女だけどアムロ(女)になったから頑張って一年戦争する (めんつる)
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ガンダム大地に立ってザクをタコ殴り

「ん?何ここ……せっま……!?」

 

 目が覚めたら

 

「ってかどこここ!?」

 

 アムロ(女)になってた。

 

 

 

 

「何これ……何この……これ!?」

 

 目が覚めるや否や私はものすごい狭い空間に押し込まれていた。

 真っ暗だけど薄ぼんやりと光って「ピキョロ……ピキョロ……」と変な音がなる画面みたいなものが私のあちこちにある。

 それと私の足元には変な本がある。青色の背景に赤い「V」が書かれたやつだ。

 

「えー?何これ……?とりあえず電気……無いし」

 

 目が慣れてきたのか周りがだんだん見えるようになってきた。

 目の前と左右には大きなテレビ画面。上もテレビ画面だ。

 左右にはなんだか仰々しい前後ろに動くレバー……。

 

「何これ…ロボットのコックピット?」

 

 なんだろ、ガンダムのロボットみたいな感じなのかな。

 とりあえず足元の本を手に取り、パラパラとページをめくる。

 英語だ。すべて英語で書かれている。

 

「嘘……読める……」

 

 しかし私、こんなところに連れてこられて危機的状況にあるのか、ものすごく読める。

 それも何の違和感もなく、まるで最初から英語で話していたかのようなスラスラっぷりだ。

 人間本気を出すと人間が想像している以上の力が出るものなのかしら。

 

「えーっと、……ガンダム……ほんとにガンダムじゃん!?」

 

 ガンダム。ガンダムって言うとアムロとシャアが戦って、

 ガンダムって名前のロボットが暴れまわる話だ。そして、私はそのコックピットにいる。

 感触や座ってる感じからしてVRのゲームではないことは明らかだ。説明もないし。

 

 もしや私、何らかのアレでアムロになってしまった……?

 

「えーっと、何?夢?夢なの私夢なの?」

 

 ほっぺをつねる。痛い。頭を触る。なんだかモジャモジャしている。

 明らかに自分の頭じゃない。でも、くせっ毛なだけだ。胸もある。股も……ない。

 ……あ、アムロ……なの?私……アムロって男だったような……。

 

 アムロ……アムコ……?わからない。まぁ、女であることには変わらないか。

 

「……」

 

 ガンダム……ガンダムの話を思い出そうとするが、見ていないので分からない。

 結構前にテレビでやってた名作アニメ特集のあれから考えると……

 確か最初にアムロはガンダムに乗って…………何したんだっけ?

 

「とっりあえず……電源入れよっかな…っと……」

 

 このまま暗い部屋に居てもしょうがない。ドア開ける何かもないし、今はガンダムを動かすしかない。

 電源さえ入ればあとはドアを開けるボタンでも押してガンダムから降りないと。

 アムロかアムコかアコムかわからないけど私にガンダムの運転なんて出来ない。

 

「えっと……説明書の……これ?」

 

 ガンダムの説明書では、正面の光ってるボタンを押して、次に光る左右のボタンを押す……。

 ……で、左右のレバーの付け根、何とも押しにくい所にあるスイッチを押すと

 

「わぁ?!?」

 

 正面のモニターと左右のモニター、ついでに真上のモニターが点灯した。

 モニターには外と思える映像が映し出されている。

 まず目の前に飛び込んできたのは、自分をまっすぐ睨んでいる緑で一つ目のロボット。

 こいつ知ってる!!

 

「ザク、だっけ?敵の……!」

 

 そしてこの体勢、寝転んでいるのか、えらく視点が低い。実物大はもっと高い位置にあったはずだ。

 これ降りたら殺されるやつやで。

 

「ぶ、武器……探してる暇はないわ……立たなきゃ……!」

 

 説明書を足元に置き、操縦レバーと思われる左右のレバーを握る。

 さっきから座ってる椅子の下で何かが動いている音がしている。これなら動けるはず。

 

「これがレバーで、足元がアクセル?みたいなの?」

 

 レバーは前後ろだけでなく、持つ部分が上下に動く。試しに上にひねるとガンダムの上半身が腹筋みたいに動いた。

 これで立てるのか。その操作を行うとモニターに「Auto Stand Up」みたいな表示が出る。なるほど、こうやって立たせるのか。

 

「よし。立って頂戴!ガンダム!」

 

 レバーを上にひねり、気持ち後ろに引く。するとガンダムのエンジン音がコクピットに薄く響き、

 なんだか立っているような感じになる。銃をドンドンと撃っているザクの動きが止まり、こっちを向く。

 

「気付かれた!?」

 

 ザクはこちらを見つめて動かない。立つなら今しかない。

 巨大ロボットだって言うなら立って戦わなきゃ。

 マジンガーゼットとかいうのもロケットパンチで戦ってるんだし。

 

「よし立った!……の?」

 

 ガンダムの上半身は完全に立ち上がり、地面から離れた位置に操縦席がある事は明らかだ。

 目の前にはたじろいでいるザク、その奥にもザク。左右は色々壊されたり寝転んだりしてるロボット達。

 多分立ってる。

 

「……で……どうしよ……」

 

 手足の動かし方も分からなければアクセルみたいなの踏んでコケても困る。

 だからといってここから降りることも出来ない。ドアが何処にあるのかもわからない。

 あのザクを倒さないとどうにもならないのかもしれない。

 

「とりあえず……感覚で動かそう!私は一応アムロなんだから、主人公なんだから!!」

 

 

 

 ★

 

 

『で、デニム曹長!て、敵のモビルスーツが!』

 

 MS-06、ザクのパイロット、ジーンが大声でデニム曹長を呼ぶ。

 新兵であるジーンは命令違反を犯し、サイド7を攻撃していた。

 しかしそれはすべて敵艦に搬入する前の無人機、部品だと確信していたからである。

 

 しかし目の前にいる白いモビルスーツは確かに動いている。ものすごくぎこちない立ち上がり方だが、確かに動いている。

 

『何?みんな部品ばかりだと思っていたが……』

 

 上半身しかない赤いモビルスーツ、戦車の出来損ないのようなモビルスーツの中に混じっていた白いモビルスーツ。

 ジーンが破壊したモビルスーツは赤いモビルスーツと戦車の出来損ない。白いモビルスーツには手を付けていなかった。

 それもその筈だ。気付く前に、白いモビルスーツが立ち上がったのだから。

 

『ジーン!撤退するぞ!奴が動いたのならば分が悪い!』

『いや、パイロットは素人です!奴はまだうまく動けんようです!!』

『やりま……うわぁああああ!!!?』

 

 ジーンは手柄を立てるべく白いモビルスーツに向き直そうとした瞬間、白いモビルスーツがジーンのザクに文字通り突撃した。

 バーニアを思い切り吹かし、水平に、そのまま突っ込んだ。

 

『ジ…ジイーーン!!??』

『そ、そうちょおお!!!!??』

 

 コロニーの建造物に激突した2機はまるで子供の喧嘩のように揉み合う。ジーンのザクが下に、白いモビルスーツは馬乗りになっている。

 その姿は外から見ても分かるようなでたらめな動きだ。パイロットは操縦桿をデタラメに動かしているのだろう。

 しかしそのでたらめな動きは確実にジーンのザクにダメージを与えている。ついでにジーン自身にもダメージが入っているようだ。

 

『助けてください曹長!!モニターが消え……!操縦桿が!コクピットが!潰されてます!!』

 

 メチャクチャな動きでザクを殴る、踏む、体全体で押し潰す、を繰り返す白いモビルスーツ。

 ひとしきりジーンのザクを蹂躙した後、白いモビルスーツはザクの顔を掴み、思い切り投げた。

 ジーンはそのまま吹き飛ばされ、デニムのザクに頭から落下する。

 

『じ、ジーン!!』

 

 ジーンのザクは見るも無残な姿となっていた。各部位が欠損しているわけではないがあちこちにビルの破片が突き刺さり、

 ほぼすべての部位が白いモビルスーツの打撃攻撃によって機能停止状態となっている。

 もはやジーンの乗っているザクはザクではなく、スチール合金によって補強された棺桶だ。

 

『ジーン!コクピットを開けられるか!』

『は、はぃ……何とかぁ……』

『よし!スレンダーのいるところまでジャンプする!手に乗れ!』

『はぃぃ!何だあのモビルスーツは……!』

 

 ジーンが棺桶から這い出し、デニムのザクの右手に乗る。

 白いモビルスーツはと言うと、ジーンとデニムのザクを指差し「どうだ参ったか」と言わんばかりに仁王立ちしている。

 その足元では、連邦軍の宇宙服を着た男性がエレカに乗って怒鳴り散らしている。

 

『スレンダー!ジーンのザクがやられた!脱出するぞ!記録はできているか!?

「はっ!完了しております!」

『も、申し訳ありません…デニム曹長』

 

 私、スレンダーは記録を中断、命令違反を犯した新兵ジーンをコクピットに押し込み、サイド7から脱出した。

 結果的に連邦のV作戦と呼ばれる作戦記録と機体データの概要を持ち帰ることには成功した。

 しかし、偵察任務成功の代償が貴重なザク1機の損失とは、予想外だ。

 

「少佐、偵察任務終了。帰還します!」

『了解した、報告は後で聞こう』

 

 白いモビルスーツ、武器も使わずザクを1機撃破するほどの威力を持つ。

 恐ろしいモビルスーツだ。

 

 

 ★

 

 

「ふぅ~……勝った……!」

 

 ザクが逃げていく。操縦桿を適当に直感的に動かすだけでガンダムはザクをボッコボコにしてくれた。

 馬鹿みたいに操縦が難しいロボットだと思っていたけど、やってみたら案外動かせるもんだ。

 ほとんど2本のレバーとアクセルしか使わなくてもここまでやれるとは。

 

『ガンダムのパイロット!無事か!』

 

 ガンダムの正面の上部分にあるモニターの一つが勝手に映った。そこには宇宙服を着ている…

 父さんが居た……父さん……?この人が?

 

「え?」

『あ、アムロ……!?』

「父さん……」

 

 私の父さん、というより、アムロの父さん……私の記憶とアムロの記憶がごっちゃになっている。

 私の父さんとは全く似つかない。というか私自身の記憶がぼんやりしていて思い出せない。

 わたしゃ誰だ?

 

『アムロ!』

「父さん……テム・レイ?」

『何でお前が……』

 

 ……まぁ、私もアムロでいいか。思い出せない物を無理して思い出しても仕方ない。

 とにかく私は操縦桿近くのマイクみたいなボタンを押して答える。

 

「何か、成り行きで乗っちゃったのっ!」

『乗っちゃったの…って……!とにかく、無事なんだな!?』

「う。うん!」

 

 テム父さん。アムロの記憶を思い出そうとするも、アムロ自身の記憶もぼんやりとしている。

 この人が私の父さんである事。凄く厳しい父さんとしか思えない。

 

『そうか……良かった……とにかく、機体から降りなさい。膝立ちになってハッチを開けるんだ』

「ひ、膝立ち……えっと」

『操縦桿のグリップを下に。その後レバーを内に引けばいい。出来るか?』

「こ、こう?」

 

 グリップを下に……レバーを内向きに……。

 言われた通りにやるとガンダムの視線がどんどんさがる。

 ……ハッチっていうのは……?

 

『よし、アムロ。ハッチを開けろ。コックピットのコンソールを見るんだ』

「コンソール?前の奴……?」

『そうだ、そこのパネル、右下の小さなパネルを見なさい』

 

 右下のパネル。これか、ハッチオープンとか色々なメニューが有る。

 タッチパネル式で青い背景……ハッチオープンのボタンは赤い表示だ。

 これをタッチすれば……。

 

「これ!」

 

 プシュッ!と空気が抜ける音がした。それと同時にすべての電気が消える。

 ガンダムの前が開き、何時間ぶりかの外が拝めるようになっ

 

「高ぁ!?ちょ!?」

 

 たが、久々の外の空気は地上数メートルの上空で味わうことになった。

 

「って…………」

 

 しかしその外の空気は、とても新鮮で、

 とても、不思議な空間だった。

 

「何……ここ……」

 

 筒のような世界。ガラスの先には真っ黒な空間。……真上にも建物がぶら下がっている……。

 ここは一体どこ……?

 

「アムロ!!」

「お、父さん……!」

 

 ガンダムが自動で手を私の目の前に差し出す。その手に乗り、私は地上に降りた。

 初めて見るテム父さん。なのに不思議な「父さん感」を感じる。

 明るい世界に放り出されて改めて見る私の格好。上下デニムに黄色い服……と凄まじく微妙な服。 

 でもなぜか馴染んでいるこの服……。

 

 あー。やっぱり私アムロになってるんだなって思った。

 しかも記憶もだいぶアムロ寄りに上書きされてるっぽい。

 

「あぁ、アムロ。無事で良かった……」

「父さん……」

 

 ヘルメット越しに私の顔を見る。ボサボサ一歩手前のくせっ毛に、何ともまぁ普通の女の子の顔。

 自分自身が何者かわからないけど、少なくとも元の私よりは美人……な気がする。

 そして、テム父さんの顔を見る。なんだか苦労してそうな顔だ。ヘルメットの緑色越しでよく見えないが。

 

「……ガンダム……凄いロボット……」

「ロボット……そう、ガンダムは凄いモビルスーツだ」

「うん……」

「…………アムロ、周りを見なさい」

「え……」

 

 父さんに言われ、私は周囲を見渡す。赤いロボットの上半身や下半身。

 それに色々なパーツの殆どが壊れた状態で転がっている。

 

「ガンダムの予備パーツ、それにガンキャノン、ガンタンクのパーツを回収しなければならない」

「……?」

「……私は生存者の保護やホワイトベースの出港準備とやることが山積みだ」

「なるほど……」

「アムロ……頼めるか、連邦軍モビルスーツのパーツを回収してくれ」

「は、はい…………えぇ!?」

 

 父さんが私の肩を叩き、ガンダムを指差す。

 なんだかよく分からずに首を縦に振ってしまった私は、

 なんだか良くわからないうちにガンダムに再び乗り込むこととなった……。

 

「ウッソでしょぉ……!?」

「ケンプ中尉が戦死しなければ……!」

「誰よケンプ中尉って……わかったわよ!」

 

 私はもう一度ガンダムの手に乗る。するとガンダムはまたも自動的に私をガンダムのお腹辺りまで運ぶ。

 地味にすごい技術だ。そしてもう一度コックピットに座り、タッチパネルを操作してドアを閉める。

 

 何で私がこんな目に合わないといけないのか。

 何でアムロが女なのか。

 何で私の記憶の殆どがアムロ寄りに上書きされてるのか。

 これから私はどうなるのか。

 

 テム父さんに手の使い方など色々教わりながら考えた。 

 

 

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アムロは女
・ジーン、デニム生存
・テム・レイホワイトベース搭乗
・サイド7、ガンダム予備パーツ、ガンキャノン、ガンタンク損害軽微

以上の結果となりました。


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シャー・アズナブル

「これが、がん、何だっけ……」

 

 赤いモビルスーツの残骸を専用の搬入口らしい所に運ぶ。

 殆どが壊れているものの、直せば使えそう、な気がしないでもないものばかりだ。

 あのザクがバカスカ撃ちまくっていたのはどこを撃っていたんだろう。

 パイロットが下手っぴなのか、それともガン戦車やガン……なんとかが頑丈なのか。

 

「これで、全部かな?あ、まだあった」

 

 工場かなんだかよくわかならない所、搬入口の中にもう一つでっかい台車に乗っているモビルスーツがあった。

 ガンダム……の別バージョンかな?黒と白の男の子が好きそうな色のガンダムだ。

 

「これも、持っていこうかな……でも入るかな?その……ホワイトソース?とかいうのに」

『アムロ、何か見つけたか?』

「あ、父さん。黒いガンダムが新品の状態で置いてあるんだけど……」

『プロトタイプか!』

「ぷろ?……それで、どうすればいいの?」

『今すぐそれも運びなさい!そうか、1号機が駄目でもプロトタイプがあれば!』

 

 なんだかよくわからないけど、1号機は無くなっちゃったらしい。

 って事はこれは、何だろう?これは「試しに作ってみたガンダム」って事かな。

 試しにも何も、まんまガンダムだけど。試しに作ったら割と理想的だったのかしら。

 

「よっこらせっと……」

 

 とりあえず、ガンダムがガンダムを背負うなんてことはできないので、

 このガンダムを乗っけている台車を……ゆっくり……

 つま先で……あ、右に曲がっちゃった。なんだろう、石蹴りを思い出す。

 

「……これも操縦練習……練習……」

 

 みみっちい……。

 

「てい!あ、やば」

 

 台車を蹴飛ばし、搬入口にガンダムを押し込んだ。

 ガシャーン!!とちょっとヤバそうな音が聞こえたが、うまい具合にガンダムを運び入れることに成功した。

 あれが試しに作ったガンダムって事は私のガンダムはガンダム2号なのかな?

 

「父さん、入れたけど……」

『よし、運び入れるものはこれで全部だ』

「良かった……これで全部……ふぅ~、汗かいたぁ……」

『休んでいる暇はないぞアムロ、すぐにホワイトベースに乗りなさい』

「えっと、軍艦?」

『そうだ。サイド7の機密処理プログラムが生きている。これを作動させると』

「爆発でもするの?」

『そういうことだ』

 

 マジ?

 

「でも、いいの?死んじゃった人とかも爆発するんじゃないの?」

『……これは戦争だ。遺体の回収よりも機密保持を優先させなければならない』

「うーん……まぁ回収する時間もないし……火葬だと思えばまぁ」

『納得せざるを得ない。さぁ、急ぐんだアムロ』

「分かった!どこから乗るの?」

『北西……お前から見て左側前方、32番ゲートから入るんだ』

「……32?」

 

 32と描かれたリフト状の台。その上にまた32と描かれたどでかい扉があった。

 リフトに乗ると、またしても自動でリフトが昇った。一体どうやってこんな技術を……。

 リフトから良くわからない、薄暗い施設に入り、私の乗っているリフトはそのまま進み続ける。

 

「!」

 

 その直後、下から突き上げるような振動と、くぐもった轟音がコックピット内に響き渡った。

 

「あ……」

 

 父さんがあの周辺を爆発させたんだろう。残ったパーツと一緒に死んだ人も。

 私は少し目を瞑り、せめてもの哀悼の意を示した。

 

 

 

 ★

 

 

 

「レイ主任……あの子は」

「アムロ・レイです。私の娘のね。さっき見せた子だよ」

 

 テム・レイ大尉。技術開発主任。

 地球連邦軍のモビルスーツ、RX-78「ガンダム」を手がけた技術者。

 更にサイド7現地でRCX-76、RTX-65を完成させ、改めてRX-77「ガンキャノン」、RX-75「ガンタンク」を作り上げた。

 技術者としてはまさに鬼才と言える人間だが、愛娘をモビルスーツに乗せるとは……。

 いささか人間性に問題があるとみえる。

 

 彼は今、ガンダムに乗っている大尉の娘と連絡を取りながら、手元の図面に手を加えている。

 ガンダムのビームライフルの何処が気に入らないのか知らないが彼は非常時でも手を休めない。

 ぶつぶつと「これでは取り回しが」などとつぶやき続けている。

 

「アムロ・レイ……」

 

 更にアムロ……男の名前を女の子に付けるとは。

 

「ブライト君、パイロットはどれほど残っているかね?」

「はっ……現時点では、全滅です……」

「そうか……」

 

 78-02パイロット、ウィリアム・ケンプ中尉は搭乗途中にザクの攻撃を受け戦死。

 01のルーグ・ヴェルツ大尉も同じく戦死している。

 プロトタイプガンダムのパイロット予定のファレル・イーハ少尉はジャブローにて待機だ。

 現状ガンダムを操縦できるパイロットは存在しない。

 

 更に新装ガンキャノン、ガンタンクのテストはジャブローで行う予定だったのだ。

 艦長は緊急時のパイロットを現地のケンプ中尉、ヴェルツ大尉に任せるつもりでいた。

 今回の想定外の事象によってその二人が戦死したとなると。

 

「レイ大尉、どちらへ!?」

「艦長に具申しなければならない、アムロにガンダムを任せるとな」

「えぇ!?」

「緊急事態なんだよ!」

 

 自分の都合で日常と異常を使い分けるな……!

 

 齢19にして、頭の毛が後退しそうな思いになる。

 その時、モニターに映った少女、アムロ・レイが目に映った。

 あの父親とは似ても似つかないあどけない少女だ。慣れないモビルスーツを一生懸命に動かしている。

 哀れな子だ。戦乱に巻き込まれ、軍事機密とはいえガンダムを駆り、サイド7を守ったというのに、

 実の父親にこき使われ、未だガンダムを降りられないでいるとは。

 

 そう考えていると、少女の目が突然見開き、通信が入る。

 

『父さん!!なんか赤い人がすぃ~って通ってったけど!?』

「何!?赤い人だと!?」

『え……?だ……誰?』

「地球連邦軍士官、ブライト・ノア少尉だ!赤い人とは何だ!?」

『え?えと……何でしょう、赤い宇宙服で、えらくピッチリした服で……』

「……ノーマルスーツか!」

 

 赤いノーマルスーツを着た兵士…ホワイトベースのノーマルスーツに赤色はない……。

 ……!まさか……。

 

「っ!何故皆気付かなかった……!アムロさん!すぐに搬入作業を中断するんだ!敵が侵入した!」

『敵!?ロボ……えっと、モビルスーツ?じゃないんですか!?』

「敵はモビルスーツ以外でも来る!すぐにサイド7に戻り敵を捕捉するんだ!機密情報を渡すな!」

『は、はい!?』

 

 まさか白兵戦覚悟で、しかもこの監視網をくぐり抜けて潜入するとは…。

 俺はすぐにホワイトベースのブリッジへ上がり、パオロ艦長へ報告する。

 敵兵撃退後、すぐに出港することとなった。

 

「一体何だって言うんだ!畜生!」

 

 

 

 ★

 

 

 

「一体何だってぇのよもう!!」

 

 あっちに行けと言われたりこっちに行けと言われたり!

 せっかくリフトに乗って、宇宙みたいなふわふわ感楽しんでたのにまたとんぼ返り。

 そろそろ眠いんだけど……。

 

「……どこ~?」

 

 先程の焼け野原へと降り、例の赤い人を探す。こんな何もない所になんの用があるんだろうか。

 プロトタイプ?とか言うガンダムも、バラッバラのガンダムとその他の部品も運び込んだ。

 あるのは……黒焦げの死体だけだ。

 

「……ん?」

『ここまで何もかも処分されるとなると……わざわざここに来た意味がないな……』

『偵察を指示した私のミスか、それとも殲滅に失敗したジーンの責任か……』

『待ちなさい!!』

『ん……』

『ヘルメットを取りなさい!後ろを向き、手を上げなさい!』

『勇敢だな、兵士でもゲリラとも言えん』

 

 ガンダムが声を拾ってくれた。そこら辺のテレビのマイクより高性能だ。ガンダムのマイクは。

 男の独り言のような声が聞こえたと思ったら、今度は女の怒鳴り声が聞こえた。

 私はガンダムの首と私の首を動かしてその声を探す。

 

 見つけた。かなり遠い位置、焼け野原と化してクレーターとなった場所の影だ。

 車が一台止まっている。赤い人を追いかけたのかな。

 

『早く取りなさい!』

『……従おう』

 

 リフトがさっさと降りてくれないせいで現地に向かうことが出来ない。

 さっきの赤い人が敵だって言うなら、女の人が殺されてしまうかもしれない。

 

『……似ている!』

『…兄さん…!?』 

 

 リフトが止まり、焼け野原へと足を踏み入れる。

 ガンダム独特の足音を響かせ、上から見えたクレーターへとガンダムを走らせた。

 ガシャシィーンッ、ガシャシーンッとかなりうるさい足音だ。赤い人を刺激しなければいいけど。

 

『……ほう、わざわざ来てくれたか』

『……モビルスーツ!』

『っ……ッ!!』

『あっ!』

 

 えっちらおっちらとガンダムを走らせると、案外あっという間に現場に着いた。

 目の当たりにしたのはヘルメットを持った赤い人が女の人を蹴っ飛ばしている瞬間。

 思わず私は蹴っ飛ばした赤い人に向かってパンチを繰り出す。しかし避けられた。

 

 それにしてもさっきから男の声……どう聞いてライバルの声に聞こえる。

 こればっかりはガンダムを知らなくても名前を知っている。アムロのライバル。

 

「シャー!!」

『何……!?』

『シャア……!』

 

 思わずマイクをONにしてその名前を叫ぶ。

 貫禄のある声「育毛か植毛か」そんな感じのCMでも聞いた声だった気がする。

 この人がやっぱりシャーなのか。赤い人でこの声でガンダムに出てるとなると。

 シャーとしか考えられない。

 

『…………』

「……あ、あの、お姉さん?」

『あ……あ、ありがとう……女の子?』

「え、ええ。アムロ。アムロ……えと、レイです」

『……アムロ、変わった名前ね』

「よく言われます。ここは危険です、手に乗ってください!」

『えぇ、ありがとう……』

 

 女の人を乗せるため、膝立ちになって手を差し出す。さっきから色々運んでるせいで手の動きはマスターした。

 金髪で、さっきのシャー?よりもストレートな金髪だ。

 きっちりカットされているが、髪質がふわっとしていて、風で靡くその髪が妬まし……もとい美しい。

 

『上手なのね、モビルスーツの扱い』

「え、えぇ……今日乗ったばっかりですけど」

 

 女の人は物憂げな顔をしてガンダムの手に寝そべる。それを優しく掴み、ゆっくりと手を閉じる。

 

「どっか挟んだりしてませんか?」

『大丈夫よ。ありがとう』

「じゃあ、行きますね」

『ええ。レイちゃん』

 

 ……父さん、なんでアムロなんて名前つけたんだろう。

 名字がレイだから良かったものの。これじゃアムロちゃんって呼ばれるじゃないの。

 

 少し複雑な気分になりながら、私は元の32番ゲートに戻った。

 あそこ妙にふわふわするからしっかりこの人を押さえておかないと。

 

 

 

 ★

 

 

 

 女性を助けてさぁやっと降りられると思ったら間髪入れずにブライトっておじさんから連絡が来た。

 今度は宇宙で戦えとのことだ。

 流石に勘弁してと拒否するも、ホワイトベースとかいう宇宙船の船長さんからの命令らしい。

 

「これで、ガンダムの説明はだいたい終わりだ。質問は?」

「んー……いろいろ言いたいことは山ほどあるけど、次で休める……よね?」

「それは……どうだろう。済まないアムロ」

「いいよ父さん。それにしても、宇宙……ねぇ」

「コロニーの半重力区域とは違う。本当の無重力だ。動かし方はさっきのシミュレーションと同じだ、いいな?」

 

 いろいろわちゃわちゃしている空間で、私と父さんはコクピットの中で話し合う。

 ここはホワイトベースのロボット倉庫のようなところだ。

 さっき私が運び込んだ黒いガンダムと数体のガンキャノンっていう赤いロボット。そして戦車がある。

 床のまとめられたところには綺麗に整頓された灰色のガンダムのパーツと、普通のガンダムのパーツが並べられている。

 

 父さんの話から察するに私はもう地球の外にいるみたいだ。さっきの筒みたいな世界がころにー?っていう所で

 そこの外に出ると宇宙はすぐそこだったらしい。そして私は宇宙船ホワイトベースを警備するために外に出る。

 ホワイトベースには少なくはない数の避難民も乗っているらしい。私の、というよりアムロの友達も一緒に乗っているそうだ。

 地味に責任重大だ。

 

「で、さっきの銃は……」

「ビームライフルだ。教えたとおり15発しか撃てない。改善の余地があるが、我慢してくれ」

「うん。……レーザーガンとは違うのよね?」

「あぁ。レーザーガンと言うよりは、水平に飛ぶ水鉄砲というのが正しい」

「ふぅん……」

 

 ガンダムの銃、ビームライフル。ビームなのに水鉄砲らしい。

 そもそもビームとレーザーの違いがよくわからないけど、とにかく強いらしい。

 

「で、ビームサーベル?」

「近接、つまり近い敵を倒す時に使うんだ。もう手で殴るんじゃないぞ」

「は、はい」

 

 で、ビームサーベル。これは知っている。スターウォーズの剣のガンダム版だ。

 光の剣で相手を溶かして斬る。一番単純な武器かもしれない。

 

「頭部バルカン砲も有効に使うんだ」

「頭のマシンガンね。習ったから大丈夫」

「よし……アムロ。必ず生きて帰るんだぞ」

「分かってるわ。父さんも守らないといけないしね」

 

 私は離れていく父さんに親指を立て、ガンダムのコクピットに座る。宇宙服を着る時間はないらしい。

 シートベルトをしっかり締めて、ガンダムを起動させる。父さんのレクチャーはわかりやすかった。

 いや、これは多分アムロの頭の良さもあるのだろう。私の元の姿だとチンプンカンプンだったはずだ。

 

『アムロさん』

「へ?あ、はい」

 

 突然モニターが映り、さっき私に命令したブライトさんの顔が映った。

 

『敵艦の動きにも注意してほしい。例の潜入の際、敵艦は何の動きも見せなかった』

「……?……と言いますと?」

『ホワイトベースを待ち伏せしている可能性が高い、という事だ』

「……なるほど。分かりました。気をつけます」

 

 何だかよくわからないが、軍人さんが言うんだからそうなんだろう。

 起動したガンダムを操作し、倉庫の壁にかけられている大きな銃を右手に。

 ガンダムの体がすっぽり入る大きさの盾を左手の腕に取り付ける。

 手で持つことも出来るけど、左手が塞がるから取り付けとけと父さんに言われた。

 

『ガンダム02、戦闘装備完了』

『各部スラスター推進剤確認終了』

『全システム診断。オールグリーン』

『ハッチオープン、ガンダム発進してください!』

 

 薄い明かりがついていた倉庫の明かりが消え、忙しそうに働いていた人たちが全員捌ける。

 それと同時に目の前、かなり遠くにあった大きな扉がゆっくりと大きな音を立てて開いた。

 その瞬間、体に妙な浮遊感を覚え、モニターに「Space Combat mode」と表示される。

 これが宇宙空間……。はじめての感覚だ。

 

『カタパルト、接続』

 

 さっき父さんにレクチャーしてもらった方法を試す。

 両足をあれに乗せて、体をかがめるんだっけ。

 

「……よっこいしょ」

 

 ふわふわする感覚を抑え、ガンダムの両足をカタパルトっていうのに乗せる。

 

『カタパルト接続終了、アムロちゃん、舌を噛むなよ!』

「は、はい!」

 

 ……ん?この感じ、アムロがガンダムで宇宙に出るってことは……言わないといけない?

 ……そうだ!アムロと言えばこのセリフ!

 

『発進どうぞ!!』

「アムロ!行きまーす!!」

 

 なるほど、これは言いたくなるわけだ。

 ジェットコースターのように体が締め付けられるけどこの言葉のお陰か気合が入る。

 最初にこれを考えた人は天才かもしれない。

 

 

 ★

 

 

「よし、行くわよ……」

 

 宇宙空間に人生初めて飛び出した私は、ホワイトベースが後ろにあることを確認し、

 そのホワイトベースを振り向いて確認する。

 大きな船で、真っ白だ。宇宙空間でこの色はわかりやすい。初心者向けの船かもしれない。

 ホワイトベースの頂上にはいろいろな人がこちらを見ている。

 正面で舵をとっているのは……誰だろう。この人も私と同じで軍人じゃないのかもしれない。

 

『接近する機体あります!』

「え?」

『数は3。2機はザクです!』

 

 私は急いで正面を向く。宇宙の操作は当然だけど地面とぜんぜん違う。

 ある程度オートで動くとは言え……操作を間違えると体が回る!

 

「ザク……?」

 

 ホワイトベースの正面を向き、目を凝らして遠くを見る。

 

『もう一機は何だ!』

『不明です!こんな速度で接近する機体なんて……!』

『一機の機体は、ザクの……はっ!来ます!!』

 

「え?うっ……!?」

 

 突然目の前が大きく揺れた。画面が大きく乱れ、ベルトが体に締め付けられる。

 吐き気をもよおすような揺れと回転をなんとか制御し、何が起きたのかを確認する。

 

『ザク!?』

『シャア……だ!赤い彗星だ……!!』

「っはぁ……!?ッゲホッゴホッ……しゃ、シャー……!?」

 

 通信の誰かわからない人たちがいろいろ騒いでいる。

 頭をブンブンと振り、さっき私が居たところを見る。

 たしかにそこには赤いザクが居た。そうだ、シャーは赤いザクに乗っている人だ。

 しばらくすると、二台の普通のザクが遅れてやって来た。

 

【見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを】

 

『赤い……モビルスーツ……まさかあの時の!?』

「父さん……?」

『アムロ!逃げるんだ!そいつは!』

『シャア・アズナブル……アムロ!奴は赤い彗星だ!』

「父さん、ブライトさん……だっけ?分かってます!アイツは敵ですね!」

 

 私はビームライフルを構える。シャーに狙いを定めて、操縦桿のボタンを押す。

 バシヒュゥーーーン!!!と、どこかで聞いたことがある音が響き、シャーのザクを

 

【遅い!……はっ!デニム!】

 

 見事に外し

 

【しょ、しょうさあぁあああああ!!!!】

 

 隣のザクの股間に直撃した。

 

「あれ?」

 

 風穴が空いたザクは、しばらくバチバチとスパークし、突然大爆発を起こした。

 ……思わぬ大当たりだが、シャーの撃破には至っていない。

 というか……ザクって爆発したらこんなでかい爆発が起きるのか。気をつけないと私も吹っ飛びそうだ。

 

【一撃で……ザクを一撃で撃破するのか……!?】

「つ、強っ……もう一丁!」

 

 ビームライフルの強さに少し感動しながらも、気を引き締める。

 が、シャーはもう容赦しないと言わんばかりにこちらに突っ込んできた。

 

「き、来た!!」

 

 ガンダムのカメラはシャーのザクの足を映し出す。

 明らかに私に向かって飛び蹴りをしてくる感じだ。

 そんなもんに当たる私では

 

「ぐぇ!?」

 

 ある。

 

【……!……馬鹿な……直撃のはずだ!】

「ぐ……げほっ……胸が絞まるっ……こんのぉ!!」

 

 吹っ飛ぶガンダムを無理やり止め、私はガンダムをシャーのザクに突っ込ませる。

 しかしあっさり避けられ、すれ違いざまにコクピットに肘打ちを受ける。

 

「うぶっ!?吐く……っ……」

【パイロットは素人か?】

「んなろぉ!!」

 

 

 

 

 

 それからというものの、私はあらゆる手段を尽くしてシャーに立ち向かうが軽くあしらわれる。

 ビームライフルを乱射したり、足蹴りを繰り出し返したり盾を振り回したりと、色々頑張った。

 が……駄目だった。

 

「だ、駄目……!」

【……運動性も驚異的……ザクの今の火力では撃破不能……か】

 

 ガンダムはあらゆる箇所がヘコみ、さっきまでなっていなかった警告音が響いている。

 アンテナが壊れたのか、通信の声も上手く聞こえなくなっている。銃ではなく、殴られ蹴られの攻撃で蹂躙されている。

 

 私じゃ倒せない……でもガンダムのパイロットは私しか居ない。

 

「う……!くぅ!!」

 

 悪あがきでもう一発だけビームライフルを撃つ。

 しかしやはり当たらない。

 

【よし!スレンダー!帰還するぞ!!】

【了解です!データは十分取れました、受け取りましたか!?】

【受け取った、よくやった。遅れるな!】

 

「っ…………?」

 

 ザクたちが私に背を向ける。そしてシャーのザクがものすごいスピードで私から離れる。

 それに遅れて普通のザクもついていくように離れる……。

 

『……ク2機、撤退し……いき……す!』

「……逃げた……?」

 

 ……違う。見逃してくれたんだ、全くの素人の私でもそれは分かる。

 初めて戦ったシャー……いや、シャア。ものすごく強く、ものすごく怖かった。

 すべての攻撃を避け、あしらい、攻める時は恐怖で漏らすほど恐ろしい攻め方。

 

「……はあ……!はぁ……怖かった……」

 

 震える手で、ガンダムのビームライフルを、遠ざかっていく光に向けて最後の一発を放つ。

 すると、大きな爆発の光が見えた。

 

【す、スレンダー!】

 

「……?」

 

 

 

  




今回のアムロの行動の結果

・プロトタイプガンダム、G-3ガンダム(パーツ)、ホワイトベース搬入
・サイド7、軍事機密完全処分
・シャア、アムロを警戒(名前を知っていることがバレた為)
・デニム曹長、宇宙で戦死

以上の歴史改変となりました。


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つかの間の休息

 ガンダムを元の場所に戻し、私はホワイトベースに戻った。着艦って言うらしい。

 しかし私はしばらくガンダムから出られなかった。怖いから、とかではない。

 私はアムロが色の薄い水色よりのジーパンを履いていることを呪う。

 

「……どーしよ……これ……」

 

 色の薄いジーパン……私のジーパンの一部が濃ゆい色になっている。

 この人生で初めてシャアと戦ったんだ……やってしまっても仕方ない。

 きっとアニメのアムロもあんな怖い思いしてるんだから、アニメ以外の場所でもやってるはず。

 

「……そもそも私も父さんも替えのパンツ持ってたかな……」

『アム』

「今取り込み中!」

 

 危ない。今の私は誰であろうと見られる訳にはいかない。

 しかしガンダムの周りを見るも、男しか居ない。

 危機的状況だ。女として男にこのズボンを見られる訳にはいかない。

 

「……漏らしたまま放置してたら痒くなるし……脱ぐ……いやそれはマズイ」

 

 コクピットの洗浄は勿論私自身の洗浄も必要。

 ……シャアと戦った時以上に絶望していると、コクピットの目の前に……

 

『アムロ!アムロ!?大丈夫!?』

 

 赤い服、ものすごく短いスカート……ではなくそういうファッションの服だ。

 そんな服を着ている私と同い年くらいの女の子……アムロの記憶いわく「フラウ・ボゥ」という子だ。

 この子の顔を見た瞬間、この子と過ごした記憶がぎゅぅうううん!と蘇った。妙な気分だ。

 

 だいぶぞんざいに扱っていたらしい。アムロはフラウちゃんのことを。

 

「あ、えっと「フラウ」?あの、その……」

『アムロ!!大丈夫!?どうしたの!?』

「えーーっと……その、あ、その袋は!?」

 

 まさか……

 

『え?あ。替えの服と下着だけど……』

 

 神やこの子。

 

「すぐ頂戴!できればそこに置いて、ちょっと離れて!!」

『え?……うん、いいけど……?』

 

 フラウは不思議そうな顔をして袋をコクピットの目の前に置く。

 

『……どうしたの?』

「早く!」

 

 今はこの子にも私がやってしまった事を悟られる訳にはいかない。

 ……というか、すでに悟られているかもしれない。

 いや、それでも私がやってしまいました。なんてことを自己申告したくない。

 

 ガンダムから離れ、物陰からちらりと覗いているのが見える。

 ガンダムっていうのは左右もバッチリ見える……。すごいジトーっと見られている。

 ……だが、この子は着替えを持ってきてくれたんだ。そのご厚意に甘えなければ。

 よっこいしょとコクピットを開け、着替えを受け取る。

 

「……青い服?」

 

 すかさず下着を変え、フラウから渡された変な制服のような服を着る。

 ……汚れた服は、同じ袋に入れて後で洗濯機があれば突っ込んでおこう。

 

 

 ★

 

 

「ごめん、おまたせ」

「アムロ!」

 

 慣れない服に着替えた私は、フラウの元へ向かう。

 するとフラウはいきなり私に向かって抱きついてきた。

 いきなり何だ、と思ったが、その体はとても震えていた。

 

「ふ、フラウ・ボゥ?」

「も……もう……会えないかと……!」

「え……?」

「……ぁぁぁあ……!うぁぁああ……!」

 

 フラウ・ボゥ。私、というよりアムロの幼馴染だ。

 かなり面倒見のいい子で、よくアムロはフラウを泣かせていた。

 しかし、あのコロニーにザクが突っ込んできた時、この子を逃してアムロはガンダムに乗った。

 という経緯らしい。アムロの記憶いわく。

 

 いきなり抱きついたフラウは私の胸で泣き続けた。

 アムロであってアムロでない私的には複雑な気分だ。

 しかし、フラウ的には幼馴染がガンダムに乗って戦って戻ってこないと考えれば、当然だろう。

 待たせてしまった。父さんだのガンダムだの以前に、待たせてる人に会うべきだったか。

 

「……ごめん、フラウ……待たせて……」

「無事で良かった……アムロ……」

「……私達、これからどうなるのかな……?」

「分からない……分からないわ……」

 

 肩を震わせているフラウを優しくさすり、私の今後を考える。

 私はアムロとして、アムロらしく振る舞わなければならない。それは当然だ。

 しかし私。アムロではない「私」は元に戻ることが出来るのだろうか?

 というか私、シャアの初戦でお情けで見逃してくれたっていうのに……。

 

 私、死ぬんじゃないの……?

 

「っ」

「アムロ……?」

「いや……大丈夫。フラウ、落ち着いた?」

「えぇ……ごめんなさい」

「いいの、私もごめん……着替えありがと」

 

 今は考えないようにしよう。

 死を考えるのは本当に死ぬ時に考えよう。今はその時じゃない。

 

 そう心に誓って、ホワイトベースを移動する時に使うグリップみたいなのを掴み、

 すぅーっと二人で移動した。

 

「アムロ」

「何?」

「洗濯、しといてあげるわね」

「えっ」

「フフっ……大丈夫。みんなには内緒にしてあげるから」

 

 やっぱりバレてた。顔が赤くなるのを感じる。

 

「ご、ごめんっ……お願い」

「いいわよ、皆ブリッジに集合してるわ。先にブリッジに行ってて。私も後で行くから」

「う、うん!……ブリッジってどこ?」

「その先にエレベーターがあるわ、それに乗ればすぐよ!」

「分かった。ありがと、フラウ。後でお礼するから!」

 

「楽しみしてるわね~」っとフラウは嫌な顔ひとつせずに私とは別の方向に消えていく。

 私はそのフラウの優しさに涙をこぼしそうになりながらブリッジ?とか言うとこに向かうエレベーターに乗る。

 エレベーターのボタンの「ブリッジ」と書かれているボタンを押し、扉を締めるボタンを押す。

 

「……はぁ……」

 

 ふと、エレベーターにある鏡で自分の制服姿を見る。ブリッジとかいう場所に向かう前に身だしなみを整えるためだろうか。

 青色の服だが、女性が着ることを想定されているのか胸の部分にスペースがある。服としてはとても着やすく動きやすい。

 白いズボンも見た目の割にかなり動きやすい。恐らく全力疾走しても平気だろう。これも宇宙向けの服なのだろうか。

 

「あ、着いた」

 

 エレベーターが到着し、扉が開く。少し進むとそこはさっきから続いていた狭い空間とは違い、とても広い空間に出た。

 ここは、軍艦の中心部となる部屋だろうか。高い所に椅子があったり、船のグルグルするやつがある。

 そんな部屋に何やら男女問わずかなりの人達が集まっている。見た感じ殆どが一般人。

 その集団に宇宙服を脱いで制服姿になっているブライトさんと父さんがなにか言っている。

 

「……シャアの艦、ムサイはまだ離れない。このままルナツーに逃げ込むのは危険です」

「奴が攻撃してこないということは奴にも余裕がない、恐らくしばらくしてから補給を行うだろう」

 

 父さんがブライトさんの説明に補足する。

 

「ムサイの搭載限界数は6機。アムロが撃破、撃墜した3機にシャア機の4機を搭載していると思われる」

 

 ブリッジの床は液晶パネルになっているらしい。そこに父さんはムサイという船の図面を出す。

 敵の船なのに図面を用意できるのか。筒抜けじゃない。

 

「うち2機のスペースにはガトル宇宙戦闘機を4機搭載しているだろう。連邦軍部で予想されているMS構成だ」

「なるほど……つまりシャアには予備機がない……と?そういう事ですか?」

「そうなる。もしもシャアがガトルのスペースに2機のMSを搭載しているのなら話は変わるが」

「数ではどっちにしろ勝ってるってことかい?」

 

 ブライトさんと父さんの会話に、何やら軽そうな声が割り込んできた。

 

「なら、俺も乗るぜ」

「君は?」

「カイ・シデン。ホワイトベースのエース少女のクラスメートだよ」

 

 紺色の髪の毛をした、言っちゃ悪いが小汚目の男の子が集団の中から出る。

 するとまた、私の記憶がギューーン!と彼のことを思い出し始める。

 アムロの同級生の……カイ・シデン。結構ヤな奴らしい。

 

「……ふむ、君、確か重機で……」

「ヘッ。アムロちゃんを連れ回したカイ・シデン様だよ、アムロの親父さん」

 

 ……何やら不穏な空気だ。

 

「……」

「別にチャラにしろとは言わねぇよ、女の子におんぶ抱っこじゃカッコつかねぇってだけさ」

「有り難い、君にはガンキャノンを任せよう」

「な、なら、僕も!」

 

 そしてもう一人。カイくんよりも小さな男の子が手を挙げる。

 この子は……アムロのお隣さんらしい。名前は……。

 

「ハヤト・コバヤシ!アムロにだけ頼りっぱなしなのは僕も嫌です!」

「……君たち……ありがとう。今は頼らせてもらうよ」

「レイ大尉…!」

「責任は私が負う!パオロ艦長……よろしいですね?」

 

 ブライトさんは父さんに反対気味だ。しかしパイロットが居ない以上、こうして人員を補充するしかない。

 それは多分ブライトさんも分かっているだろう。

 さっきからベッドに寝転んでいる艦長って人が父さんに答えるようにうめきながら上体を起こした。

 

「か……カイくん、ハヤトくんと言ったね……?うぐっ……!」

「え?へぇ、そうです」

「はい!」

 

 かなり辛そうだ。思わず私はその艦長に寄り添い、背中を支えた。

 

「……アムロさん、君も……」

「はい……」

「い……今……ホワイトベースに乗っている民間人の皆さんは……先の戦闘で……家や家族を失って、行く場所の無くなった人だ……」

 

 うめきながら、艦長はホワイトベースの現状を話した。たしかに数が少ないが、普通の服を着た人がたくさんいる。

 父さんいわく民間人の人たちの大半はコロニーに残ったらしい。

 しかし行くあてのない人たちは臨時乗組員という名目で特別にホワイトベースに乗ることになった。

 これはこの艦長の提案で、ルナツーという基地で保護してもらうための一時的な措置だそうだ。

 

「無力な我々に代わって……どうか……頼む……レイ主任、ブライト少尉……」

 

 父さんとブライトさんは無言で気をつけの体制を取る。軍人だなぁ……。

 

「子供達を頼む……」

「はっ、お任せください」

「技術者として彼らを死なせません。ご安心を」

 

 二人は敬礼して、そして父さんは目で私を整列させる。

 私は艦長を寝かせ、集団の一番端っこに立つ。

 

「聞いてのとおりだ。アムロさん、カイ君、ハヤト君、頼むぞ」

「アムロはガンダムに、カイ君にはガンキャノン、ハヤト君にはガンタンクに搭乗してもらう」

 

 私達は「はい!」と返事をする。

 正直もう返事したくないが、今すぐ作戦が始まるってわけではないので、返事をしておく。

 

「残りの搭乗員はホワイトベースのパイロット候補生、乗組員が担当する。作戦は開始時に説明するから今は体を休めるように。追ってレイ主任からのレクチャー、シミュレーションを行う。以上だ!」

 

 そして私達はもう一度大きな声で「はい!」と声を上げた。

 ……あのボロボロのガンダム、作戦開始までに修理完了するのかなぁ……。

 

 

 

 ★

 

 

 

『夕べは貴様の作戦完了を祝おうと待っていたが……いや、それはいい。なにか用か』

「はい。連邦軍のV作戦をキャッチしました」

 

 通信モニターに継ぎ接ぎだらけの顔をした大男。ドズル・ザビが映る。少佐は俺達の成果の報告を始めた。

 

「部下が持ち帰った映像があります」

 

 死んだスレンダーが遠方より撮影した映像が、ドズル閣下の元へと届く。

 閣下はそれを見ると、驚愕した様子で声を漏らした。

 

『素手か、前時代的だが、堅牢さを裏付けるものだ』

「はい。映像を確認した所、これほどの打撃を与えているにもかかわらず」

『あー。そうだな、機体のマニュピレーターの損傷が見られん』

「推測するに、この白いモビルスーツは我々のザクとは全く別種の装甲を使用しております」

 

 確かに、俺が受けた打撃は非常に強力な攻撃でありながら、奴の機体に損傷は見られなかった。

 素手で攻撃しているにもかかわらず、俺のザクのパイプを引きちぎるような繊細な操作まで成す。

 ザクとは比べ物にならない、5倍以上の出力を出しながら、更に防御力まで備えている。

 

「加えて、宇宙での戦闘もこなし、主兵装に携行ビーム兵器を使用している模様です」

「こちらも部下が持ち帰った映像があります」

 

 続いて少佐は宇宙での白い奴との戦闘を撮影した映像を送信する。

 これもスレンダーが撮影した映像だ。

 

『……この色のメガ粒子か、連邦らしい』

「見掛け倒しではありません、炉に直撃していないにもかかわらず、奴は」

『一撃で撃破か……』

「ええ。運動性能もザクとは比べ物になりません」

『……それで、何が言いたい』

「ご覧になられました映像の通り、現時点での我々の兵装では奴の撃破、鹵獲は不可能です」

『……ほう』

「新型機を下さい。とは言いません。しかし、十分な補給物資、ザク、人員を頂きたい」

 

 少佐は中将である閣下相手にもかかわらず、まっすぐに無茶な補給要請をする。

 特務仕様のムサイとはいえ、人員、物資、モビルスーツの補給を一度に行うのは非常識だ。

 ヤップや少量積載のパプアを利用して定期補給を待つのが一般的な補給だと言うのに。

 彼は事実上パプア級の補給艦一隻を自分のために用意しろと言っているのだ。

 

『……分かった、人員に関して希望はあるか』

「パイロットをお願いしたいと考えております」

『パイロットか……了解した、こちらで揃えておく』

「ありがとうございます」

 

 それをあっさり通すとは……。俺の目標であるシャア・アズナブル……。

 

『V作戦の明確化はジオンの勝敗に関わる。シャア、貴様の働きに期待しているぞ』

「はっ。必ず」

『では、吉報を待っている』

 

 閣下との通信が切れる。少佐は一息ついたあと、俺達の方を向く。

 

「ドレン。木馬の動きはどうか」

「はっ!現在も我々を追跡しておりますが、未だ動きありません」

「引き続き監視を続けろ。ジーン!」

「は、はぁっ!」

 

 突然俺が呼ばれる。営倉から出たばかりだというのにまた何かしでかしたのか、胃が痛くなる。

 

「早くて数時間後、補充パイロットと機体が来る」

「は、はぁ」

「恐らく新兵共だ、指揮能力と貴様のパイロット適性の向上の為、今からシミュレーションで鍛えてやる。来い」

 

 ……何だと?

 

「は、はっ!鍛えるので、ありますか」

「二度も言わせるな。フリーベリ。02格納庫のシミュレーターを起動する。オペレートを頼むぞ」

「は、はい!ジーン伍長のパイロットデータでよろしいですか?」

「私のデータを使う。でなければジーンの訓練にならんよ」

「えっ……?は、はい!了解です!」

 

 俺よりもあとに入った新兵の女オペレーターが少佐のデータを呼び出す。

 おぼつかない手つきでシミュレーターにデータを打ち込んでいく。

 ファルメルも新兵が増えた、と、艦長が嘆いていたな……そう言えば。

 ……まぁ、この女は近い内に地球送りらしいが……。お荷物が過ぎるそうでファルメルでは向かないそうだ。

 

 ご愁傷さまだな。

 

「行くぞ、ジーン」

「はっ!」

 

 シャア少佐を負かして、死んだ曹長とスレンダーよりも使えるってことを証明してやらなければ。

 ここで一丁いいところを見せて、あの白いやつにリベンジしてやる!

 

 

 

 

 

 

「う、うわあああああああああ!!」

『シミュレーション終了!』

『もっと積極的に動け!戦場で敵は待ってはくれんぞ!』

『シミュレーション開始!弾薬補充。』

「……!」

『遅い!』

「うわああああああああ!!!!」

 

 早く補給艦来てくれえええええぇぇ……。




アムロの行動の結果

・ホワイトベース避難民少人数
・ジーン、シャアに鍛えられる

以上の原作改変となりました。


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敵の補給艦を叩く前にノーマルスーツを着ろ!

「はぁ~……」

 

 ガンダムから開放され、私は動くグリップを握り、廊下を移動する。

 宇宙船には標準装備なのか、あちこちにこれがついている。

 楽っちゃあ楽だが、運動不足にならないのかと心配だ。

 宇宙に出てからろくに足を動かしていないし。

 

「……」

 

 ガンダムは修理中、ブライトさんは休めって言ってた。

 ついでに私の部屋に荷物を置いてあるらしい、

 部屋にある荷物は全部私物として支給したから自由に使え、だと。

 

 使い方はまぁ、使っていけば分かるだろうけど……。

 

「あった……ここか」

 

 ご丁寧に英語で「アムロ・レイ」と書かれた個室があった。

 しかし、ドアノブもなければ、引き戸を引くための窪みもない。

 ……困った。網膜認証なのだろうか?と、扉の周りを調べると、

 ドアの近くの壁に開閉ボタンがあった。なるほど、そういうタイプか。

 

「ほいっ」

 

 ボタンを押すと、静かに扉が開いた。中々広い部屋だ。

 白に緑が混じった壁、オレンジ色の床。大きめのベッドに、机。

 部屋の中心には大きな箱、触ってみるとダンボールに似た素材だけど頑丈な箱だ。

 

「これが私物……?わわっ!」

 

 部屋に入った瞬間、ふわふわした感覚が途切れ、ストっと床に着地する。

 体が重い、とまでは行かないが、あれだ。プールから上がった直後のあの感じだ。

 妙な違和感を覚える。なるほど、私室には若干の重力があるのか。

 これならベッドで寝れるし物も置ける。体も軽いから壁伝いなら浮かべる。結構これ便利だ。

 

「っと……で、これが……私物っと」

 

 箱についている留め具を外し、バカっと箱を開ける。中には一枚のタブレット端末……と呼んでいいのか謎だが、板みたいな機械。

 それと衣服、試しにあてがうと、どこで調べたのか知らないけど私のサイズにピッタリ合う。無論下着もサイズぴったりだ。ちょっと怖い。

 

「……私物これだけ?」

 

 板みたいな端末を机に置き、衣服をクローゼットに放り込む。

 もう少し何かないかと箱を調べているとまた何か出てきた。

 白とピンクのノートパソコンのようなものだ。しかし普通のそれではない。

 軍用コンピュータというのか、分厚い。

 

「……パソコン?」

 

 ずいぶん使い込んであって、妙な懐かしさもある。

 アムロの使っていたパソコンだろうか?

 それを開くと、「同期中」と書かれた未来的な表示が出る。

 

「それ、アムロんちから持ってきたのよ」

「へ?あ、フラウ」

「それと、ほら、お友達を忘れちゃ駄目よ?」

 

 開きっぱなしの扉からフラウが私に声を掛ける。

 なるほど、アムロの家から私のパソコンを持ってきてくれたのか。

 つくづくいい子やでこの子……。

 

「友達」

『アムロ、フクキテル、フクキテル、ヒサシブリ』

「わわわっ!?」

 

 ななな……!?緑の玉が喋ってる!?まとわりついてる!?

 

「あ、ハロ、ね?」

「ハロ……?……!っごめんね。無事だったんだ」

『サンキュ。アムロ、ハロ、ゲンキ』

「良かったわねハロ。もう放しちゃ駄目よ?」

「うん、ありがと。フラウ」

 

 そ、そうだ。この子はハロ。市販のお喋りおもちゃだ。

 でもアムロが改造して手足付けてアレコレした。アムロの友達だ。

 ……フラウに怪しまれる前に思い出せてよかった……。

 

「じゃあ、私も休むわ、もう遅いから」

「あ、待ってフラウ」

「ん?」

 

 私はフラウを呼び止める。

 

「フラウ・ボゥ」

「どうしたの?アムロ」

「ありがとう」

 

 改めて、私はフラウに礼を言う。元のアムロはフラウに迷惑をかけっぱなしだったらしい。

 客観的にアムロの記憶を覗いて初めて知った。

 それなのにこの子は私を見捨てず、こうして世話を焼いてくれている。

 私は感謝せずにはいられなかった。

 

「?……変なアムロ」

 

 しかしフラウは首を傾げて部屋を出ていった。

 この子にとって無償の愛は当然のことなのか……。

 アムロが男だったら絶対結婚してるよ。

 ……そういえばアムロ、ガンダム終わった後何してたんだろう。

 

「……」

『アムロ、ドウシタ、アムロ』

「ハロ?」

『キョウハ、オシャベリダ』

「……そうなの?」

 

 人間は騙せても、機械は騙せないみたいだ……。

 ハロはコロコロと転がり、フラフラと左右に揺れる

 ……どんな技術なんだろう。

 

「……ねぇ、ハロ」

『ナンダ?』

 

 私はハロを持ち上げ、ハロの小さなLEDの目を見る。

 相変わらず初めて触ったのに妙な懐かしさを感じる。

 これもアムロの記憶の影響なのだろうか。

 

「私、これからどうなるのかな?」

『コレカラ?』

「うん、こうやって宇宙に行って、こんな怖い思いして」

『……』

「私、どうなっちゃうんだろう……」

『ゲンキダセ、アムロ』

 

 ハロが肩?か何だかわからない部分から手を出し、私の頭を撫でた。

 機械の手なのになぜか柔らかく、優しい撫で方だった。

 そしてその励ましすら、私の記憶にない懐かしさ……。

 

「ごめんハロ」

 

 無機質な声、無機質な撫で方、それなのに温かさを感じる。

 機械的な温かさという矛盾と、ハロの不思議な可愛さ。 

 なんだか辛い気持ちが和らぎ、私から笑顔が溢れた。

 

 フラウも優しいけど、アムロ的にはハロといるほうが癒やされるのかな?

 胸のモヤモヤがフラウといるときよりもスッキリした気がする。

 

『キニスルナ、アムロ、ノウハレベル、カイフク、エッヘン』

「ありがと」

『モウヤスメ…ツカレテル』

「うん、部屋は後で片付けるわね」

『……ヘンナアムロダ』

 

 え、何で?

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「パプア補給艦を2隻?」

『そうだ、ザクは4機。3機はF型、1機はS型だ』

 

 信じられん、伸び切った戦線でさらに枯渇した物資だと言うのに4機もザクを渡すとは。

 それほどドズル中将はこの作戦の成否に敏感なのか。

 

「それで、人員は?」

『コム・スェル二等兵、ジョー・クロウ一等兵、ベッダ・クラウン伍長の3人だ』

 

 3人?じゃあS型は誰が乗るんだ?

 

「揃いも揃って新兵か……了解」

 

 少佐はわざとなのか、ドズル中将の前で毒を吐く。

 

『ファルメルは潰すなよ。だがザクはいくらでもくれてやる』

「はっ」

『シャア。連邦の機密を手に入れろ。それで戦争は終わる、いいな!』

「了解」

 

 俺も少佐の横で敬礼をする。「おう」とドズル中将が言うと、通信が途切れた。

 相変わらず図体がでかい上に横暴な人だ。

 

「ドレン、パプアとの合流地点は」

「パプアはすでに到着しております。両舷コンベアソケット、スタンバイOKです」

「良いだろう、到着次第すぐに補給作業を開始する」

 

 木馬と通称される連邦の艦艇、シャア少佐の目論見では既に奴はこちらにザクの残りがないことに気付かれているらしい。

 となると、補給の時間は20分も残されていないはずだ。

 ……その上で補給物資を搬入、しかもパプア二隻分……ん?待てよ、パプアが二隻でザクが4機?

 

「シャア少佐、妙です」

「どうした、ジーン」

「ドズル中将はパプア2隻にザクを4機しか用意しなかったのでありますか?」

「もう一隻のパプアには試作兵器を積み込ませてある。ドズル中将からのプレゼントさ」

「試作兵器……でありますか?」

 

 シャア少佐は、サブモニターを操作し、その図面を表示させる。

 巨大な……大砲?

 

「ソア・キャノン、M.I.Pが開発中だった施設用特殊兵器だが、途中で開発が頓挫したものだ」

「ソア・キャノン」

 

 俺は図面を確認する。長距離射程の実弾兵器……所謂巨大レールガンらしい。

 トリガーとグリップ、姿勢制御スラスターなどを装備し、MSでも使用可能になっている。

 エネルギーパイプを艦艇とMSに繋ぎ、エネルギーをチャージすることで初めて発射できる限定兵器だ。

 

 しかしその射程距離はゆうに10万キロを超え、完成時には地球から成層圏の敵を狙撃可能になるらしい。

 至近距離で直撃した場合は、マゼラン級戦艦を3隻貫けるほどの威力があるそうだ。

 

「……少佐」

「何だ」

「……これはちょっと過剰すぎやしませんか?」

「デメリットが山積みの無用の長物を押し付けられただけに過ぎん。しかし使えるものは使うさ」

 

 ……まぁ、開発が頓挫したのはそれなりの理由があってのことだろう。

 耐久性に関してはすべて秘匿されているようだ。

 いわくつきであることには間違いない。

 

「……どう使うつもりで?」

「その時が来たら貴様に使わせるつもりだ、発射方法を頭に叩き込んでおけ」

「はっ!」

 

 そう言って少佐は図面と同封の発射マニュアルを端末にコピーし、俺に渡す。

 俺は敬礼し、自室へと戻った。

 

「良いのですか?あの兵器は」

「手順を間違えなければいい。駄目ならそこまでの話だ」

 

 

 

 ★

 

 

 

 眠ってから何時間も経っていないというのに、叩き起こされた。

 私は今ホワイトベースのブリッジにいる。

 ブライトさんが遠くで何を言っているのか分からない言葉を喋っている。

 が、遠くだし、更に私は頭で船を漕いでいる。聞き取れる言葉も聞き取れない。

 

「ん~………………」

「ほれ!しっかりしろお嬢ちゃん!」

「ぴ!?」

 

 突然背中をドスンと叩かれて私はうたた寝状態から覚醒する。

 ビクッと反射的に後ろを振り向くと、そこにはいかにもな大男が立っていた。

 ……黄色いパツンパツンの宇宙服姿で。

 

「起きたか?」

「は、はひ……あなたは?」

「俺か?俺はリュウ・ホセイ。パイロット候補生の一人だ」

 

 パイロット候補生……?

 

「軍人さん?」

「そうよ、元々は戦闘機パイロットだったが、今回改めてガンタンクのパイロットとなった」

 

 リュウさんは、胸をドンと叩き私にウィンクをした。何だか頼りになりそうな人だ。

 でも……あの狭いコックピットに……これが……。入るのかなぁ……?

 

「……」

「これからはお前さんだけの戦場じゃないぜ。仲間との連携も、大切にな」

「は、はい。よろしくおねがいします!リュウさん」

「私語をするな!!」

 

 ブライトさんの怒鳴り声が響き、私は再びビクッとなる。

 気をつけをし、覚醒した意識でブライトさんの話を聞くことにした。

 

「……いいか?もう一度説明するぞ」

 

 有り難いです。

 

「現在シャアのムサイは、このルナツー近辺の隕石群の一つに補給艦を停泊させている」

 

 ブライトさんは、付近のモニターにその隕石と思われる図面を呼び出す。

 何ていうのか、作戦用の地図だろう。そこに変な形をした軍艦の左右に更に変な形の軍艦が止まっている図面が出てきた。

 

「ムサイが一隻……パプアが二隻か、こりゃ珍しい組み合わせだな」

 

 リュウさんが呟く。よくわからないが、これは珍しいらしい。

 私からすればこんな変な宇宙船が1個でもある時点で写真に収めたいくらいだが。

 ブライトさんがリュウさんを見てから、説明を続ける。

 

「恐らくザク以外の補給を行うはずだ。過去の事例でパプア二隻を使った補給は無い」

 

 パプア、と呼ばれる変な船の断面図をブライトさんは私に見せる。上から見たらカブトガニ。

 下から見てたらクジラのような宇宙船だ。補給艦、と呼ばれる部類の宇宙船らしい。

 その断面はザクが二股に別れた上の平べったい部分に2機ずつ突っ込まれている。

 余った部分にはコンテナを突っ込んでいるらしい。

 

「ムサイのザクの搭載数は4機が限度だ。恐らくシャアはガトル戦闘機を手放し、ザクを5機搭載するつもりだ」

「さらにもう一隻のパプアにはなにか別の補給物資が搭載されるはずだ。これも撃破しなければならない」

 

 もう一個のパプアに関しては何があるかわからないらしい。

 やばいものが載ってないことを祈るしか無いようだ

 

「それで、誰が何で出撃するのよ、ブライトさん」

 

 カイくん、いや、ダブリで私より年上らしいからカイさんが手を上げ、ブライトさんに質問する。

 

「今発表する」

 

 ブライトさんはそう言って、ファイル型のタブレットを見ながら私を指差した。

 

「アムロさん」

「は、はい!」

「君はガンダムで出撃だ。修理は完了している」

「マジ?……コホン、ありがとうございます!」

 

 父さんとホワイトベースの修理員さん凄い。

 事故起こした車みたいにボッコボコだったのにもう直したのか。

 

「次、カイ・シデン、ジョブ・ジョン軍曹、ハヤト・コバヤシ」

「はいよ」

「君達はガンキャノンに搭乗してもらう。いいな?」

 

 カイさん、ジョブジョンっていう金髪の人、それとハヤト君。

 彼らはガンキャノン……あの、赤いのに乗るらしい。

 三人はびしっと敬礼をした。 

 

「ダニエル・シェーンヴェルク伍長、リュウ・ホセイ曹長」

「はっ!」

「おう!」

「君たちはガンタンクで後方援護だ、任せたぞ」

 

 金髪のダニエルさんって人と、さっきのリュウさんが敬礼する。

 ……。

 

「あっ、忘れてた」

 

 私も敬礼した。

 ブライトさんが続ける。

 

「残りの戦闘員は各砲座で待機、作戦開始は1500とする」

「ひとごーまるまる……?」

「15時だよ、軍隊ではそう言うんだ」

 

 ハヤトくんが私に説明してくれた。ハヤトくんも小さな宇宙服を着ている。

 色はリュウさんと同じだ。それにカイさんも同じ様な服を着ていた。

 ……私が寝てる間、みんな訓練してたんだろうな。

 

「発進まで20分しかないが、事は一刻を争う。作戦開始まで各員準備するように。以上だ!」

「りょ、了解!」

「リュウ、アムロにノーマルスーツを用意してやれ。女性用だぞ」

「了解!アムロ、ついてこい」

 

 ブライトさんがリュウさんに指示するとリュウさんが私の手をグイッと引っ張る。

 

「わ、ちょ!?」

 

 凄まじい力で私はパイロットの部屋へと連れて行かれてしまった。

 誘拐される人ってこんな感じなんだろうな、とリュウさんに対して失礼なことを考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「悪いなぁアムロ。俺に女性用って言われても分からなくてよ…」

「いえ、良いんです……あ、これぴったり……?」

 

 ノーマルスーツ、と呼ばれる宇宙服。シャアが着ていたのもそれらしい。

 私が今あてがっているのは白いノーマルスーツだ。

 

「ん、まぁ、とりあえず着てみたらいい、俺は外で」

 

 リュウさんは私にそれを渡すとそそくさと出ていった。

 ……まぁ、居てもらったら非常に困るけど。

 

「……んしょっ……」

 

 リュウさんの説明によると、ノーマルスーツを着る時は専用のインナーを着るらしい。

 人によっては下着、マニアックな人だと何も着ないらしいが、人によるそうだ。

 私は安全性とか色々考慮して、やっぱりその専用のインナーとやらを着ることにした。

 

 女性用のはスポーツブラと、何やら機能的なショーツだ。

 

「……何これ……ま、いいか」

 

 そのインナーを着用して、改めて白いノーマルスーツを着る。

 かなり薄手の宇宙服だ。上下が一体になっていて、着るのは割と簡単だ。

 ファスナーを締めると同時に体がきゅっと締まり、一気に体のラインが出る。

 

「うわぁ~……あ~……」

 

 痩せててよかった。 

 

「よ……変なとこないよね?」

 

 一通り着終えた私は、鏡の前に立ってくるりと一回転した。

 変な部分はないし、ダボついてる部分もない。

 ……体のラインが思い切り出るのは結構恥ずかしいが、仕方ない。

 出ないようにする方法もないだろうし、慣れれば大丈夫だろう。

 

「で、これがヘルメットっと」

 

 出口近くにヘルメットが大量にかけられていた。白、黄色、青、変な黄土色と分けられている。

 私は白のヘルメットを被り、リュウさんの元へと戻った。

 

 

 

 

 

「リュウさん!これでいいですか!?」

「お、戻ったか、どれどれ……?」

 

 リュウさんはまじまじと私のノーマルスーツを見つめる。 

 すると、リュウさんはすかさず首元のファスナーに手をかける。

 

「へ?」

「あー、やっぱり気密が保たれてないな。首の内側にもう一つファスナーがあるんだ」

「ん~?……えっと……あ、これ?」

「出撃前に内側のファスナーを締めにゃいかん、宇宙じゃ締められんからな」

 

 首元に指を入れ、ぐいっと引っ張る。内側のファスナーが確かに開いていた。

 

「よっと……」

 

 ギュッ、と今度こそしっかりとノーマルスーツを着て私はヘルメットを被った。

 するとヘルメットと首がしっかりと密着し、カチッと音が鳴る。

 

「よし、これでしっかり密閉された。外す時は顎の留め具をしっかり抑えて真上に引き上げれば取れるぞ」

「……こう?ぷぁっ……」

「そう。被る時もその留め具を意識して被ればいい」

「なるほど……ありがとうございますリュウさん」

 

 このヘルメット、通信機から宇宙での音認識機能、更に軽量化までされてるらしい。

 バイクのヘルメットよりも軽い。被り物なのに窮屈さも頭の重さも感じない。

 

「軽いですねこのヘルメット」

「軽さ重視したせいでもろくなっちまったらしいけどな」

「え、こわっ……」

 

 宇宙服のヘルメットが脆いのは問題じゃないの……?

 その疑問はブライトさんの出撃命令と一緒に消えてしまった。

 

『時間だ、アムロ、行けるか!?』

 

 壁のモニターにブライトさんの顔が映し出される。

 リュウさんは返答用のボタンを押した。

 

「アムロはオーケーだ!」

「はい!大丈夫です!着れました!」

『よし、他のパイロットは配置についている。すぐに搭乗しろ!後3分で発進だ!』

「了解!」

「わかりました!」

 

 リュウさんが親指を立てて私の背中を押す。

 私も笑顔を見せて親指を立てた。

 

 

 

「アムロ、遅いぞ。ノーマルスーツはどうだ?」

「父さん、ガンダム直ったんだ」

「ああ、ここのクルーは皆優秀でな。本来ならプロトタイプを出す予定だったが」

 

 そう言って父さんは私のヘルメットの右耳部分をかちっと動かす。

 するとヘルメットのバイザーっていうんだろうか?それが閉まった。 

 そうか、顔をカバーしないと。さっきの状態でうっかり宇宙に出たら窒息してしまう。

 緑色のバイザーだが、私からは色がなく、視界もクリアだ。

 

「ありがと、父さん。じゃあ行ってきます!」

「ちゃんと戻ってくるんだぞ」

 

 私はガンダムのコクピットに座り、シートベルトを締める。

 父さんが離れたことを確認してからハッチを閉め、ガンダムを起動させた。

 トンッという軽い音が鳴り、ブゥゥウウン……とエネルギーがガンダムに満ちる。

 

「よし……ガンダム起動しました!」

『よし!ハッチ開け!ガンダム発進後、ガンキャノン順次発進!』

『カタパルトへ!』

「了解!」

 

 私は整備士さんの通信を聞き、さっき使ったカタパルトっていうのに乗る。

 すると通信が入った。

 

『アムロ、聞こえて?』

「!あなたは……!?」

 

 コロニーに居た時、シャアに蹴っ飛ばされてた金髪の人だ。

 ヘッドホンとマイクを耳につけている。……指示する人になったのかな?

 ……オペレーターだっけ?

 

『今は驚かないで、いい?敵に近づいたら指示を待たずに攻撃なさい。時間との勝負よ』

「は、はい」

『ガンダムの武器をすべて活用しないとシャアに勝てないわ。冷静にね』

「わかりました!えっと……」

『セイラよ。詳しい自己紹介は帰ってからにしましょう』

 

 そう言ってセイラさんは「発進、どうぞ」と力強く言う。

 私はガンダムの重心を下げる。

 

「ガンダム……行きます!!」

 

 シャア……今度こそ勝つ……!今度こそ漏らさずに生き残る!!

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・シャア、MS用に小型化したソア・キャノンを受領

次回からガラッといろいろ変わります、多分


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敵の補給艦を叩いてシャアを引っ張り回せ!

『うぉぁああああああ!!!???』

「ちょっ!カイさん!?」

『うわぁああぁあぁぁああ!?ハヤト!どけ!どけぇええー!!!』

 

 ガンキャノンが体勢を思い切り崩しながら僕に向かって飛んでくる。

 アムロの父親の基本操縦シミュレーションを受けたとは言え、僕たちは不慣れなパイロットだ。

 シミュレーションの射出と実際の射出にこれほどの違いがあるとは思わなかった。

 

『カイ!操縦桿を後ろに引け!』

『んぬっっ!!』

「わぁああーー!!!」

 

 パイロット候補生のジョブさんの指示も虚しく、僕とカイさんは思い切り衝突した。

 コクピットのモニターに一瞬砂嵐が映り、体勢が崩れる。

 数秒の浮遊感の後、僕とカイさんのガンキャノンは隕石の地表に倒れ伏す。

 

「うっ……!か、カイさん、何やってんです!」

『ばかやろぅ!!お前がさっさとどかねぇから!』

『お前たち!しっかりしろ!早く起き上がれ!』

 

 接触回線のせいで、カイさんの怒鳴り声がより鮮明に聞こえる。

 ミノフスキー粒子というものがが非常に濃いせいで、

 どの機体に誰が乗っているのかわからないほど通信状態が悪いのだ。

 

「……アムロは?」

『知らねぇよ、先に行ったんじゃねぇの!?あのお姫様は!!』

「そんなに怒らなくても……」

『っせぇ!…………起きろって……のぉ!』

「このモビルスーツ……重いですね……!」

 

 僕とカイさんのガンキャノンがゆるゆると起き上がる。

 宇宙空間の低重力のせいでただ起き上がるだけでも一苦労だ。

 こんな中で、しかも女の子のアムロは戦っていたのか。

 

『ふたりとも起きたか!?アムロはここから数km進んだ場所で待機させている、急ぐぞ!』

『へいへい、パイロット候補生様のご指示のとおりに』

「カイさん、いちいち文句を言わないで!行きますよ!」

 

 ジョブさんのモニター越しの顔がカイさんの軽口一つに付き1段階ずつ険しくなっていく。

 この顔が般若の形相になるまであと何段階あるのだろう?

 そう考えながら手のビームライフルを両手で持ち、訓練した通りの飛行を行う。

 敵の監視内で土煙を上げると発見される恐れがある。相手は戦艦だ。目視員に発見されると一気に攻撃体型に移行するだろう。

 

 そうならないように推進剤を節約し、慣性で飛行する。

 

『ジョブ・ジョンさんよ』

『……何だ?』

『アムロはどうだい?名前は男らしいけどよ』

『……はぁ?』

「カイさんっ!」

 

 またしても軽口だ。2年留年して17歳。もはや青年に片足を突っ込んでいるとは思えない男だ。

 素行不良で留年したと聞くが、本当にそうだろうか、この緊張感のなさは学も……。

 

『何だいハヤト、お前はもう脈なしだろ?』

「それはカイさんが無理やり!」

『っ…いい加減にしろ!!ここは戦場だ!与太話は帰ってからやれ!!』

 

 ……こんな男を戦場に出してよかったのだろうか?

