やはり俺の半額弁当争奪戦はまちがっている (逃亡群鶏)
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国産うなぎ弁当300円
付き合えばいいんだろ争奪戦に by比企谷八幡


初めましてチキンです!
何となくで始めてしまった処女作ですが楽しんでいただければ何よりです!
投稿はゆっくりめですがよろしくお願いします

追記・タイトルをベン・トーのようにセリフにしました


需要と供給、これら二つは商売における絶位の要素である。

これら二つの要素が寄り添う流通バランスのクロスポイント…その前後に於いて必ず発生する微かな、ズレ。

その僅かな領域に生きる者達がいる。

誇り(プライド)を懸け、領域(フィールド)を駆け抜ける者達。

 

 

-人は彼らを【狼】と呼んだ-

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

俺は逃げた。 自ら居場所と感じ取っていた少女達から逃げるように最低最悪な事をしてしまったと理解はしている。

きっと、俺達は3人で居るべきだったんだとあれほど痛感した日は無かった。 2人は「どちらかが選ばれても仕方がない。それに選ばれなくても結ばれた2人を祝福する」 そんな事を言っていたが人の繋がりはそんな強固なものではないと俺は思っていた。

俺にとっての『本物』はきっとあの2人が笑いあっていられる未来。 そこに俺が居なくてもきっと大丈夫なのだ。 だからこそ俺は逃げた。

 

 

 

 

 

ピピッピピッ…と目覚まし付きインターネットも出来る高性能メモ帳が音を鳴らすと同時に腐った目は見開かれる。

いや、悪夢という程じゃないけど寝覚めが悪いの何のね? そりゃ自分が悪いんだけどさっ!

 

昨晩の飯を抜いたせいか、力が出ないが鞭を打ち身体を起こすと最低限の身嗜みを整えバッグを持つ。

 

丸富大学の生徒となり早2年。小町の進学費用として、将来的には一人暮らしの費用として自らの仕送りを大幅に減らしてもらった。 これも小町の為ならば必要な事だと割り切りコンビニでバイトも始めた。 本当は働きたくないけど小町の為! 千葉の兄妹はこうであるべきだと思う。

わざわざ通販で買い貯めをしているマッ缶を片手にアパートから出ると桜とっくの前に短い役目を終え今や夏の季節がやって来ている。

徒歩圏内の大学へ迎えば毎日の様に絡んでくる警備員のオッチャンをあしらいつつ、パツキン眼鏡ガールに挨拶をし、そそくさとキャンパス内を歩いていく。サークル勧誘の時期も終わり適度な喧騒の中、教室へ辿り着けば俺は何時ものベストプレイスへ尻を滑らせ眠りの姿勢へ……

ぐーすかぐーすか、狸寝入りを続けていると一年時から変わらぬ人物が隣に腰を掛ける。 片耳ピアスで整った顔立ちをしている彼は女子生徒に隠れた人気もあり正直言うと近寄って欲しくない。 のだが、コイツとは持ちつ持たれつなのでそうとも言えない関係だ。

 

「………」

「残念な知らせだ」

 

ボソリと、俺にだけ聞こえる内緒話を始める。 やだ、2人だけの話だなんて友達みたい! などと偏った友達知識を考えているのだが…まぁ、それは上辺だけの考えで…コイツが残念と言ったからには碌でもない事なんだろうな。俺にとって。

 

「腐った目の男を探している女が1人現れたようだ」

「…はぁ…ありがたい情報だな。 んで、俺は何すればいい?」

「見つかりたく無いなら、暫く大学に来ないで西区に隠れるんだな」

「ばっか、年度始めだからって授業捨てたら単位があっという間に旅立つんだぞ? それに、西区って何が目的だラチェット。 疲れるのは嫌だ」

 

二階堂連。 庶民経済研究部に所属するガブリエル・ラチェットの頭目…1年の時とある問題でコイツと知り合い、なあなあな関係を築いている。

 

「少しばかり面白い事がな。 別に《氷結の魔女》や《湖の麗人》がいれば事が足りるが1人でも『狼』が多いに越したことはない」

「俺は暴力が嫌いだし、《帝王》の一件で俺は懲りたんだが…」

「…最近、仕送りが減って食生活が滞っているらしいな?」

 

エスパーなのん? いや、まぁガブリエル・ラチェットの情報網を使った情報収集で俺がバイトを始めた事とかから推測したんだろうけどね。

 

「情報は時に金より重いぞ。それと今はもうラチェットじゃない。ただの名も無き狼だ」

「わかった…わかったよ。 付き合えばいいんだろ争奪戦に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てか、《氷結の魔女》とか《湖の麗人》って誰だ?」

「此処いらでかなりの実力を持った二つ名持ちだ。 お前が来なくなってから色々あったからな」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

ラチェット…もとい二階堂に引き連れられ西区のスーパーホーキーマートへやって来た。 約一年ぶりの争奪戦参加なだけあって自分でもキョドっているのがわかる。実に怪しいのだが俺とて一年前はそこそこの奪取率を誇った狼なのだから堂々と弁当でも見ようじゃないか。スキル、ステルスヒッキーを発動! (常時発動型だから普段通りとか言わない)堂々とは何なのか? 俺に程遠いい言葉さ! 結局、一人でこそこそ弁当コーナーに寄るとピッタリと真横にくっついてくる女の子がいた。

 

「あら、貴方は初めましてですわね? わたくし沢桔梗といいます。 こちらは妹の鏡です。以後お見知りおきを」

 

ぺこりと、頭を下げたのは丸富大学附属高校の制服を身に纏った緩いカールをかけた女の子。そして髪型は違うものの顔立ちがどこか似た女の子…はっ、まさか姉妹の美人局なの? なにそれ新しい!

おっと、幼い頃からオヤジに刷り込まれた美人には気を付けろ…という若干、経験談が入ってそうな生々しい話を聞いた八幡にそんな手は通用しない。 残念だったな!

 

「何をしている比企谷」

 

どう喋ればいいのか分からずにキョドっていると救いの神…もとい、救いの二階堂がやってきた。 葉山みたいな無駄に爽やかな登場じゃないので本当にコイツのこういう所は好きだ。

 

ゾクゥ…

 

はうわぁ!? なんだこの悪寒は…

 

ぐ腐腐。

 

とりあえず余計な視線を避けるために俺と二階堂、姉妹共々カップ麺コーナーへ移動すると姉の方がキャッキャッとはしゃぎ話しかけ続けてくる。 俺? もちろん「…おう」とか「…だな」とかしか返事出来てないよ? だって八ry

 

「比企谷さんの連絡先も教えてくれません? あ、赤外線とかありません?」

 

女の子から連絡先を聞かれるなんて何時ぶりだろうか…ふと、思い出した顔が居るが頭を振りすぐに千葉の彼方へと吹き飛ばした。 携帯を出そうか出さまいかとウジウジしていると二階堂がササッ、自らの携帯に指を滑らせているかと思えば沢桔姉の携帯が可愛らしい音を鳴らす。

 

「あら、二階堂さんからヒキガヤさんの連絡先が…ありがとうございます」

「お、おう…」

 

自分の情けなさは今に始まった事じゃないのだが少し肩を落としていると弁当コーナーからこちらへ歩を進める男子高校生を見つけた。 見ない顔だな…と向こうも思ってるようだ。

 

「来たか、変態」

 

え、変態なのん? 変態ってHENTAIの変態? やだ、二階堂さんってば人脈が広いのねっ!

