感じない僕でもこればかりは疲労を感じざるをえなかった。

 

そのためわざわざ朝からバイト先であるコンビニに向かい、疲労回復用のエナジードリンクやら甘い物を購入したのだがあまり効果が出ていない。

 

そのため気を紛らわせるために早めに学校へ向かったのだがそれが仇となってこうして手伝い、主に運搬などをさせられている。

 

ここまでやってしまったら特別手当を出して欲しいぐらいだがここは学校なため給料は出ないし、もし報酬が出ても生徒会長の感謝の言葉と笑顔だけだろう。

 

そうして疲労感と共に教室へ戻った僕はうつ伏せになっていた。

 

「・・・あぁ、疲れた・・・」

 

「お前が疲れたとか珍しいな。」

 

声がしたので後ろを振り向くとそこには炎がいた。

 

こんな時間に来るとは珍しい。

 

「炎・・・おはよ・・・珍しく早いね・・・」

 

「おはよう奏多・・・って!そのクマ何!?」

 

炎がスマホの内カメラを起動させて画面をこちらに向ける。

 

するとそこにはくすんだ銀髪で少し中性的な顔立ちの少年、紛れもない僕の顔が映し出される。

 

しかしその目の下には濃いクマが出来ていた。

 

「クマなんて・・・いつ以来だろ・・・」

 

「お前クリスマスの日に何があった?バイトは休みって言ってただろ?」

 

「そうだけど・・・昨日は寝不足でさ・・・1時間しか寝てないんだよ・・・」

 

「い、1時間!?そりゃ誰でもそうなるわ!」

 

炎が的確なツッコミを入れる。

 

いつも1時間もあれば疲労が取れるのだけれども・・・僕だけだろうか?

 

「そ、そうなのかな?」

 

「それが普通だっつーの!なんだ?NFOを徹夜でやっていたか?」

 

昨日あったことを思い返すとまた恥ずかしくなる。

 

それに燐子と付き合ったことを伝えるとなんだかややこしいことになりそうなのでいくら親友とはいえ伝えにくい。

 

「ま、まぁ・・・そんな感じかな?」

 

「全く・・・身体壊すなよ?」

 

「親父譲りだ、多分大丈夫。」

 

今思えば最近親父と連絡をとっていない。

 

おそらく仕事が忙しいのだろう。

 

一人暮らしを始めた当初はちょくちょく連絡をとっていたが最近取っていないので今度取らなければ・・・

 

「そうだ、年末年始にうちに来ない?年越しそばとか作るけど?」

 

「あー悪い、年末はちょっとムリだわ・・・」

 

炎がバツの悪そうな顔をする。

 

こういう表情は珍しい。

 

「何かあるの?」

 

「あぁ、ちょっとパスパレの芸能事務所のお偉いさんに呼ばれててよ、そっちのパーティーに行くんだわ。」

 

「パスパレの!?何があったの?」

 

「えっと、まぁ、色々とな・・・」

 

炎が学校で白鷺さんとなんやかんや話しているのはよく見る(と言ってもほとんど白鷺さんに怒られるか連れていかれているかのどちらかだが)のだがまさかそこまで進展しているとは思わなかった。

 

通りで最近丸山さんが炎の話をするわけである。

 

「まぁ、それは後々聞くよ、けど正月は来れるの?」

 

「あぁ、その日は楽しみにさせてもらうぜ!」

 

するとガラガラと扉が開く音がする。

 

そっちを見ると燐子がいた。

 

「あ、奏多くんに陰村くん・・・おはようございます。」

 

「おっす燐子!おはよう!」

 

「おはよう燐子。」

 

「うん、おはよう・・・」

 

燐子がニコッとして挨拶を返す。

 

すると炎が肩を組んでコソッと話しかけた。

 

「おい、燐子ってあんなに柔らかかったっけ?」

 

「え?変わってないように思うけど?」

 

「それにしては奏多に対する態度が変わりすぎだろ!奏多と話す時もうちょっと堅いイメージがあったぞ!」

 

「そんなことないと思うけど・・・」

 

するとちまちまと他の生徒が入ってくる。

 

時間を見ると8時半前である。

 

「あ、俺教室戻るわ。話はまた放課後に!」

 

「うん、また後で~」

 

炎が教室に帰っていく。

 

「・・・あれ?疲れ取れてる?」

 

僕は何故か疲れが取れたことに少し頭を悩ませた。

 

しかしすぐに終業式が始まるのでそんなことすぐに忘れて移動の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終業式や諸連絡を終えて放課後。

 

燐子はこのあとの練習のために先に帰ってもらっている。

 

このあとバイクで向かいに行く予定だ。

 

「奏多~!またせた~!」

 

炎が走って僕の元に来た。

 

こうして練習の日は基本家の近い炎と帰っている。

 

「それで正月の件なんだけどさ・・・」

 

「あら?奏多じゃない!」

 

明るい声が聞こえるのでそちらを振り向くと弦巻さんがそこにいた。

 

「弦巻さん、勧誘はお断りだよ。」

 

「あら、私がいつも勧誘しているように見える?」

 

いつも僕と出会うとハロハピに勧誘してくるではないか。

 

しかしそれを胸の内に抑えて話を続ける。

 

「いや、でもどうしたの?」

 

「あなた達がお正月の話をしていたから気になったのよ!」

 

「あぁ、奏多ん家でパーティーするんだよ。」

 

炎が平然と答える。

 

確か初対面のはずだ。

 

「まぁ、パーティーするのね!」

 

「そうだけど・・・弦巻さんも来る?」

 

「もちろん行きたいわ!でもお正月は家から出してくれないのよ・・・」

 

弦巻さんが少し頭を悩ませる。

 

するとパァっと顔が輝いた。

 

「そうだわ!ならうちでパーティーすればいいのよ!」

 

「え?まじで言ってます!?」

 

「そこでバンドのみんなを招待すれば絶対楽しいわよ!」

 

「つ、弦巻邸にまた行くのか・・・」

 

何も飲み込めない炎が肩をつついてきた。

 

「そ、奏多、彼女は?」

 

「あぁ、彼女は弦巻こころ。あの弦巻家のお嬢様だよ。」

 

「す、凄いやつと知り合いなんだな・・・俺は陰村炎、奏多の1番の親友!」

 

「あら、奏多の親友なのね!私、弦巻こころ!よろしくね、炎!」

 

「おう、こころ!」

 

炎と弦巻さんが意気投合する。

 

話しながら校門を出ると黒服の人に捕まった。

 

「く、黒服さん達!?」

 

「九条様、正月の日に弦巻邸の一日シェフとして働いてはくれませんか?」

 

するともう1人の黒服がノートパソコンを開く。

 

そこには巨大な調理スペースと機材一式が載せられていた。

 

「こ、これは・・・!」

 

「我が弦巻邸の調理スペースには全世界から取り寄せた最高級の調理器具と最高級の食材を準備しております。それをいくら使っても構いませんので働いていただけませんか?もちろん、報酬も出させていただきます。」

 

僕は少し悩んだ。

 

料理ができるようになってからはテレビで見た巨大な調理場で料理をするのが夢だったし最高級の食材も取り扱ってみたい。

 

けど朝からの準備や前日の仕込みなどをしなければならないのでバンドの練習と重なる可能性がある。

 

・・・さらに言えばあの家の庭でまた迷うかもしれない。

 

散々悩んだ結果、僕は自分の欲に倒れ込んだ。

 

「・・・わかりました、やらせてもらいます!」

 

「では、この契約書にサインをお願い致します。」

 

黒服さんが紙を差し出す。

 

そこには雇用契約書と書かれ、内容がびっしり書かれていた。

 

とりあえず僕は署名のところにサインをした。

 

「あの・・・出来れば下見や仕込みなどをしておきたいんですけど・・・」

 

「わかりました。では、29日に迎えに行かさせていただきます。」

 

黒服さん達はそう言うと車に乗り込んで走り去って行った。

 

「奏多~!俺もこころの家に行くことになった・・・奏多?」

 

炎が心配そうに見る。

 

僕は少しふざけ気味に炎にこう言った。

 

「九条奏多、弦巻邸の一日シェフやるってよ。」

 

「・・・え?」

 

「あ、はい、すみません少しふざけました。えっとつまり正月の日に弦巻邸でシェフやることになった。」

 

「え・・・ええっ!」

 

炎が大声で叫んだ。

 

ここからお正月の日に働くことが確定した。




続きは次回やります。

それでは次回もお楽しみに!


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10章番外編 無色と多色の交奏曲(中編)

絶賛イベント頑張ってついにExpertフルコン数100曲になった隠神カムイです。
バレンタインの燐子可愛いよね、尊いよね!

ということでバレンタインとは全く関係ないお正月番外編の続きです。
この話が終わり次第(今週の土曜日はやる予定)お休みをいただきます。
Neo-Aspect編頑張らなくては・・・

ということで本編どうぞ!


12月29日

 

僕がRoseliaの練習後、CIRCLEを出るとそこには黒い車と黒服さん達がいた。

 

Roseliaのみんなには元日に弦巻邸でパーティーを行うことを伝達済みである。

 

それに僕が弦巻邸のシェフとして雇われて29日、30日も弦巻邸にて仕込みを行うことを伝えてはいるがこうして迎えが来てみると驚いていた。

 

「こ、こころの家ってホントすごいね・・・」

 

「うん・・・わかる・・・」

 

「九条さん、元日にも弦巻さんの家にも行くなら年末年始はかなり忙しいのではないですか?」

 

「うん・・・みんなと年越ししたらすぐに・・・」

 

「奏多くん、体大丈夫?」

 

「親父譲りで疲れは貯まりにくいから大丈夫だと思う。それに少しだけ仮眠はとるつもりだし。」

 

「九条様、そろそろ・・・」

 

「あ、はい。そ、それじゃあ頑張ってきま~す・・・」

 

Roseliaのみんなに見送られ僕は弦巻邸に送ってもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが弦巻邸の調理室となっております。我々は外にて待機しておりますのでわからない点やアシスタントなどが必要ならお申し付けください。」

 

そう言って黒服さんが部屋の外に出る。

 

弦巻邸の調理室は一言で言うと「凄い・・・」の一言だった。

 

調理器具は包丁から鍋、フライパンなど様々なものがあり、それも調べれば何万円もするお高い物ばかりである。

 

それに冷蔵庫(しかもとてつもなく大きなものが5台ある)を見るといくらや伊勢海老などの海産物や京野菜や黒豆などの野菜類、肉類も豊富にあった。

 

恐らくどれもこれも僕の生活費では賄えないほどの代物だ。

 

壊したり調理をミスったら大変である。

 

「・・・とにかく試したいな。」

 

包丁や鍋の使い心地を試したいのとこの中には使い方がよくわからないものもあるのでそれを試したいのもある。

 

とりあえず黒服さんに聞いてみることにした。

 

「あの~黒服さん。」

 

「どう致しましたか、九条様。」

 

「出来れば試しに調理してみたいんですけど・・・黒豆とかの仕込みは明日やりたいんで今日は調理器具の使い心地を試してみたいんですよ。」

 

「わかりました、食材に関しては右端にある冷蔵庫の食材をお使いください。」

 

「あ、それと・・・」

 

僕は黒服さんにもう一つお願いしてから適当に調理を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んで、俺が連れてこられたと。」

 

「ごめんね炎、いきなり呼び出して・・・」

 

「いいっていいって!奏多のメシ食えるなら!」

 

「奏多のご飯、トーっても楽しみだわ!」

 

黒服さんに頼んだこと、それは炎を連れてきてもらうことだった。

 

そして味見役として弦巻さんにも来てもらっている。

 

「今回は試しに筑前煮を作ってみたんだ。」

 

今回のおせち料理の1つとして作る予定の筑前煮を今回作ってみた。

 

調理器具の使い心地としては最高だった。

 

僕の家には長年相棒として使っている包丁があるがそれに負けず劣らずの手の馴染みようだった。

 

包丁に関しては愛包丁に軍配は上がるが鍋やその他の器材の使い心地はすごかった。

 

「うおぉ・・・美味そう・・・」

 

「それじゃあ頂くわ!」

 

弦巻さんと炎が筑前煮を口に運ぶ。

 

1口入れると2人が固まった。

 

「あれ・・・お口に合わなかった・・・?」

 

「・・・う、うめぇ・・・こんなに筑前煮って美味かったっけ・・・」

 

「とーっても美味しいわ!いつも作ってもらっている料理も美味しいけど奏多が作った筑前煮はそれ以上に美味しいわ!」

 

2人とも口に入れた瞬間固まったからびっくりした。

 

一瞬調理をミスったかと思ってヒヤヒヤした。

 

「よ、よかったぁ・・・初めて使う器具や食材だから心配した・・・」

 

とにかく筑前煮はこれで行けそうである。

 

あとは黒豆や伊達巻き、数の子や海老など色々やらなければならない。

 

しかしそれは30日と当日でどうにか出来そうだ。

 

「黒服さん、明日は今日と同じぐらいに、当日は6時ぐらいに家の前にむかえにきて貰えますか?」

 

「わかりました、その時間にお迎えに参ります。」

 

「よろしくお願いします。」

 

僕は黒服さん達に家まで送ってもらって(そうでもしてもらわないとまた道に迷う)次の日の30日に下準備を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・と、こんなことがあって今に至る。

 

みんなと別れたあと家に帰って仮眠を取った僕は予定通り6時に迎えに来た黒服さん達の車に乗って弦巻邸に来た所だ。

 

この前下準備したかいがあってか今回調理するのは5~6品である。

 

「よし・・・やるか!」

 

僕は早速調理に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

7時半から調理を初めて気がつけば時間は11時近くになっていた。

 

いくら6品でも25人という人数である、並大抵の量だと足りないだろう。

 

黒豆も鍋いっぱいに入っているし伊勢海老はなんと5尾である。

 

サイズが大きい上に茹でると時間がかかるのでコンロをフル活用してなんとか仕上げたものである。

 

その他筑前煮や伊達巻き、栗きんとんなどお正月らしいものを作り終えた。

 

完成したものから順に黒服さんに運んでもらっている。

 

結局アシスタント無しでやり遂げたが、もし次やるとしたらさすがにお願いするつもりだ。

 

調理を終え、あと片付けを終えてパーティー会場に向かうともう全員が揃っていた。

 

「もうみんな来てるな~」

 

「あ、九条せんぱーい!」

 

声をかけたのはポピパのリーダーの戸山さんだ。

 

同じ花咲川なのでポピパメンバーとはよく学校で話す。

 

「戸山さん、あけましておめでとうございます。」

 

「おめでとうございます!これ全部九条先輩が?」

 

「はい、結構疲れました・・・」

 

「でもどれも美味しそうです!」

 

「確かに凄いです。」

 

戸山さんと話している途中に美竹さんも入ってきた。

 

「美竹さんは晴れ着ですか・・・」

 

「お父さんにこういう行事には着ていけって・・・」

 

「でも似合ってますよ。お綺麗です。」

 

「九条さん・・・燐子さんに言いつけますよ?」

 

「そ、それだけはご勘弁を・・・」

 

それを言いつけられると燐子の機嫌を損ねそうである。

 

出来れば機嫌を損ねるようなことはしたくない。

 

「みんなー!ちゅーもくー!」

 

声の方をむくと弦巻さんがマイクを握っていた。

 

ざわざわしていた会場が静まる。

 

「今日は来てくれてありがとう!みんな飲み物は持ったかしら?」

 

持ってないのでハッとすると黒服さんがすぐ隣に来てグラスを渡してくれた。

 

中身はおそらく水だろう。

 

「それじゃあ行くわよ!新年あけましておめでとう!カンパーイ!」

 

『カンパーイ!』

 

ということでパーティーの始まりである。

 

テーブルには僕の作った料理と『本日のシェフ 九条奏多』と書かれたプレートが置かれてあった。

 

お陰様で料理を食べてそれを見た人達がこちらに押し寄せてきた。

 

基本的には料理の感想を言ってくれたのだがなんせコミュニケーション能力皆無の僕である。

 

それを答えるのに必死だった。

 

炎はそれを傍らで笑っていた。

 

なんとか乗り切ると炎が肩を叩いた。

 

「ははっ、おつかれ奏多!」

 

「う、うん・・・話すのってやっぱり苦手・・・」

 

「けどよ、どれもこれもめちゃくちゃ美味かったぜ?筑前煮もこの前食べたものより美味しくなってたし!」

 

実は帰った後、友希那にお願いして友希那のお母さんと話させてもらったのだ。

 

その時筑前煮のコツやポイントなどをもらって家でやってみた所とても美味しくなったので今回採用したのだ。

 

やはり料理は少し手を加えるだけで変わるところが面白い。

 

「けどこんなに大量に作ったのは初めてだよ。」

 

「まぁ、この人数だしな。」

 

炎がははっと笑う。

 

テーブルを見ると料理もほとんど無くなっていた。

 

完食とは作った側からしたら嬉しいものである。

 

するとステージに戸山さんと丸山さんが上がっていた。

 

「みんなお腹が脹れたところでお正月ということでかくし芸大会をやります!」

 

え、そんなこと聞いていない。

 

おそらく僕の知らないところで進んでいたのだろう。

 

「予め応募していた人の他にも飛び入り参加OKです!」

 

「では準備のため30分後に始めようと思いますので飛び入り参加の方は私のところに来てくださーい!」

 

「奏多・・・やろうぜ、あれ!」

 

「え・・・やるの、あれ・・・」

 

「こういう時にやるもんだろ?行こうぜ!」

 

「はぁ・・・やるか!」

 

ということで僕達は丸山さんの所に行った。

 

実は隠して練習していた『あれ』をやるために・・・




ということで次回がラストです。

珍しく長い番外編ですが実際これ普通に10章でいいのでは・・・?と思う自分がいます。

ということで次回もお楽しみに!


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10章番外編 無色と多色の交奏曲(後編)

前回で終わりきれなかったので続きです。

バレンタインイベを初の5000位代でクリアしました!
燐子を1日目に欲しかったがために頑張った結果です。
推しの力って怖い・・・

ということでバレンタインとは少し時期の違うお正月番外編のラストです!

それでは本編どうぞ!


「それではこれよりガールズバンドパーティメンバーによります第一回お正月かくし芸大会」

 

「「開催しまーーーす!」」

 

周りから拍手が起こる。

 

この5バンドでガールズバンドパーティメンバーというのは初耳だが、CIRCLE常連メンバーであるこの5バンドのことをCIRCLEスタッフが総称してそう読んでいるらしい。

 

それを聞いた丸山さんが採用したのだという事だ。

 

「さあ、いよいよ始まりました、お正月かくし芸大会!司会は私、Poppin’Partyのギターボーカルの戸山香澄と・・・」

 

「まん丸お山に彩りを!Pastel*Palettes、ふわふわピンク担当の丸山彩でお送りしまーす!」

 

「拍手ーーーー!」

 

拍手が再度起こる。

 

すると近くにいた市ヶ谷さんが沙綾さんに話しかける。

 

「なぁ・・・あの二人が司会でホントに平気か?」

 

「確かにちょっと心配だけど・・・うん、見守ろう。」

 

そう言われると確かに心配である。

 

戸山さんもさっきから声が震えっぱなしだ。

 

丸山さんも慣れているとはいえあの様子からして緊張しているのだろう。

 

しかしここは見守るほかなさそうだ。

 

「それでは早速1組目に行きたいと思いまーす!1組目はこの方達でーす!」

 

戸山さん達が退くと同じ衣装を着た宇田川姉妹、北沢さん、そしてリサの4人が立っていた。

 

垂れ幕を見ると『羽丘&花咲川ダンス部 ヒップホップダンス』と変わっていた。

 

「ふっふっふ・・・我に眠りし、いにしえの踊り子の力を・・・えーっと・・・バーン!と解き放っちゃうよ~!」

 

「そっか、アタシ達が1組目か。さすがにちょっと緊張するな。」

 

「トモちん、大丈夫だって!みんなでたっくさん練習したもん!ね?リサ先輩!?」

 

「だね!この日のために各学校のダンス部が集結したんだよ!絶対うまくいく!」

 

リサがみんなを励ます。

 

やはりトップバッターだから緊張するのだろう。

 

なお、あとから知った話だがこのかくし芸大会の募集を始めた時に一番最初に応募したのはあこだったらしい。

 

なんせ「おねーちゃんのダンスめちゃくちゃかっこいいからみんなに見てほしい」からなのだそうだ。

 

巴さんも大変である。

 

「それではっ!リサちゃん、巴ちゃん、あこちゃん、はぐみちゃんによるヒップホップダンスです!どうぞ!」

 

会場が静かになり音楽が始まる。

 

曲は恐らくハロハピの「せかいのっびのびトレジャー!」の歌なし、instrumentalというやつであろう。

 

見た感じかなり本格的なダンスだ。

 

「いや、すげぇな・・・かなり本格的だぞ・・・」

 

「うん、素人目にもわかるよ・・・」

 

「そうね、そう思うわ。」

 

炎と話しているといつの間にか友希那と燐子が隣にいた。

 

「友希那と燐子じゃん。久しぶり~!」

 

「久しぶりね、陰村くん。」

 

「お久し・・・ぶりです・・・。」

 

軽く挨拶を交わす。

 

今思えばRoseliaが炎と会うのも久しぶりなのかもしれない。

 

「実は私たちあのダンスに誘われていたの。私はリサに、燐子はあこにね。」

 

「そうなんだ、なんでやらなかったの?」

 

「あんな複雑なステップ、私たちにできると思う?」

 

「あー・・・」

 

僕と炎が納得する。

 

確かに友希那と燐子は運動がかなりと言ってもいいほど苦手である。

 

そんな二人があんな複雑なステップを踏めるとは思えない。

 

しかしダンスを見るとかなり息があっている。

 

特に宇田川姉妹は姉妹だからか息がピッタリだ。

 

巴さんはダンスの始まる前に「あこに頼まれて仕方なく」と言っていたがあれはかなりノリノリだ。

 

仕方なく出てる人は、あんな爽やかな笑顔できない。

 

「はじめからこんなレベル高いと俺達のやつかなり低く見られそうだな・・・」

 

炎の顔を見るとかなりひきつっている。

 

やはり緊張するのだろう。

 

「確かにね・・・」

 

「あら、奏多達もやるの?」

 

「うん、と言っても飛び入りだから最後にだけどな!」

 

「何を・・・やるの・・・?」

 

「それは見てからのお楽しみ。まぁ見ててよ『九条奏多の3つの隠し技』の1つをね。」

 

「「・・・?」」

 

友希那と燐子が不思議そうな顔をする。

 

それも無理はない。

 

なんせ今までこの隠し技のうちの2つは日常生活では普段使わないため、思いっきりくさっていたものなのだから言う必要がなかったのだ。

 

余談だが、この少し恥ずかしい名前の名付け親はシゲさんである。

 

・・・まぁ、それは置いといて今回はそのくさっている中の一つをやる予定だ。

 

「まぁ、今はダンスを見よう。みんなのかくし芸気になるし!」

 

「・・・そうね。今日は思いっきり楽しみましょうか。」

 

「はい・・・!」

 

ということでダンスの鑑賞の続きである。

 

僕達もあんな感じに出来たらいいのだが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、色々な人がかくし芸を披露した。

 

次に出た若宮さんは手裏剣で3つの風船を連続で割るというものだった。

 

成功したのだが皆が1番驚いたのはその手裏剣である。

 

なんと自分で木材を削って塗装したものでその中で納得のいく3つを今回のためだけに持ってきたらしい。

 

もはやそっちの方がかくし芸という気がするのだが本人が満足しているのでそれはいいだろう。

 

 

 

続いて出たのは花園さん。

 

題材は『うさぎのモノマネ』なのだが率直に言うと地味でマニアック過ぎてよくわからなかった。

 

・・・そして少しばかり長かった。

 

 

 

続いてはモカがかくし芸を披露した。

 

内容は「目隠し利きパン」、商店街に売っているパンを目隠しして食べてどこのお店のものなのか当てるというものだった。

 

パンも種類がバラバラなのでかなり難しいと思ったがそれをモカは余裕で全問クリア。

 

みんなが拍手する中、美竹さんだけ「凄かったけど正直『・・・で?』って感じだった」とモカに直接伝えていた。

 

モカはかなりしょんぼりしていたが他のバンドのメンバーには凄さがわかっていたので直ぐに機嫌を取り戻したモカなのであった。

 

 

 

続いては日菜さんと紗夜によるテーブルクロス引きである。

 

しかもただのクロス引きではなく二人同時に引くというものでそれを氷川姉妹はすんなりとやり遂げた。

 

後で紗夜に聞いたところ、「子供の頃に遊びでやっていたので、それを体が覚えていたから出来たんです」と言っていた。

 

そもそも遊びでテーブルクロス引きをやるのもどうかと思うが2人が小さい頃には仲が良かったのだと考えると仲良くなってよかったなと別の感情が湧き出てしまうのであった。

 

 

 

続いて、弦巻さんと奥沢さんによるジャグリングである。

 

感想を先に言うとプロ顔負けの完成度だった。

 

2人でボールを投げ合いながらジャグリングをするのだが、そのスピードがもの凄かった。

 

しかもそれをウォーミングアップと言い張り、その後弦巻さんは一輪車に乗りながらジャグリングを始めた。

 

プロの大道芸か、これは?