 そんな思考が頭をよぎる。

 カイさんはヘコっと頭を下げて通信を切る。

 

『全く……!』

「すみません……」

『いや、気にするな、そろそろアムロとの合流地点だ』

 

 ジョブさんがそう言うと、隕石のクレーターの影に片膝で立っているガンダム。

 そのガンダムの手元には、ふわふわと宇宙遊泳を楽しんでいる白いノーマルスーツを着た女の子が居た。

 アムロだ。いつも暗い顔をしているあのアムロとは違い、純粋な顔をしている。

 

 いつも見ている、というわけではないが、ザクがサイド7を襲ってからアムロの様子が変だ。

 口数が少なく、世話焼きのフラウ・ボゥが人前でアムロを怒鳴りつけるほど無愛想な子だったのに。

 父親の前では屈託のない笑顔を見せ、まるで宇宙を知らないような反応も見えた。

 

「……」

『おーおー、まるで人魚姫だ』

『あの子……宇宙は初めてなのか?』

 

 アースノイドとは言え、アムロもサイド育ち。宇宙を泳ぐなんて珍しいことじゃない。

 しかしアムロは……。

 

「カイさん……アムロ、やっぱりおかしいですよ」

『……あん?』

「だってカイさんも知ってるでしょ?アムロの宇宙嫌い」

『……あー……そういや……』

 

 アムロの女の子友達は宇宙船技師の娘だ。

 機械好きのアムロはその仕事の見学に連れて行ってもらったが、

 その時借りたノーマルスーツの酸素発生器が故障してた事があった。

 あの事件は学校でも大騒ぎになり、あれ以降アムロは宇宙船にすら嫌悪感を感じていた。

 

「……吹っ切れたのかな?」

『そうかもよ?』

 

 そんなアムロが宇宙を泳いで星を眺めている。

 確かに地球で見る星よりも綺麗だけど……しかし……。

 

「……」

『アムロ、合流した。作戦行動開始だ』

『あ、はい!ガンダム起動します!』

『宇宙遊泳はどうだったよ?アムロっちゃん』

『え……?あぁ、やっぱり地球とは違います。何だろ……幻想的です』

 

 どこか変だ……。

 

 

 ★

 

 

「っと……よし」

 

 コクピットを閉め、ガンダムを起動させてバイザーを上げる。

 はじめての宇宙遊泳だったけど、生まれて初めての感覚は言葉では言い表せないものだった。

 宇宙では星が星の形をしていない。地球で見る星とはぜんぜん違うものだ。

 太陽の反射で光る星もあれば、隕石の形をして光らない星もある。

 そして、その光っている星も瞬いていないのだ。しっかりと形を保って光っている。

 

「すごかったなぁ……」

 

 夜空の中に私がいる。それを感じた。

 そして今、その夜空を戦いで汚す。

 

『アムロ、俺達はこの場で待機して補給艦を狙う』

「はい。私はこの、地図の所に行けばいいんですよね?」

『そうだ。急いでな、俺達はリュウさんとダニエルのガンタンクの到着と同時に攻撃だ』

 

 コクピットの左モニターにタイムリミットが表示される。

 そして正面モニターに進行コースが投影された。このマークに沿って進めばいいわけだ。

 私はガンダムの操縦桿を押し、ペダルを踏む。

 お尻の下からダゥーン……と低い音が響き、ガンダムが宇宙を進む。

 

『お前は到着次第指示を待たずに攻撃しろ!いいな!』

「はい!」

 

 ガンダムが赤い機体、ガンキャノンから離れる。すると間もなくして無線が途切れた。

 何だかこの星妙に電波が悪い。出撃直後に少し待てと言われた時はぎりぎり聞き取れたけど。

 少し離れるだけでコミュニケーションもまともに取れないとなると、味方を撃つ可能性がある。

 ガンキャノンの色、シャアと同じ赤色だし。

 

「気をつけなきゃ…………っ!」

 

 グッと操縦桿を握り、スラストペダルを思い切り踏む。

 体が椅子に押し付けられ、ガンダムのスピードがさっきの数倍になる。

 ガンダムの操作に慣れないことにはシャアには勝てない。

 シャアはあの緑のザクを赤く塗っただけの機体で私を虐めた。ハンデはシャアにある。

 それなのに私はアイツに勝てなかった。

 

「っつぅう……!ぐっ!!」

 

 星のクレーターに沿って進むだけ。それなのにガンダムの制御ができない。 

 これでも、出力メーターの半分も出していない。このガンダムの本気の半分も出ていないんだ。

 それなのにこのスピード……時速1400kmのスピードを叩き出している。

 

「飛行機以上……まだ出るのこれ……!!?」

 

 更にスラストペダルを踏み込む。コクピットのメーターが3分の2くらいのところまで跳ね上がる。

 それでもガンダム自身にまだ余裕があるように見える。揺れるコクピットの中で速度計を確認する。

 5800km……ざっとマッハ5ってことだろうか。

 

「~~~~~ッッッッッ!!!!」

 

 声が出ない。恐怖を感じた私は操縦桿を思い切り後ろに倒し、ペダルを離す。

 するとガンダムは自動で姿勢を変え、足を前に突き出して仰向けになる。

 勝手に背中と足のジェットを吹かして減速した。

 

「っ!はぁっ……はぁ……!?」

 

 減速して速度を落とした私は、息を整えて前のモニターを見る。そこはちょうど目的地だ。

 コクピット左のタイムリミットはまだ数分以上残されている。

 少々早く来すぎたが、指示を待つなとの連絡だ。

 

「武器は……ビームライフル、ビームサーベル、頭のバルカン砲」

「まずは……安全装置外して、初めの一発を撃てるように……と。これだっけ」

 

 武器を確認し、右手のビームライフルを見る。

 操縦桿のボタンカバーを外し、黄色いボタンを押す。するとビームライフルの中心がピンク色にぼんやりと光った。

 それと同時に操縦桿のグリップの色々なボタンがせり上がり、すべてのボタンを押せるようになった。

 ボタンを押す順番や組み合わせで武器を捨てたり、特殊な動きができるようになる、らしい。

 

「よし。行こっ!!」

 

 ガンダムを上昇させて、クレーターを覗き込む。

 

 

 たしかにブライトさんの説明通りだ。左右にカブトガニ。真ん中に緑の戦艦のようなもの。

 近くには緑のザクが4機。赤いザクはまだ居ない。

 まず狙うのは……青いカブトガニ、パプアだ。

 

「よっ……」

 

 コクピット右後ろの代わった望遠鏡を覗く。これで狙いを定める。

 よくある狙い定めるマークがカブトガニの甲羅を狙う。

 私をそれをよく覗き込んで、発射ボタンを押した。

 

「っ!」

 

 ビームライフルの発射音がコクピットに響き、ピンク色の光が真っすぐ飛んでいった。

 その光は青いカブトガニを貫き、それと同時に爆発の音が遠くから響く。

 パプアの一部が爆発すると同時に、私に向けて銃弾がたくさん飛んできた。

 

「わっ……!!……あれ?」

【敵襲だ!撃て!撃て!】

【駄目だ!太陽を背にしてやがる!何も見えない!】

 

 ザクが一斉にこっちを狙って撃っているようだ。

 しかしその射撃は明らかに私より下手で、じっとしていても当たらない。

 もう一発、いやそれどころじゃない、もう3発はこの場で撃てそうだ。

 

「一気に大爆発させてやる!」

 

 右部分、左部分を狙い、ビームライフルを放つ。

 光の矢が狙ったところを居抜き、爆発に続く爆発を起こした。

 その時、銃弾の一発がガンダムに当たる。

 

「っと」

 

 ガンッ!と鈍い音が響き、攻撃を受けた部分と、攻撃を受けた方向をモニターに小さく表示させる。

 緑色のザクの一機が私に攻撃を当てたようだ。

 それと同時に他のザクも私を見つけ、正確な射撃を行う。

 

「撃ってきた…!盾、こう!」

 

 ガンダムの左手の盾を私の目の前に持っていく。大きな盾でガンダムの殆どの部分をカバーできるものだ。

 盾を構えた状態の視界は良好だが、このままでは撃つことが出来ない。

 私はこのまま急降下し、星の地表部分に着陸する。着陸もまた自動で、これまた便利な機能だ。

 

「ザクは4機……。多い……」

 

 ガンガンっと盾が銃弾を受ける中、ガンダムの首を動かし、右手のビームライフルを腰に取り付ける。

 そして、右手に背中に取り付けられている白い棒状のものを持つ。

 

「でも……」

 

 白い棒状のものを起動させ、私は私自身の記憶が覚えているガンダムの武器。

『ビームサーベル』を起動させた。ピンク色の刀身が現れると同時にザクたちが一瞬たじろいだ。

 ザクはビームサーベルを初めて見るのだろう。そりゃそうだ。私も初めて出したんだから。

 

【なんだ!あの武器は……!】

【連邦軍の格闘兵器……!?】

「動揺してる。今なら!」

【く、来るな!!来るなぁ!!】

 

 スラストペダルを思い切り踏み込み、ザクの集団に向けて突撃する。

 しかしザクはひるんだのか動けない。私は腕を前に突き出しザクに向けてその光の剣を、

 

「っでぇえい!!」

 

 超スピードで突き刺した。

 ビームという高熱はザクの胸を溶かし、まるで肉に包丁を突き立てるような抵抗を見せる。

 しかしあっという間にビームの刃は根本まで入り、サーベルはザクを突き抜ける。

 ザクと衝突した私は事故を起こしたかのような衝撃を受け、ガンダム自身もザクを貫いた状態で停止した。

 

「うっ……!!」

 

 傍から見たらヤクザの下っ端が突撃して敵に包丁を突き立てたかのような絵面だ。

 そんな任侠映画のワンシーンのような体勢を解き、ザクを蹴飛ばしてビームサーベルを抜く。

 他のザクの3機は銃を私に向けたまま動かない。

 

「次は……」

『アムロ!上だ!!!』

 

 突然ハヤト君の声がノイズ混じりに響く。

 とっさに上モニターを見るが遅かった。赤いザクの1つ目が光り、踵落としが炸裂する。

 

「ぐぁ!?っ……」

【どうだ!……これも凌ぐか】

 

 そのままシャアのザクは宙返りし、またしてもコクピットに蹴りを入れる。

 ベルトが締め付けられ、吐き気を催す感覚が私を襲いながら、ガンダムはノックバックする。

 

「うっ……ふぅ……ふぅ……シャア!」

 

 よろめいたガンダムを立たせ、ビームサーベルをシャアに向ける。

 するとシャアのザクは腰に取り付けられていた斧に手をかけ……

 

【甘い!】

「え……?」

 

 ると思ったらそのまま突撃してきた。

 ザクの肩のトゲがコクピットに大きく映し出される。

 こんな棘付きの球体が私に突き刺さったら……死ぬ!

 

「嫌っ!!」

【おおお!!】

「ぐ、ぐぅうう!!??」

 

 とっさに盾を前に出し、シャアのタックルを受け止める。

 シャアは私をそのまま突き上げ、地表に立っていたガンダムを宇宙空間へと誘う。

 

「シ、シャア!」

 

 私はビームサーベルを仕舞い、左側のレバーのボタンを押す。頭部バルカン砲だ。

 シャア相手に銃はまず当たらないだろうが、さっきから近いところに居るシャアと距離を取らないといけない。

 ビシシシッと放たれた銃弾はシャアのザクの左肩に命中し、シャアとの距離が開いた。

 しかしシャアのザクは元気だ。あの左右別の形をしているザクの肩……アレは盾みたいだ。

 

「はぁ……!はぁ……!!」

 

 息が上がる。ただのザクとの戦いでは絶対に感じない死の恐怖。

 色以外はほとんど普通のザクなのに、武器も今日はマシンガンすら持っていないのに。

 何故か私はシャアに勝てない。

 

「ま、負けられないの……私は!」

 

 地上からかなり離れたさっきのクレーターを見る。

 下ではカイさん、ハヤト君、ジョブジョンっていう人、リュウさんのモビルスーツが戦っていた。

 私がここでやられたら、ガンダムですら勝てないシャアが皆のところに行ってしまう。

 ザクのマシンガンで上半身だけにされちゃうガンキャノンやガンタンクは恐らく瞬殺だ。

 

 私は生唾を飲み込み盾も背中に取り付け、丸腰になる。

 シャアは倒せなくても、シャアを皆の所に向かわせない。

 

「パワー全開!!」

 

 いつもの戦術(2回目)を繰り出す。腕を前に突き出し、水平に突撃するあれだ。

 銃も剣も使える腕がないって言うなら一か八か、あの赤いあんちきしょうを……。

 ぶん殴る。

 

【何っ!?ぐぉ!!?】

 

 これで勝つ!シャア・……なんたら!!

 

 

 ★

 

 

「くそ!!」

 

 補給作業中に攻撃を受けた俺は放出されたザクの1機に搭乗していた。

 少佐が専用のザクで出撃し、白い奴を引き離した瞬間、連邦軍のMSが一斉攻撃を仕掛けてきたのだ。

 コクピットを貫かれた僚機、恐らくジョー・クロウだ。JQと呼んでやろうと思ったが、奴は白い奴の光の剣の餌食になった。

 

『ジーン伍長!少佐は!?』

「白い奴の相手だ!コム!お前は補給作業を手伝え!!パプアの残骸から少しでもムサイに積み込め!」

『しかし!ガデム大尉の指示が』

「大尉は戦死した!こうなったらザクも武装も食料も全部積み込むんだよ!」

「りょ、了解!!」

 

 パプア補給艦は白い奴の攻撃を受け、たった数発で撃沈した。

 予めザクを受け取っていなかったらザクごと潰されていただろう。

 もう一隻、ソア・キャノンを積み込んだパプアも、ソア・キャノンのコンテナを排出した時点で連邦のMSに撃沈された。

 キャノン装備のモビルスーツも携行ビーム兵器を所持していた。あっという間に二隻目もやられたのはその所為だろう。

 

 コムもクラウンも優秀なパイロットだ。受け取ったばかりのザク3機は被弾こそしているものの致命傷ではない。

しかしムサイのエンジンの出力が上がらない上に、補給物資の積み込みもまだだ。

このまま砲火の中に晒されてはいずれ全滅する。実戦経験の少ない新兵同然の俺でもそれは分かる。

 

「クラウン!戦車もどきを狙え!俺は―」

『ジーン!ドレンだ!応答しろー!』

 

 突然ファルメル艦長、ドレン少尉から通信が入る。

 返事をする前にドレン艦長は続けた。

 

『前方F-4時点にて木馬と思われる艦艇を発見した、白いモビルスーツの寝ぐらだ、ソア・キャノンを使い撃沈しろ!』

「ソア・キャノンでありますか!?」

『既にメガ砲のジェネレーターからエネルギー供給させている。後は貴様のザクで撃てばいい!』

「しかし、エンジンの出力が上がらない今……」

『なぶり殺されたくなければ抵抗しろ!発射方法は頭に叩き込んであるな!?』

 

 俺はヘルメットの中で静かに下唇を噛んだ。

 ドレン艦長、シャアの腰巾着様は眼下にある現場すら頭に無いようだ。

 確かに艦隊戦の知識は凄まじい。シャア少佐はそれを買って艦長に任命したのだろう。

 しかし今俺達の目の間で行われているのはモビルスーツ戦だ。MBTが切磋琢磨する戦争ではない。

 ビームと砲弾が飛び交う中で目立つ飛行をするのは恐ろしいリスクが伴う。

 

「っ……了解!」

 

 しかし、目の前に正体不明の艦艇が居るというのにメガ粒子砲が撃てない現状、

 受け取ったばかりの試作兵器に頼る艦長の心境も分からないでもない。

 ふと上を見ると少佐のザクは白い奴に腰のパイプを掴まれて宇宙を縦横無尽に引っ張り回されている。

 

「!?」

 

 一瞬目を疑ったが、気を取り直し、目の前に銃口を向けていた赤いキャノン型MSにマシンガンを牽制する。

 赤い奴がひるんだスキを突き、ムサイの側面に設置されている巨大なキャノン砲「ソア・キャノン」に向かう。

 

『ジーン!』

「数分でいい!クラウン、持ちこたえろ!赤い奴と戦車の注意を引け!」

『っ了解!!急げよ!!』

「コム!補給作業は!」

『サルベージはほぼ完了!後は積込みだけです!』

「了解!後は敵を撃退してからだ!クラウンを援護しろ!」

『了解!』

 

 コムがパプアの残骸からバズーカを二丁持ってでいくのを確認した。

 その一丁をクラウンに渡す。あの赤いキャノン型も白い奴と同じ装甲を使用しているとなると、

 やつの装甲はザクマシンガンでは破壊不能。ハイパーライフルも同じく受け付けないだろう。

 俺よりも新兵だと言うのに的確な判断力だ。

 

「リグ接続…腰部エネルギーパイプパージ、ソア・ジェネレーターにパイプ接続……」

 

 発射手順を開始する。連邦のMSパイロットは素人揃いなのか、誰もこちらに目線を向けていない。

 腰の動力パイプをパージし、ジェネレーターのソケットに外したパイプを接続する。

 モニターに照準器が現れ、ムサイから届いたデータを元に射撃諸元の入力を行う。

 

「射撃諸元入力……クソ……これで合ってるのか!」

『伍長!急いで!』

「充電率80…90…!サボット装填!!エネルギー解放!!」

 

 充電率110。撃鉄を起こして照準を合わせた。

 狙うは木馬。未知の艦艇だ。照準は正面、ブリッジより下を狙う。

 発射準備完了……。

 

「ソア・キャノン発射準備完了!!照準よし!」

『了解!撃て!!』

「了解!ソア・キャノン……発射!!」

 

 引き金を引く。

 それと同時にザクのモノアイが強烈な光を発し、全身がスパークする。

 ソア・キャノンの砲身にそのスパークが伝わる。

 

「うっ」

 

 砲身が強烈な光を放つ。

 その瞬間だ。ザクのズームカメラの目の前に赤い板状の物体が見えた。

 白い奴のシールドだ。しかしそれを認識する暇もなく、ソア・キャノンが発射された。

 データ認識されて響く不完全な音と凄まじい衝撃がザクに伝わった。

 

「ぐぅっ!!」

 

 一瞬システムダウンしたのか、すべてのカメラ、センサーが消える。

 しかし間もなくして自動で再起動し、外の映像が再び見えるようになった。

 ザクのパイプは焼き切れ、手足の動作に致命的な不具合が発生している。

 しかしそんな不具合を気にしていられない異常事態が発生していることを認識するのに時間はかからなかった。

 

「あ……あぁ……!」

 

 木馬は生きている……。

 白い奴もだ。信じられない事態だ。奴はあの一瞬でシールドを構え、跳弾させたのだ。

 その証拠として白い奴のシールドは真っ黒に焦げ、端の部分は融解している。

 

『バカな……!?』

「わ……!」

『ジーン!逃げろ!!』

 

 白い奴は、盾を捨て右手のライフルを俺のザクに向ける。

 2つ目が光り、ライフルの銃身からピンク色の光が見えた。

 もう脱出することなど出来ない。手足も動かず、動力パイプが焼ききれているせいでスラスターも動かない。

 

「シャア少佐!ドレン少尉!!助けてください!!!死……」

『ジーン!!』

 

 腰部動力パイプを損傷した少佐のザクが白い奴に突撃する。

 一瞬照準がぶれたが、奴のライフルが俺のザクに向けて発射された。

 目の前がピンク色に染まる。

 

「あ……あぁああーーーーー!!!!!!!!」

 

 コクピットの光が消え、コンソールや操縦桿、あちこちが爆発する。 

 その光景を最後に、俺の目の前は真っ暗になった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「はぁ……!はぁ……!!」

 

 今の感じは何だったんだろう。

 シャアを引っ張り回してボコボコに殴っている間、

 一瞬嫌な予感がしてホワイトベースの目の前で盾を構えた。

 

「今の……何?」

 

 その瞬間、信じられないような衝撃が走り、意識が飛んだ。 

 そこからは完全に無意識だ。ぼーっとしているのにも関わらず盾を捨て、

 目の前、かなり遠い位置にあるザクに向けてビームライフルを撃ったのだ。

 シャアのザクが邪魔して壊れはしなかったが、あのザクが構えていたでっかい大砲をぶっ壊した。

 

「……私がやったんじゃない……今の何……?」

 

 操縦桿を握り、私は呆然とする。

 ガンキャノンとガンタンクたちは弾が切れたのか何もしなくなっていた。

 目の前の戦艦はエンジンを始動させ、壊れたザクとちょっとだけの荷物を持った生き残りのザクたちが戦艦に入っていく。

 シャアのザクもいつの間にかいなくなっていた。

 

「私も……生きてる?」

『アムロ!聞こえるか!補給艦の破壊に成功した。帰還してくれ!』

 

 ブライトさんの声がノイズ混じりに響く。

 私は自分でも違和感を感じるほど細い声で「はい」と返事をした。

 

「あ……ブライトさん……荷物は?」

『シャアは十分な補給が得られず、ザクだけ受領して去っていった、シャアの撃破には失敗したが作戦成功だ』

「そう……はぁ……良かった……」

 

 私はコクピットの中で深い溜め息をつき、操縦桿から手を離してシートにもたれかかる。

 またしても死ぬところだったけど、また生き残ることに成功した。

 それに何を食らったのか知らないけど、ホワイトベースの皆も守れた。

 

『ようアムロ、俺達の活躍見たかよ?ムサイに数発当てて補給艦をぶっ潰したんだぜ?』

「カイさん……ええ。見てました、すごかったですよ!」

『ニヒヒっ初陣で大金星ってトコだな』

『カイさん、調子に乗りすぎですよ!ほとんどジョブさんとリュウさん達の戦果じゃないですか』

『っせぇ!言ったもん勝ちなんだよこういうのは!』

 

 通信モニターにカイさん、そしてハヤト君の顔が表示される。

 それにリュウさん、ジョブ・ジョンさんの顔……それと、もう一人……この人だれだっけ?

 とにかく皆無事みたいだ。

 

「皆無事ですね?良かった……」

『へへ、アムロちゃんのご活躍も照覧いたしましてよ』

「カイさんも、すごかったです」

『ニャハハっ。おだてるのがお上手ですな。アムロ嬢』

 

 カイさんは意地の悪い笑いを見せて通信を切った。

 私も通信を切り、ガンダムをホワイトベースへと向ける。

 盾を壊しちゃった。父さんに怒られないか心配だ……。

 

「……それと……」

 

 うん、こっちは大丈夫みたいだ。シャア相手によく戦えたと思う。

 

「さっさと帰って寝よ……」

 

 私はガンダムをホワイトベースに入れ、元の場所に戻した。

 

 

 

 ★

 

 

「ジーンの容態はどうだ」

「重傷です、病院船に搬送しますか?」

 

 メガ粒子の直撃こそ避けられたものの、ザクは大破。ソア・キャノンも完全に破壊された。

 パイロットのジーンももはや五体満足の終戦は不可能なほどの傷を負わされた。

 更に補給艦2隻を撃沈。物資の搬入もままならないまま撤退を余儀なくされる。 

 ここまでの大敗は私の人生でも1度や2度とないものだ。

 

「付近の補給艦は」

「木馬より大幅に離れますが1隻、地球衛星軌道上に進めば合流可能です」

「よし。そこでジーンを下ろし、改めて補給を受ける。追跡班。木馬の進路はどうか!」

「はっ、小惑星ルナツーに停泊したものと思われます。恐らく補給を受け、地球へ降下するものかと」

 

 私は頷き、今後の木馬追跡のプランを考える。

 現状S型ザクを一機大破させ、私のザクも損傷している状態で攻撃を仕掛けるのは無謀だ。

 ルナツーの進軍は諦めるべきだろう。白兵戦を行うにもモビルスーツに対する対抗手段がない。

 対モビルスーツ訓練を受けていないコムとクラウンではあまりにも力不足だ。

 

「よし、本艦はこのまま地球衛星軌道上へ向かい、補給を受ける」

「了解、進路設定急げ!」

「木馬襲撃は奴らの地球降下タイミングを狙う、攻撃隊は待機。整備班、残されたガトルのペイロードに7日分の増槽を装備させろ」

 

 木馬と白い奴、次こそは必ず仕留める。

 

「少佐」

「どうした、フリーベリ二等兵」

「ジーン伍長は……この後どうなるのでしょうか?」

「ん、容態を見るに恐らく両足は切断。その後は本人の意志だ」

「……五体満足での本国帰還は……」

「無理だろう。むしろメガ粒子砲の直撃を受けて生きているのが奇跡だよ」

 

 若干16歳で志願した女性オペレーター。

 彼女は次の補給時の人員移動ででこの船を下ろす予定だ。

 指折りの精鋭部隊に新兵を数人入れることで練度向上を図る予定であったが、この現状ではいたずらに兵を死なせるだけだ。若い彼女らをファルメルに乗せるには余りにも危険すぎる。

 

「そうですか……」

「君も、次の補給艦の合流時点で降りるのだろう?」

「は、はい。前線より離れますが、地球降下部隊の一人として邁進する予定です……」

「そうか、配属先は?」

「地球攻撃軍第四地上歩兵師団……えっと、第7モビルスーツ大隊F小隊です」

「F小隊ならば偵察任務や戦闘後の捜索が主だろう」

「だと、いいんですけど……」

 

 私は肩をすぼめて怯えた様子で居る彼女の肩を叩く。

 オペレート能力に関しては非常に優秀だが、彼女はいかんせん臆病だ。

 F小隊の隊長にはその旨を伝えておきたいところだ。

 

「君は優秀だ。アン・フリーベリ。自信を持つといい」

「は、はい……ありがとうございます……シャア少佐」

「フ……ドレン、私は少し休む。後を頼むぞ」

「了解です……そこの二等兵!いつまでもくっちゃべってないで進路監視しろ!」

「は、はい!!」

 

 私はヘルメットとマスクを取り、艦長室へと向かう。

 あの白いモビルスーツを奪取するのも優先事項だが、木馬の人員についても把握しなければならない。

 ……あのアルテイシアに似た女兵士……そして、私を知っていた白いモビルスーツのパイロット。

 

「ちぃ……」

 

 特に顔も知らぬ白いモビルスーツのパイロットだ。女の声で私の名を叫び、モビルスーツで殴りかかった。

 あれはジオン兵を排除する殴り方ではなかった、まるで仇敵を殺すかのような殺意のこもった拳だ。

 ……ザビ家の関係者か、アズナブル家の子息の関係者か……。どちらにせよ厄介な相手だ。

 

「……」

 

 手元の端末のアルバムからアルテイシアの小さい頃の写真を呼び出す。

 ……ザビ家への復讐が終わったとしても、アルテイシアには会えない。

 せめて今は無事で居ることを祈るしかなかった。

 




今回のアムロの行動の結果

・ハヤト、アムロに不信感を覚える。
・ガデム、戦うことなく戦死、補給物資の大半を損失
・シャア専用ザク損傷、ルナツー襲撃断念。
・ソア・キャノン試作品大破、ジェイキュー戦死。
・ジーン負傷、負傷兵として離脱。
・シャア、アムロへの警戒心増大。

以上の結果となりました。


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寒い時代

『Aパーツ分離、内部点検入れ!』

『腕部関節重点的にチェックしろよ!』

『プロムトーチ、ルナ合金溶解終了、破損箇所はどこです?』

 

 ガンダムの整備の人たちがガンダムをエッチラオッチラと整備している。

 その中心人物は父さんだ。作業用のツナギみたいな服を着て作業員に指示を出している。

 私はそれを見ながらあまり美味しくないスポーツドリンクみたいなものを飲んでいる。

 冗談抜きで本当に微妙な味だ。体には良さそうだけど。

 

「……」

 

 父さんたちがビームライフルを楽しそうに分解している姿を見ながら私は考える。

 さっきの意味不明な動きのことだ。あの時私は完全に無意識だった。

 頭の中で一瞬光のようなものが見えたと思ったら全ての動きがスローに見えた。

 あのザクがでっかいものでホワイトベースを狙っている姿。

 シャアが私を振り解き、斧を振る姿。それらがすべてゆっくりとコマ送りのように見えた。

 

「あれは……うーん」

 

 何だろう。アドレナリンとか、何とか?

 

「アムロ」

「ん?」

 

 そんな分かるわけもない思考に耽っていると、金髪の女の人……セイラさんが来た。

 相変わらずフワッとした金髪だ……。ピンクの制服が妙に似合う。

 多分似合うのこの人くらいだろうな……フラウはもはやあれ制服に見えないし。

 ちょっと可愛い感じにしたんだっけ?あれ。

 

「見事な働きだったわ」

「セイラさん……でしたっけ?」

 

 金髪の女性、セイラさんは微笑みながら私の隣に立った。

 

「ええ。セイラ・マス、ホワイトベースのオペレーターになったの」

「そうなんですか?」

 

 オペレーター……って言うとあれだ。通信する人だ。

 今回の戦闘ではえらく電波が悪くてほとんど通信が聞こえなかったが。

 

「でも、通信なんか聞こえませんでしたよ?」

「次からは聞こえるようになるわ、今回の戦闘はミノフスキー粒子が異常に濃くて、通信設備も初期状態のままだったのよ」

 

 ……??

 みの、なんとかが凄くて、通信機が初期状態?

 つまりあれか、初期不良ってこと?

 

「へぇ……でも次からは聞こえるんですよね?」

「保証するわ」

 

 セイラさんはキリッとした顔で私に言う。

 思わず「おぉぅ」と呟いてしまうほどのキリッ感だ。

 何だろう、この人軍人さん上がりか何か?

 

「ところで、セイラさんはコロニーでは何してたんです?警察とか?」

「いいえ、医療ボランティアとして。サイド7のクロス医療センターで働いてたの」

「ボランティア?タダ働きってことですか?……いくつ?」

「17よ、あなたは?」

「……」

 

 え?え?アムロいくつ?えっと記憶を……。子供で、宇宙世紀……宇宙世紀って何!?

 まぁいいや、えっととにかく私は……15歳……15歳!?

 

「あ、15です!15!」

「?……そう、若いのね?」

「よく、言われます、えへへ……」

「……こんな子が……」

 

 アムロ子供じゃん……。いや子供が戦うからロボットアニメの主人公なんだろうけどさ。

 えー……15歳の子供に戦わせてんの?ブライトさん、と寝込んでる艦長さん……。見境なしじゃない…色々と…。

 

 そうやって色んな意味で大人にドン引きしていると、セイラさんはガンダムを見て物憂げな顔をした。

 

「……セイラさん?」

「え?あ、あぁ。ごめんなさい」

「いえ、良いですけど……あぁ、そうだ。サイド7に来る前は何処に?生まれも育ちもサイド7?」

「え?それは……」

 

 サイド7。今更ながら私が暮らしてた場所だ。あのコロニーの名前らしい。

 サイド1とか、サイド2とかもあるんだろう。多分。

 私がそれを尋ねると、セイラさんはピクッと反応し、考える。

 青い目か……。あっちこっちで色んな目の人がいてもう色なんて気にしてないけど、綺麗な色の目だなぁ……。

 

「んー……ちょっと伏せておきたい過去なのよ……ごめんなさいね」

「?……失恋でもしたんですか?」

「それも伏せさせて欲しいわ……失恋はしてないけれどねっ」

 

 セイラさんは私のおでこを指で弾き、ながら私に答える。

 まぁ、素性を明かしたくない人も居るだろうし、深く追究しない方がいいか。

 

「……そういえばこの船、軍の基地に行くんでしたっけ?」

「ええ。一旦ルナツーって言う基地に入港して、そこで避難民を下ろすらしいわ」

「避難民……」

 

 そうだ。このホワイトベースには少数ながら避難してきた人も乗っているんだ。

 少数って言っても1~2世帯とかそんなレベルではなく、学校の一クラス分は乗っているらしい。

 その避難民には孤児となってしまった子供達も居るとか……。

 

「私達はその避難民に含まれないでしょうけどね」

 

 セイラさんは自分の制服を見ながらそう言う。

 

「軍人……ですか」

「嫌?」

「いいえ」

 

 私は首を振った。手に持ったノーマルスーツのヘルメットに映る私の顔を見る。

 見知ったアムロの顔の面影を残した女の子の顔だ。歌手のアムロでもなければ名探偵のアムロでもない。

 私は女だけどアムロだ。ガンダムのアムロなんだ。

 

「ガンダムのパイロットは私ですから」

 

 それに、主人公だし。

 

「……強いのね、あなたは」

「セイラさんも」

「私が?」

「敵の兵士と生身で戦うなんて、普通できませんよ」

 

 私がそう言うと、セイラさんが一瞬驚いたような顔をした。

 それを見て私が微笑むと、セイラさんも微笑む。

 

「アムロ、死なないでね。ジオンに負けないで」

「はい」

 

 ……じおんってちょこちょこ聞くけど、敵の軍のことかな?これも覚えないと。

 

『ブライトからアムロ・レイへ。至急ブリッジへ、繰り返す』

「あら、お呼びみたいね」

「ホントだ……ちょっと行ってきます」

 

 

 

 ★

 

 

 

「来たか」

「来ました!」

 

 ノーマルスーツを脱ぎ、制服姿となったアムロは素人の敬礼をする。

 緊張しているのか、目の焦点が合っていない。

 僕は高い位置でルナツーとの進路を監視しながらブライトさんとの会話を聞く。

 

「ザクの奇襲に対する反応、見事だった」

「は、はい!ありがとうございま」

「しかし、ガンダムの扱いをもっと上手にやってもらわなければ困る」

「す……?」

 

 ブライトさんはアムロに対して厳しい言葉を浴びせる。

 しかしこれはアムロを奮い立たせるためだと言っていた。独り言で。

 どうやらブライトさん、女を叱るのは慣れていないらしい。

 影でフラウ・ボゥという避難民の女の子にアドバイスを貰っていたのを見た。

 

「は、はぃ?」

「君がシャアを上手く引きつけていれば、あのザクの迎撃に回せた、という事だ」

 

 アムロはいまいちよく分かっていないらしい。

 敬礼をしたまま首を傾げている。

 

「え、えっと……私が下手っぴって事ですか?」

「そうだ。アムロ、君はもうガンダムのパイロットなんだよ!」

「は、はい、それは、分かってますけど……でも……」

「甘ったれるな!!」

「ひっ!?」

 

 ブライトさんがアムロを怒鳴りつける。かなり鋭い声だ。

 

「君にはホワイトベースを守る義務がある!それが現状だ!!」

「……」

「乗組員もパイロットも不足している今、実戦経験が豊富な君が戦場を仕切らなければならない!!戦闘の第一人者である君がそれを分からなくてどうする!」

 

 避難民がたまたまパイロットになった彼女にそれは無茶だ。

 ブライトさんもアムロが来る直前まで頭を抱えていた。アムロの役目を別のパイロットに任せるべきか、 

 それともアムロを奮い立たせ、無理を言ってでもホワイトベースと試作兵器を守る役を任せるか。

 パオロ艦長やレイ大尉どころか、僕とマーカーにも相談してきた程だ。

 

「ぶ、ブライトさん……でも私はっ」

「君とて必死にやっているのは分かる、だがこのままではホワイトベースを守るのは無理だ」

「……」

「シャアは待ってくれないんだ。分かってくれ」

 

 アムロは俯く。歯を食いしばる様子もなく、ただ俯いている。

 

「ぶ、ブライトさん!」

 

 ミライさんが舵を取りながらブライトさんを叱るように声を掛ける。

 

「何だ」

「それじゃアムロをただ罵倒しているだけじゃない!」

「っ……素人は黙っていてくれ!女だからといって甘やかすわけには」

「それはそうよ!でもそんな言い方じゃ。たとえ男の子でも……」

「ここは軍隊だ!学校じゃない!」

 

 マーカーがこちらを見た。僕は両腕を広げ、肩を少し上げる。

 マーカーも同じ反応だ。これは明らかに失敗だ。奮い立たせるどころかアムロの自信を失わせるだけ。

 アメとムチの使い方が下手なんだよ。ブライトは。

 

「……憎んでくれていいよ。だが」

「……!!」

 

 突然パシン!と乾いた音がした。

 アムロが、ブライトを殴った。

 左頬を腫らしてのけぞるブライトをアムロは目に涙を溜めて睨みつける。

 

「っ……!」

「……何が……気に入らないってのよ!!」

「……貴様……!」

「アンタじゃ動かせないくせに!!」

 

 歯を食いしばり、思わず手を上げるブライトをアムロはもう一発殴る。

 今度は右の頬に平手をぶつけた。ギリギリと歯を食いしばる音が聞こえる。

 アムロちゃん、本気で殴ったな。

 

「ガンダムは私が乗るのよ…!!」

「……アムロ!貴様!」

「じゃあ強くなってやるわよ!!馬鹿!!!!」

 

 そう吐き捨て、アムロは部屋を去っていった。

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 

 数粒の涙が浮かぶブリッジは、息をするのも嫌になるくらい静かだった。

 

「……あ、あー!ブライトさん、ルナツーが見えました」

「……~~~……」

 

 話題を変えようと僕はレーダーに表示されたルナツーを手前のモニターに出す。

 それを見たブライトさんは、咳払いをして艦長椅子に座った。

 しかしブライトさんはあからさまに不機嫌で、頭を掻いている。

 

「女のヒステリーってのは、扱い難い……!」

「感傷的な子なのよ、15歳っていうのは」

「ミライ、それを教えてほしかったな……おかげで二度もぶたれた」

「あら、ごめんあそばせ。でもいい経験でしょう?」

「……二度とごめんだ」 

 

 ミライさんがブライトさんの愚痴を聞く。

 まぁ……結果はどうあれアムロが奮い立ったのは良いことだろう。

 そう考えよう。

 

「オスカ、ルナツーに着陸許可を」

「了解です!」

 

 僕は少しため息をつき、ルナツーの着陸管制に連絡をとった。 

 

 

 ★

 

 

 

「……!!……!!」

 

 怒りが収まらない。廊下をフヨフヨ浮かぶハロをぶん投げ、

 小さい子供三人組の緑の服を着た子にぶつけてしまった。

 が、私は謝らない。泣きそうになった子も私の顔を見て泣き止んでしまった。

 

 本当に腹が立つ。命がけで守ったと言うのにあの言い方だ。

 あの恩知らずの白目なし、今度はどうしてくれようか。

 

「あ、アムロ……どうしたの?」

「フラウ……ごめん、なんでもない……何?」

「い、いや、ほらこれ、洗濯したから」

 

 フラウは私の顔を見て少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。

 そして私にあの時汚した私服を渡す。

 

「あ、うん。ありがと」

「……ブライトさんに怒られたの?」

「そんなんじゃない!あいつ……私が必死で……!」

「……」

「私が……!!っ……ぅ……」

 

 収まらない怒りと理不尽さが涙となって体から抜けていく。

 私はフラウの胸を借り、その怒りと理不尽さを吐き出した。

 さっきハロをぶつけた3人組が影からそれを見つめている。

 ハロもまた、私の近くをフヨフヨと浮かび、何か言っている。

 

 私はそれでも泣き続けた。こんな時、本当のアムロならどうするんだろう。

 きっと私みたいな真似はせず、真摯に受け止めていたはずだ。

 

 

 

 

「アムロ……」

「分かってる……でも……」

「ううん、アムロ、今は辛い事忘れましょ?」

「……」

 

 フラウは私の背中を擦りながらそう言う。

 もはや優しい親友というよりも、お母さんの粋に達している。

 目頭がまだ熱い。歯を食いしばるとまだまだ涙が出る。

 

 そんな時、廊下から誰かがやってきた。青い制服で長身。

 カイさんだ。

 

「おやおやアムロちゃんとフラ…………どした?」

「カイさん、今アムロは……」

「……なんかあったのかよ?」

 

 カイさんが私の近くに立ち、不審な顔で私の顔を覗き込む。

 

「……泣いてんのか?」

「……」

「誰にやられた?リュウさんか?それともハヤトに何か言われたのか?」

「……いえ……誰も悪くないです……私が未熟なせいで……」

 

 私は答える。フラウは事の経緯を軽く説明した。

 

 フラウいわく、ブライトさんの叱責はブライトさんもかなり思い悩んでいたらしく、フラウにも相談していたらしい。私をガンダムから下ろして安全に暮らさせるか、それとも私の意志を尊重してガンダムに引き続き乗せるか、どちらにせよこんな悩みを抱えさせたのは私がシャアに勝てない未熟者だからだ。

 

 しかもそんなブライトさんの苦悩も知らず、感情のままにブライトさんを殴るなんて。

 

「……ブライトってあいつか?」

「そう、ブライトさんも悩んでたらしいけど……」

「そうか……アムロ、お前はガンダムに乗りたいんだろ?」

「……」

 

 私は頷く。

 

「俺は、なんだ。その、当事者じゃねぇからよく分からないけどよ」

 

 カイさんは頭をコリコリとかきながら続ける。

 

「乗りたいなら、へこたれずにガンバったらいいんじゃねぇの?俺も頑張ってるけど、アンタの親父さんに叱られっぱなしだったぜ?シミュレーションとか、戦いが終わってもサ」

「……はい」

「……まぁ、なんだ。俺達もこれからはパイロットだからさ、訓練ならいくらでも付き合うぜ?俺が嫌ならリュウさんやジョブさん、それにハヤトも居るじゃねぇの。強くなってブライトを見返してやりゃあそのモヤモヤもスッキリするだろ?な?それにブライトも、お前が死んじまったらたまんねぇから、そう言ったんだよ。死んだらなんにもならねぇんだからよ」

 

 カイさんとはちょっとしか面識がないが、アムロの記憶ではかなり嫌な人だった。

 しかし、今のカイさんはそんな嫌な感じは一切出ていない。むしろ年上のお兄さんとすら思える。

 肩をポンポンと叩き、照れくさそうに言葉をかけてくれている。

 

「それでフラウ、アムロ、ブライトに何したって?」

「……両頬をぶったそうよ?」

「うひゃ……」

 

 叱られたからって逆ギレするのはよくない。自分自身にそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 そんな出来事があってから数時間が過ぎただろうか。

 ホワイトベースがルナツー、という所に降りたらしい。

 私はブライトさんの艦内放送を聞き、ホワイトベースを降りた。

 

 そこは何とも無機質な空間で、あちこちで何かを叫ぶような声が聞こえる。

 叫ぶ、と言ってもホラー的なあれではなく、指示する声が響くような感じだ。

 

「アムロ、整列だ、姿勢を正すんだ」

「あ……ブライトさん……あの……」

「おかげで色男になれたよ。君は良いのか?」

「はい……ごめんなさい……ブライトさん」

「過ぎたことだ。強くなってくれるなら言うことはないよ」

「……はい」

 

 両頬を腫らしたブライトさんが何故か隣に立つ。

 別にあてつけというわけではなく、Amuro、Brightの順に並ぶとこうなるらしい。

 でもちょうど良かった。隣り合って話すことが出来たし、謝ることも出来た。

 許してくれるといいけど……。

 

「……」

「……」

 

 で、並んだのは良いが、このルナツーの係員さんはいつになったら来るのだろうか。

 待てど暮らせど来ない。

 

「遅いですね……」

「あぁ」

 

 それに見回した所、父さんもいない。

 何処に行ったんだろうか。

 

『……!……!!……困ります!G-3は今後の研究のためにジャブローへ!』

『無理だと言った!ガンダムは君の玩具ではない!君はすぐにセカンドロットのガンダム開発に着手するべきではないかね!?』

『しかしG-3はまだ2号機と大差ない性能でまだ改修が!!』

『G-3の改装は我々ルナツー基地が請け負うと言っている!』

 

 いた。帽子を被った偉い人に青筋を立てて怒鳴りつけている。

 ジースリーって、確かあのバラされている灰色のガンダムだっけ?

 なんで普通にガンダム3号機って言わないんだろう?

 

「積み下ろし急げ!レイ主任!いい加減にしなければ反逆罪で拘束しますぞ!」

「横暴だ!……く……現場を知らん連中はいつもこうだ……!」

 

 父さんは地団駄を踏み、ブライトさんの前に立つ。

 しばらくして、ホワイトベースのハッチが開き、でっかいトレーラーが入っていった。

 

「G-3の引き渡しを条件に避難民の収容と補給を受けられるそうだ……パオロ艦長もここで治療を受けるらしい」

「そ、そうですか……レイ主任、ご苦労さまです」

 

 避難民とガンダムを天秤にした結果があのゴネっぷりなの……?父さん。

 

「しかし、G-3の改装プランを把握していない連中にこれをやらせるわけには……M.Cプランの完成を前提とした改修だと言うのに!!そもそも既存のガンダムすらまだ完全と言えない、フルアーマー装備にハイモビリティパック。Gダッシュ装備の計画にも着手しなければならないのに!!そもそもだ。こんな辺境の基地では全天周囲モニターの完成すら怪しいではないか!!まだレッドウォーリア計画の方が将来性がある!!」

 

 何だか激昂しているが何言ってるかわからない。

 つまりは、何が何でもガンダムを自分のものにしたいということだろう。

 手塩かけて作り上げたものを取られるのが嫌だっていうのは分かるけど、大の大人が……。

 

「ええい!納得いかん!!アムロ!来なさい!お前の操縦技術で無能共を黙らせる!」

「え!?ちょ、やめてよ!何で私まで!?」

「いいから来なさい!私達のガンダムを取られてもいいのか!」

「決定事項でしょ!?スポーツ漫画じゃあるまいし私云々の問題じゃないって!!可能性0だってば!」

「0にかけるんだよ!」

「0に何かけても0だってば!分かってよ父さん!ちょ……!誰か止めてぇ!!!」 

 

 襟首を捕まれ、父さんに引きずられる。

 嗚呼、これから父さんの力説を隣で聞いて私も同罪か……。

 

 

 ★

 

 

「……」

「……」

「……で、では、ホワイトベースクルー諸君。私がこの基地の司令官、ワッケイン少将です」

「は……はぁ……」

 

 レイ主任は自分の作品に対して異常なこだわりを持つと聞くが、これ程とは。

 普段は一般的な科学者だが、ガンダムの話になると途端にマッドサイエンティストとなる。

 娘想いとガンダムに対する愛が混ざり合い、今の主任は最早誰にも止められない。

 

 遠くでレイ主任の怒鳴り声とアムロの悲鳴が木霊する中、ワッケイン司令は続ける。

 

「あなた方は、本基地での補給作業の後、ジャブローへと向かっていただきます」

「ワッケイン司令……しかし、素人の我々だけでジャブローへ向かうのは厳しいのでは……」

「……現状、我々にも余剰戦力が無い。サイド7が襲撃された今、ルナツーは宇宙での最終防衛ラインだ」

 

 それは分かる、人員も物資も足りない今、ホワイトベースを素人に任せるのは無謀ではないか。

 ジャブローに直行するとは言え、道中何度シャアに襲われるかわかったものではない。

 それに相手は赤い彗星だ。

 

「避難民の収容だけでもいっぱいいっぱいなんだよ、今は……G-3の改修だって、本来ならばジャブローの仕事だと言うのに」

「……」

「……ブライト君。サラミスを道中の護衛につける。我々に出来るのはこれだけだ……本当に申し訳ないと思う」

 

 ワッケイン司令は目を伏せ、俺の肩を叩く。

 地上も宇宙もジオンの占領下にある現状ではこれが限界。

 そう自分を納得させるしかない。連邦軍の敗戦色が濃くなっている今、サラミス一隻を護衛に回してもらえるだけでも有り難いというのか。

 

「畜生、何が「ジオンに兵無し」だ……!」

「今の毒は、空耳として聞き流そう。私も同意見だからね、補給作業の間、束の間だが休息をとってくれたまえ」

「はっ」

「……この寒い時代、何時まで続くものか……」

 

 ワッケイン司令のつぶやきが妙に身に沁みた。

 俺は敬礼の号令をかけ、全員がワッケイン司令に敬礼する。

 そして、案内されたクルー待機室に入り、補給作業の終了を待つことにした。

 

 

 

 

 

「寒い時代、か」

 

 アムロにひっぱたかれた頬を擦り、天井に呟く。

 全くの素人である少女に戦わせた挙げ句、その少女を叱責する自分を思い出す。

 

(俺も寒い時代の人間……か)

 

 

 

『父さんもういいでしょ!?諦めてよ!!』

 

『いやまだだ!まだ基地司令官に掛け合っていない!』

 

『威嚇射撃までされたの分かってる!?止まってぇ!止めてぇ!!』

 

 

 

 レイ主任とアムロの熱い声を聞きながら、俺は少しの間目を閉じた。

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アムロ、ブライトを2度もぶった
・G-3ガンダム、ルナツーに無傷で積み下ろす
・ホワイトベース内避難民、全員下船

以上の結果となりました。


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修羅の双星

「ホワイトベース、ルナツー基地、微重力圏を離脱。衛星軌道上到達までサラミスの航跡を自動追尾します」

「よしミライ、休んでくれ。オムル、今操舵を代われるか?」

『すぐ行きます』

「オスカ、マーカー。進路上の警戒怠るな!」

 

 何やらブリッジが忙しそうだ。私は料理長のタムラさんって人に頼まれてブリッジに食事を渡しに来た。

 バスケットを開けるとまぁ美味しそうなハムとサラダのサンドウィッチだ。一つ頂いたけど美味しかった。

 ちょくちょくフラウが持ってきてくれる食事にハズレはなかったし、タムラさんはシェフか何かだろう。

 今度直接ご飯を食べに行こう。

 

「食事でーす、はい、えっと、オスカさんと、マーカーさん」

「ああ、ありがとう」

「サンキュー」

 

 高いところにいるレーダーの人、オスカさんとマーカーさん。確か金髪のほうがマーカーさんだっけ?

 そう言えば地球に行くって言ってたけど、地球に行ってからもこの二人は高いところにいるんだろうか?

 だとしたら結構危ないかも……。

 

「っと……」

「了解、速度は600を維持」

 

 セイラさんはサラミスっていう筒みたいな船と通信中だ。

 後にしようと、ブライトさんに食事を渡す。

 するとセイラさんはデスクの右側を人差し指でトントン、とした。

 

「あ、なるほど」

「周辺宙域異常なし」

 

 私はその付近にサンドウィッチを浮かせる。宇宙って便利だ。

 食器いらずだもの。

 

「……あの船、あれは味方ですよね?」

 

 私は暇そうにしてるブライトさんに声を掛ける。

 

「ああ、サラミスという船だ。巡洋艦だな」

「じゅんよーかん」

「連邦軍で流行りの船って認識で良い」

「ふーん……」

 

 軍艦についてはよくわからないが、あれが連邦軍っていううちの軍の船でよく使われる船らしい。

 ホワイトベースとは違って何だか小さくて、船っぽい感じがする。

 というよりホワイトベースが船っぽくなさすぎるんだろう。

 

「あ、アムロ!」

 

 ポケーっとサラミスを見ていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 ハヤトくんだ。

 

「ハヤトくん」

「君付けはやめてくれよ。カイさんが面倒くさがってさ。訓練しよう」

「分かった、すぐ行くね」

「僕はガンキャノンのシミュレーターを使うから、アムロもガンダムで頼むよ」

 

 カイさん、さっきは手伝うとか言ってたけど……。

 ま、いいか。とにかくハヤトくんの頼みだ。シミュレーターなら怖くないだろうし。

 私はすれ違ったアフロの人に食事を渡し、空になったバスケットを持ってハヤト君について行った。

 

 

「アムロ、宇宙は大丈夫なのかい?」

「へ?宇宙?」

「あの時の事だよ……覚えてない?」

 

 あの時……あの時あの時あの時……えっと……。

 ……宇宙で、支障がある……ん?酸素ボンベが……。

 

「あ、あぁ……酸素?」

「そうだよ、一時期異様なまでに怖がってたじゃないか」

「……まぁ、そう……だけど……でもまぁ、今は大丈夫みたい」

「……ならいいけど」

 

 廊下を二人で話しながら私達はモビルスーツが置いてあるところへ向かった。

 ガンダムとガンキャノンたちの整備は終わっている。どうやって直しているのか知らないけど綺麗だ。

 まるで新品みたいだ。

 

「ガンキャノンとガンダムのシミュレーターを使わせてくれますか?」

「ん?シミュ?はいはい、待ってなよーっと」

「よ、よろしくおねがいしまーす?」

 

 ガンダムの脇腹の回路を見てメモを取っている整備員さんにハヤトくんは声を掛ける。

 父さん以外の整備士さんだ。父さんとは違って現場作業員って感じの女の人。

 青い上着に父さんと同じ「AE」のマークが刻まれている、黒い肌の健康的な人だ。

 

「レイ主任の娘さん?」

「はい。アムロ・レイです!」

「へぇ~……あ、あたしはアニー・ブレビッグ。さっきこっちに乗船したばっかの新人だよ」

「は、はい!よろしくおねがいします!」

「あの人も中々強引だね。モビルスーツの引き渡しだけを武器に人事まで決定させるんだからさ」

 

 …………。あの時のあれか。

 G-3ガンダムの件でだいぶゴネて、黒人のすんごい偉い人に通信までしたんだっけ。

 その時にその偉い人推薦の腕利きを一人ホワイトベースに引き入れるとか……。

 

「う、うちの父がご迷惑をおかけして……」

「いいんだよ。モビルスーツが触りたくて入隊したんだ。むしろ有り難いくらいさ」

「そう言っていただけるとありがたいです……」

「どっちにしろ地球に行く予定だったしね。っと…すぐ起動させるよ」

 

 アニーさんはウィンクしてガンダムのコクピットとガンキャノンのコクピットを開ける。

 シミュレーターにはモビルスーツそのものを使ったシミュレーションと、

 ホワイトベースの備品のシミュレーションマシーンみたいなのがある。

 父さんいわくモビルスーツを使ったシミュレーターの性能のほうが良いらしい。

 どっちも触ったけど、正直どっちも変わらなかったが……。

 

「シチュエーションはどうする?」

「え?あ、じゃあ、アムロと対戦で」

「オッケー、模擬戦シミュ。フィールドは最新のルナツー近辺を呼び出すよ、ハッチ閉じな!」

 

 アニーさんがシミュレーターの制御装置みたいなのを動かしながらハヤト君に尋ねる。

 指示に従ってハッチを閉め、ガンダムとガンキャノンが起動する。

 最初はメインカメラが移した映像が出るが、間もなくしてモニターがぶつんと消え、

「Simulation Mode」の緑色の文字が浮かび上がる。

 

『ガンダムは白兵戦、ガンキャノンは中距離支援のMSだから、その辺意識しなよ?』

「はくへーせん……?」

『近距離での戦い。さ、シミュレーション開始だ!』

『アムロ、手加減はいらないぞ!』

「勿論!泣いても知らないから!」

 

 仮想空間のような機械的な線がいっぱい現れたと思ったら、ガンダムはホワイトベースのカタパルトに乗っていた。

 私は操縦桿を引き、スラストレバーを思い切り踏む。

 カタパルトが動き出し、シミュレーションの戦場へとガンダムが飛んだ。

 

 

 

 ★

 

 

 

「……シミュレーション中ですか?」

「そうらしい」

 

 アムロとハヤトという少年は練度向上の為、シミュレーターでトレーニングをしているようだ。

 アムロの実力は言わずもがな、ハヤト少年の実力も中々のものだ。ガンキャノンの性能を引き出している。

 部下は私の端末のモニターを見る。ガンダムの追加装備の案の一つだ。

 大気圏突入ユニットをオミット、外付けの換装装備にするもの。有事以外のガンダムの軽量化を図るものである。

 

「それで、この装備ですが……」

「数日でなるものではないだろう、キャパシティ分配やビームサーベルの装備位置を再検討しなければならん」

「ええ。懸念点はやはりそこですね」

「だが基本設計はこれで問題ない。データは保存しよう。地球に降りたら研究再開だ」

「了解です、ところで主任、セカンドロットの開発計画は?」 

「ルナツーの通信設備で06の案をジャブローとオーガスタに送ったよ。04と05は先に提出した企画案をもとにオーガスタが開発を進めているらしい」

 

 空間戦闘特化のG04、G05。G05の開発は概ね順調らしいがG04の開発は難航しているそうだ。

 どうもジェネレーターの出力がメガビームランチャーの発射可能出力に到達しないらしい。

 補助ジェネレーターは未完成かつ、一定以上のエネルギーを開放させるとコア部分が圧壊するとの事だ。

 

「全く、私一人では手が回らん。私自身何時までこうして研究できるか分からないと言うのに」

「はぁ。確かに娘さんが居なければ我々も……」

「本当に。いつの間にか成長するものだよ。子供っていうのは」

 

 私はガンダムを見る。完成されたフォルム、赤い彗星をも退ける性能。

 それを引き出す我が娘アムロ。まだガンダムも完璧とは言えないが、我ながら素晴らしいMSだ。

 

「よし、作業を再開しよう。ジョブ君のガンキャノンは酷くやられたからな」

「了解です。おーい皆!始めるぞー!」

 

 私は端末をスリープ状態にし、ジョブ・ジョン君のガンキャノンの作業指示を行う。

 彼は部隊指揮も含め最もよく働いてくれたが、その代償は大きかったようだ。

 装甲板は第5層までマシンガンがめり込み、パプアの爆発に巻き込まれたせいで表面装甲は全損と言えるほどの損傷。

 更にマニュピレーター損傷により左手首の内部部品は全交換だ。

 

『アムロ!今のはずるいだろう!』

『ずるくないでしょ、間合いが甘いの』

『だいたいガンキャノンには近接武器が……』

『ずるいも何も私は射撃苦手なんだから避けて刺すに決まってるじゃない』

『苦手って……両腕撃ち抜いて何が苦手だよ!』

 

 ちょうどアムロとハヤト君のシミュレーションが一段落したようだ。

 結果を見ているコーウェン少将推薦のアニー上等兵は目を丸くしている。

 

『ほーらガキ共、落ち着きな』

『……』

『……』

『1戦目はアムロが瞬殺、これはハヤトの読みが甘かったんだと思うよ』

『不意討ちの上にコクピットを……』

『踏みやすい位置に倒れるのが悪い』

 

 ……そろそろアムロには装甲修復の大変さを教えてやったほうが良いかもしれない。

 そう考えていると、突然艦内に警報が響き渡った。 

 

【総員戦闘配置!敵部隊接近!アムロはガンダムで待機!!】

【ホワイトベース各銃座攻撃用意!ザク2機視認!】

 

 またしても敵機。私は全員に作業の中断を指示し、

 ガンダムのセッティング全作業員を配置させる。 

 

「アムロ、ノーマルスーツに着替えてきなさい」

「またシャア?」

「おそらく違う、シャアに予備機はないはずだ、急ぐんだ!」

 

 そう言うとアムロは頷きパイロット更衣室に向かう。

 

「換装急げ!A装備!」

 

 ビームライフル、シールドの基本装備。

 ザク2機なら射撃が苦手なアムロとて外すことはないだろう。

 

 

 ★

 

 

「ザク2機……何だろ?」

 

 ノーマルスーツに着替え、ガンダムのコクピットに座った私は考えた。

 が、当然ながら何も思い浮かばず、とりあえずガンダムを起動する。

 いつものトンッという音が聞こえ、ブゥゥゥンとシートの下から駆動音が響く。

 

『アムロ、聞こえて?』

「あ、はいセイラさん」

『敵はザクが2機。ホワイトベース前方を塞ぐように布陣しているわ』

 

 なるほど。通せんぼ戦法か。

 

「その2機を壊せば良いんですか?」

『ええ。お願い』

「分かりました。がんばります!」

『メカニックマン退避完了!』

『了解、カタパルトへ!』

 

 私はガンダムを動かし、カタパルトの上に乗る。

 これはさっきみたいなハヤトくんとの模擬戦じゃない。

 ナメてかかったら死ぬ。改めて私は息を呑み込み。ガンダムの重心を下げる。

 

『敵は物陰に隠れる戦法を駆使してるみたい。サラミスが危ないわ』

「はい!……アムロ、行きます!!」

 

 スラストペダルを踏み込み、私は宇宙に出る。

 やっぱりシミュレーションのカタパルトとは違う。体が押し付けられる。

 宇宙に出た私がまず見たのは、あの筒みたいな宇宙戦艦サラミスが変な色の爆発を起こした瞬間だ。

 隕石の影からサラミス向けて黄色い弾のようなものが飛んでいってる。

 

「セイラさん!サラミスが!」

『急いでアムロ!』

「はい!」

 

 誰かを守る戦いなんてしたことないけど……。

 仕方ない。行くしかないか。

 

 

 

 ★

 

 

 

「こちらカート、木馬らしき戦艦とサラミス級巡洋艦を確認」

『こちらロビン、こっちも確認した。シャアに伝えるか?』

「シャア「少佐」だ。命令では発見次第攻撃せよとの事だ」

『簡単に言ってくれやがるぜ……』

 

 北米地球降下大隊に合流する小隊、最後尾のツケが回ったのか、

 合流寸前に同じく衛星軌道に進軍中の「ファルメル」から緊急通信が入った。

 ファルメルが追いかけている連邦軍の新造戦艦「木馬」の足を止めろとの事だ。

 

 俺達はまずサラミスに攻撃をかける。抵抗が少ないが装甲の厚い底部を狙う。

 戦車砲並みと言われている120ミリマシンガンを1マガジン分、ほぼ同じ位置に撃ち続ける。

 間もなくして弾薬に引火したのか、底部からピンク色の爆発が発生。破片を撒き散らし始めた。

 

 それを確認したのか、木馬から発進したモビルスーツがこちらに向かってくる。

 白を主としたトリコロールカラーのモビルスーツ。恐らく視認性向上の為に塗装された試作品だ。

 右手には大型のライフル。左手には巨大な赤いシールド。どちらも見たことのない兵装だ。

 

「出た、情報通りだ」

『あれが白い奴ってか』

「攻撃をかける、奴は木馬の大事な荷物だ。置いては行けんだろう」

『了解……ったく、』

 

 いつも通り、手頃な物陰を探し、その場を仮の拠点とする。

 付近のデブリ、この分厚さ、そしてこの広さならば大丈夫だろう。

 F型のザクと言えど戦い方を工夫することでS型にも劣らない戦いができる。

 俺達はこの戦法でルウムを生き残ったのだ。

 

「ロビン、バズーカだ」

『サンキュウ。クラッカーはいくつあるよ』

「2つだ。バズーカは?」

『4発。お互い同じだ』

「了解した。行くぞ!」

 

 50発の強化型ザクマシンガン、これならば白い奴の足を止めるのに不足はないだろう。

 これでもう少し装弾数が多ければ確実に止められただろうが。

 文句を言っても装弾数は増えない。俺は初弾を装填し、安全装置を解除。

 白い奴に向けて発砲した。  

 

「効かないか」

『戦艦並みだな』

 

 これもまた情報通りだ。確実にマシンガンの弾は白いやつに命中した。

 しかし奴は全く怯む素振りすら見せず、右手のライフルを放つ。

 ビームはデブリに命中したが貫通には至らない。奴のそれは戦艦の主砲とほぼ同じ威力か。

 あのビーム砲を喰らったらザクとて一撃で撃破されるだろう。しかし。

 

「モビルスーツの性能が全てではない!」

『おーおー、絶好調だな!』

「無駄口を叩くな!フォーメーションクライシスタイム。継続だ」

『いつも通りだろ?わぁかってるって!』

 

 白い奴の射撃が止み、俺とロビンはデブリ影から出る。

 一斉射撃をかけるも、奴のシールドに阻まれる。

 シールドの強度もザクとは比べ物にならない堅牢なんてものではない。

 驚異的な強度だ。

 

 となると奴を撃破するにはヒートホークか、バズーカしかないだろう。

 奴の上下左右に、一見適当に見える予想できない機動を読み、バズーカを当てるか。

 奴の拳をいなし、コクピットがあるであろう腹部をホークで叩き割るか。

 

「チッ」

 

 俺達以上の実力を持つシャア・アズナブルがS型に乗っていながら仕留めきれなかった理由がわかった。

 モビルスーツ同士の戦いのノウハウがない上に、対MS用兵装が無いのだ。

 Fザクは航空機の部類で言う対艦攻撃機にあたる機体だ。真正面からでは単純に分が悪い。

  

「移動だ!」

『了解!』

 

 マシンガンのセーフティーをかけ、攻撃を避けながら移動する。

 とんだ貧乏くじだ。早めに合流しておけばこんなことにはならなかっただろう。

 

『もう遅刻しないようにしようぜ』

「全くだ」

 

 

 

 

 

「……!」

 

 シャアとは違う。シャアは動き回るけどこの二人は動き回らない。

 隕石に隠れては攻撃を繰り返し、近づけば斧で切りかかってくる。

 切りかかったと思えばまた隕石に隠れて、隣のやつを撃つともうひとりが撃ってくる。

 

「何なの……こいつ!」

 

 私はビームサーベルを抜き、ビームの刀身を展開させる。

 左側の隕石に隠れているザクに向けて斬りかかるが、いつの間にか居なくなっていた。

 すると今度は真後ろからザクのマシンガンの弾が当たる。

 ダメージはないけど、単純にムカつく戦い方だ。

 

「このや……っ!?」

 

 後ろを振り向くと、カメラに十字の形をした何かが映る。

 隕石?と思い払いのけようとした瞬間。

 

「っぅう!?」

 

 カメラの映像が真っ白に、そのうえ音が消えた。

 それと同時にコクピットに前後左右と万遍ない揺れを感じる。

 

「何!?」

 

 操縦桿を動かすも、ガンダムが動いてる感じがしない。

 モニターの表示の殆どに赤黒い文字で「WARNING」と表示されている。

 しばらくしてモニターの真っ白が回復するも、ガンダムが動かない。

 

「嘘……!動いて!?」

 

 さっきのザク爆弾のせいだろう。ガンダムのどこかが故障したのかうんともすんとも言わない。

 いや、一応ビービーとかピロロロとか言っているけど、腕も足もジェットも動かないのだ。

 物陰に隠れているザクが一斉に私に向けてマシンガンを撃つ。動くことが出来ない私はそれを全部受けてしまった。

 

 ガンガンという音共にコクピットが激しく揺れ、ガンダムが火花を散らす。

 

「う……!!うぅう!!」

 

 その時、前のモニターに青色の文字が表示された。私はそれを読む暇もなくガンダムの操縦桿を前に倒す。

 ガンダムが動いた。何だかよくわからないがエラーが回復したのだろう。

 右側のザクがでっかい筒みたいな武器を構えている。私はとっさにそれに向かってビームライフルを撃つ。

 

「っ!」

【何!?】

 

 ビームのピンク色が奇跡的に筒を通り抜けた。黒い筒がオレンジ色に発光し、ザクの右腕を巻き込んで大爆発を起こす。

 ……今の筒、もしかしてザク専用のバズーカ砲みたいなものなのだったのかな。

 だとしたら蜂の巣にされてボロボロのガンダムがあれを受けてたらエラいことになってたかも……。

 

「左手も動かない……壊れちゃったのかな……」

 

 ガンダムはボロボロだ。足は動くけど動くたびに中から変な音が響く。

 ビームライフルは無事だけど、左側のビームサーベルが半分にされてやばい音を出している。

 今引っこ抜いたら背中ごと吹っ飛ぶかも。

 

【ロビン!無事か!】

【ああ、ドジっちまった。俺は生きてるがザクはもうダメだな】

【撤退は出来るか?】

【そこまで世話ぁ焼かせねぇよ。時間は稼げた。トンズラだ!】

【了解。先に行け、俺が時間を稼ぐ】

 

 右腕と左手首が壊れたザクはすばやく私に背を向け、ものすごいスピードで逃げていった。

 その背中をビームライフルで撃つが、上下左右に避けながら逃げるせいで当たらない。

 あのザクはシャアの部下とは違ってすごい人が乗ってたみたいだ。

 

『マダガスカル被弾!艦内炎上止まりません!』

『ええい……!こんな目立つ艦のお守りなどするからこんな目に遭うのだ!』

『ザク1機撤退!もう1機が本艦に接近中!来ます!!』

『ホワイトベース!若造!!貴様ら何をしている!対空機銃を撃たんか!!』

 

 もう1機のザクが私から逃げ、とんでもないスピードと回避でサラミスに向かう。

 ホワイトベースは素人目から見ても少ない銃撃でザクを狙うが当たらない。

 私もビームライフルと頭のバルカンで応戦するも、動き回ってるザクに為す術もない。

 

「は、速っ!?」

『迎撃急げ!迎撃!!』

 

 斧を左手に、バズーカ砲を右手に持ちながら、星のような速さでサラミスを蹂躙する。

 縦横無尽に動き回る様は、私と戦っているときよりも明らかに動きが良い。

 まるで私との戦いが本気でなかったかのようだ。

 

『速い……!』

 

 サラミスがピンク色の炎を噴く。

 宇宙の炎は地球の炎とは違いピンク色だ。酸素とか、そんな感じのあれではないものが炎になっているんだろう。

 空気のない所で火を噴くということは、それだけやばいものが燃えているんだろう。

 炎に包まれる緑色のザクは、サラミスのブリッジに当たる部分で一つ目を光らせる。

 

「鬼……みたい……」

『ブライト少尉!!受け取ったか!!武運を祈る!!』

『リード中尉!!』

 

 ザクはバズーカ砲を捨て、マシンガンを構える。

 

【ロビン撤退完了、目的は達成した。少佐。任務完了です】

【了解した。貴様も撤退しろ】

【了解】

【捨て駒かと思ったが、予想以上の働きだ……まさに修羅と呼べる】

【修羅……】

 

 ビームライフルの引き金を引く。それと同時にマシンガンの弾丸が1発発射される。

 ザクはマシンガンを手放し、宙返りしながらさっきのザクが逃げた方向へと飛び去っていった。

 ビームライフルがザクのマシンガンを溶かし、真っ赤に染まる。

 

 サラミスのブリッジは明かりが消え、ザクの弾が貫通した穴からまたピンク色の炎が吹き出した。

 

「……」

『……サラミス撃沈……アムロ……』

「えぇ……」

 

 私はしばらく操縦桿を握ったままぼんやりしていた。

 シャアじゃないザクはビームライフルを適当に撃っただけで爆発するザクが殆どだと思っていた。

 でもあのザクたちは色々な戦法を駆使してガンダムを圧倒していた。

 それどころじゃない、圧倒した上に守らなきゃいけない船をもぶっ壊していく。

 

「つ、強かった……」

 

 ボロボロのガンダムの中で、へし折れて爆発していくサラミスを見上げる。

 あれが送ってくれないと、私達地球に帰れないんじゃないかなぁ……?

 

『アムロ、とにかく帰還して頂戴』

「セイラさん……」

『エースパイロット相手によく戦った。ブライトはそう呟いてたわ』

「そうですか……ブライトさんは?」

『今は話しかけないほうがいいわ。いきなりの事でかなり参ってるみたい』

 

 ……ブライトさんには悪いことをしてしまった。

 今日一日の出来事で、ブライトさんは私に逆ギレされて二発も殴られ、

 その上味方の軍人さんがたくさん乗っていたサラミスを壊されてしまった。

 

「サラミスの人たちは?」

『……』

「……そう……死んじゃったの……ね」

『ええ……』

 

 これが負け。

 かなり心にズシッと来るものだ。私は操縦桿を引き、ガンダムを振り向かせる。

 あのザクはわざとホワイトベースを狙わなかったのか、ホワイトベースは新品同様の姿をしている。

 

 手加減されてたってことか。完全に負けね。

 

「ジオン軍に勝たないと……ですね」

『そうね、腐っては駄目よアムロ』

「はい」

 

 ……サラミスの人たちの面識はさっぱり無いが、私は目を瞑る。

 この人達も人間だ。私が駄目なせいで皆死んでしまった。

 これが戦争とはいえ、こうやって目の前で人が死ぬのはいい気分じゃない。

 ザクの奴らは敵だから黙祷なんかしないけど。

 

「アムロ、戻ります」

『後方ハッチに進入して。着艦次第ホワイトベースは衛星軌道に向けて出発するわ』

「え?でも」

『リード中尉が最後に敵勢圏外を進むルートを送信してくれたのよ』

 

 誰?

 

「……その人に感謝しないとですね」

『ええ。アムロもゆっくり休んで』

「ありがとうございます、セイラさん」

 

 私はホワイトベースのお尻にあたる部分に向かい、

 ハッチが開いている所にガンダムを着陸させる。

 着陸すると同時にガンダムが自動操縦に切り替わり、元のガンダムが設置されている所に向かって移動した。

 

「はぁぁ……」

 

 今回も死ぬかと思った。でも、生きている。

 これだけでも成果かな……。

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アニー・ブレビッグ上等兵(機動戦士ガンダム戦記)ホワイトベース乗艦。
・テム・レイ、ガンダム4号機、ガンダム5号機、ガンダム6号機の開発支援。
・MS-06F搭乗の修羅の双星(スピリッツオブジオン)ホワイトベース隊奇襲。
・RX-78-2ガンダム小破
・サラミス轟沈、リード中尉戦死、戦死直前に衛星軌道上へのルート送信。

以上の結果となりました。


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プロトタイプガンダム大気圏突入

 ガンダムを修理してもらわないと。私はガンダムの電源を落とし、ハッチを開いた。

 重力が殆どないのに体が重い。あのザクとの戦いは熾烈なものだったと思う。

 だからこその体の重さなんだろうけど……。

 

「はぁ……」

 

 ガンダムのハッチから出て、私は目の前の手すりにもたれかかる。

 息苦しいヘルメットを脱ぐと、ヘルメットに溜まっていた汗が玉となって宙に浮かんだ。

 客観的にガンダムを見るとひどい有様だった。あちこちに銃弾がめり込み、ビームサーベルはへし折れている。

 あの爆弾を受けた箇所の塗装は剥がれてしまって黒くなっていた。

 

「ひっどいなぁ……これ……」

 

 深いため息をつくと、右の頬に冷たい物が当たった。

 

「ひぁ!?」

 

 パッとそのひんやりとした筒を取る。あの美味しくない栄養ドリンクだ。

 誰がくれたんだと、キョロキョロあたりを見回すも誰も居ない。

 何だ何だと困惑していると、足元に騒ぐ声が聞こえた。

 

「アムロねーちゃーん!」

「あ……アム……」

「かーっくいー!

「わわっと……ちょちょ、危ないって……」

 

 ちょこちょこ見る悪ガキ3人組だ。いや、悪ガキかどうかは知らないけど。

 金髪の女の子がキッカ。緑の服の子がカツ。私より酷い天パの子がレツ、だっけ?

 カツって男の子は怯えている。さっきハロをぶつけた子だ。

 

「コホン……あら、どうしたの?差し入れ?」

「さしいれ!アムロねーちゃんがんばってるから!」

 

 キッカちゃんが無重力空間でくるくると回りながらドリンクをチューチューと吸う。

 ……あんまり美味しくないだろうに随分美味しそうに飲むなぁ。

 レツくんはボロッボロのガンダムに興味津々だ。

 

「アムロねーちゃんのガンダムボロボロー」

「あはは、ちょっと失敗しちゃって。ホントはこんなんじゃないのよ?」

「知ってるやい。オレいっつも見てるんだからな!」

「そうなの?ありがと」

 

 レツくんがガンダムに触ろうとする所を抱き寄せ、頭をさっと撫でる。

 こういう年頃の男の子はあっちこっちに触ろうとするから困る。

 撫でられたレツくんは顔を赤くし「でへへー」っと頭を掻く。

 

 カツくんは相変わらず内気だが、ガンダムをチラチラと見ている。

 この子も男の子だ。巨大ロボットに興味がある年頃だろう。

 

「カツくん」

「へ?」

「さっきはごめんね?痛かったでしょ?」

「う、ううん!平気だよ!」

 

 悪ガキは前言撤回。皆いい子ばっかりだ。

 キッカちゃんは私の天パをワシワシと毛繕いみたいにいじっている。

 チョロチョロと動き回るが別に目障りというわけじゃない。

 むしろ疲れている時にこういう子たちが居ると癒やされる。

 

「アムロねーちゃん疲れてる?」

「オレが肩叩きしてやるよ!」

「宇宙じゃたたいいても気持ちよくないよ」

「そんなのわかんねーじゃん!カツも手伝えよ!」

 

 この3人組のリーダー的存在はレツくんかキッカちゃんだ。

 カツくんはどちらかと言うと内気な子なんだろう。

 内気なカツくんをレツくんが引っ張り、キッカちゃんがまとめる。

 何ともいいトリオだ。

 

「あはは……もう、くすぐったいって」

 

 戦場で荒みかけた心が洗われるのを感じる。

 でも、この子達も私達と同じ、行くあてのない子供達だ。

 この子達も戦乱から逃れられた避難民。

 

 ……避難民。

 

 ……避難民……。

 

 え。

 

 待って。避難民?

