インフィニット・ワイルド(仮題) (ディニクティス提督(旧紅椿の芽))
しおりを挟む

第1話「邂逅、旅路の途中で」

深々と生い茂った森と、青々と輝く川と海。そして、見上げた先には晴れ渡る青空。一面に広がる大自然の光景はなかなかに壮大なものだ。人の心というものを存分にくすぐらせてくれる。それが未知への探究心や好奇心、そして冒険魂なのかはわからない。だが、そんなことがどうでもよくなる程、人類にとって自然というものは素晴らしい存在だ。

 

「——それで、今日のご飯はどうするの?」

 

前言撤回。隣の奴は自然に対して特にそうは感じてないらしい。

 

「……あのさぁ、せっかく夏のアラスカに来たんだから、他になんか言うことねぇの?」

「なんか昨日とあんまり変わってないし。まぁ、見慣れた感はあるかもね」

「ったく……現実的っていうかなんていうか、楽しみは一発限りとかどういうものだよそれ」

「かれこれ一週間もいたら見慣れると思うけど。むしろ、三日前に調達した保存食がどこまで持つのか……」

 

隣で水色の髪を揺らしながらそう答えた彼女は思わずため息をついていた。いや、その買った食料の箱、俺の後ろにしっかりと積んであるだろ。ざっとみたところで一ヶ月は持つんじゃねえの?

 

「少なくとも一ヶ月は持つだろ。保存食だから新鮮さとか仕方ねえところはあるだろうけどさ」

「豆とスパムの缶詰で二ヶ月持たせたときは、いろんな意味ですごかったけどね」

「あぁ、あれはなぁ……あのときは確かに新鮮な肉喰いてえってなったもんな……そうだ、今日は魚でも釣って食うか?」

「それをやらない手はない。はい準備準備」

「……十分ワイルドに育ってんなあ、こいつ」

 

そんな風にまるでいつも通りのことのように声をかけた彼女は一旦その場から降りる。それにつられて俺も地面へと降りた。まぁ、俺たちは何も自分たちの足一つでここまで来たわけじゃないからな。俺たちの背後には二つの巨大な影がある。一つは大きなハサミと大きな殻が特徴的であり、もう一つは頭の二本のツノと口から覗く牙が見るものの目を引く。

 

「シェリー、しばらくここで待っててくれ」

「少しはおとなしくしててよ、カルタス」

 

俺が声をかけると紫色のヤドカリは両腕を掲げて返事をし、隣の彼女が声をかけると深水色の恐竜は小さく唸り声を上げた。そんな二体を背に、俺たちは持ってきた釣竿を出し、その辺で捕まえた虫を餌に釣りを始めた。

 

「で、どうなんだ調子は?」

「調子って、私? それともカルタス?」

「どっちもだ。お前があのサベージカルタスと出会って早半年。どっか調子が悪いってところはないか?」

「別に。カルタスは興味があるものにはすぐにちょっかいを仕掛けるくらいだし。少なくともそこまで凶暴じゃないよ」

「まぁ、珍しく気の強いうちのシェルキャリアと仲良くしてるあたり、そうなんだろうな」

 

『シェルキャリア』『サベージカルタス』。

あの紫色のヤドカリと深水色の恐竜の事だ。その姿はまさしく動物そのものだし、本能のようなものをも兼ね備えている。だが、こいつらの肉体を作ってるのは骨や筋肉や皮膚なんかではない。金属の骨格と強力なシリンダー、そして堅牢な装甲だ。それでもこいつらは生命体でもある。

 

 

 

 

 

こいつらの正体は『ゾイド』。

 

 

 

 

金属の肉体と動物の本能を備えた究極の生命体。その力はすべての生態系の頂点に君臨し、その全てを従える程のものである。しかし、その存在は未だ不明瞭な点が多く、そもそもで存在しているのかどうかすら怪しいため、半ば都市伝説と化している。

……というのが今のところ世間に伝わっているゾイドに関する一般常識みたいなものだな。存在が眉唾ものだなどと言われてるが、現に俺たちにはシェルキャリアとサベージカルタスの二体が存在している。まぁ、それ以外のゾイドとはこちらの大陸ではあんまり見かけやしなかったからなぁ。知られてないのも仕方ない事なのかもしれない。あと、世間に広がる謎の風潮。なんか、前に『インフィニット・ストラトス』なんてものがでたから、女が前に増して偉くなってしまったんだとさ。なんでかって? そのインフィニット・ストラトスが女にしか扱えない代物だから。俺としちゃそんなパワードスーツより、シェルキャリア達の方が随分と価値があるような気もするんだがなぁ。

 

「前にも聞いたけど、シェルキャリアってそんなに臆病なの? あっちに行ったときはあんまりみてないからよくわからないんだけど」

「かなりの臆病だそ。なにせ、雷で殻にこもっちまう程のものだからな。中には一体でガブリゲーターに対抗して勝つ奴もいるらしいが、まさかサベージカルタスにすら敵対心をむき出しにするとは思ってもみなかったわ」

 

ヤドカリ種のゾイドであるシェルキャリアはあまり争いを好まない性格をしているとされる。襲われたら一に防御、二に逃走というのが普通である。しかし、俺のシェルキャリア——愛称はシェリー——は結構血の気が多い。隣で釣竿を立てかけて糸を垂らしている彼女の相棒ゾイドであるカルノタウルス種のサベージカルタスに出会った当初は両手のハサミを振り上げて威嚇しまくっていたからな。……あの時は結構焦ったぜ。

 

「そんな事を気にせず私に近づいてきたカルタスはそれだけ神経が図太かったわけ?」

「そうなんじゃね? 好奇心からお前を気に入ったから他の事が目に入らなかったってのもあるだろうけどさ」

「……今までを振り返ると、本当にそれがありえそうだから困る」

 

彼女とは一年近く旅をしているわけだが、サベージカルタスがこの中に加わったのは約半年前。アリゾナの荒野を渡り歩いている時、『特異点』と呼んでいる光に包まれ、その先にある世界から隔絶された大陸『ワイルド大陸』密林地帯に吹っ飛ばされた。その時に出会ったのがサベージカルタスだ。その時から好奇心が旺盛だったのかはわからないが、興味津々といった形で彼女を見つめていた。気がつけば彼女の前に頭を下げて、彼女はカルタスの首にまたがり、ゾイド乗りとなったのだった。そしてこっちの世界に戻ってきてからというものの、蝶々を追いかけたり、川の魚を見つめて水をかけられてびっくりしたり、クマの親子に近づいていったりと好奇心に満ち溢れており、その度に周りが見えなくなって木にぶつかったり、池に落ちたりしている。……本当に極めて獰猛と噂されているカルノタウルス種とは少なくとも思えない行動である。

 

「まぁ、それも個性って事でいいじゃねえか。——で、時に簪よ」

「急に改まってどうしたの、渚」

「いや……お前の置き竿、何かに引っ張られてね?」

「……それ、もっと早くに言って!! しかもなんか重いし!!」

 

彼女——簪の竿にはどうやら魚がうまくかかっていたようだ。置き竿で浮きも小さいから、魚がかかったかなんて気付きにくいわな。とりあえず、今日の新鮮なタンパク質の為、なんとしてでも釣り上げさせなければ。

 

