女だけどアムロ(女)になったから頑張って一年戦争する (めんつる)
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ガンダム大地に立ってザクをタコ殴り

「ん?何ここ……せっま……!?」

 

 目が覚めたら

 

「ってかどこここ!?」

 

 アムロ(女)になってた。

 

 

 

 

「何これ……何この……これ!?」

 

 目が覚めるや否や私はものすごい狭い空間に押し込まれていた。

 真っ暗だけど薄ぼんやりと光って「ピキョロ……ピキョロ……」と変な音がなる画面みたいなものが私のあちこちにある。

 それと私の足元には変な本がある。青色の背景に赤い「V」が書かれたやつだ。

 

「えー?何これ……?とりあえず電気……無いし」

 

 目が慣れてきたのか周りがだんだん見えるようになってきた。

 目の前と左右には大きなテレビ画面。上もテレビ画面だ。

 左右にはなんだか仰々しい前後ろに動くレバー……。

 

「何これ…ロボットのコックピット?」

 

 なんだろ、ガンダムのロボットみたいな感じなのかな。

 とりあえず足元の本を手に取り、パラパラとページをめくる。

 英語だ。すべて英語で書かれている。

 

「嘘……読める……」

 

 しかし私、こんなところに連れてこられて危機的状況にあるのか、ものすごく読める。

 それも何の違和感もなく、まるで最初から英語で話していたかのようなスラスラっぷりだ。

 人間本気を出すと人間が想像している以上の力が出るものなのかしら。

 

「えーっと、……ガンダム……ほんとにガンダムじゃん!?」

 

 ガンダム。ガンダムって言うとアムロとシャアが戦って、

 ガンダムって名前のロボットが暴れまわる話だ。そして、私はそのコックピットにいる。

 感触や座ってる感じからしてVRのゲームではないことは明らかだ。説明もないし。

 

 もしや私、何らかのアレでアムロになってしまった……?

 

「えーっと、何?夢?夢なの私夢なの?」

 

 ほっぺをつねる。痛い。頭を触る。なんだかモジャモジャしている。

 明らかに自分の頭じゃない。でも、くせっ毛なだけだ。胸もある。股も……ない。

 ……あ、アムロ……なの?私……アムロって男だったような……。

 

 アムロ……アムコ……?わからない。まぁ、女であることには変わらないか。

 

「……」

 

 ガンダム……ガンダムの話を思い出そうとするが、見ていないので分からない。

 結構前にテレビでやってた名作アニメ特集のあれから考えると……

 確か最初にアムロはガンダムに乗って…………何したんだっけ?

 

「とっりあえず……電源入れよっかな…っと……」

 

 このまま暗い部屋に居てもしょうがない。ドア開ける何かもないし、今はガンダムを動かすしかない。

 電源さえ入ればあとはドアを開けるボタンでも押してガンダムから降りないと。

 アムロかアムコかアコムかわからないけど私にガンダムの運転なんて出来ない。

 

「えっと……説明書の……これ?」

 

 ガンダムの説明書では、正面の光ってるボタンを押して、次に光る左右のボタンを押す……。

 ……で、左右のレバーの付け根、何とも押しにくい所にあるスイッチを押すと

 

「わぁ?!?」

 

 正面のモニターと左右のモニター、ついでに真上のモニターが点灯した。

 モニターには外と思える映像が映し出されている。

 まず目の前に飛び込んできたのは、自分をまっすぐ睨んでいる緑で一つ目のロボット。

 こいつ知ってる!!

 

「ザク、だっけ?敵の……!」

 

 そしてこの体勢、寝転んでいるのか、えらく視点が低い。実物大はもっと高い位置にあったはずだ。

 これ降りたら殺されるやつやで。

 

「ぶ、武器……探してる暇はないわ……立たなきゃ……!」

 

 説明書を足元に置き、操縦レバーと思われる左右のレバーを握る。

 さっきから座ってる椅子の下で何かが動いている音がしている。これなら動けるはず。

 

「これがレバーで、足元がアクセル?みたいなの?」

 

 レバーは前後ろだけでなく、持つ部分が上下に動く。試しに上にひねるとガンダムの上半身が腹筋みたいに動いた。

 これで立てるのか。その操作を行うとモニターに「Auto Stand Up」みたいな表示が出る。なるほど、こうやって立たせるのか。

 

「よし。立って頂戴!ガンダム!」

 

 レバーを上にひねり、気持ち後ろに引く。するとガンダムのエンジン音がコクピットに薄く響き、

 なんだか立っているような感じになる。銃をドンドンと撃っているザクの動きが止まり、こっちを向く。

 

「気付かれた!?」

 

 ザクはこちらを見つめて動かない。立つなら今しかない。

 巨大ロボットだって言うなら立って戦わなきゃ。

 マジンガーゼットとかいうのもロケットパンチで戦ってるんだし。

 

「よし立った!……の?」

 

 ガンダムの上半身は完全に立ち上がり、地面から離れた位置に操縦席がある事は明らかだ。

 目の前にはたじろいでいるザク、その奥にもザク。左右は色々壊されたり寝転んだりしてるロボット達。

 多分立ってる。

 

「……で……どうしよ……」

 

 手足の動かし方も分からなければアクセルみたいなの踏んでコケても困る。

 だからといってここから降りることも出来ない。ドアが何処にあるのかもわからない。

 あのザクを倒さないとどうにもならないのかもしれない。

 

「とりあえず……感覚で動かそう!私は一応アムロなんだから、主人公なんだから!!」

 

 

 

 ★

 

 

『で、デニム曹長!て、敵のモビルスーツが!』

 

 MS-06、ザクのパイロット、ジーンが大声でデニム曹長を呼ぶ。

 新兵であるジーンは命令違反を犯し、サイド7を攻撃していた。

 しかしそれはすべて敵艦に搬入する前の無人機、部品だと確信していたからである。

 

 しかし目の前にいる白いモビルスーツは確かに動いている。ものすごくぎこちない立ち上がり方だが、確かに動いている。

 

『何?みんな部品ばかりだと思っていたが……』

 

 上半身しかない赤いモビルスーツ、戦車の出来損ないのようなモビルスーツの中に混じっていた白いモビルスーツ。

 ジーンが破壊したモビルスーツは赤いモビルスーツと戦車の出来損ない。白いモビルスーツには手を付けていなかった。

 それもその筈だ。気付く前に、白いモビルスーツが立ち上がったのだから。

 

『ジーン!撤退するぞ!奴が動いたのならば分が悪い!』

『いや、パイロットは素人です!奴はまだうまく動けんようです!!』

『やりま……うわぁああああ!!!?』

 

 ジーンは手柄を立てるべく白いモビルスーツに向き直そうとした瞬間、白いモビルスーツがジーンのザクに文字通り突撃した。

 バーニアを思い切り吹かし、水平に、そのまま突っ込んだ。

 

『ジ…ジイーーン!!??』

『そ、そうちょおお!!!!??』

 

 コロニーの建造物に激突した2機はまるで子供に喧嘩のように揉み合う。ジーンのザクが下に、白いモビルスーツは馬乗りになっている。

 その姿は外から見ても分かるようなでたらめな動きだ。パイロットは操縦桿をデタラメに動かしているのだろう。

 しかしそのでたらめな動きは確実にジーンのザクにダメージを与えている。ついでにジーン自身にもダメージが入っているようだ。

 

『助けてください曹長!!モニターが消え……!操縦桿が!コクピットが!潰されてます!!』

 

 メチャクチャな動きでザクを殴る、踏む、体全体で踏み潰す、を繰り返す白いモビルスーツ。

 ひとしきりジーンのザクを蹂躙した後、白いモビルスーツはザクの顔を掴み、思い切り投げた。

 ジーンはそのまま吹き飛ばされ、デニムのザクに頭から落下する。

 

『じ、ジーン!!』

 

 ジーンのザクは見るも無残な姿となっていた。各部位が欠損しているわけではないがあちこちにビルの破片が突き刺さり、

 ほぼすべての部位が白いモビルスーツの打撃攻撃によって機能停止状態となっている。

 もはやジーンの乗っているザクはザクではなく、スチール合金によって補強された棺桶だ。

 

『ジーン!コクピットを開けられるか!』

『は、はぃ……何とかぁ……』

『よし!スレンダーのいるところまでジャンプする!手に乗れ!』

『はぃぃ!何だあのモビルスーツは……!』

 

 ジーンが棺桶から這い出し、デニムのザクの右手に乗る。

 白いモビルスーツはと言うと、ジーンとデニムのザクを指差し「どうだ参ったか」と言わんばかりに仁王立ちしている。

 その足元では、連邦軍の宇宙服を着た男性がエレカに乗って怒鳴り散らしている。

 

『スレンダー!ジーンのザクがやられた!脱出するぞ!記録はできているか!?

「はっ!完了しております!」

『も、申し訳ありません…デニム曹長』

 

 私、スレンダーは記録を中断、命令違反を犯した新兵ジーンのコクピットに押し込み、サイド7から脱出した。

 結果的に連邦のV作戦と呼ばれる作戦記録と機体データの概要を持ち帰ることには成功した。

 しかし、偵察任務成功の代償が貴重なザク1機の損失とは、予想外だ。

 

「少佐、偵察任務終了。帰還します!」

『了解した、報告は後で聞こう』

 

 白いモビルスーツ、武器も使わずザクを1機撃破するほどの威力を持つ。

 恐ろしいモビルスーツだ。

 

 

 ★

 

 

「ふぅ~……勝った……!」

 

 ザクが逃げていく。操縦桿を適当に直感的に動かすだけでガンダムはザクをボッコボコにしてくれた。

 馬鹿みたいに操縦が難しいロボットだと思っていたけど、やってみたら案外動かせるもんだ。

 ほとんど2本のレバーとアクセルしか使わなくてもここまでやれるとは。

 

『ガンダムのパイロット!無事か!』

 

 ガンダムの正面の上部分にあるモニターの一つが勝手に映った。そこには宇宙服を着ている…

 父さんが居た……父さん……?この人が?

 

「え?」

『あ、アムロ……!?』

「父さん……」

 

 私の父さん、というより、アムロの父さん……私の記憶とアムロの記憶がごっちゃになっている。

 私の父さんとは全く似つかない。というか私自身の記憶がぼんやりしていて思い出せない。

 わたしゃ誰だ?

 

『アムロ!』

「父さん……テム・レイ?」

『何でお前が……』

 

 ……まぁ、私もアムロでいいか。思い出せない物を無理して思い出しても仕方ない。

 とにかく私は操縦桿近くのマイクみたいなボタンを押して答える。

 

「何か、成り行きで乗っちゃったのっ!」

『乗っちゃったの…って……!とにかく、無事なんだな!?』

「う。うん!」

 

 テム父さん。アムロの記憶を思い出そうとするも、アムロ自身の記憶もぼんやりとしている。

 この人が私の父さんである事。凄く厳しい父さんとしか思えない。

 

『そうか……良かった……とにかく、機体から降りなさい。膝立ちになってハッチを開けるんだ』

「ひ、膝立ち……えっと」

『操縦桿のグリップを下に。その後レバーを内に引けばいい。出来るか?』

「こ、こう?」

 

 グリップを下に……レバーを内向きに……。

 言われた通りにやるとガンダムの視線がどんどんさがる。

 ……ハッチっていうのは……?

 

『よし、アムロ。ハッチを開けろ。コックピットのコンソールを見るんだ』

「コンソール?前の奴……?」

『そうだ、そこのパネル、右下の小さなパネルを見なさい』

 

 右下のパネル。これか、ハッチオープンとか色々なメニューが有る。

 タッチパネル式で青い背景……ハッチオープンのボタンは赤い表示だ。

 これをタッチすれば……。

 

「これ!」

 

 プシュッ!と空気が抜ける音がした。それと同時にすべての電気が消える。

 ガンダムの前が開き、何時間ぶりかの外が拝めるようになっ

 

「高ぁ!?ちょ!?」

 

 たが、久々の外の空気は地上数メートルの上空で味わうことになった。

 

「って…………」

 

 しかしその外の空気は、とても新鮮で、

 とても、不思議な空間だった。

 

「何……ここ……」

 

 筒のような世界。ガラスの先には真っ黒な空間。……真上にも建物がぶら下がっている……。

 ここは一体どこ……?

 

「アムロ!!」

「お、父さん……!」

 

 ガンダムが自動で手を私の目の前に差し出す。その手に乗り、私は地上に降りた。

 初めて見るテム父さん。なのに不思議な「父さん感」を感じる。

 明るい世界に放り出されて改めて見る私の格好。上下デニムに黄色い服……と凄まじく微妙な服。 

 でもなぜか馴染んでいるこの服……。

 

 あー。やっぱり私アムロになってるんだなって思った。

 しかも記憶もだいぶアムロ寄りに上書きされてるっぽい。

 

「あぁ、アムロ。無事で良かった……」

「父さん……」

 

 ヘルメット越しに私の顔を見る。ボサボサ一歩手前のくせっ毛に、何ともまぁ普通の女の子の顔。

 自分自身が何者かわからないけど、少なくとも元の私よりは美人……な気がする。

 そして、テム父さんの顔を見る。なんだか苦労してそうな顔だ。ヘルメットの緑色越しでよく見えないが。

 

「……ガンダム……凄いロボット……」

「ロボット……そう、ガンダムは凄いモビルスーツだ」

「うん……」

「…………アムロ、周りを見なさい」

「え……」

 

 父さんに言われ、私は周囲を見渡す。赤いロボットの上半身や下半身。

 それに色々なパーツの殆どが壊れた状態で転がっている。

 

「ガンダムの予備パーツ、それにガンキャノン、ガンタンクのパーツを回収しなければならない」

「……?」

「……私は生存者の保護やホワイトベースの出港準備とやることが山積みだ」

「なるほど……」

「アムロ……頼めるか、連邦軍モビルスーツのパーツを回収してくれ」

「は、はい…………えぇ!?」

 

 父さんが私の肩を叩き、ガンダムを指差す。

 なんだかよく分からずに首を縦に振ってしまった私は、

 なんだか良くわからないうちにガンダムに再び乗り込むこととなった……。

 

「ウッソでしょぉ……!?」

「ケンプ中尉が戦死しなければ……!」

「誰よケンプ中尉って……わかったわよ!」

 

 私はもう一度ガンダムの手に乗る。するとガンダムはまたも自動的に私をガンダムのお腹辺りまで運ぶ。

 地味にすごい技術だ。そしてもう一度コックピットに座り、タッチパネルを操作してドアを閉める。

 

 何で私がこんな目に合わないといけないのか。

 何でアムロが女なのか。

 何で私の記憶の殆どがアムロ寄りに上書きされてるのか。

 これから私はどうなるのか。

 

 テム父さんに手の使い方など色々教わりながら考えた。 

 

 

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アムロは女
・ジーン、デニム生存
・テム・レイホワイトベース搭乗
・サイド7、ガンダム予備パーツ、ガンキャノン、ガンタンク損害軽微

以上の結果となりました。


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シャー・アズナブル

「これが、がん、何だっけ……」

 

 赤いモビルスーツの残骸を専用の搬入口らしい所に運ぶ。

 殆どが壊れているものの、直せば使えそう、な気がしないでもないものばかりだ。

 あのザクがバカスカ撃ちまくっていたのはどこを撃っていたんだろう。

 パイロットが下手っぴなのか、それともガン戦車やガン……なんとかが頑丈なのか。

 

「これで、全部かな?あ、まだあった」

 

 工場かなんだかよくわかならない所、搬入口の中にもう一つでっかい台車に乗っているモビルスーツがあった。

 ガンダム……の別バージョンかな?黒と白の男の子が好きそうな色のガンダムだ。

 

「これも、持っていこうかな……でも入るかな?その……ホワイトソース?とかいうのに」

『アムロ、何か見つけたか?』

「あ、父さん。黒いガンダムが新品の状態で置いてあるんだけど……」

『プロトタイプか!』

「ぷろ?……それで、どうすればいいの?」

『今すぐそれも運びなさい!そうか、1号機が駄目でもプロトタイプがあれば!』

 

 なんだかよくわからないけど、1号機は無くなっちゃったらしい。

 って事はこれは、何だろう?これは「試しに作ってみたガンダム」って事かな。

 試しにも何も、まんまガンダムだけど。試しに作ったら割と理想的だったのかしら。

 

「よっこらせっと……」

 

 とりあえず、ガンダムがガンダムを背負うなんてことはできないので、

 このガンダムを乗っけている台車を……ゆっくり……

 つま先で……あ、右に曲がっちゃった。なんだろう、石蹴りを思い出す。

 

「……これも操縦練習……練習……」

 

 みみっちい……。

 

「てい!あ、やば」

 

 台車を蹴飛ばし、搬入口にガンダムを押し込んだ。

 ガシャーン!!とちょっとヤバそうな音が聞こえたが、うまい具合にガンダムを運び入れることに成功した。

 あれが試しに作ったガンダムって事は私のガンダムはガンダム2号なのかな?

 

「父さん、入れたけど……」

『よし、運び入れるものはこれで全部だ』

「良かった……これで全部……ふぅ~、汗かいたぁ……」

『休んでいる暇はないぞアムロ、すぐにホワイトベースに乗りなさい』

「えっと、軍艦?」

『そうだ。サイド7の機密処理プログラムが生きている。これを作動させると』

「爆発でもするの?」

『そういうことだ』

 

 マジ?

 

「でも、いいの?死んじゃった人とかも爆発するんじゃないの?」

『……これは戦争だ。遺体の回収よりも機密保持を優先させなければならない』

「うーん……まぁ回収する時間もないし……火葬だと思えばまぁ」

『納得せざるを得ない。さぁ、急ぐんだアムロ』

「分かった!どこから乗るの?」

『北西……お前から見て左側前方、32番ゲートから入るんだ』

「……32?」

 

 32と描かれたリフト状の台。その上にまた32と描かれたどでかい扉があった。

 リフトに乗ると、またしても自動でリフトが昇った。一体どうやってこんな技術を……。

 リフトから良くわからない、薄暗い施設に入り、私の乗っているリフトはそのまま進み続ける。

 

「!」

 

 その直後、下から突き上げるような振動と、くぐもった轟音がコックピット内に響き渡った。

 

「あ……」

 

 父さんがあの周辺を爆発させたんだろう。残ったパーツと一緒に死んだ人も。

 私は少し目を瞑り、せめてもの哀悼の意を示した。

 

 

 

 ★

 

 

 

「レイ主任……あの子は」

「アムロ・レイです。私の娘のね。さっき見せた子だよ」

 

 テム・レイ大尉。技術開発主任。

 地球連邦軍のモビルスーツ、RX-78「ガンダム」を手がけた技術者。

 更にサイド7現地でRCX-76、RTX-65を完成させ、改めてRX-77「ガンキャノン」、RX-75「ガンタンク」を作り上げた。

 技術者としてはまさに鬼才と言える人間だが、愛娘をモビルスーツに乗せるとは……。

 いささか人間性に問題があるとみえる。

 

 彼は今、ガンダムに乗っている大尉の娘と連絡を取りながら、手元の図面に手を加えている。

 ガンダムのビームライフルの何処が気に入らないのか知らないが彼は非常時でも手を休めない。

 ぶつぶつと「これでは取り回しが」などとつぶやき続けている。

 

「アムロ・レイ……」

 

 更にアムロ……男の名前を女の子に付けるとは。

 

「ブライト君、パイロットはどれほど残っているかね?」

「はっ……現時点では、全滅です……」

「そうか……」

 

 78-02パイロット、ウィリアム・ケンプ中尉は搭乗途中にザクの攻撃を受け戦死。

 01のルーグ・ヴェルツ大尉も同じく戦死している。

 プロトタイプガンダムのパイロット予定のファレル・イーハ少尉はジャブローにて待機だ。

 現状ガンダムを操縦できるパイロットは存在しない。

 

 更に新装ガンキャノン、ガンタンクのテストはジャブローで行う予定だったのだ。

 艦長は緊急時のパイロットを現地のケンプ中尉、ヴェルツ大尉に任せるつもりでいた。

 今回の想定外の事象によってその二人が戦死したとなると。

 

「レイ大尉、どちらへ!?」

「艦長に具申しなければならない、アムロにガンダムを任せるとな」

「えぇ!?」

「緊急事態なんだよ!」

 

 自分の都合で日常と異常を使い分けるな……!

 

 齢19にして、頭の毛が後退しそうな思いになる。

 その時、モニターに映った少女、アムロ・レイが目に映った。

 あの父親とは似ても似つかないあどけない少女だ。慣れないモビルスーツを一生懸命に動かしている。

 哀れな子だ。戦乱に巻き込まれ、軍事機密とはいえガンダムを駆り、サイド7を守ったというのに、

 実の父親にこき使われ、未だガンダムを降りられないでいるとは。

 

 そう考えていると、少女の目が突然見開き、通信が入る。

 

『父さん!!なんか赤い人がすぃ~って通ってったけど!?』

「何!?赤い人だと!?」

『え……?だ……誰?』

「地球連邦軍士官、ブライト・ノア少尉だ!赤い人とは何だ!?」

『え?えと……何でしょう、赤い宇宙服で、えらくピッチリした服で……』

「……ノーマルスーツか!」

 

 赤いノーマルスーツを着た兵士…ホワイトベースのノーマルスーツに赤色はない……。

 ……!まさか……。

 

「っ!何故皆気付かなかった……!アムロさん!すぐに搬入作業を中断するんだ!敵が侵入した!」

『敵!?ロボ……えっと、モビルスーツ?じゃないんですか!?』

「敵はモビルスーツ以外でも来る!すぐにサイド7に戻り敵を捕捉するんだ!機密情報を渡すな!」

『は、はい!?』

 

 まさか白兵戦覚悟で、しかもこの監視網をくぐり抜けて潜入するとは…。

 俺はすぐにホワイトベースのブリッジへ上がり、パオロ艦長へ報告する。

 敵兵撃退後、すぐに出港することとなった。

 

「一体何だって言うんだ!畜生!」

 

 

 

 ★

 

 

 

「一体何だってぇのよもう!!」

 

 あっちに行けと言われたりこっちに行けと言われたり!

 せっかくリフトに乗って、宇宙みたいなふわふわ感楽しんでたのにまたとんぼ返り。

 そろそろ眠いんだけど……。

 

「……どこ~?」

 

 先程の焼け野原へと降り、例の赤い人を探す。こんな何もない所になんの用があるんだろうか。

 プロトタイプ?とか言うガンダムも、バラッバラのガンダムとその他の部品も運び込んだ。

 あるのは……黒焦げの死体だけだ。

 

「……ん?」

『ここまで何もかも処分されるとなると……わざわざここに来た意味がないな……』

『偵察を指示した私のミスか、それとも殲滅に失敗したジーンの責任か……』

『待ちなさい!!』

『ん……』

『ヘルメットを取りなさい!後ろを向き、手を上げなさい!』

『勇敢だな、兵士でもゲリラとも言えん』

 

 ガンダムが声を拾ってくれた。そこら辺のテレビのマイクより高性能だ。ガンダムのマイクは。

 男の独り言のような声が聞こえたと思ったら、今度は女の怒鳴り声が聞こえた。

 私はガンダムの首と私の首を動かしてその声を探す。

 

 見つけた。かなり遠い位置、焼け野原と化してクレーターとなった場所の影だ。

 車が一台止まっている。赤い人を追いかけたのかな。

 

『早く取りなさい!』

『……従おう』

 

 リフトがさっさと降りてくれないせいで現地に向かうことが出来ない。

 さっきの赤い人が敵だって言うなら、女の人が殺されてしまうかもしれない。

 

『……似ている!』

『…兄さん…!?』 

 

 リフトが止まり、焼け野原へと足を踏み入れる。

 ガンダム独特の足音を響かせ、上から見えたクレーターへとガンダムを走らせた。

 ガシャシィーンッ、ガシャシーンッとかなりうるさい足音だ。赤い人を刺激しなければいいけど。

 

『……ほう、わざわざ来てくれたか』

『……モビルスーツ!』

『っ……ッ!!』

『あっ!』

 

 えっちらおっちらとガンダムを走らせると、案外あっという間に現場に着いた。

 目の当たりにしたのはヘルメットを持った赤い人が女の人を蹴っ飛ばしている瞬間。

 思わず私は蹴っ飛ばした赤い人に向かってパンチを繰り出す。しかし避けられた。

 

 それにしてもさっきから男の声……どう聞いてライバルの声に聞こえる。

 こればっかりはガンダムを知らなくても名前を知っている。アムロのライバル。

 

「シャー!!」

『何……!?』

『シャア……!』

 

 思わずマイクをONにしてその名前を叫ぶ。

 貫禄のある声「育毛か植毛か」そんな感じのCMでも聞いた声だった気がする。

 この人がやっぱりシャーなのか。赤い人でこの声でガンダムに出てるとなると。

 シャーとしか考えられない。

 

『…………』

「……あ、あの、お姉さん?」

『あ……あ、ありがとう……女の子?』

「え、ええ。アムロ。アムロ……えと、レイです」

『……アムロ、変わった名前ね』

「よく言われます。ここは危険です、手に乗ってください!」

『えぇ、ありがとう……』

 

 女の人を乗せるため、膝立ちになって手を差し出す。さっきから色々運んでるせいで手の動きはマスターした。

 金髪で、さっきのシャー?よりもストレートな金髪だ。

 きっちりカットされているが、髪質がふわっとしていて、風で靡くその髪が妬まし……もとい美しい。

 

『上手なのね、モビルスーツの扱い』

「え、えぇ……今日乗ったばっかりですけど」

 

 女の人は物憂げな顔をしてガンダムの手に寝そべる。それを優しく掴み、ゆっくりと手を閉じる。

 

「どっか挟んだりしてませんか?」

『大丈夫よ。ありがとう』

「じゃあ、行きますね」

『ええ。レイちゃん』

 

 ……父さん、なんでアムロなんて名前つけたんだろう。

 名字がレイだから良かったものの。これじゃアムロちゃんって呼ばれるじゃないの。

 

 少し複雑な気分になりながら、私は元の32番ゲートに戻った。

 あそこ妙にふわふわするからしっかりこの人を押さえておかないと。

 

 

 

 ★

 

 

 

 女性を助けてさぁやっと降りられると思ったら間髪入れずにブライトっておじさんから連絡が来た。

 今度は宇宙で戦えとのことだ。

 流石に勘弁してと拒否するも、ホワイトベースとかいう宇宙船の船長さんからの命令らしい。

 

「これで、ガンダムの説明はだいたい終わりだ。質問は?」

「んー……いろいろ言いたいことは山ほどあるけど、次で休める……よね?」

「それは……どうだろう。済まないアムロ」

「いいよ父さん。それにしても、宇宙……ねぇ」

「コロニーの半重力区域とは違う。本当の無重力だ。動かし方はさっきのシミュレーションと同じだ、いいな?」

 

 いろいろわちゃわちゃしている空間で、私と父さんはコクピットの中で話し合う。

 ここはホワイトベースのロボット倉庫のようなところだ。

 さっき私が運び込んだ黒いガンダムと数体のガンキャノンっていう赤いロボット。そして戦車がある。

 床のまとめられたところには綺麗に整頓された灰色のガンダムのパーツと、普通のガンダムのパーツが並べられている。

 

 父さんの話から察するに私はもう地球の外にいるみたいだ。さっきの筒みたいな世界がころにー?っていう所で

 そこの外に出ると宇宙はすぐそこだったらしい。そして私は宇宙船ホワイトベースを警備するために外に出る。

 ホワイトベースには少なくはない数の避難民も乗っているらしい。私の、というよりアムロの友達も一緒に乗っているそうだ。

 地味に責任重大だ。

 

「で、さっきの銃は……」

「ビームライフルだ。教えたとおり15発しか撃てない。改善の余地があるが、我慢してくれ」

「うん。……レーザーガンとは違うのよね?」

「あぁ。レーザーガンと言うよりは、水平に飛ぶ水鉄砲というのが正しい」

「ふぅん……」

 

 ガンダムの銃、ビームライフル。ビームなのに水鉄砲らしい。

 そもそもビームとレーザーの違いがよくわからないけど、とにかく強いらしい。

 

「で、ビームサーベル?」

「近接、つまり近い敵を倒す時に使うんだ。もう手で殴るんじゃないぞ」

「は、はい」

 

 で、ビームサーベル。これは知っている。スターウォーズの剣のガンダム版だ。

 光の剣で相手を溶かして斬る。一番単純な武器かもしれない。

 

「頭部バルカン砲も有効に使うんだ」

「頭のマシンガンね。習ったから大丈夫」

「よし……アムロ。必ず生きて帰るんだぞ」

「分かってるわ。父さんも守らないといけないしね」

 

 私は離れていく父さんに親指を立て、ガンダムのコクピットに座る。宇宙服を着る時間はないらしい。

 シートベルトをしっかり締めて、ガンダムを起動させる。父さんのレクチャーはわかりやすかった。

 いや、これは多分アムロの頭の良さもあるのだろう。私の元の姿だとチンプンカンプンだったはずだ。

 

『アムロさん』

「へ?あ、はい」

 

 突然モニターが映り、さっき私に命令したブライトさんの顔が映った。

 

『敵艦の動きにも注意してほしい。例の潜入の際、敵艦は何の動きも見せなかった』

「……?……と言いますと?」

『ホワイトベースを待ち伏せしている可能性が高い、という事だ』

「……なるほど。分かりました。気をつけます」

 

 何だかよくわからないが、軍人さんが言うんだからそうなんだろう。

 起動したガンダムを操作し、倉庫の壁にかけられている大きな銃を右手に。

 ガンダムの体がすっぽり入る大きさの盾を左手の腕に取り付ける。

 手で持つことも出来るけど、左手が塞がるから取り付けとけと父さんに言われた。

 

『ガンダム02、戦闘装備完了』

『各部スラスター推進剤確認終了』

『全システム診断。オールグリーン』

『ハッチオープン、ガンダム発進してください!』

 

 薄い明かりがついていた倉庫の明かりが消え、忙しそうに働いていた人たちが全員捌ける。

 それと同時に目の前、かなり遠くにあった大きな扉がゆっくりと大きな音を立てて開いた。

 その瞬間、体に妙な浮遊感を覚え、モニターに「Space Combat mode」と表示される。

 これが宇宙空間……。はじめての感覚だ。

 

『カタパルト、接続』

 

 さっき父さんにレクチャーしてもらった方法を試す。

 両足をあれに乗せて、体をかがめるんだっけ。

 

「……よっこいしょ」

 

 ふわふわする感覚を抑え、ガンダムの両足をカタパルトっていうのに乗せる。

 

『カタパルト接続終了、アムロちゃん、舌を噛むなよ!』

「は、はい!」

 

 ……ん?この感じ、アムロがガンダムで宇宙に出るってことは……言わないといけない?

 ……そうだ!アムロと言えばこのセリフ!

 

『発進どうぞ!!』

「アムロ!行きまーす!!」

 

 なるほど、これは言いたくなるわけだ。

 ジェットコースターのように体が締め付けられるけどこの言葉のお陰か気合が入る。

 最初にこれを考えた人は天才かもしれない。

 

 

 ★

 

 

「よし、行くわよ……」

 

 宇宙空間に人生初めて飛び出した私は、ホワイトベースが後ろにあることを確認し、

 そのホワイトベースを振り向いて確認する。

 大きな船で、真っ白だ。宇宙空間でこの色はわかりやすい。初心者向けの船かもしれない。

 ホワイトベースの頂上にはいろいろな人がこちらを見ている。

 正面で舵をとっているのは……誰だろう。この人も私と同じで軍人じゃないのかもしれない。

 

『接近する機体あります!』

「え?」

『数は3。2機はザクです!』

 

 私は急いで正面を向く。宇宙の操作は当然だけど地面とぜんぜん違う。

 ある程度オートで動くとは言え……操作を間違えると体が回る!

