こいつなんてもの夢に出してんだ。
目を瞑りぼんやりとしていた、少し頼りない足場と少々の風には全く動じない頼もしい壁を背負って。
目を開けば視界に映るのは青々とした鱗、細いが頼りになる骨組み、鱗の内側から見ているので隙間から覗く空。
自分は今、木の枝に座っていた。
心地よい風に気を良くしてふと、下を向く。
可愛らしい顔が此方を見ていた。詳細はもう覚えていないが、見えていなかったのかもしれない。余りにもその場に溶け込んでいたから。
その少女はなんと言っていただろうか、その言葉を聞いて嫌な予感だけはしていた。上を見ながら告げるその声で、当たり前のように告げた。
「私が終わればキミの番。大丈夫、すぐにそれは来るから。」
自分の記憶にある服とは似ても似つかない襤褸布を着た彼女は言った。言ったはずだ。もしかしたら目で語った、という奴かもしれない。
その言葉に違和感と恐怖がやってきた。違和感はふとした時にやってくるものだが、恐怖がくるのはおかしいと思い降りる。外に出たがらず、怖がりな自分がやることに違和感を感じず。
遮られた優しく心地よい場所を抜けた自分は少女の駆けた方向を見た。世界が広がる。木が生い茂り、土の色は乾いていた。人の手の入っていない自然があった。自分も駆ける。
その必要はなかった。
びちゃり
肌色の棒が目の前に落ちた。半ばから折れ、先端は五つに分かれていた。
人間の腕だった。
それも恐らくは先程の少女の。その事実を飲み込むのに数秒。たった数秒、それだけで致命的だった。余りにも。
臭いでえずきそうになるのを抑え、気持ち悪さからか後ずさる。まだ、それは動き出しそうな色をしていた。
地震が起きたのかと思うほど振れる視界を上げる。ゆっくりとした動きだった。見たくはないが見なければならなかった。
果たして佇んで居たのは黒いだま。3つの楕円と8つの棒。赤い玉が8つに黒から出るには綺麗すぎる白い糸。糸以外からは毛が生えていた。
蜘蛛だ、木と同じ背丈のように見えるくらいの大きさの。悍ましく身震いする恐怖の体。口の先端からは赤が垂れていた。理解したくもない。蜘蛛はなにかを、少女を味わうように口を動かしていた。少女は居なかった。あったのは赤い染みと、足元の棒。
8つの赤が此方を見て、枝を動かし、悍ましい笑みを浮かべたような、そんな気がして
黒と宝玉、落ちる赤を引き連れて
後ずさり、逆を向き、走り出そうとして
意識が消える。
残ったのは落ちた枝、そして黒い蜘蛛のみ。
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崩れた塔
ヒツジってスゲー
三人称で見たはじめての夢です。
目を覚ます。
見覚えのない所に居たが不思議と取り乱さなかった。
自身の後ろにいた羊を抱えて探索を始める。
古い廃れた塔らしき場所だった。本棚や机、椅子、そしてロウソク。火は無いが不思議と内部は明るかった。
多少の見たくない骨やらなんやらはあったが、それに驚く程度で探索は進む。
何日間か探索を続けていた時、ご飯は食べていなかったがそのような感じがした。
少女と出会う。まさしく探索用といった本格的な装備をして。わたしを見て大きく驚嘆していたのは何故だったのだろうか。
他愛のない話やこの場所について、確か偉人についてなどの話に花を咲かせていた記憶がある。何度も彼女とであって、次は何処でなどと考えていたとき。
揺れる。
ずっと抱きかかえていたヒツジが元気に腕から由抜け出し、わたしを下へ下へと誘導する。
塔が崩れ、羊のお蔭で死亡だけは免れたが、脱出すら困難になる。空腹感に似たようなナニかを感じながら意識が薄れてゆく。眠たい。ヒツジは憎くも既に寝ていた。
体にかかる妙な浮遊感。眠っているのに更に眠るような微睡みの中から。
目を開けると崩れた塔の内部に居るらしかったが、様変わりしていた。
自身の容姿に関しても。まだ崩れたばかりだった塔に関しても。