「絶対逃すなよ! ——って、俺にもかかったし!?」

「そっちこそ、それ絶対逃さないでよ!!」

「人の事を言う前に、お前は自分のを釣れ!! どう見てもお前の方がデカブツだぞ!!」

 

広大な自然の中に、俺と簪の喧騒と、シェリーとカルタスの小さな嘶きが響き渡ったのだった。

 

 

あのやかましくなった釣りの後、俺たちは今日の野営場所を探していた。天気が崩れる気配はないが、そう言う不安はなるべく避けたいのと、後は森の中では迂闊に火を起こすわけにいかないからである。下手に焚き火なんてしてみろ、山火事不可避だわ。できれば洞窟とかあればいいんだがな。岩場とか草とかがあまりなくて開けた場所とか、そう言ったところがいいだろう。さっき釣った魚も調理したいところだし。ちなみ本日の釣果は、俺の釣った普通の大きさの魚一匹、簪の釣ったそこそこデカイ魚一匹である。やっぱ晴れすぎてると釣れにくいものだな。なお、簪は釣りで俺に勝ったのが余程嬉しいのか、今のところほくほく顔である。

 

「どう? 寝るにちょうど良さそうなところ見つけた?」

「いや、まだ見つかんねえな。そもそも崖もないここじゃ洞窟も見つけにくいわ」

 

 

かれこれ二時間は探してるんじゃないだろうか。まだ野営場所が見つからん。もう空には星たちが瞬き始めているってのに。これは非常にまずい。こいつらがいるから一応安心できるんだが、夜行性の野生動物がマジで怖い。なにをされるかわかったもんじゃない。洞窟なら入り口にシェリーとカルタスを配置しておけば襲われる心配は格段に小さくなる。しかし、もし見つからなかった時は……まぁ、シェリーの上で寝るだけだけどな。カルタスが来る前は二人までなら乗れるシェリーの上で寝ていたし。カルタスは簪曰く『乗り心地はいいが、寝るには少し厳しい』との事。寝床はなんとかなっても、火を起こせられる場所が見つかんねえとな……。

そんな時、カルタスが急に方向を変えて動き出した。

 

「カルタス、何か見つけたの?」

 

簪の問いに答える事なく歩き出すカルタス。まぁ、返事をすることがあっても、あのカルタスの調子では興味をそそられる存在がある以上、周りが見えなくなってる可能性があるな。

 

「ちょ、ちょっと本当どこに行くの!? カルタス! 返事してってば!!」

「もしかすると、なんかいいものでも見つけたんじゃねえの? シェリー、俺たちも追いかけるぜ」

 

シェリーもまた特に返事することはなく、カルタスが駆けていった方向へと歩みを進める。とはいえ、二足歩行で素早く動くカルタスと、四本足で機敏に動けるけどあまり速く走れないシェリーとでは距離が開きがちである。故に見失わないようにしなければならない。頼りになるのはカルタスの青緑色に輝く目だけである。その光を俺たちは追った。

しばらく動き、俺たちはついに森を抜けてしまっていた。潮風が吹いていると言うことは、海辺まで来てしまったようだ。

 

「なるほどねぇ。カルタスはまるでここがわかっていたみたいだな」

「本当、好奇心に負けたのかと思ったら、こんなところを探し当てるんだから……この子には驚かされてばかりだよ」

 

カルタスが俺たちを連れてきた場所。それは海岸近くにある岩場であった。流石に洞窟はないものの、火を起こすには十分な環境だ。よくこの場所が分かったものだと感心するわ。

 

「よくやったね、カルタ——」

 

前言撤回。カルタスは海の方に向かって、尻尾の先端を海水に触れさせたりして遊んでいた。本当に何をしとるんじゃ。

 

「……あれ、どう見ても好奇心に負けたんじゃねえの?」

「……本当に否定できないから困る」

「……とりあえず、俺は火を起こしておくから、お前はさっさとあいつを連れ戻してこい。もし人の目についたら面倒だ」

「……わかった」

 

海岸近くで遊んでいるカルタスの元へ駆け出して行く簪。その背中を見ながら俺は持ってきていたライターで近くの枯れ枝に火をつけた。乾燥度合いが良かったのか、結構いい感じに火がついてくれた。おおぅ、夏とはいえアラスカだから、夜はそこそこ冷え込む。この火がなかったら寒くて凍えてるわ。俺はこの近辺に落ちてる枝を拾い集め、どんどん燃やしていく。それとは別に枝を用意する。こっちは魚を焼くための枝だ。釣った魚は直後に両方とも綺麗に内臓を取り出してあるため、後は枝に刺して焼くだけだ。焚き火のそばに魚を刺した枝を地面に突き刺し、ここからこんがり焼けるのをのんびり待つ。

 

「さてと、そろそろ適当に枯れ枝を集めてこないとな。シェリー、火が消えないようにしておいてくれるか?」

 

シェリーはハサミを片方振り上げて答える。肯定の意味でいいな、これは。一応、さっき拾い集めた奴はまだ少し残ってるし、後は魚を焼くための燃料が欲しいだけだから、そこまで多くはかからねえだろ。シェリーもなんだかんだで焚き火に枝をくべることくらいできるし。いや、動物の本能があるなら火には近寄らないはずだろ。と、最初は思ったが、ヤドカリにそんな本能があるのかと考え、今となってはゾイドだからできると勝手に結論づけた。

 

(さて、これくらい拾っていけばなんとか足りるだろ)

 

ある程度の量を拾った俺は一旦本日の野営場所へと戻ることにした。あんまり使いすぎるのも問題になるし、何より炭になった木は自然に還らない。いっそ燃やし尽くして灰にした方がいいからな。少し足りないくらいが丁度いいと俺は思ってる。

 

(アラスカに来てからもう一週間か……あと一週間もしたら別のところに向かうとでもするか。とはいえ、どこに向かったらいいのやら……)

 

戻る最中、これからどこへ向かうかを俺は考えていた。正直、俺たちの旅は基本的に行くあてのない行き当たりばったりな旅だ。おまけに『特異点』に引きずり込まれたらマジで行き当たりばったりになる。再び戻ってきたときは、大概そこから違うところに吹き飛ばされていることが多い。前にアリゾナで飲まれた後はカナダの森の僻地まで飛ばされたからな。そこからアラスカまでよくたどり着いたものだ。

とはいえ、ここから先には海峡がある。一応、ゾイドは海水に対しても結構耐性はあるが、あまり海水に触れるようなことは避けたい。金属生命体にとってサビは天敵にも等しい。それに人の手によるメンテナンスもしなきゃいけなくなるから、作業量は断然増えるわけだ。しかし、アラスカからどこへ向かうかと言われたら、本当にどこへ向かうべきか思いつかないのも事実である。ここからロシアの大地に向かう事が出来たら御の字なんだがな……。だが、流石に人の目につくような事だけは避けたい。俺たちがそもそもでパスポートとか持たずに旅をしているというのもあるが、一番はシェリー達——ゾイドの存在だ。本来はこの世界に存在しないはずの存在だからな。世間が一瞬にして騒がしくなってしまう上に、どこぞの馬の骨とも知れない研究者がやってくるかも知れない。あと、クソうるさい女共とか。俺たちは誰からも邪魔されずに旅をしたいんだ。だからこそ、大騒ぎに巻き込まれることなんてのは勘弁願いたい。

 

(しかし、いずれにしたって移動手段がほとんどないのが現状だ……本当にどうしたらいいものなんだろうか……)

 

今すぐにでも頭を抱え込みそうな内容を考えながら近くまで戻ると、何やら人影が見えた。後ろ姿だからよくわからないが、簪が戻ってきていたのだろうか? それにしてはカルタスの姿はないしな……もし簪でなかった場合、それは非常にまずい事態だ。赤の他人が巨大な鋼鉄のヤドカリをみて驚かないわけがない。人気がないとはいえ、街に戻って騒ぎになったら収拾がつかなくなる。最悪、ぶん殴って気絶させるしかない。俺は拾ってきた枯れ枝の中から一番太いやつを選び、慎重にその人影へと近づいた。

 

(うん……? なんだあれ? 頭からツノが生えてるぞ!?)