 

と全員がそう思わざるを得ない芸だった。

 

 

 

そんなやりにくい空気の中、次に出たのはなんとまりなさんだった。

 

一同驚愕の中、お題は「ギター演奏」だった。

 

なんとまりなさんは高校時代にギターをやっていたらしく、その演奏だった。

 

自分では「腕なまっちゃってるけど」と言っていたが演奏するとギター組が驚愕していたほどすごい演奏だった。

 

あとから聞くとギターはいつもCIRCLEに置いてあるらしく、休憩時間に相手あるスタジオがあったらたまに演奏するらしい。

 

まりなさんの意外な一面であった。

 

 

 

そして応募した組ラストは司会の二人によるマジックショーだった。

 

全員が感激より心配の方を強くする中、中盤までは失敗なしだったのだが、最後の最後で『賀正』という文字が逆さまで出てしまい、みんなが「やっぱりか・・・」という空気になった。

 

やはりこういう方が二人らしい。

 

 

 

「・・・という感じでお送りしてきたかくし芸大会も、次でラストです!」

 

「最後の人は今日飛び入りで参加受付をしてくれた奏多くんと炎くんの唯一の男子組でーす!」

 

僕と炎が呼ばれた。

 

いよいよ出番である。

 

「炎・・・」

 

「奏多・・・行くぜ!」

 

「うん!」

 

僕達はステージの上に立った。

 

「おっす!Roseliaのマネージャーこと九条奏多とその親友、陰村炎だ!知らない奴はここで宜しくなって言っておく!」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

やはりかなり緊張する。

 

そんな中、司会の二人が話しかける。

 

「九条先輩!今日の料理は九条先輩が担当したんですよね!とっても美味しかったです!」

 

「ありがとう戸山さん。あの料理は僕の隠し技の一つって言ってもいいですかね。」

 

「一つってことはまだ幾つかあるの?」

 

「うん、料理を含めて3つかな。料理を作ること、音楽の善し悪しを聞きわけるとこ、そしてもう1つ・・・今回はそのもう1つを披露しようと思います。」

 

「炎くんは?」

 

「俺はそれに合わせて歌う!」

 

「歌うってことは・・・九条先輩なにか演奏するんですか?」

 

「一つだけ・・・できる楽器があるんです。」

 

僕はステージ裏の黒服さんに合図を送る。

 

黒服さんは頼んでいたものを持ってきてくれた。

 

それは・・・バイオリンだった。

 

「バイオリン?奏多くん、バイオリン弾けたの?」

 

「うん、小学校の頃、親父が買ったものをずっと触っていたんだ。その代わり、演奏は独学流だけどね。」

 

僕はバイオリンを構える。

 

炎が初めて家に遊びに来た時に炎が見つけたものでその時引いたら「かくし芸としてお前が弾いて俺が歌う」という謎の約束を交わし、それ以来練習はしてきたのだ。

 

最近弾く時間がなかったので上手くいくかは心配だったがまぁ大丈夫だろう。

 

「それでは、奏多くん、炎くんによるバイオリン演奏&歌です!どうぞ!」

 

あたりが静かになる。

 

僕はアイコンタクトで炎に合図を送ると演奏を始めた。

 

選択した曲は『Break the Chain』、昔見ていた特撮ヒーローのオープニングである。

 

静けさの中、響き渡るバイオリンの音色と炎の歌声。

 

ものすごい集中のせいか演奏は一瞬で終わってしまったように思えた。

 

演奏を終えると辺りはしんとしていた。

 

「・・・あれ?どこかミスってた?」

 

「い、いやわからねぇ・・・」

 

するとぱん、ぱんと音が聞こえた。

 

その方を見ると燐子が拍手をしていた。

 

そこから広がるように拍手の嵐がきた。

 

「い、以上二人の演奏でした!ホントに凄かったよ!」

 

「九条先輩!そんなかくし芸があったんですね!陰村先輩も素敵な歌声でした!」

 

「私、あのバイオリン演奏に惹かれちゃったよ!また今度弾いてね!」

 

「う、うん!もちろん!」

 

「やったな奏多!大成功だ!」

 

炎が肩を組んでくる。

 

その満面の笑みに僕も笑って返す。

 

片や人から好かれる『多色』の少年。

 

片や色を失っても自分でいようとした『無色』の少年。

 

その2人が奏でる音は繊細かつ独特な音を醸し出していた。

 

「またやろうな!奏多!」

 

「もちろん!炎!」

 

その後、閉会式と共に解散となったが僕にとってこの年末年始はかけがえのないものになっていた。

 

さっき演奏した『Break the Chain』の歌詞にこういうフレーズがある。

 

『目に見えない繋がり信じて動き出そう』

 

僕と炎の繋がりは確かにあってはならない繋がりだったと思う。

 

しかしそれが僕と炎を結びつけたものであり、動き出せるものであったのは間違いない。

 

たとえ悪しき繋がりでも僕と炎は互いに支えあって進んでいく。

 

どうかそれがずっと続いていきますように。

 

炎だげてなくRoseliaとも・・・

 

 




ということで10章番外編はこれで終わりです。

次回よりNeo-Aspect編のため1週間お休みをいただきます。

それでは次回をお楽しみに!


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紗夜誕生日特別編 Sayo/birth day 【Unlimited Fried Potato】

Happy birthday 紗夜さん!

てな訳で体は剣で出来ていそうなタイトルですが、紗夜誕生日特別編やります。

紗夜日菜でやろうかとも考えましたが、基本的に誕生日特別編はRoseliaメンバーしかやってきてないので紗夜のみとなりました。

うちのバンドリに星4の紗夜さん2人いるんすけど・・・どっちもピュアタイプなんだよなぁ・・・
嬉しいからいいけどさ!

ということで紗夜自慢もここまでにして本編どうぞ!


―――心は揚げいも(フライドポテト)で出来ている。

 

 

 

 

 

血潮はうすしおで心はポテト。

 

 

 

 

 

幾度の(戦場)を越えて不敗。

 

 

 

 

 

たった一度の失敗もなく、

 

 

 

 

 

たった一度のハズレもなし。

 

 

 

 

 

食者はテーブルに独り、

 

 

 

 

 

至高の山(フライドポテトの山)でそれを食す。

 

 

 

 

 

なら我が生涯に意味以外は不要ず、

 

 

 

 

 

その身体は無限のポテトで出来ていたぁ!

 

 

 

 

 

「あこちゃん、そのセリフ何?」

 

「これ?紗夜さんにこんな感じのセリフ言って欲しいな〜って!」

 

「あこ、絶対怒られるやつだよそれ・・・」

 

しかもそのセリフ、どこかで聞いたことあるぞ・・・

 

一体どこの赤髪の少年(フェイカー)なんだ・・・

 

「3人とも、口じゃなくて手を動かしてね〜友希那そろそろ紗夜を連れてくるって言ってたから。」

 

「は〜い!」

 

ということで準備を再開する。

 

ここは我が家、しかし今は紗夜の誕生日をお祝いする特設会場として使用するつもりだ。

 

親父が亡くなって1ヶ月ほどが経ち、正式にこの家を相続したので今この家は自宅兼Roseliaの集会場としても使用している。

 

割り当てとしては友希那が紗夜をいつも通り集会として呼び出し、あこ、燐子、リサが飾り付け、僕が料理を担当している。

 

料理といっても時間はお昼を過ぎたあたりなのでガッツリしたものは作らない。

 

作るのは紗夜の大好物(と言っていいのかわからないが)のフライドポテトである。

 

フライドポテトといっても色々な種類があり、皆がよく知っているあの細長いカットのシューストリングの他にも三日月型で皮付きのナチュラルカットやギザギザしたクリンクルカットなど、様々な種類が存在する。

 

なので、今回はさっき前例として挙げたこの三種類を作るつもりである。

 

フライドポテト自体はあの海の時にさんざん作ってきたので揚げる温度や油から上げるタイミングなどを腕が覚えてしまっている。

 

なのでたまに作っては持って行って練習前にみんなで食べたりするのだがこれがすぐに無くなってしまう。

 

すぐに無くなる原因はお察しの通り紗夜なのだがほんとに食べる速度が速い。

 

そしてペロッと食べきると何食わぬ顔で「美味しかったです、次はもう少し塩を濃くしても大丈夫だと思います。」と、感想とアドバイスをくれる。

 

たまに持っていった時の紗夜の顔が物凄く輝いていたので紗夜にとって楽しみなのだろうと判断し、今回の誕生日パーティーに大盤振る舞いとしてこれをやることにした。

 

「ソータ〜こっちの準備終わったよ〜!」

 

「わかった〜こっちもそろそろ完成する〜」

 

リサがそういうので部屋を見るとしっかり飾り付けが完成している。

 

紗夜が来る前に完成できたようだ。

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

インターホンが鳴る。

 

どうやらご到着のようだ。

 

「あこ、悪いけど出てくれない?こっちは今手が離せない。」

 

「わかりましたー!はーい!」

 

あこが走ってドアの方に向かう。

 

その間にリサと燐子がクラッカーを構えて扉の前で待機する。

 

「遅かったですね〜友希那さんと紗夜さん!」

 

「私と紗夜は少し練習してから来たのよ。」

 

「久々に二人でやったのも楽しかったですよ。」

 

「ささっ!紗夜さんが先に入ってください!」

 

「ち、ちょっと宇田川さん・・・押さないでください!」

 

「まーまー!気にしないでください!」

 

ガチャっと扉が開く。

 

その瞬間2人はクラッカーを鳴らした。

 

「「「「「紗夜、誕生日おめでとう!」」」」」

 

全員でお祝いの言葉を送る。

 

紗夜は驚いたような顔をしていた。

 

「紗夜?気に食わなかったかしら?」

 

「い、いえ・・・その・・・ありがとうございます。」

 

少し戸惑ってはいたもののすぐに調子を取り戻し、微笑む。

 

「それにこの匂い・・・シューストリング、ナチュラルカット、クリンクルカットですね。」

 

「え、なんでわかったの!?」

 

「ポテトの揚げた時の微かな匂いの差で気づきました。それぞれ大きさが違う分そこから発せられる匂いも変わってきますので。」

 

紗夜の使えない才能公開の瞬間である。

 

お正月のモカのように利きパンとかなら使えるかもしれないが・・・

 

「と、とにかく完成したからみんなで食べよっか!」

 

ポテトをさらに移して付け合せのソース一式とともにテーブルに持っていく。

 

「よし!それじゃあ紗夜さんにあのセリフを・・・」

 

あのセリフ言わせる気満々だったのか。

 

すると燐子があこに紙を手渡した。

 

「あこちゃん・・・今日ならこっちの方が・・・いいんじゃないかな?」

 

「こ、これは・・・さっすがりんりん!あこよりかっこいいセリフ思いつくね!」

 

「そ、そんなことないよ・・・とりあえず言ってあげて・・・」

 

「わかった!」

 

するとあこは部屋の本棚から適当に本を1冊とると適当なページを開けてカンペの紙を本で隠すように持った。

 

「それでは・・・こほん、祝え!他のギタリストを凌駕し、時空を超え私たちの音楽を知ろ示すRoseliaのギター、その名も氷川紗夜!まさに生誕祭の瞬間である!」

 

そ、それもどこかで聞いたことがある・・・

 

どこの魔王の導き手(ウォズ)なんだ・・・

 

「まだ宇田川さんの言うことがわからない所もあるけど・・・祝ってくれているのはわかるわ。みなさん、ありがとうございます。」

 

「とにかく冷めないうちに食べちゃお!」

 

リサがそういう。

 

確かに冷めたポテトは美味しさが薄れる。

 

「それじゃあいただきまーす!」

 

いただきますを合図に全員がポテトに手を伸ばした。

 

・・・そして食べ始めてポテトが全て無くなるまで5分もかからなかったという新記録もたたき出したのであった。

 

 

 

 

 

ということで思ってたよりすぐなくなってしまったのでプレゼントの時間である。

 

「散々迷ったんだけど今の紗夜にはこれかなって思ってこれにしたんだ!」

 

リサが代表でそれを渡す。

 

プレゼントの中身はクッキーだった。

 

「クッキー・・・ですか?」

 

「なんと、友希那も一緒に作ってくれたんだよ!」

 

「・・・口に合えばいいのだけれども。」

 

友希那が軽く赤面する。

 

クッキーはみんなで作ったのだが、それを作る時も少しばかり危うかった。

 

まさか友希那料理を1度もしたことがなかったとは・・・

 

「・・・ありがとうございます、大切にいただきますね。」

 

おそらくその事を知っている紗夜は嬉しそうにそう言った。

 

「それと九条さんに白金さん、この前はありがとうございます。」

 

「あれ?二人とも紗夜と何かしたの?」

 

リサが不思議そうに質問してくる。

 

「あぁ、それは・・・」

 

「氷川さんは・・・妹さんのためのプレゼントを・・・買いに行っていたんです・・・その時たまたまショッピングモールで・・・」

 

この前燐子とショッピングモールでライブ衣装用の生地を買いに行っていた所、たまたま紗夜と会っていたのだ。

 

その時紗夜は同じ誕生日である日菜さんのためのプレゼントを探していたようで買い物ついでに一緒に探したのだ。

 

「見つけられて・・・よかったです・・・」

 

「うん、紗夜らしいプレゼントだったね。」

 

「はい、私と・・・日菜を示しているものなので。」

 

すると電話の音が鳴った。

 

着信音からして紗夜の携帯のものだろう。

 

「すみません・・・って、日菜?」

 

どうやら日菜さんからのようだ。

 

「もしもし、日菜?」

 

『あ、おねーちゃん!さっきパスパレのみんなからプラネタリウムのチケットもらったんだけどよかったら今すぐ見に行かない?』

 

「で、でも今は・・・」

 

紗夜がこちらをチラリと見てくる。

 

おそらく何かに誘われたのだろう。

 

「紗夜、日菜さんになにか誘われたんだろ?行ってきなよ。」

 

「で、でも・・・」

 

「日菜は多分誕生日には紗夜と一緒にいたいんだと思うな〜」

 

リサが追撃をかける。

 

紗夜は最近この手の言葉に弱い。

 

「わ、わかりました・・・もしもし日菜?わかったわ、自宅に集合ね。」

 

『ホントに!やったぁ!それじゃあ今すぐ集合ね!』

 

「あ、ちょっと、日菜?」

 

どうやら通話は切られたようだ。

 

日菜さんらしい。

 

「すみません、それではいってきます。」

 

そう言うと紗夜はこの家をあとにした。

 

「さ、そういうことで後片付けしますか〜」

 

「ねぇりんりん、紗夜さんはひなちんのために何を買ったの?」

 

「あ、それアタシも気になる!」

 

あこの質問にリサが乗ってくる。

 

燐子は少し間を置いてから話した。

 

「氷川さんが買ったのは・・・双子座のブローチです・・・」

 

「紗夜はそれを一生懸命探してたんだ。」

 

双子座、才能の差がコンプレックスだった昔の紗夜なら絶対に選ばなかったもの。

 

しかしあの一件があってからしっかりと向き合えているようだ。

 

「紗夜・・・しっかり向き合えているようね。」

 

「うん・・・そうだね。」

 

誕生日、それは生誕を祝う日の他に今までの自分の成長を振り返る日でもあると僕は考えている。

 

この日が氷川姉妹にとってかけがえのない日になりますように、僕はそう願っている。




ということで久々の特別編でしたー

ちなみに今の様子ではNeo-Aspectかなり長くなりそうです・・・

ということで次回もお楽しみに!


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エイプリルフール特別編 無色とモカ神様のパン闘記

ということで話はずれて特別編やります。

エイプリルフールは昨日?しらん!

ということで特別編どうぞ!


「ふわぁ〜・・・よく寝た〜・・・って起きても寝てても真っ暗だし、何も無いんだけど。」

 

この超絶可愛い美少女の名前はモカ神様。

 

かつて世界にはモカ神様しかいませんでした。

 

「なんにもないのって退屈だな〜。何か面白いこと起きないかなー、えーい。」

 

何も無いところにモカ神様が手をかざすと、突然何も無いところに小さな世界が現れました。

 

「わ〜、何か出てきた。なんだろうこれ〜。」

 

モカ神様はその世界を観察していると、あることに気づきました。

 

「なんかみんな食べてる〜。あたしも食べたいな〜でも取りに行くとこの超絶可愛い姿でみんなを失神させちゃうな〜どうしようかな〜」

 

モカ神様がおもむろに手をかざした途端、そこから光が溢れて・・・

 

「痛っ!・・・あれ、ここどこ?確か家帰って寝てたはず・・・」

 

くすんだ銀色の髪色の見た目に特に変わりのない普通の存在が無色な男子高校生が現れました。

 

「おお〜異世界召喚というやつですなぁ〜」

 

「・・・モカ?」

 

男子高校生は不思議そうにモカ神様を見つめました。

 

この超絶可愛い美少女に見惚れてしまったのでしょうか?