 

「変態言うな! …と、えーとはじめまして?」

「…お、おう。はじめましてだな」

「まぁ! まぁまぁまぁ! 佐藤さん、また懲りずにやって来ていただけたのですね! 今日もわたくし達にボッコボコにされて惨めな気持ちになるというのに…いい心掛けですね! まるで……」

 

流れるような侮辱を放つ沢桔姉だが突然壊れたのかフリーズする。 二つ名が変態とは…この佐藤という男は何をしたんだ…? そんな事を考えているとアブラ神がスタッフルームから現れればザワッ…、身の毛がよだつ程の殺気を感じ取る。

あぁ、こんな感覚久しぶりだ。 舞台に上がった醜い道化を見る様な侮蔑や嘲笑の視線ではない。 一人一人が俺を、俺は一人一人を明確な『敵』として感じ取っている。

 

 

 

半額のシールが貼られた弁当の数は5つ。

 

十数人居る狼の中で今宵の勝者は5人のみ。

 

 

ぼっちこそ至高。 孤高こそカッコイイ。 あ、でも痛いのは勘弁な専業主婦志望な俺がこうなるとは予想だにしなかった。

スタッフルームのドアが開かれ揺れる…ゆっくりゆっくりと二つの扉の距離が縮まり、そして閉じきった。

 

 

 

 

 

ー 風が巻き起こった ー

 

 

 

 

 

 

凄まじい乱戦が目の前で繰り広げられている。 え、なんで俺は参加してないかって? それはアレだよアレ。 久しぶり過ぎて走り出そうと思った瞬間に自分の脚に脚を引っ掛けるなんて器用なことしてすっ転んだ。

しかし、まぁ出遅れたのは正解かもしれない。 あの双子の姉妹がカゴを用いて容易く他の狼達を撃滅していく姿が目の前で繰り広げられているからだ。その実力は二つ名持ちクラスと言っても過言では無さそうで軒並み俺と同レベルぐらいの連中はホコリを払うように蹴散らされている。いくら腹の虫の加護があれど的確に急所を突かれて沈められてしまえば翌日のダメージは笑っていられるほどではない。 二階堂が追ってる狼って奴らの事か…あ、俺もそろそろ弁当取りに行かないとな。

 

双子と拳打を交えながらジワジワと弁当棚へと躙り寄る佐藤と呼ばれた少年と二階堂は今二つ彼女達に追い付けない実力差が目に見える。 佐藤くんは経験の差、二階堂は戦略の差だろうか? 最も、相手は2人なので戦略もマンパワーも2倍なわけだが。

ステルスヒッキーのお陰もあってか本人に気が付かれることもなく佐藤くんの背後へ回り込むと、挨拶代わりにトントンと肩を叩いてやった。

何事かとクルり、体を捻りこちらを向いた佐藤くんの顎へ下から上へ勢いが乗ったアッパーを全力で叩き込むと仰け反った身体を支える両脚を払いそのまま地へ沈ませた。 うん、俺の黒歴史時代に培った我流殺法は健在! やったね八幡、死体が増えるよ!

双子はというと今しがたまで拳を交えていた佐藤くんが突然、自分達から目をそらしたかと思えば勝手に倒れたように見えただろう。 ふっ、ボッチにかかればアサシン家業なんて容易いもんよ…

 

脚を止めることなく佐藤くんを飛び越えて弁当コーナーから一つの弁当を掬い上げる。 偵察の際に目を引いたこの一品!

 

 

 

『甘く柔らかなベールに包まれた爆弾にキミは弾ける!!!! チーズ in ロールキャベツ弁当 ¥640』

 

 

…………ネーミングまでは気が付かなかったが何とも凄まじいネーミングをしているしそれだけでこの弁当の重みを物語っている。 弁当片手に固まった俺をようやっと視界に入れたのか1人は感嘆の声を、もう1人は忌々しげに声を上げた。

 

「まぁ!」

「ちっ、比企谷か!」

 

俺の存在に気がついてから残り4つの弁当がカッ攫われたのほぼ同時。 双子が1つずつに二階堂、それと茶髪の女の子だ。 佐藤くん、すまん

 

あっさり俺が弁当を取れたのには理由が幾つかある。 本来の影の薄さも然る事乍ら二つ名クラスの暴れっぷりを見せてくれた双子、人の目を集めるレベルの弁当があったという事実が、影が極薄な俺という人間の存在を初撃まで視認する事がない事態を引き起こす。よって二つ名付きが居た際の弁当奪取率はなんと4割に登る。 凄くない?俺

 

意気揚々と『甘く柔らかな(ry』とおー○お茶を片手にレジへと向かい帰ろうとするのだが…その腕をガッシリ、沢桔姉にホールドされてしまった。 やめて、そんな柔らかいもの押し付けられたら八幡のハチマンが覚醒してしまうから!!

 

「ヒキガヤさん、夕餉ご一緒しませんか?」

「え…と、二階堂…?」

 

ヘルプマンを見れば肩を竦め首を振る。なるほど、逃げられないのねん? まぁ、二階堂に付き合うという考えで着いて行くことにしようか…年下に振り回されるのは案外慣れていたりする俺なのだ。

 

「今日もダメだった…」

「佐藤さん! 佐藤さんも一緒にっ」

「あぁ、うん。 わかったよ…」

 

なんとタフな少年だろうか。 俺がノシた後に踏まれたり蹴られたりしていたのに…

 

「ふっ、比企谷に一撃で沈められるとはな」

「ぐっ…二階堂はしっかり取ってるんだな……でも明日は僕が取ってるからな!」

「明日も西区のスーパーに出向く予定なので後で3人にメールを送りますね?」

 

日もすっかり暮れ人気の無い公園に登る湯気の数は既に3つあった。 西区の狼であろう茶髪ちゃんに顎鬚と坊主の3人組。 佐藤はそこへ、いつも立ち寄る様に腰をかけてど○兵衛の蓋を開ける。 そして双子の二人も続いて座るといつの間にか弁当を食べ始めている二階堂が俺にも座れと促してくる。 ふぇぇ…こんな初対面だらけの食事怖いよぉ…

 

 

 

 

 

 

 

なんて初めは思ってました。てへっ

 

 

 



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依頼だ。 by二階堂連

二話目です。
早速一話目のお気に入りありがとうございます! 頑張っていきます

若干、八幡がらしくないですがお許しを


誰かさん達の所為で人と飯を食い始めるようになってから早数日経つと流石の俺も大学生になって成長したのかある程度、彼らとも会話を交えることができるようになってきた。 そもそも会話の前に拳を交えてること時点で世間一般様から大変厳しい目で見られそうなのだがそこはスーパーという領域での暗黙の了解だ。

因みに戦績はこの後芳しくはなかったというか俺と佐藤くんの奪い合いだった。 佐藤くんが取れば俺はどん兵衛でその逆も然り…つーか、二階堂め毎日しっかり弁当確保しやがって…

 

「ヒキガヤさんってだいぶ癖のある戦い方するよな?」

「ん? あぁ…まぁ、正攻法で向かっても勝てる見込みが無かったからな。こういうやり方しか選べねぇって感じだ」

「真っ向から向ってくるヒキガヤさん……ふふ…っ」

「何笑ってんだ沢桔姉」

「いえ、向ってくるヒキガヤさんを想像したら先日観たゾンビ映画を思い出したもので」

 

ぶふぅ!? と茶を噴き出しむせ返っている二階堂と沢桔妹はこちらから目をそらし必死に笑いを堪えている。

いや、ゾンビっておい。確かに目は腐ってるけど身体は腐ってねーよ。

なんか彼女をこのまま放置しておくと食屍鬼(グール)とか、それこそ生きる屍(ゾンビ)なんて不本意な二つ名が付きかねない気がする。何たって二階堂も聴いてるし聞けば、佐藤くんの変態を広めたのも奴らしい。

 

「いいじゃないか、比企谷…くくく…っ」

「おう、もし広まったりしたらマッちゃんに二階堂が高校生に手を出した(意味深)って伝えるからな」

「お前…」

 

互いに睨みを聞かせながらどん兵衛の汁を啜り終えると鞄から徐ろに自宅から持ち出したマッ缶を開けてガブ飲みする俺を8つの瞳が凝視してくる。 ま、マッ缶はやらんぞ!!