 

近づくにつれ少しずつ鮮明になるシルエット。頭から突き出た二本のツノ……なのかよくわからないが、あれは一体なんなんだ? しかし、紛れもなく人間であることに間違いはないだろう。足音を極力立てないようにさらに接近する。

 

「——ふぅ〜、食べた食べた〜。ゾイドがいるから不安だったけど、特になんともなかったし、お魚もいただいちゃったし、ここの人ありがとね〜!」

(って、魚食ったのかよ!? てか、シェリー!! なんで普通に受け入れてる……っていつのまにか殻にこもってるしー!?)

 

まさかの魚泥棒である。しかも焼いてたやつ全部食っちまいやがったよ、こいつ。頭にはなんかメカメカしいものをつけてるが、人間であることに間違いはない。これは確信を得た。なにせ日本語で話しをしてるんだからわからないわけがない。そして、魚泥棒は俺の気配に気づいたのが、こっちに振り返ってきた。

 

「やっほ〜。キミがここのベースの人かな? 美味しいお魚、束さんが食べちゃったよ〜。ご馳走様でした〜」

「いや、何ナチュラルにメシにタカってんだよ。まぁ、俺の分を食うのはいいけどさ……もう一つはやべえんだって」

 

目の前の一人不思議の国のアリス状態な女は特段悪びれる様子もなく、純粋無垢な顔でそう言ってきた。怒鳴りつけてやろうかと思っていた俺だが、その純粋無垢な顔に毒気を抜かれてしまう。とはいえ、目の前のやつはとんでもないことをやらかしてしまっているわけなんだがな……マジで。

 

「……渚、あの大っきな魚はどこ? 焼いているはずじゃなかったの? それにその人誰?」

 

……最悪の展開である。よりによって簪がこのタイミングで戻ってきた。しかも、十何歩か後ろにはカルタスの姿もある。この後一体何が起きるのだろうか。シェリーと同じように殻があったら入っていたい、今の俺は切にそう思う。しかし時既に遅し。俺も完全に巻き込まれてしまっている。こういう時にすることはただ一つ。

 

「魚泥棒。こいつが全部食いやがった」

 

正直に全部話しちまうことさ。しかし、それがかえって簪の心にダメージを与えてしまったのか、顔をうつむかせてしまった。まぁ、あれだけ大喜びして持ってきた魚だからな……そりゃ傷心気味にもなるわ。

 

「……わかった。カルタス、やって」

 

半ばダークサイドに落ちかけている簪によって呼び出されたカルタスが魚泥棒の胴体を咥えて持ち上げる。魚泥棒は何やら叫び声を色々と上げているようだが、カルタスにそんなものはほとんど通じるわけがない。

 

「ちょ、まっ、待って!? こんなところにサベージカルタスがいるなんて聞いてないんだけど!? 死ぬ!! 流石の束さんでも死んじゃうから!!」

「——カルタス、テイルスマッシャー!!」

 

簪の言葉通り、魚泥棒を一旦上空に飛ばしたカルタスはその場で回転し、タイミングよく落ちてきた魚泥棒に尻尾を叩きつけた。猛烈な速さで吹っ飛ばされる魚泥棒。海面に幾度か叩きつけられたような音の後、水没する音が聞こえた。俺は心の中で合掌するも、もう一度簪の方へと向き直る。

 

「……せっかくの大物だったのに……」

 

案の定……というかなんというか、今にも泣き出しそうな感じの彼女。これを慰めるのはなかなかに骨が折れそうだと思いながら、俺はこの状況を一体どうしたらいいのか考える事にした。

 

 

「ぜぇーっ……ぜぇーっ……し、死ぬかと思った……」

 

一先ず火にあたって暖を取っていた俺たちの元に、全身びしょ濡れになった件の魚泥棒が戻ってきた。どんなところに落ちたのかわからないが、海藻を全身にまとっているところから、いい藻場に落ちたのだろうな。

 

「……どの面下げて戻ってきた、この泥棒」

 

一方の簪、完全にへこんでらっしゃる。仕方ないからいつも通りに缶詰を開けてメシにしていたわけだが、やはりあの大物を食えなかったことがなかなかにきているようで、かなり不機嫌だ。口が相当悪くなっているところからそれは間違いないだろう。

 

「うぅ……それは本当にごめん。でも、流石に四日も何も食べずにいたからつい……」

「だからって人のものに手を出す? 普通あり得ないんだけど」

「うぅ……あと、誰でもいいから背中に入ってるヌメヌメしたもの取ってくれない……?」

 

簪は完全に取りつく島もないと言った感じである。これは仕方ないといえば仕方ないだろう。前から結構根に持ちやすい性格だったわけだし。そんな簪に対して一応謝罪をしている魚泥棒だが、どうやら背中に何か入ってしまったようだ。確かに奴の服の下で何かがビチビチと跳ねているようにも見える。

 

「仕方ねえなぁ……」

 

いくら魚泥棒をした奴とはいえ、あのままにしておくというのもなんとなく気が引ける。とはいえ簪はお怒りのご様子だから、俺がやるしかねえ。何が入ってるのかわからないが、まぁ魚だったら御の字と思って取り出してやる事にした。

 

「出してやるからそのままじっとしてろよ」

「は〜い……」

 

頭に機械でできたウサギの耳と海藻を乗っけている魚泥棒の服の裾を解放し、その中身を地面に落とした。その中から出てきたのは活きのいい少し小ぶりなトラウト。しかも五匹。そこからの俺に迷いはなかった。すぐさま海水で軽く洗い、内臓とエラを取り、枝に刺し、焚き火で焼き始める。

 

「よし簪、とりあえずこれ焼いて食って寝るぞ」

「自分で釣ったものじゃないけど……食べれるならそれでいい」

 

簪用に三匹、俺は二匹。それぞれの前で焼いていく。皮の焦げる匂いが鼻の奥を刺激し、久々の新鮮な食材を食える事に脳が歓喜の叫びを上げる。最早俺たちの頭の中は目の前の魚の事でいっぱいだった。

 

「あの〜……それで機嫌は直してくれたかな……?」

 

後ろからさっきの魚泥棒が声をかけてきた。まぁ、確かにムカつきはしたものの、俺はそこまで機嫌を悪くしていたわけではないから問題ない。だが、簪は完全にヘソを曲げてしまっていたくらいだったからなぁ……これで機嫌が直るだろうか。

 

「私の大物を食べた罪は大きいけど、結果的に魚が食べられるから別に気にしてない」

 