 

「ザク……?」

 

 ホワイトベースの正面を向き、目を凝らして遠くを見る。

 

『もう一機は何だ!』

『不明です!こんな速度で接近する機体なんて……!』

『一機の機体は、ザクの……はっ!来ます!!』

 

「え?うっ……!?」

 

 突然目の前が大きく揺れた。画面が大きく乱れ、ベルトが体に締め付けられる。

 吐き気をもよおすような揺れと回転をなんとか制御し、何が起きたのかを確認する。

 

『ザク!?』

『シャア……だ!赤い彗星だ……!!』

「っはぁ……!?ッゲホッゴホッ……しゃ、シャー……!?」

 

 通信の誰かわからない人たちがいろいろ騒いでいる。

 頭をブンブンと振り、さっき私が居たところを見る。

 たしかにそこには赤いザクが居た。そうだ、シャーは赤いザクに乗っている人だ。

 しばらくすると、二台の普通のザクが遅れてやって来た。

 

【見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを】

 

『赤い……モビルスーツ……まさかあの時の!?』

「父さん……?」

『アムロ!逃げるんだ!そいつは!』

『シャア・アズナブル……アムロ!奴は赤い彗星だ!』

「父さん、ブライトさん……だっけ?分かってます!アイツは敵ですね!」

 

 私はビームライフルを構える。シャーに狙いを定めて、操縦桿のボタンを押す。

 バシヒュゥーーーン!!!と、どこかで聞いたことがある音が響き、シャーのザクを

 

【遅い!……はっ!デニム!】

 

 見事に外し

 

【しょ、しょうさあぁあああああ!!!!】

 

 隣のザクの股間に直撃した。

 

「あれ?」

 

 風穴が空いたザクは、しばらくバチバチとスパークし、突然大爆発を起こした。

 ……思わぬ大当たりだが、シャーの撃破には至っていない。

 というか……ザクって爆発したらこんなでかい爆発が起きるのか。気をつけないと私も吹っ飛びそうだ。

 

【一撃で……ザクを一撃で撃破するのか……!?】

「つ、強っ……もう一丁!」

 

 ビームライフルの強さに少し感動しながらも、気を引き締める。

 が、シャーはもう容赦しないと言わんばかりにこちらに突っ込んできた。

 

「き、来た!!」

 

 ガンダムのカメラはシャーのザクの足を映し出す。

 明らかに私に向かって飛び蹴りをしてくる感じだ。

 そんなもんに当たる私では

 

「ぐぇ!?」

 

 ある。

 

【……!……馬鹿な……直撃のはずだ!】

「ぐ……げほっ……胸が絞まるっ……こんのぉ!!」

 

 吹っ飛ぶガンダムを無理やり止め、私はガンダムをシャーのザクに突っ込ませる。

 しかしあっさり避けられ、すれ違いざまにコクピットに肘打ちを受ける。

 

「うぶっ!?吐く……っ……」

【パイロットは素人か?】

「んなろぉ!!」

 

 

 

 

 

 それからというものの、私はあらゆる手段を尽くしてシャーに立ち向かうが軽くあしらわれる。

 ビームライフルを乱射したり、足蹴りを繰り出し返したり盾を振り回したりと、色々頑張った。

 が……駄目だった。

 

「だ、駄目……!」

【……運動性も驚異的……ザクの今の火力では撃破不能……か】

 

 ガンダムはあらゆる箇所がヘコみ、さっきまでなっていなかった警告音が響いている。

 アンテナが壊れたのか、通信の声も上手く聞こえなくなっている。銃ではなく、殴られ蹴られの攻撃で蹂躙されている。

 

 私じゃ倒せない……でもガンダムのパイロットは私しか居ない。

 

「う……!くぅ!!」

 

 悪あがきでもう一発だけビームライフルを撃つ。

 しかしやはり当たらない。

 

【よし!スレンダー!帰還するぞ!!】

【了解です!データは十分取れました、受け取りましたか!?】

【受け取った、よくやった。遅れるな!】

 

「っ…………?」

 

 ザクたちが私に背を向ける。そしてシャーのザクがものすごいスピードで私から離れる。

 それに遅れて普通のザクもついていくように離れる……。

 

『……ク2機、撤退し……いき……す!』

「……逃げた……?」

 

 ……違う。見逃してくれたんだ、全くの素人の私でもそれは分かる。

 初めて戦ったシャー……いや、シャア。ものすごく強く、ものすごく怖かった。

 すべての攻撃を避け、あしらい、攻める時は恐怖で漏らすほど恐ろしい攻め方。

 

「……はあ……!はぁ……怖かった……」

 

 震える手で、ガンダムのビームライフルを、遠ざかっていく光に向けて最後の一発を放つ。

 すると、大きな爆発の光が見えた。

 

【す、スレンダー!】

 

「……?」

 

 

 

  




今回のアムロの行動の結果

・プロトタイプガンダム、G-3ガンダム(パーツ)、ホワイトベース搬入
・サイド7、軍事機密完全処分
・シャア、アムロを警戒(名前を知っていることがバレた為)
・デニム曹長、宇宙で戦死

以上の歴史改変となりました。


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つかの間の休息

 ガンダムを元の場所に戻し、私はホワイトベースに戻った。着艦って言うらしい。

 しかし私はしばらくガンダムから出られなかった。怖いから、とかではない。

 私はアムロが色の薄い水色よりのジーパンを履いていることを呪う。

 

「……どーしよ……これ……」

 

 色の薄いジーパン……私のジーパンの一部が濃ゆい色になっている。

 この人生で初めてシャアと戦ったんだ……やってしまっても仕方ない。

 きっとアニメのアムロもあんな怖い思いしてるんだから、アニメ以外の場所でもやってるはず。

 

「……そもそも私も父さんも替えのパンツ持ってたかな……」

『アム』

「今取り込み中!」

 

 危ない。今の私は誰であろうと見られる訳にはいかない。

 しかしガンダムの周りを見るも、男しか居ない。

 危機的状況だ。女として男にこのズボンを見られる訳にはいかない。

 

「……漏らしたまま放置してたら痒くなるし……脱ぐ……いやそれはマズイ」

 

 コクピットの洗浄は勿論私自身の洗浄も必要。

 ……シャアと戦った時以上に絶望していると、コクピットの目の前に……

 

『アムロ!アムロ!?大丈夫!?』

 

 赤い服、ものすごく短いスカート……ではなくそういうファッションの服だ。

 そんな服を着ている私と同い年くらいの女の子……アムロの記憶いわく「フラウ・ボゥ」という子だ。

 この子の顔を見た瞬間、この子と過ごした記憶がぎゅぅうううん!と蘇った。妙な気分だ。

 

 だいぶぞんざいに扱っていたらしい。アムロはフラウちゃんのことを。

 

「あ、えっと「フラウ」?あの、その……」

『アムロ!!大丈夫!?どうしたの!?』

「えーーっと……その、あ、その袋は!?」

 

 まさか……

 

『え?あ。替えの服と下着だけど……』

 

 神やこの子。

 

「すぐ頂戴!できればそこに置いて、ちょっと離れて!!」

『え?……うん、いいけど……?』

 

 フラウは不思議そうな顔をして袋をコクピットの目の前に置く。

 

『……どうしたの?』

「早く!」

 

 今はこの子にも私がやってしまった事を悟られる訳にはいかない。

 ……というか、すでに悟られているかもしれない。

 いや、それでも私がやってしまいました。なんてことを自己申告したくない。

 

 ガンダムから離れ、物陰からちらりと覗いているのが見える。

 ガンダムっていうのは左右もバッチリ見える……。すごいジトーっと見られている。

 ……だが、この子は着替えを持ってきてくれたんだ。そのご厚意に甘えなければ。

 よっこいしょとコクピットを開け、着替えを受け取る。

 

「……青い服?」

 

 すかさず下着を変え、フラウから渡された変な制服のような服を着る。

 ……汚れた服は、同じ袋に入れて後で洗濯機があれば突っ込んでおこう。

 

 

 ★

 

 

「ごめん、おまたせ」

「アムロ!」

 

 慣れない服に着替えた私は、フラウの元へ向かう。

 するとフラウはいきなり私に向かって抱きついてきた。

 いきなり何だ、と思ったが、その体はとても震えていた。

 

「ふ、フラウ・ボゥ?」

「も……もう……会えないかと……!」

「え……?」

「……ぁぁぁあ……!うぁぁああ……!」

 

 フラウ・ボゥ。私、というよりアムロの幼馴染だ。

 かなり面倒見のいい子で、よくアムロはフラウを泣かせていた。

 しかし、あのコロニーにザクが突っ込んできた時、この子を逃してアムロはガンダムに乗った。

 という経緯らしい。アムロの記憶いわく。

 

 いきなり抱きついたフラウは私の胸で泣き続けた。

 アムロであってアムロでない私的には複雑な気分だ。

 しかし、フラウ的には幼馴染がガンダムに乗って戦って戻ってこないと考えれば、当然だろう。

 待たせてしまった。父さんだのガンダムだの以前に、待たせてる人に会うべきだったか。

 

「……ごめん、フラウ……待たせて……」

「無事で良かった……アムロ……」

「……私達、これからどうなるのかな……?」

「分からない……分からないわ……」

 

 肩を震わせているフラウを優しくさすり、私の今後を考える。

 私はアムロとして、アムロらしく振る舞わなければならない。それは当然だ。

 しかし私。アムロではない「私」は元に戻ることが出来るのだろうか?

 というか私、シャアの初戦でお情けで見逃してくれたっていうのに……。

 

 私、死ぬんじゃないの……?

 

「っ」

「アムロ……?」

「いや……大丈夫。フラウ、落ち着いた?」

「えぇ……ごめんなさい」

「いいの、私もごめん……着替えありがと」

 

 今は考えないようにしよう。

 死を考えるのは本当に死ぬ時に考えよう。今はその時じゃない。

 

 そう心に誓って、ホワイトベースを移動する時に使うグリップみたいなのを掴み、

 すぅーっと二人で移動した。

 

「アムロ」

「何?」

「洗濯、しといてあげるわね」

「えっ」

「フフっ……大丈夫。みんなには内緒にしてあげるから」

 

 やっぱりバレてた。顔が赤くなるのを感じる。

 

「ご、ごめんっ……お願い」

「いいわよ、皆ブリッジに集合してるわ。先にブリッジに行ってて。私も後で行くから」

「う、うん!……ブリッジってどこ?」

「その先にエレベーターがあるわ、それに乗ればすぐよ!」

「分かった。ありがと、フラウ。後でお礼するから!」

 

「楽しみしてるわね~」っとフラウは嫌な顔ひとつせずに私とは別の方向に消えていく。

 私はそのフラウの優しさに涙をこぼしそうになりながらブリッジ?とか言うとこに向かうエレベーターに乗る。

 エレベーターのボタンの「ブリッジ」と書かれているボタンを押し、扉を締めるボタンを押す。

 

「……はぁ……」

 

 ふと、エレベーターにある鏡で自分の制服姿を見る。ブリッジとかいう場所に向かう前に身だしなみを整えるためだろうか。

 青色の服だが、女性が着ることを想定されているのか胸の部分にスペースがある。服としてはとても着やすく動きやすい。

 白いズボンも見た目の割にかなり動きやすい。恐らく全力疾走しても平気だろう。これも宇宙向けの服なのだろうか。

 

「あ、着いた」

 

 エレベーターが到着し、扉が開く。少し進むとそこはさっきから続いていた狭い空間とは違い、とても広い空間に出た。

 ここは、軍艦の中心部となる部屋だろうか。高い所に椅子があったり、船のグルグルするやつがある。

 そんな部屋に何やら男女問わずかなりの人達が集まっている。見た感じ殆どが一般人。

 その集団に宇宙服を脱いで制服姿になっているブライトさんと父さんがなにか言っている。

 

「……シャアの艦、ムサイはまだ離れない。このままルナツーに逃げ込むのは危険です」

「奴が攻撃してこないということは奴にも余裕がない、恐らくしばらくしてから補給を行うだろう」

 

 父さんがブライトさんの説明に補足する。

 

「ムサイの搭載限界数は6機。アムロが撃破、撃墜した3機にシャア機の4機を搭載していると思われる」

 

 ブリッジの床は液晶パネルになっているらしい。そこに父さんはムサイという船の図面を出す。

 敵の船なのに図面を用意できるのか。筒抜けじゃない。

 

「うち2機のスペースにはガトル宇宙戦闘機を4機搭載しているだろう。連邦軍部で予想されているMS構成だ」

「なるほど……つまりシャアには予備機がない……と?そういう事ですか?」

「そうなる。もしもシャアがガトルのスペースに2機のMSを搭載しているのなら話は変わるが」

「数ではどっちにしろ勝ってるってことかい?」

 

 ブライトさんと父さんの会話に、何やら軽そうな声が割り込んできた。

 

「なら、俺も乗るぜ」

「君は?」

「カイ・シデン。ホワイトベースのエース少女のクラスメートだよ」

 

 紺色の髪の毛をした、言っちゃ悪いが小汚目の男の子が集団の中から出る。

 するとまた、私の記憶がギューーン!と彼のことを思い出し始める。

 アムロの同級生の……カイ・シデン。結構ヤな奴らしい。

 

「……ふむ、君、確か重機で……」

「ヘッ。アムロちゃんを連れ回したカイ・シデン様だよ、アムロの親父さん」

 

 ……何やら不穏な空気だ。

 

「……」

「別にチャラにしろとは言わねぇよ、女の子におんぶ抱っこじゃカッコつかねぇってだけさ」

「有り難い、君にはガンキャノンを任せよう」

「な、なら、僕も!」

 

 そしてもう一人。カイくんよりも小さな男の子が手を挙げる。

 この子は……アムロのお隣さんらしい。名前は……。

 

「ハヤト・コバヤシ!アムロにだけ頼りっぱなしなのは僕も嫌です!」

「……君たち……ありがとう。今は頼らせてもらうよ」

「レイ大尉…!」

「責任は私が負う!パオロ艦長……よろしいですね?」

 

 ブライトさんは父さんに反対気味だ。しかしパイロットが居ない以上、こうして人員を補充するしかない。

 それは多分ブライトさんも分かっているだろう。

 さっきからベッドに寝転んでいる艦長って人が父さんに答えるようにうめきながら上体を起こした。

 

「か……カイくん、ハヤトくんと言ったね……?うぐっ……!」

「え?へぇ、そうです」

「はい!」

 

 かなり辛そうだ。思わず私はその艦長に寄り添い、背中を支えた。

 

「……アムロさん、君も……」

「はい……」

「い……今……ホワイトベースに乗っている民間人の皆さんは……先の戦闘で……家や家族を失って、行く場所の無くなった人だ……」

 

 うめきながら、艦長はホワイトベースの現状を話した。たしかに数が少ないが、普通の服を着た人がたくさんいる。

 父さんいわく民間人の人たちの大半はコロニーに残ったらしい。

 しかし行くあてのない人たちは臨時乗組員という名目で特別にホワイトベースに乗ることになった。

 これはこの艦長の提案で、ルナツーという基地で保護してもらうための一時的な措置だそうだ。

 

「無力な我々に代わって……どうか……頼む……レイ主任、ブライト少尉……」

 

 父さんとブライトさんは無言で気をつけの体制を取る。軍人だなぁ……。

 

「子供達を頼む……」

「はっ、お任せください」

「技術者として彼らを死なせません。ご安心を」

 

 二人は敬礼して、そして父さんは目で私を整列させる。

 私は艦長を寝かせ、集団の一番端っこに立つ。

 

「聞いてのとおりだ。アムロさん、カイ君、ハヤト君、頼むぞ」

「アムロはガンダムに、カイ君にはガンキャノン、ハヤト君にはガンタンクに搭乗してもらう」

 

 私達は「はい!」と返事をする。

 正直もう返事したくないが、今すぐ作戦が始まるってわけではないので、返事をしておく。

 

「残りの搭乗員はホワイトベースのパイロット候補生、乗組員が担当する。作戦は開始時に説明するから今は体を休めるように。追ってレイ主任からのレクチャー、シミュレーションを行う。以上だ!」

 

 そして私達はもう一度大きな声で「はい!」と声を上げた。

 ……あのボロボロのガンダム、作戦開始までに修理完了するのかなぁ……。

 

 

 

 ★

 

 

 

『夕べは貴様の作戦完了を祝おうと待っていたが……いや、それはいい。なにか用か』

「はい。連邦軍のV作戦をキャッチしました」

 

 通信モニターに継ぎ接ぎだらけの顔をした大男。ドズル・ザビが映る。少佐は俺達の成果の報告を始めた。

 

「部下が持ち帰った映像があります」

 

 死んだスレンダーが遠方より撮影した映像が、ドズル閣下の元へと届く。

 閣下はそれを見ると、驚愕した様子で声を漏らした。

 

『素手か、前時代的だが、堅牢さを裏付けるものだ』

「はい。映像を確認した所、これほどの打撃を与えているにもかかわらず」

『あー。そうだな、機体のマニュピレーターの損傷が見られん』

「推測するに、この白いモビルスーツは我々のザクとは全く別種の装甲を使用しております」

 

 確かに、俺が受けた打撃は非常に強力な攻撃でありながら、奴の機体に損傷は見られなかった。

 素手で攻撃しているにもかかわらず、俺のザクのパイプを引きちぎるような繊細な操作まで成す。

 ザクとは比べ物にならない、5倍以上の出力を出しながら、更に防御力まで備えている。

 

「加えて、宇宙でも戦闘もこなし、主兵装に携行ビーム兵器を使用している模様です」

「こちらも部下が持ち帰った映像があります」

 

 続いて少佐は宇宙での白い奴との戦闘を撮影した映像を送信する。

 これもスレンダーが撮影した映像だ。

 

『……この色のメガ粒子か、連邦らしい』

「見掛け倒しではありません、炉に直撃していないにもかかわらず、奴は」

『一撃で撃破か……』

「ええ。運動性能もザクとは比べ物になりません」

『……それで、何が言いたい』

「ご覧になられました映像の通り、現時点での我々の兵装では奴の撃破、鹵獲は不可能です」

『……ほう』

「新型機を下さい。とは言いません。しかし、十分な補給物資、ザク、人員を頂きたい」

 

 少佐は中将である閣下相手にもかかわらず、まっすぐに無茶な補給要請をする。

 特務仕様のムサイとはいえ、人員、物資、モビルスーツの補給を一度に行うのは非常識だ。

 ヤップや少量積載のパプアを利用して定期補給を待つのが一般的な補給だと言うのに。

 彼は事実上パプア級の補給艦一隻を自分のために用意しろと言っているのだ。

 

『……分かった、人員に関して希望はあるか』

「パイロットをお願いしたいと考えております」

『パイロットか……了解した、こちらで揃えておく』

「ありがとうございます」

 

 それをあっさり通すとは……。俺の目標であるシャア・アズナブル……。

 

『V作戦の明確化はジオンの勝敗に関わる。シャア、貴様の働きに期待しているぞ』

「はっ。必ず」

『では、吉報を待っている』

 

 閣下との通信が切れる。少佐は一息ついたあと、俺達の方を向く。

 

「ドレン。木馬の動きはどうか」

「はっ!現在も我々を追跡しておりますが、未だ動きありません」

「引き続き監視を続けろ。ジーン!」

「は、はぁっ!」

 

 突然俺が呼ばれる。営倉から出たばかりだというのにまた何かしでかしたのか、胃が痛くなる。

 

「早くて数時間後、補充パイロットと機体が来る」

「は、はぁ」

「恐らく新兵共だ、指揮能力と貴様のパイロット適性の向上の為、今からシミュレーションで鍛えてやる。来い」

 

 ……何だと?

 

「は、はっ!鍛えるので、ありますか」

「二度も言わせるな。フリーベリ。02格納庫のシミュレーターを起動する。オペレートを頼むぞ」

「は、はい!ジーン伍長のパイロットデータでよろしいですか?」

「私のデータを使う。でなければジーンの訓練にならんよ」

「えっ……?は、はい!了解です!」

 

 俺よりもあとに入った新兵の女オペレーターが少佐のデータを呼び出す。

 おぼつかない手つきでシミュレーターにデータを打ち込んでいく。

 ファルメルも新兵が増えた、と、艦長が嘆いていたな……そう言えば。

 ……まぁ、この女は近い内に地球送りらしいが……。お荷物が過ぎるそうでファルメルでは向かないそうだ。

 

 ご愁傷さまだな。

 

「行くぞ、ジーン」

「はっ!」

 

 シャア少佐を負かして、死んだ曹長とスレンダーよりも使えるってことを証明してやらなければ。

 ここで一丁いいところを見せて、あの白いやつにリベンジしてやる!

 

 

 

 

 

 

「う、うわあああああああああ!!」

『シミュレーション終了!』

『もっと積極的に動け!戦場で敵は待ってくれんぞ!』

『シミュレーション開始!弾薬補充。』

「……!」

『遅い!』

「うわああああああああ!!!!」

 

 早く補給艦来てくれえええええぇぇ……。




アムロの行動の結果

・ホワイトベース避難民少人数
・ジーン、シャアに鍛えられる

以上の原作改変となりました。


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敵の補給艦を叩く前にノーマルスーツを着ろ!

「はぁ~……」

 

 ガンダムから開放され、私は動くグリップを握り、廊下を移動する。

 宇宙船には標準装備なのか、あちこちにこれがついている。

 楽っちゃあ楽だが、運動不足にならないのかと心配だ。

 宇宙に出てからろくに足を動かしていないし。

 

「……」

 

 ガンダムは修理中、ブライトさんは休めって言ってた。

 ついでに私の部屋に荷物を置いてあるらしい、

 部屋にある荷物は全部私物として支給したから自由に使え、だと。

 

 使い方はまぁ、使っていけば分かるだろうけど……。

 

「あった……ここか」

 

 ご丁寧に英語で「アムロ・レイ」と書かれた個室があった。

 しかし、ドアノブもなければ、引き戸を引くための窪みもない。

 ……困った。網膜認証なのだろうか?と、扉の周りを調べると、

 ドアの近くの壁に開閉ボタンがあった。なるほど、そういうタイプか。

 

「ほいっ」

 

 ボタンを押すと、静かに扉が開いた。中々広い部屋だ。

 白に緑が混じった壁、オレンジ色の床。大きめのベッドに、机。

 部屋の中心には大きな箱、触ってみるとダンボールに似た素材だけど頑丈な箱だ。

 

「これが私物……?わわっ!」

 

 部屋に入った瞬間、ふわふわした感覚が途切れ、ストっと床に着地する。

 体が重い、とまでは行かないが、あれだ。プールから上がった直後のあの感じだ。

 妙な違和感を覚える。なるほど、私室には若干の重力があるのか。

 これならベッドで寝れるし物も置ける。体も軽いから壁伝いなら浮かべる。結構これ便利だ。

 

「っと……で、これが……私物っと」

 

 箱についている留め具を外し、バカっと箱を開ける。中には一枚のタブレット端末……と呼んでいいのか謎だが、板みたいな機械。

 それと衣服、試しにあてがうと、どこで調べたのか知らないけど私のサイズにピッタリ合う。無論下着もサイズぴったりだ。ちょっと怖い。

 

「……私物これだけ?」

 

 板みたいな端末を机に置き、衣服をクローゼットに放り込む。

 もう少し何かないかと箱を調べているとまた何か出てきた。

 白とピンクのノートパソコンのようなものだ。しかし普通のそれではない。

 軍用コンピュータというのか、分厚い。

 

「……パソコン?」

 

 ずいぶん使い込んであって、妙な懐かしさもある。

 アムロの使っていたパソコンだろうか?

 それを開くと、「同期中」と書かれた未来的な表示が出る。

 

「それ、アムロんちから持ってきたのよ」

「へ?あ、フラウ」

「それと、ほら、お友達を忘れちゃ駄目よ?」

 

 開きっぱなしの扉からフラウが私に声を掛ける。

 なるほど、アムロの家から私のパソコンを持ってきてくれたのか。

 つくづくいい子やでこの子……。

 

「友達」

『アムロ、フクキテル、フクキテル、ヒサシブリ』

「わわわっ!?」

 

 ななな……!?緑の玉が喋ってる!?まとわりついてる!?

 

「あ、ハロ、ね?」

「ハロ……?……!っごめんね。無事だったんだ」

『サンキュ。アムロ、ハロ、ゲンキ』

「良かったわねハロ。もう放しちゃ駄目よ?」

「うん、ありがと。フラウ」

 

 そ、そうだ。この子はハロ。市販のお喋りおもちゃだ。

 でもアムロが改造して手足付けてアレコレした。アムロの友達だ。

 ……フラウに怪しまれる前に思い出せてよかった……。

 

「じゃあ、私も休むわ、もう遅いから」

「あ、待ってフラウ」

「ん?」

 

 私はフラウを呼び止める。

 

「フラウ・ボゥ」

「どうしたの?アムロ」

「ありがとう」

 

 改めて、私はフラウに礼を言う。元のアムロはフラウに迷惑をかけっぱなしだったらしい。

 客観的にアムロの記憶を覗いて初めて知った。

 それなのにこの子は私を見捨てず、こうして世話を焼いてくれている。

 私は感謝せずにはいられなかった。

 

「?……変なアムロ」

 

 しかしフラウは首を傾げて部屋を出ていった。

 この子にとって無償の愛は当然のことなのか……。

 アムロが男だったら絶対結婚してるよ。

 ……そういえばアムロ、ガンダム終わった後何してたんだろう。

 

「……」

『アムロ、ドウシタ、アムロ』

「ハロ?」

『キョウハ、オシャベリダ』

「……そうなの?」

 

 人間は騙せても、機械は騙せないみたいだ……。

 ハロはコロコロと転がり、フラフラと左右に揺れる

 ……どんな技術なんだろう。

 

「……ねぇ、ハロ」

『ナンダ?』

 

 私はハロを持ち上げ、ハロの小さなLEDの目を見る。

 相変わらず初めて触ったのに妙な懐かしさを感じる。

 これもアムロの記憶の影響なのだろうか。

 

「私、これからどうなるのかな?」

『コレカラ?』

「うん、こうやって宇宙に行って、こんな怖い思いして」

『……』

「私、どうなっちゃうんだろう……」

『ゲンキダセ、アムロ』

 

 ハロが肩?か何だかわからない部分から手を出し、私の頭を撫でた。

 機械の手なのになぜか柔らかく、優しい撫で方だった。

 そしてその励ましすら、私の記憶にない懐かしさ……。

 

「ごめんハロ」

 

 無機質な声、無機質な撫で方、それなのに暖かさを感じる。

 機械的な暖かさという矛盾と、ハロの不思議な可愛さ。 

 なんだか辛い気持ちが和らぎ、私から笑顔が溢れた。

 

 フラウも優しいけど、アムロ的にはハロといるほうが癒やされるのかな?

 胸のモヤモヤがフラウといるときよりもスッキリした気がする。

 

『キニスルナ、アムロ、ノウハレベル、カイフク、エッヘン』

「ありがと」

『モウヤスメ…ツカレテル』

「うん、部屋は後で片付けるわね」

『……ヘンナアムロダ』

 

 え、何で?

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「パプア補給艦を2隻?」

『そうだ、ザクは4機。3機はF型、1機はS型だ』

 

 信じられん、伸び切った戦線でさらに枯渇した物資だと言うのに4機もザクを渡すとは。

 それほどドズル中将はこの作戦の成否に敏感なのか。

 

「それで、人員は?」

『コム・スェル二等兵、ジョー・クロウ一等兵、ベッダ・クラウン伍長の3人だ』

 

 3人?じゃあS型は誰が乗るんだ?

 

「揃いも揃って新兵か……了解」

 

 少佐はわざとなのか、ドズル中将の前で毒を吐く。

 

『ファルメルは潰すなよ。だがザクはいくらでもくれてやる』

「はっ」

『シャア。連邦の機密を手に入れろ。それで戦争は終わる、いいな!』

「了解」

 

 俺も少佐の横で敬礼をする。「おう」とドズル中将が言うと、通信が途切れた。

 相変わらず図体がでかい上に横暴な人だ。

 

「ドレン、パプアとの合流地点は」

「パプアはすでに到着しております。両舷コンベアソケット、スタンバイOKです」

「良いだろう、到着次第すぐに補給作業を開始する」

 

 木馬と通称される連邦の艦艇、シャア少佐の目論見では既に奴はこちらにザクの残りがないことに気付かれているらしい。

 となると、補給の時間は20分も残されていないはずだ。

 ……その上で補給物資を搬入、しかもパプア二隻分……ん?待てよ、パプアが二隻でザクが4機?

 

「シャア少佐、妙です」

「どうした、ジーン」

「ドズル中将はパプア2隻にザクを4機しか用意しなかったのでありますか?」

「もう一隻のパプアには試作兵器を積み込ませてある。ドズル中将からのプレゼントさ」

「試作兵器……でありますか?」

 

 シャア少佐は、サブモニターを操作し、その図面を表示させる。

 巨大な……大砲?

 

「ソア・キャノン、M.I.Pが開発中だった施設用特殊兵器だが、途中で開発が頓挫したものだ」

「ソア・キャノン」

 

 俺は図面を確認する。長距離射程の実弾兵器……所謂巨大レールガンらしい。

 トリガーとグリップ、姿勢制御スラスターなどを装備し、MSでも使用可能になっている。

 エネルギーパイプを艦艇とMSに繋ぎ、エネルギーをチャージすることで初めて発射できる限定兵器だ。

 

 しかしその射程距離はゆうに10万キロを超え、完成時には地球から成層圏の敵を狙撃可能になるらしい。

 至近距離で直撃した場合は、マゼラン級戦艦を3隻貫けるほどの威力があるそうだ。

 

「……少佐」

「何だ」

「……これはちょっと過剰すぎやしませんか?」

「デメリットが山積みの無用の長物を押し付けられただけに過ぎん。しかし使えるものは使うさ」

 

 ……まぁ、開発が頓挫したのはそれなりの理由があってのことだろう。

 耐久性に関してはすべて秘匿されているようだ。

 いわくつきであることには間違いない。

 

「……どう使うつもりで?」

「その時が来たら貴様に使わせるつもりだ、発射方法を頭に叩き込んでおけ」

「はっ!」

 

 そう言って少佐は図面と同封の発射マニュアルを端末にコピーし、俺に渡す。

 俺は敬礼し、自室へと戻った。

 

「良いのですか?あの兵器は」

「手順を間違えなければいい。駄目ならそこまでの話だ」

 

 

 

 ★

 

 

 

 眠ってから何時間も経っていないというのに、叩き起こされた。

 私は今ホワイトベースのブリッジにいる。

 ブライトさんが遠くで何を言っているのか分からない言葉を喋っている。

 が、遠くだし、更に私は頭で船を漕いでいる。聞き取れる言葉も聞き取れない。

 

「ん~………………」

「ほれ!しっかりしろお嬢ちゃん!」

「ぴ!?」

 

 突然背中をドスンと叩かれて私はうたた寝状態から覚醒する。

 ビクッと反射的に後ろを振り向くと、そこにはいかにもな大男が立っていた。

 ……黄色いパツンパツンの宇宙服姿で。

 

「起きたか?」

「は、はひ……あなたは?」

「俺か?俺はリュウ・ホセイ。パイロット候補生の一人だ」

 

 パイロット候補生……?