 

「てか何その姿?!もっとなにか着るものあったでしょ!てかこのナレーション何、めちゃくちゃ変な事言うんだけどっ!」

 

「まあまあ落ち着きたまえ少年よ。私の名前はモカ神様、この世で1番可愛い超絶美少女神である〜」

 

「・・・これは夢か?夢だよな、エイプリルフールは昨日で終わったし・・・」

 

「気にするな少年、昨日だろうと今日だろうとここではエイプリルフールに変わりないのだ〜」

 

「なんか色々とメタい!!」

 

エイプリルフールが昨日とかいう少年ですがモカ神様の言葉でこの状況を飲み込むことにしたようです。

 

「・・・んで、なんで僕はモカ神様のところに呼ばれたの?寝てると言っても仮眠とってるだけだから直ぐに起きてRoseliaの練習に行かないと・・・」

 

「安心せよ少年、ここの空間は時が流れないっぽいからどれだけいてもそちらの世界では一瞬の出来事なのだよ。・・・まあ、そのせいであたしは暇なんだけどさ〜」

 

「流れないっぽいって・・・君はここに住んでるんだろ?」

 

モカ神様は細かいことを気にしない神様なのです。

 

「いや、自分の所ぐらい気にしようよ・・・んで、質問の答えは?」

 

「神様にむかって罰当たりな発言しかしてないけどモカ神様は優しいので許してあげよう〜。君にはここの世界に飛んでみんなが食べてるあれを取ってきて欲しいんだ〜。」

 

「あれ・・・って、パンのこと?」

 

「ほほお、パンというのか〜とりあえず飛ばしてあげるからすぐに持ってきてね〜」

 

「あの、飛ばすってどういう・・・」

 

「それ〜」

 

「人の話を聞けぇぇ!」

 

モカ神様は手を振ると少年はあっという間にその小さな世界に文字通り飛ばされました。

 

そしてモカ神様は少し経ってから手を振るともう一度少年をこの場に呼び出しました。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ひ、紐なしバンジーを初体験したよ・・・」

 

「それで、そのパンとやらは持ってきた〜?」

 

「はぁ・・・こ、これでしょ?はい。」

 

少年はパンをモカ神様に手渡しました。

 

モカ神様はそれをひと口食べるととてつもなく可愛い笑顔になりました。

 

「おぉ〜、超美味しい〜。これもっと食べたいな〜。」

 

「いや、自分で買ってきたらいいんじゃ・・・」

 

「こう見えて忙しいのだよ少年。」

 

「さっき暇って言ってたよね!」

 

ツッコミの激しい少年はさておき、パンを気に入ったモカ神様は、もっとたくさんのパンを食べられる方法を考えました。

 

「・・・そうだ!これをこうして〜・・・おお〜モカちゃ・・・モカ神様天才〜」

 

「・・・今自分のこと普通に『モカちゃん』って言おうとしなかった?」

 

「気のせい気のせい〜最後にこうすることで〜」

 

モカ神様はちょちょいっと手を加えて、様々な世界を創り出しました。

 

「ふっふっふー、これで色んな味のパンが楽しめるはず〜」

 

そして様々な世界を創り出したことで、モカ神様は色々な味のパンを楽しめるようになったのです。

 

「そんなものでいいのか・・・」

 

「所変われば品変わるって言うし〜いまさっき創った世界でもほらこの通り〜」

 

少年がモカ神様の力を借り、さっき生まれた世界の様子を覗くとそこではロボットが世界を支配していたり探偵対大悪党の戦いなど色々やっていました。

 

「どれもこれもパンと全く関係なさそうだけど・・・」

 

「よく見てみなよ〜ほら、この探偵の世界とかなら〜」

 

少年は探偵の世界をよく見ました。

 

すると探偵の助手の子がコロッケを挟んだパンを食べていました。

 

「へぇ〜コロッケパンか・・・って、探偵役よく見ると戸山さんじゃん!そんで助手は北沢さんだし!それで大悪党は・・・あっ、ふ〜ん(察し)」

 

「ほほぉ・・・知り合い?」

 

「探偵の子達はあっちの世界じゃ後輩で、大悪党は同期。一応君もバイトの後輩なんだけど・・・」

 

「こんな可愛い子が後輩だなんて君は恵まれてますなぁ〜」

 

「そりゃどうも。」

 

少年はこの世界にもう慣れてきた様でモカ神様の言葉を軽くあしらうようになっていました。

 

モカ神様は早速お使いに出させることにしました。

 

「それじゃあこの世界に飛んでくれる〜?このクッキー衆とパン派が争っている世界にさ〜」

 

「なんでそんなまた物騒な世界に!?」

 

「いや、だって〜面白そうじゃん?」

 

「この神様怖い!あなたは鬼なんですか!悪魔なんですか!」

 

モカ神様は女神です。

 

鬼でも悪魔でもありません。

 

「それじゃあいってらっしゃーい。」

 

「バンジー二回目はきーつーいー!」

 

こうして少年君は色々な世界に飛ばされ、パンを集めることになりました。

 

先程の世界ではパンの聖女沙綾の元でクッキー衆の王女リサと協力関係を結び、メロンパンを入手しました。

 

続いての探偵の世界では探偵たちの珍行動に頭を痛めながらも何とか大悪党マルマウンテンを逮捕し、そのお礼としてコロッケパンを貰えました。

 

次に来たのは最悪のクマ、ミッシェルが世界を支配する世界で救世主巴とヤバいやつたえと共にボスミッシェルを打ち倒し、その工場で作られていたパンを大量に受け取りました。

 

次に来たのは楽器のデザインがされた怪物相手に歌を武器に戦う少女達のいた世界。

 

そこだけは少年が来た普段の世界と変わらないものの、怪物達に襲われていたことは違っていたみたいでした。

 

そこでは怪物達にターゲットにされ、追いかけ回され続けていましたが、何とかヒーローの手によって倒され、「迷惑かけたから」という理由であんぱんを貰いました。

 

そんな訳で色々な世界を回り、少年は帰ってきました。

 

「はぁ・・・はぁ・・・沙綾さんがジャンヌで僕がジル・ド・レ元帥してるわ戸山さんに振り回されるわミッシェルに強制労働されかけるわ私たちがシンフォギアだっ!って叫ぶ女の子に助けられるわ・・・何この世界早く帰りたい・・・」

 

「まあまあ、お勤めご苦労様〜次でラストね〜」

 

「え、まだあるの・・・」

 

「ここがラストでいいよ〜もう今日の分のパンはこのくらいで満足だし今から取ってきてもらうのはモカ神様がおやつに食べる分〜」

 

モカ神様の後ろには先程集めてきたパンが山ほどあります。

 

これを全て一日で食べ切ってしまうので毎日のパン集めが日課となるでしょう。

 

「・・・この神様といい本物のモカといい・・・青葉の胃袋は化け物かっ!」

 

「今どき赤い彗星のネタは古いよ〜」

 

「・・・なんで知ってるの?」

 

「モカ神様は全知全能なので〜(片手にGoogle先生を開けながら)」

 

「思いっきりカンニングしてない?!」

 

「とりあえず行ってくるのだ少年!モカ神様の危機は君に託されたのだ〜」

 

「・・・もうバンジーになれたよ・・・いってきまーす・・・」

 

モカ神様は笑顔で少年を送り出しました。

 

「あ、ナレーションのお仕事も終了だよ〜いままでお疲れ様〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の紐なしバンジーを体験し、到着という名の墜落を迎えた僕はなんだかファンシーな世界に来ていた。

 

「・・・今更だけどこれがギャグ補正ってやつか・・・」

 

先程から何回も墜落しているが骨折は愚か怪我も擦り傷ぐらいしかしてなくそれも即座に回復してしまう。

 

ついにギャグキャラまで落ちてしまったようだ。

 

「一応主人公なんだけどな・・・扱い雑いな・・・」

 

とりあえずパンさえ貰えればこの世界から帰ることは出来そうだ。

 

「さて・・・最後の人は誰だろな・・・」

 

さっきまで身の回りの人がいつもと違う様子で行動していた。

 

最初のパン聖女の世界なら沙綾さんはジャンヌ・ダルクのような行動をしていたし、いつもなら『リサ先輩』と呼ぶリサのことを普通に呼び捨てにしていた。

 

さらに言えば敵のボスと幹部がリサと紗夜だったのでそのギャップの違いに思わず笑いそうになってしまった。

 

幸い僕のことを知っている人はいなく、どの世界でも役職が与えられていたらしいのでその世界についても怪しまれることは無い。

 

パン聖女の世界ならジル・ド・レ的な立場で、探偵の世界なら探偵とともに捜査する刑事だった。

 

ロボットの世界なら巴さんにお供するアウトレイジの1人として働き、ヒーローの世界なら普通にRoseliaのマネージャーをしていた。

 

「まったく・・・どこかの世界の破壊者じゃないんだって・・・」

 

そう呟きながらも何とか人を見つけた。

 

あれは美竹さんのようだ。

 

「あれは美竹さん・・・だけ?」

 

どうやら1人のようだ。

 

とりあえず前に出てみる。

 

「あ、あの・・・」

 

「あれ、九条さん?」

 

「美竹さん、僕のこと知ってるんですか!?」

 

「いや、知ってるも何もあなたこそあたしのこと知っているんですか?この世界の人たちあたしのこと知らない人ばかりで・・・」

 

どうやら美竹さんはこちらの世界の人のようだ。

 

しかし何故美竹さんだけ・・・

 

「・・・ったく、モカ神様って何・・・モカに変わりないじゃん。」

 

「あっ・・・(察し)」

 

どうやら原因はあの女神にあるようだ。

 

すると突然二人の間に小さなものが割り込んできた。

 

どうやら妖精のようだがあの髪の毛と言い雰囲気といいどこかで・・・

 

「もしかしてゆき・・・」

 

「さあ、美竹さん。今日こそ魔法少女となって、そこら辺にいるめちゃくちゃ悪いやつをぶっ倒しましょう!」

 

「ブッwww」

 

これは友希那じゃない!

 

中の人(相羽あいなさん)の方じゃん!

 

「だから倒さないって!そもそも変身出来ないし!てかそのめちゃくちゃ悪いやつって誰?」

 

「めちゃくちゃ悪いやつはめちゃくちゃ悪いやつよ!どうして嫌がるのよ・・・倒したらめちゃくちゃ美味しいパンが貰えるし・・・」

 

何?パンが貰えるだと!

 

「美竹さん、変身は出来ると思いますよ。女の子は誰だってプリ○ュアって言いますし。」

 

「九条さんも冗談言わないでください!そもそも最近のプリ○ュアは男の子でもプリ○ュアになってるじゃないですか!」

 

「悪いけど魔法少女とプリ○ュアは別物なのよ。」

 

「ということで変身おねがいします。多分その悪いやつ倒さないと帰れないですよ。」

 

「ど、どういうことですか?」

 

僕は自分がモカ神様にお使いを頼まれている(パシらされている)こと、この世界のパンさえ届ければ帰れることを伝えた。

 

「・・・その、うちのモカがすみません。」

 

「いや、ここのモカはモカ神様であってモカじゃないみたいなんで・・・」

 

「とりあえず美竹さん!魔法少女になってくれるかしら?」

 

「でも・・・高校生にもなって魔法少女とか正直恥ずかしいし・・・」

 

すると突然後ろから2人組が現れた。

 

それは見た事ある2人組だった。

 

「あなたが魔法少女の美竹蘭ね。私の名前はローズチサト、あなたを倒しに来たわ。」

 

「その下っ端のキャメリアホムラでーす。」

 

白鷺さんと炎だ。

 

しかも案外ノリノリな白鷺さんに対し、炎はめちゃくちゃ面倒くさそうだ。

 

顔に『帰りたい、早く』って書いてる。

 

「た、倒しに来たってどういうこと・・・てか名前ダサっ!」

 

「あー・・・それは僕も思いました。」

 

すると突然ローズチサトの表情がめちゃくちゃ怖くなった。

 

なんなら後ろのキャメリアホムラまで怯えている。

 

「・・・魔法少女であり、私の名前を馬鹿にしたあなたを生かしておけないわ。さようなら美竹蘭、それとおまけくん。」

 

おまけ・・・あ、僕のことか。

 

「美竹さん、早く変身を!このままだとあなた達共に死ぬわよ!」

 

「とりあえずどうにかしてください!このままだと僕もあなたもあそこで怯えている炎も助からないですよ!」

 

「けど呪文的なやつ知らないし・・・」

 

するとどこからともなくスケッチブック(カンペ)が飛んできた。

 

そこには『これが変身の呪文だよ〜ファイト〜モカ神様』と書かれていた。

 

「・・・っ!あのモカ駄女神!変な時に変なもの渡さないでよ!」

 

「そう、その呪文よ!早く変身して!」

 

「わ〜頑張れ〜」

 

スケッチブックとともに飛んできたモカ神様特製応援旗を手に応援する。

 

これぐらいしか本当にやることなさそうなのだ。

 

「・・・やるしかないか・・・『シュトーレン、イスト、ブロート』!!罪を憎んでパンを憎まず!魔法少女マジカルラン参上!」

 

呪文とともに美竹さんの体が光って変身する・・・と思ったのだが。

 

「・・・見た目変わってませんけど?」

 

「・・・恥ずかしいんで見ないでください。てかこれホントに変身できてるの?」

 

「変身できてるわよ!だってその・・・オーラがすごいものオーラが!」

 

そうは見えないが・・・

 

「ぐっ・・・なんて凄いオーラなの!」

 

あちら様(ローズチサト)には見えるようだ。

 

時間()が無い!直ぐに必殺技を!」

 

「いや、知らないし!」

 

「スケッチブックの次のページ!おまけさん!」

 

「は、はい!」

 

応援旗を投げ捨ててディレクターのようにスケッチブックを構える。

 

「えっと・・・『母なる大地より生まれし小麦よ。大海の水によって練られ、地獄の業火に焼かれし者よ。仮初めの肉体を捨て、我が前に真なる姿を示せ!ヴァイツェン・ミッシュブロート!』(棒読み)」

 

カンペのためすごい棒読みだが、美竹さんの手からビーム的なものが飛び出し、2人組に直撃した。

 

「うわー、やーらーれーたー。」

 

「ぐっ・・・まさかこれほどとは・・・ぬかったわね・・・」

 

方や少し嬉しそうに方やめちゃくちゃ悔しそうに消滅し、その場にパンが残った。

 

すると突然地響きが起こった。

 

「うわっ、じ、地震?!」

 

『少年に蘭よ・・・よくパンを揃えてくれた・・・モカ神様は嬉しく思うぞ〜ではサラバだ〜』

 

僕と美竹さんの目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「・・・はっ!」

気がつくとそこはベッドの上だった。

「なんだ夢か・・・」

ほっと胸を撫で下ろす。

なんかすごく疲れた。

時間を見るとそろそろ出る時間である。

「・・・さて、そろそろ行きますか。」

僕は荷物をまとめて家を出た。














移動中、商店街の前を通った時だった。

「あ、九条さん。」

「あ、美竹さんに・・・モカか・・・」

そこには美竹さんとモカがいた。

「あれれ〜もかちゃんにはなんでそんな疲れたような目で見られるんですか〜?」

「ちょっと・・・色々あって・・・」

すると美竹さんが腕を引っ張って耳元に話しかけてきた。

「もしかしてあの夢見ました・・・?」

「あ、もしかして美竹さんも?」

「あたしも見たんですけど・・・やっぱりモカは知らないようです。」

「そ、そうですか。よかった・・・」

「ほんと、そうですよ・・・」

二人揃ってため息をつく。

「あれ?いつからそんなに仲良くなったんです?」

「その・・・あはは・・・」

「モカには関係ないこと。」

「そんなぁ〜しゅーん・・・」

モカが軽く凹む。

しかしこれもいつもの事である。

「さて、僕はRoseliaの練習に行くので。それでは。」

「はい、さよなら。」

「お疲れ様でーす。」

2人が手を振る。

その場を立ち去ろうとした時だった。

「いやぁ、楽しかったね。魔法少女マジカルラン?」

「「えっ?」」

・・・モカ神様は実在していたようでした。

Fin


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番外編 多色と女優の狂想曲(前編)

蘭欲しさにガチャ回したらピュアタイプの香澄が出た隠神カムイです。
貴様三人目だぞ!何度も出てきて恥ずかしくないのか!(残りクールタイプで香澄全タイプ揃う)
なお、ポピパはこれで7人目(香澄x3 有咲ⅹ2 紗綾ⅹ2なお、紗綾は1人被ったから3人引いてるからこれ合わせると8人引いてる)
そんなに私をキラキラドキドキさせたいのかぁ!

・・・ということで前書きだけでもなく本編も今やってるNeo-Aspectから脱線して炎と千聖メインのお話です。
本当はNeo-Aspect終わってから書くつもりがこちらのお友達さん達から「はよ書け」と押されまくったのでこちらになります。
いや、最近脱線多いのわかってるよ?こっちもNeo-Aspect進めたいよ?でも逆らえなかったのよ(気持ちをお察しください)・・・

まぁ、これでなぜ炎が千聖さんに目をつけられたのか書けるんですが。

てなわけで本編どうぞ!


「ちょ!ちょっとまて!落ち着け千聖!」

 

「私この前からこの日は仕事あるから委員会の仕事頼むって言ったわよね!それを何?忘れてそのまま私の事務所に来てたですって!」

 

「だってそっちのプロデューサーさんに呼ばれたんだし!そもそも頼まれてたのを忘れて・・・あ。」

 

「結局忘れているじゃない、お説教が必要かしら?」

 

「たのむ!それだけはスト・・・ ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

・・・ああ、どこからか聞きなれた御二方の声が聞こえる。

 

3月も終わりに近づいてきた某日、終業式を三日前に控えた僕はいつも通り学校に来ていた。

 

いつも通りの朝、いつも通りの教室、そしていつも通り響き渡る炎の悲痛な叫び声。

 

「・・・ご冥福をお祈りします。我が友よ・・・」

 

「さすがに・・・死んでないよね・・・?」

 

「わからないよ?あの言い方だと白鷺さんめちゃくちゃ怒ってたから。」

 

「陰村さんも懲りませんね・・・何故あそこまで怒られるのでしょうか?」

 

言われてみたら確かに気になる。

 

炎が転校してきた数日後にはあんな関係だった気がする。

 

少なくとも僕が母親と最後に話したあの日の昼の屋上、その時に見せた白鷺さんの鬼のような笑顔は今でもしっかり覚えている。

 

あの日は炎が転校してきて1週間ほどたった頃なのでたった1週間で炎が白鷺さんに目を付けられていたことがわかる。

 

僕が入院している間に何をしでかしたのかわからないが、丸山さん以外にはまあまあ優しい白鷺さんがあそこまで怒るほどである。

 

よっぽどの事をやらかしたのだろう。

 

・・・まあ、炎ならやらかしかねないが。

 

「今日は練習ない日だし、僕の方から後で聞いてみるよ。どうせ炎僕の家に来るだろうし。」

 

「わかりました、よろしくお願いします。」

 

「そうだ奏多くん・・・あの日の埋め合わせ・・・」

 

「あ、うん。予定が決まり次第また連絡するよ。」

 

そこまで言うと予鈴のチャイムが鳴った。

 

一時間目は選択授業なので移動しなければならない。

 

次の授業は僕と紗夜は同じ教室なのだが燐子は別の教室なので別れなければならない。

 

「そのことはまた後でしっかり話すよ。とりあえず移動しよっか。」

 

「うん・・・またあとでね。」

 

「九条さん、行きましょうか。」

 

用具一式を手に取り、移動を始める。

 

すると珍しく紗夜から質問をしてきた。

 

「九条さん、さっき白金さんと話していたのって・・・」

 

「えっと・・・今度燐子とショッピングモールで映画を見に行く約束していてさ、その映画NFOのストーリーシナリオを書いている人が脚本しているから面白そうだし見に行こって。でも公開日にバイトのシフトが入っちゃってほかの日にしようって話してたんだ。」

 

「なるほど・・・ちなみに九条さんはその事をどう思いますか?」

 

紗夜が少しよくわからない質問をしてくる。

 

「どうって・・・映画を見に行く?」

 

「えっと・・・他には?」

 

「え?映画を見に行く以外に何かあるの?」

 

すると紗夜はめちゃくちゃ呆れたような顔をする。

 

何か変な事言ったのだろうか。

 

「九条さん、世間一般ではその事を『デート』と言うと思いますが?」

 

・・・へ?

 

これが?みんなの言う?デートぉ?!

 

「・・・・・・・・・!!」

 

もう焦りすぎて言葉が出ない。

 

紗夜は軽くため息をついた。

 

「あなたといい白金さんといい本当に似たもの同士ですね・・・実は白金さんにも同じことを聞いてそう言ったのですが全く同じ反応をされました。そんなに顔を赤くしなくても・・・」

 

「・・・でも・・・そういうのさ・・・初めてだし・・・」

 

「あなた達私が日菜のプレゼントを探す時も一緒にショッピングモールにいましたがそれもデートというのです!とにかく映画に行く日は男性であるあなたがエスコートするように!」

 

「は、はい・・・」

 

なんだかんだ僕も紗夜にこうして説教をされる回数が増えている気がする。

 

この時だけ炎の気持ちが少しわかったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり放課後、家でレインの相手をしているとインターホンがなった。

 

僕の予想が正しければ・・・

 

「はい?」

 

『おっす!炎だ!』

 

「わかった、ちょっと待って。」

 

すぐに玄関の扉を開く。

 

親父が亡くなって完全に一人暮らしを始めてからこうして家に人が来る日が多くなってきた気がする。

 

炎にRoseliaのメンバー以外にも戸山さんと市ヶ谷さんペアやAfterglowの人達、日菜さんに薫さんも来る。

 

なんだかんだでガールズバンドパーティメンバーの集会場や憩いの場として扱われてきているのだ。

 

賑やかなのは嫌いではないのでこうして役に立っていると考えると嬉しいものだ。

 

というか炎は家庭の関係上部活に入ってなく、夜まで親が帰ってこないのでこうして遊びに来るわけである。

 

「お邪魔しまーす!いつも悪いな。」

 

「ううん、今日はオフの日だしさっきまでレインの相手をしてただけだったから。」

 

「ミャー」

 

レインが炎の足元によってくる。

 

もはや常連と化した炎はレインにめちゃくちゃ懐かれている。

 

何とかは動物に好かれると聞いたことがあるが炎は確かにその『何とか』に入ってしまうのだろう。

 

「そうだ炎、今日も白鷺さんにめちゃくちゃ怒られてたねー。」

 

「あー・・・あれは俺が悪いって言うのもあるけど・・・千聖も怒りすぎだろ・・・胃に穴あくぞあいつ。」

 

「その原因作ったのは誰かなー?」

 

「・・・はい、俺です・・・」

 

「わかればよろしい。」

 

炎に作り置きしていたマフィンを手渡す。

 

炎は顔を輝かせるとマフィンにかぶりついた。

 

話の流れに合わせてあの質問を聞く。

 

「ねぇ、炎。前々から気になってたんだけどなんで炎は白鷺さんに目を付けられてるの?僕が知る限り転校してきて一週間後には目を付けられてたけど。」

 

「ん?ああ、奏多は入院していてわからなかったと思うけど目ェ付けられたの転校して来た次の日から。」

 

「え、そんな早かったの?!何したのよ!」

 

「あー・・・それを話すと長くなるんだけどさ・・・」

 

炎はその日のことを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が転校してきて一晩がたった。

 

転校初日には俺の委員会決めやほかのことを決めていた。

 

席は窓際の一番後ろで隣の席の松原花音ってやつに話しかけてすぐに打ち解けた。

 

なんでもドラムが得意で世界を笑顔にするバンドに入っているのだそうだ。

 

面白そうなバンドもいるものだ。

 

そして委員会は文化委員となり、そこではもう1人別のやつと組むこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人の名を『白鷺千聖』と言った。




流れを考えて2つに分けることにしました。

Neo-Aspectはこれが終わり次第絶対やるので・・・お待ちください

では次回をお楽しみに!


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番外編 多色と女優の狂想曲(後編)

はい、前回の続きです。

早く書き終えてバンドリのランキング頑張ります!(ただいま5000位代)

では番外編ラストどうぞ。


次の日、俺は自分のクラスではなく隣のB組に顔を出していた。

 

目当ては昨日の放課後に友達になったこの学年唯一の男子生徒、九条奏多を尋ねに来たのだ。

 

放課後の職員室で母さんを待っている時に荷物を職員室に運んでいた奏多を少し手伝った後に話をしたらすぐに意気投合した。

 

その後少しだけ母さんと話をしたようだが母さんは彼をいい友達だと言ってくれた。

 

それで当の奏多は体調を崩して休みらしい。

 

彼は料理が上手いらしく、その手料理を今日食べに行こうかと考えていたのだが・・・

 

代わりに奏多のバンドメンバーだという2人と昼休みに屋上で話すことになった。

 

とりあえずこれで奏多のことについて色々知れるだろう。

 

・・・まぁ、そこから色々な問題に巻き込まれたのだがそれは別の話だ。

 

とにかく俺は昼休みを待つにもその間にはHRなり授業がある。

 

そして事件はそのHR後に起こったのだ・・・

 

 

 

 

 

「・・・はい、それじゃあHRはこれで終わります。1時間目は移動教室なので素早く移動しましょう。」

 

担任の先生がそう言った。

 

そのためわらわらとクラスメイト達が準備したものを持って教室から出ていく。

 

俺もその流れに乗って出ようとした時だった。

 

「・・・あ、ルーズリーフ忘れてる。」

 

ノートではなくルーズリーフ派の俺はルーズリーフ用のファイルや筆箱等を持っていながらもルーズリーフを机の中に入れっぱなしなことを思い出した。

 

勉強は苦手だが提出物や授業態度さえなんとかしておけば赤点は免れる。

 

しかしルーズリーフがなければ板書ができない。

 

ファイルなら後でルーズリーフを挟めばいいのだが肝心のそれがないのは厳しいので取りに戻ろうとする。

 

すると流れに逆らおうとしたせいか誰かの足が引っかかった。

 

「うわっ!!」

 

咄嗟のことでバランスが取れない。

 

しかし幸運なことに俺がいたのは列の最後尾あたり、倒れるのは自分だけで済む!