意外とあっさり解決していた。現金な奴だと思いつつも、機嫌がよくなっていた事に胸をなでおろした。すでに焼けた一匹を幸せな顔をして背中からかぶりついている彼女を見ていたら、機嫌は本当に元に戻っていると実感した。

 

「にしてもアンタ、なんでこんなところにいたんだ? 俺たちが言えた立場じゃねえが、普通この辺は人が来るようなところじゃねえぞ」

 

満面の笑みを浮かべて魚に食らいついている簪は一旦放置しておき、俺は魚泥棒と話をする事にした。つーか、さっき四日も何も食ってないって言っていたが、本当に何をしたんだ? 普通、こういうところに来る人はあらかじめ食料は準備して来るものだろ。

 

「それがね〜、束さんにもよくわからないんだよ。急に目の前が光ったと思ったら森の中にいて、そこから四日くらいは森の中を彷徨って、また光ったと思ったらここにいたから、全くわけわかんなくて……」

「目の前が光って、ねぇ……」

 

魚泥棒の話を聞く分に、十中八九『特異点』に飲み込まれたと考えてもいいかもしれない。だが、まだ確証は持てない。世の中にはインフィニット・ストラトスなんて色々と常識をぶっ壊す存在があるから、誰かが瞬間移動装置を作っていたっておかしくはない話だ。だからこそ、ひとつだけ確かめたい事がある。

 

「ちなみに、その飛ばされた先の森だったか? そこにこういう奴らはいたか?」

 

俺はそう言って背後にいるシェリーと簪の側でしゃがみこんでいるカルタスを指差した。もし、ゾイドを見たのであれば確実に特異点による影響であると判断できる。そうでなかったら別の可能性になるだけだ。

 

「『シェルキャリア』に『サベージカルタス』みたいなのって、ゾイドの事? うん、サベージカルタス以外にかなり大きい子にもいたよ」

 

確証を得た。間違いなく特異点によってワイルド大陸に吹っ飛ばされた人間だ。まず、普通の人はこいつらの正式な名前なんて知らない。俺だって最初はシェリーの名前すら知らなかった。だが、あの大陸に飛ばされた瞬間、ありとあらゆるゾイドの名前とその特徴が頭の中に詰め込まれる感覚に襲われる。そうなればゾイドを見ただけでこれがなんなのかを本能的に理解する事ができるようになる。つまり、ゾイドの名前を知っているということはこの世界からワイルド大陸に飛ばされた——特異点に飲まれた人間であると言えるわけだ。とはいえ、俺と簪の経験に基づくものだからなんともいえないんだがな。

 

「多分だが、それは『特異点』によって飛ばされたとしか言いようがないな。特にゾイドの事を知っているって時点でそうだ」

「『特異点』……束さんにも初めての経験だったなぁ。ただ、飛ばされた直後に見たのがサベージカルタスってのはトラウマ物だったけど……」

 

そう言って身震いさせる魚泥棒。それに関してはドンマイとしか言いようがないな。尤も、ガブリゲーターにシェリーごとを襲われそうになった時の方が何倍もやばかったように思える。直後、シェリーの手によってガブリゲーターは撃退されたんだけどな。

 

「まぁ、その事があったからあの子と出会えたんだけどね」

「あの子? もしかしてゾイドか?」

「そうだよ〜。見た目はびっくりするけど大人しい子だから大丈夫だと思うよ。ちょっと呼んでくるね〜」

 

そう言って海の方に駆け出していった魚泥棒。一体どんなゾイドを連れてきたんだ? 見た目でびっくりするとかって言われてもなぁ……しかも海の方だとしたらグソックとかか? あれは確か一応海水に対してかなり耐性があるはずだしな。まぁ、いても小型ゾイドか中型ゾイドだろう、俺はこの時そう思っていた。

直後、海から何かが現れる音が聞こえてくる。しかも、かなり波を立ててこちらへ向かってきている。足音は並みのゾイドを遥かに超え、言いようの知れない迫力が俺にのしかかってくる。その気配を感じたのかシェリーは殻から姿を現し、俺の横にやって来てハサミを構えていた。のんびり魚を食っていた簪も気配に気づいたのか、海の方を見つめ、カルタスも警戒するように身構えていた。

 

「……冗談だろ? よりによってこのゾイドが来るとはなぁ……」

 

そのシルエットが火の灯りによって照らされはっきりした時、俺は驚かずにはいられなかった。何が小型ゾイドか中型ゾイドだろう、だ……それどころの問題じゃねえだろ、こいつに関しては……。

 

「ふふふ。この子が束さんのゾイド、『セイバーサウルス』なのだ!!」

 

セイバーサウルス。巨大ゾイドの一角として知られるグラキオサウルスにも匹敵する巨大ゾイド。俺もまだ野生個体を一回だけ見た事しかないが、まさかゾイド乗りと一緒にいるとはな……。

 

「これまたシャレにならないゾイドを連れて来たものだぜ……一体どういう経緯で相棒にしたんだ?」

「サベージカルタスに襲われそうになっていた時に助けられちゃってね。その後背中に登ったらなんかそのまま懐いちゃったみたいでさ」

「初めて聞いたわ、そんな経緯」

 

というかサベージカルタスを一蹴したって普通に言ってるから、このセイバーサウルスってかなりの猛者だよな。そして、簡単に懐いたとか色々とこの魚泥棒恐ろしいわ。

 

「……アンタ、名前は?」

 

俺は思わず奴に名前を訪ねていた。

 

「私? そうだねえ……」

 

奴は少し考えるような素振りをした後、再び口を開いた。

 

「私はみんなのアイドルこと篠ノ之束だよー! セイバーちゃん共々よろしくねー!」

 

篠ノ之束……まさかこいつがその本人なのか? あのインフィニット・ストラトス——ISを一人で作り出した天才科学者にして国際指名手配中のあの篠ノ之束なのか!? ……よりによって俺はとんでもない奴と出会っちまったらしいな。簪は簪で開いた口が塞がらないようだし、やはり目の前の魚泥棒はとんでもない奴なんだと改めて実感する。

 

「ねーねー、ここで会ったのも何かの縁だし、同じゾイド乗りとして名前教えて? それじゃ、そこの眼鏡っ娘から」

「……ふえっ!? わ、私!? え、えっと、わ、私は更識簪……こっちは相棒のカルタス……よ、よろしくお願いします」

 

突然話を振られて意識を現実に戻された簪は少々どもりながらも魚泥棒——じゃなくて篠ノ之束に名前を告げていた。というか、目の前にISを作った張本人がいるんだからそりゃ驚きもするか。むしろ驚かないやつの方がすごいと思うわ。俺? 最早これが現実とは思えずにいるわ。

 

「ふむふむ、じゃあ『かんちゃん』だねー」

「……私のあだ名ってそれしかないの……?」

「ありゃ? 被っちゃった? でもいいや。それで君は?」

 

篠ノ之束がつけたあだ名がどうやら前につけられたあだ名と同じだったことに簪は妙な安心感と残念さを感じているようだった。まぁ、つけやすいんだから仕方あるまい。

 

「俺か? 俺は萩谷渚。それとこいつは相棒のシェリー、少々気の強いシェルキャリアだ。よろしく頼むぜ、篠ノ之束」

「もう、束さんのことは『束さん』で十分だよー。よろしくね、『なーくん』」

 