 

「その飲み物はなんです?」

「…は? マッ缶だが…」

「鏡、マッ缶って知ってる?」

「たしか、甘過ぎるコーヒーを語った何かだったかと」

「おい、マッ缶は千葉のソウルドリンクだぞ!」

「なるほど、お前千葉出身だったのか。 記録しておくとしよう」

 

あ、余計な事がバレた気がする。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

3日ほど連続で姉妹とやり合って分かったことがある。 彼女達は正真正銘の二つ名持ち『オルトロス』ということ、そして情報源として最も信頼のおける二階堂によると、そのオルトロスを駆逐しようとしているゲスが今夜スーパーに現れると。 そして、二階堂は俺にこう言った

 

 

『依頼だ。 オルトロスを救え。沢山貸しはあるだろ?』

 

 

あいつ、一番知られたくもない高校時代を調べやがったな? この前のマッ缶の件から地域は絞りこめるだろうけど…どこから調べあげたのか分からんがそれを皮切りにあの強化外骨格がここを嗅ぎつけたらアイツを餌にしてやる… などと悪態を吐きながらも親父が餞別に寄越してくれた愛車のバイク(命名・komachi)に跨り、おんボロアパートには似合わない快音を響かせた。

ここから二階堂の指示があったスーパーまではバイクならそう時間は掛からない。 時計を見、バイザーを下げるとすぐさまタイヤを回転させ音と共に俺をスーパーへと向かわせてくれるkomachiちゃん。

 

『ヘラクレスの棍棒』とやらが使う手は二人の少女を犠牲にして自分達の勝利を手にするという名前負けもいい所の巫山戯た作戦。 やるんだったら自分を犠牲にする気概ぐらいみせろってんだ。

ま、いい年こいて二つ名なんかを振りかざしている時点で底の浅さが知れているのだが。 だったら俺のやることは決まっているも同然だ。

 

「作戦そのものをぶっ潰す…か」

 

普段引っかからない信号待ち、それに降り出してきた雨に軽く苛立ちながらも時間に余裕はあるので落ち着くんだ。クールタイム八幡!

ボーッと信号を渡る人々を眺めていると子供連れや高校生のような人が多い中、傘もささずにたった1人で歩く女性が居た。活発そうな雰囲気でもなく落ち着いていて、でも何処か高校時代の俺を思い出させるようなスレた雰囲気を持ち合わせた雨で濡らした『亜麻色』の髪を靡かせた女性…

 

 

あ、信号青だっ。 ハヤクイカネート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこりゃ…火事?」

 

辿り着いたスーパーには煙が充満していた…いや、この匂いは……そうか、うなぎの蒲焼きを焼いているお店。そしてそれを半額にする馬鹿な店があると聞いていたがここの事なのか。 確かに今日は土用の丑の日だしオルトロスが確実に現れると簡単に予測できる。 ぶっちゃけ俺は今日出るつもりなかったし知らなくても仕方ないよね!

 

「やぁ、キミも鰻を狙って来たのかい? でも、今のままでは彼女達に取られてしまう。 だけど上手くいけばこの先、二度とオルトロスは現れないよ。どうだい? 僕の案に乗ってみる気はないかな」

 

なんだ、この劣化葉山みたいな笑顔で寄ってくる男は…?

 

「僕は以前、彼女達を駆逐した狼さ。 巷ではヘラクレスの棍棒…なんて呼ばれているけれどね」

「…なるほど。お前が」

 

ヘラクレスの棍棒の案は簡単。 半額神が扉の奥へと消えたら走り出さず、彼女達に『タダ』で弁当を提供してやろう。それだけで彼女達の狼としての誇りはぶち折れる。 確かに恵んでもらった弁当なぞ美味くもないだろうな…

 

「ヒキガヤさん…」

 

俯きがちに俺の名前を呟く沢桔姉の横を素通りし晩に飲む飲み物を物色する。茶髪ちゃんも顎鬚も坊主も口を閉ざし異様に重い空気が漂うも然したる問題では無い。 誰も彼女達の相手にならないのなら俺が飛び出し、二階堂が来るまで1人でオルトロスの相手をしてやろうじゃないか。

少し遅れて変態…佐藤くんもやって来ると俺と同じように劣化葉山から説明を受け俯きながらカップ麺のコーナーに消えていく。

 

「よぉし! こいつぁ、これだなっ!!」

 

陰鬱な空気とは裏腹に空気読めよと言いたくなるほど元気な声を張り上げる半額神を見れば最後のうな重弁当にシールを貼る瞬間。 そしてそのシールはただのシールではなく一風変わった半額シール…神の太鼓判を得た弁当にのみ貼られる『月桂冠』の半額弁当。

 

勢いよく扉を開き奥へと去った神に追従してその扉は閉じていく。 俺1人飛び出しても批判を買うのは俺だけなのだ…また狼から足を洗えばいい。

 

息を吐き、扉が閉じた瞬間。

 

 

()()は一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

夢を見ているのだろうか?

 

 

ヘラクレスの棍棒によって数年前の焼き回しになるかと思われたスーパーは開始の合図と共に豪雨のようなバタバタとした音が巻き起こり、立ち竦んでいたわたくし達を通り抜けて十数名が一気に弁当コーナーへと躍り出た。その光景は、まるで何時も通りの争奪戦で…とても彼の作戦には思えない。

 

「キミ達何をしている!? オルトロスを駆逐したいんじゃなかったのか…!!?」

「はっ、確かにぶっ倒してーよ! 自分の拳でなぁ」

「奴らがいなくなった後のあまりもんなんて勝利の味がしないただの弁当だっての!」

「あまりにも馬鹿らしい作戦で笑いを堪えるの必死だったのよっ!」

 

彼の訴えにここ数日ひたすらわたくし達に食らいついてきた茶髪さんに御二方は鼻で笑い飛ばす。

そして、ヒキガヤさんと佐藤さんは吠え……いや、吼え上げる。

 

 

オルトロス!!!!