 

「アンタ達なんでまだいるの……?」

「ふえっ?」

「げっ!」

「え?」 

 

 避難民じゃん。この子達。

 

 

 

 ●

 

 

 

 とりあえず、避難民である悪ガキ3人組はフラウに任せた。

 今はフラウが面倒を見て、ブライトさんが元気になったら伝えるらしい。

 私は父さんにガンダムを壊したことを謝り、自室へ戻る。

 

 父さん、怒るどころかむしろ「プロトタイプを試せる」って喜んでた。

 アニーさんには小言を言われたけど。

 

「……はぁぁぁああ……」

 

 私はフワーッと浮かび、自分のベッドへポスっとダイブする。

 宇宙空間だからこそ出来る、この布団に柔らかくダイブできる感覚。

 ベッドは固く、枕はせんべいみたいに平らだが、気持ちいいものだ。

 

「疲れたぁ……」

「アムロ、オツカレ、オツカレ」

「ホント疲れたよぉハロォ……」

「オツカレ、オツカレェー!コモリウタ、イルカ?」

「いらない、子供じゃないのよわたしゃ……ふぁぁ……寝かせて……」

 

 ハロが私に声を掛ける。電子音なのにはっきり聞き取れる。

 私じゃない本当のアムロが改造したからなのか、市販の玩具の性能がいいのか。

 そもそも、アムロは何をどう改造したんだろう。

 

「ヘヤハ、ハロ、チョットカタヅケタ」

「え?ほんと?ありがとー……」

「オヤスイゴヨー」

 

 ……多分、こういうところだろう。

 

「…………」

「アラーム、ジドウセッテイ、アサ7ジ」

「……ありがと、ハロ」

「アシタモガンバレ」

 

 私は掛け布団の中で靴と制服を脱ぎ、ベッドの外に放り出す。

 シャワーは明日の朝浴びよう。そもそも宇宙の朝がよくわからないけど。

 とりあえずハロが起こしてくれるだろうし、 今は寝よう。疲れた。

 本当に……疲れた。

 

「ん……ぅう~…………っふぅ……」

 

 宇宙の睡眠は地球の睡眠とぜんぜん違う。

 こうやって布団に入ってしっかり寝るのは初めてだ。

 

 そう思い、宇宙という闇の中で目を瞑る。

 ハロが小声で「ショウトウ」と呟くと、部屋の明かりが消えた。

 その呟きが子守唄となったのか、私の意識は遠く離れて行く……。

 

 

 ★

 

 

「木馬の航跡、消えました。監視圏外に入ったようです」

「了解した。道中に攻撃するチャンスを失っただけだ、我々の仕事に変わりはない」

 

 ザク2機小隊でサラミスを撃沈するも、白い奴の撃破には至らなかった。

 報告によると貫通力を強化したザクマシンガンを1マガジン分受けてもまだ可動していたと聞く。

 連邦軍のモビルスーツの装甲は、私の予想を更に上回る強度を持つということか。

 それとも白い奴のパイロットの立ち回りが良かったのか……。

 

「シャア少佐、問題が」

「何か」

 

 パプアと交信していた通信士が声を掛けてくる。

 

「余剰物資が足りんようです。F型のザクは渡せないと」

「構わん。物資だけでも十分だ。感謝すると伝えろ」

「了解」

 

 ……コムとクラウン。そして私の3機編成。

 1小隊分のザクでやれるか……。

 

「ドレン、木馬の進路予想からの衛星軌道到達時刻はどうか」

「はぁっ。航跡消失時の速度から計算するに、翌0900。時刻は前後します」

「了解した。メカニック、私のザクの修理状況は」

『はっ、大方の修理は完了しております。後は各部バランサーの微調整のみです』

「よし。カプセルの搭乗員、及びザクのパイロットは今のうちに体を休めておけ。残りの者は第1種警戒態勢のまま待機。ドレン、木馬を発見次第すぐに報告しろ」

 

 大気圏突入直前に木馬を迎え撃ち、破壊する作戦。

 作戦時間は4分とない中での戦いだ。第1目標は木馬だが、私の狙いは第2目標の白い奴だ。

 いくら装甲の分厚い白い奴と言えど、大気圏に叩き込めば奴とて保ちはすまい。 

 そして木馬もだ。ただでジャブローには降ろさん。北米でガルマとのクルージングを楽しんでもらう。

 あわよくばガルマと刺し違えてくれるだろう……。

 

「……」

 

 今は木馬の出現を待つしかない。

 私はブリッジに臨む地球を見る。旧世紀の人間は地球が青いことも、丸いことも知らなんだ。

 しかしその旧世紀から千年も経たないうちに、人は地球を捨て、宇宙へとその足を広げた。

 

(先人たちよ、今の我々を見たまえ、人間はどこまでも愚かだ)

 

 スペースノイドとアースノイド。下らない諍いが加熱し、戦争へと発展した。

 その結果、先人たちが築いたいくつもの歴史を潰し、積もり積もった憎しみから、全人類の半数を我々ジオンが殺した。

 哀れな人間はそれでも争いをやめない。ザビ家の名の下にいったい何人もの命が犠牲になった事か。

 

(ガルマ。君がザビ家の者でなければ、我々は良い友人のままだっただろう)

(君のか細い命を私の復讐の狼煙とする。首を洗って待っているがいい)

 

 私は拳を静かに握りしめ、憎しみを北米でぬるま湯につかっているガルマに向けた。

 

 

 ★

 

 

 

 朝、起きてすぐに共用のお風呂へ向かった私は今驚愕している。大変な出来事だ。

 宇宙というものを誤解していたようだ。宇宙では水が玉のように浮かび上がる。

 それを考慮したのか、バスルームが2つあるのだ。宇宙用と、重力下用とある。

 

 それ自体驚きだが、宇宙用の風呂というものは……これ風呂なの?

 右にも左にもシャワーノズルがあり、それで溺れないようにするためか呼吸器がある。

 多分これを付けてシャワーを浴びるんだろうけど……。まぁ、仕方ない。

 

「っくしっ!」

 

 寒いからさっさと浴びよう。

 地球に降りるんだろうけど、どうせガンダムがご入用になるんだろうし。

 

 私はよくわからないまま呼吸器を顔に付け、体を浮かせて蛇口をひねる。

 するとシャワーからお湯が勢いよく飛び出し、1日の汚れを落とし始めた。

 

「へぇぇ……」

 

 宇宙シャワーっていうのかな。これは中々新鮮な感じだ。

 水が体に張り付かず、汚れだけを掠め取り、吸い込み口からお湯が出ていく。

 シャンプーとコンディショナーもある。女性にも優しい宇宙戦艦だ。

 

『大気圏突入20分前、アムロはガンダムで待機。敵の襲撃の可能性あり』

「うひゃああ!?」

『アムロ、応答しろ!』

 

 突然モニターにブライトさんの顔が見えた。

 電話みたいなものを耳に当てて私に話しているようだ。

 ブライトさんの反応を見るに、ブライトさんには私の姿は見えていないらしい。

 私はそのモニターにあるボタンを押す。

 

「あ、は、はい!大丈夫です。すぐ待機します!」

『サウンドオンリー?どこに居る』

「朝風呂中です、すぐガンダムに行きます!」

 

 モニターが消える。さすがは宇宙戦艦、プライバシーもへったくれもないらしい。

 せっかくシャワーを浴びて温かくなっていたのにいきなり男の顔が現れるんだ。

 背筋が凍ってしまった。

 

「はぁ……」

 

 カポっと呼吸器を外し、バスタオルで体を拭く。

 へばりついていた水滴達は簡単に剥がれる。

 制服に袖を通した私は床を蹴り、壁を蹴り、急いで更衣室へと向かった。

 無重力のほうが体のケアが楽な気がする……。施設が揃っていたらの話だけど。

 

 

 

 

 ノーマルスーツに着替えた私は、モビルスーツの倉庫へと立つ。

 そこには部下の人達と話している父さんの姿があった。

 ガンダムの修理はまだ終わっていないらしく、ビームサーベルが一本足りない。

 それどころかボディのヘコみもまだ直っていないみたいだ。

 

「父さん、ガンダムは?」

「おお、アムロ。……指示通りに頼むぞ」

「了解!アムロちゃん、がんばれよ」

「はい!」

 

 整備員の人は父さんに敬礼をし、私にも笑顔を見せた。

 名前も知らないのに私を慕ってくれるのは何だかむず痒い。

 ……整備員の人の名前も覚えとかないと。アニーさんしか知らないや。

 

「ガンダムだが、見てのとおりだ」

「やらかしちゃったまま……か」

 

 って事は、向こうにあるあの黒いガンダムに乗らないといけないか。

 

「あの黒いの使うの?」

「調整と軽い改修も済んでいる。性能はガンダムに劣らんよ」

「……黒いガンダムかぁ……」

 

 プロトタイプのガンダム……。父さんが壁のスイッチを操作するとコクピットが開いた。

 私は父さんの顔を見る。相変わらず自信に満ちた表情だ。メカが本当に好きなんだ、と感じる。

 

「父さん、武器は何を使えばいい?」

「ビームライフル……と言いたいが、プロトタイプのビームは若干ながらガンダムに劣る」

「そうなの?じゃあ、その分多く撃てたり」

「こればかりは現地改修は不可能だよ、15発以上の射撃は考えないほうがいい」

 

 残念。電化製品だって最初のやつが必ずしもいいとは言えないし、仕方ないか。

 となるとどうしよう、と周りを見渡す。

 ガンダム用のビームライフルを装備するのは多分無理だろう。出来るなら最初から父さんがやってる。

 

「あのバズーカ砲は?」

「射撃が得意なら勧めているが……うーむ……」

 

 父さんは口をすぼめ、私のシミュレーションのデータが表示された手持ちのパソコンを見る。

 射撃の命中率……確か60%ちょっとだっけ?相手がシャアだから仕方ないと思いたいけど……

 でもその相手はそのシャアだ。

 

「父さん、追加で乗っけることは出来る?」

「それは構わんよ、腰部にマウントは可能だ。機動力は落ちるがね」

「お願い。15発撃って一発も当たんなかったり、ただのザクだけで全部使い切ったら話にならないでしょ?」

「しかし……機動力が」

「その分盾でガードするから!お願い!」

 

 私は手を合わせ、ペコリと父さんに頭を下げる。

 すると父さんはぶつぶつとなにか意味がわからないことを呟き、整備員の作業室へと入った。

 

「アムロ!」

「はい!」

「お前はプロトに乗りなさい。ハイパーバズーカの準備は我々で行う!」

「分かった!父さんありがとう!」

 

 私は父さんに手を上げ、床を蹴ってガンダムの元へ向かう、黒いガンダム……。

 目の前にいるとすごい迫力だ。白いと何だか正義の味方感があるけど、黒いと敵ね。これ。

 ……と言ってもまだ白部分あるけど。白はガンダムのアイデンティティ的なやつかしら。

 

「よっと」

 

 改めてコクピットに座る。コクピットは不思議なことにガンダムと瓜二つだ。

 唯一違うところと言えばガンダムのアイドリング状態の時に表示されるモニターの表示が少し違う。

 RX-78-1、という文字がついたり消えたりしている。

 

「同じ……これ?」

 

 モニターのスイッチを押す。外からガンダムの目が光る音が聞こえた。独特な音だ。

 私はシートベルトを締め、ふぅ、と一息ついた。

 朝一番にガンダムのコクピットに座るのか……と考えると少しげんなりする。

 しかし、操縦桿の手触り、シートの座り心地、目の前に広がるコクピットの機械。

 どれを見ても、一番私に馴染んでいる気がするのもまた事実だ。

 

「ガンダム……」

 

 押して引くタイプの操縦桿、未だにどれがどのボタンかわからないごちゃごちゃしたボタン類。

 両足と背中のジェットを操作するスラストペダル……。これも私のモビルスーツ……。

 そう考えると嫌でも愛着が湧くものだ。

 

『バズーカ弾帯装填完了!』

『了解!アムロ!ハンガー横のウェポンラックに設置する。出撃時は腰にマウント!いいか!?』

「分かった!」

『武器を手に取って腰に回せばいい!後はコンピュータが自動でやってくれる!』

 

 なんつーアバウトな……まぁ、やってみれば何とかなるかな。

 ミスしたら父さんにレクチャーしてもらおう。

 

『敵だ!!』

「嘘……!」

『ガンダムプロト!発進急げ!BR-P!用意いいな!』

『CAPチャージ完了しています!サーベルチェック!何やってんの!』

『今やってます!……問題なし!オールオッケー!』

『プロトシールド装備完了!ウェポン班退避!推進剤チェック急げ!』

 

 静かだった倉庫が急に慌ただしくなり、警報の音がけたたましく響き渡る。

 ガンダムの左腕に裏側が黒い盾が装着される。これも専用の盾なんだろうか。

 ビームライフルの前のグリップがない。それに専用の黄色いやつもついていない。

 なるほど、だからプロトタイプか。当てるのは大変そうだけどやるしかない。

 

『アポジモーター問題なし、スラスターも大丈夫です!』

『メカニックマン、全員退避急げ!』

 

 私の周りでワチャワチャしている整備員の人たちが一斉にガンダムから離れる。

 改めてガンダムのモニター、そしてコクピットの計器を見る。

 計器のランプはすべて緑色、発進準備が完了している合図だ。

 

「プロトタイプガンダム、ハッチ閉めます!」

 

 ハッチ操作のタッチパネルを操作し、ガンダムのハッチを閉める。

 この動作も普通のガンダムと変わらない。ハッチを閉じるとすぐに前のモニターがついた。

 

「……ふぅ……」

 

 ガンダムの操縦桿を握り、ブライトさんからの指示を待つ。

 間もなくして倉庫の電気が消え、真っ暗になる。そして、目の前の扉。

 これもハッチというらしい。宇宙につながるハッチが開かれる。

 その瞬間、クリアに聞こえていた周囲の音声が一瞬消え、再び聞こえるようになった。

 

『アムロ、発進して後方のザクの足を止めろ!出来るな?』

「分かりました!」

 

 ブライトさんが私に通信で声を掛ける。

 ……簡単に言うが、例のやばいザク2機なら今度こそマズイかもしれない。

 少し不安だが、やってみなきゃわからない。

 

『大気圏突入寸前の戦闘になる。ブリーフィングの時間を設けられなかったのでこの場で行う』

「……は、はい」

 

 大気圏、って言うと地球に入る前のあれだ。

 つまりシャアは私達が地球に入る前に攻撃を仕掛けてきたって言うことか。

 なんともまぁ、凄まじいタイミングで来たものね。

 

『ホワイトベースは大気圏突入準備の状態だ、この場でのホワイトベースの被弾は避けなければならない』

 

 ブライトさんがそう言うと、ガンダムのモニターに簡易な図でホワイトベースが地球に入る様子が映される。

 この図によると、大気圏に突入するとホワイトベースは高熱にさらされるらしい。

 というより、だいたいのものが大気圏に入ると真っ赤な火の玉になる。だから宇宙から地球に帰るのは大変らしい。

 つまり、シャアは自分も火の玉になる可能性があるのに喧嘩売るのか。チャレンジャー……。

 

『このタイミングで攻撃を仕掛けてきた例は過去にない。ザクは3機。赤いザクはバズーカを装備している』

「……なるほど」

『アムロ、発進後は4分でホワイトベースに戻れ、ザクが残っていてもだ』

「4分で?ちょっと早すぎるような」

『流れ星になりたくなければ言うことを聞くんだ』

「う……了解……」

 

 そうだ、私も今からそのチャレンジャーになるんだ。下手したら私もシャアと一緒に赤い彗星に……。

 いや、それどころじゃない。シャアがトンズラして私だけ流星になるかも……。

 そうなったら笑い話じゃ済まされない。モビルスーツですら火の玉になるのに人間が大気圏に入ったら。

 想像したくないけど、可能性は大いにある。

 

「大丈夫かな……」

『君なら出来る、頑張ってほしい』

「……まぁ、がんばります」

 

 愚痴ってもしょうがない。

 

『アムロ、聞こえて?シャアの攻撃が始まるわ、カタパルトへ』

「わかりました!」

 

 私はガンダムを前進させ、壁にかけられているバズーカ砲を左手で持つ。

 言われた通りに腰に左手を回すと、自動的にガンダムが留め具にバズーカ砲を設置させた。

 それを確認してから、ガンダムの足をカタパルトに乗せる。

 

『無事に戻ってくるのよ』

「……」

 

 私は頷き、ガンダムの重心を下げる。黒い膝はあまり見慣れない。

 プロトタイプガンダムでも、操作感は変わらないけど……やっぱりガンダムとは違う。

 私はつばを飲み込み、いつものセリフを言う。

 

「アムロ、プロトタイプガンダム……行きます!!」

 

 操縦桿を引き、スラストペダルを一気に踏み込む。

 私は宇宙空間に放り出され、巨大な地球を見る。母なる星だ。

 母なる星への帰還を邪魔するあんちきしょうは私の後ろにいる。

 私は振り向き、中心の赤い色のモビルスーツを睨んだ。

 

「シャア……!」

 

 制限時間は4分……ウルトラマンの戦闘時間よりはマシな程度だ。

 早めにホワイトベースを助けないといけない。となると……。

 

「ウロウロ狙うよりは!!」

 

 ビームライフルを構え、照準器を使わずに発射させる。

 ビームの色が若干薄いが、それでも強力だと実感させられる音だ。

 しかも、普通のガンダムのビームライフルよりも連射できるみたいだ。

 15発しか撃てないけど。

 

「……オッケー、ホワイトベースから離れてくれた!」

 

 3機のザクはホワイトベースから離れるように散っていく。

 散る瞬間にシャアのザクはバズーカ砲を、普通のザク2機はマシンガンを私に撃った。

 私はそれを確認して盾を構える。

 

「っ……!」

 

 バズーカ砲の弾が盾で爆発したが、ガンダム自体に被害はない。

 この盾は普通のガンダムの盾と同じくらいの強度らしい。穴らしい穴も空いていないようだ。

 

「行ける、これなら……!」

 

 プロトタイプガンダムでもシャアと戦えるはず……!

 

 

 

 ★

 

 

 

『少佐!白い奴じゃありません!黒い奴です!!』

「何……!?」

 

 白い奴の攻撃を回避し、コムとクラウンが攻撃をかける。

 コムが白い奴に接近すると、慌てた様子で私に報告した。

 その報告を聞いて私はモノアイをズームさせ、奴の姿を確認する。

 

「……黒い奴」

 

 全身が黒で塗装された連邦軍のモビルスーツ。

 奴のビーム砲の形状も少し違う。そのうえ腰部にはバズーカ。

 新型ではないが、別種の機体であることは読み取れた。

 

「ええい……!厄介な!」

 

 私は舌打ちをし、黒い奴に接近する。未知のモビルスーツ相手に部下を接近させる訳にはいかない。

 黒い奴と目が合うも、気圧されているのか奴は攻撃を仕掛けてこない。

 乗っている人間は連邦の白い奴と同じということか。

 となると、白い奴が損傷した際の予備機ということになる。別種ではあるが基本は変わらないようだ。

 

「コム!クラウン!貴様らは木馬を狙え!」

『はっ!』

『了解しました!』

「黒いやつは私に任せろ!」

 

 同型機といえど、黒いやつがザクに比べて圧倒的な性能を持つことには変わりがない。

 新兵同然とはいえ、私が鍛えたジーンですら、手も足も出なかった存在。

 更にエースパイロットを2人をけしかけても撃破できなかったのだ。

 コムとクラウンが悪あがき程度に攻撃を仕掛けても無駄死にさせるだけ、

 

 そのために私は5発程度しか撃てないバズーカを背負ったのだ。

 木馬を撃ち漏らしても構わん、奴さえ始末できればいい。

 

「落ちろ」

 

 バズーカを構え、怯んでいる黒い奴にバズーカを叩き込む。

 素人ならば確実に直撃するコースだ。しかし奴は避けた。

 エースとの戦いで腕を上げたというのか。

 

【シャア!!】

「ちぃ!」

 

 ビーム砲の威力は落ちているが、そのかわりに連射速度が上がっている。

 その上、威力が減衰していると言えども食らうと致命傷であることには変わりがない。

 奴の射撃が素人同然である事が幸いした。用意に避けることが出来る。

 

『クラウン、どうだ!』

『弾幕が激しい!接近できん!』

 

 部下たちは木馬の攻撃に苦戦しているようだ。それもそのはずだ。

 あの船は一見隙だらけの新造艦に見えるが、その実はマゼラン級やサラミス級をも凌ぐ対空砲を備えている。

 白に塗装された視覚効果に騙されがちだが奴の対空砲はまさにハリネズミという表現では足りん程だ。

 更にそれらの大半はプログラム通りに射撃する無人機銃ではなく、有人の機銃だ。

 有人機銃回避の訓練を積んでいないコムとクラウンでは荷が重いことは承知している。

 

「もっと接近しろ!」

『はっ……しかし弾幕が厚く……』

「これが厚いものか!相手をよく見て下から攻めろ!」

『りょ、了解!』

 

 しかしそんな甘い事を言っていられる状況ではない。木馬を北米に叩き落とすにはまだ攻撃が足りない。

 ファルメルからの援護射撃が終了し、最早木馬の進路を変えるには彼ら2人が協力し、攻撃をしなければならない。

 黒い奴が出てこなければ私も木馬への攻撃に加わることが出来たが、予想外の事態は起こるものだ。

 

「黒い奴め……!」

【来る!】

 

 私は奴との決着を早めなければならない。

 リミッターを解除したS型の加速力を利用し、やつにショルダータックルを仕掛ける。

 ザクⅠからこの攻撃は有効な攻撃として重宝されていた。

 

「っ」

【つぅ……!】

 

 しかし奴のシールドはその加速と重量すらも凌ぐ。

 攻撃を受けた奴のシールドはスパイクアーマーの跡を付け、モビルスーツを吹き飛ばす。

 一瞬シールドが防御形態を解除したことにより、黒いやつのコクピット部分が顔を覗かせる。

 私はそれを狙い、バズーカの照準を合わせた。

 

「甘い!」

【警報!う……!こんの!!!】

 

 発射されたバズーカの無誘導弾頭は迷うこと無く黒い奴のコクピットめがけて飛んでいく。

 黒い奴はデュアルアイを発光させたかと思うと首を動かし、バズーカの弾頭めがけて頭部バルカンを発射させる。

 迂闊だった。奴の武装の一つを失念してた。奴のバルカンはFSに搭載されているものの用途と同じものだ。

 

 連邦軍のFCSは飛翔する弾頭すら撃ち落とせるというのか。

 

「ちぃ!連邦軍のモビルスーツはバケモノか……!」

【と、止まって!!……シャア!捕まえた!!】

 

 黒い奴はスラスターで制動し、片手でビーム砲を連射する。

 6発もの連続射撃、素人ながら私の動きを読みながら撃ってきている。

 

【何で当たんないの……!!】

「宝の持ち腐れだな」

【……シャア……はっ……ホワイトベース!!】

「悪いが、落とさせてもらう」

 

 私は再度バズーカを構える。直撃せずともこの高度ならば制御不能になるはずだ。

 

【え……!?分かった!やってみる!】

 

 黒い奴は突然左手を用いてビーム砲の外装を剥がす。

 そしてそのままビーム砲に手を突っ込み、デュアルアイを発光させる。

 ビーム砲の銃口が先程までのビーム弾とは全く違う光を発して私を狙う。

 よく見ると、奴の右腕は何回もビーム砲の引き金を引き続けているようだ。

 

「ちぃ!」

 

 奴め、まさかビーム弾をストックしているというのか。

 

【ライフルが……爆発する!もう無理!!】

 

 黒い奴が左腕を引き抜き、私の予想していた通り強烈な発射音と共にビーム弾が発射される。

 とっさに上昇した私は難を逃れることに成功した。いや、この照準、私が照準ではない。

 振り向くと凄まじい収束率のビーム弾は先程までのメガ粒子の拡散距離を遥かに超えて直上、木馬付近まで飛ぶ。

 

「何!」

『光……!シャ……!』

 

 光弾はそのままコムのコクピットを打ち抜き、宇宙空間の遙か彼方に飛んで行く。

 しばらく飛ばされたザクは体を丸めスパークし、弾けた。

 

『コム!貴様!よくも!!』

「よせ!クラウン!」

『止めないで下さい!!』

 

 クラウンのザクが木馬から離れ、黒い奴へと向かう。

 私は止めるが、クラウンは聞かない。私の足元がだんだん赤く染まり、機体温度が上昇する。

 黒い奴はまだ戦闘を続けるつもりだ。銃身が溶けて消えたライフルを捨て、腰のバズーカを手にし、

 クラウンに向けて撃ち続けている。

 

【時間が……でも!】

『少佐!もう時間がありません!カプセルへ!!』

「ドレン!了解した!クラウン構わん!カプセルへ戻れ!」

『~~~…………!…………!!』

「ちぃ!通信障害か!クラウン、何処まで引き込まれた……」

 

 私はモノアイをズームさせ、黒い奴とクラウンの位置を確認する。最早回収不可能な位置まで潜り込んでいる。しかしクラウンはまだ戦闘を続け、黒い奴もそれに応えている。このまま大気圏に突入したとなると黒いやつは大気の熱で燃え尽きる……しかしクラウンも。

 

「クラウン……」

 

 私はコムサイのハッチへ向かう。木馬の進入コースは北米へと変わっている。

 任務を完了させたクラウンに敬礼し、コムサイのブリッジへと向かった。 

 

 

 

 ★

 

 

 

「はぁっ!はぁっ……!!っくぅ!!っ!!!」

 

 い、いつの間にこんなに周りが赤くなっているの!?

 ザクはもう武器が燃え尽きてあんなに深いところまで体を丸めて地球に突っ込んでいる。

 ガンダムの警報が鳴り止まない。左のモニターの温度計みたいな数値がどんどん上がっている。

 

「ホワイトベース!!……上!?……下は……」

 

 真っ赤に染まる地球が前のモニターに大きく映し出されている。ガンダムの速度もどんどん上がる。

 心臓の鼓動が更に高まり、汗が玉のように「滴り落ちている」体の締め付けも更にきつくなる。

 

「い、嫌だ……こんなので死ぬなんて嫌……どうにか、どうにか出来ないの!?」

 

 手が震えて操縦桿が握れない。しかし歯を食いしばって操縦桿を握り、盾をガンダムの前に出す

 申し訳程度の熱防御だ。しかしそれは確実にガンダムの温度を下げる。操縦桿から出る煙が少し軽減された。

 しかし速度の上昇が止まらない。私の焦りは増すばかりだ。

 

「はっ……は……はぁ……はぁ……!」

 

 落ち着け……落ち着かないと冗談抜きでここで焼け死ぬことになる。

 ガンダムのコクピットが壊れて私が宇宙に投げ出されても死の運命しかない。

 再びガンダムの警報音が響き渡る。熱警報みたいだ。温度の数値が赤く染まっている。

 

「も、もう駄目なの……?」

 

 手の震えが止まらない。思わず私は私の肩を抱き、死の恐怖に本格的に怯え始める。

 身に覚えのない色々な映像が頭の中でついたり消えたりし始めている。

 母さん?これはアムロの母さん?……優しそうな顔をしている美人のお母さんだ。

 幼い女の子のアムロが、若い父さんと母さんと一緒に遊んでいる。ここはコロニーじゃない。地球だ。

 

「……嫌……私の記憶が……ない……こんな死に方……!!」

 

 足の力が抜ける。ガタガタと震えるコクピットの中で涙を流す。

 歯を食いしばり、バイザーを上げて涙が勝手に流れる目を手でぎゅっと押さえる。

 目を閉じ、心音だけを聞いて、死を迎え入れる準備をする。

 

 私は結局誰だったのか、死ぬ前に知りたかった。

 

 

「―っ」

 

 

 その時、暗く、閉じた瞳の中で白い稲妻が見えた。

 ……大気圏突破の方法……!?ガンダムにそれがある……。

 一体これは何……?

 

「姿勢制御……冷却シフト……」

 

 震える指をぐっと押さえ、コクピット右下のパネルを操作する。 

 コクピットそのものも高温になっていて、普段なら触ることすらしないが、

 最早言っている場合ではない。死ぬ直前の天啓だ。これが無理なら天国で天啓をくれた神様を締め上げてやる。

 

「耐熱フィールドを全回路に……シールドがもう持たないから代わりに耐熱フィルムも……」

 

 パチッパチと火花を散らすコクピットのパネルを操作する。

 普段なら「何これ?」って言いながらスルーする操作だけど、何故か今は出来る。

 そうだ、初めてガンダムに乗った時もそうだ。人間本気になればなんだって出来るって!

 

「……っ!」

 

 操縦桿を握りしめ、ガンダムの股間から出てきたフィルムを手で握り、

 ガンダムの手を操作して上手く被る。

 それを被った瞬間、今度はガンダムの股間の同じ位置から凄まじい勢いで冷風が出る。

 それは大気圏の熱で真っ赤になったガンダムを逆に真っ青にするくらい強烈な冷風だ。

 

「はぁっ……はぁ……!」

 

 モニター右の温度が急激に、しかし操作に影響がない速度で下がっていく。

 フィルムの効果なのか、速度も若干落ち始めた。あんなに遠かった地球がどんどんと近くなる。

 大丈夫……きっと大丈夫。

 

「……ガンダムは頑丈……ガンダムは壊れない……!」

 

 もう、あとはガンダムに任せるしかない。

 やれることはやった。生きるか死ぬかは自然の慈悲と父さんのモビルスーツが決める……。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 揺れが止まり、真っ青だったコクピットを緑が優しく照らし始める。

 薄目を開けていたけど、私がそれに気付くのには少しだけ時間がかかった。

 そしてそれに気付いた時、私の意識はもう限界を迎えそうになっていた。

 

「……」

 

 目をしっかりと開き、霞んでいた目を瞬きし、元に戻す。

 そこに映ったのはキラキラと光る海、そして緑色の陸地……。太陽。

 ……ここは、地球だ。

 

「……私……生きてる」

 

 体がずっしりと重たい。焦りから開放された安堵、そして想像できない疲れ。

 そして、この、懐かしくもある感じ……。

 重力だ。コロニーと違う、何もかもが自然と下に働く力。

 

「うぅ……重力……う……!!」

 

 体を引き起こす。そして、ガンダムの姿勢を制御する。

 水平に、なんとかしてこの速度を落とさないといけない。

 摩擦熱がなくなったとしてもこのまま地面に叩きつけられたら私は死ぬんだ。

 

 パラシュートで飛び降りた人は確か、大の字にすることで速度を落とせたはず。

 ……やっぱりだ。速度が一気に落ちた。

 その時、私の目の前をホワイトベースが通り過ぎていく。ブリッジでは皆が私を見ていた。

 

「……ホワイトベース……!ホワイトベース!お願い……誰か……!」

『無線回復、アムロ……アムロ!!すぐに医療班を手配するわ!後部甲板から着艦して!!』

 

 セイラさんの顔がモニターに映る。セイラさんは私の顔を見るや否や血相を変えて叫んだ。

 そうだ、セイラさんはお医者さんのタダ働きさんだ。私の様子を見てやばいと判断したんだろう。

 さすがだ。

 

「後部甲板、あれ?っつぅ……!」

 

 両肩と腹部に鈍い痛みを感じた。見るとノーマルスーツから血が滲んでいる。

 よく見るとコクピットはさっき受けた熱によるスパークであちこちが欠けていた。

 そしてその破片はあちこちに突き刺さり、その一部は私の肩に突き刺さっていた。そこから血が出ている。

 そりゃあ、セイラさんも血相変えるよ……私だって他の人がこんな事になってたらびっくりするもん。

 

「……ぅう!」

 

 気付かなかったらもう少し痛みが和らいでいたかもしれないが、気付いてしまったものはしょうがない。

 ゆらゆらと揺れる視界を気合で直し、ガンダムの姿勢を制御してホワイトベースの後ろの甲板に着地する。

 ガンダムがグラグラと揺れ、自然と膝立ちになる。膝立ちになると姿勢が下がり、ベルトが肩に締め付けられる。

 

「っぐ!?」

 

 激痛が走った。思わずベルトを外し、その体をコクピットのモニターに叩きつける。

 そこから先のことはあまり覚えていない。膝立ちのままガンダムはホワイトベースの中に格納されて、

 外からの操作でハッチを開けて、私がなにか柔らかいものに落下したところまでは覚えている。

 

『アムロ!!アムロ!!!』

『アムロ!しっかりするんだ!!』 

 

 フラウの泣き声と、父さんの今まで聞いたことのない叫び声が頭の中で反響する。

 何か私は台車のような、あの救急車用のベッドみたいなので運ばれているのが分かる。

 ……そう言えば私、朝から何も食べてないや。起きたらステーキ食べたいな。もしくはしめ鯖。

 

 しめ鯖が好きだったんだよね。私。少し思い出せた。




今回のアムロの行動の結果

・シャア、3機で奇襲
・プロトタイプガンダム出撃
・プロトタイプガンダム、大気圏突破成功
・アムロ・レイ負傷

以上の結果となりました。


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ガルマ再会す

「ガルマ大佐です」

『やあ、赤い彗星』

「その名前は返上しなくてはならんようだ、ガルマ・ザビ大佐」

『ほう?珍しく弱気だな』

 

 通信が合流予定地点を飛行するガウ攻撃空母に繋がった。

 通信モニターに映る人物は、北アメリカ方面軍西部地区司令「ガルマ・ザビ」大佐。

 ザビ家の末弟。シャア少佐の友人らしいが……。

 何にせよ中尉階級である俺には無縁の存在だ

 

「連邦軍の新型モビルスーツ開発計画、知っているか?」

『V作戦か。ドズル兄さん……兄上から聞いた事がある』

「それならば話が早い。その正体を突き止めたのだ」

『何だと?』

 

 貫禄のない言葉遣い。噂に違わぬ甘ちゃん。いや、兄弟思いと言うべきか。

 ジャブローより近く前線から離れた北アメリカの司令官にはお似合いと言える性格だ。

 実際に地球から届くガルマ大佐の名声は、武勇ではなく人徳による名声が大きい。

 シャア少佐はそれを承知の上で友人に手柄を立てようとしたのだろうか。

 

「ファルメルのザクは私のザクを除いて壊滅。エースを借り出しても撃破に至らなかったよ」

『君でもか……データを受信した。確認しよう』

 

 ガルマ大佐はモニターから目を離し、図面に目を向ける。

 大佐は前髪を弄る癖がある。公の場では控えるが部下の前では止めないようだ。

 図面を見た大佐は再びモニターを見て大佐に話しかける。

 

『にわかに信じがたいが、映像を見る限り事実のようだ。凄いものだな』

「ああ、更に白い奴の試作機は2機以上搭載されているようだ」

『ふむ……ドップの編隊では不足と思うか?』

「君の判断に任せるよ」

『分かった。念の為格納庫のザクの整備も行わせよう』

 

 シャア少佐は仮面越しに微笑む。それに合わせてガルマ大佐も笑う。

 友人であることに偽りはないらしい。

 

「よろしく頼む。数十分後にそちらに向かうよ」

『ああ。地球へようこそ。赤い彗星』

「まるで宇宙人のように言うのだな」

『ハハハ、スペースノイドだろう?我々は』

「違いないな。ではまた」

 

 ガルマ大佐との通信が切れる。

 少佐は一瞬鼻で笑い、俺に視線を向ける。

 

「木馬はどうか」

「はっ、奴は大気圏を突破。黒い奴を回収したようです」

「……連邦軍のモビルスーツは単機で大気圏を突破したか」

 

 サブモニターに黒い奴が木馬の後部甲板に降り、膝をつく画像が映し出される。

 最大望遠で画質が悪いが、モビルスーツは五体満足であることが分かる。

 

「監視は続けろ、大佐殿が見失わぬようにな」

「はっ!」

 

 シャア少佐とガルマ大佐。たしかに友人ではあるが何かがおかしい。

 ……そう考えるもすぐにそれが馬鹿馬鹿しいと感じ、俺は木馬の航跡を追う。

 所詮はシャア少佐の艦長代理。俺が心配すべきは少佐ではなくファルメルだ。

 慕うべき相手ではあるが、干渉するべき相手ではない。

 

「木馬は高度を落とし、巡航速度を維持しております」

「監視を続けろ、木馬から偵察機が出るかもしれん。警戒を怠るな」

「はっ」

 

 

 

 ★

 

 

 

 心電図の音が頭の中で反響する。薬の匂いが私の鼻を刺激する。

 目を開けるも、目が霞んでよく見えない。息を吸うとやけに新鮮な空気が肺を潤した。

 その新鮮な空気を吐くと、吐いた息が跳ね返り、口の周りが生ぬるくなる。

 

「……あ……れ……?」

 

 目の霞が晴れ、眼の前に白い天井が映し出される。横を見ると、透明なパックに赤い液体。

 そして透明な液体、液体達は管を通して私の腕に向かう。

 点滴と……輸血?

 

「……」

「アムロさん?……良かった、目が覚めたんだね」

「……」

 

 青い服に白衣に袖を通し、眼鏡をかけた男の人が私の顔を覗く。

 ……誰だろう。見たことのない人だ。

 

「……?」

「サンマロ。ホワイトベースの医療班長です。はじめましてかな?」

「サンマロ、さん」

 

 サンマロ、という男の人が微笑み、タブレットを操作する。

 そうだ、私はアムロで……いやこれはもう確定事項だ。まだ私は生きている。

 ふと輸血パックを見て、そして私の肩を見る。病院服越しにきつく巻かれた包帯を感じた。

 

「安心してくれ。五体満足だよ。コンソール片の摘出も完了している」

「……」

 

 サンマロさんはポケットからパッケージを取り出し、血がついた破片を私に見せる。

 五体満足。人間として当然だけどここは軍隊だ。今度はどうなるか……。

 

「ありがとうございます……あの……今は?」

「シャアにしてやられたらしい。今は北部アメリカ大陸。ジオンの勢力下だよ」

「……アメリカ?」

 

 アメリカという言葉に聞き覚えはある。……あのアメリカに落とされたのか。

 そもそもジャブローが何処か分からなかったけど、そこから離れた所であるのは間違いないらしい。

 私は少しため息をつく。

 

「そういえば、ガンダムは?」

「急ピッチで修理が進んでいるよ。君のお父上は少し元気が無かったけどね」

「そうですか……父さん……」

 

 父さんのガンダムを2機も駄目にしてしまった。私の操縦が下手だったからだ。

 ガンダムの主人公なのにガンダムを壊してしまうなんて……そして父さんに苦労をかけてしまうなんて。

 私はアムロ失格なのかもしれない。

 

「……お、噂をすれば……。じゃあ僕は失礼するよ、何かあったら呼んでくれ」

「はい。ありがとうございますサンマロさん」

 

「サンマロ君!アムロの手術が完了したっていうのは本当か!?」

「え、えぇ。そちらに」

「アムロ!!」

 

 父さんのバタバタした足音が聞こえたと思ったら突然サンマロさんに掴みかかり、すごい剣幕で怒鳴りつける。

 そしてサンマロさんが私を指差すと、今度は私のベッドに駆け寄り、いきなり私を抱き寄せる。

 

「アムロ!!無事だったか!そうか……!私達のアムロよ……!」

「え、えぇ?と、父さん……」

「私のガンダムでアムロが……すまなかった!すまなかった……!!」

 

 父さんは私を抱き寄せたまま、おいおいと泣き始める。

 抱き寄せる手は私の怪我した肩にをぎゅうっと締め付ける。

 

「いたたた!?ちょっと父さん!離れて離れて!」

「お……ああ!……すまん……」

「もう……大丈夫だから私は。父さん、私もごめん……ガンダムを」

「違う!オートマチック突入プログラムを実装しなかった私のせいだ!!」

 

 自動で大気圏を突破する機能ってこと?たしかにそれがあれば私は無事だったんだろうけど……

 でも今回のこれは私がザクをさっさと倒してホワイトベースに戻ればよかっただけの話だ。

 決して父さんのガンダムが駄目だったわけではない。それは言える。

 

「ごめんなさい……」

「……もう謝るんじゃない。お前が生きて帰ってきてくれた。それだけで戦果だ」

「……そう?……ありがと。父さん」

「しおらしいお前を見るのは久しぶりだ。しばらく休んでいなさい」

 

 そう言って父さんは私の頭に手を置く。大きくてゴツゴツした手だ。 

 いろいろな機械を触り、沢山の人をまとめる手。

 私の手とはぜんぜん違う。細くて小さい私の手と父さんの手。

 ……同じ親子でも、背負うものが違うんだと感じる。

 

「アムロ」

「……?」

「よく頑張ったな」

「……!」

 

 父さんは私をの目を見て、はっきりとそう伝えた。

 その時私の心の奥の何かが刺激される。

 心臓の奥から何かがこみ上げ、溢れ出す。

 

「父さん……。……?」

 

 何も意識していないのに涙が零れ落ちる。

 私は困惑した。この涙は私が流しているわけではない。

 父さんの優しい目を見た瞬間、私の目から溢れ出したのだ。

 思わず拭うも、涙が止まらない。

 

「怖かったな……辛かったな……!」

 

 父親の言葉を受けた私は、アムロの本能に従う。

 アムロが物心ついてから初めて感じる父親の真っ直ぐな愛情。

 それを感じたアムロの本能は、父親に泣きつくという選択をした。

 

「父さん……!父さん!」

 

 父さんに抱きついた(アムロ)は、声を震わせて泣いた。

 今まで恐怖で涙を流すことはあったものの、こうして泣いたことはなかった。

 

 私は実感した。アムロ・レイは父親を父親と思っていなかった。

 

 自分にすら仕事内容を隠し、軍属であることを隠している父を軽蔑していた。

 身勝手な理由で家を飛び出し、故郷の母をひとりぼっちにした父を憎んでいた。

 でも今私の目の前にある父の目は、一人の人間の親の目だ。親が子にかける言葉だ。

 いつものガンダム一筋で避難民すら蔑ろにする父親の顔とは違う。

 

「父さんは……私を……!」

「ああ、愛しているさ。子供を愛さない親がいるものか」

「……ありがとう……」

「全く、いつまでも子供だな。お前は……」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「父さん、私が寝込んでる間……ガンダムは……」

「あ、あぁ。急ピッチで修理が進んでいる」

「そう……」

「今は休みなさい。有事の際はガンキャノンとガンタンクに任せる」

「……うん」

 

 しばらく休もうと思ったけど、そうは行かないらしい。

 敵がすぐ側に来ているのに私は何も出来ないなんて。

 

「……すぐ良くなるから」

「……」

 

 父さんは頷いた。

 

 

 

 ★

 

 

 

「フラウ……本当にできるのかい?」

「出来るわ。アムロが駄目なら私が!」

「フラウ・ボゥ!何やってんだよ!」

「カイさん!フラウがガンダムに乗るって……!」

 

 全く、アムロが居ないからって何だってんだ。

 アッチもコッチもてんやわんやだ。整備班の連中は皆ガンダムを修理して補給もおぼつかない。

 整備班は正規兵揃いだけどだからこそ手が足りないんだ。

 こんな事になるんなら避難民の何人かを乗組員として育てときゃよかったんだ。

 

「手引書を持ってるの。私だって見てるだけは嫌なのよ!」

「分かってるよ!でもお前じゃ無理だ!」

「やってもないのにそんなの分からない!」

 

 フラウ・ボゥ生活指導員さんはこういう時になると何を言っても聞きやしない。

 現にこの女、今ホワイトベースのシミュレーターを勝手に動かしてモビルスーツ操縦を擬似的に行っている。

 だがコイツの腕は俺達より劣る。ガンダムのマニュアルを片手にアワアワと動かしてる状態だ。

 

「姿勢制御……。眼前MS-06が2機!回避運動を行った後射撃!」

「フラウ、口で言う前に撃たないと!」

「え!?きゃあっ!」

「~~~ッ!だから言ったろ!堅物のお前じゃ出来ないんだっての!」

 

 フラウは医療と調理員、雑務。それにカツ、レツ、キッカの世話で手一杯だ。

 その上こいつにガンダムを任せるとなるとそもそもオーバーワーク。更にこの適性の低さだ。

 フラウ自身も持たないし、ガンダムをいたずらに破損させる訳にはいかない。

 

「だったら!アムロが居ない間に敵が来たらどうするのよ!」

「そのために俺達がいるんだ!フラウにはフラウの戦いがあるだろうが!」

「そ、そうだよフラウ・ボゥ。君だって何もしてないわけじゃないんだ!」

 

 そもそも今のホワイトベースは明らかに人手が不足している。

 避難民上がりの俺達はモビルスーツのパイロット兼ホワイトベースの機銃手。

 ガンダムやガンキャノンを整備しているメカニックマンも戦闘中は機銃手をやる。

 料理長や医療班まで手空きの場合は機銃を操作している様な状態だ。

 アムロの親父だって戦闘中は被弾箇所の応急修理や機関士の役を担っている。

 そんな状態でアムロが寝込んでいるんだ。一番アムロと親しいフラウが焦るのも無理はねえ。

 

大体ルナツーでサイド7で死んだ人員の補充をやらなかったのが悪いんだよ。

これじゃあ敵にやられる前に過労死しちまうよ。

 

「フラウ、俺達を信じろよ。俺達のパンツの洗濯だってまだだろ?」

「……っ」

「今焦ってもガンダム動かせんのはあいつしかいねぇんだ。それくらいわかれよ」

 

 怒鳴りつけてやりたい気持ちを抑え、俺は俯くフラウの腕を握って立たせる。

 フラウはアムロが大気圏に突っ込んだ時、ずっとブリッジでアムロを見ていた。

 あの様を見て、フラウは自分にも出来ることはないかって考えたんだろう。

 だけど感情でガンダムに乗ることを許して、それで犬死されちゃたまらねぇよ。

 

「私だって、ホワイトベースの乗組員なのよ!」

「……フラウ・ボゥ」

「ハヤト君だって機銃でザクをやっつけてる。カイさんだってそうでしょ!?」

「……」

「私だけが何も出来ないなんて、そんなの嫌よ!」

「フラウ!」

 

 少し目を瞑り、フラウの目を見る、突き刺さるような眼差しだ。

 今までこんな眼差しは見たことがない。俺も喧嘩する時は相手に睨まれるが、

 こんな眼差しで見られたのは初めてだ。しかし俺もフラウの目を見つめ、

 フラウの腕を思い切り握りしめる。

 

「うっ……」

「悔しいけどよ、俺らだって男なんだよ」

「か、カイさんちょっと」

「うっせぇ!!」

 

 睨んでいるフラウを壁に押し付ける。

 静かな艦の中でフラウが壁に叩きつけられる音が響いた。

 自然とフラウと俺の距離が縮まり、フラウの息遣いが耳に届く。

 

「女は女らしく、今辛い奴のとこに居てやれ」

「でも」

「これ以上言わせるなよ。乱暴なことはしたくねぇ」

 

 腕を握る力をさらに強め、フラウを思い切り睨みつける。

 するとフラウは一瞬怯えた顔をしたが、すぐに元の顔に戻り俺の手を振り払う。

 

「……間違ってることくらい分かってるわよ……でも……!でもどうすればいいのよ!」

「簡単な事さ、出来ることを精一杯やるんだよ」

「そんな事……!」

「出来るもんは出来る、出来ないことは出来ない。当然だろ?理屈なんだよこういう時こそ」

「……」

「やれることを見誤るなよ、らしくねぇぞフラウ・ボゥ。ハヤト行くぞ」

 

 俺はフラウに手を振り、ハンガーへと歩く。

 しばらくしてハヤトがタッタッタ、とワンテンポ遅れて俺の横に立った。

 フラウは……多分もうガンダムに乗るなんて考えねえだろう。

 ザクを倒す前のアムロじゃないんだ。逆上してトチ狂ったことするようなやつじゃない。

 

「……カイさん、フラウは」

「言うなよハヤト。俺だって正気でこんな船に乗ってるわけじゃねぇんだ」

「……」

「あんな事言っときながら俺らだって女に命運預けてたんだからよ」

「そうですね……今度は僕たちが」

「当然だハヤト、アムロが起きても俺たちゃ戦うぜ。いいな?」

「は、はい!」

 

 俺はハンガーに出て、ガンキャノンが駐機されているところへ向かう。

 新品同然の赤いガンキャノン。何の番号もマーキングもされていないが、いつもシミュレーターで乗っている方のコクピットへ座る。

 ハヤトは近くのアニーとかいう整備の姉ちゃんに頼み、シミュレーターを起動してもらっている。

 しばらくしてハヤトもコクピットに入り、ハッチが閉まった。

 

「……用意いいかい?」

『ええ。古いデータですけど、地上専用のザクも居るらしいです』

「サンキュー。じゃあやるぜ」

『了解』

 

 シミュレーターが起動する。俺とハヤトは少しでもアムロに近づくために、

 いつ敵が仕掛けてくるかわからない中、シミュレーションを開始した。

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「ようシャア、随分木馬に手こずっているようだな」

「会うや否やご挨拶だなガルマ。いや、ザビ大佐」

「むず痒い呼び方はよしてくれ、ガルマでいい」

 

 北アメリカ西部方面軍司令官、ガルマ・ザビ大佐。

 仇敵ザビ家の末弟……。そして私の唯一の友人。 

 彼はガウ攻撃空母で私のカプセルを回収し、私をブリッジまで呼び寄せた。

 サブモニターで私と例の白い奴との戦闘記録を眺めている。

 

「最大望遠、木馬を確認しました」

「……あれが木馬か?随分と目立つ色をしているのだな」

「そう、バケモノの(ねぐら)と言える」

「赤い彗星でも沈められない船か。あの船がね……」

 

 ガルマは相変わらず前髪を弄り、私に悪意のない笑顔を見せる。

 私はふと、ブリッジにある艦長席を見る。今時珍しい紙媒体に白い奴の性能諸元が記入されていた。

 この男の分析能力には目を見張る物があると前から思っていたが、更にそれに磨きがかかっているようだ。

 

 私が数日かけて算出したデータよりも正確なものをこの数十分で見抜いたらしい。

 ざっと見ただけだが目を通すだけでもこれが正しいものだと予測できた。

 

「奴の性能はすでに把握しているようだな」

「まだ予測でしか無いよ。次の戦闘で答え合わせだ」

「撃破はまだ考えないのかい?」

 

 私はガルマを挑発する。するとガルマはにやりと笑った。

 

「疲れ果てた獲物を狩るのもまた一興かな?」

「ジオン十字勲章が目の前にあるのだ、躊躇することはあるまい」

「窮鼠に噛まれる様を見せたくは無いが、良いだろう、更に消耗させるのも悪手ではない」

 

 そう言うとガルマはメインパネルを操作し、警報を鳴らした。

 ガルマは慣れた様子で艦内に指示を出す。

 

「出撃するぞ各員!ゲビル、ハンブルは発進準備!第15戦車大隊、第118戦術航空隊へ伝達!グレートキャニオン経由で現地点に集結!敵データを送信しろ!発見次第攻撃を開始しろと伝えろ!」

「はっ!」

 

ガルマのお手並みを拝見させて頂こう。見せかけの優しさを振りまく無能か、

それとも爪を隠した能ある鷹か。

 

「見ていてくれシャア。君の無念は私が晴らす」

「やってみてくれ」

 

出来るものならな。




今回のアムロの行動の結果

・アムロ目覚める
・ホワイトベース、人手不足に悩む
・ガルマはほとんど原作通り

以上の結果となりました。


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ガルマ出撃す

『防衛網M-4、通信解読β4』

「β4了解」

 

 ジャブローからの暗号通信が来た。暗号通信の解読内容がサブモニターに表示される。 

 それをセイラさんは紙媒体にコピーする。

 

「ブライト」

「ああ」

 

 俺はそれを手に取り、暗号通信の内容を読む。せめて補給……。

 欲を言えば援軍が来ることを望むが……。

 

「ホワイトベースは敵の戦線を突破し、太平洋へ脱出せよ……」

 

 通信内容は以上だ。俺達は援軍どころか補給すら受けられない。

 更に、距離が近いとは言え太平洋、地球最大の海に出ろと言うのだ。

 そこに出てどうしろというか。海中にホワイトベースを放棄しろとでも言うつもりか。

 

「通信は以上よ」

「何だって言うんだ。上の連中はどうなっている!」

「命令違反をしてジャブローに強行する?」

「どうせ入れてくれんよ!」

 

 暗号通信が記載された紙を握り潰し、俺は一見綺麗に見える地球を望む。

 しかし、この地球はジオンの色に染まりきっているのだ。

 そして今、ジャブローからの非道な通信のせいで、完全にホワイトベースは居場所を失った。

 

「弾薬も武器も豊富にあるわけじゃないというのに」

「特に弾薬は底を尽きかけているわね……」

 

 先の大気圏突入時にかなりの弾を使用してしまった。モビルスーツの弾薬にはまだ余裕がある。

 しかしガンダムが使えない今、1回のみの実戦しか行えていない子供達には荷が重い。

 だからといってこの先アムロのガンダム1機のみで切り抜けるのも不可能だ。

 

「……また、避難民上がりの子供達に頼るしか無いか」

「ブライト」

「分かっているよ。言っている場合ではないって」

「……」

 

 軍属ではない子供を頼らざるを得ない状況だということは分かっている。

 しかしホワイトベースの被害も深刻だ。そのうえ弾薬も無いとなると……。 

 どこかで補給を受けなければどちらにせよ俺達は瓦礫に埋まるか海の藻屑だ。

 

「ブライト」

「何か、ミライ」

「衛星軌道に再上昇するのはどう?どちらにせよこのままでは袋叩きだわ」

「これほど目立つ艦が大気圏に突入したんだ、ジオンの宇宙での動きも活発になってしまっている。今衛星軌道を抜けてもルナツーへの道中でメガ粒子砲の集中砲火を受けるよ」

 

 眼前にはジオンの包囲部隊。上では予想しか出来ないがムサイとザクの大部隊だ。

 逃げることは最早不可能……ジャブローからの指示に従うしか無い。

 

「なら、どうする?」

「どうするもこうするもない。前進だ。指示通り太平洋方面へ抜ける!」

「敵機です!最大望遠で大型機!ガウ攻撃空母と思われます!」

 

 マーカーが敵機を補足した。望遠カメラの映像がメインモニターに映し出される。

 大型の航空機、その周囲を飛ぶ小型機。間違いない。ガウとドップだ。

 これで衛星軌道に脱出する選択肢が失われた。

 

「ミノフスキー粒子濃度は!」

「戦闘濃度基準値よりプラス40!レーダー、広域通信使用不能!更に上昇しています!」

「援軍は呼べないか。分かってはいたが……」

 

 既にホワイトベースのレーダーは使用できない。

 オスカとマーカーはすぐに熱源探知モードに切り替え、ガウの動きを追う。

 ガウとの距離は非常に離れている。こちらから仕掛けるには射程が足りない。

 望遠カメラ越しに見えるほどの距離では前部主砲も届かない。

 

「察知された!戦闘機、こちらに接近して来ます!」

「総員戦闘配置!!全砲門開け!ガンキャノン、ガンタンク全機出撃用意!!」

『ブライト少尉!ガンタンクは1機しか出せません!』

 

 通信モニターが格納庫の整備員を映す。

 

「何だと!」

『120砲の残弾が1機分しか無いんですよ!』

「弾薬か……!」

 

 サイド7で模擬弾を破棄して実弾のみを積み込んだのが悪かったようだ。

 最大積載の艦を少しでも軽量化するがために行った苦肉の策がここに来て響くか。

 模擬弾であってもドップ程度なら撃ち落とせたというのに。

 

「分かった。ガンタンクは1機のみでいい!急がせろ!」

『了解!』

「使えん木偶の坊を何人も抱えてるって事かい、このボロ馬は……!」

 

 艦長椅子に座り込み、思わず頭を抱えてしまう。

 ここで死ぬ覚悟などしたくはないが、場合によってはそれもあり得る。

 いや、ここで弱気にはなれない。子供達を死なせてはならない。

 

「ドップ!機銃射程圏内まで10秒!」

「射撃用意!!」

 

 残り少ない弾薬、完全ではないモビルスーツ隊と不慣れなパイロット。

 そして目の前にはガウ攻撃空母に多数の戦闘機隊。

 歯を食いしばりながら、オスカのカウントダウンを聞く。

 

「3,2,1!」

「撃て!!」

 

 その瞬間、艦内全方向から機銃の音が響き渡り、同時に前部から主砲が轟く。

 数機のドップの破片が前方に映し出された。

 機銃の腕は悪くない。が、無駄弾を使いたくない心境が、額に汗を滲ませる。

 

「両翼!ドップ来ます」

「メガ粒子砲開け!粒子を惜しむな!ここを切り抜けるんだ!」

『ガンキャノン発進準備完了!』

「了解!セイラ!発進後のオペレートを頼む!両甲板に展開させるんだ!」

「了解、カイ、ハヤト、ジョブ・ジョン、聞こえて?」

「整備班!プロトとガンダムのコアファイターを分離!右舷ハンガーに移せ!第1波攻撃終了後、偵察機として使用する!」

『了解!!』 

「ミライ!高度を陸戦可能高度まで落とせ!ガンタンクを降下させる!」

「了解、対地高度150まで降下、回避運動を取りつつなので時間はかかります」

「任せる!IRミサイル!何やってる!ここで撃たずにいつ撃つか!」

 

 指示通りに動いてくれてはいるがいかんせん敵が多すぎる。

 熱源センサーは真っ赤だ。どれだけ範囲を広げてもドップが居る。

 ざっと数を数えても数10。切り抜けるだけの弾薬は保証できない。

 弾切れは考えたくはないが、万一の場合、投降することもやむを得ない。

 

「右舷無人機銃被弾!火災発生!自動消火装置作動!」

「左舷後方有人機銃被弾!銃手リック。応答なし!」

「く……!」

 

 ついに被弾した。何時まで持つか……!

 

 

 ★

 

 

「ゲビル、ハンブル会敵。キャリフォルニアベースよりガーゴイル、ガルーダ出撃、10分後に会敵。16戦車大隊も同時に出撃。戦車大隊は全速力で進行中ですが指定位置への会敵まで40分程の遅れが生じます」

「了解した。各飛行隊長へ通達、数分間自由戦闘。敵艦の戦闘力を肌で感じよ」

「はっ」

 

 通信士は例の木馬と戦闘を開始したドップに指示を出す。

 ガウは攻撃空母でありながら、ドップの戦闘支援、更には空中管制をも行えるのだ。

 熱源レーダーやルッグンからの映像から戦況を読み取る。数では圧倒している。

 ビッグトレー相手にも遅れを取らん編成だ。

 

「ゲビル4ダウン。ゲビルリーダー、密集隊形を指示」

「ビーム砲、射撃準備に入りますか?」

「射程内に入って狙い撃ちされるのはどちらも同じだ。母艦が突っ込むものではない」

「了解」

「当たると思う博打は案外当たらんものだ。今こそ慎重にな」

 

 既に3機落とされた。木馬の機銃は私が思っている以上に優秀みたいだ。

 しかし我々の部下も負けているわけではない。木馬には確実に傷をつけている。

 

「しかし、例の白と黒のモビルスーツが出ないな」

「妙ですね」

「報告。木馬の高度下がります、更に後部ハッチが開いている模様」

「出るか、モビルスーツが」

 

 ルッグンからの映像がメインモニターに映し出される。

 木馬の後部ハッチが開き、モビルスーツが出てきた。

 白い奴ではない。赤いキャノンタイプのモビルスーツだ。

 旧式のモビルスーツではあるが、手持ちの武器が違う。マシンガンではない。

 

「マイナーチェンジの射撃型が3機か、甲板での防衛射撃にはうってつけだ」

 

 既に私の隊でも実績があるモビルスーツでの甲板射撃。連邦のモビルスーツでもやるか。

 木馬の安定飛行能力ならば重力下であっても安定した射撃を行えるだろう。

 問題は手持ちの武器だ。パプアが襲撃された際の戦闘記録では奴もビーム砲を使っていた。

 

「全機に通達。自由戦闘を中断。赤いモビルスーツに攻撃を集中させろ」

「了解。ゲビルリーダー、ハンブルリーダーへ。命令変更。赤いモビルスーツに攻撃を集中」

「ガルーダ中隊、ガーゴイル中隊到着。ガルマ大佐、ガルーダリーダー、ガーゴイルリーダーへの指示を」

「早い到着だ。君たちは対艦攻撃、ガルーダは右舷の攻撃に集中、ガーゴイルは左舷だ」

 

 2個中隊の反応が10機ずつ、目標である木馬を囲む。前方の戦闘の光が更に激しくなる。

 しかし木馬は堕ちない。なんとしぶとい連中だ。

 

「ゲビル3ダウン!ハンブル3、ハンブル4被弾!」

「ガルーダ4。ガルーダ7ダウン!ガーゴイル3から6応答なし!」

「チッ」

『ハンブルリーダーよりガウ1番機へ!こちらも被弾した!』

「木馬め、了解した。ゲビル隊、ハンブル隊は帰還しろ」

『っ……申し訳ない』

「気にするなラリー。気をつけてな。ガルマ隊隊員、発進準備」

「大佐も出られるのですか!?」

 

 私では不足やもしれん。しかし地上部隊の到着まで飛行部隊を持たせなければならない。

 混線する無線内容からして士気は落ちつつある。専用機を出すことで少しでも士気をあげなければ。

 ……私の実力次第では士気が下がるリスクも勿論ある。しくじることは出来ん。

 

「私も出る、指揮は任せるぞダロタ」

「了解しました!」

 

 私はブリッジを出て専用のノーマルスーツに着替える。堕ちた部下たちは脱出しただろうか。

 ……いや、ドップの構造上脱出は困難だ。装置が作動したとしても生き残れるかは分からんだろう。

 やりきれんがこれが戦場だ。私はその様な失態は犯さん。戦いの恐怖は最早消え失せている。

 

「ガルマ」

「ん、シャアか」

 

 格納庫ではシャアが私のドップを眺めていた。

 シャアには頼めない。ゲリラ掃討任務に引き続いてこの任務を受けているのだ。

 彼には休息が必要だ。

 

「わざわざ君が行くほどかね?」

「そうらしい。ドップ隊の被害が拡大している。少しでも士気を上げなければ」

「君らしくもない、司令官というのはそんなものか」

「私も男を上げなければならんということさ」

 

 そう言うとシャアは口角を上げ、私の肩を叩く。

 

「手を出すなよ、見てるんだシャア」

「そのつもりだ」

 

 私はドップに乗り込む。木馬を手に入れれば私のザビ家での発言力が増すだろう。

 ここはチャンスだ。フイにする訳にはいかない。

 エンジンを始動。操縦系統、油圧、偏向ノズルの確認。全て異常無い。

 ミサイル、ロケット砲、30mmも問題なし。優秀な整備兵に感謝しなければならない。

 他の隊員も出撃準備が完了した。

 

「ガルマ隊発進!」

 

 スロットルを上げ、ドップを発進させた。他の機も続けてガウから出撃する。

 木馬を落とせば、出撃していない白い奴も手に入れられるというものだ。

 ここで確実に仕留める。

 

 

 ★

 

 

 

『底部被弾!敵の地上部隊!マゼラアタックです!』

「揺れ、揺れてるって……!」

 

 さっきからホワイトベースがガッタンガッタンと只事じゃないくらい揺れている。

 それに怪我人がわんさか運ばれている。私も怪我人だけど、今担ぎ込まれている怪我人は違う。

 腕が真っ赤に染まっていたり、私の比ではない破片がぶっ刺さっているような怪我人だ。

 

「輸血パック足りないよ!急いで!」

「応急処置だけできればいい!今はな!こっちに手を!」

 

 怪我人の中には呻く人もいれば気絶している人もいる。

 サンマロさんの腕はピカイチみたいだ。今の所死者は居ない。

 ……まぁ、死んだ人はそもそも医務室に担ぎ込まれないだけかもしれないけど。

 他の医療班の人たちも凄い手際で担ぎ込まれた人の応急処置をしている。

 

「っつつ……」

 

 私はベッドから降りる。せめて外の様子が知りたい。まぜらあたっくって何?

 モニターからの映像じゃブライトさんも切羽詰まっている。かなりまずい状態だ。

 ズキズキと肩が痛むけれど言ってる場合じゃない。こんなボコボコにされてガンダムが出せないんじゃ……。

 

「アムロさん!まだ動いちゃ駄目だ!」

「外の様子次第じゃそんな事!私じゃないとガンダムは!」

「分かるけど!腕が動かないんじゃ犬死だ!地上戦だってやったことないだろ!」

「でも……!」

「外はカイとハヤト、それにジョブさんがガンキャノンで戦ってる!」

「マゼラ、何とかはどうするんですか!」

「きっとガンタンクが出るよ!そのために高度を下げてるんだ!」

 

 そうか。だからさっきから耳がピーンってなるんだ。

 それで高度を下げたからその、マゼラアタック?とかいうのに狙われてるんだ。

 空の敵はガンキャノンが、地上の敵はガンタンクに任せる。

 ……ガンダムさえ出撃できたら……。

 

「早く怪我が治れば……!」

「傷は浅い。明日には治るようにする。でもこれが開いたら更に出撃できなくなるぞ」

「……っ!」

 

 点滴が繋がっている右腕の肩を見る。服の中では包帯がきつく巻かれている、

 手術して1日で治るような医療技術でも時間が足りないくらい切羽詰まってる。

 

『ハヤト!ガンキャノン!どうした!被弾したのか!!』

「ハヤトくん!」

『……分かった!ホワイトベースに戻れ!ぐっ!?』

「またっ!……!」

 

 またしても大きな揺れだ。爆発音だけじゃない。何かひしゃげ、壊れる音が鮮明に聞こえる。

 ……ハヤトくんのガンキャノンがホワイトベースに戻ったって言うことはジョブさんとカイさんしかモビルスーツが居ない。

 

「っブライトさん!」

 

 思わず私はモニターの通話ボタンを押す。

 

『アムロです!』

『アムロ!?』

「ガンダムを出撃させて下さい!私は大丈夫です!だから!」

『駄目だ!君は出せない!』

「でもハヤトくんが!ガンキャノンは2機しか!」

『補給に戻っただけだ!すぐに再出撃する!敵の包囲網はもうすぐ突破する。安心してくれ』

『対地高度100。行けます!』

『よし!ガンタンク発進!』

 

「……分かりました」

 

 私は通信モニターを消し、ベッドへと座り込む。

 

「気持ちはわかるさ、でも君は治療に専念しないと」

「……」

「明日には出撃できるようにする。医療班班長として、絶対にね。今は安静に」

「は、はい」

 

 サンマロさんは私をベッドに寝かせ、すぐに他の人の応急処置に回る。

 私が今我儘を言った所で足を引っ張るだけだ。そう言い聞かせなければとても休めない。

 揺れるホワイトベースではとても眠れたものでもないし、外の様子が気になってしょうがない。

 痛み止めでも何でも渡して出撃させろと喚いてもいいけれど、サンマロさんに迷惑をかけるのも気分が悪い。ここは大人しくするしかないだろう。

 

「アムロ!大丈夫!?」

「フラウ!」

 

 さぁ寝ようと思ったら、フラウが駆け込んできた。

 揺れるホワイトベースの中じゃ歩くのも大変だろうに。

 

「大丈夫!?」

「うん。私は大丈夫……」

「今は平気。ごめんなさい。こんな状態で居ても立ってもいられなくて」

「いいよ、来てくれただけでも嬉しい。こんな状態じゃお見舞いって訳にはいかないけど……」

 

 私は周りを見る。うめいたり苦しんだりしている人が大勢いる医務室。

 サンマロさん他、看護師っぽい人が数人、明らかに手が足りていない。

 

「分かった。手伝って来るわ。アムロは何か居る?」

「今は私の事はいいの。フラウは皆を助けて!」

「ええ。何かあったらすぐ呼んで!」

 

 そう言ってフラウは近くにあった白衣を羽織り、サンマロさんの指示を受ける。

 フラウの凄いところは洗濯や子供の世話。こんな救護活動まで何でもやる所……。

 私じゃガンダムの操縦以外のことやれって言われたら目グルグルになって倒れてしまうだろう。

 

 少しは私もガンダム以外の所で役に立たなきゃ。

 

「ぐぁっ痛いっ!!痛いいい!!ドップ!ドップがぁあ!!!」

「フラウさん、鎮静剤を!!」

「はい!」

 

 ……。機銃の人ってこんなに命がけだったんだ……。

 それにここに運び込まれてる人たちは皆今の戦闘で傷ついてる人たちばかり。

 一体どんな敵が……。

 

「外は……どうなってんの……?」

 

 

 

 ★

 

 

 

「ちくしょお!小バエがチョロチョロと鬱陶しいってんだ!」

『カイさん、ジョブさん!補給終わりました!すぐ戻ります!』

「おせぇっての!ジョブさんよ!アンタは大丈夫か!?」

『ライフルで持ちこたえてる!クソ……!ハヤト!頼む!』

 

 ホワイトベース上での戦闘もそろそろ辛くなってきた。

 甲板上には山ほどドップの破片とキャノンの薬莢が転がっている。

 戦闘開始から2時間近く経ってるっていうのに敵の勢いが止まらない。

 

「マゼラアタックの部隊!」

『カイ、ハヤト!もうすぐ包囲網を抜けるわ!』

「ミライさんに急げって伝えてくれよセイラさん!もう持たねえぞ!」

『うわぁああ!』

「ハヤト!」

『だ、大丈夫です!』

 

 ホワイトベースの被弾状況も酷いものだが、俺達もかなりやられてる。

 特に酷いのはハヤトだ。ミサイルの直撃を何発も浴びている。

 心身ともに疲れ果てている上にさっきから左腕が動いていない。

 

 俺のガンキャノンも直撃は避けているものの決して無傷じゃない。

 右足関節に機銃弾が食い込んで変な音が鳴っている。

 ライフルのスコープにも銃弾がめり込んでいる。狙えない訳ではないが命中率はかなり落ちた。

 

「前方3列!行けっ!!」

 

 キャノン砲のセレクターを切り替え、連射モードに切り替える。

 コクピット内で轟音が3秒間左右交互に響き、前方のマゼラアタック部隊に砲弾を注いだ。

 ドンドンドンと次々に爆発する砲弾は戦車の車体を溶かしていく。

 

「ドップは!」

 

 コンソールのセンサーを見る。

 おかしい、赤い反応が次々に離れていく。

 

『カイさん!右舷上空の敵反応ありません!マゼラアタックも攻撃をやめました!』

「やったのか?」

 

 目視でも敵機が離れていくことが確認できた。

 しかし遠くの1機だけは離れない。むしろ近づいている。

 緑色のドップ。しかしズームするとその腹には何かを引っさげていた。

 

「何のつもりかしらねぇが!」

『撃ちます!』

 

 ハヤトがキャノン砲で奴を狙い撃つ。

 狙いは正確だ。キャノンの砲弾がドップに直撃し、砲弾が爆発する。

 その瞬間、ガンキャノンのモニターが真っ白に染まり、視界を奪う。

 

『わぁああ!!!』

「何だってんだ!?」

 

 爆風はない。爆弾ではないらしい。しかし視界が奪われた俺達は攻撃を中断してしまう。

 ホワイトベースの操舵も一時的に奪われたらしく、一瞬足元がブレる。

 しかしさすがはミライさんだ。すぐに自動操舵に切り替えたらしい。

 

「ちっ……!」

 

 カメラの映像が回復する。敵の布陣を整えたというわけではないらしい。

 さっきまで前方で待ち構えていたマゼラアタックの部隊は車体だけを残し、頭の部分は撤退した。

 撤退のための時間稼ぎってわけか、命を賭してまでやる事かよ、殊勝な奴め。

 

「俺達には追撃する余裕なんてないのによ……」

『カイ、ハヤト、リュウ。敵は撤退した。帰還しろ!』

「……はいよ」

『了解!』

『終わったか、全く……』

『……全員、よくホワイトベースを守ってくれた』

 

 ブライトの労いの言葉は、疲れ果てた俺の耳には届かなかった。

 

 

 ★

 

 

「木馬め……基地に帰還する」

『このまま撤退するんですか!?大佐!』

「見ただろう、敵の威力を。あれだけあった戦車大隊、ドップ編隊は見る影もない」

 

 峡谷一面に広がるドップとマゼラアタックの亡骸。

 部隊はまさに壊滅状態と言える。残ったドップはキャリフォルニアベースに帰還した。

 

「ガルーダ1、ガルーダ2が生存、ガーゴイル隊に至っては隊長機のみ生存……」

『3機は既に帰還。戦車大隊は撤退行動を完了し、ファットアンクルに搭乗した模様です』

「了解した。後ほど隊員と基地司令官に正式に謝罪する」

 

 木馬にも浅くはない傷を与えた。しかしその代償がこの惨状とは……。

 キシリア姉さんはおろか、シャアにも顔向けできんな。

 白い奴と黒い奴も出ておらず、赤いモビルスーツと戦車もどきだけでこれほどの被害。

 

「……私の読みが甘かったというのか、ええい……!」

『ガルマ、次は私も出よう』

「シャアか、しかし」

『これで感じられただろう、奴らの強さを』

 

 認めざるを得ない。たしかにやつは十字勲章物の獲物だ。

 そして何よりも私一人では奴を落とすには不十分だということも。

 

「ああ。十二分に感じる事ができた……たった1隻、数機のモビルスーツで5つの包囲網を突破可能とは」

『一度戻れ、作戦を検討しよう』

「了解した。ガルマ隊、帰還する」

 

 ドズル兄さん直属のシャアを使わざるを得ない。

 ドップ数十機とマゼラの大隊をけしかけても落ちないとなると、

 ドップに加えてザクとマゼラアタックをフル活用せねばならん。

 

「ダロタ」

『はっ』

「連中の船の調査を地球方面軍の諜報部に依頼しろ、私も本国に掛け合ってみる」

『了解しました、通達します』

「それと、奴らを監視の目の中で泳がせろ、どんな動きも逃すな」

 

 奴らの新造戦艦、それにモビルスーツ。

 どれも重要なものだ。一日一夜では成せるものではない。

 しかし木馬との戦闘だけにすべてを割くわけにも行かん。

 

「っ……ザクの整備を完全なものにしておけ。私のザクもな」

『はっ!』

 

 今日という日は精々地球観光を楽しむがいい。

 次こそは必ず仕留める。

 

 

 




今回の結果

・アムロはお休み
・カイ、ハヤト、リュウ練度上昇
・ホワイトベース、ガルマ包囲網突破

以上の結果となりました。


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ホワイトベースVSガルマ・ザビ

「ねぇ、アニーさん」

 

 次の日の朝。回復注射とか言うのを終えた私はサンマロさんに頭を下げ、

 すぐにガンダムの所に行った。注射の効果は絶大で、寝込む前と同じ位の力をすぐに出せる。

 ……と言っても1日寝込んだだけで、起き上がる時のだるさが取れた程度だが。

 

「何?」

「前の戦闘、相当熾烈だったんですね」

 

 そんな事よりもだ。例の倉庫、ハンガーとか言ったっけ。そこについた私はあ然とした。

 ガンダムが……真っ二つになっているのだ。綺麗に腰と上半身が別れている。

 

「ん?あ、あぁ……これ?」

「……」

 

 私がガンダムで出なかったからこんな事になってしまった。

 ガンダムどころかプロタイプガンダムも真っ二つにされてしまっている。

 そう思うと、自然と片手で頭を抱えてしまう。私のせいだ。

 

「違うんだって!そんなに気落とさないでよ!ね、ねぇ!レイ大尉!」

『ん?おお!アムロ!』

「へ?」

 

 ハンガーの床部分で父さんの楽しそうな声が聞こえた。何で楽しそうなの?

 そう思い、私は簡易なエレベーターを使って床に降りる。宇宙とは違って移動が面倒だ。

 

「アムロ!もういいのか?」

「うん……父さん、ガンダムが……」

「凄いだろう。これがガンダム発の画期的な機能。コアブロックシステム!」

 

 沈んだ私とは対照的に、父さんは楽しげだ。

 父さんの片手にあるタブレット端末は近くの小さい飛行機に繋がっている。

 端末から目を放し、ニマニマした表情でその戦闘機を指差す。

 

「これがコア・ファイターだ!」

「こあふぁいたー?」

「まぁ乗ってみなさい、すぐに分かる」

 

 言われた通り私はその、コアファイターとやらのコクピットを覗き込む。

 

「!」

 

 すぐに父さんがニタつく理由が分かった。これ、ガンダムのコクピットだ。

 私は思わずそのコアファイターに飛び乗る。やっぱりガンダムのコクピット。

 違いと言えばそのコクピットの中心に赤い棒みたいなのがある事だ。

 

「え?」

「気付かなかったろう?」

「う、うん……うん?でも何で飛行機なの?」

「改造したわけではないぞ?ガンダムを分解しただけだ」

 

 …………えっと……。

 

「……ごめん父さん、詳しく教えてほしいかも」

「ああ、困惑するのも無理はない。これを見なさい」

 

 そう言って父さんはコアファイターに繋がっていた端末を見せる。

 未だにこの端末の名前がわからないが、とりあえず見る。

 端末にはコアファイターの画像がグルグルと回っていた。

 父さんは、そのコアファイターをタッチすると、コアファイターが縮こまる。

 

「ん?」

 

 そして翼が折り畳まれ……

 

「え……」

 

 更にコアファイターが半分に折り畳まれる。上の尖った部分も畳まれていた。

 飛行機が箱になるって事?それで、ガンダムの足、それで体が繋がる。

 上半身はガンダムAパーツ。下半身はガンダムBパーツって言うみたいだ。初めて知った。

 

 私は真っ二つになったガンダムの上半身を見る。確かに折り畳まれたコアファイターが入るくらいの穴が空いている……つまり、私は今まで2つに折り畳まれた飛行機の中に乗っていたってことになるのか……な?