俺たちは旅の途中、まさかと思える人物とゾイド乗りとして仲間になってしまったのだった。







ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回登場したゾイドの設定などが欲しいとのお声があれば後書き、もしくは設定集として用意しておきます。

ではまた次回、生暖かい目でよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「転換、旅路は逸れる」



どうも、ナックルコングかっこよすぎね? 紅椿の芽です。


ここ最近はゾイドのネタがほいほい頭の中に思い浮かんでは、実際に作る時間と金の余裕がない事に嘆いております。いっそ骨格からフルスクラッチしてみるか……。


さて、そんな事はさておき、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





まさかの出会いをした俺と簪だったが、簪は初めて目にするセイバーサウルスの姿に心を奪われているような感じであった。うん、その気持ちはものすごくわかる。あれを見て興奮しないゾイド乗りはいないわな。

 

「セイバーサウルスに乗ってるなんて、魚泥棒なのに凄いです! 並の人じゃまず近づくことなんて無理ですよ!」

「……魚泥棒はまだ引っ張るんだね。まぁ、セイバーちゃんが束さんを認めたのなんて多分気まぐれだったんじゃないかな?」

 

簪の中では篠ノ之束——面倒だし束さんは魚泥棒のイメージで定着しているようだ。しかし、そこにはあの時のような険悪な雰囲気はなく、むしろそれをネタにして和気藹々としている感じだ。それでいいのかと思ってしまったが、変にギスギスした感じでいられるよりは断然こっちの方がいい。

 

「にしても、本当でけえよなセイバー。シェリーやカルタスなら載せられるんじゃねえの?」

 

地に伏せ休みを取っているセイバーサウルスの姿を見てそう思わずにいられなかった。サベージカルタスも割と大きい部類に入ると思っていたが、セイバーサウルスはそれ以上。全長で言えばカルタスの二倍近い大きさはあるだろう。身を隠すなんてことはできそうにない。ゾイド乗りと出会えたのは良かったものの、そのゾイドがとんでもない弩級サイズなものだから、あちこちにバレる恐れが出てきた。

 

「多分だけど載せられるとは思うよ。というか、こっちにきた時に変なものも付いてきたし」

「変なもの?」

「そう。変、っていうかとにかくでかいもの」

 

束さん曰く、とにかくでかい板らしい。それこそゾイドが普通に乗りそうなほど。……それ、運び屋のキャタルガとかが引っ張っているゾイド用の輸送パレットじゃねえの?ワイルド大陸に住む人々の生活にも俺は少し触れているから、そういう運び屋の姿も目にしている。おそらく輸送パレットに間違いはない。

 

「それ、ゾイド用の輸送パレットだろ、きっと。中型ゾイドまでなら載せて運べる代物だ」

「へぇ〜、そんなものがあったんだねえ」

「普通は使わないものだからな。知らなくても仕方ねえだろ」

 

まさかの輸送パレットがこっちにも存在しているとはな。とはいえ、それを扱うのは誰になるか、という問題がある。見ての通りゾイドは金属生命体である以上、非常に重い。水の上に浮かぶなんてのは無理だ。さっきのセイバーサウルスがいい例だ。水の中から出てきたということは、すなわち水に沈むということを意味する。セイバーサウルスならパレットを引くのに十分な力があるだろうが、あの巨体が持つ重量は凄まじいものだろう。さっきのように確実に沈む。また輸送パレットがあってもそれは陸上専用であるし、この辺はそれを扱うに適した荒野もない。よってパレットによる移動手段はこうして幕を閉じたのである。

 

「荷物運びには便利そうだけどね、そのパレット。……というか、かんちゃんはいつまでセイバーちゃんを眺め続けるのかな? そろそろ観察するだけってのも飽きるでしょ」

「全然。あと三日くらい観察してても飽きないと思う」

「かんちゃんまさか筋金入りのゾイド好き!?」

「いや、あいつは単純にメカとかそういうのが好きなだけだ」

 

俺と束さんが話してる間もカルタスの上に乗ってセイバーを観察し続ける簪。ここまでくると本当ある意味尊敬したくなってくる。というか、お前昼間に同じ景色は飽きたと言っていたくせにゾイドはまた別の話になるのか。たしかに簪はそういうものが前から好きだったもんな。むしろ景色よりはこっちの方が食いつきやすいんだろうさ。

 

「まぁ、一旦簪のことは置いておいて、とりあえずここからどうするかだな……流石にこれは移動しないと問題しかねえぞ」

 

セイバーに夢中になっている簪のことはさておき、俺は現状俺たちが立たされている状況を確認することにした。

 

「シェリーやカルタスくらいの大きさならまだ森や岩陰に隠せたが、セイバーの大きさとなると流石に隠せそうにない。こうしてる間にも人工衛星のカメラに見つかってしまってるかもしれねえしな」

「セイバーちゃんは確かに少し大きいからねー。でも、そんな有象無象の人工衛星くらい、束さんがハッキングしてもいいけど?」

 

……束さんの口からさらっと恐ろしい単語が聞こえて来たんだが。突然のことに思わず間抜けな声が出てしまった。

 

「は? それマジで?」

「マジもマジの大マジ。というか今もハッキングしてダミー映像を流し込んでるから、セイバーちゃんの存在どころか束さんの存在すら見つかってないよ」

「……マジかよ。前提条件から崩壊してたわ」

 

流石天才科学者というべきなんだろうか。人工衛星をハッキングしているとか普通は想像もできんわ。しかし、これでゾイドの存在が公に出るなんてことは大幅に可能性が低くなったことだろう。それで大いに結構だ。

 

「てか、ハッキングってパソコンからやってるんだろ? さっき盛大に水に沈められてたが無事だったのか?」

「ふっふっふ。そんじょそこらのパソコンと違って、束さんお手製のパソコンだから、防水機能も完璧にしてあるから全くもって問題ナッシング!」

 

バケモンか。下手するとゾイド並みに防水機能が働いているかもしれんわ。

 

「しかしな……そのハッキングする直前に見つけられている可能性も否定できん。俺としてはここから移動する事を提案するんだが、何がどうあっても海を渡ることだけは変わらんだろうよ」

「流石にそれはキツイかな〜。セイバーちゃんは確実に沈んじゃいそうだし」

「だろ? 全身メタルで出来てるゾイドは普通に重いからな。おまけにここにいるゾイドはどいつも陸棲型だから、泳ぐことなんてまず無理だぞ」

 

既に手詰まりになっている感じがしてやまない。ここから先一体どうすればいいんだろうか……存在がバレてしまった場合、シェリー達は確実に研究の為に様々な実験をさせられてしまうだろう。だが、そんなことは絶対にさせない。俺はシェリーと二年も旅を続けてきたんだ。相棒をそんな目に合わせるわけにはいかない。

 

「今からくーちゃんを呼んで迎えにきてもらうにしても……あ、だめだ。セイバーちゃんが乗れるサイズの船なんてなかった」

「あれが載るサイズの船って最早大型のフェリーか空母くらいだろ」

「うーん、本当にどうしようかなぁ……?」

 

全く解決策が思いつかず、思わずその場に寝そべり空を見上げてしまった。ここはかなり空気が澄んでいるのか、星が綺麗に瞬いている。何度も眺めてきた光景だが、いつになっても飽きることがないんだよな、この景色。眺めてると、本当俺らってちっぽけな存在だよなと思ってしまう。