 

「軍人さん?」

「そうよ、元々は戦闘機パイロットだったが、今回改めてガンタンクのパイロットとなった」

 

 リュウさんは、胸をドンと叩き私にウィンクをした。何だか頼りになりそうな人だ。

 でも……あの狭いコックピットに……これが……。入るのかなぁ……?

 

「……」

「これからはお前さんだけの戦場じゃないぜ。仲間との連携も、大切にな」

「は、はい。よろしくおねがいします!リュウさん」

「私語をするな!!」

 

 ブライトさんの怒鳴り声が響き、私は再びビクッとなる。

 気をつけをし、覚醒した意識でブライトさんの話を聞くことにした。

 

「……いいか?もう一度説明するぞ」

 

 有り難いです。

 

「現在シャアのムサイは、このルナツー近辺の隕石群の一つに補給艦を停泊させている」

 

 ブライトさんは、付近のモニターにその隕石と思われる図面を呼び出す。

 何ていうのか、作戦用の地図だろう。そこに変な形をした軍艦の左右に更に変な形の軍艦が止まっている図面が出てきた。

 

「ムサイが一隻……パプアが二隻か、こりゃ珍しい組み合わせだな」

 

 リュウさんが呟く。よくわからないが、これは珍しいらしい。

 私からすればこんな変な宇宙船が1個でもある時点で写真に収めたいくらいだが。

 ブライトさんがリュウさんを見てから、説明を続ける。

 

「恐らくザク以外の補給を行うはずだ。過去の事例でパプア二隻を使った補給は無い」

 

 パプア、と呼ばれる変な船の断面図をブライトさんは私に見せる。上から見たらカブトガニ。

 下から見てたらクジラのような宇宙船だ。補給艦、と呼ばれる部類の宇宙船らしい。

 その断面はザクが二股に別れた上の平べったい部分に2機ずつ突っ込まれている。

 余った部分にはコンテナを突っ込んでいるらしい。

 

「ムサイのザクの搭載数は4機が限度だ。恐らくシャアはガトル戦闘機を手放し、ザクを5機搭載するつもりだ」

「さらにもう一隻のパプアにはなにか別の補給物資が搭載されるはずだ。これも撃破しなければならない」

 

 もう一個のパプアに関しては何があるかわからないらしい。

 やばいものが載ってないことを祈るしか無いようだ

 

「それで、誰が何で出撃するのよ、ブライトさん」

 

 カイくん、いや、ダブリで私より年上らしいからカイさんが手を上げ、ブライトさんに質問する。

 

「今発表する」

 

 ブライトさんはそう言って、ファイル型のタブレットを見ながら私を指差した。

 

「アムロさん」

「は、はい!」

「君はガンダムで出撃だ。修理は完了している」

「マジ?……コホン、ありがとうございます!」

 

 父さんとホワイトベースの修理員さん凄い。

 事故起こした車みたいにボッコボコだったのにもう直したのか。

 

「次、カイ・シデン、ジョブ・ジョン軍曹、ハヤト・コバヤシ」

「はいよ」

「君達はガンキャノンに搭乗してもらう。いいな?」

 

 カイさん、ジョブジョンっていう金髪の人、それとハヤト君。

 彼らはガンキャノン……あの、赤いのに乗るらしい。

 三人はびしっと敬礼をした。 

 

「ダニエル・シェーンヴェルク伍長、リュウ・ホセイ曹長」

「はっ!」

「おう!」

「君たちはガンタンクで後方援護だ、任せたぞ」

 

 金髪のダニエルさんって人と、さっきのリュウさんが敬礼する。

 ……。

 

「あっ、忘れてた」

 

 私も敬礼した。

 ブライトさんが続ける。

 

「残りの戦闘員は各砲座で待機、作戦開始は1500とする」

「ひとごーまるまる……?」

「15時だよ、軍隊ではそう言うんだ」

 

 ハヤトくんが私に説明してくれた。ハヤトくんも小さな宇宙服を着ている。

 色はリュウさんと同じだ。それにカイさんも同じ様な服を着ていた。

 ……私が寝てる間、みんな訓練してたんだろうな。

 

「発進まで20分しかないが、事は一刻を争う。作戦開始まで各員準備するように。以上だ!」

「りょ、了解!」

「リュウ、アムロにノーマルスーツを用意してやれ。女性用だぞ」

「了解!アムロ、ついてこい」

 

 ブライトさんがリュウさんに指示するとリュウさんが私の手をグイッと引っ張る。

 

「わ、ちょ!?」

 

 凄まじい力で私はパイロットの部屋へと連れて行かれてしまった。

 誘拐される人ってこんな感じなんだろうな、とリュウさんに対して失礼なことを考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「悪いなぁアムロ。俺に女性用って言われても分からなくてよ…」

「いえ、良いんです……あ、これぴったり……?」

 

 ノーマルスーツ、と呼ばれる宇宙服。シャアが着ていたのもそれらしい。

 私が今あてがっているのは白いノーマルスーツだ。

 

「ん、まぁ、とりあえず着てみたらいい、俺は外で」

 

 リュウさんは私にそれを渡すとそそくさと出ていった。

 ……まぁ、居てもらったら非常に困るけど。

 

「……んしょっ……」

 

 リュウさんの説明によると、ノーマルスーツを着る時は専用のインナーを着るらしい。

 人によっては下着、マニアックな人だと何も着ないらしいが、人によるそうだ。

 私は安全性とか色々考慮して、やっぱりその専用のインナーとやらを着ることにした。

 

 女性用のはスポーツブラと、何やら機能的なショーツだ。

 

「……何これ……ま、いいか」

 

 そのインナーを着用して、改めて白いノーマルスーツを着る。

 かなり薄手の宇宙服だ。上下が一体になっていて、着るのは割と簡単だ。

 ファスナーを締めると同時に体がきゅっと締まり、一気に体のラインが出る。

 

「うわぁ~……あ~……」

 

 痩せててよかった。 

 

「よ……変なとこないよね?」

 

 一通り着終えた私は、鏡の前に立ってくるりと一回転した。

 変な部分はないし、ダボついてる部分もない。

 ……体のラインが思い切り出るのは結構恥ずかしいが、仕方ない。

 出ないようにする方法もないだろうし、慣れれば大丈夫だろう。

 

「で、これがヘルメットっと」

 

 出口近くにヘルメットが大量にかけられていた。白、黄色、青、変な黄土色と分けられている。

 私は白のヘルメットを被り、リュウさんの元へと戻った。

 

 

 

 

 

「リュウさん!これでいいですか!?」

「お、戻ったか、どれどれ……?」

 

 リュウさんはまじまじと私のノーマルスーツを見つめる。 

 すると、リュウさんはすかさず首元のファスナーに手をかける。

 

「へ?」

「あー、やっぱり気密が保たれてないな。首の内側にもう一つファスナーがあるんだ」

「ん~?……えっと……あ、これ?」

「出撃前に内側のファスナーを締めにゃいかん、宇宙じゃ締められんからな」

 

 首元に指を入れ、ぐいっと引っ張る。内側のファスナーが確かに開いていた。

 

「よっと……」

 

 ギュッ、と今度こそしっかりとノーマルスーツを着て私はヘルメットを被った。

 するとヘルメットと首がしっかりと密着し、カチッと音が鳴る。

 

「よし、これでしっかり密閉された。外す時は顎の留め具をしっかり抑えて真上に引き上げれば取れるぞ」

「……こう?ぷぁっ……」

「そう。被る時もその留め具を意識して被ればいい」

「なるほど……ありがとうございますリュウさん」

 

 このヘルメット、通信機から宇宙での音認識機能、更に軽量化までされてるらしい。

 バイクのヘルメットよりも軽い。被り物なのに窮屈さも頭の重さも感じない。

 

「軽いですねこのヘルメット」

「軽さ重視したせいでもろくなっちまったらしいけどな」

「え、こわっ……」

 

 宇宙服のヘルメットが脆いのは問題じゃないの……?

 その疑問はブライトさんの出撃命令と一緒に消えてしまった。

 

『時間だ、アムロ、行けるか!?』

 

 壁のモニターにブライトさんの顔が映し出される。

 リュウさんは返答用のボタンを押した。

 

「アムロはオーケーだ!」

「はい!大丈夫です!着れました!」

『よし、他のパイロットは配置についている。すぐに搭乗しろ!後3分で発進だ!』

「了解!」

「わかりました!」

 

 リュウさんが親指を立てて私の背中を押す。

 私も笑顔を見せて親指を立てた。

 

 

 

「アムロ、遅いぞ。ノーマルスーツはどうだ?」

「父さん、ガンダム直ったんだ」

「ああ、ここのクルーは皆優秀でな。本来ならプロトタイプを出す予定だったが」

 

 そう言って父さんは私のヘルメットの右耳部分をかちっと動かす。

 するとヘルメットのバイザーっていうんだろうか?それが閉まった。 

 そうか、顔をカバーしないと。さっきの状態でうっかり宇宙に出たら窒息してしまう。

 緑色のバイザーだが、私からは色がなく、視界もクリアだ。

 

「ありがと、父さん。じゃあ行ってきます!」

「ちゃんと戻ってくるんだぞ」

 

 私はガンダムのコクピットに座り、シートベルトを締める。

 父さんが離れたことを確認してからハッチを閉め、ガンダムを起動させた。

 トンッという軽い音が鳴り、ブゥゥウウン……とエネルギーがガンダムに満ちる。

 

「よし……ガンダム起動しました!」

『よし!ハッチ開け!ガンダム発進後、ガンキャノン順次発進!』

『カタパルトへ!』

「了解!」

 

 私は整備士さんの通信を聞き、さっき使ったカタパルトっていうのに乗る。

 すると通信が入った。

 

『アムロ、聞こえて?』

「!あなたは……!?」

 

 コロニーに居た時、シャアに蹴っ飛ばされてた金髪の人だ。

 ヘッドホンとマイクを耳につけている。……指示する人になったのかな?

 ……オペレーターだっけ?

 

『今は驚かないで、いい?敵に近づいたら指示を待たずに攻撃なさい。時間との勝負よ』

「は、はい」

『ガンダムの武器をすべて活用しないとシャアに勝てないわ。冷静にね』

「わかりました!えっと……」

『セイラよ。詳しい自己紹介は帰ってからにしましょう』

 

 そう言ってセイラさんは「発進、どうぞ」と力強く言う。

 私はガンダムの重心を下げる。

 

「ガンダム……行きます!!」

 

 シャア……今度こそ勝つ……!今度こそ漏らさずに生き残る!!

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・シャア、MS用に小型化したソア・キャノンを受領

次回からガラッといろいろ変わります、多分


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敵の補給艦を叩いてシャアを引っ張り回せ!

『うぉぁああああああ!!!???』

「ちょっ!カイさん!?」

『うわぁああぁあぁぁああ!?ハヤト!どけ!どけぇええー!!!』

 

 ガンキャノンが体勢を思い切り崩しながら僕に向かって飛んでくる。

 アムロの父親の基本操縦シミュレーションを受けたとは言え、僕たちは不慣れなパイロットだ。

 シミュレーションの射出と実際の射出にこれほどの違いがあるとは思わなかった。

 

『カイ!操縦桿を後ろに引け!』

『んぬっっ!!』

「わぁああーー!!!」

 

 パイロット候補生のジョブさんの指示も虚しく、僕とカイさんは思い切り衝突した。

 コクピットのモニターに一瞬砂嵐が映り、体勢が崩れる。

 数秒の浮遊感の後、僕とカイさんのガンキャノンは隕石の地表に倒れ伏す。

 

「うっ……!か、カイさん、何やってんです!」

『ばかやろぅ!!お前がさっさとどかねぇから!』

『お前たち!しっかりしろ!早く起き上がれ!』

 

 接触回線のせいで、カイさんの怒鳴り声がより鮮明に聞こえる。

 ミノフスキー粒子というものがが非常に濃いせいで、

 どの機体に誰が乗っているのかわからないほど通信状態が悪いのだ。

 

「……アムロは?」

『知らねぇよ、先に行ったんじゃねぇの!?あのお姫様は!!』

「そんなに怒らなくても……」

『っせぇ!…………起きろって……のぉ!』

「このモビルスーツ……重いですね……!」

 

 僕とカイさんのガンキャノンがゆるゆると起き上がる。

 宇宙空間の低重力のせいでただ起き上がるだけでも一苦労だ。

 こんな中で、しかも女の子のアムロは戦っていたのか。

 

『ふたりとも起きたか!?アムロはここから数km進んだ場所で待機させている、急ぐぞ!』

『へいへい、パイロット候補生様のご指示のとおりに』

「カイさん、いちいち文句を言わないで!行きますよ!」

 

 ジョブさんのモニター越しの顔がカイさんの軽口一つに付き1段階ずつ険しくなっていく。

 この顔が般若の形相になるまであと何段階あるのだろう?

 そう考えながら手のビームライフルを両手で持ち、訓練した通りの飛行を行う。

 敵の監視内で土煙を上げると発見される恐れがある。相手は戦艦だ。目視員に発見されると一気に攻撃体型に移行するだろう。

 

 そうならないように推進剤を節約し、慣性で飛行する。

 

『ジョブ・ジョンさんよ』

『……何だ?』

『アムロはどうだい?名前は男らしいけどよ』

『……はぁ?』

「カイさんっ!」

 

 またしても軽口だ。2年留年して17歳。もはや青年に片足を突っ込んでいるとは思えない男だ。

 素行不良で留年したと聞くが、本当にそうだろうか、この緊張感のなさは学も……。

 

『何だいハヤト、お前はもう脈なしだろ?』

「それはカイさんが無理やり!」

『っ…いい加減にしろ!!ここは戦場だ!与太話は帰ってからやれ!!』

 

 ……こんな男を戦場に出してよかったのだろうか?

 そんな思考が頭をよぎる。

 カイさんはヘコっと頭を下げて通信を切る。

 

『全く……!』

「すみません……」

『いや、気にするな、そろそろアムロとの合流地点だ』

 

 ジョブさんがそう言うと、隕石のクレーターの影に片膝で立っているガンダム。

 そのガンダムの手元には、ふわふわと宇宙遊泳を楽しんでいる白いノーマルスーツを着た女の子が居た。

 アムロだ。いつも暗い顔をしているあのアムロとは違い、純粋な顔をしている。

 

 いつも見ている、というわけではないが、ザクがサイド7を襲ってからアムロの様子が変だ。

 口数が少なく、世話焼きのフラウ・ボゥが人前でアムロを怒鳴りつけるほど無愛想な子だったのに。

 父親の前では屈託のない笑顔を見せ、まるで宇宙を知らないような反応も見えた。

 

「……」

『おーおー、まるで人魚姫だ』

『あの子……宇宙は初めてなのか?』

 

 アースノイドとは言え、アムロもサイド育ち。宇宙を泳ぐなんて珍しいことじゃない。

 しかしアムロは……。

 

「カイさん……アムロ、やっぱりおかしいですよ」

『……あん?』

「だってカイさんも知ってるでしょ?アムロの宇宙嫌い」

『……あー……そういや……』

 

 アムロの女の子友達は宇宙船技師の娘だ。

 機械好きのアムロはその仕事の見学に連れて行ってもらったが、

 その時借りたノーマルスーツの酸素発生器が故障してた事があった。

 あの事件は学校でも大騒ぎになり、あれ以降アムロは宇宙船にすら嫌悪感を感じていた。

 

「……吹っ切れたのかな?」

『そうかもよ?』

 

 そんなアムロが宇宙を泳いで星を眺めている。

 確かに地球で見る星よりも綺麗だけど……しかし……。

 

「……」

『アムロ、合流した。作戦行動開始だ』

『あ、はい!ガンダム起動します!』

『宇宙遊泳はどうだったよ?アムロっちゃん』

『え……?あぁ、やっぱり地球とは違います。何だろ……幻想的です』

 

 どこか変だ……。

 

 

 ★

 

 

「っと……よし」

 

 コクピットを閉め、ガンダムを起動させてバイザーを上げる。

 はじめての宇宙遊泳だったけど、生まれて初めての感覚は言葉では言い表せないものだった。

 宇宙では星が星の形をしていない。地球で見る星とはぜんぜん違うものだ。

 太陽の反射で光る星もあれば、隕石の形をして光らない星もある。

 そして、その光っている星も瞬いていないのだ。しっかりと形を保って光っている。

 

「すごかったなぁ……」

 

 夜空の中に私がいる。それを感じた。

 そして今、その夜空を戦いで汚す。

 

『アムロ、俺達はこの場で待機して補給艦を狙う』

「はい。私はこの、地図の所に行けばいいんですよね?」

『そうだ。急いでな、俺達はリュウさんとダニエルのガンタンクの到着と同時に攻撃だ』

 

 コクピットの左モニターにタイムリミットが表示される。

 そして正面モニターに進行コースが投影された。このマークに沿って進めばいいわけだ。

 私はガンダムの操縦桿を押し、ペダルを踏む。

 お尻の下からダゥーン……と低い音が響き、ガンダムが宇宙を進む。

 

『お前は到着次第指示を待たずに攻撃しろ!いいな!』

「はい!」

 

 ガンダムが赤い機体、ガンキャノンから離れる。すると間もなくして無線が途切れた。

 何だかこの星妙に電波が悪い。出撃直後に少し待てと言われた時はぎりぎり聞き取れたけど。

 少し離れるだけでコミュニケーションもまともに取れないとなると、味方を撃つ可能性がある。

 ガンキャノンの色、シャアと同じ赤色だし。

 

「気をつけなきゃ…………っ!」

 

 グッと操縦桿を握り、スラストペダルを思い切り踏む。

 体が椅子に押し付けられ、ガンダムのスピードがさっきの数倍になる。

 ガンダムの操作に慣れないことにはシャアには勝てない。

 シャアはあの緑のザクを赤く塗っただけの機体で私を虐めた。ハンデはシャアにある。

 それなのに私はアイツに勝てなかった。

 

「っつぅう……!ぐっ!!」

 

 星のクレーターに沿って進むだけ。それなのにガンダムの制御ができない。 

 これでも、出力メーターの半分も出していない。このガンダムの本気の半分も出ていないんだ。

 それなのにこのスピード……時速1400kmのスピードを叩き出している。

 

「飛行機以上……まだ出るのこれ……!!?」

 

 更にスラストペダルを踏み込む。コクピットのメーターが3分の2くらいのところまで跳ね上がる。

 それでもガンダム自身にまだ余裕があるように見える。揺れるコクピットの中で速度計を確認する。

 5800km……ざっとマッハ5ってことだろうか。

 

「~~~~~ッッッッッ!!!!」

 

 声が出ない。恐怖を感じた私は操縦桿を思い切り後ろに倒し、ペダルを離す。

 するとガンダムは自動で姿勢を変え、足を前に突き出して仰向けになる。

 勝手に背中と足のジェットを吹かして減速した。

 

「っ!はぁっ……はぁ……!?」

 

 減速して速度を落とした私は、息を整えて前のモニターを見る。そこはちょうど目的地だ。

 コクピット左のタイムリミットはまだ数分以上残されている。

 少々早く来すぎたが、指示を待つなとの連絡だ。

 

「武器は……ビームライフル、ビームサーベル、頭のバルカン砲」

「まずは……安全装置外して、初めの一発を撃てるように……と。これだっけ」

 

 武器を確認し、右手のビームライフルを見る。

 操縦桿のボタンカバーを外し、黄色いボタンを押す。するとビームライフルの中心がピンク色にぼんやりと光った。

 それと同時に操縦桿のグリップの色々なボタンがせり上がり、すべてのボタンを押せるようになった。

 ボタンを押す順番や組み合わせで武器を捨てたり、特殊な動きができるようになる、らしい。

 

「よし。行こっ!!」

 

 ガンダムを上昇させて、クレーターを覗き込む。

 

 

 たしかにブライトさんの説明通りだ。左右にカブトガニ。真ん中に緑の戦艦のようなもの。

 近くには緑のザクが4機。赤いザクはまだ居ない。

 まず狙うのは……青いカブトガニ、パプアだ。

 

「よっ……」

 

 コクピット右後ろの代わった望遠鏡を覗く。これで狙いを定める。

 よくある狙い定めるマークがカブトガニの甲羅を狙う。

 私をそれをよく覗き込んで、発射ボタンを押した。

 

「っ!」

 

 ビームライフルの発射音がコクピットに響き、ピンク色の光が真っすぐ飛んでいった。

 その光は青いカブトガニを貫き、それと同時に爆発の音が遠くから響く。

 パプアの一部が爆発すると同時に、私に向けて銃弾がたくさん飛んできた。

 

「わっ……!!……あれ?」

【敵襲だ!撃て!撃て!】

【駄目だ!太陽を背にしてやがる!何も見えない!】

 

 ザクが一斉にこっちを狙って撃っているようだ。

 しかしその射撃は明らかに私より下手で、じっとしていても当たらない。

 もう一発、いやそれどころじゃない、もう3発はこの場で撃てそうだ。

 

「一気に大爆発させてやる!」

 

 右部分、左部分を狙い、ビームライフルを放つ。

 光の矢が狙ったところを居抜き、爆発に続く爆発を起こした。

 その時、銃弾の一発がガンダムに当たる。

 

「っと」

 

 ガンッ!と鈍い音が響き、攻撃を受けた部分と、攻撃を受けた方向をモニターに小さく表示させる。

 緑色のザクの一機が私に攻撃を当てたようだ。

 それと同時に他のザクも私を見つけ、正確な射撃を行う。

 

「撃ってきた…!盾、こう!」

 

 ガンダムの左手の盾を私の目の前に持っていく。大きな盾でガンダムの殆どの部分をカバーできるものだ。

 盾を構えた状態の視界は良好だが、このままでは撃つことが出来ない。

 私はこのまま急降下し、星の地表部分に着陸する。着陸もまた自動で、これまた便利な機能だ。

 

「ザクは4機……。多い……」

 

 ガンガンっと盾が銃弾を受ける中、ガンダムの首を動かし、右手のビームライフルを腰に取り付ける。

 そして、右手に背中に取り付けられている白い棒状のものを持つ。

 

「でも……」

 

 白い棒状のものを起動させ、私は私自身の記憶が覚えているガンダムの武器。

『ビームサーベル』を起動させた。ピンク色の刀身が現れると同時にザクたちが一瞬たじろいだ。

 ザクはビームサーベルを初めて見るのだろう。そりゃそうだ。私も初めて出したんだから。

 

【なんだ!あの武器は……!】

【連邦軍の格闘兵器……!?】

「動揺してる。今なら!」

【く、来るな!!来るなぁ!!】

 

 スラストペダルを思い切り踏み込み、ザクの集団に向けて突撃する。

 しかしザクはひるんだのか動けない。私は腕を前に突き出しザクに向けてその光の剣を、

 

「っでぇえい!!」

 

 超スピードで突き刺した。

 ビームという高熱はザクの胸を溶かし、まるで肉に包丁を突き立てるような抵抗を見せる。

 しかしあっという間にビームの刃は根本まで入り、サーベルはザクを突き抜ける。

 ザクと衝突した私は事故を起こしたかのような衝撃を受け、ガンダム自身もザクを貫いた状態で停止した。

 

「うっ……!!」

 

 傍から見たらヤクザの下っ端が突撃して敵に包丁を突き立てたかのような絵面だ。

 そんな任侠映画のワンシーンのような体勢を解き、ザクを蹴飛ばしてビームサーベルを抜く。

 他のザクの3機は銃を私に向けたまま動かない。

 

「次は……」

『アムロ!上だ!!!』

 

 突然ハヤト君の声がノイズ混じりに響く。

 とっさに上モニターを見るが遅かった。赤いザクの1つ目が光り、踵落としが炸裂する。

 

「ぐぁ!?っ……」

【どうだ!……これも凌ぐか】

 

 そのままシャアのザクは宙返りし、またしてもコクピットに蹴りを入れる。

 ベルトが締め付けられ、吐き気を催す感覚が私を襲いながら、ガンダムはノックバックする。

 

「うっ……ふぅ……ふぅ……シャア!」

 

 よろめいたガンダムを立たせ、ビームサーベルをシャアに向ける。

 するとシャアのザクは腰に取り付けられていた斧に手をかけ……

 

【甘い!】

「え……?」

 

 ると思ったらそのまま突撃してきた。

 ザクの肩のトゲがコクピットに大きく映し出される。

 こんな棘付きの球体が私に突き刺さったら……死ぬ!

 

「嫌っ!!」

【おおお!!】

「ぐ、ぐぅうう!!??」

 

 とっさに盾を前に出し、シャアのタックルを受け止める。

 シャアは私をそのまま突き上げ、地表に立っていたガンダムを宇宙空間へと誘う。

 

「シ、シャア!」

 

 私はビームサーベルを仕舞い、左側のレバーのボタンを押す。頭部バルカン砲だ。

 シャア相手に銃はまず当たらないだろうが、さっきから近いところに居るシャアと距離を取らないといけない。

 ビシシシッと放たれた銃弾はシャアのザクの左肩に命中し、シャアとの距離が開いた。

 しかしシャアのザクは元気だ。あの左右別の形をしているザクの肩……アレは盾みたいだ。

 

「はぁ……!はぁ……!!」

 

 息が上がる。ただのザクとの戦いでは絶対に感じない死の恐怖。

 色以外はほとんど普通のザクなのに、武器も今日はマシンガンすら持っていないのに。

 何故か私はシャアに勝てない。

 

「ま、負けられないの……私は!」

 

 地上からかなり離れたさっきのクレーターを見る。

 下ではカイさん、ハヤト君、ジョブジョンっていう人、リュウさんのモビルスーツが戦っていた。

 私がここでやられたら、ガンダムですら勝てないシャアが皆のところに行ってしまう。

 ザクのマシンガンで上半身だけにされちゃうガンキャノンやガンタンクは恐らく瞬殺だ。

 

 私は生唾を飲み込み盾も背中に取り付け、丸腰になる。

 シャアは倒せなくても、シャアを皆の所に向かわせない。

 

「パワー全開!!」

 

 いつもの戦術(2回目)を繰り出す。腕を前に突き出し、水平に突撃するあれだ。

 銃も剣も使える腕がないって言うなら一か八か、あの赤いあんちきしょうを……。

 ぶん殴る。

 

【何っ!?ぐぉ!!?】

 

 これで勝つ!シャア・……なんたら!!

 

 

 ★

 

 

「くそ!!」

 

 補給作業中に攻撃を受けた俺は放出されたザクの1機に搭乗していた。

 少佐が専用のザクで出撃し、白い奴を引き離した瞬間、連邦軍のMSが一斉攻撃を仕掛けてきたのだ。

 コクピットを貫かれた僚機、恐らくジョー・クロウだ。JQと呼んでやろうと思ったが、奴は白い奴の光の剣の餌食になった。

 

『ジーン伍長!少佐は!?』

「白い奴の相手だ!コム!お前は補給作業を手伝え!!パプアの残骸から少しでもムサイに積み込め!」

『しかし!ガデム大尉の指示が』

「大尉は戦死した!こうなったらザクも武装も食料も全部積み込むんだよ!」

「りょ、了解!!」

 

 パプア補給艦は白い奴の攻撃を受け、たった数発で撃沈した。

 予めザクを受け取っていなかったらザクごと潰されていただろう。

 もう一隻、ソア・キャノンを積み込んだパプアも、ソア・キャノンのコンテナを排出した時点で連邦のMSに撃沈された。

 キャノン装備のモビルスーツも携行ビーム兵器を所持していた。あっという間に二隻目もやられたのはその所為だろう。

 

 コムもクラウンも優秀なパイロットだ。受け取ったばかりのザク3機は被弾こそしているものの致命傷ではない。

しかしムサイのエンジンの出力が上がらない上に、補給物資の積み込みもまだだ。

このまま砲火の中に晒されてはいずれ全滅する。実戦経験の少ない新兵同然の俺でもそれは分かる。

 

「クラウン!戦車もどきを狙え!俺は―」

『ジーン!ドレンだ!応答しろー!』

 

 突然ファルメル艦長、ドレン少尉から通信が入る。

 返事をする前にドレン艦長は続けた。

 

『前方F-4時点にて木馬と思われる艦艇を発見した、白いモビルスーツの寝ぐらだ、ソア・キャノンを使い撃沈しろ!』

「ソア・キャノンでありますか!?」

『既にメガ砲のジェネレーターからエネルギー供給させている。後は貴様のザクで撃てばいい!』

「しかし、エンジンの出力が上がらない今……」

『なぶり殺されたくなければ抵抗しろ!発射方法は頭に叩き込んであるな!?』

 

 俺はヘルメットの中で静かに下唇を噛んだ。

 ドレン艦長、シャアの腰巾着様は眼下にある現場すら頭に無いようだ。

 確かに艦隊戦の知識は凄まじい。シャア少佐はそれを買って艦長に任命したのだろう。

 しかし今俺達の目の間で行われているのはモビルスーツ戦だ。MBTが切磋琢磨する戦争ではない。

 ビームと砲弾が飛び交う中で目立つ飛行をするのは恐ろしいリスクが伴う。

 

「っ……了解!」

 

 しかし、目の前に正体不明の艦艇が居るというのにメガ粒子砲が撃てない現状、

 受け取ったばかりの試作兵器に頼る艦長の心境も分からないでもない。

 ふと上を見ると少佐のザクは白い奴に腰のパイプを掴まれて宇宙を縦横無尽に引っ張り回されている。

 

「!?」

 

 一瞬目を疑ったが、気を取り直し、目の前に銃口を向けていた赤いキャノン型MSにマシンガンを牽制する。

 赤い奴がひるんだスキを突き、ムサイの側面に設置されている巨大なキャノン砲「ソア・キャノン」に向かう。

 

『ジーン!』

「数分でいい!クラウン、持ちこたえろ!赤い奴と戦車の注意を引け!」

『っ了解!!急げよ!!』

「コム!補給作業は!」

『サルベージはほぼ完了!後は積込みだけです!』

「了解!後は敵を撃退してからだ!クラウンを援護しろ!」

『了解!』

 

 コムがパプアの残骸からバズーカを二丁持ってでいくのを確認した。

 その一丁をクラウンに渡す。あの赤いキャノン型も白い奴と同じ装甲を使用しているとなると、

 やつの装甲はザクマシンガンでは破壊不能。ハイパーライフルも同じく受け付けないだろう。

 俺よりも新兵だと言うのに的確な判断力だ。

 

「リグ接続…腰部エネルギーパイプパージ、ソア・ジェネレーターにパイプ接続……」

 

 発射手順を開始する。連邦のMSパイロットは素人揃いなのか、誰もこちらに目線を向けていない。

 腰の動力パイプをパージし、ジェネレーターのソケットに外したパイプを接続する。

 モニターに照準器が現れ、ムサイから届いたデータを元に射撃諸元の入力を行う。

 

「射撃諸元入力……クソ……これで合ってるのか!」

『伍長!急いで!』

「充電率80…90…!サボット装填!!エネルギー解放!!」

 

 充電率110。撃鉄を起こして照準を合わせた。

 狙うは木馬。未知の艦艇だ。照準は正面、ブリッジより下を狙う。

 発射準備完了……。

 

「ソア・キャノン発射準備完了!!照準よし!」

『了解!撃て!!』

「了解!ソア・キャノン……発射!!」

 

 引き金を引く。

 それと同時にザクのモノアイが強烈な光を発し、全身がスパークする。

 ソア・キャノンの砲身にそのスパークが伝わる。

 

「うっ」

 

 砲身が強烈な光を放つ。

 その瞬間だ。ザクのズームカメラの目の前に赤い板状の物体が見えた。

 白い奴のシールドだ。しかしそれを認識する暇もなく、ソア・キャノンが発射された。

 データ認識されて響く不完全な音と凄まじい衝撃がザクに伝わった。

 

「ぐぅっ!!」

 

 一瞬システムダウンしたのか、すべてのカメラ、センサーが消える。

 しかし間もなくして自動で再起動し、外の映像が再び見えるようになった。

 ザクのパイプは焼き切れ、手足の動作に致命的な不具合が発生している。

 しかしそんな不具合を気にしていられない異常事態が発生していることを認識するのに時間はかからなかった。

 

「あ……あぁ……!」

 

 木馬は生きている……。

 白い奴もだ。信じられない事態だ。奴はあの一瞬でシールドを構え、跳弾させたのだ。

 その証拠として白い奴のシールドは真っ黒に焦げ、端の部分は融解している。

 

『バカな……!?』

「わ……!」

『ジーン!逃げろ!!』

 

 白い奴は、盾を捨て右手のライフルを俺のザクに向ける。

 2つ目が光り、ライフルの銃身からピンク色の光が見えた。

 もう脱出することなど出来ない。手足も動かず、動力パイプが焼ききれているせいでスラスターも動かない。

 

「シャア少佐!ドレン少尉!!助けてください!!!死……」

『ジーン!!』

 

 腰部動力パイプを損傷した少佐のザクが白い奴に突撃する。

 一瞬照準がぶれたが、奴のライフルが俺のザクに向けて発射された。

 目の前がピンク色に染まる。

 

「あ……あぁああーーーーー!!!!!!!!」

 

 コクピットの光が消え、コンソールや操縦桿、あちこちが爆発する。 

 その光景を最後に、俺の目の前は真っ暗になった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「はぁ……!はぁ……!!」

 

 今の感じは何だったんだろう。

 シャアを引っ張り回してボコボコに殴っている間、

 一瞬嫌な予感がしてホワイトベースの目の前で盾を構えた。

 

「今の……何?」

 

 その瞬間、信じられないような衝撃が走り、意識が飛んだ。 

 そこからは完全に無意識だ。ぼーっとしているのにも関わらず盾を捨て、

 目の前、かなり遠い位置にあるザクに向けてビームライフルを撃ったのだ。

 シャアのザクが邪魔して壊れはしなかったが、あのザクが構えていたでっかい大砲をぶっ壊した。

 

「……私がやったんじゃない……今の何……?」

 

 操縦桿を握り、私は呆然とする。

 ガンキャノンとガンタンクたちは弾が切れたのか何もしなくなっていた。

 目の前の戦艦はエンジンを始動させ、壊れたザクとちょっとだけの荷物を持った生き残りのザクたちが戦艦に入っていく。

 シャアのザクもいつの間にかいなくなっていた。

 

「私も……生きてる?」

『アムロ!聞こえるか!補給艦の破壊に成功した。帰還してくれ!』

 

 ブライトさんの声がノイズ混じりに響く。

 私は自分でも違和感を感じるほど細い声で「はい」と返事をした。

 

「あ……ブライトさん……荷物は?」

『シャアは十分な補給が得られず、ザクだけ受領して去っていった、シャアの撃破には失敗したが作戦成功だ』

「そう……はぁ……良かった……」

 

 私はコクピットの中で深い溜め息をつき、操縦桿から手を離してシートにもたれかかる。

 またしても死ぬところだったけど、また生き残ることに成功した。

 それに何を食らったのか知らないけど、ホワイトベースの皆も守れた。

 

『ようアムロ、俺達の活躍見たかよ?ムサイに数発当てて補給艦をぶっ潰したんだぜ?』

「カイさん……ええ。見てました、すごかったですよ!」

『ニヒヒっ初陣で大金星ってトコだな』

『カイさん、調子に乗りすぎですよ!ほとんどジョブさんとリュウさん達の戦果じゃないですか』

『っせぇ!言ったもん勝ちなんだよこういうのは!』

 

 通信モニターにカイさん、そしてハヤト君の顔が表示される。

 それにリュウさん、ジョブ・ジョンさんの顔……それと、もう一人……この人だれだっけ?