 

 

「鏡、わたくしは夢を…」

「姉さん、現実を見ましょう……彼らは…本当に…っ」

 

震える互いの手をしっかりと握りしめ目の前の光景を目に焼き付ける。 彼らはわたくし達を、オルトロスを敵として見据えてくれていると。 そして彼らの手は確実にわたくし達に差し伸べられていると…

 

暴風が店内に吹き込む。恐らく最後の1人が遅れてやってきたのだろう。 ズブ濡れの上着を脱ぎ捨て、鍛え上げられた肉体を晒した二階堂連が未だに動けないで居る2人の横をたった一言残して通り過ぎる。

 

「来い」

 

「行きましょう鏡、あの最低最高の狼野郎共を蹴散らしてさしあげます」

「ええ、姉さんと一緒なら敵はいません…っ」

 

カゴを持ち、舞い踊る。 密集していた狼達はこちらの連撃は次々去なし距離を開けて拳を突き出し構えている彼らは普段の彼らではなく不思議なくらい飢えていた。

最初に仕掛けてきたのは何とあのヒキガヤさんだ。 普段は背後からの奇襲を戦法とする彼が自ら突っ込んできたのには驚くが慣れないことをすべきではない。

鏡が割って入り拳をカゴで受け止め絡めとると空いた腹へ梗が掌底を放ち吹き飛ばすのだがその手をしっかり掴まれてしまう。 しまった、と思うが比企谷の力では抑えるのが精一杯…浅はかな考えをしたのが一つ目の間違い。 彼は普段とは段違いな力で梗を引っ張り放り投げて鏡と分断して見せた。

分断されても梗とて二つ名持ちの狼なのだから他の狼達には引けを取らない…しかし次にやって来たのは先日ツードックスと名付けた狼。ここ暫く自分達に追いすがり今日、自分達を助けてくれた愛すべき人達。

二階堂と佐藤が左右から宙に舞い上がった梗へと飛びかかるが崩れた体勢ながらも持っているカゴで厄介な二階堂の方を叩き落とすかわりに背後の佐藤からの打撃は効くものがあるが高々一撃でこのピンチを脱することが出来るのならば甘んじてその身で受ける。

 

殴られながらも身体は地へと着き、梗は眼前の強敵達を睨みつける。何故、こんなに急に強くなった…? その疑問は即座に解決する。

 

彼らは何を感じている? 場を支配する狂気とも呼べる空気だ

 

彼らは何を聞いている? うなぎが焼ける音だ

 

彼らは何を目にした? 月桂冠だ

 

彼らは何を嗅いだ? うなぎが焼かれた香ばしい香りだ

 

彼らは何を求める? たった5つしかない勝利の味だ

 

 

五感全てがあの弁当を感じ取り腹の虫の加護が極限まで引き上げられた彼らと先程まで涙を流し感動のあまり減退している腹の虫の差は大きい。

 

「……っかは!?」

 

突然の衝撃に肺から空気を吐き出すと身体が前面へ押し出され、何事かと目を動かせば比企谷が自分を蹴り飛ばしたのだと理解する。 いつの間に…! 鏡に足止めをくらっていた筈なのに…っ!!

完全にバランスを崩した梗を待つのは佐藤と二階堂の拳が防ぐ事も出来ずに腹へと突き刺さる。

梗のカラダがボールのように地面をバウンドし転がるとようやく狼の波から逃れた鏡が受け止める。

 

「ツードックス…というのは間違いかもしれませんね…鏡」

「えぇ、3つの頭を持つ化物…ケルベロスかもしれませんね…」

 

こちらに見向きもせずに3人は殴り合いを始めている。

 

「鏡、休んではいられませんわ。 オルトロスがこの程度でないこと教えて差し上げませんと…っ」

 

わたくし達はまだ夢を見続けていいんですね?

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

おいおい、なんだコイツら。 さっきまで俺1人でも!なんて張り切ってたけどめっちゃ恥ずかしいじゃんっ?

昔、先生、比企谷くんが一人で張り切っていてウザイ。とか言われたこと思い出しちゃったよ? やだ、悲しい。 でも、杞憂に終わって良かった…いや、二階堂の野郎は分かってたのかもしれないな。 万が一の為の保険が俺か?

 

とにかく、今は弁当だ。 俺というものがこの匂いと空腹で久しぶりに本当に弁当を欲している。

 

残る弁当は依然として5つ。

 

立ち上がっている狼は8人。

 

「はぁ、最後のひと頑張りといきますか…」

 

あの弁当を手に入れるために狼達は吼え、駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どん兵衛が美味しいです。



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先輩…? え、先輩!? by一色いろは

やっとプロローグが終わり、これから争奪戦が多くなります。

お気に入りありがとうございます!


雨も上がり満天とまではいかないものの星と月が慎ましく輝く空の下、7つの湯気が天へと立ち上る。

俺はかき揚げを1口頬張り蕎麦を啜る。 うん、どん兵衛はいつでも美味いな!

 

「張り切ってた割にはスグやられたな比企谷」

「…うるせ、お前らが容赦なさ過ぎるんだよ…ったく」

 

結局、最後の8人でやり合った時にオルトロスにボッコボコにされてボロ雑巾のようにスーパーの床へ捨てられていたところを顎鬚と坊主の2人に拾われ、こうして公園での夕餉に参加しているのだがこの美味そうな鰻の匂いは体に毒な気がすると思いつつ俺は蕎麦をすすっていた。

 

月桂冠は佐藤くんが見事奪い取りさっさと何処かへ行ってしまったようだ。 誰かとメシの約束をしてたのか?

 

「あ、あのヒキガヤさん…?」

「…ん?」

 

遠慮気味に声をかけてきたのは沢桔姉。 そんな彼女はふかふかの白米に蒲焼を載せておずおずと、箸をこちらに差し出してくる。 見せびらかしですかそうですか…ちくせう俺も食べたかった!

 

「あ、あーん…」

 

物欲しそうに見ていたら唐突に「あぁん?」とメンチを切られてしまった。 最近の若者ってキレやすくて怖いなぁ…でも八幡めげないっ!

 

「……あーん?」

 

何故だろうか、沢桔妹や二階堂は疎か茶髪ちゃんに顎鬚と坊主までこちらに視線は釘付けでニヤニヤと口元を緩ませながら箸を止めている。

まさか、まさかとは思うが…これは俺にあーん、としているのか? でも、これきっと口を開けたら残念でしたー!とかなる奴じゃないの?マジで?

 

「…え、えと………あ、あーん」

 

あむ…っ、口の中に放り込まれたアツアツのご飯は甘さ控えめのタレがしっかりと染み込み、これならご飯だけでも何杯でも食べれる。しかしご飯と一緒に口の中へ入ってきた大本命の鰻はふかふかと多少の弾力とともにご飯と混ざるとその香ばしさが口の中いっぱいに広がり、もっと…とカラダが欲してしまう。

 

「如何ですか…?」

「…ん、美味い」

 

いや、本当に美味い。 自分で取った半額弁当ではないのだが散々あの匂いを嗅いで目で見て欲したのだからこれだけ美味いのも頷ける。

 

「しかし、お前達東区の連中はいつも一緒に居るよな? 変態のところみたく同好会か何か作ってるのか?」

 

顎鬚は見切り品の稲荷寿司を食べながらそんな事を言い出した。 確かに、二階堂やオルトロスと最近は一緒にいる事が多かったが俺に至ってはオルトロスの件が片付いたのだから狼を続ける理由も金銭面が何とかなれば争奪戦に出る必要も無くなるのだ。

 

「そうです。そうですわ! 二階堂さん、ヒキガヤさん!! 大学にサークルを作ってくれませんか? わたくし達も参加いたしますので」

「…いやいや、高校生は参加出来んだろ」

「佐藤さんのところはHP同好会があるのにこちらはない…というのが納得いきません」

「姉さん、だいぶ無理を言ってることを自覚してください」

 

沢桔妹が止めに入るが姉は聞く耳持たず興奮冷めやらぬと言った感じで俺の肩を掴んで揺さぶってくる。やめて、どん兵衛さんが零れちゃうから! やめて!

