愛すべき馬鹿どもの世界にて (欲望貯金箱)
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骨子ちゃんの場合

【既知こそが未知であり、未知こそが既知である】


栃木県〇〇郡■■町△△に出現した巨鳥に関する中間報告

 

 

 栃木県〇〇郡■■町△△に2〇〇〇年3月4日突如として出現した複数の巨鳥に関する中間報告。

 巨鳥はワシントン条約によって絶滅危惧種に認定されたワシタカ目タカ科サシバ属に分類される中型の猛禽『サシバ』と非常に酷似したDNA配置をもっています。

 

 しかしその姿は球体のようなずんぐりとした体躯に短い脚、どのように飛行しているのかも不明であるヒトの手指のような翼と、まるで『サシバ』をディフォルメしたぬいぐるみのような外見です。

 

 栃木県道69号宇都宮茂木線沿いを短い脚と丸い体躯で跳ねるように行ったり来たりする姿は大変愛らしいですが、性質は猛禽そのものであり食性も肉食とあって危険です。飛行速度、歩行速度共に非常に遅いため避難が容易であることが救いとも取れます。栃木県道69号宇都宮茂木線は現在バイパス部分が異界化しており実際の距離よりも長くなっていることも大きいでしょう。

 

 9月になると途端に姿を消しますが実際の『サシバ』と同様の生態であるかのように再び3月に戻ってきます。ピークは10月半ばではありますが稀に越冬する個体もおり、そういった個体は餌を求めて凶暴化する場合がありますので注意が必要です。

 

 ワシントン条約と“鎖国災害”以前の日本による環境省レッドリストでは禁猟とされていますが、この3年間で異常繁殖しており調査続行が困難になる前に対処を検討願います。

 

 

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Re:栃木県〇〇郡■■町△△に出現した巨鳥に関する中間報告

 

 

 定期捕獲調査が許可されたから手始めにオスとメス2羽ずつくらいとってきてくれるとセンセイ超うれしい。

 標識調査はしないから生きてても死んでてもかまわないよ。

 

 これでバルク市から金をふんだくってやるんだ。

 

 

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Re:Re:栃木県〇〇郡■■町△△に出現した巨鳥に関する中間報告

 

 

 センセイ塩とタレどっちが好きですか。

 

 

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Re:Re:Re:栃木県〇〇郡■■町△△に出現した巨鳥に関する中間報告

 

 

 骨子ちゃんが料理するなら塩。

 

 

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 ラジオから栃木県全域の死亡確率80%と降獣確率25%をがなり立てる声がする。

 

 死亡確率なんてアテにしないほうがいいし、獣の降るような歪みどころか天候は“龍の巣”にポッカリと大穴を開けたようで実際は光の屈折でそう見えているだけの雲一つない晴天であるし、これで注意すべきは突如として訳の分からない方向から噴き出してくるチョコレートの間欠泉くらいじゃなかろうか。あの美味しくないやつ。

 

 肉太郎(みーたろう)がセンセイにドロップキック噛ましてなければ今頃ワタシはセンセイとデートだったはずなのに、気がついたら肉太郎はいないしセンセイはそのまま階段を転げ落ちた先でマンホールの蓋が消え去った緑色の闇に呑まれて珍獣園の餌場に放り込まれて全治3日で済まそうとしてマッドでダークなクソドクターに取っ捕まって入院期間が1ヶ月に伸びてさえいなければ、肉太郎がこの調査をするはずだったのだからやっぱり肉太郎が悪い。

 そんな肉太郎もバルク市に旅行に行ったきり帰ってこないので、近々肉太郎の部屋を取り潰して研究所をセンセイとワタシの愛の巣に作り変えてやろう。

 トラックの中で1週間も調査にあてられたのだから、それくらいは許されるはず。

 

「ワタシ、この調査が終わったらセンセイと結婚するんだ」

 

 遠くのどこかでそれ死亡フラグゥ!?と叫ぶ愉快な4人組の声が聞こえた気がした。

 彼らは元気だろうか。

 あの4人の事だから元気ではあるだろうけれど、ワタシにこのドレスをくれた太めの彼だけは未だに許さない。

 何が「ストッキングから見える白パンを見せながら踏んでください」だ。

 センセイにしかしないよそんなこと。

 ドレスはお気に入りなのに、彼は絶対許さない。

 

 おっとお仕事に専念せねば。

 それでは今日もまいりましょう、ある哲学者が言いました。

 既知こそが未知であり、未知こそが既知であると。

 それに倣う成ればこそ、ワタシは既に知っている未知をセンセイのために思うのですから。



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とある洋食屋の場合

【既知こそが未知であり、未知こそが既知である】


『HA-HA-HA-HA HA HA HA! Halo everyone!最近の人々から最古のバケモンまで老若男女貴賤上下関係ないリスナーァ諸ォ君!?今日のBADでGOODなNEWSをお届けするDJサルハラのモンキーレディオ!朝もハヨからゴクローさんってなァ、このこと。さて真面目なニュースからです……』

 

 爆音響くラジオを聞き流すことはあまりできそうにない。

 なかったといった方が正しいけれど。

 