 

「どうだ、凄いだろう!戦闘機としての機能も万全だ。現にプロトタイプのコアファイターは偵察に出ている!」

「凄い……でもなんで飛行機になるの?」

「非常用脱出装置として考案したものだ。ガンダムがやられた際に起動する」

「へぇ……」

「ガンダムの実戦データは今後のモビルスーツ開発に大きく影響するものだ」

 

 だからコクピットが大事ってことか。成る程ね……。

 このコクピットの中に私の戦い全部が記録されてるんだ。

 それを軍の人に見せて、それで新しいモビルスーツを作る。

 

「このちっこいのがガンダムのメインの部分って事?」

「そう、さぁ。データの吸い出しがもうすぐ終わる。離れていなさい」

「うん。頑張って、父さん」

「昼には出せるようにしておく!」

 

 コアブロックシステム……だっけ?ガンダムの脱出装置。

 分解することで整備もしやすいんだろうけど……。

 これはガンダムが壊れたときのためのシステムだ。使いたくはないな……。

 父さんもガンダムを壊さずにジャブローってトコに送りたいんだろうし、

 私自身ガンダムをダメにする訳にはいかない。この戦闘機が出るって事はガンダムがダメになるんだ。

 

「ブリッジに行こっかな」

『プロトタイプガンダム、コアファイター帰還!整備班はメンテ急げ!』

「……誰がパイロットなんだろ?」

 

 私はハンガーを出てブリッジへ向かった。

 コアファイターっていう大事な飛行機を確実に返せるパイロット……。

 ジョブ・ジョンさんか、リュウさんしか居ないだろうな、多分。

 

「よおアムロ、もういいのか?」

「リュウさん。お疲れ様です!」

 

 ブリッジへ向かう途中、私はリュウさんと鉢合わせした。

 案の定ノーマルスーツを着ている。リュウさんがコアファイターのパイロットか。

 

「いやあ、久々の偵察だった、ルウム以来だ」

「ルウム?」

「おお、お前さんは知らないのか。この戦争で現時点で最大の戦いと言われる戦闘だ」

 

 リュウさんとエレベーターに乗る。ルウムっていう戦いでリュウさんは戦闘機に乗ったらしい。

 なるほど、経験者だったんだ……だったら安心かな。コアファイターってコクピットだし壊されちゃかなわない。

 

「リュウさんも戦ったんですか?」

「ああ。撃墜されちまったけどな」

「撃墜……」

「宇宙で撃墜されたのが幸いだった。でも、後部席の奴がな……」

「死んじゃったんですか?」

「MIA。今も行方不明だとさ……恐らくは死んじまったんだろう」

 

 ……リュウさん、実力は知らないけど昨日の戦闘でもガンタンクに乗って生きてた人だ。

 そんな人が撃墜されるような戦場。それがルウムらしい。

 リュウさんの目は悲しげだ。多分その後ろの席の人とは友達か何かだったんだろう。

 

「アムロ」

「は、はい!」

「カイとハヤトがな、お前の事を心配してたよ」

「カイさんと、ハヤトくんが?」

 

 ハヤトくんはまだしもカイさんが心配するのはあまり想像できない。

 たしかにブライトさん引っ叩いた時はなだめてくれたし励ましてくれたけど、

 他の人を心配している姿をぱっと想像できない。失礼な話ではあるけど、何となく。

 

「戦わせすぎたってな。特にカイはサボり気味だった訓練にも身が入ってる」

「そうなんですか……」

「だが俺はお前よりもその2人が心配だ。ああいうタイプは増長して死にやすい」

 

 確かに、映画やドラマでもそういう急な努力をした人はロクな目にあっていない。 

 特に未熟な人が急に頑張ってぶっつけ本番となると、だいたい死ぬ気がする。

 

「付け焼き刃って言う奴でしたっけ……?」

「そう。アムロ、すまんがあいつら2人を支えてやってくれんか」

「わ、私が、ですか?」

 

 リュウさんは私を見てそう言う。

 私が、カイさんとハヤトくんを支える。

 

「何も一喝しろって訳じゃない。これから出撃する2人と連携してくれればいい」

「連携。ですか」

「不慣れか?」

「ええ、あんまり考えた事無くて……連携かぁ……」

 

 私が首を傾げると、リュウさんは「ハッハッハ!」と笑った。

 そして私の頭をポンと叩く。

 

「って!」

「そう気負いなさんな!眉間にシワ寄ってるぞ」

「えっ……?あっ」

「協力するだけよ、お前ら3人が仲良くすりゃいい話だ」

 

 仲良くする。そう聞けば確かに分かりやすい。

 パイロット同士の仲が良ければ連携は自然に生まれる。

 連携すれば互いの生存率も上がる。そう言いたいわけだ。なるほど……。

 でも大丈夫かな……。男同士なら大丈夫だけど、男集団に女がつけ入る場所なんて……。

 

「分かりましたリュウさん。やってみます」

「頼むぜ、お前たちが死んじゃあブライトが寝込んじまうからな」

「フフ。それは困りますね、ブライトさんのためにも」

「ああ。アイツもかなり、お前以上にストレスを溜めてるかも知れんな」

 

 ブライトさんも心配だ。昨日の戦闘でホワイトベースもかなりのダメージを受けた。

 歩いていたら補修の跡がちらほら見える程に壊れている。

 そんな状態でも戦闘を続けざるを得ない上、私がブライトさんを助けられなかった。

 胃に穴が開いてるんじゃないだろうか……心配だ。

 

「ブライト、戻ったぞ!アムロも来てくれた。」

 

 リュウさんがエレベーターを降り、私もそれに続く。

 ブリッジに入るとリュウさんは軽く敬礼する。

 

「治りました。ブライトさん!」

 

 私もそれに合わせて見よう見まねの敬礼をする。

 ブライトさんは目にクマを作っていた。それでも私を見るとキリッとした顔をする。

 寝てないんだ……ブライトさん。

 

「手首を伸ばすんだ、敬礼がなってないぞ」

「あ、えーっと」

「こうだこう!間抜けの敬礼じゃないか」

 

 リュウさんが見本を見せる。

 

「こうか、よっ!」

「フッ……それでいい。現状を説明する。休んでくれ」

 

 そう言ってブライトさんは床の上に地図を表示させる。

 私は休めと言われたので敬礼を解き、いつもの感じで床を見た。

 ……見づらくはないけど、何で床にこんなモニターを作ったんだろう。

 

「現在我々は、ガウの包囲網を突破し、太平洋方面に向けて進路を取っている」

「太平洋?」

 

 ホワイトベースの進路は、アメリカの大陸を横断し、太平洋に進むらしい。

 大雑把だが矢印がそう示している。地図によるとジャブローは南アメリカ大陸にある。

 だけどそこを進まずに太平洋に行くってことはなにか理由があるんだろう。

 軍の命令だろう、多分。

 

「ああ。連邦軍総司令部からの命令だ。地球を一周してからジャブローに入ってほしいらしい」

「地球規模の回り道ですね……」

「バカバカしい話だ。補給も寄越さずによくもこんな事を言える……」

「ひっどい話ですね……」

「進路は暗号文で逐一報告しているが、これも意味があるかどうか……」

 

 状況は極めて切迫しているみたいだ。ブライトさんは吐き捨てるように「畜生」と呟く。

 そして、一瞬ふらっとしたかのように頭を揺らした。

 

「……すまない」

「もう休んで下さいブライトさん……凄いクマですよ」

「……しかし……」

「ブライト!昨日から食事もまともに摂っていないんでしょう!?」

 

 セイラさんが通信席から立ち、ブライトさんの肩を掴む。

 駄目だ、ブライトさんの反応が皆無に等しい。いくつか知らないけどブライトさんも若い。

 だいたいあの怪我した死にかけのパオロ艦長?は何で怪我しちゃったの?あの人さえ無事だったら……。

 

「ブライト」

「……ミライ」

「不慣れかもしれないけど、私とセイラさんで、あなたの代わりができないかしら」

「……」

「あなたの怒鳴り声はブリッジ中に響き渡っているのよ?少しは艦長の心得はあるわ、ここに居る皆は」

 

 ミライさんは操舵を自動操縦に切り替えて、ブライトさんの方を見る。

 上のオスカさんとマーカーさんも頷いている。セイラさんもブライトさんをまっすぐ見つめている。

 リュウさんは……「俺は出来ないけどな」と呟いて腕組みをしている。ちなみに私も無理だ。

 

「……しかし、僕がやらないと……」

「ブライト、今あなたが倒れたら皆が迷惑するのよ、休んで頂戴」

「セイラさん……しかし」

「張り詰めすぎると指揮能力が落ちるわ。艦長席には私が座ります。よろしい?」

「……気丈だな。貴女は」

「貴方程ではないわ。アムロ!リュウ!ブライトをお願い」

 

 ……ぽかんとしている私達にビシッ!と声を掛ける。

 私達は同時に「ハイっ!」と言い、ブライトさんの肩を貸す。

 が、リュウさんがブライトさんをおんぶしたせいで私はアワアワとするだけだった。

 

「ちょ……まぁ、いいか」

「ブライトの部屋は……」

「艦長室よ」

「了解。じゃあちょっと運んでくるぜ」

 

 リュウさんはそのままブライトさんを背負い、ブリッジを後にした。

 ……急にブリッジが静かになる。セイラさんはそのまま艦長の椅子に座る。

 艦長の椅子は普通の椅子とは違って色々なモニターや艦内の通信装置があるみたいだ。

 

「……艦内管制装置オンライン、通信設備、異常なし……」

「セイラさん、よろしい?」

 

 ミライさんは舵輪を握り、艦長椅子のセイラさんに声を掛ける。

 セイラさんは通信席のヘッドセットを頭に付けてミライさんに微笑んだ。

 

「ええ。問題ないわ、艦長代理の任は果たすつもりよ」

「お願い」

「対地高度は200、そのまま航行を続けて。峡谷を抜けるまで気を抜かないで」

「分かったわ」

 

 ホワイトベースまで女の人が動かすことになってしまった。大丈夫かな……。

 せめて今日は敵が来なければいいけど……。セイラさんも不安そうだ。

 なにか励ましの言葉を……。

 

「大丈夫ですよ、セイラさん」

「アムロ?」

「昨日あれだけ攻撃してきたんです、流石に今日は……」

「敵艦発見!最大望遠!ガウ攻撃空母です!」

 

 言わなきゃよかった。

 

 

 

 ★

 

 

『私に用か』

「はっ。木馬と白い奴をご存知でしょうか」

『耳には入っている。V作戦だな?』

「ええ。連中の調査を本格的に進めていただきたいのです」

 

 通信モニターは使えないため、音声のみでの通話だ。

 ギレン総帥。私の兄、ギレン・ザビと連絡をとっている。

 本国にて総帥として我がジオン公国軍の総合的な指揮を執っている方だ。

 私としても最も尊敬すべき兄であることは間違いない。しかし……それ故か。

 兄は猛々しいと言うよりも、非情と言える冷静さをお持ちだ。悪くいうならば……。

 

 いや、悪く言うことなど出来ない。

 

『ほう、地球に降りた。ドズルが取り逃したのか』

「はい。しかし送信するデータをご覧になれば、それも納得行くものかと」

 

 私は予め送信させておいたデータが受信されたことを確認する。

 送信場所が察知されないよう、各方面に設置されている送信基地から断片を送信するのだ。 

 宇宙の、またそれも各方面の通信設備から本国へ到達するまでの間にデータを再構成させて届くもの。 

 送信時間もかなりの時間を要するのだ。

 

『ふむ……木馬、それに白い奴、黒い奴……か。残りのモビルスーツもマイナーチェンジが成されている』

「はい。ドズル兄……いえ、ドズル中将の部下、シャア・アズナブル少佐が入手したものです」

『シャア・アズナブル……フン、あの仮面の男か』

「ええ。私の友人でもあります!」

『そうか。ガルマ』

「はい!」

 

 音声越しだが、ギレン兄さんの刺すような眼差しが伝わる。

 思わず私は姿勢を正した。

 

『V作戦のデータは受け取った。正式に吟味した上調査班を出す』

「はい!ありがとうございます!」

『うむ、木馬以外の事で問題はないか』

「はっ……北アメリカ西部ではそれ以外の問題はありません!」

『木馬の追跡を続けろ、無事を祈る。父はお前の事ばかり話すのでな。私も気になっていた』

「はい!父にも私の健勝をお伝え下さい!」

『近々帰国の命を出す。それまでは伝えんよ。ぬか喜びさせて死なれては父にも悪い』

 

 そう言って、通信が切れる。

 兄との会話は疲れる。ドズル兄さんは見た目がきついだけだが、ギレン兄さんは違う。

 ドズル兄さんとは違って内面から突き刺すような威圧感を感じるのだ。

 

 というより最後の一言、僕は死ぬかもしれないから父に多く言わないという事か?

 少し傷つく一言だ。

 

「シャア!」

「終わったか」

「ああ、終わったよ、相変わらず肝が冷える」

「フッ。ギレン総帥は大層お喜びであっただろう」

「分からんよ、あの人は掴み所がない」

 

 私は別室に待機させていたシャアを呼び出す。

 ここはガウ内の艦長室だ。個人通信や寝泊まりをする際に使う。

 殺風景ではあるが私とシャアでしか話せない事を話すには最適な場所だ。

 

「本国はどう言っていた?」

「V作戦の調査は性能を吟味するそうだ。近いうちに始まるだろう」

「ほう、決断が早いな」

 

 兄は大局を見る方だ。その兄が二つ返事で調査を始めるほどの物。

 恐らく連邦軍のモビルスーツは私達が考えている以上のものかもしれない。

 いや「かもしれない」ではない。絶対にそうだ。

 

「この功績はすべてシャアのものだ。その事も兄に伝えたよ」

「君のものにしても構わん、そう伝えたが?」

「君の功績は君のものさ。私は……僕は僕自身の手で名誉を手にしたい!」

「相変わらずその負けず嫌いは治らんな。そう焦るな。こちらも伝言だ」

 

 シャアはそう言って手に持った紙媒体を見る。

 

「木馬は進路を西にとったそうだ。このまま太平洋上へ抜けるらしい」

「予想通りだ。奴らはジャブローへの直行を諦めたようだな」

「私のコムサイ含めてモビルスーツの整備はあらかた完了してるようだ。仕掛けるか?」

「すぐには仕掛けられん。昨日の敗因は功を焦りすぎたせいもある」

 

 昨日の作戦は波状攻撃と5重の地上包囲網で攻撃を仕掛けたものだ。

 先遣隊があまりにも早く全滅し、地上部隊の展開が遅れたお陰で木馬に休む暇を与えてしまった。

 そして何よりもあの赤い奴と戦車の出来損ないだ。奴らの存在のせいで包囲網は壊滅した。

 

 今回は木馬を狙わない。我々のモビルスーツ部隊をモビルスーツにぶつける。

 モビルスーツの相手はモビルスーツが行わなければならない。マゼラアタックだけでは不足だ。

 対艦攻撃に特化したF型ザクのみでも十分にモビルスーツにダメージを与えることが出来る筈だ。

 

「しかし私もザクをぶつけたがあの白いやつにすら敵わなかった。それを忘れるな」

「無論だ。その為昨日の晩、姉にもその報告をした」

「キシリア閣下にか?」

「ああ。概要しか伝えられなんだが、それでも姉は理解してくれたよ」

 

 先日キシリア姉さんにこの件を報告すると直属の特殊部隊をこちらに回してくれた。

 彼らの降下直後の基地強襲任務はファルメルの新人と古参を補充したブラウアー隊に任せるそうだ

 ブラウアー隊というのは聞いたことがない。しかし基地制圧程度ならモビルスーツを持った小隊なら可能だろう。

 

「フェンリル隊という特殊部隊を回してくださるそうだ」

「フェンリル隊?」

「ザクに新型のセンサーを搭載させた実験部隊らしい」

「センサーだと?ミノフスキー粒子下で使用できるのか?」

「それを検証する部隊だよ、彼らの実験データ収集を手伝う条件付きで回してもらった」

「壊してはならんという事か」

「センサーの検証が可能で、かつ安全な作戦を立ててやらねばならない。大変だよ」

 

 フェンリル隊には木馬の監視、そして万一の場合の対空監視及び発見時の敵機排除を任せている。 

 恐らくだがここで木馬は補給を受けるはずだ。補給部隊を叩けばそれだけ木馬を苦しめることが出来る。

 私の部隊のザクを対空監視に回せばそれだけモビルスーツの撃破確率が減るのだ。

 

「よし、シャアも出てもらう、いいな?」

「仰せのままに、大佐殿」

『木馬を捉えました!最大望遠です!』

「フッ。今日こそ木馬を叩くぞ!」

 

 私は勝利を確信し、ガウのブリッジへと向かう。

 私も出撃するのだ、兄の予想を裏切らなければ父を悲しませることになる。

 私はこれからのジオンに必要な人間にならなければならない。

 ここで死ぬことなどあってはならないのだ。

 

「増援部隊は前哨基地に到着したか!?」

『既に到着しております。予め伝えたブリーフィングを元に指定ポイントへ移動中』

「さすがは姉上の特殊部隊だ。準備が早い。各員戦闘配置!ザクを出すぞ!コムサイも発進準備!」

『はっ!』

 

 私はノーマルスーツに着替え、私のザクⅡFS型へと向かう。

 私専用として専用の調整を施した機体だ。頭部バルカン砲以外の変わった兵装はない。

 しかし内装は別物だ。チューンナップはシャアにも遅れを取らないものとなっている。

 

『ガウ!前後ハッチオープン!コムサイ発進!』

『ガルマ、必要になったら呼んでくれ』

「頼むぞシャア!」

『勝利の栄光を共に』

「ああ!ガルマモビルスーツ隊、発進!」

 

 モノアイが光る。モビルスーツの操縦には自信がある。

 それにシャアに出来たことを、私に出来ないはずはない。

 士官学校のライバル関係ではない。今は仲間だ共に協力すれば白い奴をも倒せる。

 

「行くぞ!」

 

 私を含めた3機小隊は予め峡谷の出口で待機させていた8機のザク隊と合流。

 4機編成の2小隊に、3機小隊の私の隊、そしてシャアの12機のザク。

 そして遠方監視のフェンリル隊。これだけのザクならば木馬とてもちはすまい。

 

『出ました!白い奴です!』

『赤い奴1機!更に戦車もどきも降下してきました!』

「了解!全機離れるな、引きつけろ。ペアは組んだな?合図とともにペアで散開!単独戦闘はするな!」

『はっ!』

 

 射出された白い奴が凄まじいスピードで近づいてくる。

 距離2000、1500、1000!

 

「全機散開!!」

 

 予想通り、私に向けてライフルを放つ。それを予想した私は全機を散開という名目で回避させる。

 これもまた予想通り。多人数戦のノウハウの無い白い奴はあらぬ方向に首を動かし、散った味方機を把握する。

 悪いがここで仕留める。覚悟しろ!!

 

【また変な戦法!?】

 

「そこだ!!」

 

 私は白い奴に向けてマシンガンをフルオートで放った。




今回のアムロの行動の結果

・アムロ復活
・ブライト、ダウン。セイラが艦長代理に。
・ガルマ、ギレンと通信。ホワイトベースの調査進行。
・ガルマ、キシリアにも通信。闇夜のフェンリル隊(ジオニックフロント)投入
・ブラウアー隊(MS戦線0079)闇夜のフェンリル隊の初任務を代行。
・ガルマ、MSで出撃、11機のザク+シャアでホワイトベースを襲撃。

以上の結果となりました。


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ガルマの完全包囲

 HLV降下直後の作戦変更。航空基地制圧ではなく新造戦艦「木馬」の監視。

 及び敵増援部隊を発見した場合の攻撃……。木馬討伐の支援と言うことらしい。

 突然の作戦変更による監視ルート作成に私は奔走していた。

 

 我々フェンリル隊は部隊編成の想定外の遅れにより、我々の降下は9月となってしまっていた。

 今回の基地制圧も我々の拠点を確立させるためであり、戦術的に重要なものでは無い。

 レオ・ブラウアー少尉のような新任士官にも任せられる作戦だ。

 

「概要は説明した通りだ。基地被害を抑えつつ敵性勢力を排除。拠点を制圧せよ」

『了解しました。新任オペレーターの初陣として不足ありません』

「よろしく頼む。ブラウアー少尉」

 

 若い声だ。しかし実戦を知っている。損耗し僚機が1機のみとなった小隊を指揮し、

 更に本日同時刻に降下予定のJ型1機と隊員、更にひよっこ一人を抱えて基地制圧に向かうのだ。

 最早戦場は年齢を問題にしない。地上という地獄では経験のみが物を言うのだ。

 だからこそ弱冠19歳で第2次降下作戦を生き残り、モビルスーツ隊の小隊長を務め上げているのだろう。

 

「……」

「あの若造に俺達の寝床を確保してもらうんですかい?」

 

 スキンヘッドの大男。マット・オースティン軍曹がブラウアー隊に不満を漏らす。

 ジオン国防軍と称されていた時代から従軍しているベテランであり、実戦経験も豊富だ。

 不満を漏らすのも無理ないだろう。

 

「ガルマ大佐からの特命だ。無視は出来ん」

「仕方ありませんな……こっちは降下早々未知の敵の監視ですぜ」

「全てが未知というわけではない。キャノンとタンクタイプは旧式のマイナーチェンジだ」

 

 マット軍曹は不満げな表情をしているがル・ローア少尉は冷静だ。

 シャア・アズナブル少佐が入手したデータを元に作成した今回の進行ルートを確認している。

 

「ゲラート少佐。問題は白い奴です。マイナーチェンジ型は見た目は違えど基本性能はほぼ変わりありません」

 

 赤い奴は全体的な強化とモデルチェンジが成されているものの、基本的にキャノン砲での射撃を主とした機体だ。

 タンク型も同様だ両手の小型ミサイルランチャーに警戒すれば通常通りの対処で問題ない。

 ル・ローア少尉の言う通り。問題は白い奴だ。

 

「……しかし白い奴が万一我々に気付いたとなれば、勝ち目はないだろう」

「ええ。我々のザクⅡもバズーカを携行したほうが良いでしょう」

「ふむ、しかし我々の任務はあくまで監視だ。万一敵が増援として航空機を出撃させた場合、バズーカのみでは迎撃に手間取るやもしれん」

「了解しました、念の為予備弾倉として対空マガジンを装備します」

「メカニックに伝えよう」

 

 更にマイナーチェンジされたモビルスーツの手にもビーム兵器が握られている。

 気付かれるという事はそれだけ我々の戦死率が上昇するという事に変わりはない。

 戦車やトーチカとの戦闘とは違う。新型MSとの交戦は少しでもノウハウのある者に任せる。

 

「マット軍曹、ル・ローア少尉、念を押すが今回の任務は監視任務だ。いいな?」

「了解」

「了解」

 

 攻撃はガルマ大佐の部隊が行う。我々は木馬の情報を逐一ガルマ大佐に報告。

 戦況の変化や周囲の不審な動きを見逃さずに報告し続けるのが任務だ。

 ジオン占領下とは言えミノフスキー粒子の濃さは通常以上だ。

 

 我々の実験装備の実戦データ収集を兼ねた作戦だ。地上での初陣を黒星で飾りたくはない。

 

「ニッキ少尉、シャルロッテ少尉」

「はっ」

「はい!」

「お前達は待機。レッドチームとブルーチームのみの作戦となるので、オペレートを頼む」

「了解しました……」

 

 ニッキ少尉は敬礼し、シャルロッテ少尉はがっかりしたような表情で私を見る。

 彼らは初陣だ。初陣でこの様な任務を任せるのは荷が重すぎる。

 シャア・アズナブルが撃破できなかった部隊を追跡し、有事の際は戦闘を行うなど、

 若く経験のない隊員に「死ね」と命令するようなものだ。

 

「では、改めてブリーフィングを行う。まずブルーチームの進行経路の再確認だ」

 

 私は前哨基地のモニターを使用し、作戦地域のデータを呼び出す。

 レッドチームは赤い矢印で、ブルーチームは青い矢印で進行ルートを示してある。

 木馬の頭を押さえている峡谷の左側にブルーチーム、右側にレッドチームを配備した。

 

「センサーはパッシブソナーを使用。レーダーは使用不能と考えたほうが良い」

「了解」

 

 作戦開始まで数十分……。少ないが部下を死なせる訳にはいかない。

 ブリーフィングを怠るは死を意味するものだ。

 

 

 ★

 

 

「カイさん!右に2機!」

『見えてるっての!行けぇ!』

『リュウさん!右転回お願いします!』

 

 1,2,たくさん。たくさんのザクがあっちにこっちに。

 軍事オタクが見たら大喜びするような光景だ。

 隊長と思われる機体は私の目の前にいる。銅メダルみたいな色の角つきザク。

 

「この……!」

 

 この銅色ザク、地味に頭にガンダムみたいなバルカン砲を持ってる。 

 下手に蹴っ飛ばそうと近付くとこれを撃ってくるせいで近付くに近づけない。

 

「機体が重……溶けろぉ!」

【ちっ!ビーム砲が……しかし!】

「外れた!づっ!?」 

 

 そのうえ私は地上で戦うのは初めてだ。ガンダムがベタベタと歩く感じに慣れない。

 コロニーで初めてザクと戦った時の感覚とぜんぜん違う。これが地球の重力?

 ガンダムがめちゃくちゃ重く感じる。地面がデコボコなせいで歩きにくいのもあるかもしれない。

 

 このザクは地上の戦いに慣れているんだろう。私と全然動きが違う。

 武器も動きも普通のザクと大差ないのに私は圧倒されている。

 

「あっ……!」

 

 普通のザクが近づき、バズーカ砲を足元に撃った。爆発のせいで足元が不安定になり尻餅をつく。

 体に嫌な浮遊感を覚え、カメラの目線がどんどん下がる。

 

「っ!……ぅぐ!!……」

 

 どぉぉん。と大きな衝撃がコクピットに伝わる。カメラの映像が一瞬乱れる。

 コクピットの前の機械が黄色や赤のよくわからないメッセージを表示させ、警告音がなる。

 というより、凄くお尻が痛い。地球で倒れるとこんなにパイロットに負担がかかるの?

 

『アムロ、大丈夫!?早く起き上がりなさい!』

「ってて……セイラさん。私は大丈夫……」

【ベイカー!ジャック!白い奴に集中砲火を浴びせろ!】

【了解!】

「!……っ!!」

 

 ガンダムのカメラがこちらに向けられた銃口を検知し、大きな警報音を鳴らす。

 前方のカメラが左右に矢印を表示させ、それを見るとザク2機が私にマシンガンを向けていた。

 私は息を呑み、目をつむりながら操縦桿を思い切り引き、ペダルを踏み込んだ。

 

「っぐぅ……ぁあ!!」

 

 ガンダムが背中と足の推進力で地面を滑る。私はそれを感じ目を開け、操縦桿を横に広げる。

 ガンダムの上半身が起き上がり、足が地面から離れる。つまり、飛んだ。

 

「ひぇ……!?」

 

 高度は一気に上昇し、ホワイトベースのはるか上に到達する。

 ご丁寧に前のモニターに現在の高度が表示された。高度400、メートルかフィートかは知らない。

 ガンダムの首を動かして下を見ると、小さく見えるザクたちが一斉に上を向いてあ然としていた。

 

【あ、あぁ……モビルスーツが……と、飛んだぁ!】

 

 マシンガンを構える様子もなく、ただじっと見ている。

 これはチャンス?

 

「狙える!」

 

 私はライフルを構えて、手頃なザクを狙い引き金を引く。

 宇宙で聞いた音とは違い、クリアなビームライフルの発射音がお腹に響いた。

 ピンク色のビームはザクの頭を貫き、地面に突き刺さる。

 

 頭が無くなり、火を吹いたザクは地面に崩れ落ちた。

 

「一人!」

 

 高度が300程度に落ちる。私はガンダムの体を反らし、もう一度ペダルを思い切り踏む。

 ガンダムがジェットを吹き、再度上昇し始める。カラダが押し付けられて不快感を覚えるが気にしてられない。

 現在の高度は500。カメラをズームさせたらザクが見える程度の高度だ。

 

「自由落下……!全然自由じゃない!」

 

 ジェットを切ったら急降下を始めるので、ペダルを若干踏み高度を調整する。

 ライフルを構えながら飛ぶのがこんなに難しいなんて。

 私はブレる照準を歯を食いしばって調整し、もう1機のザクを狙い、撃った。

 上半身を反らしてマシンガンを撃っていたザクの胸を貫き、大爆発を起こす。

 その爆発は、近くのバズーカ砲を持ったザクを巻き込み、バズーカ砲が誘爆したのか更に大きな爆発を起こした。

 

「二人!」

 

 爆発が収まると、頭と足を失ったザクが横たわっていた。ガンキャノンがそのザクの胸を踏みつける。

 爆発にたじろいでいるザクたちをガンタンクが大砲で撃ち抜く。ハヤトくん凄い。

 ガンキャノンは踏みつけている状態でビームライフルを使い、縦に並んでいたザクを貫いた。

 

 これで6機壊した!あと5機……!

 

「次は……!」

【白い奴を視認。敵視認不可高度を突破。発見されたかと思われる】

【ゲラートよりブルーリーダーへ。作戦B、自己防衛。迎撃せよ】

【了解。ブルーリーダー攻撃します】

「うわっ!?」

 

 突然目の前が爆発し、ガンダムの姿勢が崩れる。攻撃された方向を見ると峡谷の外からザクが3機こちらを狙っていた。

 あんなに遠い所からマシンガンを当てる。あのザクは普通のザクじゃない……。

 なんて考えてる場合じゃない!落ちる!!

 

「ちょ!やばっ!」

 

 ガンダムが頭から真っ逆さまに地面に落ちる。私は操縦桿を引いてガンダムの体を起こし、

 ジェットを噴射して宙返りさせる。これでガンダムは足から地面に降りることができる。

 落下地点を選んでいる余裕はない。私はすぐさま背中のジェットを全力で吹かし、落下速度を落とす。

 

「う……!?」

 

 落下地点を見下ろすと、そこには何かザクとはちょっと違うザクみたいなやつがバズーカを構えていた。

 それも3機。しっかりとこちらを狙っている。

 

【オペレーションB発動、迎撃に移る。マット!】

【了解、ちまちま見張るよりこっちのほうが!レッドチーム構え!】

「新しいザク……!っ……空中ってこんなに……!」

 

 動きにくいものなのか……!ガンダムの右腕が姿勢制御するために上手く動かない。

 それでも何とか体制を立て直し、操縦桿を握り込み、何とか盾を前に構える。

 高度はもう見るまでもない。モニターの下部分はもう地面だ。

 足を踏ん張り、舌を噛まないように歯を食いしばった。

 

「っ!」

 

 ガンダムがいつもの足音よりも重い足音を鳴らし、地面に着陸する。

 その瞬間、ザクとは違うザクみたいな機体3機がバズーカを発射した。

 しかしその3発は構えていたシールドに全部命中する。

 

 砲弾が爆発し、ガンダムが大きく後ろにのけぞる。壊れたところはない。

 しかしコクピットの揺れはかなりのものだ。

 

「……!!衝撃……っつぅ……!」

【シールドに救われ……!?この化物……機体本体のダメージ確認できず!】

「よっ……くもぉ!!」

 

 足を踏ん張り、ビームライフルを構え、3機のザクの右側に向けて撃つ。

 ビームのピンク色の線が黄土色のザクを貫き、ゆっくりと倒れる。

 多分コクピットがあるであろう胸を狙いそこを正確に射抜いた。二度と起き上がることはないだろう。

 

【コックピットを……!?一撃で……!】

【レッド2ダウン、レッド3ついて】

「逃さない!」

 

 このザクたちも普通のザクと変わらない、むしろ遅く感じる。

 それにパイロットもガンダムを知らないらしく、仲間が倒れると盾を構えて逃げる。

 今のうちにもう1機撃破できる。そう思いビームライフルをもう一発放つ。

 撃った弾は盾を貫き、腕をも貫き、更にザク本体すら貫通した。

 

【レッド3もやられた!少尉殿!援護頼む!】

「4機目……次……!」

【マット!!】

 

 その時、私の頭の中で何か嫌な予感を感じ取った。

 とっさに射撃をやめ、盾を予感がする方向に向けて構える。

 瞬間、盾から伝わる凄まじい衝撃が私を襲う。

 

「わっぁぁあ!?」

 

 衝撃を受けた私はそのまま谷底へ落下する。

 カメラに映ったのは赤いザク。肩のトゲアタックではなく蹴りを受けたらしい。

 吹き飛ばされたガンダムはガンキャノンとガンタンクのところに向かい、体勢を整える。

 

「やっぱりシャア……!どこに隠れてたの……!?」

【赤いザク!……シャア・アズナブル少佐!】

【フェンリル隊か、キシリア閣下の】

【はっ!レッドリーダー、マット・オースティン軍曹であります!】

 

 見下ろすシャアのザクは私達に向けて片手でマシンガンを撃ち続ける。

 しかもよそ見をしている。それなのにこの命中率……!?盾を外したら蜂の巣になってしまう。

 

【ガルマ、フェンリル隊を一時的に私の指揮下へ置く。モビルスーツを叩くぞ】

【シャア!了解した!既に赤い奴とタンクもどきは残弾尽きている!残りは白い奴を鹵獲する!】

 

 盾でマシンガンを受けながら周囲を見渡す。

 カイさんとリュウさん、それにハヤトくんが頑張ったお陰か、緑色のザクは全滅していた。

 しかしカイさんのガンキャノンは左足がどっか行ってしまってコクピットが開いてカイさんは脱出。

 ガンタンクはキャタピラが吹き飛び、これもコクピットが開いており同じように脱出していた。

 

「私だけ……!」

『アムロ!ようやく無線が繋がった……!カイとリュウたちは既に機体を放棄して脱出しているわ!』

「セイラさん!皆は大丈夫なんですか!?」

『無事よ!連中は私達を拿捕するつもりです!アムロ、何とか持ちこたえられる!?』

「無理とはいいません……でもっ!残りのザクの数は!?」

 

 目で見る限り、シャアのザク、変な色のバルカン付きザク、妙な色のバズーカ砲ザクがいる。

 しかし空を飛んでいたガンダムを撃ち落としたザク3機も残っている。これはかなり……マズイかもしれない。

 ガンダムのダメージはないけど、ビームライフルのエネルギもそろそろマズイ領域に入っている。

 

『ザクは6機……援軍を出すにしてもMS用の残弾がもう0なのよ!』

「無茶を……!ホワイトベースからの援護射撃をお願いします!」

 

 ホワイトベースとの距離は離れている。しかし遠目から見ても分かる程ホワイトベースはボロボロだ。

 ビーム砲と機銃くらいしか撃てなさそう……。そのうえガンダムも弾が少ない。

 状況は絶望的なのかもしれない。念のため私は左手にビームサーベルを持つ。こうなったらヤケだ。

 全部の武器を使って、それでも駄目ならホワイトベースからバズーカをもらう。

 

 それでも駄目なら殴って蹴って……それでも駄目ならコアファイターで脱出するっきゃ無い。

 

【ル・ローア、ブルーチーム攻撃準備完了】

【ル・ローア隊は援護射撃、マット、ガルマ。仕掛けるぞ!】

「っ……来る!!」

『主砲開け!メガ粒子砲チャージ!自由射撃!!』

 

 シャアのザクが谷に降りる。ザクっぽくないバズーカザクも谷に降りた。

 私はライフルを構え、バズーカを持ったザクに銃口を向ける。

 腹をくくらないといけない。

 

「まずはアンタ…!!」

 

 引き金を引こうとした瞬間、突然目の前が真っ白になった。

 

 

 ★

 

 

「白い奴、こうも持つか」

 

 ゲラート・シュマイザー率いるフェンリル隊の指揮権を一時的に受け取り、

 白い奴に集中砲火をかけるも撃破には至らない。

 これまでの戦闘でいくら集中砲火を浴びせても奴の撃破は不可能であることは承知している。

 口径、貫通力を強化した強化型ザクマシンガンでやっと若干の効果が見られる程度だ。

 

『ブルーリーダー、ル・ローア機。スモークグレネードを投擲します』

「了解した。ガルマ、スモーク投擲後、奴にヒートホークを叩き込め。マット軍曹」

『はっ!』

「貴様のパッシブソナーのデータをガルマ機と私に送れ、奴の動きを把握したい」

『了解しました。データを送信しますぜ』

 

 陸戦型のザクⅠ。マット軍曹と峡谷上のJ型、隊長名は確かル・ローアだったか。

 奴らのザクにはキシリアの特務部隊が試作した新型のセンサーを装備している。

 間もなくして、峡谷上からスモークグレネードが投下され、白い奴を包み込む。

 

【何これ!?霧……え!?何も見えない……!ホワイトベース!ホワイトベース!!】

 

 ザクのレーダー表示が、マット軍曹のはソナーの表示に切り替わる。

 通常のレーダーやセンサー表示とは違い、かなり広域な情報を記している。

 

「ほう……ガルマ、見えるな!」

『ああ!同士討ちを避けるため、フェンリル隊は手を出すな!』

『了解、木馬への牽制射撃を開始します。マット、残弾は』

『一発しか撃っちゃいませんぜ、こっちは大佐らの目玉役だ、射撃支援のみ行う!』 

「仕掛けるぞ!」

 

 私はスラスターを吹かし、ヒートホークを装備してスモークの中に突っ込む。

 センサー内では白いやつがもがくように動いているようだ。

 モビルスーツ用のスモークは赤燐を多く含んでおり、通常のセンサーや赤外線カメラでは視認が不可能だ。

 足音や駆動音を検知するソナーを装備しているモビルスーツでやっと行動が可能なほどに濃い色の煙を発する。

 

『見つけた!』

「仕掛けろ!」

『ああ!』

 

 ガルマが先に視認した。奴は白いやつの土手腹にタックルを仕掛けたらしく、一気に岸壁に白いやつを叩き付ける。

 スモークが晴れ、私はガルマのザクを視認する。

 白い奴を叩きつけたガルマのザクのスパイクショルダーは大きく凹み、その衝撃の凄まじさを物語る。

 肝心の白い奴は、コクピットの装甲に巨大な亀裂が走り、岸壁に叩きつけられたまま動かない。

 

『シャア!』

「君の手柄だ。好きにするがいい」

『何!』

「エースのタックルをコクピットにまともに受けたのだ。最早再起は不可能だよ」

 

 白い奴のアイカメラは消え、武器を手放している。完全に機能を停止したようだ。

 

『……済まないシャア、君の作戦だと言うのに』

「指揮官は君さ、そのモビルスーツを手土産に君の名を上げるといい」

『……今は言葉に甘えよう。今は……』

 

 ガルマはそう言って白いやつの肩を触る。接触回線で投降を呼びかけるようだ。

 相変わらずの人情派。悪く言えば甘ちゃんだ。

 

『聞こえるか!連邦軍のパイロット!』

【……声……通信……応えなきゃ……】

『……は、はい…………』

『何……!?』

 

 ガルマは驚いたような声を出す。

 

「どうした、ガルマ」

『……子供だ、シャア!白い奴のパイロットは子供……しかも女の子……!』

「何っ!?」

 

 子供だと?何故子供がモビルスーツに乗っている。

 しかも少女……まさか私は今まで少女相手に苦戦していたというのか。

 

「通信を繋げ!」

『分かった!……君!無事ならコクピットを開けろ!救出する!』

『……あなたは……?』

 

 ガルマが私に通信回線を繋ぐ。フェンリル隊の連中には聞こえないように設定しているようだ。

 そして、たしかに白いモビルスーツのパイロットの声が耳に届いた。

 か細く弱った少女の声……ガルマの言うことは本当のようだ。

 

 私はモノアイを動かし、フェンリル隊の戦況を確認する。

 既にル・ローア少尉のザクⅡ2機が破壊され、ル・ローア少尉自体も被弾している。

 彼らの戦略は大したものだが、いかんせん想定外の事態に弱いらしい。

 ザク2機で木馬の撃沈は不可能だ。

 

「フェンリル隊、戦線を離脱しろ。隊長機2機を失うわけにはいかん」

『っ……了解!マット!動けるか!』

『問題ありません!シャア少佐はどうなさるおつもりで!?』

「白い奴の無力化には成功した。連邦軍が降伏勧告を受け入れる場合は我々も退く、受け入れぬ場合は私が責任を持って木馬を沈めよう」

『はっ。フェンリル隊は指定ポイントまで後退、アズナブル少佐、指揮権をシュマイザー少佐へ返還願います』

「了解した。ご苦労だった」

 

 損傷した陸戦型ザクⅠも立ち上がり、木馬への攻撃を中止。

 J型のザクがその場でスモークを展開し、2機のザクは戦線を離脱した。

 

「新型センサーを4台も失うとは、キシリア閣下が知れば大目玉だ」

『シャア』

「何か」

『パイロットが気絶した。どうにかパイロットの保護には成功したが……やはり彼女は』

 

 ガルマのザクの手の平の上には白いノーマルスーツを身に着けた少女が横たわっていた。

 ヘルメットのバイザーが割れ、荒い呼吸を繰り返している。

 この様な少女が白いモビルスーツを巧みに操り、更に我々の部隊を壊滅状態に追い込んだというのか。

 信じられん

 

「小さいな……パイロットは手に入れた。木馬に降伏勧告をしろ」

『分かった、無線をオープンにする、周囲警戒を頼む』

「了解した」

 

 ……白いモビルスーツを駆る少女。奴はまさか、

 ララァ・スンと同じか……。

 

 

 

 ★

 

 

 

「ガンダム沈黙!パイロット反応なし!!」

「アムロ……!!」

 

 機銃弾の残弾が尽き、メガ粒子砲を放つには危険すぎる位置。

 更にアムロのガンダムはオレンジ色の隊長機のザクに無力化され、

 シャアがこちらを狙っているような事態。

 

 最早万策が尽き、援軍も望めないような状態だ。

 艦長席に座る私は息が荒くなり、握りしめる手の平には血が滲んでいた。

 赤いザク、シャア・アズナブル。あのシャア・アズナブルが私の目の前で銃を向けている。

 そして、アムロのガンダムが力なく横たわり、コクピットをこじ開けられ、ザクの手に倒れる。

 

『セイラ!アムロを何とか助けてやれんのか!!』

「テム大尉……!」

『頼む……!ガンダムを交換条件にしても構わん!アムロを!!』

「……」

『セイラさん!なんでもいい!ガンキャノンを出させろ!』

『セイラさん!』

「セイラ!」

 

 ……決して軽い気持ちで艦長席に座ったわけではない。

 現にガンダムが飛び、ザクを連続で10機近く撃墜した時は確実に優勢だった。

 しかし、峡谷上からの増援、更にシャア・アズナブルがガンダムに襲いかかった瞬間、

 流れが完全にジオンへと向いてしまったのだ。

 

 慢心か、指揮能力の差か、それは分からない。

 何であれ現実は弾薬もモビルスーツも完全に失った方舟で、私は決断を迫られているのだ。

 

『連邦軍の戦艦に告ぐ!私はジオン公国軍司令官、ガルマ・ザビ大佐だ!』

 

 敵の声が艦内に響く。あのオレンジ色のザクから見覚えのある髪色の男性が現れた。

 ガルマ・ザビ。ザビ家の末弟……。

 

「ガルマ・ザビ……」

 

 ザビ家の男。私の目の前のザクの男は……ザビ家の男……!

 

『連邦軍のモビルスーツはご覧のとおり我々が無力化した、機関を停止し投降せよ!』

「……」

『投降に応じなければ貴艦を撃沈する!』

 

 ガルマ・ザビは艦長代理である私に話しかけているのだろう。

 私は思わず望遠カメラに映し出されたアムロの姿を見る。

 力なく横たわり、ピクリとも動かないアムロ。

 

「アムロ……」

「セイラ、もう……」

 

 私は頭を下げ、通信機のマイクのスイッチを押す。

 そして、鉛のように重たい空気を吸い、降伏する旨を伝えようと口を開く。

 その時、

 

「こちらは、地球連邦軍指揮官、ブライト・ノア。貴官の降伏勧告に感謝します」

 

 シート横に備えられていた直通回線を巧みに操作し、制服を身に着けた見慣れた男性。

 ブライト・ノア艦長が私の隣に立っていた。

 頭を抱え、涙をこぼす私の肩を叩き、優しい目を向けると、続ける。 

 

『既にモビルスーツのパイロットを確保している。最早貴艦に戦闘継続の余力はない!』

「我々の目的はパイロットではない。ガルマ・ザビ。我々にはパイロットごと貴機を撃ち抜く覚悟がある」

『何!?』

「ブライト!!」

「メガ粒子砲、ガルマ・ザビのザクへ照準合わせ!」

 

 ブライトがブリッジからメガ粒子砲の砲手へ指示を出す。

 右舷に展開されたメガ粒子砲の駆動音が響き、オレンジ色のザクがそれを確認し、一瞬怯む。

 

『……降伏に応じぬのなら貴官を撃沈する!!』

「好きにするといい!徹底抗戦の意志を我々は示す!」

『女子供を戦わせる非道者が何故我々に武を示すか!寝言をほざくな!』

「独裁を目論む者共が情を口にするなど!!」

 

【構わんシャア!やれ!!】

【……ガルマ、交渉に時間をかけすぎたようだ。レーダーを確認しろ】

【な……!?】

 

 オスカがレーダー画面を指差す。東方面、我々の後方から先日のドップ編隊に匹敵する量のデプロック爆撃機の反応が見えた。

 更にその後方にはミデア輸送機が5機……。援軍だ。間違いない。援軍が私達にやってきた。

 

 ブライトはそれを知っていた……?違う、ブライトは援軍が到着することを知らなかった。

 という事はまさか、ブライトはメガ粒子砲と主砲だけでシャアを撃墜するつもりだった……?

 

「ガルマ・ザビ大佐、私から逆に勧告する。パイロットを下ろし投降せよ」

『……ぐ……!!』

「パイロットを下ろせと言った!!」

『ええい……!!』

【ガルマ!撤退するぞ!パイロットは連れて行く!】

【……了解……!!】

 

 ガルマ・ザビのザクとシャアのザクはアムロを連れて撤退する。

 その撤退速度は凄まじいもので、2機とも地上での撤退方法を熟知しているようだった。

 しかし、敵は退け、ガンダムとガンキャノンを守ることが出来たが、アムロが捕虜となってしまった。

 

 それを実感した瞬間、足元がまるで崩れ落ちるかのように私は床に膝を落としてしまう。

 息が荒くなり、絞り出すかのように帰ってくるはずがないアムロの名前を呼び続ける。

 

「アムロ……アムロ……!!!」

「セイラさん」

「アムロ……!撤退させたら良かったのよ……私のせい…私のせいで…!!」

 

 遠ざかる赤いザクとガルマ・ザビのザク。

 そして上空を通過し、私達を誘導するミデア。

 今の私はアムロを連れ去ったシャア・アズナブルへの怒りと、アムロをホワイトベースに返すことが出来なかった悔しさで胸が潰れそうになっていた。

 

(キャスバル兄さん……!!貴方がシャアなら……アムロを返して!)

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「…………う……気持ち悪い……」

 

 ……目を開けると……

 

「目が覚めたかな?」

「……誰?……動けないん、ですけど……」

「暴れないように縛っているのだよ」

 

 なんか、すごい格好した人が立っていた。

 しかも私、無機質な部屋で縛られている。

 

「……シャア……」

 

 無意識のうちに、私はその名前を、凄い仮面した人に言った。

 

「やはり、私を知っているか」

「…………なんか、それっぽい感じの人だなって……」

 

 頭がぼんやりする。耳元でゴーゴーと音が鳴っていて、すべての声が響いて聞こえる。

 それに目が霞み、そのシャアの訳わかんないヘルメットに仮面という趣味が悪いにも程がある顔もよく見えない。

 この人がシャアだっていうのは直感でわかった。何となく、アムロじゃない私の記憶で見たことある顔だった。

 

「……」

「君と少し話したい」

 

 ……私は頷いた。世間話か、尋問かわからないけど。

 目が覚めるまでの記憶すら曖昧だ。本物かどうかもわからないシャアと話せばいずれ頭もはっきりするはず。

 そう思い、私は口を開いた。

 

「わかりました……シャア…………えと……」

「アズナブル」

「シャア・アズナブルさん……私は……アムロ。アムロ・レイです」

「フッ。アムロ・レイか」

 

 シャアは口角を上げ、表情の見えない顔で笑った。

 

 

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・フェンリル隊、ガルマと合流
・ザク10機撃破
・ガンキャノン、ガンタンク残弾0
・ホワイトベース機銃、残弾なし
・フェンリル隊僚機壊滅、隊長機2機がシャア、ガルマと合流
・フェンリル隊指揮権、一時的にシャアへ委任

・ガンダム無力化、アムロ、ジオンの捕虜となりガルマのガウ攻撃空母へ。
・ガンダム回収、ホワイトベース補給と修理を受ける。


ガルマ編、後半に突入します


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ガルマの葛藤

「アムロ・レイ、君はいくつかな?」

「……15歳」

「若いな。少年兵というわけではないようだが」

 

 無機質で、薄暗い、そんでもって妙に広い部屋……。

 その真中にパイプ椅子か何だかよくわからない変な椅子に座っている。

 めちゃくちゃ頑丈な針金みたいな拘束具に縛られながら。

 

「私は兵士じゃない……」

「ほう、兵士じゃない。ならば何だ」

 

 シャア・……なんだっけ?アズナ、何とかさんは私の周りを歩き回る。

 彼のコスプレに両足突っ込んでる軍服……まぁホワイトベースも大概だけど。

 真っ白な靴の音が私の両耳を刺激し、妙な嫌悪感を覚える。

 

「あのモビルスーツのパイロット……です」

「元は……恐らくサイド7だな?避難民という事か」

「……ええ。ザクが暴れたせいであれに乗った」

 

「らしいです」という言葉を飲み込む。ガンダムに乗るまでの記憶はぼんやりしている。

 しかし、シャアに私が(アムロ)じゃない事を悟られたらめんどくさいことになってしまう。

 ……かもしれない。もしかしたら理解してくれるかもしれないけど、シャアは敵だ。

 

「なるほど。たしかに君は不幸な避難民のようだ」

「……物分りが良いんですね、シャアって」

「君が私にどういうイメージを持っているのかは知らないが、避難民に同情くらいはするよ」

「……やめてください。不愉快です」

「手厳しいな、つい先程まで殺し合っていた人間が同情するのは不愉快かな?」

 

 シャアはそう言って、部屋の端の小さな机にある紙を手に取る。

 シャアという人間、話せば話すほど訳がわからない人間……。

 仮面にヘルメット、真っ赤な軍服に、白い靴。

 素顔を決して見せず、気取ったような喋り方で私に寄り添う姿勢……。

 

 いつの間にかぼんやりしていた頭の中がはっきりし始める。

 シャアという男の、不信感で。

 

「あなたは何なの?」

「ジオン軍佐官シャア・アズナブル少佐だ。それ以上の存在ではない」

「っ……そうじゃなくて……」

「……不愉快なのは分かるよ、敵が接近して、嫌悪感を覚えないなどあり得ん事だ」

「……!?」

 

 そう言ってシャアはヘルメットを外し、目の……何かを取る。何これ仮面?

 そんな訳わからない仮面を取った瞬間、私は目を見開き、息を呑んだ。

 金髪、そして澄んだ青い目。この髪とこの目。似てる。

 セイラさんにそっくりだ。目の色までそっくりだ。

 

 セイラさん似のシャアは私の目の前で片膝を付き、その青く澄んだ目を私に向ける。

 

「……何ですか」

「捕虜と言ってもこれでは晒し者だ。君とは礼を尽くして話したい」

「……ならこれ、外して下さい」

「そうしよう……監視官」

『は……はっ!』

 

 天井近くの壁からマイク越しの声が響く。壁の向こうから監視されていたのか。

 アホ面晒して寝てたのもバッチリ見られてたのかな……。

 

「カメラとマイクを切れ」

『は……?』

「切れと言った」

『しかし……』

「彼女に礼儀の話をしたのだよ、記録は私が取る。君は待機しておきたまえ」

『は……はぁ……了解しました』

 

 そう言うとシャアは天井を見る。小さなカメラが引っ込むのが見えた。

 それを確認するとシャアはにやりと笑い、私に顔を向ける。

 赤い軍服のベルトの小物入れみたいな小さな部分から、何だかハイテクな鍵を見せる。

 

「……逃げるか?」

「逃げたらどうするんです?」

「南極条約に従い、君を処刑する」

「なら逃げません……」

「いい子だ」

 

 私がそう言うと、シャアは私の後ろに回り、両手首の金具の繋ぎ目に鍵を入れる。

 鍵がピピッと機械音を鳴らし、私の手首は自由となった。

 思わず私は手をばっと前に回し、手を開いたり閉じたりする。私の手は無事だ。

 ガンダムの操縦桿を握っていた細い手は、まだ動かせる。

 

 続いて足の拘束具も外された。

 

「……っ……」

 

 椅子に繋がれた足を伸ばし、ゆっくりと固まった足を動かし、私はシャアの前に立つ。

 動かしにくいが、走れないほどではない……しかし私は、走る気にはなれない。

 走ったら殺されるし、いくらなんでもここで逃げるのは失礼だ。

 

「……」

「あどけない顔をしている、とても人を殺した人間には見えんな」

「?」

 

 シャアは咳払いをし、私を見下ろす。

 ……背、高いな……この人。

 

「あの……?」

「セイラ・マス」

「っ!?」

「彼女は生きているかな?」

 

 セイラさんの名前を、知っている。

 同じ髪色、同じ瞳の色の二人。そしてあのコロニーで出会った二人。

 

「あなたは……」

「彼女の安否を知りたい、質問に答えて欲しい。頼み過ぎではないはずだ」

「っ……セイラさんは、生きています……今も、ホ……戦艦で」

「戦艦。か」

 

 シャアは安心したような、落胆したような、複雑な表情を見せる。

 そして少し息を吐き、もう一度私を見た。

 

「アムロ、と言ったね?」

「は、はい」

「君は何故、あの時私の名前を言った?」

「あの時って……」

 

 ここに連れてこられるずっと前からじゃんじゃんシャアの名前を言ったけど。

 ……多分、初めてシャアを見て、見るや否やガンダムで殴りかかったあの時だ。

 

「……あの時は……その……」

 

 言えない。声がシャアだったから、なんて。

 

「ちょ、直感……です……シャアっぽかったし……赤いし」

「直感で、人を潰せると?」

「じょ、女性を蹴ったんです!そりゃあ……その……」

「苦しいな、君は嘘をついている」

「うっ……で、でも、直感でしかないですよ……何でって言われても、何となくです」

「……」

「ぅ……っ」

 

 何となく。これも嘘だ。シャアはそれを多分見抜いている。

 目がそう言ってる。人を見下す目、思わずその目に私はたじろぐ。

 怒っている目ではない、しかし、その瞳の奥に渦巻く何かを私は感じ取れた。

 憎しみ……。怒りよりも深い何かをシャアは宿している。

 

「……」

「……しゃ……シャア……さ、さん……」

「まあいい。セイラの行方を答えてくれただけでも感謝しよう」

 

 シャアは微笑む。

 

『シャア!』

「ガルマ、来たか」

『ああ、監視は遠ざけた。彼女はどうだ』

「拘束具を外した。自白剤の投与も必要ないようだ」

『そうか……君、入るぞ』

「え?あ、は、はい」

 

 鋭いが、それでも何だか頼りなさげな声の人が私に声をかける。

 すると間もなくして、私の目の前にあるおもそうな扉が開き、その人物が見える。

 紫色の髪の毛、シャアとは違うまともな軍服、それと自信に満ち溢れた顔。

 ……やっぱり何だか、変わった人だ。ジオンって皆こんな感じなのかな?

 

「ガルマ本人が尋問かな?」

「表向きではな。君、名前は?」

「アムロ・レイ……です」

「アムロ……珍しい名前だ」

 

 そう言ってシャアの知り合いの軍人は襟を正し、髪をいじってから私に向き合う。 

 シャアと背丈はほぼ同じ、少し低いくらいか。年齢も同じくらいだろう。

 

「ジオン公国軍大佐、ガルマ・ザビだ、ザビ家の末弟だよ」

「……?あ、はい……よろしく……です」

 

 そう言って、ガルマって人は握手を求める。私もそれに応え、握手をした。

 ……末弟……って言われても…………誰さん? 

 

「えと……その……失礼ですけど……有名人……なんですか?」

 

 私は申し訳ない顔をして首をかしげる。

 するとシャア、それにガルマって人も目を丸くして顔を見合わせた。

 え、この世の常識……?

 

 私はアムロの記憶を手繰り寄せて考えるが、身近なことじゃないのは間違いない。

 ザビ家はアムロ曰く、ジオンの国で一番偉い人の一族、らしい。

 

「……ほぉ」

「ザビ家を知らない……?」

「……」

 

 ……何だか不穏な雰囲気だ。

 

「アムロ」

「え、はい」

「月に都市があることを知っているか?」

「…………あ、あ!知って」

「知らんようだ」

「ぅ……」

 

 私は目を伏せる。知らないものは仕方がない。では済まされないみたいだ。

 世の常識を、記憶を巡らせないと思い出せない。月は父さんも行った場所……。

 名前は、グラナダとフォン・ブラウン……。言われたら思い出すが、言われないと思い出せない。

 

 私の様子を見てシャアとガルマは顔を合わせる。

 

「どういう事だ?シャア」

「記憶喪失の類にしては様子がおかしい」

「おかしい?」

「アムロ・レイ」

 

 私はシャアを見る。

 

「君は記憶喪失ではない」

「……はい」

「しかし人として、何の手段を用いずに入手できる情報を知らない」

「……」

「妙だな、モビルスーツはテクノロジーの塊だ。それを「本当に」何も知らない少女が乗り回し、ザクを破壊する。少し出来すぎた話じゃあないか?」

 

 シャアは私の目を見て尋ねる。威圧するつもりはないだろうが、それでも恐ろしい。

 しかし、かなり私としてピンチなのかもしれない。シャアに悟られてしまっている。

 私がアムロでない事を。

 

「しかも君は何も知らないわけではない。現に君はサイド7で私を赤だけをヒントに名前を探り当てたのだ。しかしザビ家を知らない。ザビ家を知らないというのに私の名を知っている。君の過去を詮索するつもりはないが、とぼけている様子も無く、記憶喪失でもない。君は」

「あ……あぁ……ぅ……でも……私……本当に……」

 

「よせ、シャア」

「ガルマ?」

「重要なのはこの子の素性じゃない。子供の感性だ」

 

 ガルマさんはシャアを諭してくれた。

 内心ホッとしたが、子供の感性が大事ってどういう事だろう……。

 訳のわからない言葉に、私は身構えてしまった。

 

「あ、あの……ガルマさん……」

「アムロさん。今、地球とジオンが戦争していることを知っているか?」

「……え、えぇ。詳細は……しりませんけど……」

 

 目に溜まった涙を拭い、私はガルマさんの言葉に耳を傾ける。

 

「……スペースコロニーの一つ、サイド3が一つの国家となるための戦争だ」

「独立の戦争……?」

「地球連邦側が独立させないと言うから、こうなっている」

 

 地球対スペースコロニーの一つ。スペースコロニーのサイド3が地球から独立して国を名乗る。

 サイド7みたいなところを地球が管理して、それが嫌だから独立する。

 って事?

 

「……地球と宇宙の戦い……」

「宇宙の一つ、それも小さな国家のイチかバチかの賭けだ」

 

 ガルマさんは自嘲気味にそう言う。

 

「……この馬鹿げた賭けは、我々ザビ家が仕向けたものだ」

「ガルマさん?」

 

 ギリッ……と大きな歯ぎしりが聞こえた。

 

「今の地球をどう思う……アムロ・レイ、記憶を失っていないのなら……分かる筈だ」

 

 そう言ってガルマさんは壁のボタンを押し、大きなスクリーンを出す。

 そして、自分の小さなポケットサイズの端末を指で操作し、その画像をスクリーンに出した。

 

「今のニューヤークだ」

 

 ニューヨーク。私が知っているニューヨークはアメリカの大都会。確かタイムズ・スクウェアとかある場所だっけ。

 色々なビルが立ち並んだ、場所で、旅行に行くなら一度は行ってみたい場所でもある。

 自由の女神もニューヨークあるんだっけ?

 

 ……って、ニューヤーク?

 

「これ……が……」

 

 私はそんな事を考えながら、ガルマさんの画像を見た。

 完全に廃墟と化したビル群、潰れた車や崩れ去った建物が立ち並んでいる。

 次に映された画像も同じニューヤーク。スラム街以下の町並み、瓦礫の影に寝泊まりしている子供達。

 死体を妻と思っているのか、明らかに死んでいる女性と共に寝る成人男性などが次々と表示される。

 

「……」

「全て我々がしでかしたことだ」

「……酷い」

「私はザビ家の面汚し……そう言いたいが、ザビ家の長兄はこれを見ても動じない」

 

 シャアは何故かガルマさんのこの姿を見て驚いた顔をしている。

 このガルマさんの気持ちは、他の誰にも打ち明けていないんだろう。

 私はそれを実感し、ガルマさんを真剣な顔で見る。

 

 初めて会って間もない敵の私にこれを伝えるって事は、ガルマさんは今、辛いんだろう。

 居ても立ってもいられない精神状態だったんだと思う。敵でもこの人は人間なんだ。

 

「今日君のモビルスーツを撃墜し、それが初めておかしい事だと気がついた」

「……私を……え……ガルマさんって……」

「そうだ、私があのザクのパイロットだ……」

 

 無意識のうちに私は手を握りしめてしまう。

 しかしすぐにそれを解き、ガルマさんの話を聞く。

 

「子供を手に掛ける……今まで気付かぬうちに何度もそうしてきたんだろう」

「……」

「そうだ。都合のいい男だと思ってくれ!今まで気付かぬふりをしていたんだ!!」

「そして子供の未来をいたずらに奪う連邦軍を改めて許せないと思った!!」

「ザビ家も惨状を見て見ぬふりだ!!私は何を信じればいい!?皆目見当がつかないんだよ!!」

 

 だん!と壁を殴るガルマさん。

 複雑な気分だ。ジオンの偉い人、ザビ家とかいう人が私の前で自嘲し、激昂している。

 私は、ガルマさんがどんな人なのかわからない。でも、この人が今の状況に苦しんでるってことは分かる。

 

「アムロ・レイ!」

「は、はぃっ!」

 

 そんな私をガルマさんは睨むように見る。

 

「……君のこんな話をしても仕方がない、分かっている」

「いえ……その……でも、その気持ちはわかります。私も、人を殺してますから」

「……殺させたのは連邦軍だ。君が気に病む必要はない」

「気に病んでいませんよ、お互い気に病めない環境でしょ?」

 

 私はガルマさんに微笑む。この人は優しすぎる。

 私も別に酷い人間ではないが、このままずるずると悩んだまま過ごしたらこんなご時世死んでしまう。

 現に私は弱すぎて純粋に負けたんだ。このガルマさんに。しかし会ってみればこの人が私見たく弱い人だった。

 敵味方の関係で言えば弱いままでいいけど、こうして話してしまったんだ。死なれるのは気分悪い。

 

 ガルマさんは、歯を食いしばり、私から目を逸らした。

 それに対抗するように私はガルマさんを真っ直ぐ見つめる。

 

「……私は、ジオンに、ザビの為に踊っている破廉恥な男だ……」

「……」

「アムロ、君の船の乗組員は補給を受け、じきにこちらに来る」

「……恐らく、来るでしょう」

「……戻るつもりか?」

「ええ。戻ります。貴方が許せない連邦軍の船に戻ります」

「何故だ?情か!?」

 

 ……この人の気持ちは分かる。でも、それを材料に私を引き止めることは出来ない。

 確かに大勢人が死ぬ戦場だ。子供が苦しみ、大人が狂う戦場だ。

 それでも私は、戦わないといけない。

 

「私はアムロ・レイで、パイロットですから」

「だが!」

「戦わなきゃ皆死ぬんだから……!それに戦争で子供が死ぬのは当然よ!」

「アムロ!」

 

 ガルマさんは顔をこわばらせ、私の肩を掴む。

 その目には涙が溜まっていた。

 

「ガルマもうよせ。この子は肝が座った」

「シャア!!」

 

 シャアがガルマさんを諭す。しかしガルマさんは止まらない。

 食いしばる歯の力が更に強まり、涙が頬を伝うのが見えた。

 

「ジオンを変えたら戦争は終わります!!そうでしょ!?」

「っ……」

「ザビを変えて!ジオンを変えたらいいんですよ!!貴方にはそれが出来るんだから!!」

「その通りだガルマ、君はアムロのせいでザビ家に不信感を持ってしまった」

「……」

「連邦もザビ家も信用できない君は、何を信じる?」

 

 シャアはそう言ってガルマさんの顔を見る。

 

「自分自身……」

「そうだガルマ、そしてジオンを変えるのは今ではない。情に流されて日和るのはいいが、今の目的を果たすのもまた、ジオンを変える一歩だ」

「……だがシャア」

「アムロを「こんな小娘」と言い捨てる勇気がないのなら、君の気持ちは嘘になる。戦争は終わらんよ」

 

 酷っ

 

「……アムロ・レイ。君は私の考えを」

「蹴りました。私は貴方の優しさを受ける権利がない」

「……ならばこちらも、少女ではなく捕虜として扱う……これが君の答えになる」

 

 ガルマさんは目の涙を指で拭い、私をしゃんとした目で見る。

 ……なんと言うか、情に厚い人であって、軍人っぽくない人だ。

 軍人じゃない私が言うのもなんだけど。

 

「シャア」

「ん」

「コイツを営倉に放り込め!!次からは自白剤を許可する!何としても機密を手に入れろ!!」

「了解した。ガルマ大佐殿。南極条約に基づき、捕虜アムロ・レイを拘束する」

 

 シャアはガルマさんに向けて敬礼する。そしてあの変な仮面とヘルメットを身に着け、

 私の両手をさっき私を縛っていたハイテク手錠で縛り付ける。

 ガチッ!と無機質な音が、私の心臓を刺激した。

 

「っ」

「……言ったことを後悔する事はない、しかし覚悟をしなければな」

「……分かってます」

「しかし何故だ?ガルマに何を感じた」

「……別に何も、苦しんでる人に助言しただけです」

 

 私こそ、ガルマさんの言うハレンチな女なのかもしれない。

 敵であるガルマさんに助言して、自分の立ち位置を貶め、私の行動が結局ホワイトベースを苦しめるんだ。

 ……でもあのままガルマさんの言葉を真っ向から信じてたらどうなっていたんだろう。

 もしかしたら私、ジオンに入ってホワイトベースを……。

 

 そう考えていると、シャアは私を押し、大きな部屋から出る。

 廊下を進むが誰もいない。するとシャアは口を開いた。

 

「アムロ・レイ、君は一体何者だ」

「……」

「君であって、君でない。君自身が君を知らない。私にはそう感じる」

「……あなたはあなたを知ってるんですか?」

「私は知っている。私が何者かを……自分で話さんだけだ。知りたいならセイラに聞くといい」

「……分かりました。「戻ったら」聞きます」

「フッ……道を見つけたガルマは今日の戦い以上に強いぞ」

「明日の私達はきっと今日以上に強くなっています」

 

 そう言うとシャアは目の前の緑色の鉄扉を開き、手錠を外して私をそこに放り込んだ。

 思わず私は倒れ伏せ、シャアを睨む。

 

「ガルマは君に感謝するだろう。しかし私達ジオンは君を憎んでいる。拷問に近い仕打ちを覚悟したまえ」

 

 鉄扉が閉まる。鉄格子のシャッターも閉じられ、完全に真っ暗な空間になってしまった。

 周囲にはベッド、むき出しのトイレ、それと洗面台。所謂牢屋だ。 

 いつでもどこでもこのスタイルは変わらないらしい。

 

「……憎んでる……か」

 

 いつの間にか、ジオンに憎まれる存在になってる。

 

「私は敵だから倒してるだけ……ザクは敵だから……アムロの敵だから」

 

 私がアムロじゃなかったら、戦うわけないじゃない……。

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アムロ シャアと対面
・アムロ、シャアとセイラの関係に気づき始める
・シャア、アムロの正体を問い詰める
・ガルマ、戦争自体に疑問を覚える
・アムロ、ジオンの保護を拒否、ガルマを叱責
・ガルマ覚醒、連邦を徹底的にたたきジオンを変えると決意
・シャア、ガルマとの関係を考え直すか直さないか地味に悩む

以上の結果となりました。


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アムロ・レイ脱出せよ

「……」

 

 廊下で、赤い制服を着た少女が私の前に立った。

 フラウ・ボゥ、アムロの幼馴染。サイド7の騒動の時に知り合った女の子。

 しかし、あの時の純粋な目は消え、私を真っ直ぐ見つめるその目はくすんだガラスのようだ。

 

「フラウ・ボゥ……」

「……」

「……」

「あ、アムロは……無事……ですよね……?」

 

 消えそうな声……声が震え、今にも泣き出しそうな声だ。

 アムロは無事。その僅かな希望にすがるフラウの絞り出した質問。

 私は手を握りしめ、その希望を叶えられない自分を悔やむ。

 

「……分からないわ」

「っ……」

「無責任に無事と言えない……そんな状況よ……」

「ジオンに……捕まって……」

「……あなたには……あなた達には……」

 

 私は口を噤んだ。目頭が熱くなり、涙が目に浮かぶ。

 目に浮かんだ涙はそのまま頬を伝い、床に落ちる。

 

「謝っても…………謝り……っ……きれない……!!」

「……セイラさん……」

 

 人前ではもう泣かない。いつの間にかそう決めていたのかもしれない。

 しかし、自分のせいで自分の仲間を危険に晒し、更に大勢の人を悲しませた。

 そして何よりも、仲間の親友が敵に捕まり、その敵の将が、私の兄だなんて。

 

 何でキャスバル兄さんはザビ家の末弟と共にアムロを連れ去ったのか。

 アムロをどうするつもりなのか、もしもアムロが殺されたら……。

 色々な思考が頭を駆け巡り、それが胸を抉るように私を蝕む。

 

「私は、どうすれば……」

「そんな事言わないで下さい……アムロはきっと……!」

「分からないわよ!そんなの……!アムロはジオン軍人を大勢殺したのよ……きっと」

「やめて!そんなの嫌!!」

「……フラウ・ボゥ……何もかも……私が……」

「そんな……」

 

フラウは力なく私に寄りかかり、弱々しく私を叩く。

 

「何で、何でアムロなの……ガンダムに乗らなければアムロは……」

「……どうしたら良かったの……必死でやって……必死で……っ」

 

 人目を憚らず声を上げて泣きつくのは恥だと思っていた。

 少なくとも今日までは……。

 

 

 ★

 

 

 日が落ち、月明かりが損傷したホワイトベースとミデアを照らす。

 艦長としてホワイトベースの修理と補給に立ち会っている俺は改めてホワイトベースを外から見る。

 弾痕や焦げ付き、更にヒートホークの跡など、初めて乗艦した当時の姿からは想像できない程損傷していた。

 ガンダム達の援護がなければとっくに地上で飛べないペガサスとなっていただろう。

 

「ホワイトベースは補給と修理を最優先に。それと、先程オーガスタよりアムロ・レイの救出部隊を派遣させました」

「感謝します。マチルダ・アジャン中尉」

「ええ……彼女が軍人でないのなら……ジオンで何をされているか……」

 

 マチルダ中尉が俺に現時点の修理状況と、アムロの救出部隊のメンバーと作戦の概要を記した書類を渡す。

 陸戦用のモビルスーツ、先行量産型の「陸戦型ジム」と呼ばれる機体で構成された3機編成のモビルスーツ隊だ。

 マット・ヒーリィ少尉率いるモビルスーツ隊……「モビルスーツ適正が非常に高く、敵となる物体は全て破壊する事をモットーとしている」と、備考に書かれている。

 

 本来ならばそんな戦闘狂に我々の主力となる人物を任せることなどもっての外だ。

 しかし今はそれに頼らざるを得ないほど我々は消耗しているのだ。

 俺はマチルダ中尉に書類を返す。

 

「……マチルダ中尉、何故我々は処罰もされずにこうして補給を受けているのですか?」

「……レビル将軍は、こうして戦えているのなら正規軍と同等の扱いだ。と」

「なんと……」

「今は連邦軍もガタガタなんです……我々だって、レビル将軍の一声だけでここまでやってきたのですから」

 

 マチルダ中尉はそう言って空を見上げる。月明かりに照らされる女性は美しいものだ。

 そう思うのもつかの間、中尉は俺を見据え、姿勢を正す。

 

「ブライト少尉はお休みになって下さい。第3特殊部隊は既にアムロ・レイの収容施設を特定しています」

「なっ……一体……」

「彼らの司令官、コーウェン准将からの確定情報です。間違いないでしょう」

「ジョン・コーウェン准将が……我々を?」

「ええ。それにレビル将軍もあなた方を高く評価しています。決してあなた方を見捨てているわけではありません」

 

 マチルダ中尉はそう言うと少し微笑む。

 

「突入は明日です。ホワイトベースにも作戦に参加して頂きます。今は休息なさって下さい」

「……了解しました。修理、補給をよろし」

『アニー!!!どうだ!!!』

『問題なし!コクピット周りの修復は完了!』

『よし、ガンダムは私達に任せなさい!!アニー班はプロトの最終調整だ!!』

『了解!!あんた達もう一頑張りだ!終わったら起床時間ぶっ飛ばしてぐっすり寝るよ!!』 

 

 ホワイトベースのハンガーからスピーカーを通してレイ大尉とアニー上等兵の怒鳴り声が響き渡る。

 女性、アニー上等兵の声を聞いたマチルダ中尉は少し驚いた表情をしてハンガーを見た。

 レイ大尉の独断で乗船させた上等兵。たった数日でレイ大尉の右腕となり、階級関係なく整備兵を指揮している。

 

「……レーチェルの目も中々ね」

 

 そんな彼女の声を聞き、マチルダ中尉は呟いた。

 

「中尉?」

「え、あぁ。失礼しました。艦長はそろそろ」

「了解。では、失礼します」

 

 俺は敬礼し、私室へと向かう。

 通路は既に静まり返り、通路の照明も消灯されている。

 既に時刻は23時を回り、日付が変わりつつあった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 ニューヤーク前市長、エッシェンバッハのパーティ会場。

 廃墟同然のニューヤーク市とは対象的にきらびやかな場所だ。

 ニューヤーク市郊外をジオンが復興させた結果、そこに金を持った連中が集まりこうなったそうだ。

 ガルマの人心掌握能力とジオンの技術力、脅迫能力の賜物というものだ。

 

「公王陛下は何時おいでになられるのですか?」

「まだ決まっておりませんが、近い内には……」

「もしもおいでになられるのでしたら、何卒よしなに……」

 

 ガルマは地球のお偉いさんを上手くあしらっている。これもまた戦争政策の一つとは言え気の毒だ。

 ヘルメットを外した私は、バイザー越しのシャンデリアの光をその目に入れる。

 

「ラ・マニー」

「かしこまりました」

 

 パーティ会場のバーカウンターに立った私はガルマと目が合った。

 するとガルマは微笑み、軽く手を挙げる。

 私もそれに応じると、市の連中に頭を下げ、パーティテーブルにグラスを置く。

 

「……では、失礼」

 

 女性からは黄色い声援を、男性からは金づるを見るような視線を浴びるガルマの顔は心底うんざりした顔をしていた。

 そして私の隣に立つと、舌打ち混じりに私に愚痴をこぼす。

 

「虫の好かん連中だっ……!」

「辛抱しろよ。奴らとて同じ気持ちだ。好きでやる筈がなかろう」

「……」

 

 ガルマは酒を一口含み、気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。

 

「シャア、どうだ。彼女は」

「モビルスーツの名前くらいだ、自白剤が効かない」

「……名前……白いやつの名はガンダムか」

「ああ。木馬はホワイトベースと言うらしいな」

 

 私もグラスを傾けながらガルマの会話に付き合う。

 苛立った様子で連中に背を向けるガルマの会話に付き合った。

 

「しかし、あの自白剤は非常に強力なものだ、隠そうものなら地獄の苦しみを味わう筈」

「看守曰く特に苦しむ様子はなかった、との事だ」

「つまり、包み隠さず話してこれということか……」

「そうらしい、これはきな臭いと思わないか?ガルマ」

 

 不自然に私の名を知る極端な無知。そう言えば辛辣な言葉に聞こえる。

 しかし言い過ぎた言葉であるその言葉を体現するのがアムロ・レイだ。

 グラナダ、フォン・ブラウンの存在はスペースノイドやアースノイド問わず知っていて当然の地形だ。

 教育を受けた子供が北極と南極の名前を忘れる筈がないのと同じだ。

 

「本当の無知……か。しかしそうとは考えにくいんだろう?」

「マインドコントロール、それ以上の何かを感じる」

「モビルスーツを動かすことに特化した人間、という事か」

「連邦が完全なマインドコントロール技術を持っているというのなら彼女を野放しには出来ん」

「しかし、彼女はあのテム・レイの娘だ。君も知っているだろう?」

「知ってはいる。しかし……」

 

 テム・レイの名前は聞いたことがある。あのトレノフ・Y・ミノフスキーの直弟子。

 アナハイム・エレクトロニクス社でもかなりの地位を持つ人間だ。

 ロボット工学や兵器産業、ホビー事業にも力を注いでおり、ミノフスキーの生き写しとも言える工学知識を持つらしい。 

 

「それほど人物の息女をマインドコントロールの実験体にするとは思えないな」

「しかし……それほどの人物が何故こうも無知なのか。それも気になる所だ」

「シャア、もう彼女の素性は気にするな。事実を見ろ」

「……」

「アムロは情報を持っていない。それは紛れもない事実だ。ならこの先どうするかを考えるべきだ」

「ああ、分かっている、で、どうする?」

「ドズル兄さんに報告したよ、事情も含めてな」

 

 ドズル・ザビか、ガルマにしては正しい判断だ。

 ギレンやキシリアに報告していようものなら明日にでもアムロを解放している所だ。

 

「ドズル中将にか」

「ああ、今の本国は連邦に対する憎悪に溢れているそうだ。本国へ返すのは逆に危険との事らしい」

「ではどうする?今の航空駐屯地で引き続き保護するつもりか?」

「それも危険だ、連邦は例のガンダムとかいう機体のパイロットを重要視しているように見える」

「艦長の階級か」

「ああ、あの艦長の階級は中尉だ。通常、艦艇の艦長の階級は佐官が行うのが一般的だろう?」

 

 艦艇の艦長は佐官。海上艦時代からの常識というものだ。しかし人手不足やドレンのような例外で尉官が行う例もある。

 木馬は既に避難民がモビルスーツパイロットをやらねばならないほど人手が不足している。

 故に中尉が艦長をやっているのだろう。その様な状態で貴重なパイロットが生け捕りにされたとなると、どんな手を使ってでも奪還に踏み込む。

 ガルマはそう考えているらしい。

 

「早ければ明日か」

「念の為、付近の部隊を集結させたが、追い詰められた鼠は獅子を戦慄させる」

「なら、今日中に捕虜を移送させるしかあるまい」

「いや、シャア。これはチャンスだ、奴らを峡谷戦よりもきつく釘付けに出来る」

 

 そう言ってガルマはグラスを揺らす。

 

「ほう、敵の作戦を逆手に取るというのか」

「その通りだ、奴をおびき寄せ、中央で完全包囲し一気に叩く」

「できるのか?」

「私とシャアが居るんだ、フェンリル隊が居らずともやれるさ」

「買いかぶり過ぎだよ、しかしやってみる価値はある」

 

 お坊ちゃんらしい安直な作戦だ。敵がそう単純に動くわけでもあるまい。

 しかし、これでガルマの素養を確かめることが出来る。

 私の同志とになるにふさわしい男か、それともそのまま死に絶えるべきザビ家の男か。

 

『イセリナ・エッシェンバッハ様のお見えでこざいます!』

「ん?」

「ちょっと失礼する」

 

 ガルマはそう言って、イセリナという美女の元へと早足で向かった。

 なるほど、功を焦っているのか。彼女はエッシェンバッハ市長の娘だ。

 ジオンを憎む父を裏切り、ガルマの元へ向かうというのなら、ガルマもタダで本国へ帰るわけにも行かない。

 ここで手柄を立て、ジオン本国への手土産としたいのだろう。

 

「戦禍のラブロマンスか、ガルマらしい」

 

 ロマンスの渦中に巻き込まれる兵の身を案ずる事ができぬ辺り、坊やらしいと言える。

 私はイセリナ嬢と談笑しているガルマを尻目に窓の外を見る。

 月は欠けながらも、荒廃した地球を照らしている……。 

 あの日から何度満月を迎えているのだろう、そう考えると私は月から目をそらしてしまう。

 

 ……私はアムロの尋問でガルマの本音を見た。ガルマは他のザビ家の連中とは違う。

 しかしガルマもまたザビ家の人間だ。たとえ友人とは言え、それは変わらぬ事実。

 だがガルマ自身もザビ家に疑問を感じている人間の一人であることもまた事実だ。

 誰が敵で、誰が味方なのか見当がついていない。

 

「ちぃ……」

 

 ザビ家は私の父と母の仇だ。しかしガルマは私の友人。

 しかしガルマもザビ家の男、殺さなければならない、ザビ家の末弟。

 ザビ家を殺すのに躊躇してはならない、そのために私はシャアを名乗っているのだ。

 

「何を躊躇している……」

 

 私はガルマを殺さなければならない。そして、明日の連邦の攻撃がそのチャンスだ。

 ……恨むなら、自分の生まれを呪うがいい。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「隊長、ミデア輸送隊からの緊急出動要請です」

「……」

「……」

 

 隊長はいつも通り何も口を利かない。口は利かないけど資料には目を通す。

 いつも何を考えているのか分からない人だけど、それなりに隊の中では人気がある。

 それに隊長は任務を確実にこなし、書面で見る戦術論は私のオペレート技術向上にも役に立っている。

 

「北米、ニューヤーク郊外の航空基地で捕虜となっている試作モビルスーツパイロットの救助が、今回のミッションです」

「……」

 

 ちゃんと聞いてるのかしら。

 

「本日、ペガサス級揚陸艦ホワイトベースが、ガルマ・ザビ率いるモビルスーツ部隊に襲撃されました。その際の戦闘で、我が軍の試作型モビルスーツ、RX-78-2、ガンダムのパイロットが捕虜となってしまいました」

「……」

 

 RX-78、ガンダム。連邦軍のV作戦で開発された試作型モビルスーツ。

 サイド7が襲撃された事件は私達の耳にも届いていたけれど、無事に地球に降下できたらしい。

 しかし道中にあのガルマ・ザビに襲われるとはついていない。

 

 って、考えてるのか知らないけど、隊長は表情を変えること無く資料を読み続ける。

 

「隊長、聞いてます?」

「……」

 

 頷いた。

 

「……続けます」

「……」

 

 また頷いた。

 

「我々のミッションは、明日0700時に敵基地へ突入、敵部隊を撹乱しつつ発電施設を破壊。更に予備電源を破壊し、基地の機能を完全に停止させる事が、本作戦の第1目標です」

「……」

 

 隊長は私に目を向ける。この目は「第2目標は?」の目だ。何となく分かる。

 喋ったらいいのに……不思議な人……。

 

「第2目標は同時に突入予定の捕虜開放部隊の護衛です。開放部隊は基地機能停止後直ちに突入します。突入するまでの間、開放部隊は無防備です。基地機能停止を急ぐのは当然のことながら、開放部隊の安否も考慮して下さい」

「……」

「捕虜解放後は撤退が許可されてます。追撃部隊の迎撃はホワイトベースのモビルスーツ部隊が請け負うそうです」

 

 私は「今回こそ撤退して下さい」と念を押し、ブリーフィングモニターを閉じる。

 この隊長、目的を達成しても絶対に撤退しない。周囲の敵を完全に叩きのめすまで戦い続ける。

 ラリー少尉とアニッシュ曹長を先に撤退させ、自分だけで戦うこともしばしばある。

 ジオンが憎いのは分かるけれど、別働隊の行動開始を待たせてまで戦い続けるのはどうかと思う。

 

「いいですか?私達は捕虜解放が任務です。敵基地の完全破壊ではありません」

「……」

「頷いてますけど、本当に分かってます……?」

「……」

「何度もいいますけど、今回こそは、撤退許可が出たら撤退して下さい。いいですね?」

「……」

「いいですね!?」

 

 机を叩き、私は隊長を指差す。

 少し隊長は困った顔をして、ため息混じりに頷いた。

 こうやって頷いても、明日にはケロッと忘れて戦い続けてしまう。

 撤退許可ではなく、撤退命令と言えば撤退してくれるのかな……と考えてしまう。

 が、その考えはすぐに消えた。撤退命令でもひとしきり暴れてから帰ってきたことがある。

 

「全く……」

「ノエル、もう諦めろって」

「ラリー少尉!」

 

 隊長の僚機、ライトウィング側のラリー・ラドリー少尉が私を制す。

 彼は隊長に不満を感じていない人間の一人でありながら、私の気持ちを理解してくれる人の一人だ。

 ……そんないい人が近くにいるのにもかかわらず、隊長は彼にすら口を開かない。

 

「隊長はこんな調子だ、何考えてるのかは分からん」

「……」

「だが、隊長は俺達の機体に傷一つ付けることを許さない」

「それは、そう、ですけど」

「まぁ、隊長の機体は毎日傷だらけだが、それでも隊長は帰ってくる。殺戮主義者と言えば響きが悪いが、狙った獲物は逃さない。それが隊長だ」

「……」

 

 たとえ撤退している敵であろうと、攻撃可能な敵ならば容赦なく潰す。

 たとえ相手がガウ攻撃空母で、マシンガンの弾が切れていようと、飛び上がり、ビームサーベルでブリッジを突き刺す。

 

 隊長は敵を倒すためならばどんな手段を用いても目に入った敵を確実に潰す。

 アニッシュ・ロフマン曹長もラリー少尉もまともな軍人だと言うのに、

 何でこの隊長だけがこうなんだろう。

 

「で、では隊長……明日に備えてお休み下さい」

「……」

 

 隊長は頷き、部屋を出た。

 腕は良い、それにモビルスーツ戦術論の書面も文句一つ出ない程の出来。

 その上任務は完璧にこなす人……。それなのに、撤退許可に従わない。

 

「はぁ……何なのかしら、マット少尉って……」

 

 せめて声くらいは聞きたいものだけど……。

 

 

 

 ★

 

 

 

 一体どれだけの時間が経ったんだろう。

 ……と言いたいところだけどはっきり覚えている。まだ1日経っただけだ。

 朝日が昇りきらない空を瞳に映した私は、ベッドから跳ね起きた。

 ガンダムの世界の牢屋も、私の記憶にある牢屋と大して変わらない。

 むき出しの水洗便所に殺風景極まりない部屋、そして分厚い扉。

 

 所謂私が知っている牢屋だ。

 

「……っはぁ……」

 

 取り調べっていうのは名ばかりで、変な薬を注射されて嘘を言えなくされ、

 私の知っていることを根掘り葉掘りと話させられた。あれが自白剤っていうのかな……?