 とにかく皆無事みたいだ。

 

「皆無事ですね?良かった……」

『へへ、アムロちゃんのご活躍も照覧いたしましてよ』

「カイさんも、すごかったです」

『ニャハハっ。おだてるのがお上手ですな。アムロ嬢』

 

 カイさんは意地の悪い笑いを見せて通信を切った。

 私も通信を切り、ガンダムをホワイトベースへと向ける。

 盾を壊しちゃった。父さんに怒られないか心配だ……。

 

「……それと……」

 

 うん、こっちは大丈夫みたいだ。シャア相手によく戦えたと思う。

 

「さっさと帰って寝よ……」

 

 私はガンダムをホワイトベースに入れ、元の場所に戻した。

 

 

 

 ★

 

 

「ジーンの容態はどうだ」

「重傷です、病院船に搬送しますか?」

 

 メガ粒子の直撃こそ避けられたものの、ザクは大破。ソア・キャノンも完全に破壊された。

 パイロットのジーンももはや五体満足の終戦は不可能なほどの傷を負わせた。

 更に補給艦2隻を撃沈。物資の搬入もままならないまま撤退を余儀なくされる。 

 ここまでの大敗は私の人生でも1度2度とないものだ。

 

「付近の補給艦は」

「木馬より大幅に離れますが1隻、地球衛星軌道上に進めば合流可能です」

「よし。そこでジーンを下ろし、改めて補給を受ける。追跡班。木馬の進路はどうか!」

「はっ、小惑星ルナツーに停泊したものと思われます、恐らく補給を受け、地球へ降下するものかと」

 

 私は頷き、今後の木馬追跡のプランを考える。

 現状S型ザクを一機大破させ、私のザクも損傷している状態で攻撃を仕掛けるのは無謀だ。

 ルナツーの進軍は諦めるべきだろう。白兵戦を行うにもモビルスーツに対する対抗手段がない。

 対モビルスーツ訓練を受けていないコムとクラウンではあまりにも力不足だ。

 

「よし、本艦はこのまま地球衛星軌道上へ向かい、補給を受ける」

「了解、進路設定急げ!」

「木馬襲撃は奴らの地球降下タイミングを狙う、攻撃隊は待機。整備班、残されたガトルのペイロードに7日分の増槽を装備させろ」

 

 木馬と白い奴、次こそは必ず仕留める。

 

「少佐」

「どうした、フリーベリ二等兵」

「ジーン伍長は……この後どうなるのでしょうか?」

「ん、容態を見るに恐らく両足は切断。その後は本人の意志だ」

「……五体満足での本国帰還は……」

「無理だろう。むしろメガ粒子砲の直撃を受けて生きているのが奇跡だよ」

 

 若干16歳で志願した女性オペレーター。

 彼女は次の補給時の人員移動ででこの船を下ろす予定だ。

 指折りの精鋭部隊に新兵を数人入れることで練度向上を図る予定であったが、この現状ではいたずらに兵を死なせるだけだ。若い彼女らをファルメルに乗せるには余りにも危険すぎる。

 

「そうですか……」

「君も、次の補給艦の合流時点で降りるのだろう?」

「は、はい。前線より離れますが、地球降下部隊の一人として邁進する予定です……」

「そうか、配属先は?」

「地球攻撃軍第四地上歩兵師団……えっと、第7モビルスーツ大隊F小隊です」

「F小隊ならば偵察任務や戦闘後の捜索が主だろう」

「だと、いいんですけど……」

 

 私は肩をすぼめて怯えた様子で居る彼女の肩を叩く。

 オペレート能力に関しては非常に優秀だが、彼女はいかんせん臆病だ。

 F小隊の隊長にはその旨を伝えておきたいところだ。

 

「君は優秀だ。アン・フリーベリ。自信を持つといい」

「は、はい……ありがとうございます……シャア少佐」

「フ……ドレン、私は少し休む。後を頼むぞ」

「了解です……そこの二等兵!いつまでもくっちゃべってないで進路監視しろ!」

「は、はい!!」

 

 私はヘルメットとマスクを取り、艦長室へと向かう。

 あの白いモビルスーツを奪取するのも優先事項だが、木馬の人員についても把握しなければならない。

 ……あのアルテイシアに似た女兵士……そして、私を知っていた白いモビルスーツのパイロット。

 

「ちぃ……」

 

 特に顔も知らぬ白いモビルスーツのパイロットだ。女の声で私の名を叫び、モビルスーツで殴りかかった。

 あれはジオン兵を排除する殴り方ではなかった、まるで仇敵を殺すかのような殺意のこもった拳だ。

 ……ザビ家の関係者か、アズナブル家の子息の関係者か……。どちらにせよ厄介な相手だ。

 

「……」

 

 手元の端末のアルバムからアルテイシアの小さい頃の写真を呼び出す。

 ……ザビ家への復讐が終わったとしても、アルテイシアには会えない。

 せめて今は無事で居ることを祈るしかなかった。

 




今回のアムロの行動の結果

・ハヤト、アムロに不信感を覚える。
・ガデム、戦うことなく戦死、補給物資の大半を損失
・シャア専用ザク損傷、ルナツー襲撃断念。
・ソア・キャノン試作品大破、ジェイキュー戦死。
・ジーン負傷、負傷兵として離脱。
・シャア、アムロへの警戒心増大。

以上の結果となりました。


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寒い時代

『Aパーツ分離、内部点検入れ!』

『腕部関節重点的にチェックしろよ!』

『プロムトーチ、ルナ合金溶解終了、破損箇所はどこです?』

 

 ガンダムの整備の人たちがガンダムをエッチラオッチラと整備している。

 その中心人物は父さんだ。作業用のツナギみたいな服を着て作業員に指示を出している。

 私はそれを見ながらあまり美味しくないスポーツドリンクみたいなものを飲んでいる。

 冗談抜きで本当に微妙な味だ。体には良さそうだけど。

 

「……」

 

 父さんたちがビームライフルを楽しそうに分解している姿を見ながら私は考える。

 さっきの意味不明な動きのことだ。あの時私は完全に無意識だった。

 頭の中で一瞬光のようなものが見えたと思ったら全ての動きがスローに見えた。

 あのザクがでっかいものでホワイトベースを狙っている姿。

 シャアが私を振り解き、斧を振る姿。それらがすべてゆっくりとコマ送りのように見えた。

 

「あれは……うーん」

 

 何だろう。アドレナリンとか、何とか?

 

「アムロ」

「ん?」

 

 そんな分かるわけもない思考に耽っていると、金髪の女の人……セイラさんが来た。

 相変わらずフワッとした金髪だ……。ピンクの制服が妙に似合う。

 多分似合うのこの人くらいだろうな……フラウはもはやあれ制服に見えないし。

 ちょっと可愛い感じにしたんだっけ?あれ。

 

「見事な働きだったわ」

「セイラさん……でしたっけ?」

 

 金髪の女性、セイラさんは微笑みながら私の隣に立った。

 

「ええ。セイラ・マス、ホワイトベースのオペレーターになったの」

「そうなんですか?」

 

 オペレーター……って言うとあれだ。通信する人だ。

 今回の戦闘ではえらく電波が悪くてほとんど通信が聞こえなかったが。

 

「でも、通信なんか聞こえませんでしたよ?」

「次からは聞こえるようになるわ、今回の戦闘はミノフスキー粒子が異常に濃くて、通信設備も初期状態のままだったのよ」

 

 ……??

 みの、なんとかが凄くて、通信機が初期状態?

 つまりあれか、初期不良ってこと?

 

「へぇ……でも次からは聞こえるんですよね?」

「保証するわ」

 

 セイラさんはキリッとした顔で私に言う。

 思わず「おぉぅ」と呟いてしまうほどのキリッ感だ。

 何だろう、この人軍人さん上がりか何か?

 

「ところで、セイラさんはコロニーでは何してたんです?警察とか?」

「いいえ、医療ボランティアとして。サイド7のクロス医療センターで働いてたの」

「ボランティア?タダ働きってことですか?……いくつ?」

「17よ、あなたは?」

「……」

 

 え?え?アムロいくつ?えっと記憶を……。子供で、宇宙世紀……宇宙世紀って何!?

 まぁいいや、えっととにかく私は……15歳……15歳!?

 

「あ、15です!15!」

「?……そう、若いのね?」

「よく、言われます、えへへ……」

「……こんな子が……」

 

 アムロ子供じゃん……。いや子供が戦うからロボットアニメの主人公なんだろうけどさ。

 えー……15歳の子供に戦わせてんの?ブライトさん、と寝込んでる艦長さん……。見境なしじゃない…色々と…。

 

 そうやって色んな意味で大人にドン引きしていると、セイラさんはガンダムを見て物憂げな顔をした。

 

「……セイラさん?」

「え?あ、あぁ。ごめんなさい」

「いえ、良いですけど……あぁ、そうだ。サイド7に来る前は何処に?生まれも育ちもサイド7?」

「え?それは……」

 

 サイド7。今更ながら私が暮らしてた場所だ。あのコロニーの名前らしい。

 サイド1とか、サイド2とかもあるんだろう。多分。

 私がそれを尋ねると、セイラさんはピクッと反応し、考える。

 青い目か……。あっちこっちで色んな目の人がいてもう色なんて気にしてないけど、綺麗な色の目だなぁ……。

 

「んー……ちょっと伏せておきたい過去なのよ……ごめんなさいね」

「?……失恋でもしたんですか?」

「それも伏せさせて欲しいわ……失恋はしてないけれどねっ」

 

 セイラさんは私のおでこを指で弾き、ながら私に答える。

 まぁ、素性を明かしたくない人も居るだろうし、深く追究しない方がいいか。

 

「……そういえばこの船、軍の基地に行くんでしたっけ?」

「ええ。一旦ルナツーって言う基地に入港して、そこで避難民を下ろすらしいわ」

「避難民……」

 

 そうだ。このホワイトベースには少数ながら避難してきた人も乗っているんだ。

 少数って言っても1~2世帯とかそんなレベルではなく、学校の一クラス分は乗っているらしい。

 その避難民には孤児となってしまった子供達も居るとか……。

 

「私達はその避難民に含まれないでしょうけどね」

 

 セイラさんは自分の制服を見ながらそう言う。

 

「軍人……ですか」

「嫌?」

「いいえ」

 

 私は首を振った。手に持ったノーマルスーツのヘルメットに映る私の顔を見る。

 見知ったアムロの顔の面影を残した女の子の顔だ。歌手のアムロでもなければ名探偵のアムロでもない。

 私は女だけどアムロだ。ガンダムのアムロなんだ。

 

「ガンダムのパイロットは私ですから」

 

 それに、主人公だし。

 

「……強いのね、あなたは」

「セイラさんも」

「私が?」

「敵の兵士と生身で戦うなんて、普通できませんよ」

 

 私がそう言うと、セイラさんが一瞬驚いたような顔をした。

 それを見て私が微笑むと、セイラさんも微笑む。

 

「アムロ、死なないでね。ジオンに負けないで」

「はい」

 

 ……じおんってちょこちょこ聞くけど、敵の軍のことかな?これも覚えないと。

 

『ブライトからアムロ・レイへ。至急ブリッジへ、繰り返す』

「あら、お呼びみたいね」

「ホントだ……ちょっと行ってきます」

 

 

 

 ★

 

 

 

「来たか」

「来ました!」

 

 ノーマルスーツを脱ぎ、制服姿となったアムロは素人の敬礼をする。

 緊張しているのか、目の焦点が合っていない。

 僕は高い位置でルナツーとの進路を監視しながらブライトさんとの会話を聞く。

 

「ザクの奇襲に対する反応、見事だった」

「は、はい!ありがとうございま」

「しかし、ガンダムの扱いをもっと上手にやってもらわなければ困る」

「す……?」

 

 ブライトさんはアムロに対して厳しい言葉を浴びせる。

 しかしこれはアムロを奮い立たせるためだと言っていた。独り言で。

 どうやらブライトさん、女を叱るのは慣れていないらしい。

 影でフラウ・ボゥという避難民の女の子にアドバイスを貰っていたのを見た。

 

「は、はぃ?」

「君がシャアを上手く引きつけていれば、あのザクの迎撃に回せた、という事だ」

 

 アムロはいまいちよく分かっていないらしい。

 敬礼をしたまま首を傾げている。

 

「え、えっと……私が下手っぴって事ですか?」

「そうだ。アムロ、君はもうガンダムのパイロットなんだよ!」

「は、はい、それは、分かってますけど……でも……」

「甘ったれるな!!」

「ひっ!?」

 

 ブライトさんがアムロを怒鳴りつける。かなり鋭い声だ。

 

「君にはホワイトベースを守る義務がある!それが現状だ!!」

「……」

「乗組員もパイロットも不足している今、実戦経験が豊富な君が戦場を仕切らなければならない!!戦闘の第一人者である君がそれを分からなくてどうする!」

 

 避難民がたまたまパイロットになった彼女にそれは無茶だ。

 ブライトさんもアムロが来る直前まで頭を抱えていた。アムロの役目を別のパイロットに任せるべきか、 

 それともアムロを奮い立たせ、無理を言ってでもホワイトベースと試作兵器を守る役を任せるか。

 パオロ艦長やレイ大尉どころか、僕とマーカーにも相談してきた程だ。

 

「ぶ、ブライトさん……でも私はっ」

「君とて必死にやっているのは分かる、だがこのままではホワイトベースを守るのは無理だ」

「……」

「シャアは待ってくれないんだ。分かってくれ」

 

 アムロは俯く。歯を食いしばる様子もなく、ただ俯いている。

 

「ぶ、ブライトさん!」

 

 ミライさんが舵を取りながらブライトさんを叱るように声を掛ける。

 

「何だ」

「それじゃアムロをただ罵倒しているだけじゃない!」

「っ……素人は黙っていてくれ!女だからといって甘やかすわけには」

「それはそうよ!でもそんな言い方じゃ。たとえ男の子でも……」

「ここは軍隊だ!学校じゃない!」

 

 マーカーがこちらを見た。僕は両腕を広げ、肩を少し上げる。

 マーカーも同じ反応だ。これは明らかに失敗だ。奮い立たせるどころかアムロの自信を失わせるだけ。

 アメとムチの使い方が下手なんだよ。ブライトは。

 

「……憎んでくれていいよ。だが」

「……!!」

 

 突然パシン!と乾いた音がした。

 アムロが、ブライトを殴った。

 左頬を腫らしてのけぞるブライトをアムロは目に涙を溜めて睨みつける。

 

「っ……!」

「……何が……気に入らないってのよ!!」

「……貴様……!」

「アンタじゃ動かせないくせに!!」

 

 歯を食いしばり、思わず手を上げるブライトをアムロはもう一発殴る。

 今度は右の頬に平手をぶつけた。ギリギリと歯を食いしばる音が聞こえる。

 アムロちゃん、本気で殴ったな。

 

「ガンダムは私が乗るのよ…!!」

「……アムロ!貴様!」

「じゃあ強くなってやるわよ!!馬鹿!!!!」

 

 そう吐き捨て、アムロは部屋を去っていった。

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 

 数粒の涙が浮かぶブリッジは、息をするのも嫌になるくらい静かだった。

 

「……あ、あー!ブライトさん、ルナツーが見えました」

「……~~~……」

 

 話題を変えようと僕はレーダーに表示されたルナツーを手モニターに出す。

 それを見たブライトさんは、咳払いをして艦長椅子に座った。

 しかしブライトさんはあからさまに不機嫌で、頭を掻いている。

 

「女のヒステリーってのは、扱い難い……!」

「感傷的な子なのよ、15歳っていうのは」

「ミライ、それを教えてほしかったな……おかげで二度もぶたれた」

「あら、ごめんあそばせ。でもいい経験でしょう?」

「……二度とごめんだ」 

 

 ミライさんがブライトさんの愚痴を聞く。

 まぁ……結果はどうあれアムロが奮い立ったのは良いことだろう。

 そう考えよう。

 

「オスカ、ルナツーに着陸許可を」

「了解です!」

 

 僕は少しため息をつき、ルナツーの着陸管制に連絡をとった。 

 

 

 ★

 

 

 

「……!!……!!」

 

 怒りが収まらない。廊下をフヨフヨ浮かぶハロをぶん投げ、

 小さい子供三人組の緑の服を着た子にぶつけてしまった。

 が、私は謝らない。泣きそうになった子も私の顔を見て泣き止んでしまった。

 

 本当に腹が立つ。命がけで守ったと言うのにあの言い方だ。

 あの恩知らずの白目なし、今度はどうしてくれようか。

 

「あ、アムロ……どうしたの?」

「フラウ……ごめん、なんでもない……何?」

「い、いや、ほらこれ、洗濯したから」

 

 フラウは私の顔を見て少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。

 そして私にあの時汚した私服を渡す。

 

「あ、うん。ありがと」

「……ブライトさんに怒られたの?」

「そんなんじゃない!あいつ……私が必死で……!」

「……」

「私が……!!っ……ぅ……」

 

 収まらない怒りと理不尽さが涙となって体から抜けていく。

 私はフラウの胸を借り、その怒りと理不尽さを吐き出した。

 さっきハロをぶつけた3人組が影からそれを見つめている。

 ハロもまた、私の近くをフヨフヨと浮かび、何か言っている。

 

 私はそれでも泣き続けた。こんな時、本当のアムロならどうするんだろう。

 きっと私みたいな真似はせず、真摯に受け止めていたはずだ。

 

 

 

 

「アムロ……」

「分かってる……でも……」

「ううん、アムロ、今は辛い事忘れましょ?」

「……」

 

 フラウは私の背中を擦りながらそう言う。

 もはや優しい親友というよりも、お母さんの粋に達している。

 目頭がまだ熱い。歯を食いしばるとまだまだ涙が出る。

 

 そんな時、廊下から誰かがやってきた。青い制服で長身。

 カイさんだ。

 

「おやおやアムロちゃんとフラ…………どした?」

「カイさん、今アムロは……」

「……なんかあったのかよ?」

 

 カイさんが私の近くに立ち、不審な顔で私の顔を覗き込む。

 

「……泣いてんのか?」

「……」

「誰にやられた?リュウさんか?それともハヤトに何か言われたのか?」

「……いえ……誰も悪くないです……私が未熟なせいで……」

 

 私は答える。フラウは事の経緯を軽く説明した。

 

 フラウいわく、ブライトさんの叱責はブライトさんもかなり思い悩んでいたらしく、フラウにも相談していたらしい。私をガンダムから下ろして安全に暮らさせるか、それとも私の意志を尊重してガンダムに引き続き乗せるか、どちらにせよこんな悩みを抱えさせたのは私がシャアに勝てない未熟者だからだ。

 

 しかもそんなブライトさんの苦悩も知らず、感情のままにブライトさんを殴るなんて。

 

「……ブライトってあいつか?」

「そう、ブライトさんも悩んでたらしいけど……」

「そうか……アムロ、お前はガンダムに乗りたいんだろ?」

「……」

 

 私は頷く。

 

「俺は、なんだ。その、当事者じゃねぇからよく分からないけどよ」

 

 カイさんは頭をコリコリとかきながら続ける。

 

「乗りたいなら、へこたれずにガンバったらいいんじゃねぇの?俺も頑張ってるけど、アンタの親父さんに叱られっぱなしだったぜ?シミュレーションとか、戦いが終わってもサ」

「……はい」

「……まぁ、なんだ。俺達もこれからはパイロットだからさ、訓練ならいくらでも付き合うぜ?俺が嫌ならリュウさんやジョブさん、それにハヤトも居るじゃねぇの。強くなってブライトの見返してやりゃあそのモヤモヤもスッキリするだろ?な?それにブライトも、お前が死んじまったらたまんねぇから、そう言ったんだよ。死んだらなんにもならねぇんだからよ」

 

 カイさんとはちょっとしか面識がないが、アムロの記憶ではかなり嫌な人だった。

 しかし、今のカイさんはそんな嫌な感じは一切出ていない。むしろ年上のお兄さんとすら思える。

 肩をポンポンと叩き、照れくさそうに言葉をかけてくれている。

 

「それでフラウ、アムロ、ブライトに何したって?」

「……両頬をぶったそうよ?」

「うひゃ……」

 

 叱られたからって逆ギレするのはよくない。自分自身にそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 そんな出来事があってから数時間が過ぎただろうか。

 ホワイトベースがルナツー、という所に降りたらしい。

 私はブライトさんの艦内放送を聞き、ホワイトベースを降りた。

 

 そこは何とも無機質な空間で、あちこちで何かを叫ぶような声が聞こえる。

 叫ぶ、と言ってもホラー的なあれではなく、指示する声が響くような感じだ。

 

「アムロ、整列だ、姿勢を正すんだ」

「あ……ブライトさん……あの……」

「おかげで色男になれたよ。君は良いのか?」

「はい……ごめんなさい……ブライトさん」

「過ぎたことだ。強くなってくれるなら言うことはないよ」

「……はい」

 

 両頬を腫らしたブライトさんが何故か隣に立つ。

 別にあてつけというわけではなく、Amuro、Brightの順に並ぶとこうなるらしい。

 でもちょうど良かった。隣り合って話すことが出来たし、謝ることも出来た。

 許してくれるといいけど……。

 

「……」

「……」

 

 で、並んだのは良いが、このルナツーの係員さんはいつになったら来るのだろうか。

 待てど暮らせど来ない。

 

「遅いですね……」

「あぁ」

 

 それに見回した所、父さんもいない。

 何処に行ったんだろうか。

 

『……!……!!……困ります!G-3は今後の研究のためにジャブローへ!』

『無理だと言った!ガンダムは君の玩具ではない!君はすぐにセカンドロットのガンダム開発に着手するべきではないかね!?』

『しかしG-3はまだ2号機と大差ない性能でまだ改修が!!』

『G-3の改装は我々ルナツー基地が請け負うと言っている!』

 

 いた。帽子を被った偉い人に青筋を立てて怒鳴りつけている。

 ジースリーって、確かあのバラされている灰色のガンダムだっけ?

 なんで普通にガンダム3号機って言わないんだろう?

 

「積み下ろし急げ!レイ主任!いい加減にしなければ反逆罪で拘束しますぞ!」

「横暴だ!……く……現場を知らん連中はいつもこうだ……!」

 

 父さんは地団駄を踏み、ブライトさんの前に立つ。

 しばらくして、ホワイトベースのハッチが開き、でっかいトレーラーが入っていった。

 

「G-3の引き渡しを条件に避難民の収容と補給を受けられるそうだ……パオロ艦長もここで治療を受けるらしい」

「そ、そうですか……レイ主任、ご苦労さまです」

 

 避難民とガンダムを天秤にした結果があのゴネっぷりなの……?父さん。

 

「しかし、G-3の改装プランを把握していない連中にこれをやらせるわけには……M.Cプランの完成を前提とした改修だと言うのに!!そもそも既存のガンダムすらまだ完全と言えない、フルアーマー装備にハイモビリティパック。Gダッシュ装備の計画にも着手しなければならないのに!!そもそもだ。こんな辺境の基地では全天周囲モニターの完成すら怪しいではないか!!まだレッドウォーリア計画の方が将来性がある!!」

 

 何だか激昂しているが何言ってるかわからない。

 つまりは、何が何でもガンダムを自分のものにしたいということだろう。

 手塩かけて作り上げたものを取られるのが嫌だっていうのは分かるけど、大の大人が……。

 

「ええい!納得いかん!!アムロ!来なさい!お前の操縦技術で無能共を黙らせる!」

「え!?ちょ、やめてよ!何で私まで!?」

「いいから来なさい!私達のガンダムを取られてもいいのか!」

「決定事項でしょ!?スポーツ漫画じゃあるまいし私云々の問題じゃないって!!可能性0だってば!」

「0にかけるんだよ!」

「0に何かけても0だってば!分かってよ父さん!ちょ……!誰か止めてぇ!!!」 

 

 襟首を捕まれ、父さんに引きずられる。

 嗚呼、これから父さんの力説を隣で聞いて私も同罪か……。

 

 

 ★

 

 

「……」

「……」

「……で、では、ホワイトベースクルー諸君。私がこの基地の司令官、ワッケイン少将です」

「は……はぁ……」

 

 レイ主任は自分の作品に対して異常なこだわりを持つと聞くが、これ程とは。

 普段は一般的な科学者だが、ガンダムの話になると途端にマッドサイエンティストとなる。

 娘想いとガンダムに対する愛が混ざり合い、今の主任は最早誰にも止められない。

 

 遠くでレイ主任の怒鳴り声とアムロの悲鳴が木霊する中、ワッケイン司令は続ける。

 

「あなた方は、本基地での補給作業の後、ジャブローへと向かっていただきます」

「ワッケイン司令……しかし、素人の我々だけでジャブローへ向かうのは厳しいのでは……」

「……現状、我々にも余剰戦力が無い。サイド7が襲撃された今、ルナツーは宇宙での最終防衛ラインだ」

 

 それは分かる、人員も物資も足りない今、ホワイトベースを素人に任せるのは無謀ではないか。

 ジャブローに直行するとは言え、道中何度シャアに襲われるかわかったものではない。

 それに相手は赤い彗星だ。

 

「避難民の収容だけでもいっぱいいっぱいなんだよ、今は……G-3の改修だって、本来ならばジャブローの仕事だと言うのに」

「……」

「……ブライト君。サラミスを道中の護衛につける。我々に出来るのはこれだけだ……本当に申し訳ないと思う」

 

 ワッケイン司令は目を伏せ、俺の肩を叩く。

 地上も宇宙もジオンの占領下にある現状ではこれが限界。

 そう自分を納得させるしかない。連邦軍の敗戦色が濃くなっている今、サラミス一隻を護衛に回してもらえるだけでも有り難いというのか。

 

「畜生、何が「ジオンに兵無し」だ……!」

「今の毒は、空耳として聞き流そう。私も同意見だからね、補給作業の間、束の間だが休息をとってくれたまえ」

「はっ」

「……この寒い時代、何時まで続くものか……」

 

 ワッケイン司令のつぶやきが妙に身に沁みた。

 俺は敬礼の号令をかけ、全員がワッケイン司令に敬礼する。

 そして、案内されたクルー待機室に入り、補給作業の終了を待つことにした。

 

 

 

 

 

「寒い時代、か」

 

 アムロにひっぱたかれた頬を擦り、天井に呟く。

 全くの素人である少女に戦わせた挙げ句、その少女を叱責する自分を思い出す。

 

(俺も寒い時代の人間……か)

 

 

 

『父さんもういいでしょ!?諦めてよ!!』

 

『いやまだだ!まだ基地司令官に掛け合っていない!』

 

『威嚇射撃までされたの分かってる!?止まってぇ!止めてぇ!!』

 

 

 

 レイ主任とアムロの熱い声を聞きながら、俺は少しの間目を閉じた。

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アムロ、ブライトを2度もぶった
・G-3ガンダム、ルナツーに無傷で積み下ろす
・ホワイトベース内避難民、全員下船

以上の結果となりました。


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修羅の双星

「ホワイトベース、ルナツー基地、微重力圏を離脱。衛星軌道上到達までサラミスの航跡を自動追尾します」

「よしミライ、休んでくれ。オムル、今操舵を代われるか?」

『すぐ行きます』

「オスカ、マーカー。進路上の警戒怠るな!」

 

 何やらブリッジが忙しそうだ。私は料理長のタムラさんって人に頼まれてブリッジに食事を渡しに来た。

 バスケットを開けるとまぁ美味しそうなハムとサラダのサンドウィッチだ。一つ頂いたけど美味しかった。

 ちょくちょくフラウが持ってきてくれる食事にハズレはなかったし、タムラさんはシェフか何かだろう。

 今度直接ご飯を食べに行こう。

 

「食事でーす、はい、えっと、オスカさんと、マーカーさん」

「ああ、ありがとう」

「サンキュー」

 

 高いところにいるレーダーの人、オスカさんとマーカーさん。確か金髪のほうがマーカーさんだっけ?