 

・・・と思った矢先、目の前に誰かがいた。

 

こうなってしまった以上俺は何もすることが出来ない。

 

とりあえず倒れる瞬間声だけ掛けてみた。

 

「危な・・・!」

 

「え・・・?きゃっ!」

 

二人揃って倒れる。

 

なんとかその子に乗っかからないように手に持っていたものを投げ捨てて両手を下に構えようとする。

 

そして二人揃って盛大にコケた。

 

なんとか両手両膝をついて四つん這いになるように倒れたのでその子にのしかからなかったが両手両膝に衝撃が走ってじんじんする。

 

とりあえずその子に声をかけてみた。

 

「いつつ・・・大丈夫・・・か・・・?」

 

「ふええ・・・こ、こっちこそごめん・・・?」

 

ぶつかった相手は花音だった。

 

そして奴は最悪のタイミングに現れた。

 

「花音?何かあった・・・の・・・?」

 

金髪のすらっとした人、彼女は同じ委員会の白鷺千聖その人だった。

 

「陰村くん?何をしているの?」

 

昨日話した時以上に低いトーンで話しかける。

 

その低さでわかった・・・俺、彼女に絶対適わない・・・!

 

「え、えっとこれは・・・不慮の事故で・・・」

 

「不慮の事故でそうなるかしら?」

 

確かに花音は倒れていて俺はその上から四つん這いになっている。

 

傍から見ればそう思われてしまうだろう。

 

俺だって多分そう思う。

 

とりあえずこのままでは絶対説得力がないので花音の上からどいた。

 

花音は少し顔を赤らめながらも弁解してくれた。

 

「ち、違うの千聖ちゃん!これは本当に事故で・・・」

 

「花音は少し落ち着きなさい、私、彼にしっかりと話をしないといけないから。」

 

花音に対しては笑顔を見せるがその笑顔がめちゃくちゃ怖い。

 

花音も「ふええ・・・」と言って下がってしまった。

 

そして俺は蛇に睨まれた蛙みたいに動かなくなっていた。

 

「とりあえずあなた、花音に言うことがあるんじゃないの?」

 

「は、はいっ!ま、松原さん本当にすみませんでしたっ!」

 

「ええっと・・・うん?」

 

花音が少し引き気味に返事を返す。

 

だってこれぐらいしないと目の前の御方が何するかわかんないし!

 

「・・・まぁいいわ、今回は不慮の事故ってことにしてあげる。けど次に花音に怪我でもさせたらただじゃおかないからね。それと・・・」

 

「それと・・・?」

 

「陰村くん、彩ちゃんより危険なにおいするし目をつけておくから。ちょうど委員会も同じだし。」

 

この瞬間、俺のハイスクールライフにお目付け役が着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ってなことがあったんだよ。」

 

「そっか・・・入院してる間にそんなことが・・・でもそれ原因明らかに炎じゃん。」

 

炎の話を聞き終え、率直に感想を言う。

 

炎は軽く溜息をつきながらグラスに入ったコーラを飲んだ。

 

「・・・でもあれは不慮の事故だったんだよ。たしかに俺は少し鈍臭いけどさ・・・」

 

「少しじゃないと思うけど・・・」

 

たしかに炎は所々で何かをやらかすタイプの人だ。

 

天然バカとも言える炎はちょくちょく委員会の仕事を忘れるし教科書や弁当などを忘れることもしばしばある。

 

まぁそれならお目付け役がついても仕方ないだろう。

 

でも僕は少し疑問が湧いた。

 

なら何故、炎はその天敵である白鷺さんのいる芸能事務所なんかに行っていたんだ?

 

「ねぇ、なんで炎は芸能事務所なんかに行っていたんだ?確か今日怒られた原因それだったよね。普通あそこ関係者以外立ち入り禁止だろ?」

 

「あぁ、前にも言ったけど芸能事務所のお偉いさんに気に入られたんだよ。千聖が早退した時、あいつ机に台本を忘れてよ、花音にバイトがあるから私は届けられないから届けてくれって言われてさ。ぶつかった時の謝礼もしっかり出来てなかったから仕方なく持っていったらたまたま受け付けに事務所のお偉いさんがいて話したら気に入られたんだ。」

 

炎が普通にそう言った。

 

しかし初対面の、しかも年上のお偉いさん相手によく普通に話せるな。

 

これも炎の、天性の才能だろう。

 

人懐っこい犬みたいなやつだ。

 

「そこでだ、今度またその事務所に用があるんだけどこの日着いてきてくれねぇか?今日みたいに千聖になんか言われた時の弁護役が欲しいんだよ。」

 

炎が自身のスマホのカレンダーを見せる。

 

その日を確認したがその日は・・・

 

「あーごめん、その日燐子と出かける予定入ってる。」

 

「え?まじ!?ズラすの難しそう?」

 

「うん・・・1度ズラしてこの日にしたからもう一度ズラすのはキツイかな・・・」

 

「そうか・・・なら仕方ないか。」

 

「というかそこに何しに行くの?聞いた感じ白鷺さんなんで炎が事務所に行ったのか知らなかったようだけど。」

 

「ああ、それは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏多に『理由』を話してから日が経ち、4月6日。

 

俺は芸能事務所の一室に来ていた。

 

そこには俺以外に彩、イヴ、日菜、麻弥の千聖を除くPastel*Paletteのメンバーと補佐係のスタッフさんがいた。

 

事前の打ち合わせで『計画』はバッチリ進行中、千聖にここにちまちま来ていることはバレてしまったが多分この計画まではバレていないだろう。

 

すると彩が話しかけてきた。

 

「・・・ねぇ、ホントに炎くん来て大丈夫だったの?千聖ちゃんには色々言われているのよく見るし・・・」

 

「正直にいえば・・・大丈夫じゃないかもしれない。けどあいつは俺の事をしっかり見てくれてるし、手助けもちょくちょくしてくれるからそのお礼ぐらい伝えないと。」

 

「カゲローさんとチサトさんが話しているのをよく学校で見てます!」

 

イヴがそう言った。

 

イヴには初対面の時、名乗ったら『陰村炎』から村を抜くと『陰炎(かげろう)』と読めるので

 

「あなたはニンジャの末裔なんですか!」

 

と言われたのをきっかけに『カゲロー』と呼ばれている。

 

「へぇー、炎くんと千聖ちゃんってそんなに仲良いんだー!」

 

「日菜さん、多分仲がいいってわけじゃないと思うんすけど・・・」

 

「『喧嘩するほど仲がいい』って言うし!」

 

喧嘩というよりかは一方的な威圧力なのだが・・・

 

すると監視役の人からすぐに千聖が来ると連絡が来た。

 

全員が千聖が来るのを待つ。

 

するとノックの後、ドアノブを捻る音がした。

 

「・・・失礼します、白鷺千聖入りま・・・」

 

「「「「千聖ちゃん、お誕生日おめでとう!!」」」」

 

全員がクラッカーを鳴らす。

 

千聖は面食らっているようだった。

 

「み、みんなありがとう・・・!って、陰村君までいるの!?」

 

すると突然背中を押された。

 

押した犯人は日菜のようだ。

 

「なんか炎くんが言いたいことあるんだって!」

 

「え?ちょ!・・・まぁいいや。」

 

「い、いいんだ・・・」

 

彩がツッコミを入れるが軽く流して千聖に話しかけた。

 

「え、えっと・・・まずは誕生日おめでとう。学校とかだとめちゃくちゃ迷惑かけてるけど、それでも俺は感謝している。自分が鈍臭いから何をしでかすかわからないのにそれを見ていてくれているのは俺からしたら本当に感謝しかないんだ。だからほんとうにありがとな!」

 

千聖に精一杯の感謝の言葉と笑顔をみせる。

 

すると千聖はクスッと笑うと話し出した。

 

「たしかにあなたの相手は疲れるけど、その分楽しませてもらっているわ。これからもよろしくね、陰村くん。」

 

周りから拍手が起こった。

 

そこからはプレゼントを渡したり写真を撮ったりと色々した。

 

・・・まぁ、カメラマンは俺がやったのだが。

 

そしてパーティーも終盤に差し掛かってきたところだった。

 

「そうそう!4月の初めに私変な夢見たんだけどさ、なんかAfterglowのモカちゃんが神様になってて私モカちゃんが作った世界で悪党のボスやってたんだ〜」

 

「何それ〜変な夢〜!」

 

日菜がお腹を抱えて笑う。

 

・・・少し違うけど俺もそんな夢見たぞ?

 

「あー、俺もそんな夢見たー。魔法少女を相手に戦う敵のボスの下っ端してた。それでそのボスがさ〜名前が酷くてさ〜確かローズチサ・・・」

 

そこまで来て何かを感じとって話を止める。

 

隣を見ると千聖がものすごい笑顔を見せていた。

 

()()()()()()()()()を・・・

 

「「ひぃっ!」」

 

俺と、普段千聖に怒られることがある彩が怯えた声を上げる。

 

周りは「あちゃー・・・」とこちらを見ていた。

 

「名前を笑ったわね?」

 

「・・・はひ?」

 

「あの名前・・・結構気に入っているんだからっ!」

 

すると女の子が出すものでは無い拳が頬目掛けて飛んできた。

 

それを俺は交わすことが出来ず、直撃した。

 

「ちょっ・・・なんでさぁぁぁぁ!!」

 

・・・こうして千聖の誕生日パーティーは盛大な拳と共に幕を閉じたとさ。

 

……To be continued




どうでしたでしょうか?

とりあえずしばらくは番外編はなさそうなので・・・

次回から再開するNeo-Aspectもお楽しみ!


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宇田川あこ誕生日特別編 誕生祭2019!

Happybirthdayあこちゃん!

ということで久々にやります特別編

今回、宇田川あこ=大魔王との事なので、魔王なあれをベースにやろうと思います・・・(もうひとつの小説知ってる人ならわかるはず)


ということで本編どうぞ!


─────この本によれば、普通(?)の女子高生宇田川あこ。

 

彼女には大魔姫にしてRoseliaのドラマー、超大魔姫あこになる未来が待っていた。

 

そして本日は宇田川あこ生誕の日。

 

湊友希那を筆頭とするRoseliaは、秘密裏にその計画を準備していた────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、何気ない日曜日の朝。

 

最近の練習は主に昼からが多いので、午前中はかなりゆっくりしている。

 

そして最近日曜日の朝に楽しみにしているものがある。

 

・・・そう、『朝のヒーロータイム』である。

 

小さい頃から特撮は好きだ。

 

男の子なら誰だって1度は憧れるだろう。

 

そして、朝のヒーロータイムにもふたつの作品がある。

 

『戦隊モノ』と『ライダーモノ』だ。

 

『戦隊モノ』は名前の通りヒーロー達がひとつのチームを組んで、悪に立ち向かう王道のストーリー。

 

『ライダーモノ』は何らかのきっかけで力を手にした主人公が主に1人で戦うストーリーだ。

 

その中で僕は『ライダーモノ』を好んでみている。

 

最近の特撮は子供向けでもあるが、大人や僕みたいな青年でも楽しめる内容となっており、その人間ドラマに心をうたれることもある。

 

そして今日は、その『ライダーモノ』の新しい作品の第1話の放映日なのだ。

 

あらすじとしては、普通の男子高校生が将来、最低最悪の魔王になってしまうので、それを止めに来た未来人と、主人公を魔王に導こうとする男性の力によって手に入れた魔王の力で『最前最高の魔王』を目指すことを決めた主人公のストーリー・・・らしい。

 

正直初見ではわからなさそうなあらすじだが、見ればわかるというものだろう。

 

そしてようやく、放送が始まった。

 

楽しむ気持ちを抑えながら、僕はテレビに目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し流れてお昼。

 

午後からの練習も性が出てきた。

 

たしか、FWFの一次地区予選の申し込みも近づいてきた頃だったはず。

 

みんなそれに向けて力を入れるのもわかる。

 

しかし、まだ梅雨も明けてないこの季節、エアコンを効かせているとはいえ、湿気ばかりはどうにもならなかった。

 

全員の額に汗が見える。

 

そろそろとめた方がいい。

 

「それじゃあここいらで休憩入れよう。暑くなってきてるから熱中症も気にしないと。」

 

「そうね、休憩入れましょう。」

 

「ふぃー・・・暑っつい!」

 

「とにかく水分を取りましょう。」

 

休憩に入り、全員に水と塩飴を渡す。

 

最後にあこに渡すと水を一口飲んでから話しかけてきた。

 

「奏多さん、奏多さん!」

 

「ん、どうしたあこ?」

 

「奏多さんって、特撮とか見るんですか?」

 

「結構見てるよ。男子だしいつまで経っても気になるもんだからねー」

 

「なら今日のみました?ジオウ!」

 

「おー、見た見た。結構面白かったよね。顔にライダーはやり過ぎかなって思ったけど、かなりかっこよかったね。」

 

「あこは、『魔王』って響きが良かったです!あーあ、あこもあの主人公みたいに導かれたいなー!『祝え!彼女こそは超大魔姫あこなるぞ!』って!」

 

「あはは・・・」

 

あこの中二発言に少し苦笑する。

 

すると、スマホに着信が入った。

 

確認すると友希那からだった。

 

『今日練習の後、少し話がある』

 

のそれだけだった。

 

あこが気になって聞いてきた。

 

「どうしたんです?」

 

「うん、友希那から練習後呼び出し。たぶん気になったことでもあったんだよ。」

 

「そうなんです?あこ、練習後予定あるから見に行けないんですよね・・・」

 

「そっか・・・とりあえず休憩終わるし、戻ろうか。」

 

「はい!よーし、このあとも頑張るぞ!」

 

あこが張り切って自分の位置に戻る。

 

友希那が呼び出した理由はたぶん気になった点じゃない。

 

その理由は薄々気づいてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先、失礼しまーす」

 

そう言ってあこは先に帰って行った。

 

残った僕達は円卓状の机を取り囲むように座った。

 

「・・・さて、みんなに集まってもらったのは他でもないわ。・・・あこの誕生日よ。」

 

「宇田川さんへのプレゼント・・・白金さん、準備できてますか?」

 

「はい・・・こちらに・・・」

 

そう言って燐子はカバンから箱を取りだした。

 

中にはカッコイイアクセサリーが入っていた。

 

「燐子に頼んで正解ね。けど・・・」

 

「うん、あこは私たちが祝ったら普通に喜びそうだけど、どうせならもっと嬉しそうな顔みたいよね〜」

 

そう、()()()祝うだけじゃ面白みがないのだ。

 

あこにはNeo-Aspectの時やNFOの時にかなりお世話になっているので、全員で感謝の気持ちをドーン!とぶつけたいのだ。

 

「あこが気に入りそうな演出があればいいのだけども・・・」

 

「宇田川さんみたいにあれをやるのは私たちには向いてないですし、ぶっちゃけやりたくないです。」

 

「私も・・・あこちゃんから時々頼まれますが・・・自分で言うのはちょっと・・・」

 

まぁ、抵抗あるだろう。

 

あれはあこがカッコイイと思ってやっているのだが、正直他の人からしたら少し恥ずかしく感じてしまうのだ。

 

「ソータ〜なんかいい案ない?」

 

「えっ?うーん・・・」

 

そんな突然言われても困る。

 

とりあえず考えてみると、僕はさっきの会話を思い出した。

 

・・・あれやったら、あこ喜ぶんじゃない?

 

「・・・ひとつだけ、あるけど・・・聞く?」

 

「とりあえずどんなものか聞きましょう。話はそれからです。」

 

「うん、えっと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・結論から言えば、その案は可決され、今日に至る。

 

さらに言えばその案で一番重要な『導き手』役はこの計画の発案者である僕におしつ・・・任された。

 

さて、いつも通り練習をして本番である。

 

「みんなお疲れー、僕はこの後予定あるから先に失礼します。ミーティングは鍵渡してあるから自由に使ってー。」

 

あこの誕生日が、たまたま僕の家でミーティングをやる予定だった日なので、それに合わせて作戦をねってきたのだ。

 

僕は用事を偽り、事前準備。

 

他のみんなであこを僕の家まで連れてきて、いっせいに祝うという作戦だ。

 

さて、僕はこの作戦で重大な役だ。

 

燐子にも衣装を渡されているし完遂させなければ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子side

 

今日はあこちゃんの誕生日。

 

なので、みんなでお祝いすることになった。

 

奏多くんが考えてきた作戦は最初少し戸惑ったけど、たしかにあこちゃんそういうの好きだし、私たちは盛り上げるだけでいいので、その作戦が決行された。

 

少し意外だったのは、その作戦に氷川さんがなぜか乗り気で、「やるのであれば、衣装もあった方がいいですね。」との事で初めて奏多くん用に衣装を仕立てあげた。

 

個人的には奏多くんの服を仕立てることが出来たのでもう十分満足なのだが、今日のメインは私じゃない。

 

「・・・で、そこで初めてジオウが敵のアナザーライダー倒して〜あれ、りんりん?聞いてる?」

 

「あ・・・ごめん、あこちゃん・・・」

 

「どうしたのりんりん、ぼーっとして、考え事?」

 

「う、うん・・・そんなところかな・・・」

 

「あ、そろそろ奏多さんの家着くし、そこでみんなに相談してみたら?」

 

「うん・・・そうしようかな・・・」

 

そんなことを考えていたらいつの間にか奏多くんの家についていた。

 

さて・・・ここからが本番である。

 

友希那さんが扉を開けた。

 

あえてあこちゃんを最後にし、中に入っていく。

 

真っ暗な部屋の中、私たちはクラッカーを構えた。

 

「あれ、なんで電気つけないんです?つけますよー。」

 

あこちゃんが電気をつけた瞬間、私たちはクラッカーを鳴らした。

 

「「「「「あこ(あこちゃん、宇田川さん)、誕生日おめでとう!」」」」」

 

「うわっ!びっくりした〜!でも嬉しい!ありがとうございますっ!」

 

あこちゃんが驚きながらもよろこんでくれた。

 

しかし、ここで終わりじゃない。

 

「これだけじゃないよ〜頼んだよ、ソータ!」

 

「奏多さん今いないんじゃ・・・」

 

すると扉が勢いよく開き、深緑の服に黒いマフラーを巻いて髪をワックスで上にあげた奏多くん(それに肩にレインがおまけで乗っていた)が現れた。

 

「静まれ!魔王の凱旋であるぞ!」

 

「にゃー!」

 

「そ、奏多さん!それにその衣装・・・もしかして!」

 

あこちゃんがいつも以上に目を輝かせる。

 

カッコイイものを初めて見た時に見せるような目だ。

 

「ふふっ・・・祝うにはこれじゃないとね、それじゃあ・・・コホン・・・ハッピーバースデー、祝え!全ドラマーの頂点をめざし、時空を超え過去と未来にその音を響かせるRoseliaのドラマー。その名も宇田川あこ、その生誕を皆で祝うが良い!!!」

 

「みゃん!」

 

レインもノリノリで奏多くんに、息を合わせるように鳴き声を合わせる。

 

約1名、レインの方に気を取られているが、私たちは奏多くんの迫真の演技に思わず拍手が出た。

 

「まだだよ、我が魔王、これを・・・」

 

すると奏多くんが膝をつき、クッションの上に乗せられたプレゼントを差し出す。

 

「カッコイイアクセ・・・!これは?」

 

「みんなで選んだんだ。使い方はご存知のはず・・・」

 

「わーい!本当にありがとうございますっ!あこ、1度でいいからこんな感じに祝って欲しかったからめちゃくちゃ嬉しいです!」

 

あこちゃんがとても喜んでいる。

 

どうやら作戦は成功だったようだ。

 

「うん、喜んでもらえて・・・良かった・・・ケーキは・・・冷蔵庫にあるから・・・みんなで・・・たべ・・・」

 

すると突然奏多くんがふらついて近くにあったソファに座り込んだ。

 

「そ、奏多さん!?」

 

「奏多くん!」

 

「ちょっとソータ、大丈夫!?」

 

突然倒れて驚いて近づくと、奏多くんは眠っていた。

 

「だからあれほど無茶はしないでくださいと言ったのに・・・」

 

「ほんとよ・・・」

 

氷川さんと友希那さんが倒れた理由を知っていたかのような口ぶりで呆れていた。

 

「紗夜、もしかして奏多が眠ちゃった理由を知っているの?」

 

「ええ・・・九条さん、宇田川さんのためにあの役をずっと練習していて、その上徹夜でケーキを作っていたんですよ。」

 

「なんでそんなこと・・・知っているんですか?」

 

「何故か私と紗夜に聞いてきたのよ。『なんでか知らないけど2人には演劇について詳しそうだから評価してくれ』って。別に私たち演劇の才能なんてないのに・・・」

 

・・・一体、どこのレビューでスタァライトなんでしょうか・・・

 

レインが寝ている奏多くんに合わせるように奏多くんの膝でまるまって寝ている。

 

どうやらあちらはほっといた方がいいかもしれない。

 

「とりあえず、奏多はそのままにしてあげましょう。」

 

「えっと、冷蔵庫だっけ?せっかくソータが作ってくれたんだし、みんなでありがたく食べよ!」

 

「うん・・・みんな、本当にありがとうございます!あこ、一生忘れません!」

 

1人の犠牲は出てしまったが、あこちゃんが喜んでくれて何よりだ。

 

私は改めてあこちゃんにこの言葉を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あこちゃん・・・誕生日、おめでとう・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ、ボツ案

「我が魔王よ、使い方はご存知のはず・・・」

実はこっそり買っていたドライバーをあこに差し出す。

あこは全てを察したようにベルトを巻くと、ドライバーの隣に置いてあったアイテムを構えた。

『ジオウ!』

「ふっふっふ〜・・・これが、深淵の魔王の・・・変身!ドーン!」

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!』

祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去としろしめす時の王者!その名も仮面ライダージオウ!今、新たな魔王誕生の瞬間である!」

「見たか、これがあこの変身よ・・・!なんか闇の力が・・・こう・・・ドーンって感じがする!」





魔王ネタで合わせたかったけど、さすがにネタ要素が強すぎたので涙を拭ってボツに


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今井リサ誕生日特別編 ラブコメの主人公が女の子と二人きりで行動する時だいたい尾行されるけど本人は大体気づかない

リサ姉誕生日おめでとう!!
ということでやります番外編
タイトルが長いし関係なさそう?
そりゃタイトルのイメージが銀魂なんだから仕方ないよ()
時系列的には6章後となります
今にしたら内容が第2部になっちゃうからね、ご了承ください
久々の『ですます』奏多くんだー!