 確かに拷問だ、嘘をつこうとすると妙な吐き気と不快感を覚えて無理やり口から本当の言葉が出る。

 

 ひとしきり全部話したら口の力が抜けて、カクンと意識が途切れてしまう。

 その度に私はバケツの水をぶっかけられて無理やり起こされる。

 取り調べではそれの連続だ。おかげで寝不足、足もむくんで目がドローって感じ。不愉快極まりない。

 

「……お腹空いたなぁ……」

 

 捕まった女は犯されるんじゃないかって心配もあったけど、

 取り調べをする兵士たちはそもそも私に近づきすらしなかった。

 部屋越しに話しかけられ、眠ったらバケツの人が水をかけて帰っていく。

 私を慰み者にするような目ではなく、どいつもこいつも気味の悪い人間を見るような目をしていた。

 

 今日も取り調べが始まるんだろうか……だとしたら今日も眠れないのかもしれない。

 

「……」

 

 牢屋の扉のシャッターが閉まっているせいで看守が居るのかどうかもわからない。

 脱獄することも考えはしたけど、扉も壁も床も鉄製だ。映画みたいな脱出はできない。

 唯一時間を知らせてくれる1時間毎の時報を頼りに私は牢屋ライフ2日目を生き抜こうとしている。

 

『現在、0700』

 

 マルナナマルマル……つまり7時だ。その時報が流れた瞬間。

 

「……っ?」

 

 何かが頭を駆け抜けるような感じがした。

 誰かが来る?いや、違う……誰かとかそんなんじゃない。

 もっとでっかい……モビルスーツがこっちに向かって来る。

 

『敵襲!南東よりモビルスーツ3機!歩行速度!!』

『総員戦闘配置、繰り返す!総員戦闘配置!!』

 

 それを感じると、静かだった牢屋の外が騒がしくなる。

 時報を放送していたであろう方向からけたたましいブザー音が響く。

 連邦軍の警報とは違い、ブザー音に近い警報音だ。関係ない私も何だか焦ってしまう。

 

「モビルスーツ……?」

 

 ジオンの敵のモビルスーツ……連邦軍のモビルスーツ?

 遠くから聞こえる足音のような音からしてそうだけど、ガンキャノンの足音じゃない。

 ガンダムの足音でもない、ドジュンドジュン、と聞いたことのない音がする。

 

「ザク……?でもない……うっ!?」

 

 マシンガンを撃つようなどでかい銃声、そして何か連続で降ってくるような金属音。

 そしてその音が鳴ると同時に、どこか遠い所で爆発が響く。

 連邦軍のモビルスーツではあるけどホワイトベースのモビルスーツじゃない……って事?

 

『ザクをだ……』

 

 スピーカーっぽい放送が途切れる。それと同時に牢屋が真っ暗になった。

 更に大きな扉の鍵が開くような音もした。しかしそれはすぐに直り、再び扉に鍵がかかる……。

 

『電源設備を守……』

 

 と思ったら、また牢屋が真っ暗になった。扉の鍵もまた開く。

 今度はしばらく直らないらしい。電源設備を云々って言ってたから、それが壊されたんだろう。

 さっさと出ようと牢屋の扉に向かおうとした瞬間、

 

「っぁ!?」

 

 聞き慣れない銃声が部屋の外で響いた。ザクのマシンガンとは違う、大砲じゃない銃の音。

 パーティのクラッカーの音がバカバカしく思えるような破裂音が部屋を轟かせる。

 思わず私は悲鳴を上げて扉から離れ、ベッドの枕で反射的に頭を守る。

 

「ひ、ひぃぃっ!?」

 

 爆発音、破裂音、響く足音、最悪なハーモニーが私の耳を襲う。

 それに加わり、喉を引き裂かんばかりの悲鳴や、焦っているような足音も加わる。

 真っ暗で情報がわからない状態での戦争がこんなに怖いものだとは思わなかった。

 ベッドに隠れてどうにかなる状態でないということを自覚するのに時間はかからない。

 目まぐるしく変わる情報を音だけで感じ取り、どうすることも出来ないということを自覚した。

 

「ま、待って待って……どうなってんの……!?」

 

 足音、地響き、何かが転がって爆発する音、落ちる天井の埃。

 壁に何かがぶつかるような衝撃と音。なんと言うかモビルスーツでの戦いとは全く違う。

 動くにも動いた瞬間私も撃たれそうな気がする。開いた鍵を締めてやりたい気分だ。

 

『いたか!?』

『ここではありません!!』

 

 隣の隣くらいの扉が蹴破られるような大きな音が鳴る。

 続いて隣、更に向かい側の扉が蹴破られるような音が鳴る。

 ついに私を探し始めたらしい、それがジオンなのか、連邦軍なのか。

 ちょっと考えたら分かるけど、心臓の高鳴りと呼吸の乱れのせいでまともな考えができない。

 

 目の前の扉が開いたら撃たれる、放たれた弾は私の胸を貫いて命を終わらせる。

 意識したくなくても意識してしまう。初めてシャアと戦った感じが蘇った。

 

「っ!?」

 

 息を呑んだ。私の部屋の目の前で足音が止まる。

 恐怖を感じて悲鳴を上げる暇もなく、赤い光が目を覆った。

 

「~~~ッ!?」

 

 しかし、銃声が聞こえない。目を強く瞑り、歯を食いしばって死を覚悟したが、

 その肝心の死が来ない。何かがおかしいと目を開け、その相手を確認する。

 ジオンの緑色の制服じゃない。灰色の制服……。ブライトさんと同じ服だ。

 

「……」

「捕虜だ!情報通り、15歳と思われる女の子!」

「……え……?」

「安心しろ、我々は地球連邦軍陸軍、君の味方だ」

 

 そう言って灰色の制服を着たおじさん……というよりお兄さんはヘルメットを外す。

 言っちゃ悪いけど、変な髪型をしている。

 

「あ、なたは……?」

「ダグザ・マックール上等兵。さあ立って。これを持つんだ」

「あ……でも……あ……は、はい!」

 

 若いお兄さんは私の手を引き、私の手に何かをもたせる。

 ズシッと重い分厚いもの……手元を見る暇なく私は牢屋から出た。

 

「う……!?」

 

 牢屋から出た私は一瞬その臭いに吐き気を覚えた。

 血生臭さと焦げ臭さがブレンドされた不快な臭いだ。

 写真やモニターで見るよりも生々しい死体、それに死体だけじゃない。

 喋れなくされてもがき苦しんでいる生きている人もいる。

 

「死体は初めてか?」

「……」

 

 私は唇が震えて喋れなくなっていた。息を吐き、コクリと頷く。

 

「……俺も始めてだ。隊長!捕虜救出完了しました!」

「よし!通信兵!ホワイトベースととミデアへ!捕虜救出成功!」

「了解!ホワイトベース、ミデア!捕虜救出成功!繰り返す!」

 

 ダグザっていうお兄さんが私の手を引き、たくさんの兵士が私を取り囲んで牢屋の建物を出る。

 空港の滑走路みたいな基地に出た私の目の前にまず飛び込んできたのは、ザクと、土みたいな色のモビルスーツだ。

 土みたいな色のモビルスーツはガンキャノンみたいな目をしている。あれは多分連邦だ。

 

「あ、あれは……!?」

「連邦軍の量産型モビルスーツ!ジムとかいうらしい!ダグザ!捕虜をこっちに!」

「了解!隊長、私は……」

「後方警戒!さあ君、こっちへ」

「了解!」

「……っとと……」

 

 量産型モビルスーツ……つまりガンダムをたくさん作るために作ったモビルスーツ?

 3機いて、1機はモビルスーツを切り刻み、2機はマシンガンで基地を壊している。

 ……シャアとガルマさんのモビルスーツは辺りを探しても居ない。逃げたのかな?

 

「……了解、陸戦隊アウト!隊長、ガンキャノンが捕虜を回収するそうです!」

「分かった!全員この場を死守!捕虜回収後、我々も撤収する!兵員ホバーを待機させろ!」

 

 通信兵の人の報告を隊長と思われるおじさんが聞き、兵士が物陰に隠れる。

 私はその兵士たちに押さえられて身を伏せた。改めて手に持っているものを見た。

 拳銃。手の平サイズの鉄砲だ。

 

「……」

 

 撃てるのか?という目で兵士の人が私を見る。私はその目に首を振って答えた。

 撃てるわけがない。撃ったこともないし、人を直接殺したこともない。

 そう思っていると、ダグザさん、さっき私を助けてくれた兵士がマシンガンを撃った。

 

「ひっ……!」

「っ!今撃ったのはどいつだ!!」 

「新人です!ダグザやめろ!撃つな!!」

「ちっ……!気付かれたかもしれん……」

 

 ダグザさん、変な髪の毛のお兄さんは新米兵士だったらしい。

 その人が先走って敵を撃ったそうだ、隊長っぽい人が怒っている。

 すると、隊長っぽい人の予想通り、こちらに向けて大量の弾丸が襲いかかってきた。

 

「わわっわぁぁ!!殺される!!死にたくないぃ」

「落ち着け!!これ以上ちびってどうする!」

「もっもも……もうダメ……!」

「お前は頭を下げてろ!!クソ……」

 

 私がよく知る軍人、銃を持った兵士たちが戦い続ける。

 ガンダムで戦ってる時はこんな事無かったし、そもそも銃を持った人なんて見なかった。

 でも今起きてるこの戦闘は現実。通り抜ける弾丸は頭を掠め、壁にめり込む。

 火花や破片がパラパラと私達に降り注いで、心と体を削り続けている。

 

「フッ……!ふぅ……!!ひっぃ……っくぅ……!!」

【隊長!捕虜救出部隊が敵の攻撃を受けています!】

【……】

 

 例のジムの1機がこちらを向き、マシンガンを撃った。弾は地面でボンボンと爆発する。

 弾が爆発する度にこちらに振動が来て、再び私は頭を抱える。

 

「っ……!!」

 

 轟音がしばらく響き続けると同時に、敵から飛んでくる銃弾が止まった。

 ジムは私達を撃っている的に向けてマシンガンを撃ったらしい、煙の臭いとともに血の臭いが鼻につく。

 

「……攻撃が止んだ……」

「ジム隊、支援感謝する!」

 

【……】

【隊長、不満ですか?】

【ま、隊長は砲台やモビルスーツを倒すほうが好きだからな、地面に無駄弾を撃ちたくないんだろう】

【隊長らしい、アニッシュ、敵は?】

【隊長が全部仕留めた。だが例のごとく増援が来るだろうよ】

【それも隊長の獲物か…………いや、ホワイトベースの仕事だ】

【……】 

 

 ジムが戦闘をやめ、周囲をキョロキョロ見回している。

 すごい……モビルスーツ3機だけで全部のモビルスーツを倒すなんて……7機のザクが倒れ、

 基地は壊滅状態。建物から火が出ていたり、ザクが倒れて倒壊していたりと、最早廃墟に等しい。

 全部あのジム達のお陰だ。でもザクは全部緑色のザク……あのザクたちではない。

 

「……シャアが居ない……ガルマさんも……」

「ホワイトベース到着!ガンキャノン発進確認!……赤いぞ?」

「ガンキャノン……」

 

 分厚い雲から見慣れた船が出てきた。白く巨大な戦艦。ホワイトベース……。

 数日ちょっとしか滞在していない船なのに、何故か我が家感がある。

 そのホワイトベースは左側のハッチを開き、ガンキャノンを発進させた。

 赤い色の巨大な機体が、私達の近くにやって来る。

 

「カイさん……」

 

 真っ赤なガンキャノンが聞き慣れた足音を響かせて着地する。

 モビルスーツが近くで着地すると、足元がぐらつくほどの地響きがする。

 ガンキャノンは周囲を警戒し、頭のバルカン砲で遠くの敵を撃ちながら私の所まで歩いてきた。 

 

「カイさん!」

『アムロ!無事か!?』

 

 ガンキャノンのコクピットを開け、カイさんがノーマルスーツ姿で私の前に顔を出す。

 カイさんは動かしていないのに、ガンキャノンは勝手に頭を動かして周囲を警戒している。

 自動操縦って言うのかな?頭を動かしながらガンキャノンは体を下げ、膝立ちになる。

 

「子供?あのガンキャノンも子供が……?」

 

 ダグザさんは少し驚いた表情をするが、すぐに真剣な表情になり、

 隊長と思われる人の指示を聞く。どうやら任務が完了したということで撤収するらしい。

 

「カイさん!ありがとうございます!」

「いいから乗れ!ガンダムは黒いのをつかうってよ!」

「は、はい!」

 

 カイさんのガンキャノンが私の前に手を出し、その手に乗り込む。

 するとカイさんはゆっくりと手を閉じ更にその手を左手で覆う。

 ガンキャノンが動き出し、中途半端に固定されていない体はガンキャノンの手の中で揺れまくる。

 更に目立つ赤いボディだ。新しく来た敵の戦車の砲弾や砲台の銃弾がカンカンとガンキャノンに当たるのを振動で感じる。

 

『んなろぉ!!』

「んぬぬぬぬ……!?」

 

 ガンキャノンは足を止めずにジェットを吹かしてジャンプする。

 下の手の平に押し付けられたと思ったら今度は体が浮かぶ、

 

「わっ……わ、ちょ……」

 

 上の手の平に押し付けられ、妙な浮遊感を覚え、そのまましたの手の平にお腹を打ち付けた。

 じんじんと痛む体を持ち上げると、ガンキャノンの手が開く。

 数十秒ぶりの目に飛び込んできたのは、黒と白で塗装された見慣れた機体。

 

 

 

「……」

 

 ガンダム。プロトタイプだけど、ガンダムだ。

 膝立ちの状態でコクピットを開けて、人が動かすのを待っている。

 カイさんは何も言わず私を下ろした。改めて私はガンダムの下に立つ。

 

「今度こそ……」

 

 今度こそ、シャアとガルマさんを倒す。

 そう思い、ガンダムの手に乗る。

 

「ぃっ……?あ……」

 

 そこでやっと気付いた。下腹部が冷たいことに。

 

「……帰ったら着替えよ」

 

 生身の銃撃戦なんて初めて経験したんだから仕方がない。

 そりゃあ、やってしまう。

 

 頭をブンブンと振り、私はガンダムに乗り込む。いつもの手順でガンダムを起動させた。

 いつものブーンという駆動音と、眼のカメラが光り、カメラが起動する音が耳に届く。

 カメラが起動したことを確認し、コクピットを閉じた。

 

「ホワイトベース。ガンダムに乗りました!」

『アムロ!!無事だったのね……良かった……』

「セイラさん、迷惑かけちゃってすみません……」

『いいのよアムロ、私があんな無茶な事を言うから……』

『ふさぎ込んじゃってたのに急に元気になったじゃないの、セイラさん』

『っ……か、カイは周辺警戒!追撃部隊が来るはずよ!』

『へいへい』

 

 私は通信モニターに映ったセイラさんを見る。この人、シャアとなにか関係があるはず。

 シャアもセイラさんの事を気にしていたみたいだし……でも、今は気にしないでおこう。

 ガンダムのモニターには煙が上がったさっきの私が捕まってた基地が見える。

 しかしあそこにシャアとガルマさんは居なかった。

 

 という事は、シャアもガルマさんも別の所に居るはずだ。

 

 ―っ!

 

 いや、居る。絶対に……左と、右……赤とオレンジ!

 

「……セイラさん、ザクが来ます!」

『分かるの!?』

「何となくですけど……1つはシャア……もう一人は……ガルマ・ザビ!」

『アムロ……』

「やります、あの2人とはもう面識あるけど……」

 

 ガンダムを使ってあのザクを壊したらシャアもガルマさんも死ぬ。

 でも、シャアもガルマさんも殺すつもりでこっちに来る。

 だったらやるしか無い。生身では無力だけど……こっちにはガンダムが居る。

 

「あの2人は会った……ガルマさんはいい人だった、でも……!」

「相手がザクなら人間じゃない!」

 

 私はシャアの気配がする方にビームライフルを構える。

 このビームライフルはガンダム用のスコープ付きだ。遠くだって狙える。

 コクピット横についている照準器で、遠くにいるシャアに狙いを定める。

 

「行け!!」

 

 私は勘を頼りにビームライフルを発射し、ピンク色の光が一直線に飛んでいった。

 そのビームは、近くの大きな建物を貫通し、その先さらにで大きな爆発を起こす。

 爆発の光から、見慣れた……見慣れたくないモビルスーツがいきなり現れ、更に私に向けて速度を上げて突っ込んできた。

 

「シャア……!」

【視認不可距離からの狙撃……間違いない……奴は……!】

【木馬が別働隊を呼ぶとは、読みが外れた……シャア!】

【…………ガルマ!いいな!?】

【やむを得ん、我々二人で無力化する!!】

 

 ……後ろからガルマさんの気配がする。ガンダムは警報を出していないけど何となく分かる。

 ガンダムに乗った瞬間、何故か勘が冴え始めた。これは何だろう……。

 でも、今はその訳の分かんない勘を利用しなくちゃいけない。

 

「カイさん!行きますよ!ハヤトくんは!?」

『昨日の今日だぜ!出せるわけないだろ!とにかく、援護は任せな!』

「はい!」

 

 私はビームライフルを握り、ガンダムを走らせてシャアに突撃する。

 カイさんのガンキャノンはガンダムより遠い位置の敵が見えるらしい、後ろのガルマさんのザクに向けてビームライフルとキャノン砲を連射した。

 

「セイラさんには悪いけど……!敵になるならぁ!!」

 

 私も十分狙える位置に立ち、両手でビームライフルを構えてシャアに向けて発射した。

 シャアは相変わらずそれを避け、ジャンプして斧を左手に飛びかかる。

 

【素養は認める!しかし!!】

「迂闊に前に出る!シャアっていうのは!!」

 

 振り下ろす光る斧がカメラに映った。

 しかし私はそれを気に留めること無く、逆に両手の武器を手放した。

 ガンダムの重心を下げ、両手の拳を握り、左手を思い切り突き出した。

 

「っ……!!!」

【何っ!?】

 

 相手の勢いをそのまま返す。シャアの動きは異様に早い。ならその速さを止めたら、

 パイロットの負担も相当なもののはず。予想通りガンダムの突き出した左腕はシャアのザクの腕にめり込み、

 反射するようにザクが両手の武器を手放して吹き飛ばされた。ガンダムは重心を下げてパンチを繰り出したポーズのまま動かない。

 

 クリーンヒットっていうのかしら。こういうのを。

 

「ボッコボコにしてやるから……!!」

【ええい……!】

 

 私はビームライフルを腰に仕舞い、盾を背負った素手の状態でザクの顎のパイプを掴み、引っ張り上げた。

 ガンダムをぶっ壊して私を連れ去り、徹夜させた上に、またしても粗相をしでかしたお礼をしなければいけない。

 

「ええい!!」

【ぐ……!ガンダム……!】

 

 シャアのザクのパイプを引きちぎり、すぐさまビームライフルを放った。 

 しかしシャアは空中でジェットを吹かして真横に避け、落とした斧を拾った。

 

【アムロ・レイ……やるようになった。動力が低下するとは……】

「シャア……やっぱり強い……」

 

 シャアのザクはまだ動く、コクピットが大きく凹み、顔のパイプも無くなっているのに普通に動いている。

 ……だけど、勝てるはず。根拠のない自信が、私を突き動かした。

 

 あんたを倒したら今度はガルマさん。敵なら誰だって容赦しない……。

 いや、容赦できない。後ろのガルマさんもカイさんのガンキャノンと取っ組み合っている。

 その攻撃は、確実にカイさんを殺そうとしている気迫だ。

 

「……」

 

 早くシャアを倒して、カイさんを助けなきゃ……!!

 

 




今回のアムロの行動の結果

・ホワイトベース、超無口な隊長率いるMS部隊(ガンダム戦記(PS2))を派遣。
・アムロ、ホワイトベースとガンダムのことを自白するも、知らぬことだらけ。
・地球連邦軍陸軍、アムロ救出。ダグザ・マックール21歳(ガンダムUC)所属部隊と共に収容施設を脱出。

・アムロ、人生初の銃撃戦を経験するもチビって何も出来ず。
・MS部隊、陸戦型ジムで航空基地を完全破壊。シャア、ガルマ脱出。
・カイ・シデン、アムロを保護、そのままプロトタイプガンダムへ搭乗。
・シャア、ガルマ、ガンダムへ奇襲。アムロとカイと交戦開始。

以上の結果となりました。


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若さ故の過ち

「っ……!!また蹴った!!」

 

 コクピットが揺れ、ガンダムが後ろに飛ばされる。

 ザクと変わらない。シャアのザクは赤くて角が生えてるだけ。

 何かしら強化されてたとしても所詮はザク。

 そう考えてはいるものの、ガンダムのビームライフルはシャアに届かない。

 

 ビームライフルは残り2発、なら……ここはシャアとガルマさんのトドメのために……。

 

【ライフルを仕舞った……ならば!】

「近づいてきた……!また蹴る……違う!」

 

 ザクは突進しながら手を組み、あの憎き肩を私に向けた。

 もう一度私のコクピットにそれをぶつけて気絶させようってつもりらしい。

 だけどあの時とは違って煙がなく、突進してくる棘付きがしっかり視認できている。

 

 それに今、感が冴えてる。バルカンで!

 

「シャア!!」

【甘いな】

「え……!?」

 

 ガンダムの頭のバルカン砲は当たるはずだったザクの頭を外し、一瞬カメラから消える。

 しかし、息をつく暇もなくザクの顔が現れる。超がつくほど近い位置に。

 鼻のないザクの顔がカメラ全体に映った瞬間、私は息を呑んだ。

 その一瞬怯んだ隙を突かれ、ザクの拳がガンダムのコクピット部分に命中した。

 完全にさっきの仕返しだ。

 

「っづぶっ……ぁ!?」

【地面の硬さを知れ!!】

「この体勢っ……この速度……っ!!」

 

 ガンダムが真後ろに吹き飛ばされる。自動姿勢制御っていうのも働かない。

 だったら自分でこの制御不能上体を制御するしかない。宇宙とはぜんぜん違う。

 2回目の戦闘だからといってなれているわけではない。それが災いした……。

 

「っ!止まって!お願いっ!!」

 

 操縦桿を前に倒し、ペダルを思い切り踏み込む。

 ガンダムはイメージ通り後ろのジェットを思い切り噴射して体勢を前屈みにした。

 後ろに進む勢いが殺されて、逆に前に進む力が生きる。

 

「くぅ!……止まった!!はっ!?」

【遅い!】

「速い……!盾!!」

 

 ザクの光る斧が目の前に現れる。刃がコクピットに近づいた。

 私は左手を動かし盾を構えた。

 

「ぢっ!?んのぉ!!」

【っ!なんと!?】

 

 ガンダムの盾は今は手で持っていない。左手に取り付けている状態。

 盾の裏側から斧の刃が貫いて見えている。このままでは盾が斬られる。

 盾が斬られたら今度は私だ。そうなる前に。

 

「盾ってどうやって外すの!?外すボタンは……無い……!」

【横に構えたシールドの防御力でも……ええい!!】

「わかんない……探してる暇なんて……!」

 

 私は反射に任せてガンダムを動かす。

 ガンダムは片足を上げ、盾の裏に足をかけた。

 ミキミキと盾と左腕の繋ぎ目が音を立て……。

 

「っでぇや!!」

 

 盾の接合部があっという間に千切れた。

 そのまま私は盾を蹴っ飛ばし、斧が食い込んだ盾と一緒にシャアが距離を取る。

 私は片足状態になったガンダムを制御し、地に足をつけた状態にしてシャアを睨む。

 

 シャアは、盾付きの斧から盾を取り除き、一つ目を光らせて私を見た。

 シャアのザクは武器を失い、鼻を失い、腹をヘコませている。

 

「まだやるの……?……はっ……カイさん!?」

 

 何かを感じた。

 後ろのカメラを確認すると、ガルマさんのザクがカイさんに向けて斧を振り上げていた。

 カイさんのガンキャノンは後退りし、左腕がバッサリ切り落とされている。

 

「カイさん!!逃げて!!」

 

 真っ二つに斬られたビームライフルが地面に落ちている。

 ガンキャノンは怯んだ状態で、地面に根を張り、キャノン砲をガルマさんのザクに向ける。

 

『このやろ……来るな!来るなぁぁぃ!!』

 

 放たれたキャノン砲弾は、身を屈めたザクを掠め、明後日の方向へ飛んでいく。

 その隙を突き、オレンジのザクはキャノン砲の突き出た部分を斬り落とし、押すようにガンキャノンを蹴る。

 尻餅をついたガンキャノンは斬れた左腕を上げ、まるで命乞いのような体勢になる。

 

『しまった!?あっ……!』

【終いだ!マイナーチェンジ!!】

「ーッッ!!」

 

 

 ぼんやり見てる場合じゃない。そう思った瞬間、体が勝手に動いた。

 操縦桿を持つ手が、まるで自分の腕じゃないかのように動く。

 

「へ……?」

 

 ガンダムは体を丸め、左腕を少し上げる。そのまま上半身をひねり、

 腰に仕舞っていたビームライフルを右手に持ち、脇の間に右腕をねじ込む。

 照準器なんて使っていない。それなのに頭の中にライフルが飛ぶ位置が浮かび上がる。

 

(撃てる……!?)

 

 振り下ろす斧、その下ろされる斧の軌道がコマ送りのように見えた。

 そして、そのコマ送りになっている軌道の中心に向けて、照準を合わせ、

 私はそのままビームライフルの発射スイッチを押した。

 

「っ!」

 

 ビームの光が、ザクの斧が振り下ろされるであろう位置に飛んでいく。

 スローになった時間が元に戻り、ザクの斧がカイさんのいるコクピットに向けて振り下ろされた。

 しかし、その斧はコクピットを割ること無く、私が放ったビームによって、溶けて消えた。

 

 そのビームは、斧どころか、斧を持った指すらも溶かし、若干ガンキャノンのコクピットを焦がす。

 

【なっ……ビーム……アムロか!?】

「っ……はぁっ……っはぁ……!?何……あの時のあれ……?体が勝手に……!?」

『あ、アムロ……?助かったぜ……ぇ……』

「カイさん立って!ホワイトベースに戻って下さい!この2人は私が!!」

『アムロ!俺はまだやれる!このオレンジ色だけでも!ってて……!』

「ほら!怪我してるんでしょ!?サンマロさんの治療なら1日で治せるから早く!」

 

 そう言うとカイさんは「お、おぅ……」と言い、ガンキャノンを右手だけで立たせる。

 そして、遠くのホワイトベースに向かって大ジャンプした。

 カイさんの顔、モニター越しでも分かる程血が垂れていた。ヘルメットが脆いって言ってたけどこれじゃ駄目じゃん。

 全く頭守れてないじゃない。

 

 右手の指を失ったガルマさんのザクは、少し後ろに下がった後私を睨みつけた。

 1つ目がグポーンと音を立てて光り、私に向かってきた。

 

【ちぃ……!やはりアムロ・レイは!下がれガルマ!!】

【シャア!しかし!まだバルカンがある!】

【奴はヒートホークなしでは撃破不能だ!下がれと言った!】

 

「……せめて、どっちか一人……!!」

 

 私は残り1発となったビームライフルをまた腰に仕舞い、ビームサーベルを抜く。

 昨日か一昨日か忘れたあの惨敗とは真逆。ボロボロのザク2機が相手だ。

 ガンダムの首をシャアの赤いザクに向ける。

 

【済まないシャア……!頼む!】

【っ……私は何をやっている……】

「シャア!!ここで仕留めないと、また追ってくる!!!」

【奴を仕留めなければ……何故私は……!】

 

 ペダルを踏み込み、操縦桿を思い切り押す。 

 ジェットを吹かしたガンダムは加速しながら、ザクにビームサーベルを振る。

 ザクは斧でそれを受け止めた。当たる寸前で斧とサーベルは火花を散らし、引き離し合う。

 

「っ……っ!んの……仮面男ぉ!!」

【ちぃ!!……ぬぅ!!】

 

 それでもサーベルを振り抜くが、ザクはそれをかわし、ガンダムは身を屈めた状態になる。

 私はさらにペダルを踏み込み、そのまま加速してザクの腹に肩を思い切りぶつける。

 そのままザクを押し倒し、ザクと目が合う。

 

「っ……もう!!死んで!!!」

 

 左手の発射スイッチを押し、ザクの顔面に向けてバルカンを放つ。

 ピンク色の一つ目の光が消え、ザクの顔を砲弾が押し潰す。

 ひしゃげた顔はそのまま赤の塗装がされたボディを引き剥がし、地面と一体化する。

 

 撃ち続けながらガンダムを立たせ、体、足とザクの全身にバルカン砲を浴びせた。

 押しっぱなしだった発射スイッチを離し、ガンダムのカメラから白い煙が見える。

 その煙の間から映ったのは、見るも無残な姿となった、シャアのザクの姿だった。

 

 

 

 ●

 

 

 

「はっ……はぁ……っ!!はぁっ……!!」

【……】

「殺せる……シャアを……今なら!!」

 

 コイツを殺せばガンダムが終わる。ライバルが死んだアニメは消えゆく運命だ。

 ガンダムが終われば多分、アムロの話もここで終わりだ。

 そうすれば、私は……。

 

【ぐ……ニュータイプだとでも……いや……奴はニュータイプ……!!】

【しゃ……シャア!!無事か!?今助ける!!】

【ええ……い!!迷いがあるのか……!!……何故ガルマを……!!】

【な……!?】

【来るな……ガルマ!!!貴様は!!】

 

 ビームサーベルを穴だらけのザクに向ける。

 

「ぁ、あんたを殺せば終わるのよ……そうすれば私も元に……!!」

 

 アムロなんかじゃない。私は私だ。アムロのために動く人形じゃない。

 ……だから殺す。シャアを。私はシャアのライバルなんかじゃない。

 ガンダムのパイロット、私はそうだ。今はそうなんだ。

 アムロ・レイ。そうだ、私の名前、でも私は、アムロに成り代わった誰か。

 

 震える手を握りしめ、ガンダムの右腕を上げる。 

 最早動かないシャアのザクの胸を確実に刺せるように狙う。

 

「私のために死んで!!」

【シャア!!!】

【……】

  

 そのまま上げた右腕を下ろし、シャアに向けてビームサーベルを突き立てる。

 はずだったが……。

 

「ぐぁっ……!?」

 

 突然右側のモニターが消え、ヒビが入り、モニターの破片が私に襲いかかる。

 幸い破片は刺さらずに済んだが、ビームサーベルを落とした。

 しかし私は、また勝手に動く体に身を任せ、ガンダムを制御し、腰のビームライフルを手に取る。

 

「く……!」

 

 それが何かを認識する暇もなく、私はビームライフルを撃った。

 

「はっ……!?」

 

 それが何か。ピンク色のビームがザクの棘付きの肩を貫いた瞬間に分かった。

 オレンジ色のザク、頭に4つの銃口が見えるザク……。

 これ…………

 

「ガルマさん……?嘘……」

【ガルマ……ガルマ!!】

 

 ガルマさんのザクが、火を噴く。膝から崩れ落ち、一つ目が消える。

 頭が吹き飛び、そのまま仰向けに、倒れた。

 

「……ぁ……そ、そうだ……ガルマさんだって、殺さないといけない……そうよ。私」

「だ、だって!だって私はアムロだから……!だって!そうじゃないと……!死……」

 

 火を拭いて倒れるガルマさんのザクに、よろよろと起きて寄り添うシャアのザク。

 それに気付かないうちにビームライフルを構えて、引き金を引く私。

 弾がない……。

 

「弾がない……なんで無くなるのよ……何で…………!!」

 

 引き金を引く親指が止まらない。カチ、カチと乾いた音を鳴らし、モニターに弾切れの表示が出る。

 それでも引き金を引く指が止められない。シャアを殺したい気持ちがまだあるのに。

 私の頭の片隅に浮かぶ、左側のビームサーベルでシャアを刺す選択を実行できない。

 どっちがアムロの気持ちで、どっちが私の気持ちなのか、全くわからない。

 分かりたくもない。

 

『アムロ、大丈夫……?』

「っは……!!…………は……!?」

『……落ち着いて。落ち着きなさい。息を吸って』

「はっ……はぁ…………せ、セイラ……さん?」

『ええ……無事なのね?』

 

 視界が若干赤く染まる中、セイラさんの声が聞こえた。

 その声が聞こえた瞬間、赤く染まりかけていた視界が元に戻り、目の焦点が元に戻る。

 それと同時に、何故か涙が目から溢れ出した。

 

「……はい……」

『……もう、いいのよ。帰還して頂戴』

「でも、シャアを……」

『……』

「…………わかりました……」

『いいのよ……帰って来て』

 

 何故か涙が止まらない。ガルマさんも敵。それを理解しているのに、

 敵を倒す。アムロとして正しいことをしたはずなのに、涙が出る。

 名も知らないザクのパイロットを殺しても何も感じなかったのに。

 

 

 ★

 

 

 手酷くやられたものだ、一瞬の気の迷いが致命傷となる事は分かっていた。

 先日知り合ったばかりのパイロットが相手であっても全く容赦しなかった。

 何処で迷いが出たのか、ガルマを殺せなくなったが故の迷いか。

 

「意外にあっけないものだ」

 

 火花を散らすコンソール。警報すら響かなくなったコクピットに力なく座る。

 サブモニターを頼りに、各部が悲鳴を上げるザクを動かし、ガルマを探す。

 弾がなくなった黒い奴は私に向けてライフルの引き金を引き続けている。

 アムロ・レイ……彼女も人の子だ。顔を見知った人間を撃つのは堪えただろう。

 

「ぐ……!」

 

 立ち上がったザクの揺れに顔をしかめる。

 見ると私の体は赤い軍服を黒く染め、あちこちが真紅に染まっている。

 黒く染まった部分に手を当てると、白い手袋を赤く染めた。

 

「いい色……とは言えんな……」

『……』

「ガルマ……」

 

 力なく背を向け、スラスターを噴射して黒い奴、ガンダムが立ち去っていく。

 それを尻目に私は火を吹いてるガルマのザクを見下ろす。

 仰向けに倒れたFS型の頭部は吹き飛び、動力パイプが無様に垂れ下がっている。

 

『……シャア……っ……無事だったか』

「……」

『すまない……』

 

 ガルマは私に通信を繋ぎ、弱った声で私に話しかける。

 しかし、ガルマの顔は確認できない。ガルマのモニターも死んでいるようだ。

 

「……脱出は出来るか?」

『分からない……サブモニターも動かない状態だ……駄目だ。コクピットの機能はほぼダウンしている』

 

 通信から、ガルマがコンソールを操作する音が耳に届く。

 接触回線を使用した状態でもノイズが酷い。既にザクは限界だ。

 いつコクピットに火が回ってもおかしくない。

 

『……シャア……離れてくれ』

「何?」

『自爆装置はまだ動く……僕の右手もそろそろ動かなくなりそうだ』

「……負傷しているのか?」

『アムロの腕が良かったらしい、こんな姿じゃ……ドズル兄さんを悲しませてしまう』

「ガルマ」

『制止は聞きたくない……君はいい友人だった。僕にとって最高の友人だったよ』

 

 ……ガルマはそう言うと、こちらからの通信を切断した。

 重傷を負っている状態では複雑な通信操作ができないらしい。

 ガルマ側からの声はまだ届いている。

 

『……すまないイセリナ、君を幸せにすることは出来なかった……』

 

 私は、左手に握っていたヒートホークを落とし、右手に持ち替える。

 右手のヒート駆動部はまだ生きている、サブカメラもまだ使えている。

 痛む体に鞭を打ち、操縦桿を握りしめた。両手のトリガーを引き、ヒートホークを起動させた。

 

『……シャア、ジオンを頼む……ザビ家を導いて……っ……!!』

 

 水を含んだ咳き込みが聞こえた。内臓も傷つけているらしい。

 仇敵ザビ家の息子の最期だと言うのに、私の心には大きな靄がかかっている。

 それどころではない、私はガルマの自害を阻止せんと、

 

(何故だ?)

 

 ヒートホークを、ガルマのコクピットに向けて振り下ろしていたのだ。

 

「……」

『なっ!?』

 

 赤く溶けたFS型の装甲板を、損傷した左腕を突っ込み引き剥がす。

 

(私は何をやっている……?)

 

 露出したコクピットブロック上部のMレバーをザクの右手の指先で動かす。

 緊急時のパイロット救出用レバーだ。他のモビルスーツが操作できるようになっている。 

 私はそれを引き、ザクのコクピットブロックの内部固定具を爆砕させた。

 

『シャア!な―』

 

 ザクとコクピットの接続が解除され、ノイズ混じりに聞こえていたガルマの声が途切れた。

 急に静かになるサブモニター越しの光景。そのままコクピットブロックを指先で摘み、

 ザクを左手で固定し、コクピットブロックを摘出した。

 

「何故私は、ザビを救う……」

 

 今、この右手にあるザビ家のお坊ちゃんの揺り籠を握り潰すことも出来る。

 しかし、私はそれをしない。いや、そうしようと思っていても、出来ないのだ。

 このザビ家の御曹司に私はどんな可能性を見出しているのか、私にもわからない。

 

「っ」

 

 こちらの出血もひどくなっている。

 損傷したザクも最早使いものにならない。背部スラスターと脚部スラスターの出力は20%以下。

 リミッターを解除しても通常のザクの3分の1程の推力も出ないだろう。

 

「やれるか?前哨基地までの旅路を」

【……シャア……っ……ぁぐ……!!】

「小さな荷物を小脇に抱えて」

 

 レーダーも、マップも起動しない。視界も制限された乗り物。

 ニューヤーク航空基地のガウは全滅、脱出したガルマのガウも肝心のお坊ちゃんを置いて消えた。

 そう指示したのだ。ガルマを必ず連れて戻ると約束をし、こうしてガルマと共に戦った。

 今更約束を守ってどうなるというのだ。

 

 出血による意識喪失を食い止めるためか、ガルマを殺せない自分に腹が立っているのか、

 私は歯を食いしばった。そしてザクの足を進める。既に私の血はコクピットの床を赤く染められる程失っている。

 

「……ちぃ」

 

 木馬も去り、意識が朦朧とする中、私は大破したザクのスラスターを吹かし、戦場を後にした。

 

 

 

 ★

 

 

 

「隊長!!撤退してって言ってるのに!!」

『……』

『こちらラリー、敵機を見つけた!』

『こちらアニッシュ!敵機撃破!しちまった……』

『……』

『い、いやぁ隊長!そんな顔しないでくださいよ!』

 

 ラリー機とアニッシュ機のジムは無傷だ。

 隊長も、敵の爆風でシールドを損傷してはいるもののいつもより調子がいい。

 遠方で交戦中のガンダムと赤い彗星、FS型の珍しいザクは既に撤退。

 現在は基地奪還のために派遣された前哨基地の敵部隊を、隊長が撃墜している。

 

「アニッシュ機!ラリー機はもう撤退して下さい!」

『ノエル伍長、いいのか?』

「もういいですよっ!好きにさせておきましょう!」

 

 相変わらず隊長は撤退しない。もうすでに9機ものザクを一人で撃墜している。

 マゼラアタックを、独特の戦法で踏み潰し、ザクに得意技の同じ方向への斬撃を繰り出して切り刻む。

 自分の機体に特別な改造を施しているのか、それともトップクラスの腕前なのか。

 明らかに他の機体……特にラリー少尉とアニッシュ曹長とは違った動きをする。

 

【な、なんなんだこいつ!モビルスーツが飛び跳ねて……うわぁああ!!】

「隊長機、1機撃墜……」

【グレネード!……来ない!?しまった!見失った!?上!空中だと!?】

 

 隊長の戦法は本当に独特だ。不可能かと思われたモビルスーツでの空中戦を平然とやってのける。

 通常のジャンプを使用し、更にスラスターを吹かすことで大ジャンプを可能とし、

 落下時に発生する風を独特の姿勢でスラスターの空冷式冷却装置に当て、強制冷却させる。

 落下寸前に再度スラスターを吹かすことでオーバーヒートすること無く再度ジャンプが可能。

 更に自動格闘プログラムや投擲プログラムをを使うことで落下衝撃緩衝姿勢を作動。

 その際の減速時にスラストペダルを踏み込み、地面に足をつけることなく再ジャンプ……。

 

 ざっと隊長が作成した資料に目を通してもさっぱり分からず。

 しっかり読み込んだところで、言葉が理解できても意味がわからない。

 

『ラリー、アニッシュ撤退完了……隊長は?』

「完全に囲まれています」

『いつも通りか、見ろよアニッシュ』

『すげ……あれ同じ機体ですか?完全に飛んでますよ……』

 

 隊長の戦術論に間違いはないものの、何もかもが強引かつ、ワンマンプレイだ。

 自身の戦術論を基準に考えるせいで誰一人真似することが出来ない。

 ガンダムのパイロットが捕虜になる直前の映像で確認した空中戦とは全く違う。

 

「更に1機撃墜……隊長、敵の増援を確認!」

『……』

「……」

 

 集中してるから返事ができない。そう思いたいけど……。

 

「隊長、念の為に言っておきます。ホワイトベースとガンダムは撤退しました」

『……』

「……」

『……』

「一通り暴れてからでいいので、いい加減撤退して下さい」

 

 私は通信席のヘッドセットを取り、肘をついてレーダーを見る。

 オレンジ色の表示が次々と減り、隊長の撃破数が2桁に突入した。

 アニッシュ機は1。ラリー機は0、設備破壊のみだ。

 あまりにも隊長が圧倒的な強さを誇るせいであくびが出てしまう。

 

『こちらホワイトベース艦長、ブライト・ノア少尉であります』

「ぇ!?あはい!こちらミニトレー、実験部隊オペレーター、ノエル・アンダーソン伍長!」

『ホワイトベースは戦線を離脱、パイロットの救出に成功、支援に感謝します』

「了解、現在残存兵力と戦闘中、戦況は優勢ですのでご心配なく、貴艦のご武運をお祈りします」

『感謝します。通信終了』

「……はぁ……」

 

 ホワイトベースとの通信を終了し、足を投げ出して伸びをする。

 後1機。さっきまで4機の敵に囲まれていたのに隊長機の周りにはもう1機のUNKNOWNしかいなかった。最近現れた新型モビスルーツ。グリーン塗装(ってアニッシュ曹長が言ってた)のザクとは違うモビルスーツだ。

 

 解析を急ぎたいが、隊長に鹵獲を指示しても聞いてくれない。

 アニッシュ曹長やラリー少尉に頼んでも隊長が撃墜してしまう。

 残骸から確認できた形式番号はMS-07A。隊長の報告書曰く、格闘戦重視の機体らしい。

 鞭状の武器と剣状のヒート兵器、左手には固定のバルカン砲が装備されている。

 敵にするには恐ろしい相手……と思うが、隊長はあっさりと撃墜してしまう。

 

「作戦終了、隊長。敵機全滅を確認!」

『……』

「お疲れ様でした、帰還して下さい」

 

 総撃墜数14機。機体損傷殆どなし。爆風でシールドを損傷した程度らしい。

 作戦としては完勝。満点評価だが、軍人として、というより隊長としては0点。

 隊長に対するお説教はまた後にして、さっさとこの戦場から撤退しないと。

 

「実験部隊、係留用仮設ハンガーに駐機してください」

『了解』

『了解、隊長、お先にどうぞ』

『……』

 

 ミニトレーの後部モニターに陸戦型のジムが1機、ハンガーに固定される。

 腰部の弾帯を2つとも使い切り、両足のビームサーベルは2つとも使用されていた。

 恐らく1本はエネルギー切れになったのだろう。更にショートシールドに血が付いている。

 彼の辞書に躊躇や遠慮、更に容赦という言葉はないらしい。

 

「モビルスーツって、飛ぶんですね……」

『……』

「笑ってごまかさないで下さい、今度ちゃんとした飛び方、記録してくださいね?」

 

 隊長は私に微笑む。

 

「っ、その、お疲れ様でした……!」

『……』

「……」

 

 私はため息をつき、少し熱くなった顔を落ち着かせるために外を見る。

 昇る太陽が照らす青空が、ホワイトベースが引いた大きな飛行機雲を光らせる。

 あのパイロット、15歳の女の子って言ってたっけ……。

 

「ねぇ、隊長」

 

 私は通信席にもう一度座り、コクピット内の隊長に通信を繋ぐ。

 

『?』

「15歳の女の子があなたくらい撃墜したら、どうなると思いますか?」

『……』

 

 隊長は首を傾げた。隊長ほどのキリングマシーンではないけれど、彼女も大量に撃破している。

 コーウェン准将から送られてきたガンダムの戦闘記録によるとこの数日で10数機以上撃墜しているそうだ。

 普通に考えても異常な数だ、5機落とせばエースの扱いだと言うのに。

 タダの15歳の女の子がこれほど撃墜するなど、並の精神ではありえない。

 人殺しを自覚していないのだろうか。

 

 いや、もしかしたら……もう既にPTSDに……?

 

「耐えられませんよね……」

『……』

 

 隊長は真剣な眼差しを向け、頷いた。こういう時の隊長は何故か頼りになる。

 どんな手段を使うのか走らないけれど、連邦軍の将官にすら顔が利く隊長だ。

 きっと私の心配事も解決してくれるだろう。

 

「隊長、それはそれとして、後で話があります。今日も撤退しませんでしたよね?」

『……』

「後で私の私室に来てください」

 

 隊長を睨むと、隊長は少し驚いた顔をして、コクリとまた頷いた。

 頑なに口を開かない隊長……この人の声を聞いた人……私以外に居るのかな? 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アムロ、シャアと交戦
・アムロ、ニュータイプ能力発達
・シャア撃破、シャア重傷
・アムロの中の女の子、アムロに飲まれつつあるも何とか否定
・ガルマ撃墜。ガルマ重体、自爆を試みるもシャアに救出される。
・シャア、ガルマを救出、戦線を離脱。

・マット・ヒーリィ少尉、14機のザクを一人で撃墜。(ガンダム戦記(PS2))Sランクゲット


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イセリナ出撃す

「アムロ……大丈夫?」

「……えぇ。大丈夫、フラウは?落ち着いた?」

「ええ……ごめんなさい」

 

 ホワイトベースに戻って2日くらいが経過しただろうか。

 戻って2日間の記憶が曖昧だ。いろいろな人に大丈夫かと聞かれてた気がする。

 特に父さん。2日間の殆どの場面で父さんが来てたような気がする……。

 そんな気がする。フラウも、帰って来るや否や私の胸で大泣きしてたっけ?

 

「……」

「ガンダムは、お父さんが直して」

「ごめん……今はガンダムの話しないで」

 

 あの時ガルマさんを倒してから、何だか変だ。

 ガンダムのコクピットに座ることが嫌になっている。

 それどころじゃない。ガンダムというより戦争が嫌になってしまった。

 弾丸と砲弾と一つ目が蔓延る戦場を思い返すと手が震えてしょうがない。

 

「アムロ……」

「怖いの、らしくないけど……ガンダムが」

「……」

「ごめんフラウ、しばらく落ち着きたくて……」

 

 私はそう言って親指を口に持っていく。

 

「アムロ、その癖やめなさい」

「っ……え?」

「爪、女の子なのよ?」

「あ……噛んでた?」

 

 親指を口元から離すと、少しだが、爪が傷ついていた。少し私は息を呑む。

 こんな癖、今まで無かったはずだ。それなのに毎回やっていたかのように爪を噛んだ。

 額から少し汗が滲む。

 

「フラウ、私こんな事してたっけ……?」

「どうしたの?アムロ」

「つ、爪……」

「何言ってるのよ、今までずっとやってたじゃない」

「そう、そうなの……」

 

 やっぱりそうだ。これは私の癖じゃない。アムロの癖だ。

 爪を噛む癖が出てくるほど、私の頭の中はアムロに染まっている。

 私は傷ついた爪を見て、震えていた。

 

「ア、ムロ……?」

「私……ど……う、嘘」

「アムロ?」

「うっさい!!黙って!!」

「~~~っ!?」

 

 怒鳴ってしまった。反射的に人に怒鳴ってしまった。

 こんな事したこと無いのに、どんどん自分がわからなくなる。

 弱気な自分が腹立たしくもあり、悲しくなる。

 

「……ごめん……出てってくれる?……なんか私、変なの」

「……アムロ……」

「今更弱気になったって変わらないのに……どなってんのよ……!」

「……たまには弱気にならないと。アムロも人なのよ。壊れちゃうわ」

 

 そう言ってフラウはベッドに座り込んで頭を抱えている私の肩に手を置く。

 一瞬手を払いのけようとしてしまう自分の手を、ぐっと握り込んで抑える。

 誰の慰めもほしくないのに人恋しい。この矛盾は物思い激しい人にありがちなのかな?

 そう思えるということは、元の私は15歳なんかじゃないのかも知れない……そうでないのかも知れない。

 

「ありがと……本当、ごめん」

「いいのよ、昔のアムロが帰ってきたような気分」

「…………そうかも」

「今まで張り詰めてたのね……もうすぐ海に出るわ。ブライトさんが休んでいいって」

「……うん」

「アムロ、オコッテル、アムロ、オコッテル」

「怒ってないよハロ、キッカちゃん達の所に行ってきて」

「ワカッタ、ワカッタ、アムロ、ゲンキダセ」

 

 フラウは私に微笑みかけて、部屋から出ていった。ハロもフラウについていく。

 元のアムロ、内気な子だって事は私を知ってる人たちの口ぶりから分かる。

 ……でも、ここまでふさぎ込んでいるのがデフォルトだとは思わなかった。

 些細なことで苛立って、周りに当たりたくなるような現状が私……。

 

「……はぁ……」

 

 私はベッドから立ち上がり、手頃な私服を羽織る。

 その時見た姿は、いつもの開いた目とは違い、虚ろな半目の状態。

 それに普通の顔をしているのに何だか怒ったような顔をしている。

 

「疲れてんのかな……やっぱ……」

 

 体がだるく、寝てもよく眠れない。眠れなさすぎて頭痛がする程だ。

 この妙に頭を押さえつけられるような頭痛もまたこの疲れに響いている。

 セイラさんやサンマロさんに相談しても異常がないって言うし……。

 

 ガルマさんを倒してからずっとこんな感じだ。不愉快と言うか、むず痒いと言うか。

 普通の体調不良や風邪とは違う。何なんだろう。

 

「…………」

 

 また私は座り込む。机の上に置かれたパソコンには元のアムロの趣味なのか、

 ハロの解体図や、父さんが見るようなガンダムの資料、女の子向けのエッチな画像ばかり。

 15歳のはずなのに何だかマニアックな性癖持ってるんだな、と私は少しアムロを軽蔑した。

 金髪の男が好きなんだ……アムロ。シャアとかドストライクなのかな。

 

「あぁ、もうっ……」

 

 座り込んでも何も解決しない。私は羽織っていた私服を脱ぎ、再びベッドに潜り込んだ。

 掛け布団を抱きまくら代わりにして、目を閉じる。

 アムロの性癖だの、アムロの趣味だの、私の頭にあるのは私ではなくアムロのことばかり。

 嫌になってしまう。

 

「……」

 

 

 ●

 

 

 目を閉じ、耳の奥が静かになると今度はガンダムのコクピットが頭に浮かぶ。

 モニターに何も映っていないガンダムに座って居る。

 起動スイッチを押しても反応がない。ハッチを開けようとしてもタッチパネルが動かない。

 仕方なく操縦桿を握ってしばらく待っても何も起きない。不安はない。

 私にとって一番落ち着く場所がここなのかも知れない。

 

「……ガンダム……」

 

 そう呟くと、やはり心が落ち着き、スッキリする。ここに居るのがほとんどだった。

 一日の殆どをガンダムのコクピットで過ごしている。この狭苦しい空間が私の全てだ。

 ホワイトベースを守れて、自分自身が強くなれる乗り物。

 

「アムロ、ガンダム」

 

 アムロ・レイ……。こんな事になるんだったらガンダムの一作品くらい見とけばよかった。

 アムロの中の私はガンダムなんか微塵も知らない。この先どうしていくのかもわからないし、

 ガルマさんはアニメではどうなってたのかも知らない。シャアのライバルが私だってのは分かる。

 でも、シャアの反応を見るに、私はアニメのアムロとは違う行動をしてるんだろう。

 

「私は……」

 

 ……改めて私の気持ちになり、ガンダムのコクピットを感じる。

 するとどうだろうか、さっきまで感じていた安心感は消え失せ、そこが怖いところだと認識した。

 操縦桿を離し、口元を手で押さえてしまう。

 

「っ!!」

 

 思わず私は目を開けた。背中は汗が滲み、下着がそれを吸ってぺったり張り付いていた。

 目を閉じて、コクピットに座るだけの単純な夢。それなのに私は長い間眠っていたらしい。

 ベッド横のモニターのスイッチを入れ、外を見ると夕日の様な明るさだった。

 さっきまで正午だったのに、今は17時……。昼寝にしても長く寝すぎたみたいだ。

 

「夢じゃ、分からない……」

 

 私はべっとり張り付いた下着を外し、新しい下着に着替える。

 そして何時もの、女性向けなのにセイラさんとは違う青い制服に着替えた。

 この服、今は秋だからいいけどオーストラリアみたいなところに行ったら暑いだろうなぁ。

 せめてスカート部分がもっと長かったらこの白いズボン脱げるのに……。

 

 そんなどうでもいいことを考えて、なるべくガンダムのことを考えないようにする。

 夢の中でガンダムに乗っただけでああなった……。

 

「駄目……」

 

 考えてはいけない。今は休まないと……。

 そうだ、食堂でタムラさんに頼んでなんか甘いもの食べよう。

 疲れてる時には甘いものを食べたらいいって、セイラさんが言ってたような気がする。

 

「っ……?」

 

 自分の部屋を出るために扉を開けると、突然目の前がぐにゃりと歪んだ。

 思わず片膝をつき、這いつくばりながら壁により掛かる。

 

「……うぇ……気持ち悪い」

 

 いよいよ、頭がおかしくなっちゃった?そう考えて吐き気をこらえて出ない声を絞り出す。

 右も左も分からない。すると、誰かが駆け寄ってくる様な足音が聞こえ、

 私を揺さぶりなにか声をかけていた。

 

『……!!アム……どうしたんだ!?サンマロ!……サン……!!』

 

 青い服に黒い肌……漂う機械油みたいな臭い……えっと、最近来た人だ。

 ルナツーでこんな感じの肌の偉い人の………誰だっけ?

 混濁する意識のせいで頭も回らないらしい。

 

 とりあえず、誰かが気づいてくれた。そう思うと、安心して意識を手放せた。

 

 

 ★

 

 

 

「血圧、心拍、共に高くなっています……」

「何の病気だ?」

「ASDの症状が出ています、でも、個人差があるもののASDで意識混濁は起こりません」

「どういう事だ?」

 

 ASD、ストレス障害の一つだ。確かに捕虜となった直後に戦闘を行った。起こって当然だ。

 しかし、サンマロ曰くアムロにはそれ以外の症状が出ていると言うらしい。

 

「アナハイム製薬の軍事用剤、グランダーの副作用かと……」

「グランダー?」

「自白剤です。アムロの血液からその残留物質が検出されました」

 

 そう言ってサンマロはアムロの血液分析結果を見せる。俺は目を通すが皆目分からん。

 赤く表示された文字が、そのグランダーとかいう自白剤の成分なのだろう。 

 数値が他の血中成分よりも高く見える。かなりの量を打ち込まれたと思う。

 

「これを打たれたらどんな症状が出るんだ?」

「脳の海馬、つまり記憶の中枢部を刺激し、口から無理やり記憶している事を話させます」

「……」

「それを拒むと、耐え難い頭痛と不快感、吐き気を促し、否定の意志を削ぎ落とす……」

「それをアムロが……?」

 

 ジオンのやったことに戦慄する。

 サンマロは端末の情報を見ながら続けた。

 

「しかし、作用に抗うこと無く記憶していることを話せば、それは治まります」

「アムロはそうしたと?」

「そう考えるのが自然でしょう、抗えば抗うほど廃人になる薬ですからね」

「……」

「しかし、アムロさんは最低限の秘密しか知らないでしょ?モビルスーツとホワイトベースは全部レイ大尉とアニーが仕切ってるんですから」

「そうだな……それは、そうだが……彼女は女性だ、何を聞かれたか……」

「捕虜の恥辱はゲリラ相手でも禁じています、ジオンが守ればの話ですが」

 

 サンマロは落ち着いた様子でアムロの心電図を確認し、それを記入する。

 当のアムロはと言うと、額に汗を滲ませ、何かうなされている様子だ。

 レイ大尉、アムロの父はそれを扉の近くで顔だけをのぞかせている。

 

「レイ大尉、聞いてのとおりです」

「分かっている、自白剤とは……我が娘に……ええい!ジオンめ……!」

「……グランダーは?」

「アナハイム製薬の話は聞いている……奴らの軍事薬剤は人道に反する」

 

 そう言ってレイ大尉はサンマロの端末を奪い取り、ブツブツと呟いて操作した。

 レイ大尉の癖だ、どんな場所でも集中できるが、それ故に独り言が激しい。

 大尉は片手で端末を操作し、爪を噛みながらぶつぶつと呟く。

 

「サンマロ君、これは出来るか?」

「何です?」

「君の医療技術でミクロンドレーンを使いこなせるかと聞いたのだよ」

「ミクロンドレーン……しかしホワイトベースには……」

「今から作る、ブライト艦長、ミデアの補給物資の内訳をくれ」

「は、はぁ……え、作るのですか?」

 

 レイ大尉は私にそう言うと、ムッとした顔を見せる。

 眼鏡の奥に見える瞳はアムロに似ているが、性格がまるで違う。

 一度やると決めたことを絶対に曲げない……非常に困る性格だ。

 

「私は技術主任だが、現場作業員としても12年ミノフスキー博士の元で働いていた」

「は、はぁ……」

「ホワイトベースの整備設備ならば溶接、精密カット、衛生管理も完璧だ。用意しなさい」

「りょ、了解しました、しかしそのミクロドレーンとは……」

「血中組織から特定の毒物のみを摘出する専門器具です……その場で作れる代物では……」

「私を信じなさいサンマロ君、これを使えばアムロの健康が確保されるのだろう?」

「それは保証します」

 

 大尉の技術は確かに凄まじいものだ、整備を完璧にこなし、自身も睡眠を十分にとっている。

 それどころではない、ガンキャノンのマニュピレーターを大幅に改良し、このホワイトベースで5本指に仕上げた。

 整備、修理、補給だけでなく改良まで自分自身の指揮によって完璧なものにした。

 アムロを担ぎ込んだアニー上等兵の支援もあり、最近はその技術にさらなる磨きがかかっている。

 

「ではブライト君、早急に物資の内訳を私に用意しなさい」

「了解しました……」

「サンマロ君、あらゆる医療器具の資料をくれるか」

「はい」

「それとアムロの体質分析を行って欲しい」

「体質分析……えぇ!?僕、男ですよ!?」

 

 体質分析、特殊医療具を使う際に材質による拒絶反応が出ないかを確認する行為だ。

 全身に測定具を装着するため、当然アムロを裸にしなければならない。

 ……ホワイトベースの医務室は病院並みだ、と改めて認識してしまう。

 顔を赤くしているサンマロの肩を掴み、レイ大尉は語りかける。

 

「君を信頼しているから頼んだんだよ」

「で、でも!セイラさんに頼んだほうが!!」

「私は、私が認めた最高の人材に力を注ぎたい」

「……」

「頼めるか、アムロのためだ。」

「……りょ、了解……」

 

 レイ大尉は「良し」と肩を叩き、部屋を後にした。

 サンマロも拳を握りしめ、アムロの容態を確認する。

 

「うちの艦は人材が過剰だよ……」

 

 俺は自分を支えている人間の大きさを改めて実感し、ブリッジへと向かった。

 補給物資の内訳か、確かに保管してはいるものの、把握自体は物資班に任せていた。

 必要に応じて報告させていたが、自分でも把握すべきだった。

 内訳の資料はカーゴベイに向かえば手に入れられるはずだ。

 

 

 ★

 

 

 

「ん~……航空基地跡の制圧か……」

 

 SRT-ユニット1の編成に伴い、初任務として与えられたこの地……ニューヤーク。

 編成が予定より早すぎたとは言え、オーガスタのパイロットの到着は遅れ、

 更にデニス・バロウ曹長のモビルスーツも到着していないとは、何ともついていない。

 

「アラン・アイルワード少尉?」

「え?あぁ、どうしたんですか?ブランシェット伍長」

「隊長、あなたは伍長未満ですか?」

「あ、えっと……どうしたんだい?ホア」

 

 オペレーターのホア・ブランシェット伍長が僕に声を掛ける。

 優しい感じの人だけど僕よりも随分年上の人だ……って事で敬語で話しかけたけど……。

 笑顔で訂正されてしまった。結構辛辣な感じで。

 

「作戦は把握しましたか?」

「う、うん。大丈夫、モビルスーツの整備は順調?」

「ええ、働き者の曹長さんが指導してくれますので」

「……バロウ曹長……?」

「ええ、整備兵を指揮してくださいって頼んだら喜んでっ」

 

 あの軽そうな感じの人をうまく言いくるめたらしい。確か、デニス・バロウ曹長だったっけ。

 後でお礼しないと……。

 

「それで、今回のこの航空基地だけど」

「ええ、つい昨日制圧が完了した航空基地です」

「昨日?基地をまるまる一つ制圧するような戦闘が?」

「ええ、ペガサス級揚陸艦の捕虜救出任務の筈が、一人の隊長が張り切ったそうで……」

 

 そう言ってブランシェット伍長はモニターに基地の見取り図を映し出す。

 赤く表示されている場所が現在確認できる熱源だ。どれもこれも真っ赤だ。

 大きな熱源はモビルスーツの形をしている。

 

「単機で十数機もモビスルーツを撃破。更に基地砲台を一つ残らず撃破し、駐機中のガウをも破壊」

「……そ、それを、たった1機で?」

「ええ、赤い彗星を含むエース2機はホワイトベースが交戦、2機とも撃退したそうです」

 

 大金星じゃないか。

 

「我々の任務は、未だ奪還を企てる残存兵力を撃滅、制圧隊到着までの時間稼ぎです」

「成る程」

「残存兵力と言ってもモビルスーツの報告はありません、陸戦隊と少ない航空隊が予想されます」

 

 ドダイとマゼラアタック、マゼラアタックは分離して来る可能性がある。

 マゼラアタックの主砲は陸戦ジムのルナチタニウムを傷つける程の威力がある。

 集中砲火を喰らったら、たとえ連邦軍のモビルスーツだろうと只では済まないはずだ。

 

「陸戦ジムの武装は、マシンガンだったっけ?」

「ええ、ビームライフルに持ち替えますか?」

「頼んでいいかな。モビルスーツが出ないとは限らない」

 

 基地奪還のために戦車と航空機だけの兵力で基地を奪還するとは思えない。

 汎用タイプのF型でなく、J型のザク数機の増援は覚悟しておいたほうが良い。

 僕の予想が正しければ指揮しているギャロップ……悪い方向に当たればダブデ。

 その辺りの陸戦艦が近くにある筈。その格納庫にザクが搭載されていても不思議じゃない。

 

 しかしこれはチャンスだ。弾数の不利を相手の武器で補うことが出来る。

 ジムは旧式のキャノンとは違い5本指だ。コイツのマニュピレーターならザクのマシンガンも持てる。

 

「よし、大丈夫、ミデアを発進させてくれ、ホア」

「了解」

 

 ユニット1は完全なものではない、でもここでモビルスーツに改めて慣れる事ができる。

 今の重力戦線ではそれすら満足にできない。ここで慣れなければ。

 オーガスタから来るパイロットはあのG4部隊から来るパイロット候補生だって聞く。

 無様な姿は見せられないぞ、アラン。

 

「コクピットで待機する!準備が出来次第ミデアを出してくれ!」

 

 僕は光沢を消してマット塗装にした陸戦型ジムに乗り込む。

 趣味ではない。砂漠でなければ目立つ色のモビルスーツだ。

 こうして簡易的な塗装を行うことで少しでも視認性を減らさないといけない。

 任務の期間に余裕があれば本格的に塗装したい所だ。

 

『ユニット1、出撃します』

 

 

 ★

 

 

 

「……イセリナ様、ガルマ様は本国へ移送されるそうです」

「……」

「イセリナ様?」

 

 イセリナ・エッシェンバッハ。ガルマ大佐の婚約者だったか。

 彼女はガルマ大佐が重体との知らせを着いて放心状態だ。

 気持はよく分かる、あの人情派の大佐のことだ。イセリナ様にもさぞ入れ込んでいたんだろう。

 そんな人が生死を彷徨っているとなれば、こうもなる。

 

「シャア・アズナブル、でしたね?ガルマ様をお救いになられたのは」

「え、ええ、ガルマ様の友人であります。共に本国へ移送されたそうです」

「彼に心から感謝すると、伝えることが出来たら伝えて下さい」

「は……はっ。必ず」

 

 イセリナ様は目に涙を浮かべ、俺に指示する。

 そしてその目はすぐに、仇敵を睨む、憎しみを込めた目に変貌した。

 独特の威圧感が俺の心臓を締め付ける。

 

「ダロタ中尉」

「な、何でしょう」

「あなたをも殺しかけた、木馬の所在はどちらに?」

「……それが、基地が壊滅し、通信網が遮断されておりまして、居場所が」

「でしたら、その基地に連れて行って下さい」

「イセリナ様……」

「ガルマ様を苦しめた……彼奴らが憎い」

 

 イセリナ様の目つきは、女性らしく美しくもあり、恐ろしくもある。

 見開いた瞳からは今にも俺を射抜きかねない憎しみがこもっている。

 更に、その後ろに隠した左手には、逆らう者を仕留める、危ない物が握られている。

 

「……その彼奴らは既に居らぬとしても、行かれるのですか?」

「居らぬなら、探して仕留めるまで、このままではガルマ様がお可哀想!!」

「長い旅路になります、無事に済むとは限りません」

「覚悟の上。私はもう、エッシェンバッハを捨てています」

 

 そう言って、イセリナ様はデスクに銃を置いた。

 俺はそれを手に取り、弾倉を抜いて、スライドを引いた。

 既に弾は装填されており、俺の記憶が正しければ、一発撃たれている。

 

「ま、まさかイセリナ様……」

「この手は既に汚れています。ダロタ中尉……私は」

「……帰れないのですね」

「ええ、これは命令ではありません、断り、私を縛って頂いても構いません」

 

 イセリナ様はまっすぐと俺を見つめる。

 俺はその瞳に息を呑み。覚悟を決めた。

 

「分かりました。ガルマ様のギャロップがあります、そちらに」

「ありがとう、ダロタ中尉」

「いいえ。私もガルマ様の恩を受けた男です、奴らに恨みがないわけではありません」

 

 ガルマ大佐のガウは離脱できたもののここに来てエンジンが不調だ。

 しかし、ガルマ大佐はそう言うときのためにギャロップも降下させていた。

 ルウムの残存兵力を殲滅するために使っていたギャロップだ。ザクもまだある。

 大佐を苦しめた連邦に恨みを持つ兵は少なくない。こうなれば特攻覚悟だ。

 

 

 

 俺はイセリナ様と数多い兵を引き連れ、ギャロップに乗り込んだ。

 皆、イセリナ様に同調する、ガルマ大佐の剣だ。それでも仇討ち部隊にしては少ない。

 しかしこれだけの志があれば、連邦に一泡どころではない、百泡でも千泡でも吹かせられる。

 

「管制との通信遮断、全速前進。機関最大!まずは奪還部隊と合流する!」

「お願いします、ダロタ中尉」

「お任せ下さい、必ずや……ガルマ大佐の仇を」

 

 奪還部隊と合流し、共に基地を奪還、その際に連邦のモビルスーツがあれば、それを破壊する。

 しかしイセリナ様を失う訳にはいかない。モビルスーツを破壊し、それを仇とすればいい。

 ガルマ大佐は生きているのだ。何とかイセリナ様を本国へ送らなければ。

 父を手に掛けた以上、最早イセリナ・エッシェンバッハは存在しない。

 彼女は、イセリナ・ザビだ。

 

「頼む……モビルスーツよ、まだ離れてくれるな」

 

 白い奴や黒い奴は最早居ないだろう。となれば、あの鬼神のモビルスーツ。

 たった一機で十数機のザクを切り刻んだモビルスーツ。奴がガルマ大佐の仇だ。

 イセリナ様の為にその身を散らしてくれ。

 

 

 ★

 

 

 

「……え?」

 

 目を開けると、そこは何だかよくわからない空間だった。

 ついに頭がおかしくなってしまったのだろうか。

 私の体は浮かび上がり、何処かわからない空間をくるくると回っている。

 

「何?ここ」

 

 宇宙だか、川だか、島だか、よくわからない空間。

 私はその島っぽい所に足をおろした。裸足だ。砂の感じはしないが、

 なんと言うか、何で服着てるのか不思議な、ミスマッチな感じだ。

 

「何ここ……ほんと何?アムロってなんかやばいものやってたの……?」

 

 辺りを見回すと、銀河のような空間が浮かんでいた。

 その銀河は一つ一つが様々な色に変化し、そして消えて行く。

 その銀河を渡るように飛ぶ白鳥……。何だか幻想的な空間だ。

 しかしその白鳥は力なくフラフラと落ち、近くの池に降り立った。

 

「あ……」

 

 白鳥はもう翔べないらしい。

 

「可哀想……」

 

 思わずその白鳥に近付こうとするが、私の目の前で白鳥が消えた。

 

「あっ待っ……」

 

 手を伸ばすが、もう白鳥は居ない。

 伸ばした手を引っ込め、何とも言えない気分になる。

 自分の手を見つめてから、もう一度池を見るが、そこは別の空間。

 

 宇宙のような不思議な空間ではあるが、私の目の前にはあれがあった。

 

「ガンダム……?」

 

 白い体、黄色の目……赤い盾。ガンダムだ。

 コクピットは開いている。しかしガンダムは勝手に動き、私の前から立ち去る。

 

「待って!!」

 

 私は思わず追いかけた。ガンダムは怖い、乗りたくないと思っていたのに。

 何故か私の体は歩き去る「私の」モビルスーツを追いかけていた。

 ガンダムがいつのも足音を響かせて私から離れていく。

 

「待って……!ガンダムは私のよ!!戻ってきてよ!!!」

 

 その瞬間、突然、ガンダムの体を、6つの青い光線が貫いた。

 

「―っ!?」

 

 ガンダムが、青い光線が貫いた場所から火を噴く。

 そして、私の目の前でピンク色の閃光を放ち、跡形も無く消えた。

 青い光線を放った赤い物体は、太陽がある黒い影に戻って行く。

 

 黒い影は何かわからない。しかしその黒い影の中にいる奴は分かった。

 

「シャア……!!」

 

 私はそれに向かって、歯を食いしばりながら声を漏らした。

 ガンダムを壊す敵。それがシャアである事は、考えるまでもなかった。

 太陽を背にした黒い影、緑色の一つ目。そいつがシャアである事が、何故か分かった。

 

「私は私なのよ!!私自身がシャアを嫌ってる!!!あんたは私の敵だ!!」

 

 私はそのシャアの影に向かって叫んだ。私の意志でシャアに敵対した。

 シャアを殺せば元に戻る、その考えはガルマさんを殺した今でも変わらない。

 

「絶対に殺してやるから!!首洗って待ってなさい!!!」

 

 憎しみを込めてシャアに叫ぶ。

 その瞬間、足元の空間が割れ、緑色の光の粒みたいなのが私を包んだ。

 そして、目の前が白くなり、思わず私は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 そして目を開けたら、私は裸で、いろんな機材に繋がれていた。

 見回すとサンマロさんが目を背け、セイラさんが私の体に触れている。

 

(な、なな、何してんのセイラさん!?)