二階堂はふむっ、と考え込んでいるしそんな姿を見せられると俺としてはかつての経験から嫌な予感がじわじわと湧く。というか、もう既に片足を突っ込んでいる気がした。

 

「いいんじゃないか比企谷。お前は確か何処にも入ってなかったし表向きは文芸とか適当に語っておけば。 それに毎回お前と同じコマを取るわけじゃない…お前の依頼をこなすにはそうやって同じ場所に集まる必要もある」

「…メールがあるだろう」

「バカか。 お前がメールを使うなと始めに言ってきたんだろう。 鉄仮面が何処からデータを引っ張り出すか分からない…と」

 

そういえばそうだった。

 

「…また押し切られる形か…はぁ」

「それではっ!」

「非公認の集まりでも別にいいんだろう? 俺も用事がある時は出られないし二階堂も出られない時は多いだろうしな。 それでいいなら何処かに集まるようにする」

「十分ですっ! 鏡、明日から楽しみね!」

「えぇ…と言いたいところですがもう夏休みになりますよ」

 

ピシリッ、空気が割る音がした気がする。 そうだよね、夏休みだよ? 俺は去年と同じで部屋から出るつもりのないから休日と何ら変わらない。

 

「が……」

「「「が?」」」

「合宿をしましょう!!!!!」

 

うわ、面倒なリア充の代名詞きちゃったよ。 どうすんの二階堂さん…は、無言で首を振ってるし俺もお断りしたいんだけど沢桔姉は泣きそうな顔してるし…俺どうすれば正解なのん? 一緒に行くしかないのん?

 

「…わ、わかったから泣くなよ? こんな時間に公園で泣いている女子高生とか俺と二階堂が確実にとっ捕まるからな? な?」

「二階堂さんももちろん行きますわよね…?」

「…………」

「…二階堂」

「…わかった。まぁ、いい機会だ別の地域の狼とやり合うのも」

 

年上である俺達が折れるとパァっ!と擬音がつきそうなほど表情は一変して満面の笑みが見れた。 あらやだ、やっぱり可愛いじゃないこの子。 あまりの可愛さに口調がオネエになっちゃったわ! キモイ

 

「そろそろいい時間だな。さっさと食べて帰るぞ」

「あら、もうそんな時間…? 残念ね、ワンコ達を見てるぐらいアンタらも面白かったのに…ま、また会うでしょ」

「俺達も帰るか…またなオルトロス、ラチェット、グール」

 

手を振って公園から出てくる西区3人組とはなんやらこれからも長い付き合いになりそうだなと、その背を見て感じたのだが何よりも重要なのが顎鬚が俺の事をシレッとグールと呼んでいたことだ。 二階堂を睨みつけるとサッと視線をそらしやがるし。貴様。

 

「合宿の話はまた後日でいいだろう。俺達も帰るぞ」

「そうだな…お前達家近いのか?」

 

そんな質問にキョトンとした顔を見せてくるオルトロス。

違うよ?八幡ストーカーしたいわけじゃないからっ。こんな時間に女の子だけで返したらダメっていう最愛の妹から教わった教訓だから。

 

「俺達が送る…と比企谷は言いたいみたいだ」

「そうそう、俺達バイクだし…後ろでいいなら乗せるが…」

 

あれ、二階堂に通訳されないと俺の言葉って通じない? 言語の差異が生じてるんです?

まぁ、俺の提案を快く受け入れたオルトロスは俺と二階堂の後ろに1人ずつ乗り、しっかりと引っ付きながら自宅付近まで送ることとなった…。 はぁ、合宿とか何時ぞやの林間学校を思い出されるが此度はオルトロス、二階堂共に行く半額弁当争奪合宿という二年ほど前の俺には全く想像だにつかない内容なので実は楽しみだったりしない訳では無い。 面倒くさいのは変わらないが。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

疲れた。 疲れてしまった。

 

何とかあの先生を脅しまがいに進学先を聞き出し、思いの外…いや想像以上にレベルの高い大学へ進んだあの人を追うために1年間死にものぐるいで勉強をした。 自分の執念深さに驚きはしたけどそれもこれも全部自分の為だった。

 

私は後悔したから。 あの3人の中には入っていけない…そう思い込んで結局、後悔した。

 

卒業式で何が起きたかはちゃんとは知らないけど、だけど先輩は1人に戻ってしまった。 チャンスだと思った。

我ながら最低な考えと思いつつもそれでも私は行動を起こしたかったし、ちゃんと想いを伝えて振られたのなら何度でもアタックし続ける。 2人みたいに『信じて待っている』なんて綺麗事は抜かさないし待つのなんて性にあわない。

 

「…でも、何処にいるんですかせんぱーい……」

 

大学は間違えてないはず。

幾ら広いキャンパス内と言えど、夏になってまで見つからないなんて思ってもみなかった! 言い寄ってきた男共に片っ端から「腐った目をしたアホ毛のある男子を探してくれませんかぁ?」と頼んだというのに手掛かりゼロ!!

いや、確かに陽乃先輩ですら見つけられてないのだから私じゃ難しいかもしれないけど…

 

若干自暴自棄というか、何時もの猫かぶりと辞めご飯を求めてスーパーをさ迷っていたのだが何処の店も閉店時間を過ぎたのかドアは開かずに腹はなるばかり…ふと、最後に立ち寄ったスーパーの近くからいい匂いが漂ってきたのだがそれが余計に空腹に拍車をかけた。

 

匂いは公園から…?

 

フラフラと公園へと出向くが残り香のみ。 いや、誰か食べてたとしてもそれはそれで気不味いので良かったといえばよかったのだけれど…

ベンチに腰を下ろし空を眺めると星が煌めいている。 先程まで雨が降ってたなんて嘘みたいな夜空だった。

 

「…カバン?」

 

伸ばした手に何かが当たり視線を移すとリュックサックがごろん、と転がっている。残り香の主が忘れていったのだろうか…交番に届けるか? 置いておけば持ち主が来るかもしれない。

そんな思考を続けていると、足音が聞こえてきた。 持ち主だろうか…

 

街灯に照らされたのはフルフェイスのヘルメットを被った人物。 ゆらりゆらりと近寄ってくる様は実に怖い。 あれ、もしかして私ピンチなのでは? 先輩にもよく遅くに出歩くな…なんて叱られてたっけ? あれあれ?

 

夜の公園にたった1人、そんな当たり前のことを今更思い出し身体が恐怖に固まる。 声が出ない。脚が震える。

 

 

どうしようどうしようどうしよう…!?

 

「あ……の…」

「それ俺のバックなんだけど……あ、拾ってくれたのか? ありがとう」

 

バックを指さし、俺の俺の…と身振り手振りしてくれたからか幾分恐怖は薄れた。 というか、私はいつの間にかバックを全力で抱きしめていたみたいで持ち主は困っている。

 

「す、すみません! 交番に届けようかなって思ってたんですけど…!!」

「いやいや、いい人に拾ってもらったみたいでよか…………げっ」

 

カバンを抱きしめながら持ち主に近寄り差し出すとその人物は言葉を切った。

 

「え、…と?」

「いや…なんつーか………はぁ」

 

溜息をつきながらヘルメットに手をかけスルリと脱ぐとその素顔が街灯に晒される。 気怠けな雰囲気に幾分マシになったけど以前と大差のない腐った瞳、それでいて整った顔立ちをしていて髪型は今時流行りにカットしてあって前より断然カッコよくなっている…………

 

「…久しぶりだな、一色」

「先輩…? え、先輩!?」

 

私が心の底からきっと、大好きな先輩の姿がそこにあった。



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夏の陣! ピリ辛焼肉弁当400円!!
可愛がられるような事をしてから言えアホ by比企谷八幡


遅くなってしまい申し訳ありません。
この話からヒロインが出揃うので形式上1話となっています!
自分はこの人大好きなんですよね…




「せんぱーい! せんぱーい!!」

「聞こえないし、見えないし、あざといし」

「聞こえてるし見えてるじゃないですか!」

 

往来で腕に抱きついてくる女子に溜息をつきながらも逃げられないので相手をすることにした。

夏休みに入りやっと家に籠る事が出来るかと思えば、先日公園で偶然再会を果たしてしまった高校時代の唯一の後輩である一色いろはがこうして俺を連れ回している。 腕に抱きついてくるのはなんというか久しぶりに感じるし感触は以前より柔らかいかもしれない。 やだ、八幡なに喜んでるの?