あこちゃんはどうなるのって?
君のようなカンのいいガキは嫌いだよ(鋼錬感)

ということで本編どうぞ!


8月25日

 

我らがRoseliaのベース担当、今井リサの誕生日である。

 

今日はその前日なのだが初めての誕生日祝いなのでなにをすれば良いのかわからないが、とりあえず今日の練習後に相談すれば良いか。

 

僕は荷物をまとめ、いつものCIRCLEへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CIRCLEでいつも通り練習を済まし、ミーティングの時間になる。

 

この時間はいつも僕が今日の練習の感じや改善点などを伝えている。

 

「それで、今回メインで練習していた陽だまりロードナイトですが、前回と比べてミスは少なくなっているものの、やはり所々の音のズレが少し気になるところですね。個人個人ではあこは前と比べて駆け足にならずにテンポを合わせれているので、その調子だと思います。」

 

「やったー!奏多さんに褒められたー!」

 

「あこ、少し静かに。確かにテンポを合わせれるようになっては来ているけどその分ミスが増えつつある。悪い所を直せても、その分増えてしまっては意味が無いわ。」

 

「ううっ・・・」

 

あこが友希那にきつい一言をあびせられてしゅんとしょげる。

 

友希那の言う通りテンポを合わせれるようになってきたが、そっちに集中してしまうせいかミスが目立ってしまっている。

 

「まぁまぁ、上手くはなっているのですからそこは認めてあげてください。紗夜と燐子は今の感じで十分だと思います。」

 

「はい・・・ありがとう・・・ございます。」

 

「いえ、今以上の演奏を出来るようにならなければ、目標なんて夢のまた夢です。」

 

燐子はともかく、紗夜が首を横に振った。

 

人一倍努力家のせいか、目標がかなり高いせいで自分のことを過小評価してしまうところが見られる。

 

そこをどうにかして欲しいとは前から思っているのだが・・・

 

「紗夜も友希那も先のことを見すぎだよ〜。とりあえず今は『前より進んだところ』と『前より悪くなっちゃった』ところを探す時間でしょ?それにしかめっ面ばかりしてたら綺麗な顔が台無しになっちゃうよ〜?」

 

「ちょっ・・・リサ・・・!」

 

「確かにその通りだけど・・・しかめっ面ばかりしてません!」

 

その言葉に友希那と紗夜が赤面し、しどろもどろに反論する。

 

彼女がいてくれるから、こうしてRoseliaの歯車は円滑に回っていける。

 

少し前のバイトの件から2人はリサに対して頭が上がりにくくなっている。

 

すると友希那が思い出したかのように話し出した。

 

「そういえば明日リサの誕生日だったわね。」

 

「友希那・・・!覚えていてくれたんだ!」

 

「幼なじみでしょ?当然よ。」

 

友希那が少し自慢げにそういった。

 

というかこんなに堂々という感じからしてサプライズとかはなさそうなのか。

 

やってみたかったので少し残念。

 

「そっかー!リサ姉明日だったね!」

 

「なにか・・・プレゼントを準備したいですね・・・」

 

「そうですね・・・今井さん、何がいいですか?」

 

「そんな気遣うことないって!みんなとこうしてバンド出来ているだけでもアタシは充分嬉しいんだから!」

 

「そうにはいかないわ。感謝の気持ちはしっかり受けとってもらわないと。なんでもいいわ、リサが今して欲しいことを言って。」

 

リサが顎に手を当ててうーんと考える。

 

すると、なにか思いついたのか目が光った。

 

「なんでもいいの?」

 

「できる範囲なら。」

 

「それじゃあ・・・明日1日、アタシにソータを貸して?」

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・?

 

「はい?」

 

「だーかーら!明日1日アタシに付き合ってもらうよ?」

 

「えっと・・・その・・・」

 

「奏多、リサのこと頼んだわよ?」

 

「えっ、ちょっと」

 

「決まりね!明日の12時にショッピングモールで!」

 

「えっと・・・はい。」

 

ということでリサへの誕生日プレゼントが『1日九条奏多を貸し出す』ことに決まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

今日はアタシの誕生日。

 

昨日みんなにプレゼントは何がいいと聞かれ、少し考えた末に『ソータを1日借りる』ことにした。

 

先に行っておくが、ソータへの恋愛感情は全くない。

 

どっちかと言うと弟みたいな感覚だ。

 

なぜこんなことをしたのか?

 

それはこの行動に対するみんなの反応を見たかったからだ。

 

男女がペアで行動するのだ、あの中にソータに対する恋愛感情があろうとなかろうと気になるはずだ。

 

あえてみんなの前で時間と場所を伝えることであのメンバーのうち、恐らくあこ以外は尾行するはず。

 

あこはそんなことをするタイプじゃないので除くけど他の3人は付けてきそうなのである。

 

紗夜とか結構慌てていたし、友希那もかなり驚いていたので十中八九尾行するはず。

 

ソータには悪いけどその状況を楽しむために一緒に来てもらうつもりなのだ。

 

そして待ち合わせの10分前にショッピングモールに着くと、そこにはもうソータがいた。

 

「ソータもう着いてたんだ。」

 

「ほんの数分前です。リサ、誕生日おめでとうございます。」

 

「うん、ありがとう!」

 

「ところで今日は何をするのです?」

 

「服とか見て回りたいから、ソータには荷物持ちを頼もうかと思って!昨日給料日だったし、お母さんから予算は貰っているから!」

 

「そんな力持ちじゃないですけど・・・わかりました。」

 

「それじゃあいこ・・・」

 

ふとソータの後ろを見る。

 

するとそこにはどこかで見たことある3人組が電柱のところで隠れながらこちらをうかがっていた。

 

帽子、サングラス、マスクで顔を隠しているつもりなのだろうが、髪色や雰囲気からしてすぐに友希那、紗夜、燐子だとわかった。

 

燐子がついてきたのは意外だが、みんな全く身体をかくせていないのについつい吹きそうになる。

 

「リサ?どうしたんです、ニヤケついて・・・」

 

「う、ううん、なんでもない!と、とにかく行こっ!」

 

「・・・?はい。」

 

ソータの背中を押してショッピングモールの中に入る。

 

さて、これからアタシはショッピングと尾行観察のふたつを楽しませてもらおっか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尾行side

 

「今井さん・・・なぜ昨日はあんなことを言い出したのでしょうか。男女がペアでショッピングモールなんてところ、キケンな匂いしかしませんね・・・」

 

「全くその通りよ紗夜。いくらリサの誕生日とはいえ、その・・・ど!度が過ぎる行為があるかもしれない!ここはRoseliaとして、しっかり監視しておくべきだわ。」

 

「そういえば白金さんも来るとは思いませんでした。」

 

「い、いえ・・・その・・・やはり気になってしまって・・・」

 

「2人とも、もう少し隠れて。このままじゃ、尾行がバレるわ。」

 

「そうですね。あ、2人が動き出しました!私達も行きましょう!」

 

(今井さんのあの様子・・・もうバレているんじゃないかな・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ショッピングがメインで今日は来ているのだが、まずはなにかを食べようとのことでフードコートに来ている。

 

この後体力を使いそうなのと、手軽に食べられるのでボリュームのある某Mのハンバーガーショップにすることにした。

 

ソータに座席を取ってもらっていたので、アタシはソータのいた席に座った。

 

「リサはなにを頼んだんです?」

 

「フィレオフィッシュとポテトの新作!なんか今日から発売の4種のチーズフォンデュ風味のソースだって。」

 

するとソータの後ろの方でガタン!と音がした。

 

そっちの方向を見ると紗夜が立ち上がって燐子と友希那が抑えようとしていた。

 

新作ですって!すぐに買いに行かないと・・・!

 

氷川さん落ち着いてください・・・!バレちゃいます・・・!

 

ポテトならまた後で買えるでしょ!後でみんなで食べればいいから今は落ち着いて!

 

必死に声のトーンを落としているのだろうが結構聞こえてしまっている。

 

「あはは・・・」

 

「リサ?どうしたんです?」

 

「あれ?気づいてない?」

 

「何がです?」

 

(まさかソータ気づいてないの!?)

 

ソータがめちゃくちゃキョトンとした顔をする。

 

この様子だと本気で気づいていないようだ。

 

「・・・いや、なんでもない!とにかく食べよ!」

 

「・・・?はい・・・いただきます。」

 

あれだけバレバレな尾行に気づかないとは、いつかの日にひまりが見せてくれたラブコメ漫画の主人公のようである。

 

(・・・まぁ、これはこれで面白いしいっか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて来たのはファッションのコーナー。

 

そろそろ秋にはいる頃なので、新しい秋物を見ておきたいのである。

 

「おっ、このアウターいいね!ノースリーブのトップスと合わせたら綺麗に決まりそう!あ、でもあっちのロングコートも外せないなー!あ!あの服あこに似合いそう!ね、ソータ!!」

 

「えっと・・・ファッションのことは全くなので・・・」

 

「ええ〜男子でも、ファッションに多少は詳しくなけりゃ女の子に嫌われちゃうよ〜?」

 

「そ、そんな事言われても・・・」

 

そんな会話をしていると、アタシはあることに気づいた。

 

ソータってこれまでずっと接してきたけどずっとパーカーしか着てなくない?

 

とりあえず本人に聞いてみた。

 

「ソータってさ、パーカー以外いや、フード着いてない服ってあるの?」

 

「えっと・・・あるにはありますが、制服や喪服、仕事着ぐらいしかないですね・・・それ以外ほとんどパーカーやフード付きですね。」

 

「同じ服ばかりで飽きないの?」

 

「パーカーは最強なので。」

 

そんな自慢げに話されても・・・というかんじである。

 

ここはいっちょ一肌脱ぐか!

 

「よし、じゃあアタシがソータの服見立ててあげる!」

 

「えっ!?そ、そんな訳にはいかないです!今日はリサがメインなんですよ?」

 

「そのアタシがやりたいって言ってるからいいじゃん!1度ソータの服を見立ててみたかったし!」

 

「うーん・・・じゃあお願いします。」

 

すると次はアタシの背後で物音がした。

 

後ろを見るとこちらに来ようとしている燐子を2人が精一杯抑えていた。

 

九条さんの服・・・私も見立てたい・・・!今井さんに独り占めさせたくない・・・!

 

し、白金さん落ち着いてください!いつもと様子が変わりすぎです!

 

こんな燐子・・・初めて見たわ・・・

 

1番暴走しなさそうな燐子が暴走している。

 

意外な一面を見れた瞬間である。

 

「リサ?後ろに何かあるんですか?」

 

「う、ううん!なんでもない!それじゃあお店行こうか!」

 

「は、はい!・・・ってここレディースですけど!?」

 

「ソータなら似合うからへーきだって!」

 

さて、ソータの着せ替えタイムの始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソータの可愛らしい写真を何枚も撮った後、彼のちゃんとした服とアタシの服を購入した。

 

疲れたので1度1回の大きい広場で休むことにした。

 

「いやー!楽しかったぁ!」

 

「リサ・・・酷いですよ・・・」

 

「いやぁ、思ってたより似合っていたのと定員さんも乗り気になっちゃってねー!どんどん新しい服が来ちゃって!」

 

「とにかく疲れました・・・」

 

「あははっ!ごめんごめん!」

 

腰を下ろしてひと休みしていると、アタシは壁に貼ってある張り紙に気づいた。

 

「ペットショップで・・・猫フェアだって!」

 

「猫フェアですか?友希那が喜びそうですね。」

 

「そ、そうだね・・・」

 

私はそっと後ろを見る。

 

そこにはペットショップへ直ぐに向かおうとしている友希那とそれを足止めしようとしている紗夜と燐子がいた。

 

猫フェア・・・行かなきゃ・・・行かなきゃ・・・

 

友希那さん、尾行中・・・!

 

まるでゾンビみたいに手を出して行こうとしないでください!

 

「離して!猫が私を呼んでいるのよ!」

 

「幻聴です!いつもの湊さんに戻ってください!」

 

もはや静かな声を通り越して大声になっている。

 

さすがにバレるのでは・・・

 

「猫フェア行ってみますか?」

 

気づいてなかった

 

鈍感すぎるよソータ・・・

 

「あっ!リサ姉に奏多さん!ここにいたー!」

 

すると後ろから聞きなれた声がした。

 

後ろを見るとそこにはあこがいた。

 

「あこ!」

 

「リサ姉たちどんなことしてるから気になって来ちゃった!」

 

「ただ買い物してソータで遊んだだけだよ〜」

 

「後で話聞かせて!あっ、あれって友希那さん達じゃないですか?おーいゆきなさーん!!!」

 

あこが指を指す。

 

そこにはちゃんと友希那達がいた。

 

アタシは気づいていたが、最初から気づいていなかったソータはようやく気づいたようだ。

 

「あ、本当ですね。いつの間に・・・」

 

「最初から尾行されてたの。結構バレバレだったけどね〜」

 

「そ、そうなんですか!?全く気づかなかった・・・」

 

「とりあえず皆のとこ行こうか。」

 

未だ友希那を止めようとじたばたしている3人のところにアタシ達は近づいた。

 

「ゆーきなっ!」

 

「リサ・・・!それにみんなも・・・!」

 

「最初から尾行していたみたいですね・・・」

 

「ど、どうしてその事を・・・!」

 

「みんなバレバレなんだよ〜ソータは全く気づかなかったけどね!」

 

「やっぱりバレていましたか・・・」

 

「尾行するならあこもさそってよー!尾行ってなんかその・・・闇のスパイ活動みたいで・・・カッコイイじゃん!」

 

あこの言いたいことはちょっとわからないけど、猫フェアに行くなら大人数の方が楽しいだろう。

 

アタシは友希那に手を差し伸べた。

 

「ほら友希那っ!みんなで猫のところ行こ?」

 

「リサ・・・勝手に尾行したのに・・・許してくれるの?」

 

「許すもなにも面白かったからねー!それにアタシ言ったよね、みんなと一緒にいれるのが1番嬉しいって!」

 

「リサ・・・」

 

友希那はアタシの手を握ると、にっこり笑ってこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサ、誕生日おめでとう。これからもずっと私の隣にいて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エピローグ

猫フェア向かう道中

「あの・・・今井さん・・・」

「どうしたの燐子?」

「さっき撮っていた九条さんの写真・・・貰えますか?」

「別にいいけど何かに使うの?」

「えっと・・・その・・・内緒です・・・」

(おや?これってもしかして・・・もしかする系?)

燐子の恋の予兆、ここから始まっていた


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第2回燐子誕生日特別編 ハイイロ ノ セイタンサイ

祝え!我が推し、白金燐子の生誕の日を!!!

ということでHappybirthday!!!燐子!!!
この日をどれほど待ち望んだことかっ!!!
ケーキ代は法被とパーカーとアクスタに消えちゃったからこれで許してくだせぇ・・・

とりあえず前置きなんて捨てておけ!!!
本編どうぞっ!!!


本日はめでたき日だ!

 

私の最愛の人の生誕した日だ!!!

 

さて、どう祝おうどう讃えよう!!!

 

彼女が喜びそうなこと・・・何があるだろう!!!

 

・・・おっと失礼、我を失ってましたね。

 

皆様お久しぶりです、Kaiです。

 

私のことを知らない方は無窮の狭間をご覧下さい。

 

はてさて、本日は我が最愛の推しである白金燐子の誕生日となっております。

 

正直出しゃばる気はありませんでしたが時間と尺との関係で出ることになりました()

 

さぁ、無灰のキャラ達よ!そして読者の方々よ!この日を盛大に、そして永遠に祝うがいい!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること半年前。

 

僕は友希那に呼び出されていた。

 

みんなが練習に来る前、CIRCLEのいつものスタジオに僕と友希那はいた。

 

「呼び出しって珍しいね。何かあったの?」

 

「ええ、少し聞いておこうと思って。あなた、今年の燐子の誕生日はどうするつもりなの?」

 

僕はその質問に対して顎に手を当てて考えた。

 

去年はサプライズでいったので今年もサプライズでいいかもしれないけど・・・

 

とりあえず燐子が欲しそうなものを考えて、僕はひとつの答えを導いた。

 

「今年の夏に行われるNFOのリアルイベントの会場先着1万名限定特別シリアルコード付き『ファーリドラコート』イメージコートにしようかと。」

 

それを言うと友希那は片手で頭を抑えながらため息をついた。

 

「奏多・・・一応聞くけどどうやって手に入れるつもり?」

 

「早朝から並んで買います。」

 

「あのねぇ・・・そんな時間から並んで買ったことを燐子が知ったらどう思うのよ。」

 

「うぐっ・・・」

 

「別に買いに行くことを否定してるわけじゃないわ。あなただって欲しいだろうし。でも燐子はあなたの事とても気を使っているわ。この前それでお互いのこと気にしすぎて喧嘩になったじゃない。燐子に良いものを渡したいという気持ちはわかるけど、少し考えましょう。」

 

「ううっ・・・はい・・・」

 

「だから、燐子が喜ぶ『物』じゃなくて燐子が喜ぶ『もの』を探してみたらどうかしら?別に形に残るものじゃない、ひとつの思い出でも喜ぶものよ?」

 

「喜ぶ・・・もの・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから悩みに悩んで今日に至る。

 

行くぞ九条奏多、財布の貯蔵は十分か・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は練習がお休みの日であり、私の誕生日です。

 

私はこの日に奏多くんに少し出かけないか?とさそわれている。

 

去年みたいなNFO設定原画集完全版の特別仕様のような貴重な品ではなさそうなので少し安心した。

 

私は軽く準備を整えると玄関の方に向かった。

 

そこにはもう奏多くんがバイクと一緒に待っていた。

 

「奏多くん、おはよう・・・」

 

「おはよう燐子、誕生日おめでとう。」

 

「うん、ありがとう・・・今日はどこに行くの?」

 

「まぁ、行ってのお楽しみ?ってやつ。とりあえず乗って、こんな大切な時間を無駄にしたくない。」

 

そう言われると気恥しいものである。

 

奏多くんはたまに無意識でこうなるのが玉に瑕というかなんというか・・・

 

私はヘルメットを受け取ってしっかり装着し、バイクの後ろに股がった。

 

奏多くんの腰に手を回してしっかりつかまると、バイクを発進させた。

 

私はこうして奏多くんと近づけるだけでも十分幸せなのだが、これからどこに行くのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子を連れてたどり着いた場所。

 

そこはいつものショッピングモールだった。

 

燐子の様子を見ると少し驚いた様子だった。

 

「燐子?どうかした?」

 

「ううん・・・ちょっと意外だなって・・・もっと凄いところに連れていくのかと思って・・・」

 

「そっちの方が良かった?」

 

「ううん、こっちの方が・・・私も楽できるかな・・・」

 

とりあえず中に入って中央広場を目指す。

 

中央広場にはもうほかのメンバーは来ていたようだ。

 

「あ、きたきた。おーい、ソーター!」

 

「奏多さーん!りんりーん!」

 

「2人とも声が大きいです。店内ではもっと静かに・・・」

 

「ともかく燐子、誕生日おめでとう。」

 

「友希那さん・・・それにみなさん・・・!」

 

「さて、今回燐子に対するプレゼントはね、ここにいる5人の服をコーディネートして欲しいんだ!予算上限は特になしで!」

 

「コーディネート・・・!それに予算上限無しって・・・」

 

燐子の目がキラキラ輝いている。

 

Roseliaの服飾を担当する燐子ならこれは食いつくと思って今回これにしたのだ。

 

「で、でもいいんですか・・・?予算上限無しって・・・」

 

「大丈夫!ここならそこまで高いのはないし、困ったらソータが出してくれるし!」

 

「無駄に貯金貯まってるからね〜こういう時に使わなきゃ。」

 

「最悪、私の独断でRoseliaの経費から下ろすわ。」

 

「湊さん!?」

 

「まー、そういう事だから!りんりん今日は楽しんでいって!」

 

「う、うん!ありがとう!」

 

ということでRoseliaメンバーのコーディネートが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず最初にコーディネートしたのはあこ。

 

紫のズボンに白のロングTシャツ、その上から青いコートを羽織っている。

 

そしてたまたまコラボ品として見つけたのNFOウエストバックをかけている。

 

あこにしては少し大人っぽく見えるコーデである。

 

「うわぁ〜!めちゃくちゃカッコイイ!ありがとうりんりん!」

 

「ううん、カッコイイよあこちゃん・・・」

 

「燐子、ものすごい勢いで決めていったわね・・・」

 

「さすが白金さん、Roseliaの服飾をやって貰ってるだけのことはあります・・・」

 

「燐子、次アタシお願い!」

 

「わかりました!」

 

「燐子・・・めっちゃいきいきしてる・・・」

 

まぁ、燐子が楽しそうでなによりである。

 

さて・・・いくら消えるんだろ?

 

 

 

 

 

 

リサは白のファースリーブにスカート、そして帽子という組み合わせである。

 

いつものギャルっぽさは抑え目に、清楚な感じに仕上がった。

 

「おー、さすが燐子!」

 

「いえ・・・今井さんは・・・素材がいいので・・・とてもやりやすかったです・・・」

 

「次紗夜さんと友希那さんですね!」

 

「紗夜、先にいっていいわよ。」

 

「いえ、湊さんこそ。」

 

「こーらー、お互い譲り合ったら進まないでしょ?」

 

「僕ラストなのは決定済みなのね・・・」

 

大トリとか緊張するな・・・

 

すると燐子はなにも問題がないような顔をしてしれっと言った。

 

「安心してください・・・2人同時にやるので・・・」

 

「「「「「まじか。」」」」」

 

 

 

 

 

 

ということで紗夜と友希那。

 

紗夜は紺のジーパンにチェック柄のシャツ、その上から青のジャケットを羽織っている。

 

友希那は黒のシャツにロングスカート、ジージャンを上から着ている。

 

どっちも少し雰囲気が変わって綺麗である。

 

「2人ともカッコイイです!」

 

「2人同時って・・・燐子本気出してきてるね・・・」

 

「あんなりんりん、あことはじめてエンカした時、一緒にNFOやった時みたいだよ・・・」

 

「さて・・・ラストは・・・」

 

「奏多ね。」

 

「奏多くん、私・・・頑張るから・・・!」

 

「お、お手柔らかにね・・・」

 

燐子に任せて間違いはなさそうなのだが・・・

 

・・・なんだろう、ほんの少しだけ嫌な予感がする・・・

 

 

 

 

 

 

燐子にコーディネートを任せた結果、黒のTシャツにカーキ色のカーゴパンツ、深緑のロングコートにマフラーという服装に。

 

いつものパーカーから打って変わっての服装である。

 

いざコーディネートされると嬉しいものである。

 

これで全員分のコーディネートが完了し・・・

 

「まだ・・・まだやりたいことある・・・」

 

燐子の様子が少しおかしい。

 

なにか爆発前みたいに少し震えている。

 

「あの〜燐子?どうした?」

 

「私・・・奏多くんのレディース版をコーディネートしたい!」

 

「燐子!?」

 

「奏多くんってその・・・中性的な顔してるし・・・去年今井さんがやってたこと・・・私もやりたい!」

 

おのれリサ!去年の影響受けちゃってるじゃん!