 

「うわぁ……星ってこんなに綺麗だったんだね〜。長い間空を見てなかったから、なんだか新鮮に感じちゃうなぁ」

 

束さんも俺と同じようにその場に寝そべって空を見上げているようだ。

 

「長い間旅をしてるが、この星空はいつ見ても飽きないんだよな。空の青さと風の声は確かにいいもんだけど、夜空も引けを取らない良さがあるんだわ」

「なんかそれわかる気がする〜。束さんもこういう星とかに憧れを感じちゃうんだよ」

「ほう、意外だな。天災科学者さんはそういうのに興味ないと思ってたわ」

「心外だなー。科学ってのは憧れとか夢とか、そういうのがなかったら発展しないものなの」

 

俺にはそういう部分はよくわからない。元々はどこにでもいるような普通のガキだからな。ただ、憧れや夢がなかったら何もできやしないってのにだけは同感だ。俺だって……夢くらいはあるからな。

 

「さて、と。束さんはちょっと周りを散歩してくるよ。もしかすると何かいい案が思いつくかもしれないからね」

「あんまり遠くまで行って迷子になるんじゃねえぞ」

「はーい——って、束さんはそこまで子供じゃないし!」

 

実際、夜の森は迷子になりやすいから気をつけなきゃならねえんだけどな……俺だったら夜の森の中を歩くなんてことはあまりしたくはない。まぁ、でも海岸付近ならばそう簡単に迷子になったりはしねえだろ。そんなことを考えながら腕を組み直して、もう一度寝転がった時だった。

 

「うん? なんだこりゃ……?」

 

硬いものが俺の腕に当たった。手に取ってみると、何やら水色に輝くキューブのようなもので、見た目よりは軽い。少なくともこの辺に落ちている石とかとは根本的に違うもののようだ。

 

「まぁ、珍しそうなものだし、拾っておくとするか」

 

誰かの落し物ってわけではなさそうだし、別に俺が拾っても問題はないだろう。そのキューブを俺は上着のポケットに突っ込んだ。そして再び寝転がる。空には相変わらず輝く星たち。しばらくそうやって眺めていると、俺の視界は影に覆われた。いや、二つの翡翠色の双眸があるな。

 

「どうしたんだ、シェリー? 何かあったのか?」

 

徐にシェリーが俺の元へ歩み寄ってきていた。口元をパクパクと動かしてはいるが、一体どうしたというのだろうか? というか、外見は丸っこい形をしているシェルキャリアだが、口元はやばい。なんというか、どでかいハサミでできたギロチンのようなものに見える。こんなところだけ見せられたら、大抵の人は怖がる事間違いなしだ。

それはさておき、何を考えているのかわからないシェリー。寄ってくるだけ寄ってきた、それだけなのか?

 

「にしても、これ一体なんなんだろうな……」

 

一度シェリーの事は放っておき、俺は上着のポケットからあのキューブを取り出した。不思議な輝きを放つそれは、夜空に輝く星のようにも思える。回して全体を眺めてもこれがなんなのか全くわからない。

そんな時、シェリーがキューブに向かってハサミを伸ばしてきていた。コイツもこれが気になるのだろうか? 別にシェリーが挟んでもぶっ壊れなさそうだし、いいか。

 

「なんだ、これが気になるのか?」

 

俺の問いにハサミを両方とも軽く掲げ上げて答える。その意味は肯定。

 

「そうか、ほらよ。力入れすぎてぶっ壊すなよ?」

 

俺がキューブをハサミの方に差し出すと、シェリーはそれを丁寧に挟んでいた。やはり気になっていたようで、自分の視界にそれを入れてから、ずっと眺めっぱなしだ。ゾイドの興味をそそるほどのものって、一体なんなんだろうか、余計気になって仕方なかった。そんな時だった。

 

「——ひょわあぁぁぁぁぁ〜!? ちょ、ちょっと!! なんでカルタスは私を追ってくる訳ぇぇぇぇぇっ!?」

 

何処からともなく聞こえる悲鳴と、地面を蹴り上げる音に混じる咆哮。視線をそちらに向けると、何やらカルタスに追われてる束さんの姿が。……本当に何やってんだ? 何か変な事でもやったのだろうか?

 

「カルタス! ストップストップ! 一体急にどうしたの!? 落ち着いて止まって!!」

「かんちゃん! 全く止まる気配ないんだけどぉぉぉぉぉっ!?」

 

そんな簪の制止も聞かず、カルタスは束さん目掛けて猛進を続ける。しかも、頭部に備え付けられているブレイカーホーンを向けた状態でだ。

 

「どぶぅふぇっ!?」

 

カルタスによって大きくぶっ飛ばされ、変な悲鳴をあげて砂浜に突き刺さる束さん。綺麗に頭から突き刺さったなー。あんな光景滅多に見る事ができないぞ。ぶっ飛ばした当のカルタス自身は束さんには目もくれず、地面の方に視線を向けたままだ。一体何に興味を惹かれたのか、気になった俺はカルタスの側に向かう事にした。

 

「うわぁ……なんと綺麗な犬神家状態……って、カルタス? 何を見てるの? 光る……キューブ?」

 

聞こえてきた話の通りなら、カルタスの視線の先には光るキューブのようなものがあるらしい。ん? 光るキューブといえば、さっきシェリーに預けたのも同じ感じだよな……もしかして全く同じものなのだろうか? だとしたらそれらは一体なんなのだろうか? 人工物なのかそうでないのか……ますますわからん。そう色々と考えていた時だった。

 

カルタス、多分そのキューブを食った。

 

「——って! 何食べてるの!? というか、カルタスってものを食べる事できたの!? と、とりあえず、さっき口にしたものは吐き出して! ほら早く!!」

 

簪が必死になって言い聞かせているが、バリボリという音が聞こえてくるあたり、もう手遅れな気がする。体を動かしてキューブ噛み砕いているカルタス。そして、丸のみでもするかのような動きをした。うん、どう見ても食った後だな。満足げな咆哮をしているあたり、間違いない。

 

「……ふぃ〜、助かったよ、セイバーちゃ——ふぐぇっ!?」

 

またもや珍妙な悲鳴が聞こえたかと思いきや、セイバーに投げ捨てられた束さんの姿が。……いや、自分の相棒ゾイドにすら足蹴にされるってどうなんだよ。犬神家状態から助かったと思いきや、また犬神家状態に戻ってんじゃねーか。そんなセイバーもまた地面に頭を近づけてなにかを咥えたような動きを見せる。そして、長い首を上に振り上げ、何かを丸のみしたようだ。……あれ? もしかしてさっきのもキューブ? ゾイドの餌になりうる存在なのか?