 そう言えば地球に行くって言ってたけど、地球に行ってからもこの二人は高いところにいるんだろうか?

 だとしたら結構危ないかも……。

 

「っと……」

「了解、速度は600を維持」

 

 セイラさんはサラミスっていう筒みたいな船と通信中だ。

 後にしようと、ブライトさんに食事を渡す。

 するとセイラさんはデスクの右側を人差し指でトントン、とした。

 

「あ、なるほど」

「周辺宙域異常なし」

 

 私はその付近にサンドウィッチを浮かせる。宇宙って便利だ。

 食器いらずだもの。

 

「……あの船、あれは味方ですよね?」

 

 私は暇そうにしてるブライトさんに声を掛ける。

 

「ああ、サラミスという船だ。巡洋艦だな」

「じゅんよーかん」

「連邦軍で流行りの船って認識で良い」

「ふーん……」

 

 軍艦についてはよくわからないが、あれが連邦軍っていううちの軍の船でよく使われる船らしい。

 ホワイトベースとは違って何だか小さくて、船っぽい感じがする。

 というよりホワイトベースが船っぽくなさすぎるんだろう。

 

「あ、アムロ!」

 

 ポケーっとサラミスを見ていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 ハヤトくんだ。

 

「ハヤトくん」

「君付けはやめてくれよ。カイさんが面倒くさがってさ。訓練しよう」

「分かった、すぐ行くね」

「僕はガンキャノンのシミュレーターを使うから、アムロもガンダムで頼むよ」

 

 カイさん、さっきは手伝うとか言ってたけど……。

 ま、いいか。とにかくハヤトくんの頼みだ。シミュレーターなら怖くないだろうし。

 私はすれ違ったアフロの人に食事を渡し、空になったバスケットを持ってハヤト君について行った。

 

 

「アムロ、宇宙は大丈夫なのかい?」

「へ?宇宙?」

「あの時の事だよ……覚えてない?」

 

 あの時……あの時あの時あの時……えっと……。

 ……宇宙で、支障がある……ん?酸素ボンベが……。

 

「あ、あぁ……酸素?」

「そうだよ、一時期異様なまでに怖がってたじゃないか」

「……まぁ、そう……だけど……でもまぁ、今は大丈夫みたい」

「……ならいいけど」

 

 廊下を二人で話しながら私達はモビルスーツが置いてあるところへ向かった。

 ガンダムとガンキャノンたちの整備は終わっている。どうやって直しているのか知らないけど綺麗だ。

 まるで新品みたいだ。

 

「ガンキャノンとガンダムのシミュレーターを使わせてくれますか?」

「ん?シミュ?はいはい、待ってなよーっと」

「よ、よろしくおねがいしまーす?」

 

 ガンダムの脇腹の回路を見てメモを取っている整備員さんにハヤトくんは声を掛ける。

 父さん以外の整備士さんだ。父さんとは違って現場作業員って感じの女の人。

 青い上着に父さんと同じ「AE」のマークが刻まれている、黒い肌の健康的な人だ。

 

「レイ主任の娘さん?」

「はい。アムロ・レイです!」

「へぇ~……あ、あたしはアニー・ブレビッグ。さっきこっちに乗船したばっかの新人だよ」

「は、はい!よろしくおねがいします!」

「あの人も中々強引だね。モビルスーツの引き渡しだけを武器に人事まで決定させるんだからさ」

 

 …………。あの時のあれか。

 G-3ガンダムの件でだいぶゴネて、黒人のすんごい偉い人に通信までしたんだっけ。

 その時にその偉い人推薦の腕利きを一人ホワイトベースに引き入れるとか……。

 

「う、うちの父がご迷惑をおかけして……」

「いいんだよ。モビルスーツが触りたくて入隊したんだ。むしろ有り難いくらいさ」

「そう言っていただけるとありがたいです……」

「どっちにしろ地球に行く予定だったしね。っと…すぐ起動させるよ」

 

 アニーさんはウィンクしてガンダムのコクピットとガンキャノンのコクピットを開ける。

 シミュレーターにはモビルスーツそのものを使ったシミュレーションと、

 ホワイトベースの備品のシミュレーションマシーンみたいなのがある。

 父さんいわくモビルスーツを使ったシミュレーターの性能のほうが良いらしい。

 どっちも触ったけど、正直どっちも変わらなかったが……。

 

「シチュエーションはどうする?」

「え?あ、じゃあ、アムロと対戦で」

「オッケー、模擬戦シミュ。フィールドは最新のルナツー近辺を呼び出すよ、ハッチ閉じな!」

 

 アニーさんがシミュレーターの制御装置みたいなのを動かしながらハヤト君に尋ねる。

 指示に従ってハッチを閉め、ガンダムとガンキャノンが起動する。

 最初はメインカメラが移した映像が出るが、間もなくしてモニターがぶつんと消え、

「Simulation Mode」の緑色の文字が浮かび上がる。

 

『ガンダムは白兵戦、ガンキャノンは中距離支援のMSだから、その辺意識しなよ?』

「はくへーせん……?」

『近距離での戦い。さ、シミュレーション開始だ!』

『アムロ、手加減はいらないぞ!』

「勿論!泣いても知らないから!」

 

 仮想空間のような機械的な線がいっぱい現れたと思ったら、ガンダムはホワイトベースのカタパルトに乗っていた。

 私は操縦桿を引き、スラストレバーを思い切り踏む。

 カタパルトが動き出し、シミュレーションの戦場へとガンダムが飛んだ。

 

 

 

 ★

 

 

 

「……シミュレーション中ですか?」

「そうらしい」

 

 アムロとハヤトという少年は練度向上の為、シミュレーターでトレーニングをしているようだ。

 アムロの実力は言わずもがな、ハヤト少年の実力も中々のものだ。ガンキャノンの性能を引き出している。

 部下は私の端末のモニターを見る。ガンダムの追加装備の案の一つだ。

 大気圏突入ユニットをオミット、外付けの換装装備にするもの。有事以外のガンダムの軽量化を図るものである。

 

「それで、この装備ですが……」

「数日でなるものではないだろう、キャパシティ分配やビームサーベルの装備位置を再検討しなければならん」

「ええ。懸念点はやはりそこですね」

「だが基本設計はこれで問題ない。データは保存しよう。地球に降りたら研究再開だ」

「了解です、ところで主任、セカンドロットの開発計画は?」 

「ルナツーの通信設備で06の案をジャブローとオーガスタに送ったよ。04と05は先に提出した企画案をもとにオーガスタが開発を進めているらしい」

 

 空間戦闘特化のG04、G05。G05の開発は概ね順調らしいがG04の開発は難航しているそうだ。

 どうもジェネレーターの出力がメガビームランチャーの発射可能出力に到達しないらしい。

 補助ジェネレーターは未完成かつ、一定以上のエネルギーを開放させるとコア部分が圧壊するとの事だ。

 

「全く、私一人では手が回らん。私自身何時までこうして研究できるか分からないと言うのに」

「はぁ。確かに娘さんが居なければ我々も……」

「本当に。いつの間にか成長するものだよ。子供っていうのは」

 

 私はガンダムを見る。完成されたフォルム、赤い彗星をも退ける性能。

 それを引き出す我が娘アムロ。まだガンダムも完璧とは言えないが、我ながら素晴らしいMSだ。

 

「よし、作業を再開しよう。ジョブ君のガンキャノンは酷くやられたからな」

「了解です。おーい皆!始めるぞー!」

 

 私は端末をスリープ状態にし、ジョブ・ジョン君のガンキャノンの作業指示を行う。

 彼は部隊指揮も含め最もよく働いてくれたが、その代償は大きかったようだ。

 装甲板は第5層までマシンガンがめり込み、パプアの爆発に巻き込まれたせいで表面装甲は全損と言えるほどの損傷。

 更にマニュピレーター損傷により左手首の内部部品は全交換だ。

 

『アムロ!今のはずるいだろう!』

『ずるくないでしょ、間合いが甘いの』

『だいたいガンキャノンには近接武器が……』

『ずるいも何も私は射撃苦手なんだから避けて刺すに決まってるじゃない』

『苦手って……両腕撃ち抜いて何が苦手だよ!』

 

 ちょうどアムロとハヤト君のシミュレーションが一段落したようだ。

 結果を見ているコーウェン少将推薦のアニー上等兵は目を丸くしている。

 

『ほーらガキ共、落ち着きな』

『……』

『……』

『1戦目はアムロが瞬殺、これはハヤトの読みが甘かったんだと思うよ』

『不意討ちの上にコクピットを……』

『踏みやすい位置に倒れるのが悪い』

 

 ……そろそろアムロには装甲修復の大変さを教えてやったほうが良いかもしれない。

 そう考えていると、突然艦内に警報が響き渡った。 

 

【総員戦闘配置!敵部隊接近!アムロはガンダムで待機!!】

【ホワイトベース各銃座攻撃用意!ザク2機視認!】

 

 またしても敵機。私は全員に作業の中断を指示し、

 ガンダムのセッティング全作業員を配置させる。 

 

「アムロ、ノーマルスーツに着替えてきなさい」

「またシャア?」

「おそらく違う、シャアに予備機はないはずだ、急ぐんだ!」

 

 そう言うとアムロは頷きパイロット更衣室に向かう。

 

「換装急げ!A装備!」

 

 ビームライフル、シールドの基本装備。

 ザク2機なら射撃な苦手なアムロとて外すことはないだろう。

 

 

 ★

 

 

「ザク2機……何だろ?」

 

 ノーマルスーツに着替え、ガンダムのコクピットに座った私は考えた。

 が、当然ながら何も思い浮かばず、とりあえずガンダムを起動する。

 いつものトンッという音が聞こえ、ブゥゥゥンとシートの下から駆動音が響く。

 

『アムロ、聞こえて?』

「あ、はいセイラさん」

『敵はザクが2機。ホワイトベース前方を塞ぐように布陣しているわ』

 

 なるほど。通せんぼ戦法か。

 

「その2機を壊せば良いんですか?」

『ええ。お願い』

「分かりました。がんばります!」

『メカニックマン退避完了!』

『了解、カタパルトへ!』

 

 私はガンダムを動かし、カタパルトの上に乗る。

 これはさっきみたいなハヤトくんとの模擬戦じゃない。

 ナメてかかったら死ぬ。改めて私は息を呑み込み。ガンダムの重心を下げる。

 

『敵は物陰に隠れる戦法を駆使してるみたい。サラミスが危ないわ』

「はい!……アムロ、行きます!!」

 

 スラストペダルを踏み込み、私は宇宙に出る。

 やっぱりシミュレーションのカタパルトとは違う。体が押し付けられる。

 宇宙に出た私がまず見たのは、あの筒みたいな宇宙戦艦サラミスが変な色の爆発を起こした瞬間だ。

 隕石の影からサラミス向けて黄色い弾のようなものが飛んでいってる。

 

「セイラさん!サラミスが!」

『急いでアムロ!』

「はい!」

 

 誰かを守る戦いなんてしたことないけど……。

 仕方ない。行くしかないか。

 

 

 

 ★

 

 

 

「こちらカート、木馬らしき戦艦とサラミス級巡洋艦を確認」

『こちらロビン、こっちも確認した。シャアに伝えるか?』

「シャア「少佐」だ。命令では発見次第攻撃せよとの事だ」

『簡単に言ってくれやがるぜ……』

 

 北米地球降下大隊に合流する小隊、最後尾のツケが回ったのか、

 合流寸前に同じく衛星軌道に進軍中の「ファルメル」から緊急通信が入った。

 ファルメルが追いかけている連邦軍の新造戦艦「木馬」の足を止めろとの事だ。

 

 俺達はまずサラミスに攻撃をかける。抵抗が少ないが装甲の厚い底部を狙う。

 戦車砲並みと言われている120ミリマシンガンを1マガジン分、ほぼ同じ位置に撃ち続ける。

 間もなくして弾薬に引火したのか、底部からピンク色の爆発が発生。破片を撒き散らし始めた。

 

 それを確認したのか、木馬から発進したモビルスーツがこちらに向かってくる。

 白を主としたトリコロールカラーのモビルスーツ。恐らく視認性向上の為に塗装された試作品だ。

 右手には大型のライフル。左手には巨大な赤いシールド。どちらも見たことのない兵装だ。

 

「出た、情報通りだ」

『あれが白い奴ってか』

「攻撃をかける、奴は木馬の大事な荷物だ。置いては行けんだろう」

『了解……ったく、』

 

 いつも通り、手頃な物陰を探し、その場を仮の拠点とする。

 付近のデブリ、この分厚さ、そしてこの広さならば大丈夫だろう。

 F型のザクと言えど戦い方を工夫することでS型にも劣らない戦いができる。

 俺達はこの戦法でルウムを生き残ったのだ。

 

「ロビン、バズーカだ」

『サンキュウ。クラッカーはいくつあるよ』

「2つだ。バズーカは?」

『4発。お互い同じだ』

「了解した。行くぞ!」

 

 50発の強化型ザクマシンガン、これならば白い奴の足を止めるのに不足はないだろう。

 これでもう少し装弾数が多ければ確実に止められただろうが。

 文句を言っても装弾数は増えない。俺は初弾を装填し、安全装置を解除。

 白い奴に向けて発砲した。  

 

「効かないか」

『戦艦並みだな』

 

 これもまた情報通りだ。確実にマシンガンの弾は白いやつに命中した。

 しかし奴は全く怯む素振りすら見せず、右手のライフルを放つ。

 ビームはデブリに命中したが貫通には至らない。奴のそれは戦艦の主砲とほぼ同じ威力か。

 あのビーム砲を喰らったらザクとて一撃で撃破されるだろう。しかし。

 

「モビルスーツの性能が全てではない!」

『おーおー、絶好調だな!』

「無駄口を叩くな!フォーメーションクライシスタイム。継続だ」

『いつも通りだろ?わぁかってるって!』

 

 白い奴の射撃が止み、俺とロビンはデブリ影から出る。

 一斉射撃をかけるも、奴のシールドに阻まれる。

 シールドの強度もザクとは比べ物にならない堅牢なんてものではない。

 驚異的な強度だ。

 

 となると奴を撃破するにはヒートホークか、バズーカしかないだろう。

 奴の上下左右に、一見適当に見える予想できない機動を読み、バズーカを当てるか。

 奴の拳をいなし、コクピットがあるであろう腹部をホークで叩き割るか。

 

「チッ」

 

 俺達以上の実力を持つシャア・アズナブルがS型に乗っていながら仕留めきれなかった理由がわかった。

 モビルスーツ同士の戦いのノウハウがない上に、対MS用兵装が無いのだ。

 Fザクは航空機の部類で言う対艦攻撃機にあたる機体だ。真正面からでは単純に分が悪い。

  

「移動だ!」

『了解!』

 

 マシンガンのセーフティーをかけ、攻撃を避けながら移動する。

 とんだ貧乏くじだ。早めに合流しておけばこんなことにはならなかっただろう。

 

『もう遅刻しないようにしようぜ』

「全くだ」

 

 

 

 

 

「……!」

 

 シャアとは違う。シャアは動き回るけどこの二人は動き回らない。

 隕石に隠れては攻撃を繰り返し、近づけば斧で切りかかってくる。

 切りかかったと思えばまた隕石に隠れて、隣のやつを撃つともうひとりが撃ってくる。

 

「何なの……こいつ!」

 

 私はビームサーベルを抜き、ビームの刀身を展開させる。

 左側の隕石に隠れているザクに向けて斬りかかるが、いつの間にか居なくなっていた。

 すると今度は真後ろからザクのマシンガンの弾が当たる。

 ダメージはないけど、単純にムカつく戦い方だ。

 

「このや……っ!?」

 

 後ろを振り向くと、カメラに十字の形をした何かが映る。

 隕石?と思い払いのけようとした瞬間。

 

「っぅう!?」

 

 カメラの映像が真っ白に、そのうえ音が消えた。

 それと同時にコクピットに前後左右と万遍ない揺れを感じる。

 

「何!?」

 

 操縦桿を動かすも、ガンダムが動いてる感じがしない。

 モニターの表示の殆どに赤黒い文字で「WARNING」と表示されている。

 しばらくしてモニターの真っ白が回復するも、ガンダムが動かない。

 

「嘘……!動いて!?」

 

 さっきのザク爆弾のせいだろう。ガンダムのどこかが故障したのかうんともすんとも言わない。

 いや、一応ビービーとかピロロロとか言っているけど、腕も足もジェットも動かないのだ。

 物陰に隠れているザクが一斉に私に向けてマシンガンを撃つ。動くことが出来ない私はそれを全部受けてしまった。

 

 ガンガンという音共にコクピットが激しく揺れ、ガンダムが火花を散らす。

 

「う……!!うぅう!!」

 

 その時、前のモニターに青色の文字が表示された。私はそれを読む暇もなくガンダムの操縦桿を前に倒す。

 ガンダムが動いた。何だかよくわからないがエラーが回復したのだろう。

 右側のザクがでっかい筒みたいな武器を構えている。私はとっさにそれに向かってビームライフルを撃つ。

 

「っ!」

【何!?】

 

 ビームのピンク色が奇跡的に筒を通り抜けた。黒い筒がオレンジ色に発光し、ザクの右腕を巻き込んで大爆発を起こす。

 ……今の筒、もしかしてザク専用のバズーカ砲みたいなものなのだったのかな。

 だとしたら蜂の巣にされてボロボロのガンダムがあれを受けてたらエラいことになってたかも……。

 

「左手も動かない……壊れちゃったのかな……」

 

 ガンダムはボロボロだ。足は動くけど動くたびに中から変な音が響く。

 ビームライフルは無事だけど、左側のビームサーベルが半分にされてやばい音を出している。

 今引っこ抜いたら背中ごと吹っ飛ぶかも。

 

【ロビン!無事か!】

【ああ、ドジっちまった。俺は生きてるがザクはもうダメだな】

【撤退は出来るか?】

【そこまで世話ぁ焼かせねぇよ。時間は稼げた。トンズラだ!】

【了解。先に行け、俺が時間を稼ぐ】

 

 右腕と左手首が壊れたザクはすばやく私に背を向け、ものすごいスピードで逃げていった。

 その背中をビームライフルで撃つが、上下左右に避けながら逃げるせいで当たらない。

 あのザクはシャアの部下とは違ってすごい人が乗ってたみたいだ。

 

『マダガスカル被弾!艦内炎上止まりません!』

『ええい……!こんな目立つ艦のお守りなどするからこんな目に遭うのだ!』

『ザク1機撤退!もう1機が本艦に接近中!来ます!!』

『ホワイトベース!若造!!貴様ら何をしている!対空機銃を撃たんか!!』

 

 もう1機のザクが私から逃げ、とんでもないスピードと回避でサラミスに向かう。

 ホワイトベースは素人目から見ても少ない銃撃でザクを狙うが当たらない。

 私もビームライフルと頭のバルカンで応戦するも、動き回ってるザクに為す術もない。

 

「は、速っ!?」

『迎撃急げ!迎撃!!』

 

 斧を左手に、バズーカ砲を右手に持ちながら、星のような速さでサラミスを蹂躙する。

 縦横無尽に動き回る様は、私と戦っているときよりも明らかに動きが良い。

 まるで私との戦いが本気でなかったかのようだ。

 

『速い……!』

 

 サラミスがピンク色の炎を噴く。

 宇宙の炎は地球の炎とは違いピンク色だ。酸素とか、そんな感じのあれではないものが炎になっているんだろう。

 空気のない所で火を噴くということは、それだけやばいものが燃えているんだろう。

 炎に包まれる緑色のザクは、サラミスのブリッジに当たる部分で一つ目を光らせる。

 

「鬼……みたい……」

『ブライト少尉!!受け取ったか!!武運を祈る!!』

『リード中尉!!』

 

 ザクはバズーカ砲を捨て、マシンガンを構える。

 

【ロビン撤退完了、目的は達成した。少佐。任務完了です】

【了解した。貴様も撤退しろ】

【了解】

【捨て駒かと思ったが、予想以上の働きだ……まさに修羅と呼べる】

【修羅……】

 

 ビームライフルの引き金を引く。それと同時にマシンガンの弾丸が1発発射される。

 ザクはマシンガンを手放し、宙返りしながらさっきのザクが逃げた方向へと飛び去っていった。

 ビームライフルがザクのマシンガンを溶かし、真っ赤に染まる。

 

 サラミスのブリッジは明かりが消え、ザクの弾が貫通した穴からまたピンク色の炎が吹き出した。

 

「……」

『……サラミス撃沈……アムロ……』

「えぇ……」

 

 私はしばらく操縦桿を握ったままぼんやりしていた。

 シャアじゃないザクはビームライフルを適当に撃っただけで爆発するザクが殆どだと思っていた。

 でもあのザクたちは色々な戦法を駆使してガンダムを圧倒していた。

 それどころじゃない、圧倒した上に守らなきゃいけない船をもぶっ壊していく。

 

「つ、強かった……」

 

 ボロボロのガンダムの中で、へし折れて爆発していくサラミスを見上げる。

 あれが送ってくれないと、私達地球に帰れないんじゃないかなぁ……?

 

『アムロ、とにかく帰還して頂戴』

「セイラさん……」

『エースパイロット相手によく戦った。ブライトはそう呟いてたわ』

「そうですか……ブライトさんは?」

『今は話しかけないほうがいいわ。いきなりの事でかなり参ってるみたい』

 

 ……ブライトさんには悪いことをしてしまった。

 今日一日の出来事で、ブライトさんは私に逆ギレされて二発も殴られ、

 その上味方の軍人さんがたくさん乗っていたサラミスを壊されてしまった。

 

「サラミスの人たちは?」

『……』

「……そう……死んじゃったの……ね」

『ええ……』

 

 これが負け。

 かなり心にズシッと来るものだ。私は操縦桿を引き、ガンダムを振り向かせる。

 あのザクはわざとホワイトベースを狙わなかったのか、ホワイトベースは新品同様の姿をしている。

 

 手加減されてたってことか。完全に負けね。

 

「ジオン軍に勝たないと……ですね」

『そうね、腐っては駄目よアムロ』

「はい」

 

 ……サラミスの人たちの面識はさっぱり無いが、私は目を瞑る。

 この人達も人間だ。私が駄目なせいで皆死んでしまった。

 これが戦争とはいえ、こうやって目の前で人が死ぬのはいい気分じゃない。

 ザクの奴らは敵だから黙祷なんかしないけど。

 

「アムロ、戻ります」

『後方ハッチに進入して。着艦次第ホワイトベースは衛星軌道に向けて出発するわ』

「え?でも」

『リード中尉が最後に敵勢圏外を進むルートを送信してくれたのよ』

 

 誰?

 

「……その人に感謝しないとですね」

『ええ。アムロもゆっくり休んで』

「ありがとうございます、セイラさん」

 

 私はホワイトベースのお尻にあたる部分に向かい、

 ハッチが開いている所にガンダムを着陸させる。

 着陸すると同時にガンダムが自動操縦に切り替わり、元のガンダムが設置されている所に向かって移動した。

 

「はぁぁ……」

 

 今回も死ぬかと思った。でも、生きている。

 これだけでも成果かな……。

 

 

 




今回のアムロの行動の結果

・アニー・ブレビッグ上等兵(機動戦士ガンダム戦記)ホワイトベース乗艦。
・テム・レイ、ガンダム4号機、ガンダム5号機、ガンダム6号機の開発支援。
・MS-06F搭乗の修羅の双星(スピリッツオブジオン)ホワイトベース隊奇襲。
・RX-78-2ガンダム小破
・サラミス轟沈、リード中尉戦死、戦死直前に衛星軌道上へのルート送信。

以上の結果となりました。


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プロトタイプガンダム大気圏突入

 ガンダムを修理してもらわないと。私はガンダムの電源を落とし、ハッチを開いた。

 重力が殆どないのに体が重い。あのザクとの戦いは熾烈なものだったと思う。

 だからこその体の重さなんだろうけど……。

 

「はぁ……」

 

 ガンダムのハッチから出て、私は目の前に手すりにもたれかかる。

 息苦しいヘルメットを脱ぐと、ヘルメットに溜まっていた汗が玉となって宙に浮かんだ。

 客観的にガンダムを見るがひどい有様だ。あちこちに銃弾がめり込み、ビームサーベルはへし折れている。

 あの爆弾を受けた箇所の塗装は剥がれてしまって黒くなっていた。

 

「ひっどいなぁ……これ……」

 

 深いため息をつくと、右の頬に冷たい物が当たった。

 

「ひぁ!?」

 

 パッとそのひんやりとした筒を取る。あの美味しくない栄養ドリンクだ。

 誰がくれたんだ、キョロキョロあたりを見回すも誰も居ない。

 何だ何だと困惑していると、足元に騒ぐ声が聞こえた。

 

「アムロねーちゃーん!」

「あ……アム……」

「かーっくいー!

「わわっと……ちょちょ、危ないって……」

 

 ちょこちょこ見る悪ガキ3人組だ。いや、悪ガキかどうかは知らないけど。

 金髪の女の子がキッカ。緑の服の子がカツ。私より酷い天パの子がレツ、だっけ?

 カツって男の子は怯えている。さっきハロぶつけた子だ。

 

「コホン……あら、どうしたの?差し入れ?」

「さしいれ!アムロねーちゃんがんばってるから!」

 

 キッカちゃんが無重力空間でくるくると回りながらドリンクをチューチューと吸う。

 ……あんまり美味しくないだろうに随分美味しそうに飲むなぁ。

 レツくんはボロッボロのガンダムに興味津々だ。

 

「アムロねーちゃんのガンダムボロボロー」

「あはは、ちょっと失敗しちゃって。ホントはこんなんじゃないのよ?」

「知ってるやい。オレいっつも見てるんだからな!」

「そうなの?ありがと」

 

 レツくんがガンダムに触ろうとする所を抱き寄せ、頭をさっと撫でる。

 こういう年頃の男の子はあっちこっちに触ろうとするから困る。

 撫でられたレツくんは顔を赤くし「でへへー」っと頭を掻く。

 

 カツくんは相変わらず内気だが、ガンダムをチラチラと見ている。

 この子も男の子だ。巨大ロボットに興味がある年頃だろう。

 

「カツくん」

「へ?」

「さっきはごめんね?痛かったでしょ?」

「う、ううん!平気だよ!」

 

 悪ガキの前言撤回。皆いい子ばっかりだ。

 キッカちゃんは私の天パをワシワシと毛繕いみたいにいじっている。

 チョロチョロと動き回るが別に目障りというわけじゃない。

 むしろ疲れている時にこういう子たちが居ると癒やされる。

 

「アムロねーちゃん疲れてる?」

「オレが肩叩きしてやるよ!」

「宇宙じゃたたいいても気持ちよくないよ」

「そんなのわかんねーじゃん!カツも手伝えよ!」

 

 この3人組のリーダー的存在はレツくんかキッカちゃんだ。

 カツくんはどちらかと言うと内気な子なんだろう。

 内気なカツくんをレツくんが引っ張り、キッカちゃんがまとめる。

 何ともいいトリオだ。

 

「あはは……もう、くすぐったいって」

 

 戦場で荒みかけた心が洗われるのを感じる。

 でも、この子の子たちも私達と同じ、行くあてのない子供達だ。

 この子達も戦乱から逃れた避難民。

 

 ……避難民。

 

 ……避難民……。

 

 え。

 

 待って。避難民?

 

「アンタ達なんでまだいるの……?」

「ふえっ?」

「げっ!」

「え?」 

 

 避難民じゃん。この子ら。

 

 

 

 ●

 

 

 

 とりあえず、避難民である悪ガキ3人組はフラウに任せた。

 今はフラウが面倒を見て、ブライトさんが元気になったら伝えるらしい。

 私は父さんにガンダムを壊したことを謝り、自室へ戻る。

 

 父さん、怒るどころかむしろ「プロトタイプを試せる」って喜んでた。

 アニーさんには小言を言われたけど。

 

「……はぁぁぁああ……」

 

 私はフワーッと浮かび、自分のベッドへポスっとダイブする。

 宇宙空間だからこそ出来る、この布団に柔らかくダイブできる感覚。

 ベッドは固く、枕はせんべいみたいに平らだが、気持ちいいものだ。

 

「疲れたぁ……」

「アムロ、オツカレ、オツカレ」

「ホント疲れたよぉハロォ……」

「オツカレ、オツカレーェ!コモリウタ、イルカ?」

「いらない、子供じゃないのよわたしゃ……ふぁぁ……寝かせて……」

 

 ハロが私に声を掛ける。電子音なのにはっきり聞き取れる。

 私じゃない本当のアムロが改造したからなのか、市販の玩具の性能がいいのか。

 そもそも、アムロは何をどう改造したんだろう。

 

「ヘヤハ、ハロ、チョットカタヅケタ」

「え?ほんと?ありがとー……」

「オヤスイゴヨー」

 

 ……多分、こういうところだろう。

 

「…………」

「アラーム、ジドウセッテイ、アサ7ジ」

「……ありがと、ハロ」

「アシタモガンバレ」

 

 私は掛け布団の中で靴と制服を脱ぎ、ベッドの外に放り出す。

 シャワーは明日の朝浴びよう。そもそも宇宙の朝がよくわからないけど。

 とりあえずハロが起こしてくれるだろうし、 今は寝よう。疲れた。

 本当に……疲れた。

 

「ん……ぅう~…………っふぅ……」

 

 宇宙の睡眠は地球の睡眠とぜんぜん違う。

 こうやって布団に入ってしっかり寝るのは初めてだ。

 

 そう思い、宇宙という闇の中で目を瞑る。

 ハロが小声で「ショウトウ」と呟くと、部屋の明かりが消えた。

 その呟きが子守唄となったのか、私の意識は遠く離れて行く……。

 

 

 ★

 

 

「木馬の航跡、消えました。監視圏外に入ったようです」

「了解した。道中に攻撃するチャンスを失っただけだ、我々の仕事に変わりはない」

 

 ザク2機小隊でサラミスを撃沈するも、白い奴の撃破には至らなかった。

 報告によると貫通力を強化したザクマシンガンを1マガジン分受けてもまだ可動していたと聞く。

 連邦軍のモビルスーツの装甲は、私の予想を更にに上回る強度を持つということか。

 それとも白い奴のパイロットの立ち回りが良かったのか……。

 

「シャア少佐、問題が」

「何か」

 

 パプアと交信していた通信士が声を掛ける。

 

「余剰物資が足りんようです。F型のザクは渡せないと」

「構わん。物資だけでも十分だ。感謝すると伝えろ」

「了解」

 

 ……コムとクラウン。そして私の3機編成。

 1小隊分のザクでやれるか……。

 

「ドレン、木馬の進路予想からの衛星軌道到達時刻はどうか」

「はぁっ。航跡消失時の速度から計算するに、翌0900。時刻は前後します」

「了解した。メカニック、私のザクの修理状況は」

『はっ、大方の修理は完了しております。後は各部バランサーの微調整のみです』

「よし。カプセルの搭乗員、及びザクのパイロットは今のうちに体を休めておけ。残りの者は第1種警戒態勢のまま待機。ドレン、木馬を発見次第すぐに報告しろ」

 

 大気圏突入直前に木馬を迎え撃ち、破壊する作戦。

 作戦時間は4分とない中での戦いだ。第1目標は木馬だが、私の狙いは第2目標の白い奴だ。

 いくら装甲の分厚い白い奴と言えど、大気圏に叩き込めば奴とて持ちはすまい。 

 そして木馬もだ。ただでジャブローには降ろさん。北米でガルマとのクルージングを楽しんでもらう。

 あわよくばガルマと刺し違えてくれるだろう……。

 

「……」

 

 今は木馬の出現を待つしかない。

 私はブリッジに望む地球を見る。旧世紀の人間は地球が青いことも、丸いことも知らなんだ。

 しかしその旧世紀から千年も経たないうちに、人は地球を捨て、宇宙へとその足を広げた。

 

(先人たちよ、今の我々を見たまえ、人間はどこまでも愚かだ)

 

 スペースノイドとアースノイド。下らない諍いが加熱し、戦争へと発展した。

 その結果、先人が築いたいくつも歴史を潰し、積もり積もって全人類の半数を我々ジオンが殺した。

 哀れな人間はそれでも戦いをやめない。ザビ家の名の下に何人もの命が犠牲になった事か。

 

(ガルマ。君がザビ家でなければ、我々は良い友人のままだっただろう)

(君のか細い命を私の復讐の狼煙とする。首を洗っているがいい)

 

 私は拳を静かに握りしめ、憎しみを北米でぬるま湯につかっているガルマに向けた。

 

 

 ★

 

 

 

 朝、起きてすぐに共用のお風呂へ向かった私は今驚愕している。大変な出来事だ。

 宇宙というものを誤解していたようだ。宇宙では水が玉のように浮かび上がる。

 それを考慮したのか、バスルームが2つあるのだ。宇宙用と、重力下用とある。

 

 それ自体驚きだが、宇宙用の風呂というものは……これ風呂なの?