「~~っ……!?」

 

 顔を真っ赤にして声を上げそうになったが何とか声を押さえる。

 セイラさんは真剣な顔をして、私の下腹部を指先で撫でるように触っている。

 後ろを向いているサンマロさんに何か伝えているが、聞き取れない。

 

(……べ、別に、治療っぽいし……うん……寝とこう……夢よ夢……)

 

 私はこれこそ悪い夢だと自分に言い聞かせて目をもう一度閉じた。

 

(夢より怖い夢なのよね、現実ってさ……)

 

 セイラさんの触り方が妙に生々しいせいで中々寝付けなかったが、

 どうにかこうにか無理やり意識を落とすことが出来た。

 

 触ってるのがサンマロさんだったら跳ね起きて思い切りぶん殴ってたところだった。




今回のアムロの行動の結果

・アムロ、またしても倒れる。
・アムロ、自白錠の副作用による病気だと診断される。
・サンマロ、テム・レイ、双方が協力し、アムロの治療を開始。
・ガルマ・ザビ、シャアと共に治療の為本国へ移送。
・SRT-ユニット1(MS戦線0079)出撃、ガルマの基地の制圧任務開始。
・イセリナ、父を殺害、ガルマに対する復讐の為ガルマの航空基地へ向かう。
・ダロタ中尉、密かにイセリナを本国へ送る計画を立てる。
・アムロ、ニュータイプ完全覚醒への兆しが見える?

以上の結果となりました。


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イセリナ仇討ちの果て

「緊急事態とは言え、重体の人間をコムサイのカプセルに乗せるとはな」

「はぁ……しかし」

「責めているわけではない、良い判断だドレン、離陸まで後何分かかる」

「はっ、あと2分で離陸可能です、ブースターは予め取り付けてあります」

 

 早いものだ。要請から1日でブースターを取り付け、更に仮設医療設備まで設けるとは。

 仮にもザビ家の人間の生死に関わるとなれば、例え他に任務があろうと投げ出すか。

 お坊ちゃんもここまで恵まれると嫉妬してしまう。

 

「しかし赤い彗星すらここまで痛めつけられるとは、凄いのですか?奴は」

「凄いさ、ニュータイプを戦争の道具にしているのだよ」

「ニュータイプ、でありますか……」

「エスパーが戦争をしたのさ、彗星では超常現象に勝てんよ」

 

 艦長能力に優れたドレンは私とガルマの乗るコムサイの機長を務める。

 ガルマは未だに意識不明だ、既に救護設備で応急手当を行ったが危険な状態。

 私も応急処置を受けてはいるが本格的な治療が必要だ。左足の動きが悪い。

 

「所で少佐。ガルマ大佐には婚約者が居たと聞きました」

「イセリナ・エッシェンバッハか」

「ええ、眉唾な情報ではありますが……そのご令嬢が父を殺害したと」

「何?」

「ガルマ大佐の仇討ちの為、大佐の直属の部下と共にギャロップを……」 

 

 ドレンはコクピットの真後ろ、医療設備で眠っているガルマを見る。

 ……イセリナ・エッシェンバッハ。可憐な令嬢ではあったが……。

 愛の為に父を捨て、更に人を捨てたというのか。いい妻を持ったものだ。

 

「愛を受けたバラ程鋭い棘がついているものだな」

「全くです、大佐には伝えますか?」

「いや、ショック死でもされたら困る……しかし捨て置くわけにもいかんな」

「?」

「見舞いには可憐な美女が必要だということだ。宇宙(そら)に出たら通信を」

「駄目だ今すぐ繋げぇ!!」

「!」

 

 突然コクピットの扉が開かれ、悲痛な叫び声が響く。

 ドレンと副操縦士が驚いた様子で振り向く。振り向かずとも声の主は分かった。

 ガルマだ。

 

「ガルマ、寝ていたのではなかったのか?」

「シャア!ドレンもだ!何故私に報告しなかった!!すぐに通信回路を開け!!」

「……ドレン、どうするね」

「駄目です、エンジンは既に点火状態。間もなく離陸開始します」

「私の目は開いたんだぞ!!むざむざイセリナを殺すつもりか!!!」

 

 ガルマは開いた傷口から血を流しながらドレンに掴みかかった。

 しかしブースターの固形燃料は途中で切れない。こうしている間にも離陸までのタイムリミットは迫る。

 このままガルマを立たせる訳にはいかない。

 

「ドレン、通信回路開け!」

「はっ!?」

「飛行中にギャロップを捜索し繋ぐ!いいな!?」

「了解!大佐、通信席へ」

「……すまんシャア、ドレン!イセリナ……必ず君を救ってみせる!!」

 

 私がドレンに指示すると、ガルマは少し驚いた顔をし、私を見た。

 やむを得ん事だ。このままイセリナ嬢の死を待ってはガルマは道中で自害しかねん。

 せめて宇宙に上るまでの数十秒、ガルマには我慢してもらわねばならんな。

 

 

 ★

 

 

 

「見えた、ガルマ大佐が駐屯されておりました航空基地です、既に戦闘が……」

 

 妙だ、熱源が多数あるというのに戦闘音が響いていない。

 ギャロップも陸戦艇だ。単艦での索敵能力は優れているはず。

 しかし、レーダー上に表示されている熱源は既に炎上している物体のみを映している。

 まさか、たった1機のモビルスーツが戦闘開始から5分も経過していないというのに全て全滅させたのか。

 

「……これが……モビルスーツがやったというのですか?」

「イセリナ様、危険ですここは」

「なりません。ガルマ様の仇をとらねばならないのです」

「……っ……ザクを出せ!索敵の必要はない!必ず奴は居るはずだ!」

 

 ギャロップを前進させ、航空基地へと近付く。ドダイの残骸、兵員輸送車の亡骸。

 マゼラアタックの焼け残り……それらを蹴散らし、踏み潰しながら進む。

 間もなくして前部ハッチが開き、ザクが3機出撃した。優秀な部下だ。奴らならモビルスーツの足を……

 

『センサー良好、モビルスーツを索て』

【出た、ザクだ!……この距離なら……】

『っ……ダロタ艦長!センサーに反応……これは……』

 

 ザクのセンサー反応がこちらのレーダーに同期される。基地の中心部に大きな熱源反応。

 そして、その付近を移動する小さな反応。恐らくこれは人間と、連邦の兵員輸送車だ。

 既に奪還作戦が失敗した今、連邦の兵はいい。ガルマ様の仇代わりとなるモビルスーツ。

 奴を仕留めなければイセリナ様が……。

 

「そいつだ!そいつを撃て!」

『駄目です!射程外です!』

「ならば接近しろ!奴だというのならモビルスーツの武器はマシンガ」

【……頭、いや、首を狙えばコクピットに粒子が届いて誘爆する……当たれ!!】

 

 俺はザクのパイロットに指示を出した瞬間、ギャロップのキャノピー上部をピンク色の光線が通過した。

 メガ粒子砲……だと?馬鹿な。あのモビルスーツは部隊の専用機やワンオフ機ではない。

 連邦軍は携行可能なビーム砲を既に量産可能にしているとでも言うのか。

 

『ダロタ中尉!敵機の狙撃です!れ、連邦のビーム兵器……発射音は白い奴と同じです!』

「分かっている!誰が殺られた!!」

『分隊長です!ベネット少尉が殺られました!!』

「ちぃっ……クックとカルロの2機で大佐の仇をなんとしても沈めろ!懐に飛び込め!!」

『了解!!』

『大佐の仇討ちだ!!』

 

 2機のザクは基地に向けてジャンプした。既にビーム砲の射程距離内だというのなら、

 せめて3次元的な機動をしなければ、ただ歩くだけでは狙い撃ちにされるだけだ。

 対艦戦での考え方だが、モビルスーツが対艦砲並の武器を持っているならそれも有効なはずだ。

 

「ダロタ中尉……!」

「イセリナ様、今こそ仇を!全速前進!ギャロップをモビルスーツにぶつける!!」

「了解、肉薄します!」

  

 ギャロップが加速する。最高速度に達したギャロップは残骸を蹴散らし、一気に航空基地の滑走路に乗る。

 既に1機のザクは両腕と頭を失い、更にコクピットをビームで貫かれていた。

 そして最後のザクは、ヒートホークを使い、奴のビームサーベルと鍔迫り合いをしている。

 

「モビルスーツ視認!あの時の基地を襲った奴と同型です!」

「イセリナ様!!奴こそが仇です!!!これでガルマ様の無念も晴らせましょう!!」

「ありがとう、ダロタ中尉……せめてこの目でガルマ様の喜ぶ顔が見たかった……しかし……」

 

 イセリナ様は目の前に映る砂漠色のモビルスーツを涙を流しながら見据える。

 既にイセリナ様はエッシェンバッハを捨てた。そう言っていた。

 この仇討ちが完了したら、イセリナ様はどうなさるのだろうか。

 

【隊長!!避けて!!ギャロップが突っ込んで来ます!!】

【シミュレーションの鍔迫り合いと違……はっ!?】

「モビルスーツ!!ガルマ様の仇!!!」

『艦長強制コード401α!!戦闘ブリッジ脱出!!』

 

 轢いた。モビルスーツをこのギャロップで押しつぶした。

 俺はそう思い、目を瞑った。しかしその安堵は突然の浮遊感によって消えた。

 突然混線した聞き覚えのある声が、俺の耳を刺激し、更にイセリナ様を放心させた。

 

「な……!?」

 

 戦闘ブリッジが空を飛んでいる。操舵手は困惑しながらも突然の操縦系統切り替えに対応した。

 先程のノイズ混じりの声……あれはまさか、ガルマ大佐……?

 一体……。

 

「イセリナ様……ご無事で?」

「……ガルマ様…………ガルマ様!!私は……何というご無礼を……」

 

 イセリナ様は先程聞いたガルマ大佐の声が聞き間違いでないことを認識すると、泣き崩れてしまった。

 静かな戦闘ブリッジは、熱核ジェット音と、イセリナ様の泣き声だけが響いている。

 

「ダロタ中尉……我々はどうすれば良いのでしょうか……」

 

 下部から突き上げるような爆音……しかし、モビルスーツの撃破には至らなかったようだ。

 我々の損失は独断で持ち出したギャロップ1隻とザク3機……。営倉入りでは済まないだろう。

 おとなしく投降するわけにも行かない。我々にはイセリナ様をお守りする使命があるのだ。

 

「我々は……イセリナ様を無事ガルマ様の所に送り届けるまでジオンに戻―」

 

 その瞬間、ブリッジの下部が桃色に光り、耐え難い高熱が体を包んだ。 

  

 

 

 ★

 

 

 

「……特攻……基地奪還のために……特攻まで仕掛けるのかよ!」

 

 僕は、特攻を仕掛けたギャロップの脱出ポットをビームライフルで狙撃した。

 なんとか動く右手だけでの狙撃だったが、ビームは脱出ポッドを直撃。撃破に成功した。

 しかしジムの左半身は特攻を仕掛けたギャロップの爆発によって大破。

 凄まじい爆発だった。ギャロップの主砲弾が衝撃で内部で爆発したんだ。

 

「……っ……ホア!無事……!?」

『ミデアは無事です……が……基地はこれでは使えませんね』

「ああ。作戦は失敗だ……」

 

 焦土と化し、施設は骨組みを残し全損、航空機滑走路には管制塔が倒れ、

 更に付近に倒れていたザク数機がギャロップの爆発に巻き込まれ、誘爆。

 連鎖爆発により基地機能の損失どころか、周辺区域が廃墟と化してしまっている。

 

『制圧部隊の皆さんも……残念な事に……』

「っく……ホア、ジムも大破した。脱出するから迎えに来てくれるか!?」

『了解、機体は放棄してください。自爆装置を』

「ああ!……被害を広げるみたいで嫌だけど……」

 

 ジムの脚部は完全に破壊され、立ち上がるどころか、もがくことも出来ない。

 だからといってうつ伏せになって這いずり回って、腕が取れてしまったら脱出不能だ。

 だとすれば、ここで機を捨てるしかない。

 

「機密消去プログラム……動くか?よし……ハッチは開く……」

 

 陸戦型ジムは先行量産機だ。RX-78の実戦データが集まる前に開発された機体だが、それでもよく出来ている。

 こんなところで放置して鹵獲でもされたら始末書どころかその場で処刑されても文句が言えない。

 機体がやられてパイロットが無事なら、兵士として最低限のことをしないと。

 機密消去、機体爆破……自爆装置は15分、解除コード削除。……自爆装置起動。

 

「自爆装置起動!最悪な初陣だよ!全く……!!」

『了解!急いで脱出を!』

 

 開いたハッチから機体を飛び出し、焼け焦げた機体を降りる。モビルスーツの爆発範囲はかなり広い。

 できるだけ遠くに走り、発煙筒でミデアに自分の位置を知らせた。

 作戦は失敗、ジムは大破放棄、ギャロップの自爆によって甚大な被害を受けてしまった。

 これが洗礼というものだろうか……。

 

「……ん?」

 

 ふと、空を見上げると、戦場に似合わない綺麗な布が降ってきた。

 焼け焦げているが、高級そうな布地の白い布だ。手触りからして、女性向けのものだろう。

 何故こんなものが降ってきたのか、理由は明白だ。

 

「……」

 

 あのギャロップの脱出ポッドには、それ相応の人物が乗っていたということだ。

 ……事情は知らないが、民間人の女性が乗っていたと思われる。

 僕はその布を戦闘服のポーチに入れ、強行着陸したミデアに乗り込んだ。

 連邦軍部に報告したところで身元がわかるとは思えないが、念の為報告しなければ。

 

「お疲れ様です、隊長」

「ああ……すまない、初陣を勝利で飾れなくて……」

「いいえ、機体も人員も管理も出来ない軍部のタヌキさんのせいです。隊長は悪くないですよ」

 

 相変わらずホア・ブランシェット伍長は何処か棘のある言い方をする。

 しかし、言うことは最もだ。制圧任務とは言え小隊もまともに組めないのに出撃させるなど、

 一体どういった意図で僕たちの編成を早めたのだろう……まさかあのギャロップが関係しているのだろうか。

 ……ポーチから取り出した焼け焦げた白い布を見て、僕は自分の機体の自爆を耳で感じ取った。

 

 

 

 ★

 

 

「ビーコン反応、補足高度内で消えました」

「何!?」

「敵モビルスーツの攻撃でしょう、大佐……戦闘ブリッジが撃破されたと推測されます」

「馬鹿な!?イセリナ!!イセリナ!!!!」

 

 ガルマはコクピットの通信席で喚く。既に遅かったようだ。

 割り込みコードを使用し、戦闘ブリッジを脱出せたのはまだ良かった。

 しかし、その後の指示を与えていなかったのだ。脱出後の離脱は迅速に行わなければ的を浮かべるだけだ。

 

「あ……ぁぁ……何という……何て事だ……!!私は……僕はイセリナを……!!」

「……」

 

 通信席に突っ伏し、コンソールを殴るガルマを補助席に座った状態で見る。その体は傷だらけだ。

 目覚めて行動を起こすどころか、コムサイに乗るまでに死んでもおかしくない体だ。

 愛の力というものは、時に人を思わぬ方向へ持っていくらしい。

 まさか生死の境をさまよう人間すら現世に引き込むとは……。

 

「僕がすぐに目を覚ましていれば……!!イセリナを殺すことなど……!!僕のせいだ!!」

「……」

「シャア……情けない男だ、お坊ちゃんだよ僕は……女性一人救えないお坊ちゃんだ!!」

「ガルマ、落ち着け。君はむしろ彼女を救おうとした」

「……」

「むしろ自業自得とも言える」

 

 失言だ。しかし言い直す気など起きない。

 案の定ガルマは血相を変え、血がにじむ包帯を気にすること無く飛びかかろうとした。

 しかし今は加速中のコクピットだ。皆宇宙に出るまで椅子に縛り付けられたままだ。

 

「何が!!何を言ったシャア!!!!」

 

 ガルマは通信席で補助席に座る私に向けて吠えた。

 

「イセリナ嬢は自ら死に飛び込んで行った」

「貴様ぁ!!!!」

「戦場のせいと言う事だ!戦争を引き起こしたジオンそのものがイセリナ嬢を殺した!」

「なっ……!?」

「違うかガルマ。君は戦争を終わらせたいのだろう?でなければ何故本国へ戻る」

 

 私はマスクを取り、床に落とす。するとガルマの猛獣のような殺意の籠もった目が元に戻った。

 そして逆に自らを失ったかのような、落胆したような表情を見せた。

 

「……そうだ、僕はザビ家の男だ…………そうだ……取り乱してはいけない」

「それは古いザビだよガルマ。君も私も、新しい時代を作る若者だ」

「……ああ……」

「……」

 

 しばらくすると、コムサイは地球の重力圏を抜けた。締め付けられていた体が軽くなり、

 ドレンはブースターの離脱を操縦士に指示する。無音だが、衝撃を感じた。

 それと同時に、補助席のロックが解除される。安全圏に達したらしい。

 

「……暫く休めガルマ、病院船の到着までまだ時間がある」

「……すまん、シャア……言葉に甘えよう……」

「イセリナ・ザビに冥福を」

 

 ……私は肩を震わせて立ち去るガルマに敬礼した。

 しかしイセリナ・エッシェンバッハ……。あっけなく哀れな最期だ。

 ガルマが死んでいないと知りながら仇討ちを焦り、戦火に焼かれるとは。

 

「ドレン」

「はっ……」

「女性というものは御し難い生き物だな」

「はぁ……自分は女性というものに疎いもので……」

「尽くす女性は暴走するものだ、それを覚えて少しは体を絞るのだな」

「はは、返す言葉もない……しかしガルマ大佐は気の毒ですな……」

「互いに好き合っていたのだ。しかし我々にはどうする事もできんよ」

 

 私はそう言って、目の前に現れ、発光信号を向けている赤十字の高速艇を見据えた。

 ……一足早く本国へ帰るか。私は重傷とは言え、戦線に復帰せねばならない。

 ガルマは……不明だ。愛を受けて覚醒したがその愛を先程失った。

 このまま衰弱し、死亡する可能性も十二分にある。

 

「シャア少佐、分かりませんな」

「何か」

「傷を負っているとは言え、シャア少佐はこうして動ける」

 

 ドレンは私にまっすぐ向き、いつもの疑問とは違う雰囲気を醸し出す。

 大方予想はつく。純粋な人間でないならば誰でも考えつくことだ。

 

「何故イセリナ嬢に伝えなかったのです?嘘でも健勝だとお伝えするべきでは?」

「……」

「少佐はイセリナ嬢の想いを知っているように見えます、故意に伝えなかったとすれば」

「歯がゆいことを言う。私がイセリナ嬢を謀殺したかのような口ぶりだな」

 

 ドレンは私の言葉に口を慎み、再び高速艇を監視する。

 

「イセリナ嬢はこれからのザビ家に必要な人間ではある」

「……」

「だから伝えなかったのだよ、無事も、居場所も」

「……」

「ガルマの拠り所を無くさなければ、ガルマはザビから真の意味で落伍する」

 

 ドレンは首を傾げた。

 

「故に殺したと」

「動いたのはイセリナ嬢だ。生きていればいずれ会わせるつもりで居た。器が小さく聞こえるが事実だよ」

 

 イセリナ嬢の死は予想外だった。恐らくガルマの部下がイセリナ嬢に伝えたのだろう。

 ガルマが瀕死の重傷を負いったと。純粋なイセリナ嬢は仇討ちを企てた。

 ……情報統制の甘さは私の悪い所だ。それが故に友人の恋人を死なせた。

 

「……分かりませんな、シャア少佐という人物は」

「ザビ家を友人に持てば私の気持ちも分かるさ」

 

 

 

 ★

 

 

 

 数日後、私は現実のガンダムの前に立っていた。隣にはセイラさんが居る。

 もうガンダムに対する恐怖心はない。何なら今からでもコクピットに座れる程だ。

 セイラさんは私を何故か直視しない……まぁ、私もあまり直視できないけど……。

 

「……あの、セイラさん?」

「ぇ、え?あ……コホン……何かしら?」

「いや、あの……まあ……いいや。……えっと、何だっけ……」

「シャアのことを聞きたいんでしょう?」

「あ、あ!はい。そうシャア……だっけ?うん、シャアの事」

 

 セイラさんはガンダムを見上げ、少しため息を付いた。

 呆れたのか、それともガンダムを見て嫌な気分になったのか。

 それはわからないが、おもそうな口を少し開き、また閉じた。

 

「……」

「……」

「セイラさん?」

「……ごめんなさい、私には、話せないわ」

「え?」

 

 セイラさんは目を伏せた。シャアのことを知っているのはセイラさんだ。

 でも、セイラさんはこうして話そうとしない。というより話せない。

 知っているけれど話せない。やっぱりそう言うことか。

 

「身内だから……?」

「!」

「私はシャアの目を見ました。青い目をして……セイラさんに似た金髪……」

「……ええ、身内よ……」

「……やっぱり……」

 

 私はセイラさんと同じ姿勢でガンダムを見上げる。この時間の格納庫は誰も居ない。

 声は響くが、こんな真夜中に人が来るわけがない。皆疲れてるんだ。

 私はここ数日寝てばかりだったせいで最早眠れない。セイラさんは何で起きてるんだろう。

 

 そう思って、私はセイラさんを見る。ふわっとした金髪が、どこからか吹く風で揺れる。

 そして横目に映るその青い瞳は、シャアと同じ澄んだ青い瞳だ。

 

「……セイラさん」

「……」

「それでも私はシャアを殺します。絶対に」

「そうしてくれると、助かるわ」

 

 え、え?はい?

 

「え、あ、そう、そう言う感じなんですか?」

「ええ……シャアは敵よ。連邦軍の敵であり、私の敵でもある」

「……そう、なんですか」

 

 セイラさん……弟さんのこと相当憎んでいるらしい。

 いつも話すときより明らかに瞳孔が小さくなっていて、ギリギリと拳が音を立てている。

 でもただただ怒りを見せているわけではない。失望と、悲しみの思いも混じっているように見える。

 まるで好きだった人に裏切られたような……。不思議な感じだ。

 

「アムロ」

「は、はい……」

「彼の目は、青かったのね?」

「セイラさんがあの人の素顔を見た目と、同じです」

「……」

「セイラさんの、おとう」

「兄よ」

「あ、はい、お兄さんと澄んだ青い同じ目です」

 

 そう言うとセイラさん、憎悪の目から一変。少し安心した目になった。

 気持ちの整理ができてないのかな……?

 

「……」

「私の気持ちは変わりません、奴を仕留めて……」

 

 元に戻る。見つけ次第、殺す。

 

「ええ、私も支援するわ、それは変わらない。兄さんを止めて」

「はい、約束します」

 

 私とセイラさんはお互い向き合い。互いに頷いた。

 

「ところで……」

「?」

「私の体はどうでした?」

「えっ?」

 

空気が凍り付いてしまった。




今回のアムロの行動の結果

・イセリナ・ザビ戦死
・航空基地壊滅、SRT-ユニット1撤退
・ガルマ、シャア、宇宙へ脱出
・セイラ、アムロにシャアの正体を一部明かす

以上の結果となりました。


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ザクとは違う

「アムロ!もう良いのか?」

「父さんとサンマロさんには感謝しきれないよ、ありがと、父さん」

「可愛い娘のためだ、当然だろう」

 

 次の日、セイラさんと話した次の朝、私は格納庫に駆け込んだ。

 特に理由はない。ガンダムが見たかっただけ。父さんもそこに居た。

 今日も父さんはガンダムとガンキャノンの整備に追われている。

 ガンタンクは……出撃してないから整備も最低限らしい。

 

「ガンダムはどう?」

「データ収集も順調だ、機体を随分酷使したが、その分実りはある」

「酷使……まぁ……そうかな」

「キャノン、タンクはマイナーチェンジ品だ。実戦データも十分取れている」

「うんうん……」

 

 まいなーちぇんじ……。ちょこっと変えた物だっけ?

 私のパソコンにも何かガンキャノンとガンタンクみたいなのがあった。

 白くてキャノン砲が一つだけのガンキャノンと、ずっしりしたガンタンク。

 いや、戦車だからずっしりしてるのが良いんだろうけど……。

 アレのマイナーチェンジが今のガンキャノンとガンタンク、だったはず。

 

「ガンダムは完全新規品だ、これを見なさい。お前の戦闘データだ」

 

 そう言って父さんは私に白い端末を渡した。それを開く。

 何やらごちゃごちゃしたグラフや数字が並んでいる。

 えっと、円グラフの赤い部分が、青い部分を塗りつぶして……。

 ガンダムと、戦闘データの数値で推力限界がどうのこうの……。

 うん、わかんない。

 

「?」

「関節駆動速度を段階的に上げてはいるが、まだまだ限界まで余裕がある」

「ふんふん」

「それにスラスターの推力限界も計算上の数値を超えていない」

「超えてないのね」

「装甲強度の限界は既に計測、実証済みだ。既に限界衝撃係数を算出している」

「ほうほう」

「私が今知りたいものは、ここだ」

「ここ?……どこ?」

「アムロは既に上空3800フィートの高度での戦闘を実施できている。しかしこれはアムロが行った最高高度だ。カタログスペック上、つまり私の計算ではガンダムのバーニアは一度の飛行で60秒以上の飛行が可能だ」

 

 何を言ってるのかサッパリ分からないけど、つまりガンダムはまだ頑張れる。

 ガンダムは1分も飛んでいられるらしい、確かにあの時邪魔が入ったけどまだ飛べたはずだ。

 私の操縦より上手な人が乗ればまだまだ動かせるんだ、これ。

 

「……」

 

 少し悔しく思う。つまりこれ、ガンダムはまだ本気を出していないということだ。

 数値としてはっきり出るものだから、なおの事悔しい。

 この端末の数値、グラフの青い部分がガンダムの性能で、赤い部分が私が出した性能?だ。

 これが全部赤色にならない限り、ガンダムは本気を出せていないということになる。

 特に推力、ジェットかバーニアかスラスターかわからないけど、まだ半分の性能も発揮できていないことになる。

 

「父さん、ガンダムはまだまだ余裕って事だよね?これ」

「そうとも、ガンダムの性能限界はまだまだ先だ」

「……」

 

 私は胸に手を置き、ギュッと手を握りしめる。何とも言えない悔しさがこみ上げる。

 悪夢だか何だか知らないけど、夢に出るほどガンダムを思っているのにこれか。

 いや、そうじゃない。ガンダムはこんなもんじゃないって事に気付けたんだ。

 シャアのザクなんてあっという間に倒せるような性能なんだ。それ程ガンダムは強い。

 

「アムロ、お前の腕はまだ並だ、ガンダムに追いつくには程遠い」

「うん……分かってる」

「私から何を言うわけでもない、しかし、今はお前しかガンダムを動かせんのだ」

 

 父さんは私の肩に両手を置く。その目はいつになく真剣だ。

 いや、父さんはいつでも真剣だけど……なんと言うか、軍人の目だ。

 私がそれに頷くと、父さんは眼鏡越しに優しい目を見せた。

 

「なぁに。ケンプ中尉なんかこれの10%も出せなんだ、それに比べるとマシなものだよ」

「ケンプ中尉?」

「ガンダムのテストパイロットだ。優秀だがパイロットには適さない男だったよ」

「へぇ……」

 

 ケンプ中尉……どっかで聞いたことがある名前……。誰だっけ?

 ガンダムのテストをしてた人、で……えっと……モミアゲがすごい人?

 アムロが昔どこか出会ったことがある名前らしい。

 

「その人でも駄目だったの?」

「地上戦は愚か、宙域戦でのノウハウも無かったのだ。仕方のない事だ」

「そうなんだ……」

「今のジムとて一杯一杯だよ、手探りで独自の動きを模索しなくてはならん」

 

 確かにザクの動きはパイロットによって細かな違いはあるが、規則性のある動きだ。

 特に肩のタックル、あれはザク独自の動きではあるが、攻撃方法は似ている。

 シャアみたいなパイロットじゃないなら動きを予測できるくらいだ。

 

 それに比べてこの間見たモビルスーツ、ジムだっけ?あれの歩き方は特殊だ。

 歩き方の設定がガンダムと違うのか、前のめりなガニ股で歩いていた。

 銃の撃ち方も機械っぽかったし。

 

「こいつもそうだ、教育型コンピューターのお陰でフィードバックは比較的安易だがね」

「教育型コンピューター……って確か……」

「動かせば動かすほど、ガンダムは状況に応じた最適な挙動を算出するものだ」

「そうそう、それ。それのお陰なんでしょ?」

「傑作とも言えるシステムだ。おかげで今では手足のように動くだろう?」

 

 聞いたことがある機能だ。ハロの脳みそにもそれの簡易版が載っけられてるとか。

 たしかに最初ガンダムを動かすのに四苦八苦していた。でも今は簡単だ。

 慣れだけではないとは思っていたけど、それ程凄まじい機能なんだ、教育型コンピューターって。

 

 そんな事を話していると、また艦内に警報が響き渡った。

 

「!」

『敵機3機!1機はザンジバル級!!総員戦闘配置!機銃!メガ粒子砲開け!!』

「シャア!?来た……」

「恐らく違うだろう、アムロ、ノーマルスーツに着替えなさい」

「う、うん……」

 

 シャアじゃない?……シャアは何処に行ったの?

 あいつを……いや。今は考えないほうが良いか。シャアじゃなくても敵は敵……。

 シャアじゃないからって弱いわけじゃない。前例があるんだから気合を入れないと。

 

 機銃の銃声が響く中私はエレベーターに乗り、更衣室へと向かった。

 ノーマルスーツって宇宙服じゃないの?何で地球で着なきゃいけないんだろう。

 そう考えながら私はブリッジのブライトさんに話しかける。

 

「ブライトさん、ガンダムは!?」

『今は海上だ!陸上に降りてから迎撃してもらう!』

「え?でも……」

『海上なんだよ!!っ対空砲何やってる!迎撃遅いよ!!』

 

 そうだ……アメリカを抜けて今は太平洋上なんだっけ。

 いくらガンダムでも海に落ちたら沈む以外ない。……と思うけど。

 いや、分からない。父さんの事だから水中でも戦えるのかも?

 まぁ、何であれ敵はザンバジル?かわからないけど飛行機なんだ。

 海の上じゃガンダムが1分間飛べたとしても落ちた先が海じゃ話にならない。

 

「うわっ……!?」

 

 ホワイトベースの何処かに弾が当たったのか大きく揺れた。

 あの戦闘機集団の攻撃じゃない。1発喰らっただけなのにかなりの揺れだ。

 ホワイトベースが若干右に傾き始め、整備の人たちの慌てる声が聞こえる。

 

『嵐の中に突入する!総員、何かに掴まれ!』

「何か……!?」

 

 ホワイトベース内で放送が入る。何かに掴まれ、と言われたのでとりあえず柵につかまった。

 宇宙での作業を想定しているせいか、ホワイトベースの柵はかなり低い。

 所謂2階に居る私が足を滑らせたらガンダムの下半身くらいの高さから真っ逆さまだ。

 宇宙と地球どっちでも使える戦艦だから仕方ないのかも知れないけど……。

 

「ととと……!?」

 

 なんてこと考えてる場合じゃない。ガンダムが何メートルか測ったことないけど、

 落ちてサンマロさんの医務室送りにされたらそれこそ笑い者だ。

 こんな不安定なところでフラフラしてるよりさっさと更衣室に入って着替えよう。

 

「よっと……」

 

 私は久しぶりのノーマルスーツを肌に通す。相変わらずピッチリした服だ。

 でもこれが基準のパイロット用の服だって言うなら着るしかない。

 宇宙で着るならまだしも地上で着る意味があるのかと聞かれたら、少し謎だけど。

 

「にしても……嵐だっていうのに飛んでられるんだ……」

 

 ホワイトベースの中がゴトゴトと揺れる。嵐に思い切り突っ込んでる所だろう。

 それなのに当然のようにホワイトベースは飛んでいる。

 飛行機だって嵐の時は運行休止になるのに……どうやって飛ばしてるのかしら。

 

「下着よし、ファスナー良し、ヘルメットは……と」

 

 私はいつもの白いノーマルスーツに着替え、更衣室のベンチに座る。

 捕まった時にヘルメットが思い切り割れたけど、ご丁寧に新しいヘルメットが用意されていた。

 割と消耗品なのかな?だとしたら新しいの作るよりもっと頑丈なの用意してほしいけど。

 

「アムロ?」

「あれ、フラウじゃん、どしたの?」

「ううん、何にも、アムロが居るならここかなって」

 

 ベンチに座ってぼんやりしていると、ひょこっとフラウが入ってきた。

 何やら物憂げな顔をしている。目を逸らして、何か言いたげだ。

 

「……ん?」

「アムロ、出撃するの?」

「まぁね。でないとこんな服着ないし」

「そう……」

 

 フラウは私のヘルメットを手に取る。それを被り、バイザーを閉めた。

 

「意外と息苦しいのね、これ」

「それだけじゃ確かに息苦しいかも。この服着るとマシよ?」

「そうなの?」

「うん、何かよく分かんないけど繋がってるみたいで」

 

 そう言うとフラウはヘルメットを取った。ぷはっと苦しそうに取る姿は子供そのものだ。

 そりゃあ子供だ。15歳だもん、私も子供だし。

 

「キッカちゃん達は?」

「ハロと遊んでるわ。あの子達に外の天気は関係ないから」

「そう……え、ハロと?」

「ええ、教えたの」

 

 ハロ、ついに子供の面倒を見れる程になったんだ……。ハイスペック過ぎない?

 フラウの言葉を記憶してそれを実行できるって、もうそれ機械とかそんなのじゃないでしょ。

 私が口をあんぐり開けて驚いていると、フラウは笑みを見せる。

 

「アムロの趣味もたまには役に立つのね」

「え?あぁ、そう?」

「ええ、ハロは凄いわ。改造したんでしょ?」

「う、うん……」

 

 そうだった。ハロは市販の玩具をアムロが改造したものだ。どう改造したか……。

 えっと……手足を付けて、脳波測定や簡易的な健康診断も……。

 ……アムロ凄いな。

 

「……それにモビルスーツにも乗れるなんて」

「いやそれは……」

「ううん、私には出来なかったもの、カイさんたちに止められちゃった」

「そりゃ止めるでしょ……私だって止めるもん」

「そう……かしら?」

 

 フラウは少ししょんぼりした。ガンダムを動かしたいって言ってたのは聞いてたけど。

 でもガンダムをフラウが動かす姿なんて想像できないしあまりしたくない。

 この子は私とは違ってできることが多い子だ。それはフラウも承知しているはず。

 でもフラウは優しい。だからこそ私の代わりになりたいんだろう。

 

「フラウ、私もうヘマしないから安心して」

「アムロ……」

「ガンダムは私のモビルスーツよ?取られたら引きこもるかも」

 

 私がそう言うと、フラウはくすりと笑う。

 

「昔に逆戻りねっ取っちゃおうかな?」

「本気?私に勝てるならいいけど」

「冗談よアムロ……にしてもすごい嵐ね……」

 

 揺れるホワイトベースを見回し、フラウは少し怯えた。

 確かに、最近の気候では中々考えられない天気ではある。

 でもここは海だ。こんな天気もないことはないだろう。

 

 すると、ホワイトベースの明かりが一瞬消え、砲撃のような音が鳴る。

 ビシャーンという独特な音の後に腹に響くゴロゴロという音……。

 

「きゃあああ!?」

「うわっと…………雷!?」

「何……ジオンの新兵器?」

 

 雷だ。久々に聞いた……。

 

「アムロ……!?ジオンってこんな兵器……」

「ふ、フラウ落ち着いて、ただの雷だから」

「雷って何よぉ!!」

 

 雷知らないの!?

 

「え、雷は……雷じゃん。ほら、ゴロゴロって奴」

「知らない!ジオンの兵器なの!?」

「違うって!地球の自然現象!雲がどうにかなってこうなるの!」

 

 少し驚いた。フラウは雷を知らない子なんだ。

 ……フラウは15歳。コロニーの天気に雷はないのかな。

 だとしたら生まれて初めての自然現象を体験してるって事なんだ。

 だったら怖がるのも無理はない……けど、コロニーに雷はないのかぁ。

 

「大丈夫、地球の自然なのよこれは。むしろ喜ばしい事、自然は生きてるの」

「……本当?」

「雷は味方。自然はホワイトベースを隠してくれているんだから、ね?」

「……分かった」

『本艦はこれより着陸する!アムロ!ガンダム出撃用意だ!』

「はい!すぐ乗ります!じゃあ、フラウ」

 

 私は通信モニターに返事をしてフラウの肩に手を置く。

 

「あ……アムロ!」

「死なないよ、次は負けない」

「うん」

「さ、やることがいっぱいあるんでしょ?色々とね?」

 

 フラウは目に少し涙を溜めて頷いた。

 

「頑張ってね。アムロならやれるわ……無事に帰ってきて」

「うん、じゃあ先に!」

 

 私はフラウに精一杯の笑顔を見せてヘルメットを手に取って更衣室を出た。

 命の遣り取りをする前だっていうのに笑顔が出てしまう。

 しかしその笑顔を咳払いで振り抜き、ガンダムに向けて走った。

 

「よし……父さん!ガンダム……あれ?」

「レイさんはガンキャノンに火入れてるとこ!ガンダム出せるよ!」

「アニーさん」

 

 ガンダムのハッチに手をおいたあの時私を担いでくれた女の人。

 アニーさんが工具箱を片手にハイタッチを求める。

 私はそれに応え、ガンダムのコクピットに滑り込んだ。

 

「スラスター周り少しいじってみたんだ、少しは操作しやすくなってるはずだよ」

「ありがとうございます!」

「こっちも仕事さ。礼は戦果で応えてくれたらいい。各部チェックいいね!?」

『BR-G2E、良し!BS-1、2!出力調整良し!バルカンセーフティ解除!シールドカメラ起動!』

「武装班よし!緊急アポジとスラスターは!?」

『全各部緊急アポジモーター、作動チェック良し!スラスターは!?』

『こっちも大丈夫です!アニー姉さんの調整は完璧ですよ!』

 

 私はアニーさんの無線と整備班の皆の無線がヘルメットの無線機に響く中、目を閉じる。

 フラウが息苦しいと言っていたヘルメット……たしかに被ってみたら苦しく感じるものだ。

 でも、この息苦しさが、私を奮い立たせてくれる。

 

『FCS補正+2。教育型コンピューター算出値に準ずる!』

『発進前チェック完了!』

「毎回これだけ確認できりゃいいけどね……アムロ、発進準備完了。ハッチ閉めていいよ!」

「っはい!ありがとうございますアニーさん」

「あんたの親父さまさまだよ。いい船に乗った。じゃ、がんばりな!」

 

 アニーさんがガンダムから離れ、ガンダムに乗るための足場が引っ込む。それを確認して私はハッチを閉めた。

 ガンダムの前方のカメラが起動する。まだホワイトベースのハッチは開かない。

 

『アムロ、聞こえて?』

「はい」

『ザクは3機と思われるけど1機がはっきりしません、地形データは確認した?』

「今見てます……ゴツゴツした岩場ですね」

『ええ、なるべく平地に着陸するけれど、射出後の着地は足場に気をつけて』

「分かりました」

『着陸するわ。舌を噛まないように』

 

 セイラさんの指示を聞き、私は気持ち踏ん張る。すると指示通り衝撃が来た。

 結構強めの。

 

「うぃ!?お、お尻痛っ……もっとテンション上げて言ってくれたら……」

 

 少しセイラさんに文句を言う。が、通信モニターの電源を切り忘れていたらしい。

 セイラさんが半目になりながら「カタパルトへ」とやる気なさげにいう。

 

「す、すみません……」

『やる気を出せばいいのでしょう?悪かったわね、無愛想で』

「すみませんっ!」

 

 カタパルトに乗ると同時に、ホワイトベースのハッチが開く。

 その瞬間、びゅうと風が吹き、カメラに雨の粒がビチビチと当たった。

 しかしその雨粒はまたたくまに消え、まるで雨が降っていないかのように映る。

 

「おぉ……」

『全天候対応型だ。どうだ?カメラの調子は良好か?』

「うん、父さん。やっぱガンダムは凄いよ」

『一つ目連中は視界の確保に難儀しているがね、ガンダムは違うものだ』

『アムロ、発進どうぞ!!!』

「うわびっくりした……あ、アムロいきまーす!!」

 

 セイラさんも怒鳴れるんだ……いや、人間だから怒鳴って当然か。

 後ろめたい気持ちを押さえ、頭を振って操縦桿を引いた。

 スラストペダルを踏み、カタパルトから飛び出す。

 そう言えば、地球の雨を浴びるのは久しぶりな気がする。いつかは忘れたけど。

 

 

 ●

 

 

 カタパルトから飛び出し、少し上に上昇する。慣れたものだ。

 手頃な地形を探して、そこにうまく着陸……。

 

「って、わ、わわぁぁ!?」 

 

 出来なかった。ものすごく地面が滑る。そうだ、ここは岩場だ。

 岩場で何の滑り止めもなく濡れた岩を踏んだら滑るに決まっている。

 私は操縦桿をガチャガチャ動かし、うまく姿勢を制御すると、モニターになにか表示される。

 赤文字で「Landing Claw!」とデカデカと書かれている。そうだ。着陸用の爪!

 

「えっとどれだ……これ!押しやすいとこ!」

 

 コンソールの下部分、Landing Clawと表示されているスイッチを入れ忘れていた。

 そのスイッチを上に上げると、足の部分からガキン!といい音が鳴り、カリガリと岩を削る。

 そして、うまく止まった。

 

「はぁ……危なかった……」

 

 額の汗を拭おうとするが、拭えない。

 

「っと」

 

 バイザーを上げて、額の汗を拭った。しかし、コンソールに表示されている情報には敵が映っていない。

 しかし、ホワイトベースから敵が来たと言ってたんだ。誤報ではないはず。

 という事は、完全に見失ってるってことらしい。

 

「敵は何処です!?」

『位置不明!姿を隠したみたいです!目視で捜索して下さい!』

「オスカさん、見つけたらお願いします!」

『分かってる!2機はザク。1機は何だ……視認カラーは青、見たことがないぞ』

「青いモビルスーツ?そんな目立つ色で……私もか」

 

 私はそう言って操縦桿を開き、ペダルを踏む。するとガンダムが大ジャンプし、岩の山を越えた。

 

「っと着地。で……何処に……?」

 

 私はビームライフルを構え、盾を前に出して歩く。敵が来るのを確認してからじゃ遅い。

 ザクとの戦いで少しは学んでいる。盾は結構というよりすごく大事だ。

 ……アニーさんにちまちまと文句を言われることもないし。

 

「!」

 

 私は足を止める。何かを感じる。ざわざわと耳の奥で何かが響く。

 私が足を止めた瞬間、その何かが止まった。人のような、気配のようなものを感じる。

 

「どこ……?いや、違う……動いてるってことは……もう位置はバレてる……」

  

 その何かが近づいてくる。まっすぐ、私に向かって。

 敵の反応はない。でも、それは確実にこっちに来ている。

 正面、上か……それとも右か左……来た!!

 

「上!……え!?」

 

 何かが飛んできた。ザクじゃない。弾でもない。

 それがガンダムの盾に直撃する。

 

「ぅぐ……ああぁ!?」

 

 その瞬間、盾を持つ手が思い切り光った。まるで雷のように。

 その光が腕を通し、ガンダムのコクピットに伝わる。

 私の両腕がバチバチと強い電気ショックを感じた。

 

「あっ……っち……!!」

 

 その電気ショックと衝撃で大きく吹き飛ばされるが、ペダルを踏み操縦桿を前に出して耐えた。

 かなり後ろに下がったが、気を取り直してその攻撃を受けた方向を見る。

 

「何!?」

 

 私の立っているところよりも高い位置にある崖……その上に立っているザクが2機……。

 そしてその中心に立つ、青い色のザク……?のようなモビルスーツ。

 肩のトゲトゲが両肩に、盾を左手に持っている。持っているモビルスーツだ。

 

「ザク…………違う……いや、でもザク?っていうか今の武器は……?」

【アコース!コズン!仕掛けるぞ!】

「もうザクでいいや!とりあえずやばい奴!!」

 

 その青っぽいザクは崖から飛び降り私に向けてマシンガンを撃ってきた。

 あの青いザク、手に武器を持っていないと思ったら左手から弾が出てきた。

 成る程、ロボットだから出来る技って奴ね。でも……!

 

「着地!この瞬間!」

 

 結構な高さの崖だ。着地をした衝撃を吸収しなければならないはず。

 それを狙い、盾を構えながらその後ろでビームライフルを構える。

 あのザクが着地した瞬間に撃つ。崖上のザクはまだ撃ってこない。

 

【クラッカーだ!】

【了解!】

「着地した!当た……!?」

 

 上のザクが1機青いザクに続いたと思ったらもう一機のザクが何かを投げた。

 ……投げた。ザク……ガンダムの……まずい!あの時の爆弾だ!

 

「させない!!」

 

 すぐに上のモニターを見上げ、その爆弾の位置を確認する。あった。

 例の十字爆弾。それにバルカンの狙いを合わせる。

 ガンダムは上を見上げているはずだ。よし、狙いマークが赤くなった。

 

「当たれ!」

 

 左手の発射スイッチ、バルカン砲の発射スイッチを押す。

 しかし、反応が遅かったらしい、十字の爆弾は分裂し、たくさんの爆発を引き起こす。

 その爆発は私の目の前で起こり、カメラの映像が思い切り乱れる。

 

「しまっ……っつぅ!こんの!!ガンダムは動くの!?」

 

 ガンダムの操縦桿を前に倒すと、ガンダムはそのまま走り出した。

 よし、今回はガンダムがちゃんと動くらしい。ガンダムと父さんらに感謝だ。

 ザクの動きも普通じゃない。上手い人が乗っているのが分かる。

 しかしあの青いザクがわからない。今も盾に左手を撃っているだけだ。

 

「十分な距離!これなら避けられない!」

 

 ガンダムを走らせ、確実にあのザクにビームライフルを当てられる距離に近づいた。

 ビームライフルを構え、予め腕に取り付けた盾を左手に持つ。

 

【いい度胸よ!グフ相手に接近戦とは!それとも機体が分からんか!】

「この距離ならビームを当てられる!そこ!」

 

 私はビームライフルの引き金を引いた。ビームが青いザクに向けて飛ぶ。

 そのビームはザクと同じようにコクピットを貫く……と思ったが、真上にジャンプした。

 ビームは青いザクの足をすり抜け、岩にめり込んで消える。

 それと同時にザクが突っ込んできた。ジャンプしている青いザクと連携するつもりらしい。

 

「来ると思った!そうでもなければ一緒に降りない!」

【コズン!仕掛けろ!】

【奴にはヒートホークが有効……やってみます!】

「邪魔を……!!」

 

 手に持った盾を手放し、上の青いザクに向けて投げつける。

 その盾は狙い通りに青いザクの視界を隠した。

 

【お!?】

「次は……!!」

 

 斧を右手に持ったザクに向けてビームライフルを狙いをつけずに2連射する。

 ズズキュゥン!と適当に放たれたビームは一発外れ、もう一発は狙い通り右手首を撃ち抜いた。

 

【何が!?】

【小癪な……早撃ちが出来てもヒートロッドは!!】

「上……何!?」

 

 投げた盾が私の足元に突き刺さる。青いザクがはねのけたらしい。

 しかし空中の青いザクは私のガンダムに向けて触手みたいなものを吐き出す。

 その触手はガンダムのビームライフルに巻き付く。

 

「……?掃除機のコード……?違……やばっ!?手放し……これ!」

【落ちろ!!】

「っづ!しびれ……ぁああ!!?」

 

 その巻き付いた何かはさっきのと同じしびれを感じさせるものだ。

 巻き付いたり叩いたりする……所謂鞭のようなものらしい。

 ビームライフルにそれが巻き付き、すぐさま手放す。そしてすかさず盾を拾い、両手で構える。

 

「爆発……!!……あれ、しない?」

【実弾でなければ爆発せんか……ならば!】

「……ライフルは壊れた……ガンキャノンとガンタンク!まだなの!?」

『既にそちらに向かっている!持たせるんだ!』

「遅いって!急がせてよ!」

 

 壊れたライフルを尻目に盾を拾う。そしてすぐさま先を摑み投げつける。

 しかしそれはあの鞭によってはたき落とされる。

 だがそれが狙いだ。あんな危ない電気鞭、だらんと垂れっぱなしには出来ない。 

 って事はそれが戻る瞬間だ。

 

【二度も通用するかよ!】

「でぇやああ!!」

 

 私はペダル踏み、スラスターを思い切り吹かす。一気に速度が上がったガンダムはその勢いのまま地面を滑る。

 岩の地面を削りながら青いザクの目の前にまで突撃し、そのまま右足を思い切り振り上げる。

 ガンダムの右足はでかい金属音を鳴らし、青いザクの足の間を蹴り上げた。

 

【何!?】

「怯め!そのまま斬る!!」

 

 両肩のビームサーベルを同時にスタンバイ状態にし、足元に異常が発生したのかよろけた青いザクを睨む。

 もう一度スラスターを吹かし、青いザクに突撃し両肩のビームサーベルを同時に抜き、2つのサーベルを思い切り振り下ろした。

 しかし、その振り下ろしは途中で止まる。

 

「ぐ!!!」

 

 両腕のビームサーベルは青いザクを切り裂く直前にオレンジ色の大きな剣によって防がれる。

 ザクは確か斧を使っていた。ガルマさんのザクも、斧は大きかったけどアレは剣じゃない。

 まさかこいつ……ザクじゃない!?

 

「何……こいつ……シャアじゃないのに……!」

【ザクとは違うのだよ!!アムロとかいう小童!!】

「ち……!!はっ!?」

 

 私は嫌な予感を感じ取り慌ててザクみたいなモビルスーツを蹴っ飛ばす。

 その瞬間、私の居た所にマシンガンの雨あられが降り注いだ。

 この青いのだけじゃない。全員が強い……こいつら……強い!

 

「シャアじゃないなら……!!」

『アムロ!無事か!?リュウさん急いでくれ!』

『今やってるよ!ハヤト!視認次第撃て!』

『了解!!』

 

 カイさんたちが追いついた。ここからどう戦うか……。

 そう考えていると、あの青いの……がオレンジの剣を空に向けた。

 その瞬間、私の目の前に大きな宇宙戦艦が現れる。

 

【ハモン、撤退するぞ】

【了解、巨大投光器を放ちなさい】

「何あれ……カイさん!ハヤトくん!あれを!」

 

 私がそう言うと、カイさんとハヤトくんが返事なく照準を合わせる。

 その瞬間だ。あの宇宙戦艦から突然巨大な光が映し出された。

 

「っつぁ!?何!?」

 

 その光はあっという間にカメラを真っ白にし、目に突き刺さる痛みを感じる。

 モビルスーツの操縦桿を手放し、目を押さえるほどの光だ。裸眼で近くで受けたらひとたまりもない。

 その光が消えた頃には、先程の宇宙戦艦の姿が影も形もなくなっていた。

 

「……逃げた?」

 

 私がそう言った瞬間、私は大きくため息をつき、壊れたライフルを拾った。

 あの青いザクみたいなやつ……今度あったらタダじゃおかない。

 

「っ……アムロ、戻ります!」

 

 そう言って何とも言えない敗北感に襲われ、ホワイトベースの格納庫に入った。

 アレは一体何だったんだろう……。




今回のアムロの行動の結果

・ガンダム、まだまだ性能限界まで余裕あり。
・ザンジバル接近。ホワイトベース嵐に突っ込む。
・ランバ・ラル搭乗グフと交戦、コズン機被弾。一時撤退。

以上の結果となりました。


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補給部隊長、マチルダ・アジャン

「お帰りなさい貴方、水を」

「おお、すまんなハモン」

 

 白い奴、ガンダムと言ったか。奴の性能は想像以上だ。

 しかしそのパイロット「アムロ」という女は想像以下であった。

 わしはザンジバルのモニターに白い奴とそのパイロットを映し出す。

 

「ふむ……白い奴、か」

「パイロットはアムロ・レイ。ついこの間までは捕虜だった娘」

「噂によると、奴はニュータイプらしいな」

「厄介です、女ニュータイプは男に比べて発達している存在だとか」

 

 ニュータイプ。眉唾ものの超人的人種。人の革新だ、エスパーだ、などと騒がれている。

 特に宇宙では研究が盛んに行われていて、非人道的な実験も行われているそうだ。

 しかし実際に目の当たりにすると、ハモンの言う通り恐ろしい存在だ。

 

「しかしそれらしいものは感じないものだ」

「そうなのですか?」

「うむ、力を持て余していると見える」

 

 モビルスーツに振り回されていると言うべきか。本人が使いこなせていない。

 破格のスペックを誇るモビルスーツに素人が乗っては宝の持ち腐れというものだ。

 

「連邦も相当切羽詰まっていると見える、こんな小娘がパイロットとはな」

 

 モニターに映る不機嫌そうな少女を見て、吐き捨てるように言った。

 ハモンはその少女を見ていつもの微笑みを崩すことなく俺に語りかける。

 

「しかしこの子は確かに多数のザクを撃破し、赤い彗星をも撃破しています」

「全てが幸運というわけではない。という事か」

「何かが彼女にあると考えるべきです、実力を発揮できるきっかけが有れば貴方も」

「まさかな。しかし無視は出来ん」

 

 モニターに映されたアムロ・レイという小娘。15歳の地球生まれ。

 父はテム・レイ、アナハイム・エレクトロニクスの鬼才と呼ばれた男。 

 母は……カマリア・レイと言うらしい。ハモン曰く、この女も有名な女だ。

 

「カマリア・レイ……か。聞かん名前だ」

「旧姓、カマリア・ベル。ミノフスキー博士の元右腕です」

「ミノフスキー博士の?」

「ええ、ミノフスキー粒子の活用論を実現させた人物でもあります」

「ほぉ……夫婦共々エンジニアとは」

 

 ミノフスキー博士……その名を聞くとあの時のモビルスーツ戦を思い出す。

 今日のモビルスーツは「トレノフ・Y・ミノフスキー」の功績だ。

 彼が居なければジオンのMS計画は頓挫していたに違いない……。

 そのモビルスーツの歴史を閉ざしたのは我々だ。わしと、黒い三連星、そして赤い彗星。

 あの日の奪還作戦が成功していたならば……。

 

「貴方?」

「ん、あぁ。すまん」

 

 少し呆けていたらしい。ハモンが不審な表情で俺を覗き込む。

 

「赤い彗星を撃破した「アムロ・レイ」はすぐに現れます」

「ああ、分かっている、奴の捕縛は絶対条件だ、そうすれば必ず親が出てくる」

「親子共々捕え、本国へ連行する。それがガルマ様の仇討ちとなりますか」

「仇討ちではない。これは作戦だ。ザビの為に働くものか」

「……」

 

 立ち上がり、ザンジバルのブリッジから望む地球の海を見る。

 このランバ・ラルは、ガルマ・ザビなどの為に遥か遠い地球にやってきた訳ではない。

 部下の生活のため、そして内縁の妻となったクラウレの為だ。

 

「物知らぬ小娘とその親を拉致する汚れ仕事だよ。これは」

「……ええ。その通りです」

「ザビ家の為に、血など流すものかよ……」

  

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「マチルダ隊のミデア、約30分で視認距離に入ります」

「二度目の補給、予定通りだな」

 

 ミノフスキー粒子のない空は快適だ。あれこれセンサーを使わなくていい。

 半舷休息と言う事で右舷の乗組員が休息を取っている。

 マーカ-も一応右舷という扱いで休息に出ているため、レーダー員は僕一人だ。

 

「今回の補給は楽に済みますかね?」

「分からんな、右舷エンジンにメガ粒子砲を受けている。今回も修理を頼まねば」

「あぁ……あのザンジバルの」

 

 先の戦闘で受けた手傷は決して浅いものではない……それに補給は艦だけじゃないんだ。

 それにガンダムの武装は消耗品と言えるほど損失、損壊している。

 いくらアムロのお父さんと言えど物資の枯渇には勝てない。ガンキャノンの損害も大きい。

 友人のオムルさんもメカニックとして働いているが最近碌に休みがないらしい。

 

「それにこの休息は全員のリフレッシュも兼ねているからな、すぐに出ることはないよ」

「そうですね……ここ数日、働き詰めですからねっ……」

「ああ。心的問題を抱えているのは皆同じだ、特にパイロットはな」

「ええ、モビルスーツが高性能とはいえ、一歩間違えればあの世行きです」

 

 僕がそう言うと、ブライトさんは「そうだな……」と声を漏らし、艦長席に座る。

 艦長席には小型モニターが搭載されていて、そこから艦内の様子を見ることができるらしい。

 

「モビルスーツデッキ、ですか?」

「ああ、最近はアムロやカイ、それにハヤトも手伝っているらしい」

「……パイロットも?」

「人手不足も深刻だ。こうして皆が協力し合うのはいいことだ……と言いたいが」

 

 ブライトさんはモニターを消し、僕の方を見る。

 

「オスカ、君はどう思うね」

「は、はい?」

「最近のアムロの様子だ、こう、変わったところはないか?」

「変わったところ……ですか」

 

 ブライトさんは真剣な表情だ。のろけ話や笑い話ではないことは確かだ。

 そりゃあそうだ、ブライトさんが笑い話をけしかけようもんなら明日は槍が降る。

 そう聞かれて、僕は最近のブリッジでのアムロの様子を思い出す。

 

「うーん……」

 

 ブリッジに上がった暇な時のアムロはいつものようにセイラさん達に食事を渡して、

 ブライトさんに小言を言われて、そのまま出ていく。作戦を聞く時も何だかぼんやりしてたはずだ。

 が、捕虜になって戻ってきてからはそんな様子がない。作戦も真剣に聞いている。

 

「なんと言うか、戦いに慣れてるんでしょうか……?」

「そうだ、それはいいんだが……なんと言うか、執着心というものを感じないか?」

「執着心……?」

 

 そんなものは感じないが、確かに最近目つきが悪いような気がする。

 僕はそう言う心理的な部分は分からないが、何かを睨むような感じの目をしている気がする。

 

「何か、思い当たることが?」

 

 釈然としないブライトさんに尋ねると、ブライトさんはため息混じりに答えた。

 

「シャアを殺す、と言ってたよ」

「は?」

「アムロが倒れた後だ。ベッドの上で譫言のようにずっと呟いていた」

「……シャアを?」

 

 シャアを殺す……。それをベッドの上でずっとつぶやき続けている?

 アムロの目つきが悪くなったのは確かに倒れた後だけど、そんな事を?

 そう考えると、少しきな臭くなってきた。

 

「ブライトさん、それ結構危険な状態ですよ」

「ああ、分かっている……だが、妄執に囚われた人間を否定するのは悪手だ」

「……まぁ彼女、上官のブライトさんに手上げてますからね」

「……俺が殴られて治るならいくらでも殴らせてやるよ」

 

 それはそれでどうなんだろうか。

 ブライトさんはため息混じりに続ける。

 

「この件はレイ大尉に任せたいと思う」

「伝えているのですか?」

「ああ……全く、娘の事だろうに。真っ先に気付けというんだ」

「で、どうすると?」

「知らんよ、技術者には技術者なりの躾があるんだろう」

 

 そう言ってブライトさんはまた一つため息をついた。

 もう倒れることはないだろうけど、やはりホワイトベースはガタガタだ。

 センサー専門であるマーカーが居ない今、僕の拙いレーダー網がホワイトベースの命だ。

 そうでなくとも、専属パイロットしか居ないパイロット陣の負担は異常だ。

 誰ひとり欠けることが許されていない。レーダー担当の僕だって何かあれば……。

 

「……レイ大尉、どうやってアムロを育てたんでしょうね」

「さぁな、知りたくもない」

「?」

「……いけ好かん人だ、艦とモビルスーツを私物化して」

「……」

 

 薄々気づいてはいたが、どうもブライトさんとレイ大尉の溝は深いらしい。

 些細なことでの仲違い……いや、そもそも仲などないに等しいようだ。

 

「何にせよ、この休息で少しはリフレッシュできると良いが」

「ええ……ブライトさんも暫く休んで下さい、ミデア到着まで時間があります」

「そうしよう、何かあったら知らせてくれ」

 

 そう言ってブライトさんは艦長席を立ち、腰を捻りながらブリッジを出る。

 レーダーとソナーの反応音と、細かい機械の駆動音が響くこの部屋に一人。

 不思議な気分になりながらレーダーの青い点を眺める。 

 

「半舷休息ね、これのどこが半舷なんだか……」

 

 ブリッジに艦長とレーダー員だけって、何かあったらどうすんのさ。

 

 

 

 ★

 

 

 

「タンクの弾幕が薄い!!もっと撃って!」

『無理だアムロ!これ以上は砲身が保たない!』

「っ……シミュレーション止めて下さい!」

 

 モニターに映る青いモビルスーツが消え、ガンダムのシミュレーションが中断される。

 同時に、ガンキャノンのカイさん、ガンタンクのリュウさんとハヤト君が通信を入れる。

 

「……このポジションじゃ手での射撃は無理……か」

『でもよアムロどうすんのさ、これ以上体晒したらタンクはお陀仏だぜ?』

『そうだよ、母艦の支援砲撃が望めないとなると、これ以上の支援は中距離に回さないと』

「2機以上のタンクを使わないといけないって事か……でもそれじゃ弾が……」

 

 整備を終えた今私達はガンダム、ガンキャノン、ガンタンクだけでの戦闘を効率よく行うための訓練をしている。

 この間のあの島での戦闘は3機の連携がまるで取れていなく、私だけの戦闘に等しい状態だった。

 今後あんな戦闘があると間違いなく私は死んでいるだろう、という事で訓練をしているけど……。

 

『うーむ……やはりガンタンクの足の遅さがネックになるな……』

『そうですね、体勢変更ができないのも大きいです』

 

 足を引っ張っている、と言うのは良くないけど、実際ガンタンクの存在は足かせになっている。

 ガンキャノン二機であの青いのと戦うと、撃破までは行かないが善戦できている。

 当然私一人では途中でガンダムを壊す結果になってしまう上、コアファイターで逃げても撃ち落とされる。

 

「……」

『シミュレーションのデータが過剰だと思えば、ポジティブになれるんだろうけどサ』

「そうも行かないでしょ、こんくらい強くしないと」

『シャアを倒せねぇってか?』

「……ええ!」

『おー怖……でも今シャアは居ないんだぜ?』

 

 カイさんの軽口が妙に癪に障る。私は小さく舌打ちをした。

 

『アムロ、気にするな』

「リュウさん……」

『さっきのデータを基にもう一度だ、フィールドはさっきの岩場だ』

『何回やっても同じだろうに』

『カイ!!お前は左翼、武器はライフル!ハヤト!改善点は分かるな?』

『は、はい!変速時の照準修正、それと腕部可動を考慮した位置取りですね!』

『そうだ、地形データのみに気を取られるな、もう一度行くぞ!シミュレーション開始頼む!』

 

 リュウさんがそう言うと、カイさんはげんなりとした様子で「へいへい」と頷く。

 すると、すぐにシミュレーションが再起動し、私も操縦桿をもう一度握る。

 格納庫に入る雨粒がカメラ補正で消え、必要な視界が確保された。

 

 すると、そこに通信が入る。格納庫の父さんからだ。

 

『全員訓練を中断しろ、マチルダ隊が到着した!』

 

 マチルダ隊と言えば、私が捕まってた時に助けてくれた人、だったはず。

 私は初対面だっけ。どんな人なんだろう。

 

「補給部隊?」 

『そうだ、お前も降りなさい、初対面だろう?』

「うん、分かった……っと」

 

 私は頷き、ガンダムの電源を落としてハッチを開く。額に滲んだ嫌な汗を拭い、

 いつの間にか開いていたハッチから見える、光景に目を細めた。

 日本の鳥取に降りると聞いたときには耳を疑った。まさかまた日本の土を踏めるとは思わなかった。

 

 で、更に驚いたのはこの日本がアムロの故郷だと言う事実だ。父さんから「お前の故郷だ」と言われた瞬間、

 体中からドバーッと汗が吹き出した。どうにかこうにか首を縦に振ることが出来たけど……。

 

「私、日本のどこに住んでたんだろ……」

「アムロ!僕たちも休息だってさー!」

「後で行くー!」

 

 ハヤト君達は私に手を上げ、更衣室へと駆け込む。しかし私は初対面であるマチルダって人に挨拶しなきゃいけない。

 更衣室に向かう皆を尻目に私はエレベーターを降り、父さんの元へ向かった。

 

「アムロ、乗りなさい」

「うん」

 

 エレベーターを降りると父さんが黄色い車に乗って待っていた。エレカ、だっけ?電気自動車の。

 私はその助手席……日本車で言う運転席の方に乗り込んだ。

 

「訓練はどうだったんだ?」

「それが、あんまり……」

「そうか……」

 

 父さんがアクセルを踏み、格納庫をゆっくりと出た。

 

「……」

「……」

「アムロ」

「んえ、何?」

「友達と、リュウ君らとは、うまくやれているか?」

 

 父さんが運転しながら、私に話しかける。その質問に私は少し心臓が鳴った。

 この質問、アムロが今まで父さんから聞いたことのない言葉だったらしい。

 そもそも父さんと談笑なんか今までしたことがない……らしい。

 

 どんな家庭環境なのよ。毎回毎回。

 

「うん、まぁ……」

「なら……いや、良くないな」

「へ?」

 

 私は窓辺に肘を置き、父さんを横目で見る。その顔は真剣な顔をしていた。

 

「学校生活とは違う。大人の世界での仲間意識は非常に大切なものだ」

「……」

「父さんが思うに、今のアムロは荒んでいるように見えるな」

「荒んでる?私が?」

「ああ」

 

 ……聞き捨てならない、と言いたいが、思い当たる節がある。

 それ故に父さんの言葉を聞き入れたくない。私は肘をついたままそっぽを向く。

 

「……」

「何人も殺し、お前自身、何回も死にかけている」

「うん……」

「荒むのは当然だ。そして荒ませたのは私だ」

「……」

 

 格納庫を出ると、そこには日本の山々が顔を見せた。鳥取のどこかの山だ。

 ここがアムロの故郷……そして、ここが私の生まれた国(暫定)か。

 口から出る言葉は日本語のように聞き取れて話せているが英語。 

 その上、私の周りにはハヤトくんやミライさんを除いてほとんどが外国人。

 今のところ、全く日本って感じがしないのもまた事実だ。

 しかし、私の心の中はここが故郷だと認識しているらしい。何だか体が浮ついている。

 

「……」

「シャアをなぜ恨んでいる?」

「……!」

「……」

「……聞かないで。でも、あいつは絶対に……」

「はぁ……昔からこんな子だったな……決めると頑固になる」

 

 その父さんのぼやきを聞いた瞬間、私は「違う」と呟いた。これはアムロじゃない。

 私の意志だ。アムロ本人はシャアを知らない筈、アムロがシャアを憎んでるんじゃない。

 私がシャアを殺したいと思ってるんだ。一度取り逃がしたあいつを殺し、元に戻るために。

 

「着いたぞ」

「……うん」

 

 車を止めた父さんは巨大なオレンジ色の飛行機の前でなにか指示を出している女性の元へ向かう。

 帽子を被った赤髪の女性……女の私から見てもきれいな女の人だ。

 私も父さんについて行き、その女性のじゃまにならない位置に立つ。

 

「ホワイトベースの損傷状態を直ちに確認、修理可能な箇所を纏めるように」

「マチルダ・アジャン中尉」

 

 父さんがマチルダさんの名前を呼ぶ。すると後ろを向いていたマチルダって人は私の方に首を向ける。

 これまた……おきれいな女性だ。さぞ父さんは見とれてる……と思ったら全く動じていない。

 遠くから感じるカイさんとハヤト君の熱い視線のような雰囲気は全く感じない。

 浮気症じゃないのね、父さん。

 

「テム大尉、お疲れ様です」

「いや、君もよくここまで来てくれた……山中の基地はすり抜けたのかね?」

「ええ、テム大尉のジャミング技術が役に立ちました。目視はされたものの追手はありません」

「役に立てたのなら幸いだ…………」

 

 父さんが私を横目で見る。

 

「あっ……あ、えと……」

「娘のアムロです」

「ガンダムの専属パイロットの?……写真で見るより幼いのね」

 

 マチルダさんが私に綺麗な瞳を見せる。同じ軍人なのに汚れのない澄んだ瞳。

 セイラさんとは違う、なんとも言えない不思議な感じのする瞳だ。

 私はそれを見て少し頬が熱くなるのを感じ、照れ隠しに敬礼をする。

 

「あ、アムロ・レイです!その……」

「ミデア輸送部隊、部隊長のマチルダ・アジャン中尉です、始めまして」

「は、始めまして……ま、マチルダ中尉」

 

 何故か私はその笑顔に唾を飲み込んだ。さっきから頭の中がごちゃごちゃしている。

 綺麗、素敵、そう言う感情が異性を見るような目になっているみたいだ。

 現に私の頬は何故かどんどん熱くなっている。嫌ではないが不思議な気分だ。

 

「……」

「そ、その、マチルダさん……その節はその……」

「気にしないで良いのよ、人の無事を確保するのが軍人の務めなのだから」

 

 そう言ってマチルダさんは優しく微笑む。

 

「それに、貴方が居なければ我々もここまで来れていないわ」

「え?」

「ガンダムという存在、そしてそれを動かす人間の影響はジオンを大きく動かしているの」

 

 マチルダさんは私の肩に手を置く。すると一瞬マチルダさんの目が見開いた。

 しかしその表情は私が不審に思う前に元に戻る。

 

「……ね?テム大尉」

「ええ。技術者としてこれほどの逸材は居ないと断言できる」

「父としては、複雑な面もあるでしょう?」

「それは否定せんよ。戦争に飲まれる娘を見るのは心が痛い」

 

 父さんはそう言うとマチルダさんの前で俯いた。しかしすぐに顔を上げる。

 すると父さんは横目で私を見た。その目は、何だか優しかった。

 

「だが、この子のためにガンダムを扱う。そう考えると頑張れるのも事実だよ」

「フフ、流石は技術主任」

「恥ずかしい。しかし貴方も分かる筈だ」

「……異常ではあります、娘を兵器に乗せるというのは」

 

 マチルダさんは目を閉じる。そして一息ついてから続けた。

 

「ですが、それを選択したのは親子である貴方がたです、否定はできません」

「……反対かね?」

「ええ。どんな理由があろうと、子供を戦場に出すのは賛成できません」

「……」

「だから出来る限りの支援をします。それが子供達のために出来る最善の行動ですから」

 

 ピシッとマチルダさんは姿勢を正し、敬礼する。父さんもそれに続いて敬礼をした。

 これが軍属の父さん。何度も見てはいるが凛々しいものだ。

 

「……アムロ・レイ」

「……はい」

「ガンダムのパイロットの活躍は、ジオン連邦問わず轟いているわ」

「……」

「頑張って、無事を祈っているわ、あなたはニュータイプかも知れない」

 

 そう言ってマチルダさんは私の肩に手を置き、去り際に私の耳元で囁いた。

 私はハッとなった。ニュータイプ……。聞いたことがある単語だ。

 

「では、私はブリッジへ向かいます」

『あ、マッチルダさん!俺です!カイ!カイ・シデン!』

 

 遠くでカイさんがマチルダさんに猛アピールしている声が耳に届くが、私の心はそれどころではなかった。

 ニュータイプという言葉がずっと耳から離れない。暫く私は声も出さずマチルダさんの背中を見つめていた。

 まるでファーストキスをされた後のような気分だ、体が硬直している。……キスどころか恋人も居ないけど。 

 

「……アムロ?」

「……父さん」

「少しは気が晴れたか?」

「うん、マチルダさんって……どんな人なの?」

 

 マチルダさんが見えなくなった所で、私は父さんに訪ねた。

 まるで何でもかんでも知っているような、そんな感じがする不思議な雰囲気の女性。

 只者ではないと、父さんに思わず訪ねた。

 

「私もよく知らない。ただ、母さんはよく知っているらしいな」

「母さんが?」

 

 母さん、名前はカマリア……だったっけ?私の記憶の中でも鮮明に思い出せる顔だ。

 まるで戦争とは無縁な顔をした女の人だけど……何でこんな人がマチルダさんと?

 

「ああ。母さんも技術者だったからな」

「えぇ!?」

「お前には……それに結婚してからはその話を極端に嫌がるが、あの人の技術は私以上だよ」

 

 母さん……父さん以上の技術者って、もうそれ鬼才なんてもんじゃないよ。

 今でも熱くなった時の父さんは止まらないっていうのに、それ以上の技術者って……。

 一体頭に浮かぶ優しい顔の裏にどんな技術者魂が滾っているんだろう。

 

「そ、そうなの……」

「……!そうだアムロ、今から会いに行くか、母さんに」

「え、え?」

 

 私が返事をする前に父さんは私の手を引いた。

 

「わ、ちょ!?」

「善は急げ、久しぶりの日本を旅するのも悪くない。研究も整備も一段落だ」

「で、でも!」

「何、お前のリフレッシュも兼ねている。故郷を思い出せば、シャアの固執も和らぐだろう」 

 

 それ言っちゃ駄目でしょ。

 

「まぁ、皆がいいなら……」

「よし、乗りなさいアムロ。まずは実家に戻ろう」

「う、うん!」

 

 私は再び父さんの車の助手席に乗り、ちょっとハイテンション気味の父さんを横目で見ながら車のシートに身を預けた。

 私の母親じゃないけどアムロのお母さんである。私の第2のお母さんと言える人に再会するんだ。

 どんな人なのか気になるし、何よりも気分転換にはちょうどいいだろう。リフレッシュだ。リフレッシュ。

 

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・ラル隊の任務はアムロとテムの拉致
・ホワイトベース隊、日本に到着、休息を取る
・テム生存により、マチルダ隊の到着が早まる
・テム、アムロと共にアムロの実家へ

以上の結果となりました。


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再会、母よ

「……これが、鳥取?」

「随分酷い空襲だったらしいな」

 

 車で30km、父さん曰く18マイルちょい進んだ先に家があると聞いた時は焦った。

 信号待ちとかを考慮したらちょっとじゃ済まない距離だ。

 しかしそんな考えはすぐに消えた。信号どころか、まともなアスファルトが無い。

 えぐり取られたアスファルト、崩れて焦げた木造の家、ガラスが吹き飛んだ低層ビル。

 私の知っている日本とは全く違う。商店街らしきものも廃墟となって、面影なんて無い。

 

「……」

 

 それにしても、ここは日本だと言う割にはアメリカチックな家もちょこちょこ建っている。

 いや、アメリカだけじゃない。フランスって感じの家屋もある。多国籍国家みたいだ。

 それに街を歩く人も日本人が多いものの、結構な割合で外国人が居る。

 

「日本人だけじゃないんだ……」

「言葉どころか、国籍という概念が薄れつつあるからな」

「……」

 

 え、そうなの?