『昨日未明よりバルク市上空666メートルで観測されていた謎のでっけえ飛行物体、あれね?生き物だってさ!しかもハンペンみたいな見た目に反して超硬いって話だ。そして現在進行形でゆっくりと確実に降りて来てるらしいぜアイツ』

 

「うっそだろオイ…」

 

 バルク市で一番ホットな話題だからこそ、聞き流すことが大切なラジオ番組が一瞬にしてクソ番組になった瞬間である。

 ただでさえ奇人変人怪人翼人果てはどこぞの宇宙人やら異世界人が跳梁跋扈する日本において、かーちゃんが始めたこの洋食屋を守っていくのが俺の使命だと思っているわけだが、そうもいかないことになりそうだった。

 

『まあアレの正体見たり枯れ柳って……あれシダレザクラだっけか?まあいいやさして違いはないだろう!んでアレの正体なんだが実は異界も日本も地球も宇宙も絶賛するほど全世界一美味しいって評判の魔獣ガヴァドンらしいのよコレが』

 

 前言撤回。守っていけそうだ。

 大きさはどうであれガヴァドンなら何度か捌いたことがある。

 クッソ硬いのは外皮だけなのでオリハルコンのチェンソーでも入れてしまえばこっちのものだ。

 問題は降って来てる方だけどな!

 降獣確率ほどあてにならない天気予報もないねホント。

 ほぼ毎日ドンパチしてる日本全国津々浦々においてここバルク市は波乱混乱騒乱のメッカであるのだけれど、日本一降獣確率がアテになったためしのない市でもあるんだなあコレが。

 おそらく“竜の巣”の一番層の厚いところが上空にあるんだと思われるけどね!

 

『ガヴァドンて言やあ何十年も前に外宇宙の巨人戦士が地球のために戦ったっていう大型魔獣だが、今の日本じゃ北海道あたりに行きゃ小型化して養殖してるわけ、しっかぁしアイツは天然もの!いやあ良かった良かった。つーわけで対処の仕方知ってるリスナー諸君は分かってるな?俺がポリ公に捕まらん程度に俺の名前を売ってジャンジャン美味しいものにありついちゃってくださいな!て感じでリクエスト曲に参りやしょう……』

 

 さて、それでは。

 

「ちわー今そこでバスがドラゴンに突っ込んで事故ってました…何してるんですか店長仕事してください」

 

「そんなこと言ってる場合か今すぐガヴァドン狩りの準備するんだよ」

 

 出鼻をバイトに挫かれたがそんなことはどうでもいい。

 あの大きさだ降ってくる前に殺しきれば新鮮なら生で良し、そうでなくとも煮て良し焼いて良し蒸して良し炊いて良し俺に良し客に良し。

 捨てるところなんてない素敵食材が天然もので文字通り沸いて降ってきやがったんだ店やってる場合じゃねえ!

 

「これ便利屋くんたちに任せて僕たちはお客さんをですね…」

 

「便利屋どもに任せたら最悪俺たちに回ってこねえんだよ!」

 

「え、いやあ、まあ……」

 

「それにカズマは良い。トウマも良い。レオ坊はうちにカワイ子ちゃん連れてくるからなおさら構わねえ。だがやる夫に任せたらあの黒先輩とやらに褒められるんだろう!?俺は詳しいんだそれが許せねえ!」

 

「ええ…」

 

 黒髪ロングで黒いセーラー服に黒タイツの先輩属性で巨乳だぞ!?

 やる夫がセーラー服いいよね…って言ったからずっと色んな種類のセーラー服を日替わりで着てる巨乳だぞ!?

 あれで!つきあって!ないとか!巨乳だぞ!?

 

「彼女は本当にただの先輩だって言ってたじゃないですか…」

 

「うるせえ!巨乳美女の先輩ってだけでギルティなんだよ!」

 

 早速だがこれから尋ねるイカしたメンバーを紹介したい。

 三軒となりのダゴン焼き屋店主セザン。こいつはデヴだが役に立つ。腕の立つチェンソー野郎だ。

 続いてはす向かいの八百屋の明石。主に俺たちの足だ。違法改造軽トラだが日本は違法も合法だから大丈夫。

 そしてこの俺、洋食屋店主の田巣たす。かーちゃんから継いだ『ばるく食堂』の二代目だ。

 なおセザンと明石にはこれから連絡する。

 

「営業なんかしてる場合じゃねえ!」

 

 合言葉はします!させます!させません!

 商店街ヤロウTASチーム行くぞォ!