 右にも左にもシャワーノズルがあり、それで溺れないようにするためか呼吸器がある。

 多分これを付けてシャワーを浴びるんだろうけど……。まぁ、仕方ない。

 

「っくしっ!」

 

 寒いからさっさと浴びよう。

 地球に降りるんだろうけどどうせガンダムがご入用になるんだろうし。

 

 私はよくわからないまま呼吸器を顔に付け、体を浮かせて蛇口をひねる。

 するとシャワーからお湯が勢いよく飛び出し、1日の汚れを落とし始めた。

 

「へぇぇ……」

 

 宇宙シャワーっていうのかな。これは中々新鮮な感じだ。

 水が体に張り付かず、汚れだけを掠め取り、吸い込み口からお湯が出ていく。

 シャンプーとコンディショナーもある。女性にも優しい宇宙戦艦だ。

 

『大気圏突入20分前、アムロはガンダムで待機。敵の襲撃の可能性あり』

「うひゃああ!?」

『アムロ、応答しろ!』

 

 突然モニターにブライトさんの顔が見えた。

 電話みたいなものを耳に当てて私に話しているようだ。

 ブライトさんの反応を見るに、ブライトさんには私の姿は見えていないらしい。

 私はそのモニターにあるボタンを押す。

 

「あ、は、はい!大丈夫です。すぐ待機します!」

『サウンドオンリー?どこに居る』

「朝風呂中です、すぐガンダムに行きます!」

 

 モニターが消える。さすがは宇宙戦艦、プライバシーもへったくれもないらしい。

 せっかくシャワーを浴びて暖かくなっていたのにいきなり男の顔が現れるんだ。

 背筋が凍ってしまった。

 

「はぁ……」

 

 カポっと呼吸器を外し、バスタオルで体を拭く。

 へばりついていた水滴達は簡単に剥がれる。

 制服に袖を通した私は床を蹴り、壁を蹴り、急いで更衣室へと向かった。

 無重力のほうが体のケアが楽な気がする……。施設が揃っていたらの話だけど。

 

 

 

 

 ノーマルスーツに着替えた私は、モビルスーツの倉庫へと立つ。

 そこには部下の人達と話している父さんの姿があった。

 ガンダムの修理はまだ終わっていないらしく、ビームサーベルが一本足りない。

 それどころかボディのヘコみもまだ治っていないみたいだ。

 

「父さん、ガンダムは?」

「おお、アムロ。……指示通りに頼むぞ」

「了解!アムロちゃん、がんばれよ」

「はい!」

 

 整備員の人は父さんに敬礼をし、私にも笑顔を見せた。

 名前も知らないのに私を慕ってくれるのは何だかむず痒い。

 ……整備員の人の名前も覚えとかないと。アニーさんしか知らないや。

 

「ガンダムだが、見てのとおりだ」

「やらかしちゃったまま……か」

 

 って事は、向こうにあるあの黒いガンダムに乗らないといけないか。

 

「あの黒いの使うの?」

「調整と軽い改修も済んでいる。性能はガンダムに劣らんよ」

「……黒いガンダムかぁ……」

 

 プロトタイプのガンダム……。父さんが壁のスイッチを操作するとコクピットが開いた。

 私は父さんの顔を見る。相変わらず自信に満ちた表情だ。メカが本当に好きなんだ、と感じる。

 

「父さん、武器は何を使えばいい?」

「ビームライフル……と言いたいが、プロトタイプのビームは若干ながらガンダムに劣る」

「そうなの?じゃあ、その分多く撃てたり」

「こればかりは現地改修は不可能だよ、15発以上の射撃は考えないほうがいい」

 

 残念。電化製品だって最初のやつが必ずしもいいとは言えないし、仕方ないか。

 となるとどうしよう、と周りを見渡す。

 ガンダム用のビームライフルを装備するのは多分無理だろう。出来るなら最初から父さんがやってる。

 

「あのバズーカ砲は?」

「射撃が得意なら勧めているが……うーむ……」

 

 父さんは口をすぼめ、私のシミュレーションのデータが表示された手持ちのパソコンを見る。

 射撃の命中率……確か60%ちょっとだっけ?相手がシャアだから仕方ないと思いたいけど……

 でもその相手はそのシャアだ。

 

「父さん、追加で乗っけることは出来る?」

「それは構わんよ、腰部にマウントは可能だ。機動力は落ちるがね」

「お願い。15発撃って一発も当たんなかったり、ただのザクだけで全部使い切ったら話にならないでしょ?」

「しかし……機動力が」

「その分盾でガードするから!お願い!」

 

 私は手を合わせ、ペコリと父さんに頭を下げる。

 すると父さんはぶつぶつとなにか意味がわからないことを呟き、整備員の作業室へと入った。

 

「アムロ!」

「はい!」

「お前はプロトに乗りなさい。ハイパーバズーカの準備は我々で行う!」

「分かった!父さんありがとう!」

 

 私は父さんに手を上げ、床を蹴ってガンダムの元へ向かう、黒いガンダム……。

 目の前にいるとすごい迫力だ。白いと何だか正義の味方感があるけど、黒いと敵ね。これ。

 ……と言ってもまだ白部分あるけど。白はガンダムのアイデンティティ的なやつかしら。

 

「よっと」

 

 改めてコクピットに座る。コクピットは不思議なことにガンダムと瓜二つだ。

 唯一違うところと言えばガンダムのアイドリング状態の時に表示されるモニターの表示が少し違う。

 RX-78-1、という文字がついたり消えたりしている。

 

「同じ……これ?」

 

 モニターのスイッチを押す。外からガンダムの目が光る音が聞こえた。独特な音だ。

 私はシートベルトを締め、ふぅ、と一息ついた。

 朝一番にガンダムのコクピットに座るのか……と考えると少しげんなりする。

 しかし、操縦桿の手触り、シートの座り心地、目の前に広がるコクピットの機械。

 どれを見ても、一番私に馴染んでいる気がするのもまた事実だ。

 

「ガンダム……」

 

 押して引くタイプの操縦桿、未だにどれがどのボタンかわからないごちゃごちゃしたボタン類。

 両足と背中のジェットを操作するスラストペダル……。これも私のモビルスーツ……。

 そう考えると嫌でも愛着が湧くものだ。

 

『バズーカ弾帯装填完了!』

『了解!アムロ!ハンガー横のウェポンラックに設置する。出撃時は腰にマウント!いいか!?』

「分かった!」

『武器を手に取って腰に回せばいい!後はコンピュータが自動でやってくれる!』

 

 なんつーアバウトな……まぁ、やってみれば何とかなるかな。

 ミスしたら父さんにレクチャーしてもらおう。

 

『敵だ!!』

「嘘……!」

『ガンダムプロト!発進急げ!BR-P!用意いいな!』

『CAPチャージ完了しています!サーベルチェック!何やってんの!』

『今やってます!……問題なし!オールオッケー!』

『プロトシールド装備完了!ウェポン班退避!推進剤チェック急げ!』

 

 静かだった倉庫が急に慌ただしくなり、警報の音がけたたましく響き渡る。

 ガンダムの左腕に裏側が黒い盾が装着される。これも専用の盾なんだろうか。

 ビームライフルの前のグリップがない。それに専用の黄色いやつもついていない。

 なるほど、だからプロトタイプか。当てるのは大変そうだけどやるしかない。

 

『アポジモーター問題なし、スラスターも大丈夫です!』

『メカニックマン、全員退避急げ!』

 

 私の周りでワチャワチャしている整備員の人たちが一斉にガンダムから離れる。

 改めてガンダムのモニター、そしてコクピットの計器を見る。

 計器のランプはすべて緑色、発進準備が完了している合図だ。

 

「プロトタイプガンダム、ハッチ閉めます!」

 

 ハッチ操作のタッチパネルを操作し、ガンダムのハッチを閉める。

 この動作も普通のガンダムと変わらない。ハッチを閉じるとすぐに前のモニターがついた。

 

「……ふぅ……」

 

 ガンダムの操縦桿を握り、ブライトさんからの指示を待つ。

 間もなくして倉庫の電気が消え、真っ暗になる。そして、目の前の扉。

 これもハッチというらしい。宇宙につながるハッチが開かれる。

 その瞬間、クリアに聞こえていた周囲の音声が一瞬消え、再び聞こえるようになった。

 

『アムロ、発進して後方のザクの足を止めろ!出来るな?』

「分かりました!」

 

 ブライトさんが私に通信で声を掛ける。

 ……簡単に言うが、例のやばいザク2機なら今度こそマズイかもしれない。

 少し不安だが、やってみなきゃわからない。

 

『大気圏突入寸前の戦闘になる。ブリーフィングの時間を設けられなかったのでこの場で行う』

「……は、はい」

 

 大気圏、って言うと地球に入る前のあれだ。

 つまりシャアは私達が地球に入る前に攻撃を仕掛けてきたって言うことか。

 なんともまぁ、凄まじいタイミングで来たものね。

 

『ホワイトベースは大気圏突入準備の状態だ、この場でのホワイトベースの被弾は避けなければならない』

 

 ブライトさんがそう言うと、ガンダムのモニターに簡易な図でホワイトベースが地球に入る様子が映される。

 この図によると、大気圏に突入するとホワイトベースは高熱にさらされるらしい。

 というより、だいたいのものが大気圏に入ると真っ赤な火の玉になる。だから宇宙から地球に帰るのは大変らしい。

 つまり、シャアは自分も火の玉になる可能性があるのに喧嘩売るのか。チャレンジャー……。

 

『このタイミングで攻撃を仕掛けてきた例は過去にない。ザクは3機。赤いザクはバズーカを装備している』

「……なるほど」

『アムロ、発進後は4分でホワイトベースに戻れ、ザクが残っていてもだ』

「4分で?ちょっと早すぎるような」

『流れ星になりたくなければ言うことを聞くんだ』

「う……了解……」

 

 そうだ、私も今からそのチャレンジャーになるんだ。下手したら私もシャアと一緒に赤い彗星に……。

 いや、それどころじゃない。シャアがトンズラして私だけ流星になるかも……。

 そうなったら笑い話じゃ済まされない。モビルスーツですら火の玉になるのに人間が大気圏に入ったら。

 想像したくないけど、可能性は大いにある。

 

「大丈夫かな……」

『君なら出来る、頑張ってほしい』

「……まぁ、がんばります」

 

 愚痴ってもしょうがない。

 

『アムロ、聞こえて?シャアの攻撃が始まるわ、カタパルトへ』

「わかりました!」

 

 私はガンダムを前進させ、壁にかけられているバズーカ砲を左手で持つ。

 言われた通りに腰に左手を回すと、自動的にガンダムが留め具にバズーカ砲を設置させた。

 それを確認してから、ガンダムをカタパルトに足を乗せる。

 

『無事に戻ってくるのよ』

「……」

 

 私は頷き、ガンダムの重心を下げる。黒い膝はあまり見慣れない。

 プロトタイプガンダムでも、操作感は変わらないけど……やっぱりガンダムとは違う。

 私はつばを飲み込み、いつものセリフを言う。

 

「アムロ、プロトタイプガンダム……行きます!!」

 

 操縦桿を引き、スラストペダルを一気に踏み込む。

 私は宇宙空間に放り出され、巨大な地球を見る。母なる星だ。

 母なる星への帰還を邪魔するあんちきしょうは私の後ろにいる。

 私は振り向き、中心の赤い色のモビルスーツを睨んだ。

 

「シャア……!」

 

 制限時間は4分……ウルトラマンの戦闘時間よりはマシな程度だ。

 早めにホワイトベースを助けないといけない。となると……。

 

「ウロウロ狙うよりは!!」

 

 ビームライフルを構え、照準器を使わずに発射させる。

 ビームの色が若干薄いが、それでも強力だと実感させられる音だ。

 しかも、普通のガンダムのビームライフルよりも連射できるみたいだ。

 15発しか撃てないけど。

 

「……オッケー、ホワイトベースから離れてくれた!」

 

 3機のザクはホワイトベースから離れるように散っていく。

 散る瞬間にシャアのザクはバズーカ砲を、普通のザク2機はマシンガンを私に撃った。

 私はそれを確認して盾を構える。

 

「っ……!」

 

 バズーカ砲の弾が盾で爆発したが、ガンダム自体に被害はない。

 この盾は普通のガンダムの盾と同じくらいの強度らしい。穴らしい穴も空いていないようだ。

 

「行ける、これなら……!」

 

 プロトタイプガンダムでもシャアと戦えるはず……!

 

 

 

 ★

 

 

 

『少佐!白い奴じゃありません!黒い奴です!!』

「何……!?」

 

 白い奴の攻撃を回避し、コムとクラウンが攻撃をかける。

 コムが白い奴に接近すると、慌てた様子で私に報告した。

 その報告を聞いて私はモノアイをズームさせ、奴の姿を確認する。

 

「……黒い奴」

 

 全身が黒で塗装された連邦軍のモビルスーツ。

 奴のビーム砲の形状も少し違う。そのうえ腰部にはバズーカ。

 新型ではないが、別種の機体であることは読み取れた。

 

「ええい……!厄介な!」

 

 私は舌打ちをし、黒い奴に接近する。未知のモビルスーツ相手に部下を接近させる訳にはいかない。

 黒い奴と目が合うも、気圧されているのか奴は攻撃を仕掛けてこない。

 乗っている人間は連邦の白い奴と同じということか。

 となると、白い奴が損傷した際の予備機ということになる。別種ではあるが基本は変わらないようだ。

 

「コム!クラウン!貴様らは木馬を狙え!」

『はっ!』

『了解しました!』

「黒いやつは私に任せろ!」

 

 同型機といえど、黒いやつがザクに比べて圧倒的な性能を持つことには変わりがない。

 新兵同然とはいえ、私が鍛えたジーンですら、手も足も出なかった存在。

 更にエースパイロットを2人をけしかけても撃破できなかったのだ。

 コムとクラウンが悪あがき程度に攻撃を仕掛けても無駄死にさせるだけ、

 

 そのために私は5発程度しか撃てないバズーカを背負ったのだ。

 木馬を撃ち漏らしても構わん、奴さえ始末できればいい。

 

「落ちろ」

 

 バズーカを構え、怯んでいる黒い奴にバズーカを叩き込む。

 素人ならば確実に直撃するコースだ。しかし奴は避けた。

 エースとの戦いで腕を上げたというのか。

 

【シャア!!】

「ちぃ!」

 

 ビーム砲の威力は落ちているが、そのかわりに連射能力が上がっている。

 その上、威力が減衰していると言えども食らうと致命傷であることには変わりがない。

 奴の射撃が素人同然である事が幸いした。用意に避けることが出来る。

 

『クラウン、どうだ!』

『弾幕が激しい!接近できん!』

 

 部下たちは木馬の攻撃に苦戦しているようだ。それもそのはずだ。

 あの船は一見隙だらけの新造艦に見えるが、その実はマゼラン級やサラミス級をも凌ぐ対空砲を備えている。

 白に塗装された視覚効果に騙されがちだが奴の対空砲はまさにハリネズミという表現では足りん程だ。

 更にそれらの大半はプログラム通りに射撃する無人機銃ではなく、有人の機銃だ。

 有人機銃回避の訓練を積んでいないコムとクラウンでは荷が重いことは承知している。

 

「もっと接近しろ!」

『はっ……しかし弾幕が厚く……』

「これが厚いものか!相手をよく見て下から攻めろ!」

『りょ、了解!』

 

 しかしそんな甘い事を言っていられる状況ではない。木馬を北米に叩き落とすにはまだ攻撃が足りない。

 ファルメルからの援護射撃が終了し、最早木馬の進路を変えるには彼ら2人が協力し、攻撃をしなければならない。

 黒い奴が出てこなければ私も木馬の攻撃に加わることが出来たが、予想外の事態は起こるものだ。

 

「黒い奴め……!」

【来る!】

 

 私は奴との決着を早めなければならない。

 リミッターを解除したS型の加速力を利用し、やつにショルダータックルを仕掛ける。

 ザクⅠからこの攻撃は有効な攻撃として重宝されていた。

 

「っ」

【つぅ……!】

 

 しかし奴のシールドはその加速と重量すらも凌ぐ。

 攻撃を受けた奴のシールドはスパイクアーマーの型を付け、モビルスーツを吹き飛ばす。

 一瞬シールドが防御形態を解除し、黒いやつのコクピット部分が顔を見せる。

 私はそれを狙い、バズーカの照準を合わせた。

 

「甘い!」

【警報!う……!こんの!!!】

 

 発射されたバズーカの無誘導弾頭は迷うこと無く黒い奴のコクピットめがけて飛んでいく。

 黒い奴はデュアルアイを発光させたと思うと首を動かし、バズーカの弾頭めがけて頭部バルカンを発射させる。

 迂闊だった。奴の武装の一つを失念してた。奴のバルカンはFSに搭載されているものの用途と同じものだ。

 

 連邦軍のFCSは飛翔する弾頭すら撃ち落とせるというのか。

 

「ちぃ!連邦軍のモビルスーツはバケモノか……!」

【と、止まって!!……シャア!捕まえた!!】

 

 黒い奴はスラスターで制動し、片手でビーム砲を連射する。

 6発もの連続射撃、素人ながら私の動きを読みながら撃ってきている。

 

【何で当たんないの……!!】

「宝の持ち腐れだな」

【……シャア……はっ……ホワイトベース!!】

「悪いが、落とさせてもらう」

 

 私は再度バズーカを構える。直撃せずともこの高度ならば制御不能になるはずだ。

 

【え……!?分かった!やってみる!】

 

 黒い奴は突然左手を用いてビーム砲の外装を剥がす。

 そしてそのままビーム砲に手を突っ込み、デュアルアイを発光させる。

 ビーム砲の銃口が先程までのビーム弾とは全く違う光を発して私を狙う。

 よく見ると、奴の右腕は何回もビーム砲の引き金を引き続けているようだ。

 

「ちぃ!」

 

 奴め、まさかビーム弾をストックしているというのか。

 

【ライフルが……爆発する!もう無理!!】

 

 黒い奴が左腕を引き抜き、私の予想していた通り強烈な発射音と共にビーム弾が発射される。

 とっさに上昇した私は難を逃れることに成功した。いや、この照準、私が照準ではない。

 振り向くと凄まじい収束率のビーム弾は先程までのメガ粒子の拡散距離を遥かに超えて直上、木馬付近まで飛ぶ。

 

「何!」

『光……!シャ……!』

 

 光弾はそのままコムのコクピットを打ち抜き、宇宙空間を真上に吹き飛んで行く。

 しばらく飛ばされたザクは体を丸めスパークし、弾けた。

 

『コム!貴様!よくも!!』

「よせ!クラウン!」

『止めないで下さい!!』

 

 クラウンのザクが木馬から離れ、黒い奴へと向かう。

 私は止めるが、クラウンは聞かない。私の足元がだんだん赤く染まり、機体温度が上昇する。

 黒い奴はまだ戦闘を続けるつもりだ。銃身が溶けて消えたライフルを捨て、腰のバズーカをマウントし、

 クラウンに向けて撃ち続けている。

 

【時間が……でも!】

『少佐!もう時間がありません!カプセルへ!!』

「ドレン!了解した!クラウン構わん!カプセルへ戻れ!」

『~~~…………!…………!!』

「ちぃ!通信障害か!クラウン、何処まで引き込まれた……」

 

 私はモノアイをズームさせ、黒い奴とクラウンの位置を確認する。最早回収不可能な位置まで潜り込んでいる。しかしクラウンはまだ戦闘を続け、黒い奴もそれに応えている。このまま大気圏に突入したとなると黒いやつは大気の熱で燃え尽きる……しかしクラウンも。

 

「クラウン……」

 

 私はコムサイのハッチへ向かう。木馬の進入コースは北米へと変わっている。

 任務を完了させたクラウンに敬礼し、コムサイのブリッジへと向かった。 

 

 

 

 ★

 

 

 

「はぁっ!はぁっ……!!っくぅ!!っ!!!」

 

 い、いつの間にこんなに周りが赤くなっているの!?

 ザクはもう武器が燃え尽きてあんなに深いところまで体を丸めて地球に突っ込んでいる。

 ガンダムの警報が鳴り止まない。左のモニターの温度計みたいな数値がどんどん上がっている。

 

「ホワイトベース!!……上!?……下は……」

 

 真っ赤に染まる地球が前のモニターに大きく映し出されている。ガンダムの速度もどんどん上がる。

 心臓の鼓動が更に高まり、汗が玉のように「滴り落ちている」体の締め付けも更にきつくなる。

 

「い、嫌だ……こんなので死ぬなんて嫌……どうにか、どうにか出来ないの!?」

 

 手が震えて操縦桿が握れない。しかし歯を食いしばって操縦桿を握り、盾をガンダムの前に出す

 申し訳程度の熱防御だ。しかしそれは確実にガンダムの温度を下げる。操縦桿から出る煙が少し軽減された。

 しかし速度の上昇が止まらない。私の焦りは増すばかりだ。

 

「はっ……は……はぁ……はぁ……!」

 

 落ち着け……落ち着かないと冗談抜きでここで焼け死ぬことになる。

 ガンダムのコクピットが壊れて私が宇宙に投げ出されても死の運命しかない。

 再びガンダムの警報音が響き渡る。熱警報みたいだ。温度の数値が赤く染まっている。

 

「も、もう駄目なの……?」

 

 手の震えが止まらない。思わず私は私の肩を抱き、死の恐怖に本格的に怯え始める。

 身に覚えのないいろいろな映像が頭の中でついたり消えたりし始めている。

 母さん?これはアムロの母さん?……優しそうな顔をしている美人のお母さんだ。

 幼い女の子のアムロが、若い父さんと母さんと一緒に遊んでいる。ここはコロニーじゃない。地球だ。

 

「……嫌……私の記憶が……ない……こんな死に方……!!」

 

 足の力が抜ける。ガタガタと震えるコクピットの中で涙を流す。

 歯を食いしばり、バイザーを上げて涙が勝手に流れる目を手でぎゅっと押さえる。

 目を閉じ、心音だけを聞いて、死を迎え入れる準備をする。

 

 私は結局誰だったのか、死ぬ前に知りたかった。

 

 

「―っ」

 

 

 その時、暗く、閉じた瞳の中で白い稲妻が見えた。

 ……大気圏突破の方法……!?ガンダムにそれがある……。

 一体これは何……?

 

「姿勢制御……冷却シフト……」

 

 震える指をぐっと押さえ、コクピット右下のパネルを操作する。 

 コクピットそのものも高温になっていて、普段なら触ることすらしないが、

 最早言っている場合ではない。死ぬ直前の天啓だ。これが無理なら天国で天啓をくれた神様を締め上げてやる。

 

「耐熱フィールドを全回路に……シールドがもう持たないから代わりに耐熱フィルムも……」

 

 パチッパチと火花を散らすコクピットのパネルを操作する。

 普段なら「何これ?」って言いながらスルーする操作だけど、何故か今は出来る。

 そうだ、初めてガンダムに乗った時もそうだ。人間本気になればなんだって出来るって!

 

「……っ!」

 

 操縦桿を握りしめ、ガンダムの股間から出てきたフィルムを手で握り、

 ガンダムの手を操作して上手く被る。

 それを被った瞬間、今度はガンダムの股間の同じ位置から凄まじい勢いで冷風が出る。

 それは大気圏の熱で真っ赤になったガンダムを逆に真っ青にするくらい強烈な冷風だ。

 

「はぁっ……はぁ……!」

 

 モニター右の温度が急激に、しかし操作に影響がない速度で下がっていく。

 フィルムの効果なのか、速度も若干落ち始めた。あんなに遠かった地球がどんどんと近くなる。

 大丈夫……きっと大丈夫。

 

「……ガンダムは頑丈……ガンダムは壊れない……!」

 

 もう、あとはガンダムに任せるしかない。

 やれることはやった。生きるか死ぬかは自然の慈悲と父さんのモビルスーツが決める……。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 揺れが止まり、真っ青だったコクピットを緑が優しく照らし始める。

 薄目を開いていた私がそれに気付くのには少しだけ時間がかかった。

 そしてそれに気付いた時、私の意識はもう限界を迎えそうになっていた。

 

「……」

 

 目をしっかりと開き、霞んでいた目を瞬きし、元に戻す。

 そこに映ったのはキラキラと光る海、そして緑色の陸地……。太陽。

 ……ここは、地球だ。

 

「……私……生きてる」

 

 体がずっしりと重たい。焦りから開放された安堵、そして想像できない疲れ。

 そして、この、懐かしくもある感じ……。

 重力だ。コロニーと違う、何もかもが自然と下に働く力。

 

「うぅ……重力……う……!!」

 

 体を引き起こす。そして、ガンダムの姿勢を制御する。

 水平に、なんとかしてこの速度を落とさないといけない。

 摩擦熱がなくなったとしてもこのまま地面に叩きつけられたら私は死ぬんだ。

 

 パラシュートで飛び降りた人は確か、大の字にすることで速度を落とせたはず。

 ……やっぱりだ。速度が一気に落ちた。

 その時、私の目の前をホワイトベースが通り過ぎていく。ブリッジでは皆が私を見ていた。

 

「……ホワイトベース……!ホワイトベース!お願い……誰か……!」

『無線回復、アムロ……アムロ!!すぐに医療班を手配するわ!後部甲板から着艦して!!』

 

 セイラさんの顔がモニターに映る。セイラさんは私の顔を見るや否や血相を変えて叫んだ。

 そうだ、セイラさんはお医者さんのタダ働きさんだ。私の様子を見てやばいと判断したんだろう。

 さすがだ。

 

「後部甲板、あれ?っつぅ……!」

 

 両肩と腹部に鈍い痛みを感じた。見るとノーマルスーツから血が滲んでいる。

 よく見るとコクピットはさっき受けた熱によるスパークであちこちが欠けていた。

 そしてその破片はあちこちに突き刺さり、その一部は私の肩に突き刺さっていた。そこから血が出ている。

 そりゃあ、セイラさんも血相変えるよ……私だって他の人がこんな事になってたらびっくりするもん。

 

「……ぅう!」

 

 気付かなかったらもう少し痛みが和らいでいたかもしれないが、気付いてしまったものはしょうがない。

 ゆらゆらと揺れる視界を気合で直し、ガンダムの姿勢を制御してホワイトベースの後ろの甲板に着地する。

 ガンダムがグラグラと揺れ、自然と膝立ちになる。膝立ちになると姿勢が下がり、ベルトが肩に締め付けられる。

 

「っぐ!?」

 

 激痛が走った。思わずベルトを外し、その体をコクピットのモニターに叩きつける。

 そこから先のことはあまり覚えていない。膝立ちのままガンダムはホワイトベースの中に格納されて、

 外からの操作でハッチを開けて、私がなにか柔らかいものに落下したところまでは覚えている。

 

『アムロ!!アムロ!!!』

『アムロ!しっかりするんだ!!』 

 

 フラウの泣き声と、父さんの今まで聞いたことのない叫び声が頭の中で反響する。

 何か私は台車のような、あの救急車用のベッドみたいなので運ばれているのが分かる。

 ……そう言えば私、朝から何も食べてないや。起きたらステーキ食べたいな。もしくはしめ鯖。

 

 しめ鯖が好きだったんだよね。私。少し思い出せた。




今回のアムロの行動の結果

・シャア、3機で奇襲
・プロトタイプガンダム出撃
・プロトタイプガンダム、大気圏突破成功
・アムロ・レイ負傷

以上の結果となりました。


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ガルマ再会す

「ガルマ大佐です」

『やあ、赤い彗星』

「その名前は返上しなくてはならんようだ、ガルマ・ザビ大佐」

『ほう?珍しく弱気だな』

 

 通信が合流予定地点を飛行するガウ攻撃空母に繋がった。

 通信モニターに映る人物は、北アメリカ方面軍西部地区司令「ガルマ・ザビ」大佐。

 ザビ家の末弟。シャア少佐の友人らしいが……。

 何にせよ中尉階級である俺には無縁の存在だ

 

「連邦軍の新型モビルスーツ開発計画、知っているか?」

『V作戦か。ドズル兄さん……兄上から聞いた事がある』

「それならば話が早い。その正体を突き止めたのだ」

『何だと?』

 

 貫禄のない言葉遣い。噂に違わぬ甘ちゃん。いや、兄弟思いと言うべきか。

 ジャブローより近く前線から離れた北アメリカの司令官にはお似合いと言える性格だ。

 実際に地球から届くガルマ大佐の名声は、武勇ではなく人徳による名声が大きい。

 シャア少佐はそれを承知の上で友人に手柄を立てようとしたのだろうか。

 

「ファルメルのザクは私のザクを除いて壊滅。エースを借り出しても撃破に至らなかったよ」

『君でもか……データを受信した。確認しよう』

 

 ガルマ大佐はモニターから目を離し、図面に目を向ける。

 大佐は前髪を弄る癖がある。公の場では控えるが部下の前では止めないようだ。

 図面を見た大佐は再びモニターを見て大佐に話しかける。

 

『にわかに信じがたいが、映像を見る限り事実のようだ。凄いものだな』

「ああ、更に白い奴の試作機は2機以上搭載されているようだ」

『ふむ……ドップの編隊では不足と思うか?』

「君の判断に任せるよ」

『分かった。念の為格納庫のザクの整備も行わせよう』

 

 シャア少佐は仮面越しに微笑む。それに合わせてガルマ大佐も笑う。

 友人であることに偽りはないらしい。

 

「よろしく頼む。数十分後にそちらに向かうよ」

『ああ。地球へようこそ。赤い彗星』

「まるで宇宙人のように言うのだな」

『ハハハ、スペースノイドだろう?我々は』

「違いないな。ではまた」

 

 ガルマ大佐との通信が切れる。

 少佐は一瞬鼻で笑い、俺に視線を向ける。

 

「木馬はどうか」

「はっ、奴は大気圏を突破。黒い奴を回収したようです」

「……連邦軍のモビルスーツは単機で大気圏を突破したか」

 

 サブモニターに黒い奴が木馬の後部甲板に降り、膝をつく画像が映し出される。

 最大望遠で画質が悪いが、モビルスーツは五体満足であることが分かる。

 

「監視は続けろ、大佐殿が見失わぬようにな」

「はっ!」

 

 シャア少佐とガルマ大佐。たしかに友人ではあるが何かがおかしい。

 ……そう考えるもすぐにそれが馬鹿馬鹿しいと感じ、俺は木馬の航跡を追う。

 所詮はシャア少佐の艦長代理。俺が心配すべきは少佐ではなくファルメルだ。

 慕うべき相手ではあるが、干渉するべき相手ではない。

 

「木馬は高度を落とし、巡航速度を維持しております」

「監視を続けろ、木馬から偵察機が出るかもしれん。警戒を怠るな」

「はっ」

 

 

 

 ★

 

 

 

 心電図の音が頭の中で反響する。薬の匂いが私の鼻を刺激する。

 目を開けるも、目が霞んでよく見えない。息を吸うとやけに新鮮な空気が肺を潤した。

 その新鮮な空気を吐くと、吐いた息が跳ね返り、口の周りが生ぬるくなる。

 

「……あ……れ……?」

 

 目の霞が晴れ、眼の前に白い天井が映し出される。横を見ると、透明なパックに赤い液体。

 そして透明な液体、液体達は管を通して私の腕に向かう。

 点滴と……輸血?