 

助けを乞うため後ろを見る。

 

しかし、みんなほっこりとした顔つきをしながら友希那が代表して言った。

 

「燐子が嬉しいことをするんでしょ?」

 

「うぐっ・・・もう、お願いします・・・」

 

「メイクはアタシに任せて燐子はドーンとやりな!」

 

「はいっ・・・!」

 

Roseliaのみんなに連行されながら、僕はレディースコーナーへと押し戻されていった。

 

 

 

 

 

そして時間をかけてやった結果。

 

「・・・出来た!」

 

「おー、可愛いじゃんソータ!」

 

「普通に違和感ないですね。」

 

「奏多さん凄いですよこれ!」

 

「もうそのままでいいんじゃないかしら?」

 

「あは、あはは・・・」

 

選ばれたのは白いシャツに青のスリットスカート、黒タイツというどこかの青王の服装みたいになった。

 

これがベストなんだとか。

 

「とりあえず写真〜」

 

「ちょっとリサ!?」

 

「ふふっ・・・似合ってる・・・可愛い・・・」

 

「あー、あこも欲しい!」

 

「後でグループ送るから!」

 

写真争奪でてんやわんやしてる。

 

でも、みんな楽しそうである。

 

特に燐子の笑顔がすごい。

 

こんなに笑ってるのを見たの久々である。

 

「・・・まぁ、いっか。楽しいし。」

 

そう自分の中で決めて、僕はみんなの所に歩み寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、それぞれの服を持って解散となった。

 

僕と燐子は1度バイクを自宅に戻したあと、羽沢珈琲店で一息ついていた。

 

「燐子、楽しかった?」

 

「うん・・・その・・・柄にもなくはしゃいじゃった・・・」

 

「確かに、あんな笑顔な燐子久々に見たかな。」

 

「もう・・・からかわないでよ・・・」

 

燐子が頬を膨らます。

 

他のみんなにはみせないような表情を見せる時がある。

 

そこがまた可愛く、キュンとくる。

 

気がつけば時間も遅くなる頃。

 

最近は夜も寒い。

 

早く切り上げた方がいいかもしれない。

 

僕と燐子は珈琲店から出るとお互いの家の道に続く分岐点まで話しながら歩いた。

 

そしていよいよ今日という日の燐子と別れのときである。

 

「今日はありがとう・・・本当に楽しかった・・・!」

 

「うん、また明日だね。」

 

「その・・・最後に一つだけお願いがあるんだけど・・・」

 

「ん?何?」

 

「少しだけ姿勢を落としてくれないかな・・・私の目線ぐらいまで・・・」

 

「こ、こう?」

 

少しだけ姿勢を落とす。

 

すると燐子は僕に近づくとそのまま自分の唇を僕の唇に重ね合わせた。

 

あまりの突然のことに頭が真っ白になる。

 

燐子はすぐに唇を離して2、3歩下がった。

 

その顔はめちゃくちゃ赤くなっていた。

 

「えっと・・・私にとって・・・これが一番の・・・プレゼント・・・かな・・・?」

 

「燐子・・・ふふっ、ならもう一度言った方がいいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Happybirthday燐子、今日という日が幸せな一日でありますように。」



















エピローグ

その後お互い自分の家に向かう道を1人歩いていた。

そしてお互い熱くなる顔を隠しながら帰っていたのは空を飛ぶ鳥のみぞ知る事だった。


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友希那誕生日特別編 ネコカフェ リターンズ(前)

大遅刻戦犯野郎の隠神カムイです。

ということでこの小説大遅刻でやってますが前後編に分けます()

まぁ、遅刻したけどいつものだけ・・・

祝え!全バンドを凌駕し、時空を超えその名を轟かせるRoseliaのボーカル。その名も湊友希那!生誕の日を盛大に祝うがいい!!

ということで本編どぞ。


10月26日

 

我らがボーカルの湊友希那の誕生日である。

 

・・・もうなんて言うか、蘭さん達の言葉を借りるなら『いつも通り』な、今回はそんなお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那誕生日の日

 

久しぶりの猫カフェ、『にゃぴねす』である。

 

夏休みに立ち寄って以来FWFに向けての練習や進路関連の行事で色々忙しくよる事が出来なかったが、無事FWFの出場権を手に入れ、少し余裕が出てこうしてきた訳である。

 

「はい、お待たせ。いつもの肉球ロールケーキとコーヒー。」

 

「ありがとうございます、マスター。」

 

「いやぁ、久しぶりに来てくれて嬉しいよ。九条くんが来てくれなきゃおじさんパソコンに乏しいからSNSの更新とか出来なくって・・・」

 

「僕だって店の宣伝なんてスマホでサイト調べて見よう見まねでやってるだけですよ。まぁ、今日は僕よりあっちの方が来たがってたんで・・・」

 

「あ〜・・・確かに満喫してらっしゃる。」

 

僕とマスターの視線の先には大量の猫の山が。

 

そしてそこから突き出ている足と銀髪。

 

そこには我らがボーカル、友希那がうもっているのだ。

 

なお、誕生日ということで今日は僕の奢りで彼女はここにいる。

 

「友希那〜・・・息できる・・・?」

 

「大丈夫よ。この程度動作もないわ。」

 

猫達も友希那の上がお気に入りなのか丸まったり寝転がったりしている。

 

あれだけ乗っていたらさすがに重いと思うのだが・・・

 

「・・・でも、ちょっと苦しいから助けて。」

 

「ちょっと!?はい猫達ちょっと退いて退いて!!」

 

猫達に少しばかり退いてもらって友希那を救出する。

 

友希那の顔は少し青くなっていた。

 

「友希那、大丈夫!?」

 

「・・・少しばかり猫畑と綺麗な川が見えたわ。」

 

「天に召される数秒前!?まだRoseliaは頂点になってないのにここで倒れられたら困るって!」

 

「大丈夫よ、私はRoseliaのボーカル、湊友希那よ。この程度のことで死にはしないわ。」

 

「さっき湊ちゃん窒息死しかけたけどね・・・とりあえずこれ飲んで落ち着いて・・・」

 

マスターがコーヒー友希那ブレンドを友希那に差し出す。

 

もはや僕より常連客になってしまった友希那の為にマスターが友希那用のコーヒーを作ってくれたのだ。

 

コーヒーと砂糖とミルクが1:1:1と、もはやコーヒーより砂糖とミルクの方が割合が大きいという謎の飲み物だが、友希那はそれがちょうどいいらしい。

 

一口飲んで口元をふくと、マスターに「ありがとう、いつも通りいい味だわ。」と感想を告げた。

 

「そうだ!うち開店してからあと少しでお客さん10万人になるんだよねー」

 

「もう10万人になるんですか!」

 

「いやぁ、君たちみたいな常連さんがよく来るのもあるけど最近は新顔さんも増えてきてね〜特にうちのモカちゃんが看板猫として頑張ってくれてて。」

 

「ニャン」

 

膝の上のモカ(モカはここが特等席なのかここに来たらいつも膝の上に乗ってくる)は誇らしそうに鳴いた。

 

たしかにモカは結構人懐っこいので看板猫になるのも想像がつく。

 

「マスター、あと何人で10万人なの?」

 

「実はあと4人なんだよ〜10万人目の人にはなんと・・・」

 

すると扉が空いてお客さんが入ってきた。

 

見てみるとこころさん、美咲さん、あこ、燐子という珍しい組み合わせだ。

 

・・・ん?こころさん、美咲さん、あこ、燐子・・・ちょうど4人・・・あ。

 

「いらっしゃい!あ、白金ちゃん!」

 

「え?は、はい・・・どうか・・・しましたか・・・?」

 

「おめでとう!白金ちゃんでちょうど来店10万人目のお客さんだよー!」

 

「えぇ!?」

 

「あら・・・」

 

「あら、凄いじゃない燐子!!」

 

「え、あ、その・・・わたしが・・・?」

 

「なんという偶然・・・燐子先輩運よすぎ・・・」

 

「りんりんすごーい!!」

 

みんなが盛大に祝福する中、燐子はめちゃくちゃ戸惑っている。

 

突然祝われたらそりゃ驚く。

 

「景品はこちら!」

 

そう言ってマスターは1枚のチケットを渡した。

 

「その・・・なんですか、これ?」

 

「今度やるワールド猫フェスタの招待券!たまたま懸賞で当たっちゃっておじさん行きたかったんだけどお店休むわけには行かないし・・・んでちょうど10万人も近かったしちょうどいいと思ってね。」

 

「なるほど・・・」

 

僕はちらっと友希那を見た。

 

友希那は喉から手が出るほど欲しそうな顔をしている。

 

ワールド猫フェスタ、略してWCFは四年に一度行われるとか行われないとか言われる猫の祭典である。

 

この世全ての猫好き達が集まり、猫を愛でるとかいうすごいのかすごくないのかよく分からない祭典である。

 

しかしこの世には猫好きなんてごまんといる中、会場の大きさ的に入れるのは抽選で当たった1万人だと聞いたことがある。

 

後日聞いた話だが、友希那は4年前にこの抽選で綺麗に外してしまっているため、めちゃくちゃ行きたかったらしい。

 

燐子はチケットの裏を確認した。

 

すると「あっ・・・」と声を上げた。

 

「どうしました、燐子先輩?」

 

「この日・・・私予定が入っていて・・・」

 

「あら、それは残念ね。そのチケットどうするの?」

 

すると燐子はこちらを・・・正しくは、僕の隣にいる友希那を見た。

 

「あの・・・友希那さん、もし宜しければ貰ってくれませんか?その・・・誕生日プレゼント・・・として・・・」

 

すると友希那はこれまで見た事ないぐらい顔を輝かせると1度咳払いしてからいつもの表情で燐子が持つチケットを受け取った。

 

「私はその日予定ないし、燐子がいいって言うならありがたく貰っておくわ。さて・・・アクセスは・・・会場少し遠いのよね・・・」

 

友希那がサッとスマホを取り出して行先のルートを調べる。

 

これまで見た事ない手の動きだ。

 

「み、湊先輩の手の動きすごい・・・」

 

美咲さんが驚きの声を上げる。

 

まぁ、普段一緒にいる僕や燐子、あこの前ですら現在進行形で驚いているのでそうなる。

 

すると僕のポケットの中にあったスマホが鳴った。

 

SNSが普及している今、あまり聞くことの無いメールの着信音だ。

 

スマホを取り出して確認するとそこには『おめでとうございます』の文字が。

 

迷惑メール等は全てはじく様に設定しているので恐らくこれは何かの懸賞の当選メールだろう。

 

・・・けど、最近なにか抽選に参加したっけ?

 

確認すると『WCF入場チケット当選のお知らせ』と書かれていた。

 

「あ、僕も当たった、WCF。」

 

「な・・・!奏多、それ本当に言ってる!?」

 

「そういえば奏多くんそういう系のラック高かったね・・・」

 

「さすが奏多さんくじ運強い・・・」

 

「いや、そんな一気にポンポン手に入る物なのそれ・・・?」

 

そんな事ないのだが、当たったのなら行ってみたい。

 

「とりあえずこれで会場への足はゲット出来たわ。奏多、当日はよろしくね。」

 

「別に構わないよ。」

 

ということでその日友希那と共に行くことが確定した。

 

この続きはまた別のお話・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




奏多「まずは遅刻した件について反省もらおうかな」

Kai『遅刻してすんませんした・・・だが悔いはな』

奏多「悔いしかないでしょ!?なにやってんのよあんた!!」

Kai『色々と予定入ってたから仕方ねぇんだよ・・・』

奏多「よく暇そうにしてた人間がよく言うよ!・・・まぁいい、今回はスペシャリスト読んできたから・・・」

Kai「スペシャリスト?」

???「あのー・・・私呼ばれてもお説教なら千聖先輩の方が・・・」

奏多「大丈夫、たぶん君の説教の方が効くと思うから」

Kai『え、ちょっと待って・・・奏多お前誰連れてきた!?』

奏多「みんなのAfterglowのリーダーさん、よろしくね。」

???「わ、わかりました!えっとKaiだっけ?千聖先輩みたいには出来ないけどそれなりにお説教するから覚悟してね!よーし!気合い入れるぞー!えいえいおー!」

Kai『あ、ちょま!お前知っててやっただろ!やめろ、辞めてく』


……To be continued


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突発性番外編 無色と多色のショタ変記 序

突発性で思いついたのでやることにした隠神カムイです。

時系列はNeo-Aspect後のストーリーとなりますのでNeo-Aspect編と無窮の狭間読んでない人はそちらを読んでからどうぞ。

では、序破急と3回に分けたネタ回どうぞ。


さて、みなさん、初めましての方は初めまして、読んでくれている方はお久しぶりです。

 

私、この世界を監視管理をするKaiといいます。

 

さて、『無窮の狭間』を読んでくれた方なら私は九条奏多にこの世界の方針を決める本を手渡し、お役御免となったとお思いでしょうが、今回のお話は本を渡す前のお話となっております。

 

そのため私、未だにタダ働きでごさいます

(´;ω;`)

 

まぁ、九条奏多が創り出すストーリーはどれも私の想像以上のストーリーなので、気にはしてないんですが。

 

さて、そんなことはさておき、今回皆様に読んでもらうストーリーは少し前に私の友人から貰ったネタ案を元に作り上げたストーリーとなっております。

 

九条奏多並びに陰村炎にはすこーし痛い目を見てもらいますが、そこはいつもの事と笑って流してください。

 

では、お楽しみください・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

料理、それは僕が得意とするものの一つである。

 

しかし、得意の中にも苦手があるというのが人間である。

 

僕はイタリアンから和食まで大体のレパートリーは調理できる。

 

しかし、その中で唯一出来ない料理がある。

 

そして、その料理を無謀にもチャレンジしたことであんなことになるとは思わなかった・・・

 

時はRoseliaバラバラ騒動から少し日がたった頃・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり、いつもの帰宅道。

 

燐子はなんか学校でやることがあると言って学校に残り、紗夜も風紀委員の仕事で一緒には帰れない。

 

パスパレ組はお仕事で松原さんは本日は部活と、珍しく花咲川2年生で一緒に帰れる人がいないと思っていた。

 

なので1人で帰ろうと思っていたら突然後ろから肩を組まれた。

 

「そーたっ!!」

 

「うわっ、炎!」

 

無二の親友、炎だ。

 

最近出番がな・・・いや、学校が休みだった関係か久しぶりにあった気がする。

 

「そう言えば炎は学校閉鎖の時何してたの?」

 

「ん?あー、親父と一緒にちょっと帰省してた。俺の実家奈良県でさ、そこに。」

 

「奈良県?僕の親父の実家は大阪府なんだ。」

 

まさか炎も近畿圏出身だったとは。

 

少し意外である。

 

「まじか!」

 

「まさかお互いの実家が近畿圏だったとはね。」

 

「そんなことよりお前ん家いっていいか?久しぶりにお前の飯食いたいわ!」

 

「別にいいよ、今日は誰も来ないからネトゲするかレインと遊ぶ予定だったし。何作って欲しい?」

 

「んー・・・そうだな・・・道中考えるわ。」

 

ということで花咲川2年生男子組で久しぶりに僕の家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着いて荷物を置き、早速エプロンに着替えてソファーに座る炎に尋ねた。

 

「んで、何作って欲しいの?道中考えるって言ってたよね。」

 

「ああ、俺あれ食べたい、()()()()

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・まじか

 

「え、えっと・・・本当に麻婆豆腐でいいの?」

 

「ああ、奏多の中華料理食べたことないし、今日の朝の呼符チャレンジ激辛麻婆豆腐だったしさ。あと道中ですれ違った中華料理の出前から食べたくなった。」

 

「で、でも具材あるかな・・・なければ諦めて欲しいんだけど・・・」

 

冷蔵庫を開くと何故か麻婆豆腐に必要な具材が全て勢ぞろいしていた。

 

それに買った覚えのない豆板醤までしっかりある。

 

「そうだ・・・これ、この前こころさんから貰ったんだった・・・」

 

「なんでそんなに残念そうな顔してるんだ?」

 

炎が聞いてくる。

 

まぁ、隠す意味もないか。

 

「実はね炎・・・僕、料理の中で中華料理だけ出来ないんだ・・・」

 

「なん・・・だと・・・!!」

 

炎がオーバーにリアクションをとる。

 

のってくれるのは嬉しいが、これは紛れもない事実なのである。

 

数ある料理の中で、僕は何故か中華料理だけ美味しく作ることが出来ない。

 

それも、見た目完璧、味絶望的とかいう酷いやつ。

 

親父にも「お前中華料理だけは作るなよ・・・お前の中華料理だけはパルプンテ(何が起こるかわからない)なんだから・・・」と言われている。

 

実際、初めて僕の中華料理を食べた親父は3日ほどお腹がめちゃくちゃ緩くなってしまっていた。

 

そんな訳で僕の作る中華料理は九条家永遠の封印にする予定だったのだが・・・

 

「無理だったら無理でいいんだけど・・・」

 

炎が気を利かせてそう言ってくれた。

 

しかし、炎が食べたいと言ってくれるなら作ってやりたいし、多分成長した僕ならできる・・・という謎の自信が湧いてきている。

 

「・・・いや、作ってみるよ。レシピ通りやればなんとかなる・・・と思う。」

 

ということで僕はスマホのレシピを見ながら、人生二回目となる中華料理に挑んでみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして苦戦しながらも調理すること30分

 

何とか麻婆豆腐が完成した。

 

見た目よし、香りよしの上出来だ・・・・・・見た目だけは。

 

「問題は味なんだよな・・・」

 

「でもめちゃくちゃ美味しそうだぞ?」

 

「それで親父が1度犠牲になってるんだ・・・ここは僕から・・・」

 

恐る恐るレンゲを取って麻婆豆腐を口に運ぶ。

 

「・・・あれ?」

 

「どうした?俺も食べる。」

 

炎がレンゲを奪い取って麻婆豆腐を食べる。

 

すると目を輝かせた。

 

「美味いっ!久々すぎるせいかめちゃくちゃ美味い!」

 

「そ、そんなはずないんだと思うけど・・・やっぱり成長してんのかな・・・」

 

隣でパクパク口に運ぶ炎から少し麻婆豆腐をわけてもらい食べる。

 

うん、やっぱり美味しい。

 

昔作った時本当にまずかったのに・・・

 

人間時が経てば成長するものなのか・・・

 

そして気がつけば麻婆豆腐の入ったさらは空になっていた。

 

「いやー食った食った!」

 

「うん、今度また作ろうか、これ。」

 

「ふぅー・・・やっぱり何か食べたあとって眠くなるよな・・・」

 

食べたあとは眠くなる、人間とはそういう生き物だ。

 

いつもは眠くならない僕も、いつもやらないことをしたせいか、とても眠くなっていた。

 

「・・・10分だけ仮眠とるか・・・めんどくさいしソファでいいや。」

 

「奏多が寝るなら俺も寝るわ・・・おやすみ・・・」

 

まぶたが重い・・・ソファに体を預けると僕の意識はすぐに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ!ピピピピッ!

 

10分後に設定していたスマホのアラームが鳴る。

 

僕は目をこすりながら、机に置いてあるはずのスマホを手に取ろうとする。

 

しかし、手を伸ばしても机に手があたらない。

 

いつもならすんなり手が届くのに・・・

 

机がずれたのか?

 

そう思って体を起こして立つ。

 

・・・何かおかしい。

 

僕の家ってこんなに大きかったっけ?

 

机の上のスマホを手に取る。

 

画面をつけようとスマホを見るとスマホの真っ黒の画面に見たことあるような少年の顔があった。

 

まるで小さい頃の僕みたいな顔してるな。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・?

 

なんで小さい頃の僕の顔がここに?

 

小さい頃にスマホなんてないからスマホに僕の写真が残っているわけがない。

 

・・・もしかして。

 

そう思って部屋にある大きな鏡の前に経つ。

 

くすんだ銀髪、中性的な顔立ちはそのままにちょうど小学校中学年のころの僕が映し出されていた。

 

自分の体をぺたぺた触る。

 

もしかして・・・もしかして・・・!!

 

「小さくなってるぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

……To be continued




次回、「無色と多色のショタ変記 破」


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突発性番外編 無色と多色のショタ変記 破

はい、突発性第2話です。

あ、ちなみに沢山ある中華料理の中で麻婆豆腐を選んだ理由は炎の言っていた通りこの前FGOの方で呼符ガチャしたとき出たのが激辛麻婆豆腐だったからです()

そんなうっすい理由でこの小説続けられてるのが自分でもすごいと思うわ・・・

ドリフェス?単発でおたえきました(ポピパ累計11人目)
なんでさ!?なんでポピパが来るにしろチョココロネが出ない!!
そしてなぜ推しが出ない!!!