長くなった髪、彼女から貰った探索セットは悲しいことに毛羽立ち、使い古された様な感じになってしまった。
崩れて悲惨な事になっていた塔は更に酷い事になっていた。ひび割れたレンガ、床に落ちた壁面、かなり砂っぽくなった床、塞がって天井になっていた所は頑張れば出られるような穴がそこかしこに空いていた。
ただ問題は、前まで塞がっていた出入り口。開いたのは喜ばしいのだが、だが、水没しているのはどうかはとは思う。
隣で変わらず眠りこけているヒツジ、垂れたヨダレが川を作り出口を水没させた水に繋がっている。
涎で出来たと思われる水溜まりの中の出入り口。顔をしかめて外へ出ようとする。想像以上に水っぽかったのは少々想定外ではあったが。
この水の正体を知っている自分からすれば嫌なことでしかなかったが、この水に潜らないと出れないらしい。
八つ当たり気味にヒツジの口を塞ぎ、抱えてヨダレ溜まりに向かい、
潜る、想像以上に深く一度戻って再挑戦する。
潜る、今度は出られたらしくまとわりつく髪から考えたくもない液体を絞り出す。
そこそこ絞り出せただろうというところで周囲を確認する。
そこには驚いた顔をしていた青年がいた。
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ヒトガタ
違和感はあまり、と言うものであったが。
関節に、稼働に、違和感があった。
ひどく懐かしい場所。記憶に基づいた学業の場。しかし隣を行くのは記憶に無い少女。
スラリと伸びた手足、白磁の肌、銀糸のような髪、淀みなく輝く蒼眼。作り物の身体。
精密に美しく作られたそれはまるで意思を持っているように、恐らくは意思を持って、自分の隣を歩く。
窓に反射した自身の姿も作り物めいた物になっていた。違和感の正体はこれか。などと他人事のように考える。
靴で踏みしめた床に異物を感じた。床に目を向ける。ナニカの破片。自身や隣の少女の肌のような質感の。
事実それは肌であったのだろう。その肌の欠片が示すのはなんであるかはすぐに分かった。
砕けた人間があった。その人間は記憶に残るほど嫌われていた人物であった。胴は踏み抜かれ、腕は壁に引っ掛かっている。それでも人形は日常生活を送ろうとする。脚だけで立ち上がり、胴体と手はまるでそこにあるような動きをする。先のない肩を上げバランスを取ろうとする。背中が床に付いているというのに。駆動する度に綻ぶ身体をなんの意にも介さず。
人間は人形であった。異常を感じもせず普段の生活を繰り返すだけの。まるで幼児の人形遊びのような、ナニカをなぞるだけの行動。意識は存在せずそこに佇む。
まるで出来の悪いごっこ遊びのように。
自身は銀糸の人形について行きさらなる異常を感じ取る。
教え子に壊された人形。その口はカタカタと音を鳴らすのみで意味を持たない。表情も読み取れるほどの原型は保っておらず壁や机に手を叩きつける動作のみ記憶と同じだった。
カッターやハサミで関節を壊され動かなくなった生徒。惨状を意に介さず授業の準備を進めるもの。カタカタと無機質な音を立てて会話のマネをする人形。
耐えられるものでは無かった。異常を認識してしまえば、それは一般的な感性を持つものには苦しみしか残らないはずなのだから。
砕ける音がした。普段の生活を抜け出しそちらへ向かう。廊下で見たのは吹き飛んだドアと割れたガラス。満足に動く事のできなくなった人形。
ドアのあった枠から出てきたのは腕をだらんと下げた、人形。コチラに目もくれず、もはや動かなくなったそれに手首を振り下ろす。何度も何度も、腕がなくなるまで。
横を駆け抜ける、あんなのに加わりたくも、見つかりたくもない。必死ににげ、階段から転げ落ち、立ち上がろうとして、見えたのは
ニンゲンの、銀糸の様な
顔に赤い三日月を浮かべた少女。
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