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あくのそしきの場合

【既知こそが未知であり、未知こそが既知である】


 一台のバスがおおよそ道路とは言えない場所を、よく見ると光り輝く粒子の上に乗りあげて走る。

 流線型のデザインが特徴的なそのバスにはナンバープレートに相当する部分にARCADIAの文字。

 そして中に乗るのは、少女と3人の大人たち。

 

「あくのそしきの3かじょう!いえる人ー!」

 

「それでは不詳この皇鼎(すめらぎかなえ)がお答えいたしましょう」

 

教授(プロフェッサ)は手をあげてないので答えちゃダメでーす!」

 

「くっそう!運転席に座ってなかったら答えられたのになー!」

 

 くすくすと笑う少女。

 運転席に座り、運転しているふりをして、ハンドルに手をかけたくせっ毛の男。

 

「カナエはせっかちね。ハイ」

 

「へびさん、どうぞ」

 

××(ピー)す、殺す、奪う」

 

『大蛇丸さま、それは極悪人の3箇条です』

 

「あら、そうだったかしら」

 

 渋く低めの電子音声と、しゃがれ声の女言葉を話す長髪で和装の男。

 

「カズフサ!」

 

「あー、俺?うん。メアリーちゃんは今日もかわいいな!」

 

「ありがと!答えは?」

 

「みんなで楽しく遊ぶこと、7日に一度は騒ぐこと、正々堂々ふいうちすること」

 

「せいかーい!みんなも見習って!」

 

 むぎーっ!と怒る少女に、大変危険な視線を寄越す眼鏡をかけた男。

 少女と3人の大人と電子音声は、まさしくただしく悪の組織だ。

 公然結社アルカディア。面白おかしく日本中を混乱に叩き込む正真正銘のお気楽集団である。

 

「セバス、次の目標までどれくらいだい?」

 

『このまま直進できれば5分と言ったところでしょう、教授』

 

「では直進できないと?」

 

『クソザコパトカー…失敬、言葉が汚いですな。あまりにも役に立たない車が行く手を阻んでいます』

 

「おーけー、では対策だ。大蛇丸くん」

 

「もう打ってあるわ」

 

「流石だわ、これ俺いらないんじゃね?」

 

『マスターカズフサ、あなたがいなければ私はジャイロゼッターへと超速変形できません』

 

 わちゃわちゃと騒ぎ目的地を目指すのは、何も騒ぎたいだけではない。

 アルカディア首領のメアリーは一生遊んで暮らせるだけの莫大な遺産を受け継いだ独りぼっちの少女だった。

 アルカディアは、その理想郷という名の通りに、彼女が独りにならない理想を追い求めるのだ。

 

 駅前を占拠する3台のスポーツカーがあった。

 警察が撤去しようとした矢先に変形、合体し巨大なロボットとなって動き出した。

 ロボットは駅前の球体時計をサッカーキックで蹴りぬいて駅にシュート、3台の車へ素早く戻ると蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

 かの有名な『九頭竜駅ゴールポスト事件』である。

 

 関西のランドマークタワーに突如として謎の液体を吹き付けるドローンが出現。

 正義の鉄槌や謎の組織、便利屋稼業に裏社会の重鎮、ありとあらゆる集団が寄ってたかって恩売るために奮闘するもむなしくタワーはもこもことしたパン生地に覆われ、その後別のドローンによってこんがり焼かれた。

 『通天閣棒巻パン事件』である。

 

 全世界のお菓子売り場にいつの間にかアルカディア印のチョコエ●グが陳列される。

 タイトルは「あくのそしきガールズコレクション!」とされた。

 過去から現在にかけての悪の組織とする様々な集団の女性陣の、極めて精巧なフィギュアが入っていた。

 季節イベントごとに発売されるものの、売り上げが虚空へ消えたり、イベント時期から外れるといつの間にか陳列棚から消えていたりする。

 このチョコエ〇グの悪質なところは、鎖国災害国となった日本にとっての迷惑集団だけではなく海外のギャングスターの愛人であったり、何百人もの犠牲者を出した娼婦であったりしてもフィギュア化される。

 それどころか元女性、女性だったナニカ、性別が女性のバケモノ、自称女性であってもフィギュア化される。

 これが夏の時期に出て見ろ、水着姿のオカマが排出される可能性すらあるのだ。

 現在進行形でさまざまな公機関に眼をつけられている『チョコレート菓子事件』である。

 

 幹部の1人であるカズフサ、大森カズフサが逮捕された時の話だ。

 留置所に入れられ、寂しく膝を抱えドナドナを歌う頬骨の張った20代後半の男の、見るに堪えない姿だった。

 しかし翌日になると留置所はもぬけの殻、それどころか彼の放り込まれていた檻いっぱいに詰められたミルク寒天を見て、担当者が卒倒したのは言うまでもない。

 『ミルク寒天留置事件』である。

 

 ここバルク市でも彼女たちは大騒ぎするつもりなのだ。

 否、準備は1週間のうちに済ませてあるので、大騒ぎする(・・・・・)のだ。

 週刊世界の危機。特撮的に悪の組織は栄えないが、彼女たちの遊びはみんな()楽しく。

 世界そのものをおもちゃ箱に、面白おかしくさわぐのだ。

 

「もー!バルク市庁舎までもう少しなのに!」

 

『マスターカズフサ、教授との交代を要請します』

 

「僕も交代したほうが良いと思う」

 

「私もそう思うわ」

 

「あー、畜生!行くぞセバス!」

 

 彼女たちはさわぐのだ。

 面白おかしくさわぐのだ。

 

「市庁舎のてっぺんでゴリラ豪雨さくせん!ぜったいせいこうさせるんだから!」



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