 

(って、待てよ……ということは……)

 

俺は思わず振り返る。そこには、キューブを今にも食おうとしているシェリーの姿が。

 

「おい待てシェリー! そいつは一旦ストップだ!!」

 

しかし、俺の言葉虚しく、キューブはシェリーのアゴに砕かれ飲まれていった。完全に食ってやがる……しかし一体こいつらが食ったものは一体なんなんだ? そもそもゾイドが何かを食うなんて光景初めて見たぞ……。俺はその光景をただ呆然と眺めてることしかできなかった。

 

「……痛ってて……もう、みんなして何をするのさ——って、はれ!? ここに入ってたのが無いんだけど!? どっかに落とした!?」

 

そんな時、散々な目にあっていた束さんが復活したようだ。しかも、何か落し物をしたらしい。なんか大慌てでポケットの中身をひっくり返して探している。だが、そんな事よりさっきまで起きていた事態について説明しなきゃいけない気がする。

 

「……なぁ、束さんよ」

「ごめん、なーくん! 今ちょっとこっちは探し物してるから! 話は後にして!」

「……いや、結構後回しにできない話なんだが……あんたのセイバーサウルスも含めて、ここにいるゾイドが皆一様に同じキューブを食っちまったみたいだぞ」

 

その言葉を聞いた束さんの反応は凄いものだった。

 

「ちょちょちょちょちょ!? そそそそそそ、それ、それってマジ!? 本当と書いてマジって読むくらいマジ!? 真剣と書いてマジって読むくらいマジ!?」

 

俺の両肩をしっかりと掴み、激しく揺さぶってくる。その目には明らかな動揺が浮かんでおり、顔色もどこか真っ青に近い。どうやら本気でこれはまずい事態になっているらしい。

 

「ちょ、束さん! お、落ち着いて! 一体どうしたんですか!?」

「これが落ち着いていられるかよ、かんちゃん! なーくん! それってマジ!? ガチ!? ホンマ!? レアリィ!?」

「うっぷ……ま、待てよ……とりあえず、落ち着け……じゃねえと、話すもんも話せねえよ……」

 

興奮状態となった束さんの暴走はますますヒートアップしていく。簪の制止も聞かないところはどうやらカルタスにそっくりだ。……というか揺さぶられているせいでなんか物凄く気分が悪くなってきた。やべ、さっき食った魚吐きそうだわ……。早い所なんとかこの兎を止めなければ。

 

「だぁーっ!! 一回落ち着けって言ってんだろうが!! 人の話を聞けよ、この兎!!」

「どぶふぁっ!?」

 

しょうがないから思いっきり蹴り飛ばしてやった。晴れて俺は拘束から抜け出し、気分の悪さも見事解消。少々頭がクラクラしてるが、まだ許容範囲内だ。

 

「渚、大丈夫?」

「ああ……なんとかな。一先ず、この辺に撒き餌するオチにはなりそうにないわ」

 

簪の心配に俺なりの冗談を交えて答える。さて、蹴飛ばした兎から話を聞くとするか。あのキューブについて何か心当たりがあるような事を口走ってたからな。それにしても、たった一晩も経たないうちにここまでいろいろ振り回されたのは初めてだぞ。

 

「で、あれはなんなんだ?」

「そ、そそそそれよりも、完全に食べちゃったわけ!? あのコアを!?」

「コアが何かわかんねえけど、キューブなら綺麗に食っちまったぞ。な、簪?」

「うん。バリボリって噛み砕いて飲み込んでたよ」

「オーマイガッデス!!」

 

急に頭を抱えて叫び声を上げたと思いきや、今度は地面に伏せてしまった。もう訳がわからん。一体何がどうしたというのか、混沌と化していくこの現場に俺たちはどこか置き去りにされている感覚を覚えていたのだった。

 

「あぁぁぁぁぁ……なんてことに……まさかゾイドが食べるだなんて……」

「いや、だからアレはなんなんだよ? あんな感じに光るキューブなんて初めて見たぞ」

 

どうやら束さんにもあのキューブをゾイドが食べるなんてことは想像していなかったらしい。いや、だから結局あれはなんなんだよ、という話なのだが。とりあえず叫びまくっていた束さんは一度落ち着きを取り戻し、少しずつ言葉を漏らしていった。

 

「……あれは私の作ったISのコア……その芯となる本当の意味でのコアだよ……」

 

IS。正式名称はインフィニット・ストラトス。約十年くらい前に突如として現れ、世界を瞬く間に変えていったシロモノ。女性にしか反応しないそれは、コアと呼ばれるものが必要であり、そのコアの絶対数は五百も無かったはず……その話を思い出して、俺はとんでもない事態に直面していることに気がついた。コアを食っちまったという事は、その分ISの数が減るって事だろ? 俺にとってはゾイドの方が価値あるものだと思ってるから大したことではないが、世界的に見たら大変な事態になっている事だろう。

 

「で、でも、ISのコアって金色に光るキューブなんじゃ……」

「あれはガワを別のメタルで覆った搭載する形になったコア……こっちは芯がむき出しだからね。普通は見ないから驚いちゃうかぁ……」

 

簪はISについて勉強させられた(・・・・・)って言っていたから多分疑問に思ったんだろう。俺はそんなことに触れてきたわけじゃないから初めて知ることになったがな。

 

「別に数が減るとかはどうでもいいんだよ……あれはまだ意思の宿ってない殻みたいなものだし」

「い、意思……? あ、ISって意思があるの?」

「偶然の産物なんだけどね……まぁ、二人にわかりやすくいえばゾイドみたいな感じだね」

 

意思が宿ってるコアを食べられたらもっと発狂してたかも、と付け加える束さん。ISって意思があるのか……初めて知ることばかりで普通は新鮮味を感じるんだろうが、生憎ゾイドという金属生命体と触れ合ってきた以上、特にそういうのは感じなかった。むしろ、ゾイド以外にそんなものがあった事が驚きだ。

 

「……それで、そのコアを食っちまったシェリー達はどうなるんだ?」

「……それは流石の束さんにもわからない。こんな事初めてだし……」

 

束さんの言葉に、まあそうだろうなと思いつつも、長い間付いてきてくれた相棒の身に何かが起こると考えると不安になってくる。振り返ってみると、シェリーにカルタス、セイバーの全身が淡く蒼く光っているように見える。強烈な光景だが、その光はとても優しい感じがするものだ。シェリーも自分の身に何が起きているのかわからず、目をキョロキョロと動かし、カルタスとセイバーも首を振って挙動不審になっていた。だが、それもつかの間。光は一箇所に集中し、それぞれ一つの塊となって、背中、胸、腹の真ん中に留まった。一体何が起きているのか……状況を見てはいるものの、その全容を把握する事は出来ていなかった。その間に光は消え、いつものシェリー達の姿に戻っていた。特に異常は起きてないように見える。

 

「ね、ねぇ、カルタス……大丈夫? どこか変なところはない?」

 

光が消えたと同時に、簪はカルタスの元へと駆け寄っていた。カルタスにかける彼女の声はどこか不安を帯びている。自分の相棒に不思議な事が突然起きたんだ、心配するなって方が無理な話だ。

そんな簪の不安を取り除くかのようにカルタスは自慢のツノを使って簪を持ち上げ、咆哮を轟かせる。

 

「わっ、ちょ……! こ、こら! 急にどうしたの!? ……その様子を見る感じだと、なんともないみたいだね」

 

カルタスに持ち上げられた簪はその身を翻し、いつもの位置に乗っていた。その光景を見て、あいつも大分身のこなしが上手くなったよなと俺は思った。前なんてカルタスに乗るのだって難儀していた事だってあったのにな。

 

「……そんで、お前さんも全く変わりないみたいだな」

 