てな訳で第2話どうぞ。


〜前回までのあらすじ〜

 

麻婆豆腐食べて寝たらショタ化した

 

「嘘だろ・・・普通ありえないよ・・・こんなの・・・」

 

体をぺたぺた触りながら色々なところを見ても小学校中学年のころの僕だ。

 

しかも服のサイズが全然あってない、ぶっかぶかだった。

 

服はそのままで体は小さくなってしまっている。

 

原因はなんなのか考えてみて、真っ先に思い当たったのが・・・

 

「・・・麻婆豆腐・・・まさかそんなこと・・・」

 

でも、親父は言っていた、「お前の中華料理はパルプンテだ」と・・・

 

パルプンテとは某クエストゲームの魔法のひとつで『何が起こるかわからない』呪文だ。

 

ゲームの中なら『HP全回復』とか『全員死んでしまった』とか戦闘面で使うギャンブル魔法なのだが・・・

 

まさか僕の中華料理がそれと同等の性能をしているなんて考えつくわけがない。

 

さらに言えばその効果が『ショタ化』なんて誰が想像つくのであろうか。

 

・・・あれ?待てよ、僕より麻婆豆腐を食べていた人がもうひとり居たような・・・

 

「そうだ!炎っ!」

 

ばっと炎が寝ているであろうソファを見る。

 

そこには炎をそのまま小さくしたような少年が眠っていた。

 

多分ショタ化した炎だ。

 

「炎!炎!起きて!」

 

体を揺さぶる。

 

炎はゆったりと目を開けた。

 

「・・・んん?あれ、誰だお前・・・奏多の親戚の子・・・?」

 

「違うって!奏多本人だよ!なんか僕達、姿が小学生になってるんだよ!」

 

「ははっ、そんな馬鹿な・・・坊主、下手な嘘なんてつかなくていいって・・・」

 

「とりあえず百聞は一見にしかず!」

 

炎を無理やり引っ張って鏡の前に立たせる。

 

炎は眠そうな瞳を擦りながら鏡を見る。

 

そして鏡をじーっと見た。

 

「・・・なんだ、小さい頃の俺か・・・・・・小さい頃俺ぇ!!?」

 

炎は自分の今の姿に驚き、大きな声を出した。

 

すると炎が僕の体を掴むとガクガク揺らした。

 

「お前本当に奏多なんだよな!おい、俺たち小さくなってんぞ!!!」

 

「さっきからそう言ってるじゃん!」

 

「どーなってんだよ奏多!この状況!」

 

「科学的にありえないし・・・多分原因は・・・」

 

僕は揺さぶられながらも机の上の皿を指す。

 

炎は揺らすのを辞めると二、三歩後ずさった。

 

「そ、そんなわけないよな・・・高々麻婆豆腐食べただけでショタ化するなんて・・・」

 

「でも、他に原因思いつく?あのパルプンテ麻婆豆腐以外に。」

 

「・・・ねぇな。とりあえずどうすっか・・・お前はともかく俺は家に親父帰ってくるからこの姿見られると絶対なんか言われるぞ・・・」

 

「うん・・・どうしよっか・・・これ・・・」

 

「とりあえず病院行った方が・・・」

 

「いや、やめておいた方がいい。『麻婆豆腐食べて小さくなった』なんて言ったら社会的に取り上げられてパニックになるし、そもそもそんなこと誰も信じてくれない。」

 

パニックを抑えるためでもあるが、もし元の姿を知っている人にこの姿を見られて、本人だと知られてしまうと『麻婆豆腐でショタ化した高校生!』とたちまち拡がってしまう可能性がある。

 

しかし、これは2人で解決するには難しすぎる。

 

絶対にばらさない信頼できる人に頼るしかない・・・

 

「1度、Roseliaのみんなに相談してみるか・・・」

 

「あいつらなら信用できるし、手助けぐらいしてもらえるだろう。」

 

ぶかぶかの服の裾をまくりながら僕はスマホを手に取った。

 

いつもは顔認証のロックも外れるわけが無いのでパスワードで開けて、グループチャットに『緊急事態、今すぐ僕の家に集合せし』と入力した。

 

すぐに紗夜やあこから連絡が来た。

 

『何かあったんです?』

 

『緊急事態とは、九条さん何をやらかしたんです?』

 

しかし、この状況を文字で説明しにくい。

 

『百聞は一見にしかず、来れる人すぐ集合!』

 

『?とりあえずわかりました、あこすぐに行きます!』

 

『私も向かいます。湊さん達も見たらすぐに来てください』

 

と、あこと紗夜は来てくれるようだ。

 

「今からあこと紗夜が来てくれるみたい・・・!」

 

「そっか、Roseliaのみんななら安心できるわな。でも・・・どう説明すべきよ、これ。」

 

「し、正直に話すしか・・・」

 

とまぁ悩んでも仕方ないので2人の到着を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然ショタ化してしまったせいでレインが突然家に知らない人が現れたと勘違いして警戒マックスだったので、警戒を解こうと奮闘しているうちにインターホンが鳴った。

 

どうやら来てくれたようだ。

 

扉を開けると紗夜とあこだけじゃなくリサも来ていた。

 

「良かった・・・来てくれた・・・!」

 

「・・・あの、九条さんの知り合い・・・ですか・・・?」

 

紗夜が僕の姿を見てそういった。

 

まぁショタ化したことも言ってないし、昔の写真を見せたことないので当然警戒する。

 

「あ、ごめん・・・僕です、九条奏多です・・・」

 

「そんな馬鹿な〜奏多さんは高校生だよ?君どう見ても小学生だよね。」

 

「ねぇ僕、ソータの親戚かなにか?ソータ知らない?」

 

「だから僕だって!寝て目が覚めたらちっさくなってたの!」

 

「確かにソータの面影あるけど・・・まさかね。」

 

「そうです、そんなの非現実的なこと信用出来ないですね。あなたは一体何者なんです?」

 

説得しても信用してくれない。

 

まぁ、普通突然人間が幼少期に戻されるなんてあるわけないのだから。

 

信用してもらうには僕しか知らなさそうなことを言った方が良いかも。

 

「えーっと・・・紗夜?」

 

「どうして私の名前を・・・?九条さんから聞いたんですか?」

 

「だから僕本人だって!・・・この前約束したよね、『日菜のためにプレゼントを探しに行きたいのだけれども、何が喜びそうか一緒に考えてくれない?』って。」

 

「ど、どうしてその事を・・・!九条さんにしか言ってないはず・・・!」

 

だから僕本人だからってさっきから言っている。

 

信用してもらうには僕にしか伝えてないことを伝えるしかない。

 

「も、もしかしたらソータがこの子に言ったかもしれないし・・・」

 

「いえ、あの九条さんですよ・・・日菜のことを知らない人にこんなこと伝えます?」

 

「でもさっき紗夜はありえないって・・・」

 

「まだあるよ?そうだな・・・あこ、この前たしか『1度でいいからコミケ行ってみたいから一緒に行ってください!』ってお願いしに来たよね〜」

 

「ギクッ!どうしてその事を!!」

 

あこはこの前そうお願いしに来てたのだ。

 

あの戦場に一人で行くのは寂しいからついてきて欲しいと。

 

そして何故かあこはこのことをあまり人に伝えないで欲しいと言っていたのだ。

 

「あこコミケ行こうとしてたの・・・?」

 

「コミケとはよくわかりませんが・・・どういうものなんです?」

 

「えっとその・・・色んな人が書いた本とかを販売しているところなんですけど・・・」

 

「中には危うい物とか危険な人とかいるからねー」

 

僕が軽く横槍を指す。

 

「だからついてきて欲しいってお願いしてたんですぅ・・・」

 

「あとはリサだね、リサはこの前バイトの時に・・・」

 

「ストップ!ストーップ!!!わかった!ソータって信用するから!」

 

リサが全力で止めに来たのでこの辺で辞めることにした。

 

思考が軽く幼少期になっているせいか、少しばかりいたずらごころが動いたのだがどうやら少しやりすぎたようだ。

 

「とりあえず入って。要件は話すから。」

 

説得のためとはいえ、精神的ダメージを受けた3人が家に入る。

 

炎と僕が3人に向かい合うように座ってこうなった原因を話した。

 

「・・・ということなんだけど。」

 

「久しぶりに苦手な麻婆豆腐を作って食べたらショタ化してしまった・・・って、どうすればショタ化できるんです・・・」

 

「それはこっちが知りたい。だから元に戻る方法一緒に考えてくれよ・・・!」

 

「そんな事言われてもね〜・・・」

 

「原因と現実が不可解すぎて私たちにはどうにもできないですし・・・」

 

まぁ、普通そうなるだろうな・・・

 

しかしこのまま戻れないのは本当に困る。

 

不幸中の幸としてバイトはしばらくないのだが、このままではバイトどころかろくに外を歩くことが出来ない。

 

どうしようかと考えた時、電話が鳴った。

 

それもスマホじゃなくて固定電話。

 

今どき固定電話にかけてくるなんて珍しいなと思ったが、とりあえず相手はこちらがでなければ分からない。

 

とにかく僕は電話に出た。

 

「はい、九条です。」

 

『あ、九条様ですか?こちら弦巻です。』

 

「あ、はい・・・お久しぶりです。」

 

電話の相手は弦巻家の黒服さんだ。

 

この黒服さんとは弦巻家に行った時にちょくちょく対応してもらっている人なので声だけでわかった。

 

『一応確認しますが・・・九条奏多様本人ですよね?』

 

「あ、はい。・・・ちょっと色々あってこんな声ですけど、奏多本人です。」

 

すると電話の奥の方で「遅かった・・・」の声が聞こえた。

 

・・・もしかして?

 

『もしかして九条様、身体が小さくなっていませんか?』

 

「な、なんでわかるんです!?」

 

『この前こころお嬢様より豆板醤をいただかれましたよね』

 

「はい・・・これで美味しい料理作ってちょうだいって・・・ま、まさか・・・」

 

『実はその瓶の中に試験薬が入っていたことがわかって・・・実は我が当主の持病を治せるように作られた薬で、料理に混ぜても大丈夫なように作られたものなのですが・・・実験の結果、副作用として身体が一時的に幼体化・・・およそ10年ほど身体が小さくなってしまうんです・・・』

 

やっぱりかぁぁぁぁぁ!!!!

 

てかなんで豆板醤の瓶に入れた!?

 

料理のレパートリーはあれど、なんで豆板醤!?

 

『何故豆板醤の瓶に入れていたかと申されますと・・・当主は辛いものがお好きで、特に四川料理が好物なんです。それに合うように設計され、豆板醤の中に入れていたのですが・・・まさかこころお嬢様が九条様に渡すとは思えなくて・・・申し訳ございません・・・』

 

なんか地の文を読まれた気はするが、解決したので良しとしよう。

 

とりあえず今気になる一番の質問をした。

 

「それはともかく・・・これ戻れるんですか?」

 

『はい、実験の結果食後から半日ほど・・・つまり、今の時間からだと一晩経てば元の姿に戻れます。』

 

「よかった・・・それがわかれば十分です。教えてくださってありがとうございます。」

 

『いえ、こちらの失態が原因ですので・・・後日、その試験薬入り豆板醤を取りに伺いますので、よろしくお願い致します。』

 

「わかりました、失礼します。」

 

僕はそこで電話を切った。

 

するとリサが質問してきた。

 

「ねぇソータ、さっきの人ってこころの所の黒服さんから?」

 

「うん、実は・・・」

 

僕はさっき聞いたことを全員に話した。

 

リサ、紗夜、あこは安心したように胸をなでおろし、炎は戻れることを知ると「よ、よかった・・・」と倒れ込んでいた。

 

「とりあえず戻れることがわかったし、よかったよかった・・・」

 

「・・・で、終わらせると思った?」

 

リサがそういった。

 

・・・なんか、背後からめちゃくちゃ禍々しいオーラが漂ってくるんですけど・・・

 

「あ、あの・・・」

 

「ソータ、まだ半日あるんだよね?その間そのままで何もしないのは勿体ないよね〜」

 

「ええ、さっきは手厚い歓迎をしてもらいましたし、今度はこちらが返さないと。」

 

紗夜も、それにあこまでも禍々しい笑顔でこちらを見る。

 

自然と後ずさりするが、それを炎に止められた。

 

「・・・奏多、腹括って行ってこい。こういうのはもう怒られた方が楽だぞ・・・」

 

炎が諦めたような、そして憐れむような顔でそう言った。

 

さすが炎、お説教され慣れている・・・

 

「行ってこい我が盟友よ。安らかに眠れ・・・」

 

「ちょっ、僕まだ死んでないし!ちょっと押さないでっ!」

 

幼少期の体のせいか、圧倒的にパワーが足りない。

 

押されて前のめりになった所を呆気なくリサに捕獲された。

 

「ソータってさ、今もそうだけど結構中性的な顔だよね?それに今は体小さいから女の子の服着させても違和感なさそう!」

 

「あ!それならちょうどあこ服持ってます!いまさっきおねーちゃんと服買いにいってたんですけど、多分今の奏多さんに合うと思いますよ!」

 

「宇田川さんより少し背が低いですけど、多少は大丈夫でしょうね。」

 

やばい、話がだんだんそっちの方向に向いてきた!

 

てかリサが思っていたよりパワーが強くて全く動けない!

 

「ソータ、覚悟はいい?」

 

「・・・もう、好きにしてください・・・」

 

これが、女子3名による報復で、着せ替え祭りの始まりだった。




実際ショタ変記はぐーたらかいているので次の投稿いつかはわかりません。

てな訳でこっちは息抜き程度にお楽しみください。

ご意見ご感想お待ちしております!


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無窮の狭間
対面セシ主人公ト創造神


祝累計100話目です。
ここまでやってきた自分に拍手を
ここまで読んでくださった読者の方々に感謝を


気がつけばそこは真っ白な空間だった。

 

椅子も、机も、壁も、人も、何もかもが存在しない空間。

 

唯一確かなのは足が地に付いているという感触のみ。

 

そんな空間で僕はそこに1人ぽつんと立っていた。

 

(なんだ・・・またエイプリルフールの時みたいな夢か・・・?)

 

そう思うが夢にしてはさすがに殺風景すぎる。

 

あの時はモカ神様や彼女によって作られた世界など色々あった。

 

しかしこの場には本当に何も無いのだ。

 

「・・・とりあえず進んでみよう。」

 

ここに立っているだけでは何も始まらない。

 

僕はとりあえず前に進んでみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・歩き始めて10分ほどが経った頃だろうか。

 

周りを見渡しながら歩いては見たが本当に何も無い。

 

なぜ自分はこんな所にいるのか、なぜ何も無いのか、なぜ僕は今孤独なのか・・・

 

そういった不安がおしよせてくる。

 

「・・・何にも・・・無い・・・・・・ん・・・?」

 

すると数メートルほど先に四角く、小さなものが落ちていた。

 

僕は慌ててその小さなものに駆け寄った。

 

落ちていたのは本だった。

 

遠くから見たので小さく見えたが寄ってみれば文庫本ほどの大きさだった。

 

「・・・なんの本?」

 

周りは黒一色で何も書かれていない。

 

とりあえず表紙をめくってみる。

 

そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無色と灰色の交奏曲』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めはよくわからなかった。

 

本のことは燐子を通じて多少なりとも知っているがこんな題名見た事がない。

 

しかし、この題名にはずっと前から馴染んできた言葉のように感じられた。

 

(なんだろう・・・この安心感にも似たような気持ち・・・)

 

「あぁ、君が見つけてくれたんだ。」

 

突如声が聞こえて、そっちの方を振り返る。

 

そこには黒髪で眼鏡をかけた僕ぐらいの身長の青年がいた。

 

しかしよく見るとその顔は・・・

 

「・・・僕と・・・同じ顔?」

 

「そこまでマジマジと見ないでくれるかい?九条奏多くん。」

 

突如自分の名前を言われて少し後ずさりしてしまう。

 

この人明らかに怪しいし、絶対この空間のことを知っている。

 

「とりあえず、君がその本を見つけてくれてよかった。それ僕の本なんだ。」

 

「・・・あ、うん。どうぞ・・・」

 

本を青年に手渡す。

 

青年はそれを受け取るとペラペラと本をめくった。

 

とりあえずこの場のことを聞いてみる。

 

「あの・・・ここって一体どこなんですか?」

 

「あぁ、空間の狭間・・・って感じなところかな?君にとっては夢であって僕にとって夢でない場所。」

 

「空間の・・・狭間?」

 

にわかに信じにくい。

 

響きとしてはかっこいいがそんな場所あるわけないし・・・

 

「本来は君が来てはいけない場所なんだけど・・・今回だけ私が招待させてもらった。」

 

「一体なんのために?それとあなたは・・・」

 

「タメ語でいいよ。私のことはそうだな・・・kai(カイ)とでも読んでくれたまえ。この顔も、今回君に会うために変えてあるものだ。」

 

青年改め、kaiがそう言った。

 

なんかとても胡散臭い。

 

「まぁ、君にとって私は異端な存在だからね。怪しがるのも無理はない。」

 

「・・・それで、何故僕に会いたかったの?」

 

そう言うとkaiはペラペラめくっていた本を突然片手で閉めた。

 

「この本によれば、今日は私にとって特別な日でね。その大役として君を読んだわけさ。」

 

「その本と僕にどういう関係が?僕はそんな本見たことないけど・・・」

 

「君だって感じているはずさ、安心感にも似た暖かい感じを。そりゃそうさ、この本は君の誕生を意味しているからね。」

 

その言葉に心臓が大きく跳ねた。

 

まさかそんな重大な本だったとは・・・

 

「僕の誕生に?!」

 

「おっと、話はまだ終わっていないよ。まずはこっちを見てもらおうか。」

 

するとkaiは懐からスマートフォンを取り出した。

 

そして少し操作すると僕に投げ渡してきた。

 

僕はそれを必死にキャッチして、画面を見る。

 

『ブシモ!』

 

『クラフトエッグ!』

 

『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』

 

画面には『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』と称されたスマホゲームが映し出されていた。

 

そして画面には・・・

 

「ぽ、Poppin’PartyのみんなにAfterglow!?それにハロハピやPastel*Palette・・・Roseliaもいる・・・どういうこと!?」

 

「そもそもの話、君は私が創り出した存在だ。姿や基本設定を作り出し、性格や経歴を私のものを重ね合わせて生み出された架空の存在。それが九条奏多という人間、つまり君だ。そしてそのゲームのストーリーの中に君という異端者を合わせ、私があらすじから創り出したのがこの『無色と灰色の交奏曲』、つまり君がいままでたどってきたストーリーだ。」

 

そんなこと信用出来るはずがなかった。

 

自分が異端者?

 

自分が創り出された存在?

 

そんなもの、ただの嘘に・・・

 

「自分でもわかっているはずだ。時々自分でもよくわからないことを言っていたことを。」

 

「・・・っ!」

 

たしかにまれに『一応主人公なんだけどな・・・』とか『なんか色々とメタい!』とか自分でもなぜこんな言葉が出たのかわからない時があった。

 

「・・・ってことは、僕は本当に創り出された存在・・・本来ありえないものなのか・・・」

 

「まぁ、落ち着きたまえ。落胆する必要は無いよ。」

 

「・・・ははっ、創造者様がそんなこと言っても説得力ないよ・・・」

 

なんかいままで彼の掌の上で踊らされていたと思うとすごく落胆してしまう。

 

ということはRoseliaに入ったことも、自分の闇を克服できたのも、燐子と恋仲になったのも全て偽りだったということなのだろうか。

 

「まぁ、確かに君は私が創り出した。Roseliaと関わるきっかけも僕が作った。でも、私が作ったのはそこまでだよ。」

 

「・・・え?」

 

突然kaiがそんなことを言い出した。

 

創造者のくせに作ったのはそこまで?

 

「どういうこと・・・?」

 

「確かに私はRoseliaに君をかかわらせたりそれぞれのストーリーのきっかけぐらいは作ったよ。主にそのゲームのRoseliaのイベントストーリーをベースにさ。」

 

僕が画面下の『ストーリー』から『イベントストーリー』を選択するとそこにはいままで僕が体験してきたようなことにそっくりな事が書かれていた。

 

友希那のお父さんの曲を歌ったこと、リサがバイトでほかのメンバーが大変な目にあったこと、紗夜が日菜さんとわかりあえたことなど・・・どれも経験はしたが、少しばかり違っていた。

 

僕が存在していないということはもちろん、内容も少し違っていたりガラリと変わっていたりしていた。

 

「私が導いたのはあらすじまでで、その後は君やRoseliaのみんなが創り出したストーリーさ。どれも私の想像以上の結果になったし、どれも私を満足させるものであったよ。それに君がいたことで変わった未来もあった。Roseliaのバンドストーリーの11話から先のストーリー、君は体験したかい?」

 

そう言われて僕はそのストーリーを読んでみる。

 

内容としては友希那がプロにスカウトされそうになり、Roseliaとプロとで悩むストーリーだ。

 

僕は友希那からそんな話を聞いたことも無いし体験したことも無い。

 

「こんなの・・・知らない・・・」

 

「そりゃそうさ、君がいたことでこの未来が変わったんだから。」

 

「変わった・・・?」

 

「修学旅行にしてもそう、クリスマスにしてもそう、全てこのストーリーから逸脱した君だけの物語がこの時点から生まれていた。君は確かに創り出した存在だけど、『九条奏多』という1つの人間として、ここに生きてる。それだけでも私は素晴らしいと思うがね。」

 

Kaiがそこまで言うと新たに本を開く。

 

Kaiが開いたページは、白紙のページだった。

 

「こうして、君の物語はまだまだ続いている。たとえつくられた存在でもこうして君は物語を続けている。それでも君は自分の存在価値を疑うかい?」

 

「・・・・・・」

 

その言葉にすぐには答えられなかった。

 

答えようとしてもどう答えればいいのかわからない。

 

それを見兼ねたのかkaiはまだ話を続けた。

 

「また、君の気持ちは私が動かしたのではないよ。君が君自身で動いて、成長して、恋をして、今の君がいる。今の君だからこそ僕はこうしてこのことを伝えたんだよ。」

 

「ってことは・・・!」

 

「君が燐子に対する愛は本物さ。そこは自信を持っていい。」

 

燐子との恋は嘘じゃなかった。

 

それだけでも幸せだった。

 

「・・・さて!君に質問なんだが、この偽りのストーリー『無色と灰色の交奏曲』は君が願えば終わりにできる。偽りの中で今を生きるか、記憶として永遠に残るか、どっちを選ぶ?」

 

「そんなの、決まってるよ・・・たとえ偽りでも、全てがあなたの考えで動いていても、僕は今を生きる。君じゃなくて『九条奏多』という人間として。」

 

僕なりの決意をkaiに伝える。

 

Kaiはそれを聞いて安心したような笑顔を見せると、本をまた閉じた。

 

「なら、この本を君に託す。君が君なりに、この本に自らの道を示せ。」

 

黒い本『無色と灰色の交奏曲』を渡される。

 

僕はそれを受け取った。

 

「君の信じる道に、幸せがあらんことを。」

 

Kaiがそう言うと、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん・・・・・・た・・・ん・・・・・・うたくん・・・奏多くん!」

 

体をゆらされる。

 

気がつくとそこは教室だった。

 

時刻は10時半、思いっきり寝てしまっていたようだ。

 