 

「…あのな、一色。わかってると思うけど」

「分かってますよ。先輩がここの大学にいることを知ってるのは私と平塚先生、それと先輩のご両親だけなんでしょ? 小町ちゃんにも内緒にして」

 

そう、そうなのだ。 実は俺の進学先は奉仕部はもちろん小町すら教えていない。 後顧の憂いを断つため…なんていうカッコイイ理由では無く、小町から情報が流出するのを避けるために伏せたことだったのだがあの教師から流出したようだ。おのれ…

 

「んで、何で時間に呼び出したんですかね一色いろはさん」

「え? いやですね、私は先輩と違って日中忙しいんですよぉ…だから空いた時間は先輩と過ごしたいなーって思ったんです」

「え、なんだよ告白かよ。でも俺は答えるつもりはないし告白ならもっとわかりやすく告白してくれ。断るからごめんなさい」

「え、なんで私が先輩に振られたんですか?」

「殺られる前に殺るだけだ…と。 悪い、そろそろ用事の時間なんだが……」

 

時計を見ればもう既に19時を回っているし待ち合わせに遅れてしまいそうだ。

 

「先輩付き合い悪いです」

「俺は元から付き合い悪いだろ」

「むぅ、こんなに可愛い後輩がこう言ってるのに…だったらいつものしてください。そしたら離しますので」

 

うりうり〜…と頭をこちらに擦り付けてくる一色は本当にあざと可愛い気がしてきたから俺の精神が徐々にコイツに汚染されてるんじゃないかと思っている。 女って怖い。

さっさと離してもらうために、セクハラで通報されないかハラハラしながら頭に手を乗せ小町にしてやっていた様に撫で回してやる。撫でを受けている一色は目を細め、甘い声を漏らすのだが……エロいです先生。

 

「……おい、もう終わりだ。いつまで恥ずかしいことやらせんだよ」

「え〜、後輩はちゃんと可愛がるものですよ?」

「可愛がられるような事をしてから言えアホ」

 

バイクに跨りさっさと約束の場所へ向かおうとするのだが何やら一色が騒いでいた。 なんだよ、いくら人通りが少ないとはいえ恥ずかしいんだが…

 

「あ、そうだ! ━━いが、━━━━に、、ので!!」

 

うん、ごめん全く聞こえない。 難聴系になったつもりは無いのだが本当に聴こえない。 大方、今度あそこに連れて行って欲しいとかそんなんだろうけど…片手を上げ手を振り別れを告げる。

 

んだよ…あれほど遠ざけてたってのにやっぱり…少し楽しいじゃねーか。

 

自分も二階堂やマッちゃんさんに関わって少しぐらい前向きになったのかもしれない……うわ、何これ恥ずかしいじゃん。八幡なに少しほんわかしようとしてんの…

 

 

夏の夜にしてはどこが風か気持ちよくいい夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

なんてカッコつけてたのも束の間、約束の場所へ着くと早々に二階堂、俺は大学OBの先輩であるガンコナーにキャバクラへ連れてこられたのだ。 …のだ、って何だよ。 大丈夫? 気持ち悪がられたりしない? あ、普段からキモかったですてへっ。

 

「大丈夫大丈夫、あの娘達もプロだし八幡は其の辺のキョドっている男より断然イケメンだしな」

 

そう言ってくれるガンコナーは常に女を周りに侍らせているプレイボーイなお方と二階堂から聞き及んでるのでその程度のお世辞じゃ喜ばない。

確かに小町に似て顔はそこそこ整っているし最近は腐った目をカモフラージュする為に伊達メガネまでかけ知り合いにバレないよう髪型まで慣れない美容室でカットしてマッちゃんさんに服まで選んでもらったのだから見てくれは目も当てられない訳では無いことは承知している。 でも、イケメンはないでしょぉ

 

「あ、りょうじゃん。また来たんだ」

「お、ユミちゃん。 今日も美人だ…ほら今日は後輩の社会見学」

 

二階堂は素知らぬ顔をしているのだが俺と同じように視線を落として二人してウーロン茶をしきりに飲んでいる。つーか、酒を飲むようなところ連れてくるなら先に言ってくれないとバイクが…

 

「あ、二人ともカッコイイ〜!」

「うんうん、ワイルドな感じの人と知的な感じの人っ!」

 

マジか、俺知的でカッコイイって小町! カッコイイなんて大天使戸塚にしか言われたことないんだけど!

まぁ、営業トークなんだろうけどねトホホ

 

「ユミちゃんみたいなサバっとしたタイプが好きそうだしアイツについてあげてくれないかな」

「へー、まぁりょうがそれでいいな良いけどね。隣失礼しまーす」

 

うわ、隣に座ってきたよ。 距離ちけぇしチラチラ見えてる胸元はスリットが凄くてけしからん。 ガ浜さんほどでは無いものの男を魅了するには十分過ぎるボディじゃね? 八幡、人類に対してのATフィールド全開じゃなかったスグに勘違いして惚れちゃうところだった。 なるほど、キャバクラの恐ろしさはこういう所なのか。

 

「お兄さん、顔上げなよ」

「え、い、やー…あの…」

「恥ずかしがり屋にも限度が………ん?」

 

え、俺なんかやった? 恐る恐る顔を上げると金髪の縦ロールに鋭い目付きだが整った顔立ちで雪ノ下家の2人とは違うベクトルの美人が俺に密着するように座っている。

 

「……お兄さん、眼鏡取りな」

「…いや…」

「早く取るし」

「…はい」

 

言われるがまま伊達眼鏡を取り、横に座る獄炎の女王…三浦優美子から目を反らす。 怖い…っ!

 

「あんた、こんな所で何やってるし」

「だ、大学の先輩に連れられて…」

「面、貸しな」

 

助けて二階堂!!

 

「お、いきなりアフターかよ。やるなー八幡」

 

ガンコナー、黙れ

 

「比企谷、オルトロスによろしく言っておいてやる」

 

ありがとう、勇敢に死んだとでも言っておいてくれ。

 

「早く来な!」

「はいぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「んで、あーしが聞きたいのは結衣を泣かしたアンタがこんな店に来ているかってことなんだけど」

「いや、だから付き合いで…」

「結衣が泣いていた。 それはアンタが答えを出して報われなくて泣いてるってんなら…あーしは慰めたり遊んで忘れさせたりしてあげられたけどね。 アンタは答えも出さずに連絡も取れないような所に逃げたんでしょ」

 

ご明察でございます。 一色に会っていずれアイツらにも会ってちゃんと話さないと…と考えもしたのだが怖かった。 俺が戻ってしまうことであの2人が仲違いしてしまったら…なんてイフを考えてしまうのだ。

 

「あーし、友達を泣かせるようなヤツ許せないんだよね」

 

まぁ、だろうな…。 殴られたりするんだろうか? それで一度こいつの気が済むのならやぶさかではないが…。 目を瞑り衝撃を待つがいつまで経っても来ない。あれー?