 

「……」

「アムロさん?……良かった、目覚めたんだね」

「……」

 

 青い服に白衣を袖に通し、眼鏡をかけた男の人が私の顔を覗く。

 ……誰だろう。見たことのない人だ。

 

「……?」

「サンマロ。ホワイトベースの医療班長です。はじめましてかな?」

「サンマロ、さん」

 

 サンマロ、という男の人が微笑み、タブレットを操作する。

 そうだ、私はアムロで……いやこれはもう確定事項だ。まだ私は生きている。

 ふと輸血パックを見て、そして私の肩を見る。病院服越しにきつく巻かれた包帯を感じた。

 

「安心してくれ。五体満足だよ。コンソール片の摘出も完了している」

「……」

 

 サンマロさんはポケットからパッケージを取り出し、血がついた破片を私に見せる。

 五体満足。人間として当然だけどここは軍隊だ。今度はどうなるか……。

 

「ありがとうございます……あの……今は?」

「シャアにしてやられたらしい。今は北部アメリカ大陸。ジオンの勢力下だよ」

「……アメリカ?」

 

 アメリカという言葉に聞き覚えはある。……あのアメリカに落とされたのか。

 そもそもジャブローが何処か分からなかったけど、そこから離れた所であるのは間違いないらしい。

 私は少しため息をつく。

 

「そういえば、ガンダムは?」

「急ピッチで修理が進んでいるよ。君のお父上は少し元気が無かったけどね」

「そうですか……父さん……」

 

 父さんのガンダムを2機も駄目にしてしまった。私の操縦が下手だったからだ。

 ガンダムの主人公なのにガンダムを壊してしまうなんて……そして父さんに苦労をかけてしまうなんて。

 私はアムロ失格なのかもしれない。

 

「……お、噂をすれば……。じゃあ僕は失礼するよ、何かあったら呼んでくれ」

「はい。ありがとうございますサンマロさん」

 

「サンマロ君!アムロの手術が完了したっていうのは本当か!?」

「え、えぇ。そちらに」

「アムロ!!」

 

 父さんのバタバタした足音が聞こえたと思ったら突然サンマロさんに掴みかかり、すごい剣幕で怒鳴りつける。

 そしてサンマロさんが私を指差すと、今度は私のベッドに駆け寄り、いきなり私を抱き寄せる。

 

「アムロ!!無事だったか!そうか……!私達のアムロよ……!」

「え、えぇ?と、父さん……」

「私のガンダムでアムロが……すまなかった!すまなかった……!!」

 

 父さんは私を抱き寄せたまま、おいおいと泣き始める。

 抱き寄せる手は私の怪我した肩にをぎゅうっと締め付ける。

 

「いたたた!?ちょっと父さん!離れて離れて!」

「お……ああ!……すまん……」

「もう……大丈夫だから私は。父さん、私もごめん……ガンダムを」

「違う!オートマチック突入プログラムを実装しなかった私のせいだ!!」

 

 自動で大気圏を突破する機能ってこと?たしかにそれがあれば私は無事だったんだろうけど……

 でも今回のこれは私がザクをさっさと倒してホワイトベースに戻ればよかっただけの話だ。

 決して父さんのガンダムが駄目だったわけではない。それは言える。

 

「ごめんなさい……」

「……もう謝るんじゃない。お前が生きて帰ってきてくれた。それだけで戦果だ」

「……そう?……ありがと。父さん」

「しおらしいお前を見るのは久しぶりだ。しばらく休んでいなさい」

 

 そう言って父さんは私の頭に手を置く。大きくてゴツゴツした手だ。 

 いろいろな機械を触り、沢山の人をまとめる手。

 私の手とはぜんぜん違う。細くて小さい私の手と父さんの手。

 ……同じ親子でも、背負うものが違うんだと感じる。

 

「アムロ」

「……?」

「よく頑張ったな」

「……!」

 

 父さんは私をの目を見て、はっきりとそう伝えた。

 その時私の心の奥の何かが刺激される。

 心臓の奥から何かがこみ上げ、溢れ出す。

 

「父さん……。……?」

 

 何も意識していないのに涙が零れ落ちる。

 私は困惑した。この涙は私が流しているわけではない。

 父さんの優しい目を見た瞬間、私の目から溢れ出したのだ。

 思わず拭うも、涙が止まらない。

 

「怖かったな……辛かったな……!」

 

 父親の言葉を受けた私は、アムロの本能に従う。

 アムロが物心ついてから初めて感じる父親の真っ直ぐな愛情。

 それを感じたアムロの本能は、父親に泣きつくという選択をした。

 

「父さん……!父さん!」

 

 父さんに抱きついた(アムロ)は、声を震わせて泣いた。

 今まで恐怖で涙を流すことはあったものの、こうして泣いたことはなかった。

 

 私は実感した。アムロ・レイは父親を父親と思っていなかった。

 

 自分にすら仕事内容を隠し、軍属であることを隠している父を軽蔑していた。

 身勝手な理由で家を飛び出し、故郷の母をひとりぼっちにした父を憎んでいた。

 でも今私の目の前にある父の目は、一人の人間の親の目だ。親が子にかける言葉だ。

 いつものガンダム一筋で避難民すら蔑ろにする父親の顔とは違う。

 

「父さんは……私を……!」

「ああ、愛しているさ。子供を愛さない親がいるものか」

「……ありがとう……」

「全く、いつまでも子供だな。お前は……」

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「父さん、私が寝込んでる間……ガンダムは……」

「あ、あぁ。急ピッチで修理が進んでいる」

「そう……」

「今は休みなさい。有事の際はガンキャノンとガンタンクに任せる」

「……うん」

 

 しばらく休もうと思ったけど、そうは行かないらしい。

 敵がすぐ側に来ているのに私は何も出来ないなんて。

 

「……すぐ良くなるから」

「……」

 

 父さんは頷いた。

 

 

 

 ★

 

 

 

「フラウ……本当にできるのかい?」

「出来るわ。アムロが駄目なら私が!」

「フラウ・ボゥ!何やってんだよ!」

「カイさん!フラウがガンダムに乗るって……!」

 

 全く、アムロが居ないからって何だってんだ。

 アッチもコッチもてんやわんやだ。整備班の連中は皆ガンダムを修理して補給もおぼつかない。

 整備班は正規兵揃いだけどだからこそ手が足りないんだ。

 こんな事になるんなら避難民の何人かを乗組員として育てときゃよかったんだ。

 

「手引書を持ってるの。私だって見てるだけは嫌なのよ!」

「分かってるよ!でもお前じゃ無理だ!」

「やってもないのにそんなの分からない!」

 

 フラウ・ボゥ生活指導員さんはこういう時になると何を言っても聞きやしない。

 現にこの女、今ホワイトベースのシミュレーターを勝手に動かしてモビルスーツ操縦を擬似的に行っている。

 だがコイツの腕は俺達より劣る。ガンダムのマニュアルを片手にアワアワと動かしてる状態だ。

 

「姿勢制御……。眼前MS-06が2機!回避運動を行った後射撃!」

「フラウ、口で言う前に撃たないと!」

「え!?きゃあっ!」

「~~~ッ!だから言ったろ!堅物のお前じゃ出来ないんだっての!」

 

 フラウは医療と調理員、雑務。それにカツ、レツ、キッカの世話で手一杯だ。

 その上こいつにガンダムを任せるとなるとそもそもオーバーワーク。更にこの適性の低さだ。

 フラウ自身も持たないし、ガンダムをいたずらに破損させる訳にはいかない。

 

「だったら!アムロが居ない間に敵が来たらどうするのよ!」

「そのために俺達がいるんだ!フラウにはフラウの戦いがあるだろうが!」

「そ、そうだよフラウ・ボゥ。君だって何もしてないわけじゃないんだ!」

 

 そもそも今のホワイトベースは明らかに人手が不足している。

 避難民上がりの俺達はモビルスーツのパイロット兼ホワイトベースの機銃手。

 ガンダムやガンキャノンを整備しているメカニックマンも戦闘中は機銃手をやる。

 料理長や医療班まで手空きの場合は機銃を操作している様な状態だ。

 アムロの親父だって戦闘中は被弾箇所の応急修理や機関士の役を担っている。

 そんな状態でアムロが寝込んでいるんだ。一番アムロと親しいフラウが焦るのも無理はねえ。

 

大体ルナツーでサイド7で死んだ人員の補充をやらなかったのが悪いんだよ。

これじゃあ敵にやられる前に過労死しちまうよ。

 

「フラウ、俺達を信じろよ。俺達のパンツの洗濯だってまだだろ?」

「……っ」

「今焦ってもガンダム動かせんのはあいつしかいねぇんだ。それくらいわかれよ」

 

 怒鳴りつけてやりたい気持ちを抑え、俺は俯くフラウの腕を握って立たせる。

 フラウはアムロが大気圏に突っ込んだ時、ずっとブリッジでアムロを見ていた。

 あの様を見て、フラウは自分にも出来ることはないかって考えたんだろう。

 だけど感情でガンダムに乗ることを許して、それで犬死されちゃたまらねぇよ。

 

「私だって、ホワイトベースの乗組員なのよ!」

「……フラウ・ボゥ」

「ハヤト君だって機銃でザクをやっつけてる。カイさんだってそうでしょ!?」

「……」

「私だけが何も出来ないなんて、そんなの嫌よ!」

「フラウ!」

 

 少し目を瞑り、フラウの目を見る、突き刺さるような眼差しだ。

 今までこんな眼差しは見たことがない。俺も喧嘩する時は相手に睨まれるが、

 こんな眼差しで見られたのは初めてだ。しかし俺もフラウの目を見つめ、

 フラウの腕を思い切り握りしめる。

 

「うっ……」

「悔しいけどよ、俺らだって男なんだよ」

「か、カイさんちょっと」

「うっせぇ!!」

 

 睨んでいるフラウを壁に押し付ける。

 静かな艦の中でフラウが壁に叩きつけられる音が響いた。

 自然とフラウと俺の距離が縮まり、フラウの息遣いが耳に届く。

 

「女は女らしく、今辛い奴のとこに居てやれ」

「でも」

「これ以上言わせるなよ。乱暴なことはしたくねぇ」

 

 腕を握る力をさらに強め、フラウを思い切り睨みつける。

 するとフラウは一瞬怯えた顔をしたが、すぐに元の顔に戻り俺の手を振り払う。

 

「……間違ってることくらい分かってるわよ……でも……!でもどうすればいいのよ!」

「簡単な事さ、出来ることを精一杯やるんだよ」

「そんな事……!」

「出来るもんは出来る、出来ないことは出来ない。当然だろ?理屈なんだよこういう時こそ」

「……」

「やれることを見誤るなよ、らしくねぇぞフラウ・ボゥ。ハヤト行くぞ」

 

 俺はフラウに手を振り、ハンガーへと歩く。

 しばらくしてハヤトがタッタッタ、とワンテンポ遅れて俺の横に立った。

 フラウは……多分もうガンダムに乗るなんて考えねえだろう。

 ザクを倒す前のアムロじゃないんだ。逆上してトチ狂ったことするようなやつじゃない。

 

「……カイさん、フラウは」

「言うなよハヤト。俺だって正気でこんな船に乗ってるわけじゃねぇんだ」

「……」

「あんな事言っときながら俺らだって女に命運預けてたんだからよ」

「そうですね……今度は僕たちが」

「当然だハヤト、アムロが起きても俺たちゃ戦うぜ。いいな?」

「は、はい!」

 

 俺はハンガーに出て、ガンキャノンが駐機されているところへ向かう。

 新品同然の赤いガンキャノン。何の番号もマーキングもされていないが、いつもシミュレーターで乗っている方のコクピットへ座る。

 ハヤトは近くのアニーとかいう整備の姉ちゃんに頼み、シミュレーターを起動してもらっている。

 しばらくしてハヤトもコクピットに入り、ハッチが閉まった。

 

「……用意いいかい?」

『ええ。古いデータですけど、地上専用のザクも居るらしいです』

「サンキュー。じゃあやるぜ」

『了解』

 

 シミュレーターが起動する。俺とハヤトは少しでもアムロに近づくために、

 いつ敵が仕掛けてくるかわからない中、シミュレーションを開始した。

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「ようシャア、随分木馬に手こずっているようだな」

「会うや否やご挨拶だなガルマ。いや、ザビ大佐」

「むず痒い呼び方はよしてくれ、ガルマでいい」

 

 北アメリカ西部方面軍司令官、ガルマ・ザビ大佐。

 仇敵ザビ家の末弟……。そして私の唯一の友人。 

 彼はガウ攻撃空母で私のカプセルを回収し、私をブリッジまで呼び寄せた。

 サブモニターで私と例の白い奴との戦闘記録を眺めている。

 

「最大望遠、木馬を確認しました」

「……あれが木馬か?随分と目立つ色をしているのだな」

「そう、バケモノの(ねぐら)と言える」

「赤い彗星でも沈められない船か。あの船がね……」

 

 ガルマは相変わらず前髪を弄り、私に悪意のない笑顔を見せる。

 私はふと、ブリッジにある艦長席を見る。今時珍しい紙媒体に白い奴の性能諸元が記入されていた。

 この男の分析能力には目を見張る物があると前から思っていたが、更にそれに磨きがかかっているようだ。

 

 私が数日かけて算出したデータよりも正確なものをこの数十分で見抜いたらしい。

 ざっと見ただけだが目を通すだけでもこれが正しいものだと予測できた。

 

「奴の性能はすでに把握しているようだな」

「まだ予測でしか無いよ。次の戦闘で答え合わせだ」

「撃破はまだ考えないのかい?」

 

 私はガルマを挑発する。するとガルマはにやりと笑った。

 

「疲れ果てた獲物を狩るのもまた一興かな?」

「ジオン十字勲章が目の前にあるのだ、躊躇することはあるまい」

「窮鼠に噛まれる様を見せたくは無いが、良いだろう、更に消耗させるのも悪手ではない」

 

 そう言うとガルマはメインパネルを操作し、警報を鳴らした。

 ガルマは慣れた様子で艦内に指示を出す。

 

「出撃するぞ各員!ゲビル、ハンブルは発進準備!第15戦車大隊、第118戦術航空隊へ伝達!グレートキャニオン経由で現地点に集結!敵データを送信しろ!発見次第攻撃を開始しろと伝えろ!」

「はっ!」

 

ガルマのお手並みを拝見させて頂こう。見せかけの優しさを振りまく無能か、

それとも爪を隠した能ある鷹か。

 

「見ていてくれシャア。君の無念は私が晴らす」

「やってみてくれ」

 

出来るものならな。




今回のアムロの行動の結果

・アムロ目覚める
・ホワイトベース、人手不足に悩む
・ガルマはほとんど原作通り

以上の結果となりました。


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ガルマ出撃す

『防衛網M-4、通信解読β4』

「β4了解」

 

 ジャブローからの暗号通信が来た。暗号通信の解読内容がサブモニターに表示される。 

 それをセイラさんは紙媒体にコピーする。

 

「ブライト」

「ああ」

 

 俺はそれを手に取り、暗号通信の内容を読む。せめて補給……。

 欲を言えば援軍が来ることを望むが……。

 

「ホワイトベースは敵の戦線を突破し、太平洋へ脱出せよ……」

 

 通信内容は以上だ。俺達は援軍どころか補給すら受けられない。

 更に、距離が近いとは言え太平洋、地球最大の海に出ろと言うのだ。

 そこに出てどうしろというか。海中にホワイトベースを放棄しろとでも言うつもりか。

 

「通信は以上よ」

「何だって言うんだ。上の連中はどうなっている!」

「命令違反をしてジャブローに強行する?」

「どうせ入れてくれんよ!」

 

 暗号通信が記載された紙を握り潰し、俺は一見綺麗に見える地球を望む。

 しかし、この地球はジオンの色に染まりきっているのだ。

 そして今、ジャブローからの非道な通信のせいで、完全にホワイトベースは居場所を失った。

 

「弾薬も武器も豊富にあるわけじゃないというのに」

「特に弾薬は底を尽きかけているわね……」

 

 先の大気圏突入時にかなりの弾を使用してしまった。モビルスーツの弾薬にはまだ余裕がある。

 しかしガンダムが使えない今、1回のみの実戦しか行えていない子供達には荷が重い。

 だからといってこの先アムロのガンダム1機のみで切り抜けるのも不可能だ。

 

「……また、避難民上がりの子供達に頼るしか無いか」

「ブライト」

「分かっているよ。言っている場合ではないって」

「……」

 

 軍属ではない子供を頼らざるを得ない状況だということは分かっている。

 しかしホワイトベースの被害も深刻だ。そのうえ弾薬も無いとなると……。 

 どこかで補給を受けなければどちらにせよ俺達は瓦礫に埋まるか海の藻屑だ。

 

「ブライト」

「何か、ミライ」

「衛星軌道に再上昇するのはどう?どちらにせよこのままでは袋叩きだわ」

「これほど目立つ艦が大気圏に突入したんだ、ジオンの宇宙での動きも活発になってしまっている。今衛星軌道を抜けてもルナツーへの道中でメガ粒子砲の集中砲火を受けるよ」

 

 眼前にはジオンの包囲部隊。上では予想しか出来ないがムサイとザクの大部隊だ。

 逃げることは最早不可能……ジャブローからの指示に従うしか無い。

 

「なら、どうする?」

「どうするもこうするもない。前進だ。指示通り太平洋方面へ抜ける!」

「敵機です!最大望遠で大型機!ガウ攻撃空母と思われます!」

 

 マーカーが敵機を補足した。望遠カメラの映像がメインモニターに映し出される。

 大型の航空機、その周囲を飛ぶ小型機。間違いない。ガウとドップだ。

 これで衛星軌道に脱出する選択肢が失われた。

 

「ミノフスキー粒子濃度は!」

「戦闘濃度基準値よりプラス40!レーダー、広域通信使用不能!更に上昇しています!」

「援軍は呼べないか。分かってはいたが……」

 

 既にホワイトベースのレーダーは使用できない。

 オスカとマーカーはすぐに熱源探知モードに切り替え、ガウの動きを追う。

 ガウとの距離は非常に離れている。こちらから仕掛けるには射程が足りない。

 望遠カメラ越しに見えるほどの距離では前部主砲も届かない。

 

「察知された!戦闘機、こちらに接近して来ます!」

「総員戦闘配置!!全砲門開け!ガンキャノン、ガンタンク全機出撃用意!!」

『ブライト少尉!ガンタンクは1機しか出せません!』

 

 通信モニターが格納庫の整備員を映す。

 

「何だと!」

『120砲の残弾が1機分しか無いんですよ!』

「弾薬か……!」

 

 サイド7で模擬弾を破棄して実弾のみを積み込んだのが悪かったようだ。

 最大積載の艦を少しでも軽量化するがために行った苦肉の策がここに来て響くか。

 模擬弾であってもドップ程度なら撃ち落とせたというのに。

 

「分かった。ガンタンクは1機のみでいい!急がせろ!」

『了解!』

「使えん木偶の坊を何人も抱えてるって事かい、このボロ馬は……!」

 

 艦長椅子に座り込み、思わず頭を抱えてしまう。

 ここで死ぬ覚悟などしたくはないが、場合によってはそれもあり得る。

 いや、ここで弱気にはなれない。子供達を死なせてはならない。

 

「ドップ!機銃射程圏内まで10秒!」

「射撃用意!!」

 

 残り少ない弾薬、完全ではないモビルスーツ隊と不慣れなパイロット。

 そして目の前にはガウ攻撃空母に多数の戦闘機隊。

 歯を食いしばりながら、オスカのカウントダウンを聞く。

 

「3,2,1!」

「撃て!!」

 

 その瞬間、艦内全方向から機銃の音が響き渡り、同時に前部から主砲が轟く。

 数機のドップの破片が前方に映し出された。

 機銃の腕は悪くない。が、無駄弾を使いたくない心境が、額に汗を滲ませる。

 

「両翼!ドップ来ます」

「メガ粒子砲開け!粒子を惜しむな!ここを切り抜けるんだ!」

『ガンキャノン発進準備完了!』

「了解!セイラ!発進後のオペレートを頼む!両甲板に展開させるんだ!」

「了解、カイ、ハヤト、ジョブ・ジョン、聞こえて?」

「整備班!プロトとガンダムのコアファイターを分離!右舷ハンガーに移せ!第1波攻撃終了後、偵察機として使用する!」

『了解!!』 

「ミライ!高度を陸戦可能高度まで落とせ!ガンタンクを降下させる!」

「了解、対地高度150まで降下、回避運動を取りつつなので時間はかかります」

「任せる!IRミサイル!何やってる!ここで撃たずにいつ撃つか!」

 

 指示通りに動いてくれてはいるがいかんせん敵が多すぎる。

 熱源センサーは真っ赤だ。どれだけ範囲を広げてもドップが居る。

 ざっと数を数えても数10。切り抜けるだけの弾薬は保証できない。

 弾切れは考えたくはないが、万一の場合、投降することもやむを得ない。

 

「右舷無人機銃被弾!火災発生!自動消火装置作動!」

「左舷後方有人機銃被弾!銃手リック。応答なし!」

「く……!」

 

 ついに被弾した。何時まで持つか……!

 

 

 ★

 

 

「ゲビル、ハンブル会敵。キャリフォルニアベースよりガーゴイル、ガルーダ出撃、10分後に会敵。16戦車大隊も同時に出撃。戦車大隊は全速力で進行中ですが指定位置への会敵まで40分程の遅れが生じます」

「了解した。各飛行隊長へ通達、数分間自由戦闘。敵艦の戦闘力を肌で感じよ」

「はっ」

 

 通信士は例の木馬と戦闘を開始したドップに指示を出す。

 ガウは攻撃空母でありながら、ドップの戦闘支援、更には空中管制をも行えるのだ。

 熱源レーダーやルッグンからの映像から戦況を読み取る。数では圧倒している。

 ビッグトレー相手にも遅れを取らん編成だ。

 

「ゲビル4ダウン。ゲビルリーダー、密集隊形を指示」

「ビーム砲、射撃準備に入りますか?」

「射程内に入って狙い撃ちされるのはどちらも同じだ。母艦が突っ込むものではない」

「了解」

「当たると思う博打は案外当たらんものだ。今こそ慎重にな」

 

 既に3機落とされた。木馬の機銃は私が思っている以上に優秀みたいだ。

 しかし我々の部下も負けているわけではない。木馬には確実に傷をつけている。

 

「しかし、例の白と黒のモビルスーツが出ないな」

「妙ですね」

「報告。木馬の高度下がります、更に後部ハッチが開いている模様」

「出るか、モビルスーツが」

 

 ルッグンからの映像がメインモニターに映し出される。

 木馬の後部ハッチが開き、モビルスーツが出てきた。

 白い奴ではない。赤いキャノンタイプのモビルスーツだ。

 旧式のモビルスーツではあるが、手持ちの武器が違う。マシンガンではない。

 

「マイナーチェンジの射撃型が3機か、甲板での防衛射撃にはうってつけだ」

 

 既に私の隊でも実績があるモビルスーツでの甲板射撃。連邦のモビルスーツでもやるか。

 木馬の安定飛行能力ならば重力下であっても安定した射撃を行えるだろう。

 問題は手持ちの武器だ。パプアが襲撃された際の戦闘記録では奴もビーム砲を使っていた。

 

「全機に通達。自由戦闘を中断。赤いモビルスーツに攻撃を集中させろ」

「了解。ゲビルリーダー、ハンブルリーダーへ。命令変更。赤いモビルスーツに攻撃を集中」

「ガルーダ中隊、ガーゴイル中隊到着。ガルマ大佐、ガルーダリーダー、ガーゴイルリーダーへの指示を」

「早い到着だ。君たちは対艦攻撃、ガルーダは右舷の攻撃に集中、ガーゴイルは左舷だ」

 

 2個中隊の反応が10機ずつ、目標である木馬を囲む。前方の戦闘の光が更に激しくなる。

 しかし木馬は堕ちない。なんとしぶとい連中だ。

 

「ゲビル3ダウン!ハンブル3、ハンブル4被弾!」

「ガルーダ4。ガルーダ7ダウン!ガーゴイル3から6応答なし!」

「チッ」

『ハンブルリーダーよりガウ1番機へ!こちらも被弾した!』

「木馬め、了解した。ゲビル隊、ハンブル隊は帰還しろ」

『っ……申し訳ない』

「気にするなラリー。気をつけてな。ガルマ隊隊員、発進準備」

「大佐も出られるのですか!?」

 

 私では不足やもしれん。しかし地上部隊の到着まで飛行部隊を持たせなければならない。

 混線する無線内容からして士気は落ちつつある。専用機を出すことで少しでも士気をあげなければ。

 ……私の実力次第では士気が下がるリスクも勿論ある。しくじることは出来ん。

 

「私も出る、指揮は任せるぞダロタ」

「了解しました!」

 

 私はブリッジを出て専用のノーマルスーツに着替える。堕ちた部下たちは脱出しただろうか。

 ……いや、ドップの構造上脱出は困難だ。装置が作動したとしても生き残れるかは分からんだろう。

 やりきれんがこれが戦場だ。私はその様な失態は犯さん。戦いの恐怖は最早消え失せている。

 

「ガルマ」

「ん、シャアか」

 

 格納庫ではシャアが私のドップを眺めていた。

 シャアには頼めない。ゲリラ掃討任務に引き続いてこの任務を受けているのだ。

 彼には休息が必要だ。

 

「わざわざ君が行くほどかね?」

「そうらしい。ドップ隊の被害が拡大している。少しでも士気を上げなければ」

「君らしくもない、司令官というのはそんなものか」

「私も男を上げなければならんということさ」

 

 そう言うとシャアは口角を上げ、私の肩を叩く。

 

「手を出すなよ、見てるんだシャア」

「そのつもりだ」

 

 私はドップに乗り込む。木馬を手に入れれば私のザビ家での発言力が増すだろう。

 ここはチャンスだ。フイにする訳にはいかない。

 エンジンを始動。操縦系統、油圧、偏向ノズルの確認。全て異常無い。

 ミサイル、ロケット砲、30mmも問題なし。優秀な整備兵に感謝しなければならない。

 他の隊員も出撃準備が完了した。

 

「ガルマ隊発進!」

 

 スロットルを上げ、ドップを発進させた。他の機も続けてガウから出撃する。

 木馬を落とせば、出撃していない白い奴も手に入れられるというものだ。

 ここで確実に仕留める。

 

 

 ★

 

 

 

『底部被弾!敵の地上部隊!マゼラアタックです!』

「揺れ、揺れてるって……!」

 

 さっきからホワイトベースがガッタンガッタンと只事じゃないくらい揺れている。

 それに怪我人がわんさか運ばれている。私も怪我人だけど、今担ぎ込まれている怪我人は違う。

 腕が真っ赤に染まっていたり、私の比ではない破片がぶっ刺さっているような怪我人だ。

 

「輸血パック足りないよ!急いで!」

「応急処置だけできればいい!今はな!こっちに手を!」

 

 怪我人の中には呻く人もいれば気絶している人もいる。

 サンマロさんの腕はピカイチみたいだ。今の所死者は居ない。

 ……まぁ、死んだ人はそもそも医務室に担ぎ込まれないだけかもしれないけど。

 他の医療班の人たちも凄い手際で担ぎ込まれた人の応急処置をしている。

 

「っつつ……」

 

 私はベッドから降りる。せめて外の様子が知りたい。まぜらあたっくって何?