あっちの方はもう大丈夫だろうと思い、俺はシェリーの方に目を向けた。こっちも全く変わりはない。いつも通りの姿である。とはいえ、そんな風に大きく変わらなかった事が何よりも安心する要因となっている事には違いない。おまけに、気にするなと言わんばかりの鳴き声を聞いてしまえば、最早そこまで心配する必要はないだろう。

 

「いや〜、セイバーちゃんもなんともなくて安心したよ〜」

 

どうやら、セイバーサウルスも異常は見られなかったようだ。現に束さんを咥えて背中に乗せている。ISのコアを食ったのを見てしまったから、何かが大きく変わってしまったかと思ってしまったが、特にそんなことはなく、変わらない姿がそこにあった。とりあえずはそれでいいとしよう。

しかし、俺の経験則上、そんな風に考えている時ほど変な事象というものは起きやすい。これまで旅してきた中でもそういったことは少ないながらもあったからな。

 

「——こ、これって……一体どういうこと……!?」

 

例えば、カルタスに乗っていた簪ごと光に包まれて、それが晴れたときは簪がISらしきものを纏っているとかな。って、

 

「はあぁぁぁぁぁっ!? か、簪!? お前それどうしたんだ!?」

「し、知らない知らない!! 急に光ったと思ったらこんな事に……てか、カルタス!? カルタスはどこ!?」

 

簪がISらしきものを纏ったと同時なのかは知らんが、カルタスの姿がよく見えない。しかし、鳴き声は聞こえる。いるには違いないんだが……一体何処に姿を隠したんだ? あたりを探すがあの見つかりやすそうな巨体は見つからない。簪は見つけられない事からの焦りか、多分視野が狭くなっているよう、周囲をしきりに見渡している。少なくとも俺くらいは落ち着いた方がいいだろうと思っていたときだった。

 

「……なぁ、お前の足元にいるの、もしかしてカルタスじゃね?」

 

簪の足元でぐるぐる動いている子犬くらいの大きさの何かがいる。だが、こんなところに子犬がやってくるなんてことは考えられないし、何より水色の装甲と頭にある二本のツノからして、多分あれがカルタスなんだろう。どうしてこうなったのかはわからないが。

 

「ふぇ……こ、これがカルタス……? なんか小さくなってない?」

「やっぱり、俺の見間違いではなかったか……ところでお前のそれ、ISっぽいんだが、それなんだ?」

 

カルタスに関することはひとまず後にして、簪が纏っているISらしきものについて聞く事にした。あの機体は一体なんなのだろうか……水色の装甲に、頭には二本のツノのようなヘッドギア、後ろには尻尾のようなものが見て取れる。

 

「……『サベージカルタス』。か、カルタスがISになっちゃったみたいなんだけど……」

「ファッ!? まじかよそれ!? ……って事は」

 

俺はシェリーの元へと駆け寄る。たしかに外観に関しては何も変化してない。それについては間違いないはずだ。しかし、カルタスがISのコアを食ってあんな風になってしまったというのなら……シェリーにそれが起きていないわけがない。可能性としては大いにありうる話だ。しかし俺は男、ISは男には反応しない筈。それならきっと何も問題はないし、何も起きないはずだろう。

 

「……なぁ、シェリー。お前もカルタスのようになっているって事はないよな……?」

 

俺は思わずシェリーにそう問いかけていた。言葉の返事がこない事は百も承知だ。だが、そうであるとわかっていても聞かずにはいられなかった。俺は恐る恐るといった感じでシェリーの頭に手を伸ばした。ここまでシェリーに触れるのを躊躇ったのは、初めてコイツとあった時以来だと思う。そして、頭の紫色の装甲に手を乗せたときだった。

 

(ッ……!! な、なんだ!? 情報が頭の中に……!!)

 

指先から全身に向かって迸る電流のような感覚。脳の中に流れ込む幾多もの情報。まるで、初めてワイルド大陸に降りた時と同じような感じだ……一体俺の身に何が起きているんだ!? 視界はすでに眩い光に包まれており、自分がどんな状態にあるのか、周りがどんな状態になっているのか、それすらもわからない。

どれ程経ったのだろうか。光が消え失せ、目を開けても大丈夫な状態になったと感じた俺は閉じていた目を開けた。地面に立っている事は確かだ。だが、視界にはなんかよくわからないゲージとかスロットとかが映し出されており、両手を見てみれば、籠手のようにシェリーのハサミを模したようなものがつけられている。あまりの事に脳が考えることをやめ、俺は自分の身に何が起きているのかが理解できずにいた。

 

「……なぁ簪。今の俺ってどんな状態になってる?」

「……シェリーみたいなIS纏ってるよ。おまけに小さなシェリーが足によじ登ってる」

「……まじか」

 

どうやら俺は見事にISを纏ってしまっているようだ。……俺、もしかして女だったなんてオチはないよな? 試しに[自主規制]に力を入れてみると、なんか動く感覚があるから、少なくとも女だったというオチはない。しかし、これは全くもって理解ができねえ……本当、俺の身に何が起きてんだよ、これ。俺の頭は完全にオーバーフローしてるわ。

 

「——ワーオ!? まさかまさか、なーくんがISを纏っちゃってるなんて……おまけにゾイドがIS化するなんて……これはヤバイぜぇ、ものすごくヤバイぜぇ……!!」

 

そんな俺をよそに謎の歓喜状態に陥ってる束さん。彼女もまたセイバーサウルスを模したISを纏い、ちびセイバーを連れている事から、俺たちと同じような状態になっているのだろう。

 

「まさかまさか、なーくんが世界で初めて男でISを動かすなんて……束さん、こいつは最高についてるぜぇ!」

「俺やゾイド達は全くもってついてねえよ!! いやアレはしっかりついてたから男だったけどさ!! なんじゃこの状況は!? 俺は一体どうなってんだよ!?」

 

俺やシェリーからすれば何がどうなってこうなったのかわからない状況に放り込まれてるってのに、束さんときたら目をこれでもかと輝かせてこっちを見てくる。待て待て待て待て、その実験動物を前にした科学者みたいな顔をするんじゃねえ! 俺はモルモットじゃねーよ!! と、考えていたが、目の前のやつはガチで科学者だからそうなるのも無理ないか。そうなった理由は理解はしたが、納得はしてねえからな!!

 

「……まぁ、それはさておき」

 

しかし、束さんはさっきのがっつくような勢いから一転、落ち着いた感じのモードに切り替わっていた。いや、どんなスイッチのオンオフをしたらそんな風に真逆の雰囲気へと切り替える事ができるんだ……?

 

「二人の保護も兼ねて一旦私のラボに行こっか! ゾイドもちっちゃくなったし、これなら運べるしね!今くーちゃんに迎えにきてもらうよう連絡するから!」

 

どうやら俺たちが束さんのラボに行く事は確定事項のようだ。状況について行くことを放棄した俺は、最早彼女のノリに全てを任せる事にしたのだった。

 

「……渚」

「……どうした簪?」

「……私達、どうなるんだろうね……」

「……俺に聞くなよ……」

 

俺と簪、二人揃ってため息を吐く。俺たちの嘆きは、明け始めた空へと吸い込まれていったのだった。






オリジナルゾイドについての設定は、もう少し物語が進んでから纏めて載せたいと思います。
感想及び誤字報告をお待ちしております。
超不定期更新となりますが、次回も生暖かい目でよろしくお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。