 

「高校時代なら殴ってたし。 結衣は友達だから大事なのは変わらない。 けど、ヒキオには沢山借りがある。だから、ヒキオの言い分も聞いてやる、ヒキオが覚悟決めるまではあーしが見張っててやる」

「…は?」

「あーし、今はバイトでこんなんやってるけどちゃんと大学も行ってるし。 隼人の事もケリを付けたからね。 暫くはフリーってやつで暇だったし」

「いやいやいや…暇だったら何、俺につきまとうのか? つーか、葉山とケリって…」

 

ほら、行くよ。と犬の散歩のように俺に呼びかけてくる三浦。 わんわん

 

「……何処に?」

「晩飯と酒を買いに」

「え、俺も?」

「もちろん、ヒキオのせいであーしバイト途中で上がったし? アンタ、晩飯に付き合いな」

 

えぇ〜…って顔をしてたら思いっきり睨まれた。

 

「わ、わかった…どこ行くんだ?」

「すぐそこの……」

 

 

目に入ったのは飲み屋街には似つかわしくない、煌々と光り輝く看板に流れるメロディ…俺達の戦場、『スーパー』だった。

 

 

「あんたの根性、あーしが叩き直してやるし」

 

獄炎の女王は今や獄炎の狼として俺に牙を剥く。

 




ヒロインが出揃うと言ったな…あれは嘘だ


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あーしも連れてけし by三浦優美子

ヒロインが出揃うと言ったな。あれは嘘だ

マルチエンディングを目指したいです(白目
それと感想を遂にいただきました! 嬉しい!頑張りますっ


「おま……え?」

「なにボーッとしてるし。 さっさと今夜の弁当見に行くよ」

 

スタスタと先を歩き、弁当コーナーの横をゆったりと通り過ぎながら品定めをする三浦優美子は以前の苛烈さもある事ながら何処か、大人びた雰囲気を……俺は何を考えてんだ。 さっさと俺も下見をするか。

少し距離を空け、俺も俺で今夜の腹の虫にどれが喰いたいか聞いてみる。 なになに? 今日はさっぱりめで行きたい…

 

『とろろぶっかけ! 暑い日といえばズルッといこうぜ!! 山盛り蕎麦 400円』

 

うん、ぶっかけとかズルッととか、何処ぞの人が喜びそうなネーミングだけど俺の腹はこいつに決まっちまった様だ。 三浦は三浦でヘルシー弁当を狙うようで二人して距離を置く。 どうにも三浦が店内に入ってから空気がピリついているというかめちゃくちゃ重い…なんだこれ。

ここの半額神はコロッとしたオバチャンなようでニコニコと笑いながらシールを貼っていく…200円であの弁当が買えるなら食費的にもお優しい。 二つ名クラスが居れば奪取の難易度は多少下がるが居なければ地力で勝ち取るしかないので分が悪い。

 

開幕のゴング、扉が締まりきった音が店内に響くと売り場の軽快なメロディも今や戦場の喧騒に掻き消え怒号が店内を塗り潰した。

 

初めに動いたのは高校生ぐらいの青年。 長い脚を回し一気に売り場まで距離を詰めていく、俺や他の狼も追いつけない速度でソイツは先頭に躍り出るが生鮮コーナー側から飛び込んできたOLの蹴りが脇腹へと突き刺さり吹っ飛ばされていった。 OLさんも勢いを殺すために弁当棚を掴もうと手を伸ばしたが其処へ三浦が割り込み手をカット、掴んだまま強引に横に引っ張った。 不味い…!

 

八幡センサーが三浦のやる事を察知すると転ぶ様に、その場へ屈み込む。 数瞬遅れて俺の頭上を引っ張り回されたOLさんが飛んでいき背後の狼たちに激突、足並みを乱し一気に混戦へと変わり果てる。

 

「邪魔すんなし!」

「今日という今日は勝たせてもらうぞ、『火山の女神(ペレ)』!!!」

「はっ、アンタ誰だっけ?」

 

言葉にも火がある。 怖い。

そこそこ実力が有りそうな狼を文字通り一蹴し距離を開けると倒れ込んでいる狼を踏み台にして周囲の狼たちに次々と蹴りをぶち込んでいく。 いや、三浦さんやなんか出会っていない間に物凄いバトル漫画のキャラみたいな動きするようになりましたね? 金の髪をなびかせ宙を舞う………俺も見入っている場合ではない仕掛けねば。

着地を狙って前後から挟撃しようとしている男女のペアに三浦が気がつくと女の方へ容赦なく手刀を振り下ろすが、不安定な体勢から放った一撃は威力がなくそのまま押さえつけられていた。 しゃーねぇ、狙いは別の様だしな。

 

「ぶへっ!?」

「ちょ、人の獲物とんなし!」

「…んなこと言ってる暇あったら弁当とれよ」

 

三浦に気を取られていた男の背を力一杯に殴り体勢を崩させると起き上がることの無いようしっかりと踏んでおく。 いやー、暴力良くない。

 

「ヒキオに背中を守られるなんてね」

「……守ったつもりなんざねーよ」

「んじゃ、背中じゃなくて横に並べばいいし」

 

三浦がこちらへ向き直るとこちらへと駆け出す。 え、なにする気なの?

いや、狼として去年一年戦った知恵と経験がこの身体に嫌という程叩き込まれている(物理的に)。

 

タンッ!!! 、リノリウムの床が心地よい音を奏でるとともに俺が両手で受けを構えた所に三浦の足がピッタリ乗ると腰から腕へ力を一気に加え斜め上へと打ち上げた。

地方には『天井の蜘蛛』と呼ばれる天井を巧みに使い戦う狼もいるようで珍しい戦法ではないのだが、三浦は迫る天井に手を伸ばしぶつかると腕をバネ代わりにして一気に加速する。 大開脚した脚はそのまま重力に引かれるように落ち、巨漢の狼の脳天へ踵落としを決めた。

 

「うへぇ、喰らいたくねぇもんだな…」

 

俺も俺で組み付いてきた奴らを投げ距離を開くとそのまま棚へ手を伸ばして弁当をかっさらった。 俺へと伸びた手は即座に引かれ道が開かれる。

 

・獲物を捕った者襲うなかれ

 

礼儀に従い、俺には襲いかかってこない。一見乱暴な連中なのだが心に決めた信条で戦っているため気さくな奴も多く、少なくとも俺が話した狼たちはキモいやらなんやらは言ってきたことがない。 裏で言われてるんだろうけどな!

三浦も弁当を取ったようで俺に近寄りカゴへビールを2本、3本と入れていく。何本飲むつもりなのん?

会計を終え、店を出ると酔っ払い共がフラフラとしながら店をハシゴしていく姿を見てここが飲み屋街の一角だということを思い出した。つーか、バイクも置きっぱなしだから取りに行かねぇと…はぁ

 

「……お疲れ様でした」

「なに帰ろうとしてるし」

 

ちっ、バレたか…。 というか高校時代そこまで仲良くなかったやつと今更何を話せというのだろうか? 一色は未だに葉山を追いかけているのだろう。 その過程で俺という駒が必要なので今はあぁやって媚を打ってきているのだと賢しい俺は考えている。 きっと、葉山を呼び出して俺に誘拐されたとか言ってボコボコにされてしまうのだ。悲しい

 

「……あ、やっぱりヒキオ帰っていいし」

 

え、いいの!! なんて満面の笑みを見せると足を蹴られた。

 

「あーしも連れてけし」

「………は?」

 

why? あーしも連れてけし。

えーと、あーしは私。 連れてけしは連れていけって意味だから…私も連れていけって意味だね八幡賢い!