 モニターからの映像じゃブライトさんも切羽詰まっている。かなりまずい状態だ。

 ズキズキと肩が痛むけれど言ってる場合じゃない。こんなボコボコにされてガンダムが出せないんじゃ……。

 

「アムロさん!まだ動いちゃ駄目だ!」

「外の様子次第じゃそんな事!私じゃないとガンダムは!」

「分かるけど!腕が動かないんじゃ犬死だ!地上戦だってやったことないだろ!」

「でも……!」

「外はカイとハヤト、それにジョブさんがガンキャノンで戦ってる!」

「マゼラ、何とかはどうするんですか!」

「きっとガンタンクが出るよ!そのために高度を下げてるんだ!」

 

 そうか。だからさっきから耳がピーンってなるんだ。

 それで高度を下げたからその、マゼラアタック?とかいうのに狙われてるんだ。

 空の敵はガンキャノンが、地上の敵はガンタンクに任せる。

 ……ガンダムさえ出撃できたら……。

 

「早く怪我が治れば……!」

「傷は浅い。明日には治るようにする。でもこれが開いたら更に出撃できなくなるぞ」

「……っ!」

 

 点滴が繋がっている右腕の肩を見る。服の中では包帯がきつく巻かれている、

 手術して1日で治るような医療技術でも時間が足りないくらい切羽詰まってる。

 

『ハヤト!ガンキャノン!どうした!被弾したのか!!』

「ハヤトくん!」

『……分かった!ホワイトベースに戻れ!ぐっ!?』

「またっ!……!」

 

 またしても大きな揺れだ。爆発音だけじゃない。何かひしゃげ、壊れる音が鮮明に聞こえる。

 ……ハヤトくんのガンキャノンがホワイトベースに戻ったって言うことはジョブさんとカイさんしかモビルスーツが居ない。

 

「っブライトさん!」

 

 思わず私はモニターの通話ボタンを押す。

 

『アムロです!』

『アムロ!?』

「ガンダムを出撃させて下さい!私は大丈夫です!だから!」

『駄目だ!君は出せない!』

「でもハヤトくんが!ガンキャノンは2機しか!」

『補給に戻っただけだ!すぐに再出撃する!敵の包囲網はもうすぐ突破する。安心してくれ』

『対地高度100。行けます!』

『よし!ガンタンク発進!』

 

「……分かりました」

 

 私は通信モニターを消し、ベッドへと座り込む。

 

「気持ちはわかるさ、でも君は治療に専念しないと」

「……」

「明日には出撃できるようにする。医療班班長として、絶対にね。今は安静に」

「は、はい」

 

 サンマロさんは私をベッドに寝かせ、すぐに他の人の応急処置に回る。

 私が今我儘を言った所で足を引っ張るだけだ。そう言い聞かせなければとても休めない。

 揺れるホワイトベースではとても眠れたものでもないし、外の様子が気になってしょうがない。

 痛み止めでも何でも渡して出撃させろと喚いてもいいけれど、サンマロさんに迷惑をかけるのも気分が悪い。ここは大人しくするしかないだろう。

 

「アムロ!大丈夫!?」

「フラウ!」

 

 さぁ寝ようと思ったら、フラウが駆け込んできた。

 揺れるホワイトベースの中じゃ歩くのも大変だろうに。

 

「大丈夫!?」

「うん。私は大丈夫……」

「今は平気。ごめんなさい。こんな状態で居ても立ってもいられなくて」

「いいよ、来てくれただけでも嬉しい。こんな状態じゃお見舞いって訳にはいかないけど……」

 

 私は周りを見る。うめいたり苦しんだりしている人が大勢いる医務室。

 サンマロさん他、看護師っぽい人が数人、明らかに手が足りていない。

 

「分かった。手伝って来るわ。アムロは何か居る?」

「今は私の事はいいの。フラウは皆を助けて!」

「ええ。何かあったらすぐ呼んで!」

 

 そう言ってフラウは近くにあった白衣を羽織り、サンマロさんの指示を受ける。

 フラウの凄いところは洗濯や子供の世話。こんな救護活動まで何でもやる所……。

 私じゃガンダムの操縦以外のことやれって言われたら目グルグルになって倒れてしまうだろう。

 

 少しは私もガンダム以外の所で役に立たなきゃ。

 

「ぐぁっ痛いっ!!痛いいい!!ドップ!ドップがぁあ!!!」

「フラウさん、鎮静剤を!!」

「はい!」

 

 ……。機銃の人ってこんなに命がけだったんだ……。

 それにここに運び込まれてる人たちは皆今の戦闘で傷ついてる人たちばかり。

 一体どんな敵が……。

 

「外は……どうなってんの……?」

 

 

 

 ★

 

 

 

「ちくしょお!小バエがチョロチョロと鬱陶しいってんだ!」

『カイさん、ジョブさん!補給終わりました!すぐ戻ります!』

「おせぇっての!ジョブさんよ!アンタは大丈夫か!?」

『ライフルで持ちこたえてる!クソ……!ハヤト!頼む!』

 

 ホワイトベース上での戦闘もそろそろ辛くなってきた。

 甲板上には山ほどドップの破片とキャノンの薬莢が転がっている。

 戦闘開始から2時間近く経ってるっていうのに敵の勢いが止まらない。

 

「マゼラアタックの部隊!」

『カイ、ハヤト!もうすぐ包囲網を抜けるわ!』

「ミライさんに急げって伝えてくれよセイラさん!もう持たねえぞ!」

『うわぁああ!』

「ハヤト!」

『だ、大丈夫です!』

 

 ホワイトベースの被弾状況も酷いものだが、俺達もかなりやられてる。

 特に酷いのはハヤトだ。ミサイルの直撃を何発も浴びている。

 心身ともに疲れ果てている上にさっきから左腕が動いていない。

 

 俺のガンキャノンも直撃は避けているものの決して無傷じゃない。

 右足関節に機銃弾が食い込んで変な音が鳴っている。

 ライフルのスコープにも銃弾がめり込んでいる。狙えない訳ではないが命中率はかなり落ちた。

 

「前方3列!行けっ!!」

 

 キャノン砲のセレクターを切り替え、連射モードに切り替える。

 コクピット内で轟音が3秒間左右交互に響き、前方のマゼラアタック部隊に砲弾を注いだ。

 ドンドンドンと次々に爆発する砲弾は戦車の車体を溶かしていく。

 

「ドップは!」

 

 コンソールのセンサーを見る。

 おかしい、赤い反応が次々に離れていく。

 

『カイさん!右舷上空の敵反応ありません!マゼラアタックも攻撃をやめました!』

「やったのか?」

 

 目視でも敵機が離れていくことが確認できた。

 しかし遠くの1機だけは離れない。むしろ近づいている。

 緑色のドップ。しかしズームするとその腹には何かを引っさげていた。

 

「何のつもりかしらねぇが!」

『撃ちます!』

 

 ハヤトがキャノン砲で奴を狙い撃つ。

 狙いは正確だ。キャノンの砲弾がドップに直撃し、砲弾が爆発する。

 その瞬間、ガンキャノンのモニターが真っ白に染まり、視界を奪う。

 

『わぁああ!!!』

「何だってんだ!?」

 

 爆風はない。爆弾ではないらしい。しかし視界が奪われた俺達は攻撃を中断してしまう。

 ホワイトベースの操舵も一時的に奪われたらしく、一瞬足元がブレる。

 しかしさすがはミライさんだ。すぐに自動操舵に切り替えたらしい。

 

「ちっ……!」

 

 カメラの映像が回復する。敵の布陣を整えたというわけではないらしい。

 さっきまで前方で待ち構えていたマゼラアタックの部隊は車体だけを残し、頭の部分は撤退した。

 撤退のための時間稼ぎってわけか、命を賭してまでやる事かよ、殊勝な奴め。

 

「俺達には追撃する余裕なんてないのによ……」

『カイ、ハヤト、リュウ。敵は撤退した。帰還しろ!』

「……はいよ」

『了解!』

『終わったか、全く……』

『……全員、よくホワイトベースを守ってくれた』

 

 ブライトの労いの言葉は、疲れ果てた俺の耳には届かなかった。

 

 

 ★

 

 

「木馬め……基地に帰還する」

『このまま撤退するんですか!?大佐!』

「見ただろう、敵の威力を。あれだけあった戦車大隊、ドップ編隊は見る影もない」

 

 峡谷一面に広がるドップとマゼラアタックの亡骸。

 部隊はまさに壊滅状態と言える。残ったドップはキャリフォルニアベースに帰還した。

 

「ガルーダ1、ガルーダ2が生存、ガーゴイル隊に至っては隊長機のみ生存……」

『3機は既に帰還。戦車大隊は撤退行動を完了し、ファットアンクルに搭乗した模様です』

「了解した。後ほど隊員と基地司令官に正式に謝罪する」

 

 木馬にも浅くはない傷を与えた。しかしその代償がこの惨状とは……。

 キシリア姉さんはおろか、シャアにも顔向けできんな。

 白い奴と黒い奴も出ておらず、赤いモビルスーツと戦車もどきだけでこれほどの被害。

 

「……私の読みが甘かったというのか、ええい……!」

『ガルマ、次は私も出よう』

「シャアか、しかし」

『これで感じられただろう、奴らの強さを』

 

 認めざるを得ない。たしかにやつは十字勲章物の獲物だ。

 そして何よりも私一人では奴を落とすには不十分だということも。

 

「ああ。十二分に感じる事ができた……たった1隻、数機のモビルスーツで5つの包囲網を突破可能とは」

『一度戻れ、作戦を検討しよう』

「了解した。ガルマ隊、帰還する」

 

 ドズル兄さん直属のシャアを使わざるを得ない。

 ドップ数十機とマゼラの大隊をけしかけても落ちないとなると、

 ドップに加えてザクとマゼラアタックをフル活用せねばならん。

 

「ダロタ」

『はっ』

「連中の船の調査を地球方面軍の諜報部に依頼しろ、私も本国に掛け合ってみる」

『了解しました、通達します』

「それと、奴らを監視の目の中で泳がせろ、どんな動きも逃すな」

 

 奴らの新造戦艦、それにモビルスーツ。

 どれも重要なものだ。一日一夜では成せるものではない。

 しかし木馬との戦闘だけにすべてを割くわけにも行かん。

 

「っ……ザクの整備を完全なものにしておけ。私のザクもな」

『はっ!』

 

 今日という日は精々地球観光を楽しむがいい。

 次こそは必ず仕留める。

 

 

 




今回の結果

・アムロはお休み
・カイ、ハヤト、リュウ練度上昇
・ホワイトベース、ガルマ包囲網突破

以上の結果となりました。


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ホワイトベースVSガルマ・ザビ

「ねぇ、アニーさん」

 

 次の日の朝。回復注射とか言うのを終えた私はサンマロさんに頭を下げ、

 すぐにガンダムの所に行った。注射の効果は絶大で、寝込む前と同じ位の力をすぐに出せる。

 ……と言っても1日寝込んだだけで、起き上がる時のだるさが取れた程度だが。

 

「何?」

「前の戦闘、相当熾烈だったんですね」

 

 そんな事よりもだ。例の倉庫、ハンガーとか言ったっけ。そこについた私はあ然とした。

 ガンダムが……真っ二つになっているのだ。綺麗に腰と上半身が別れている。

 

「ん?あ、あぁ……これ?」

「……」

 

 私がガンダムで出なかったからこんな事になってしまった。

 ガンダムどころかプロタイプガンダムも真っ二つにされてしまっている。

 そう思うと、自然と片手で頭を抱えてしまう。私のせいだ。

 

「違うんだって!そんなに気落とさないでよ!ね、ねぇ!レイ大尉!」

『ん?おお!アムロ!』

「へ?」

 

 ハンガーの床部分で父さんの楽しそうな声が聞こえた。何で楽しそうなの?

 そう思い、私は簡易なエレベーターを使って床に降りる。宇宙とは違って移動が面倒だ。

 

「アムロ!もういいのか?」

「うん……父さん、ガンダムが……」

「凄いだろう。これがガンダム発の画期的な機能。コアブロックシステム!」

 

 沈んだ私とは対照的に、父さんは楽しげだ。

 父さんの片手にあるタブレット端末は近くの小さい飛行機に繋がっている。

 端末から目を放し、ニマニマした表情でその戦闘機を指差す。

 

「これがコア・ファイターだ!」

「こあふぁいたー?」

「まぁ乗ってみなさい、すぐに分かる」

 

 言われた通り私はその、コアファイターとやらのコクピットを覗き込む。

 

「!」

 

 すぐに父さんがニタつく理由が分かった。これ、ガンダムのコクピットだ。

 私は思わずそのコアファイターに飛び乗る。やっぱりガンダムのコクピット。

 違いと言えばそのコクピットの中心に赤い棒みたいなのがある事だ。

 

「え?」

「気付かなかったろう?」

「う、うん……うん?でも何で飛行機なの?」

「改造したわけではないぞ?ガンダムを分解しただけだ」

 

 …………えっと……。

 

「……ごめん父さん、詳しく教えてほしいかも」

「ああ、困惑するのも無理はない。これを見なさい」

 

 そう言って父さんはコアファイターに繋がっていた端末を見せる。

 未だにこの端末の名前がわからないが、とりあえず見る。

 端末にはコアファイターの画像がグルグルと回っていた。

 父さんは、そのコアファイターをタッチすると、コアファイターが縮こまる。

 

「ん?」

 

 そして翼が折り畳まれ……

 

「え……」

 

 更にコアファイターが半分に折り畳まれる。上の尖った部分も畳まれていた。

 飛行機が箱になるって事?それで、ガンダムの足、それで体が繋がる。

 上半身はガンダムAパーツ。下半身はガンダムBパーツって言うみたいだ。初めて知った。

 

 私は真っ二つになったガンダムの上半身を見る。確かに折り畳まれたコアファイターが入るくらいの穴が空いている……つまり、私は今まで2つに折り畳まれた飛行機の中に乗っていたってことになるのか……な?

 

「どうだ、凄いだろう!戦闘機としての機能も万全だ。現にプロトタイプのコアファイターは偵察に出ている!」

「凄い……でもなんで飛行機になるの?」

「非常用脱出装置として考案したものだ。ガンダムがやられた際に起動する」

「へぇ……」

「ガンダムの実戦データは今後のモビルスーツ開発に大きく影響するものだ」

 

 だからコクピットが大事ってことか。成る程ね……。

 このコクピットの中に私の戦い全部が記録されてるんだ。

 それを軍の人に見せて、それで新しいモビルスーツを作る。

 

「このちっこいのがガンダムのメインの部分って事?」

「そう、さぁ。データの吸い出しがもうすぐ終わる。離れていなさい」

「うん。頑張って、父さん」

「昼には出せるようにしておく!」

 

 コアブロックシステム……だっけ?ガンダムの脱出装置。

 分解することで整備もしやすいんだろうけど……。

 これはガンダムが壊れたときのためのシステムだ。使いたくはないな……。

 父さんもガンダムを壊さずにジャブローってトコに送りたいんだろうし、

 私自身ガンダムをダメにする訳にはいかない。この戦闘機が出るって事はガンダムがダメになるんだ。

 

「ブリッジに行こっかな」

『プロトタイプガンダム、コアファイター帰還!整備班はメンテ急げ!』

「……誰がパイロットなんだろ?」

 

 私はハンガーを出てブリッジへ向かった。

 コアファイターっていう大事な飛行機を確実に返せるパイロット……。

 ジョブ・ジョンさんか、リュウさんしか居ないだろうな、多分。

 

「よおアムロ、もういいのか?」

「リュウさん。お疲れ様です!」

 

 ブリッジへ向かう途中、私はリュウさんと鉢合わせした。

 案の定ノーマルスーツを着ている。リュウさんがコアファイターのパイロットか。

 

「いやあ、久々の偵察だった、ルウム以来だ」

「ルウム?」

「おお、お前さんは知らないのか。この戦争で現時点で最大の戦いと言われる戦闘だ」

 

 リュウさんとエレベーターに乗る。ルウムっていう戦いでリュウさんは戦闘機に乗ったらしい。

 なるほど、経験者だったんだ……だったら安心かな。コアファイターってコクピットだし壊されちゃかなわない。

 

「リュウさんも戦ったんですか?」

「ああ。撃墜されちまったけどな」

「撃墜……」

「宇宙で撃墜されたのが幸いだった。でも、後部席の奴がな……」

「死んじゃったんですか?」

「MIA。今も行方不明だとさ……恐らくは死んじまったんだろう」

 

 ……リュウさん、実力は知らないけど昨日の戦闘でもガンタンクに乗って生きてた人だ。

 そんな人が撃墜されるような戦場。それがルウムらしい。

 リュウさんの目は悲しげだ。多分その後ろの席の人とは友達か何かだったんだろう。

 

「アムロ」

「は、はい!」

「カイとハヤトがな、お前の事を心配してたよ」

「カイさんと、ハヤトくんが?」

 

 ハヤトくんはまだしもカイさんが心配するのはあまり想像できない。

 たしかにブライトさん引っ叩いた時はなだめてくれたし励ましてくれたけど、

 他の人を心配している姿をぱっと想像できない。失礼な話ではあるけど、何となく。

 

「戦わせすぎたってな。特にカイはサボり気味だった訓練にも身が入ってる」

「そうなんですか……」

「だが俺はお前よりもその2人が心配だ。ああいうタイプは増長して死にやすい」

 

 確かに、映画やドラマでもそういう急な努力をした人はロクな目にあっていない。 

 特に未熟な人が急に頑張ってぶっつけ本番となると、だいたい死ぬ気がする。

 

「付け焼き刃って言う奴でしたっけ……?」

「そう。アムロ、すまんがあいつら2人を支えてやってくれんか」

「わ、私が、ですか?」

 

 リュウさんは私を見てそう言う。

 私が、カイさんとハヤトくんを支える。

 

「何も一喝しろって訳じゃない。これから出撃する2人と連携してくれればいい」

「連携。ですか」

「不慣れか?」

「ええ、あんまり考えた事無くて……連携かぁ……」

 

 私が首を傾げると、リュウさんは「ハッハッハ!」と笑った。

 そして私の頭をポンと叩く。

 

「って!」

「そう気負いなさんな!眉間にシワ寄ってるぞ」

「えっ……?あっ」

「協力するだけよ、お前ら3人が仲良くすりゃいい話だ」

 

 仲良くする。そう聞けば確かに分かりやすい。

 パイロット同士の仲が良ければ連携は自然に生まれる。

 連携すれば互いの生存率も上がる。そう言いたいわけだ。なるほど……。

 でも大丈夫かな……。男同士なら大丈夫だけど、男集団に女がつけ入る場所なんて……。

 

「分かりましたリュウさん。やってみます」

「頼むぜ、お前たちが死んじゃあブライトが寝込んじまうからな」

「フフ。それは困りますね、ブライトさんのためにも」

「ああ。アイツもかなり、お前以上にストレスを溜めてるかも知れんな」

 

 ブライトさんも心配だ。昨日の戦闘でホワイトベースもかなりのダメージを受けた。

 歩いていたら補修の跡がちらほら見える程に壊れている。

 そんな状態でも戦闘を続けざるを得ない上、私がブライトさんを助けられなかった。

 胃に穴が開いてるんじゃないだろうか……心配だ。

 

「ブライト、戻ったぞ!アムロも来てくれた。」

 

 リュウさんがエレベーターを降り、私もそれに続く。

 ブリッジに入るとリュウさんは軽く敬礼する。

 

「治りました。ブライトさん!」

 

 私もそれに合わせて見よう見まねの敬礼をする。

 ブライトさんは目にクマを作っていた。それでも私を見るとキリッとした顔をする。

 寝てないんだ……ブライトさん。

 

「手首を伸ばすんだ、敬礼がなってないぞ」

「あ、えーっと」

「こうだこう!間抜けの敬礼じゃないか」

 

 リュウさんが見本を見せる。

 

「こうか、よっ!」

「フッ……それでいい。現状を説明する。休んでくれ」

 

 そう言ってブライトさんは床の上に地図を表示させる。

 私は休めと言われたので敬礼を解き、いつもの感じで床を見た。

 ……見づらくはないけど、何で床にこんなモニターを作ったんだろう。

 

「現在我々は、ガウの包囲網を突破し、太平洋方面に向けて進路を取っている」

「太平洋?」

 

 ホワイトベースの進路は、アメリカの大陸を横断し、太平洋に進むらしい。

 大雑把だが矢印がそう示している。地図によるとジャブローは南アメリカ大陸にある。

 だけどそこを進まずに太平洋に行くってことはなにか理由があるんだろう。

 軍の命令だろう、多分。

 

「ああ。連邦軍総司令部からの命令だ。地球を一周してからジャブローに入ってほしいらしい」

「地球規模の回り道ですね……」

「バカバカしい話だ。補給も寄越さずによくもこんな事を言える……」

「ひっどい話ですね……」

「進路は暗号文で逐一報告しているが、これも意味があるかどうか……」

 

 状況は極めて切迫しているみたいだ。ブライトさんは吐き捨てるように「畜生」と呟く。

 そして、一瞬ふらっとしたかのように頭を揺らした。

 

「……すまない」

「もう休んで下さいブライトさん……凄いクマですよ」

「……しかし……」

「ブライト!昨日から食事もまともに摂っていないんでしょう!?」

 

 セイラさんが通信席から立ち、ブライトさんの肩を掴む。

 駄目だ、ブライトさんの反応が皆無に等しい。いくつか知らないけどブライトさんも若い。

 だいたいあの怪我した死にかけのパオロ艦長?は何で怪我しちゃったの?あの人さえ無事だったら……。

 

「ブライト」

「……ミライ」

「不慣れかもしれないけど、私とセイラさんで、あなたの代わりができないかしら」

「……」

「あなたの怒鳴り声はブリッジ中に響き渡っているのよ?少しは艦長の心得はあるわ、ここに居る皆は」

 

 ミライさんは操舵を自動操縦に切り替えて、ブライトさんの方を見る。

 上のオスカさんとマーカーさんも頷いている。セイラさんもブライトさんをまっすぐ見つめている。

 リュウさんは……「俺は出来ないけどな」と呟いて腕組みをしている。ちなみに私も無理だ。

 

「……しかし、僕がやらないと……」

「ブライト、今あなたが倒れたら皆が迷惑するのよ、休んで頂戴」

「セイラさん……しかし」

「張り詰めすぎると指揮能力が落ちるわ。艦長席には私が座ります。よろしい?」

「……気丈だな。貴女は」

「貴方程ではないわ。アムロ!リュウ!ブライトをお願い」

 

 ……ぽかんとしている私達にビシッ!と声を掛ける。

 私達は同時に「ハイっ!」と言い、ブライトさんの肩を貸す。

 が、リュウさんがブライトさんをおんぶしたせいで私はアワアワとするだけだった。

 

「ちょ……まぁ、いいか」

「ブライトの部屋は……」

「艦長室よ」

「了解。じゃあちょっと運んでくるぜ」

 

 リュウさんはそのままブライトさんを背負い、ブリッジを後にした。

 ……急にブリッジが静かになる。セイラさんはそのまま艦長の椅子に座る。

 艦長の椅子は普通の椅子とは違って色々なモニターや艦内の通信装置があるみたいだ。

 

「……艦内管制装置オンライン、通信設備、異常なし……」

「セイラさん、よろしい?」

 

 ミライさんは舵輪を握り、艦長椅子のセイラさんに声を掛ける。

 セイラさんは通信席のヘッドセットを頭に付けてミライさんに微笑んだ。

 

「ええ。問題ないわ、艦長代理の任は果たすつもりよ」

「お願い」

「対地高度は200、そのまま航行を続けて。峡谷を抜けるまで気を抜かないで」

「分かったわ」

 

 ホワイトベースまで女の人が動かすことになってしまった。大丈夫かな……。

 せめて今日は敵が来なければいいけど……。セイラさんも不安そうだ。

 なにか励ましの言葉を……。

 

「大丈夫ですよ、セイラさん」

「アムロ?」

「昨日あれだけ攻撃してきたんです、流石に今日は……」

「敵艦発見!最大望遠!ガウ攻撃空母です!」

 

 言わなきゃよかった。

 

 

 

 ★

 

 

『私に用か』

「はっ。木馬と白い奴をご存知でしょうか」

『耳には入っている。V作戦だな?』

「ええ。連中の調査を本格的に進めていただきたいのです」

 

 通信モニターは使えないため、音声のみでの通話だ。

 ギレン総帥。私の兄、ギレン・ザビと連絡をとっている。

 本国にて総帥として我がジオン公国軍の総合的な指揮を執っている方だ。

 私としても最も尊敬すべき兄であることは間違いない。しかし……それ故か。

 兄は猛々しいと言うよりも、非情と言える冷静さをお持ちだ。悪くいうならば……。

 

 いや、悪く言うことなど出来ない。

 

『ほう、地球に降りた。ドズルが取り逃したのか』

「はい。しかし送信するデータをご覧になれば、それも納得行くものかと」

 

 私は予め送信させておいたデータが受信されたことを確認する。

 送信場所が察知されないよう、各方面に設置されている送信基地から断片を送信するのだ。 

 宇宙の、またそれも各方面の通信設備から本国へ到達するまでの間にデータを再構成させて届くもの。 

 送信時間もかなりの時間を要するのだ。

 

『ふむ……木馬、それに白い奴、黒い奴……か。残りのモビルスーツもマイナーチェンジが成されている』

「はい。ドズル兄……いえ、ドズル中将の部下、シャア・アズナブル少佐が入手したものです」

『シャア・アズナブル……フン、あの仮面の男か』

「ええ。私の友人でもあります!」

『そうか。ガルマ』

「はい!」

 

 音声越しだが、ギレン兄さんの刺すような眼差しが伝わる。

 思わず私は姿勢を正した。

 

『V作戦のデータは受け取った。正式に吟味した上調査班を出す』

「はい!ありがとうございます!」

『うむ、木馬以外の事で問題はないか』

「はっ……北アメリカ西部ではそれ以外の問題はありません!」

『木馬の追跡を続けろ、無事を祈る。父はお前の事ばかり話すのでな。私も気になっていた』

「はい!父にも私の健勝をお伝え下さい!」

『近々帰国の命を出す。それまでは伝えんよ。ぬか喜びさせて死なれては父にも悪い』

 

 そう言って、通信が切れる。

 兄との会話は疲れる。ドズル兄さんは見た目がきついだけだが、ギレン兄さんは違う。

 ドズル兄さんとは違って内面から突き刺すような威圧感を感じるのだ。

 

 というより最後の一言、僕は死ぬかもしれないから父に多く言わないという事か?

 少し傷つく一言だ。

 

「シャア!」

「終わったか」

「ああ、終わったよ、相変わらず肝が冷える」

「フッ。ギレン総帥は大層お喜びであっただろう」

「分からんよ、あの人は掴み所がない」

 

 私は別室に待機させていたシャアを呼び出す。

 ここはガウ内の艦長室だ。個人通信や寝泊まりをする際に使う。

 殺風景ではあるが私とシャアでしか話せない事を話すには最適な場所だ。

 

「本国はどう言っていた?」

「V作戦の調査は性能を吟味するそうだ。近いうちに始まるだろう」

「ほう、決断が早いな」

 

 兄は大局を見る方だ。その兄が二つ返事で調査を始めるほどの物。

 恐らく連邦軍のモビルスーツは私達が考えている以上のものかもしれない。

 いや「かもしれない」ではない。絶対にそうだ。

 

「この功績はすべてシャアのものだ。その事も兄に伝えたよ」

「君のものにしても構わん、そう伝えたが?」

「君の功績は君のものさ。私は……僕は僕自身の手で名誉を手にしたい!」

「相変わらずその負けず嫌いは治らんな。そう焦るな。こちらも伝言だ」

 

 シャアはそう言って手に持った紙媒体を見る。

 

「木馬は進路を西にとったそうだ。このまま太平洋上へ抜けるらしい」

「予想通りだ。奴らはジャブローへの直行を諦めたようだな」

「私のコムサイ含めてモビルスーツの整備はあらかた完了してるようだ。仕掛けるか?」

「すぐには仕掛けられん。昨日の敗因は功を焦りすぎたせいもある」

 

 昨日の作戦は波状攻撃と5重の地上包囲網で攻撃を仕掛けたものだ。

 先遣隊があまりにも早く全滅し、地上部隊の展開が遅れたお陰で木馬に休む暇を与えてしまった。

 そして何よりもあの赤い奴と戦車の出来損ないだ。奴らの存在のせいで包囲網は壊滅した。

 

 今回は木馬を狙わない。我々のモビルスーツ部隊をモビルスーツにぶつける。

 モビルスーツの相手はモビルスーツが行わなければならない。マゼラアタックだけでは不足だ。

 対艦攻撃に特化したF型ザクのみでも十分にモビルスーツにダメージを与えることが出来る筈だ。

 

「しかし私もザクをぶつけたがあの白いやつにすら敵わなかった。それを忘れるな」

「無論だ。その為昨日の晩、姉にもその報告をした」

「キシリア閣下にか?」

「ああ。概要しか伝えられなんだが、それでも姉は理解してくれたよ」

 

 先日キシリア姉さんにこの件を報告すると直属の特殊部隊をこちらに回してくれた。

 彼らの降下直後の基地強襲任務はファルメルの新人と古参を補充したブラウアー隊に任せるそうだ

 ブラウアー隊というのは聞いたことがない。しかし基地制圧程度ならモビルスーツを持った小隊なら可能だろう。

 

「フェンリル隊という特殊部隊を回してくださるそうだ」

「フェンリル隊?」

「ザクに新型のセンサーを搭載させた実験部隊らしい」

「センサーだと?ミノフスキー粒子下で使用できるのか?」

「それを検証する部隊だよ、彼らの実験データ収集を手伝う条件付きで回してもらった」

「壊してはならんという事か」

「センサーの検証が可能で、かつ安全な作戦を立ててやらねばならない。大変だよ」

 

 フェンリル隊には木馬の監視、そして万一の場合の対空監視及び発見時の敵機排除を任せている。 

 恐らくだがここで木馬は補給を受けるはずだ。補給部隊を叩けばそれだけ木馬を苦しめることが出来る。

 私の部隊のザクを対空監視に回せばそれだけモビルスーツの撃破確率が減るのだ。

 

「よし、シャアも出てもらう、いいな?」

「仰せのままに、大佐殿」

『木馬を捉えました!最大望遠です!』

「フッ。今日こそ木馬を叩くぞ!」

 

 私は勝利を確信し、ガウのブリッジへと向かう。

 私も出撃するのだ、兄の予想を裏切らなければ父を悲しませることになる。

 私はこれからのジオンに必要な人間にならなければならない。

 ここで死ぬことなどあってはならないのだ。

 

「増援部隊は前哨基地に到着したか!?」

『既に到着しております。予め伝えたブリーフィングを元に指定ポイントへ移動中』

「さすがは姉上の特殊部隊だ。準備が早い。各員戦闘配置!ザクを出すぞ!コムサイも発進準備!」

『はっ!』

 

 私はノーマルスーツに着替え、私のザクⅡFS型へと向かう。

 私専用として専用の調整を施した機体だ。頭部バルカン砲以外の変わった兵装はない。

 しかし内装は別物だ。チューンナップはシャアにも遅れを取らないものとなっている。

 

『ガウ!前後ハッチオープン!コムサイ発進!』

『ガルマ、必要になったら呼んでくれ』

「頼むぞシャア!」

『勝利の栄光を共に』

「ああ!ガルマモビルスーツ隊、発進!」

 

 モノアイが光る。モビルスーツの操縦には自信がある。

 それにシャアに出来たことを、私に出来ないはずはない。

 士官学校のライバル関係ではない。今は仲間だ共に協力すれば白い奴をも倒せる。

 

「行くぞ!」

 

 私を含めた3機小隊は予め峡谷の出口で待機させていた8機のザク隊と合流。

 4機編成の2小隊に、3機小隊の私の隊、そしてシャアの12機のザク。

 そして遠方監視のフェンリル隊。これだけのザクならば木馬とてもちはすまい。

 

『出ました!白い奴です!』

『赤い奴1機!更に戦車もどきも降下してきました!』

「了解!全機離れるな、引きつけろ。ペアは組んだな?合図とともにペアで散開!単独戦闘はするな!」

『はっ!』

 

 射出された白い奴が凄まじいスピードで近づいてくる。

 距離2000、1500、1000!

 

「全機散開!!」

 

 予想通り、私に向けてライフルを放つ。それを予想した私は全機を散開という名目で回避させる。

 これもまた予想通り。多人数戦のノウハウの無い白い奴はあらぬ方向に首を動かし、散った味方機を把握する。

 悪いがここで仕留める。覚悟しろ!!

 

【また変な戦法!?】

 

「そこだ!!」

 

 私は白い奴に向けてマシンガンをフルオートで放った。




今回のアムロの行動の結果

・アムロ復活
・ブライト、ダウン。セイラが艦長代理に。
・ガルマ、ギレンと通信。ホワイトベースの調査進行。
・ガルマ、キシリアにも通信。闇夜のフェンリル隊(ジオニックフロント)投入
・ブラウアー隊(MS戦線0079)闇夜のフェンリル隊の初任務を代行。
・ガルマ、MSで出撃、11機のザク+シャアでホワイトベースを襲撃。

以上の結果となりました。


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