それを燐子が起こしてくれたようだ。

 

「あ・・・おはよ、燐子・・・」

 

「おはようじゃないよ・・・次移動だよ・・・」

 

「そっか。炎達は?」

 

「陰村くん達は・・・先に行ったよ・・・あとは私達だけ・・・」

 

周りを見ると本当に僕達しかいないみたいだ。

 

さすがに4月の初めに授業遅刻は厳しい。

 

「それじゃ、行きますか・・・」

 

机の中を探る。

 

教科書とルーズリーフを取り出すと奥に黒い何かがあった。

 

それは黒一色の表紙の本だった。

 

「これって・・・!」

 

中を見ようとするとメモが落ちてきた。

 

そこには『きみと、君たちが紡ぐ物語を楽しみにしているよ』と書かれていた。

 

「Kai・・・」

 

「何それ・・・本・・・?」

 

「あ、関係ないものだよ。ほら、早く行こ。」

 

燐子の手を引いて次の教室へ移動する。

 

「あ、あの・・・引っ張らないで・・・」

 

「あ、ごめん!!」

 

「どうしたの・・・今日、楽しそうだけど・・・」

 

「いや・・・なんか、今生きていることが楽しくてさ!」

 

「ふふっ・・・何それ・・・」

 

「自分でもよくわからいや、早く行こ!」

 

「・・・うん!」

 

僕は燐子と共に次へ進み始めた。




『・・・kaiか・・・なんとも適当に名前をつけたものだ。』

『でも、本当の名前を言っても彼には関係の無いことだ、今は大人しく彼の物語を楽しむとしよう。』

『さて、ここまで読んでくださった読者の方々には感謝の言葉でいっぱいです。』

『処女作とも言えるこのストーリー、途中色々なところで長ったらしくなったり勘違いや誤字脱字があったりとしましたが、それでも読んでくださったことには感謝しかありません。』

『いままでありがとうございました。そして、これからもこのストーリーは続きますのでよろしくお願いします。』

5/14日
隠神カムイ


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ifストーリー 未来の模様

ぱっと浮かんだ突発性のifストーリーです
息抜きがてらにやるので無窮の狭間に突っ込んでます

なお、最初に言っておきますが、前半重いですがこれネタストーリーです()


時はガールズバンド全盛期から数年たった2023年

 

5年経った今でもその人気は衰えることを知らず、色々なバンドが生まれては消滅するということを繰り返していた。

 

RoseliaもFWF出場からそこで頂点を勝ち取ったものの、友希那の『ここが私たちのゴールじゃない。ここからさらに自分たちの音楽に磨きをかける』の言葉により活動自体は続けていた。

 

しかし高校3年生がほとんどのRoseliaはそれぞれの進路のため音楽だけにつぎ込むことができず、一時的な活動休止しざるを得ない状況に追い込まれていた。

 

友希那、紗夜、リサ、燐子の4人は進学、僕は才能を見込まれてとある事務所のマネージャーとして就職した。

 

そこから活動を再開し、万全の状態ではなかったもののなんとか2回目のFWF優勝を取ったものの、そこから先の音楽の祭典『ワールドミュージックフェスティバル』、略してWMFであまり良い結果が出せなかった。

 

また初心に戻って自分たちの演奏を見直す中、燐子がウィーンへ留学を勧められていることを告白した。

 

みんなのために残ろうとする燐子を友希那は『行ってきなさい。そしてRoseliaのために心身ともに強くなって帰ってきて』と告げた。

 

さらに『Roseliaはこれからしばらく活動を休止するわ。それぞれが、それぞれのなすべきことをやり遂げて強くなってからまた集まりましょう』とみんなに告げてその時を持ってRoseliaは無期限活動休止となった。

 

そしてその一年後に燐子がウィーンへと旅立ち、Roseliaのみんなは己のため、Roseliaのため、また再会するためにそれぞれの道を歩み始めた・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・そして今。

 

Roseliaが無期限活動休止してから3年がたった今、燐子が「これより日本に帰国します」との連絡があったため、1度Roseliaで集まろうとのことでとあるバーで待ち合わせることになった。

 

羽沢珈琲店や件のファミレスでも良かったのだが、あこも成人となり『あこ、かっこいいバーで待ち合わせしたいです!』とのことでバーになったのだ。

 

場所は新宿駅周辺。

 

少し離れたところにあるお店だ。

 

前に上司に連れていってもらったことがあるお店で、店主1人で経営していて店は狭いが静かでお酒が美味しいと評判のあるお店らしい。

 

あこがバーを希望した時、この店を勧めるとすぐに可決されたので予約をとって貸切にしたのだ。

 

さて、そろそろでなければ遅刻する時間である。

 

相変わらずの服のセンスの僕は、昔来ていたパーカーによく似たパーカーを着て出発の準備をしていた。

 

すると玄関に1匹の猫が寄ってきた。

 

すっかり大きくなって態度もでかくなった我が愛猫、レインである。

 

「にゃん」

 

「うん、行ってくる。お前もまたみんなに会いたいのはわかるけど、今度またここに連れてくるからその時まで待ってて。」

 

「にゃぁ・・・」

 

「大丈夫、お前も立派なRoseliaのメンバーだよ。」

 

それだけ言って僕は玄関の鍵を閉め、バーへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿駅を出て、バーに着くとそこには翡翠の髪をした女性が立っていた。

 

あの凛とした雰囲気、キリッとした風格、間違いない紗夜である。

 

「紗夜、久しぶり。」

 

「九条さん!お久しぶりです、すっかり雰囲気が変わられましたね。」

 

「紗夜も結構変わったけど雰囲気ですぐわかったよ。」

 

「九条さん、眼鏡をかけ始めたんですね。印象がガラッと変わっていいと思いますよ。・・・服装は昔と変わりませんけど。」

 

「僕がパーカー好きなのは昔からだよ。さ、入ろうか。」

 

そう言って店に入る。

 

店主と軽い挨拶を交し、適当なカクテルを選んで飲みながら今の状況を話し合っていた。

 

「紗夜そろそろ就職とか決めないといけない時期なんじゃない?」

 

「そうですね。おそらく今回湊さんからRoselia復活のことを言われると思います。なのでそのままRoseliaというバンドとして商売をしていくかどうかを考えている感じですね。九条さんの所はどうなんです?今はマネージャーをやっていらっしゃるのでしょう?」

 

「そうだねー今は色々なバンドを見て回ってるかな。前まであるバンドのマネージャーしてたんだけど時の波に乗れなくて解散しちゃってね〜・・・今の時代、ガールズバンド戦国時代みたいなことまで言われちゃってる世の中だからガールズバンドが結成されても他のバンドに押しつぶされちゃうことって珍しくないから。」

 

「そうですね、私も今の音楽状況はしっかりと目を通してますが、ほとんど聞きなれたバンドで新鮮味が足りてないような感じはするんですよね。」

 

「RASのみんなとかおっきくなっちゃったからねー、チュチュがプロデュースしてるのもあってか、今じゃ世界トップクラスの人気バンドだもんね。」

 

「あの人はどうも好きになれないんですが・・・確かにすごい人なのはわかります。」

 

「あはは・・・」

 

とまぁこんな感じに話しながらお酒が入るわけですよ。

 

すると突然扉が開いた。

 

「ふっふっふ・・・またせたな皆の衆・・・この3年間闇の力を蓄え続け・・・えっと・・・大人となって舞い戻った高位なる最強魔王!宇田川あこ!推参!」

 

「あこー、久しぶりー!」

 

「あ!奏多さんに紗夜さん!!!お久しぶりですっ!」

 

「う、宇田川さん・・・かなり背が伸びましたね・・・巴さんとはたまに会いますが、それと同じ位まで大きくなってませんか?」

 

「はい!気がついたらおねーちゃんより2センチほど小さいぐらいにまで成長してました!」

 

「お、男の僕より背が高くなってる・・・」

 

まぁ実は高校以来背が全く伸びなくて171cmなのだが、あこを見た感じだと、175cmぐらいある。

 

さすが巴さんの妹、伸びる素質はあったみたい。

 

「とりあえずあこも飲もうか。話聞きたいし。」

 

「はい!成人式以来お酒飲んでないですけど今日はじゃんじゃん飲むぞー!」

 

「宇田川さん、慣れずに一気に飲むと急性アルコール中毒になる可能性もあるのでゆっくり飲みましょう。」

 

「はーい!それじゃあ最初カシスオレンジってやつで!」

 

「わかりました。」

 

店主がカシスオレンジの準備をする。

 

紗夜も最初カシスオレンジだったし、女性ってなんかカシスオレンジ好きなイメージある。

 

あこが飲もうとした直後、2人の女性が入ってきた。

 

もう見てすぐにわかった。

 

友希那とリサである。

 

「やっほー!おっひさー!」

 

「友希那!リサ!久しぶりだね!雰囲気全然変わんないや!」

 

「久しぶりね、みんな。紗夜はすぐにわかったけどあこと奏多はかなり雰囲気変わったわね。」

 

「お久しぶりですっ!あこ、この中で一番大きくなりました!」

 

「ほんとだー!背がたかくなってる!」

 

「へへーん!」

 

「2人ともお久しぶりです。とりあえず座って飲みながら話しましょうか。」

 

「そうね。あ、それと燐子、今空港についてもう来るって言ってたわよ。」

 

「ホントに!早く会いたいなぁ・・・!」

 

「ソーター幸せオーラ出しすぎ〜!ソータは燐子といる時ずっと幸せそうだったんだから〜」

 

「りんりんがウィーンに旅立つ時にりんりんの前では泣かないくせに飛行機出た瞬間泣き出したのは面白かったですけどね。」

 

「それ言わないでください・・・」

 

「とりあえず飲みましょう。リサ、カシオレでいいわよね。」

 

「うん、マスターさん!カシオレ2つお願いしまーす!」

 

またカシオレかよ!

 

どんだけカシスオレンジ好きなんだよこの人たち!

 

まぁ、燐子が来るまでの間、楽しく談笑できればそれでいいか。

 

・・・と、そんなこと思っていたのが3分前の僕であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お酒は人を変えるとよく言われる。

 

アルコールを摂取することで気分が高揚し、普段見せない一面を見せてくるあれだ。

 

僕は生まれつきお酒に強かったせいかあまり酔っ払うことは無かったので、平常心を保つことが出来た。

 

しかし人は誰しもそんなお酒に強い訳では無い。

 

その影響がまっさきにでたのは予想通りというかなんというかあこだった。

 

しかもカシオレ一口でである。

 

「ふにぁ〜・・・気分が高まっていい気持ちぃ〜・・・」

 

「ち、ちょっとあこ!?いくらなんでも早くない!?」

 

「リサ姉が分身の術使ってるぅ〜・・・リサ姉いつから忍者修行始めたの?」

 

「いや、やってないから!」

 

「あこ、こんなにお酒弱かったのね。」

 

「予想通りというかなんというか・・・だよね、紗夜。」

 

紗夜に話を降った。

 

しかしそこに居たのは紗夜であって紗夜ではなかった。

 

「うー・・・っ、お酒足りません・・・マスター、今度は梅酒をおねがいします。」

 

「別に構いませんが、お客さんこれで5杯目ですがよろしいのですか?」

 

「だいじょぶれす、あとフライドポテトおねがいします。」

 

「生憎うちでは扱ってませんので・・・とりあえず梅酒の方ご用意させてもらいますね。」

 

「おねがいしらす」

 

紗夜お酒進むの早くないですか!?

 

みんな1〜2杯目なのにこの人もう5杯目だよ!

 

「さ、紗夜?呂律まわってないけど・・・本当に大丈夫?」

 

「だいじょぶといったらだいじょぶれす!それときいてくらさい、みらさん!うちのひなったらこのまえてれびにれてたんですけど・・・とてもかわいくてかわいくてひとにせられないくらいらんれすよ!」

(特別訳:大丈夫と言ったら大丈夫です!それと聞いてください、皆さん!うちの日菜がこの前テレビに出てたんですけど・・・とてもかわいくて人に見せられないぐらいなんですよ!)

 

「紗夜、崩れすぎてもはや何言っているかわかんないから!」

 

「らりって、そんらのひなのことにきまってるらないてすか!」

(特別訳:何って、そんなの日菜のことに決まってるじゃないですか!)

 

なんだろ・・・何言ってるか分からないのに紗夜がすごく日菜さんのことを伝えたがってるのはわかる・・・

 

てか紗夜の真面目キャラがお酒によっていとも簡単に崩れ去るとは思わなかった。

 

ちょっと引いてしまうほどである。

 

「と、とりあえずこれ以上崩れちゃったら燐子出迎えるのに対応できる人が減っちゃうから、僕達は少し抑え目にしよう!」

 

「そうね、今回みんなに伝えたいことあるわけだし。」

 

「よし!アタシ達だけでもしっかりしよう!」

 

そういきこんだ、そこまでは良かったのだけど・・・

 

いきこんだ2分後、もう1人の仲間もお酒によって崩れてしまった。

 

「へへ〜ゆきにゃ〜・・・ゆきにゃはアタシのもの〜・・・」

 

「リサ、ここで頬を擦り寄せないで。あなた、お酒弱いのにいきこんでもう酔ってるじゃない。」

 

「よってにゃいよ〜へへ〜ゆきにゃはかわいいにゃあ〜・・・」

 

こんな感じにずっとリサが友希那に頬を擦り寄せながらずっと頭を撫でたり膝にすり寄ったりして甘えている。

 

まるで猫である。

 

「このまま友希那にも倒れられたら困るな・・・」

 

「私なら大丈夫よ。お酒には強いみたいだから。それに私はRoseliaのボーカル、お酒程度で崩れてしまっては再建なんて夢のまた夢よ。」

 

「ゆきにゃぁ〜よそみしないでよぉ〜」

 

「はいはいわかったわよ。」

 

友希那よ、かっこいいこと言いながら撫でられて甘えられて満更でもない顔をするな。

 

こちらが踏み入れられなくなる。

 

すると扉が勢いよく開いた。

 

異国の服をまといながらも、なくなることの無い雰囲気と見慣れた黒髪、そしてこの温かさ。

 

間違いない、燐子である。

 

「お、遅れました!」

 

「燐子!おかえ 「りんりーん!おかえりー!」

 

僕がいうより早く、あこが燐子へと抱きついた。

 

大きくなったあこを受け止められるはずもなく、燐子はあこと一緒に倒れ込んだ。

 

「あこちゃん・・・久しぶりだね・・・なんか・・・おっきくなってる・・・」

 

「りんりんの匂いだぁ・・・久しぶりだぁ・・・」

 

「しろきゃねさん、おひしゃしぶりでしゅ」

 

「へへぇ〜ゆきにゃぁ〜」

 

「リサ、ちょっと離れてもらえるかしら。・・・こほん、久しぶりね、燐子。」

 

「みなさん・・・お久しぶりです。それと・・・ただいま、奏多くん。」

 

「うん、おかえり燐子。」

 

あこに離れてもらって燐子の手を取って立ち上がらせる。

 

半分ぐらい酔いつぶれてるが全滅前にあえて良かった。

 

「なんか・・・みんな変わっちゃったね。」

 

「主にお酒でね・・・」

 

「とりあえず後で宇田川さんと妹さんに連絡して迎えに来てもらおうかしら。リサは私が連れていくから。」

 

「そうだね・・・とりあえず燐子も飲もっか。聞かせてよ、ウィーンでの話。」

 

「・・・うん!」

 

燐子も席に座って注文(もちろんカシスオレンジだった)した。

 

最初はちまちま飲みながらウィーンでの出来事を話してくれていた。

 

僕も友希那(リサ、あこ、紗夜を1人で相手にしながら)も燐子の話を聞いていた。

 

留学中も連絡は取り合っていたので、あちらでどんなことがあったかは知っていたりするが、やはり本人の口から聞きたいものである。

 

しかしここは酒の場、どんどん燐子の様子が変わってきたのだ。

 

「それで・・・その先生自分中心でしか話しなくて・・・そこのキーは絶対押さなくていいのに押したがるし・・・あ、マスターさん、ビール追加で。」

 

「お、お客さん大丈夫ですか?これで9杯目ですが・・・」

 

「氷川さんが8杯で止まっちゃったんですから私が飲まないと・・・」

 

「ち、ちょっと燐子?飲みすぎは体に毒だよ?」

 

「これは私がやり遂げないといけないことだから・・・」

 

「なんの責任感!?」

 

そして燐子は出てきたグラスを手に取るとグイッと喉を鳴らせながら飲み続けた。

 

僕も友希那も唖然としている。

 

というかさっきから愚痴しか聞けてない!

 

燐子の闇がめちゃくちゃ出てきてる!

 

「燐子、その辺にしないと・・・」

 

「それでヨーロッパの男性と来たらすぐナンパして来るんです・・・私には大事な人がいるって言っても伝わらなくて・・・ううっ・・・」

 

やばい、今度は泣きに入ってきた!

 

燐子お酒で本性表わしすぎだよ!

 

というかめんどくさい酔い方しちゃうな僕の彼女!

 

「連絡とってたけど・・・寂しかったんだから・・・ううっ・・・」

 

「奏多、私にはもう手一杯よ。燐子の相手はあなたしか無理よ。とにかく燐子を慰めて。」

 

「わ、わかった!燐子、1度落ち着こうか!僕は今ここにいるし話はちゃんと聞いてるから!」

 

「ずっと我慢してたけど怖かったし・・・寂しかったんだから・・・ギュッてさせてよ・・・」

 

すると燐子が僕に抱きついてきた。

 

それもものすごい力で抱きしめるので首締まりそうなのである。

 

「燐子!ギブ!ギブっ!」

 

「ダメ・・・あと5分だけ・・・」

 

「これ以上やったら天に召されるから!さらに遠いところに行っちゃうから!」

 

「・・・お客さん、お熱いけど大変ですね・・・」

 

そう言って店主が暖かい目で見つめてくる。

 

見てないで助けてくれと思ったのが今の僕の心境だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そんなこんなで僕と友希那を除くほとんどが酔いつぶれてしまったので話も出来なくなり、この日はお開きとなった。

 

「いやー、すみませんね!九条先輩たちに迷惑かけちゃって!ほらあこ、帰るぞー」

 

「おねぇちゃん・・・おんぶぅ・・・」

 

「昔ならともかく今はあたしぐらいにデカくなったからな・・・悪いけど歩いてくれ。」

 

「巴ちゃんも大変だね〜。ほらおねーちゃん!おうち帰るよ〜」

 

「めのまえにてんしがいましゅ。これはゆめでしゅか?」

(特別訳:目の前に天使がいます。これは夢ですか?)

 

「夢じゃないからね〜、酔っ払ったおねーちゃんも好きだけど介護が大変だからあまりなって欲しくなかったんだけどね・・・」

 

「お酒8杯も飲んだからね・・・」

 

「今度またおねーちゃんとお酒のこと相談しとくから!それじゃあね奏多くん!また仕事場で会えたらよろしくねー」

 

とりあえずお迎え組は保護者に連れられて帰っていきました。

 

さて、あとは我々が帰るだけである。

 

「ゆきにゃ〜・・・」

 

「リサ、歩きにくいからまとわりつかないで。それじゃあ奏多、今度また改めてRoselia再スタートの話をしましょう。」

 

「そうだね、今度はいつものファミレスにしとこうか。」

 

「ふふっ、そうね。あなたと話せて良かったわ。それじゃあ。」

 

友希那がリサの手を引いて駅の方に歩いていった。

 

さて、僕と燐子も帰るとしましょうか。

 

実は燐子の留学予定が発覚する3日前から同居していたので、僕の家は実質燐子の家でもあるのだ。

 

「ほら、燐子。一緒に帰るよ。」

 

「ううっ・・・頭痛い・・・」

 

「あれだけ飲んだらそりゃしんどくなるよ・・・」

 

燐子はあの後11杯まで飲んだあと、こうしてずっとグロッキーなのである。

 

未だに吐いてないのが不思議なくらいだ。

 

「どうする?タクシー乗る?」

 

「・・・お任せします・・・」

 

「了解、お姫様。」

 

とりあえずタクシーを呼び止めて僕の家の付近の駅まで送ってもらう。

 

家まで送ってもらわなかったのは、酔い醒ましには夜風に当たって歩いた方が楽になるかと判断したからだ。

 

タクシーを降りてお金を払って僕は燐子の肩を支えながら僕の家まで歩き始めた。

 

燐子の荷物は新宿のコンビニで僕の家まで送ってもらっているので、最悪明日の朝には届くだろう。

 

そんなこんなで歩いていると、燐子も多少楽になってきたのか、話しかけてきた。

 

「・・・ごめんね、変な姿見せちゃって・・・」

 

「確かにちょっと驚いたけど・・・燐子の本音聞けたからよかったな。」

 

「ううっ・・・恥ずかしくなってきちゃった・・・」

 

「でも、燐子が正直に『寂しかった』って言ってくれたの、僕は嬉しかったな。」

 

「・・・だって、本当だったから・・・」

 

「高校の時付き合い初めて1年経った頃でもこんなにはっきり言ってくれてなかったからさ。今こうしてはっきり言ってくれてるの、本当に信頼されてるんだなって思うと嬉しくって。」

 

「みんながはっきり言う大切さを教えてくれたから・・・今の私があるのはRoseliaと奏多くんのおかげだよ・・・だから私はもつ留学なんてしたくない。奏多くんと、みんなと離れたくない・・・大好きなみんなと・・・大好きな奏多くんと一緒にいたい・・・」

 

燐子はそう言うと空いている手で僕の手をぎゅっと握りしめていた。

 

僕の手をにぎりしめる燐子の手は、僕にとってとても強く、儚く、そして弱いものだと思った。

 

もうこの手を離したくない、もう二度と遠くに行って欲しくない。

 

僕は今、心からそう思えた。

 

「僕だって寂しかった。この2年間、また会える日をずっと待っていた。もう遠くへいって欲しくないって気持ち、僕も同じだよ。」

 

「奏多くん・・・」

 

今もふらつく燐子を今一度肩をしっかり抱き寄せ、燐子の顔を見て話した。

 

「だから帰ろう。僕達の家に。」

 

「・・・うん!」

 

互いを支え合い、助け合い、僕達は確かな1歩をあゆみ出す。

 

たとえ幻想でも、夢でも、これは僕が作る物語であり、2人で奏でる交奏曲である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ーーーーこれはあるかもしれない未来の物語

しかし未来は誰にもわからない。

この物語を紡ぐのは私の仕事であり、読み解くのはあなたの仕事である。

これは可能性の1ページ。

こうなるまでの道はまだ長そうです。


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