 

 

いやいやいやいやいやいや…!? 何でこいつ俺の家に来ようとしてんだ? 借金の保証人にでもしようとしてるのか? 仕事に偏見を持つわけじゃないけどやっぱり美人局なのか?

 

「弁当はあーしがしっかり持っててやるし! あ、バイクなんだっけ?ならカバンに入れてればいっか。 バイクどこ?」

「いや、なんでお前までくんだよ…別に仲が良かった訳でもねーのに」

「あ? アンタが逃げないように家まで把握しといた方がいいしょ。 それとも何? やっぱり逃げるつもりだったの?」

「…い、いえそんなことはないでしゅ……ど、どーぞ家にお越しくださいましぇ……」

 

人間、身に覚えた恐怖を忘れることはなかなか出来ないらしい。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「乾杯〜!」

「…か、乾杯……」

 

両親と二階堂、それに……まぁあいつはいいか。誰も知らないマイルームに三浦が上がり込み、あーしさんの計らいでビールを1本分けて頂いた。 缶を煽り、喉を鳴らすと…うん、中々美味い。 これはただビールが美味いのか…誰かと飲むから美味いのか…

 

「ん、ヒキオ飲める口なん?」

「……まぁ、そこそこだ。 三浦は……聞くまでもねーか」

「あーしもそこそこ。 バイトもたまにだかんね? あそこ行けば何時でも会えるとか思わないことだし」

「行かねーよ。 あぁいう所なんざ初めてだしボッチの俺にはキツイ以外の何物でもない…つーか、金を払ってまで話したくもないまである」

「って言う割には、あんたイケメンと一緒に居たじゃん? 昔よりあーしとちゃんと話せてる気もするし。 うん、少しだけ堂々としてる気がする。 狼として活動してたから?」

 

━━ッ!?

 

驚いた。周囲の事はちゃんと見てたのは知ってるつもりだったし、だからこそアイツも三浦の近くに居た。何だかんだ面倒見の良い奴だとは思ってたが……まさか俺のことまで見てたなんて…

 

「かーちゃん…!」

「誰がかーちゃんだし!!!」

 

怒鳴られた。 お隣さん壁ドンしてこないかな……大丈夫かネタにされるぐらいで。 やっぱり怖い、知らないところで俺が慰みものにされてるとか怖すぎるから後で隣人をぶん殴りに行こう。そうしよう。

 

「隼人が言ってたんだ。 "優美子はもっと、人を見た方がいい。 きっとそれがキミのために、誰かのためになる" って」

 

…あの葉山がねぇ。

 

「だからヒキオのこともちゃんと見てたし。 そしたら文化祭とか修学旅行の事とか…なんとなーくわかった。 あんたホントにめんどくさい性格してんね」

「…勝手にわかったつもりになってんじゃねーよ。 アレは仕事だったからしたまでだし一番効率が良かったんだ」

「効率ばっかりで動いてた割には雪ノ下さんと結衣の時は居場所のためって逃げたんだ?」

「………」

「あぁ、別に攻めてるわけじゃないし。 あーしが隼人隼人…って気が付かなかったせいで結衣にも沢山迷惑かけたし修学旅行であんな事になった…ん、まぁ、ヒキオには散々迷惑かけたってあーしが勝手に思っているだけだから」

「…別に迷惑なんて」

「あーしが思っているだけって言ってんの。 それともなに? あーしがそう思ったらいけないの? ん??」

「ひぃ、しょ…しょんなことはないでしゅけろ……」

 

ビールを飲み干すとすぐに2本目開ける三浦は…やはりコイツは強いと思った。 何が彼女を成長させたのかは分からないが…きっとその成長が俺に、俺達に足りなかったものなのかもしれない。

溜息をつきながら残ったビールを一気に飲み干し弁当を貪る。美味い

 

「お、ヒキオ。いい飲みっぷりだし!」

「……ちっ、何が嬉しくて三浦と酒を…」

「あ?」

「わ、わーい。あーしさんと飲めるなんて嬉しいなぁ…」

「そうだし! ヒキオと飲む酒もまぁ、悪くないし!!」

 

互いに酔いが回ったか、学生の頃には有り得ないほど軽口を叩き、罵倒し合いゲラゲラと爆笑していた。 ご近所迷惑なんのその。 三浦にはっ倒され、仕返しとばかりに当時から思っていた化粧のケバさやらなんやらを指摘してやると大泣き。 ヒキオ最低! うん、言った後に俺も思ったよ!ごめんなさい!

その後も酒を開け続けた三浦は…なんというか撃沈した。 日の疲れもあるのだろうがいきなり男の部屋で寝始めるのはどうかと八幡思うの。 俺、葉山じゃないのよ?

 

体に触れるのははばかられたのでタオルケットをかけ頭の付近に枕を置いてやると頭を乗せてグースカ眠りやがる…

俺は冷蔵庫から冷えたビールを取り出して玄関を出ると軽く、お隣さんの玄関をノックした。 我が家の玄関に寄りかかりながら酒を飲んでいるとゆっくり開かれる扉。 隣人も自らの家の扉に寄りかかり腰を下ろすと俺から手渡されたビールをちびちび飲み始める。

 

「…悪ぃ、五月蝿かったろ」

「ん、音楽聴いてたから大丈夫」

「……そっか」

 

雲一つない夜空。 星が輝き静かな世界が広がっている。蒸し暑いけど…

 

「……覚悟か」

「……行くの?」

「きっと、行かざるおえないんだよ俺は」

「だろうね」

 

一色、雪ノ下に由比ヶ浜。

あの頃の俺が守りたくて捨てた物を2年経ってやっと拾いに行くなんて馬鹿らしい。だったら最初から捨てるなよ…壊れる関係だとしても思い出は壊れないだろ? きちんと、向かい合うから…気合い出せよ比企谷八幡。貪欲に行こうじゃないか。 半額弁当を得るために必死なあの瞬間のように

 

「んぁ、電話…?」

「あ、どうぞどうぞ」

 

今しがた会話してた隣人に許可を得ると通話ボタンを押す。 すると、耳に当てるまでもなく大声量が聴こえてきた。

 

『ひ、ひひひひひヒキガヤサンのお電話でひょうか!?』

 

ひひひひひひヒキガヤさんとは誰だろうか?

 

「…その声、沢桔姉か」

『えぇ、そうですそうですともっ! ヒキガヤさんでお間違いないみたいでしたね。安心しました』

「んで、要件は…こんな時間に高校生が起きてるんじゃありません」

『あぁ、そうでした。 合宿の行き先決まりましたの』

「本気で行くのかよ……何処だ。あまり遠いいと行きたくないんだが…」

『大丈夫です。千葉ですから』

 

さらば俺の覚悟。 こんにちはチキンな俺!!

 

『日付はおってご連絡します』

 

ブチッ…と一方的に切られると唖然とした俺。

 

「どうしたの?」

「千葉に合宿に行くことになった…」

「合宿? サークルでも入ってたの?」

「いや…非公認でな半額弁当争奪戦の遠征ってことでさ…」

「あー…最近行ってないな…よし、着いて行く」

「…お前はいいのか?」

「共犯者が覚悟を決めたならこっちも決めないと」



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