 

「一緒くたにアースノイドと纏められている今、国籍は最早意味を成していない」

「言葉も?」

「今どき今の言語以外の言葉を使う人間は居るまいよ」

 

 父さんは舗装されていない道路を飛ばしながらそう答える。

 そうか、だからハヤトくんみたいなどこからどう見ても日本人な人も英語を喋っていて、

 さっきから飛び交う言葉も英語が多いのか。それにラジオの言葉も英語だ。

 これがラジオなのかどうか知らないけど。

 

「でもまぁ、ちょこちょこ日本語はあるみたいだけど……ほらあの文字も」

「文字としての外国語は確かににまだ廃れてないな。読めるのか?」

「そりゃあ読めるよ。……!」

 

 あ、やばっ素が出た……。日本を感じすぎてる。

 

「ほぉ、日本語が?」

「う、うん!学校の図書室に、ほら、日本の本があって、それでね」

「そうか!勉強したのか、偉いじゃないか!」

「あ、あはは……まぁ、面白い漫画だったし……えへ……」

 

 父さんが心底嬉しそうな顔をして片手で私の頭を撫でる。

 嬉しい気分ではあるが、背中は汗でぐっしょぐしょだ、せっかく着替えたのに。

 危ない危ない……日本人の私の脳みそがこんな所で役に立ってそれが仇になるとは。

 

「……しかし、こう空襲がひどいようじゃ、母さんも危ないかもしれんな……」

「確かに……」

「母さんは戦争や争い事に敏感だ、真っ先に避難してくれてるといいが……見ろ」

「ん?」

「放棄されたガンペリーだ、連邦も対地攻撃をしていた証拠だよ」

 

 父さんが指差す方向には確かにでっかいミサイルを背負った箱みたいな飛行機が墜ちていた。

 更にそれに突っ込むように墜ちていたジオンの戦闘機……。

 連邦軍が地面に向かってミサイルを撃っていたのを、ジオンの戦闘機が撃墜した……?

 

 え?逆じゃないの?

 

「デプロックまで……」

「父さん、何で地球連邦が地球に……?」

「恐らく……ここはジオンの制圧下にあるのかもしれんな」

 

 そう言って父さんは少し車を加速させた。ジオンの制圧下、つまりここはジオンの場所。

 ってことは私たち連邦の人間がここに居たら撃たれるかも知れないって事だ。

 改めてそれを理解すると、いつの間にか身を屈め「早く行こ」と父さんを急かしていた。

 

「家までは遠い、あそこまで戦火が及んでなければいいが」

「う、うん」

 

 

 ●

 

 

 車を走らせて数十分。山間の長閑な所にやってきた。見たことがない場所なのに懐かしく感じる。

 ……ここら辺がアムロの故郷ね、人里離れてはいるものの辺鄙ではない住宅地。

 成る程、機械に囲まれた夫婦がここに来る訳だ。小さな畑まである。

 

「良かった、この辺りはまだ平和だ」

 

 町の看板を見るとカタカナで「セントラルニュータウン」と書かれている。ここらしい。

 よく見ると工事途中で計画が頓挫したのか出来かけのアパート群が放置されている。

 その近くには黄色い「工事反対、景観を壊すな」という幟が何本も立っていた。

 ニュータウンの名を持ちながら古臭い。これもまたある意味日本らしい感じがする。

 

「……懐かしい」

「だろう?」

「うん」

 

 しばらく道を走っていると、周囲の町並みが緑に覆われ、舗装されていない道に出る。

 自然保護区とかすれた字の看板があった。保護している割には木が切り倒されてそこに家が立っている。

 そして、その保護区の奥まった場所で父さんは車を止めた。着いたらしい。

 

 白いアメリカチックな家だ。周りは木で覆われていて、しばらく使われていないであろう畑もある。

 白い家のテラスにはおしゃれに机と椅子がある。その椅子には……ワイン瓶がある。

 

「……ここ?」

「ああ。ここの筈だが……」

 

 父さんが車を降り、自分の家を奇っ怪なものでも見るかのような顔で見る。

 嫌な予感がするのか、ダッシュボードから拳銃を二丁取り出し、一丁を私に手渡した。

 

「えっえ?」

「持っていなさい」

「う、うん……」

 

 私はその拳銃を受け取り、ズボンにねじ込む。そして父さんの後をついていく。

 自分の家に何かが居るらしいが、私にはそれがわからない。だけど嫌な予感はする。

 そうやって歩いていると、いつの間にか家のテラス前に立った。

 ……何人かの男の笑い声と陽気な音楽が聞こえる。

 

「誰か居るよ、父さん……」

「……私の家で酒盛りとは……」

 

 父さんが恐る恐る、家の窓を覗き込んだ。

 私も下から頭だけを出して家を覗き込む。

 

「げっ……」

 

 それはちょっとドン引くような光景だった。ブライトさんと同じ服を来たおじさん集団が踊っている。

 その顔を見ると酒に酔って真っ赤な顔をしている。更に床は投げ捨てられたワイン瓶。

 綺麗だったであろうカーペットはその赤ワインによって汚されていた。

 一緒に覗いている父さんの顔が真っ赤だ。酔ってないのに。

 

「っ!!」

「え、父さ……ひっ!?」

 

 父さんはそれを見るや否やドガァッと扉を蹴破った。

 それと同時に3発の銃声が轟き、反射的に私は頭を引っ込めた。

 

『貴様ら何をしている!!!私の家から出て行け!!!』

『ぉ、ぉお!……?なんだよ、おちつっ!?』

『出ていけと言っている!!このまま喉を撃ち抜かれたくなければさっさと出て行け!!』

「と、父さん……」

 

 私は父さんの怒号を鎮めるため恐る恐るアムロの家に入る。

 ツンとする酒の臭い……いや、これは酒の臭いだけじゃない。恐らくアル中の副産物の臭いもある。

 そんな異臭のする空間のど真ん中で父さんはその集団の1人の口に拳銃を突っ込んでいる。

 

「な、何だよお前!?ここは空き家……」

「貴様らこそ軍人でありながら何をしていた!!誰の指揮下にある!?」

「あぁ!?……!…………は……!?た、大尉の……」

 

 慌てた様子で酒盛りをしていたおじさん集団は父さんを見る。

 しかしその父さんの襟のマークを見ると、その中の偉そうな人が固まった。

 父さんはそれを見て、そのおじさんの襟のマークを見る。そして「曹長がこれか」と吐き捨てた。

 襟のアレは、階級章っていうやつなのだろうか。

 

「っ……ミケーレ・コレマッタ少佐指揮下、ギビン曹長です……何の用で?」

「連邦の下士官というものはここまで堕ちているのか!!分隊長でありながらこの体たらくとは!!」

「っ……!お言葉ですが大尉殿、あなたも技術大尉では?人の事が言える立場では……」

「ミケーレ・コレマッタとやらの教育はどうなっているのかね!?」

「顔も知りませんなぁ、尻尾切られた分隊の事情など、機械弄りの好きな技術屋には分かりますまい」

 

 酔っていたおじさんはそう言ってソファに座り直す。しかしそれを父さんは許さず、胸ぐらを掴み上げる。

 

「酒を飲む理由になると思っているのか!!」

「アンタも同じ気分を味わいなよ、技術大尉殿」

「貴様……!!」

「……酔いが覚めちまった、お前ら、行くぞ」

 

 引き起こされたおじさんは父さんの手を振りほどき、投げ捨てられていたライフル銃も持たずに出ていく。

 他のおじさん達もそれに続き、舌打ちをしたり唾を吐き捨てながら私の家から出ていった。

 皆武器もヘルメットも持たず素手で、浮浪者のような足取りで私の家から離れる。

 

「……武器も防具も置いて出ていくか、最早奴らは兵士ではないな」

「連邦軍って……あんなのばっかりなの?」

 

 父さんは投げ捨てられていたライフルを拾い上げ、それを机の上に置いた。

 

「そんな事はない、だが仲間も物資もない分隊ならああもなろう」

 

 そう言って父さんはライフルを手だけであっという間に分解する。

 部品の一つ一つを舐めるように見ながら、先ほど見せた鬼気迫る顔から一変した。

 

「……メンテナンス技術は悪くないな」

「父さん、技術大尉って?」

「私の階級だ。AEの技術主任として与えられた階級。本物の将校に失礼な階級だよ」

「ふぅん……」

「技術者として大尉並の実力があるということだ。軍隊の知識はないに等しい」

 

 もう一度ライフルを組み立てて、他の人らのライフルを纏めて外に出す。

 ご丁寧に弾の箱を抜き、銃の中には入っていた弾も一緒に抜く。

 軍隊の知識がないって言っても、一般人はそんな丁寧な仕事できないよ。

 

「それどうするの?」

「持ち帰って廃棄する。一般人の目に届くところには置けんよ」

「確かに……」

 

 私は酒臭いアムロの家を見渡す。空き家になってるとかなってないとか言ってたけど、

 家具や写真、調理器具までそのままになっている。本当に空き家になっていたのかな?

 それともさっきの連邦軍の人たちがでまかせを言っていたのか……。

 

「ん?」

 

 私はふと、箪笥の上に乗っかっていた写真を見る。家の前で撮った写真らしい。

 そこには小さい私と父さん、それに母さんが写っていた。

 ピンク色の服を着て私の両肩に手を置き、微笑んでいる母さんの姿。 

 こんな優しそうな顔をした母さんが技術者……?そんなの聞いたこと無い。

 

「……」

 

 そして小さい頃の私。なんと言うか、私とはえらく違う顔をしている。

 あどけないと言うか、物を知らないというか、

 写真を取られているのにきょとんとした顔をして、首を傾げている。

 でもこの子が私とは違う「本物のアムロ」であることは確かだ。

 

「ふぅん……」

 

 私はその写真を元の場所に置き、写真の隣にある人形を手に取る。

 かなり古いアンティーク品だ。それを手に取ると懐かしい気分になる。

 母さんに買ってもらった、ハロよりも歴史が古い友達……名前は……。

 

「えっと……ま、いいか」

 

 とりあえず人形だ。懐かしいとは言っても、私個人的にはどうでもいい物。

 持っていく理由もないのでそのまま置いておくことにした。

 アムロがどう思うかは知らないけど、ハロが居るしいいでしょ。

 

「母さんが居るとしたらどこだろ?」

「……見当もつかんな」

「そう……」

 

 駄目じゃん。と思ったその時、外からまたしても不穏な声が聞こえてきた。

 

『待って下さい!お金を!』

『あぁ?っせぇババアだな!!』

『たった1ドルですよ!お願いします!』

 

 ……ドルがどうのって、お金を払わない人がいるのか。

 日本でドルが通貨になってるのはもう突っ込まない。日本銀行はどっかで滅びたんだろう。

 

「この声は」

「リンゴ農家のセーベルさんか……揉め事らしいな」

「どうするの?」

「お前ならどうする?」

 

 逆に父さんに問われた。私はコクリと頷き、アムロの家を飛び出す。

 何の思い入れもないおばさんの声だけど、流石に無視もできない。

 私に続いて父さんも家を飛び出し、その声の主を探した。

 

「あたし共は、あなた方の払うお金で生計を立てているんです!」

 

 その声の主はすぐに見つかった。リンゴを売っているおばさんが連邦軍の人に怒っている。

 いや、怒っていると言うより懇願しているという表現が正しいか。

 すがりつくようにお金を払わない連邦軍の兵士に頼み込んでいる。

 

「ええいうるさい奴!!」

「あぁ!」

 

 連邦軍の兵士はそのおばさんの頬を引っ叩いた。

 そして1ドルと思われる銀色の小銭を地面に落とした。

 更にその小銭を踏みつける。何なのこの人、お支払いに恨みでもあるの?

 

「う……」

 

 おばさんはその小銭を拾おうとする。私は見ていられなくなってしまった。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 私は連邦軍の兵士の悪い表情に少しへっぴり腰になりながらも近づく。

 いくらなんでも軍人である人が一般人にこんな扱いをするのはあまりにも酷い。

 私はそのガムを噛んでいる顔につばを吐きかねない勢いで睨む。

 

「何だよ嬢ちゃん、文句があるのかい?」

「……」

「へっ、怖気づいてんのか?黙ってちゃわかんねぇぞ!!」

「リンゴ代もロクに払えない貧乏人が何を……」

「あぁ!?」

 

 父さんは睨まれている私を見ると、すぐに駆け寄ってきた。

 すると連邦軍の兵士は父さんの襟の階級章を見ると舌打ち混じりに去っていく。

 あの人も大尉以下の階級の人らしい。そして、私と父さんを見たおばさんは……。

 

「前線の兵士はどこまで腐っているんだか……アムロ、大丈夫か?」

「う、うん……」

 

 この故郷に私個人は何の思い入れもないけど、私の心の中はなんだかもやもやしている。

 アムロの気持ちが沈んでいるのだろうか。意志とは無関係に不愉快な気分になってしまう。

 

「……レイさん?それにアムロじゃないか!」

「セーベルさん、ご無沙汰しております」

「ど、どうも……お久しぶりです」

 

 お金を拾ったおばさんは私達に笑顔を見せ挨拶をしてくれた。

 ……この人は、アムロの小さい頃の友達だったコミリーちゃんって子のお母さんらしい。

 コミリー・ドレイク……赤毛の長い髪の毛がサラサラな女の子。思い出すけど、教会で遊んでた記憶しかないらしい。

 

「カマリアさんに会いに来たのかい?それにその服は……」

「ええ。私達のコロニーもジオンの手に……アムロもそれで、今は……」

「察しはつくよ。大変だったんだねぇアムロも……」

「い、いや……あ、コミリーちゃんは?」

 

 私は重くなった空気をなんとかしようと、おばさんにコミリーちゃんのことを聞く。

 しかし私の予想とは全く違い、更におばさんの顔が曇ってしまった。

 

「……」

「え……」

「コミリーはこの間の空襲でね……主人も……」

「……ビクターさんまで……」

「そ、そうだったんですか……コミリーちゃんは……」

 

 場を和ませる一言がとんでもない爆弾発言だったらしい。

 

「……カマリアさんは、向こうの丘にある難民キャンプでボランティアしてるよ」

「向こうの丘?教会がそうなのですか?」

 

 父さんは肩を落とすおばさんを励ましながら訪ねた。

 夫も娘さんも亡くなるとは、それでもリンゴを売って生計を立てている。

 この戦争は地球に住む人全員に影響しているらしい。あの時ガルマさんに見せてもらった画像みたいな仕打ちが世界中で起きているのか。

 

「ああ。レイさん、顔を見せてあげて下さいな。あの人、日に日に窶れてってるよ」

「ええ、ありがとうございます」

「……」

 

 私はおばさんに頭を下げる。どうもこういう雰囲気は苦手だ。

 親世代同士の会話に首を突っ込むのは子供に取っては難易度の高い行為。

 父さんはそれを察したのか多く話すことなく車へと向かった。

 

 私は父さんに続いて再び車の助手席に座る。

 

「コミリーも空襲で亡くなったのか……」

「らしいね……」

「……驚いていないな。忘れたのか?お前の」

「まさか、でもま……こんな世の中だし、いつどこで誰が死んでもおかしくないでしょ」

 

 私は覚えてない事実を隠すように達観した感じで答える。

 すると父さんも少しため息を吐いて「そうだな」と返事をした。

 

「遠かったっけ?教会って」

「すぐだ。だが不安ではあるな」

「ん?」

 

 私は父さんの言葉に首を傾げた。すると父さんは教会とは反対方向の山を指差す。

 変なプロペラ機が垂直に飛んでいく。何あれ……緑色の。何かだ。

 

「何あの緑の箱……」

「ファットアンクル、ジオンの輸送機だ」

「ジオンの……?って事はあそこに……」

「そう。ジオンの基地がある……恐らく教会はジオンの占領下にあるだろう」

 

 ……不思議な話だ。そんなに遠くない場所である私の家が連邦軍の場所で、

 母さんがいる場所の教会はジオンの場所、どこかで線引きされているかのようだ。

 そして、その難民キャンプである教会にもジオンが来る、という事だろう。

 

「大丈夫かな……」

「さぁ、しかし長く居られる訳ではない。急ごう」

「ん、お願い」

 

 舗装されていない土の道を父さんの車が駆ける。

 母さん……初めて合う母さん。元気なのかな?

 それとジオンは来ないかな……来たら……どうしよう?

 

 

 

 ●

 

 

 

 特に何の障害もなく山道を登り、その教会という所に着いた。

 よくわからないが、いわゆる聖母マリアっていうのだろうか、そういう石像がある。

 教会の建物は白が基調となっているが、所々ペンキが落ちて古めかしさがある。

 

「ここ?」

「そうみたいだ」

 

 しかしここは教会でありながらも難民キャンプだ。車で来た私達を警戒している。

 ……いや、車で北から警戒しているわけではない。軍服を着た私と父さんを警戒しているらしい。

 というより、私のこの青い服が変な服なのかな。とりあえず、歓迎されているわけではない。

 

「……」

 

 老人と子供が多い。私みたいな若者は皆戦争に行ったのか、それともどこかで自分で生きているのか。

 だからこそ行くあてのない老人や子供達がこういう難民キャンプにやってくるのだろう。

 支援物資らしいコンテナにはジオンのマークが刻まれている。しかし所々連邦のマークもある。

 この難民キャンプは連邦軍からもジオンからも支援されているみたいだ。それともどこかで盗んできたのだろうか?

 

「アムロ、キャンプ長に事情を話してくる。先に母さんを探してくれ」

「うん、分かった」

 

 そう言うと父さんは車を走らせてどこかへ行ってしまった。

 ……と、言われても母さんのいる場所なんて見当もつかない。とりあえず私は奥に進むことにした。

 教会の周りは資材置き場や子供達の遊び場、それに運動場まである。結構広いらしい。

 それに教会の、なんて言うのか、懺悔する場所は普通の教会になっていて、滞在施設ではないらしい。 

 

「あーもう……母さんどこに居るのよ……」

 

 周りの目は痛いくらい睨まれてる感じがするし、子供達からは奇っ怪な目で見られてるし、

 いや、まぁ、こんな変な服着て「ワタシアヤシクナイヨ?」なんて言えるわけ無いか。

 だいたい何で青なのよ、こんなんだったらノーマルスーツから着替える時に普段着にしとけばよかった。

 普段着も上下デニムに黄色いシャツとかいうダサいことこの上ない服だけど……。

 

「かーさーん!」

 

 私は母さんの名前を呼ぶ。しかし返事はない。

 どこに居るんだろうか……。と、歩いていると、目の前に教会とは違う建物があった。

 そこには父さんの車とは違う色の車が一台止まっている。深緑というのだろうか、そんな色の屋根なし車だ。

 

「……?」

 

 私はその建物に何食わぬ顔で入る。ドアノブを捻り、ドアを押すと開いた。

 しかし、その開いたドアの先には、緑色の軍服を着たひとがデンと立っていた。

 しかも二人。

 

「っ……!?」

「ん?うぉ!?」

「何だ?なっ!?」

 

 私の心臓が高鳴った。軍服を着た人はライフル銃を持っていたが、私の登場に驚いたのか向けていない。

 しかし私も突然の出来事に萎縮し、ドアを開けた体勢のままポカンとしていた。

 特にどうする事もできず、私とジオン兵かと思われる人との見つめ合う時間が過ぎていく……。

 

「ぁ……えと……」

「れ、連邦の兵か!!」

「マグ!こいつ……」

 

 ……そこで私はハッとなり、お尻のポケットに入れている拳銃の存在に気づいた。

 とっさに私はそれを手に撮ろうとするも、体が思うように動かない。

 突然の出来事に体が固まっているのと、ジオン兵と思われる人が向けているライフル銃に怯えてしまっている。

 

「怯えているのか……君、ここはジオンの勢力下だ。ここに来たからには」

「あ……!アムロかい!?」

「っ……母さん!?」

 

 すると、部屋の奥から聞き慣れていないのに聞き慣れている声が聞こえてきた。母さんの声だ。

 カマリア・レイ。まさに母さんの声……。難民キャンプに居るのは事実で、しかもジオン兵の所に居たのだ。

 その瞬間、私の思考が一気に元に戻り、怯えが消えた。眼の前の光景が何故かスローになる。

 

「……母さんっ……!」

 

 尻ポケットに入れていた拳銃を思い切り握りしめ、ライフル銃を向けているジオン兵に向けて、

 私は引き金を引いていた。

 

「母さん……っ!?」

「っっ……!!」

「ぉあ!?」

 

 銃声と言うよりは爆発音か。耳をつんざく音と炎が私の目の前に映る。

 そこから放たれた鉛の物体は右側のライフルを持った兵士の腹にめり込み、

 兵士は苦悶の表情を浮かべ、膝をつき、そのまま頭から崩れ落ちた。

 

「……!!」

 

 間髪入れずに固まっているもうひとりの兵士に向けてそれを放つ。

 怯えた気弱そうな顔が歪み、脇腹に入った弾が左肩に抜けていった。

 その血の付いた弾は天井に突き刺さる。銃を落とした兵士はそのまま倒れ伏せ、木の床を汚す。

 

「あ、アム……」

「はっ……はぁ……はぁ……」

 

 突然の出来事で銃を撃つ。戦争中の敵を撃ち殺すのは当然なのかも知れない。

 しかし、それが母さんの前、つい最近の銃撃戦で何も出来なかった私だとすると話は別だ。

 倒れ伏せた兵士2人の向こう側で口を押さえて私を見つめる視線が心臓を抉る。

 薄く煙を上げる拳銃を握る両手が石のように固く、拳銃が手から離れない。

 

「っ……母さん……」

「アムロ……」

「ひ……久しぶり……?」

 

 震える口から出た言葉を母さんが聞き、母さんが駆け寄ってくる。

 抱きしめてくれる、と思ったが、母さんが駆け寄った瞬間、私の左頬が強い衝撃に襲われ、頬が痺れる。

 状況は見るまでもない。ビンタされたんだ……母さんに。

 

「っ……」

「アムロ……!荒んだね……!」

 

 ……言い訳はできない。母さんに会うや否や人を撃ったのだから。

 

『二人とも危険な状態だ……いや一人は死んでる……』

『まずいな、医者を呼んで間に合うか……』

『ジオンの連中がこれに気づいたら……』

 

 遠くで倒れた兵士を医務室の中の大人たちが診ている。

 だけど1人はもうだめだと聞こえた。しかしそれに罪悪感は感じない。

 あのままぼやぼやしてたら父さんが来る来ない関係なくまた連れて行かれてたのだから。

 

「……ごめん……」

「兵隊さんだって家族が居ただろうに……」

「分かってる……!でも……居るとは思わなくて……」

「……アムロ……お前は優しい女の子だったんだよ……」

 

 母さんの言葉が心に突き刺さる。それと同時に何だか反論したい気分になる。

 ふざけんなせっかく会いに来て何のつもりだ、と。

 だが、平穏そのものだった難民キャンプに戦場の火種をばらまいたのは私だ。

 そもそも連邦軍の匂いを残してここに来ること自体が間違いだったんだ。 

 

「母さん……私は」

「……父さんの教育が悪かったのかねぇ……」

「そんな事ない!だって……私……あのままじゃ……」

「……でもね、お前が人殺しになったと考えると……っ」

 

 そう言って母さんは私の服を見る。連邦軍の制服を着ている私を嘆く。

 ……母さんは争いが嫌いだって、父さんは言っていた。

 そう言うことなんだろう、私が人殺しの常習犯だと思っているらしい。

 哀しいことにその予想は、紛れもなく的中している。

 

「……アムロ、お前は……」

「アムロ!!!何だ今の音は!!?無事か!?」

 

 扉が蹴破られ、拳銃を持った父さんがものすごい勢いで私に向かって突進してきた。

 それと同時に母さんの顔が、驚くどころか怒りを込めた顔になる。

 察したのか父さんは、母さんの顔を見て足を止めた。

 

「カマリア・レイ……」

「あなた……アムロを!この軍服はなんです!?戦争に巻き込んだのですか!!」

「っ……違うんだ、サイドが……」

 

 父さんの言い訳を聞いた母さんの目つきが変わった。というより雰囲気が変わったのだろう。

 さっきの優しく私を咎める顔から、部下を叱る教育者と言うべき目つきになる。

 

「事情は察します。ですがあなたの事です……アムロを、あなたが作った最新鋭機(がらくた)に乗せたのでしょう!」

「ガンダムをガラクタと言うか!ミノフスキー博士の右腕が、ミノフスキー博士の教え子を!」

「流体パルスを採用しないと聞いた日からRCX76もRX78もゴミだと認識しています、それをアムロに操縦させるなど!」

 

 ……??

 

「ある一時から私の精査なしに開発を進めた。地球にデータを送るのがそんなに難しいのですか?」

「あれは!アムロが機密を漏らしたせいで自宅研究が……」

「そうやってアムロアムロと逃げ道を作る!!恥を知りなさいテム!!」

「うっ……」

 

 アムロが機密を漏らした。これは私じゃない。私じゃなくてアムロがやったことだ。

 ……記憶を思い返すと、父さんの部屋に勝手に入って、気になったからやったことらしい。

 ガンダムという存在はガンダム乗る前から知ってたそうだ。

 

「フィールドモーター駆動の関節ラグは解決しましたか?」

「コンマ03の壁は超えた、しかし……」

「しかし?」

「いかんせんコストがな……」

「それ見たことか、ワンオフ機しか作れないくせに」

「だから教育型コンピューターでフィードバッグしてからGM-79に繋げると言っただろう!!」

「そんな回りくどいことをするから連邦からも厄介者扱いされるんだよ!!」

「言ったな!!ジオンに技術を売った者が!!お前の粒子が私達を苦しめているんだよ!!」

「平和のための融合炉!ミノフスキーテクノロジーです!それを曲解したのはトレノフよ!!」

 

 なんと言うか、レベルの高いような低いようなよくわからない喧嘩だ。

 まだほんのり温かい拳銃を父さんに差し出すと、こっちを見ることなくそれを受け取る。

 父さんと母さんが夫婦喧嘩をしているが、私はそんな事が気にならない。

 空いているベッドに座り込み、さっき撃って倒れている兵士を見た。

 

 その兵士の二人の顔には白い布がかぶせてあった。ふたりとも死んだらしい。

 

「……アムロはたしかにガンダムのパイロットだ」

「あぁ……何という事……鉄砲で人を撃つような子じゃなかったのに……」

「しかし、そうしなければ今頃私もアムロも死んでいた。分かってくれカマリア!」

「アムロは優しい子だった……虫も殺せない子だったんです」

「カマリア……!」

「だから戦争は嫌いだと、宇宙は嫌いだと……うぅ……」

 

 母さんが泣いている。父さんも頭を抱えているようだ。

 ……大人って面倒くさい生き物……。

 

「ミノフスキー博士が、あんな物を作らなければ……」

「……モビルスーツは戦争を変えた。時代は変わる物だ」

「研究意欲を満たすために人殺しを娘に……非道です」

「カマリア分かってくれ!私はアムロを殺すつもりなどない!」

「私はただアムロがいい子でいればいい!それが何故分からないんです!」

「カマリア!!何故分からんのだ!!」

「人殺しの道具を喜んで作る輩の気持ちなど分かるものか!」

 

 口喧嘩がヒートアップする。私もそれに頭を抱えそうになる。

 すると、突然父さんの腕時計からコール音が鳴る。

 

『レイ大尉、アムロは?』

「ブライト君か。アムロもここに居る、どうしたね」

「あなた……まさかまたアムロを!!」

『車両部隊が大尉の位置付近に確認されました』

「了解した。現在位置より退避しよう」

『頼みます』

「ああ……アムロ!すまんな、ホワイトベースに戻るぞ」

「う、うん……」

「アムロ!!テム・レイ!!情けない!!私は情けないよ!!」

 

 私は、父さんに手を引かれ難民キャンプを出る。父さんも浮かない顔だ。

 そりゃあそうだろう、久々に会うや否や口喧嘩だもの。

 浮かない顔になってもしょうがない。

 

「アムロ、あれはお前が撃ったのか?」

「うん、殺した……」

「そうか……すまないな、一人にするべきではなかった」

「いいの、遅かれ早かれ中で直接人を殺す機会があるはずだもの」

「そうか……」

「……」

「つくづく戦争は……母さんも……お前も……家族を引き裂いて!」

 

「もう元には戻れないの?」という言葉を喉元で飲み込む。

 あまりにも不憫だ。父さんは私を励ますために母さんの所に連れて行ってくれた。

 多少衝突があるものの、本当ならアムロの家で母さんと再会して私をケアするはずだった。

 それなのに我が家は連邦軍人に占領されて酒盛り、故郷は戦火に燃え、

 私はジオン軍人を殺し、それを見た母さんに会うとすぐに口喧嘩となる。

 

「父さん」

「あ……な、何だ?」

「……ありがと、連れてってくれて」

「え……?」

 

 私は父さんに精一杯の礼を言う。

 

「ど、どうしてだアムロ……私はむしろ」

「シャアの固執なんて考えてる場合じゃないってことが分かった」

「……?」

「自分の親が戦争で苦しんでるなさっさと終わらせないと。って事」

 

 私がそう言うと、父さんは首を傾げながら「そうか」と言った。

 

「さっさと戦争、終わらせないとね」

「……ああ」

 

 

 

 ★

 

 

 

「カマリア・レイさんですな?」

「え、えぇ……」

「キシリアです。テム・レイの妻、ミノフスキーの右腕で間違いないか」

「間違いありません」

「……決心はついたと見て、よろしいか?」

 

「ええ……。難民キャンプの皆様を保護していただけるのなら……」

「……では?」

「はい。この身をジオンに捧げます。お任せ下さい」

「ビーム兵器の生みの親がジオンにお力添え頂けるのならば心強い、感謝します」

「……人殺しに力を貸すのではありません」 

「何」

「戦争を早く終わらせ、この地に平和を齎す為にこの身を捧げるのです。ご理解下さい」 

「フフ……そうか、どちらにせよ我々と来てもらう。いいな」

 

「はい……キシリア様」

 

 




今回のアムロの行動の結果

・テム、アムロの家奪還
・ジオンの2人、アムロより先に来る
・アムロとジオン兵鉢合わせ、2人とも撃ち殺す
・テム、カマリアと再会、衝突し喧嘩別れ
・カマリア、キシリアによりジオンへ連行


今更ですが、時間軸的にはオリジンが基準なのでドアンとは会いません

以上の結果となりました。


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ホワイトベース、砂漠へ

ここから劇場版第二部「哀 戦士編」です


 ガルマ様の仇討ち部隊、ランバ・ラル隊と言ったか。奴らは今も木馬を追っている。

 宇宙世紀の御曹司の仇討ちのために、名家であるラルの者を駆り出し地球に送るとは。

 公王陛下とドズル中将のお怒りが、この部隊の動きだけで十二分に伝わる。

 

「たかが数年足らずの成り上がり王家の仇討ち、か」

 

 私は目の前の北宋の壺を指で弾く。

 

「……」

「いい音色だろう」

「はっ……良いものでありますか」

「北宋だな」

「ほくそう、聞きませんな」

「フン、良い物だと思えばいい。何か用か」

 

 ウラガンという者、彼は優秀だ。私にとって信頼できる人間の一人ではあるが、

 いかんせん美術観に疎い。根っからのスペースノイドであるが故、仕方ない事ではあるが、

 少しくらいは美術品に目を向けてくれても良いものを。

 

「はぁ、レビル旗艦の師団がドーバー海峡を渡ったとの情報が」

「ほう、それで?」

「木馬の進路もそれに応じて変わりました。南南西です」

 

 そう言ってウラガンはモニターのマップに木馬の進路を表示させる。

 このまま進路を変えずに進むと、木馬は同じ、ヨーロッパのオデッサへと向かう。

 なるほど、木馬も参加するのか。

 

「良くない状況だ、レビルの動きと合わせるか」

「そのようです、オデッサに進路を取ったと考えて良いかと」

「……ウラガン、ガルマの仇討ち部隊に教えてやれ」

「はっ……こちらの部隊は出さないのですか?例の白い奴は放置するには危険です」

「付近の隊にブラウアー隊とかいうのが居たはずだ。そいつらに合流命令を出せ。それで、部隊の集結状況は?」

 

 私がそう言うと、ウラガンはモニター表示を変える。

 部隊の動きが表示されているが、完全にオデッサに向かっているわけではない。

 行軍路は確保しているつもりだが、それでもゲリラ行動に阻まれているか。

 

「フェンリル隊が補給隊と合流。到着が遅れているそうです」

「足の遅いブースター非搭載のギャロップを使っているから、当然か」

「それと、第4MS大隊のA小隊が隊長機を残し壊滅、部隊の再編成中です」

「急がせよ」

「はっ、その他の部隊は概ね順調、ケン・ビーダーシュタッド率いる外人部隊が本日到着予定です」

 

 地上部隊の活躍は目覚ましいものだ。第二次降下作戦の地獄を生き残り、

 この地に根を張ったジオン兵達は、おぞましく地球を破壊し、のうのうと生きながらえている。

 忌むべき大破壊兵器、モビルスーツどころか、母なる星を潰す為に母なる星で新しい兵器、

 モビルアーマーをも作り上げた。サハリン家とかいう貴族気取りの技術屋がそれを成した。

 

 更に、モビルスーツパイロットという者はどこか変わった点があるらしい。

 堅実に、そして確実に作戦を遂行するフェンリル隊のような連中がいるかと思えば、

 ラル隊のように使命感を帯びて一つの目標に立ち向かう猛者も居る。

 こういったところに居ると大小様々な噂が飛び交う、退屈しない。

 重力下ではどんな鬼神が現れても不思議ではない。

 忌まわしい、まったくもって忌まわしい。破壊神が居るならばそれはモビルスーツだ。

 

「……」

「司令、どうかなされましたか」

「いや……ただ哀しいだけだ」

 

 私は北宋の壺を持ち、私のコレクションケースに入れる。

 地球に降りてから大小様々な美術品を保管してきたが、中にはやむを得ず贋作を手にしたものもある。

 オリジナルはことごとく戦火に飲まれ失われている。嘆かわしい事だ。

 オーストラリアの美術品は文字通り消え去ったのだ。忌まわしいコロニー落としによって。

 

「哀しいので、ありますか……」

「ああ、文化文明の聖地を踏みにじった我々が、な」

「……はぁ。そうで、ありますか」

「ウラガン」

「はっ」

「事を急がせよ、オデッサ周辺に戦力を集め、防備を万全にするのだ」

 

 この忌まわしい戦争を終わらせ、旧世紀文明のこれ以上の蹂躙を阻止したい。

 しかし状況がそうさせてくれん。キシリア旗下で動いている以上戦争継続はやむない。

 私がこれに背き、この地球侵攻の長の任を解かれたとなれば、それこそ文明は崩壊する。

 地球に魅力を感じない連中ばかりのスペースノイドに地球侵攻などさせてはならん。

 

(和平が失敗に終わった以上、戦争は続行されなければならん、だから地球の富と国土を手に入れる)

 

 スペースノイド的には理に適った話だ。でなければ振り上げた拳を振り上げたまま殺される。

 和平が望めない以上叩き潰さなければならない。それが公王陛下、ギレン総帥の決定。

 それに従うのが我々だ。たとえそれが何十倍規模の敵であろうと、モビルスーツを武器に。

 

(……しかし、それで我々が文明を蹂躙するなど、あってはならんものよ)

 

 そのモビルスーツが予想以上に働き、地球に馴染んでしまったのは予想外だ。

 敗残兵としてガルマと共に宇宙に逃げ帰り、地球を守るのも密かな目的だったが、

 失敗となってしまってはこのまま突き進むしかあるまい。命令に従わなければ死が待っているのだから。

 

「……いい物達だ」

「こう集められると、確かにそう感じます」

「興味が湧いたか、地球の文明に、これはどうか?ペルシアの絨毯だ」

「ほぉ、美しい」

 

 

 

 ★

 

 

 

 

『この辺じゃ見ない顔だけど、どこかチームに入ってるの?』

『チーム?いや入ってないけど……あんま興味ないし……』

『入ってない!?フフン、これはこれは好都合……一緒に帰ろっ』

『え、ちょっちょ……待って、これ返さないと』

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「はっ……何……今の夢……」

 

 随分懐かしい夢だったような気がする。明らかにアムロの夢じゃなかった。

 さっきの夢が私の昔の記憶なのかな……なんか女の子か男の子かわからない子が話しかけてきて……

 ……でもおかしい……私自身の記憶が殆どないのに、あんなのが夢に出るなんて……。

 

「ったぁもう……」

「アムロ、オキタカ、ネボウダ、アムロ」

「ぐっすり寝たから寝坊じゃない。よく寝たって言うの」

「イイワケ、アムロ」

「うっさい」

 

 耳元で落ち着く電子音声を発するハロを黙らせ、私はさっさと着替えてブリッジへ向かう。

 時計を見たら8時半だ。補給を終えて日本を出たホワイトベースはどこへ向かうのやら。

 ……それに心配なのは母さんだ。あの後スタコラサッサと逃げたけど母さんは置いてけぼりだ。

 ここに連れてきた所で夫婦喧嘩のラウンド2がガンダムの前で始まるのは目に見えてるけど、

 だからといってジオンの部隊のど真ん中に置き去りにすべきではなかったのかも知れない。

 今頃ジオンに捕まって乱暴……いや、無いか。母さんどう見ても40代過ぎてるし。

 

「……はぁ~……」

「よう、今頃お目覚めかい?」

「あ、おはようございますカイさん、カイさんも?」

「まぁな、ブリッジに行くんだろ?」

 

 廊下を走っているとカイさんに出くわした。いつものように気楽な感じだ。

 

「珍しいですね、自発的に行くなんて」

「皆集まるんじゃ行くしか無いだろ?」

「同調圧力?」

「そ。行きたくてあんな堅物ヤローのとこに行くかよ」

 

 カイさんはそう言って私と一緒にエレベーターに乗る。 

 胸ポケットからはみ出ている写真……何だろう?

 

「それは?」

「マチルダさんとの記念写真、見るかい?」

 

 ポケットから嬉しそうに、写真にニマニマしながら私に見せる。

 カイさんと同年代でみんな男、みんな笑顔の集合写真。

 マチルダさんの美貌に惹かれた盛り時の男の子って事かな?

 これじゃマチルダさんが担任の先生だ。肝心のカイさんはセルフタイマーに間に合わなかったらしい。

 

「へぇ、撮ったんですか」

「どいつもこいつも集まってサ、俺はこの有様ってわけ」

「良いじゃないですか、コミカルで」

「ど、どういうことだよぉ」

「カイさんはそういうキャラだって事。不良よりよっぽど合ってますよ」

 

 エレベーターがブリッジに到着した。扉が開くとブリッジには既に何人もの人が集まっている。

 その中には父さんも、心なしか元気がなさそうに見える。なんだか父さんがブリッジに上がるのは久々だ。

 結構大事な作戦会議、というか、状況説明なのだろう。

 

「ニヒヒ……情熱を秘めてんだろうな、マチルダさ」

「カイさん!」

「お、おう!」 

 

 何もたもたしてんの……。

 

 

 ●

 

 

「アムロ、カイ、遅いぞ」

「すみません!」

「……まあいい、理由を聞く時間ももったいない」

 

 理由聞くつもりだったんだ。聞いてどうなる訳でもないだろうに。

 私は遅れ気味だったであろうリュウさんをすり抜け、見にくい床の地図を見る。

 ……ユーラシア大陸だ。今は日本を抜けて東南アジアに居るっぽい。中国辺りだろうか。

 

「現在我々は中国を横断し、巨大な砂漠地帯を横断する」

「タクラマカン砂漠か、旧世紀より巨大化していると聞いたが」

 

 タクラマカン砂漠、名前は聞いたことがある、中国の砂漠だったっけ。

 だけど衛星写真っぽい画像で表示されているタクラマカン砂漠は明らかに大きい。

 中国をぶっちぎり、ヨーロッパにまで届きかねないほど砂漠化が進んでいる。

 

「ええ。この砂漠を横断するのです、とりあえずの目的地は黒海」

「黒海……?」

「ヨーロッパの海だ。アジアとの境にある」

 

 ブライトさんがそう言うと、地図を拡大したままホワイトベースの現在位置を表示させる。

 そして、上のオスカさんがその地図を操作し、ホワイトベースの進路を映し出した。

 完全に砂漠を横断するつもりだ。途中カスピ海とかいう海を撫でるように進んでそこに向かうらしい。

 

「……」

「大陸横断……敵の襲撃を考えると数週間規模……敵のど真ん中を突っ切るのね」

「食料も心配ね。ブライト、策はあるの?」

 

 ミライさんもセイラさんも不安を隠しきれないようだ。 

 

「タムラ料理長」

「事前にマチルダ隊に頼んでおきました。万全です。ひもじい思いはさせません。ただ……」

「?」

「砂漠を突っ切るんです。塩分を多めに確保したいと考えています」

「現状で既に不足していると?」

「そうではありません。ですが万一を考えて多めに確保したいのです」

「了解した、砂漠に塩湖があるはずだ。発見次第着陸しよう、加工はできるな?」

「お任せ下さい」

 

 ……そっか。食料も大事な要素だ。砂漠で食糧不足だなんて考えたくない。

 そもそも砂漠自体私は初めてだ。砂浜が見渡すかぎり広がる光景……と思うが、

 どこもかしこも砂、砂、たまにサボテンみたいな光景、想像できない。

 

「リュウさん。砂漠は、昼暑くて夜が寒いんでしたっけ?」

「……さぁ?俺もスペースノイドだ、よく分からん」

「あらら……砂漠初心者ばっかりって事か」

「アムロは地球育ちじゃないの?砂漠を知っててもおかしくないだろ?」

「私は日本育ち、ハヤトくんもそうでしょ?」

「確かに両親は日本生まれの日本育ちだけど、僕もサイド育ちだよ」

 

 ……地球育ちの人自体少ないんだった。なんと言うか、このメンバーで大丈夫なのだろうか?

 と、そんな事をしていると足元をチョロチョロと悪ガキ3人組がまとわりつく。

 

「アムロねーちゃん、ごきげんうるわしぃ?」

 

 キッカちゃんが両手を上げて抱っこを要求した。

 

「今忙しいっぽいけど……よっと」

「わっ……と、くしゃくしゃのかみのけ、アタシと違うね」

「ちょ!引っ張らないでよ!」

「ほれ、お前らもよく見ときな、ホワイトベースの行き先だ」

「わーい!」

「わわっ……」

 

 私はそれに応えてキッカちゃんを肩に乗せる。レツくんとカツ君はリュウさんが肩に乗せた。

 チョロチョロされるよりは乗せて大人しくさせたほうが良い。

 

「ね、アムロねーちゃん、なにしてんの?」

「ん?今ね、会議中なの」

「かいぎ?なんの?」

「ホワイトベースがね、道に迷わないようにするための会議」

「ふーん、アムロねーちゃんもかいぎしてんの?」

「私?私はただ聞いてるだけだよ、言うことなんて何もな」

 

「アムロ!」

「はひ!?」

 

 突然ブライトさんに呼ばれて私はキッカちゃんを肩車した状態で固まる。

 

「レイ大尉に従ってガンダムの整備は万全にしておけ、いつでも出せるようにな」

「は、はい!」

「場合によってはプロトを出すこともある、セカンドロットの開発指示もあるんだ、苦労をかけるな」

「セカンドロット……4号機とかのですか?」

「ああ。レイ大尉は連邦のモビルスーツ開発の鍵であることを認識してくれ、これはパイロット全員に当てはまることだ、全て任せっきりにするなよ!」

 

 そう言われると、カイさん、ハヤト君、リュウさん、ジョブさんが返事する。

 その後ろの予備パイロット、最近ガンタンクの訓練をしている人たちも返事をした。

 えっと、マクシミリアンさんと、キムさん、だっけ?月でガンタンクに乗ってたなそう言えば。

 

「俺も忙しくなるかな……ガンキャノン」

「ジョブさんも?」

「敵の前線を突っ切るんだ。フル出撃の機会も多くなる、予備機のパイロットってわけには行かないかもな」

「フル出撃……か」

 

 ガンキャノン3機、ガンダム2機、ガンタンク……えっと3台だっけ?これが全部出るのか。

 ビームを持ったモビルスーツが5機に大砲持ちが3台。これだけで戦争できそうだ。

 だけどガンタンクだけで6人もパイロットが必要だ。未経験者が乗るのは流石に避けたいな。

 

「もっとも、弾薬節約って手もあるけど。一度痛い目見てるしな」

「ああ……」

「それに君のお父様はガンダムを君専用にしたいみたいだ、チューニングも完全に君用になってる」

 

 そういえばそうだ、一度リュウさんがガンダムのシミュレーションを試したらしい。

 その時の結果は散々なものだったそうだ。リュウさん曰く「癖が極端すぎる」らしい。

 言われてみれば私のガンダムの動きはガンキャノンに似てはいるが動きが敏感だ。

 実際にやったら父さんが切れるからやらないけど、やろうと思えばガンキャノンで出来ない「バク転」だって出来る。

 操作がまるで他と違うんだ。

 

「アムロつよいもんね!」

「ガンダムが強いの、ねぇジョブさん」

「そうか?どう思うキッカ?」

「アムロがつよい!」

「照れるからやめてよ、もう」

「静粛にしろ!」

 

 またブライトさんに見られてしまった、私はその声と同時に黙る。

 

「リュウ、コアファイターはどうだ?」

「今はプロトのコアファイターを偵察に回してる、だがローテーションを組みたいところだな」

「ローテーションか……ガンペリーを使うわけにはいかんからな……」

「速力が遅いんじゃ使い所がない、それにミサイルも対潜用だ、今は使い物にならん」 

 

 戦闘機によく乗るリュウさんがブライトさんとコアファイターの運用について話している。

 今あるコアファイターは2機。ガンダムのコアファイターとプロトタイプのコアファイター。

 でも戦闘機を出すのは右側のハッチ。2機同時に使うと必然的にガンダムが使えない。

 それにコアファイターは2機とも絶対にジャブローってとこに持ち帰らなきゃいけないらしい。

 ガンダムの大事なデータが山積みなものを壊したら地球に降りた意味がないそうだ。

 

「偵察機ならコアファイターでなくてもいいんだが……」

「フラットマウスやTINコッドでもあればいいな、要請は出来ないのか?」

「掛け合ってはみるが、厳しいかもしれん、我々専属の補給部隊じゃないからな」

 

 フラットマウスとチ×コッド……変な名前と卑猥な名前だ。

 ホワイトベースのモニターにその卑猥な名前の戦闘機の図面が表示される。

 チンコ×ドの形はコアファイターそのものだ。あと、チン×ッドではなくTINコッドと書かれている。

 ティンコッドって読むのかしら?

 

「偵察機……やっぱ必要なんですか?」

「そりゃそうだ……ガンペリーにAAMが積めたらなぁ」

 

 まぁ、必要なければこんな話するわけないか……。

 

 そんなこんなでブライトさんと船の乗組員達の会話が続く。

 いつの間にかリュウさんに肩車されていたレツくんとカツくんは寝てしまっていた。

 私の肩に乗っているキッカちゃんも退屈そうだ。

 

「よし、航行開始、索敵班は先ほど説明した通り2時間交代、人員は任せる」

「了解」

「ハンガー作業員はアニー上等兵の指導の下、艦載機を120%の状態にしておけ」

「了解!」

「パイロットは各専属モビルスーツを整備。何時でも出せるようにな」

「はい!」

 

 私が返事するとリュウさんたちも続けて返事する。それからブライトさんは各員に指示を出す。

 艦長というものは大変だ、この馬鹿みたいに大きなホワイトベースを一人で管理するんだから。

 

「ミライ、エンジン出力最大、指定ルートを操舵士HUDに表示させる、出来るな?」

「了解。クルーズウィング展開。ミノフスキークラフト出力75%、エンジン出力最大……熱核エンジン臨界点到達、アフターバーナー点火します」

 

 ホワイトベースが動き出した。大げさな手順を踏んだが衝撃は緩い。

 外の景色が目に見えて動き出すとブライトさんが「解散」と指示した。

 その声に従いみんなぞろぞろとブリッジを出る。カイさんとハヤトくんは食堂へと向かった。

 そうだ、そう言えばお腹が空いた頃だったっけ。一段落したら食堂に行こう。

 

 その前に……。

 

「あ、カツ!レツ!」

 

 キッカちゃんが私の方からぴょんと飛び降りた。悪ガキ3人組が一緒になりフラウについていく。

 あの子達、完全にフラウの子だなぁ……。って、いやいや、キッカちゃんは別にいいの。

 父さんに今日やることを聞かないと、ガンダムの整備は私一人じゃ無理なんだから。

 

「父さん、ガンダムの整備で、また聞きたいんだけど」

「おお、アムロ。そうだな、食事がてら説明しよう、まだだろう?」

「うん」

「今日は何にするんだ?」

「朝はパンでしょやっぱ、それといつものスープ、そう言えば他のガンダムは?」

「頭にエネルギーを循環させてからだ、今日こそ04のメガビームランチャーの解決策を出す」

 

 私も私でいろいろ仕事があるけど、父さんの仕事量は常人のそれじゃないと思う。

 だからといって頼らない訳にはいかないけど、そろそろガンダムの整備も出来るようにならないとなぁ。

 いつまでも父さんに頼りっぱなしじゃカッコつかないし。

 

 

 

 ★

 

 

 

「ブラウアー隊、作戦完了。フリーベリ二等兵、これで全部か?」

『はい、輸送機の積み荷であるモビルスーツも全機撃墜しました、撤退機はありません、クラウス機、トルド機も無事です』

『連邦もMS(エムエス)を開発していたとは、白い奴じゃないのが幸いしたな』

「ああ。練度も俺達ジオンには遠く及ばない。武器はご立派らしいがな」

 

 砂漠に並ぶ敵MSの残骸が炎を上げている。堅牢な装甲ではあったが関節の繋ぎ目が甘い。

 武器を持っている腕を破壊したら後はコクピットを焼けばいい。部位破壊は有効な戦術という事だ。

 連邦のパイロットまだまだ甘い。回避という概念を知らない連中なら動きを予測するまでもない。

 

「にしても暑いな……MS越しでもこれかよ……」

『タクラマカン砂漠だからな、伊達じゃない、それが連邦のマシンガンか?』

「ああ、対MS用だ。連射力、貫通力申し分ない」

 

 連邦のMSの武器もなかなか使えるものだ。ボックスマガジンのマシンガン状の武器。

 試しに拾って撃ってみるとしっかりと弾が発射された。対MS弾でもありMSにも有効らしい。

 

『規格が合うってのは珍しいな。ジオニック製か?そのマシンガンは』

「ヤシマ重工のだな。ブグに搭載されてたのと同じだ」

『ブグって、MS-04の?』

「ああ、だから合ったんだろう」

 

 隊員のクラウスとトルドも同じように撃破したMSから武器を持つ。

 試し撃ちがてら砂漠に向けて引き金を引くと同じように弾丸が発射された。

 連射力に劣る対MS用ザクマシンガンとは違い、安定した連射力を維持している。

 

『いい武器だ、数丁拝借していくか』

 

 そう言ってトルドのザクが破壊したMSの武器を拾い集める。

 それを見たクラウスのザクは呆れたようにモノアイを俺に向ける。

 

『レオ、さっさと戻ったほうがいい。ラル大尉の隊と合流しなければ』

「分かってる。木馬の予定進路もそう遠くない、道草食ってる時間はないな」

『木馬……白い奴……』

「?」

 

 通信モニターに映るオペレーターのアン・フリーベリ二等兵が怯えた表情を見せた。

 新兵養成も兼ねて宇宙でシャア・アズナブル少佐のムサイに乗艦していたらしい。

 そうだ、この子は白い奴の姿を間近で見ている……。あまりここに居るのは良くないな。

 

「……よし、撤退して、ランバ・ラル隊と合流するトルド、マシンガンはいくつ使えた?」

『5丁だ。ラル大尉の部隊にも渡せるくらいはある』

「十分だ、手土産にはなるだろう、アン、回収地点にファットアンクルを寄越してくれ」

『了解です。ブラウアー隊帰投了解。ファットアンクル、回収地点に移動します』

 

 連邦軍のMS相手にデータ収集と肩慣らしが出来た。

 木馬が通るまでにラル大尉の部隊と合流して、共に木馬を叩く。

 地球司令官の命令だ。白い奴と戦うのは気が引けるが、やるしかないらしいな。

 

 

 

  




今回のアムロの行動の結果

・ウラガンの助言によりマ・クベ、ブラウアー隊(MS戦線0079 ジオン編)をラル隊に合流させる。
・アムロの中の人の記憶がほんの少しだけ蘇りかける
・カイたち男集団、マチルダさんと記念写真。それをアムロに見せる。ちょっと仲良くなる。
・ホワイトベースの進路は概ね原作通り


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セイラ出撃、アムロ激怒

「レオ・ブラウアー少尉、と言ったか」

「はっ」

「ふむ、若いな」

 

 マ・クベ司令が寄越した部隊の隊長、この少年のような面構えの男が仕切っているらしい。

 第二次降下作戦を生き残り、僚機1機で前線を支えたエースパイロットだと聞くが、

 この赤髪の青年がそれを成し得たとはとても思えない。しかし戦場に年齢は最早関係ない。

 現に連邦のモビルスーツのパイロットが証明している。

 

「よく来てくれたブラウアー少尉。ランバ・ラルだ。鹵獲武器の支給感謝する」

「もったいないお言葉です」

「いい目をしているな、期待ができそうだ」

「ありがとうございます、ラル大尉」

 

 この男はともかく、新兵のオペレーターの少女は不安だ。

 ジオンの人員不足が深刻なのがよく分かる。そいつらの補佐の為にあの熟練の兵士を置いたのだろう。

 メガネ面の青年はブラウアー少尉と共に降下作戦を生き残った僚機であるらしい、

 見た目に似合わず歴戦の兵士であることには間違いないようだ。

 

「作戦を説明しよう、楽にしてくれ」

「はっ」

 

 ブラウアー少尉は姿勢を解き、ギャロップのモニターを注視する。

 

「マ・クベ司令から聞いてはいるだろうが、我々の任務は木馬とその搭載モビルスーツの撃破だ」

「把握しています、新造艦ホワイトベースと新型MSガンダムの撃破もしくは鹵獲と指示を受けました」

「その通りだ。では、作戦を説明する」

 

 この男、モビルスーツを「エムエス」と呼ぶ男か。変わっている。

 わしはモニターに作戦マップを表示させた。

 

「砂漠地帯に位置する木馬がこの地点で確認された」

「……現在位置からざっと数十キロ先……近いですね」

「この砂漠、このミノフスキー粒子濃度だ、向こうはまだ捕捉できていないだろう」

 

 ブラウアー少尉は頷く。

 

「自分もそう思います……となると、側面から待ち伏せ、射撃主体の包囲攻撃でしょうか」

「その通りだ。俺のグフが囮になる、分散させたザク5機でモビルスーツを撹乱し、撃破する」

 

 少尉は少し首を傾げた。理由を聞くと、彼はモニターを操作し、モビルスーツの配置を変える。

 彼曰く、ザクを全て分散させるわけではなく、2機編成を組む作戦を取りたいらしい。

 

「ザクを分散させすぎると、万一の際に支援を待つしかない状況となります。僚機は必要かと」

「悪くない考え方だ。いや、戦術的には当然の選択だろう。しかし相手がエースである事を考慮した場合、2機編成はむしろ不利になる」

 

 モニターを操作し、アメリカでの木馬との戦闘データを少尉に見せる。最近の映像だ。

 ザクの爆発がバズーカを持ったザクの弾帯に誘爆し、それにより戦線が混乱したのだ。

 従来の戦術では僚機を組み、2機もしくは3機で行動するのが当然だ。少尉の選択は正しい。

 しかし、相手がエースパイロットである場合、その密集状態を利用する事がある。

 

「……これは……失礼しました。お考えであったのですね」

 

 少尉は映像を見ると、作戦モニターのモビルスーツ配置を元に戻した。

 ザクを分散させ、ターゲットを一つに絞らせないようにする。

 この布陣も必ず正しいわけではない。しかし、エース相手に正攻法は通用しない。

 小手先の悪あがきをいかにうまく使うかが、エースの数少ない攻略法だと思っている。

 

「戦術というものは日々変わっていくものだ。モビルスーツ対モビルスーツの場合は特にな」

「りょ、了解しました」

 

 少尉は肩を落とした。俺はその落とした肩を叩く。

 

「しかし考え方は満点だ。部下のことをよく考えていると思う」

「ありがとうございます」

 

 すると少尉は敬礼した。よそよそしいが素直な男だ。実直で部下思いな隊長であるのがわかる。

 だからこそ実戦経験豊富な男も彼に従うのだろう。若いエースの芽をここで摘む訳にはいかんようだ。

 味方への目配りは今まで以上に密にしなければ。

 

「布陣は説明したとおりだが、それに拘るなよ。危険と感じたら各自考えて行動するように伝えろ」

「了解しました、部下に伝えておきます」

「よし、携行武装は任せる。ハンガーの武器も好きに使え。以上だ」

「はっ!ブラウアー隊、出撃準備に入ります!」

「おう」

 

 ブラウアー少尉は敬礼し、ギャロップのブリッジを出る。

 すると近くでわしの様子を見ていたハモンが静かに歩み寄る。

 

「あの坊や、ずいぶん若いのですね」

「若いからこそ、大胆で勇敢な行動が出来る、それで生き残ったのだろう」

「ええ……貴方、ガンダムは強敵です、お気をつけて」

「当然だ。ここで命を散らせたりはせんよ」

 

 ガンダムという敵、ニュータイプと噂されている女、アムロ・レイとの再戦だ。

 奴とてこちらの対策は練っているに違いない。しかしそれは我々も同じだ。

 ガルマの若造とは違う、ゲリラ屋の戦い方というものを教えてくれる。

 

 

 ★

 

 

「作戦内容は確認できたな?俺達の任務はランバ・ラル大尉の援護、木馬とそのMSの包囲、攻撃だ」

 

 ギャロップのモビルスーツハンガー、その一角で隊長はホワイトボードを使って作戦を説明する。

 言っては何だけど、隊長は絵が下手だ。

 フニャフニャの円に変な丸と四角が踊っているようにしか見えない。それでも言っている意味はよく分かる。木馬を包囲して白い奴を仕留める、というのが作戦みたい。

 

「簡単に言ってくれるが……相手はあの連邦の白い奴だ。たった1機で赤い彗星とガルマ様を撃破した正真正銘のエースだぞ。1機のグフと5機のザクで包囲した所でどうにかなる相手じゃないだろう」

 

 隊長の同期であり友人の、クラウス・ベルトラン曹長がこれに反論する。

 そうだ、白い奴は5機の包囲とラル大尉のグフだけで倒せるほど弱い敵じゃない。

 シャア・アズナブル少佐が宇宙で幾度となく攻撃をかけても撃破できなかった相手だ。

 包囲して袋叩きにするだけで勝てる相手とは思えない。でも、何か策があるのかも知れない。

 

「薄々気づいちゃいたが、とんでもない貧乏くじを引かされたみたいだなぁ……」

「トルドさん?」

 

 この隊で一番のベテランであるトルド・ボブロフ軍曹が腕組みをしながらぼやく。

 トルドさんは続けた。

 

「木馬って化物の撃破のために派遣されてるガルマ様の仇討ち部隊のMS戦力がJザク2機とグフ1機。その援護にJザク3機だ。今まで木馬のために何十機ものザクが撃破されてるってのに。マ・クベ司令が本気で木馬を撃破したいって思ってるならそれこそ一個師団くらいの兵力を投入するだろうよ」

 

 言われてみればその通り……いや、言われるまでもなくその通りだ。

 ジオンのデータベースにある木馬との戦闘データを確認したが、木馬との戦闘での損失は計り知れない。

 グレートキャニオンでは戦闘機、戦車、モビルスーツの損害は40を超えている。モビルスーツだけでも15機も撃破されている。

 それなのに今回はたった5機だけで木馬を仕留める……。

 

 考えると体が震えた。

 

「じゃ、じゃあ、私たち、捨て駒ってことですか……?」

「そう考えるのが自然だろうなぁ……暇なやつが居たから押し付けたってトコだ」

「そ、そんなぁ……!」

 

 考えたくない事実だ。しかし私が直面している事実を思うとそうとしか言えない。

 地上での木馬の活躍を見ると、中隊はおろか、ザクが束になって襲いかかっても勝てない。

 ジーン伍長の大怪我はむしろ幸運だったのかも知れない。白い奴は明らかに成長している。

 

「トルド、アンを怖がらせるなよ」

「しかしなぁ、マ・クベ司令の命令とは言え、これは……」

「文句を言っても仕方がないのは分かってるだろ、生き残ってから文句言えばいい」

 

 トルドさんがぼやくのも無理はない。こんなの、私達に死ねと言っているようなものだ。

 ランバ・ラル大尉も何でこんな無茶な作戦を引き受けたのだろう。

 

「……レオ、作戦は分かるが、白い奴のスペックは把握しているのか?」

「一応な。見れば見るほど俺達がどれだけ強大な敵とやり合うのかが分かるぜ……」

「今まで、例え話で白い奴、白い奴と言ってきたが、実際やり合うとなるっちゃ話は別だ」

「アンはその目で見たんだろう?宇宙じゃシャア少佐のファルメルに乗ったらしいじゃないか」

「へ?あ、は、はい……見ました……」

 

 突然私に話を振られた。そうだ、この部隊の中で私だけが白い奴を見ている。

 その性能までは分からない、けれど、シャア少佐やその部下、ジーン伍長達との戦闘を見ている。

 遠く、それも戦闘モニターやレーダー越しではあるけれど、それがこの作戦を成功に導くかも知れない。

 私はその時の、宇宙での戦闘を思い出しながら言葉を紡いだ。

 

「その、詳しくは見ていません、でも、分かるのは……あの機体は不慣れなパイロットが乗っている、と」

「不慣れ?」

「はい。少佐と白い奴との初戦での練度は、先日の敵モビルスーツ以下の練度であると推測されます」

 

 サイド7宙域での戦闘、その時の白い奴の練度はまさに「ヘタクソ」と呼べるものだった。

 戦闘ブリッジでの戦闘データでも、少佐が白い奴を蹂躙できる結果で終わった。

 しかし……。

 

「初戦ってことは、今は違うんだろ?」

「はい、白い奴のパイロットは異常と言える成長を遂げている、かと」

「異常……」

「……ただのパイロットがあの赤い彗星をこの短期間で撃破するなんて」

「……」

「絶対に、異常です……。あ、で、でも!勝てる可能性は………………」

 

 言葉が出なくなってしまった。異常、その言葉がこの戦いの辛さを物語っているからだ。

 私たち、いや、隊長、クラウスさん、トルドさんの3人、そしてラル大尉、アコース少尉、コズン少尉が戦う。

 私だって伊達に軍で働いているわけではない、それでも死ぬと分かっている戦いに身を投じさせるなんて。

 

「……」

 

 私の沈黙に、隊長が片手で自分の頭を押さえた。隊長が悩んでいる。

 私のせいで、ザク5機とグフ1機、それだけでゲリラ戦を仕掛けて勝つ。

 そんな都合のいい話がある訳がない。グフ1機がザク6機分以上の力を持ってるはずがない。

 

「すみません……こんな情報しか伝えられなくて……」

「いや、いいんだ。むしろ気が引き締まったぜ、なぁ?クラウス」

「あ、ああ。そうだろう?トルドも」

「おう、強大な敵だからこそ油断しちゃならねぇ。ありがとよ嬢ちゃん!」

 

 ……ブラウアー隊の皆は本当に優しい。だからこそこの優しさに甘えられない。 

 隊長たちが沈んだ空気を明るくしてくれた。だから私も恐怖を押し潰して笑顔を見せる。

 

「とにかく、今はラル大尉の考えた作戦に従う。俺達は白い奴を相手にしても生き残る」

「俺達の交戦規定は「生き残れ」だ。隊長もクラウスも胸に刻んどけよ?嬢ちゃんもな」

「分かった、生存を第一に考えて、可能なら敵MSを撃破する」

「皆さん……白い奴は強敵です……ですが旧式のキャノンやタンクのマイナーチェンジ型にも気をつけて下さい」

 

 ルナツーでもう一隻のパプアと補給隊のガデム大尉を戦死させたのは白い奴じゃない。

 あの機体も、ザクに遅れを取ったモビルスーツではないのは明らかだ。 

 私は念のためにそれを伝える。隊長は私の言葉に頷いた。

 

「了解だ。聞いたな?全員生き残るぞ。ブラウアー隊、出撃だ!」

 

 隊長の号令に私達は「了解」と答える。

 トルドさんとクラウスさんは自分のザクに向かい、最終調整を行う。

 隊長は私の前に残った。私はいつものように端末に記した作戦内容を隊長に見せる。

 

「……作戦内容の最終確認です」

「ああ、いつもありがとうな」

 

 作戦を成功とする条件、失敗の条件、補足情報を記した内容だ。隊長に頼まれて作っている。

 これを確認しないと落ち着かないらしい。私としてもありがたい。

 自分のために作戦を把握するのでなく、誰かに伝えるために把握するといい。

 これはシャア少佐が私に教えてくれた状況把握のコツだ。隊長のお陰でこれを実践できている。

 

「……MSのビーム砲は絶対に当たるな、か」

「はい。あれに当たると確実に……死にます」

「分かった、気をつけるよ」

「隊長、部隊が危なくなったらすぐに逃げて下さい、本当に、お願いします」

「分かった。安心しろ、全員五体満足で帰ってくるぜ」

 

 隊長は私の両肩に手を置き、そう言った。

 

「アン・フリーベリ二等兵。俺達のオペレートを頼む」

「は、はい!」

「よし!じゃあ行ってくるぜ!」

「はい。出撃準備をお願いします!私はブリッジに」

「ああ、終わったら呼ぶ」

 

 私は敬礼し、隊長を見送った。さっきの手、隊長も震えていた。

 ……戦場が怖くない人なんか居ない。例えあの降下作戦を生き残った隊長でも。

 やっぱり怖いんだ。

 

「私も、頑張らなきゃっ……」

「そうね、頑張らないと」

「ひぃあ!?あ、ハモン様……い、いつから……?」

「フフ……フリーベリ二等兵。作戦が始まります。ブリッジに来て下さい」

 

 私が振り向くとそこには金髪の妖麗な女性が立っていた。

 ハモン様、と言う人らしい。ランバ・ラル大尉の内縁の妻……だったはず。

 この人がギャロップの指揮を取り、ラル大尉の部隊オペレーターを務めているらしい。

 私はその人に手を引かれ、そのままブリッジへと向かった。

 

「貴女、16歳なのね」

「は、は……はい」

「フフフ……若い子ばかりの戦場になるわね……どうなると思う?」

「さ、さぁぁ……あ、でも、隊長達は生き残ります!絶対に!」

「私達の努力次第よ?アン」

「は、はぃ……」

 

 何だか怖い人だ……。

 

 

 ★

 

 

 

『接近するものあり!1機!視認不可!モビルスーツパイロットはブリッジへ!』

『整備班!ガンダム、ガンキャノン、タンクのスタンバイ!!』

 

 ホワイトベースにけたたましく放送が響き渡る。緊急出撃ではないらしい。

 私は急いでブリッジに上がると、既に解散とハヤト君がブライトさんの話を聞いていた。

 私は制服の上着を閉めながら砂漠を見る。敵らしい姿は見えない。

 

「機種は分からんのか?」

「このミノフスキー粒子量だ。すでに囲まれているかもしれん」

「センサー反応……ホバークラフトらしい大型艇、高速で接近しています!」

 

 私はブリッジの人達の話を聞きながらブリッジから見える外の風景を確認する。

 強い日差しに凄まじい量の砂だ。砂漠だから当然ではあるが、初めて見る光景だ。

 砂地での戦い方はまるでわからない、出撃する時は整備の人の話を聞かないと。

 

 そう思いながらブリッジを見ていると、さっきから双眼鏡を覗いているセイラさんの姿が見えた。

 何だか落ち着かない様子だ。

 

「なにか見えます?」

「いいえ……何も」

(たった1機……それに接触できれば……)

「そうですか……え?あれ、セイラさん!?」

 

 その時、セイラさんは何を思ったのか突然走り出してしまった。追いかけようとするもセイラさん意外と足が速い。

 すぐに振り切られてどこかへ行ってしまった。……何だか嫌な予感がする。

 どっちにせよ発進は少し様子を見てからにしないといけない。ブライトさんもそう言っている。

 

 敵が来た。よっしゃ殺したる。で出た所で痛い目を見るのは私達だ。

 

「出ました!大型陸戦艇ギャロップです!!30cmクラスの主砲を装備しています!」

「艦長、高度を上げますか?ホバークラフト相手なら……」

「いや、下腹を狙われるのはまずい……迎撃する!アムロ!行けるな?」

「はい!ガンダムのスタンバイに行ってきます!」

「任せる。カイはガンキャノン、ハヤトとリュウはガンタンクだ!」

 

 多分あの青いモビルスーツだろう。仕掛けてくるなら倒すだけだ。 

 とにかく今はこの砂漠を抜けて……抜けた後はどうするんだろう?

 まぁ、とにかくヨーロッパ行って、ジャブローだっけ。そこに行かないといけないんだ。

 こんな砂漠で足止めを食う訳にはいかない。

 

 

 ●

 

 

 で、ノーマルスーツに着替えて格納庫に来た訳だけれども、私の目の前には少し信じられない光景があった。

 

「が、ガンダム……!?」

「誰かガンダムを止めろ!!」

 

 ガンダムが私無しで動いている。いや、そうじゃない。誰かが動かしている。

 

「ちょっと!?誰が動かしてるの!?」

「セイラさんだ、特命だって」

「はぁ!?」

『ガンダムの射出を中止しろ!!何!?聞こえない!?止めろって言ってる!!』

 

 父さんが格納庫からブリッジに連絡をつけているが、止められないらしい。

 何でセイラさんがガンダムに乗っているのか、疑問ばかりが浮かぶ。

 

『ガンダムはアムロ用に調整されてるんだよ!!ブライト!!聞いているのか!!』

『聞いていますよ!!!指示はしてます!!』

『駄目です!カタパルトシークエンス射出段階!中止不可能です!』

「セイラさん!!んの(アマ)ぁ!何のつもりよ!!父さん!!プロト出すよ!!」

 

 その疑問は射出されていくガンダムを見て一気に怒りへと変わる。

 あのパツキン女を一発ぶん殴ってやらないと気が済まなくなってしまっていた。

 そしてそのままプロトタイプガンダムの場所へと走るが、下半身しかない。

 

『コアファイターを移動させろ!超特急だ!』

「ッチ……遅い!!アニーさん!何で止められなかったのよ!」

「艦長の命令だって言われたんだ、止めようがないじゃない!」

「おかしいでしょ……ったく!!父さん!」

『何だ!』

「キャノンは出せる!?ジョブさんの予備機ならフリーでしょ!?」

『駄目だ!!キャノンの操作はガンダムと微妙に違う!お前では無理だ!』

「言ってる場合!?こうしてる間にもガンダムは!」

『とにかく待て!今コアファイターを移動させている!』

 

 こうなったら仕方がない、セイラさんを叩きのめして引きずって来るしかない。

 全く……何だって言うのよ……!イライラしているとガンダムが発進した。

 駄目だ。ガンダムがカタパルトでのけぞっている、見るからに下手だ。

 

「……ああ!!もう!!」

 

 それと同時に格納庫の奥から折り畳まれた黒いコアファイターが運ばれる。

 アニーさんは私を押しのけてそのコアファイターを下半身に差し込んだ。

 

「乗りな!上はすぐ差し込む!起動準備急いで!」

「はい!」

「ガンダムは!?」

 

 カイさんとハヤト君がバタバタと格納庫にやってきた。

 さすがカイさん達だ。緊急時と分かればすぐにやってきてくれる。

 他の整備員の人達が簡単に状況を説明し、カイさん達はすぐにキャノンとタンクに乗り込む。

 

 私もガンダムの起動準備が完了した。すると、ガンダムの上半身が刺さり、カメラが起動する。

 

「よし……」

『アムロ急げ!カタパルトの射出準備は完了している!』

「はい!ブライトさん!」

 

 武器はプロトタイプ用のビームライフル……照準器がないやつだ。今は仕方ない。

 盾もプロトタイプ用。問題ない。今はセイラさんをぶちのめして強制送還させないと。

 私は格納庫内を急いで進み、カタパルトを接続する。

 

『どうぞ!』

「はい!!アムロ、行きます!!!」

 

 敵の姿もわからないまま、砂漠に向けて、プロトタイプガンダムが飛び立った。

 あの人が死んだら……私は……!

 

 

 ★

 

 

「っ……!!シミュレーションすら出来ていないと……!!G、Gが……」

 

 目の前が暗くなったと思ったら急に赤くなる。これが本物のG……。

 胃の中から何かがこみ上げてくる感覚を覚える暇もない。

 既にモニターには地面が見えていた。

 

「うっ……!」

 

 私は手引書のとおりに操縦桿を引く。するとガンダムの体勢が裏返る。

 それを感じた私はすぐに操縦桿をもとに戻すが間に合わない。

 ガンダムは私の意に反して足を地面に付け、そのまま崩れ落ちる。

 これが砂漠の砂でなければ私はもう死んでいただろう。

 

「着地……すぐに起き上がらないと……」

 

 操縦桿を手引書通りに動かすが姿勢が安定しない。

 この間、アムロとジョブが話していた……アムロ用に調整とはこの事か。

 アムロの癖に合わせて操縦桿の感度を調整しているみたいだ。

 

「な、なんとしても……っく……ジオンの兵と接触しなければ……」

 

 ジオンの兵と接触して、キャスバル兄さんの情報を聞き出す。

 アムロのキャスバル兄さんへの恨みは異常だ。何故恨んでいるのか、

 私のせいでアムロはジオンに捕まった、その時アムロが何をされたのか、

 キャスバル兄さんと何を話したのか。それを聞き出さないと。

 いや、それもあるが、兄さんの無事も確かめなければいけない。

 

【ガンダム視認、予定通り出てきました!】

【アコース!牽制射撃だ!ブラウアー隊は待て!わしが仕掛ける!】

 

 コクピット内に警告音が響く。正面ではない、右から来ている。

 私が振り向くと、既にザクがこちらに体を晒してマシンガンを向けていた。

 ザクのマシンガン……実際に銃口を向けられたのはこれが初めてだ。

 ただならぬ恐怖を感じ、体が萎縮する。すぐに操縦桿を動かすが上手く動かない。

 それどころではない、ガンダムは急な体勢変更に対応できず膝をついてしまった。

 

「動いて!!動いて頂戴!」

【?……砂漠に慣れていないのか……いける!】

 

 ガンダムが立つと同時に、ザクからマシンガンの砲弾が降り注ぐ。

 連続して放たれた砲弾はガンダムに直撃し、カメラの映像が乱れる。

 どうにかしてシールドを構えることが出来たが、ビームライフルの照準が合わない。

 

「っ!!」

 

 それでも照準が合わないままビームライフルを撃つ。

 すると今度は左側からの敵の反応を示す警告音が鳴った。

 立体音響システムから響くバーニア音も左側から大きく響いている。

 ガンダムの首を上に向けると、太陽を背にしたモビルスーツが右手を私に向けていた。

 

「はっ!?」

【白い奴め……不慣れらしい!気の毒だが頂く!!】

「シールド!間に合って!!」

【甘いわ!!】

 

 シールドを構えると同時に、シールド越しのカメラ映像が乱れた。

 更にシールド越しに鞭のようなものが直撃し、コクピットにまで電流が流れる。

 

「あっ!?っつぅ……!」

 

 バチ、と少しだけ手の平が痺れる感覚を覚え、思わず私は操縦桿を手放した。

 私の手のひらが開きっぱなしになり、上手く握れない。

 

「はっぁ……はぁっ……!!」

 

 ガクガクと震える手のひらを無理やり操縦桿に押し付け、握り直す。

 そして反撃しようと正面カメラに目を向けた時、青いモビルスーツの指が私に向けられた。

 5本指は全て銃口だ。大口径の弾が発射される機構である事は明らかだった。

 

「う……」

 

 心臓の音が鮮明に聞こえる。死を恐怖した瞬間というものを味わう。

 テキサスコロニーで恐怖を押し殺しながら暴徒と戦ったときも同じ音を聞いた。

 しかし今の私は銃もない、乗っているモビルスーツはまともに動かせない。

 あの時の私に扱えるものを何一つ持っていない私は、恐怖を押し殺すことが出来ない。

 

「い、嫌……」

 

 流してはいけない物が私の頬から流れた「助けて」という声が無意識に出る。

 しかし、その助け主が出てこない。こんな時に「お母様」と言えない私が悔しい。

 正体を隠したまま死ぬなんて嫌だ。セイラ・マスではなく……私は、

 

『んの……バカ女ぁ!!!』

「ぐ……ぁあ?!」

 

 その時私を包んだのは爆炎でも、砲弾でもなく、もう一機のガンダムに蹴られた衝撃だった。

 つま先蹴りをガンダムの腰に思い切り受け私とガンダムは吹き飛ばされた。

 同時に放たれた青いモビルスーツの砲弾は、プロトタイプが投げた黒いシールドに阻まれ、難を逃れた。アムロのガンダムだからこそ出来る曲芸じみた行動だ。シールドを投げ、ガンダムでガンダムを蹴り上げる。私に放ったアムロの怒りのサッカーボールキックは、ガンダムを砂漠の海に突き刺したのであった。

 

『どういうつもりか知らないけどさっさと起き上がって、とっとと戦場から出てって!!』

「アムロ!っ……今は下がれないの!邪魔しないで頂戴!」

『もう一発蹴られないと気が済まないの!?それとも殴られたい!?』

「アムロ!!分かって!!」

 

 アムロの怒声が痛む体と耳鳴りに響く。さっきのアムロの蹴りで目が覚めたが体中打ち付けた。

 痣が出来た腕で、血が流れる額を拭い、ガンダムを起こしてバーニアを吹かす。

 空を飛ぶガンダムはそのまま、アムロから離れた。

 

【もう一機の黒い奴か!コズン!クラウス!白い奴を殺れ!アコース!レオ!仕掛けるぞ!】

【了解!ブラウアー少尉!遅れるなよ!】

【ああ!やってやる!】

『っんだっていうのよ!!敵の反応が見えないの!?こんのド下手ぁ!!!』

「……」

 

 アムロの罵声がまた響く。アムロからすると苛立つ気持ちがよく分かる。

 だけど私は敵の前に体を晒し、ジオン兵と接触して兄さんの情報を聞き出さなければならない。

 だから、私の目的は敵に突っ込むことだ。それにアムロだって、敵に突っ込んでいる。

 間違っているのは承知の上で、言いっこなしだと心の中で反論した。

 

【何だ……わざわざ降りてきたのか?】

【コズン少尉、油断すんな!】

【軍曹は黙ってな、このモビルスーツを捕獲したらいいんだ】

 

 私は3機のザクに囲まれる。3機がマシンガンと、大型の大砲を構えた。

 それを狙い、私は大型の大砲を持ったザクに突撃し、接触回線を開いた。

 接触回線を開くと同時に、母艦や他の機体との通信をシャットアウトする。

 

【ぐっ!?突撃!?】

【クラウス!!】

「赤い彗星って!何者です!?」

『な……!?女兵士(ウェーブ)だと!?』

「答えて下さい!でなければこのままバルカンで蜂の巣にします!!」

【セイラさん!!何だってんだよ!!】

 

 後から出撃したカイのガンキャノンが、私を狙う2機のザクに牽制射撃をする。

 私と密着したザクのパイロットは慌てるような息遣いを私に聞かせる。

 若い兵士だ。噂には敏感なのかも知れない。どうせなら事情に詳しい人間が良かったけれど。

 

「答えなさい!」

『っ……赤い彗星!?知っていて答えるとでも!?』

「ならば、貴方を撃つ!」

『この距離で僕を撃てば、君とて只では済まない……それにこっちは……』

 

 その瞬間、相手のザクのコクピットから何かを作動させる音が響いた。

 そして、ザクの上半身から何かが飛び出した。脱出したのか?

 そう思い上を向いたが、複数の黒い物体が宙を舞っているだけだ。

 

『ザクの武装を把握しておくべきだったな!!』

「な……!?」

【セイラさん!……散弾兵器なのに脆いカメラを向けてんじゃないよ!!】

 

 その黒い物体は、カメラに弾ける様子を映し、雨のような鉄片を降り注いだ。

 それを映した瞬間、カメラの映像が途切れ、同時に周囲の音も消えた。

 

「っ!?メインカメラが……!アイカメラ……照準器……作動しない!?」

 

 突然周囲の映像が途切れ、コクピット内を照らしていた晴天が失われる。

 目が慣れない暗闇を照らしているのは鮮やかなコクピット計器の明かりだけだ。

 不自然に暗いコクピットの暗さに突き刺さる計器の明かりは目を混乱させる。

 ただでさえがわからないサブカメラのスイッチの場所が余計に分からない。

 

「周囲の状況が……!コクピットを開ける……いや……それは出来な、あぁ!?」

 

 真っ暗なコクピットが揺れ、何か高熱の物体が鉄を溶かす音が小さく響く。

 ヒートホークがどこかを割っている……それとも、ビームサーベルを奪われている?

 何の音が響いているの分からない。今度こそ死ぬと覚悟し、私は戦意を失った。

 そして、兄さんのことを聞くという目的すらも手放し、シートベルトを外し、小さくうずくまる。

 

(なんて無力なの……!私は……!?)

 

 その時、ガンダムの背中部分から爆発が響いた。そのままガンダムが前のめりに倒れる。

 振動を感じた私は、ベルトを付けていないままうずくまっていたため、暗い正面モニターに叩きつけられる。

 

「うっ……っぐぅ!?……も、もう駄目……もう、死ぬ……?」

 

 動く気力すらない。そのまま私はモニターに体を預けた。

 

【よし!アムロ!ザクは引っ剥がした!!】

【了解!カイさん!ガンダムの背中からビームサーベル引っこ抜いて!!】

【ガンキャノンで使えるのかよ!?】

【1本なら使える!使わないまま載っけてるよりはマシよ!!】

 

 巨大なモニターに体を預けていると、モニターが今更起動した。真っ白な砂を映し出している。

 一定時間カメラが起動せず、メインカメラの再起動が不可能な状態だとオートで起動するらしい。

 サブカメラの映像は遠近感が感じられず、照準など合わせられないときくが、動かすには十分だ。

 

「……動ける……?」

『セイラさん!やっと動いたか……とにかく今は戻ってくれ!』

「カイ!」

『動けるよな!?急いでくれ!理由も謝罪もいらねぇ!!』

 

 ガンダムを立たせると、カイのガンキャノンがビームサーベルでヒートホークを受け止めていた。

 ガンダムの右肩のビームサーベルがない。カイが持っている物だろう。

 そしてカイはその状態のまま左手で肩を掴んでいた。通信が届いたのはそのおかげだろう。

 

「カイ!でもアムロは!」

『アムロが1人で戦ってる!そっちはガンタンクが支援砲撃してるからな!行かないでいい!』

「……」

『行け!こっちはいい!!両腕が使えないだろうが!邪魔だよ邪魔ぁ!!』

 

 カイの言葉に従い、私はペダルを踏んでホワイトベースがあるであろう方向に向けてガンダムを飛ばす。

 しかし遠近感がつかめない。ガンダムをいつまでもジャンプさせすぎる恐怖感を感じ、私は無意識のうちにペダルから足を離していた。

 

「あっ……」

 

 思わず着地した先は、何もない砂漠の砂だった。足音が響き、息をつく。

 しかし、息をついた瞬間を狙われたと気づいたのは少し経ってからだった。

 突然ガンダムのバランスが崩れ、体に妙な浮遊感を覚える。

 

「あぁあーー!!左腕が!倒れ……!」

【ラル大尉!今です!!】

 

 損傷箇所は左腕、肩から下が無くなっていた。機体のバランスが取れない。

 オートバランサーが起動し、何とか倒れずに済んでいるが、足が動かない。

 バランサーが狂い、歩くと転倒する可能性があるからだろう、脚部の可動がまるごと停止してしまっている。

 

「はっ……後ろ……青いモビルスーツ!!」

 

 青いモビルスーツがアムロのガンダムを突き放し、私に向かって突進する、アムロは受け身を取り、それを追いかける。

 通すまいと道を塞いだザクを、呼吸をするようにサーベルで両断しながら青いモビルスーツを追った。

 

【アコース少尉!?何だよ、一瞬じゃねぇか!!】

【隊長!ラル大尉の援護を!!このままじゃラル大尉が挟み撃ちに!!】

【分かってる!そこだ!……な!?後ろ向いたままだぜ!?当たらないのかよ!!】

『あの大砲なんなの……?めちゃくちゃ届くじゃん……!っと!セイラさん!何で動かないのよ!!』

「バランサーが!動けないのよ!!」

『っ!リュウさん!位置を変えて下さい!遠方のザクを攻撃します!!』

『了解だ!』

 

 アムロのガンダムがザクの遠距離砲の狙撃を後ろを振り向くことなく回避している。

 こちらのガンダムのバランサーの調整が完了したのか、いつの間にか足が動いた。

 遠方の狙撃しているザクは、ガンタンクの遠距離砲撃により動きを止めた。

 その隙にアムロのガンダムはバーニアを吹かし、速度を上げ、こちらに向かう。

 

「動ける……!右腕は……動く!」

【遅いわ!】

「……上手い!!」

 

 左腕を失い右腕だけで照準が合わせにくいビームライフルを破れかぶれで放つ。

 すると、ビームの発射音と共に青いモビルスーツの鞭状の武器を溶かした。

 長さを失った鞭状の武器はそのまま腕に収納され、青いモビルスーツは私を蹴飛ばす。

 

「ぐっ!?」

【ええい……ぬかったわ……!ん……後ろか!】

『…………』

 

 その瞬間、黒い機体が青いモビルスーツの後部に一瞬映るが、すぐに居なくなる。

 と、思ったら、いつの間にか正面に現れて、青いモビルスーツを吹き飛ばしていた。

 あの一瞬でバーニアを吹かし正面に回り込んで、シャアのザクのように蹴飛ばしたのだ。

 私の元に向かう途中で狙撃を見ずに避け、ザクを両断してここまで来た。

 

【ぐ……!レオ!アコースは!!】

【駄目です!コクピットを焼き切られています!即死です!!】

【ええい……コズン!!…………コズンはどうした!!】

【……こちらクラウス・ベルトラン曹長、こちらの隊は僕を残し全滅、コズン少尉は……】

【死んだのか!?】

【いいえ、木馬の赤い奴にザクごと拿捕されました……!トルド軍曹も!】

【何だと!?クラウス!!どういう事だ!!】

 

『逃がすか!!青いのぉ!!!』

【ええい!!黒い奴がアムロ・レイか!!】

 

 アムロはライフルも盾も捨て、ビームサーベルを二本引き抜く。

 そして身を屈めて、まるでダンスを踊るようにサーベルを振り回す。

 それに対応するように青いモビルスーツも大型の剣でそれを受け止める。

 まるでアクション映画のキャラクターが互角の剣舞を繰り広げているような光景だ。

 

【これが、ニュータイプという奴か……!レオ!クラウス!退くぞ!】

『見えた……逃がすかぁ!!!!』

【な……!?】

 

 青いモビルスーツがバーニアを吹かすと同時にアムロのガンダムも同時に飛ぶ。

 同高度を飛んだアムロは青いモビルスーツに斬りかかるが、遠方のザクの狙撃に阻まれる。

 ザクの大砲の直撃を受けたガンダムは、大した損傷も見せずにそのまま砂地に着地した。

 

【……ラル大尉!ご無事で!?】

【クラウスか!感謝する!コズン、トルド……必ず戻るからな!】

【ちっ……トルド……すまん!……俺のミスだ!!】

『待て!!この!!……逃げたか……根性なし……!……っ!!』

 

 引いていくザクとグフを見送ったプロトタイプガンダムはそのまま敵を見る眼差しで私を見る。

 モビルスーツの装甲越しに怒りが伝わる。それを感じると同時にガンダムの右手をアムロに掴まれる。

 

『どういうつもりよアンタ……!!』

「っ……」

『どういうつもりかって聞いてんの!!』

「……言い訳はしないわ、あなたのお父様のガンダムを勝手に乗り回したのは私です」

 

 モニター越しのアムロの顔は、歯を食いしばり、今にもバルカンでこちらを撃ってもおかしくない顔をしていた。

 アムロにとって、父親の顔に泥を塗られたのと同じようなものだ。私はそれくらいのことをしたのだ。

 血縁者が作った友人の愛車を勝手に乗り回し、そのまま廃車にして返すような行為だ。

 

『っ……言いたくないならもう聞きません……そこから出て』

「ええ……アムロ……」

『……』

 

 私は、アムロに従ってコクピットを開け、ガンダムが出した右腕に立つ。

 するとアムロのガンダムもその目の前に立ち、コクピットを開け、プロトタイプの手に乗った。

 そしてそのまま私の目の前にやってきた。

 

「殴るのね」

「はい」

 

 私が目を瞑ると、明らかに平手打ちではない、拳が私の頬に叩きつけられた。

 アムロの怒りを肌で感じ、私は目を開ける。

 

「……死んだらどうするつもりだったのよ……!!」

「……アムロ……」

 

 アムロの目には、涙の跡が残っていた。砂漠に吹く風で涙が飛んでいく。

 涙声で叫びながらアムロが続ける。

 

「あなたしか居ないの!父さんにも話せない秘密を話せるかも知れない人って!」

「え……?」

「シャアを知ってるあなたが死んだら!シャアの妹のセイラさんが死んだら!」

「……」

「私、シャアを気兼ねなく殺せるようになるかも知れないじゃない!!」

 

 2機のガンダムの手の平で、アムロが顔を抑えて崩れ落ちた。

 アムロの言っていることはわからない。でも、アムロが私の事を考えているのは分かる。

 そして私の存在を、兄さんを殺す固執のブレーキにしていたことが分かった。

 

「シャアを殺す足かせがないと……また……!!!」

「アムロ、ごめんなさい……」

「……っく……セイラさん……!何でこんな事……したのよ……」

 

 アムロはポツポツと私の恨み言を吐きながら、私に泣きついた。

 しばらく私は私を救った女戦士を抱きしめ、小さな声で謝り続けた。

 

 

 

 ★

 

 

 

『……しばらく待ったほうがいいのかねぇ、これ』

『野暮ですよ、リュウさん、カイさん、大戦果ですね!』

「おう、こんなもんお茶の子さいさいよ、テムのおやっさんも喜ぶだろうよ」

 

 アムロの助言に従ってガンキャノンにビームサーベルをもたせてみたら強いのなんの。

 お陰でザクを1機撃退して2機を動けなくすることが出来た。あの1機は取り逃がしたが、

 それでも左腕を一瞬で溶かすことが出来た。エスパーのアムロちゃんさまさまだ。

 

「……」

『そこのキャノンさんよ』

「あ?」

『俺は下士官だけどよ、扱いは丁重にしてくれるだろうな?』

『そうそう、女っ気はねぇぞ。男色家は居ないだろうな?』

「知らねぇよ!白髪と黒髪!ここで死にたくなきゃ黙ってな!」

 

 ……ちったあかわいいお嬢ちゃんでもいると思ったが、二人ともオッサンとは……。

 戦運はあるけど、女運はないらしいのね。あーやだやだ……。




今回のアムロの行動の結果

・ブラウアー隊(MS戦線0079)出撃、ランバ・ラル隊と共同で攻撃をかける
・セイラ、ガンダムで出撃、・アムロブチ切れ、プロトタイプガンダムで出撃
・ガンダム、全く動けず、ブチ切れたアムロに蹴飛ばされる。
・ガンダム大破、アムロ、ニュータイプ補正によりランバ・ラルと互角
・アコース瞬殺、コズン、トルド・ボブロフ(MS戦線0079)捕虜となる
・ホワイトベース、ザク2機を鹵獲


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身勝手な人間達

「ガルマ……ガルマよ」

「う…………!……はっ……お父様!!?」

 

 サイド3の病院のベッドから跳ね起きた私は、目の前にいる父に驚愕した。

 杖を片手に私の隣に寄り添う父。体が悪いというのに歩いてこられたのだろうか。

 そんな疑問を抱きながらも私は周囲を見渡す。

 

「……具合はどうだ。ガルマ」

「え、ぁ、は……はい……体の痛みは引きました……」

「……そうか…………ガルマよ……私は……」

「お父様……椅子に!」

 

 父は私の言葉を聞き入れると、ゆっくりと寄り添う手を離し、椅子に座る。

 私の父上とは言え、年老いている。このような場所で立たせておく訳にはいかない。

 椅子に座った父は私の情けない姿を見て、俯いてしまった。

 

「……お前が無事に戻ることを願っておったが……戦争は無慈悲なものだ……」

「お父様……」

 

 父の呟きに、私は目を背けた。大火傷を負った右腕は既に操縦桿を握れるものではない。

 だからといって父に頂いた腕だ。切断して義手にするなどもっての外。

 ……私はアムロ・レイに不覚を取った時点で、軍人としての役割を失った。

 

「申し訳ありませんお父様……恩知らずの連邦を潰すことが出来ず……この様な……」

「いい。こうして戻って来れたのなら、儂は何も望まん……可愛いガルマよ」

「お父様……」

「何時の日だったか、儂は言った。体を粗末にするなと……今になって思い出した」

 

 父……いや、お父様は、サングラス越しではあるが涙を流している。

 私はその顔を直視することが出来ず、掛け布団を握りしめた。

 

「お前はやはり……学者に」

「それは……それは違いますお父様」

「……」

 

 私はお父様の顔を見ることが出来ず、思わず口走った。

 お父様の視線がこちらに向くのを感じる。私は布団を握りしめながら続けた。

 

「僕は士官学校に入学することで、シャア・アズナブルという親友を見つけました」

「シャア……お前を救った男か……」

「はい。僕の大切な友人です。彼が居なければ今頃僕は……」

「……ガルマ……」

「……お父様……分かったことがあります」

 

 私は、お父様の顔を改めて見る。お父様も、私を見た。

 その目は確かに、私……いや、僕の目と同じだ。血の繋がった親子であることが分かる。

 父もまた、ザビ家の猛々しい血を引き継いでいるのだ。

 

「……戦争、この忌まわしい戦争を、終わらせるべきである」

 

 私がそう言うと、父は少し目を見開いた。

 

「……最早これは、独立戦争ではない。独立と銘打った、人類の抹殺です」

「それは違うなガルマ」

「っ……!」

 

 病室の扉から、聞き慣れた声が聞こえた。演説じみた声……。

 振り向くまでもない、兄、ギレン・ザビだ。

 

「総帥……」

「ギレンでいい。監視の目はない。それにお前はもう軍人ではない」

「え……」

「11月1日をもってお前はジオン公国軍を除隊されている。そう畏まる必要もない」

 

 そう言ってギレン兄さんは今時珍しい紙媒体を僕に見せる。

 そこには、確かにガルマ・ザビが除隊された、と記されていた。

 ジオン軍の公文書だ。偽りはない。

 

「不満だろうが事実だ。受け入れろ」

「……ええ。分かっています、どちらにせよこの腕では……」

「その通り、公国の役に立つには不足だ。……そうですな?父上」

 

 ギレン兄さんはお父様を睨むように見る。お父様も同じ目だ。

 

「ああ。その通りだ……ギレン……。公務はどうした」

「既に終えております、愛弟の見舞いの為に早く切り上げて参りました」

「……殊勝な心掛けだが、見舞いの品がその紙切れとは感心せんな」

「そうでしょうか。今のガルマが最も欲する紙切れではないかな」

「兄上……何を!?」

 

 ギレン兄さんとてその様な言葉は侮辱だ。そう思い兄さんを睨むと、

 その目をそのまま返され、指をさすこと無く部屋に声を響かせる。

 

「想い人を失った程度で抜け殻になる者に地球攻略を任せられん!捕虜を取ったかと思えば反ジオン勢力のエッシェンバッハなどに心を揺るがすとは、反逆に等しい行為である!」

 

 ギレン兄さんの怒鳴り声が狭い病室に響く。その一言一言が突き刺さる。

 事情を知らんからそのようなことが言える。そう心の中で叫ぶも、口には出なかった。

 

「……これが公国「上層部」の答えだ。兄としては心苦しいよ」

「兄上……!しかし私は」

「二度も言わせるな!人類の抹殺を企てる組織に縋り付くのは貴様とて辛いだろう!」

「っ……」

「父の言う通りだったなガルマ。お前はこの世界に居るべきではない」

「兄上!あなたは何をお考えなのですか!何故アースノイドに目を向けない!?」

「向けているさ、向けているからこそ我々が管理運営するのだよ。ジオンにはそれが出来る」

 

 ギレン兄さんにやっとの思いで反論する。しかしこの男は動じない。

 ドズル兄さんのような直接的な威圧ではない、内面を射抜く威圧を僕に向けた。

 

「……っモニター越しでしか地球を見ていないのに何故言えるのです!?」

「直接見れば地球が分かるというのか。地球数百億人を見れば良いのだろう?」

「……」

「見ろと言うなら見てやろう、お前が見た苦しむ民の数千倍の人数に目を向けてやろう。しかし私の考えは変わらんよ」

「何ですって……」

 

「大衆を変える時に視野を狭めては何時まで経っても大衆は変わらん。部落の世話は部落の長がやるものだ。国王、総帥、司令官などの立場にいる者が何故極々一部の俗物の世話をせねばならんのだ?貴様が見たニューヤークの民はなるべくしてなった愚か者共だ。そう吐き捨てる事ができん奴に地球侵攻の長を任せることは出来んな。今は亡きエッシェンバッハの令嬢と共に駆け落ちでもしておけば良かった。私は敢えてお前にそう言うよ」

 

 イセリナを侮辱した。その瞬間僕は無意識のうちにギレン兄さんに突っかかっていた。

 ギレン兄さんの整った制服を思い切り掴み、その光のない目を睨みつける。

 

「イセリナを侮辱するな!!彼女は僕の為に命を散らしたんだぞ!!」

「そのイセリナの命を散らせるような愚を犯したのはお前だ。ガルマ」

「っ……!」

「私は言ったはずだ「木馬以外の件で問題はないか」とな」

「それは……」

「イセリナ・エッシェンバッハを保護しろ、何故そう伝えなかった」

「……」

 

 言葉に詰まる。するとギレン兄さんは鼻で僕を笑った。

 

「ともかく、シャアに感謝するのだな。無事で良かったよガルマ、失礼する」

「……」

 

 みすみすイセリナを死なせたのは僕自身だ。そう言いたいのか。

 兄さんは。

 

「……ギレンよ」

 

 するとお父様がゆっくりと立ち上がり、杖で地面を強く突きながらギレン兄さんの前に立つ。

 

「何か、父上」

「ガルマはよく頑張った、そう言えんのか」

「お言葉ですが父上、ガルマは我がジオンを」

「正しき道を行くガルマを!!!侮辱することは許さん!!!!」

「っ」

 

 お父様の、デギン公王の怒鳴り声が病室を揺らす。その一声はまるで火山。

 いや、鉄槌とも言える声だ。部屋を揺らす怒声にギレン兄さんは一瞬たじろぐ。

 

「貴様らは儂の血を引く兄弟……それを忘れたか!!!」

「……忘れてはおりません父上、しかし私はデギン公王の生き写しである。それも事実です」

「ほざくな俗物が!!身近な兄弟すら蔑ろにする者が何故儂を生き写しておるか!!!」 

「……」

「ジオン・ズム・ダイクンは地球とコロニーの平等を謳っておったのだ!!貴様は何を考えておる!!」

「私も同じです、方向性は違えど行き着く先は自治権を」

「独裁を平等と主張するか貴様はァ!!!」

 

 杖で兄さんを殴ることもなければ、近くの物に当たるような事もしない。口だけの折檻。

 ギレン兄さんの頭の中では既に反論の文言が思い浮かんでいるのだろう。

 しかし、それを言わずにギレン兄さんはバツの悪そうな顔をして黙り込む。

 

「人を行き着くところまで導き、貴様は最期の人類に何を見せるつもりか!!!」

「……」

「既にこの戦争の勝利者になるべき者など居らん……居るとすれば、貴様一人よ!!」

「ええ。私はその惨めな勝利者を目指しております。私に賛同する者と共に……勝利者になれば善いのです」

「……立場の中では貴様は儂の息子だ……しかしな……」

 

 お父様はギレン兄さんを指差す。

 

「最早貴様は……お前は、儂の息子ではない」

「私も、こうなった以上父を人とは思っていませんよ」

「兄さん!!何故そんな事を言うんです!!父は」

「既に人類も時も動き出しているのだよ!ガルマ!その枯れ果てた老いぼれを助けてやれ、それが兄として軍の責務を失った弟に与える家族の頼みだ!既に父子の縁が切れた私に、父を人として導くことなど不可能!!父を野垂れ死にさせたくないのなら貴様が父を助けてやれ!!いいな!!…………トワニング、入口に車を寄越せ。セシリアに今から戻ると伝えろ」

 

 ギレン兄さんは高らかに、そして誇り高く自分を見せ、僕にそう命令して立ち去った。

 思い返してみれば、昔からそうだったのかも知れない。兄ギレンは野心家だ。

 自分自身の野望をジオン・ズム・ダイクンの野望と重ね、実現させる野心家だ。

 ……だが僕に兄さんを責める資格など無い。

 

「……ギレン兄さん……」

「ガルマ……儂の責任だ。ギレンを正しき道に導けなんだ」

「いいえ、お父様には何の非もありません……まして兄さんにも……」

「……」

「ギレン兄さんは高い志を持っているのです……非があるとすれば、その志です」

「……お前は優しい子だ。故にそう言えるのだろう」

「いいえ、僕もまた、非道い息子です……」

 

 そう言うと、お父様は僕を優しく抱きしめてくれた。

 僕はその父の優しさに、身を寄せるだけだった。

 

 

 ★

 

 

「……アムロだけでなく、自分も同じように戦える……そう証明したかった?」

「……はい」

「セイラさんが……アムロ、君はどう思うね」

 

 何故私に振るね。

 

「……セイラさんがそう思うなら、そうなんでしょ?」

「投げやりだな」

「私にもわからないですよ。……お咎め無しには出来ないんですよね?」

 

 ブライトさんは頷き、ミライさんの方を見る。

 ミライさんも深刻そうな顔だ。まさかセイラさんがって感じだろう。

 私も殴ったはいいが、理由はセイラさんのみぞ知る。

 何にせよ、ガンダムを勝手に乗り回したっていう所が、一番の罪だろう。

 

「そうね、このまま無罪放免にはできないわ、テム技師にも迷惑をかけたのだから」

「……反論はしません」

 

 セイラさんはだんまりだ。反論しない。牢屋に放り込むならしてくれ。

 そう言わんばかりの反応だ。いや、この顔……というかこの感じ?

 むしろ牢屋に入るのが狙いなのだろうか?そんな気がする。

 

「3日か2日位は反省してもらうって感じですかね?」

「ええ。そうでなければ、他の人への示しがつかないわ」

「……決まりだな、3日間の独房入りを命ずる。セイラさん、いいな?」

「ええ。そうして下さい」

「……」

 

 私はセイラさんの目を見る。セイラさんもそれに気付き、目を向けた。

 ……やっぱり、何か目的がある。そんな感じの目つきだ。

 

「ブライトさん、あのー……」

「何だ」

「独房って、何処です?私が連れて行きますよ」

「そうか、助かる。Cブロック47番通路、捕虜収容ブロックの隣だ。……殴るなよ」

「もう殴りませんよ、殴る方も痛いんです」

「……全く。近々説教してやる、ほら、鍵だ。あとで返すんだぞ」

 

 ブライトさんが軽く頭を掻きながらシッシと私に命令する。

 私はブライトさんに教わった敬礼をしてから、セイラさんの背中を押した。

 ……疲れた背中だ。服越しに分かる程体温が高く、それに足元がふらついている。

 

「アムロ……」

「何が狙いです?」

 

 私はブリッジを出てエレベーターに乗ると、セイラさんに話しかける。

 するとセイラさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに私に真剣な顔で話す。

 

「狙い?特に無いわ」

「嘘でしょ、何となく分かります」

「……あったとしても、あなたが賛成するとは思えないわ」

「……」

 

 セイラさんは頑なに言おうとしない。無理をしている顔であるのは明らかだ。

 ……言わないなら仕方がないか、どっちにせよセイラさんとはちょっと話したかったし。

 

「……」

「……」

 

 話したかった、と言ったけど、何を話せばいいのかまでは分からない。よくある話だ。

 ただただゆっくり降りるエレベーターの中で重苦しい空気が漂う。

 チラリ、と目をセイラさんの方に向けるが、セイラさんは何を考えているのか、まっすぐ前を見ている。

 すると、こちらの視線に気がついたのか、顔をこっちに向けた。やっぱりかなり疲れているようだ。

 いつもの凛々しい目を無理して作っているような視線だ。

 

「何?」

「え?あ、いや……」

「……モビルスーツ」

「……??」

 

 その疲れ切った瞳を私に向けて、セイラさんは呟いた。

 

「初めて乗ったけれど……こんなにも辛い乗り物なのね」

「……ま、まぁ、楽ではないです……」

 

 よく見たらセイラさんの額に拭った血の跡が見える。乗っている時に何処かぶつけたのだろう。

 セイラさんはため息混じりに呟くように私に問いかける。

 

「……アムロは、ガンダムに拘りを持っているのね」

「……へ?」

「ガンダム。お父様の作ったモビルスーツ」

「え、えぇ。まぁ……」

 

 ……いきなり何を言い出すかと思ったが、やっとセイラさんが口を開いたんだ。

 私は頷き、セイラさんの顔をはっきりと見る。

 すると、青い瞳のシャアの妹は、シャアのように口角を上げた。

 

「はっきりした事があるの。あのモビルスーツに乗って」

「はっきり?」

「……ええ、私はテキサスコロニーで育った、シャア……あの人と一緒に」

 

 てきさすころにぃ……っていうコロニーがあるらしい。当たり前のように言われるが分からない。

 私は斜めにかしげ始める首をこらえ、相槌を打つ。

 

「テキサスコロニーの事は知っているわね?」

「へ?あ、え、えぇ、まぁ。テキサスみたいなトコでしょ?アメリカの」

 

 話の腰を折らないように私は適当なことを言う。するとセイラさんは少し微笑み、頷いた。

 

「ええ。地球世紀、開拓時代のテキサスを再現したコロニー。そんな所でも大型重機はあった」

「……え、えぇ。まぁそりゃ、あるでしょう」

 

 地球世紀っていうのが何なのか、今アムロの記憶を掘り起こす暇はない。

 とにかく、セイラさんが言うに、ものすごく辺鄙な場所のコロニーでも重機はあったと。そう言いたいらしい。

 私は目を逸らしながらも頷く。

 

「……ガンダムの操縦系は大型重機の比ではないほど複雑だったわ」

「う……」

 

 真剣な目が突き刺さる。

 

「カイは重機や大型機械の操縦に慣れている、ハヤトはリュウさんやカイのサポートがあるから分かる」

「……」

「……でもあなたは、フラウ曰く部屋から碌に出ない引きこもりだったそうね」

「……え、ええ」

 

 失礼な。と反論したいが、突き刺さる瞳がそれを拒む。

 やっぱりこの人シャアの妹だ。突然畳み掛けるように尋問される。

 

「だ、だったら何なんです……!?あなたにガンダムの操縦を教えろって言いたいんですか……!?」

「いいえ。私には無理よ、ただ、知りたいのよ。初戦でザクをどうやって撃破できたのか」

「せ、説明書があったんです!ガンダムの……読んだでしょセイラさんも!」

「読んだわ、読んであの有様よ……でもあなたはお父様のサポート無しで動かすことが出来た」

「……それは……」

「どうして?説明書を読むだけで出来る操縦ではないはずよ、素手でザクを撃破なんて」

 

 微笑み。そう表現したが訂正しなければならない。この人の笑みは人を黙らせる笑みだ。

 私はその不敵な笑みに圧倒され、シャアの血筋を持つ者にまたしても黙らされてしまう。

 今回はガルマさんのような助け舟がない。というかいつになったらCブロックに着くのだろう……?

 

 私はセイラさんの瞳に突き刺されながら考える。そう言えば何で私はガンダムをいきなり動かせたんだろう。

 考えてみればおかしい話だ。ザクを見つけ、その時点で説明書なんか読んでなかった。

 それなのに操縦桿を適当にガチャガチャ動かすだけでザクをタコ殴りにできていた。不思議な話だ。

 今日のあの青い奴との戦いでも何回か素手で殴ったり腕を振り回したりしていたが、思い返すと複雑な操作だ。

 だというのに動かせた。初めてガンダムを動かしたというのに、普通に……。何故?なんで?why?

 

「アムロ?」

「……すみません、ちょっと、答えられないです」

「……フフ。そう……いいのよ」

 

 私が諦めたように言うと、セイラさんの不敵な笑みが元に戻り、優しい微笑みに戻る。

 私はきょとんとした顔をすると、クスリとセイラさんが笑った。

 

「……い、いいんですか?」

「ええ。……お互いに答えられない事が多いわね」

「……そ、そうですね……」

「いつか、互いに互いの事を包み隠さず話せるようになりたいわ」

「……え、ええ。全くです……」

 

 私は吹き出た汗を袖で拭う。すると、タイミングを見計らったように底部、Cブロックに着いた。

 エレベーターが開くと、倉庫のような薄暗い廊下が顔を覗かせる。

 声が響くような、誰も居ない場所だ。

 

「……暗いわね」

「電気くらい付けなさいよって……スイッチ……無いか」

 

 スイッチがないんじゃ仕方ない。ちょっと薄暗い空間をゆっくりと進む。

 ……薄暗い廊下の壁には矢印で「捕虜収容ブロック」と記されている。

 たしかにこの先の道を右に曲がった所からガラの悪そうな話し声が聞こえる。

 ……ガラが悪いと言うか、一人はお爺さんみたいな年老いた声だ。男の人らしい。

 

「営倉って言う所かしら」

「えいそー?……まぁ、捕虜ぶち込むところですね」

「牢屋ね、所謂……」

 

 セイラさんはそう言ってブロック内を見渡す。まず目にしたのは監視カメラだ。

 ……じっと監視カメラを見つめている。

 

「……」

 

 すると、セイラさんは私に耳打ちした。

 

「動かないわ、あの監視カメラ……おそらく今は誰も見ていない」

「そうなんですか?」

「ええ……ホワイトベースの人員上監視員に割く人間は居ないはず」

 

 すぐに察しがついた。この人、捕虜と話をするつもりらしい。

 やめたほうが良い、と言う前にセイラさんは私を壁に付け、私の手を握る。

 

「止めないで頂戴……私は気になるのよ、兄……兄さんがどうなったのか」

「兄さん……シャアが?」

「ええ……ジオンの軍人なら知らない人間は居ない筈……聞き出したいのよ」

 

 その必死さ、というより、兄妹として絶対に知っておきたい事だという理解からか。

 私は無意識のうちに頷いていた。するとセイラさんは「ありがとう」と感謝の言葉を伝える。

 そして、ゆっくりと捕虜が打ち込まれている牢屋の前に立った。

 私も話の内容が気になる。周囲を警戒しながら私もセイラさんについて行った。

 

「……」

「……」

『……何だ、まだ飯を食ってる最中だぜ?』

 

 牢屋の覗き窓からは白髪の男の人がパンを囓っていた。かなり老けている。

 下手したら妻子持ちなんじゃないかというような風貌の男性だ。

 私達を見るや否やその男は鼻で笑う。

 

『何だ、女二人か』

「……聞きたいことがあるの」

『尋問は然るべきところでやるべきだぜ?なぁ!コズンさんよ!』

『全くだ、俺達は戦闘で傷ついてるんだ、早めに休ませてほしいな』

 

 白髪の男性と、隣の部屋の男の人は意外と気が合うのか?と思ったが、

 どう見てもこの白髪の人はガラが悪いようには見えない。この黒髪の男に合わせているのだろう。

 ……私はそう思うと、黒髪の男の人、コズンとかいう人の部屋の前に立った。

 

「……」

「……お前、アムロ・レイだな?」

「!」

「うちの部隊長から聞いてるぜ、ニュータイプの嬢ちゃんなんだってな」

「……ニュータイプ、まぁ、疑惑はあります」

 

 一度捕虜になった身だ。ジオンの中で有名人なのは仕方がないことなのかも知れない。

 だが、何でジオンの人がマチルダさんが言った「ニュータイプ」の単語を?

 

「……あの青いのは?」

「グフだ。どうせ尋問で聞かれるだろうから名前くらいは言っておいてやる」

「……グフ……ねぇ……」

 

 変な名前。

 

「……変なもん隠し持ってたりしないでしょうね」

「隠し持ってたらどうする?」

「……」

「おぉ怖い……安心しろ、身体検査くらいは受けてる。怪しいものは持っちゃいねえよ」

 

 ……本当かどうかは知らないけれど、騒ぎを起こしてセイラさんの邪魔をする訳にはいかない。

 私の隣でセイラさんは白髪の捕虜とコソコソと密談をしている。話し声が小さくて聞こえない。

 だが、セイラさんにとって重要な話であることは確かだ。終始セイラさんの顔が驚いている。

 

「何話してんだ……トルドの奴」

「トルド?」

「あの白髪だ。トルド・ボブロフ。部隊が違うんで詳細は知らん」

「へぇ、トルドね……何の情報にもならないですね」

「情報になるようなことは話さんよ。俺だって素人じゃねえんだ」

 

 だったらグフのことも言わなきゃ良いのに……と言いたいが、グフのことも名前しか聞いていない。

 たしかに何の情報にもならないような事しか私に話さないのは事実だそうだ。

 

「……」

『……ありがとう、いい話を聞けたわ』

『おう、こっちも暇つぶしができた、娘と話してる気分だったぜ』

『娘……そう、妻子持ちなのね』

『この時勢、軍人でもやってなきゃ家族が食えねぇんだ、また話しに来てくれや。なぁ?』

『機会があれば、ね』

 

 セイラさんが私を呼ぶ。どうやら話が終わったらしい。

 このコズンとかいう黒髪の男がジロジロと見てくる不快感から開放されるのだ。

 腹いせに意味もなく覗き窓をピシャリと閉め、私はセイラさんの元へと駆け寄る。

 

「なにか聞けました?」

「ええ。お陰様で。アムロは?」

「あの青いモビルスーツの名前しか聞いてません。さ、行きますよ」

「ええ」

 

 私はセイラさんの背中を押し、元々行くべきだった牢屋へと連れて行った。

 このブロックのすぐ近くだ。と思ってスタスタと歩いているが意外と遠い。

 しばらく二人して無言で歩いてやっと着いた、この中の適当な部屋に入れたら良いわけだ。

 

「え、えーっと、どこにします?」

「そうね、角部屋にして頂ける?」

 

 セイラさんが冗談っぽくそう言い、私は少し愛想笑いを見せて牢屋の扉を開ける。

 牢屋の中は……やっぱり少し綺麗だ。トイレもベッドも使われた形跡がなく、新品同様だ。

 ……ただ、牢屋の宿命なのかトイレがむき出しなのは可哀想だ。3日間入る場所なのに。

 

「じゃあここ。3日は居てもらいますから」

「ええ。分かったわ……」

「……閉めますよ」

「ええ」

 

 セイラさんは静かにその牢屋に入ると、自分でその扉を閉めた。

 ……自分が牢屋にはいる経験をすると思ったら、人を入れるのも経験できるとは。

 セイラさんが閉めた扉に、予めブライトさんからもらった鍵をかける。

 

「もう、変なことはしないでくださいよ」

「……アムロ、本当に世話をかけるわね……」

「その分、今度は世話を焼いてもらいますよ、セイラさん」

「分かっているわ」

「じゃあ……」

 

 私はセイラさんに一言声をかけて、その牢屋を後にした。

 その時、セイラさんの居る房から、嗚咽のような声が聞こえたような気がした……。

 いや、気がした……ではない。明らかにすすり泣きのような声が聞こえる。

 ……シャアの妹、セイラ・マス。この人にとって、シャアの存在は複雑なのだろう。

 

【……兄さん……っ……兄さん…………っ無事で…………良かった…………】

 

 私には兄弟、居たのかな……?

 

 

 ★

 

 

「……」 

 

 アムロ・レイの母親、カマリア・レイ。

 ただの万能ジャマーであるミノフスキー粒子の応用論を提唱した人物。

 ビーム兵器やモビルスーツの核となる部分を影で生み出した女性だ。

 

 性格はさておき、この人間の脳は人の理解を超えた発想を生み出す。人道を騙り人を突き動かし、

 使える人間の知識を限界まで吸い取り、生み出した成果を自分のものにせず他人の手柄とする。

 その行動に何の意味があるのか、それを知るのはこのミノフスキーの影のみが知る……か。

 

「カマリア・レイ、お前はどう思う」

 

 北アジア方面に位置する地下研究施設。そこで私はある一つのモビルスーツのデータを見せた。

 概要は話すまでもない。この女、開発責任者の紙面を受け取った瞬間に何かを感じ取ったらしい。

 私の問いかけに返事もせず、手元の端末……見るとそれはペイントツールだ。専用ソフトではない。

 ペイントツールに、紙面に書かれたモビルスーツのデータを模写している。

 

「……これで人殺しの兵器を?」

「そう。なにか文句でもお有りか」

「……いいえ……」

 

 カマリアは首を振ると、そっくりそのまま映し出した端末の画像をモニターに送る。

 見た目は変わっていない。しかし、ジェネレーター出力等の数値が変わっていた。

 それにバックパックの各部に、何かを接続するソケットのようなものが追加されている。

 

「何故熱核反応炉が生み出すエネルギーを追加スラスターに供給しないのです?」

「……?」

「06R-1の部品をペズンのアクトの部品を織り交ぜ強化し機動力を上げる。それは良い、しかしこれでは」

「稼働時間の大幅な減少、確かに課題点ではあります。しかし物事には用途が」

「モビルスーツは汎用性があって当然です。20分しか戦えぬザクなど、何の役に立つのです?」

「戦闘宙域への突撃運用、これも立派な役割です」

「物事には用途がある。そう言ったのはキシリア様では?その用途を果たすのが18の筈」

 

 そう言ってカマリアは開発中であったYMS-18。ケンプファーのデ―タを呼び出した。

 統合整備計画の確立が前提となり、現在も尚開発が滞っているモビルスーツ。

 カマリア・レイ、いや、カマリア・ベルの拉致直後に彼女の独断で開発が再開されている。

 既に統合整備計画に頼らぬ研究、開発に転換し、広域突撃用モビルスーツに変貌しつつあるそうだ。

 

「……熱核反応炉の設計変更、有り余るエネルギーを全て推力に充てているモビルスーツか」

「粒子混合推進剤により無駄な燃焼量を削減させることが出来れば継戦能力も大幅に向上します」

「来るや否や提唱した新技術か、しかしそれと熱核反応炉の直結に何の意味がある」

「そもそもミノフスキー粒子は核反応から発見された粒子です、小型の反応炉から発生する粒子を一部汲み取り、流体パイプを通して推進タンクに流し込む、簡単な話でしょう。それに今ある大掛かりでコストの高く、接続に無駄な人員を要するプロペラントよりも安上がりです」

 

 モビルスーツのコアである熱核反応炉、その中心から発生するミノフスキー粒子を汲み取る機構、

 それを各部へ運ぶ外付けの動力パイプ……被弾時にそれをパージする機構。

 ハイモビリティユニットパージ後のキャパシティ分配を示した図面を次々に表示させる。

 

「私の計算が正しければ、この機構をR-2に搭載することで課題である稼働時間は解決可能です」

「……成る程分かった。しかしその混合推進剤はどう作るつもりか」

「既存の推進剤にミノスキー粒子を「ふりかける」のみです。撹拌すら必要ありません」

「ほう、噂に違わぬ万能粒子だ、分かった、検討しよう」

「トレノフもお喜びです。キシリア様」

 

 それはどうだろうか。

 私はその表示させた図面を閉じ、この狂科学者に問いかける。

 

「しかし妙だよカマリア・ベル」

「……?」

「自国を侮辱するような言い方をするが、このままではジオンは連邦に物量で負ける」

「……」

「そうでありながらも何故お前は我々に肩入れしたのだ?」

 

 私はカマリアの目を見ることなく問いかける。たしかに私はこの女を攫った。

 しかし、それに拒否する様子も見せず条件付きの返事で、快諾されたのだ。

 いくら私とは言え、あの反応は私も面食らった。家族や人に何の情も無いのだろうか。

 

「……私はジオンに光を見た、これでは不足でしょうか」

「私の前でつまらん嘘を付くのはやめよ」

 

 腹がたつような不信感を、私は腰のレーザーガンに形容し銃口を向ける。

 するとカマリアは怯えたような表情を見せ、口を開いた。

 

「……私は科学者です。その欲求を満たしたい」

「欲求のために、テム・レイどころか、娘であるアムロ・レイすらも敵に回すのか」

「アムロ達2人を傷つけたくない。しかし、科学の欲求は愛を歪ませる、私は兵器が好きですわ」

「……」

「それに私は、宇宙が好」

 

 カマリアが言い切る前に、私はこの老いた女狐の頭の横をかすめるようにレーザーを放った。

 カートリッジが腰から排出され、銃口と排莢口から鼻を突くオゾン臭が漂う。

 

「嘘が嘘を呼び、その嘘を塗りたくる嘘。何が本当か自分でも分からんのだな、下らん」

「……」

「私は科学者が好かん。クルストもお前も、平気で人を裏切る。ギニアスがマシに見えるわ」

 

 レーザーガンの薬莢を拾い上げて軍服のポケットに突っ込む。

 頭を光線が掠めたカマリアは俯いたまま何も言わない。口を閉じると静かなものだ。

 その見た目は褪めきった夫婦の妻。日本で隠居生活を送っても誰も気付かんだろう。

 だからといってあの様な無警護、放任とは、連邦軍は何故この女を保護しなかったのだ……?

 

「……」 

「お前に本音は求めていない。しかし言いたくなったら聞いてやる」

「……」

「しかし、今度私の前で下らん嘘を吐くなら、その時は覚悟せよ」

 

 私は俯くカマリアを睨みつけ、研究室の出口へと向かう。

 そうよ、この女の人格など不要、この人間の脳さえ有ればいい。

 ……テム・レイと言う男も不運な男だ。こんな女狐を掴まされるとは。

 

「R-2の強化案、推進剤の活用法は開発部にプランを送る、お前は予定通り、例のモビルスーツの研究を続行せよ」

「……はっ、キシリア様」

「……お前の思惑が何かは知らんが、お前には期待している」

 

 そう言い、私は研究室のドアを開け、地下を出た。

 

「虫の好かん女だ……あれがニュータイプの生みの親とは」

 

 




今回のアムロの行動の結果

・ガルマの病院にデギンお見舞い
・ガルマ、ギレンの独断で除隊
・ガルマとデギン、ギレンと衝突
・セイラ、アムロと共にゆっくりとシャアのことを聞く。
・セイラ、アムロちょっと仲良くなる
・カマリア、ザクⅡ高機動型R-2の強化プランを提示、ケンプファー開発計画を強制的に進める
・キシリア、カマリアに強い不信感を抱くも利用する

以上の結果となりました。


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砂漠の夜に

「で、どうするんです?」

「直近の戦闘データは消去だ、あのような操縦を覚えてはいかん」

「ですが、左腕損傷時のバランサー調整、それと頭部損傷時の再起動時間の調整、これらのデータは貴重ですよ」

「……そうか、では一部だけ吸い出そう、操縦関連は消去する」

「出来るのですか?アレのプロテクトはそう簡単に」

「教育プログラムを作ったのは私だ。ソレよりもスペアの用意はできているな?」

 

 この人、プログラムからモビルスーツ設計、私の専売特許である整備、更に新規MS開発……。

 何でも出来るバケモノだとは聞いてた。だけどまさか私の仕事が奪われるなんて思わなかった。

 今じゃ整備を仕切るのはテム大尉、その補佐をするのが私達整備士集団。私も管理を任されてはいるけど、

 それでもこの技術革新が足つけて歩いているような男には敵わない。

 

「勿論です、交換可能なパーツは交換、取付作業に取りかからせる予定です」

「うむ、助かる。交換後の損傷パーツはいつもの場所にな」

「ええ……だけど、損傷パーツは何に使うんです?」

「マチルダ隊に回収させて、各地の陸軍工廠に回している。79Gの性能フィードバックに役立てているよ」

「79G?ガンダムとジムのキメラ……でしたっけ?」

 

 陸戦型ガンダム、ガンダムの余剰パーツを内部に取り入れたMS……。

 ガンダムの余り物だ。それの支援機であり地上MSの先行型であるジム。

 こいつらの少数量産は終了しているのに、何故まだ陸軍に渡してるんだ?

 そう思っていると、大尉は一枚の紙媒体資料を格納庫の研究室から取り出した。

 

「これを見なさい」

「?」

 

 極秘資料……「RGM及びRXシリーズの生産方針」と書かれている。

 それを開くと様々なMSの資料が私の目に飛び込んできた。量産機からワンオフまで様々なMSの生産方針が記されている。

 

「……陸戦型ガンダム、陸戦型ジムの大量生産……これって……」

「ああ。ガンダムの余剰パーツで作った前期型の戦闘データを参考に新規フレームを確立させるそうだ」

「新規フレーム……?」

「ジムをベースにしたものだ。アポジモーターを廃し陸上運用のみを想定するらしい」

「……」

 

 陸戦型ガンダムの資料を見ると、確かに基本構造は今宇宙で動いている前期ジムと似ている。

 そのフレームを参考に大きく手を加えて、陸戦仕様にするらしい。無茶ではある。

 しかしこれが成功すれば陸上の基本MSが陸戦ガンダムと陸戦ジムとなる。

 いずれ始まる宇宙での戦いに備えてジャブローで生産されている後期ジムを割かなくて良い。

 それに、陸戦型は見た目はややこしいが機体内蔵設備が充実していて整備が容易だ。

 何なら私一人でも整備ができる。体力消耗が激しい重力下ではそう言った点でもこの2機種の量産確立はありがたい話ではある。

 

「成功率は?」

「既にフレームの基礎設計は完了している。後はガンダムのデータを組み込み形にするだけだ」

「この開発責任者は……まさかレイ大尉?」

「まさか、私とて万能ではないよ」

 

 嘘つけ。

 

「原案はアリーヌ・ネイズン。その後地上軍の技術工廠に開発が引き継がれている」

「アリーヌ……件のMSもどきの開発責任者では?」

「その通り、刑務作業の一環で連邦が強制的に計画させたものだ、割によく出来ている」

「……確かに」

 

 MSもどき、RTX-440ガンタンク、強襲型と呼ばれている機体だ、しかしあれはMSではない。

 少なくとも、ジオンの想像している手足の付いたMSとは到底呼び難いものだ。

 ……まぁ、RX-75がMSと呼べる機体だって言うなら、あのMSもまたMSなんだろうけど。

 しかし、そんなゲテモノを開発してる女が、ムショの中でこんなまともな物を考えているとは。

 

「問題点はある。君にも分かるだろう?」

「ええ。大量生産を目的にしている機体ですから、装甲面に不安があります」

「基本装甲はチタン合金、各ウィークポイントにルナ合金……生産性を上げるためだ。仕方あるまい」

「そのルナ合金も、整備性向上の為外付け式ですから、部隊によっては付けずに出撃するところもあるでしょうね」

 

 RGM-79と同じ装甲のガンダム。別にそれが悪いというわけではないが、複雑だ。

 今こうしてガキ共と一緒に世話しているガンダム、ガンキャノンの活躍を見ると尚更そう思う。

 戦場を駆け回りザクを仕留めて回っているガンダムの装甲が、ザクよりマシな装甲になるんだ。

 今後性能が向上したとは言え量産機に毛が生えたようなガンダムが屍を晒すと考えると、なんともやり切れない。

 

「何にせよ、廉価版の陸戦型の2機種が地上の主力となるのだ。これもまたモビルスーツ開発の答えだよ」

「そう……ですね」

 

 私は生返事をしながら私の頭上で佇む白いMS、ガンダムを見上げる。

 ……コイツの副産物と連邦陸軍の試行錯誤の賜物が地上の主力……技術屋としては喜ぶべきか。

 少なくとも、ガンダムは歴史から消えることは無くなった。

 それはモビルスーツの歴史がこれからも刻まれ続ける、ということかも知れない。

 

(モビルスーツ……戦車や戦闘機に代わる兵器……こいつの歴史は何処まで続くんだろうね)

 

 私は手にしていた極秘資料を大尉に返す。そして代わりにハンガー内の放送マイクを手にした。

 

『MS整備班は作業再開!オムル!各部フィールドモーター交換作業の指揮を頼むよ!』

『了解!姐さんはどうするんです!?』

『頭部パーツのリペア今日中に終わらせないとね!ネフェニーはメンテクレーンに火を入れて!』

『了解……入れます……』

『リペア作業班は損傷箇所チェック!重篤軽微関わらず順次私に報告して!』

 

 今日のガンダムの状態は酷いもんの一言だ。ド素人が重力下で乗るとこうなるのも無理ない。

 随分派手にぶっ壊してくれたもんだよ、とにかく今やるべき事は2つだ。

 左腕部の全交換に、替えのきかない頭部装甲の修復、頭部前カメラの交換作業……。

 特にカメラ交換は難敵だ。損傷次第では作業は難航するだろう。なんたってコクピットに繋がる部分だ。

 頭がSマインでズタズタにされたとなれば、コード類も交換しなきゃならないかも知れない……。

 

「……もう少し上手に動かしてほしいもんだよ全く……」

「こちらの作業が終われば私も合流しよう。いつもすまんな、アニー・ブレビッグ上等兵」

「好きでやってることさ。……それにレイ大尉がいれば百人力です。お願いしますよ?」

「買いかぶりすぎだ……ホバー走行は……しかし……」

 

 大尉はそう言ってまた研究を再開した。ビームライフルが云々とつぶやき続けている。

 癖なのか知らないが、大尉はよく集中すると爪を噛む癖がある。娘にもこの癖は受け継がれている。

 ……行儀云々に口をだすつもりはないが、噛むほど気になるなら切ればいいのに、と毎回思ってしまう。

 それにしても、あのキャノン付きのガンダム、融合炉の調整数値が確定していないらしい。

 ビームキャノンを実現させるには直結式でなくCAP式のキャノンにすればいい、と一人でブツブツ呟いていた。

 つぶやき続けると大尉は止まらない。今日中に答えを導き出すだろう。

 

 私も作業開始だ。そう思いリフトに乗ろうとすると、ふと、プロトの足元に見覚えのある子が立っていた。

 アムロだ。ガンダムを操る女の子……。にしてもまぁ、よくもまぁ女の子に「アムロ」なんて名前を付けたもんだ。

 ポケーっと突っ立っているアムロに私は思わず声を掛けた。

 

「アムロ!こっち来な!危ないよ!」

「……?あ、はい!」

 

 素直なのか、それとも反抗期なのかよく分からない子だ。すぐに走って私のリフトに乗る。

 ……隣に立つとこの子の小ささがよく分かる。こんな子があのでっかい巨人を操っているのか。

 天然パーマほどではないが、かなり癖の強い髪の毛だ。ちゃんとケアしてるのだろうか。

 

「……ガンダム、どうです?」

「ん?ガンダム?あぁ、問題ないよ。アンタの親父さんがいればすぐ治るさ」

「だと、いいんですけど……」

 

 自分の機体であるRX-78-2。素人の操縦で壊されたアムロの心中はどうなのか。

 いくら遠慮のない私でもそれをわざわざ聞くほど無粋ではない。

 

「プロト、何か気になるトコでもあった?」

「へ?あぁ……いや、あって良かったなぁって思っただけです」

「確かに「備えあれば憂いなし」って奴だよ」

 

 中国だったか日本だったかのことわざだ。その国の言葉で言う。

 共通語以外での言葉だが、アムロはそれに首を傾げることなく頷いた。

 

「それにしてもザク2機、あれはどうするんですか?」

「1機はアンタを助けた部隊に遅れた謝礼品としてプレゼントする予定さ」

「私を……あぁ、あの、ジムだったっけ?あの部隊ですか?」

「そう。鬼神の如き活躍を見せるチームなら、ザクでも上手く使うだろ?」

 

 リフトが上階まで到着し、私達はガンダムのコクピット部分の柵に寄りかかる。

 既に各機体のメンテナンスは開始されている。合金溶解機やメンテクレーンが喧しくハンガー内に轟音を轟かせていた。

 

「もう一機はこの艦で面倒見るらしい。すでにザクの研究は終わってるけどね」

「へぇ……誰かが動かすのかな……」

「もしくは、パーツ流用でモノアイのガンダムが生まれたりしてっ」

「1つ目ガンダム……なんか、嫌です」

 

 バカ話をしていると、ハンガー内に警報音が響き渡った。

 特徴的なブザーのような音は、ミノフスキー粒子を扱うメンテを行う際に鳴る音だ。

 フィールドモーターの取り替え、メンテナンス作業を行う際、念のために警戒を呼びかける際によく鳴る。

 特にホワイトベースのメンテクルーは民間人もちらほら居る為、こういった警報は必要だ。

 

『両肩部フィールドモーター点検開始。防粒装備チェック』

『了解、ニック、ベス、カーラ、装備チェック良し!』

『3名は作業を開始して下さい』

「ガンキャノンのか……さて、と。こっちも働くかな」

 

 私はアムロの肩を叩き、自分の工具箱を手にする。

 今回の作業はメンテクルーがフル稼働するので、パイロットが手伝う事もない。

 むしろ機械に詳しくないメインパイロットが整備をするというのは、私個人としてはどうかと思う。

 

 民間人揃いのパイロット群なら、なおさらだ。

 

「頑張って下さい、アニーさんっ」

「あいよ、あ……そうだ。これ、オムルが渡せって」

 

 そうだ。アムロに会ったら渡してくれってオムルに言われてたんだった。

 確かザクの実戦データを記録したものらしい。各部のコンピューターで再生するものだ。

 私はポケットに突っ込んでいたその記録媒体をアムロに手渡す。

 

「?」

「コンピューターでガンダムのデータと照合してデータに組み込めばいいよ」

「それで、どうなるんです?」

「上手く組み込めばガンダムの行動予測が格段に早くなるかもね」

「ふーん……ありがとうございます。じゃっ」

「ああ。頑張りなよ」

 

 ……あの子は機械音痴というわけではないだろうが、そう上手く行くものか。

 まぁ……変な調整するようなら、下の親父さんが黙っちゃいないか。

 

 

 ★

 

 

「記録……ねぇー……」

 

 セイラさんを牢屋に放り込んで、少しプロトタイプを眺めていたらアニーさんに渡された……。

 何これ?USBじゃない、だいぶ昔にあったフロッピーディスクっぽい奴の小型版?

 ……まぁ、取り敢えずどっかの機械に繋げるやつだってことは確かだ。

 

 ブリッジに戻った私は、それっぽい機械の場所を聞き、それっぽく差し込む。

 すると、何かよくわからない数字の羅列が机のモニターに表示される。いかにもな感じだ。

 そして、その数字の羅列の表示が終わると、今度はザクのデータを表示するメニューが出てきた。

 

「……えっと、データ同期……だっけ……」

 

 机の上の説明書を片手に私はホワイトベースのデータベースを隣の画面に表示させる。

 ホワイトベースが記憶している戦闘データ、その中のガンダムのデータを隣に移す。

 これで、機体のデータに、ザクの詳細なデータを自動で読み込んで計算してくれる……。

 って、この手元の説明書には書かれている。

 

「……で?」

 

 同期されたのはいいけど、これをどうすればいい訳?

 

「…………駄目、全然分かんない」

 

 アムロの脳みそなら分かるんだろうけど、今の私じゃサッパリわからない。

 というか、分かったところでロクな事にならないのは目に見えている。

 そもそも、これをまとめてガンダムに組み込んだところで、結局頼りになるのは私だ。

 そう思うと無い頭を捻って考えるのはやめだ。

 

「あーやめやめ、頭沸騰するわ。慣れないことはやらないっと」

 

 ディスクを吐き出させてポケットに突っ込み、椅子を回して外を見た。

 外気温はマイナス1度。砂漠の夜は寒いって聞くけど外は本当に寒いらしい。

 

「外寒いみたいですね」

「ええ。そうね、砂漠だもの」

 

 ミライさんは操舵輪を片手にそう言う。ミライさんは私と同じ地球育ちらしい。

 ……こうして腕だけで船を操ることが出来るミライさんの背中はなんだか頼もしく見える。

 こんな巨大な船を管理しているんだ。そう感じるのは当然なのかも知れない。

 

「……やらないの?ずいぶん珍しい光景を見た気がするけれど」

「無理ですよ、ハロの改造とは違うんですから」

「フフ……そうね、出来ない事を無理して背伸びするのは良くないわ」

「そうですか……?」

「ええ、特に今はね、あなたはモビルスーツという得手があるのだから」

 

 ミライさんは操舵をオートに切り替えて私の肩に手を置く。

 

「……いいんですか?あれ」

「いいのよ、もうすぐ交代が来るから。あなたも休憩が必要じゃなくて?」

「モビルスーツに乗ってない時は何時でも休憩ですよ」

「そう?なら、捕虜の尋問でも見に行く?」

「え゛……いや、それは流石に遠慮します……」

 

 いきなり何を言い出すのかと思えば、変なことを言うミライさんだ。

 ミライさんは「冗談よ」と笑い、私の隣に寄りかかり、少し上を向く。

 ミライさん、ミライ・ヤシマと言う名前からしてハヤト君と同じ日本人だ。

 

「何の縁なのか知らないけれど、いつの間にか軍人ね、私達」

 

 ため息混じりにミライさんは呟く。

 思わず私は「そうですね」と相槌を打ち、背もたれに寄りかかった。

 

「ミライさんは嫌ですか?この現状」

「まさか、サイド7にあのまま居ることも考えたけれど、箱入り娘はもうたくさんよ」

「箱入り娘……?」

「ええ。ヤシマの名を持ってしとやかを演じるの、結構大変なのよ?」

「ヤシマ……ですか」

 

 ミライさんの口ぶりからしてこの世界では結構名のしれた家名らしい。

 なるほど、ミライさんは名家のお嬢様なのね。道理でしゃんとした佇まいだ。

 ……この人と結婚した男は逆玉ということになるわけね。羨ましい。

 

「ええ。父の目の前で無様は見せられなかったから……お父様の前ではね……」

「お父様?」

「ええ。サイド7では……父が……」

「ミライさん……」

 

 あのザクの襲撃でミライさんのお父さんは死んでしまったらしい。

 ミライさんはその事を思い出してしまったらしく、口を押さえて私に背を向ける。

 気丈に接してもミライさんだってまだ戦争の傷を振り切ったわけではないらしい。

 

「っごめんなさい、言ったそばから無様なところを見せてしまったわ」

「いえ、いいんです。私なんて何回泣いてるか……」

「ふふ、聞き上手なのねあなた」

「口数が少ないだけですよ。それに自分のことを話すのはあまりね……」

 

 というより、アムロなのにアムロのことをよく知らないから話すに話せない。

 それにアムロのことを知らない上に私自身のことになるとサッパリ分からないと来ている。

 そりゃあ聞き手に回るしか無いし、かろうじて紡ぐ私の事は「変な子に絡まれた」だ。

 これでどう話を広げろって言うんだ。

 

「そう……あ、そうだ。テム・レイ大尉は?」

「父さん?多分格納庫で爪噛みながらブツブツ言ってると思いますけど……どうしたんです?」

「ドワイ曹長にエンジン出力が上がらないって聞いたのだけれど……レイ大尉に聞けって」

「……いくら父さんでも、流石にホワイトベースの事までは」

「それが出来るそうなのよ、既に何回も修理に立ち会ってるって……」

 

 バケモノかあの眼鏡パパ。

 

「そ、そうですか……多分呼べば返事してくれると思いますよ?多分」

「お願いできるかしら」

 

 ミライさんは私に手を合わせると、再び操舵輪の方に戻った。

 大変なんだ。ミライさんも。

 

「えっと、ハンガー、だっけ?格納庫って。これか」

 

 ミライさんに言われた通り、艦内のモニターを使って格納庫の父さん呼ぶ。

 コールをかけるとすぐに出てくれた。さすがは軍属?軍人というべきか。

 

『アムロ、どうしたんだ?』

 

 モニターに映った父さんの顔は機械油のようなもので汚れていた。

 それに手にしている手袋も、何かのコードを握ったのか黒く汚れている。

 その手と顔を見て言うのを少し躊躇したが、私は口を開く。

 

「うん、何かホワイトベースのエンジンの出力が上がんないって」

『右舷メインか……被弾箇所だな恐らく』

「被弾?」

『先のザンジバルとの空戦で右舷に被弾しただろう?その時の傷がまた開いたんだ』

「どうすればいいの?」

『こればかりは応急処置ではどうにもならん、速度を下げて左右の出力バランスを取れと伝えてくれるか?』

「んーわかんないけど、まぁ分かった」

『飛行中の修理は危険を伴う、着陸まで我慢してくれ、とも伝えてくれ』

「うん、父さんごめん、頑張って」

『その言葉が私の原動力だ、休めよアムロ』

 

 そう言って父さん側から通信を切られた。父さん、結構夜更けてるのに頑張るんだ。

 それにさっきの父さんの顔、疲れを見せるどころか楽しげな表情だった。

 やっぱり根っからの仕事人で、それも仕事大好き人間であることは確からしい。

 

「だ、そうです、ゆっくり飛んで調整してって」

「難しいのね、了解、速度75に減速、高度2100に下降」

 

 そう言ってミライさんはホワイトベースに強い減速をかける。

 周囲の音がさらに静かになり、エンジンのパワーを絞った感じが伝わる。

 それに高度まで下げたらしい。ミライさんの腕がいいのか、全く浮遊感は感じないが、

 下の山が鮮明に見えるほど高度が下がった。

 

「クラフト浮力最大、エンジン出力23%…ここまで絞ってようやく揃うなんて……」

「随分ゆっくりになりましたね」

「元々遅いけれど……ブライトが戻ったら伝えないと」

 

 ホワイトベースの世話も大変らしい。ミライさんもまた一人の苦労人だ。

 と言うかホワイトベース、よく見たらかなり使い込んであるみたいだ。

 ブリッジの窓も近くでよく見たら細かい傷が付いているし、ブリッジから見える装甲はベコベコだ。

 何発も弾を浴びて傷ついている様子がよく分かる。車なら確実に数十万以上取られる奴だ。

 

「修理、いつ出来るんですかね……」

「目的地まではこのままかも知れないわね。この辺りもジオンの支配下だから……」

「ガンダムもあの調子だし、代わりのパーツがあるとは言ってましたけど……」

「辛いわね……でも、ジオンだって辛いはずだわ」

 

 ミライさんは舵輪の横にあるレバーを手前に引く。何をしたのかわからない。

 でもこうしてホワイトベースを操る姿はなんとも凛々しく見えた。

 

「進路設定、オスカ」

「設定進路にレーダー網ありません、代わりますよ」

「ありがとう。進路再設定。オート操舵だから心配しないで」

「はい、休んで下さい。アムロも休めよ?さっきお父さんに言われてただろ」

「え、えぇ。分かりました。じゃあっ」

 

 オスカさんがあの高いレーダー席から降り、私の肩を叩いてブリッジから追い出されてしまった。

 ミライさんはエレベーターを使わないらしい。何処に行くんだろう?そっちはブライトさんの部屋の近くだけど……。

 他になんかあったっけ……?そう言えばミライさんの部屋ってどこか見てなかった。あっち方面なのかも。

 

(ま、そりゃそうか……部屋から近いほうがすぐに舵取れるし)

 

 いろいろ考えてあんのね。部屋割りも。私だって格納庫の近くだし。

 

 

 ●

 

 

 相変わらず長いエレベーターを降り私の部屋の前に行くと、フラウが不機嫌そうな顔で私を見ていた。

 部屋の前でもたれかかってムスッとした顔をしている。どうしたんだろう?

 

「アムロ!!」

「わっ……何よ、フラウ?」

「何よ~じゃないでしょっ!?今晩一緒に映画見ようって言ったじゃない!」

 

 映画……?あ、そうだ、朝ワクワクした顔でフラウが言ってたっけ。

 

「え?あっ……ご、ごめん!色々忙しくてっ……」

「もう!やっぱり忘れて!アムロの好きなラブコメディ、用意したのよ!?」

 

 フラウは私の目の前に両手で2個の映画のパッケージを押し付けた。

 ……これ、ラブコメっていうか……同性……あ、もう一個は健全な純愛ものだ。

 ふ、フラウが純愛好きだって信じたい。アムロはさておきフラウは正しい道を……。

 

「あ、あぁ。そうね。今から見る?」

 

 そう言って、フラウに相応しくない方のパッケージを取り、それを見る。

 ……こりゃまた濃厚な……。でも、私を見るフラウの目は純粋な女の子としての興味の目だ。

 …………いや、まさかこんな純粋な顔してフラウもまた……信じない。私は信じない。 

 

「もう、理解あるのは私だけなのよ?ね、私も興味持つかも知れないでしょ?」

「……あはは……」

「で?見るんでしょ?どれ見る?」

「う、うーん……じゃあフラウ好みの普通のやつが見たい、かな?」

「ん?私好み?だったらこれね、大長編シリーズ!」

 

 フラウは私の言葉を聞くと嬉しそうに床においてあった袋からパッケージを取り出す。 

 良かった……フラウは健全だ。それにしてもかなりの量のDVD?なのかなこれ。

 とにかくすごい量の映画だ。袋からしてフラウの私物ってわけじゃないみたいけど……。

 

「じゃあこれっ、エンブレムファンタジーブラックナイト編、娯楽室にいっぱい映画があったのよ!」

「娯楽室?あの本とかある場所?映画もあったんだ……」

「ええ。皆あんま映画見ないから、根こそぎ持ってきちゃった」

 

 フラウの持つ大量の映画、アクションやコメディ、ファンタジーといろいろな映画がある。

 でもアクション映画と言っても戦争映画はない。ホワイトベースの計らいだろうか。 

 ある戦記ものはファンタジックなものばかり。映画の中くらいは銃弾飛び交う戦場を忘れろってこと?

 

「サイド7で見たホワイトナイト編とは違うものよ、好きなのよこれ、龍の娘が主人公で……」 

「ファンタジー?へぇ、いいじゃん。見よっ」

「うん!」

 

 フラウは私の部屋に入り、パッケージからディスクをハロに渡し、再生させる。

 布団にポスリと座ったフラウは私の布団を剥ぎ取って自分に巻き付けた。

 よくある映画鑑賞スタイルだ。ホラー映画見てる子とかがよくやるやつ。

 

「映画鑑賞と言えば、これでしょ?」

「ホラー映画じゃないんだから……でも、ありかな?」

「ほら、アムロも入って、始まるわよっ」

 

 手招きするフラウの手を取り、一緒に布団にくるまった。

 暖かい。布団の暖かさと、密着しているから、フラウの体温も伝わる。

 馬鹿みたいに寒い砂漠の外や廊下とは違って、安心できる暖かさだ。

 

「最初は予告編。トイレとか大丈夫?」

「大丈夫よ、子供じゃあるまいし、あ、でも行くときは止めてよ?」

「当たり前じゃない」

 

 自然と密着し、私はフラウと見つめ合う。そして一緒に笑った……。

 アムロの記憶を少し探ると、前も一緒にこうやって映画を見ていたらしい。

 父さんの部屋で思い切りフラウに叱られた後、フラウを怒らせた埋め合わせとして何でも言うことを聞くと言った時に、一緒にフラウの家で映画を見たそうだ。

 ……男の子同士の愛を語る映画を。

 

「……久しぶりね、こうするの」

「……うん」

 

 予告編を見ていると、フラウが静かに私に語りかけた。

 私はそれに頷く。何だか私も久しぶりな気がする。

 

「あの時も私の好みに合わせて、これのホワイトナイト編借りてくれたのよね?」

「う、うん。まぁね、フラウには、健全な道歩いてほしいし……」

 

 私が目を逸らすと、フラウはニマニマした顔で茶化すように言う。

 

「あら?いいのよ気にしなくて、どんなアムロでも私はアムロの親友なんだから……そういえばアムロのコンピュ」

「ハロ!!予告編飛ばして!本編!本編再生お願い!!」

『アセッテル、アセッテル、フラウ、アムロハ、キンパツボーイズラ』

「早くっ!!!……もう!」

『リョウカイ、リョウカイ』

 

 クスクス笑うフラウをよそに、私はアムロの趣味を本気で疑った。

 

「……全く……趣味が悪いわよ……フラウってさ」

「フフ……さ、始まるわよ、映画は静かにね」

「はいはい……」

 

 

 

 ★

 

 

 

「このザク、だいぶ使い込んであるな。クランプ、使えるのか?」

「……オーバーホールの状態は良い方です、関節は新品です」

「……レオのスナイプザクはどうだ?」

『中古にしては上々です。チェック項目はクリアしています』

 

 ファットアンクルの補給が来たと思ったら、ドムの補給もなく、渡されたのはザクと旧式のスナイプタイプ。

 通称ザクスナイパーと呼ばれている機体だ。レオの部下クラウスが裏ルートで回させたものらしい。

 背部バーニアにビームジェネレーターを乗せ、ビームでの狙撃が可能になっているようだ。

 

『ジェネレーターも中々だ。いいものを寄越させたなクラウス』

「本来ならこんな中古じゃなく新品を渡すのが筋だろう……こっちは木馬を追っているっていうのに」

「文句を言うなクラウス、支給されただけでも感謝するべきだ」

「ラル大尉……しかし……」

 

 クラウスは焦り気味だ。隊員であるトルドが捕虜となり、部下を2人、ザクを3機も失ったのだ。

 無理はない。だからこそ今回のザクとザクスナイパーは非常に重要な存在だ。

 レオは格闘よりも狙撃が得意と聞く。シミュレーションでの結果も上々だ。モビルスーツでヘッドショットを実現させるとは、なかなか興味深い。

 

「焦るなよクラウス。コズンもトルドもわし等が救出する、救出作戦に焦りは最大の敵となる」

「……」

「若いが故に気負うのは分かる、だが覚えておけ、上官の焦りは部下にも伝染する」

「っ……アン……ですか?」

 

 クラウスはバツの悪そうな顔をして遠くに目をやる。

 その視線の先には顔を伏せて肩を震わせている少女が居た。

 

「分かっているならクラウス、お前のやることは一つだ、急げよ」

「はっ……!よしレオ、照準チェックだ、いいな?」

『ああ。いつでもオーケーだ。狙撃モニター展開……これか?』

 

 物分りのいい男だ。頷いたクラウスは少し頭を振り、資料に目を通しながらレオにチェック項目を伝える。

 非常時であるからこそ、上官となる人間が冷静で居なければならん。

 青臭い言葉ではあるが、生き残るには互いを信じ合わなければならん。信頼こそが勝利となる。

 トルドもコズンも、その心得がある男だ。互いを信じ、きっと木馬から逃げ果せるだろう。

 

「フリーベリ二等兵!」

「はっ、はい!」

 

 わしが呼ぶと、座り込んでふさぎ込んでいた二等兵が立ち上がる。

 ハモン曰く16歳の少女だ。このか細く臆病な性格でよくあの3人のオペレートが出来たものだ。

 しかし、前回の作戦でも戦況予測は的確で、ギャロップの被弾を最小限に抑えることが出来たと聞く。

 あの赤い彗星の艦が仕込んだオペレーターだ、優秀であることは間違いないだろう。

 

「ファットアンクルに伝えろ、荷物を下ろしたら速やかに帰還せよとな」

「りょ、了解っ……です!」

 

 二等兵の目は少し充血していた。鼻も少し赤い。昼間は自室で泣き晴らし、ここでもまだ泣いていたのだろう。

 ……この歳にして自分の拠り所である部隊の一員を失ったのだ。当然ではある。

 ゲリラの戦いをするにはこの娘は若すぎる。ハモンのそばを離れぬようにさせねば……。

 アムロ・レイという少女も本来ならば戦うべきではない年だ。女は、男の帰りを待つ生き物でなければならん。

 

「ギャロップからフライヤー1へ、積み下ろし完了次第、帰還して下さい」

『こちらフライヤー1了解、離陸準備開始する』

「了解、風速、風向共にグリーンライン、方位245、敵レーダー網確定範囲を送信」

『了解、確定範囲受信』

 

 フリーベリ二等兵はヘッドセットを付け、足場の悪い砂地を走りながらファットアンクルに指示を送る。

 ファットアンクルを見ながら端末を片手に気象状況と周囲の状況を報告する。

 指示通りにファットアンクルは離陸体制に入り、その巨体を持ち上げた。

 

「離陸後は速やかに当空域から離脱を」

『了解、ウィングローター出力良好、フライヤー1離陸、貴隊の幸運を』

「貴機の無事をお祈りします…………」

 

 ファットアンクルが離陸し、ギャロップから遠ざかる。ヘッドセットを外した二等兵は少し空を見上げた。

 小さなファットアンクルの機影の更に向こう、星空を見ているようだ。

 

「あ、流れ星……素敵……」

 

 その呟くような声につられ、わしやクランプ、ステッチにギーン。それにハモンも同じように砂漠の空を見上げた。

 いつの間にか、部隊員全員が星空に見惚れている事に気づくのは少し経ってからだった。

 

「貴方……」

「ああ。敢えて今度こそという言葉を使おう」

「ええ……必ず木馬を……」

「分かっている、部下とお前、それに若者達のためだ」

「あら、私もまだ若いですよ、貴方」

「おぉ、当然よ。ハモン」

 

 ハモンはわしになにか聞きたそうな表情をしたが、何も聞かなかった。

 わしの判断とは言っても、ハモンはこの作戦の参加に反対気味だ。

 明らかな捨て駒扱い、その捨て駒の一戦に加わる一部隊……。戦力差があまりにありすぎる。

 

「すまんな、ハモン、もう少し付き合って欲しい」

「どこまでもお供します、ランバ・ラル」

「頼む」

 

 この作戦の成功が、ラル家に対する孝行、部下の生活の安定につながるのだ。

 ラルはザビに屈したわけではない。そう亡きジンバに伝え、

 未来のジオンを担う者を育てたい……。わしの我儘に付き合わせるのは心が痛む。

  

 そんな我儘に付き合うハモンらのためにも、木馬を仕留めなければ。

 

(フ……最も焦っているのは、このわしか……)

 

 砂漠の夜空を隊の皆で見上げ、この寒空の夜を終えた。

 

 

 

 

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・陸戦型ガンダム、陸戦型ジム、地球各地で大量生産開始(ガンダムゲームシリーズ全般)
・アムロ、ザクのデータを手に入れるも、さっぱり分からず諦める。
・ホワイトベース、連日の戦闘でガタが来る
・ランバ・ラル隊、ザクとザクスナイパー(MSV)を受領、再攻撃を計画する

以上となりました。
次回は戦闘です。


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